Fate/Abyss-混沌の聖杯戦争- (Kiku_kz)
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第0章
開戦前


初めましての方は初めまして。
そう出ない方はこんにちは。
私は物書きのKiku(ケイク)と申します。

この作品は以下の要素が含まれます。

・オリジナルキャラクターと原作キャラクターの掛け合い

・ガバ知識

・お前なんでここにおんねん等の設定捏造

多分これくらいです。
上記を理解していただけた方は続きをご覧くださいませ。


『聖杯戦争』。

それは、万能の願望気『聖杯』を巡る魔術師達の血塗られた戦い。

 

剣士(セイバー)』『弓兵(アーチャー)』『槍兵(ランサー)』『騎乗兵(ライダー)』『魔術師(キャスター)』『暗殺者(アサシン)』『狂戦士(バーサーカー)

 

7人のサーヴァントと、それを使役するマスター達は最後の一人になるまで戦い続けなければならない。

 

今また、聖杯を巡って熾烈な戦いが行われんとしていた。

 

「___時は満ちた。」

 

黒のローブに身を纏ったソレは口元に笑みを作り、街を見下ろしながら呟く。

 

「フユキの聖杯戦争から13年。

密かに準備していたかいがあった。

さぁ、今ここで再び聖杯戦争を始めようじゃないか。」

 

ソレは両腕を天に掲げ、高笑いをする。

その手には赤い紋章がしっかりと刻まれていた。

 

__________

 

2017年の2月某日。

魔術協会、及び聖堂協会は解体されたはずの聖杯の反応がノルウェー首都『オスロ』で出現したことを観測する。

そのことを受け、イギリス、魔術協会・時計塔のとある一室で青を基調とした和服に身を包んだ男と黒スーツの長髪の男が向かい合って座っていた。

 

「…それは本当なんですね。

エルメロイ二世。」

 

和服の男は向かいに座り、頭を抱えている黒スーツの男、ロードエルメロイ二世に問いかける。

 

「あぁ、事実だ。

確かに13年前に解体されたはずの大聖杯と同等の力を持っているそうだ。

この事態を対処すべく、聖杯に選ばれ、令呪を宿した魔術師を魔術協会から派遣することになった。」

 

「それが俺、という訳ですね。」

 

俯きながら頷くエルメロイ二世と右手に宿った令呪を眺める和服の男。

しばらく無言の状態が続いたが、思い出したかのようにエルメロイ二世が立ち上がり、棚に手をかける。

 

「Mr.斎宮寺(さいぐうじ)

君で良ければ聖遺物を___」

 

彼がそう言うと和服の男、斎宮寺 明光(さいぐうじ あけみつ)は立ち上がり、傍に立てかけていた竹刀袋を自らの肩にかける。

 

「ハハハ、先生、それは貴方の宝物でしょう。

俺にも実は『宝物』がありましてね。」

 

エルメロイ二世はその刀を見て顔を顰める。

 

「…その刀、か。

その刀が宝物だって言うのか?」

 

「先生、相変わらず俺の刀が気に食わないみたいですね。

何が気に食わないのか言ってくれればいいのに。」

 

そんなエルメロイ二世を少し心配してか、斎宮寺はそんな言葉を投げる。

 

「その刀に付けられた名前が気に食わないだけさ。

…まあいい。

その刀を触媒にすると言うなら止めないさ。

…せいぜい奮闘するといいさ。」

 

棚の中身にある『宝物』を眺めながら斎宮寺に言葉をかける。

斎宮寺はそんな彼の背中に微笑み、部屋を後にする。

 

「…とは言ったものの、やっぱり不安ではあるよな。」

 

エルメロイ二世の部屋から出てため息を着く斎宮寺。

そんな彼の前に現れたのは薄紫色の髪を持つ男だった。

 

「あら、何か悩み事かしら?」

 

待っていたかのように現れたその男は腰に手を当てて彼に問いかける。

 

「寄せ、ぺぺさん。

アンタなら全部お見通しだろ?

俺は北欧聖杯戦争の参加者に選ばれたんだ。

そのために今からノルウェーに飛ぶ。サーヴァント召喚を現地で行うんだ。」

 

微笑を男、スカンジナビア・ペペロンチーノに投げかければ彼は少し心配そうな顔をする。

 

「そんな顔するな、ぺぺさん。せっかくの美人が台無しだ。

いつもみたいに笑って送り出してくれよ。」

 

斎宮寺は更に笑みを顔に貼り付けてみせる。

 

「ウフフ、そうよねーー!

まあ私の友人である明光ちゃんが負けるわけないし。

心配した私がバカだったわ。

だから、必ず生きて帰ってきなさいよ。」

 

満面の笑みを浮かべたあと、彼は斎宮寺の隣を通り過ぎてトン、と背中を押す。

斎宮寺は何も言わずに頷き、時計塔を後にし、ドーバーへと向かう。

 

「話は聞いている。

お前をノルウェーまで連れていく。」

 

「あぁ、よろしく頼む。」

 

そこで黒服の男達と会い、船に乗り込む。

数時間の航海の末、ノルウェー首都『オスロ』の港へ到着したのだった。

 

「それでは、俺達はまたイギリスに戻る。

健闘を祈っているよ。」

 

男達は軽い挨拶を済ませると船に戻り、離れていく。

 

「…よし、まずは借りている空き地へ向かおう。

時間は…もう21時か。召喚の準備を進めないとな。」

 

斎宮寺は車を借り、走らせること約2時間程の山中に到着する。

そこには、広々とした空間にボロボロの小屋がたっていた。

 

「どうせこの家も後で処分するつもりだ。

…大掛かりにやろう。」

 

彼は地面に赤い液体を撒き、魔法陣を描く。

時刻は午前1時。彼は書き上げた魔法陣の中央に立ち、令呪が刻まれた手を前に掲げる。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。」

 

集中するためか、斎宮寺の目が閉じられる。

 

__________

 

「祖には我が大師■■■■■。

降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。」

 

同時刻、広々とした平原の中央で褐色肌でアイボリー色の髪を持つ美青年は笑みを浮かべて呪文を唱える。

 

__________

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を破却する」

 

狭い小屋の中、メガネをかけた黒いスーツを着こなした茶髪の男が冷静な様子で詠唱を続ける。

__________

 

「―――――Anfang(セット)

 

「――――――告げる」

 

「――――告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

豪華な部屋の中、薄い色のブロンドヘアに派手な黒いドレスを着こなした女性は胸を張り、詠唱を続ける。

___________

 

「誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷く者。」

 

煌びやかな装飾が施された部屋の中、薄緑の髪を持つお淑やかな緑のドレスを着こなした女性は自分の胸に手を当て、詠唱を続ける。

___________

 

「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――!」

 

岩が何重にも重なっている崖の上で白髪の男性が肩に羽織っている緑の軍服を風で靡かせ、杖を両手で持ち、詠唱を続ける。

 

___________

 

「汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

赤い液体で描いた魔法陣の中央に立つ斎宮寺の周りに雷が走り始める。

 

詠唱を終えると彼の前に銀色の刀を振り下ろした男がそこにいた。

周りに走っていた紫電は刀に集まり、それは刀が雷を吸収したかのように消えていく。

 

「問おう。

貴殿が某のマスターか。」

 

雪の紋章が刻まれた青色の甲冑に身を包む男が刀を斎宮寺に向けて問う。

 

「…そうだ、セイバー。

俺がお前のマスターだ。」

 

彼はその気迫に思わず後退りしそうになったが、その足を逆に1歩踏み出した。

 

「…ほう、某の威圧に耐えるか。

よろしい。ならばセイバー・■■ ■■は貴殿の刃となることを約束しよう!

私を上手く使って下さい、マスター。」

 

今まで険しい表情をしていたが、資格があると見たのか、その表情を解き、笑顔を作り、刀を鞘に収める。

そして斎宮寺に手を差し伸べた。

 

「あぁ、上手く使ってみせるとも。

よろしくな、セイバー。俺は斎宮寺 明光だ。」

 

斎宮寺はその手をがっちりと掴み、上下に軽く振る。

ここに、最優のサーヴァント、セイバーを始めとする6基のサーヴァントが同時に現界を果たしたのだった。

 

__________

 

ノルウェー首都『オスロ』

 

「役者が揃ったようですよ、マスター。」

 

暗い書斎の中央。紙にペンを走らせる男が背後にいる自分の主に呟く。

 

「…そう。

なら、私達も準備を進めなきゃ行けないわね。」

 

Tシャツにジーンズというラフな服を着た金髪の女は持たれていた壁からその男の元へ歩いていき、横に立つ。

男は狂気が宿ったかのような目をしており、その目には小さい丸メガネがかけられている。

 

「えぇ、その通りですともマスター。

我々こそが最も優れた陣営!

私の綴った物語で彼らを狂気の底へ沈めてやりましょうぞ、マスター!」

 

文を書き終えたのか、走らせていたペンをサッと止めると、マスターの方を見る。

 

「……ええ、そうね。

貴方の活躍を期待しているわ、キャスター。」

 

少しその狂気から目を背けると、すぐに書斎から出ていく。

 

「…私はあのシェイクスピアを召喚しようとしたのに、どうして彼が……?」

 

部屋の扉を閉じるとボソッ、とキャスターのマスター、イザベラ・ウォーカーは呟く。

 

「まあいいわ。

演者が揃ったならまずは情報収集ね。

…使い魔を飛ばしましょう。」

 

そう言うと彼女は天井にいる黒い猫を2匹呼び出す。

その猫達の首輪に紙を取り付けると、外に放つ。

 

「頼んだわよ。

オーベロン。ティターニア。」

 

シェイクスピアの作品「真夏の夜の夢」に登場する妖精達の名を与えられた2匹は窓から出ていき、夜の街へ消えていく。

2頭を見届けた彼女は自分の部屋に戻ろうとする。

 

「あぁ、そうだった。

あの狂人に占拠されてるんだわ。

fuck(なんてこと)…。」

 

キャスターの手によって工房と化している自分の書斎兼自室から背を向けてリビングへと歩いていき、眠りにつこうとしたところに、白い梟が紙を咥えて窓枠に止まる。

 

「こんな時間に非常識な魔術師ね…。

あら、これは…。」

 

悪態を付きつつ、その紙を開く。

 

『全サーヴァントの召喚を確認。

明日午後12時よりオスロ郊外、【イザック教会】にて監督役【イザック・ド・ロベール】による開戦宣言を行う。

都合の合う者は教会へ。

 

監督役 イザック・ド・ロベール』

 

これを受け取った7人のマスターは様々な心情を抱え、眠りにつく。

最期になるかもしれない、平和な夜の睡眠。

それを味わうように眠る7人。

 

彼らに待っている運命は希望か、絶望か。

ノルウェー最大の美しき都市『オスロ』を舞台とした『北欧聖杯戦争』が今ここに、始まろうとしていた___。




さて、ここでセイバー、キャスター陣営の紹介を軽くさせていただきました。
これからどんなキャラクターが出て来るのか楽しみにしててください。

ここからは完全余談です。
あらすじ書いてたら2回リログして全部消えましたキレそう。


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開戦宣言

どうも、通勤中の社畜です。
通勤中に続きがかけたので投げときます。
まだ平和です。

はよ戦えとか言わないでください。


「えぇと…

イザック教会イザック教会…。」

 

スマホを手にオスロの街を歩く斎宮寺。

彼の後ろには青いパーカーにジーパンを着たセイバーが立っていた。

その容姿を見れば思わず通行人が振り向くほどの美貌なため、街が軽く混乱状態になる。

 

「…主よ。

私は霊体化していたほうがいいのでは?」

 

セイバーはその様子を感づき、斎宮寺へ問いかける。

 

「いやぁ、まぁ、ハハ。

せっかくさ、現界したんだから現代を楽しみなよ。

そっちの方が楽だろ?

立場も対等の方が楽だ。気楽に行こうぜ、セイバー。」

 

後ろで不思議そうな顔をしているセイバーの方に振り向き、笑ってみせる。

それを見てセイバーも少し微笑む。

 

「それはそうですね。

マスター(あけみつ)の意向であればそれで。」

 

「お、初めて名前で呼んでくれたな。

サンキュー、セイバー。」

 

2人は隣に並び、歩き始める。

そのまま森へ入っていくと、奥深くに静かに存在する教会があった。

 

「…ここか。」

 

教会を1度見上げれば、扉を押す。

 

「ようこそ。

セイバーのマスター。

貴方で最後です。」

 

書見台の前に立ち、声をかけてきたのは薄い青の髪の神父服を着た男だった。

 

「この度聖堂協会により派遣されたイザック・ド・ロベールです。

よろしく。」

 

彼は斎宮寺に手を差し伸べる。

神父服から覗く無数の令呪がこの聖杯戦争の監督役であることを証明している。

 

「…あぁ、よろしく。」

 

聖堂協会と魔術協会は表面上では友好的ではあるが、裏ではバレないように殺し合いを行っているため、彼は少し警戒しながらその手を握り返す。

そんな警戒とは裏腹に目の前の神父はニコ、と微笑み、優しく手を振る。

 

「おぅ、坊主が最良のサーヴァント、セイバーのマスターか!

儂はゲラーシー・アリスタルフ!

バーサーカーのマスターでロシア軍で上級大将をやっとるものだ!」

 

挨拶を終えたと見たのか、杖を着いた初老の男性が近づいてき、太い腕を斎宮寺へ向ける。

 

「…あぁ。

よろしく頼む。」

 

出された手に少し戸惑いつつも握り返す。

ゲラーシー・アリスタルフ。

斎宮寺は彼の名前を時計塔で目にしたことがあるという事を思い出す。

表向きはロシア軍の上級大将として前線で指揮を出す優秀な指揮官だ。

しかし、彼は上級大将になった際にロシア軍に存在する『ロシア機密魔術作戦連隊』通称「ゲオルギー連隊」に所属したことが確認されている。

この「ゲオルギー連隊」は魔術戦闘のエキスパートが集う特殊部隊で、魔術戦に特化していることを思い出す。

 

「名乗られたのなら俺も名乗り返さなきゃならんな。

俺は…」

 

斎宮寺がそこまで言うと、ゲラーシーが杖で制止する。

 

「いい、いい!японцы(日本人)

ブシドーだがキシドーだか知らんがこの場ではそんなもん捨てちまえ。

名乗る時は戦場で、だ。

様子を見る限りお前さんは儂の素性を看破したようだ。お前さんもそうなると不利だろう?儂は名乗りたいから名乗っているだけだからな。戦場で殺り合うのを楽しみにしとるわ。」

 

彼はガハハ、と笑ってみせると、ドン、と斎宮寺の背を叩く。

その様子を静観していたブロンドヘアに派手な黒いドレスを着た女性が声を上げる。

 

「どうしてロシア人はこうも楽観的なのかしら。

こういう殺し合いの場で堂々と自分の名前を公表するその神経が分からないわ。」

 

端の方で正面を見続けるその女性はプライドが高そうな雰囲気を出していた。

 

「ガハハハハ!

お褒め頂いて光栄だ!!Немецкий(ドイツ人)!!」

 

嫌味全開のその言葉を笑い飛ばす。

表情は見えないが、女性はあからさまに嫌そうな反応をしていた。

 

「コホン、そろそろいいかな?」

 

イザックが咳払いをする。

ゲラーシーと斎宮寺は席に着く。

斎宮寺の足元に1匹の黒猫が寄ってくる。

その猫の首輪には紙のようなものが挟まれていた。

 

「……さて、本来ならばここでマスター全員と顔を合わせておきたかったのですが、まあいいでしょう。

ここにお集まりの3人のマスター、及び使い魔を通して見ているであろう4人のマスターに改めてご挨拶申し上げます。

私は聖堂協会、監督役『イザック・ド・ロベール』。

皆様の戦いを公平に進めるため努力致します。

さて、皆様に置かれましてはもうご存知かもしれませんが…」

 

今までにこやかな表情を浮かべていたイザックはキッ、と睨むように目を細め

 

「街、及び民間人への被害はくれぐれも最小限に。

魔術の隠匿に関わってきますから。」

 

そう警告すると再び笑みを浮かべる。

 

「さて、脅しはこの辺りにしておいて。

この聖杯戦争はご存知の通り、冬木の聖杯戦争と同様のものとは限りません。

聖杯もあること自体は確認されているものの、それが善い物か悪い物かすらも不明です。

…そんな聖杯に、貴方方はどうしても挑むのですね?」

 

覚悟を問うように3人のマスターの目と使い魔を見る。

 

「おう!勿論だ!

聖杯戦争は言わば魔術師にとって根源に至るチャンス!

こんな機会逃して何が魔術師だ!!」

 

ゲラーシーは各マスターの覚悟を代弁するかのように高々にドン、と杖を床に付き、立ち上がる。

 

「よろしい。

では皆様の聖杯戦争参加を認めます!

それではここに『北欧聖杯戦争』の開催を宣言致します!!」

 

イザックが手を前に掲げる。

2月某日の昼下がり、今確かに混沌とした聖杯戦争の開催が宣言された。




さて、バーサーカーのマスターと???のマスターが今回は登場しました。
ゲラーシーは書いてて割とすきだったりします。
さて、次回こそは新しいサーヴァントが登場するかもしれません。
お楽しみに。


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回り出す歯車

派手な黒いドレスを着こなしたブロンドヘアの女性は不機嫌そうに森から出て歩く。

 

『随分と不機嫌そうじゃないか、マスター。』

 

彼女の頭の中に陽気そうな男の声が響く。

 

「だって、あんな二流魔術師とバカそうなジジイ魔術師、相手にしても楽しくなさそうじゃない。

それに、あの青二才がセイバーのマスターってのも気に食わないわ。」

 

歩きながら霊体化している彼女のサーヴァントに問いかける。

 

「ハハハ!言えてるな。

しかし油断は出来ねぇ。

特にあの爺さん、単体でも恐らく相当やり手だぜ?ベルタ、正直お前が勝てるかどうかわからんくらいな。」

 

冗談を混じえつつそのサーヴァントは続ける。

それを聞いた黒いドレスの女性、バルヒェット・フォン・ベルタは渋々というように頷き

 

「…それくらい分かってる、ライダー。

セイバーのマスターはともかく、あのバーサーカーのマスターはヤバいわ。

…ライダー?」

 

彼女はいつの間にか霊体化を解除し、隣にいるライダーを見上げる。

彼はオレンジ色の髪を持ち、白のカッターシャツに黒のスーツパンツを身につけている。

ベルタが渡した簡易的な服装だ。

 

「……こんな真昼間にサーヴァント反応だ。

微弱すぎて気が付かなかったんだろうが、確かだぜ。」

 

神妙な表情で彼は遠くを眺める。

その視界の先には、黒いハットに丸メガネ、正直似合ってない黒いトレンチコートを着た中年男性が立っていた。

 

「…!!

アイツは……!!」

 

ライダーに続いてそのサーヴァントを見たベルタはその人物を知っているのか、キッ、と睨みつける。

 

「知ってるのか、マスター。」

 

その様子に少し驚けば、ライダーは隣のベルタを見る。

 

「ええ、アイツは……」

 

_________

 

同時刻、オセロ北部

 

「…マスター、魔力反応です。」

 

黒いハットを被った男が携帯電話を取りだし、告げる。

 

『そうかい。

ひとまずは一陣営釣れたかな。

…おお、怖い怖い。

あのお嬢さん、アサシンを親の仇かのように睨みつけているよ。』

 

電話の先の主はケラケラと楽しむように笑う。

サーヴァント、アサシンはその様子に少し顔を顰め

 

「仕方ありません。

私が生前行った行為は消して善い行いとはされていませんから。」

 

帽子を少し下げれば、アサシンは人の波の中に消えていく。

 

「なに、君は間違っていなかったさ、アサシン。

ボクはキミの行いを悪くない物だと証明したいんだ。

何せ、アレは見ていて面白い出来事だったからね。」

 

スマホを耳に当て、笑みを浮かべる褐色肌でアイボリー色の髪を持つ美青年は笑みを浮かべ、アサシンに近寄る。

 

「マスター。

相変わらず私の生前を見ていたかのような口振りですね。」

 

アサシンは不思議そうな表情をする。

美青年は少し考えるような仕草をしたあと

 

「あぁ、熱心に勉強しただけだよ。

アレは面白い出来事だったからねぇ。

そもそもアレももう何年も前の出来事だ。ボクの年齢を考えれば、とっくにくたばってるだろうさ。」

 

人気の少ない路地に入っていく美青年とそれに続くアサシン。

より一層奥深くに入っていくと、近くに止まっていたカラスがいっせいに飛び立つ。

 

「あ、そういえばこの後の話だけど…」

 

クル、とアサシンの方に振り向く美青年。

その後ろに黒に薄ピンク色のラインが入った甲冑を身につけ、黒い槍を握った人物が美青年の心臓目掛けて槍を放つ。

 

「…!!ナイル!!」

 

「もう遅い!!」

 

アサシンが踏み出した頃には遅かった。

その槍は美青年、アサシンのマスター『ナイル・テップ』の心臓を穿った……

 

はずだった。

 

「あれぇ、このランサー、君より暗殺者してるんじゃないか?アサシン。」

 

ナイルは黒い霧のような鉤爪のついた腕をサーヴァント、ランサーの穿った槍を掴む。

 

「何!?

マスターの身で私の槍を止めるだと…!?」

 

甲冑の騎士、ランサーは驚愕したように声を上げると、掴まれている槍に力を込め、腕を振りほどく。

 

「あちゃー。

さすがに数分しか持たないよね。

アサシン、多分アレ、強いよ。」

 

愉快そうに笑うナイルとは裏腹にアサシンは焦りを隠せないような表情を浮かべ、拳銃を握る。

 

「…フフ、まぁキミの力じゃ彼の相手をするのは難しいか。

おっけー。ランサーの相手はボクがするからさ、アサシン、君はランサーのマスターを探すんだ。」

 

後ろにいるアサシンの様子を察すれば、ナイルは冷静に、楽しそうに指示を出す。

 

「…了解…!」

 

アサシンは暗闇の方に消えていく。

それをランサーが見過ごす訳もなく

 

「逃がすわけないだろ!!」

 

跳躍し、ナイルを越えようとする。

 

「おっと、そうはいかないよ?」

 

ナイルはランサーの横に付き、鉤爪をランサーに振り下ろす。

ランサーは槍でそれを防げば、地面に着地する。

 

「…ここは貴様の相手をしなければなさそうだな、アサシンのマスター。」

 

渋々というような声をあげれば、槍を低く構える。

 

「……あぁ、君はボクを存分に楽しませてくれるだろうか?」

 

目の前のサーヴァントが放つ殺気に彼は思わず舌なめずりをすれば、1歩踏み込む。

同時にランサーも踏み込み、腕と槍がぶつかり、火花が散る。

 

___ここに、『北欧聖杯戦争』最初の戦いが幕を下ろした。

 

運命の歯車が回り出したのだ。




社畜です。仕事終わりに続きをまた書きました。
もしかしたら変な部分あるかも。
ちょっと疲れてるから考え事後でさせt((ry


さて、今回はライダー、アサシン、ランサー陣営にスポットライトを当て、開戦させてみました。
これで色々分かったらすげーと思う。

…いやわかりやすいか。


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第1章
金髪の野獣


『マスター、アサシンがそっちに向かった。

だけど彼自体そこまで強いわけじゃない。

警戒はしててくれ。』

 

ビルの上でナイルとランサーの戦いを眺めるお淑やかなドレスに身を包む緑髪の女性は胸の辺りで手を組み、祈っている。

 

「分かりました、ランサー。

けれど、あなたも気をつけてください。

早く終わらせてアフタヌーンティーを一緒に楽しみましょ。」

 

心配そうな顔をしながら戦いを眺める彼女。

それに応えるようにランサーが念話を返す。

 

『心配しないで。

私は必ず貴女を勝者にする。

汚れ役を買ってもね。

っと、そろそろ集中する。気をつけて、アシュリー。』

 

それを聞いた緑髪の女性、アシュリー・クローバーは真下にいるランサーに微笑む。

その次には真後ろに人差し指を刺し

 

「…ガンド…!」

 

と声を上げる。

 

指先から放たれた赤い宝石は何かにぶつかる。

 

「…ほう、面白い。

私の気配遮断をものともしませんか。」

 

すぅ、とその何かの姿を作る。

それはアサシン___

 

ではなく、鷲の紋章が刻まれた黒の軍服を着こなした金髪の男だった。

 

「___!

その、軍服…!!」

 

アシュリーは1歩後ろに下がる。

その様子を見た金髪の男はニタリと笑い

 

「さすが、2017年ともなると我らの記録もさぞ綺麗な状態で残っていることでしょう。」

 

パチン、と金髪の男は指を鳴らす。

すると次の瞬間、彼の後ろに10名ほど同じ黒の軍服と軍帽を被った男達が並ぶ。

 

「人々は一日に多くのことを覚え、忘れる。

しかし我々は人々に多大な衝撃を与え、歴史に刻まれる。

奇しくも以前我々は負けてしまったようですが、今回は必ず勝つ。

そして我々の思い描いた理想郷を聖杯によって叶える!

それが我らの願いです。

素晴らしいと思いませんか?」

 

男は両手を広げ、嬉々として語る。

 

「いいえ……

いいえ…!!そんなことは許されません!!」

 

小さい宝石を前に投げる。

それらは弾丸となり、男や後ろの男達に飛んでいく。

 

「貴女方イギリス人も自分達の理想郷を作るため多くの人々を使い、殺した。

我々と何が違うのでしょう。」

 

金髪の男は弾丸を避ける。

避けられた弾丸は数発、後ろに控える男2.3人に当たり、消える。

 

「…その通りです、アサシン。

いいえ、過去のドイツ第三帝国親衛隊諜報部長官『ラインハルト・ハイドリヒ』。

しかし私達は過去の過ちを繰り返さずに生きていくことが大事なのです。」

 

恐怖に怯えることなく、金髪の男、ラインハルト・ハイドリヒの目を見る。

彼はそれに対し憤りを感じたのか向けられた目に睨み返す。

 

「小娘が…!

この戦争に勝つのは我々アサシン陣営です。

殺せ!」

 

その一声で控えていた男達がいっせいに走り出す。

最初こそ1人、また1人と宝石弾をぶつけていたアシュリーだったが、数に押し負け、一気に囲まれてしまう。

 

「…所詮我々一人一人は3流サーヴァント。

ですが彼らはあの熾烈な戦いを経験した精鋭達です。

さて、残念ですが、ここでおしまいです。」

 

ハイドリヒの拳銃かアシュリーに向けられる。

それに合わせて辺りを囲んだ男達も銃をアシュリーに向ける。

ダン、といっせいに銃声が響くとアシュリーは目を瞑る。

 

(もうダメ…!!令呪を使っても間に合わない!!

ごめんなさいランサー…!)

 

心の中でそう考えていると、甲高い金属音が鳴り響いた。

 

「…え?」

 

アシュリーは恐る恐る目を開ける。

 

「嬢ちゃん、事情は後で話す!

我はライダーのサーヴァント!アサシンよ!!我がマスターの命を受け、貴公の相手をしよう!」

 

銀の甲冑に黒い布が巻かれたオレンジ髪の男が黄金の剣を構えてアシュリーの前に立っていた。

どうやら彼は現れたと同時にハイドリヒ以外の男を倒していたようで、周りには誰もいなかった。

 

「…ハイドリヒ。」

 

ハイドリヒの隣にアサシンが黒いモヤから現れる。

ハイドリヒは横目に彼の姿を見て頷く。

 

「仕方ありません。

ここは1度引き上げることにします。

…次は命が無いと思え。」

 

そう言うと2人は黒い霧状になり、消える。

 

「マスター!」

 

それと同時に黒い甲冑を着て髪を後ろで結んだ黄金色の髪を持つ女が現れ、アシュリーの肩をがっちり掴む。

 

「アシュリー大丈夫!?

どこか怪我とかしてない!?」

 

肩を掴まれたアシュリーはへなへなと力が抜けたように地面に座り込み、顔を抑える。

 

「怖かったわランサー。

私、この戦いに生き残れるかしら。」

 

わなわなと泣きじゃくりながらランサーの胸に顔を埋めるアシュリー。

ランサーは甲冑からふわっとした白いワンピース姿になり、優しく抱きしめる。

 

「大丈夫、君には私が付いている。

だから安心するといい。」

 

優しく頭を撫でるランサー。

 

「…あのー。」

 

そこに居心地悪そうなライダーが声をかける。

彼は咄嗟にランサーが槍を構えたのを見て1歩下がる。

 

「ちょ、やめろって。

今お前らと戦うつもりはねぇよ。

ウチのマスターはアサシンの真名を看破し、勝たせちゃいけねぇ相手だと判断した。

だから今この時はお前らランサー陣営と争うつもりはねぇ。」

 

剣を霊体化させ、両手を上げるライダーを見てランサーも槍を霊体化させる。

 

「…そうだったのか、済まない。名も知らぬサーヴァント。

私のマスターをよく助けてくれた。」

 

少し頭を下げれば彼の方を見てニヤッと笑う。

 

「だが次は敵だ。

貴様のその心臓に穴を開けてやるのを楽しみにしている。」

 

それを聞いたライダーは困ったように頭を掻きながら

 

「おいおい、いい女だと思ったら物騒なこと言いやがるぜ。

まあ、最終的に勝つのは俺だ。

お前と戦うのを楽しみにしてるよ。槍兵。」

 

ライダーは最後にニカッ、と笑い、霊体化していく。

 

「…ランサー、彼、ライダーの言うことは正しいわ。

アサシンはこの世界の秩序が乱れることになるわ。

ハイドリヒの方は恐らく宝具ね。

あの中年男性の方がアサシン本人。

だとしたら彼の真名は___」

 

『ハインリヒ・ヒムラー』




ということでアサシンの真名判明です。
おいおい早すぎんだろって?
近代の人物ならこんなものでしょ。
ということでやべーやつらアサシンズの真名はドイツ第三帝国親衛隊長官みんな大好き『ハインリヒ・ヒムラー』おじさんです。


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制御されぬ赤き熊

深夜0時頃。

とある立体駐車場に茶髪の眼鏡をかけた黒スーツの男がスナイパーライフルを構えてとある男を見る。

軍服を肩に羽織った白髪の男、『ゲラーシー・アリスタルフ』だ。

 

「…。」

 

男は何も言わず、頭に照準を合わせると、静かに引き金を引く。

しかし、その弾丸は彼の頭蓋に穴を開けることはなく、突如現れた氷壁によって防がれる。

 

「…そう簡単には死んでくれないか。」

 

男はスナイパーライフルを下ろすと、縁から身を乗り出し、飛び降りる。

 

「アーチャー、着地。」

 

男がそう言うと、霊体化していたブロンドヘアを持つ大柄の男、アーチャーが彼のマスターを抱え、地面に降り立つ。

 

「若造、スナイパーライフルで儂を仕留められると思ったのか?

ガハハハ!!甘い、甘いわ!!」

 

ゲラーシーは杖を地面にドン、と叩きつける。

茶髪の男は何もせず、それを眺め、かけている眼鏡を指で押し上げる。

 

「…殺れるとは思っていなかったさ。

ゲラーシー・アリスタルフ。ロシアの赤き熊。

ただ力量を測っただけだ。

それで、まさか単身で歩いたわけがないだろう?

バーサーカーはどこだ?」

 

眼鏡の奥から覗く鋭い眼光はゲラーシーをしっかりと見据える。

 

「ガハハ、いい目をしとる。

良いだろう!!来い、バーサーカー!!」

 

ゲラーシーがそう叫ぶと、彼の隣に2mを越える腰に布を巻いた長身の大柄な男が現れた。

 

「◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎___!!」

 

バーサーカーはアーチャーとそのマスターに向かって咆哮する。

 

「…これは強敵になりそうだ。

僕はギオーネ・ロベルト。

しがない始末屋だ。」

 

服の中からサブマシンガンを取り出すと男、ロベルトはゲラーシーへその銃口を向ける。

 

「良い殺気だ、同士よ!!

改めて名乗らせてもらおう!!

儂は『ロシア機密魔術作戦連隊』最高司令官ゲラーシー・アリスタルフ!!

相手になろう、若造!!」

 

ここまで言い切ると、彼はすぅ、と息を吸う。

 

Урааааааааааааа(とつげき)___!!」

 

大声でそう叫ぶと、横で控えていたバーサーカーの目が赤く光り、答えるかのように再び咆哮すると、手に棍棒を握り、アーチャーの方へ向かっていく。

アーチャーは後ろに大きく跳躍すると、出現させた弓を引く。

放たれた矢はバーサーカーに刺さることなく、棍棒で叩き落とされる。

 

「やはり王の弓は弱い。」

 

アーチャーは持っていた弓を投げ、手に西洋剣と盾を出現させ、バーサーカーに斬りかかる。

バーサーカーはそれを棍棒で受ける。

 

「ほう、やるじゃないか。

儂のバーサーカーの攻撃を受けてなお無事とは。」

 

氷壁を作り出しているゲラーシーは2人の戦いを眺める。

 

「…アーチャーは他の連中に比べてしまえばはっきり言って弱い。

…いや、今の所はアサシンに比べれば強いか。

まぁでも、それを奴はある理由でカバーしている。

ここがノルウェーである限り、アーチャーが負けることは無い。」

 

「知名度補正って奴だな。」

 

氷壁の向こう側からアーチャーとバーサーカーの戦いを眺めるゲラーシー。

そんな彼の足元に手榴弾が転がる。

 

Да ты что(なんてこった)

まさか聖杯戦争でパイナップルを見ることになるとは…!!」

 

その言葉と共に手榴弾は炸裂し、黒煙が上がる。

 

「僕はとある魔術師に惹かれてこの世界に入ったんだ。

これでも故郷のローマでは有名なんだ。

始末屋のロベルトってね。」

 

そう言う彼の目には眼鏡がかけられておらず、赤く光っていた。

 

「…コホッ、コホッ。

老人を敬え、このバカもんが…。」

 

右肩を負傷したのか、血を吐きながらだらんと垂れている右腕を杖を持った左手で抑えるゲラーシー。

その杖からは盾のような氷壁が展開されている。

 

「…しかしその目、魔眼か…!!」

 

その場から1歩も動けないのか、ゲラーシーの足や腕がガクガクとしている。

絶体絶命の状況だが、彼は楽しそうにしていた。

 

「…ほう、僕の魔眼を受けてもなおまだ無駄口を叩けるとは。

さすがロシアの赤熊だな。」

 

ロベルトはそう呟くと、目を抑える。

 

「ガハハ、儂はロシアの広大な大地で育った大熊じゃからな!!

この程度の魔眼……!!」

 

辺りに冷たい風が吹く。

その冷風は一気に-35度にもなり、辺りのものを凍え上がらせる。

 

「どうじゃ!儂の魔術は風と氷!!

シベリアの如きこの冷風は甘い環境で育ってきた貴様程度では耐えれまい!Итальянский(イタリア人)!!」

 

あまりの寒さにロベルトは地面に膝をつき、体を抱える。

盾を展開していた杖を前に出し、氷柱のようなものをその先端に出現させる。

 

(無理だ…!!

制御出来ない、寒すぎる…!!)

 

顔を上げ、ゲラーシーの方を見ようとするが、瞬きする間に瞼が凍り、目が開けられなくなる。

目を閉じると、ダン、と何かが放たれる音がし、何かにぶつかる音が後ろでし、寒さが収まる。

 

(…?

何が起こった…?)

 

目を辛うじて開き、後ろを見れば黒い軍服を着た男が黒い光に纏われて消えていった。

 

「…で、これはお前さんのツレか?

そうは見えんかったの。お前さんを殺そうとしていたからな。」

 

ゲラーシーは前に向けていた杖を地面につき、左手で体重を支える。

 

「あの軍服には見覚えしかないな。

アレは我らの親世代が勇敢に戦った第二次世界大戦に敗北したヤツらの服に見えるな。

なんと不遇な奴らだろうか。ロシアに2度負けるなんてな。」

 

彼はそう言ってチラリとバーサーカーの方を見る。

バーサーカーに群がっていた3人ほど黒い軍服の男が向かっていたが、アーチャーとバーサーカーの手によってなぎ払われていた。

 

「奴らは絶対に勝たせては行けない相手だ。ロシアの赤熊。

アサシン、真名『ハインリヒ・ヒムラー』。

僕の使い魔を通して夕方頃ランサーとぶつかったのが確認されている。そこでランサーのマスターはアサシンの真名を割り出した。

…それで、どうする?戦いを続けるか?」

 

ツゥ、とロベルトの目から二筋の赤い液体が垂れる。

 

「…どうやら魔眼を完全に制御しきれていないようじゃな。

いいだろう。トドメを刺したいところだが、今日はこの辺りにしておこう。

バーサーカー!!帰るぞ。」

 

そういったゲラーシーの隣にバーサーカーがいつの間にか立つ。

その姿は膝に矢を受けており、更に腹には大きな切り傷があった。

 

「ガハハ、派手にやられたようじゃな。

霊体化して休むといい。」

 

バーサーカーが消えると、ゲラーシーも杖を付いてゆっくりと歩いていく。

 

「…アーチャー、無事か?」

 

血が垂れる目に眼鏡をかけると、アーチャーの方へ振り向き、声をかける。

 

「あぁ、マスター。

だが背中にいい一撃を貰っちまった。正直このまま続けていたらヤバかった。」

 

背中をさすり、その男はロベルトの隣に立つ。

 

「…しかしマスター。

アサシン『ハインリヒ・ヒムラー』はそんなにも倒さないといけない人物なのか?

見たところただの貧弱そうなオッサンに見えたが。」

 

アーチャーは不思議そうな表情を浮かべる。

そんな彼にロベルトは頷き

 

「恐らくだがアサシンはまだ切り札を残している。

…だってアイツ単体では確かに弱すぎるし。

奴はもっと強力な師団を動かせる力があった。

ハイドリヒの姿も確認されている。ただの歩兵しか持ってない訳が無い。」

 

アサシンの消えた方を険しそうに1度見ると、踵を返しどこかへ歩いていく。

 

「僕達も帰るぞ、アーチャー。

アサシンを倒してあの赤熊へのリベンジをするための作戦会議を拠点でみっちり語り合おう。」

 

アーチャーは1度困った顔をすると

 

「俺は怪我人だぞ?」

 

とため息混じりに漏らし、霊体化する。

ここにひとつの戦いが静かに終わる。

 

___しかしまた、別の場所では戦闘による大きな混乱が起きていることを彼らはまだ知らない。

 

これは聖杯戦争第1夜目に起きた戦いのひとつに過ぎないのだ。




ここでアーチャーvsバーサーカーが起こりました。
バーサーカーは喋れるタイプじゃない『The・バーサーカー』って感じのバーサーカーです。
さて、彼らの戦いは一旦これで終わりですが、これは1夜目に起きた戦いのひとつに過ぎません。
別の場所ではどこで、誰がぶつかったのでしょうか?
お楽しみに…。


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混沌からの使者

クッッッッソお待たせしました
筆が乗らなかったのとリアルが忙しくて更新できませんでした…。


時は遡ること4時間前、夜8時頃。

オスロのある高級ホテルの最上階に青の和服を着こなした男、斎宮寺と紺色のコートに白のカッターシャツ、スーツパンツを着こなしたセイバーがパソコンの乗ったテーブルを挟んで向かい合って座っていた。

 

「…まさかこんないい所を用意してくれるとは…。」

 

『私も反対したんだ。

ホテルに拠点を構えるのは大きな的になるだけだと。

…それで、先に向かってる人間の報告によると聖杯戦争最初の戦いが勃発したそうじゃないか。』

 

パソコンの画面に写っているロードエルメロイ二世は、葉巻を持ち、煙を吐く。

 

「はい、エルメロイ二世。

最終的にアサシン、ライダー、ランサーが集結した戦いになりました。

そしてアサシンの真名が___」

 

斎宮寺は膝のところで手を組み、俯く。

 

『…ハインリヒ・ヒムラー、と。

これは早々に倒さなければいけない相手のようだな。』

 

無言で頷く斎宮寺と眉間に皺を寄せ、険しい顔をしているエルメロイ二世。

彼らがそう思うのも仕方ないだろう。

 

『ひとまず、アサシンの件は君とセイバーに任せるとする。

それはそうと、どうやら魔術協会の送り込んだ魔術師がまだ確認されていないサーヴァント、キャスターの情報を掴んだそうだ。合流して情報を入手してきて欲しい。

場所はオスロオペラハウスだ。』

 

「わかりました。

ではこれで。」

 

そう言って斎宮寺はパソコンの電源を落とし、立ち上がる。

 

「…ということだ。

行くぞ、セイバー。」

 

壁に立てかけてあった竹刀袋を担ぎ、出口へと向かう斎宮寺。

 

「御意。」

 

それに続くセイバー。

彼らはエレベーターで1回まで降り、タクシーを手配する。

 

「オセロオペラハウスまでお願いします。」

 

タクシーに乗り込むと、運転手に告げる。

 

「こんな時間に言っても中に入れないぜ、日本の人。

それでもいいって言うなら向かうが…。」

 

タクシーの運転手はヘラっとした様子で話す。

 

「構いません。向かってください。」

 

斎宮寺は笑みを浮かべ、頷く。

 

「あいよ。

しかし、オペラハウスか。

ここ最近妙な噂を聞くようになったな。」

 

ハンドルを握った運転手は不安気に呟く。

 

「……と、言うと?」

 

隣に座っているセイバーと顔を見合わせると、運転手に問いかける。

 

「…真夜中になるとオペラハウス付近に集まった奴らが奇声を上げて暴れ回るって話だ。

まああんたらはその類ではなさそうだが…変な事に首を突っ込むのはやめといた方がいいぜ、日本の人。

…ったく、平和なのが取り柄の街なのによ。」

 

それを聞いたセイバーと斎宮寺は苦い顔をする。

 

『主よ、これは恐らく…』

 

セイバーは念話を斎宮寺に飛ばす。

 

『あぁ。聖杯戦争が関わっている気がするな。

オスロオペラハウスの地下にはノルウェーの魔術協会があったはずだ。

…少し心配だな。』

 

そんな会話をしていると、白を基調としたガラス張りの建物の前でタクシーは停車する。

 

「着いたぜ兄ちゃん達。

ま、せいぜい気をつけてくれよ。」

 

「ありがとうございます。

またお願いします。」

 

タクシー代を渡し、運転手に一礼すると、オペラハウスの方を見る。

近くに合流するはずの魔術師らしき人物は見当たらず、異様な雰囲気が流れている。

 

「主よ、敵襲の香りがします。」

 

そう警告したセイバーは既に甲冑をみにつけており、刀に手をかけていた。

 

「……あぁ、"視える"。

生と死の狭間をさ迷っているヤツがいる。」

 

斎宮の目が薄く灰色に輝く。

彼の目は意識することによって生命の生死を強く認識することが出来る特殊な能力を持っているのだ。

 

「殺すコロスこロスころす殺すゥ!!!!!!

お前の脳みそを見せてくれよォ!!!!!!」

 

突然近くの草むらから短刀を持った男が現れ、斎宮寺の胸目掛けて突っ込んでくる。

その男は明らかに目の焦点が左右どちらもあっておらず、体の関節を無視するかのような動きで明らかに正常では無い。

 

「…!

こいつ、エルメロイ二世に合流しろと言われた魔術師だ…!!」

 

斎宮寺は刀を抜き、その男の短刀を刀で受け、弾く。

 

「…悪い、成仏してくれ。」

 

そして次の瞬間に鋭く速い横凪が繰り出され、その男の肉体はどこにも存在していなかったかのように消滅していた。

 

「……おかしい。」

 

ボソリと斎宮寺は呟く。

彼の刀は悪しき生命体への即死攻撃を行う魔術礼装なのだが、その効果は人間には発揮されない。

しかし、先程まで目の前にいたのはれっきとした人間だったはずだ。

 

「…そもそもが人間ではなかったか、あるいは人ならざる者に主導権を奪われていたか。

…どちらかだな。」

 

刀を鞘に戻しながら呟く。

すると、オペラハウスの方から拍手が聞こえてくる。

 

「素晴らしい、素晴らしい!

まさか人目見ただけで敵がどのようなものなのかを見定めることが出来るとは。

どうやらセイバーのマスターは優秀のようだ。」

 

聞くだけで脳をかき混ぜられているかのような声が聞こえてくる。

オペラハウスの方を見ると、黒いスーツに小さい丸メガネを着用した男、キャスターが立っていた。

 

「やはり彼ら如きでは歴戦の英雄達相手は荷が重いようで。

…フフ、楽しくなってきましたね。」

 

彼の手には茶色い可愛いの表紙に星が描かれた本が握られていた。

 

「マスター!お下がりを。

敵サーヴァント、キャスターかと。

そしてあの手に持っている本は…」

 

セイバーは本を持って顔をしかめる。

本を見るだけで正気を失いそうになる代物…

それは魔術書のようだ。

 

「そう、これが私の第1宝具。

私の紡いだ物語のこの世ならざる登場人物達を使役する特別な魔術書!!

この世にこの本が量産されようがオリジナルはこのたった1冊だけ。

私にとってこれは宝のような代物です。」

 

キャスターはその不気味な魔導書をうっとりした表情で眺める。

 

「…主よ。

あの男と長時間話すのは危険です。

恐らく高ランクの精神汚染スキルを持っているかと。」

 

セイバーは腰に指していた刀を抜刀すれば両手でそれを構える。

 

「おっと、そう構えないでください、日本の侍。今夜相手するのは私ではない。

私は物語の紡ぎ手でしかないのでね。

…軟弱な混沌からの使者は1匹だったからこそ弱かった。

だがそれが何十、何百も居たらどうだろうか!!」

 

それを聞いた斎宮寺は表情を曇らせ、"眼"を使う。

その直後、彼は目を見開き、表情は青ざめた。

 

「嘘だろ…!?

魔術協会の魔術師が……

全滅してる!!」

 

それを聞いたセイバーは思わず斎宮寺の方を振り向く。

 

「なんですって…!?」

 

これが間違いだった。

その一瞬の隙をついてオペラハウスから100もの狂気に蝕まれた魔術師達が押し寄せてくる。

 

「ハハハハハ!!

たかが作家、いいや、されど作家だ!!

最弱のサーヴァントキャスター??

そんな事実書き換えてしまえばいい!!

フフ、それでは私はこれにて失礼。

執筆作業に戻らなくてはなりませんので。」

 

狂気の波を眺めながら彼は手を挙げ、腰をおり、一礼する。

そして後ろを振り向き、どこかへ消えてしまった。

「…どうするセイバー。

お前と俺だけじゃさすがに…」

 

刀を再び握る斎宮寺と彼と背中を合わせるかのように立つセイバー。

その頬には冷や汗が走る。

 

「私の宝具を使えばこの程度一掃できるでしょう。

…しかし…」

 

そういうセイバーの言葉で斎宮寺は昨夜セイバーを召喚した後の会話を思い出す。

 

『私の宝具はかなり強力です。

しかしそれ故に準備に時間がかかります。

最短でも10秒…

使い所を考えなくてはなりません。』

 

「クッソ考えてられない!!

セイバー!!宝具使用準備だ!!

時間は俺が稼ぐ。」

 

背中のセイバーに叫び、支持する。

セイバーは少し考えた後に

 

「…!!承知!!」

 

と答え、刀を上に掲げる。

 

(とはいえ、この数……!!

致命傷は避けれないか…!?)

 

四方八方から飛んでくる色鮮やかな魔術を見て彼はそう考える。

刀で受け、鞘で受け、体で受ける。

体に激痛が走ろうがなんだろうが彼は刀をふるい続ける。

 

(く…!!そろそろ限界だ…!!

まだか、セイバー…!!)

 

痛みに耐える彼の顔は苦痛で歪んでおり、足元がふらついている。

敵を切った数は29。

それでもまだ残っているというのだから恐ろしいものだ。

 

「これでさんっ…じゅうだぁぁぁ!!」

 

最後の一振かのように刀を振れば、斎宮寺に向かってきた魔術師をまた切り伏せる。

 

___瞬時。

 

「がァァァッ!!」

 

微力の電磁波が体に駆け抜ける。

普段の彼ならその程度造作もない攻撃だっただろう。

しかし今はどうだ。数多の術をその身に受け、体は既に限界だった。

彼は電磁波によって地面に倒れ、身動きが取れなくなってしまった。

 

(ヤバ…これは…死ぬ!!

セイバー、頼む、そのまま宝具を使ってくれ…!!)

 

斎宮寺は痺れる体で何とかセイバーの方を見る。

セイバーは心配そうな表情で彼を見るが、セイバーは彼の意思を汲んだのか、静かに頷く。

彼の周りは青白い雷が走っている。

 

「我が剣、受けてみよ!!」

 

セイバーがそう叫ぶと、辺りに走っていた雷が刀に集中する。

すると、刀身雷の模様が浮かび上がる。

 

セイバーは目を閉じる。完全に雑念を消した彼は詠唱を始める。

 

「脅威なる天の災よ!!我を打ち力を授けた雷神よ!!我が力となれ!!」

 

刀に集中した雷は応えるように強く光り、1本の線のようになる。

 

「この剣は雷を斬りし究極の魔刀!!

その名は____」

 

閉じていた目をカッ、と見開き、上げていた腕を振り下ろす。

 

その瞬間、辺りは真っ白な光に包まれる。

これは宝具発動の前兆だ。

 

「『雷神斬りし紫電の魔刀(らいきり)』_____!!」

 

完全に振り下ろし、宝具の真名解放を行った途端、蓄積されていた雷が前方向に放たれる。

一言で表すのであればそれはまるでレーザー砲だ。

超強力なレーザー砲は前方の魔術師達と地面に伏せている自分の主に向かい、放たれる。

 

魔刀・雷切。

この刀は元々柄に鳥の飾りがあったことから「千鳥(ちどり)」と呼ばれていたものだ。

しかしこれの使い手であるセイバー、真名『立花 道雪(たちばな どうせつ)』は1548年、故郷の藤北で炎天下の日、大木の下で涼んで昼寝をしていたが、その時に急な夕立で雷が落ちかかった。枕元に立てかけていた千鳥でその雷の中にいた雷神を切ったとされている。

この宝具はそんな逸話が昇華されたものである。

逸話が昇華された彼の持つ固有スキル「斬雷の闘将:A+」により、魔力を雷へと変換し、刀に纏わせることによって超強力な攻撃を行うという技だ。

そんな攻撃が通常の人間では耐えきれるわけがなく、斎宮寺は薄らと笑みを浮かべていた。

 

(…あぁ、これはダメだ。

よくやってくれた、セイバー。

あとは任せた…。)

 

美しい青白い閃光を眺めた後、彼は目を閉じる。

次に感じたのは体が宙に浮いている感覚だった。

 

(……あれ…?)

 

そして彼は目を開ける。眼中には地面が抉れ、中央から真っ二つになったオペラハウスと無数の屍が転がっていた。

そこに自分の屍は当然ながらない。

 

「…自分を犠牲にして宝具を撃たせるマスターなぞ、前代未聞ですよ、セイバーのマスター。

…とにかく、間に合って良かったです。」

 

彼は何者かによって抱えられていた。

斎宮寺はその人物の顔を見る。

その人物は薄い青色の髪を持つ神父服の男、監督役『イザック・ド・ロベール』だった。

 

「監督役が何故ここに…?」

 

イザックに下ろしてもらい、その場に立つが、ダメージを受けた体は言うことを聞かず、地面に膝を着いてしまう。

 

「まずは治療が先です。

動かないように。」

 

イザックがそう言うと斎宮寺に対して治癒魔術を行使する。

 

「…あぁ、ありがとう。

…普通であればここでアンタは俺を見捨てるはずだ。中立であるために。

だがアンタはそれをしなかった。

つまり…」

 

何とかしてイザックの顔を見る斎宮寺。

イザックはそれに対して頷き、こう答える。

 

「貴方の考えている通りです。

斎宮寺 明光。

アサシン、ハインリヒ・ヒムラーもいずれは倒さなくてはならない存在ではあります。

しかしながら魔術協会の全魔術師の殺害、及び洗脳をしたキャスターも無視できる存在ではありません。」

 

淡々と語るイザック。

その近くに転がっている屍の頭蓋がぐちゃり、と音を立てて開く。

その場に集まっている彼らは音をした方を見る。

その音の正体は、鳩程度の大きさで、半円の翅と5対の脚を持っており、頭部には3つの口があり、顔全体が巻き髭らしきものに覆われている虫のような奇妙な生命体だった。

その虫はその場から離脱しようとする。

しかしソレは上手く飛行できないらしく、不格好に羽根をばたつかせる。

そこへイザックが手に持っていた黒鍵を1つ投げ、撃墜する。

ボトン、と音を立てて地面に仰向けで落ちると、塵のように消滅した。

 

「…監督役殿。

主を…マスターを守っていただき、ありがとうございます。

…私は…主のために何も出来なかった。」

 

セイバーはイザックに深々と頭を下げる。

 

「あれは仕方ありませんよ、セイバー。

むしろ自分を犠牲にしてまで周りの被害を考えて優先したのだから大したものです。」

 

イザックはそう語りながら最初に襲ってきた魔術師が身につけていた服を探る。

 

「そしてこの惨状、聖堂協会監督役であるイザック・ド・ロベールが赦す訳にはいけません。」

 

そして1枚のメモを斎宮寺に差し出す。

 

「…!これは…

彼が残してくれた…キャスターの情報…!」

 

そのメモにはたった一言。狂気と闘いながら書いたのか、乱れた文字で一言こう綴られていた。

 

「監督役『イザック・ド・ロベール』より全陣営へ通達します!

これより令呪一画を報酬としてキャスター陣営の討伐を宣言します!!

魔術師のサーヴァント、キャスターの真名は___」

 

【ハワード・フィリップス・ラブクラフト】

 

-----

 

「はぁっ、はぁっ……どうして……どうしてこうなったの……!!」

 

瓦礫の山になったオペラハウスの陰に3人の人影を覗きながら女、イザベラ・ウォーカーは監督役の宣言を密かに聞いていた。

指先からはバチバチと音を立てた青い電磁波が流れている。

斎宮寺の行動を奪った雷の魔術は彼女のものだったのだ。

 

「さあマスター!

絶体絶命の状況から這い上がるのが物語の主人公というもの!!

全陣営から標的にされるという絶望的な展開から貴女はどのような活躍をして頂けるのか私は待ち遠しくて待ち遠しくて仕方ないですよ…

フフフ。」

 

キャスター、『ハワード・F・ラブクラフト』は霊体化を解除し、不敵に笑う。

それを見ればイザベラはキャスターの胸ぐらを掴む。

 

「アンタねぇ!!

とんでもないことをしてくれたわね!!

日本の侍に世界最悪の殺戮集団、総統親衛隊の最高司令官、そして恐らくブリテンの騎士を初めとする強者達を貴方が相手に出来るの!?」

 

キャスターは胸ぐらを掴まれても動じることなく、不気味な笑みを浮かべ続けながら目の前のイザベラに対して応える。

 

「安心してください、マスター。

いざとなれば『第2宝具』を発動すればいいのです。

第1宝具である我が最高傑作、

彼方からの最高傑作(ネクロノミコン)』は全ての陣営を相手取れるだけの力はあります。

どうか安心していただきたい、主よ。」

 

狂気に囚われたその目を見てイザベラは思わず手を離し、後ずさる。

それを見たキャスターはまた不気味に微笑み、魔導書『ネクロノミコン』を取り出し、呪文を唱える。

次の瞬間、蟻または蜂と翼竜を掛け合わせたような体長2~3m程の生物が現れる。

 

「さぁ、行きましょう。

まずは体制を整え、戦いに勝ちましょう。」

 

イザベラは不安げな表情をしたまま、その生物の背中に乗る。

キャスターも共に乗れば、時速70km程でどこかへ飛んで行ったのだった…。




さて、セイバー、キャスターと真名解明でございます。
ちょっと雑な点があると思いますがどうかご容赦を…。
さて、どんどん雲行きが怪しくなってきた聖杯戦争ですが、この戦いはどこへ向かっていくのでしょうか。
1章はこれで区切らせていただきます。
続いて2章もお楽しみください。

…まあいつ投稿するか分からんがな。


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第2章
結束する三国同盟


皆様、あけましておめでとうございます。
不定期更新で何とかやって行きますので、今年も何卒よろしくお願いします。



聖杯戦争開戦から1日。

監督役『イザック・ド・ロベール』は教会の地下の一室で椅子に足を組んで座り、テレビを眺める。

 

「…異常気象で道路の凍結、及び破損…

旧ドイツ軍の軍服を身につけたファシストの出現…

そして落雷によるオペラハウス崩壊…。

全く…神秘の隠匿なんて夢のまた夢、ですね。」

 

リモコンを手に取り、テレビを消す。

 

「…全陣営に通達を出したものの、この討伐令は半強制的な物。

あくまで強制的なものではありません。

さて、幾つの陣営が協力してくれるでしょうか。」

 

暗闇が続くテレビを眺めながら彼は呟く。

 

「…ルーラーがいれば私の仕事も楽になっていたでしょうに。

彼の者は私と合流する前に何者かによって既に消滅している。

…全く、この聖杯戦争は異常中の異常、ですね。」

 

サーヴァント、裁定者(ルーラー)

聖杯戦争の公正さを保つため、異例の聖杯戦争に召喚される天秤の担い手。

実はその存在がかつてこのノルウェーに顕界していたのだが、彼は何者かの手で霊格を貫かれ、消滅している。

 

「しかし何もかもが分からずに消えてしまった彼が最期に私に夢の中で伝えてくれた天秤を持った女神の駒が溶けてその中から悪魔のような何かが現れる映像…

何か意味があるのでしょうね。」

 

そう1人で呟いていると、奥の部屋からノックが聞こえる。

 

「おはようございます、斎宮寺様。

具合の方はいかがでしょう?」

 

扉を開けて現れたのは、斎宮寺とその後ろに控えているセイバーだった。

彼らはイザックに救われ、教会で安静にしていたのだ。

 

「良くはなったかな。

…仕事を増やして悪いな、監督役。」

 

申し訳なさそうに頭を下げる斎宮寺。

イザックはそんな彼を見て微笑み

 

「いや、それが私の仕事なので気にせず。

オペラハウスの崩壊は致し方ない犠牲です。

それに最高戦力の一つであるセイバーをここで消したくなかった、と言うのが本音でしょうかね。

あのまま放っておいたら、貴方達アサシンに背後を取られていましたよ。」

 

トン、と斎宮寺の背中を指でイザックは軽く小突くと、神父服を羽織り、階段を上がっていく。

 

「…おや、もう来ていたのですね。

まさか貴方方が私の招集に応じて頂けるとは思っていませんでしたよ。」

 

椅子に座っている2人を見るイザック。

その目には派手な黒いドレスを着こなしたブロンドヘアの女性、ベルタとに茶髪の眼鏡をかけた黒スーツの男、ロベルトが映っていた。

 

「随分舐められているようじゃない?

監督役さん。」

 

ベルタは挑発するような表情でイザックを見る。

そんなベルタを横目にロベルトが椅子から立ち上がり、斎宮寺の方へ歩いていく。

 

「お会い出来て光栄だ、日本の魔術師。

僕の名前はギオーネ・ロベルト。しがない始末屋さ。」

 

ロベルトは微笑むと、斎宮寺に手を差し出す。

 

「…あぁ、俺は斎宮寺 明光。

よろしく。」

 

その手を握ると、彼も微笑み返す。

 

「少し君のことを調べさせて貰ったよ、アケミツ。

君のその刀、とある魔術師殺しと呼ばれていた男から名を貰ったんだろう?

実は彼は僕の憧れでね。

いつか会ってみたいと思っていたんだよ。」

 

ロベルトは手を離すと彼の背中に背負われている竹刀袋を眺める。

斎宮寺 明光の愛刀『キリツグ』。

刀の1部に彼の助骨が使用されており、起源と接続されている悪しき生命体特攻の魔術礼装だ。

この刀の名称は魔術師殺しと呼ばれ、恐れられていた魔術師『衛宮 切嗣(えみや きりつぐ)』から名を借り、名付けられた名刀である。

 

「驚いた。詳しいんだな。

その通りだ。

実は時計塔の鉱石学科にある魔術師の小間使いのようなことをしている人がいるんだが…その人が___」

 

2人して一人の男について談義していると、間に割って入るかのようにベルタが歩いてくる。

 

「ちょっと!!そのなんたらキリツグのことは今はどうでもいいのよ!!

今はアタシ達3陣営が集まっているんだから、アサシン…違った。

アタシ達でキャスターを協力して討伐するんでしょ!?どうでもいいことで盛り上がらないでくれるかしら?」

 

腕を組み、男二人を睨みつける。

 

「…僕としたことが話しすぎたみたいだね。

…そうだね。じゃあ、本題に入ろう。

本当はバーサーカー、ランサー陣営にも協力してもらいたかったが、バーサーカーのマスターであるゲラーシー・アリスタルフは『同盟なぞ組まんでも儂らだけで勝てるわ!』と言って拒否だ。」

 

やれやれ、と言ったように彼は話す。

 

「アタシはランサーのマスターであるアシュリー・クローバーにコンタクトを取ったのだけれど、彼女自身は乗り気だったけどランサーが拒否したため交渉は決裂したわ。

…サーヴァントに主導権握られてどうすんのよ。」

 

椅子に座り直すと不貞腐れたように手すりに肘を置き、頬杖を付く。

 

「…ま、あのランサーは我が強そうだったからな。

主導権握られても仕方ないぜ、ありゃあ。」

 

ベルタのそばにオレンジ髪の男、ライダーが現れる。

 

「ライダー、勝手に出てこないでと言ったはずよ。」

 

さらに不機嫌そうな表情になればあからさまに機嫌が悪そうな声を出す。

 

「ハハハハ!いいじゃねぇかマスター。

そっちのセイバーは姿見せてんのにこっちは隠れたままなんてつまらねぇじゃねぇか。

俺はライダーだ。陸上戦でも海上戦でも任せてくれや。」

 

ニッ、と笑ってサムズアップするライダーの背後にブロンドヘアを持つぽっちゃり体系の男が姿を現す。

 

「俺はこんなナリだがアーチャーだ。

ここノルウェーの英霊だ。

…よろしく頼む。」

 

腕を組み、壁に持たれかけるアーチャーはライダーを見ながら軽く挨拶をすれば、そのまま続ける。

 

「ライダー、お前、船乗りだな?」

 

「「!!!!」」

 

ベルタとライダーは思わず身構えるが、顔を見合わせると、直ぐに臨戦態勢を解除する。

 

「…確かに俺の逸話には船に乗ったものがある。

…しかしなぜわかった、アーチャー。」

 

真顔でアーチャーに問いつめる。

アーチャーはフッ、と微笑し

 

「船乗りのカンは当たるだろう?

…そういうことさ。」

 

彼の言葉を聞いたライダーは少し驚いた後に笑顔になり

 

「…なるほど!

お前も船乗りか!これは気が合いそうだ。

天気のいい日の航海は最高だよな!特に___」

 

ライダーが嬉々として話すのをイザックの咳払いが妨げる。

 

「…コホン。

そろそろよろしいかな?」

 

彼は聖書を置く台座のに立ち、笑顔をうかべる。

その場に揃う者はそれが怒りによる笑みだということに気が付き、肩が竦む。

 

「話を広げて仲良くして頂くのは結構ですが、何せ時間がありません。この教会だっていつまでも閉めたまま、という訳には行きませんからね。」

 

ふう、とため息を着くと、彼は真顔になる。

 

「さて、ここに3つの陣営による同盟ができたわけですが、皆さんに改めてキャスターはもちろん、アサシンの討伐を依頼します。

今は一般人への被害こそないものの、彼らはこの世にいてはならない存在です。

これは個人的な頼みのため、報酬は与えることが出来ませんが…」

 

腕を組んで話を黙々と聞いていたベルタが立ち上がり、声を上げる。

 

「当然よ!

アイツらは我が祖国、ドイツの汚点!!

聖杯戦争以前にアタシが仕留めなくちゃいけないの。

…ドイツ人として。」

 

拳を強く握るベルタを見て斎宮寺、ロベルトの2人は静かに頷き、その通りだと呟く。

 

「じゃあ決まりだ。

俺達はキャスター、及びアサシンの討伐のために手を組む。

最後の3騎になるまで殺り合わない。

協力して奴らを倒す。

___ここに、日独伊枢軸魔術同盟を結成する。」

 

斎宮寺がそう宣言すると英霊3騎は互いの腕をガッチリと合わせ、笑みを浮かべた。

 

そう、ここに古き三国同盟が、再び結成されたのである。

 

-----

 

「クソッ!!あの劣等人種共め!!

よりにもよって我々を討伐するために枢軸国を名乗るとは…!!」

 

ドン、と暗い部屋の円卓を叩くアサシン、『ハインリヒ・ヒムラー』とその後ろで落ち着いた様子で控えている『ラインハルト・ハイドリヒ』、そして笑みを浮かべているマスター、ナイル・テップ。

 

「ヒムラー長官。

どうか気を鎮めてください。

何人集まろうがヤツらは所詮列島人種の寄せ集めです。

…まぁ、1人アーリア人でありながらヤツらに手を貸している裏切り者がいますが…まあいいでしょう。

優等種族である我々アーリア人がヤツらに負けるわけがありません。

…とはいえ警戒は必要です。

街のあらゆる箇所に『私の可愛い部下』達を配属しておきました。

我々もそろそろ本腰を入れ始めましょう。」

 

『可愛い部下』と聞いてヒムラーは顔を少し顰め、後ろを向き、手を組む。

 

「フフ、面白いことになってきたねぇ。

監督役による我々の実質的な討伐宣言。

いいじゃないか。どこまでボクを楽しませてくれるんだろうねぇ。」

 

二人を見て邪悪な笑みを浮かべるナイルは、これから起こるであろう戦いを想像し、更にくつくつと笑う。

 

そう、彼にとってこの聖杯戦争は闘いではない。

ただの遊戯事なのである。




さて、アサシン陣営も何やら不穏な雰囲気になってきましたね。
まあ彼らは元々やべー集団なので仕方ありません。
そして存在していたルーラーが最後に残したメッセージとは…??
お楽しみに。


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動き出す悪魔

【ノルウェー首都『オスロ』閑静な住宅地】

 

2017年2月某日、昼の12時頃。

オスロオペラハウスが落雷によって崩壊するという大事件があったもの、町は変わらずのどかであった。

とある一家は昼食を食べながら団欒し、とある男女のカップルは愛を育み、とある友人同士は友好を深めていた。

誰もがこんなのどかな時間が流れすぎる___

 

そう、思っていた。

 

「今日もママの作ってくれるメシは美味いな!

ほら、マリー。残さずにちゃんと食べるんだよ。」

 

「うん!マリー、ママのご飯だいすき!

ぜーんぶたべる!」

 

「ウフフ。

まだまだあるからゆっくり食べなさい。

今夜はもっと美味しいご飯を作りますからね。

楽しみにしててちょうだい。」

 

これはとある一家の日常だ。

彼らは幸せそうに食事を取りながら団欒している。

そしてマリーと呼ばれた少女は母親の作った昼食を全て平らげると、席をたち、玄関のドアに向かって賭けていく。

 

「お外で遊んでくるね!」

 

手を振り、ドアを勢いよく開け、閉める。

 

「あっ、マリー!

暗くなる前に帰るのよ。」

 

母親は玄関に向かってそう声をかけた時、とんでもない悪寒が彼女の背中を伝う。

 

そして、その予感は的中してしまう。

 

「…あれ、おじさん達、だぁれ?」

 

___一人の男を先頭に、50人近くの黒い軍服を着た男達が足並みを合わせて町外れから歩いてきたのだ。

 

「…始めなさい。」

 

先頭に立っている男___

金髪の野獣(ラインハルト・ハイドリヒ)がそう呟いた瞬間___

 

閑静な住宅街は、地獄と化した。

あちこちで鉛玉が飛び交い、家には火が放たれ、彼らが通った道は屍が積み上がる。

 

「あぁぁぁぁ!!マリー!!マリー!!」

 

母親は動かなくなった少女の身体を抱え、揺さぶり、泣き崩れる。

 

「良くも…良くも俺の愛娘を…!!

過去の亡霊共め…!!」

 

父親は涙を目に浮かべながら震える手で拳銃を構え、ハイドリヒに照準を合わせる。

 

「…愚かな。

我々には向かおうと言うのか?

どちらにせよ、劣等人種は処分するだけだ。

それに、そんな未熟な構えで我々を殺せるとでも?」

 

フン、とハイドリヒは鼻を鳴らして嘲笑い、迫り来る弾丸を回避する。

 

「…!!」

 

父親は驚愕し、目を見開いた。

その頃にはハイドリヒの傍に控えていた男が父親に走り出し、喉を切り裂く。

 

「見事な手際です。

オーレンドルフ。」

 

オーレンドルフと呼ばれた青眼の丸刈りの男はハイドリヒの傍に戻ると、胸に手を当てて一礼する。

 

「……お褒めに預かり、光栄です。

ハイドリヒ長官殿。」

 

彼は少し複雑そうな表情を俯きながら浮かべる。

 

「何故突然一般人を攻撃したのか理解できない、という顔をしていますね。」

 

それを見透かしたのか、ハイドリヒは彼に告げる。

 

「…!

失礼ながら、長官殿。この戦争は聖杯さえ獲得することが出来れば人類が抱えている"民族問題"を簡単に解決することができます。

…しかし、何故我々が直接こうして手を降す必要があるのでしょうか。」

 

ハイドリヒは暫し沈黙し、鋭い眼光をオーレンドルフに向ける。

 

「オーレンドルフ君。

貴方は我々の仕事が何だか忘れてしまったようですね。」

 

「そんな、ことは…。」

 

鋭い眼光を直視出来ず、目を逸らすオーレンドルフ。

そんなことはお構い無しにハイドリヒは続ける。

 

「我々は『移動虐殺部隊(アインザッツグルッペン)』です。

そこに劣等人種が居れば処分するのが我々の仕事でしょう?違いますか?」

 

その問いかけに彼は黙秘を続ける。

 

「…それに、これは他陣営に対する宣戦布告でもあります。

我々の力を他の連中に示しているのです。

日本の侍?ブリテンの騎士?ノルウェーの英雄?

そんなものは我々の"忠誠心"1つで捻り潰すことが出来るということを証明してやっているのですよ。

いっせいにヤツらが向かってきても関係ない。

最終的に勝つのは我々なのですから!」

 

高笑いをするハイドリヒを横目にオーレンドルフは一言『相変わらず無茶苦茶な信念だ。』と俯き気味に呟き、火炎瓶を近くの家に投げ入れる。

 

それから1時間、この住宅街は完全に焼け野原となり、生存者は誰一人いなかったと言う。

 

-----

 

【オスロ市街、セイバー陣営拠点ホテル】

 

「…完全にやられた。アサシンの奴ら…

実質的な討伐令を出されて完全に開き直りやがった…!」

 

拳を作り、自分の膝を叩く斎宮寺と両膝のところで拳を握りしめ、怒りからかふるふると震えているベルタ、そして冷静な表情で壁に持たれかけ、腕を組むロベルトはテレビで流れているニュース速報の映像を通して、アサシン達の脅威を再確認していた。

 

「……『移動虐殺部隊(アインザッツグルッペン)』。

間違いなく歴史上最悪の保安組織だろう。

そして奴らは鍛え上げられた特殊部隊でもある。

…本腰を入れてきたな、アサシンめ。」

 

冷静さを保っているように見えるロベルトもどうやら苛立っているようで、画面にハイドリヒが大きく映し出された途端、舌打ちを鳴らす。

 

「魔術協会では今、裏で手を回してオスロから住民を完全に退去させようとしている。

この退去が終われば俺たちはこのオスロで本格的に動くことが出来る。」

 

「……それって、いつ頃なのよ。」

 

今まで黙って俯いてたベルタがここで口を開き、斎宮寺を見る。

 

「それっていつ頃なのよ!!

こうしている間にも奴らは虐殺を続けているのよ!?それまで待てって言うの!?」

 

目に涙を浮かべたベルタの傍にライダーが出現し、肩を抑える。

 

「落ち着けベルタ!!

セイバーのマスターもアーチャーのマスターもそういう事を言ってる訳じゃねぇ!冷静になれって!」

 

ベルタの目線に合わせ、ライダーは叫ぶ。

 

「…その通りだ。俺達はそれまで待てるわけじゃない。

今から俺達は民間人への被害を最小限にしつつアサシン、及びキャスターを相手取る必要がある。

だがどちらかを相手にしてるとまたどちらかが漁夫の利を狙って俺達を叩きに来る可能性が高い。

アイツらはどちらとも数を出せる宝具を有している。」

 

そこまで斎宮寺が呟くと、ロベルトはハッ、とした表情になる。

 

「そうか…!

アサシンとキャスターをぶつけるんだね?」

 

それを聞いたアーチャーはロベルトの横に現れ、斎宮寺の方を見る。

 

「…手段はあるのか?

非常に難しい作戦だと思うが。」

 

アーチャーの問いかけを聞いた斎宮寺は笑みを浮かべ

 

「もちろんだ。」

 

と、ただ一言だけ呟いた。




うーん胸糞
あ、一応言っておきますと私にそういう思想はありませんのでご安心ください。
奴らが戦勝国になった世界なんて考えたくねーですわよ。
それはそうととある追加設定を考えたのですが今後とんでもなく滅茶苦茶になりそうです。
ヤバいです。どうかお楽しみに。


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恐怖と狂気

「…キャスターの現拠点を特定。

場所はここからそう遠くない。オスロ郊外にある屋敷に住み込んで拠点にしているようね。」

 

ベルタはホテルの浴槽に張られている水から手を離し、斎宮寺とロベルトの方を見る。

 

「…水に特化した魔術一家、バルヒェット家。

水が張り巡らされているところならどんなところでも場所を特定することが出来る。

…人間は水がないと生きていけない。

…全く合理的な諜報手段だね。」

 

眼鏡を指で押し上げながらロベルトはため息混じりに呟く。

 

「さて、居場所がわかったのならここからは現地に乗り込む。

しかしこれはキャスターの討伐を目的としたカチコミじゃない。

アサシンを誘き寄せ、キャスターとぶつける作戦だ。

…皆、準備はいいか…?」

 

斎宮寺がそれぞれのマスターとサーヴァントを見る。

彼らは全員首を縦に振る。

 

「よし、決まりだ…。

行くぞ!」

 

斎宮寺は壁に立てかけてあった竹刀袋を手に取り、ホテルのドアを開け、外に出る。

他の者もその後ろに続き、その場を後にした。

 

-----

 

「…マスター、迎撃体制を。

どうやら我々の居場所がバレてしまったようですよ。」

 

それから少しした時、キャスターはペンを止め、席から立ち上がり、己のマスターに忠告する。

 

「向かってくるのは3陣営。

そうですね…『新・枢軸国』とでも言いましょうか。」

 

「それってまさか、セイバー、アーチャー、ライダーの3陣営の同盟じゃないでしょうね!?」

 

その報告を受けて青ざめるイザベラ。

 

「ええ!そのまさかですとも!

さぁ、楽しくなってきましたよ!!

言ったでしょう、私は全陣営を相手取っても勝てると!!

さぁ!!我らに勝利を!!

フフフ、ハハハハハ!!」

 

キャスターは魔本『ネクロノミコン』を取り出し、書斎を後にする。

イザベラは青ざめたまま近くのソファーに腰掛け、頭を抱える。

 

「こうなったら私だけでも投降すべきなの…?

もうどうすればいいのよ…。」

 

ソファーに座り込んだまま、考え続ける。

しかし答えは出ないまま、外から戦闘音が騒がしく聞こえてきたのだった。

 

-----

 

【同刻、屋敷中庭】

 

「クソ!こいつらどこから湧いてきやがるんだ!?気持ちわりぃ!!

セイバー!

後ろは任せてるぞ!!」

 

黄金の剣を構えながらライダーはセイバーに背中を合わせ、自分に迫ってくる無数の化け物を凝視する。

それは、灰色がかった白い脂ぎった肌で、顔や鼻に当たるだろう部分にピンク色の短い触手が生えた目の無いヒキガエルのような化け物だった。

 

「貴殿に言われなくても後ろは某が見ている!

マズいと思った時は言え!すぐに力を貸す!」

 

バチバチと音を立てて稲妻を発する刀を振るいながら迫り来る化け物達を切り伏せていく。

 

「ハッハッハ、それはお前の方じゃねぇかセイバー!!

俺の剣は邪悪には絶対に負けねぇ!!

なんならお前のその無駄に目立つ刀と打ち合ってみるか!?

勝利は見えてるが…なっ!!」

 

ライダーも負けじと黄金に光る剣を勇猛に振るい続けながら憎まれ口を叩く。

 

「何を…!?

いいだろう、やってやろうじゃないか!

貴殿など私の雷切で___」

 

より強い雷を刀から発すると、頭の中でアーチャーの声が響く。

 

『…喧嘩してる場合か馬鹿どもが。

アサシンの集団が接近中。

…そして…あれは…!?』

 

そしてその頭の中で響くアーチャーの声は驚愕したような声色であった。

 

『…あれは…戦車よ!!

武装親衛隊…第1SS装甲師団…!!

精鋭中の……精鋭!!』

 

続いてベルタの声が頭に響く。

その声は怒りと焦りが混じったような声色だった。

その直後、屋敷と中庭に爆発音が響き、黒色の軍服の男達が現れた。

 

「来たぞ…!!アサシンだ!!」

 

ライダーは向かってくる男達を黄金の剣で切り伏せながら正門の方へ駆け抜けていく。

 

「こちらでの作戦は成功した!

アーチャー!マスター達を連れて逃げましょう!」

 

セイバーもその後ろを続く。

その視界には、ヒキガエルのような化け物と黒い軍服の男が争っている様子が映っていた。

-----

 

【屋敷郊外】

 

「敗北を知る黒い稲妻達よ!!

容赦を知らない悪魔達よ!!続け!!

例えこれが人類を滅ぼす要因であろうとも我らが理想のため、我々は進まねばならないのだ!!

このパウル・ハウサー親衛隊上級大将に続くのだ!!」

 

初老の男性が鉤のような紋章が描かれた戦車の砲身から身を出して辺りの隊員達を鼓舞する。

そして、その戦車の主砲には褐色肌の美しい青年、ナイル・テップが立っていた。

 

「…いいねぇ。楽しくなってきた。

ようやく、ようやく会えるねぇ。」

 

ニタリ、と気味の悪い笑みを浮かべ、月明かりが指す屋敷を眺める。

 

「全戦車隊!!目標に向かって撃て___!!」

 

初老の男性、ハウサーがそう号令すると、10台もの戦車が横に並び、一斉に砲撃を開始する。

その砲弾は屋敷に、セイバーとライダーが戦っている中庭に着弾する。

 

「さぁ!!遊ぼう!!

ボクはナイル・テップ……

いや…!!

サーヴァント、裁定者(ルーラー)!!

イムホテプ!!

キミ達のもがく様を見せておくれ?」

 

そうナイルが言うと、笑みがよりいっそう深くなり、不気味な高笑いが屋敷に響く。

 

裁定者と名乗ったその(あくま)は、一体何を考えているのだろうか。




さて、ここでまさかのルーラーの伏線回収です。
ルーラァ!!生きとったんかワレェ!!
仕事せぇやァ!!なんでそっちおるんじゃあ!!
など色々な意見があると思いますが今後どうなるか……お楽しみに。


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銀の鍵の門を越えて

「…おや?

私の可愛い月棲獣(ムーン=ビースト)達が脅えていますね…。」

 

屋敷の屋根裏、砲弾によってできた穴から、キャスターは木製の椅子に足を組んで中庭を見下ろす。

その視界には白いヒキガエルのような化け物がカタカタと震えるように動いていた。

 

「……なるほど、そういう事ですか。

では私が出向かない理由はない、ですね。」

 

足を元に戻せば立ち上がり、その穴から中庭に降り立つ。

 

「…キャスターか。」

 

隊員達を掻き分けながら奥からヒムラーが歩いてきてキャスターに話しかけ、銃を向ける。

 

「えぇ、その通りですとも。

私こそがキャスターのサーヴァント!

真名を『ハワード・フィリップス・ラブクラフト』!

貴方は生前何かの記事で見かけたことがありますねぇ…。

ドイツ第三帝国相当親衛隊総司令官『ハインリヒ・ヒムラー』その人、ですね?」

 

「その通りだ。

貴様はアメリカのコズミックホラー小説『クトゥルフ神話』を書き続けていたな。

私もオカルトを追求してきた身だ。

…そこで殺す前に問おう。」

 

ここで彼は一息をつき、キャスターの目を見る。

 

「クトゥルフ神話は、実在する神話なのか?」

 

その問いかけに一瞬キャスターは固まれば、その次には笑い声をあげる。

 

「フハハハハハ!!

殺し合いの前に何を問いかけられると思えば!!

創作した神話が本物なのか、ですか!!

傑作ですな!ヒムラー総司令殿!!」

 

しばらく腹を抱えて笑うキャスターとその様子を見て不服そうな表情をするヒムラー。

 

そして目に浮かんだ涙を指で拭いながらキャスターは不気味な笑みを浮かべる。

 

「…存在する(・・・・)、と言ったら?」

 

「…!!」

 

ヒムラーは目を見開き、キャスターを見れば、引き金に指をかける。

その弾丸はキャスターに当たることなく、一枚の紙によって防がれる。

 

「…呪紙、とでも言いましょうか。

私の原稿用紙を少し細工して盾にしました。

まぁ、こんなものすぐに壊れてしまう一時的なものにすぎませんがね。」

 

前に掲げた紙がパラパラと塵になり、崩れていく。

 

「変わるよ、アサシン。」

 

そして、ヒムラーの肩に褐色の手が置かれ、サーヴァント・ナイル・テップ(ルーラー・イムホテプ)が前に出る。

 

「…やぁ、初めまして(・・・・・)、ハワード・フィリップス・ラヴクラフト。

ボクはルーラーのサーヴァント、イムホテプ。

仲良くやろう。」

 

ナイルは両手を大きく広げ、ニタリと笑う。

キャスターはその様子を見ればクク、と喉を鳴らす。

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

あぁ、初めまして(・・・・・)!!神官イムホテプ!!

エジプト神話には随分お世話になったものだ!!!!」

 

顔を手で抑えると、狂気に取りつかれたように高笑いする。

 

「そうか!!神官!!!!

最初からソレ(・・)が目的か!!!!

面白い!!!!

なるほど、全て合点した!!

通りで彼らが怯えているわけだ!!」

 

キャスターは地面に転がっている月棲獣を足で蹴れば、笑い続ける。

 

「ならば私達は手を組むべきだ。

勿論、普通の方法ではなく。」

 

キャスターはペンと茶色い箱を出現させ、手に持ったペンを箱の鍵穴に突き刺す。

 

「…さぁ!!

物語を滅茶苦茶にしようじゃないか!!」

 

彼はそう言うと箱の中から羊皮紙に包まれていた銀色に輝く鍵を取り出す。

 

「これは私の書いた狂気の物語。

___これは、私の経験した物語。」

 

鍵をヒムラーに向け、呟き始める。

 

「ッ…!!

宝具が来るぞ!!全隊!!突撃!!」

 

彼は手を前に向けて周りの隊員達に命令する。

___が。

 

「我は洞窟を越え、門番を越え…

そして窮極の門を越える。」

 

しかし、アサシン達の体が、ピクリとも動かなかったのである。

 

「…何……故………!?」

 

驚愕しながら彼らはナイル(自身の主)を見る。

 

「我は1つ。

___我は多数。

平行世界に、私は接続する。」

 

キャスターの目が黒く、不気味に輝く。

 

「____令呪を持って命ずる。」

 

ナイルは手に輝く赤い紋章を掲げながら笑みを浮かべ、アサシンを見る。

 

「我はラブクラフトにして、ラブクラフトに在らず!!

我が名はランドロフ・カーター!!ラブクラフトの写し見にして、平行世界のラブクラフトである!

さぁ!この世を狂気に染めあげようじゃないか!!」

 

銀の鍵の門を越えて(ゲート・オブ・ドリームランド)

 

「何もするな。」

 

ナイルはそう宣言する。

そしてキャスターの放った黒い光が、アサシン達を包み込む。

 

「…フフフ、ハハハハハ!!

ごめんねぇアサシン!!君じゃあ、弱すぎた。だから…」

 

その光を眺め、高笑いすると、彼は続けた。

 

「…強くならないと。」

 

冷たい声で、しかし楽しそうな声で呟くと、黒い光が収まった。

 

___その光の中心に、(ヒムラー)はいた。

しかし、彼の着ている軍服の裾が分裂し、うねうねと自我を持った触手のように蠢いていた。

 

「私の…体が……

そうか……これが私の追い求めた……

完成系か……!!」

 

ヒムラーは自身の両手を見れば、そう呟き、笑みを浮かべる。

 

「親衛隊総隊員に告ぐ!!

総統親衛隊はこれより、『ドイツ騎士団』と名称を改める!!

そして、全騎士団員に改めて命ずる!!」

 

そう言いながら彼は周りを見る。

だが、周りにいた隊員達の姿はなかった。

___代わりに。

 

「敵対勢力を完全に無力化し、聖杯を我らの手に必ず収めよ!

これは我らが総統閣下の願いでもある!!

必ず勝利を総統閣下へ捧げるのだ!!」

 

代わりに、大小バラバラのスライムのような不定形の体の黒い化け物が蠢いていた。

 

総統万歳(ハイル・ヒトラー)!!」

 

そう叫ぶと彼は直立の姿勢で右手をピンと張り、一旦左胸の位置で水平に構えてから、掌を下に向けた状態で腕を斜め上に突き出す。

それに呼応するかのように辺りの化け物達は『テケリ・リ!』と一斉に鳴き始めた。

 

「…しかし、さすが神官だ。

その外道っぷりは変わっていないようだね。」

 

様子の変わったキャスターがナイルの隣に立てばそう話しかける。

 

「…お褒めに預かり光栄だよ。

カーター。」

 

彼はフッ、と鼻を鳴らせばキャスター、『ランドロフ・カーター』の方を見たあとに、ヒムラーを見る。

 

「…彼はもう暗殺者のサーヴァントなんかじゃない。

霊基変容とでも名付けよう。

…そう、霊基が変わった彼は暗殺者(アサシン)なんかじゃない。」

 

そう呟くと、不気味な笑みを顔に張り付かせ、こう言う。

 

降臨者(フォーリナー)、ハインリヒ・ヒムラー。

ここに誕生だ。」

 

…そう、ここに。

 

こちらの法則に縛られない異界の怪物、我らですら知り得なかった異常識。 
虚空からの降臨者(フォーリナー)が降臨したのである———




ようやく書きたい場面のひとつが書けました……。
ここに、アサシン、改めてフォーリナー、ハインリヒ・ヒムラー降臨です。

…さて、ここからこの物語はさらなる混沌に包まれていきます。

___こちらが深淵を覗いてる時、深淵もまたこちらを覗いているのだ。


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正義の乱入者

【屋敷郊外】

 

月明かり1つ差し込まない森の中に6人の足音が響く。

 

「オイ!どうなってんだよ…!!

なんなんだよあの魔力量!!

クソ!作戦は失敗か…!」

 

走りながらライダーはそう叫ぶ。

 

「すまない…!

俺のせいだ…!!アイツらは合わせては行けなかったんだ…!!」

 

斎宮寺が公開するような声で叫ぶ。

 

「言っても…仕方ないでしょ…!

はぁ…はぁ…アンタも……知らなかったんだから……!!

てかライダー!抱えなさいよ!」

 

息を切らしながら走るベルタを見れば、ライダーは少し立ちどまり、彼女を抱える。

 

「…!

止まれ。

…敵襲だ。」

 

ロベルトが前に出て、腕を横に出すと、目前に無数の黒い粘液状の化け物がうねうねと蠢いていた。

 

「テケリ・リ!テケリ・リ!」

 

化け物達が一斉に彼らに襲いかかってくる。

セイバーとアーチャーが咄嗟に交戦し、ベルタを下ろしたライダーもそこに加わる。

 

「何だこのバケモン共!!斬っても斬ってもすぐに再生しやがる!!

俺の剣で少しその速度が落ちる程度かよ…!」

 

ライダーは黄金の剣に付着した黒い液体を振り落とし、鞘に収める。

 

「マスター!宝具使用許可を!!」

 

「許可するわ!全力でやりなさい!」

 

振り向かずに後ろにいるベルタに彼は叫ぶ。

ベルタは頷き、手を前にかざす。

 

「さぁ!無念を抱え死んで行った悪霊共よ!

悲しみを背負う哀れな者達よ!!この悲しみの船に続くがいい!!」

 

彼がそう詠唱を始めると、黒い帆が張られた帆船が空中に現れる。

ライダーはそれに飛び乗り、再び黄金の剣を抜いた。

 

「我が名はテセウス!海神ポセイドンの息子にしてアテナイの王アイゲウスの義子である!

ミノタウロスに殺され、海中に沈んだ迷える魂達よ!

俺に力を貸してくれ!!」

 

剣を前に突き出すと、後ろに100隻程の帆船が後ろに並んだ。

その帆船達には青白い光を放った無数のゴーストが甲板に佇んでいた。

 

「『哀しみ示す帆船(シップ・オブ・ソロウ)』!!」

 

ライダーのその言葉を合図に、悪霊達は目の前の化け物たちに突撃していく。

 

「テケリ・リ…リ…!!」

 

化け物達はその悪霊達の攻撃を受けると、力が抜けるかのように溶けていき、黒い塵になる。

 

「…ふぅ!!一件落着だぜ。

お前ら助かった!ありがとな。」

 

ニッ、とライダーが悪霊達の方を見てサムズアップする。

それを見た悪霊達はどこか嬉しそうにしながら船ごと消えていった。

 

「…テセウス…!?

とんだ大物じゃないか!」

 

斎宮寺が驚いたように声を上げる。

 

「ギリシャ神話に登場する英雄!

本場ギリシャではあのアキレウスに匹敵するほど人気の英雄だな。

そしてなんと言っても1番の功績はミノタウロスを討伐した事!他にもマラトーンの戦いだったりアルゴノーツ乗船だったり色々あるが…」

 

彼が顎に手を当てて思い出してると、ライダーが大袈裟に顔の前で手を左右に振る。

 

「寄せ寄せ!

むず痒くなる!

…まっ、もっと褒めてくれても、いいんだぜ?」

 

ライダーは指を顎の下に当てれば、キメ顔で斎宮寺の方を見る。

 

「…あー、うん。」

 

それを見た彼は残念なものを見るかのような表情をした。

 

「…アタシも褒める気だったけど、失せたわ。」

 

「同感だ。」

 

他のマスター2人も同じような表情をしており、セイバーは肩に手を置き、アーチャーは彼を気遣うように背中をさする。

ライダーは分かりやすくしょぼくれるように俯く。

 

「…ッ!

言ってる場合じゃねぇ!!」

 

斎宮寺は耳に手を当てて真面目な表情になれば、頬に冷や汗が伝う。

 

「セイバー!!12時の方向に宝具展開!

ライダーは3時の方向!!

大群が来る!!」

 

「「!!!!」」

 

さすが英雄と言うべきか、一瞬で迎撃体制をとり、それぞれ剣を構える。

 

「「我が一撃、受けてみよ!!」」

 

カッ、と目を見開き、彼らは息を合わせて咆哮する。

 

「脅威なる天の災よ!!我を打ち力を授けた雷神よ!!我が力となれ!!」

 

「脅威なる悪の災よ!!怪物に討たれ海に散った哀れな魂よ!!今こそ俺に力を!!」

 

ライダーとセイバーは黒い帆の帆船に乗り込み、剣を振りかざす。

 

「『雷神斬りし紫電の魔刀(らいきり)』___!!」

 

「『哀しみ示す帆船(シップ・オブ・ソロウ)』___!!」

 

2人の英雄の咆哮と共に青白い光が2つの方向に放たれる。

一方向は地面がえぐれ、木々が姿を消し、もう一方向は草木が枯れ、緑が姿を消す。

そして2人の英雄の視線の先には黒い塵が宙を舞う景色が拡がっていた。

 

「…ぶねぇ。

マジで大軍だったぞ…!!

助かったアケミツ!!いい采配だ。」

 

剣を鞘に収めると、バン、と斎宮寺の背中を叩く。

 

…次の瞬間。

 

「テケリ・リ!!」

 

全員の反応が遅れる。

全員が確かに警戒していた。

…だが、その警戒網をかいくぐり、全員の意識外から1匹、怪物が現れたのである。

 

「嘘だろ…!?俺の"耳"にも反応しなかったのかよ!?」

 

咄嗟に刀の持ち手に手を掛ける。

だが、遅すぎた。

 

「…クソッ!!ダメか!!」

 

思わず目を瞑る。

愉しむような鳴き声を化け物はあげる。

 

 

 

___その声に被せるように、野太いが、まだ幼さを残している声が聞こえた。

 

「詰めが甘いぞ、明光。」

 

「…え…?」

 

その声に反応し、目を開ける。

視界には、3本の武器が刺さった怪物の姿が目に入る。

 

「「「…な!?」」」

 

3人の英雄は思わず声を上げる。

 

何故ならそれは__

 

西洋剣。黄金の剣。日本刀。

これは、アーチャー、ライダー、セイバーが扱っている武具だったのだから。

次の瞬間、怪物に刺さった3本の剣は大きな音を立てて爆発する。

 

「3本の剣によって起こされる爆発現象…

まさか…壊れた幻想(ブロークンファンタズム)か…!!

しかしこんな荒業、一体誰が…!?」

 

ロベルトは3基の英霊を見る。彼らはそれぞれ己の武器を構えており、彼らが起こした訳では無いと考える。

 

「…その通り、この技は宝具を使い捨てるから、普段使われることなんて滅多にない。」

 

斎宮寺は爆発によって起こった砂埃から顔を守り、ある方向を見る。

 

「だが…

俺はこれを扱うのを得意とする人を知っている!!」

 

砂埃の中に、黒い影が見え、声が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「___『I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている。)』」

 

こんな詠唱が聞こえると、手に構えられた白と黒の双剣が砂埃を払い、その姿を露わにする。

黒い甲冑に右肩に掛けられたマントのような白い布。

無数のポケットが着いた黒いミリタリーパンツを着たオレンジ色の髪に所々白が乗っているツンツンとした髪型のまだ白みが強い褐色肌の男がそこにいた。

 

「よう明光。

随分と大変そうじゃないか。」

 

トドメと言わんばかりに投げナイフのように双剣を化け物に投げ、右手を上げる。

怪物は堪らず完全に黒い塵となり、宙を待った。

 

「…士郎先輩!?!?」

 

「お前は能力に頼りすぎなんだ。

もっと自分自身の感覚を鍛えた方がいいぞ。」

 

驚く様子の斎宮寺を見た男…

 

衛宮 士郎(えみや しろう)はそう呟くと二ヘルな笑みを浮かべ、手を降ろした。




ここでまさかの元祖主人公衛宮 士郎が参戦です。
ここで少しだけ補足というかなんというかしておきます。
この士郎はUBWルートに似て非なるルートを通ってきた士郎、簡単な話自己解釈の結果少しだけ設定を弄ったというかこうなってもおかしくないよね、と調整した士郎さんです。
まぁ、原作からは大きく離れてないのでヨシ!

…あ、ライダーも真名判明しました。
なんかサラッと流されて可愛そうですが、普通に大英雄です。

さて、士郎が参戦したこの聖杯戦争、どう傾き、どう物語は終息していくのでしょうか。
今後をどうかお楽しみに。


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五陣営、集結。

「士郎先輩、どうしてここに…!?」

 

斎宮寺は目の前にいる男、衛宮士郎にそう声をかけると、彼はポケットに手を突っ込み、斎宮寺の目を真っ直ぐ見る。

 

「お前が聖杯戦争に参加してると聞いていてもたっても居られなくてさ。

…まぁ、オレ達(・・・)がここに来たのは、それだけじゃないんだけど。」

 

そう言って彼は後ろを振り向く。

斎宮寺はその姿を見て、「そりゃいるよなぁ…」と呟いた。

 

「なぁに斎宮寺君。

私がここにいちゃ困ることでもあるのかしら?」

 

「凛…先生…。」

 

女性の声。

その人物は笑みを顔に張りつけ、手を腰に当てる。

明らかに怒ってる。斎宮寺はそう考え、肩が竦んだ。

 

…黒い髪を腰の辺りまで伸ばした赤いセーターを着た女性、『遠坂 凛(とおさか りん)』がそこにいた。

 

「凛…?

…まさか…!時計塔の鉱石科に属する1人……

遠坂 凛か…!」

 

ロベルトは凛の姿を見ると、そう声を上げる。

 

「そ、だけどちょっと違うわ、ローマの始末屋さん。

今の私は衛宮 凛。

Mrs.衛宮と呼んでくれてもいいのよ?」

 

彼女はロベルトにそう微笑むと、士郎の隣に行き、彼の腕に自身の腕を絡める。

 

「……そういうことだ。

んで、俺達がここに来た理由なんだけど。」

 

困ったように、だが満更でもないように彼は笑うと、すぐに真面目な表情になる。

 

「ウェイバーさん…

ロード・エルメロイ二世の頼みで聖杯を解体しに来た。

二世はちょっと…諸々の対応に追われてるから…代わりに、冬木の大聖杯を解体した凛とその従者の俺が協会からの要請で飛んできたって訳だ。

そこで、サーヴァントを従えるマスター達にも協力して欲しいんだ。

…もちろん3陣営だけでも心強いんだが、ちょっと心配だ。

だから…」

 

そう言うと彼はまた後ろを見る。

そこには、薄緑の髪を持つお淑やかな緑のドレスを着こなした女性、アシュリー・クローバーと、肩に羽織っている緑の軍服に白いインナーを来た杖を付いて歩く白髪の男性、ゲラーシー・アリスタルフの姿があった。

 

「彼らに来てもらった。」

 

「…えっと…こんばんは…。」

 

おどおどしたように体を動かし、頭を下げるアシュリーとそのそばに凛として構えるランサー。

 

「ロシア軍ゲオルギー連隊上級大将ゲラーシー・アリスタルフ!ただいま到着した!」

 

杖をドン、と突いてニカッ、と笑うゲラーシーと彼の後ろで無言で控えるバーサーカー。

 

「おおランサー!

俺の頼みは蹴ったくせにそこの男には着いてくるたぁどういう了見だ?」

 

ライダーが冗談交じりに笑いながら言う。

ランサーはそれに対し、少し屈辱そうな表情をして答える。

 

「黙れライダー!

……共に我が王の話が出来た友人なんだ、彼は。」

 

ライダーを強く睨みつけた後、どこか優しい表情で士郎を見る。

 

「…そういうこと。

知ってるかもしれないが、俺と凛は2004年に日本の冬木で起こった第五次聖杯戦争にマスターとして参戦している。

凛がアーチャーのマスターとして。

…そしてオレが…」

 

「セイバー、アーサー・ペンドラゴンのマスターだった、という訳だ。

なら彼ももう私の身内だ。

そんな彼の頼みだ。乗らないで何が"円卓の騎士"だ。」

 

ランサーは槍を手に出現させ、黒紫色の鎧を身に纏う。

槍をクルクルと回し、目の前の3陣営に槍先を向けて言い放つ。

 

「では改めて名乗ろう!

我は槍兵(ランサー)のサーヴァント、円卓の騎士が1人!人呼んで"卑劣の騎士"パロミデス!この力を貴卿らと共に振るおう!」

 

彼女は高々とそう宣言すれば、槍を振り下ろし、鎧と槍を霊体化させる。

 

パロミデス卿。

円卓の騎士の一人であり、トリスタン卿とイゾルデへの愛をめぐって争ったこと、「唸る獣」の探求をしたことで有名である。

彼女は非常に武勇に優れており、ある槍試合ではあのガウェイン卿を含めた円卓の騎士を10人も打ち破っている。

だが、騎士道に疎いところがあり、ある槍試合では、ランスロット卿の馬の首を刎ねるといった卑怯な行為をしたりしており、さらに、既にトリスタン卿と仲間になっていたのにもかかわらず、イゾルデとトリスタン卿の関係に嫉妬してトリスタン卿を殺そうとした。

悪い面がどうしても目立ってしまうが、彼女は全体を通して貴婦人には礼を尽くす人物として知られており、人品が卑しいわけではないようだ。

もちろんアーサー王伝説では彼女は男として書かれており、女だったという記録はない。

 

「しかし…気に食わないあのキザな赤いクソ野郎は参戦していなかったか…

召喚されていたら真っ先にぶっ殺していたのに。」

 

チッ、と彼女は舌を鳴らす。

そんな彼女の脳内に『私は悲しい……。(ポロロン)』という声が聞こえ、八つ当たりのように石をライダーに向けて蹴り飛ばした。

後ろで「なんで!?」と声が聞こえるが、彼女はそんなものを気にすることも無く、続ける。

 

「…さて…。

私は真名を名乗ったぞ。騎士道としては、後名乗っていない連中も名乗ってもらいたいところだが。」

 

鋭い目付きでバーサーカーとアーチャーを睨みつけてそう言う。

 

「いや、パロミデス、止めとこう。

この会話をアイツらが聞いてるかもしれない。

そういやあんた達、腹減ってるだろ?

以前ノルウェーに来た時良くしてもらった人がこっちに来てるって言ったら自由に使っていいって許可貰ってるんだ。

そこが丁度宿屋でさ。ゆっくり休めると思うぞ。」

 

士郎がそういえば、返事を聞く前に歩き出していく。

斎宮寺はその話を聞けば腹を抑え

 

「…そういや聖杯戦争始まってからまともに飯食ってないな…

ご馳走になります、士郎先輩。

みんな、士郎先輩の飯は美味いんだ。期待していい。」

 

どこか上機嫌にそう他のものに伝える。

それを聞けば、その場のものが全員嬉しそうな表情になり、後に続いた。

 

ーーーーー

 

【数時間後、オスロ南部】

 

港近くにその宿は建っていた。

住民は既に避難しているのか、街灯の明かりだけが光り、住宅や船に明かりは灯っていなかった。

士郎は扉に手をかけて開けると、近くにある電源を付け、キッチンに歩いていく。

 

「若造!酒蔵にウォッカの樽はあるか?

丸ごと持ってきてくれぃ!!」

 

その背中にゲラーシーは声をかけ、士郎は「なんでさ!?体壊すぞ爺さん!」と返す。

が、渋々というように手を上げて答える。

 

「お邪魔しますね。」

 

カラン、と玄関先の鈴が音を立てて扉が開く。

そこには神父服の男、監督役イザック・ド・ロベールが立っていた。

 

「初めまして、ミセス・エミヤ、お招きに与り光栄です。」

 

イザックは胸に手を当てて、少し会釈をする。

 

「えぇ、初めまして。

イザックさん。私達の家じゃないけど、上がってください。」

 

凛は笑顔を顔に張りつけ、ロビーに置いてあるソファを指す。

 

「……さて、貴女と積もる話もしたいところですが。」

 

そのソファに座り、凛に向かって微笑み、すぐに5人のマスターの方を見る。

 

「現状は把握しています。

そして、皆様のアサシン、及びキャスターの対処に感謝しています。」

 

そう言い、再び頭を下げる。

次に頭を上げたかと思えば、ライダーの方を見る。

 

「早速ですがライダー、テセウス。

貴方に聞きたいことがありまして。」

 

「おう、俺か?

俺に答えれることならなんでも答えてやるぜ。」

 

キョトンとしたような表情でライダーは答える。

 

「…神官イムホテプは『知恵、医術と魔法の神』と言われているのはご存知ですか?」

 

ライダーは少し考える様子を見せて、ハッとした表情になる。

 

「そうか…!

神官イムホテプはギリシャの医神にしてアルゴノーツ船員の1人、『アスクレピオス』の野郎と同一視されてる…!」

 

「…そう。

その通り。

では改めて問います、ライダー。」

 

イザックは目を細め、威圧するように真顔でライダーの目を見る。

 

「あのルーラーからその『アスクレピオス』と同等の雰囲気を、感じましたか?」

 

ライダーはまっすぐその目を見て答える。

 

「いいや、アレは違う。何か別の存在だな。」

 

イザックはそのまましばらくその目を見つめていたが、溜息をつき、また顔に笑みを作る。

 

「いや失敬。

かの大英雄に試すような真似をしてしまってすみません。

ですがこれでハッキリしました。

あの裁定者は神官イムホテプなんて言う真名じゃない。

…何か別の存在です。」

 

「…それだけじゃないでしょ?

あなたがここに来て笑顔を作って必死に誤魔化してるけど、何かとんでもないことが分かった、という顔をしてるわよ、貴方。」

 

ベルタがそう問い質すと、イザックの顔に一気に冷や汗が伝う。

 

「……あのサーヴァントの持っている固有スキル……

監督役の権限だったり聖堂協会の協力で解析したんです。

そして、ひとつだけ、見せびらかすかのように解析出来ました。

……その、スキルが……

『単独顕現』…。」

 

その言葉を聞いた5人のマスターと2人の魔術師の顔が一気に強ばる。

 

「ちょっと待ってください!!

単独顕現って確か……!」

 

アシュリーが声を上げる。

 

「…時計塔に記録されている、文書の中に……

都市伝説的な扱いにとある英霊のクラスが記されていた。

通常の7騎や現在確認されているエクストラクラスにも含まれない、特殊なサーヴァントが持つクラススキルだ…。」

 

斎宮寺も冷や汗を垂らし、頭の中にある記憶を呼び起こす。

 

「…エクストラクラス、人類悪(ビースト)か…!!

言わば人間の獣性によって生み出された7つの大災害であり、人類と人類の文明を滅ぼす破滅の化身…!

まさか…!!」

 

ゲラーシーも流石に驚いたのか、杖を持つ手が震える。

 

「まだ、ビーストクラスのサーヴァントであるとは限りません。

…ですがこれだけは言える。

あの真名イムホテプの偽物はルーラーではない。これだけは確実な事実です。

そして、もう1つ。アサシン、ハインリヒ・ヒムラーの霊基が変化し、別のクラスのサーヴァントとなり、恐らく強化されています。

監督役である私を持ってしても、彼のステータスを見ることが出来なくなっており、不明です。

ですが、ビーストでは無いかと。」

 

その場が一気に静まりかえる。

脅威の存在がふたつ。

全ての陣営が束になっても勝てないと言う可能性を考え、彼らは黙秘を続ける。

 

「なら、さ。美味いもん食って力を付けないとな。

詳しくないけど、ビーストクラスのサーヴァントは強いんだろ?

なら尚更だ。」

 

そう言ってキッチンから顔を出した士郎は大量の皿を抱えて食堂の机に並べ始める。

 

「はい、完成!

ほら全員手洗って席に着け。量は用意してある。

サーヴァントだろうが人間だろうが関係ない。

ただ、残さず食べるように!」

 

エプロンを着用し、テーブルの前で腰に手を当てた士郎を見た全員は揃って心の中で『ママだ…。』と呟いた。

 

「これがサーモンのバターソテーで、こっちがカニの味噌で作った味噌汁。

んでこれがトーストの上にサーモンやらゆで卵やらクリームチーズを乗せたオープンサンドこっちがマッシュポテト。

それとフィッシュスープにトナカイのステーキ。

どれもここノルウェーの伝統料理だ。」

 

テーブルの上が様々な料理で彩られる。

それらから漂ってくる匂いを嗅げば、その場にいる全員が腹を抑え、席に着く。

 

「じゃあ、手を合わせて。」

 

そう士郎が言って手を合わせると、全員も同じように手を合わせる。

 

「頂きます。」

 

「「「「「頂きます!」」」」」

 

そう様々な言語で声を合わせる。

 

「おいしい…!?

五ツ星レストラン並の味よ、これ!」

 

「ガハハハハ!!これは儂の人生の中で5つの指に入る程美味い!!

部下共にも食わせてやりたいものだ!!若造!ウォッカにあうツマミを作ってこい!!

んくっ、んくっ、かぁーーっ!!これじゃよこれ!!」

 

「■■■■■____!!」

 

「おいそれ俺の肉だぞセイバー!!

クッソ!!」

 

「ふ、先に取らなかった貴殿が悪い、ライダー。

これは私の肉だ。」

 

賑やかな宴は次の日、日が昇るまで続き、それまで5人のマスターとサーヴァントは互いが殺し合いをしている中だと言うことを忘れていた。

しかし、彼らにとってはそんなことはどうでも良く、ただ今は。

世界の驚異に立ち向かう同盟相手として。

彼らは酒を交わしていた。




さて、これにて2章閉幕です。
ようやく日常編のようなものをかけました。
思えばずっと真面目な話が続いていましたが、ここに来てようやく平和なシーンを書けました。
さて、ランサーの真名も判明しました。
残るはアーチャーとバーサーカーですね。
そしてルーラー・神官イムホテプはなんと単独顕現を持った人類悪(?)でした。
これからこの人類悪(?)と降臨者がバリバリ暴れて行きますので続きも楽しみにしていただけると嬉しいです。
では…。


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2.5章
凛とイザック


時刻は1時を回り、5陣営のマスターのうち女性2人が寝床に入り、男性3人と士郎が酒盛りをしてる中、その様子を片付けながら眺めていた凛にイザックが近寄り、声をかける。

 

「ミセス・エミヤ。

少し…」

 

彼は脱いだ神父服と十字架のペンダントを近くの机に置けば、親指で玄関の扉を指す。

 

「…えぇ、分かったわ。

士郎、ちょっと出てくる。」

 

士郎に声をかければ、彼は不思議そうな顔をしながら「あぁ、気をつけてな、凛。」

と声をかける。

 

カラン、と鈴の乾いた音が静かな港に響く。

イザックは扉を押え、凛が出てくるのを待つ。

 

「それで、何の用かしら、イザックさん。

口説こうとしても無駄よ?私は人妻何だから。」

 

港を歩き、広い広場のようなところに出る。

そこで凛は振り向き、イザックの方を見る。

 

「…私事ですが、少しお話をしても?」

 

イザックはそんな彼女の目を見てそう問いかける。

彼女は何も言わず、頷く。

 

「…これは、私が10歳の頃です。」

 

彼は少し頭を下げ、こう話を切り出す。

 

「あの頃、私は親に捨てられた悲しい子供でした。

酒に溺れた父と男に溺れた母。

彼らは俗に言う、ろくでなしでした。」

 

空に浮かぶ星々を見て懐かしむように、だが寂しそうに続ける。

 

「そこで、私はとある1人の神父に拾われ、教会で孤児として育てられました。

…フランスのド・ロベール教会。

私はそこを管理する神父の苗字を頂きました。

ド・ロベール教会まで私を連れてきたその男は、それから度々フランスに訪れては私の事を気に来てくれました。

…彼はその度に私にある武術と魔術の稽古をつけて貰っていました。

しかし…。」

 

彼はそこまで言うと、俯き、続ける。

 

「彼の訃報が私の元に届きました。

2004年の、冬の日でした。」

 

彼がそう言うと、凛がハッ、とした表情になる。

 

「そう、その男の名前は言峰 綺礼(ことみね きれい)

彼はよく貴女や魔術の師であるお父上のお話を私にしてくれました。

…だが、彼は外道だった。その事を知った時は酷く落ち込んだものです。

しかし、彼は私の恩人だ。

どんな人であろうと、どんなことをやった人であろうと私はあの人を愛している。」

 

彼がそう言うと、拳を構え、凛の方を見る。

 

「…お手合わせ願いたい、ミセス・トオサカ(・・・・)

姉弟弟子として、互いにあの人を知る者として。

彼の残してくれた唯一の贈り物である『八極拳』。

貴女にもその心得があるでしょう?

我儘ですが…

私に、あの人の温もりを思い出させて欲しい。」

 

それを聞けば、一瞬キョトンとしたような表情になるが、フッ、と笑い

 

「どこにそんな神父がいるのよ。

まぁいいわ。でも、手加減はしてよね。」

 

と言って彼女も構える。

 

「…では、お手並み拝見…!」

 

そう言えば一気に距離を詰め、彼女の胸を狙う。

 

「速…!」

 

一瞬戸惑ったが、冷静に後ろに下がり、華奢な肘から繰り出さられるとは思えない威力の肘打ちを彼の腹に打ち込む。

 

「くふ…っ!

いい打ち込みだ…!」

 

彼はふらり、とよろけ血反吐を吐くが、ニィ、と笑みを浮かべ、すぐに体勢を立て直す。

 

「はぁっ!」

 

掛け声と共に彼は腹に打ち込もうとする。

だが、その肘が凛の腹に当たることはなく、手のひらで受け止められる。

それから打ち合いが小一時間ほど続き。2人は地面に寝そべっていた。

 

「はぁ〜!!疲れた!

久々に打ち合いなんてしたわ。」

 

凛は大きなため息を着くと、イザックの方を見る。

彼の服には土埃が付着しており、ボロボロだった。

 

「ねぇ、イザックさん。

貴方、わざと受け止めさせてたでしょ。」

 

彼はそれを聞くと腕で顔を隠し

 

「……なんのことでしょうか。」

 

と小さく呟く。

 

「私がまだ未熟だっただけです。

決して手を抜いたという訳ではなく。」

 

そう言って立ち上がると、凛の方に手を出し

 

「戻りましょう。

ミセス・エミヤ。この寒さはレディの体に堪えます。」

 

と言いながら微笑む。

彼女はそれに微笑み返し、手を取ったのだった。




3章に繋がる前のちょっとした日常編を書いてみました。
後2.3話こんな話を書くので3章突入はしばしお待ち。


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ロードエルメロイⅡ世の苦難:情報収集

要は今明かせる情報をここで開示しようのコーナーです。
各サーヴァントの能力を公開しちまいます。


時計塔のとある一室。

眉間に皺を寄せた長髪の男、ロードエルメロイⅡ世はカタカタとパソコンを叩く。

 

「…なんで私が連中の情報を纏めなきゃならんのだ…!」

 

悪態を吐きつつ、彼はパソコンを叩く手をとめない。

 

「…よし、こんなものか。

では改めて北欧聖杯戦争の参加者とそのマスター達を分析するとしようか。」

 

そう言って印刷した資料を彼は1枚1枚捲っていく。

 

------

 

【セイバー陣営】

 

マスター:斎宮寺 明光

サーヴァント:セイバー

真名:立花 道雪

 

マスターである斎宮寺 明光は魔術師としては二流である。

しかし、彼はとある能力によってカバーしているため、一流の魔術師でも舐めて掛かれば敵わない。

その能力とは、仏教において仏や菩薩が持っているとされている、『六神通』の内の2つ、『天二通』に『天眼通』である。

彼が"耳"を使えば世界全ての音や声を聞き取り、聞きたい声だけを聞くことが出来る。

また、"眼"を使えば、死した生命や、死が近い生命を見分けることが出来る。

使用する礼装は日系イギリス人の魔術師兼鍛冶師の打った日本刀を使う。

それは「魔術師殺し」と呼ばれた魔術師の名が付けられた礼装、脱却刀「キリツグ」という代物で、刀の一部には斎宮寺の助骨が使用されており、それで切断された悪しき生命体は与えられたダメージの大小関係なくこの世から脱却、すなわち消滅する。

しかし、人間には効果がないのでゴーストや1部のホムンクルスと言った生命にしか効果はない。

……そうだが、今回の聖杯戦争で謎の生命体に取り憑かれた魔術師の肉体を消滅させていた。

元が人間でも、実態が人間ではなくなっていたら、『悪しき生命体』と判定されるのかもしれない。

 

セイバーである立花 道雪は日本の侍で、雷を斬ったと言われている。

その時の後遺症で彼は足が悪い。

過去に確認されているセイバーに比べると、確かにスピードは劣っているが、彼は魔力放出によって雷を出し、その弱点をパワーで補っている。

 

【ステータス】

筋力 B耐久 B敏捷 D-

魔力 D幸運 B宝具 A+

 

【クラス別スキル】

 

騎乗:C

騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、

野獣ランクの獣は乗りこなせない。

 

対魔力:D

1工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。

魔力避けのアミュレット程度の対魔力

 

【固有スキル】

 

カリスマ:D

軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。

カリスマは稀有な才能で、一軍のリーダーとしては破格の人望である。

 

軍略:C

一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。

自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。

 

斬雷の闘将:A+

雷を斬ったとされる逸話がスキルとして具現化したもの。

魔力放出の上位スキルのようなもので、武器ないし自身の肉体に魔力を浴びさせる。

さらに、宝具『雷斬りし紫電の魔刀(らいきり)』を抜いている時のみ雷を使役する力を得て筋力をワンランクアップさせるが、耐久をワンランクダウンさせる。

 

【宝具】

雷斬りし紫電の魔刀(らいきり)

ランク:A+

種別:対軍宝具

レンジ:1〜500

最大捕捉:1〜1000

 

セイバーの愛用する太刀、千鳥が雷を切り、雷切と呼ばれるようになった逸話より。

斬雷の闘将を発動している時か、雷雨が降っている時にのみ発動することが出来る。

刀身に自らが放出している雷や、上空の雷を吸収し、雷のビームのようなものが放たれる。

これには時間がかかり、最短でも10秒間は雷を吸収する。

さらにはこれを発動した後、彼自身は動けなくなってしまい、隙ができてしまうので、デメリットも多い。

雷神を斬った、という諸説からか、神性を持つ物に特攻状態を持っている。

 

『???』

 

彼は第2宝具も有しており、未だ明かされていない。だが、今後必要となれば発動されるだろう。

 

【アーチャー陣営】

 

マスター:ギオーネ・ロベルト

サーヴァント:アーチャー

真名:???

 

イタリアのローマを中心に活動する始末屋。

『始末屋のロベルト』もしくは『ローマのロベルト』と呼ばれている。

一般社会でも魔術世界でも裏社会では名を知られており、彼に入ってくる依頼は年間に1000件にもなると言われている。

だが、彼が始末するのは悪人のみであり、決して善人に手を掛けようとしない。

彼は魔術と併せ、銃火器を扱う戦闘スタイルを取る。

さらに、彼は希少とされているノウブルカラーの魔眼『制御の魔眼』を目に宿している。

この『制御の魔眼』は相手の動きを一時的に止めたり弱体化させることが出来る。

……彼は今は亡き魔術師『衛宮 切嗣』に感銘を受けて始末屋としての道に進んだ。

どうしてどいつもこいつもこうも衛宮 切嗣の名を出したがるのか私には分からない。

 

アーチャーの真名は今も明かされていない。

現時点で公開されている事は、『ノルウェーの英雄であること』『弓、盾、剣を扱えること』『船乗りであること』だ。

……ここまで来れば予想は簡単そうだが…。

 

【ステータス】

筋力 C耐久 C敏捷 B

魔力 D幸運 B宝具 C

【クラス別スキル】

 

単独行動:D

マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。

ランクDならば、マスターを失っても半日間は現界可能。

 

対魔力:D

1工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。

魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

 

【固有スキル】

 

嵐の航海者:D

船と認識されるものを駆る才能。

集団のリーダーとしての能力も必要となるため、軍略、カリスマの効果も兼ね備えた特殊スキル。

 

千里眼:D

視力の良さ。遠方の標的の捕捉距離の向上。

 

直感:C

戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。

敵の攻撃を初見でもある程度は予見することができる。

 

【宝具】

 

『?????』

ランク:?

種別:????

レンジ:?????

最大捕捉:???

 

未だ不明。

 

【ランサー陣営】

 

マスター:アシュリー・クローバー

サーヴァント:ランサー

真名:パロミデス

 

クローバー家4代目当主。世代が変わり、その血は薄れてきているが、イギリス王室の血が流れている。

まだ家としては歴史が薄く、知名度が高いとは言えない家だが、彼女は努力してなしあがったようだ。

主に使用する魔術は宝石魔術で、彼女が小さい頃から魔力を貯め続けてきた宝石達は魔弾として射出することが出来る。

アシュリー家は、初代から命運のコントロールする事を研究しており、未完成ながらもアシュリー・クローバーはその最高傑作と言われているそうだ。

 

ランサーの真名は円卓の騎士が1人、パロミデス。

"卑劣の騎士"と本人も名乗る程、悪名高いエピソードが多い。

だが、貴婦人には礼儀を尽くした人物として知られており、自身のマスターであるアシュリー・クローバーを大事にしているようだ。

アサシンのマスター、ナイル・テップに己のスキルを使用し、奇襲をしかけたが、失敗している。

 

【ステータス】

筋力B 耐久C 敏捷B 

魔力C 幸運D 宝具B

【クラス別スキル】

 

対魔力:C

 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。

 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

 

【固有スキル】

 

直感:C

戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。

敵の攻撃を初見でもある程度は予見することができる。

 

単独行動:E

マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。

ランクEならば、マスターを失っても数時間は現界可能。

 

奇襲:D

戦闘前に先制攻撃を行う能力。

中確率で奇襲に成功する。

 

【宝具】

 

『?????』

ランク:?

種別:????

レンジ:?????

最大捕捉:???

 

こちらも宝具は未だに不明。

恐らくだが、彼女の悪名高き逸話が宝具化しているのではないかと推測する。

 

【ライダー陣営】

 

マスター:バルヒェット・フォン・ベルタ

サーヴァント:ライダー

真名:テセウス

 

400年ほど続く魔術師の家系、バルヒェット家の8代目当主。

名門ではあるが、あまり知名度は高くない。

傲慢で我儘ではあるが、自分に使えているメイドや執事を大切にすることを常に忘れないようで、周りからの評価は以外に高い。

バルヒェット家は水を扱う魔術に長けているため、水を使った戦闘スタイルを取る。

水が通っている場所なら、水に触れることによって水と同化し、音を聞いて探査することが出来る。

水は人間にとって必要なものなので対魔術結界などがなければ容易に情報収集ができるだろう。

 

ライダーの真名はギリシャの大英雄テセウス。

ミノタウロス退治、アルゴノーツ乗船などの冒険譚で知られ、ソポクレースの『コロノスのオイディプス』では憐み深い賢知の王として描かれる。ヘラクレスほどではないが、大岩を持ち上げるほどの怪力を誇る。プルタルコスの『英雄伝』では古代ローマの建国の父ロムルスと共に、アテナイを建国した偉大な人物として紹介されている。

マラトンの戦いでは、アテナイ軍の先陣に立ってペルシア軍に突っ込み、アテナイ軍の士気を大いに高めたという伝説がある。

…だが話してみれば彼は楽観的な性格であり、本当に大英雄なのか疑う時がある。

しかしその力は確かなものだろう。

 

筋力 A耐久 B敏捷 B

魔力 C幸運 C宝具 EX

【クラス別スキル】

 

騎乗:A

幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自在に操れる。

 

対魔力:A

A以下の魔術は全てキャンセル。

事実上、現代の魔術師ではライダーに傷をつけられない。

 

【固有スキル】

 

嵐の航海者:A+

船と認識されるものを駆る才能。

集団のリーダーとしての能力も必要となるため、軍略、カリスマの効果も兼ね備えた特殊スキル。

 

勇猛:A

威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。

また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

 

心眼(偽):B

直感・第六感による危険回避。

 

神性:A

 神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。

父が海と地震を司る神、ポセイドンとされているため、ライダーの神霊適正は最高クラスと言えるだろう。

 

【宝具】

哀しみ示す船(シップ・オブ・ソロウ)

ランク: EX

種別: 対軍宝具

レンジ: 1~99

最大捕捉:500人

 

ミノタウロス退治の際、ライダーが乗り込んだ生贄を送るための船がライダーの宝具として具現化したもの。

黒い帆の船を今まで送られて行った生贄などの霊とともにを召喚し、悪霊として指揮する宝具。

それぞれの力は弱いが、束になってかかればサーヴァントであっても苦戦するだろう。

その中でも一際強い霊がおり、その霊は底辺サーヴァント一体分のステータスを持つ。

また、この霊達の攻撃を受けた際、自分の体力や語感が失われていく呪いを付与することが出来る。これはミノタウロスに殺された時の感覚を示している。

また、海に身を投げ出したアイゲウス王がじわじわと死んでいくことも示している。

普通は指揮不能な霊だが、嵐の航海者スキルにより、指揮を可能にしている。

 

大岩の黄金剣(ソード・オブ・アイゲウス)

ランク: A

種別: 対人宝具

レンジ: 1〜9

最大捕捉:10人

 

アイゲウスがライダーのために岩の下に残した黄金の剣。

この剣でライダーは山賊などの悪党を山ほどなぎ倒したという。

これを構えている際、ライダーは任意のパラメーターを一段階あげることが出来る。

また、混沌・悪属性を持つ敵に特攻効果を得る。

 

『?????』

ランク: ?

種別: ????

レンジ: ???

最大捕捉:??

 

第3宝具のみ詳細は不明。

ミノタウロス絡みのものだと思われる。

 

【バーサーカー陣営】

 

マスター:ゲラーシー・アリスタルフ

サーヴァント:バーサーカー

真名:?????

 

ロシア軍に存在する『ロシア機密魔術作戦連隊』通称「ゲオルギー連隊」最高司令官で、風と水の魔術を応用した『氷結魔術』を使用する。

魔術家に生まれながら現代火器を愛し、20歳の時にかつての赤軍に従軍した。

若くしてその高い指揮力を評価され、25歳で上級大将になる。

そこで魔術師が戦争に介入した際に応戦する部隊を国が密かに編成していた「ゲオルギー連隊」の存在を知り、自分が魔術師という事を明かし、指揮官に就任した。

恐らくだが、この聖杯戦争に参加しているマスターの中で1番優れた魔術師である。

 

バーサーカーの真名は未だ不明。使用する武器は棍棒のような杖と巨大な弓が確認されている。

恐らくロシアの英雄。

 

【ステータス】

筋力 A耐久 C敏捷 D

魔力 C幸運 B宝具 A

【クラス別スキル】

 

狂化:B

全パラメーターを1ランクアップさせるが、理性の大半を奪われる。

 

【固有スキル】

 

勇猛:B

威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。

また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

 

怪力:B

一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性だが、彼は何故か保有している。

使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。

 

仕切り直し:D

戦闘から離脱する能力。

 

【宝具】

 

『?????』

ランク:?

種別:????

レンジ:?????

最大捕捉:???

 

未だ不明。

こちらに関しては一切情報がないため、予測ができない。

 

【キャスター陣営】

 

マスター:イザベラ・ウォーカー

サーヴァント:キャスター

真名:ハワード・フィリップス・ラヴクラフト

 

アメリカの魔術の家系に生まれた女性。

知名度は低く、何代続いている家系なのか不明。

魔術師としての腕前は中の下程度であり、お世辞にも良いとは言えない。

使用する魔術は雷。

中規模の魔力放出による雷撃が切り札である。

その他に電磁波を出し、相手の動きを奪う事などもできる。

当初彼女はウィリアム・シェイクスピアをキャスターとして召喚する予定だったが、聖遺物である『真夏の夜の夢』の原稿とされるものが、贋作で、中身も幻術か何かによって書き換えられた別物だった。

それが、ラブクラフトの執筆した『クトゥルフの呼び声』の原稿だったそうだ。

 

キャスターの真名はハワード・フィリップス・ラヴクラフト。

19世紀にアメリカのパルプ・マガジン上でコズミック・ホラー小説を執筆していた小説家である。

彼は生前、無名だったが、死後に広く知られるようになった。

20世紀現在でも彼の作品は幅広い層に親しまれているようだ。

彼自身何を考えているのか分からず、召喚したマスターであるイザベラ・ウォーカーを困惑させるほどだ。

生前は、自分の創作した『クトゥルフ神話』に登場する邪神達を存在するものだと思い込んでおり、精神失調を抱えていたそうだ。

彼は第2宝具を発動することによって、平行世界と接続し、小説の登場人物、『ランドロフ・カーター』と人格が変わる。

これによって、この世に彼の執筆した邪神が存在すると定義付けられてしまった、と推測する。

 

【ステータス】

筋力 E 耐久 E

敏捷 D 魔力 C+(EX)

幸運 D+(B++) 宝具 EX

 

【クラス別スキル】

 

陣地作成:C

 

魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。だが彼が作るのは工房ではなく、あくまで物語を紡ぐ"書斎"に過ぎない。

 

道具作成:C

 

魔術師クラスの特典…なのだが、彼の作る道具は特性上呪いを帯びたものばかりである。

 

【固有スキル】

 

高速詠唱:C

 

魔術詠唱を早める技術。

彼の場合、魔術ではなく執筆速度に影響するようだが…?

 

精神汚染:EX

 

精神が錯乱している為、他の精神干渉系魔術を完全にシャットアウトする。

ただし同ランクの精神汚染がない人物とは意思疎通が成立しない。

また、彼と数回会話した対象はEランク相当の精神汚染スキルを取得することがある。

 

探索者:EX

 

知ろうとする者の有様、ありかを捜し求める者としての在り方が賞賛され、スキルになったものだが、生前彼が何かを探し求めたという記録はない。

強いて言うのであれば作品のために狂気に付いて研究し続けていた、という点だけであろう。

しかし、彼の場合何故かスキルレベルがEXとなっている。

戦闘面においては、相手のことを深く観察し、相手の真名を看破する事や、弱点を発見することに長けているスキルである。

 

【宝具】

 

彼方からの最高傑作(ネクロノミコン)

 

ランク: A+

種別 : 対軍宝具

レンジ: 1〜10

最大捕捉:150

 

茶色い皮の表紙に星の模様が刻まれた不気味な本。

クトゥルフ神話に登場する架空の魔導書が作者であるキャスターの宝具となったもの。

キャスター自身は正規の魔術師ではなく魔術の素養も無いのだが、手にしている魔導書自体が魔力炉を内蔵したモノであるため、代わりにこの魔導書が魔術を行使している。

クトゥルフ神話に登場する異形の怪物を呼び出し、使役することが出来る。

しかし、使役できるのはクリーチャーと言われる化け物のみである。

 

銀の門の鍵を越えて(ゲート・オブ・ドリームランド)

ランク: EX

種別 : 対人・対概念宝具

レンジ: 0

最大捕捉:1

 

生前彼が見た悪夢の内容を具現化した宝具。

彼の執筆した『銀の鍵』で失踪した主人公「ランドルフ・カーター」の後日談として執筆された小説の題名でもある。

本書では、門を越えたカーターが自分が一人の人間ではなく、多数の人間であることを理解した。

この宝具は、ハワード・F・ラブクラフトという人物とランドルフ・カーターの存在を同一とみなし、平行世界のラブクラフト、「ランドルフ・カーター」と入れ替わる。カーターと入れ替わることによって1部ステータスが彼が消滅するまで上がる。

そして、ラブクラフト、及びラブクラフトの生みだした狂気がこの世に存在し続ける限り、外なる神の存在を小説のものではなく、現実にも存在するモノと定義づけられる。

しかしながら、さすがにサーヴァントという所詮使い魔の身である以上、外なる神本体を召喚するには霊基1つで召喚出来るわけなく、誰かに下ろす程度である

 

【アサシン/フォーリナー陣営】

 

マスター:ナイル・テップ/神官イムホテプ

サーヴァント:アサシン/フォーリナー

真名:ハインリヒ・ヒムラー

 

ナイル・テップ自身は、フリーの魔術師であり、エジプトにある家系の当主と自称しているが、そのような家系は存在しないことが確認されており、更にそれ以外の情報が一切ないため、不明。

恐らくだが、混沌魔術(ケイオスマジック)の使い手。

彼が自称しているイムホテプについては、恐らく、ナイル・テップが詐称しており、彼自身別の真名があるように思える、

スキル:単独顕現を所持しており、それは人類にとって倒すべきで悪である人類悪、ビーストが所持するものとされている。

そのため、彼の真のクラスはルーラーではなくビーストでは無いか、と予想できるが…。

彼はキャスターのようにもライダーのようにも思えるスキルを所持しているため、実際のところ不明。

 

アサシン、或いはエクストラクラス:フォーリナーの真名はドイツの反英雄ハインリヒ・ヒムラー。

第二次世界大戦前後のドイツで親衛隊全国指導者に就任していた政治家。

お世辞にもその能力は全ていいとは言えず、身体的にも精神的にも弱いようだ。

若い頃から超自然のことや、スピリチュアリズムに関心を寄せており、オカルティズムに魅了されており、生前は手に入れた城に大金を注ぎ込み、大食堂に設置したオーク製の円卓に親衛隊幹部の名前を彫り込んだ椅子を並べたり、聖杯を探索したりしている。

そんな彼がアメリカのコズミックホラー小説家が書いた神話を知らないはずもなく、存在するはずのない邪神達も探索していたようだ。

 

【ステータス】

筋力 D 耐久 D

敏捷 D 魔力 C

幸運 E 宝具 C+(EX)

 

【クラス別スキル】

 

気配遮断:E

 

サーヴァントとしての気配を薄める。

隠密行動に向いている。

ただし、彼の場合、秘密警察の長官だっただけであり、特にそれといった実績もないため、影が薄い程度である。

 

領域外の生命:EX

 

外なる宇宙、虚空からの降臨者。邪神に魅入られ、権能の先触れを身に宿して揮うもの。

 

神性:EX

 

外宇宙に潜む高次生命体の先駆となり、強い神性を帯びた。 計り知れぬ脅威を、ハインリヒ・ヒムラーはその身一つで封じ込めている。 その代償は、己の虚弱性である。

 

【固有スキル】

 

軍略:E

一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。

自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。

ただし、その実力は並の青年将校以下であり、生前の上司からは「お前はもう軍隊を指揮するな」と言われたほど。

 

オカルト:C

 

オカルト的な物事に対して以下に詳しいか表す物。

生前ロンギヌスの槍やアーサー王の聖杯を追い求めた話を初めとし、ドイツを中心にロシア、イギリス、フランス、アメリカ等から資料を集め、アサシンは近代を生きる人間の中でも熱心に研究していた。

 

病弱:D

 

天性の打たれ弱さ、虚弱体質。

彼の場合、生前の身体的、精神的な弱さに加え、後世の民衆からの印象により、『無辜の怪物』に近い呪いを受けている。

 

【宝具】

 

忠誠こそ我が名誉(シュッツシュタッフェル)

 

ランク: C+

種別 : 対軍宝具

レンジ: 1〜30

最大捕捉:1〜100

 

生前彼が指揮していたドイツ総統を護衛する党内組織『親衛隊』を召喚する宝具。

その組織内には保安警察や情報部、そしてかの悪名高き移動虐殺部隊「アインザッツグルッペン」が含まれている。

その中から「ラインハルト・ハイドリヒ」を始めとする、最適な者達を召喚し、指揮する宝具である。彼らの1部は気配遮断:Dのスキルを持っていて、ステータスは全てD相当であるため、並のサーヴァントであれば抵抗できる。

アサシンにこれといった戦闘力がないため、彼らがアサシンにとっての攻撃手段である。

 

生み出されし黒い波(シュッツシュタッフェル)

 

ランク: EX

種別 : 対軍宝具

レンジ: 1〜50

最大捕捉:1〜1000

 

召喚する親衛隊員達を黒い粘液状の触手の付いた化け物に変化させ、進軍させる宝具。

アサシンからフォーリナーへ霊基が変われば発動できるようになる。

威力は当然ながら大幅に増加しており、ステータスは全てC相当に上がっているが、気配遮断を持っていたものは消えている。

その大軍は、サーヴァント、マスター、一般人関係なく轢き殺していくだろう。

 

-----

 

「…ふむ。

アサシン霊基だったハインリヒ・ヒムラーを打倒するのであれば容易かっただろうが、今や奴は膨大な魔力を持つ化け物の取り憑いた強力な存在になってしまっている。

かと言ってマスターであるナイル・テップを倒せるかと問われればそれもまた厳しいだろう。

…待てよ…ナイル……テップ……?」

 

そう言って彼は作成した資料とサーヴァント達を詳しく調べるために用意した本などの資料を何度も往復する。

 

「…まさか……!

だとしたらとんでもないぞ……!

すぐにMr.斎宮寺に連絡を……」

 

そう言ってパソコンの画面の前に座るエルメロイ二世。

しかし、そのパソコンは電源が着いているにも関わらず、画面が暗転しており、操作できなかった。

 

「なんてことだ…!

このタイミングで故障とは…!」

 

彼が頭を抱え、そう言うと、次は画面に白い文字が浮かび上がってきた。

 

『命が惜しければこれ以上何もしないでね?

________ナイル・テップ』

 

この文字が出たあと、直ぐにパソコンが元に戻り、エルメロイ二世は呆然と画面を眺める。

 

「…私の推測は正しかったようだ。

だとしたらMr.斎宮寺…。

君はとんでもない物と闘わければならないぞ…。」

 

彼はそう呟きながら溢れ出る脂汗をハンカチで拭き、葉巻を銜えたのだった。




ということで全陣営の情報でした。
まとめんの超めんどかった…。
あと1話2.5章書くか書かないか迷い中です。


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親衛隊全国指導者(ハインリヒ・ヒムラー)

【1942年ドイツ・ヴェヴェルスブルグ城】

 

時は1942年の4月。東部戦線では史上最大の陸軍戦、独ソ戦がドイツの猛攻により順調に進軍している頃。

親衛隊全国指導者、ハインリヒ・ヒムラーはドイツにあるヴェヴェルスブルク城にいた。

彼は大食堂に設置したオーク製の円卓の1席に座り、目の前の部下を見据えていた。

 

「それで、話とは何かな?」

 

円卓に肘をつき、ヒムラーは目の前にいる部下の目を見据える。

 

「は、はい!

長官閣下殿!貴重なお時間を頂き、ありがとうございます!」

 

その部下は緊張しているのか、椅子の後ろに敬礼をしたまま立っていた。

ヒムラーはそんな彼を見て少し笑うと

 

「ハハ、そう緊張するな。

とりあえず座りたまえ。

あぁそうだ、茶でも飲むかな?少しは落ち着くだろう。」

 

そう言って目の前の椅子を指すと、椅子から立ち上がり、近くにあったティーポットを手に取ると、カップに紅茶を注ぎ、彼の座る机に置く。

彼は動揺しつつもその茶を飲むと、話しづらそうに目線を落とし、ぽつりぽつりと語り始める。

 

「…実は…僕には今年で50歳になる母がいるのですが…」

 

「ほう、素晴らしいじゃないか。

それで、私は何をすればいいのかな?」

 

部下は顔を上げ、冷や汗を掻き、目の前のヒムラーを見る。

 

「実は……

私の母は…その……

ユダヤ人…でして……

父はドイツ人なのですが……」

 

と告げる。

それを聞いたヒムラーは顔色を変えて目の前の部下を見る。

 

「…そうか……。

よく話してくれた。

この話は他に誰にもしていないな?」

 

ヒムラーがそう聞くと、彼は頷く。

 

「よし、わかった。

では私が___」

 

「"私が"…

なんですかな?」

 

背後の部屋から声が聞こえる。

驚くほど冷徹な、冷たい声。

金髪の野獣、ラインハルト・ハイドリヒが奥の部屋から姿を表した。

 

「もちろん、"私が迅速に処理しに行く"

と、言おうとしたのですよね?ヒムラー長官殿?」

 

冷ややかな目で彼はヒムラーの方を見る。

ヒムラーは気まずそうに俯き、小さく呟く。

 

「……あぁ。」

 

それを聞けばハイドリヒはニッコリと笑い、部下の方へ歩いていき、肩をポン、と叩く。

 

「今まで辛かったでしょう。劣等人種である母親に育てられて。

よく話してくれました。

後は私の部下にお任せを。」

 

笑顔で続けるハイドリヒとそれを聞き、席から崩れ落ち、呆然とする部下。

翌日、ヒムラーが出勤してこない彼を心配し、家に行くと、その部下は銃を咥えて死んでいた。

 

「……私達のしていることは、本当に世界を正すための行為なのか?

神がいるのであれば、教えて欲しいものだ。」

 

部下の手を取り、そう呟く。

 

「神はいるぞ、ヒムラー。」

 

いつの間に入ってきたのか、玄関から声がし、振り向く。

玄関にはドアにもたれ掛かり、腕を組む黒いスーツに白衣を羽織った男がいた。

 

「カール、二度と私の前に姿を現すなと言ったはずだ。」

 

その男、カール・マリア・ヴィリグートはそれを聞けば不気味に笑い、彼に近づく。

 

「そう硬いことを言うな。

君と僕の仲だろう?

それより聞いてくれ。新しい神を見つけてきたんだ。

ドイツを劣等人種共から、戦争から救ってくれる偉大な神達だ。」

 

彼はニヤニヤと笑いながらヒムラーに資料を押し付ける。

 

「まあ読んでみて研究してくれよ。

無駄にはならないはずだからさ。」

 

そう言いながら彼はヒラヒラと手を振り、その場を後にする。

困惑しつつも手渡された資料に目を落とすと、そこには

 

『クトゥルフの呼び声』

 

と書かれた小説があった。

彼はそれらの書物を城に持ち帰り、研究を開始する。

初めは彼はただの創作物に過ぎないと思っていた。

しかし、彼は研究に研究を重ね、ついに真実に辿り着く。

 

彼らはこの世には存在しない、だが確かに存在する証はある、と。

 

「…彼らを見つけることが出来るのであればドイツを……

全ての人々を救えるのかもしれない。」

 

しかしその後、彼は神々を見つけることは出来なかった。

 

そして彼は1945年5月23日、イギリス軍が占領するリューネブルクの捕虜収容所で青酸カリが入ったカプセルを噛み砕き、自殺した。

 

----

 

【2017年ノルウェーオスロ、屋敷跡】

 

ボロボロになった屋敷の部屋の一室。

暗い闇に一つの影が蠢き、その身体を起こす。

その影に自らの身体を形作るかのように光が当たり、その姿が顕になる。

神官イムホテプ、或いは、ナイル・ラテップ。

その獣は目を擦り、楽しそうに笑みを浮かべる。

 

「…へぇ、ヒムラー。

大勢を殺しておきながらキミはその事について後悔し、罪滅ぼしと言わんばかりに人類の救済を望むのか。

今更戻れないと言うのに。

ま、無理な話だろうけどね。だって今はキミは人類の脅威である、降臨者(フォーリナー)なんだからさ。」

 

クツクツと彼は喉を鳴らしながら少し歩く。

 

「どうやらボクが少し眠っている間に時計塔のロードが余計なことをしていたようだね。

しかしさすがボクだ。それを感知し、妨害したか。

我ながらあっぱれ、とでも言おうかな?」

 

そして部屋の隅まで歩けば見上げ、血の滴る壁を見る。

 

「キミもそう思うだろう?

キャスターのマスター。」

 

そして壁に手足を杭のように形どった闇に打ち付けられているイザベラがいた。

彼女はフーフー、と荒く息をし、顔には涙を流しつつも彼を睨む。

 

「そんな顔で見るなよ。

昂ってしまう、だろう?」

 

彼の顔に悪魔が宿る。

目は妖しく光り、心底楽しそうに口の両端が吊り上がる。

すると刃物のような鋭い風が吹き、彼女の体に傷を付けていく。

 

「あぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

彼女は苦痛から叫び声を上げ、身体中からあらゆる液体を撒き散らす。

 

「……キミにこの聖杯戦争(あそび)は早すぎた。

キャスターに良いように使われて死んでいく。

…あぁ、そうそう。ただでは殺さないから安心して。

……さぁ!これからもっと楽しくなるよ…

フフ、ハハハ…!!

アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

彼は楽しそうに手のひらを顔に当てて高笑いする。

そんな彼を見てイザベラは恐怖で震え上がる。

美しき獣はそんな彼女を見てまた楽しそうに笑い続けるのであった。




いかがでしたでしょうか。
ハインリヒ・ヒムラーの過去、願い、そして想い。
そんな事を3章開幕の前に書いてみました。
実際の彼がどんなことを思っていたのかは分かりませんが、ね。
さて、彼のマスターであるナイル・テップもその本性の片鱗を見せ始めました。
彼の狙いとは?そして彼の正体とは…?
3章に続きます。


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第3章
絶対零度都市


宴から1夜明けた翌朝。

朝食を長机で囲みながら、彼らは作戦会議をしている。

地図を広げながらイザックはそれぞれの顔を見て話を始める。

 

「さて、この1夜、使い魔を通して様々な場所を監視していましたが、彼らの軍勢は多方面に散りばめられているようです。

主な場所として、郊外の森、住宅街跡地、オペラハウス跡地、オスロ市街、そして本拠地である屋敷跡。

その他の細々とした場所にも適性存在が確認されていますね。

しかしながら我々はこれらの小さな敵を摘まなければアサシン…あいや、今は彼らの呼称していたフォーリナー、でしょうか。

…フォーリナーとキャスターの討伐は難しいでしょう。

そこで、各々別れて戦線を分け、各個撃破で行きましょう。」

 

彼はそう説明しながら地図に赤い丸をつけていく。

 

「…では、それぞれの担当する箇所を言っておきます。

セイバー、ランサー陣営は住宅街跡地へ。

キャスターの使役する使い魔が多く確認されています。」

 

「了解だ。」

 

「は、はい…!」

 

斎宮寺とアシュリーは顔を見合わせて、頷く。

 

「バーサーカー陣営は王宮や大聖堂が存在しているカール・ヨハン通りへ。

市街地戦は得意でしょう。」

 

それを聞いたゲラーシーはニヤッと笑い

 

「当然だとも!」

 

と強く頷く。

 

「…心強いです。上級大将殿。

さて、アーチャー陣営とエミヤご夫妻は郊外の森へ。

そしてライダー陣営はオペラハウス跡地へ。ここにはキャスターの使い魔と親衛隊の成れの果ての軍勢がいます。

どうか、適性因子を討伐してきてください。」

 

彼がそういえば、彼らは頷き、宿屋を後にする。

 

「…頼みましたよ。

私も直ぐに必要な場所に助太刀しに行きます。」

 

そういえば彼も宿屋から出て、教会の方へ歩いていった。

 

-----

 

【カール・ヨハン通り】

 

あれから数分後。ゲラーシーとその相棒バーサーカーはオスロの主要大通りであるカール・ヨハン通りに到着していた。そこは、既に住民の避難が住んでいるのか、酷く静かであった。

しかし、風情ある建物が立ち並ぶその通りには、あちこちに血痕がこびりついている。

建物も所々に火が放たれており、周りに黒煙が立ち込める。

 

「酷いものだ。

どうしてこうも無駄な屍を築きたがるのか、儂にはわからん。」

 

建物の壁にもたれ掛かるように絶命している男性を見てその場にしゃがみこみ、目を閉じてやるとそう呟く。

 

「出てくるといい、金髪の野獣(ラインハルト・ハイドリヒ)

それで隠れているつもりかの?」

 

ゲラーシーがそういえば、近くの路地から金髪の男が手を後ろで組んで歩いてくる。

彼の着る軍服はどこか粘液状になっているように見えるが、彼自身がまだ自我を保っている影響か、それ以外の変化は見られなかった。

 

「…ヒムラー長官は弱すぎた。

故にあの男にその隙をつかれてしまった。

あのお方は今、狂気に囚われ、総統への忠誠を忘れてしまっていることでしょう。

しかし!我らは違う!

我らこそが我が総統の代弁者なのです!!

ゲルマン人こそがこの世を支配すべき優等人種!それ以外の劣等人種共は皆殺しにすればいい話なのです。

最後に聖杯を手にし、総統閣下の理想郷を建築するのは我ら総統親衛隊!

忠誠を忘れた狂人になぞ渡す訳には行かない!」

 

そう言って彼はゲラーシーにピストルを向け、発砲する。

その玉をバーサーカーは杖のような棒で弾き、ハイドリヒに突撃する。

しかし、その攻撃は横から飛び出してきた別の親衛隊員によって防がれ、その隊員は消滅した。

 

「…狂戦士(バーサーカー)

一人一人が相手すれば我らは瞬く間に敗北するでしょう。

しかし、我々移動虐殺部隊(アインザッツグルッペン)全ての構成員約900名が一斉に遅いかかればどうでしょうか!?

霊基が変容したことで我らの魔力量は膨大になっている。

皮肉にも、その恩恵で私は全隊員の無茶な動員をすることが出来るようになりました。」

 

そういえば彼は片手を上にあげ、合図する。

すると、周りの建物の窓などから黒い服の男達がゲラーシーとバーサーカーに銃を向けた。

 

「…1陣営単身でここに来たのは間違いでしたね。

蜂の巣になって頂きましょう…!

撃て…!!」

 

彼がそういえば1秒間に1000発以上の弾丸が発射される。

 

___かと思われた。

銃の先端は凍りつき、銃口が塞がり、使い物にならなくなっていた。

 

「…何…?

貴様、何をした…!」

 

ハイドリヒはその様子を見ればゲラーシーを鋭い目線で睨みつける。

 

「…何って、立っとるだけだが?

…まぁ普段抑えとる冷気は放出させてもらっとるがな。」

 

彼がそう言い、杖をコツン、と叩きつければ、辺りの空気が一瞬にして凍りつく。

 

「しかし、2人に900はちと卑怯ではないか?

…まぁ、我らに関係はないが。」

 

彼がそう言っている間、近くの建物から咆哮と悲鳴が聞こえ始める。

ゲラーシーが気を引いている間、バーサーカーが攻撃を開始したのだ。

 

「…ふむ、ざっと50人を葬った所かの?

…しかし虫が多すぎるな。

仕方あるまい、切り札を抜くしかないようじゃな。」

 

彼がそう言えば、バーサーカーはゲラーシーの元に戻り、彼の前に立つ。

彼の背後にいた敵は全て光の粒になり、消滅していた。

 

「…!

何が来るぞ…!

総員、バーサーカーのマスターの命を取れ!」

 

ハイドリヒがそう命令すると、ゲラーシーはバーサーカーの背中に手を当てる。

 

「令呪を持って我が戦友に命ずる。

儂の命を預けた。」

 

彼がそういえば、手のひらに刻まれている赤い紋章が一角光り、薄れる。

 

「■■■■■_____!!」

 

バーサーカーはそれに応えるように咆哮すれば、手に弓を持ち、建物の窓や路地に向かって弓を射る。

そんなバーサーカーを見てゲラーシーは満足そうに笑い、肩に羽織っている軍服に腕を通し、杖をドン、と地面に叩き付ける。

 

「___お前さん達には、耐えられるかな?」

 

ニッ、と笑い、そうハイドリヒに言うと、杖を持つ手に力を込める。

 

「___之は我が守るべき愛する故郷の風景。

然してその姿は真ではない。

 

ここは人間が生存することが出来ない死亡領域(デッドゾーン)

 

絶対零度の吹雪に包まれたその都市は汝らを苦しませるだろう!

 

さぁ、この死亡領域から生き延びて見せよ!

 

___絶対零度都市モスクワ(ザミルザーニイ・モスクワ)!」

 

ゲラーシーがそう詠唱すると、杖の先端から広がるように地面が凍結していく。

 

___いや、凍結していくのでは無い。

空間が塗り替えられる。

地面には雪が積もったアスファルトが凍結した道が。

そして周りの建物は全て氷漬けにされており、幻想的な景色が拡がっていた。

 

ここは、モスクワ・赤の広場。

モスクワ川は凍りつき、広場の象徴的存在のクレムリン宮殿も氷に覆われていた。

 

そして、極めつけはその寒さだ。息をするだけで肺が凍りつくほどのこの空間は人類生存限界領域、死亡領域(デッドゾーン)になっており、既に寒さに耐えきれなくなり、凍りついた隊員のほぼ大半が消滅していた。

 

「これが儂の本気だ、金髪の野獣よ。

この領域では軟弱なものは死に絶える。

何せこの空間内は絶対零度-273℃。

人間が本来は生存できない気温だからな。

900人いようがいまいがこの固有結界内では無意味だ。」

 

彼がそういえば嘲笑うかのように風が強くなる。

ハイドリヒは寒さに震えながらも冷静さを保ち、身体を粘液状のモノに変貌させる。

しかし、その個体は今までのものと比べると一回りも二周りも大きく、それが個を統べる上位個体だということがわかるだろう。

 

「…屈辱だが、この姿を取る事にしよう。

この生命体共は南極大陸のどこかに存在しているとされている山脈に住み着いている化け物だそうだ。

故に、少しは冷気に耐えられる。

こちらの戦力は…250まで減ったか。

しかし関係ない。

者共、殺せ!」

 

ハイドリヒだったその化け物は周りの下位個体にそう命ずる。

すると、周りの粘液状の化け物はゲラーシーに向かってくる。

 

「■■■■■____!!」

 

バーサーカーはその向かってくる化け物に対して棍棒で殴り掛かり、次々に消滅させていく。

ハイドリヒだった化け物も黙って見ている訳ではなく、バーサーカーに対して突撃し、体当たりを行い、その触手を霊核(心臓)目掛けて突く。

バーサーカーは咄嗟に回避行動をとり、その触手を肩で受ける。

 

「■■■…!!」

 

彼は小さく呻くが、なんの問題もないように触手を引き抜けば、間髪入れずに棍棒を叩き込む。

 

「離れろ、バーサーカー。

氷像師団、撃ち方、構え!!」

 

彼がそう叫べばバーサーカーは杖を霊体化させ、後ろに跳躍する。

瞬時、辺りに無数の弾丸が飛び、爆発する。

それは魔力が籠った氷弾だ。

着弾すればその箇所は魔力放出の容量で爆発する。

近くの建物をよく見れば、氷の水色に目立つ黒い大砲や固定砲台などが取り付けられており、ゲラーシーを形どった氷像がそれを操作しているのだ。

それらの火器から放たれる魔弾はハイドリヒに着弾し、その姿はみるみる小さくなっていく。

 

「…金髪の野獣よ。

どうだ?1人の魔術師に敗北する気分は。

さぞ屈辱的だろうな。」

 

数多くの弾丸を受けた化け物は弱り切っており、再びハイドリヒの姿を形作る。

その姿は右腕が千切れており、片足しかなかった。

 

「…どうやら、私の敗北のようですね。」

 

渋々と言ったような表情と声色で彼はそう呟き、息を吐く。

 

「…お主の敗因を教えてやろう、金髪の野獣。

上官命令に逆らったことだ。」

 

彼がそういえばハイドリヒは嘲笑うかのように鼻を鳴らせば

 

「あんな命令従うわけがないでしょう。

私は人間を捨ててまで勝ちたいとは思いませんよ。

…最後は残念ながら人間を捨ててしまいましたが、ね。」

 

と言いながら黄色い光に包まれて消滅した。

…と同時に景色は元の大通りに戻る。

辺りに黒い軍服の男達は見当たらなくなり、静かな大通りに戻ったようだ。

ゲラーシーは近くのベンチに腰かけ、息を吐く。

 

「……久々に固有結界なんぞ使ったわい。

バーサーカー、しばらく休ませてくれ。」

 

「■■。」

 

そう言って彼は目を閉じ、眠りにつく。

バーサーカーはそんな彼のそばでただ立ち、周りを警戒するのだった。




なんかもうめちゃくちゃな気がしますがゲラーシーの固有結界が発動しました。
…いや、まあ固有結界ってそういうもんでしょ(適当)
彼は現代火器とロシアを愛しているからこそその都市の姿を自分の戦いやすい地形にして心象風景として発動しています。
はい、どう見ても起源覚醒者ですね。
彼の起源は『指揮』。
幾度の戦場を超えて彼の潜在能力が極限まで鍛えられ、覚醒するに至ったという形です。
変なとこあっても許してください(土下座)


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未熟同士

【AM.10時頃 住宅街跡地】

 

バーサーカー陣営が通りの制圧に成功した頃、斎宮寺とアシュリーは瓦礫で溢れた住宅街へ到着していた。

ある家は黒焦げになり、まだ形を保っているものの、今にも崩れようとしており、またある家は完全に崩れ去り、地面に血痕がべったりと付着していた。

前日のハイドリヒ率いる移動虐殺部隊(アインザッツグルッペン)による惨劇である。

 

「…酷い。」

 

アシュリーが小さく呟く。

その視界の先には置き去りにされた母親が子供を抱き、また近くには銃を握ったまま絶命している親子の亡骸が虚しく転がっていた。

 

「君はあまり見ないほうがいい、アシュリー。

貴女に死体は似合わなさすぎる。

…にしても、いつの時代も戦争とは残酷なものだな。」

 

そんな彼女を抱き寄せ、顔を伏せさせるランサー。

斎宮寺もまた怒りに拳を震わせていた。

 

「いいえランサー。

この街を戦火に包んだのは私達魔術師が起こした聖杯戦争にあります。

…見なければ、死に向き合わなきゃダメなの。」

 

彼女はふるふると震え、目に涙を溜めつつ死体を凝視するが、耐えきれずにその場に崩れ去り、口元を抑える。

 

「……無理しない方がいい。

アンタも魔術師とは言え、まだ未熟。

死体なんて今まで縁も無かっただろう。

ほら、水だ。飲めば楽になる。」

 

そう言って彼はランサーにペットボトルに入った水を渡し、少し先を歩く。

 

「……いるんだろ、キャスター、ハワード・フィリップス・ラヴクラフト!!

この前の仮を返してやるよ。」

 

背中に背負っている刀を抜くと、構え、前方の瓦礫の山を見る。

セイバーも咄嗟に彼の隣に立ち、同じように刀を構えた。

 

「私はラブクラフトにして、ラブクラフトに在らず。

私はランドルフ・カーターと言う。覚えておけ。」

 

そう言いながら禍々しい魔導書を手に持ち、彼らの前に姿を現す。

 

「…なんでもいい。

アサシン達の殺戮衝動を加速させたのはお前だな?

そして、無関係の人間を殺害した事、見過ごせるわけが無い…!

お前はここで仕留める!」

 

それを聞けばキャスターは不気味な笑みを顔に張りつける。

 

「ハッ、確かに少しお膳立てはしたさ。

だが元から頭のイカれた連中なのに違いはない。

無関係?関係ない。

勝てばいいのだよ。そもそも彼らも完全に無関係ではない。何故私がそんなに責められる必要があるのかね?」

 

挑発するかのようにへらへらと笑いながら彼は続ける。

 

「…それに、ここで始末する、と?

私が支配しているこの領域でよく言う。

さあ!起き上がれ屍達よ!

君たちの墓に不届き者が侵入してきたぞ!」

 

キャスターが呪文を唱え、手を翳すと、地面に転がっていた死体が起き上がる。

 

「ナゼ、私タチガ、殺サレナクチャ、イケナカッタノ?」

 

母親が起き上がり、カタコトでそう呟く。

 

「ソウダ、俺達ハ、幸セニ暮ラシテタダケナノニ!!」

 

父親も銃を手に取り、起き上がる。

 

「貴方達モ私達ノ仲間ニナッテ、一緒ニ遊ビマショ?」

 

娘も起き上がる。手を前に出して歩くその様子は、遊び相手を求めて歩いているようだった。

 

「…っ…!

キャスタァァァァァ!!!!」

 

斎宮寺は怒りを露わにし、向かってくる娘を切り伏せる。

続いて父親、母親も。

その表情は唇を食いしばっており、あまりにも強く噛みすぎて唇から血が出ている。

そして目からは涙を流し、目の前のキャスターを睨みつける。

 

「貴様は!どこまで!人の命を冒涜すれば気が済む!!!?

お前は生かしてはいけない!!絶対に!!」

 

周りの死体達___

食屍鬼を叩き切りながら彼はキャスターの鎮座する瓦礫の山に飛びかかる。

 

「… 殺った(とった)ぞ、キャスター!!」

 

そして振りかぶり、キャスターの頭蓋を割らんとばかりに振り下ろす。

しかし、その斬撃は彼の持つ銀の鍵によって防がれてしまう。

 

「…愚かな。

人間がサーヴァントに勝てるわけが…

……っ!」

 

彼はそう言ってもう片手にペンを握った瞬間、眩い白い光が目に入る。

 

「この雷は外道を消し飛ばす怒れる雷神の紫電の一撃!

得と味わうがいい…!

___ 雷斬りし紫電の魔刀(らいきり)ィィィィィ!!」

 

セイバーがそう言いながら刀を振り下ろすと、それはまるで超電磁砲(レールガン)のように放たれる。

 

「……フ、対策済みだよ。

さぁ、マスター(・・・・)

私の盾になれ。」

 

キャスターは予想通りと言わんばかりに笑うと、空から黒い何かが振ってくる。

 

___異形の怪物。

それは強烈な死臭に包まれ、現れる。

ロープのような触手があわさった巨大な樹木のような姿。

蹄のついた太い4本の脚、樹木の幹にあたる位置には巨大な口がある。

 

「___タ………

■■■■■_____!!」

 

その怪物は何かを小さく呟いた後、雷を受ける。

そして、ふらりとその巨体は後退りするが、倒れることなく彼らに立ち塞がる。

 

「…貴様……まさか……」

 

セイバーは刀を構えたまま目の前のキャスターを見る。

キャスターは興奮するかのように高笑いすると続ける。

 

「フフフ…ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

その通り、コレは私のマスターだった(・・・)イザベラ・ウォーカー氏そのものだ。

居ても邪魔だったのでね。

神官に少し強化(・・)してもらったのさ。」

 

「貴様ァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

斎宮寺は雄叫びを上げながら怒りの表情を露わにし、刀を振り上げ、突っ込む。

 

「待てマスター!

その体に踏み潰されれば、貴方では命が危ない…!!」

 

セイバーは手を前に出し、彼にそう告げる。

しかし、彼は止まることなく、進む。

 

「その魂を叩き切る…!」

 

そして彼が振りかざす。

…が、その硬い皮膚が刃を跳ね返し、彼はよろめく。

 

「…本来であればその刃は彼女の皮膚に届いていたことだろう。

だが、神官はそこまで読んでいたぞ。

セイバーのマスター。

さぁ、そのまま踏み潰されろ。」

 

キャスターがそう言うと、化け物は脚を上げ、体制がおぼつかない彼に覆い被さる。

 

「が……っ!」

 

即座に強化魔術を発動させ、刀でその体重を受け止める。

…だが、そんなもので抑えられるわけがなく、手首が嫌な音を立てる。

 

「マスター!!」

 

セイバーが雷を体から発生させながら斎宮寺の方へ跳躍し、触手を纏めて何本か叩き斬れば化け物の体がよろめいた。

その隙に彼は斎宮寺の身体を抱え、後ろに交代する。

 

「…フ、いくら歴戦の英雄でも豊穣の女神の落し子に勝てるはずもない。」

 

嘲笑うかのようにキャスターがそういえば、化け物は斬られた触手を再生させる。

 

「さぁ、黒い子山羊よ…!

奴らを捻り潰し___

っ…!?」

 

そこで彼はついに気がつく。

 

ランサーの姿がそこにないことに(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「やっと気がついたか、マヌケめ。」

 

そう言って笑みを作る斎宮寺は後ろに跳躍し、アシュリーの横に立つ。

 

「令呪を持って私の騎士に命じます!

キャスターを討ち取って…!」

 

彼女の掌に刻まれた赤い令呪が光り、そのうちの1画が薄れる。

 

「イエス、マイマスター___!!」

 

ランサーの声がキャスターの背後から聞こえる。

彼女は低い体制を取っており、槍を両手で構え、突き上げる。

咄嗟のことに反応できなかったキャスターは防御反応を取ることすら出来ず、後ろを振り向き、ふらつく。

 

「我が名は"卑劣の騎士"パロミデス!

例えこの愛が届くことがないとしても、私は貴女のために、例え悪名を背負うことになろうと、この愛を叫ぼう___!」

 

咄嗟にキャスターは心臓の位置に魔導書を移動させる。

しかし、槍が魔導書を貫通し、キャスターの心臓(霊核)を貫く

 

「『我が悪名は愛しきイゾルデへ(アイル・レプト・フォウ・イゾルデ)』…。」

 

彼女は槍から手を離すことなく、空を見上げる。

その表情はどこか悲しげで、然して誇らしげだった。

 

そんな彼女を見てキャスターは少し俯き、微笑する。

 

「…あぁ、ダメか。

だが私が散ったとしても黒い子山羊(私のマスター)が…」

 

彼がそう呟くと、どこかから声が聞こえる。

 

『カーター、残念だけど時間切れさ。

彼女は今から"おねんね"さ。』

 

酷く楽しそうで、不気味な声。

その声の主はナイル・テップだ。

 

「…そうか、時間切れか。

悪いね神官、ここまでお膳立てしてもらって。

私は先に退場するとするよ。」

 

そう言いながら彼は光の粒子状になって行き、消えていく。

 

その様子を見届けた後、斎宮寺達が黒い怪物を見ると、酷く魘された様子でそれは眠っていた。

 

『覚めることの無い悪夢。

死んでも死にきれない悪夢。

彼女の魂は永遠に混沌が蔓延る幻夢境から戻ることは無い。

フフフ、哀れな小娘だ…!!』

 

彼は邪悪な声になり、高笑いし始める。

 

「っ…!

お前…!!」

 

なんのつもりだ、と斎宮寺が言おうとした時だった。

アシュリーが怯えからか、震えながら1歩足を踏み出し

 

「人の命を弄んで、何が楽しいんですか…!?

こんなことして、何が楽しいの…!?」

 

目に涙を貯めながら、彼女は勇気をだして声を出す。

 

『……黙れよ、クソアマ。

下等生物がいっちょ前に()に意見するなよ。』

 

雰囲気が一変する。

その声には重圧がかかっており、斎宮寺達を威圧する。

 

『…おっと、失礼。

ではボクはこれで。

人類悪(ビースト)混沌の獣【ナイル・テップ】は君達を待っているよ。』

 

その声を最後に空間からの声は途絶え、風の音が響く。

 

「…成仏してくれ、キャスターのマスター。

…彼女のためにもお前は必ず、必ず仕留めてやるぞ、ナイル・テップ…!」

 

斎宮寺は目の前で苦しそうに眠る怪物に刃を通し、塵になったのを確認すると空に向かって呟く。

その空は黒い雲に覆われており、どこかナイルが嘲笑っているようだった。




はい、キャスター陣営、完全に消滅です。
ここに書くことが無くなってきました。
なのでこれで後書きを終わります()


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黒き神獣

【AM.11時頃 郊外の森】

 

「キャスターの使い魔共が…消えていく…。」

 

ロベルトは目を抑えながらそう言うと、外していたメガネを掛けて当たりを見渡す。

 

「斎宮寺達がキャスターを倒したんだろう。

これでオレ達の仕事も楽になったってもんだ。」

 

体に浮かぶ緑の光が消えていく士郎は手に持っていた双剣を消滅させてロベルトを見る。

 

「…そうだね。

あとはここで露払いをしつつ全員が集結するのをここに来るだけか。

…楽な仕事だ。」

 

拳銃をジャケットの内側から取り出せばトリガーに指をかけ、クルクルと回す。

 

「___ッ!

マスター!構えろ!!

…何か、ヤバいのが来る…!!」

 

近くの大きい木に登り、当たりを警戒していたアーチャーがそう声をあげると、彼らは一気に警戒し、それぞれの武器を構える。

 

___瞬時、重圧が彼らの体に伸し掛る。

立っていられるのもやっとな程の重み。

それは、今までのものとは比べ物にならないとの証明だった。

 

「■■■■■___!!」

 

咆哮と共にソレは現れる。

ソレは鋭く尖った鉤爪に禿鷹の翼、そしてハイエナのような胴体を持つ、三重冠を被った顔のない獣だった。

 

「ウソでしょ…!?

まさか…!!」

 

顔を両腕で多いながら凛はソレを見てそう呟く。

 

…そう、それはまるでエジプト神話に登場する神獣、スフィンクスの容姿にそっくりだったのだから。

 

「ナイル・テップ…

あるいは神官イムホテプ。

…なるほど、かの神獣を従えていても何らおかしくない…!」

 

ロベルトは重圧に耐えながら眼鏡を再び外すと目の前の神獣を睨みつける。

 

「…アーチャー、やれるか?」

 

彼は背後を見ずに木から降りてくるアーチャーに問いかける。

 

「…とりあえずはやってみるよ。」

 

アーチャーは一回り大きい弓を構えてそう答える。

 

「オレ達も加勢する!

全員でここを抑えるぞ!」

 

士郎は黒い弓に剣のような矢を構える。

 

「…えぇ、これは一筋縄じゃ行かないようね。」

 

凛も両手に宝石を持てば目の前の神獣を睨みつける。

 

「…避けないでよ、高いんだから…!」

 

凛は両手に持っている宝石をスフィンクスに向かって投げる。

宝石は即座に爆発し、スフィンクスに直撃する。

 

偽・螺旋剣Ⅱ(カラドボルグⅡ)…!!」

 

弓から手を離せば剣のような矢は射出される。

こちらもスフィンクスに直撃し、爆発した。

 

「…アーチャー!」

 

ロベルトがそう叫べばアーチャーは「もうやってる!」と答え、弓を引けばそれを消滅させ、距離を詰める。

 

「我が力は祖国を守るためにあり!

ノルウェーの豊かな大地よ、我に力を貸したまえ…!

祖国を護る我が弓(ノルウェージェン・ボウ)』…!!」

 

彼がそう詠唱すると、緑の光が地面から湧き出て、彼に集まる。

彼は剣を手に持つとスフィンクスに切りつける。

 

「…さて、泣きの1発だ…!」

 

ロベルトは懐に手を入れると、手榴弾を手に持ち、ピンを抜けば即座にそれを投げる。

 

「…どうだ…?さすがの神獣と言えどこれほどの総攻撃……

…おい、嘘だろ…!?」

 

攻撃により巻き起こっていた砂埃が晴れれば傷1つ付いていないスフィンクスがそこに立ち塞がっていた。

 

「バケモノかよ…!」

 

士郎がそう言うと、スフィンクスが目にも止まらぬ速さでロベルトに向かって突っ込んでくる。

そしてその前脚を上にあげ、振り下ろす。

 

「危ない…!

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)…!」

 

手を前に掲げながらすかさず士郎が間に飛び込み、5枚の光の盾が花弁のように展開する。

 

「…っ…

助かった…!」

 

一瞬よろめくが、ロベルトは咄嗟に後ろに下がり、赤く光る目でスフィンクスを睨みつける。

 

「ロベルト!

そのまましばらく抑えててくれ!

切り札を使う…!」

 

「…そう、使うのね。

なら全力で支援するわ。」

 

凛が士郎の隣に並ぶと、肩に手を置く。

士郎は微笑んで頷くと盾を消すと、手を前に掲げる。

 


I am the bone of my sword. 

(体は剣で出来ている)

 


Steel is my body,and fire is my blood.(血潮は鉄で心は硝子)

 



 I have created over a thousand blades.(幾度の戦場を越えて不敗)

 



Unaware of loss. (ただ1度の敗走もなく、)

 

Nor aware of gain. (
ただ1度の勝利もなし。)

 

Withstood pain to create weapons, 

(担い手はここに弧り)

 

waiting for one's arrival. (鉄の丘で鉄を鍛つ)



 

I have no regrets.This is the only path. 

(ならば、我が生涯に意味は不要ず)

 

My whole life was 

(この体は)

 


"unlimited blade works"(無限の剣で出来ていた)____!」

 

…空間が塗り替えられる。

果てのない荒野に何も遮るものがない燃えるような赤い空。

そして地面には無数の剣が突き刺さった空間が展開される。

 

「…これは…固有結界か…!」

 

ロベルトが当たりを見渡してそう言う。

スフィンクスが士郎に向かって突撃するが、地面から浮遊し、射出される剣達がそれを許さない。

 

その剣達はスフィンクスに直撃すると、爆発する。

さすがの質量からか、スフィンクスが体制を崩す。

 


I am the bone of my sword. 

(体は剣で出来ている)___!」

 

腕を横に真っ直ぐ伸ばせば、その手に形作られた武具が握られる。

 

___それは、刀身に雷の模様が刻まれた魔刀…。

 

「…偽・雷斬りし紫電の魔刀(フェイク/雷切)___!」

 

そう、それはセイバーの宝具である魔刀、雷切だ。

 

「支援する…!

我が魔眼にて制御する…!」

 

ロベルトは目に手を当てながらスフィンクスを睨む。

目からは赤い線が流れているが、気にすること無くひたすらに睨む。

 

「これで、終いだ____!!」

 

投影した刀をスフィンクスの腹部突き刺すと、その場から離れる。

 

即座に刺さった刀は紫電の線を放ちながら爆散する。

スフィンクスはそのまま体制を崩し、黒い塵になって消滅する。

 

そして空間が元の森に戻ると、士郎は地面に手を着く。

 

「…はぁ…はぁっ…。

魔力が…切れた…。」

 

「…もう、無茶するからよ。

ロベルトさん、先に進んで。

私達はここで敵を抑えつつ休憩してるから。」

 

凛が士郎の傍でしゃがみこむと、ロベルトに声を掛ける。

 

「…分かった。

行くぞ、アーチャー。」

 

ポケットからハンカチを取りだし、目を抑えながら眼鏡をかけると、そのまま走っていく。

アーチャーもその後に続き、走り去って行った。




ちゃっかりセイバーの宝具に強化を入れました。
威力としては劣・劣・劣化版約束された勝利の剣ですが、そこに神性特攻が加わったことで神性に対しては馬鹿にならない火力になります。
…さて、敵が不憫になってきましたね。
彼らはフォーリナーに合わせて何を相手取るのか、お楽しみに…。


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全ては、理想の為に。

【P.M12時頃 郊外の森】

 

屋敷付近の森。

黒い粘液状の生物を切り伏せながらセイバーとランサーがそれぞれ前と後ろにつき、自身の主達を守りながら突き進む。

 

「そろそろ合流予定地点だ…!

もう少し頑張ってくれ、セイバー!」

 

「ランサー!

無理はしないで…!でも、やっつけちゃって…!」

 

「「承知!」」

 

声を揃える二騎の前に戦車のような形をした怪物が立ち塞がる。

 

「邪魔だ…!」

 

「ふっ…!」

 

そんな声と同時に戦車の主砲のような部位が切り捨てられ、車体の運転席にあたるであろう箇所は槍によって穿たれる。

そしてその化け物は黒い塵となり、宙に舞う。

 

「…ふぅ、こんなものか。

お疲れ様、マスター。怪我はないかしら?」

 

ランサーは槍をクルクルと遊ぶように回し、ピタリと止めると、その槍を霊体化させ、己がマスターの元へと歩み寄る。

 

「ええ、お陰様で無傷よ、ランサー。

ありがとう。」

 

ふわりと微笑むアシュリーを見るランサーの表情は何処か褒美を待つ小動物のようで、それを見たアシュリーはくすりと笑い、その頭を撫でてやる。

彼女は目を細め、口元に嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

「…犬だな。」

 

「そうですね。」

 

彼女らに聞こえないように斎宮寺とセイバーは顔を見合わせる。

 

「おう!ヒヨっ子共!

無事だったか!!!!」

 

そして彼らが足を進め、合流地点へと到着すると、切り株に座り、笑みを浮かべるゲラーシーがそこにいた。

 

「…ふむ、セイバーのヒヨっ子は手首の損傷……や、足腰もやっているな?

そしてランサーのヒヨっ子は……

ふむ、精神の乱れが見える。

ヒヨっ子に戦場は辛いだろうが、今は耐えるしかない。

ランサーに支えてもらうんじゃな。」

 

ガハハ、と笑いながら彼は杖に両手を置く。

 

「……なるほど、人目見ただけでここまで判断できるとは…。

相当な指揮官ですね、バーサーカーのマスターは。」

 

一領主として君臨していたセイバーは感心したような表情で頷き、ゲラーシーを見る。

 

「当然!

何年戦場で指揮を取っとると思っとる!!

軍では儂を元帥にしようという声が上がっとるが、戦場で指揮を取ることこそ儂の生きがい!!

戦場で生き、戦場で死ぬことこそが儂の生き様!

元帥なぞ荷が重くてやってられんわ!!」

 

ドンドン、と床に杖をたたきつけ、彼は大笑いする。

それを見た彼らは少し引き気味の表情を見せるが、ゲラーシーが気にする様子は無い。

 

「……その戦場の前線で爆睡して残党の相手をさせられていた私の身にもなってください、上級大将殿。

……骨が折れましたよ。

……二つの意味で。」

 

はぁ、と溜息をつきながら奥からイザックが歩いてくる。

手には黒鍵が両手合わせて10本持たれており、常に警戒しているということが分かる。

よく見れば神父服の脇腹当たりに赤い液体が染み込んでいる。

 

「…大変だったんだな、監督役。

それで、ロベルトとベルタ、士郎さん達は…。」

 

「今到着した。

エミヤ夫妻は途中の道で警戒してくれている。」

 

眼鏡を指で押し上げながらアーチャーと共にロベルトが歩いてくる。

 

「おう、俺達も無事だぜ。」

 

その後ろに片手を上げたライダーと腕を組んで歩くベルタの姿もあった。

 

「…良かった、全員何とか命はあるみたいだな。」

 

ホッ、と胸を撫で下ろし安堵する斎宮寺。

 

「…だが、安心するのはまだ早い。

僕らから1つ報告がある。」

 

ロベルトが1歩足を踏み出すと、深刻そうな表情で告げる。

 

「……先程、エジプトの神獣、スフィンクスらしき生命体と戦闘した。

何とかエミヤ夫妻と共に撃退したが……。

神獣を使役出来るナイル・テップはとんでもない化け物だと推測される。

…恐らく魔力消費もほぼ無しでね。」

 

その場にいる全員が驚愕したような表情になる。

 

「……いや、まさか、そんなはずは…」

 

イザックはそう呟けば遠くを眺め、首を振る。

 

「なにか気がついたのか、監督役。」

 

それに気がついた斎宮寺は彼の方を見てそう問う。

 

「…えぇ、ナイル・テップの真名がわかったかも知れません。

キャスター・ラブクラフト…神官…神獣・スフィンクス……。

これらのピースが示す答え、彼の真名は…

神霊ニ___」

 

彼がその名を言おうとした瞬間、空から黒い球体が堕ちてくる。

全員が瞬時に回避行動を取れば、それぞれの武器を構える。

 

「君達にはここで消えてもらう。

全ては我らが理想の為に。」

 

地面から堕ちてきた黒い球体からシュルシュルと黒い粘液状の糸が紐解かれるかのように地面に落ちれば、中からフォーリナーが姿を現す。

地面に落ちた黒い糸がうねうねと蠢くと、今までのものに比べてより大きな粘液状の化け物へと姿を変える。

 

「…そう簡単には喋らせてくれませんか…!

さすがはトリックスターと言うべきか…!」

 

イザックは腰を低く落とし、目の前の黒き脅威達を睨みつける。

 

「我らが理想の為ならば私はどんな手段でも使って君達をねじ伏せよう…!

例え悪名を背負うことになっても関係ない…!

ドイツ騎士団・ハインリヒ・ヒムラーが相手になろう…!

かかってくるといい…!」

 

そう彼が叫ぶと、彼の周りから黒い触手がうねうねと蠢き、目の前の敵達へと飛び出していく。

…彼の理想をかけた最後の戦いが、始まったのである。




スランプです()
後書きすら何を書こうかめっちゃ迷ってるのでこれ以上語らないでおきましょう。


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自存する源

『___弱い。

______弱い。

 

お前は、弱すぎる。』

 

歴戦の英雄との戦闘の最中、ヒムラーの頭の中に声が響く。

 

『弱いからこそ私は貴様に力を貸そう。

全ての生命の源は、私にあり。

それ即ち、お前も私の子だ。

故に、お前を愛し、力を貸そう。』

 

その声が聞こえた瞬時、ヒムラーの体から粘着質の物体がぼとり、と複数落ち、巨大な黒い化け物が10数体顕現する。

 

「はあぁっ…!!」

 

咄嗟に斎宮寺が前に飛び出し、そのうちの一体を叩き切り、消滅させる。

 

…だが、切り伏せた一瞬の隙をそれ等は見逃さない。

四方八方から黒い触手を彼らが伸ばし、彼の体を貫こうとする。

しかし、冷気とともに飛び出してきたゲラーシーがそれを許さない。

彼は斎宮寺の襟首を掴み、後ろに投げると、絶対零度の如く冷気が触手達を氷漬けにする。

 

「無理をするな、ヒヨっ子!!

十分な火力はこちらに揃っておる!!

確かに貴様の礼装は強力だ!!だが使い所を考えろ!!」

 

後ろに投げた斎宮寺の方を振り向きながら叫ぶ。

そして氷漬けにされた触手を見ると、その氷を割り、再び動きだした触手がゲラーシーを襲う。

 

「■■■■■_____!!」

 

咄嗟にバーサーカーが飛び出し、触手を手に持った杖で叩き伏せ、その攻撃はゲラーシーを大きく外れる。

 

「…流石は我が戦友!

良いタイミングだ。」

 

彼はニッと笑い、バーサーカーの背中を眺める。

 

「退け、バーサーカー!!

ここは俺に任せてもらう!!」

 

黄金の剣を手に持ったライダーがゲラーシーの後ろから飛び出し、化け物の内2体を切り伏せ、消滅させる。

 

「英霊共が…!!

何故、何故我が理想の邪魔をする…!!

この理想が達成されれば世界の平和はゲルマン民族によって築かれるのだ…!!

何故受け入れない!!何故ェェェェェェェェェェェェ!!」

 

怒りの表情を剥き出しにしたヒムラーは彼の体から出ている触手を踊り狂うかのように目の前の敵達に向かって勢い良く動かす。

そして彼は気が付く。

 

そこにランサーの姿は、ない。

 

「決まっている、狂人。

それは仮初の平和でしかない。

それに、全ての人がそれで幸せになれると思うな…!!」

 

彼女の槍先がヒムラーの心臓を捉えた、ように見えた。

だが、彼は咄嗟に芯を外し、右腕に槍を受ける。

 

「ぐぅぅ…!!

貴様……!!ランサー…!!!!」

 

後ろを振り向き、手に握った拳銃をランサーの額に向かって発砲しようとする。

 

「どこ見てるんだよ、オイ。」

 

木の上からアーチャーが西洋剣を手に握り、左腕を叩き斬る。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

切断面から鮮血がボトボトと流れ出る。

痛みと共鳴するかのように触手達がビタンビタンと地面を叩く。

 

「その首、貰った___!!」

 

そう叫びながらセイバーはバチバチ、と紫の線を体から放出し、勢い良く踏み込むと、雷の模様が刻まれた刀をヒムラーの首に向かって振り下ろす。

 

「アアアアアアアアアアアアアアアッ!!

ただで死ねるかァァァァァァァァァ!!」

 

彼は充血した目でセイバーを睨みつけると、最期の抵抗と言わんばかりに彼は触手を斎宮寺の方へと飛ばす。

 

「…ッ!?」

 

斎宮寺は呆気に取られ、反応が遅れてしまい、気が付けば顔の前まで触手が迫っていた。

 

死を覚悟し、彼は目を閉じる。

次の瞬間、誰かに突き飛ばされた感覚とボトン、と何かが2つ落ちる音が耳に入る。

 

「ぐゥ…ッ!!

ッ…戦場で目を閉じるな!!

戦場で常に全神経を身体中に集中させろ…!!」

 

目を開けると消滅していくヒムラーと右腕が地面に落ち、痛みに耐えながらも踏ん張って立つゲラーシーの姿があった。

 

「ゲラーシー、アンタ…!

腕…!!」

 

咄嗟に突き飛ばすのが限界だった。

回避させると頭で判断すれば、彼は体を瞬時に斎宮寺の方へと動かし、そのまま右腕を彼に延ばし、胸当たりを強く押したのだ。

その結果、彼は右腕を失う事になった。

 

「そう騒ぐな、ヒヨっ子。

たかが腕の1本、安いものよ。

むしろこれまで幾多もの戦場を駆けながら腕が残ってたのが奇跡とも言えるだろう。」

 

彼は切断面に残った左手をかざせば、冷気を放出し、氷漬けにして止血する。

 

「…爺さん、ここに残った方がいいんじゃないか?

死に損ないの老人なんて邪魔でしかない。」

 

ロベルトが外していた眼鏡を駆けながらゲラーシーの方を見てそう呟く。

 

「そ、そうですよ、おじ様!

腕が切断されるなんて大怪我、大人しくしていた方がいいに決まっています!」

 

アシュリーが慌てた様子で続ける。

 

「ガッハハハ!!

この程度の負傷、なんともないわ!!

このゲラーシー・アリスタルフ、腕の1本や2本無くなったところで止まるような男ではない!!

監督役!!約束通り我ら5陣営はフォーリナー・ハインリヒ・ヒムラーを討伐した!!

報酬の令呪は貰おうか。」

 

大笑いしながら彼はイザックの方を見る。

彼は溜息をつき、答える。

 

「…全く貴方はめちゃくちゃですね…。

まぁ良いでしょう。では約束通り、キャスターを討伐したセイバー・ランサー陣営に令呪を1画ずつそしてフォーリナーを討伐した5陣営に1画ずつを報酬として与えます。

…残るは敵将、ナイル・テップのみです。

彼は間違いなくキャスターやフォーリナーを超える強力な敵です。ですがここにいる全員が力を合わせれば倒せるはずです。

行きましょう!」

 

腕を前にかざしながら彼は全員の顔を見て宣言すると前に進んでいく。

 

彼らに待つのは、強大な存在。

彼らに待ち受けているその存在は一体何者なのだろうか。




ヌルッとフォーリナーが脱落し、ゲラーシーの片腕が欠損しました。
さて、これにて3章は閉幕。
ここから最終章に展開していきます。

彼らがこれから相手するのは果たして…?

それはそうと自作を執筆することを確定しました。
ぜひ楽しみにしていただけると幸いです。


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第4章
混沌の■___


更新遅れてすみませんでした(土下座)
展開まとめるのって難しいよね


屋敷校外、館跡上空。

その獣はフォーリナーと5陣営の戦闘を眺めていた。

 

「…あぁ、そう。

負けちゃったのか。残念だよ、ヒムラー。」

 

ポケットに手を入れ、残念そうな表情を彼は浮かべる。

 

「ならここから先はボクの仕事だ。

ボクがキミの代わりに彼らを殲滅し、この世界を混沌で満ちた楽しい世界にしてあげよう!」

 

彼は心底楽しそうに高笑いし、降下すると、戦闘を終えた彼らの頭上に現れる。

 

「邪神に取り憑かれたヒムラーを倒すなんて、やるじゃん。

でも残念。

キミ達はここで終わり。何故なら本当の邪神がここに立っているんだから。」

 

ニタリと不気味な笑みを浮かべる獣を前に、彼らは一斉に武器を抜く。

 

「もうお前の味方はいないぞ、ナイル・テップ!

観念しろ!お前の好きにはさせない!」

 

刀を構えながら斎宮寺は彼に対してそう言い放つ。

 

「フフ、ハハハハハハハハハハハハハハ!!

威勢がいいねぇ。

けどさ、本当にボクに勝てると思ってるの?」

 

もう一度獣は高笑いを少しした後、真顔になり、彼らを睨みつけると、彼らの体に動けなくなるほどの重圧がかかる。

 

「ぐ、ぅ…っ!!」

 

斎宮寺は刀から手を離し、地面に手を付き、跪く。

周りを見てみれば他の物も同じ状態になっていた。

 

「これは……僕の制御の魔眼とは違う……!

これは魔術関連のものじゃない…!

奴の存在だけで僕達を跪かせている…!」

 

ロベルトが苦しそうな表情を浮かべながら獣の方を見る。

 

「この重圧、この雰囲気は……!

何故……!?なんでこいつからゼウス神の気配がしやがる…!?」

 

ライダーも同じように苦しそうにすれば、彼の方を見て理解できないというように叫ぶ。

 

「…へぇ、案外見様見真似で出来るものだね。

ボクの眼は少々特殊でさ。並行世界の記録って奴も覗き見できる。

そこで見た記録でそのゼウス神ってのが使ってた技さ。」

 

そう言いながらその獣は妖しく光る己の瞳を指さしながら恍惚とした表情で跪く彼らを見下ろす。

 

「ぅああああああ!!

雷斬るはずの鋼鉄の刀(ちどり)』_____!」

 

目の前の獣を睨みつけながらセイバーは叫ぶと、ゆっくりとした動きで刀を手に取り、彼の手の甲に突き刺す。

名刀・千鳥。

雷を斬り、セイバーの扱うその刀が魔刀となる前、これは千鳥と呼ばれていた。

この千鳥が雷を斬り伏せて見せた事を元に宝具『雷斬るはずの鋼鉄の刀(ちどり)』は対魔術宝具として昇華された。

彼はこの宝具を己の身体に突き刺すことでその効果を無理矢理解除して見せた。

 

「…へぇ。

対魔術用宝具ねぇ。

でもそんな小細工をしたところで___」

 

余裕そうな表情を浮かべている獣は目の前に雷を身体に纏いながら踏み込み、自身の目の前に迫ってくるセイバーを見て余裕の表情を消す。

 

「その首、貰うぞ!

イムホテプ___!」

 

セイバーはそう叫ぶと刀を目に見えぬ速さで横に凪ぐ。

 

…噴き出す鮮血の雨。

そして何かが鈍い音を立てて地面に落ちる音。

 

「…やった、のか…?」

 

地面に転がった獣の首を長めながら斎宮寺は頭を抑え、そう声を漏らす。

 

「…ナイルテップが動く様子はないわ。

…本当に、やったのね…!」

 

ベルタも地面から立ち上がるとライダーの方を見る。

 

「…あぁ、悔しいが奴さんやりやがった。

これで獣の脅威は___

ない!」

 

大英雄の宣言。

それを聞いたそこに集まるものは手と手を取り合い、勝利の雄叫びを挙げる。

 

___何名かの人物を除いて。

 

「…本当に、終わりですか…?」

 

不安そうに胸の辺りで手を組むアシュリーとその様子を驚愕したような表情で眺めているランサー。

 

「お前さんもそう思うか、англичанин(イギリス人)

あまりにも、呆気なさすぎる…!」

 

ゲラーシーは額から冷や汗を流しながらそう呟き、何かの気配を感じて後ろを振り向く。

 

___彼の視線の先に黒い鉤爪のような黒いモヤを纏った腕が迫っていた。

 

「な…!これは…!!」

 

「もっと早くに警告すべきでした…!

あの獣は何者でもなく、何者でもない。

あの神は1であり、100___!」

 

ロベルトが後悔するような表情を浮かべ、そう呟く。

不気味な表情で笑みを浮かべる獣がゲラーシーの心臓目掛けてその腕を真っ直ぐ伸ばす。

 

「おじさま、危ない…!」

 

近くにいたアシュリーがそれに気が付き少し走ると、ゲラーシーを強く押し、回避させる。

 

()った___!」

 

 

 

____そして次の瞬間、再び鮮血が辺りに飛び散る___。

 

「アシュリーィィィィィ!!」

 

ランサーが振り返り、叫びながら駆け寄る。

 

その腕は、アシュリーの腹を貫いていた。

 

「貴様ァァァァァァァァァ!!」

 

怒り任せにランサーはその■に槍を振るう。

その■は、容易いようにその攻撃を回避してみせる。

そして、その怨嗟の槍は、アシュリーの身体を盾にした■によって動きを止められてしまう。

 

「ッ____!

あぁあ…!!」

 

絶望の表情を浮かべるランサーとそれを見て恍惚とした表情を浮かべる■。

 

「イムホテプなど偽りの真名!

彼の真名は神霊『ニャルラトホテプ(・・・・・・・・)』!!

百の貌を持つ無貌の神!

この宇宙の外から来たとされる、異星の神です…!!」

 

ロベルトは鋭い目線で■、ニャルラトホテプを睨みつける。

■は楽しそうに高笑いをした後、アシュリーの腹から手を引き抜く。

 

「よくぞ見抜いた!

そう、ボク(オレ)は神霊『ニャルラトホテプ』!人類悪(ビースト)のクラスを捨て、この世界を混沌で埋め尽くすために降臨した役を羽織るもの(プリテンダー)のサーヴァント!

さぁ、キミ達の藻掻く様をボク(ワタシ)に見せてくれ!」

 

-真名混成-

 

人類悪(ビースト)

神官イムホテプ

 

 

 

 

 

 

 

役を羽織るもの(プリテンダー)

無貌の神(ニャルラトホテプ)




ということで駆け足にはなりましたが獣、いや、その邪神の真名はみんな大好き這い寄る混沌ニャルラトホテプです。
マジでこいつラスボス張るのに向きすぎなんだよな。


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