トータルイクリプスサンダーボルト 外伝 (マブラマ)
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佐渡島フォー・デビイ
佐渡島


俺の名は豊臣悠一、愛機であるフルアーマーガンダムに乗る欺衛軍の衛士でありフリージャズを好む男の一人だ

しかし俺は元々この世界の人間ではない。元にいた世界でガンプラビルダーとしてガンプラ大会に参加した経験がある

と言っても、優勝したことはなかった。

ある日、俺と義足野郎こと徳川良平は音楽趣味が合わない俺達は喧嘩別れした後、俺はトラックに轢かれそうになる義足野郎を助けようとしたが間に合わず一緒に事故死したんだ

喧嘩しつつ昇天する前に、魂だけの状態でケヤルガに引き留められた。

ケヤルガっていう胡散臭い神であり回復術士の話によると、とある人類が滅亡しかかっている地球へ行って、侵略しているBETAという化け物と戦ってほしいとのことだ。

これは俺達だけでなく、他の魂にも声をかけているようだが、引き受ける奴は中々いないそうだ。

そりゃそうだろ、化け物と戦うんだぜ?

BETA……この世界に突如地球に降下しハイヴという住処を作りこれまでの戦いで世界中の大半が国土を失われ追い込んだ化け物だ

地球に化け物が現れたなんて信じられないだろ?

崇宰恭子、如月佳織

この2人の出会いにより俺は変わっていった。

フルアーマーガンダムがこの世界で駆けて戦場に出るっていうのは夢にも思わなかった。

帝都である京都での防衛戦で俺は欺衛軍のファング中隊臨時次席指揮官として帝都に侵攻するBETAを殲滅

奇跡的にファング中隊の中隊長、佳織を含め隊員全員生還した

だが、帝都の陥落は阻止出来なかった。

そして俺はある出来事で問題行動を起こし、恭子はフルアーマーガンダムを没収し帝国軍の衛士として佐渡島に左遷を命じた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1998年9月1日

日本帝国 佐渡島

 

フェリーから降り両津港へ到着した俺は歩きで左遷された配属先である佐渡基地に向かった

「貧乏くじを引いた気分だぜ」

その光景は俺に似合わないものだ

華華しく咲いてるお花畑

長閑な田園風景

……昨日の出来事を回想で振り返る

それは欺衛軍本部の執務室で恭子が俺に左遷を命じた事だ

(あんな問題起こしたら、私の面子が汚れてしまうわ)

怒りを通り越した呆れ顔だ

あの淫乱男を殴った事は後悔していない

(斑鳩少佐が処理してくれたけど、貴方は暫く反省する形で帝国軍の衛士として佐渡基地に左遷を命じる)

(佐渡島…ですか)

(そう、自然と触れ合って佐渡基地にいるみんなと仲良くしなさい。司令官に連絡済みよ)

(え?欺衛軍の衛士が帝国軍の基地に行って宜しいのですか?)

何が何だか分からない

左遷って言われたら誰だって戸惑うだろうよ

(良いも悪いもこれは上層部の決定よ)

マジかよ、おい……。

(俺の機体も佐渡島に……)

(没収します、佐渡基地には撃震しか配備されていない。戦術機乗る機会が増えるきっかけになるわよ?)

成る程、要するに衛士の気持ちを考えて慣れ合いか。

(とにかくよ、明日早朝に佐渡島に行きなさい)

回想終わり

俺は困惑していた。

数時間後、佐渡基地に到着し入る前に身分証明書を警備員に見せた

見せた後、基地にいる衛士1人が出迎えてくれた

「豊臣悠一少尉でありますか?」

「ああ、そうだ」

「案内します」

と一言言って案内される

数分歩いて案内された後、基地にいる衛士はブリーフィングルームに

「此方です、中に入ってください」

俺はブリーフィングルームに入る

そこにいたのは

「貴様が新しく入った衛士だな?」

女衛士と新兵11人だ

「あ、はい。豊臣悠一少尉です」

俺は真顔で敬礼する

「佐渡基地司令部第三戦術予備部隊A中隊中隊長の坂崎都大尉だ。ようこそ佐渡基地へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

坂崎都……佐渡基地のA中隊中隊長か。

顔をよく見れば別嬪さんじゃないか

しかも意外と母性溢れてやがる

「どうした、私の顔に何か付いてるのか?」

ドキッと心臓が鳴り響く

何だこの胸やけは

「食事はとったか?」

「いえ、取ってないです」

「なら食堂へ行こう、腹一杯食いなさい」

都は俺に手を差し伸べる

「ええ、是非喜んで」

俺は都と一緒に食堂へ行き食事をとった。

食事をとってる途中に都の隣に1人の女性が座り込む

「坂崎大尉、隣宜しいですか?」

「いいぞ」

「では失礼して」

セミロングの女性か。

優しそうな性格してそうだ

「豊臣少尉、此方がB中隊中隊長の大倉鈴乃大尉だ」

「宜しくお願いしますね」

「お、おう…宜しくお願いします」

「畏まらなくていいぞ、豊臣少尉は大倉大尉率いるB中隊に加わることになった」

配置は決まっていたのか

ここの司令部はトチ狂ったのか?

「ところで坂崎大尉と大倉大尉の好きな音楽ジャンルは何ですか?」

「ん?音楽か」

都は笑みを浮かべつつこう答えた

「民謡だな、串本節や東京音頭とか有名だぞ」

民謡ね……。

「私も民謡好きだけどフリージャズが好きよ」

お!ジャズが分かるB中隊中隊長

ジャズの魅力が分かってるね

「大倉大尉はジャズが好きなんですか?」

「ええ、貴方と気が合いそうね」

と鈴乃は俺に向け笑みを浮かべる

「じゃあ今度機会あれば一緒に演奏して貰えませんか?」

「溜口で良いわよ、豊臣少尉」

優しい笑みを浮かべる鈴乃

その笑顔、守りたいぜ

「貴様は私とその中隊にいる衛士達の模擬戦相手する機会が増えると思う」

「明日は模擬戦ですか?大尉」

「そう、貴様がどれだけ戦術機を扱えるか確かめてやるから覚悟しておけよ」

と都は俺にウインクする

早速、模擬戦か……話が出来過ぎてるぜ

まさかと思うが…いや今は考えるな

明日の備えて早めに食事を済ませそのまま部屋に向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に入りベッドに寝転んで布団を被り寝ようとしたが、誰かがドアがノックする

「豊臣、少しいいかしら?」

「ああ、どうぞ」

鈴乃が俺の部屋に入ってきた

ベッドに座りそのまま俺の顔をじっと見る

「明日、模擬戦だけど大丈夫?」

ん?心配してくれたのか

気遣いは結構だぜ

でも鈴乃と一緒にいると何故か落ち着く

「坂崎大尉、貴方は彼女と初めて会った印象聞かせて貰える?」

「最初の印象…ですか」

「溜口でいいわよ。2人きりだし」

最初会った印象か……本当の事言ったら怒る…訳ないよな

ここは正直に話そう

「中隊長としては誰もが慕われる母性溢れている女性だな」

「中隊長として……ね。個人としては?」

俺が初めて会った時、人の温かさや優しさを感じた

恋に落ちそうだった

「優しい女性だ」

「それだけ?」

「将来、お母さんとかなってそうだな」

鈴乃は俺の顔を近づき囁いた

「豊臣の両親はどんな人だったの?お母さん、お父さんとか」

両親か

親父は企業立ち上げ失敗し精神が病み自殺、お袋は俺を捨て他の男と駆け落ちしやがった

姉はいるが、家族としての愛情はないと等しい

だがこの世界にいる俺の両親は別だ

「親父は、欺衛軍の将校だったが軍資金を横領し更迭された。お袋も一昔は欺衛軍の衛士だったが九州でBETAに食われてそのままミートソースになっちまった」

「欺衛軍……貴方は」

「ああ、一般武家の衛士だ。豊臣秀吉って武将は学校の教科書で見た事あるだろ」

「……そうだったのね」

鈴乃は俺のベッドに寝転がりいきなりくっつきだした

「……おいおい、自分の部屋で寝ようぜ」

「私と一緒に寝なさい、これは中隊長命令だ」

職権乱用にも程があるだろ

まぁ、嬉しいが……。

鈴乃は目を瞑りながら俺を抱き締めつつその豊満な胸で背中に当て眠りについた

「おいおい、嘘だろ…(胸が背中に当たってる、ここは無視すべきか。それとも襲うか)」

もう訳が分からねぇ

ここは積極的に……。俺は鈴乃の手を優しく触れる

眠れねぇよ

「(大倉大尉、アンタも辛い思いしたんだろうな。ここにいる衛士達も)」

眠れないと言いつつ俺は鈴乃と一緒に眠っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1998年9月2日

 

佐渡基地内での戦術機でのA中隊とB中隊の交流模擬戦が行われていた

強化装備を身にまとった俺は撃震の管制ユニットでテープレコーダーを持ち込み落とさないようにガムテープで機器の上に貼り付ける

皆、真剣なんだ

《豊臣少尉、撃震の乗り心地はどうだ?欺衛が運用している瑞鶴みたいに動かしてもいいんだぞ》

「……模擬戦の真っ最中に音楽が流れたら大尉はどう対処するのですか?」

《ん?戦場に音楽を持ち込むのか。いい度胸だな貴様は》

都も本気だろうな、まさに歴戦の衛士みたいにきりっとした表情している。

負けられねぇ……ガンダムがなくたって俺はやれるんだ

《ルールは簡単だ、A中隊とB中隊は12機ずつ合戦しどちらか1人残れば勝ちだ》

《では始めて宜しいですか?坂崎大尉》

《貴様らも聞いたな?》

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《それでは始め!》

都の掛け声の合図で模擬戦は始まった

そして双方12機は噴射跳躍

互いにじりじりと攻めてきやがる

俺も突撃砲でA中隊の機体1機をペイント弾にぶつける

残り11機

《うあ!》

「フン、動きが遅いんじゃ的になるだけだぜ!」

鈴乃が乗る撃震が俺に近づく

《貴様、前へ出過ぎだ!距離を取れ》

分かってる。分かってるよ!そんな事

《来るわよ》

A中隊の機体が跳躍しながらペイント弾を放つ

「!」

俺は回避行動しペイント弾をただひたすら撃つ

《あ!》

《ひゃあん!》

3機撃破だ

残り9機

《中隊長!》

《止まるな!先に進んで撃つのみだ!》

《え?》

B中隊の12機のうち1機が脱落

A中隊残機9機

B中隊残機11機

よそ見してる場合じゃない

俺はひたすらペイント弾を撃ち尽くす

《中隊長!うあ!》

残り8機

ペイント弾の残弾が0になり背部兵装担架に収納してる突撃砲を握り構え乱れ撃ちで発砲

残り5機

鈴乃も続けてペイント弾で発砲

ひたすら撃つだけ

《ぎゃ!》

《うあ!》

残り3機

しかし、快調するのもここまでであり都機がB中隊の機体を次々とペイント弾で放つ

B中隊の残機は3機になってしまった

激しい攻防戦だ

俺は守りに入り鈴乃機を護衛

しかし別死角からA中隊の1機が鈴乃機に当てる

《ごめんなさい、あとは頼んだわ》

「(これが帝国軍のA中隊中隊長の実力か、だがな……)」

俺は別死角にいる機体に跳躍ユニットを噴射し最大全速で発砲し2機を脱落させる

残るのは……?

《ほぅ、なかなかやるな豊臣。貴様の実力どれ程強いか確かめさせて貰う!》

「望むところだ……」

俺は突撃砲でペイント弾を放つが、当てられない

ペイント弾の残弾が0になり突撃砲を都機に投げ棄てナイフを握り構える

カセットテープの電源を入れ、ジャズを流しつつナイフで都機に向け切りかかる

躱されるが執念の如く俺はナイフを振り回しつつ都機の動きを読み高揚感を上げながら切り込んだ

「流石、A中隊の中隊長だな。動きが素早い……良い盛り上がりだ、ジャズが聴こえたらお前の最後だ」

《戦場で音楽を持ち込むなど言語道断だ!》

突如、都機は急速で俺に近づき背部兵装担架に収納している突撃砲を含め2つ同時に発砲する

その砲撃を躱しナイフでただ切り込むが、都機は突撃砲を投げ棄て俺が乗ってる機体の頭部に当てた

「くっ……!」

ナイフを投げもう一つ握り構えてる突撃砲で発砲

これも躱しつつ都機に急接近し管制ユニットに突きつける

「至近距離詰めれば幾ら中隊指揮官であるお前には対処出来ないな」

《そうかな?》

な!?此奴…いつの間に突撃砲で管制ユニットに向けたんだ!?

《残念だったな、貴様の負けだ》

「ぐっ…(クソ、やられた!こんなあっさりと…)」

《模擬戦闘はそこまでだ、元の配置に戻れ!》

俺の完敗だ。

さて、どうやったら勝てるか早速部屋に戻って研究しないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

模擬戦が終わり、更衣室で強化装備を脱ぎBDU(戦闘服)に着替えた後食堂に向かうが都と鈴乃と遭遇する

都はジト目で得意げそうな笑みを浮かべている

自分が勝ったから自慢しに来たのか?

女に負けるなんて情けねぇ…。

「自分の実力を思い知ったか?豊臣」

「あぁ、坂崎大尉には敵いませんよ」

操縦技術は義足野郎と同じ強さなのか?

「お手本見せないと中隊長としての面子が汚れるからな、で?もう一度私とやり合おうと考えているのか?」

思考読めてたのか!

図星突かれた……。

「図星……だな?」

「……もう一度戦いたいです」

「はぁ…」

都は俺の返答を聞いて呆れ顔になりつつ溜息を吐いた

「貴様が考えてることよくわかった。ではこうしよう、1対1での個人的な訓練なら相手になってやる」

都は義足野郎と同じ強さを秘めている

何か対策を捻らねぇとな……とはいっても俺は戦場で音楽を持ち込む一衛士だ。

当然答えは決まってる

「ありがとうございます大尉」

鈴乃は少し苦い笑みを浮かび俺の心配をする

「豊臣君、無理にやらなくてもいいのよ」

「大倉大尉も豊臣少尉とそこまで仲を深めたのか?」

都は鈴乃を揶揄いにやりと笑みを浮かべる

「え?違いますよ!私はただ豊臣少尉と一緒にいると」

「一緒にいると?」

「落ち着くんです……昨夜は豊臣少尉の部屋で一緒に寝ました」

ちょ、待ってくれ!

何を言い出すんだ……おい

勘弁してくれ

「大倉大尉」

「何かしら?」

俺の顔をじっと見つつ笑みを浮かべる

「今日は自分の部屋で寝てください」

「何故?」

「そりゃ、まぁ中隊の士気が下がるだろうし隊員の皆が誤解されるじゃないですか」

あんな女が中隊長だなんて、ある意味凄いぜ

「……佐渡基地内での公認カップルと認定するぞ?」

「やめてください坂崎大尉まで……」

「そう照れるな、貴様はB中隊の中隊長、大倉鈴乃大尉の事が好きになったのだろ?なに、隠すことなんてないぞ。堂々と付き合っていますとアピールしたらどうだ?」

確かに、鈴乃は優しき音楽の趣味が合う女性だが、そこまで発展してねぇよ

頭が痛くなるぜ、これは……。

「ここに来てから2日経ったが、坂崎大尉、アンタと出会って良かったと思う。だから明日案内してくれないか?佐渡島の…」

「構わないぞ、貴様が満足するまで案内してやろう」

まぁ、外に出ないよりはマシだな

これから街に行って出かける機会が増えると思う。

こんな世界で平和に長閑な生活を送ってる人はいるんだ。

目に焼き付けねぇとな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1998年9月3日

 

俺は街の風景を眺めつつ私服姿の都と一緒に手繋ぎで歩いていた

その日は偶々休暇だった事により街等の風景を見ることはできた

正直、都と一緒に街散策するのは嬉しかった。

俺は都の顔をじっと見ながら歩く

「どうした?私の顔を見て」

「あ、いや…何でもないです」

下心を出すな俺

何を考えてやがるんだ……。

「坂崎大尉」

「?」

「……」

……。

「何だ、唐突に……さては疚しい事でもあるだろ?」

「ない!ないです!」

言え!ハッキリ言うんだ俺

「坂崎大尉……俺は…」

「都で構わない。それに今日は休暇だ、下の名前で呼んでいいぞ。但し仕事とプライベートは分けて置けよ」

「ああ、都…俺はアンタの事が好きだ。でも恋人としての関係ではないってことは分かっている。アンタと一緒についていく!俺は強くなりたいんだ」

俺は都の顔を見てハッキリ自分が思ったことを言った。

「強くなりたいか……」

そう言って都は手繋ぎをやめて突如俺を抱き締めた

「!」

「なら私に頼るといい」

え?いきなり抱き締められたぞ

しみったれな恋愛ドラマかよ

「遠慮はするな、貴様は両親に愛情を注がれた事はないだろ?大倉大尉から全部聞いた」

あの女……!

べらべらと喋りやがって……まぁいいさ、こんなことで落ち込んでる場合じゃない

「家に行くか?」

「?」

家?都の家にか!?

これはチャンスだ

「ああ、じゃあお言葉に甘えさせて貰うぜ」

「良い返答だ」

都の誘いに断る訳がない

ただついていくのみだ

女性からの誘いは断らないんだ俺は

2人きりか……少し変な妄想してしまったぜ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、俺と都は都の家に着き中に入った

「お邪魔するぜ」

「さぁ、中に入って」

家の中に入ったもののリビングに見慣れた人物がいた

「何でお前がここに来てんだよ」

鈴乃だ

「先にお邪魔してまーす」

「豊臣、貴様と私が2人きりの世界になれると思ったか?」

少し落ち込んだ

期待した俺が馬鹿だった……。

俺はソファーに座り鈴乃が事前に注いだコーヒーを口につけ啜り飲む

「アメリカンコーヒーだな」

「キリマンジャロよ」

鈴乃は即答する

「同じだろーが」

「匂いと香りが全然違うのよ」

「鈴乃はコーヒーに詳しいんだな」

「ええ、子供の時はバリスタになりたいからコーヒーの銘柄とか色々調べたわ」

鈴乃の夢はバリスタになりたかったのか。

都も続いてコーヒーを啜り飲む

「これはエメラルドマウンテンだな」

「正解よ」

和やかな雰囲気だな

「2人はまさかと思いますが…」

まさかと思うがそんな訳ないよな

「同性カップル……ですか?」

都と鈴乃は頬を赤らめ照れつつ否定する

「な、何を言ってるんだ貴様は!そんな訳ないだろ!」

「そ、そうよ!私と都はあくまでも一衛士として振る舞ってるから、ね?」

いやいやいやいやいや、お前らデキてるだろ!?

「お前らデキてるだろ?否定するってことは」

都と鈴乃は俺の顔に向け拳を振るった

「ぐぼ!」

「違うぞ、豊臣。私達はあくまでも一衛士だ」

鈴乃は「うんうん」と頷く

「罰として明日は私と鍛錬に付き合って貰うぞ」

白兵戦……か?

面白い、受けて立つぜ

俺は「了解しました」と一言を添い小さな笑みを浮かべる

俺はソファーから離れ明日に備えて早く自分の家に戻ろうとするが都に呼び止められる

「豊臣、今日は泊っていけ」

「え?そんな悪いって…」

「……お前は私の仲間の一人だ」

仲間……仲間か。

今までそんなのいなかったな。

俺は再びソファーに座り都と鈴乃が俺をサンドイッチみたいに挟む込むように座り込んだ

「(おいおい、板挟みかよ……)」

「少し暗い話になるが、お前は…いや私達が何故BETAと戦い抗ってるかその意味は分かるか?」

人類一つに団結し立ち向かっている

簡単な答えだが……俺は考え込んだ

「分からない。でも東ドイツシュタージのベアトリクスって女傑は『人類は必ずしも一つにはならない』と断言してたぜ。その言葉通り一つにはなれない……彼女が言ったことは間違ってるのかと俺は思ってるよ」

「ふむ、成る程。人類は必ずしも一つにはなれない………か」

都は俺の手を触れ少し笑みを浮かべながら言い放つ

「いいか?そのベアトリクスって女が言ってたことが全部正しいとしたらそれは思い込みだ。彼女の行動からにより今までやってきたことを正当化するなぞ外道と同じだ。が、不必要な粛清はしなかった。ベアトリクスは本当の生きる価値がない外道を探り葬ったんだ」

拷問ソムリエかよ……ある意味怖い女だな、ベアトリクスは

「人の死を今まで見てきた彼女はこの時点で普通の女性ではなくなった。元々ブレーメ家のお嬢様だったからかスポンサーが沢山いたらしい。人の優しさを持つ女とは思えないな……」

ベアトリクスならあり得る事だな

東ドイツの国営企業だけでなく御剣財閥から支援されたって話がある

恐らく賄賂受け取ったんだろうな……。

「人間の命は尊い、人の心と優しさを持ち逆境を超えて生きている。ソ連のスパイの一人が国を乗っ取り政権を掌握。当時、シュタージはシュタージ政権として恐怖政治をし無実な人々を粛清しまくって核を受け取り既に陥落されたポーランドに落とそうと画策したんだ。ベアトリクスはそれを良しとせずそのスパイを粛清した」

あんな状況だったら人の優しさとか失うのも無理はないな。

本を読んでみたが、酷い有様だった。

「心と優しさを失っても何かきっかけがあれば取り戻せる。感情だけで動いたら無意味だ」

「俺も…彼女と同じ道へ辿るのか?」

俺はポツリとこういったが都は優しい笑みでこう言った

「お前はお前だ、自分の道へ行っていいんだ。私はそう思ってるよ」

都……そうか、都も自分はいつか死を追い詰めてまで戦い続けてたんだな。

何やってるんだ俺は……。

「ベアトリクスやアクスマンみたいにはなるな。破滅するぞ」

「都は優しい性格してるな、俺と違って周りの事何も考えず行動しない。いっその事付き合うか?」

俺は都に告白したが、都は笑みを崩さずこう言い返した。

「ありがとう、でも今は恋人として付き合えないよ」

振られた……?

「A中隊とB中隊の衛士全員……この佐渡島にいる衛士達はそれぞれの思いでBETAと戦っている。全て終わったら考える。それまでは私の音楽仲間だ」

「え?都、お前は確か民謡が好きだった筈じゃないのか」

振られた訳じゃないんだな……。

「豊臣の趣味に合わせようと努力している。ジャズの名盤教えてくれないか?」

都は俺の事を気にかけている

佐渡島にいる皆の事を思って自分が如何に正しいかそれを考えて行動している

母親みたいだ……。

「2人きりの空間で話すのもいいけど私がいる前でイチャイチャするのやめてくれない?」

鈴乃がいてた事忘れてた!

……少し嫉妬している、顔が怖い!笑ってるけど目が笑ってない!

「あぁ、すまない鈴乃」

少し疑問がある

何故、都と鈴乃と一緒にこの一軒家にいるのか

「なぁ、2人はここで共同生活してるのか?」

「ああ、そうだが……豊臣に言ってなかったな。お前がここにくる以前に鈴乃と共同生活していたんだ」

都と鈴乃が共同生活してたんだ……。

ん?”していたんだ”?

「お前もここに住むか?」

都は得意げある笑みを浮かべ俺を都と鈴乃が共同生活……所謂シェアハウスを入れようと誘い込んだ。

「頭が混乱する……何を考えてるんだ」

「3人一緒に住んでも問題ないだろ?」

確かに……男1人女2人だと取り合いにならないか?

俺は考えた

待てよ、ここにいたら都の弱点とか探れるかもしれない

同時に鈴乃の弱点も探れる

俺はこう返答する

「分かった、俺はここに住むよ。でもいいのか?女同士の家に男1人寝転んでも…」

「私が良いと言ったら良いんだ。一部屋空いてるからそこに入るといい」

「感謝する……という訳で改めて宜しく頼むぜ!都、鈴乃」

こうして3人共同の生活を始めていった。




登場人物紹介

坂崎都
日本帝国軍佐渡基地司令部第三戦術予備部隊A中隊中隊指揮官。
階級は大尉
包容力と母性ある女性で「頼れる母さん」と言われるほどの別嬪である。
乗機は撃震
好きな音楽ジャンルは民謡、ジャズ(悠一の趣味を合わせる為だったが、後に好きな音楽ジャンルとなった)

大倉鈴乃
日本帝国軍佐渡基地司令部第三戦術予備部隊B中隊中隊指揮官。
階級は大尉
都と同じく包容力と母性ある女性で別嬪である。
乗機は撃震→不知火→?
普段は真面目に勤務態度を取る模範的な女性衛士だがプライベートでは少し甘えん坊な一面がある。
好きな音楽ジャンルは民謡、オールディーズ、ジャズ

駒木咲代子
日本帝国軍佐渡基地司令部第三戦術予備部隊A中隊に配属された女性衛士
階級は少尉(後に中尉に昇格し帝国本土防衛軍帝都防衛第1師団・第1戦術機甲連隊に所属される)
常に眼鏡をかけてる生真面目で模範的な勤務態度を取るが少し抜けてるところがある
乗機は撃震→不知火
好きな音楽ジャンルは民謡、歌謡、ポップス、R&B、クラシック





次回のお楽しみに!


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AとB

1998年9月4日

日本帝国佐渡島

佐渡基地 某演習場

 

俺が佐渡島に左遷されてから4日が経ち、今日は基地内の演習場で個人的な鍛錬を行おうとしている

戦術機同士の戦闘……対人戦だ。

撃震の整備は良好だ

都が通信越しで俺にこう告げる

《緊張するか?そう難くはなるな、慣れればいいだけだ》

モニターに映る都は凛とした表情だ。

鈴乃も演習場にいるが整備兵用のヘッドセットで俺と都の様子を見つつ合図を送る

「坂崎大尉、そろそろ始めて宜しいですか?」

《始めてくれ》

「それでは双方、配置について訓練を開始してください」

操縦桿をぐっと握る俺は緊張しつつ汗垂らす

そして互いに配置につく

「戦闘を開始してください」

鈴乃の合図で双方の機体は跳躍ユニットを噴出し最大全速で駆け抜け互いの機体が突撃砲を握り構えペイント弾を放つ

両機体は回避

次の攻撃に備え距離を置きつつジグザグ飛行で突撃砲を構える

それにしても動きが堅いな

反応遅いしあれでBETAと戦えるのか?

「(案外楽勝と思いがちだが、相手はA中隊の中隊長……本気でやらないと勝てない)」

都機は突撃砲を構え地面に向けペイント弾を放つ

「地面に向けて撃っただと!?」

何を考えてやがる!?

「……成る程、地面に態と向けてまで撃って攪乱か」

飛行したまま突撃砲を構えペイント弾を都機に向け放った

避けられたか……!

再度突撃砲を構え都機に向け照準を合わせる

慎重に……慎重に

頭部に目掛けて放つ

《!》

当たった!

もう一度…今度は管制ユニットを狙い撃つ

しかし外れる

都機は俺に接近し突撃砲を構え管制ユニットを目掛けてペイント弾を放つ

当たりそうになるがギリギリのところで回避する

予備の突撃砲を構えながら乱れ撃ちし都機の左肩部分を当てる

そして最大全速で突撃砲を背部兵装担架に収納しナイフを握り構え攻め管制ユニットに刃を向ける

「今度こそ俺の勝ちだ!」

《…甘いな》

都機は刃を向けられてるにもかかわらず蹴りを入れる

俺は態勢を崩すが何とか持ち直し再度ナイフで都機に向け切りかかるが都機もナイフを握り構え素早い動きで管制ユニットに突きつけつつそれを受け止める

「くっ…!」

《どうした?貴様の実力はそんなものなのか!?》

言ってくれるぜ………。

距離を詰めながらナイフを握り振り回しつつ都機に向け攻撃を仕掛ける

だが当たらない……。

何度か攻撃仕掛けるが当たらない

鈴乃は不安を募りながら1対1の模擬戦を見守っている

どっちが勝つか、もう勝敗はついている。

「くっ、ここで退くかよ!」

悪足掻きで都機に向けナイフを握り構えながら叩き付ける……が

先手必勝で都機は管制ユニットに突き付ける

《……私の勝ちだな、でも一歩も退かなかった事は褒めてやろう。もう少し鍛錬すれば私を超える衛士となるかもしれない》

ああ、だからこそ強さを求めてBETAを倒すんだ

「そこまで!坂崎大尉お疲れ様です。豊臣もお疲れ様」

鈴乃は都と俺に労いの言葉をかけ笑みを浮かべる

こうして個人的な模擬戦は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更衣室で強化装備を脱ぎBDU(戦闘服)に着替えた俺は都が着替え終わるまで待ち続けていた

「ん?何だ、私が着替え終わるまで待っていたのか?」

都は更衣室から退室し着替え終わった後で俺に食堂を行くよう誘う

「食堂へ行こう、腹が減った」

俺は「はい」と一言を添え、都と一緒に食堂へ行き配給された食事を手にして空いたテーブルに座り込み食事を取り始めた

「今夜、一杯どうだ?」

「え?ああ、いいですよ」

「畏まらなくていい。一杯と言ってもスナックだがな」

スナック……ああ、客同士で話したりカラオケとか歌う場か。

「佐渡島の魅力を堪能するのは良いが、やっぱり衛士同士で話す場を設けるのも大事だな」

ほぅ、んじゃ少し付き合うか

「付き合うぜ、俺も色々言いたい事とか山ほどあるからな」

「どんな話なのか楽しみにしているよ」

食事を取り終えた後、早速都が行きつけのスナックバーに鈴乃も連れて行くことにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、俺は都の誘いで鈴乃を連れて行きつけの「ゆみ」という店名のスナックバーに到着し中に入り、都は店の責任者らしき女性に挨拶をする

40代の女性でかつては帝国軍で衛士を務めていたらしく重慶攻防戦に参加した経験がある

その女性は「ママ」と呼ばれる。

「あら、都ちゃんいらっしゃい」

「ママ、私の部下の豊臣悠一少尉だ」

スナックママは俺の顔をじっと見て妖艶な表情を浮かべる

「へぇ、良い男じゃない?」

「はは、初めまして…」

都は慣れた様子でスナックママと話し会話に浸り込む

鈴乃も会話を参加し、都の話を聞いて「うんうん」「そうだね」と一言を添え頷いた

俺は………会話が入れない

「ボトルキープした酒をくれないか」

スナックママは都の注文を聞き、カウンターの後ろの棚にあるずらりと並べられた酒瓶を一本手に取り盃を交わす

撃震と書かれた日本酒だ。

このスナックママが帝国軍の派遣部隊の衛士だったとは最初は誰も思わなかっただろう

「さあ、豊臣。飲んで楽しく話そう」

都は俺に向けニコニコと笑みを浮かびつつ盃を交わした

「おう、乾杯だ」

互いに乾杯し、盃に入ってる日本酒を飲み干す

「良い飲みっぷりだな」

「どうも」

スナックママはガラスのコップを2つ出し都と俺に日本酒を注ぐ

それを飲み干す

「おい豊臣、何でもいいから何か面白いのを話せ」

おいおい、もう酔っぱらったのか?

早過ぎるだろ……まだ2杯しか飲んでないぞ

「女の話でも構わないか?」

「女ぁ?お前に彼女の話するとはな……聞かせて貰えないか?」

都は俺に絡む

「……欺衛軍の崇宰恭子って女傑衛士は知ってるか?」

「あ?崇宰……あー、鬼姫と呼ばれる五摂家の衛士か。知ってるも何も日本全国誰でも知ってるから有名なお姫様だ。お・ひ・め・さ・ま」

恭子を御伽話に出てくるお姫様扱いするのか

……悪くはないな、事実上欺衛軍の女性は品性あるお嬢様ばかりだ。

「で?その恭子様がどうしたんだ。お前には関係ない話だろ」

いや、関係大ありなんだが……。

「実はお前も欺衛軍の衛士で帝国軍の衛士に扮したスパイだったりして?」

都はにやりと口元が浮かび俺の顔を見る

まさかバレたのか?

鈴乃も少し戸惑っている

「ははは、冗談だよ。冗談」

おいおい、驚かすなよ……。

「恭子様とお前、どういう仲なんだ?」

「ああ、そうだな……(上司と部下の関係と言ったら俺は欺衛軍の衛士とばらすようなもんじゃねぇか!)」

「何だ?言いたいことあるならハッキリ言ったらどうなんだ?」

俺の腕に都の胸が挟み込まれた

無理してスナックに行ってないか?

俺は少し頬を赤らめ照れた

「トムとジェリー」

「へ?」

「トムとジェリーみたいな関係だよ。恭子がトムで俺はジェリーだ」

ネズミを追いかける猫の話を例えてみた

こんなこと言うのもなんだが失礼極まりない

すまない恭子……。

「あはははは、崇宰家次期当主様が猫で例えたぞ!面白い話だな」

いや滑ってるぞ?

都がこんな顔見れたの初めてだ

優しい笑みを浮かべ泥酔状態の都は俺を抱き締める

「!」

「もうさ、一生佐渡島に住んで私と付き合わないか?」

え?

ちょ、昨日の言った事忘れてないか?

「え?おいおい、昨日の事忘れてないか?」

と言いつつも都は俺の耳に近づき囁く

「今夜私と付き合ってくれ。ここでは言えない話がある」

え?

これって……都は俺を部屋に入れて一緒に寝ようとしてるのか?

「それは、アレか?愛の営み…」

「何を想像してるかは想像つくが違うと思うぞ」

違うのか……。

「ほほぅ、私が恋しいのか?」

な……!

「ち、違うと思うぜ」

動揺しちまったよ

正直参ったぜ

「正直に言え、言ったら私と一緒に添い寝する権利を与えよう」

都は酔いながらキリっとこう言い放った。

「はは、では正直に言うぜ……」

腹を括るんだ!

言え

今の気持ちを都に伝えるんだ!

「都、俺はお前と一緒に寝たい!そして甘えても、良いか?」

あー、恥ずかしい

恥ずかしい台詞行ってしまった

「うむ、正直に気持ちを伝えたな、宜しい」

都は俺の頭を撫でる

「ホント、可愛いな」

何処がだ?

俺は元の世界にいたころの写真を見せる

その写真に写ってるのは俺と義足野郎だ

ガンプラ大会に参加し出場した記念に撮って貰ったものだ

その手にはMG1/100スケール フルアーマーガンダムとサイコ・ザクがある

「これは……」

「俺はこの世界の人間じゃない。これが俺の本当の顔だ都」

驚愕…としか言えないよな

こんな写真見せたところで誰が信じるんだ?

「ぷっ!」

都は写真を見て拭き笑った

「あはははははは、やっぱ面白い奴だな豊臣は」

え?受け入れてくれたのか

「どんな顔であろうと私は豊臣の事は好きだぞ。勿論仲間としてだ」

酔いながら誇らしげな笑みを浮かべる都は俺の顔を胸で埋めさせる

「!」

ちょ、これはどういう展開なんだよ!

でも温かい……母性が溢れてるぜ

「おーい、2人共。私がいる事忘れてない?」

「あら、お盛んね~」

鈴乃……せっかくいい雰囲気だったのに

「で?これが豊臣の本当の顔ね……」

鈴乃は俺が持ってる写真を眺めた

「ここに写ってるのは元の世界にいた俺の仲間だ。皆ガンプラが大好きで語り合っていた……フルアーマーガンダムはカッコよくて重装備で火力が半端ないって自慢げに語ってたよ」

「ガンダム……?もしかしてこれの事?」

鈴乃はスナックママから渡された新聞の記事の一面を見せる

そこに書いていたのは紛れもなく帝都であった京都の防衛戦で瑞鶴一個中隊…ファング中隊と共にフルアーマーガンダム1機でBETAを殲滅している場面だ

都は酔いが覚め、新聞の記事を見る

「ガンダムか……」

都は俺の顔を胸で埋めるのをやめ、新聞をじっと見る

「京都で謎の戦術機が飛んでBETAと戦ったのはガンダムと呼ばれる機体か……」

興味津々だな

「ふむ、成る程な」

ん?何がだ

都は俺の手を引っ張り店から出る

「ごめん帰る」

と一言を添え俺を連れ去っていった

「行っちゃった……(都、豊臣と一緒に私が知らないところで…)」

「みたいね~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、都は俺を連れて行った場所は金北山にあるシェルターの一つだ

「ここは……」

「万が一の為にシェルターがある。ここを入ればBETAによって住民に被害遭う心配はない」

シェルターか……ここに逃げ込めば助かるって訳か?

都はシェルターの扉を開き中へ入る

「どうした、入らないのか?」

「あ、ああ……」

中へ入ると、そこには何もない

ただ広いスペースがあるだけだ

それにいつ崩れてくるかわからないシェルターに住民をここに避難させるのか

「中、広いんだな」

「豊臣、鈴乃には言えないがお前だけに話したい事がある」

都は俺の顔を見て真剣な表情で話しかける

「……お前は人が亡くなった時、悲しんだことはあるか?」

「え?何を言って…」

「……」

口籠った……言わせるな、か。

「あるさ、ただ実の両親が亡くなった時は全然悲しくなかった。俺、おかしいよな……戦場で燥ぎ戦って…」

「お前の両親は酷い事したのか」

「両親だけじゃねぇ、姉さんもだ。姉さんは俺の事、家族として俺が死ぬまで接することはなかった」

嘘じゃない……俺の姉さんは家族として振る舞わなかった。

都は俺の手を握る

「手が震えているな」

俺の手を擦って優しく触れる

「……」

隙間風が入り体が寒気を感じる

「よし、少しは温まってきたな」

ここには誰も来ない

今は2人きりだ

都は突然上着を脱ぎ服を捲り上げ白い下着を露にしその豊満な胸を俺に見せる

それを見た俺は興奮しドキッと心臓の音が鳴り出した。

「な……何で服を捲り上げるんだ、風邪引いちまうぞ」

「そう言ってるが、あそこの方は正直すぎるぞ」

都の視線に俺の何かが勃起しているのを見られた

「こ、これは…その…」

「嘘は通用しないぞ、私が解消してやろう。そうすればお前は満足を得るだろ?」

都は俺の下半身に顔を近づけズボンを脱がせ俺の欲求不満を解消していった

その後の事は………言いたくねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1998年9月5日

朝を迎え、シェルター内に俺と都はここで寝てた

漸く2人は起きるが、お互い揃って寝不足

あんだけ激しくやったらな……まぁ、いい経験になったぜ

「……」

そうだよな、俺は都を抱いて互いの体を絡み合った

温かった

優しく包み込むように

「ん……早く基地に行かねばな」

都はそう言って優しい笑みを浮かべながら俺の手を繋いだ

「……出会ってからまだ5日だが、一気に距離を詰めたな」

そうだな

恭子の事は忘れて都と一緒に幸せな生活するのも悪くないな

……そうなると、斯衛軍を抜けるしかない。

「もう一度告白していいか?」

「何だ?」

「こんなに距離詰めて俺にここまで接してくれたのはお前が初めてだ」

ホントだぜ

こんなに接してくれたのが

「そうだったんだな、私が初めての相手……か」

そういうと都は俺の手をぎゅっと握りつつ歩き始めた

「ほら、遅れるぞ」

「ああ」

安堵な表情を浮かびつつ、急いで基地へ向かい走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2時間後、基地へ到着した俺と都は門の前に立ってる警備兵に身分証明証を見せてから中に入る

中に入った途端、資料室に向かってる鈴乃に遭遇した

「おはようございます、坂崎大尉。豊臣少尉も」

「おはよう大倉大尉、何か異常は?」

都は鈴乃に敬礼する

俺も同時に

「ありません。坂崎大尉、昨夜は自宅に帰らず何処にいてたのですか?」

「昨夜豊臣少尉と少し付き合ってな。野宿したよ」

鈴乃は俺の顔を見て黒い笑みを浮かべる

「あら、そうだったのですね」

鈴乃は俺の顔に近づき真顔で口調を変え誰もが驚愕するような発言を放った

「貴様、坂崎都大尉と寝たのか?」

図星だ

何で分かったんだ……。

「寝てたんだな?」

俺は鈴乃の気迫ある表情を見てしまい、屈服し頷いた。

「坂崎大尉、豊臣少尉を少しお借りして宜しいでしょうか?」

「ん?構わないが」

「では失礼します」

鈴乃は俺の手を引っ張り連れて行かれた

連れて行かれた先は資料室ではなく倉庫だ

「な、何をするんだ?」

鈴乃は不敵な笑みを浮かべながら扉に鍵をかけ恍惚に言い放つ

「ふふふ、B中隊の長として貴方を指導しなければならない。教育の一つよ」

何処がだよ!

これじゃ拉致監禁と同じじゃねぇか

「まさか俺を殺すのか?」

「そんな物騒なことはしないわよ」

目が笑ってないぞ

何するつもりだ?

閉じ込めた空間でにやりと笑みを浮かぶ鈴乃は突如俺に抱き着いてきた

何が何だか分からない………。

「寂しい…」

ん?

涙……泣いてるのか。

「泣くこたぁねぇだろ……」

「都ばっかり……私を1人にしないで」

………。

いつもと違うから寂しい思いしてたんだな

「悪かったよ、お前を1人にさせてすまなかった」

鈴乃……構って欲しかったのか

俺は鈴乃の気持ちが分かっていないと悟り少し落ち込む

「仕事は真面目に励んでることは確かだ、それは認める。が、プライベートは出来るだけ…私に構ってほしいし…頼ってもいいのよ」

「なぁ、今やらなきゃならない事とかあるか?俺も手伝うぜ」

俺は問いかけ鈴乃は涙を拭い笑みを浮かべ優しく言い放つ

「今のところないわね、せっかくだから何か話さない?」

「んじゃ、部屋に行こうぜ」

「いや、ここで話しましょう」

倉庫の中でか?

おいおい、勘弁してくれ

誰か来たら誤解されるだろ

「誤解されるぞ」

「ふふ、いいのよ」

「新聞の記事に載ってたガンダムの話」

「ん、あぁ昨日スナックで見た記事ね」

「そう」

鈴乃は興味津々だ。

「あの機体はな、本来この世界に存在しない機体だ」

俺の因縁の相手は確か……マブラヴ世界かオルタ世界とか呼んでたな

回想で恭子が父親主催のジャズコンサートに行き偶然遭遇した義足野郎……徳川良平(後にダリル・ローレンツと偽名を名乗る)がファム、アネット、恭子、佳織とガンダムやサイコ・ザクについて語った時のことだ。

(ダリル君の…モビルスーツって、凄く重武装だけど扱いづらいわね)

(サイコ・ザクは四肢切断しないと動かせない機体ですよ、ファム大尉)

五摂家の女性の前だぞ、バラしちゃ駄目だろうが…と言っても恭子は知ってて知らないふりをする

(何で四肢切断しないと動かせないの?お姉さんは分からないわ)

そりゃあそうだろうな……別次元の機体だぞ?

ジャズの音色を響くホテルの大ホールの中で俺達は楽しく会話し続ける

(パイロットの四肢を義肢化しコックピットに接続することでモビルスーツをパイロットの身体の延長のように操縦することを可能にする「リユース・サイコ・デバイス」を搭載した実験機です)

ダリルは優しい笑みを浮かべつつファムに話しかける

(リユース……何かしら?)

(リユース・サイコ・デバイス……それはパイロットの脳が発する電気信号を、機体の駆動系に直接伝達させることで、パイロットの手足のように扱うことができる技術です)

ファムはそれを聞いて困惑した

まぁ当たり前だが、仮にこの世界でリユース・サイコ・デバイスみたいな技術を使い戦術機に搭載したら世界中から非難殺到するだろう

(俺が元の世界にいた頃は五体満足だった)

ダリルは急に暗い表情をしてゆっくりと口を動かし声を発する

(ある日、体が怠くて熱っぽいから念のために病院へ行くと精密検査され、医師からの診断では細菌性髄膜炎だった)

ダリルが放った言葉は一瞬に凍り付いた

(3日後、緊急入院する事になり、ICUで集中治療を施されてそれから15日間も意識失ったまま生死の間を彷徨った)

そんなことがあったのか……。

(何とか一命を取り留めて回復したが目が覚めた時は既に遅かった。両腕と両脚が真っ黒に変色し…)

(それで手足を切断したのね)

ファムはダリルの話を聞いて悲しげな表情になりハンカチで涙を拭いた

アネットもダリルの話を聞いて「可哀想に…」と涙を流しつつ悲しげな表情をした。

俺は現実を受け入れなかった

何を言えばいいか分からなかった

モビルスーツの小型熱核反応炉の本来の燃料は木星産ヘリウム3の事だが、どうもこの世界ではそんな物質は一切存在しない

どうやって運用するかって?それはG元素だ

BETAの落着ユニットの残骸から発見された未知の元素だ

それらを燃料として利用しビーム兵器のエネルギーにも変換される

つまりだそのG元素を利用することによってBETAといつでも戦える状態になる訳だ

(心中お察しするぜ)

(あー、それとお前、この世界でモビルスーツをどうやって製造する事が出来るのか?全く考えてないだろ)

確かにな…この時代で宇宙世紀の兵器を作るなんて無理がある

どうやって製造するんだ?

ケヤルガがそんな事出来る筈ねぇしな

彼奴は人間の顔、体、性格に形を改変する事しかできない

記憶を書き換えたり奪う事もある

出来るとしたらそれはパルテナみたいな女神様がやるレベルだろうよ

もしくは『異世界から持ち込んだ』と。

(まさかと思うがこの世界にモビルスーツ開発を携わった技術者とかこの世界に転生したら作れると思い込んでるのか?)

それはないと思うぜ

多分な

(仮にそうなればそれは運がいいだけの境遇だ)

運がいいだけの境遇か……。

回想終わり

「存在しない機体が京都で飛び回ってBETA群を殲滅した。これは紛れもない事実よ」

鈴乃は優しい笑みを浮かべる

「そうだな、早くこっから出ようぜ。憲兵来たら厄介事になるぞ」

「ああ、そうだったわね」

鈴乃は扉の鍵を開け倉庫から出る

何時間閉じ込められたんだろうか?

時間の感覚が狂って来たぜ

倉庫から出た俺と鈴乃は急いで資料室に向かうが、一人の男と遭遇する

「大倉大尉、何処にいてたんですか?」

「草野か?少しね…」

新兵だな……。

「A中隊とB中隊合同のブリーフィング見かけませんでしたが、一体何を?」

「頼りない部下を指導しただけだ」

嘘吐くなよ、さっき俺を抱き締めて「構って」と言ってたじゃないか。

草野という新人衛士はまだ佐渡島に赴任したばかりの男だ。

あー、A中隊の……初日に見かけた衛士か

全然覚えてねぇ……。

「豊臣少尉ですね、坂崎大尉から話は聞いています。不束者ですが宜しくお願いします」

草野は俺に話しかけ誇らしげな笑みを浮かべつつ敬礼した

「おう、宜しく頼むぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は何事もなく業務を終えたな……ブリーフィングに何故出なかったんだ!都に怒られたしな。

鈴乃が俺を倉庫に閉じ込めて2人でイチャイチャしたなんて言える訳がない

言ったら嫉妬すると思う

女の嫉妬は怖いからな……。

そんな帰り道で都と鈴乃が住むシェアハウスに向かってる途中に都が腕を組んだまま怒った顔していた

「倉庫の監視カメラ確認させて貰ったよ」

監視カメラ、まさか見られていたのか!?

「お前と鈴乃の2人が抱き締めてるのを見てしまったよ、どういう事か説明して貰おうか?」

これはマジで怒ってる

どうする?俺

何か言い訳考えないと……。

「……」

ダメだ、言い訳出来ねぇ!

「……豊臣、お前は私と鈴乃。どっちが好きなんだ?」

「!」

「……選べないとは言わせないぞ」

詰みだ……。

「ここでお前の事は結婚したいほど好きだ。と言えるわけないだろ」

……。

都は平静を装ったが、声は自分でも分かるほど上ずっていた。

「なら私以外の女と付き合うな」

「お前はそれでいいのか?俺の事が好きだって気持ちは確かに受け取った。これは認めざるを得ない」

「……」

俺は都の気持ちをはっきり答えようとしたが鈴乃と遭遇してしまった

「都、貴方も豊臣の事が好きなのね」

最悪だ……。

都と鈴乃は俺を巡って睨み付け凄まじい怒りが眉の辺りに這う

「……」

「都、提案があるけど良いかしら?」

鈴乃は都に耳に近づけ何かを言い出す

その提案とは……?

「ほぅ、面白い。望むところだ」

「期限は10日、それまでにどっちが相応しいか?競争よ」

悪魔的といえるかも知れない挑んだ表情を眼に浮かべ誇らしげな笑顔になる

「勝ったら豊臣の事は諦めて大人しく親友として振る舞う」

「ご心配なく、勝つのは私だから」

「鈴乃、お前…豊臣を奪おうとしてるのか!?」

は?

「お前が男誑かす奴だなんて正直思わなかったよ。草野も同じ事してるだろ」

「は?何言ってるのよ!そんな訳ないでしょ!B中隊の長がA中隊の一衛士を誑かすだなんて…酷いよ」

「失望したよ、もういい。鈴乃お前のことは嫌いだ!」

都は怒りを任せ鈴乃に向け嫌いと言い放った。

それを聞いた鈴乃は絶望的な表情になり悲しげな顔で泣き始めた

「私はただ、豊臣と楽しく話したかっただけなのに。何で…どうしてそんな事言うの!都もB中隊の衛士を手出ししてるんでしょ!」

「え?」

「都なんか大嫌い!」

おいおい、趣旨が変わってねぇか?

何でそうなるんだよ!

元の世界にいた頃の俺は好きな人はいたがあっさりと別れてしまった。

別れたと言っても一方的ではない、他の男と浮気していた

それが原因で別れた

この世界に来て、俺はモテ期が到来してしまったのか。

「おいお前ら、喧嘩はよせって」

「「豊臣は引っ込んでて!」」

俺が何か言おうとした時、都と鈴乃は目がきっとなる

「戦術機で勝負したらどうだ?」

「え?」

「それって……」

「ああ、個人戦だ」

その日以後、都と鈴乃は互いに接触を避けるように10日まで練習を励んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから5日が経ち、基地の演習場で都と鈴乃は撃震のモニター越しで睨み合い突撃砲を構える

草野はこの2人の姿を見て困惑したような目つきをした

「あの…坂崎大尉と大倉大尉の間に何かあったんですか?」

俺は白けた顔をする

「知らねぇ、けどよ。2人は今喧嘩してる」

「これでは中隊の士気が下がる一方では…」

草野が言ってることは一理ある

放置という訳にはいかないが気が済むまでやらせとくか

「……終わるまで好きにやらせとけばいい」

俺は分かっていた、都がどれだけ強いかを。

戦術機に乗る衛士としての腕は一級品だ

だが、心の弱さが何処かにある

この2人の個人戦の審判は草野が務める

「えぇと……これより個人戦を想定した模擬戦闘を開始します」

草野は合図を送り整備兵用のヘッドセットで大声をはっきりと出す

「それでは開始してください!」

2人の戦いが始まった

その動きを見た俺は2人が操縦する戦術機の速さを見て驚愕する

凄まじいぜ……互いにペイント弾を放つが当たらず躱すばかりだ

《大倉ぁぁぁぁぁ!》

《うおおおおおお!》

気迫ある声だ!

雄叫びながらペイント弾を次々と放っていく

「2人が喧嘩してる姿なんて見たくはないです」

御尤もだ

道理にかなうぜ、ホント

そう眺めてるうちに互いのペイント弾が切れ、ナイフを握り構え接戦を繰り広げる

互角に渡り合ってる……。

模擬戦闘を始まってから3時間が経過し機体がボロボロになってきた

《ぐ……》

都は疲労を隠せずまだ戦闘を続行しようとしている

これ以上はやめた方が良いと思った、そんな矢先に鈴乃機は疲労が溜まり動きが止まった都機にナイフで攻撃を仕掛け頭部に突き当てる

しかし、都は鈴乃の動きを読んでおり力を振り絞りナイフで攻撃仕掛けその刃先で管制ユニットに突き付ける

互いの機体の動きはここで止まり勝敗は付けた

草野は困惑し驚愕していた

「……引き分け」

引き分けだと!?

この模擬戦の結果を見た俺は都と鈴乃の腕は互角に渡り合って戦えると捉えた。

模擬戦は終了し都と鈴乃は機体から降り、悲しげな目つきを見せつつ抱き合った

「すまない、鈴乃。お前の事嫌いだなんて言って」

「ううん、私こそごめんね……酷い事言ってごめんね」

抱き合って号泣し始めた

草野の前でやるなよ…………。

「…まぁ、仲直りしてよかったですね」

「ああ、草野。ここに楽器とかねぇか?」

「楽器ですか?ピアノとかありますが何を使うのです?」

2人の笑顔が見たい、その為だったら俺はやり遂げる

「2人の笑顔がいつまでも絶やさないで欲しいんだ」

そうだ、2人の笑顔が好きなんだ

ここに来て良かったぜ

そして5日後、本土から来たある女性が佐渡島に赴任してきた

 




後半はグダグダになりましたが、個人的には『いいんじゃね?これ』と思っています。
さて次回は駒木咲代子が佐渡島に赴任してきます。
この先どうなるかは次回のお楽しみに


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駒木

1998年9月15日

帝都であった京都が陥落してから一か月

俺が佐渡島に左遷されてから15日の月日が流れ、佐渡基地の皆と仲良く接してきた

訓練、業務、プライベートの事等

2人の出会いで俺自身の心境が変わったかもしれない

今日、新しく赴任する衛士が来ると急いで基地に向かったがブリーフィングに遅れてしまった。

「わりぃ、遅れてしまった」

「気が緩んでるぞ!」

都は遅れてきた俺に向け呆れつつ怒りを抑えた

「ハッ、失礼しました!坂崎大尉」

「……今日、新しくここに入った衛士がいる。貴様は遅れてきたから後で紹介する」

「新しく入った衛士か……」

廊下を歩いていると、気になる部屋を見つけた。

音楽室と書いてある。

ぼやきながらも

「ドラムあっかな?」

そう考え、扉を開ける。すると、

「おお!!」

あった。奥に、ドラムがあったのだ。

他の大量の楽器はこれまで新潟基地に滞在していた将校から寄贈されたものが殆どだ。

「この世界に来てから全然ヤれてなかったからなぁ。」

そう言い、近くにあったドラムスティックを引き抜く。軽く色々なものを叩けば、いい音が鳴り響いた。

「スティックよし、楽器よし。オーディエンスとボーカルとドラム以外の楽器を鳴らす奴がいないのが残念だが、ヤるか!!」

そう言い、ドラムを軽快に叩く。曲は、ジャイアント・ステップスだ。

己の音楽の世界へ入り、気が付いたら、顔から汗を滴らせるほど、ヒートアップしていた。

「さて。次はどんな曲を…………」

その時、パチパチパチパチ。と、拍手が聞こえてきた。

「あ?」

気が付くと、音楽室の扉の近くにここに赴任してきた女性の姿があった

「凄い上手に演奏してますね、思わず聞き入っちゃいました」

「アンタは…」

「佐渡基地司令部第三戦術機予備部隊に配属しました駒木咲代子少尉です!」

駒木……まさかあの女が新入りか

俺がここに来てから15日だから、ここでは先輩だな

「豊臣悠一少尉だ、宜しくな!駒木少尉」

「はい!ところで貴方は京都防衛戦で」

ん?

「あ、いいえ。何でもありません、お気になさらずに」

駒木の手を握る。

駒木の表情は凛とした顔で常に冷静に振る舞っている

「アンタの他に入ってきた新入りはいるか?」

「はい、村田少尉と早乙女少尉です」

村田と早乙女か……。

「俺はB中隊に属している。駒木は……」

「A中隊です」

「んじゃ、模擬戦の時はアンタと戦って蹴散らしてやるぜ」

「はぁ…」

次の模擬戦楽しみだな~、都の率いる中隊に配属されたのなら軽々と戦える

俺は静かに、目に闘志を燃やした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、ブリーフィングルームにてB中隊衛士全員集合し、BETA戦闘においてハイヴ攻略について講義を行った

「総員、各員皆揃ってるな?これよりハイヴ攻略の講義を開始する」

鈴乃の号令で、ここにいる皆は椅子に座る

「貴様等、ノートと筆箱持ってきてるだろうな?重要な解説するから絶対に聞き逃すな」

可愛げある顔だが、やっぱ衛士としてとなると真面目だな

俺は好きだぜ

と思いながら俺はノートで鈴乃の講義を鉛筆で書く

「最初にHSSTがAL弾による軌道爆撃が行われAL弾は光線級が迎撃することにより重金属雲が展開する」

成る程な、メモしておこう

聞き逃さないよう耳を傾ける

「AL弾とは炸薬をオミットしその殆どを鉛を主成分とした…」

鈴乃はホワイトボードにAL弾について解説し始めた

「重金属で成型されており、AL弾はレーザー照射を受けると…」

鈴乃は光線級BETAがAL弾に向け照射してる絵を描き解説し続ける

「高熱で気化し重金属雲が発生させる。この雲にはレーザーを大きく減衰させる効果がある為、光線属種の能力を著しく低下させ、砲弾の着弾率を高めることが出来る」

俺は頷きながら講義内容をノートに書き続ける

「第一波軌道爆撃に対する光線属種の迎撃で重金属雲が戦闘濃度に達すると、ハイヴ周辺に展開した支援砲撃部隊が、光線属種の射程圏外からAL弾飽和攻撃を開始し、重金属雲が発生した後……」

ほぅ、要するに光線級に当たらずに攻撃仕掛けるのか?

今更だが、戦闘機が見かけないのはその為だったのか

「通常弾とAL弾を交互に切り替えながら、重金属雲濃度を維持しつつ…」

鈴乃はホワイトボードに描いた絵を消して別の絵を描きながら解説する

「地表構造物半径50km円内の光線属種を全滅を目的とした面制圧を行う」

講義を聴き続けているうちに睡魔が襲い掛かってきた

眠い…退屈だ。

鈴乃は俺が眠りに入ろうとした時、無心な顔で笑みを浮かべ溜息を吐く

「はぁ、ハイヴ攻略の講義は一旦中止して別の議題に入る」

と言って、鈴乃はホワイトボードに一枚の紙を貼った

「東ドイツ最強と謳われ光線級吶喊を主にした戦術を生み出した第666戦術機中隊シュヴァルツェスマーケン…そう666がいなければ光線級吶喊という戦法は生まれてはおらず各国にその戦術を広めることはなかった。そこで問題だ。救国の女神と謳われた東ドイツの女傑衛士は?豊臣答えろ」

一枚の紙に描かれているのは1人の女性衛士だ

日本人ではないことは確かだ

何処か才色兼備な部分がある

答えはアイリスディーナ・ベルンハルトだが、俺は寝ぼけて別の名前を答えてしまった

「え…と、リィズ・ホーエンシュタイン?」

「それ666に潜入した東ドイツ史上最低最悪な女性衛士ね。女性に生まれ変わって義兄に盲目な愛情を募りたいのか?貴様は」

本で読んだ筈なのに……間違ってしまった

「本題の講義に戻すぞ」

鈴乃はアイリスディーナの肖像画の紙をホワイトボートから剥がしそれをバインダーにしまい鞄に入れる

「…これらの支援砲撃部隊は、戦域データリンクによる統合運用を受け、HSST艦隊の軌道爆撃第二波と連携しつつ…」

睡魔がまた襲い掛かってくる

ダメだ、寝るな!

「光線属種のみならず、地表に展開するBETAハイヴから現れる増援を掃討し…」

鈴乃は一枚の紙をホワイトボードに貼る

撃震を主にした戦術機部隊が光線級BETAを殲滅している写真を貼る

「後続の戦術機部隊、戦車部隊の突入を支援する。これに前後してA-6J戦術歩行攻撃機が上陸地点へと進出し橋頭堡を確保する」

……。

「橋頭堡を確保した後LCAC等で上陸した部隊や…」

鈴乃は真面目な表情で解説し続ける

「戦術機部隊と交代する!この時点でA-6Jは弾薬が心許ない状況にあり、戦線を一旦離脱して補給する」

一撃離脱戦法って奴か

「また作戦の推移状況によっては再出撃もあり得るため、補給後も作戦終了まで即応態勢を続行する。面制圧によって地表のBETAの掃討が確認されると揚陸船団に搭載されている第一波攻撃隊が突入する。第一波攻撃隊は戦術機部隊で構成される。この部隊は制圧を免れた光線属種を撃破しつつ敵軍後方に進出する」

俺が睡魔に襲われ眠ってしまった、それを見た鈴乃は怒りを通り越し呆れた表情で言い放つ

「……またか、今日の講義はここまでだ。続きはまた日を改めて行う。総員解散!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の業務は無事終了

何のトラブルもなく平和な一日を過ごした

さてと、帰って何すっかな~。

都が俺の肩を抑えるように触れ呼び止める

「豊臣、この後飲みに行かないか?」

「おう、良いぜ」

誘いに断るわけないだろ

俺は少し安堵な表情になる

しかし、スナックバーへ行こうとしたが鈴乃にバッタリと遭遇する。

「豊臣、少し良いかしら?」

ん?

「鈴乃か…駒木の歓迎会開くぞ」

「駒木少尉の?」

鈴乃は意識的に口角を少し上げると、明らかに強張り不自然だった。

やはり諦めきれてないのか?

「大丈夫だ!駒木はまだここに来たばかりだから豊臣の事を好意抱くなんてあり得ないよ」

「あ、それもそうね」

と鈴乃は居心地のいい笑みを浮かんだ

おいおい、駒木に対して失礼だぞ?

最初の印象は眼鏡かけてる生真面目な女だからまだ分かんねぇ

案外、眼鏡かけてる本土の将校と付き合ってそうだな……真面に話せるかは不安を募る

「都、俺とカラオケしないか?」

俺は都にカラオケの誘いをする

「構わないぞ」

「狡い!都だけ私も入れてよ!」

鈴乃はふくれっ面になり子供みたいにごねる

「3人で歌おうぜ?それならいいだろ」

「駒木も参加させるか?」

と都は駒木をカラオケで歌わせようと俺に提案した。

「本人の意思なしで歌わせるのもな……」

「では本人に聞いてからにする」

楽しい会話が弾む中、駒木が俺達の後ろで話しかけた

「あ、お疲れ様です。坂崎中隊長に大倉中隊長。豊臣少尉」

真面目かよ

気が緩んでないんだよな……偶には気を緩んで楽しもうぜ?

「駒木の歓迎会開こうと坂崎大尉が提案してな」

そういうと駒木の表情が悩ましいまでに柔らかく女らしい表情を浮かびこう答えた

「私の歓迎会……ですか?」

「おう、行くか?」

「場所は」

「スナックバーだが、苦手なら他の場所へ行くぜ」

「是非行かせてください」

と駒木は誇らしげな笑みを浮かんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、俺含めて都と鈴乃は駒木を連れて行きつけの「ゆみ」という店名のスナックバーに到着し中に入り、都はスナックママに挨拶をする

「あら、都ちゃんいらっしゃい」

「ママ、私の部下の駒木咲代子少尉だ」

スナックママは駒木の顔をじっと見て妖艶な表情を浮かべる

「へぇ、良い別嬪さんじゃない?」

「初めまして」

と駒木は一言添えて挨拶し、椅子に座る

都は慣れた様子でスナックママと話し会話に浸り込む

鈴乃も会話を参加し、都の話を聞いて「うんうん」「そうだね」と一言を添え頷いた

俺は………相変わらず会話が入れない

「豊臣少尉はこういうの慣れていないのですか?」

「恥ずかしながら…あまりこういうところは行かないからな」

まぁ事実だし、最初行った時はすげぇ緊張したぜ

「ボトルキープした酒をくれないか」

スナックママは都の注文を聞き、カウンターの後ろの棚にあるずらりと並べられた酒瓶を一本手に取り盃を交わす

撃震や不知火と書かれた日本酒だ。

都は俺と駒木に絡む

「飲んで楽しく話そう」

都は俺と駒木に向けニコニコと笑みを浮かびつつ盃を交わした

「おう、乾杯だ」

「乾杯」

3人で乾杯し、盃に入ってる日本酒を飲み干す

「お?相変わらず良い飲みっぷりだな」

「どうも」

スナックママはガラスのコップを3つ出し都と駒木、俺に日本酒を注ぐ

それを飲み干す

「おい豊臣、何でもいいから何か面白いのを話せ」

おいおい、もう酔っぱらったのか?

早過ぎるだろ……まだ2杯しか飲んでないぞ

「そうだな……んじゃ、駒木!」

「あ、はい!」

俺は駒木に好きな音楽ジャンルを聞いた

「好きな音楽は何だ?」

「音楽ですか……」

まさか、民謡と答えるんじゃないだろうな?

「ポップスですね」

ダリルと同じ趣向の音楽だ。

「平凡で良いと思いますよ、優しい音楽が聴こえてくる……」

都は駒木に詰め寄り話しかける

「ポップスか?駒木は優しい性格してるな」

「そんな事ないですよ、中隊長」

都は駒木を絡み左腕で駒木の首を優しく包み込むように回した

「駒木、男性経験はあるか?」

唐突的に都は駒木に男性経験の話を持ち込んできた

駒木は困った顔のまま愛想笑いを浮かべた

「あ、ありませんよ、中隊長…」

「ホントにか?」

「えぇ、本当です」

俺は我ながら面白いくらい困った顔をした。

それからそれから、都は明るい笑顔で駒木と一緒にカラオケでデュエットした

歌ってる曲は『世界中の誰よりきっと』だ

ポップスだが、良い曲だ

好きな人とずっと一緒にいて世界中に敵回しても愛し続ける。

曲が終わり、次が歌う順番に回される

「豊臣も何か歌ったらどうかな?」

鈴乃が俺に何か歌わせようと嘆願する

「んじゃ、俺はこの曲で」

俺はフランク・シナトラのI've Got You Under My Skinを選びそれを歌った。

「ジャズか、カッコいい曲だな」

都は俺が歌ってる姿を見て褒めた。

「ホント、そうね」

鈴乃も優しい笑みを浮かべる

「豊臣少尉は陽気な方なんですね」

駒木も鈴乃と同様、優しい笑みを浮かべる

曲が終わり次は鈴乃が歌う番だ。

「私は良いかな」

「お前も一曲歌え」

「ん~そうね…この曲にするわ」

鈴乃が選んだ曲は『そばかす』だ

るろうに剣心か、良いセンスしてるじゃないか

俺は鈴乃の歌声に魅了し見惚れてしまった

こうして無事に駒木の歓迎会は終わり一日を過ごしていった




次回はA中隊(都、咲代子)とB中隊(鈴乃、悠一)のダブルス模擬戦闘です
お楽しみに


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A中隊vsB中隊

1998年9月16日

佐渡基地 某演習場

今回はダブルスでの模擬戦闘を行われる

対戦相手は都と駒木ペア対鈴乃と俺のペアだ

鈴乃と一緒に戦えるなんて少し、いや抱きしめたくなるほど嬉しいぜ

光栄だね、実に光栄だ。

だが、都が訓練始まる前に「聞いておきたい話があるからよく聞くように」と真顔で言い放ち、その場にいる4人は静聴する

「昨日、本土の岩国基地で謎の戦術機が墜落したと情報が入った。我が軍ではなく欺衛軍でもない海外の何処かで作られたか詳細不明の戦術機だ」

詳細不明の戦術機……この言葉に俺は何か引っかかった

「朝鮮半島南部は重武装を用いた戦術機、北部は一つ目の戦術機、そして岩国基地は恐らくだが地上戦を特化した戦術機だ」

南部と北部は、韓国と北朝鮮だ

俺とダリル以外に転生した奴がいる……誰なんだ?

俺はその”戦術機”の事が気になるから挙手した

「坂崎大尉、その謎の戦術機は…」

「ああ、帝国軍上層部も映像で何度も見た、無論欺衛軍の連中もだ。規格外の性能と未知の武装を搭載した謎の戦術機…この3機の事を”FG”、”PZ”、”A”だ」

フルアーマーガンダムとサイコ・ザクの事を言ってるのだろう

あとの1機、”A”ってなんだ?

A……アクアジム、な訳ないよな。

アンクシャ…違う

アビスガンダム?そんな訳がない

アルトロンガンダム……いやあり得ないな

アルヴァトーレ…んな訳あるか!

アリオスガンダム、アルケーガンダム……ないな、絶対にない!

GN粒子散布してみろ、戦術機のデータリンクがイカれちまうぞ

アカツキガンダム……違うな

ガンダムアシュタロン?絶対にない!

何なんだ、一体?

「幸い、”A”は帝国軍が管理することになった。国連の香月夕呼博士により国連軍に引き渡されそうになったがそれは上層部によって阻止した。これが現時点で判明した情報だ」

だろうな、でもどうやって阻止出来たんだ?

ダリルからは色々と話聞いたが、この香月夕呼って女はかなりの曲者で変わってるマッドサイエンティストの女性だ

あの女の事だ、ボロ雑巾になるまで乱暴に使い続けるだろう

用済みとなったら海に捨てる

洒落になってないぜ

「話はそれだけだ。さて、貴様等準備は出来てるだろうな?」

勿論だぜ!

「良かったな豊臣、大倉大尉とペア組めて嘸嬉しいだろ?」

都は誇らしげな笑みを浮かべて俺にこう言い放つ

鈴乃は俺の方に振り向き、その手を握った

「今日は宜しくお願いね」

「お、おう!絶対勝ち取ろうぜ」

99式衛士強化装備……現段階で試験的に着用してる強化装備だ

所謂試験用パイロットスーツだ

強化装備を身に纏ってる女性を見るのは慣れてきた

最初は鼻血を出してまで目を逸らすほどだったが、恭子と佳織、そして学徒兵のを沢山見てきたから慣れてしまった。

恥を捨ててまで戦場に駆ける……これが衛士なのか?

「では各員、機体に搭乗せよ!」

都の号令で、俺含め4人はそれぞれの機体に乗り込み訓練開始するまで待機する

審判は……おいおい、冗談だろ。村田がやるのかよ

彼奴は確か駒木と同じ時期に入った新兵だよな

新兵に審判やらせるか?逆だろ逆

都は村田に対しては一衛士として見てるだろうが駒木はどうだ?

A中隊にいるとはいえ、普通ではないような気がする

野心…いや自分の葛藤か

《緊張してるな?駒木》

《そ、そんなことありません!》

いやいや、緊張してるだろ?

顔が堅いぜ?

《初めてだからな、無理ないさ》

村田は訓練開始の合図を送る

「それでは始めてください!」

俺は撃震の管制ユニットにテープで張り付けてあるカセットレコーダーのスイッチを入れた。

すると、ハイテンポのトランペットソロから始まる、ジャズが流れた。

同時に跳躍ユニットを噴出し最大全速で都機に突っ込みつつ突撃砲を握り構えペイント弾を放つ

「どうだ?良い曲だろ、鈴…いや大倉大尉」

《ふふ、余裕持ってるな?脱落されないよう心掛けなさい》

「注文承りました~♪」

俺はそんな調子付いたような返事をして通信を切りフットペダルを踏み真っすぐ飛んでいく

《駒木、行くぞ!》

《了解です!》

駒木機も動き出す

突撃砲で俺が乗る撃震を照準に合わせペイント弾で狙い撃つ

だが、俺は躱す

「ほぅ、的確に射撃するとは…新兵とは思えない動きだ」

ジグザグ飛行で駒木機を目掛けてペイント弾で放つ

乱れ撃ちだ

《!》

左肩部に命中

「頂き!」

次は頭部に命中

実戦だったら困るだろうな…まぁ管制ユニットは後で撃ち抜かせて貰うぜ

駒木機も反撃に出る

《このぉぉっ!》

ペイント弾を放ち俺の機体に当てようと試みるが

フン、小心者のじゃじゃ馬娘め!

動きが速くて綿飴みたいに軽い!

俺は突撃砲を握り構えつつバレルロールで駒木機に向けペイント弾を放つ

《バレルロールで射撃…!?》

「油断禁物!大人しく脱落しやがれ!」

駒木機の管制ユニットに当てた

これで駒木は脱落だ

しかし……

鈴乃機が都機に押されてる

都機は鈴乃機に向けペイント弾を放った

躱し切れず、右脚部に当たってしまった

《くっ……!》

都機は鈴乃機に突撃砲の銃身を突きつける

そして当てる!

管制ユニットに……こんなあっさりと

《1対1となったな……》

「漸くってか?」

都と一騎打ち

今度こそ勝って見せるぜ!

俺は都機に向け突撃砲を握り構えペイント弾を放つ

連射、ひたすら連射

しかし都機はそれを躱す

躱す

躱す

躱し続ける

「!」

《どうした?貴様の実力はこの程度ではないだろ?》

挑発か

ダメだ、冷静になるんだ

冷静にだ

照準を合わせ都機の管制ユニットに向け連射

とにかく撃ちまくるが躱される

そして突撃砲を背部兵装担架に収納しナイフを握り構え接近戦に持ち掛け切りかかる

都機の頭部に直に当てた

「メインカメラが壊れたら、困るだろ」

《……この調子者が!》

「終わりだ……今度こそ勝った!」

都機の管制ユニットに当てた……が同時に俺の機体の管制ユニットにペイント弾が直撃

相討ち……引き分けか……。

「両者引き分けです!」

村田の合図で模擬戦は終了

双方とも、機体から降りて握手する

「ここまで上達したとは……豊臣、衛士の顔になったな」

都は小さな笑みを浮かべる

「え?そんなことないですよ」

と俺は焦りながら言い放った

「坂崎大尉と互角に並べるなんて、どんな魔法使ったの?」

鈴乃はクスっと笑みを浮かべつつ俺を揶揄う

「そんなんじゃねぇよ、俺は実力でやり合ったまでだ」

駒木は「そうなんですか」と一言を添え眼鏡をクイっと上げつつ真顔になる

「豊臣、後で私の部屋に来てくれ」

都からの誘いが来た

部屋って……まさかな

「ああ、分かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3時間後、俺は強化装備を脱ぎ野戦服に着替え都の部屋に向かい、廊下を歩いていた

廊下を歩くうちに都の部屋の扉の前に辿り着きノック3回しドアノブを捻り扉を開けるとベッドの上に座って寛いでる都の姿があった

「来たな、私の隣に座って構わないよ」

俺はベッドの腕に座ってる都の隣に寄り添いつつ座る

え!?

何で強化装備のままなんだよ!

積極的に、誘ってるのか?

「どうした?こんなの日常茶飯事だろ。恥を捨ててまで戦場を駆ける身分だ」

いやいやいやいやそういう意味じゃなくて、何で強化装備のままで部屋で寛いでるんだ!?

「……お前も既に慣れてる筈だ」

「まぁ確かにそうだけどよ……」

理解できないが都なりの接し方だろう

「今回の模擬戦だが、私と互角に渡り合えるほど上達したとはな。感心したぞ」

優しい笑みを浮かびつつ俺の頭を撫でる

その後、一旦立ち上がり妖艶な笑みを浮かびつつ部屋の扉の鍵を閉める

「この時間帯なら鈴乃や他の衛士達がここに来ることはない。佐渡島での戦闘シミュレーションや講義を行ってる」

大事な講義を放り捨ててまでこんな事していいのかよ……。

「で、俺に何をするつもりだ?」

都は妖艶な笑みを浮かんだまま俺に近づきベッドに押し倒した

「どうしたんだ?みや…いえ坂崎大尉らしくないぜ」

と苦笑いしつつ都の顔をじっと見る

「衛士も休息が必要だ、息抜きぐらいして構わないだろ?」

都はその手で強化装備の被膜を破ろうとするが俺は止める

「待ってくれ!俺の想い…」

「ん?構わないぞ」

今日は積極的だな、どうしたんだ?

深く考えない方が良いな

「俺は都の事が好きだ!でもそれは中隊の長として敬愛してる…」

「中隊の長としてではなく1人の女性として意識し私の事を好意抱いてる。そうだな?」

全部お見通しって訳かよ

「ああ、そうだ」

俺は即答し、都の顔を見つつ頬をそっと優しく触る

「都……」

「……いつでも良いぞ、準備は出来ている」

互いに目を瞑り唇を重ね舌を入れながら絡める

「ん…ぁ…ちゅ…」

「…はぁ……都…」

「ん、下の名前…呼んで、いいか」

俺は頷く

都は妖艶な笑みを浮かびつつ頬を赤らめる

「悠一……」

再度唇を重ね舌で絡める

激しく抱き締め合いながら腰に手を回す

「優しく、してくれ…」

俺は頷き強化装備の被膜を乳房が見えないように破る

「!」

肌が露出され都は体をくねくねと捻りつつ乳房が見えそうになると手で覆い隠す

俺はその手を払い除けようとする

「だ、だめ……」

「何でだ?こっちから誘って来たんだろ」

「……続きは家で…いや誰にもいないところ。シェルターや格納庫は?あそこなら夜は誰もいない。皆が寝静まってから……」

そういうと都は妖艶な笑みを浮かびつつ左腕で強化装備が破れ胸元が露出してるところを左腕で覆い隠しつつ右腕を上げ俺の頬を優しく触れ額にキスする

「あ、あぁ……都、俺のモノになってくれないか?幸せにさせてやる」

「いつかお前と一緒に過ごせる日が来るといいな」

都と一緒に暮らして、将来的には結婚しようと俺は考えてた

恭子の事を身を引いてまでだ

よくよく考えれば俺は欺衛軍には向いていない

向いてないんだ……けどよ。ほっとけない

ほっといたら半グレ集団の誰かが恭子を襲うか分からない

それでも俺は都の事が好きで結婚したい……と決意したがそれは後に叶わない事になるとは俺はまだ知らずにいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1998年9月17日

夜が明け朝を迎えた

俺はあれから夜更かししてまで都と激しい行為をし昇天させた後は都はぐったりと憔悴し寝込んでしまった

この時点で強化装備は胸元だけでなく腕、脚、尻、そして女性にとって大事な部分が露になっておりほぼ裸の状態だ。

白い液体が管制ユニットの操縦席にべたりと付いてる

俺は、やってしまったのか……都と

誰もいない格納庫で戦術機の管制ユニットの中で激しく、もっと激しく絡み合った。

鈴乃には言えねぇよな……。

「都と一つになっちまった……」

とポツリと呟く

都が目覚め、頬を赤らめながら照れ妖艶な笑みで俺の顔を見てこう言い放つ

「とよ、いや悠一……」

「都……俺の想い伝わったか」

都は妖艶な笑みのまま俺の顔を豊満な胸で埋めさせる

温かい……やっぱり俺は都の事が好きなんだ

「伝わったよ、うん、伝わったさ……」

俺の想いが伝わった

そうか、やったんだ。

都の心を鷲掴みしたんだ……

「今日は休むか?司令官に適当な理由で言い包めるよ」

休むって………業務はどうするんだよ。

「甘えてもいいんだ、昨日言った筈だが衛士は休息が必要な時もある。無理に励まなくていい」

「休み過ぎると体が鈍っちまうぜ?」

「ん?」

「それに、都が弱ってる姿なんて見たくないんだ」

まだアンタを超えたって訳じゃない

互角に渡り合えるほど強くなった

「ありがとう、悠一。私は嬉しいよ」

管制ユニットに放置してる誰かのジャケットを手に取りそれを羽織りジッパーで上まで閉める

「流石に脚は隠せないな……」

都はそう言って苦笑いする

「鈴乃の事が気にかけてるだろ?彼奴の行動パターンなら把握してるつもりだ。また不仲になるのは御免被るからな」

都は鈴乃の事を気にかけてるんだな

当然だ、都と鈴乃は衛士だ。

理解してるつもりだ

「元の持ち主には私が勝手に借用して着用したと言い包めるよ」

都は優しい笑みを浮かびながら胸元を強調しつつ腕組みをした

「あ、管制ユニットの中の掃除はしとけよ。整備兵に変な目で見られるからな」

そうだな……。

「都、俺はアンタに対する想いをぶつけてよかった。都はどう思ってるんだ?」

「ん、私も悠一の事が好きだ」

相思相愛

俺と都は運命共同体になったかもしれない

いやなったかもな

そう思っていた

佐渡島にBETAが襲来するまで



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ラインメイタル

1998年9月18日

佐渡基地 格納庫

 

佐渡基地に新たな装備品が届き、基地にいる整備兵や衛士はこの支援重火器を見て驚愕していた

「あれは…」

「西ドイツの戦術機武装だよな、何で佐渡基地に」

そう西ドイツの兵器メーカーの雄・ラインメイタル社によって実用化された戦術機用の支援重火器、ラインメイタル Mk-57中隊支援砲だ。

ドイツのMG3汎用機関銃をイメージしてデザインされた戦術機用の支援重火器。内陸部への侵攻時、BETA群に突入する戦術機部隊を支援するために開発された。

本来なら戦術機が携行する大口径支援砲は欧州各国軍の標準採用している装備である

散弾・多目的運搬砲弾も使用可能な57mm砲弾を最大120発/分で射撃可能な本砲は、要撃級、戦車級BETAの制圧に極めて有効であり、97年配備開始以降、打撃支援、砲撃支援用の兵装として定着し、日本帝国を始めとする数十ヶ国が導入を検討している……。

「届いたか」

都がそう言いつつ誇らしげな笑みを浮かべる

届いたってこの武装か?

「昨日、司令官に直談判してこの中隊支援砲を試験的に導入することが決定した」

しかし、すげぇ武装だな、戦車級何体駆逐出来るんだ?

「昨年は我が日本帝国軍に導入を検討していたのだが、まさかこんなに早く届くとはな…」

こんなに早く届いた?

どういう事だよ

「本来なら来年8月に届く予定だったが、裏で何かしらの事情があるんだろう」

「送り主は誰です?」

「西ドイツの将校ではないことは確かだ」

「西ドイツではなかったら……まさか!?」

1つ心当たりがある

こんなに早く届けるのは話が出来過ぎてる

政治的な事情がある筈だ

日本も……東欧州もだ。

「……送り主の名は、東欧州社会主義同盟総帥ベアトリクス・ブレーメだ」

何だと……?

俺は絶句した

何故東側であるベアトリクスが西側の戦術機武装を入手し日本の佐渡基地に送ったか

あり得ない…しかしこれは現実だ。

恐らく西側の連中を半ば脅して入手し佐渡基地に送ったのだろう

何て女だ……。

試されてるのか?

「試されてるだろうな……」

俺と都の会話に鈴乃が割り込む

「坂崎大尉、何があったのですか?」

「大倉大尉か、例の武装届いたのだが異常に届けるのが早過ぎた」

「話が出来過ぎてますよ、送り主は誰ですか?」

「ベアトリクス・ブレーメ総帥だ、何故西側である日本に中隊支援砲を送ったのか分からん」

だろうな……行動が読めないぜ

「佐渡基地に他国のスパイが紛れ込んでるというのは」

「この佐渡基地に忍び込んで何のメリットがある?佐渡島にポツンと佇んでる佐渡基地に何の情報を引き出そうとしてるか……ところで大倉大尉、ニュースは見たか?」

「夜のニュースですか?」

ん?

「カムチャッカ半島南部で東欧州社会主義同盟の連中が半ば強制的に租借したらしい」

租借?おい、それって占領してるんじゃないか。

「租借と言ってますけどこれは完全に占領してますね」

「そうとしか考えられん。でなければこの中隊支援砲を送る理由はなかっただろう」

これを撃震に装備させるのか……。

ダリル・ローレンツじゃあるまいし、スナイパーは俺には合わないんだよな。

「これは私が使う」

都は真顔で言い放つ

マジかよ、おい……。

「本気で言ってるのか?」

「私は本気だ、使える武器は存分に使わせて貰う」

本気で使うんだな………。

「大倉大尉のも用意しているぞ」

「え?」

鈴乃は少し驚愕した

そりゃそうだろう、欧州の戦術機武装が日本に届いたわけだからな

「私の、ですか?」

「嫌なら豊臣少尉が使わせる」

「あ、俺スナイパーとかは合わない性質でして…」

そう、俺はスナイパーには向いていない

ダリルと同じ土俵立つと意味するからだ

「駒木少尉に使って貰いましょう」

「駒木か、彼奴にはまだ早過ぎる。が試験的に使わせるのも丁度良い機会だな」

駒木がスナイパーとしての素質持ってるかはまだ未確定だ。

本人次第だな

「私がどうかしたのですか?」

駒木が俺の背後から都に話しかけてきた

「ああ、今日届いたんだ。欧州のな」

「……欧州?」

「駒木、扱えるか?」

駒木は考え込む

やはり無理に使わさなくてもいいんじゃないか?

「私にですか?ですがこの武装は確か帝国軍に導入を検討しているはずですよね?」

「佐渡基地に送られたかは別として、模擬戦で此奴を使うぞ」

模擬戦でか?試し撃ちするのも良い機会かもな

「但し、いつもの演習場ではない。佐渡海峡に向いてる防護壁だ」

防護壁……ああ、あのでっかい壁の事か。

となると……。

「その前にだ、駒木疲れてるだろ?」

都は駒木に問いかけ疲労が溜まっていると確認する

「いえ、私は」

都は駒木を抱き締め耳元に近づける

「中隊長!?」

「海に行かないか?」

「へ?」

海?海水浴場か。

子供の時以来だな

「えぇ!?」

「そう照れるな、偶には息抜きが必要だ。そうと決まれば今日は早退するぞ」

おいおい、早退って……明日にしようぜ

今日は業務だ

「早退ですか、承服出来ません」

だろうな、当然だが

表情が硬いぞ、駒木。

「駒木の言う通りだな、明日に行こうぜ」

「……駒木、あとで中隊長執務室に来るように」

「え?了解しました」

佐渡島にある海水浴場は外海府海岸だな。

景色は綺麗だろうな……偶には息抜きしようぜ駒木

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

都に呼び出された駒木は中隊長執務室へ入室した

「ここに呼んだ理由は分かるな?」

都はジト目で駒木をじっと見る

「分かりません」

駒木は困惑し真顔で言いつつソファーにかけて座る

「服選ぶ時、迷ったりしたりするだろ?」

「え?まぁ…そうですね」

「佐渡基地の整備兵に頼んで水着を調達したぞ」

何と事前に整備兵に頼んで水着を購入したと都は得意げな顔をしながら言った

「水着……ですか」

何故水着を……?

私を海に連れて行くつもりですか?

と駒木は心の中で呟いた

都はクローゼットを開け、そこに色んな種類の水着をテーブルの上に置いた

「何ですか?これは」

「何って、水着だろ」

駒木が一番注目したのは、黒のスリングショットだ

「中隊長、これは流石に……恥ずかしくて着れません」

駒木は眼鏡をクイっと上げつつ頬を赤らめ照れる

他にスクール水着、ニット調オフショルビキニ、タンキニ、ホルターネックフロント等が揃えていた

「さぁ、好きなの選べ」

駒木は悩む

「あ、序でに早乙女も誘うか」

駒木は緑色の水着を選んだ

「これにします」

「ん?そう来たか。では私はこれを着るぞ」

都は黒の水着を手に取った

「そうですか」

と駒木は無関心で発言する

都は駒木を少し揶揄い始めた

「駒木、ここに来てから佐渡島は慣れたか?」

「はい、ここにいる人達は皆親切で優しい人ばかりですね」

「で、我が中隊にいる草野少尉と僚機になれて心の底から嬉しい気持ちになって高揚感溢れてる…と」

「ち、違います!草野少尉はただ1人の衛士として接してるだけなので」

駒木は頬を赤らめ恥ずかしさを隠さず正直に言った

「ほぅ、それはどうかな?本当は『草野きゅん大好き♡もう抱きしめたいくらい大好き♡』だろ?」

都は悪戯っぽい笑みを浮かび駒木を揶揄う

「坂崎中隊長!いい加減にしてください」

「駒木は嘘吐くの下手だな。顔に書いているぞ?」

コンコンと扉がノックする音が聞こえ、誰かが「失礼します」と言ってから中隊長執務室に入る

草野だ

「坂崎中隊長、次の模擬戦闘についてですが…」

都と駒木は草野に対し睨み付けこう言い放つ

「「今は取り込み中だ(です)!!」」

「は、はい!失礼しました!!」

草野は少し怖気付き中隊長執務室から走り去っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は鈴乃がいる部屋におり、2人きりで明日の予定を決め水着を選ばせられた

何で俺が鈴乃の水着を選ぶんだよ

普通、女性同士が決めるもんだろ?

鈴乃が着そうな水着か……。

「どの水着を着ればいいか迷ってて…どれにするか」

1人で決めろよ!

だが、これは鈴乃が自分で買った水着だ

こんな大量に……夏はもう終わってるぞ

「これにすればいいんじゃないか?」

俺はシンプルな白い水着を選んだが、鈴乃は不服そうに不満な感情だ

「貴方ね……まぁ着れない事はないけど」

「どんなのがいいんだ?」

普通、店とか行ってゆっくりと選ぶのだがこの状況下だ。

水着を売ってる店は少なくなってきている

あれだけ荒らされたらな……海水浴場なんて行かないだろ

「そうね、魅力を引き出せるのが良いわね」

「魅力を引き出せるって……」

「全く豊臣は女心が分かってないわね……」

はいはい、俺は女心なんてわかりませんよ

……いや、分かってるつもりだ

「黒のセクシーな水着着ればいいんじゃないか?」

そういうと鈴乃は黒の水着を手に取った

「……このスケベ」

鈴乃は頬を赤らめ目線を逸らした

「誰がスケベだ!」

「本当は私をこれ着させてエッチな事考えてるでしょ?」

いやいや、そんな事は……しないとは言い切れないか

「ふふ、まぁ良いわ。これにするわ」

鈴乃はクスっと笑みを浮かべる

「何年ぶりだろう?高校の時以来ね」

高校……となるとまだ訓練生の頃か?

「そうだったんだな、鈴乃。でもよ、今でも可愛いと思うぜ」

俺は鈴乃に向けそう言うと、鈴乃は頬を赤らめ笑みを浮かびながら照れた

「私が、可愛いだなんて……都には敵わないよ」

「互角だな」

「……豊臣、そういう時は「お前が一番可愛いぜ」と言えばいいのよ」

成る程……心掛けておくか

しかし、本当に鈴乃は可愛くて美人だ。

都と互角に渡り合えるほど美しい

「なぁに?そんなに私を見つめて……もしかして、惚れたの?」

「まぁな……あ、そうだ!ジャズの名盤教えてやっからよ。良ければ聴くか?」

「はいはい誤魔化さないの、私分かってるから…」

何だ分かってたのか

今の俺の心境だと鈴乃に甘えたい

と言うか、甘える事自体が俺らしくねぇな……。

今日の業務は無事終えたことで明日に備え基地で寝る事にした

佐渡島だからBETAは来ないと言ったら楽観的な衛士と思われるからな

備えあれば患いなしだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1998年9月19日

城が浜海水浴場

 

「それ!」

バシャッと海水が跳ねる。

「わっ!やったなー!鈴乃」

 

俺達は海水浴に来ていた。

空は雲ひとつない快晴。その下には青々とした海

波のさざめきが人々の声でかき消される。

夏はとっくに終わってるのだが、色々忙しくてのんびりしていられなかっただろう

都達にとっては遅めの夏休みだ

「賑やかだな……」

「ねぇ、この後どうしよっか」

鈴乃は満面の笑みを浮かべ俺に問いかける

この後やりたい事、ビーチバレー、スイカ割り、砂遊び……数え上げたらキリがない。

時間は有限だ。遊べる事は今のうちに遊んでおきたい。

それにしてもナイスプロポーションだ

都は黒で攻めてきたか……で、鈴乃は黒のセクシー水着だ

「ああ、そうだな……」

「時間は沢山あるんだから今日はいっぱい楽しも?」

「そうだぞ、こんなの滅多にない機会だからな。な、駒木」

「はい……」

駒木は緑色のホルターネックフロント水着だ

早乙女も来てたのか

ハッ、何だその水着は……競技水着かよ

色は青、平凡なセンスだ

正直ガッカリだぜ

そう思いつつ俺は鈴乃につんと軽くおでこを突かれる。

「豊臣、思い出を沢山作ろう」

鈴乃がそう微笑みかけてくる。つられて俺も笑顔になる

こんな時間がいつまでも続けばいいのにな……。

そんな俺の思いは泡のように消え去り、遊び疲れた頃には夕日が見え始めていた。

「鈴乃」

そう呼びかけられた。なんだろうと振り返ると。

「それ!」

バシャッと海水が跳ねる。鈴乃は顔が海水で濡れ、髪からは水滴が滴り落ちる。

「わっ!やったなー!」

すかさず反撃。

「きゃっ」

都も負けずに反撃してくる。終わらない攻防が続く。

痺れを切らし都を捕まえようとする。

逃げる都。砂浜を子どものように走り回る。

そうして暫く走っていたら都が砂に足を取られた。

すかさず抱え起こそうとする。

だけど都はそのまま砂浜に体重をのせ、鈴乃の身体ごと地中に引きずり込む。

ぎゅっと抱き締められる。

「やっと捕まえたぞ」

「もう、逃げてたのは都でしょ」

俺は草野、村田と共に2人の様子をただ傍観し驚愕した

駒木もその様子を見て呆れ顔になる

「はぁ…」

お互い息は切れ切れだ。

周りの音なんて聞こえない。他の人の姿も目に入らない。

ただお互いの息遣いだけが聴こえる。

「……ねぇ、都」

沈黙に耐えかねたのか鈴乃が口を開く。

「?」

「今日は楽しかった?私はすっごく楽しかった。都と一日中遊べるなんて滅多にないから」

「私も凄く楽しかった。これも鈴乃のおかげだよ」

顔が綻ぶ。

「……良かった。都には今日だけでも使命?みたいなのを忘れて楽しんでほしかったから……」

あとと言葉を濁す。

「あと?」

「……あと、今日はその、駒木や早乙女ではなく私の事だけ考えてほしかった……っていうか」

鈴乃の声が消え入りそうだ。

おいおい、どうなってんだ?こりゃ

「鈴乃……」

愛おしさで胸が熱くなる。心臓が酷く痛い。

都の顔が赤く感じられるのは夕日のせいなのか。なら鈴乃もきっとそうだ。

「……そろそろ帰ろ」

ハッとなる。なんだか変な雰囲気になってしまった。

「そ、そうだな……」

「着替える前にシャワー浴びなきゃだね、いこ」

手を引かれる。2人は手を繋いだままシャワー室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕日が沈み、空が真っ黒になり俺は都と鈴乃に呼び出され3人で会話した

しかも水着姿のままだ

シャワー浴びて着替えたんじゃなかったのかよ?

替えの水着か……。

「今日は楽しかったか?」

「おう、そうだな……2人の水着姿見れて感服したぜ」

俺は正直な気持ちで2人に言った

「お前、そういう目で私と鈴乃を…」

「違う!ただ俺は美しすぎて見惚れてしまっただけだ!」

こればかりは本当だ

嘘じゃない

2人は突然俺の腕を掴み互いの胸で挟んだ

「そんな変態衛士はお仕置きしなければならないな……鈴乃」

「ええ、そうね。お仕置きって具体的に何するの?」

冗談じゃないぜ、2人で俺をサンドイッチにする気か!?

そう慌てて思いつつ俺の耳元に2人の口元に近づき囁き始めた

「今夜は寝かさないぞ」

「覚悟は出来てるわね?貴様のその性根を腐った気持ちを私達が正してあげる」

耳元でそう囁かれ俺は期待と不安で頭がいっぱいになる。

何するつもりだ?

おい、何だその妖艶な笑みは?

まさか……。

「私と都、どっちが好きなの?」

どっちが好きって……。

「俺は2人の事好きだぜ」

俺はこう言ったが都は不服そうな顔をする

「そういう意味ではなく、ほら将来結婚し一生添い遂げる相手は誰なんだ?」

そっちか!

「どっちが好きなの?」

「私と鈴乃…どっちが好きで結婚したいんだ?」

えええええええっ!!!?

待て待て待て、今結婚って言ってなかったか?

俺の聞き間違いだろうか

いや聞き間違ってねぇ

確かに結婚って聞いたぞ

落ち着け、落ち着くんだ

俺は本来なら欺衛軍の衛士だ。こういう時はどう対処する?

恭子みたいに話を聞き流して適当に返答するか

斑鳩少佐みたいに口説いてどちらかを選んで結婚前提に付き合うか

ダメだ!どれも実行できない

覚悟を決めろ俺、ハッキリと答えるんだ

「分かった!お前ら2人を養ってやるよ。一夫多妻になるが日本では一夫多妻婚は認められてない」

「一夫多妻制か……」

「婚姻出来ないが、事実婚状態で2人と付き合う事は可能だ」

俺が言ってることは滅茶苦茶だが、こう言うしかない

「確かに……って納得すると思ったのか?」

そうだよな……都が怒るのも無理はない

「頼むから1人だけ選んでくれ」

「豊臣は都の事が好きなの?」

鈴乃、お前……俺の気持ち分かっていたのか

「私は貴方の事は一親友として受け入れる。だから本当の事を言って…私、怒らないわ」

そうだよな……俺は都の事が好きだ

伝えないと

「俺はお前の事が好きだ!」

俺が本当に好きな相手は……?

「都、俺と……付き合ってくれないか!」

「……」

「ダメか……?」

都は穏やかな笑みを浮かべ俺の顔を見て目線を逸らさず話した

「ダメじゃないさ、豊臣…いや悠一。私はお前が好きだ」

都は突如俺を抱き締めた

「まさかここまで進展したなんて…」

鈴乃も驚愕していた

「悪いな鈴乃、悠一は私が貰った」

モノじゃねぇんだぞ

「私は諦めないから、奪い返してやる」

「ほぅ、やれるものならやってみろ」

「望むところよ」

都と鈴乃は互いにバチバチと睨み合いする

これが女の嫉妬かよ………。

恭子は怒らせたら鬼みたいな形相で怖いが、都と鈴乃ももっと怖いよ

……怒らせないよう気を付けないと

「明日、模擬戦闘やるぞ!勝った方が悠一と付き合い負けた方は潔く諦める…どうだ?良い提案だろ」

結局そうなっちまうのかよ

と思いつつ俺は密かに闘争心を燃やしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりに家に戻った俺と都、鈴乃は疲労感ある事からゆっくりと寛いだ

ホント、久々だな。この家に帰ってきたのは

ふと気づいたことがある

万が一、佐渡島にBETA襲来したら軍属ではない民間人の避難要請は出す筈だ

「都、少し気になった事あるが」

「何だ?悠一、今日は疲れた。明日に備えて早めに寝るよ」

「手短に話す、佐渡島にBETAが来たら民間人の避難要請は出すのか?」

都は面倒くさそうな表情するが、佐渡島の住民の事を考えると放っておけない

「出すだろうな、だが全員それを受け入れるとは限らない」

「何でだよ!」

「生まれ育った場所に離れたくない、亡くなった両親や親族の元に離れるのは嫌だからここに残ってBETAに喰われた方がマシだとそう考える人間が殆どだろう」

何だと……?

確かに生まれ育った故郷に離れたくない気持ちは分からないまでもないが、このままBETAの餌にされたいって訳かよ!

冗談で言えることではない

俺は都の背後から抱き着き甘えた

「俺はお前の事が好きだ、どんな事あろうとな…」

「ありがとう……」

と優しい笑みを浮かべた

「すまねぇ、今日は遅いから…俺も早めに寝るか」

「夜更かししてるお前が早寝とは珍しいな」

時には早めになる事あるんだぜ?

「あ!」

「どうした?」

「鈴乃に明日の模擬戦の作戦を一緒に練るのをすっかり忘れちまった」

「ふふ、勝敗はついたな?」

まだやってないのに付いてねぇよ

負けられないな

ああ、そうだ。戦術機の操縦をコツコツと上達してダリルを見返してやる!

「都は早く寝た方が良いぜ」

「じゃおやすみなさい」

「おう、おやすみ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1998年9月20日

佐渡基地 某演習場

「司令官の許可申請が却下され、防護壁での演習は無理となった」

都は衛士強化装備を身に纏い、真顔で表情変えずに言い放った

そりゃそうだろうな

確か橘司令官だっけ?易々と首は頷けないぜ

「よって、A中隊とB中隊で模擬戦を行う。5対5での編成だ」

5対5か……A中隊は都、駒木、草野、村田、早乙女

B中隊は鈴乃と俺……あとの3人は誰なんだ?

「人数編成なら心配ないわ、豊臣少尉」

鈴乃は笑みを崩さず余裕を持っていた

「ん?」

「ふふ♪」

やけに嬉しそうだな

何か嬉しい事でもあったのか?

鈴乃の隣には3人の男性の姿があった

三つ子か?

同じ顔してる……前髪を切り揃えた髪型が特徴だ

「(あの3人…B中隊の衛士か)」

鈴乃は俺の顔を見て笑みを崩さず嬉しそうにこう言い放つ

「この3人は頼りがいがあるわ、期待しても構わない」

成る程、補充兵か。

大丈夫か?この3人

よく見れば此奴等、鬼滅の刃に出てくるサイコロステーキ先輩にそっくりじゃねぇか!

サイコロステーキ先輩が何でここにいるんだよ!!

しかも3人だ

「大倉中隊長、A中隊の村田と早乙女は余裕で倒せますよ」

「そうだ、特に来たばかりの駒木はあの2人より弱いから楽勝です!」

「坂崎中隊長を倒して俺は出世します!」

余裕たっぷりの台詞を吐いてるな

此奴等、都の操縦テクニックを甘く見ている

村田や早乙女は確かにまだ来たばかりだが弱いと思うが草野と駒木は実戦経験あるから弱いとは言い切れない

全滅するな、これは

「異論はないな?」

都は真顔でこの場にいる皆に問いかける

だが、何も問わない

この3人の事はサイコロステーキ衛士A、B、Cと呼称するか

サイコロAは俺の顔をじっと見て余裕ある表情で言い放つ

「豊臣悠一少尉、今回はお前の出番はないぜ」

舐めてるのか!?

絶対痛い目に遭うな……。

「では各員、戦術機に搭乗せよ!」

都の合図でA中隊、B中隊はそれぞれの機体に乗り込み準備に取り掛かった。

網膜センサー起動、跳躍ユニット良好、各武装弾薬異常なし!

《豊臣、相手は坂崎大尉と草野少尉、駒木少尉だ。村田と早乙女はともかく駒木だけは気をつけろ》

鈴乃は秘匿回線でモニター越しに交信する

「注意を払います、大倉大尉」

《秘匿回線だぞ、鈴乃って呼んで構わないのよ》

そりゃそうだが、まぁなんだ。

それにしても鈴乃も余裕たっぷりの表情だ

《そろそろ始まるから秘匿回線は切るわ》

と鈴乃は秘匿回線を切りオープン回線に切り替えた

《大倉大尉、村田と早乙女は我々にお任せください》

《豊臣、駒木はお前に任せるよ》

《俺は出世する為に衛士を務めてるんだぜ、すぐ終わらせてやりますよ》

あの三兄弟……!

絶対に痛い目に遭うな、これは

《頼もしいな3人共、では私は坂崎大尉を。豊臣は駒木を。脱落されないよう精々気をつけろよ?》

鈴乃のその表情は真剣な表情であり歴戦の衛士みたいに余裕を持ってる

《作戦を開始してください》

帝国軍女性CPの合図で模擬戦は始まった

都機はその場で動かずラインメイタル Mk-57中隊支援砲を構える

駒木機も都機と同様、ラインメイタル Mk-57中隊支援砲を構える

草野機、村田機、早乙女機は跳躍ユニットを噴出しつつ飛行し真っすぐに突撃砲を構え発砲

《散開!》

B中隊5機散開

サイコロAは右手に長刀を構え早乙女機を余裕で脚部に切り込む

サイコロBは左手に長刀を握り構え早乙女機に向け胴体を切り込み早乙女機は脱落させた

《やられちゃった…》

こんなあっさりと……。

村田機はサイコロCが乗る撃震に向け突撃砲を構え発砲するが躱されサイコロCは両手に長刀を握り構えており村田機に切り込み脱落させた

《申し訳ありません、中隊長…》

《坂崎中隊長!2人が》

《案ずるな、まだ敗北という訳ではない!草野》

《了解です》

草野機はサイコロAに向け突撃砲を構え発砲するが、躱される

《!》

《引っ込んでな!》

サイコロCが両手に持つ長刀で草野機を脱落させた

おいおい、油断し過ぎだろ……。

俺は前に出て最大全速で駒木機に向け突撃砲を構え発砲

しかし駒木機はそれを躱しつつラインメイタル Mk-57中隊支援砲を構え発砲

《駒木!前へ出過ぎだ!》

「飛んで火に入る虫とはこういう事だな!大人しく落ちろ!」

俺は駒木機に向け突撃砲を構え発砲する

また躱された

サイコロCが駒木機に突っ込み両手に持つ長刀で駒木機を脱落させた

《ハッ、ざまぁないぜ》

とサイコロCは余裕持った表情で言うが都機はその隙にラインメイタル Mk-57中隊支援砲を構え発砲

《が!》

サイコロCは脱落した

《A中隊を舐めるな!》

次はサイコロA、Bを脱落させ、俺に銃口を向け狙ってきやがった

「くっ……都相手では勝てないか」

《近づいてこい!豊臣、貴様だけを射抜くぞ!》

「やれるものならやってみやがれ!」

俺は最大全速でジグザグ飛行しつつ突撃砲を構え発砲

《弾を無駄に使うな!此方が不利になるぞ》

鈴乃はこう警告するが、耳傾けはしなかった

俺の速さでその中隊支援砲をぶっ放す事出来るかな?

鈴乃機が都機に目掛け突撃砲を構え発砲

しかし躱される……と思わせて俺は都機の背後から突撃砲の銃口に向け発砲

「頂き!」

《ぐっ!》

右肩に当たった!

都機は鈴乃機の管制ユニットを直撃し脱落させた

中隊支援砲を放棄し突撃砲を構え発砲するが俺はそれを躱し突っ込んで都機の管制ユニットに銃口を突きつける

「その距離じゃこのくらいの動きが限界だな!」

《貴様……!》

「今度こそ終わりだ……」

都機に管制ユニットに突撃砲の銃口を突きつけ訓練弾を放とうとするが

「!」

残弾0

《弾使い過ぎだ》

都機は俺の機体の管制ユニットに目掛け蹴りを入れ突撃砲の銃口から訓練弾を放ち直撃した

「そんな……」

《作戦終了、A中隊残存1、B中隊残存0、結果に伴いこの模擬戦闘はA中隊の勝利です》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

模擬戦闘を終えた後、いつもの如く強化装備を脱ぎ野戦服に着替え食堂に行き厨房にいるコックから配給する食事を手に取りテーブルに座り食べていた

先に座って食事を取っている都と鈴乃は俺に話しかけニコニコと笑みを浮かべていた

「あと少しで倒せてたな」

「何がです?」

「惚けるな、私を倒したかったんだろ?」

あぁ、そういう事か

「大倉大尉、約束通り豊臣少尉から身を引いて貰おうか」

鈴乃は悔しそうだったが笑みを崩さずこう言った。

「……承服しました、坂崎大尉」

その笑顔の裏は殺気だ

殺気が感じる……。

「素直で宜しい」

都もやっと幸せな生活を築く一歩近づいてきた

このまま欺衛軍辞めて都と一緒にどこかで過ごそうか……。

「豊臣少尉」

「?」

都は頬を赤らめ「今日の夜は頼む」とサインを送る

これってまさかお誘いか!?

俺は「OK」とサインを送った

鈴乃はサインの意味が何となく分かってる

「ふふ♪羽目を外さないようにね?」

な!?

「な、何を言ってるんだ…」

都は焦りつつ慌てた途端、駒木と草野が座り食事を取り始めた

「何です?3人揃って」

「3人共お疲れ様です」

俺は駒木を少し揶揄った

「駒木」

「何ですか?豊臣少尉」

「お前さ、ここ来てから5日だよな」

「ええ、そうですね。それが何か?」

白々しいな……カマかけるか

「駒木は草野の事どう思ってるんだ?」

俺がそう言うと駒木が突如頬を赤らめ照れ始めた

「な、ななななな…いきなり何を言ってるんですか!私は一衛士として草野少尉と接してるだけです!」

明らかに動揺してるじゃねぇか

本心は隠せてないようだな

「成る程な、で?草野、一応聞くが駒木の事好きか?」

「え?」

「駒木の事好意を寄せてるのか?」

「自分は駒木少尉の事は一衛士として接してるだけであります」

お前も動揺してるじゃねぇか!

相思相愛……かな?

「もういっその事付き合え、良いカップルになるぜ」

駒木と草野は一気に距離を縮みつつ頬を赤らめ照れる

「駒木さん」

「はい!な、なななな何でしょうか?草野…」

2人揃って分かりやすい表情だな

「駒木、草野。あとで図書室に来てくれないか?少し確かめたい事がある」

「あ、はい。了解です少尉」

「了解しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐渡基地の図書室。初めてこの基地に来て鈴乃に案内されたときにはあまり気に留めなかったが結構な量の書物があった。

何人か机で勉強している人や書籍を閲覧している人もいる。

駒木も含めて

「珍しいですね、豊臣少尉が読書するなんて印象ががらりと変わりました」

「俺だって本くらい読むぜ」

「駒木さん、目的の本がありましたよ」

ん?何の本だ?

草野が手に持ってる本を覗くと…ドイツ民主共和国写真集という中々分厚い本だ

東ドイツか……草野も意外とこういうのを読むんだな

ドイツ民主共和国、通称東ドイツ。国として名は残っているが今やその国土はBETAの支配下にあり、現在ドイツ人の難民はアイルランドに流れ込んでいる

だが、東ドイツには正直俺は歴史の本を読んだ限りシュタージファイルの事やベアトリクスがいたシュタージの武装警察軍の悪行などで個人的にはあまり好印象な国ではない。

「草野少尉、それって…」

「やっぱり変ですよね?東ドイツの本を借りるのって……」

モノ好きには持ってこいの写真集だ

「良かったらこの後ちょっとだけお時間を頂けませんか?」

「ええ、いいわよ」

草野はそう言いながら駒木に誘い本を机に置き椅子に座りページを開く

俺も便乗して座り込んだ

その中身を見ると建物の写真、風景写真、そして有名なブランデンブルク門 の写真。様々な写真が掲載されていた

この女、何処かで見たような気が……。

「好きなのか?東ドイツが」

草野は首を横に振った。どうやら好きではないらしい。ではなぜ本を借りたり、その写真集の本を見るのか謎である。

「嫌いという訳じゃないんですけど……その好きというのもまたちょっと違うのかなって……」

探求心か

まぁ、草野が生まれる前の出来事だからな

「……俺は東ドイツの事はそこまで詳しくはないが、第666戦術機中隊の事は流石に知っている」

「第666戦術機中隊……東ドイツ最強の戦術機部隊ですね」

そうだ、思い出したぞ

あの金髪ロングヘアーの女性は俺が読んだ本に出てきた人物だ

「別名、黒の宣告。東ドイツの光線級吶喊を主な任務とした部隊。当時の中隊指揮官はアイリスディーナ・ベルンハルト大尉」

アイリスディーナ・ベルンハルト

そう言えば鈴乃の講義に出てきたな……。

「そうですよ、シュヴァルツェスマーケンの名前は私も教科書で見たので知っています。ポーランド撤退戦や欧州での一大反抗作戦、海王星作戦でも大活躍した聞いています」

ポーランド撤退戦は確か……当時ポーランド軍衛士だった女性シルヴィア・クシャシンスカがガンダウ基地での出来事で東ドイツに流れ着いたっけな……。

当時親友だったイレナ・マリノフスキーは不特定多数の兵士に強姦された挙句に精神崩壊し拳銃自殺

もう一人の親友のカーヤ・ザヨンツはイレナとシルヴィアを裏切り強姦を仕向け最終的にBETAに喰われてミートソースになったとか……。

「本当に英雄的な部隊なんですよね。第666戦術機中隊は」

イゾルデ、ヤンカ、フレデリカ、イングヒルトもいた。

特にイングヒルトに関しては任務の途中、重金属雲の影響で通信障害が起こり突如行方を晦ましていたが、ヴェアヴォルフ大隊副官だったニコラによって救出しそのままシュタージに入省した

まさかヴェアヴォルフに入ったなんて……ダリルはこの事知ってるだろうか?

知る訳がねぇ

本来ならアイリスディーナ・ベルンハルトはもう既に存在しない

彼女の死によって革命に生き残った衛士達がそれを受け継ぎ東西ドイツ統一の道へ歩んでいる……筈だった

この世界は俺とダリルが知ってる世界線ではない

シュタージによる監視社会から東ドイツを革命軍としてフランツ・ハイム少将を筆頭に一緒に戦って打倒シュタージを果たし、恐怖政治から救ったなんて事は一切記述してない

この世界はベアトリクスが革命に勝利した世界線

666は解散せずまだ存続している

……となると、ファムとアネットも生きてるって訳だ

俺は一度ジャズコンサートで会って少しだけ話したことがある

欺衛軍と東欧州の合同模擬戦もだ

ベアトリクスが生きてるって事はアイリスディーナも生きてる可能性は高い

彼女はベアトリクスの親友だ

死なせてはいけないから肩書を与えてアイルランドにいる

「アイリスディーナ・ベルンハルト……確か革命終結した後は総書記として臨時政府の長を務めている、そうよね?草野」

「はい、長を務めているより幽閉状態ですけどね」

幽閉か

彼女がアイルランドから出ると厄介な事になるからだろうな

「このままの状態っていう訳にはいかないわね…草野」

「ええ」

草野は1冊の本を机から取り出してきた。どうやらその本も東ドイツ関連の本のようだ。

「ん?何だ」

「この写真見てください、黒髪ロングヘアーで妖艶に美しい棘がある笑みを浮かんでる女性です」

草野が指した写真は……若き頃のベアトリクスが写ってる写真だ

確かに棘がある笑みで妖艶で美しい女性だ

俺は絶句した

「これがベアトリクスの若き頃の姿か……」

一度会ってみたいぜ

アイリスディーナも含めてな

「草野はベアトリクスみたいな感じの女性が好みなのか?」

「違いますよ!自分は駒木少尉みたいな誠実な女性が好みです!」

言ってくれるじゃないか

駒木はそれを聞いて頬を赤らめる

「何を、言ってるのよ…そんな、私照れるじゃない…」

駒木、お前草野に惚れてるんだな

分かりやすいぜ

「アイリスディーナ・ベルンハルトは必ず表舞台に出てくる」

「ん?何故そう言い切れるのですか?豊臣少尉」

駒木はこう問いかけるが俺の答えは決まってる

「彼女は戻って来る。それだけだ」

確証はないが、こう言うしかない

「あとはお二人仲良くな」

と俺はそう言って、図書室から退室しようとしたが、ふと気になった事を思い出した

「駒木、テオドール・エーベルバッハって衛士は知ってるか?」

「テオドール……第666戦術機中隊にいた衛士の一人ですね。それがどうかしたのですか?」

彼奴は確か本に出てきた主人公だ

義理の両親を亡くし義理の妹であるリィズを処刑した衛士……反体制派の頭領だったズーズィって女が仕組んだことであり何より「義兄を義妹を処刑させれば私達に味方が付きシュタージは必要ないと声を大きく上げることが出来る」「裏切り者のリィズ・ホーエンシュタインを義理の兄であるテオドール・エーベルバッハが手を下せばシュタージ打倒の道は一歩近づき我々の信頼を得ることが出来る」「ホーエンシュタインを処刑しなければ信用しない」と言葉を並べ無理矢理シュタージを打倒し民主主義を一気に急速化して自らも政治家の一人になり社会主義国家としての東ドイツは終わりを迎えた

そしてアイルランドに臨時政府を樹立し東欧州社会主義同盟という組織を作り国連軍にペコペコ頭を下げてる無様な無能で自分達は何もせず積極的に活動しない集団となった

本来なら東欧州社会主義同盟は社会主義という名前だけ残してその実態は欧州連合軍と国連軍の下僕で言いなりになっている無能な組織だ

だが、この世界線は違う

俺は確信していた

「ああ、彼奴は義理の両親や義理の妹まで失った悲劇の主人公だ。そして何よりも……」

テオドールが何をしようがしまいがどの道テロリストになるのは避けられない

「テロリストに成り下がった臆病で醜く卑劣で馬鹿な男だ」

「テロリスト……ですか」

「噂レベルの話だ、テオドールの事を学ぼうとするな。馬鹿になるぜ」

「……」

駒木は何か言いたそうにしている

何だ?

「……彼の戦術は優秀だったと資料に記述しています。確かにテオドール・エーベルバッハという衛士は可哀想な境遇だったのですが、何もそこまで批判しなくても……豊臣少尉、彼を恨み誹謗中傷してまで批判するのはご遠慮願いませんか?」

やば、言い過ぎちまったか

駒木は怒ってる

謝っておくか

「悪い、言い過ぎたよ」

「分かれば良いです」

危ねぇ……

「ですが、公式には行方不明となってると記述していますね」

「駒木さんは物知りなんですね」

「え?」

「駒木さんって熱心に勉強するんだな。と思いました」

成る程な、勉強熱心か……元の世界にいた時は勉強せず禄に授業聞いてなかったからな。

「んじゃ、俺は行くよ。あとはお二人仲良くな」

と言って俺は図書室から退室した。




登場人物紹介

サイコロステーキ衛士三兄弟
階級:少尉(3人全員)
所属:日本帝国軍佐渡基地司令部第三戦術予備部隊B中隊
前髪を切り揃えた髪型が特徴。本名不明。
空気読まず余裕たっぷりの台詞を吐く性格でありA中隊の長である都の事を心の底から「楽に倒せそうな弱隊長」と思い込み見下していたが、5対5での模擬戦で案の定3人全員、都に敗れている。
安全に出世して金を手に入れたいと目論んでいる
所謂噛ませ犬である。
Aは右手に長刀を構える戦闘スタイルでBは左手に長刀を握り構える戦闘スタイル。
Cは両手に長刀を握り構える戦闘スタイルである。
元ネタは鬼滅の刃のサイコロステーキ先輩

次回のお楽しみに


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トラスト

1998年9月21日

佐渡基地

 

「ふあ~、眠ぃ…」

昨夜は都と寝て激しい行為したからな……鈴乃まで割り込んで板挟みされて疲れたぜ

目にクマがあり欠伸をしながら廊下を歩いてる途中、早乙女とバッタリと遭遇する

そう言えば早乙女と話せてはなかったな

「よお、早乙女」

「豊臣少尉、お疲れ様です」

と早乙女は規律正しく腰を曲げずに直立で敬礼する

「ああ、少し聞きたい事あるが構わないか?」

「はい、何でしょうか?」

駒木とはいい、彼奴も真面目だな

少し探るか

「聞けなかったけどよ、お前の好きな音楽ジャンルは何だ?」

「音楽ですか……」

「おう」

早乙女が好きな音楽ジャンルは何だろうな?

一応気になるぜ

「ポップス、オールディーズ、クラシックとか好きですね。豊臣少尉は何が好きなんですか?」

ポップスとオールディーズ……ダリルと同じ趣向の音楽ジャンルじゃないか

水着が平凡だけでなく音楽の趣味も平凡だな

ガッカリだぜ

「俺か?俺はフリージャズだ!特にジャイアントステップスとか良い盛り上がりの曲だぜ」

早乙女はジト目で俺の顔を見る

「あぁ…そうなんですね」

塩対応かよ

「私は何と言えばいいか、優しさに包まれるような音楽が好みでして……坂崎中隊長みたいに母性がある女性ですね」

確かにな……。

「陽気な性格をしていますね、豊臣少尉……貴方なら日本からBETAを追い払うことが出来そうです」

出来そう…って俺はやれば出来る男なんだぜ?

「そうか。お前もやれば出来る女の子だ!」

「誉め言葉として受け取っておきます、では!」

早乙女はその場から去ろうとするが急に立ち止まり俺の顔を見る

「な、何だよ」

「最近、お二方と仲が良いようで親睦を深めているようですが……」

都と鈴乃の事を言ってるのか?

まぁ、そうだけどよ……。

ここは少しカマかけるか

「早乙女は好きな相手とかいるか?」

「好きな相手ですか?」

「おう」

「いません」

即答かよ

「一人くらいいるだろ?」

「だからいませんよ」

これ以上追求しないでおくか

厄介事になりそうだ

「では私はこれで失礼します」

と言って、俺の前から歩き去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は部屋に戻ろうとしてる途中、都に声かけられた

「豊臣、少し付いてきてくれるか?見せたいものがある」

と俺の手を引っ張り音楽室に向かう

「音楽室に何するんだよ?」

「いいからいいから、後ろ…向いてくれるか?着替える」

は?嘘だろおい……。

俺は後ろを向き、都が着替え終わるのを待つ途中、都の着替えてるところを少し覗く

「の、覗くな!」

と頬を赤らめ恥ずかしがる

「あ、すまねぇ」

再び後ろを向く

10分後、都は着替え終わり「振り向いていいぞ」と言葉を添えた

俺が都が着替えた服装を見ると……それは紛れもなく浴衣姿だ

色は薄緑色だ

「どう…かな?」

頬を赤らめ照れながらもじもじしている

「凄く似合ってるぜ」

「ありがとう、浴衣着たの何年ぶりだろう……正確には覚えてないが」

衛士になった後、暫く浴衣着なかったって事か

このご時世だ、BETAが迫ってきてるのに盆踊り大会してる場合じゃないよな

都はカセットデッキをカセットテープに入れ音楽を再生させた

流れてきたのは、串本節だ

踊り始め音程良くひたすらと踊る

「……」

俺はただ都が踊ってる姿を見ていた

曲が終え、都はカセットデッキの停止ボタンを押す

「どうだったかな…盆踊りするのは久しく感じるよ」

「ああ、凄く良かったぜ……俺はお前の浴衣姿観れて、その……」

俺が何か言いかけようとしたが都は俺を抱き締める

「っておい、何してんだよ!?」

「ん、少しお前を抱き締めたいだけだよ」

抱きしめたいだけって………何か当たってる、感触が柔らかい

っておい、胸が当たってるじゃないか!

どんな状況だ?

頭の中がパニックになってきた

音楽室の扉から誰か入ってきた

「坂崎大尉、こんな所で何をしてるのですか?しかも浴衣なんて着て…」

白々しい態度するなよ鈴乃……顔は笑っているが目が笑っていない

「大倉大尉か、豊臣に盆踊り披露したんだ」

「ふーん……」

雲行きが怪しくなってきてないか?

互いに笑顔を振る舞うがやはり目が笑っていない

「勝負しましょう!」

「構わないぞ、大倉大尉。受けて立つぞ」

二人の間には入れない

これは修羅場になりそうだ……。

「すまん、豊臣。また後ろ向いてくれないか」

俺は後ろを向き、鈴乃が浴衣を着替え終わるのを待つ

「絶対に覗くなよ、覗いたらどうなるか分かってるな?」

殺気だ

都の覇気が出てきた

殺気を感じた

同時に鈴乃からも殺気を出してきた

言われたとおりにするか

10分後、鈴乃は着替え終わり都が「振り向いていいぞ」と言葉を添えた

俺が鈴乃が着替えた服装を見ると……それは紛れもなく浴衣姿だ

色は深緑色だ

「似合ってるかしら?」

と優しい笑みで俺に向ける

「ああ、凄く似合ってるぜ」

俺は焦りつつこう答えた

「ありがとう、浴衣着たの何年ぶりかな」

鈴乃も暫く浴衣着なかったのか

都はカセットデッキを別のカセットテープに入れ替え音楽を再生させた

流れてきたのは、東京音頭だ

2人揃って踊り始め音程良くひたすらと踊る

「……」

俺は都と鈴乃が踊ってる姿を笑顔で見ていた

曲が終え、都はカセットデッキの停止ボタンを押す

俺は都と鈴乃に拍手を送る

都は凄味ある笑みを浮かべる

どっちの踊りが上手かったか確かめたいのだろう

どれも決まらねぇ……。

俺の顔に何か埋められ板挟みされた

この感触は……おいおい、冗談だろ。胸が当たってる

当たってるどころじゃない、これは挟まれてる

都と鈴乃の胸が俺の顔に………。

互いに吐息をしつつ頬を赤らめ照れながら俺の顔に胸を埋めさせつつ板挟みする

「はぁ…お前は優柔不断だな…なぁ、私の方が上手に踊れただろ?」

「都の踊りより私の方が上手だったよね?はぁ…はぁ…」

息を荒げながら顔を近づけ目を瞑り唇を重ねる

自分たちの世界に入ってねぇか?

苦しい…だがな、俺は…こんな事で挫ける人間じゃねぇんだよ!

2人は俺の顔を胸埋めさせるのをやめて息を荒げながら俺の手を引っ張り音楽室から出て強引に部屋へ連れて行かれる

これって、まさかと思うがハーレムか?

考えるな……考えるな

これは夢だ

夢なんだ

と俺は思い込み都は部屋の扉を開け部屋の中に入り鈴乃は俺をベッドに押し倒す

「うわ!」

都と鈴乃の表情は妖艶な笑みを浮かべていた

何かやらかすぞ……これは

「随分と積極的に俺を迫ってくるな」

「ああ、今日の業務はここまでにして少し付き合え」

何をだ?

俺の顔をじっと見る都は不敵な笑みを浮かべつつ浴衣をはだけ胸元が全開に見えるほど晒した

鈴乃も同様浴衣をはだけ胸元が全開に見えるほど晒した後、俺の背後に抱き着く

「え?冗談だろ?」

都は俺の顔に近づけ不敵な笑みを浮かべつつ目を瞑り唇を重ねる

「!」

俺はふと一瞬都の温もりを感じ浸っていく

「坂崎大尉」

鈴乃は不敵な笑みを浮かびながら俺の衣服を捲り乳首責めする

ぐ!ちょいと感じたがこれは……

俺も息を荒げつつ目を瞑り都の唇を重ねながら舌を入れて絡める

「ん……ちゅるちゅる…ちゅぱ」

都も満面の笑みを浮かべている

「(都、鈴乃……そこまで俺の事を気遣いしてるのか)」

俺は都を受け止め浴衣を鎖骨や肩が見えるほど捲り抱き締めた

俺の脳みそがバグらされてるぜ

昼も夜も板挟み……つまりサンドイッチ状態だ

俺はその後、2人同時に激しく欲に溺れる営みに付き合わされた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1998年9月22日

俺はそのまま都と鈴乃と一緒に夜が明けるまで行為し、それを終えた後2人は全裸で寝てしまった

これ非日常的じゃないか?

これが都と鈴乃の日常だとすると……感覚が普通の人とはだいぶ違う

「はぁ…またやっちまったよ」

でも凄く気持ちよかったってのが本音だ。

男の性だな……。

「ん…」

鈴乃が目が覚め、ベッドから起き上がり全裸のまま俺の背後に抱き着く

ホント、甘えん坊にも程があるぜ

「私は豊臣の事、好きよ」

妖艶な笑みで一言を添えられ俺は鈴乃を抱き締める

「俺もだ、鈴乃」

「嬉しい……」

ん?ここに来てからやってない事があるな……そうだ、ジャムセッションだ!

ふと思いついたが、駒木や草野とコミュニケーションはあまり取れてないと自覚した

村田と早乙女もそうだが……そこら辺はどうでもいい

「鈴乃、俺…やり切れてないことが一つあるんだ」

鈴乃は俺の顔をじっと見つつ囁く

「何かしら?」

「ジャムセッションやらないか」

鈴乃は抱き着いたまま目を閉じつつ笑みを浮かべる

「……音のコミュケーションね?」

「自由に音を奏でて楽しいぞ、一回やってみるか?」

と言ったが、鈴乃は抱き着いたまま笑みを浮かべていた

「良いけど、私は聞き専よ?」

「俺がリードしてやるよ。んじゃあ、メンバー編成しないとな……都は…」

鈴乃は優しい言葉を掛けつつ俺の頬にキスする

「都を?ボーカルとか言うんじゃないでしょうね」

「ボーカルはそうだな……鈴乃、お前が担当だ」

実際、スナックのカラオケで鈴乃の歌声聴いたがあれはなかなかいい響きだ。

恭子の声真似とかやってそうだな

「良いわ……で、あとは?」

「そうだな……駒木も入れようか?」

駒木と最初会った時、音楽に興味あり真面目で規律正しい模範的な衛士だったが、今の印象だと可愛く見える

草野が惚れるわけだ

「ギターとかどうだ?」

「ふぅん……」

俺が駒木をギター担当にしようと提案するが鈴乃は妖艶な笑みを浮かび俺の耳裏を指でなぞる

「おぉ、ちょっとくすぐったいぞ」

「駒木少尉に承諾せず入れるのはどうかな~と思って」

確かにそうだな

「3人で編成するか?俺はピアノで都は……サックスとかどうだ?」

「ボーカル2人はどうかしら?」

ボーカル2人ね……

都がようやく目が覚めベッドから起き上がる

「2人揃っていちゃついて何コソコソと話してるんだ?」

しまった、俺、鈴乃に抱き着いたままだ。

どう誤解を解けば……

都は衣服を着て俺の額にデコピンをする

「いだ、何しやがるんだ」

「トランペットをやるよ」

「あ?」

聞こえてたのか?

俺と鈴乃の会話を……聞いてたっていうのか

「演奏する場所は基地内では音楽室しかない。文化会館で演奏したらどうだ?」

文化会館……確か、この近くだったら両津文化会館だな

「司令官に交渉して話をつけておくよ。で、いつまで抱き締めてるんだ?」

鈴乃は慌てて俺を抱き着くのやめ衣服を着る

「先にブリーフィングルームに行くよ」

と都は俺の額にキスしその場から立ち去る

「ふふ、演奏する場所確保出来て良かったわね。あとはメンバー編成だけね」

と鈴乃は優しい笑みを浮かべる

俺は内心嬉しく感じた

「鈴乃、都は演奏経験とかないのか?」

少し気になる

どんな楽器で演奏したのかな?

「ん~、小中高は一緒の学校にいたからわかるけど軽音部にいてたと思うわ」

軽音部か

となるとバンドやってた可能性があるな

「都が担当したのは確かドラムやベースにギターだったわ」

かなりの豊富な経験のお持ちのようだ

「じゃあ、期待できそうだな。俺はドラムを担当する」

俺は衣服を着て部屋から出ようとするが鈴乃の胸が俺の腕を挟み込み形でくっ付く

「おま…誤解されるだろ」

「ふぅん、上官に向かってお前呼ばわりするんだ」

(お前呼ばわりするなんて随分と余裕ね、豊臣少尉)

恭子の言葉が遮った

あー、怒らせちまったか……

「大丈夫よ、私は怒ってないから」

鈴乃は優しいんだな

恭子も鈴乃みたいな性格の女性になればいいのにな

鈴乃は満面の笑みで俺を見つめる

その顔は中隊長としての鈴乃ではなく甘えん坊でただ構って欲しいだけのか弱き女性だ

「ん、そろそろ行くぞ」

「ふふ、行こ♪」

さて、駒木たちを驚かすとっておきの催しの準備しないとな

「まずは貴様を個人的な講義を受けてもらうわ」

鈴乃はいきなり口調を変え個人的な講義を受けさせると言い放った

おいおい、何で不敵な笑みを浮かべてんだよ

「嫌かしら?」

これは断れねぇ雰囲気だ

いや寧ろ断る気なんて更々ないぜ

「嫌じゃないさ、ただお前と一緒にいるだけで俺は」

「幸せを感じている……」

「鈴乃…いや大倉大尉」

俺の心を読んでたんだな

全く、分かりやすいぜ

「なぁに?急に他人行儀で呼んで」

「あ、あぁ…業務の時間だからな」

そう言って俺は鈴乃と一緒に部屋から出て廊下へ歩く

勿論俺の腕を鈴乃の胸で挟み込み形でくっ付いたままだ

10分後、そのまま一緒に廊下へ歩き続けたが、不安が迫ってくる

「(駒木だ、拙い……鈴乃には悪いけど離れなければ)大倉大尉、もうそろそろ離して貰えないでしょうか」

丁寧な口調で言ったが鈴乃は「嫌よ」と断った

まだ気付かれてないか……。

しかし、俺と鈴乃の背後から草野が空気読まず声を掛けた

「おはようござ……えぇ!?大倉大尉、何してるんですか!?」

あー、見られちまった……。

「草野か、これには訳があってな…」

俺は言い訳を考え何とかこの場を切り抜けようとするが

「訳とは何ですか?豊臣少尉」

駒木に見られちまったよ……どう言えばいいんだ。

「朝からお熱い事してますね」

「違うんだ!これは…誤解なんだ!」

その時、天啓が閃いた

「……そうなんだよ…昨日の夜、大倉大尉が酔い潰れてな。そこで俺の部屋に入れて寝かせたんだ」

苦し紛れの言い訳だ

これなら切り抜ける…と思う

「酒に酔い潰れた……坂崎中隊長もですか?」

ギクッ!

何で分かったんだ

駒木は俺に疑いの目を向ける

鈴乃は満面の笑みで俺の腕を胸で挟み込んでいる

「まぁ…そうだな」

駒木は「ふーん、そうですか」と言葉を添え眼鏡をクイっと上げつつ対抗心を燃やした

草野に近づきそのまま腕を掴み豊満な胸で挟みくっ付いた

「ちょ、駒木さん!?ええっ!!?」

「これでお互い様ですね」

無理矢理かよ

草野が困ってるじゃないか

「……唐突に言うが、俺とバンド組まないか?」

駒木は状況を理解してない為か「バンド?」と一言を添えながら草野の腕を豊満な胸で挟みつつ俺に話しかける

「私、楽器経験は」

駒木は続けて言おうとするが草野が腕を振り切り駒木に話しかける

「良いじゃないですか!やりましょう」

「え?草野君、貴方は…?」

「あれ?駒木さんには言わなかったんでしたっけ?実はこう見えて軽音楽部にいて色んな楽器で演奏しました」

ほぅ、草野は楽器経験はあるのか

これは意外だぜ

「そうか、じゃあ話は早いな。草野、どの楽器で演奏してたんだ?」

「えっと……サックスですね…」

「サックスか、良いねぇ…センスあるぜ」

俺はそう言って、草野は愛想笑いした。

「で、話を纏めると坂崎中隊長と大倉大尉、豊臣少尉の3人で演奏の催しをしようとしているけどメンバー確保する為、私と草野少尉を加えようとしてた……そうですよね?」

図星、丸分かりだったのか!

「声なら自信があります!甲高い声と低い声、その2種類の声色を使い分けて歌を、歌えます…」

駒木は余裕たっぷりの表情で恥ずかしつつ淡々と言い放った

となるとデュエットか

「『Fly Me To The Moon』はどうだ?」

この曲なら2人ボーカルで歌える筈だ

「”私を月に連れて行って”?」

お、鈴乃は分かってるな

「何ですかそれ?」

「曲名の直訳ね、駒木少尉はこの曲知ってた?」

「いえ、全く……」

鈴乃は俺の腕を離し駒木に近づける

駒木は困惑し「え?私も歌うんですか?」と言葉を添えながら驚愕する

「早乙女も誘うの?」

早乙女はダリルと同じ音楽趣向だ

…断るかもな

「早乙女は俺と真逆の音楽趣向がある。一応誘ってみるが過度な期待はしない方が良いぞ」

「そうなの……」

鈴乃は少し残念そうに悲しげな表情を浮かべた

「承服しました、他に歌う曲はありますか?」

駒木は承諾し、他に歌う曲はないのか?と問いかける

拙いな、全然考えてなかったぜ

少し頭回転させるか……どの曲を演奏しようか…?

「最低では2、3曲を選別し演奏しますよ。以前配属してた基地に音楽隊がありまして、そこはかなり練習をしていて時々催しで演奏披露しますね」

成る程な

「いつイベントやるのですか?」

駒木はそう問いかけ鈴乃は和やかな笑みを浮かべこう言った

「明日ね」

「明日!?一発本番って奴ですか!」

駒木は戸惑うのも無理はない

「ジャムセッションイベント、実は…前々から下準備してたのよ」

と鈴乃は笑みを崩さず言い放った

「え?下準備ってどういう事だ」

「ん~、駒木少尉がここに来る前かな」

駒木は「あー、成る程。そうですか」と言葉を添えながら呆れ顔になる

「都と私が一時期嫌ってた事覚えてる?」

何日前か忘れたがそんなことあったな……

「その10日間で私は都と一緒に練習してたのよ、豊臣は私と都は嫌ってると思い込んでたのも無理はないわね」

え?

まさかあの時、嫌ったフリしてたのかよ……。

「そ、そうか……1曲は決まったとして、あとは何の曲で演奏するんだ?」

「ポップスとかはどうかしら?」

ポップス……ダリルの音楽趣向の一つか

「別にいいけどよ、駒木たちの意見を聞かないと…」

俺は駒木に意見を聞こうとしようとした時、駒木があの名曲の名を口にする

「A列車で行こう」

「あ?」

「駒木少尉…それって」

鈴乃はキョトンとした表情で駒木の顔を見る

「Take The 'A' Train……ビリー・ストレイホーンが作詞・作曲したジャズのスタンダードナンバーです。その日本語カバーで曲を歌ったのは」

「美空ひばりだろ?流石の俺でも知ってるぜ」

美空ひばりと言えば『愛燦燦』『川の流れのように』が有名だ。

波乱万丈な人生歩んだ歌手の一人であり歌謡界の女王と認める存在となった

「まさか駒木がA列車で行こう、知ってたとは俺は驚いたぜ」

「私の父親がよく聴いてましたから」

ふむ、駒木の父はジャズが好みだったのか……。

「成る程な、とりあえずこの2曲を選曲だな。あと何曲入れればいい?」

駒木と鈴乃のデュエットか

草野はサックスで都はトランペット

いいねぇ、盛り上がるメンバーだ!

あとは、村田と早乙女だけだな。

「早乙女と村田の交渉は私に任せて。駒木、貴女も一緒に来るのよ」

「承服しました」

大丈夫か?

「少し待ってて」

と鈴乃は駒木を連れて早乙女、村田のところに行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、俺の元に戻ってきた鈴乃は駒木と共に難しい表情を浮かぶ

断られたんだろうな、この有り様だと

「断られたのか?」

ビラとかの募集配らず、部屋凸でゴリ押し勧誘したからな

高校の頃、バンド経験を得たがメンバー集めるのホント大変だったぜ

「……承諾したわ、早乙女はキーボードで村田はトロンボーンね」

と満面の笑みを浮かび喜びを表した

「そうか…んじゃあ、メンバーは決まったな。鈴乃と駒木はボーカル、草野はサックス、俺はドラムに都はトランペット、早乙女はキーボード、村田はトロンボーン。うん」

「駒木は私がサポートするから音をついて行くだけでいいわ」

都と鈴乃は俺らが知らずにいつの間にか練習を重ねたが駒木と草野は練習してない

一発本番か

「自分も駒木さんをサポートします」

決まりだな

「演奏リストは私が作成するわ。最初に演奏する曲は『Fly Me To The Moon』次に『A列車で行こう』美空ひばり日本語カバーバージョン。あとの3曲は……」

どうすっかな……。

「無理にジャズオンリーにしなくても良いのでは?」

と駒木はくつろいだ顔で言葉を綴った。

「そうですね……それは豊臣少尉の気分次第で」

草野は平和な顔で俺に向け言った

「ふふ、そこは豊臣自身に委ねるとしか言えないわね」

鈴乃も愛想笑いで言い放った

「2曲は駒木や私の好みの曲であとの1曲は……」

「ジャイアントステップスだ」

ジャズの定番と言えばこの曲だろ

「よし、この選曲で行きましょ。駒木と草野は音楽室に来るように」

「りょ、了解です」

「承服しました」

とりあえず一件落着だな

俺は安堵な表情で胸を撫で下ろした

都が何も知らない顔で俺に近づいてきた

「話は終わったようだな、選曲は?」

「ん、ああ、皆と話し合った結果で決まったぜ」

と俺は楽しい顔して都の顔を見つめつつ言葉を綴ったが、都は満面の笑みで俺に誘い出す

「行くか?秘密の場所」

秘密の場所?

ああ、住民避難用シェルターか。

「シェルターに行くのか?まだ業務中だぜ」

「違うよ、付いてくれば分かる」

都は俺の手を引っ張り基地の外へ出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基地の外に出てから15分後、都と俺はシェアハウスに到着する

「ここって都と鈴乃が住んでるシェアハウスじゃないか」

俺はそう言うと、都は小さい声で淡々と言った

「鈴乃以外他の衛士達が知らない秘密の場所だ」

都はそう言うと、シェアハウスの中に入り地下へ降りてある部屋へ入る

その部屋の中を見ると……

「これって……!?」

映写機、ソファーがありプロジェクタスクリーンを備えてるシアタールームだ。

「おお、映写室か」

「佐渡島には映画館は一つもないからな、個人的に映画見てるんだ」

ほぅ、そう言えば佐渡島に映画館が一件あるのだが、それは元にいた世界であり仮にオープンするとしてもあと19年待たなければならない。

「何見てるんだ?」

「恋愛、アクション、SFかな」

俺は部屋を見渡してると本棚に映画関連の本がずらりと並べている

その一冊に紛れてるのは日活ポルノ映画の特集本だ。

「都も意外なモノ見るんだな」

俺は少し揶揄うと都は頬を赤らめ照れる

「……皆には内緒だぞ?」

そう言って都は別の部屋の扉を開ける

中に入ると……マッサージ台と…ん?厳重に鍵をしている棚が幾つかある

「鍵がある棚だけど、その中身って…」

都は慌てて棚を隠す

「これは個人的なモノだ。ほら、通帳とか印鑑を棚にしまわなきゃダメだろ。それだよ」

怪しい……。

「ちょいと聞くが、このマッサージ台ってまさか」

鈴乃と……?

大体想像できるぜ?

ここで都と鈴乃があんなことやこんな事まで……。

いかんいかん、何を考えてるんだ俺は!

冷静になれ、ここはあくまでもただのマッサージルーム

変な事はしていない筈だ。多分

「ん?」

「どうした?都」

都は体をもじもじと動きおねだりしたいと表情になる

何か様子がおかしい

「……悠一、マッサージしてくれないか?」

は?何を言ってるんだ

都は照れながら少し笑みを浮かべる

「冗談は顔だけにしてくれ」

俺はそう言うと都は衣服を脱いで黒い下着一枚……半裸になった。

「おいおい、何で服を脱ぐんだ」

俺は頬を赤らめ目を逸らす

そりゃそうだろ……。

「断るなら私は今日一日中、お前を離さないぞ」

都は俺の背後に穏やかな笑みしつつ抱き締めた

「分かったよ、アンタが言った以上やめたとは言わせないぜ」

「やめるつもりなんてないよ」

都は笑みを浮かべながら俺にキスしマッサージ台で俯せになり俺は都の背中に布を被せる

「何処凝ってるんだ?」

「首に、肩…背中と腰だな」

随分凝ってるな……。

俺は都の首周りを指圧でマッサージし始めた

「もう少し弱くしてくれないか?強過ぎだ」

「はいはい」

指圧を調整しつつ都の首周りを指で押す。

ご満悦な顔になってきたな

「うん、凄く良いぞ……」

「どうも」

ん~、首はもういいかな。

次に背中を指圧でマッサージする

「いた!背骨が当たって痛いぞ……」

「すまねぇ」

都は喜んでいる

俺はその手で都が俯せになってる状態で背後から胸を揉んだが、喘ぎ声は一瞬だが少し出してしまい泣きっ面で俺を睨む

「ひゃぁん!……そこは、しなくていい」

「あ、わりぃ」

ムスッと顔をされ俺は真面目にマッサージをして腰を親指でぐりぐりと押す

「ん……あぁ、悠一のマッサージ。気持ちよかったぞ。少し凝りがなくなったよ」

都は優しい笑みを浮かべ俯せをやめてマッサージ台から降りて俺を抱き締めその豊満な胸で当てる

「え?都……当たってる」

「いいんだ…」

なんかいい雰囲気になってないか……?

都は俺の顔を胸で埋め頭を撫でる

「!」

「よく頑張ったな、悠一。今は少しの間だけ私の傍にいていい、ううん…いつでも私の傍にいて構わない」

………。

都はウットリと目を閉じて和やかな顔になりつつ微笑む

しかし、いい雰囲気は長く続かず都のジャケットのポケットに入ってるポケベルが鳴り響いた

ポケベルを手にし、表示されてる番号を確認する

「1052167……」

暗号文……何処にいるの。

ポケベルの暗号文って解読しないと分からないからな

親父とお袋がそれにハマった理由が分かった気がするぜ

俺がまだ生まれてない頃だ。

「鈴乃に勘付かれたか……」

都はそう言うと脱いだ衣服を着直し俺の頬にキスした

「行かないと…」

「ああ、基地に戻ろうぜ。皆心配してると思うぜ」

「そうだな」

都は俺の手を恋人繋ぎをして和やかな笑みを振る舞いシェアハウスから出て基地に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基地に戻った俺と都は恋人繋ぎしたまま廊下へ歩いていたが、鈴乃がその場に現れ慌てて恋人繋ぎをやめる

気拙い雰囲気だな……。

都は済んだ表情で笑みを浮かべている

冷静に振る舞ってるな…これは

それに対し鈴乃は優しい笑みを浮かべているが目が笑っていない

互いに目がバチバチと向き合う

「お疲れ様です、坂崎大尉。随分と長い時間をかけて偵察したようですが」

「佐渡島の自治体を全部は見られないからな。一つずつ見回りしてるよ」

2人の会話は明らかに不自然だ

都の目が変わり表情が豹変し鈴乃に怒りの言葉を言い放つ

「……私の将来結婚の相手を寝取るとは言語道断だ!大倉大尉、貴様はそれ相応の処罰を下す!」

「あ?」

将来の結婚相手?

おいおい、何を言ってるんだ

確かに俺は都の事は好きだけどよ、そこまで考えてたのか……。

「な、何を言うかと思えば…」

鈴乃も怒りを隠せず都に言い争いになる

「坂崎大尉も駒木少尉を手出しして夜這いしようと目論んでいますよね?草野少尉がいるのに何故そのような事を?」

「駒木少尉は関係ないだろ!私は豊臣少尉の事が好きでどうしようもなく胸がドキドキするんだ!」

大胆な告白……ええっ!!?

これはヤバいと思い俺は間に入り仲裁する

「おい、2人共喧嘩はやめようぜ。な?都と鈴乃は互いに仲良くやっていきたい。また仲が悪くなったらせっかく起案したジャムセッション楽しめないぜ」

ホント、勘弁してくれ……お前らが争う姿なんて見たくないんだ

「……」

「……すまない、私の個人的な感情が入ってしまった」

都は落ち込んだ表情で俺に謝り鈴乃は悲しげな表情で俺を見つめる

「ん、そう言えば駒木は何処にいるんだ?」

「駒木か?格納庫にいる筈だが」

「少し話してくる」

俺はそう言って駒木のところに向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

格納庫に入り、そこには撃震がずらりと並べられていた。

2個中隊の配備数ってところか?

「豊臣少尉」

駒木が俺に話しかけてきた

「この基地に配備してるのは2個中隊しかないんだな」

「ええ、他は新潟に出払いましたからこの基地の守りが薄くなるといつBETAに襲われるか…」

不安か……誰だってそうだ

「奴等が来る前に思う存分楽しもうぜ。その時はその時で考えばいいさ」

「ええ、そうですね。ところで単に私のところへ態々話しに来たという訳ではないですね」

「へへ、お見通しって事か」

駒木は将来、立派な将校になりそうだな。

「あ、バンド名決まってなかったな……大倉大尉から何か言われなかったか?」

「大倉大尉からですか?名前とかどうのこうのとか言ってましたね」

鈴乃も同じ考えだったのか

早く決めねぇと……

「んじゃ、大倉大尉のところへ行こうか」

「え?今からですか。私は機体の調整しないといけないので」

そんなの後でいいだろ……と言いたいところだが下手に出しゃばったら半グレと同類になっちまう

ここは潔く身を引くべきだ

「そっか、大倉大尉は何処にいるんだ?」

駒木はジト目でめんどくさそうに言葉を放った

「はぁ、ホント貴方は好かれていますね…大倉大尉に。坂崎中隊長までそうじゃないですか。中隊長執務室にいる筈です」

「おう、ありがとな!」

「礼は不要です……」

ん?どうしたんだ?

顔が赤くなってるぞ

「熱あるのか?」

「ありませんよ。ただ……」

これは、まさか……駒木は恋に落ちてる?

「お前、草野の事が好きなんだろ」

俺は駒木に速球で言い放った

それに対し駒木は更に顔が赤くなり照れる

「ち、ちが…違います!私は…その…」

挙動不審しオドオドしている

「違うならいいけどよ……恋愛ドラマの見過ぎは程々にしとけよ」

と俺は駒木を揶揄い言い放ち格納庫から出て鈴乃がいる中隊長執務室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大倉大尉、豊臣です。少し宜しいでしょうか?」

鈴乃がいる中隊長執務室の扉を叩き、中にいるか確認する

「いいわよ、入って」

鈴乃の声が聞こえ、ドアノブを捻り扉を開ける

「私に何か用があってここに来たんでしょ?」

分かってたのかよ………もしやニュータイプ、な訳ないよな。

勘が鋭過ぎる。

「察しが良いな」

「ふふ、中隊長が部下の事、放っておくと思う?」

確かにそうだ、放ってはおけないな

鈴乃は子供みたいに無邪気な笑みを浮かべる

「バンド名、皆と相談して決めようぜ」

早く決めないとな

まぁ、無名でも構わねぇけど

「そうね、全員会議室に集合だね」

「全員って…AとB両方ともか?」

「何言ってるの、いつもの面子でしょ?」

俺と都、鈴乃、駒木に草野、村田と早乙女……7人だな

メンバーと担当を纏めると

俺はドラム、都はトランペット、鈴乃と駒木はボーカル、草野はサックス、早乙女はキーボードで村田はトロンボーンの7人

選曲は『Fly Me To The Moon』次に『A列車で行こう』美空ひばり日本語カバーバージョン。『ジャイアントステップス』

あとの2曲は……?

「皆で決めましょう。そうとなれば早速会議室に行くわよ」

と言って鈴乃は俺の手を繋ぎ会議室へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議室に入室し、この場にいるのは俺と鈴乃だけだ

他の皆が来るまで待つことにした

「他の皆はまだ来てないな」

「そうね」

鈴乃は嬉しそうな顔をして、会議室の外に誰かいないのか何度も確認する

「誰もいないわね」

両腕で俺の背後に首を回し包み込む。

「ん?」

「ふふ、二人きりの空間ね」

これはまさか……?

鈴乃は俺の背後に抱き着きその豊満な胸で当てる

当たってる当たってる

凄い弾力で柔らかい触感……。

「ふふ」

鈴乃は突如、妖艶な笑みで俺を抱き着いた

おいおい、欲求不満かよ

「今日は私の部屋で寝て構わないわよ、拒否権はない……」

「何か辛い事でもあったのか」

「ううん、貴方と一緒にいたいだけ♪」

一緒にいたい……か。

良い雰囲気でここには二人だけ…そう二人だけの世界だ

俺はニヒルな顔で鈴乃の顔をじっと見る

「?」

「ああ、俺は鈴乃の事好きだぜ」

「それは分かってるわ」

と言って、鈴乃は俺の腕を掴み自らの豊満な胸を触らせる

「!」

「指、動かして」

俺は躊躇いもなく、指を動かし鈴乃の胸を揉み始める

胸を揉まれた鈴乃は案の定、喘ぎ声を出しつつ吐息する

「あぁ…ちょ、指の動かし方がいやらしいわ」

動かせって言ったのはアンタだろうが

もう片方の手で鈴乃の髪を触れる

触れた途端、それはよく手入れしている綺麗な髪の毛だ

「指、止まってるわよ」

左手の指が止まり鈴乃の胸を掴んだままだ

鈴乃に指摘され再度指を動かしつつ胸を鷲掴みしながら揉む

「あぁ…手つきが…ん…」

俺は調子に乗り両手で鈴乃の胸を鷲掴みしながら揉み始める

「あぁ…ん……ぁ…」

鈴乃は吐息をしつつ俺の頬を触れ目を瞑り無言でキスした

このまま激しい営みを会議室でやろうとしたが、都が会議室の扉を開け入室してきた

当然ながら俺と鈴乃が激しい営みしようとした瞬間も見てしまい、冷静さを欠けた都の顔は般若に宿った

「……私より鈴乃の方が良いのか?」

都は俺に近づき無理矢理右腕を掴み自らの豊満な胸を触らせる

「!」

「こうなれば自棄だ、悠一今すぐ市役所に行って婚姻届を取りに行って提出しよう」

え?

婚姻……おいおいおいおい、待ってくれ!

心の準備が整っていないぞ

こういうのは互いにゆっくり話し合ってから提出するもんだろ?

しかし、冷静さを欠けたことを自覚し正気に戻った都は頬を赤らめ照れる

「……と言いたいところだが、今は…保留だ。まだまだ楽しみたい事が沢山あるだろ?」

都は俺の顔を見て優しい笑みを浮かべつつ告白した

「私はお前の事が好きだ、冷静さを欠ける事は誰にだってある……その、何と言えばいいんだ?私も鈴乃みたいに髪伸ばせば好かれるのか」

都がロングヘアーに?

想像つかないと言ったら噓になるが、どの髪型でも似合ってると思うぜ?

「どの髪型でも都は似合ってると思うぜ」

「坊主頭もか?」

答えづらい………どう言えばいいんだ?

そうだな。と一言を添えるか?

意外だな。と言うべきか?

言葉を選ぶの悩むぜ

「……私が不祥事とかしない限りは丸坊主はしないよ」

「ほっ、少し安心したよ」

俺は胸を撫で下ろす

「絶対にしないからな?」

「分かった分かった、都は髪型変わろうがどんな服装でも似合ってるぜ」

「一言余計だ」

都は俺の頭に目掛けて拳骨を喰らわした

「いで!何しやがるんだ」

「鈴乃、悠一は私の部屋で寝かせる」

「えぇ…」

鈴乃は嫌がっている

「えぇ…じゃないだろ。それに、私の恋人でもある」

んー、まぁ…付き合い長ければそうなるな

…って出会ってから1年も経ってないぞ

とは言いつつ俺も告白しちまったからな……。

「ふふ、都は豊臣の事が好きなのね」

鈴乃は都を揶揄う

「まだ短い付き合いだが、こうしてずっと一緒にいればいいのにな」

都……お前

「……バンド、名前決まったのか?」

都は話を切り替えてバンドの名前を何付けるか?を話を進める

「あ、そうだ。まだ決まってなかったわね」

鈴乃は凛々しい表情で都の顔を見つつ話しかける

「んじゃあ、メンバー全員揃ってから決めようぜ。駒木と草野は?」

「もうすぐ来る筈だ」

と都はそう言った後、駒木と草野が会議室に入り椅子に座る

それと同時に都、鈴乃は俺を真ん中に座らせ板挟み状態で座る

「では、バンド名の候補を考えて意見を言ってくれ」

都はそう言うと皆は深く考え込む

途中で村田と早乙女が会議室に入り椅子に座った

さて、バンド名を決める楽しい楽しい会議の始まりだ

鈴乃が軽い口調で意見を言い放つ

「はーい、私は『坂崎都とクレイジーキャッツ』を候補に入れます」

「却下」

と都は即答した

「えー?何でよ」

「この名前だと私がメインボーカル務める事になるぞ」

確かにな、一理ある

どっかで聞いたことあるバンドがいたような……?

駒木が無言で挙手し意見を述べる

「駒木、何か候補あるか?」

「はい、両津組は如何かと」

おいおい、それは流石にダメだろ……。

「却下だ」

続いて草野が挙手し緊張した表情で意見を述べる

「あの…自分は『うりょっち』に候補に入れたいです」

うりょっち?

面白そうな名前のバンド名だな

結構人気になる……かもな、あはは

「候補に入れる」

都は草野の案を候補に入れた

村田と早乙女が挙手して自分の意見をはっきり口を開き言い放つ

「自分はアニューを候補に入れます」

「私はリターナーを候補に入れたいと思います」

「却下だ却下……」

どっかで聞いた名前のような気が……

気のせいか。

「なかなか名前決まらないわね」

鈴乃は苦笑いを浮かべる

そりゃ、そうなるよな…………。

「草野の案だけか?豊臣の意見聞いてないな。意見を述べよ」

…………。

誰もいないのかよ

しょうがねぇな…俺が意見を述べるか

「トラスト……と言う名前はどうだ?」

都は俺の意見を聞いた途端、鋭い目線でじっと見つめ誇らしげな笑みを浮かべる

「ほぅ、良いじゃないか?」

高評価貰ったぜ

で、他の意見は……。

「ないのか?ならこの名で決めさせて貰うぞ。異論はないな?」

都がそう言うと、「異議なし」と皆揃って一言を添えた

「バンドでのリーダーは……鈴乃、お前がやれ」

鈴乃は軽い口調で優しい笑みを浮かびながら言い放った

「了解です♪」

衣装はどうすんだ?

まぁこのままの服装でもやれることは出来るが

「このままの格好で演奏しながら歌うのもいいが面白みが欠けるな……少し大人びた服装で行こう」

トラストのメンバーと担当を纏めると

俺はドラム、都はトランペット、鈴乃と駒木はボーカル、草野はサックス、早乙女はキーボードで村田はトロンボーンの7人

選曲は『Fly Me To The Moon』次に『A列車で行こう』美空ひばり日本語カバーバージョン。『ジャイアントステップス』

あとの2曲は?

「あとの2曲、まだ決めてないのか?」

「あぁ…どんな曲が良いかなと迷っててな」

ホント、迷うぜ

「駒木はどんな曲が良いと思う?」

都は駒木に「どんな曲が良いと思う?」と問いかける

「私はどんな曲でも構いません。佐渡島にいる皆が喜んでくれるなら…それだけで十分です」

駒木は佐渡島にいる皆の事を思ってるんだな

少し泣かせたぜ

「既存の曲ばかりでいこう。『A Whole New World』『Things』で決めるぞ」

都は一枚のメモ用紙をボールペンで文字を書く

プログラム表か?

そして翌日、俺達はジャムセッションイベントで勢いよく演奏し汗かき歌い上げた




マブラヴアニメ最終回迎えますね
第二期はあるのでしょうか?というかあって欲しい!
そういえばavexの会長がマブラヴアニメ全編作り上げると宣言しましたね。
大倉中隊長、結局最後まで出てこずクーデターには関与しなかったみたいですね(-_-;)
関与してたの?してないよね?してないよね!?
という訳で次回はいよいよ佐渡島防衛戦です!!
大変お待たせ致しました。
と言いたいところですがそれは後半からですね
ではお楽しみに!


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キラリフタリ

1998年9月23日

今日、俺と都、鈴乃、駒木に草野、村田と早乙女はジャムセッションイベントを行う

勿論橘司令から許諾を得た

ここでメンバー編成や担当、選曲をお浚いしておこう

鈴乃と駒木はボーカル、草野はサックス、俺はドラムに都はトランペット、早乙女はキーボード、村田はトロンボーン。

選曲は『Fly Me To The Moon』次に『A列車で行こう』美空ひばり日本語カバーバージョン。『ジャイアントステップス』『A Whole New World』『Things』

服装は都は胸元が少し見える黒いドレス、鈴乃はハリウッドセレブが着そうな胸元全開の黒いドレス、駒木は肌の露出を控えた黒いドレス、早乙女は胸元が少し見える黒いドレス、村田と草野、俺はタキシード姿だ。

特に都と鈴乃は気合が入っている

マイクの起動音が3回

周りには人がざわざわ集まって来た。

赤ん坊に子供、学生、大人、老人、軍関係者の人間が簡易的に設置されたパイプ椅子に座り込む

俺達は舞台を上がり、鈴乃が前に出た

「皆さんお集まり頂きありがとうございます。私は日本帝国軍佐渡基地司令部第三戦術予備部隊B中隊の長を務める大倉鈴乃大尉と申します。初めての方々やそうではない方々も来て頂きありがとうございます。今日、このイベントの為に気合を入れて少し露出が高いドレスを着てみました~」

楽観的に笑みを浮かび文化会館に集ってる皆に言い放った

十分露出が高いぜ

まあ、嬉しいけどよ

俺は鈴乃を見て頬を赤らめた

鈴乃が着てる黒いドレスを見た男性陣は大喜び

鈴乃はその男性陣に向け手を振る

そして投げキッスをした

こりゃ歓声が止まらないぜ

都も対抗し投げキッスする

何で対抗したんだ?

余興が終わり、音楽が流れ演奏し始める

『Fly Me To The Moon』鈴乃と駒木が滑らかな歌声で奏でた。

その歌声が男性陣は静かに歌声を聴いた

俺はひたすらドラムを叩き演奏する

都は優しい笑みを浮かびながらトランペットを吹く

3分5秒後、曲が終え次の曲に移行し演奏し続ける

『A列車で行こう』美空ひばり日本語カバーバージョン

ドラムが奏でつつ、早乙女が演奏するキーボードの音が響き鈴乃の歌声が甘くとろけるように聴こえる

鈴乃単体で歌う

リズムよくテンポ外さず

音が奏で続ける

歌声も

男性陣は鈴乃の歌声を酔い痴れた

リズムよくオブラートを包みつつ歌声を奏でた

3分12秒後、曲が終え次の曲に移行し演奏し続ける

『A Whole New World』

あのアラジンの主題歌になった名曲だ

鈴乃の歌声がチョコレートみたいに甘くとろけて美味しそうだ

駒木も負けず嫌いで声色を使い分けて歌を歌い奏でる

観客全員皆鈴乃と駒木の歌声で虜になってしまった。

甘く、切ない……ってダリル好みのジャンルじゃないか!

それはおいといて4分6秒後、曲が終え次の曲に移行し演奏し続ける

『Things』

フランク・シナトラとナンシー・シナトラの親子デュエット曲だ

親子でデュエット曲歌うアーティストは稀にある

鈴乃と駒木の歌声でリズムよくテンポを合わせつつ俺と都、草野、村田、早乙女は楽譜通りに演奏する

いい盛り上がりだ

英語、上手いな2人共……違和感がない

日本が反米感情を持っていても音楽は罪はない

音を奏でて楽しい

俺も鈴乃に色香惹かれちゃったか

2分43秒後、曲が終え次の曲に移行しようとしたが予定にはない曲が流れてきた

そして都がトランペットを置き、マイクを取り舞台の前へ出る

この曲は……『キラリフタリ』!?

鈴乃はこっそりと俺に近づき和やかな笑みで言い放った

「ふふ、驚いたでしょ?実はこの曲は都が自分で作詞作曲した曲なのよ」

「そ、そうか。驚いたぜ」

鈴乃と駒木は舞台裏に入り俺は草野、村田、早乙女と共に都が手掛けた曲を演奏し始めた

都がマイクを握りオブラートに包みこみように優しい歌声を発していった

 

 

 

_____

 

永遠のように

抱きしめるように

 

じれったくて

もどかしくて

ほほゝみが嘘をつく

好きになってくほど

その先が見えない

 

これでいいの

それでいいの

私でかまわないの

愚問の連続

ときめきのジレンマ

 

絡まって ちぎった 運命と

躊躇って 結んだ めぐり逢い

さみしさは ほんとは

棘ですか 花ですか

 

きらりふたり ゆらりひとり

愛はなにを試してる

壊れながら 強くなる思い

 

永遠より 長い刹那

離したくはないから

繋がれてゆく時の絆を

忘れないで

 

 

いつかわかる

ことばかりを

心は隠したがる

大切なひとが

誰か知ってるのに

 

失って 拾った 思い出と

欲しがって 違った 宝物

幸せの 行方を

言えますか 訊けますか

 

きらりふたり ゆらりひとり

夢はどこに果てがある

挫けるたび 見えてくる光

 

1000年前 1000年先

信じ続けたいから

なによりも守りたい真実

忘れないで

 

合わせた手から

伝わるなにかが

はじまりだったら

祈ったっていい

誓ったっていい

 

きらりふたり ゆらりひとり

愛はなにを試してる

壊れながら 強くなる思い

 

永遠より 長い刹那

離したくはないから

繋がれてゆく時の絆を

忘れないで

 

 

 

_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4分25秒後

都が歌い終え満面の笑みを浮かべた後、観客席から大きな歓声が上がった。

俺は都が歌う姿を見惚れてしまい嬉しそうな表情で笑みを浮かべた

昭和歌謡っぽさがあるがいい曲だ!

俺はアンタの事見惚れ直したぜ、都

大好きな都、大好きな鈴乃…俺は都と結婚し子供を授かり幸せな生活を築き生涯を過ごしたい

都と一緒に死ねたらどれだけ幸せだろうか

もし都と一緒にいられるなら思い残すことは何もない

そう思っていた

しかし、その願望はBETAによって打ち砕かれる事はまた別の話だ

都が舞台裏に入った後、次の曲に移行し演奏し続ける

ジャズのスタンダード曲である『ジャイアントステップス』だ

ドラムを叩き俺はリズムを合わせ汗かきながら演奏する

早乙女も笑みを浮かべながら黙々とキーボードの鍵盤を叩いて演奏

草野と村田もサックスとトロンボーンの音を奏でてリズム合わせテンション上がった

4分46秒後、全てのプログラムは終わりジャムセッションイベントは幕を閉じた

その場から立ち去ろうとしたが、一人の少女が俺を見つめていた

髪型はショートで色は灰色

服装は……この時代には合っていない服装を着ていた

服色は赤、白、黒の3色

少女は俺を見つめた

興味持ちそうな顔している

「よう、どうだった?俺達の演奏。聞き惚れたか」

少女は頷く

物静かそうな性格してそうだな

長々と話するタイプではない

「そっか、お嬢ちゃんまた機会あればだけどよ。次のイベント来てくれるかな?」

少女はニコッと笑みを浮かべ、「うん」と一言を添え頷き去っていった。




劇中に出てくる曲はジャズ音楽においてだけではなくどの音楽層にも認知され有名な曲ばかりですが『キラリフタリ』だけは違うんですよ
坂崎中隊長を演じた白石涼子さんが歌った曲ですが、作品劇中では「坂崎中隊長が自ら作詞作曲した曲」と設定になっています。
これはデジャブですかね?
次回は佐渡島防衛戦です!!
いよいよですね
次回もお楽しみに


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MIYAKOSAKAZAKI OTHER SIDE

佐渡島防衛戦です!
いよいよラストが近づいてきましたね!


1998年9月24日

 

佐渡島に左遷されてから24日が経ち、A中隊の坂崎都とB中隊の大倉鈴乃が俺を親しく接した

このまま都と一緒にいたい――そう思った。

昨日は楽しく音を奏でて佐渡島の住人を楽しませた。もう一度やりたい……いつか皆揃って本土の何処かでコンサート開きたいと思ったがそれを実現する事は二度となかった

今日、佐渡島が……BETAによって侵攻される

津波警報が鳴り響いて第一波が到着。そのまま機雷原へ突入。

砲台陣地が撃ち始めると、その第一波が消滅である。見かけによらない攻撃力なのか?まだ勝利とは確定していない。

佐渡海峡付近にいる海軍の艦隊も砲撃開始

面制圧攻撃だ

第二波、第三波も順調に殲滅

そして第四波が到着しA中隊は出撃命令が出されBETA殲滅に向かう

俺も撃震の管制ユニットに入り出撃命令下るまで待機していた

「都…無事でいてくれよ」

そんな事を考えている間に第四波掃討完了。

都、早乙女に駒木達が乗る機体は補給開始した

《第五波、到達まで1分》

いよいよか……!

《いつでも出せるぞ!》

整備兵主任らしき男が合図を出す

《初陣だな、しっかり働いてくれ。失望させるなよ?》

と鈴乃は軍人らしくキリっとした表情を浮かべる

「分かっていますよ、大倉大尉」

《ちゃんと見ているからな?手加減はなしだ》

《B中隊、出撃してください。カタパルト接続確認…システムオールグリン!》

女性CPの合図で鈴乃率いるB中隊は出撃する

《B中隊出撃だ!全機、兵器使用自由!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五波に砲台陣地が間に合わない。B中隊に一分で出撃とか無茶し過ぎるだろ?

これが帝国軍の現状ってか……クソ上層部が俺達をボロ雑巾のように切り捨てる気だ。

防護壁にへばりついてる突撃級がいるが都達のおかげでBETAの数は少なくなったが油断は禁物だ

《B中隊!お客さんのケツは丸見えだ!しっかりと撃ち込んで差し上げろ!》

鈴乃は誇らしい笑みで部下達に指示を出す

そして「了解」と一言を添え命令に従い皆一同、突撃砲を握り構え38mm弾を放ち始めた

「無礼な観客は御退場願おうか」

《B中隊第五波掃討完了》

《A中隊補給完了…》

突撃級は次々と殲滅……したがそうは問屋は降ろさなかった

海中からデカブツが現れ触手でB中隊の機体が撃墜していく

《生沢!》

鈴乃は部下の名前を叫ぶ

管制ユニットに貫通した生沢という名前の衛士は戦死した

要塞級は海を進む際に、泥濘に刺さってしまわないよう脚を左右に広げて、胴を水底につけた安定状態から

攻撃態勢を取る

突如現れた要塞級を見て鈴乃は驚愕し困惑する

《フォ…フォート級…だと!?》

残弾を確認するが残りは僅か……使い過ぎてしまったか

120mm弾は余裕で残っているが120mm弾は5

俺は鈴乃の機体に近づこうとするが、サイコロ三兄弟が要塞級に立ち向かう

《これが要塞級か…》

《おっ、丁度いいくらいの化け物がいるじゃねぇか》

《こんな触手だけのデカブツなら俺達でも殺れるぜ!》

馬鹿!下がれ!

《此方B03、大倉大尉、要塞級は俺達に任せてください》

サイコロAは鈴乃に嘆願する。

《……》

鈴乃は困惑しつつ呆れた

そりゃそうなるよな……

「よせ!お前らだけでは無理だ!大尉の命令に従え!」

《お前はひっこんでろ、俺は安全に出世したいんだよ》

《手柄を取れば大倉大尉から褒美くれると思うしな》

《中隊は壊滅寸前だがとりあえず俺はそこそこのデカブツを倒して生き延びるぜ》

と、三人揃ってまるで危機感のない自信ありげな笑みを浮かべた

ダメだ、此奴ら……周りを見ちゃいねぇ

次の瞬間、三兄弟揃って要塞級に突っ込む

当然ながら敵う筈もなくあっさりと機体はバラバラに飛び散り、惨たらしい最期を遂げた

《……鬼頭!》

画面モニターから30代ぐらいと思われる細身の風貌で、やや額が広めの中分けの黒髪とサングラスの男性が映った

髪型は2本のアホ毛が特徴だ

《他に戦える衛士はいないか?》

《私と大尉、豊臣少尉を含め極僅かな戦力です、長期戦は厳しいかと》

クソBETAが!

……予想外の事が起きちまった

「おい!要塞級の入水報告は一言も聞いてねぇぞ!クソ上層部に後で抗議してやる!」

《恐らく大陸からの侵攻と思われる!》

くっ……そこまで予想していなかった

俺はこの時舐めていた

BETAの本当の恐ろしさを……京都で何を学んだんだ俺は!

落ち着け…落ち着くんだ。こういう時は

俺は落ち着きを保つ為、管制ユニットの機器にぐるぐる巻きにしたガムテープで固定したカセットレコーダーの電源を入れる

音楽が流れる

曲は『シング・シング・シング』

この曲はスウィング・ジャズの代表曲の一つとして知られており、ビッグバンドやスウィング演奏家の間でよく演奏されている。特にフレッチャー・ヘンダーソンが編成を担当したベニー・グッドマン楽団のそれは有名である

ノリがいいテンポがあるな、気晴らしに聴くのが最適だ!

俺は気持ちよく音楽を奏でつつ聞き惚れながら120mm弾を次々と要塞級に向け放った

ん~、全然効かねぇ。分かってたけどな

「大陸側から来たって事は在日米軍が来る前に先手必勝する…アホでも分かるぜ?」

と得意気な笑みを浮かんだが、そう易々と倒れはしないどころか脱落していく機体が次々と増え続け防護壁が一部崩壊しBETA群が佐渡島の街並みに入り込んでいく

米軍はまだか?何の為の安保条約なんだよ!

これは完全に見捨てられた……な。

この時点で俺と鈴乃、他の衛士達は諦めかけたがその時だ

都率いるA中隊が駆け付け、援護射撃体勢を構えていた

《応答せよ!こいつは我々がやる!》

《了解!B中隊全機後退!》

都達がここに来たことで戦力を消耗したB中隊は後退

補給は……無理だ。

こればかりは流石に俺は鈴乃の命令に大人しく従い都達に任せよう

虚しさが感じた、この時俺は知る由もなかった。

第六波、第七波、第八波と

住民達は避難してるがシェルターにいる一部の人達がBETAの餌として食べられた事は俺はまだ知らなかった

市街地での被害は甚大

この街は……この佐渡島の風景が…都達の思い出の地が…消えていく

俺が悔んでいた。が鈴乃から通信が来た

何やら、橘司令官からの『最後の命令』だそうだ。

……。

佐渡島が……BETAに、荒らされていく

《B中隊各機に次ぐ!橘指令からの最後の命令だ》

この最後の命令が都の遺志を繋がることになる

 

”この悲惨な現実から目を背けるな。そして生きろ”

 

この言葉は駒木に向けた最期の言葉となる。

数日後、北陸地方はBETAの手に落ちた。累計死者・行方不明者、日本帝国全体で約3600万人

そして佐渡島には21番目の巣、佐渡島ハイヴが建設された

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は都の事は本気で好きだった。

人の死や人の優しさ、命の尊さ……俺が知らない事まで教えてくれた

佐渡島陥落から1日後……御剣メモリアルホールと名前の葬儀場で都の葬儀が行われる予定で都含め、草野、村田の葬儀を恭子の計らいにより執り行われた

葬儀の参列者は俺と鈴乃、駒木。軍関係者並びに親戚も勿論だが、親友、同僚、恩人まで来ていた。

皆、悲しそうな眼をしている

亡骸はなく、棺桶の中は空だ

葬儀が始まった。厳かな雰囲気の中、長命寺の住職による読経が始まった

そして焼香も終わり、友人代表の鈴乃が弔辞を読まれた。

「坂崎都大尉、貴女と別れる日が来るなんて想像もしていませんでした。貴女と知り合ったのは幼少の頃、私は同じ幼稚園にいた男児から虐められ、それを追い返したのは彼女です。幼稚園を卒園しても小中高、衛士訓練学校も一緒にいて和気藹々とみんなと話していました。楽しい時、嬉しい時、悲しい時、辛い時も。都は私を受け止めてくれたんです。ずっと一緒にいたい……忘れられない大切な思い出です。草野、村田もよく頑張った。貴女の亡骸を拾ってやれなくてごめんなさい…仇は必ず取るわ。貴女の遺志は私が継ぐ…ゆっくり天国で過ごしてね」

鈴乃は震えた声で啜り泣いた

会場からは弔問客たちの啜り泣く声が聞こえてきた。そして弔電の披露が終わると喪主の挨拶が行われた。

都の父親だ。

「本日はお忙しいところ、娘の葬儀にご会葬くださり誠にありがとうございました。都は明るく社交的で友達の輪を広げ自分の趣味を楽しむ人間でした。趣味の音楽や曲作り、裁縫を楽しんでいましたが、赴任先の佐渡島でBETAに立ち向かい最後まで戦い……帰らぬ人となってしまいました。最後になりましたが、生前賜りましたご厚情に、深く感謝申し上げてご挨拶とさせて頂きます」

こうして式は無事終わった。俺は今日というこの日を忘れないだろう。

……と思っていた。

突然、葬儀場に喪服を纏った男が現れた

此奴は堅気ではなさそうだ

眼鏡かけててインテリっぽく見えるが、この目つきは尖ってる

「嘘…だろ……」

男は唖然としていた。

葬儀に参列していた駒木の方に向け男は近づいて胸倉を掴んだ

「!」

「おい、テメェ…よくも俺の親友を見捨てやがったな。何で知ってるのって思ってるようだが俺は裏の人間だ」

そう、この男は極道だ

「な……!」

駒木は恐怖を覚えた

この男に殺されると察した

「裏社会ではな、アンタが知らない情報が出回ってんだ」

都の母親が仲裁しに行く

「小峠さん、お気持ちは分かるけど駒木さんは都の言葉を背いた…でもね彼女は彼女なりに一生懸命頑張って戦ってきたのよ」

と悲しげな表情で訴える

小峠という男は駒木の胸倉を離し、都の両親、親戚一同に向け頭を下げた

「…この度はお悔やみ申し上げます。ついカッとなってしまい申し訳ありません」

……此奴は悪い奴ではなさそうだ。

駒木は怯え涙を流し鈴乃の胸に飛び込む

「駒木、大丈夫か?」

「はい…」

鈴乃は小峠に向け腐った魚の目で睨み付ける

「久しぶりだな、鈴乃」

「何の用なの!?何も言わずに私達を裏切った貴方が何でここにいるのよ!?」

「…都の訃報は既に知ってる。いきなり現れてすまない…」

「都は、坂崎大尉は佐渡島で死んだのよ!謝っても…都は二度と帰ってこないわ」

どうやらこの男は都と鈴乃に因縁があるようだ。

幸い、佐竹と鬼頭はお手洗いに行ってる。

小峠という男、何があったか知らないが恐らく元衛士だと思う。

「…」

俺の方に向きやがった。

おいおい冗談だろ?疑わしい目で見ているぞ

「君は斯衛軍の豊臣悠一だな?」

「俺は小峠華太、天羽組にいる武闘派の極道だ。都と鈴乃とは衛士訓練学校で知り合い共に戦った。勿論戦場でBETAと戦った事は経験した」

天羽組………だと!?

「駒木、いきなり胸倉を掴んですまない。お前はお前なりによく頑張って戦った。そこだけは褒めてやるよ」

「……いえ、私こそごめんなさい。最後まで坂崎中隊長と一緒に戦いたかった。でも自分が殿を務め私達を……」

駒木はそう言って悲しい表情で泣き崩れた

「そうか……」

小峠はポツリと呟き、鈴乃の顔を涼しい目で見た

「A中隊の早乙女まどかって女だが…」

鈴乃は目線を逸らす

「都の部下だった衛士よ。彼女がどうかしたの?」

小峠は凛とした表情で早乙女の生死を鈴乃に教えた

「軍の公式情報だが生死不明扱いになっている。遺体はなかったから何処かで生きてる可能性は高い」

ん?彼奴、目が泳いでるぞ。

何か隠してるな……探りに入れるか

「アンタ、裏社会の人間だろ。少し気になった事あるが聞いて構わないか?」

「ああ、構わない。話せる事は限られるが」

「早乙女は…早乙女まどかは生きてるのか?」

俺がそういうと、小峠は口籠った

「答えろ!」

「…………」

「何処にいるんだ!?」

「残念だがそれは教えられないな」

何でだよ!!!!

相手は極道だ、勝てる相手じゃない

「彼女はウチで匿ってる。が居場所は教えられない」

「……誰かに狙われてるのか?」

俺は小峠に問いだすが鈴乃に制止された

「……」

鈴乃は悲しげな顔しつつ小峠の顔を見て話し始める

「…私達にそれを伝えに来てくれたのね。小峠」

小峠は頷く

殺戮と破壊を繰り返しつつBETAという敵と戦っている

小峠はそれをわかって……。

「ああ、鈴乃…何も言わずに軍を抜けてすまなかった」

「……」

「許してくれはしないよな……」

「……都は貴方の事が好きだったのよ。いつも競争してどちらが上か競い合いしてた仲だった」

鈴乃……小峠と同期だったのか

「俺はいつも負けていた。彼女は模擬戦でどんな衛士でも軽々と倒してたからな。最後まで勝てなかった。いつかまた競争したかった。でもそれは二度とない」

………。

「豊臣、鈴乃の事頼んだぞ」

「お、おう…」

小峠……お前は俺に鈴乃の事を

小峠はこの場から立ち去ろうとしたが鈴乃に下の名前で呼び止める

「華太ぉッ!」

「何だ?」

「貴方はどうするの?」

「……俺はキリスト恭順派の連中と協力しこの戦争を終わらせる。これが都の仇というならば何だってやる!」

小峠は鈴乃に手を差し伸べるが……

「……気持ちは分からなくもないが、私だって悔しい。だけどあの連中がやろうとしてる事は間違ってる。そんな事しても都が喜ぶの?逆よ!悲しむに決まってるわ!そんなことに手を貸すだなんて私は出来ない!」

鈴乃はそれを拒む

「俺だって好きで連中と協力しようとしてる訳じゃない。親の命令なんだ……親の命令は逆らえねぇ。が俺は連中を信用していない。テオドール・エーベルバッハっていうテログループのリーダーが好き放題してる。黒い噂が多い……だから鈴乃…」

「やるなら貴様一人で勝手に行け!」

「……!」

俺は会話に入れない

空気がピリピリしている

「勘違いしてるようだから一応言っておく、俺は親の命令で連中と協力すると言ったが組の構成員全員が連中の事は信用していない。潜入して情報を手に入れるだけだ」

成る程、だから『キリスト恭順派と協力する』と言ったのか

言い方が紛らわしいぜ……。

「華太……それが本当なのね?」

「ああ、俺は嘘言わない」

「……一応信じるわ。でも貴方との協力は出来ない」

………テロリストに手を貸すわけないよな、当然だけど。

テオドールがやろうとしてる事は大体予想がつく

そして小峠はとんでもない驚愕な情報を俺達に教えた

「これは情報屋から聞いたが、テログループを指揮しているテオドール・エーベルバッハの影武者は100人いる。これは定かではないが彼を支援している黒幕がいる可能性は高い」

黒幕か……あのテオドールの事だ。あり得ると思うな。

世界中を敵に回した哀れな英雄……彼の印象はそう捉えざるを得ない。

「お前らはBETAを一匹残らず殺す事を専念しろ。これ以上は首突っ込むな…いいな?」

そう言い残し、小峠は立ち去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐渡島陥落から2日後……俺は斯衛軍上層部から帰投命令が下るまで帝国軍の練馬駐屯地へと赴任し待機している、佐渡島がBETAの手に堕ちたのは正直悔やんでいる

泣きたいが泣いてる場合じゃねぇ

と俺は涙を堪える、モヤモヤした気持ちのまま会議室へ向かった

鈴乃から何か言われるかもしれない

その向かってる途中、駒木と遭遇し話しかけた

「よ、よお…」

俺は作り笑顔で振る舞う

今にでも崩れそうだ

「……豊臣少尉、先程上層部から転属命令が下され帝都防衛第1師団・第1戦術機甲連隊に赴任することになりました」

「そっか……じゃあ暫くは会えないって事か?」

駒木は悲しげな表情を浮かび視線を逸らす

「いいえ、もう永遠に会わないと思ってください」

は?

「おい、冗談はきついぜ…まぁ駒木の事だから何とかやっていくだろう…」

不穏な空気が流れる

何だありゃ……?

「…もう貴方を愛しません…そうすれば沙霧大尉の為に忠誠を尽くす事が出来る」

沙霧大尉……駒木の上官となる軍人か

「そうだ……な?俺達の最終目標はBETAをこの世から消滅させる…」

「ええ、そんな事は誰にでも理解しています。あの頃に戻りたい……今でも夢に見る程です…草野少尉、村田少尉に早乙女少尉、坂崎中隊長の仇を!」

「お前…都の命令に逆らったんだろ…彼奴は…彼女はお前を生かしたんだぞ!理解できてねぇのは駒木…お前の方じゃないのか?」

「この苦しみを……貴方も背負えばいいわ…貴方なんか坂崎中隊長の何が分かると言うんですか!」

駒木は怒りを露にしつつ泣き言を放った

「迷ってるのか?何を成すべきかを…」

「私は迷いはありません、坂崎中隊長の仇は……貴方が取ればいいんだわ!」

駒木は冷たい視線でそういった

俺は何も言い返す言葉がなかった。

「もう戻ってこないんですよ……どんなに足掻こうと……だから私は、民を導いていない日本を…変えて見せる!」

この瞬間から駒木は今までの自分と決別した

そして、後に彼女があのクーデターに参加するとはこの時の俺は何も知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐渡島陥落から陥落から6日後、欺衛軍本部の会議室にて帝国軍将校を集い、俺を含めかつて佐渡基地第三予備戦術部隊B中隊の中隊長だった鈴乃とその残存戦力と戦災難民で組織された一団『佐渡島同胞団』を設立。

日本の上流階級者や権力者達は、各々の財産や資金を持ち寄り佐渡島の再建を決意した。同胞団の決起会はインペリアルタワーで行われ、佐渡島出身の帝国軍軍人らも参加して故郷の再建とBETA消滅テロリスト打倒を叫んだ。当時はあくまで難民による市民団体でしか無かった佐渡島同胞団ではあるが、明星作戦により状況が一変する。アメリカ政府は一方的な判断で現場にいる衛士達を知らせずにG弾3発を投下、事実上の隠蔽工作を容認する動きを見せていたのである。これを察知した佐渡島同胞団や難民は激怒し、国連を通してアメリカ政府を糾弾した

しかし在日米軍が撤退した事で徹底抗戦が決定し、演説を視聴していた佐渡島同胞団の面々を怒りを買い日米両関係を悪化させている。

佐渡島同胞団は来るべき故郷の奪還に備えて各地に離散した島民や本土にいる市民に志願兵の募集を行った。BETAへの憎悪を強く持つ彼等からすれば、故郷の奪還とBETAへの復讐は悲願でもあり、募集から一月程度で数万の衛士が学徒兵として帝国軍に入隊している。しかし中には中学高校生程度の少年少女達もおり、その中でも個人的な家庭事情での食糧問題から軍隊への入隊を決意したという事情を持つ者が少なくなかった。

佐渡島同胞団の上層部は、この学徒兵と佐渡島出身兵から成る佐渡島奪還部隊の編成を帝国軍に要請する。当初はこの義勇軍の編成に難色を示した国防省ではあったが、佐渡島再建後の日本政府への貢献を約束したことと、斑鳩少佐の後押しがあったことから佐渡島同胞団の義勇軍編成を認めた。無論あくまで所属は帝国軍、斯衛軍ではあったものの、佐渡島奪還に関する軍事行動であれば比較的自由な権限を与えられている。これは同胞団から国防省への多額の資金提供の賜物であり、後の日米共同のXFJ計画において有効に活用されたと言われている。この資金提供が後の同胞団艦隊編成や94フルアーマー、94サブレッグの開発と提供に繋がっていくのである。

そして俺達は……奪われた故郷を取り戻す!

 

 

 

 

 

 

 

fin




投稿遅れて申し訳ありません
三か月…三か月かかりました(-_-;)
すみません…ホントに
終盤に出てきた小峠華太ですが、これはですね元はヒューマンバグ大学っていう動画チャンネルに出てくる武闘派のヤクザですね、何らかの形で彼は物語を関与すると思います。断言はできませんが(-_-;)
次の話は……まだ考えてないです、はい。
という訳で暫くの間、外伝での投稿はお休みとさせて頂きます。
ではまた!


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This wonderful world of despair
日帝の武闘派衛士 前編


今回は坂崎中隊長と大倉中隊長がまだ新米衛士だった頃の話です。
『マブラヴオルタネイティヴクロニクルズ ~贖罪~』を参考にして書きました。
大倉中隊長視点で描写し、少し偏っているところありますが温かい目で見て頂ければ幸いです。
三部作でお送りします。


私の名前は大倉鈴乃

道を極めている為に自分を磨いている日本帝国本土防衛軍佐渡基地司令部第三戦術予備部隊B中隊の長を務めていた女性衛士だ。

私がまだ幼少の頃、同じ年頃のいじめっ子のリーダー格に目付けられ虐められていたがそれを割り入ったのは後に同じ所属のA中隊の長を務めていた坂崎都大尉…私の戦友であり酒を飲み歩きシェアハウスに住み一緒に寝た深い関係であった。

小学校、中学校、高校、衛士訓練学校も同じであり都と一緒にいた生活は楽しく過ごしていた。

この楽しい日々は一生続くと私は思っていた。

あの地獄の日が来るまで……。

 

1990年

私と都がまだ訓練衛士だった頃、帝国陸軍横浜衛士学校の門を叩き衛士界隈に入った。

界隈に入ったとはいえまだ未熟の訓練兵。

BETAという存在は世界がどれだけ蹂躙され国土を荒されたかを教官から頭に叩き込まれた。

世間では女性衛士は邪見扱いしているがそんな事は関係ない。

ただ、授業も碌に受けず不貞腐れている鋭い目付きに丸眼鏡の男がいた。

私は気になり隣にいる訓練衛士に話しかけた

「あの眼鏡の……見かけない顔だけど」

「ああ、小峠の事か?彼奴は子供の頃から極道を憧れててさ、当時住んでた家の近所にヤクザらしき男がいたんだ」

確かにヤクザは世間から忌み嫌われてるのもあるが全員が悪人ではない

「関心を持たなかった両親の代わりにさ、その彼は面倒を見てくれた。その後両親が離婚して母親に付いたがそれでも母親が多忙で親子の仲の再構築はもはや不可能でグレて不良に成り下がった。所謂不良訓練衛士だな」

親が共働きだっただろうか家に帰ってくるのは遅い時間帯だった。

私は更に彼の事を聞き出す

「そのヤクザってどうなったの?」

「追い出されたよ。理由は暴力団だからって…両親の不仲だった彼はグレ始め衛士訓練学校を入った同時に家を飛び出したって訳さ」

………成る程、そういう経緯が。

「やめとけやめとけ。彼は未だに極道を憧れてるから関わらない方が良いよ。それに彼奴…本当に極道の世界に入ったかもしれないよ?」

日本がBETAに呑み込まれようとしているこのご時世で極道の世界か

笑えないが、彼には彼なりの事情があるのだろう。

講義が終えた後、私はその男に近づき話しかけようとするが突然睨まれ激情で圧を抑えられた。

「何だテメェは?」

「同じ訓練衛士の大倉鈴乃よ」

態度が悪いが悪くないが関係ない

「貴方、何故衛士に?」

質問を投げると、小峠は答えを返してきた

「あ?テメェには関係ねぇ…首突っ込むな!」

「極道の世界に憧れてる貴方が何故衛士になろうと?」

「しつけぇな……ぶっ殺すぞ!」

彼は態度が酷過ぎたためか私は彼に平手打ちを一発叩いた

パチーン!

「……っ!」

「講義をさぼって何処ふらふらと歩いてるのかは詮索しないわ。でも私は、貴方の事をもっと知りたい。だから…」

そういって彼に手を差し伸べる

周りからは関わるなと言われたがそんなの関係ない

「何の真似だ?」

「ん?私は貴方の味方よ」

「味方だと?」

私は笑みを浮かび頷いた。

彼は私の手を握り不貞腐れた態度取りつつ頬を赤らめた。

「……衛士になりたいと思った訳じゃねぇ。俺は憎いんだ…BETAを」

「そう…」

「それに、お前の事は知らねぇがいい奴に見えるよ」

自分が望む未来を他人任せにしたくない

彼だけでなく私と都はそう思った。

「良い人か……」

彼と話してから10分経ち、都が寮に戻るよう私に手を振る

「そろそろ私は行くわね」

立ち去ろうとした次の瞬間

「それと俺はアンタと同じ班の班長だ。今まで放り投げてすまない」

彼は私と同じ班の班長だった。

彼は射撃、格闘はあまり強くはないが度胸はあり、どんなに痛めつけられても絶対に引かない不屈の根性の持ち主の性格だ。

そして今まで講義に出なかったことを私に謝罪した。

「班長失格だ、アンタがまさか俺と同じ班にいたとはな。驚いたぜ」

「別に驚くことじゃない。貴方が講義に出てくれればそれでいいのよ。他の人達も迷惑掛からない」

「新井とは同じになりたくねぇ。彼は典型的な男尊女卑の考えを持つ男だ」

仁義と任侠はあるな…少し理解した気がする

衛士は男も女も関係ない

そう言いたいよね?小峠

「大倉は、何で衛士になったんだ?」

私は正直に答えようとするが都が私の名前を叫んだ。

小峠は寂しげな顔を浮かびつつ立ち去ろうとする私にこう言い放った

「大倉!」

「?」

「また話そうな……俺頑張るから。アンタに好かれたい」

彼がそう言うと私は小さな笑みで言い返した。

「ええ、また話しましょう」

これがきっかけで私と都、後に天羽組の武闘派ヤクザ、小峠華太と出会った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、実技訓練に遅れた私は都に咎められた

「遅いぞ」

「ごめんね……寝坊しちゃって」

「……班長が極道に憧れている男だとはな」

まあ、そうだよね……。

少し落ち込んだ私は、小峠を見かけた

訓練だけは参加するのね

「おはようございます、小峠班長」

「ああ、おはよう。教官からの話がある」

私達が担当する教官は坂元という名の衛士だ

周囲からは「鎌使いの坂元」「化け物」と恐れられている

なんでこんな男が教官に……黒い噂が絶えない。

衛士では珍しくBETAとの戦闘では、突撃砲で発砲しながら特注の戦術機用鎌を振るって襲い掛かるという、恐ろしい絵面で攻め立てる戦法だ

真面な衛士とは程遠い

ツーブロックの金髪と、帝国陸軍BDUを身に纏い筋骨隆々な体型が特徴の男―――坂元が私達の前に立った。

私達の前に修羅場を起こした。

「貴様等全員集まったのは外でもない!この中に俺の恋人を奪った無礼な奴がいる」

髪の毛が逆立つほどに坂元は怒っていた。

しかも自分の恋人を奪った犯人を捜している

私の後ろにいた山田という男が挙手をした

「ん?山田訓練兵か!」

「はい!」

「テメェ……大変な事したねぇ」

「ひぃっ!」

挙手した山田は坂元の問いに詰められる

「俺の女に手を出して……勇気あるじゃん。死にたいんだね?」

「も、申し訳ございませんでした!!」

山田は坂元の恋人と知らなかったのだが、そんな理由で通る筈がなかった。

坂元は「こっちに来い」と山田に誘導し鉄拳制裁を食らわした

私達の前でだ

そして坂元は山田に対し儀式が行われる

そう、指切りだ。

私達訓練衛士の前で公開処刑の形で指を切ろうとしていた

「分かってるよなぁ。山田訓練兵…手を出せ」

「う…」

衛士は健康状態をきちんと管理しなければならない

体重は勿論、病気とか怪我などあったら致命的だ

当然指を切る時点で、衛士生命は絶たれる。

「鈴乃、坂元教官には絶対に逆らうな。私達にも指切られる」

都は坂元の事は心底嫌っていた……あれが衛士訓練学校の教官の行動とはとてもじゃないがそうは思えない

坂元は山田の指を輪ゴムで縛り付け麻酔代わりにする。

「はぁ…はぁ…」

「そろそろいけんだろ。ワレ」

「は…はい…」

鬱血して指の色が変わったら山田をうつぶせにさせ刃を向ける

意図をピンと張ったような緊張感の中、私は怯えた顔で見ていると……

「小峠……お前がやれ」

「えっ?」

突如飛んできた思わぬ球に小峠は面を喰らってしまった

「あぁ?何だその返事は」

「いや…やらせてください」

勿論、坂元の前で首を横に振る事は衛士生命が絶たれてしまうからだ。

「すまん、山田」

「うわぁああああ!」

決意を固め、小峠はそっとアーミーナイフを持ち上げた

そして

「フンッ!」

ザク!

「うがああああああああああ!俺の指がぁぁぁぁぁっ!!」

山田の指が飛び、衛士生命は絶たれた。

これにて山田の禊が終了……と思った次の瞬間。

「まだ終わったなんて一言も言ってねぇだろうが」

「へ……え……?」

なんと坂元が自前の鎌を勢い良く振りかぶった

そしてあろうことか麻酔していない他の指を切り落とし始めた

「ほらほらほらぁ…どんどん切っていこう!」

それだけでは気が収まらず、あろう事か「いっぽんでもニンジン」を歌いながら指を切り落とす

「ギィィ!!」

狂気じみた笑顔で次々と指を切っていく

「ドラ〇もんになーれ」

暴走機関車と化した坂元は最早誰にも止める事は出来なかった。

数分後、やっと坂元の手が止まり儀式が終了した。

「ヒャヒャヒャ!アミバだ!アミバ!」

「ひぁぁ」

山田の左手の指が4本なくなり絶望に追い込まれ、何も出来なくなっていった

女性の悲鳴が響き、他の班がいる訓練場まで巻き込まれ事件が起きた。

この事件は衛士訓練学校指切り事件として世間に広まり、その後、山田は救急車に運ばれたが切られた指が坂元によってゴミ箱に捨ててしまった為か修復できず誰にも一言別れの言葉を言わずそのまま去ってしまった

その後の消息は不明となっている。

しかし、禁忌を犯したとはいえあまりにも凄惨過ぎる断罪だった。

「貴様等は足手纏いになりたくないなら山田みてぇにはなるんじゃねぇ」

この男は狂人だ

この時、私達はまだこの言葉の本当の意味を理解していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、凄惨な光景を見てしまった私と都はPXで食事をしていた。

あんな光景は二度と見たくない……。

暗い表情を浮かんでいた私は食事を手付かずにいたが、都は心配そうな表情で私に話しかけた

「鈴乃、お前の気持ちはわからないまでもない。確かに山田は坂元の恋人を奪った。が彼は衛士の命綱である指を切った。今回の件で坂元は左遷されるか退役されるかどちらかだろう」

………都、貴女は私の事を心配してくれてるのね

「鈴乃、今日は思い切り私の胸に飛び込め」

都が優しい笑顔で浮かびそう言うと私は啜り泣き始めた。

「うぅ……ぅ…」

「早く食事を取って。体調管理はしないと体壊すぞ」

私は頷き食事を取り終えた後、寮に向かおうとしたが小峠と遭遇してしまう

「何だ?」

少し複雑な表情を浮かんだ

やらされたんだ。それしか言葉が浮かべなかった。

「大倉、それに坂崎もいてたのか…」

都は小峠に詰め寄る

「いてて悪いのか?あと、坂元にやらされたんだな。南雲教官はお前の処遇については不問になったと聞いた」

「ああ、すまない」

………。

「坂崎もか?」

「?」

「その…アレだな。坂元教官に何か因縁付けられたのか」

小峠は都に問いかける

「ないよ。私達がここにいる理由は早く一人前の衛士になって異星起源種を殲滅したいだけだ」

都の答えを聞いた小峠は納得するような顔で頷いた。

「そうだな……坂崎、俺は」

「都で構わない」

「え?」

「私の事は都と呼んでいい」

そこまで親密ではないが都は小峠に下の名前で呼ぶことを推奨した

「……じゃあ俺も下の名前で呼んで構わない。都、鈴乃……」

この時の私は小峠…いや華太を班長としてだけでなく一人の男として接する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その次の日、坂元教官と南雲教官が私達を訓練場に集まり今回は白兵戦での模擬戦を行った

真面に訓練受けてないのに白兵戦の訓練……だがこれも衛士訓練の一つだ

負けていられない……!

「いいか!クソ共よ!今回は白兵戦を想定した模擬訓練を行う!貴様等新米がどれだけ成長出来てるか俺は見届けさせて貰う!」

坂元は教官らしく言い放った。

今更教官面しても遅いわよ

早く終わらせないと……

「各班、互いに1対1で戦闘始めろ!合図を出すぞ」

緊迫感が走る。そして――――

「始め!」

坂元が合図を言った瞬間、私が地を蹴り華太の懐へと突っ込む。

相手が華太か……闘志が燃えてくるじゃない

目の前で屈み下から振われる刃。しかしそれは意図も容易くゴム製の訓練ナイフに受け止められてしまった。

「くっ!」

「まだ本気は出してないようだな」

受け止められた左手を回し、遠心力を利用しながら今度は右手を繰り出す。しかしこれも上手く上体を逸らした華太に躱される

汗ばんだBDUを着つつ訓練ナイフを握る私は華太を切り込む

「ぐうう!」

「!」

華太は勢いのまま後ろへと下がる。だがそんな隙を私が許す筈もない。目にも止まらぬ速さで距離を詰め、そのまま突きで華太を狙う。

その次の瞬間、私の目に映ったのは、小さな笑みを浮かべる華太の姿だった。

私は、華太の右手に掴まれていた。

「捕まえたぞ……!」

「っ!」

私の首元へと振り下ろされる左手。間一髪で回避に成功したものの訓練ナイフを手放す

「奇怪な事を……!」

「それが仁義を守るっていうんだ」

再び華太へと突っ込む私。

しかし華太が持つ訓練ナイフの刃先に私の右目を向いた。

そして、勝負はつく。

「俺がいない間、ここまで強くなるとはな……」

「なっ……」

力が抜け、膝をついたのは私の方だった。

「勝負はついたが、その調子じゃ俺より強くなってるかもな」

「え……?」

「見直したぜ」

華太は私に誇らしい笑みを向け浮かんだ。

3時間が経ち、坂元の合図で訓練は終了

「よぉし!やめ!」

この時点で皆は疲労困憊だ。

そしてPXで食事を摂りに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PXで私と都、華太の3人で食事を摂取している途中、男の声が聞こえある女性に詰め寄ってきた光景を見てしまった。

「参ったなぁオイ!?飯を食う姿は御淑やかな女そのものじゃねえか。え?」

彼の顔を除くと、そこにはトレイを持った新井が立っていた。

そしてあろうことか、向かいの席で腰を下ろしてしまった。

彼女はそれを無視し、カレーを口に運ぶ

余談だが私もカレーを食べている

都はチキンカツカレー

華太はエビフライカレーだ。

「なあ、神宮司。お前さ、女の癖に何で衛士になって戦おうとするんだよ?」

そんな事を言いに向かいの席に座ったのか

呆れたな……

「お前に限らず、志願する女共ってその辺が不思議なんだよなあ。後学の為に聞かせろよ」

こんな奴の質問に真面に答えるのは恐らく坂元だけだろう。

トラブルの切っ掛けを態々与えるようなものだ。

他の教官の目がある。私は彼女――神宮司まりもの様子を見届けるしかなかった。

しかし、華太が席に立ち新井の元へ近寄り威圧的な顔で問い詰める

「話の途中悪いな、聞きたい事がある」

「誰だお前は?」

その目は、腐った魚の目だ

都は冷静に振る舞い何も言わずに黙々とカレーを口に運ぶ。

「俺は小峠華太、今の世の中を生きるしがない訓練兵だ」

「へぇ~、アンタも衛士になって戦おうとしているのか?良い度胸だ。で、聞きたい事ってなんだ?」

「ああ、アンタが言う女が戦ってはいけない理由聞かせて貰えないか?」

馬鹿!何を言ってるの!?

暴力沙汰にならなければいいけど……。

「おいおい、質問で質問に返すな。会話もまともにできねぇのかよ。神宮司と同類だな」

その時、華太は怒りを抑え拳を握り堪えていた。

馬鹿に馬鹿扱いされるほど腹が立つ事は無い

だが、華太は違った。古き良き任侠がある男だったのだ

「そうか……だったら話しかけるな。アンタ、坂元教官がやらかしたことを知りつつ知ってて知らないふりをしてるな。他の班の人から聞いた、とばっちりな行動してるんだってな…」

「とばっちりなのは神宮司の方だ。馬鹿にしてるのか」

この男は………!

「答える気がねぇなら一生黙ってろ。他の教官が見られているぞ」

新井は伺うように辺りを見回した。

教官はこっち見ていないのに馬鹿な男だ

「女は大人しく銃後で男を支えてればいいんだ。非力な女が戦場に行ったところで何になるんだよ」

女は非力、役に立たない……所謂、「私作る人と俺食べる人」か。

その短絡思考に唖然とさせられた。

一昔前の歩兵ならいざ知らず、衛士には腕力以上に重要なものがあるだろう

「衛士は男も女も関係ねぇ…アンタが言ってる主張は何も根拠がねぇただの差別発言だ」

神宮司が言おうとした言葉は華太が代わりに新井と言い争っている

「いいや違う。女はのこのこと戦場に出てくるべきじゃない」

会話になってすらいなかった

もう怒りが限界に達する頃だろう……。

嚙み合わない問答を続けるのも仕方がない

この男は最初から明らかな敵意しかない……つまりBETAと同じだ。

互いに理解し合える事は不可能だからだ。

「女兵士が役立つとすれば、レイプされる民間人とカマを掘られる新兵を減らす事ぐらいさ」

醜悪な発言だ。

冷静に振る舞った都は食事を口にするのをやめ彼の言葉を耳に傾ける

流石に腹立ったのか新井の元に行く

そこには殺風景な空気

「ん?俺は親切に言ってやってるだけだぜ、小峠」

「あ?」

「訓練学校で良い成績を収めたって公衆便所になるか無駄死にするだけだ。悪い事は言わねえからやめておけって」

華太は新井に殴りかかろうとするが都に止められる

「!」

「私に任せろ」

都は新井の顔を見て軽蔑した目線で話しかけようとしたが神宮司の口が開き言葉を放った

「なるほど……そういう事……」

「おおっ、やっと理解できたか?じゃあさっさと除隊しちまえ。それがいい」

「私が理解したのは、あんたを女を目の敵にする理由」

「あ?何が言いたいんだ?」

華太は怒りを鎮め都の傍に寄り神宮司と新井の会話を見るだけだった。

神宮司は続けて言い放つ

「あんた、自分がカマを掘られたいから女が邪魔なんでしょう?それならそうと早く言ってくれればいいのに」

「…何だと!?」

聞き耳を立てていた周囲の訓練兵達が声を上げて笑った。

新井は余程腹が立ったのか、顔が真っ赤になった。

いい気味だ。

「競争相手は今のうちに減らしておきたいのね……でも安心して。あんたのお楽しみを奪うつもりはないから」

「おい……俺を挑発すんな。とばっちりはもうごめんだからな…」

声色は落ち着かせているが、明らかにドスを効かせている。

「旗色が悪くなると、脅しにかかるなんて最低ね」

「……うるせえ!」

最早会話に介入するのは不可能だ

ここから先は新井と神宮司の討論合戦だ

「ろくな根拠ない癖に、感情論だけで絡んでくるからそうなるのよ。恥をかきたくないならせめて場所を選べば?」

神宮司の言う通りだな

新井は鼻で笑う

「フンッ」

バツが悪いのか徐にトレイを煽り、物凄い勢いでカレーを掻き込む。

成る程……教育がダメなら学習させておけばいいのか……。

「―――じゃあ、お前には、女が戦場に出るべき根拠ってヤツがあるのかよ?――――ああッ!?」

…………学習ができない男か。

やれやれね。

「男性の徴兵年齢の引き下げに続いて、女性を徴兵対象にする事が今の帝国議会に検討されている事ぐらい知ってるわよね?」

「――――ッ!!」

新井の顔色が変わる。女が同等に扱われるのが本当に嫌だったんだな

これは神宮司が勝ったな。

ふふ、いい気味だ。女を見下すから罰が当たったのよ。

「――――検討しているだけだろッ!そんな事する必要ねえんだよッ!!」

「――必要だから検討しているんでしょう!BETAとの戦いは人類全体の問題なのよ!!」

そうだ、もっと言ってやれ

「当然男達の問題だけじゃないわ。もう女だって戦わなくちゃいけない時代なの!」

欧州では女性を編成した戦術機中隊が存在する

日本もそれを見習うべき時が来たのだ。

だから私と都はここにいるんだ。神宮司も同じだ。

自分に出来る事なら何かを成し遂げて軍隊に身を置いているんだ!

だが、新井は見下した態度を取りつつ不敵な笑みを浮かび言い放った

「……流石志願兵様だぜ。随分とご立派な事だな?!」

「別に。でも、男というだけで女より優れていると信じているあんたよりは、よっぽどまともでしょうけど」

「なにい……!?…お前はそんなに戦争が好きなのかよ!?」

何も知らない癖によく言う

「―――そんなもの好きな訳ないでしょう。分かった風な事言わないで!」

「じゃあ何だってんだ、ええッ?お得意の根拠っていうヤツを言ってみろよ」

これは流石に呆れた

いい加減にしてほしい

神宮司は怒りを露にし言葉をぶつける

「――なんであんたなんかに話さなきゃならないのよ。いい加減にして」

そう言うと新井がまた見下す態度を取り不敵な笑みを浮かびながら言い放った

「ふん………偉そうな事言っても結局それかよ。どうせ根拠なんてねえんだろ!?」

ッ!

「徴兵されて嫌々ここに来た奴とは根本的に違うのよ!あんたみたいな志の低い男と一緒にしないでよ!!」

神宮司がそういった後、新井は睨み付ける

「―――てめぇ……」

静観を決め込んでいた周囲の連中が色めき立つ

だが誰も新井を止めようとしなかった……筈だった。

ここにいる殆どの訓練兵が徴兵でここに来た者達だ。神宮司の言葉は彼らへの侮辱にも等しかったに違いない。

周囲に誤解されようとも、華太は関係なかった。

都は華太を静止する

これは神宮司本人の問題だ。下手に介入したらややこしくなる

「また頭に血が上ったのね。そんな事じゃ、幾ら訓練校の成績が優秀でも無駄死にするわよ?」

「ッ……」

自分の台詞を返されたのがよっぽど悔しいだろう。

新井の顔が更に赤くなる。

「教官の言った通り、あんたみたいな短絡思考の人間が隊にいたら、いつか誰かを殺す事になるんでしょうね」

「……女だから殴られねぇと思ってやがるな……」

「あんたこそ、女を殴り返さないとでも思っているみたいね?」

互いに殴りかかろうとした次の瞬間、教官の怒号が響く

「―――楽しいお遊戯はそこまでだ!クソ共ッ!!」

「――!?」

教官の声に新井の腕から力が抜ける。

最悪な場面だ……。

「―――いつまでクソを喰ってる気だウジ虫共ッ!その小汚いケツを蹴り上げられたくなかったら、さっさと演習場に行けッ!」

教官の怒号に、今まで動こうとしなかった周りの連中が、蜘蛛の子を散らすように動き始める

無論私達も含めてだ。

「新井、神宮司、貴様達は訓練後に教官室に来い!言い訳次第ではここから叩きだしてやる……覚悟しておけッ!」

教官は、視線で私達を殺そうと試みているような形相だった。

互いに「了解しましたッ!教官殿」と一言を添え演習場に向かって走っていった。

良いパートナーと巡り合ったな神宮司

私は少しだけ神宮司を羨ましく思った。




バグ大の小峠を出しましたが、本編の彼とオルタ世界の彼は全く異なります。
坂元教官は当然ながらバグ大の坂元の兄貴ですね(-_-;)
ヤクザでなくても狂人さがある事は変わりありませんね
一番関わりたくない衛士として登場させました。
こんな男が教官だなんて信じられませんね……。
訓練兵達の前で公開処刑という形で指切られるのはやり過ぎですね(-_-;)
それでは、皆様にはこの辺りでブラウザバックして頂いて今回は、ここで筆を置かせていただきます。
因みにバグ大キャラの中で一番推しなのは紅林君です
女性キャラは高嶺さんや千恵さんかな( ´艸`)


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日帝の武闘派衛士 中編

総戦技評価演習です!!



その後、脱落者が出る度に班は再編を繰り返した。

そして予想通り、私と都、華太は常に同じ班だった。

再編の度に、私達をいがみ合わせ陥れようという、教官達の悪意に満ちた笑顔が浮かんだ。

坂元もその一人だ……。

だが彼らの目論見に反し、2度目の再編以降、私達は通常運転で問題行動は起こさずいつも通りに過ごしていた。

どういう心境の変化が起こったのか、華太が私と都の会話を割り入る程親密の仲になっていた。

私としてはそれで嬉しいのだが、最も喜んだのは都だ。

………新井と神宮司については班が違うので深くは詮索しないがこれだけは言える。

華太曰く「新井が無用な接触を避けたおかげだからか、訓練中の最低限の会話だけで済んでいる」との事だ。

やはり新井は馬鹿ではなかったらしい。

そうやった方がお互いに効率が良い事をいつの間にか学習能力を身に付けていた。

仁義と任侠がある華太も最初は学がなかったが、私と都に出会ったおかげで心を開いていった。

ある意味、それは私にとって願ってもない事だった。

今度は都と華太の成績争いが勃発し、互いにライバル視していた。

私と都の成績が下がる直前、華太は引き離しにかかるという事を繰り返した。

その影響だからか、『小峠班』は常に2位を取り続けた

神宮司がいる『新井班』の下の成績だ。

―――そして私達は、総合戦闘技術評価演習の時を迎えた。

「オイ!そっちはどうだ」

華太は焦りをせず冷静に怒鳴った。

他の連中も一斉に私を見る。どの顔にも不安がべったりと張り付いている。

私は手頃な石を運び、少し離れたブッシュへ投げた。

「――ッ!」

演習用のシリコン弾とは言え、当たり所によっては大怪我をする。

それを目に直撃したら失明は免れない。

湿度と温度も相まって、背中に汗が伝う。

「……」

「どうだった?鈴乃」

「ダメだ………完全に頭を押さえられている」

「クソ!」

華太は悔しげな表情を浮かび拳を地に叩く。

華太が悪態をついた。私もそうしたかったが都に「意味がないからやめろ」と言われやめた。

同じ班にいる班員達は焦りを出していた

休まずに歩いてたからな……無理もない。

「おい……どうにかならないのか!?」

「もう疲れたよ……」

不安げな班員に応え、私は背を預けていた。

岩の陰から、撃たれた方向を見る。

崖の上に重機関銃を備えた自動制御の露天銃座が見えた。

「………」

3班に分かれ、中継地点を破壊した後に合流した私達は、距離こそ最短だが、最も険しく困難な道を選んだ。

常識を逸脱したルートを選択する事で、軍事的障害を効率的に回避し、行軍に集中する狙いだった。

事実、行軍ルートに軍事的障害は殆どなく、目論見は成功した……かに見えたが最後の最後に罠に嵌ってしまった。

必死の思いで2昼夜殆ど休まずジャングルを踏破し、やっと回収ポイントの目と鼻の先にたどり着いたと思った矢先に目の前にあの銃座が立ちはがかっていた

「華太ぉ。このままじゃ私達不合格になるぞ?」

都は華太に不敵な笑みを浮かび、ゆるんで少し開いた唇と、エロチックな視線とが、射るように圧迫しつつ腕を回し首を囲んだ。

「オイ…誤解されるだろ」

都は笑みを崩さず疲れは見えるが冷静に振る舞っていた。

どうする…この先は。

当然、私達だけでなく他の訓練兵は疲労と絶望が重く圧し掛かり誰もが苛立っていた。

この状況下で笑みを浮かべているのは都だけだ。

メンタルが強過ぎる……これは本気で私達を合格に導こうとしている。

都に助けっぱなしだ……今までの人生で深く慕ったのは都……貴女だけよ。

恩返ししなければ……。

「落ち着くんだ皆、活路は必ずある。まずは状況整理だ」

副班長である都は状況整理を行った。

敵の露天銃座は私達のいる窪地を見下ろせる位置にあり、火力は機関銃1門

人間が使う通常の重機関銃に可動機構を加えただけの簡易自動制御銃座だ。

今、身を潜めている大岩から身を出せば銃撃される

銃座のセンサーが何を似て私達を感知してるのか……?

投げた石がブッシュに届いてから銃撃が始まった事。大声出しても身を隠している銃撃がない。

……複合センサーか?

そういう事、随分と滑稽な仕掛けしてくれる。

私達の火力は、通常ポイントで鹵獲した自動小銃1艇と10発の弾丸のみ。

それ以外の武装はアーミーナイフとサバイバルナイフにマチェットナイフの3つ

私達に残された選択肢は二つしかなかった。

この状況を脱するためにかなりの無理をするか、後退して大きく迂回するか……。

華太、班長としての貴方ならどの選択肢を選ぶの?

「強行突破だな。他の班もそう判断している」

「無茶だ!俺達を全滅させる気か!」

訓練兵の一人が不満をぶつけながら華太に咆哮。

しかし華太は揺るぎない様子は見られない。

「迂回したら、回収予定時間が間に合わねぇ」

あの銃座を迂回するには、相当な距離を後退して、あの密林を再び行軍しなければならない

華太はそれをわかっていた。

制限時間内にゴールする事は………絶望的だ。

「畜生!ここまで来て脱落かよ!」

「あぁ、帰りたい…」

他の班員が弱音を吐いたが華太はこれを叱咤する

「馬鹿野郎!ここで弱音を吐くんじゃねぇ!鈴乃、何か良い策はないのか!?」

私に委ねるのか……。

理由はどうあれ華太は私に委ねようとしている。

「華太、この状況は貴方が指揮した結果よ。自分のケツは自分で拭きたい…違う?」

「……ああ、だから何でも言ってくれ。出来る限りの事はやるさ」

今置かれた状況が、些細な事に構っている暇はない。

自分が招いたと華太は自覚していた。

私は一つの策を思いつき、その策を言い放った。

「あれを叩くしかないわね……」

私は銃座を見つめた

「……ああ、それしかなさそうだな。もう一度言っておくが迂回したら制限時間内に間に合わず俺達の班は落第だ」

「意見が一致したわね」

華太は私に強く握手した。

一度落第し半年間、レッテルを貼られる事になる。

衛士を目指すものとして、総戦技に落第する事ほど不名誉な事はない。

その指導をした教官の不名誉はそれ以上だ。

普通なら二度と落第させないよう、教官達は今まで以上に過酷な訓練と残忍な罰則を科すに違いない。

だが、坂元は普通の教官とは全く異なっていた。

坂元が指導した訓練兵達は一度落第したら連帯責任として指を全部切られた。

山田の件もあるが、他の人達の事思うと心が痛む。

(俺の顔を泥塗って…勇気あるじゃん。死にたいんだね?)

この狂気じみた笑顔が思い浮かぶと恐怖が震えあがる。

失敗は許されない………。

だが、私と都、華太がついてきても他の班員はついていけない。

それを考慮して作戦を立てなければならない

「分かってると思うが、不合格になるのは俺達だけじゃねぇ。他の人もだ」

華太の言う通りだ

確かにそうだな……仲間の気遣いが大事だ。

肝心なところでこれか。

「……」

「言い争うほど私達は馬鹿じゃない。華太、都…貴方達が決めてくれ。黙って従うわ」

「分かった」

「……」

華太は形容のできない妙な表情でここで休息を命じた

「各自20分休息取るぞ。都」

「了解したよ」

何もしないよりはマシね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノーリスクで現状を打破出来るような最良の策は思いつかない

ハッキリしているのは、ここでモタモタしていたら時間切れ

坂元による班員達の禊が下される。

それだけは絶対に避けなければならない。

迂回をして進撃速度を上げるという策にも僅かな可能性はある。

だが、ここ数日の強行軍で既に全員が体力の限界に達している。

あの密林を今まで以上の進軍速度で踏破する事は絶対に不可能だ。

やはり銃座を潰すしかない。

ここを突破すればゴールは目と鼻の先だ。

まずやるべきなのは複合センサーの種類を特定

そして有効範囲と作動条件を明らかにすることだ。

「……」

私は再び手頃な大きさの石を持つと、身を潜めている大岩を超えるように高く投げ上げた

成る程……この岩が射界外という訳ではないのか

それに射撃は音に反応して開始されているのは確かだ。

やはり音感センサー以外に、無駄弾を撃たないような仕掛けがある

それにしても投げ上げた時点で反応していないのはおかしい……どうなってるんだ?

温感センサーは………?

試してみるか。石を焼く必要があるな

「鈴乃、何か分かったのか?この銃座は」

「華太、落ち着いて聞いて。あの砲台のメインセンサーは音感式だ。この20分で散々試したから確実だと思う」

「さっきから何度も石投げたり火を起こしていたのはそういう事だったんだな」

「補助センサーがあるのは確実だけど特定はできなかった。石を2、3個同時に投げても一番大きな音に反応している。だが、センサーの有効範囲内であっても、音源の手前に障害物がある場合は……」

「撃ってこない………温感式や振動探知ではなさそうだな」

「演習用の簡単な方式ではあるけど、無駄弾を撃たないよう、上手く設計されているわね」

「舐めやがって……俺達はそんな簡単な足止めにやられているのか」

私は真剣な眼差しで本題を切り出す

「ここからが本題。銃座の3mぐらい下を見て」

華太は私に言われるがままに従う

「!?」

「岩が突き出して逆ハングになっている部分があるでしょう?あれのおかげで、その真下の死角がかなり広くなっている」

「成る程」

「射撃一回につき3点射2回。再射撃のタイムラグは約2秒。つまり射撃開始から次のターゲットを射撃するまで3秒強の時間があるんだ」

私がそう言った後、華太は不審の眉を寄せて言葉を投げる

「……実際どうするんだ?」

「そうね…石でも投げて攻撃させれば3秒稼げる。その隙に陽動が崖の上まで走る。陽動は、銃座の死角ギリギリのラインまで戻ってアーミーナイフで岩を叩く。そうすれば、機銃は最大俯角を取ろうとして、機関部を曝すわ」

「そこで小銃を狙撃か……」

「これが私の作戦よ。どう?」

華太は、点を見つめ考え込んだ。

「華太はどういう作戦立てるんだ?」

私はほくそ笑みしつつ華太に話しかける

「……鈴乃の作戦で行こう」

と呟く

「ん?」

「リスクもあるが、俺の策より合格できる可能性が高い。ここはお前に任せる」

「……」

「俺は結局、迂回案しか思い浮かばず守りに入ってしまった」

華太は安全な消極策を選ばせたのか。

何にしても今は、部隊全員の合格の為に最良の選択をしようとしているのは確かだ。

女である私の提案した作戦であっても素直に受け入れてくれる

事実上、認めた訳だ。

「その代わり陽動は俺と都がやる」

華太の言葉を聞いた都は「?」を浮かび「私もやるのか?」と言い放った。

「この状況を呼んだ責任は俺がある。手伝ってくれないか?」

確かに体力的に、私と都、華太以外の者に陽動は無理だ。

だが……。

「華太、鈴乃に陽動やらせろ。お前は後方支援だ」

「俺の方が体力的には上だ。走るのは速い」

「だからこそだ、狙撃の腕はお前が上だ」

悔しいけど、これが現実なのね。

「お前……」

「この作戦で一番重要なのは狙撃だ。能力が高い華太……お前が適任だ。」

「……」

…………。

「……班長に向かって『お前』呼ばわりするなんて良い度胸してるじゃないか」

もう教える時間すら惜しい。時間がない…華太、お願いだ!

「分かった、それで行こう!」

私に陽動を承諾した華太は都に頭を撫でられた

「何してるんだ?」

「よしよし、良い子だ」

「俺を子供扱いするんじゃねぇ!」

「早速みんなを集めるぞ」

「おい!無視するな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は身を隠している岩から少し離れ、いつでも走り出せる準備を整えた。

「鈴乃!準備は良いか?」

私は手を挙げて華太に返事する。

「みんな!一斉に投げるんだ!いいな!?」

拳より大きな石を手にした班員達が無言で頷く

石の着地と同時に崖の資格を向かって走り出す。

この距離……完調であれば3秒という時間は十分なものだ。

だが、蓄積した疲労と足場の悪さ、それに加え多少の登りという条件が思いプレッシャーがのしかかる。

アンダーウェアがべっとりと張り付いた背中に、更に汗が伝う感じがした。

「行くぞ!」

班員達は一斉に思いっきり力強く石を投げだした。

「!」

1……2……3!

私は渾身の力で銃座に向かって走り出した

岩場を登り伝って

慎重に速く走る

もう少し……もう少しだ!

「飛べ!鈴乃!」

渾身の一撃でアーミーナイフで銃座を破壊しようとするが、感知され弾丸が放たれ私はバランスを崩し崖から落ちてしまった。

……!

「オイ、大倉!大丈夫か!?」

崖から落ちへたり込んでしまった。

班員の一人が心配そうに私の顔を見ている

視界が霞んでいるが、まだ再起不能ではない。

疲労困憊だからか私は吐息し挑戦的な顔を浮かびつつ錯乱した。

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…ふふふふふふ、あははははははは」

「大倉!?」

「オイ、どうしちまったんだ!?」

息を整えながら立ち上がると、私は慌てて自分の身体を見た。

……どうやら着弾痕がない。どうやら撃たれなくて済んだようだ。

崖に背を預け、左手で親指を突き立てると皆が歓声を上げた。

「………!」

着弾痕も何も、そもそもシリコン弾の痛みがなかった。

それに気付き、それほど錯乱した自分の愚かさに顔がにやけた。

「―――華太ォッ!次は貴方の番よ」

私はアーミーナイフをシースに収納し別のシースに収納しているマチェットナイフを引き抜き、地面に這いつくばった。

「こっちはいつでも行けるぞ!」

ゆっくりと腕を突き出し、私は地面を叩いた。

――――ッ!

慌てて腕を引っ込める。

飛び散る土や小石が、容赦なく襲い掛かってくる。

同じ場所への攻撃なら、再射撃のタイムラグは1秒もない。

私はまるで餅つきの介添えのように、地面を叩いては引っ込め、射撃が止めばまたマチェットナイフを突き出して地面を叩く。

「――次で行くぞ!鈴乃!」

「何でもいいから確実にやってくれ!」

弾丸が10発しかない。

――――華太が岩の上に姿を現す。

―――射撃が止まない、失敗だ。

華太は岩の向こうに消えた。

一瞬前まで華太がいた場所に、土埃と岩の破片が舞い上がる。

都が苛立ち華太に怒鳴った

「――何をやってる!下手糞!」

「テメェ、誰に向かって言っとるんじゃ!ぶち殺すぞ!ゴラァ!」

「さっさと終わらせろ!私達に迷惑かけるな!」

都と華太はドスを効いた声で言い争い始めた。

都、一回落ち着こう。

うん、落ち着いて。

「チッ、今のは様子見だ!馬鹿野郎が!」

華太は舌打ちして自信ある頑固そうな眼つきをしつつ都に向かって言い返した。

「だったら最初から言え!」

成る程、アタリを取ったのか……冷静だ。

流石、小峠華太だな。

極道に憧れてる男が衛士として降臨しようとしている……と私は勝手に思い込んでいた。

「――――次は3点射2回で決める!早く準備しろッ!」

残弾6発……一気にいくのか

再び華太が岩のてっぺんに現す!

今度は反応が速い!

――――ッ!?この音は………!

「クソ!弾が詰まりやがった!!」

トラブルが起こりつつ華太は岩の向こうに飛び降りる

銃座が御丁寧に華太がいた場所を掃射する。

「………」

嘘だろ……ここで来てジャムるなんて………最悪だ!

それに華太や都の所為ではないと分かってる

分かってるが……!

4発も撃って機関部に命中させられなかった華太が無性に腹立たしい。

今すぐあの岩まで走り戻って、ぶん殴りたい気持ちが込み上がってくる。

肝心な時に役に立たないなんて…!

「………っ……!」

いや、そんな事で恨み言を言うのは無意味だ。

華太の狙撃の腕を信用したのも都の助言であり鹵獲した銃が真面に動作する事に期待したのは私だ。

私達は最後の賭けに敗れた……ただそれだけだ。

身体から力が抜けていくのが、自分でも分かった。

ここで、時間切れまで迎えるしかないのか

いや、それは断じて否だ。

落第すれば即ち『死』を意味する。

「畜生!ふざけやがって!!」

遠くから聞こえてくる華太の怒声。叩き付けられる銃の音。

呆れ顔の都

班員達は皆、押し黙っていた。

「………」

落第は即ち『死』……私は坂元の狂気な笑みが離れられず体が震えぞっとしていた。

”ほらほらほらぁ…どんどん切っていこう!”

 

”ドラ〇もんになーれ”

 

”ヒャヒャヒャ!アミバだ!アミバ!”

 

このままでは衛士生命が絶たれてしまう

そうなってからは既に遅い。

暫く呆然としていたが、次第に胃の辺りがムカムカしてきた。

顔面蒼白になった山田の叫び声

躊躇もなく訓練兵の指を鎌で切る坂元

何とも言えないドス黒い何かが込み上げてくる……。

……冗談じゃない。

冗談じゃない!ただじっとして時間切れ迎えるのは嫌だ!

指も切られたくない!叫びたくない!

ただただ私達は一人前の衛士になりたいだけなんだ。

あんな外道教官の掌に踊らされてたまるか!!

どうせダメなら……シリコン弾に撃たれてみるのも悪くない。

私はマチェットナイフをシースに収め、立ち上がった。

「おい大倉!?何やってるんだ!?」

崖をよじ登り始めた私を見つけ、班員達が騒ぎ始めた。

「おい!大倉が……大倉がブチ切れたぞ!」

「もう十分だ!ここで無理して怪我でもしたら、それこそ次に差し支えるぞ!」

残った体力と気力を振り絞っている私に、彼らの声に応える余裕はなかった。

「馬鹿野郎が…!彼奴あのままじゃあの逆ハングを超えたところで撃たれちまうぞ!!」

そうだ。今もこうして死角を作ってくれている銃座下の逆ハングが最後には最大の障害になる。

それ以前に、今の体力で登り切れるのか?

それだけが不安募っていた。

仮に突破することが出来ても、班員が言ったように私は射線に身を曝す事になる。

だが、例えそうだったとしても……あの銃座に一矢報いたい。

死亡判定出ようが、シリコン弾で撃たれようが、マチェットナイフの刃先が折れるまで機銃をぶち叩いてやりたい。

私達をもう半年間の地獄を突き落とす、あの心なき機械に怒りを叩き付けなければ気が済まない。

自分の甘さが仇となった心が、疲弊しきった精神と肉体を鞭を入れる。

班員達は黙って私を見上げている。

そして私はとうとう逆ハングまで辿り着いた。

私は逆ハングとなっている岩塊の一番低い突き出しの所まで慎重に移動した。

二点支持しながらマチェットナイフを抜く。岩を叩いて撃たせ……数秒稼ぐ為に。

「大倉!機銃はお前の左を向いているぞ!」

「―――!」

華太が班員達に石を投げるよう指示した。

「みんな、石を投げろ!センサーの注意を引き付けるんだ!!」

華太の指示で皆が石を投げ始めた。

勿論、都も石を投げる

「………」

―――ダメだ!射撃どころか、可動機構の作動音すらしない!

「動かないぞ!機銃は大倉の方を向いたままだ!!」

私はマチェットナイフで死角外だと思われる石を叩いた。

「―――ッ!!」

恐らく、音源との距離で何かが脅威度を識別して、ターゲットに優先順を付けている!

銃口を此方を向いたままなら……例え一度撃たせても、再射撃までのタイムラグは秒もない。

「………」

だが、シリコン弾を受ける覚悟はとっくに出来ている

1秒あれば、致命的な頭部の被弾は回避出来る筈だ。

………よし、行くぞ!

その直後、華太は高らかな叫びをしつつ石を投げた。

「うおおおおおお!!」

「―――!?」

岩から走り出た

真っ直ぐに回収ポイントの方へ走っていく。

都は何かを察し感じた

「ん……?」

機銃の作動音だ。

都も走っていきながら私を呼び掛けるよう叫び出した。

「鈴乃ォッ!!行けェェェェッ!!!」

「(都……)!」

私は華太に向け叫ぶ。

「―――華太ォォォォッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボーっとしやがって、何やってるんだ」

生まれて初めて見る南の島の夕日をひとりで見入っていると、レーションのトレイを持った華太がやってきた。

「合格の余韻にでも浸しているのか?」

……そうだ。

私達は総戦技評価演習に合格したんだ。

だからこそ明日の撤収まで与えられた自由時間を、こんなに落ち着いた気持ちで過ごせるんだ。

そうでなければ、呑気に夕日なんて眺めてはいない。

「……随分活躍したな」

「……」

あの時、華太や都の陽動のおかげで、私は撃たれることなく銃座に辿り着き……そして見た。

機銃の機関部を保護する防弾カバーを突き刺した破損孔を。

どういう経緯であれ、華太の狙撃は、少なくとも数発は命中していた。

動作不良起こさなければ、次の3点射で機関部を破壊出来ていたに違いなかった。

私はその孔に狂ったようにマチェットナイフを突き立て、動力ケーブルを切断し銃座を沈黙させたのだ。

だがそれは、カバーが損傷していたから可能だった事だ。

ライフル弾数発の直撃ですらあの程度の損傷しか与えられなかった。

カバーが無傷なら、マチェットナイフ以前にアーミーナイフやサバイバルナイフもどうにもならなかった。

あの時私は、小峠華太という男のあらゆる能力の高さを再認識させられた。

「活躍したのは華太……貴方の方よ」

「そうか?鈴乃も活躍していたぞ。いい動きだ」

「機関部の狙撃を成功させて、咄嗟に陽動までしてくれた……自信を持っていいのよ」

どういう風の吹き回しか、華太は私に握手を求めていた。

彼は感情より冷静的に、班の合格を優先した。自分の過ちを素直に認め、隊長として状況を把握した行動を選択したんだ。

そんな事は分かっていた……だが、その理由を本人の口から聞いてみたかった。

何でそんな事が聞きたいのかは自分でもよく分からなかった。

「俺達は合格したんだ。素直に喜べばいい」

「そうね…」

と誇らしい笑みを浮かべ私は華太と握手を交わした。

「座っていいか?」

私の許可を待たず、華太は少し離れたところに腰を下ろした。

座ると同時に、四角柱状の固形で、十個の穴が開けられており、クッキーというよりもショートブレッドに近い形状の携行食一つを差し出す

「食べるか?」

私は華太の近くに座り込みその携行食を手にし口を入れた

味は……フルーツ味。

「………」

それにしても、これだけ疲弊した身体で携行食を食べられるな。

だが、どんなに疲れていても食べられる事が華太のタフさの秘密かもしれない。

食事も任務の一部とはいえ、ここは南の島なのだから、せめて夏向きのレーションを用意して欲しい所だ。

「……俺は、この総詮議演習で分かった事がある」

あっという間に携行食を平らげた華太が夕日を見つめながら言った。

「何の話?」

「俺といつも鈴乃や都と同じ班に入れていた理由だ」

「へえ……」

「俺は編成が変わる度にお前と同じ班になりたいと祈っていた」

「奇遇ね……実は私もよ」

「俺は思ったよ。教官殿は馬鹿揃いってな」

そう思うのが当たり前だ。

「そうじゃねぇとすれば、それは坂元教官による妨害工作だ……俺はそう思ってた」

何処に行っても嫌な奴が粗利が合わない奴はいる。

だがどんな奴と組もうが、軍人である以上、任務は成功させなければならない。

そんな事は分かってる。

だがそんな綺麗事は、何も意味がない。

軍隊で求められているのは効率だ。教育的な意味でそれを実践させようとしている訳ではない。

だからこそだ、上手く折り合いを付けながらやってきた。

「だけど、分かった…教官殿達が何をしようとしていたのか?を」

だが、今日、私はその綺麗事の本当の意味で理解した。

そこに教育的な意味で仁義や任侠があろうがなかろうが、その結果齎されるものの大きさを知ってしまった。

「……坂元教官は、まだ未熟な俺を成長させる為に、お前と組ませてた」

あの『鎌のサカモト』がね………。

「役に立つなら強かに使いこなせ、そう教えたかったんだ」

「………」

「俺は女を戦場に立つべきだと考えてる。戦争は男も女も関係ない……それは今でも変わらない。世の中は不平等なんだよ――――鈴乃、俺は認めるよ。『私作る人、俺食べる人』という考えはもう既に古い」

「え?」

華太が私を認める?

どういう事?

「華太……」

「鈴乃、お前は立派な衛士になれる。それだけは自信を持て」

………。

「呆れた。何て言えばいいのか……」

何が言いたいんだ?

「今日からお前は俺が認めた正真正銘の衛士だ。言葉使いなんとかしたらどうなんだ?」

女口調を男口調に直せと?そう言いたいのね。

私はその時、華太の顔が妙に赤い事に気付いた。

耳まで真っ赤なのは決して夕日の所為ではない。

そうか、そういう事か。

「……」

自分の成長云々、坂元教官が何々をというのも、彼なりの考察だろう。

そして、双方の関係改革の申し出でもある。

遠回しで言ってるものの、華太にとっては赤面するほど恥ずかしい事なのだ。

つまり、それ程照れる言葉を、意を決して私に言ってくれた。

私が男のような喋り方をする事……互いの妥協点。

そういう事なんだ。

「……」

「分かった」

「そうか……」

「そうする事でお前と私の関係を改善されるなら喜んでそうする。だが、私は女だ」

私がそう言うと、華太は和やかな笑みを浮かんだ。

「そこは好きにすればいい。自分が女だと思い込んでる男は、軍隊じゃ珍しくない」

「……ケツはいつも綺麗にしておけよ」

「……大倉鈴乃、彼女は後に狂人並みのオーラを出す衛士になってそうだ」

「何か言ったか?」

「何でもねぇよ……うん」

気が付くといつの間にか私は笑っていた。

華太に関わってる事で笑ったのはこれが初めてかもしれない………。

と思ったが都が気配を消しつつ私を華太を両腕で回し馴れ合いをしながら穏やかな笑みを浮かんだ

「お二人さん、お疲れ様だ」

「え!?」

「おま、急に現れるなよ!」

「悪いか?」

「……別に悪くねぇ」

 

こうして私達は総戦技評価演習に合格し衛士の道を少しずつ進んで行った



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日帝の武闘派衛士 後編

総戦技評価演習に訓練部隊の約半数が合格した。

そして訓練カリキュラムは戦術機教習課程に入り、座学や機械化歩兵装甲実習、シミュレーター訓練を経て、実機教程が始まった。

例によって私と都、小峠は同じ小隊だった。

小峠は相変わらず、私と都には負けないと豪語してるがそれは以前のような敵意を持った態度ではなくなっていた。

約束に従い、私も言葉遣いには気を付けながら、超えるべき目標として、ライバルとして常に小峠を意識し、自己鍛錬を続けた。

その時既に、小峠の事は少し知ってしまった。

『教育』の成果とは関係なく個人的に友好的な関係を築くことが出来た。

その効果は同じ隊の訓練兵にも良好な影響を及ぼし私達の小隊はあらゆる評価で2番目に君臨し続けた。

そして数週間後、実機教程が模擬戦まで進む頃には、私と都の評価は小峠に肉迫していた。

戦術機という同じ条件の『身体』を手に入れた事で、男女の――――少なくとも小峠と私や都の身体機能の差が消滅したことが大きな理由だと思われる。

筋力などのアドバンテージは、戦術機の操縦においてさほど有利には動かない。

操縦をサポートする間接思考制御システムにとっては、寧ろ運動神経や反射神経、思考力がものを言うのだ。

決して小峠がそれらの能力で私達に劣っている訳ではない。

相変わらず高い壁である事は確かだった。

だが時に経つにつれ、私はあらゆる教科で小峠と肩を並べ始め、ゲーム理論などの一部教科では、私が上に立ったものもあった。

それでも戦術機の操縦技能評価だけは最後まで及ばなかった……都を除いて。

そして私と都は任官式を迎えた。

訓練部隊はそのまま実戦戦闘中隊に格上げされ、最前線に赴く事になった。

だが…ただ一人私だけは、別の部隊への配属予定となっていた。

通達されたのは教導部隊への配属だった。

………皮肉な事ね。

私は前線で活動する衛士になりたかった。

兵士に指導する教官になりたかった訳ではない。

他人任せにしたくない……直接戦場へ出て女でも戦術機を操り戦えると証明したい!

あのシュヴァルツェスマーケンの長だって前線に出て活躍したんだ、私に出来ない訳ではない!

―――翌日、私は部隊への残留を志願した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…しかし、物好きな奴もいたもんだな」

「ああ、全くだ!後方配属を蹴って最前線に来たがるなんて頭おかしいぜ」

「だからな、志願兵様ってのはさ、俺達には到底理解出来ない崇高な使命感を―――」

緊張からか…いつもより無駄口が多い。

約10km西のCPにいる中隊長もこの会話が聞こえている筈だが、何故それを咎めない

何故ならその中隊を指揮してるのは……あの『鎌の坂元』だからだ。

新米には構っていられない……私は察した。

現在帝国軍の坂元中隊は大連に向け侵攻中のBETA主力を叩くべく中韓連合軍の『九一六作戦』に参加している

神宮司がいる部隊より先にBETAの主力を殲滅しようと考える坂元は楽しそうな笑みを浮かべこう言い放つ

「中隊長、他の部隊より先に行動して宜しいのでしょうか?」

《折角、中国に来たんだ。もっと楽しめ》

楽しめって、どう楽しめばいいのよ…。

衛士の間では、最初のBETAとの戦闘任務を『初陣』と呼ぶ。

後方任務に何時間従事しようがそれは初陣ではなく待機命令だ。

私達は最前線にいる!

最前線で戦って緊張するのは想像以上だ。

ここは肚を括れ

都も同じ気持ちだ。誰だって緊張する事はある

『死の8分』を乗り越えられるか私だけでなく都や華太、他の隊員も不安を感じていた。

《鈴乃、余所見をするな!前だ!前!》

都が強張った顔でそう言い放ち、私はしっかりと前を見れば……

赤い蜘蛛みたいな物体と殻に包まれてる物体が近づいてくる

《漸くお出ましか》

坂元はにやりと笑みを浮かび私達に命令を下す。

《よし、BETA祭り開始ぃ!総員…一匹残らずブチ殺せ》

BETA殲滅だ

戦車級、突撃級、要撃級数体が現れ、それを対処する為隊員達は一斉発射

シュッ

閃光が放たれる

レーザー……これは!

《光線級、来るぞぉ。当たると遺体諸共消滅だぁ》

真面な命令を下すこともあるんだ…と安堵した途端、私はあることに気付く

「中隊長!他の部隊とはぐれて行きます!」

《あぁ?》

通常、戦術機でのBETA戦闘は他の戦術機部隊と連携しつつ殲滅しに行くのだがどういう訳か帝国軍の戦闘領域から離れていく

すると坂元は私の元へ音声通信でぼそっと呟いた

《神宮司や新井にいる部隊と連携したら犬死になるだけだ。残念だが此奴等は見捨てることにした》

え?見捨てる!?

何を…言って………

神宮司達を見捨ててあとは何とかしろと言いたいのか?

無理だ、駆逐できるわけがない

推進剤も無限にあるわけではなく弾も尽きてしまう

そうなれば、もう終わりだ。

ましてやまだ訓練学校卒業したばかりの新兵だぞ

返事ができなかった私はただ呆然とした…しかし坂元の前では寸分の間も許されなかった。

《神宮司達を見捨てろって言ってんだろう!BETAの餌になりたいのか!ボケ!!》

当然、この男に拒否権などある筈がない

そうして私達は神宮司達がいる戦闘領域から2㎞まで移動した

《おら、ボケっとしてねぇでさっさと光線級ブチ殺してこい》

私は親指をぐっと力を入れ弾丸を放つ

―――――命中!

隊員の1人が光線級数体を駆逐して捨て身の攻撃で仕掛けたが

《弾切れだ!近接戦闘か!》

数体殲滅したものの途中で弾切れになってしまうが、長刀で光線級をバッサバッサと斬り込んでいく

ここまでは順調に駆逐した―――が。

《あ、ヤッベェ、補給するの忘れてた。こりゃぁ急ぎだぁ》

「え!?補給ですか!?」

坂元がとぼけた口調でそう呟いた

《神宮司達のところに戻るぞ》

《え?しかしまだ戦っている者が》

と都は坂元に抗議するが

《もう一度言う―――神宮司達のところに戻れ》

坂元は都を一蹴した

私はここですべてを悟った。

最初から誰一人生き残らす気は毛頭ないと。

こんなところで見捨てれば、今光線級と戦ってる隊員はまず助からないだろう

「……」

私は口を閉じ黙った。

抗議して言い返すほど聞く耳が持たない

しかし都と小峠は坂元を糾弾する

《坂元中隊長、幾ら何でもやり過ぎです!》

《そうですよ!隊員一人欠けることなく無事帰ることが任務の一つだと思います!》

当然ながら、坂元は般若顔でこう言い返した

《あぁ?じゃぁテメエ等もBETAの餌になるか?》

《…クッ…》

しかし、坂元の前にこれ以上言葉を返すことが出来なかった

私は悔しかった……隊員を見捨てることを強いられた事が。

私達含め坂元率いる中隊の隊員は腕を無理矢理力を込めフットペダルを思いきり踏み速度を加速しつつ隊員1人を見捨て、神宮司達がいる場所へと戻っていった

《中隊長!?何処行くんですか!!?中隊長!!!》

寂しさに込める声は助けを求めていた。が助け船など来るはずもない

奮闘虚しく推進剤が切れ、隊員1人は

《そんな……そんな見捨てないでください!!坂元中隊長ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!》

音声通信から鳴り響く絶叫

戦車級数十体が隊員が乗ってる機体に近づき、無理矢理コクピットブロックをこじ開けそして…

グチャァァッ!

《ぎゃあああああああああああ!!足が…足が!!やめろ!!俺に近づくな!!や、め…》

戦車級に食われ無残にバラバラとなって事切れていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《さっさと帰んぞぉ、俺は可愛い子ちゃんからプロポーズなんだよ♡》

「……」

数時間後、やりきれない気持ちで神宮司達と合流したのだが

《これはこれは、アホの坂元さんじゃないですか》

《独断専行は困りますわ》

《おや?みんな雑魚が来てますよぉ》

そこには何と帝国軍と共闘している中韓連合軍のF-4が立ち塞がっていた

多方面に被害を広げている坂元は他国の衛士達の怒りを買い恨まれていた。

《お前等もBETAの餌になってこいよ…―――――死ねやゴラァ!》

ガガガガガガ!

「中隊長!」

やられる前にやる!

坂元は突撃砲で120mm弾を放ちながら左手に持ってる戦術機用の鎌を振り上げる

《クッ…BETA殲滅任務の筈なのに、こんなところで対人戦か!》

奴らに襲い掛かる

BETAではなく中韓連合軍のF-4を目掛けて120mm弾を放ち続ける!

《う、撃て!このままだとBETAの餌になるぞ!》

都は血相な顔で叫んだ。

「でも…」

《迷ってる場合か!鈴乃、撃つんだ!やられてぇのか!!》

華太の一言で私は迷いを―――――捨てた。

数は中隊規模だ

しかし、他の隊員は恐怖心を植え付けられ怯えるだけで何もしてこなかった

中隊副官の尾崎が突撃砲を4門一斉発射する

《ミンチになれやぁ!ハンバァァァァァグゥゥッ!!》

この男も坂元と同じ狂人衛士だ。

別名は『マシンガン尾崎』

機関銃マニアであり且つ銃の達人。また銃や火器全般にも詳しい

《大倉、坂崎、小峠!遠慮せずにブチ込め!!躊躇すんなよ、やるかやられるかだ》

尾崎は中韓連合軍の戦術機を次々と撃墜していく

《りょ、了解です!》

《了解!》

小峠と都も参戦

120mmを放つ

そして坂元は1機撃墜した後に

《坂元!往生せえええええ!!》

中韓連合軍の衛士一人が短刀で坂元の機体に目掛けて真っすぐ突き刺し管制ユニットを貫いた

《ガアアアアアア!!!》

やらなければやられる!

《坂元ォッ!クッ…大倉やり返せぇッ!!》

「……こぉのおおおおおおおおおお!!」

尾崎の一言で私は無我夢中にトリガーを引き36mm弾を放ち続けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれくらい経ったのだろうか―――辺りはBETAの死骸と戦術機の塊

私と都、小峠がその場に立ち尽くしていた

「はぁ……はぁ……」

《鈴乃、大丈夫か?》

「えぇ……私は大丈夫よ」

大丈夫ではなかった……私は中韓連合軍の戦闘で左腕が骨折

真面に戦術機の操作など出来る状態ではない

《……嘘を吐くな鈴乃、左腕…動かせないだろ》

都は私の嘘を見抜いていた。

肝心な坂元は……?

《坂元中隊長……死んでる―――都、鈴乃》

《……》

「……」

その時、浮かんだのは訓練学校を退学した山田の姿と一度も場所を移動せずに戦っていた神宮司と新井の顔。

この人は死んで当然だった。

坂元は―――――衛士の恥晒しだ。

あの男は身勝手な理由に隊員を見捨てた時点で衛士失格なのだ

この世界は人の命なんて羽のように軽いと私は実感した。

「BETAと戦ってるのに対人戦だなんて……一体何なのよ、これは」

九-六作戦は物量に圧されて戦線が瓦解、最後は戦術核で大連侵攻は何とか食い止めたが失敗に終わり神宮司は怪我を負ったものの無事生還、新井や他の衛士達は全員死亡

遺体は残っていない

中韓連合軍は何とか頑張っているが、帝国軍は哈爾浜まで一時撤退

その後、アジアの各戦線は徐々に後退し、翌年にはインド亜大陸は完全にBETAの支配下となった。

それに伴いBETAの東進は本格化、中国戦線は更なる地獄と化した。

私は坂元を反面教師として習い、彼の中隊にいた隊員達を死なせたことを悔やみその苦しみを癒す贖罪を求め、狂ったように戦い続けた

だが皮肉な事に、私達の戦いは多くの戦友を失う結果となった。

衛士達の死を彩られた時を重ね、階級が一つ上がった頃、私は生き残った自分がすべき事をその意味を考えて戦うようになっていた。

―――そして、一つの軍令が下った。

それは、帝国軍松本駐屯地への転属命令だった

坂元中隊の副官、尾崎は私達を含め新たな戦術機中隊――第889戦術機中隊、通称:尾崎中隊を設立しそこに属し私はその中隊の次席指揮官に任命された

『死の8分』を生き延びた……いや、生き延びた者としての使命を果たす為、私達は大陸を後にした。

 

 

 



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大震災

九一六作戦から2年後

私と都、華太は松本駐屯地に転属し様々な戦地へと赴いてたが、その裏でBETA大戦真っ只中で宗教絡みの犯罪が幾度も多発していた。

宗教絡みの事件が多発してる中、兵庫県でマグニチュード7.3の地震が発生

松本駐屯地の豊田司令は兵庫県南部に災害派遣を送る

尾崎中隊もその災害派遣任務を遂行し私達は現実を直視してしまった。

人口350万人余が密集する大都市の直下で発生した「都市直下型地震」であったため、甚大な被害を齎した

その光景を見た私はただ絶望に陥った

「酷い……何でこんな…」

認めたくない、これは夢なんだ

私はそう思い込んだ

その時、私の手を優しく握った女性がいた

その女性は都だった

「鈴乃……辛いのは私も同じだ」

市街地の被害は甚大

建物の崩壊はあちこち見られ、道路・鉄道・電気・水道・ガス・電話などの生活インフラは寸断されて、広範囲において全く機能しなくなった。

「日本は地震大国だ。必ず経験する事もあるし、いつ大震災級の大地震が発生し被災するかも分からん。備えは必ず必要だ……BETAと戦ってるのと訳が違う」

「都…」

BDUを着用してる都は私を抱きしめる

「!」

「大丈夫だ……住民を避難誘導しよう。とりあえず尾崎大尉の指示に従えばいい」

災害対策は心得ている

他の部隊は待機状態、私達がいる中隊や伊丹駐屯地の第36普通科連隊が阪急伊丹駅へ近傍派遣(災害派遣)を行ったが神戸市中心部への災害派遣は直ちにはなされなかった。

そう各都道府県知事の許諾を得ないと赴けないのだ。

尾崎大尉が近づいてくると感付いた都は早急に抱きしめるのやめ私に話しかけてきた

「大倉、小峠。住民の避難誘導は他の者に任せた。重症者がいる収容避難場所に行け!場所は神戸総合病院。俺は食料と水を確保する!」

「了解!」

私と都と共に尾崎大尉の指示に従い指定の収容避難場所である神戸総合病院へ向かった。

数分後、そこにはとんでもない光景になっていた

「うお……」

建物の中は被災者が寿司詰めだ

どんどん希望を奪っていく……。

「アンタ等、軍の人間か!?いつまで待たせるんだ!俺達を何だと思っている!?」

「…」

「……国は何やってるんだ!食料と水はまだなのか!!」

まだって…私は政治家ではない

「怪我が軽い者だけ先だ!」

「はい!」

火傷を負っている者、ガラスの破片に飛び散り刺さった者、骨折してる者も多数いた

「おい、鈴乃…これは放っておけねぇだろ!」

「華太…」

「赤十字の人間もいる。彼らの手伝いをしろ!」

私は華太の進言で赤十字の人達の手伝いをし始めた

意識がある人なら服を入院着に着替えさせて湯たんぽや布団で温めればいい

「こ、この人意識がないぞ!」

「すぐ重症の処置室に運んで!」

意識のない人には着替えから何から多くの人手が必要だ!

壮絶な忙しさから病院で一夜を明かすしかなかったその翌朝

「また患者が運ばれてきました!」

「大倉中尉と小峠少尉は対応してくれ!こっちは手が離せん!」

軍医の一言で行動を移す

怒涛のように運ばれてくる患者で建物の中は野戦病院のようだ

負傷者やその付添人、災害で薬を紛失した人に家族の安否を確認しに来た人

「こんなに人は入らないぞ」

「とにかく患者の受け入れが優先だ!」

本当に様々な人たちが途切れることなく押し寄せてきた

病院のキャパシティには限界がある

「重症の方を優先に建物の中にお連れしてください」

「分かりました」

「おい、テメエ!」

集まる全ての被災者に対応するなど到底不可能だ

被災者もここなら助かると思い辿り着いた者もいる

「薬を取りに来たのにいつまで待たせる気じゃ!」

「すいません、この状態なので暫くお待ちください」

「アンタ、それでも軍人か!」

私達の対応にそこら中で怒りの声が上がる

「どのような薬が必要でしょうか?」

「はて、何じゃったかの?名前まで覚えとらんわ」

このジジイ…!こちとら死ぬ気で異星起源種と戦っているのに国を守る立場の衛士が助けに来たんだ

少しは感謝しろ

……と思っているがここで怒鳴っても意味はない。

込み合う安否情報の掲示場所でクレームも受けるところもあった

この状況でクレーム受けるのは仕方がない

家族の安否が知りたいからだ

何よりキツかったのは助からなかった人を見守る事だ

まだ小学生の男の子を亡くした母親とお婆さんがいた

「お前が目を離したから悪いんだ!孫を返せ!」

「やめてください!お母さんも辛いんです!!」

何とお婆さんが母親にやり場のない怒りをぶつけた

衛士になったばかりの息子を喪った老夫婦はずっと嘆き自分を責めていた

「老い先短い私たちが生き残って何で息子が死ぬのおおおお!?」

「すまない…すまない…」

子供を喪った親がいれば親が喪った子供もいる

家族でたった一人の生存者…その顔をよく見ると表情が失っていた

「グウウ……!」

華太は拳を強く握りしめて悔やんでいた

「……」

BETA大戦の真っただ中で……私は華太の気持ちを理解した

親を喪った子供の辛さを

夜になると…

「私の印鑑と通帳が入ったバッグがないの!誰かが盗んだんだわ!」

「お、落ち着いてください!警察には連絡しますので…(通報しても無意味だ。今それどころじゃない)」

「今、警察なんて意味ないわ!」

窃盗など問題が多発した。

混沌とした院内…それでも私と華太を含め医療関係者は必死に戦い続けていた

「集中しろ!まだ助かる命がある!」

自分の家族の安否がわからない者もいた。

それでも私達は……自分の責務を全うし続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝になると病院へ避難してきた人の数の多さに私は内心驚いた

「これって治療とか大丈夫なんですか?」

「完全にキャパオーバーだよ……」

すると神戸総合病院の副院長が訴えた

「怪我の無い方や軽傷の方はこれより別の避難場所に移って頂きたい!」

「え…?拙いですよ…あんな事言ったら!」

「だが必要な事だ。これ以上増えたら病院としての機能が出来んよ」

当然、周囲から非難が続出!

「出て行けって…一体何処へ行けって言うんだ!」

「お前等は医者だろ!困ってる人間を見捨てるのか!?」

けれど副院長は負けなかった。

「これからは皆さんより困った人が大勢来ます!彼らを治療するには場所を空ける必要があるのです!」

こうやって怪我の軽い被災者を説得して見せた。

それからも日々訪れる被災者や怪我人を救う為必死に働いた

「小峠、大丈夫か!?」

「さぁな…そんなこと考えていたら動けなくなるぞ。手を動かせ!休んでる暇はねぇんだ」

殆ど不眠不休でいつ休んだのか――――全く記憶にない。

都は今何してるだろう?

恐らくまだ建物に生き埋めされてる被災者を戦術機で瓦礫を退かせ一人一人救助活動してると思う。

地震から数日経つ頃…職員の身内や安否も分かり始めた

「婦長、お父さんが…お父さんが…」

「うん…うん…少し休みなさい」

多くの人達が身内を亡くした

そして私も祖父と祖母を喪った

余震が来る度に不安を抱き、身内を亡くした悲しみに蓋をして

「薬を早くくれ!何モタモタしてんだ!!」

「…すみません」

疲労でボロボロの身体を無理に動かし、時に被災者から怒声を浴びる

でも私達が折れずに頑張れたのは助けてくれる人がいたからだ

「手伝ってくれてありがとう…」

「困ったときはお互い様ですよ」

あの日、被災者の中にいた柔道部の青年は率先して力仕事を手伝ってくれた

ある日取材に来たテレビ局に対して

「今不足しているモノは何ですか?」

「水と食料です!当院は四百人の患者と八百人の職員がいます」

医療スタッフの一人がこう言ったが、何気なしにこう答えるしかなかった

すると全国に農家や企業の方々が食料や飲み物を送ってくれた

「美味い……涙が出てきたわ」

「力が湧き出てくるな…!」

この時噛み締めた味、そして全国民の思いやりを私は一生忘れない

他にも患者を運んでくれる帝国軍や斯衛軍の兵士…全国から駆け付けたボランティア…

「私達も手伝います!」

「ありがとうございます!助かります!」

応援に来てくれた医療スタッフがいなかったら私達は破綻していた。

そして何より励みになったのは被災者からの励ましや感謝の言葉だった

「ありがとうお姉ちゃん」

「まだ大変だけど頑張ってね」

「うん!頑張る!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから1ヶ月後、7つの宗教団体が食料や飲用水の供給・便所・風呂・避難場所の提供などの積極的な支援を行った。

その中に後に2ヶ月後に地下鉄サリン事件を起こす雄武真理教も含まれていた

私達は任務を完遂し松本駐屯地に戻った

兵庫は少しずつ着実に復興の道を歩み神戸の街も大きく変わった。

けれど私達が取り巻く状況は決して明るいとは言えない

BETA大戦真っ只中、皆が力合わせればBETAが来てもきっと乗り越えられるだろう

「今日は星空が綺麗だな」

「ああ、そうだな」

そうやって私達はあの震災を乗り越えた。




物語終盤にオウム真理教という名前をそのまま出そうと思いましたがネタがブラックすぎるので別の名前に差し替えました
次回は中隊の長が裏切ります
誰かは……それは見てのお楽しみに


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OH MY LOVE

今回は坂崎中隊長視点からの話です


私の名前は坂崎都

見ての通り日本帝国軍本土防衛軍佐渡基地司令部第三戦術予備部隊A中隊の長を務めていた女性衛士だ。

幼少の頃、私は親友の大倉鈴乃が同じ年頃のいじめっ子のリーダー格に目付けられ虐められていたがそれを割り入ったのは私だ

心は優しき正義感を溢れて困った人は放って置けない

男相手でも腕っぷしが強かった

「もう終わりか?情けないな。私の大事な親友を虐めた罰よ」

「う…うわぁ。くりちゃんの顔が凹んじゃったよ!?」

「だから言ったじゃない!青鬼には手を出すなって!」

地元の阿保共は私を最強の女やら青鬼やら狂犬やら勝手に騒いでた

決して偉そうにしてた訳じゃない

喧嘩だって全部売られた喧嘩だ

そんな矢先、帝国陸軍横浜衛士学校の門を叩き衛士界隈に入った。

界隈に入ったとはいえまだ未熟の訓練兵。

BETAという存在は世界がどれだけ蹂躙され国土を荒されたかを教官から頭に叩き込まれた。

そこでも曲がった事してる輩は必ずしもいた

「お前、顔ムカつくしぶっ殺すわ」

「うあああ……」

「鼻折っちまえー」

特に弱い者虐めとかは見過ごすことは出来ない

「おい、今すぐやめろ。その人に土下座したら許してやる」

「はあ!?」

「誰なのお前?馬鹿なの?」

「ムカつくほど美しい顔してんな。お前の顔面を不細工にしてやるよ」

でも残念なくらいに世の中は腐った奴ばかりだ

私はそのいじめのリーダーらしき訓練衛士を顔面陥没させた

「ハァ!」

ボガァ

「グエエエエエエ」

そして地面に叩き付けられる形で倒れる

それを見た他の訓練衛士はビビっていた

「おい、お前もやるか?」

「い、いえすいませんでした!は、鼻が陥没してる!」

「ありがとうございます」

真の強さを持つ者は弱きものを助けるんだ

ただ講義の方は何とかついてきた。

「坂崎!貴様、配属相談くらい来い!」

「行ってもよく分かりませんよ南雲教官」

衛士訓練学校を卒業し正規の衛士として活躍させたのは殆ど鈴乃や華太のおかげみたいなもんだ

ギリギリのラインで総合戦闘技術評価演習を合格した私には戦友が増え、そして散っていった者もいる

「因果応報ってあったな――お祖母ちゃんの言う通りだ」

私達が配属された中隊の長であった坂元は『九一六作戦』で戦死

原因は仲間割れで坂元の悪評を知った中韓連合軍の衛士の一人によって葬られたのだ

訓練衛士を過剰な体罰を繰り返したバカは衛士の恥晒しだ。

あの男は死んで当然だった。

身勝手な理由に隊員を見捨てた時点で衛士失格だ

この世界は人の命なんて羽のように軽いと私は実感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして正規衛士になってから2年

私は松本駐屯地の屋上で隠れて煙草を吸ってる華太を見かけ彼に近付いた

気配を消しそっと手に持ってる煙草を取り上げる

「ここは禁煙だぞ、華太」

「…外なら吸っていいだろ」

「喫煙所で吸え」

手すりを両腕に乗せつつ景色を見つめた

「華太、私の事どう思っている?」

「ん?」

「……」

私は華太の顔を見つめつつ誇らしげな笑みを浮かべる

「ふふ、華太隠さなくてもいいんだ。ここなら今2人きりだし言いたい事を素直に言っていいんだ」

「正直に言っていいか?」

「いいぞ」

「俺達って衛士だよな?中国での戦闘で分かったことがある」

そう言って華太は私の顔を見て話す

「上官だった坂元大尉がいなくなって、悲しいという気持ちはなかった。あの男は衛士に向いてなかった―――新井等の他の衛士達も皆死んでいって…任務は果たせてなかった」

と寂しげな表情で沈みゆく夕陽を見て話した。

「お前は任務を果たした。ただそれだけの事だ。仲間が死んでいってその仇を取るのは誰だ?」

「……」

「私達衛士だ。いつ日本がBETAに侵攻されるのか分からない――――それを阻止するのが私達の役目だ」

いつBETAに日本を侵攻されるか分からない……いつ故郷が失われるのか分からない

私の心の中で恐怖を襲い掛かり深い悲しみを抱いていた

「そうか……俺はまだアンタの気持ちを伝えられねえ」

「どうして伝えられないんだ?」

「いつアンタがいなくなるか…怖いんだよ。俺はアンタがいなきゃ強くはならねえ」

華太……お前って奴は

「だったら今からやればいい。つまり私と一緒にいたいと言いたいんだな?」

私は華太に揶揄い優しい笑みを浮かぶ

「ば、馬鹿野郎!そんなんじゃねえ……俺が言いてえ事はアンタと一緒に異星起源種を一匹残らず殺していきたい。それが本音だ」

華太は私達と一緒に戦いたいと強く思ってる

2人きりだ―――ここでキスするのも一つの手だが今はそこまではいけない。

次の瞬間、華太は帝国軍のBDUの右ポケットに入ってる煙草の箱を取り出そうとするが

「ダメだ」

「おい!」

私は一瞬で取り上げた

しかし、逆側に入ってるポケットからも

「阻止だ」

「何で分かったんだ!?」

隙を作らず煙草の箱を取り上げた。

「華太、お前…煙草を1日何本吸ってるんだ?」

「え……?」

答えられないか。

少しカマをかけるか。

「私がお前の煙草を吸ってる数を当ててやろうか?」

「…当ててみろ。当てれるものならな」

ほぅ、言ったな?

「私が当てたら華太、お前は私の恋人になる権利をやろう」

「は?」

「私の事は戦友として好きだろ?」

「勝手にしろ」

「では当てるぞ。お前が煙草を吸ってる数は――――」

私が答えを言おうとした時、坂元の副官であった尾崎大尉が私達を呼びかける

坂元の死後、彼は大尉に昇格していた。

そして私は副官。鈴乃は次席指揮官に任命された

「坂崎、小峠。少し付き合ってくれ」

私と華太は言われるがままに尾崎大尉に付いていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議室に集められたのは尾崎率いる中隊のメンバーだけだ

何をやらされるんだ?

「山梨の北富士駐屯地からの要請があった。雄武真理教という教団の名は知ってるな?」

尾崎は鋭い目線で真剣に語る

「はい、確か麻元正平率いる新興宗教団体ですね」

私は強張りつつ口を開いた

「そうだ。その雄武が東京でサリンを捲いたらしい」

その言葉は驚愕せざるを得ない一言だった。

「それを作った相手は高学歴の信者で麻元を極度に心酔している幹部だ……彼奴等はやり過ぎた。今回ばかりは手加減無用だ」

そう、尾崎大尉は教団の施設を襲撃しようと試みていた

「奴等は戦術機を保持している。無論これは血塗れた市街戦になる事を覚悟して挑め!」

今回の作戦は対人戦だ

日本帝国軍衛士のプライドをかけて、一方的な暴虐的な戦いを強いられるのだ

尾崎大尉率いる中隊が相手にするのは宗教団体の信者の一部

所謂過激な信者だ。

奴等は銃やサリンなど密造し戦術機の製造ラインを設置してまで国家転覆を企てているだろう

一般的な社会構造はピラミッド型であり軍で例えるなら国のトップである征夷大将軍殿下に兵士達が服従する構造だが、雄武はピラミッド構造あるが、それは私達には理解しがたいものだった。

現時点で日本はいつBETAに襲われるか分からない状況であり海外派遣で現地にいる他国の衛士達と共闘している。しかし奴等は日本に貢献しないどころか国家転覆を企てている。

それに対し雄武はキリスト教恭順派のバックアップを受けており、戦力を増強し拡大している。

そんな雄武だが元々はヨガ教室であり当初は超能力の獲得を目指すアットホームで明るいヨガ教室だった

その後、宗教化し信者が増えるも麻元を疑った信者達は次々と脱会。かつて在家信者が死亡する事件が発生しとある弁護士一家が殺害される事例もあった。

そんな奴等が日本を乗っ取ろうとしている

その信者の中には現役の衛士がいた。

奴等舐めている……私達がこの状況を黙って見過ごすわけにはいかなかった

「いいか!俺達尾崎中隊は面子が命だ。連中にたっぷり苦しめたうえで地獄で後悔させてやれ!」

「了解しました!」

対人戦だ―――BETAとの戦闘とは訳が違う

腹を括るしかない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして私が教団が所有してると思われる戦術機の破壊する担当になった

「華太、武器の準備はいいな?」

その机の上に並べているののは89式5.56mm小銃と9mm拳銃、マークII手榴弾があった。

「ああ、抜かりはないな。鈴乃は?」

「ええ、この数なら問題ないわね」

尾崎大尉のお墨付きだ。

上層部に駆け込んで武器を調達したのだろう

こんなに武器が揃えられてる

「都、武器を持ち込める数は限られる。一つだけにしましょう」

「分かった。予備弾倉は必ず持っていけ」

「了解だ」

「ええ」

それを聞いた華太と鈴乃は頷いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、上九一色村に到着し奴等を確実に地獄を落とすため複数の部隊が各自に散開した。

「尾崎中隊長、教団の施設と思われる建物が見えました。そろそろ開始時間が迫っているかと」

《久々の対人戦じゃ、血が滾る…》

装備が違い過ぎる―――信者が何人いても無駄だ。

死体が増えるだけ

この男は狂人だ――――異名はマシンガンの尾崎

機関銃マニアでその腕はピカイチ

しかも…戦闘が始まると異常人格になる

とんでもない中隊指揮官だ……が味方にいてくれると頼りがいがある

《躊躇すんなよお前等、やるかやられるかだ》

教団の長である麻元は警察に任せるとして、私達の狙いはあくまでも雄武真理教を無力化

次の瞬間、赤いマーカーが光り、警報音が鳴る

接敵だ!

識別データは……?

《邪魔するぜええええ》

ガガガガガガ

尾崎大尉は突撃砲で120mm弾を放ち接近してくる戦術機を破壊した

その戦術機をよく見ると、ソ連で製造されたバラライカだ

数は大隊規模

そして流れていくように私達は教団の施設の一つである戦術機格納庫に乗り込んだ

《どうもー!招かるざる客でーす!全員今日が命日でーす!》

「貴様等、全員機体から降りて武装解除しろ!」

《何だあ!?》

《に、日本帝国軍の撃震だ!!》

無謀な奴等は突撃砲を構え私達に向かってきたが…

《撃てるものなら撃ってみろ!》

《若いのに可哀想にねー!》

ガガガガガガ

《ハチさんおいでー!》

《うがあああっ!!!》

歯向かったら無駄死にするだけだ。

尾崎大尉に蜂の巣にされるだけ……

《君達は調子を乗り過ぎました!命乞いをしても無駄でーす!》

尾崎大尉は突撃砲を構え狙いはバラライカ1機に定める

《地獄の底で衛士舐めたことを後悔してくださいね…》

敵前逃亡する者や泣きながら命乞いをする者もいたが…

《ひいいいい!!たっ、助けてくれぇ!!》

《ダメだ、お前等は調子乗り過ぎた》

ガガガガガガガ

《うがあああ!》

《おかああああさああん!!》

勿論誰一人も生かしておくわけにはいかない

尾崎大尉はバラライカ35機撃墜した後、隊長機と思われるPF型に乗ってる信者は最後まで抵抗したものの私と鈴乃、華太を含め4人で挟み撃ちし追い詰め両脚を直撃され倒れた

そしてコクピットハッチを無理矢理こじ開けさせ管制ユニットの中にいたリーダーらしき男の姿があった

尾崎大尉は管制ユニットから降り、隊長機の管制ユニットに近づき日本刀を奴の額に突きつける

「ひぃ、許してくれ!お願いだ!!」

「お前のせいで罪なき国民がトラウマを植え付けられ死んでいった者がいるんだよ。落とし前付けさせてもらうぜ」

「うで…腕を?腕を斬るのか?いやだぁ、やめてくれ!」

「誰が腕って言った?袈裟斬りだよ」

「ひいいいいい!」

男は恐怖を植え付けられ怯えていた

「おい、最後のチャンスをやろう」

「え?え?」

「君らがいる組織の戦術機部隊を全員ウチの所に入りなさい。ならもう少し生きられるよ」

「はい!はい!はい!だ、脱会して日本帝国軍に入ります!」

尾崎大尉の提案に教団の戦術機部隊を仕切っていたリーダーは壊れた人形のように首を縦に振った。

結局、武力で教団の信者だった人間を配下に付けた

人材確保が狙いだったのだろう

「やっぱ殺したくなってきた」

「ここにいる信者達はみんな入れますから!助けてください!」

どうせこの信者は若者を紹介した時点で落とし前は取るんだろうが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何時間経ったのだろうか…私達が教団の戦術機を無力した中で、教団の長である麻元は逮捕されていった

「後片付けは頼むわ」

「は!」

遺体処理は警察に任せるか

何れにしてもBETAがいつ日本に来るか分からないことは確かだ

戦死者が増えるどころか地球の人口が激減されるほど軍は人材不足だ

私もそろそろ……か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10日後、小峠の弟分である北岡が血相を変えて私の自室に飛び込んだ

「坂崎中尉、大変です!」

「どうしたんだ?」

「教団の連中の残党に尾崎大尉が撃たれました!」

「尾崎大尉が!?」

何と雄武の残党の一人に尾崎大尉が銃撃されたというのだ

尾崎大尉は衛士界隈において狂人だ

一度狙った獲物は外さない……。

しかし上層部の誘いによる会食後、無防備のところを襲われ重傷を負ったという

帝国軍は人材不足

これ以上死人を出すわけにはいかない

この話を豊田司令官に持ちかけたが

「豊田司令、尾崎大尉が銃撃されました!」

「何だと?」

私は尾崎大尉を撃った犯人を捜そうとしたがそれを待ったとかける

「ちょっと待て」

豊田司令官は冷静を装う

普段なら生意気な衛士が不躾な言葉を投げかけただけで激昂し瓶ビールを頭の上に叩き付けられるほど手に付けられない狂気的な男だ

あの豊田司令官が冷静を装っている―――不気味だ。

「教団の残党狩りは警察に任せればいい。ウチが介入したら痛恨だ」

「しかし!」

確かに帝国軍は人材不足を喘いでいる。これ以上喪うのは死活問題だ

しかも北岡によれば、撃った奴は教団の警告を無視…単独で暴走したことによる襲撃だったらしい

「俺が教団の残党の連中と対話しに行ってくる。上手くいけば我々日本帝国軍と協力しキリスト教恭順派との縁は切ってくれるだろう」

「成る程…」

「坂崎中尉、尾崎大尉にはまだこの件は伝えるな――日本の未来を考えれば下手すりゃ内戦が起きるかもしれないからな」

「りょ、了解しました」

こうしてこの件は、豊田司令官が取り持つことになった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、豊田司令官は大仕事を成し遂げた

「示談成立した。それに既に脱会した元信者も異星起源種と戦う決意を見せていたぞ」

「本当ですか…!?ありがとうございます」

上手く教団残党側との話を纏め、脱会した元信者を衛士として戦力を加える事に成功した

穏便に済ませた……と思う。

豊田司令官は今回の件で彩峰中将を事前に説得していた

何手も先を読む豊田司令官…根回しは完璧だった

「今は頭に血が昇ってるから本人にはまだ言うな。尾崎を撃った跳ねっ返りも教団から見放され今は塀の中だ。懲罰部隊に入らねえ限り一生出てくることはねえ。理解してくれる筈だ」

豊田司令官の性格とは思えない完璧な立ち回りが見えた……

 

 

 

 

 

 

 

 

今回は一件落着―――そう思っていたがこの問題は一筋縄ではいかなかった

なんと豊田司令官が説明する前に尾崎大尉の耳に示談の情報が入っていた

「クソが…豊田ぁ、ミンチにしてやる!ゴフッ!」

尾崎中隊にいる隊員が情報を聞きつけ耳に入れてしまった。

「俺が撃たれて示談なんぞあり得るか!雄武は全員蜂の巣だろうが!」

「そうですよね!ミンチにしてハンバーグですよね!」

尾崎大尉は自身の了承なしに示談が進んだことに遺恨を抱いていた。

そして尾崎大尉は怒りのあまり暴走し始める

「豊田の野郎……まさか自分が五摂家の煌武院悠陽を気に入らせるために雄武と手を組みやがったんじゃあ」

「確かに!それはあり得ますね!」

今回の襲撃は全て豊田司令官が画策したものだとまで言い出した

堪忍袋の緒が切れた尾崎大尉はもう誰も止められなかった

「彼奴…ミンチにしてメンチカツにするわ…ゴホッ」

「えっ、その体でですか!?―――――――――すげえ…マシンガンの尾崎はやっぱり不死身だ」

阿保な部下の煽りもあって尾崎大尉はボロボロの体のまま医務室から姿を消した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の晩、事件が起きた

「豊田ぁ、テメェやってくれたなぁ」

「尾崎か?テメェ何を!?」

尾崎大尉はAR-18を持ち構え豊田司令官に銃口を向ける

尾崎隆雄という衛士は狂人……一度銃を握ったら最後…引き金を引くまで外さない

そして、次の瞬間

「ブンブンブーン!!鉛が飛ぶぅぅ!!!」

ガガガガガガガ!

「うがあああああ」

豊田司令官は数百発喰らって即死。更にその流れ弾で駐屯地に配属されたばかりの別部隊の女性衛士も1人亡くなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軍内での殺人であり、当然ながら軍事裁判にかけられる

弁護士は必死に尾崎大尉を擁護したが流れ的には検察側に傾いていく

そして……

「松本駐屯地司令の豊田は国の為に動いたと断言はできる。が被告人は豊田が画策したものと思い込み殺害。しかしそれは誤信―――心神喪失とは程遠い極めて遺憾な行為でもある」

「申し訳ありません、カッとなってやってしまいました」

だが裁判官は何かをグッと堪えてるようだった

仲間を殺した尾崎大尉が待っているのは当然『死刑』―――誰もがそう思っていたのだが

「判決を言い渡す」

そして裁判官が下した判決は……

「主文、被告人は征夷大将軍煌武院悠陽殿下の名の下に第889戦術機中隊の中隊指揮官の権利を剥奪と同時に解任。当中隊は解散を命じる」

「え?」

裁判官の判決は予想外の判決内容だった

「被告人は取り返しのつかないことをしてしまったことは事実であり松本駐屯地司令官の豊田が被告人に相談なしに動いたことは事実である」

尾崎大尉は裁判官の前でお辞儀した

それは征夷大将軍殿下の最初の恩情であり最後の恩情でもあった。

指揮権剥奪は軍隊での重い処罰の一つである。

指揮権剥奪後、今回の件で全国にある基地や駐屯地に広まりその事実が拡散されこの知らせにより当事者は完全に衛士界隈から追放

今更訓練兵からやり直しできない元衛士は居場所がなく路頭に迷う事になる

尾崎大尉が率いた第889戦術機中隊は解散していった

こうして帝国軍の内部でこれから期待してた部隊を喪ったことで征夷大将軍の心の傷は大きかった

尾崎大尉の失脚が影響で軍の士気は下がり私達は海外派遣での任務の準備の為、多忙を極める事となった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

半年後

松本駐屯地中隊長執務室

 

私は尾崎大尉の後任で中隊指揮官に任命され、坂崎中隊を設立する

無論、階級は大尉に昇格

鈴乃は次席指揮官、華太は一階級昇進し中隊での教育係に任命した

所謂副官である

だがそれを喜ぶ事は出来なかった……尾崎大尉が誤信しなかったら私は中隊指揮官になれなかったかもしれない

彼が志半ば果たせなかった事を私が引き受ける

今後の事どうするか考えようとしてる時、駐屯地にいる憲兵が中隊長執務室の扉を叩き「失礼します」と一言を添え、私は入室許可を得た

そして憲兵が入り私に今の現状を報告した

「坂崎大尉、おめでとうございます―――と言いたいところですが一つ事態が発生していて軍内は大騒ぎになっています」

「ん?どういう事だ?」

「……昨日、雄武はキリスト教恭順派との関係を断った人達と恭順派との関係を継続している信者と別れて派閥が生まれたようで」

尾崎大尉のおかげで雄武はキリスト教恭順派との縁は完全に切った。が、それを納得いかない信者もいて当然の事か――――麻元がいなくなってからの教団は完全に荒れて内部分裂してるらしい

しかしそれは私には関係ない事だ。あの教団とは二度と関わりたくないからだ

「半年前に連中は無力化した筈だ。尾崎大尉がいなかったら日本はどうなってたか考えたくもないな」

「ええ、そのキリスト教恭順派との関係を継続している派閥である『麻元派』が好き勝手暴れてるようで」

「何だと?」

阿保な信者達が松本市街地を荒らしているというのだ

今回の奴等――『麻元派』は日本国民を恐怖に植え付けようとすれば相手が誰だろうが容赦ない拷問を科すという

「その中でも武闘派で一人ヤバい奴がいるそうで」

「武闘派……か」

この話、何やらキナ臭い匂いがするな

引継ぎがまだ終えていないという時にトラブルか……

「つまりテロ組織との関係を続けたい信者の一派がこの街で暴れてると?」

「警察も動いてるのですが、進展がありません」

「……上層部に掛け合ってみるよ」

この国の土地を荒らす奴は断じて許さない。

それがBETAであってもだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上層部に掛け合った私は「警察の手には負えないから教団にいる武闘派の制裁は坂崎中隊に任せる」と命を受け、相手は少人数であることから私と鈴乃、華太の3人で奴等の制裁を加えに行くこととなった

我々日本帝国軍を舐めるとどうなるか、連中に学んで貰わないとな

私達3人は撃震で松本市街地に到着した

《都、ここで教団の連中が襲撃するというんだな?》

「警察の捜査でここに襲撃されると情報あったからな。確証はないが…連中を葬るしかないな。それがBETAであってもだ」

《……》

授業料はその命だ。

次の瞬間、白く塗装された機体が此方に接近してくる

バラライカではない……あれはチボラシュカだ!数は…3!

教団の連中はまだ戦力を温存していた。

接敵警報が鳴り厳戒態勢に入る

「白いチボラシュカ……教団『麻元派』だ!」

ここは市街地……拙い、住民に被害が被る

私は2人に市街地から離れるよう命令を下す

「鈴乃!華太ォ!市街地から離れるぞ!!ここでの戦闘は無理だ」

そしてフットペダルを踏みつつ跳躍ユニットを最大全速で市街地から離れ直進

連中は私達の後についていく形で追いかけてきた

《都!どうするつもりなの?》

私はここから離れて移動する場所を模索していた

何処か…何処か市民の被害を被らない場所は……!?

《公園だ!松本と塩尻に跨って位置している場所に行くべきだ!》

市境を跨ぐ公園………公園!?

長野県松本平広域公園!

「華太、助言感謝するよ。そこに移動するぞ!2人共私のケツについて来いッ!!!」

教団側の機体が追いかける。

チボラシュカは1.5世代機……当然だが撃震より性能は上だ!

だが、旧型の機体でもチボラシュカに圧倒出来た中隊がいるんだ!彼女の真似は流石にできはしないが私なりにやって見せる!

《撃震は第1世代機よ!このままでは公園着く前に追いつかれるわ!》

「背部兵装担架に収納してる突撃砲があるだろ。それを活用すれば…」

《分かったわ》

鈴乃機は背部兵装担架に収納してる突撃砲を教団側のチボラシュカに銃口を突きつけ後ろ向きで120mm弾を放つ

命中!

撃墜された1機は松本駅駅舎前に不時着し崩れる

残り2機だが、追いつくのは時間の問題だ

数時間経過し、長野県松本平広域公園に到着

そして公園内で…

「到着したな」

教団側の機体が立ち塞がる

互いにピリピリした雰囲気だ

私は教団側のチボラシュカに乗ってる衛士の一人に説得し始めた

「私は日本帝国軍松本駐屯地坂崎中隊の坂崎都大尉だ。貴様等の野望は既に途絶えた―――投降しろ!命だけは助けてやる」

それに対する答えは……日本人の誇りが全くないと過言と言っていい言葉だった。

《尊師様は我々を楽園に送り精神世界に彷徨う崇高なお方だ。我が教団の理想実現を邪魔するなら貴様等は尊師様の敵だ!》

此奴は本当に日本人なのか疑わしい

だが自分の意思なしに教団を入らせた家族もいる。その人達こそが被害者だ。

「貴様等の所為で長い苦しみの生活を送ってるんだぞ。死者も出ている……他者に気遣いせず我欲の為に地下鉄にいた人達を死に追い込んで何とも思わないのか?家族を不幸にして何しているんだ?」

無駄なのは承知で私は奴等に後悔の念を聞いた。しかしやはり骨の髄まで腐った輩と確信した

《霞が関にサリンを捲いたことは心からお悔やみ申し上げている。だがこれは尊師様が望んだことだ―――尊師様がこの国をお導きなければ日本は滅びていく。ハルマゲドンが襲来し人類を滅亡していいと言うのか?》

《そうですよ、尊師様は日本に必要なお方……そう、革命は犠牲が付き物だ。犠牲になった13人はお気の毒だと思ってますが、現体制をのさばらせた征夷大将軍殿下に責任があるのです!》

ふざけるな……貴様等の所為で人類は

私は奴等に対し無慈悲で突撃砲を構え銃口を向ける

「犠牲が付き物だと………」

怒る狂うほど咆哮した

「ふざけるな!貴様等がやった行為は宗教団体とは到底思えない。罪なき一般市民を吹っ飛ばしたら、それはただの外道だろうが!」

奴等は怯まず私達に銃口を向け120mm弾を放った

「鈴乃、華太。やるぞ!」

《了解したわ!》

《遠慮なく行かせて貰う!》

散開し奴等が放つ弾丸を躱しながら跳躍ユニットを最大全速で飛行しつつ最短距離で詰める

BETAと戦った経験ある衛士とただ対人戦しか経験がない衛士の違いを奴等に分からせてやる!

私はチボラシュカ1機を銃口をコクピットハッチに突き付け

「残念だよ―――貴様等が協力してくれれば命奪わずに済んだのに」

《え!?はや!!》

そして36mm弾を0距離で射撃した

《ぐはぁ!》

管制ユニットに貫通した機体はそのまま倒れ込んだ

「……どんだけ素晴らしい理想か知らないが、無実の人を吹き飛ばしたらダメだろ――――大馬鹿者が」

残り1機は鈴乃と華太によって既に撃墜されていた

これで終わった――――筈だった。

芝生グラウンドの奥から黒と黄色の塗装を施されてるアリゲートルの姿が現れた

コクピットブロック部分だけ黄色い塗装だ。

そしてモニターから大柄の男の顔が表した

《おいお前等、俺の仲間に何やっちゃってんの?》

「お、尾崎大尉……?」

《え…そんな、嘘でしょ》

《尾崎…大尉》

何とそこに現れたのは帝国軍を失脚し衛士界隈から追放した尾崎大尉だった。

《煌武院のガキが衛士界隈から追放しやがるからあれから大変だったんだわ》

「大尉……」

行く宛もなく浮浪し続けた挙句、雄武の『麻元派』に行き着いた……という

《悪いがお前等にはここで死んで貰うわ》

「……温情で生かしてくれた征夷大将軍殿下に何を言ってるのですか?」

……無言、静けさに浸る。

「大尉!」

私は尾崎大尉と説得を試みるが華太が割り込む

《こんなクズは都、アンタの出番じゃあない……俺にやらせてくれ》

征夷大将軍殿下の気持ちを踏み躙り、雄武に身を寄せ裏切った……外道に成り下がったこの男―――尾崎隆雄は………ここで消すしかない

マシンガンの尾崎……私達がまだ正規衛士に任官された時に色々と教えてくれたから知っている。

 

「ヒヨッコだったお前等にミンチできるなんて……最高じゃねえか」

 

這いつくばる姿を見て対人戦とBETA戦闘で最初から下から蜂の巣にすることを…

そして私は華太に発砲命令を下す

「華太!撃て!!発砲を許可する!!」

命令を下した後、華太はドンピシャのタイミングで飛んだ。

《ハンバーーーグ!!》

右旋回し120mm弾を芝生に向けて放った!

アリゲートルは第二世代機だ

撃震では対処しきれないと思ったが………。

一斉砲撃する尾崎大尉は華太機……ではなく鈴乃機に狙いを定めるが鈴乃はそれを回避しきれず右腕に持ってる突撃砲を壊された

私は尾崎大尉と対峙する。

《いい度胸だな!だったらお前の頭と腹に鉛玉ブチ込んでやる!ハンバァァァァァグ!》

頭と腹に鉛玉をブチ込むと言いながら突撃砲を下に向けて跳躍飛行しつつ私が乗ってる機体を連射した!

《ブンブンブーン!鉛が飛ぶッ!!!》

この男の戦闘スタイルは見抜いている

私は尾崎大尉のアリゲートルの頭部を120mm弾で破壊する

メインカメラが壊れて視界が見えなくした

《それでやったつもりか?あぁん?》

だが、尾崎大尉は怯まず突撃砲で一斉射撃し続けるが…残弾表示が出る

《ッ!―――チィッ、残弾0か…》

私は距離を詰め突撃砲の銃口をアリゲートルのコクピットハッチに突き付ける

「―――終わりです……投降してください。上層部には上手く丸め込めますから」

投降を呼びかけたが、尾崎大尉は応じなかった

最期まで……。

そして――――

《投降はしねぇ――》

その時、尾崎大尉は短刀を持ち構え私の機体を襲い掛かるが…

《都!》

華太が私を斜線上から回避させた

《尾崎大尉……いや尾崎の兄貴。アンタは俺達にとって頼もしい兄貴分だった。だがな、一般人を巻き込むなんてただの外道ですよ!》

速度を上げ、突っ込みつつ突撃砲を構え

《死ね―――裏切り者が!》

36mm弾を放ち尾崎大尉が乗るアリゲートルは管制ユニットに貫通した

《ぐげえええええぇっ!!》

尾崎大尉の断末魔がこだまし動かなくなると爆散した

「華太、よくやった―――これは即死だな」

《ハア、ハア、ハア……ああ》

この男は最早生きていても仕方がない―――恥も任侠も……衛士の心得を捨てた人間だ。

こうして今回の件は終わった。

しかし、心を濁ったものが残る。これが私達が描いていた衛士の世界…か

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

尾崎大尉の死後、私と鈴乃は帝国陸軍白陵基地に左遷された

上層部の命令は遂行したが尾崎大尉の殺傷に関しては過剰防衛であると一部の将校が指摘された

華太とは暫くお別れになるが、弱気は言えない。

「暫く華太と会えないのは寂しいが…」

そして中隊の長を代理を務めるのは華太だ。

彼に中隊の長を任せられるかは不安だが上層部が決めた事だ

些か従うしかあるまい

「『小峠中隊』か……笑わせてくれる」

坂崎中隊は継続、副官は空席、次席指揮官は北岡が代理を務める事になった。

少し悲しい表情で駐屯地内で歩いたら、華太が声を掛けた

「都…すまない。俺が力弱かったから…」

「いいさ、私がいない間中隊は任せたぞ」

「勿論だ――俺はまだまだだな」

私は他の人間がいないか周りをキョロキョロと見て確認した後、和やかな笑みで華太を私の胸を押さえ当てる形でぎゅっと抱き締めた

「!?」

「お前なら出来る。胸を張り続けていいんだ」

「おい、当たってるぞ」

「気にするな」

「いやいや、良くねぇから!」

と言ってるものの、華太の顔を見ると小さな笑みを浮かべてるが目が笑っていない

「華太、寂しいのか?」

「寂しくなんかねぇよ」

「本当に?」

「……」

彼奴、無理をして振舞おうとしているな

「本当は寂しいんだろ?」

「寂しくなんかねぇ!」

「嘘だな」

「嘘じゃねぇ…俺は、都――今まで黙ってて悪かった。俺は田頭組の構成員だ。本当のこと言ったらお前に嫌われちまうのが怖くて…俺は一人でも生きていける。苦しい事なんか何もない。結局一人でいいんだとかほざく奴はいるが、誰かに支えなきゃ生きていけない―――今の世の中ではヤクザも徴兵されるからな」

「……寂しくないのか?」

「寂しくない」

「寂しいんだろ?」

「寂しくねぇ」

「……嘘を吐け」

私は華太に言い放った

それは底冷えのする低く濁った声だった

この目の奥にある寂しい感情は……

「寂しいんだな」

「寂しくはねぇ」

「嘘を吐くな」

「嘘じゃねぇ」

「寂しいなぁ」

「寂しいさ!」

その震えた声は……嘘を吐けないほどの哀しさを表していた

「俺はお前の行動が正しいと思ってる」

「?」

「尾崎大尉がやった事は衛士としての以前に恥も任侠を捨てた人間だ。擁護する気はねぇ。本来なら正当防衛だ」

「そうか」

私は抱き締めたるのをやめ、華太の顔に近づく

「目を瞑ってくれないか」

「お前、何を」

「いいから早く目を瞑れ」

そして互いに目を瞑り唇を重ねた。

3分後、そのまま唇から離す

「さよならとは言わないよ。また会える時が来る」

「……」

数日後、私と鈴乃は左遷先でデスクワークを務める事になり細々と勤務していった。

 



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心を開いて

今回も坂崎中隊長視点での話です。


私の名前は坂崎都

彼氏を作ってデートするなんて夢のまた夢の妄想してる日本帝国軍の女衛士だ。

私が子供の頃、天国のお祖母ちゃんに教わったことがある

「あんたは人よりずっと強く生まれた。だから弱い人を守るんだ」

「うん!分かった!」

だから私は昔から弱き者を助ける事が自分の責務だと思って生きている

だが残念なことに世の中は腐った奴ばかりだ

自分の利益しか考えない奴等が多々いる

特に斯衛の衛士に対して不躾な行為をする輩だ

「おい女、少し付き合えや」

「ぶ、無礼者が!私が誰だと思って話しかけている!?」

「いいから付き合えや!」

「きゃぁっ」

この状況を見過ごす事など出来ない

「おいコラゴミ衛士が、貴様等は完膚なきまで潰す」

「誰この馬鹿。俺ら斯衛軍の衛士だけど」

「お前も混ぜてやろうか?」

私は奴等に拳をフルスイングで顔面陥没させた

「斯衛の衛士が斯衛の女性を犯して人生滅茶苦茶にする気か!」

ボガァ

「ぐげええええええ!!」

「私を犯そうとしてどういう神経してるんだ!!」

「ひいいいいい」

もう一人の顎を目掛けて殴ろうとしたが、ピタッと止めた

「え…?殴らないんですか」

「反省したなら許す。さっさとここから立ち去れ」

「す、すみませんでした~(仲間呼んでぶっ殺してやる)」

そして奴の背中に目掛けて拳で叩き付ける

「これが貴様のやった事だ!!」

バキ

「ぐげええええ!!」

奴は気絶し後頭部を見ると見事に陥没していた

「カカカカ…」

こんな下衆を逃がすわけにはいかない。罪もない斯衛の女性衛士が味わった痛みを味わえ

「ほら、世の中は酷い人間ばかりではないから気を付けろよ」

「はい、心遣い感謝します」

「彼奴だ!捕まえろ!」

まあ、相手の怪我が酷過ぎて最近警察の世話ばかりなっている……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付けば尾崎大尉の死から1年経過し私は左遷先の場所…帝国陸軍白陵基地でデスクワークに励んでいた

無論鈴乃も一緒だ。

「暇だな……」

暇だ。それしか言えない退屈の日々が続いていた

そんな時だ、一人の憲兵が私の元に訪れ話しかける

「坂崎大尉、今すぐ格納庫に来てください」

「何だ?」

「とにかく来てください」

不穏な空気が流れて来たな…

「分かった、今行くよ」

私は格納庫に向かい、そこには2人の男が喧嘩していた

あの2人、どこかで見たような……いや気のせいか

2人に近付くと怒声が響いてきた

「久我ぁぁぁぁぁ!テメエだけはぶっ潰す!」

「紅林……潰されるのはテメエじゃああ!!」

凄い気迫だがこれは力比べをしているのか。

私から見ればどう考えても喧嘩にしか見えない

他の衛士達は傍観してるようだ

…………制裁しに行くか

「何をやっている!?」

そして2人は喧嘩をやめ私の方に振り向く

「え?坂崎大尉!?」

この顔と容姿……紅林と久我か

「すいません…お見苦しい所見せてしまって」

「良いんだ。で、何で喧嘩したんだ?」

紅林は久我と喧嘩した経緯を話した

「そうか…牛乳瓶の取り合いで」

「子供ですよね。面目ない」

全く、牛乳瓶くらいでなんだ?

すると久我は私に喧嘩を吹っかけて来た

「坂崎都大尉……少しツラ貸して貰いますぜ」

「私とやりたいのか?」

「だったら、何だって言うんですか!」

次の瞬間、久我は最短距離で無抵抗な私を詰めて来た

「最短距離でやらせて貰うぜ!」

「(速いな……!)」

拳が飛んでくる

私は衛士だ。単純な攻撃は通用しない―――そして

久我の顔面に目掛けて最短距離で拳を叩き付ける!

「フン!」

「ごばああああ」

モロに受けた久我は白目をむきそのまま気絶しつつ倒れた

「貴様もやるか?」

「え?いやいいです。上官を殴るなんてお天道様が許されないですよ」

紅林は物分かりがいい。模範的な衛士と言いたいが彼は問題度々重ねて起こしてるから模範的とは言えない。

私は紅林の首を囲うように背後から腕を回し抱き締める

「ちょ、坂崎大尉!?当たってますよ」

「お前は私と同じだ。良き衛士として励もうとしている」

ニッコリと笑みを浮かび紅林を揶揄った

「久我とはライバルなんだろ?何故紅林に固執するのか。気になるな」

「?あぁ、彼奴は…俺の腐れ縁みたいなもんですよ。訓練学校での白兵戦も決着付けなかった訳ですから彼奴はいつか俺と決着付けたいとこう思ってます」

「そうか……ここは帝国軍の基地だ。喧嘩ならよそでやってくれ。どうしてもやりたいと思えるなら私が相手になってやるぞ」

こうでも言わないとまた喧嘩になるからな

「俺なんかといいんですか?」

「いいんだ。やりたかったらいつでも構わないぞ」

紅林と親しみ交流を築き始めた私は久我の存在を忘れかけようとしたが、彼はすっと立ち上がる

「いてぇな…少し効いただろうが」

ほぅ、起き上がって来たか。私の鉄拳を喰らっても起き上がるとは。

「久我虎徹少尉…貴様の敗因を教えてやろうか?」

「……」

「たった一つの答えだよ。そう、私達衛士を見縊ったからだ」

私はそう言うと彼は怖気ついた顔でガクンと落ち込んだ。

「グウウウ…この俺が女に負けるなんて……!」

相当落ち込んでるな……。

「久我、もう一度私と喧嘩するか?」

「あ?そんなの決まってるだろ坂崎都大尉さんよ!」

私は格納庫にある戦術機、撃震1機を指にさした。

「戦術機での模擬戦はどうだ?」

さあ、彼がどう答えるかだ。

「久我、悪い事は言わねぇ。潔く負けを認めて坂崎大尉に謝った方が良いんじゃねえか?」

紅林は久我にこう言い向けるが…久我の目を見ると真っ赤な炎を燃え盛るような闘志があった。

「クク、いいねぇ~。上等だ―――受けて立つぜ」

「決まりだな。上層部に許可を得てからやろう。私が行ってくる」

「逃げるのは無しですよ」

「誰が逃げるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、上層部から許可を貰い私と久我は1対1で戦術機で模擬戦闘を行う事となった

互いに対峙し睨み合いしてる………訳ではない

久我は何故か自分に勝ち目があると勝手な解釈で確信していた

阿保が…私は神宮司と同じ戦場に行った衛士だぞ。自分の技量を過信するなぞ大きな間違いだ

審判は鈴乃が取り仕切る

モニター越しで久我がニヤリと笑みを浮かべ自信満々でこう言った

《アンタがどれだけ技量あるのか見せて貰いますよ坂崎パイセン》

「自惚れるな、貴様の実力はどれほどのものなのかを上官と部下の差を教えてやる!よぉく覚えとくんだな」

紅林は観戦だ

2人の対決を見届けたいのだろう

鈴乃が真顔で始めの合図を送る

「ではこれより坂崎都大尉と久我虎徹少尉の1対1での模擬戦闘を開始します!では始めッ!」

模擬戦が始まった

互いに突撃砲を握り構え直線的に120mm弾を放つ

そして躱す

36mm弾を放ち、また躱す

躱す躱す躱す

互いの機体は放たれる弾丸を躱し続けた

《どうしたんですかぁ?坂崎パイセン。逃げないでくださいよ!》

「貴様も逃げてるじゃないか」

《ッ!うるせえ!じゃあ本気出させて貰うぜ!》

久我の機体は速度を上げ120mm弾を放ち乱れ撃ちした

だがな、こんな攻撃当たるわけがない

私はそれを躱す

「動きが遅いぞ。貴様の本気はその程度なのか?」

私は久我に挑発をして怒りを買う

紅林なら絶対にそんな事しない筈だ。

右旋回して最短距離で久我機を詰める

「上官を舐めると痛い目に遭うんだよ」

《な!速い!?》

私の勝利と思われた。しかし久我は私の機体が持ってる突撃砲を蹴りで弾いた

「貴様……」

《油断は禁物ですぜ!》

久我機は突撃砲で120mm弾を一斉発射

私はギリギリで躱しもう一つの突撃砲を持ち構え36mm弾を放った

久我機は一切動くことなく私に目掛けて一斉射撃

「くっ…!このままでは」

右側の跳躍ユニットが損傷した

《飛べない豚はただの豚ってか!これでもう飛べない…一気に行きやすぜ!》

勝ち誇った表情で一斉射撃し続けたがここで弾が尽きる

残弾警報が鳴り響きそれを気付かずに撃ち続けた結果、残弾数:0と表示された

《な…残弾0だと!?》

突撃砲が使えないとならばそれを棄て短刀を持ち最短距離で私に詰める

《ナイフで抉らせてやる!》

右の跳躍ユニットが損傷、突撃砲は…弾かれたのもあるからまだ使えるか?

私は迎撃態勢を構え久我機に目掛けて36mm弾を撃ち続けた

「くっ……!」

だが、当たらない!

そして

《懐に入ったぜ!》

拙い!やられる……!

久我機が持つナイフで管制ユニットが当たる直前にバックステップで躱す

戦術機はこういう使い方が出来るんだぞ?

「(久我虎徹……貴様は将来有望で期待できる衛士だ。だがな、機体の性能を過信すると戦場だったら確実に死ぬぞ)」

私は最後まで弾が尽きるまで撃ち続けた

「掛かって来いっ!若造がああああ!!」

久我、貴様は本気でこの戦場で命を差し出せるか

BETAは対話など不可能……本気でやるなら私を倒せるはずだ

《砲台代わりに射撃ですかい!?このまま抉らせて頂きますぜ!》

残弾警報が鳴り響き、私の突撃砲に残ってる弾は……

「残弾0か」

弾はなくなった

そして久我と対抗すべくナイフを持ち替え突っ込んだ

「死んどけ久我ああああ!」

そして次の瞬間

ガチャン!

久我機が転倒し私の機体が握ってるナイフをコクピットブロックに突いた

《……!》

「貴様の負けだ」

《そ、そんな……馬鹿な…》

「これが上官と部下の差だよ。久我、貴様が戦場へ赴きBETAと遭遇したら死ぬぞ」

《……》

その光景を見た鈴乃は慌てて結果を言い出した

「…く、久我機戦闘不能!よって勝者は坂崎都大尉です!」

こうしてこの模擬戦は私の勝利で終わった。

数時間後、更衣室で強化装備を脱ぎ制服を着替え終えた私はPXに向かおうとしたが久我が私の前に立ち塞がる

「何だ?」

「坂崎パイセン、俺はアンタに惚れたんだ。だからその…」

ん?

「俺はアンタを超えるまで最後まで勝負する!」

久我、お前なりに私と鍛錬受けたいんだな

………いいだろう、受けて立つ

「ふふ、分かった。何度でも受けて立つぞ」

自分の能力を理解したようだな久我

頑張って成長しろよ。

そして強くなれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

紅林が私の所に訪れた

「坂崎大尉、少しお願いがあるのですが」

「紅林か。何だ?貴様が直接私のところに来るなんて珍しいな」

何の用で私に?

「単刀直入で言います。俺と付き合ってください!」

「……」

え?

どう言う事だこれは。

まさか………?!

私の眼にまた挑むような鋭い光が走り頬を赤らめつつ困惑した

「紅林、お前な……上官を揶揄うんじゃない。私はそう意図も簡単に落とせないぞ」

上官である以前に一人の女だ。

私は断りの言葉を言おうとするが、紅林は苦笑いをした

「大尉?あの、何か勘違いしているようですが俺が言いたいのはシミュレーション訓練に是非お付き合いしたいと」

そう言えば紅林は実戦経験はなかったな――――そういう事なら断る必要はないな

少し付き合ってやるか

「いいだろう。BETAでの戦闘シミュレーションは実戦経験積む前に大事な事だからな」

「ありがとうございます!それと、どうしても報告しなければならないことがあります」

「戦術機整備兵の筆記試験を合格しました」

「おお、それはめでたいな!」

「はい!戦術機の構造や仕組みを必死に勉強した結果です」

「よく頑張ったな。褒めて遣わすぞ――――ってお前は衛士だろうが、何故整備士の道を?」

紅林は整備兵になるつもりなのか?

―――いや、そんなことはどうでもいい。

私は紅林の話を詳しく聞いた

「戦術機はBETAと対抗できる人型兵器です。が、今のままだといずれ各国の戦線が瓦解し地球にいる人類は滅びます」

「……何故整備兵に?」

「弱き者を助けるためにはそれの補助が必要です。出来るだけみんなの力になりたい…そう思っただけですよ」

ふむ、成る程……衛士兼整備兵か。

「つまり貴様は衛士を務めながら整備兵やると言いたいんだな」

「はい!」

彼は本気みたいだ。

私は紅林の将来や人生を応援した

「貴様がいれば衛士や整備兵の数は補充できるだろう。頑張れよ――――1時間後、シミュレータールームに来るように」

「了解しました!」

紅林は敬礼してから返事をしてその場から立ち去った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間後、私は30分前に強化装備を着替え先にシミュレータールームで紅林が来るのを待ち構えていた

暇潰しに鼻歌でもするかと思ったその時、紅林がここに到着した

「待ってたぞ紅林」

「あ、坂崎大尉は先に来てたんですね」

「当然だ」

私は映画に出てくる優しい笑みを浮かんでるヒロインのような顔をし紅林を見つめた

「さぁ始めるぞ。貴様の実力を見せてみろ!」

彼の目は、闘志を燃やしてる目をしていた

本気で掛かって来いと言いたいところだが今回はBETA戦闘でのシミュレーション鍛錬だ。

互いに管制ユニットを模したシミュレーターに入り戦闘開始準備をした

起動は……鈴乃に任せている

《いつでもいけるわ!》

「すまんな鈴乃、付き合わせてしまって」

《紅林、分かってるわね?これは実戦経験を積む前の余興だと思えよ》

《了解です!》

ほぅ、凄くやる気が出てるな――――負けるわけにはいかないなこれは。

「始めてくれ」

鈴乃はシミュレーターの電源を入れ指示役を務める

私と紅林が入ってるシミュレーターの中で画面に映ったのはまさに建物が崩落し森林が燃えてる光景

「これをクリアするのは簡単じゃないぞ」

《クリアして見せますよ》

瓦礫の中から戦車級が現れた。

一匹だけじゃない…何十、何百…次々と出てくる

「早速お出ましだ。弾は無駄に…」

私は突撃砲で目の前の戦車級を120mm弾で放とうとしたが、紅林機が一気に距離を詰める

次の瞬間、紅林機の右マニピュレーターが拳のように力強く思い切りフルスイングで戦車級を殴り付けた

《オラァァァ!死んどけ!!》

人間技じゃなかった……戦車級が次々とマニピュレーターだけで倒し続けていく

「おい紅林!武器を使え!」

《素手でならBETAは倒せますよ!》

紅林の操縦センスはまるでボクシングの戦い方―――軽く右フック、左アッパー、左右ジャブを繰り出し戦車級を全部倒していった

戦車級倒したら次は兵士級だ

私は突撃砲で120mm弾を兵士級に放った

しかし紅林は武器使わずマニピュレーターだけで兵士級を倒す!

《吹き飛べゴラァ!》

凄まじい攻撃だ――――隙が見えない

兵士級は全て殲滅した後、今度は要撃級が出現!

「紅林!要撃級だ!120mm弾で対抗しろ!」

だが彼は要撃級相手でも突撃砲を使わずマニピュレーターだけで拳を強く握るように要撃級1体を金剛石みたいにフルスイングで振るった!

ボガァァ!

《ここから出ていきやがれッ!化け物が!》

素手でBETAを軽々と倒している――――紅林が倒したBETA数体を見ると戦車級がどれもこれも関節が折れたり歯が折れたり兵士級は顔面陥没していた

今倒した要撃級も顔面陥没している

そして紅林機の背後から別の要撃級が現れるが…

《俺達の故郷を荒らす外道共が…死んどけェ!》

ゲシィッ!

蹴りを食らわした

しかし第一世代機の撃震にそんな人間技は再現できるわけがなく動きが思い通りに動かない

体勢を立て直すのに時間がかかった

「くっ…!」

私は残ってる要撃級を狙いを定め120mm弾を放ち殲滅!

残存の個体はないか確認した途端、要塞級が出現した

《大尉、要塞級です!》

「ここまでの大きさだとマニピュレーターだけで戦うのは無理だな」

《……》

ん?まさか要塞級でもマニピュレーターだけで戦うつもりか?

《坂崎大尉、少し手荒になりますが武器の使用許可をください》

「…」

《拳だけでは倒せない……ここは武器を使って戦うしかないと俺は判断しました》

漸く理解してくれたようだ

紅林機は突撃砲を握り構え迎撃態勢を取る

「…許可する。いいか?要塞級は36mmでは歯が立たん。120mmで応戦するんだ!」

シミュレーションは1体しか出てきていない

本当の戦場だったら4体以上出てくるのは当たり前の光景だからな

そして至近距離で要塞級が近づいてきた次の瞬間…

「今だ!」

ドォン!

ドォン!

互いの機体が36mm弾を放った

しかし要塞級はびくともしない

背後から回ろうとした私は要塞級の特徴である鞭が襲い掛かる

「!」

だが、それを躱すのは安易ではない

次々と襲い掛かってくる

紅林機が超反応で速度を上げ突撃砲を金属バットを握るように打撃を与える

《オラァ!》

ガァッ!

鞭が砕き、一瞬で使えなくさせた

これで要塞級は……ってそうじゃないだろ!!!!

突撃砲の使い方が間違ってる……。

次の瞬間、紅林機はもう一つの突撃砲で36mmを放ち要塞級が倒れるまで撃ち続けた!

《此奴でトドメじゃあ!!》

弾が尽きるまで要塞級を攻撃!

そして崩れ倒れ屍となった

「……」

数時間後、シミュレーターの画面が消え、訓練は終了

シミュレーターの中から出て、その場で反省会を行った

「紅林、戦術機の操縦やBETA戦闘の対処の仕方は合格だ」

「ありがとうございます!!」

「ただ、マニピュレーターだけで小型種のBETAを倒すのは驚いたよ」

「うっす」

「……何故武器を使用せずにBETAと戦った?」

理由は聞かなくても分かるが念には念をだ。

「小型種の対応は適した戦い方だと自分はそう解釈しています。が要塞級だけは幾ら腕っぷしが強い俺でも倒せるわけがないのでやむを得ず武器を使用しました」

「成る程な――――そんな戦い方をしたらマニピュレーターが壊れて武器が使えなくなるぞ」

「弾薬尽きたらBETAを倒せないと思ったからです。勝手な自己解釈してすみません」

ふむ、弾薬が尽きたら戦えない……確かに一理あるな。

衛士は上官の命令は絶対だ。

私は紅林を説教して叱った

「弾薬はいつか尽きる時はある。それは避けられないのは分かる……が、上官の命令を無視して自分なりの戦い方をするのか?」

………。

「いえ、自分の為ではありません。上官の命令を聞いて実行するのもアリですが部隊の長が喪失し上からの命令がなければ自分で何とかするしかないと」

「つまり他の衛士を考慮してBETA相手と戦えるとでも言うのか」

「はい」

そんな甘っちょろいやり方ではBETAに勝てないぞ!と言いたいところだが私はあえて紅林を褒めた

「的確な判断だと思うぞ。部隊長がいなくなった後の事を想定してその戦い方をしたんだな」

と優しい笑みを浮かべ彼の頭を撫でた

シミュレーター訓練を終え早く着替えてシャワーに行こうとしたその時、基地内に軍関係者ではなさそうな男が一人でうろついていた

この格好から見れば……衛士ではない

本職のヤクザだ

「紅林は先にPXに行ってくれ。少し用事思い出した」

「了解です」

紅林はその場から立ち去った。が鈴乃は私の手を繋いだ

「都、貴女を一人で戦わせるのは危険よ」

鈴乃の視線を向けた先は男の右手に握ってる特殊警棒

だがヤクザがこの基地に何しに来たんだ?

…………考えてる暇はない。追い返すべきだな

私は男に近付こうとしたが鈴乃が先に前へ出て言い放った

「貴様、そこで何をウロウロしている!?ここは関係者以外立入禁止だ」

すると男は振り向き鈴乃の顔を直視する

「あ?んなこたぁ分かってんだよ」

此奴、白けた態度して…何か訳アリでここに入ってきたに違いない

鈴乃はその男に向けストレートな発言をした

「貴様は何者だ?何しにここへ入って来た?!」

「俺は京極組の相良だ。ここにいる衛士の一人が世話になったそうじゃないか――――少し痛い目に遭わせようと思ってる。邪魔するなら」

「邪魔するならこの場で殺すか?」

この男―――相良と言う男が発する強烈な殺気。

間違いなく相当数の人間を殺している…

「これは京極組のシノギなのよ。素人に邪魔されちゃあ極道廃業なんだわ」

此奴も小峠と同じ属種か?!

特殊警棒の相良…京極組内でも一二を争う残忍な極道だと聞く

敵の骨を全て折り内臓を全て破裂させる…その時の音を楽しむ狂人だ

「お前の内臓が破裂する音…カセットテープで永久保存するわ」

目がドス黒く濁っている…紛う事無き真の殺戮者だ。

だが、そんなのお構いなしだ。

私は鈴乃の前に出て相良と対峙する

「日本帝国軍の坂崎都大尉だ。貴様は一体何しに来た?一人で基地に侵入してくるとはいい度胸じゃないか」

「坂崎?あー、お前ここの関係者か。丁度いい…俺のサンドバッグになれよ」

もう逃げられない。ここはやるしかない

未来の衛士は私が守る!

「シャアア!まずは頭蓋骨の割れる音!」

ガッ

「ガアアアア」

踏み込みが異常に速い…!私が全く反応出来ないなんて

「次は、肝臓の破裂音!」

グォ

「グアア!」

さらに警棒の振りが早すぎて攻撃がほぼ見えない

命を絶つような一切躊躇ない攻撃……

「グゥウウ!」

「おいおい、正義は勝つんだろ?頑張れよ偽善者――――だが負ければ逆賊、喉仏が割れる音!」

ガァッ

「グエエエエ!」

徹底的だ…まるで作業をこなすかのように私を殺す気だ

意識を刈り取るような連撃…だがな、こんな男に

「私は―――絶対に負ける訳にはいかないんだ!!」

「おおー、ギネス級のタフさだな。申請しろよお前」

私は拳を強く握り相良の方に向ける

「死にたくなければ歯を食いしばれ…」

「アホさもギネス級か?そんなテレフォンパンチ俺に当たる訳ねえだろうが」

拳を固め怒りと魂と全体重を乗せた極限のパンチだ

ガァ!

「パンチの軌道は見え取るんじゃあ!ウッシャアアア!」

相良は特殊警棒で私のパンチを止めた…が

「そんなもんで……私のパンチが止まる訳がないだろうが!」

ボガァァ

「グエエエエエエ!!」

私が本気で握った拳は金剛石のように固く全体重が乗ったパンチに防御は無意味だ

「か…あ……(し、信じられねえパンチだ。女の癖に力あり過ぎだろ)」

相良の顔面を一発完全に陥没させた

「鈴乃、憲兵を呼んでくれ。此奴には色々と聞かなくてはいけない」

「わ、分かった!」

数分後、憲兵2人が到着し相良を拘束した

その後どうなったかは私が知る由もない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、私は自室で休息を取り読書をしながらコーヒーを飲んでいた

銘柄はキリマンジャロブレンドだ。

凄く良い香りしてる……そのお楽しみの途中に久我が扉を叩き「失礼します」と一言を添える

私は不貞腐れた態度で「入れ」と一言を添えつつ久我を中に入らせた

「坂崎パイセン、少しツラ貸してくれ」

「ん?久我……貴様は上官に対する態度が悪いな。少し制裁が必要だな?」

「グウウ……(何だこのオーラは…信じられねえくらい圧倒してる)」

少し威圧掛けただけで怖気付いたな―――彼はまだまだ未熟なようだ。

「折角、コーヒーを飲みながら匂いを堪能してるのに台無しじゃないか。で?話があるんだろ?」

「あぁ、そうだ」

「話ならこの場所で構わないぞ。それとも何だ?私の事好きになったか?」

私は少し意地悪そうな笑みを浮かんで久我を揶揄った。

「な!?んな訳ねーだろ!昨日来てた特殊警棒持ってた男の事だけどよ」

「特殊警棒…?」

相良ってヤクザの事を指してるのか――――まさかと思うが

「貴様の知り合いか?」

久我は頷く

「否定はしないんだな――――」

突如、久我は私の前に頭を下げた

「ご迷惑をかけて本当にすいませんでした!!」

「え?」

「相良の兄貴は確かに下卑たシノギしていますが俺の兄貴分なんです!どうか相良の兄貴の事を見逃してやってください!」

久我は申し訳なさそうにそう言ったが私は何を言ってるのかよく分からなかった

黙っていても話は終わらないので私は適当に返事した

「そうか、貴様もヤクザなのか……」

今の状況じゃヤクザだろうが何だろうが関係ない

戦力は不足しているんだ。寧ろ戦力が上がったら有難い

「人類全体が脅威を脅かしているんだ―――上にいる人間は使えるだけ扱き使うからな。泣き言は言ってられんよ」

「……?」

「自分の道が正しければ自分が決めた道を進めばいい―――久我、この先は苦しい事が沢山待ち受けている。それを乗り越えてこそ本当に生きる価値がないテロリスト共を葬られるんじゃないかと思う。良いか?仮に衛士辞めても闇に墜ちるな。世話になった人達を裏切ったらそれはただの外道だからな」

裏社会では『舐められたら恥晒しで人として終わり』と聞く

任侠映画の見過ぎだが、私がイメージしてるヤクザは恐らくそういう風に見える

良識派がいれば外道もいる

「坂崎パイセン…いや坂崎大尉、アンタはすげえ衛士だ!男に負けない強くてかっこいいスよ!」

「私は言いたい事を言ったまでだ。それ以上もそれ以下でもないよ」

久我にコーヒーを振舞うか……と思ったその時だ

「坂崎大尉!大変です!」

血相な表情を浮かんだ憲兵が私に声をかけて来た

「どうした!?何があったんだ!!?」

「と、とにかく来てください!演習中に事故が発生しました!」

演習中に事故だと!?

一体何が…?

「東富士演習場の仮説補給所で火災が発生して…訓練衛士が2人巻き込まれました!」

それを聞いた私は背筋が凍り付いた

久我は私の自室から出て走る

「何処行くんだ!久我ぁ!」

「あんなの聞いたら放って置けませんぜ。大尉殿――では失礼しました」

と言って事故に遭った現場へ向かい走っていった。

…って神奈川から静岡まで走りで行くのか!

私は自室から飛び出し久我の後を追うが、基地の外に出た時点で彼は既に60式106mm無反動砲を搭載した一期73式小型トラックに乗って東富士演習場に向かって走り去った

「あの馬鹿……あとで始末書だなこれは」

私は彼の行動を不可解だと察し頭を抱える

全く、仕事を増やしてくれる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、東富士演習場から横浜に戻った訓練衛士達は自室待機命令が下された。

当然ながら久我も基地に戻っていき、私に事の次第を包み隠さず報告した

「――――以上が、現在までに判明している事故の状況です」

「そうか―――それで?」

「訓練衛士の三浦って言う女性1人が死亡確認した。あとのは病院送りになった。正規兵に成り上がるのは絶望的だと言って過言だ」

……。

「それと今回の事故の調査権は事故調査委員会に移管される―――つまりアンタがその事故の調査しろって事だ。俺が言ってる事…ご理解頂けないでしょうか?」

2人の事故の調査は我々に託されたか。

面倒な仕事次々と増える。

「私が調査チームの長になったと?そう言いたいのか」

久我は沈んだ表情を浮かぶ

どうやら本当なのだろう

「状況は状況だからな。久我、第三会議室でみんなを集めてくれ。誰でもいい―――あと念の為に警察に通報した方が良いな」

「了解しました、大尉」

こうして今回の件である東富士演習場での事故の調査は私達坂崎調査隊という調査チームが結成された

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東富士演習場の事故調査に任された私達坂崎調査隊の面々を第三会議室に集められた

久我もその調査チームに入っている

ここに集めた人数は12人か…少数だが気を緩んではいられない

「今回、ここに集められたのは他でもない。我々帝国陸軍事故調査委員会は私達坂崎調査隊を発足しその先頭として事故調査する事となった。その事故の真相を突き止めたい―――協力してくれないか」

調査チームのメンバーは…

私と久我、鈴乃、鬼頭、佐竹、園田、栗林、矢作、森口、露崎、江藤、楠木の12人

「鈴乃、お前まで巻き込んで済まない」

「大丈夫よ。それより早く真相を究明しましょう。時間がないわ」

「みんな聞いてくれ。東富士演習場の事故を探る―――些細な事でも構わない」

私ははきはきとした声で皆の前に言い放った

佐竹は私に問を掛ける

「あの、何で俺も事故調査しなければならないんですか?一応衛士ですよ俺は」

「貴様は何も役に立ってないからだろう。病気が頻繁的に起こるしシミュレーション中や終わった後も嘔吐したり下痢起こしてトイレに駆け込んだ。そんな奴に衛士を名乗る資格はない!」

「そんな~…俺だって頑張ってますよ!」

こうは言ってるが、佐竹は衛士と言うより整備兵に向いている

後で説教しておくか

「聞き込み調査に行くぞ!貴様等気合を入れておけ!」

「はい!」

そして私達調査チームは訓練衛士がいる寮に行き聞き込み調査を開始した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、寮に到着した私達は訓練衛士の伊隅、竹宮、佐久間、狩野と接触

彼等の言い分はこうだ

この訓練学校は異常だ。軍隊は厳しいと承知の上で言っている。

訓練カリキュラムが酷過ぎる――――。

だから教官の神宮司に文句言いに行くと佐久間は言った。

他所はここより人道的だと狩野はこう証言した。

当事者同士での話し合いは妥当な判断だろう――――だが彼等はまだ訓練兵。所謂ヒヨッコ衛士だ。

とてもじゃないが訓練衛士と訓練学校の教官であり神宮司に文句言ったら100%鉄拳制裁だ。

放って置けないな

「人材を潰すだけが目的と受け取れる節があるなら証拠が必要だ。貴様等が言っても追い返されるだけだ」

「…」

彼等を鼓舞する方便じゃない―――佐久間はそう確信していた。

久我が伊隅たちがいる部屋に入り調査結果を報告する

「坂崎の姐さん、情報屋でこの件を聞いたがこの訓練校の方針とカリキュラムの決定は校長達じゃなく神宮司が握っていましたぜ」

「な、ん…だと……!?」

中国大陸での戦域で活躍した神宮司がこの外道なカリキュラムを強行しただと!?

「久我、何かの間違いだろ…神宮司は私と鈴乃の同期だ。こんな事あり得ないよ」

「そのあり得ない事を神宮司がやったって言ってるんだ!!」

ッ!!?

狩野はぶっきらぼうな態度でこう答えた

「坂崎大尉、でしたね。ウチの教官…神宮司はかなり上のお偉いさんに直のコネがあって、そいつに頼んで前線から引き揚げて貰ったって話ですよ」

どう言う訳か理解できない

つまり神宮司は豊田元司令官より偉い人にコネがあって前線に引き上げたって事か?

彼奴はそんな事するような人間ではない

ましてや坂元や尾崎みたいな衛士は分かるが神宮司が………。

「例の噂―――神宮司は、味方を見捨てて逃げ回ってたから生き延びたって話、あれも事実だってオチですよ」

竹宮は困惑な顔でこう言った

「……なんで急にそこまで調べられるのよ」

彼女の言いたいことはわかる。

これは流石に野放ししてはいけないな

「もう少し詳しく聞かせてくれ。神宮司は私の同期だ―――何かの間違いだと思いたいが」

私は狩野に直接神宮司が何をしたのかその上にいる人間の情報を聞き出した

「前に食品ルートをぶっ潰された時から洗ってたんですよ。何か役に立つ情報は無いかって」

「でもあの件は誰にも処分されなかった筈だけど、なんであんたが恨むのよ……?」

竹宮は困惑した顔を浮かべたまま言ったが…

「こっちの収入は確実に減ってんだよ。大体誰にも処分されないなんて、逆におかしいだろ?こりゃあ裏に何かあるなって睨んでんだ」

成る程、ここまで恨まれるとはな……だがまだだ。まだ確信を持ったわけではない

訓練衛士の証言がダメなら―――。

これは佐久間や狩野の個人的な怨恨だな。

藤澤の件が大義名分を与えたという事か

笑えない冗談だ。

久我は京極組のヤクザの一人だ。当然だが裏社会の情報屋と繋がりはある

私は計算の内だが伊隅達の視点では計算外だっただろう。

そして伊隅が信じられないと思い込んでる表情で私と久我、竹宮、佐久間、狩野にこう言った。

「……なんか話が逸れてない?結局、何が言いたいの!?」

佐久間は答えた

「ああ、つまりだな……ここの異常さは帝国軍の規定じゃなく、神宮司教官の勝手な暴走だってことが言いたいんだ」

繋がった……この事故の関連性、藤澤の病院送り――三浦の死亡――神宮司が帝国軍かもしくは国連軍と裏で繋がっており武器を密輸して覚醒剤をばら撒いてる?

「……」

この時点で私は神宮司との信頼はビルの倒壊みたいに崩れ落ち失望していった

狩野は竹宮にこう言い放つ

「てめえが逃げ帰って来たもんだから、身代わりに少しでも優秀な衛士を送り出して、そのお偉いさんに見捨てられないようにしたいんじゃねえのか?」

狩野の言っていることはトータルすると破綻している

一線は引いているようだが、佐久間もそれすら気が付かないほど愚かな人間だとそう言いたいのか?

理屈抜きで神宮司を貶めたいだけなのか…確証がない情報は必要ないはずだ

自分が正しいと言う根拠が欲しいのか?

「……もしそれが本当だとしたら……三浦は……そんな異常な演習で?」

ダメだな…竹宮や佐久間達も完全に冷静さを失っている

神宮司の思惑が上手く行き過ぎたと言うべきか

「憶測はともかく、ここの訓練規定が他所と比べて異常なのは確かだ。兄貴達に他校規定を調べて貰って裏は取れている」

成る程………不満を持ち怒り爆発するのも理解できる

彼等は神宮司に反逆をしようと模索していると私は直感した

「俺達はこれ以上、教官の横暴に付き合う気はない…これは全分隊長の総意だ」

「つまり、第16衛士訓練隊全員の意思って事だ。伊隅達以外のな」

「三浦と藤澤の所属分隊の当事者として、出来ればお前達にも賛同して欲しい」

彼等は本気だ

目を見れば分かる―――あれは嘘を吐いてる目ではない

佐久間の言葉を聞いた竹宮と伊隅は困惑しつつ無言を貫くが

私は敢えて彼女にこう聞いた

「どうなんだ?彼等の言い分は理解できる。これは野放ししていいレベルではないんだ伊隅、竹宮」

「…」

「…」

久我は伊隅達にこう言い放った

「アンタ等、大事な戦友を喪って悔しくねぇのか?俺だったら彼女をぶん殴りに行く!こんなカリキュラムは滅茶苦茶だ!アンタもそうだろ坂崎の姐さん」

「そうだが…賛同するかしないかは彼女次第だからな」

私がそう言うと伊隅は佐久間と狩野に問い詰めた

「……ひとつ、聞いて良い?」

「なんだ。ひとつと言わず何でも聞いてくれ」

「ただ抗議するだけで終わり、なんてつもりはないわよね。……勝算はあるの?」

伊隅がそう言うと狩野はニヤついた笑みでこう答えた

「ヘヘッ……流石伊隅だぜ。分かってらっしゃる」

そして佐久間はこう言った

「教官が要求を拒んだ場合、実力行使も仕方がないと思っている」

実力行使か――――今の私は事故調査チームのリーダーだ。

私がGOサインかければ神宮司や事故の関係者を締め出すことは出来る

竹宮は困惑した顔で佐久間達に言い放った

「……実力……行使って……佐久間!?」

「気は進まないが、狩野のコネクションをフル動員して貰うつもりだ」

「今回の事故は神宮司の保身にとってかなりのダメージになる筈だ。大騒動にして世間の注目を集めりゃ、マスコミも食いつく」

本当にこれを実行すれば神宮司は訓練校の教官ではいられなくなる

良ければ左遷…悪ければ世間に大バッシングされて衛士界隈から追放になるかどちらかだ

「今は事故の調査と現場検証で保安部隊もそっちにかかり切りだからな。立て籠もるにしろ武器の調達にしろ、色々やり易い。しかも当事者の神宮司は屋内待機。上層部の連中は陣頭指揮で現場に張り付いてる。やるならこのタイミングしかない」

これはマッチポンプだ

狩野は恐らく誰かに利用されてるのだろう。

特ダネを欲したいが為に

そのターゲットが神宮司まりもとなれば、これはもう確信的だ。

「本気で言ってるのか?貴様等は。最悪の場合、国家反逆罪になるぞ?」

念の為に佐久間達に威圧を掛ける

「それは違う―――反逆罪があるとすれば教官だ。訓練校を私物化し、人権蹂躙を看過している」

「俺等はそれを暴くんだ。……これは三浦の弔い合戦だぜ!?」

竹宮は佐久間達の行動を理解してるものの迷いを見せる

「……でも」

狩野は迷ってる竹宮を見てこう言った

「でも……なんだよ」

「……そんなことをしても……三浦は……喜ばないんじゃない……かな」

「竹宮、お前……」

私は竹宮の意思を尊重しようとしていた

「あたしも神宮司は許せない……だけど…藤澤だって、そんなこと望んでないと思う」

「竹宮……」

「じゃなかったらあの子たち、修検に……あんな一生懸命にならなかったんじゃないかな」

…………。

「あたし、爆発の前にデータリンクのログ見たけど……あの子達、オルブライトターンを同時に決めてるんだよ?」

オルブライトターン―――――推力を維持したまま180度ベクトル転換するC難度の実戦機動

あの訓練衛士2人がそんな大技を……?

「あたしと伊隅に黙って……ふたりでずっと練習してたんだよ……?」

…………。

「神宮司のことは……何か別の方法で何とか出来ないのかな……!?」

竹宮の一言を聞いた狩野は叱責する

「……おい竹宮っ!?おまえッ、彼奴等はお前等に恩を返し――――」

それ以上言おうとするが佐久間は止めた

「―――いいんだ、竹宮。俺達は無理強いをする気はない。ただ……」

「……」

「これは三浦や藤澤だけの問題じゃない。俺達は候補生からあんな目に遭う奴をもう二度と出したくないだけなんだ」

「……」

「それだけは分かってくれ」

「…………気持ちは………わかるよ」

「そんな事が言いたいんじゃないのはわかっているが、念の為、お前が賛成しなかった事は記録しておく」

竹宮は佐久間達の言い分を賛同しなかった

こんな事しても彼女が喜ぶはずがない――――竹宮はそれを理解して賛同しなかった……が。

「いや、あたしは―――」

竹宮は何か言いたそうだが狩野が阻止する

「――いいからそうしとけって」

「狩野……」

「別に俺等は多数決で従わせたい訳じゃねえからな。全員、自分で決めたんだ。だからお前の意思も尊重する」

成る程な、自分で決めた選択肢は貫かなければいけないと言う訳か

「ごめん……狩野」

「謝るところかよ、バーカ」

「ごめん……坂崎大尉もごめんなさい」

「お前が決めた事なら私は何も言わんよ」

狩野が続けて言い放つ

「……お前の言う通り、もし藤澤が俺等の行動に反対だったら」

「……えっ?!」

「彼奴の事だ、俺等とは絶てぇ口も聞かなくなる。だからお前は、そん時のための保険だ」

全員沈黙――――これには私は何も言えず口をポカーンと開けたままだった

久我もイラついてるだろう…神宮司の事を

「あのクソ野郎……!」

私は久我を制止する

「まだ話は終わってない」

「く…!」

狩野は「彼奴がここに戻って来た時のな」と一言を添え、竹宮は不安そうな表情を浮かべる

「狩……野…………」

佐久間は伊隅に賛同するかしないか聞き出した

「伊隅……お前はどうする?」

「……色々聞かせて貰って安心したわ」

「お前も………やめとくか?」

と狩野は問い詰める

伊隅の答えは既に決まっていた

「いえ、行くわ」

伊隅は神宮司の所へ行くつもりだ――――その決意を表した

「流石伊隅………やっぱただの優等生じゃねえな」

伊隅の決意は竹宮も驚いただろう。彼女はNOと答えると思ったからだ

「嬉しくないわね、それ」

「誉め言葉だぜ?お前、黒幕の素質充分だって前々から思ってたんだ」

「お前が賛同してくれるのは心強いよ、伊隅。これで全分隊長が揃った」

「……………」

突如、伊隅は佐久間達に残るよう告げる

「待って佐久間。あんた達は残って」

「はあ?何言ってんだよ伊隅……お前、やっぱ反対なのかよ?」

「狩野―――私が行くって言ってるのよ」

伊隅の言葉を聞いた直後、疑問を浮かぶ

まさか一人で行くつもりか?

当然ながら佐久間は伊隅に問い詰める

「どういうことだ?説明して貰えるか?」

「向こうだってバカじゃないわ。反感買う事なんて計算済みでしょう?」

確かに一理ある

神宮司の思惑なのか?計算なんだ。と。

伊隅は続けて言った。

「さっき聞いたでしょ、私達を排除する為にいるって。雁首揃ってのこのこ出向けば、危険分子としてその場で一網打尽もあり得るわよ」

うん、伊隅の言う通りだな

まだヒヨッコで正規兵になってすらない訓練兵が出向いても鉄拳制裁どころか訓練学校から追放され非国民と皆から冷たい目で見られるだけだろう

そうなれば非国民だ。

「む……」

「あのババアがそこまで俺等を買ってるとは思えねえな。どうせ何も出来ねえ腑抜けだって決めつけてやがんだろ?」

狩野、口の利き方は気を付けろよ。

私も神宮司と同じ歳だからな

…とはいえ、訓練衛士の不満があることは確かだ。

私は狩野にこう言い返した

「相手はあの”死神”神宮司だぞ。仮に逃げ回って生き延びたなら最悪の事態には対処出来てる筈だ」

「…む…確かに……」

「貴様が行くべきだろ?他人に押し付けて自分は楽な道進む気か?」

「…まぁ、そう言われればそうですけど」

佐久間は私にこう言い放った

「正当性は此方にあります、坂崎大尉。最初から事を構える姿勢で臨むべきじゃないかと」

情報収集はこれで十分だ

証言や音声証拠があれば神宮司を追い詰めることは出来るが、正直そんな事したら神宮司と二度と会えないような気がする

だがな、そんな事言ってられない―――――腹を括れ私

「ありがとう。恩に着るよ。行くぞ久我」

「はい!」

そして私と久我は第三会議室に戻りチームのメンバーと証拠集めの収穫を得て今後の事を考えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、第三会議室で今回の調査報告が終わり個室に戻ろうとしたが

「坂崎の姐さん!大変だ!」

「どうしたんだ!?久我」

「三浦の機体から何かが仕組まれたんです」

それを聞いた私は冷静になり考え込む

「久我、調査報告書は持ってるか?」

「あ、はい。此方でございます」

久我は今回の調査報告書を私に渡す

「急だな…すぐ結果が分かったのか?」

報告書の内容はこうだ

その内容は結果的に神宮司を撃墜した藤澤と三浦の戦術――その根幹となるC難度の大技を成功させるために必要な措置だ

主機出力のリミッターと搭乗員保護機能を解除し、それを隠蔽するために戦域ネットワークにウイルスプログラムを仕込み、情報を流出

そして神宮司が事前に不正を把握できなかった事も、三浦の機体が指揮官機の制御を受けずに動けたのはそれが理由だと言う

本来、それは一介の候補生が知り得ない機密情報だ。

だが、訓練衛士の狩野がそのネットワークを活かし、リアルタイムでそれらを入手できた

判明した事実から芋づる式に特定された関係者の証言により藤澤が整備兵を抱き込み、三浦と共に実行したという事実も明るみに出た

そうか…この事故は神宮司だけの責任だけじゃないと言う事だな

私が馬鹿だったよ。何故神宮司を悪者扱いしようとしたんだと。

だが、訓練校の上層部に属する者であれば、調査結果を待つまでもなく推定出来ていた筈

データリンクが妨害されようとも司令部に記録された外部観測モニターのログを見れば、その機動の異常性などすぐに判別できる

となると原因は藤澤と三浦の不正工作か――――因果応報だな

あの事故の真相は、本来なら衛士界隈を揺るがす大事件に発展する内容だ。

だが、この一件は誰一人罰することなく問題になる事もなかった

「よし、10日後で結論を出そう。久我」

「了解です」

そして調査報告書を見た私はそのまま個室に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10日後、我々事故調査委員会が結論を発表した

三浦の死は最終的に、訓練中に発生した不慮の事故として処理された

事件以降、目に見えて憔悴していた竹宮は三浦達が不正に手を染めた理由を探っていた

私達の協力を取り付け、不正に関わった整備兵に辿り着いた

竹宮は整備兵の一人を絞り上げ、事の真相を――――――三浦と藤澤が何を言っていたかを聞き出した

己の信念―――。神宮司への反発―――。贖罪の念――――。

何が彼女を突き動かしていたのか――そして、彼女がそれを知るべきだったのか。

私には分からない

だが、何かが引っかかる

そう2人が不正を行った理由は伊隅と竹宮の為だと言う

しかし左遷された私には最後まで今回の事故についての真相は闇の中へと思い込んだ

そして5日後、竹宮は訓練校を去った

精神的に疲労困憊だったのだろう………もう二度と神宮司とは関わりたくはないからだ。それ以降の消息は不明。別の道を歩んで幸せになって欲しい

藤澤は一命を取り留め、半年後に退院。だが衛士訓練資格は剥奪されており自主退学となった

つまり衛士界隈から追放された。自業自得だが単に不正を染めてた訳ではなかったがやった事は衛士として失格だ。

彼女のその後のことについては誰も知らない

佐久間と狩野の2人は自主退学したそうだ。

彼等も神宮司と関わりたくないだろう。あの2人は悪い奴ではなかったが別の道で無事幸せになって頂きたいものだ

そして伊隅は……無事正規兵となり衛士となった。

こうして今回の件は終わったが、何かやり切れてない気持ちがある

「(竹宮……お前は衛士に向いていなかったかもしれない。仮に向いていて衛士として活躍したら初陣で死んでただろうな)」

神宮司は何も処罰されなかったそうだ。

彼奴とは同期だ。不正に気付かなかったのは彼女の盲点だ

風の噂だとその後、国連軍に入って訓練校の教官として勤務しているとか

……神宮司が何しようがしまいが個人の勝手だ。私がどうのこうの言う筋合いは全くない

そして坂崎調査隊は解散。皆それぞれの道へと行った。

伊隅は衛士としての能力を開花するだろう―――。

世の中は魑魅魍魎でありいつ死ぬか分からない

最後に見た竹宮の姿はその悲しげな表情しつつ涙を流していた

彼女は二度と戦術機には乗らない。二度と衛士界隈に入りたくない――――多分決意を揺らぐ事はないだろう

衛士界隈はハッキリ言って厳しい世界であり闇の奥の奥の底から黒い噂が流れている世界だ

あの竹宮の涙を流してる姿が今でも脳裏に焼き付くほど思い浮かぶ

あの事故がなかったら今頃三浦と藤澤、そして竹宮は正規衛士になって私達と共に戦っていたかもしれない




今回の話ですが、前半は紅林や久我が模擬戦やシミュレーターに乗ってBETA戦闘訓練ですが、後半は『マブラヴオルタネイティヴクロニクルズ ~告白~』を参考にして書きました。
あの事故がなかったら竹宮達は衛士になってたかもしれませんね。評価は一変している訳ですし(-_-;)
かなり上のお偉いさんに直のコネと狩野が言ってましたが、あれはどう考えても香月女史の事ですよね。まりもちゃんとは親友関係ですから筋は通ってるかと
当然ながら坂崎中隊長はそんな事は露知らずです。神宮司の人間関係まで知っては無かったんでしょう
今回はここで筆を置かせて頂きます
次回は坂崎中隊長の休暇と海外派遣での任務です!お楽しみに


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グロリアスマインド

坂崎中隊長の休暇と海外派遣での任務です
当然ながら坂崎中隊長視点です


私の名前は坂崎都

「今月もキツイな…生活出来るか心配だ」

見ての通り寒風が吹く自分の懐に震える日本帝国軍に属する女性衛士だ。

私が中学の頃、筋金入りの正義感溢れるただの学生だ

拳だけは人一倍固くてな

「なんだ。一発で終わりか?」

「う……うわあ!?顔が凹んでる!」

「だから言っただろ!狂犬坂崎はダメだって!」

それで付いた仇名が……『青鬼』と『狂犬坂崎』、『狂犬』

そんな正義感を持つ私だが、曲がった事が嫌いだ

正規兵に任命されても変わらなかった

「そしたらその女がよぉ。突然脱いだんだよ」

「サイコ―じゃん」

「…フゥ」

電車の中で優先座席を座ってる学生…見たところまだ15か

お婆さんが困ってる姿を見て放って置けない私は優先座席に座ってるアホ学生に近付く

「おい、カス野郎。死にたくなかったらお婆さんに席譲れ」

「ああああん!?何だおばさん」

「もう死ぬババアより若い人間の方が大事なんだよ!消えろボケ!」

「何このおばさん、やっちゃおーよ?」

でも残念なくらいに世の中は曲がった奴だらけだ

私はアホ学生の一人に拳を直線的に突っ込んだ

「ゴラァ!」

ドガァ

「グエエエエエ!」

「か、顔が凹んでる!」

「年寄りには席を譲れ。あとおばさんじゃない…訂正しろ」

「はい!わかりましたぁ!」

弱き者を助けるのが強く生まれた者の責務…私のお婆さんが言ってたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、ある出来事で帝国陸軍白陵基地に左遷され現実を知った

私みたいな衛士にとって、世の中は厳しい

今日は休暇だ

と言っても一日だけだが…

「拙いな……仕事がない。完全に干されてる」

と不満そうな顔で呟くが腹が減った

「はあ……今、金がないのにお前は元気だなぁ」

悲しいかな……この体は燃費が悪い

幾ら女とは言え、腹が減っては戦が出来ぬ

まさに死活問題だ。

「また、おばさんに頼んでみるか」

そう言って見覚えがある定食屋を偶然見かけた

京塚食堂って名前で、名前の通り京塚のおばさんが切り盛りしてる店だ

私は食堂に入る

「ゴメンよ、やってるかい?」

「いらっしゃい!」

毎度毎度、本気で申し訳ないが背に腹は代えられない

この定食屋は私が中学の頃から世話になっている店でもある。

「なんだ、都ちゃんじゃないか!ほら遠慮せずに入んな!」

「へへ…ありがとう」

京塚のおばさんは相変わらずで元気で一杯だ。

「どうせ金がないんだろ?出世払いでいいよ!いつもの定食でいいかい?」

「おばさん…ホントありがと」

見た目は少々古いが、安くて美味いと近所でも評判の隠れた名店だったりする

そんなおばさんの店の最大の特徴は

「ふふ…来た来た」

「へい!お待ち!!」

誰でも満腹にしてしまうこの超特大ボリュームだ

私が頼んだのはカツ丼定食だ。

ガツガツとカツ丼を食べる私は満面の笑みを浮かべる

「かぁ!美味いな!生き返る!」

普通の人だったら、これ一食食えば一日は大丈夫ってくらいに腹持ちが良い

おばさんが採算度外視でこんな特盛料理を出すのは

「ありがとうおばちゃん!腹いっぱいだ」

「ああ、また来なさいな!」

お客さんに飯を腹いっぱい食って貰いたいからだ。

おばさんの子供の頃は戦後間もなくて食べる物もロクになかったらしい

配給制とは言え、国民全員に配られないほど深刻な状況だったんだろう

そして食料の奪い合いが頻繁に起き、毎日が腹減って極限状態で何とか餓死せずに済んだ。

「腹がいっぱいになるって事は幸せになる事なんだよ。今の日本人はそれを忘れてしまったね」

「おばさん、苦労したんだな」

子供の頃からこんな事を聞かされ続けたから、飯だけは残そうなんて気は無くなるさ

そんな思い出に浸りながらカツ丼を半分以上制覇した時だ。

「ここがそうなのか」

「そうそう、バカみたいに量があんだよ!」

チャラそうな男2人が店に入って来た

BDU(戦闘服)を着てる帝国軍の衛士…ウイングマークが付いてるから間違いないだろう

定食屋には何とも似合わない客なので思わず目で追いかけたが

「他人の事なんて気にしてる場合じゃないな。さっさと食おう」

そうして飯が一段落して食後のお茶を楽しんでいると…

「おいおい、本気か?」

おばさんが運んでいる料理を見て私は我が目を疑った。

あれはボリューム自慢なこの食堂の中でも一番の量を誇るスペシャルセットだ。

「飯大盛りに豚と鶏のカツ3枚、あとはスパゲッティ1人前だったな」

しかもそれを頼んだのはさっきのチャラい衛士だ。

「ほぇー」

「すっげー」

「おいおい食えるのか」

二人で一つを分けるならまだしも2人前だぞ

彼奴等、大食い選手か何かか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういや、このメニューが開発した時おばさんがこう言ってた

「これはね赤字メニューなんだよ」

「凄い量だ、これ…でも何で赤字なのに作るんですか?」

「そりゃあ決まってるじゃないか。若いもんが腹いっぱい食う所みたいんだ」

その時、おばさんは腹一杯食えば残していい………と言ったのだが

「腹が破裂しそうだ……もうお腹いっぱいだ」

「ははは!大きくなりなさい!」

無論、私は残さず食った……あんな話を聞かされてはな

どう食うのか気になっていたのだが…

「な?すげえだろ」

「おお、これ絶対みんなに自慢できるな!web日記で書くぞぉ」

彼奴等はインスタントカメラで飯の写真を撮り始めた

web日記と言っていたな…今食べてるスペシャルセットの事を書くのか?

「都ちゃん、あの人達何やってるんだい?」

「写真撮って何やらweb日記で食べた物を自慢したいそうですね」

おばさんは物珍しそうに見ていたが、私は嫌な予感が拭えなかった。

ああいう輩が名物料理を頼むのはあくまでweb日記を書いて自慢する事が目的だ。

「ヒャハッハ」

「いいねーいいねー」

「(頼むからちゃんと食ってくれよ……おばさんの思いを台無しにしないでくれ)」

しかし、現実は非情だ。私の願いは叶う事は無かった

「よし、写真撮ったから行くか!」

「おう!次だな!」

なんと奴等は写真撮っただけで一口も食わず大半が残して席を立った。

そして会計に入る

「おい、お会計!」

「つーか、一口も食ってないから半額にしてよ」

しかも唖然としてるおばさんにこんなふざけた事まで言い出す始末だ

これは客とおばさんの問題だ。口出しすべきじゃないと理解している

だが……これには流石に我慢できなかった

「なあ、お前等。一口くらい食え」

「はぁ?」

「何だお前?」

始めて来た此奴等におばさんの思いを理解しろというのはお門違いだ

分かってる…分かってる。けど

頼んだ料理を一口も食わないのは人としてどうしても納得いかなかった

「何?俺等に文句あんの?お前」

「そうじゃないが、せっかく作ってくれたんだ。少し味わうくらいには……」

「俺等が頼んだもんどうしようが俺等の勝手だろ?」

私は食って欲しかった。

それを止めたのはおばさんだ

「都ちゃん、もういいよ。失礼しました、1800円になります」

「おばさん……」

そうやって頭を下げるおばさんに私は情けない気持ちでいっぱいだった。

しかし調子に乗った奴等はさらにとんでもない事を言い出した。

「何言ってんだおばさん。アンタの知り合いが迷惑かけたんだぜ」

「ここはタダにするくらいの誠意を見せて貰わないとな」

此奴等……完全にこっちを舐めてる!

けど、おばさんの態度は変わらなかった

「わ、わかりました。お代は結構です」

「最初からそう言え」

事を荒立てないように不満や怒りを押し殺す

それは私にない強さだった

それならせめて奴等が残していった料理は私が食おう―――そう思っていた時だった

「へっ!」

ガシャァ

「こんなモンが何だってんだよ!!」

なんと奴等は料理が乗ったテーブルを蹴り倒していった

怒りを通り越して脳が沸騰するような感覚。

「ぐうううううううう………!」

あまりの腹立たしさに吐き気すら感じた

でも暴れて穏便にしようとしたおばさんの思いは裏切れない

その後、私が店を出ると…突然声をかけられた

「おい、ちょっと待て。テメエ―――お前ムカついたしヤッちゃう事にしたんだー」

「まぁ、運が悪かったと思って諦めな」

「ああ…」

それはさっきの2人組だった

「嬉しいよ…自分から戻ってきてくれるなんて」

「なんかカッコいい台詞」

「ビデオカメラ回しときゃよかった!」

喧嘩売ってきたのは貴様等だぞ

こんな腐った奴等はweb日記で書くなんて害悪に過ぎない

此奴等には相応な制裁が必要だな……………。

「食べ物を大事に出来ない貴様等に……前歯、全部不要だな」

貴様等の行為は他の者は許しても私は絶対に許さない!!

「おい!雑魚!良い泣き顔にしてくれよ!」

「俺達喧嘩強いから逆らわない方が痛くねーぞ!」

此奴等は私が衛士だってことを知りつつこんな事言ってるのか?

泣き顔になるのは貴様等2人だ!!!

「でやぁッ!」

ガンッ

「え?」

隙だらけだったからまずは一発くれてやった

「金を払ったら何をしてもいいわけないだろ……!このカスが!」

「グエエエ…歯が」

「うわああ!顔が凹んでる!」

今の一発で殆どの歯が折れただろう

「定食屋は飯を食う所だ。その気がないなら来るな」

「すいません…許して…」

「ダメだ、男なら掛かって来い」

拳を強く握り…

「食べ物を粗末にするな!大馬鹿者が!!」

ボガァ

「ブエエエ」

続いて私はアホ衛士その2の歯もへし折った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうしてチャラ男共を鉄拳制裁した後、おばさんに連れられて自首した

「と言う訳なんです。本当馬鹿でして…」

「すみません……」

「分かりました。坂崎、お前今日は一日泊っていけ」

やり過ぎだな……留置所行きだ。

すぐにカッとなるのは要反省だが、今回の事に後悔はない

「おばさん、辞めないで欲しいな」

あの店の料理はみんなの活力なんだ。このくらいでなくなるなんて悲しいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、留置所から出た私は何事もなく白陵基地に戻ったが正門前に鈴乃が仁王立ちして鬼みたいな形相で怒った

「みんな都の事を心配してたのよ!一体何やらかしたの!?」とな

私が基地に戻っていないと心配した鈴乃は一晩中泣いてたそうだ。

声を押し殺して……すまない鈴乃、心配かけてしまって。

干されてるとは言え、鈴乃達に迷惑かけてしまったことは事実だ。

私が資料室で過去のBETAとの戦闘での記録を確認していた時、鈴乃が声をかけた

「都、少しいいかしら?」

「あ、あぁ鈴乃。すまないな迷惑かけて」

「全く…私は心配してたのよ。それより鍛錬付き合ってくれないかしら」

鈴乃からの頼みだ。断る訳がない

鍛錬か…そう言えば戦術機の模擬戦やシミュレーター訓練ばっかりで体が鈍ってきてる

白兵戦や格闘戦での訓練は久々だ

「分かったよ鈴乃」

そう答えると鈴乃は優しい笑みを浮かんだ

「ふふ、訓練学校以来ね」

笑みを浮かべたまま鈴乃は私を抱き締めた

「お、おい鈴乃?!」

私は戸惑いを見せたが鈴乃は妖艶な笑みで私の顔に近付き唇を重ねる寸前で色っぽい声で呟く

「都…私、貴女の事が好きなのよ。ダメかしら?」

「………」

「都の傍にずっといたい……おかしいよね。私達親友なのに女同士でキスだなんて」

鈴乃………。

私は鈴乃を抱き締め返し、顔を近付き目と目で見つめ合う

「鈴乃……私も鈴乃の事が好きだ」

と告白を添えた私だが、鈴乃は笑みを浮かべたままだ

「本当に?」

「本当さ」

互いの唇を重ねようとした次の瞬間、久我が資料室に入り私と鈴乃が抱き締め合ってる所を見られてしまった

「おいおい、お二人さん。そんな趣味あったのかよ」

久我は嘲笑いつつ揶揄う

私は開き直る

「ただの親友同士で抱き合うのが悪いと言いたいのか?」

鈴乃は頬を赤らめ照れる

私と鈴乃は親友同士…そう親友同士なんだ

だが、親友としての一線を越えてしまった

情けないな、私……。

でも好きであることは変わりないんだ。

「あー、お楽しみ中の所悪いが単刀直入で言うぜ」

私は久我の顔を見つつ鋭い目線しながら威圧をした

そして鈴乃も軽蔑した目で久我に向けた

「何だ?くだらない頼みなら断るぞ」

「グウウ…(クソ、なんちゅう威圧だ……だがここで怯んでは志願した意味がねぇ!)」

日本は徴兵制度がある

華太や久我みたいなヤクザが積極的に志願する衛士は珍しくもない

上は使えるだけ扱き使うからな……反社だから衛士になれないというのはそもそも古い考えだ。

あとは衛士の心得を勉強し常識を身に付けるだけ。

久我は私の威圧を怯まずハキハキとした声で言い放った

「リターンマッチで坂崎の姐さんと俺の勝負だ!」

ほぅ、私と再戦か。

1対1の鍛錬なら問題ないが

「………」

鈴乃の鍛錬と付き合わなければならない

参ったな…ならば

「久我、私から条件がある」

「何でも聞きますぜ」

「2対2で勝負だ。そうだな……」

何処でやるか………?

私は考え込む

「……折角基地にいるんだ。射撃場でやらないか?」

私はそう言い放ちつつ笑みを浮かべる

そして久我はニヤリと笑みを浮かべ言い返す

「クク、射撃勝負ですかい?いいぜ。受けてやる!」

決まりだな

「では私と鈴乃のペアで行こう。お前は誰とペア組むんだ?」

「何言ってんすか坂崎の姐さん、俺は大倉大尉とペアを組む」

「え?!」

ほぅ、そう来たか

鈴乃も私と鍛錬したかったし一石二鳥だ

「久我……」

鈴乃は不満そうな表情を浮かべるが私は誇らしげな笑みを浮かべた

久我は私に言い放つ

「坂崎の姐さんは誰とペア組みます?」

誰と組もうか………?

私がそう悩んでいると…

「ん?」

「あ…」

先端のみが黄緑色となった青緑の髪の毛を持ち、帝国軍のBDU(戦闘服)を着用している前髪のみを赤いピンで留めてバックにしたおかっぱの髪型の男性が現れた

「里中か。丁度いい所に来たな」

「な?!里中だと!?」

おや?久我の知り合いか。

「ん?知り合いなのか」

「え?いや俺の1年先輩っス」

何という境遇なんだ

これは逃げられないな……。

里中は嘲笑いつつ久我に言い向ける

「久我、調子に乗ってんじゃねえぞ!テメエより俺の方が上だって事を証明してやる!」

ほぅ、上に上り詰めたいのか。

ならお手並み拝見させて貰うよ

「徴兵されたのか…?里中」

「ああ、そうだ。今の世の中は反社の人間を徴兵し戦力を増強してるからな」

「そうなのかよ……」

これは面白くなりそうだな

「都、この人って」

「言うな鈴乃、軍の上層部は戦力増強する為に手段を選ばないからな。何としてもこの戦いを終わらせたいのだろう」

衛士界隈は人不足だ。どの国の軍隊でも戦力を欲したいのだろう。

それが反社の人間だろうがなかろうが無関係だ。

と言う訳で話が纏まったところで私達は射撃場へ移動した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

射撃場に入った私達は2人ペアを組み、所定の位置に着く

久我は嘲り笑いで私にこう言い向ける

「坂崎の姐さん、俺が勝ったらデートに付き合って貰うぜ」

「勝てたらの話だがな。生憎私は好きな人いるんだ」

里中は久我に嫉妬し見栄を張る

「お前な…どさくさに紛れてデートのお誘いするな!」

「笑わせるな雑魚が。テメェなんか欠伸より遅いスピードだろうが」

「へッ、俺はな坂崎大尉に気に入られたい為に今まで以上鍛錬してたんだよ!」

「へぇー、そうなんだ……だってよ坂崎の姐さん」

私に振るな!

だがこう言われては引き下がるわけにはいかない

私はニヤリと笑みを浮かびこう言った

「では3回、的の真ん中に当てれば私とのデートする権利を与えよう」

久我は調子に乗り凄みある笑みを浮かぶ

「よっしゃ!そう来なくては盛り上がれませんぜ」

「先攻後攻決めるのはじゃんけんで決めよう」

久我と里中の2人でじゃんけんで先攻後攻決める

互いに「最初はグー!じゃんけんぽん!」と言葉を添える

そしてあいこになったら再度じゃんけんする

5回目のじゃんけんで久我はチョキを出し里中はグーを出して勝った

先攻は私と里中だな

「よし!勝ったぞ!」

「グウウ、チキショ―!」

使用する拳銃は無論エアーガンではなく本物の拳銃だ

私は拳銃を構え的を目掛ける

集中だ……集中!

弾丸を放ち、的に命中。

「腕は鈍ってないようだ」

「次は私ね」

鈴乃も拳銃を構え的に目掛けて弾丸を放つ

ヘッドショットだ

「ふふ、こんなもんね」

「おぉ…大倉大尉すげぇ…!」

里中が拳銃を構え的を狙う

「ナイフばかり投げてる訳じゃあないんだぜ久我」

「くっ…(彼奴、口だけ一人前だな)」

そして弾丸を放ちヘッドショット

ふむ…里中はナイフばかり投げてはいない事は理解した

「やるな…俺の番か」

久我も的に目掛けて弾丸を放つが……外れてしまった

「ッ!!?(端寄り過ぎてしまった!)」

「何処を狙っているんだ久我」

「ぐ…すみません」

で、私の番に来た。

その繰り返しだ

30分の攻防戦で射撃訓練は繰り広げたが50回目で勝機が決まる

「久我、射撃センスはいいと見た」

「へへ、どうも(さっきから余裕の表情してる…あの坂崎都大尉だ。自信はあるだろう…だがな…俺は負ける訳にはいかねぇんだ!)」

その時、久我の目は闘志を燃やす

「ふぅん…」

私は久我の目を見て闘志を燃えて来た

本来なら久我と里中の一騎打ちだが…

「里中、代われ」

「あ、はい…」

里中は大人しく私と交代

「お、坂崎の姐さんと一騎打ちか…」

「ふふ、久我…お前を勝たせる訳にはいかない。本気でやらせて貰う」

私は凄みある笑みを浮かべ、久我に言い放った

「俺が勝ったらデート付き合って貰いますよ」

久我は本当に私を敗北させデートするつもりだな?

鈴乃は私に応援の声を掛ける

「頑張れー!都ー!」

里中も便乗する

「坂崎大尉、負けないでください!」

「あ、テメエ!裏切る気か?」

「裏切ってねえよ。ただ久我が坂崎大尉に負ける姿を見たくて見たくてたまらねえんだ。ハハハ!」

「ぐ……!(里中、徴兵期間終わったら覚えとけよ…!)」

本気の一騎打ちだ

さあ、決着を付けようか

「勝っても負けても恨みっこなしだ」

「その言葉そのままそっくり返させて貰いますよ坂崎の姐さん!」

互いに引き金を引き的に目掛けて弾丸を放った

そして結果は……

「………」

「……」

引き分けとなった

里中は目を擦りこれは現実なのか?と悟る

「おい、嘘だろ……久我が」

「都が、引き分け…」

勝負は決まり、引き分けとなった

これで射撃訓練は終え、4人共お腹が空きPXに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私達はPXで昼食を取りつつ雑談していた

余談だが、4人共全員カツカレー定食だ

久我が妙な事を言い出した

「坂崎の姐さん」

「何だ?」

「……風の噂によると上層部は反社に属してる衛士を一掃する作戦を企てているらしい」

こんな時に衛士を斬り捨てるのか?

無謀だ…こんなの

戦力が削られるだけだ。しかし

「……くだらないな。この状況下で衛士を斬り捨てる訳ないだろ」

私は信じない

里中は会話に割って入る

「なあ久我、それが事実だとしたら俺達の立場ヤバくねえか?そもそも誰が企てているんだよ」

「橘っていう将校だ。彼奴は俺達極道の事軽蔑してるからな。根っからの反社嫌いだ」

私と鈴乃は「?」という顔つきを浮かべる

「馬鹿者、橘っていう将校が反社の事を快く思わないのは理解できないとは言えないが、軍内で問題を起こすヤクザ衛士がいるから彼は上層部と直談判して踏み切ったんだろう」

華太も極道だったな…彼奴の立場が危うくなると言う事か

そんな事は束の間、私はカレーを口に放り込んだその時PX内で食事してる他の衛士の会話が聞こえて来た

「おい聞いたか?俺達朝鮮半島に派遣されるらしいぜ」

「朝鮮?そこって」

「ああ、俺達は南側の韓国に派遣されると思う」

朝鮮半島か……確かにあそこはBETA侵攻阻止する最前線だ

「北側の朝鮮自治区ってあまり良い噂聞かねえし、足引っ張ったり何も成果得てなかったらその場で処刑されるらしい」

「うわぁ…酷いなそれ。北側に派遣する衛士達が気の毒だな」

「良かったな。韓国に派遣されてさ。あそこは恵まれた環境で食事摂れるから安心だ」

…………。

私はそれが本気なのかどうなのか、衛士2人の顔を見返すほど妙な気持ちになった

「……鈴乃、私達朝鮮半島に派遣されたら何処だと思う?」

「何処って……?」

「北側だろうな。確かあそこに派遣された衛士達は冷遇されてる人達ばかりだ」

「え…?都、何言って」

少しブルーな気持ちだ

まだ確定したわけではないが、私達は北側……朝鮮自治区に派遣される

「坂崎の姐さん、言ってなくて申し訳ないです」

ん?久我…何を言おうとしてるんだ?

「?」

「昨日、上層部から呼び出されて俺と里中は南側の韓国に派遣される事になったんスよ」

嘘だろ…とは言えない。

久我の目を見ると濁っていない

どうやら本当のようだ………。

「そうか。暫くは会えないな」

「姐さんと鍛錬に付き合えないのは心苦しいです」

食事を終え、鈴乃と共に私の個室に行こうとしたが、一人の将校が現れる

「坂崎都大尉、大倉鈴乃中尉。基地司令室に来るように」

不安が襲い掛かり、頭を悩ませたまま私と鈴乃は基地司令室に連れていかれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基地司令室に連行された私と鈴乃は目の前に椅子に座ってる冷徹な目線をしてる基地司令官が命令を出した

「坂崎都大尉、大倉鈴乃中尉2名は明日から朝鮮半島の派遣任務を遂行して貰う」

互いに腹に力を入れ、平静を装う

「場所は……朝鮮自治区主都平壌だ!」

やはりか……私達をぼろ雑巾として扱いそこで死ねと言うのか

いや、ダメだ。逆らってはいけない

私達に与えられた任務だ

「2人共異論はないな?」

「ありません」

「以上だ。今日荷物を纏めて出動できるように準備だ」

…………。

「下がれ。行っていいぞ」

「は!失礼しました!」

私と鈴乃は基地司令に向け敬礼し、真剣な表情を浮かべつつ基地司令室から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫くは慌しく平壌行きの準備の日々が続いた。

そして今日。出発の日を迎えることができた。

北朝鮮での派遣は急遽決められたものだったのだが、向こうは私達がこの過酷な環境を耐えられるか試してるのだろう

そして現在 帝国軍入間基地滑走路

出発準備をした私と鈴乃は待機所にて、軍用輸送機に物々しく撃震2機が搭載されるのをなんとなく見ていた。

機体全体を防護シートにくるまれ、厳重な警戒のなか輸送機に運ばれている。

「平壌か……分かってると思うが私達は観光に行く訳ではないからな」

「ええ、分かってるわ…都」

鈴乃は突如、私の背後から抱き締める

「私は貴女について行くわ」

私は気持ちを隠さず嬉しそうな顔をする

「鈴乃…お前さえいてくれば私は嬉しいよ」

搭乗時間になる少し前になった

そこに久我と里中が見送りに来るのが見えた

2人が私達の前に送ると敬礼で挨拶をする。

「お見送りに参りました。坂崎大尉」

「うむ、見送りご苦労だった。そっちは準備できたのか?」

「ええ、俺達韓国行くの初めてっスよ!」

「……」

観光に行くんじゃないぞ…里中

全く自分の立場は理解しているものの肝心な事を忘れてしまったのか。

「存じてると思いますが朝鮮自治区はベアトリクス・ブレーメっていう女が支配してる区域っス」

「ベアトリクス・ブレーメ……」

東欧州社会主義同盟の総帥……東ドイツでのウルスラ革命で勝利を掴んだ後、ベアトリクスは早速行動に移し朝鮮半島北部は支配下に置いたとか。

何にせよ社会主義の影響下にある所だ。油断は出来ない

「忠告感謝するよ久我」

「坂崎の姐さん、必ず生き残ってください」

「馬鹿者、私はそう易々と死なないよ」

私と鈴乃は輸送機に搭乗し、2人に見送られて出発した。

高度が上がり、離れていく滑走路を見ながら思う。

まさかこういう形で日本を出るとは思わなかったな。

鈴乃も何やら思うことがあるのか、窓の外を名残惜しそうに見ている。

ふと私の方に向き、陰りのある顔で言った。

「朝鮮自治区……ここが私達の派遣先ね」

「そうだな…」

私は鈴乃の隣に寄り添い手を握った

「都?」

「暫くこうさせてくれ。少し落ち着きたいんだ」

私達は航空戦術機輸送機で朝鮮半島北部の朝鮮自治区にある平壌基地へと向かっている。

数時間の空路での狭い客室の中。私と鈴乃とただ、親友として愛し合ってる仲である

海外派遣での任務はこれが初めてだ

「…私は貴女の事大好きよ。都」

鈴乃は優しい笑みを浮かびつつ言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

輸送機は無事平壌空港の滑走路に着き、私達はその地に降り立った。

平壌空港は平壌基地の敷地内にある空港だ。

軍用滑走路と民間滑走路の2つに分類されている

私達が見た光景はそれはまさに

「嘘だろ…ここが本当に韓国の一部だって言うのか?」

社会主義建築を象徴する建物や銅像、朝鮮軍の兵士達や将校の胸に付けてるのはベアトリクスの肖像画があるバッジを付けていた

「一体何がどうなっている?」

季節は冬…防寒具着てる人達が多い

鈴乃もこれには驚いた

「…日本人、見かけないわね」

「そうだな…」

空港内は民間人の姿は少なく大半が軍人だ

いたとしても軍の関係者だろう

基地の敷地内である空港の中に迷った私達は呆然としていた

しかしそんな中、黒髪に金髪メッシュの髪型にチェーン付の丸メガネが特徴の青年とトップの部分を水色に染めた(後頭部は黒髪)長髪をハーフアップにあしらった髪型で、水色の瞳の色を持つ端正な顔立ちの青年の2人が空港内で楽しく話していた

この2人は関西弁喋ってる……日本人だ。

帝国軍の制服に衛士の証であるウイングマークが胸についてる

私は2人に近付こうとしたがその前に男一人が私に近付いてきてとびっきりの笑顔を私に向けた

「アンタは坂崎都大尉やな?」

「そうだが…(何故私の名前を知っている?)」

この男は普通の衛士ではないと理解した

相当数の人間を葬っている

「おおっ、やっと『狂犬坂崎』と出会えたわ。俺は幸せな気分や」

「それは城戸の兄貴だけやと」

「つれないなぁ~」

敵意は無い……一応味方側、だよな

「あ、申し遅れましたわ。俺は天王…いや日本帝国軍八尾駐屯地第326戦術機中隊の城戸丈一郎や。階級は坂崎はんと同じやで。でこっちは浅倉潤……」

「どうも…」

ふむ…大阪か

関西弁話すの納得できる

城戸と言う男は恐らくヤクザだろう

その嬉々した表情を見れば…

「白陵基地から派遣した坂崎都大尉だ。嬉しいよ―――同じ日本人と出会えて」

「ホンマでっか?!」

城戸は笑みを崩さず鈴乃の方に目線を向ける

「そちらの別嬪さんは?」

「大倉鈴乃中尉だ」

鈴乃は城戸に向け敬礼をする

「おぉっ、大倉はんやな?覚えとくで。俺はなんて幸せなんや」

幸せ………か。

衛士になってから私は幸せを掴めたのだろうか?

いや、異星起源種と戦う日々送ってるから普通の女とは程遠い

しかし掴められないとは言えない――――鈴乃も恐らく普通に彼氏作って家族を作りたかっただろうな

まだ22歳だ。この先チャンスは幾らでもある

「ここから伝説つくるでえ。俺は幸せな人間やなぁ」

「はぁ…」

そういう訳で私と鈴乃は城戸と浅倉について行く形で平壌基地に向かった。

基地の中に入ると、そこにはベアトリクスの肖像画やその部下と共に写ってる写真が何百枚も壁に貼っていた

「ぐ…!(ベアトリクスの写真が沢山ある…)」

正直頭がおかしくなりそうだ

「都、ここって…」

「ああ…(完全に赤く染まっている…何なんだここは?!)」

頭を抱えていたら、私達の前に朝鮮軍の将校が現れた

「日本の衛士だな?案内してやる。付いて来い」

言われるがまま私達は将校について行く

将校に案内されたのは会議室

「この中にお前等の他に日本人はいる」

不貞腐れた顔でそう言い残し、去っていった

「何やら不穏な空気流れてますなぁ」

「何やあの態度……それに壁がベアトリクス一色やわ」

確かにそう思う。

だがこんなところで止まってる訳にはいかない

私は扉を叩いて「失礼します」と一言を添えてから会議室の中に入った

その中にいたのは日本人ばかりだ

そして――――――一人の男と再会する事になる

「ん?お前は…」

「華太?華太なのか?」

そう、松本駐屯地にいる筈の小峠華太と北岡隆太、その他諸々の衛士だ。

「都か?何でここにいるんだ!?」

「上層部から命令下されただけだ」

「下されたってお前……」

どうやら呆れているようだ

状況が全く掴めていないだろう

「坂崎はん、知り合いでっか?」

「ああ、私の……」

私の恋人―――――んん…言いづらい。

別の言葉で言うか。

「私の旦那となる男だ」

「は!!?(都、お前……う、嬉しいけどよ。ここで言うなよ)」

私がこう言うと、城戸は優しい笑みを浮かべる

「坂崎はんの旦那さん候補ですか…よう似合ってますわぁ」

「城戸の兄貴、あの男はもしや…(田頭組の小峠華太に北岡隆太。ここで会うとは思わんかった)」

浅倉は小峠の方に目線に行く

「知っとるで。田頭組の小峠華太やろ?」

「城戸の兄貴は知ってたんですか」

「当たり前のクラッカーやで!」

………ギャグが古過ぎて寒くなって来たぞ

華太は作り笑顔で城戸に接触する

「アンタは天王寺組の城戸か?」

「小峠はん、ここでは組の揉め事は御法度や。それに俺達は今お国のために戦う衛士や―――気楽にいこうや」

城戸は華太に明るく接した

………そうか。そう言う事だったのか

上層部にいる連中は私と鈴乃を冷遇しここに送り込んだ

この場にいる衛士達はアウトロー…所謂荒くれ者だ。

まさか私と鈴乃は荒くれ者扱いされてるのか?

………否定は出来ない―――――華太も同じ類だし、渡世に生きてる

「ああ、ここでは組同士の争いはなしだ。分かっているさ」

「ほな、仲良くいこか」

嬉しい表情を浮かべる城戸は華太と楽しく話している

その時、会議室に将校2人が入って来た

帝国軍の制服を身に纏ってるが、この風貌は普通ではない

この2人もヤクザか。

一人目は厳つい印象を与える強面な男で、頭髪をオールバックか…ここではめったに見られないヘアースタイルだ。

「おお、坂崎はん。あの厳つい男が伝説の男と呼ばれる工藤っちゅうヤクザや。田頭組の構成員やけど彼も徴兵されたらしいな」

「伝説の男…?」

裏社会での界隈で有名な男なのか。

城戸は凛々しく言葉を言い放つ

「帝国軍では中佐待遇……第1006戦術機連隊の長を務めてる。ここでもご立派に出世しよったで」

工藤と言う男の姿を見ると年齢は50代

城戸の奴は彼の事を知ってるみたいだ

「俺達がいる界隈の間ではドスの工藤と呼ばれとる。ごっつい男やから口には気を付けた方がええで」

「忠告感謝するよ」

…で二人目は非常に素行が悪い将校だな

警戒しておこう。

「此奴は京極組の泉屋やな。文字通り素行が悪いヤクザや」

城戸はベラベラと喋ってるがもうすぐブリーフィングの時間だ。

口を閉じた方が良い

幾ら同じ階級でも節度ってものがある

私はブリーフィングの内容を聞き集中した

工藤中佐がドスを聞いた声で言い放つ

「俺は第1006戦術機連隊を任された工藤清志中佐だ!お前等よぉく聞けッ!」

工藤の言葉により私含め他の衛士達は直立不動

皆真剣なんだ。

「いいか?我々は日本帝国軍の衛士としてここ朝鮮自治区に派遣された。それだけは覚えとけ。ここにいる以上は現地の軍人の言う事を聞かなきゃあならねえ。でねえと異星起源種と戦う前に殺されちまうからな」

つまりこの自治区を守ってる衛士や将校の言う事を絶対に聞けと言う訳か

戦う前に殺されるって…まるで社会主義国家そのものじゃないか

私は工藤中佐の話を聞きつつ挙手する

「上申し上げます!」

「ん?お前さんは坂崎都大尉か。姉ちゃんの事は聞いてる。とある教団をぶっ潰したってな…」

とある教団は恐らく、もう関わる事は一切ないと等しい宗教団体だ。

「で、質問してぇんだろ。何だ?」

私は勇気を振り絞って言葉を投げかけた

「……何故現地の衛士や将校の言う事聞かなければならないのですか?この戦域は中韓連合軍の管轄下ではないのでしょうか」

この戦域は中韓連合軍の戦域だ。

私の質問に工藤中佐はとんでもない答えを言った

「大尉、ベアトリクス・ブレーメって女傑衛士知ってっか?朝鮮自治区はな、ベアトリクスの支配下なんだ」

え?何を言って…あ!何かおかしいと思ったらそう言う事だったのか。

私は察した

「どうやら察したようだな大尉。でもよぉ、俺達みたいな荒くれ者を手を差し伸べたのはベアトリクス・ブレーメ総帥閣下……彼女が救ってくれたんだ。彼女には感謝しきれねぇ」

「……何故ベアトリクスは反社を?」

「俺達の目を見て『良識ある人間』だと判断し生かしてくれたんだ。東ドイツの反体制派にとっては邪魔な存在だっただろう。あのウルスラ革命で―――彼女は勝利を掴んだからこそ今の俺達がいる」

………私は言い返す言葉がなかった

ベアトリクスが、日本のヤクザを救った?

どう言う事なんだ?意味が全く分からない

「では逆に聞くがなぁ、坂崎大尉はもしよぉ…ウルスラ革命で東ドイツ反体制派が勝っていたらどうなってたと思う?」

工藤中佐の質問に対し私は複雑な表情でこう言い放った

「東ドイツは――――国全体が大混乱してたと思います。そして半グレやテロリストの連中は野放しになり世界各国はBETAとの戦闘に優先し世紀末みたいな世界になると思います」

「そうだ。反体制派の連中が革命に勝利したら今の俺達は既にいねぇって事だ!それだけは覚えとけ」

理解不能だ…しかしベアトリクスがそこまでやったとは思えなかった

「本題に入るぞ。まずここは平壌だ。今のところはBETAのクソ共の支配下になっちゃあいねえが―――――何れ最前線になることは避けられねえ」

BETAが朝鮮半島を侵攻している……どう足掻いても避けられない

「豆満江がBETAの支配下に落ちた――――そこにいる衛士達も恐らく全員やられてるだろう。しかし攻めていくどころか上層部の連中が全く動こうとしねぇ」

我々帝国軍衛士は上の命令がないと動けない

工藤中佐が言ってる事も理解できない訳ではないが現状維持というわけにはいかない

「これは朝鮮自治区を支配してるベアトリクスの策だろう。国の叛乱分子をBETAの餌として食わされてる」

「食わされてるって…」

「そのままの意味だ。とにかくだ!朝鮮自治区の人達を怒らせないように肝を命じておけ!以上だ」

工藤中佐はそう言い残し泉屋と共に会議室から出て行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このまま基地の中にいるのは息詰まると判断した私は平壌市街へ散策することにした

無論、工藤中佐の許可を貰った

一人で行くのは危険なので鈴乃と華太を連れていくことになった

鈴乃は不服そうな顔してたが本当は私と一緒についていく事だけで心の底から喜んでいた

華太は平壌市街の中に歩くだけで常に警戒している

韓国とは違うからな……無理もない

数時間後、私達が向かった先は金九広場とユルゲン思想塔

「おおっ、これが金九広場…広過ぎだろ」

華太は子供みたいに驚いた表情を浮かべる

鈴乃は少し笑みを浮かべた

「ねぇねぇ都、あそこにあるお城みたいな建物は?」

「ああ、あれは人民大学習堂だな。軍事パレードで使用される主席壇があるだろ?あそこにはベアトリクスとアイリスディーナが手を振ってるんだ」

「え?!アイリスディーナってあの666中隊の?でも何でここに…」

理解できないのは無理もない

革命に勝利したベアトリクスはすぐに行動を移し、東欧州社会主義同盟を設立させ朝鮮半島北部を支配下に置いた

救国の女神と謳われたアイリスディーナは総書記という肩書きを与えられた

無論、本人は納得していなかったが状況は状況だ。

それに対し敗北した反体制派は機能不全となり空中分解した挙句にそのリーダーだったズーズィ・ツァプは半グレに成り下がり荒れていったという

「666中隊は戦力の要の一つだと判断したのだろう。代役はいないから生かしたんだ」

「成る程…」

「アイリスディーナ・ベルンハルトの代わりはいねえからな。彼女…いやベアトリクスとアイリスディーナ2人が死んだらそれこそ全体国家としての東ドイツは終わっていた筈だ」

と華太はユルゲン思想塔を眺めながら煙草を一服するが

「吸うのはいいが後始末はするんだぞ」

「分かってるよ」

ここでも朝鮮軍の兵士が見張られてるからな。油断できない

もし捕まったら私達は教化所というところで収監され二度と日本に帰れなくなる

下手な行動はできない

「次はどこに行くの?」

「喫茶店に行ってコーヒーを飲もう。それから万寿台にある金九銅像とベアトリクス銅像を拝もう」

金九広場を後にし、小休憩で喫茶店に向かおうとしたが一人の女性に声を掛けられる

「そこの日本人止まりなさい」

「?」

顔を見てみると、欧州系の女性だ

この顔立ちは…ドイツ人だと!?

まさか東欧州社会主義同盟の人間か!?

この女、どこかで見たことある…。

明るめの茶色の髪型にサイドテール…。

「まさかお前は…」

カタリーナ・ディーゲルマン。彼女はベアトリクスの部下である女性だ

当時はヴェアヴォルフ大隊のアイドル的存在と扱われていた

彼女が何故ここにいるのか察した

カタリーナは私の顔に近づき目の奥を覗いた

「ふーん、目が濁っていない…だけど演技の可能性は否定できないわ。名前と所属は?ここに来た理由は?あと朝食食った?」

質問を投げかけたカタリーナは意外と仕事を成し遂げてるようだ

私の答えは決まっている

「…日本帝国軍第1006戦術機連隊の坂崎都大尉だ。基地でいると息詰まるから上官の許可を得てここに来たまでだ。あと朝食はちゃんと食ってきたぞ」

その答えを聞いたカタリーナは無邪気な笑みを浮かべる

「あら?そうだったのね。変なこと聞いてごめんなさい」

「いいんだ。私達はここに派遣されて異星起源種との戦いを備えているんだ」

カタリーナの纏うオーラは半端ではない…これまで数多の修羅場を潜り抜け何人かの人間を殺めている

目は普通の女性に見えるが、シュタージという東ドイツの秘密警察にいたからか当然殺しの経験をしている

「ヴェアヴォルフのアイドル――――か。私達に何の用だ?」

「何の用?決まってるじゃない。貴女を拘束するのよ。そこの2人もよ」

ッ!

「罪状は?」

「国家反逆罪よ」

「国家反逆罪……?私達が何をしたというんだ!(ここは韓国の自治区じゃなかったのか!?)」

「勘違いしてるようだから言っておくわね。ここはもう国の一つなのよ」

何を言って………?

やってもいない罪を私達を擦り付けようとしているのか!?

最悪だ―――――。

日本の地を二度と踏み込むことができないと悟った私だがその時、華太が私達を擁護する

「坂崎大尉は何も悪いことしちゃいねえ。俺達に何の恨みがあるんだ?」

そしてカタリーナに威圧を掛ける

「ッ!!!(この男、何なの!?)」

「罪をでっちあげしてまで都を連れていくのか?ブチ殺すぞゴラァ!」

半分ビビったカタリーナだったが、東欧州社会主義同盟の衛士としてのプライドがあるからかそう易々と引き下がれない

「何?私とやる気なの?いいわよ…かかってきなさい。遠慮せずに」

カタリーナは華太を挑発し先を出させようとする

しかし

「俺らみたいな荒くれ者を救いの手を差し伸べたのはベアトリクス・ブレーメ総帥だ。その総帥閣下の側近であるアンタには手出ししねえ」

「は?何を」

「二度も言わせるな。アンタ達が革命に勝利したおかげで俺達は今ここにいるんだ。感謝してるぜ」

私は華太が何を言ってるのか少し理解したような気がする

その言葉を聞いたカタリーナは困惑しつつ小さな笑みを浮かべる

「わ、分かればいいのよ!この自治区は国として独立する時が来るのよ。ブレーメ総帥は本当に生きる価値がない外道を葬ってるのよ」

カタリーナは突如、悲しげな表情を浮かべ言葉を放つ

「私達はそんなにいいイメージじゃない事はアンタ達でも分かってるでしょ?『シュタージは悪だ』『シュタージなんか消えればいい』『ベアトリクスはアクスマンとシュミットと同類だ』とほざく人間が沢山いるわ――――――でもね、反体制派の言い分も少し理解できる。だけど遊び半分で革命に参加した人間は分かり合うことはないのよ」

言葉が震えて涙を流した

血涙、憎悪、悔恨の意を表していた

当時、東ドイツはシュタージを率いるエーリヒ・シュミットによる独裁政権で統治していたがベアトリクスが筆頭のモスクワ派とアクスマン率いるベルリン派と2つに分かれ政治的対立。政治体制は崩壊寸前といっても過言ではない

ウルスラ革命が勃発し東ドイツ国内は大混乱。

その最中、シュミットはベアトリクスに暗殺されアクスマンはアメリカに亡命しようと試みたがそれは叶わずアネットの手により射殺された

そして、ベアトリクスは666中隊にいたイングヒルトの策略、工作により革命に勝利を掴んだ。

シュミットが政権率いていた頃は無差別で不特定多数の罪なき人間を粛正したことは確かだ

家族、親友、親戚、学校の教師、恩人等自らの保身によりシュタージに売り飛ばした

善悪問わずだ

ベアトリクスが東欧州社会主義同盟総帥として君臨した後、『本当に生きる価値がない人間』を葬り始めた

対象とするのは悪人……善人は粛正しない。

もしベアトリクスが革命で敗北し反体制派が勝利を掴んだらどうなっていたか私達は理解している

半グレやテロリストが増殖し世界各国が『BETA大戦下でテロリストの相手にしてる暇はない』と口実で野放しにした可能性は高いだろう……。

「私達はあくまでも本当に生きる価値がない外道と半グレを対象としている。リィズ・ホーエンシュタイン曰く『誰にでも幸せになる権利がある』と言ってたけど世の中はそんなに甘くないのよ。他人を傷つける奴がいたら粛正するしかないのよ」

そっと涙を拭い冷静を保つカタリーナは明るく振る舞う

「ごめんね。暗い話だったよね…それよりこれからどこに行くの?案内してあげるわ」

なんと私達に観光案内しようとしたのだ

有難い話だが、私達はあくまでも息抜き―――観光旅行に来たわけではないのだが

「ならお言葉を甘えさせて貰おう」

「都!」

「大丈夫だ。工藤中佐から事前に許可を得ている。それにだ――ここ平壌はまだ最前線ではない。この風景がなくなる前に今のうちに見ておくべきだ」

鈴乃は不安そうな顔しているが華太は嬉しそうな顔をしていた

「鈴乃、もう二度と見れなくなる風景だ。今のうちに焼き付けておこう」

「華太……ふふ、全くしょうがないわね。分かったわ――――都、付き合ってあげるわ」

「決まりだな」

そして私達はカタリーナが事前に手配した車に乗り込み万寿台へ向かった。




いつも作品見ていただきありがとうございます
今回の話は朝鮮半島北部での派遣任務…所謂北朝鮮ですね
北朝鮮っていう国は本来なら原作本編には出てこないし存在しない国なんですよ。
そこで独自解釈で『朝鮮半島北部はベアトリクスによって支配され、北朝鮮という戦闘国家が樹立する』という事なんです
金九という韓国の政治家なんですが史実では暗殺されてるんです
ただ、史実とは全く異なり『李承晩がいない朝鮮半島』という事になりますね
勿論、史実世界で北朝鮮を支配する金日成、金正日、金正恩の3人は存在しません。
だからマブラヴ世界での北朝鮮は実質的にベアトリクスが支配してる国という設定なんです。
金九の銅像の隣にベアトリクスの銅像があるのはその為です
何が言いたいかというと史実世界の朝鮮半島とマブラヴ世界の朝鮮半島は全く別物なんです
シュヴァケンアニメ最終回を振り返りましたがあの時アネットがギリギリのタイミングでアクスマンを射殺していたらアイリスディーナは生き延びた可能性は高かったと思いますね
それでも作品の構成上反体制派が勝利することは変わらないし仕方ないけど(-_-;)
マブラヴアニメは甲21号作戦は終了しクライマックスに迎えつつあります。
臼杵咲良、まさか生き延びていたとは思わなかったです
戦死すると強く思ってましたが………この先どうなるんでしょうね(-_-;)

次回も朝鮮半島の派遣任務です!
この作品を…トータルイクリプスサンダーボルトや他の作品、Pixivで投稿した作品を読んで頂けた全ての方々に感謝しつつ、今回はここで筆を置かせて頂きます
ではまた


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IN MY ARMS TONIGHT

朝鮮半島北部での派遣任務です


私の名前は坂崎都

世間の荒波の中、生き残りに必死な日本帝国軍の女性衛士だ。

私は学生の頃、最強と呼ばれていた

「嘘だろ………10人はいたんだぞ」

「やっぱ『狂犬坂崎』はバケモンだ……」

「次は100人連れてこい」

『狂犬坂崎』と呼ばれ、一方的な喧嘩で負けなし……だが振るった拳は全て正義の為だ。

けど訓練学校での講義は集中して聞けなかった

「坂崎!講義中は起きろ!」

「南雲教官~眠いんだよ~」

今にして思えば私が卒業できたのは南雲教官もそうだが大半は鈴乃と華太のおかげだ

私はとにかく曲がった事が嫌いだ

「神宮司のクソ女、ムカつくよな」

「卒業までサボって犯しちまうか」

「おい…コラ」

例え訓練兵でも容赦はしない

無論、そんな奴等は性根を叩き込むだけだ

「彼女は貴様等の為に真剣になってくれてるんだ。恩を仇で返すなんざ許さん」

「グエエ、イデエ…」

「顔面がぁ…」

貴様等みたいな訓練兵は迷惑ばかりしてるんだ。

それを分からないのか…馬鹿者が

私は強かった―――獅子に生まれた故、その他は獲物でしかない…という程に

だからこそ弱き者を守ろうと思った

正義の拳しか振るわなかった。

そんな私も朝鮮半島北部に位置する朝鮮自治区に派遣されたが、ものの見事に冷遇されている

鈴乃達と一緒に幸せに暮らしたい…それが切なる願いだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな私だが見ての通り、拠点である平壌基地の中に居続けるのは息詰まると判断した私達3人は外出し上官の許可を得て平壌市街へと散策していた途中、東欧州社会主義同盟のカタリーナと出会い拘束されそうになるがなんやかんやで万寿台に向かい、辿り着いたのは……。

「さあ、着いたわ!」

「おぉ…これが金九の銅像か」

韓国初代大統領の金九の銅像とその隣にあるのは東欧州社会主義同盟総帥、ベアトリクス・ブレーメの銅像だ

「隣はベアトリクスの銅像ね…」

鈴乃は関心を持ちつつ双方の銅像を見る

カタリーナは優しい笑みを浮かびつつ、言葉を並べる

「最愛の女傑指導者、ベアトリクス・ブレーメ同志はこの自治区を統治する前にウルスラ革命で勝利を掴み愚弄な反体制派を叩き潰したのよ。この銅像も我々東欧州社会主義同盟の栄光を記す証なのよ。我々は何も怖くはない――――ブレーメ総帥閣下がいる限り幸福の中栄光の中尊厳高く生きているのよ」

…………―――――成る程な

この銅像を見る限りは朝鮮自治区はベアトリクスが実質的に支配してると確信できた

と思った次の瞬間

上空にチボラシュカとアリゲートルを混成した部隊が万寿台上空で飛行していた

紋章をよく見ると…朝鮮軍の紋章だ。

「あれはチボラシュカとアリゲートル?!二個中隊ってところか」

「都、分かるの?」

「あぁ、チボラシュカの頭部は真ん丸い部分があるだろ?それに対し第二世代機のアリゲートルの頭部は角ばったデザインだ」

「おぉぉぉ…す、すげー…(俺は分からなかった)」

華太は驚愕してるな?

それに対しカタリーナは冷静に言葉を放った

「坂崎大尉、凄いわね…一発で分かったの?」

「動きで分かる」

「動きって…都…(分からないけど、やっぱ都って凄いわね)」

「(おいおい、動きで判別できるなんてすげーよ!)」

流石に困り果ててしまったか―――鈴乃は嬉々した笑みを浮かべる

「あの二個中隊はBETA殲滅に向かってるのか?」

「いいえ、あれは粛正しに行ってるわ(叛乱分子をね)」

「粛正って…(ああ、そうだった。ここは韓国と違うんだ)」

カタリーナはシラを切る

「何でもないわ。どう?この銅像を見た感想は」

さらに私達に金九とベアトリクスの銅像を見た感想を求めていた

カタリーナが欲する答えを言わなければならないな…

「錆一つなく綺麗に磨いてて美しい銅像だったよ」

その答えを聞いたカタリーナは満面の笑みを浮かび私をぎゅっと強く抱き締めた

「ふふふ、感謝するわ。その言葉が聞きたかったのよ」

「え?!」

私の胸の感触を体験したカタリーナは妖艶な笑みを浮かべ私の顔を近づき頬を触った

「貴女も美しい顔してるわね…」

「(近い…何をするつもりだ)」

手つきがいやらしい…これはもしや?

私を籠絡するつもりなのか?

籠絡されそうになるが鈴乃がそれを制止する

「…?」

「何よ。別に疚しい事なんてしていないわよ」

「あの、坂崎大尉は私の親友なんです。気安く触らないで貰えないでしょうか?」

鈴乃はカタリーナに私を籠絡する事を制止するどころか私の肌や体の接触はやめろと言い出した

「貴女は…?」

「大倉鈴乃中尉です」

「中尉?あははは、私と同じ階級じゃない」

嘲笑するカタリーナは鈴乃に対し聞き捨てならない程の言葉を言い放った

「親友ね…大倉中尉だっけ?貴女、本当に坂崎大尉を守る気あるの?」

「どういう意味ですか?」

「そのままの意味に決まってるでしょ?本当に彼女を守る気あるのか――をね。そんな甘ったれな考えでは彼女を守る事なんて出来ないわ」

なんとカタリーナは鈴乃に私を守ることが出来ないと言い出した

鈴乃は言い返そうとしたが、別の女性が現れそれを制止する

「カタリーナさん、それ以上はやめてください。困ってるじゃないですか」

この顔立ち…髪型。シュタージの長刀使いと言われたファルカ・ミューレンカンプか

ファルカ・ミューレンカンプ。シュタージで唯一の良識ある女性衛士だ

かつてリィズ・ホーエンシュタインと僚機であり互いの背中で戦う事が多かったとか

ファルカがいるって事はベアトリクスの側近だった二コラやロザリンデもいるってことなのか?!

「全く、目を離したらこうなりますね」

「何よ。私だって忙しいのよ」

「サボってるようにしか見えませんが…」

「グウウ…(足元見たわね)」

困り果てたファルカはポラロイドカメラをカタリーナに渡す

「カメラ?」

「ええ、記念に撮影するのもいいかと」

とファルカは私達の顔を覗く

「え?そ、そんな気遣わなくても…」

不敵な笑みを浮かんだカタリーナはポラロイドカメラを受け取る

「そうね。日本から来たお客様をもてなさないとね」

そしてポラロイドカメラで金九とベアトリクスの銅像を背景にして私達を撮影しようと試みるが

「ん?何か違うわね…このまま撮影してもつまらないから…ファルカ」

「何ですか?」

カタリーナは不敵な笑みを浮かべたままこう言い放つ

「隣に立って一緒に撮りなさい」

「え?」

私達3人の隣にファルカを立たせようと言うのだ

「ですが私は…」

「これも交流の一環よ」

「……了解しました」

渋々と動くファルカは鈴乃の隣に移動し作り笑顔を浮かべる

「はい、撮るわよー」

カタリーナはポラロイドカメラを持つ

「笑って笑って」

私達は優しい笑みを浮かべる

「華太…」

「何だ?」

「私はお前の事が好きだ!誇りに思え」

そしてシャッターボタンを押し写真一枚を撮影

ポラロイドカメラから出てきた写真一枚を私に渡す

「ん?」

「記念にあげるわ。大切に保存しなさい」

まさか東欧州の連中が私達を写真一枚撮ってくれるとは思わなかった

東西文化交流って奴か。

カタリーナは交代する形でファルカにポラロイドカメラを渡し再度撮影しようとしたが怪しげな三人組が現れる

「おっ、日本人がここにいるぜ」

「男1人に女2人か…欧州の女もいるぞ」

「姉ちゃん少し付き合えや」

これは予想外の展開だ

3人共全員朝鮮人か

人民服を着ている

華太が3人に立ち向かう

「おいコラ、随分と舐めてるようだな」

「何だ此奴?」

「お前は引っ込んでろよ。俺等は女に用があるんだよ」

そんな奴の戯言は当然聞き入れない

「テメエ、まさかと思うが都達を慰め者にしようってのか!ブチ殺すぞ!ボケ!」

怒号が響き男3人は怯むと思ったが

「あぁ、そうだよ。俺達は女が大好きで犯したくて犯したくてしょうがねぇんだよ」

3人のうち1人は醜悪な論理で私達に言い放った

その言葉を聞いた華太は怒りが爆発

「死にたくなければ消えろ。それともここで死ぬか?」

拳をポキポキと骨を鳴らす

分かる……この殺戮オーラは本気と表してる

「死ぬのはお前だよ!」

「ま、諦めてくれや。日本人の女は貰っていくぜ」

「祖国の地へ二度と踏み入れないようにしてやるよ」

「上等じゃねぇか…ならここで死に晒せ!」

華太は男3人に突っ込む

1対3……無謀過ぎる

しかし彼はそんな事お構いなしだ

「帝国軍人を舐めるな!クソボケが!」

ボガァ

「うぶぅぅぅ!?」

男1人に鉄拳制裁を食らわした

もう一人は果物ナイフで華太に突っ込む

「帝国軍人だからなんじゃああああ!!」

だが刺される事はなく躱した

「動きが遅ぇんだよ」

「は、速ぁっ!?」

男の腕を掴み背負い投げる

「でやぁぁ!!」

「がは!」

そして地面に叩き落とした

最後の一人は華太の背後から拳で後頭部を殴る

「オラァ!」

「ぐはぁぁ!?」

後頭部に当てられたショックで脳が震えそのまま倒れ込む

「朝鮮人を舐めるな!日本人風情が」

「ぐぅうううう…」

拙い、私達のところに…!?

私が男に立ち向かおうとした次の刹那、カタリーナが男に向かって走りそのまま拳でフルスイングして顔を目掛ける

「罪なき日本人女性を犯してどういう神経してるんだ!ゴラァ!!」

ボガァ

「ぶびぃぃぃ!」

男は倒れ込み顔面陥没だ

紅林みたいなパンチだ………怒らせたら怖いってことはよぉくわかったよ

男達を気絶した後、カタリーナはモトローラ製の携帯電話を取り出し電話を掛ける

「私だ。婦女暴行未遂の男3人を制圧した。場所は万寿台の金九の銅像とブレーメ総帥閣下の銅像の前だ」

《了解です。今向かいます》

「それと救急車を手配しろ。帝国軍の衛士一人が後頭部に殴打されて意識がない」

30分後、救急車が到着し意識がない華太を担架に乗せられる

「貴女達は基地に戻った方がいいわ。帝国軍の上層部は何とか言い包めるから」

とカタリーナはそう言い残し、救急車に乗って去っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、医師の手術によって幸い華太は命の別条はないものの怪我が治るまで様子見になった

カタリーナがいなければ華太は恐らく死んでいただろう

記憶障害とか残らなければいいが……。

病院の手術室から担架を乗せた華太が医師2名により病室まで運ぶ

そして、執刀医が私に話しかける

「手術は無事成功しました」

「それで、華太…いや小峠中尉はどうなったんですか」

「後頭部を打たれただけで記憶障害にはならず済みましたが暫く安静が必要です」

「そうですか…」

華太は暫く安静か………。

作戦に支障が出てくるな。

それでも私は思った――――私を守ってくれた華太はカッコよかった。と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌々日

平壌医科大学病院に安静している筈の華太が頭は包帯でぐるぐる巻き状態のまま基地に帰ってきた

「華太、大丈夫か?!お前、暫く安静だって医者から言われてた筈だぞ」

「都……このまま日本に帰らずに死んじまったら日本帝国軍の恥晒しだ……衛士を名乗る資格なんてねえんだよ」

体がふらついてまで戦いたいのか?!

無茶してまで……。

「……分かった。お前はまだ傷が治ってはいないから恐らく待機命令出されるだろう」

「そうか…」

朝鮮軍との合同シミュレーションだ……いや模擬戦だな

華太は…戦いたがっている

「模擬戦は出れるか?」

「ああ、いつでも出れるぞ」

「そうか、でも無茶はするなよ」

いつも通りに会議室へ行こうとしたその時、基地内で放送が流れる

《第1006戦術機連隊に属する衛士達全員、視聴覚室に集合せよ。繰り返す第1006戦術機連隊に属する衛士達全員、視聴覚室に集合せよ》

「何だろう?視聴覚室に何を見せようとしてるんだ?」

まさかな……。

「とにかく行ってみるしかない」

「そうだな」

私と華太は急ぎ足で視聴覚室に向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、視聴覚室に到着し中に入った私と華太だが、視聴覚室の中には既に鈴乃や城戸、浅倉、工藤中佐、泉屋少佐の姿があった

「華太!?病院から抜け出したのか?」

鈴乃は心配そうな表情で狼狽える。

「ああ、問題ない」

華太はこう言い返すが…

「アホ、病院抜け出してどないすんねん」

城戸は華太に困惑した顔で言った

「せやけど、普通病院から抜け出せないと思いますよ。城戸の兄貴」

浅倉は冷静な表情で言う

「そやな。ここは北朝鮮――朝鮮自治区や。確かに無断で抜けたら連れ戻されて閉鎖病棟行きやな」

「閉鎖病棟って…華太の精神力は健在だ」

私は城戸にこう言い返す

「精神壊れなくても健常な人でも連れて行かれる―――社会安全員に見つからなくて良かったやん」

と、城戸は凛々しい笑みで私に向け言葉を放った

「皆、全員揃ってるな?これより『視聴会』を執り行う。各員注目!」

工藤中佐の言葉で皆はモニターに注目

モニターに映し出されたのは…白い軍服を着てるベアトリクスだった

ベアトリクスは真剣な表情でこう語りだした

《親愛なる同胞の皆様、愛する兄弟姉妹の皆様、同盟国の将校、下士官、兵士諸君!南朝鮮で活動している国連軍並びに日帝の衛士諸君!私は東欧州社会主義同盟を代表して、皆様に次のように訴え朝鮮自治区に残留してる日本帝国軍並びに帝国斯衛軍は、1995年6月25日、各戦線の全域に亘って朝鮮自治区に対するBETA駆逐と称して全面的な攻撃を開始し勇敢な朝鮮軍は敵の侵攻を迎え撃って激戦を展開し、BETAの攻撃を挫折させ朝鮮自治区は現情勢を検討し、朝鮮軍に断固たる反撃戦を開始して敵の武力を掃討せよ、と命令を下した。朝鮮軍は東欧州社会主義同盟の命令によって、敵を中韓国境付近から撃退し、中韓国境へ10~15キロメートル前進し朝鮮軍は甕津、延安、開城、白川などの各都市と多くの村落を解放し、朝鮮の全ての愛国的人民は平和的方法でBETAと言う地球外起源種をこの世から消滅するために全力を尽くしてきたにもかかわらず、一部の帝国斯衛軍衛士達は人民に背き、同胞同士の内乱を引き起こした》

どういう事だ?

私は理解が追い付けず、訳が分からなかった

《広く知られているように、必死になってBETA殲滅に反対するキリスト教恭順派や雄武真理教等は、以前から内乱の準備を進め彼等は全人類の膏血を絞り、軍備の拡張と後方の準備に狂奔し彼等は、前代未聞のテロ暴圧によって、朝鮮半島全域の全ての民主的な政党、大衆団体を非合法化し、愛国的で進歩的な人士を拘束、監禁、虐殺し、かつて東ドイツでの反体制派組織グローサ・ベアのやり方を酷似し我々に対する些細な不満の表現に対しても厳しい弾圧を加え朝鮮半島の自由、民主主義のためにたたかった数十万もの朝鮮人民のすぐれた息子や娘たちが、敵によって投獄され虐殺された》

要するに東ドイツ反体制派の人間が無実な国民を殺しまくってたと言いたいのか

シュタージも無実な国民を殺しまくった癖にどの口が言う?

《ウルスラ革命終結後に反体制派の人間が中心に結成された半グレ組織『グローサ・ベア』は内乱挑発の陰謀を覆い隠す為に、堪えず中韓国境付近で衝突事件を引き起こし、人民を常時不安に陥れ、これらの挑発的な衝突事件の責任を朝鮮自治区だけでなく東欧州社会主義同盟に転嫁しようと策しそのリーダーであるズーズィ・ツァプは「北伐」を準備する過程で、無政府主義者の指示に従い、かつて朝鮮人民の不倶戴天の敵だった日本帝国軍と結託することさえ躊躇いはなかった》

何だと……何を言って…?

《南朝鮮を植民地、軍事戦略基地としてアメリカに売り渡し、南半部の経済をアメリカ独占資本家の支配に委ね、南半部の経済命脈を奪い取り、民族経済を余すところなく破綻させ、朝鮮半島で切実に必要とする米穀とタングステン、黒鉛など多くの天然資源を略奪し南朝鮮の中小企業家と商人は抑えられ、破産を余儀なくされている。朝鮮の南半部では大部分の工場、製造所が閉鎖され、失業者は数百万に上っており、農民は今なお土地を得ることも出来ず、農業は年と共に衰退し南朝鮮は、塗炭の苦しみにさいなまれ飢えに喘いでいる。親愛な同胞の皆様!東欧州社会主義同盟は朝鮮半島の全ての愛国的・民主的政党、大衆団体および全人民と共に、同胞同士の内乱と流血の惨禍を避け、平和的方法による人類救済のためにあらゆる努力を傾け既に、1988年4月の日朝全欧州連席会議で、人類の平和的救済のための最初の試みがなされた。 しかし、ズーズィはこの試みを破綻させ、その侵略道具である「国連臨時朝鮮派遣師団」の指示のもとに1988年5月10日、一部の日本帝国軍将官が不正融資してる事を隠蔽し我が国の北半部にたいする武力侵攻の準備を強化した》

私は朝鮮自治区に派遣される前に久我と里中の会話を思い出す

 

”……風の噂によると上層部は反社に属してる衛士を一掃する作戦を企てているらしい”

 

……くだらないな。この状況下で衛士を斬り捨てる訳ないだろ

 

”なあ久我、それが事実だとしたら俺達の立場ヤバくねえか?そもそも誰が企てているんだよ”

”橘っていう将校だ。彼奴は俺達極道の事軽蔑してるからな。根っからの反社嫌いだ”

 

それが事実だとしたら私は何ができる

何もできない……ただ、その行く末をただじっと見るだけ

《BETAを人類から抹消する目標を達成する為に、帝国軍本土司令部によって、朝鮮半島を平和的に解決するよう提案した。全朝鮮人民がこの提案を熱烈に支持したにも拘らず、帝国斯衛軍はこの提案も拒否し我が東欧州社会主義同盟は全人民の意思を反映して、1988年6月7日、重ねて人類の平和的救済を促進するための方策を提案した。しかし逆賊ズーズィは、それを邪魔して平和的な促進についての東欧州社会主義同盟の提案を支持する人々を反逆者と見做すとして、その提案の実現をも破綻させ朝鮮自治区は、民主的政党、大衆団体の要望に基いて、BETA殲滅と民主的な発展に対する不屈の意志を表明するとともに、東欧州社会主義同盟と帝国斯衛軍の「国会」を連合して単一の東欧州欺衛連合軍を設立する方法によって、平和を実現するよう提案し、人類救済しようという全朝鮮人民の一致した願いと、我々の正当な誠意ある提案に対し、内乱の挑発をもって応えた――――――ズーズィ・ツァプは、彼等が引き起こした同胞同士の内乱でどのような目的を達成しようとしているのだろうか?》

《朝鮮自治区で実施された無償没収と無償分配の原則による土地改革の結果、土地の主人となった農民から土地を取り上げて再び地主の手に返し、北半部の人民の民主的な自由と権利を奪おうとしている。彼等は、将来的に朝鮮自治区を逆賊ズーズィの奴隷にしようとし第二次大戦のように朝鮮人を弾圧し自分の都合で朝鮮の発展に必要不可欠である政治家や政治運動家を抹殺しようと企てている―――親愛な兄弟姉妹の皆様!朝鮮半島国民と我々には大きな危機が迫っている!》

私は頭を抱え目を瞑りつつただ呆然した

華太と鈴乃は黙って映像を見る

工藤中佐は真顔で黙々だ

泉屋少佐も……

他の衛士達は………皆困惑していた

「嘘だろ……帝国軍がこんな事を」

「そんな、上層部は私腹を肥やして俺達を捨て駒扱いしてるのか!?」

「もう嫌だ!衛士なんかやめてやる!」

こんなモノ見たら騒ぐのも当然だ

しかし、工藤中佐は威圧をかけ皆を黙らせた

「馬鹿野郎!静かにしやがれッ!例えそれが事実だったとしたら俺達は受け止めなければならない!ここに来てまで衛士をやめるなど自殺行為だ――――お前等はここに何しに来た?異星起源種を倒す為だろうが!それを自覚してるなら良い。想いはな…皆同じなんだ!分かるか?」

工藤中佐の言う通りだ

朝鮮自治区を支配してるベアトリクスの言い分聞いて困惑するには分かる

しかし、帝国軍の上層部が私腹を肥やし衛士を切り捨てているというのが事実でも私達は受け入れるしかない

《……朝鮮の自由と民主主義の為の正義の戦争である!全朝鮮人民は、再び軍国主義国日本帝国の奴隷になることを欲しないならば、異星起源種を打倒し、その軍隊を粉砕する救国闘争に決起しなければならない。我々は如何なる犠牲も厭わず、必ず最後の勝利を勝ち取りなければならない!

全朝鮮人民は、日本帝国の背後にいるキリスト教恭順派の一挙一動を、常に鋭く監視し、警戒心を高めるべきであり、朝鮮軍は北半部の民主改革の成果を堅く守り、南半部の同胞を反動的な支配から解放し、朝鮮半島の旗のもとに死守するための正義の戦いで、勇敢さと献身性を発揮し朝鮮軍の将校、下士官、兵士は、人民のなかから生まれ、朝鮮軍は朝鮮人民のすぐれた息子や娘たちで組織された朝鮮の武力である。朝鮮軍は祖国と人民を愛する精神で教育、訓練され、近代的な精鋭兵器で装備されており、祖国と人民の利益の為に生命を捧げて戦う気高い愛国主義精神で武装し将兵は、祖国と人民のために最後の血の一滴まで捧げて戦わなければならない》

私は怒りを抑え込んだ

ベアトリクスの演説を見て帝国軍はそんな野蛮な事するような軍隊ではないと堅実な組織だと信じ込んでいるからだ。

《朝鮮自治区の人民は全ての活動を戦時体制に切り替え、短期間に敵を掃討する為に、全ての力を戦争勝利の為に捧げなければならない!我々に対する全人民的な援護活動を組織し、朝鮮軍戦術機各部隊を引き続き増員、補充し、前線への一切の必需品と軍需品の緊急輸送を保障し、負傷兵に対する温かい親切な救護活動を組織し前線の勝利を保障する為に人民軍の後方を鉄壁のように固めるべきであり後方では、逃避分子やデマを撒き散らす者などと容赦なく戦い、スパイ、破壊分子を摘発、一掃する活動を機敏に組織しなければならない。敵は狡猾で陰険である為、あらゆる手を尽くしてデマを撒き散らそうとするだろう。人民はこのような敵の悪質な扇動に乗せられてはならず、権力機関は敵を利する反逆者を容赦なく処断し朝鮮自治区の労働者、技術者、事務員は、工場、製造所、交通運輸、逓信機関などを敵の侵害から守り、生産計画と各自に課された全ての任務を忠実に実行し、前線の要請に敏速に応えなければならない。

朝鮮自治区の農民は、農産物をさらに増産して軍に必要な食糧を十分に供給し、戦争勝利のために全力を尽くして軍を援助すべきであり南朝鮮の男女パルチザンは遊撃戦をさらに激しく、いっそう勇敢に展開し、遊撃隊に広範な人民大衆を参加させて朝鮮武装警察軍を創設、拡大しパルチザンは敵の後方で敵を攻撃、掃討し、敵の参謀部を襲撃し、鉄道、道路、橋梁や電信電話線などを一部切断、破壊し、あらゆる手段を尽くして敵の前線と後方の連絡を断ち、至るところで反逆者を処断し、我々の作戦に積極的に協力し、南朝鮮の同胞は、愚鈍な国連軍の命令や指示に服従することなく、その実行をサボタージュし、敵の後方組織を混乱に陥れなければならない。

南朝鮮の労働者はいたるところでストライキや暴動を起こし、敗走する敵の破壊から工場、製造所、鉱山、鉄道その他各自の職場を守り、戦争の勝利を保障するために朝鮮半島を積極的に援助すべきであり農民は敵に食糧を渡してはならず、今年の農作物の取入れを手抜りなく行い、パルチザン活動に積極的に参加し、人民軍に各種の協力と援護を惜しみなく与えるべきだ》

パルチザンとは他国の軍隊または反乱軍等による占領支配に抵抗する為に結成された非正規軍の構成員である

所謂、レジスタンス――――東ドイツ反体制派のような連中だ

抗日パルチザンは日本統治時代の朝鮮での運動。朝鮮独立運動の一つだ

もっとも注目を集めたとされるのが、1937年の普天堡の戦いだが東北抗日聯軍に属した金日成はこの戦いで戦死した

1944年、日本は条件付き降伏を受諾され、朝鮮半島は解放された

朝鮮半島全体が韓国として樹立し、その国の初代大統領を務めたのは金九だ。

《親愛なる同胞将兵諸君!諸君の敵は、まさにBETAであり諸君は、人類の未来の為に機を逸することなく銃口を不埒な異星起源種共に向け、諸君は人民軍とパルチザンの側に加わり、自由をめざす全人民の闘争に協力し諸君は朝鮮人民の敵に反対して立ち上がり、BETAと戦う栄誉ある衛士の隊列に加わるべきである!》

私はモニターに映っているベアトリクスの姿を見て釘付けになった

認めたくないが、認めざるを得ないか。

《親愛な同胞、兄弟姉妹の皆さん!BETAを速やかに撃滅、掃討する為に、東欧州社会主義同盟の周りに堅く団結するよう、全朝鮮人民に訴え人類の歴史は、自由と朝鮮の真の独立を目指す戦いに死を賭して立ち上がった人民は、常に勝利することを教え我々の戦いは正義の戦いであり、勝利は必ず朝鮮の側に輝き人類の未来の為に我々の正義の戦いは、必ず勝利するものと私は確信する。時は来た!勝利への確固たる信念をもって勇敢に前進すべきだ!

 

全ての力を人類の援助に捧げよ!

 

全ての力を敵の撃滅、掃討に向けよ!

 

全人民的な正義の戦争に総決起した朝鮮万歳!

 

人類の為に勝利を目指して前進すべきだ!》

この演説の映像を見た感想は言葉が出ない程の驚愕

現実を突き付けられた

ワァーッと歓声が広がりスタンディングオベーションをする映像に映ってる朝鮮軍の兵士達はは感激し称賛の声が広がる

私は天井を仰ぎ息を吸いつつ坂崎都自身らしくない台詞でこう啖呵する。

「華太、私達って何の為に戦ってるんだろうな」

「え?突然何を言い出すんだ。お前らしくないぞ」

「ふふ、らしさってものは自分の個性を作り上げるものだ。鈴乃も――――お前達は日本帝国という国を愛してるのか?」

「国を愛してるのか?」と華太と鈴乃に問いかける

私が望み答えが返って来た

「……都、勿論だ。俺も日本が好きだ」

「私もよ――――まさか日本が嫌いって言うの?じゃ、貴女は一体何の為に?」

「私も日本が好きだ。が軍の上層部は楽観視している―――――どうしても許せなくなってくる…」

悔しい表情を浮かび拳を握る

「朝鮮半島はもうすぐBETAに呑み込まれる。それを対応するのは我々日本帝国軍と朝鮮自治区の朝鮮軍。南側の韓国軍だ。風の噂だが38度線の要塞陣地化、ソウルに戦術機の残骸などを利用し鉄壁を作り景福宮周辺を取り囲み絶対防衛線を張って意地でも――――――」

私が放つ言葉は今後、朝鮮半島全域の末路がどうなるか、推測していた

これはあくまでも私個人的な推測―――――外れる事がある

「――――ここ、北朝鮮は最前線だ」

朝鮮自治区―――――――北朝鮮は最前線

そして主都平壌は火の海と化する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今の朝鮮半島の現状は北はベアトリクス・ブレーメ率いる東欧州社会主義同盟が統治し管理している。

南は大韓民国本土、我々日本帝国軍、帝国斯衛軍

無論、私達も北朝鮮に駐留しているが長居は出来ないだろう。

今ある朝鮮の軍事組織は大韓民国本土軍、朝鮮軍、中韓連合軍、韓国義勇軍の4つ、準軍事組織は朝鮮武装警察軍、戦闘警察、海洋警察庁、朝鮮警備隊の4つ。

ベアトリクスはこれらの組織を統一する為には改革を実行しようとしていた。

――――――――そんな事は私達には無関係だ。

ベアトリクスが何しようが口出しする筋合いは全くないのだ

BETA侵攻状況は今のところは動きがない。BETAが平壌に迫って来るのも時間の問題だ

あのユルゲン思想塔は光線級の的になって崩落される

”どうぞ、撃ってください”と言ってるのと同じようなもんだ

気が付けば、時は12月24日――――クリスマスイヴを迎えた

反米感情が強い日本帝国はクリスマスを祝う人々がいるのは稀に等しい

一方で事実上宗教が禁じられ、特にキリスト教に対する弾圧が非常に厳しい朝鮮自治区―――北朝鮮にはクリスマスを祝う習慣は存在しない筈だが、多くの北朝鮮国民、特に若者はクリスマスの存在を知っているそうだ。

そう、平壌だけでなく他の街も大々的にクリスマス祝っているのはベアトリクスが黙認してるからだろう。

東ドイツ出身のベアトリクス、アイリスディーナにとっては嬉しいイベントの一つだ

余談だが、東西ドイツでは12月24日と12月25日だけでなく26日までの3日間がある。

そういう意味でベアトリクスは東ドイツの英雄の称号を掴んだだけでなく『朝鮮解放の女神』と称えられ評価を得ている

平壌市街はクリスマスムードだ

街中ではクリスマスツリー等の飾りをしてる

無論、クリスマスソングでお馴染みのジングルベル。朝鮮語題名では『鐘の音』という曲が流れており、金九広場では男女カップルが大勢いて寄り添っている

私はと言うと………?

「華太ぉ、こっちだ」

「お、おい!都、恥ずかしいだろうが」

華太と一緒にいた

しかも恋人繋ぎでデートしている――――2人きり…という訳ではない

「私の事忘れてない?都」

「そんな事ないよ」

私の右腕にしがみついている鈴乃だ

さらに

「小峠はん、モテモテやな」

「城戸の兄貴、大倉中尉にデート誘ってこの構成ですか」

「しゃあないやん。どうしても坂崎大尉と一緒にいたいって言うからな」

城戸と浅倉だ

何やら鈴乃とデートする形で一緒にいるらしい

「大倉はん、何処行くんや?」

「牡丹峰へ行くわ―――ね?都」

「ああ(さて…何処行こうか?)」

「モランボン?モランボンと言えば焼肉やな!」

違うぞ城戸―――全く無関係だ

「城戸の兄貴、それは関係ないかと」

「会社名がこの丘の名前が由来なんや。モランボンだけに牡丹峰や」

城戸は寒いギャグを私達に向けて言った

……面白くない。

「完全に滑ってますね」

と浅倉はこうツッコんだ

城戸が優越な笑みを浮かびながら楽しく話してから数分後、凱旋門に到着した

「ここが凱旋門か…」

この凱旋門は、ウルスラ革命でエーリヒ・シュミット率いるシュタージ政権による支配から解放された4ヶ月後の1983年7月28日、平壌に凱旋したベアトリクスが「東独朝鮮合同歓迎平壌市民大会」において東ドイツ指導者として民衆を前に演説を行った場所である。

パリのエトワール凱旋門をモデルとしながらも、エトワール凱旋門より10m高くなるように造られている。高さは60m、正面幅52.5m、側面幅36.2m、アーチ門の高さ27m、アーチ門の幅18.6mと世界で一番大きい凱旋門で、1万500個の花崗岩で造られている

4本の花崗岩の枝の柱の上には、ベアトリクスとアイリスディーナが生まれた年である1959年とベアトリクスが平壌に凱旋した1983年を示した浮き彫りがある

また、その東側と西側の壁面は白頭山の浮き彫りがあり、南側と北側の壁面には「ベアトリクス・ブレーメ総帥の歌」や革命を賛美する歌の歌詞が彫刻されている。凱旋門内部は、何十もの部屋、手すり、展望台、およびエレベーターがある。

直で見るとやはりデカい

「おぉぉぉ、すげー(何mあんだよ……)」

華太も驚愕してるようだな

城戸は驚いた表情ではなく凛々しい笑顔で凱旋門を見つめた

「あれが北朝鮮の凱旋門か……でっかいなあ。浅倉」

「デカいだけにデカルチャー――――と?」

「意味わからんわ」

城戸と浅倉は漫才しながら会話しツッコミとボケを繰り広げた

あの2人は勝手に盛り上げればいい。

凱旋門から離れ凱旋青年公園に移動しようとした時、1台の黒い車が私達の前に阻むように止めた

そして降りてくるのは…

「坂崎都、大倉鈴乃、小峠華太。貴様等この場で拘束する」

国家保衛省――――北朝鮮の秘密警察。

2人はそこに属する人間だ

突然の出来事で私は怒りを表す

「私達は何も罪を犯していませんが」

城戸と浅倉はこれに対し唖然とした

「えらいこっちゃに抹茶や…」

「これは拙い状況になってきましたね…」

この場で拘束されるのは納得するはずがない

「私達は日本から派遣された衛士です!」

「そ、そうよ!一体何の恨みがあるんですか!?」

私と鈴乃は国家保衛省の職員にこう言い放ったが、奴等が返ってきた答えは常識では考えられない言葉だった

「恨み?そんなものはないよ。貴様等は日本人だからだ。ただそれだけの事だよ―――」

「ッ!」

「大人しく我々の言う事を聞いた方がいい。悪いようにはしない。そして北朝鮮社会に貢献しなさい」

此奴……日本人だからという理由で私達を!

そんなくだらない答えを聞いた私達が大人しく従う事は毛頭ない

私が奴等に怒りの言葉を言おうとした時、華太が奴等に対し怒りを爆発した

「俺達が日本人だから拘束だあ?笑わせるな!罪なき人々を捕まえ牢屋の中に入れたらそれはただの冤罪だろうが!」

華太は国家保衛省職員その1に向けて拳を振るう

「テメエ等が言う北朝鮮社会なんか知らねえ―――――俺達に的をかけたら…死ぬだけじゃあああ!!!」

ボガァ

「ぶぎゅぅうううう!?」

「き、貴様等…やってくれたな」

国家保衛省職員その2が怯えながら言い放つ

「あ?次はテメエだ」

「ま、待て!これは親愛なるベアトリクス・ブレーメ総帥閣下の命令で動いてただけだ」

そんな戯言は華太が信じる訳はない

「ベアトリクスの命令?嘘吐くな。テメエ等単独で動いてただけだろうが」

「ホントだ!」

次の瞬間、華太は奴の前髪を掴み威圧を掛けた

「随分と舐めてるねえ……一旦、西朝鮮湾に沈めようか?」

「ひいいぃいい!本当ですぅうううう!!」

私は奴の目を覗いた。

どうやら本当みたいだな………殺す前に止めた方がいいな

「やめろ華太。奴が言ってる事は本当だ」

「お前…」

「目の奥を覗いたが濁ってなかった――――」

私は奴に言い詰める

「貴様、ベアトリクスの命令で動いたのだろ?ならベアトリクスのところに案内しろ!」

「それは……」

出来ないと言うのか?日本人衛士を迫害しようとした貴様等が拒否権なんてない

「拒否したら、貴様等をBETAの餌として屠るぞ」

「ひぃいい!!それだけは勘弁してください!!!」

恐喝紛いな言葉だが、奴は私の言葉を聞くと首を縦に振った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平壌基地にいる工藤中佐に連絡を入れ事情を説明したが、基地には戻ってこれないと一言を添え了承を得た

国家保衛省の職員は私達を車に乗せ、ベアトリクスがいる場所へ向かった後は城戸と浅倉はそのまま基地に帰ってしまった

その場所は……?

「やはり最初から私達を…」

国家保衛省本部だ。

「―――!そ、総帥閣下は定期的に執務する場所を変えてるんです。本当です!」

「……信用できる?」

鈴乃は目を細くして2人を疑う

「………これが本当だとしたらベアトリクス・ブレーメという女傑は用心深い。暗殺回避の為だろうな」

東ドイツの指導者で北朝鮮を支配してる彼女が暗殺されたら、世界が混乱するだろう。

無論、ベアトリクスの代わりはいないと等しい

私達が車に乗って移動してから2時間後、ベアトリクスがいると思われる国家保衛省本部に到着した

「こ、此方です…」

そして車から降りた私達は真顔で中に入る

国家保衛省職員に案内され、階段を昇り左から突き当りの廊下を真っ直ぐに行き長官室の扉の前に辿り着いた

ここがベアトリクスが執務してる場所の一つか……。

職員の一人が長官室の扉を叩く

「失礼しますブレーメ総帥閣下、坂崎都大尉、大倉鈴乃中尉、小峠華太中尉の3名連れてきました」

「入りなさい」

「―――は」

ベアトリクスが一言を添えると職員は私達を長官室の中に入らせた

長官室の椅子に座り執務しているベアトリクスは不敵な笑みで私達を出迎えた

本人と直接対面したのは初めてだ――――少し緊張するな

「これはこれは日本帝国軍の英雄候補、初めましてね」

「(あれがベアトリクス・ブレーメ……革命に勝利した東ドイツの英雄)」

ここに連れてこられたのは正直意味不明だ

何をさせたいんだ?

「ここに連れてこられた理由は分からないようだから単刀直入に言うわ。貴女達は今、日本帝国軍の上層部からゴミ扱いされてるのよ」

ゴミ扱い!????それって捨て駒にされたと言いたいのか

違う――――とは言い切れない

上層部の連中は私達の事をそんな風に思われていたんだな。

「仮にそれが事実だとしたら私達は何をすべきか理解してると思います」

私はベアトリクスにこう言い放った

「理解?何を理解したのかしら?」

ベアトリクスは私に問いかける

「それは……我々日本帝国軍であり国の為にBETAを…」

「国の為ね……」

そう言って椅子から立ち上がり私に近付き目を覗く

「……嘘は吐いていないみたいね」

「(この女…一体何を考えているんだ?)」

「朝鮮自治区―――北朝鮮は元々日本での統治を反対してた人々の集まりだったのよ。他人の家に土足で上がったら貴女は快く受け入れるの?」

「……受け入れないですね」

私が答えた言葉はベアトリクスが欲した答えだった

「そうよ……今でもそういう思想の人間が沢山いるのよ」

統一はまず無理だろうな……北の人間と南の人間はそれぞれの思想で対立している

難しい問題だ。

「それと坂崎大尉、貴女はこの現状をどう思ってるの?まさか知らなかったとでも?」

「何の事ですか?」

「ここ北朝鮮で平壌派と元山派の2つの財閥が対立していてクーデター勃発してもおかしくはない状況になってる」

ベアトリクスは笑みを消え、真剣な眼差しで私の顔を見て話す

「東ドイツのシュタージ内部の派閥だった『モスクワ派』と『ベルリン派』の朝鮮版と言ったら分かりやすいわね」

東ドイツの秘密警察、シュタージ内部の2大派閥である『モスクワ派』と『ベルリン派』

モスクワ派は現在東欧州社会主義同盟総帥であるベアトリクス・ブレーメが長とした派閥

東ドイツ崩壊後に社会主義陣営の盟主であるソ連に亡命政権を樹立する事で国体を維持しようとしていた

ソ連政権とその秘密警察であるКГБに太いパイプを持ち、当時の東ドイツかソ連の援助なしに戦争を継続する事が不可能であることから、彼等の方針はドイツ社会主義統一党中央からも多くの支持を受けていた

特に現在、ファム・ティ・ランが長とする第666戦術機中隊に対しては存在そのものを排除しようと画策

東ドイツ反体制派と繋がってる疑いがあったからだ

海王星作戦においては東西融和の象徴的な存在となった事でこれを利用せんとする勢力が確実に出てくることが予想された

また部分的な西側との協調を望むベルリン派とも同調し兼ねない第666戦術機中隊は、モスクワ派にとってあらゆる意味で邪魔な存在だった

一方、ベルリン派はシュタージ武装警察軍作戦参謀の肩書を持ってたハインツ・アクスマンが長とした派閥であるが、此方はソ連の影響下にありすぎる事を好まない一派だ。

東欧諸国の盟主として、ソ連と距離を置きつつ西側と部分的に協調する事で自身の影響力を保とうとした

党の主要部は親ソ連のモスクワ派で占められていたが、党の一部からベルリン派を支援する動きもあったことは事実―――。

特にソ連は国連常任理事国として大きな力を持っていたが、既に自国領の大半がBETAに奪われており、革命勃発する1年前には米国からアラスカを租借し、国家機能の移転が始まっている状態だった

このままソ連の言いなりになるくらいなら、東ドイツに近く、亡命後も影響力が発揮できる東欧に逃れた方が良いと考えた者が多かった。

第666戦術機中隊に対しては、ベルリン派が西側やソ連に取り組まれないようにする為の独自の兵力として用いる為に、その取り込みを画策していた

互いに対峙する中でウルスラ革命で勝利を掴んだのは――――モスクワ派だ。

ベルリン派はアクスマン死亡により壊滅。東ドイツ反体制派はベアトリクスによって壊滅状態に追い込み、特にリーダーのズーズィ・ツァプは現実を受け止められない為なのか。側近であるシモーネ・レージンガーや最も信頼できる構成員のみ再編成し半グレ集団として成り下がっていった

とどのつまり、北朝鮮内部の2大派閥、平壌派と元山派はその2つを模倣している

「平壌派は朝鮮半島陥落後、南沙諸島に亡命政権を樹立する事で国体を維持しようとしてるの。無論ソ連の援助なしに戦争継続は不可能よ。一方元山派は私の影響下にある事を好まない集まり…私の言いなりになるくらいならアメリカに亡命して影響力を発揮できると思い込んでるわ」

隣国である中国は大半がBETAに占領されてる

このまま何もせず攻められたら……考えたくはないな

妖艶な笑みを浮かべるベアトリクスは一枚の写真を私達に見せた

「ア・ドックァ中佐……朝鮮武装警察軍作戦参謀。陰湿かつ残忍な性格をした人物で、日本人狩りを自身の快楽のために行う男よ」

年齢は50~60代。白髪染めで黒く光ってる髪型

この男はハインツ・アクスマンの朝鮮人版か。

下衆な男だ――――――自分の事しか考えていない

「私を利用してアイリスディーナや彼女の戦友諸共抹殺しようと企んでいたけどね。話が逸れてしまったわね。誤認拘束の事はここで謝罪させて貰うわ。でもね、彼等は悪気でやった訳じゃないから理解して頂戴」

「……」

私は絶句した

「私達はどうしろと?」

「朝鮮半島はもうすぐBETAに呑み込まれる。それを対応すべく私は最善を尽くしたわ。38度線の要塞陣地化、ソウルに戦術機の残骸などを利用し鉄壁を作り景福宮周辺を取り囲み絶対防衛線を張って復元工事を成し遂げる……朝鮮南部にいる衛士や将校達は今頃ピクニック気分でビールやキムチ、サムゲタンとか飲み食いしてるでしょうね。ふふふ」

ベアトリクスは笑いながらそう言った。

笑い事ではない!

黙って見ていた華太は口を開く

「ベアトリクスの姐さん、それは言っちゃいけねえと思います」

「おい華太、よせ」

彼奴、感情が激しいところあるからな。

ここで何もせずに粛正されるのは御免だ。

「姐さん…私の事を言ってるのかしら?」

「アンタが世界を変えてくれたおかげで俺達極道は生きているんだ。任侠を貫いてる」

「ふむ、それは理解していると?そう言いたいのね」

ベアトリクスは冷静に振舞い私達に紅茶が入ってるティーポットをカップに注ぎ淹れそれを差し出す

「ダージリンティーよ」

当然ながら私は警戒する

紅茶に毒が入ってるんじゃないか?と疑ってる

「いつまで立っているの?座りなさい」

そう言われて私達はソファーに座り込む

私と鈴乃は紅茶の匂いを嗅ぐ

「(良い匂いだ…)」

しかし、安易に飲む訳にはいかない

「ふふふ、そんなに私の事を疑ってるのかしら?」

ベアトリクスは妖艶な笑みを浮かべ紅茶が入ってる自分のティーカップに口に付けつつ啜り飲む

「大丈夫よ。安心して飲みなさい」

私達を籠絡させるつもりだろうが――――彼女の犬に成り下がるのは誇り高き日本帝国軍衛士として恥晒しだ

紅茶を啜り飲みながら笑みを浮かび続けるベアトリクスは私にこう言い放った

「―――――我々東欧州社会主義同盟は国連に屈服させて如何にもBETA大戦を早期終結できるか?模索している。逆らえない様思い知らせてやるわ」

この女……国連を敵に回すつもりか?

「事務総長は我々の方針を賛同してるわ」

信じられない…あの国連だぞ。ベアトリクスは一体何を……!?

「今日はクリスマスイヴなのに邪魔してごめんなさいね」

「え?あ、いいえお気になさらず。私達は単に休暇デートで」

悪意はないとはいえ、元はと言えば国家保衛省の連中が仕出かしたことだ

彼女は東ドイツだけでなく北朝鮮を支配してる独裁者だ

私はベアトリクスにある映画の話を語る

「ブレーメ総帥、『独裁者』という映画はご存知でしょうか?」

「ええ、知ってるわ。確かチャールズ・チャップリン主演の映画ね」

「本物の独裁者を床屋と間違えて逮捕され逆に床屋は将兵達によって独裁者に間違えられ、司令官と共に丁重に扱われ最終的に床屋が独裁者と間違えられたまま、軍に占領された国の首都へ連れていかれ、大勢の兵士が集う広場で演説を行い―――それは自由と寛容、人種の壁を越えた融和を訴えるものであり演説を終えた床屋は兵士達の拍手喝采の中、映画のヒロインに対して、希望を捨てないようラジオを通じて語りかける。貴女はあの映画の独裁者みたいになろうとしているのですか?」

戦場で死ねないのは惜しいが、私は命を捨てる覚悟でベアトリクスに向け真剣な表情で言い放った

「ふむ…それはどう言う意味かしら?」

それに対しベアトリクスは不敵な笑みを浮かべる

ファルカが執務室に入り敬礼し報告する

「失礼します。総帥閣下、準備を整いました。金九広場で?」

「ええ、そうよ」

…………。

「帰って良いわよ。もう話は終わったから。ミューレンカンプ少尉、2人を見送りしなさい」

「―――は」

最悪のクリスマスイヴだ。

私達は平壌基地に帰ろうとしたその時、朝鮮武装警察軍の保安隊の隊長らしき男性が執務室に入って来た

「ブレーメ総帥閣下、この戦域に駐留してる中韓連合軍の事ですが如何なさいますか?」

その一言でベアトリクスは即時に決断した

「……我々の脅威となるならば対処しなければならない。言わなくても分かるでしょ?」

私達に配慮して遠回しに保安隊隊長に言い向けた

「では」

「下がれ。良い結果を待ってる」

「は!」

男はベアトリクスに敬礼し去っていった

「ファルカ」

「は!坂崎大尉、此方へ」

ファルカに誘導しつつ私達は平壌基地に帰った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平安北道 新義州市 中韓連合軍総司令部

司令室

 

一方その頃、中韓連合軍の将校達は今の現状を見て、ベアトリクスが今何しようとしているのか?推測しつつ困惑していた

「BETAは徐々に侵攻し変わらず。か」

総司令官は真顔で呟く

「そうみたいですね。我々もいつ生き残るか瀬戸際に立っています」

副司令は不安げな表情を浮かべつつこう言った

その時、下士官らしき兵士が司令室に入り、狼狽の声を上げる

「司令!テレビを付けてください!」

「何事だ!」

「と、とにかくテレビを!」

総司令官は頷き、副司令は即座にテレビの電源を入れる

金九広場に集う約600万人の朝鮮人

壇上にベアトリクスが立ち誇らしげで余裕がある笑みを浮かべつつ民衆の前に言い放ち演説する

《同志の皆さん!今日、朝鮮革命は新たな転機を迎え我々東欧州社会主義同盟と朝鮮軍と人民は、ユルゲン・ベルンハルト同志とアイリスディーナ・ベルンハルト同志の不滅の太陽旗のもとに一掃固く団結しており、彼の遺訓を守って自主の道、先軍の道、社会主義の道を真っ直ぐに前進し、我々は厳しい試練と難関の中でもユルゲン・ベルンハルト同志が譲り渡した貴い革命的遺産を堅く守り抜き、さらに輝かす事によって、より大きな勝利を収める事のできる強力な土台とカギを手に入れる事が出来た!

今はもう国連がBETAとの対決において主導権を確固と握るようになり、経済強国の建設と人民生活に転換を齎す事は時間の問題となった。

我々は、ウルスラ革命を完遂したその精神、その気迫で経済建設と人民生活に画期的な転換をもたらし、戦闘国家の高峰に勝利の赤旗を翻さなければならない。

我々が強盛国家の建設を力強く推し進めるためには、革命の参謀部であり嚮導的力量である統一党を組織的、思想的にいっそう強化し、全人民を党のまわりに固く団結させて党政策の貫徹へと奮い立たせ、人類が一つの思想・意志で固く団結し、統一党と人民が渾然一体となって革命と建設を推し進めることは、偉大なユルゲン・ベルンハルト同志とアイリスディーナ・ベルンハルト同志の願いであり伝統的な革命方式であり、ユルゲン・ベルンハルト同志とアイリスディーナ・ベルンハルト同志は、我々を唯一思想体系と唯一的指導体系が確立し、人民大衆の中に深く根を下ろした不敗の統一党に強化、発展させ、鉄のように団結した人民大衆の革命的熱意と創造的力に依拠して隆盛、繁栄する社会主義強国を打ち立て、勝利と栄光を記してきた党と盾に忠誠誓い紅く染められた旗と、この地に齎された社会主義の獲得物には、領袖は統一党員と人民を信じ、統一党員と人民は領袖を絶対的に信頼し忠実に従ってきた一心団結の誇らかな歴史が秘められている。我々は、ユルゲン・ベルンハルト同志とアイリスディーナ・ベルンハルト同志が築き上げた不滅の世界の業績を財宝として捉え、一つの思想・意志で固く団結し、人民大衆の中に深く根を下ろした強力な戦闘的参謀部としてさらに強化、発展させ、人民の渾然一体の威力によってこの地に全世界が仰ぎ見る天下第一の強国、人民の楽園を必ず建設しなければならない》

司令室にいる兵士達は絶句

絶句という表現しかなかった

《朝鮮革命の新しい時代の要請に即して我々を一掃強化し、強盛国家の建設を力強く推し進めるうえで、党細胞の位置と役割はきわめて重要であり。党細胞は統一党の党生活の拠点であり、大衆の中に張りめぐらされている党の末端神経であり、党政策貫徹の先兵であり、我々さえ強ければ、いかなる逆境の中にあっても党は微動だにせず、この世に恐るべきものも、不可能な事もない。

党細胞の強化は統一党強化の第一歩となり、キーポイントとなるため、党中央はドイツ社会主義統一党第13回党大会代表者会議後、党活動を改善するための最初の大会として細胞書記の大会を招集し、この大会を党大会や党代表者会議に劣らず重視している。ドイツ社会主義統一党第12回党大会が党の戦闘力を全面的に高め、強盛国家の建設を推し進めるうえで画期的な転機となるようにする為には、大会の参加者をはじめ統一党の細胞書記が党の意図をはっきりと認識し、党細胞の活動を根本的に改善、強化していかなければならない!》

中韓連合軍の総司令、副司令、通兵士達――――司令室に入り込んだ衛士5人は慌てつつ画面を凝視する

《統一党員の間でユルゲン主義の教育を着実に行い、彼らを理想と思想、先軍思想で武装させ、革命の首脳部決死擁護精神と社会主義への確固たる信念、強い反帝階級意識を持った熱烈な革命闘士としてしっかり育てるべきであり、統一党の初の党組織である建設同志社の熱血闘士は、全ての党員が見習うべき亀鑑だ。

我々のように徹底した信念と清らかな良心をもって統一党と領袖に従い、一心団結の代をしっかり受け継いでいくようにするための教育活動を力強く行わなければならない!現段階において党細胞に提起される最も重要な課題は、名誉党員を第2の私、ベアトリクス・ブレーメ。私の後継者、真の同志、戦友に育てる事であり、全ての統一党員を真のユルゲン主義者に育てる事は、我々を永遠なるユルゲン・ベルンハルト同志、アイリスディーナ・ベルンハルト同志の統一党として強化、発展させ、強盛国家の建設と朝鮮革命の最後の勝利を達成するための先決条件であり決定的保証であり、ユルゲン主義者とは、ユルゲン主義を確固たる信念とし、我々の指導のもとに人類の勝利を目指して全てを捧げていくユルゲン・ベルンハルト同志とアイリスディーナ・ベルンハルト同志の真の戦士、教え子の事であり党細胞は党員を真のユルゲン主義者に育てることを基本とし、党組織思想生活の指導に力を入れなければならない》

ベアトリクスの言葉を聞いた総司令は焦りだし怯えだす

「グウウ…ベアトリクスめ!好き放題言いやがって」

《細胞の中に高い統一党組織観念に基づく自発的な党生活気風を確立し、党員を党組織生活の溶鉱炉で鍛え、党と領袖、祖国と人民に対する限りない忠実性と強い組織性、規律性を身につけた、逞しい革命家に育て上げるべきであり、統一党員を真のユルゲン主義者に育てるうえで特に注目を払うべき事は、彼らに人民を愛し人民に献身的に奉仕する精神を深く植えつけ、それは本質において人民大衆第一主義であり、人民を天の如く崇拝し、人民のために献身的に奉仕する人が他ならぬ真のユルゲン主義者であり、ユルゲン・ベルンハルト同志とアイリスディーナ・ベルンハルト同志を戴くように、人民を崇め人民の為に全てを捧げようとするのは統一党の確固たる決心なのだ!》

「……我々はベアトリクスの奴隷ではない!皆騙されるな!全てハッタリだ」

と総司令は言い放った次の瞬間、朝鮮武装警察軍の兵士が司令室に入りこの場にいる総司令、副司令、兵士達。衛士5人に銃口を突き付ける

保安隊隊長が総司令に冷徹な言葉を放った

「中韓連合軍は本日をもって解体だ!これは親愛なる指導者ベアトリクス・ブレーメ総帥閣下の直々の命である」

「貴様達は我が軍を解体してどうするつもりだ!?」

総司令が言う事も無理はない

理由なき軍を解体しようとしていた

冷酷非道…保安隊隊長は冷徹な視線でこう言い放つ

「知る必要はない。連れて行け!」

「我々の敵はBETAだぞ!」

「貴様みたいな叛乱分子を摘発しなきゃノルマは達成出来ないんだ」

総司令は保安隊隊長の言葉を耳貸さず断固拒否した

「解体は断固拒否する!」

しかし、それが逆効果だった

「はぁ、此奴だけ鳩拷問しろ。あとは適当に処刑だ」

保安隊隊長は悪魔みたいな顔で言い放ち、この場にいる全員第14号管理所と呼ばれる強制収容所へ連行された

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咸鏡南道耀徳郡大淑里

韓国義勇軍司令部

 

韓国義勇軍の衛士達も数十人集ってざわざわと騒ぎつつテレビを見ていた

《「全てを人民の為に、全てを人民大衆に依拠して!」というスローガンには、統一党に人民への愛と信頼の精神を漲らせようとする党の意志が込められ、幹部と党員は、誰もが我々東欧州社会主義同盟の衛士達や第666戦術機中隊の衛士が一生涯歩んできた人民愛の道を我々とともにしっかりと歩み続ける真の同志、戦友になるべきだ!党細胞は、幹部と党員に私の崇高な人民観を深く体得させ、彼らが人民を自分の父母妻子のように思い、愛するようにすべきだ。特に、幹部が所属している党細胞は幹部を人民の真の忠僕にならしめることを重要な課題とし、党生活指導と掌握、統制を強化しなければならない。私は当初から幹部の間に見られる権力乱用と官僚主義、東西ドイツでの派閥争いを、政権を握った労働者階級の党が最も警戒すべき危険な毒素と見なし、それに反対する戦いを一貫して繰り広げた》

「これは……」

義勇軍の総司令は真っ青な顔だ。副司令は驚愕しつつ唖然

「司令!」

《私、ベアトリクス・ブレーメも「人類に奉仕しBETAを殲滅する!」というスローガンを示し、統一党を権力を振るい、官僚主義的に振舞う党ではなく、鬼畜独裁者エーリヒ・シュミットが率いたシュタージみたいに不特定多数の人民を弾圧し無差別的に虐殺され東西ドイツを蝕んだ元凶ハインツ・アクスマンは自分だけ逃げようと画策し他人を利用したエゴイストそのもの。彼等みたいな人間を指導者と言う肩書を持ち国の未来の事を任せる訳がない!人民大衆に忠実に奉仕する母なる統一党として強化、発展させるために労苦を尽くし心血を注いだ!》

第630大連合部隊の隊員がズカズカと司令室に入り込む

「本日もって韓国義勇軍は解散だ」

「何だ貴様等は!」

総司令は狼狽の声を上げるが、多勢に無勢だ。

部隊を率いる隊長は総司令に向け威圧を掛けながら言い放つ

「貴様等は朝鮮半島の恥だ。よくも貴重な武器を鬼畜米帝に横流ししたな?」

隊長の問いを聞いた総司令は醜悪な論理を吐き捨てる

「だから何だって言うんだ!戦術機開発のルーツはアメリカだぞ!アメリカに我が軍の武器と戦術機を横流しして何が悪い?困ってる相手国は放っておけないだろう。これも朝鮮半島の為だ…ベアトリクスなら分かってくれる筈だ!」

ベアトリクスの名を勝手に使い隊長にこう言い向けたが、当然許される訳がない

「――――全員連れて行け!」

「了解!」

韓国義勇軍総司令は抵抗し第630大連合部隊隊員を殴るが大人数の前に成す術がなくあっさりと拘束される

「こんな事して貴様等は一体何をしようと!!?」

総司令の一言で隊長はブチ切れた

「貴様等はBETA駆逐任務を成し遂げた。がもう用済みだ―――――それに加えて貴重な武器と弾薬、戦術機を横流しするなど言語道断だ」

この場にいる全員第15号管理所と呼ばれる強制収容所へ連行され、そして中韓連合軍、韓国義勇軍は強制的に解体された

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

年が明け1997年に迎えた。

平壌基地では監視役の朝鮮軍兵士含めブリーフィングルームで工藤中佐が考案した作戦を皆で考えていた

「白頭山要塞陣地陥落は中韓連合軍と韓国義勇軍の戦力不足だ。俺達衛士はなぁ、それを阻止できなかった。これは俺の責任だ」

工藤中佐は白頭山要塞陣地陥落の事は責任取ろうとしていた

違う―――違うぞ。

工藤中佐の所為ではない。

これはもしや朝鮮軍が動かなかったからか?

私はそんな事はないと思い込もうとしたがそうとは言い切れない

悔しい…上の命令があれば私達は動ける

でも動けない――――動けないんだ。

私は挙手して工藤中佐に問いを掛ける

「中佐、発言の許可を」

「ん、おう。言ってみろ」

「は!我々日本帝国軍はこの地で何しに来たのでしょうか?」

疑問だらけだ―――――今思い返せば出撃命令が全く出ていない。

「それはどういう意味だ?坂崎大尉」

工藤中佐は鋭い目線を向ける

「上の命令待つまで私達は動けない。それは理解しています―――ですが、これは明らかに異常です!出撃命令が一切出ていない。帝国軍だけじゃない朝鮮軍の上層部は私達を日本に帰らす気は毛頭ないかと」

「……」

工藤中佐は黙り込んだ。

鈴乃も異変に気付く

「確かに、ここに来てから出撃命令が下ってないわ」

華太も、城戸と浅倉もこの自治区の異常さに気付いた

「そう言えば一つもねえな」

「こりゃあ異常やな」

「同感です」

城戸は挙手し工藤中佐に言葉を投げかける

「ちょっと発言して宜しいでっか?」

「城戸か…構わねえ」

城戸は真面目な表情を浮かべる

「俺達の目的は朝鮮半島に蔓延る異星起源種の駆逐だった筈……一つも下されてへんという事はこれは明らかに国家保衛省に規制かけられたとしか思いませんで」

工藤中佐は城戸に向け怒りを隠しつつ指摘しようとしたその時、兵士がズカズカと急ぎ足でブリーフィングルームに入り慌てて工藤中佐に報告する

「申し上げます!ベアトリクス・ブレーメ総帥が中韓連合軍、韓国義勇軍の2つを解体し我が軍に統合され『朝鮮人民軍』と改名すると」

正直、意味不明で理解が全く追いついてこなかった

中韓連合軍と韓国義勇軍が解体!??

しかも朝鮮軍に統合だと………。

当然ながら私だけでなく鈴乃、華太、城戸、浅倉、泉屋少佐は驚愕し頭の中が真っ白に染まりつつ怒りを表す

「馬鹿な……この間までは何ともなかったわよ」

「何だこりゃあ……」

「もう双方にいた衛士達も粛正されたと思うわ」

「城戸の兄貴、確実だと」

泉屋少佐は無言でブリーフィングルームにあるテレビの電源を入れ映像を映す

その映像に映し出されたのは紛れもなく金九広場で朝鮮自治区の住人を集いその壇上に立って演説してるベアトリクスの姿だ

《1983年3月28日、東ドイツでの革命で勝利を勝ち取った我々は即座に準備を移った。我々はBETAという地球外生命体に勝たなくてはならない!それを伴い先ず、戦術機各部隊の編制、疎開禁止令を廃し国家の政府機能をアイルランドへ移動、更に朝鮮自治区…まさにここ朝鮮半島北部を統治。次々と重なる問題を成すすべきなのは朝鮮半島の軍事を纏め上げ無駄な編成を撤廃しそれを統一する事だ!》

無駄な編成か―――――理由は分からないまではないが幾ら何でも無茶苦茶過ぎる。

常識を逸脱していた。

《私は訴えたい!何があろうとどんな困難に乗り越えようとも我々は戦い続ける!欧州奪還、朝鮮の真の独立、BETA殲滅、人民たる有意義な戦いを!私の親友の兄であり恋人であった、ユルゲン・ベルンハルトは月光の夜事件で当時の国家人民軍将校と共にクーデターを勃発しその後ユルゲンはハインツ・アクスマンによって実の妹であるアイリスディーナを強要し粛清された!

そしてモスクワ派とベルリン派での政治派閥争いをし、国家に革命をしかけたのである!

その結果は諸君らが知ってる通り鬼畜シュミット並びにアクスマンの敗北に終わった!

それは良い!しかしその結果欧州は西まで呑み込まれ日本帝国政府は増長し帝国軍並びに斯衛軍の内部は腐敗し、雄武という宗教テロ組織のような反政府運動を生んだ!これが人類を生んだ歴史である!!

ここに至って私は人類が今後、絶対に戦争を繰り返さないようにすべきだと確信したのである!!

それが朝鮮民主主義人民共和国の建国や朝鮮半島での軍事編成の真の目的である!!

これによってそれを叛旗を覆し我々の意向を逆らう人々を粛清する!!》

…………。

《諸君!もうすぐこの時が来る!24年間耐え抜いた人類はもうすぐBETAをこの世から抹消する時が来るだろう!――――――――――立てよ人民よ!今こそ立ち上がる時が来た!今まで犠牲になった衛士達や一般市民の弔い合戦をするべきであり人類の為に事を成さなければならない!我々は最後まで戦い抜け勝利を掴み取るのだ!朝鮮万歳!東西ドイツ万歳!祖国万歳!!》

映像に映ってる朝鮮自治区改め北朝鮮の国民達は歓声を上げ万歳と声を大きく響いた

そして拍手喝采

皆、全員拍手喝采する

が、1006戦術機連隊の衛士全員は口が開いたまま唖然とした。

私達も含めて。

工藤中佐も溜息をつき呆然する。

東欧州社会主義同盟においては、総帥は以下のように記されていた。

統治権を総攬する元首である。

陸海空軍(=軍隊)を統帥する。

最高評議会、人民議会の協賛を以って立法権を行使し、最高評議会もしくは人民議会が議決した法律を裁可若しくは拒否する。

国家保安省長官によって輔弼される。

司法権はその名において法律により裁判所が行う。

である。

つまり事実上ベアトリクス率いる東欧州社会主義同盟は独裁体制だが彼女の事を好評を得ているからか誰一人も不満を抱く者や反感を抱く者はいなかったのだ。

北朝鮮にいる一部の朝鮮人はベアトリクスだけでなくアイリスディーナまで個人崇拝してる者もいる。

このような状態になったのはかつて東ドイツで活躍していた一人の少女の功績や戦果により影響があり、ウルスラ革命でベアトリクスは勝利を勝ち取った事により朝鮮半島北部の朝鮮自治区を統治し『朝鮮民主主義人民共和国』と言う名の国家を建国するまでに至った。

当然ながら朝鮮自治区に駐留してる日本帝国の帝国軍並びに欺衛軍や中韓連合軍、韓国義勇軍、大東亜連合軍の将校や衛士達は「何故、東ドイツのシュタージが朝鮮北部に居るんだ?」と疑念を抱き叛乱を模索したがベアトリクスを熱狂に崇拝する一部の朝鮮人の密告により全員拘束

強制収容所に収監し朝鮮半島繁栄の為に強制労働される

―――――くだらん。

まあ、ベアトリクスが言ってる事は残念ながら事実だ。

偏見な事だが、北朝鮮は日本の統治を反対していた人間の集まりだ。

彼女2人を個人崇拝するのは勝手だが、幾ら何でも極端過ぎる。

「工藤中佐、私達の敵は東欧州社会主義同盟の連中でしょうか?」

「ん?何故そんな事聞くんだ?」

「BETAの筈です。一体誰と戦って…」

弱音を吐いた私は工藤中佐に喝を入れられた

「馬鹿野郎!お前は分かってる筈だ!俺達の敵はな…BETAだけじゃねえんだ。世の中を蔓延る人間の皮を被った外道も敵だ。仁義と任侠なんてねえんだよ」

確かにその通りだ。

坂元大尉は神宮司達を見捨てた衛士の恥晒し。尾崎大尉も外道に寝返り仁義と任侠を捨てた衛士。

それに対し伊隅は真面目で礼儀正しい訓練衛士だ。もう卒業して正規衛士になったがどの部隊でも馴染めるだろう

「北朝鮮と言う国が建国された今、何をすべきか……」

私と鈴乃、華太、城戸、浅倉は今どうするか考えている

「都、明日は国連軍の連携作戦のブリーフィング。彼女達が割り込んでくる可能性は高いわ」

鈴乃は不安を募り華太は困惑していた

「連中の事だ。上手くやってくれるさ」

「そやな」

「城戸の兄貴と同意見です」

そして工藤中佐はこの言葉で締める

「明日は気合い入れとけよ。分かったな?」

私含め衛士達はハッキリとした声で「はい!」と一言を添え、今日の会議は終わった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

平壌基地

会議室

 

会議室内には東欧州社会主義同盟の衛士は勿論、朝鮮軍改め朝鮮人民軍衛士、国連軍衛士、将校。帝国軍衛士12人は不穏な空気で南へ侵攻するBETAの数を削減を試みていた。

この作戦の指揮を担当するのは国連軍ではなくヴェアヴォルフ大隊の長である二コラが指揮を執る事になった。

「白頭山から1.5㎞近くにBETA群が侵攻、南へ一直線に進み江界、恵山、清津、羅津のそれぞれの方向へと突破。解体した中韓連合軍や韓国義勇軍は4つの防衛線を展開したがどれも全滅。当然ながら帰還した衛士は0だ」

朝鮮半島の地図をパソコンである部分拡大し分かりやすく作戦内容を説明する

「ヴェアヴォルフは平安南道、威鏡南道の二手に分かれ一個小隊で前方砲撃、後方支援、中距離射撃、長距離射撃の4つを展開だ」

私は挙手を上げ意見を述べる

「上申します。ミヒャルケ少佐」

「何だ?意見あるなら聞くぞ」

この女は元々ベアトリクスの副官だ。

彼女の期待を応える為に国の貢献で働いた

ただ、それだけだ

「少佐は、かつては無能な指揮官として部下の指摘を聞かなかったそうじゃないですか」

作戦には無関係な事だが念には念を入れる

二コラは私の問いに対し睨み付けながらこう言った

「それは作戦に関係ある事なのか?確かに私はブレーメ総帥の側近だ。しかし東ドイツ反体制派の作戦を見抜いてなかったのは事実だし言い訳は出来ない。私達が今生きてるのはイングヒルト・ブロニコフスキーという地主貴族の女性のおかげだ」

と二コラは誇らしげな笑みを浮かべる

「あと、貴様もとある教団を壊滅に追い込んだようだな。彼奴等はやり過ぎた。粛正されて当然だ」

いや、教祖と幹部数名は塀の中だ。

まだ死んではいない

「……言いたいことはそれだけか?坂崎都大尉」

「……」

私は反論しなかった。

くだらない論争する暇があるなら異星起源種を駆逐する事だけ考えろ!と私の心に聞いた。

「――――作戦会議を続けるぞ」

二コラが掲げる作戦の内容はこうだ。

国連軍、日本帝国軍、東欧州社会主義同盟による一大反抗作戦“光明星作戦”。これはブラゴエスチェンスクハイヴに強襲上陸を仕掛ける前提で朝鮮半島の前線に押し寄せるBETAを軽減、可能ならば前線との包囲殲滅を行うというものだった。とはいえ前線との包囲殲滅は不可能と思えるほどに遠いためにこれは可能ならば程度となっている。

これは紛れもなく人類史上欧州での一大反抗作戦『海王星作戦』の丸パクリだ。

自分で考えた作戦じゃないのか……恐らくベアトリクスが西側に半ば脅迫して推奨したのだろう

これを成功させることが出来れば最終防衛線に殺到するBETAの数を減らし、戦局を好転させられるかもしれない。

「北部戦域は朝鮮人民軍、中央は貴様等日本帝国軍、南部は我々東欧州社会主義同盟が担当する。各戦域40キロの縦深を行う。これが出来れば我々と貴様等は稼ぎ出された時間を利用して防衛ラインを大幅に強化する事も可能だ。場合によっては前進も出来るだろう」

二コラの言葉を変わり、具体的な説明をするのはこの作戦の参加を決定したカタリーナが言った

「国連主導の作戦ではあるが人類の命運を左右する戦いである事を忘れるな!」

この作戦の指揮は国連軍ではなく東欧州社会主義同盟だ。

無論、今更参加拒否なんて出来ない

「……とはいえこの作戦において大なり小なりBETAを駆逐できるはずだ。成功すればいう事はないが失敗したとしても……、損害は大きいだろうが防衛線の負担を減らすことが出来る。必ず成功させるぞ」

私達含めこの会議室にいる衛士達は「はい!」と一言を添えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミヒャルケ少佐」

「……何の用だ?」

平壌基地の格納庫で自前の戦術機であるアリゲートルの調整を行っていた二コラに私は後ろから声をかけてきた

二コラは私の方を一切見ず、調整を続ける。私の方も背を向けずに話し始めた。

「少佐、その機体はかつてベアトリクス・ブレーメ総帥が専用機として使用したアリゲートルですね。まだ現役でご活躍してるのですね」

「…この機体は2代目だ。ブレーメ総帥が革命に勝利した後に献上して貰ったんだ」

「2代目?ではブレーメ総帥が乗ってた機体は」

「後にテロリストに成り下がったテオドール・エーベルバッハが乗ったチボラシュカツヴァイとの戦闘で修復不可能まで至ったから廃棄処分された」

チボラシュカツヴァイは確かテオドール・エーベルバッハ専用機として戦地改修された機体だ。

第二世代機のアリゲートルと互角の性能と出力、テオドールによる戦術でベアトリクスが乗ったアリゲートルを倒す寸前まで至った。

彼の戦術ならチボラシュカで編成した戦術機部隊を倒す事は容易かっただろう。

だが、『廃棄処分された』というのは表向きだ

「ミヒャルケ少佐、その機体はブレーメ総帥がかつて乗ってた本物の機体ですよね。嘘を吐くのやめて貰っていいですか?」

「……」

都合が悪くなったら黙口か。

「少佐」

「………管制ユニットだけはブレーメ総帥が乗ってた本物の機体だよ。あとは予備機の部品だ」

管制ユニットだけは本物か――――どうも嘘っぽい。

私は疑心暗鬼を生む。

「……」

「アイルランド・ケリー州や平壌にあるブレーメ総帥専用のアリゲートルはレプリカだよ。一応動かす事出来るぞ?」

ふむ…成る程。だがどうでもいい情報だ

私は二コラの言葉に呆然しその場を離れる。そんな私に二コラは一言だけ答えた。

「この作戦は海王星作戦と同規模になるだろう。我々が前線に出れば戦局は好転する。それだけは覚えた方が良い」

「………了解しました」

私は立ち去ろうとしたその時、二コラはもう一人の人物に声をかけた。

「先程から見ているの気付いてるぞ。ディーゲルマン中尉」

「バレちゃったか。一応気配消してたけど」

「影で分かるだろ……」

物陰から姿を見せたのはカタリーナだ。

カタリーナは二コラの背に背中を預けて座る

「二コラ、いやミヒャルケ少佐」

「何だ?言い改まって」

「少佐の背中はあたしが守るわ。長い付き合いでしょ?」

二コラは小さな笑みを浮かべる

「頼む。帰還出来たらカリーヴルストや平壌冷麺を御馳走してやろう。坂崎大尉も一緒にだ」

「あ、ありがとうございます」

気に入られたようだ。

そういうと二コラは調整を終えて立ち上がり、カタリーナが向く方向とは逆に歩き出した。

「生き残ろう。理不尽な現実を向き合うのが私達の戦争かもしれない」

二コラの言葉にカタリーナは満面の笑みを浮かべて答えた。

二コラに見えていないのが残念だったと思えるほどの笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私達は東欧州社会主義同盟や朝鮮人民軍の衛士や将校達の交流や親睦を深める等の平和的な一コマがあったが、それも艦隊が咸鏡南道楽園群近郊に到着するまでだった。

《時間だ。坂崎大尉》

「はい――!総員傾注!作戦開始の時刻となった。これより艦砲射撃を行い、沿岸部のBETAを殲滅。その後は内陸部の掃討に移る……行くぞ!」

数秒後、日本帝国海軍と朝鮮人民軍海軍の全艦艇による艦砲射撃が開始された。ここに朝鮮半島最大の激戦と呼ばれるようになる光明星作戦が幕を開けたのだった。




いつも作品見ていただきありがとうございます
今回の話も朝鮮半島北部での派遣任務…所謂北朝鮮ですね
作品劇中では北朝鮮は12月24日と25日はクリスマスムード一色に染められていますが史実では逆なんです
それどころかクリスマスを祝う習慣は存在しないんです
恐らく金一族の独裁の影響でしょうけど、キリスト教に対する弾圧が非常に厳しい北朝鮮にはクリスマスツリーは無縁でしょうね。
とどのつまり、北朝鮮国民は大々的にクリスマスを祝う事は不可能
特に若者はクリスマスの存在を知っており正確な由来は知らなくとも、韓流など海外のドラマや映画でクリスマスを祝っている様子を見て、12月25日は世界的に祝われる日であることを認識しています。
中には、この日に合わせてプレゼントを交換する人もいるようです。
クリスマスパーティーを開いたり、ツリーを飾る家庭を見かけたら即逮捕
そう思うと史実の北朝鮮は怖いですね(-_-;)
いやホントに(-_-;)
月刊MR…MUV-LUV REGENERATIVE。購入しました!
今まで買えないと思い込んでましたが、コンビニ決済で買うことも出来ると知って即購入です!やっと買えた…内容見たところ、臼杵咲良は両親から愛情を注がれて育ったんだなと印象を受けました
次回も朝鮮半島の派遣任務です!朝鮮半島最大の激戦―――光明星作戦の話です。
この作品を…トータルイクリプスサンダーボルトや他の作品、Pixivで投稿した作品を読んで頂けた全ての方々に感謝しつつ、今回はここで筆を置かせて頂きます
ではまた


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The only truth I know is you

今回も朝鮮半島派遣任務の話です



私の名前は坂崎都

人生の波に乗り遅れる寸前に至った日本帝国軍の女性衛士だ。

私は少々ヤンチャに生きてきた

「と、富子ちゃんをワンパンで!?」

「デカい口叩いといて……この程度か」

「やっぱり『狂犬坂崎』には誰も敵わないのよ!」

曲がった事が見過ごせない性分で、地元の馬鹿共はいつも喧嘩三昧

その所為って言ったら語弊あるが講義の方はからっきしだった

「坂崎、日本での政治・軍事全権を皇帝に代わり代行する帝国最高権力者とは何だ?」

「あ、暴れん坊将軍」

「それは徳川吉宗を主人公とした時代劇ドラマ…」

衛士訓練学校卒業出来たのは奇跡じゃないかと今でも疑っているくらいだ

こんな風に生きてれば普通は見えないものだって見てくる

「お姉さん相手してよ」

「うう…」

「頼む一回だけ!ヒャヒャヒャ!」

お天道様に顔向け出来ない真似をしている阿保な衛士なんかがな

「貴様等、今すぐ地面を掃除して走って消えろ…なら許してやる」

「あー!馬鹿が登場しましたよぉ!」

「何此奴、やっちゃう?」

基地内で飲酒喫煙するなど言語道断だ。

もしも人より腕っぷしが強いのなら、それを誰かの為に使ってほしいものだな

私は阿保衛士2人纏めて鉄拳制裁した

ガッ

「グエエイデエ…」

「顔面が…」

「地面、綺麗にしておけよ」

こんな格好悪い真似やって自分が気持ち悪くならないのか?

幼少の頃に死んだお婆さんがよく言ってた

「お前は人より力が強い。その力は自分の為ではなく誰かの為に振るいなさい」

「そうしたらどうなるの?」

「みんなから好かれて貴女が幸せになるよ」

あの言葉は今も胸の中にある。

だから私は人の道を外れたりはせず善良な衛士になれたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

艦砲射撃と共に始まった光明星作戦。この奇襲攻撃で人類は沿岸部の敵を排除、橋頭堡を確保する……筈だった。

「ば、馬鹿な!?」

その言葉を叫んだのは誰だったのか。もしかしたら全員だったかもしれない。確かに沿岸部には光線級がいた。しかし、事前の調査でそれは少数であり、被害は受けても艦砲射撃で殲滅出来ると思われていた。

艦砲射撃が始まると、当初に確認していた10倍の数で以て全ての砲撃を迎撃した。

「光線級の数事前情報の10倍、いやこれはそれ以上です!」

「BETAはこの作戦を読んでいたというのか!?だが光線級は一発を打つのに時間がかかる!今のうちに……!」

その言葉が最後まで言われる事はなかった。声の主が乗艦した船が光線級の一撃を受けて爆発した為である。

今度は迎撃されることもなく沿岸部に命中していく。充填が完了した光線級が迎撃と攻撃を行っていくがそれも数が減っていく。それを8回ほど繰り返すと光線級の攻撃は完全に止んだ。

「よし! 各戦術機は内陸部の敵の掃討に入れ!」

予定よりも手痛い打撃を受けた朝鮮人民軍海軍も戦術機を輸送する船に被害はなく、何の問題もなく次の攻撃に移る事が出来た。

《坂崎大尉。どうやらBETAの動きは大分此方に対応してきているようだ》

「問題ありません。ミヒャルケ少佐。我々はどのような敵であろうとも祖国日本の為に戦うだけです」

《……そうだな。私も祖国ドイツを取り戻す為に戦うだけだ》

出撃の準備が整い、格納庫に収納していた撃震が上昇していく。全機出撃準備が整い私の号令待ちとなった。

「敵の動きはこれまでのように単調なものではない可能性がある。だがそれがどうした?我等は日本帝国の戦術機部隊である!その実力を今こそ示すぞ!全機出撃!」

その言葉に合わせて一斉に跳躍ユニットを点火。一斉に船を出て前線へと飛びだっていく。そして中央戦域に辿り着いた私率いる坂崎中隊とニコラ率いるヴェアヴォルフ大隊は二手に分かれて襲い掛かるBETAへの攻撃を開始した。

「ちっ! 予想外に多いか……!」

長期戦になる事を踏まえて銃火器による遠距離攻撃を行っているニコラはレーダーに映る敵の数を見てそう毒づいた。BETAは当初の予定は5000もいればいい方だと考えられていたが蓋を開けてみれば1万は確実に超えていそうな数が存在していた。明らかにこちらの動きに合わせているとニコラは感じていた。それは私も同じようで、周辺のBETAを駆逐し終えると通信を行った。

「総員傾注。ここで小休止を取る。各員、マガジンの残弾を確認しておけ。長期戦になる。休めるうちに休むぞ」

私達はここで小休憩する。無駄に体力を消耗したくないからな

本来なら却下される筈だが、二コラは違った。

《休めるだけ小休憩したほうがいい。あとが大変だからな》

なんと快く承諾したのだ

競争相手がいないこの戦域は東欧州社会主義同盟にとっては好都合でやりやすい

私は秘匿回線に切り替え華太と会話した

「華太、少し構わないか?」

《お、おう。都どうしちまったんだ?》

「……華太、貴様は頼りになる男だ。衛士でなくても仁義や任侠を貫いて生き延びるだろう」

《やらなきゃやられるんだ―――渡世では死と隣り合わせ。何が言いたいんだ?》

この様子じゃまだ分かっていないようだ。本音を言うか

「日本に帰ったら、結婚を前提に付き合って貰えるか?」

《お前、それって》

「ああ、私からのプロポーズだ」

プロポーズした場所が北朝鮮の戦域なのは笑えない

景色が綺麗な場所でしたかった。

「ダメ、なのか?」

《……》

華太は悩みながら考え、こう答えた。

《俺も都の事が好きだ。良いのか?俺と付き合うという事は生活が苦しくなるぞ?》

「構わん」

《……そうか》

華太にプロポーズした直後、レーダーが新たなBETA群を捉えた。その数は3万以上。東欧州社会主義同盟や朝鮮人民軍が展開する戦区の境目を縫うように向かってきていた。

私は秘匿回線からオープン回線に切り替える

そして皆に号令を出す

「総員傾注!これより我々は敵の前衛に飛びこみ足止めを行う」

《あの数の群れに突っ込むのね……》

《おお、数が多いぞ…》

《当たり前田のクラッカーや》

《城戸の兄貴は場を和ますのは上手ですね》

11機の撃震が低空で突撃する。6機が前衛、5機が後衛で攻撃を行う。

目の前にいるのは突撃級。数は3000。5層以上の波で進軍している

「突撃級は総員非装甲部を狙え!間違っても正面から挑むなよ!」

私の指示に合わせて突撃級の後方に銃弾を叩きつけていく。場合によっては砲弾すら防ぐ装甲を持つ突撃級だがそれは正面のみの話である。後方や脇は他のBETAと同じ硬さしかない。

そして先頭の突撃級が倒れたことにより後方の突撃級がぶつかり、身動きが取れなくなっていく。そこを一匹ずつ仕留めていくがそれでも数が多すぎて対処が難しくなっていく

「北朝鮮の艦隊が私達を砲弾の雨に晒される前に撤退だ」

《坂崎大尉、それは許可出来ないぞ。南側で戦ってる私達を援護しろ》

撤退させない気か!?

このままだと犬死になるという事が分からないのか!?

「ミヒャルケ少佐!それは自殺行為です!」

《日本の衛士は玉砕覚悟で戦うのだろ?だったら最後まで戦え。貴様の意見を聞くに値しない!》

何を言ってるんだ?この女は

自分達が率いてる部隊を全滅するまで戦えって言うのか。

この言葉を聞いた私はブチ切れた

「少佐…最後まで戦えと言うなら戦力の消耗を考えて先に撤退するのが良い選択だと思いますが…」

《これは我々が考えた作戦だ!口出しする権限など最初からない》

「その作戦は海王星作戦の丸パクリですよね?自分達が考えた作戦…?ふざけるのも大概にして頂けないでしょうか?」

撤退をしようとしない二コラに対して私は怒りを覚え、咆哮する。

「部下の指摘を聞かない衛士が真面な作戦練れる訳がないだろうが!いい加減現実を直視しろ!少佐はブレーメ総帥の側近で凄い衛士だと思ったが、何も出来てないじゃないか!ただ強引に部下を死なせるだけだろ!みんな生き延びようって思うのは全員同じなんだ!不安なんだ!どれだけ戦績を得ていても二度と返ってこないモノがあるんだ!それを失わせない為に必死に戦ってるんだよ!衛士を捨て駒扱いする奴は指揮官以前に衛士を名乗る資格はない!」

《ぐ……!》

目の前に迫る回避できる死を回避しない事がどれほど愚かなのか。そしてそれを分かっていない二コラに私は怒りの言葉で叫んだ。

階級が上下なんて関係ない。

資料で見た通り、やはり二コラ・ミヒャルケという女性衛士は無能指揮官だ。

ノイルピーン市街戦でどうやって生き延びたかは知るまでもない

「どうなんです?二コラ・ミヒャルケ少佐!」

《ぐぬぬ……》

言葉に詰まる二コラは焦り出し困惑した次の瞬間

《二コラ、撤退させなさい。戦力を無駄に消耗するのは駄目よ》

二コラに変わり指示を出したのはベアトリクスだった。

これには流石に逆らえなかった

《総帥閣下!私はただBETAを…》

画面越しのベアトリクスは二コラに威圧を掛ける

《私の命令を逆らうのか?ミヒャルケ少佐》

《ぐ…!分かりました…至急撤退します》

総帥の肩書を持つベアトリクスの指示という事もあって全機撤退を開始する。そしてその直後に砲撃が開始された。

そこにいるのは韓国軍と韓国に駐留してる日本帝国軍だ。

ストライクイーグルと撃震を編成した部隊か…。

《そこの戦術機部隊!聞こえているなら北西に迎え!脱出を支援する》

「それはありがたい!私は第1006戦術機連隊第1大隊『坂崎中隊』の坂崎都大尉だ」

《此方は大韓民国陸軍第2戦術機甲部隊『チュンチョン』チャ・オジン少佐だ。後方の要撃級は此方が対応する!》

分裂した朝鮮の片割れの支援を受けつつ私達は撤退を開始する。そして、途中ですれ違った部隊、在韓米軍のトムキャットが放ったフェニックスミサイルを目撃した。それはミサイル内に内蔵された無数の小型爆弾が目標地点に到着すると周囲にばら撒くというものであり、私達が11機で辛うじて抑えていた突撃級を全滅させる威力を見せつけた。

その様子に、一番のショックを受けたのは自分の能力に妄信しているとも言える二コラだった。

そして何も言えなくなった。

韓国軍やアメリカなどの西側諸国は力を蓄えて満を持してこの戦域に介入したのだ。

私としてはそんな経緯がある以上このくらいは出来て当然とさえ感じていた。だが、二コラにとっては自分達がどれほど頑張ろうとも無意味にさえ感じられる西側の力に悔しさで歯を食い縛るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

橋頭堡の確保に成功したことで元山には急ピッチで基地が建設され始めた。しかし、その建造速度は私達は勿論だが、二コラ率いるヴェアヴォルフ大隊の面々から見ても異様とも感じられるほど早かった。何しろたった半年で基地として稼働できるほどに建設されているのだからだ。

これが西側諸国の力だ。

幾ら戦力が高かろうが社会主義陣営である東欧州社会主義同盟や発足したばかりの朝鮮人民軍は余裕がない

「少ない戦術機で戦っているのが馬鹿馬鹿しく思うな。華太」

「ああ、その分衛士の質じゃ俺達が上だと考えればいい。囲まれた時に生存できる可能性が俺達の方が高いとな」

私の嫌味な言葉を聞いた華太は彼女の頭を撫でながらフォローするように言うが当の本人は好意を寄せる相手に撫でられている事もあって顔を真っ赤にして俯いている。

「と、当然だ。私はお前達の事を思って行動してるんだ」

「分かってるさ」

全く……華太と一緒に居ると調子が狂う……だが、不思議と不愉快ではない

私は優しい笑みを浮かべたその時

「あー、いたいた。こんなところにいたんスね。無能な人狼部隊の衛士様よぉ!」

その言葉とともにやってきたのは日本帝国軍の簡易ジャケットを着た三人の男女だった。そして先頭に立つ男は続ける。

「アンタが指揮官か?」

男は二コラに向け嘲り笑うような態度で言い放つ

「そうだが」

「日本帝国軍第5910戦術機大隊の久我虎徹少尉だ」

久我虎徹だと………!?

何で彼奴がここにいるんだ?それに里中まで…いや今はそんなことはどうでもいい

久我の姿を見た私達の表情は険しくなる。

「東欧州社会主義同盟戦術機大隊ヴェアヴォルフの長を務める二コラ・ミヒャルケ少佐だ。無能な衛士って私の事か?聞捨てならないな」

「ハッ、笑わせんな。アンタは無慈悲で東ドイツ国民を殺しまくってた癖に。革命に勝ったら総帥閣下の親衛隊の長か?舐めやがって…ふざけるのも大概にしろボケが」

「さっきから喧嘩売ってるようだが、自分の立場がどうなっても良いのか?」

久我の言葉に二コラが我慢出来なくなったのか食って掛かる。

彼の言葉は私達に撫でられているにも関わらず、現実に戻すほどの威力はあったようだ。

「謝罪を要求する。今すぐ跪いて土下座しろ―――”無能な自分達の所為で迷惑を被った”とな」

「貴様、何だその口の利き方は!粛正されたいのか!?」

二コラの言葉を聞いた久我は冷徹な目線を向ける

「チッ…これだから社会主義国家は……。死にたいのなら、自分達だけで死ね。俺達を巻き込むな」

「ッ!」

二コラは今にも掴み掛かりそうになるがカタリーナが制止する

「落ち着いて二コラ。相手が思うツボよ」

「ぐぬぬ…!」

カタリーナは久我の顔を見る

里中は余計な口出しをして火に油を注いだ

「久我の言う通りだ!お前なんか一人で死ねばいいんだよバーカバーカ!」

里中は二コラを煽りふざけた態度を取った

里中の言葉が二コラの堪忍袋の緒が切れた

「自分達から首を突っ込んでおいてよく言うな…」

「あ?」

「まだ実戦に出てない貴様が言える立場か!貴様等に何が出来ると言うんだ。無能なのは貴様等の方じゃないか。何も出来ない何もやらない結果が出せない貴様等の言葉を聞くに値しない!死にたいなら自分達で死ね?死ぬ勇気もない奴が出しゃばるな!」

ブーメラン発言した二コラは久我と里中に向け言い放った。

その言葉を聞いた久我は怒った

「んだと…この!」

「そこまでだ!」

今にも掴み掛かりそうになる久我と二コラを第三者が止めた。それは撤退時に通信を行った韓国軍のチャ・オジン少佐だった。

「少佐!?」

「全く、何やってるんだお前は」

「……」

所属は違えど、階級が上である人間には逆らえないな

「大韓民国陸軍第2戦術機甲部隊『チュンチョン』チャ・オジン少佐だ。ヴェアヴォルフ大隊の二コラ・ミヒャルケ少佐だね。話は聞いたよ」

「あ、はい。面目ないです。私こそ無礼な態度を取って申し訳ありません」

久我は自分のおかしそうになった失態に気付いた。他国とはいえ自分より階級の高い相手に掴み掛かりそうになったのだ。

そして、別場所では韓国軍と朝鮮人民軍の衛士2人が握手し仲良く接している。

オジン少佐は楽し気な笑みでこう言った

「階級は同じなんだ。東西南北関係なく楽にしてくれて構わない」

「そう言って貰えると此方としても有難い。これからの作戦、お互いに協力していこう」

「此方としても敵視し合って戦闘に臨むよりは良い。宜しく頼む」

お互いに握手を交わした

「じゃあ、私はこれで失礼するよ。お互い仲良くな」

そういうとオジン少佐は戻っていく。その後を悔し気な表情をした久我達が追いかけていき、何とか手を出す事態に陥ることなく終息に成功した。しかし、この一件で西側諸国が東側諸国をどう見ているのか、本当にやっていけるのかという不安や不満が心に現れ、沈殿していく事になる。

久我は私と鈴乃がここにいることは気付かなかったようだ。あとでめっちりと叱っておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、基地も完成してフル稼働が始まった時に第2波とも言えるBETAの動きが発見された。

「総員傾注、2時間前、朝鮮人民軍の偵察部隊の報告により新たなBETAの群れが確認された。数は6万。我々ヴェアヴォルフ大隊と貴様等日本の衛士達はその敵の流れを正面から受け止める事となった」

どうしてそんな危険な事を!

二コラの言葉に驚きの声を上げたのは鈴乃だった

「ミヒャルケ少佐、本気で言ってるのですか?」

「うむ、我が東欧州社会主義同盟と朝鮮人民軍を中央として、右翼に朝鮮人民軍、左翼に日本帝国軍が展開。我々がBETAを遅滞させている間に重金属雲を展開し、面制圧で包囲殲滅する」

これは確か対BETA戦ドクトリン―――アクティブディフェンスだ。

「貴様等西側は14年前に近接戦闘の経験してる衛士は少なかったが、今は欧州に属する衛士達も積極的に近接戦闘を心掛けてる。が将校達は自らの保身の為に安全策を取るのだろう」

城戸が挙手し二コラに質問を投げかける

「西側諸国は面制圧を拘ってるちゅう事ですか?じゃあ、面制圧に失敗したらどないしまんの?」

城戸のネガティヴな質問に対し二コラは怒鳴りつける

「失敗など許されない。これは我々ヴェアヴォルフ大隊と貴様等の挑戦状と捉える」

二コラは必ずこの作戦を成功させると息まいており、その重圧が今の彼女にかかっていた。それゆえに狂気とも感じる程、彼女はこの作戦の成功に拘っていた。

「……この作戦は成功しなければならない!先程言ったが今は欧州の衛士は近接戦闘する者が増えている。海王星作戦と同じ規模…いやそれ以上の大規模作戦となる!」

「上手くいくといいわな」

「城戸の兄貴と同じ意見です」

城戸と浅倉は「この作戦は本当に上手くいけるのか?」と疑心暗鬼した。どこか嘲笑するような笑みと呟きを聞き二コラの顔は怒りで染まるがそれを必死に抑え込んだが話を続ける。

「…出撃まで時間はある。各員準備を整えておくように。解散!」

どこか不安を残しつつ、ブリーフィングが終了した。私は危い焦りを見せる二コラを見ながらこの作戦について考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、BETAの第2波を止めるアクティブディフェンスが発動した。北進を続ける6万のBETAに対して艦砲射撃を含めた攻撃が3方向から同時に行われる。それらは突撃級すら吹き飛ばし、小型の戦車級を残らず吹き飛ばしていく。

それは撃震に乗った私達にも確認でき、レーダーに映るBETAの反応が急速に消えていく様子に戦慄さえ覚えてた。

これほどの包囲殲滅を成功させるなんて……これが西側諸国の力なんだ。

《…!》

あまりにも一方的な様子に二コラは自分の存在意義を失い驚愕したが、私はそれに対して答えた。

「ミヒャルケ少佐、戦術とは対策されて当たり前ですよ。それにいくら完璧な作戦とはいえ始まるまでは机上の空論に過ぎない。ましてや相手はBETAだ。人間の予想なんて…」

そこまで言った時、城戸が話を割り込む

《予想なんて通じへんと思いますわ坂崎大尉。俺達は未来から来たタイムトラベラーとはちゃいますわ》

城戸の言う通りだ。そうだ私達は未来人でも預言者でもない。

小休憩を取ろうとした次の瞬間、新たなBETAの反応がレーダーに映る。

《中隊長!両翼の戦術機が次々と撃墜されています!》

「これは……!くっ…地中を掘っていたのか!」

BETAは地下から現れた。それも両翼の外側から包囲するように光線級が出現!

奇襲を受けた両翼の戦術機に大量の撃墜判定が出る。更に光線級による露払いは済んだとばかりに突撃級、要撃級が出現したが悪夢はまだまだ続いた。

《内陸から要塞級の出現報告!数は100!》

《カタリーナ!見間違いじゃないのか!?》

《見間違いじゃないわ…無数の戦車級と共に北上に接近してくるわ!》

《……BETAは戦術を用いたという事か!?そんな馬鹿な…》

明らかにアクティブディフェンスに対するカウンターの如き動きに二コラは驚く。それは他の面々も同じであり、先程までの包囲殲滅が霞むほどの衝撃だった。

《両翼の損耗率50%を超えます!》

《光線級接近、我が大隊に集中攻撃仕掛けようとして……攻撃来ます!》

《そ、総員回避せよ!》

次の刹那、二コラは部下達を命じ回避させる

《次の攻撃まで時間かかる。全機攻撃用意!》

ぞろぞろと迫ってくる光線級を二コラ率いるヴェアヴォルフ大隊がとった行動は

《砲撃開始!》

ただひたすら120mm弾を光線級に向け放った!

そんな状況に対して真っ先に動いたのは私は今遂行してる任務を放棄する

「総員傾注!我々は現在の任務を放棄。韓国軍と支援してる日本の衛士達の救助を行う!」

この言葉を聞いた二コラは現実を受け入れずに攻撃続行する

《坂崎大尉、貴様は自分の責務を放棄するつもりか?南朝鮮の連中を助けるなど…》

二コラは却下しようとしたがカタリーナが了承の言葉を添えた

《分かったわ。南朝鮮の連中を救助しに行きなさい。貴重な戦力は失くしたくないからね―――それで宜しいですよね大隊長》

カタリーナは不敵な笑みを浮かび二コラに威圧を掛けた

《カタリーナ……くっ、分かった。まさか両方助けると言うんじゃないだろうな?流石にそれは無理だぞ》

「確かにそれは難しいでしょう。故に片翼のみの救助を行います。特に左翼のBETA群は右翼よりも多い―――右翼の韓国軍と在韓米軍には悪いが自力で対応して貰うしかないですね」

華太は疑問を抱きこう言った。

《韓国軍を支援してる日本人も助けるって言うのか。お前はすげえ女だよ》

「このままでは撤退すら難しい。見ての通り光線級は左右に広く展開している。沿岸部ならばともかく内陸部の光線級を叩かない限り逃げる事は難しくなる」

《朝鮮人民軍より坂崎中隊へ。貴官等の損耗率を答えよ》

私の言う通りこのままでは逃げる事も難しいのは分かっていた。

そんな葛藤を心の中で抱えていると朝鮮人民軍より通信が入る。

「此方、坂崎中隊。損耗はありません」

《ええい、貸せ!貴様等の損耗など関係ない!お前達は今すぐに撤退だ!この作戦は失敗だ!作戦失敗の責任は南朝鮮の連中に負ってもらう!故にお前達はは損害なく撤退する事だけを考えろ!》

朝鮮人民軍の将校らしき男性が割り込み通信変わった。

何を言ってるんだ此奴は…衛士達を見捨てろって言うのか

「(救いの手を払い除けろ――――結局は自分の事しか考えていないんだな)撤退はしません!私達は日本帝国軍の衛士です。救いの手を払い除けるなど、衛士の資格はありません」

《黙れ!お前達はブレーメ総帥閣下の駒だ!北朝鮮社会に貢献しろ!!》

阿保将校の一言で怒り狂いそうになったが二コラが制止し将校に叱責した。

《坂崎大尉、挑発に乗るな。何だ貴様は…前線で戦ったことがない将校がブレーメ総帥の名を語るなんて甚だしい。身を弁えろ》

《ではどうしろというのだ!?》

《では南北朝鮮の艦隊には光線級の殲滅を頼みましょう》

《何だと!?貴様等に出来るのか!?》

阿保将校は狼狽の声を上げる

二コラは平然とした顔で阿保将校にこう言い向ける

《現在、沿岸部から内陸部にかけて光線級が展開している。これらを殲滅しない限り撤退は難しい。そして光線級吶喊を得意とする我等を撤退させるという事は代わりに行ってくれると解釈していいよな?》

《それは…!》

《貴様は理解しているだろ?ここで我々が真っ先に撤退した場合、東欧州社会主義同盟と朝鮮人民軍は衛士達を平然と見捨てる臆病者の集まりだと――――とどのつまり、ブレーメ総帥閣下は臆病者とでも?》

《そ、そんな事一言も言ってない!》

未だ決めかねているらしい阿保将校に対して声を上げたのは私だ。

「(第666戦術機中隊の真似事だが、致し方あるまい)我々はこれより光線級吶喊を行います!少佐」

《ああ、行け!》

「…総員傾注!不埒な異星起源種共に、頼りない韓国軍や米軍の連中に! 我々の力を見せてやれ!」

私達は行動を開始した。それと同時に各戦線においても反撃が行われようとしていた。

朝鮮人民軍海軍の艦隊では砲撃が再開され、光線級の殲滅を行おうと躍起になっていた。

《北韓の連中が動き出したようだ!俺達も負けてられないぞ!》

右翼にいた在韓米軍の戦術機部隊は奇跡的に全機健在であり、友軍機と共に過酷な光線級の殲滅を開始した。

ここからは一機の撃墜が即座に死に繋がる危険地帯だ。

全員が覚悟を決めて突撃を行おうとしたその時!

《右前方より友軍機!『チュンチョン』です!》

《坂崎大尉、丁度いい所に来たな。光線級の殲滅に手を貸して貰えるか?》

友軍機、『チュンチョン』は健在のようで数を保って跳躍をしていた。そこにオジン少佐からの通信が入るが内容は私達もやろうとしていた事だった。

「無論だ。この状況での戦闘は望むところだ!」

《いいねぇ!俺達も気合い入れていくぞ!》

「行くぞ!総員!攻撃開始!」

『チュンチョン』と合流した私達は一斉射撃を開始する。そして、韓国軍の衛士達は坂崎中隊という日本の強さを知る事となる。

《77は第一世代機だろ?一体どれだけの操縦技術なんだ……!》

《すげー、これが神風か!》

《玉砕覚悟で戦ってる人間だからな。ただもんじゃねえぞ》

『リュンチョン』の面々は何故私達がここまで持ち応えられていたのかを理解した。

我が坂崎中隊と『チュンチョン』は無事にBETA群を抜け、光線級がいる位置にまで辿り着いた。

しかし、そこには北上していた要塞級が迫ってきており、更なる苦難が私達に襲い掛かる。

次の瞬間、私達の目の前に要塞級が現れた

「要塞級だ!数は8!」

《フォ…要塞級だと!?どうするの?都》

要塞級なら中国での戦闘で遭遇した事がある。

だが、オジン少佐は要塞級の殲滅を引き受けた

《このタイミングに来たか――――仕方ない。光線級は任せた!要塞級は此方で対応する》

「すまない。オジン少佐」

《なぁに、俺達はアンタの事を信じてるんだ。さっさと殲滅してこっちを助けてくれよ》

「勿論だ」

光線級の群れを突っ込もうとしたその時、ラーストチカ12機を編成した戦術機部隊が此方に接近した

よく見ると……第666戦術機中隊シュヴァルツェスマーケンの紋章だ。

《嘘だろ…おい》

《この紋章って…》

「ああ、東ドイツ最強と謳われた第666戦術機中隊シュヴァルツェスマーケンだ」

アイリスディーナは総書記という立場で事実上衛士引退している

となると、後任となったファム・ティ・ラン……?

《此方東欧州社会主義同盟第666戦術機中隊『シュヴァルツェスマーケン』ファム・ティ・ラン大尉です。光線級殲滅は私達に任せてください》

間違いない。先頭に立ってるラーストチカに乗ってるのはファムだ。

「日本帝国軍第1006戦術機連隊坂崎中隊の坂崎都大尉だ。シュヴァルツェスマーケン…援護感謝する」

驚きを隠せなかったのは別場所で戦ってる二コラだ

《666中隊だと!?援軍なんて聞いてないぞ!でも援護してくれるなら有難い!》

第666戦術機中隊がどうしてここに来たかは置いといて数が増えれば戦力は上がる

「…では我が中隊は韓国軍と在韓米軍の手伝いをしよう」

お互いの役割を決めたが私は要塞級の方に向かうといったがある意味では当然と言えた。

《お手伝いしますぜ。坂崎の姐さん!》

《俺も手伝います!》

「久我…里中……」

この状況で戦力が増える申し出を断るほど私達に余裕なんてない

《第5910戦術機大隊の長を務める五十嵐だ。ウチの隊員が不躾な態度を取って済まない》

「私は大丈夫です。五十嵐少佐」

工藤中佐と泉屋少佐は平壌基地の保守に当たっている

この場にいないのはその為だ。

《坂崎都大尉。貴女の話は聞いてる。我が大隊もお手伝いしますのでお手並み拝見させて貰いますよ》

「ならばしっかりと見せつけてやります。日本帝国軍の実力を!」

その言葉と共に私は突撃砲で36mm弾を放ち跳躍ユニットを吹かすと高速で要塞級に近づいていく。

接近に気付いた一番近い要塞級が触手を振るってくる。50mも伸びるこの触手は光線級並みに厄介であり、避けるのも一苦労だが私は要塞級の懐に潜り込んだ。

「はぁあああああああ!!」

ひたすら36mm弾を撃ち込む

その後方に久我と里中は要塞級に120mm弾を撃ち込んでいた

《此奴、デカい割に倒れねえ!》

《120mm弾がもうすぐなくなりそうだ!クソォ!》

「久我、里中。要塞級に120mm弾では歯が立たない!36mm弾を撃ち込め!」

私はそういうと久我と里中は36mm弾を放った

足は脆く折れてバランスを崩した要塞級は倒れ込んだ。

そしてもう一体の要塞級の真横から一気に突っ込む。

《坂崎の姐さん、ここは俺に任せてください》

久我は向かってくる触手を再び躱すと長刀で足を二本切り落として見せた

本当は決死の覚悟を決めていたつもりが蓋を開ければ私達の無双を見せつけられていた。今ではオジン少佐達は倒れた要塞級に止めを刺す作業を安全にこなす事しかやる事がなくなっていた。

《最短距離で地獄に落ちやがれ!》

里中も短刀を2つ握り、要塞級その3に向け投擲した

《里中、いい感じだ!》

久我は36mm弾で止めを刺す。

ほぅ、少しはやるようになったじゃないか。

そして、順調に要塞級がやられていく隣でシュヴァルツェスマーケンも光線級を順調に倒していた。

《02、光線級は残り何体いるの?》

《の、残り20!》

《17!》

《12!》

《10!》

《5!》

《これで最後よ!》

シルヴィアが最後の一体を倒したことで左翼に出現した内陸部の光線級は掃討された。

《これで全部ね―――中隊長》

《ええ、坂崎中隊の援護に向かう!我に続け!》

そして、ほぼ同時に私達の援護射撃に向かう

「すまない。ファム大尉」

《困った時は助け合いですよ》

と優しい笑みで声をかけた

暫くすると、久我達は要塞級を全部倒し終えた。

《姐さん、要塞級倒しましたぜ》

「よくやった久我。里中もだ」

《へへ、ありがとうございます!》

「ははは、貴様達の手柄だ。誇りに思え」

《な…何なんだこれは》

久我と里中、第666戦術機中隊の活躍に私は笑い、二コラはショボい声で呆れていた。カタリーナを除いて他のヴェアヴォルフの衛士達も同じようで似た反応が返ってくる。

そこへ、重金属雲がなくなったことで通信が回復したらしく、東欧州社会主義同盟艦隊から通信が入る。

《東欧州社会主義同盟から坂崎中隊、及び第5910戦術機大隊、第2戦術機甲部隊、第666戦術機中隊、ヴェアヴォルフ大隊。光線級の殲滅を確認した。右翼においても在韓米軍の活躍により其方も片付いた。沿岸部は取り戻した。つまり、全ての光線級の殲滅を確認した。これより砲撃を開始する。巻き込まれないように退避されたし》

《此方坂崎中隊、了解した》

《第5910戦術機大隊、了解した》

《第2戦術機甲部隊、了解だ》

《第666戦術機中隊、了解です!》

《ヴェアヴォルフ、了解》

光線級の完全殲滅。これが意味するのは砲撃により敵を片付ける事が出来るという事だ。つまり、絶望的とも言えたこの戦闘を勝利で終わらせることが出来るかもしれないという事だ。

全戦術機部隊はすぐに戦域を離脱する。その数分後には砲撃が始まり、沿岸部・内陸部のBETA群を駆逐していく。包囲するように展開していたがゆえに一つ一つの敵は少ない。各個撃破されるようにBETA群は駆逐されていき、戦闘開始時には夜だったが夜が明けるころには一面にはBETAの死骸しか残っておらず、動いているものは皆無だった。

そして、それが意味するのは犠牲を出し、予想外の事態に陥ったが光明星作戦を成功させたという事だった。それが分かった瞬間、衛士達が喜びの雄叫びを上げ、この勝利を喜ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「24年に及ぶ忍耐も終わりです」

万寿台議事堂で行われる最高人民会議。目の前の男の言葉に、ベアトリクスは心臓を握られたかのような感覚に陥った。この最高人民会議にいるメンバー全員、彼女の周りに信用出来る者はいない。

「光明星作戦は人類の勝利で終わった。目的は達成されたが貴様等にとっては人類の勝利とは何だ?」

ベアトリクスはここにいるメンバー全員に問いを出す

「そ、総帥閣下。発言の許可を」

七三分けの中年男性が挙手する

「ええ、許可するわ」

「そもそもBETAという地球外生命体は人類と戦争をしているとは思っていません。簡潔に言えば、開拓。この言葉がしっくりきます。人類が人のいない大地を見つけ、田を耕し、港を整備し、家を建てて街を形成する。人類とはその過程に存在する障害物でしかありません。田で言えば雑草、港で言えば不安定な足場。家で言えば埃、街で言えば災害。我々人類はその程度の認識―――生物と認識していないのですよ」

それに対するベアトリクスの答えはこう返す

「貴方の言い分は理解出来るわ」

「ご理解頂き感謝します」

「地球を死の星にして人類を根絶やししようと?」

そう言ってベアトリクスは懐から拳銃を出し男に銃口を向ける

「不愉快な気分よ。貴様は私を見下してるな?」

「そ、そんな!違います!私は総帥閣下の為にアドバイスを!」

「何も違わない。貴様は人類が滅びる事を望んでる。まさか人間の皮を被った異星起源種なのか?」

ベアトリクスは七三分けの中年男性に冷徹な目線を向ける

「わ、私は人間です!貴女様のお役に立てるなら何でもします!」

七三分けの中年男性は焦りつつ苦し紛れで言い放った

「何でも?具体的な要素は何だ?」

「えっと…執務です!政治要素を含む執務を!」

次の瞬間、ベアトリクスは拳銃の引き金を引き弾丸を放つ

「つまらない男…役立たない奴は死ね」

パァン

「ぐぶぁ!」

七三分けの中年男性は倒れ、絶命した

彼はベアトリクスを―――全人類を裏切ろうとした最低な男だと彼女は断定した

裏切者には死を

意図も簡単にベアトリクスに謀反しようとする将校もだ。

そして…

「平壌派及び統一党は私が対応する。ロザリンデ」

「――は」

「元山派の連中を全て粛正しろ。放置しておくと厄介なことが起こる」

ベアトリクス率いる平壌派は朝鮮半島の存亡をかける朝鮮革命を決行しようとしていた

「さぁ始めるわよ――――かつての東ドイツ革命みたいに。全て捻り潰してやるわ」

この時のベアトリクスは不敵な笑みを浮かび、”この朝鮮革命に勝利を掴むのは私だ”と確信した。




いつも作品見ていただきありがとうございます
今回の話は朝鮮半島最大の激戦―――光明星作戦の話です。
途中参戦した韓国軍のチャ・オジンのモデルはチャ・ドジンという韓国の俳優ですね。
彼は端役、脇役、悪役を演じる個性派俳優ですが、まぁパッとしないですね。
余談ですが、マブラヴ:ディメンションズというソシャゲのキャンペーンに当選し月刊MR創刊号(印刷本)を入手することが出来ました!僥倖!圧倒的な僥倖!
大切に保管しておきます。はい。
この作品を…トータルイクリプスサンダーボルトや他の作品、Pixivで投稿した作品を読んで頂けた全ての方々に感謝しつつ、今回はここで筆を置かせて頂きます
ではまた


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世界はきっと未来の中

私の名前は坂崎都。

愛想がよく優しい笑顔を振る舞う日本帝国軍の武闘派女性衛士だ。

学生の頃、私は鬼と呼ばれるほどに喧嘩が強かった。

「好子ちゃんの顔が凹んでる!」

「『狂犬坂崎』のパンチ強過ぎる…」

「貴様等、迷惑をかけた人達に土下座しろ」

規格外のパンチ力から、地元のヤンキー、スケバンは私を『狂犬坂崎』と呼んでいた。

そんな生活を送った私だが、弱い者いじめは大嫌いだった。

「(あの子、目が見えないのか。危ないな)」

「ふう…」

強く生まれた人間の責務は弱い者を守る事だと思っていた。

だが、世の中には残念なほどに非常識な奴等がいる。

「あ、ごめんなさい」

「あぁ~ん?痛ってぇなぁ~」

「なんだこのガキ、俺達を舐めちゃってんの?」

見ているだけで吐き気がするほどの光景を……。

「オメエは目が付いてねぇのか?馬鹿野郎」

「ごめんなさい…目が見えなくて」

「見えなくても俺は許せねえなぁ」

「財布出したら許してやる。まあ2万以上入ってたらだけどな」

「早く出せゴラァ。ブチ殺すぞ」

「は…はい」

私は半グレ衛士2人を呼び止める

「おいやめろ。下衆野郎―――この子に土下座して走って消えたら許してやる」

「あぁん?何このバカ」

「ムカつくね。殺しちゃおうよコイツ」

「俺等空手2段なんだぜ。謝るなら今だぞボケ」

謝罪する姿勢がないので私は半グレ衛士の一人にアッパーを喰らわせた

「この大馬鹿者がああああ!!!」

ボガァ

「グエエ!」

戦力が減ると困るので命を奪わない程度で留めた

半グレでも衛士務めてる人いるからな。

アッパーを喰らった半グレの一人は怯えだし始めた

「グアア…」

「目の不自由の人の為に点字ブロックを空けろ」

「はい!すいません!勘弁してください!」

「ダメだ。男ならかかってこい」

そしてもう一人の半グレ衛士も鉄拳制裁を喰らわせた

ボガァ

ともかく私は人の道を外れた奴等に容赦しなかった

「ほら、バス来たぞ。段差に気をつけろよ」

「ありがとうございます」

「アイツだ!」

まあ、毎回憲兵にお世話になったが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光明星作戦が成功に終わったことで、その立役者と言える坂崎中隊やヴェアヴォルフ大隊、第666戦術機中隊は英雄として扱われた。

そして私は東欧州社会主義同盟のレーニン勲章、北朝鮮の国旗勲章、共和国英雄等の勲章を授与されるなどの栄誉を得ていた。

そして、元山周辺からBETAが消えたことで大規模な戦力を留めておく必要がなくなり、第666戦術機中隊やヴェアヴォルフ大隊含め私達坂崎中隊は平壌基地へ帰還する事となった。

私は今回の光明星作戦の成功や勲章を授与された事を工藤中佐に報告した

「…そうか。良かったじゃないか」

「ありがとうございます。工藤中佐」

工藤中佐は険しい顔を浮かび私に言い放った

「…坂崎大尉、第666戦術機中隊が平壌基地入りした事は知ってるな」

「いえ、何も…」

「そうか。まあどちらにしろ今の北朝鮮や東欧州社会主義同盟の連中には余裕がねえ筈だ。小峠中尉」

「は―――中佐殿の仰る通りであります!」

状況は良くなったとは言えない。

北朝鮮はベアトリクスが支配してるとは言え、軍全体が団結してるとは限らない。

……第666戦術機中隊が北朝鮮にいるって事は恐らくベアトリクスの命令で来させた筈だ。

「そして朝鮮人民軍も最悪だ。光明星作戦終了後に国家保衛省によって複数の将校が逮捕された。容疑は反体制派の結成、及びクーデターの未遂だ。しかも国家保衛省の手はベアトリクスの傀儡政党である朝鮮労働党にまで伸びた。党も軍も大きな痛手を受ける結果となった」

国家保衛省……元山派が動いたか。ここまで来て権力争いか

「ベアトリクスも既に気付いてる筈だ。見て見ぬふりはしねえからな」

「最悪の場合、私達はどうなるんですか?」

聞きたくないが聞かざるを得ないだろう

「最悪の場合、軍の指揮権を元山派に奪われる可能性は高い。そうなると俺達は収容所送りだ。だが、第666戦術機中隊は海王星作戦や今回の光明星作戦での功績の価値は高まっている。大義名分もなく解体をする筈が……」

工藤中佐がそこまで言ったその時。基地全体にけたたましい警報音が響き渡った。

《総員!警戒態勢!総員!警戒態勢!各員は所定位置にて待機せよ!》

その警報音を聞き私達は外に出る。外では二コラ、カタリーナ、ファム、シルヴィア、アネットが既に出ており、空を見上げていた。

「何が起きたんですか!?」

「坂崎大尉、奴等が来た」

空を見上げれば10機ほどのアリゲートルが向かってきていた。その前方には一機のヘリがおり、こんな事をする組織が何なのかを二コラは理解した。

「元山派……」

「あれは…戦術機大隊『モランボン』!?」

「ア・ドックァ中佐……!」

二コラとカタリーナの予想通り、アリゲートルの護衛のもとヘリが着陸するとそこからドックァ中佐が姿を見せた。シルヴィアは厳しい視線を向け、眉を潜める。

「何か御用でしょうか?国家保衛省武装警察軍作戦参謀、ア・ドックァ中佐」

「二コラ・ミヒャルケ少佐、どうやら警戒させてしまったようだな。何、私は職務を遂行しに来ただけだよ」

前に見た時よりも痩せた印象が見えるドックァ中佐は工藤中佐とファムに視線を向ける。

「日本帝国軍の泉屋少佐、それと第666戦術機中隊のファム・ティ・ラン大尉。君達二人を国家反逆罪の容疑で拘束させて貰う」

泉屋中佐が拘束される!?

私は呆然した

それを聞いた泉屋少佐は驚いた。

「え?俺が!?」

泉屋少佐は当然納得いかず理由を聞いた

「おいおい、何で俺が拘束されなきゃならねえんだよ。理由を聞かせてくれ」

「ファム大尉はこの前に捕えた反体制派の将校が協力者として名前が挙がったからだ。そして泉屋少佐。君はもっといけない。朝鮮人民軍将校と親しくなり軍内部にも協力者を作っていたのだからな」

「…そんな事、本気で思ってるのか?」

「思うも何も既に証拠は挙がっている。朝鮮人民軍内部の不和は君の逮捕でもって完全に収まる」

国家保衛省の動きは察知していた筈だった。しかし、ドックァ中佐の動きは早過ぎた。

ベアトリクスはそれを読んでいたのだろうか……?

二コラはドックァ中佐に鋭い目線を向ける

「ファム大尉はBETAの動きから恩赦が決まっている。第666戦術機中隊はこれまでのような働きを十分に出来る。と?そう解釈して宜しいですか」

「そう受け取って貰っても構わないよ」

私達を見下し嘲笑うドックァ中佐の態度に私は怒りを覚えるが相手が階級が上だ。

手出しは出来ない

「グウウ…!」

泉屋少佐は狼狽の声を上げつつドックァ中佐の指示に従う

「さっさと拘束しろよ。666の姉ちゃんも困ってるだろうが!」

「理解してくれて感謝するよ――――二人を連れていけ」

「は!」

泉屋少佐の言葉にドックァ中佐は同意してファムと共に国家保衛省職員によってヘリに乗り込んでいった。そして、その様子を見ていた私達含めヴェアヴォルフ大隊、第666戦術機中隊の面々は不安そうな表情をして、それもアネットは今にも泣きそうな表情で見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泉屋少佐の逮捕後、彼が戻ってくることはなかった。

ファムはドックァ中佐が言った通りに恩赦を受けてすぐに釈放された。しかし、この事で危機感を持った彼女達は第666戦術機中隊が存続できるように動き出した。

「…」

「泉屋少佐…更迭、されたらしいわ…」

私達が知らない間に帝国軍上層部からお達しが来て更迭されたらしい。

戻ってこない理由は恐らくそれしかない。

「華太から聞いたが、泉屋少佐は密かに平壌派の連中に情報を共有していたらしい」

「平壌派って…ベアトリクスを?」

「そうとしか思えないだろう」

あの男は元から粗暴だった。他人から注意されても自分が正しいと思い込み気に入らなかったらすぐ暴力を振るう

泉屋少佐は徴兵されてすぐに本土防衛の仕事をしてたが、ある日彼の態度を指摘した衛士を殴り憲兵に捕まった。

その後、北朝鮮の戦線に送る形で左遷されたらしい。

ここでも問題を起こしたのか。

「ねえ、都。貴女はベアトリクスを倒そうと思ってるの?」

鈴乃は悲しげな表情で言った。

ベアトリクスを倒す?そんな事して何の意味があるんだ?

「思わないよ。ただ」

「?」

「彼女は何考えてるか分からないだけだ」

私は確信した。ベアトリクスが革命に勝利を掴んだ理由を

「東独の英雄と朝鮮の英雄の二つ名か――――――みんなが望んだ結果ならそれでいいんじゃないか」

「それ本気で言ってる?」

二人の会話に入るように声をかけたのはシルヴィアだった。

「お前は…」

「知らなかったわ。アンタがベアトリクスを『敬愛なる女傑衛士』として好かれてるなんて」

そういうとシルヴィアは私に拳銃を向けた。

「!」

シルヴィアの行動は私には理解し難かった。

私は鈴乃と会話してるだけだ。

――――残念ながらそう簡単に信用する事は出来ない。

「来い!お前を拘束する」

「なっ!?どういうつもりだ!撃つのか?」

「不安要素を排除するのよ」

突然の凶行ともとれるシルヴィアの行動に私は叫ぶがシルヴィアは何のことはないと言わんばかりに答えた。

そんなシルヴィアに乗るようにファムも現れ、話し出す。

「自ら怪しさを暴露して話を逸らす。シュタージはともかく国家保衛省が考えそうな手だわ」

「ファム大尉…」

「……」

私と鈴乃は国家保衛省――――北朝鮮のスパイだと思われてる

「(くっ……どうすれば!?)」

工藤中佐がこの場にいたらすぐ制止しただろう。

――その工藤中佐は今、朝鮮人民軍の上層部と会議している

戻ってくるのは明日―――。

「やめろ!これからBETAと決戦なのに戦力を削る気か!?」

私がそういうとシルヴィアは拳銃を下ろし、拳で魂をこもったフルスイングで私の顔面に目掛けて殴った

「そんな言い訳、私には通用しないわよ!」

私はガードで阻止!

だが、ガードを振り払いモロに鉄拳制裁を受けた

ボガァ

「グウウ!」

良い拳だ。流石ポーランドの亡霊と呼ばれてるだけで伊達じゃない。

だがな、まだ倒れない。

「おい、先に殴ったのは貴様だぞ…」

「……だから何?」

「何で私と鈴乃をスパイだと言い切れる?下手すれば冤罪だぞ」

「私はね。善人面してすぐに裏切る衛士は大嫌いなのよ!」

だから私と鈴乃をスパイと疑ってるのか?身勝手にもほどがあるだろ

「拳で語り合いましょう。アンタが勝ったら私は謝るわ」

「当たり前だ。御託はいいからさっさとかかってこい!」

次の瞬間、シルヴィアは先攻で私に変則的な蹴りを打ち込んできた

「ッ!」

ガッ

「うぐぅ!」

続けてまるでダンスのように飛び蹴りが飛んでくる

「ハァ!」

ガッ

「がは!」

だがこの程度の蹴り、他の衛士は即倒れても私は倒れない

「何だそれは、その程度か?」

「……(何この女、タフネスがある)」

勘違い女の攻撃なんて効かない

「私達は日本帝国軍の衛士だ!北朝鮮の戦線に送られてBETAと戦ってるんだ!」

私は拳を握り攻撃態勢を構える

「歯を食いしばれ――――出ないと死ぬぞ」

シルヴィアも同時に構える

「その言葉、そのままそっくり返すわ」

私が本気で握った拳はもはや鋼鉄

「必死で戦ってる人間が同じ想いを掲げてる人間を潰してどうするんだ!!」

ボガァ

「ガァ!」

全体重をのせたパンチを前に。ガードなど全く無意味だ!

シルヴィアは一発で顔面陥没まではなってないが意識を失うほど崩れ倒れた

「が…ぁ…」

「おい貴様、よく聞け。貴様は私と鈴乃をやってもいない罪を被せようとした。衛士というのはな国を守る仕事なんだ。思い切り泥塗れになりどんな環境でも生き抜かなきゃダメなんだ。守るべき者を守れなかったとしてもその者の遺志を継いで必死に戦い続けるのは一国の衛士だ。他者と交流し他国の衛士と協力して前を向いて、次こそ大切な人を守るのが筋だろう。貴様がやろうとしていることは協力するどころか足を引っ張ってるんだよ!」

シルヴィア、すまないがもう一発気合い入れておく

「ぐぅぅ…」

「ここにいる衛士達に全員謝罪して来い!大馬鹿者が!!」

ボガァ

「ぐふぅ!(もうダメ……!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

完全にやり過ぎてしまった私はその足で自首した

「坂崎大尉!貴様何やってるんだ!?」

「すみません。ついカッとなって」

カタリーナにこっ酷く叱られたよ。

当然営倉入りだ。

その後、ファムが私に謝罪してきた

「本当にごめんなさい!」

「私は大丈夫ですよ。ファム大尉」

冤罪を被せようとした奴に制裁を加えた事に後悔はない。

翌朝、私は釈放され再び衛士としての仕事を務め始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平壌基地にて会議室でブリーフィングを行われていた。

北朝鮮の首都、平壌の目と先にある安州要塞陣地にて私達が属する第1006戦術機連隊総動員でヴェアヴォルフ大隊と共に強固な防衛線を張っていた

無論、第666戦術機中隊も参加している

私は目の前に書いてる数字を見る

右翼8万、中央14万、左翼8万。計30万――――とてもじゃないが勝てる見込みはない。

「ブラゴエスチェンスクハイヴから南進したBETAは予想外にもウランバートルハイヴのBETAと合流。30万という群れを3つに分けて慈江道を進軍中。背後には平壌があり、後退は許されない。そこで、軍は保有するほぼ全ての戦術機を安州要塞陣地に集結。全戦力を以てこれを迎え撃つ」

「ミヒャルケ少佐、元山の基地はどうなっているんや?」

城戸が二コラに問いかける

「30万のBETAとは別の群れが集まっているんだぞ。援護は期待出来ん。だが、そこが引き付けられているからこそ30万で済んでいるとも言える」

あまりにも敵の数が多すぎた。これを守り切る事が本当に出来るのか不安になるが二コラが状況を説明した工藤中佐に代わり話を続ける。

「作戦を前に2つ報告がある。よぉく聞け。泉屋少佐は諸事情で韓国の首都、ソウルに滞在する事になった。泉屋少佐の抜けた穴は666のファム大尉がフォローする事となる」

工藤中佐はドスを効いた声で言い放つ

「そして先程、第1006戦術機連隊が38度線に配置されるという内示が下った。何れにせよ対BETA戦だけではなく、朝鮮半島全体にも関わる事になる」

それはつまり危険な前線を離れられることを意味している。その為か、会議室にいる衛士達の表情は明るい。

誰だって死と隣り合わせの戦場よりも後方で細々と支援するのがいいと感じるのは当然だ。

「全てはお前達が上げた武勲あればこそだ。俺は誇りに思う。だからもう一度、その力を貸してくれ……」

工藤中佐はキリッとした顔で敬礼する。

そしてファムは号令を出す

「総員傾注!朝鮮半島の存亡はこの一戦にかかっている。最強たる我々に敗北は許されない。不埒な異星起源種共に黒の宣告を下してやれ!祖国万歳!」

ファムは真面目な表情でこう言った後、666中隊の面々も「祖国万歳!」と一言を添えつつ叫んだ。

「……我が大隊は666中隊に負けず、最後まで戦え!そして人狼の鉄槌を下せ!祖国万歳!」

二コラも対抗しファムと同じようにこう言った

そして続けて言い放つ

「これはブレーメ総帥閣下の為であり人類存亡の為である!異論はないな?では解散!」

ブリーフィングが終わったが、その瞬間、シルヴィアは目の前に座っていた私と、その隣にいた鈴乃に声をかけた。

「覚えておく事ね。私は貴女達を信じた訳じゃない。怪しい動きをしたら、その場で撃つわ」

シルヴィアの言葉には殺気が籠っており、確実にそういう状況となれば撃つという意思が感じ取れた。

その場で撃つ。か……「やれるものならやってみろ」と言いたいところだが彼女ならやり兼ねない

しかし、それに対する華太は威圧的な表情でシルヴィアを挑発させる。

「日本帝国軍の衛士に喧嘩売るとは凄いチャレンジャーだな。西朝鮮湾に沈めたいの?あぁ!?」

「やる気?」

「上等だ。ゴラァ」

拙い……今にでも衝突しそうだ。

先に手出ししたのは、シルヴィアだ。

「!」

ゲシィッ

「ぐぶぅ!」

まずは蹴りを一発喰らったが、華太は打たれ強い。

「ぐぅぅ…!」

だが、華太は一方的にシルヴィアの攻撃を喰らうだけだ

「頭蓋骨陥没されなさい」

ボガァ

「ガハァ!」

シルヴィアのパンチを喰らった華太はその場で倒れる

「シルヴィア……(あれは手加減してるわ。本気だったら死んでる)」

ファムはそう解釈し呆然した。

この光景を見た二コラはシルヴィアを拘束する。

「何をやってる!馬鹿者!」

「離せ!触るな!」

「全く貴様は…あの時と変わらん態度だ。いつになったら学習するんだ?」

二コラはシルヴィアを抑えたままカタリーナに手錠を掛けられる

「…出撃は一時間後だ。それまで営倉入りだ!」

「……あとで覚えときなさい」

倒れてる華太にギッと睨み付け二コラとカタリーナに連れていく形で営倉に入れられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安州要塞陣地は北朝鮮最後の防衛線である。ここはによって光線級の射線が切れている事から新安州青年防衛線を越えない限り敵の攻撃が来る心配はない好条件の場所だった。

しかし、それは光線級が越えなければの話であり、越えれば多大な被害を受ける事は必須と言えた。

火砲やミサイル火器により近づいてくるBETAを次々と吹き飛ばしていく。対するBETAも30万という数は伊達ではなく、本当に減らせているのか不安になるほどの大群で以て押し寄せてくる。その様子は戦車級の多さと泥臭いコンクリートも相まってまるで血塗れのような勢いであった。

さらにBETAは重光線級という、装甲、火力、射程が光線級を軽く凌駕するBETAを繰り出して来る。本来、届く筈のない距離から狙撃されていく為に戦術機に大きな被害が出始めた。

それを受けて、第1006戦術機連隊は勿論、ヴェアヴォルフ大隊と第666戦術機中隊が動き出した。

《お前等、聞こえるな?我が連隊は光線級だけ狙いを定め光線級吶喊を行う!気合い入れとけ!》

工藤中佐は私達に気合いの一言を添えた

《工藤中佐、重光線級は我々第666戦術機中隊にお任せを》

《ファム大尉か。頼もしい姉ちゃんだな。じゃあお言葉に甘えさせて貰うぜ》

弱気な言葉は吐いてられない。実際、今まで光線級吶喊を行って帰還率が高いのは第666戦術機中隊以外にいない。他は失敗するか成功しても帰還できないかのどれかだ。そういう意味では適任と言えるかもしれないがだからと言って相手は重光線級である。

不安になるのもしょうがない。

しかし、工藤中佐の脳裏にふとよぎる顔があった。

泉屋少佐だ。現在、彼がどのようになっているのか、それは分からないが、これだけは言える

彼は悠々自適に韓国で過ごしてる。

……もし、ここを突破されれば泉屋少佐だけでなく久我や里中と他の日本軍衛士。韓国軍衛士達が食い殺されるかもしれない。それだけはさせたくない。

《見えてきたぞ……ファム大尉》

《総員傾注!これより光線級吶喊を行う!私のケツについてこいッ!》

ファムを先頭に重光線級へと吶喊する。

続いて私達も後方支援に向かう

彼女達を支援するように陣地からの砲撃が続いており、重光線級は其方の迎撃を行っていた。

重光線級は火力、装甲、射程において光線級を上回っている。しかし、一つだけ光線級に劣るものがあった。それはレーザー発射までのインターバルだ。

光線級は12秒時間がかかるが、重光線級はその3倍の36秒かかる。

つまり3発撃つことが出来る時間を用いて発射するそのレーザーは強力となっているのだ。

それだけ発射に時間がかかるものだが、第1006戦術機連隊と第666戦術機中隊が到着したとき、運がよく重光線級はレーザーを発射した直後であった。

《陣地からの砲撃が陽動となっている!今なら懐に飛び込めるぞ!》

工藤中佐はそう言い放ち、ファムが率いる第666戦術機中隊は先頭で一気に吶喊を開始し、重光線級に攻撃を開始。それと同時に私達も光線級だけ狙いを定め砲撃開始した

「重光線級は666中隊に任せて、我々は光線級だけ駆逐だ。無駄に弾使うなよ」

《了解!》

《了解だ!》

《了解しました!》

《承服したで》

《了解》

鈴乃、華太、北岡、城戸、浅倉は頼もしい。

次々と駆逐していく光線級。数は減り続ける

シルヴィア機は完全に横を見せた重光線級の腹部に銃弾が突き刺さっていくが装甲も高いというのは折り紙付きだった。これらの攻撃を重光線級は無傷もしくは擦り傷程度で防いだのだ。

《効果なし。レーザー来ます!》

《全機バックブースト展開!全力で後退しろ!》

666中隊全機が離れると同時に、重光線級は光線級の何十倍もありそうな極太のレーザーを放つ。

それは余波だけで戦術機にダメージを与える程であり、これによりシルヴィアの機体は左腕に不調をきたすようになった。

《左腕に損害!…まだ戦えます!》

シルヴィアの機体は左腕が損傷されたがまだ戦おうとしたその時、城戸が666中隊を援護した。

《あんま無茶し過ぎると傷が増えてしまうで》

城戸が乗る撃震はパワー・スピード・テクニックが非常に高い

《あたしに任せてください!》

アネットは城戸の援護を試みる

《ええ心構えや。流石666の衛士…ほなお手並み拝見させて貰うで!》

次の瞬間、城戸機は凄まじい速度で120mm弾を放った。それと同時にアネット機の両腕に長刀を展開させた。

《うお、二刀流や!》

《このおおおおおお!》

アネットは雄叫びを上げると瞼を閉じようとする重光線級に右手に持ってる長刀を突き刺す。中心部という一番閉じるのに時間がかかる箇所を刺された重光線級は痛みに悶えるように振り回そうとするがやがて動かなくなった。

《ごっついなぁ…》

城戸はそう呟く

《…はぁ…はぁ…ファ、ファム姉。重光線級1体撃破したよ!》

《02、此方も撃破したわ》

シルヴィア機は左腕が損傷したにも拘らず重光線級1体撃破した。

《此方も一体撃破した。倒せない相手ではないから怯えることはないわ。次に行くわよ!》

ファムの言葉通り、重光線級は倒せない相手ではない。外皮は確かに硬いがそれでも突撃級の正面装甲には劣り、レーザー以外の攻撃手段を持たない。戦車級のように数が多いわけではなく、要撃級のような素早さもない。だがそれでも消耗は覚悟しないといけない相手ではあったが。

「(これが第666戦術機中隊の実力……私達より上がいるって事は理解している。彼女に見習わないとな)」

《残り7体……!もう少しよ。頑張って!》

第1006戦術機連隊は健在だ。光線級はほぼ全て殲滅済み――――ヴェアヴォルフ大隊も奮闘しているが二コラの指揮能力が低い為か、カタリーナがサポートする形で何とか戦車級を殲滅出来たようだ。

第666戦術機中隊は残りの重光線級に吶喊を開始した。

《これで残り4!》

アネットは長刀2つで照射粘膜を守る保護膜ごと貫く。

僅かに硬い感触に当たったとに剣の根元まで深々と突き刺さったことで重光線級は活動を停止した。

《弾薬、推進剤残り2割以下!》

《これ以上の戦闘続行は……いやいけるわ。アネットちゃん》

ファムの言葉に自信を持ったアネットは城戸に頼る

《申し訳ないけど手伝ってくれないでしょうか?》

《ええで!浅倉ぁ、行くで!》

《城戸の兄貴の為ならいつでもいけます!》

城戸機と浅倉機は凄まじい速度で射撃!

残りの弾薬量からこの射撃は数十秒しか持たない。その間に決着を付けるべくアネットとシルヴィアは吶喊する。

そしてアネットは今までと同じように長刀を突き刺し、重光線級を仕留める。

シルヴィアも短剣を保護膜が開いた隙を狙って突き刺した。

《残り2体!》

《浅倉ぁ!》

《了解です》

次の瞬間、浅倉機は残り2体のうちの1体に近づいて行く。

浅倉は冷静に遂行し長刀を握り攻めていく

《……俺とやった奴は死ぬ。決して逃げられん……俺に勝てる奴なんかこの世におらん……》

そして長刀で袈裟斬りしたが重光線級は回避し、長刀は分厚い体に突き刺さった。それでは致命傷とならなかったようで保護膜が開き、浅倉機に照射粘膜が向けられた。

《…!》

次の刹那、照射粘膜を辻斬りした。

唯一の武器をやられた重光線級は痛みからか体をくねらすがそこを狙って再び長刀を突き刺した。

《もうどうでもええ。大人しくくたばれや》

重光線級も遂に動かなくなり、倒れ込んだ。

そして、限界を迎えたのか浅倉機の長刀が曲がってしまい、取り出すのが困難となってしまった。

《重光線級撃破しました》

《よおやった!坂崎大尉》

「うむ、よくやったぞ!」

《よぉし、お前等そろそろ弾薬がなくなる頃だ。総員撤収するぞ》

重光線級の撃破という功績をあげたものの、既に弾薬は殆どが空となっている。

これ以上の戦闘は不可能と判断した工藤中佐は撤退を決め、第1006戦術機連隊全機が戦線を離脱していった。

それを伴い、ヴェアヴォルフ大隊と第666戦術機中隊も戦線離脱した。

最悪の事態は脱却したといってよく、安州要塞陣地は確実にBETAを削っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基地へと帰還した第1006戦術機連隊の衛士達の表情は明るい。何しろ危険な任務を終えて戻ってきたばかりだ。

整備兵達は補給に向かい、隊員達は束の間の休息を取るべく戦術機から降りていく。

「よくやったな城戸、そして浅倉」

「へへ、あのくらい余裕で行けたで」

「城戸の兄貴は援護射撃しただけですやん」

「細かい事は気にしなくてええ」

今回のMVPとも言える二人に私は称賛した。今回は普通の光線級相手ではなかったが誰一人として欠けず、それどころか全滅させられたのは大きいと感じていた。いまだ予断を許さない安州要塞陣地だがこのままいけば充分に守り切れると感じていた。

「補給と機体の修復が完了すればまた出撃となるだろう。それまでは休むといい」

「では、お言葉に甘えてそうさせて貰うわ」

城戸はそう言い残し浅倉と共に格納庫から立ち去った

姿が見えなくなった直後、華太が私に近付き話しかけられる

「都、少し話したいが構わねえか?」

「ああ、勿論だ」

華太は思いつつ極道らしい表情で私に向き合った。

「俺は決めたよ。都、アンタについていく」

「華太……」

「都、俺の女にならないか」

 

華太がそこまで言ったその時。突如として基地内の電源が切れ、あたりが真っ暗となる。

突然の事に私と華太はハッとした。

「総員!機体に戻れ!」

そう工藤中佐が叫ぶのと同時に次の瞬間、基地の入り口が爆破された

「全員その場で動くな!」

爆破された入り口からは朝鮮武装警察軍の兵士達と大隊規模のアリゲートルが姿を現し、それぞれアサルトライフルの銃口を向けてきた。

いきなりの事態に整備兵はあっけなく無力化され、私と鈴乃、華太以外他の衛士達も自分の戦術機に乗る事さえできずに拘束されていく。

「アリゲートル…戦術機大隊『モランボン』か!?―――小峠!大倉ぁ!無事か!?」

結果、戦術機に乗り込めたのは華太と鈴乃のみだった。正確には華太の戦術機に乗り込む形で私も拘束を逃れていた。しかし、その管制ユニットには突撃砲の銃口が向けられており、すぐにでも不審な動きを見せれば破壊するという意思が込められていた。

脱出は不可能。私達に出来る事は残されていなかった。

「クソったれ!!どうすればいいんだ!!」

《機体から降りたまえ》

そんな手詰まりの状況に悪態をついた華太と私の耳に入ってきたのは知っている声だった。いや、この状況を思えばその声だろう。

朝鮮武装警察軍作戦参謀、ア・ドックァ中佐だ。

「くっ…舐めた真似しやがって!」

《もう一度言う。機体から降りろ。でないと君達の仲間の安全の保障は出来ないよ》

ベアトリクスの命令で動いたんじゃない。彼の独断専行だ。

ドックァ中佐の目を見ると濁っていた

手にしている拳銃を工藤中佐の頭部に銃口を向けていた。それが何を意味しているのか、分からない私達ではない。

「………工藤中佐!グウウ……」

《華太、そっちは逃げられそうか!?》

動揺する華太に通信が入る。それは同じく戦術機への搭乗が出来ていた鈴乃だった。

しかし、彼女の元にもアリゲートルの1機が銃口を向けていて動くに動けない状況だ。

「ダメだ…動けそうにない!」

《ッ……!こっちもだ。ドックァ中佐は最初から私達を…》

最悪だが予想出来ていた事でもあり鈴乃に動揺はない。寧ろこの状況をどう切り抜けるのか考えている様子だった。しかし、状況が好転するわけもなく、さらにもう一機が姿を現した。

識別は……ヴェアヴォルフ。

「おい、都。ヴェアヴォルフのアリゲートルだ!」

諦めて機体から降りようとした次の瞬間、音声通信が入る

《戦術機大隊『モランボン』の衛士達に告げる。貴様等の目論見は既に見抜いてる―――大人しく機体から降りろ。聞き入れない場合はこの場で粛正する!》

カタリーナの声だ。まさか助けに来てくれたのか!?

これにはドックァ中佐も予想外であり狼狽の声を上げる

「ディーゲルマン中尉!貴様、どういうつもりだ!?我々はブレーメ総帥閣下の命を受け行動してるのだぞ!」

《日本人衛士を快楽殺人的に無差別で粛正した人間が何を言う。今すぐ部下達に武装解除を命じろ!》

叱責するカタリーナに対しドックァ中佐は歪んだ顔でこう答えた

「貴様等ヴェアヴォルフも、東ドイツ国民を粛正しまくってたそうじゃないか。貴様等も人の事言えないだろう!」

《!貴様…》

「ウェーハッハッハッ!悔しいか?悔しいだろう?どうせ朝鮮は滅びる。BETAに蹂躙されてな!」

ドックァ中佐は高笑いしカタリーナを小馬鹿にする。

無論、上官の命令なしで動く事は軍規違反だ。ドックァ中佐はそれを逆手に利用したのだ

彼の発言を聞いたモランボンの衛士達は疑心暗鬼を生み、機体から降りる

「お、おい!貴様等、何故降りる!?」

「ドックァ中佐、もう貴方の命令は聞きません。日本人を恨むのは勝手ですが私達を巻き込んで私怨に付き合いきれません」

衛士の一人は真顔でこう言った

「ぐぬぬ…此奴を機体から引き摺り降ろせ!」

朝鮮武装警察軍の兵士達も彼の事を疑い始め、命令は聞き入れなかった。

「どうした!?何故命令を逆らう!?」

これにはカタリーナも予想外だった。

《…貴様等、彼の部下だろ。何故命令に逆らうんだ?》

「逆らうって……もう疲れたんですよ。ディーゲルマン中尉」

朝鮮武装警察軍の兵士の一人が憔悴しつつこう言った。

「もうウンザリなんですよ!今日も日本人衛士粛正、明日も日本人衛士粛正。毎日毎日彼に付き合わされてやりたくもない事をやらされてるんですよ!」

そう言うと、兵士達の銃口を下ろし工藤中佐達の拘束も解いていった。

そう彼等はドックァ中佐に信頼されてなかったのだ。

《部下の統制が取れてないようですね。ア・ドックァ中佐》

「ぐぬぬ…貴様!」

カタリーナはドックァ中佐を軽蔑し鬼みたいな顔を浮かんでいた

そして兵士達はドックァ中佐を拘束し手錠を掛ける

「な…馬鹿!違うだろ!」

ドックァ中佐は歪んだ顔でこう言うが兵士達は聞き入れて貰えなかった。

次の瞬間、カタリーナは兵士達に命令する

《この者を連行しろ!》

「は!」

そして兵士達は迅速に動きドックァ中佐を連行していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドックァ中佐が拘束された後、私達はいつもと変わらず衛士としての役割を全うしていた。

そんな中、戦術機の部品と弾薬、補給がそろそろ切れそうだった

工藤中佐のチェックは徹底的だ

「坂崎大尉、戦術機の部品と弾薬。それに補給だ。ここに来てから数ヶ月経つがもう切れそうだ」

「そんな…北朝鮮の衛士達やヴェアヴォルフや666に頼んで分けて貰えば…」

「馬鹿野郎!弾薬は何とかなるが部品と補給は来ねえんだよ!悲しいことだがこれが現実だ。受け入れな」

整備兵による機体の整備は出来なくなる。

拙いな……そんなこと考えてるうちにカタリーナが私に話しかけてきた

「坂崎大尉、何か困ってるみたいね」

「ディーゲルマン中尉…何の用です?」

私がワザと拒絶しようとするがカタリーナは優しい笑みを浮かべる

「部品と弾薬、補給が不足してるそうね。もう分かりやすいんだから嘘吐かないでよね」

……馴れ馴れしいが、言ってる事は事実だ。

「実はそうなんだ」

「やっぱりね…」

カタリーナは不敵な笑みを浮かび、猫なで声で私を絡んだ。

「ねぇ、部品と弾薬、補給困ってるなら手っ取り早く入手できる方法教えようか?」

耳に近付いて甘い声で囁く

「これはチャンスよ。逃したら二度と手に入れられないわよ?」

「近い!近過ぎるぞ!で、手っ取り早く部品と弾薬、補給を手に入れる方法って何だ?」

怪しさが満載しすぎる。私達を嵌める気だ。

私は警戒すると、カタリーナは高らかに答えた

「通販サイトよ」

「通販だと?」

「ええ」

聞き耳立てた工藤中佐が話を割り込んできた

「姉ちゃんよ。もしそれで入手できるなら半年は保てる。が、責任は姉ちゃん一人だ」

「工藤中佐…(14年経っても姉ちゃんと呼ばれるなんて少し嬉しいかも)ええ、これは私の独断専行だから責任は私が取る」

「……という訳だ。坂崎大尉」

工藤中佐が了承得てくれたのはいいが、心配だな……詐欺だと思うがそうは言ってられない。

やるしかないか。

「ディーゲルマン中尉、すまないな。手間取らせてしまって」

「カタリーナでいいわよ。まあ無事入手できるかは保証出来ないけどね」

そう言ってカタリーナは誇らしげな笑みを浮かべその場から去っていった

「信じるしかねえな。今はそれだけ願うしかねえ」

「ええ、彼女は嘘吐くような人間ではないと思います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタリーナは国家保衛省の執務室でノートパソコンを開き通販サイトで戦術機の武装、部品、弾薬。そして推進剤を虱潰しで探した。

「(この通販サイトは普通の回線では見れない…衛星経由で接続すれば戦術機の部品や弾薬は手に入れる!)日本製の…77…部品と弾薬…」

ブツブツと言ってるうちにお目当てのものが見つかった

「あった!これ…え?嘘」

しかし、そう簡単に手に入れることはなかった

「売り切れ……そんな馬鹿な。何かの間違いよ」

他の通販サイトも調べたがどれも同じだった

「ない…全部売り切れてる」

戦術機の武装と武器、弾薬と推進剤の支払い方法はベアトリクスのポケットマネーだろう。

悲しげな表情を浮かび嘆こうとした時、一通のメールが届く

「メール?誰だろう」

その宛先は、アメリカ陸軍の女性将校だ。

しかもご丁寧に顔写真まで送ってきた。本来なら自殺行為なのだがどうやら自信ある笑みを浮かんでる

年齢は20代前半。

「馬鹿な女…自殺するのと同じなのに警戒心がないわね」

カタリーナは早速、その女性にメールのやり取りをした

「”初めまして、私は東欧州社会主義同盟のカタリーナ・ディーゲルマンだ。現在北朝鮮の戦線で物資が不足している。武装と部品もそうだが弾薬と推進剤を分けて貰いたいが上の人に許可を得ないと出来ないのは承知だ。それと希少金属を50%くれると有難い。良い返答を待ってる”と」

この内容で送ってから10分後返信が来た

「返信来たわ。ん~…”お初にお目にかかりますカタリーナ・ディーゲルマン中尉。メールでのお問い合わせありがとうございます。武装と部品、弾薬と推進剤は提供致しますが希少金属に関してはお答えし兼ねます”……――――。”返答感謝する。希少金属に関してはお答えし兼ねますとは何だ?我々に喧嘩を売ってるのか貴様は。希少金属なんて一つあれば十分なのでは?”」

返信送った後、5分後再び返信が来たが相当頭に血が昇っているだろう。奴はカタリーナに食って掛かった

「……”それは貴女、いや東欧州社会主義同盟の皆様には無関係の筈です”いやいや関係大アリでしょ…。”馬鹿みたいに武装と部品、弾薬、推進剤。希少金属を購入してどうするつもりだ?”」

再び返信したが、奴の返答は驚愕の事実が綴られていた。

その返答内容は……?

”最強の第3世代戦術機の開発を行うんです。こっちは金が掛かっていますからね。東ドイツ国民を無慈悲で殺した貴女達と一緒にしないでください。あ、因みに私は元女子ボクシング選手ですよ。下手な言動すると殺すかもしれませんよ?”

「グウウ……!」

やれるものならやってみろ…と喉元まで出たが、ベアトリクスに迷惑を掛けてしまうから喧嘩を売る訳にはいかなかった。

奴の返答はさらに続く

”これは違法行為でも何でもありません。もし宜しければその戦術機の設計図を此方に送りましょうか?勿論タダという訳にはいきませんが。”

何と悪びれることなくカタリーナにこう言ってきた。

これには悲痛な声が漏れてきた

「……ッ。我々の事をゴミ扱いしているのか此奴は。”ではその最強の戦術機の設計図を購入するから値段は幾らだ?”」

悔しい表情で訴えるカタリーナの切なる願い…それに対し奴は信じ難い言葉で返答した

”では5倍の値段で売りますよ。ブレーメ総帥閣下に購入資金を出してくださいね”

「!(この女……ブレーメ総帥の名を)」

”これは違法行為でも何でもありません。購入した物資を他の軍隊に売ることは自由なんですよ”

目の前が真っ赤になるほどの怒り…しかし、奴がやってる事は合法だった。

結局、カタリーナは奴との交渉は打ち切り物資を手に入れることは出来なかった

「……ああ、久々に怖い思いしたわ」

私に一体どんな言い訳するのだろうか。何より我々に物資を購入できなかった。

折角の物資の補填なのに、それがとにかく辛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、平壌基地に赴き格納庫にいる私達に謝罪しようとしたが、どう説明すればいいのか分からなかった。

そんなこと考えていると、一人の朝鮮人民軍衛士とトレンチコートを着てフードを被った若い女性の姿があった。

顔をよく見ると、メールで見た顔写真とそっくりだった。

カタリーナはすぐに理解した。奴が物資を横流しにしたと。

「今回も上手くいったな。で?俺を脱北してくれるんだろうな。あの女狐の言いなりになるのはごめんだ」

「この国はすぐに滅びる。例えベアトリクスがこの国を守ってもBETAの侵攻は止まらないわ。希少金属を分けて貰って感謝するわね」

奴はそう言ってお金を渡した。

「約束は破るなよ。早くこの国から出て自由気ままに生きたいぜ」

「貴方のお陰で助かったわ。ありがとう」

奴はニッコリと笑みを浮かんだ。

これ以上見過ごすわけにはいかないので前へ出た。

「そういう事だったのね…」

「あ?」

「あ、貴女は…」

これには二人共は予想外だった。

「ディーゲルマン中尉……」

「何故物資を横流しした?」

カタリーナの問いに対し朝鮮人民軍衛士は悲しげな表情を浮かびこう答えた

「お金が…お金がないんですよ。母さんが全部お金持っていかれて…」

「え?」

男は経済的な家庭事情でお金どころか貯金すらなかった

「南浦市に住んでいますが、家賃が払えない状況で…もうここから出ようと」

事情は分かったが、物資を横流しする事は許されない。

「貴様、脱北しようとしてるな?」

「そ、それは…」

男はポツリとつぶやこうとするが奴はそれを遮りフードを外す

「直接対面するのは初めてですね。私は元女子ボクシング選手でありアメリカ陸軍のヘザー・オールクス少尉です。以後お見知りおきを」

「ふーん、そうなのね?」

カタリーナにとっては手間が省き助かったと言っても過言ではないだろう。

そっちから喧嘩を吹っかけてきた

「ここで心置きなく暴れられるわね」

と身構えようとした時、自室に戻る途中の私に遭遇した

「ん?ディーゲルマン中尉か。物資は手に入れそうか?」

「だからカタリーナだって!それより此奴等物資を横流ししようとしてたわ」

自室に戻ってベッドに寝ようと考えただけの私だが、その言葉を聞いて私は怒りを覚えた。

「よぉく分かった。この女はアメリカ人のようだな。カタリーナ、私に任せろ」

「了解したわ」

ヘザーと名乗る女性は余裕の表情を浮かんでいた

「私が勝ったら定価で物資を売ってくれ」

「貴女が『狂犬坂崎』と呼ばれてる坂崎都大尉ですね。お会いできて嬉しいですよ―――ですが、私には勝てませんよ?馬鹿は死んでも治りませんからね。アメリカ軍の誇りを持って商売してるだけですよ」

法的にどうこうの前に、人として守らなきゃいけないルールがある

「何が商売だ…貴様等のやってる事は、ただの汚い横流しだろうが!」

他国の衛士を泣かせる下衆女は……私が許さない!

開始の合図もなく、下衆女は不意打ち出来た。

「遅い!素人が!」

バチィーン

「それで全力か?転売女…貴様が先に殴ったぞ」

「え?嘘でしょ……」

私の打たれ強さは昔から異常だった。

パンチ一発で倒れた事はない。

正しい見本を新米の衛士達に見せるのが真の衛士だ。

「他国の衛士を泣かせ、くだらない手段で金儲けするんじゃない…下衆野郎!」

ヘザーは身構えてガードをしたが、そんなの関係ない

「この横流し野郎が!!!」

ボガァ

「ぐげぇえええ!!」

私のパンチにガードは無意味だ。全体重と魂をのせた極限のパンチだ。

ヘザーは倒れ、痙攣を超すが私は馬乗りで拳を奴の顔面に目掛けて振るった

「メーカーだってその値段にする為汗水流してるんだ!」

ボガァ

「グエエエエエエッ!!!」

本当に欲しい人に…衛士達に物資を渡してやれ!この下衆野郎がぁ!!

ヘザーの顔が原型なくなるほど完膚なきまで鉄拳制裁した。

「はあああああ!!」

「すみません。勘弁してください!許してください!!」

男の制止で私はやっと我に返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、約束通り定価で5戦分貰うぞ」

「は、はい。勿論でございます」

私は男に札束を渡した。

衛士としてではない。私個人として悲しくて情けない気持ちでいっぱいだったからだ。

「あと…他の部隊の衛士達の機体に定価で物資渡してこい。じゃないと貴様もこうなる」

「ひいい、わ、分かりました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先に手を出したのは向こうだとしてもやり過ぎたのは事実。

「また騒ぎを起こして…この馬鹿!」

「鈴乃、悪かったよ…」

やはり今回も順安区域安全部にいる社会安全員のお世話になってしまった。

すぐに殴るのは悪いとは分かってはいるが、今回の件に後悔はない。

「衛士達を泣かせる人間に喧嘩売られちゃ買うしかないよな…」

一応、物資は届いたから平壌基地にいる衛士達は喜んでくれているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、万寿台議事堂から出たベアトリクスはロザリンデや警備兵5名を連れて急遽アイルランドから訪朝したアイリスディーナがいる柳京ホテルに向かおうとしていた

前に止めているリムジンを乗ろうとした時、突如朝鮮人民軍と思われる軍用トラックが前後挟み撃ちし同時に降りてきた兵士達はベアトリクスに銃口を向ける

「何の真似かしら?」

ベアトリクスに囲む兵士達は朝鮮人民軍陸軍の軍服を着用しアサルトライフルを握り構えている

不自然な点がある

何故、タイミングが良くベアトリクスに囲んでまで銃口向けられるかを

ニコラに連絡しようと試みるが明らかに連絡できるような状況ではない

警備兵は抵抗したが銃弾に倒れる

目の前の人物に手で口を塞がれたまま柳京キムチ工場へと連れて行かれ拉致された

「!」

「総帥!」

ロザリンデはそれを阻止しようとしたが、返り討ちに遭い蹴りを入れられた

「ぐ!」

兵士に押されるままに後退したベアトリクスは荷台に座らされる。

突然の事態に混乱するベアトリクスを尻目に、兵士は懐からナイフを取り出してベアトリクスの眼前に突き付けた。

目の前にナイフを怯える様子はなく兵士に睨み付ける

そしてその場から走り去る軍用トラックを見たロザリンデはただ見ているだけしかなかった

「……!」

東欧州、北朝鮮を震撼させるベアトリクス・ブレーメ拉致事件が起きてしまった。




いつも作品見ていただきありがとうございます
今回の話は安州要塞陣地防衛戦です。
今更ですが、朝鮮武装警察軍の作戦参謀のア・ドックァ中佐のモデルは韓国俳優のイ・ドックァです。
独特な雰囲気や声、そして特徴的な笑い方がいいですよね。興味ある方は是非検索してください。
マブラヴ:ディメンションズ、声優陣公開されましたね。
アイリスディーナやベアトリクス等の声優さんはキャラのイメージにピッタリなんですよ。でも唯依を演じる声優さんが………うん。かなりベテラン風な若手声優さんですね。
この作品を…トータルイクリプスサンダーボルトや他の作品、Pixivで投稿した作品を読んで頂けた全ての方々に感謝しつつ、今回はここで筆を置かせて頂きます
ではまた


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Change my mind

私の名前は坂崎都。

この生きづらい世の中で生きる道を探している日本帝国軍の女性衛士だ。

学生の時、私は最強と言われ全国の腕っぷし自慢に喧嘩を売られてきた

「私は奈良全域をシメてる白石よ。貴女が坂崎都ね―――私と勝負しなさい!」

「黙れ。殴った女子生徒に土下座して慰謝料を払え」

「狂犬坂崎も終わりだ!この人は柔道3段だぜ」

生意気な女番長が手出しする前にジャーマンスープレックスで奴の頭上にぶつけ倒した。

「でやぁっ!」

ガンッ

「グゲエエエ!!」

「お前等、傷付けた人らに土下座してこい…」

「は…は…はいいい!!」

だが私から喧嘩を売ったことはない。

力はいつも誰かの為に使った。

私は曲がった事が大嫌いだった。

「社会のゴミを掃除しに来ました~」

「貴方は存在自体が害悪でええす」

「ああ…何をする気じゃ…?」

特に弱い者いじめだけは絶対に許せなかったんだ。なのに…社会には反吐が出るほどの救いようがない人間がいる。

「目障りなんだよ!薄汚ねえ!」

ゴッ

「グギャアア!!」

「こんな風になるなら死んだ方がマシだから大人しくくたばれ!」

最早、人とも認めたくないような非道を行う奴等だ。

私は浮浪者の老男性を庇って半グレの一人が振るう角材にぶつけられた

「危ない…!」

ドッ

「ぐう!」

「ん?何此奴」

「おい、死ぬのはお前等だ…」

「頭の悪そうな奴が来た♡」

「この角材が見えねえのか?バカ。お前も死刑な」

どういう意図で老人をタコ殴りしたのかは察するが放置するわけにはいかん

「人生の大先輩に何してるんだああ!!」

バチンッ

「グエエエエエ!!」

「角材で老人を殴るって頭おかしいのか!大馬鹿者が!!」

ボゴォッ

「ゴエエエエ!!」

人の道を外れた人間には容赦しなかった。頭蓋骨を砕く程の拳を女半グレにくれてやった

「おじいさん、大丈夫ですか?今病院に連れていきますからね」

「ありがとう…」

「カカカカ…」

「おいいたぞ!現行犯で確保だ!」

毎回魂を乗せた拳が重過ぎるのか…大怪我をさせて警察の世話になるんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヤンチャが過ぎたのか。23歳になっても中隊長だ。

「一人で食う食堂飯は腹に染みるなぁ」

当時24歳で大隊を率いた女傑衛士がいるが、私は彼女みたいになれない。

私の侘しい近況は置いておくとして、現在北朝鮮の首都、平壌にいる私達は最近、少しばかり騒がしい

「ここに派遣されてから3ヶ月になったな……」

というのも北朝鮮国内全体がベアトリクス一色に染めてるからだ。

北朝鮮はベアトリクスが支配してる国家だ。対BETA戦闘に相応しい戦闘国家

ただ、少し気になったのは……ベアトリクスがもしいなくなったらの話だ。

ベアトリクスがいなくなったら北朝鮮は崩壊する事は目に見えている。

基盤が頑丈ではない故、反体制派や一部の朝鮮人民軍将校が暴走する可能性が高いからだ。

他人の事ながら心配になるのは私だけではない筈だ。

そんなある日の事、私が食堂で食事を摂った後、自室に帰ると…

「何だこれは?」

扉の前に包みのようなモノが置いてあるのが見つけた。

鈴乃からのプレゼントか?と思っていた。私は包みの中を見て絶句した。

「嘘…だろ……」

何とそこにあったのは女性の髪の切れ端だ。

色は黒……石鹸の匂いが漂う。

状況は全く理解できないがあそこには置いておけない

「思わず部屋に持ち帰ったがどうしたものかな…」

困り果てた私は鈴乃に助言を求めることにした。

事の次第を話すと鈴乃は深々と溜息を吐いた。

「また面倒な事に首を突っ込んで……とりあえずディーゲルマン中尉に連絡しなさい」

「ディーゲルマン中尉に?」

「変な因縁付けられたら困るでしょ?」

という訳で、ヴェアヴォルフ大隊専用の格納庫に向かい、自分が乗るチボラシュカの整備してる整備服を着てるカタリーナを見かけ話しかけた

「カタリーナ、すまない。少し話があるんだ」

「あら?坂崎大尉じゃない。自分から話しかけてくるなんて珍しいわね」

不敵な笑みを浮かんでるが、今は悠長に付き合ってやれん

私は髪の毛が入ってる包みをカタリーナに渡す

「これが私の部屋の扉の前にあったんだ」

「ん?」

その包みの中を見たカタリーナは背筋が凍り戦慄が走った

「これは…!?」

「どうしたんだ?」

「貴女、昨日のニュース見てないの?ブレーメ総帥が何者かに攫われたのよ」

一体、何があったんだ?

首を捻りながら答えようとしたが、私達の前に2人の人影が近づいてきた

それは若い女性将校とその恋人と思われる20歳前後の男性将校…朝鮮人民軍の将校だ。

「何か用かしら?」

とカタリーナは2人に言い向ける。

「あの……」

「おいアンタ……」

言い辛そうにしていた女性将校だったが、それに割り込む形で男が前に出てきた

そして奴が告げたのはある意味衝撃の一言だった。

「ブレーメ総帥閣下を誘拐しただろ?この極悪人が…」

「はぁ?」

私は奴に誘拐犯を仕立て上げられた

一体何を言っているんだ此奴は…さっぱり分からん

あまりにぶっ飛び過ぎた言い掛かりに固まる私に奴は醜い表情でこう言った

「とぼけたって無駄だぞ。日本人―――――証拠はちゃんとあるんだよ」

男は写真を見せ、そこには髪の毛が入った包みを持ち帰る私の姿がしっかりと写っていた。

此方が絶句しているのをいいことに男はさらに言葉を重ねてくる

「おい、叛乱分子。安全部に突き出されたくなかったら50万ウォン出せ。黙っててやるから」

あぁ………成る程な。

「(鈴乃が言ってた変な因縁ってこういう事か………)」

目の前の馬鹿将校はともかくとして私には別に気になることがあった。

「お前はこのままでいいのか?」

「え……?」

それは後ろで申し訳なさそうにしている女性将校の事だった。

「ベアトリクスを拉致して、ご丁寧に髪の毛を切ってまでそれを脅迫の道具に利用するのがお前が望む事なのか?」

「おいコラ!俺の恋人に話しかけるな!国賊が!」

だから彼女がこんな事に賛同しているとは思えなかった。

此方の問いかけに女性将校は泣きそうな顔をするとこう言った。

「纏まったお金が入るから……仕方ないの」

「お金だと………?」

「私が必死に稼いでも食べていくのが精一杯。なのに彼はギャンブル代が欲しいって………」

おいおい、どえらいカミングアウトだ。

「貴様、恋人の金でギャンブルやってるのか?」

「貴様には関係ないだろうが!ギャンブルで金を増やせばいいんだよ!!」

真正のクズか。此奴は……。

「ベアトリクスに歯向かうとどうなるか貴様は分かってるはずだ。貴様も叛乱分子の一人だろうが。ディーゲルマン中尉には説明済みだ。金なんぞ払わん」

私から金が取れない事が分かると奴は諦めた様子だった。

「チッ!帰るぞ、来い!」

「はい…」

これでこの騒動も何とかなるだろうと思っていたのだがそうはならなかった。

「貴様が上手くやらないからだろうが!」

ゲシィッ

「きゃあああああっ!」

「な…!?」

なんと奴は自分の恋人を蹴り飛ばしたのだ。

「早くベアトリクスの髪の毛を切って来い!次の部屋に置くぞ!」

「ぐうううう……」

「(次の部屋の前に置く…だと!?)」

「ベアトリクスの髪の毛は打ち出の小槌なんだ!早く髪切って来い!」

ベアトリクスに忠誠を誓った将校として、最早、正気の発言とは思えない…。

実はこの男性将校は北朝鮮反体制派のスパイで、ベアトリクスの髪の毛を切ってそれを使った脅迫の常習犯だったのだ。

という事はベアトリクスを拉致したのは此奴等だって言うのか……。

髪の毛持ってるだけで誘拐犯扱いか……呆れて何も言えないな。

「自分の恋人に一体何やってるんだ?」

「このバカが使えないからだろ。金がいるんだよ」

「真面目に働け。ベアトリクスを拉致するなんて下衆の極みだろうが!」

「もういいわ。貴様鬱陶しいから粛正する」

すると男は木刀を取り出した。

「頭割られたくなかったら50万払って即座に日本に帰れ」

「脅迫がダメなら今度は強盗か。救いようがないな…」

と言ったものの、此奴の構え…素人じゃない。有段者か。

だが、喧嘩を売ってくるなら丁度いい―――私もムカついてたんだ。

「貴様は最初からベアトリクスを倒そうと反体制派の連中と接触し、拉致したんだな?指導者を大事に敬おうと思わないのか?」

「思わないな…誰も望んでないんだよ」

「何だと!貴様が敬わないからそうなったんだろうが!」

次の瞬間、不意打ちで奴の木刀が私の側頭部を捉えた

「隙だらけなんだよ!日本人が!」

ガンッ

「グウウ!!」

閃光のようなスピード、体重の乗った強烈な打ち込みだ

だが、私の頭は石どころじゃない。ダイヤ並みの固さなんだよ。

「効かないな。木材じゃ私の頭は割れないな。先に手を出したのは貴様だぞ」

「嘘だろ…モロに入ったんだぞ」

忠誠心なんて関係ない…愛国心を育て、指導者に敬愛するのが貴様等朝鮮人民軍の務めだろうが

「人生を掛ける覚悟ないのなら、軍人なんかなるな!!」

剰え、ベアトリクスを拉致して髪の毛を切ってそれを脅迫に使う非道…そんなもん絶対許されない!!

「死ぬ気で歯を食いしばれ。でないと首が折れて死ぬぞ」

「うおおお!(問題ない!木刀は間合いが広い!パンチは届かん!)」

私に間合いなんて関係ない。何故なら…一瞬にして距離をゼロにできる踏み込み力があるからだ。

「恋人に犯罪の片棒を担がせるな!!」

ガン

「クギャアアア!」

そして頭蓋骨を潰すほどの極限のパンチを奴に打ち込んだ。

さらに頭に昇った血に任せて思い切り頭突きをした。

「ハァッ!」

ゴッ

「グケエエ!」

「ありがとうございました!もう充分です!!」

そして女性将校の必死の叫びに我に返った。

「おい」

「ひ…ひぃぃ」

「親でも何でも頼って愛する人を幸せにしてやれ」

前歯を全部なくした奴は…恐怖に顔を引きつらせながらカクカクと首を振っていた。

その後、社会安全員が来て男は脅迫に誘拐などの罪で御用

「お前も安全部まで来て貰おうか」

「ですよね…」

私も過剰防衛という事で…お邪魔する事となった

二人が逮捕された後、柳京キムチ工場の倉庫に閉じ込められたベアトリクスを無事救出。

拉致した実行犯や反体制派の構成員はその場で拘束。第101教化所に送られたというが恐らく粛正されたんだろう。

そんな事は私には無関係だ。

こうしてベアトリクス・ブレーメ拉致事件は幕を閉じていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平壌中区域郊外

 

静寂な雰囲気でただ誰も居ない高級中学校の運動場

そこにはベアトリクスを拉致し慰み者にしようとした兵士達やそれを加担した将校、挙句の果てにその家族や親戚諸共全員この運動場に集いざわつき恐怖心を感じていた

その数はなんと20万人

朝鮮人民軍のチボラシュカ3機、アリゲートル8機が兵士達の前に立ち構えていた

兵士達は怒号を上げ壇上に立つベアトリクスに向け罵声を浴びせる

「てめぇ、こんな事して楽しいのかよ!」

「そうだそうだ!この独裁者が!」

「女ヒトラー!」

「サディスト!」

「クソ独裁者!」

「売国奴!」

「処刑を中止しろー!」

「引っ込めー!」

ベアトリクスは怒りを堪え笑みを浮かべながら兵士達に話をする

「貴方達が何故ここに連れてこられたのか分かってる筈よ」

と黒い笑みを浮かびつつ優しい口調で言うが、当然納得する訳がなかった。

「それがどうした!!?」

「死んで詫びろ!」

一部の兵士達はベアトリクスによる支配体制を糾弾し怒りを現した

「先ず一つ言っておくけど、私はどこぞの不躾な兵士に髪の毛切られたのよ。女性にとっては髪は命であり大事なのよ。それと私の顔も傷付いたわ…大したことじゃないけど」

笑みを崩さず兵士達を見下す

兵士の大半がベアトリクスバッジを外してる。これは明らかに国家反逆罪に相応しいだろう。

ベアトリクスバッジは北朝鮮の国民が着けている、ベアトリクスの肖像がデザインされたバッジである。

アイリスディーナのバッジも90年代頃から色々なバリエーションが制作された一方であまり佩用されていなかったが、1997年1月に2人の肖像がデザインされた物も登場した。

…にも拘わらずベアトリクスに歯向かった兵士達はバッジを外している。

「バッジ、外したわね?あれを外したという事は貴方達は私を必要してない者…即ち国家の敵に翻った」

凛々しく勇敢で美しく立ち向かうベアトリクスは髪を切った兵士の方に向ける

「!」

「……言い訳なら聞いてあげるわ。さぁ言いなさい」

一人の兵士は腰を曲げつつ言い訳で話す

「そ、総帥の名誉や功績を来世に語り継ぐためです!」

「ふむ…他は?」

「その髪の毛をソ連政府に供与し貴女のクローンを作る様要請しようとしたのです!」

と無理矢理解釈してそれを言い訳にしたのだが…

「確かにソ連は何某の実験を行いクローン製造してまで戦術機を乗せて戦わせていると言う話は少し聞いたけど」

「では」

次の瞬間、ベアトリクスの笑みが消える

「そんな言い訳通用する訳ないでしょ?大体ソ連政府は貴方達みたいに忠誠心がなく雑務を真面に熟してない人が相手するほど暇じゃないのよ」

「え?」

兵士の一人は間抜け面を浮かび絶望感を味わう

「二コラ」

「は―――全員コンテナに入れ!」

ニコラの号令によりベアトリクスの忠誠心が全くない兵士達を巨大コンテナ1つですし詰め状態にさせる

Mi-17ヘリ2機で縄を引っ張る形で平壌から最もBETAの数が多い場所である豆満江までチボラシュカ2機とアリゲートル2機が付き添う形で飛行した

「貴様達はBETA捕食刑だ」

そう言いつつベアトリクスは兵士達に合図をする

「BETAを利用し処刑行うとはこれまで犠牲になった衛士の気持ちになって食べられるんでしょうか?」

「ええ、そうね」

2人は豆満江に向かうMi-17ヘリ2機で支えながら飛行する巨大コンテナ1つ、それを付き添うチボラシュカとアリゲートルを見守った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3時間後

豆満江郊外

 

豆満江に到着したコンテナは郊外の住宅街建設予定地跡に降ろされ兵士達やその親戚は怯えていた

「お、俺達…どうなるんだ?」

Mi-17ヘリから降りてきた朝鮮人民軍兵士は無言で簡易アンテナ、テレビボードとブラウン管テレビ、延長コードを使い発電機にコンセントを刺しつつ繋げて電源を入れる

映像に映ったのは万寿台議事堂の執務室の椅子に座ってるベアトリクスだ。

無論、これは生放送ではなく録画された映像だ。

笑みを浮かべつつ兵士達に向け言葉を送る

《貴方達はこれからBETAに喰われるのよ。画期的な処刑法だと思わないかしら?勿論こんな処刑法を考えたのは私だけじゃない。私を忠誠する我が同志達の希望であり願望なのよ》

その言葉を聞いた兵士達は怒りを爆発し咆哮する

「ふざけんな!俺達を殺す気か!」

「大体、てめぇが散々殺しまくったからこんな風になったんだろ!」

「死んで詫びろ!」

「滅茶苦茶に犯してやる!!」

「淫乱女が!」

兵士達は疲労困憊しストレス解消でベアトリクスに対する侮辱、誹謗中傷を浴びせる

《貴様達の心境はまだ分かっていないだろうだからキッチリと教える。ここに連れて行かれたのは何の理由があると思う?何の為にここにいるかをだ》

兵士達はざわつき恐怖を植え付けられ怯える

《私の顔を泥塗るような行為をした貴様達の悪事を後悔する事だな……これまで犠牲になった衛士達の気持ちを考えてあの世へ逝け》

録画映像はここで止まった。

次の瞬間

ドドドドドド・・・

戦車級BETAが第1波で接近

その場にいた朝鮮人民軍兵士は颯爽とヘリに乗り飛び去って行く

「!待ってくれ!死にたくない!」

「俺もだ!」

「もうしないから乗せてくれ!」

「ベアトリクス様に従います!許してください!」

泣き喚き数々の兵士達がヘリに向かって走り乗り込もうとするとアサルトライフルを構えた朝鮮人民軍兵士が弾丸を放つ

親戚たちも便乗しヘリに乗ろうとするがチボラシュカ1機が突撃砲で兵士達の親戚に向け120mm散弾を連射

「ぎゃあああああああ」

「母さん!ぐぼ!」

「ひぎゃあああああああああああ」

「たす…ぎゃあああああああああああああああ」

その光景を見た他の兵士達は愕然とし抵抗する気力が失った

「そんな…馬鹿な…」

「うああああああっ!!!!」

兵士は絶叫を上げ他の兵士達も次々と泣き叫び喚いた

そしてヘリは飛び去って行きチボラシュカ2機もついて行きながら飛び去った

戦車級が近づいてくる

ゆっくりと

ゆっくりと

兵士達に向けゆっくりと走り向かう

「嘘だろ…」

次の瞬間、兵士達の背後に回った戦車級1体が一人の兵士の体をその赤い手で掴み噛み砕く

ゴリッ!

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ。痛い痛い痛い痛い!」

次々と兵士達は嚙み砕き慈悲なく人肉を喰い荒らす

「足が…足が…」

「腕が…腕を喰うなーーーー!」

女性達も例外ではない

次々と戦車級の口を放り込み美しい顔立ちしてる女性達は無残に噛み砕かれ醜く残酷に手、脚、頭、上半身下半身真っ二つにして喰われる

「ぎゃあああああああああああああああああああああ」

「やぁ!やめ…」

「いやああああああああああああああああああああああああああああああ」

「やめてええええええええええええええええええええええええ。やめてよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

数々の絶叫や絶望、醜態

男女関係なく喰われていく

10万人だった兵士や親戚達は兵士級5体闘士級10体が割り込んだことにより1時間足らずでたった5人まで減ってしまった

当然生き残れる訳はなく武器を持ってない兵士達も喰われる

抵抗なく

既に亡骸になった者は当然喰われる

女兵士は密かに持ってた拳銃を持ちこめかみに目掛けて弾丸を射出し自決した。

こうして20万人いた兵士達や親戚は10分で全員喰われた

3時間後、朝鮮人民軍のチボラシュカ、アリゲートル2機ずつ兵士達や親戚は肉片残らずBETAに喰われたか確認する

こうしてBETAによる処刑は一先ず終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柳京ホテル

105階 スペシャルスイートルーム

 

夜になり景色は煌びやかになっておりユルゲン思想塔の先端部分にある炎のモニュメントは華麗に光っており平壌の夜は光に包み込まれていく

ソファーにぐったりと寛ぎベアトリクスはアイリスディーナの隣に行き笑みを浮かべつつ寄り添う

アイリスディーナは少し戸惑うが冷静に振舞いつつ紅茶を啜り飲む

ベアトリクスの表情はいつもの強気の態度で誇らしげに笑顔ではなく少し悲しき涙が流れてもおかしくはない表情だ

「何だ?私に寄り添って…いつもの自慢げの強気ある態度はどうしたんだ?」

「ん?少しね…」

いつもと様子が違うと察知したアイリスディーナはベアトリクスに問いかける

「自慢の髪の毛切られたからショック受けてるのか?」

アイリスディーナはそっけない態度で表情を曇った

ベアトリクスは静かに頷く

「そうか、ベアトリクス。そう落ち込むな。私がいるじゃないか?」

かつて敵同士だった2人がこんなに睦まじく仲良く隣に座り笑ったり泣いたりするのは久しい光景だろう

革命終結するまではお互い睨み合いしてたからだ。

今ではこうして仲良く接してる

ベアトリクスはユルゲンの事を思い出しつつ彼がベアトリクスの髪型を褒めた事やベルリン市街へと2人きりでデートした思い出を浮かびつつアイリスディーナの手を握る

「ふふ、あの頃を思い出すわねアイリスディーナ」

「兄さんと一緒に湖へ行って一緒に眺めてたな」

「ええ、そうね。ユルゲンは湖だけなくずっと私を見つめてたわ」

とベアトリクスは懐かしみを感じ優しい笑みを浮かべる

「まだ16歳の頃の話だな、兄さんと私、ベアトリクスの3人で一緒に笑って過ごした事を思い出すよ」

「ええ、ホントあの頃よくユルゲンに懐かれてたわね」

アイリスディーナは苦笑いし少し表情を笑顔になる

「実の兄妹だから当たり前だろ?」

少し元気になりクスっと笑みを浮かべるベアトリクスはアイリスディーナの顔を近づけた時、テーブルに置いてる携帯電話が鳴り響いた。

「何よ、これから楽しみの時間を過ごそうって時に」

拗ねた表情でベアトリクスは渋々と手に持ち通話ボタンを押す

「私だ、どうした?」

《総帥閣下の拉致事件の黒幕が分かりました。ドックァです。奴は最初から総帥閣下の事を忠誠なかったんです》

カタリーナが真面目な表情でこう言った。

「まだそうは決まってないわ。けどあの男はアクスマンやグレゴリーと比べ物にならない非常に危険よ」

ベアトリクスは首を傾げつつ笑みを浮かべる

「元山派は厄介よ。私を消して…カティア・ヴァルトハイムみたいに民主化運動ではなくアクスマンみたいに自己満足の欲求で国を滅ぼそうとしてるに過ぎないわ」

《では…》

「坂崎都大尉をドックァのところに行かせなさい」

ベアトリクスは私をドックァ中佐のところに行かせようとしたのだ。

これは流石に理解不能――――しかしカタリーナは冷静な対応で話しかける

《本気で仰ってるんですか?ドックァは平壌安全部の留置所にいますよ》

「彼は弁護士使って釈放すると思われる。金を渡せば何とでもなるわ。朝鮮革命を成し遂げる為に―――――異星起源種をこの世から消滅するにはこの男が邪魔になる。分かるわね?」

そんな訳がない…とカタリーナは分かってたが「分かりません」とは言えなかった。

「カタリーナ、返事は?」

《りょ、了解しました!》

「宜しい。では今すぐ遂行しなさい」

ベアトリクスは携帯電話を切り通話を終了した

「どうした?何かトラブルでもあったのか」

アイリスディーナは少し心配そうな顔を浮かべる

「ふふ、やましい人間って案外分かりやすいのよアイリスディーナ。あの男はアクスマンの朝鮮版よ。肩書なければただの男よ」

ベアトリクスの目に挑むような鋭い光が走った。

ベアトリクスに敵回したら、死を意味する

「ドックァを粛正する。貴女も狙われる可能性は否定出来ないわ」

「…」

ベアトリクス率いる平壌派とドックァ中佐率いる元山派。

彼女は朝鮮半島の繁栄を保つ為、朝鮮革命を決行し勝利を掴み最後まで支配していく

朝鮮革命は急速に終結へと向かっていた。




いつも作品見ていただきありがとうございます
今回の話は…ベアトリクス拉致事件とその実行犯達が処刑される話ですね(-_-;)
いよいよリリース迫ってきた(!?)マブラヴ:ディメンションズ
どんなソシャゲになるか楽しみですね!
課金する際はApplePayカードを最低限の金額でやる……予定です(-_-;)
この作品を…トータルイクリプスサンダーボルトや他の作品、Pixivで投稿した作品を読んで頂けた全ての方々に感謝しつつ、今回はここで筆を置かせて頂きます
ではまた


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Dangerous Tonight

私の名前は坂崎都

荒れ狂う世間の波の中を何とか乗り切ろうと足掻く日本帝国軍の武闘派衛士だ。

私は学生の時は最強の女と呼ばれていた

「坂崎ぃ、テメエを殺したらあたしが帝都最強だ」

「ゴットゥーザ様は極真空手の黒帯初段なんだぞ!」

「お前等か、ウチの女子生徒を襲ったのは…」

全国の札付きワルが連日、私に喧嘩を売ってきた

「隙あり!」

バキ

どんな攻撃を喰らっても私は倒れない

「それで終わりか?先に手出ししたのはお前だぞ」

「う、嘘だろ……おい」

だが、私の首の強さは次元が違う。どんなパンチでも耐えきって見せた

私が暴力を振るう相手は…

「関係ない人間を何で巻き込むんだああ!!」

ブン

「ぐはぁああ!!」

弱い者を傷付けた阿保共だけ

「ゴットゥーザ様ッ!!?ダメだ…完全に気絶してる」

「傷付けたウチの女子生徒に土下座して来い…慰謝料持ってな」

強く生まれたなら弱き者を守れ

天国のお婆さんにそう教わったからな。

私は生来曲がった事が大嫌いだった

「はいストップー。通行料払ってね。通行料」

「五摂家の人間は色々優遇されてるだろ?あ?」

「崇宰家の一員である私を貴方達に金銭を差し出すとでも思ってるのですか?」

だが世の中には反吐が出るほどひん曲がった馬鹿共が溢れてる

「おい、貴様等。死にたくなかったらこの子に土下座して走って消えろ」

「馬鹿登場ー。俺等道の治安守ってるんだから通行料は当然だよな?」

「勿論、お前もちゃんと払うんだぜ衛士サマよ!」

言ってることが醜悪過ぎたので奴等の顔面目掛けて殴った

「ボケがああああああ!!」

ボグッ

「グエエエエ!」

この様子だと頬骨は割れてるだろう。

「ぐげぇえ…」

「顔面の骨が……」

「大丈夫か?怪我はないか」

「あ、ありがとうございます」

私が助けたのは五摂家の一つである崇宰家次期当主の崇宰恭子だ。

助けたのはいいが…。

「アイツだ!」

毎回やり過ぎて警察の世話になるんだがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳で正規衛士になった私は23歳になって…中隊長だ

東欧州社会主義同盟総帥、ベアトリクス・ブレーメが支配している国家。北朝鮮

私と鈴乃は平壌基地で業務を励んでいた

まあ、これはこれでいい経験なのだが

この女は東欧州社会主義同盟戦術機大隊『ヴェアヴォルフ』に属するカタリーナ・ディーゲルマン中尉だ。

「どう?少しは慣れてきたかしら?」

「ああ、何とか慣れたよ」

ここに来てから、対人戦のイロハを教えて貰ってる

「坂崎大尉、私達の任務は多くの人の命を背負ってるのよ。それを忘れないでね」

「分かってるよ」

これは大袈裟ではない。

指揮系統失うと衛士達だけでなく北朝鮮国民の人が危険に晒してしまうからな。

カタリーナは理解しがたい事を言い放った

「ブレーメ総帥から直々の命を受けてね。ドックァのところに行きなさいってね」

何を言い出すかと思えばあの男のところに行けと?

「ドックァ中佐は安全部の留置所にいる筈だろ?留置所に行って面会に行けと?ふざけるのも大概にしろ」

「その事だけど、彼は弁護士を使って釈放したわ」

おいおい、とんでもない事を言い出したぞ

彼が釈放したなら、これは放っては置けないな

「奴は今何処にいるんだ?」

「国家保衛省本部の参謀執務室にいるわ。案内するわね」

私はカタリーナに連れていく形で国家保衛省本部に向かおうとするが…鈴乃に止められる

「都、何処に行くの?」

「少し用事があってな。国家保衛省本部に行く」

鈴乃は納得いかない様子だった

「何で…貴女は何も悪くないでしょ!?」

「そうは言っても…」

華太が話を介入する

「俺も行く。ドックァが仕掛けた罠があるかもしれねえだろ」

「……私も、都の事が心配だから行くわ」

カタリーナは苦笑いした

「まぁ、いいわよ?行きたいなら行けば」

という事でカタリーナと同伴する形で私と鈴乃、華太の4人でドックァがいると思われるところに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国家保衛省本部

参謀執務室

 

一方その頃、ドックァ中佐は執務室で書類を目を通し判子を押す作業をしていた

「国連軍の撤退作戦か……」

国連軍の朝鮮半島撤退作戦立案書を目通しする

「フン、腰抜けが……」

その書類を破る

「南朝鮮はこの撤退作戦は賛同するだろうが我々は反対だ、全く…失望したよ国連軍は」

次の書類を破ろうとしたその時、扉からノック音が響いた

「ア・ドックァ中佐、ディーゲルマン中尉です。宜しいでしょうか?」

カタリーナが参謀執務室の前で問いかける

「……入って構わんぞ」

ドックァ中佐がそう告げると私と鈴乃、華太、カタリーナが中に入る

ドックァ中佐は手のひらを頬に付け机に肘をつきつつ不満そうな表情でそっけない態度を取る

「坂崎都、大倉鈴乃。そして小峠華太…満足に挨拶も出来んか…まあいい……」

何が『まあいい』だ。貴様の所為で数多の日本人衛士が戦場でないところで死んでるんだぞ

それを分からないのか?将校だろ。

「一体何を企んでるのですか!?」

私がそう言うとドックァ中佐はニヤリと笑みを浮かべる

「企む?」

軽薄な笑みを浮かびドックァ中佐は私達に対し悪気はないと惚ける

「私が!?何を?本当に日本帝国軍として闘気がある強い女だな。君達の向こうでの仕事は終わったという事だ」

とドックァ中佐は椅子から立ち上がる

「見ろ、あそこだ」

ドックァ中佐はテレビの画面に映ってる映像を指で指す

「これは…」

「あの人は…」

「まさか……」

「………」

何とウルスラ革命で『勝利の女神』と拝められてたカティア・ヴァルトハイムと瓜二つの女性の姿があり、韓国の首都ソウル龍山区にある在韓米軍が駐留している龍山基地の格納庫の中でチマチョゴリ着用しつつその目は真剣な眼差しであり世界中に向けて演説していた

《人類の本当の敵はBETAです!朝鮮民族同士で争うなんて間違っています!私は訴えかけます!東西ドイツは共に戦ったように…南と北を手を合わせればBETAは倒せます!》

「……だそうだ、実に滑稽だと思わないか?」

確かカティアは公式での記録だと………。

「彼女は、カティア・ヴァルトハイムはアメリカのニューヨークで軟禁されていた筈……君はそう思ってるだろう」

「……(何が言いたいんだ?此奴は)」

「確かに本来であれば彼女は今頃軟禁されてるだろう。しかしベアトリクス様は彼女を粛清する事は考えたが逆手に取って利用してるのだ。朝鮮が南北分断し再び彼女の言葉により朝鮮は南北統一するだろう。と…そう東欧州社会主義同盟を設立し東西ドイツは互いの関係を強化していくのと同じようにな」

次の瞬間、閃光が光った

その爆発は龍山基地にいるカティアと名乗る女性やその警備員、在韓米軍兵士達まで巻き込まれる

韓国のテレビ局のアナウンサーが慌てた様子で実況する

《爆発が起こりました!今、在韓米軍が駐留してる龍山基地の格納庫が爆発起こりました!》

あの爆発は恐らく韓国に潜入した元山派の工作員が仕掛けたんだろう。それ以外考えられない

「おやおや…これはこれは、カティアはテロリストによって死んだな、これは」

私はドックァ中佐に殴りかかろうとしようとした次の瞬間、華太は怒り爆発し咄嗟に懐から拳銃を握り構えドックァ中佐に銃口を向ける

「お前ッ!!また人を殺す為にやって来たのか!!」

「ほぅ…まだそんな事を言っているのか」

「!」

「そんな甘っちょろい奴は俺を撃てるものか!あのカティアみたいに無様な死を遂げたいのか!?」

華太は動きが止まり躊躇う

醜悪な態度を取るドックァ中佐は私達の前にとんでもない事を言いだす

「『要塞級殺し』と呼ばれたテオドール・エーベルバッハは義妹の死によって狂いテロリストに堕ちた。当時は碌なもんじゃないとは思ったが……指導する人間がいないと思いあがる一方だ」

華太は歯を食いしばりつつそのままの態勢で拳銃を握り構える

「お、思い上がり……だと……」

ドックァ中佐は鼻で笑い華太を軽蔑する

「…………人殺しが偉そうに……!俺達を侮辱して……そんなに日本が大嫌いなら日本の地に入るな!!!!」

華太は声を荒げドックァ中佐に向け怒りをぶつける

「……君が今更足掻いた所でどうにもならん、どうせ仕組まれていた事なのだ………最初からな…」

「何の事だ……何を言ってる……」

ドックァ中佐は画面を切り替わり衛星カメラでの映像を見つつ私達にその映像を見せつける

その映像に映っていたのは柳京ホテルと万寿台議事堂、平壌基地が映っていた。

各所にドックァ中佐の部下と思われる兵士や元山派の兵士達はプラスチック爆弾を仕掛けていた

「な、何をしようとしている?」

「見れば分かる」

次の瞬間、爆発が起きた

柳京ホテルは不発だった為爆発に免れたが万寿台議事堂、平壌基地は爆発したものの建物自体は頑丈の為一部損傷し抑えた

映像はここで途切れる

「……という訳だ……面白いショーだろう」

此奴は愛国心が全くないのか?国の恥晒しだぞ。

ドックァ中佐は机の引き出しを密かに開け拳銃を出そうと試みつつ目線を上に上げる

「掃除も大変だ」

華太は疑心暗鬼でドックァ中佐を睨み拳銃は離さず握り締めながら構え銃口を向けている

ドックァ中佐は薄ら笑みを浮かびつつ淡々と話す

「…大体、君達がBETAと戦いに挑んだのは何故だと思う……ボーニング社の上層部もそれは承知の上だとしたら…」

そして机の引き出しにしまってる拳銃を手に取る

「日本帝国軍の衛士である君達には理解出来んのかもしれないが、いい加減そんな奴等にも目を覚まして貰わねばな……」

「な、何を言っている?」

「仮にBETAの脅威が去ったとしても平和の世なんてものは何も生みだしはしない…腐って行く一方だ。今回の一件もそんな腐った連中が仕組んだ事だ」

この言葉を聞いた華太は当然納得いく訳がなかった。

「だからと言って……それがテメエのやった事を正当化するとでも言いたいのか!」

「大義を成す為には多少の犠牲はな……エーリヒ・シュミットやハインツ・アクスマンみたいに……」

ドックァは拳銃を握り華太に向け発砲する

「致し方あるまい!」

華太はそれを回避しつつ拳銃を握りながら発砲し部屋の壁際に移動する

ドックァ中佐は机の裏に隠れ華太を発砲しようと試みるが、カタリーナは両手を広げそれを阻止する

「貴重な戦力を削るつもりか!?」

「!(カタリーナ…)」

「早く行って!」

その隙に私達は参謀執務室から出て逃げ走った。。

「ちっ……どういうつもりだ!?ディーゲルマン中尉!」

「私はブレーメ総帥に仕える衛士だ。貴様みたいな日本人狩りの命令など聞かない」

「………コケにして、今に見ていろ。必ず地獄へ送ってやる!」

ドックァ中佐は私達を粛正すべく早速行動を移し参謀執務室から出ていこうとしたその時、机に置いてある電話が鳴り響く

そして受話器を取った

「何だ?」

《中佐、大変です!労働党本部が平壌派の連中に制圧されて…襲撃に遭いました!我々元山派はベアトリクスに屈服します!死にたくないんですよ!!》

と泣きながら怯える兵士はドックァ中佐に訴える。

権力を強めるベアトリクス率いる東欧州社会主義同盟に潰されない為にここまで奔走してきたドックァ中佐だったが、彼にとって予想外の事が起き運は尽きてしまった。

《それと、中佐の支援を打ち切るスポンサーが次々と現れています》

「何だとっ!!坂崎大尉達に逃げられただけでなく、私のコネクションを捻り潰されたと言うのかっ!!そんな報告はもう聞きたくない!!すぐに取り抑えろ!」

ドックァ中佐は焦っていた

まさか自分のコネクションがベアトリクスによって捻り潰されたとは思いもしなかっただろう

無線を使い戦術機揚陸艦『李紅光』艦長として赴任してる副官のノクスと連絡取り命を下す

「ノクスか、いるなら応答しろ」

《中佐。何かあったのですか?》

「此方の状況は?」

《中佐、日本海軍の戦艦『大和』が此方に向かっています》

ドックァ中佐は舌打ちしつつ不平不満を感じこう言い放つ

「ちっ…まあいい……彼奴はここで潰しておかねば……後で厄介だ」

《では》

「迎撃するぞ!出せるだけ戦術機を発進させろ。私も『成桂』で出るっ!」

《―――は!》

この様子を見たカタリーナは不敵な笑みを浮かべ嘲る

「随分と大変な目に遭われてますね。中佐」

「……君と付き合ってる暇はない。帰れ」

ドックァ中佐はカタリーナに対しこう吐き捨て、去っていった

「ブレーメ総帥の思想と理想を反したら死にますよ?ア・ドックァ中佐」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃私達も国家保衛省本部の建物の中の廊下へ走りただ走る

しかし、ドックァの部下らしき兵士達に見つけられ銃撃戦繰り広げる

兵士達はアサルトライフルを握り構えつつしゃがみ込み私達に向け発砲するが3人共全員はそれを回避し壁際に隠れる

「クソ!前に出れねえ」

手持ちの武器は拳銃だけ

弾は……10発の弾丸だけ

そして悩んだ結果がこの答えだった

「鈴乃、華太。彼奴等は銃を持っている。真正面から行っても死ぬだけだ」

「?」

「何をするつもりだ?」

「訓練学校で総合戦闘技術評価演習でやった事を思い出せ」

鈴乃は察した

「……」

敵兵士は2、3人……いやもっとだな

今、身を潜めている壁際から身を出せば銃撃される

「時間勝負だ。一気に攻めるぞ」

次の瞬間、私が前へ出てアサルトライフルを握り構えてる兵士に銃口を向けた

その速射はまさに閃光!兵士3人は銃撃され倒れた

「おお…!」

華太はこれを見て圧巻した。

しかし兵士達は増え、私達に襲い掛かる

「いたぞ!こっちだ!」

私は鈴乃達に咆哮する

「今だ!」

次の瞬間、華太は鈴乃と共に駆け走る

「うおおおおおお」

「!」

兵士達は華太の頭を狙い撃とうとするが…無論、そんな事はさせない

「余所見をするな」

パァン

「ぐえぇ」

兵士の一人は鈴乃を襲い掛かりつつレイプしようと目論む

「この女だけ貰っていくぜ!」

「え…?」

華太は集中力を高め奴に弾丸を放つ

「鈴乃に触るんじゃねえ!外道が!」

パァン

「かは!」

その隙に階段で下に降り1階に辿り着きまた走る

走る

走る

走る

走り続ける

只管と走り続ける!

出入り口付近で私達は立ち止まる

そこにいたのは軍用ジープに乗ってる城戸と浅倉だった

「坂崎大尉、早く乗りや!」

「城戸か。有難い!」

軍用ジープに乗り込んだその時、元山派と思われるチボラシュカ1機が接近してきた

「チボラシュカ…やと」

もう手詰まりだ……と思ったが撃震1機が超反応でチボラシュカの背後に突撃砲の銃口を突き付け38mm弾を放った。

「撃震!?まさか…」

《坂崎大尉、無事ですか!?》

その撃震に乗ってるのは北岡―――華太の舎弟に当たる男だ。

「北岡、何でここにいんだ?」

《小峠の兄貴、時間がありません。すぐに基地に戻って…》

そう言いかけようとしたその時、工藤中佐から交信が来た

《北岡!牡丹峰へ向かえ!元山派がクーデターやりやがった》

《工藤中佐、どういうことです!?》

《いいからさっさと行け!》

《りょ、了解しました》

工藤中佐は慌てつつ交信を終了させた

《…坂崎大尉、早く基地に戻って戦術機を!》

「分かった。北岡死ぬなよ」

《任せてください!》

私達は城戸と浅倉が乗る軍用ジープに乗り平壌基地に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《今回の任務はBETA戦闘ではなく我が国の最愛の最高指導者ベアトリクス同志の暗殺計画を目論んでいると情報が入った。首謀者は既に承知している。直ちに阻止せよ!我が軍門に入り親愛なる指導者の為に!》

CPはそう言った。

今回の任務はBETA駆逐任務ではなくベアトリクスの暗殺を阻止しろと上層部から命を下った。

「ヴェアヴォルフ了解」

二コラは紅いアリゲートルの管制ユニットの中で操縦桿を握りモニターで状況確認する

平壌基地のヴェアヴォルフ専用格納庫から次々と戦術機が出撃し目標の朝鮮武装警察軍牡丹峰基地へと向かった。

朝鮮武装警察軍も黙ってはいられず基地の防衛の為に出撃させ応戦

二コラも北朝鮮の戦術機を落とす事は容易かった

「目標を補足した。我が大隊は逆賊元山派の連中を粛正する!牡丹峰を制圧せよ!繰り返す、牡丹峰を制圧せよ!」

《了解!》

二コラが乗るアリゲートルは大隊衛士達を率いり前へと進む

ロザリンデは二コラを護衛する為に背後に回る

《大隊長、敵機接近!数は、中隊規模!12機です!》

「アリゲートルか……いや違う。デッドコピー機だ!」

アリゲートルのデッドコピー機、『成桂』

中隊規模で二コラ率いる大隊に近づく

突撃砲に装填してる120mm弾を連射

『成桂』は5機撃破

「全機、攻撃開始せよ!」

また1機

1機

1機

1機

二コラは残り3機になるまで追い詰める

ここで工藤中佐率いる連隊が到着

《姉ちゃん!援護するぜ》

「感謝する。そんな旧式の機体で大丈夫なのか?」

《おう、撃震乗りを侮っちゃあならねえ!どんな機体乗ろうが衛士が未熟だったら意味ねえんだ》

工藤中佐の言葉を聞いて二コラは何も言えなかった

「……」

ニコラは牡丹峰付近でドックァの部下と思われる別の戦術機小隊を発見し躊躇わず120mm弾を発射

工藤中佐も負けてはいない

「旧式乗りにしてはなかなかやるじゃないか」

《お前さんもな。良い腕だと思うぜ》

二コラはその隙に牡丹峰基地へと向かうが、出てくるタイミングが良すぎるかドックァが乗る『成桂』が現れた

《退きたまえ。ミヒャルケ少佐―――私の邪魔をするつもりか?》

「ア・ドックァ!ブレーメ総帥を裏切り、剰え部下を利用して拉致して慰み者をしようと目論んだ事を申し訳ないと思わないのか?」

二コラはドックァに問いかける

当然、彼の返答は醜悪な理論を翳した言葉だった

《これは朝鮮の為だ。彼女を…ブレーメ総帥を生贄にすれば朝鮮民族は自ら国を運営し社会貢献するのだよ。貴様等外部の人間が支配し国の政治に任せられない朝鮮民族にとっては屈辱の極みだ!貴様らいなくとも朝鮮半島は未来永劫輝き繁栄し続けるのだ。申し訳ないだと?何を言うんだ君は。ミヒャルケ少佐、君は間違っている。BETAを滅ぼす為に手段は選ばないのだろ?だったら彼女だけでなく北朝鮮国民を生贄に捧げれば勝利を掴めることは出来る。簡単な事だ。人類の敵になればいいだけだ》

自分語りでこうベラベラと喋るドックァだったが、何を言ってるのか二コラだけでなく他の衛士達には理解出来なかった

「それで自分はのうのうと生き延びて隠居すると?自分勝手な奴だな。アクスマンと変わらないよ」

《何とでも言え。私はそう判断したのだ》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

万寿台議事堂

執務室

 

「平壌市民を避難指定場所に避難させろ、競技場、地下鉄…何処だっていい!それから中央テレビに連絡!私達の恐ろしさを見せつけろ」

《りょ、了解です》

無線機で朝鮮人民軍司令本部に連絡したベアトリクスは焦りに焦り、疎開の下準備を行っていた

「私が築いた戦闘国家をあんな薄汚く欲望塗れの男に潰される訳にはいかない、迎撃しろ!私も出る!」

《え?総帥自ら!?》

「そうだ、ファルクラムで出る!貴様は引き続き各部隊の援護を頼む」

《―――は!》

司令本部長が通信を切ろうとしたその時、安州要塞陣地から救援要請が来た

《総帥、安州要塞陣地から救援要請が来ました。如何なさいますか?》

突然の出来事だった。

本来なら放置するのだが、ベアトリクスは意外な返答をした

「こんな時にか……分かったわ。すぐに向かうと伝えろ」

《は―――では司令官に伝えておきます》

無線機を切りベアトリクスは更衣室に向かい地下格納庫で秘密裏に保管されてるファルクラムの管制ユニットに乗り出撃する

「そんなに捻り潰されたいなら捻り潰してやるわ。東欧州社会主義同盟総帥、ベアトリクス・ブレーメがね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、安州要塞陣地は再びの危機に見舞われていた。

重光線級が再び出現したのだ。それも数は倍。とてもではないが持ち堪えられるとは思えなかった。

 

 

「重光線級だと!?第1006戦術機連隊はどうした!?」

「そ、それが……! 何度も呼び掛けていますが応答ありません!」

「………こんな時に」

安州要塞陣地を預かる司令官は先ほど平壌でクーデターが発生したという情報を得ていた。

相手は元山派であり、私達は目を付けられていた事を思えば既に拘束されていると思い込み判断すべきだった。

だが、だからと言って戦局が好転するわけではない。このままでは安州要塞陣地が突破されるのも時間の問題であった。

「やむを得ん。南朝鮮軍の要請をしろ!」

「依然として釜山港に停泊したままです……」

「くっ……!」

そしてそれはこの安州要塞陣地の状況を見ても同じだった。南側の韓国軍に動きはなく、確実に見捨てていると言われてもおかしくはない行動だった。そして、それが分かるからこそ要塞司令は怒りを露わにした。

「今までは日本帝国軍の戦術機部隊と共同戦線を展開したがもう長くは持たん。ここで要塞級が出現し光線級を出したら終わりだぞ!」

司令官がそう嘆いた次の瞬間!

「っ!後方よりアリゲートルを編成した戦術機部隊とアンノウン接近!これは……!」

オペレーターは冷静に要塞司令官に現状報告

「あの紋章は…シュタージ……ブレーメ総帥閣下の専用機と思われます!」

「総帥閣下の!?一体何をしに……!いや、もし救援に来たとしたら……」

要塞司令官は突然の事態に驚くがこの状況でなら確実に救援だと考えたが相手はベアトリクス専用ファルクラムとアリゲートルを編成した戦術機部隊である。素直に受け入れる事は出来なかった。しかし、劣勢であることに変わりはない。

「ぐぬぬ…ブレーメ総帥閣下に甘やかされるとは…閣下に申し訳ない」

受け入れる事を決めた瞬間だった。ベアトリクスが乗る紅いファルクラムは電光石火のスピードで接近してくる光線級と重光線級の群れを後ろに着いて来てるアリゲートル36機を前へ行かせ砲撃を行った

《待たせたわね。援護するわよ。さあ、同志達、狩りの時間よ》

衛士達は「了解!」と一言を添えた。

要塞司令官は覚悟を決めた。このままではこの陣地を守り切る事は出来ない。であれば放棄して撤退するしかない。

「総帥閣下が要塞陣地を死守してくれている事は有難いが、いつ持つか分からん。閣下はお忙しい――すぐに帰る筈だ」

《私の部下達をここに配置する。司令官は平壌市民の避難をさせるように》

「は―!直ちに」

ベアトリクスは連れて来た衛士達をここに配置し、速攻に平壌へ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、私達は既に平壌基地に戻り早急に衛士強化装備を着替え機体に乗り込もうとしたが

「な…!?」

目の前に見た光景は、撃震が……使えなくなるほど粉々に爆破された形跡があった。

恐らくドックァが工作員に指示して使えなくさせたのだろう

これでは出撃出来ない……!

鈴乃も驚きを隠せなかった

「どういう事なの…これは!?」

もう詰んだ。と思いきや奥の方へ見ると、そこには中隊規模の数を揃えているアリゲートルがあった。

これは賭けだ。乗るしかない。

「鈴乃、華太。アレに乗るぞ」

「え?」

「アリゲートルにか?正気で言ってるのか」

華太は反論しようとするが鈴乃に制止される

「……都、私達の機体が使えない今、乗るしかないわね。少し抵抗あるけど我儘言ってる場合じゃないわ」

「うむ、早速乗り込むぞ!」

半ば機体を強奪だが、基地内は混乱状態。

乗り込んでも、問題ない筈だ。

3人はそれぞれの機体に乗り込み、起動させ手持ちの武器を持たずのまま出撃した

この朝鮮革命はいよいよ最終局面へと迎える事になる




序盤に出てきたゴットゥーザ様ですが、モデルは名前言わなくてももうお分かりになってる人はいる筈です。
次回、北朝鮮の派遣任務最終回です
お楽しみに!


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Rage your dream

私の名前は坂崎都

平穏な日常を求め、世間の波をかき分ける日本帝国軍の女衛士だ。

私は弱い者いじめは大嫌いだ。

「しっかり狙って……ショット」

パァン

「キャウンッ!」

「おお、正確!サーティーンじゃん!」

だからこんな胸糞の悪い光景に出会ったならば絶対に無視は出来ない。

「おい貴様等……今なら命は助けてやる。このワンちゃんの治療費おいて消えろ」

「正義の味方風馬鹿が出ましたよ」

「仕方ないですね。ボコボコに殴りましょう」

「やっちゃえ~♡」

動物虐待する奴は容赦しない

「犬いじめて何が面白いんだあああ!」

ゴッ

「グゲエエエエ!」

「無垢な動物を的にするなんてBETAと同じだ!」

バキッ

「グゲエエ!」

人道に外れたカスは許せない

「コラ、撃たれたら痛いだろうが!コラ!」

パンッ

パンッ

パンッ

「カカカ………」

「……」

「ああああ」

まあ毎回やり過ぎて、警察の世話になるのだが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝鮮半島に激震を齎している朝鮮革命

それはまさに血で血を洗う革命だ。

ベアトリクス率いる平壌派とドックァ率いる元山派

そしてベアトリクスによる元山派壊滅…ドックァのプライドはズタボロになりながら底知れぬ執念でベアトリクスを暗殺しようと目論んでいた。

ヴェアヴォルフ大隊の長である二コラはドックァと一騎打ち

オリジナルとデッドコピー機体の性能差は分かり切っていた

しかし、機体の性能と出力を過信過ぎた二コラはドックァに圧されていく

互いに衝突し合う。軍配はドックァの方に傾いていた

突撃砲の残弾が0になった二コラにドックァが凄まじいスピードで飛び掛かる

《ウェーハッハッハッ!ここまでのようだな。二コラ・ミヒャルケ!》

《ぐ……!》

このまま戦死したと思った次の瞬間!

私と鈴乃、華太が乗るアリゲートルは介入しドックァに向け突撃砲を構え発砲!

《?!…何だ?》

ドックァはそれを躱した

「ご無事ですか?ミヒャルケ少佐」

《坂崎大尉か?その機体は一体…》

「私達が乗る機体が元山派の連中に破壊されて、この機体を借用する形で援護しに来ました」

ドックァは突撃砲を鈴乃機に銃口を向け発砲し左脚に直撃し朝鮮革命博物館の前に墜落

《きゃぁっ!》

「鈴乃ぉ!ドックァ……貴様ッ!」

私は憎しみを込めて突撃砲で連射、撃ち続ける程撃ち続け互いに撃ち続け弾数が0になるとドックァは引き下がり苦戦するが手に持ってた突撃砲をいきなり棄て私が乗ってる機体に向け投げつける

私はそれを回避

「残弾0か……」

私も突撃砲を棄てナイフシース

華太機は私を援護する形で共闘

《援護するぞ、都》

「……!」

《……軍法会議をかけるまでもない!私が裁いてやる!!》

と奴は口先だけで「やれ」と一言を添えた直後、奴の部下が私達に襲い掛かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本海

 

戦術機揚陸艦『李紅光』は日本帝国海軍戦艦『大和』に向け戦術機で総攻撃を仕掛けようとした

「『大和』接近せず、直接我が軍に向け砲撃を」

「人民海軍本部から入電、攻撃せよ!繰り返す攻撃せよ!」

「よし!戦術機部隊は日本海軍の戦艦『大和』に向け一斉攻撃(我が朝鮮民族を逆らった罰だ。日本を滅ぼしこれで我が朝鮮民族の念願の復讐を成し遂げられる)」

「艦長!接近してくる機体あり!識別データは…アリゲートルにファルクラム。ブレーメ総帥閣下の専用機と思われます!」

「何…?ブレーメ総帥閣下が!?」

平壌に戻った筈のベアトリクス率いる戦術機部隊が接近してきた。

女性オペレーターが発した言葉は嘘ではなかった

ノクスは困惑しつつ専用機に乗ってるベアトリクスと交信を試みた

「総帥閣下、平壌の状況はどうなってるのです?」

ノクスはそう言うが、ベアトリクスはそれを無視

理解できない状況になったノクスはベアトリクスにこう嘆願した

「そ、総攻撃を命じて頂けないでしょうか。悪き日本の戦艦を沈めて朝鮮民族が如何に凄いか思い知らせてやって下さらないでしょうか?」

今はベアトリクスに頼る道しかないと思ったノクスだったが、ベアトリクスは彼女を見限った。

《あらあら?私は貴女の嘆願なんか一切聞かないわ》

「な、何を言ってるのですか!?早く沈めてください!」

ベアトリクスが乗るファルクラムは戦術機揚陸艦の艦橋に銃口を向ける

ノクスは想定外だった。ベアトリクスに見限られた事を。

「どうなされたのですか?ブレーメ総帥、敵は彼方ですよ!」

《ノクス大尉、貴女はア・ドックァ中佐の側近だったわね?彼は取り返しのつかないことをしてしまった。許される筈がない》

「何を言って…?」

間抜け面になったノクスに対し、ベアトリクスは冷徹な目線でこう言い向ける

《貴女は要らないのよ。使えない兵士はごみ箱に捨てなきゃね》

もう手詰まりだ。

ベアトリクスに見限られたノクスはこう決断する

「……もういい、突っ込め!特攻するんだ」

「しかし!」

「良いから特攻しろ!朝鮮民族の汚名返上のチャンスだ」

乗組員たちは猛反発するがノクスは自暴自棄になり強制的に戦術機揚陸艦は戦艦大和に向け特攻

「……戦術機部隊が次々と撃墜しています」

「キム1、キム2……キム中隊が全滅!」

「他の戦術機部隊は!?」

「どれもこれも通信が途切れ……データリンク途絶!」

「くっ……!」

戦艦大和の主砲が放ち、そして戦術機揚陸艦に直撃し船体が穴が開き浸水

ベアトリクスは艦の後ろに回り込み止めにスクリューを目掛けて遠距離射撃し操舵不能に追い込んだ

《貴様は終わりだ―――ノクス大尉……そのまま海の藻屑になって鮫に食われろ》

「ぐぬぬ……そ、総員退艦だ。私は……ここに残って最期を見届ける」

「艦長!我々もお供します」

「貴様等は生き残れ。朝鮮民族の誇りを守るんだ」

乗組員はノクスを脱出させようと試みるが皆、黙り込みそのまま退艦した

「……朝鮮万歳!」

パァン

銃声が鳴り響きノクスは蟀谷に向け弾丸を放ち自決した

そして戦術機揚陸艦が沈み運命と共にする

その光景を見ていた大和の艦長や乗組員は見守るしかなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

「……一方的に日本を嫌っていては全人類の宿願であるBETA完全消滅まではならない。貴様はそれを反した」

《総帥閣下、平壌に》

「ええ……全機撤収せよ!平壌に戻る」

ベアトリクス率いる戦術機部隊は日本海から撤退し日本海軍も舞鶴港へ向かい去って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、私達はドックァの部下が乗る戦術機3機を迎撃していた

《このアリゲートル、速いぞ!》

1機は突撃砲で前へ突っ込み120mm弾を乱射

残りの2機は後方支援に回る

慣れない機体に乗ってる私達は操縦を悪戦苦闘した

「華太、そっちは慣れたか?!」

《撃震とは程遠い性能をもってやがる。何とか慣れそうだ》

「性能と出力を当てにするな。『二コラ・ミヒャルケ』みたいに過信したら全滅するぞ」

本人は当時の事をどう思っているのか……イングヒルトの指摘がなかったら彼女は恐らくこの世に存在していなかっただろう。

《一気に行くしかないな》

華太も悪戦苦闘だ。120mmで応戦

しかし相手は北朝鮮の元山派……直線過ぎる射撃では当たらなかった。

《こんな攻撃通じるか!日本帝国の衛士って間抜けばかりなんだな》

衛士の一人は私達を嘲り笑い、侮辱した

華太は奴の言葉を遮り、120mm弾を放った

《チャレンジャーな割に口だけ達者だな》

そのまま飛び越えるように機体の背後に回り、36mm弾を叩き込む!

《馬鹿な…ぐべぇ!》

前へ突っ込んだ馬鹿はそのまま戦死した

ヴェアヴォルフのおかげで敵機は2機に追い込んだ。もうすぐ終わると安堵した次の瞬間、別の戦術機部隊が元山派の援護に回る

「増援だと!?まだ戦力が保持してたのか」

増援が来たからと言って関係ない。このぎこちない動き―――新兵だな。

ここは戦場だ。ドックァみたいな下衆将校を庇う輩は制裁するのみだ

「元山派に告ぐ。今すぐ戦闘行為を中止せよ!貴様等の敗色は見えている」

大半は突撃砲を下ろしたが一部の衛士達は反抗し聞く耳を持たなかった

《は?お前、その機体は何だ!?どっから持ち出したんだ!?》

「……貴様等の所為で私達が乗る筈の機体が使えなくなった。貴様等が弁償出来ないというのは理解している。軍の上層部に報告して…」

《うるせえ!日本人が―――俺達の国を荒らしやがった癖に偉そうな口で説教するなボケが!》

聞き入れない一部の衛士は半グレ衛士だった。

そりゃそうだよな。

「もう一度言う。今すぐ戦闘行為を中止しろ」

私は声色を変え奴等に威圧を掛ける

《中止しろ?する訳ねーだろ。豚足野郎が!豚はクソでも食ってろ》

奴は私達日本人を侮蔑した。

あまりに差別的発言に…此奴等を救う気がなくなった

すると激昂した奴は跳躍ユニットを噴かし私の機体に近付き頭部を殴りつけた

《誰に歯向かってるんだテメエ!》

ガァッ

「ぐぅっ」

その瞬間、私は頭の中で堪忍袋の緒が切れる音を聞いた。

「衛士の命を粗末に扱うカス野郎は、最早人間じゃない!」

もう許さない……私達がどれだけ苦労して汗水垂らして正規衛士になったか。此奴等には分からないんだ。

穏便に済ますつもりだったが、弱い者虐めだけは…どうやっても我慢できん

「―――先に手出ししたのは貴様だぞ。恨むなよ」

《お?俺とやるってのか?身の程知らずが…俺はテコンドー2段だぞ。テメエなんか一発でやっつけてやるよ》

そう言うと奴はツーステップの前回し蹴りで私の機体の胴体に目掛けたが…

ガシィッ

《!》

私は両方のマニピュレーターで握ってる突撃砲を背部兵装担架に収納し奴の蹴りを右マニピュレーターで阻止する

「どうした?私をやっつけるんじゃないのか?」

《嘘だろ…マニピュレーターだけで》

アリゲートルでテコンドー技仕掛けるとはご立派なもんだ

だが、衛士が熟練度低かったら何の意味がない。

「じゃあ次は私の番だな」

私はボクシングスタイルで構えを取る

《ちょ、ちょっと待て!悪かったよ!謝るから許してくれ!》

何をビビってるんだ?衛士を殺すのは良くて自分が痛い思いをするのが嫌だと言いたいのか?

次の瞬間、私は紅林の言葉を借りて咆哮する

「そんな道理、お天道様が納得する訳ないだろうが!!」

そして奴に目掛けて頭部に目掛けてメインカメラ使えなくなるまで殴った

「命は玩具じゃない!」

ボガァ

ボゴ

ガッ

《グギャアアア!!》

さらに奴のコクピットブロックに左マニピュレーターで殴り叩く!

「貴様に衛士を語る資格はない!!」

ガァッ

《ギャァアッ!》

これで機体から脱出できないだろう

「この国に侵攻してくるBETA共を食い止めて国民全員救い出す事が貴様等の役目だろうが!!」

紅林みたいなスタイルで北朝鮮の衛士をやっつけたよ。

けど、後悔はない。

その場にいた元山派の衛士や増援に来た奴等も茫然自失した。

当然、撃震に乗ってる工藤中佐も温かい目で観戦していた

”なかなかやるじゃねえか”と感心してるだろう。

部下に押し付けたドックァは表情が消える

《ば、馬鹿な…私の自慢の精鋭が…》

間抜け面になり驚愕した次の瞬間、接近してくる紅いファルクラムがドックァの機体に大型モーターブレードで近接戦闘で挑み切り込む

《ぐぬぬ、邪魔が入ったか!》

紙一重で回避したが、声を聴いた途端表情が凍り付く

《邪魔なのは貴様の方だ……ア・ドックァ。よくも私の顔を泥塗ってくれたな》

《そ、その声は……ブレーメ総帥閣下!》

私はその隙に墜落した鈴乃の機体に行き管制ユニットのハッチを開きコクピットシートから鈴乃を降ろしつつ抱える

「ごめんね都。私は役立たずで…」

「自分を卑下するな。鈴乃―――お前は役立たずなんかじゃない。よく生き延びたな」

鈴乃は声を押し殺して涙を流す

私の機体に鈴乃を補助シートに座らせた

……鈴乃が乗ってた機体は放棄するしかないな。

マニピュレーターはまだ生きてるな。突撃砲は使える!

「終わらせて日本に帰るぞ!華太ぉぉッ!」

《了解だ》

私と華太が乗る機体は速度を上げ120mm弾を連射し36mm弾を続けて連射

しかし回避される

《ウェーハッハッハッ、何処を狙っているッ!!》

速い!デッドコピー機だから劣悪だと思ったが、此奴……相当熟練しているようだ。

120mm弾をもう一度放とうとした次の瞬間、ドックァの機体の背後から1機の戦術機による砲撃を受ける

《むぅっ…》

MiG-27改 アリゲートルツヴァイ

胴体はアリゲートルで頭部はバラライカPF型を基にしてそれを強調させた姿の機体だ

《誰だか知らんが鬱陶しいわ!》

ドックァも反撃

しかし、それも回避され『成桂』とは違い速度がバラライカやチボラシュカ、アリゲートルより速い

《ちょこまかと!》

ドックァも焦ってる―――――それよりあの機体に乗ってるのは恐らく……。

《そこのアリゲートル、大丈夫か?》

一人の女性がモニターに映る。

この女性は……白陵基地の資料室で見たことがある。写真だけだが間違いない。

「……私は大丈夫です。アイリスディーナ・ベルンハルト”大尉”」

かつて第666戦術機中隊を率いていたアイリスディーナ・ベルンハルトがアリゲートルツヴァイに乗って現れた

アイリスディーナの登場により、私含め鈴乃、華太は驚愕していた。

ベアトリクスは不敵な笑みを浮かべる

《乗りたくはなかったが、この状況では出ない訳にはいかないな》

《ふふ、どうする?この男は》

《ここで負ける訳にはいかない!》

《決まりね……》

5対1……ヴェアヴォルフは元山派の殲滅。工藤中佐はそれを支援している。

ドックァは窮地に追い込まれた

《来いっ!お前にやれるかっ!!》

「させると思うか?」

私はドックァの機体の背後に回る

そして、奴が乗る機体の跳躍ユニット2つ全部、120mm弾を放ち損壊

機体は墜落し動かなくなった

《く、くそ!…動けん!》

「黒の宣告と…」

「人狼の鉄槌を……」

「「下す!」」

アイリスディーナとベアトリクスの連携プレーで120mm弾をドックァの機体に向け連射

《ば…馬鹿な……こんな所で……》

ドッ

機体は爆散しドックァは死んだ

こうして無事生き残ることが出来た

ベアトリクスが築いた国家も含めて

驚いた事に今回の出来事はドックァが一人仕組んだ叛逆行為という事で処理された

互いの理想と思想、信念、情念、理念は全く違えどもそれぞれの個性がある

それを否定してはいけない

「終わったな……」

「ええ…外道は良く燃えるわ」

ベアトリクスは安堵な表情になり画面越しのアイリスディーナを見つめ笑みを浮かべた

1997年3月28日、ウルスラ革命終結の同じ月日に朝鮮革命は終結した

それと同時に平壌派が北朝鮮の政治を携わり、元山派は壊滅

一部は逃げるようにテオドール・エーベルバッハが率いるテログループに身を寄せた。

革命終結から3ヶ月後、平壌の目の先である安州要塞陣地は陥落。

ベアトリクスが統治する朝鮮民主主義人民共和国…北朝鮮は平壌市街を要塞陣地として囲い国民は面積を拡張工事してる南沙諸島へと疎開

朝鮮半島に残ったのはごく僅かな将兵と衛士だけ、平壌を死守しようとしたがそれは虚しく9ヶ月後に陥落

BETAは南の韓国へと侵攻し景福宮要塞陣地にいる韓国軍将兵、衛士は奮戦。だがこれも平壌陥落から2ヶ月後に陥落。

韓国、北朝鮮

南北朝鮮の首都は両方陥落してしまった

侵攻が止まる筈もなく翌年、日本は朝鮮半島撤退支援作戦・光州作戦発動

国連軍と大東亜連合軍の朝鮮半島撤退支援を目的とした作戦。

後に光州作戦の悲劇と呼ばれる彩峰中将事件が発生する。

これに伴い、朝鮮半島はBETAによって丸呑みにされていった

私達は朝鮮半島陥落される光景をただ傍観する事しか出来ず彩峰中将の命令に従い日本に帰国した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"I got no impression

This town is made by imitation

Wanting your sensation

In this silly simulation

Rage my dream"

 

I got no impression gray の感情

ボカシも入れ過ぎ 街中は imitation

Realを求めて 昂ぶるあなたが

近くによれないほどアツくなる

 

Feel your frustration あなたの叫びを

Taste your vibration 震える程に感じてる

 

Rage your dream 時を駆け抜けてゆく

風も 光満ちてゆく

Rage your dream 待っていることだけを

Feel the wind 忘れ ないでいて

Rage your dream 続く果てない道を

愛も過去も振り向かず

ゆける あなた輝いている

Rage your dream 今を生きている

 

My pride says, "You gotta be wild and tough."

そう 他人は介在しない

Never stop 止まりた くない

犠牲になった愛が cry しても

Peak目指してsweep the winding street

Beep beep! 警告音はso cheap

Sheep 達は道あける

‘Cause I'm never gonna stop streak my dream

 

Easy な motivation すべては simulation

逃げてみたって 何処でも safety zone

何かを手に入れて 何かを忘れてく

世界は壊れても 変わらない

 

Beasty shout 誰の手にさえ負えない

激しい夢 時間さえも今越えてく

 

Rage your dream 風の中で眩しく

叫ぶあなた 夢達と

Rage your dream 鼓動止まる位に

I can feel 強く感じてる

Rage your dream 闇を はり裂いていく

Like a streak to the peak 世界中の

凍えきった夜を消してく

Rage your dream 道を開いてく

 

Ding dong another round, never slowdown

コンマゼロイチ秒で knockdown

余韻残し消えてこう to the next town

埃舞う 敗者地に這う

理屈だけのノーガキ達

邪魔クサイからシカトしていこう

Streaker 去っていく street の向こう

Something they would know

 

Rage your dream 時を駆け抜けてゆく

風も 光満ちてゆく

Rage your dream 待っていることだけを

Feel the wind 忘れ ないでいて

Rage your dream 続く果てない道を

愛も過去も振り向かず

ゆける あなた輝いている

Rage your dream 今を生きている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝鮮半島陥落から1ヶ月後、私と鈴乃、華太。北岡等の衛士は厚木基地に所属する形で撃震を主にした坂崎中隊を編成された

城戸と浅倉は光州作戦に参加。その後、大阪に帰った。

工藤中佐は自主的に軍を辞め衛士引退した。その後は裏社会で半グレ達を粛正しているらしい

泉屋少佐は日本に帰国した数日後、厚木基地で憲兵によって拘束された

彼は私を強姦しようとしていたから上層部は放っておけなかったのだろう。

その後どうなったかは私は知る由もない。

厚木基地に所属してから数日後、私達坂崎中隊は―――――。

誰よりも飛びたい。誰よりもカッコよくなりたい。

彼等彼女等はそんな夢を抱えてフットペダルを踏む

突撃砲や長刀を構えBETAをやっつけたり、跳躍ユニットの噴出時の風を切り裂く音。

全ては私達がそこに"戦った"証拠だ。

異星起源種BETAと立ち向かい果てのない夢を追いかける人々を衛士と呼ぶ




いつも作品見ていただきありがとうございます
今回の話は坂崎中隊長達の北朝鮮派遣任務最終回です。
間もなくリリースされるマブラヴ:ディメンションズ
どんなソシャゲになるか楽しみですね!
前回言いましたが課金する際はApplePayカードを最低限の金額でやる……予定です(-_-;)
キャラボイス実装されない該当のキャラいるんでしょうか?分かりませんが
次の話はまだ未定です。因みに韓国編はやりません(-_-;)
この作品を…トータルイクリプスサンダーボルトや他の作品、Pixivで投稿した作品を読んで頂けた全ての方々に感謝しつつ、今回はここで筆を置かせて頂きます
ではまた


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