1匹狼の幻想郷帰還 (回忌)
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帰還者
始まり


「視界風力共に良好、今日もいい1日になりそうだ」

 

そういいながらマンションの屋上で背伸びをする

1人の青年。

しかし、見た目で判断してはいけない。

彼は下手をすれば、神よりは短いが長い人生を

過ごしている。つまり彼は妖怪だ

現代社会では化学が発展し、妖怪は居なくなった

 

彼はそんな妖怪の中でも希少な外で暮らす妖怪

 

彼は妖怪であっても人間を愛する妖怪だった。

彼は人間になりきる技を使って紛れている

妖怪が居なくなったのは、信じられなくなったからだ

妖怪は信じられて、恐れられることで強くなる

現代社会ではそんな事はもう無いだろう。

だから、彼はどんなに妖怪が居なくなっても

自分が信じられずに力が出なくも、

今の暮らしに満足している。

彼は1匹狼だ。

1人が静かで1番良いと思っているのだ

 

 

 

「で、八雲よ。お前さんは何用だ」

 

その暮らしをまさにぶち壊そうと言わんばかりに

後ろに目玉だらけの裂け目が現れる

そして、そこから人とは思えない美貌の金髪女性が

上半身を出してこちらを見る

 

斬鬼はため息をついた

 

「あらあら、外の世界にいても洞察力は

無くならないのね」

 

それに青年…紅白斬鬼は少し笑いながら振り向く

 

「はは…で、何用だ。八雲」

 

斬鬼はさっさと本題を言えと言わんばかりに足をカタカタと叩く。

彼自身こうやって伸ばされるのは嫌いなのだ

 

特に、この性根の腐った妖怪には

 

それに困った様な顔をしながら八雲紫は言う

 

「そうね、手短に言うけど幻想郷に――」

 

「お断りする」

 

紫が真剣な顔をして話しているのを斬鬼は遮る

そして、ちょっと黙ってくれと言わんばかりに手を出す。

それにおどけた様に紫が聞く。

 

「あら、どうしてかしら」

 

それに斬鬼は街の光景を見るためか、体を捻る。

朝日に照らされたビル群は仕事の始まりを意味している

この日も、明日も人は仕事に向かう

 

それは、未来永劫変わらない事で

 

平和を意味していて

 

「こんな風に平和な毎日がいいんだよ。

おたくの郷じゃ毎日面倒くさい事になりそうだ。」

 

たが、彼女は嗤う

まるで、真実を見られない阿呆を見るかのように

そいつに、真実を突きつけるかのように

 

「あら、今から戦争が起こるというのに?」

 

確かに、そうだ

 

斬鬼は目を瞑って、今日までの出来事を思い出した

 

この国は昔、帝国だったが、連合軍によって

帝国は殲滅され、民主主義の国が作られた

戦争の記憶を忘れない、そう行ってきたのだ

 

だが、1000年もすると、人々は過ちを犯し帝国が誕生した

そして今、戦争を起こそうとしているのだ。

 

かつての雪辱を晴らす為

 

「そうか」

 

斬鬼はぶっきらぼうに言う。

まるで自分には関係ないと言わんばかりに

それに紫は傘をクルクル回しながら追求する

 

「貴方はもうこの国から去るのでしょう?」

 

斬鬼はそれに答えなかった

彼は手荷物を既に用意して、この国から去る予定だ

戦争をする国が平和であるわけがない

徴兵されるのも嫌だし、戦争を見るのもいまや好きでない

 

斬鬼は悩んむ

 

母国が他国を侵略するという辛い旅をするか

 

それとも幻想郷に行き、騒がしい毎日を送ってしまうか

 

 

斬鬼は普通の毎日を送ろうと思わない

むしろ、普通の生活は送れない

彼はそれだけの事をしたと思っているのだ

 

紫は彼の答えを待つことはしなかった

彼を動揺させ、手っ取り早く答えを聞くことにした

手を顎に添えた彼にある事実を突きつける

 

 

「あなたの娘、死んでたり、しないかしら」

 

 

斬鬼は体を向けると刀を抜いた

それは抜刀とも言える速度で、既に切先は喉元にあった

 

「あの娘が死ぬ筈がない、あれは、あれは…!」

 

彼は見て分かるとおりに動揺し、怒っていた

その反応を良しとし、紫は扇子を口の辺りで広げ、言う

 

「ええ本当よ、だから姿を変えたら?」

 

斬鬼は人化の技を感情で解いていた

斬鬼はすこし妖怪のランクが下がる技を発動する

 

下がると言えど、妖力が小さく見えるだけなのだけど

 

「あら、良いじゃない。その白狼姿」

 

斬鬼はその言葉を無視して景色を見た、そして言う

 

彼女に、元の相棒に

 

「…少し考えさせろ」

 

「はいはい。…期待してるわよ、partner。」

 

最後だけネイティブ発音をするとスキマに消える。

 

 

 

 

 

 

斬鬼は考えた。

燃える様な太陽を、上がってくるそれを見ながら考えた

斬鬼には償わなければいけない罪がある

 

それは斬鬼が放置してしまった罪

 

それを他人に任せてしまった罪

 

斬鬼が頭を抱えながら考えた

ふと、肘にこんこんと感覚を感じた。

首を向けるとホンワカと白と紅く光る人魂が居た

 

「…そうだな、考えるのはやめだ」

 

斬鬼は考えるのを止めた。

斬鬼はマンション内に入る為の扉へ向かう

斬鬼は立ち止まると手をかざす

すると青い、ワープホールが現れる

グルグルと回り、それは2人を歓迎する

斬鬼は人魂を優しく抱き抱えるとワープホールへ、飛び込む

 

青い空間を歩く

 

歩いていると、出口が現れた

 

その円形の出口を潜り抜け、 辺りを見渡す

 

 

 

 

 

 

 

そこは生い茂る森の中だった



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キャンプ

 

斬鬼は人魂を自由にさせると此処が何処かを確認する為、近くにある高い木を登ろうとする

木には蔦が絡まり、成長している

 

ツタを軽く引っ張る

 

ちぎれない

 

この強度なら、恐らく登れるはずだ

絡まるツタに手を掛けて、よじ登る

木の表面には蟻が歩き回り、一種の巣だと思わせる

かなり木は長く、何分か登るとわかれ技に足を乗せる。

 

そして、そこから辺りを見渡す

 

この木はそこらの木より格段に高いもののようで、景色がよく見えた

 

 

 

 

 

見ればそこは現代では見られない幻想だった。

現代社会にも幻想的な景色はある

 

だが、此処は本当の幻想である

 

星々が光る空は青い暗闇にあり、雲ひとつも無い

 

斬鬼はその景色に里が見えたの確認する

 

用は無くなったので、木から飛び降りる。

グシャンという音がして斬鬼は着地する

 

何か、踏んだのだろうか?

 

まあいいか

斬鬼は特に気にせず前を見る

妖怪なら簡単に降りれる高度であり、骨折することもない

 

斬鬼は里がかなり遠い事を恨む

恐らく、今日は野宿することになるだろう

ザクザクと葉を踏みながら歩を進める。

 

すると斬鬼はある事に気づいた

 

先程から空が暗くなっている様な…

 

 

 

 

「ちっ、そういうことか」

 

斬鬼は上を見上げると、横に滑るよう飛んだ

すると先程まで斬鬼が居た地点に黒い塊が落ちる

ぐちゃぐちゃと、"何か"を食らう音がした

それがパチンと弾けると、中から金髪の幼女が現れる

 

「美味しかったー、何か土の味がしたけど、久しぶりの肉だー」

 

やけに間の伸びた声をしながら言う

口元には血が大量に付いていて、黒い服も同じくだった

ちらりと気の根元を見ると、そこに力尽きた男の死体が見えた

だが、最早手と腕程度が見える程ぐちゃぐちゃに食われている

斬鬼は妖気を込めて言う

 

少しの威圧も込めて

 

「美味かったのならさっさと去れ、妖怪」

 

それにその妖怪はまた間の抜けた返事で

「はーい」といいながら闇に消えた

 

にしても、変な奴だった

何処かで見たような既視感もあった

 

斬鬼は空を見上げた。

かなり綺麗な星空である

もう外で見ることは出来ないのだろうか?

 

…というか

 

「野宿を久しぶりにするしか無いな」

 

こんな暗闇の中

 

斬鬼は溜息をつくと歩きだす。

広場の様な所があるまで歩く。

すると途中でガサリという音がして、猪が現れる

 

「おお、美味しそうだ。」

 

野生の猪を見て美味そうだと言うのは少し頭がおかしい気がする

斬鬼は1歩踏み出すと、猪に拳を入れた。

 

 

 

かなりの距離があったのに

人間で言うならパンチなぞ届く筈の無い位置だ

 

 

 

いきなり拳を喰らった猪は殴られた事を認識出来なかった

意識と生命は直ぐに止まり、地面に倒れた。

斬鬼は腰から刀を引き抜くと、猪を捌く

 

――ジャキッ、ズバッ、ザクッ

 

金属が肉を裂く音が周りに響く。

一通り捌き終わると斬鬼は猪の皮を地面に

敷いて、その上に肉を置いた

 

「さて、木を探すか。」

 

斬鬼は木下等に落ちている枯れ木を拾い、重ねる。

 

斬鬼は仕上げと言わんばかりに刀で木を斬る

その木を重ねた枯れ木の近くに倒すと椅子の代わりにする

少し高さがあるが、無いよりいいだろう

斬鬼は妖術で枯れ木に火をつけると猪の肉に木の棒を刺して焚べる

肉の焼けるいい匂いがする

 

――ヒュオォ…

 

「それにしても寒い」

 

冷たい風が肌をなぶった

 

確か紫は今の幻想郷は春だと言っていた

しかし、どう考えてもこれは冬の寒さである。

そういえば、紫は幻想郷では時折こんな事があると

言っていたような気がする

 

「…会ったら聞かなきゃいけんな、これは」

 

そう呟くと、いい感じに焼けた肉を手に取り食べる

猪だからか少し硬いが、それでも美味しい。

焼肉を全て食べ終えると、斬鬼は地面に敷いている猪の皮を毛が見えるように裏返す

そして、そこに横になって目を瞑る

 

暖かくは無かったが、火が近くにあるおかげでマシだった

 

眠気が斬鬼を誘う



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里帰り

夢、それは己の経験した出来事や現実ではありえない事が出来る物である

 

空を飛べる、魔法を使える

 

もしくは大金で豪遊する、宝くじが当たる…

 

目覚めた後の気持ちは筆舌に尽くし難い物だが、それは無意識に心が思っていることでもある

 

故に、過去の記憶が夢で再生されたりもするのだ

 

だからこそ、斬鬼はそれを見てすぐに夢だと思った。

 

ありえないのだ。

 

ありえるはずがない

 

自分達は食卓を囲んでいる

右には愛した己の伴侶。

笑顔で楽しそうで…

今は美味しそうに料理を食べている。

それだけなら経験した出来事だ。

しかし、斬鬼はこれはありえない事だと分かる。

 

なぜなら

 

己の左側に

 

愛した娘が居たから――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っあ!」

 

斬鬼は目覚めた。

 

「…俺は」

 

――まだ、あの時に戻れると思っているのか

 

そう言おうとして、止めた。

言っても仕方ないのだ。

そう自分を納得させると斬鬼は人魂をトントンと叩いて起こしてやる。

人魂は起き上がって飛ぶと、斬鬼の周りをクルクルと回る。

斬鬼は昨日見えた人里へと歩を進めようとする

 

が、その前にやることがあるでしょと言わんばかりに人魂が袖をグイグイと引っ張る。

斬鬼が人魂に目を移すと人魂は焚き木に向かった。

 

…つまり後始末しろということか。

 

面倒だ、これでいい

 

斬鬼は猪の川を丸太に掛けて、人里に向かう

それに人魂は溜息をつくような動作をして

斬鬼について行く。

斬鬼はひたすら歩を進めて行った。

それに、春も来たようだ。

 

 

 

 

 

――

 

斬鬼は今人里の中に居る。

人に成る妖術を使おうと考えたがどうやら妖怪welcomeらしい。

 

やはり、全てを受け入れる幻想郷と言うべきか

人と妖が共存しあう、郷なのか

 

…害を成さなければのようだが

大量にワイワイやっている人間達の中にちらほら妖怪の姿も見える。

 

とはいえよく見ないと妖怪と分からない物だ

そんなに目立ちたくは無いらしい

 

…紫は共存すると言っていたが、まだまだのようだ。

いろいろと面白そうな商品がある

どれも興味をそそられるものばかりだ

が、今は所持金ゼロなので買うに買えない

斬鬼は溜息をつく

 

「…やはり帰るしかないのか」

 

紫の奴ワザと金を渡さなかったな、と思った

やはり野郎は嫌で胡散臭くてクソッタレだ

ギリギリと目を瞑りながら歩いていると…

 

ふと、誰かとぶつかる

 

「いてっ」

 

「わっ」

 

斬鬼はぶつかった人物に目をやった。

 

 

最初に見えたのは、長い刀と短い刀

 

その2つは、記憶にあるもので

 

「…妖忌」

 

「え?」

 

どちらかというと刀の方へ目が行ったのだが

どうやら呟きを聞かれたらしい。

…コイツがアイツの娘ならかなり面倒だ。

アイツ自体が融通が効かない頑固ヤローなのだ

斬鬼は「それじゃ」と言うと歩き――

 

「待ってください。叔父を知ってるのですか?」

 

…やったわこれ完璧にやらかしたわ。

迂闊すぎるぞ、紅白迂闊

斬鬼は阿呆な自分に目眩がしたがまだ勝機はある(?)

斬鬼は「知らない」と言うと今度こそ歩き――

 

「待ってください、叔父を知ってるのですか?」

 

お前はゲームのNPCかよ!と斬鬼は叫びそうになる

だがその前に何とか口に出すことを抑える

斬鬼はコイツどうしよう、と思った

そして要らない所も引き継いでいるとも思った。

蛙の子は蛙か、畜生そんなの継ぐなやコラ

斬鬼は自分の名前を言うこともせず、颯爽と走り去った。

…後ろから「叔父を知っているのですかー!?」と

叫ぶ声が聞こえたのは気のせいだろう。

次の目的地はとうの昔に決まっている

斬鬼は里から出ると、己の生まれ…

 

つまり、妖怪の山へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

――

 

「本当にモヤモヤする…」

 

冥界の屋敷、白玉楼の庭師兼剣術指南の

魂魄妖夢は悩んでいた。

先日博麗の巫女にボコボコにされ、ただでさえ

気分が悪いのに主人から言われたのが

 

「おうどん食べたいわー」

 

…である。

ハッキリ言ってふざけんなーであるが言える訳もなく

というか言ったらクビ確定なのは当たり前なので…

仕方なく食料の補給も兼ねて行ったのだが

そこで気になる人を見つけた…というかぶつかったのだ。

 

人魂を連れている白狼天狗

 

最初はおかしな人だと思ったが…

彼が「妖忌?」と呟いた為に気になったのだ。

自分でもおかしな口調だなと思ったが、それ以上に

相手はおかしいと思ったようだ。

…ダッシュで逃げられてしまった

溜息をつきながら妖夢はお菓子を主人と主人の友人のいる場所へたどり着いた。

妖夢は机の上に菓子を置くと溜息をつく。

 

「あら、溜息をつくと幸福が逃げるわよ?」

 

と、主人の声がかかる。

おっと…どうやら無意識のうちにため息が出てしまった…

私は顔を上げ主人の姿を見る

ピンク髪のミディアムヘアーに水色と白を基調としたフリフリっぽいロリィタ風の着物にZUN帽といういでたち。

帽子の三角の形をした布が何となく幽霊を想起してしまう。

靴は青いリボンの着いたパンプス。

 

…服装はあれだがこれでも能力はヤバいものだ

 

死を操る能力、絶対的な死を与える程度の能力

その能力によって死んだものは幽々子様の傀儡と成り果てる

意識はあるものの、その意識は幽々子様によって自由に変わる

彼女の気分次第で彼女がコロコロ変わるかもしれない

その事に傀儡となった者は気付かず、幽々子様に尽くすのだ

 

この世界が終わるか、幽々子様が成仏するまで

 

 

 

「なんでもありません」

 

「気になる殿方でも?」

 

「な…!」

 

「一瞬で顔が赤くなったわね。ほら言いなさい」

 

「うー…」

 

そういうと今度は友人である紫が口を挟む。

その言葉に赤面する妖夢。

黙秘を続けようとしたが、幽々子と紫の視線がこちらをずっと見ている。

私はこういうのは得意じゃない…という顔をする

が、紫は早くいえと言わんばかりに見つめてくる

まるで告白するかのように

 

「実は…その、気になる人がいまして…」

 

それにニヤけた顔で「あらあら」という。

「性的じゃありませんよ!」と付け加えて続ける

 

「人魂を連れている白狼天狗なんですけど」

 

「…へぇ」

 

その瞬間紫と幽々子の顔が変わった。

そして小声で何か言っている。途中から聞こえる

「本当に呼んだの?」からして恐らく紫が誰かを呼び寄せたのだろう。

二人の友人なら、どれだけ古い人なのか

幽々子と紫はこちらに向くと理由を聞いてくる。

 

「妖忌の名前を呟いていて…」

 

「彼は買い物をしていたかしら?」

 

「いいえ?持ち物はありませんでした。」

 

妖夢がそう言うと、紫が筆舌に尽くし難い笑顔を

した後大笑いし始めた。

どうやら、何かが上手くいったらしいくて…

 

「えぇ…?幽々子様、どういう事でしょうかこれ」

 

すると、幽々子は可哀想な物を見る目で紫を見た後

扇子で口を隠してこう言う

 

「実家に帰りたくないのに、お金がなかったら貴方はどうするのかしら?」

 

妖夢は全てを察した。

 

 

 

――

 

「紫ぃぃ…ゆぅぅぅかぁぁぁりぃぃぃい…」

 

まるで怨念の様な声を出しながら山道を歩く歩く

本当なら人里で宿を見つけ(見つけた)1晩は楽に過ごせていたのだ。

が、金が無いおかげでこれだ。

どうせ妖怪の山に行かせようとする為に金を渡さなかったのだろう

というか何で金を持ってこなかった俺

斬鬼はブツブツ呟きながら歩く。

不意に視界が開ける。

見ると、そこから先が無くなっているのだ。

 

「崖か…飛ぶしかないか。」

 

斬鬼は浮遊すると、一気に目指す。

天狗の里目指して。

 

かつての故郷を目指して

 

 

 

 

 

斬鬼は木の後ろに着地して、自然な感じに人混みに紛れる。

ここも人里のように賑わっているが、少し違う

ここに住むものは空を大体飛べる

その為店が崖に埋め込まれているのもある。

そして、一番斬鬼が疑問に思ったのが、

 

 

 

 

「…人間が居ない。」

 

そう、人間が居ないのだ。

斬鬼は人間と妖怪の共存を祈る妖怪だ

だから、人間と交流出来るように老害を

ぶちのめ…説得して入れるようにしたのだ。

斬鬼は考えた。恐らく自分が居なくなった

瞬間に老害が…

 

とはいえ、単純な時代の流れもあるかもしれない

 

斬鬼はそう思い、店を見て回る。

酒が並ぶ酒屋に山菜がある店

食事処とある場所も存在しているようだ。

斬鬼は里の中心にたどり着いた。

 

「…いや違う」

 

斬鬼は呟いていた。

何故か、自分にも分からない。

だから、ここから帰る事にした、ふらりと家に帰ろうとした。

 

「貴方、何処の所属ですか?」

 

が、上手くいかん、人生こんなもん

斬鬼は振り返るとその女性の白狼天狗に驚きを隠して

 

「所属…ですか?その前にあなたは?」

 

 

若干芝居がかっているがまぁいい。

というか、所属、か

この見た目ならその辺の一般兵士とかでもいい気がする

名前を聞かれ、彼女はそれに答える答える

 

「私の名前は犬走椛です」

 

斬鬼は「椛さん…ですか」という

 

「それで?何処の所属ですか?」

 

偽装というのは意外と上手くいくものだ。

と、自分に言い聞かせる。

 

「最近配属されたばかりなので分からないです。」

 

「つまり新入りですか。」

 

言い方に少し苛立ちそうになる。

細菌戸籍が増えてたら多分上手くいくはずだ

斬鬼は「新入りですよ、はい」と返す。

上手くいく、上手くいく!

 

 

 

 

 

 

 

「うーん文さんに確認しますか」

 

\(^o^)/

 

ていうか文って…あの文だよなぁ

同期だけど絶対見抜くよなぁ…

いや、同期だからこそだよな

多分「今から呼ぶので待ってください!」なんて

言うんだろうなぁ…

もしくは「今日は不在ですし…」とかどうかn

「今待ち合わせしているので待ってください」

が、ことごとく斬鬼の妄想は裏切られる

というか一番最悪なパターンだ。

前の2つのパターンならまだしもこれは…

強行突破は後々面倒だし…

うーんそうだ!時間をかせg

 

「お待たせしましたー」

 

(シバくぞ)

 

脳内で文をシバキ倒すビジョンが見えたが幻想だろう

というか、流石だ、速さは衰えていないらしい

どうやら

 

「文さんこの人新入りらしいんですけど…」

 

「んー誰でしょ…」

 

あっ終わった。俺の顔見た途端目が変わった。

俺の事なんて忘れてるかもと思ったけど

そんな事無かったわ。

 

「…どちらかと言うと古参よ、椛」

 

「え?」

 

確かに、古参だろう

そりゃ、遠い昔から、月人が地上にいた時から居るのだから

もう駄目だ。堪えられない。

 

「ははは…」

 

「ふふふ…」

 

「あのー?2人とも目が…」

 

「心配かけさせやがってーッ!」

 

「死に腐れぇーッ!」

 

キレの強いパンチが飛んできたのを躱す。

 

そして腹に1発。

「ぐぶぅ」と潰れるような声を出す

そこで気づいたがいつの間にか術が解けて

己の本当の姿が現れる。

 

そこらの白狼よりも大きく、艶のある尻尾。

 

総白髪と同じ色の少し大きい獣耳。

 

白い和服には肩と腰に軽い防具がしてある

 

腰には白い鞘に赤い筋の入った持ち手の刀と

それと違う漆黒の黒い刀。

 

袴は椛と同じ黒に赤だが、斬鬼の場合、黒なのは

変わらないが、下から地獄の業火の様な模様が描かれている。

 

「やっぱりそちらの方がいいわ。違和感がないし」

 

「そうかよ」

 

斬鬼はコキコキと指を鳴らして文に近づく。

コイツ、痛い目に合わせてやr

 

「待ってください!誰ですか貴方!?」

 

お前さんなぁ…人のセリフの途中で…

だが、その言葉に反応したのか、道行く天狗が

一斉にこっちを見る。こっち見んな。

斬鬼は頭を掻きながら言う。

 

「知っているだろ?」

 

「何をですか!」

 

斬鬼は溜息をつくと呆れたように

 

「天魔から言われなかったか?伝説の白狼天狗、

紅白斬鬼は生きていると。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…その場の温度が一気に0.5度くらい下がった。

 

「え…え?」

見ている天狗がザワザワと騒ぐ「伝説…?」

 

「まさか、そんな筈が…」

 

斬鬼はイライラしていたのか若干怒った声で

 

「そんなに言うなら天魔を呼んでやるよ!」

 

「天魔はパシリじゃ無いわよ」

 

「あいつはそんなもんだろ、変わらんさ」

 

 

文の突っ込みがくる

当たり前かのように返すと空を見る

斬鬼は息を吸い込んで言う

 

静かに、だが、厳かに

 

 

 

だが、それは決して小さくは無い

 

 

 

 

 

 

 

「元神風部隊隻眼天狗紅白斬鬼、ただいま帰投した」

 

 

 

 

 

 

 

幻想郷に響くくらいに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…?」

 

静寂が一瞬辺りを包んだ

 

だが、その静寂の中でこそ聞こえる音

風を切り裂く、音速の、キィンと響く音

何かが来る音がする

 

「まさか…」

 

「天魔様…」

 

その方向を向くと黒い物がこちらに向かっている

椛が若干絶句しているのは何故だろうか。

首を傾げる斬鬼に文が耳元で言う

 

 

 

「あの子、天魔の側近よ」

 

 

 

 

…納得した。

使える人がこれだと何も言えん

 

「側近?」

 

「どちらかというと助手に近いわね」

 

位は恐らく文の方が上だろう。

白狼と鴉では天と地並に差があるのだろう

だが、斬鬼は違う。

彼は白狼の中でも特別だ。

斬鬼の前に天魔が立つ

見た目は鴉天狗に近い

だが、その翼は他のものとは違い、綺麗な光沢がある

服装も全て豪勢なもので、黒と基調とした服装である

だが珍しい事にその紙は短い

 

「住むって本当か斬鬼!」

 

「帰投って言っだろ」

 

斬鬼の手を掴んでブンブン振る。止めて

 

「そうか…でも住んでいいのだぞ!」

 

天魔は笑いながらこちらに言う。

…ちなみに女だ。口調でよく間違えられるが。

 

「とりあえず休ませてくれ」

「それなら私の家に来い!」

「私も行くわ」

「側近なので」

 

何だこのマシンガンのような会話は

斬鬼はそう思いながら飛ぶ天魔について行く。




長め


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天魔の家

「ここが私の家だ!」

 

天魔は胸を張って言う。

 

「相変わらず高い所だこと」

 

斬鬼は木組みの窓から外を見下ろす

所々雲で隠れているが大体幻想郷の全体が見える

ここは天魔の家だが、1体1で話す場所もある

 

「それにしても何も変わってないな」

 

斬鬼は窓から離れると室内を見渡す

室内は天魔らしい豪華な和風だ。

襖には天狗(長い鼻)が描かれている。

箪笥が2個にその横にクローゼット、箪笥の上にあるものがあった

天魔が使っていた槍と刀である

 

「お前さん今使っているのかこれ?」

 

斬鬼は刀を手に取ると刃を見る。

刀特有の波紋に光を反射する刃、だからこそ

斬鬼は思った、使われた痕跡が無い

というか刀自体に埃が被っている

 

だが、槍の方は埃は一切無い

天魔の槍らしく、凝った装飾がされているのが分かる

 

「あー天狗達を鍛え直した時しかなー」

 

「あ…」

 

椛の目に若干涙が溜まっていく

 

「鍛え直したって…文、まさか」

 

「そのとおりよ、斬鬼」

 

ペチンと手を額に当てる。

天魔は気が向いた時に鍛え直しという名の組手を行う。

それはもしかしたら明日かもしれないし、数百年も後かもしれない。

だが、ひとつ言えるのが彼女の匙加減ということ。

斬鬼は彼女の鍛え直しを見たが、酷かった。

相手が妖怪ということもあり、手加減はあんまりされていないのだ。

腕だけなら運がいい。運が悪いと右上半身が

いつの間にか消えている、なんて事もある。

自分がまだ山にいた頃に「友人だろ?」と天魔に誘われた

故にやってみたのだが…同士が爆散するのは良くない

…見ていて非常に目覚めが悪くなる。

一応これも山から出た理由のひとつでもあるが、

根本的な理由も…

 

「まぁこれからもするから!たのしm」

 

「ダメよ」

 

「嫌です」

 

「この家の中で、じっとしていてくれ」

 

「アーンヒドイ」

 

手を「イェーイェ」と振りかざしながら言っている

天魔に対して批判の弾丸が3発ぶち込まれる

斬鬼は溜息をつくと

 

一応声をかける

 

「分かった…分かった…そのうち山に何かでかいものがドーンと来るさ」

 

「そんな訳無いでしょう…斬鬼」

 

若干オーバーリアクションに手を上げる斬鬼に対して

文が呆れた様に言う。

 

 

 

…本当にでかい物が来るなんてつゆ知らず。

 

 

 

 

「んん!…取り敢えず斬鬼よ!」

「なんだ」

「お前の家はある!」

「包囲されているみたいに言うな」

「だから帰れ!」

「何故ここに来させた」

「会話がしたかったから!」

「じゃあ広場でいいじゃん」

「恥ずかしい!」

「頬を赤らめるな気持ち悪い」

「何だって?表出ろコラ」

「文さん」

「何?」

「帰っていいですか?」

「良いと思うわよ」

「では」

 

椛はそういうと、扉をガチャンと開けて飛んでいってしまった。

こんなマシンガントークを聞いていればそりゃ逃げ出したくもなる。

 

が、2人は椛が出た事なんて気づかなかった

 

「あ?外出たら落ちるだろ」

「浮けばいいだろ!」

「外で何するんだよ」

「戦いだよ!」

「景色が酷くなるから却下で」

「なーんーでー!」

「駄々を捏ねるな」

 

斬鬼の言葉に反するかのようにジタバタと

床を跳ね回る天魔。

…お前魚じゃ無いのか?

 

「じゃ、俺は帰るから」

「私ももう夜なので帰りますね」

 

斬鬼と文はそういうと小走りで玄関へ向かった

久しぶりに会話ができたと思えばあれだ

最後の会話から何一つ変わっていない。

そう思いながら斬鬼は自宅へと飛んでいった

文は新聞の内容を考えるために自宅へ。

 

 

 

 

 

「あれ?斬鬼は?文は?」

 

 

 

 

 

 

 

私は悩んでいた。

何故かというと今日から山に帰ってきた天魔様の友人だ

最初彼と会った時は何処の部隊か聞いてみてあたかも自分は

下っ端で私よりも新人ですよーと思わせていた。

あの時文様の一方的な待ち合わせが少しでも早かったら

彼は普通に山に戻ってきていたかもしれない。

もし普通に帰って来れば天魔の威厳は保たれていた

自分の仕事を放棄するまでに仲の良いのだろうか。

彼についてはわからない事だらけだ。

わかっていることの大半が伝承だけだからなのだ

 

私は天魔の側近として見た資料を思い出した

 

 

 

 

*紅白斬鬼の今まで

かつて天狗の里が作られた時に紅白家は生まれた。

彼ら紅白は己の里を外敵から守るために戦った。

そしてそこから先代が行方をくらまして紅白斬鬼が

その代の当主となりある部隊に入った

“神風部隊“

この部隊には様々な部分で優秀なものだけが入ることのできる部隊。

ここでは身分など関係なく単純な強さで偉さが決まる

強ければ強い程カリスマ性が強くなるからというもの。

ところがある時住処を探していた鬼達が山に宣戦布告。

天狗達は総力を用いて対抗したが力には勝つ事ができずに敗北

部隊は60人のエリートが勢揃いだったのに鬼の怪力によって壊滅。

生き残りは紅白斬鬼の他、6名のみとなった。

リーダー格が戦死した神風部隊はその後解散された。

この後斬鬼は「探さないでください」と置き手紙を残した後行方不明。

天魔率いる…どちらかというと強い奴と戦いたいという鬼の我儘により

捜索隊が結成されたが結局見つからず。

斬鬼が帰ってきたのは鬼が地底に行った時だった

 

―――ちなみに斬鬼は鬼が来る前から妻を侍らしていた

   1人の娘も居たという―――

 

それから数百年後、とある任務中に斬鬼の妻殉職。

斬鬼は生き残る術を娘に教えた後行方不明

 

 

ここで伝承は止まるがこれからも続いていくのだろう

それにしてもあの伝説は伴侶がいた上に娘までもがいたらしい

考えられなかった、どうみても伴侶か居るようには見えなかったから

 

私は…犬走椛は彼に何があったか考えながら眠りについたのだった

 

 



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我が家

しばらく飛んでいると我が家が見えてきた

夕日が我が家を照らしてオレンジ色に変わっている

斬鬼の家は他の天狗と同じく崖に作られている

ただ、他の家が投入堂位の大きさで彼の家は大きい

誰もが幼い頃に、特に男なら夢見ることもあるような家だ

一言で言えば崖に基地のように木造建築が張り付いている。

無論のことそれぞれに意味があって見せびらかしているわけではない

まず一番下の方にあるのは風呂場だ

河童の友人がどうにかしてお湯を沸かす装置を作ってくれたので

疑うところはどこにも無い。

そしてそこから内部か崖側の階段を通っていくと今度は

かなり広い宴会場のようなところに出る。

昔はここでよく大騒ぎを起こしてくれたものだ。

そこからいくつか倉庫や調理場などの部屋が繋がっている

他にも働いている四人の為の部屋もある

そうして階段をのぼり、事務部屋へと辿り着く

人魂はまるで実家にきたかのように動いている、楽しそうだ

斬鬼は懐から錆が少しついた鍵を取り出して挿す。

それを捻るとカチャリと音がするのを確認した後ドアノブを捻る。

中に入るとそこは静かな雰囲気の部屋だった

一番最初に目に入るのは部屋の奥にある大きな机

本と墨液が入った瓶に刺さった羽ペンに山積みの書類。

スタンドライトを置いて光源を確保している

ここで後始末や仲間のいざこざについて考えたものだ

その疲れた時には右の隅にあるベットで寝る

というか寝るときは別の和室で寝ることが多い

後で自室に行くとしよう。

ここは完璧に仕事専用になっているのでいらないものは置いていない

あるとすれば旅であった奴らの物くらいか。

“此処“にずっと戻らなかったわけではない。

時たまここに来て荷物になった貰い物を置いてくるくらいだった。

能力を使えばいくらでもここには来れるのだ。

斬鬼は机に近づく。

この机もあの時から変わらない。

ほこりが一つも付いておらずそれどころか汚れもない

まるでいつも誰かが掃除しているようー

 

―…リィン―

 

「お前なぁ…慣れないから後ろに立つなって」

 

「すみません、つい癖で」

 

振り返ると目の間に女がいた

巫女服のような赤と黒の和服を着た

黒上のロングヘアーに赤い双眸の、女性だ。

常人なら心臓バクバクになること間違いなしだが彼にとっては

もうあの時の日常の一部と言えた、いつの間にか後ろにいるなんて

 

「俺がいなくなってから何を?」

 

「彼女の世話を」

 

「…すまん」

 

「いえ、これは女中の役目なので」

 

「あの三人は?」

 

「元気です、あの時よりも成長しましたよ?」

 

「そらよかった」

 

斬鬼の言う三人と言うのは雇った天狗である

元は孤児だったのを彼が拾ったのだ

それにお手伝いさんとしての能力を叩き込んだ女中。

あの時だけは同情してしまった

微笑した女中は姿勢を正すと言う

 

「おかえりなさいませ斬鬼…いえ当主殿。もう夜が遅いので

 お眠りになられればいかがですか?」

 

「そうだな…明日の朝は」

 

「お食事はこちらで決めておきましょう」

 

斬鬼は軽く舌打ちすると自室へ向かった

それを冗談だと知っている女中は一礼して煙のように消えた

事務室の扉を開き、中に入ると壁に向かう

そして壁に背中をピッタリと引っ付ける。

すると壁が回転して斬鬼はそこに行った

己の部屋だ。

障子が使われたこの部屋は縁側がある

と言ってもそこは崖なので手すりが設置されている

その部屋にはクローゼットと刀の整備道具があるだけで

他はがらんとしていた

斬鬼は障子を開けてそこから布団を取り出す

白色のシンプルな布団だ、シミもない純白な。

布団を敷くと今度は徐に服を脱ぎだす

袴の帯を緩め、和服を脱ぎ、鎧を外して。

先に言っておくが今の斬鬼は全裸では無い。

今の彼は上半身も下半身も黒いインナーを着ている

春先でも暑い夏であろうと寒い冬であろうと使える

とても便利なインナーである…これを作ってくれた友人の河童に感謝。

今度きゅうり一週間分でも用意しておこう。

脱いだ服を畳んで横に置く

そうすれば勝手に女中が持っていくだろう

あいつが知っていない部屋なぞ存在しない

どうやってここに来るんや?と聞いたら「半ば勘」と博麗の巫女のような

ことを言いやがる…彼女は今、どうしているだろうか

いや、どうもこうもない。斬鬼が知っているのは初代だ。

今の巫女がどんなのかわからないが期待はしたおこう

あれの子供なら、きっと強いはずなのだ。

すりすりと人魂が擦れながら布団の中に入ってくる

久しぶりにまともなところで寝ることができたと斬鬼は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は…あなたと戦いたくなかった」

 

斬鬼の目の前に女がいた

由緒正しき、赤と白の巫女服。

しかし今はその大部分が赤く染まっており

寂しく笑う彼女の顔も赤かった。

その服は戦いの末ボロボロだった

所々に穴や黒い焦げ跡があって赤い袴は縁が裂けていた。

 

だが、それより深く記憶に入るのが紫の髪

 

「ああ…だがお前がこうしてしまった以上。

 俺とお前が戦うのは仕方ない」

 

斬鬼も同じ気持ちだった

儚い人間の中に神風部隊最強と言われる彼に対等に渡り合える

強者を見つけてしまったのだ。

それからと言うもの彼女と関わるようになった

まだこの時はスペルカードルールなんてなかった遠い昔だ

死ぬ気で戦わねければ死んでいた

殺すか殺されるかだった。

彼女とは盃を交わすくらいには仲がよかった。

ただ、彼女の凶行が全てを切り裂いた

彼女は妖怪を皆殺しにしようとした。

愛すべき娘の1人を妖怪に無惨に殺されたから。

双子の妹が首を噛みちぎられて死んだ

その時彼女は狂った。

 

殺してやると

 

復讐してやると

 

「私は、大切な物の一つを奪われた…!」

 

「俺は自分から大切な物を手放した」

 

「だから!最後の約束を守ってもらう!」

 

「…あれのことか」

 

彼女が刀を構えたのに合わせて斬鬼も構える

 

「どちらかが死に、どちらかが生き残る」

 

『そして生き残ったものが影の英雄になる』

 

「さぁ!」

 

「覚悟しろ」

 

赤い刃と青の刃が交差する

 

 

 

 

「凜…!」

 

思わず手を天井にあげていた

懐かしく思い出したくない記憶だった

もう1000年位前の頃のことだった

 

「…夢か」

 

おそらく昨日博麗の巫女について考えたからだろう

それが脳にこびりついて離れない

彼女が言った通りになっている

斬鬼は起き上がると布団を畳んで元に戻した

昨日と同じように壁を回り事務室に入る

窓からは春の光が差し込んでいた

太陽が山から顔を覗かせている

斬鬼は上に上がった

崖の上に家が建てられている

そこが接客をしたりする建物だった

人が来ない時には飯を食べるための机になる

部屋にはいると見覚えのある奴がいた

 

「入室を許可した覚えはない」

 

「そんなものなくても入れるわ」

 

いつもの笑顔の紫が悠々と食事していたのだった。

金輪際後こんなことができないようにで喝を入れなければな



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デスクワーク

「痛い…」

 

「手加減した方だ。感謝しろ」

 

頭に大きなたんこぶを作られた紫

こいつの能力や性格上こういうのは仕方ないと思うが時にはこうしなければならない

それでも覗き見やらを止めない所をみると本当に面倒だ

斬鬼はどうしてこんな奴と会ったんだろうか…

用意してあるご飯を食べながら話しかけた

今日は典型的な和食だった

 

「で、何用だ」

 

「いやねぇ…本当に来てくれるとは思わなかったから」

 

「そろそろ戻ってもいいかと思ったんでな」

 

「まぁ帰ってきてくれて嬉しいわ」

 

斬鬼はなにかを思い出したのか手を止めた

 

「そういえば5月というのに雪がまだ降っていたな」

 

そう聞くと紫は「ああ…」と声を漏らした

斬鬼は何があったのか聞いた

 

「春でも奪われたのか?」

 

「ええそうよ…彼女に」

 

「…幽々子か?」

 

春を奪う。という行為については目星がついていた

アイツならいつか気になって咲かせようとすると紫に警告したから

少し紫の顔に影が入った

 

「…予想していた事が起こったの」

 

「…咲いたのか」

 

「そうよ、あの忌々しい桜が」

 

斬鬼にとっても紫にとっても忌々しい記憶だった

アレがなければ幽々子は今頃転生を繰り返していたのでは無いかと思うくらいに。

その桜の名は

 

「西行妖…よく封印できたな」

 

「ええ、霊夢達の活躍があってこそね」

 

「完全では無いんだろう」

 

それを聞いた紫は目を見開いた

観念したように声を絞り出す

 

「…一年」

 

「短いな…今代の巫女は力不足か?」

 

「いえ、それは身体を使う時ですわ…弾幕ごっこでは最強」

 

「アイツに比べれば…だ」

 

「彼女と比較すれば代々の巫女は弱いわ…それを殺した貴方はどうかしら」

 

「…ふぅ、ご馳走様」

 

ことりと置いた皿を女中が持っていった

インナーの裾を引っ張って離す

そして背を伸ばした

 

「明日宴会があります」

 

「異変解決祝いにか?封印出来てないのにな」

 

「それは貴方に任せますわ」

 

斬鬼は困ったようなジェスチャーをした

 

「どうだか…俺の封印で今日までだ」

 

「これだけ続いたなら良い方でしょう」

 

「…取り除くしか無いか」

 

「封印では無理だと?」

 

「あれは桜という生き物だ…学んでいるだろう」

 

「同じことを繰り返しても期間が短くなるだけ…ね」

 

「そうだ、だが枯らしてしまえば…幽々子も死ぬ」

 

「完全なる成仏…冥界の管理はその従者かしら」

 

斬鬼は少し納得した様子で言う

 

「アイツがに亡霊化?有り得んな」

 

「彼はもう行方不明よ…何処に居るか知っているけど」

 

「俺は手合わせを願われた…丁寧に俺を探し出してな」

 

「執念ね」

 

「ふう…宴会は俺も出るのか?」

 

「無論」

 

「目立つのは嫌いだ」

 

「当主の時点で無理よ」

 

「それもそうか…」

 

斬鬼と紫は笑った

そしてスキマを開いた後紫は

 

「それじゃ、明日の準備をしておいてね」

 

「変わりないさ」

 

斬鬼は帰る紫を送ったあと自分の部屋へと向かった

当主の部屋に入ると誰が居た気配がした

見てみると窓が揺れていた

机の上に置かれていた古い書類が新しい物に変わっている

そしてその山の上に手紙が置かれていた

斬鬼は手に取ると中身を見た

 

『働け』

 

たった2文字。

それなのに誰が書いたか分かる筆跡だった

最速の天狗が届ける辺り人手が足りていないのだろうか

ともかく、帰ってきたなら仕事しろという訳か。

斬鬼は風で回っていた椅子に座ると羽ペンを取る

久しぶりのデスクワークだ、思い出していこうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これをこうしてこうだな」

 

紅白家当主としての仕事をしていた

予算やらなんやら本当なら天魔がやるべきだろう

彼が着ているのはいつもの服に黒と金の刺繍がある服

これの身分の為だけに作った特注品だ

そんな斬鬼に声がかけられた

 

「終わったか?」

 

声を掛けてきたのは天月 風。

今天魔になる為の手続き等をしている

見た目は自分と変わらないくらいの若さだ

服は山伏の衣装に黒い刺繍がしてある

斬鬼と違って金の刺繍は無い。

天魔になる事は大変名誉な事だが本人は嫌だったらしい

本人曰く天魔になると色々変わるから嫌らしい

それでもなったのは推薦が多すぎたからか

ちなみに大隊を指揮するくらいに位が高い

これから一番高くなるけど。

 

「ああ、風。お前はどうだ」

 

「私の方は大体片付いた」

 

「やはり風を天魔に薦めて良かったな」

 

いきなり聞こえてきた声に振り返る

 

「文?そっちは?」

 

天狗がよく着る山伏の衣装に身を包んだ鴉天狗が居た

彼女の名前は射命丸 文

神風部隊の諜報班を指揮している鴉天狗だ

彼女自身鴉天狗の中ではダントツに優れている

特にスピードは神風部隊の中でもトップクラス。斬鬼も超えている

次代天魔に推薦されていたが辞退した

風はなんで辞退するのだバカと言われていたが気にしていない

 

「こっちは完了よ…奴らクーデターを目論んでいるらしいわ」

 

「先に潰しておこうか」

 

「待て、斬鬼。私にいい考えがある」

 

「どんな考えだ?次代天魔」

 

「それはだな…」

 

 

 

 

 

「放っておく…ね」

 

書類の山がどんどんと小さくなっているのを確認していく

最初はささっと書いて後々確認するのだ

訂正があればなんとか出来るだろう

書類こ内容としては河童が費用を出して欲しいだのきゅうりほちいとか

食料の供給ルート確認に私生活の監視、態度評価表…

俺がやらなくていいじゃねぇかコノヤローという物が多い気がする

古い書類の一枚を紙ヒコーキにして窓から飛ばした

中は愚痴をぐちゃぐちゃに書いた悪口である

名前は書いていないのでヨシ。

 

「それで本当にクーデターが起こって無いところをみると本当に…」

 

斬鬼はそう言いかけて止めた

そういえば河童達は今何をしているのだろう

書類はもう終わったしやることは届けるだけだ

届けたら少し向かって見ようか…斬鬼はいつもの服を着ると

書類を抱えて外に出た。

 

 




風の考えについてはコンボイくらいに信用出来ます
但し五分の一で失敗する


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旧友

空を飛んでゆく

向かう先は天狗達の里にある役所の様な建物だ

他の天狗がデスクワークをしていたり武芸に勤しんでいたりと賑やかだ

昔は人間も居たのだけれど…今回は天狗が人間に関わるか?

斬鬼は里の道に降り立つとそこから歩くことにした

外の世界で見たいものを見るため(本当は金を使いたくない)に歩いたから歩きには自信がある

書類を持ちながら歩くというのは少しアレだが問題ない。

というのも半分くらいは人魂が持っているからだ

実態がないのに持てるのかよとか言うなら幽々子に聞いてこようか

この世界というかほぼ全ての並行世界がご都合主義だからな

斬鬼は道行く人の注目を集めながら進んだ

人魂を連れている白狼天狗なんて斬鬼以外に居ないからだ

本人はなんか視線が増えているようなくらいに感じていた

 

閑話休題

 

歩いていると目的の建物についた

ここの受付の天狗にこの書類を渡せば全て終わりだ

中に入ると1人の天狗がこちらを見て…また見た

思い切り目が見開いている、そんなに驚くことでもあったのか?

その様子に気づいた天狗がこちらを見て…またそれを見た天狗が此方を見て…

そして全員がこちらを10秒くらい見たあと元に戻った

少し動きがぎこちないように感じるがどうしてだろうか

足を踏み出してカウンターへと向かう

 

「ざ、斬鬼様。書類ですか?」

 

「斬鬼でいい…これだ」

 

「わかりました、斬鬼さん」

 

「…それでいい」

 

受け取った白狼天狗はこれまたぎこちない笑顔でいった

さまでいいやもう、とため息をついた

 

「あの…」

 

帰ろうとしたが呼び止められる

見てみると鴉天狗が近くにいた

 

「どうした」

 

「その…」

 

「何だ」

 

「いや…」

 

口をモジモジさせながら、指先をモジモジさせながらなにか言っている

彼が圧を出しているのと経歴が凄まじいのでこんな態度だ

ちなみに彼は自分が圧を出している事に気づいていない

そんな彼を見てとある人物が声をかけた

 

「取材をしたいのよ」

 

「あっ射命丸様」

 

「取材?俺にか?」

 

「そうよ、暇だから新聞を作って出しているの」

 

「お前もか?」

 

「ええ、というか近い内に取材しようと思ったのだけれど」

 

「はぁ…?別に取材くらいなら…」

 

「30以上」

 

「は?」

 

「大体の取材時間平均がそれよ」

 

「ちなみに分だよな」

 

「当たり前でしょう?」

 

「まだ10時にもなってないからな…よし」

 

「…いいんですか?」

 

「この場でしようか、あの席を借りよう」

 

「あ、ありがとう、ございしゅ!?」

 

盛大に噛んだ

それを見て斬鬼は言う

 

「ほら、落ち着け…それでも飲んだらどうだ」

 

斬鬼は懐から筒状の物を出した

緑色の三角形だけを使った山の様な模様がある

赤と緑の色を使って英語表記がされている

 

「これは…?」

 

「マウンテンデュー…結構いけるぞ」

 

「じゃ、じゃあいただきます…」

 

タブを開けて、口に付けると容器を傾ける

瞬間鴉天狗の目が大きく開かれる

 

「お、美味しい…!」

 

「美味いだろう、外の人間も良く考えたものだ」

 

「外の飲み物なんですか…?」

 

「あぁ、それも結構希少だ…数が少ないしな」

 

「ふう…それじゃあ取材を…」

 

「あぁ、それがあったな…最初は何だ?」

 

「まずですね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…これでいいか?」

 

「ありがとうございます!」

 

その子は笑顔で飛んで行った…室内なのに器用だな

それにしても腹が減ったな、あれだけ受け答えをすれば当たり前だろうか

いや、そうでは無く普通に今が昼時だからだろうか

斬鬼は立ち上がって、店を行こうとした時だった

その目にある人物が見えた

そいつの近くに行って肩を叩いた

 

「お前生きていやがったのかコノヤロー」

 

しかしそいつは瞬時に振り向いてその手を防いだ

そして軽く笑って言った

 

「どうした?外の世界で平和ボケして腕が訛ったのか?」

 

「んな訳ないだろうが」

 

「僕も君が生きていて良かったよ」

 

彼は斬鬼と同じ白狼天狗だ

服装も鎧を除けば同じだが彼の袴は真っ黒だ

顔は準イケメンといったところ…幻想郷には男が少ないから分からないが。

それを言えば幽々子とか文とかを外の世界で仕事させたら勝手に金が溜まるだろう

まるでアニメというのに出てくるキャラにそっくりだから

 

「お前さんよく平穏に過ごしてたな…」

 

「んな訳ないよ、今や大天狗だよ」

 

「白狼が大天狗ねぇ…」

 

「君は天魔の次に偉いだろうが」

 

「はは!そうだったな」

 

笑った後斬鬼はふと気づいたように言った

 

「ここら辺に美味い飯を売っているところはないか?」

 

「確か…今日はミスティアが店をやっていたな…」

 

「んん?なんて?」

 

そして彼は斬鬼を連れて外に出ると指を指してこう言った

 

「あそこの屋台何だけど」

 

「あれか?」

 

指指す方向には1つの屋台が展開されていた

そこで頭と背中から羽を生やした女性が歌いながら八目鰻を焼いていた

 

「あいつは…夜雀か?」

 

「なんでも焼き鳥を撲滅するために屋台を開いたらしいよ」

 

「何故だ?同族を食われるのが嫌だから?」

 

「いや…美味すぎるから、らしい」

 

「なんじゃそりゃ」

 

その答えを聞いて思わず笑ってしまった

理由が意味不明すぎる

 

「焼き鳥以外にも美味い物があると教えるとか何とか」

 

「…美味い物は無くならないのにな」

 

「右に同じく、だね」

 

美味い物が世界から亡くなった事はない

むしろアレンジされて広がる始末だ。

 

「まぁ、美味いならいいだろう」

 

「勘定は半分でいいかい?」

 

「自分が頼んだ分でいいな」

 

「リョーかい」

 

斬鬼は暖簾を潜り、椅子に座った

すると歌を歌いながら焼いていた女がこちらを見た

 

「あ、いらっしゃいませ」

 

「焼きt…八目鰻を2本」

 

「僕も同じのを…それからおでんも」

 

「じゃあ俺は追加で枝豆を頼む」

 

「わかりましたー」

 

女性は水を置くと焼いていた八目鰻を皿に置きこちらに渡した

随分と早いもんだ

 

「この店は繁盛してるか?」

 

「ええ、時たま人里の方でもやるんですけど…」

 

「はむ…そう言えばお前さん名前は?」

 

「私の名前はミスティア・ローライ。ミスティアでいいわ」

 

「分かった…はむ」

 

「なかなかガツガツいくじゃないの」

 

「これは…美味いな」

 

「でしょう?焼き鳥なんてめじゃないくらいに」

 

いや…これは焼き鳥の方が…

 

「確かに」

 

「んん?なにか言った?」

 

「後、これを調理してくれ」

 

「これはキノコ?」

 

「あぁ、俺が食べる」

 

斬鬼が懐から出したのは小さなキノコだった

ミスティアはそれを受け取ると切り始めた

 

「あれは何処で手に入れたんだ?」

 

「ありゃ日本の山奥で採集した」

 

「名前は分かっているのか?」

 

「確かウラルツキヨタケとかいう…でも食ったらなかなかいけたぞ」

 

「…僕は止めておこう」

 

「どうして?」

 

「嫌な予感がするからね」

 

「出来たよー」

 

ミスティアは皿に盛ったキノコを出した

それを受け取ると斬鬼は食べ始めた

 

「確か…ウラルツキヨタケって…」

 

「ん?」

 

「あ、あ…それって美味いのか?」

 

「いや?なんか舌の感覚無くなるぞ」

 

(やっぱり毒じゃないか!)

 

「どうしたよ」

 

斬鬼は頭おかしいのか?という目付きで彼を見た

彼は首を振ったあとはにかんだ

 

「ともかく、そろそろ終ろうか」

 

「そうだった…河童の所に行くんだった…」

 

「これ勘定ね」

 

「俺の分の勘定だ」

 

斬鬼と彼は現金をミスティアに渡した

ピッタと言うのを確認した後一例した

 

「またのお越しをー」

 

「ふぅ…なんか周りが青白いな」

 

「…もう何もいわん」

 

「少なく食べた方だぞ」

 

「確かにそうだけど…いやそうじゃない…」

 

斬鬼は手を振ると飛んだ

向かう先は河童のいるところだ

恐らく場所は変わっていないだろう




取材については文がやる時があるので、その時


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天狗として

失踪?まだしとらんよ


「おいしい物は、おいしいな♪」

 

斬鬼は変なリズムで歌っていた

というか字体だけではルーミアかその辺だと思うだろう

彼自身知っている人は少ないがかなりの大食いである

それこそ幽々子に匹敵するくらいの、だ

無論の事それは公式の場でやったことは無い。というかやったら死ぬ(色んな意味で)

人前ではクールでも自室とかだと天然になる

厳格な表情は今や崩れている

 

「そうだ、食後の一服といこうか」

 

懐から葉巻を取り、先を切ると妖術を使って火を付ける

これは知っている人は多い。彼はヘビースモーカーだ

最初は煙草を使っていたが最近は葉巻である

ちなみにキューバだ

ほう…と口から煙が出される

妖怪故、いくら吸っても問題は無い…本人には

旋回している人魂が苦しそうな様子になる

斬鬼はそれを見ると葉巻を地面に落とし、潰す

 

「そうだったな…君は煙草を辞めたんだったか」

 

"彼女"は煙草を辞めた

健康に悪い事もあったがそれ以外にも…

そういえば外の世界で吸った時に周りの人たちに嫌な顔をされたことがある

その時は不思議に思っていた…後で調べてみると禁煙が世界中に広がっているらしい

なんでも人間達は肺癌を患ってしまうらしいのだ

自分は妖怪だからか、そんな病気とは無縁である…例外が今後できるかもだが

今からもう気が遠くなるような時代から斬鬼はいた

近未来な技術を持っていた奴らが月に逃げた位の時代にはもう青年だった

のちに妖怪の山となる山から成り行きを見守ったりした。

そこから時は流れて…大和が侵略してきた頃に斬鬼は当主となった

…神風部隊に入ったのもこの辺だったか

邪智な妖怪を討ち滅ぼすというバカな神を蹴散らしていた

それから大和と洩矢の戦争が終わった頃に彼女達が謝りに来た

なんでも部下達の単独行動を詫びたいとの事

こちらは正当防衛をしただけと断っておいた

それから何百年後…あいつらがやって来たのだ…鬼どもが

あいつらの力に天月は屈したのだったか。神風部隊壊滅したし

よく斬鬼が鬼を避けて逃亡したのだと言われるがそれは違う

というか実際に会っているので避けてはいない

強そうだなとか言われて喧嘩をふっかけられれば誰でも逃げると思う。

ちなみに鬼子母神とは結構気が合った

彼女は「夫さんはどこにいった?」「そこに行かせてあげましょう…地獄へと」と受け流していた

それからは色々なところを旅したのだ

狸で有名な佐渡に行ったり久しぶりに洩矢に行ったりと

そこから数百年、たまたま妖怪の山に寄ると鬼がいなくなっていた

斬鬼を迎えてくれた彼女や仲間達によると地底にいったらしい

最近の人間どもが卑怯な手しか使わないから出そうだ

確かに弓でペチペチはどうかと思うが…

力の差が歴然なのに突っ込むのは馬鹿くらいだろうな

 

「ぐあ!?」

 

「んん?」

 

悲鳴が聞こえてきた

若い青年の声だった

千里眼を発動し、辺りを見回す

ここから少し下ったあたりに草原があり、そこに青年が倒れていた

それだけなら黄昏ていると思えるだろうが周りには味方の白狼が居た

椛が大剣を使って指示しているところをみると彼女が隊長のようだ

あたりに散開しているのは彼女の部下だろう

その目の前にいるのは立ち上がったぷー…くまの妖怪だ

突然変異か妖怪化した時の影響なのか黄色の体毛だ

おそらく熊が妖怪の山に入り込んだのだろう

どう見ても入籍の申請には見えない

椛の指揮で熊を囲うように白狼が移動する

 

「天狗ならではのやり方…か」

 

天狗は強い

妖怪全般でも速力に勝り、社会を築いている種族だ

仲間意識が強く部外者は入れないとする保守派は未だに多いようだ

結構減らした(物理的に)のにまた増えたのだろうか

天狗と共に社会を気づいているのは河童と色々だ

入籍なんてそいつらの仲間か結婚でもしないと無理だろう

 

「…」

 

それにしても動きがとろいな…目で追うことの出来る速さだ

昔の天狗社会では「自分はこの社会の一員だからしっかりしないと!」と言うのが多かった

…個人が思っている訳では無い

これは日本の妖怪の特徴だった

1部の妖怪達は違うがほとんどがそれだったのだ

1人が皆に合わし、皆が1人に合わせるのだ

この流れが始まったのはかなり昔だ

それこそ自分が物心着いた頃だ

妖怪が攻めてきて壊滅状態になったらしい

その場で抵抗する者は少数だった…しかし次第に増えていった

 

…あいつが抵抗している

 

…あいつも、抵抗している

 

…抵抗していないのは、俺だけ?

 

…やらないと

 

…なにか、言われる…!

 

つまるところ同調圧力と言うやつだ

日本の、いわゆる「空気を読む」という事だ

三国干渉、日米安保条約、日米通商航海条約etc…

ハッキリ言って同調圧力に弱いのだ

 

「…変わった?」

 

考えられるのは、なにかが変わった事

そう言えば屋台からここに来るまでチラリと見たが道場に人が全くいなかった

それこそ師範代と弟子3人くらいしかいなかった

あれから時代は流れ、皆怠けてしまったと言うのか

 

「仕方ない」

 

3分経っても熊さんを倒せない彼らに喝を入れてやろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くぅ!」

 

硬い

椛の口からはこれだけしか言葉が出てこない

突然変異のおかげか皮膚が硬化しているのか分からない

ただ、今の戦闘方法では不利だと言うことだ

大剣を熊に向け、指示を出す

 

「熊を囲うように配置転換!」

 

『了解!』

 

「うらぁ!」

 

「あ、おい!」

 

若い白狼が飛び出して斬りかかった

ただ振り下ろしたように見えた刀はまた切りかかる状態になっていた

たしか彼が得意とした技だった気がする

振り下ろした後にもう一度振り上げるのを拘束でやるのだとか

ただし、効果は無かった

 

「下がれ!」

 

「は、はい!」

 

「全員、攻撃開始!」

 

それと同時に白狼達が次々に切りかかる

横一文字に、縦にバッサリ切り捨てる斬り方

様々な攻撃方法で熊を攻撃する

最後に椛が大剣を叩きつける

バックステップで後ろに飛ぶと熊を見る

 

「ガァァァァ!」

 

「く…」

 

これでも生きているのか…

長期戦はあまりしたくはない

要請を呼ぶべきだろうか

再び大剣を構える

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅い、遅すぎる」

 

「…!?」

 

一瞬風が止まったかと思えばいつの間にか斬鬼が立っていた、刃が赤い刀を持って

右手の長刀を横に振って付いていた血を飛ばし、鞘に収める

それと同時にクマの体に崩れ落ちた

 

「…」

 

「…えーと」

 

無言

彼からの圧が怖い

 

「全員、整列」

 

『は、はい!』

 

彼は並ばした後隊員の顔を眺める

そしてある白狼に目を止めると指示をする

 

「お前、さっきの技をやれ」

 

「え」

 

「早く」

 

「は、はい」

 

少し驚きながらも若い白狼は刀を振った

先程と同じ、高速で上から下に斬る事を繰り返す技だ

それを数回やって刀をしまう

 

「…もう一度!」

 

「やぁ!…あ!?」

 

刃先が思い切り地面の土にめり込む

斬鬼は刀を地面から引き抜いた

そして、隊員に体を向ける

 

「アニメでも見たか?」

 

「う…」

 

若い白狼は狼狽した

斬鬼は上を見ながら言った

 

「昔よりここは発展した、間違ってないよな?」

 

「は、はい…そうですね」

 

「だからこそ、だ」

 

斬鬼は左右に歩を進める

 

「どうやらお前さん達は鍛錬を怠っているようだな?」

 

「は…い、そうです」

 

「だからこんなミスを犯すんだ」

 

斬鬼は刀を顎で指す

 

「いいか?ここは幻想郷の重要ポイントだ」

 

椛の部下達は静かに聞いている

 

「常は見張られていると思え、さもないと…」

 

「どうなるんです?」

 

「…自惚れた人間達に滅ぼされる」

 

「…」

 

それはない、と言えないのが現状だった

何しろ博麗の巫女、自称魔法使いや時止めメイドやら人外っぽいのに人間と名乗る奴らがいるのだ

彼女たちのような強さをもった人間が攻めてきたら?鍛錬を積んでいない自分達なんて直ぐに殲滅される

 

「いつの時代でも重要なのはお前さん達の様な名無しだ」

 

「…時代を、動かしていけるのですか?」

 

「1人じゃ無理だ」

 

「皆で、協力して…?」

 

斬鬼は目を瞑って頷いた

彼は若い白狼の刀を若い白狼の前で見せる

 

「…こんな装飾には何の戦術的有利は無い」

 

「…!」

 

恥ずかしさで白狼の顔が真っ赤になった

 

「だが…」

 

「…?」

 

斬鬼は彼に刀を渡し、肩に手を置いた

そして耳元で囁く

 

「…あの技は良かった、いいセンスだ」

 

「…いい、センス」

 

斬鬼は彼から離れると告げた

 

「これから俺が鍛錬を積んでやる、安心しろ、天月程じゃ無い…解散」

 

『了解!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白狼達が各々の配置に戻りつつある時葉巻を吸っていた斬鬼に声が掛けられた

 

「斬鬼さん」

 

「…椛か、どうした?」

 

「私…怖いんです」

 

「…何故」

 

胸を抑えて言う椛に斬鬼は質問する

椛は顔を上げると、泣きそうな顔で言った

 

「…私は実は捨て子なんです…天魔に拾われて」

 

「そりゃ酷い親も…居たもんだ」

 

「だから、時々思うんです」

 

「何をだ?」

 

「また、捨てられるんじゃ無いかって…」

 

「ふぅ…」

 

斬鬼は煙を吐くと椛に近づいて言う

安心させるような、優しい声で

 

「そりゃないさ」

 

「…それは」

 

「天月は、自分の部下を売ったりしない、絶対だ」

 

「…ありがとう、ございます」

 

椛は数秒斬鬼を見つめた後に礼をした

 

「そうだ、河童の所に案内してくれないか?」

 

「そ、それくらいなら!朝飯前でしゅ!?」

 

お前もか

斬鬼は自分と話す人に噛む呪いでもふりかけているのかと思った

 

「こっちです!」

 

「あい分かった」




学校でコロナ出たので遅れました、ユルシテ


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厄神

最近は此方にハマってしまった


「河童がいるならコレは欠かせないよな」

 

「胡瓜ですか?それ」

 

「そうだ、あいつらはこれに目がないからな」

 

手元に持っているのは三本の胡瓜

河童というのは何故か胡瓜を好む

理由は分からない…飽きを知らないように食う

どんな条件でも飲んでくれる便利なあいてむ、という奴だ

ともかくどんな反応をされてもこれで収められるだろう…

河童が今も皿を乗せているのか斬鬼は知らない

 

「…待て」

 

「?どうしました」

 

斬鬼は軽く手を森の奥に振った

すると森からフリルのエメラルドグリーン髪の女が現れた

彼女は手を振りながらこちらに近づいてくる

椛は彼女の事を知っていた

 

「…雛さん?」

 

「よ、鍵山雛。厄は集まっているかー?」

 

「まだその季節じゃないわ…久しぶりね、斬鬼」

 

雛と斬鬼は握手をしあった

その光景に椛は驚いた

 

「あれ?斬鬼さんって厄の影響は無いんですか?」

 

「勝手に散っていくわ…おかげで困るのよ」

 

「厄が臆病なのが悪い」

 

「いえ、貴方が強いのが悪い」

 

険悪な雰囲気では無い

友人として接しているようだ

椛は気になった

 

「御二方は知り合いなんですか?」

 

「そうだな」

 

斬鬼は顎に手を当てて考えるポーズをしている

おそらく会った頃を思い出しているのだろう

 

「たしかこんなだったような…」

 

「貴方誇張いれてないでしょうね?」

 

「無論」

 

「どっちよ」

 

「さて、会った頃だが…」

 

 

 

 

 

 

「暑い時は川で涼むに限るね」

 

斬鬼は下駄と足袋を脱いで傍に置いた

そして河原の少し大きな石に腰掛けると川に足を入れる

ひんやりとした感覚が足に走る

体に溜まっていた熱が足からどんどん冷やされていく

やはり、暑い時はこれに限るだろう

家は断熱は完璧だが、逆に熱を逃がす能力は無い

というか温泉が湧いているので暑い

なんで夏に普段使うのは崖のの上にある家だ

主に接客を担当する場所だ

そこにいると少しはマシになる

デスクワークももっぱらそこだ

とある人が言っていたがどうして俺は夏を基準としなかったのだろうか

よくよく考えると欠陥住宅じゃないか

1番長い夏で1番苦労するってどうなのだろうか

冬は温泉に友人達が入ったりする

熱を外に排出する機構を河童に作ってもらおうか

幸い金と胡瓜があった(と思う)ので頼んでおこう

温泉が湧き出たという興奮だけで作るものではなかった

ちゃんと機能性を持たせないとダメだ…

遠い目で景色を眺めているとなにかが流れてきた

 

「…なんだあれ」

 

出てきたのはその言葉だけである

流れてきたのは雛人形だった

カゴに置かれた2人の人形。

意味が分からない

 

「全部集めてみるか」

 

斬鬼は立ち上がると水をバシャバシャさせながら人形に近づいた

カゴを持ち上げ、雛人形を観察する

これといって変なところの無い雛人形だ

斬鬼はそれを河原に置いた

後で調べてみようか

 

「ん?」

 

川を見るとまた、雛人形が流れてきた

それも先程とは違い結構な数だ

 

「なんだ?今日はなにか人里であったのか?」

 

斬鬼は先程と同じように雛人形をカゴごと川から持ち運んだ

人里の方でなにかあって生贄の代わりとか…と斬鬼は考えていた

口減らしならともかく…いや口減らしで雛人形を流すとは?

雛人形に親でも殺されたのか?

 

 

 

 

 

 

「…おかしい」

 

そう、おかしいのだ

今日流れてくる筈の厄を纏った雛人形が全く流れて来ないのだ

人間達には今日、雛人形を流すように言った筈

流すだけで厄が無くなるならと喜んで引き受けたあの笑顔は嘘だったのだろうか

いや、それはないだろう

 

「もしかして、引っかかったりして」

 

私、鍵山雛は川の上流を目指した

途中の草むら等に目を凝らすのを忘れないようにする

もしかしたらそこに隠れているかもしれない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、これで全部だな」

 

額の汗を拭い取り、目の前の成果を見る

そこには10個程の雛人形のペアがカゴに各々置かれていた

そして先程気づいた事なのだがこの人形、厄が付いているようである

そういえば最近この妖怪の山に入籍した奴がいるらしい

確か秋の神と厄神だった気がする

 

「…もしかして」

 

「やっちゃってるわよ」

 

振り返るとそこに女性がいた

ゴスロリにフリルを付けたその女には厄が濃くまとわりついていた

斬鬼は彼女が最近入籍した厄神だと気づいた

 

「お前が鍵山雛か?」

 

「ええ、私が厄神」

 

「お前さんへの厄を少し俺が纏っちまった」

 

そう、人形に触れたことによってすくなからずとも厄が付いているはずだ

厄が大量にあると不幸になる

 

「私に任せて…本当に少量ね」

 

こんな時に役立つのが彼女だ

厄神は彼女にとって美味い飯のような物だ

逆に言えばそれが無くなれば彼女はいつか消えるだろう

それはないだろうけどな

いつの時代にも不幸体質な奴は必ず居るものだ

雛は手を斬鬼に向けた

すると黒い何かが斬鬼の体から放出され、雛の手に吸い込まれる

 

「はい、おしまい」

 

「恩に着る」

 

「貴方が紅白斬鬼?」

 

「そうだ」

 

「そう、これからよろしく」

 

「こちらこそ」

 

斬鬼と雛は握手した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、人形からは厄が全て抜けていた、と?」

 

「そうよ!お腹いっぱいになる、チャンスだったのに!」

 

「元気出せよ」

 

「貴方のせいよ!」




こいし並に無意識なって貴方の幻想入りのシナリオが思いつかなーい!


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ほら、胡瓜だぞ

「こっちか?」

 

「ええ、滝があるのでわかりやすいと思います」

 

雛と別れた後河童の元に向かった

河童らしく滝と川付近に住んでいるらしい

…にしても煙が上がっているのは何故だろうか

気になった斬鬼は椛に質問した

 

「あの煙は?」

 

「河童達の開発ですよ」

 

「こちらで言うカラクリか?」

 

「ええ、よく分からない物だらけです」

 

「俺の家は普通に使っているんだがな…」

 

「そうなんですか?」

 

「便利だからな」

 

温泉の熱を排熱する機構を作ってもらった事があるからな

斬鬼と椛は会話をしながら進んだ

暫くすると川の流れる音が聞こえてきた

透明度の高い人が潜れるくらいの深さの川だ

 

「ここをのぼっていけばいいのか?」

 

「ええ、河童の集落は上流にありますから」

 

「山登りは得意か?」

 

「得意も何も、巡回ルートですし」

 

「そうか…」

 

ここが椛の巡回ルートか

暇な時は来て少し手伝ってやろうか

いや、来ても邪魔になるだけだろうな

斬鬼は自己解決をするとふと視線を向けた

 

「…」

 

「どうしましたか」

 

斬鬼は刀を抜き、何も無い空間に向けた

それに椛は驚いた

 

「俺は姿が見えなくてもわかるぞ」

 

斬鬼はそのまま刀を何かに当てた

するとそこには赤い線ができていた

 

「姿を現せ」

 

森の背景にノイズが走ったかと思うと何かが浮かび上がる

それは点滅を繰り返してやがて人になった

水色を基調にした服に緑の帽子に緑のバック。

 

「まさかバレるなんて…」

 

「俺は視覚やらに頼るわけじゃ無いからな」

 

「え?にとりさん居たんですか?」

 

斬鬼は刀を戻すとため息をついた

 

「さっきから尾行するようについて来たんでな」

 

「悪かったって…」

 

「まぁいい。お前は誰だ」

 

「私かい?私は河童の河城にとりさ」

 

「にとり…ね、覚えておこう」

 

「君は確か紅白斬鬼かい?」

 

どうやら斬鬼が現役復帰したというのは広まっているようだ

 

河童の住処を見たら少し幻想郷巡りをしようか

 

「今河童の住処に向かっているんだ」

 

「何か用でもあるのかい?」

 

「いや、どれだけ発展したか見るだけだ」

 

「そうかい!じゃあ案内してあげるよ」

 

斬鬼は頷くと椛に首を向ける

 

「巡回、頑張りたまえよ」

 

「了解です」

 

椛は頷くとどこかに飛んでいってしまった

 

「こっちだよ!」

 

にとりの指差す方向に斬鬼は歩いて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここだよ」

 

「ほう…かなり発展しているな」

 

目の前に河童の里があった

所々にある洞穴からは煙突が生えており煙が吐き出される

そして道の至る所に開発品と思われる品が転がっていた

錆びついたものもあるので失敗作だろうか

一際大きな建物からは機械の駆動音と鉄を打ち付ける音が止まない

一昔前はゴーストタウンのようだったのに凄い変わりようだ

 

「昔は寂れていたからね、技術が向上したのさ」

 

「面白そうだな」

 

「私の家に来るかい?良い発明品があるよ」

 

「邪魔させてもらおう」

 

斬鬼は彼女について行くことにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつぁ凄いな」

 

「そうだろう?」

 

目の前にあったのは大量の機械だった

どこを見ても工業に関する物しかない

机の上にはレンチやエクスカリバールがある

棚からはなにかのパーツがはみ出ている

ネジやレバー、かなりの数が棚のあらゆるところに収納されている

にとりは台所(と思われる)に置いてある機械からコーヒーを取り出すとレンチやネジを机から払い除け置いた

ハッキリ言って物凄く管理が雑だ。うん

 

「これしかないけど、飲むかい?」

 

「頂く」

 

斬鬼はコーヒーの取っ手を取ると口に付けて飲んだ

グビと1回音を鳴らしたあとコップを置く

 

「…」

 

「これコーヒーメーカーと言ってね、なんと全自動でコーヒーをいれてくれるんだ!」

 

「そら、いいな。目が覚めるか?」

 

「これがあるからこそ5日間徹夜できるんだ!」

 

うんうん確かにコーヒーのカフェインは高いから5日間寝ないで活動も可能だろう

にしてもアレな味だな…っておい

 

「5日間?聞き間違えか?」

 

「5日間だよ?」

 

「…」

 

よく見てみるとにとりの目の下には真っ黒のクマができていた

もしかしなくてもこれは5日間以上起きているのでは?

確認はしないと、死んだら困る

 

「今日で何日だ」

 

「1ヶ月」

 

「馬鹿か?」

 

「機械馬鹿だけど?」

 

斬鬼は頭を抱えた

確かに趣味に没頭するというのは別にいい事だがこれは違う

自分の体調を目にも入れずにずっと機械を弄っていたのか

呆れるどころか逆に尊敬出来そうだ

 

「寝ろ」

 

「いやぁ、それは無理かなぁ」

 

「上官命令だ、寝ろ」

 

「以外と横暴…!?」

 

横暴では無い、部下を労わって寝るように指示しているのだ

仕事しろよりかは幾分マシだろう

 

「仕方ないねぇ」

 

にとりは溜息をつくと機械を弄り始めた

なんだろうか、多分気絶するまで止めない気がする

 

「邪魔したな」

 

「別にいいよー他の河童も来るからねぇ」

 

ことりはこちらを見ずに手を振った

斬鬼は椅子から立ち上がると扉を開けて出ていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危なかったぁ…あれ以上居られるとバレるところだった…」

 

「こんなロボットを作っているなんて言えないからねぇ」

 

 

 

 

 

「…」

 

斬鬼は扉から出た途端飛んだ

そして河童の里から離れた場所に降りると草むらに近づいた

口からコーヒーを吐き出す

 

「ごほっごほっ…」

 

ちなみにこれには深い理由がある

 

「野郎コーヒーの中にオイル入ってやがった…」

 

そう、欠陥か何か分からないがオイルが入っていたのである

にとりとの会話の時ずっと舌の下に溜めていたのだ

舌がなんとも言えぬ味を感じていて嫌悪感が凄まじかった

これが欠陥品を掴まされた人間の気持ちか

 

「…次はどこに行こうか(ペッ)」

 

 

 

 

 

 

そう言わなくても大体の目測は付いていた

 

 

紫曰く最初の異変を起こした館、紅魔館

 

 

悪魔が住んでいる?知らんがな

 

 

 

 

 

 

 

斬鬼は歩き出した…人里へと



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悪魔と波動
情報


斬鬼が人里に向かったのは理由がある

紅魔館についての情報が今のところ無いことだ

なので里の守護者やらから話を聞く必要がある…というのは建前だ

本当はお菓子やらを買うためである

客が何にも持たずに突然訪れるというのは失礼だろう

一応の礼儀として買っておくために来たのだ

それと時間帯が丁度いいというのもある

吸血鬼が動くのはだいたい夜だろう

寝ている時に行ったら相当ひどい目に遭わされるだろう

人里で菓子を買って紅魔館に向かう時には夕方になっているはず

 

 

 

 

 

 

 

 

里の入り口についた、門番が1人いる

斬鬼が近づくと槍に手を添えた。どうやら警戒しているらしい

人間にとってここでの一番の天敵は妖怪だから仕方ないことだ

両手をあげて敵意が無いことを示す、門番は口を開いた

 

「ここは人里、何か用があるのか?」

 

「用はある」

 

「…ん?」

 

彼は斬鬼の顔をよく見た、そして何か気づいたようだ

槍から手を退けて少し警戒を解いて聞く

 

「もしかして、紅白斬鬼か?」

 

「そうだ」

 

「これは失礼を」

 

彼は一礼すると門にあけるように呼びかけた

ギギギと音を立てて門が開く

 

「良いのか?」

 

「ええ、幻想郷縁起で見て上に今日号外がありましたからね」

 

号外というのはおそらく文のことだろう

女中から聞いた話では新聞を作っているとの事だ

中身はホラ吹きどころの騒ぎではなくオオカミ少年もずっこける程の内容だ

 

つまり嘘の塊

 

どれが真実でどれが嘘か分からない

分かるのはその場に居た本人くらいだと思うけど。

清く正しいでは無く、汚くいやらしいに改名しやがれ

1回新聞を読んだ斬鬼は心の中で悪態をついた

 

「それじゃあ失礼する」

 

「ようこそ、人里へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから少し歩いた所、ある店が目に入った

細かく言うならばそこにいる客にだろうか

中には青色のミリタリージャケットに身を包んだ男、水色のセーラー服のような格好の男

そして胸元が大きく空いた赤髪の女性

この他にも数人居たが、気にもとまらなかった

赤髪の女性の波動を見た途端分かった

 

こいつぁ…死神だな?、と

 

よく見てみれば死神らしく鎌もある

といっても実用性が無さそうなひん曲がった刃をしている

見た目だけでも人間は恐怖するからだろうか。

にしても何処かで感じたような波動をしている

そう思いながら斬鬼は中に入った

 

「いらっしゃい」

 

赤のミリタリージャケットを着た男が向かい入れた

斬鬼は真っ直ぐカウンター席に座る赤髪の女の横に座った

 

「お隣失礼する」

 

「別にいいよ、ハンサムなお兄さん?」

 

「うるせぇ、面倒小町ってか?」

 

「私の名前は小野塚小町だから、つまり私は美しいと」

 

「お前は何を言っているんだ…どうも」

 

品物が書かれた紙を赤ミリタジャケット男から受け取る

よく見てみると腰の辺りにマントがあった

 

「水、どうぞ」

 

「ありがとう」

 

二人分の水を受け取ると1つを小町の前に置く

小町は斬鬼が連れている人魂に興味シンシンだった

 

「ふーん、あんた苦労しているんだねぇ」

 

「そういえば死神は死人と話せたな」

 

「忘れないでくれよー最近有名な天狗のおにーさん」

 

「新聞は地獄まで届くのか?」

 

「噂って怖いよねぇ、あの斬鬼が帰ってきたってうるさいよ」

 

「俺じゃなくてそいつらにいえ」

 

ゴクリと水を飲む

そして大体決めると店主を呼んだ

 

「あー…店主?こいつを」

 

「えーとどれどれ?生姜焼き二人分ね」

 

注文を聞いた店主はそのまま台所に行った

鼻歌を歌いながら行くところを見るとかなり性格は和やかに見える

そこで斬鬼は小町に聞いた

 

「で?どっかの誰かさんはこんな所で油売ってていいのか?」

 

「別にいいさ、四季様も忙しいだろうから」

 

「とっくの昔に終わってますよ?」

 

「所であれは何なんだろうな」

 

斬鬼は指を指す

そこには注射器のような物かかなりの数あった

 

「さぁ?何かの薬じゃないか?」

 

「…いい思い出が無い」

 

斬鬼にとって薬とはいい思い出が無い

太平洋戦争がいい例だ、本当に

ヒロポンをいちいち打たれる身にもなってほしい

 

「おまちどおさまー」

 

そこに生姜焼き二個(ご飯付き)と団子が置かれた

 

「うん?私らは団子なんて頼んでないよ?」

 

「確かに君たちは頼んでないね」

 

「ダイナ、しっかりしておくれ…」

 

「後ろを見てご覧」

 

「ねぇ、小町」

 

瞬間、小町の動きが止まる

時が止まったかと錯覚する程に動かなくなった

そしてギチギチと音を鳴らしながら振り向く

 

「こんにちは小町、美味しそうな生姜焼きですね」

 

「久しぶりだな、映姫。何年ぶりだったか?」

 

「ざっと1000年です、黒です」

 

「小町」

 

「えーと、何かな?」

 

斬鬼はニッコリと笑い、肩を掴むと

 

「勘定、よろしく」

 

「映姫さん、説教なら地獄でやってください」

 

「そうですね、団子は持ち帰ります」

 

袋に団子と生姜焼きを詰めると代金を置き、そのまま小町を引きずってどこかに行ってしまった

斬鬼はどこ吹く風で

 

「大変だねぇ」

 

「食べないのかい?冷めてしまうよ」

 

「おっと忘れるところだった」

 

「忘れないでくれよ」

 

「あと、あの注射器を買おう」

 

「毎度」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから外に出て、ある店が目に止まった

 

「山の舞」

 

そこには夕方だと言うのにかなりの人が居た

斬鬼は手土産くらいは必要かと思い、饅頭を買ってそこを後にした

懐かしい店だった

人魂も、店が繁盛しているのをみて嬉しそうだった

 

足を進める

 

夜が一番都合がいいから

 

紅魔館へと



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妖精

『 バカだって?私は最強で天才なんだよ!』氷の妖精

名言っポイなんか。批判が来ない限り止めない


歩くということはいい

外の世界で旅をすれば自然と歩きが快楽に変わる

自分が今、旅しているという実感とかそういうのを感じるのだ

人間を超える体力を持っているからかもしれないけれど

それはともかく目の前のこれはどういう事だろうか

 

「カッチンコッチンに湖が凍ってるな…」

 

言った通り湖が凍っている

遠くから見た時は水色の綺麗な湖だなと思っていたがこれである

そういえば妙な光の反射をしていたな…

斬鬼は水面の傍に寄る

 

「…」

 

コンコンコンと三回すかに向けてノックする

甲高い音を三回出すだけだった

 

「えい」

 

ゴガンと鈍い音が響く

見ると氷を貫通し、そこから大きなヒビが出来ていた

斬鬼は横にいる人魂を見る。人魂は明後日の方向を見ていた

 

「まぁいいか」

 

斬鬼は拳を引き抜くと少し離れたところの氷に向かう

そして一歩踏み出す

 

「結構硬いんだな」

 

大人より少し大きい位の身長を持つ斬鬼

それが乗っても割れないというこては相当硬いと言うことだ

それだけ強い者がここに住んでいると言うことか?

 

「気を引き締めるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やい!お前!」

 

「チ、チルノちゃん!」

 

信じたくはない、まさか

 

「お前が凍らせたのか?」

 

「その通りさ!最強だからね!」

 

こいつは妖精なのか?

いや、今でこれなら適した環境だったらどうなるのだろうか

北極に放り込めば…あーうん

 

「ダメだな、うん」

 

「なんだそいつ、透けてるな」

 

「こいつか?俺の大切な人だな」

 

「へー…死人じゃないですか」

 

よく見ると水色の妖精の横に緑の妖精が居た

というか喋れるのか、こいつら

 

「ここらのは言葉を発するのか…?」

 

「いえ?言葉を発するのはチルノちゃんと私と…あと3人くらいですかね…?」

 

「春告」

 

「ハッ!?」

 

妖精は言葉を放つのと放たない者が居る

主に強さでそこら辺は変わる

ただしそうでない者も居る

例えばものすごーく長く生きていれば言葉は普通に出てくる

妖精の長くはどれくらいか知らないけど。

 

「春告は忘れれるものじゃないとおもうんだが…」

 

「記憶から今だけ抜けていたっポイですね…」

 

「まぁ、いい!弾幕ごっこだ!」

 

「あぁ…慣れてないけど、よろしく」

 

「2回当たったら負けだ!行くぞー!」

 

水色の弾幕が発射、接近してくる

そういう事か、紫のやりそうな事だ

争いでは無く美しさで決めようと

 

「…俺には向かないな」

 

「このー!」

 

弾幕を避け続ける

こういうことは得意だ

 

というかやらないといけなかった

 

やらないと…

 

明日には、墓場に入っていたかもしれなかった

 

戸籍から消える、というのは俺が1番避けなければいけない

居なくなればやがて忘れられ、消えていく

 

それが、耐えられない

 

それとこれは別だが

 

「避け続けるのも性にあわないな」

 

俺は円形に弾幕を発射、青い弾幕がチルノに迫る

 

「や、やるなー!くらえー!」

 

 アイシクルフォール

 

斬鬼の頭上から太い氷柱が生成される

当たれば頭痛に見舞われるだろう

だが、密度はそこまででは無い

 

「まずは一発だな?」

 

「いてっ!」

 

青い弾幕が氷柱を通り抜け、チルノに当たる

 

「むむむーなかなか強いじゃないか!」

 

「少なくともそこらの野良妖怪よりは強い」

 

「これは楽しくなりそうだ!やー!」

 

パパパと聞いていて気持ちの良い音が発せられる

その音分の弾幕が発射される

 

「ほっ」

 

体を捻って弾幕を躱す

 

「こっちにくるなー!」

 

氷符・アイシクルマシンガン

 

チルノは指を銃の形にする

先の尖った氷が続けざまに連射される

 

「いいねぇ、妖精とは思えないな」

 

「アタイは最強だからな!」

 

「おー最強だ、確かにお前さんは強い」

 

確かにコイツは妖精の中では最強だろう

 

「来いよ、避けてやる」

 

「避けてみろ!」

 

凍符・パーフェクトフリーズ

 

大きな氷が生成されたかと思えば砕け散った

その破片が弾幕として降り注ぐ

 

「それが切り札か?」

 

「その通り!」

 

確かに今までと比べれば格段に避けにくくなっている

人間なら軽く殺せるだろうか

 

「強いな、少し舐めていたよ」

 

「アタイは最強だからな!」

 

「口癖か?」

 

「文字通り最強だったからね!」

 

「過去形か」

 

最近は地球温暖化がどうのこうの言われている時代だ

この幻想郷にとってはあまり関係無いように感じる

…コイツの全盛期は何時だ?

俺が生まれたのは確か…神がいた頃だった気がする

永琳達が月に逃れた前くらいだ

 

…彼女達は今何をしているのだろうか

 

ふとそう思うことがある

 

誰がどうしてるとか、こうしているとか

蓬莱の薬の飲んだあの3人は確定で生きているのだろう

他人を気にする事はあまりしなかった

あの時はまだ妖怪の山は攻め入れられる時が多かった

あまり気にかけていると死んだ時の反動が凄まじい

斬鬼はそれを最近よく理解していた

恨みは無かった、ただ、どうしてという気持ちだけだった

 

「さて、この試合ももうおしまいだ」

 

「ギャ!?」

 

チルノの後ろに発生した弾幕が当たる

これで斬鬼の勝ちだ

 

「くそー!負けた!」

 

「鍛えればお前さんはもっと強くなれるさ」

 

そういうとチルノは

 

「鍛えて鍛えまくって強くなってやる!」

 

「おーガンバレー」

 

手を振って斬鬼はその場を後にする

目指すのは、目の前に見える目に悪い館

 

紅魔館



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紅い館

「私は気で見張っている、寝ている訳では無い」紅魔館の門番


妖精とじゃれあってから斬鬼は紅魔館へ向かった

紫と人里の資料を見る限り、異変を起こした事があるらしい

赤い霧が発生した異変だそうだ…見てみたかったなぁ

 

「不気味で悪趣味な館だな」

 

目の前には悪趣味の権化の様な館があった

どんな生活をすれば真っ赤な館になるのだろうか

しかも日が暮れて夜になったのでより不気味だ

 

だが…

 

「…ぐぅ」

 

「お前さんなぁ…」

 

目の前に館の門番らしき人物がいる

熟睡しているコイツはなんなのだ

コイツのおかげで緊張感が消え失せてしまった

 

「…さくやさーん…ナイフだけは…ナイフだけわぁああぁ…」

 

「…苦労してるのかね、コイツは」

 

門番がこれだと館の主はどうなのだろうか

波動を見る限りコイツは妖怪なのだが

 

「起きなさい、美鈴」

 

「ぎゃああああ!?」

 

龍と書かれた星にナイフが突き刺さる

瞬間門番は白目になって叫んだ

 

「すみません、ウチの門番が」

 

「気にする程でも無いさ」

 

「咲夜さん!もうナイフはやめてください!」

 

いきなりメイドが出てきた、銀髪の

本当に何の前触れも無かったのだ

 

「お前さんは?」

 

「私は十六夜咲夜、この紅魔館でメイドをしております」

 

「私は紅美鈴、请多关照(よろしく)

 

你是中国人吗?(中国出身か?)

 

是啊,因为我在旅行(そうですよ、私は旅をしていたので)

 

斬鬼と美鈴の言語についていけていない咲夜が聞く

 

「外国語を話すことが出来るのですか?」

 

「ちょいとな、外の世界で必要だったんだ」

 

「いくつ覚えているんです?」

 

「大体だ、ローマ、英語、日本語、イタリー、フランス、ブリカス…」

 

「どこにでも行けますね」

 

「北センチネル島にはもう行きたくないがな…」

 

必要になったというのは本当だ

世界を旅する為に必死で覚えた記憶がある

ブラブラと歩いてその国の名物を食べる、という感じだ

金を稼ぐ為に働いたりもした…大体の免許は持っている

1番美味かったのは…何だったか

人間界の食べ物は味が少し薄いのだ、妖怪にとって

つまり皆馬鹿舌である

でも七面鳥の丸焼きは死ぬ程美味しかったのを覚えている

 

…ちなみに外の世界でも俺達を認識出来る人は居る

 

有名所で言えば聖職者だ

寺の坊さん、尼さん、教徒、ローマ法王etc…

ちなみにそういった物が見える人もいる

生まれた時からか受け継いだ体質なのか定かでは無い

しかも術が通用しないのでめっちゃ怖がれる

尻尾と獣耳が生えて人魂を連れていれば当たり前だろうか

ちなみに1回飛びつかれて尻尾と獣耳を滅茶苦茶にされた

そうゆう性癖かよお前さんよぉ…

 

「話がズレましたね、お嬢様がお呼びです」

 

「招待された覚えはないんだよな」

 

「お嬢様はそういう能力なので」

 

「はぁーん、まあいい、手間が省けた」

 

そういうと斬鬼は咲夜に先導して貰い、中に入る

大きな門が大きな音を立ててしまった

 

 

 

 

「外もアレなら中もか、主の性格がよく出てるよ」

 

中は真っ赤だ

エントランスから今歩いている廊下に至るまで真っ赤

途中に置いてある装飾品は金とか別の色だ

それが最早赤に見えてくる、重症だ

 

「んで、お嬢はどんな人なんだ」

 

「カリスマブレイカー、我儘、かりちゅま」

 

「お前さてはここのメイドじゃないな?」

 

「事実を述べたまでです」

 

「…これは面白くなりそうだ」

 

そう言っていると大きなな扉が見えてきた

 

「さーて、どうくるかね」

 

「お嬢様に失礼の無いように」

 

「そのブーメラン斧だよ」

 

中に入り、扉を閉める

中は長方形のようなホールだった

奥に玉座があり、幼女が座っている、横には咲夜が居た

そう言えば彼女に能力を聞くのを忘れていた

幼女が玉座から喋り掛けてくる

 

I saw you in the newspaper、littleman?(貴方の事は新聞で見たわ、チビ助?)

 

That word is returned、littlegirl?(その言葉そのまま返すぜ、チビ助)

 

Funny joke, I'll kill you(面白い冗談だな?殺すぞ)

 

I thought I didn't use English.(俺が英語を使わないと思っていたのだろう?)

 

「何を証拠に…あ」

 

「ほらボロが出た」

 

「う…」

 

先程まで足を組んで余裕そうにしていたがその表情が崩れた

斬鬼はもう1つ、あることを伝える

 

「それと、相手には名前を伝えておけ、俺は紅白斬鬼」

 

「…そうね、私はレミリア・スカーレット、串刺し公の子孫」

 

「なんとかツェッペリンか、アレの?」

 

それは信じられない話だが

 

「知っている者は少ないのだけれどね…」

 

外国の伝説がここに、隔離された場所に来るわけが無い

それことオカルトに溺れた外来人が伝えるくらいだろう

 

「それで?どうして俺をここに連れてきた」

 

「本題にいきなりはいるのかしら?」

 

「ただ見に来ただけに近いんでな」

 

「そうねぇ…まぁ気分よ、気分」

 

でたよ妖怪の代名詞、気分

妖怪は気分屋だ、それこそ神に匹敵する程の

気分で何かをするくらいには気分屋している

 

「一応用はあるのだけどね」

 

「さっさと言え、寝たいんじゃこちとら」

 

「あらあら、夜は始まったばかりよ」

 

レミリアは無数の蝙蝠になると扉の前に現れる

そして扉を開けると手招きをした

 

「こっちよ」



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お願い

「私は夜の王、高潔な吸血鬼だ」悪魔の館のお嬢様


「模様替を勧めるよ」

 

「無理ね、経費が凄まじいことになるわ」

 

先程からこんなたわいの無い会話ばかりだ

 

「新聞には何が書いてあった?」

 

「伝説の男が帰ってきただの凄かったわよ」

 

「言い過ぎだな…」

 

斬鬼は自分が決して伝説で無いことを理解している

伝説は人が作り出し、語り告げる物だ

その場の伝説は直ぐに忘れられる

 

「にしても見劣りするわねぇ、これが伝説なんて」

 

「会えば幻滅する、そういうもんだ」

 

人魂がそれを肯定するように頷く

彼女もそうだった

無口で事務的と思えば、全く違った

 

「そういうものかしら」

 

「そういうものさ」

 

レミリアはあまり納得できていないように思えた

伝説と大層な物を聞けば凄まじ物を想像したのだろうか

 

「もっと派手な奴だと思ったのにねぇ…妖力は物凄いけど」

 

「長く生きていればこうなるさ」

 

「いつから数えるのを止めたのかしら、ちなみに私は500歳」

 

「俺は…弥生から数えるのを止めたな…」

 

「やよい…?」

 

「簡単に言えば紫よりかは長生きしてる」

 

「ご老体なのね」

 

「まだまだ元気さ」

 

レミリアがクスクスと笑った

2000年はもう過ぎているだろう

加奈子達に会ったころからもう数えるのを止めた

 

「座っていいわよ」

 

夜空が一望できるベランダにいつの間にか着く

そこには椅子と机が置かれていた

 

「咲夜、紅茶を」

 

「どうぞ」

 

いつの間にか現れた咲夜が紅茶を置く

斬鬼は席に着くと紅茶を啜った

腰の刀が邪魔になったので机に掛ける

 

「いい味だな」

 

「自慢の味よ」

 

斬鬼は目を昨夜に向ける

 

「そういえば聞いてなかったな、お前さんの能力は?」

 

「私の能力は時を操る程度の能力」

 

「成程、この瞬間移動も納得だな」

 

いきなり現れたのは時を止めて…ということだろう

操るという事は減速やらも出来るのだろう

対処法は…止められる前にぶっ飛ばすだな

 

「ワインも簡単に作れそうだ」

 

「ワインが良かったかしら?」

 

斬鬼は首を振った

 

「どうせ血が入ってるに違いない」

 

「否定はしないわ」

 

「人間の血ねぇ…」

 

天狗という種族にある為そういう事は出来なかった

下劣な人間など食えるかァーっ!と言った感じだ

なんで今日に至るまで人間なんて食った事が無い

大体その辺の猪とか木の実で済ませた

 

「ちなみにオススメはb型の処女よ」

 

「全く役に立たない情報をどうも」

 

「さて…本題に入るわ」

 

レミリアの目付きが変わった

斬鬼は真面目な話だと察し、姿勢を少し正す

 

「私、妹がいるの」

 

「お嬢ならぬ…妹様か?」

 

「そうね、咲夜とか美鈴はそう言っている」

 

…斬鬼は何かに気付いた

 

「地下に変な波動を感じるな」

 

「この紅魔館には大図書館といって大きな図書館があるのよ」

 

「…頭痛が痛いな」

 

「そこに私の友人と使い魔が居て…」

 

「…その下に何か居る」

 

レミリアは頷いた

 

「そこに私の妹…フランドール・スカーレットがいる」

 

「にしても…何故地下に封じる必要が?」

 

当然の疑問だった

どうしてそこに封じる必要があったのか

レミリアは少し視線をさまよわせてから

 

「…能力」

 

「そういえば聞いてなかったな、お前さんのは」

 

「私は運命を操る能力をもっている」

 

「…妹は」

 

「ありとあらゆる物を破壊する程度の能力」

 

「…はは」

 

乾いた笑いしか出なかった

姉が姉なら妹も妹である

 

「成程、能力が上手く操れていない感じか…」

 

「"おもちゃ"を入れたりするのだけどね、全部弾けとんだわ」

 

「耐えられたのは、居なかったのか」

 

「強いて言うならば霧雨魔理沙、彼女は生きていた」

 

ここでいうおもちゃは人間の事だ

外来人やらを突っ込んだりしているのだろう

大体が喚いて死んだのだろう

 

「あーはいはいそういう事ね」

 

斬鬼は何かを理解したようだ

 

「そういうことよ、斬鬼」

 

「俺が遊んでこいと?」

 

「そうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斬鬼はため息をついた

だが、それに見合わない目をしていた

久しぶりに戦えるという高揚感で満たされた、目

 

「貴方はどれだけの修羅をくぐり抜けたのかしら」

 

「運命を見てみたらどうだ?面白い事になるぜ」

 

「そうね…っ!?」

 

レミリア・スカーレットは見てしまった

 

彼の運命を

 

…いや運命では無い

 

 

 

 

 

 

 

ここまでの道筋を

 

「…復讐の殺人鬼、じゃないわね」

 

「あれは仕方ない事だったさ」

 

「貴方自身気付いていないだけよ」

 

レミリアはそういうと咲夜に伝える

 

「地下室に連れて行ってあげて」

 

「承知しました」

 

斬鬼は無言で立ち上がると刀を腰に差す

 

「あと、それから」

 

レミリアは斬鬼の去り際に告げる

 

「過去の未練はいっそ忘れてしまいなさい、楽になれるわ」

 

「俺には出来ない」

 

斬鬼は振り返る

その目元は影になっていて丁度見えない

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は過去を精算する為に生きてきたようなものだ」

 

そういうと斬鬼は歩き始める

彼が振り返ることは決してなかった

 

「精算出来るのは…近い未来かしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大図書館には誰がいるんだ?」

 

「パチュリー様とその使い魔が居ます」

 

「種族は…西洋なら魔女か?」

 

「ご名答」

 

階段を降りていると大きな空間に着いた

本棚に差し込まれた大量の本

空中飛行を前提とした配置の本棚が多い

 

「こりゃ…やばいな」

 

「外の世界にはこんな図書館ないでしょう?」

 

「外のはちゃんと届く位置にある」

 

「こ、ん、な、図書館はないでしょう?」

 

「…そうだな」

 

確かにこんな図書館は見た事が無い

階段を降りていき、ある場所にたどり着く

そこは円形になっており、そこから放射状に本棚が広がっている

円形の至る場所には本が山積みになっていた

そこの真ん中に机が置かれていた

その椅子に座っているのは…

 

「貴方がレミィの言っていた男かしら」

 

「相違ないな」

 

ここの連中はナイトキャップを被る決まりでもあるのだろうか

紫や幽々子もそうだしレミリアもそうだった

 

「地下室はあちらよ」

 

「ご丁寧にどうも」

 

「ご武運を」

 

「いつだって"危険を冒すものが勝利する"んだ」

 

斬鬼はそういうと扉を開け、階段を降りていった



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楽しいね

「皆儚い、すぐ壊れちゃう」紅魔館の妹様


「結界が五重も張られてやがる…」

 

階段に貼られた魔法陣を除けながら斬鬼は進む

進むのに比例するように震えが大きくなっていく

いや…これは恐怖じゃない

 

歓喜だ

 

久しぶりに強者と渡り合える、喜び

 

斬鬼は首を振る

それは抑えなければならない感情だ

懐からジアゼパムを取り出し、飲む

震えていた筋肉が収まっていく

 

「さて…」

 

降り立ったそこは廊下のようになっていた

その奥は行き止まりのようだ、両脇にドアが適度にある

斬鬼は禍々しい波動を感じる扉の前に立った

ドアノブに手を掛ける、鍵はかかっていなかった

 

 

斬鬼はノックをして、扉を開けた

 

 

 

 

 

 

 

 

私は今の今まで暇だった

この能力を使いこなせないから、自分の意思でここに居た

時たま咲夜が食料を供給してくれる

 

「咲夜、外の世界はどうなっているの?」

 

「そうですね…騒がしい、世界でしょうか」

 

「騒がしい?」

 

「魔法使いとか、巫女とかが異変を解決する、世界です」

 

「魔法使いって魔理沙?」

 

「そうですね」

 

「外って面白そう!…でも」

 

私はここから出れない…出たくない

出て、何もかも壊してしまうなら、出ない方がいい

自分はここに居て、静かにするしかない

咲夜達の話が面白いから、まだ我慢していられるけど…

 

 

「ん」

 

コンコン、とノックの音がした

もしかして咲夜だろうか

 

「よぉ」

 

入ってきたのは妖怪だった

多分、獣の動物、尻尾生えているし

 

「貴方は誰?」

 

「俺か?お前の遊び相手にされた哀れな妖怪さ」

 

「そう…」

 

お姉様が送ってきたのだろうか?

確かに妖怪なら、壊れにくい

 

「俺はな?おままごとは苦手なサガでね」

 

「ふーん?」

 

確かに、見るだけでもおままごとは苦手そうだ

横の人魂も頷いている

 

「何しに来たの?」

 

「さっきも言ったと思うが、遊べと言われているんでな」

 

そう、遊べって言われているんだね

だったら早く終わらせよう、ネ?

私は右手を彼に向けて伸ばす

 

「万物には目があってね?潰すと死んじゃうの」

 

「はぁ」

 

「キュッとして…」

 

「おっとこれはまず…」

 

ドカーン

彼を中心に爆煙が上がる

 

「また、壊れちゃった」

 

脆い

 

皆、脆い

 

「余裕ぶっていたのが仇になったね」

 

「そうか?アレに比べればマシな攻撃だな」

 

「…へぇ」

 

爆煙の中から彼が出てきた、無傷で

そういえば、まだ名前を聞いてなかったね

 

「私の事は聞いているでしょ?お兄さんの名前を聞きたいな」

 

「紅白斬鬼、深くは聞いていないさ」

 

そういうと斬鬼は長刀を抜き、腹に刺す

刺した場所から血が地面に垂れる

数秒後、斬鬼は長刀を引き抜く

 

「ぐ…ふぅ」

 

「へぇ、そんなことも出来るんだ」

 

「これくらいできて当たり前さ」

 

今のハラキリで、目を消したようだ

 

「楽しめそう?」

 

「楽しませてやるさ」

 

斬鬼は短刀も抜く

彼は戦う準備が出来たようだ

 

「さぁ、始めよう、君とってこれは遊びに過ぎないのだろう?」

 

「真剣勝負に持って行けるまで耐えられる?」

 

 

「…始まったわね」

 

下から聞こえる爆発音

魔女、パチュリー・ノーレッジはそう呟いた

 

「これで良かったのかしら?レミィ」

 

「良いのよパチェ、これで」

 

本当なら自分達でどうにかしたかった

でも、出来なかったから彼に頼んだのだ

 

「後は彼次第、ね」

 

 

「遅い遅い!」

 

「じゃあもっと早くしようか?」

 

斬鬼の刀はフランには全く当たっていなかった

上、下と続けざまに斬撃を加えていく

ちなみに今いるのは広い…どこかの部屋だ

先程のボカーンで穴が空いたのでそこからここに来た

 

「はやーい!」

 

「楽しそうだな、精神年齢は成長していないってところか」

 

「あははははは!」

 

狂ったように笑うフラン

その狂いは、彼女とは全く違う狂いだ

 

「お前を見ていると彼女を思い出す」

 

「誰?誰なの?」

 

「さぁ?誰だろうな?それにもう死んでいるしな」

 

「それじゃあそいつの元に送ってあげる!」

 

「はっ死人はもう十分だ…援護してくれ」

 

人魂はそれに頷く、赤白い人魂から赤い弾幕が展開される

フランはそれに少し驚いたようだ

 

「へぇ!人魂に指示が出来るんだ!」

 

「彼女だけ、だ」

 

「ふーん…結構戦い慣れている弾幕だね」

 

確かにその弾幕は斬鬼を援護するように的確に放たれている

フランを確実に妨害し、斬鬼を援護する弾幕だ

 

「それに目も無いし、厄介だね」

 

「それはお互い様だろう?」

 

「そうだねっ、ふふふふ」

 

ニヤリと笑みを浮かべる2人

思考回路が少し似ているようだ

 

「さて、詰めるか」

 

「っ!」

 

距離を詰めて刀を振る

 

「禁忌・レーヴァテイン!」

 

「くっ」

 

流石に接近しすぎたのか、フランはスペルカードを発動する

手には燃える大剣がいつの間にか握られていた

 

「燃え尽きちゃっても知らないよ〜?アハハハハ!」

 

「危ない野郎だな」

 

大剣がグルグルと回される

その軌跡に赤い弾幕が生成される

ほぼ見えない速度で回されているため大量の弾幕が生成されている

 

だが…

 

「はっ!お前の力はそんな物か!」

 

「ぎっ」

 

右手の長刀で大剣をパリィすると、フランの腹を蹴る

壁にぶつかることも無く彼女は空中で止まる

 

「あはっあははははは!」

 

「へへっ、マジかよ」

 

少し引いた

思っていたより狂気に侵されている

ささっと術をかけた方が良さそうだ

 

「波動を変換して…」

 

「あはっそんなことしてないで遊ぼうよ!」

 

「く、この!ついてくるな!」

 

斬鬼は空中を移動する

それを追いかけるようにフランが移動する

 

「…よしっ後はこれを…ぐぇっ」

 

「あはははははっ!」

 

狂気を封印する波動で札を生成すた隙に殴られる

 

「隙ありっ」

 

「お前さんもだ!」

 

フランの素肌が見えるほどボロボロになった服…

その胸に空いた穴から見える肌に札を貼り付ける

 

「こんなもの!無駄だ…よ…?」

 

フランは愕然とした…なぜなら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうですか?なら"効果を高めて"あげましょう」

 

斬鬼と同じ種族の女が居たからだ

 

その横に、"青白い光"を放つ人魂が居た

 

 

瞬間フランから力が抜けていく

フランは地面にへたりこんで、質問する

 

「貴方は…誰?」

 

「私?私ですか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は紅白舞、紅白斬鬼の妻…ですかね」




ちなみにオリキャラの女性は舞以外居ません


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貴方は誰?

「私は完璧で華奢なメイド」紅魔館のメイド



「…終わったのかしら」

 

揺れが収まり、静かな雰囲気に図書館が戻る

レミリアはそれを確認した

 

「見に行きましょうか」

 

「結果は知っているくせに」

 

「何事も自分の目で見るのがいいのよ」

 

そういってレミリアは席を立つ

そして斬鬼と同じように扉を開けて降りていく

 

「自分の目で見るのが1番ねぇ…そうかしら」

 

紫色の魔女はポツリと呟いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

階段を降りていく

結界は破られていた、多分斬鬼がやったのだろう

廊下に行き着く

 

「これは…」

 

廊下にはヒビが至る所に入っている

フランが居た部屋の扉の横に穴が空いていた

よくみればこの廊下の至る所に穴が空いている

 

…?

 

フランの声が聞こえた…聞こえたのだが

何故女の声もするのだろうか

 

もしかして斬鬼は…女?

 

「男装…癖?」

 

レミリアは気になり、その穴に身を潜らせた

 

 

 

 

 

 

「へぇー!斬鬼って妖怪の山って言うところに住んでいるんだ!」

 

「そうですね、旦那は山で結構偉い地位に居るんですよ?」

 

「本当!?どれくらい偉いの!?」

 

お腹当たりが空いた…つまり霊夢の様な服装をした女が居た

霊夢と違うのは上半身の服は真っ白、胸にはボンボン飾りが縦に3つついている

袴も斬鬼と同じような真っ黒に染まっている

腰辺りから立派な銀の尻尾が生えていた

頭からは斬鬼とは違う少し垂れた獣耳が生えている

腋が空いているのは変わらないらしい

 

そして1番特徴的なのが…至る所に紅葉模様が描かれている事だ

服装の至る所に赤い紅葉が描かれている…

 

そしてレミリアとって何よりも問題なのが

 

「すごーい!そんなに偉いんだ!」

 

「褒めてもらえて嬉しいですね」

 

カラカラと笑う度に揺れる"おもち"だ

 

「舞さん!どうしてそんなにおもちが大きいの?」

 

フランもどうやら気になっていたらしい…

 

「そうですねぇ…」

 

舞と呼ばれた女は少し考える素振りを見せてから

こう笑顔で言った

 

「いつの間にかこんなになっていましたからねぇ、分かりません」

 

「ぐはっ」

 

「んえ?おねーさまー!?」

 

思わず倒れた

レミリアの方を向いてやったので確信犯である

この女は紫に近い所がある

初対面の人をからかうのがそうだ

 

「うー…」

 

「そんなに睨まないで下さい、泣きますよ?」

 

「泣いてしまえ…」

 

「うわーん うわーん フランのおねーさんがいじめてきマース」

 

「お姉様?」

 

ガチトーンの声がレミリアを襲う

それにレミリアは萎縮してしまう

 

「いや…それより自己紹介してくれるかしら」

 

「運命を読めるくせに図々しい方ですねぇ」

 

「一応の礼儀よ」

 

そして彼女はふわりと一回転し、ピタリとこちらを向いて止まる

片足を少し曲げ、スカートを両手で持ち、一礼する

 

「私、紅白斬鬼の妻をしております、紅白舞です」

 

「私はレミリア・スカーレット、よろしく、舞」

 

手を差し出す

舞はそれを掴み、ぐっと握手した

青白い人魂は先程からゆらゆらと揺れている

 

「実態化か何かの魔法かしら?」

 

「あくまで彼の体を借りているだけです」

 

「原理がよく分からないわねぇ…」

 

「彼の魂を私の魂と交換するだけですよ、要は」

 

「…そんな事」

 

舞は笑った

 

「地獄の閻魔が許さない?あははは、面白い事を言うものです」

 

その割に目は笑っていなかった

 

「私は許されている者ですから」

 

「…そう」

 

レミリアはそう呟いた

彼女の運命からして、おかしくない事だ

 

見る者を和ごませる穏やかな前半

 

見る者にとって目を背けたくなるような、後半

 

彼女は見た目よりもずっと凄惨な過去を歩いていた

これから先は…

 

「あぁ、そうだ」

 

舞は何かを思い出したようだ

 

「フランちゃんの狂気、無くしておきましたから」

 

「…ありがとう」

 

レミリアはそう言った

そして、フランに体を向ける

 

「フラン、明日宴会があるの」

 

精一杯の笑顔をして

 

「一緒に…行かない?」

 

手を差し出して

 

「…うん!」

 

フランは元気一杯の声を上げて、その手を握った



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マヨヒガ

「魔法は最高、運動は最低よ」紅魔の魔女


「そういう事があったのね」

 

「いい子さ、問題は起こさないだろう」

 

場所は斬鬼宅、斬鬼は紫にそう言った

あの封印はフランに溶け込んだ為、剥がれる事はない

固体では無く波動なので、貼るという概念は無いのだが…

 

「久しぶりに実体化してしまったよ、舞が」

 

「貴方も無茶をするものね」

 

人魂は一回転する

 

「あぁ…昨日は何故だか疲れたな…」

 

「当たり前じゃないかしら?」

 

「確かに…な」

 

戦うのはいつぶりだか、覚えていない

外の世界ではずっと歩いていたりで戦いは無かった

そうおもえば…

 

「そう思えば、リハビリに丁度良かったな」

 

「貴方も大概ね」

 

呆れた様子で紫はそう言った

斬鬼はコキりと首を回す

 

「あの後は何をしたのかしら?」

 

「何も?ご馳走してくれたり寝床を用意してくれたりな」

 

「派手な事は無かった、という事かしら」

 

「そうだな」

 

あの後は派手な事は無かった

寝床を用意してくれたり、とかそういう事だけだった

狂気はもう出てくる事は無いだろう…予想外が無ければ

 

「で、今日だったか…宴会は」

 

「そうよ、今日の夜」

 

「uh-huh、用意する物は…酒か」

 

「止めて頂戴」

 

紫はすかさずストップを入れた

好物である酒を止められた斬鬼は露骨に嫌そうな顔をする

 

「何故」

 

「誰も止められなくなるわ」

 

「お前さんがいるだろう」

 

「幽々子もいるのよ?食費をどうしてくれるのよ」

 

「…わかったわかった」

 

斬鬼は諦めた様だ

コイツが酒を飲むと頭痛がするのは何時だったろうか

紫は少し顬を抑えた

 

「大量の食事が一瞬にして消えたのは今でも覚えているわ…」

 

「ストッパーを外す方が悪い」

 

斬鬼は手を振るとさっと立ち上がる

 

「ここに居てもヒマなだけだ、何か面白い事は…」

 

「…あっそうですわ」

 

「うん?」

 

紫が何かを思いついたらしい

 

「久しぶりにマヨヒガに来てみれば如何?」

 

「どれだけ変わったか、見物だね」

 

「最近は藍が新しい式を作ったの」

 

「はーん…アイツが」

 

「それがねぇ…ちょっと重いのよ」

 

「どれくらい?」

 

「その式に触ったら全力の威嚇」

 

「…大体分かった」

 

藍はその子のどこに惹かれたのだろうか

斬鬼は舞にどのように惚れたか覚えている

恥ずかしい事に一目惚れと言う奴だった

 

「今から行けるのか?」

 

「特に用事もないですし、行けますわ」

 

紫が手をさっと振る

 

「スキマか」

 

空間が裂け、目のような形の切れ目か生成される

その中から大量の目がこちらを睨んでいた

 

「それじゃ、失礼して…」

 

斬鬼はその中に身を飛び込ませる

浮遊感に身を任せる

 

「あれか」

 

ポワンとスキマが開き、そこから光が差している

斬鬼はそこに飛び込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すぐさま見えてきた地面に着地する

顔を上げると、そこはマヨヒガだった

 

「昔から変わってないもんだな」

 

いつ此処が建てられたか知ったもんじゃないが、来た時から変わっていない

強いて言うなら花やらが追加されているくらいか

 

「誰だ」

 

「うん?」

 

振り返ると、重そうな服とナイトキャップを被った女がいた

いつだか昔の法師が着るような服を着ていた

それよりも気になるのが腰の辺りで揺れる九つの尻尾

 

 

つまり…九尾

 

「薄情だな、人の事をすぐに忘れるのか…お前は」

 

「私はお前等知らない、見たことも無いな」

 

はぁ、と斬鬼は溜息をついた

そして逆にニヤリと笑った

 

「何が可笑しい」

 

「いや?「天狗なんて偉いそうにしてる雑魚ですよーwww」って言ってボコボコにされたのは何処のドイツだったかなナ?」

 

「うぐっ!?」

 

「その後何回も仕返しをしようとするも敗北、主に札を剥がれそうになる」

 

「かハッ!?」

 

「思い出したか?」

 

「紅白…斬鬼いいぃい…!」

 

鬼の様な形相でこちらを睨む藍

何故だろうか、物凄く面白い

 

「おぉ、怖い怖い」

 

「殺してヤル!コロシテヤルゥ!」

 

「お…おい?人語が崩れてきてるぞ?」

 

「全く…放置してみればこれね」

 

スキマから紫が降り立つ

その姿を見て藍はハッとなり、佇まいの直した

 

「し、失礼しました…」

 

「貴方達はどうしてこんなに仲が悪いのかしら」

 

「妖怪の性だろ」

 

「コイツが悪い、私は悪くありません」

 

「はっ、人の事を直ぐ忘れる奴がよく言うよ」

 

「何か言ったか?」

 

「お?冷えてるかー?(煽)」

 

バチバチと火花は弾ける

紫が制止するがそれは止まらず、むしろ強くなっている

そして斬鬼の手が腰の刀に触れたその時…

 

「藍様!?何をなされているのですか!?」

 

「橙!?…これは…その」

 

小さな子供が此方はに駆け寄ってくる

腰辺りから2つの尻尾が生えている

 

「藍がな、俺が嫌いだから殺そうと…」

 

「おい!?斬鬼っ」

 

「藍様?」

 

「えーと…いや…あのー…」

 

じーっと橙と呼ばれた少女は藍を見る

その目は責める目以外、何物でもなかった

 

「ほら、認めろよ」

 

斬鬼は藍に催促する

しかし当の本人は体をよじったりするだけで何も言わない

 

「らーんーさーまー?」

 

「…すまん、斬鬼」

 

「それでよし」

 

斬鬼は縁側に腰を下ろした

そして橙と呼ばれた女の子に顔を向ける

 

「お前さんは誰だ?」

 

「私は八雲橙、藍様の式です!」

 

「式の式ねぇ…俺は紅白斬鬼、よろしく」

 

斬鬼は軽く手を振った

 

「最近幻想郷に来たんだ、知らない事も多い」

 

「大体は昔と変わっていませんわ」

 

「そうかね?紅魔館なんて見たこともなかったが」

 

紫は扇子を開き、口の前に当てる

そして妖艶な笑みを含んだ目で言う

 

「幻想郷は全てを受け入れる…それはそれは残酷なことですわ」

 

「へへ…残酷にしているのは誰の事だか」




エイプリルフールネタを作ろうと思ったら昨日だった


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宴会用意

「楽園の素敵な巫女とは私の事よ」博麗の巫女


「博麗神社に行くか、日が暮れて来ている」

 

「そろそろ宴会の準備がされている頃でしょうね」

 

今回の宴会は夜にやるらしい

レミリアは吸血鬼だから博麗巫女が調整してたのだろうか

博麗神社は人里から少し離れた所にあったので騒音は気にしなくていいだろう

気にかかるのは…

 

「妖怪が沢山来るらしいんだが、それは?」

 

「霊夢が影響されない子だからと思うわよ」

 

「能力関係か?それとも博麗巫女としての威厳か?」

 

「能力ね、彼女は空を飛ぶ程度の能力、もしくは浮く程度の能力ね」

 

「成程、脅しとかが効かないと言う事か」

 

空を飛ぶ…いや、浮く程度の能力か

周りから浮くのは勿論どんな事にも影響されないのだろう

脅しとかそういうのもカテゴリに入っている

 

仲間の死も

 

 

 

 

 

 

 

…では、愛する人はどうなるのだろうか?

 

人に影響されない…その博麗霊夢という少女が恋をしたら

そしてソイツが、死亡したら、もしくは失踪したら

 

…自分の心を開いた唯一の相手が居なくなったら、きっと狂うだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

「斬鬼?」

 

「あ?…あぁ…少し考え事をしていた」

 

「…そう」

 

この時、紫が黙ってスキマを開けてくれたことに感謝している

多分今この時の斬鬼の顔は────

 

「開けたわよ」

 

「ありがとよ、先に行かせてもらう」

 

斬鬼は言葉よりも先にスキマに飛び込む

その姿を見て、紫は少し哀れみを含めた目で見た

 

 

 

「貴方は囚われすぎている…その気持ちを…」

 

 

 

「ふぅ、今日はこんなものかしら」

 

今代博麗巫女、博麗霊夢は地面を掃く手を止めた

境内には低い机や座布団が置かれている

 

今日は宴会の日だ

つい最近西行寺幽々子が起こした春の来ない異変解決祝い

 

…それと、最近幻想入りした紫の友人歓迎会

 

「あの紫に幽々子以外の友人がいるなんてねぇ」

 

「そうか?私はもう少しするもんだと思ったが」

 

縁側で煎餅を頬張る魔法少女から声が上がる

霊夢は箒を投げて、魔法少女の横に座る

 

「そうかしら?魔理沙の方が少ない気がするけど」

 

「何をー!?」

 

彼女は霧雨魔理沙

ハッキリ言うが腐れ縁だ

寺子屋で会った時、周りから浮いていた

その私に声を掛けた空気の読めない奴

 

…それがいつの間にか異変解決の仲間になっていた

 

「アンタも物好きよねぇ」

 

「へっ、よく言われるぜ」

 

魔理沙は軽く笑った

 

…その時、何かが上から境内に降りてきた

 

「…魔理沙」

 

「…あぁ」

 

問題なのは感じる妖力

 

「これは…幽々子以上…!?」

 

「ヤバいな…」

 

自然と鼓動が早くなっていく

相手にすれば、恐らく死ぬ

 

「修行、ちゃんとしとけば良かったわ」

 

「一泡吹かせてやるしかないな」

 

そうして大幣と八卦炉を構えていると、見えた

ソイツは境内の石畳に着地する

 

 

 

 

 

 

「成程、昔から変わっていないな」

 

ソイツは白の和服、黒の袴にそれを締める赤い帯を着ていた

黒い袴には業火のような模様が描かれている

肩と腰の左右に鎧が付いている

頭から天を指す銀の獣耳が生え、腰からは一際大きな銀の尻尾が生えている

 

様々な特徴があるが、1番気になるのが横にいる人魂

赤白い光を灯した冥界にいるのとは違う…

 

「誰よ、アンタ」

 

「ん?あぁ…そういうお前も誰だ?」

 

どうやら過去の余韻に浸っていたらしく、こちらに気が付かなかったようだ

 

「私は博麗霊夢」

 

「私は霧雨魔理沙…お前は?」

 

「紫から聞かなかったのか?俺は紅白斬鬼、隻眼天狗…とでも言っておこう」

 

霊夢と魔理沙は宴会の主役と認識し、警戒を解く

 

「ごめんなさいね、今まで感じた事の無い妖気を感じたものだから」

 

「…そうか、お前さんは」

 

斬鬼は何かに溜息をつくと指を地面に向ける

 

「所で宴会の場所は此処で良かったか?」

 

「そうだぜ、有名人さん」

 

「…文の新聞か」

 

斬鬼は情報源が何か直ぐにわかった

最近の話題は斬鬼一色らしい

 

「帰ってきた伝説の男ってな、お前はそんなに凄い奴なのか?」

 

「聞きたい事なら妖怪の山に行って聞いたらどうだ?」

 

「そうだなぁ…年齢はいくつだよ」

 

「紫より年上と言っておこう」

 

「…おじいさんか?」

 

「相違ないな、ハッハッハ」

 

魔理沙は少し驚いた

紫におばさんと言えば次の瞬間には意識が無くなる

だが、斬鬼はそういうのは気にしないようだ

まぁそういう発言は止めておこう

 

「妖怪ってのはどいつもお年寄りさ」

 

「そうか…そういやソイツは何なんだ?」

 

「さっきから気になっていたんだけど、その人魂」

 

霊夢と魔理沙は気になっていた

先程から斬鬼に寄り添っている様な身振りをする人魂

というか、何故彼は人魂なんて連れているのだろうか

 

「聞きたいか?」

 

「っ!」

 

彼の言葉に重みが含まれた

その一瞬、返事が出来なくなる

その様子を見た斬鬼は首を振った

 

「止めておこう、人にペラペラ喋るもんじゃない」

 

「…関係だけ聞いておくぜ」

 

「そうだな…妻、とだけ言おう」

 

「愛が重いんだな」

 

茶化すように魔理沙が言う

 

「愛した者を離したくないのは誰も同じ、妖怪は精神に重を置いているから尚更な」

 

斬鬼は笑いながらそう言った

 

「そろそろ宴会が始まるな」

 

様々な波動がこの神社に近づいてきている

今から幻想郷の宴会が始まる

 

「アンタ、主役なんだから最初に挨拶しなさいよ」

 

「言われずとも」

 

斬鬼は不敵に笑った

 

 



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抜刀術

「切れぬものなどあんまり無い」サムライゴーストガール


わらわらと集まった妖怪達が机の前に座り、飯を食う

妖怪を恐れない人間がそれに混じって酒を交わす

 

「…」

 

「これが幻想郷よ、斬鬼」

 

「はは…あの幻想郷と同じ場所とは思えないな」

 

紫の言葉が頭に響く

あの時の幻想郷と同じとは全く思えない、これは夢か?

 

「へへ…お前らしく無いな、紫」

 

「私達の夢だったでしょう?」

 

「あぁ、それが実現しているような物だからな」

 

神社の縁側でその景色を見ていた

自然と酒が進む

 

「あー斬鬼、ちょっと悪いが挨拶をしてくれないか」

 

「悪いな魔理沙、忘れかけていた」

 

斬鬼は立ち上がるとそちらに向かう

魔理沙が大きく声を上げる

 

「おーい!お前ら!最近幻想入りした有名人からの挨拶だ!」

 

その言葉だけで、ほぼ全員が魔理沙の方を向く

そしてその横から斬鬼は姿を現す

 

 

 

 

「よぅ、最近幻想郷に帰ってきた紅白斬鬼だ、これからよろしくな」

 

よろしくぅー!などの声が彼らから聞こえる

レミリアや他の古馴染みの姿も見える

斬鬼の横で人魂がふわりと一回転する

 

「さて!御託はここまで、誰かの金で飲むぞ!」

 

「酒代は私が出してるのよ!感謝しなさい!」

 

霊夢の叫び声はここにいる人妖の笑いを誘った―

 

 

 

こうやって酒を飲むのはいつぶりだろうか

斬鬼はツマミを口に放り込みながらそうおもった

思えば、幻想郷で最後の宴会をしてからそういう事をした覚えは無い

全て舞と2人きりの食事だった

と、思っていると目の前が真っ暗になった

 

「さて、誰でしょう」

 

「…お前は変わらないな」

 

ほのかにする桜の香り

氷の如く冷たい手

 

該当する人物は1人だけだ

 

「西行寺幽々子、白玉楼の主」

 

「正解、貴方は変わったものねぇ」

 

幽々子は人魂に顔を向ける

振り返れば美人

ナイトキャップを被ったピンク髪の女

服装がふわふわしていれば性格と口もふわふわしている

紫の服を青にした…感じ?

その横にはいつぞやのボブカットサムライゴーストガールも居る

 

「えーと、久しぶり、です?」

 

「たった数日くらいでお久しぶりか?」

 

「他になんと言えば良いか分からなかったので…」

 

「馬鹿真面目なのは妖忌から変わらないらしいな」

 

「私は魂魄妖夢、妖忌の娘です」

 

「妖夢ねぇ…いい名前を着けるな、アイツ」

 

「おじいちゃんが、何処にいるか知っているのですか?」

 

斬鬼は少し考える素振りを見せた後答える

 

「知っていて教えると思うか?」

 

「え…」

 

「桜はいつしか散る、それは誰にでも言えるんだよ」

 

斬鬼は少し顔を下に向ける

 

「春が必ず来るように、死は誰にでも来る」

 

「…まさか」

 

「お前が探し出した時、"そうなっていたら"悲しくなるだろう?」

 

「そう、ですね」

 

妖夢は返答が思いつかず、そう答える

 

「あらあら、私の妖夢をイジメないでくださいな」

 

「これは失礼…だが、これだけは言っておこう」

 

「…何でしょうか」

 

斬鬼は一呼吸置いた後、言う

 

 

 

 

 

 

 

「アイツは…約束を守る男だ」

 

「じゃあ…1つ、頼みたい事があるのですが」

 

斬鬼は耳を傾けた

 

「私と刀の手合わせをして頂けないでしょうか?」

 

斬鬼の腰にある二振りの刀を指差しながら

 

 

 

 

 

 

「斬鬼と妖夢が戦うってよ!皆!」

 

魔理沙が大きく声を上げる

 

「神社を壊さないくらいにしなさいよー」

 

霊夢は他人事のように言う

 

境内の真ん中では2人の男女が向き合っていた

男の名前は紅白斬鬼、横には人魂がふわりと浮いている

女の名前は魂魄妖夢、半霊同じくふわりと浮いている

 

周りの人妖が酒のツマミとしてそれを観戦していた

 

「さて、もう一度言うぞ」

 

「はい」

 

斬鬼は柄に手を伸ばす

 

「俺はハンデとして抜刀術…一振だけの抜刀術だけ使う」

 

「私は本気で来い、と」

 

「これに勝たないと妖忌を越えられないからな」

 

妖夢は二振りの刀を構える

楼観剣と白楼剣という名刀だ

スっとこの場に殺気が入り込み、気付かぬ内に全てを覆う

 

聞こえるのはシャッと斬鬼がジッポーを点火し、葉巻に火を付けた音

そして、その数秒後に聞こえたのは息を吐く声だった

 

「…っ!」

 

妖夢を大きく懐に入り込む

そして斬鬼の体を二振りの刀で切り裂こうと…

 

「はっ!?」

 

その時気づいた、斬鬼の様子の変化に

周りの時間が遅く感じる

妖夢自身の動きも、遅い

そんな妖夢を置いて斬鬼は柄に両手を伸ばす

 

(早いっ!?)

 

気づいた時には妖夢は地に伏していた

 

「ふがっ!?」

 

脳がようやく反応したのか息を全て吐き出す

何が起こったのかハッキリ分からなかった

理解出来たのは…

 

「負け…た?」

 

「どうした?疲れているのか?」

 

斬鬼は葉巻を吸っていた

先程の殺気はいつの間にか全て消えていた

だが、場の雰囲気は凍りついたままだった

 

「腕は落ちていないのねー」

 

幽々子が茶化す様に笑いながら言う

霊夢と魔理沙は少し危機感を抱いた

 

「なぁ、霊夢」

 

「何よ」

 

「今の見えたか?」

 

「…全く」

 

「私もだぜ…」

 

勝てる気がしない

伝説に相応しい強さを持った男だ、いや妖怪だ

 

「…そうだ!」

 

魔理沙は何かを思いついたらしい

そして葉巻の煙を吐き出した斬鬼にこう言った

 

 

 

 

 

 

 

 

「弾幕ごっこしようぜ!」



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弾幕用意

「弾幕はパワーだぜ」若き魔法使い


「だんま…く?」

 

「嘘だろ…」

 

斬鬼はキョトンとした顔で魔理沙を見た

魔理沙は思わず頭を抱える

 

「弾幕ごっこについては私が説明するわ」

 

紫が弾幕ごっこの説明をし始めた

 

長ったらしい説明だったので要約する

人類と妖怪が対等に渡り合える為の遊び、らしい

妖怪同士の決闘は小さな幻想郷の崩壊の恐れがある。

だが、決闘の無い生活は妖怪の力を失ってしまう。

 

理念としてはこの4つだ

 

一つ、妖怪が異変を起こし易くする。

一つ、人間が異変を解決し易くする。

一つ、完全な実力主義を否定する。

一つ、美しさと思念に勝る物は無し。

 

ルールはこれ

 

・決闘の美しさに名前と意味を持たせる。

・開始前に命名決闘の回数を提示する。

体力に任せて攻撃を繰り返してはいけない。

・意味の無い攻撃はしてはいけない。

意味がそのまま力となる。

・命名決闘で敗れた場合は、余力があっても負けを認める。

勝っても人間を殺さない。

・決闘の命名を契約書と同じ形式で紙に記す。

それにより上記規則は絶対となる。

この紙をスペルカードと呼ぶ。

具体的な決闘方法は後日、巫女と話し合う。

 

と、言う事

 

「はぁ…」

 

斬鬼はどちらかと言うとつまらなさそうな顔だった

 

「何か不満な点でもあったのか?」

 

斬鬼は手をふらふらと振る

 

「…所詮ごっこ遊び、か」

 

何かをポツリと呟く

その言葉は誰にも聞こえなかった

 

「おーい?」

 

「…ごっこというのは女子供がやるもんだ」

 

「そうかしら?最近は男もやってるわよ」

 

霊夢の返答に斬鬼が質問する

 

「お前は今までに弾幕ごっこを仕掛けてきた男を見たことがあるか?」

 

「…無い」

 

斬鬼は小さな溜息をついた

そしてその後何かを思いついたようだ

 

「…あぁ、女子供なら」

 

「んん?」

 

「いや、いい相手がいるのでな」

 

「…斬鬼、まさか」

 

紫の思惑を的中するかのように斬鬼は人魂を2人に見える様に出す

 

「"彼女"とやってくれ、話は聞いていた筈なんでな」

 

人魂はまるで批判を飛ばすように斬鬼に向き、上下運動をする

…プンスカ怒っているようだ

 

「んー人魂かぁ…」

 

「余裕じゃないの?」

 

「…貴方達」

 

その様子を一部始終見ていたレミリアが警告する

 

「彼女を舐めない方がいいわ」

 

「まるであったことのあるような言い方ね」

 

「…今の貴方達、二人がかりでも勝てない存在よ」

 

「やってみなきゃ分からないぜ!」

 

魔理沙は箒に乗り、人魂に宣言する

 

「被弾は3回まで!スペルカードは2枚だ!」

 

人魂は理解出来たのか、頷くような仕草をみせる

魔理沙はニヤリと笑った

 

「物分りの良い奴は好きだぜ!じゃあやろうか!」

 

弾幕ごっこが始まる

 

 

 

 

 

「先手必勝!恋符・マスタースパーク!」

 

「…ねぇ、紫」

 

「何かしら霊夢」

 

弾幕ごっこが始まったのを横目に霊夢は紫に声をかける

 

「彼女…もといあの人魂って誰?」

 

「あ、それ私も気になります」

 

妖夢も賛同した

当然至極の質問だった

人魂を連れた天狗など見たことがない、文だってそうだ

紫は少し離れた場所で酒を飲んで観戦している斬鬼を見た

 

「…妻、と言うのは聞いているかしら」

 

「それだけ教えられたわ」

 

「初耳です」

 

人魂が極太ビームを避けて赤い弾幕を反撃として放つ

円が何個も重ねられたそれは非常に避けにくいものだった

 

「彼が囚われている者、彼は今だって…」

 

「…分かりやすい様に頼むわ」

 

「彼は昔から変わってないわ、昔の罪に囚われたまま」

 

「全く理解出来ないです…」

 

妖夢は何とも言えない顔で言った

そんな彼女に霊夢は言った

 

「アンタ半霊だから会話出来るでしょ?」

 

「すみません、出来るのは私の半霊なんです…」

 

「だったら…幽々子!」

 

山積みになったおにぎりが段々少なくなっていく

その元凶のピンクの悪魔に霊夢は声を掛ける

 

「んー?何かしら?」

 

「アンタそれでも冥界の管理者でしょ?あの人魂と会話出来るのでしょ?」

 

「同じ幽霊だし、出来ない訳ではないわよー」

 

「恋符・ノンディクショナルレーザー!」

 

五色のレーザーが回転、人魂を追い詰める

流石にこれ以上は無理と判断したのか人魂は札を何処からか出す

 

「制符・扇子の指す道」

 

今まで聞いた事の無い声に観客の視線が人魂に集中する

また何処からか2つの扇子が現れ、浮遊する

人魂は形が人型に似た形態になる

そしてその手らしき物が扇子を握り、魔理沙を指す

 

「喋るのか!?」

 

魔理沙は突然人魂が人語を発した事に驚き、隙を作ってしまった

 

「人魂が喋るなんて聞いた事ないのだけれど」

 

「彼女が特別なだけよ」

 

幽々子は食べる手をいつの間にか止め、観戦していた

その顔はどちらが勝つか既に分かっている顔だった

 

「あだだだだだだ!?」

 

魔理沙に弾幕が多段ヒットする

彼女は何が起こったのか分からないまま落ちていった

生成されたのは扇子の指した方向に一直線に向かう赤い弾幕

そしてその周りにあるのは十字に生成された六個程の弾幕の塊

 

「多段ヒット、魔理沙の負けね」

 

「紫?弾幕ごっこに多段ヒットなんてあるのかしら?」

 

「逆に聞くけどあれを食らって意識を保ってられるかしら」

 

「…無理ね」

 

今記憶に刻みつけたこの瞬間なら避けれる

言わば初見殺しなので覚えてしまえば簡単だ

…相手もそれを重々承知だろう

 

「にしても怖いわねー」

 

「確かに怖いですね、幽々子様」

 

「いえ、妖夢。私が言いたいのはそういう事じゃないわ」

 

「と、言うとどういう事でしょうか」

 

幽々子は目を細めた

 

「あれが彼女とって遊戯ですら無いと言う事よ」

 

「あれで…?」

 

最初から本気かと思えばそうじゃなかった

妖夢は感嘆の溜息をついた

 

「夫がアレなら妻はアレね、キチガイだわ」

 

「しかも彼には娘が居たんですよ!」

 

「ホントですか!?」

 

急に現れた文に少し驚きながら妖夢は聞いた

霊夢はうんざりした様子で続きを促した

 

「そうですねぇ!彼の娘はーへぎゃ!?」

 

「黙れ若造」

 

斬鬼渾身のゲンコツが文を襲う

…人間では死ぬような音がした気がする

 

「それがお前の悪い癖だ、早く治すんだな」

 

「酷い…私なにも悪い事してない…」

 

…娘の事聞くと同じ事になりそうだ

霊夢と妖夢はそう思いながらその光景を見ていた



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狼が嫌いなのは鬼
次の異変


「地上の覇権は譲ってやる、空は私の物だ」幻想の文屋


「ふぅ、もう皆寝ちまったか」

 

その場のほとんどが死体の様に転がっていた

大体は寝ているので気にする必要も無い

にしても今回の宴会はとても短かった気がする

あの後数分酒を飲んでこれだ

 

それよりも

 

「…uh-huh」

 

斬鬼は此処に来た時から感じていたそれが一点に集まるのを感じた

それは博麗神社の屋根にあるようだ

はぁ、と溜息をつく

 

「此処に来てから全く落ち着けない」

 

そう言いながら屋根に上がる

霧のような物が人型を作っていた

 

Isn't it because of someone like you?(お前の様な奴のせいでな?)

 

「すまんねぇ、私しゃ英語はわからないのよ」

 

実態化したのは斬鬼の腰くらいしかない女の子

だが、頭の側面から生える大きな角が彼女を人外と主張している

手首には鎖がはめ込まれている

彼女は酒の入った瓢箪を仰いだ

 

「伊吹萃香、俺が会いたくない鬼の1人」

 

「嘘吐け、心の中では結構歓迎してるじゃないか…舞も」

 

人魂は言葉通りクルクルと回っていた

斬鬼は腰を下ろし、盆を置く

盆には徳利と盃、そして酒瓶が置かれていた

斬鬼は酒瓶を掴む

 

「ほら」

 

「お、ありがとよ」

 

それを萃香に投げてよこす

顔面に当たること無く萃香はそれを受け止める

 

「その酒には負けるだろうが、一応の礼儀だ」

 

「回りくどい奴め、舞はちゃんと…いや、してないな」

 

人魂は笑うように震える

カラカラと笑っているのだろう

 

「久しぶりだねぇ、最後会ったのは何時だったか」

 

「鬼が地底に行ったと聞いて戻れば霧になって待ってやがって」

 

「お前は鬼にとって最高の奴だからなぁ」

 

「鬼より強くなるんじゃなかったな、はぁ」

 

「今更言ったってどうにもならないさ、はは!」

 

笑い事じゃないという目を向けるが当の本人は気にしていない

というかその視線に気が付いていないらしい

 

「地底に来なよ、きっと楽しめるよ」

 

「止めとくぜ、毎日襲われる」

 

「ケチ」

 

「天魔ぶっ殺して上司になった奴に言われたか無いわ」

 

「昔の事じゃんかー…今はどうなの」

 

「良くも悪くも、何も変わってない」

 

「あの頃は良かったなー人間が天狗の里に居たんだもの、びっくりしたよ」

 

「共存してたんだ…してたんだよなぁ」

 

「…あ、もしかして私達が壊しちゃった系?」

 

斬鬼は刺すような視線を向ける

 

「そうだよ」

 

「あららー」

 

「今この場で殴っても、文句は言われまい」

 

「勿論抵抗はするよ?…拳で」

 

萃香は立ち上がり、構える

 

「uh-huh、それも良いな」

 

「だろ?」

 

「その場合、お前がしたい事は出来なくなるがな」

 

「重々承知だよ、でも伝説と手合わせ出来るなら、ね?」

 

「…はぁ」

 

斬鬼はとある紙を萃香に投げた

萃香はそれを見て、少し驚いた

 

「これは…」

 

「地上に呼ぶんだったら、それでも使わないと無理だな」

 

「…ありがと、斬鬼」

 

少し照れた様子で萃香は礼を言った

斬鬼はハッと笑った

 

「今から異変を起こす癖によく言う、そんなに短かったか?」

 

「例年はもっと長いんだよ、春が遅く来たからかねぇ…」

 

そう言いながら、萃香は霧になってゆく

 

「お前さんの事は勇儀に伝えておいておくよ」

 

「出来れば止めてくれ」

 

「無理だね」

 

彼女は完全に霧と化した

これから頻繁に宴会が開かれるだろう

鬼は此処では忘れらているらしい

今のところ天狗の最強格=紫とか天狗らしい

これは…面倒な事になりそうだ

 

「さて人間、お前達にこれが突破出来るか?」

 

斬鬼は寝転がる人間組にそう語りかけた

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ勇儀、帰ってきたよー」

 

「おお萃香、何処に行ってたんだ」

 

ここは地底のとある場所

その酒場では鬼や忌み嫌われた妖怪が酒を飲んでいた

 

「久しぶりに地上に行ったら面白いのが居たんだよ」

 

「なんだ?博麗の巫女はあまり強く無いらしいが」

 

「そっちじゃなくて…これ、見た方が早い」

 

斬鬼から渡された…文々。新聞を渡す

その内容…もとい掲載された写真に釘漬けになっている

 

「…斬鬼」

 

「人魂は舞だよ」

 

「よーやく現れたか、アイツ」

 

「お、鬼子母神じゃないか」

 

ぬっと現れた女

髪は斬ることを忘れたのか腰にまで伸びている

ボロボロの和服、ボロボロの袴を履いたみすぼらしい姿

だが、その姿を見れば、鬼は平伏する

 

「いやーこの姿を見るのはいつぶりだか」

 

「萃香、いい物持ってくるじゃないか」

 

「酒のツマミにはいいだろう?」

 

萃香は嬉しそうに言った

 

「会ったら取り敢えず戦闘するか」

 

「斬鬼は嫌がってるけどね」

 

「…私達ってそんなに面倒か?」

 

「さぁ?…毎回戦闘を申し込まれればそりゃ山を降りそうだが」

 

「それだ」

 

斬鬼が一回山を降りた理由…それはこの鬼共に他ならなかった

道を歩けば襲い来る拳

毎日送られてくる挑戦状

 

「…そりゃうんざりするわな」

 

鬼子母神は何かを察したのか溜息をついた

鬼というのは素直すぎる

強い者に喧嘩を売るのはいつもの事に等しいのだ…




この主人公、uh-huhが口癖になってきてるなぁ



Q、地底行けるならそこで飲めば良くね?

A、地上の方が美味いんでしょ(適当)


舞以外オリキャラは居ないと言ったな、あれは嘘だ

…天魔?知らない子ですね


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片付けるまでが宴会

「なぁ、お前さんは何処で狂ったんだ?」隻眼天狗


「頭が痛い…」

 

「そりゃあの時酒をがぶ飲みしていたからな」

 

「斬鬼…」

 

斬鬼は仰向けになった霊夢に手を伸ばす

霊夢はその手を握り、立ち上がる

 

「昨日のお前さんらは傑作だったぜ?」

 

「アンタそれ振りまいたら退治するわよ」

 

「おお、怖い怖い」

 

斬鬼は手を振ると机に向かった

 

「んん…」

 

「魔理沙、朝よ」

 

「あーよく寝た」

 

「片付けをしなさいよ」

 

「へっ!やなこった!じゃあな!」

 

そういうと魔理沙は箒に跨り、翔ぶ

そのまま彗星の如く自宅へ向かう…

 

「お、いい的があるじゃないか」

 

斬鬼はそれを見て何かを閃いた様だ

そして魔理沙に向けて刀を抜き、指す

 

「斬符・波光斬撃」

 

三回刀を振る

そこからエネルギー波が飛んで行き魔理沙を襲う

 

「な!なんだあれ…いがががが!」

 

軌道上に青い弾幕が生まれ、波よりも早い速度で向かう

それが大量の密度で生成されるので避けられなかった

魔理沙はボロボロになって家に落ちていった

 

「…」

 

「ふぅ、試験運転には丁度良かった」

 

「弾幕はやらなかったのじゃなかったのかしら?」

 

紫が質問した

 

「一応な、人間とかやりあう時とかな」

 

「面倒事は止めてよね」

 

霊夢は面倒臭そうにそういった

斬鬼は笑いながら言った

 

「はははっ、善処するよ」

 

「全く…それじゃ片付けくらい手伝いなさい」

 

「分かった、机は一点にまとめておこう」

 

そういうと斬鬼は机の上の皿を持った

 

「皿とかはお前さんの備品か?」

 

「そうよ、台所に置いといて欲しいわ」

 

「了解」

 

斬鬼は博麗神社に入って行った

 

「ねぇ、紫」

 

「何かしら、あ!もしかして私が可愛i」

 

パァンと鳴る快音

それは霊夢が紫をビンタした音以外他ならなかった

 

「痛い…」

 

「次余計な事を言ったら口を縫い合わすわ」

 

「怖…それで、何かしら」

 

「斬鬼の事だけど、アンタと斬鬼は何時会ったのよ」

 

「慣れ始めかしら?」

 

「どっちでもいいわ」

 

霊夢は縁側に腰を下ろす

紫も横に腰を下ろした

机を重ねていく斬鬼見ていきながら紫は口を開いた

 

 

 

 

斬鬼と初めて会った時の事を

 

 

 

 

 

そして…別れたあの日の事を

 

 

 

 

紫が斬鬼と初めて会ったのはかなり後の事だった

それは彼が山から降りた後の時だった

彼が山を降りても伝説は耐える事なくむしろ大きくなった

 

…全て鬼が情報源の様な物なので分からないが

 

ともかく紫は会いたかった

それは彼がいた頃の天狗達は人間と共存していたと言うからだ

それを実現したのは彼とその妻の舞

舞に会っては見たが彼女曰く「発案したのは夫です」と言った

 

だから、彼に会いたい

 

彼と会って、話を…したい

 

 

 

 

 

 

 

そして…見つけた

 

あれから何日も何ヶ月も探して、ようやく見つけた

崖に立って人里を見下ろす影

 

風にたなびく銀の髪

 

陽の光を浴び、銀に光る尻尾と獣耳

 

腰に提げた紅白の名刀が"一つ"ある

 

その後ろ姿は私が探していた人だった

 

私は彼に声を掛けた

 

「…もし」

 

「何用だ」

 

彼は振り返った

その顔には何の表情もなかった

 

「っ…いえ、少し用がありまして」

 

「手短に、俺の事は知っているだろう?八雲紫」

 

それに驚きながら私は言葉を繋げた

 

「…夢があります」

 

「手短に、と言っただろ」

 

「…人間と妖怪が共存する世界を作りたい」

 

ピクリと彼の口端が動いた

やっぱり、彼が発案したようだ

 

「だから、なんだ」

 

「貴方がそれを実現した、というのは有名ですから…」

 

「協力しろ、と?」

 

「…そういう事になりますね」

 

はぁ、と溜息を斬鬼はついた

 

「確かに天狗が庇護する形で共存していた」

 

「それなら」

 

「だがな、それは生贄を捧げるという条件付きさ」

 

「それはっ」

 

「老害のお陰でな、で、お前に問う」

 

「…何でしょうか」

 

斬鬼は無表情を崩し、少し辛そうな顔で言った

 

 

 

 

 

 

 

───お前に作れるか?"本当"の共存を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…やってみせましょう」

 

「いい返事だ」

 

彼はこちらに近づいてくる

そして、手を差し出してきた

 

「俺は隻眼天狗の紅白斬鬼、よろしく頼む」

 

「私はスキマ妖怪の八雲紫、こちらこそ」

 

その手を離さないようにがっちりと握った

 

 

 

 

 

 

 

「最近鬼が山から降りたって聞いたんでな、山は任せろ」

 

「あら、積極的なのですね」

 

「お前を見ていると昔の俺を思い出すんでな」

 

少し懐かしそうにそう言った

 

「気分を害しましたか?」

 

「いや?逆に燃えるね」

 

彼は久しぶりに笑顔を作る

 

それが永遠に続けば良いと、思った

 

それは続かなかったのだけど…

 

 

 

「…どうして、彼は外に行ったの?」

 

「それは…最後だけ伝える事にしましょう」

 

紫は少し言い淀んでそう言った

その歯切れの悪さに霊夢は訝しんだ

 

「何が合ったのよ、説明しなさい」

 

「…今は、まだ」

 

「紫?」

 

その寂しそうな顔を、霊夢は見たことがなかった

紫は直ぐにそれをいつものに直した

 

「…大丈夫、心配ないわ」

 

「続きを、お願い」

 

 

 

 

 

 

 

「俺は、また逃げてしまうのか」

 

斬鬼は自宅の墓に手を添える

また、逃げるのか

 

「斬鬼」

 

「紫」

 

斬鬼は振り返った

紫が立ち尽くしていた

傘でその表情は見えない

 

「貴方、泣いてるわよ」

 

「なぁ、紫」

 

斬鬼は黒刀を握りしめる

刀を抜き、刃を見つめる

 

「俺は…俺は、どうすれば…良かったんだっ…!」

 

その刃にポタリと水滴が落ちる

それには後悔と懺悔の色が混じっていた

 

「…お前と会うのは、もう」

 

「斬鬼、それ以上は言わないで」

 

「それでも…っ!」

 

キッと斬鬼を睨みつけ、首に傘を当てる

 

「それ以上言ったら、もう抑えられなくなるから…!」

 

頬が冷たい

斬鬼と同じように紫は泣いていた

 

「…さらばだ、紫」

 

「また、会いましょう…いえ、違うわ」

 

紫は強いケツイを漲らせた顔で、叫ぶ

 

 

 

 

 

 

─────絶対、振り向かせるから

 

 

 

 

 

彼はへっと笑った

 

「やってみせろ、俺も…」

 

 

 

 

 

 

「…紫」

 

「私はアレを止めれなかった」

 

紫の口は止まらない

 

「アレを倒した…殺すしか方法がなかったから」

 

「アレって何よ!何の事なのよ!」

 

霊夢の叫びに今起きた幽々子や文の視線が集中する

 

「いつしかそれは来る、貴方は絶対に勝てないわ」

 

そう言うと紫はスキマに消えた

 

「霊夢」

 

斬鬼が直ぐ後ろに居た

その声は自然に体が震えるほど無機質だった

 

「斬鬼…アンタは、アンタは教えてくれるの…?」

 

彼は表情を変えずに言った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前には分からない」

 

そう言うと彼は踵を返し、どこかに消えていった

 



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白玉楼へ

面倒だから…もうええか!()

良くない系の方は言ってほしいです


「お前に分かりはしない」

 

斬鬼のあの言葉が、ふとした時に頭に響く

 

何がわからないのだろうか?

 

もしかして私がまだ若いから?

 

それとも人間には理解不能の事だとか?

 

私…博麗霊夢の最近の悩みだ

 

「霊夢さーん、そんな辛気臭い顔しないでくださいよー」

 

「…文」

 

そう言っているとアイツが来た

あの嘘しかない新聞を作る天狗が

 

…そういえば斬鬼は天狗だった筈だ

 

「斬鬼って過去に何かしたの?」

 

「あー…」

 

瞬間にいつもの営業スマイルが消え失せる

その顔は聞かれたくないことを聞かれた顔に変わっていた

霊夢はどうしても聞きたかった

 

「言ってはダメなの?」

 

「これは…タブーなんですよ、我々妖怪の」

 

「タブー?」

 

言いたくない顔で言葉を繋げる

 

「"あの日"の事は決して多言してはいけないんですよ」

 

「そんなに?」

 

「例え、どんな辱めを受けてもです」

 

「そう…仕方ないわ、その日まで待つしかないか…」

 

霊夢は溜息をついた

文は希望を持たせる様に言う

 

「彼が幻想郷に居る、彼が罪と向き合う時がその時です」

 

「…気長に待っておくわ」

 

それは多分近いうちに来るだろう

私の勘がそう囁いている

 

 

 

 

 

 

「それで何用かしら」

 

「いえ、懐かしい雰囲気を感じたので」

 

「それは…あの人魂かしら?」

 

文は首を振った

 

「いえ…それとは違う物です」

 

そう言うと彼女はバサりと飛び去ってしまった

何がなんなのか分からない

 

 

 

────お前には分かりはしない

 

「ええ、分からないわ、妖怪のことなんて」

 

私は、去勢がある声でそう言った

 

 

 

「霊夢!宴会しようぜ!」

 

 

「当主殿、お手紙です」

 

「誰から?」

 

斬鬼は目の前の書類から目を離さずに言った

 

「西行寺殿から」

 

「分かった、机の上に置いておいてくれ」

 

「分かりました、お茶をお持ちしましょう」

 

斬鬼は書類を机の上に置いた

軽く体を伸ばすと手紙を掴む

 

「俺の好きな紅葉模様か、いいね」

 

和紙に紅葉模様が描かれている

斬鬼は中身を取り出す三枚の紙が入っていた

最初の紙に目を通す

 

「こりゃ…」

 

見れば溜息が付く程の達筆

但し内容は斬鬼が知っている日本…の昔の言葉

それに続け文字だ…現代語に慣れた斬鬼からすると面倒だ

しかもよくよく読んでみるとまどろっこしい言葉遊び

本題に入ったのは三枚目からだった

 

「2枚が御託ってどうよ…」

 

三枚目には本題…最後の三行位に合った

 

────白玉楼にいらしてください

 

斬鬼はどうするか迷った

現在進行している異変に参加するか…

 

「ん?」

 

…久しぶりに舞と食事をしたいので

 

おい

 

彼女はどうやら妖夢を過労死させたいらしい

まぁ幽霊同士気が合うのだろう

その所は気にしないであげよう

人魂が嬉しそうに弾む

 

「お茶です」

 

「少し空ける」

 

「それでは私が飲んでおきます」

 

斬鬼はそういうとワープホールを作る

その中に身を潜らせて行った

人魂も続く

 

 

 

「っ…侵入者です、幽々子様」

 

「誰かしらー」

 

「…?これは斬鬼さんの様ですね」

 

「今日一緒に夕飯を食べるのよー」

 

「初耳ですよっ!?」

 

「彼の妻も来るから、取り敢えず迎えにいきなさいな」

 

「はぁーい…」

 

 

ホールの中は青い線が何個も横に飛んでいっている様子だ

何処かのスキーマとは違いオトコが好きそうなSF風だ

…何かの映画で見たな、こんなの

 

「出たのは階段、か」

 

白玉楼の構造なんてもう覚えていない

いや、屋敷自体の構造は覚えている

 

いろいろ変わっているのだ、此処も

 

「さぁて、登るかね」

 

目の前に見える先の見えない階段

此処を登るのはちと厳しそうだ

今、足の無い舞は嬉しそうだ…このドsが

 

「迎えがきてくれないかねぇ…」

 

と、都合のいい事はやって来ない

 

「骨が折れるな、これは」

 

斬鬼は登り始めた

 

いつ終わるか分からない階段を

 

必ず終わりがくる階段を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれから一時間が経過した…うーん」

 

上記の通りである

あれから一時間が過ぎた…先は見えない

いや、うっすらと白玉楼の門らしき物が見えてきた

 

「ようやく到着か」

 

「斬鬼さーん!」

 

お、サムライゴーストガールがお迎えに来たらしい

その姿がよく見えてきた

 

「よぉ、一時間階段を登った斬鬼さんだ」

 

「すみません…生者にはもの凄く長くなるんですよ、此処」

 

「あいつの気分次第だ…まぁどうせお遊びだろうけど」

 

隣の人魂が頷く

 

「まぁ…そうですね」

 

気分屋なのは変わりないようだ

 

「さて、案内してくれ」

 

「こちらです」

 

そういって彼女は門に向かった

半人がいるからか、数秒で着くことが出来た

 

 

「よ、幽々子」

 

「いらっしゃい、斬鬼」

 

斬鬼は机に座る

 

「今から夕飯か?」

 

「そうよー久しぶりにお話がしたかったのー」

 

「お夕飯を用意致します」

 

そういうと妖夢は奥に消えていった

斬鬼はジト目を幽々子に向けた

 

「会いたいのは舞だろ」

 

「そうよ!舞とはなしたいの!」

 

斬鬼はプイッとそっぽを向いた

 

「はぁ…これだから女h、はーい舞ちゃんですよー」

 

斬鬼が嫌味を言おうとした瞬間舞が魂を交換する

 

「あらー舞、久しぶりねぇ」

 

「とーっても久しぶりですねぇ」

 

ニコニコと顔を向け合う2人

その無言を破ったのは…

 

 

 

「だ、誰ですか!?貴女は!」

 

 

 

 

沢山の食材を積んだ皿を持つ妖夢だった…

 

 

 

 

 

 

「彼女が斬鬼の妻、紅白舞よー」

 

「こんにちは妖夢さん、初めまして…ですね?」

 

「えと、魂交換でこうなるのですか?」

 

妖夢の視線は幽々子と舞と…自分の胸を何度も見比べていた

それを見て舞と幽々子は顔を見合わし…悪魔の笑みを作った

 

「元からですから」

 

「元からっ!?」

 

「お料理の栄養が全部胸に行くのよねぇ」

 

「あ!それ、分かりますよ」

 

「胸に…?栄養が…?」

 

「…そろそろ辞めにしましょうか」

 

「そうねぇ」

 

妖夢の目からハイライトが消え、絶望した顔になっている

腰の刀の柄に手が伸びかけている

 

「こらこら、自刃なんてしなさんな」

 

「…はっ…幽々子様、申し訳ありません」

 

「それじゃ、私達は頂くとしましょうか」

 

舞は手を合わす

 

「「頂きます」」

 

…なんだか、幽々子様が増えた感じだなぁ

 

妖夢は言動が似た2人にそう思った

 

 

 

 

 

 

━━━━━そして、地獄を見た

 

 

「あれ?山盛りの食材は何処へ?」

 

「ああ…妖夢…見てしまったわね」

 

紫がスキマから顔を出す

目の前にあった食材はどんどん2人の口に消えてゆく

 

「宴会で舞を出さないように言ったけど…あれは正解ね」

 

「食費が…あぁ…あ…」

 

エンゲル係数が目の前で高くなるのを見れば心神喪失するだろう

そんなこんなで舞と幽々子はもうナプキンで唇を拭いていた

 

「ごめんなさいねぇ妖夢ちゃん、今度は軽めにするわ」

 

ニッコリと舞は微笑んだ

しかし、彼女の耳には全く届いていなかった

 

 



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旧友

結構お早いぞ、いつまで続くか

追記 誤字報告有難い


「…」

 

青白い人魂がまっすぐ舞に近づく

そしてそれは舞の体の中に入っていき

 

「半分、体を借りる」

 

斬鬼は舞の体を半分使い、半人半霊となり何処かに行った

 

「あ、行ってらっしゃいませー」

 

「行ってらっしゃーい」

 

妖夢と幽々子はそれを笑顔で送って…

 

「アイエエエ!?半人半霊!?半人半霊ナンデエエエ!?」

 

舞「コワイ!」

 

紫「ゴボボー!」

 

幽々子「作品評価シテェ!」

 

妖夢は絶叫した、当たり前である

 

「あらあら、妖夢ったら今更ね」

 

「え?ちょ…アイエエエ…」

 

「私、また何かしちゃいました?」

 

紫は諭すように言った

 

「ほら舞、説明してあげなさい」

 

舞がカラカラ口を抑えながら笑った

 

「んーそうですね…落ち着いて聞いてください」

 

妖夢は深呼吸を何回かする

 

「…いいですよ、何時でも」

 

「簡単に言えば体の半分を渡しているのですよ」

 

簡単な事だ、"半人半霊"なのだから

体の半分を渡せばいいだけだ

深い原理は無い、本当に簡単な事だ

 

「…それって」

 

「勿論全ての力が半減します」

 

「それでも勝てなかったのよねぇ…」

 

紫が遠い目で呟く

 

「あ、紫も?」

 

幽々子が気がついたように言う

紫が驚いた様子で質問する

 

「幽々子も?」

 

「そうなの、何が起こったのか分からなかったわ…」

 

なぜだか妖夢にもその気持ちは理解出来た

斬鬼のあの瞬足、全く見えなかったのだ

彼が余裕そうに葉巻を吸っているのを見て、油断していたのかもしれない

 

 

「まぁ、妖夢ちゃんはそんな悲観しなくていいわ」

 

「そんなお世辞なんて…」

 

「ホントよホント、「あいつは俺が構えたのが見えていた」ってね」

 

「それが何に…」

 

妖夢は諦めムードだ

そんな彼女に舞は一つの希望を与えた

妖夢が今求めている最高の提案だ

 

 

「彼が貴方を気に入ったの、稽古してくれるらしいわ」

 

「ホントですか!?」

 

「言ってねぇ!」

 

「ありがとうございます!何と言っていいか…!」

 

「…彼も可哀想ね」

 

何処かの隻眼天狗の叫び声が妖夢の礼にかき消される

彼も彼で回りくどいやり方をするものだ

 

「最初から言えばいいのに、ね?紫」

 

「ホントにそうだわ」

 

「不器用なところが可愛いでしょう?」

 

「…」

 

妖夢は彼女達についていけなかった

唯一思った事がある

 

 

 

 

 

 

紅白家…怖い…と、言うことだった

 

親がこれなら、娘もきっと…

 

 

 

斬鬼が歩いているのは枯れた木が沢山生えた平原

 

全てが死に腐れ、迷った人魂がたまに来る場所

 

生ける者が来る場所では確実にない場所

 

 

ここは冥界の端

白玉楼なんて見えない場所

そんな場所を斬鬼は歩いていた

傍らには己の半身である半霊が付き従っていた

 

…そして、ようやくたどり着く

 

「よぉ、久しぶりだな」

 

斬鬼は挨拶をした、"彼"に向けて

 

半人の…旧友に向けて

 

「お久しぶりですな、斬鬼殿」

 

昔の大名が着る服を水色にした着物

顎周りには髪と同じ色の白い髭が生えて、威厳を醸し出している

1番特徴的なのが、斬鬼と同じく半霊を連れているところだ

 

…旧友、魂魄妖忌

 

「あの殺気をよく俺だけに当てることが出来たな」

 

「幽々子様とスキマ妖怪にはバレてしまったので」

 

「はっ、様付けは止めたらどうだ?」

 

「癖ですから」

 

妖忌は笑って言う

 

「どうだか」

 

斬鬼は嘲笑の声で言った

無言が辺りを支配する

 

「…さて」

 

妖忌が先に口を開いた

 

「私が此処に案内した理由、変わりますかな?」

 

「ああ、御託は結構だ」

 

「それでは」

 

殺気が両者から放たれていく

両者の心は真剣になり、手は刀に伸びる

 

「来い、全力で」

 

「貴方は全力でないでしょうに」

 

4つの斬撃が、交差する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!」

 

「くっ」

 

あれから数十分が立った

それまでの時間は刀の鍔迫り合いだった

斬鬼と妖忌の頬には切り傷があり、服は切れ後だらけだ

 

「あの時から腕を上げたな!」

 

「貴方は腕が落ちているぞ!」

 

こんなジョークを言い合う程には両者余裕である

 

「余裕そうだな!」

 

「貴方もな!」

 

この場に殺気は最早無かった

2人にはスポーツの様な一体感があった

 

オトコの友情、どれだけ離れようとも消えぬ友情

 

その気は辺りの枯れ木を切り飛ばし…

 

「そこまで」

 

パチン、という扇子の閉じる音で止まった

見れば2つの扇子を持った舞が立っていた

 

「舞」

 

「舞殿」

 

2人は刀を少し下ろし、視線を舞に向ける

 

「邪魔を」

 

「しないで頂けるか」

 

まるで2人が1人のように答える

 

「いいですわ、私を倒して頂ければ」

 

パチンと閉じた2つの扇子を開く

それには紅葉模様が描かれ、絶妙な美しさを生んでいた

彼女は妖艶な笑みを顔に作る

 

それは妖怪でさえ、見惚れる程の美しさだった

 

「実践なんて、いつぶりでしょう…あぁ、興奮してきました」

 

「…」

 

斬鬼は妖忌に目を向ける

妖忌は斬鬼に目を向けた

 

「…はぁ、分かった…降参だ」

 

「私達では貴女には勝てませんから…」

 

「よろしい」

 

舞はニッコリ笑った

斬鬼と妖忌は刀を鞘に戻す

 

「ったく、とんでも無い邪魔が入った」

 

「少し残念ですが…帰りますか」

 

そう言うと妖忌は背を向けて歩き出す

斬鬼はその背中に声を掛けた

 

「どこへ行くんだ?」

 

「また適当に旅に…」

 

「おじいちゃん!」

 

幼き声が聞こえた

その声の方向には

 

「妖夢…」

 

「おじいちゃん、また…置いていくの?」

 

涙が零れる

妖忌は珍しく動揺した

彼の目がお散歩をしている

 

「いや…それは…その…」

 

遂に妖忌は振り返る事は無かった

代わりに彼はこう言った

 

「私は…もうここに戻るつもりは無い」

 

「おじいちゃん」

 

「だがな、斬鬼がお前を鍛えてくれる」

 

「…最後に、お願いを聞いてもらって、いいですか」

 

「何かな」

 

妖夢は、最後のお願いを告げる

 

 

 

 

 

 

「…私は…幽々子様の従者に、相応しい…ですか?」

 

妖忌は鼻で笑った

それは決して嘲笑では無く

 

「なんだ、そんな事か。てっきりハグして欲しいのかと」

 

「えっと…」

 

「貴方もそう思うだろう?」

 

斬鬼の方を見て妖忌は言う

彼は鼻で笑った

 

「へっ…そうだな…俺の剣筋を見れたし、相応しいさ」

 

「その通り、お前は相応しいよ…私は嬉しい」

 

彼はそう言うと歩き始めた、妖夢とは反対の方向に

妖夢は叫ぶ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「絶対に帰ってきて下さい!幽々子様共々待っていますから!」

 

 




半人半霊化する時はターミネーターニューフェイトを参考にします

あの黒いネバネバしてそうな奴です、アレですアレ


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泊まっていくよ

寮なんて初めてだぁ…

お風呂シーン、見たくない人は飛ばしてくれ


「それで良かったの?」

 

「私にもう、後悔はありません」

 

妖夢はしっかりとした意思でそう言った

 

「コイツの意思はもう変わらんさ、そういうもんだ」

斬鬼は軽く背筋を伸ばした

 

「…汗を流したい、風呂は湧いているか?」

 

「湧いております、案内しましょうか?」

 

「よろしく頼む」

 

斬鬼は立つと、妖夢に続いて行った

それを見て舞がニヤリと笑った

幽々子を見て、言う

 

 

 

「私達も入りましょう?」

 

「貴女…悪い顔してるわねぇ…?」

 

「貴女もよ、幽々子」

 

紫は呆れた様に言った

 

 

 

 

 

 

 

斬鬼は刀を立てかける

腰の帯を緩め、服を脱いでゆく

 

「ざ、斬鬼さん。私が出てから…」

 

「ん?あぁ…すまんな、配慮がなってなくて」

 

「い、いえ!下着を着ていたようなので結構です!」

 

下着というのはこの黒いインナーの事を言っているのだろうか

まぁこちらにはインナーなんて物は無いだろう

妖夢はバッと扉を閉めて行った

 

「ありゃ男慣れしてない奴だな、うん」

 

そう言って彼はインナーを脱ぎ、風呂場に入って行った

 

 

 

 

 

「…そういえばここって男湯か?区別無かったんだが…」

 

 

 

 

 

「案内して来た?」

 

「何時もの風呂場に案内致しました」

 

「それじゃあ彼が上がったら私達入りましょうか」

 

「解りました」

 

「彼って意外と早風呂なのよ」

 

妖夢はそうとは思っていなかったらしい

驚きの声を上げる

 

「そうなのですか?こう、風景を楽しむ方だと」

 

「…私も入ろうかしら」

 

紫は呟いた

彼女達が何をしようとするか分かったのだ

それを乗っかろうとする彼女も彼女だが

 

「それでは、少し準備してきます」

 

 

「そういえば、幽霊に入浴なんてあるのだろうか」

 

斬鬼は風呂の中で1人呟いた

これだけ大きな風呂があるという事は彼女達は入浴するのだろう

だが、死人と半死人がする意味があるのだろうか

まぁ妖夢は人の文化を引きずっていると解釈できるが…

幽々子の場合何がどうして入浴しようと思うのか

 

まぁ…ただの暇つぶし、と言ったところだろう

 

妖怪…長く生きた者なのそういうものだ

 

「やっぱり…斬鬼さん服置いてきてますね…」

 

「後で彼に伝えておきましょう」

 

「私達は早くお風呂に入りましょう?」

 

「…ごめんなさい、斬鬼」

 

何やら女達の声が聞こえた気がするが気のせいだろう

4人の女とかなんで俺が入ってるのにそんな…

 

 

 

 

あぁ…幽々子と舞の声がするって事はそういう事か

多分あの2人が「面白そうだからやっちゃえw」みたいな感じでやったんやろうな…

まぁ女の裸なんて興味が無い…というか性癖は死んでいる

「あっそう」位で済ませるのは簡単である

 

…何で男は最初に胸に目が行くのか…

 

Oh, what do you use?(おぉ、何用だ?)

 

「へ?…きゃあああ!?ざ、斬鬼さん!?貴方何で」

 

「それはこいつらに言え、まんまと騙されて…」

 

舞「You got bamboozled!(騙されたな!)

 

「ゆ、幽々子様ーっ!」

 

「ごめんなさいねー妖夢の焦る姿が見たくて…」

 

紫は溜息をついて湯船に浸かる

 

「どちみちにしろ彼は興味無いもの」

 

舞は斬鬼を見て、視線を下に向ける

そしてドン引きした顔で呟いた

 

「嘘…こんなボンッキュッボンッを見て興奮しないなんて…」

 

「1人はキュッキュッキュッ…へへ、冗談さ」

 

「斬鬼さん?斬鬼さん?」

 

ハイライトを消した目で迫らないでくれ

色んな意味で怖いし

 

「タオル」

 

「へ?…タオル?」

 

「下見ろ、下」

 

「…失礼しましたぁ」

 

すすすと湯船に使ってゆく妖夢

 

「貴方って本当にこういうのに興味無いわよねぇ…」

 

「性癖は死んだんだよ…あぁ、あれだから子供は…」

 

「まぁまぁ、久しぶりに妻の美貌を見れましたし」

 

斬鬼は少し湯船に視線を落とす

 

「冗談無く美貌なのがこれまた…はぁ」

 

「それは感服の溜息ですかー?ふぅーん?」

 

小さな波を作りながら斬鬼をに寄る

グイグイと抱きつき、豊かな胸が形を変える

ついでに妖夢の目も黒く塗り替える

 

「この…鬱陶しい…」

 

「自慢ですか?見せびらかしているんですか?」

 

黒妖夢の質問が舞に飛ぶ

 

「逆に何がおありで?」

 

白舞の返答が飛ぶ

 

「…ふーんだ」

 

拗ねた黒妖夢は壁を弄り始めた

 

「はぁ…退け」

 

「いたーい」

 

舞のおでこに軽く(人間なら再起不可能)デコピンを当てる

その後妖夢に近づき頭を撫でる

 

「何、心配要らないさ、半人でいう大人になればああなれる」

 

「それは…嬉しいような…嬉しくないような…」

 

それは分かる

というか彼女が大人になっても舞のようにはなれない気がする

まぁそれを言えば斬傷沙汰になるから止めておこう

 

「ま、いいさ…地上は地上で楽しそうだしな」

 

「あら、何かありまして?」

 

幽々子はパッとなって尋ねる

 

「そうだな…面倒な奴が異変起こしてるというか…」

 

「あぁ…彼女ですか」

 

紫は少し納得した表情で言った

天狗はかつて鬼の部下となっていた時がある

それもあるが…彼はその時山を降りたはずだ

多分、形式だけ乗っけてる、という感じだ

 

「俺の苦手な奴、かね」

 

「とかいってですねー」

 

舞がまくし立てる

 

「はーい面倒な妻はしまっちゃおうねー」

 

「うわぁー吸収されるー」

 

舞が強制的に人魂状態に戻される

斬鬼は嘲笑の目を向ける

 

「お前はそこで反省しと…ぐべら」

「私はまだお風呂を楽したいのですー」

 

プンスカ怒りながら斬鬼の半身を借りて実体化する舞

 

「これだからこいつは…」

 

 

 

 

 

 

一方その頃博麗神社

 

「全く、昨日は突然宴会しようなんて…」

 

「霊夢!宴会しようぜ!」



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元凶を探せっ!

出てこい、お祓い棒が待ってるぜ


「霊夢!宴会しようぜ!」

 

「霊夢、宴会しましょう」

 

「霊夢、宴会、しないかしら」

 

「霊夢、宴会をしてくれ」

 

「霊夢」

 

「霊夢」

 

「霊夢」

 

「霊夢」

 

「霊夢」

 

「霊夢」

 

「霊夢」

 

 

 

 

 

 

「うるさぁああーい!」

 

 

「いてっ!何するんだ!」

 

「こっちのセリフよ!」

 

霊夢は激怒した

だから魔理沙をビンタした、OK?

 

「何でアンタは毎日宴会を開くのよ!常識はないの!?」

 

「楽しけりゃええだろ!」

 

「そういう問題じゃない!経費は全てウチが賄ってるのよ!?」

 

これ、本当である

いきなり宴会が開催されたと思えば酒を取られる

置いてあった食材が消える

皆が取り憑かれたように宴会に来る

 

…取り憑かれたように?

 

「なるほど、バカな奴も居たもんね…」

 

「さぁ、宴会を開くんだぜ!」

 

「仕方ないわね…じゃ、色々呼んできて」

 

多分、勝手に来ると思うけど

これは多分そういう異変なのだ

なんてこんな傍迷惑な異変を起こすんだ…

 

主に私が

 

「はぁ、これだから妖怪は」

 

 

 

「さようなら、斬鬼さん」

 

「おう、稽古なら…週一か月一につけてやる」

 

「出来るだけ有難いです…!」

 

白玉楼の前で斬鬼と妖夢はそんな会話をしていた

妖夢に稽古をつけるのが確定しているのが何とも言えない

 

「またいらしてー」

 

「はぁーい、また食べに来ますよー」

 

「エンゲル係数をこれ以上上げるな」

 

背中から現れる舞を押し戻して

 

「じゃあ、幽々子…"また今度"」

 

「…えぇ、"また今度"ね」

 

この反応から彼女が"例の事"を知っていると言うことだろう

斬鬼はそう解釈した、間違っていたらすまぬ

彼女達に背を向けて目の前にワープホールを作る

 

「じゃ」

 

軽く手を振ってワープホールの中に入っていく

赤い人魂がくるりと一回転して斬鬼に続く

完全に入った時、ワープホールは閉じた

 

「…」

 

「どうしたの?」

 

「いえ…その、なんというか」

 

妖夢は歯切れ悪くなっていた

幽々子は急かす

 

「何よー言ってみなさい」

 

「その、斬鬼さん達…夫婦なんですよね?」

 

幽々子は頷く

ちなみに紫は既に帰っている

 

「そうよ、天狗とか…まぁ長生きしてる人ならそういう認識ね」

 

「それなら…えーと…あのぅ…」

 

「…あ!」

 

幽々子は閃いた

というか妖夢が言い淀むのはこれしかない

 

 

「斬鬼と舞がキャッキャウフフして子供がポーンと!」

舞「ええ…(困惑)」

 

「何言っているんですかぶっ飛ばしますよ!?」

斬鬼「お前幽々子の従者じゃ無いな!?」

 

「それじゃあ、斬鬼と舞はイチャイチャカップルって事ね!」

 

「そ、そういう事では…!」

 

「んー?それじゃあどういうことなの?」

 

「えーと!えぇーっと!」

 

「やっぱりー!妖夢ったらエ ッ チねぇ」

 

更に妖夢の顔が赤くなっていく

もう限界のようだ

 

「も、もう!私は戻ります!」

 

「あ…素直じゃないんだから」

 

幽々子は溜息をついた

そして、冷徹な目を階段の下に向ける

 

「ダンテの神曲では親を殺す事は大罪、溶けない氷の中に入れられる…」

 

少し、哀愁が入った声で続く

 

「では、子殺しは?子を放置した罪は?」

 

目を細めて幽々子は言う

 

「貴方は…それを償わなければならない」

 

そこに、先程のふわふわとした人格は無く

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方は、いつそれを償うの?」

 

1人の青年を心配する、1人の少女の人格だった

 

 

 

 

 

 

現界は真っ暗だった

外の世界とは違い、ここには街灯など無い

アメリカの一千ドルの夜景なんて物も無い

紅魔館は主が吸血鬼な事もあって明かりがついている

人里は寝静まっているようだ

妖怪の山は…河童辺りが明かりがついているようだ

 

ただ…

 

「何故に博麗神社があんなに明るいんだ?」

 

最もである

色とりどりな…今気づいたけどアレ弾幕だ…光がある

色的黄色と赤なので霊夢と魔理沙か、魔理沙とレミリアか

前者はアリとして後者は…有り得なくはない、のだが

酒によって喧嘩を売った、とすればありだろう

 

まぁ、他の奴の弾幕である事も考えられるのだが

 

斬鬼は蛾の様に博麗神社へと近付いていく

今は萃香が起こした異変で皆、萃められている

その効果に斬鬼も少なからず影響されている

いくら強くてもそれを凌ぐのは不可能に近い…のか?

 

「よっと」

 

斬鬼は博麗神社に着地した

辺りはどんちゃん騒ぎだ

取り敢えず…何かが飛んでいる

妖夢と幽々子もいつの間にか宴会に参加している

 

「こいつぁ…酷いな」

 

「斬鬼!」

 

霊夢が鬼気迫る表情で出てくる

 

「どうした、お前さん」

 

「皆が変なの!」

 

「外の世界の住民ならどいつもこいつも奇天烈さ」

 

「そうじゃない!」

 

大幣でべしりと斬鬼を叩く

 

「いてっ…んで、どういうこった」

 

「どいつもこいつも宴会を要求してくるのよ!」

 

「…周期は」

 

「毎日よ!」

 

斬鬼は思わず引いた、主に萃香に

鬼故か、そういうところに配慮が足らない

皆が鬼並についていけると思えば大間違いだ

斬鬼はそう毒づきながら思った

 

「まぁ…そうだな…宴会好き…もとい酒好きなら知ってるが」

 

「誰よ!」

 

「自分で探してみろ、妖怪の手助けなんぞ借りるな」

 

「く…ふん」

 

彼女はプイッとどこかを向いた後何処かへと向かっていった

その数分後に弾幕が掃射される

色的に…萃香だな

 

さて、あれから何日が経ったんだか

 

「分からないなぁ」

 

斬鬼はそう呟いた



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公表

眠い


「やってんねぇ…」

 

霊夢と萃香がぶつかり合う様を酒のツマミとして見る

 

「萃香様ってこんな事するのですねぇ…」

 

「椛、鬼って大体そんなものよ」

 

文の言う通りである

というかこれをしなかった試しがない

大体何かあれば宴会である…あれ?変わらなくね?

今の幻想郷変わらなくね?

 

歓迎の宴会、異変解決の宴会、時々の宴会…

 

宴会しかないのか(遠い目)

 

「あいつらは…まぁ、そうだよな」

 

「天魔と言い、鬼子母神様といい…面倒ね」

 

「仮にも同期だろ」

 

「だからこそよ」

 

椛が驚いた様子で聞く

 

「おや、文様は天魔様と同期なのですか?」

 

「斬鬼、私、天魔、斬鬼の女中、斬鬼の妻、白狼の大天狗は同期よ」

 

椛が納得したように頷く

 

「やっぱり、皆さんはお強いのですね」

 

「そんな事は無いな」

 

斬鬼は手を振る

 

「白狼のあいつぁ…良い奴だからなぁ」

 

古くからの仲間である

確か家が近いとかそういうテンプレな感じだ

アイツも萃められて今この場に居る

くるくると人魂が回る

 

「…っと、決着がついたらしい…こっちに来るのかよ」

 

斬鬼はビール瓶を三本テーブルに置く

ハッキリいってお守り程度の気持ちだ

 

「アッハッハッハッハ!負けた負けた!」

 

「全く、さっさと終わらせなさいよ」

 

「これで最後さぁ…さ、斬鬼!飲むぞ!」

 

「嫌だね」

 

斬鬼は笑いながら言った

 

「酔う訳には…な?」

 

「でも、彼女は飲んでくれって言ってるみたいだよ?」

 

手元にコツンとビール瓶が当たる

人魂が押して手元に持ってきたようだ

 

「…仕方ないな、少しだけだ」

 

「よしっ!それでこそ伝説だ!」

 

コップにビールを注ぎ、飲む

辛い感覚が喉を流れて腹に行き、快感を生み出す

「…あ"あ"ーー…久しぶりにビールなんて飲んだ…」

 

「美味いか?美味いだろう?」

 

「お前のじゃないんだよ…」

 

「…あんたら仲良いわね」

 

霊夢が杯を傾けながら言う

斬鬼は嫌そうな顔で言う

 

「鬼はな、あまり得意じゃないんだよ、天狗は」

 

「へぇ、何しでかしたのよ?」

 

「当時の天魔惨殺して上司になる、俺山降りる、OK?」

 

「なるほど、大体分かったわ」

 

酒を斬鬼は傾ける

酔いが回ってきたのか、声が大きくなり、頬が赤くなる

 

「ま…椛、焼き鳥を貰いに行ってくれ」

 

「ま…?分かりました」

 

「…斬鬼」

 

酔いのお陰で彼女の名前を言いかけた

…あまりにも似すぎていたのでな

 

「あー…あー…お前らぁー!何チンチラ食ってんじゃぁー!」

 

斬鬼が辺りを見渡したかと思えば立ち上がって叫ぶ

確かにちびちび酒を飲んだり少しずつ食品が減っていく

確かにチンたら…してる、気がする

皆が萃められている事もあってか「騒ぐぞぉー!」など声が上がる

 

「食え食え!腹1杯になるくらいまで食え!」

 

「…アンタ酒飲むと人が変わるのね…」

 

斬鬼が霊夢に視線を向ける

 

「おん?もっと飲めよ、宴会だぞぉー?」

 

「…あら?アンタ、目の前の食べ物は?」

 

「もう食った!だが足らん!」

 

斬鬼は食い物を求める

それはまるで幽々子のようだった

 

「っ!そうだ…」

 

斬鬼の様子を見て、近くに寄る人魂の意志を認識して…

萃香は自らの瓢箪の中に白い粉を入れる

 

サァーッ!(迫真)

 

「ん?萃香!それ飲ませてくれ!」

 

「あたぼうよ!飲め!」

 

「んく、んく、んく…くはぁー!いいねぇ!最高だぜ!」

 

「おぉ、斬鬼!いい姿だな!」

 

魔理沙が割り込んで来た

斬鬼はそれを歓迎するように肩を組む

 

「いいねぇ!…ちょっと座るよ」

 

斬鬼は座る

そして食事に手を伸ばす

 

「最後に、こいつを…」

 

バタリ

 

斬鬼は机に頭を打ち付ける

 

「よ、ようやく効いたぁ」

 

萃香が安堵の溜息をつく

 

「私が調合したのに、やっぱり斬鬼って強いわねぇ」

 

「紫?あの白い粉って紫が作ったの?」

 

「斬鬼様ー、焼き鳥で…寝てるぅ…置いておきましょ」

 

会話が進行していく

その間に人魂が斬鬼に入り込んで…

 

「んく、この焼き鳥美味しいですね、誰が作ったのですか?」

 

椛が質問に答える

 

「あぁ、それはミスティアさんのものです」

 

「あれ?あいつって鰻じゃ?」

 

魔理沙が質問する

ミスティアは焼き鳥撲滅委員会に入会している

言わば焼き鳥よりヤツメウナギ美味いぞ!ということである

 

「特別にやってもらいました」

 

そして、ようやく霊夢が異変に気づく

 

「待ちなさい、アンタ誰よ」

 

宴会の参加者の視線が彼女に集中する

彼女は獣耳をピコピコさせて辺りを見たあと軽く挨拶をする

 

「これは失礼、私、紅白斬鬼の妻をしております、紅白舞です」

 

「舞ね、よろ…何て言った?」

 

「ですから」

 

舞は座ったまま、手を膝に添えて、ニッコリと笑う

 

 

 

 

 

 

 

「紅白斬鬼の妻、です」

 

「…」

 

あまりの爆弾発言に場が凍る

机の上には人魂が泥酔したように寝ていた

椛が確認する

 

「えっーと、妻って、あの妻ですよね?夫婦の」

 

「そうですよ?夜な夜なあんな事やこんな事を…」

 

「止めなさい、やっぱり貴女は変わらないわね」

 

文はウンザリげにそう言った

椛は顔を赤らめていた

舞はからからと笑う

 

「あはっ、素直な人はやりやすいですね」

 

「うぅ、斬鬼とはえらく違う人だぁ…」

 

「やっと会えたね!久しぶりだよ舞!」

 

萃香がよろこびを抑えきれずに抱きつく

舞子供をあやすように髪を撫でる

 

「久しぶりですねぇ、貴女は何も変わっていないようで」

 

「ふふーん、そのポーカーフェイスも変わらないねぇ」

 

「…そういえば鬼が山を統治していた時は舞さん居たらしいですね」

 

舞は肯定する

 

「ええ、夜逃げした誰かさんの尻拭いしましたけど」

 

「まぁ…面倒事は嫌いだからね、アイツ」

 

文は寝ている人魂に視線を向ける

 

 

 

 

 

 

「全く、眠りこけて…いつまで寝るつもりかしら」




風神録は…血なまぐさい事になります

それと斬鬼、永夜には参加しません


天狗という社会に足並み揃えないと()


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28話

「んんー、皆ちゃんと料理作ってます?」

 

「すぐ無くなっちゃうわよねー?」

 

「アンタらが阿呆程食べるからよっ!」

 

彼女達2人に料理を置けば3秒後には無くなっている

需要と供給が噛み合っていない

というか需要が高すぎて供給が置いてけぼりにされている

 

「これでもマシな方よ」

 

「そうなのかぜ?」

 

「本当に?」

 

魔理沙と霊夢が思わず尋ねる

これがマシならいつもはどうなのだろうか

文が乾いた笑いをこぼして言う

 

「酔った斬鬼追加、ですよ」

 

「…確かに斬鬼様の目の前にあった食事消えてましたね」

 

椛は少し納得した感じに言った

 

「アイツらは有名だよ〜?宴会にアイツらが参加するなら覚悟した方がいい」

 

「…食費が凄まじい事になるわね」

 

「軽くいつもの3倍は行くわ」

 

彼女達が手加減する筈が無い

食品が無くなるまで永遠に食べ続けるだろう

 

「はい、どうぞ」

 

白狼大天狗の青年が渡す

 

「はぐはぐはぐはぐはぐはぐはぐ」

 

「むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ」

 

「…zzz」

 

「なんだアイツら」

 

「さぁ」

 

2人は無心に食品を食い荒らし、1人は爆睡している

というか止まる気配が無い

 

「実体化したなら満腹感位あるんじゃないの?」

 

「え?満腹感?何それ食べれるの?」

 

「…っ何か腹立つわ」

 

「半霊になった時はもっと食べるわよ」

 

紫が付け加える

 

「もう…何でもありね…」

 

そして、1つの爆弾が投下される

男子なら焼夷爆弾くらいの被害だが、女子なら原爆レベルだ

それは…勿論の事…

 

 

 

 

 

 

 

 

「舞お姉ちゃんは食べた物全部胸に行くんだって!」

 

吸血鬼が放ったこの爆弾発言である

これを聞いて…主に貧乳勢が吹いた

 

「フラン、貴女配慮って物を知りなさい」

 

レミリアは座るとワインを飲み始める

 

「えーっ!でも本当の事じゃん!」

 

「えっーと、舞様、それは本当で…?」

 

椛が遠慮がちに舞に聞く

 

「あらまぁ、そんなにかしこまらなくてもいいのに…」

 

舞はニコニコしながらそう言った

 

「んー、そうねぇ…」

 

辺りの顔色…主に貧乳勢を見る

皆親の仇を見るような目付きをしている

 

「まぁ、事実ですから否定する必要は無いのですけど」

 

「「「ぶっ潰す」」」

 

霊夢が大幣は持って立ち上がる

魔理沙は八卦炉を構える

妖夢は2振りの刀を構える

 

「あらあら、3人で来られますか」

 

舞は重い腰を上げる

そして石畳の上に躍り出る、背中側には鳥居が立っている

 

「弾幕ごっこなんて、最近の子は元気ですねぇ」

 

「話し合うなら今よ」

 

「そして土下座しろ」

 

「あの時に切れば良かったです」

 

舞はからからと笑う、胸が合わせて揺れる、負のオーラが強くなる

 

「そんな話し合いなんて野蛮な…ここは穏便に暴力で…」

 

それを観戦する巨乳or一般ピー達

 

「楽しくなりそうね」「楽しそう!」

 

吸血鬼姉妹

 

「何故かくだらない事を見ている気がするわ」

 

紅魔のメイド

 

「楽しそうねー」

 

亡霊の姫君

 

「アホくさ」

 

スキマ妖怪

 

「まぁ、初陣に相応しい人達よね」

 

幻想の文屋

 

「栄養が胸に行く…どうして舞様は私の悩みを…?」

 

哨戒天狗

 

3人と1人の戦いが始まろうとしていた

異変解決組(1人例外)とたった1人の妖怪

背中から薄い色の斬鬼がひょっこり顔を出す

机の上の人魂が舞の後ろにいて、力を供給しているようだ

 

「舞、力を貸そうか?」

 

「酔いは覚めましたので?」

 

「絶好調」

 

「なら引っ込んでいてください、あれくらい1人で十分です」

 

「あいよ」

 

そういうと斬鬼は消えていった

いや、人魂の状態で観戦している

舞が腰に差していた扇子を構える

 

「さて、勘を取り戻しますか」

 

「…っく」

 

殺気が3人を嬲る

常人であれば気絶するほどの殺気

 

「まぁ、上々、でもこれからですよ」

 

「まだ余裕よ、かかって来なさい」

 

「この程度ではへバレないぜ!」

 

「魂魄妖夢、行きます!」

 

「さ、貴方達の弾幕で私を倒してみなさい」

 

3色の弾幕と赤の弾幕がぶつかり合う

それは何時の異変でも見ない量の弾幕だった

 

 

 

「ねぇ紫」

 

「何?幽々子」

 

幽々子はお握りを頬張りながら弾幕ごっこを観戦する

 

「貴女は彼女達が勝てると思う?」

 

「思わないわ」

 

「即答ね、根拠は?」

 

「全てが足りないわ」

 

「説明して」

 

「あ、私も聞きたいです」

 

「私も聞きましょうか」

 

「私も聞くわ」

 

椛と文、レミリアが続きを促す

 

「まずは霊力ね」

 

「もう差が出ているのですか?」

 

「二、三回の異変じゃあ埋められない程ね」

 

「今の舞って全盛期くらいの実力だから、仕方ないですよね」

 

文がポツリと呟く

椛にとっては知りたい情報があった

 

「舞さんってどのくらいの実力があるのでしょうか」

 

「彼女は…当時勝てる者はいなかったわね」

 

「そうねぇ…」

 

「本当ですか?斬鬼様は…」

 

「当時は尻にひかれていたわね」

 

当時の斬鬼は舞には反論出来ないくらいだった

まぁ、今も余り変わらないが

 

「話を戻すわ、次に技術ね」

 

「これは…年の功よね」

 

「吸血鬼さんの言う通りよ」

 

ただし、逆転出来る手はない訳では無い

それを思ったが、椛は戦慄した

千里眼で戦いを見ていたのだ

 

「…霊夢さんの勘が通じない?」

 

「その通り、まるで未来を読んでいるかのようだわ」

 

「実際は反応したのを視認や気配で察知して攻撃を変える、という物よ」

 

文は種明かしをした

咲夜の如く時を止めている訳では無い

ましてや能力で未来を感じている訳でも無い

 

「長生きっていいわよねぇ…」

 

「あの夫婦の場合暇さえあれば稽古よ」

 

「そうなんですか?」

 

椛が文に質問する

 

「そうですねぇ…部下達に稽古をするくらいには」

 

「それって…"神風部隊"の事ですか?」

 

萃香がしみじみと言う

 

「あぁ…あの天魔殺したら散り散りになった」

 

「原因はお前らだろうが、鬼」

 

斬鬼が座り、日本酒を入れる

 

「斬鬼様?今は舞さんと交換しているのでは…」

 

「あー椛は俺の事を様付けしなくて大丈夫だ」

 

「分かりました…ではさん付けで」

 

椛は礼をした

 

「…もしかして」

 

「完全でなくてもあいつらを倒せるってこった」

 

「黄色いのはもうダウンしてるね、やっぱり強いわ…」

 

「にしても驚きなのがまだスペルカードを使ってない事ね」

 

レミリアが思った事を言った

 

「そうなのよね、彼女、使うまでも無いと思ったのかしら」

 

幽々子はふわふわとした笑顔で言った

 

「そういや、あんな強くても…いや強いからこそかな」

 

「どうしたのですか?」

 

萃香は笑う

 

「いやね!昔私達が斬鬼の居場所聞いたら彼女は「地獄へといだああああぁーあ!?」

 

「「黙れ、二度と喋るな」」

 

斬鬼の肘打ちが萃香の顔面に当たり、追撃のアッパーカット

そこに舞が駆けつけて思い切り殴りつける

 

僅かな時間でこの一瞬をこなす

辺りにいた人からすればいきなり鬼が地面にヒビを作ったと思うだろう

 

「ヒェッ…」

 

「夫婦だからか息が合ってるわね」

 

「あれの娘ですか…ちょっと怖いですね」

 

「そうかしら?結構可愛い子だと思わないかしら」

 

「…」

 

「あら霊夢、目が死んでるわよ」

 

「ちょーっと教育しました。あ、他2人はノックアウトですよ」

 

「アンタとは絶対に弾幕ごっこしないわ…」

 

霊夢は心にそう誓ったのだった



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また異変か壊れるなぁ…

斬鬼は山の麓に人影が見えたので近寄った

それは銀髪の女性だった、ドレスの様な服を着ている

斬鬼は声をかけた

 

「お前は?」

 

「おっと…すまない、領域に入ったかな?」

 

「…慧音か?」

 

「斬鬼?久しぶりだな、新聞で帰ってきたことは知っているぞ

 

彼女は上白沢慧音、人里の守護者だ

子供好きで寺子屋を開き、教育をしている

ちなみに古馴染みだ

 

「何しに来たんだ?」

 

「いや、ただ、山菜を採りに来ただけさ」

 

「悪いねぇ、老害達がうるさいもんで」

 

無能だが口だけは達者だ

ただし理論は無いので普通に潰せる

 

「無理しなくていいさ」

 

「無理はしてない、直ぐにとは言わないがあの時の妖怪の山を…」

 

「あの噂は聞いているよ、天狗と人間が共存していたのを」

 

「あれは相互依存さ、本当の共存を目指しているのさ」

 

今だ叶えた事の無い願い

これが叶うなら神にだって土下座してやる

 

「君が羨ましいよ…あ、そうだった」

 

「どうしたのさ」

 

「稗田の令嬢が君に会いたがっていたよ」

 

「阿礼の?」

 

「幻想郷縁起のページに相応しい、ってさ」

 

好奇心旺盛な子らしい

それとも己の使命を果たしたいのだろうか

 

「そうかい…それと君もだよ、舞」

 

「あら、気付かれていましたか」

 

「そのくらい分かるさ、君も縁起に載るのだからな」

 

「あらやだ」

 

たわいも無い会話が続いている

 

「ん、それじゃあ」

 

「人里に来てくれよ」

 

「気が向いたらな」

 

「私が行かせますから大丈夫ですよ」

 

「舞がそう言うなら間違いない」

 

斬鬼達は山を上がって行った

 

 

斬鬼は自室で書類を処理していた

見てわかる通り予算が合わない

 

「あの腐れ野郎共が…」

 

「確かに貴方の言う通りねぇ…はぁ」

 

あれから舞は半人半霊になってもらっている

この状態だと2人共力が半減するがだから何だという話

今勝てる者はいないので、関係無い

 

「これで最後…月を見ながら酒でも飲もう」

 

そう言って月を見た瞬間だった

舞も分かったらしい

 

「一難去ってまた一難、全く騒がしいねぇ」

 

「これ、霊夢ちゃんは分かるのかしら」

 

何を言っているか、それは月が偽物である事だ

満月は明明後日だ…何故今日満月なのだろうか

それに全く動かない、微動もしない

 

「今代の場合、紫に言われるのだろうな」

 

「あの子、面倒事は嫌いでダラダラしてますからねぇ」

 

あれから何回か博麗神社に行ったりしているが、箒を掃いているか寝ているかのどっちかだ

というかこれ以外の姿を見たことが無い

 

「あぁ…目が覚める」

 

「常に満月を再現ですか…」

 

「月、か…」

 

月はあまりいい思い出がない

ちょっと大きなクレーターを作った他ロクな事が無い

月面戦争なんて何時ぶりの単語だろうか

 

「懐かしいわねぇ」

 

「そうだな」

 

「無理やり貴方に連れ出された事は忘れないわ」

 

「あれは…その…な?」

 

「あはは、笑ってすむなら法律なんて要らないのですよ?」

 

「ハイ…」

 

まぁ月の民にトラウマを植え付けたのは間違いない

永琳の弟子さん達の熱い歓迎は面白った

面白いだけだったが

 

「んん…今回の異変は永琳達がやってんのかね…」

 

「恐らくそうじゃないかしら、姫さん思いなのねぇ」

 

永琳と会ったのは…竹取物語の時だ

月の民を皆殺しした後逃亡しているのを見つけた

無論の事戦闘になって軽くあしらった

その後は少し一緒に旅をして別れた、という感じだ

 

「んー、何か…月から通信でもあったのか…」

 

「それよりも外に出ない?」

 

「どうした」

 

「ちょっと歩きたいの」

 

「ten-four」

 

斬鬼は扉を開けて廊下に出る

 

「ちょっと開ける」

 

「分かりました、お気をつけて」

 

「心配しなくても大丈夫よ」

 

舞と斬鬼は外に出る

外は思いの他静かだった

 

「天狗の領域だからか…?」

 

「千里眼で見たところ白狼辺りが思考が獣化しそう…くらいね」

 

「何の問題も無いな」

 

聞くだけで問題の無いことだった

というか聞く必要すら無かった

 

「少し麓まで降りるかね」

 

「そうしましょう」

 

 

 

辺りは真っ暗だが、夜目は2人共きく

だからコケてしまったりすることはあまりない

 

「ん…霊夢と紫が博麗神社を出たな」

 

「紅魔館から咲夜ちゃんとレミリアちゃんも来ていますねぇ…」

 

「冥界からも来ている…今回はかなり大型な異変らしいな」

 

「当たり前でしょう?妖怪なら分かると思いますわ」

 

「こりゃ…慧音辺りが苦労しそうだな」

 

彼女は今頃人里を歴史から食べている頃だろう

ハクタクのハーフで村から追い出されていたのをスカウトした

彼女も人間との共存を望んでいたのだろう、喜んで引き受けた

なぜ満月が続くと彼女が困るかと言えば疲れるからである

満月の日にのみ半獣となるが、それが疲れるらしい

 

「この異変が終わったら労わってやるか…」

 

「お酒の用意でもしておきましょうか」

 

「そうだな…そろそろ帰るか」

 

そうやって、足元を見ていなかった

だからそこの土蜘蛛が作った穴に…気付かなかった

 

「あ」

 

「あら」

 

瞬間舞は人魂になり、自由落下する斬鬼について行く

斬鬼は空中で腕を組んだ

 

 

 

 

 

「こりゃあ…帰るのが遅くなりそうだ」

 

 



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下の世界、無法地帯
under world


自由落下する事5分、ようやく大きな穴についた

そこから落ちる事に変わりは無い

というか落ちる事以外にやることが無い

 

「不注意は厳禁、だな」

 

ごもっともな言葉を吐きながら斬鬼は思う

恐らくこの穴は地底に通じている

個人的に地底を探索してみたいというのもあるので来たかった

それが思わぬ形で実現したと言う事だろう

 

「まぁ、何が起ころうが俺の知ったこっちゃない」

 

不可侵がどうのこうのなんて知らん

非難されようが「落ちただけ」で済む

 

「もう光が届かないか」

 

その代わりに下から仄かな光が見えてきた

個人的には行きたいが、種族的に行きたくなかった場所

 

「蜘蛛の巣が多いな」

 

大きな穴の至る所に張り巡らされている

これなら獲物が確実に引っかかるだろう

それらを切り裂きながら下へ落ちる

 

「よっと」

 

着地する

ヒーロー着地は足を痛めるから止めておこうな

立ち上がり、辺りを見渡す

見えたのは細い洞穴と白骨化した人間だった

 

「へん、食われたか?それとも諦めたか?」

 

少し自嘲気味に言いながら頭蓋に手を伸ばす

それは白骨化したにしては新しすぎた

 

「なるほど、食われたか」

 

「こりゃこりゃ、人のもんにさわるんじゃないよ」

 

「誰だ」

 

斬鬼は柄に手を掛けて構える

 

「待った!敵じゃない!」

 

「…土蜘蛛か」

 

現れたのは茶色の女

服が茶色と黄色のボタンで出来ている

奇天烈なスカートだ…穴が空いている

 

「そうさね」

 

「そうかい、じゃあ、俺は先に行くから」

 

斬鬼は手を振るとそのまま歩き出す

彼女に言う事は特に無い、今のところは

それは土蜘蛛も同じようだった

 

「そうかい、わたしゃ黒谷ヤマメよ」

 

「覚えといてやるよ」

 

「この先友人が居るけど、気にしないでやっておくれ」

 

「あいよ」

 

どんな友人なのかは聞かないでおこう

実際にあった方が面白そうだ

そう思いながら道を進む

少し暗い、明かりをつけよう

 

「…灯れ」

 

手のひらに拳程の火の玉が出来る

それで暖をとるように人魂が寄る

 

「んん、この先は広そうだな」

 

風がひゅぅーと吹いている

これは大きな空間か…それとも外に繋がっているのか…

兎も角早く確認してみよう

 

「おお…」

 

出迎えたのは巨大な空間

立っている場所から下は川が流れている

そして向こう岸とこちらを渡れるように赤い橋が掛かっていた

十分見えるので火を消す

 

「ん、誰だお前さんは」

 

「そう言う貴方こそ誰よ」

 

「俺はざん…佐々木、ジョニー・佐々木だ」

 

「ジョニー?変な名前ね」

 

その女はずっと嘲笑している

緑の深い目が斬鬼に向けられる

 

「よく言われるさ」

 

「…そう」

 

「何をしているのだ」

 

「特に、橋姫だから」

 

「なるほどな」

 

橋姫ならここに居ることも納得だ

 

橋姫とは元は橋の守護神みたいなものだったようだ

 

この橋を渡る時に女や他の神の事を話したり、名前は忘れたが歌を歌ったりすると恐ろしい目にあうらしい

 

ただ、今では神ということは忘れられ嫉妬だけが残ったようだ

ここは嫌われ者達のたまり場だから納得出来る

 

「そう、じゃあさっさと帰るのね」

 

「あっそう」

 

斬鬼はするりとソイツの横を抜けて歩く

まさか前進するとは思っていなかったのか驚いて声を掛ける

 

「ちょっと!?話を聞いて…!?」

 

「あぁ、名前だけ聞いておこう」

 

彼女は止めることは無理と判断したのか名前を告げる

 

「…水橋パルシィよ」

 

「uh-huh、今度からパルって呼んでやるよ」

 

「ちょっと!何でアンタがそれを…」

 

言い切る前に彼はそこを後にした

残るのはヒューヒューと吹くかぜだ

 

「あぁ!妬ましい!こんな気持ちを抱く自分が妬ましい!」

 

何故だが、彼との会話が心地よかった事が、妬ましい

 

 

 

 

 

「…ここか」

 

見えたのは大きな都

ポツポツと明かりが灯っており、煙が煙突から吹かれている

確か河童もここに居るのだったか?聞く話によれば

大概がミサイルとかIRBMとか作った奴だ、アホか?

 

「…」

 

斬鬼はパッと葉巻に火を付ける

これからどうやってここを通るか考えているのだ

 

「此処を通ったらどうしましょうか」

 

舞が人魂から半人に成る

 

「…ふぅ、さぁな?確かさとり妖怪の屋敷があるとか…」

 

「面白そうですね」

 

「飛んでゆこうか」

 

「そうしましょう」

 

舞は人魂に戻る

斬鬼は空を飛んだ

見下ろす町は暗く、そこらかしこから罵声が飛んでいた

多分鬼とかが喧嘩をしているか酔っているかのどっちかだろう

 

「…っが!?」

 

油断していた

破裂音が大量に響く

オレンジ色の線が続けざまに飛んでくる

 

「対空砲火かよっ!?」

 

斬鬼は爆発を避けながら千里眼を使い、確認する

河童達が鬼の形相でこちらに撃ってきている

その武器は所々違うが、固まっている

 

ある所は五式十五と九五式三連装機銃の旧日本軍

 

ある所はM3 3インチとブローニングのアメリカ

 

ある所は8.8cmとMg42の旧ドイツ

 

「お前らは地上と戦争でもする気か!?」

 

たった1人

たった1人の斬鬼を落とす為だけにこれだけの弾幕だ

何とか落ちないように飛行する

 

「…!ミサイル!?」

 

さらに飛んできたのは筒状で先端が尖った、火を吹く物体

先端には大量の爆薬が入っていることだろう

 

「しかもスティンガーか!」

 

千里眼で打ち手を見たところ持っている物はスティンガーその物だ

だがしかし、そのスティンガーは…

 

「旧式みたいだな、フレア」

 

両手から光る玉をポンポンと何個か発射する

ミサイルはそれを標的と誤認してそれに突っ込む

 

「よし!彼処を越えればっ!」

 

斬鬼はスピードに身を任せて飛んでゆく

それには対空砲火は追いつけなかったようだ

効果範囲外に行ったのか、対空砲火はもうされなかった

 

 




プリスキンも良かった


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無意識少女

「敵襲ー!敵襲ー!」

 

「弾倉は入れてあるか!」

 

「何時でも撃てる!」

 

「…何が起こっているんだ?」

 

星熊勇儀はパルシィに尋ねた

彼女は斬鬼と別れた後、多分彼を追ったのだろう

だがしかしそこに彼はいなかった為、ここに来た

 

「さぁ?地上の阿呆が飛んでるんじゃないの?」

 

「そりゃ…人目見ておきたいねぇ」

 

そう思い勇儀は上を見る

そこには悠々と飛んでいる白い何かが居た

 

「んんー?」

 

よく目を凝らす

それは懐かしい天狗装束に身を包んでいた、白狼の

だがそれは少し違っていた

肩と腰にある鎧、普通の白狼と違う耳と尻尾

燃え上がるような模様が描かれた袴

 

…何より模様より燃え上がる瞳と眼帯

 

それは昔恋焦がれた存在の情報と死ぬ程似ていた

 

「…なぁ、お前誰かと会わなかったか?」

 

「え?会ったわよ…変な名前の」

 

「なんという名前?」

 

「ジョニー・佐々木よ」

 

「…変な名前だな」

 

外国人なのか日本人なのかコレが分からない

まぁ、会えば分かるだろう

 

「あれを撃ち落とせ!」

 

「スティンガーを発射するぞ!」

 

河童は緑の筒を担ぎ、撃つ

それがソイツにに向かって飛んでゆく

やつは光る玉を発射する

 

「くそ!フレアか!」

 

ミサイルは明後日の方向へと飛んでゆく

その隙を図ってか、急にスピードを上げてゆく

 

「追っかけろ!」

 

「あの立ち振る舞いは…やっぱり斬鬼か?それとも舞か?」

 

それが勇儀の中で混ざり合う

もしかしたら勘違いで馬鹿を斬鬼に見立てているかもしれない

しかし、あれの放つ雰囲気は…

 

「まぁいいさ」

 

「まだ飲むの?」

 

「これじゃ足りないさ!」

 

そう言ってまた盃を傾ける

そこに迷いなど微塵も無かった

 

 

対空砲火を潜り抜けたのち、斬鬼は着地した

ここは都からは離れている

河童達の追撃が無い限り安心だ

…ミサイルの射程圏内ってどれくらいだったか?

 

「やはり旧地獄、怨霊はいるよな」

 

凄まじい顔をした怨霊

あるものは怨嗟に顔を歪め、あるものは哀しさに顔を歪める

どいつもこいつもこうなった後に後悔したヤツらだ

 

「…お前らとは違う」

 

斬鬼は知らずのうちにそれを呟いていた

言葉は無意識のうちに放たれていた

何かの音が聞こえ、斬鬼は顔を上げる

そこには大きな船が浮いていた

帆船だ、白い帆がたなびいている…旗は無いようだ

艦底には誇りとも呼べるフジツボが全く付いていない

空を飛ぶ船など見た事は…あるな

 

「懐かしい雰囲気だ」

 

斬鬼は思い出した

この法力は、彼のものだ

 

「お前さんの力は衰えないのか」

 

"アイツ"は…もう死んでいる

面白い奴だった、人間で、妖怪と共存を望むなんて

 

 

 

 

面白い、奴だった

 

「…」

 

斬鬼はそれから目を逸らし、館の方向へと向かう

傍には人魂状態の舞が付いてきてくれている

だが、斬鬼は今更気づいたのだ

 

…肩に何か乗っている

 

「…誰だ、お前さん」

 

「…?私?」

 

「お前以外に誰がいる」

 

斬鬼はいつの間にか肩車をしていた少女に目を向ける

最初に見えたのはパルシィよりも深い緑の目

その姿はスカートは緑で、服は黄色

ボタンの所は宝石のような物がついている

特徴的なのは…目が浮遊していて、コードが彼女に入っている事

 

何より。その目が閉じている事

 

「何だ…さとり妖怪のくせ心が読めないのか…」

 

「読めないよ?みーんな考えてる事汚いもん」

 

「はん、違いねぇ…」

 

「でも…お兄さんも同じだよ」

 

「…何がだ」

 

斬鬼は少し威圧を込めて彼女を見る

しかし彼女はそんな事も気にせずに話を続ける

 

「貴方は皆キレイでいて欲しいのでしょ?」

 

「そんな…こと」

 

「貴方は無意識にそう考えているもの」

 

「…違う」

 

斬鬼は否定した

それに彼女は驚いたようだ

 

「ん…そう、違うの…でもね、私は思うの」

 

「…」

 

「何もかも後伸ばしにしちゃあダメ、分かるでしょ?」

 

「…言われずとも、だ」

 

斬鬼は肩に乗る少女に聞く

その気配が人一倍薄い彼女に対して

 

「俺は紅白斬鬼、お前は?」

 

「私?私は古明地こいし!こいしってよんで!」

 

「じゃあこいし、お前さんの家に連れて行ってくれ」

 

「うん!」

 

彼女はニッコリ笑うと斬鬼の手を引っ張る

それは女の子とは思えない力だったが、気にしてられない

ふと斬鬼は彼女に向けて言葉を発する

 

「…お前、どこかで会ったか?」

 

「…私は、あった事ないと思うけどなぁ」

 

「気配が似ているんだよ」

 

「お姉ちゃんかも?私、姉が居るの!」

 

「俺もな、妻がいるんだよ」

 

「本当?」

 

「あぁ、驚くなよ?」

 

人魂が斬鬼の半身を借り、実体化する

その様子を見て、最初は驚いていたものの直ぐに好奇心に変わった

あれだけ深い緑がキラキラするというのも、なんだが

 

「んんー、肩が重い…」

 

「うわー!凄い!おねえさんはなんて言うお名前?」

 

「私は紅白舞、こんにちはこいしちゃん」

 

「よろしく!舞お姉さん!」

 

「さて、案内を続けて貰おうか」

 

「私は屋敷から出るまで実体化しておきましょう」

 

「そうしよう、いちいちの手間が増えるからな」

 

斬鬼と舞はそう話し合う

こいしは鼻歌を歌いながら歩き続ける

それはすこしフラフラとしたようなおぼつかないものだった

だがしかし、決して迷っている訳では無かった

彼女の能力は、そういうものなのだから…



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さとり

「…」

 

地霊殿の主である古明地さとり

彼女は椅子に腰掛けて本を読んでいた

読んでいるのは地上についての本

時折下に落ちてくる本を読んでいるのだ

…少し昔の物なのが残念だが

 

派手な建物だな、こいしがこれなら姉は…

 

「…?」

 

いきなり声が聞こえる

と言っても心の声だから直接聞こえる訳では無い

今こいし、と言ったので多分案内されたのだろう

さとりはエントランスへ移動する

 

「ただいまー!」

 

「おかえり、こいし」

 

…こいつがこいしの姉か

 

声がした方に目を向ける

外で言う白狼の天狗装束に少し工夫がされている

そして、横に立つ女

 

あら、こんにちは…こちらは内の旦那です

 

「…こんにちは、仲が良いようで」

 

「よろしく、ジョニー・佐々木だ」

 

「…」

 

そういう彼の心は笑っている

さとり妖怪だからどうせバレるというのも分かっているようだ

 

「…鬼には直ぐにバレますよ」

 

「会わなきゃいいのさ」

 

斬鬼は軽く首を振った

…多分会うことになるだろうけど

 

「ここは観光名所ではありませんよ?」

 

「失礼、ただ見たいという気持ちだけで来たんでね」

 

「それはまた…まぁいいですよ、一晩なら泊めてあげます」

 

「そりゃありがたい、舞もそれでいいか」

 

舞はこくりと頷く

 

「大丈夫ですよ、逆にすみませんね」

 

「こいしを連れて来た礼ですから」

 

さとりは表情を変えること無く振り返る

そこには丁度黒猫が座っていた

 

「お燐」

 

にゃーとその猫が返事をする

猫はさとりの足元に寄ってくる

 

「猫又ねぇ、ここはペットが多いのね」

 

「そうですよ、他にも結構な数のペットは居ます」

 

「…そいつが案内するのか?」

 

にゃーと返事をする猫

 

「おー、頑張り給えよ」

 

「それでは、私は部屋に戻りますので」

 

そう言ってさとりはどこかに行く

恐らく自分の部屋に入っていっているのだろう

 

「さぁ、猫ちゃん…もといお燐ちゃん、案内よろしくね」

 

にゃんと猫は言い、走る

そして見失わない辺りで立ち止まる

 

「ついて来いってこった、行こう」

 

「はぁーい」

 

舞と斬鬼は階段の先に居る猫を追いかける

あの猫はこちらが追いついた時にまた走り出す

そして、何分か歩いた後、扉の前で止まる

にゃーんと声を上げた

 

「ここね」

 

「失礼…っと」

 

ガチャりとドアを開けて中に入る

中は比較的広く、棚などが置いてある

 

「…要らん配慮を」

 

「まぁまぁ、たまたまと言うことも」

 

見ての通り…シングルベッドだ

つまり寝る時には舞と一緒に入るということで…

 

「…人魂に」

 

「嫌です」

 

知ってた

舞の場合絶対にこういう事を言う

 

「…まぁいいか」

 

斬鬼はベッド周りを確認する

そして、この場所にあってはならない物を丸机の上に見つけた

 

黒光りする銃身

 

四角い何かから見えるのは黄金色の筒

 

L字のそれは外で言う銃というものだった

黄金色の筒は弾丸、それが入っているのはマガジン

斬鬼はそれを拾い上げてスライドを引く…マガジンは入っていた

排莢部分から見える黄金色、それは初弾が装填された事を意味する

そのスライドには「mk23-SOCOM」の文字が彫られていた

 

「SOCOMか」

 

「珍しいですね、アメリカの特殊部隊が使うハンドガンがあるとは」

 

「要らんな」

 

斬鬼はポイとそれを投げ捨てる

それはポータルに入り、何処か時空の狭間へと消えて行った

 

「良かったですの?」

 

「悪い影響は無い、悪い影響はな」

 

良い影響はあるだろう

…あちらの人に対しては、な

 

「にしてもキレイな部屋だ、もう少し埃があると思ったんだが」

 

「毎日キレイにしているのでしょう?」

 

「恐らく、な…それとも最近来客が居たか?」

 

斬鬼は意味ありげにこちらを見ながら言った

舞は笑う

 

「あははは、面白そうな人ですね、銃を忘れるなんて」

 

「余程切羽詰まっていたんだろうな」

 

じゃないと護身用の銃を置いていくものか

斬鬼はそう考えてそれを終わらせる

 

…コンコン

 

「?はぁーい」

 

舞が叩かれた扉に近寄り、ドアを開ける

そこには赤髪の女の子が居た

その目も真紅に染まっている

 

「おねーさん達、夕食だよ」

 

「ああ…さっきの…舞、食いすぎるなよ」

 

「流石に控えますよ」

 

「そうか、じゃあお燐、よろしく」

 

「はいはい、こっちだよ」

 

この女の子はお燐に間違いない

先程の猫と同じような尻尾がある

その他に目の色が同じというものある

 

「人間に成れるんだな」

 

「怨霊を何匹も食ったからね、火車なんだよ、私は」

 

「死体を持ち去る、ねぇ」

 

供養する人間からしたら憤怒ものである

まぁ現代社会ではそんな現象はありえ…ありえる?

知らんがな

 

「ここさ、どうぞ」

 

「失礼しまーす」

 

「じゃまする」

 

中は紅魔館の目に優しいバージョンだ

長机の端に等間隔に椅子が置かれている

そして誕生日席にはさとりが座っていた

 

「私の定位置はここですよ?そんなに意外ですか?」

 

「いや、そうでも無い」

 

「それよりも早くたべましょう?」

 

この妖怪腹ぺこ虫かなんなのだろうか

 

「お兄さん人気だね」

 

いつの間にか、こいしが席に座っていた

これも彼女の能力か?

 

「…」

 

「あの席ですか?ペットなのですけど、少し仕事が遅れているらしいですね」

 

食事はあるのに誰もいない

お燐はその横の席に座っているようだ

それはさておき、手を合わす

 

「「「「「頂きます」」」」」

 

その日の夕飯は、洋食だった




SOCOMはある人が使っていた物です


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地獄鴉

「ここのは美味しいな」

 

「そういってもらえると、ペット達も嬉しいでしょう」

 

さとりは嬉しそうに言った

少し地霊殿の中を見ていこう

 

「そうですか、では…お燐!」

 

「はーい、何でしょうか」

 

お燐がぱっと近づいてくる

舞は退屈そうに欠伸をしていた

 

「んー…案内してもらいましょうか」

 

「そうだなぁ…あ!そうだ!」

 

「面白い所があるのか?」

 

お燐は嬉しそうに頷く

 

「友人の職場を見せてあげる!」

 

「友人…さっき居なかった?」

 

斬鬼は先程来ていなかった人の事を聞く

 

「そうだよ、多分今来ているんじゃないかなあ?」

 

「まぁ、行ってみましょう」

 

舞はそう言って急かす

お燐はニッコリ笑って先導する

 

「さ、こっちだよ!」

 

「面白そうな物がありそうだ」

 

「行ってらっしゃい、私は本でも読んでますよ」

 

 

しばらく廊下を歩いていると、雰囲気が変わる

開閉式の窓が壁や地面に貼られている

それから見えるのは赤いマグマだった

 

「なるほど?地熱を利用しているのか」

 

「正解!これで地霊殿の温度を調節するんだ」

 

そう言っていると窓が独りでに開く

斬鬼は熱気に顔を顰めながらそいつを見る

彼女は白い服を来ていて、スカートは緑

背中からは黒い羽が生えている

 

「あ、お燐。仕事終わったよ」

 

「お疲れ様!この人達は来客だよ!」

 

「妖怪かぁ…人間よりかは信じられるかなぁ…」

 

少し睨みながら言う彼女

人間よりかは信じられるって…どういう事だろうか

 

「まぁいいか、私は霊烏路空、皆からお空って呼ばれてるよ!」

 

「俺は紅白斬鬼…んで、こっちが」

 

「妻の紅白舞です、よろしくね?お空ちゃん」

 

「よろしく!」

 

先程の睨みは何処に行ったのだろうか

にこやかにお空は握手をする

 

「私お腹ペコペコなの」

 

「食堂に用意してあるよ!」

 

「ありがとうお燐!食べてくるね!」

 

そう言って彼女は食堂に行ってしまった

あれはかなり美味しいから仕事終わりには格別なのではなかろうか

しかもアイスついているし

 

「地霊殿は他に面白いのは…ないかな!」

 

「そうか…じゃあ帰ると伝えてくれ」

 

「借りた部屋、使わなくてごめんなさいね、キレイにしていたのに」

 

「え?キレイに何てしてませんけど?」

 

「…そうか」

 

斬鬼は違和感を感じた

見る限り働いているのはお空とお燐の2人だろう

お空は地熱の仕事があって掃除は除外

つまりお燐がやったことになるのだが…

 

もしかして…

 

あの時別の次元に行ったとか…

 

「まさかな」

 

「ほら帰りましょう?」

 

首を振る斬鬼に舞は言う

彼は力無く笑う

 

「そうだな、帰るか」

 

そう言って、エントランスに向かった

 

 

「…あら?いつの間に手を繋いでいたの?」

 

舞はいつの間にか手を繋いでいたこいしに聞く

彼女は笑いながら言う

 

「舞お姉ちゃんが食堂から出た時だよ!」

 

「あらやだ、気づかなかったわ…凄いわねー」

 

舞はニコニコ笑い、こいしの腋に手を当てる

こいしは何をされているのか分からない表情だ

 

「そんな子はこうだぞぉー」

 

「わぁー!高い高ぁーい!」

 

きゃっきゃっと騒ぐこいしを楽しそうに上げる

斬鬼はその光景を暖かい目で見ていた

 

「楽しそうだな」

 

「ええ、よくやりましたもの」

 

舞はこいしを地面に下ろす

降ろされた後もきゃっきゃっと騒いでいる

 

「たーのしー!」

 

「なんだこのフレンズ」

 

舞「スッゴーイ!君は無意識なフレンズなんだね!」

 

「はよう帰ろう」

 

「そうですね」

 

斬鬼と舞は玄関の戸を開ける

 

「じゃあねー!バイバイ!」

 

「オタッシャデー!」

 

「また会えるかね」

 

そう言って、2人は外にでた

 

 

地底は相も変わらず変わらない

まぁ1日でどうにかなるかと言われればそうだが

 

「さて、帰るか」

 

「術を掛けて都の中を通りましょう?」

 

斬鬼は舞の提案に腕を組む

 

「うーむ、確かに騒がしく無くなるからいいんだが…」

 

「何か問題でも?」

 

「バレたら…まぁ、勇儀か萃香辺り…鬼子母神が来るな」

 

萃香は博麗神社で酒でも飲んでいるだろう

ただし、勇儀は別だ。それと鬼子母神も

あいつらは顔を数回合わした事がある

その上鬼子母神は知り合いだ

何かで誤魔化してもバレてしまう

 

「まぁまぁ、私が術を掛けますから」

 

そう言って舞は斬鬼に抱きつく

彼女が体の中に入ってくる

これは彼女が斬鬼に術を掛ける、最も強い方法だ

取り込まれている訳ではない、断じて

 

「さて、行くか」

 

今の斬鬼は地底の妖怪のどれかだ

鬼なら少し不味いが、それ以外なら行ける

斬鬼は都に向けて歩き始める

 

 

 

 

 

…この時、確認すれば良かった

 

 

 

 

 

 

…己の額に角が生えている事に




お空はまだ神格化していません

彼女達がまだ来ていないのでね


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町は常にどんちゃん騒ぎだ

何かが常に飛び交い、声が絶えない(色んな意味で)

広場らしきところには先程の対空砲火をした対空砲が設置されている

ガラの悪い河童達が腰掛け、敵襲に備えていた

 

「…何ともまぁ」

 

凄まじいところだ

悪き者がかなり集まっているのでひでぇ事ひでぇ事…

誰かが殴られているなんて何回も見たし、喧嘩は当たり前だ

これは封印されて当たり前だろう

 

「こんな所にも店はあるんだな」

 

見ての通り居酒屋が多い

中から怒号が聞こえたり歓喜の声が聞こえる辺り、変わらない

そんな店以外にも普通に食事を取れる店はあるようだ

有名所らしい居酒屋には看板娘のような子が居た

 

「ここの酒は美味しいですよー!」

 

「おう、今日も飲ませてもらうぜ」

 

「あ!鬼瓦さん!いつもありがとうございます!」

 

鬼瓦という名前なのかあの鬼…

それは兎も角サァーッと見ていこう

因みにだが衣服類の店もちゃんとある

値段と品質はピンからキリまでだ

 

「…湯気」

 

ふと空を見上げる

煙突から湯気がもうもうと出ている

それは至る所に生えていた

恐らく、河童達が使う工場だろう

しかし違う物はあった

 

「いらっしゃい!暖かい温泉だよっー!」

 

温泉だ

地熱を利用してコチラは温泉を沸かしているのだ

かなりの有名所なようで人が絶えない

料金は平均の少し上、くらいだ

とはいえ一般ピーが払えない値段では無い

仕事終わりのちょっとした贅沢、くらいだ

 

「…」

 

何はともあれ汗をかいた訳では無いので入る必要は無い

というか入ったら寝てしまいそうだ、うん

お風呂の快楽というのはバカにならない

 

「色々あるもんだ」

 

日常で使う品物

 

家で使う家具

 

住む家

 

色々な店が道の両横に並んでいた

そして、何分か歩いた後あるものを見つけた

その場所は広場になっていて、宴会がひられているようだ

酒を求む声、喧嘩の怒号、笑い声

 

「…何処も変わらないな」

 

地上も同じようなものだ

酒を萃香とかが望んで、弾幕ごっこが起こって、笑って…

 

何処の宴会も変わらない

 

皆、気づいていない様だけれど

 

「…!」

 

そこで斬鬼は気づいた

誰が宴会を開いているか、という事に

 

「おらー!飲め飲めぇー!」

 

「お前達、根性が無いな」

 

星熊勇儀と鬼子母神

あの2人が宴会をひらいているようだった

幸いな事に、宴会を見るためか人の壁が出来ている

その後ろを行けばバレることは無いだろう

どうせ酔っているだろうし

 

そう思って斬鬼は歩き始める

ふと、酒を飲む音が止まった気がした

 

「…おい!そこの鬼!」

 

「…?」

 

最初は分からなかった

声の方向に向くと勇儀が降りてきていた

そのまま真っ直ぐこちらに向かって来る

 

…おい、マジかよ

 

「アンタじゃ、アンタ」

 

「…俺、か?」

 

斬鬼はわざとらしく辺りを見回す

辺りの人と1m位間が空いていた

 

「いやねぇ、懐かしい雰囲気を感じるんだよ」

 

「はぁ…気の所為では?」

 

「ほーん、額の角、消えているよ?」

 

思わず顔を顰める

額を触りたい衝動に駆られたが、鎌だ、これは

 

「何の冗談を、俺にはちゃんと生えている」

 

「その人魂は?」

 

「え…」

 

指指す方向に、浮く人魂

 

…つまり、術が解けている

 

斬鬼の顔が歪んでいく

 

「…コノヤロウ」

 

「へへ…よ、斬鬼」

 

「うーわ、最悪だわ…うーわっ」

 

「うーわっ本心…酒飲もか?」

 

鬼子母神がドン引きした様子で手を引っ張る

 

「止めろーシニタクナーイ、シニタクナーイ」

 

「死にゃしないよ」

 

半強制的に席に座らせる

斬鬼はグチグチと舞に向けて愚痴っていた

 

「おまえよぉ、ほんとによぉ」

 

「…斬鬼」

 

「何だ」

 

鬼子母神がにこやかに聞く

 

「最初に、言うことがあるじゃないか?」

 

「…」

 

「何を言うか、分かってるよな?…主に私に」

 

「…(プイッ)」

 

「(ビンタ)」

 

「(痛み)」

 

顔を逸らせば全力のビンタが飛んできた

思わず叫ぶ、痛い

あまり、こういう事は言いたくないタチなのだ

だが謝る他無いようだ

 

「…悪かったな」

 

「分かればよし!じゃあ」

 

「舞、よろしく」

 

謝った後何かをするとは言っていない

斬鬼はそうと言わんばかりに舞と魂を変える

 

「ほらーそういう事言うからそうなるんですよ…」

 

「よう、舞…悪かった、改善はしない」

 

「んんー、懐かしいねぇ」

 

「ま、舞の姐御だぁ…」

 

「ひゃ、ひゃあ…」

 

舞の登場に観客と参加者…主に鬼が後込む

何故かと言えば侮れば首が飛ぶからである

 

「まぁまぁ、私も優しくなったので首は飛ばしませんよ」

 

「残念そうだね」

 

「いえ?そうでもありませんよ」

 

おどけるように舞は言う

 

「やっぱ私ゃアンタが苦手だよ…」

 

鬼にとって、こうやって簡単に嘘をつく奴は嫌いだ

だかしかしそれがあっても一緒になりたくなるのが彼女だ

時におっちょこちょいなのが魅力を高くさせる

鬼達にも、妖怪達にも、人間達にも一定のファンがいる妖怪だった

 

「んふー、鬼にそう言わせたのは私が初めですかね」

 

「さとりは…どうだか」

 

「全く、斬鬼…早く出てこい」

 

「…変な事言うなよ」

 

斬鬼は半身を借りて現れる

夫婦が揃ったのを見て鬼子母神は口笛を吹く

 

「いいねぇ、在りし日の2人だね」

 

「これだね、やっぱり」

 

勇儀は楽しそうにそういった

この夫婦がそろうと、何故か嬉しくなるのだ

 

「何であそこで術を解くんだ…」

 

「だって、面白くないじゃないですか?ねぇ?」

 

「栗田艦隊しとけば良かった…」

 

斬鬼は溜息をついて、杯を傾ける

天狗は鬼の次に酒に強い

変に度数が高くなければ幾らでも行ける

 

「…はぁ、疲れるよ、本当に」

 

「そうだねぇ…あぁ!」

 

勇儀は何かを思いついたようだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気晴らしに戦おうじゃないか!」



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拳で

「…」

 

「そんな顔をするな」

 

斬鬼の今の顔と言えば腐った卵を食べたような顔だ

つまるところ酷い顔である

 

「鬼はどいつもこいつも…はぁ」

 

「アンタなら軽くいなせると聞いてワクワクしてたんだ!」

 

「いつまで」

 

「今日までずっとさ!」

 

これが恋愛ならどれ程良かっただろう

実際には血塗れの戦いをしようと提案されているのだ

 

「…うわ」

 

「そんな顔してやるな、斬鬼」

 

鬼子母神が慰めるように言う

斬鬼は首を振る

 

「嫌だね、疲れる」

 

「おうおう、逃げるきかー?」

 

その勇儀の言葉に辺りが反応する

 

「おいおい、伝説はこの程度か」

 

「やっぱり名ばかりだったか」

 

「…けっ」

 

辺りから嘲笑と失望の声があがる

斬鬼は俯いたままだ

 

「…はぁ」

 

斬鬼は顔をあげ、杯を呷る

そして立ち上がった

 

「やりゃいいんだろ、やりゃあ」

 

ヤケクソになった斬鬼はそういう

舞は励ます様に言う

 

「ほら、頑張って」

 

「はぁ…仕方ない、やってくる」

 

「チョロ」

 

「刀で斬られたいか?」

 

刀の刃を勇儀の首元に向ける

僅かに当たった首から血で一つ流れる

 

「…いいねぇ」

 

「さぁ、場所を変えようか?」

 

刀を仕舞い、葉巻を咥え、火を付ける

 

「そうさねぇ…この後ろでやろう」

 

そう言って勇儀は歩いていく

斬鬼は舞に大人しくしておくように言った

 

「まぁ、変な事はしませんよ」

 

上記の彼女の言葉以上に信じられないものはない

それが例え八雲紫であろうが、だ

 

 

 

 

 

宴会場の後ろは荒野になっていた

平坦で、変に凹凸もなくて…戦闘に適した場所

 

「さて」

 

斬鬼は刀を構える

二振りのうち一つは己の物では無い

それを理解しながら二つを構える

 

「待て」

 

鬼子母神が待てを掛けた

横には舞も居る

その後ろには観客の大群だ

 

「獲物を使うのは卑怯じゃないか?」

 

そうやって斬鬼の刀を指指す

斬鬼は嫌そうに言った

 

「鬼相手にそれはどうだ?」

 

「半霊の癖に何を言う」

 

「それもそうだな」

 

斬鬼は刀を仕舞う

そしてそれを抜き取り、舞に投げる

彼女はパシリと受け取った

 

「さて…」

 

斬鬼は拳を構える

殴り合いなど白狼の友人以来やっていない

 

「行くぞ!」

 

「来い」

 

正拳突きを与える

いつの間にか目の前に現れた勇儀の拳とぶつかる

それは凄まじい圧力を生み出し、砂埃を舞わせる

 

「…!」

 

砂埃が晴れ、2人を見た観客は絶句する

 

「へへ…良いねぇ」

 

「…ぐ…馬鹿みたいな力だな…それでも半人か?」

 

勇儀の腕から血が出ている

筋肉の筋に合わせて切れ目ができ、血が出る

 

「噂は…本当みたいだねっ…!」

 

「甘い甘い、来いよ!」

 

2人は後ろに引き、拳を構え直す

かなりのダメージを与えたが、流石は鬼、動じていない

 

「はっ」

 

斬鬼の拳が唸る

ぐおんと振られたそれは勇儀の腹に向かう

それを勇儀は腕で弾き、腹に拳を入れようとする

一旦後ろに飛び退いて走り出す

勇儀は構える、いつ殴られていいように

斬鬼は彼女の予想を裏切るかの様に跳躍する

 

「なっ」

 

「ふんっ!」

 

上からの拳の叩きつけ

それは軽く放射状のヒビを地面に作る

 

「いい反応神経だ」

 

斬鬼は拳を引っこ抜き、言う

勇儀は少し冷や汗をかく

 

「いやー、ちょっと危なかったよ」

 

「さぁ、続きだ」

 

斬鬼は飛びかかり、蹴りを発動する

それを左で防ぎアッパーを斬鬼に与えようとする

その前に勇儀から離れ、腹を殴る

 

肺の息が出ていく音

 

「ぐっはぁ!」

 

すかさず回し蹴りを顔面に正確に左右の足でする

それはクリーンヒットし、吹き飛ぶ

ずさぁ、と地面に倒れ込む勇儀

 

「諦めろ」

 

「…伝説は本当みたいだねぇ」

 

斬鬼は勇儀が満足したのを確認して手を伸ばそうとする

だが勇儀は手を借りずに起き上がる

 

「さて、私の渾身の三発をやるよ」

 

「…三歩必殺、だったか」

 

「知ってるようだね」

 

斬鬼は拳を構える

 

「来いよ、最後の一撃をこの正拳突き(聖拳「月」)で受けてやる」

 

「…いいねぇ、行くよ!」

 

勇儀がまず一歩踏み出す

ガッと地面に亀裂が入る

それが斬鬼を揺らすが、斬鬼はさほど気にしていない

 

「一」

 

「…」

 

目を瞑ったまま斬鬼は動かない

そして勇儀は2歩目を踏み出す

 

「二」

 

風圧がどんどん強くなっていく

砂埃を巻き上げ、観客の視界を狭める

それでもなお、斬鬼は動かなかった

 

そして…

 

 

 

 

 

 

 

「三ッ!」

 

「…!」

 

拳と拳がぶつかる

更に土埃が舞い上がり、何もかもが見えなくなる

地面にヒビが更に入って2人の場を窪地にさせる

そして、それが晴れる頃には

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ぐがっ」

 

「どうだ?」

 

右腕の動かなくなっている勇儀の姿を容易に見ることが出来た

腕の骨を粉々にされた勇儀は何処か嬉しそうだった

 

「へへ…ありがとう、斬鬼」

 

「こちらこそ、感覚を取り戻せた」

 

斬鬼は軽く礼を言った

拳での戦闘など、いつぶりだろうか

2人は先程の宴会の席へと戻り、座る

勝利の祝いとして斬鬼は葉巻を咥えて着火した

 

「…んんー、格別」

 

「いいね、酒をもっと持ってこーい!」

 

勇儀が盃を傾け、叫ぶ

「おおっー!」という叫びと共にわちゃわちゃと観客等が動き始める

その人望の厚さに斬鬼は感心していた

 

「ここは大天狗のような老害が居なくていいな…」

 

「上下社会ってのは色々面倒だからねぇ」

 

「処分はしたいが…如何せん口実が無い」

 

無能なので処理しますと言われてはいそうですかと答えるバカは居ない

いたら逆に残しておきたくなるだろう

 

「お前も頭てきな事してんだな」

 

「鬼痔津もか?」

 

鬼痔津とは彼女の名前だ

正式な名前は鬼痔津 狼破(きじつ ろうは)

何とも難しい名前だ

ただの鬼なら鬼子母神になる事はない

彼女が特別な鬼である事が原因だ

それは…

 

「まぁ…酒飲もう」

 

「そうだな」

 

赤い盃に酒を入れる

星熊盃では無いので美味くはならない

戦いの後の酒は格別だ

酒の成分が体に行き渡り、疲れが解れていく

 

「はぁー…疲れたな…帰ろう」

 

「お疲れだな、お前さん」

 

「お前のせいだ」

 

斬鬼はそう言って、立ち上がると地上目指して歩き出すのだった



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(異変が)終わったぁ!?マジでぇ!?

タイトルの通りです


斬鬼は穴の中を飛んでいた

すぐ横に舞も居る

穴の底は都の光とかがかろうじて入っていた

だが、半分位のところになると上からも下からも光は来ない

光っているのは斬鬼と舞の目だけだ

何分飛んだのだろう

 

ようやく、上から光が降ってきた

 

どうやら既に日が登っているようだ

なぜだか山が騒がしい気がした

何かの声が上から降ってくる

 

「見えたー!」

 

「斬鬼様が落ちてた!」

 

「あっ、ここかぁ!」

 

「…なんだ、お前さん達」

 

穴から出ると、天狗達に囲まれた

捕らえようという気持ちより心配という顔だ

 

「いえ!行方不明になったと女中さんから聞いたので!」

 

「いやー…ちょっと散歩してただけなんだよな…」

 

斬鬼は目を逸らしながらそういった

間違ってはいない

昂っていた気持ちを抑える為に散歩したのだ

…あそこにあった穴が悪い、全責任を穴に委託する

 

「いやー、迷惑掛けちゃったようですね」

 

「そうよ、舞」

 

文がふらりと降りてきた

 

「アンタも無茶するわね」

 

「喧嘩を吹っかけてきた鬼が悪い」

 

鬼、という単語を聞いて天狗達の顔が青くなる

どうやらその頃からいた哨戒天狗の様だ

斬鬼は安心させるように言う

 

「何、二回も占領はさせないさ」

 

「鬼に勝ったなら…」

 

「それは舞さんもいるぜ?こりゃ安泰だな」

 

天狗達の顔色が戻る

 

「それでは、不用事と言っておきます」

 

「あぁ、よろしく」

 

大天狗が何を言おうと「拳で」と言えば黙るだろう

いくら上下社会だろうと…寧ろ上下社会だからこそ

強い者が偉いのは必須な事だ

 

「さ、私達は帰りますかね」

 

「そうだな」

 

と、斬鬼はある気配を掴む

そしてそれを引っ張り出した

 

「出てこいクソッタレ」

 

「きゃあ!?」

 

紫が引き摺りだされる

彼女は嘘泣きをした

 

「よよよ…そんな酷い事…まって柄に手を掛けないで」

 

「黙れアホ、やはり貴様とは気が合わんな」

 

「…スキマ妖怪?」

 

そこに丁度椛が降り立つ

どうやら報告を聞いたらしい

 

「あ、ご無事でしたか?」

 

「鬼なんて楽勝さ…次の宴会辺りに勝手に来るだろう」

 

「あ、宴会と言えば今回の異変は…」

 

「終わったわ、彼女達の活躍よ」

 

紫は誇らしげに言った

斬鬼にとって、それはイライラする笑顔だった

宴会は今日中に行われるだろう

宴会に関しては此処は早いのだから

 

「今日中か?」

 

「そうよ…永遠亭っていうね」

 

「…永琳達か」

 

やはり彼女達の仕業だった様だ

これで確定だ

 

「動機は姫を守る為…ってか?」

 

「そうよ…何故知ってるの?」

 

紫は問いかけた

斬鬼は軽く笑う

 

「何、旧友さ」

 

「…ねぇ」

 

「おっとそれ以上は厳禁だ」

 

斬鬼は紫の唇に人差し指を乗せる

たったそれだけで紫は口を開けなくなった

 

 

 

 

 

 

 

 

だだ1つだけ、彼の別名を呟く

 

 

 

「…"(ウルフ)"」

 

「へへ、懐かしい名前だ…お前には言われたくないがな」

 

「嫌われたものですね」

 

「はっ…気に食わん事が多いもんだったんでな」

 

「…では」

 

そういうと紫は扇子で顔を隠し、スキマに消えていった

辺りは風が吹き、心地よい日になりそうだった

 

「…斬鬼さん?」

 

「ん?あぁ…すまない」

 

斬鬼はある事に気づいた

椛がかなりお疲れの様子なのだ

少し、猫背というか、やつれているというか

 

「…?疲れているのか?」

 

「…いえー、その、ストレス、というか」

 

聞く話によれば最近酒を飲めていないらしい

まぁ、何が言いたいのかというとストレス発散出来てない

それならそんなに窶れるわなと納得できる

 

「…あ」

 

斬鬼はあることを思いついた

そうだ、上司が部下を思いやるのは当たり前のことでは無いか

 

「椛も宴会に来たらどうだ?」

 

「え!?いやー…仕事が」

 

「でも、このままじゃあ仕事、続かないわよ?」

 

舞が不安を煽るように言う

斬鬼はさらに催促する

 

「天魔達には俺から言っておこう、何…問題ないさ」

 

「ありがとう…ございます」

 

椛は頭を下げる

 

「そうだな…日が暮れた辺りからあるらしいな…」

 

斬鬼は真上を見る

丁度真上に居た太陽の光が目を刺す

眩しさに目を細めた

 

「…よし、暮れたら行こう」

 

「わかりました」

 

そういうと椛は飛んで行った

自宅に帰って準備をしているのだろう

そんな気がした

 

「さて、私達も帰りましょうか」

 

「そうだな」

 

斬鬼と舞は自宅に向かった

まずは土の付いた服を着替える事をしなければならなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…斬鬼」

 

八雲紫は机の前に座っていた

机の上には紙と、筆と硯が置いてあった

ここであらゆる書類を処理する…大抵は藍に任せているけど

 

紫の前に一枚の紙があった

 

何かが書かれたそれの一番上の真ん中に、ある物が書いてあった

 

 

 

 

 

 

 

 

          "餓狼作戦"

 

 

その下にはサインの欄が2つある

 

1つには八雲紫の名前が書かれている

もう1つは、懐かしい友人の名前も書かれていた

 

だが、それを見る度に思い出す

 

 

 

 

 

 

 

『死ね!妖怪など全て死んでしまえばいい!』

 

 

『堕ちた巫女よ、せめてもの救いだ…俺が殺す』

 

 

『私は…』

 

 

『素晴らしい妖怪よ、貴方は…だから殺して』

 

 

『お前は…何故』

 

 

此処(幻想郷)に全てをつくした、貴方は?』

 

 

『じゃあな、最高で最悪な巫女』

 

 

『私は…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っ」

 

ズキンと痛みが走る

最初の頃は酷かったが、もう"この程度"だ

斬鬼は沢山の物を引き摺っている

 

 

…それをいつ、放り出すのか紫には分からなかった



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お久しぶり

「これくらい、かな?」

 

犬走椛は自宅で支度をしていた

彼女は宴会に出る為の支度をしていたのだ

天狗主催の宴会では何回も出席している

大体が途中抜けをして1人酒を楽しんでいるのだけれど

椛にとって酒とは1人か大切な人と飲むのが一番だ

…決して多人数で飲むのが嫌いな訳では無いけど

気分が高揚すれば多人数で飲みたくなる

落ち込んでいれば1人酒をしたくなる

当たり前な事だった

 

「服装はいつもので…いいよね」

 

天狗達で開催するのと、幻想郷の者達が集う宴会では色々違うのだろうか

そうだったら…という不安を抱えながら準備する

刀を持ち込んでいる方も居るらしいので大剣を担ぐ

 

…まぁ、白狼如きが大剣持っていても、意味無いだろうけど

 

椛は玄関へ歩いた

 

「?はーい」

 

コンコンとノックがされる

椛は戸を開いた

目の前に斬鬼と舞が居た

 

「よ、準備は終わったか」

 

「こんな感じで大丈夫でしょうか?」

 

「問題ないわ、さ…行きましょう」

 

そう言って舞が先に飛ぶ

その顔は食べ物が大量に食べれる嬉しさで染まっていた

 

「あのブラックホールが…」

 

「…斬鬼さんも人の事言えない気がする」

 

椛はポツリと呟く

斬鬼には聞こえなかったようだ

こちらに顔を向けて口を開く

 

「ともかく行こう、遅れちゃ面倒だからな」

 

「そうですね、わかりました」

 

椛と斬鬼は博麗神社に向かった

日は支度の間にとっくに沈んでいる

代わりに博麗神社が賑やかに輝いていた

また、弾幕ごっこをしているようだった

 

 

「とっ」

 

博麗神社の境内に着陸する

宴会をしていた一部の人がこちらを見て、食事に目を戻す

誰かは見ただけでわかったらしい

弾幕ごっこは既に終わった後だった

 

「うん、いつも通りだな」

 

「…天狗の宴会と変わりないですね」

 

酒や食べ物を食って、騒いで

それは何処も変わらないようだった

斬鬼は定位置の、幽々子や魔理沙達のいる強者揃いの席に向かう

そこのテーブルの角、そこがお気に入りだった

 

「あ、斬鬼さん」

 

「お!斬鬼じゃないか!」

 

異変解決に従事した(だろう)妖夢と魔理沙が顔を上げる

それに気づいて他の方も顔を上げた

藍やレミリア、その他諸々が居る

 

「あら、白狼の子も一緒なのね」

 

「いえ…休暇というか…その」

 

「何、休めと言っただけさ」

 

「いただきマース」

 

舞は座って食材にかぶりつく

挨拶も無しに行きやがった、こいつ

 

「お前の妻のこれは止まらんのか?」

 

藍が袖に手を通しながら問いかける

斬鬼はわざとらしく肩をすくめる

 

「さぁ?…無理だろ」

 

幽々子は既に沢山食べたのか扇子をパタパタとさせていた

その横で舞が狂った様に食べているのは中々シュールだ

…今回の食費もえげつない事になるだろうな

 

「さて…今回の主役はどこに…」

 

見渡すと、居た

こちらに歩み寄る銀髪と黒髪の女

それに追従するようにうさ耳の紫髪女もいる

…なんでJKの様な服装をしているんだ、あいつは

 

「こんにちは…紅白斬鬼?」

 

「久しぶりだな、八意永琳」

 

半分が赤、半分が青という奇抜な服装の銀髪女

彼女の名前は八意永琳、月の頭脳と呼ばれた者だ

 

「…んで、お前さんが」

 

「蓬莱山輝夜よ…久しぶりね、斬鬼」

 

男ならば即座に魅力される美貌を持つ黒髪女

彼女の名前は蓬莱山輝夜、月から追放された姫さん

輝夜姫という話にいる輝夜姫御本人だ

 

「…そいつは」

 

「私ですか?私は鈴仙・優曇華院・イナバ。うどんげと呼ばれています」

 

「長ったらしい」

 

斬鬼は思わず呟く

 

「ネーミングセンス皆無ね」

 

舞が食べながらポツリと呟いた

 

「あら?私のネーミングセンスが壊滅してるとでも?」

 

永琳が青筋を立てながら言う

舞は何処吹く風だ、全く気にしていない

食材は見る間に減っていく

 

「…旧友ですか?」

 

椛が問いかけた

斬鬼が頷く

 

「言うなれば腐れ縁だ」

 

「酷いわね」

 

「一緒に旅した仲じゃない」

 

「…旅?」

 

妖夢が頭を傾げる

 

「迷いの竹林にたどり着くまでさ」

 

「んー、面白そうね」

 

幽々子が笑顔で言った

それに賛同するように魔理沙が言う

頬が赤く染っていた

彼女の年齢は幾つだったのだろう

その横で霊夢は酔いつぶれていた

 

「ほーん…斬鬼の昔話ねぇ…」

 

「面白そうだ!酒のツマミとして聞かせてくれよ!」

 

「…」

 

斬鬼は軽く席に腰掛ける

そして徳利から杯に酒を入れた

 

「んんー、どうしようか」

 

「ほら、勿体ぶらずに言いなさ」

 

「黙れスキマ」

 

斬鬼の横に現れた紫が問答無用で殴られ戻される

そして彼は何事もなかったように話を続ける

 

「面白い事はないぞ?それでもか?」

 

「会った時からにしましょう?」

 

「…それもそうだな」

 

「斬鬼さんの昔話…ワクワクします!」

 

椛が楽しそうに言った

他の連中もそう思っているようだ

斬鬼の昔の事なんて、あまり知られていないから

 

「楽しいものでは無いがな…」

 

「初めて会った時は…あの時でしたっけ」

 

「あれだな、まだ地上にお前たちがいた頃だな」

 

斬鬼は目を瞑る

そして記憶を掘り返していく

彼女達と出会ったあの日の事を

 

 

 



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人間と天狗と月の人
出会い


斬鬼と永琳が出会ったのはかなり昔だった

それこそ月の民が地球にいた頃の話だ

 

「…」

 

妖怪の山にあるとある場所

そこの岩場のてっぺんから斬鬼は地上を見下ろしていた

 

いや、見下していたの方が正しい

 

妖怪共が人間(?)の基地に攻め込んでいた

そこの奴らは光の光線…今で言うビームで妖怪を焼き払っていた

今日も人間達が勝ったようだが、次はどうなるだろうか?

 

「今日も人間達の圧勝ね」

 

妻の声が聞こえた

斬鬼は顔を下に向けたまま声を出す

 

「恐らく突破されるな、いつかは」

 

「そのいつかは、分からないのね」

 

「未来が見える訳じゃない」

 

「ふーん」

 

舞は斬鬼の後ろに立って腕を絡ませる

彼女の豊かな胸が柔らかく形を変える

息が耳元に熱くかかった

 

「本当に?」

 

「予測くらいしか無理さ」

 

斬鬼はそう言って背を伸ばす

それを邪魔しないように舞は手を緩めた

 

「…おい」

 

「何かしら」

 

「その、離れてくれないか」

 

「ん?何か言いました?」

 

緩まれた手はまた絡まっていく

 

「あの」

 

「…ん」

 

強制的に振り向かせて、斬鬼の唇を塞ぐ

何秒かそれを維持した後離れる

 

「…仕事中」

 

「関係ないです」

 

「2人とも仕事しろっ」

 

声の方向に顔を向けると文が仁王立ちしていた

斬鬼と舞は体を離す

 

「こんの…仕事中にイチャイチャしやがって」

 

「嫁が可愛すぎるのが悪い」

 

「拒否しない旦那が悪い」

 

責任を押し付け合う2人

だが、そこに嫌悪感などなかった

文は深いため息をつき、手を腰に当てる

 

「仕事が増えてる、手伝いなさい」

 

「あいよ…」

 

斬鬼は歩き出した

大体何の仕事が増えたか分かっている

 

…ビームが山に直撃したのは、見ていたし

 

 

 

 

斬鬼は里を歩いていた

そこには人間と天狗が居た

 

「へぇ、今日は野菜が沢山収穫出来たのか?」

 

「ええ、これで天狗様に献上出来ます」

 

「いつも通りの量で十分だ」

 

「それでー、うちの旦那が」

 

「そうなの!天狗も人間も変わらないわね」

 

楽しそうに会話する両者

この関係が続けばいいのに

 

「斬鬼様」

 

「被害は?」

 

女中が突然現れる

彼女の能力故、分からなかったのだ

聞いたのは先程のビームの被害だ

 

「山の斜面が削られたくらいです」

 

「ふーん…」

 

斬鬼は考えた

このまま報復として攻撃するのか、謝らせるか

 

前者は完全にネガティブだ

 

後者は…謝る気がしない

 

攻めたのはお前らだろで終わる気がする

強引に謝らせるしか無さそうに感じる

 

「…総員警戒態勢」

 

「了解しました」

 

女中が消えた瞬間、大きな音が響き渡る

実権は現天魔と同じくらいだ、上の命令が矛盾し合う事は少ない…俺達は

大きな音の正体は巻貝で出来た笛の音だ

因みに戦闘配置は大鐘の音だ

 

「さて、ヤッコさんはどう出てくるかね」

 

「恐らく、思案中じゃないか?」

 

大天狗の白狼が現れ、言う

斬鬼は青年に賛同するように言う

 

「千里眼で見てるが…慌ててるな、ヤッコさん」

 

慌てて…鉄の筒の様な物を構えている

情報はある程度把握している、あれは銃だ

ビームを連射するビームガン

妖怪を消し炭にした大砲の配置が終わった

 

こちらも同様だ

 

得物を急いで担ぎ、櫓などで弓を構える

鴉天狗が上空に配置を完了、白狼も茂みに潜む

河童達は水圧カッターなるものを構えている

 

緊張がこの場を支配する

 

「…思案中だな」

 

おエライ方が話し合っているらしい

こちらは大天狗がどーのこーの言っているか隠れているかだ

それに比べ人間達は真剣に話し合っているようだった

 

…人間?

 

それはさておき

斬鬼は相手の回答を待つ

 

「…誰か来るぞ」

 

青年は太刀を2本構える

2つとも太く、短い

接近戦を得意とするのがこの白狼大天狗だ

斬鬼の様に術が得意な訳ではなく、剣術でそれを凌駕する

 

斬鬼には適わないけど

 

「…誰だ」

 

目の前に現れたのは赤と青の奇抜な服装の女

その後ろに護衛らしき人間が銃を持っている

 

「わざわざ俺たちの前に現れて、何用だ」

 

「いえ、今回の事の謝罪よ」

 

「…成程、そう来たか」

 

どうやら先程の後者で来たようだ

それにしてはかなりの護衛だな

 

「んで、どう落とし前を付けるよ」

 

斬鬼は測るような目つきで彼女を見る

それは舐めるような目付きだった

決して卑猥な目つきではなかった

彼女の呼吸、手癖、目の動き

 

嘘をついていれば大体分かる

 

彼女が口を開いた

 

「どうすればいいかしら?」

 

「…」

 

質問を質問で返してきやがった

斬鬼は心の中で悪態をつきながら関心する

人間であろうとそういう軽口を叩けるのだから

だから斬鬼も彼女達を試すことにした

 

「じゃあ人手を貰おう、建築が得意な奴を寄越せ」

 

「あら?自分から弱点を晒すのかしら」

 

「全力でぶつかり合って、生き残れるか?」

 

答えは沈黙

そりゃそうだ

妖怪の山を相手とするなら、必ず"神風部隊"が立ちはだかる

様々な種族が集まり、完全な実力主義を唱える部隊

人間でも、強ければ入隊出来る戦士にとってのOuter heaven(天国の外)

ここに入れば毎日が何かと忙しくなる

 

平和の時に仕事が無い兵士からすれば、有難い

 

ここの隊員は強い

鬼でさえ手こずる程の力量をほぼ全員が持っている

幹部はそれの上を行く、神殺しなんて出来るのだ

 

「…分かったわ」

 

「飲み込みが早くて助かる、俺は紅白斬鬼だ」

 

「私は八意永琳、あそこの頭脳と言われているわ」

 

これが永琳との出会いだった



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地球最後の基地

 

「ほらそこ!休まない!働け!」

 

白狼大天狗の青年が指示を出す

ビームで削られた箇所を土で埋め、上から踏みしめる

そのしっかりとなった大地の上に櫓など作成し始める

 

「そこにそんなふうに置け!」

 

「こうですか?」

 

「違う!」

 

青年が叫ぶ

人間側から送られてきた者達の能力はまちまちだった

物を移動させたり、浮かせたり、力が強かったり

かなーりアレだが役に立たない訳では無い

 

「ここだ、ここ」

 

「あ、ありがとうございます先輩!」

 

「おい斬鬼」

 

「なんだ」

 

文が斬鬼に声を掛ける

 

「これでいいのか?」

 

「いいさ、人質みたいなものだ」

 

「…そう」

 

「お前は任務を優先したらどうだ?」

 

「休憩よ」

 

そう言うと文は飛び立っていく

ちらりと見えた顔は赤面していた

どうやら忘れていたらしい、可愛いヤツめ

 

「見る間に作られていくな」

 

動画が早送りされる様に建築されていく

どうやら時を操る能力者が居たようだった

斬鬼は銀の時計を持つそいつに声を掛ける

 

「よぉ、面白そうな能力を持っているな」

 

「こいつか?そうでもないな」

 

時計を投げた…と思った時には懐中時計は着地していた

今度はコインの様に指で時計を弄ぶ

 

「名前を聞いてやるよ、小僧」

 

「はん?俺の名前か…」

 

そいつは少し思案したような姿勢になる

偽名を使うか、本名か、迷っているのだ

そしてこう決断した

 

「仕方ない、本名を教えてやる…どうせ直ぐに会えなくなる」

 

そして名前を告げる

 

「俺は十六夜せん

 

「十六夜せん…?いい名前だな」

 

「基地の奴らは月に逃げる計画を立てているんだ、だからな」

 

「…本当か?」

 

先程直ぐに会えなくなる、と言ったのはそういう事か

基地への攻撃が激しくなって、移住先を月にしたのか

…意味が分からない

 

「後で永琳に聞いてみるか」

 

「それがいい」

 

そういうと十六夜は仕事に戻った

さっさと終わらせて基地で寝たいとボヤいていた

…あいつも疲れているんだな

 

斬鬼はその場を離れる

辺りにコンコンと木槌の音が響いた

 

 

「ようやく来たか」

 

「待たせたな」

 

行き場所は勿論大天狗の会議場

既に大天狗達が座して待っていた

 

「どうしたぁ?へまでも起こしたか?」

 

「戦闘も起こってないのに、隠れていたか」

 

「な!?そんな事は」

 

「もういい、黙れ」

 

反論しようとした鴉天狗の胸にクナイが突き刺さる

それは斬鬼が懐に隠し持っていた武器だった

 

「ぐは…っ!」

 

「死に損ないが」

 

ピャッと喉元を斬る

そいつは口からひゅーひゅー音を漏らす以外の事が出来なくなった

 

「ちょっと、遅延行為はダメだと言ったはずだ」

 

文が咎めるように言う

 

「お前は少し頭を冷やせ」

 

白狼の青年が言う

 

「ま、仕方ないな」

 

風が肩をすくめて言う

 

「ランボーな旦那様ですねぇ」

 

舞がくすくすと笑う

 

「では、会議を始める」

 

荘厳な、常に人に命令を下す声が降る

斬鬼はそいつの近くに座っていた

 

…名前は知らない

 

ただ、"神風部隊"を統率し、妖怪の山おも統率する者だ

 

我々は畏敬の念を込めて、彼を天魔と呼ぶ

 

「今回の会議だが、あの人間達だ」

 

「ウチの人間達は今まで通りで?」

 

青年が問いかける

 

「うむ、不定期に人攫いでいい…それだけで十分畏れは溜まる」

 

「そうか」

 

大天狗がポツリと零す

"神風部隊"の幹部が大半を占める大天狗

それ以外にのし上がったのは大体家柄だ

賛同するしか能が無い

 

「あの人間達だが、諜報班に調べさせた」

 

天魔が文に視線を向ける

彼女は淡々と事実を述べていく

 

「河童達の光学迷彩による潜入は成功、情報を入手しております」

 

「誰にやらせている?」

 

「暗号名は、"蛇"です」

 

「あいつか」

 

蛇のように這いずり回るアイツにはうってつけだ

暗号名には動物や、神の名前、気象も使われる

これは昔からある神風部隊の伝統だ

天魔が口を開く

 

「今の所の情報は」

 

斬鬼は先を促す

 

「人間達は月に移住する模様、技術面では我々を上回っています」

 

「それと、原爆という恐ろしい兵器を使うらしい」

 

「原爆とはなんだ?」

 

大天狗の1人が聞く

 

「爆弾さ、仮にあの基地が吹き飛ぶならここも更地になる」

 

「今の内に結界を貼れ、最高のだ」

 

面倒なものが消えるのは有難い

だが、面倒事は永遠に増え続けるのだが

 

「対爆発の結界は用意してある、後は貼るだけだ」

 

斬鬼は先に言った

 

「じゃあ、後は見守るだけですねー」

 

舞は気軽そうに言う

 

「それだけで済めば良いがな」

 

「天魔?どうかしたか?」

 

青年が天魔の顔を見る

少し難しい顔をしていた

 

「妖怪の矛先がこちらに来るかも、とな」

 

「有り得るな、知能が無いに等しい奴らだ」

 

怒りの矛先が向かう可能性もある

だが、天魔はそれを捨てたようだ

 

「その前に原爆で吹き飛ばされるだろうな」

 

「そうだな、まぁ警戒態勢は解くな」

 

風がそう諭す

 

「…いつ移住する?」

 

斬鬼は文に問う

文は数ミリも顔を崩さずに淡々と言う

 

「1日後」

 

「…成程、そういう事か」

 

何故数人の護衛だけを連れてここに来たのか分かった

これはある意味挑発だ

 

…原爆でどうせ吹き飛ぶなら、という

 

「舐められたものさ」

 

「全く同感だ」

 

風も同じ結論に達したらしい

 

「怪しいと思っていましたが、そういう事でしたか」

 

舞は納得した様子で言う

 

 

 

 

 

 

「…まぁいい、今日はこのくらいにしよう…解散」

 

既に日は暮れている

 

戦争は明日だ

 

「…夜は忙しくなるぞ」

 

斬鬼はため息を吐いてそう言った



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Q 何が始まるんです?

A 大惨事大戦だ

今回は主に人間側です



「ついにこの時が来た!」

 

演説台で男が叫ぶ

その前にいるのはきちんと配列された兵士達

彼らは今から血を血で洗う戦いに身を投じるのだ

怖い気持ちはあるが、それを抑制しなければならなかった

それぞれが銃を持っていた

 

「我々は月に移住する!」

 

歓喜の声が上がる

 

「ようやく、妖怪から解き放たれるのだ!」

 

そこでその男は顔を難しくさせる

 

「だが…奴らは妨害してくるだろう…」

 

急に彼の口調が頼りなくなる

 

「もし、邪魔をされてロケットを発進出来なければ…機会は二度とない」

 

ザワっと兵士達が騒ぐ

 

「…皆に頼みたい、どうか、守ってくれ」

 

それを支える声が上がる

 

「やってやろう」

 

「妖怪如き」

 

「簡単だ」

 

「ウーラー!」

 

「To easy…」

 

この叫びと同時にロケットの発射準備が始まる

燃料を送るためにポンプが稼働する

その騒音が、妖怪達を引きつける

 

「敵、発見!」

 

「総員、戦闘配置っ!」

 

「YES sir!」

 

各自の場所に移動する

壁に設置されたトーチカに入り、ブローニングを構える

 

「弾幕はパワー…だな」

 

霧雨せんはそう呟いた

 

壁のてっぺんは平地になっており、ビーム砲が幾つもある

それらに配置し、迫り来る妖怪に照準を定める

砲の近くに狙撃班が数人展開する

下の障害物の辺りにも居る

 

近接戦部門は壁の外に出た

 

「これが最後の実戦か」

 

その男はナイフを三本、両方の指の間に挟む

暗殺者として有名だった彼は妖怪にそのナイフを向ける

 

…名前は十六夜せん

 

「…ふう」

 

刀を構える

人間側に属しているが、その刀は妖怪が鍛えたものだ

 

白楼剣と楼観剣

 

長刀と短刀で、楼観剣は彼の宝刀だ

この人間にとって長すぎる刀を彼はいとも容易く扱う

 

「斬れぬものなど…あんまり無い」

 

構える

 

彼は…魂魄せん

 

射撃班は障害物に身を潜める

その内の1人にはうさぎの耳が付いていた

 

鈴仙、彼女の名前だ

 

「…」

 

その目は冷たく、赤い

左手には防弾シールド、右手にはmp5を持っている

ビームライフルは製造が間に合わなかった

 

だから精鋭に配備されている

 

「…足りなかった」

 

そう、足りなかったのだ

鈴仙はエリートだったが、それでも数が少なかったのだ

彼女にとっては少し気に入らない事だ

 

「…」

 

チラリ、と岩からあちらを見やる

妖怪の群れか大量に押し寄せていた

 

「…構え」

 

「了解」

 

部下達が銃を構える

それは皆同じだった

 

「来るぞ」

 

十六夜はナイフを構える

 

「いつでも来い」

 

魂魄は刀を構える

見た目は雪崩だ

しかしそれは全て妖怪である

 

少し、鈴仙はゾッとした

 

「引きつけろ!」

 

月詠だったか、総指揮官の男がサーベルを構える

妖怪の雪崩が一線を超えたその時…

 

「撃てぇ!」

 

目の前が光る

ビーム砲が斉射されたのだ

それが晴れると攻撃が始まる

 

妖怪をナイフのむしろにする十六夜。

 

的確に頭だけを切り落とす魂魄。

 

鈴仙は援護として足やらの関節を狙う

その後ろから来る妖怪は狙撃班達が足止めしていた

 

「怯むな!」

 

障害物の影からマズルフラッシュが幾つも見える

 

これが戦争だ

 

鈴仙はただひたすらに撃つ

 

妖怪の的確な場所に的確な数撃つ

 

ただそれの繰り返しだった

 

 

「ロケット、発射準備」

 

「オイル、搬入完了まであと3分」

 

学者の様な服装をした人間達が機器を弄る

 

「妖怪達は?」

 

それを統率する永琳は聞いた

彼女の弟子はこっくりと頷く

 

「今のところ、抑えられています」

 

綿月豊姫はそう答える

 

「危なくなったら依姫を出撃させなさい、邪魔をさせる訳にはいかない」

 

「分かりました」

 

「…それと」

 

「?」

 

永琳は顔を向けずに言う

 

「…本当に危なくなったら、これを撃ちなさい」

 

「…?これは」

 

永琳が手渡したのはフレアガンだ

空に撃てばパラシュートの付いた光源が放たれる

主に救難信号として使われていた

 

「本当に危なくなったらよ」

 

「分かりました」

 

そう言って彼女は何処かに行く

 

「月詠、そう言えば貴方神だったわね…」

 

神力で妖怪を圧倒する総司令官を見て、苦笑する

いつもの行動が人間じみていたからか

 

「…ま、いいわ!皆!急いで!」

 

私は機関士達を急かした

 

 

「…」

 

紅白斬鬼はまた、見下ろしていた

目の前では大惨事大戦が勃発している

こんな数とやり合うことなど、無いに等しいからだ

 

いや、妖怪でいう飢饉が起こった時は攻められる

 

戦闘は激しさを増していた

 

ビームの線が連続して妖怪の頭にぶち込められる

銃弾がオレンジ色の線を連続して放たれる

 

ビーム砲はぶっといビームを妖怪の塊に放っていた

 

「…ははっ」

 

"面白い"

 

幾ら斬鬼であろうとこんなに激しい戦闘を見た事は無い

いや、違う…こんなに"必死"な戦闘は見た事が無い

思わず笑いが出てしまう

 

 

斬鬼は笑う

 

そして何も変わらない声量で言う

 

 

 

「さぁ、早く…早く…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 追い詰められろ

 

 

 

 

斬鬼の戦友達が嗤う

 

 

 

「っ…!」

 

鈴仙はずっと撃っていた

標準を定め、妖怪の頭を吹き飛ばす

Mp5の空になったマガジンを捨て、満タンのマガジンを入れる

それを何回もやった

 

「このっ…!多すぎるぞ!」

 

ナイフを首元や胸に突き立てる

妖怪は倒れていく

十六夜は歯を食いしばりながら戦闘を続けた

 

「…はぁ!」

 

的確に首を斬る

大抵の妖怪はそれで戦闘不能になるからだ

 

「面倒だっ!」

 

短刀を仕舞う

そして長刀を鞘に入れ、構える

 

「人鬼・未来永劫斬」

 

100もの妖怪の首が一気に斬れる

そうしてまた戦闘を続行す

 

「ぐはっ」

 

魂魄の腹に衝撃

妖怪に殴られたのだ

 

「くそっ」

 

十六夜は時を止め、物陰に魂魄を移動させる

そしてまた動き出す

 

「はあっ…!」

 

「動けるか?」

 

「…無理だ、半身の感覚が無い」

 

半身は動いているが、もう片方は動かない

 

「応急処置をする、耐えろよ」

 

懐から包帯や注射器を十六夜は取り出した

 

 

 

 

少しずつ、人間側が押されていく




え?原作キャラのご先祖さまが多い?

知らん()

月に逃げたのって人間なの?イナバなの?

それとも神なの?

コレガワカラナイ(作者)


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参戦

魂魄の胸辺りに注射器を刺し、注入する

ただの蘇生剤だ、麻薬ではない

 

「有難う」

 

「礼は大丈夫だ、立て」

 

十六夜の手を借りて魂魄は立ち上がろうとする

しかし、半身が動かないせいでそれはまともに出来ない

 

「…味方の位置に移動する」

 

「分かった」

 

魂魄は瞑る

十六夜は時を止め、魂魄を抱えた

 

「…マジかよ」

 

戦況を見てみれば、マズイ事になっていた

魂魄の応急処置を施している間に依姫が出陣していたのだ

長刀を振りかぶったその姿で止まっている

表情を見る限り、余裕では無さそうだ

 

「…まずいな」

 

十六夜は魂魄を急いで味方の元に運んだ

 

 

時は少し戻りて、依姫が来る前

 

「撃て!」

 

タタタンと破裂音が続く

パタパタとヘリが飛び、カーゴからRPGが放たれる

鈴仙はまたリロードする

 

「…来るぞ!」

 

仲間のイナバが叫ぶ

バイザーを掛けた少し近未来な装備だったり今でいう米軍装備だったりとバラバラだ

ただ、ここを守るという意思だけは変わらなかった

 

「あがっ」

 

妖怪の牙の様なものが突然イナバの胸に刺さる

仲間がそいつを木陰に引きずる

 

「衛生兵っー!」

 

「今行く!」

 

凄惨だった

あるものは腕を裂かれ、あるものは上下がちぎられ、あるものは頭を…

生きながら地獄に落とされた気分だ

 

鈴仙の耳が自然とヨレヨレになる

 

それを気にせず、ただサイトを覗いて撃つ

 

薬莢が光を反射しながらいくつも飛ぶ

 

 

 

 

…私の心は、深く凍りついた

 

「まだまだ来るぞ!」

 

味方の叫び

それは戦闘がまだ終わらない事を示していた

 

「増援を呼べ!」

 

『依姫様が来る!それまで耐えろ』

 

それを聞いた瞬間兵士達に歓喜が満ちる

この戦況を打破できる者が来るのだ

 

といってもやる事は防衛

 

ロケットの発射準備が整えば逃げなければならない

 

また、引き金を引いた

 

 

「くらえくらえくらえっー!」

 

霧雨は弾幕を放っていた

ブローニングには既に熱で溶け、使い物にならなかった

 

M134 通称「ミニガン」

 

六本の筒が回転し、弾丸を無数に放つ

この気持ちよさが霧雨を興奮させていた

 

「はっーはっはっはっはっはぁっー!」

 

笑いながらミニガンをぶっぱなす

そして霧雨はある事に気づいた

 

…射角が足りない

 

それが意味する事はただ1つ

 

「くそっ」

 

霧雨はミニガンを持ち上げ、飛ぶ

戦闘の様子がよく見えた

地面に向かって直進し、すんでのところでジェットを噴射する

 

「霧雨!」

 

「今来たぜ」

 

ミニガンの持ち手をしっかりと持ち、引き金を引く

ドゥララララララと弾丸が放たれた

 

「敵を引かせるぞ!」

 

「了解だぜ」

 

バラバラと音を立てながら薬莢が落ちる

その轟音は妖怪を呼び寄せる

 

「こっち来てるぞ!」

 

「まずいな…」

 

ナイフが刺さる

弾丸が頭を吹き飛ばす

もはや飽きてきたような光景だった

たが、波は止まらない

 

「もう諦めろよ!」

 

霧雨は叫ぶ

だが、知性無き者達にそれは届かない

 

「…畜生!」

 

カーンと音がなる

それは弾切れを示す音だった

 

「くそっ、リロード…」

 

ドラム型のマガジンを捨て、新しいマガジンをはめ込む

影が、深くなった

 

…深くなった?

 

「!」

 

霧雨は顔を上げる

そこには、妖怪の顔面

奴の吐く息が顔にかかる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!」

 

そいつが細切れにされた

 

「引きなさい、後は私がやります」

 

その紫色の髪は見たことがあった

 

「依姫!来てくれたか!」

 

「おい!少し下がるぞ!」

 

十六夜の提案を霧雨は蹴る

 

「ははっー!祭りだ祭りだぁっー!」

 

「…私に当てないで下さいね」

 

依姫はそれだけ言うと戦場に身を投じた

 

「…馬鹿」

 

「そういうな、照れるぜ」

 

「貶してんだよ!」

 

 

時は進みて、依姫が余裕の表情を失った時

 

「多いっ…!」

 

切っても切っても妖怪は出てくる

それが少なくなる気配は無く、むしろ多くなっている

味方の援護があっても間に合わない程にだ

 

「クソっ…」

 

妖怪の体に刀を突き刺し、それを別の方向に投げる

その勢いをつけたまま流れるように斬る

 

「ギッギッ!」

 

「…」

 

静かに刀を構える

武人として、それは欠かさない

 

「…姉さん、そろそろ限界です」

 

『分かったわ、信号を送るわ』

 

「…信号?」

 

『見れば分かるわ、何か起こるまで耐えて』

 

その通信が終わると、基地から赤い光が放たれた

 

「フレア…?」

 

それは救難信号に使われるフレアだった

でも、誰にそれを伝えたのだろうか

 

「ギャア!」

 

「…!」

 

それに気を取られていたので妖怪が飛びかかってくるのにきづかなかった

依姫は刀を構えようとする

だが、それはあまりに遅すぎた

 

「…ここまで、か」

 

依姫は死を覚悟し、目を瞑る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あーあ、若いもんが死を覚悟するもんじゃないよ」

 

瞬間、目の前の妖怪が消え失せる

依姫は目を開いた

そこには天狗装束の白狼が居た

相違点は肩と腰に銀の鎧がある事

その黒い袴に燃えるような業火の模様が描かれている事

その尻尾と耳が普通の白狼より大きく、キリとしている事

 

「…貴方は」

 

依姫はそいつの名前を聞く

そこでようやく辺りの状況に気づいた

 

双剣を持った白狼が次々と妖怪を切り裂いていること

 

槍を持った鴉天狗が妖怪の体を突き刺している事

 

楓の形をした扇子を振り、妖怪を吹き飛ばしている鴉天狗がいる事

 

紅葉の模様が描かれた扇子を振るう白狼がいる事

 

彼は血塗れの刀を振り、血を飛ばす

こちらに手を伸ばしてこう言った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は"神風部隊"...暗号名は"狼"。

 もう会うことは無さそうだから本名は言わない」



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さよなら

「さて、お前は木陰で指を咥えて見ているんだな」

 

「…嫌ですね、妖怪程度にこんな」

 

「足引っ張んなよ?」

 

「そちらこそ」

 

2人は刀を構え直す

妖怪は既に2人を囲っていた

 

だが、この程度の障害…何の問題もない

 

刀の刃が少し鞘から抜けた瞬間、首がごとりと落ちる

 

「俺が早かったな」

 

「いえ、私が0.1秒早かったです」

 

「負けず嫌いが」

 

「褒めて頂き恐縮」

 

「嘘こけ」

 

斬鬼は溜息をつく

依姫はさらに溜息をついた

 

「援軍が妖怪とは…」

 

「不満か?」

 

「いえ、どうせ師匠からのお願いでしょう?」

 

師匠、つまり永琳だ

確かにあの後「赤い光を見たら駆けつけるように」と言われた

まぁ救難信号だろうと思って神風部隊の幹部で来てやった

 

「借りを作ったのはどっちかね?」

 

「貴方では?」

 

「お前だろ」

 

「口減らず」

 

「帰ってきてるぜ、その言葉」

 

そんな合間にも妖怪を斬る、斬る、斬る…

2人にとってもはや妖怪は空気のようになっていた

 

「いいコンビですね」

 

「悪いが、妻がいるんでな…多人数は勘弁だ」

 

「私が言っているのはコンビネーションです、馬鹿ですか?」

 

「言ってないで目の前に集中」

 

また、刀を振るう

 

 

 

 

「オラオラァっ!」

 

白狼の青年は双剣を振るう

その双剣は既に血塗れだった

切っ先が釣り針のようになったそれを妖怪の頭に突き刺し、飛ばす

 

「はっ」

 

それを十六夜がナイフで滅多刺しにする

 

「いい腕持ってるな、お前」

 

「お前こそ、いい戦法だ」

 

お互いを評価しながら、血の池を作る

彼らの足場に血のない場所など存在しない

それはどんどんと広がっていく

 

「居なくなるのが残念だ」

 

「本当に同感だ」

 

彼らは本心を言い合う

それは男の友情というものだった

男以外には分からないもの

それは秘密を隠すには都合のいいものだった

 

「お前、彼女居るのか?」

 

「黙っとけ」

 

即座に返事を返す彼に青年は嗤う

 

「はん、俺もだ」

 

「お前とは気が合いそうだ」

 

「居なくなるくせに」

 

「それもそうだった」

 

ジョークを言う程、仲は深まってくる

戦いの中で友情はさらに強くなる

 

 

「うおおおおおあああああ!」

 

「おーおー突っ込むねぇ」

 

鈴仙はmp5を乱射しながら戦場に突撃する

時たま来る妖怪を天月は槍で突く

 

「ほっ!」

 

胸の辺りを突き立て、別の所に投げる

投げられた妖怪は味方の妖怪にぶつかった後消える

 

「せいっ、はっ、ほっ」

 

声に合わせて突き、薙ぎ払う

それに合わせ無双ゲーのように妖怪が蹴散らされる

 

「あ"ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!」

 

「狂っちったか」

 

その目は更に赤みを帯びる

それに合わせ、彼女は奇声の様な声を上げる

天月は流石に見かねて背中辺りを槍で叩く

 

「戻ってこーい」

 

「…いてっ!?」

 

戻ってきたようだ、目の赤色が薄くなる

 

「何をする!?」

 

「戻してやったんだ、感謝して欲しいね」

 

「…行くぞ!」

 

「礼もなしか」

 

鈴仙はmp5をリロードする

そして盾を持ち直しまた戦場に身を投じる

 

 

「ドゥララララララ!」

 

「楽しそうですねぇ」

 

両手の扇子で妖怪を切り裂きながら舞は言う

横には弾幕で妖怪をすり潰す霧雨が居る

もといクソデカ轟音レーザー銃をブッパ娘である

レーザーがひゅんひゅんと動く

いつの間にかそれを装着したらしい

 

「ははっー!弾幕はパワーだぜ!」

 

「計画もちゃんとしましょうね?」

 

「パワーだ!パワーさえありゃ計画は要らん!」

 

「駄目みたいですねぇ…」

 

溜息をつくと扇子を妖怪の頭に突き刺す

特注のそれはどんな扇子よりも高級だ

それで戦闘にも使えるスグレモノ

ただし妖怪に限る

 

「あんたも力に任せて殺ってるだけのようだがぁー!?」

 

「こう見えて計算してますよ?ほら」

 

舞の攻撃した妖怪は皆塵と消えていく

しかし霧雨の方は当たりどころが悪かった妖怪は死んでいない

舞は的確に、霧雨は力任せだ

 

「頭悪そうですね」

 

「何をー!こう見えても足し算引き算は出来るぞ!?」

 

「掛け算は出来ないんですか?」

 

「え?何それ美味しいの?」

 

「ええ、結構いけるらしいですよ?」

 

舞が茶化すように言う

霧雨は豪快に笑う

 

「はははっ!そりゃ食ってみたいな!」

 

「HAHAHA、ワタシモソウオモイマスヨー」

 

全く笑っていない顔をしながら舞は笑う

その間にもミニガンの雄叫びは止まらない

 

「それうるさいですねー、妖怪共がどんどん寄ってきます」

 

「これがいいんだろう?はははっー!」

 

「私達に1番ヘイト向いているんですよねぇ…」

 

そう言っていた瞬間だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ロケット、準備完了…総員退却せよ』

 

「よっしゃ!ここからだ!」

 

霧雨は楽しそうに笑う

 

「そちらは」

 

依姫や魂魄を背負った十六夜が近づいてくる

 

「なんとか、依姫は先に行け」

 

「貴方達も行くのです」

 

「もう無理だ、魂魄がこれだと俺も行けない」

 

十六夜は首を振る

 

「…足止めを、合図したら来てください」

 

「依姫様、お先に」

 

鈴仙は銃を持ち直す

そんな彼女の腕を引く

 

「貴方も来るの」

 

「え?」

 

その頃には鈴仙の意識は無かった

 

「あっちで逢おう」

 

十六夜はそう言うと魂魄を木陰に隠し、ナイフを構える

依姫は頷くと鈴仙を抱え、消える

 

「殿か、いいぜ…やってやるよ」

 

霧雨はミニガンのドラムマガジンを交換する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その必要は無かった

 

後ろから何かが飛び出す派手な音がしたからだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な!」

 

思わず霧雨は振り返る

見てみればいくつかのロケットが発射されている

 

「どういう…ことだ?」

 

魂魄は呻き声を上げる

 

十六夜はその魂魄を抱える

斬鬼と十六夜、神風部隊の幹部は即座に分かった

 

「くそ!全員妖怪の山に引け!」

 

天月か叫ぶ

人間組を妖怪組が担ぐ

 

「何を…!」

 

「逃げるぞ!奴らは核を落とす!」

 

斬鬼は霧雨を担ぐ

 

「な…聞いてないぜ!」

 

驚いた表情で霧雨は言う

 

「そんな事より!早く逃げますよ!」

 

舞は魂魄を担ぐ

 

「やれやれ、疲れるね」

 

「これだからお偉いさんは嫌いだ」

 

十六夜は青年に担がれる

そして、彼らは妖怪の山へ飛んだ

 

「…!あれか」

 

ロケットから光るものが落とされる

見てみれば"Fat Man"の刻印が刻まれている

 

「急げ!死ぬぞ!」

 

着地した瞬間天魔が手を斬鬼に差し伸べる

神風部隊、幹部全員が円になる

 

「結界を強化する!」

 

瞬間全員が手を同じスピードで動かす

陣が生まれ、光の柱が立つ

 

「…すげえ」

 

十六夜は思わず呟いていた

 

 

『はっ!』

 

全員が右手を地面に打ち付ける

光が妖怪の山を覆う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それと同等の光が、基地から見えた

間もなくして来る波動

結界の内側に無かった哀れな生き物と地形を吹き飛ばす

 

「…ぐ」

 

今までに感じたことの無い瞬間の衝撃

それは全てを破壊する力だった

 

「こりゃ…本当に人間が作ったのか?」

 

「恐らく、やはり人間は恐ろしい」

 

天魔は頷いた

そして気が長くなるくらいの時間、結界を貼る

 

 

 

 

 

そして、衝撃は消えた

 

「…終わったか?」

 

「一応このまま貼っておこう、病原菌が媒介する可能性もある」

 

まさにこの時放射線が大地に根を貼っていた

この時の判断は間違っていなかったのだ

 

 

 

 

 

 

 

「終わった…か」

 

 

 

 

 



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事後

「…」

 

また、会議である

 

「ダルい」

 

「知るか」

 

「あんなものあった会議起きるわ」

 

「当たり前すぎますねぇ…」

 

「アホくさ」

 

斬鬼、青年、風、舞、文はその場所に向かう

どうせ事後処理だろうな、大体分かる

些細な問題ではないからな

 

「はぁ」

 

溜息をつく、目的の建物は目の前にあった

つい最近訪れた会議場だ

とても面倒だ

どうせまたクナイを投げそうだ

こんな会議にいちいち参加する身にもなって欲しい

 

「ともかく、やるしかないな」

 

「そうだな」

 

「眠ろうかしら」

 

「面倒事が増える」

 

斬鬼は扉を開ける

 

「遅かったな」

 

「戯言はいい、さっさと始めよう」

 

声を掛ける天魔に不機嫌な口調で言い、自分の席に着く

他の奴らも各々の席に座る

 

「さて、これからの方針だが」

 

「山からは出られない、体がおかしくなる」

 

青年が言う

それに少し会議の場がザワつく

 

「説明」

 

文が頬杖を付いて言う

 

「1人調査員を送ったが…キテレツな病気になっていた」

 

青年は頭を掻く

彼は戦闘員兼メディックなのだ

あれでも医療に精通している

 

「観測してみれば、あと10年程で病原菌は消える様だ」

 

「それまではここを離れられないか」

 

「食料系統は全員大丈夫ですよ」

 

「それなら良いだろう、十年で潰れる訳ではないからな」

 

斬鬼は欠伸をする

 

「疲れた、最近は休む暇が無さすぎるぜ」

 

「それだけ働いたら追加報酬もあるだろうよ」

 

「あ?ねぇよそんなもん」

 

「死ね糞天魔が」

 

とぼけた顔で言う天魔に中指を立てる

それに一笑する天魔

 

「ハハ、まだ死ねぬよ」

 

「墜ちろ阿呆」

 

斬鬼はため息を吐く

 

「さて、このくらいか」

 

「他に留意事項は無いのだろう?」

 

全員が首を縦に振る

 

「よし、全員解散」

 

妖怪にとっての十年

それは彼らにとって光年のようなものだった

 

 

「…って感じだ」

 

「はぁー…最初の出会いですか」

 

妖夢が関心した様子で言う

斬鬼は永琳を葉巻を吸いながら見る

 

「その様子じゃウェットワーク(汚れ仕事)は卒業したか?」

 

「そうかしら?」

 

含み笑いがある永琳

そのようすに斬鬼は少し理解した

 

「なるほど、変わらないな」

 

「あなたもね」

 

斬鬼と永琳は軽く笑い合う

椛がワクワクした様子で言う

 

「それじゃあ再会は何時だったんですか?」

 

「再会か…ちょうど竹取物語の終わりくらいだな」

 

例えだ

もっともこの世界の竹取物語は少し改変されているが

 

「竹取物語なんて久しぶりに聞いたわ」

 

輝夜がニコリと笑う

 

「そうでした、輝夜姫目の前にいるのでした」

 

妖夢が頭を抑える

 

「あー…俺が山を降りた後くらいだな…」

 

「子育て、大変だったんですよ?」

 

舞がジト目で睨む

 

「すまん、良い話をしてやるから許してくれ」

 

「よろしい、じゃあ早くしなさい?」

 

斬鬼は月を見る

今夜はとても綺麗な満月だった

 

「あれは今から36万…いや――」

 

斬鬼の御託から、過去のお話が始まった



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竹取物語

「はぁ」

 

編笠を少しずらす

そこにあるはとある都

帝が住まうこの日ノ本の中心である都だ

斬鬼は軽く目を瞑り、ブツブツと呟く

 

すると、彼の特徴的な獣耳や尻尾は煙の如く消え失せる

 

その銀髪も人間と変わりない黒へ変わっていた

 

もう彼はそこらの人間と変わりない

これが変化の術である

陰陽師等にバレないようにするのが大変だった

 

偽名なんて面倒な物を使うつもりは無い

たまたま同じだったで済むのだから

 

「さて、いきますかね」

 

足を進める

斬鬼はこの日、初めて都に入った

 

 

都の中は繁盛している

そこらの村じゃ見られない活気だ

常に話し声が絶えない都、とでも言おう

 

「…?」

 

だが、単なる活気では無いらしい

何処か興奮気味…何かあったのか

人々をよく観察すると貴族の乗った牛車が何個もある

しかも同じ方向へ向かっているようだ

 

これは人々に聞いてみようか

 

「もし、そこの」

 

「何だい兄ちゃん」

 

八百屋をの店主と思われる男に声を掛ける

 

「貴族達は何処に向かっているので?」

 

「あいつらァかぐや姫の所に行ってるんだよ」

 

そいつは面白くなさそうにいう

 

「かぐや姫?誰だそいつ」

 

「あんた知らないのかい?まぁ旅の者みたいだし当たり前かえ」

 

こちらの服装を見た後に言う

 

「かぐや姫ってのは竹取の翁が拾った女だ」

 

「何処でだ?」

 

「驚くことに竹の中らしい」

 

少し斬鬼は驚いた

そんな女、多分人間じゃねぇ

 

「育てていく内にあんなに美しくなったんだとよ」

 

店主はため息をついた

 

「だがなぁ…」

 

「だが?」

 

斬鬼は先を促す

 

「何でも月からの迎えが来るとかなんとか」

 

「月から?」

 

月から…ということは彼女は月の民か?

あいつらは月に何をする気だろうか

 

…害を成すなら殺すしか無い訳だが

 

「そうか、最近の都も大変なもので」

 

「いやーね、俺たちみたいな民草には関係ないよ」

 

それもそうかもしれない

まぁ、それがどうであれ俺にも関係無いのだが

 

「それじゃあな」

 

「また来ておくれよ、旅の」

 

斬鬼はまた歩き出す

行く場所はやはりそのかぐや姫の場所だろう

 

…それに最近畏れが足りなかった事だし

 

「さて、久しぶりに人を驚かしますか」

 

斬鬼は妖怪なので畏れは重要である

人間と共存を望んでいる、と言うだけで驚かさないとは言っていない

 

…食いはしないけど

 

「…あそか?」

 

見た感じ他の家より豪華な邸宅がある

そのかぐや姫の美貌が凄まじいなら帝との交流もあるだろう

貴族達の贈り物もあってここまで成り上がったか

 

「ほ」

 

俺は飛び、その邸宅の屋根に着地する

邸宅の庭に武人が何人も配置されている

今夜は満月だ、その時に来るのだろう

 

…月の民に勝てるか…?

 

あの時見たビームとかは完全装備だろう

 

未だに気づかれていないらしい

 

「さて」

 

俺は着地地点を探す

 

「――――」

 

女の喋り声が聞こえる

それは今までに聞いた事の無いほど綺麗な声だった

 

成程、こいつがかぐや姫か

 

その横くらいに老いた男の声も聞こえた

こいつが竹取の翁だ

 

「…」

 

「ええ、でも――!?」

 

静かに着地する

縁側に座っていたかぐや姫と翁がこちらを見た

それは接近に気づかなかった驚きで満ちていた

…いや?何か他のが混じっているような?

 

「何奴!?」

 

兵士が斬鬼の周りを囲む

俺は軽く手を横に振った

 

すると、俺の体がいつもの姿に戻る

 

「何、かぐや姫の容姿を見たかっただけだ」

 

「…!貴様天狗か!」

 

兵士の1人に居た陰陽師が叫ぶ

さらに警戒が上がった

 

「そうだ、だがただの天狗じゃない」

 

「何を白狼如き――!?」

 

そこで気づいた、俺の妖力の強さと量に

白狼でこの量、そしてこの見た目

 

「貴様!まさか…」

 

「俺は"元"神風部隊、紅白斬鬼…知ってる奴も多いだろう?」

 

それを聞くと兵士達に動揺が走る

あの人間と共存を目指す奴が何故ここに

 

「ただの暇つぶしさ、妖怪なら分かるだろ?」

 

「…お主、何しにここに来た」

 

翁が口を開く

 

「先程の通りさ、じゃあ俺は帰る」

 

俺は手をひらひらと振ると背を向ける

 

「待て」

 

それを彼は制止した

 

「本当にそれだけか?」

 

「…懐かしい雰囲気を感じてな、主にそこのかぐや姫に」

 

月の民と同じ…永琳と同じ雰囲気を感じた

月の民として持つ雰囲気が同じだったから来た

 

「…そうか」

 

「じゃあな、竹取の翁…もう会うことはない」

 

そう言って斬鬼は人々の目の前から姿を消した

かぐや姫が呆気に取られた顔をする

 

「…紅白斬鬼」

 

「不思議な妖怪だ、いや?噂通りか」

 

翁は少し笑った

 

「何処かで聞いた名前です」

 

「噂がかぐや姫に入ったのでしょう、じゃないと聞きません」

 

「…そうかもしれませんね」

 

かぐや姫は空を見た

そこには太陽がある

あと数時間すればそれは沈む

 

「…永琳」

 

輝夜はぽつりと名前を呟く

紅白斬鬼と言う名前は彼女が言っていた

 

翁と同じで不思議な妖怪、と

 

「また会えるかしら」

 

貴族にも、帝にもしたことの無い期待を斬鬼に抱く

 

それは今夜叶えられることとなった



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月からの使者

都は大変な騒ぎだ

翁の館は更に警戒が強くなっている

 

「妖怪が出たんだとさ」

 

俺は黒い髪の毛を弄りながら八百屋の店主に言う

店主はそうかと笑いながら言う

 

「ははっ、それも天狗、紅白斬鬼だとよ」

 

もはやそれは都中に伝わっていた

俺は有名人の様だ

この八百屋に聞けば不思議な天狗と言われているらしい

妖怪の山で人間と妖怪が未だに共存している

それをきいて少し安心したのは気の所為か

 

「いやー、いいものだねぇ」

 

店主はこちらを見てニコリと笑った

そこで初めて気づき、冷や汗が出る

 

「…お前まさか」

 

「へへへ、ご想像の通りだ」

 

そいつの顔が一瞬変わった

その一瞬で見えた顔が知っているものだった

 

「なんだ、"蛸"か…情報収集中か?」

 

「そうだな、そういう命令なんだ」

 

コードネーム、"蛸"

 

その姿を自由に変え、性格までもを変える能力を持つ

 

正確な能力名は"変える程度の能力"

 

これにより己の性格と見た目を自由に変える

性格が変わったからと言って組織を裏切る事はない

 

「斬鬼の事はしっかりと伝えといてやるよ」

 

「迷惑だ、やめてくれ」

 

しかし彼は豪快に笑う

 

「ははっ!子供さんと奥さんを安心させる為だ、悪く思うなよ?」

 

「…性格がねじ曲がってるぞお前」

 

そこ俺は軽く咳をする

 

「何の任務だ?」

 

「"カグヤ姫ニツイテ調査セヨ"、まんまだよ」

 

都を騒がす人物を調査しておきたい、というものだろう

彼は既に報告したのだろうか

 

「いんや、今夜しだいだよ」

 

確かに今夜迎えが来るらしい

その時に居なくなるのならば報告したって意味が無い

 

「そうか、お疲れさん」

 

「皆…主に鬼がお前の帰還を待っているんだよ、早くな」

 

「だが断る、じゃあな」

 

そういって俺は振り返ることはしなかった

振り返るのも面倒だったからだ

 

 

「…この満月の夜、蓬莱山輝夜を迎えに行く」

 

月面では7人の生命体が居た

その内6人は月兎と呼ばれるもの達だ

 

そして、1人は奇抜な服装の人間だ

 

「八意殿、準備は」

 

「行きましょう」

 

そういって天車に乗り込む

それは一瞬の内に地球へと到達した

 

その天車の中で永琳は呟く

 

自慢の弓を握りしめながら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待っていてください、姫様」

 

 

「…あれか?」

 

俺は小山で胡座をかいていた

その時月に影が見えたのだ

千里眼で見ると確かに7人確認出来た

 

…あの奇抜な人間、何処かで見たような

 

「まあいいか」

 

俺はそこで事の成り行きを見ることにした

今日の月は一段と美しく見える

 

 

「…構え!」

 

兵士達が弓を構える

その後ろに俺は居た

かぐや姫を庇う姿勢で、だ

 

「…藤原殿」

 

「恐らく、俺は死ぬだろう」

 

ぽつりと俺は呟く

あんな事が出来る奴なんて人間の筈が無い

そんな物と人間が戦うなんて不可能に近い

 

「己の事を考えて下さい、子供が居るのでしょう?」

 

「…彼奴に俺は必要無い、必要にされる訳にはいかない」

 

かぐや姫に全てを振った愚かな俺に着いてきて欲しくは無い

本当は全てをあの子とやり直したい

そう言っている天車が止まった

 

そこから黒い制服を着た兎女6人

 

そして天車の前に構える奇抜な女が居た

 

「…殺りなさい」

 

「――!かぐや姫!隠れろ!」

 

俺はとっさにかぐや姫の手を引いて柱の後ろに隠れる

瞬間昼と見間違うような光が溢れる

 

…ビームというものだ、それが兵士の体を貫く

あれだけ居た兵士は一瞬の内に全て死んでいた

 

「…あとは俺1人か」

 

翁は居ない

 

「覚悟を…決めるか」

 

と思っているとかぐや姫が縁側を降りる

 

「永琳…」

 

「姫様、どうなさいますか」

 

彼女は俯いた

そして数秒後、顔を上げる

 

 

 

 

「地上に、居たい」

 

「御意」

 

「八意…!?貴様裏切――」

 

その兎女の首は消えていた

それを見て永琳と呼ばれた女はかぐや姫の近くに行く

 

「…いいのか?それで」

 

俺は裏切り者に聞く

そいつは弓を構える

 

「主の言うことに従者が従うのは必然、でしょう?」

 

「…そうだな」

 

俺はそいつを退かす

 

「…何を」

 

「先に行け」

 

そいつは冷静な顔でこちらを見る

 

「死ぬわよ」

 

「その為にここに来た」

 

「…じゃあお願いね」

 

俺は柄に手をかける

そんな俺に後ろから声がかかる

それはかぐや姫のものだった

 

「しっかり足止めして」

 

「…喜んで」

 

そういって俺は月兎に突っ込む

人間がそんなスピードを出せるとは思わなかったのか、簡単に首が斬れる

 

「はは、余裕だな」

 

俺はそういってまた月兎を切り裂いた

 

 

「こちらです、この都から脱出します」

 

路地裏を走り抜ける

永琳が連れてきたのはあの6人のみ

そしてその6人をたった1人の男が制している

 

「早く」

 

もつれる足に鞭を打ちながら走る

その痛みが無くなるほど走る頃には都をとっくに抜けていた

 

「…はぁはぁ」

 

森の中で止まる

止まった場所は軽い広場になっていた

 

「ここまでなら追ってこないよね」

 

輝夜は額の汗を拭った

 

「…良かったの、これで」

 

永琳に確認した

これは月自体を裏切る重大な行為だ

捕まれば死刑所では無いろう

 

「…えぇ、ですからこれを」

 

「蓬莱の薬」

 

それは永琳の持ってきたのだろう

試験管に入ったサンプルの様に見える

 

だが、それは寿命を永遠の物にする禁忌の薬だ

 

輝夜が地上に落とされたのもこの薬を飲んだからだ

 

己が持っていたものは翁に渡した

それからは帝に渡るだろう

 

それを永琳は躊躇すること無く飲む

 

「…私は貴方の従者です」

 

膝立ちになり輝夜へ土下座

輝夜はその肩に手を置いた

 

「これからも、よろしくね」

 

輝夜は精一杯の笑顔を顔に出した

 

 

 

 

 

「――」

 

永琳が即座に弓を構える

聞こえてきたのは3回の拍手

そこには白狼天狗が居た

普通の天狗では無い

肩鎧と腰鎧をした天狗なんて聞いた事は…

 

「…ここは天狗の領域?」

 

「いや、俺は旅の天狗さ」

 

永琳の質問に笑って返す

そいつは腕を組んだ

 

「…紅白斬鬼」

 

「お、覚えていたか…光栄だなかぐや姫」

 

「…紅白斬鬼?」

 

永琳が反応した

 

「貴方なのかしら?斬鬼」

 

斬鬼は眉をひそめた

だが、それをゆっくりと咀嚼した

 

「…あぁ、永琳か…久しぶりじゃないか」

 

何年ぶりかも分からない握手を俺たちは交わした





「…もうダメそうだな」

日が昇る頃、俺は木下に居た
脇腹には綺麗な穴が空いていた

「あーあ、いい所まで行ったんだが」

相打ちだった
最後の1人が決死の刺突銃撃をしたのだ
それは見事に腹を貫通した

「…悪ぃな、妹紅」









「…親父?」

「…」

前から聞こえる声
だが、それはあまりに掠れて聞こえにくかった

「親父!」

妹紅が体寄せる
しきりに俺の体を触った

「本当に、ごめんな…妹紅」

「何で親父が…謝るんだ…」

「俺はもうダメだな…はは」

少し眠たくなってきた
必死に目を開ける

「あぁ…俺は良くやれたな…かぐや」

「親父…!私を見てくれよ!私を!見てくれよぉー!」

俺の意識は潰えた
だが、その憎しみの篭った声は確実に聞こえたのだ









「…殺してやる、殺しやる――!」


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「それでお前は地上に追放されたと?」

 

聞いてみると輝夜は蓬莱の薬を飲んだ事で追放されたそうだ

命を永遠にする薬を勝手に飲んだとかなんとか

 

「追手は無いのか」

 

「追跡装置も無いわ、これでも信頼されてたの」

 

「はあ、そら良い頭しているからな」

 

永琳の様に頭が良い、と言う奴は見た事はあまり無い

斬鬼の妻といい勝負はしていそうだ

 

「これからどうするつもりだ?」

 

「そうね…一緒に旅でもしないかしら」

 

「良いな…飽きたら別れてやるよ」

 

「何故に上から目線なのかしら」

 

「さぁ?さて、行こうか」

 

ここで賛同した意味は無いと思う

その時丁度暇だったから賛同しただけだ

こいつらが良い居場所を見つければ、離れる

そうするだけだ

 

 

「これが奈良の大仏か、意外に大きいものだ」

 

「もっと小さいと思ってたわ」

 

「人間がこんなに大きな物を作れるのね」

 

「月だったらこれが動くのだけれど」

 

「技術が上がっているな」

 

「あの時とはもう違うわ」

 

「動く大仏なんてダサいわ、趣が無いじゃない」

 

「人はそれを浪漫と言うんだ、知らなかったか?」

 

「ロマンなんて男だけが持つものでしょう?」

 

「そうでも無いかもしれんぞ?」

 

 

「よぉ神奈子、久しぶりだな」

 

「おお!斬鬼。…そっちは?」

 

「旅仲間ってところだ、だろ?」

 

「八意永琳と申します、こちらは」

 

「蓬莱山輝夜よ、よろしくね」

 

「おー斬鬼!久しぶりだねぇ」

 

「諏訪子はいつも通りだな、尻尾触んなコラ」

 

「んー、舞の方が柔らかいかなぁ…」

 

「勝手に触って人のモンにケチつけんな」

 

「んでもこの程よい硬さは好きだぞー!」

 

「あ"あ"あ"!千切れる!引っ張るな!」

 

「楽しそうね」

 

「見てるだけで楽しくなってくるわ」

 

「見てないで助けろぉー!」

 

「いやー、もったいないわ」

 

「そうね」

 

「裏切り者めぇーっ!」

 

 

「おおーお、まだ妖怪の山には鬼が蔓延ってるか」

 

斬鬼は山を空中から見下ろす

千里眼で見えるは妻が鬼と話しているところ

 

「あれが天狗達?落ちぶれてないかしら」

 

「俺が居なくなってから下火気味なんだ、はぁ」

 

「それでもまだ堕ちていないのは貴方が居るからよね」

 

永琳が笑う

 

「一瞬の象徴かしら…伝説で成り立つのね、あなたは」

 

「そうでも無い、伝説とは名ばかりだよ」

 

「そう?かなり魅力的な人に見えるけど」

 

輝夜か茶化すように言う

 

「会えば幻滅する、そういう物さ」

 

「私は幻滅しましたよ、貴方」

 

永琳は斬鬼の顔が真っ青になるのを確実に捉えていた

ゆっくりと後ろを見る

 

「お久しぶりですね、1回死にますか?」

 

ニッコリと、扇子を構える

その笑顔は目が全く笑っていなかった

 

「あー、あー、あー、あー…」

 

「はいかいいえで答えなさい」

 

斬鬼の目がお散歩を始める

 

「貴方達、夫婦かしら?」

 

「その、色々あってな」

 

「これは一瞬の夫婦喧嘩かしら」

 

「よし、逃げるか」

 

斬鬼はキリと顔を正す

 

「逃がしませんよー?1回地べたを舐めさせてやります」

 

ドス黒いオーラがむわむわと出てくる

何かもう勝てる気がしない

 

「お、オタッシャデー!」

 

「逃がすか」

 

「アイエエエ!?ツカマレテル!?ツカマレテルナンデエエ!?」

 

目を離そうとした瞬間腕を掴まれる

そして思い切り

 

「せいやーっ」

 

妖怪の山に投げられた

 

 

 

 

 

天狗の里は平和だった

鬼が入ってきても、支配者が変わったたけだ

それどころか構造がシンプルになって良い

今日も今日とて皆が平和に――

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ'あ"あ"あ"あ"」

 

「何事!?」

 

なる訳が無い、こういう時に限って

空から何かが地面に突き刺さった

土煙がだんだんと晴れる

突き刺さっていたのは…

 

「…白狼天狗?」

 

「あ、皆さん見る必要はないですよ」

 

「あ、舞様!」

 

空から舞が降り立つ

それと同時に突き刺さっていた白狼が地面から抜けた

 

「はっ…やべ、逃げるか」

 

「待って下さい旦那様〜?逃げる気ですか〜?」

 

「それ以外に何かあるとでも?」

 

「涅槃に入られては如何ですか?」

 

親しげにトークを交わす2人

それでその白狼が誰か一瞬で分かった

 

「なんだ夫婦喧嘩か」

 

「帰還を祝え!帰還した訳じゃないが!」

 

「ほれ関節技たぞー」

 

その間に舞が関節技で締める

 

「いでででぇででで締まってる!色々なところが痛い!」

 

「謝罪は?」

 

「するかそんなもん!」

 

「ほぅ…?」

 

「あががががががかが!出てはイケナイ音している!

 バキバキ言ってるーっ!」

 

さて、これがこの2人の夫婦喧嘩だ

これは簡易的な方だ

昔は舞がブチ切れて妖怪の山で核を使った

 

…スープは食事以外では禁句である

 

「はぁ…はぁ…」

 

「GIVE UP!!!」

 

「No!!!」

 

斬鬼は全力で戦線離脱した

 

「はぁ…逃げられましたか」

 

舞はぽつりと呟く

そして視線をしたに向け、あるものを見つけた

それは六つのみたらし団子だった

 

「…くすっ」

 

やっぱり、不器用な旦那だなぁと舞は改めて思った

 

「おかーさん!」

 

そう思っていると娘がやって来た

トテトテとこちらに頑張って走ってくる様は可愛い

我が子を舞抱き上げる

 

「どうしたのー?」

 

「宿題が終わったの!」

 

「そう、おめでとう

 そうだ、オヤツにしましょう」

 

「わーい!おやつ大好き!」

 

「しかもお父さんのお土産よ、美味しく頂きましょうね」

 

そう言うと2人は手を繋いで歩き始めま

子供の見た目は可愛らしい

その髪型何かは舞にソックリだ

 

しかしその顔…目や口、眉毛は斬鬼の如く厳しい

 

子供なのでそこまでは感じない

だが、大人になれば感じるだろう

 

その気を…

 

 

「…ここは」

 

「いい竹林ね」

 

あれから何年か旅をした

そしてその旅の終点がここ、竹林

 

「ここなら身を隠すのに十分だわ」

 

「竹の生え変わりが異常に早んだったか」

 

斬鬼は手を振った

 

「また会えるのを楽しみにしてるぜ」

 

「こちらこそ、じゃあね」

 

「また会いましょう?」

 

斬鬼はまた1人になった

ここからまたいつも通りの度だ

そう思うと自然と溜息が出てきた







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派手に飲むぞ

「そんなところかね」

 

「後半夫婦喧嘩しか無かったんですけど?」

 

「あれも旅の1部…そうに違いない」

 

そう言う斬鬼の目は死んでいた

妻には頭が上がらないようだった

 

「あぁ、いつかのアレですか、浮気相手を連れてくるとかいう」

 

舞が笑顔で言う

 

「ありゃ旅仲間って言ったよなぁ…」

 

「傍から見れば変わりません、そうでしょう?」

 

有無を言わさない笑み

 

「アッハイ」

 

頷くしかない外野

 

焦る斬鬼

 

ゆっくりと近づく舞

 

「待て、話し合おう」

 

「問答無用、せいっ」

 

ガッチリと掴むと舞は斬鬼にスープレックスをかました

重力とその他もろもろによって斬鬼は地面に突き刺さった

 

「ふぅ、清々しました」

 

「…ヒェッ」

 

晴れ晴れとした笑顔

 

観客の怯える声

 

突き刺さった斬鬼

 

なんともシュールなものである

 

霊夢が不満そうに舞に言った

 

「ちょっとー人の神社を荒らさないでよ」

 

「あらごめんなさい」

 

「最悪だ」

 

舞は一礼して謝った

斬鬼は直ぐに体を地面から抜いた

その顔は少し楽しそうに見えた

 

「はぁ、俺は食うよ」

 

そう言うと幽々子達と変わりないスピードで食材を口に運んだ

カレーは飲み物、と彼は言うことは無いだろう

 

「ヤケになったかしら?」

 

「暴飲暴食…3人も居るとか」

 

食費はうなぎ登りである

負担するのは霊夢か紫、以上

 

「ガツガツガツガツガツガツ」

 

「よく味わいなさい?」

 

「無理」

 

即答した後斬鬼は食事を再開する

 

「…はぁ、味がしない」

 

「あんな食い方すれば味はないわよ」

 

霊夢が呆れたように言った

暴飲暴食時には味は感じない

何故なら腹をストレスを解消する為に食っているからだ

その後の責任は自己で、ということらしい

 

「仲良かったんですね、永琳さん達と」

 

「そうかね」

 

「普通よ、友人から何も変わってないわ」

 

永琳はお酒を飲みながら言う

輝夜にとってはどうなのだろうか

 

「んー、良い人?」

 

「良い人ならいいか」

 

「いいのでしょうか?」

 

斬鬼はこう見えて雑…見て雑だ

彼は口の周りの汚れを拭くと葉巻を咥える

 

「食後の喫煙ですか?」

 

「人外の体には何の影響も無いさ」

 

人では無いので癌になど悩まされない

これがかなり嬉しいことだろうか

 

「はぁ…忙しいものだな」

 

「最近は異変のワゴンセールよ、本当に大変」

 

霊夢はお酒をラッパ飲みしながら愚痴る

彼女とてこの仕事をしたいわけでは無いだろう

ただ、仕事だからと割り切っているのだ

 

一応斬鬼は質問する

 

「辞めたくないのか」

 

「辞めたら生きていけない、それだけよ」

 

辞めれば八雲の庇護下を離れる

その強さがあれば何とか出来るが…

それでも庇護下の方が色々都合がいいだろう

 

「uh-huh…はぁ」

 

煙を吐く

それはゆらゆらと揺れながら空に消えていった

 

「あなたも辞めたくないのかしら?」

 

「どうだろうか」

 

戻ってきたばかりだ、辞める気は無い

辞める時は次代に引き継いだところだろう

…俺に敵う奴が居れば、だが

 

「俺に跡継ぎは…生きてるかね」

 

「私に聞かれても知らないわよ」

 

霊夢は細い目で斬鬼を見た

斬鬼はため息を吐く

 

「まぁそうだよな…」

 

他人に自分の倅を知らないかと言われても知らんと返される

当たり前だが、どこか変に思える

 

「あー、皆寝ちまったか」

 

どうやら疲れで眠りに眠ったようだ

斬鬼と霊夢は神社の縁側に移動した

お酒の瓶を1つ、でもこれは霊夢の為じゃない

 

「アンタの物語が良い睡眠に誘ったんじゃないの?」

 

「知らないね、お前も眠そうだが」

 

とろんと目が潤んでいる

その顔はとても可愛い…

 

「寝たらどうだ、俺は少し起きておこう」

 

「そうさせてもらうわ…ふぁ…」

 

そのまま霊夢は斬鬼の膝に頭を置いて目を瞑る

数秒もしない内に寝息が聞こえきた

 

「おやすみ」

 

俺は彼女を縁側に寝かせ、軽く布団を掛ける

 

「それじゃあお酒でも飲みましょうか?」

 

「そうだな…」

 

舞と手を繋ぎ、反対側の縁側に座る

そこからは月がよく見えた

境内からの視線が通らない、神社を上から見て右側の縁側だ

 

「淹れてやるよ」

 

「私がしますよ?」

 

そういうと舞は杯にお酒をいれた

二つの杯の内1つを手に取る

舞も瓶を置いて杯を手にした

 

「「乾杯」」

 

カチンと杯がぶつかりあった

杯を傾け、中の酒を飲む

どうやらかなり良い奴の様でかなり美味しい

その旨みの後に小さな辛さがくるのもなお良い

 

「良い酒だな」

 

「紫からです、有難く貰いました」

 

「は、。あいつの酒か」

 

俺は杯を弄ぶ

お酒を入れ直し、また飲む

 

「んーdelicious」

 

舞が嬉しそうに呟く

その顔は紅潮していて、目がトロンとしていた

先の霊夢とは違い、こちらは妖艶な雰囲気が強い

大人のそれ、だろうか

 

まあ昔から求婚を何回もされていた奴だから仕方ないか

 

「んーん!――んー」

 

「んん!?んー…」

 

いきなり唇を塞がれる

抵抗しそうになるが、止めた

どうやら酔っているようだったのでな

 

「ぷは…んー…」

 

「はぁ…」

 

「全く煙草臭くありませんねぇ…本当に吸ってます?」

 

舞が目を細めて言う

 

「吸ってるぜ?臭わないってのは嬉しいものだ」

 

「臭いよりか断然マシですからね…ちゅー」

 

「唇をふさ――んん…」

 

2人の時間

それを邪魔する者は何処にもいなかった

 

…ただし見ていないと言っていない

 

「あわ…あわわわわ…!」

 

「妖夢、震えすぎだせ」

 

「お熱いわねー」

 

「やっぱり夫婦なのね」

 

勿論彼女達が寝ているわけがない

夫婦を2人っきりにしたらどうなるか試したかったのだ

結果、見えないバリアみたいなのが貼られている

視界のバリア、だろうか

あそこを邪魔すれば塵一つ残らないだろう

 

「うう…破廉恥です」

 

目の前で濃くキスをしていれば自然と出る言葉である

まぁ夫婦ならこれくらい…するの?

 

「あれ絶対子供いるわよね」

 

「どうでしょう?私に聞かれても…」

 

椛は首を傾げる

聞かれてもシラネーヨで終わらせる

天狗という種族であってもあの夫婦はよく分からないものだ

古参であっても理解が出来ないところもある

 

 

 

 

 

「…本当に良い人を妻にしたのね、斬鬼」

 

スキマ妖怪の呟きは誰の耳にも入る事は無かった




Q あれ60人程の神風部隊、6人以外壊滅してなかったっけ
なのに何故"蛸"は生きている(既に死んでいる)のだろう

A 作品の都合

この時私はすっかり6人以外壊滅しているのを忘れていました
まぁ壊滅だから1人2人生きててもいいよね(暴論)



――ただし生きているとは言っていない


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花映塚は弔いの為に咲く
花が咲き乱れる


誤字報告は本当に有難い


あれから自室で物事を片付けていた

どれもこれも些細な問題だ

酒飲んで誰かを殴っただのつまらない事が書かれている

 

ちなみに天魔の仕事の半分の分も入っている

 

何でか知らないが半分でかなりの数があった

ともあれ机の上は書類の山である

そしてふと外の風景を見た時だった

 

「…ん?」

 

山に紅葉が咲き乱れていた

斬鬼は首を傾げた後に仕事に戻る

 

「――は!?」

 

思わず視線を戻した

そこには先程と変わらず咲き乱れる紅葉

だが、それは春である今に咲くはずが無い

 

「…ああ」

 

斬鬼は直ぐに理解した

異変かと思ったが、確かこんな現象もあったな

50年くらいだったかそれくらいでこの現象が起きる

原因は外の世界から来た大量の魂だ

 

…戦争の犠牲者、もしくは大災害か

 

己としては戦争の犠牲者が多かった

人間というのは何時も変わらないらしい

 

「それにしても…ふむ」

 

この新鮮な景色を目に入れるもいい事かもしれない

書類は半分位片付いている

 

「舞ー、ちょっと何処か行こう」

 

「あら、この景色懐かしいですね」

 

「もうそのような時期になりましたか」

 

舞の後ろに女中が居た

 

「行ってらっしゃいませ、私は待っています」

 

「おう、任せた」

 

そう言うと俺は妖怪の山を回っていった

 

 

「うわぁー…」

 

綺麗な紅葉

紅葉というのは私が1番好きなものだ

私と同じ名前というのもあるが、何か大切な気がするのだ

 

「…それにしても」

 

この異常な光景、"見た事がある"

記憶には無いのだが、見た気がするのだ

この様な光景をどこかで…

 

「――っ」

 

頭痛がそれを妨げる

まるでそれだけは思い出してはいけないかのように

 

「よぉ、仕事は捗っているか?」

 

「斬鬼さん、この現象で色々と…」

 

私はぺこりと頭を下げた

彼は舞さんと一緒にいるようだった

本当に仲のいい夫婦さんである

 

「そうか、大変だな」

 

「いつもの事です」

 

天魔の側近としていても、所詮は白狼だ

主な仕事は哨戒と天魔の目付き役、と言ったところだ

この能力があったこそ居れる職業だ

 

「少し散歩していてな、暇なんだ」

 

「仕事は無いのですか?」

 

「もう終わった、よな?舞」

 

「半分くらい残ってますわよ?」

 

…終わってないじゃん

それに対して斬鬼は明日終わらせればいいと言った

そういうことでもないと思うんだよなぁ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…今の山を見てどう思う?」

 

ふと斬鬼さんからそんな質問が投げられた

私はそれが一瞬理解出来ずオウム返しをしてしまう

 

「今の山を見てどう思う…ですか?」

 

「あぁ、現在の状況さ、良いか悪いかでもいいぞ」

 

私は少し考えた後言う

 

「…悪いと思います」

 

「何故だと思う?」

 

「その、大天狗が…」

 

その通り、と斬鬼は言った

舞さんもしみじみと頷く

 

「私たちが居た頃とはもうかけ離れているわ」

 

「腐りに腐った、改革がしたいが…」

 

「それは無理…と」

 

「きっかけや口実が無いとな」

 

処分だって口実が無いと出来ない環境だ

天誅と奴らを殺ることが出来るが後々面倒だ

 

…変な感じはするのだが

 

「まぁ、お前さんがどう思っているか分かった

 ありがとよ」

 

「バイバーイ」

 

そういうと2人はどこかに行ってしまった

 

「不思議な人達だなぁ」

 

「まーたサボってますねアレ…」

 

文が後ろから来る

 

「いつもの事では?」

 

「そうでしょうか?」

 

質問を質問で返す辺りやっぱり文は苦手だ

椛はそんな事を心の中で呟いた

 

「同期ならそれくらい分かっているでは?」

 

「まぁ、相違無いわね…あんな感じだったか忘れたけど」

 

そう言う文の瞳は何処か遠いところを見ていた

何か、思い出したくないことでもあったか…

 

「それでは!仕事に専念してくださいね!」

 

ニッコリと営業スマイルに変わり、どこかに飛んだ

それが椛としてはどこか違和感を感じたのだった

 

 

「なんとも言えねぇ景色だな」

 

「ちょっと混ざり過ぎでしょうか」

 

桜やら紅葉やらイチョウやら沢山咲いている

地面には鈴蘭や薔薇、蕗の薹とかもだ

それが独特な模様を生んでいるのだが…

 

「あまり好きじゃないな」

 

「私も相違無いですねぇ」

 

物珍しい点では変わらないのだが

そんな事を川辺でやっていると川からにとりが出てきた

この現象で実ったらしいキュウリを咥えている

それは煙草じゃないんだぞ

 

「おや、逢い引きかい?」

 

「既に結婚してるぞ」

 

「ああ、そうだったね」

 

にとりは川から出てこずにそう言った

 

「この現象は初めてか?」

 

「いや?一回見たことがあるね」

 

「妖怪なら何回かみるきがするんだが…」

 

斬鬼の言う事は最もである

妖怪の生きている期間に50年など何回来るか

それは最早分からないのだけれど

 

「何、機械を弄っているだけさ」

 

「uh-huh、それで外に出ないと」

 

「楽しいからいいのさ!」

 

んだったら人のこと考えろ阿呆と言いたいところだ

コーヒーにオイルが入っていたのを思い出す

…オイルなんて生まれて初めて飲んだな

とても思い出したくない味である

 

「はぁ、まあ倒れない程度にな」

 

「分かってるって!」

 

そういうと彼女は川に消えた

次の目的地は既に決まっていた

古い友人が居る場所である

 

「次は…太陽の畑にでもいくか」

 

「思い出話が出来そうね」

 

舞はからからと笑った

 



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花の妖怪

「綺麗な向日葵だな」

 

俺は呟く

目の前に広がる大量の黄色の花

それはサンフラワー…向日葵だ

最近は人間達の中で欲しがる輩も多いと聞く

永琳達と別れてからここにたどり着いた

風が心地よいくらいに吹いた

 

「ここで自生したか」

 

「外国の花がここで咲くかしら?」

 

「…お前は?」

 

声のした方に向く

向日葵の畑の真ん中に女が立っていた

緑髪で赤い瞳は鋭く、傘を持っている

そのチェック柄の服をこれまで見たことは無い

 

「外来妖怪か、珍しいものだ」

 

「私は花の妖怪、風見幽香…貴方の事は知っているわ」

 

「へぇ、俺も有名人だな」

 

俺は鼻で笑う

知っているからなんだと言うふうに

 

「紫が言っていた通り、強い妖力ね」

 

「アイツの知り合いか、何か俺に用でもあるか?」

 

「えぇ…あるわ」

 

瞬間、幽香の姿が消える

即座に刀を首元に移動させる

 

…刀が傘の攻撃を防いでいた

 

「やっぱり、噂通りの男ね」

 

「戦闘狂が」

 

「あなたもでしょう?」

 

一本の刀を構え直す

それを間髪入れずに幽香の腹に突き刺した

 

「な…!」

 

視認出来なかったのか、反撃してこない

それを活かして刃を頭の方向に捻りあげる

心臓付近でそれを止めた

 

「さぁ、どうする?」

 

「…降参よ」

 

傘を落とし、手をヒラヒラと振る

刀を抜いて血を払う

 

「やっぱり噂通りの強さね」

 

「これだけか?」

 

斬鬼は問いかける

ただ向日葵を見つめていた俺を攻撃した意味

それの答えは

 

「これだけよ?」

 

「はぁ」

 

キッパリと言い放つ

 

「お前はその為だけに俺の前に現れたのか?」

 

「何か不都合でも?」

 

「…ふん」

 

暇を持て余したもの達が良くする事だ

それと言って不思議なことではない

強そうな奴と戦うのは大妖怪にとって普通と言える

 

「こっちは弟子待たせてるんでな」

 

「誰かしら?」

 

「それは…ほら」

 

「師匠ぉー!」

 

振り返ると長髪白髪の女の子がこちらに走ってきている

モンペ、磁器の如く白い肌、赤い目

 

「…誰?」

 

「こいつは幽香、今出会ったばっかりだ」

 

「あら、これは驚きね」

 

「どうかしたか?」

 

幽香はクスリと笑う

 

「こんな可愛い子を弟子にしているとは思わなかったの

 しかも貴方みたいな男がね」

 

「は、よく言うぜ――」

 

 

勿論これは数千年も前の話

今はこうやって3人でお茶会をするくらいに穏やかになっている

 

「久しぶりね、斬鬼」

 

「元気そうだな、お前の花達」

 

「いつも通りよ…で、こっちが」

 

幽香がチラと舞を見る

 

「俺の妻…知らなかったのか?」

 

「見た事なかったもの、ねぇ?」

 

「初めまして、これからよろしくお願いしますね?」

 

首を傾けてニコリと笑う舞

それを目を細めて見やる幽香

それが本当の笑顔なんて思っていないのだろう

 

「まぁいいわ、今はどうでもいいし」

 

「いいお茶ですねぇ、香りがとても良い」

 

「育てたハーブを使ってるの、気に入ってくれたなら嬉しいわ」

 

「抹茶やらしかないよねぇ、こういうのは新鮮でいいわ」

 

「…誰かお呼びらしいぞ、幽香」

 

ドンドンと外で騒音が聞こえる

その弾幕の音と色は某神社でよく見たり聞く

 

「そろそろ帰ろうかしら、じゃあねぇ風見さん」

 

「また今度、会いましょう」

 

そういうと彼女は扉をあけて出ていった

 

「さて、俺達は…彼岸に行くか」

 

同じように、幽香の家から出ていった

 

 

死する物が集う場所、彼岸

その川を死神に先導されて渡り、対岸にたどり着く

 

そこには閻魔が居る

 

死する者の罪を裁く閻魔が居る

 

「やはり、変わらないな」

 

「彼岸は変わりませんよ」

 

そこはくらい荒野だった

冥界と同じ感じた、枯れ木が所々にある

 

「…ぐう」

 

「あら可愛い寝顔」

 

「…そうか、お前は死神だったな」

 

船の上で眠りこける女

そいつは最近の人里で会話をした小町だ

 

「…お前も苦労してるな」

 

背後の気配にそう語る

 

「ええ、部下が貴方の部下の様に有能であればいいのですが」

 

「大体が死んだか良い職についてるかさ、だろ?」

 

「私は死にましたけどね、あの"妖怪'のおかげで」

 

「貴方は必要な犠牲だった、でしょう?」

 

大体の連中は死んだ

都であった"蛸"も呆気なく死んだ

死因はウイルスだった

 

神風部隊の一員であった彼は狙われていたのだ

 

何故か分からない

そのウイルスが月の物と言うことしか分からない

 

「あなたは進展無しですね」

 

映姫は溜息をついた

その目は呆れが大半だった

 

「全く、あれ程言ったのに…」

 

「…俺が近々何をするか、知っているだろ」

 

「ええ、全て分かっています」

 

彼女は棒を胸元に構える

 

「私にはあまり関係ありません、全ては私に裁かれる」

 

「俺も近い内に…はは」

 

「私と同じになるかしら?」

 

「どうだか」

 

ならない、といえないのが現状だ

気が熟せばそれは行われる

 

斬鬼にとっての最後の任務(ミッション)になる

 

役割(ロール)を果たさなければ

 

「さて、小町?」

 

「…―――!?映姫さま!?いつの間に!?」

 

「さて、お仕置ですね」

 

「ぎゃ、ぎゃあああああああ!?」

 

死神の悲鳴が響いた―――



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異変なのか?これ

「あーあ、可哀想に…サボらなければこうはならなかった」

 

目の前でたんこぶの山を作りし死神に言う

かなり強い衝撃だったのだろう、起きない

というか動くことすらしない

 

「まぁ死んでるし心配することないか」

 

「一理ありますねぇ、帰りましょう」

 

「待てって、あたしゃまだ失神してないよ」

 

鎌を持って立ち上がる

 

「さて、私には少し仕事がありますね」

 

「あぁ、あるようだな」

 

映姫の言葉にそう言った刹那、針が地面に刺さった

それは2つ、斬鬼と映姫の足元に刺さっている

 

「あんたも異変の協力者かしら?」

 

「んな暇があるか、散歩してたんだ」

 

「十分暇があるじゃない」

 

すとりと着地する霊夢

その服のほつれからして幽香とはいい戦いをしたようだ

 

「幽香はどうだ、強いだろう」

 

「そうかしら、このくらい余裕よ」

 

「あなたの相手は私でしょう、博麗霊夢」

 

映姫に霊夢が向き直った

多分彼女もこれが異変じゃないと分かっている

博麗の巫女として知っておかねばならない事象だ

 

…大方働いてますよ感を出すためにやっているのだろう

 

人里の若者は噂や伝承でしか知らない

物珍しい景色に足を取られて死亡しないように博麗の巫女が出ている

彼女が出ていれば異変と思われるから…だと思う

 

「あんたなんて舐めプで瞬殺してやるわ」

 

「一回地べたを舐めさせてあげたしょう」

 

そのセリフを吐いた後2人は浮く

ここからは斬鬼の出番は無い

 

目の前に鎌の刃があった

すかさず刀を2つ抜いてバツ型に防ぐ

 

「やる気か?」

 

「やれといわれてるんでね」

 

「頑張って下さい旦那さまー」

 

「おしやってやろう」

 

小町から少し引き、刀をだらりと下ろす

彼女は警戒を解かず、むしろ高めていた

斬鬼の雰囲気が辺りと同化し、彼の気配が消える

それと同時に現れたのは"殺意"だった

斬鬼は吐き捨てる

 

「スペルカードルールなんてもんに縋り付くなよ」

 

「実戦は何度もしたことある、行くよ」

 

その言葉と同時に小町の姿が消える

刀を後ろに回し、"鎌の攻撃"を防ぐ

 

「移動系統の能力か」

 

「簡単さ、種明かしはしないよ」

 

「自分で見つける」

 

小町に上から刀を振り下ろす

それは当たるコースだったのに、小町は数歩後ろに下がっていた

それらから能力について考察する

 

足が動いた形跡は無い

 

時を止める…今のうちに攻撃できた

 

…つまり

 

「距離を操る能力か」

 

「ご名答」

 

また鎌が振るわれる

それはお世辞にも上手いとは言えない

 

「鎌さばきは下手なようだな」

 

「これを使うのは命を刈り取る時だけさ」

 

「いつもはスペルカードか?」

 

「当たり前さ」

 

刀の背で鎌を防ぎ、もう片方で斬る

また避けられる

そこを刀で突くがまた避けられる

 

「…uh-huh」

 

刀を地面に突き立てる

黒刀の黒い刃がどす黒く光る

瞬間に青い炎が円状に斬鬼と小町を囲んだ

 

「厄介なことをするね」

 

「これがいいさ」

 

「…その刀、霊力が宿っているのかい」

 

黒刀には妖怪なら触れば消滅する程の霊力が込められていた

斬鬼はそれを平気で握っている

 

「託された物だ」

 

「まぁ、刀が一本無くなったことに変わりはないけど…ね!」

 

鎌を振るう

それは簡単に刀に防がれる

 

「な…!」

 

小町は驚いた

刀一本で防がれたことでは無い

そんなことなら誰にでも出来る

では何か――

 

その速さが2本より速かった事だった

 

「アンタの得意なのは一刀流だったのかい、驚きだね」

 

「2本は手数が多いのは結構だが、力が入れにくい

 それに比べて一本はこうやってな」

 

刀を両手でしっかりと握る

瞬間刀が鈍く輝いた

 

「妖刀か、しかもかなりの業物だね」

 

「世界最高峰の職人が作った特注品だ、2つ目は無い」

 

グオンと刀をしなるように振る

それを小町はすれすれで避ける

赤い髪が何本かきれた

 

「く!攻めれないじゃないか」

 

「それが狙いさ」

 

「何を―――」

 

瞬間小町を襲ったのは燃えるような激痛

いや、実際に燃えている

 

「忘れてた―――」

 

「はい終わり、と」

 

刀を映姫が抜き取る

その瞬間小町を襲っていた炎も掻き消える

 

「あちちち…」

 

「面白い所だったに、はぁ」

 

「これ以上は貴方に手を出さなければならないのでね」

 

「斬鬼、アンタそれ…」

 

霊夢が怪訝そうに斬鬼の黒刀を見る

刀を鞘に戻したあと首を傾げる

 

「どうかしたか」

 

「…いや、なんでも無いわ…疲れた」

 

そう言うと彼女は帰って行った

その後ろ姿は全然疲れていないようだったけど

 

「…はぁ、これじゃ商売上がったりだよ」

 

「知らん、この事象は時期に終わるから帰る」

 

「そうですか、善行を尽くしなさい」

 

映姫は最後にそう言った

舞は先に飛び立つ

斬鬼は振り返り、映姫に言う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の善行はあと一つしかない」

 



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テイクオフ、オブ、ムーン
疲労回復に良いぞ


帰ると既に夜だった

妖怪の山にある天狗の里の光がよく見える

そこから少し離れた場所に、淡い光が見えた

 

「あ、あれミスティアちゃんのじゃないかしら?」

 

「ちょいと食事していくか」

 

その光はミスティアが屋台を開くときに出す提灯の光だ

1部の者はその光を見るとお腹が鳴るという

確かにあそこのは美味しいからそれくらい普通だろう

 

火に近づく蛾みたいだ

 

その屋台が見えてきたところで着地する

やはりあの時食事したミスティアの屋台だ

 

「よぉ」

 

「いらっしゃい」

 

「あ、斬鬼さん」

 

「斬鬼、アンタも食いにきた感じ?」

 

既に椛と文が居た

どうやら夕飯の様子、一緒に食べるか

 

「あー、八目鰻と鬼殺しを…」

 

「斬"鬼"なんて名前の人が鬼殺しとか飲んでいいの?」

 

「別に鬼じゃないから良い」

 

斬鬼は手を振った

 

「椛はお前が誘った感じか?」

 

「お疲れだったみたいなんですよねー」

 

「あ、あはは…お恥ずかしい…」

 

椛は赤面する

その顔に少し疲労があった

 

「はい八目鰻と鬼殺しね」

 

「ま、美味いもの食えば疲れはとれるさ」

 

出された八目鰻に箸を伸ばす

 

「あ、私は枝豆と八海山で」

 

「じゃあ私はおでんを!」

 

「私は舞さんと同じ枝豆をお願いします」

 

「はーい少し待っててくださいねー」

 

そういうと彼女は塩いっぱいの桶に枝豆を入れて揉み始めた

どうやら最初からするらしい、本格派だなぁ…

 

「いや、今回は混乱的な事象だったな」

 

「花が咲き乱れるなんて、人間からしたら驚きですしねぇ」

 

人間が生きている内に見る可能性があるくらいだ

初めて見た人間は多いだろう

というか人里はどんちゃん騒ぎだった

 

「さて、まぁ…」

 

斬鬼は鬼殺しを飲み始める

鬼をシビラセル効果がある酒だ

少なくとも妖怪にも効果はある

 

「あぁ、やっぱりこの味だな」

 

この舌が痺れるような感覚、懐かしい

 

「貴方、独特よね」

 

ミスティアが枝豆を出しながら言う

鬼殺しは妖怪はあまり好んでいない

それこそ鬼は忌み嫌うのだ

 

「人間の作った酒がどんなもんか知りたくてな」

 

「すっかり虜にされているわ」

 

「まぁ、人間の作るものって美味しかったりするわよねぇ…」

 

人間の手料理は美味しいものがある

それこそ真心込めたものなのだ

そのありがたみが心に響く

 

「最近、隙間妖怪が変なんですよ」

 

文がポツリと零す

 

「なにがだ?」

 

「霊夢さんに神降ろしの技を習得させようとしてます」

 

「…意味わからないな」

 

アイツはなにがしたいのだろうか

神降ろしなんて本当に何をしたいのだろう

 

「霊夢さんも不審に思って修行しているようですよ」

 

「あの寝坊助がか、凄いな」

 

「…ろくな事は考えていないわねー」

 

舞が目を細める

その意図にはとっくに気づいている

 

「また変な事が起きそうですね」

 

「大体紫か絡んでいるのはいつもの事、でしょう?」

 

「そうね、舞の言う通りだわ」

 

「大体面倒事に違いない」

 

ボロくそに紫に悪口を言う

まぁそれが言えるくらいのことをしているあいつもだが

何ともまぁ救いの無いやつである

 

「あぁ、吸血鬼達もでした、そういえば」

 

「不審な動きかしら?」

 

「そうですね」

 

「…面倒事が多いなぁ」

 

椛の言う通りである

異変が終われば今度はおかしな事が起きている

何ともまぁ最近は騒がしい

 

「なんでもロケットなるものを作っているようですよ」

 

「彼女達は月にでもいくのかしら?」

 

舞は呆れたようにいう

月に行くだなんて…んな阿呆な…

 

「まぁいい、俺はそろそろ帰らせてもらおう」

 

「お疲れ様です」

 

「お疲れ様ー」

 

そのままある気配の元に歩く

そこには1人の妖怪が立っていた

 

「よぉ、スキマ」

 

「やっと来たのね、斬鬼」

 

「ずっと待ってたのかしら?」

 

「そうね」

 

傘をゆらゆらと揺らしながら紫はこちらを向く

 

「何の用だ」

 

「簡単な事よ」

 

紫は扇子で口を隠した

 

「月に行ってもらいたいの、霊夢達が到着した時に」

 

「そらまた…どういうことだ」

 

斬鬼の耳に紫が口を寄せる

こしょこしょと小さな声であることを伝えた

 

「…分かった」

 

斬鬼はこくりと頷く

 

「幻想郷からロケットが飛び立った時に月に行きなさい」

 

「俺は依姫の相手を…アイツらが全員やられたらだが」

 

「月の民に彼女達は勝てないわ」

 

「ですよねぇ、"あの時"も結構ギリギリ…」

 

「「嘘つけ」」

 

こいつが月面で大暴れしたことを忘れてはならない

文字通り敵を紙のように切り裂いたのは忘れない

漫画のような光景だった、あれは

 

「準備しておきなさい」

 

「お前もその首取られないようにしとけ」

 

紫はスキマに消えた

斬鬼はため息を吐く

 

だが、その顔は笑っていた




部面からわかる通り次は東方儚月抄です

第二次月面戦争のハジマリダー


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ロケットぉ…?

「…本当にロケットを作ってるじゃないか」

 

自室で書類を処理しながら千里眼で紅魔館を見る

そこには円錐状の赤い物体があった

少し不格好だが、それはロケットに違いない

 

「でも、どうやら燃料が足りないみたいね」

 

「幻想郷にロケットブースターの燃料なんて無いからな」

 

河童の所にあるかもしれないが

まぁそんな貴重なものを渡すわけが無い

 

「ま、助言しなくてもどうにかなるだろう」

 

そういうと手を振る

そこにいつものワープホールが生まれる

これも彼の能力の賜物だ

 

「久しぶりに幽々子のところに行くかね」

 

「そろそろ稽古したらどうかしら」

 

「それも兼ねてな」

 

斬鬼と舞はワープホールに入った

後ろから女中の送る声が聞こえた

 

 

「ふわっと着地」

 

「あ、舞さん、斬鬼さん、ようこそ」

 

白玉楼の庭に着地する

そこはいつも通り寒い場所だった

 

「ちょいと幽々子に用があって…舞、相手してやれ」

 

「分かったわ、さて、妖夢ちゃん…」

 

「…分かりました」

 

彼女達は庭を後にした

多分道場にでも行ったのだろう

舞も刀の使い方は知っているが…今回は扇子だろうな

 

縁側に上がり、幽々子の部屋の障子を開ける

そこにはいつも通り煎餅を頬張る幽々子が居た

 

「よ、腹は満たされないのかい」

 

「もう1口しかないの、残念ね」

 

「あー…分かるぞその気持ち」

 

なお目の前にあるのは鬼盛りの煎餅である

決して目の錯覚ではなく、本当に鬼盛りである

いったい何mなのだろうか

 

「紫から話は聞いたか?」

 

「あぁ、あの月についてね」

 

幽々子がお茶をこくりと飲む

 

「貴方がワープホールを開いて、舞と一緒に行くって」

 

「あぁ…あぁ?舞と?」

 

「えぇ、そう言ってたわよ」

 

「…」

 

あのやろー…

まぁいい、彼女も最近暴れたかった事だろう

派手に囮を務めてもらわなければ

斬鬼は腰を下ろし、煎餅を頬張る

 

「にしても美味い役を受け取ったものだ」

 

「羨ましい?」

 

「戦闘しないのが残念だが」

 

「あらあら、私はそんな野蛮人じゃないわ」

 

手をヒラヒラと振る

 

「ま、掃除機といったところか」

 

「なにそれ?」

 

「なんでも吸い込むんだ、なんでもな」

 

本当になんでも吸い込む

やはりダイ〇ンは違うな

…こっちに来てから1度も使った覚えは無いのだが

 

「妖夢に言ったか?」

 

「えぇ、見張りを彼女に頼んだわ」

 

「uh-huh…アイツだけ?」

 

「そうよ?」

 

「…お前は」

 

「把握している通りよ?」

 

かたんと首を傾げる幽々子

この…1番楽な仕事じゃないか…

こちとら面倒な仕事だというのに…

 

「あー、あー…」

 

「察したかしら?」

 

「まぁお前だからこそ出来ることか…」

 

納得出来るが、納得出来ない

まぁ仕方ないことか

斬鬼はため息をついた

 

「…あ、終わったようだな」

 

スコーンと竹を割ったような音がする

 

「行きましょう」

 

幽々子はそういうとスタスタと歩いていった

 

「…」

 

斬鬼もその後に続いた

 

 

「頭が…くらくらする…」

 

「どうですか?私の扇子は」

 

「それ本当に材質が木なんですか…?」

 

道場で妖夢が倒れていた

額に痛そうなたんこぶ、舞が持っているのは扇子

どうやら扇子でぶっ叩かれたようだ

 

「お疲れ様妖夢、早速悪いけど…」

 

そういうと幽々子は妖夢にあることを言った

妖夢は首を傾げた

 

「本当によろしいのですか?それは…」

 

「大丈夫よ、ほら行って」

 

「分かりました」

 

そういうと彼女は額を擦りながらどこかに飛んで行った

 

「どこに行かせたんだ?」

 

「紅魔館よ、入れ知恵ね」

 

なんの、とは言わなかった

紫が幽々子に紅魔館の見張りを任せたことは知っている

そして彼女がそれを一蹴したこともだ

妖夢1人での監視…椛を任せれば良かったかね

 

「ロケットを完成させたら…仕事が増えるんだよなぁ…」

 

「楽しそうでいいじゃない♪」

 

舞がうきうきと言った

 

「あーあ…今日の夕方くらいに面倒事が起こりそうだ…」

 

斬鬼はそういうとワープホールに入っていった

舞もそれに続いた

 

1人残された幽々子ポツリと呟く

 

「…貴方が、1番の面倒事を起こすのよ」

 

 

部屋から外を監視する

紅魔館の庭にロケットが置かれていた

その前で霊夢が何かの儀式をしている

住吉さんを呼び出す儀式…神降ろしだ

 

…魔理沙が荷台と思われる部分に入っていった

 

レミリアがワインを飲み干し、ポイと投げる

 

ロケットにレミリア、咲夜、霊夢、魔理沙(密航者)が乗った

 

役者が全員揃った

 

「…さて、行くぞ舞」

 

「承知」

 

ワープホールを開き、中に入り込んだ



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53話





「どうしてロケットを作った」

 

永琳が強い口調で話しかける

大図書館の魔女、パチュリーは本を読みながら返す

 

「どうして?さぁ?分からないわね」

 

「そんなことで済むことじゃないわ、早くしなさい」

 

永琳が弓を構える

その後ろには輝夜が居た

 

「私は月から追放されたけど…そんなに恨んでいる訳では無いわ」

 

彼女は月を恨んでいる訳では無い

己の育った故郷を恨む者など、いる物か

 

「こうやって侵略されるのは嫌なの」

 

「…分かったわ、教えてあげる」

 

パチュリーは話し始めた

 

「八雲紫が月に戦争を吹っかけるのは知っているわね?」

 

「私が手紙を出したし、当たり前よ」

 

「それで言うけど、ロケットの設計図が簡単に手に入ると思う?」

 

「…無いわ、ありえない」

 

外の世界でもそういうのは機密事項だ

どんなに昔のロケットでもその構造は秘匿される

一般的な物は公開されるが、それは覚えられている

 

「簡単な事、八雲紫にうまく誘導されてたの」

 

「…アイツがやりそうな事ね」

 

輝夜が歯噛みした

 

「私は痛いのは嫌だからここに居るけど…あなた達は?」

 

「行きたくないから、よ」

 

「簡単な事ね」

 

興味なさげにまた本を見る

 

「…あ、そうそう」

 

帰ろうとする2人の背中にあることを投げる

 

「あの妖怪、"天狗の夫婦"が月に行くって言ってたわ」

 

「…まさか」

 

「…そのまさかでしょうね、姫様」

 

天狗の夫婦、紫の知り合い

もはやそれはあの2人しか居ない

 

「…分かったわ、手紙をもう1つ送らないとね」

 

 

「これが宇宙かぁ…」

 

魔理沙は感嘆の声を漏らす

そこには黒1色の宇宙に輝く星々

これを見て感嘆のため息をつかないものはいない

 

「どう?密航者」

 

「美しいぜ!スペルカードの新しい奴が出来そうだ」

 

「全く…霊夢?航海は?」

 

「全く問題ないわ」

 

中部の切り離しが終わったところだ

身の前に月が見える

それは青い色をしていた

 

「月って青かったか?」

 

「知らないわよ」

 

「さ!八雲をギャフンと言わせてやる!」

 

レミリアはやる気満々だ

まぁ地べたを舐めるようなことをさせられたからまぁ…

 

「…!?」

 

「な、何だこの振動!?」

 

「墜落してるわ!衝撃に備えて!」

 

機体がグルグルと回る

無論のこと機内もミキサー状態だ

瞬間、壁に穴が空いて咲夜とレミリアが外に吹き飛ばされる

 

「咲夜!レミリア!」

 

「腹が…腹からなんか出―――」

 

魔理沙がそういいかけた瞬間、一段と強い衝撃が2人を襲った

 

「ぎゃ!?」

 

 

振動が止まり、ようやく平穏が訪れる

 

「いてて…なにが起こったんだぜ…」

 

「…これは」

 

窓の外を見た霊夢が驚きの声を零す

思わず魔理沙も窓を覗く

 

「こりゃ…」

 

そこは湖…いや、それを超える水源だった

幻想郷に居る彼女達は知らないが、これは海である

その砂浜にロケットは不時着していた

ハッチから出ていく

 

「よぉ、災難だったな」

 

「…斬鬼?」

 

すぐそこに斬鬼が居た

彼は手をフラフラと振った

 

「スキマから派遣されてな、へへ」

 

「…アンタのワープホール、使えばよかったわ」

 

恨むような視線を送る霊夢と魔理沙

その視線をものともせずに葉巻を咥える

 

「言わなかった方が悪い、で」

 

斬鬼は後ろを見る

 

「何を見ているんだ、依姫」

 

「…斬鬼?」

 

そこに居たのは紫髪ポニーテールの女だった

その眼光は斬鬼と同じように鋭い

 

「久しぶりね、何千ぶりかしら」

 

「昔はまた今度、立場上これは見過ごせないだろ」

 

「…それもそうね」

 

依姫は霊夢と魔理沙に視線を向けた

そして剣を地面に突き立てた

 

「おっと」

 

「んな!?」

 

「これは…!」

 

斬鬼は即座に避けた

剣が地面から大量生え、2人を閉じ込めてしまった

 

「…祇園様の剣」

 

「そのとおり」

 

無数に生えるはただの剣だ

彼女の能力もあるが、その剣の効力もある

 

「簡単に神の攻撃を避けないでください」

 

「無理」

 

斬鬼は葉巻を吸いながらそういう

…そういえば女中が育てたあの3人出会って無かった

帰ったら会いに行こうか

聞いた話によれば3人別々の所に行ったらしい

 

「…レミリア!」

 

霊夢が叫ぶ

その先には咲夜とレミリア、依姫に走る玉兎だ

 

「すみません依姫様!腰が抜けて逃げて…」

 

その発言に頭に手を当てため息をつく

斬鬼も同じような気持ちだった

天狗であっても戦いはするだろう

 

…ここの奴らは訓練を怠っているのだろうな

 

普通、訓練された兵士というのは立ち向かう

捕虜にされるという恐怖はあるが、それでもだ

命令だし

 

「…―――」

 

と、依姫がレミリアに向かって術を唱え始めた

 

「!それは…」

 

と斬鬼が零すと咲夜がいつの間にか羽交い締めしていた

いきなり羽交い締めされたことに依姫は驚く

そして剣から手が離れたのを見て時を止めその剣を抜く

 

「っ…」

 

「ヤバいぜ…」

 

「この月に何しに来た」

 

依姫は柄に手を添える

 

「…何しに来たっけ」

 

「あ、それな」

 

依姫がずっこけた

あんな派手な物に乗ってきて、捕らえようとしたのにこれだ

2人ともここに何しに来たか分かっていないらしい

 

また祇園様の剣で封じる

 

これで己の疑念は晴れると依姫は喜んだ

 

彼女達を諦め、咲夜とレミリアに視線を向ける

 

「そうねぇ…」

 

レミリアは妖艶に笑う

 

 

 

 

 

 

 

 

「月を侵略しに来たの」

 

 

 

 

「…そうですか…貴方は?」

 

依姫は最後の1人、斬鬼を見た

彼は葉巻の煙を吹かす

 

「そうだな、旧友の用でね」

 

「…あれですか」

 

この少し前に永琳からまた手紙か届いたのを依姫は記憶している

そこには懐かしい友人が行くと書かれていた

 

「…ねぇ、アンタ」

 

霊夢は依姫に言う

 

「ここは美しく、弾幕ごっこでするわよ」

 

「…斬鬼、弾幕ごっことは?」

 

「お前は殺傷力の無い攻撃をすればいい」

 

斬鬼はそれだけ言った

咲夜が前に出た

 

「…行きます」

 

「来なさい」

 

 

 



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三人(連続に加えプラス1人)に勝てる訳無いだろ!

「おーお、やってるな」

 

咲夜がナイフを凄い数投げているのを遠目で見る

依姫が刀で迎撃する

その刀もあの時から変わっていない、懐かしいものだ

 

「あんたら知り合い?」

 

「あぁ、まだ当主じゃなかった頃の…」

 

あれ?当主だっけ…?

記憶の中では既に当主だった

…歴史が少し変わっているようだ

 

「まぁ、気が遠くなるような昔のな」

 

「そう、そら良かったわね」

 

何が良かったか聞かないでおこう

咲夜と依姫は以前戦闘中だ

 

「火雷命よ!」

 

瞬間、炎、雷、雨が降り注ぐ

それは上記の事を操る神の名前だ

彼女も神降ろしの類だろうな

 

「…!」

 

その濁流に押し込まれ、咲夜は炎の中にぶち込まれる

無論の事人間が助かるわけのない

だが、彼女にはとっておきの能力がある

 

「!また!?」

 

「チェックメイトね!」

 

時を止めて後ろに回り込む

そしてナイフを依姫の首元に突きつけた

オマケに大量のナイフで囲んでいる

 

「…金山彦命よ!」

 

また神の名を叫ぶ

すると依姫に向かったナイフが砂と化した

咲夜は驚いて距離をとる

 

それだけでは無い、刃が'こちらを向いた"状態で生成される

どうやら金属を砂に変え、戻す神らしい

 

「ち!」

 

咲夜は舌打ちをして時を止めようとする

それを依姫は察知し、先程の神を下ろす

 

「…!」

 

時を止めた時間の中で咲夜は目を見開く

体が動かない

というより、まち針で刺されているかのようだ

 

「…雨」

 

それを見て全てを察した

水は時が動いていればただの液体だが、止まれば個体だ

それが隙間無く点在している

咲夜に勝利の糸口は無い

 

「…参ったわ」

 

咲夜は時を動かして手を上げた

 

 

「さて!次は私の番だぜ!」

 

魔理沙が拳からコキコキと音を鳴らす

この時を待ちわびていたのだろう、浮き足だ

 

「やってやるぜ!」

 

「来い」

 

端的に言って依姫は刀を構えた

 

 

「酷い有様ね」

 

目の前で行われているのは依姫と魔理沙の戦闘だ

人間の剣対銃では銃が確実に勝つが、こちらは違う

なんせ瞬間移動の如く懐に入り込んで切りさこうとする化け物がいるくらいだ

そもそも幻想郷でそれを問いかけるのも変な話である

 

「あれは負けるな、普通か」

 

カリスマを纏いながらレミリアは言う

 

「そもそもここに来た時点で負けるわ」

 

「何故そう思う?お前らしくないな」

 

レミリアは不思議そうに言った

この巫女が弱音を吐くなんて考えたこともなかった

いや、どちらかというと負けるというビジョンを想像すること

そのことを考えたことが無かった

 

「防戦が負ける事などありゃしないわ、そういうことよ」

 

自分を含めて皆が負けると霊夢は思っている

そして、面白いことにあることも思っていた

 

(なんならレミリアが1番簡単にやられそうね)

 

少し笑いながらそう思った

と、目の前に魔理沙が飛ばされてきた

レミリアはため息をついて魔理沙を見下ろす

 

「…おい、本気を出せ」

 

「…!言われなくても…!」

 

彼女は得意技のファイナルスパークを放つ

だが、それは依姫にとって欠伸の出るような攻撃だった

 

「無駄」

 

「な!」

 

竹を割るように簡単にビームが裂ける

斬鬼はよく見る奴だなと言った

刀を持つ強者がよくやる事である

 

「…じゃあ!ダブルスパーク!」

 

魔理沙から日本のマスタースパークが放たれる

これも依姫にとって欠伸の出るようなものでしかない

 

「私の勝ち」

 

「ぎゃ!?」

 

1本を刀で切り裂き、もう1つを石凝姥命が作った八咫鏡で弾く

その弾かれたビームが魔理沙を直撃した

レミリアが一歩踏み出す

 

「さて!私の番だな―――」

 

バシュ、ゴォ、カッ!

 

 

「…私の番ね」

 

ぶっ倒れたレミリアを尻目に大幣を構える

 

「…2番目に注意するべき人物か」

 

依姫は刀を構え直した

 

「1番は誰かしら?」

 

「斬鬼」

 

「知ってた…さ、行くわよ」

 

 

「…藍、月の賢者の屋敷から何か奪って来なさい」

 

「…本当にそれだけでよろしいので?」

 

藍は紫に問いかけた

昔、紫は月面戦争に負けて屈辱を味わった

そのお返しを盗み1つで済ませようとしている

 

「大丈夫よ、私たちは力じゃ勝てないから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「力じゃ、ね?」

 

 

「く…!」

 

「…つぅ」

 

霊夢は先に手を地につけていた

これほどに敗北を確信したのも今日限りだ

…あのスキマ妖怪、どう調理してやろうか

斬鬼もあまり快く思っていないようだ

今度一緒に調理してやろう、そうしよう

 

「…妖怪らしい妖怪を狩りたいわ…ね!」

 

神様相手というのも色々狂う

妖怪を相手にしている訳では無いので変な感じだ

人間と戦うのも咲夜やら魔理沙やら色々だ

これは…なんとも言えない気持ちというか…

 

札を投げる

その札を依姫が斬る

 

「…これは!」

 

そこから黒い霧が溢れ始めた

それは月に寿命を与える穢れだ

月人はこれを本当に忌み嫌っている、本当に

それこそゴキブリの如くだ、例えればの話だが

 

「これで玉は避けれないわよ」

 

「退治されるのは霊夢の方じゃないか…?」

 

魔理沙はポツリと呟いた

 

 

「巫女姿の神なんて聞いた事無いわよ――!?」

 

「勉強不足ね」

 

あれから穢れを神降ろしで吹き飛ばされ、今は刀を突きつけられている

完全な敗北だ、抵抗できるのは…後1人だった

 

「さて、依姫…」

 

首をゴキゴキと鳴らしながら刀を2つ構える

依姫は刀を握り直した

 

「…集中」

 

「行くぞ」

 

その音速の斬撃が依姫を襲った

 

 

「あのー、幽々子様、何故霧の湖に…?」

 

時は戻りてレミリアが出オチした頃

幽々子と妖夢は霧の湖に居た

相変わらず幽々子はふわふわと笑っている

 

「これからやることがあるの、一つだけね?」

 

「紅魔館の家探しでしょうか?」

 

幽々子は首を振った

そして、見覚えのあるものが目の前に展開される

 

聞こえるあの男の声

 

「よぉ、待たせたな」

 

「ここからは私ひとりで行くわ、妖夢、よろしくね」

 

「え?ちょ…幽々子様ーっ!?」

 

幽々子はワープホールに消えた




舞?ワープホール待機っす(体操座り)


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敗北

「…そろそろね」

 

斬鬼と依姫の戦闘具合を見て呟く

ちなみにどちらとも容赦など無い

霊夢達の時だって殺傷力の無い攻撃(ないとは言ってない)を大量に放っていた

斬鬼もあれ当たらなければエエカくらいに思っていたのだ

こういうのも何だが、頭イカレている

 

…友人として無礼なのは分かっているが

 

「今のうちに侵入しましょう」

 

「分かりました」

 

この機会を逃す訳が無い

己の能力は探知されない事を紫は分かっている

 

ただ、例外は常にあるものだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…それこそ、術が仕掛けられていたこととか

 

「…これは!?」

 

スキマを抜けた先にあるのは月の都では無く幻想郷

それは見慣れたいつもの幻想郷であった

だが、紫は幻想郷に行き先を設定した訳では無い

 

「紫様!月が!」

 

月か僅かに欠けていた

今日は確実に満月

そしてまだ1日も過ぎていない

これは、どういう事だ…

 

いやまて、私は知っている

 

こんな事を出来る人物を知っている

 

「…あの医師」

 

永琳なら、出来ないことも無い

何故なら満月を永遠に出したから…偽物の

あれは偽物の月だろうか

だが、月に行けなくなったのは確かだ

 

「その通り、これは先生の仕掛けたトラップよ」

 

ロケットからある人物が降り立つ

それは豊姫だった

その姿もあの時と変わっていないと斬鬼が居たら言うだろう

だが、その横には青髪の玉兎も居た

 

「…」

 

紫は手をだらりと下げた

口は半開き、呆然としているのは確実だった

豊姫は静かに聞いた

 

「さて、私と1戦交えるかしら?

 斬鬼が良かったけど、依姫が行っちゃったから」

 

 

「…参りましたわ」

 

首元に突きつけられた扇子を見ながら言う

その扇子は凄まじい浄化の力が入っている

それを紫は承知の筈だろう

 

だが、紫は大笑いしていた

 

まるでベーリング海症候群にかかったみたいだ

本当に爆笑している

 

「あはは、私達の負け!降参よ!」

 

そして土下座までする始末だ

彼女達は光る糸で拘束された

それは妖怪ならば決して逃げれない縄だ

 

…斬鬼に対して機能するか議論されているのは内緒として

 

 

豊姫の腰にあるデバイスが揺れる

それを耳に寄せた

 

「…終わった?こっちも終わったわ」

 

結局地上の民は勝てなかったのだ

と、紫は落胆した

斬鬼であっても勝てないものは存在する――

 

「え…斬鬼に刀折られて降参したの…」

 

なかったわ

月の民であろうと勝っている

では何故終わったと言っているのか…

 

「…まぁいいわ、これで疑いは晴れた」

 

そう言うと彼女はどこかに消えた

それと同時に光る縄が解かれた

 

「…申し訳ありません」

 

「大丈夫よ、あっちは順調だわ」

 

「え?」

 

紫は心底楽しそうに言った

 

 

「終わったのね」

 

届いた手紙を見ながら永琳は言った

依姫達の冤罪が解けて何よりだ

師匠として嬉しい限りである

 

「えいさー」

 

「ほいさー」

 

外から餅を打つ音が聞こえる

これで全て解決したのだ

 

「…はぁ」

 

そう理解していても、何故か腑に落ちない

 

何かが足りないのだ

 

…なんだ?

 

何が足りない…

 

永琳はその答えを手紙を見ながら思案していた

 

 

「だーかーらー、何よ」

 

「この25日間何してたんですか!?」

 

文は叫んでいた

この25日間、霊夢だけが帰ってこなかった

斬鬼でさえ10日で帰ってきたのだ

なお本人によれば「旧友と酒飲んでた」らしい

文にとっては一瞬の出会いだ

だが、彼にとってはそうじゃないらしい

 

「ちょっと野暮用があったのよ」

 

「それはなんなんですかって聞いてるんですよ!?」

 

「はぁ…疑いを晴らしに行ってたの」

 

霊夢は事の顛末を簡単に話した

どうやら月の都自体かなりピリピリしていたらしい

何やら裏切り者が居るとか居ないとかで大騒ぎだったらしい

組織ではない霊夢からしたらどうでもいいことだ

だが、組織である文からすれば、大変なことである

 

一瞬で弱点を晒す事になるからだ

 

「はー…月の都とはどんなところで?」

 

「摩訶不思議よ、本当にそうとしか言いようが無いわ」

 

月と地上の技術は全く違う

 

河童はMETALGEAR・REXを作るが月人はEVAを作る

 

これくらいの違いだ

はっきりいって何が違うというのか

 

「近づけば開く扉とかまさにね」

 

「おお!それは凄いですねぇ!」

 

聞いたことの無いものだ

だが、河童達が実用化していたような…

 

それと斬鬼が近々装備を近代化するらしい

 

そろそろ装備をハイテク化すると昨日宣言した

無論反対は少なくなかったが…それでもだ

斬鬼を支持するものは少なくないのだ

というより彼を敵に回そうなら斬鬼に味方するものは沢山居る

 

それが不利益を被ろうとだ

 

「…あぁ、あれもあるわね」

 

「なんですか?」

 

「とても見覚えのある2人を見たのよ」

 

「霊夢」

 

そこに咲夜が現れる

 

「何?」

 

「お嬢様がお詫びに海に連れて行ってくれるそうよ」

 

「本当に?じゃあ行くわ」

 

「それでは私も!…?」

 

と、鴉が飛び立って行った

今のは一体何なのだろうか?

まぁいいや、と文は思考を止めた

 




最近返信してませんがちゃんと目を通しているので安心を

…そして本当にくだらない斬鬼と舞の喧嘩のお話



「…」

「…」

2人は向き合っていた
だが、それはいつもの夫婦の和やかな雰囲気では無い

それは戦いの雰囲気だった

斬鬼は少し焦った顔を

舞は能面の様に無表情で皺の寄った顔を

何故こうなったか、それは両者が挟む岩の上にある
そこに置かれているのは1つのツボ
その壺には酒が入っているのだ

ただの酒では無い、極上の酒だ

それこそ勇儀や萃香の様な鬼が喉から手が出るほど飲みたいくらいの、だ
それが目の前に、一壺

…そしてラッパ飲みする気で2人はいる

つまりこれは酒の取り合いだ
なんとも変な事に本気な夫婦である

「――!」

「――!」

両者の目が見開かれる
そして手が電撃的に出された

斬鬼は手を広げ、舞は人差し指と中指だけを広げていた

そしてこれは…ジャンケンだ

「…くそっ」

「お前に私は倒せない」

手を下ろさず、無表情にそう言う舞
斬鬼はまた突き出した

「――!」

斬鬼の握りこんだ拳

舞の細い磁器の様な美しく開かれた手のひら

また、斬鬼は負けた

人差し指と中指を伸ばす

きゅっと握られた拳

また負けた

手のひらを広げる

人差し指と中指を伸ばす

負けた

「その程度?」

首を傾げて舞は言う
斬鬼は四つん這いに倒れ込んだ

「くそぅ…」

斬鬼は拳を地面に叩きつける
舞は嬉しそうに拳を握る
しかし、彼女は想定していなかった

まだ、彼が諦めていない事に

そして、彼がある攻撃をした事に――

目を見開き、四つん這いから立ち上がる
そしてその反動で拳を殴るように前に出す

そして――人差し指と中指、"親指"を伸ばした

「…へへへ」

斬鬼はニヤリと笑った



「く…あっ…ぐぅ…」

…ここは何処だ
私は白い空間をふらつくように歩く
下駄がカタンと歩く度に鳴った
気配を感じ、顔を上げるとそこには斬鬼が"3人"立っていた

三人は拳をこちらに向けていた

それは3人ずつ違うものだった

1人はパーを

1人はチョキを

1人はグーを

三人はそれを舞に突きつけていた


そして、いつの間にか舞の周りを旋回し始めた

「…くぅ…あ」

チョキを出す
だが、三人の内1人がグーを出す

ならばとグーを出す
それは三人の内1人の斬鬼がパーを出した

三人が合体し、突きつける

その拳は人差し指と中指、親指が伸びていた

――こんなもの、勝てるわけがない

「うぐあ!あぁ…」

私は四つん這いに倒れ込んだ
こんな事…ありえない

ありえない

ありえない――!

「うわあああああああああああぁぁぁ!」



「――小賢しい真似を」

「卑怯者――っ!」

いつの間にか茂みに居た白狼大天狗の青年が叫ぶ
斬鬼の顔面に何かが突きつけられた
それは河童が開発した核弾頭発射装置だった

「舞いぃぃーっ!」

後ろから天月が舞を押さえつけようとする
斬鬼はその隙に木の裏に隠れる

「同志に核を使うん――」

最後まで言わせることも無く、舞は天月を地面に突き立てる
そして核弾頭の先端を木の裏に居る斬鬼に向ける

「出て来なさい!」

「やかましい!」

その言葉に吹っ切れた舞が叫ぶ

「終わりよ――っ!」

カチリとトリガーが引かれた

「うおおおおおおおおおおおお!」

この日、世界で2番目の核爆発が起きた



「お前ら、何やったか分かっとんのか?」

「「ハイ…」」

文が拳を握りながら青筋を立てている
まぁこうなるのは予測できていた
はぁ、と文がため息をついた

――

これ誰かイラスト化して欲しいぜ…
それ以前に斬鬼と舞の画像出てないわ
…書くか

それに加え画像の受け取り方法知らない人(作者)


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後日談

眠い


「あはっ!本当に良い☆ザ☆マ☆、本当にざまぁないわ!

 この酒はまだあるしら飲むわよぉー!」

 

「あの…紫様…食べ過ぎです…」

 

暴飲暴食が目の前で行われている

その様子を引いた様子で見る三人

 

「うわぁ…貴方食べすぎよ…」

 

「無いわ…その食べ方無いわ…」

 

「…はぁ」

 

三人は静かに酒を飲んでいた

というよりその酒が美味しすぎて他のものを食べれない

 

…それは幽々子と舞が月から奪ったものだった

 

「本当に美味しいな、この酒」

 

「月の秘伝酒よ、不味い訳が無いじゃない♪」

 

舞が嬉しそうに言う

彼女自体かなりの酒好きだ

鬼以上と夫婦ともども言われた事もある

自覚はしている、だって酒瓶ドンドン無くなるし

 

「…斬鬼」

 

霊夢が少し青い顔で近づいてくる

 

「どうした、顔色悪いぞ」

 

「何でこんな寒いのにプールなの!?頭おかしいでしょ!」

 

そう、プールに入っているから顔が青いのだ

海に連れて行くと言われ来てみればプールである

しかも人間組は寒さをガッツリ感じるので寒い

 

「あー、俺のところの風呂入るか…?」

 

「大丈夫、レミリア〆て来るから」

 

そう言うと彼女はどこかにすっ飛んで行った

その後悲鳴が聞こえたが、まぁ因果応報だろう

 

…あいつのやること全部裏目に出てんな

 

「あははー!アイツボコボコにされてるー!

 ほら斬鬼見てよ!」

 

フランがきゃっきゃっと笑う

見てみれば綺麗にヤムチャしていた

霊夢はその背中に大幣を突き立てると己の席に戻った

 

「ちょ!これ動けない…!パチェ!抜いて!」

 

「ふんふん…魔法ってこんな感じなのね」

 

「おおーい!…咲夜!」

 

「あー仕事が忙しいです」

 

本を一心不乱に読む友人

 

ご馳走を運び回る従者

 

そこに手を差し伸べる者は居なかった

 

「はは、いい気味だ」

 

斬鬼は豪快に笑う

じたばたと暴れる姿が更に笑いを誘う

 

「あー、面白かったぜ」

 

「あ、斬鬼さん」

 

妖夢が話しかけてきた

 

「どうした?」

 

「稽古、何時…」

 

「…ちょいと忙しかったんでな、落ち着けば…」

 

ふと舞を見た

彼女も神風部隊である程度の知識は積んでいる

どのような武器でも扱えるようにする為である

無論刀は例外では無い

 

「じゃあ舞、頼む」

 

「はーい、その刀貸して下さいねー」

 

そう言うと彼女は黒刀では無い刀を借りた

 

「さて、今からやりますか?」

 

「行きます」

 

「少し離れた場所でやれよー」

 

 

斬鬼は妖夢と舞の戦闘を見る

そしてまた酒を飲む

 

これは

 

「…全く」

 

紫の狂乱具合は凄まじかった

つい先程まで愚痴をぐちぐち言っていた

だか、ある事が彼女を狂乱させた

 

それが鴉が飛んだ事である

 

これはとある合図だったのだ

その瞬間幽々子と舞が見覚えのあるワープホールからから現れた

霊夢と魔理沙に咲夜は斬鬼を一斉に見た

彼は幽々子や紫と同じような笑みを浮かべていた

 

2人は大量の酒を持っていた

 

アホみたいな量である、本当に

例えれば海を担いでいるようなものだ

 

さて、この辺りで今回の異変の全貌を説明しよう

 

まず初めに斬鬼と紫は囮だ

 

このくらいの力を持つものは恐れられマークされる

それはこの2人に綺麗な程当てはまった

斬鬼と紫はこの時だけ気が合った

 

霊夢達と斬鬼が依姫と戦闘

 

紫と藍が豊姫の時間稼ぎ

 

この隙に幽々子と舞を月の都にワープさせた

 

なぜ選ばれたか…2人が生きていないからである

 

月の都には穢れに対する結界がある

生きていない2人には穢れが無いのだ

だから彼女達は見つかることなく潜入出来た

 

出来た…のだが

 

舞が大暴れした

 

何を隠そうその秘伝酒をラッパ飲みし、「もっと欲しい!」

からの大虐殺である

 

酒を飲みながら玉兎や兵士を扇子で切り刻んでいた、コワイ

 

そして飽きてきたところで引き上げたそうだ

 

白玉楼でちまちま酒を飲んでいた様子

 

斬鬼は俺にも飲ませろと思ったのだった

 

 

「…あぁ、疲れた」

 

斬鬼は背伸びをした

舞はすーすー寝ている

あれから数日、デスクから離れられていない

仕事が多すぎるし増えるしで散々だ

 

最近の天狗たち、やけに変だ

 

斬鬼はふと思った

何故か己に仕事を回しているのだ、自分の仕事を

それの証拠に大天狗がやる筈の物も混じっている

 

「はぁ…」

 

賄賂だけでなく職務放棄もし始めたか

斬鬼は深い溜息をついた

 

そして、何かが近くに"出来た"

 

「…!?」

 

最初に来たのは光だった

窓から溢れんばかりの光がこちらに向かう

その光が晴れると、斬鬼は舞を呼んだ

 

「ふぁ…人が寝ていたのに…」

 

呼ぶまでもなく、彼女は今の光で目覚めたようだ

 

「あーあ、面倒事かよ」

 

天狗たちのガヤガヤという声が聞こえてくる

それは新しい異変の始まり

 

…そして幻想郷を変える、全ての始まりだった




次回、風神録

正直この作品で1番胸糞にしたい…と思っている

グロ要素をアホみたいにぶち込みます

グロ苦手な方は注意、警告はその話の時に出します


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必要な犠牲と無駄な犠牲
守矢神社


胸糞よりシリアス?

場合によってはタグ追加します


その騒ぎの中心に斬鬼は急行した

 

「ここが…幻想郷」

 

「こらぁー!ここは天狗の領域だぁー!」

 

そこには神社があった

博麗神社なんて目でもない程の豪華な神社が

その鳥居の前で立ち尽くす1人の緑髪の女の子

そいつに哨戒天狗が怒鳴っていた

 

「おいおい、なんだこりゃ…すげぇな」

 

外の世界で見た時とはえらい違う

あの時は物凄く寂れた神社だった

外に残ったもの同士としてよく酒を交わしたものだ…

あの神力の少なさに物凄く驚いたが…

 

「斬鬼、前言ってたわね、デカいのが来るって」

 

いつの間にか文が隣に居た

着いてきた舞も流石に驚いたように言う

 

「これは大き過ぎますねぇ…」

 

神社"も"大きいのだ

そのすぐ近くに柱が乱立した湖も出現したのだ

これが里のある場所じゃなかったからいいものを…

 

斬鬼達は降り立った

 

「やあ、斬鬼…その…」

 

目の前に赤い服を来た女が現れた

腰縄や大きな縄を背中に浮かしている

そいつは八坂神奈子という軍神だった

 

「おお、誰かと思えば傍迷惑な奴じゃないか」

 

「阿呆!このくらい斬鬼は予想出来たろうが!」

 

神奈子が叫ぶ

まぁ、斬鬼も分かっていない訳ではなかった

最近変な波動を感じると思えば…

今考えればこの守矢神社だったのだろう

そんな神奈子に笑顔で言う

 

「神奈子、文句は幻想郷の管理者兼妖怪の賢者に言え」

 

神奈子と斬鬼はそんな会話をしていた

ふと神奈子が緑髪の子を呼んだ

 

「あ、早苗!ちょっと来なさい」

 

「何でしょうか神奈子様!」

 

こちらに走ってきた

そして斬鬼を視認するとその姿を舐めるように見ていく

…おい、尻尾と獣耳で視線が止まったのは何故だ

 

「…うわぁ、大きな尻尾…」

 

「彼女は東風谷早苗、私たちの…娘みたいなものさ」

 

「はーん…諏訪子は…あ」

 

この神社の二柱の内一人の名前を呟く

その名前の主は舞の尻尾に抱きついていた

…早苗、嫉妬の目を向けるんじゃない

 

「もふー…」

 

「諏訪子、ちょっとキツイですよ」

 

「もうちょっとだけー…」

 

神としての威厳は無かった

彼女の名前は洩矢諏訪子、祟り神だ

それこそ生贄を捧げるほど恐れるのだが…

今のところ生贄は舞か斬鬼の尻尾である

 

本人曰く舞はふわふわと柔らかく、斬鬼は少し硬みがあるらしい

 

…知らねーよ

 

「…はぁ」

 

斬鬼は仕事が増えたことにため息をついた

 

「…なんかすまんな」

 

「いやー、信仰を貯めなきゃいけないし…

 ここの連中を説得しないといけないし…」

 

「…信仰」

 

早苗の瞳が怪しく輝く

 

「信仰を獲得してきます!

 思いついたら即行動、です!」

 

そういうと凄いスピードで飛んで行った

 

「…嵐みたいな奴だな…」

 

「ああいうものさ、慣れてくれ」

 

斬鬼はごきりと体を伸ばす

これは1週間くらい眠れなさそうにない

 

「…斬鬼」

 

文が名前を呼ぶ

 

「なんだ…どうせ緊急会議だろ」

 

「その他に何があるのよ…舞、行くわよ」

 

「はーい」

 

三人は例の場所に飛んで行った

 

 

「あの様な輩は始末すべきだ!」

 

「言ったハズだ、幻想郷は全てを受け入れる」

 

「これ以上天狗がこけにされていたまるものか!」

 

今回の会議は騒然としていた

というか反対派の意見が凄まじい

 

「我々は見過ごしてきたが…斬鬼!これ以上は限界だ!」

 

叫び

それは斬鬼も分かっている

何処かコケにされていると分かっている

だが…それでも

 

「何回も言わせるな」

 

「私は賛成ね、これ以上血を流すのは見たくないし」

 

文が賛同する

 

「馬鹿者、血を1番流したヤツらが何を言うか」

 

静かに天狗の1人が言った

少し呼吸が止まった、が問題ない

 

「お前たちはどうしても認めたくないと?」

 

「人間が妖怪の山に住むのはこれ以上要らぬ!」

 

話はその後も平行線だった

 

 

「あの野郎…舐めやがって…」

 

「偉そうに命令して…誰がやってると思ってんだ」

 

大天狗達は愚痴を言っていた

酒を飲んでさらにそれは酷くなる

 

「へへへ…だがあいつの天下は今日までよ」

 

「ついに決行か、長い時間だった」

 

「これで我等が天下を取る」

 

「まずは…捕らえるか」

 

「行くぞ、早めにな」

 

「俺は例の事をやってくる」

 

 

両者ともども歩みが認められなかった

斬鬼は接近を試みた

 

「奴らに不利な条件でも科せばいいじゃないか」

 

「認められるかっ!これ以上人間は要らない!

 ここは天狗だけで十分だ!」

 

歩み寄ることは失敗した

斬鬼は我が家に帰りながら、思考していた

 

あいつら、どうしてあんなに活発化したのだろうか

 

冷静に考えるとおかしい事だ

いつもは一言くらいしか喋らない癖に、今回も物凄く喋る

何が引き金になったか…

 

神奈子達だろうな、きっと

 

あんな物がくればまぁ保守派はああなるだろう

自らの聖域を侵されたと思っているに違いない

あの面子は斬鬼が抜けたあとに増えた面子だ

 

「…!」

 

爆発音がした

それは天狗の里からだった

 

…いや、まさか

 

斬鬼はある結論に達した

クーデターだ、長い時を経て守矢勢力が来て開始されたのだ

 

斬鬼は里に急行した

 

今から行って里のみんなを助ける

 

守らなければ――

 

 




挿絵、入れて行きたい


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殺す

さっそくグロ注意




「――!」

 

里は狂乱状態だった

各地で爆発が起こり、戦闘が始まっている

 

「はぁ!」

 

「――ふっ」

 

妖夢と舞が戦闘していた

相手は雑魚の天狗たちだ

とはいえ鴉天狗、戦闘力はある

 

「邪魔だ!」

 

「ぐわ!」

 

黒刀で腹を斬る

横腹から血が溢れ、腸も出ていた

あれは2日くらい再起不能だろう

 

「止めろ!」

 

「奴を殺せ!」

 

「無駄!」

 

空いた左手で腹を殴る

その後に追加のパンチを頭に与えた

奴は頭を失った後腹を抑えながら倒れる

即死だ、彼は塵に変わった

 

「舞、状況は」

 

「稽古中に、これ」

 

「分かった…天魔のところに行こう」

 

「な、何が起こっているんです?」

 

妖夢はオドオドしながら聞いた

斬鬼は顔色変えずに言う

 

「お前は…帰るか?」

 

「…そうします、厄介事は嫌いです」

 

斬鬼はワープホールを開いた

妖夢はこちらを見た後ワープホールに入った

これで厄介事は無いだろう

妖夢が人質にとられでもしたら不味い

蝶が舞うことになる

 

「…掃討したか?」

 

「ええ、大方」

 

「斬鬼!ここに居たか!」

 

白狼大天狗の青年が降りてきた

斬鬼は顔色変えずに質問する

 

「状況は」

 

「各地で反乱や蜂起だ、数千年前に企てたクーデターらしい」

 

「今日始めたか…天月は?」

 

青年は倒れた敵に手刀を打ちながら言う

 

「戦闘中、多数に苦戦中だ」

 

「よし、天月を回収後俺の家に向かう」

 

斬鬼は声色も変えずに飛んだ

 

「貴方、天月の様子は?」

 

舞は斬鬼と平行に飛ぶ

辺りの景色が流れて行った

こう見て分かるが至る所で戦闘が起きている

好ましく無いのがそれが少なくないこと

 

川ではビームや水圧、オレンジ色の線が交差している

 

「…あいつの言ってた通り多人数に押されてる」

 

見えた光景はあいつの言っていた通りだ

天月が槍で複数人を貫いている

だが、その顔は余裕ではない

 

「斬鬼、急いだ方がいい」

 

「分かっている」

 

斬鬼はその戦場に飛び込んだ

天月が嬉しそうに敵を吹き飛ばした

 

「来たか!」

 

「斬鬼さん!応援を!」

 

「分かっている」

 

椛も攻撃していた

側近としての仕事を果たしていたのだろう

…妨害してすまないな

肘を相手の顎に入れる、骨の割れる音がした

そのまま首根っこを持って投げ捨てる

 

「大天狗は生け捕れ、他は容赦するな!」

 

斬鬼は命令した

 

「分かった!」

 

天月は槍を敵に突き刺す

それを繰り返し、串団子のようにする

ある程度の量をどこかにすっ飛ばした

 

「…椛!後ろだ!」

 

斬鬼が叫んだ

 

「っ!」

 

椛は大剣を後ろに振る

それに反応できなかった天狗がネジ切れる

雪崩のように斬鬼達に敵が襲いかかる

切れ目が全く見えない

 

「っ!敵が多い!」

 

「俺の家に退避する!着いてこい!」

 

斬鬼は弾幕を飛ばしながら飛んだ

仲間たちも弾幕を放ちながらついていく

 

「…ふぅ」

 

上空で息を整える

追っては無かった、回復に専念しているのだろう

だが、この黒刀に斬られたからには覚悟した方が良い

簡単に治らないからだ、これは

 

「疲れるわねぇ…」

 

「舞さん、それ本当に分かります…」

 

「…おい、文は?」

 

天月が槍を持ち直しながら言う

 

「…居ないな、そう言えば」

 

「神風部隊…それに諜報班元隊長だ…恐らく」

 

「捕らえられている…か」

 

だが、今助けにいけない

体制を立て直す必要がある

 

「すぅ―――」

 

斬鬼は善の波動を持つものに伝える

今すぐ、俺の屋敷に来い

 

ここで、悪を討つ

 

 

「くぅーっ!」

 

ダダダダと破裂音が続く

ここは河童達の住む川…にある里だ

その里は今地獄と化していた

 

「何なんだよ!本当に!」

 

「愚痴るな!来るぞ!」

 

それと同時に隣に居た仲間の顔が吹き飛んだ

生暖かい物が顔面にぶっかかる

にとりは100式のマガジンを交換した

 

…幻想郷一の技術者同士の戦いだ

 

噴火したような音と共に地面が吹っ飛ぶ

見れば敵のシャーマン戦車が悠々と走っていた

 

「戦車、そこだ!」

 

にとりは命令を発す

それに応呼した味方が刺突爆雷で突っ込んで行った

爆発音、悲鳴、それがにとりの耳を刺す

 

「行くぞ!」

 

チハが後ろから走っていく

にとりはそれに追従した、他にも数人居る

 

「…!」

 

そこでにとりは斬鬼の信号を受け取った

 

「全員!行先は分かっているね!?」

 

「行くぞ!」

 

チハの機銃が火を噴く

それはトーチカに隠れていた敵を吹き飛ばす

引力で手足がねじ切れていた

 

「敵陣を突っ切る!着いてこい!」

 

『ゼロで援護する』

 

前から現れる敵が零戦の機銃掃射でバタバタと倒れた

チハが後ろから二台追いついてくる

右後ろのチハが前から現れたシャーマンに砲撃した

シャーマンの装甲を貫き、火の柱を生み出す

 

「今だ!突っ込めー!」

 

爆発音を轟かせながらにとり達は進軍した

敵の追手が来ているが、機銃で全て倒れていく

山の木を倒しながらにとり達は斬鬼宅へ向かった



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許さない

グロ


「…つ」

 

「喋る気になったか?」

 

私は暗い空間に閉じ込められていた

いや、光を感じないのだ

両目を潰され、変な術をかけられ回復出来ない

逃走が出来ないように右手右足をちぎられている

翼も左が折れてしまっている、これも術で治らない

 

「…」

 

「ふん、喋れないフリか」

 

そいつはふんぞり返った様子…多分どうせそう…で言った

だが、私は喋る訳にはいかない

神風部隊でこれ以上の苦痛は受けている

 

「まぁいい、あとは時間が解決する」

 

「…どういうことよ」

 

思わず言葉が漏れる

そいつが薄く笑ったのが聞こえた

 

「人里を仲間が襲撃する、それだけだ」

 

「…っ!そんな事したら――」

 

「ようやく感情を出したか…まあいい、そこで見てろ」

 

痛み

 

奴が私を殴ったのだろうジンジンと痛む

畜生、と心の中で呟く

 

「おい、そろそろ行くぞ」

 

「お、お前か…こいつは雑魚共に任せておこう」

 

「…!その声――」

 

瞬間、声が出なくなった

 

「言わせないぜ、お前さん」

 

声を出そうとしても出ない

首に冷い感覚が感じられる

…斬られた

 

「じゃ、後はよろしくな」

 

「―――!っ!!!!」

 

裏切り者、と叫ぼうとするが声が出ない

出るのはヒューヒューと風の音

私は壁にもたれかかった

ポツリと心中で呟く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…助けて

 

 

一方その頃、斬鬼は自宅に着いた

だが、そこにはある者が倒れていた

 

「おい、お前さんどうした」

 

「…斬鬼様…申し訳ありま…せん」

 

彼女は少し顔を上げるとパタリと倒れた

斬鬼は首に指を当てる

 

「脈はある、襲撃されたか…?」

 

「その通り」

 

厳かな声が聞こえた

それは自宅の屋根だった

 

「…お前は」

 

天月が槍を構える

舞と椛も警戒し始める

 

「俺は手前らに散々コケにされてきた大天狗だ

 今日ここでお前を討つ!」

 

「やってみろよ」

 

「そういうと思っていたぞぉー?手前ならな」

 

2人が躍り出る

それも会議で見た反対派の大天狗だった

舞と椛が武器を構えた

大天狗がつまらなさそうに椛

 

「ふん、売女が…」

 

「あなた達に尻尾を振るわけにはいきません」

 

「は、雑魚な能力しか持たない癖よく言う」

 

椛は感情を抑えながら大剣を構える

 

「さて、パーティの始まりだ!」

 

「…貴様、俺の家に何をした」

 

そう斬鬼が能面の様な顔で言う

少し息を飲んだ後、大天狗は嗤う

 

 

 

 

 

 

 

「簡単な事…こういうことだぁー!」

 

瞬間、爆発が起きた

屋根がめくり上がり、瓦が吹き飛ぶ

崖からガラスが吹き飛んだ

もうもうと湯気が立ち上る

火災が発生した、家を燃やし尽くす

 

「…」

 

「ひは!その顔が見たかった!手前のその顔が―――」

 

そいつは狂ったように嗤う

本当に楽しそうにだ

斬鬼が絶望する顔を見て―――

 

だが、彼らはある誤算をした

 

 

「お前」

 

「っあ!?」

 

斬鬼が問いかける

何も感じられない顔で

 

「彼女の墓を、破壊したな」

 

「ん?あの墓かぇ?」

 

「あぁ、あれか!あのお前がいつも祈るあの!」

 

「面白くないからな、爆破してや―――ひ!?」

 

一瞬、大天狗は刺されたのかと感じた

それ程の殺気が襲ってくる

 

「…よくも」

 

 

 

その誤算はあの墓を破壊したことだった

 

 

 

斬鬼は手のひらをそいつに向ける

大天狗は体の異変を感じた

 

「あ?」

 

気づけば己の体は倒れていた

顔を向けてみると、足が無い

 

「波動という物は体を作る元だ」

 

斬鬼はゆったりと近寄る

そいつは芋虫のように後ずさる

 

「く、来るな!」

 

「その元が無くなれば、それ自体無くなるんだよ」

 

「ま、まさか…」

 

こいつの能力、それは…

そう考察する頃には大天狗は首根っこを捕まれ、持ち上げられる

斬鬼は躊躇うことなく黒刀を心臓刺した

ドス黒い霊力が大天狗の重要器官を破壊していく

彼の耳元で斬鬼は囁いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冥土の土産に言ってやる

 俺の能力は"波動を操る程度の能力"だ」

 

ワープホールの原理も

 

人の波動を見れるのも

 

全てこの能力のお陰だ

 

大天狗が塵に変わった

残り2人の内一人はいつの間にか起きた女中に喉を貫かれていた

 

斬鬼は最後の1人に近づく

 

「ひ、ひぃ!」

 

「…」

 

この時、第三者から見れば、恐怖を催すだろう

血まみれの男が、瀕死の男にトドメを刺そうとしている

 

「…生かしておけ、軍法会議の時に審議する」

 

斬鬼はそう吐き捨てると身を翻して

自宅に向かった

 

「…捕らえるぞ」

 

「分かりました」

 

椛は機械的に作業した

 

「…あなた」

 

ポツリと舞は呟いた

 

 

斬鬼は焼け跡の中で立ちすくしていた

既に火は止まっている

見たところ爆破されたのは当主の部屋、応接間だ

再建は鬼にでも任せればいい

斬鬼は温泉が爆破さていない事に安堵しながら"そこ"に向かった

 

そこには、無惨に吹き飛んだ墓石があった

 

斬鬼は膝を落とす

 

そして小さな嗚咽の声を漏らした

 

「…凛…凛っ…!」

 

そこに"骨は無い"

かつて殺した人間はあの桜の下で眠っている

あの花畑の元で

 

「…うぐあ…ああ…」

 

ぽたぽたと涙が落ちた

斬鬼は暫し泣くと涙を拭いて立ち上がる

そこに先程の静かな泣き顔は無かった

身を翻すと、彼は仲間のところに向かった

 

 

「…斬鬼、大丈夫か?」

 

いつの間にか来た青年が尋ねる

彼は大丈夫だ、と答えると、命令した

 

「文を助けに行く」

 

「どこに居るんだ?」

 

「大天狗の所だろう、監禁するならそこしかない」

 

天月の質問にそう返す

斬鬼はそれ以上何も言わずに飛んだ

なんとも言えぬ空気が満たされる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…彼の家、新築しないと」

 

椛はポツリと呟いた

 

 

 




生け捕りにする?

己の大切な物がぶっ壊されて出来るわけないだろ


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発見



そしてグロ




あいつらが出ていって数時間、眠りこけていた

鼻呼吸をすると決まって饐えた匂いがする

奴らが掛けた糞尿だろう

神風部隊の訓練でも受けたが、やはり快いものでは無い

なんなら文句を叫びたいが…

 

あの後また頭陀袋を被せされられた

それでも匂いは鼻を刺す

かつての神風部隊一員が見れば笑うだろう

文、お前今最高に面白いことになっているぜ…と

だがそう言ってくれる部隊員は居ない

私の部下達も全員殺された、諜報班は私以外居ない

 

右の翼をひらひらと動かす

 

今の暇つぶしはそれくらいだ

もう疲れて動かす気にはなれないが

 

「…」

 

何か吹き飛ぶ音がした

その後に聞こえる怒号、悲鳴

 

恐らく、斬鬼達だろうか

 

もしくは第三勢力だろうか

 

何かが壊れる音がした

それと同時にドアが開く

誰だ?誰が入ってきた――…

 

何か言われる

頭陀袋が厚くて何か聞こえない

私は指で脱がすようにジェスチャーする

そいつは頭陀袋を脱がした

 

「聞こえるか?」

 

彼は私の顔を己の方に向けた

見えないが、声は斬鬼のものだ

私は感謝の言葉を伝えたかった

だが、まだ声が出せない

 

変わりに、口を動かす

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――遅かったじゃない

 

彼は何も表情を変えずに呟く

 

「話は後だ、行くぞ」

 

 

大天狗宅の門を吹き飛ばす

それは合流したにとり率いる戦車部隊の攻撃だ

 

「進め!」

 

斬鬼は先陣を切って中に突っ込む

 

「止めろ!」

 

「うおおおおぉああああああああぁぁぁ!」

 

勇敢な天狗兵が斬鬼を止めようとする

だが、今回は相手が悪かった

斬鬼の視界に入ること無く切り刻まれる

 

「ほっ!」

 

天月は敵を薙ぎ払う

 

「下っ端め!」

 

「下っ端と言えど舐めるな!」

 

大天狗の翼を切り落として峰打ちをする椛

 

「さぁ、舞を踊りましょうか…」

 

「ひぁ…ぎゃあああ!?」

 

その妖艶な舞に魅力される者を扇子で切り刻む舞

 

「オラぁ!」

 

双剣で腹を突き抜き、返り血を全身に浴びる青年

 

この場に神風部隊に関係するものが集結している

そして、彼らに適う者は居なかった

 

「入るぞ」

 

室内に侵入する

中は騒乱だった

 

「俺は死にたくねぇ!お前についていけるか!」

 

「な!裏切――」

 

後ろから刀で刺される大天狗

味方同士で戦う天狗兵達

斬鬼はそれを尻目に散策した

 

「…ここか」

 

重々しい鉄扉があった

斬鬼は南京錠を切り落とす

ギギギと扉を開けた

むわりと広がる饐えた匂いに顔を顰める

そして、彼女は居た

 

右腕と右足が無い

翼も片方が力なく揺れている、折れているのだろう

頭陀袋を被せられている

 

直ぐに治るはずのそれが何故…?

 

斬鬼は文に近づき、屈む

 

「おい」

 

「――…」

 

彼女は顔を上げると左手で頭陀袋を示す

そして上に上げた

斬鬼はその意図を察し、頭陀袋を脱がせる

 

「聞こえるか?」

 

斬鬼は彼女の顔を己に向ける

彼女の目は濁った白色だった

いつもの赤色は何処にいった?

彼女は力なく震える、笑ったのだ

 

口が動く

 

 ―――遅かったじゃない

 

「話は後だ、行くぞ」

 

斬鬼はそういうと彼女の体をまさぐった

少し気になることがあったのだ

胸から腰、足に手を這わせる

文は恥ずかしそうに内股になる

そこに無理矢理手を突っ込む

 

「これか」

 

あったのは札

これに回復を阻害する術を入れたのだ

ポイと投げたのに妖術で燃やす

 

「行くぞ」

 

彼女の足に腕を通し、担ぎ上げる

少し足の締める力が強くなった気がした

 

 ―――変態

 

「なんか言ったか」

 

斬鬼はコンコンと背中を叩く文に聞く

彼女は何も言わずに叩いていた

少しずつ腕が再生しているのが見える

この調子で行けば目も見えるし喋れるだろう

 

斬鬼はそのまま外に移動する

 

「あ、文様?」

 

椛は冷や汗をかいた

己の上司がいつの間にかこんな事になっているのだ

好きでは無いが、嫌いではない

これはあまりに酷すぎると椛は感じた

 

「神風部隊に来たからってのもあるが…

 主体的には俺への脅しか」

 

「そうでしょうね、じゃないと文を捕まえないわ」

 

舞は扇子で口元を隠した

その瞳は氷より冷たい瞳だった

 

「…そうですね」

 

椛は納得した

神風部隊で同期であるならば迷うと思ったのだろう

だが、椛は何故か知っている

 

―――敵に降伏するな、味方を人質に取られても

 

それは掟の様なものに書かれていた

例え重要人物であろうと、とも付属されている

まぁそんな状況は本当に稀だろう

大抵そうなる前に終わるだろうし

 

「さて―――」

 

斬鬼は永遠亭に彼女を連れて行こうとする

 

「斬鬼」

 

そこには紫の姿があった

斬鬼は目を細めた

 

「何用だ」

 

「人里が襲撃されかけたわ」

 

斬鬼は思わず目を見開く

同時に底知れぬ怒りが湧いてきた

 

「やはりやりやがったか…」

 

「不思議よね、それなのに被害が出ていないもの」

 

「そらよかったな」

 

紫は目を細める

まるでこちらを疑っているようだ

 

「私は霊夢を出した覚えはない

 それに彼女自体出た痕跡が無いわ」

 

「で?」

 

「その殺された天狗達から"博麗の力"が残っていたのよ」

 

「…それがどうした」

 

「斬鬼…あなた――」

 

私に、隠し事をしてないかしら

紫は耳元で囁いた

斬鬼は顔色変えずに言う

 

「気のせいだ

 俺は仲間を永遠亭に届けに行く」

 

斬鬼はそれだけ言うと飛んだ

舞達は不思議な顔で紫を見た

その視線がこそばゆかったのか、彼女はスキマに消えた



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仲間と罰

誤字報告ありがたい


竹林が見えてきた

斬鬼はその中に入っていく

 

ふと、背後に気配を感じた

 

「…誰だ」

 

返ってくる返事は無い

己の声は竹林に反響していく

文を早く搬送したいので無視しよう

ここで変に足止めを食らうと面倒だ

 

「…が…ググ…」

 

「その様子じゃまだ喋れないな」

 

最初の頃よりかは喋れるだろう

ただまぁ口パクの方が分かりやすい

 

「あのさぁ…」

 

斬鬼は立ち止まり、顔を後ろに向ける

先程からこそばゆい感覚だ

 

「そうやってちょこちょこされるのは今嫌いなんだよ…な!」

 

「うひゃあ!?」

 

刀を思い切り振る

それは背後の竹林を根こそぎ切り裂いた

その残骸からひょっこりと1人が顔を出す

それは鈴仙の様な奴だった

服装は違うし、耳もヨレヨレじゃないけれど…

 

「誰だ、返答次第で…」

 

「待った!敵じゃない!」

 

そいつは慌てて手を挙げる

 

「…俺は永遠亭に行く、邪魔はするなよ」

 

「そう…行き方は知ってるかい?」

 

「この先に進めば永遠亭さ」

 

「分かってるみたいだね…私の仕事が無いや」

 

そいつは手をふらふらと振るとどこかに行った

斬鬼は変な奴だったなと思いながら進んでいく

 

しばらくすると屋敷が見えてきた

その形は永遠亭以外の何物でもないだろう

斬鬼は躊躇わずに入る

鈴仙は居なかった

波動を見るに薬品を検査しているのだろうか

斬鬼は永琳の部屋に入った

彼女は机の上でデスクワークをしていた

 

「よう、永琳」

 

斬鬼が声をかけると彼女は顔だけこちらに向けた

その視線は斬鬼を見た後文に注がれる

 

「あら斬鬼…患者ね」

 

「治せるか?」

 

「見て見なければなんとも…横にしてあげて」

 

斬鬼は寝台の上に文を置く

若干瞳に赤みが戻ってきている様だ

 

「何があったのかしら」

 

永琳は機器を用意しながら聞く

 

「こっちの事情さ、気にすんな」

 

「こんな事になるなんてよっぽどね」

 

「統治者の悩みさ、これは」

 

斬鬼はそう言うと近くの椅子に腰掛けた

永琳は採血する

 

「帰らないのかしら?」

 

「治せるか聞くだけだ、治せないなら楽にしてやらなければ」

 

斬鬼は柄に手を添えた

文の瞳は斬鬼の姿を写すだけだ

そこに怒りや悲しみは見えなかった

 

「そ、血液で審査してみるわ…少し待ってなさい」

 

永琳は隣の部屋に行った

斬鬼は文の顔を覗き込む

 

「へっ、お前さんも腕が落ちたな」

 

文が睨むような顔をする

 

「もう目が見えるか、もう少しで話せるようになるかもな」

 

斬鬼は体の位置を戻す

そして軽く背伸びをした

 

「はは、ようやくだな…老害を殺す口実が出来たもんだ」

 

文も黒い笑みを浮かべている

斬鬼や天月、舞に文が望んでいた事だ

あいつらが居なくなれば今後は楽になる

 

「はい、検査結果」

 

永琳がドアを開け、こちらに紙を渡す

それには術で衰弱している事だけが書かれていた

 

「栄養剤を投与して安静にすれば治るわ」

 

「大人しくしとけよ」

 

斬鬼はそういうか、彼女の瞳が大人しくしてない

まるで何か言いたいみたいだ

 

「ヴらぎ…の…あ…せ…ねん…」

 

「何言ってんだ…後でな」

 

斬鬼立ち上がるとそのまま出口へ行く

彼女の呻き声が更に大きくなった気がする

 

「ファモノ…」

 

「苦しいのは分かってる…それに裏切り者も知ってる」

 

文は呻くのを止め、斬鬼を見た

視線が交差した

 

「後は任せろ」

 

斬鬼は部屋から出て行った

 

 

俺は血まみれの道を歩いていた

そこには仲間達の死体が倒れに倒れている

死臭が鼻に入ってくるが、あまりに気にしない

これは、仲間の意思そのものなのだ

 

その顔の中に、あの時の白狼天狗を見つけた

 

「…はは、実力不足か」

 

あの早切りを得意とした白狼

その顔は道半ばで死ぬ後悔に溢れていた

憎悪の瞳を閉じてやる

 

「安らかに眠れ」

 

波動の青い炎が彼を包んだ

あの白狼は仲間によって葬送された

それを仲間達が冥福を祈る顔で見た

 

「…俺のミス、か」

 

機会を待ち続けた結果、こうなった

多くの仲間を失い、被害を被った

本来なら反乱を抑えられた筈だ

 

斬鬼は階段の下に立つ

 

「いいか、今日からこの腐った制度は終わりだ」

 

斬鬼は大きく体で示す

 

「家柄で全てが決まる時代は終わる」

 

荘厳に、言い聞かせるように言う

 

「かの神風部隊のように、今日から実力の時代だ」

 

おお、と観客が沸く

あの反乱で意思が強くなっている

この時にこれを言うのが最良だ

 

「その切れ目として――」

 

目の前に、大天狗達がうずくまっていた

彼らは震えてる、この後の恐怖に

 

「こいつらを終わらせる」

 

一言言うと刀で頭を切り裂く

それは大天狗の半分以上を殺した

また刀を振る

 

「ひ!」

 

止まらずに殺す斬鬼に怯え、1人が逃げ出す

斬鬼は慌てることなく刀で斬る

衝撃波が背中に当たった

 

「いた―――」

 

次の瞬間には頭を刀が刺し貫いていた

その大天狗の刀を手放す

彼はそのまま倒れた

 

「いいか、これからは実力だ

 だが―――」

 

斬鬼は仲間達に向き直る

顔に着いた血を拭わずに

だが、それは彼を飾る物になった

 

「俺は雑魚でも仲間を見捨てない、絶対にだ」

 

そう言って彼は話を締めた

 

 

(挿絵追加予定)



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裏切り者

"俺"はある原っぱに立ちすくんでいた

もう既に日は暮れ、辺りは暗い

だが、満月であるお陰で視界は良好だった

 

この原っぱには俺しか居ない

そこにはある花が咲き乱れている

 

ゲッケイジュ

 

その花がいつここに咲いたか知らない

だが、それはつい最近の事であるはずだ

俺はゲッケイジュの花を摘む

 

その花言葉は、"裏切り"

 

「俺に丁度いい」

 

花を離す、それはゲッケイジュの海に沈んでいく

そして空の月を見た

 

「何処で俺は間違えた」

 

ポツリと呟く

その独り言は空の月へと消える

返答が帰ってくる事は無い

 

最初はただの嫉妬だった筈だ

仲間から慕われる、それだけの嫉妬

己もその1つの筈なのに何故か大きくなる

それは斬鬼があまりにも強大だったからか…

神風部隊の1人として恥ずかしいと今でも思う

 

「本当に…」

 

馬鹿らしい、何故俺はあの言葉に乗った

俺はどうしてこんな過ちを…

 

だが、後悔しても遅い

 

もはや賽は投げられた、戻す事は出来ない

 

事には始まりがある

 

生まれた時から"これ"が決められていたなら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて…

 

 

 

 

「―――なんて、馬鹿らしい」

 

笑いが出てしまう

本当に馬鹿らしい

やっぱり、俺は"そっち側"では無かったらしい、斬鬼

 

ふわりとゲッケイジュの花びらが飛んだ

 

俺は息を吸い、上を向いて吐く

 

後ろでさくりさくりと土をふむ音が聞こえる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――来たな、紅白斬鬼

 

俺はそう振り返らずに言った

 

 

予想はついていた

奴らの攻撃にしては的確だ

特に天月を多人数で襲うところなど特にだ

彼は直ぐに詰められるのを苦手とする

懐に入られると槍が使えないからだ

 

刀もそこまで行く相手なら抜く前に殺られる

 

そんな弱点を天月が風潮するわけも無い

 

つまり、それを知る裏切り者が居る

 

簡単な事だった、それは友人に居た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――同じ神風部隊に居れば嫌でも弱点は分かる

 

そして、生き残る神風部隊の隊員は6人のみ

順に挙げていき、犯人を探せば…

 

天月風―――襲撃されていた、違う

 

自分―――自分、違う

 

紅白舞―――んなわけねぇだろアホ

 

射命丸文―――捕まっていた、違う

 

未だに名前を知らない女中―――襲撃されていた、違う

 

友人の大天狗白狼―――聞けば途中で居無くなっていた

 

これだけ見れば、分かる

犯人は友人―――信じたくは無い

 

だが、真実だろう、文も分かっているはずだ

聞かなかったのは何故だろうか、分からない

 

まぁ、犯人は分かっていた

 

だが疑う事が出来なかった

 

彼は俺にとっての親友だった

 

原っぱに着陸する

 

そこにはゲッケイジュが海のように広がっている

 

ゲッケイジュの花言葉は"裏切り"

 

アイツにお似合いな言葉だ

 

彼はその原っぱの真ん中で突っ立ていた

そして、俺が歩き始めて数秒後…数メートル程で声が聞こえた

 

「―――来たな、紅白斬鬼」

 

彼はこちらを見ずに言った

俺は何も言わない、彼もそれきりだった

 

ただ1つ言葉を絞り出す

 

「どうして裏切った」

 

「さぁ、俺にも分からない」

 

彼はこちらを向いた

その顔と一人称、どうやら部隊に居た頃の性格に戻ったらしい

少し窶れたような疲れた顔をしていた

 

俺はまた言う

 

「何故だ、お前には不利益しかないはず」

 

「そうだな…はは、橋姫にやられたのかね」

 

その単語でどうして裏切ったか分かった気がした

彼は嫉妬に駆られたのだろう

俺への嫉妬というやつだろうか

己に脚光が浴びせられられないというのは辛いものだ

だが、まぁ…

 

「なんとも、情けない理由だ」

 

「そうだな、俺もそう思う」

 

彼は薄く笑った

そして、こちらを見る

 

「お前も情けない、だろ?」

 

「あぁ…だが」

 

柄に手をかける

 

「お前よりかは、マシだ」

 

「へへ…どうだか」

 

彼はいつもと違う様子だった

もはや何もかもを諦めているような感覚だ

目もどこか遠くを見ている気がする

 

「質問を変えよう…

 

 お前は…どうして…そんな"役"を選んだ」

 

俺は酷く悲しそうな声で言う

分かっている、彼が自らそんな事をするとは思えないからだ

それを知られて…彼ははにかんだ

 

「何もかもお見通し…か」

 

彼は諦めた

そして、全てを話す

 

「かつて、俺たちは1つだった

 そうだ…反対者の居ない完全な組織

 

 だが…今を見てみろ

 賄賂が横行し、政治は堕落した

 今や大天狗に録な連中は居ない…居なかった

 それを見かねて、の事だ

 

 "彼女"も同じ事を感じた、足並みを揃えてもらいたい

 だからこそ守矢をここに転移させたんだ

 チャンスを作るためにわざと…

 俺は'彼女"に従った」

 

「…あいつめ」

 

俺は血が滲み出る程拳を握る

既に柄から手を放していた

彼は軽く笑う

 

「こういうのもなんだが…俺は彼女みたいになりたかったんだ」

 

「…舞」

 

最愛の妻の名前を呟く

彼女みたいになりたい…まさか

 

「お前…」

 

「そうだ、俺は裏切り者としてここで殺される

 ちょっと彼女と違うが…犠牲無くして勝利無し、仕方ないことだ」

 

「…分かった」

 

「一刀流で来い、全力だ」

 

彼は双剣を抜く

俺も黒刀を引き抜いた

それは獲物を求めて黒い霊力を纏う

 

「終わりだ」

 

俺は呟く

 

「オーケー…」

 

刃を上に、腰を下ろして彼は構えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――いざ、参る!」



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別れ

「さぁ、来い」

 

彼の言葉に反応するように突っ込む

まずは懐に、双剣の片方でもいいから飛ばそう

 

「せい」

 

「っ!」

 

彼は太刀筋に反応し双剣を振る

黒刀の一撃を防御、後ろに引いた

 

また、低く構えてこちらの攻撃備えているようだ

 

「ふぅ―――」

 

深呼吸を挟む

ハッキリ言って彼は油断ならない

彼の戦闘能力は斬鬼でも分からないくらいだ

本気を出したところを見たことも無い

 

分からないことが一番怖いのだ

 

もしを連想させてしまうから―――

 

「―――っ!」

 

「シィっ!」

 

上からの双剣で叩きつけ

それを刀で防ぎ、報復の斬撃を放つ

刃は彼の頬をかすめたのみだ

 

追撃を恐れたのか彼は後ろに下がる

 

良い判断だ、斬鬼はそう思った

刀を握り直して横に移動する

 

「…」

 

「…」

 

睨み合い

双方、横に移動しながら相手を観察する

緊張の糸は常に張り、緩まる事は無い

 

いや、緩まなくていいのだ

 

このくらいの緊張感が程よいものなのだ

 

そう思って瞬歩で彼に近づく

どうやら相手も同じ事を考えていた様だ

彼も瞬歩で攻撃してきた

 

「ふんっ」

 

「はっ」

 

刀で斬っては防がれて引く

そしてまた瞬歩で詰めて斬って、防がれる

これを数回繰り返す

 

「せい」

 

「やっ」

 

火花が散り、辺りを一瞬明るくする

その度彼の表情がよく見えた

 

「とうっ」

 

「おらっ」

 

焦りでも、悲しみでもない、表情

それは何も無い表情だった

ただ、喜びが滲んだ、少し狂気に犯された表情

彼は歓喜しているのだろうな、心の中で

 

彼が望んだ、「何かの為に死ぬ」という事がようやく…

 

どうして彼はそんなに死を望むのか

 

斬鬼には到底分からなかった

 

だが、その覚悟だけは斬鬼には理解出来た

 

だからこそ…

 

「俺は…お前を殺さなければ」

 

「殺されるために俺は闘ってきた」

 

彼はそういうと接近して下から斬撃を放つ

それを体を捻って避けると今度は横から斬撃。

黒刀を振って弾くとその腹に突きを放つ

それは一寸の狂い無く突き刺さる

 

「―――っ!」

 

彼は苦痛に顔を歪ませた後、後ろに引いて刀を抜く

斬鬼は付いた血を払わずにまた斬る

それは彼の右腕に小さな切り傷を生んだだけだ

 

「やるな」

 

「そうか、まだまだだ」

 

そういうと斬鬼は腰を低く下ろす

そして黒刀を両手で握り、顔の横あたりで地面と並行に構える

彼も腰を低く下ろして双剣を構えた

苦しそうな声で彼が言う

 

その視線は黒刀の黒い霊力に向いていた

 

「…"彼女"の演技は…本当だったのか…?」

 

「この怨嗟も、あの行動も、全て…演技だッ!」

 

「―――!」

 

怒りに身を任せるように刀を振る

その瞬速は彼の目に入らなかった

 

斬撃は彼の左腕を斬っていた

 

「がぁ―――」

 

「終わりだ」

 

黒刀を彼の足に向けて振り、行動力を無くす

立つ手段を無くした彼は後ろに倒れた

 

 

ゲッケイジュの花園には彼が横たわっていた

 

いや、正確に言うならば岩に身を預けていた

 

その左腕と足から出血は止まらず、流れ続ける

 

それが止まらないくらい、妖力が無いのが見て分かった

 

「…」

 

「…あぁ」

 

彼の目が開く

斬鬼の刀を見る後、己の状態を見て、力無く笑った

 

「俺は…ここで終わりか」

 

「そうだな、よく頑張った」

 

斬鬼は頷く

ここまで、よく頑張ってくれたものだ

 

「はは…"能力無し"でよくここまで生きてこれた…」

 

「お前が、本当の最強だ」

 

こいつに能力なんて無かった

元からある才能と努力が彼を今日まで生かしてきた

 

 

 

 

 

 

―――それを、今から斬鬼が奪う

 

 

 

 

 

 

俺は顔を上げる

そこにはポロリと涙を落とす斬鬼の姿が見えた

 

はて、何故お前が泣くんだ

俺はそう彼に質問した

 

「お前は…本当に…馬鹿だ」

 

刀をこちらに向ける

その刃先は震えている

 

「もう、止めてくれ…」

 

涙が落ちる

彼は懇願していた

 

「これ以上…俺の傍から居なくならないでくれ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無理…だな」

 

俺は薄く笑う

斬鬼、それは無理だ

俺にはもう居なくなることしか出来ないのだ

 

だが、お前には娘が居る

 

俺は斬鬼に言う

 

娘を、娘の友を、お前が見守れ

 

言い聞かせるように、斬鬼に言う

痛みがどんどん深まっていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あの子に、本当の事を言ってやれ

 

俺は彼の口が三回開くのを見た

それが彼のムスメの名前であることを知り、安堵する

良かった、彼は忘れていない―――

 

そう思うと体が重くなった

 

今の今まで気力で保ってきたが…もう限界だ

 

ざんき、おわらせてくれ

 

言葉がどんどん短調になる

 

「じゃあ…な…白狼大天狗…画面の向こうの貴方?」

 

そういうと彼は黒刀を振り上げた

その瞳から涙が止まらない

彼の頭の上に丁度月が浮かんでいた

 

 

【挿絵表示】

 

 

…あぁ、最後にいいものを見れた

 

そう思うと同時に彼の斬撃が胸を切り裂いた

 

 

「…」

 

目の前で親友の命が潰えた

もう、この肉の塊は動くことはない―――

 

そう思っていると右腕から順番に灰と化していく

下駄を履いていた足が消え、足袋が平たくなる

彼という物が消え、残骸のみが残っていく

 

―――最後に、彼の安らかな顔が灰と化した

 

俺はその岩に彼の服を置き、双剣を突き刺す

それにはありったけの力を込めた

抜こうとするが、抜けない

それを確認すると俺は踵を返し、歩き始める

 

安らかに、眠ってくれ

 

そう呟くと斬鬼は闇に消えていった



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交渉

あれからの後始末は大変だった

反対の意見も少なくない訳で、本当に大変だった

それでも抑えられない程では無かったのが幸いか

 

だが、同時に大切な物も失った

 

その命はもう二度と戻ってくる事は無いだろう

 

それを思いながら書類に目を通した

 

あれから山は変わった

己の事では無く、全ての事を考える事

全て、とは行かないが…

 

だが、今までより自由になったのは確かだろう

昔のように人間が里に住むのは難しいかもしれないが…

交流くらいは出来るようになるかもしれない

 

というより、してみせる

 

彼もそれを望んでいるはずだ

 

「…当主殿」

 

不意に女中が話しかけてきた

斬鬼は作業を止めることなく進めていく

 

「どうした」

 

「少し、休まれては」

 

「いや、ダメだ」

 

斬鬼は首を振りながら作業を進める

休む暇なんて無い、早く終わらせなければ

そんな斬鬼を止めるように舞が覆いかぶさった

 

「休みなさい」

 

舞の有無を言わさない声が聞こえる

だが、斬鬼はそのペンをずっと走らせる

 

「斬鬼」

 

不意に声がしてペンが止まる

いや、止められたのだ、誰かの指がペンを止めている

スキマから紫が半身を出していた

 

「貴方、今日まで寝てないわ」

 

舞が肩に手を置く

だが、斬鬼は全く気にしていない

 

「だから」

 

「"なんだ?"何日起きてると思っているのよ、斬鬼」

 

紫がため息をついた

その間にも斬鬼はペンを動かそうとする

 

「ほんの数日くらい徹夜しようがどうでもいい」

 

「違うわ、もう1年半以上寝ていないのよ」

 

と、斬鬼の力が緩む

それを利用して紫はペンを取った

斬鬼はそのクマが真っ黒になっている顔を上げる

充血した目で外の景色を彼は見た

 

雪景色―――

 

はらはらと降る雪に自然と斬鬼の手が震える

そして机の上にあるマグカップを手に取ろうとした

 

「あ―――」

 

それが空を切った後彼は机に突っ伏した

瞬間、全ての力が失われていく

無論起き上がる力も例外では無い

斬鬼の意識はここで途切れた

 

 

「―――はぁ」

 

目の前で寝る旧友にため息をつく

それは舞にとっても同じだったようだ

 

「彼の悪い所ですね、無理をするのは」

 

無理をしたのは無理のない話しか

親友殺しなんて、私には出来る気がしない

仕方なく、なんだろうけど…

 

「よいしょ」

 

彼女は斬鬼をお姫様抱っこすると、ベッドに寝かせた

その寝顔はあまり見たくないものである

 

「これは丸一日寝るでしょうね、恐らく」

 

「そうでしょう、1年半以上の疲れがとれるとは思えませんが」

 

そんなんで疲れが全てとれたら皆徹夜するだろう

斬鬼の場合普通に出来そうで困る

 

「後は任せるわ」

 

「分かったわよ、じゃあね」

 

私は舞に斬鬼を任せるとスキマに入る

そこでまたため息をついた

 

彼は引き摺り性だ

 

"あの時"の事をまだ引き摺って娘に真相を伝えていないのがそれだ

彼は山を離れた、帰ってきてくれた

だが、あんな事が起きるなんて私は―――

 

私が起こして事で、こんな事になるなんて

 

あれを記録する訳にもいかない

仕方なく彼が山に帰ってこなかったことにした

 

「はぁ」

 

また、私は溜息をついた

 

 

「―――っ」

 

目を開けると見慣れた天井が見えた

それはいつもの自分の部屋の天井…いつの間にかここに居た

当主の部屋で寝ていた筈だ、どうして…

 

「舞…か」

 

「正解」

 

後ろからの声

上半身を起こすと後ろから温もりを感じた

舞が後ろから抱きついている

 

「ふふ、お疲れ様…気分は?」

 

「マシになった」

 

俺は立ち上がると当主の部屋に歩き始める

が、ふらりと立ちくらみがしてしゃがんでしまう

 

「くぅ―――」

 

「少し大人しくしていた方がいいわ」

 

そういうといつの間にかお粥を持っていた

スプーンを置くと、そのまま立ち上がる

 

「貴方は1人が良いでしょう?落ち着いたら呼んで

 貴方が休んでいる間は私が変わりをしておくわ」

 

そういうとこの部屋から出ていった

よく見てみると、ここは舞と暮らした部屋だった

懐かしさが込み上げてくる

 

"家族3人"で初めてベッドに寝たのも―――

 

「…はぁ」

 

"お前"に言われても、無理かもな

俺はこれを理由に動けないで居る

 

意気地無しめ

 

俺は自虐するとスプーンを持つ

腹が減ったが、固形はあまり食べたくない

舞はそこも理解している、いい嫁だ

そう思いながらお粥を食べ始めた

 

 

「はいはいこれはこれ、あれはあれ!」

 

舞はほぼ棒読みで仕事を進めた

斬鬼の変わりとして最も適役である

 

「舞様、こちらを」

 

「櫓の修理、兵装強化…はい、どうぞ」

 

「…わかりました」

 

舞から返された書類に目を通した後部下が移動する

するすると書類が少なくなっていく

というより今市役所に移動している

書類を持ってここに移動したのだ

一応我が家の机の上にここに行くという手紙は置いてある

元気が戻れば彼はここに来るだろう

 

彼にガッツがあればだが

 

「ま、良いでしょう」

 

書類をさささっーと処理していく

重要な物があるか無いかくらいすぐわかる

斬鬼はよく見すぎなのだ、あんなに見なくていい

 

―――と、思っていれば来たようだ

 

「待たせたな」

 

彼はそういうと舞の肩に手を置いた

舞もにっこりと笑う

 

「ええ、今丁度終わりましたわ」

 

「ありがとよ、明日は少し散歩といくか?」

 

「貴方が行きたいだけでしょう?」

 

「それもそうだな、ははは!」

 

笑う夫婦を暖かい目で見守る同士達

その目はこそばゆくなく、逆に心地よいものだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――良い夫婦だな

 

そんな声が聞こえるくらい、ほのぼのしていた



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神社へ

1日よく寝て、起きた

かなり寝てしまったようで、朝10時だった

仕事は舞がやってくれたらしい、とても嬉しい

これからは自分がやる

 

「さて、散歩にでも…」

 

といっても舞のおかげで終わっている

今日は体を休める…というか鈍らせない為に動く

ならば、行くべき場所があるというものだ

 

「妖夢ちゃんの稽古、行ったら?」

 

「俺も丁度思っていたところだ」

 

彼女の実力なら少しくらい勘を取り戻せることだろう

…その時に"アレ"が応呼しなければいいが

ともかく、応呼したら骨が折れそうだ

 

「やれやれ、面倒事が多いね」

 

怒涛の展開と言う奴だろうか

あまりにも内容が濃すぎる気がする

それ程不満が溜まっていたという事だろうか

 

―――それにしても

 

「…面倒だし、ワープホールで」

 

「体を動かせ」

 

「はーい…」

 

やはりダメか

リハビリ感覚で行くなら歩いて、飛んで、感覚を取り戻せ、と

彼女らしいといえば彼女らしい…なんて面倒な

まぁ、デスクワークで鈍っているのは確実だろう

刀の稽古を毎日していたが、してなかった

おそらく刹那くらいの遅れが出ているだろう

それに座り切りだし

 

「…そういえば」

 

守矢との交渉はどうなったのだろうか

あの後機械的にデスクワークをしていたために覚えていない

山の実力者が出ないというのもおかしな話だ

それは舞が答えてくれた

 

「守矢との交渉なら結構簡単に終わりましたよ」

 

その時の様子を思い出しながら言った

 

 

「はいどーも、舞ちゃんです」

 

目の前にお淑やか…緊張感の無い?女が座っている

私…八坂神奈子は笑う

 

「お前は変わっていないな」

 

「あはは、いつも通りですよ」

 

目を閉じてにっこりと笑う

だが、それが細く閉じられた目である事に気づいて身震いする

なんともまぁ、暗い目だ

目は口ほどに物を言うというが、これ程までとは

逆に言えば彼女がこれ程感情を出すのだ

…やばいな、言語力が低下しながら神奈子は思った

 

「それで…」

 

彼女は話を戻す

 

「これからの私達と貴方達、どう付き合います?」

 

「―――」

 

シンとした空気が場を覆う

神奈子は横をちらりと見る

諏訪子が横にすわっている、その横に早苗も

早苗はすこし身震いをしているようだった

神奈子はコホンと小さな咳をした

 

「子供を怖がらせるような事は止めろ、舞」

 

「―――おっと、失礼」

 

舞は軽く笑うと嘘のように落ち着く

目を細めて――気配を抑えて――笑った

早苗が少し落ち着いたような感じがした

 

「それで、どうしますか」

 

「…共存を、無駄な血は流したくない」

 

「同じく、ですね」

 

意見が一致したのが嬉しかったのだろう、にっこりと笑う

それは先程と違ってこちらも笑ってしまう笑顔だった

 

「…さて、椛ちゃん?天月に報告お願いね」

 

「…分かりました」

 

先程から目を閉じていた椛が目を開け、部屋を出ていった

神奈子がはぁと息を吐いた

 

「お茶でもいかが?」

 

舞はそういうと4人分のお茶をどこからか出した

本当にどこからか出した、意味がわからない

 

「粗茶ですが、どうぞ」

 

「無いよりかいいさ、ほら早苗も」

 

「い、いただきます」

 

「いただきまーす」

 

早苗がぎこちなく縁に口を付ける

先程の気配がまだ頭から離れないのだろう

 

「あぁ、落ち着いて、殺す気なんて無いわ」

 

「わ、分かってます」

 

早苗は動揺しながら答えた

舞ははぁとため息をついて早苗の横に座った

早苗が思わず湯呑みを机に置く

 

「な、何を―――」

 

早苗が言い切る前に舞は早苗に抱きついた

 

「ひゃ…」

 

「ほら、落ち着いて…吸って…吐いて…」

 

「…ふぅ…すー…ふぅ…」

 

最初こそビクビクしていたものの、直ぐに落ち着いた

それを確認すると舞は離れ、立ち上がる

 

「さて、後は彼次第ですかね」

 

「…まだ仕事を?」

 

彼が机にガチ恋したのは知っている筈だ

なぜなら射命丸がその写真をばら撒いたからである

充血した目、黒すぎて光を全て吸収するクマ

そんなものを顔に出した者が幻想郷最強とは言えまい

というよりいつものデマだろう、完成度高いけど

 

と、言ったもの達が斬鬼の姿を見て、羊羹や睡眠薬を置いていった

 

「ええ、まぁ…それに関してはこちらで…」

 

「…頼むよ」

 

舞はからからと笑う

 

「私の夫です、やり方なんて分かってます」

 

「"やり方"...ねぇ」

 

斬鬼は尻に轢かれているようで…

神奈子はため息をついた

 

いつの間にか舞の尻尾に抱きついた諏訪子を見て

 

 

「よーし文ぶっ飛ばすか」

 

彼女がそれをばら撒いたという事を聞いた瞬間斬鬼の口元が歪んだのを舞は見逃さない

恐らく、彼女は半殺しにされるのだろう

1年経った今では彼女は絶好調だ

 

「まぁまぁ…あら、いつの間に」

 

「それはこちらのセリフー、どうして舞と…おお、斬鬼じゃん」

 

諏訪子がカエル座りでこちらを見ていた

これが祟り神の頂点とはにわかに信じ難いが…

 

「ヤー、いつの間にかここに来てたぜ」

 

「尻尾ー!」

 

「ぎゃぁああああぁ!?まだ調子悪いんだぞこっちは!?」

 

思い切り尻尾に飛びついた

悲鳴を上げながら斬鬼は諏訪子をシバこうとする

だが、それは外れた

 

「ふふふー、ハズレー」

 

「コノヤロー…」

 

「おお、斬鬼じゃないか」

 

「あれが舞さんの旦那さん…?」

 

早苗と神奈子が本殿から出てくる

その姿は外で見た時より瑞々しく、強く見えた

 

「ははー、少し話でもするか?」

 

「そうだな、懐かしい事は沢山ある」

 

そう言うと神奈子は2人を本殿に案内した



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大戦?夫婦喧嘩だよアレ
諏訪大戦


「は、あん時はお前が…」

 

「いや、あれは斬鬼のせいだ」

 

昔話に思い耽る

どれもこれも、懐かしいものばかりだ

 

「いや、トランプでイカサマしていた奴に言われたくないわ」

 

「本当ですか!?諏訪子様!?」

 

「うんうん、神奈子イカサマしてたよ」

 

「諏訪子!?」

 

昔話、といってもかなり最近の事である

ときたまそういう話が紛れ込むくらいだ

だが、そのどれもが懐かしい

面白い事や、悲しいこと、流産…

最後の事に関しては、何も言えなかった

 

「まさか残り少ない神力をイカサマに使うとは思わなかったが」

 

「えぇー!?神奈子様!?何で!?」

 

「いやー、本当にくだらない事だね、神奈子」

 

ちなみに今の話は神奈子がトランプでイカサマをした話である

ババ抜き、神経衰弱、大富豪、色々した

 

その全てでコイツはイカサマをしたのだ

ハッキリ言ってアホである

 

「阿呆も阿呆、最後にはぶっ倒れてたからな」

 

「神力切れをするくらいって神奈子様…」

 

白い目で神奈子を見る早苗

当たり前の事だろう、こんな神を信仰していたなんて信じたくない

斬鬼なら切り捨てて天照大御神にポイするだろう

 

…多分天照大御神もポイするだろうな

 

「こっちに来たのはそれが原因かもな」

 

「それは―――無いと、思う」

 

歯切れが悪いヤツだ、と斬鬼は嗤う

それがこっちに来る根本の理由だったら殴り飛ばしてやる

斬鬼は構えた

 

「それに、斬鬼に会いたかったし…」

 

「uh-huh?寂しがり屋か?」

 

「外の世界に残っていた妖怪なんて君くらいのものだったんだよ、斬鬼」

 

うーあー言いながら舞の尻尾に抱きついていた諏訪子が言う

舞はその間にも諏訪子の頭をなでなでしていた

 

「まぁ、夫は物好きですからね」

 

「言う通りだな、ははは…」

 

言われる通りである

外に残っていた妖怪なんて斬鬼以外居たのだろうか

いや、そういえば…

 

「マミゾーはどうしてるかね…」

 

「マミぞー?」

 

諏訪子が思わず聞き返した

斬鬼は頷く

 

「土佐だったか、伊豆だったか…島だったかに居るタヌキだよ」

 

「タヌキ妖怪ねぇ、信仰が厚いあれでしょう?」

 

確か、ちくわ大明神だったか…

神のように信仰されているらしい

らしい、というのは聞いた話であるからだ

 

「とやかく、羨ましい物だ」

 

「お前は黙っとけ」

 

神奈子が爪を噛みながら言う

斬鬼はわざとらしく首を傾げた

 

「何のこったか?」

 

「軍神は私1人でいいのに信仰されやがって…!」

 

「そらまぁ、全県渡り歩いたからか…」

 

「人間と共存していたからじゃない?」

 

舞が諏訪子を撫でながら言う

全県を渡り歩く程度で外に居れる畏怖の念は手に入らない

その活躍を語り継ぎ、今でもなお起こさねばならない

 

―――斬鬼も定期的にしていた

 

10年に1回くらい、天皇の前で踊る

この前の宴会でやったような踊りを

ネットを覗いてみると、かなり話題になっていた

いつの間にか録画されて上げられていたこともある

ただ、「生で見た方がいい」というコメが多かった

「絶対に忘れられない」「世界一美しい舞」とか…

いつの間にか"紅白斬鬼"の伝説と結びついた

それが運良く畏怖の念の得ることが出来たのだ

 

「お前も派手にすればいいのにな」

 

「今の世の中じゃお前みたいな事は無理だよ…」

 

神奈子が軽く笑った

そんな斬鬼に早苗が聞いた

 

「あの、斬鬼さん」

 

「何だ」

 

「諏訪大戦に居たって本当ですか」

 

あぁ、あれの事か、と斬鬼は懐かしそうに言う

その瞳には嫌味、懐かしみかあった

 

「あー、戦いに参加してもらったあれねぇ」

 

諏訪子が面白そうに言う

 

「ちょっかい出して来たのはそっちだからな」

 

「そして諏訪大戦では無く夫婦喧嘩でしたねぇ」

 

斬鬼が嫌そうに神奈子を見る

舞がカラカラと笑った

 

「…夫婦喧嘩?」

 

「あぁ、諏訪子に斬鬼が、私の方に舞が来たんだ」

 

「どういう事なんですか…?」

 

「それもおいおい話していこう」

 

斬鬼はどこからか茶を出した

舞は懐から菓子を出す

 

「そうだなぁ…どこからか話そうか?」

 

「ちょっかいを出したところかしら?」

 

「そうだな」

 

そう言うと、斬鬼は早苗に語り始めた

途中で神奈子と諏訪子の訂正が入りながらも…



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諏訪大戦(壱)

斬鬼は黄昏ていた

これとなく、岩の上で足をプラプラとしていた

今の山はかなり安定しており、そんなに問題も無い

人間との関係もかなり友好だ

 

「よぉ、斬鬼」

 

「あぁ、お前さんか…どうした?」

 

そんな斬鬼に話しかけてきたのは白狼大天狗の青年

堂々と職務をサボる斬鬼にため息をついた

 

「いやなに、最近世の中物騒じゃないか」

 

「そうかね?」

 

「知らないのか?」

 

青年が言わんとしていることは分かる

なんの事かと言うと…

 

「諏訪と大和なんてここに来ないさ」

 

「そうだといいがね…」

 

それは大和と諏訪の戦争である

神々の戦いと言った方がいいか…

ともかく、異国の大和が攻めてきたのだ、この国に

 

「俺たちには関係無いな、どちらにもつかない」

 

「傍観者ってか?いつもの」

 

「来る者拒まず去るもの追わず、そういうことさ」

 

青年はいつものスタンスだな、と思った

何か問題ごとがあれば解決する

何も無ければいつも通りに過ごす

斬鬼のいつものどおりだった

 

「…だが、まぁ」

 

斬鬼は言葉を繋いだ

 

「ちょっかい出してくるとは思わなかったが」

 

「…は?」

 

青年は思わず斬鬼を見る

斬鬼は地上を見ていた

数秒すると、風が巻き起こった

顔を向けると文が羽を動かして浮遊している

 

「斬鬼、敵襲だ」

 

「勢力は?」

 

文はため息をつきながら言う

物凄く呆れた顔で

 

「妖怪は皆殺しって言ってるから大和の方だ」

 

「了解、迎撃するか」

 

「体制は大体整ってる、防衛戦で大丈夫か?」

 

斬鬼はこくりと頷く

 

「あぁ、ここにちょっかい出してくるということは小物だ

 恐らく手柄が欲しかったんじゃないか」

 

文と青年がため息をついた

 

「どこにもそういう奴は居るか…」

 

文は攻めてくる阿呆共を見ながらそう言った

斬鬼はわざとらしく手を広げて肩をすくめる

 

「ま、異国も変わらないってこった」

 

「少しは変わって欲しかったな…」

 

「無理だろ…変わらないなら、俺みたいな奴が居るかもな」

 

斬鬼は水平線を見た

この妖怪の山はかなり高く、ここから海が見える

大和が上陸したのは百済とかそこから…今で言う中国地方辺りから…

まぁともかく、上陸するところは見えなかった

 

「さっさと片付けよう」

 

「この風で吹き飛ばしてやる」

 

「さて、やりますか」

 

各々が戦場に飛ぶ

部下に任せてもいいが、上司が何もしないというのも癪だ

仕事はしっかりしようと斬鬼は思った

 

 

「皆殺しだぁー!」

 

「絶対に入らすなよ!」

 

麓では神の力を持つ者と天狗の戦いが繰り広げられていた

といっても使者とか神主とかの奴らだ

所々に小さな神力の神も居る

多分、手柄を上げたかったのだろうな

 

…狙った場所が悪すぎるが

 

敵の数はそんなに多くなかった

どうやら少数派だったらしい

 

「防衛線を崩すな!」

 

「喰らえ!」

 

神の攻撃は激しい物だ

だが、こちらの反抗も凄まじいものだ

 

「斬鬼様達が来るまで耐えろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――もう来ている」

 

1人の名も無き神の首が落ちる

そいつは光の粒子とともに消える

信仰があれば、幾らでも生き返るだろう

 

斬鬼はそれを承知で斬った

 

「形勢逆転だな」

 

青年が構える

 

「早く終わらせよう」

 

文が紅葉型の扇子を構えた

神々とその部下が震える

 

「行くぞ」

 

3人は戦場に身を投じた

 

 

「呆気ないな」

 

あれから指揮系統をボコボコにした

すると蜘蛛の子を散らすよう逃げていった

どうやら雑魚な神について行っただけのようだ

 

「面倒だな」

 

文がつまらなさそうに言う

その気持ちは分かるぞ、と斬鬼は呟く

 

「思ったより雑魚だったな…」

 

青年も思ったことを言った

はっきり言って神風部隊の普通隊員より弱い

本当に手柄が欲しくて、狙ったのだろうか

 

いや、考える脳が小さすぎたのだろう

 

「…総員、配置に戻れ」

 

そう斬鬼が言うと天狗達が状態を調べ始めた

壁の損傷具合、被害、悪影響…色々だ

見た限り被害は小さい様だ

 

「この程度なら直ぐに修理されるな」

 

1日位だろう、修理期間は

河童達の技術は凄まじい物だ

てこの原理を利用して思い物を動かしたり…

どちらかというと人間の役に立っている

 

「ま、妖怪の役にも立つがな」

 

斬鬼はそう呟いた

 

「…はぁ」

 

ため息をつく

にしても本当に面倒なものだ

神々の戦争に首を突っ込む気は無い

だが、あっちから突っ込んで来たのだ

ここで抵抗したから絶対目をつけられるな…

 

「さっさと戻ろう」

 

青年が急かす

斬鬼は頷くと、里に向けて歩き始めた

 

 

天狗の里だ

民家は人間と変わりない和風の家だ

相異点は壁から出来ているか崖に作られているかだ

鴉天狗達の要望が圧倒的崖や壁らしい

隻眼天狗である己にはよく分からないが…

鴉天狗というものは空を飛びたいらしい

文もそう言っていた、本当によく分からない

 

「摩訶不思議だなあ…」

 

その組織の1人である自分が言える訳では無いのだが

歩いて居ると、妻を見つけた

よく見ると娘が舞の腰に抱きついている

天月と仲良く話し合っている

 

「何を話していたのさ」

 

「世間話、馬鹿な神が攻めてきたってな」

 

「本当に面白いんですよー、ねぇ?旦那もそう思うでしょう?」

 

「そうだな」

 

はははと響く笑い声

そんな笑い声を邪魔するように

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様らが私の兵士を潰した妖怪か?」

 

そんな声が後ろから聞こえてきた



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諏訪大戦(弐)

その声の方向に斬鬼と天月、舞は向く

背中に浮く注連縄、赤い服に胸の鏡

 

「親玉のお出ましか」

 

ポツリと呟く

それに女か笑った

 

「ははは、確かに親玉だが…敵じゃ無い」

 

敵意が無い様子で言う

斬鬼と天月は得物に手を伸ばしながら聞く

 

「敵じゃない?襲撃してきた癖によく言う」

 

「あれは自分勝手な行動だ、すまなかった」

 

女は素直に頭を下げる

そこに悪の波動が無いことに気づき、武器を下げさせる

舞の腰辺りからちらりと娘がこちらを見ていた

 

「不意打ちしてきたら全滅させてやるよ」

 

一応杭を刺しておく

 

「覚えておくよ、紅白斬鬼」

 

そういうと女はどこかに消えていった

斬鬼ははぁとまたため息をついた

 

「まーた、面倒事か」

 

「…誰なんだ、あいつ」

 

「八坂神奈子、大和の神ね」

 

文が隣に降り立つ

そして娘の頭を撫で始めた

少しくすぐったそうだ

 

「あの特徴的な注連縄と胸の鏡、確定ね」

 

確かにあの格好はわかりやすい

いつの間にやら神々にスパイを忍び込ませたらしい

 

「まぁ、面白くなりそうですねぇ、旦那さん」

 

「警戒はしておけ、また身勝手な奴らが来るかもしれない」

 

恐らく神奈子が杭を刺しているだろう

刺さなかったら殺す

ともかく、不用意に襲いかかられる事は無いはずだ

それだけは信じておこう

 

「さて、対抗の準備はしておこう」

 

「首を突っ込んでしまったからね、全く」

 

文がため息をついた

コイツも面倒事は嫌いなタチだ

 

「おとーさん、大丈夫?」

 

娘が舞から離れてこちらに歩いてくる

その腋を持って高い高いしてやる

 

「お父さんは大丈夫だぞー、ほーら高い高ぁーい」

 

「わっー!高い高ぁーい!」

 

「和むなぁ…」

 

ピリピリとした空気の中でこれがあると空気が緩む

見ているだけでこちらが笑顔になりそうな図だ

斬鬼は娘を降ろしてやると、その頭を撫でる

娘は嬉しそうに目を弛めた後に舞の元に戻って行った

 

「お母さんも気をつけて!」

 

「よしよし、私も大丈夫よ」

 

「お留守番させよう、今の外は危険だ」

 

攻撃されて娘が死んだら何をするか分からない

…いや、フリとかじゃなくて本当に何をしでかすか分からない

多分、大和を滅ぼした後に娘の後を追うんじゃなかろうか

斬鬼は心の中でそう思った

 

「最近は育児と仕事が両立しにくいぜ…」

 

家に帰っていく2人を見ながらそう思った

何にしろ、面倒事が増えたのは間違い無い

 

「ほら斬鬼、会議よ」

 

「ほらな、やっぱりあるよな」

 

ああいう事が起きれば必ずあるのが会議

会議の場ではあるが、かなり長引く事もある

人間には分かりにくいが妖怪は感覚がおかしい

かなり鈍い方にあるのだ

 

それこそ…1年経っているのに気づかないとか

 

まる1日、と思っていても1年過ぎている

 

アホみたいに時間がすぎる事もある

暇を持て余したもの達の悩みどころだ

…といっても、斬鬼と舞…もとい神風部隊は訓練尽くしだ

それに時間厳守を決め込んでいるので適当にしていたら殴られる

いや、俺は殴る側の妖怪だけど

 

斬鬼は1人で笑った

 

「行くかぁ…」

 

 

「終わった終わった」

 

会議場から出ながら背伸びをする

文と舞は欠伸をしながら、天月と青年を首を回しながら出た

 

「長いわねぇ、もう夜じゃない」

 

文が私語でそういう

彼女は公の場だと男のような口調になる

私的な場ではこんな感じな口調だ

凄い違うというか、ギャップがあるというか

 

「どっかで飲もうぜ」

 

「居酒屋、あそこでいいんじゃない?」

 

舞が指を指す

そこにはまだあかりのついた居酒屋があった

上手い夜飯が食べれそうだ

 

「酒は抜きで行こう、二日酔いで戦うなんてキツい」

 

「ご最もね、分かってるわよねぇ…舞?」

 

文は目をギョロリと舞に向けた

そんなに気にした様子も無く

 

「さぁ?私は早く食べたいわ」

 

「…私も、食べたい」

 

いつの間にやら娘が舞の腰に抱きついていた

斬鬼は頭に手を当てる

 

「帰ったんじゃ無かったのか…」

 

「ずぅーっと私の腰に抱きついてたわ

 この歳でスニーキングが出来るのね」

 

ヨシヨシと娘の頭を撫でる

そういう事じゃ無いだろう、と斬鬼は思った

やれやれと大袈裟なジェスチャーをしながら

 

「ま、いいか…」

 

目の前にまで来た居酒屋の中に入る

既に零時を過ぎているが、客はポツポツと居た

 

「あー、服はこのままで良いか」

 

あの黒服、実を言えば職務の時にしか着ていない

団体様であるため、大きな席に案内される

 

「さーて、最初はササミとたこ焼きで行くかぁ」

 

「じゃ、私は枝豆と水で」

 

「そうですねぇ、焼き鳥、三本頂きしょうか」

 

「俺も焼き鳥三本頼むよ」

 

「うーむ、だったら刺身を貰おうか」

 

斬鬼、文、舞、青年、天月は各々頼む

これと言って規則性は無い、好きな物を頼んでいる

適当に、酒以外を頼んでいるのだ

 

「協調性がねぇなぁ…」

 

「ま、自由で良いじゃない」

 

「被りが嫌な感じに思えるがね」

 

斬鬼はポツリと呟いた

そして、間もなく料理が到着した

 

その辿り着いた料理たちを食べる

余程腹が減っていたのか、それともストレスが溜まっていたのか

その勢いに、斬鬼の娘は引きながらもチビチビと酒を飲んでいた

 

 



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楽しい家族団欒

といったな、あれは嘘だ


「美味かったな」

 

「かなり美味しかったですねぇ、なんででしょう」

 

「そんな味しなかったわ」

 

貪る様に食えば当たり前のことである

味はしっかり噛むことで生まれる

こいつの場合よく噛んでいないから味が無いのだ

なお、斬鬼と舞は凄まじい回数噛んで食べているらしい

あまり聞きたくない数字なので、明言はしない

 

…例えれば1回噛んでるように見えて10とか

 

まぁ、ヤバいと言う事だ

 

「焼き鳥のタレが美味い、ありゃやり手だな」

 

「秘伝だってさ、美味くない筈が無い」

 

秘伝が美味くなかったら俺は笑う

それは最早ただの詐欺だ

まぁ、そんな事をするとは思えないが

 

「あんたら味を感じたの…?」

 

どうやら文だけ味を感じたなかったらしい

こいつはどれだけ本能的に貪ったんだか…

 

「いや?私も感じなかったが」

 

「天月ィ…」

 

腹が減った奴が多すぎる

舞でさえ味をちゃんと感じているのに

ちなみに本人は娘をおんぶしていた

 

「やれやれ、帰るとしますかね」

 

「明日、寝坊すんなよお前達」

 

「天月もね」

 

文は己の自宅に飛んでいく

天月も同じように飛んで行った

青年は口笛を拭きながら森の中に入っていった

恐らく、帰っても暇だからなのだろうな

 

「暇人ねぇ、やる事は無いのかしら」

 

「新人の頃を思い出すな」

 

伝説の息子でも、最初からいい職には着けなかった

親は下っ端の哨戒任務に着かせたのだ

実力で上がってこいという挑発に俺は軽く乗ったものだ

 

真夏の暑さ、真冬の寒さ、蚊

 

これらを今でも思い出す事が出来る

己はとても恵まれているな、と斬鬼は思った

 

「ま、いいさ」

 

斬鬼はそう呟く

 

「早く帰りましょう?」

 

「眠たい…」

 

娘が目を擦りながら言う

舞も少し眠たそうだ

ここでグダグダしている場合ではないだろう

家族3人で、家に帰った

 

 

「ただいまー」

 

「ただいま」

 

玄関の戸を開け、中に入る

くあっと娘が背伸びする

 

「もうお疲れか、ま、早く寝巻きに着替えろ」

 

「はーい…」

 

娘はそういうと部屋の奥に進む

時間を置けば、こちらに来るだろう

 

「よっこらしょ…」

 

斬鬼は席に座る

応接間で食事をとるのは何時からだったろうか

ふと、彼はそう思った

この山で生活して、当たり前になったのはいつだったか

己が親に認められたのは…

 

「着替えてきましたーってまだ着替えてないの?」

 

「いや、少し考え事をしていただけさ」

 

そういうと服を脱ぎ変える

肌触りの良い、寝巻きにすぐに着替えた

 

「何を?」

 

「面倒事だ、あーあ…」

 

斬鬼はどすりとソファーに横になった

自分の体重の分だけ、沈む

舞は冷蔵庫に近づいて中を開けた

 

その数秒後

 

「―――」

 

一瞬、"俺"は極寒の地獄に落とされたのかと思った

今の今まで感じた事の無いような冷たい殺気

極寒に落とされ、刀で胸を刺されたかのような感覚

 

…もしかして

 

「ねぇ、旦那さん」

 

氷の様に冷たい声が背後から聞こえた

思わず、沈んだ体を起き上がらせる

震えた声で俺は言う

 

「どうした?」

 

「ねぇ、知らない?」

 

肩に肘を置き、首を抱く様に舞はする

俺自身には首を絞めようとしているようにしか思えなかった

 

「私の、羊羹」

 

「知らないな、いつの間に買っていたんだ」

 

なるべく平常を装って言う

なんだろうか、物凄く命の危険を感じる

 

「本当に?」

 

「あぁ、知らないさ」

 

「そう…」

 

それと共に腕が離れ、殺気も消えた

斬鬼はため息をついて後ろを向く

 

「お前さんちょっと疑心暗鬼過ぎるぞ…」

 

「あら、ごめんなさいね」

 

そこにはいつもの笑顔の舞が居た

先程の鬼は居なかった、どこに消えたのだろうか

 

「ガッ!?」

 

「と思っていたのか阿呆ですねぇ貴方はふふふふふふふ」

 

がっと首を絞めあげられる

斬鬼より身長は低い、だが、持ち上げられている

というより目がやばい、ガンギマリしている

口は三日月の様に歪んで先程の殺気が復活している

 

「男というのは本当に詰めが甘いですねぇあはははは」

 

「待った絞まってる!首が絞まってる!」

 

ミチミチと酷い音を出している

意識が遠のきそうだ

 

「台所に羊羹の爪楊枝置きっぱなしにして…

 私を煽っているのですか?ねぇ?」

 

「む、娘が食ったのかもしれないだろ!」

 

さらに力が強くなる

物凄い失言をしてしまったようだ

 

「あの娘は今寝ていますよぉ?娘に罪を被せるんですかぁ?」

 

「ま!ギブ!ギブ!止め!」

 

バタバタと足を振るが何の意味もない

舞は嗤う

 

「ねぇ?どうして?どうして私の羊羹を食べたの?」

 

確かめるように、斬鬼に聞く

 

「アナタ、分かってるでしょ?

 私がお楽しみ盗られて怒るの」

 

「こ、ここまでとは―――」

 

「思わなかった?」

 

舞の問

 

「そ、そうだ」

 

斬鬼の答

 

 

 

 

「死ぬがよい」

 

結果、絞まる首

強かった力が更に強くなる

意識が遠のいていく

消える寸前に、斬鬼はソファーに落とされた

 

「腹が立ちます、もう知りません」

 

そういうと彼女は背を向けてどこかに行った

それを見届けて、斬鬼は意識を手放した



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Q 何が始まるんです?

「―――」

 

目を開けると、ソファーにうつ伏せになっていた

窓から見える景色は曇り空

 

にしても何故ソファーに―――

 

原因は覚えている、ああ、良く覚えているさ

 

「…やっちったな」

 

紅白斬鬼こと俺はそう呟いた

自分の妻である舞の羊羹を何も言わずに食べてしまった

何時食べたのか定かでは無い

だって覚えていないもの

 

―――兎も角俺が食った事に変わりない

 

これが文とか天月ならまだ良かった

だがまぁ、舞の羊羹だった…

食べ物の恨みは何よりも恐ろしい

それは舞と…そして自分にも言える事だった

 

「あーあ」

 

夜逃げされちったぜ☆

と言っている場合ではない

あの不貞腐れた顔本当に…ああ

溜息が漏れ出た

それに合わせるかのように、雨が降り始めた

屋根を叩き、俺を攻めているかのようだ

 

「…娘」

 

ポツリと呟き、俺はソファーから降りる

娘も一緒に連れて行かれていないだろうか

最低な事をした身でよくこんな事が思える

俺は自己嫌悪しながら襖を少し開けた

 

「―――すぅ」

 

「…ふぅ」

 

そこには毛布を抱き枕のようにして眠る娘の姿がある

少し安心した後、何を思ったか俺は冷蔵庫に向かった

そこに進む事に何故か脚が重くなる

少し、嫌な予感がするのだ

 

「…何でだろうか」

 

自問する

その答えはすぐには帰ってくることは無い

冷蔵庫まで数歩だが、10歩くらいの距離があるように感じる

いや、数百歩だろうか…

 

「…」

 

鉛の様な足を動かしてなんとかたどり着く

なぜだか冷蔵庫が変なオーラを放っている様に感じた

斬鬼は動かなかった

 

「開けたくないな…」

 

ポロリとそんな言葉が出てしまった

こんな失言をするなんて、当主失格だな

自分でそう思いながら冷蔵庫を開けた

 

「異常は…無さそ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いきなりの殺気、私は飛び起きた

抱きついていた布団を投げ飛ばし、小刀を抜く

寝る時にいつも懐に入れている小刀だ

親に寝ている時でも常に気を配る様に言われていた

最初はじっくりと寝れなかったが、慣れれば余裕なものだ

 

「…」

 

殺気はあの襖の向こうから感じる

かなり強い、気絶してしまいそうだ

足を動かして襖の前に行く

 

「?」

 

ふと、この殺気が父親の物と気づき、首を傾げた

父はこんなに怒りっぽい人だったか?

 

いや、無いだろう

 

そう思って襖を開けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そこに、鬼が立っていた

 

「!」

 

いや、鬼に見えた

父は激情して己を鬼の様に見せていた

 

周りを見ると、天月さんや文さん、青年さんが立っていた

三人は各々の武器に手を伸ばしたまま固まっていた

 

そして、父がこちらを向く

 

「―――」

 

無表情

 

想像と違い、無機物と言うべき顔をしていた

つり目で口が裂けんほど怒り狂っていた訳では無い

その反対、無機物、本当に命が宿っていないかのようか顔

 

能面

 

私はすぐさま、それを思い浮かべた

 

この空気に耐えかねたのか、文さんが声を出す

 

「…あんた、どうしたのよ」

 

その質問に、何も答えない

彼は何も答えず、4人を見ていた

 

「何か、言ったらどうなんだ」

 

青年が少し震えながら言う

 

父の口が小さく開く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦闘準備だ」

 

「は…」

 

私は言葉を失い、何も言えなかった

斬鬼をよく見ると、その瞳に復讐の炎が燃え上がっていた

 

「聞こえなかったのか、戦闘準備だ」

 

よく聞くと、その声には底無しの怒りが見える

決して怒鳴るような声じゃ無い

 

「何処とやるのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大和だ、徹底的に潰してやる…!」

 

隠しきれない感情を抑えながら、父は言った

 



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A 大惨事大戦だ

父が何故激昂しているのか

私は自分なりに調べてみたが、かなりくだらなかった

 

母が楽しみにされていた羊羹を父が勝手に食べた

母は激昂し、父を気絶させた

 

 

 

その時、父の大切にしていた酒を飲んだのだそうだ

 

ついでに、羊羹も全部

 

これが父の激昂した理由だった

 

「…くだらな」

 

ポツリと呟く

 

「分かるわ、その気持ち」

 

横で文さんが私の頭を撫でる

その顔は疲れた顔をしていた

 

なぜなら、その後に母が大和についたという伝達があったからだ

 

父は速攻に洩矢に味方することに決めた

そしてその伝達役を文に頼んだのだ

寝起きの彼女にとってこれほど理不尽な事はあるまい

 

「でも、兵士さん達は出なくていいじゃん」

 

「斬鬼と舞だけの戦いになるからねぇ、はーヤダヤダ」

 

名も無き兵の出番は無い

なんなら文さんや天月さん達も出ないだろう

あの夫婦喧嘩程怖い物は無い

 

「…はぁ」

 

私はため息をまたついた

 

 

「で?君はこちらにつくと」

 

「ええ、何か問題でも?」

 

目の前に女が座っていた

ここは大和の本部、その面会室のようなものだ

私…八坂神奈子は額に手を当てる

 

「まぁ、問題は無いんだが…どうしてこっちに?」

 

「はて、何か問題が?」

 

問題しかない

スパイかもしれないと思うと怖い

直接的な戦闘を天狗たちとした訳では無いが、それでもだ

 

「あー、なんか恨みでも?」

 

「えぇ、まぁ…そういうことにしておきます」

 

「もしかして食べ物とか…」

 

そこで、己の失言に気づいた

というより、気づけるわけが無かった

冗談のつもりで言ったそれは…当たりだったらしい

 

女は、青筋を浮かべていた

 

口の端がひくついて、怒りを堪えているようだ

 

そして、何も言わせることなく、言う

 

「今度余計な事を言うとその口を縫い合わす

 分かったな?」

 

「あ、ああ…」

 

「それと、戦闘はほぼ私と奴だけになるから、手出しはするな」

 

「あ、ああ…分かった」

 

そういうしか無かった

他の事を言えば、縫い合わされるどころか、殺される気がする

 

 

一方洩矢も大変な事になっていた

 

「さーてさーて、一大事…」

 

いや、本当は喜ぶべきなのだ

何処でも名を聞くことの出来る斬鬼が仲間になる

圧倒的な実力を持つ彼が仲間になってくれる

それは嬉しいのだ

 

 

 

だが

 

 

過程がクソすぎる

 

酒と羊羹全てを食べられて、怒った

だから大和についた妻をぶっ飛ばす

なお原因は彼自身の模様、えぇ…(困惑)

 

「あはは…こりゃ私の出番無さそうだね」

 

といっても、小さな戦い位はするだろう

斬鬼とその妻の戦いのせいで小さく見えるんだろうな

小さなため息が口から出てしまう

 

「ため息をついていたら幸せが逃げるぞ」

 

「アンタのせいでもあるんだよ?斬鬼」

 

後ろから聞こえてきた声にそう返す

振り返ると、1人の白狼が居た

 

「アンタねぇ…本当に」

 

「下らないってか?死ね」

 

「あー…うー…」

 

食べ物の恨みは恐ろしいと聞く

特にこの夫婦のそれはかなりヤバいものだ

私たちの宗教戦争に介入してくる程、恨みが強い

 

…なんなんだろう、この夫婦

 

邪魔では…ない訳が無いだろう

本当なら私と敵将の一騎打ちの筈だった

 

それが蓋を開けてみればこれである

 

なんともまぁ、血なまぐさい事になりそうだ

結果はどうせ私達の戦いになるだろう

私たちの激しい戦いの結果、と惨事はそうなるのだ

 

「何にしろ、私たちの出番は無さそうだねぇ」

 

「無いだろうな」

 

縁側に座り、刀を抜く

ちなみにここは私の神社だ

その本社でこうやってだべっていたのだ

 

「何にせよ、奴は殺るべきだ」

 

「…私に言われてもねぇ」

 

そう、言われてなんなのだ

どうせ自分の出番は無いようなものなのだ

 

「ま、お前らは勝手にやってな」

 

「あんたらのせいで無理そうだよ」

 

この夫婦の戦いの規模は分からない

ただ、自分たちより凄まじい戦いになりそうだ

神が妖怪より弱いのは癪だが、この夫婦の場合は…不可抗力だ

 

「まぁ、勝手にしておくよ、勝手に」

 

「勝手にしてくれ、俺は殺ってくる」

 

そういうと、彼は飛んで行った

どうやら、今から戦争を始めるらしい

と言えど2人だけだから、戦いと言った方が正しいが…

 

「何にせよ、面倒だねぇ」

 

私は他人事のように言う

本当なら、私が奴らと戦う筈なのに

 

本当なら、宗教戦争の筈なのに

 

 

「よぉ、クソッタレ」

 

「久しぶりですねあほんだら、調子はどうです?」

 

「おお、頗る調子が良いぞ?」

 

ニコニコと笑い合う夫婦

ほのぼのと見れるそれではなく、コワイ

絶えること無く発せられる殺気のせいだ

 

「いやー、本当に調子がいいよ、えぇ?」

 

「それは良かったですねぇ、にしても奇遇ですね

 実は私もとても調子が良いのですよ」

 

首をごぎごきと鳴らしながら斬鬼は回す

舞は指の関節をグキっと音を立てる

 

「見限りましたねぇ、旦那さんの事」

 

「いやなぁ、俺はお前さんの事を見限ったよ」

 

舞は目を細くする

 

「はい?あなたが私を見限ったと?」

 

「あぁ、この程度で怒るとはな」

 

舞が扇子を取り出す

そして手で弄び始める

 

「ええ?あなたが原因でしょう?

 勝手に人の物を食って私のせいにするんですか?」

 

 

「…次はお前を黙らせる」

 

首を力なく振る

体が震えた、刀を抜き、両手で構える

不思議と柄を握る手は強かった

 

舞はバッと扇子を広げる

そして右手で顔を右側を隠すように

左手の扇子は下に向けて構える

その構えは見るだけでも魅力されそうなくらい、妖艶だった

 

「行くぞ」

 

「さ、来なさい」



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夫婦喧嘩

「先手必勝!」

 

「先に負けるとも読む」

 

先に斬鬼が刀で突く

それを軽く扇子で弾くと斬鬼の喉元に扇子を当てようとする

後ろに引いて避け、手元を蹴りあげる

 

「おっと、危ないですね」

 

さっと手首を捻って避ける

そのまま斬鬼は足の連撃を続ける

 

「この…!」

 

「遅いおそーい、あくびが出るわ」

 

蹴りはほぼ全て避けられる

その後にゆったりとした動きで上から扇子を振り下ろす

行き場所は斬鬼の脳天だ

 

「…っ!」

 

衝撃

 

刀を横にして、なんとか防ぐ

だが、かかる圧力は半端なものでは無い

刀がギチギチと悲鳴を上げている

 

「武器は選んだ方が良いぞ…!」

 

「これは完全に私の趣味なので、知ったこっちゃ無いです」

 

ニコニコと笑みを浮かべながらそう言う

特注品のそれは見てわかる通り戦闘の為では無い

原理としては彼女が妖力を扇子に送っているからだろう

アレは付喪神では無い、彼女が妖力で硬めているだけだ

 

…それにも限度はあるだろうて

 

「っと…」

 

刀を滑らせ、扇子を斬る

だが、斬れる前に後ろにさがられる

アレは完全に切れない訳では無い

すこーし、ほんの少し本気を出せばいける

 

…面倒だな

 

「いやー、逆ギレして、こんな事までして

 あなた男として恥ずかしく無いのですか?」

 

「うるせぇ!」

 

「おおw、w怖wいw怖wいw」

 

「ンガアアアア!ぶっ殺してやる!」

 

煽りまくる舞

 

挑発に乗る斬鬼

 

まぁ、これだけで器の広さがよく分かること

これに関しては舞が斬鬼の羊羹全て食ったのが原因だが…

 

そんな事言っても意味が無い

 

んな事言っている暇があるなら斬れ

 

「オラっ!」

 

「せい」

 

刀の叩き落とし

それを軽く左の扇子で滑らすと右の扇子で斬鬼の左腕を狙う

アレは硬さはかなり高い、それだったら腕が飛ぶだろう

一応くっつけて治せるがそれは隙を与えたような物だ

 

選択肢は無い

 

「はぁ!」

 

「てやー」

 

鮮やかな刀の連撃

それを扇子で弾いていなす

舞にとってこの程度あくびが出るくらいなのだろう

 

…だったら

 

選択肢は無い、攻撃を続けろ

 

斬鬼は刀を横にし、目の前に突き出す

そして左手を刃の根元に添えて目を閉じる

 

「…ようやくそれを使いますか」

 

「―――」

 

根元から刃先に左手をそわす

するとそれを追うように青い波動が刃を覆う

自身の能力を応用して発明した技だ

 

これにより、刃は万物を切り裂く刃と化す

 

柄の両手を握り直し、切っ先を舞に向ける

全てが遅く感じる…なんなら景色も遅い

 

「―――」

 

景色が若干青く見える

本当に若干だ、そこまで影響がある訳でも無い

 

―――斬る

 

舞に飛びかかるようにして上から刀を叩きつける

それは大地に裂け目を作り、その場に居たものを揺らす

当の本人は既に次の行動に移行していた

 

宙に避けた舞に追撃を始める

 

横からの切りつけ、だが避けられる

それを返すように斬る

 

「とっ」

 

「ふ―――」

 

舞が防御に徹する

上からの切りつけを左の扇子で防ぐ

右の扇子で斬鬼の脇腹を突こうとする

それを蹴りあげて防ぐ、扇子が飛ぶ

 

「へっ―――」

 

斬鬼はそれを好機とし、攻める

舞は空中が不利と察して地上に降りる

 

そこを上から切りつける

舞はすうっと横に避ける

 

頭、胸、腕、足、狙って斬撃を放つ

 

だが、まるで知っているのように避ける

滑らかに、水のようにするりするりと避ける

 

まるで、踊り、舞の様だ

 

こちらも負けてはいない、攻撃を続ける

 

己が力尽きるまで

 

 

「ひぃひぃ…」

 

「ぜぇぜぇ…」

 

そしてその夫婦の息が上がってきた頃

こちらの息も上がっていた

 

二人はこの戦争の主役だ

 

だが、もはやただの喧嘩の様になっている

ちなみに原因は横でクレーターを生産している夫婦だ

その二人がいなければ神々の戦争に見えたろう

だが、まあ、それでも神々の戦いには見える

 

主役では無く脇役となってきているが

 

映画で言うなれば画面で主人公の後ろで戦っている奴らだ

なお部下達は画面にすら入ることは出来ない

大抵夫婦の攻撃で灰か砂になっている

 

「こん…のぉ!」

 

「はあぁぁぁー…!」

 

二人の最後の攻撃かぶつかる

辺りの木をなぎ倒し、止まる

倒れたのは、2人ともだった

 

「…なんだよぉ、いい所だったのに」

 

「うーあー…前が見えない…」

 

それは"この"二人じゃない、あの夫婦の攻撃だった

しかもその衝撃は何回か続く

 

「…降参するよ」

 

「和平にしようよ、それがいい」

 

「…そうだね」

 

二神はそう言う

そして終わりし戦いを見た

 

 

「息が上がってきたな」

 

「そろそろ終わらせますか」

 

二人は得物を構える

服はボロボロだ

 

舞の服は胸元が裂け、白い肌が露出している

袖も、スカートも裂け目が酷い

 

対する斬鬼の服もボロボロだ

和服は脇腹が裂け、腰紐はヨレヨレ

袴も炎のような模様が裂けまくっていた

 

「Here we go」

 

「all right…」

 

舞が挑発するように、言う

斬鬼は刀を鞘に仕舞い、構える

 

「―――」

 

一瞬の静寂の後、振る

 

斬撃は煙を巻き起こし、舞の姿を隠す

斬鬼はその中に身を投げ込む

 

瞬間、殺気

 

体を後ろに逸らす

視界には頭を貫かんとする扇子が2つ見えた

ここで驚いている場合では無い

 

刀を足に当てるように低めに振る

 

それをジャンプで避け、顔面を蹴りあげられる

 

「ぐっ」

 

受け身を取り、すかさず防御する

目の前で火花が散った

 

「―――」

 

「―――」

 

扇子が刀と擦れ合い、火花を散らす

本来ならば、ありえない光景

 

斬鬼は後ろの空に跳躍する

 

舞は迎え入れるように構える

 

「…すぅ―――」

 

息を吸い込む

刀を鞘に入れ、腰を低くし、目を閉じる

 

後ろの吹き飛んでいた岩に着地する

 

全ての音が聞こえなくなる

 

今、この力は刀と一体化している

 

己の波動が刀に送り込まれる

 

刀…鞘自体が発光する

 

思い切り、岩を蹴り上げる

舞に向けて飛ぶ、進む、進む

 

上から下への重力がスピードを上げる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、舞が扇子を振りかぶった瞬間―――

 

「―――抜刀」

 

「―――!」

 

火薬が破裂するかのような音と共に刀が鞘から飛び出る

それを握り、力を殺さないように注意をはらいながら―――

 

―――斬る

 

その青い一太刀は舞の胸を切り裂いた

 

「ぐ…!あっ…!」

 

小さな嗚咽を出して、彼女は倒れ込む

刀に付いた血を振り払って、納刀した

 

…終わった

 

今、夫婦喧嘩が、ようやくおわったのだ

 



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尻に敷かれ

「って言うのが諏訪大戦だ」

 

「斬鬼さん、ただの夫婦喧嘩だと思うのですが」

 

「奇遇だね、私もだよ早苗」

 

「あーうー、同じくぅ」

 

斬鬼は苦笑いをする

まぁ、なんというか大戦していたのは舞と自分だ

その他はもはや蚊帳の外、マジで文字通り

 

「私達がいる意味はなかったよ」

 

「というよりあなたがつまみ食いしなければ―――」

 

「すまん、マジですまん」

 

正座してニッコニコの舞に斬鬼が音速の土下座をする

それは少し風圧を起こすくらいの速さだ

 

これにより、早苗は彼が舞の尻に敷かれている事を察した

 

「はぁ、これだから」

 

「ほら、奢ったるから、な?」

 

「は?何で上から目線なんですか?」

 

「奢りまするので許して下さいませ」

 

「よろしい」

 

舞はニッコリと笑った

食事のそれを聞くと、気が緩むのは救いか、弱みか

まぁ弱みでは無いだろうて

 

「何にせよ、疲れたものだな」

 

「人里にでも行きます?まだ時間はあるでしょう」

 

「いんや、少し日を改めよう」

 

すると、早苗が手を上げる

 

「あの、少し食材が少なくなってきたのでついて行っても?」

 

「あー、じゃ、現地合流な」

 

斬鬼はそう手を振ると立ち上がる

首をごきりと回した後、縁側に移動する

 

「すまないね、斬鬼」

 

「何、影響は特にないさ」

 

「そうですかねぇ、人里で何か用があったような(ツクテーン)」

 

「…そうか?あったか?」

 

舞のギャグを流しつつ、飛んだ

 

「明日は頼むよ」

 

「分かったよ、おばさん」

 

「よろしくねーおじいさん」

 

諏訪子がにっこりと言う

この調子だと帰れないのでもう無視して飛んだ

風が髪を弄ぶように揺らめかす

 

舞の髪も、不思議と揺らめいていた

 

彼女自身、此処には居ないのに

 

 

そして次の日、2人は人里に居た

というのも暇潰しの様なものだ

年の初めだからか、厚着をしている人が多い

舞もマフラーをして暖かそうだ

…あのマフラーの中に己の尻尾の毛を入れているらしい

 

いいなぁ、と思いながら歩く

 

「あ、斬鬼さん」

 

「よぉ、昨日ぶりだ」

 

そこには緑髪の巫女が居た

別名・喧嘩売りの少女とも言う

もっと分かりやすく言えば二神万歳女だ

まぁともかく、合流は出来た

 

「…待てよ」

 

「はぃ?」

 

す、と足を止める

そして後ろを見た

 

…何か居たな

 

「おい、そこの…出てこい」

 

「ニャー」

 

「なんだ猫か、その尻尾を触らせろ」

 

と、声のした所に行く

そこには…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「た、食べないでくださいぃ〜…」

 

「…」

 

紫髪の…黄色の和服、赤の袴を履いた少女が居た

エロゲーで負けた時の女みたいな格好をしている

どこかで、こんな奴を見た気がする

 

「誰だ?お前さん」

 

「あなたが紅白斬鬼さんですか?」

 

「…あぁ、そうだが」

 

するとそいつは目を光らせる

いや、マジで物理的に光らしやがった

 

「私、稗田阿求と申します」

 

それを聞いて、あぁ、と言葉が出た

 

「悪いなー…あー何話放置したか」

 

「えぇ、44話です、しっかりと記憶しておりますよ」

 

「不幸な数字ですねぇ」

 

舞はカラカラと笑う

はっきり言ってそこまで不幸では無いが…

にしても、年齢に相応しくない目だ

 

「えぇ、要件は分かっていると思いますが」

 

「あー、俺は早苗と買い物―――」

 

と、早苗の居"た"ところを見る

文字通り、消え失せていた

視界の真ん中、言うなれば1ドット位の大きさの緑がある

が、直ぐに消え失せてしまった

 

「後で教え込んでやる」

 

「まぁまぁ、先に終わらせてしまいましょうよ」

 

「…仕方ない」

 

嫁の言う通りにしておこう

ここで拒否してあることないこと書かれるよりかはマシだ

 

「オラ、さっさとしてくれよ」

 

「早めにしておきますよ、ついてきてください」

 

そういうとスタスタと歩き始めた

その後ろを夫婦はカランコロンと音を鳴らしながら歩いた

 

 

「…墨臭いな」

 

「すみませんねぇ、でも慧音さんよりかはマシでしょう?」

 

「一理ある」

 

「あったら駄目だと思いますよ」

 

舞が横で正座しながら言った

今は阿求と机を挟んで対面している

彼女の前にはしっかり筆と墨、紙がある

…五センチくらい、紙の厚さがある気がする

 

「さて、何から質問してくるかね」

 

「そうですねぇ、まず、年齢から…」

 

「いきなり際どい所をするわねぇ」

 

「あ、お二人共ですよ、舞さん」

 

「あらSOW?」

 

舞はおどけたように言う

年齢を晒す事になんら躊躇いは無いようだ

 

「あなたの歳が分かれば、私のも丸わかりよ」

 

「それはそうか」

 

さてまぁ、今何歳だろうか

言うてしまえば永琳と同じくらいだろう

彼女が蓬莱の薬を飲んだのは確か、竹取物語

 

あの時に彼女は薬を飲んだ筈

…同期とは思えない、多分一、二歳離れている

 

「…永琳と同じくらいか」

 

「あら、医師より長生きなんですね」

 

となれば億は超えているか、と呟き筆を走らす

あの永琳が年齢を喋った?まぁどうでもいいか

 

「危険度より年齢か?」

 

「まぁ、「これだけ生きんてんだスゲー!」みたいな感じですね」

 

「視覚の暴力ねぇ、じゃあ次は」

 

「聞くところ、色んなところに現れるようで」

 

阿求は笑顔を絶やさないまま質問する

死を繰り返した影響か、妖怪を恐れていないようだ

…畏れを摂取出来ないのは痛いな

 

「出現する場所ねぇ…色々かね」

 

「特に?…というより主に何処に居るので?」

 

「主に妖怪の山だ」

 

ふむふむと筆を走らす

阿求は同じ質問に答えて欲しいのか、舞に視線を送る

 

「私も妖怪の山ね、種族は分かりきっているけど白狼天狗よ、2人共」

 

「下っ端と言われる白狼天狗がこんな妖力を持っているのですか」

 

「らしい、ちなみに先祖もただの白狼天狗だ」

 

「父親が特別な訳では無く?」

 

阿求は質問を続ける

 

「特別な人では無かったな、普通の白狼天狗だった」

 

「成程、それは努力の賜物と?」

 

「そうだな…人間は早く死ぬが、それを凌駕する勢いで強くなるだろう

 それの妖怪バージョンが俺たちだな」

 

「ふむ」

 

阿求は筆を走らせる

既に数ページ書いたようだ、ペラリとめくる

 

「危険度は分かりきっているとして…ふむむ」

 

彼女は少し思案しているようだ

そして、突然こんな事を言い出した

 

「この里に、「山の舞」という店があるんですよ」

 

「あるなぁ」

 

「ありますねぇ」

 

「高級和菓子店…それでいて誰でも買えるお菓子…

 店名から、あなた達に関係がありそうですけど」

 

阿求が目を細めてこちらを見る

斬鬼は少しも動揺はしなかった

 

「何故そう思う?」

 

「山は妖怪の山、そして舞は作った主である舞さん…

 こう仮定するのは早とちりでしょうか?」

 

「…お見事、どうやらただのお子様では無いらしい」

 

斬鬼は態度を改める

1人の人間を、転生者を、畏怖の感情で

舞はいつも通り、カラカラと笑う

 

「人間が妖怪の山に居た頃、人間に教えたんですよねぇ

 "こうすれば妖怪と人間の舌を堕とす事が出来る"と」

 

「何気に凄いこと言いますね舞さん」

 

万人の舌を堕とす為の製法を人間に教えた

それが今日まで生きてきたのだ

 

「凄いですねぇ…あ、そうだ」

 

彼女は紙を縦にすると、筆を握り直した

そしてこちらをじっくりと見始める

 

「縁起に格好を載せるので少し動かないで下さい…」

 

「おいおい、お前さんの能力ならする必要無いだろう」

 

「あら、既に知られていたとは」

 

そういうと彼女は筆を下ろす

彼女の能力…1度見た物を忘れない程度の能力

そんなものがあれば見て書く必要は無い

覚えていればいいのだから

 

「では…」

 

それから、阿求は能力などの質問攻めを続行した




「波動を操りし者・紅白斬鬼」

推定年齢・億は超えているとの事

性別・男

活動場所・主に妖怪の山

能力・波動を操る程度の能力

文字通り波動を操る
この世に存在する全ての存在には波動がある
それは感情や状態、様々なことによって変化するとの事
ちなみに波動が止まると、宿主も死ぬらしい
彼は波動を操る為、止めたり早めたりすることが出来る
死に簡単に誘える所は亡霊の姫君と同じと思う

なお、本人は余程の事がない限り使用しないとの事
かなり暇な為か、波動を蝶の形にして遊ぶ事もあるらしい

ちなみに応用して刀を波動で覆い、斬れ味を上げたり出来る
人間ならば霊力、妖怪なら妖力で使えるとの事
ただし、双方とも限界があり、使っている時は常に消費する

聞いた話によれば弾幕にも使用できるようだ



「美しき舞・紅白舞」

推定年齢・上に同じく

性別・女

活動場所・主に妖怪の山

能力・効果を高める程度の能力

文字通り効果を高めることが出来る
というより、その物質の特性を強くする、という能力
例えれば紙が1枚あるとしよう
それの効果を高めて、石を切る事が出来る
つまるところ、切れない物が切れる様になったり
酒の美味さがもっと美味くなったりする

なお、本人によれば限界は無いらしい

強さの割にパッとした能力では無い
だが、強さに1役買っているのは確実である

弾幕では妖力の効果を高めたりする
速さを早めたりなど、様々な事ができるとの事

…余談だが、夜の運動会で快楽を高めた結果…
夫は3日程動かなくなり、1週間何事にも力が入らなくなった

恐ろしい物だ


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核融合と神
吹き出した間欠泉


緋想天があった?

ただの幻覚では?


博麗神社から間欠泉が吹き出した

その暖かい雨は吹き上げし間欠泉を見る霊夢に降り注ぐ

 

「これは…」

 

ブシャーと凄い勢いで出てる

 

率直な霊夢の感想は何これ?である

今の今までこんなものは見たことが無い

 

いや、普通になんだこれ

 

「変な事になったわねぇ…」

 

「こりゃ凄いな、凄まじい勢いだ」

 

「斬鬼?暇人ねぇ、アンタ」

 

「褒めてもらって光栄だ」

 

斬鬼は嬉しそうに言った

そして吹き上げている間欠泉を見る

 

「異変かねぇ、ありゃ怨霊だろう」

 

「そうねぇ…面倒くさい」

 

間欠泉から怨霊が湧き出ていた

まぁ、なんというか…また宣戦布告された感じか

 

「地下世界からかしら?面倒な…」

 

「よぉ、最近は大変だな!」

 

魔理沙が降りてきた

また、異変の匂いを嗅ぎつけたらしい

 

「地下になら俺が案内してやろう」

 

「妖怪の山の麓に地下への洞窟があるの、行ってみない?」

 

いつの間にか現れた舞がニッコリと笑いながら言う

霊夢達もどうやら同意するようだ

斬鬼は飛び立つと、手で招く

 

「こっちだ、着いてこい」

 

 

ゴウと吹き上げる溶岩

灼熱の地獄で、1人の少女が胡座を中でかいていた

 

片腕は長い木の棒にすっぽりと入っている

 

背中の羽も外側は漆黒に染まっている

背負うマントの内側は宇宙のような景色を移していた

 

胸に赤い瞳があった

 

瞳孔が細い

 

いつから己はこのような姿になったか、覚えていない

記憶のある限りでは、神が私に力をくれた

 

あの神は天の火と言っていたが、確かにそうだ

 

この火力は地底の火力以上に高い

 

いままでに持ったことの無いような力

 

片方のちゃんとした手を握ったり開いたりする

あれから力はちゃんと使えるようになったと思う

 

壁を吹き飛ばしたりした事があったような気もしない

 

まぁいいや

 

そんな事、どうせ直ぐに忘れるし

 

 

「よっと」

 

「おろ?斬鬼じゃないか」

 

降り立ったそこにはにとりが居た

どうやら彼女もこの穴に用があるらしい

 

「今から地底に行くのかい?」

 

「後ろの面子で全てを察しろ」

 

「…なるほどねぇ」

 

後ろの人間組を見て全てを察したらしい

ともかく、何故彼女はここに居るのか

 

「ちょっと地底に行きたくてねぇ…」

 

「何か用でも」

 

「土蜘蛛をぶち殺す」

 

「OK落ち着け」

 

斬鬼とて無知ではない

土蜘蛛がカッパの目の敵にされているのはよく知っている

というか古来からその様子をよく見ていた

 

穴を掘り進む土蜘蛛

 

川を汚されるカッパ

 

戦争

 

もはやお馴染みの光景と化していたのは懐かしい物だ

…川が汚されているのか?

 

後ろを背伸びで確認する

 

いつもは澄んだ川が少し濁っている

それこそ雨が降ったあとのようだ

 

…雨降ってないけど

 

「許可は出してやるよ」

 

斬鬼は若干投げやりに答える

にとりはかなり嬉しそうだ

 

「よっしゃ!ぶっ飛ばしてやる!」

 

いろんな意味で、嬉しそうだ

 

「にしても深い穴ね、一直線じゃない」

 

霊夢が穴を見下ろしながらポツリと呟く

斬鬼は軽く笑う

 

「曲がりくねっている訳ではないからな」

 

「帰る時は楽そうだぜ」

 

魔理沙の言う通り行くのも帰るのも楽である

まぁこいつらであるからこそである

一般人がここに落ちようものなら速攻で死ぬ

 

仲良しカプセルとかでは無く蜘蛛の糸でグルグルに巻かれる

 

もしくは地底の奴らに弄ばれるか

 

どち道にしても落ちていい事は無いのだ

 

「アンタ、1回落ちたみたいな言い方ね」

 

「そうだな」

 

「散歩してたらヒューっと」

 

「ダッサ」

 

まぁ聞けばダサいの一言だろう

当たり前だ、逆にダサくない訳が無い

いい例えは思いつかないが、まあかっこよくは無い

 

「何にしろ面倒なこって」

 

「妖怪の山の顔がそんな失態を犯すのね」

 

「…よく良く考えればそうか」

 

今考えればそうだな…

逆に今の今までなぜ思わなかったのだろうか

 

「まぁ私は思っていましたけれどね」

 

「なら言えよ」

 

「あ?」

 

「すいません」

 

ああ逆らえない

彼女の聖母ぶりには誰もが信頼する

その夫である斬鬼も、彼女を良妻賢母と思っている

 

なお、良妻と言えど反抗は出来ないの

 

主な要因は斬鬼が逃げたのがデカい

 

彼が鬼が居なくなって、帰ってきた時、皆が歓迎した

三日三晩、ずっと宴会騒ぎだった

 

その1週間、斬鬼は妻によって寝させられなかったそうだ

斬鬼はゲッソリとして、舞は艶々

 

まぁ誰がどう見ても事後だと分かる見た目だった

 

彼自身、こうみえて押しに弱いのだ

 

特に妻、それ以外にはあまり押されたことは無い

妻の言うことを鵜呑みにするあたり、めっちゃ信用している

 

「アンタも自決したら?」

 

「自己決定権はあるぞ」

 

「と、思っているだけよ」

 

斬鬼が舞を見た

いつもの笑顔だ、なんの変わりない、笑顔

なぜだかものすごく怖いので、顔を背けた

 

「早く行こうぜ」

 

魔理沙の言葉と共に、一行は地底に降りていった



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地底

「暗いわねぇ、何も見えないわ」

 

霊夢の言う通りだ

辺りはかなり暗く、1寸先も見えない

そんな霊夢に斬鬼はあるものを投げ渡す

 

「ほら、使え」

 

「これは…陰陽玉?」

 

それは霊夢の手からふわふわと浮かび始めた

間を置かずに声がそれから聞こえてくる

 

『あー、聞こえてるかしら?』

 

「おう、バッチリだ」

 

「…紫?」

 

その声は妖怪の賢者、八雲紫の声がする

霊夢は斬鬼に視線を向けた

 

「地上と地底の交信用に作ったらしいんだ、霊夢に渡せってな」

 

「迷惑な代物ね」

 

「ああ全くだ」

 

『ちょっとぉー?2人とも何言ってるのよ』

 

全く持って迷惑だ

こんな声が一日中響き渡るとかイライラする

 

「ま、運が無かったと言う事だな」

 

『役には立つわよ』

 

すると、陰陽玉が光る

地底での移動を考えて照明になるようにしたらしい

そこだけは有能だ

 

「ここで止まっていても面白くねーぜ

 早く行こうぜ!」

 

「それもそうね」

 

「さて、行くか」

 

「天国か地獄、どっちになるかしら」

 

「土蜘蛛をぶっ飛ばしてやる」

 

魔理沙の言葉を受けて、4人は歩き始める

その歩きは悠々としてまだ楽しんでいるようだった

 

 

 

 

 

この異変が、全てを変えるとも知らずに

 

 

少し歩くと、見覚えのある物があった

それはこの前見た白骨化した頭蓋骨である

魔理沙は顔を顰める

 

「こりゃ…油断出来なさそうだな」

 

「そうさね、そうやって隙だらけってのもどうかと思うよ」

 

「…!?」

 

後ろから何かが飛んでくる

それをすんでのところで躱す

 

それは、蜘蛛の糸だった

 

「本領発揮ってところか?」

 

「おお、斬鬼じゃないか?久しぶりだねぇ」

 

現れたるはヤマメだ、土蜘蛛の

 

…?土蜘蛛?

 

斬鬼はそれに気づき、後ろを見る

案の定、にとりが凄まじい形相になっていた

 

「野郎ぶち殺してやるぅぅー!」

 

「うわっ!?河童ァ!?」

 

その反応はまぁ間違っていないだろう

こんなところに外敵が来るとなんて思うまい

 

「…先に行きましょう」

 

「そうね」

 

舞が少し引き気味に言う

まぁ、なんというか漫画みたいな事になっている

時折水圧ビームが飛んでくる辺り、ガチらしい

 

「そうだな、ほおっておこう」

 

「触らぬ神に祟りなし、だぜ」

 

そういうと、4人は洞窟を歩く

少し狭くて曲がり道の覆い洞窟を

 

ただひたすらに

 

 

「この橋も前に見たな」

 

「さしずめ地底への本当の入口ってところかしら」

 

この赤い橋は前も見た

いつも通りなら、あの橋姫がいるだろう

 

と、いうより既に影が見えている

 

「…あなたは?」

 

「妬ましい…妬ましい」

 

「コイツはこういうのだ、さっさと行こう」

 

「その、そういうのは止めて欲しいんだけど」

 

さっと行こうとすると後ろから声がかかる

まぁ、これは少し酷いか

 

「あなた、また来たのね」

 

パルシィは斬鬼を見ながら言う

斬鬼は少し笑う

 

「そうだな、また来たぜ」

 

「懲りないのねぇ、あなた」

 

「懲りたことは無い、1度もな」

 

「なら、その罪もさっさと懲りるのね」

 

パルシィは不気味な瞳で斬鬼の瞳を見つめた

その瞳は、何かしら嫌な予感がする

 

「は、お前に言われるまでもない」

 

「そう、じゃ、私帰るから」

 

と、言って彼女はどこかに飛んで行った

行先は、どうやら自分たちと同じようだった

 

「…何、あれ」

 

「言うなれば"お節介な友人"とでも言おうか」

 

「そう、興味無くなったわ」

 

ポツリと霊夢は言うと、歩き始める

赤い橋の空…つまり天井からはポツリと雨が降り始めた

地上で降った雨が地底に流れ込んでいるのである

ここでは、無数の穴からぽたぽたと落ちているらしい

 

雨が、頬に当たる

 

罪を、懲りろ

 

今更な、話である

 

「…へへへ」

 

少し笑うと、歩き始める

隣の舞も察してくれたのか、何も言わない

 

あの2人は元気だ、人間の子供らしい

 

俺も、少しは…

 

 

「旧市街、地獄跡だったかなんだか」

 

地底の町を歩く

周りから奇怪なものを見る視線が多い

それに、陰口も、それに比例して多い

 

「地上は嫌われ者ね」

 

「ここじゃ仕方ない」

 

斬鬼はため息をついて言う

嫌われ者達がすすんでここに来たのに、何故お前達が来る

ここまでお前たちは壊すのか、と言われている気がする

 

「…早く抜けようぜ」

 

魔理沙が居心地悪そうに言う

自分たちの悪口を言われて気持ちの良い訳が無いだろう

 

そうして、少し早歩きで進んでいた時だった

 

「これはこれは…人間が地底に何か用かぁ?」

 

民衆から大きな声と共に悠々と現れたのは星熊勇儀だ

その額の角を見て霊夢と魔理沙がゲッとする

 

「うわ鬼だ」

 

「おわぁ…こりゃ面倒くさそうだ…」

 

この2人、同じ種族の萃香に煮え湯を飲まされた人間である

煮え湯というより、ただ単に面倒くさいだけだったか

 

「こりゃ久々に骨のありそうな…」

 

「骨はあるだろうな、人間だし」

 

「って斬鬼も居るのか?お前また来たのか!」

 

嬉しそうにこちらに寄ってくる勇儀

ハッキリと言おう、酒臭い

 

絶対に5Lは飲んだ

 

「俺は付き添いだな、あぁ…暇つぶしの」

 

「なるほどねぇ、お前、暇そうなの嫌いっぽいしな」

 

「は、それはお前らだろ」

 

鬼が1番暇なのが嫌いだと思う

戦いと真実を好む奴らは、嫌いではない

 

ただまぁ、面倒事があまり好きではないので嫌いだ()

 

勇儀は斬鬼がまた来たことが嬉しいらしい

また杯を呷る

 

「ぷはー…んで、こっちの人間は…」

 

「異変解決だ、地上で間欠泉が吹き上がったからな」

 

「怨霊のオマケ付き、犯人をぶっ飛ばさないと」

 

「はー、じゃ、戦おうか」

 

勇儀は釈然と言う

霊夢と魔理沙は同時にため息をついた

 

「「メンドクサッ」」

 

「そう言わずによぉ!やろうじゃないか」

 

拳を構えて戦う気満々の勇儀

萃香との弾幕勝負でボロボロの霊夢を思い出す

今の状態で勇儀と戦わせれば殺される

 

これは、弾幕ごっこでは無い

 

「おい勇儀、お前さんがこいつらと"喧嘩"したら死んじまう」

 

「そうか…?そうは思えないが…」

 

勇儀は2人を見た

斬鬼はヤレヤレと首を振る

 

「萃香との"お遊び"でボロボロな奴だ、ハンデくらいつけろ」

 

「…仕方ないねぇ」

 

勇儀はつまらなさそうだった

そこから、2体1の凄まじい戦いが始まった

 

 

「楽しそうだ」

 

「人間と久しぶりにやりあえたからね!

 それに斬鬼とまた飲めるんだ!」

 

あれから、勇儀が負けた

霊夢と魔理沙がかなり疲弊しているのは目に見えた

こいつの後にまた戦うなんて、なんて不幸な奴だ

 

…ところで

 

「…それはそれで、鬼子母神は?」

 

「さぁ?家でぐーたら寝てるんじゃないかね?」

 

鬼の頭がそんなんでいいのか

斬鬼はそう思いながら、酒の杯を呷った




お目汚しですが、絵です

斬鬼と舞とかの…ま、下手なので見なくても大丈夫です


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核エネルギー

「…地霊殿が火柱上がってないか?」

 

「奇遇だね、私もそうみえるよ」

 

斬鬼は酒を飲みながら勇儀に聞く

どうやら、勇儀も同じらしい

この前に行った地霊殿がある方向を2人とも見ている

 

2人というか、この都にいる奴らというか

 

まぁそこから見事な火柱がそそりたっていた

にしてもどこかで見たことあるような

 

「…キノコ雲か、あれ」

 

キノコのような雲が、遅れて現れる

それはいつしかの別れの時、見たはずだ

 

というか、地霊殿に核エネルギーを使える奴なんて居たんだ

 

流石は幻想郷、非常識が常識と化す

いやはや、凄いところに来てしまったものだ

 

 

 

…とはならねーよ

 

「どういうこっちゃ…」

 

地霊殿がペットの住処とて核を使うペットは居まい

前見た時は、外の世界で見るどうぶつが多かった

その中に、チラホラと奇怪な奴が居たくらいだ

 

…軽い動物園だ

 

さとりの話では"とある時期"はとてもうるさくなるそうだ

全動物が…一斉にしだすらしい

その様はまるで世界の終わりらしい

 

…それが1年に1回とか、毎年世界終わってんな

 

「面白そうだねぇ、斬鬼」

 

「少しは興味を唆るが…どうだか」

 

斬鬼はため息をつく

面白そうには面白そうだ

だが、まぁ面白そうなものには面倒事が付き纏う

 

…今多分異変解決中だ

 

霊夢達とリンチというのもつまらない

それ故に参戦する気にはなれなかった

 

「んじゃああの爆発はどう見えるよ」

 

「派手だな」

 

「そうじゃなくてだね」

 

「ん」

 

勇儀はチラリと斬鬼を見た

斬鬼は少し怪訝な顔で見る

 

「あれは強いと思うかい?」

 

「そうだな…ちょいと強いんじゃないのか?」

 

キノコ雲はあと少しで天井に届くくらいだ

少し風が吹いてきたが、これは爆風だろう

それを加味するとちょいと強いくらいじゃないんだろうか

 

「うーん…本当に思っているのかい?」

 

「思ってるさ」

 

すこしはな、ヘヘへ

勇儀は少し不満そうにしている

どうやら俺が余裕といわなかったのが不満らしい

 

「斬鬼ならあれくらい簡単だろ?」

 

「どうだか、色々な可能性を入れないといけない」

 

敵が突然死の淵で覚醒するやら

実は第一形態でしたーとか

そもそも本気を出してなかったとか

増援が来るとか

主人公補正とか

 

「はー、力だけの脳筋じゃないのね…」

 

「じゃないと生き残ってないぜ」

 

力だけだと今頃神風部隊で殺されているだろう

あそこには頭を使って狡猾に敵を殺す者がいた

力だけではそれにまんまと惑わされて死んでしまう

だからこそ、理解と回転えを鍛え、体も鍛える

 

それを両立するのが、一番つらいのだ

 

「私達みたいに気軽に生きるのもどうよ」

 

「旅をしていて思ってたが、俺はそういうタイプでは無い」

 

旅をしている時、胸に穴が空いた様だった

それは、古き仲間か新しい友に出会う度、塞がる

 

 

だが、また1人になると…空く

 

それを何処かで封じ込めていた

自分は、孤独が嫌いだ、ということを

 

だが、今思えばそれは間違いだったのかもしれない

 

あの時、孤独を恐れて仲間と居れば未来は変わったかもしれない

 

俺は、謝った選択をしたのかもしれない

 

「…斬鬼」

 

勇儀が心情を察した様子で言う

 

「アンタは誰もが認めてる

 アンタ程の妖怪はどこにも居ない

 

 アンタ程対等に付き合う奴は居ない

 

 アンタ程強く、真っ直ぐな奴は居ない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、アンタ程後悔している奴も居ない」

 

「…そろそろ、言うべきじゃ無いか?」

 

勇儀はまた、酒を呷る

昨日も、そのまた昔からしてきたように

 

口の端から、酒の粒がポツリと落ちた

 

ぷはっ、と酒から口を離す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「犬走椛の…お父さんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はは」

 

俺は乾いた笑いを零す

そうだ、俺は彼女の父

 

この幻想郷で、初めて会った天狗

 

俺は、その顔を忘れたことも無い

 

 

 

 

 

 

「…やっと終わったのか?」

 

「悪いかしら」

 

「無駄な抵抗にあったもんでな!」

 

「それは運がなかったな」

 

「斬鬼、何かあったのかい?」

 

「いんや?なんでそう思うんだか?にとり」

 

「いやぁー…なんか?雰囲気が…」

 

「そんなので人見てたら毎回変わるぞ」

 

「それもそうだぜ!ははは!」

 

「これが終わったら、また宴会か」

 

「ええ、本当、面倒くさい」

 

「何でだ?」

 

「あの鬼達、来るでしょ?

 その部下であったアンタ達も来ると思うんだけど」

 

「…1部は、来るだろうな」

 

 

 

 

 

「なぁに…ほんの一部さ、ほんの一部だよ…」






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お父さん

全てには始まりがある

斬鬼が生まれた時から、では無い

生きる、という概念が生まれた時からである

宇宙が誕生したやら地球が完成したやらそんな時では無い

それは生きるという概念が生まれる為の準備である

そして、生きるという事が生まれた時、全ては始まった

斬鬼や舞、紫達はそれより後に生まれた

死ぬという概念が無いもの達の時代に、その概念は無い

不死者から生者が生まれた時に、ソレは生まれたのだ



全てには終わりがある

終わりというのは、地球人の滅亡では無い

死だ

生ける者達全てに平等に与えられた権利

生者はソレを使い、終わらせる

斬鬼、舞、紫達は持っている

それを使うのも

放棄するのも













俺たちの自由だ




「大規模な宴会になるんです」

 

「確か地底の奴らも来るんだろ」

 

俺達はヤマで話し合いをしていた

面白い事に、地霊殿の奴らも来るとの事

あのさとりが自ら来るとは思わ…

 

「来るのはペットだけらしいけど」

 

「知ってた」

 

まぁそうなるだろうな

普通に考えてさとりが来るわけがない

自分の能力を嫌い、地霊殿に引き篭ってる奴だ

 

よくよく考えればそうだった

 

「でもねぇ、鬼が来るらしいのよ、アレ」

 

「そうか、文は残ってたな」

 

因みに今いるのは文と舞だ

天魔は家だかどこかに行った

先代がぶち殺されているので若干トラウマらしい

 

確か、天魔になる途中に鬼が来たんだったか

 

「不貞寝してるらしいな」

 

「鬼怖いよー状態だって、はー意気地無し」

 

文の毒舌が天魔にクリティカルヒットォ!

因みに次期天魔に推薦された彼女だから言えることである

先代とそこまでの関わりが無かったからかもしれない

俺としては、惜しい人を亡くしたと思っているが

 

「まぁ、来なかったら引き摺り出すでしょ?」

 

「だろうな、というか、"ココ"であるし」

 

そう、なんとこの妖怪の山で開かれるのである

鬼達は恐らく元配下の場所で久しぶりに飲みたいのだろう

というか、それ以外無い

あるならば此処が1番近かったと言う事だけだ

 

…いや、それも有り得るな

あの鬼だ、そういう結論になるかもしれぬ

奴らの頭が何処まで出来上がっているか分からない

 

とはいえ、大体はお頭をみて分かる

 

勇儀と萃香、狼破を見ればもうバカが居るのは分かりきっている

勇儀と萃香は分かるけど、狼破は違う?

頭良い奴居たら悪い奴居るだろ目を覚ませ

 

…兎も角、早く整備しないと

始まる場所はここ、俺の家の宴会場だ

幻想郷の奴らはほぼ入れる位、デカい

狭くないというか、デカすぎる

なのでこういう時にしか使えないのだ

 

「で、出来たのかあんたら」

 

「今作ってるでしょ」

 

「貴方の目って節穴だったのね」

 

酷い言いようだ

まぁ目の前でこんな豪勢な料理出来てたら言うか

金持ちがよくやる鯛の…あの顔と刺身の奴

それに加え、山賊焼きやらの山に住む天狗らしい物もある

いつもの博麗神社で出るものよりかは上物と思う

鯛がそれの証拠だ、幻想郷には海が無いから鯛をとれない…

 

 

…いや、じゃあこの鯛は何処から

 

なーんて野暮な質問は止めておこう

 

もう少しで始まる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…少し、頑張ってみるかな

 

 

「おっしゃー!皆のめのめェー!」

 

「アノ、私もう飲めな…」

 

「お?私の酒が飲めないのかい?」

 

「い、いえ、そういう訳では…」

 

わー可哀想

勇儀に絡まれたあの河童凄い可哀想

前世で余程の罪を犯したに違いない

じゃないとあんな生き地獄を体験出来るはずがない

 

他の奴らも騒いでる

 

主に、鬼が天狗に絡みまくってる

個人的に可哀想だなーとしか思えない

 

「これが鬼って奴?」

 

「そうだな」

 

霊夢の質問に軽く返す

これだけ鬼が騒ぐって言うのは普通だ

地底ならば見飽きた光景とも言える

 

というより、ココは何時ぶりに使ったか

 

俺が逃げる前と、帰ってきた時だったか

いやはや、あの時は凄い騒ぎだったな

 

「こんなのがウチに来るの、何か嫌だわ」

 

「どうせ来るのは勇儀と萃香だけだろう

 あいつらは元支配下だから来ただけさ」

 

多分な

多分博麗神社にも1部は来ると思う

だが、大半は来ない筈だ

 

…筈だ

 

そう思うと何故か来るように思えてしまう

俺と舞はどちらかと言うと畏れられている方だ

圧倒的存在には、皆平伏すだろう?

とはいえ、神風部隊の奴らも可哀想だが

隊員は鬼から所属がバレないように必死で隠してた

 

「あの、勇儀様…やめて頂けると…」

 

「何〜?酒は良いだろう?

 それに、アンタ元神風部隊の奴だったろ

 そんなかしこまらなくていいんだよ、もう去ってるし」

 

「…全く、最初から知ってるでしょうに」

 

この文とかはまだ有名な奴だからいい

名も無い奴らが本当に可哀想だった

個人が鬼を倒せる程の実力持ち

まぁこれだけで飛びついてくるよね

 

俺としてはろくな思い出が無いと言っておこう

 

…そして、天狗達も可哀想なものである

 

大半が仮病の持病がと言ってどっか行った

そしてその全員が連れ戻された

まぁ大半が消えたら面白くないからね、しょうが無いね

 

「ひゅいぃ…私もう飲めない…」

 

「直ぐに回るねぇ」

 

そらそうだろそいつ河童だぞ

酒の耐性なんて小数点以下だろ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おう嬢ちゃん、少し飲んでかないかい?」

 

「えぇ…ちょっと私は…」

 

その声で、動きが止まった

自然と顔がそっちに向いていく

 

見ると、椛が鬼に絡まれていた

 

見ていて、不快

 

凄く不快

 

「おう、飲めないってかァ?」

 

「いやその…えぇ」

 

…はぁ

 

俺は立ち上がる

これ以上、見てられない

 

それに、潮時だ

 

彼女の元に向かった

 

「飲めッ」

 

「そこまでだ」

 

無理やり飲まそうとする鬼に、刀を向ける

殺意を滲ませながら

 

宴会が少し静かになった気がした

 

「うえっ?、これは…その」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「娘に触るな」

 

 

俺は、1歩踏み出した発言をした

 

さっきより静まり返る会場

鬼は、ポカンとして驚いている

 

椛は、もっと…それこそ信じられないというふうに

 

「ざ、斬鬼さん?一体何を…」

 

「動くな」

 

俺は椛の頭に手を乗せる

その手のひらから、蒼い光が零れる

 

「…"解錠"」

 

波動というものは体を構築するものだ

それは血管から細胞に至るまで配置されている

斬鬼が能力で生ける物を殺せるのも、波動で構築されているからだ

 

そして、それは脳も例外では無い

殺す、というよりどちらかというと封印に近い

 

故に、記憶を封じるのも、簡単で

 

解放するのも、簡単である

 

「ッぁ!?…ァあ…あ……あ、あ…」

 

椛は頭を抱え、蹲る

脳内に、記憶がなだれ込む…いや、"思い出す"

己の生まれを

 

己が誰の娘かを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少しの間、呻き声がした

それが止まって、顔を上げる

 

「…椛」

 

「おとう…さん?」

 

"私"の、目から自然と涙が出た

あの日から、どのくらい立ったのだろう

貴方が私の記憶を封じる込めたときから、いつまで

 

今日でようやく、終わるの?

 

お父さん…お父さん…

 

「お父さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

「…ごめんな、置いていって」

 

私は、思い切りお父さんに抱きついた

ああ、暖かい、この温もりが懐かしい

 

この肌触りが懐かしい

 

 

 

辺りから、暖かい視線が、親子を囲んでいた




ようやっと来た…
ここまで来たら緋想天と最後の異変だけや…!


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親子

「本当に、娘さんなの?」

 

「そういう…そうだな」

 

ウヤムヤではなく、ハッキリと

俺は霊夢に言った

 

「はぁー…確かに似てるなぁ」

 

魔理沙がジロジロと顔を見比べる

眼光と強さ斬鬼の遺伝で、体や容姿は舞の遺伝

身体的には母に似たといえるだろう

 

「大体は舞の遺伝だろ」

 

「私に似ちゃったかぁ、可愛いわねぇ…」

 

「にしても、椛が斬鬼の娘とは思わなかったな」

 

一般哨戒天狗が伝説の娘とは思えまい

というか誰が思いもするか、そんなもん

 

「まぁ、少し弄ったからな」

 

「あの解錠って奴か?」

 

「ま、そうだな、だから妖力戻ってるだろ」

 

記憶は良くても、妖力は問題だ

強ければ目をつけられる可能性大、だから封じた

簡単な話それだけだ

 

「…斬鬼と同じ妖力、子は親に似るとは言えど…」

 

レミリアは少し驚いた様子で呟く

白狼が斬鬼と同じくらいの妖力、驚くだろうな

 

「私としては、少し疲れますけどね…この妖力」

 

椛は人が変わったように言う

記憶が戻ったからか、元の性格に…いや、元からか

少し悟ったような、そんな印象を受ける

 

「それじゃあ!そんな椛さんに質問をしていきましょう!」

 

そして例の鴉天狗登場である

まぁ誰か直ぐに分かるので名前は割愛する

 

「文さん、久しぶりですね」

 

「こうして会うのはいつぶりでしょうか…

 

 …はっ!そうだ!

 椛さん!貴方の御年齢は…?」

 

「…んー」

 

椛は杯を呷る

妖怪というのはハッキリ言って覚えが悪い

年齢に関しては、長く生きすぎて覚えるのも面倒だ

さて、自分はいつに生まれたっけ…

 

「確か…生まれたのは…」

 

「生まれたのは?」

 

「何だっけ、諏訪対戦より前だった気がする」

 

「…へ?」

 

なお文は現場に居たため、椛が幾つかも知っている

その為周りの反応でニヤニヤしている

斬鬼が溜息をついて言う

 

「簡単に言ってやろうか?

 永琳以下紫以上だ

 あの時には阿求も妹紅も、紫も生まれてなかったからな」

 

「じゃあ妖怪の山で3、4番位に歳食ってんじゃないのか ?」

 

魔理沙が面白そうに言った

斬鬼は頭を悩ませる

 

「歳食ってる奴なら5人位居るな、生きてない奴居るけど」

 

約2名、と付け加える

片方に関しては仕方ないとして、片方は…

 

ま、言う必要無いよね、ある意味汚点だし

 

「…何か負けた気分ね」

 

いつの間にか、紫が居た

なんか少し悔しそうだ、何でだよ

 

「私なんて貴方には及びませんよ」

 

「どうかしら、私としてはそうは思えないけど」

 

「そうねぇ、あっそうだ!」

 

「どうした、幽々子」

 

幽々子がいい事を思いついたかのように手を鳴らす

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方、剣を使うでしょう?

 妖夢と戦ってみたらどう?面白いわよ?」

 

 

と、言う訳で闘技場である

某ドラゴンなボールの世界にあるアレと同じ感じだ

因みに観客の席には誰もいない

皆スキマ越しに見ているからだ

 

「何かいきなり…まぁ仕方ないですか」

 

「すみません妖夢さん、迷惑を掛けたようで」

 

「いえ!これも幽々子様の我儘なので…」

 

妖夢はどうやら鈴仙と話をしていたらしい

2人とも、同時にスキマに叩き落とされた

 

「さて、言われたからには…」

 

「つまらない戦いは嫌いなので、それだけは忘れずに」

 

椛はそう言うと、大剣と盾を取り出す

大剣の持ち手、そこから峰の部分にZ・Kと彫られてある

盾も、持ち手の所に彫られてある

さてまぁ、何故アルファベットにしたんだか…

 

大剣はおおよそ身長を少し越えるくらいの大きさだ

盾は体の半分程の大きさ、因みに結構重い

 

「行きますよ」

 

大剣を構え

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

接近

 

一瞬で妖夢に近づき、突く

反応は遅れたが何とかそれを回避する

服が少し切れ、肌が少し見えた

 

そこからカバーするように大剣を薙ぎ払う

 

楼観剣と白楼剣は妖怪の鍛えし刀だ

だが、そのような名刀でもこの大剣は防げない

 

避けの一択だ

 

そして振りかぶった隙を見て攻撃を

 

「ッ!」

 

シールドバッシュ

盾を思い切りぶち当てる

事情があって盾が使えない訳じゃ無い

 

そのよろけた所に、攻撃を叩き込む

 

飛ぶ

 

空中で一回転

 

その遠心力は大剣の重さも相まって凄まじい破壊力を呼ぶ

 

妖夢に叩きつける

 

「…、はっッ!?」

 

二振りの刀を交差させて防ぐ

ギチギチと音を鳴らす

 

(重ッ!?こんなに彼女の攻撃は重かったのか!?)

 

椛の目は優しく温和な目からかけ離れていた

獲物を見つけた、狩人の瞳

 

または、縄張りへ侵入してきた不届き者への怒りだろうか

 

間を入れず、また一回転からの叩きつけ

 

「…!…、!!!」

 

また、叩きつける

 

(このままじゃ…折れるッ!)

 

楼観剣がてこの原理でへし折れてしまう

いや、単純な力でかもしれない

 

妖夢はそう思い、後ろに下がった

 

 

「…うわぁ」

 

幽々子は感嘆の声を漏らす

 

「ねぇ?アレって本当に椛?

 私と楽しそうに将棋している白狼と同じ椛?」

 

「そうでしょ」

 

「見ていて体が疼く…ああ!早く戦いたいよ」

 

にとり、ドン引きのお知らせ

まぁいつものソレを見ていたらそうもなるか

 

ていうか勇儀、お前は落ち着け

 

「…凄いな、アレが本気か?」

 

「さぁ?私からしたらまだまだって感じだけど」

 

スキマ越しに見える戦闘は誰が見ても、椛が優勢だった

大剣にものを言わせ、攻撃は盾で防ぐ

 

まさに、無双

 

「深淵に犯されたりするんじゃない?」

 

「さてな?色々言うと殺されるぞ」

 

と、椛が低く構えた

 

そして、吠える

 

『アォォォォォオォォン!』

 

狼の遠吠えだ

 

そして、跳躍

 

空中で一瞬止まったかと思えば、次の瞬間砂埃が舞い上がる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決着は、着いていた

 

妖夢は地面に倒れ、その上に椛が覆いかぶさっていた

 

大剣は妖夢の顔の横に突き刺さり、刀は反撃出来ない位置にある

妖夢は若干、泣いていた

 

「あらら、負けちゃったぁー」

 

幽々子が、まるで他人事のように言うのだった




妖夢さん心折れた戦士になって白玉楼で白ニートしてそう
…いやさせないんですけど


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大剣と盾

「椛さん、お相手ありがとうございます

 おかげで改善点が幾つか見つかりました」

 

「いえ、私もですよ

 ありがとうございました」

 

妖夢と椛は一礼する

すると、足元にスキマが開き、宴会場に落ちた

 

「反省点なんてあったか?」

 

話を聞いていたのか開口一番に魔理沙が言う

 

「力に頼りっきりだったので、能力も使わないと」

 

「ま、使わなくても良いだろ、余程の敵じゃない限り」

 

斬鬼は焼き鳥を食べながら言う

横の同族を食われている文はあややーと笑う

 

暗黒微笑ってああいうのを言うのかな

 

「圧倒的な試合ね、見たことの無い剣筋だわ」

 

霊夢がポツリと呟く

基本興味を持たない霊夢が持つ

まぁ面倒な奴って見られてるよね

ムフフな展開ねーよ、百合じゃねぇか

 

「彼女独特の剣技だよ、派生と言うべきか」

 

「大剣で敵をどれだけ早く叩き潰せるか研究した結果、ですかね

 こうでもしないとやりにくいですし」

 

「その大剣、そんなに重いのかい?」

 

「持ってみます?」

 

椛はひょいと大剣を勇儀に投げた

勇儀がそれをパシリと受け取る

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、手が地面に落ちる

 

「ッは!?重ッこれ!」

 

何とか地面と激突する前に持ち上げる

斬鬼は笑いながら言う

 

「そりゃ緋緋色金を豪快に使っているからな

 今ある中じゃ一番消費してんじゃないのか?」

 

「通りで…ほら」

 

俺は腰の刀に手を置きながら言う

勇儀は椛にひょいと投げ渡した

紫が関心したように呟く

 

「ムラの無い見事な業物ね

 貴方が作ったのかしら」

 

「プレゼント、って感じだ」

 

いささかプレゼントであげるような物では無いかもしれない

そこで、盾を見ていた霊夢は気付く

 

「これも緋緋色金かしら」

 

「それもだな…昔赤字になってたんじゃないかね…」

 

「今ある緋緋色金を使用した武器ってどれよ」

 

斬鬼は少し頭を悩ませる

確か、アイツは持っていたよなぁ…

 

「天魔の槍に使われているな、それに俺の刀にも

 今台所に居る女中のクナイもだったな

 文は…コーティングだったか?確かそんなんだった

 んで椛の大剣と盾だな、見たまんまの

 

 …あともう故人だが、ソイツの双剣にも使われてたな」

 

緋緋色金は錆びる事は無い

永遠に、後の時代まで残り続ける

日本製のオリハルコンとも呼ばれる品物だが、作り方は不明

噂程度だが、龍神からの褒美で貰えるとか

それ以外にも掘ったら糞みたいな確率で出るらしい

もしくは、作り出すか

 

「そんなに緋緋色金ってあるものなのかしら

 私の納屋にある奴さえ家宝みたいな扱いよ?」

 

「独自製法があったんだよ、今はないけど」

 

「失われたのかしら」

 

斬鬼は首を振った

 

「神風部隊の中に緋緋色金を製造出来る鍛冶屋が居たんだ」

 

「…そういう能力かしら」

 

少し驚きを隠しながら霊夢は言う

緋緋色金を製造出来る能力なんて、凄まじい

伝説と呼ばれた金属を製造出来るのだ

 

「ま、そういう奴だったな」

 

「そう思うと怖いわね神風部隊」

 

霊夢が呟くと勇儀が豪快に笑う

 

「ははは!私がいた頃には手を焼かされたからな」

 

「そいつらだけ言う事聞かんかったらしいな」

 

「こっちの我儘に絶対付き合わん奴らだったよ

 まぁ力ずくでどうこうしようとしんたんだがねぇ…」

 

「ウチの部隊はそんなヤワじゃないな」

 

斬鬼が嘲笑を込めたコメントをする

勇儀は酒を呷る

 

「修行でああなるんだろ?凄いもんだよ」

 

「妖夢は受けてたんだったか?」

 

「いえ…その、まだまだなんですよねぇ…」

 

「そもそもの土俵が違う

 俺は黒刀を使ったらアイツの刀が折れちまうし…」

 

「…」

 

その横で、霊夢は何かを考えているようだった

レミリアが椛を見ながら言う

 

「その目、能力関係かしら」

 

「えぇ、まぁそうですね

 私の能力は「全てを見通す程度の能力」ですし」

 

「へぇー…あれ、貴方そういう能力だっけ」

 

「えぇ、そうですが?」

 

椛は何気なく返す

にとりは納得したようだった

 

「変わって無いのねぇ…はぁー」

 

「…変わってるじゃないのよ」

 

霊夢は呆れ気味に呟いた

魔理沙は笑う

 

「今の霊夢位に強いんじゃないかー?椛は」

 

「んなっ…!いうじゃないの魔理沙!」

 

挑発に乗りやすい巫女

幻想郷の要がこんなんで良いのだろうか

 

「やりますか?」

 

椛は目をキラキラさせながら言う

見た目は可愛らしい

だが、良く考えればただの戦闘狂である

 

「…やってやろうじゃない」

 

「よぅし、やりましょう!やりましょう!」

 

 

「勝ったら大天狗行きなー」

 

瞬間、2人の足元にスキマが開いた

椛が驚いた顔で斬鬼を見たのを、忘れない

 

 

「さて、どうなる事やら」

 

「想像出来んな、どうなるか

 …っていうか勝ったら大天狗て…えぇ…」

 

「博麗の巫女に勝ったらまぁそうなるだろ

 それに広まるだろうし」

 

負けたら、多分霊夢はめっちゃ修行する

木っ端天狗に負けたとなると、恥だ

多分喧嘩を斬鬼と椛…または幻想郷中に振る

幽香の所とかいきそうだな、うん

 

と、スキマの中で両者が構える

 

「あくまで大剣と盾を持ったスタイルか」

 

「修行の内にアレが基本的なスタイルになってな」

 

霊夢が後ろに下がり、弾幕を張る

椛は盾を構えながら攻める

後ろから飛んでくる玉も大剣を背中に回して防ぐ

 

「あれって大剣で防げるものなのか?」

 

「身長より大きい大剣だぞ、考えてみろよ」

 

接近、間合いに入った所に大剣を叩き込む

後ろに避けられたのを更にぐるりと大剣を回して叩きつける

 

「能力も相まって攻めは難しそうたな」

 

「千里眼持ちだろ、アイツ」

 

魔理沙が言う

確か、いつしかの異変で山に行ったんだっけ

何やら山と守矢のいざこざの後に異変があったらしい

異変と言っても、名目上だ

あの大天狗大処分セールの時の隠蔽だな

 

「…んぁ?気付かず内に椛優勢じゃん」

 

「どんなに距離を離しても接近してくるからな

 椛としては盾を構えて近づいて大剣振るだけで勝てそう?

 と思っているだろうな」

 

「怖いわねぇ、あなたの娘さん」

 

幽々子がぽわぽわとしながら言う

団子を食べながら妖夢の頭を撫でていた

 

霊夢と椛との弾幕の間に隙間が生まれる

椛はそれを見逃す、大剣を上から下に振り下ろす

 

 

 

 

 

 

 

 

紅い光波が、飛ぶ

 

 

 

『ッは!?』

 

それが霊夢に当たる

椛はそれを見逃さず、大剣を突きつけた

 

 

 

『…はぁ、負けた』

 

『ありがとうございました』

 

「あ、終わった」

 

「はぇー、しゅごい…」




椛大天狗へ昇格のお知らせ
地道に行かせるつもりがなんか…
ま、いいや


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仙人

あれから、霊夢が修行を始めた

 

それを聞いたほとんどの奴らはウッソだろお前!?と叫んだ

行ってみれば分かることだろう

斬鬼と修行している霊夢の姿が見える

 

そして、この日も修行をしていた

 

「さて、今回は応用的な技だ」

 

斬鬼はそういうと、質問する

 

「お前、神降ろしは出来るだろ」

 

「出来るわ、いつしかの時必要だったのよねぇ」

 

神降ろし、いつしかの異変で取得した技

説明についてはそのいつしかの話にあるため省く

 

「それの応用技だ」

 

そういうと、斬鬼は、刀を天に向けて抜く

瞬間、神力が充満していく

 

「今からアマテラスの神降ろしを利用した技を使う」

 

そういうと、刀を逆手に持つ

そして、それを槍投げのように構える

 

刀が、雷を帯びる

 

より明確に言えば、太陽の光だ

 

柄から更に伸び、斬鬼がまるで雷の槍を持っている様だ

 

そして、投げる

 

「ふん!」

 

それは軽々と音速を超え、紅魔館に着弾した

もうもうと、土煙が見える

 

「やり方としては、媒体に力を宿すんだ

 俺は刀を媒体として放つ、出来るか?」

 

「やってみるわ」

 

霊夢が大幣を水平に構え、神降ろしを行う

成功したのか神力が満ちる

 

「ふッ…!」

 

大幣の真ん中辺りを持ち、槍投げの体制に移る

大幣が雷を帯、火花が散る

 

思い切り、ぶん投げた

 

飛んだ光の槍はまたもや紅魔館に着弾する

 

「よし、良いぞ

 それを数回繰り返して感覚を養うんだ」

 

「はぁッ…!」

 

数回、槍を放つ

どれもが、誤差無くして紅魔館に着弾する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうやって、繰り返していると昼になっていた

 

「良し、今日はもういいだろう」

 

「はー、疲れた…何か食べよう…」

 

そういうと、霊夢は神社に戻っていった

 

「俺も何か食うか…?」

 

と、呟いた時、誰かが来た

ピンク髪、美鈴の様な服装

違うのは胸に薔薇がある事か?

 

「こんにち…!?…ここの御神体に用があるのだけど…」

 

「御神体?何故にそんな…」

 

そこで、気付いた

こいつ、どっかで見たような…

 

「…茨木童子?」

 

「…確かに私の名前は茨木ですが…仙人ですよ?」

 

「気の所為か、腕を斬られたと聞いたが」

 

茨木の右腕は包帯でグルグルだった

彼女は観念したようだった

 

「…流石は斬鬼さんですね、まさかバレるとは…」

 

「お前とは会ったこともないがね

 その妖力からして鬼だと踏んだ訳だ」

 

「これでも仙人で通しているです、振り撒かないで下さいよ」

 

「斬鬼、アンタも食べ…ゲッ、華扇じゃない」

 

霊夢が料理し終わったのか、神社から顔を覗かせる

華扇が食いつく

 

「霊夢!アナタちゃんと修行してるんでしょうね!?」

 

「ま、最近しだすようになったよ

 椛に負けたのが余程悔しかったのかね」

 

華扇は少し驚いたような顔をした

 

「あの霊夢が自分から修行を…

 というか貴方娘さんを戻したの?」

 

「まぁ、そんなところだ」

 

こいつ、山に篭っていたのか?

椛が斬鬼の娘である事は結構知れ渡っている

 

「で、霊夢」

 

「何よ」

 

華扇が話を変える

 

「ここに御神体があるらしいんだけど」

 

「ああ、河童の腕かしら?」

 

「…何だそれ」

 

もしかして霊夢は敵の1部を御神体として祀るやべぇ奴に?

俺はそんな奴に修行してたのか…

 

「持ってくるわね」

 

そういうと、そそくさと本殿に消えていく霊夢

もし河童の腕が出てきたらぶっ飛ばす

あれでも一応山の仲間だ

 

そう思っていると、霊夢が箱を持ってきた

そして、おもむろに開ける

 

「…これは」

 

「河童の腕、ねぇ」

 

白い手から生えるバネやらの機構

どこからどう見てもマジックハンドじゃねぇか

なんか構えて損したわ

 

「こりゃどう見ても外の代物だな」

 

「外の?」

 

「確かこういうのがあったんだよ…

 んで、ここでこういうの作りそうなの河童くらいだろ?」

 

「あぁ…それであの人河童の腕なんて言ってたのね…」

 

霊夢曰く、突然人里の人が持ってきたらしい

河童の腕で何か憑いてたら大変だ、お願いしますと

 

「俺としては腕は細切れにしたいところだがね

 アンタは勇儀の所に戻りたいのかい?」

 

「いえ…遠くにあるより、近くにある方が安心でしょう?」

 

「…そういうものなのかね

 まぁ、頑張れよ」

 

斬鬼はそういうと、興味を無くしたかのように縁側に座った

華扇はかなり人が変わったように感じた

 

「見つかったら教えなさいよ」

 

「ちゃんと修行しなさい」

 

華扇はそういうと、階段を降りていった

斬鬼は大きな欠伸をする

 

「やれやれ、仙人かと思えば元鬼か」

 

「…華扇ってどんな鬼だったの?」

 

斬鬼は少し悩んだ後言葉を繋げる

 

「茨木童子って知ってるだろ?

 あのちょっかいかけて腕切り取られた奴」

 

「それが華扇?」

 

「あぁ、昔はかなりやんちゃしてたらしくて…してたな、うん」

 

「アレがやんちゃ?昔って怖いわね」

 

「鬼の頃の性格から仙人への性格に変わってるからな」

 

仙人になる時に鬼の性格は違うと思う

彼女自身そう思って変えたのか

 

もしくは自分から鬼を切り捨てる為か

 

「さて、明日は夢想封印やらの所をやるか

 それと組手もだな」

 

「アンタの修行、意外とハードなのよね…」

 

「神風部隊式の修行だ、付いてこられないなら寝た方がいい」

 

「絶対椛に勝つ」

 

「目標が出来て何よりだよ」




レミ「ちょ!?死ぬ!太陽の光の槍連発は死ぬ!?」

フラ「わー!お姉様楽しそう!何してるの?」

咲夜「当たったら死のデスゲームですかね?
   景品は無いみたいですけど」

パチェ「人はそれをクソゲーと呼ぶ」


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馬鹿と煙はなんとやら
怒れ、波動を操りし者よ


 

退屈だ

 

退屈だ

 

諸君、私は本当に退屈だ

 

不良から天人になった時からずっと思っていたことだ

人間だった頃は、まだ挑戦してくる輩が居て、楽しかった

少なくとも、つまらなくは無かった

 

たが、こうなってからと言うもの、つまらない

 

この天界というところは本当に、本当に退屈だ

楽しみはほとんど無い

天界の桃というのも最早飽きてきてしまった

 

「何か、楽しいこと無いかな」

 

私は雲から下を見下ろす

そこには、古い神社らしき物が見える

 

先代だったか、誰だったか

あの神社は下の世界で重要な場所らしい

 

 

 

 

それを見て、ふと思った

 

 

 

「壊そうかな」

 

そしたら、下からわんさか楽しい者が来るだろう

この永遠の退屈を紛らわせてくれる

 

「下民が、私を何処まで楽しませてくれるか」

 

要石と呼ばれる石を地上へ落とす

それは重力に従い、段々とスピードを上げて落ちていく

これが地面に刺されば大地は鎮まり、その力は留まる

 

その力が最大の時に放たれれば、前代未聞の大災害が巻き起こる

 

「ふふ…貴女達の力が本物なら、見せてよ」

 

この時点で、彼女の運命は確立したような物かもしれない

 

彼女は己を最強と思っていた

なぜなら、この天界は退屈だから

喧嘩を売ってくる者などどこにも居ない

それを彼女は「私を恐れている」と思ったのだろう

 

実の所、蔑まれていたのは彼女なのに

 

最強の肩書きは地上に無数に居る

その強さ、最強は誰か分からない

 

だが、文字通りの最強は存在する

 

それこそ最近幻想郷に帰還した…白狼の夫婦

 

あの2人に勝てた者など何処にも居ない

 

彼女は圧倒的な間違いを犯した

そう、それは圧倒的な間違い

 

この幻想郷の制作に携わった夫婦、それを怒らす

 

妖怪の賢者の怒りを超える怒り

 

前代未聞の大災害が起きれば、1番の犠牲者は人間だ

首が飛ぼうとも、生きる妖怪とは違う

骨が折れたら、酷い場合にはショック死する

 

そんな、か弱い人間

 

それを愛する、白狼天狗の夫婦

 

不可能を可能に

 

夫婦の名は

 

 

 

 

 

 

 

紅白斬鬼と紅白舞

 

 

 

 

この幻想郷を誰よりも愛する、妖怪だ

 

 

「…誰か助けてー」

 

神社だった物の残骸に埋もれている

お茶を飲んでいた霊夢は局地的な地震に巻き込まれた

老朽化していた神社は倒壊し、霊夢は死にかけた

 

目の前にある包丁がいい例だ

 

景色を見た限り、ここ以外は被害を受けていないらしい

どうやら戦争を起こしたい奴が居るらしい

 

「…むー!霊夢居るかー!?」

 

「ここよー、潰れそうだわー」

 

取り敢えずそれっぽい声を出す

すると、その…魔理沙の声が近づいてきた

 

「こりゃ…派手な事をする奴が居るもんだ」

 

「やられたわねぇ、予測出来なかったわ」

 

魔理沙が残骸から霊夢を引き出す

腹部の息苦しさから解放される

 

「これは…アイツも怒りそうだ」

 

粒が集まり、萃香が現れる

霊夢は気だるそうに言った

 

「紫でしょ、アイツはあれでも1番幻想郷を愛しているものね」

 

「違うね」

 

即座に萃香はそれを否定した

霊夢が怪訝に萃香を見た

 

「違うって…アイツ怒らないの?」

 

「激怒…とまでは行かないだろう

 

 …だがな、行くやつが居る」

 

「…誰…まさか」

 

霊夢は異様な妖力を感じ、階段の方向を見た

"それ"はかなり近いのか油断すれば気を失いそうだ

 

そして、それは現れた

 

能面の様なピクリとも動かない顔

その目は底知れぬ怒りに飲まれ、暗い

 

腰の黒刀がいつもより暗く、妖刀はカタカタと揺れている

 

その横には、人魂が浮かんでいる

いつもより、大人しい

 

「…」

 

「ざ…斬鬼」

 

よく見ると、後ろには外野達が居た

 

勇儀、レミリア、幽々子、アリス…etc

 

勇儀はいきなりの異様な妖力に飛び出した

幽々子も、同じ理由で顔を顰めながら

レミリアは少し怯えが混じっている

その後ろに、フランが隠れていた

 

斬鬼が黒刀を引き抜いた

 

「ッ!」

 

殺気

 

今までの異変でも感じた事の無い殺気

だが、それは少しの陰陽を付ける飾りにしかならない

 

彼は底知れぬ怒りを辺りに振りまいていた

 

触るだけでドロドロに溶けてしまいそうな怒りを

 

「…」

 

斬鬼は何も喋らなかった

境内を真っ直ぐと歩き、倒壊した神社の目の前で止まる

 

そのまま、しゃがんだ

 

「…ヴっ」

 

嘔吐く様な声が聞こえた気がした

だが、彼は何も無かったかのように立ち上がる

 

黒刀を水平に横を指す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――!」

 

それを勢い良く境内に突き刺した

突き刺した所から吹き上がる凄まじい光

それと共に、青い霊気が吹き上がる

 

「これは…!?」

 

こんな霊力の塊が神社の下にあったのか

 

それはともかく、斬鬼の姿が見えない

 

霊夢は眩しさに耐えながら、目を開ける

光は視覚的な暴力を止めることをしない

 

だが、光の僅かな隙間から姿を見ることは出来た

 

「…?」

 

そこには3人の姿があった

いや、1人は分かる

斬鬼の右で手を繋ぐ、紅白舞、彼の妻だ

 

だが、その横に居る…巫女装束の女は誰だ?

 

斬鬼の左で手を繋ぐ、そいつは誰だ?

 

 

 

やがて、光と霊気は消えた

 

あの第3の女も消えた様だった

 

「…え」

 

そんなことより、重大な事が起こっていた

目の前に、博麗神社があった

 

さっきまで、ただの残骸だった博麗神社が

 

しかも過去の栄光を象徴するかのように、新しい

 

妖怪の山にある守矢神社といい勝負だ

 

「何が…」

 

「…天人か」

 

斬鬼は刀を抜き、納刀した

 

「はは…はははは…」

 

虚ろな笑い声が響く

その感情の無さに身の毛がよだつ

 

「そウかぁ…天人かァ」

 

機械的な声

もはや、何を言っても受け付けない

 

それどころか、何も言えない

 

「アハ…ははは…ひひひ…随分とォ…舐めたマネを…」

 

フランは何故か、1人前に出ることが出来た

その様子は知っている、体験している

 

狂気に犯された時の、自分

 

あれから完璧に操れるようになった狂気

 

その狂気は彼に畏怖した

 

今の場面で出て来ることは絶対に無いだろう

 

他の奴らも動けないでいた

生ける伝説が、怒った

 

今までで例を見ない程の怒り

 

そう、これが彼にとっての逆鱗の1つ

 

 

 

 

 

 

 

 

博麗神社を崩す事は、彼を激怒させることに繋がるのだ

 

 

斬鬼は、居なくなった

 

いや、飛んだのだ

 

早すぎて、見えなかった

 

ぼーっとしている霊夢に魔理沙が声を掛ける

 

「と、とりあえず神社の状態ををを、確認確認確認確認…」

 

まるで、壊れた機械だったけど

 

「そうね…それも…そうね」

 

周りに一切の影響を受けることの無い彼女も、珍しく焦っていた

 

 

 

「…お父さん」

 

1人の白狼が天を見つめていた



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裁きを受けし天人

マヨヒガに音は無かった

いや、あるにはある

紫が扇子を開いたり閉じたりする、パチンという音が

 

その音と気配だけで彼女が怒っている事を察せれる

 

カタカタと足を鳴らし、歩き回る

 

冷静沈着な彼女が取るとは思えない行動だった

 

「あの野郎どう落とし前付けてやろうか…」

 

なんなら口調もぶち壊れてる

斬鬼かマフィアのボスみたいな口調だ

まぁ、己の理想を壊されそうになったら、そうなるか

今のところ、人妖の調和は成功仕掛けている

 

なぜなら、天狗の里に人が住み始めたから

 

天狗の里に住んでいた遠い先祖を持つ者…このさい変わり者と言うが…

その1人が来てから、数人、また数人と来るようになったのだ

 

人里では天狗が自警団に来る事もしばしば

 

天狗と人間において、調和は完了したとも過言では無い

 

で、そんな時にこれである

 

言うなればいい気分の時に面倒事を持ってこられた時だ

今回の場合、死罪に値するが

 

「斬鬼が天界に向かいました」

 

彼女の完璧な式神でさえ、少し冷や汗をかきながら報告する

 

「斬鬼が行った…後は任せてもいいかもしれないわね」

 

それを聞いて、少し紫が落ち着いたように見えた

座布団に腰を降ろす

 

「…全く、物事は上手くいかないわね」

 

「同感であります、しかも天狗と人の調和は完了しそうな時期に…」

 

「彼が天界に向かった理由はそれだけじゃ無いと思うけど」

 

「と、いうと?」

 

藍が袖に手を通しながら聞く

紫は扇子を少し早めに揺らしながら言う

その目は、少し頭を冷やした目だった

 

「彼としては博麗神社を壊されたのが良くなかったかもね

 あそこは彼と"彼女"の思い出の地だし…」

 

「…そうですね」

 

「藍、彼の監視を頼むわ

 ここは幻想郷、全てを受け入れる…

 霊夢次第では生かす必要があるかもしれない…

 いえ、多分彼女が待ったをかけるでしょうけど」

 

「御意」

 

そういうと、藍はスキマに消える

紫は顔を触る

 

すると、掛けられていた幻影が解け、バツ字の斬傷が現れる

 

触れると、凹凸が確かに感じられた

 

未だに治らぬ、不治の傷

 

「…さて、何処までやるかしらね」

 

天を見ながら紫は呟いた

多分、自分が何も言わなくても半殺しにする事だろう

 

自分達は後処理をすれば良いだけだ

 

 

進む、進む、進む

 

雲を切り裂きながら進む

 

どこだ、何処だ、何処だ…

 

斬鬼は千里眼をフル活用しながら元凶を探す

 

こんな時期に宣戦布告とは面白い奴だ

ようやっと天狗と人間が共存しそうな所なのに

 

今ここで幻想郷を壊されてたまるものか

 

古き夢が実現しそうな所なんだ

 

邪魔をするな

 

やがて、雲は黒雲へ変わっていった

どうやら雷が降るらしい

 

そう思っていると、黄色い線が横を通過する

 

まるでこちらに当てようとしているかのようだ

 

どうやら、あちらに行かせたくないらしい

 

ならば、押し通る

 

「 邪 魔 だ 」

 

そう言って、刀を抜き切る

雲は綺麗に真っ二つに切れる

 

「ひっ…」

 

見えたのは、1つの影

羽衣のようなものを纏った、女

 

バチバチと、紫色の雷を纏わせている

 

だが、その顔は恐怖に染まっていた

 

「地上にこんなのが居るとか聞いてませんよッ…!?」

 

「退け」

 

(退いたら退職、退かなかったら死…

どないせいっていうですか!?)

 

斬鬼の気迫に圧倒される

彼女は引く、少しずつ後ろに

 

「わ、私は地上に用があるので…」

 

「変な事をしたら滅殺する」

 

(滅殺!?殺すじゃなくて滅殺!?)

 

「覚えておけ、竜宮の使い」

 

「な、何を…」

 

「お前の使えている者は後戻り出来ない」

 

衣玖は言葉が出なくなった

この妖怪はソレも知っているのか

コイツは誰だ…一体何者だ…!

 

「ま、まさか…あの天狗じゃ…」

 

それを聞かずに、斬鬼は飛び出す

気付く頃にはその姿は見えなくなっていた

 

 

「魔理沙!早く!」

 

「これでも全速力だよ!」

 

その斬鬼を休む暇無く追いかけるのがこの2人

言わずもがな、博麗霊夢と霧雨魔理沙だ

今回の異変の場合、首謀者が死亡する可能性がある

もしくは、既にしているかだ

 

「急がないと…!」

 

"…天人か"あの言葉がそうなら、元凶は天人

たった1人の天人がしたとしても、不味い事になる

 

酷ければ、天界と地上が戦争をするかもしれない

 

ほぼ不干渉の天界と地上が最悪の形で接触する事になる

 

「霊夢が駄目だったら止められる気がしないぜ…」

 

「駄目でも止めるのよ、人生ギャンブルみたいなもの」

 

「そんな無茶な…」

 

そう言いながら、雲を駆ける

暫くすると真っ二つになった黒雲を発見した

 

「…斬鬼だな」

 

「このへんにいるのか?」

 

そして、更に上を目指す

雲を抜けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぐぎゃあぅっあ!!!、…アッグァァ!?』

 

『…倒れるな、殺りにくいだろ』

 

地獄絵図だった

 

「ッぁ…!」

 

霊夢が息を飲む

残虐な光景だった

 

黒刀を、天人の体が堅い事をいい事に振りまくる

彼女は体が堅いせいで、ろくに死ねない

そもそも、天人は不死だ

 

生き過ぎた彼女達の元に死神が来ることがある

 

生き過ぎた仙人や天人を狩る仕事を持った、死神が

 

だが死神が来ても、追い返せる程の実力がある

 

 

 

彼女から見えれば、彼は妖怪ではなく死神だったろう

 

地面に倒れた彼女を、斬鬼が首を持ち、持ち上げる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、何の躊躇いも無く、その心臓を黒刀で─────

 

 

 

 

 

「…彗星、ブレイジングスタァァァァァァアアア!!!」

 

「天照ッ…!」

 

太陽の槍と、特攻が斬鬼に向けて飛ばされる

 

だが、意図も簡単に躱される

 

掴まれた彼女は、離された

そのまま、雲の地面に落ちる

 

「…お前らか」

 

斬鬼は抑揚の無い声で言った

ゾッと、背筋が凍りそうだった

 

「…幻想郷の流儀でやる

 スペルカード・ルールで、やるの───」

 

「そんなのどうだっていい」

 

斬鬼は一蹴した

彼の怒りは、神社に来た時と変わらなかった

 

「人間と妖怪の調和

 それが実現しかけたこの時にこれだ

 コイツを生かす意味は無い

 

「ルールはあくまで博麗の巫女にある

 それを無視するなら…貴方を退治する必要がある」

 

斬鬼は霊夢を睨んだ

 

「これは幻想郷の為だ」

 

「それは私のセリフよ」

 

「斬鬼」

 

そこに、紫が現れる

斬鬼が明らかに不機嫌になった

 

「貴様…」

 

「霊夢がああ言ってるのよ、許して────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「許されるかッ!」

 

斬鬼は叫んだ

激昂を顕にする

紫は必死に説得を始めた

 

「私達は運命共同体よ!

 誰かが居なくなれば誰かが困る

 互いに頼り、互いに助け合う

 それが貴方の望んだ事じゃない!

 

 皆がここ(幻想郷)の為に!

 

 ここ(幻想郷)が皆の為に!

 

 だからこそ生きていけるのじゃない!

 

 私達は家族の様な物なのよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘を言うなッ!」

 

斬鬼はそれを否定する

霊夢は、あんなに必死な紫を見た事が無かった

 

彼女、彼に肩入れしていたのだろうか

 

「人を見下した醜い瞳が嘲笑う

 

 無能、虚偽、役立たず、邪魔者

 

 どれ1つあってもここでは邪魔だ!

 

 俺はそれを無謀で括ってきた

 そうして天狗と人間を調和させたんだ!

 

 誰が仕組んだ地獄だ!

 

 貴様は本当に笑わせてくれるッ!」

 

「斬鬼!」

 

紫は必死で叫んだ

だが、遂に彼が限界に達したらしい

 

咆哮が空を劈く

 

そして、その後一人一人を指さした

 

「ぐがぁぁぁああぁああああ!!!

 

 もういい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前もッ!」

 

霊夢を指す

 

 

 

 

「お前もッ!」

 

魔理沙を指す

 

 

 

 

「お前もッ!」

 

紫を指す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここ(幻想郷)の為に死ねッ!」

 

 

 

 

 

黒刀を、振り切った




天狗の里に人が来た時の話、書かなければ…
人里の自警団やら取引やら…

ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙↑↑↑(メンシス学派)


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ココを愛する者達

彼もまた、ココを愛する者だ

これも、彼なりの表現なのかもしれない─────


 

時は戻りて、天界

 

「貴様が博麗神社を崩した屑か」

 

「そうだ…妖怪とはな

 それに天狗とは、傲慢な奴が来たものだ」

 

「貴様に比べれば生ぬるい」

 

斬鬼は刀を抜く

ここは天界だ

 

ここは地上では無い

 

ここにスペルカード・ルールは存在しない

 

故に、少し"昔"の戦い方でも問題は無い

 

「覚悟しろ」

 

 

そうして、刀を振った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉄を超える硬さの天人の腕が斬れる

 

「…はっ?」

 

今の今までそんな事は無かったのだろう

初めて見たかのように惚けた顔をした天人

 

やがて、それは絶叫に変わる

 

 

「グギャァァア!?いっつつつう…」

 

何とか腕を接合する

無論、斬鬼の攻撃がそれで終わるはずも無い

 

斬る

 

上から下へ

 

へし切る様に、力を出鱈目に入れて

 

「ウギユッうアッ!」

 

斬る

 

下から斜め上に

 

切り飛ばす様に、軽く力をいれながら

 

「ツっっっ!!」

 

何とか回避した

斬撃は頬の斬傷と、髪を斬っただけだった

 

「ふん」

 

「うぎがっ!?」

 

腹を刺す

それは硬さ等無視して簡単に貫通した

斬鬼の腕に天人の体重がかかる

 

それを思い切り掲げた

 

 

 

「武甕槌命雷よ」

 

 

斬鬼が呟いたのは雷の神

 

外の世界では雷神・剣神・武神と言われている

 

ここは、雲の上

 

だが、神の光はそんな事は関係ない

 

 

 

 

 

「アアアァァガァカガガガァ!!?」

 

裁きの雷が直撃する

それは簡単に天子を感電させる

 

雷に打たれた天子は黒焦げになっていた

 

ぞんざいに投げ捨てる

 

「うぐっ…ウゥゥ…」

 

「流石は天人と言うべきか」

 

斬鬼はそういうと、興味を無くしたかのように視線を変えた

その虚空を見つめた

 

「お前も物好きな奴だ、アレの式になるとは」

 

『あれは運命とでも言うしかないだろう』

 

虚空から声が帰ってくる

それは完璧な式神の物だった

 

「さて、そろそろ来るか?」

 

『…君は勝手な事をするな』

 

ソイツは呆れたように言った

斬鬼は嘲笑う

 

「関係の無い事だ」

 

『ふむ、そうかもしれないな…』

 

「じゃ、引っ込んどけ」

 

『承知』

 

それきり、声は聞こえなくなった

 

 

「うぐぐぐぇ…」

 

「立ち上がるか、その見上げた根性は認めてやる」

 

立ち上がった哀れな天人に黒刀を降り始める

これは圧倒的な死合では無い

 

斬鬼は弔いを含めて、黒刀を振った

 

 

 

そして、時は戻る

 

 

「避けたか、素直に死ねばいいものを」

 

斬鬼はドス黒い霊力を纏う黒刀を波動で覆う

霊夢はあれ見た瞬間、当たってはならないと確信した

 

それを2人に警告する

 

「2人とも、アレは当たっちゃダメよ」

 

「勘…じゃなくても、だな

 アレは当たったらどうなるか…」

 

「…恐らく、体に流れる波動が消えるわね

 当たれば一生動けなくなるか、死ぬか」

 

斬鬼は刀を振った

それは見た目通りのリーチでは無かった

黒い霊力が伸びて、リーチが長くなった

 

「嘘ォ!?」

 

「魔理沙!アレにここの常識は通用しないわ!」

 

霊夢は叫ぶ

今まで彼に常識が通用した事は無い

幻想郷の生まれでそこの常識に染まった霊夢

だが、それすら通用しない

 

吸血鬼やら鬼やらより更に彼は出鱈目で、強い

 

何処かしらズレた妖怪だ

 

「妖夢でもあんなんないぞ!?」

 

「斬鬼を幻想郷に居る妖怪と同じにしてはいけないわよ

 彼と舞は正真正銘の最強、本来ならば勝てる術は無い…」

 

紫が後方から弾幕を放つ

しかし、斬鬼は波動を盾の様にして防ぐ

魔理沙はハッとして、八卦炉を構えた

 

「お前がバテルまで撃ってやるぜッ

 …ファイナル・マスタースパークッ!!」

 

「あの馬鹿ッ!そんな事─────」

 

視界を覆うような閃光

出力最大のビームが斬鬼に襲いかかる

 

そもそも、ビームとは波動だ

 

魔力を波動に還元し、放つ

妖力を波動に還元し、放つ

 

幽香やビームを得意とする妖怪はその原理をよく分かっている

 

 

 

 

 

斬鬼は波動を操る

 

つまり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとよ、まさか敵から塩を送られるとは」

 

「なっ…」

 

斬鬼は無傷で、現れる

 

 

「彼にビーム系統は禁句のような物よ!

 畜生全て最初からに…!」

 

「お返しとしては何だが、これでもやるよ」

 

それは、魔理沙という火力に注ぎ込んだ者への布告とも言えよう

斬鬼は、刀を魔理沙に向けて突き出した

 

「避けて!」

 

「ッ…!」

 

瞬間溢れる光

その波動の濁流は魔理沙の元いた地面を抉り取る

 

「あちち…殺す気で放ちやがった…!」

 

「もうスペルカード・ルールなんて通用しないぞ

 今やってるのは"昔ながらの"殺し合いだからな」

 

つまり、これは斬鬼が生きてきた時の戦い方だ

旅の途中、戦争の途中、その時の、戦い方

 

「くっそ…だったら…」

 

(…だったら、何があるッ!?)

 

通常弾幕の金平糖の様なものを放つ

レーザーは無効化される為牽制にも使えない

 

だが、魔理沙の得意とする技はレーザーなのだ

 

(クッソ!相性最悪じゃないか!)

 

「仕方ないわね、私が行くしかないか」

 

「援護するわ」

 

「後方援護しか出来ないぜ…」

 

霊夢の前にスキマが出来る

それを使い、斬鬼の後方に移動する

 

「成程、攪乱か」

 

「はっ!」

 

霊夢からの攻撃を刀で防ぐ

後ろからの援護射撃も波動の盾で防ぐ

 

「面白い…だが、これはどうだ

 

 

 

 

 

 「舞ッ!」」

 

「まさか…」

 

魔理沙の背後から攻撃が迫る

 

「クッ」

 

紫は魔理沙ごと転移する

そして、目の前の最悪の状況を目にした

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか…確かに幽霊に波動があるからとは思ったけど」

 

「一体三なんて不利だからな、後悔すんなよ」

 

 

 

そこには感情の無い瞳をした舞が扇子を構え、立っていた

 

 



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少し長め


「いやー、天人もやってくれますよねぇ」

 

舞がお茶を飲みながら言う

その顔は比較的穏やかな物だった

 

「母さん、落ち着いてますね」

 

「冷静にならないと物事を見失いますよ、ええ」

 

ずずずと茶を啜るのは舞と椛

今いるのは紅白家である

机を挟んで、正座しながら

 

因みに、今さっき斬鬼が神社に言ったところだ

 

「ですよね、冷静を失うとろくな事になりませんから」

 

そのまま、窓から天を見た

いつもと変わらぬ青い空

 

「あら、天気が相殺し合ってるのかしら」

 

「そうみたいですね、魔理沙の所は霧雨が降っていたそうで」

 

そう、天気がおかしいのだ

各々、実力者のいる所の天気が変わっている

魔理沙なら霧雨、鈴仙なら風…という風にだ

 

椛は手を伸ばす

その指先から、煙の様な物が上がっていた

 

「なんでしたっけ、これ」

 

「緋色の雲、それの端…なんと言えばいいのやら」

 

舞がお淑やかに笑う

実際の所、なんと言えば分からないだけである

父が飛び出していったのは少し心配だが、待つしかない

 

あの人が怒ったら、手をつけられないから

 

「最近は異変尽くしですねー」

 

ずぞぞっとお茶を飲む

舞がお茶を注ぐ

 

「えぇ、霊夢ちゃんが飽きない良い事でしょう」

 

「お母さん、意地悪ですね…」

 

「だって、そうでしょう?」

 

舞がからからと笑いながら言った

あはは、と笑いながら椛は言う

 

「そうですね

 私達妖怪からすれば飽きないでしょう

 ま、彼女達からすれば傍迷惑かもしれませんが」

 

「人間は脆すぎるからねぇ」

 

ずずずとまたお茶を飲む

そこで、舞が煎餅を出した

 

「どう、食べる?」

 

「それでは御言葉に甘えて」

 

バリバリと食べる

塩と醤油がいい感じだ

 

結構、美味しい

 

「お茶だけじゃ楽しく無いでしょう?」

 

「むしろお茶だけでよく彼処まで会話出来ましたよね」

 

「それ程暇だったのよ、私達ね?」

 

舞が煎餅を食べる

パリパリと、ゆっくりと食べていく

それに、椛は少し違和感を覚えた

 

「いつもみたいに食べないの?」

 

「早食いも風情が無いでしょ?遅く食べるのも良いのよ」

 

ゴクリと砕いた煎餅を飲む

いや、煎餅ってそんな食べ方じゃあ…

 

「…」

 

「?どうかしましたか?」

 

と、そこで舞が何処かを見る

部屋の何処か、だ…何か居るのだろうか

 

そう思っていると、ワープホールが開いた

 

あれは、確かお父さんの…

 

「…お呼びのようで」

 

舞がそう呟く

そして、重そうに腰を上げた

 

「少し、出ます」

 

抑揚の無い声で、そう言った

 

そして、ワープホールに入って行った

 

「…煎餅独り占めしちゃお」

 

椛は、あっけからんとそう言った。

 

 

扇子が振られる

金色の髪が何本から宙に舞った

 

「危ないわね…」

 

紫はそれを傘と弾幕で制圧する

だが、舞はそれを掻い潜って扇子を首に突き刺そうとする

 

彼女の戦闘能力は紫の上を行く

 

単純な年の功というのもある

だが、圧倒的に違うのは修行の質と数だ

 

基本、大妖怪というのは修行しない

 

飽きに飽きた物達は基本暇だ

それこそ、幽香が花の面倒を見るようになったように

人をおちょくったりして、力を上げる

 

だが、強くなる為に一番手っ取り早いのは修行だ

 

斬鬼と舞はそれを理解し、やってのけた

強いと言われた妖怪を叩きのめし、ひたすら得物を振る

 

それが人間でも、外来妖怪でもだ

 

「…これで」

 

「永劫弾幕結界」

それは無数の弾幕が結界の様に対象を囲い、叩き潰す

基本、この技から逃れる術は無く、避けしか無い

 

だが、彼女にとってこれは遊戯に等しい

 

何故なら、それはスペルカード

 

スペルカード・ルールが無い今は、意味を成さない

 

「…」

 

無言で弾幕を結界ごと斬り落とす

流石に、紫も冷や汗をかいた

 

「んな出鱈目な…!」

 

スキマで囲い、弾幕を放つ

が、まるで踊るように弾幕を避ける

 

「この…!」

 

そんな舞にひたすら弾幕を放ち続けた

 

 

「…」

 

「この…!大人しくしなさいよ!」

 

「無理な相談だ」

 

斬撃を見る

見た時には首が落ちると思った方が良い

彼の斬撃は音と光を置いてけぼりにするのだ

見た、と思えばそれは斬った後

 

つまり、全て予測しなければならない

 

斬られる前に避ける

 

斬った後に攻撃を入れる

 

その微妙な間合いを叩き込む

 

それを何度も繰り返す

 

「面倒な」

 

斬鬼がそう呟いた瞬間、刀が光った

 

「ッ!?」

 

大幣が飛んだ

いや、弾き飛ばされたのだ

 

最後に見えたは、斬鬼の構え

 

居合

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…?」

 

カァンと、金属のぶつかり合う音がした

 

それは、霊夢が斬られた音じゃない

 

「…間に合いましたよ、お父さん」

 

「邪魔をするな、椛」

 

大剣を両手で持ち、斬鬼の攻撃を防ぐ椛が居た

霊夢は後ろに引く

 

「お前…遅かったじゃないか」

 

魔理沙が呟く

 

「行く気はありませんでしたけどね…」

 

椛が体験を振り上げた

それを斬鬼は軽く避ける

 

「頭を冷やして差し上げましょう」

 

「あぁ、お前の、な」

 

刀を引き抜く

斬鬼は二刀流になる

 

手数で推していく

 

それが魂胆に思えた

 

「はぁ」

 

大剣を振り下ろす

避けられる

それを薙ぎ払うようにして、斬鬼の攻撃と相殺させる

 

斬鬼の刀とぶつかって、火花が散った

 

「稽古だ、稽古」

 

「頭を冷やせ」

 

冷淡に椛が言い放ち、ついでに殴る

斬鬼の腹に沈み込んで少し後ろに引く

 

斬鬼は刀で突いた

 

頭を狙ったそれを頭を傾けて避け、大剣を叩きつける

避けられる

 

「…ふん」

 

大剣での回転斬り

だが、それは少し違った

 

水を纏い、辺りに撒き散らしたのだ

 

斬鬼がビジョビショになる

 

「天水分神か、だがなんの意味があるかな」

 

斬鬼は言う

これだけだと彼女が意味の無いような事をしたように聞こえる

だが、水の斬れ味を舐めてはならない

 

もし、水が斬れ味を持たぬなら水圧カッターなぞ存在しない

 

先程の水を纏った回転斬りは、全てを切り裂く斬撃なのだ

 

「意味の無いことでも、あるかもしれませんよ」

 

弾幕斉射しながら飛ぶ

斬鬼は大概避けるか斬るかで対応する

それも、把握済みである

 

上からの叩きつけ

 

斬鬼も流石に耐えれないと気付いたか、避ける

そこで更に大剣を薙ぎ払う攻撃を加える

 

避けきれず、斬鬼が斬られる

 

「グゥ…!」

 

「頭、冷めましたか?」

 

「逆に燃えたぜ」

 

斬鬼は腹に出来た斬傷から血を出したながら斬る

大剣と刀では、重さが違う

 

少し、斬られた

 

「娘相手に酷いですね」

 

「父を斬った奴が言う言葉か」

 

「それもそうですか」

 

頬の斬傷を拭う

そろそろ、頃合かもしれない

向こうを見ると、舞が霊夢と紫、魔理沙を相手して涼しい顔をしていた

 

「覇ッ」

 

地面に刀を突き立て、抉るようにして振り上げる

そこから衝撃波が飛んでくる

 

良し、それをもう一度誘う事にしよう

 

「ふっ」

 

弾幕を放ちながら少しづつ近づく

 

「ならば」

 

斬鬼も負けじと弾幕を放った

 

赤、黄の弾幕と蒼の弾幕がぶつかる

 

「ハッ」

 

斬鬼は刀を地面に突き立てた

 

「はぁっ!」

 

そこを椛は攻める

思い切り突き立てた刀が簡単に抜けるはずが無い

コンマ1秒とて、それは隙に値する

 

「せい」

 

そこで、椛は大剣を地面に向けて叩きつけた

 

「何を────────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斬鬼が、氷に包まれた

 

氷の中で、斬鬼がぱちぱちと目を閉じたり開いたりする

 

「井氷鹿、氷の神、ご存知無いですか?」

 

『…俺の負けか、畜生』

 

「えぇ、頭を冷やしてもらえて結構ですよ」

 

『物理的に冷やす奴が居るか』

 

「ここに」

 

『阿呆』

 

井氷鹿とは氷の神である

日本神話に居る氷の神…詳細は先生に聞こう

やったことは簡単、彼を凍らせたのだ

 

神の力で、全範囲は凍らせられる

だが、僅かな冷気で斬鬼に避けられる可能性があった

 

だから、最初に水で濡らしたのだ

 

全身が濡れた為、凍る事を避けられなかったのだ

 

「…終わった?」

 

「俺の負けだよ、畜生」

 

霊夢が椛に近寄る

ガラガラと氷が崩れた

 

舞が、瞳の輝きを取り戻して近寄る

 

「あらあら、人を使ったバツを受けてましたねぇ?」

 

「…すまんな、感情的になりすぎた」

 

「で、どうするよ」

 

魔理沙が天子を見た

手首足首に氷の枷があった

 

「処分するも良し、生かす、封ずる

 好きなものを選べ、俺は帰る」

 

「私も帰ります」

 

「お腹空いたわぁ、貴方?何か作ってね」

 

一家は皆帰って行った

霊夢と魔理沙はため息をついた

 

「幻想郷は全てを受け入れる、ね」

 

「仕方ないな、私達も帰るとするか」

 

視界の端に、天子がスキマに落ちたのが見えた

おぞましい末路を送るか、いや、それは無いだろう

博麗の巫女が迎えた、全てを受け入れる

 

ま、多少なりバツは受けるだろうなぁ…




シリアスになっているかも分からない作者
なってなかったらそれは全て嫦娥が悪い

そして骸骨車輪、俺は貴様を許さない


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ヒソウテンソク

さーて、少し日常回を入れましょうか




「んで?そのバカデカい機械はなんだよ」

 

「えーと、そのぉ…」

 

「守矢関わっているの、知ってますよ」

 

「も、椛ぃ…!」

 

現在地、河童の倉庫

ガレージの様な所だが、もの凄く広い

見てわかるのだが、大きな機械が簡単に入る

 

そして、今入っているのが…

 

このマ〇ンガーみたいな巨大ロボットである

 

何これ、本当に〇ジンガーみたいなんだけど

多分幻想入りした雑誌やらでこんなのがあったのだろう

 

それを見た河童が作ったと、そういうことか?

 

と、思うだろう

 

これ、守矢が普通に関わっている

 

文と椛から「河童がなんかしてる」と言われ、斬鬼は里に向かった

そこで、あらかた探し回ってこんな物を見つけた

 

文から守矢が河童に依頼したことも知ってる

 

 

ま た 守 矢 か

 

 

そしてその守矢勢は横に居る

 

デカいたんこぶ頭にこさえながら、な

 

「斬鬼…問答無用で拳骨はどうかと思うよ」

 

「報告しないお前らが悪い」

 

斬鬼はド正論をかます

 

椛は青写真を手に取り、見る

 

「製造したのが結構前ですね、お父さん…こほん

 斬鬼さんが幻想入りしてきたくらいの」

 

「お前がオイル入りのコーヒー飲ませてきた時くらいか」

 

嫌味を少しぶつけた

にとりが肩を落とした

 

「うぅ…河童としての衝動が…」

 

「…俺も人の事言えんがな」

 

斬鬼が遠い目で何処かを見た

ごほんと咳をして場を紛らわす

 

「で?あんたら人里での宣伝にコレ使おうと?」

 

「まぁ、記憶に残るだろ?」

 

「ま、そうだわな」

 

こんなの一生頭に残るわ

特に機械なんて見た事の無い幻想郷の住民にとっては、な

…待て、これ動くのか?

 

確かにコッチも動く二足歩行戦車は作ったが…

こんなでかいのが動くのか?

 

見た目は…大体20m?

雲を裂く程では無さそうだ

 

「別にいいが…責任はお前らのもんだぞ」

 

「いいっていいって、いい宣伝になるさ」

 

そう言って、彼女達は河童と話し始めた

話の内容は宣伝関連だった

チラシを配るだのなんだの

 

この妖怪の山に出来た人里の奴らを誘えばええのに

 

 

「…マジで動くのか、あれ」

 

山の麓で手を上げるヒソウテンソク

ちなみに今は人里で守矢勢のバザー中だ

演説で人心掌握する辺り、流石というか何と言うか

 

「見てて面白いぜ全く」

 

巨大兵器

それはロマンという言葉に他ありえない

男である斬鬼は、少し感化されていた

 

「…ま、アレは出撃することは無いだろう」

 

結構、衝動的に作った代物だ

しかも、ろくな物じゃない

 

「俺も、行ってみるか」

 

ここに居ても暇だ

それに、どんな演説をしてるか、聞きたいし

 

 

「まあまぁ酷い演説してんな、アレ」

 

「早苗は君程演説が上手いわけじゃ無いんだ、察してやれ」

 

神奈子が苦笑いしながら言う

守矢を信仰したら凄い力が手に入るらしい

そういう…まぁ、ここの連中もあれか

特に追求しないあたり疲れてるのか洗脳されやすいのか

 

阿呆の間違いか?

 

「後ろにあんなもんあったら信じるか」

 

「人間、そういうものだよねぇ」

 

人間、理解出来ない物を恐れる

現代科学の無い幻想郷は尚更だ

 

あんなもん、神の創造物とでも思うだろう

 

実際の所、河童の化学である

 

なんだ河童か

 

「いやねぇ、人間単純ってのは」

 

「お、諏訪子じゃないか」

 

「ケロケロ、斬鬼も信仰する気になった?」

 

「無いな」

 

斬鬼は即答で返す

そうやって、たわいも無いことを言っていた時だった

 

 

 

 

「ん?ヒソウテンソク勝手に動いてね?」

 

「あ、本当だ…え?」

 

ヒソウテンソクが勝手に歩き始めた

基本、ヒソウテンソクを動かす事はしない

理由は勿論面倒事が増える事である

 

別に動かしてもいい、ただ派手なのはダメだ

 

なんかすげー

 

腕や足の関節から蒸気が漏れ出る

核熱造神ヒソウテンソクというが、蒸気機関もある

基本、核融合は使わずに蒸気機関を使用するのだ

 

…尚、今の状態は両方を使っている

 

目が爛々に輝いているのがその印だ

早苗のロボットの目は光る理論に基づいたらしい

 

『あーあーあー…聞こえてるわよね?』

 

そして、そのボイスから聞こえるのは、腹の立つ声

まぁ誰と言えば天子である

 

…あれ、コックピットあったのか

 

『待ちわびたわ…あの時雪辱、今晴らす!』

 

瞬間、ヒソウテンソクが動き出す

さて、今はお祭りの時間だ

信者を増やすために演説と祭りを開いた

 

…山の奴らも巻き込んで

 

まぁ同じところに住むから仕方ない

 

「わー!本当ににとりさんの言う通り動いたぁー!

 でもなんで乗っ取られてるんですかぁー!?」

 

…野郎

 

早苗は動いた事に感激している

ま、あの不良天人がご指名なのは十中八九俺だろう

 

「…仕方ない」

 

「ん?」

 

「PALコードは入力済みだからな」

 

そう言うと、斬鬼はワープホールに消えた

 

 

「ふっふっふっ…おめおめと逃げたようねぇ…!」

 

コックピットで斬鬼がワープホールに入ったのを天子は見て笑う

流石にどうしようも無いと感じたのか?

それだったら更に滑稽だ

 

コックピットはかなり複雑に作られていた

 

球体の中に椅子がある

椅子、といってもカクカクしたものでは無い

SFの様な近未来のイスだ

その腕を置く部分に棒が合わせて2つある

 

それを使ってヒソウテンソクを動かすのだ

 

球体からの視点は宙に浮いているように見える

VRという物の応用らしい

 

「はっはっ…これがあれば勝てっ───────!?」

 

衝撃

 

それに遅れての派手な音

ヒソウテンソクが膝をつく

その瞳は、確かにそれを捉えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上部の右側に異様に長い槍の様な構造物

反対の左側にはレーダーの保護構造であるレドーム

 

下部は全て巨大な関節機構が大半を占めていた

 

そのT字のコックピットの先端部分の青い光が発光する

 

槍のような物からは煙が少し漏れ出ていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 超電磁砲搭載二足歩行戦車

 

          METAL GEAR REX

 

 

 

 

 

 

   「貴様の役目は終わっている、あの世へ行け」

 

 

斬鬼は操作機構である、グリップを握り込んだ



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METAL GEAR REX

ロボ対ロボってロマンあるよね


本来、MG REXは核搭載戦車として使われていた

その槍の様な物…レールガンから核砲弾を打ち出すのだ

核砲弾はミサイル噴射をしない為、衛生には引っかからない

 

ステルス核

 

それは脅威だった

 

しかし、斬鬼は設計図を変えた

 

核を打ち出す物からレールガンへ

 

そして兵器の真価は、ステルス核砲弾を撃つことでは無い

 

この、二足歩行だ

ありとあらゆる地形を走破し、あらゆる場所からステルス核を放つ

その時代の悪魔の兵器と呼ぶに相応しい

 

実のところ、倉庫に保管していた

 

まぁ、やっすい挑発に乗ってやった訳だ

 

搭載された武装は思いのほか多い

30mmガトリング砲

自由電子レーザー砲

対戦車ミサイル

 

それに加え、装甲も堅牢である

セラミックスの複合装甲を使用しており炸薬弾でも無い限り破壊は不可

しかも少し手を加えて核にも耐えられようにしている

 

ちなみにコックピットは狭い

シートの前に機器系統が大量にある

ボタンと移動の機器、VRの景色

 

「照準定め」

 

レールガンがヒソウテンソクに向く

チリリリとレールに沿って電流が走る

 

一瞬の閃光

 

レールガンがヒソウテンソクの肩に命中した

奴がよろける、またチャージを始める

 

閃光

 

外した

理由はヒソウテンソクが走り始めたからである

 

「近接か、いいだろう」

 

後部と脚部のミサイルポッドからミサイルを発射

ヒソウテンソクに向かうのを見て、コチラも走る

 

爆発と腹に響く音

 

煙が吹き上げる

 

この程度でやれるのなら、レールガンがやられるだろう

斬鬼の予想通り、ヒソウテンソクは怯みもせず特攻してきた

 

ヒソウテンソクのパンチ

ただ、引いて前に出す、簡単なパンチ

それを下にもぐって避け、コックピットで突進する

 

「ぐっ…」

 

直に衝撃がくる

鉄と鉄がぶつかり合っているのだ、衝撃が強い

組み合った2つの巨影は、一方のビームで離された

 

自由電子レーザー砲だ

 

かなりの近距離に居たヒソウテンソクの指が数本切れる

それらは地面に落ち、土煙を巻き起こした

おまけと言わんばかりの30mmガトリング

黄金色の薬莢がバラバラと地面に落ちた

 

「…流石に貫通はしないか」

 

レールガンで貫通するかもしれないくらいだ

30mmで貫ける筈もなかった

 

『やってくれるわね!』

 

「ふがっ!?」

 

景色が思い切り上を向いた

ついでに来る下からの衝撃

成程、アッパーカットか

 

少し、距離を取るか

 

右の脚部を上げ、ヒソウテンソクを蹴る

 

触れた瞬間に足の固定用パイルを突き刺す

それは簡単に装甲を貫通した

 

距離が少し離れる

 

戦いは、終わらない

 

 

「わぁー!諏訪子様!神奈子様!凄いです!

 斬鬼さんもあんのあるんだったら教えてくれてもぉ!」

 

「あんなのテレビでしか見た事ないぞ」

 

「方や子供のロマン、方や軍人のロマン、というべきかな」

 

で、皆酒やら団子食べながら観戦してた

人里に被害行くと思っている奴らは少ないようだ

まぁ山の人間保護してる奴が人里攻撃する訳無いと思っているのだろう

今の図、ヒソウテンソクから人里守っているような物だし

 

「にしても凄い武装だ、こっちには飛ぶパンチしかないよ」

 

「何を言っているんですか!?ロケットパンチはロマンですよ!」

 

「そうだね(悟)」

 

兵装の差はありすぎる

単純な量では普通に負ける

ガトリング、ミサイル、レーザーなんてヒソウテンソクに無い

レールガンなぞ以ての外だ

 

勝っているのは身長のみ

 

というのも、正義の味方の物だからである

しかも昭和とかそういう辺りの

あの頃はロケパンがロマンで大抵使われていた

 

に比べ、REXは軍で使用されるのが目に見える

そもそもの設計図の時点で戦争に使われそうだった

ここに来たという事は作られなかったか

 

それとも、壊れたか

 

まぁ、また作り直されそうだけど

 

「わ、凄い…」

 

REXがミサイルを放つ

ヒソウテンソクが腕がガードし、片方でパンチを飛ばす

REXは見た目とは裏腹な横移動でそれを避ける

 

「あれ、見た目に反して軽いのかい?」

 

「いや、多分脚力が強いだけだろう」

 

レールガン

バシュンと派手な音を立てながら発射

ほぼ至近距離のそれは簡単にヒソウテンソクの左腕を飛ばす

ぐじゃあ、と地面に突き刺さった

 

「後処理が…」

 

「負けるなヒソウテンソク!頑張れヒソウテンソク!」

 

ヒソウテンソクが吠えた

がっと、足を地面に立て、吠える

 

REXも劣らず、吠える

ラテン語でREXは「王」を意味する

T・LEXから取られたそれは、まさに王に相応しい吠え声を上げた

 

鉄と鉄がぶつかり合う

至近距離からのレーザー

装甲を少しだけ削る

 

ヒソウテンソクの膝蹴り

REXの右足が少しよろける

 

REXはレールガンをヒソウテンソクに突き立てた

 

『なっ…!』

 

チャージ

REXのコックピットがヒソウテンソクを見る

天子からは、それが嘲笑っているようにしか見えなかった

 

『クソッタ──────』

 

 

天子が悪態を着く頃には、ヒソウテンソクに大穴が空いていた

 

 

この勝負、勝者は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでそれで、ヒソウテンソク型の空き地が出来たと」

 

「すまんな藍、マジですまん、そんな顔しないでくれ」

 

青筋浮かべた八雲の式神であった




ふと思ったんですが歩行機構を完成させてレールガン作ったらREX実現出来そうなんですね

それはそうと次回作の構想を練っていました

イメージとしては八雲に反旗を翻すみたいな
そして主人公紫に負けてヒソヒソと生きるみたいな
離脱者、もとい脱走者ですかねぇ
ちなみに主人公は狙撃手


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伝説の背中
修行を積め


「今日は特に異常無しかな」

 

椛はそう呟き、帰路に着く

人の里に少し寄ることにした

 

日が少し傾きけれども、人は活発だった

 

天狗の庇護があるからかもしれない

 

「あら、椛さん?団子食べに来たの?」

 

「いえ、持ち帰りですよ」

 

「分かったわ、少し待っててね」

 

「はーい」

 

女の店員にそう言われ、長椅子に座る

横に一人、男が居た

背中に猟銃を背負っているので、猟師と認識した

 

「何か狩れましたか?」

 

「ああ、野ウサギが数匹」

 

その腰に、皮が2枚見受けられた

恐らくその横にある袋には肉が入っているのだろう

血、特有の鉄の匂いがする

 

「最近は大変でしょう?」

 

「いんや、そうでもないさ」

 

彼は笑うと団子を食べる

ここの団子は美味しいことで有名だ

まぁ、食べるのはもっぱら天狗かここの人だが

 

「野ウサギがまだ居る時期だ、まだ食い物には困らん」

 

「米やらは貯めてないのかしら?」

 

その男は頭をボリボリとかく

 

「いやね、売っても食い繋げないからさ

 たまに売るしかないんだよ」

 

「はぁー…」

 

売ってもどうやら買えるのは団子くらいだ

パンやらの食材は買えなかったらしい

 

「ま、熊でもいりゃあ儲けもんだよ」

 

「干し肉にいいですからねぇ」

 

「余った奴はな、まぁ俺は大体それだが」

 

男はくあっと欠伸をした

そこに、頼んだ団子が届く

 

「どうぞー」

 

「どうもありがとうございます」

 

「それじゃ、またどこかでな」

 

「ええ、また」

 

そういうと、椛は空を飛んだ

ふわりと、当たり前のように

 

 

「ただいまー」

 

「おかえりなさーい」

 

「…?」

 

返ってきたのは1つの返事だった

戸を閉めて、居間を確認する

 

「あら、どうしたの?」

 

舞がずぞぞっとお茶を啜っていた

もう1人の姿が見当たらない

 

「お父さんは?」

 

「さぁ?分からないわ

 それはそうと部屋に行ったら?

 貴方が紅白家の当主…仮だし」

 

あれから、少し紅白家の仕事を分けてもらう事になった

いずれ当主になる私に、少しでも慣れてもらう為らしい

 

…私、お父さんより強くなれるのかなぁ

 

「そんな顔してないで…あら、団子じゃない」

 

「あ、買ってきたんですよ、食べます?」

 

「六個ね…3個ずつかしら」

 

2人で団子を分ける

そして当たり前のように舞は四個取った

 

「その癖、嫌われますよ?」

 

「うふふ、どうかしらね」

 

「…ぃーだ」

 

椛は逃げるように当主の部屋に向かった

その扉の前でコンコンと扉を叩く

 

「…?」

 

反応が、無い

いつもなら「いいぞ」だのなんだの来るが…

 

もしかして、寝てる?

 

いや、それはないと思うが…

 

「お父さん?」

 

部屋に入る

そこに、父は居なかった

見渡しても、椅子に座っている訳でもない

父の机に近づく

 

書類が隅に置かれ、その机の上に紙が置かれてあった

 

それを取り、広げる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『修行を積め』

 

たった、それだけだった

妖術の火で炙ろうが、それ以外の字は無かった

 

…は?

 

いやいや、修行を積めって…

それだけ?それだけしかないの?

どこに行くとかそういうのは…

 

いや、父はそういうのはしない人だった…

 

「…はぁ」

 

自然とため息が出た

父がこうやって居なくなるのも慣れた

多分、今頃どっかで寝ているに違いない

ドタドタと床を鳴らして家から出ていって…

帰ってきたら血塗れ

 

何を聞こうと「仕事だ」の一点張りだった

 

そんな父を母はいつもの事だとあまり心配しなかった

彼女は彼が確実に生きて帰ると知っていたから

 

その、彼女は

 

「やれやれ、修行ですか」

 

そんな邪な考えを振り払い、椅子に座る

おお、結構柔らかいんだなコレ…

 

コップを取り、コーヒーを飲む

 

「うんブラック」

 

うわ、苦ッ

私としては苦いのは好きじゃない

 

ミルク入れよ

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

「無いッ!?」

 

嘘ォ!?あの人ミルク置いてないの!?

根っからのブラック派ですか!

客人が来るかもしれないからミルクの1つくらい…

 

 

「あ」

 

そこで、私は視線を下に落とした

 

そこに、ミルクはあった

 

「コレ使えばいいじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んんー、覚えてない味」

 

何時だろうか、いつなのか覚えていない

乳のみ子だった時はいつだったか

 

私が物心ついたのは…

 

あー、まぁいいか

 

「というか甘くないですねこれ」

 

どうやらコーヒーのミルクには砂糖が入っていなかったようだ

代わりに入っていたのはタンパク質である

 

それはさておき

 

さて、この紙、どうしてくれようか

 

「燃やすか」

 

ゴウ、と音を立てて紙が燃えた

塵も残さず、火の残焼を残して消えた

 

もはや紙があったとは思えない

 

火の消える音がした後、音は消えた

 

静か

 

静寂

 

「修行、か」

 

椛は呟いた

 

修行をするには、どうすればいい?

 

あ、簡単な話か、とても簡単な話だった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからって私に喧嘩を売る事はないんじゃない?」

 

「いえ?修行ってこういうものでしょう」

 

「本当に価値観がズレてるわね

 ま、斬鬼の娘なら仕方ないか…」

 

幽香はため息を着きながら傘をぶん回した



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風祝より喧嘩を売ってる奴

タイトル通りアレより喧嘩売っている奴です


「な、椛」

 

「ハイなんでしょう」

 

「そろそろ落ち着いてくれても」

 

「この場で叩き伏せましょうか?」

 

「ごめんなさい」

 

天魔が土下座する

椛は変わらぬ笑顔で大丈夫ですと言った

 

「いや、本当に止めてほしいのだぞ」

 

「修行ですので」

 

「本当に止めてください鬼がまた来ます止めて下さい」

 

さて、何故天魔が椛に対して土下座しているのか

 

それは彼女の修行のおかげである

幽香に喧嘩を売った後、勝利

 

それから様々な所に喧嘩を売りに言ったわけである

 

紅魔館に突撃して門番を吹っ飛ばす

喘息魔女の魔法をぶっ飛ばし、悪魔も殴る

主も問答無用で蹴り飛ばしカリスマブレイク

応援にやってきたメイドと妹を薙ぎ払う

 

椛がワンマンアーミー化している今日この頃

 

最近も白玉楼に殴り込みに行った

 

すれ違い、相手が強いと感じたら大剣を抜く

そして強ければ楽しく殺し合うのだ

 

誰が言ったか白い通り魔

 

巷じゃ白い悪魔なんて言われているらしい

 

 

というか彼女の時代が逆戻りしている

幽香、紫、それに鬼達が居た頃の時代くらいだ

 

大剣を肩に起き、ふふふと笑う椛

 

久しく忘れていた恐怖が巻き起こる

 

いや、自分より若い者の筈だ

己が弱くなっただけか

天魔は少しため息をついた

 

「程々にしてくれ…私も私で疲れるんだ」

 

「それは大変な事ですね」

 

「だろう?」

 

「では私は天界に殴り込みに行くので」

 

「」

 

話が通じないとはこの事か

止める暇もなく、彼女は飛んだ

 

 

 

 

 

 

 

天魔がリアルorzしたのは言うまでも無いことである

 

 

 

 

 

 

 

「ドウシテ…ドウシテ…」

 

「あ、天月ちょっと聞い──────」

 

「ど゛う゛し゛て゛な゛ん゛だ゛よ゛お゛お゛ぉ゛お゛!゛!゛!゛ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!゛!゛!゛」

 

「うるせぇ!汚い高音だすな!」

 

ンア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙(絶命)とでも言うべきか

凄まじい叫び声が山を穿つ

文は不思議な事に彼女に物凄く同情出来た

 

「椛ぃ…どうしてそんな…」

 

「全責任は斬鬼にあるでしょう」

 

「…それもそうだな」

 

天月が涙を拭き、胡座をかいた

そして、天に手を伸ばす

 

「全く、彼も彼で面倒な――――」

 

ふと、気が付いた

指先から薄い青の煙のような物が出ている

風呂上がりの、体から上がる湯気を更に薄くしたような

 

「…本気、か」

 

全てが始まっていた

いつの間にか始まっていたわけだ

 

始まりに気付けないとは、本当に腕が落ちた

 

力無く手が足に落ちる

そこで文もその現象に気付いたらしかった

不思議そうに手を見ていた

 

「流れ出てる」

 

「彼女次第で、ここは終わるか」

 

はぁ、とため息をついた

 

「どいつもこいつも、身勝手だなぁ」

 

「天月、あんたも大概よ」

 

 

「こんにちは、喧嘩売りの白狼天狗さん」

 

「隻眼天狗の娘、と言ってください

 幻想郷縁起にもそう書いてあるはず」

 

突然現れた紫にニコリと笑って対応する

いつの日やら、阿求から貰った二つ名を使用する

彼女は扇子で口元を隠しながら聞いてくる

 

「魔界にも殴り込むに行く気だったでしょう?」

 

言う通りである

魔界人はとても強く、一筋縄ではいかないらしい

 

そんな相手、殺るしかないだろう

 

「修行と称しての侵略よ、あなたのやってること」

 

「ええ?ただの修行ですよ」

 

「その修行の後始末をしている身にもなってほしいわ」

 

「じゃ、その面倒な奴叩き伏せますよ、どいつですか」

 

「…貴方戦いたいだけでしょう」

 

白い目で椛を見る

彼女ははてという感じで首を傾げた

 

「え?それ以外に何があると」

 

「ダメね貴方」

 

ペチンと額に手が当たる

もうなんというか、制御不能

 

その父も今や何処に行ったか…

 

全く、親子似るものだな

 

「ま、そんなあなたにいい依頼、あるわよ」

 

「何かしら?」

 

「こちらに来なさい」

 

スキマを開くと、その中に入る

椛は大剣を背負い直し、盾を持ち直した

 

 

少し、油断ならない気がして

 

 

「こんにちは、幽々子さん」

 

「こんにちは〜、こうやって会うのは久しぶりねぇ」

 

訪れたるは白玉楼

転生を待つ幽霊達の待機所

幽々子はそこでそれらの管理を行っている

 

「それで、今日はどういったご要件で」

 

「まぁまぁ、少しお茶でも飲みながら話しましょう?」

 

扇子でナンセンスと言わんばかりに額を小突くと歩き出す

庭から屋敷に上がり、彼女に着いて行った

 

「…他に誰か居るので?」

 

「んー?妖夢ならいるわよぉ」

 

「そうじゃないです、他に居るでしょう?」

 

椛はにこにこと笑いながら言う

幽々子は障子の前で立ち止まる

 

「そうねぇ」

 

そして、勢いよく開ける

 

「博麗の巫女、とかかしら」

 

「…アンタいきなり連れてきて何よ」

 

不貞腐れた顔をした霊夢が、茶を啜っていた

 

 

「へぇ、日向ぼっこしてたらいきなりですか」

 

「そうよ!こちとら暇を謳歌してたのに!」

 

「それはただの職務放棄でしょう」

 

博麗巫女恒例の職務放棄

コトは起こる前に解決するのが吉、だ

ま、今の幻想郷じゃ起こった後がいいかもしれない

 

「暇を持て余して、やる事無いのかしら」

 

「異変しか能が無い妖怪に言われたくない」

 

「それを解決するしか、巫女には意味が無いのではなくて?」

 

幽々子がケラケラと笑いながら言う

やっぱり、彼女の思っている事は分かりずらい

紫の次の次くらいに面倒な存在と言えるだろう

 

「それで、要件を」

 

「そうねぇ」

 

 

簡単に言えば、と言葉を繋げる

ここで、彼女の言う簡単は普通に簡単じゃないと言おう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「西行妖を、再封印してほしいの」




任務を遂行しろ

全ては幻想郷の為に


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さくらさくら

「封印、ですか」

 

苦手な分野だ

封印なんてあまり好きでは無い

自分の場合、エネルギーが強すぎて爆発四散してしまう

そこのところ、親の不器用な所を受け継いでいる…

 

あの2人、封印の術を使えた筈だけど

 

だって

 

「あの桜、父が封印した物でしょう」

 

「…斬鬼が?」

 

まさか、と言わんばかりの顔を霊夢がする

あの桜は一度咲き、霊夢に封印されたものである

 

あの一戦は壮絶と言えるだろう

スペルカード・ルール等あの生物に存在しない

死を纏った反魂蝶の嵐を掻い潜る霊夢と魔理沙と咲夜

3人に近づく死を切り裂く妖夢

 

一歩踏み外せば、死にまっしぐら

 

そんな、化け物を

 

「封印、した?」

 

「今から1000とかそんな昔の筈ですがね」

 

「因みに霊夢、あなたの封印は一年程度しかもたないわよ」

 

「は!?そんな筈じゃ…」

 

紫からの告白に衝撃を受けた

あれだけ、苦労したのに、一年

 

伝説は、1000年程

 

実力の違いが数字で浮き出ている

 

「こんの…」

 

パキ、と大幣にヒビが入る

そんな霊夢に紫は言う

 

「なら今度は強い封印をすればいいじゃない」

 

「そうだけど…そうね、それもそうね…」

 

ふふふ、と笑いながら立ち上がる

 

椛は深く溜息をついた

 

「どうしたの」

 

「いえ、手柄は譲らなければ、と」

 

「そういえば貴女封印術苦手だったわよねぇ」

 

ムスッとした顔で立ち上がり、縁側に出る

そこから、少しピンク色に輝く桜を見た

 

さくらさくら、トラトラトラ

 

そんな、結果になればいいのだけれど

 

「なる訳、無いか」

 

また深く、彼女はため息をついた

 

 

西行妖

 

白玉楼に生える大きな巨桜

とはいえ、その花は蕾すら付かせることは無い

咲いた瞬間に封印が解かれ、死を振りまく

 

西行寺幽々子が死ぬ原因となった桜である

 

本来、この桜は普通の桜であったはずだ

 

だが、いつの日にか死を呼び、死に誘う妖桜となった

それは死霊を操るだけの能力を持っていた幽々子を魅入る

彼女が、その桜のしたの屋敷で住んでいたのが良くなかったかもしれない

 

紫が通うようになったのは"生きた"従者が最後の1人になった時だった

 

同じ女性か、話は弾んだ

 

だが、少し、何かが足りなかったのだろう

紫はそんな違和感を解消すべく、ある男を呼んだ

 

"生きた"最後の従者が死んだ次の日

 

彼が来て思ったのは、枯木だった

半分死んだ従者は枯葉、幽々子、本体の枯木

 

いつ、壊れてもおかしくない

 

見かねた彼は一回、彼女の首に刃を当てた

彼女は、ぎこちない笑顔で、言った

 

"貴方の手の中で死ねるなら、別に良いわ"

 

"...本気か?今ならまだ"

 

"どうせ死ぬもの、今と後でも変わりないわ"

 

"じゃ、止めだ"

 

"どうして?見かねたのでしょう?"

 

"幽々子、アンタなら未練無く逝けるさ"

 

"…そうね、そう…そうなればいいわ"

 

 

 

 

そして、次の日、彼女は死んだ

 

彼は彼女を桜の下に埋めた

反魂蝶が舞羽ばたく中、能力を酷使して死を遠ざけながら

 

彼の至る所に蝶が停り、羽ばたく

 

そして、彼女を埋めた所に刀を突き立てた

 

 

 

 

 

さっと消える反魂蝶

 

それと入れ替わるように、西行寺幽々子が現れる

 

彼女は再誕した、亡霊として

封印の要となった彼女は永遠に成仏する事は出来ない

 

彼女が成仏出来るのは、西行妖が消えたときであろうか

 

 

 

 

 

なんにせよ、その花が咲くことは、永遠に無いのだ

 

 

 

 

「…」

 

「封印が、剥がかけてる」

 

封印の札の端っこ、そこがめくれかけていた

博麗巫女としての恥、とでも言おう

 

先代なら、かなりの間持たせることは出来たはずだ

 

「…仕方ないわね、やり直すしかないわ」

 

パッと大幣を構える

はらり、と札が剥がれた

 

脆い?違う、封印を解いたのだ

 

瞬間、西行妖が桜を咲かせる

 

妖艶という言葉が1番似合うだろう

ゆっくりと、蕾が開き、開花する

 

今の季節にそぐわぬ、黒染めの桜が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"終わらせる、この悪夢を"

 

"全て、消してやる"

 

"伝説は2人も要らない、伝説は1人でいい"

 

 

 

どこかから、父の声が聞こえたような気がした

 

それに、気が取られて――

 

「椛ッ!」

 

「――ッあ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気付いた頃には、反魂蝶の濁流が

 

簡単に、彼女を飲み込んで行った

 

 

「モミジィィィィーーーッ!」

 

霊夢は叫ぶ

だが、彼女はそれが聞こえないのか、ゆっくりと倒れた

 

何故?何があった?

 

彼女は何に気を取られた?

 

彼女を救えなかった自分に歯噛みする

 

「紫ッ!」

 

「分かったわ!」

 

急いでスキマから援護に入る紫

霊夢は彼女に椛の容態を聞く

 

「椛は!?」

 

「意識不明!でも死んだ訳じゃ…無いと思うわ!」

 

「なら、戻ってくるまでにどうにかしないと!」

 

桜が咆哮を上げる

春を吸い込んだ訳でもない桜は、そんなに強くは無い

反魂蝶の数も、言うほど多いものでは無かった

 

(戻ってきたら一発殴ってやるわ!)

 

倒れた椛を見ながら、霊夢は誓った



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辺獄

死ぬ事を恐れるな

我らを殺すは暇だけである――


赤く、塗りつぶされた空間

赤、空も赤、地の底も赤

他にあるのは灰色の浮島に、そこにある建物

 

ついでに言えば、銃のマズルフラッシュくらいか

 

「邪魔!」

 

「ギャ!?」

 

顔がのっぺらとした兵士を剣で叩き潰す

側面からの銃撃を盾で防御

ソイツも範囲内に居た為、大剣で潰す

 

「グアッ」

 

声から女だと思われるが顔のせいでそうと思えない

もしかしたら顔がそれなだけかもしれない

見た目もまちまちな奴等ばかりである

 

タンクトップと黒いズボンを履いた雑兵

 

サングラスとスーツ姿のエリートみたいな兵

 

今のところ、そんな奴しかいない

四角のドアのない仕切りを通り、次の部屋へと向かう

 

そこも、敵が数人居た

 

酒を飲んでいたのか、フラフラとしている

大剣を投げつけ顔面に刺さったそれを一瞬で近づき抜く

 

何が起こったか分からないままそいつは倒れる

 

その場で二回の回転斬り

 

簡単に敵はバラバラになった

死ぬ直前に引き金を引いたのか、あらぬ方向に弾丸が飛ぶ

 

頬の血を拭い、窓を見る

正確には、窓枠とでも言うか

 

そこから見える景色は、辺獄

 

赤1色の世界に浮島が何個も浮かんでいる

大きなものから小さなものまで

 

そのうちの1つ、中くらいのところが騒がしかった

 

「…」

 

千里眼

 

視界を拡大する

見る、見る、見る

 

最初に見えたのはマズルフラッシュ

その次はキャップとヘッドホン

そしてヘッドホンから繋がる背中の大きな通信装置

 

着ているのは軍服の様なジャケットでポケットが多い

ズボンは迷彩柄でこちらもポケットが多かった

 

光をどこかに追いやった深淵の目が敵を見ていた

 

殺す、滅殺、殺

 

そんな、感情しか見えない

ウィンチェスターをバカスカ打ちながら

空中の岩から"出てくる"

 

その岩から鎖が浮島に突き刺さっていた

 

ザァーッと鎖を滑り降りると、追っ手を撃つ

 

浮いた岩から顔を覗かせた敵が顔を霧散させた

 

そして彼は手早い動作で地面のレバーを倒す

 

「ッ…!?」

 

瞬間、全てが"引っ繰り返る"

 

重力は下から上に

地面に倒れていた敵は全て天井に

 

何とか受け身をとり、痛みを逸らす

 

「…彼は?」

 

見てみると、彼は落ちていた

空中に薄い長方形の岩があり、そこから先程の地面に鎖が伸びていた

彼はそこに着地しようとするが、少しズレる

 

手を伸ばし、端を掴んだが、その手は離れてしまった

 

「…」

 

椛は何も見なかったかのように、大剣を持つ

そして、辺りを見渡した

 

あるのは、敵の死体だけ

 

「…どうし――」

 

そう、呟いた時

 

腹の横辺りから刃が出ていた

 

「へ」

 

後ろを見ると、鎖が見える

それは壁に続いていた、少し黒い液体がぽたぽたしている

 

壁に、黒い穴が空いていた

 

暗い、暗い、暗い

先が見えぬ程に、暗い

 

そして、鎖は巻かれていく

 

「――!」

 

どれだけ抵抗しようと、かえしがあったのか抜けない

 

そのまま、壁に飲まれていった

 

 

気分は最悪

 

但し状況は良好

 

今していることと成し遂げようとしているのはクズのそれだ

そんな復讐の感情に流されなくたっていい

 

だが、これは彼女の為だ

 

自分の為でも無い、種族のためでも無い

 

これは弔いの儀式なのだ

 

この神社が忘れ去られたのも彼女が死んでから

この神秘的な雑学が生まれたのも彼女が死んでから

この複雑な状況になったのも彼女が死んでから

 

こんな事になったのも、彼女が死んだから

 

この手は、忘れないだろう

 

この瞳と記憶は、忘れないだろう

 

全てには終わりがある

 

それは変えることの出来ない絶対的な物

 

それを、俺が早めてやる

 

この幻想を、終わらせてやる

 

だから、早くその桜を封じて見せろ

 

俺に、挑む資格があると感じさせろ

 

生き地獄を、終わらせてやる

 

 

「……、…」

 

首を振って立ち上がる

酷い気分だ、口の中に芝刈り機を押し込まれたような

 

顎の辺りから黒い液体がポタリと落ちた

 

大剣を支えにして辺りを見渡す

 

少し、小汚い小部屋だ

先程の岩を削って豆腐のようにした建物と変わりない

 

シンプルな、建物

 

「行くしかないか」

 

ふと、見た左手が黒い液体に汚染されていた

大剣を仕舞い、袖で拭い取ろうとする

しかし、それは袖に着くだけで取れはしなかった

 

嫌悪感を抑えること無く振りまきながら床に落ちていた銃を拾う

 

軽くコッキングし、部屋を移動する

 

移動した先にも敵はいる

 

的確に弾丸を放つ

パパパと軽い破裂音を連続させる

 

辺獄に居る罪人とでも言うか

恐らく死にたくても死ねない奴等

 

なら、私が一瞬の平穏を貴方に

 

その思いを込め、弾丸を放った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敵は少し、強くなったような気がした

タンクトップを着た奴らがほとんど居なくなった

代わりに出たのは、変なマスクを被った奴ら

しかも、血液は黄色く、人間のそれとは思えない

 

空になった銃を投げ捨て、大剣で叩き伏せる

 

そうやって、何回も叩き伏せた時だったか

 

下から鎖が伸びた

それは天井に突き刺さる

鎖が出てきた所は黒い液体が広がって行った

 

ついでに、何かが出る

 

「ッ――!」

 

声に出ない悲鳴が出る

出てきたのは先程の男だった

 

だが、その姿は異形だった

 

腹の横は椛と同じように鎖に刺されたのか、黒い液体が侵食している

それは横腹を大体黒く染めていた

 

そして、何よりの顔

 

黒い液体が顔の一部に付着している

絵の具で絵を書いた時、それが顔についた、様な

 

そんなものより、ある所が無い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"下顎が無い"

 

下顎がもぎ取られたかのように無い

上顎の歯が反射して少し光っていた

皮膚が少し長く垂れ下がる

死に場所を無くしたかのような、亡者

 

「…、……、、………」

 

彼はどうやら喋れないらしく、カラカラと骨と骨を打ち合わせていた

見ていて、背筋が凍る

 

彼が落ちていたナイフを拾う

 

その瞳は先程と変わらない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手を抜けば、死ぬ

 

先に見えたのは彼が飛びかかって来るところだった



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番人

その体を蹴りあげる

僅かに避けられ、横を彼が通り抜ける

 

「…」

 

僅かに頬から血が垂れる

切られたか、すれ違いざまに

 

反応が遅れた事に叱咤しながら大剣を振り下ろす

 

横に避けられる

戦闘能力はかなり秀でているらしく、隙が無い

戦闘を重ねた者の腕に、その目付き

 

古くから山に居る天狗があの様な瞳をしていた

 

父、母、文、天月

冷たくて全てを冷徹に見るあの瞳

そして、常に油断の無い立ち回り

 

へらへらとしている文は昔はあんな人ではなかった

諜報班隊長として、威厳のある人

下を下に見、しかし決して侮らない女

 

だがまぁ、神風部隊が潰れてから人が変わってしまった

 

ただ、あの人とこの人を比べるのも吝かであろう

 

ナイフで突く

盾で弾く

2人の得物は片方は大剣で片方はナイフだ

刃渡りや質量も大剣の方が大きい

 

しかし、使いやすさでは大剣をナイフは凌駕する

 

素早い突き

大剣、それでいて妖怪である椛では少し再現に骨を折る

といっても疲れるだけだ、出来ない訳じゃ無い

 

お返しとして、それで攻撃する

まさか同じ速度で振られると思っていなかったのか、切り傷が生まれる

 

「…!」

 

目が少し歪んだ

どうやらちゃんと痛覚はあるらしい

それがわかって、安心したのは分からない

 

「…、……」

 

カラカラと音が鳴る

多分、彼は罵倒しているのだろう

声帯が無くなった訳では無いが、舌が無い時点で喋れない

 

だが、その顔で分かった

 

パンパンと拳を叩き、格闘戦に行こうする

 

パンチ

質量のともなったそれは肋骨をへし折ろうとする

腕で受けるが、衝撃がかなり重い

 

盾で上から叩き潰そうとする

 

それを避けられ、足を掴まれた

 

「しまっ――」

 

そのまま壁に放り投げられる

がゴン、と音がした体が壁に埋まった

壁からは黒い液体が埋まった所から垂れ出ている

 

「ぅ」

 

なんとかそこから抜けようとするが、ケツがハマって出られない

もがいていると彼がナイフを構えた

 

そして、投げようとした瞬間

 

「ッ!」

 

胸に痛み

ナイフじゃない

 

違う刃が腹を貫いていた

しかも、この形状、さっきの鎖と同じだ

 

そう感じる前に、壁に引き摺り込まれたのだった

 

 

何処かから放り出された

 

空中、空中、空中

 

視界の情報はそれを確認する

赤く、現世とは違う空間だと改めて分かる

 

浮島が幾つか

 

ここはどこなのだろうか

死んだとすれば、彼岸なのだろうか

 

だが、ここは川など何処にも無い

 

地獄、というには少し違う

 

じゃあ、ここは

 

「貴女は知らなくていい、貴公は知るべき」

 

不意に声がした

振り返ると、見たことの無い緑髪の女が居た

 

空中に浮かび、きっちりと背を伸ばして棒で口を隠した女

 

その特徴からある答えへと繋ぐ

 

「…閻魔様?」

 

「そう、四季映姫・ヤマザナドゥ

 ヤマザドゥじゃなくてヤマザナドゥです

 作者含め色んな人から言われるんですよねぇ」

 

はぁとため息をつきながら映姫は言う

椛は何がなんだか分からなかった

だが、とりあえず大剣の握る力を強める

 

「意味の無いことだ、とりあえずなんて意味の無いことです

 貴女の知りたい事はここが何処か、それだけだ」

 

彼女は目を細めてそういった

やはり閻魔、この方の前でこんなことは意味が無い

 

「何処ですか、ここは」

 

「辺獄ですよ」

 

辺獄

 

それは天国と地獄の間にあるとされている場所

ただ、この幻想郷に天国は無い

 

天界は天国では無く天人の世界だ

 

ならば辺獄は何か?

 

 

 

 

 

悔い改める、場所

 

「厳密には永遠に責め苦を与えられるところです」

 

「…そう、ですか」

 

椛は小さく呟いた

これから、永遠に戦うことになる

眠りなどの急速など一切無い、地獄の戦いが

 

「ですが、貴女にはまだ役目がある」

 

映姫はまたため息をついた

どうやら、彼女自身嫌だったらしい

目がそう語っていた

 

「貴女は確実に黒ですが…彼の願いならば仕方ありません

 あの時の借りをこんな場面で使ってくるとは…」

 

バッと棒をこちらに突きつけた

瞬間、襲い来る岩の嵐

 

盾で防ぐ

 

「無駄です、それは貴女の罪

 防ぐことなど不可能なのですよ」

 

「あぐっ、ああああああああああ!」

 

盾が弾かれる、体が晒される

大剣を持っていた右手がモロに嵐に飲まれる

 

次の瞬間には全てを飲み込まれていた

 

「それを克服するのです、さすれば貴女は戻れるでしょう

 貴女が何を克服するか分かりませんがね」

 

体を赤い光が包み、光る

サッとそれは消えて彼女はどこかに行ってしまった

 

映姫はため息をつく

 

 

そして、くいと体を動かした

 

 

 

 

 

 「…さて、私は彼の方に行きますか、はぁ面倒くさい」

 

 




…underswapを見てそれの東方版が頭に浮かんでしまった
どうしよう、東方逃亡録書きたいのにswap書きたい

アンケートだ!それが良い!


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Unlimited pai

とある室内

辺獄にある特に大きな建物の1つ

 

ここには先程の兵士達が蠢いていた

 

あるものは酒を飲み

あるものは賭事をし

あるものは殴り合い

 

そんな所に、2つの赤い雷が降った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴガンと屋根を貫通し、室内に1つの雷が降る

降った瞬間、弾着地点に墓の様に石が生まれた

 

その根元から鎖が伸び、天井に斜めに突き刺さる

 

鎖の根元から広がった黒い空間からある影が出てきた

 

白い天狗装束は所々黒く染まっている

盾は結晶化したかのように岩が生え、こびり付いている

大剣を持つ右腕は石に侵食され、人型のそれとは思えない

袖もボロボロだ

 

その持つ大剣も、岩がこびり付いて、生えていた

 

黒の染みが付いた顔でぺっと唾を吐く

 

「酷い目にあった…」

 

大剣を持つ手を見て顔を顰めながら立ち上がる

辺りはほかと変わらない施設

だが、窓から見える高さからかなりの高度がある様子だ

 

ここに居ても何も変わらないので移動する事にする

 

 

その前に、敵が現れた

 

銃を持ち、こちらに警告を促そうしているらしい

構えたまま何かを言っているが、よく聞こえない

 

 

 

 

 

瞬間、敵が巨大化する

 

身長はおおよそ2倍

持っていた武器すらも巨大化した

 

そいつは警告したのも忘れて引き金を引いた

 

その人差し指程の弾丸を避け、大剣を振る

巨大化すると何やら凶暴になるらしい

目付きが全く違っていた

 

切り裂いた横腹から臓物をさらけ出しながらそいつは倒れる

 

さて、移動しよう

ここにいても何も変わらないのだ

 

部屋を歩く

 

次の部屋は少し違っていた

小部屋で、ベットが4個程ある

そこの3つに敵が寝ていた

巨大化して、ベットが壊れている

 

特に起こす意味も無い、移動する

 

次の部屋には敵がいた

さっき見たようなデカい奴しかいない

 

大口径なアサルトライフル

人が持つには大きすぎるナイフや刀

 

1人が刀を振り下ろす

それは軽々と地面に突き刺さる

 

避けて、冷や汗が出た

 

「こっちも負けてないッ」

 

盾によるシールドバッシュ

岩がこびり付いたそれは敵の腹を抉る

ここの敵は簡単に制圧出来た

 

大剣の叩きつけ

 

衝撃波で少し敵が怯む

そこを下から上に大剣を切り上げた

 

敵が倒れた隙に銃を取ろうとする

だが、それはあまりに大きく、デカすぎた

多分あっちの大きなナイフが使いやすと思った

 

なので敵の落とした大きなナイフを取り、投げる

 

投げナイフはメイドが1番上手いだろう

だが、当たれば何だっていいのだ

 

「ふ、疲れる」

 

次の部屋に移動する

やけに、うるさい

 

部屋に入ると、男が敵を蹴りあげていた

 

先程の顎が無くなった男だろうか

だが、その顎は椛の腕と同じく岩で補強されている

左腕が椛の右手と同じだ

 

そいつが、こちらを見た

 

「お前はさっきの…」

 

それだけ呟いて彼は敵を殴り飛ばす

どうやら、興味を失ったらしい

軽いジャンプからの回し蹴り

 

敵の顔を陥没させる

 

「…」

 

彼は敵をあらかた蹴散らすとこちらを見た

そして、手を細める

 

「アンタ、椛だろ

 なんでこんな所にいるんだ」

 

「何故私の名前を?何処かで会いましたか?」

 

「いや、頻繁に将棋を…

 …そうか、ここは"そういうところか"」

 

彼は何かに納得した

椛も、その発言である答えにたどり着く

 

「…成程、貴方は違う所から来た者か」

 

「やれ、面倒な

 取り敢えず邪魔をするな、俺は用がある」

 

彼は目に見えて殺気立っていた

彼はそういうとこちらの答えも聞かずに窓から飛び降りた

 

「…さて、私も進みますか」

 

コキと首を捻りながら言う

彼は室外から

 

なら、私は室内を通る事にしよう

 

どうせ、また会うだろうし

 

そう思って室内を進む、進む、進む

 

 

進みながら敵を皆殺しにしていく

こいつらに特に思い入れは無い

さっさと殺して次に行く

 

殺しをしたのは何時か

 

ふと、それが頭に浮かんでしまう

 

道端の蟻を踏んずけた時か?

それとも戦いで人を殺した時か?

 

それとも、生まれた時からか

 

だが、そんなの考えても意味は無い

 

どうせ、忘れるのだから

 

そう思っていると、壁が吹き飛ぶ

 

「…!」

 

それは鬼だった

右手は何かにちぎられ、左手は岩に侵食されている

その侵食は左の顔を覆っており、目は右目しか見えていないようだ

 

その額の二本角も、片方は根元からポッキリ折れていた

 

「…」

 

鬼は軽々と椛を掴む

身長差は2倍以上

 

屈んで室内に入りきれているのだ

 

「離せっ」

 

動かせる右腕で大剣を振るう

動かせる左手で盾を振るう

 

痛みに耐えかねたのか、椛を投げる

 

壁を粉砕して、外に吹き飛ばされた

 

大地を二、三回転がる

誰かにぶつかった

 

「いつつつ…」

 

「…おいおい、なんだってんだ」

 

それは先程の男だった

ナイフと銃を持っている

 

「ちょいと投げられましてね」

 

「何にだ――」

 

2人の前に鬼が躍り出る

そいつはダンと地面を踏みしめ、咆哮する

 

「…面倒事を」

 

「マシな部類でしょうよ」

 

「面倒事押し付けた癖によく言う」

 

2人は得物を構える

一時的な共闘である

 

本来ならば、敵が同じであるが故協力するのだが

2人とも目的が違うため、そう思わなかった

 

鬼が、拳を振るった

 



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封印の剣

鬼の拳を避ける

だが、その衝撃波を避けきれずに少しよろける

 

「クソッタレ、やはり鬼ってのは出鱈目だ」

 

男はそういうと、銃を放つ

鬼は軽く左手で弾く

 

「50口径を防ぎやがる、銃は悪手か」

 

彼はそう完結するとナイフを構える

椛は大剣を構え、少し警告した

 

「鬼に近接戦闘はほぼ自殺行為と言っておきますよ」

 

「ほぼ、だろ。ならその少しの希望でやってやる」

 

そういって彼は近接戦に移行する

ナイフで数回突く

一応、効くには効くらしい

少し鬼が怯んだ

 

そこに追撃として大剣を叩き込む

 

これはナイフよりも効果があったらしい

先程よりも大きくよろめく

 

「今!」

 

「言われなくても」

 

彼は銃を鬼の口にねじ込み、引き金を引く

 

その弾丸は柔らかい口内をぶち抜いた

 

「――!!!」

 

「おいおい、まだ死なないってか」

 

「鬼ですからね、四肢分断させるくらいしないと」

 

リロードをしながら言う彼にそういう

彼はため息をついて戦闘体制に戻る

 

鬼が、歪む

 

正確には鬼の顔と右肩だ

 

「っ」

 

醜い音が耳を貫く

グチャリ、ぐちゃり、グチャりと

酷く、ヌメって水のような音が響いた

 

それが、聞こえなくなる頃には、鬼は酷い姿になっていた

 

顔はぶち抜かれた口を中心に爆発したかのように岩がひろがっている

側頭部から昆虫の足のような物がカタカタと動いていた

目は人のそれでなく、百を超える程ある

右肩からは3つの腕が新たに生え、各々が蠢いていた

 

 

「…うわ」

 

「やめてね」

 

生理的嫌悪が凄まじい

集合体恐怖症、それを持つ者絶殺マンだ

いやなんというか、それでなくても引く

 

ここはいつからフロムの世界になったというのか

多分こいつは廃都か病み村に居る奴だ、間違いない

 

もしくは人間性を暴走させたか

 

「早めに終わらせよう」

 

「そうですね」

 

大剣を構える

相手は腕を振る

両腕の長さは違っており、左手が長い

 

今回振ったのは左手だ

薙ぎ払うように腕を振る

2人とも吹き飛ばそうとしているらしい

 

「早めに終わらせたいんで…ねッ!」

 

「――――!!!」

 

左腕を大剣で叩き切る

岩に覆われたそれは簡単に切断された

 

反撃か、右腕の1本で殴ろうとする

 

「気持ち悪い!」

 

男が腕の1本を切り上げる

人間のそれと思えない威力でそれを蹴りちぎった

 

「最後のトドメじゃオラァ!」

 

懐に入り込み、正拳突き

それは寸分狂うこと無く鬼の心臓を掴んだ

 

 

「―――!!―!!」

 

「黙って…死ねッ!」

 

椛が大剣で首を飛ばす

頭は簡単に、浮島から落ちていった

 

男は鬼から心臓を引きちぎり、握りつぶす

 

男が血にまみれる

 

鬼の体が地に伏す

 

「…いっちょ上がり」

 

「…貴方の名前は」

 

パンパンと手の埃を払い、タバコを吸い始めた彼に聞いた

彼はふぅと一服したのちこう言った

 

 

 

 

 

「気桐霊覇、コードネーム・デイモス

 アンタとは奇妙な縁があるようだな」

 

「犬走椛、コードネーム…狼、ですかね

 本当に奇妙な縁があるようで」

 

私がそういった瞬間、何かが私を掴む

 

「ッ!?」

 

「おお、先に脱出とは運の良い奴め」

 

それが聞こえた瞬間、何かに引き摺り込まれていった

見えたのは彼の飄々とした目だけだった

 

 

 

 

 

 

 

暗い

 

暗い

 

暗い

 

黒く、光のない空間

 

その中心にある物があった

 

刀だ

 

父が持っていた曰く付きの黒刀

 

あれは確か…

 

その刀の柄に触れた瞬間、術の記憶がなだれ込んでくる

封印術とは何か、何が所以か、何が始まりか

 

濁流に飲まれながら、記憶を刻む

 

意識は常に踏ん張り、失わない

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、私は封印術を得たのだった

 

 

 

 

「――――!」

 

立ち上がる

一瞬の出来事だったような気がした

大剣を持つ手を見て、盾を見て、安心した

そこには岩に侵食された腕と盾などどこにも無い

 

「…くぅ!」

 

ただ、霊夢が苦戦しているというのが分かった

それだけで、理由は十分だ

 

戦う理由を見つけるのは簡単である

 

「――」

 

大剣を構え、突撃

霊夢を突き刺そうとする無数の枝を切り落とす

 

「待たせたな」

 

「遅過ぎるわ!もうちょっと早く来なさい!」

 

「ちょっと面倒事が重なったんですよ!」

 

グルンと大剣を回し、西行妖に向き合う

桜は相変わらず死を振りまき、全てを殺そうとしている

えいえい、おめーは死しか振り撒くことしか出来ねーのか

 

盾で枝を弾きながら懐に潜り込む

そのまま枝元ごと切り裂く

 

悲鳴

 

桜が、悲鳴を上げる

沢山の死を飲み込んだこの桜は感情を宿したのか

 

だが、そんなのは2人を止める原因にもなりやしない

 

「霊符・夢想封印」

 

七つの虹色に光る玉が展開される

それは霊夢を守るように回り、敵の攻撃を受け付けない

 

その間に、椛は構える

 

「――」

 

太古の封印術

 

かつて、彼の親友である人間が振るったソレを大剣に宿す

神降ろしでは無い、別の術

 

博麗の七支刀

 

今の言葉では分からない呪文を唱える

大剣は紅い七つの枝を生やす

 

「――!」

 

それを思い切り、桜に突き立てた

 

 

桜の最後の咆哮が、冥界を穿った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西行妖は桜を舞わす

死は取り除かれ、ただ、封印がされるだけとなった

 

だが、封印が解ければ冥界(幻想郷)に厄災が降り注ぐだろう

 

「疲れた、私は帰るわ」

 

「そうですか、でも休めないと思いますよ」

 

「そ、知らないわ」

 

霊夢はそう言って飛んで行った

椛は深い溜息をついた

 

「どうしたの?」

 

「幽々子さん、貴女も気付いているでしょう」

 

「あら、これの事かしら」

 

幽々子がスっと手を伸ばす

その指先から、青い薄い煙が上がっていた

 

椛の手も、いや、体全体からそれは上がっていた

 

椛の伸ばした手に反魂蝶が舞い降りる

 

魂の尊さ、輝きに寄るそれを見ながら椛は呟く

 

「私が、やらなければならないのか」

 

「蛙の子は蛙、それは変わらない、とでもいいたいのかしら」

 

「そういうことでは?

 それにしても疲れました、帰らしてもらいますよ」

 

そういって、サッと椛は帰って行った

残るのは、幽々子と、彼女の言葉だけ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…憐れだわ、炎に向かう蛾のようね」




今では分からないコトバが分かったあなたは古い人です


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蒼い狼
現世の


「霊夢…もとい、この場に集まった者達に言うわ」

 

彼女達はとある場所に集まっていた

幻想郷の何処にあるかも分からない不思議な場所

妖怪の賢者が住むというそこは簡単に入る事は出来ない

 

――マヨヒガ

 

そこは幻想郷で最も重要な事が話し合われる場である

様々な代表が集い、全てを決めていく

 

その場に、少女達が集まっていた

 

博麗巫女、博麗霊夢

 

普通の魔法使い、霧雨魔理沙

 

守矢の現代神、東風谷早苗

 

冥界の剣士、魂魄妖夢

 

――そして、隻眼天狗の娘、犬走椛

 

その5人に紫はある事を依頼した

扇子で、口元を隠しながら

 

「…斬鬼の抹殺、それを依頼する」

 

「…どういうこと」

 

霊夢が訳も分からない様子で言う

それは他三人も同じだった

 

ただ、椛は静かに目を閉じて聞いていた

 

「文字通りよ、彼の抹殺

 今幻想郷で起きている事は知っているでしょう」

 

「…人妖問わず、消滅事件」

 

至る所で人と妖が粒子になって消滅する

それは特に目的もなく、防ぎようの無い事象

 

「あれを斬鬼さんが?」

 

妖夢がそう言うと、彼女はこくりと頷いた

 

「そう、過去の怨念か何か知らないけど」

 

「…あれを殺れ、というのか?」

 

魔理沙が帽子の鍔を抑えながらそう言った

生ける伝説と言うに相応しい実力

 

弾幕ごっこについては普通に風見幽香の強化版

 

彼女自身も勝てないと理解している

この幻想郷において誰よりも先に生まれた男

 

 

 

 

 

 

そして先程から目を静かに瞑った椛の父

 

「殺るしか無いわ、対話は不可と思った方がいい」

 

「でも、やる気出ないですよ…」

 

妖夢が項垂れる

勝てる自信が無いのだろう

 

なぜなら、稽古でも勝ったことがないから

 

今まで全敗しており、殆ど殺されかけた

 

それを実践でされたら?

 

気付かぬ間に首チョンパだろう

 

「なら、手を掲げてみなさい」

 

紫は事なげもなく、そう言った

 

「一体何が…」

 

はぁとため息をついた霊夢が、目を見開いたまま固まる

他の三人も異常に気がついたらしい

 

「あの、この煙は」

 

「早苗、アンタの思っている通りだと思うわ」

 

それは、波動だった

厳密に言えば身体…その"人物自身の元"が霧散している

波動はその持ち主の色であり、形である

身体から精神を生成し、死ぬまで吐き続ける

 

それが"急に"無くなればどうなるか?

 

その人物は粒子となって消滅するのである

 

だが、急に無くなることなぞ絶対に無い

 

そう、操りでもされなければ――

 

「…貴方達も死にたく無ければ、依頼を受ける事ね」

 

「分かったわ、殺ればいいんでしょう」

 

「スペルカードルールの通用しない男、か

 何故だか興奮してきたな」

 

「…師と言える斬鬼さんを殺すのは気が引けますが…」

 

三人は引きの意志はあれど、殺すしかないと確信した

だが、それはこの三人

 

 

 

 

 

 

椛は

 

 

事なげもなく

 

 

「帰ります」

 

そう言って、サッと立ち上がった

 

「ちょっと待ちなさい」

 

それを霊夢が大幣を構えながら言う

早苗も大幣を構え、妖夢は居合いの体制に入っていた

椛はそれを見ること無く大剣を振る

 

それはたった一振

 

だが、侮れるそれでは無かった

 

早苗と霊夢の大幣は真ん中から真っ二つに斬れる

妖夢の構えていた刀はベルトが斬られ、自重で落下する

持ち手を持っていたが、鞘は添えていただけらしい

紫の扇子はスパンと斬れた

 

いきなり攻撃されたことに憤り、彼女を睨む

 

「…ッ、いきなり何よ――」

 

だが、それは振り返った彼女の目と顔が止めた

 

感情を全て削ぎ落とした、真顔というソレ

もし写真で撮られたならば生きた者とは思えない

目は深淵の深い黒に染まり、何も写す事は無い

 

「貴女方に"アレ"は殺せない

 そもそも、その前座で死ぬ事でしょうね」

 

「前座!?何よそれ、そんなの居るはず…」

 

「居るのよ、居るの、居てしまうの」

 

紫が、感情を無くした瞳でそういう

 

「"彼女"からの伝言です

 "人間にこれは解決出来ない、これは異変では無いのだから"…だ、そうです」

 

それだけ告げて、椛は何処かに飛んで行った

それを三人はただ見送るだけだった

 

 

時は少し戻りて、妖怪の山

とある会議所にて、話し合いがされていた

 

「斬鬼が裏切ったとなると、処罰は?」

 

「そもそも処罰が出来るかも怪しい」

 

そんな、意味の無い会話ばかりが続けられていた

 

「天魔、多分これ終わらないわ」

 

「だろうな、困ったぞ…」

 

そこで、1人、真ん中に歩み出た者が居た

ゆっくり、ゆっくり、1歩1歩を確実に歩む

 

その流れも水のような動作を持つ人物

 

――紅白舞

 

今回の事件の首謀者の――妻

はっきり言えば、彼女も罪に問われることとなる

そんな中、彼女は歩み出て、こう言った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「面倒なので、こうしますね」

 

瞬間、バッと扇子を広げて回転する

びちゃびちゃッと辺りに舞う血飛沫

それはやけにゆっくりで、水のように直ぐに落ちない

 

その中で、くるりくるりと、彼女は舞っていた

 

「…本性現したな」

 

「どうでしょう、そうでしょう?貴女には分からない」

 

「ハァッ!」

 

文が風を操り、切り刻んとする

室内で風をゴウと吹かせれば建物は吹き飛ぶだろう

だが、彼女は風を操る事が出来る

それにより、目標に殆ど確実に当てられる

 

…だが、今回は相手が悪かったのだろう

 

「――ハッ」

 

見惚れる様な舞

だが、文からすれば風が己の制御下を離れて自立しているようにしか…

 

そして、天魔と文に突きつける

 

「天月ッ――アグッ」

 

「グワッ!」

 

2人の胸に正確に突き刺さる風の槍

それは2人が倒れる時に霧散する

 

そして、舞は生き残りの1人に告げた

 

深淵の様な暗い瞳をして、舞を見る彼女に

 

 

 

 

 

「さぁ、貴女に彼を殺せますか?」

 

「――…」

 

彼女は何も答えなかった

ただ正座して、身動ぎせずに舞を見ていた

舞はクスリと笑い、どこかに消える

 

椛は、いつまでも、異常を感じた番人が来るまで動かなかった

 

 



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博麗神社の上

ふと、空を見上げた

 

蒼かった、ただひたすらに蒼かった

 

雨雲が降る雲すら無く、ただ蒼の空が広がっていた

 

晴天、快晴

 

今の空を言うならばまさにそれだろう

これ程雲のない空は初めてだった

やはり、波動が空に向かっていくのだろうか

それぞれが、雲を消していくのか

 

もはや戻れる道は無い

 

友は全て裏切った

今や友と呼べる者は全て敵だ

 

部下も居ない、四面楚歌

 

だが、ここで手を上げる訳にもいかない

――どちみちにしろこうなるのは変わらないのだから

 

 

『何処に斬鬼は居るのよ』

 

『博麗神社の後ろ、そこの封印を解きなさい

 そうすれば居場所は分かるわよ』

 

「…これ、かしら」

 

会話を思い出しながら、博麗神社の裏を探す

その後ろには小さな祠があるだけで、他は何も無い

もとより、この神社は山頂にあるのだ

 

もしかして、冥界の様に幽玄結界でもあるのだろうか

 

「どうするんですか?コレ」

 

「早苗さん、私に聞かれても分かりません」

 

「取り敢えず触れてみるか…」

 

魔理沙は世の中の三大禁忌、取り敢えず触れるを開始する

ちなみにこの魔法使い、触れるなと言えば触れる

そしてやるなと言われたらやる魔法使いである

 

祠はガラガラと簡単に崩れ落ちる

ただ、触れただけなのに

 

「…あら」

 

「これやらかしてません?」

 

「ま、まあ問題は――」

 

祠は元の姿を無くした

それに応呼するように、目の前が…"山が大きくなる"

 

「何これ!?」

 

「や、山が…!」

 

否、"元に戻った"

博麗神社は山の中腹に位置していたのだ

山は幻影で半分隠されていた

霊夢の住んでいた神社が山頂にあるように見えていただけだった

山はグワンと少し歪んで元の姿に戻る

 

妖怪の山より、少し低い程度の大山

 

祠があった場所には上に続く道が続いていた

この博麗神社に行くまでによく見る階段が

 

「…行きますか」

 

「そうね、行くしかないわ」

 

「緊張してきたぜ…」

 

「…大丈夫、諏訪子様、神奈子様…」

 

4人は、空を駆けた

 

その、山頂にある古い神社を目指して

 

 

古き神

 

己は誰かからそう言われた

妖怪の中でも一番古きに生まれ、今を生きる妖怪

そして、ある所から軍神と崇められる妖怪

戦士としての腕は優秀で、頭も回る

 

天照が自ら神の名を与えようとした者

 

そんな英雄のようなものでは無いと己は思っている

 

己はただの"白狼天狗"なのだ

 

全ては努力

人生の殆どを努力に振った、それだけだった

生まれた時は、弱かった

成長して、強くなって行った

 

勝てない物には努力を

 

そうして強くなって行った

 

何時からだろう

 

こうして"隻眼天狗"を名乗ったのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嗚呼、"靈夢"

 

こんな俺を、許してくれ

 

 

 

 

 

山を飛んでいく

その山は妖怪の山に似ていた

所々岩肌が見え、山頂は木が少ない

山頂の木があるのはこの階段の端と山頂の神社の周り

だが、この山には神はどこにも居ない

それどころか天狗などの妖怪も一切住まない山だった

 

花が咲いている

どこもかしかも、花が

 

さらさらと揺れ動く花々

飛んでいっても、何も来ない

妖怪も人間も居ない

 

先程から見えるのは鳥や猪、ふわふわと舞う蝶

 

それ以外の気配は何も、無かった

 

何も――

 

「早苗ッ!」

 

「――っえ?」

 

 

ヒュオンと軽快な音がして、ドスと後から聞こえてくる

霊夢が警告したのも遅く、早苗は腹に大矢を生やしながら落ちていった

 

「な、なんだ…!」

 

「妖夢!アンタは彼女を永遠亭に連れていきなさい!」

 

「わ、分かりました」

 

そう言っていると、ヒュオンと軽快な音がまたした

そして、身長をゆうに超える大矢が飛んでくる

それを避けてその発射している者の所へ飛んでいく

 

その大矢はとある場所から放たれていた

 

近づくにつれ、放たれる頻度は少なくなり、それが見えると完全に無くなった

 

山の山頂から少し下にある遺跡の様な広場

そこはまるで祭祀場のようだった

真ん中に円状の石畳があり、その三角に溶けたかのような柱

 

そしてまた溶けたような柱があるという感じだ

 

外で言うならば、爆風で溶けたようなストーンヘンジ

 

その真ん中には岩があった

腰を降ろせる位のサイズの岩が

 

そして、そこにはある人物が腰掛けていた

 

片足を伸ばし、反対は曲げている

右手は曲げた足に乗せ、また手には反魂蝶が羽を動かしていた

その左手には人をゆうに超えるサイズの大弓

 

服装は巫女服を少し変えた白服

腋は肌着で見えにくく、だが臍は丸出し

そこ袴の紅葉模様が何故だか綺麗に見えた

 

「舞、アンタ」

 

「こんにちは、これがゴーの竜狩り、でしたか」

 

彼女は反魂蝶から目線を霊夢に向けた

 

「ゴーって誰よ」

 

「古い人ですよ、天照が生まれる前、火の時代

 まぁ、今じゃそれはあまり分かったものでは無いですが」

 

そして、彼女はこの遺跡を見渡した

 

「この遺跡も元は最初の火の炉、大王の墓

 と、いうよりこれを知っている者は少ないでしょうし

 というかコレ(この作品)に全く関係無いですから…」

 

そういって、彼女は岩から降りる

大弓(ゴーの大弓)をその岩に添える

 

「貴女達が目指しているのはこの山頂でしょう」

 

「そうよ、斬鬼を――殺すの」

 

「あまり殺しはしたくないがな…」

 

「ふむ、抹殺と来ましたか自作自演なものを」

 

彼女はそう嗤うと扇子をゆっくりと引き抜く

目の前に居る女性は居るように思えなかった

 

「まぁ、ここで貴女達を止めるのも私の役目です」

 

バッと扇子を開き、構える

その気配は死を濃厚に纏い、殺気を振りまいていた

 

霊夢は大幣を右に構え、左に退魔針を持つ

 

魔理沙は八卦炉に力を加えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、舞姫の踊りで踊り死ぬがいい」

 

2人を睨みながら彼女はそう言ったのだった



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舞姫の踊り

――紅白舞

 

霊夢達は彼女についてあまり知らない

宴会の時、いきなり出てきたのが印象に残っている

彼女の性格はかなりゆったりとしている、だろうか

だが、時に裏のあるような言葉を突きつけてくる事もある

 

霊夢達は幽々子と紫を組み合わせた様な妖怪だと思っていた

 

自分達を惑わす、困惑させる言葉遊び

あの紫のような胡散臭いニヤとした笑顔

 

扇子で口元を隠すのもよく似ている

 

だが、その実力は上記の2人とは違う

有り余った時間を鍛錬にぶち込んだソレは達人のソレに値する

伝説の妻と納得出来る強さを誇っており、強大

 

その戦法は全て、舞の様だった

 

彼女は古くは舞姫と呼ばれていたそうだ

その舞は行ける者全てを魅力する

 

舞うようなそれは目で追うのは困難に等しい

 

なぜなら、それに"魅力"されるから

 

二振りの扇子を用いた"斬撃"はいっそ武舞の様で――

それに魅入っている内に切り刻まれる

扇子は見れば逸品と分かる代物

それに彼女が妖力で武器としている

 

その二振りの名前はある夫婦の名前らしい

 

「――はぁっ」

 

そして今、彼女は舞っていた

くるりくるりと回り、廻り、回り

 

魔理沙と霊夢の針と魔弾の嵐をふわりふわりと躱す

ただ舞っているように見えて、全て計算済み

 

霊夢はだだ撃ちは悪手として札を構えた

 

「霊符・夢想封印」

 

スペルカードを展開

とはいえそれは封印効果、もとい殺傷力のあるものである

躱されるのなら追尾弾を放つまで

 

「甘い」

 

だがそれは簡単に扇子によって弾かれる

むしろ弾かれたソレは放った霊夢に向かった

 

「出鱈目ね」

 

それを大幣で蒸散させる

霊夢は針を塊で投げる

 

「破ッ」

 

舞は力強く地面を踏み締めた

すると地面が隆起し、針を阻む

 

「何でもありだな…なら!」

 

八卦炉を構える

彼女が放つのは魔理沙の十八番

 

恋符・マスタースパーク

 

「いつもよりパワー増し増しだぜ!」

 

その言葉の通り、魔力がいつもの数倍高い

――とはいえいつも通りの直線ビームだ

 

その単純さも変わりないのだ

 

「はい邪魔」

 

「はっ!?」

 

それを扇子で屈折させる

ビーム、というのは光とも言われている

今回のそれは魔力の伴った物理的な物だ

 

とはいえ斜めの物にぶつかれば曲がるのは世の摂理

 

マスタースパークもまた、それに含まれていた

 

「こういうのを常識にするのですよ」

 

「アンタが一番非常識だよ!」

 

魔理沙の言う通りである

こんな技術を持つ者が常識である筈が無い

何奴も此奴も変人みたいな奴らだ

 

「はいはい、死ぬ程聞いてきましたよそんなの」

 

そう言いながら扇子を勢いよく振る

彼女や、その夫からすれば死ぬ程聞く単語である

それをよく理解しているからこそ、軽く流す

 

振られた扇子は風を纏い、切れ味を上げる

先程から避け続けている弾幕はそれらに全て斬られる

武舞、というより艶やかな舞

本人はもはや遊びのような感覚で舞っているのだろう

風がぐるりぐるりと扇子に纏われる

能力を使用し、風力を高めているのだ

 

そして、ひとしきり、舞終えると

 

「そこ」

 

「ぎっ」

 

上から下に扇子を振り下ろす

纏われた風はカマイタチとなり、飛ぶ

音速のそれは魔理沙の胸にバツ印の斬傷を生ませた

 

「げほっ…」

 

皮膚だけでなく内蔵も逝ったのだろう、口からどろりと血が出る

膝をつきかけた魔理沙は、膝をつかない

 

「まだ倒れるかよ…!」

 

八卦炉を構える

常人では倒れるソレを耐える

今この瞬間も痺れ、刺される様な痛みが全身を流れている

そんな痛みをも忘れて八卦炉の魔力を上げる

 

そんな彼女に舞はため息をついた

 

「さっさと諦めればいいものを、馬鹿者め」

 

ふわりと一回転する

風が強い

びゅうびゅうと先程から強くなって行っている

台風の時より更に強い、木がガタガタと揺れている

 

その扇子は神風に軋む事も無い

 

片方は激しい炎の意匠が施された黒白の扇

 

片方は美しい紅葉模様の意匠が施された紅白の扇

 

「アンタ、風を操ってんの?」

 

「そうとも言えましょう」

 

彼女の能力は知っている

効果を高める程度の能力、と阿求のソレにあった

ただそれだけか、と鼻で笑いたいところである

 

本当に、ただそれだけならどれだけ有難いか

 

効果を高める、というのは文字通りの事ではある

宴会の時ただの酒が絶品に変わったように、だ

それは戦闘面でも遺憾無く発揮される

 

刀を持ち、効果を高めれば全てを切り裂く神刀と化し

 

弓を持ち、効果を高めれば全てを射抜く神弓と化す

 

彼女がただ舞っても、油断できることではない

 

ほら、この瞬間も――

 

彼女が扇子を振るい風を起こす

その風はどんどん高めていき、大風へと化す

 

それは際限なく巨大化していき

 

「潰せ」

 

風の大槌として魔理沙を叩き潰した



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実力が無い

「…死ぬって、言ったのにね」

 

「退く所で退かないのが悪いのですよ」

 

風の大槌で潰された場所には血の池が広がっていた

血肉は塵も無く、また骨も何処にも残っていない

 

だが、舞はとある所に目を向けた

 

「まぁ、貴女がこんなに早く来るとは思いませんでしたが」

 

「…」

 

そこにいるのは片手で楼観剣を構える妖夢

片手には既に意識の無い魔理沙が担がれている

 

「さ、どうします?

 逃げるも良し、手当をして応戦するのも良し」

 

「その必要はありません」

 

妖夢は魔理沙にぺたりと札を貼る

すると陣が広がり、魔理沙は何処かに転送された

その術は古い時に見たものだった

 

「ふむ、彼女も敵ですか」

 

あの薬師も敵に回ったらしい

恐らく早苗を連れていった時、その札を渡したのだろう

それは次に倒れる者が居ると確信したと言うことだ

 

そしてその札はちらりと、二つ、見えた

 

妖夢は片方でもう1つの刀をゆっくり引き抜く

 

―――白楼剣

 

魂魄家の家宝と呼ばれる名刀であり、当主に必ず伝わる物

その刃は太古の武人が鍛えたとされ、砕ける事は無い

さらにその刃には迷いを断ち切るという効果がある

 

故に幽霊である舞には効果的なのだ

 

迷いを持ち、現世に留まる(幽霊)には

 

「ほう、白楼剣ですか

 確かにいい判断でしょう、来なさい」

 

「―――シイッ!」

 

音速

ブレた姿が後に残り、妖夢は楼観剣で刺突する

かなり長いそれはとある武人の刀、物干し竿の様だった

その長さに比例して重さ、てこの原理でさらに重くなっている筈

 

破壊力は言うまでも無い

 

「ふん」

 

当たれば、の話だが

舞は無駄の無い動きで扇子を楼観剣に当てる

扇子によって切っ先が移動していく

 

(パリィ!何もしなかったら心臓をやられる!)

 

舞の脇腹に行った楼観剣の刃を舞に向け、斬る

力を入れたそれは彼女を真っ二つにするはずだった

 

「よっと」

 

「なっ」

 

舞は刃に手を置き、そのまま力を入れて回転飛びする

その間も刃は動いている上、普通体重が刀の先にかかれば落ちてしまうだろう

 

だが、彼女はやってのけた

 

恐らく遠心力で重みを上にし、若干軽くなる

その一瞬のうちに楼観剣を越える

 

技量が凄まじい

妖夢も、再現出来るか分からない技

 

「驚いている場合ですか」

 

「グッ!?」

 

脇腹に痛み

閉じた扇子で思い切り突き刺されたらしい

腹に足が置かれる、そのまま力が入る

 

「ぐえ」

 

「ふん」

 

余程深くまで入れていたのか、足を使わないと取れなかったらしい

彼女の片手を見るとなるほど、手首辺りまでが血塗れだ

 

「ごほっ」

 

「選手交代ね」

 

そこで大幣が舞を襲った

それを後ろに回転して避ける

後転、足と手を伸ばし、スラリと水のように

 

「危ないですねぇ、もう少し余裕を持って」

 

「別に要らないわ、さっさとこの世から出ていきなさい」

 

「もう出てますよ、かなり最近に」

 

飛んできた札を避ける

その間に霊夢は懐に入り込み、大幣を振る

それを舞は掴み、離さなかった

霊力の纏われたそれは恐らく舞に火傷のような痛みを味あわせている事だろう

 

(動かない!コイツ離す気が無い!?)

 

どれだけ引っ張ろうとも、大幣は奪い返せない

舞はガッチリと掴み、離そうともしなかった

 

その拮抗していた時

 

「今っ」

 

「おっとぉ」

 

斬撃が舞を細切れにしようとする

それをおどけたように彼女は避ける

 

「あらあら、彼女の薬ってそんなに速攻だったのね」

 

「おかげで前線復帰が早くなりましたよ」

 

脇腹に軽く包帯を巻いて応急処置をした妖夢が立ちはだかる

その横に霊夢が歩み寄り、針と大幣を構える

 

「永琳に少し協力して貰ったのよ、あんたら面倒だからね」

 

「死ねば楽に慣れたかもしれませんよ、半人から完全に死人、あ、もう半分死んでましたか」

 

「一人前になるにはまず生きていなければ、まだ死ぬわけにはいかない!」

 

「さっさと終わらせる!」

 

先に妖夢が攻撃する

後ろから追尾性のある札で援護しながら、時に攻守交代する

 

斬撃、楼観剣の長さを生かして扇子の届かないところから斬る

懐に入り込まれた時には白楼剣を使い、追い払う

どうやら力が効くらしく、かなり苦しそうな顔をしていた

 

そして、動きが少し鈍った時が交代の合図だ

 

妖夢がさっと引き、霊夢が大幣を叩きつける

舞がそれをよけ、叩き付けられた場所からの衝撃波も避ける

その避けたところに妖夢の半霊が弾幕を放つ

無論殺傷力のあるそれは当たれば一溜りもない

 

性質が同じ幽霊なら尚更だ

 

そして彼女は少し隙を晒した

 

その隙は霊夢が懐に入り込むには十分だった

 

「終わりよッ!」

 

「ぐっ」

 

ありったけの霊力を込めた大幣

それを思い切り腹に深く突き刺す

彼女は腹筋で大幣を抜かせることなく、攻撃に移ろうとする

 

だが、その行動こそが

 

その抜かせない事こそが狙いだった

 

後ろから短い刃が襲いかかる

それは彼女の宝刀、彼女の家宝

 

或いは、亡霊を消す為の最後の手段

 

「ッ!」

 

舞はそれを避ける為に体を動かそうとする

 

だが体は動かない

 

「させないわよ!」

 

霊夢は大幣をがっちりと支えた

その手は離れることなく、体幹は揺れる事すらない

引き抜こうにも腹筋が力を入れれば腹筋が締まる

 

そして、どうにも動けないまま、白楼剣が背中に突き刺さる

 

「うぐ」

 

決定打のソレを受け、舞は嘔吐く

持っていた扇子がぽとりと地面に落ちる

霊夢と妖夢は獲物から手を離し、二三歩下がる

 

そして、それを見ていた

 

舞は腹と背中に攻撃を受け、動かなかった

腹に刺さった大幣からだらりと手が降りる

 

「…はは」

 

乾いた笑い声が聞こえた

 

「諦めたかしら?」

 

「いいえ全然」

 

「「―――え」」

 

片手で大幣を軽々と抜き、背中の白楼剣も片手で抜く

まるで苦しんでいる様子も無く、軽々とそれを振る

 

霊夢に向け、大幣の連撃突き

腕、足、胸と様々な所を突き、最後に脇腹に大幣を突き刺す

 

「ぐががっ」

 

白楼剣で妖夢を斬る

右腕を切り飛ばし、楼観剣を使いにくくさせる

半人前の腕が更に鈍れば、舞に勝てるはずも無い

 

彼女の胸に白楼剣が突き立てられる

 

「あがっ」

 

半霊の彼女にはかなり効くらしい

妖夢が蹲り、苦しそうに悶える

半人故に即成仏はないものの、このままだと死に至るだろう

 

「ふむ、やはり人間には荷が重い

 というよりこれは貴女達に向けたものじゃない、"彼女の為だ"」

 

妖夢は這いずり、楼観剣と右腕を回収する

そして重症の霊夢と己に札を付ける

 

ふると、2人がサァァと粒子になって行く

 

その様は死んでいくかのようだった

波動が急に無くなり、死んでいくかのような

 

「ふふふ、もう二度と喧嘩を売ることが無いように、ね」

 

「この…覚え…とき、なさい」

 

霊夢が舞を睨む

彼女は何処吹く風で、全く気にしていなかった

 

舞は彼女達が完全に消えると、中心の岩に座り込む

 

そして、次の者を待った

 



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HALO

「「「…」」」

 

永遠亭のとある病室

そこでは4人の人物が頭を抱えてたり、悩んでいた

 

うち一人は腹に大矢を受け、意識不明である

 

 

「手酷くやられたわね」

 

4人の一人、霊夢の横の椅子に座る永琳はそういった

霊夢は内蔵損傷はもちろんの事、心臓を掠っていた

ただ救いだったのは纏われた霊力が彼女の物だった事

それは本人を守る為に心臓直撃を避けた

 

魔理沙は心臓に浅いバツ字の傷を負った

それのおかげでろくに動ける筈が無く、寝込んでいた

だが、数時間でポツポツと話せる程度には回復している

すこし、鼻詰まりのような声だ

 

まぁ、永遠に喋れないよりかはマシだろう

 

妖夢は胸に白楼剣を突き立てられた

脇腹も扇子で抉られた傷がある

ただの刀ならばそれほど支障は無い

だが突き立てられたるは迷いを断ち切る白楼剣

 

半分の迷いがある彼女には天敵のようなものだ

 

早苗はこの中で一番の重症者だった

舞が放った大矢は脇腹と内蔵を貫通し、突き抜けなかった

上記三名は霊力や妖力、魔力を利用して治癒能力を上げている

だが、幻想郷に来て一番鍛錬が短かった早苗はそれを十分に使えなかった

 

そもそもこの戦闘に参加するべきでは無かったはずだ

奇跡の力でどうにか出るかもしれないが、如何せん戦闘数が少ない

 

現在も意識不明の重体である

 

「よくもまぁ、彼女に勝てると思ったわね」

 

永琳が嘲笑する

過去の月移住作戦にて彼女の戦闘を見た彼女だから言える事

あの舞姫と言われるに相応しい優雅な扇子の舞

彼と彼女は名前の通りの戦闘をしている

 

斬鬼は荒々しく、鬼神の様な斬撃を扱う

 

舞は妖々しく美しい、踊り子の様な攻撃を扱う

 

後者は相手を弄ぶ事に特化している

舞のように攻撃し、舞って避ける

回避すら優雅に舞う彼女にイライラが募るは必然

 

「なんなのよ、アイツ」

 

「聞きたい?」

 

永琳が答えた訳じゃなかった

いつの間にか本を開いて椅子に座り呼んでいた紫だった

その神出鬼没に驚く事はせず、霊夢は聞く

 

「聞かせて」

 

「分かったわ、まず貴方達が勝てなかった原因ね」

 

ピッと霊夢を扇子で差す

彼女からの最初の質問だった

 

「まず、博麗大結界は誰が作ったと思う?」

 

「初代博麗巫女でしょ、普通に考えて」

 

博麗大結界は文字通り博麗の巫女が作った物だ

境界を操る紫と協力し、作られたと文献にはある

だが、その大多数は殆ど失われたか、倉庫の中だ

 

「じゃ、博麗の力を見出したのは?」

 

「は?貴方じゃないの?」

 

霊夢は首を傾げた

見出した、つまり紫が見つけたということでは無い

これが意味するのはただ一つだけだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

「…斬鬼さん?」

 

妖夢がポツリと呟いた

ぱちぱちと軽い拍手がなる

 

「そう、博麗の力を見出し、博麗巫女を作り上げた存在

 更に言えばその初代と協力し博麗大結界を生み出した英雄」

 

「―――」

 

言葉が出ない

博麗巫女を生み出し、更には博麗大結界を協力して生み出した妖怪

霊夢から言わせれば己の使命を生み出した男

今自分がここに居る意味を作り出した、ということでもある

 

「彼は何故」

 

「それは彼の過去を語った方が早い

 それに、貴方達は知る権利がある、初代博麗巫女を」

 

そして、彼女の口から流れ出るのは古い歴史

彼がまだ幻想郷に居た頃の古い話だった

 

 

一人、また一人倒れた

この試練は自分に向けてのものなのか

成程、彼も手の込んた事をする

 

あの時と同じシチュエーション

 

私が斬鬼で、斬鬼が靈夢だ

 

この悲劇を繰り返すことはない

私の代で全てを終わらせる

 

そう、全てを

 

始まりを拭うのは私だ

 

これを終わらせる

 

重い腰を上げ、私はあの始まりの地へと飛び立った

 

 

「ふーむ、そういう事か」

 

「言った通りだろう?」

 

「正直藍の言う事だから信じて無かったんだが…」

 

「何だとコラ」

 

2人の目線にあるのは力が弱くなった妖怪達

その動きは全盛期とは程遠く、鈍い

人間達は今までと変わりなく、今をすごしている

 

「天狗達も最近活発じゃないんだ」

 

「橙も最近元気が無くてな」

 

原因は勿論ある

それは世界の化学が大幅に進歩したことである

それにより妖怪の大半が自然現象として片付けられた

信じられなくなってきてしまった妖怪は弱くなっていた

 

なぜなら、恐れられないから

 

恐れを糧とする妖怪に生きられる術は無い

 

「斬鬼は、アレは進んでいるのか?」

 

「博麗の力か?」

 

博麗の力

それは結界、封印を得意とする技前である

基本として人間にしか宿らず、そして女に宿りやすい

外の世界を探し、ここを探し

 

その人材を探してきたのだ

 

「いるにはいる」

 

「どこに?」

 

「彼処」

 

ピッと彼は指を指した

それは見ゆる地平線の向こう側とかではなく―――

 

「…人里?」

 

この幻想郷

幻と現の境界のうちにある人里に向いていた

藍は本当に、と言う顔をする

 

「本当だ、あそこの女退魔師がソレだった」

 

「…あの女か?」

 

藍の脳裏にあるのは白銀の刀を振るう女剣士の姿

赤と白の和服を好んで着ているものだ

それは妖怪達に恐怖を植え付ける為とも噂されている

 

「今夜、話をつける気だ」

 

「つける、ということは何回か接触したのか」

 

「既にな、もう日も落ちる」

 

こうしている間にも日は沈む

夜は妖怪の時間と言えど、それほど活性化している訳でもない

 

だが、注意は必要だろう――余程の愚か者でなければ

 

 

 




最近投稿が遅いのはダクソ五週とかしてる訳ではありません

決してオンラインプレイが楽しいとかそういうのではありません


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紅白の退魔師

「ふっ」

 

「ギェエエアアアアアア!」

 

汚らしい声とともに妖怪が倒れる

軽く刀を振り、その血を振り払う

こんな真夜中であってもその白銀の刃はよく見える

 

そして、その紅白の衣装も

 

その特徴的な紫色の髪の毛も

 

「これでも終わりね」

 

そう言って札を仕舞う

だが、その刃先は常に地面を向いていた

 

彼女はゆっくりと後ろを向く

 

「よお」

 

そこには、岩に腰掛ける白狼の姿があった

彼女ははぁと軽い溜息をついた

 

「貴方ですか」

 

「俺さ、何か問題でも?」

 

ニヤニヤと笑いながら彼は言う

彼女はまたこれか、と首を振った

 

「博麗巫女に丁度良いのはお前さんだけだよ」

 

「私には子がいる、2人の幼い子が」

 

「なら神社で育ててればいい、今のように苦しく生活することもない」

 

斬鬼は甘い言葉を這わせる

だが、修羅場を何度も見てきた彼女に意味は無い

 

「嫌、と何回言えばいいの?

 私としては貴方個人は嫌いじゃない、どうして私が使命を」

 

「そんな力を持った時点で恨め、小童」

 

瞬間斬鬼が目の前に"居た"

 

「ッ!」

 

勘を頼りに振られる前に振る

それは斬鬼を斬ることを叶わず、スカす

後ろに少し引き、体制を整える

 

「簡単な遊び、お前が負けたら博麗巫女、勝ったらいつも通り」

 

「…簡単ね、やるしかないわよね」

 

「出来たらな」

 

刀を斬鬼に叩きつける

斬鬼はそれを刀で軽く受け流す

空いている腹に蹴りを入れ、距離を作る

 

おおっと、なんて言っている斬鬼の顔目掛けてパンチ

斬鬼は体を捻って躱し、軽く飛ぶ

そのまま足をグルンと回して、遠心力のついた蹴りを入れる

妖怪の一撃をモロに食らうわけにはいかない

 

基本として、被弾は許されない

 

「ッ」

 

ファサと髪が揺れる

刀の柄を思い切り斬鬼の鴨居にぶち当てる

硬い感覚、腹筋を使ったか

 

手首を捻り、刀を逆手に持つ

そのまま腕を曲げて刃を斬鬼の腹に突き込む

腹筋に少し邪魔され、五センチ程しか刃が入らない

 

「リーチが短いというのにご苦労なこった」

 

力任せに刀を抜き、下がる

彼の言う通り彼女の刀は彼のものより短かい

斬鬼の身長程あるものとは違い、こちらは身長の半分程度

長いと重く、人間の身では使いにくい

 

それに、こちらの方が力を使い易い

 

「私にはコレがやり易い」

 

「そうか、そうかい」

 

刀を振る

リーチが短くとも、反撃と攻撃は出来る

こちらから届かない位置で攻撃されのは癪だが…

 

「そうら」

 

刀の攻撃が激しい

横から縦、斜めから突き

こちらとしては防御に徹するしかない

 

「そうら、そうら!」

 

にやりと斬鬼が笑う

それは嘲笑でも無い、本当の笑顔

彼の胡散臭い笑顔は何度か見た事がある

どうせ本心は違うんだろうな、という笑顔を

 

だが、彼は心から笑っていた

 

今の今まで見たことの無い、本当の笑顔

 

彼は戦いを楽しんでいる

 

 

 

――そして、私も楽しんでいる

 

「ふふふ」

 

「へへへ」

 

不思議と2人から笑いが零れた

嘲笑でも無く、巫山戯たものを見たものでもなく

 

それは心からで

 

両者、似た者同士で、考えることも同じで

 

「小童、名前は」

 

「私はせん靈夢、博麗になるかもしれない女」

 

「俺は紅白斬鬼、お前を博麗にする妖怪」

 

「出来るかしら?」

 

「無理矢理にでもやってやる」

 

刀を構える

やはり、全ては戦いで方がつく

 

特に、戦いを好む者にとっては

 

居合の体制

両者は刀を鞘に仕舞い、その柄と鞘に手をかける

目を瞑り、気配を肌で感じとる

 

風が不意に体をなぶった

 

瞼の上から月光が網膜を刺激する

目の前の霊力が段々と大きくなっていくのを肌で感じる

 

いや、肌でなくとも分かる

 

そのしんとした空間は永遠のように思えた

両者は彫刻の様に動かず、固まったまま

 

 

ふと、風が止んだ

 

 

 

 

 

 

瞬間、刀を振る

 

振ったそれは既に振られ、両者は振った状態で硬直していた

森は何も言わず、風も吹かず、何も起きないと思ったのもつかの間

 

2人は音と光を置いてけぼりにしていた

 

直後に来る2つの銀と音

 

甲高いそれは刀がぶつかりあった音に過ぎない

それで両者が倒れることもまた無い

 

「死に晒せ」

 

「使命を与えてやる」

 

連撃

直ぐに振り返った2人は刀を振る

剣筋は貪欲で、敵を殺すことにしか興味は無い

そこにのみある快楽は、その者にしか分からないからだ

 

紫の髪が揺れる

 

「はっ」

 

この2人の圧倒的な差はほぼ無いに等しい

人間は生ける時間は短いが、技術を磨く

それは人と思えぬものからゴミのようなものまで

 

彼と彼女は技術を磨いた

体力も補い、増やし、力をつけた

 

差なんてどこにもない

 

ただ、たった一つ差を上げるなら

 

 

 

 

男と女ということしか、無いのだ

 

「斬ッ!」

 

「あっ」

 

刀を切り上げ、靈夢の刀を切り飛ばす

名工が作ったものか、真っ二つになることは無かった

 

この世界で、武器を手放すこと

 

その結果はただ1つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

負け―――

 

 

 

 

「小童、いい腕だったぜ」

 

斬鬼は彼女の頭に峰打ちをし、気絶する前にそういった



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博麗巫女

「きゃっきゃっ!」

 

「ふゃーひゃー!」

 

「…ふふ」

 

庭で遊んでいる娘達を縁側から眺める

あれから靈夢は敗北し、博麗の巫女となった

 

儀式らしい儀式もしていない

気絶した合間に、というのは不合理だろう

 

起きた時にはこの神社の中で寝かされていた

辺りを見回すと、左右に娘が眠っていた

その事に安心しながら、気配を探る

 

出てきたのは、九尾だった

 

彼女が言ったのは、博麗巫女の使命

 

 

 

 

 

 

―――幻想郷を守る事

 

それだけ、たったそれだけだった

この世界に仇なす者を殺してしまえば、終わり

任務は終わって、また待機

 

それだけ伝えると、九尾は消えていった

その背中にばーかと書いた札を貼り付けておく

こんなの、別にいいでしょう

 

私はふうと息を吐く

疲れたその心もこの娘達を見ていると癒されていく

 

「あなたも、そう思うのかしら」

 

「そうだな、見ていると荒んだ心が落ち着いていく」

 

横で斬鬼が笑いながら言った

その目は穏やかで、今も尚山に人間を住まわせている統治者の目だった

 

「子が居るのかしら」

 

「妻と娘、良い子供に育ってるよ」

 

あんな戦闘狂でも妻と子供はいるらしい

多分この妖怪に似ている女に違いないだろう

斬鬼と付き合う事が出来るなんて、普通とは思えない

 

その目は父の目であり、子を見守る私と同じ姿に見えた

 

彼は妖怪の山の指導者…と思っている

山には天魔というトップが居るから指導者では無いだろう

ただ、その強さと頭の回転で権限を強くしている

彼が一言言えばその一言が実行されるだろう

 

人間好きであるのが安心出来るところだ

 

人間は1度妖怪の山を去ったが、斬鬼が帰ってきたことにより戻ってきている

人里に居るよりも生活水準が高いからだ

基本飢え死ぬことは無く、懸念は天狗の神隠しくらいか

 

それ以外、恐れることはほとんど無い

 

彼との話は弾む

同じ子を持つものだからかもしれないが、普通に話が合う

今まで里人から腫れ物のような扱いを受けていたが、少しマシになった気がする

 

博麗巫女になってから妖怪退治の依頼が来ることもある

ただ、それ以前に驚いたのが斬鬼の信仰者、山の人里に居る人々がわざわざお参りに来ることだ

 

彼らが言うに、彼はここの神と言われているらしい

いつの間にそんな話が流れたのか知りもしない

 

恐らく斬鬼が毎回ここに飛んでくるからだろう

 

伝説と言われるものが神社に行けば御神体と思われるのは必然だろうか

なので彼はいつの間にやら神力を宿していた

 

「こんな力、使ったこともないな」

 

「神に会ったことはあるでしょ?」

 

「あるにはある、使い方を習った覚えはないがね」

 

手のひらを太陽にかざしながら斬鬼は神力を見る

純白のソレはキレイな模様を宙に描く

今まで神はろくに見たことがない

山には秋の神が居るらしいが見たこともない

 

まぁ、私には関係ない話でしょうけど

 

「あの2人、名前はあるのか?」

 

「あるわ、愛弓と朔月よ」

 

「愛弓と朔月、ね…俺の娘は椛って名前だ」

 

「紅葉でも見てたの?」

 

そう私がいうと彼はここから見える妖怪の山を見る

今は秋であり、紅葉の季節

 

故に美しい、紅葉模様がここからでも容易に見えた

彼はそれをふっと笑い、呟く

 

「…俺が、告白した季節が…秋なんだ」

 

「だから名前を椛にしたと?ベタねぇ」

 

「し、仕方ないだろ!妻もいい名前って言ってくれたし…」

 

「どうやってお付き合いしたのかしら」

 

「…一目惚れ…」

 

それはそうと彼、妻の恋愛話になると別人の様だ

言動が震え、少しハッキリとしない

多分口下手なんだろう、そういう事だろう

 

今まで戦いばっかり頭に詰め込んできたのだ

彼女に一目惚れしたらしい

最初はその感情を理解できなかった

彼は彼なりに彼女に近づいた

 

と、聞いていると彼が話を打ち切る

 

「やめやめ!この話は終わりだ!」

 

「えー、面白かったのに」

 

「お前さんその紫髪全部抜くぞ」

 

「悪いけど、抜くことは出来ないわよ」

 

抜かれる前に抜いてやる

というか私の髪を勝手に抜かないでほしい

 

「女ってのは恋愛話が好きなんだな」

 

彼がうんざりしたように言う

どうやら彼は女に恋愛話されることが多いらしい

まぁ、彼のような男が一目惚れなんて、と言うことだろう

 

ネタ好きの天狗なら尚更か

 

「射命丸とか天月とか…人の事ネタにしやがって…!」

 

「それは良かったわね」

 

誰かと思えば天魔までもがネタにしていた

彼女にとってもネタにしやすいとは、どれだけ単純だったのだろう

というか彼がこんなこと許すなんて…

 

「許してるの?」

 

「んなわけないだろ」

 

若干怒りに満ちた顔で斬鬼は言う

彼自身、バカにされているみたいで嫌みたいだ

だが、彼女達は面白いから止め無いのだろう

彼が無理やり止めさせて無いのを見るに、友人特権だろうか

 

「…娘を見て落ち着こうかね」

 

「妻と伽でもしたらどうかしら」

 

「そこまで破廉恥じゃないぞ」

 

彼はそう言うと飛んで行った

それは直ぐにただの白い点に変わる

 

私はそれを見て、微かに微笑むのだった




余談ですけどアンケートは女嫌いでもしてますヨ


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妖怪

己が生まれたのが何時かは忘れた

こうして飛んでいるときですら考えることがある

いつの間にか、物心があったくらいだ

いつの事か直ぐに思い出せるのに、年齢は定かじゃない

 

「なんて、どうでもいいか」

 

そんなの考えても意味は無い

特に続くことないのだ、今の者も

 

暫くすると、妖怪の山が見えてきた

というより、最初から見えている

 

己の生まれた場所に着地する

その家は崖にあり、崖の上にもある

父から継いだ家でふたつと無い物

 

風が少し吹き、木々を揺らした

 

「お帰りなさい、旦那様」

 

玄関の前に居た妻がニコリと言う

俺はいつも通り、彼女に返す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ただいま

 

 

帰ると、迎えてくれたのは妻のみだった

娘はどうやら仕事に勤しんでいるらしい、帰ってきていない

とはいえ日はもう少しで落ちるので顔くらいは見せてくれるだろう

 

本当は跡継ぎとしたいが、本人が悩んでいるため保留してもらっている

今のところは哨戒の仕事についてもらっている

 

まぁ、親も"白狼天狗"だし別にいいだろう

 

「はい、旦那様…出来たわよ?」

 

「あ、すまん」

 

食卓の上に夕飯が置かれる

3人分だ、彼女が帰ってくるか、分からないのに

ただまぁそこは親としての勘なのだろう

 

…俺は父親だぞ、おい

 

本日の夕食は鮭と味噌汁、ご飯という点綴的な食事だ

特に鮭、お前はどこからやってきた

幻想郷に湖はあっても海は無い

 

多分スキーマから強奪したのだろうな

舞は家族と仲間の事だと、手段を選ばないし

 

と、玄関が開く音がした

 

 

「あ、帰ってきたわね」

 

「マジでか」

 

本当に帰ってきた

すこし遅れてお邪魔しますという声が聞こえてきた

その足音は迷いなくこちらに向かってきて――

 

「お腹空いたー、美味しそう!」

 

娘が、椛が嬉しそうに飛んだ

舞がニコニコ笑いながら彼女を窘める

 

「コラコラ、暴れないの」

 

「はは、元気があって良い奴だ」

 

「今日は文さんと談話したんです、面白かったですよ!」

 

「彼女、この山じゃ1番情報に貪欲だからねぇ」

 

椛はパチンと手を合わせる

その無邪気さに微笑しながら、夫婦共々手を合わせる

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「頂きます」」」

 

その日の夕食は久しぶりに家族で食べれた為、絶品であった

やはりただの和食でもこういう場合は極上と化すものだ

 

 

そう、感じれるのもここまでだった

 

 

それから日年が過ぎたある日、始まった

 

「…あ?どうした」

 

「居ないの、何処にも何処にも、何処にも!」

 

行方不明者が現れた

それは靈夢の娘のうち1人が消えた

 

愛弓と言われた方の娘である

文字通り消えた訳でなく、いつの間にか居なくなっていたのだ

 

おそらくふらりとどこかに行ったのだろう

博麗結界はつい最近できたばかりだ

妖怪達からすれば小娘なぞただの餌

 

この幻想郷には危険な場所しかない

幽香の向日葵畑はまだ良し…この際は良しとして

魔法の森やらなんやらに行ってしまったらろくな事にはならん

 

しかもあんなの、極上の飯に以外なんといえるか

 

早急に探さねば

 

靈夢は目に見えて動揺し、落ち着きを失っていた

 

「探さなきゃ…!妖怪如きに私の娘を…!」

 

「おい!待て…」

 

喋りし言葉は彼女の耳に届かず、彼女は飛翔した

不味い、とても不味いぞ

 

このままでは俺の予想しうる最悪の結末になりかねない

 

彼女の姿は点となり、どこかの森に降りていく

そこにならまだ間に合う

 

スピードを上げろ、上げるんだ

思い切り力を使い、飛翔する

幻想郷は意外と狭いもので、直ぐについた

 

森の中に着陸し、探索する

 

「靈夢!何処にいるんだ?」

 

鬱蒼とした森の中で視界が広いわけがない

日は既にてっぺんを過ぎ、落ちている

木の根草の根掻き分け探していく

 

 

 

 

 

 

見つけた

 

 

見つけてしまった

 

 

「…あぁ」

 

遅かった

目の前にあったのは既に事切れた死体だった

仰向けに倒れ、四肢は丸投げ

その四肢は一部欠損し、指が数本無かった

 

食いちぎられた腹から臓物が溢れる、ちぎれている

 

顔は片側半分が存在しなかった

 

その姿はよく通う博麗神社でよく見たもので

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛弓は、既に死んでいた

 

 

 

 

 

「…靈夢」

 

先程から、異様な音がする

死体の周りをよく見ると、ポツリポツリと血痕がある

 

まさか、そんなはずは

 

その血痕を辿る

 

歩く度音は多くなり、聞きたくない怨嗟の声が大きくなる

 

見たくない、聞きたくない

 

このまま進めば――

 

そう考えているうちに、たどり着いてしまった

 

少し開けた場所の草原

 

 

その、真ん中に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ね!死ね、死ねェェェ!!!」

 

ただひたすら肉塊に拳を振る巫女の姿があった

もはや原型すらとどめてないそれを殴る、殴る

 

ぐちゃ、ぐちゅ、めきゅ、ごきゅり

 

殴れば殴るほど何かが折れ、何かが潰れる

肉片が辺りに飛び散っていて、直ぐにそれが終わったと察せられる

 

ふと、彼女の動きが止まった

 

「お前も…お前もか…!」

 

彼女目にはただ炎が燃え滾っていた

しかしそれは暖かく人を安心させるような生ぬるい物ではなく

 

 

 

 

 

 

 

漆黒の、ドス黒い怨嗟の炎が燃えていた

 

次の瞬間には彼女は呪いに染まりきった黒刀を振っていた

 

ガキン、火花が飛び散る

 

「落ち着け!止まれ!止まるんだ!」

 

「死ね!妖怪なぞ全て死んでしまえばいい!」

 

少しの刀の鍔迫り合い

火花を散らしに散らし、攻撃する

 

斬鬼は彼女の腹を蹴る

彼女は後ろに下がった

 

俺は、彼女に切っ先を向ける

 

「分かった」

 

俺は決心した

こうなったのなら仕方ないと

 

「堕ちた巫女よ、せめてもの救いだ…俺が殺す」

 

「やってみろ…次は無い!」

 

彼女は何処かに消えていった

後に残されたのは肉片と、いつの間にか近くにあった愛弓の遺体

 

斬鬼とそれらを、冷たい風が嬲っていった




博麗の黒刀

かつて初代博麗巫女が振るったとされる刀

元は純白の神聖な刀であったが
娘を殺された怨念により漆黒に染まっている
その本当の姿は刀が砕けるまで見ることは出来ないだろう


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餓狼作戦

話は直ぐに伝わった

"博麗の巫女がただの怨嗟の鬼に堕ちた"

それは人里から地底まで広がり、怯えの声は大きくなるだけだった

それもその筈、靈夢はその紅白の服で妖怪の記憶に刻み込んでいたのだ

 

故に妖怪の被害は小さくなり、強大でも無くなった

 

だからこそ妖怪達は声を上げる

 

博麗の巫女を殺せ

 

怨嗟の鬼を殺せ

 

あんなの、楽園の素敵な巫女じゃない

 

もはや無視できない程のそれはどんどん大きくなっていった

人間も、同じことを叫ぶ

 

いつしか暴走し、人に被害をもたらす

 

そんな爆弾、無くした方が良い

 

何もしないことは出来なかった

ならば、やるしかないのだ

 

「斬鬼、あなたに管理者として命令するわ」

 

友人関係を全て断ち切り、立場として命令する

この楽園に住まう彼は跪いた状態で、聞く

 

「 任務は今代博麗巫女、博麗靈夢の抹殺 」

 

その言葉が、深く身に刻まれる

命令している側で、こんな気持ちなら、命令される側は…

 

心に影を落としながら、言葉を続ける

 

聞いている斬鬼の顔は能面の様で、動きもしない

恐らく心情は様々な物が渦巻いてぐちゃぐちゃになっているのだろう

 

「…俺には、無理だ」

 

無機質な声がした

迷いが少しもない、静かな声で

 

紫は、ため息をついた

 

「無理なんて言わないで、これは幻想郷の為」

 

「俺には無理だ、彼女を殺す事なんて出来ない」

 

「じゃあ、私が殺るわ」

 

斬鬼のとなりから、声がした

その柔らかい声はいつも、隣からした

 

斬鬼は、手で制す

 

「君がやる仕事じゃない」

 

「誰かがやるしかないわ」

 

「だからって、君がやらなくても」

 

「じゃあ、誰がやると言うの?」

 

「…」

 

言葉の投げ合い

それは斬鬼が押し黙る事により、終わりを告げた

舞はスっと立ち上がり、畳を歩む

 

「貴方が、やらなければならないのよ」

 

それだけ告げて、彼女は屋敷から出る

 

残ったのは、斬鬼と八雲家だけで――

 

 

「…ッ!!」

 

斬鬼はワープホールに飛び込んだ

この空間にいるのが嫌だったのだろう

 

こんな所に居たくなかったのだろう

 

 

「…ごめんなさい…」

 

ポツリと呟く

 

こんなことになるなんて…

 

斬鬼が拒否するなんて

 

 

だったら、シナリオを変更するしか…

 

でも、このシナリオは…

 

他に選択肢は…無い

この他にやれることは無いのか

 

どうして、こうしてしまったんだ

 

 

とある岩の上にて、あぐらをかき、目を瞑る

カサカサとなる葉っぱの音が鮮明に聞こえる

スグ後ろで落ちる滝の音が、静かに聞こえる

 

水滴が跳ね、時々己の服を濡らす

 

瞑想というのは心を水平にするのに最適である

冷静な判断ができない時、迷いがある時に、すると良い

その状態が1番冷静で物事を捉えやすいからだ

 

…"リィン"

 

「…お前か」

 

ポツリと斬鬼が呟く

 

それに答えるように、声が聞こえる

 

「当主殿」

 

「やめてくれ、俺はお前にソレを言われる筋合いは無い」

 

女はニヤニヤした―多分している―感じで言う

目はまだ開けなかった

 

少し、時間が経った気がした

彼女はそれ以外と言葉を放ってない

 

斬鬼は、少し苛立ったように言った

 

「何だ、何用だったんだ」

 

「いえ、伝えたい事が」

 

「…早くしてくれ、"部隊"の同期とて、俺は気は長くない」

 

部隊の中で暗器を使用していた彼女

天魔や部隊に都合の悪い人物を消す事だけに命を捧いだ女

 

ふと、目を開けると傘を持った彼女の姿があった

 

和服の、女

着ている和服の下には数えるのも億劫な位の暗器がある

そして、その持っている傘も、仕込み刀である

 

「舞さん…舞殿が、任務を負いました」

 

「…舞」

 

心に波が生じた

彼女が任務を請け負ったか

 

どうして、何故お前が…

 

「当主殿…いや、斬鬼..."貴公"はこれでいいつもりですか?」

 

彼女が機械のような声で言う

やけに無機質で、生気を感じない声

 

「…いい筈が、無いだろ」

 

「貴公、このままだと彼女は…」

 

「死ぬって、いいたいのか」

 

斬鬼は立ち上がり、彼女を睨む

相変わらず、手を前にし、傘を支えに佇んでいる

 

少し、感情を顕にする

 

「お前はアイツの強さを知っている、だから、殺れる…殺れる筈だ…!」

 

「心に迷いがあっても、ですか?」

 

「…、…!」

 

迷いは使命的な傷である

人を迷わせ、太刀筋をおかしくしてしまう

狙いは外れて、ブレて、当たらない

 

そんな状態で、彼女に勝てるのか

 

「…それに、強さは貴公の方が強いでしょう」

 

「…」

 

斬鬼は立ち上がる

ここで、燻っている訳にはいかなかった

 

ここで座っていたら、全てが終わってしまう

 

俺はワープホールを開く

少なからず、この借りは自分にナイフとなって帰ってくるだろう

だが、そんなものなら受け入れようじゃないか

 

俺は、どんなものでも受け入れてやる

 

舞、お前が斃れる前に

 

間に合ってくれ――

 

青い空間をくぐり抜け、出てきた場所で最初に見えたのは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最愛の妻の心臓に、黒刀が突き立てられていたところだった

 

 

 

 

「…不甲斐ない旦那様ね」

 

ポツリと私の口から言葉が漏れた

旦那は彼女を友人として、殺すのを躊躇った

あれを殺さなければこの幻想郷は終わりというのに

 

確かに、良い友人ではあった

 

同じ子持ちで、同じ女として、話が弾んだ

 

ただ、それだけ

 

それだけの、筈なのに

 

 

「私も旦那様と変わりないのかしら」

 

なぜだか、抵抗がある

彼女を殺すのは惜しいと、何かが訴えてくる

 

でも、やらなければならないのだ

 

選択肢は2つしかない

 

 

 

 

 

 

死ぬか、生きるか

 

 

 

 

 

 

誰であろうと後者を選び、生きていく

 

そう、生きていくんだ

 

ふふふ、と乾いた笑いが何故か口から漏れた




この先ギャグがある訳が無い


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元凶というのは直ぐに見つかるもので、無名の丘に居た

春過ぎに鈴蘭が咲き誇る名所であるが、人は殆ど来ない

季節が春なのもあり、真ん中の桜が蕾を開いていた

 

その木の下で、彼女は背中を木に預けていた

 

舞は、その全く動かない死体のような彼女に近づく

 

 

「不思議です」

 

不意に、声がした

それは死体のような彼女から聞こえてきた

顔を上げ、空を見る

 

その顔は恨みが1つも無いような、悲しい顔だった

 

「娘が死んだのに、感情が揺るがない」

 

機械のように言う

怒りの色が無く、悲しみの色も無く

そんなこと、どうでもいいような色が彼女の声にあった

 

「あんなに愛していたのに、なにも、思えない」

 

その目から涙が流れることはない

心は軽く、まるで何にもなかったかのようだ、とも言う

 

「これが、博麗になるということ、だったのですね」

 

幻想郷の守護人になるということ

つまりそれは他人に心を寄せる事が殆ど出来なくなってしまうこと

博麗の大切な人が死んで、怨みで行動されても困る

 

故に、紫は靈夢の境界を操った

 

心の境界を

 

親しい人が死んでも

そして、敵になろうとも、責務を果たせる心に

 

これは恐らく、いつまでも博麗にされていく事だろう

 

全ては、幻想郷の為に

 

「貴方も、似ています」

 

靈夢が、言う

 

「私はただ、利用されている、貴方も、幻想郷の為に」

 

「分かってるわ、私が、幻想郷の為に」

 

私は彼の報復心を湧きたてるだけの妻

彼は恐らく、行動しないだろう

 

でも、直ぐに来る

 

私は、彼に愛されている

それは言葉が無くても分かることで、それが嬉しい

 

だからこそ、悲しいのだ

 

「さぁ」

 

彼女は桜から離れ、刀を抜く

その刃から見える模様は未だに怨みがあるかのように蠢いている

 

だが、彼女にそんな怨念は無い

 

彼女はからっぽなのだ

 

なんにもない、零、Nothing、ゼロ――

 

「終わらせましょう」

 

「行くぞ!」

 

 

彼女との出会いが何時だったか、正確に覚えている

太古の昔、まだ月人が地上で生活していた頃

いまやその文明は月に行った、その前の時代

 

 

僕が、まだ子供だった頃の時代

 

「お父さん、稽古終わりました」

 

「良し、今日はもう自由にしていいぞ」

 

鼻下に白い髭が生えた父が僕の頭を撫でる

それが無性に嬉しくて、目を瞑る

 

「さ、行ってらっしゃい、私は仕事があるからな」

 

「頑張って下さい、お父さん」

 

僕はそう言うと、外に出る

父から貰い受けた一振の刀を腰にたずさえ

 

この休日、自分がこんな思いをするとは、思わなかった

 

 

その日もいつもと同じように団子屋に向かう事にしていた

友達が、こうしてよってくるのもいつもの事

 

「や、斬鬼」

 

「あ、少年」

 

やってきたのは双剣を腰にたずさえた男の子

彼は僕の隣の家に居る子だ

僕の家は住宅街のひとつにあって、大きな家だ

彼の家はそこまでだけど、そこらの家よりは普通に大きい

 

「いつもの団子屋?」

 

「うん、稽古でお腹減ったから」

 

そう言って、僕は団子屋に歩いていく

途中の道は暇なので、僕は彼とたわいも無い会話をする

 

「最近、有名な女の子が居るらしいよ」

 

「誰?僕は知らないな」

 

「知らない筈は無いよ、舞姫って知らない?」

 

「舞姫…」

 

少し、記憶の探る

舞姫という単語に関しての記憶は奥底にあり、思い出すのは面倒だった

記憶にある限りでは舞のような戦闘をする女の子らしい

その踊りは誰であろうと魅了される為、舞姫と言われるらしい

 

でも、僕は情報を引き出したいからわざと知らないふりをした

 

「興味無いからよく覚えてないな、誰だっけ?」

 

「将来有望で、生まれて100年なのに求婚が絶えないらしいよ」

 

「顔が良いのか?」

 

「うん、美しくて、可愛くて、尚且つ性格も良い

 しかも成績優秀の戦闘技術も天才に届く」

 

なんという優良物件

それは求婚が耐えないはずだ

全てが完璧とか、本当に羨ましい

 

でも――

 

「僕には関係ない、お嫁さんなんて要らないもんね」

 

「斬鬼って、いつそうだよな」

 

少年は笑った

そうして、話し合っているといつもの団子屋が見えてきた

僕達はあの美味しい三色団子やみたらし団子を求めて、早歩きをする

 

「あ」

 

少年が何かに気付いた、それを指差す

僕は何だとその指先を辿る

 

「どうしたの――」

 

僕の視線の先には、女の子が居た

 

銀髪で、赤目で、清楚な、大人しいそうな、女の子

でも、そんな見た目の話なんてどうでも良かった

彼女は僕の倫理観をぶち壊す雰囲気を持っていた

 

心の中で何かが蠢いた

 

よく分からない、今まで感じたこともないナニか

 

いつの間にか僕は、彼女から目が離せなくなった

 

彼女は長椅子に座って、団子を食べていた

 

食べていた、ただそれだけなのに、美しい

その動作一つ一つが自然で、水のように緩やかで

 

気づけば、僕は彼女の近くに行き、声を掛けていた

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで、蚊が泣いたかのような、小さな声だったけど

 

 

 

 

 

 

 

「あの、お隣、いいですか…?」

 

 

彼女は目を細くして、笑顔で言った



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キモチ

「いいですよ、丁度お話のお相手が欲しかったんです」

 

彼女は笑顔でそう言ってくれた

もし拒否されたらどうしてただろうか…まあいいや

見かけでも笑顔で言ってくれたんだ、僕も答えよう

彼女に向けてお辞儀する

 

「それは良かった…です」

 

僕は敬語を無理に使う

彼女の眩い笑顔を見ていると、何故か頭が眩む

何でだろう、光に慣れる稽古はしている筈なのに

それに耐えながら、店の人に団子を数個、頼んだ

 

話題は、彼女から持ちかけてきた

まずは僕という個人の確認を

 

「君、紅白斬鬼君でしょ?」

 

「え、知ってるの?」

 

まずは、そんな事だった

彼女が僕を知っているなんて知らないし、有名とも思わなかった

だからこそ、こんなことを言われるとは思ってなかった

 

「天狗の里の守護を任されている紅白家の次代当主でしょ?凄いと思うわ」

 

彼女は純粋に褒めてくれた

それが、照れくさくて、嬉しくて

 

「…ぅん、凄い、かな」

 

そんな、ぎこちない返事しか出来なかった

それに反応してか、彼女は言葉を発する

少し、意地の悪い笑顔をして

 

「…もしかして」

 

彼女はずいと顔を寄せてくる。

薄い口紅の塗られた唇がすぐそこに、整った顔がすぐそこに

その赤い目には赤くなった自分の顔が良く見える

 

「こうして褒められたこと、無いんじゃないの?」

 

「…あう…うう」

 

「図星ねぇ、可愛い」

 

「かわ…ひうぅ…」

 

そう、男にすげーと言われることはあろうとも、女に"本心"から凄いと言われるのは初めてだ

僕が恋愛が好きでは無いのは、女が心にも無いことを言うからだ

 

『凄い』『かっこいい』『男らしい』『惚れる』

 

そんなことを何度も言われた

最初こそ、嬉しかった

 

でも、心にもない事だと、そのうち理解した

 

だからそこ恋愛を捨て、全てを稽古に回した

友達も、殆どが男で、女なのは射命丸とか、あの…名前を知らない娘とか

 

そんなナリで、久しぶりに心の籠った言葉なんて喰らえば…

 

「…いじわる」

 

なーんて言葉が出てくるわけで

 

「あらら、嫌われちゃった、悲しいなぁ」

 

「あ、いや!そういう訳じゃ…!」

 

「嘘嘘、冗談…ほら、団子来たわよ」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

こんな感じで、弄ばれるわけで

僕は来た団子のひとつを食べる

 

はむはむと、少しまごつきながら食べる

いつもならパクパク食べてはいさよーならーの筈、だが

 

今日はいつもと違った

 

「た、食べる?みたらし団子」

 

「あ、いいの?」

 

「う、うん、大丈夫だよ」

 

「それじゃあ、頂きまーす」

 

彼女は皿に盛られたみたらし団子を取らず、僕が食べている団子を食べる

それは食べかけで、僕の唾液が付いた不純物だった

 

僕は慌てた

 

「あ、あわわわ…!え、あ、…うぅうう」

 

「どうしたの?そんなに慌てて」

 

「い、いやだって…」

 

僕の唾液が付いた

 

「私が君と何かしたの?」

 

「そ、その…」

 

それを彼女が食べた、つまり…

彼女は僕の耳元に口を寄せ、囁く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「関節キス、しちゃった?」

 

「――//////!!!」

 

顔が熱い

多分今僕の顔は真っ赤になっているんだろう

そんな僕に、彼女は言った

 

「そういえば、名前を名乗り忘れていたわね」

 

「ぼ、僕もだったよ」

 

相手が知っているとはいえ、自己紹介は必要だろう

もしかしたら違う人と間違えて――ほしくないな

 

僕は僕、今の僕は僕だ

 

「僕は紅白斬鬼、また、団子を食べない?」

 

「私は綾姫舞、ふふ、いいわよ、楽しみにしてる」

 

彼女は笑顔で、僕も笑顔で笑いあった

 

 

久しぶりに、楽しい人に出会った

彼は今まで見た事が無いくらい純情だった

噂とは全く違う、恋愛に興味を無くした男とは思えなかった

 

もしかしたら、私と同じかもしれない

 

周りの男が気を引くために言う心にも無い言葉

それを彼もまた言われてきたのかもしれない

それ故に恋愛を切り離し、稽古に全てを注いだ――

 

もしかしたら、そんな感じなのかもしれない

 

彼を弄るのも、楽しい

 

それ以前に、彼との会話が楽しい

彼を見た時何故だか湧いてくるものがあった

 

それが恋だなんて、今更思い出したが…

 

こんなキモチ、初めてだ

求婚を何度受けようとも現れなかった気持ち

 

もしかしたら、これが本当の恋なのかもしれない

 

…もっとも、あちらは恋自体気づいていないかもしれない

何故か私と話したら心が弾む、という謎の気持ちに汚染されているかもしれない

 

というより私を見た時から、恋をしたのだろう

 

もしかして一目惚れ?

あはは、今まで無いタイプだ

 

…私も、彼に一目惚れしたかもしれない

 

おかしな事だ

 

今までこの独特な戦技を稽古していたのに

常に頭が良いように勉強してきたのに

 

彼と会った時から彼のことばかり考えている気がする

何度も求婚されている私でこれなら、彼は…

 

今頃、ベッドの中で頭を抱えているのかしら

 

あ、もしかしたら枕を抱き抱えて足をじたばたしてるかも

 

そう考えてみたら…ぷっ、面白わね

 

うふふ、久しぶりにこんなに燃えたかもしれないわ

彼が見てくれるように努力する…いや、いいわ

 

彼がどのくらい私を想っているのか…

 

求婚してるヤツらと同じ位だったら、ビンタしてやる

 

…絶対に、性欲目的の奴らとは違うと思うけどね

 



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分からない

あ?少年?
アイツなら肩落として先に帰ってったぞ

それと少し話を最初から読みやすくしました
1話からまぁ…3くらい?確認する程でもないので

次回作作りたいのが多くて困るぜ!


「…」

 

僕は下を向きながら家を目指す

いやな事があった訳ではなく、嬉しい事

それをどうするか、考えているのだ

 

今日あった嬉しい事、それは

 

あの舞姫、綾姫舞さんと友達になれた

 

話せた

 

一緒に食事できた

 

関節キスした――

 

「あう…」

 

やっぱり、アレを思い出すと顔が熱くなる

何でだろう、今までこんなこと無かったのに

今の今まで女と会って、会話しても

射命丸とかと会話しても、こんな気持ちにならなかった

この気持ちがよく分からない

 

なんだろう、このキモチ

 

彼女と会うまでこんな感情なんて

 

分からない、分からない…

 

分からないなら…どうすればいい?

 

「…そうだ」

 

困った時に居るのが親だ

そうだ、親に聞いてみれば良いんだ

お父さんとお母さん、どっちがいいだろう

まずは忙しくない方から聞いてみないと

 

お父さんは…仕事で忙しいから…

 

お母さん、家に居るかなぁ?

 

お母さん、いつもは家に居るけどふらっと何処かに消えるからなぁ

多分、お仕事とは思うけど、先に言ってほしいね

 

 

結論からすると、お母さんは家に居た

どうやら今日は仕事が無いようで、裁縫をしていた

囲炉裏の前で、炎にあたりながら針をぷすりぷすりと縫っている

 

その銀色の長髪がキラリと火を反射して輝く

 

「何を縫ってるの?」

 

「貴方の服よ、どうしたの?」

 

「いや…その」

 

お母さんは針と服を置き、顔を僕に向ける

そして、笑顔で口を開く

 

「何か悩んでいる事があるんでしょう?」

 

やっぱり、お母さんには敵わない

 

「う、うん…実は」

 

「そうなの…そうなのねぇ…」

 

お母さんに大体の事を話した

舞さんを見て、妙な気持ちになったこと

そして、関節キスをされた事…

他にも、また会って団子を食べながら話そうと約束した事も話した

 

お母さんは、懐かしそうな顔をした

 

少し昔のことを思い出しているようで、微笑した

 

「うふふ、血は争えない…ってね」

 

「え?どうしたの?」

 

「そうねぇ…」

 

お母さんはふふふ、とまた笑った

 

「懐かしい物を見てる気分よ」

 

「そうなの?」

 

「そう…それで、助言としてはね…」

 

母は嬉しそうに口を開いた

 

 

「こ、こんにちは舞さん、奇遇ですね」

 

「あら、本当に奇遇ねぇ」

 

某所、まぁ本屋である

彼女は俳句の本が並べられた場所に居た

斬鬼は本を見た時、偶然見かけたので声をかけた

 

本当に、奇遇なのだ

 

斬鬼が何を読んでいるのか、聞こうとした時だった

 

「 陸奥の しのぶもぢずり 誰故に…

  ――みだれそめにし 我ならなくに 」

 

「…え」

 

舞は1つの歌を歌った

よく分からなかった、何を言ったんだ?

多分、アホの様な顔をしていたのだろう

舞は笑った

 

「あはは、こういう歌は習ってないのかしら」

 

「…うん、僕学校行ってないの」

 

「あら?どういう事かしら」

 

舞は驚いた顔をして聞いてきた

僕はあははと笑いながら―多分乾いた笑いだ―言う

 

「お父さんが全てぶち込んだからいいって」

 

「あははは!凄い人ね、君のお父さん」

 

まぁ、普通に凄い人である

能力の使い方から勉強まで全てを叩き込まれてきた

個人的に二度としたくない

 

『の、脳に直接勉強させる?』

 

『そうだ、それが早い』

 

『で、でも…それは』

 

―では行くぞ…!―

 

―お父さんが直接脳内に!?―

 

…うわ、想像しただけでも鳥肌が

 

「それで、今の俳句…意味は?」

 

「そうね、自分で考えてみなさい?」

 

「う、でも…」

 

「もしかしたらお母さん辺りが知ってるかもよ?」

 

舞は笑顔で言う

僕は分かったとだけ言っておく

 

「本、買っておこっと」

 

「ふふ、頑張ってねぇ」

 

そこで、僕はふと思い出した

母の助言、もう少しで忘れるところだった

 

「あ、そうだ、舞さんって好きな人いる?」

 

「好きな人…うーん、そうね…」

 

舞は少し悩んだ後、僕に笑顔で言った

 

 

とても、残酷な言葉

 

 

 

 

 

 

 

それは

 

 

 

「1人だけ、居るわ」

 

「え…」

 

好きな人が、居た

僕は更に質問する

 

「どんな人なの?」

 

「うふふ、興味深々ねぇ…」

 

「早くッ!」

 

僕は叫んでいた

多分、とても動揺していたんだろう

でも、彼女は顔を顰めることをせず、笑顔で言う

 

「初々しくて、恋もまだ知らないような人よ」

 

「そう…」

 

「がっかり?」

 

「いや…」

 

これは収穫だ

そいつが恋に気づいてないなら僕が先に奪う

舞さんは絶対に渡さない、渡してたまるものか

 

「キスをした事もあるわね、直接じゃないけど」

 

――よろしい、ならば戦争だ

野郎絶対に殴り飛ばす

ソイツに盗られる前に俺が告白する

 

絶対、絶対にだ!

 

「あらあら、目が怖いわよぉ?」

 

「あ、ごめんなさい…」

 

どうやら興奮しすぎたらしい

目がいつの間にか細く睨むような視線になっていたか

僕は窓を見る、そこには薄く反射する自分の姿が見えた

 

…これは、目が怖いな

 

酷く濁って、睨むような目

何ともまぁ怖い目だ、やんでれかな?

 

…やんでれって何だ

 

「君?」

 

「あ、ごめん、僕帰るよ…またね」

 

「さようなら、また明日」

 

舞さんは優雅に礼をして出ていった

どうやら、本は既に買ったらしい

僕も本を買い、家に帰っていった

 

 

本当に、鈍感なのね

それに俳句もろくに詠んだ事が無いみたい

叩き込んだ全てに俳句は含まれてなかったのかしら

 

君のお母さんなら、教えてそうだけど

 

あの人、とても綺麗よね

銀髪が肘まで届いて、顔も整ってて、優しい

 

にしても、怖い目だったわ

あーんな瞳今まで見たこと無いわねぇ

それだけ、恋に本気で、付き合いたいのかしら

 

うふふ、その気持ち、受け止めてあげる

 

絶対、愛してやるわ



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いつまでも

「…」

 

パラパラと、ページがめくれる

今カンデラの下で読んでいるのは本だ

彼女の俳句がよく分からなかったから、読んでみることにしたのだ

 

「…、……、…」

 

ぺらり

 

「…、………、…、……」

 

ぺらり、ぺらっ

 

「…、……………、………、…、…」

 

ぺらぺらぺら…

 

突っ伏す

思わず、口から変な言葉が出た

 

「…分からないよぉ…」

 

俳句はよく分からないものばかりだった

どれもこれも回りくどいクソみたいな言葉遊びばっかりだ

もう直球で言えよ、なんでこんなに回りくどい

 

クソ…

 

「…うううぅ」

 

口から呻く様な声が出た

こんなに悩んだのも久しぶりかもしれない

稽古で壁にぶち当たった時も、こんなのだった

 

…これも、戦いなの?

 

「…戦いだな」

 

そう、舞さんには恋する人が居たはず

野郎に盗られる前に僕が獲る

 

絶対に渡すものか

顔を上げ、ページにまた目を通した

 

「…よぉーし…勉強だぁ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後、本にまた突っ伏した

 

 

気分転換に外に出かけた

現在地は石の上、本を傍らに少し黄昏ていた

本当にちんぷんかんぷんだ

 

大人の方々はこれで何がしたいんだよ

まどろっこしいやり方だ、クタバレ

 

「あ、斬鬼じゃない」

 

「貴公、こんな所で何を?」

 

「…射命丸かよ」

 

声をかけてくれた変人が2人居た

振り向くと、鴉天狗の象徴である黒羽がよく見えた

片方は一見すればただの人間に見えた

 

「ジェーンドウもなんだよ、帰れよ」

 

「辛辣ですね、貴公は」

 

「斬鬼らしくないわね、何かあったの?」

 

僕は顔を背け、ぶっきらぼうに言う

 

「何も、無い」

 

「嘘ばっかり、どうせ舞の事でしょ」

 

一瞬、息が止まった

苦しいのを我慢して首を振る

 

「ん"ん"。な"ん"て"も"な"い"よ"」

 

「嘘つけ」

 

「我慢出来てないですよ貴公」

 

声がガラガラだった

かっーと声に出しながら、腰の水筒を呷る

 

水の冷たさで、痛みが引いていく

 

出来れば二度と出てくんなよ、クソッタレが

 

口元を袖で拭き、顔を向けない

 

「分かってるなら、来ないで」

 

「嫌よ、悩んでるんでしょ」

 

「貴公が悩んでいる姿を放っておけませんよ」

 

――そうか、そんなに邪魔をしたいか

僕は立ち上がると、刀を抜いた

その白銀の刃を射命丸に向けた

 

「黙って、帰れ」

 

「そう、強行かしら」

 

「帰る気はありませんよ」

 

僕は一瞬で飛びかかった

こんなうるさい奴ら、切り飛ばしてやる

 

 

「はーい染みますよー」

 

「…ぶー」

 

口を3にしながら痛みに耐える

くだらない事で射命丸とジェーンドウは切り傷が生まれた

現在お母さんから傷の消毒をしてもらってる

 

2人から痛い傷を貰った

 

鎌鼬、クナイ、小刀

 

もうなんか1人にやる数じゃないレベルのクナイだった

本当に恐ろしい数だった、恐怖無いけど

 

「はいチクッとしまちゅよー」

 

「…バカにしなっ…いで」

 

注射針が肌に突き刺さる

薬の効果で痛みを半減する

まぁ、気が楽になる程度か

 

そこまでいいやつじゃ無さそうだし

 

「あなたも大変そうねぇ」

 

「…むー」

 

「俳句の練習して、ふふふ、意中の娘から俳句でも言われたのかしら」

 

図星

本当にそのまんまだ

しってた、お母さんなら当ててくると思った

 

「…ぶー」

 

「あはは、そんなに怒らなくてもいいのに」

 

怒ってるよバリバリに

やっぱり人をおちょくるのが好きな人だ

ある意味舞さんに似てるかもしれない

 

「もう告っちゃえばいいじゃない」

 

「なんだっ※$@☞╬☜➫☆○△▽仝々wWTF!?!!!?」

 

この人なんつった

とてもじゃないが出来ないことを言ってきた

 

ちょっと頭おかしい

 

「舞ちゃん好きなんでしょ?尚更よ」

 

「ААА!!БЕРЧЩсддддьяΔΕц!ъΔΣζθτψλяΔΑсу!?」

 

月人の言葉が出てしまった

何で知ってるのお母さん、僕言った覚えないよ

なに?既に有名なの?

 

ぼくの有名なの?えぇ?

 

…でも、まぁ、やって、やって…

 

「ほら、これあげるから」

 

「何…はあああああああああああway!!??

 

母さんが渡してきたのは3個のゴム

 

"ゴム"

 

おい、何てことを

そこまでの仲を予測しなくていいから

 

というかどうしてそんなものを

 

「ほら、行ってきなさい、ね、駄目だったら慰めて上げるから」

 

母さんの目は本気だった

多分拒否したら無理やり行かされる、そんな目

 

故に、拒否権なんぞ無かった

 

 

…良し

 

目標地点に目標が居るぞ

ちゃんと約束通りあの岩に来てくれた

 

もし来なかったどうしてたか、危ない危ない

 

あの銀髪は確実に舞さんだ

彼女の頭の上に綺麗な満月が見えた

 

僕は彼女に近づいて行く

 

「ま、待った?」

 

「いいえ、今来たところよ」

 

彼女はくるりと回転してこちらを見た

吸い込まれるような赤い瞳、それが最初に見えた

何かに興奮しているのか顔は少し赤かった

 

「その、言いたいことがあって…」

 

「なぁに?」

 

すぅ――と息を吸い込む

心拍数は最大

 

これが駄目だったら、腹を切る

 

緊張

 

絶対に失敗出来ない

嫌われたくない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好き…です、付き合ってくれませんか…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉に彼女は笑顔で

 

僕に

 

死刑宣告を

 

「ごめんなさい、先約があるの」

 

なにもかもが、止まった

風が、木を揺らす音が響く

 

終わった

 

さぁぁと手が砂になった気がした

 

「誰…」

 

か細い、力の無い声

自分の口から漏れたとは思えない声

 

もはや、死人のような声に、彼女は答える

 

「とても不器用で、好きなのを伝えるのが不器用な人

 私の気持ちに気づけない、鈍感さん」

 

「誰――」

 

僕はまた、呟いた

そんな抽象的なこたえじゃない

 

僕が欲しいのは、名前

 

ソイツの、名前は

 

彼女はふっと笑う

 

次の瞬間には、僕は組み伏せられていた

 

「え」

 

「君のことよ、鈍感さん」

 

唇が塞がれた

グチュリと口内が蹂躙される感覚

全てを吸い取り、舐める

 

「…ぷふ…はぁぁ…」

 

「はぁ…はぁ…」

 

ようやく離れた時、とても妖艶な顔をしていた

うれしそうで、たのしそうで、幸せそう

 

「ふふふ、私の気持ち、理解してくれた?」

 

「いいの?」

 

何故か、心が救われた気持ちだった

暖かい何かが、心に満たされる

 

「結婚を前提に、まぁ君に拒否権はないわよぉ?」

 

彼女の笑みが深まった

下着が、"落ちた"

 

「え」

 

「満月の夜は、獣性が強くなっちゃうの…

 結婚するから、別に良いわよね」

 

「あの」

 

「それじゃ…頂きまぁーす」

 

拒否権なぞ無い

女はそんな物だと認識させられた夜で

 

自分が1番幸せだった夜だった

 

 




斬鬼がヤンデレしてる?

さ、さぁ…(成り行きとか言えない)


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桜二死スベキ

残る者と、散る者


人生一の幸せ

 

それは誰しもある筈の記憶

 

それは、あの日、初めて舞と交わった日だった

 

記憶に一番残り、夢でも見る記憶

性を知ったのもあの日だった

 

あの日は知るものが多すぎた

 

幸せが始まった日

 

だからこそ

 

だからこそ

 

 

目の前の幸せを終わらす者を

 

 

殺す

 

「レエエエエエエエエエエエエイムッ!!!!」

 

叫ぶ

激情が、怒りが心を支配する

何をしている、俺の妻に何を

 

何をしてるんだ俺の伴侶に!!!

 

刀は音速を超え振られる

それは彼女のリボンを斬っただけだった

 

「あああああああああああぁぁぁ!!!」

 

黒刀が舞から抜かれる

その血が怒りを増幅させる

 

その倒れる姿が怒りを増幅させる

 

その無念の姿が怒りを増幅させる

 

こいつを殺さなければならない

 

頭の中はそれだけだった

 

もはやケダモノと化した脳はそれ以外の目的を持たない

幸せを奪う者

 

再開して、まだ10年と立っていないのに

妖怪にとってこの時間は短すぎる

 

刀が応呼して青い波動に包まれる

酷く青い、悲しみを表現したかのような蒼

 

それは必然であった

 

彼の瞳

 

その端から、ポロポロと涙が零れていたから

 

彼は2つの感情に板挟みだった

 

一つは己の伴侶を奪われたという凄まじい怒り

それは他の目的を置いてけぼりにするほどの物

心の中に奴への報復心以外は何も無いと言える程のもの

 

もう一つはかつての親友を殺すという深い哀しみ

博麗の巫女の役目を与えたのは自分で、人間の親友だった

それを与えた自分が殺すという構図になってしまった

 

何か、図られたんじゃないか

 

誰かの、計画じゃないか

 

そうとしか思えなかった

 

信じたく無かったから

 

彼女が裏切ったことを、信じたくなかったから

 

「死ぬのは貴方だ!」

 

「うるさい!死ぬはお前だ!」

 

靈夢の叫び

巫女は涙を流していた

白狼は涙を流していた

 

2人とも、本来はただの凡人だった

 

靈夢は、里のただ霊力が多い娘

 

斬鬼は、守護の家に生まれた妖怪

 

2人とも、特別な力を得て生まれた訳では無かった

共通するのはたった一つだけ

 

守る物が出来たということ

 

靈夢は2人の娘

 

斬鬼は愛する妻

 

それだけが、生きがいと化していた

今までの自分と変わったと理解出来た瞬間だった

 

隻眼天狗と名乗ったのはいつか

 

斬鬼は覚えていない

だが、理由はハッキリと覚えている

 

差別化されないのが嫌だったから

 

こんなに鍛えたのにただの白狼と同じ?

 

そんなの受け入れる事は出来ない

 

「波動を操る程度の能力」も苦労して手に入れた

それまではただの剣士として動いていた

 

ただ、剣を振るだけの白狼

 

そんなのただの白狼と同じだ

 

だからこそ能力を手に入れた

ゲボを吐くような訓練を重ね、手に入れた

そのような能力は白狼には収まりきらない

 

故に、隻眼になった

 

この目の傷はかつて鬼子母神に受けた物だ

野郎の能力があんな物とは思わなかった

 

だが、あのスピードと火力は鬼子母神に相応しい

 

この傷を受け、名前を白狼から隻眼天狗となったのだ

 

 

 

刀の切り上げ、切り下げ

白銀の刃は服を斬り、肌を裂く

 

だが、致命傷には至らない

 

黒刀の一突き

脇腹を掠めて止まる

そのまま横に薙ぎ払う

 

「ふっ」

 

刃を下に下ろし、それを止める

そのまま切り上げて刀を押し込む

 

鍔迫り合い

 

靈夢が強く押してくる

それに対抗して斬鬼も強く押す

 

それに負けるのを察したのか、強く押して後ろに引く

こちらも後ろに引き、横に移動する

 

靈夢はこちらの行動を伺っている

2人は反時計回りにゆっくり歩く

 

刀を構え、相手に備える

 

不意に、フラッシュバックする

 

白い服

 

双剣

 

能力無しの、白狼

 

彼は双剣を構え、瞬歩で距離を詰めてきた

 

それに反撃する

靈夢は刀を蹴りあげ、顔面を蹴る

 

足が顔にめり込む

歯が折れた、血が出る

 

口からぶしゃりと血が出た

 

「く、やってくれるな」

 

「貴方なら余裕のハズだ、「霊符」夢想封印!」

 

靈夢は術を発動する

七色の光が回転、暫くすると斬鬼に向かう

それを刀で叩き切ると、ぐるりと刀を回す

 

終わらせる

何のためにこうなってるのか

 

眼帯を外す

 

鬼に潰された目は視力が十分に回復していた

視野が広くなる、立体感が深まる

 

目一つ捧げる覚悟、あるさ

 

だからこそ

 

居合の体制

 

チンと刀を仕舞い、鞘に手を置き、柄を握りしめる

心が深く収まっていく

 

靈夢は黒刀を片手に飛びかかっていた

全てが遅く見える

 

靈夢が黒刀を振った瞬間

 

そこが、全ての終わりだった

 

「はぁ!」

 

「斬ッ」

 

左目が赤黒く染まる

血が飛ぶ、黒い何かも飛ぶ

 

体を翻し、靈夢に向き直る

 

靈夢は切られていた

胴体を斜めに、綺麗なくらいに

そこから血が流れ、巫女服を赤く染める

 

彼女に近づき、その腹に刀を刺し突き立てる

致命傷を負った彼女によける術なぞ無い

 

 

 

 

 

 

狂乱の巫女は、無名の丘に倒れた

 

 

巫女は何も言わなかった

ただ、緑の海に身を沈めるだけ

 

彼女の横に、誰かが立った

 

逆光で良く見えないソレは彼の筈だ

 

「…うけとって」

 

最後の力を振り絞り、声を出し、黒刀を持ち上げる

彼はそれを右手で受け取った

 

僅かに、彼の顔が見えた

 

赤い涙を流す右目

黒刀の怨念により見えなくなったであろう瞳

 

左目は何かが消えたような瞳

 

それが、巫女を見ていた

 

彼は暫し黒刀を見ていたが、それを腰にしまう

その顔は何もなくて、表情筋が消え失せたかのように無表情だった

何事にも、興味を無くしたかのような顔

 

声を出そうと、口を開く

出たのは、かなり小さなものだったけど

 

「貴方の為に、縫ったの…付けさせ…て…」

 

懐から眼帯を取り出し、手を伸ばす

彼は何も言わず、跪く

 

頭に紐を回し、眼帯の位置を調節する

 

それは、ピッタリと彼にはまった

 

「…今から、幻想郷は変わる」

 

ポツリポツリと呟く

 

「血塗れの戦いは、いつしか無くなる」

 

巫女は己の姿を見た

血にまみれ、ぐちゃぐちゃにされた己の体

とても直視出来るものでは無かった

 

「こんな姿になるのも、少なくなる筈」

 

巫女がこんな汚れ仕事から足を洗う日は近い筈

それが次代でなくても

 

それが、10代目であっても

 

それが、100代目であっても

 

巫女は、見続ける

いつまでも

 

手を汚さなくなる日まで

 

「終わらせて」

 

「私を、解放して」

 

沸き上がる思い

博麗の巫女から解放される

巫女は心のどこかでそれを望んでいた

 

心が浮き続ける

 

それは誰にも縛られないということ

 

それが愛した娘であろうと、何者であろうと

 

心には何も無かった

憤ることも出来ず、ただ怒った振りしか出来なかった

 

「霊符・夢想封印」

 

博麗の力を見出した妖怪は、刀を向ける

彼の周りには青い玉が回る

 

そして、それが回転を止めた時、私に向かってきた

 

青白い光に包まれながら、私は静かに笑った

 

 

斬鬼は彼女を桜の下に埋めた

怒りは湧いてこなかった

 

だだ、悲しい女だと思った

 

だだ、美しい物の下で死ねた事

 

鈴蘭が咲く、美しい場所で死ねた事

 

それだけが、羨ましかった

 

 

 

 

 

 

 

 

牙狼作戦は、終わった

 

 



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故に思う

「だったら、貴方は立ちはだかりますよね」

 

「当たり前じゃない、行かせないわよ」

 

大剣を舞に向ける

 

育ててくれた恩を仇で返す

しかも、この世から冥界に返すという、仇で

 

もっとも、この亡霊には意味は無さそうだが

 

大剣を振る、上から下に

若干屈みそこから回転するように体重をかけ、大剣を振り下ろす

 

舞は避けに徹する

そして、隙ができた時にそこを突く

 

それは小型の盾で防ぐ

いつも使っていたひし形の盾を小さくして腕に付けたものだ

小盾、と呼ばれる物に近い

 

紅葉の紋章と紅白の色合いは変わっていない

 

ただ、パリィの為にこうした

腕に付ける、手で持つ訳じゃない

 

 

舞はいつの間にか小刀を2本持っていた

それを使い、乱舞を踊る

 

大剣の質量に勝てないソレが大剣を弾いていた

普通ならありえない、ありえない

 

 

だが、暗殺部隊を率いた舞だからこそ出来る技だった

 

かつて彼女は斬鬼の母より暗殺部隊司令官の座を引き継いだ

彼の母は暗殺部隊の司令官だったのだ

故にふらりと家から居なくなることがあったのだ

 

組織の不都合を抹消する為に

 

彼が当主となった時、伴侶だった舞に司令官の座を譲った

恐らく、そんな習わしだったのだろう

紅白家の妻に暗殺部隊の司令官をさせるというのは

古き時代の天狗の守護者である家でもあったのだから

 

故に、彼女は暗殺術にも長けた

 

もっとも、一番暗殺術が得意なのはあの女中だった

当主である斬鬼ですら名を知らない。

本当の、ジェーン・ドウ

 

だが、それは任務の為と言った方が良いだろう

 

彼女は暗殺に自分の名は邪魔だと言った

だからこそ名を捨て、暗殺に身を投げたのだ

勿論の事、自分の存在すら、消す事も

 

あの、気配も無く振る舞うのも暗殺の名残

 

彼女が部隊で二番だったのは言うまでも無い

 

尚一番は舞だった模様、生前が怖い

 

「ふんッ」

 

大剣を叩きつける

それは舞には当たらず、土を抉る

この天狗に簡単には攻撃は当たらない

もはや周知の事実であり、一筋縄ではいかないのは確実だ

 

だが、今だからこそ

 

これだからこそ攻撃出来るのだ

 

叩きつけた後にくる小刀

大剣より振りの早いそれは簡単に脇腹に入る

 

だが、望んでいたのはそれだ

 

「今ァッ!」

 

「ひぁ――」

 

大剣を死ぬ気で引っ込ませ、舞の腹に突っ込む

それは軽々と舞の腹を貫通する

彼女から溢れ出たのは、粒子だった

 

ソレを蹴り飛ばす

 

舞はその場に蹲った

本当に、痛みを感じていた

彼女の腹から、粒子が出るのが止まらない

 

「貴女は私には勝てない」

 

椛は無機質な声で言う

何処か、聞くものの背筋を凍らす声だ

 

「何故なら」

 

そう、彼女は子には勝てない

 

それ相応の、理由が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は、母の亡霊ですら、無いのだから」

 

舞は、亡霊ですら無かった

体から粒子がこぼれ落ちる

 

体が、薄くなっていく

 

「お前は、ただの人型」

 

それは、波動だった

斬鬼が死に別れた妻を、再現した

 

ただの、ドッペルゲンガー

 

本物の母は、常に斬鬼のことを旦那様と呼ぶ

だが、このドッペルゲンガーは違った

 

どれだけ共にいようとも

それが一生を共にする伴侶であろうと

 

その者を再現し、しかも本人とする

 

そんなの、不可能なのだ

 

何故なら、個人だから

他人を甦らせる

自身の記憶、他人の見方、いつもの行動

 

それを認識しても、本人は蘇らないのだ

 

「ふふふ…そうね…私は、あの人のドッペルゲンガー…」

 

人型は、真顔で笑う

足を折り曲げ、膝を地面についた姿

もはや、諦めた表情

 

「もう、私は終わる…ふふふ」

 

だが、この人型にも意思があった

後からその人型に取り憑いた、意思

その意思は、どこから来たのか定かでは無い

 

ただ、一つ確実なのは

 

この、意思は、紅白の1人なりたかった

 

紅白舞という者になりたかった者の意思なのだろう

 

それだけが、確実だった

 

「ああ…"俺"は…また、死ぬのか…」

 

「貴方は死んでいる、そう、あの岩で」

 

舞を形成していた波動は薄れ、もはや人の形をした何かになっていた

声は変わらず、母のものだった

 

深い、絶望とも取れる声

 

だが、その深みにあるのは、喜び

 

何故か、人型は喜びを隠さなかった

 

「ははは…これもさだめって奴か、斬鬼」

 

「…お前は、貴方は」

 

"彼"はもう、椛を見ていなかった

恐らく、形がハッキリとしていれば彼の瞳が空を見ていた事に気づけただろう

 

彼が見ていたのは、何も無い空

 

からっぽの、空だった

 

「へへへ…ははは…」

 

力なく、彼は笑う

波動は更に薄れ、青いモヤのようになっていた

認識できるそれでは無い、特に遠距離から見た時は

 

椛は何も言わず、大剣を振りかぶる

 

何も付いてない、大剣を

 

血もついてない、綺麗な刃を

 

「ははははははははは」

 

壊れたように笑う彼に、振り下げたのだった

 

 

「…舞」

 

自分の繋がりが、ひとつ消えた

彼女が死んでから、悲しみに暮れたのは言うまでもない

 

だからこそ、作ったのだろうか、あの幻霊を

 

舞ような、ナニカ

 

それは確かに彼女であったはずだ

だが、彼女では無いのだ

 

ただの、波動

 

半人の時も、ただ自分の魂を半分にしただけ

その半分が、彼女を演じただけ

 

哀しい一人芝居

 

もはや、壊れていたのだろう、自分は

 

「…来たか」

 

山頂、寂れた神社

「旧・博麗神社」と呼ばれるそれを知るものは少ない

だって、古い神社にくる物好きは居ないだろう

こんな、結界で隠されていた場所なんかに来る者は

 

その、鳥居をくぐる者が1人いた

 

大剣を背負い、腕に盾を装着した女

 

それは、俺の娘

 

伴侶との愛の結晶

 

ソイツの名前は

 

「来たか、"犬走椛"」

 

俺は、新しい名前を彼女に言ったのだった



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想い

久しぶりにその名前を聞いた気がした

その、犬走という名前はもはや忘れた記憶だった

何故なら、紅白となった今では関係無い名前だからだ

 

最後に、その名前で呼ばれたのは何時だったか

 

「その名前は捨てました」

 

「せっかく俺があげた名前を…まぁ、良いだろう」

 

彼は神社の縁側に座っていた

のどかに、まるで平和の中に居るかのように

小鳥が飛ぶ空を見上げ、何も思っていないような目をしていた

何事にも無関心

 

その姿はまるで博麗霊夢だった

 

博麗の使命を作った男の性格だろうか

それが代々受け継がれているのか、違うのか

 

「博麗巫女には色々な奴がいたらしい」

 

斬鬼は知ってか知らずかそう言う

恐らく、思ったことを読んだのだろう

心読みとは違うと思うけど

 

考えている事が分かりやすからかもしれない

 

「アホみたいに真面目な奴から気狂いまで、多種多様だ」

 

まぁ、気狂いは"処理"されたらしいがねと斬鬼は付け加える

それはそうだろう、気狂いなんて何をしでかすか分からない

そんな奴なんぞ何かおこす前に消すに決まっている

 

「まぁ、どいつもこいつも死んだがね、任務の途中で」

 

自嘲気味に斬鬼は言う

自分の事では無いのに、自分の作った物なのに

彼が手を加えた訳でもないのに

 

「生き延びて寿命を迎えたのはほんのひと握りだ

 彼女、彼らからすれば誇らしいことだろうな」

 

かつての幻想郷は血に塗れていた

白い和服はあっという間に血に汚れる

故に巫女達は赤の服を好んでいたのだ

 

現巫女の霊夢の服

彼女の巫女服は元は純白の巫女装束になる予定だったのだ

 

だが、それはいつの間にか現代風の巫女服になった

彼女は恐らく、純白では無かったのだろう

 

どこかに、闇があったのだ

 

見てしまえば呑まれてしまうような暗い闇が

 

「博麗巫女の歴史はもう長いこと見ていない

 この語った事さえ、他人から聞いた事だ」

 

語りながら彼は立ち上がった

縁側から、賽銭箱の前に移動していく

足を動かす度、砂のような物がパラパラと落ちていった

ホコリか?

 

「長い事生きたが、こんな怒涛の展開も初めてだ」

 

それもそうだ

幻想郷に帰還した時から、雪崩のように異変が襲いかかってきたのだ

彼を待っていたかのように異変が連続的に起こった

 

まるで、仕組まれていたかのように

 

だが、それらは全て偶然だ

 

八雲が仕組んだ訳でもない

それ以外の誰かが仕組んだ訳でもない

 

それは、偶然なのだ

 

「こうもすんなりだと疑惑を捨てきれん」

 

黒刀が抜かれた

その刃は未だにどす黒く染まり、蠢いている

博麗の怨念と呼ばれるそれは本当に怨念なのか

昔を思い出せば、あの巫女はそんなに執念がある人では無い

どちらかといえば今の博麗巫女にそっくりにも思えた

 

いや、空気

 

人妖を呼び寄せる暖かい空気では無い

それは人妖を遠ざける冷たい空気である筈だ

 

大剣を背中から抜く

その大刃は父である妖怪に向けられていた

 

最近はいつもこんな気がする

 

殆どが己に味方しているか身内だったかのどれかだった

 

さっきは母の様な者とはいえ、母の残留意思に違い無かった

あの魂は既に裁かれ、罪を償っていくのだろうか

 

分からない、でも、確かなのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恩を、仇で返すという事のみ

 

最早それは外す事の出来ない要素(ファクター)となってしまったのだ

出来るのはこの敷かれたレールの上を走る事だけ

 

紅白斬鬼を抹殺することだけなのだ

 

 

「お父さん」

 

ポツリと椛は呟く

彼女からの質問を一つだけ、彼は許すことにした

剣士に言葉は不要であるから、でも、分からない事もある

 

「お父さんが怨念に駆られているようには見えないよ」

 

怒りが彼を動かしていると八雲は言った

だからこそこの手のひらから靄が止まらないのだ

ここまで来て、父と対面しても止まらない

 

「私には、何も変わらないように見えるよ」

 

「変わったよ、俺は」

 

ふっと彼は微笑した

それは何処かしら虚しさを感じられる寂しい微笑だった

親友と呼べる存在を失った悲しみがまだ渦巻いているのだろう

生まれてから10年の間に会い、話し合ったあの時

 

その時点で既に親友と呼べたのだろう

 

「答えは十分、後は倒した後に聞け」

 

物語の根幹である妖怪は構えた

黒刀の刃がぎらりと光った気がした

 

答えとしては十分なのだ

何故なら椛は変わらないように見えると聞いた

それに対して斬鬼は変わっていないと返したのだ

 

答えは、返された

 

後は

 

 

 

 

 

 

 

 

倒すだけ

 

「ふ――…」

 

深呼吸

 

体の余分な力を抜き、リラックスさせる

大剣を両手で握り刃を敵に向ける

やけに手がベトベトしている

その油っこい汗を揉み消すように柄を強く握り直す

 

頭から何かが垂れる

 

汗だ

 

冷や汗だ

 

「…」

 

今この瞬間、彼は何時でも私に攻撃出来る

それが殆ど確信できる程の殺気

 

この殺気は人生最初で最後の殺気となるだろう

 

この男は死ぬ運命にある

 

生きて帰る事は不可能に近い

対話不可能というのは決して話せないという訳では無い

 

話しても意味がないという意味であるのだ

 

実際、話しても諦める雰囲気はどこにもなかった

 

つまり殺される準備はOKということであるのだ

 

ならば望み通り殺してあげよう

私がお父さんに死を与えてあげよう

 

せめてもの救いは、娘に殺されることだ

 

安らかに

 

さぁ

 

「 いざ、参る 」

 

「 こい、俺を殺してみろ。

  俺に生きていくという姿を見せてくれ 」



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英雄のコトバ

気付けば目の前に黒い刃がある

斬鬼との戦いはそういうものだった

流石天狗の里を守る為に生まれた家の者

この実力があれば里を、山を守る事は容易だろう

こっちも負けてはいない、鍛錬を積んだ剣技は独特の物と成っている

 

親である斬鬼の荒々しさと舞の水のような優雅さ

 

それが2つともある、矛盾した剣技

大剣を上から叩きつけたかと思えば目に追えぬ突きを放つ

そこらの雑魚はおろか、実力を持つ者さえ圧倒する

 

だが、それを斬鬼は捌く

黒刀で弾き、切り飛ばし、避ける

右目が見えないのはもはや意味は無いと思える程

様々な戦線を、修羅場をくぐってきた経験は生かされていた

月から地底と場所も多種多様でもある

 

そして、術にも長けている

 

「燃えろ」

 

指パッチン

軽快な音がした直後、地面から無数の炎の柱が湧き出る

それらは全て熱と炎性を持ち、燃やし尽くす炎でもあった

盾で防ぎ切る事は出来ない

 

だが、避けるのは容易い

横から斜めからという訳では無い

これはただ地面から燃えでているだけなのだ

 

殆ど彼の術を見たことがある者は少ない

全て斬撃により切り伏せられることが多いからだ

炎を飛ばす、という戦い方は聞いたことがあまりない筈

どちらかと言うと彼は人物に教えている方が多い

霊夢に神の力を使わせたように、だ

 

長年の試行錯誤の結果様々な術を扱う事が出来る

 

「凍れ」

 

冷気が当たりを包む

一瞬にして地面は氷に代わり、氷の柱が乱立する

それらは鋭く、体を簡単に貫くことであろう

これは密度がかなりあり、避けにくい

 

だが、邪魔というほどでは無い

所詮は氷であるため盾と大剣で叩き割る

気持ちのいい音が辺りに響く

 

叩き割る時に斬撃が来ることもある

首を掻っ切られると思ったこともしばしばあった

どれにしろ、死に誘われる攻撃だ

 

恐ろしい攻撃は止まらない

 

左手の盾で攻撃を防ぐ

閃光の様な攻撃はいとも容易く盾を破壊する

緋緋色金のコーティングされたそれはボロボロになった

用無しの盾を捨て、頭を回転させる

 

今の状況をどうにかするには…

 

少し不安だが、あの技をしよう

 

打開策としてある技を使う

大地に大刃を突き立て、妖力を込め、振り上げる

地面と瓦礫が舞い上がったと同時に赤の光波が走る

その光波と同時に走り込む

 

「…」

 

斬鬼は光波を切り裂き、その後に切り込んでくる大剣を防ぐ

火花が散る、大剣に力を込め敵を潰さんとする

彼も負けてなく刀に力を込め、押し返していく

 

大剣と刀

 

それはどう見ても似つかない物であった

 

大剣は敵を薙ぎ払い、叩き潰す物

主に力自慢が用いて敵とした物を叩き切る

その大きさは大体身体より大きいか同じ位のものだ

それに比例して重量も酷くなっていく為筋力が無いとロクに振るうことも出来ない可能性がある

だが、それに見合う威力は持ち手を助けるであろう

 

刀は敵を切り裂くものである

主に技量が高い者が用いる

この日ノ本の国で最も有名な剣であろう

その特徴は素晴らしい斬れ味にあり、技量では鉄板も斬れる

ただ技量が無さすぎると逆に刀に振り回されるだろう

素晴らしい斬れ味も的確に当てないと意味が無いのだ

だが、その技量に見合った威力は持ち手を助けるだろう

 

太さも、重さも、全く違うのだ

それが折れずにずっと打ち合っている

 

緋緋色金を使った得物

それは決して折れることは無いと言われている

 

だが、斬鬼の振るっているソレは初代博麗巫女が使用した物

斬鬼の所有している刀とは全く違うもので出来ている

それが折れないのは、その黒い怨念が保護しているからなのか

 

ともかく、緋緋色金とは違うもの――

 

「!!」

 

椛は気付く

緋緋色金とは違うもの

それならばこの大剣で斬れるはず

この打ち合いに意味はある

その怨念が無くなるまで叩き付けてやる

 

能力を酷使している

全てを見通す程度の能力は素晴らしい能力だ

だからこうして彼の剣を見極め、避けることが出来る

 

そして、その目は刀を見る

 

 

 

ヒビが、一番入っている所

 

それがよく見えた

 

大剣を振り上げ、妖力を込める

それを見た斬鬼は咄嗟に横から斬撃をしようとする

 

大剣が振り下ろされる

 

それは寸分狂わずヒビに命中し

 

 

 

 

 

 

刀を叩き割った

 

黒い怨念が掻き消え、白銀の刃が数百年ぶりに姿を現す

その姿が斬鬼の瞳に入り込む

 

その目は、懐かしさが、溢れ出ていた

 

「…あぁ」

 

「終わりですッ!」

 

彼の懐に入り込み、思い切り左手を突っ込む

それは簡単に肋骨を破壊し、左胸を突き抜けた

 

数秒の後、左手を引き抜く

彼は、英雄は旧博麗神社の真ん中に、倒れ込んだ

 

 

灯篭は2つとも崩れ落ち、奉納と描かれた賽銭箱も割れていた

神社はまだ倒壊してないが、これ以上の戦闘をすると崩れ落ちそうだった

 

「…舞も、こんな気持ちだったんだな」

 

俺の瞳に、彼女の姿が写った

靈夢を埋めた後、急いで抱き上げた彼女

既に体温は低下し息も胸元をよく見なければ分からない程の物

彼女は薄い涙を流していた

 

「『ごめんなさい』」

 

お前が、謝る必要は無いだろう

俺も多分泣いていたと思う

視界が歪んで、彼女の服に水滴が落ちて

傷は深く、生存は絶望的だった

多分永琳に頼んでも無理な傷だ

 

心臓が、ダメになっている

 

『ふふふ…ごほっ…駄目よねぇ…私…』

 

血の咳をしながら、彼女は笑った

それは思いを振り切れなかった自分への罵倒だった

俺は精一杯それを否定する

 

俺が、俺が悪いんだ

 

『旦那様は悪くないわ…悪いのは…ふふ…そのうち…』

 

声がどんどん小さくなる

俺は彼女に泣きついていた

 

行かないでくれ、俺を、置いていかないでくれ

 

『最後に…相応しいわ、これが…』

 

冷たい感覚が、唇に触れた

目を見開くと彼女はふっと笑い、力を抜いた

 

いや、抜けた

 

 

舞?舞!?

 

それに命は宿っていなかった

魂は既に三途の川に移動していたのだ

 

あ、ああ…

 

「こんな、結末になるなんてな」

 

俺も後を追うことになるらしい

胸の傷を見ながら斬鬼は軽く笑った

 

椛はそんな彼を無表情で見下ろしていた

 

「もう、俺はダメだろうな」

 

何かが欠けた感覚が胸から外れない

 

「俺は不自由だったよ、色んな物に縛られて」

 

死ぬからこそ、俺は娘に告げることにした

彼女を俺のようにしないために

 

「お前達は自由だよ、自由、普通に生きていいんだ」

 

「紅白という性を捨てていい」

 

「普通の白狼として生きていい」

 

「これからの人生、お前の好きにしろ」

 

お前の人生はお前の物

俺とは違うんだ、お前は

 

「俺は人と共存したかった

 何故か…分からないが、どうしても人に惹かれてな

 どんなに理解しても同じ過ちを繰り返す人間というのが

 努力すればする程強くなっていくという人間というのが

 

 とても好きになってしまっていたんだ

 

 昔から妖怪の山は人と共存していた

 この事実は消せないことなんだよ、"犬走"

 人の協力が無いと出来ないことも、訓練もあったんだ

 頭の回転も早く、強い奴もいたさ

 俺にはどうしてあれを追い出したのか分からない

 

 だがな、俺は完全な共存は出来なかった

 

 外の世界では人種が違えど普通に暮らせる

 だけどな、この幻想郷じゃ普通に暮らせない

 恐れられ、差別される、酷ければ退治される

 

 俺には、無理だったよ、共存なんて」

 

俺は、こいつの道を間違えさせない

この意味を、分かってくれ

 

「お前にその思いは渡せない

 これ以上は自然に交わるようにならなければ

 今も昔も言えるのが"時間が解決する"だ

 この問題はそうとしか言えない

 

 だから、お前は共存を目指さなくていい」

 

俺は共存を目指した

全てが平等になり、全てが笑顔になれる世界を

 

だが、俺は途中で倒れてしまった

 

ここで倒れ、その思いは俺が閉じておくべきだ

 

娘に、この思いは渡せない

 

「自由だよ、本当の自由

 俺は共存に縛られて全く、自由はなかったよ

 とても苦しい生涯だったが不思議な事に後悔は無い

 

 ははは、楽しい人生でもあった

 

 お前は自由、そうだ、フリーなんだ

 俺とは違って己の目標を作り、目指すことが出来る

 

 道草も出来て、休憩も出来る」

 

 

視界が霞む

その視界には愛娘がポロポロと破顔している姿が見えた

ああ、幸せだな、こんな最後

 

俺に許される最高の最後だ

 

 

 

 

 

 

 

「俺は自由になれなかった、お前も、いや、お前は自由だ」

 

 

 

 

俺は、満足気にそう言うと、瞳を閉じた

その瞳はいつまで経っても、開くことは無かった

 

 

 

 

 

 

 

ポロリと、白い粒が目から落ちた

 



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BADEND 伝わらないオモイ

解釈の違いとも言う

あ、そうそう少し話を追加したんで前の話に戻った方が分かり安いと思います

ー!原作キャラ&斬鬼死亡注意!ー




「…よくやったわ、紅白椛」

 

 

マヨヒガ

そこの主の部屋にて1人の妖怪が跪いていた

伝えたのは任務が完了した事のみ

それを端的に報告し、返事を待っていたのだ

ただ彼女は下を向いている為さの表情は見えなかった

紫は人払いをして、この場を設けた

 

その中には己の式も勿論居た

 

彼女を変に刺激したくない、というのが一番だ

己の父を自分の手で殺したとなると、その心はどす黒い物である筈

下手を打てばこの場で己が殺される確率が高い

殺されなくても腕や足の一本は覚悟しなければならない

 

恐らく呪いで、一生生えなくなる

 

「顔は上げなくて良いわ…心中察せるから」

 

「…」

 

彼女が少し揺れた

紫はそれを頷いたとして、話を続ける

 

「これで幻想郷は平和になった

 人々も消滅することも無い

 

 …本当によくやったわ、貴女は」

 

「…身に余る」

 

ぽつりと彼女は呟いた

それが最低限出る言葉だったのだろう

 

本来ならば言葉も放ちたくないハズ

この場に居るのも苦痛である筈なのだ

 

事実を知ってしまった、と思う

彼の口から真実は話されたと思う

 

話されてなくてもいつしか分かることであろう

彼のことについては娘がよく知っている

この目の前の、彼の愛した娘が

多分紫よりも彼についてよく知っている妖怪であるはず

 

知っている、ということに関しては舞の方がよく知っている筈だが

 

「八雲からの任務を達成した者には褒美が与えられる」

 

重苦しい空気を軽くするため、報酬の話に移る

先程から息が苦しくなるほど空気が酷かった

部屋が完全に締め切られているというのもあるが、目の前の人物の圧だ

彼女からの、紅白椛からの圧が

 

「何か、言ってみなさい、できる範囲なら許すわ」

 

「…私は犬走では無く、紅白と、言われる事に」

 

それは彼の遺言を無視するに近い物だった

彼は紅白の名前を忘れていいと、言っていた

スキマで見た時、彼はそう言っていたのだ

 

だが、彼女は紅白と呼ばれる様にしてくれと言った

 

それはつまり、彼の娘であり続けると言うこと

彼女は彼の跡継ぎであると証明すること

 

彼女はまた口を開いた

 

「それからもうひとつ…」

 

「何――」

 

何かを言った

 

それは、顔を上げ、言った

 

 

黒曜石の様な黒い瞳が、紫の紫の瞳を射抜く

 

紫は一瞬動けなくなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 私の為にその力を寄越しなさい 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

縁は、壁に押し付けられていた

 

胸の凄まじい痛みと共に

 

見ればそこには彼女の大剣が突き刺さっていた

一瞬で胸に大剣を刺し、壁に突き刺したのだ

 

「ぐ、ぎゃ、あああああああああああ!?!?」

 

「ふふふふ、その叫び声…聞きたかったァ…」

 

彼女はハイライトの消えた瞳で、口を歪ませながら笑う

その片手は腰にある、彼の形見(斬鬼の刀)を撫でていた

紫は痛みに悶えながら椛を睨む

 

叫び声は外に聞こえない

 

なぜなら人払いに加え、防音の結界札も貼ってしまったからだ

 

「何を…して…!」

 

「私の望は一つ、皆の自由を手に入れる事」

 

彼女は笑いながら己のオモイを言う

 

「お父さんは不自由だったの

 共存っていう鎖に縛り付けられて、自由が無かったの

 途中でお前にあんな任務を押し付けられたのも、原因かも

 

 お父さんは不自由だから、外に行ったんだ

 こんな所にいてもいつか消滅するだけだもんね

 外の世界でも自分を見せつければ生きていけるんだ

 

 だって、お父さんはそれで外を生きてきたんでしょ?

 忘れられかけた頃に現れ、記憶を刻む」

 

だったら、と彼女は言う

とびっきりの笑顔で紫に顔を向ける

子供が自分の最大のサプライズを打ち明けるように

 

最高の笑顔で

 

「だったら皆見せつければいいじゃない!

 そうした手っ取り早く人間と共存出来て、お父さんの願いも叶う

 

 ねぇ、いいと思わない?

 

 妖怪の賢者さーん?」

 

彼女はニッコリと紫に笑いかける

紫は大剣の峰を掴みながら吐き捨てるように言う

 

「良い訳無いじゃ無いッ…彼の願いはそんなチンケな物じゃ…」

 

「本当、分かってないなー、ざーんねん」

 

本当に残念そうにそう言うと、手のひらを上に、雨を確認するような動作をする

彼女はとても歪んだ笑顔をしていた

 

「これ、何か分かる?分かるよねぇ?散々見てきたんだから」

 

「それは…!」

 

彼女の手のひらにある物

 

確かに、彼女なら持つことが出来る

 

何故なら

 

 

その手にあるのは…

 

 

 

 

 

 

それは波動のゆらめきだった

 

 

 

 

任務で殺された、白狼の扱う能力の物であるはずの物

それが椛の手のひらにある

この事実が示すのはひとつしか無かった

 

「彼の能力を、継いだの…!?」

 

「だいせいかーい、景品として貴女の能力も頂きまーす♡」

 

彼女はおもむろに紫の腹に手を突っ込んだ

簡単に肌を貫通し、体の中に異物が存在する

 

「ぐぬ、ぐぐぐ…!?ウググ!?」

 

「貴女は部下の方が強い弱っちい妖怪になっちゃうんだ、はははー」

 

椛はあらかた力をを取り込むと、腕を引き抜く

紫の口から血が吐き出される

 

彼女は大剣を抜いた

紫がぼろ雑巾の様に畳の上に倒れる

畳の上に血が広がり、どんどん染み込んでいく

 

「ふふふ、私待っててお父さん」

 

彼女は笑いながら扉を開け、外に出る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 私が貴方の夢を叶えさせるから 」

 

 

 

それから、幻想郷は戦乱の時代になった

妖怪の山にある神社は制圧された

現紅白家当主によって神風部隊が再結成された

 

射命丸文、天魔、風見幽香、星熊勇儀、伊吹萃香

 

古明地こいし、古明地さとり、八意永琳

 

実力者が入隊していった

かつての神風部隊隊員も居た

何故文やさとり、永琳が入隊したのか定かでは無い

 

彼女達の大切な物が人質にされていたのか

 

もはや終わった事でもあるのだ

新生神風部隊は幻想郷を簡単に制圧していった

現幻想郷に不満がある者は簡単に寝返った

それは人間であっても変わらないことであった

 

死した紅白斬鬼を信奉する者は簡単に寝返った

 

それは全て内側に向けられた刃だった

 

能力の大半を奪われた八雲に出来ることはなかった

里の守護者やその不死の友人ですら降伏し部隊に入った

最後に残っていたのは魔法使いと博麗の巫女だけだった

 

彼女達は最後に戦った

被害は酷いものであった

 

決着は博麗巫女が裏切った事により集結した

 

彼女はただ利用されるだけの人生は嫌であったのである

 

邪魔者が居なくなった部隊は外に進行した

 

突然現れた妖怪に帝国は為す術なく圧倒された

ただでさえ戦争でカツカツのところだったのだ

滅亡、という所で支配権を譲るという選択肢が与えられた

家畜のように扱わず、共存するという選択肢が

 

もはや脅しのそれを政府は受け入れた

 

小さな島国を占領した部隊は世界を侵略した

いかなる兵器も、ものも、使えなかった

ただ、降伏あるのみ

 

皮肉なことに、共存の望は叶えられた

 

少なくとも、俺はそう嗤うだろう

こんなのが成功だと?と俺は言うだろう

それに娘は気付かない

 

彼女は俺の思いをまた違う解釈をしたから

 

 

 

 

 

 

世界は平和に、つかの間の平和を味わった

 

 

 

 

 

 

それから、射命丸と犬走の間に亀裂が走った

最初から仲が良くなかった彼女達は些細なことから喧嘩を始めた

 

だが、それはいつしか世界を巻き込む闘争となった

 

犬走は射命丸のある研究に激怒し、完全に彼女の元を離れた

文も椛とはそんな関係にはなりたくなかったのだ

だから彼女は亀裂を埋めるように研究を続けた

 

椛は部隊の半数を連れ、局地にて基地を作り上げた

 

秩序から外れた組織が、生まれた瞬間である

 

やがて椛は文の作戦により囚われの身となる

それを許さない部隊の者が彼女を助けることなる

 

そして、部隊の図らいにより2人は出会う

 

英雄の墓で対面する2人

実に500の時を超え、文と椛(彼女達)はまみえた

 

そこで、彼女達は手を取り合うのか

 

これから、彼女達の娘息子が時代を進めるだろう

 

この争いの絶えない時代を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまんな、紫

 お前は用済みだったかもしれない」

 

俺は酷い怪我を負った彼女の頭を膝に起きながら言う

包帯を身体中に巻いた彼女は薄く笑う

 

「良いの、これくらい、仕方の無い事だから」

 

 

確かに、仕方の無いことか

 

目の前で笑顔で友を殴り飛ばす娘を見る

 

だが、その娘の瞳に俺達の姿は写って居なかった

 

あるのは、没年と名前が書かれた墓だけであった



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GOODEND デブリーフィング

父を殺した

その事実は深く心に根付いてしまった

トラウマが生まれ、ある時に父の幻影が現れる

 

『それで良かったのか?』

 

当主の部屋でデスクワークをしている時、床を踏む音がする

時たまとかそういう頻度では無い、頻繁だ、大量だ

父の姿が大量に現れるという訳では無い

 

様々な姿で

 

いつもの姿で

 

血塗れの身体と隻腕とえぐれた右目の姿で

 

椅子に座り、コップから何かを啜っている姿で

 

縁側に出ると柱にすがり、葉巻を吸っている姿で

 

それが幻覚と直ぐに分かる

なぜなら父はこの手で殺したから

左手の体を突き抜けた感覚はいつまでも味わう事になる

その指にこびり付いたヌメヌメとした血は拭い去ることは出来ない

 

ただ、決心した

私は彼の娘として生きていく

彼は犬走を名乗り、自由に生きていいと言った

 

だが、私には出来ない

 

私は道草を食っていい

その自由を使って、この悲劇を閉じる

このような親殺しはもう誰にもさせてはならない

 

こんな、空っぽになる気持ちなんて

 

八雲に報告した後何も聞かずここに来た

私は彼の能力を継ぎ、2つの能力持ちとなったのだ

ワープホールは慣れ親しんだ、懐かしい物となった

 

気持ちが整理しきれた訳じゃない

 

こうして狂ったように書類を始末していた

後ろに母は居らず、誰もこの部屋に居ない

 

ただ私の女中となった、あの人が時たま飲み物を置きに来てくれる

 

今日も、変わらぬ一日となるだろう

 

 

「なので、宴会を開いて欲しいんですよ」

 

「そんなに酷いの?」

 

「そうですよ!入ったのにも気付かないのですから!」

 

その頃博麗神社には1人の天狗かある事を要求していた

要求といえど、それは宴会をしてほしいと言うものである

一応友の1人である椛を放っておくことは出来ない

 

それに、彼の娘でもあるのだ

恩があるし、それを返さないわけにはいかない

 

その姿は見た事があるし

親子似るとは言うが、変な所が似たものだ

というか、悪い所が

 

「…いいわ、彼女の為にやってあげるわよ」

 

「ありがとうございます!いやー、これで彼女も立ち治れば…」

 

「…準備するわ、少しだけ」

 

霊夢はそう言うと、本殿の奥に入る

射命丸は何かと思ったが多分宴会の準備だと思い、それ程気にしなかった

それより、これを記事にして幻想郷中にばら撒かなければ

 

皆、宴会が好きだ

 

この幻想郷では、宴会が1番なのだ

 

 

「紫、出てきなさい」

 

「あら、何かしら」

 

「ひとつ聞きたいことがあるの」

 

「何?"答えられる範囲でなら"教えてあげるわ」

 

「簡単な話、どうして幻想郷は消滅していないのよ」

 

「どういうことかしら」

 

「博麗大結界はまだまだ現役、でも有り得ない事でしょ?」

 

「そうかもしれないわね」

 

「つまり、コレはそういう事でしょう?」

 

「そうとも言うわね」

 

「そう、失せなさい」

 

「酷いわね」

 

 

「ですから、私には仕事が」

 

「いいのよ、休憩くらい」

 

「終わっていません」

 

「椛…いい加減に…」

 

紅白家当主の部屋

そこには2人の影が言い争っていた

それは文と椛だ、言い争う、というより文がガンガン言っている

彼女はクマのついた目で文を見ながらポツポツと言葉を返す

とはいえオウム返しもあったりする

頭が回っていないのが明白である

机の上に外郎やプリンなどの菓子が置かれている

だが、一口も食われていない

 

いつ、食事をしたのか

「見て分かりますよ、その痩せた体…何も食べてないでしょう」

 

「だからなんだと、私は仕事を…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        「いい加減にしろ!」

 

 

文の堪忍袋の緒が切れた

椛の肩を掴み、思い切り壁に叩きつける

彼女の肺から息が全て出る音がした

 

「あんたはそれでいいの?そんなみすぼらしい姿になってまで!」

 

文は見ていられなかった

記事にした後で、強制的に連れてくれば良いと思った

 

だが、この姿は

 

この姿で、強制的に連れて行っても

 

「斬鬼が見たらどう思う?あいつは絶対に怒るわ」

 

「…」

 

初めて、椛は文を視認した

少しの悲しみが混じった、目で

 

文は少し、たじろいだが気付かれ無いように振る舞う

 

なぜなら、その瞳には怒りしか無かったからだ

悲しみはそれを補助する陰陽に過ぎない

底なしの怒りが文を射抜いていたのだ

 

「私はあいつに頼まれた

 けどそれだけじゃない、友として言ってるだよ!」

 

「…貴女に何が分かる」

 

椛が口を開いた

それは無機質とも怒りとも捉えられる声色だった

目がゴロリ、と文の手を見る

 

「その手は血に汚れていない

 いつも左手が血に濡れている

 いつも父の声が聞こえる

 いつも、いつもいつも…」

 

口が最小限に動く

しかし声は、その声ははっきりと耳に入ってくる

 

「報復」

 

文はピクリと体を動かす

 

「いつも、八雲への報復を考えていた

 父を殺すという任務を与えた八雲への報復」

 

「報復は何も生まない、報復は報復を呼ぶ

 そこに待っているのは破滅だけ」

 

「…だって」

 

目の端から、透明の液体が零れる

椛は文の肩を掴んだ

 

「ぐす…そうでも…しないと、今にも消滅しそうなんです」

 

今の彼女を支えているのは父を奪われた憎しみ

それと父を殺したという深い悲しみだった

父を殺したのは自分で、それが悲しかった

矛盾した感情が心を支配し、渦巻く

 

妖怪は精神が基本だ

 

酷く精神を病んだ妖怪は自然消滅してしまうことがあるらしい

体が灰となり、崩れ落ちていくのだ

たとえ最強の妖怪とてそれは変わらない

 

斬鬼の娘であろうとも、それは同じだった

 

故にそれをわすれようとした

机に向き、大量の書類を処分していた

それでも父は忘れられず、逆に悪化している

 

「私は…わだじは…任務を貫いだ…それなのに…こんなことって…」

 

「…辛かったでしょう…貴女の気持ちは辛い物だって、分かるわ」

 

「…貴女に失う物があったとでも」

 

椛がそう問いかけると、彼女はあるわ、と言う

少し寂しそうな顔で

 

「私は昔、心を寄せていた男が居たの…知らないでしょう

 私は皆に内緒で付き合ってたの」

 

「…」

 

文に想い人が居た

それはあまり思いつかない事だった

このへらへらとした奴と付き合うなんて

 

「甘い幸せ程無くなるのが早い物は無いって実感したわ、あの時

 目の前で想い人が殺される、それを見た時ね」

 

「…」

 

それはある意味椛と同じだった

親と子、彼女と彼氏

死ぬ者と生き抜く者

 

「貴女は…もう少し前向きに生きた方が良いと思うわ」

 

「そうしたら、私は良いと思う」

 

「だから…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宴会、行きましょ?」

 

 

「つって宴会でだんまりなのも困るぜ」

 

斬鬼が座っていた場所に椛が座り、ちびちびと酒を飲んでいた

天狗が酒に強いとよく言われるが伝承のソレとは思えない姿である

 

時折焼き鳥に手を伸ばし、口に運ぶ

 

「…全く」

 

霊夢はため息をついた

全てから浮きあらゆる痛みを受け流す彼女には分からない

例え友であろうとも殺せる心を持つ彼女には分かるまい

 

だが、そんな彼女でも気配り位はできる

 

今、彼女対して最高な物を

 

「…ようやく来たわね」

 

全く、といぅため息は椛に向けてのものでは無かった

それは今まさしく階段を登っている人物であり

椛の聴覚はそれを既に掴み取っていた

 

その歩調

 

その鼓動

 

その顔

 

その体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…お父さん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅白斬鬼は、にっと口角を上げる

 

 

 

 

 

「俺があんなので死ぬと思ったか?

   全く、冗談よしてくれよ、なぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

これにて、一匹狼の帰還は完全に終了した

かつての伝説は能力を失い大半を娘に継いだ

かの妖怪はもはや能力の無い、隠居隻眼天狗

 

しかし、その男はこれからも生き続けるだろう

 

彼にはまだ使命がある

 

娘の生き様を見るという、使命が

 

それが終わる時が、彼の終わりであろう

 

 

 

一匹狼の幻想郷帰還  ―END―




なんか蕁麻疹出てきたけど元気です


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失われたテープ
忘れられたテープ「鬼子母神の能力」


斬鬼はとある里に居た

時代はまだ彼が隻眼で無かった頃

彼にとって用があった訳じゃない

 

ただ、暇だったから

それと新たに打ってもらった刀を試したかったというのもある

これから永遠に彼が使う刀

 

――秘刀-ゆらめき-

 

何故に名前がゆらめきかよく分からない

神風部隊の彼はお前は永遠に迷うことになると言ってその名前をつけた

俺はどこに行こうと迷うつもりは無い

そう反論したが彼は力無く首を振ったのを覚えている

 

『お前は迷う事になる』

 

ただ、それだけを言い理由を言うことは無かった

俺は刀を受け取り、その刃を見た

 

その目に迷いはどこにもなかった

 

むしろ目標に突き進む猛き炎があるくらいに

今更ソレを彼に問おうとも、彼は既に死んでいる

何をどうして、その名前にしたかもう聞くことは出来ないのだ

 

「…お前のせいで揺らめいている気がする」

 

刃を見ながら、俺はそう呟いた

コンコンと柄を叩いて納刀する

 

さて、今回この刀の試し切り相手になってもらいたい女が居る

 

 

 

 

 

 

 

 

鬼痔津狼破…二つ名は鬼子母神

 

鬼の頭領として有名な鬼子母神だ

妖怪の中に知らぬ者居らず、人間に恐れない者居らず

完璧な恐怖の象徴として有名な…1部じゃ力の化身として崇められている鬼だ

 

そんな存在こそ刀の試し切りに丁度良いだろう

 

余談だが鬼子母神が試し切りひ丁度良いのは俺が強すぎる訳では無い

どちらかと言えばそこら辺の妖怪はヤワ過ぎるのだ

もはや紙を切っているみたいだ

 

「…さて」

 

目標は視認できた

ちなみにとある里というのは鬼の里である

それも狼破がいるからか本拠地らしい、かなりでかい

 

その狼破自身は広場で美味そうに酒を飲んでいる

 

酒好きというのは何処の鬼も同じらしい

 

俺はさっとその広場に飛び降りたのだった

 

 

「いやー酒が進むねぇ!」

 

「最近は人間も攻めてこないから平和だ、退屈だぁ」

 

がやがやと、騒がしいどころかもはやうるさいそれの中心に居る鬼が言う

四天王と呼ばれた鬼の2人だ

今現在もう2人は諸事情でいなくなっている

片方は行方不明だが、片方は今現在仙人をしているとか

仙人とか退屈でしか無いと思うが、彼女はそれが良かったらしい

 

「そう言われれば退屈だ」

 

「鬼子母神さんよ、あんたもそう思わんか?」

 

「…私はそこまでおもわんな」

 

鬼子母神はつまらなさそうに言った

それに対して1人がだるそうに言った

 

「退屈ってのは俺たちを殺すぜ?

 んだったら少しは派手なのがいいと思うがな」

 

鬼たちは一斉にソイツを見た

なぜなら誰も聞いたことの無い声色だったからである

 

視線を一点に受けた張本人は軽く手を振る

 

「あ、よう…初めましてだな」

 

ほぼ全員が拳を構える

明らかに敵意を丸出しにしてその男を睨む

いつの間にこの集団の中に居たのだ

声を上げるまでこいつがいることに気づかなかった

 

鬼達がそれを認識して油断ならない目で男を見る

そこで、見ていた鬼子母神が

 

「…お前、紅白斬鬼か」

 

鬼子母神は軽く手を振って鬼たちの構えを解いた

四天王の一人がほーうと感心したように言う

 

「あの妖怪の山の…有名人が何故ここに?」

 

「何でだと思う?」

 

斬鬼は軽く笑った

そして、鬼子母神を指さした

 

「俺はあんたに用があってな」

 

「何さ」

 

鬼子母神は若干面倒くさそうな顔をしている

淡々と、まるでただ今日の仕事を使えるかのように斬鬼は言う

 

 

「刀の試し切り相手になってもらいたくてなぁ?」

 

「…へぇ」

 

 

鬼子母神は笑った

不満の顔から少し喜びが混じった顔に

どうやら血の気のあるのは鬼はどいつもこいつも同じらしい

 

「刀を打ってもらったのかい」

 

「そうだ、そこらのヤツじゃ斬れ味が分からん」

 

「斬れなさすぎて?」

 

「斬れすぎて」

 

鬼子母神の笑みが深まった

これは完全にヤル気に入ったなと斬鬼は確信した

 

「流石伝説と呼ばれる男、その肩書きに嘘は無さそうだ」

 

「あったら伝説とは言わん、ただの嘘つきだ」

 

斬鬼という名はこの日の本の国全てに伝わっていると言っても過言ではない

ある物は鬼子母神以上に畏怖し、恐怖する

しかし、そのある者は大体妖怪しかいない

なぜなら彼は人間の味方であるからだ

 

彼の故郷である妖怪の山には人間がすんでいる

傲慢な天狗と人間が共に暮らすのはありえない

ただ、その山だけが特殊だっただけだろう

 

「皆、手ぇ出すな…真剣勝負だ」

 

「おん、お前は拳をだがな」

 

言ったそばから斬鬼は斬り掛かる

この程度で終わったら鬼子母神はその程度だったといえ訳だ

しかしそれで終わる訳も無く狼破は左腕で防いだ

 

少し、切り傷が生まれる

 

「成程、名刀だなそれ。私の皮膚に傷を付けるとは」

 

「褒めて貰えて結構、じゃ、終わりにするか?」

 

鬼子母神に傷を付けられる逸品と分かった

だからもう止めるかと斬鬼は聞いているわけである

 

まぁ、そんな逸品を見せられちゃ鬼は黙っちゃいない

 

「ほざけ」

 

距離を詰めて右ストレートをぶち込む

斬鬼は刀で弾き、突きを入れる

それを狼破は横に受け流し腹に拳を入れる

 

息が詰まる

 

当たり所は腹筋、致命傷ではない

 

だが…

 

「巫山戯た威力してやがるなお前!」

 

「ごふっ」

 

思い切り狼破の腹を蹴り飛ばす

今ので腹を貫通されるかと思った

久しぶりに死の雰囲気を濃密に感じた

 

「舐めるからじゃないかねぇ」

 

口の端を拭った狼破はそう言った

斬鬼はニッと笑う

 

「そうかもな、少し過小評価していたらしい」

 

秘刀が青い膜に覆われる

鬼子母神はそれを見てようやくやる気になったかと呟く

 

「伝説には斬鬼は不思議な青い刀を持っている、とある

 しかし実際は刀に妖力を纏わせているだけ、ねぇ」

 

「そう、極め単純な事だ…が」

 

下から上に刀を振り上げる

鬼子母神は瞬発的に避ける

彼女の後ろにある建物が数秒後に"ズレた"

 

「ぐっ!?」

 

「妖力を纏わせる事により、斬れ味が上がる、普通に考えりゃわかる事さ」

 

鬼子母神の右腕がポトリと落ちた

言い伝えにある通り鬼子母神に傷を付けるのはほぼ不可能だ

鬼の頭領である鬼子母神はその他を凌ぐ肌の硬さを持っている

 

本当に、コイツ何食ってるんだろうか

 

「面白いね」

 

鬼子母神は腕を拾い、切断面にくっ付ける

すると簡単に腕は再生して斬られる前と同じように動くようになった

 

「おーお、凄い再生能力だ」

 

「言ってないで続きをやろうか」

 

「上等」

 

そう言うと2人は駆け出す

拳と刀を打ち合わせ、どちらが強いか競い合う

鋼鉄を超える硬さを持つ拳は刀に斬られることはない

そして、その秘刀もその拳に折られる脆さは無い

 

空中戦、地上戦

 

あらゆる角度からの攻撃が二人に襲いかかる

時折胸を殴られ、時折腕を斬られ

2人は確実に相手を追い詰めていた

 

「あれが紅白斬鬼か」

 

「伝説が飛躍しすぎて嘘かと思ったけど、こりゃ嘘とは言えんな」

 

四天王の二人はそう呟いた

この怪力乱神と酒呑童子でさえ鬼子母神には勝てない

それを攻撃を受けながら反撃し、しかも傷をつける

恐らく自分たちがかかれば見られもせずに切り捨てられるだろう

 

「怖いねぇ…ぷふぅ」

 

「しかし酒の肴には丁度いいな」

 

最強と最強がぶつかり合う

これ程酒の肴になる例も他に無いだろう

 

「ふん」

 

「ぐっ」

 

狼破の腹に刀を突き刺す

流石にこれは効いたのか狼破は呻く

 

「どうだ、刀が腹を貫通する感覚は」

 

「あぁ、最高ッだよお前」

 

「…!?」

 

拳が思い切り振られる

斬鬼は後ろに側転し、それを避けた

流石に反撃されるとは思ってなかった

狼破は刀を簡単に引き抜き、斬鬼に投げて寄こした

 

「良いねぇ、刀が腹を貫通する感覚

 初めてだよ私の腹に一太刀入れたのは」

 

「それは良かった、ついでにくたばって行こうぜ」

 

「嫌だね」

 

斬鬼は距離を詰める

刀をその間に鞘に仕舞い、抜刀の構え

後は奴の懐に潜り込み、真っ二つにしてやるだけだ

 

狼破は動かなかった

仁王立ちのまま、動かなかった

斬鬼は違和感を覚えた

 

何故奴は構えすらしない?

どうしてそんなに余裕を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――!!!」

 

「油断したねぇ!」

 

斬鬼の目には一瞬で姿を変えた狼破が拳を振るった姿があった

全ての物に焦点が合う、全知全能になった気分だ

スローモーションになった世界で斬鬼は己の右目に迫る拳を見ることしか出来なかった

 

 

 

「うぐぁあああああああっ!!!!」

 

 

 

己の右目に走る痛み

目そのものを潰そうとする圧力

既に目の感覚がない

 

だが、腕は止まらなかった

柄を掴みそのまま鞘から刃を走り切る

あまりに力を入れたせいか、鞘と刃が擦れ、火花を散らしていた

 

「ああぁっ!!!」

 

奴の横腹に刃を入れる

思い切り込めた力をそのままに、その腹を斬り裂いた

 

 

「…はー」

 

口から息を吐き出し、切り抜いた体制から立ちに変わる

そして、刀に付着した血液を袖で拭った

 

「…お前さん、そういう能力だったんだな

 ただの馬鹿力かと思ってた」

 

「この姿は異質だから見せたことがない

 久しぶりにこの姿になった」

 

そこには上半身だけになった狼破が居た

その頭には獣耳が付き、立ったままの下半身には尻尾が垂れていた

 

能力は…獣人化

 

素早くなったり力が上がったりするのだろう

鬼子母神ともなればそのスピードは音を置いてけぼりにする

というかさっきしていた、恐ろしかった

 

「やれやれ、疲れたから帰らせてもらうぜ」

 

「そうもいかんなぁ、折角だ、酒でも飲もうじゃないか」

 

既に下半身と上半身をくっつけた狼破がそう言った

斬鬼は少し面倒くさい顔して、口を開いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めて名前を聞こうか、俺は紅白斬鬼」

 

「鬼痔津狼破、よろしくな、斬鬼」

 

 



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縮小のテープ「斬鬼子供化計画」

「おーい、斬鬼ー」

 

とある家に女の声が響く

射命丸文はとある用を背負って斬鬼の家に来た

このとある家は斬鬼の家だ、今は娘と別居をしているのである

まぁ任務が終わったからここで静かに暮らすというのも分かるが…

腐っても天狗の一員、そんでもって妖怪の山住み

それだったらやることやってほし――

 

「…誰でしょうか」

 

「…エヒヘェ?」

 

ひょこっと出てきたその人物に思わず変な声が文の口から出る

何故かと言われれば、その人物があまりに"小さかった"からだ

ダボダボな和服とこの体付きに明らかにミスマッチな肩鎧と腰鎧

その人物は明らかに警戒した顔付きで文を見た

 

「アイツに似てる…誰ですか、貴方」

 

「…射命丸文と申しますが、貴方は」

 

"両目"をぱちくりしながら"彼"は手を顎に当てる

そのままブツブツと何かを呟いたかと思えば顔を上げた

 

 

そして、廊下に現れる

10、12程の幼い体に大きな狼の耳と尻尾が付いている

"あの"飄々とした顔ヅラとは思えないほど丸くなった顔付き

しかし瞳は常にジト目で何を考えているか分からない

 

 

 

彼は口を開いた

 

 

 

 

 

 

「…紅白斬鬼と申します、今、どうなっているのですか?」

 

 

 

彼は、そう言ったのだった

 

 

 

「…ふむ、そうなっているのか」

 

「ええ、その、斬鬼がこの通りで…」

 

天魔は顎に手を当てる、そして改めて目の前の人物を見る

ふむ、とても懐かしい姿が目に入る

あの頃の斬鬼を見るとは夢にも思わなかった

 

「…こんにちは」

 

天魔がじっと彼を見ていると斬鬼は軽い会釈をした

しかしその目はじっと天魔から離れることは無く、何か値踏みをしているようだった

 

「…確かに斬鬼だな」

 

「え?」

 

「いや、なんでもない」

 

確かに彼は人間観察の癖があった

割と人をじっと見ている事が多かった、そういえば…

数回会った程度の仲でも分かるくらいの癖だった

 

「さて、どうしようか…椛は知ってるのか?」

 

「いえ、まだ知らないと思われます」

 

「…未来のアイツは敬語を使うのか」

 

文が天魔に対してそういうと斬鬼が気持ち悪そうにそういう

彼女は青筋を立てて斬鬼に叫ぶ

 

「私をなんだと思っているのよ!?」

 

それを聞いて斬鬼が顔を背けて呟く

 

「うわ本当に射命丸文だ」

 

文は握りこぶしを作り、天魔に顔を向けた

 

「この子シバいていいですか」

 

「止めておけ止めておけ…」

 

天魔はソレを制止すると再び考える

このまま白狼部隊にぶち込んでも面白い…

あの頃の斬鬼は鴉天狗を上回る技量を手にしていた

こいつが部隊のリーダーになるのは必然…

 

いや、待てよ?

 

「射命丸、確か近々博麗神社で宴会があったな?」

 

「ええ、確か…まさか」

 

「ああ、そのまさかだ」

 

彼女はにっこりと笑うと斬鬼に向き直る

目の高さを合わせるような事はしない、やったら多分斬られる

天魔はそう思いながら彼に行った

 

「宴会は好きか?私は長い時の中で君の事を忘れてしまっていたからな」

 

勿論、嘘である

それに対して斬鬼は言う

 

「ええ、まぁ、賑やかなのは好きではありませんが…

 見たところ父も母もいらっしゃらない御様子、行かせて頂きます」

 

「分かった、射命丸、頼んだぞ」

 

「分かりました」

 

天魔はここまで会話して分かったことがあると心の中で思った

それは彼が小さくなったと同時に"記憶"も昔に戻ったということだ

この感情の無さは恐らく舞と会う前の頃だろう

ただ、彼女の事はもう勘から好きなのか分からない

多分好きだ、纏わりつく人魂にくすぐったそうな顔をしている

…好きでも無かった今頃追い払っているはずだからな

 

 

 

「取り敢えず、宜しく頼むぞ」

 

 

それだけ言って、天魔は自室に戻るのだった

 

「はい分かりました…で」

 

で、だ

快く了承(上辺だけ)したものの…

子供斬鬼なんてどう扱えば良いんだろう、あの頃みたいに接するのか?

いや、今の射命丸にあの頃の感覚は酷な事だ

そもそもこいつ自体が扱いにくい、うん、あの頃一緒にいたからわかる

 

…まぁ、どうにかなるか

 

「取り敢えず…自宅に行きますか」

 

「…貴方の家ですか」

 

何か文句がありそうな彼をこれ以上何かを言う前に連れて行く

何を言われようともこれに関しては黙ってもらおう

 

そう思いながら彼を自分の家に射命丸は連れて行くのだった

 

 

 

 

 

 

「今の所順調?」

 

「えぇ、何も問題はありません」

 

「そう、なら良かったわ」

 

「…良かったのですか?」

 

「何がかしら?」

 

「いえ、こんなこと"彼"が許さないと思うのですが」

 

「いいのよ、今はどうせ"彼"は居ないようなものなのだから

 過去の性格と今のせいかくは似たようで似てないものなのよ」

 

「…そういうものなのですか」

 

「えぇ、そういうもの…ふふふ」

 

「では、私は引き続き。」

 

「えぇ、宜しく頼むわ」

 

 

 

 

 

 

 

「…ふふ、良いわ、1度してみたかったもの

 一度、一度だけ見たかったもの…文句は言われないわ」

 

「言われても、いつも通り、のらりくらりとすればいいもの」

 

 

 

 

「ここが貴方の家ですか、ふむ、昔となんら変わってない様子」

 

「ちょっと一言多いわねこの子」

 

私の部屋のど真ん中に正座している青年

見た目よりもこんなに大人びていたのかと少し驚きを隠せない

こんなのと平気で関わっていたあの頃に戻りたいものだ

…今もかなり普通に関わっているが

 

「というか客人が来たというのにお茶1つ出さないんですね」

 

「なんだコイツ」

 

やべ本音が

わりといい家(古来から天狗を守護する家系)なので作法がうるさかったのだろう

あの頃の斬鬼と言えばまだ教育課程だった…か?

もしそうだとしたらかなり面倒そうだ…

 

「へー、へー…へー」

 

「分かった、分かったわよ」

 

めっちゃジト目でぶつくさ文句を言ってくるのでお茶を用意する事にした

とは言えど私がお茶を出したのなんて何十年ぶりか

今更良いお茶が作れる筈もないので菓子で誤魔化すことにしよう

一応彼の好みは知っているから合わせはするが

 

先人が鬼とやってたお茶会を思い出して見様見真似で淹れる

 

 

 

 

棚から適当な菓子を取り出してお盆に乗せる

それを一緒に子供斬鬼に渡す

彼は(恐らく)家の作法らしき動きでお茶を取ると軽く啜る

そして顔をわざとらしく顰めるとそれを飲み干した

お盆にある和菓子も小綺麗に食べる、そちらは余り顔を顰め無かった

 

彼は一息つくと感想を一言

 

 

「…良いお茶ですね、苦味が効いている」

 

「あはは、それはどう――」

 

 

…いや、お世辞だ

なんならこれは皮肉ですらある

なぜなら彼の好みは"甘い"お茶であるからだ

和菓子の方で余り顔を顰め無かったのは甘かったからだろう…

彼はお盆を横にずらすと軽く礼をする

 

「良い粗茶でした」

 

「どっちよ」

 

彼はどっちとも言える返事をする

やっぱ面倒な奴だわ、こいつ

こんなに愛想が無い奴だったか…

 

そう思っているとガラリと玄関の扉が空いた

誰と思って玄関に行こうとする前にその人物は現れる

 

「文さん、お父さん知りま――」

 

「…こんにちは」

 

その人物は椛だった、あらら

彼女は私の部屋のど真ん中に座る子供斬鬼を見て硬直する

斬鬼は軽く座ったまま会釈をした、呑気な

 

「…あれって父の服と鎧ですよね…?」

 

「取り敢えず会話してみなさいよ」

 

恐る恐る聞く彼女は私はそう返した、とりあえず話せ

少し難色を彼女は示したものの、取り敢えず話す事にした

ジト目で文を見ていた斬鬼は同じような目で椛を見た

彼女は軽く咳をすると彼の目の前に座る

 

「こんにちは、私…紅白椛と申します」

 

「…いつから僕に血縁者が?僕は紅白斬鬼と申します」

 

…見てわかる通りに椛が凍った

今は多分目の前の事実を咀嚼するのに忙しいことだろう

しかしわりとスグ飲み込めたのか彼女は私を見た

 

「…父、ですか?」

 

「私の記憶にある斬鬼と寸分狂わず同じよ」

 

ほえーと逆に彼女は興味を持ったらしい

様々な角度から彼をじーっと見る

彼は何も気にせず、人魂をじっと見ていた

 

「うりゃー」

 

「あばーっ」

 

ふと何かを思いついたのか椛はうりゃーっと子供斬鬼の頬を伸ばす

わりと伸びた、本人はあばーっと適当に返している

あれ、なんか椛に皮肉が飛んでいかないんだが

 

「そういえば文さん、子供用の着替えとかないですか

 流石にこのままじゃダボダボで…」

 

「なんで私に子供用の着替えがあると思うんですか」

 

「え、文さんって子供を誘拐してはおねショタプレイをre」

 

「アンタは私をなんだと思ってるのよ」

 

心外である

そんな私が天狗攫いを利用してビッチな真似をする訳が無い

何回でも言うが私は清く正しい射命丸文なのだ

…あ、でも確かあれはあったな

 

「少し待ってなさい、アレがあったハズ…」

 

私は隠し部屋からあれを持ってくることにした

もしもの為にとっておいたが、ここで役に立つとは…

 

 

「お待たせ…って何してるの」

 

「彼に現状を説明していただけです」

 

「…取り敢えず自分が大人から子供になったのは理解しました」

 

彼女達はどうやら現状についての会話をしていたらしい

…その状態が抱っこというのもどうかと思うのだが

椛が正座をして、その上に斬鬼が居る形だ

わりと椛が大きいのと子供斬鬼が小さいのもあってすっぽりと入っている

 

…あれ?

 

「私とだいぶ扱い違いませんかねぇ!?」

 

「だって未来の娘さんらしいですし」

 

「ねー」

 

「ねー」

 

「なんだコイツら」

 

謎な所で息があっている

というかなんでこいつらこんな仲が…

あ、そういや娘と父親だった、そうだった

それだったら仲良いのも納得…

 

「いや私も昔からの友達ィ!」

 

「うるさ」

 

「ですね」

 

「黙らっしゃい!」

 

うむ、とても腹が立つ

そう思いながら彼に持ってきたソレを渡した

彼はどうやら見覚えあったようで直ぐに着替える

 

「…僕の服だ、全く変わりがない、少しほつれがあるけど」

 

「…文さん」

 

うわぁ、みたいな目をして私をみる

あ、もしかして彼から盗んだみたいな理解されてる?

 

「違うわよ、彼が捨てたのを私が貰っただけよ」

 

「なんで捨てたのを拾ったんですか」

 

「いやねぇ、理由が納得いかなかったからよ」

 

目線を斬鬼に向けると彼は懐かしい服になっていた

遥か昔の名家が着る着物、とても懐かしい

あの頃と全く同じの彼を見ていると、勝手に体がシャッターを切る

その光に彼はジト目だった

 

「…何今の」

 

「気にしなくても大丈夫ですよ!さぁさぁ…」

 

「斬鬼君、こっち」

 

「はーい」

 

「椛ィィ!その子こっちに渡しなさい!」

 

「嫌です、なんか寝盗られた感じがするので」

 

こんな感じの会話をしながら、夜まで私の家に居たのだった

 

 

…少しだけ、懐かしい気分になった気がする

 

とても、昔の…もう、なる事の無い気分に

 

 

 

 

 

「ちょっと!?私の私物荒らさないで!?」

 

「いえ、少し拝見してるだけです」

 

「拝見で物は飛ばないわよ!?」

 

 

いや、なってねぇわ

 

 

「ひゃーっ、酒がうめぇ!」

 

「それ前も聞いたわよ、萃香」

 

「いいじゃないか!お前ものめェー!」

 

「あらあら、鬼って怖いわねぇ」

 

「幽々子様、喋りながら普通に食べないでください…」

 

いつも通りの宴会

この様な騒ぎも最早当たり前であり、慣れるものである

神聖な神社に邪悪な妖怪が大量に集まっているのも慣れである

その証拠に少し離れた所で普通の人間が宴会料理を食べている

 

そんないつもの宴会に特異点が投下される

 

「こんにちはー!清く正しい射命丸です!」

 

「うわ詐欺天狗」

 

「おお、射命丸じゃないか!」

 

「あ、こんにちは…」

 

勢いよく射命丸が挨拶をして萃香に捕まっていく

その後に大剣を背負った人物が子供を連れて降りてくる

霊夢をそれを見て少し怪訝に思った

他の…咲夜やレミリアなども同じである

 

「こんにちは」

 

「…天狗の子供なんて連れてどうしたのよ」

 

「あぁ、いえ…少し」

 

椛が軽く話を逸らそうとした瞬間子供が頭を下げる

 

「こんにちは、紅白斬鬼と言います…少し宴会を見に来ました」

 

「…は?」

 

その言葉に、宴会会場が固まった

皆食べる手を止めてじっと斬鬼を名乗る人物を見る

ジト目の彼は視線に囲まれても何も言わずに辺りを見回す

そしてポヤポヤとした空気を漂わせている幽々子を見つける

トテトテとでも擬音が出そうな走り方で幽々子に近づく

そしてそのまま彼女の膝元に座った

 

「えぇ…?」

 

声を出せたのは、連れてきた椛だけだったそうな

そして声を出せた彼女はこの場を見て、口元を抑えた

こりゃ説明が必要そうだな、と

 

 

「…つまり、彼が子供化したってこと?」

 

落ち着つ為か霊夢はお茶を啜ながらそういった

 

「生まれて100年程度かしら、すごい大人びてるのね」

 

口元に手を当ててレミリアがそうこぼした

 

「うわーっ、凄い可愛い!ちよっと耳触らせてー!」

 

フランが可愛らしい笑顔でそういうが触らせて貰えない

逆に貰えたのは斬鬼のジト目だけだった

 

「…凄い皆をジト目で見てるんだけど」

 

最早誤解されそうなくらいの時間彼は皆を見つめていた

そして時折近くの杯に徳利から酒を入れて…

 

「いや待ってそれ鬼殺し」

 

「…何それ」

 

魔理沙がそう突っ込んでも彼はジト目を変えず、軽く飲み干す

それを見た萃香が目を輝かせて文をほっぽりだし駆け寄る

凄く興奮した様子だ、気持ち悪と彼は呟いた

 

「酒!酒飲めるのかい!?」

 

「…えぇ、まぁ」

 

「飲もうよ!もっと!」

 

嫌そうな顔をする彼をシカトして酒を注ぐ

それに斬鬼が口を当てることは無かった

萃香はめっちゃしょんぼりした

 

「ほらほら、それ以上はイジメよ」

 

幽々子が彼の獣耳を弄りながら言った

彼はあいからずジト目を…頬が赤くなってるな、うん

彼女達はさっきから疑問になっていることを聞くことにした

 

「なんでさっきから幽々子の膝の上にいるのよ」

 

「…一番ここが落ち着くので」

 

彼は目を閉じてそう言ったの

すると幽々子の目が怪しく光り、彼の耳に口を寄せる

 

「本当は他の理由があるんじゃないのー?」

 

「何も無いで……くすぐったいですそれ以上触らないで下さい」

 

幽々子は右手を尻尾、左手を獣耳で弄っていた

その手つきがヤラシイので斬鬼はやめちくりーと言っていた訳だ

まぁ勿論幽々子が止めるはずもなく

 

「…クゥン」

 

一瞬、斬鬼がそんな声を出した

聞き取れたのは至近距離に居た幽々子だけだった

それはどう考えても喘声だった

幽々子はにっこりと笑うと斬鬼の耳元で囁く

 

――もっといじってほしいのかしら

 

欲しくないなら、という言葉は無かった

なぜなら言う必要も無かったからだ

幽々子は斬鬼がそういうのを理解する勘が強いのはとうの昔に知っている

それに、今の彼にこの状況を打破出来る頭脳は無い、まだ青い果実だ

 

「…っ」

 

斬鬼は少し嫌そうな顔をしたがこれ以上やられるのも不味いと思ったのだろう

ため息をついてそれに、ついて言うことにした

 

「…母と同じ雰囲気だったので、感じも同じだし」

 

「そうなのねぇ〜、私の家こない?」

 

「ナチュラル誘拐やめろ、人間じゃないから別にいいけど」

 

ちなみに斬鬼言ってるのは九割くらいマジである

昔の斬鬼を知っている文は確信した

彼は嘘をつかない、特にあのジト目顔では

目がパッチリしている時は普通に嘘をついている時があるので怖い

 

「ん〜、可愛いわぁ〜…」

 

「…ん」

 

母と同じ雰囲気だからか、斬鬼は撫でれる事に抵抗が無かった

幽々子はそんな彼を見て、1日くらいお持ち帰りしても大丈夫だろうとも思ったのだ

 

そう思いながら、彼女はこの宴会を彼を膝に乗せながら過ごしたのだった



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縮小のテープ「舞子供化計画」

冥界、白玉楼

閻魔に裁かれた罪のないの霊魂がここに集う

罪なき霊はここで転生を待ち、無き一時を過ごす

 

無論その管理者も居ないはずがない

 

冥界のお姫様とも呼ばれる管理者、西行寺幽々子

死を操る能力を持った彼女は冥界の管理者として適任だ

その庭師、剣術指南役として若き半人半霊も居る

 

そんな彼女達は…

 

「…あらー、可愛い娘」

 

「幽々子様!?斬鬼さんが舞さんになってるんですが!?」

 

「…うるさいですねぇ」

 

布団の中、斬鬼"だった"ものを抱える幽々子

そこには神をも頬を緩める可憐な少女が居た

しかしその瞳はどうしてこうなったと警戒の色で沢山である

布団の中ですりすりと彼女に肌を擦り寄せる幽々子に妖夢は困惑する

その少女はなすがままの状態から軽やかな身のこなしで幽々子から離れる

あーっと叫ぶ幽々子を横目に彼女は問いかけてくる

 

「一体貴方たちは?ここは?どういうことなんです?」

 

「いえー、そのー…」

 

「貴方が道端で倒れてたから介護してたの、当たり前でしょ?」

 

言い淀む妖夢の横で平然と嘘をつく幽々子

あまりの平然さに妖夢がその嘘に気付くことは無かった

ただの会話としか彼女は思うことは無かった

 

しかし相手も上手も上手である

 

「そんなわけないでしょう、ここ冥界でしょう?」

「そんなわけないわぁ、でしょう妖夢?」

「え、えぇ、そうですね」

 

嘘も休み休み言え

そんな顔に舞が変えた

まぁそこの刀使いは兎も角、亡霊姫は嘘を言ったことを無い日があるのか…

 

「空気が地上の倍冷たい、あなた達から生気を感じない

 それだけでここが冥界とわかるのは十分です」

「そう?自分が死んだか分からないんじゃない?」

 

彼女はそれに対して毅然と答える

それが普通だと、ハッキリと示して

 

「私は死にません、死ぬなら寿命です」

「…そう、そうかしらね」

「…ですね」

 

幽々子は目を細めた

その目の奥に、悲しげな色を残しながら。

妖夢もまた同じような感情だった、目の前の少女の毅然とした態度に悲しみを覚える

 

斬鬼、そして舞の公的な記録と不明確な記録は拡散されている

そのうちのどちらでも確定しているのは"舞の死"である

彼女は生きていることは絶対に無く、また2度目の肉体を手に入れることは叶わない

斬鬼と魂を入れ替えることでさえ、完全な肉体とは言えないのだから

 

この2人は彼女の最後を聞いている

それだからこそ、この毅然とした態度が虚しく思えるのだ

 

「…どうかされましたか?」

「いいえ?貴方が生きているって言うのは証明できたと思うわね」

 

扇をばらりと開いて口元を隠す

舞はそれに興味なさげに歩き始めた

 

「行き場所は決めているのかしら」

「そうですねぇ、面白いものがあればそちらに。」

 

ぷらぷらとさまよったかと思えば、彼女の姿が霧のように消えていく

あまりの突然のことに、妖夢は声を上げてしまった

 

「あれっ!?いきなり消えたっ…、…も、もももももしかしてててて幽霊――」

「あらあら、本当に上手ね、いつの間に幻術を使ったのかしら」

「え」

「え?気付いてなかったの?もー従者失格よぅ、よーむー」

 

どうもいつの間にか幻術を使われていたらしい…

普通を装い、いつの間にか術式にハマっていた

掛け方が綺麗すぎてかけられたのが分からなかった

 

「…まぁ、いいわ、行くところはひとつだもの」

 

幽々子はそう言うと、白玉楼に戻っていく

舞のあの柔らかい感覚を指で名残惜しみながら、帰って行ったのだった

 

 

「…美しい場所ですね」

「…」

 

横にいる霊にそんなことを呟く

霊はこくりと頷くととある方向を向いた

そちらには形が少し変わってはいたが、見覚えのある山があった

 

妖怪の山…故郷だ

 

とはいえ、山の様子はおかしかった

山の中腹辺りに変な神社が立っていたり柱が乱立する湖がある

山の下にある湖にはとても目に悪い館がある

これほどの高度というのに見えるのはなんでだろうか、真っ赤すぎるのだろうか

 

…それから、人里の様なものも山から遠いが存在している

というより人里なんだろう、あれは

建築様式が幾分か進んでいるような気がする

 

「…未来、なんでしょうか、ここは」

「…」

 

横の霊は何もしない

当たりなのか、外れなのかすら教えてくれない

この子に口は無い、そりゃ教えてくれるはずもないか

 

――そう思っていた時だった

 

『確かに、君から見たらそうかもしれない』

「…?この声は…」

 

どこからか聞き覚えのある声がした

この声は確か天狗を守護する白狼一族の長男の物のはずだ

この私の記憶に違いさえ無ければ恐らく確実だ

 

『過程が違うんだ

 君が未来に来たんじゃなく、"未来の君"が記憶ごと若返ったんだ』

「…若返る」

 

その声の主は私の言葉なんて聞いていないようだった

にしても若返る、か…なんとも甘い言葉である

垂らせば何匹も蝿がたがりそうなとても甘い、飴だ

 

…そんなの、ただの延命でしかないのに

 

「それより、貴方は一体?」

『俺は…俺は…そうだな、君の夫にしておこう』

「未来に私の旦那が?まさか、そんな事起こりえない」

 

霊が肯定するように五、六回転した

私が結婚するなんてまるで夢のようなことだ

それが実現できるのなら私はこの"舞姫"である必要も無い

 

なぜなら、舞姫は純潔でなければならないからだ

 

『君には申し訳が、ここは未来だ

 全てが起き、全てが終わっているさなかの世界だ

 

 …取り敢えず人里に向かってはいかがかな?』

 

私は"彼"の言葉に自然に人里に目が向く

妖怪に囲まれた場所の中で唯一人が住む、人にとっての安全地帯

もしこの郷を作ったものがいるのならばこの楽園は不完全と言えるだろう

 

 

 

何故かって、人間と妖怪が一緒に住んでいないから

 

本質が似ている、人間が生み出した妖怪は共存できる筈なのだ

私の住んでいる妖怪の山がそうだったのだから、違いない

 

…まぁ、ダメなところはダメなのかもしれないけれども

 

 

「あぁー…疲れた」

「炭がかなり売れたな」

「今から冬だからな、無ければ凍え死んじまう」

 

ぐいと背伸びをしながら妹紅はそんなことを言った

季節はそろそろ秋に入りかけ、少し肌寒くなってきた

妖怪ならそうでも無いが人間は死活問題である

 

「今年は何回死ぬ気かい」

 

そんな妹紅に慧音はそう聞いた

炎の術があるのに一切使わず、部屋で冷たくなっている

…本当に冷たくなっている時もあったが

慧音の質問に妹紅は答えた

 

「今年は死なない予定だ」

「おや、驚きだよ、いつもの君なら"何回でも"とか言うくせに

 …何か死ねない事情でもあるのかい?」

「いや、師匠に会おうと思って」

「…斬鬼に?」

 

妹紅は山の方向を向きながらそういった

今の所彼は幼児化(普通に100歳くらい歳食ってる)している

そして前回白玉楼の主にいつの間にかお持ち帰りされていた

彼女がみだらな淫行をする訳が無いが何回か心配になった

…ただそんな心配も"斬鬼ならどうにかなるやろ"で解決していた

 

「どうしてだい?幼い師匠に何かかんじたのかい?」

「んな趣味は無い…まぁ、師匠の昔の話でも聞こうと思ったんだがね…」

 

戻りすぎて聞けそうに無いと妹紅は肩を落とした

その肩に手を置き、なにか励ましの言葉を言おうとした時だった

 

 

「すいません、人里で美味しい駄菓子屋って知りませんか」

「ん?そりゃあ菓子と言えば"山の舞"以外ない――」

 

振り返ると、慧音は固まった

それを見て話しかけた相手は首を傾けている

相手はなにかに気づいたのか深く頭を下げる

 

 

 

 

 

 

「挨拶が無かったですね、申し訳ないです

 紅白舞と申します、以後お見知り置きを」

 

 

 

斬鬼にとって舞とは運命を共にする伴侶である

 

山で見た時からそう思っていた

あの本屋で一目惚れした時から斬鬼の心は変わらなかった

幾ら年月が経とうとも共に生涯を進むと誓い合った

 

幾ら美しい女性が現れようともその心を乱すことは無かった

 

紫の策で死んだ時もそれは変わらなかった

彼女の為に紫を殺そうとも、思った

 

ただ、あれば俺のせいでもある

 

それ故

 

「未来の私に旦那が?ありえない」

「(痛み)」

 

あのような発言はかなりぐっときた

もう心臓が破裂して死ぬくらいぐっと来てしまった

 

死ぬほど回転してしまった

舞から見たら5、6回転に見えるだろうが本当はうん千回回転している

過去の嫁から否定されるってのはなかなか心にくる…

 

…そういや今の年代の奴らに(痛み)って伝わんのか…?

 

斬鬼は魂が消滅しそうな苦しみに耐えながら舞について行っていた

 

「山の舞…何だか私が創業者みたいな店ですね」

「HAHAHA、実際ソウナンジャナイカナ」

「ウム、確カニソウカモシレナイナ!」

 

誰がこの店を作ったか知っている妹紅と慧音は知らないフリをした

そらまぁ過去の自分に「この店はお前が作った(デデドン)」と言っても困る

てか最悪舞の場合山そっちのけで店の経営をしてしまう

彼女は作ったものに関してはかなり責任を持つタイプだったからナ…

 

「お邪魔します」

 

入っていく彼女達について行く

すると、カウンターに見覚えのある顔があった

いや、見覚えがあって当然の顔か…

 

「おや、慧音さん達ですか…」

 

犬走椛、俺の娘がそこには居た

恐らく舞が居なくなったので店番でもしているのだろう

多分恐らく業務が面倒くさくなったとかでは無いだろう

俺のスンバラシイ娘がそんなことするわけ無いだろHAHAHA

 

後彼女は舞と俺を見た瞬間全てを察したらしい

軽いため息をついていた

 

「何だか私みたいな顔ですね、とても似ている気がするわ…髪型が少し違うけど」

 

舞は自身の髪を弄りながらそういった

そらそうだろ、君たち親子なんだから

 

「ハハハ、似た者ってところですカネ」

 

思わず椛は苦笑いが出ていた

恐らく彼女は凄まじく複雑な感情だろうナ…

俺は椛に同情しながら妹紅達の前を通る

 

「…今思ったがその霊を何故連れているんだ?」

 

慧音は初めて会った時なら確実に思うことを舞に聞いた

俺と慧音は会ったことは何回もあるが今は舞が若返っている

ここで霊と認識があったら色々と面倒そうだ

 

慧音の質問に当たり前のように舞は答える

 

 

「さぁ?起きたら隣にいて、ずっと着いてくる、それだけ」

「それだけ?何か特別な感情とかないのか?」

「ないわ(バッサリ)」

「(お迎えの時間)」

「発狂しちゃった…お父さん…」

 

もう死にたい、いやある意味死んでるんだが

一瞬目を見開いた映姫が見えた気がする

霊の状態からマジで死ぬとかシャレにならない

その場で黄金の回転エネルギーを放ちながら泣く

 

あまりの発狂具合に妹紅が背中をさすってくれた

さする背中は無いが何故かさすられた気分になった

 

俺はもう死ぬのか(愕然)

 

「…でも、まぁ」

 

彼女は何か思い起こしたように俺に触れてくる

こちらは妹紅と違い、確実に触れてくる感覚があった

 

「何か他者とは違うというのは分かります

 他の奴らとは違う…何か温かみを感じる」

 

彼女は優しい目をして俺を撫でた

記憶と身体ともに若返ろうとも何かが変わることは無かった

 

俺の欠片は彼女の中にちゃんとあったらしい

 

「…そうだ、妖怪の山にそろそろ帰ろうと思ったので一緒に帰りません?」

「あら奇遇、私もそう思っていたところですよ」

 

椛が時間を見たのかそんなことを言ってくる

年月がたって変わった故郷を見たいのか舞も同調した

 

慧音達は仕事があるらしく手を振って帰って行った

 

俺たちは故郷へと戻ることにした

 

 

「…おや、この時期にあるのですか」

「何がですか?」

「舞姫の踊りです、天魔様に納めるとても重要な踊りです」

 

見てみれば天魔の屋敷前にて神楽を踊る白狼の姿が見える

顔を隠す前掛けをしており、服も特別な衣装だ

ただの白狼でも幽玄の気配を醸し出す…とても良い衣装だ

 

先の内乱にて失われたと言われていたがただのデマだったらしい

あの時吹き飛んだのは俺の家だけだ…

 

「…とても上手いとは言えないものですね」

「ハハハ…最近は教える者も受ける者も少なくて…」

 

確かに舞の言う通り、ぎこちない動きだ

緊張なのか天魔の御前だからか分からないが…

ただ確定で選ばれるのが白狼の為どちらともなのだろう

 

…ただ彼女からすれば許せるものでは無かったらしい

 

舞姫本人なら、仕方ないことだろう

 

「…教育が必要ですね」

「あ、ちょ」

 

音速を超えるスピードで舞が降りる

その後を椛が追おうとするが俺が止める

 

見ているだけでいい、そう言って俺は彼女を追いかけた

 

 

「…」

 

年々舞姫の質が落ちている気がする

流石に天魔の前で踊るから鍛錬不足はないだろう

だとすれば優秀な舞子の少なさだろうか…

 

天魔の前で踊るには相応の覚悟が必要だ

何せとても重要な行事であるため失敗すれば処分は確定である

あまりに酷ければ処刑なって有り得る、過去に一回だけあった

 

「…舞が居ればなぁ」

 

思わずそう呟く

聞こえてしまったのか舞子の踊りがさらに固くなる

やべ…いやまぁ確かに事実だから呟いたのは悪くねぇ

 

だ、だろう?な?な?

 

…話を戻して

彼女程の完璧な舞子は他に居ないだろう

舞が舞姫になってからというもの彼女が死ぬまで彼女に舞で勝ったものは居ない

舞姫の世代交代には舞で対決というまぁそれらしい行事がある

 

…舞と対決したのは二三人しかいなかったケド

それもどれも惜しいと言われるところまで行かず全員等しくボコボコにされた

彼女の醸し出すオーラに勝てる者はおらず、産まれから負け確とかいうチートをしている

産まれた時からあんなオーラ出せとか不可能だろうがボケェ

 

それに、彼女らが舞に負けたのは斬鬼の存在もあった

あいつら最後の最後に共同で舞を踊り、ボコボコにしてくるのだ

その剣技と扇子が混じった舞は美しいなんてもんじゃない

 

…と、思っていたところだった

 

「…!?」

「よっと」

 

しゅたり、と1人の少女が現れた

舞子を優しく追いやり、その場でバッと扇子を広げた

 

「何奴!?」

「…いや、代わりの舞子だ、気にするな」

 

私は槍を構えようとする部下を嘘で牽制する

舞子の衣装では無いが、まぁ間に合わなかったと言えばどうにかなるさ…

 

そういえば、久方振りかもしれない

 

かつての"舞姫"の舞を見るのは

 

「…はっ」

 

広げていた両手の扇子を水平にぐるりと回し、その場で回転する

 

見るも可憐、そして幽玄な舞

 

幼くなってもそのキレは変わらなかった

過去の彼女を見ているというのに、"今"の彼女を見ているようだった

そう思うと彼女は何も変わっていないのだろう

 

あの舞こそ、頂点なのだから

 

それ以上、その先は存在しないのだから

 

完璧なる完成系、究極の形

 

それこそがあの舞なのだろう

 

辺りを見てみればここにいる全てが彼女に釘付けにされていた

 

兵士も、黒子も、大天狗も、今まで踊っていた舞子も

 

誰もかもが彼女の虜にされていた

 

「…素晴らしい」

 

思わずそんな声が漏れた

どこにも一切の無駄がなく、そして完成されている

(恐らく)齢100を少しすぎた位の娘がこんな踊りをしていいのか

今思えばかなりの異常と言えるだろう

 

あの頃、産まれたものは異常なものしか居ない

 

 

音速を超えるスピード、射命丸

 

誰も気づくことのない暗殺、…名前忘れた

 

全てを狂わせる舞…紅白舞

 

全てを切り伏せる剣技…斬鬼

 

ビッグネームがあの時代に誕生していた

あの時鬼が気まぐれで攻めてこようものならこんな今にはなっていないだろう

 

ある意味、奇跡なのかもしれない

 

 

「舞も終幕に近付いております」

 

舞はくるりと回った後、そういった

長い銀髪が風に揺れ、白銀の光を放つ

後ろから後光が差しているかのような光だった

 

「…では、これで"フィナーレ"です」

「…?」

 

彼女の言葉に何か、違和感を覚えた

しかし、その違和感は次に見えた光景でかき消された

 

「…」

 

どこからともなく、1人の若い男が歩き始める

その姿をよく私は知っている、何せ数日前から見た姿だ

 

ゆっくりと彼は舞に近づく

舞は彼を見る前から何かをするつもりだったようだ

 

…感覚で分かるのだろうか

 

 

幼い斬鬼が幼い舞と背中合わせになる

 

 

 

 

…そして、刀と扇子が抜き払われた

 

 

 

「おぉ…」

 

美しい剣技と舞

それらが絶妙に混ざり合い、この世ならざる感覚を覚えさせる

刀が舞を斬ることは無く、逆に扇子が斬鬼を突くことも無い

 

絶妙なタイミングがそれらを可能としていた

彼女達が夫婦だったというのが当たり前だと思えるくらいの一体感

 

…確かに、これに勝てる舞子は居ない

今の時点では、勝てる者は誰一人としていないのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…くっ、やはりつくづく、夫婦なんだな…お前達は」

 

嫉妬か、何かの果ての感情が天魔である私に言わせる

羨望か、どうにもならないことに私は腹を立てた

 

私は、彼女達に畏怖していた

 

その、圧倒的な技術と影響力に




…年最後の投稿がこれでいいのかねぇ

え?さっさと最新作出せ?

…だが私は謝らない


あ、あとメリークルシミマス、そして良いお年を


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