ドニwith亡霊が征く! FE覚醒ロスト0チャレンジ!! (しやぶ)
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ドニとロビンと亡霊と
ドニキ転生!〜いや、憑依だべ〜


 

 ──目が覚めると同時に、頭が割れるような、激しい頭痛に襲われる。

 

「……ッ」

 

 患部に触れると、痛みが増した。どうやら外傷らしい。

 ……しかし、どうにも怪我の原因が思い出せない。

 

「どうなって──は?」

 

 なんだ? この声……まるで子供みたいな──

 

「……身体が、縮んでる?」

 

 オイオイ、某蝶ネクタイの少年()探偵か? 黒ずくめの男なんて知らんのだが。

 

 そうしてベッドの上で困惑していると、突然部屋のドアが開かれた。

 

「────」

 

 ドアを開いたのは『おらの母ちゃん(見知らぬ女性)』だった。

 

 ──ん? いま何か変だったな。

 

 母ちゃん(恰幅のいい女性)おら(オレ)の顔を見ると、目を見開いて退散していった。

 

「…………意識を取り戻したのが奇跡、って感じの反応だよな……」

 

 そんなに重傷なのか、オレ。

 

『んだな』

 

 突然、脳内に知らない少年の声が響く。

 

「──コイツ、直接脳内に……!?」

『おらの身体を乗っ取っといて、何言ってるだ』

 

 オレが、乗っ取った……?

 

『んだな。

 ……でもまぁ、あんたのことは恨んでないから、安心してほしいべ』

 

 それは、オレとしちゃありがたいことだけど……どうしてなんだ?

 

『あんたはたぶん、命の恩人……だと思うんだべ』

 

 うーん……残念ながら、身に覚えがない。

 

『じゃあ一から説明するべ。ついこないだ、山を歩いてたら落石に当たっちまって……おら、死んじまったんだ』

「えっ」

 

 死にかけたじゃなくて、死んだ?

 

『んだ。頭から血ぃダラダラ流して、父ちゃんに運ばれてるおらの姿が、自分で見えてたから……ほぼ確実に、死んでたべ』

 

 お、おう……

 

『んで村に着いて、お医者様がありったけの(ライブ)で治療をしてくれてたんだども、治らなくって……こりゃダメだな〜と思ったそん時──アンタが降ってきたんだべ』

 

 ……ん?? 降ってきた?

 

『なんて言ったらいいんだべか……昇天してる途中で何かにぶつかって、力尽くで押し戻されたような感覚?』

 

 ……まぁ、言いたいことは分かった。

 

『そういう訳だから、あんたが気に病むことはないべ。これからよろしく頼むべ』

 

 お、おう? 超前向き(ウルトラポジティブ)だな君は……まぁとにかく、こちらこそよろしくな。

 

『じゃあまず、互いに自己紹介をするべ! おらはドニ。あんたの名前は?』

 

 そうかドニ。オレはカイト──ってオイ待て。いま君、『()()』と言ったのか?

 

『……? おらの名前がどうかしただか?』

 

 頭を触ってみると……みごとに髪がうねっている。

 それに、あまりにも自然と言うものだからスルーしたけど……なんか治療器具としてはおかしなものが出てきてたし……

 …………だがコレだけじゃ、根拠が弱いか? 直接聞いてみよう。

 

 ドニ君……まさかこの国、『イーリス聖王国』だったりする?

 

『んだ。おら村の外に出たことないし、字もまだ簡単なものしか読めないから知らないんだども……『ドニ』って、イーリス独特の名前なんだべか?』

 

 ……いや、オレもそれは分からない。ただ、『イーリス聖王国のドニ』を一人、知っていてね。

 ところで、この部屋に鏡はあるかい?

 

『んーと』

 

 ──あ、頭の中の映像(イメージ)が伝わってきた。ありがとう。 どれどれ……?

 

 そして、鏡に映る少年の姿は。

 『ファイアーエムブレム覚醒』に登場する村人、『ドニ』にそっくりだった。



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目指せ、最強のMURABITO!〜にゅおおおおおお!?〜(ドニ視点)

 

「──きゅうじゅうはち、きゅうじゅうきゅう、ひゃく……!

 ぜぇ、ぜぇ、腕立て、終了……! 次、上体起こし、ひゃっかいぃ!!」

 

『ひぃ、ひぃ、どうしてこんなことに……』

 

 ──昨日から、おらの日常はガラリと変わった。

 

 ひょんなことから死にかけて、奇妙な同居人に命を救われて。

 しかもその同居人は、『未来を知る者』だと言う。

 

 彼はおらのことを、『可能性の英雄』と呼んだ。

 この国の国宝、『炎の台座』と『宝玉』をめぐる戦いに参加し、その驚異的な成長力で読者を魅了することになるとかなんとか。

 

 ……正直、それは半信半疑だ。

 荒唐無稽過ぎて、信じられる話ではない。だけど、彼の話には無視できない部分があった。

 

『君には、石の研究をしている父がいるだろう──放っておいたら近い将来、彼はロムゴーというならず者に殺されるぞ』

 

 彼が知る、『ファイアーエムブレム(炎の紋章)を題材にした英雄譚』の通りになるのなら……という注釈はつけていたが。

 彼が自分と肉体を共有している以上、自分の不利益は彼の不利益と同義だ。騙す理由は無い……筈である。

 

『にゅ、にゅおおお……今日も、つ、疲れたべ……』

「あぁ、そうだな、()()……だが、安心しろ……! お前の身体なら、きっと、すぐに、慣れてくれるさ……!」

 

 彼はいつからか、おらのことを『相棒』と呼ぶようになった。

 ……おらも、悪い気はしなかった。同じ目標を掲げ、苦難を共にする彼は、まさしく『相棒』と呼ぶに相応しいと思ったからだ。

 

 ──そうして特訓を開始するようになってから、三年の月日が経過した頃には。

 

「なんだよチクショウ……! どうしてこんな辺境に傭兵がいるんだ!?」

「おらはただの村人だべ」

「お前のような村人がいるか!!」

 

 ロムゴー率いるならず者集団を、1人で圧倒できるくらいには強くなっていた。

 

「こんなちっこい傭兵もいないと思うべ」

「余裕ぶっこきやがって……! どうせ亜人種なんだろ!?」

「いや、普通の人間だべ」

「んなワケあるか!!」

 

 ただの子供が20人弱の賊を翻弄する様子を見せられたら、たしかに『そんなバカな』と言いたくもなるだろう。

 

「──チイッ、退くぞお前ら!!」

「もう二度と来るんじゃねぇべ〜」

 

 カイトは、誰も殺さなかった。その代わり、もう盗賊行為ができないよう武器は奪っていたが。

 殺意を持って向かってくる相手を、殺さないよう無力化するのは難しい。猟をする時、獲物を生け捕りにしろと言われたら……おらにはできるか分からない。

 だけど、彼はおらの身体でそれをやってのけた。それは喜ばしいことだ。父ちゃんも無事だし、もう言うことはない。

 

 ……と、これで終わればよかったのだが。

 

「おめさんは、逃げないんだべか?」

 

 まだ1人、逃げてない奴がいる。賊の中でただ1人、魔法を使っていた少年だ。

 歳はおらと同じくらいで、大体12。最年少だが、1番強かった。

 だから、戦いを諦めていないのかと思ったのだが……

 

「……殺して」

「えー、嫌だべ」

「お願いだから、もう、殺してよ……」

 

 ……何もかもを諦めた生物の目だった。こうなったらもう、苦しまないよう殺してやるのが情けだと思うのだが。

 

「じゃあ、殺してやるべ。飼い殺しの刑なんてどうだべか?」

「は……?」

「おら、魔法の才能はからっきしなんだべ。だからちょうど、魔法が使える仲間が欲しかったんだべ」

「……ただの村人が、魔法なんて何に使うの?」

「ファイアーは日常生活に年中使うべ。でもおら含めて皆使い方がヘタクソだからすぐ疲れるしすぐ壊れるんだべ。おめさんが皆に使い方を教えてやってくれたら、一気にモテモテになれるべ」

「……そんなことでいいの?」

「んだ」

「……分かった。キミについていく」

 

 周囲から、ザワザワと声がする。ならず者を迎え撃つため集まった、村の男達だ。

 

「父ちゃん、家を使わせていいべか?」

「いいべ。ただし、その子の分の食い扶持はおめぇが稼ぐんだべ」

「勿論。というか先月、父ちゃんよりおらの方が獲った獲物の数が多かったの、忘れたんだべか?」

「ハッハッハ! そうだったべ。忘れてたなぁ。

 という訳で皆──ウチの息子に文句のある奴はいねぇな?

 

 父ちゃんがグルリと周囲へ視線を向けると、皆一斉に目を逸らした。よそ者──それも村を襲おうとしたならず者の1人を招き入れるのだ。不満はあるだろうが……今回戦ったの、ほぼカイトで残りは父ちゃんだけだったからなぁ……これで文句は言えまい。

 

「──そういえば、おめさんの名前聞いてなかったなぁ。おらはドニだべ。おめさんの名前は?」

「……ロビン」

「じゃあロビン、これからよろしく頼むべ!」

「……うん、よろしく」

 

 しかし、あっという間の3年だったなぁ。終わってみると、意外にあっさり──

 

『それなんだが、相棒。まだ終わりじゃないんだ』

 

 ──え゛

 

『この一件で、オレが持つ未来の知識が有用であることは証明できたと思う。だからこそ、相棒なら今から話す荒唐無稽な話を信じてくれると期待して、未来の話をしよう』

 

 こうしておらは知ることになる──この戦いが、まだ『始まり』とすら言えないような……前哨戦であったことを。

 

 

『結論から言うと──10年後、人類は滅亡する』

 



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ドニ&カイト(亡霊) 支援会話C

 

『──じ、人類が滅亡するって……どういうことだべ!?』

『神竜ナーガと(つい)を成す邪竜、ギムレー。名前くらいは聞いたことあるだろ?』

『ペレジアが崇める神竜……まさか』

『そう、()()()()()()()()()()()()()。そして復活したギムレーによって、この世界は滅ぶんだ』

『……ナーガ様は、負けたんだべか?』

『いや、そもそも復活できなかった。復活できないようにされたってのが正確だがな』

『……じゃあ、カイトの次の目標は──()()()()()()()()()()()()()こと』

『流石だ相棒。分かってんじゃねぇか』

 

 そう。いくらドニが人類最強に至る逸材でも、ギムレーの相手は今回のようにはいかない。

 全ステータスカンスト、弱体化(デバフ)無効、即死無効、ダメージ返し(カウンター)無効、物理ダメージ1/4、魔法ダメージ半減、ターン開始時回復、一定範囲にスリップダメージ、回避デバフを撒きながら異様に長い射程で飛んでくる一撃必殺級の攻撃……最早どうやって倒せと?? しかも竜のくせにドラゴンキラーが効かないから、唯一特攻の入るファルシオン以外じゃ有効打にならない。つまりクロムとルキナ以外じゃ、まず勝負にすらならないのだ。

 ちなみにこのバカみたいなスペックのラスボスは、無限に湧く取り巻きに守られている。しかも一体一体がクソ強い。いい加減にしてくれ。

 

 まぁ長々と語ったが、つまりギムレーは『そもそも戦おうと思うことが間違い』な類の相手なのだ。

 

『幸い、ギムレーを復活させようとしてるアホが現れる場所と時期は大体把握している。オレ達ならできるさ』

『んだな。今回もなんとかなったんだ。次もなんとかなるべ!

 ……ところで1つ気になったんだども、そんなに大きく未来を変えて、カイトは大丈夫なんだべか?』

『どういうことだ?』

『未来が変わったら……カイトは、その……産まれなくなっちまうんでねぇのか?』

『……優しいな、相棒は』

『お世辞はいらねぇべ。どうなんだ?』

『オレは大丈夫だよ。オレの生まれは、この大陸と何も関係がないんだ。ずっとずーっと、遥か遠くの国で生まれたからな。

 ……でも、そうだよなぁ……オレの行動で、生まれることすらできなくなっちまう人がいるんだよなぁ……考えたこともなかったよ』

『あっ、いやいや! そんな意味で言ったんじゃないべ! カイトはおらと父ちゃんを助けてくれたし、ギムレーの復活が阻止できたら、救われる人の方が圧倒的に多い筈だべ!』

『……やっぱり優しいなぁ。()()()は』

『様!? 突然どうしたんだべか!?』

『今思えば、歴史に名を残す大英雄様に対し、これまでとんだご無礼を……』

『止めてほしいべ! 相棒に畏まられると、凄く変な気分になるだ!』

『……分かった。お前がそう望むなら、今まで通り相棒と呼ばせてもらうぜ!』

『おう、それでいいんだべ!』

 

 ──ドニとの絆が、少し深まった気がする。

 『絆』が確かな効力を発揮するこの世界において、この心は何よりも強力な武器となるだろう。

 

 

 

 

 

「……ドニ様のお父上様、ドニ様は何故百面相をなさっていらっしゃるのでございましょうか?」

「慣れろロビン君。天才とは得てしてそういうものだべ」

「……いつも、こうなのでございますですか?」

「いや、1度こうなると暫く続くが……普段からじゃないべ」

「分かっ……承知、なのであります」

「無理に敬語なんて使わなくていいべ」

「……うん」

 

 ……ロビンとも、いつか絆を紡ぎたい。

 帰ったらまずは、手料理でも振る舞ってやることにしよう。



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断章:ギムレーの器『■■■』

 

 これは7年前──ペレジア王国とイーリス聖王国の戦争が、ちょうど終わった頃のお話。

 

「ごめんね……ごめんねロビン……ご飯、これしか用意できなくって……」

「問題ありませんよ、お母様。これだけあれば、()なら半月は戦えます」

 

 親子であろう、白髪の()()()2()()と赤子が1人、焚き火を囲んでいた。

 彼女らの食事は、簡単な処理をすれば食べられる山菜のスープ一杯のみ。

 

「私より、ルフレの心配が必要ですね。お母様の健康状態が悪ければ、母乳の質と量が落ちますから。

 ルフレも私と同じように、『調整』を受けた後だったら──などと言うのは、お母様の目的に反しますよね。すみません」

「……ごめんね。ロビンにばかり、苦しい思いをさせてしまって」

「構いません。過去はどうあれ、今1番苦しいのは、私ではなくアナタの方ですし」

 

 ロビンの声には、隠しきれない憎悪の色が滲んでいた。

 

「……ごめんね」

「……謝らないでくださいよ。助けてもらっておいて、文句を言える立場じゃないことくらい、分かってるんです」

 

 2人は親子であったが、直接話すのは今日が初めてだった。母と娘と言うよりは、共犯者と言った方が近い間柄だ。

 

 3人は、ペレジアの国教である『ギムレー教』の重要人物である。

 特にロビンは──信仰対象である()()()()()()()()()()()なのだ。

 しかも、ただ血を引いているだけではない。その左手に、生まれつき刻まれた痣──『邪痕』は、特にギムレーと肉体の性質が近く、その魂と力を引き継ぐことが可能な『器』である証明。

 

 それを知ったロビンの父は……彼女を改造した。よりギムレーに近付けるよう『調整』したのだ。

 人間を別の生物に変える呪術と称し、ドラゴンや竜人(マムクート)の血を無理矢理飲ませる。生贄の魂を捧げて力を付けさせると言い、目の前で人を殺す。そういった極悪非道を、平然と行った。

 しかもそれで実際、彼女がメキメキと力を伸ばしていったことで……『調整』は日に日に残虐さを増していったのがマズい。

 遂には、産まれたばかりのルフレにまで『調整』を行うと宣った夫に愛想を尽かし、母がこうして脱走するまで……ロビンは『調整』という名の拷問を受け続けることとなったのだ。

 だからロビンは、外に連れ出してくれた母に感謝はしているが……何年も己を放置したことを、恨んでもいる。いや、彼女の境遇を考えれば、憎しみ一色になっていないだけでも、充分以上に温厚かつ思慮深いと言えるだろう。

 

「いいえ。いいえ。ロビンには、私を糾弾する権利があるわ」

「……そうすることで、現状が良くなるなら、遠慮なくそうしますが」

「意味のないことだって、時には必要よ。特にまだ子供の、あなたには」

「……子供でいさせてくれなかったのは、アナタ達でしょう。この……この、汚い、土?」

「ふふっ、そんな罵倒初めて聞いたわ」

「むぅ……教団では、罵倒の語彙なんて教わらなかったんですよう」

「そうね……こういう時は、このビチグソがとか、クソアマ尻軽ビッチ、後は年増とか──」

「うん分かった、もういい。自分で言って自分で傷付くのやめて」

「……優しいのね、ロビンは。誰に似たのかしら」

「……お母様ですよ。きっと」

「あり得ないわね。私も夫──ファウダーと同じ、人でなしだもの」

「でも、あの男に似ているよりマシです。それにこの白銀の髪、結構気に入ってるんです」

「……ありがとう、ロビン」

 

 それから3人は、身を寄せ合って眠った。

 夜の暗闇に隠れて見えなかったが、その表情にはもう──嫌悪の色はなかっただろう。



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ドニwithカイト&ロビン 支援会話C(ロビン視点)

 

「──ビン、ロビン。起きるべ」

「ん……」

 

 『パチパチ』と、焚き木が弾ける音がする。それにこの香りは……

 

「ほら、おめさんの好きな山菜のスープだべ」

 

 あぁ、やっぱりだ。あの日と同じ……質素で、苦い……でも、何より心に沁みる味。

 もっとも母が作ったものと違って鋼の味はせず、苦味の奥に旨味のある、極上のスープなのだが。

 

「……やっぱり変わってるなあ、ロビンは」

「何が?」

「魔法が使える上に、礼儀作法の下地がある時点で、そこそこ上流階級の生まれであることは確実……だと思えば、今こうして、庶民でも好んで食べねぇようなモンを、心の底から美味そうに食ってるべし……」

「生まれは……そうだね。そこらの貴族なんかよりは地位のある家系だったよ」

 

 国教の教主の家系。神の血を引く一族の長女。家柄・血筋の面だけ見れば、確かに優れていただろう。だからと言って、もう二度と、帰る気なぞ全くないが。

 

「……おらから話を振っといて何だけども、それ話して大丈夫なんだべか?」

「ドニなら聞いたところで態度を変えたりしないだろうなーって思ったから話したんだけど。何? 今からでもボクにへりくだってみる?」

「……まぁ、敬ってほしいならそうするし、今まで通りが良いならそうするべ」

「じゃあ今まで通りで」

「おうおう。じゃあ、見張りは頼んだべ」

 

 個人的に、今ドニと交代でやってる不寝番(ふしんばん)は、傭兵稼業をやる上で1番キツい仕事だと思っている。

 本来傭兵の仕事は戦うことだが……ならず者というのは、基本的に弱い。私とドニが強すぎるという点を差し引いても、非常に弱い。

 それは何故か? 考えてみれば当然の話。力しか取り柄がないくせに、正規の騎士や戦士になれなかった落ちこぼれの集まりが、ならず者なのだから。

 

「あぁそうだ、ついでにもう一個聞いてもいいべか?」

「んー?」

「……ロビンの手、年中手袋付けてるべ。なんか、傷でもあるのか?」

「あー、コレ? うん。火傷」

 

 手袋を外して、ドニに左手の甲を見せてやる。

 

「右手の方はほら、普通なんだけど。片方だけ手袋着けてても変でしょ?」

「……そっか。ありがとなぁ」

 

 そう言って、ドニは今度こそ眠った。

 

 ──ものを隠すとき、()()()()()()()()()()()()()()()()

 敢えてあからさまに隠して、(あば)かせて、本当に隠したいものはその奥に。

 隠されているものが見つからない間は、誰だって探し続ける。だから『相手に見つけたと誤認させる』この手法は、本当に役に立つ。

 

「ごめんね、ドニ」

 

 コレは、この『邪痕』だけは、見せるワケにはいかないのだ。

 

「『だけは』 ね……ふふっ。未だに性別すら、騙したままのクセに」

 

 もう、彼に拾われてから4年経つ。

 沢山料理を教えてもらった。中でも『テンプラ』は、私のファイアーでしか作れないと聞いて……村中の皆が、私に『テンプラ』を作ってくれと押しかけて来た時は、大変だったけど、頼ってくれたのが嬉しかった。

 沢山娯楽を教えてもらった。ドニは手先が器用で、『ベイゴマ』や『ケン玉』といった珍妙なものから、『とらんぷ』や『おせろ』と言った、簡単に作れて奥が深いものまで作ってくれた。

 

 ……そう。ドニは私に『故郷』をくれた。

 あの村に帰れば、ガルシアおじさんが獲物を狩って待っている。カルラおばさんが、破れた服を縫ってくれる。そして私は獲物を料理して、村の外の話をしながらご飯を食べるのだ。

 

 もう、吐き気を我慢して生き血を啜らなくていい。私のために、誰も死ななくていい。私はもう、何も奪わなくていい。そんな幸福が、当たり前のように広がっている……彼は私に、そんな場所をくれた。

 

 だが、私は彼に何を返せた?

 ……何もない。何もないのだ。

 ドニは『ロビンが居るから、安心して眠れる』と言ってくれるけど……彼ほどの力があるなら、不寝番の交代要員なんて、最悪非戦闘員でも事足りる。

 

「ねぇドニ……あなたは何が欲しいの?」

 

 いつも誰かを助けるばかりで、何も望まない。どこか遠くを見据えていて、常に焦っている。

 

「傭兵として名を売って、その後どうするの?」

 

 直接聞いてみたことはあったけど、答えてはくれなかった。

 

「あなたが望むなら──」

 

 こんな回りくどい方法なんか止めて、国一つくらいなら潰してあげるのに

 

「……なーんて。あなたは望まないわよね」

 

 ドニは優しいから。きっと私が邪竜の力が使えるのだと知っても、その力を、彼のためなら使ってもいいと考えていることを知っても……人助けにしか、使う気はないだろう。

 

「……でもごめんね。私は、悪い子だから。この力は私自身と、あなたのためにしか使ってあげない」

 

 あまり使い過ぎて、ファウダーに見つかりたくはないのだ。

 ここはペレジアじゃないし、私はピアスの魔道具で性別の認識を変えた上でローブを着て体格を誤魔化してるし、ギムレー教団の服はペレジアで捨ててるし、邪痕は焼いて見えなくしている。ここまで徹底したのに、見知らぬ他人のためにまたあの地獄へ戻ることになるなんてまっぴら御免だ。

 

「ねぇドニ……あなたの望みは何かしら?」

 

 あなたが、あなただけのために何かを欲した時、私は力を振るうことを厭わない。

 だから早く──あなたに願いができますように。



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知ってるか、寝ている間も耳は生きてるんだぜ……〜zzz...zzz...〜

 

 亡霊、カイトには1つ悩みがあった。

 カイトの感覚は、ドニと共有している。だがあくまで肉体はドニのものだからなのか、彼は()()()()()()()()()()()()()()()。故に……

 

「ごめんね──性別すら騙したまま──」

『…………マジでか』

 

 睡眠時も稼働し続ける聴覚情報は、彼と外界を繋ぎ続ける。つまりロビンの独白は、彼に筒抜けであった。

 

『……高貴な生まれ、白銀の髪、隠された手のひら、ドニに匹敵する万能の才……記憶を失う前のルフレだと、思ったんだがな』

 

 『ロビン』というのは男女兼用名であり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことも、カイトの疑惑を後押ししていた。

 しかし蓋を開けてみれば、隠していたのは『左手』 ルフレの邪痕は『右手』だ。

 

『別方向のワケアリかぁ……()()()()……?』

 

 ロビンの戦闘力は、非常に高い。しかも今の独白を聞くに、ドニにも明かしていない『奥の手』がある様子。原作介入をする上で、彼女の力は頼りになるだろう。

 だが、彼女の出生に関わるゴタゴタが、肝心な時に足枷となる恐れも出てきた。

 

『ルフレだったら躊躇なく連れて行けたんだがなぁ……』

 

 カイトとドニは相談した上で、クロム自警団に入団することにしていた。

 ルキナの介入による世界線の分岐──『異界』について説明しようとすると、話がややこしくなるため、カイトはこの辺りの情報をドニに伝えていないが……ギムレー復活による世界崩壊を防ぐためには、クロム自警団に入団するのがどの世界線でも一番手っ取り早い。

 

 ただ、そこにロビンを巻き込むかどうか。

 これに関しては、2人共態度を保留していた。

 

『ロビンはたぶん、付いてこようとするよなぁ』

 

 ロビンとドニは、パーソナルスペースがかなり狭い。

 今までカイトはそれを、ただの『親愛』だと思っていたが……先の独白を聞くに、ロビンがドニに向ける感情は、『友人』へ向けるそれを超えている。

 

『うーーん。ドニにも相談しねぇとなぁ』

 

 ──そうして悶々としながら、朝が来て。

 

「朝だよドニ。護衛対象が出発する時間」

「──分かったべ」

「ん、ドニは相変わらず寝起きがいいね。羨ましい」

「ロビンの睡眠時間が短くて済む体質の方が、おらは羨ましいけんどもな」

「その代わり、起きた直後が酷いけどね」

「そこは考慮に入れてないべ。こないだは特に酷かったからなぁ。覚えてないみたいだども、おめさんおらに接吻しようとしたんだべ……」

「──ぇ」

「あれから寝起きのロビンに近付きずらくなったべ……」

「〜〜

 

『ドニ、そんなお前に朗報だ。ロビンは男装の麗人っぽいぞ』

『えっ』

 

「は、恥ずかしい……ころして……」

 

 そう言って走り去って行ったロビンの姿は、どう見ても女性だった。

 

『……え? えぇ!? なんだべ今の!? ロビンが突然別嬪さんに変わっただ!?』

『出るとこも出てて、めちゃくちゃ目の保養になる身体だよな』

『確かに──ってそうじゃないべ! なんでそんなに落ち着いてるんだか!?』

『昨日、お前が寝てる時にロビンが自白し(ゲロっ)た。ピアスが性別の認識を変える魔道具なんだと』

『でも、ピアスはそのままだったべ!?』

『あくまで認識を捻じ曲げてるだけっぽいからな。そうと分かれば効かなくなるんだろ』

『にゅ、にゅおお……もう普段通りの対応ができる気がしないべ……』

『でぇじょうぶだ相棒。さっきの感じからして、ロビンの方も平常運転に戻るまで時間がかかるだろ』

 

(……まぁ、自警団の応募について相談すんのはまた今度だな)

 

 

 ────最大の分岐点は、もうすぐそこに。

 



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王都へ征く!〜自警団に入団するべ〜

 

 イーリス聖王国は今、未曾有(みぞう)の危機に陥っていた。

 12年前に先王が急死するまで長年行われていた戦争により、国が疲弊。跡を継いだ現聖王エメリナは、当時9歳。政治のやり方なんて全く分かっていない子供だった。

 しかし国民は彼女の年齢なんて気にせず、不満をぶつけるだけぶつけた。

 結果何が起こるか──()()()()()()()()()()()()()()()()のである。

 その最たるものが、過剰な軍縮だ。

 本来イーリスは、気候の関係上熱砂の国ペレジアや雪国フェリアよりも人的資源に恵まれた国である。

 にも関わらず今のイーリスでは、マトモに『軍』と呼べる組織が天馬騎士団以外存在せず、()()()()()()()()()というありさまだ。

 力に重きを置くフェリア連合王国とは比べるのも烏滸(おこ)がましいほどの差が発生し、ただでさえ経済力でイーリスを上回るペレジア王国にも負けている。

 

 このままでは国が危ない──そう気付いた王弟(おうてい)クロムは、『自警団』を立ち上げた。

 性別・年齢・種族・家柄など全て不問。イーリスを愛する心さえあれば入団可能。要請があれば大陸の端にある辺境の村まで飛んでいく、そんな組織だが……

 

「──合格です。いつから勤務できますか?」

「えっ」

「あぁ、先に担当区域を決めた方がいいですか?」

「担当区域はイーリス全域。勤務は今日から可能──ってそうじゃないべ! 試験はどこにいったんだか!?」

 

 当然、入団には試験がある。組織の性質上、出自による合格率の変動を避けるため、採用試験は必然的に面接となる訳だが……何故か今回は、少年が名乗る前に合格が言い渡されていた。異例の事態だ。

 

「貴方に試験なんて必要ありません。ならず者と日々対峙していれば、必ず『鍋を被った小柄な傭兵とは戦うな』という言葉を聞きます。お会いできて光栄です──『不殺』のドニさん」

「まぁ、合ってるけんども……人違いだったらどうするんだべ?」

「ふふっ、それならそれで構いませんよ。貴方の強さは一目で分かりますから」

「それはそれで、クロム様に害意のある輩だったら──なんてのは、それこそいらねぇ心配だべな」

 

 クロム自警団副団長兼人事部長、『近衛騎士筆頭』フレデリク──関係者からは『執事そのもの』と称されるほどの忠臣である。彼の仕事に手抜きはない。

 また、彼の肩書きの多さは縁故ではなく純粋な優秀さ故である。常に『人材』を見続ける立場にあった彼の目は、それを知るカイトにとって、カイトを信頼するドニにとって、信用に値するものだった。

 

「しかし何故、自警団に応募を? 我々はあくまで非営利団体。お給料は出せないので、渡せるのは心ばかりの謝金程度です。貴方なら、正規の騎士や戦士としても大成できるでしょうに」

「地位名声に興味はないべ。そもそも生活費を稼ぐなら、傭兵稼業の方が儲かるってのもあるけんども。正規の騎士はお給料が一定って話だからなぁ。それに──」

「それに?」

「『英雄王』マルスと『覇王』アルム。ファルシオンの担い手に選ばれた人間は、いずれも大いなる脅威を打ち払う使命があったべ。

 同じファルシオンを持つクロム様もきっと、天命を持つお方だ。おらの力はきっと、その露払いをするためにある。そう思ったんだべ」

「……なるほど。やはり貴方には、試験など必要なかったようですね」

「……もしや今のって」

「はい。流石に志望動機くらいは把握しておきませんと」

 

 ニコリと悪びれなく告げられた言葉に、ドニは軽く身震いした。『フレデリクは笑顔の時が一番怖い』という某聖王子の感想が、よく理解できた瞬間だった。

 

「今日から働けるとのことですが、ドニさんにお願いしたい大規模巡回は3日後です。それまでは英気を養っていてください」

「分かったべ。じゃあしばらく王都をゆっくり観光してみることにするだ」

「そうですか。楽しんできてくださいね。個人的には、夜に行われるファイアーダンスは見て行ってほしいですね。あの手際がいい火起こしは、彼らにしかできません」

「踊りじゃなくてそっちを見るんだか!?」

「ハハハ。よく驚かれます」

「ま、まぁ。せっかくだから見ていくべよ。火起こしも、いい加減覚えないといけねぇべし」

「おや、意外ですね。火起こしは苦手なのですか?」

 

 火起こしは、護衛により野宿を経験することの多い傭兵には必須技能の筈だ。二つ名まで持っている彼が、そんな初歩的なことを苦手としているなんて……『意外』と言う他ないだろう。

 

「いや、苦手というか、させてくれないというか……」

「させてくれない?」

「『炎はボクの領分だ』と言って聞かない、世話焼きの弟分がいてなぁ……」

「なるほど。『華火(はなび)』のロビンさんですか」

「んだ。()()()()()()()()()()って話だったから、よろしくなぁ」

 

 ──そう。結局2人は、ロビンを連れて行くことにした。正史との乖離(かいり)は、自分達の存在がある時点で今更だと判断したのだ。

 

 ドニは退出し、入れ替わりでローブを纏った女性(男性)が入室する。

 

「──お初にお目にかかります。私はロビン。巷では『華火』の名で知られる傭兵です。護衛には慣れていますので、きっと役に立てますよ」

 

 この選択の意味を……彼はまだ知らない。



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未来を知る者達の奮闘
断章:選択の果て


 

 ──燃える民家、飛び交う悲鳴、地を埋め尽くす死体の山。

 

 イーリス聖王国の王都は、阿鼻叫喚(あびきょうかん)の地獄絵図と化していた。

 ……いや、今や世界全体からすれば、()()()()()()()()なのだ。何せ()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

「住民の方々は訓練通りに! 最寄りの砦へ避難してください!!」

「分かってるがよぉ! 道が屍兵(しかばねへい)だらけで──」

 

『ルイン』

 

 2連撃の闇魔法が屍兵を民家ごと吹き飛ばし、住民に降り掛かろうとした瓦礫(がれき)を粉砕した。

 

「──て、テメエェェ!!! なんで俺ん家まで吹き飛ばしてんだぁ!?」

「え〜? だってもう燃えてたし、潰した方が火災は広がらないよ〜?」

「だからってなぁ!!!」

「お、落ち着いてください! 今はとにかく命を最優先に! 復興支援は必ず行われますから!!」

「ぐ、うぅ……! 分かってらぁ!」

「じゃあね〜」

 

 そうして兵士と魔術師に見送られながら、住民は砦へ向かった。

 

「……助かりました。ヘンリー様」

「どういたしまして〜。じゃあ僕は、次の獲物を探してくるから〜。君も避難誘導頑張ってね〜」

「あっ、待ってください!」

「ん〜?」

「……王城は、陛下は、大丈夫なのでしょうか」

 

 火の手は城にも届いている。にも関わらず、聖王エメリナが避難したという話は聞かない。

 1体1体が正規騎士と同等以上の力を持つ上に、死者故の高い継戦能力を備える屍兵を、ヘンリーは圧倒した。彼の力は、城にこそ必要なのではないか……そう思った兵士は、彼を呼び止めた。

 

「あ〜。あっちは大丈夫だよ〜。大丈夫すぎてつまんないくらい大丈夫〜」

「何故そう言い切れるのですか? 火の手が上がっているじゃないですか!」

「確かに、それで物は壊れるだろうけど〜死人は出ないかな〜。だってあっちには──いや、流石にコレはマズイかもね」

 

 突然、魔法陣が天を覆った。

 屍兵が人々を襲う手を止め、(おぞ)ましい咆哮のような歓声を上げる。

 

 

 ──邪竜ギムレーが、やってきた。

 

 

 

 *

 

 

 

「──あ、あぁ……」

 

 ──ダメだ、勝てない

 

 ギムレーを見た瞬間、ルキナは自分の心が折れる音を聞いた。

 だって、仕方ないだろう。

 一撃で城壁を吹き飛ばし、ルキナを覗き込んだその瞳は──それだけで、彼女の全身をすっぽり覆えるほどの大きさだったのだから。

 

 ルキナの持つ剣──『ファルシオン』は『ナーガの牙』 ギムレーを傷つけ得る、数少ない武器である。

 ……だが、()()()()なのだ。

 想像してみればいい。自分の目玉ほどの大きさもないアリが、人間の犬歯を持って『お前を殺す』と息巻いている姿を。

 ……ギムレーは今、まさにその心境にある。

 

「……哀れだな、王女ルキナ」

「──っ、黙れ!!」

「不完全でも『覚醒の儀』さえ行えば、なんとかなると……誰かにそう言われたか?」

「黙れと言っている!!」

 

 ルキナはファルシオンを振るい、神竜の力を纏わせた風の斬撃を放った。しかし……

 

「こちらも言った筈だな。『哀れ』だと」

 

 効いていない。直撃したにも関わらず、(あと)すら付けられていない。

 

「……その牙は、ヒトの身には重かろう。今、楽にしてやる」

「う、うあああああああ!!!!」

 

 そうしてギムレーの牙が、目の前に迫って来ても……ルキナはただ、ファルシオンを離さないようにするだけで精一杯だった。彼女には、何もできなかった。

 

 

「──だから、()()()がいるんだろ!!」

 

 

 ()()()()が、その腕と脚でギムレーの牙を受け止めた。

 

「ルキナ、よく聞け……!」

「う、ぁ、はぃ……」

「南に──大陸の、南端に、向かえ……!」

「みな、み……」

「そうだ、『異界の門』を探せ……!」

「門……?」

 

 ──呆然としているようだが、それでも何を言われているのか認識はしている。それが確認できればよかったのだろう──伝えるべき情報を伝えると、彼は叫んだ。

 

「ルキナを連れて逃げろ、アンナァァァ!!!」

「んもうっ、こんな激戦区に商人を駆り出さないでよ! 高くつくんだからね!?」

「──ぇっ」

 

 アンナと呼ばれた赤髪の女性は()()()()()()を使って彼らの近くに現れ、レスキューの杖でルキナを引き寄せ、()()()()()を使ってルキナを飛ばした後、再びリワープの杖で離脱した。

 

「──んっ、がああああああ!!!!」

 

 そして青年はギムレーの牙を押し返し、すかさず背中に差していたアルムの覇剣(武器)を抜いた。

 

「ククッ、クハハハハ! ようやく現れたな、我が宿敵──()()ィィィ!!!」

 

 ギムレーの目に、先程までの憐憫はない。本気で彼を、脅威として認識している。

 

「何やら見たことのない杖で王女を逃したようだが──心底どうでもいい! 貴様だ。貴様こそが、(ワレ)が唯一警戒するに値する人間なのだからな!!!」

 

 その言葉に何を思ったのか、ドニは──

 

「哀れだな」

「……何?」

「『哀れ』だと言ったんだ」

 

 それはギムレーが、ルキナに対し言い放った言葉だ。

 

「我の何が哀れだ、ドニ」

()()()()()()()()()()。なぁ、聞こえてんだろ? 応えろよ──()()()

「……黙れ」

 

 奇しくも、ギムレーはルキナと同じ言葉を口にした。

 

「おかしな話じゃねぇか──ギムレーからすりゃ、オレなんて虫けらの筈なのによぉ……どうしてファルシオンの担い手よりも警戒する?」

「単純な話だ。貴様が1番強い。だから最も警戒する」

「それがおかしいってんだ。虫ケラは等しく虫ケラ──ギムレーなら、そう言う筈だぜ? だからさ……早くそんなデカいだけのムカデなんかぶっ潰して、帰ってこいよ」

「黙れッ! ロビンは死んだ!!!」

「相変わらず寝起きが悪いみてぇだな! 気付(きつ)けに目が覚めるまでぶん殴ってやらぁ!!!」

 

「──合唱隊、支援開始ですッ!」

 

 ドニが超人的な脚力でギムレーの頭部に飛び乗ると同時に、地上の屍兵を掃討した騎士達が合唱を始める。

 無論ただの歌ではない──特殊な技能を用いた『叫び』による支援の重ね掛けだ。隊長のオリヴィエは、それに加えて『特別な踊り』による疲労軽減効果も送っている。

 

「……虫ケラ風情が」

 

 それを鬱陶しいと感じたギムレーは、上空からブレスを放った。特に気負うことなく、本当に片手間で撃った一撃だが、直撃すれば合唱隊は全滅するだろう。

 

「させるものか!」

「絶対死守します!」

 

 ──故に当然、護衛がついている。

 クロムとフレデリクを始めとした、世界有数の戦士達だ。

 

「お怪我はありませんか、クロム様」

「当然だ。それよりも、心配するべきはルキナの方だろう」

「気持ちは分かりますが……ルフレさんやヴィオールさんを交えて話し合った結果、これが最適という結論に至った筈です」

「分かっている。文句はない。……腕が一本になっても、こうしてアイツは最前線で戦ってるんだ。文句なんて言えるものか」

「……はい」

「だから、俺から言うのは文句ではなく激励だ──勝てよ、ドニ」

 

 ──ギムレーの悲鳴が、空に響き渡った。

 

 

 

 *

 

 

 

「あ、あぁあ……なんで……なんで、逃げてしまったんですか」

 

 ルキナは人類の希望として、屍兵がのさばるこの地獄において、大切に大切に育てられた。それは全て、ギムレーと対峙した時のため。この日のためだった筈だ。

 

「ルキナ、貴女は充分よくやったわ。ギムレーを前にしても、ファルシオンを捨てなかった。それだけで充分」

「そんな──そんなワケがないじゃないですかッ! 皆……皆死んでしまうんですよ!? 国中の皆が、私が逃げたせいで……!」

()()()。貴女は()()()()のよ」

「合、格……? 何にですか」

「コレを飲む資格があるのかどうか……その試練によ」

 

 そう言ってアンナが取り出したのは、うっすらと金色(こんじき)に発光する液体の入った瓶。

 

「それは?」

「神竜ナーガの涙」

「……涙なんて、何に使うんですか」

「覚醒の儀──その代わりに使えるらしいわ」

「──できるんですかっ!?」

 

 覚醒の儀は、神竜ナーガを復活させ、彼女の炎を身に受け心を浄化し、ファルシオンが持つ真の力を引き出すための儀式だ。本来は『炎の台座』と『5つの宝玉』が必要なのだが……

 

「できるというか、正確には()()()()()()なのよ。クロム達が宝玉を集めて、既にギムレーが破壊していた黒炎の宝玉抜きの、不完全な儀式を行ったって話、聞いたでしょ?」

「はい。それでファルシオンが、『封剣』から『裏剣(りけん)』になったと……」

 

 今までは『ただ壊れないだけの剣』だったのが、『持っているだけで傷が再生する剣』に変わったのに加え、切れ味も増している。

 

「そしてナーガ様は、2滴の涙に残った全ての力を込めて、再び眠りについたわ」

「では、もう1滴は?」

「ドニが飲んだわ。彼が飲むのは決定事項よ。隻腕でも人類最強だもの」

「納得です。しかしコレは……お父様が飲むべきなのでは」

「皆そう言ってたわ。でもね、ドニが止めたの」

「……それは、どうして」

「ドニとクロムの2人じゃあ、どう足掻いてもギムレーに勝てないからよ。ナーガ様曰く、完全な覚醒の儀を行っていたとしても、千年封印するのでやっとらしいわ」

「……なら、私でも同じなのでは?」

「いいえ。貴女だけが、ギムレーを殺し得るのよ」

 

 淀みない、ハッキリとした言葉だった。そう言い切れるだけの根拠があると、そう確信できる言葉だった。

 

 ──ルキナの心に、再び炎が宿る。

 

「ドニが何を探せと言ったか、覚えてる?」

「異界の門ですね」

「そう。そこでチキ達が待ってるわ」

「チキさんが? 何故」

 

 神竜の巫女たる彼女は、対ギムレーにおける最大戦力の一人だ。後方で待機している意味がある筈だ。

 

「異界の門はね──『時渡り』の力を持っているの」

「時間を超えられるんですか!?」

「そ。でもそんなデタラメ、普通の魔力じゃ使えないから。そこで彼女の出番よ」

「なるほど……」

 

 聡明なルキナは、この時点で作戦を把握した。

 

「私は過去に渡り、完全な覚醒の儀を行う。中途半端でも、神竜2人分の力があるなら……ギムレーを殺せるかもしれない、と。そういうことですね?」

「そういうこと! 過去に渡った時、その時代に自分が居ると色々危険だからね〜。記憶が吹っ飛んだり魔力が吹っ飛んだり、最悪死んじゃうこともあるの。だからクロムじゃ駄目なのよね」

「……随分と、お詳しいんですね?」

「あー。私の家系も、貴女と同じかそれ以上に、ちょっち特殊な『運命』が課せられてるのよ。『あらゆる時代のあらゆる国を見ろ』っていうね」

 

 意外なほどに知られていないが、『アンナ』はどこにでも存在する。同じ名前、同じ容姿の『姉妹』があらゆる時代のあらゆる国に存在しているのだ。どこまで把握しているのかは分からないが、彼女らは己が『そういう存在』であると自覚しているのは確かだ。

 

「だから過去に行って、歴史改変について何か相談したいことができたらアンナ()を探しなさい。普通の人よりはそういう面倒な事情に明るいから」

 

 実際、商人にならずに異界の門の門番をやっているアンナもいる。

 

「──さ、覚悟ができたのなら行きましょう。ドニがギムレーを足止めしてくれてる内にね」

「はい!」

 

 

 ──こうして王女は時を渡る。

 絶望するには、まだ早い。

 



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新たなる歴史の前に

 
 今回ドニキはお休みです。


「──ふぅ、終わったね!」

「凄い……町の人達、皆無事だ……」

 

 王妹にして、クロム自警団のシスターであるリズは、思わず感嘆の声を漏らした。

 彼女が『南の町が山賊に襲われている』という通報を受けて出動し、町に到着した時には……既に火の手が上がっていた。だから彼女は、死人が出ることも覚悟して戦いに挑んだが……その覚悟は、良い意味で無駄になったのだ。

 

「助太刀、誠に感謝致します。おかげで住民の被害が、軽症者数人で済みました」

 

 被害状況を確認し終えたフレデリクが、少年に敬礼する。

 その数人も、既にリズの(ライブ)で治療済みだ。建物に被害は出てしまったが……組織の性質上、どうしても後手後手に回りがちな彼らにとっては、完全勝利に限りなく近い戦果である。

 

「3人が僕の指示を聞いてくれたおかげだよ」

「聞く価値のある指揮だと判断した。だから従った。それだけだ。実際こうして、被害が抑えられたしな。俺からも礼を言うぞ」

「うん、皆を助けてくれてありがとう!」

 

 続けてクロムとリズも、感謝の言葉と共に頭を下げた。

 

「それにそれに! 剣も魔法も達人だなんて凄いよ!」

「えぇ。魔法は門外漢の私ですが、剣技だけでも技量の高さが伺えます」

「ベタ褒めじゃないか。照れるね」

 

 銀髪の少年は、顔を朱に染めて頬を掻いた。

 そこで何か思い出したのか、ハッとした顔でクロムは口を開く。

 

「そういえば名乗っていなかったな。俺はクロム。こっちのちんまいのは妹のリズ」

「ちんまい言うな!」

「スマンスマン」

 

 両拳を振り上げてプンプンと怒っているリズを軽くあしらい、クロムは紹介を続ける。

 

「で、こっちの(いか)つい鎧を着た男はフレデリク」

「ご紹介に(あずか)りました、騎士のフレデリクです。この鎧は、人々を守り続けるための正装。仰々しい見た目は、どうかご容赦を」

「クロムにリズ、フレデリクだね? 覚えたよ!

 僕はルフレ。さすらいの何でも屋さ」

「何でも屋?」

「そ。さっき見せた通り直接戦闘は勿論、寂れた商店の立て直しから失踪した犬猫の捜索までなんでもござれ。吟遊詩人や医者の真似事もできるよ。

 1番得意なのは、軍師みたいに作戦を立てることなんだけどね。反対に、1番苦手なのは料理だよ。どうしても『鋼の味』になっちゃうんだ」

「ほう。その独特過ぎる苦手分野についても興味はあるが……やはり軍師か」

 

 クロムの目が、キラリと輝いた。

 

「ルフレ、お前さえよければなんだが……俺の軍師になってくれないか?」

「クロムの軍師? クロム、軍人だったんだ。鎧を着てないし、剣技も我流だったから、てっきり傭兵かと」

「あぁ、すまない。俺は傭兵でも軍人でもないんだ。自警団の団長をやっている」

「へぇ、自警団。

 …………ん? アレ、待って? たしかこの国、王様のご弟妹(きょうだい)が、揃って、自警団、を……」

 

 ルフレは恐る恐る、クロムの右肩を見た。そこにはハッキリと聖痕が刻まれている。

 

「あぁ、俺達のことだな」

「すみませんでしたッッ!」

 

 ルフレは瞬時に両手を地につき平伏した。

 

「お、おいどうした!? 何も謝られるようなことはされていないぞ!?」

「王族の方々に対し無礼な態度を取っていたにも関わらず、不問にして頂けるのですね。寛大な処分に感謝致します。

 つきましては軍師の求人に関してですが、お受けしたいと──」

「待て待て待て! そんな権力を(かさ)に着るような真似はしたくない! 都合が悪ければ断ってくれても構わん!」

「そうだよ! 頭上げて? 敬語なんてわたしもお兄ちゃんもできないんだから、さっきまでみたいに自然体で、ルフレくんの意思を伝えてほしいな」

 

 そう言われるとルフレは頭を上げ、クロムとリズの眼をしっかり見て、返答した。

 

「──ありがとう。僕の答えは変わらない。クロムの軍師、引き受けるよ。僕の目的からしても、2人の側にいられるのは都合が良い」

「目的?」

「生き別れた姉を探してるんだ。名前はロビン。僕と同じく髪は銀。目は琥珀。左手の甲に火傷があるらしいよ」

「らしい?」

「物心つく前に引き離されたからね。名前も容姿も火傷についても、母から聞いたんだ」

「そうか……分かった。お前の姉については、俺達の方でも調査しておこう」

「助かるよ」

 

 イーリス全域を探すなら、彼ら以上に情報が集まる組織もそうない。ルフレにとってもクロムの提案は渡りに船だった。

 

「しかし、『ロビン』ですか……厄介ですね。どこにでもいる名前な上に、彼が有名過ぎる」

「『華火』のロビンだね? 僕も自分で探してて、彼の間違いじゃないかって何度も言われたよ。女性だって言ってるのにさ」

「彼は、見ようによっては女性に見えなくもない美丈夫ですからね。仕方ありませんよ」

「フレデリク、『華火』に会ったことあるの?」

「会ったことがあるも何も、彼はクロム自警団の仲間ですから」

「そうなの!? よし、会ったら文句言ってやる」

「ダメだよ、仲良くしないと!」

「リズ、落ち着け。ルフレなりの冗談だろう」

「……ももも、勿論さ!」

「……本気か?」

「まっさかぁ! 冗談に決まってるよ!」

「全く……驚かせないでくれ」

「ホントだよ! ビックリしたじゃん!」

「ごめんごめん!」

 

 こうしてルフレは、すぐさま3人と打ち解けた。

 新たな仲間と共に、クロム一行は帰路に就く。




 ※この後書きでは登場人物の年齢設定について書いていますが、読み飛ばしても問題ありません。
 原作で年齢が判明している人物が少ないので、ここでは確定している情報を元に推定していきます。
 『いや、〇〇歳の方いいんじゃない?』『年齢が推定できる情報他にもあるよ』などのご意見、情報も常に募集しております。

 確定情報→推定年齢とすると、

 聖王エメリナは15年前10歳に満たないまま即位→当時9歳とし、現在24歳。

 クロムはエメリナの弟→後述するリズの事情もあり、現在23か22歳とする。

 リズはクロムの妹。原作ドニとの支援会話から()()()()()()()()()()()()()()()()()()→現在21歳とする。

 ドニはリズより年下→現在20歳とする。

 ロビンはドニの同い年→現在20歳。

 今作でのルフレはロビンの弟。戦争終了時0歳→現在15歳。

 本当はクロム、リズ、ドニ、ロビンの年齢を下げてルフレの年齢を上げたかったのですが……
 本作では『ルフレ母がロビンを何年も放置していたのは、監視が厳しかったから』『戦後処理のゴタゴタで監視が緩んだ隙を突いて逃走した』という設定であるため、逃走時赤子のルフレは強制で15歳前後。まぁ原作で幼い姿も用意されてるので、これはまぁいいです。
 しかしリズの『ドニより年上』がネックなんですよね……これさえ無ければどうにでもなったものを……!

 ……という愚痴はここまでにして。
 読了ありがとうございました! 次回も読んで頂けますと、作者が奇声を上げて喜びます()


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困惑

 今回は登場人物がゴチャゴチャしてて読みにくいかもです。すみません……


 

「──始まったな」

 

 王都の南にある森で天変地異が発生する、数分前。

 クロムが『妙な気配』を感じて飛び起きたのとほぼ同時に、ドニもまた、それを察知していた。

 

「征くべ、ブケファロス」

 

 ()()()()()()()()、彼は戦場へ急行した。

 

 

 

 *

 

 

 

「変だね……静か過ぎるよ。鳥の声も、虫の声も、全然聞こえないもん」

「あぁ、何かおかしい」

 

 野営をしていたクロム一行の内、飛び起きたクロムと釣られて目が覚めたリズは、周囲を見て回っていた。

 そしてリズも、異変に気付き始めたその時──天地が揺らいだ。

 

「ひゃあっ!?」

「なんだ!?」

 

 周囲に地割れが発生し、マグマが噴き出す。空からは隕石が降り注ぎ、森が破壊されていく。

 クロムは比較的見晴らしが良く、地割れなどの被害が少ない場所を瞬時に見極め、リズの手を引いて避難した。

 

 ──しかし、本当の災害はここからだ。

 

「お兄ちゃんッ、何アレ!?」

 

 空に目玉のような、門のような──異形の魔法陣が現れ、そこから人型の『ナニカ』が、頭から押し出されるように出現した。それも複数。

 ボトリと音を立てて落ちてきた『ナニカ』は、(うめ)き声を発しながら起き上がり──クロムとリズに襲いかかった。

 

「リズ、下がっていろ!!」

 

 すかさずクロムはファルシオンを抜き、すれ違いざまに『ナニカ』の胴体を斬り裂くが……

 

(悲鳴がない?)

 

 違和感を覚えたクロムが振り返ると、首だけを180°回転させている『ナニカ』と目が合った。

 

「クッ……!」

 

 すぐさまクロムは『ナニカ』を押し倒し、ファルシオンを突き刺した。すると『ナニカ』はようやく動きを止め、()()()()()()()()()()()

 

(死体が残らないだと……?)

 

 だが、そんなことを気にしている余裕はなかった。

 

「きゃあああああ!!!」

「──っ、リズ!!」

 

 すぐ側に居たもう1体に、リズが襲われている。クロムが気付いた時には、もう間に合わない距離だった。『ナニカ』が斧を振りかぶる。

 

 ──だが、その時リズが見ていたものは斧でもクロムでもない。

 

 空に再び現れた門のような魔法陣。その奥からこちらに向かってくる──()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 少年は凄まじい俊足で『ナニカ』に駆け寄り、斧を持った腕を斬り飛ばす。そして返す刃で首を切断し、『ナニカ』を瞬殺した。

 

「……怪我は?」

「え、あ、大丈夫。ありがとう……」

「よかった」

 

 そう言うと少年は納刀し、走り去った。

 

「あ、おい! ……名前も聞けなかったな」

「……うん、かっこよかった」

「何だって?」

「な、なんでもない! それよりも、早く2人と合流しないと!」

「……そうだな」

 

(……しかし、どういうことだ?)

 

 先程の少年──仮面で目元を隠した彼が持っていた剣は、ファルシオンに酷似していた。というより、瓜二つだった。

 

(だが、ファルシオンはこの世に1本のみ。確かに俺が持っている)

 

 彼以外が持った時、剣が効力を発揮しないことも、それが本物であることを証明している。

 

(……考えても仕方ないか)

 

 そしてクロムとリズが、ルフレとフレデリクの眠っていた場所に向かって走ろうとした時……

 

「2人とも、ご無事ですか!?」

「あ、フレデリク! ルフレくんも!」

 

 フレデリクとルフレの方から2人の元にやって来たことで、早期に合流に成功した。

 

「全員無事のようですね」

「うん、良かった!」

「よし。じゃあ僕とクロム、フレデリクの3人で奴らを掃討しよう。作戦を伝え──」

 

 ──しかし、その作戦は無意味だ。

 

「AAAALaLaLaLaLaie!!!」

 

 全ての戦略を粉砕する、圧倒的『最強』が──到着した。

 ペガサスから飛び降りた青年は、『疾風迅雷』の如き勢いで『ナニカ』の群れを蹴散らしていく。

 

「……え? え?? ナニアレ、どこから突っ込めばいいの?」

 

 何故男性がペガサスに乗れていたのか、何故あの高さから飛び降りて無事なのか、そもそも何故飛び降りたのか……

 

「……とりあえず、質問1。フレデリク、イーリスはいつの間に男性をペガサスナイトにする方法なんて編み出したの?」

「いや、彼が特殊なだけですよ。なんでも『うんと昔、暗夜と白夜という国には男性の天馬騎士も居たから自分もできると思った』とのことで、実際試したら乗れたと……」

「……うん、ギリギリ理解できる。

 じゃあ、質問2。彼、なんで無傷なの?」

「鍛えているからでは?」

「明らかに人間の頑丈さを上回ってるよね?」

「12の頃には弓矢が刺さらない身体になっていたそうです」

「ナニソレ怖い」

「ルフレくん、慣れるしかないよ。ドニのやることに一々驚いてたら心臓がもたないから」

「そうだね……」

 

 そうしてルフレは、『ドニ』という青年について考えるのを辞めた。

 なお、その頃には敵が全滅していた。そしてルフレの目が死んだ。せっかく戦略練ったのに。

 

「──いた! クロム団長! 敵は!?」

「あぁ、ソワレか。見ての通り、ドニが全部片付けた後だ」

「くっ、また負けた! 起きたのはボクの方が早かったのに!」

「……見たところ、アレは『そもそも競わずに済むように立ち回る』ことが最も優雅な部類の相手だと思うのだが、いかがかね?」

「うん、それは僕も同意なんだけど……クロム、こちらの男性は?」

「知らない奴だ。ソワレ、そいつは?」

「いや、ボクも初対面だ」

『え?』

 

 あまりにも自然に現れるものだから誰も警戒していなかったが、まさかの不審者。全員が咄嗟に身構える。

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれたまえ。私は怪しい者ではない」

「ならまずは名乗ったらどうだ?」

「その通りだね。私はさすらいの高貴な弓使い、その名もヴィオール」

 

「さすらいのって……『ヴィオール』はヴァルム大陸の名君の名前でねえか。こんなところで何やってるだ?」

 

 いつの間にかペガサスに乗って戻って来ていたドニが、彼の出自を口にした。視線がそちらに集中する。

 

「ドニ、知ってるのか?」

「んだ。かなりの切れ物かつ、弓の名手って話だべ。家紋とか持ってないんだか?」

 

 そう言われるとヴィオールは、優雅な動作でメダルを取り出した。

 

「本物だべ」

「学にも明るいとは、底が知れない男だね。君は」

「たまたま覚えてただけだどもな。

 ──で? こんなとこに何しに来たんだべ」

 

 するとヴィオールは、何故か苦い顔をした。

 

「……神竜に誓って言うが、この国に害意はない。だが、ここで話すような内容ではない」

「だとしても、放ってはおけねぇなぁ。話せるようになるまではついてきてもらうけど、構わないべな?」

「こちらとしても、その方が助かる」

「クロム団長、ヴィオールさんの処遇はこれで大丈夫だべか?」

「構わん。じゃあ、王都に戻って被害状況を──」

「あー、待ってほしいべ。その前に……もう1人知らねぇ子がいるんだども、どちら様だべ?」

 

 ソワレもそれに『あぁ、ボクも気になってた』と同調する。

 

「あぁ、コイツはルフレ。()()()()()()()だ」

()()()?」

「ふむ……失礼だけど、若すぎないかい?」

「腕は確かだ。俺が保証する」

「ふぅん……団長が認めているなら、ボクも認めよう。これからよろしく頼むよ、ルフレ」

「よろしくお願いします、ソワレさん!」

 

 そうしてにこやかに握手している2人を、ドニは複雑な表情で見ていた。

 

「…………」

「どうした? ドニ」

「いや……なんでもないべ。おらもよろしくなぁ、ルフレ」

「うん、よろしくお願いしますねドニさん!」

 

 ──そして一行が、王都へと帰還している途中……リズがドニに話しかけた。

 

「ねぇドニ。戦ってる時、()()()()()()()()()()()?」

「──っ!? リズさん、そいつはもしかして……目元を仮面で隠してる奴だべか?」

「うん! わたし、その人に助けられたの。名前とか、聞いてたりする?」

「……いや、聞いてないべ」

「そっかー。残念」

 

 そう言うとリズは、今度はルフレに話しかけていた。

 

(……どういう、ことだ?

 ルキナが来ているということは、ギムレーも来ているということ。ギムレーが来ているということは、ルフレが記憶喪失になっているということの筈だ……でも)

 

「えっ、ルフレくんペレジア出身なの!? ごめん、ペレジアの人は皆悪鬼みたいな偏見持ってた……」

「まぁ、仕方ないよ。ペレジアがイーリスにやってることを考えるとさ」

 

(おもっクソ出身地覚えとるやん……記憶喪失なってないやん……コレどういう状態なの? まさか、ルキナだけ来たのか?

 ……フェリアで聞くしかないな)

 

 

 ──運命は既に、誰にも分からない方向へ進み始めている。

 




 
 ちなみにドニキの娘は母にペガサスナイトの適性がなくてもペガサスナイトの適性を持っているので、彼にはペガサスナイトの適性があることになります。


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そういやルフレ、最初は手袋着けてないんよな〜ちょっ、ウチの弟バカなの!?〜

 
 ロビン視点です。


 ──朝。自警団の基地で朝食を取っている途中、扉を叩く音がした。

 

「ただいまー!」

 

 この声は、リズか。

 

「おう、任務お疲れ! 入っていいぞ!」

 

 彼女は許可が出るまで勝手に扉を開けないので、ヴェイクが返答する。リズはグイグイ来る性格ではあるが、こういうところは律儀なのだ。

 

「はーい! ここがわたし達、クロム自警団の本拠地でーす! ほら、入って入って!」

 

 どうやら、お客さんがいるらしい。新入団員かな?

 とりあえず食事を中断し、その人が入ってくるのを待つが──

 

「リズ! ご無事でしたの!?」

「うん、無事だよ〜マリアベル」

「心配しましたわ! 本当に怪我はありませんこと?」

「あはは、大丈夫だって! お風呂とご飯は大変だったけどね〜」

 

 ……うん。お客さん、入ってこないわね。完全に入る機会を逃したんじゃないかしら。

 そういう空気読めないところがあるから、リズ以外の友達いないのよマリアベル……根は良い人なんだけどね。

 

 ヴェイクも私と同じく、呆れた目でマリアベルを見ている。そして、私に見られたことにも気付いた模様。

 ヴェイクは目立ちたがりだから視線に敏感。そして空気の調整が上手い兄貴肌。視線で意思疎通したところ、『任せろ』とのことだ。

 

「──おうおう、クロムはどうした!? 扉の前に1人分気配があんなぁ! チビって服濡らして、恥ずかしくて()()()()()()()か!?」

 

 ……うん。人間、成功ばかりじゃないよね。その発言はヴェイクとクロム(君達)の関係だから許されるのであって、普通は不敬罪だよそれ……

 

「なんだって!? 聞き捨てならないね! クロムはそんな弱虫じゃない!」

 

 まぁでも、お客さんが入って来れたから一応成功なのかな──って、え?

 

「まぁまぁ、怒らないであげてよ()()()くん」

 

 『ホントはヴェイク、お兄ちゃんのこと大好きなんだから』『そうだったの?』『冗談でもよしてくれ』とか言い合ってるけど、本当に待ってほしい。今リズ、この子のこと『ルフレ』って呼んだ?

 

「みんな、紹介するね! こちら新しく自警団に入団することになった、()()()くん! 剣も魔法も使える凄い子で、しかも本職は軍師だよ!」

 

 あぁ、やっぱりルフレだ。生きていた。()()()()()()()かいがあったというものだ。また会えて嬉しい。

 

 だが、だが……!!

 

「──リズさん、申し訳ありませんが少しだけ、その子をお借りします」

「え、いいけど……どしたのロビン。顔怖いよ?」

「むっ、君が『華火』か。ちょうどいいね。僕も君に言いたいことがあったんだ」

「とのことなので、少々失礼しますね」

 

 どうやら感情が少し出てしまっていたようだが、なんとかギリギリ平静を装い、外に出ることに成功した。

 

「──で、言いたいことというのは? 先に聞いてあげます」

 

 そして、姉としての意地で先に話を聞いてやろう──と思ったのがいけなかった。

 

()()()()()()()()?」

「──ッ!?」

 

 慌てて周囲を確認する。幸い人は居なかった。

 

「アナタねぇ……! バカじゃないの!? なんで邪痕を晒して歩いてんのよ!?」

 

 母はどんな教育をしていたのだ。私は『調整』まみれだったからマトモな子育ての方法なんて知らないけど、これはダメだろう。

 

「あぁ……やっぱり。母さんも心配してたよ? 『()()()()()()()()()()()んじゃないか』って」

「当然でしょう! コレは絶対に見せられないんだから!」

「落ち着きなよ、姉さん。邪痕が出たのは僕たちが初めて。つまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ」

「…………あ」

 

 確かに……ペレジアではファウダーの息がかかった奴も多かったから、そこそこ知ってる人間もいただろうけど……こっちにギムレー教徒は居ない。しかも邪痕を知るほどの幹部、そしてその直属の部下となると……

 

「年中手袋着けてて、何回手の話された? ちなみに僕は1度も話をされたことがないよ。普通にしてればただの刺青だからね」

「〜〜

「まぁ、賊はペレジア出身のが結構多いから、流石にこれからは手袋を着けるけどね」

「こ、 ころして……」

 

 恥ずかしい……めちゃくちゃ恥ずかしい……どうしてそんなことにも気付けなかったの私……

 

「もう、()()()()()()()()()()()しなくていいんだよ、姉さん」

「まぁ、それは嬉しいけど……はっずいわね……」

「というか、認識変換の魔道具の方がビックリだよ! なんで誰も気付かないんだか……」

「あー、ほら。魂に働きかける黒魔術とか呪いとかって、ペレジアの方が発展してるから……」

 

 まぁそもそも商業の発展具合の影響もあって、こっちじゃ田舎だと『魔法は上流階級の証』みたいな印象あるからなぁ……魔道具なんて傭兵が持ってる訳ないって認識なのよね。実際持ってる奴少ないけど。剣で斬った方速いし。『普通のヒト』は弓の方が威力出るって話だし。

 

「……ところで、なんでルフレまで自警団に?」

「姉さんを探してたんだよ。どうしても……伝えなきゃいけないことが、あるんだ」

「……何?」

 

 ──言われなくても、察してはいるが。

 

「……母さんが、死んだ」

「……そ」

 

 まぁ……そうだろうと思っていた。

 私も、母さんも……最初の1ヶ月で、発信機が付けられていたことに気付いた。

 私は()()()()()()()()()()()()()も完全に再生できるからよかったが……母さんの方は、あれからゆっくり衰弱していたから。

 沢山の追手を私が引き付けて、なんとか逃したけど……長くは持たないと、分かっていた。むしろ、15年弱持ったのは奇跡だ。

 

「母さんを、看取ってくれたのね。ありがとう」

「……母さんはずっと、姉さんを助けられなかったことを、後悔してたよ。だからこれからは……僕が代わりに、姉さんを助けてみせる」

「バカね。母さんは私を助けてくれた。だからこれからは、私に守られなさい。ルフレ」

「……バカはどっちだよ、姉さん」

 

 ──それから私達は、15年分の空白を埋めるように……長い長い、抱擁を交わした。



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暗愚王の苦悩

 
 男ルフレとギャンレルの支援会話を見てから本編をもう1周すると、ギャンレルとエメリナの印象が真逆になります。ギャンレル嫌い過ぎて支援会話見てない方は、是非1度ご覧ください。その価値はあります。


 

「チクショウ……! すまねぇ、すまねぇ……!」

 

 ──ペレジア国王ギャンレルは、自室に人を入れたことがない。

 

「こうするしか……! バカなオレにはこうするしかなかったんだ……!」

 

 何故なら、ここでの彼は……王ではないからだ。

 

「ヴァルハルトの勢力拡大が予想より早い。もうこっちに来るまで時間がねぇ……!」

 

 イーリスよりも先に、ヴァルム大陸では屍兵が出現していた。そこからギムレー復活の予兆を察知した覇王ヴァルハルトは、大陸を一つに纏め、ギムレーに対抗しようと考えた。

 ……それだけならよかったのだが、ヴァルハルトは力による圧政で侵略をしている。しかも、東の大陸まで制圧する腹積もりらしい。

 

「ハハハ……だが、オレのやってることも奴とそう変わらねぇよな……」

 

 ヴァルハルトの侵攻に対抗すべく、ギャンレルは東の大陸間で協力しようと考えた。だが……

 

「エメリナァァ……お前がもっとしっかりしてくれりゃあ、オレがこんなことしなくても済んだのによぉ……!」

 

 北のフェリア連合王国は自他共に認める『蛮族の国』である。ぶっちゃけ考え方が完全にヴァルハルト側なので、最悪敵側に回ってギムレー教団を潰し、そのままの勢いでペレジアそのものを滅茶苦茶にされる恐れすらある。

 なので必然的に、協力者候補はイーリスになるワケだが……

 

「あのバカ、なんでこの期に及んで軍縮止めないのかねぇ!?」

 

 エメリナは、ヴァルム大陸の情報を一切気にしていなかった。屍兵が自国に発生するまで、その存在を知らなかったのが証拠だ。

 

「こっちで1番恵まれた国だろテメェら……なんで砂漠のウチより発展途上なんだよ……しかも『平和を愛する』とか言っときながら首都以外無法地帯で治安最悪ってどういうことだよ……」

 

 これでもギャンレルは最初、国民の不満を平和的に抑え込んでいた。

 何故なら戦争後地道に経済を回復させ、国民の生活水準を上げ、民意を得て──10年経った頃にはとっくに、イーリスとペレジアには大きな差が出来上がっていたのだから。

 かつての侵略者イーリスは、勝手に弱体化していて。いつでも滅ぼせるようになっていて──そんな状態でも、彼は報復を望む国民の不満を『嫌がらせ』程度に抑えて発散させ、侵略を行わなかった。

 

「賊をよこすなっつってもよぉ……地続きの国に食い物が一杯あって、警備が全くなってなかったら、そりゃ行くだろ……こっちでも規制してるがよぉ……門番だって人間だぜ? 『食えなきゃ死ぬ』って泣き落とされたら通すだろうが……ある程度目溢ししねぇとオレの立場がねぇっての」

 

 それで『こっちは規制してる。自衛力を高めろ』と言えば『無理です。民は戦いを望んでいません』と返ってくるのだ。『バカか?』と言いたくもなるだろう。

 

「だから食い物を輸入しようとすれば、それも断られるしよぉ……」

 

 なんでも『国民の反発が強い』とのことだが……

 

「説得しろ! それこそお前が大好きな『話し合い』をしろ! ハイハイ頷くだけじゃ『会話』じゃねぇんだよぉ!!」

 

 確かに民には好かれるだろうが、ギャンレルからすればそんなものはただの傀儡だ。

 しかもそれでギャンレルのことを『話し合いが通じない相手』呼ばわりである。盛大なブーメランだった。

 

「うぅ、チクショォ……すまねぇゲリバ……すまねぇ……」

 

 南の町を焼き払え──ギャンレルの指示でイーリスに向かった彼とその部下は、全員死んだ。

 彼は『()()()()()皆殺し』と言いながら、『()()()()()()()()()()()()燃やせ』とも言っていた。その真意を知る者は、今やギャンレルしかいない。彼と直接対峙した少年、将来『神軍師』と呼ばれるようになるルフレですら……『住人から死人が出なかった』本当の理由に、一生気付くことはないだろう。

 

「許せとは言わねぇ……だがせめて、地獄で『無駄じゃなかった』と言えるようにはしてやるから──」

 

 ギャンレルは涙を拭いて、立ち上がる。

 

「──時間切れだぜイーリス聖王国。堪忍袋の緒はもう切れた。ペレジアは、お前達を征服する」

 

 『暗愚王』が、動き出す。



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一方その頃

 
 ルフレとロビンの再会より少し前から開始です。


 ──イーリス聖王国、王城にて。

 

「──クロム、リズ、フレデリク、ドニ。ご苦労様でした」

 

 依頼を終えたクロム一行を、聖王エメリナは(ねぎら)った。

 尚、まだ目的が判明していないヴィオールは、一応監視にソワレをつけて外に置いてきた模様。

 

「あぁ、賊は無事倒した」

「ありがとう……民達も無事ですか?」

「大丈夫だ。……だがやはり、辺境にはペレジアからの賊が蔓延(はびこ)っている」

「申し訳ありません、王子……我々天馬騎士団が動けていれば……」

「気にするな、フィレイン。今の騎士団の人数では、王都の警備で手一杯。だからこその俺達だ」

「そうそう。それにこれからは、今まで持て余してたドニの力を引き出せそうな、軍師のルフレくんが来てくれたからね!」

「今まで以上にバリバリ働くべ!」

「ア、アハハ……責任重大……」

 

 ルフレの目は、相手の力量を数値化して読み取る特殊な目なのだが……ドニの能力値だけは文字化けしているため、認識不能になるらしい。彼はそっと胃の辺りを押さえた。

 

「あぁ、クロムが求めていた軍師……適任が見つかったのですね」

「ご期待に沿えるよう、粉骨砕身する所存です」

「ありがとう、ルフレさん。弟をよろしくお願いします」

「はい。全力を尽くします」

 

 ルフレが(うやうや)しく礼をし、フレデリクは本題を切り出した。

 

「ところでフィレインさん、異形の怪物の件、どこまで情報が得られましたか?」

「はい。方角を問わず、まばらに各地へ出現しているらしく……あらゆる場所で目撃談が寄せられています」

「その対策会議にクロム、フレデリク、ドニ……貴方達にも出席して欲しいのです」

「分かった」

「承知しました」

「承知しただ!」

 

「じゃあ私はその間に、ルフレさんを基地に案内しておくね!」

「おう、頼んだぞリズ」

「任せて!」

 

 そうしてリズはルフレの手を引き、自警団のアジトへ駆けていった。

 

 

 

 *

 

 

 

 そして会議が終わり、オレ達もアジトへ戻ってきた。

 

「──皆、聞いてくれ。俺はフェリア連合王国に向かうことになった」

「うん、イーリスだけで『アレ』に対処するのが難しい以上、妥当な判断だね」

 

 はい、という訳でフェリアに行きます。ルキナが珍しく、本編中で特に意味のない行動をするフェリア編です。

 

「この自警団からも、名乗りを上げた奴を連れて行く」

 

 とのことなので、

 

「おらも征くべ」

「僕も行くよ。クロムの軍師だからね」

「ドニとルフレが行くなら、ボクも行こう」

 

 まぁオレらは当然参加。後は……

 

「私も行くよ。治療役が必要でしょ?」

「当然、俺様も──と言いたいところだが、こっちにも戦力が必要だろ。俺様が残ってやる」

「そうだね……僕も残るよ」

「ボクも残ろう。このよだれかけを見張ってないと……」

「よ、よだれかけ!? コレはスカーフだよソワレくん!」

「すみません、わたくしは領地に戻らないといけませんの」

 

 ふむ。リズとマリアベルは原作通りだけど……ヴェイクとカラム、ソワレとヴィオールが待機か。まぁ、相棒とロビンが代わりに入るからこの時点で過剰戦力だが。たぶん当日参加の追加戦力ソールとミリエル抜きでも攻略可能だと思う。

 

「…………」

「スミア、お前も来るか?」

 

 しかしスミア……彼女には来て欲しいところだ。ペガサスナイトは何人いても足りない。

 

「クロム様……でも私、まだ自分のペガサスさえ……」

 

 ()()()()()だ。お世辞にも、彼女には正規騎士として通用するだけの練度がない。だから軍馬としてのペガサスは、彼女を認めない。

 

 ──だが、弱者にこそ心を開く者もいる。

 傷付いた者、追い出された者……役に立たない自分。そういった者の心を、彼女は理解できる。だから彼女は『運命』に導かれ、愛馬に出会うことになるのだ。

 

「見ているだけでも勉強になる。来たければ来るといい」

「いいんですか……?」

「あぁ。ただしできるだけ、味方から離れるな。特にドニの側がいいだろう。1番安全だし、ペガサスナイトとしての戦い方も間近で観察できるからな」

『…………』

 

 おいおいクロムさんよぉ……そこは『俺の側から離れるな』だろうがよぉ……周囲から、『マジかコイツ』って視線が来てるぜ? 気付け。スミアが可哀想だ……

 

「は、はい……よろしくお願いしますね、ドニさん」

 

 まぁ実際、合理的な判断ではあるがね……前世で『カプ厨のカイト』と呼ばれたこの私がそれを許すとでも?

 

「……それなんだども、行軍速度を揃えるために、今回はおら、ブケファロスを置いていくべ。

 そうなると、陣形はおらとロビンで先頭、殿(しんがり)がフレデリクさんになると思うべ。スミアさんには悪いんだども、中心部でクロムさんと一緒に待機してもらうのが1番安心できるなぁ」

「ふむ……そうか。分かった。スミア、それでも構わないか?」

「はい!」

 

 うーんその笑顔、プライスレス。

 

 ちなみに後日出発して、原作通り北の街道で屍兵にエンカウントしたけど……ただ屍兵って名前が正式に定着しただけ、と言っておこう。




 北の街道は特に見所もないからキンクリです。また、主要人物以外はお留守番です。彼らのファンにはすみません……私も好きなのですが、見せ場があげられないので……
 一応小ネタを放り込んでおくと、原作ヴェイクの斧紛失イベントは刃のとこだけ落っこちていた模様。ゲーム的にはミリエルからフレデリクに直接渡しても使えるんですがね。

 ちなみにロビンは男装を解除しておらず、ルフレもそれに合わせてます。


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吹雪の中で戦える弓兵がゴロゴロいる国ってヤバいよな〜怖いなぁ……〜

 
 ※弓矢が刺さらない人の方が怖いです。


 

 イーリスとフェリアの国境にある長城にて。

 雪が降り積もる極寒の中、正座をして膝の上に岩を乗せ、ガタガタと震えている者が居た。

 

「──98、99、100!

 よし、これで手打ちだべ!」

「寛大な沙汰に感謝します……!」

 

 声と同時に彼女はスッと立ち上がり、礼をした。

 

「……意外と大丈夫そうだな」

「フェリアの人達は頑丈だからね〜」

 

 クロムは当初、心配した表情で彼女を見ていたが……立ち上がった後も、動きに支障がない様子を見て息を吐いた。

 

 そもそも何故彼女──フェリアの門番『ライミ』がそのようなことをしていたのかと言うと。

 

「なぁドニ……この流れはここでは普通なのか?」

「んだ。なんなら手心を加えた方だべ。フェリアでは舐められたら終わりだからなぁ。クロムさん、これからフェリアとは長い付き合いになるだ。ここ独特の国民性には早く慣れておいた方が良いべ」

 

 ライミは『ここ最近、イーリスを名乗る賊が多い』『王族を騙るのは死罪』と言って、クロムに槍を投げつけたのである。

 野生のはぐれペガサスを治療し、心を通わせたスミアによって、クロムは空に避難しことなきを得たが……ロクに話し合いもせず、上に報告すらせず、独断で特使を殺害しようとしたのだ。他国では考えられない暴挙である。

 

 その後ドニは、城壁を垂直に駆け上がりライミに肉薄。持ち手まで金属で出来ている手槍を奪い取って目の前で叩き折り、ライミの戦意を喪失させた。

 そしてカイトは彼女に『吹雪の中、薄着で100秒正座』という、これまた他国では考えられない過酷な刑罰を課したのだ。ただし岩はライミが自主的に乗せた模様。

 

「フェリアの人、凄すぎない……? わたしなんて、ロビンの炎がなかったら凍えてたよ」

「ここの国民は、自他共に認める蛮族野生児の集まりですから。人体の耐久性が違うんですよ。

 ……勿論、ドニほどではありませんが」

「ドニは最早『人』なのかすら怪しいもんね……」

 

 ──まぁ、それはさておき。

 クロム一行は、王への謁見を許された。重要なのはその一点である。

 

「王を呼んでまいります。しばしお待ち下さい」

 

 そして王城へ案内され、しばらく待機することになった。

 

「王様は留守かぁ……」

「政治より戦いが好きな人物と聞いている。訓練場にでも行ってるんだろ」

「ふぅん……筋骨隆々のゴツい人なんだろうね」

 

「──誰がゴツいって?」

 

 前言撤回。待ち時間はほぼなかった。そして現れたのは──高身長で勇ましい雰囲気ではあれど、適度に鍛えられたしなやかな身体を持った『女王』

 完全に意表を突かれたルフレが思わず『えっ』と声に出してしまう程度には、美しい人物だった。

 

「貴女がフェリアの王か?

 ……いえ、失礼。王なのでしょうか?」

「あぁ、東の王『フラヴィア』さ。

 先に言っとくと、敬語はいらないよ。砕けた話し方しかできないのはお互い様さ」

「……ありがたい」

「国境では、ウチのが失礼したね。最近ペレジアが、フェリアとイーリスを敵対させようとしてるのか、国境の村をイーリスの名で荒らしてんのさ。それでライミもピリピリしてたんだ」

「くそっ、またペレジアか……!」

「全く、頭が悪いよねぇ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだから」

 

 戦っても勝てる筈がない上に、そもそもフェリアは永久凍土の不毛の地。侵略する価値が全く無い土地だ。そういう意味でもイーリスがフェリアを攻撃する理由がない。

 これでは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ようではないか。

 

「まぁ、そんな胸糞悪くなるような話は置いといて。本題に入ろうか」

「あぁ、頼む」

「結論から言うと──兵は貸せない」

「──ならば俺が、貴女の戦士になろう」

「へぇ?」

 

 あまり『イーリスの王族は隣国の情勢すらロクに集めていない』と思われたくはなかったので、ドニは(あらかじ)めフェリア『連合王国』の仕組みについて簡単に説明していた。

 

 要点は『フェリアは東と西に分かれている』『実権を持つ王はどちらか一方』『決定方法は、東西合同の御前試合』『数日後、試合が行われる』ということ。

 この試合で東は連戦連敗。つまりクロムが御前試合に東の代表として出場し、フラヴィアに王権を渡すことができれば──その恩義を以って兵を借り受けられる、ということだ。

 

「──いいだろう。アンタの腕前は、こっちにも届いてる。アンタが勝ってくれたら兵を貸すと約束しよう」

「感謝する」

「ただ、一つ問題がある」

 

(……ん? 知らない展開だな)

 

「今年の御前試合は()()()()。代表が二人必要なのさ」

 

(え、何それ知らない)

 

 カイトの知る物語では代表がクロムとなり、西の代表ロンクーを特に意味もなく倒して出場権を奪ったルキナと戦うことになる。

 ゲーム的には複数の敵と戦うことになるが、そこにロンクーは出ていない。代表が複数でいいのなら、ロンクーも同時に出ない理由がないのだ。

 

「ならドニ、頼めるか」

「……おう」

 

 『運命』が乖離するまで、あと少し────



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神剣闘技と

 

 ──フェリア連合王国、西国。闘技場。

 

「──ハァッ!」

「クッ……俺の負けだ」

 

 剣を弾き飛ばし、首元に(ファルシオン)を突き付ける。するとロンクーさんは、素直に負けを認めてくれた。

 

「……? どうしたロンクー。あっさり負けちまいやがって」

「……面目ない」

 

 西フェリアの王──バジーリオさんが(いぶか)しむのも仕方がないことだ。本来ロンクーさんは、お父様に匹敵する剣士。武を尊ぶフェリアの中でも、最強の一角に数えられる精鋭なのだから。

 ただ、彼には致命的な弱点がある。それは──

 

「……おい貴様、『マルス』と言ったな。()()()()()()?」

 

 あぁ、やはり彼にはこの男装が通じないらしい。

 彼は、極端に女性が苦手なのである。

 

「すまない、訳あって英雄王の名を借りているんだ。仮面も外すことはできない」

「構わん。このフェリアでは、敗者が勝者に何か要求することはない」

「ありがとう」

「そうだな。そして勝者の要求を断ることもない──約束通り、『王を決める戦い』の西国代表は、お前に決定だ」

 

「──陛下。それについて、1つ提案が」

 

 今はまだ、次の『分岐点』まで余裕がある。

 だから少しだけ、実利に個人的な願望を含めてもいいだろう。そう思って、私はこのフェリアにやって来た。

 

「なんだ?」

「ロンクー殿も、本来の実力を発揮できなかったのは口惜しいでしょう。つきましては──()()()()など、いかがでしょうか」

「ふむ──面白そうじゃねぇか! フラヴィアもきっと乗ってくれるぜ!」

 

 あぁ、よかった。やはりフェリアの人達は気前がいい。

 

「ふふ……!」

 

 今から武者震いが止まらない。

 未来で私は、ナーガ様の加護を得た。今の私は身体能力も再生力も、人の領域を超えている。だがこれでも、ギムレーには届かない。

 

 だから奴と戦うその前に、格上との戦闘経験を積んでおきたい。だからそう──人の身で人を超えた『彼』こそ、この力を試す相手に相応しい。

 

 

 

 *

 

 

 

 ──御前試合、当日。

 第一試合。クロム対ロンクーは、クロムが優勢で進んでいた。

 

「うおおおおおおお!!!」

「ぐぅッ……!」

 

 クロムの振り下ろしを、ロンクーは後ろ跳びで避けたが……その表情は苦い。

 

 膂力ならクロム、技量ならロンクーが上だ。総合力的には、そこまで差はない。どちらかと言えば()()()()()()()()なくらいだ。

 だけどクロムの剣技は、身体能力を活かすために我流で編み出したもの。つまり『初見殺し』として作用するため、ここまで押されてしまっているという訳だ。クロムもそれを分かっているから、実は大分焦ってるぞアレ。

 でもまぁ、そろそろクロムが勝つ頃だ。本当はさっきのだって、ロンクーは受け流してから一撃入れたいところだったんだろうけど……もう既に一回、マトモに受け止めちゃった後だからね……腕が限界なんだろう。

 

「──これで終わりだ!!」

「クッ……俺の負けだ」

 

 ほら、予想通り。剣が弾き飛ばされちゃった。ロンクーも素直に負けを認めた。

 

 ……予想ができないのは、ここからだ。

 

『第二試合──()()()対クロム。始め!!』

 

「……その名、その剣……確かめさせてもらう」

 

 宣言するや否や、クロムは縦の回転斬りを放った。

 

 ──奥義『天空』

 原理はよく分からないが、この世界の戦士達が無意識に『パワードスーツ』のように纏っている『力場』を回転によって巻き込み、己の生命力に変換する技だ。鎧代わりの力場が消えるので、同時に防御力も低下させられる。

 クロムの馬鹿力で放たれたソレを──ルキナは真っ向から受け止めてみせた。あんな乱暴な使い方したら、ファルシオンじゃなきゃ折れてるぞ? どっちも。

 そして数合ファルシオンを交えた後、ルキナも『天空』を放ってみせる。膂力で負けているクロムは、飛び退いて回避した。

 

「その技、誰に学んだ?」

「──父に」

「お前の父とは何者だ?」

「僕に勝てたら教えてあげるよ──」

 

 そしてルキナは、神速の突きを放つ。

 ……おいおい、なんでもう『疾風迅雷』使えてるんだアイツ。原作より強くなってんじゃねえのか? クロム、喰らっちゃってるし。

 

「ぐふっ、まだまだ……!」

「いいや、終わりにさせてもらう。名残惜しいけど、次が控えてるからね」

 

 あやや、クロムが後ろを取られるとは。そしてルキナは柄頭で首筋を叩いて気絶させた。

 ……首トンって、ガチでできるんだな……

 

 そして気絶したクロムは衛生兵に運ばれ、最終試合が始まる。原作には無い戦いが。

 ルキナの狙いは、特異点であるドニのハズ。こちらも色々と聞きたいことがあるから丁度いいと言えば丁度いい。

 

「おめさん、なんで試合の形式を変えたんだ?」

「…………昔の師匠は訛りが酷かったって話、本当だったんですね……

「なあ、聞いてるんだか?」

「……どうしても、両腕がある(本気の)貴方と戦ってみたかったんですよ」

「へぇ……? そいつは光栄だべ」

 

 まあ状況的に分かっちゃいたが、言質は取った。このルキナは『カイト(オレ)のいる世界線』のルキナだ。

 

 つまりオレは……どこかで失敗したんだろう。

 

 ──だからと言って、諦める気なぞ全く無いがね。

 

「「──征くぞ」」

 

 同時に『疾風迅雷』を発動し、鍔迫り合いを仕掛ける。

 気が合うな。最初はパワー比べだ!

 

「ぐ、うぅっ……!」

(受け止めた腕が痛い……! 素の力でこれ程とは、流石ですね……!)

 

「ハハッ、おめさん凄いなぁ! おら、()()()()()のは初めてだべ!」

「それでどうしてピンピンしてるんですかねぇこのヒト……!」

 

 例の『力場』を意識的に使えるからね、オレ。力で勝っても腕を痛めたら意味ないから、キチンと比重は調整してんのよ。まぁ──

 

「今は秘密だべ!」

「当然だね!」

 

 もう一回、真っ向から打ち合う。第一試合でクロムがやったように、剣を飛ばしてやる……!

 ──と、息巻いていたのだが。うん、()()()()()わ。裏剣の効果を忘れてた。しっかり回復が追いついてやがる。このままだとジリ貧だ。

 

 うーん、マズイ。ここで東国が負けるのは非常にマズイ。

 バジーリオさんなら話せば軍を出してくれるだろうが……説得のために滞在期間が伸びると、テミス領の件に間に合わない。ファウダーに炎の台座が渡ってしまう。

 そうなったら終わりだ。なんとしても、フラヴィアさんに王権を渡さなばならない。

 

 しょうがないから──()()()だ。

 

「オオオオオオオオ!!!!」

 

 ──()()()()()

 

 

 

 *

 

 

 

(これは、力の叫び……? いや、()()()()()()()ですね)

 

 そしてルキナはファルシオンを握り直し、()()()()()()ドニをよく観察して次の動きを──

 

(──え、()()?)

 

「動くな。首が落ちるぞ?」

「ひゃっ、ひゃい」

 

『──そこまで! 勝者は東国代表、ドニ!!』

 

 観客達は立ち上がり、大きな拍手で出場者達を称え始める。

 ルキナは試合が終わったという実感が持てずに、呆然として問いかけた。

 

「な、な……なんですか、今の」

「……今は拍手でいい感じに音が消されてるからいいが……随分声と口調が変わったな()()()()()?」

「それはこっちの台詞です! 普通に喋れるなら最初からそうしてくださいよ!」

 

 どうやらもう、性別を隠す気はないらしい。

 

「あー、それは説明すると面倒だから後。それより、一つ答えろ」

「……なんですか?」

()()()、お前のいた未来で、()()()()()()()()()()?」

 

 ──そしてカイトもまた、『未来を知る者』であることを隠す気はない。

 

「──っ!? どうして……」

「時間がない。どうなんだ?」

「……はい。ギムレーは復活しました」

「……そう、か。それで、未来のオレから何か伝言とかないのか?」

「……手紙があります。()()()()()()()()()()()らしく、読めるか分からないのですが……一刻後、控え室に来てください。ここで渡すのは、いらぬ疑いを招きます」

「分かった」

 

 

 ──彼が『未来』で起こした失敗を知るまで、あと少し。

 

 

 

 *

 

 

 

 ここからは新コーナー『私の師匠がこんなに弱いワケがない!!』の時間です。

 

 

仮面マルス「──終わらせてもらうよ」

クロム  「ガハッ……」

 

ルキナ(よし、これで師匠と戦える!)

 

司会『最終試合、マルス対()()()!』

 

ルキナ(……え? 師匠は? まさか客席?)

 

ドニ 「ルフレさ〜ん! 頑張るんだべ〜!!」

ルフレ「うん、頑張るよー!!」

 

ルキナ(…………師匠が小さくてルフレさんが大きい!?!!?)

 

 ※尚、このあとしっかり接戦を演じて負けた模様。



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それは未来におきる、過去の失敗

 めちゃくちゃ遅くなってしまいましたすみません!!
 鬼滅二次が完結したら、以前の投稿頻度より少し遅いくらいになると思うので今暫くお待ちを……

 前回から間が開いたので、軽いあらすじを。

 1話:死にかけドニの身体に亡霊カイトがログイン。
 2話:ロムゴー襲来。しかしMURABITOに即撃退される。ロビンが味方に!
 3話:ドニwith亡霊の会話回。
 4話〜6話:ロビンの素性が明らかに。どうやらルフレの姉らしい。
 7話:クロム自警団に入団!
 8話:ルキナが過去に戻る直前のお話。
 9〜11話:概ね原作通り。ルフレ(記憶有り)が自警団に入団し、その後屍兵と戦闘。フェリアへ同盟を求めることに。
 12話:ギャンレルの苦悩。
 13〜15話:自警団メンバーの交流と、同盟のための闘技大会の話。クロムはロンクーに勝利したが、ルキナに敗北。その後ルキナをドニが倒したので、イーリスとフェリアの同盟は成立するだろう。ただし未来を知るカイトとルキナは、ペレジアの後の脅威に対抗するべく情報の交換を約束した。


 

 ── 一刻後。

 

「……来てくれたんですね。ありがとうございます」

「全く。フラヴィア様から逃げるのは大変だったべ」

 

 負け続きだったフラヴィアは、久方ぶりの勝利に歓喜し、宴を開いた。

 気絶中のクロムに代わり、フレデリクはその席で、あらかじめ書面にしておいた『イーリスとフェリアは同盟を結ぶ』『イーリスは資源を、フェリアは武力を提供する』ことを約束させる契約書へ、フラヴィア直筆の署名を貰った。

 

 ……と、そこまでは良かったのだが。

 ドニの強さにすっかり惚れ込んだフラヴィアは、フレデリクの隣に居た彼をなんとか引き込めないものかと、あの手この手で勧誘をし始めたのだ。当然、彼はキッパリ断ったが。

 

(ギムレー復活を阻止するなら、イーリス陣営に居るのが一番だからな。

 ……まあ普通に生活するにも、フェリアはちょっと遠慮したいけど。ひたすら寒いし)

 

 フラヴィアの人柄を知るルキナは、容易く一連の光景を思い浮かべられた。自然と彼女の頭が下がる。

 

「それはすみません……ところで、その」

 

 それはそれとして気になることがあるのか、彼女は口をモゴモゴとさせている。

 

「ん? なんだべ」

「……訛りが戻っているのは、何故でしょう?」

「あぁ、それなんだどもな? 口調の変化は『自己暗示の亜種』を使った結果の副作用で、やると疲れるから……申し訳ねえんだども我慢してほしいべ」

 

 ──嘘である。

 アレは本人が自覚する以上に危険で、恐ろしい(もの)だ。

 

「……やると、疲れるんですか?」

「んだなぁ」

 

「……やはり私達は、ずっと貴方に無茶をさせていたんですね」

 

 ルキナがなんと言ったのかは聞こえなかったものの、ドニはその表情から何を言われたのか察した。

 

「……もしかして未来のおらは、ずっと普通に喋ってたんだか?」

「……はい」

「……そっか。伝言の内容、分かっちまったかもなぁ」

 

 そしてドニは苦笑いして、ルキナの手紙を受け取った。

 その内容は、カイトの母国語であったが故にドニは読むことはできなかったが……態々そんなことがされる時点で、彼は察した内容の確信を強めた。

 

『過去のカイトへ。

 ルキナの反応で察してると思うが……お前は失敗した。ギムレーを復活させちまった。

 最初にして最大の失敗は──』

 

「……クソが」

 

 肉体の主導権が移るほどの激情。

 ドニは『そんなに想ってもらえて、おらは嬉しいべ』と言って、彼を宥めるも……カイトは自責の念を抑えられなかった。何故なら……

 

 未来において、人知れず()()()()()()()()()()

 

 彼らは口に出さず、その事実を噛み締めた。

 



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バッドエンドを塗り替えろ

 

「し、師匠……?」

 

 初めて目にするドニの『激情』を前に、ルキナは震えが止まらなくなるのを自覚した。

 無理もない。世界を終わらせることができる、本物の『神』たるギムレーを前にした時でさえ──彼は()()()()()()()()

 

「……あぁ、ごめんなぁルキナ。怖がらせちまったか」

「い、いえ……」

 

 ドニの雰囲気が元に戻り、彼女は深く息を吐いた。そしてカイトもどさくさに紛れて溜め息を吐く。

 ドニの死。コレはカイトにとって回避すべき最重要事項だが──同時に()()()()()()()()でもある。何故ならその死因は、あらかじめ知っていればその時に問題なく対処可能な事柄であるからだ。

 故に、一旦カイトは自責の念を鎮めて……『やるべきこと』を考える。

 

(『こっちのギムレー』の復活は、簡単に阻止できる。だから問題は、『あっちのギムレー』だ)

 

 そちらも実の所、時間遡行なんてしなくとも『ギムレーの封印』だけなら可能なのである。カイトの奮闘により、各国の戦力が正史に比べ充実しているからだ。

 では、何が問題なのかと言うと。

 

(まさかロビンが、ね……)

 

 ギムレーの器が、ルフレではなくロビンになってしまった。それはカイトにとって、ある意味『ドニの死』以上に最悪の事象だ。

 

(……確かに覚醒の儀を二重に行えば、ギムレーは殺せる。世界線によっては『神竜に覚醒したチキ』とルキナが()()()()()()()()()()()()()()()()から間違いない)

 

 ──だからこそ、

 

()()()()。たとえ世界線が違おうと、オレがロビンを見捨てる筈がない)

 

 カイトがルキナに『ギムレーを殺す方法』を教えている。この違和感。

 ギムレーになったのがルフレだったなら、カイトは躊躇なく彼を殺すだろう。ルフレは『絆の奇跡』によって、クロムの元に帰ってくることが確定しているのだから。

 だが、ロビンにはその保証がない。奇跡は滅多に起こらないから『奇跡』なのだ。

 

(未来のオレは、何を考えている──?)

 

 

 

 *

 

 

 

「──ほぅ? 面白いことになったな『右の我』」

「この気配……チキ(神竜の巫女)が力を使ったようだぞ『背後の我』」

「方角的に、異界の門であるな『左の我』」

「ドニの入れ知恵だな、『正面の我』」

 

「余裕かましてんなクソが……!」

 

 前後左右から飛んでくる魔法を片腕で捌き続けるカイトは、『ギリリ』と歯噛みした。

 ギムレーの背中には無数の傷口。しかしその全てが巨竜にとっては擦り傷未満だ。何せ傷の半数は()()4()()出現している邪竜の分身達がつけたものである。

 

(ルナティック+でも本体とリンクした人型形態は一体だけだってのに、何体出るんだよ!?)

 

 既に、両手で数え切れない程度には分身を斬っている。しかしギムレーに(こた)えた様子はない。

 

「いや、我も一応『神』である故な。外面を取り繕っているだけだとも。貴様がファルシオンの担い手であれば15回は死んでいる」

「じゃあ今すぐ死んでくれねぇかなぁぁぁ」

「ククク、断る」

「デスヨネ畜生!」

 

 所詮、彼の身体に宿る『神竜の力』は涙の一滴。雨垂れとて石を穿つが、15回ではとても足りない。

 

「──さて、名残惜しいがここまでだ。我も過去へ飛ぶとしよう」

 

 そしてギムレーは首を傾け、本気のブレスを吐いた。ドニ(カイト)の身体が宙へ投げ出される。

 

(……無抵抗、だと?)

 

 あまりの呆気なさにギムレーがポカンとする中、カイトは叫ぶ。

 

「──山菜のスープを作って、家で待ってるからな!!」

「…………ふん、くだらん」

 

 ギムレーは視線をドニから外し、時間遡行の準備を始める。

 ──その口元が緩んでいたことに気付いた者は、ただ一人。

 

「……あー、疲れた。めちゃくちゃ頑張りましたよナーガ様……だから()()、守ってくださいね……?」

 

 そして巨竜は、忽然と姿を消した。

 ──亡霊の計画が、人知れず成就へと歩みを進める。

 過去の己にすら明かしていないそれは、けれど誰かに害を与えるためのものではない。

 

 ──誰も死なせない。

 

 その願いは今も変わらず、彼の中にあるのだから。



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『戦争の始まり』

 

 ──時は少し遡り、ギャンレルがゲリバの訃報を受け取った日のこと。

 

「イーリスを征服する。その上で、初手をどうするか」

 

 何事においても『戦い』というのは、準備期間で勝敗が決しているものだ。その点で言えば、戦争終結後も厳しい環境が臥薪嘗胆(がしんしょうたん)となって力を付け続けていたペレジアが、過剰な軍縮で自滅寸前のイーリスに負ける道理は皆無である。

 ──しかし、それを理由に手を抜けば双方共に犠牲者が増えてしまう。彼の目的は『征服』であって『蹂躙』ではない。勝利した後、手に入れたイーリスの全てを自軍の戦力に変えることが目的なのだ。

 

「……その前にまず、『何を以て終戦とするか』だな」

 

 前回の戦争は、聖王の死によって継続不能となったが……アレは本来『ギムレー教の撲滅』を表向きの目的とした、終わりのない無差別大量虐殺であった。互いのために、明確な『終戦の形』は用意しなければならない。

 

「……エメリナの首を取る、ってぇのは……()()()()なぁ……」

 

 繰り返すが、彼の目的はイーリスを滅ぼすことではない。後のことを考えれば、エメリナを生かしておいた方がギャンレルにとっては楽になる。

 

「民意の高い愚か者ほど使いやすい奴はいねぇからなぁ……最低限、今までに溜まった鬱憤を清算する程度には働いて貰うぜぇ?」

 

 しかしそうなると、双方が認める『明確な終戦』となり得るものは何があるか。

 

「──そうだ、()()があったな!!」

 

 終戦までの見通しを立てたギャンレルは次に、『開戦の形』を考える。

 

「イーリスとやり合う上で一番厄介なのは『天馬騎士団』だが……初手で潰すのは無理だな。コイツは後だ」

 

 制空権は戦力差を覆し得る。だからこそ、彼女らは軍縮の最中でも勢力を落とすことがなかった。

 ギャンレルからすれば早期に封じ込めたいところだが、天馬騎士団は中央を守っている。物理的な距離の問題で、必然的に後回しになってしまう。

 

「次に厄介なのが、『クロム自警団』

 コイツらなぁ……いつどこに現れるか分かんねぇから、ある意味天馬騎士団より扱いに困るんだよなぁ……」

 

 頭数こそ少ないものの、彼らは個々の練度がフェリアの精鋭に劣らない。鎮圧のために動かせる戦力を、常に一定数待機させておく必要があるだろう。

 

「それに、引き抜きたい奴もいるしな」

 

 現状、組織としての戦力はペレジアが圧倒的に高いものの……彼の国には『英雄』と呼べるだけの『個人』がいない。

 ……いや、正確には一人……本気を出せば()()()()()()()()()()という逸話を持つ少年がいるのだが……彼は性格及び行動に難があり過ぎるため役職を与えられておらず、立場としては末端の一兵士に過ぎない彼のことを、ギャンレルは認知していなかった。

 

 閑話休題。

 ヴァルハルトは伝説に名を残す『英雄』と遜色ない武力を誇る。対抗し得る『英雄』が、東の大陸にも必要なのだ。ドニやクロムといった英雄候補が自警団に固まっている以上、ギャンレルは下手に彼らを討つことができない。

 

「となると、脅威度・距離的に初手で潰すべきは──」

 

 

 

 *

 

 

 

「──失礼いたします! 火急の知らせ故、無礼は平にご容赦を!」

 

 イーリスとフェリアの同盟成立後、イーリス城内にて。

 クロムとリズからエメリナへの任務達成報告を遮る形で、天馬騎士団団長フィレインが入室する。

 

「何事ですか、フィレイン」

「テミス領に、ペレジア軍と思しき一団が侵入! 領地が襲撃を受け、マリアベル様が誘拐されました!!」

 

 マリアベルはテミス伯の一人娘である。彼女を人質にされた今、イーリス側は大きく動きを制限されることとなった。

 

「ペレジア王ギャンレルは、マリアベル様がペレジアへ不法侵入したと主張し、テミス伯に賠償を請求しています!」

「あいつら……! どこまで性根が腐っているんだ!?」

「クロム、どうか落ち着いて」

「しかし姉さん──」

 

 怒り心頭に発するクロムに向けて、エメリナは静かに宣言する。

 

「私が直接、ギャンレル殿と話をしに行きましょう」

『!?』

 

 それは端的に言って、自殺行為に他ならない。

 

「駄目だよ! お姉ちゃんまでいなくなっちゃったら、わたし……!」

「リズ、イーリスの民が攫われたのですよ。王たる私が助けに行かずして、どうするのです」

「なりません、危険過ぎます!」

「……だが、マリアベルを見捨てることはできない。姉さん、俺も行こう」

「わたしも行く! ダメって言われてもついてくから!!」

「なっ!?」

 

 王族総出で敵地に向かうなぞ、前代未聞の愚行だ。

 ……しかしフィレインは、こういう時の彼らが非常に頑固であることを知っている。説得は時間の無駄であり、事態の悪化を招くだろう。

 

「〜〜っ、ならば! ならばせめて、天馬騎士団を護衛に! 我々が命を懸けてお守りしますから!」

「ありがとう、フィレイン」

「あぁ、お前達が来てくれるなら心強い」

「うん、天馬騎士団の皆が来てくれるなら安心だね!」

 

 そうと決まれば善は急げ。彼らはこの日の内に出発準備を整え、出陣した。

 

 

 

 *

 

 

 

 ──そして、会談当日。

 ただし場所は、国境の峠。椅子も何も無ければ、そもそも屋内ですらない。いかにも『周囲に伏兵が居ます』といった場所だ。

 

(すぐ近くに砦があるから、より不自然なんだよなぁ。だから『暗愚王』なんて呼ばれるんだぞギャンレル)

『いんや、相棒……珍しく読みを間違えたなぁ。これ多分、狙いはエメリナ様じゃあないべ』

(……どういうことだ、相棒)

 

 カイトは事前に、未来の情報をドニに伝えている。故にこのことも、ドニは知っていた。被害を抑えるための『根回し』もしていた。

 だがドニは、カイトがギャンレルの真意を読み間違えたという。

 

『ギャンレルさんの本命は、たぶん──』

 

「これはこれは、王族総出でいらっしゃるとは」

「ギャンレル殿……この度の件、ご説明いただけますか」

 

(あっ、始まっちまった)

『んだなぁ』

 

 時間は無情に進んで行くものだ。その流れには、人類最強の英雄ですら抗えない。

 

(でもまぁ)

『おら達なら』

 

 ──きっと、どんな策もその場で粉砕して征くのだろう。

 

「本件につきましては、陛下に代わり私から説明致しますわ」

「あなたは?」

「インバースと申します。以後、お見知りおきを」

 

 役職などは敢えて明かさず、彼女は(あで)やかに礼をした。

 

(……なんという闇の魔力。クロムと対極に位置する、暗闇の加護ですか)

 

 魔術の素養が高いエメリナは、すぐに彼女が護衛であることに気付いた。

 

「……マリアベルは、無事なのでしょうか?」

「彼女であれば、あちらに」

 

 インバースが指し示した方向には、両手を縄で縛られた上で、男に拘束されているマリアベルの姿があった。リズが悲鳴を上げる。

 

「この者は、無断で国境を越えて我が国ペレジアに侵入。それを止めようとした我が国の兵士に傷を負わせたため──」

「いいえ! わたくし、そのようなことはしておりませんわ! いい歳こいてウソを言うのはやめやがれですわ()()()()!!」

 

(相変わらずエッグい口調してんなぁ……)

 

「………………。

 ……ふふ……と、まぁ。このように騒ぎ立てたので、仕方なく捕まえた次第ですのよ」

 

 長い長い沈黙を挟みつつも、インバースは冷静に建前を並べた。

 

「うちの国に忍び込み、兵を傷付けた……こいつぁ許せねぇ大罪だよなぁ? それに見合った誠意ある対応をしてもらわなきゃあなぁ?」

「嘘ですわ! 不法侵入をしたのはこの者達の方です! 無惨に焼かれた我が領地の惨状を見ていただければ分かります!」

「うちの国は何の関与もしていないが、その件についてはご愁傷様。大勢殺されちまったんだってなぁ? おーおーかわいそうに」

「このっ、恥知らず……!」

「マリアベル……大丈夫です、私は貴女を信じていますよ。

 ギャンレル殿、意見の相違があるようですね。話し合いで、真実を明らかにしましょう」

「話し合いがしたいってんなら、まず詫び入れて出すもん出せや。でなきゃ、この女を今すぐ処刑したっていいんだぜ?」

「貴様……!」

「クロム、やめなさい」

 

 怒りのあまりファルシオンに手をかけた弟を、エメリナは静止する。

 

「ギャンレル殿、アナタの要求するものとは? それを用意すれば、マリアベルを解放してくれるのですよね?」

「ああ。アレとなら交換してやってもいい」

「アレとは?」

「決まってんだろ? 【()()()()】だ!」

「我がイーリスの至宝ですか……」

「あぁ。どんな願いも叶えられるという伝承を持つ神器。是非とも試してみたいもんだよなぁ」

 

 実際の所、炎の台座にそんな力はないのだが。アレもまた、ファルシオンと同じく()()()()()であることは確かだ。その効果とは、()()()()()。つまりギムレーとナーガを復活させる『覚醒の儀』における(かなめ)だ。

 

(アレさえ破壊すれば、ギムレーが完全復活することはなくなる。屍兵の出現が止み、ヴァルムが東の大陸に侵攻する理由が消せる)

 

「……炎の台座に、アナタは何を願うのですか?」

 

(……、…………?

 いや、何も願わねぇよ。願っても叶えてくれねぇし)

 

 とはいえ『ぶっ壊します☆』とも言えないので、ギャンレルは表向きの願いを言うことにした。

 

「我が願いはペレジアの民の願い──イーリス聖王国民の皆殺しだぁ!」

 

(まぁ、できないんだけどな! いいぜ、『炎の台座にそんな力はありません』と言って、オレの無知を笑えばいい!)

 

 対するエメリナの答えは、

 

「おやめなさい!! 台座の力は世界が滅びを迎える時、人々を救うという願いのために使われるべきものです!」

「…………は?」

 

(何を言っているんだ、コイツは。まさか自分の国の国宝の力が何なのかも知らねえのか? 今まさに、その台座が世界を滅ぼす決定打になるかもしれねぇ状況なんだぞ?)

 

「……もう、いいわ。めんどくせえ」

 

 ギャンレルはこの瞬間、エメリナを完全に見限った。

 

「──殺していいぞ」

 

 潜伏していた戦士達が、エメリナに襲いかかる。同時にインバースも、マリアベルの元へ向かった。

 

「姉さんに手出しはさせん!」

 

 エメリナの方は、クロムが躊躇なく斬り捨てた。しかしマリアベルを救出するには距離があり過ぎる。

 

「ドニ、マリアベルをお願い!!」

「言われずとも!」

 

 リズの懇願にノータイムで応じ、ドニはブケファロスを飛翔させるも……素人目には、間に合うように見えなかった。

 

(おい相棒。奴さん、普通にエメリナ様のこと殺しに来たんだが?)

『その話は後だべ! 今はマリアベルさんを!』

(『言われずとも』つったろ? 既に弓の射程圏内だ。おそらく必要ないけどな)

『分かってるけんども、流石のおら達だってこの長距離狙撃は万が一があるべ!』

(スマンスマン)

 

「──これで、戦争開始ね。貴方の大切なお友達も、ここでみーんな死んじゃうかもしれないわ」

「そんな……嫌……! リズ……!」

「ああ、かわいそうに。じゃあそのリズちゃんが死ぬ姿を見なくていいように、ここで先に貴方を殺してあげようかしら」

「──っ」

 

 そうしてインバースが魔力を励起させ、カイトが弓を引き絞り──それらが放たれるより先に、突風がペレジア兵を吹き飛ばした。

 

(──来たな)

 

「マリアベル、今助けるから!!」

 

(……誰? 気配も魔力も、この瞬間まで感知できなかった)

 

 インバースは目を細め、急速に接近してくる少年を観察する。

 

(これは……風の魔法(ウインド)ね。出力は下の下だけど、制御が並外れて巧い)

 

 武人が目を使わず周囲の状況を把握する際用いる『気配』というものの正体は、『音』である。そして『音』とは『空気の振動』だ。つまり空気の拡散を制御すれば、気配の遮断に繋がる。魔力についても、出力を極限まで落とせば感知はその分難しくなる。

 

「リヒトさん!? どうしてここに……」

「あらあら。可愛いボーイフレンドだこと」

「なっ、違いますわよ!?」

 

(まぁこの娘との関係はさておき。巧いだけじゃあ、この私には勝てないわ)

 

「こんなところまで一人で来るなんて、偉いわね坊や。歓迎してあげる」

 

 マリアベルへ放つ予定だった魔法の矛先が、リヒトに向かう。その出力から、ペレジア内でも抜きん出た彼女の実力が垣間見える。

 

「子供扱いしないでよ!」

 

 対するリヒトは出力の制限を解除。本気のエルウインドで迫り来る魔法を逸らし、マリアベルの元まで辿り着いた。

 竜巻が彼女を拘束している男を吹き飛ばし、風の刃がその手に結ばれた縄を切り裂く。

 

「リヒトさん……!」

「マリアベル、酷いことされてない!?」

「ふふ、感動の再会中に失礼だけど──ここからどうするのかしら?」

 

 人質を拘束していた兵士も倒され、マリアベルの拘束も解かれたというのに、インバースの態度は余裕だった。

 ──それはそうだ。周囲にはまだ無数の伏兵がいる。それに、『一人で敵に向かう』のと『味方を庇いながら逃げる』のとでは難易度が違う。

 

「こうするんだよ!」

「「!?」」

 

 リヒトが選択した魔法は、ウインド。軍用魔法の中で最も低火力のそれを用い、彼は()()()()()()()()()()インバースへ攻撃した。

 当然彼女は防御するが……

 

(……なるほど。巧いだけじゃなくて肝も据わっていたのね。自分を攻撃するだなんて)

 

「ひゃあっ!?」

「ごっ、ごめんマリアベル! 変なとこ触っちゃった!?」

「い、いえ。お気になさらず……」

 

 彼はマリアベルを抱いて、距離を取ることに成功していた。

 

「なら良かった! このまま跳ぶけど、いい?」

「えっ、あの……大丈夫ですの? 人一人抱えて動き続けたら、リヒトさんの体力が……」

「大丈夫、マリアベルは軽すぎなくらいだから! ちゃんとご飯食べてる?」

「も、もう! こんな時に何の心配をしてるんですの!?」

 

(……あの子達、本当に恋仲じゃないのかしら?)

 

 それはともかく。

 ダークペガサスナイトたる彼女は追撃しようと思えばいくらでも可能であるものの──爆音と土煙をばら撒きながら着地したソレを見て、彼女は肩をすくめた。

 

「退き時ね。貴方には勝てる気がしないもの」

「あぁ、おめさん達ペレジアの負けだべ」

「……いくら貴方一人が強くても、イーリスじゃあペレジアに勝てないわよ?」

 

 そう言って彼女は、ドニに手を差し伸べる。

 

「こっちに来なさい。貴方なら重宝してあげるわ」

「お断りだべ。まあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()になら、ついて行っても悪くないんだどもな」

「……それは残念」

 

 どこか遠くを見つめながら勧誘を断った彼の姿に、得体の知れない恐怖を感じたインバースは──()()()()()()()()()()()()()()()()()()こともあり、早々に撤退した。

 

「……『残念』は、おら達の台詞だべ」

 

 ファウダーの被害者であり、世界線によってはいずれ味方となるこの二人は、早期に引き抜こうにも難しい。本来なら彼にとっても、ペレジアとの戦争は避けたい事態だったが……

 

『ギャンレルさん個人の説得は可能でも、ペレジア国民全体が説得できない以上……さっさとケリをつけるのが、一番互いのためだべ』

 

 とあるペレジア兵曰く、ペレジア国民は『遺恨という名の呪いに縛られている』状態だ。エメリナの言葉一つでコロリと態度を変えた、正史におけるあの一幕は、現実的じゃあない。

 

 ──まぁ、一番嘘みたいなのは彼の存在そのものなのだが。

 

 感傷を打ち切った彼は、『叫び』により高らかに宣言する。

 

「全ペレジア兵に告ぐ! 降伏せよ!! 武器を置いて逃げれば命までは奪わない!!」

 

「……なんだアイツ? 戦場に鍋被って出てくるって……バカなのか?」

「はぁ!? お前こそバカかっ、『不殺』のドニを知らないのかよ!?」

「不殺って……じゃあ戦った方いいだろ。敵前逃亡よりマシだ」

「おまっ、バッ、お前……! もういい、オレは逃げるぞ!!」

「はぁ!? オイオイ、マジで逃げやがった……」

 

 彼の存在を確認した途端、ペレジア兵達がざわつき始める。

 

「アイツがいるってことは……」

「あぁ……()も来ているに違いない──」

 

「おい、()()()()()()()()! ()が来ているなら、()()()()()()()ぞ!!」

 

「うんうん、よく訓練されてるようで何より」

 

 ──そして、誰もいない砦に()()()()()()()()

 

「う、うわああああああ!?!?」

「やっぱり()だっ、奴が来ている!」

 

「『()()』のロビンだ!!」

 

 太陽──と見紛う程の巨大な炎を生み出したのはロビン。味方からは『華がある』と慕われ、敵からは『鬼のようだ』と恐怖される者。

 

「……相変わらず、凄まじいな」

「このくらいはできないと、ドニの露払いにもなれませんから」

「……えっと、クロム? これさ……軍師()、必要ある??」

「…………スマン」

 

 クロム は 目を 逸らした!

 ルフレ の 目が 死んだ!!

 

 ──STAGE CLRAR!

 戦績:TURN1 MVP:ドニ&ロビン 戦死者(ロスト)0

 

 大部分の者達はロビンの炎で戦意喪失し、逃走するか降伏して捕虜になった。戦いを選択した少数の者達も、大部分は拘束して捕虜にされたらしい。

 

 

 

 *

 

 

 

「クソッ、どうしてリヒト(アイツ)がエメリナの為に動くんだ……ムカつくぜ」

 

 戦争の口実を作った直後に王城へ引き返したギャンレルは、不機嫌そうに頭を掻く。

 

 リヒトの家はかつて、マリアベルの家に並ぶ、イーリス屈指の名門貴族であったが……現在では没落している。

 その訳は、ギャンレルの言葉から察せられる通りエメリナにある。

 先の戦いで見せた活躍からも分かる通り、リヒトは軍人として非常に優秀だ。年齢からして、個人の才能と努力では説明が付かない実力を備えている。明らかに、高次の教育を施された結果だ。つまり彼の家は()()()()()()()()()()である。

 ……もう言わなくても分かるだろうが、リヒトの家は戦後の軍縮によって家財を押収された。それにより、『家柄だけの貧乏貴族』と揶揄されることとなったのだ*1

 にも関わらず、彼は聖王家を恨んでいない。ギャンレルは引き抜き候補から、彼を外した。

 

「──だが、本命は噂以上のバケモノだったな……」

 

 転移を使う直前遠目に見えた、強大な魔術の威力を思い出し……彼は身震いした。

 

「やっぱ、オレの見立てに狂いは無かった。それでこそ、我がペレジアに迎え入れる価値がある」

 

 そう。ギャンレルが想定していた引き抜き候補の筆頭はロビンだった。

 

「クロムは象徴として申し分ないが、エメリナ同様甘ちゃん過ぎる。ドニは強いらしいが……殺人童貞なんて論外。そもそも『鋼の槍を歯で止めた挙句噛み砕いた』だの『手刀で兜を割った』だのと、噂が一発で嘘と分かるモンしかねえ」

 

 ──※注:どっちも本当です。

 

「オレは貧民街から王になった男。欲しいモンは何だって、手段を選ばず手にしてきた」

 

 そしてギャンレルは、舌舐めずりする。

 

()()()()()()()()()()()()も、必ず手に入れる」

 

 ──その目はどこまでも、暗く乾いた砂漠のようだった。

*1
リヒト×ベルベット支援会話Bより、リヒトが実際に言われたとされる台詞




 
 注:リヒトの家がいつ没落したかは不明なので、これは独自解釈です。
 また、ギャンレルの賠償請求相手がイーリスからテミス伯になっているのは、原作の通り『国に請求』した場合、そりゃあ国のトップが出るだろうなということで。テミス伯に請求の方が場面としては自然かなと。
 それと、『マリアベルは会話ができる距離なのに、長距離なの?』と思われた方がいらっしゃるかと思いますが……インバースの魔術で声と姿を届けていた、ということでお願いします。ゲームマップの配置的には結構な距離があるので……

 ギャンレル→ロビンの一目惚れは、ギャンレルが女ルフレに一目惚れしていた公式設定からになります。


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リヒト&マリアベル&リズ 支援会話C‘

 

「マリアベル、良かった……無事で良かった……!」

「ご心配をおかけしましたわね、リズ」

 

 リヒトとマリアベルが救出され、真っ先に喜んだのはリズ。

 彼女はマリアベルの姿を見るなり全力で駆け寄り、わんわんと泣きながら生還を祝った。

 

「リヒトさんのおかげですの」

「えっへん! 褒めてくれてもいいんだよ?」

「勿論! 凄く格好良かったよリヒト! それっ」

「うわっ!?」

 

 感極まってリヒトに抱き着いたリズは、そのまま『よーしよしよし』と頭を撫で回し、彼に『子供どころか小動物扱いだよねそれ!?』と言われて突き放されるまで甘やかした。

 

「……でも、ちょっと反省かな。目の前のことしか見えてなくて、伏兵のことは考えてなかった。ドニさんが来なかったら、マズかったかもしれない」

 

(……後でお説教かなと思ってたけど、自覚があるみたいだし、大丈夫そうだね)

 

 彼らの様子を遠くから見ていたロビンは、軽く息を吐いた。

 

「──あっ、だとしてもだよ!? マリアベルだけは、命に変えても皆のところまで送り届けてみせたけどね!?」

「ふふっ、えぇ。リヒトさんなら、きっとやり遂げて下さるのでしょうね」

 

 ……これは余談だが、彼の名誉のために記しておかなければならないことがある。この局面から前線に加わる二人の、明確な扱いの違いについて。

 リヒトは、()()()()()()()()()である。マリアベルを救出した直後に、彼が死ぬ世界線はいくらでもある。

 だがマリアベルは、()()()()()退()()()()なのだ。どれだけ重傷を負おうとも、絶対にこの局面を生き残る。

 

 ──そう。リヒトは発言通り何があろうと、絶対に、マリアベルだけは生還させてみせるのだ。たとえ、己の命を使い潰すことになろうとも。

 

 微笑ましくワタワタとしている少年だが、内に秘めた想いの強さは本物である。それを嗅ぎ取ったリズは、彼を手招きして内緒話を始めた。

 

「…………マリアベル、ちょっとそこに居てね」

「……? まぁ、構いませんが」

 

「リヒトリヒト、こっち来て」

「う、うん。いいけど……?」

 

 そして彼女はニヤリとして、リヒトに耳打ちする。

 

『マリアベル、今フリーだよ』

「──っ!?」

 

 リヒトが顔を真っ赤にしてリズを見ると、彼女は『応援してるよ』と小声で言った。

 

「あ、いやっ、僕は別に、そんなんじゃ……!」

「ふーん? じゃあマリアベルの好きなお菓子と茶葉の組み合わせとか、休日何やってるのかとか──どんな男の人が好みなのか、なーんて興味は」

「ごめんなさいすごく興味あります」

「素直でよろしい」

 

(……リズ、リヒトさんとあんなに楽しそうに……なんだか妬けてしまいま──わたくし今、()()()()()()()()んですの?)

 

 ()()()()()に気付いた彼女も茹で蛸のように赤くなり、ブンブンと頭を振って熱を散らした。

 

(落ち着きなさいなマリアベル! アナタには()()()()()()()()()()()殿()()がいるでしょう!? わたくしは叶わぬ恋だからとホイホイ好きな相手を変えるような、尻軽女じゃない筈ですわ!!)

 

「リヒトさん、流石にベタベタし過ぎですの! わたくしのリズから離れてくださいまし!」

「ま、マリアベル! これは違くて……!」

「そうだよねー。だってリヒトはぁ──」

「わーっ! わーーっっ!! リズはちょっと黙っててくれないかな!?」

「しょうがないなぁ」

 

 こうして彼らは、絆を深める。それは決して、目の前の戦争から目を逸らすためではない。

 

 ──勝利を信じ、その後の輝かしい日常へ、希望を持って生きるために。




 
 マリアベルとクロムは昔からずっと互いのことが好きだったと支援Sで明かされます。メインストーリーでは一切そんな描写なかったのに……支援無しのティアモの方が絡みあるレベルなのに……
 あ、ちなみにリズはマリアベルとの支援C時点で彼女の好きなお茶を知らないという公式設定がありますが、本作での二人は既に支援Cであり、マリアベル自身の発言から『リズが好きなものと同じ(柑橘系)』と判断したということでお願いします。


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クロム&ドニ 支援会話C

 難産……キャラ崩壊気味なレベルで暗い! 早く明るい話を書かせろ!!


 

 ──イーリス城、中庭にて。

 聖王子クロムは、夜風に当たりながら物思いに耽っていた。

 

「…………」

「……クロムさん。隣、いいべか?」

「ドニか。あぁ、構わない」

 

 了承を確認したドニはクロムの隣に向かい、土で汚れるのも気にせず腰を下ろした。

 

「丁度、お前のことを考えていた。どうしたら、お前のようになれるのかと……」

「おらみたいに? クロムさんが?」

「『心底意外』って顔だな。そんなに驚くことか? お前ほどの男に憧れることが」

「んだなぁ」

「ハハッ、即答か。そう謙遜するな。

 ──マリアベルから聞いたよ。お前がテミス領に、罠を張っていたこと。そのおかげで、多くの民が逃げる時間を稼げたというじゃないか」

「事前にクロムさんが戦力を充実させてくれてたからこそ、できたことだべ。無人で使える罠もあるけんども、やっぱ現場の判断で使える罠が一番だからなぁ」

 

 テミス領は、ペレジアとの国境最寄りにある。ギャンレルが真っ先に落とそうとするのは、クロムも分かっていた。故に彼は、以前から自警団の人員を一定数常駐させていたのだ。

 

「ふっ。頭数(それ)だって、お前は自力で用意できただろう?」

「……『鍋兜傭兵団』のことか?」

「あぁ」

 

 鍋兜傭兵団──『不殺』の彼が、捕えた賊の就職先として用意した組織だ。

 団員は基本的に、襲った場所とは別の村に住み込みで働く。自衛力が足りていないイーリスの村人は、真面目に働くなら勿論歓迎する。戦わない日は、重労働である農作業を手伝って貰えば良い。団員達からしても、衣食住が保証されるだけで賊をやる理由が無くなるのでwinwinなのである。

 

「お前は、平和を壊す賊達を……味方に引き込んだ。その結果、賊の被害は小さくなった。平和に近付いたんだ。

 俺はそんな手段、考えもしなかった。奴らが姉さんの理想を受け入れる筈がないと思い込んで……憎んで、恨んで……殺すために、自警団を作ってしまった」

「何アホなこと言ってるだクロムさん。自警団がただの殺人集団なら、おらは入団しねぇで叩き潰してるべ」

「……そうだな。今の発言は、自警団に入ってくれた全員に対する侮辱だった。忘れてくれ」

「全く……気が滅入ってるみたいだなぁ。どうしたんだべ?」

「それは……」

 

 クロムは苦虫を噛み潰したような顔になると、気分を落ち着かせるために深呼吸を数回行った。

 ……今回の一件は彼にとって、思うところが多過ぎたのだ。

 まずマリアベルを助けると息巻いておいて、実際に彼女を助けたのがリヒトだったこと。事前に彼の参戦を却下していただけに、これは辛い。

 そしてその後の戦闘を、ロビンがほぼ一人で片付けたこと。彼女()は傭兵時代の名声が大き過ぎて、未だに自警団員というより専属の傭兵のような印象を持たれている。

 その上で、クロムがやったことと言えば……敵兵を斬り捨てて戦争の引き金を引くという大惨事。ほぼ不可抗力であったものの、責任感の強いクロムが気にしない訳もなく。

 

「なぁドニ……王配になる気はないか?」

「にゅおお!? なっ、何を言ってるのか理解してるべかクロムさん!?」

「あぁ。俺は……俺なんかより、お前こそが王族として相応しいと──おぼふっ!?」

 

 真面目な顔でトチ狂ったクロムに対し、ドニは容赦なくチョップの寸止めを繰り出した。拳圧の空気弾がクロムの脳天を襲う。

 

「頭は冷えたべかクロムさん……?」

「…………おう」

 

 とてもではないが『痛みでむしろ熱くなってる』とは言えない空気だった。

 

「なぁクロムさん……アンタはファルシオンになりたいと思うか?」

「な、なんだって?」

「ファルシオンに、なりたいか?」

 

 それは何千年も前から折れず、曲がらず、変わらずに存在する。まさに不滅の象徴。

 だが、だからと言って、誰が剣そのものになりたいと思うのか。

 

「い、いや」

「そうだべ? クロムさんが考えるべきはファルシオンになる方法じゃあなく、ファルシオンの振るい方だ」

 

 ここでやっと、クロムはドニが何を言おうとしているのか分かった。

 

「……お前のような人間になるのではなく、お前の能力を引き出せる人間になれ、と?」

「んだ。入団して最初の時に言った筈だなぁ」

「……あぁ、そうだったな」

 

 ──〝おらの力はきっと、クロムさんの道を切り開くためにある〟

 

「……どうしてお前は、そんなに俺を信頼してくれるんだ?」

「んー、ちゃんとした理由はあるんだども……今は秘密だべ。それよりも──」

 

 ドニは(おもむろ)に手頃な石を拾うと、視線をやらずに背後へ投げた。

 すると『ドゴッ』という鈍い音がして、赤い液体が飛び散った。

 

「……え?」

「暗殺者だべ。クロムさんを狙ってた」

「いや、そうじゃなくて! ()()()()()!?」

 

 今まで頑なに、誰の命も奪わなかったのに。どうして急に彼が、そんな行動を取ったのか……それは

 

「アンタのお父様への手向(たむ)けだ」

「何……?」

「前回の戦争は確かに、非人道的で唾棄すべき行いだったけんども……彼の汚名を(そそ)ぐために、言っておかなくちゃいけねぇことがある」

 

 (エメリナ)がかつて自国民から石を投げられ、今も尚ペレジアから恨まれる原因となった父のことを、クロムは一度も『父』と呼んだことはない。

 だが、前回の戦争に意味があったのなら。クロムが父を許すことは一生ないだろうが、それでも……家族として、知らなければならないだろう。

 

「今の暗殺者はなぁ、ギムレー教団所属なんだべ。

 教団の目的はギムレーの復活。世界を壊すことしか考えていない、非生産的な奴らだ。それを根絶やしにしようと考えたアンタの父ちゃんは……そこだけは、間違っちゃあいねがったと思うべ。

 だからこそ、不殺の信念を曲げることで……彼への手向けとしたんだ」

「……お前でも、理解し合うことを諦めることがあるんだな」

「失望したべか?」

「……いや。だが、もう一人も殺すな。

 ──殺すかどうかは、捕らえた後に俺が決める」

「なら、任せるべ。そういう責任感の強さも、考えることを止めない向上心も、クロムさんの魅力だからなぁ」

「……ありがとう」

 

 ──城に爆音が響き、二人は現場へ急行した。



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