苗木誠の奇妙な冒険~バレット・オブ・ホープ~ (砂原凜太郎)
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プロローグ~奇妙な矢~

『これから、オマエラにはコロシアイをしてもらいます!!』

 

 そう高らかに叫んだモノクマももくろみ。超高校級のエリートたちが集まる中で、始まった殺し合い学園生活は、突如として、誰も死なないまま、終結した。江ノ島さんが見つけた、一本の矢のおかげで。

 

 おっと、自己紹介が遅れたな…………。ボクは苗木誠。初対面の人には、オーソドックスな自己紹介から始めてしまうような、平凡オブ平凡な人間。

 ここ、超高校級の天才たちが集う【希望ヶ峯学園】に入学できたのは、全国の人間から抽選された中で、当たったボクは、『超高校級の幸運』として招かれたからだ。

 そして、モノクマという謎のぬいぐるみが、ボク達をデスゲームに巻き込んだ。

 

「やあ!!おはよう、苗木君!!今日は僕が一番乗りだ!!」

「あはは、凄いね、石丸君。おはよう。」

 

 にこやかな顔で挨拶してくるのは、スポーツ刈りの青年、石丸清多夏君。

 【超高校級の風紀委員】と呼ばれる、有名進学校万年成績トップの優等生。そんな彼の座右の銘は、『質実剛健』だ。

 前回の会議の時一番乗りになれなかったのがよっぽど悔しかったのか、ボクにそう言う。

 

「フッ、何だ。まだこれだけか。」

 

 すると、入り口の傍の壁に、ダークグリーンのフード付きジャケットに、黒いマスクと、全体的にダークな服装をした白髪の青年が来た。

 

「…………shadow君か。」

「フッ、石丸清多夏、俺の行いに、お前の意見は必要ない。」

「だとしても!!」

 

 こぶしを握り、声を荒げる石丸君。当然だ。彼、shadow君は、【超高校級の殺し屋】なんだから。

 

 世界を飛び回り、様々な人間を【処刑】する殺し屋。shadowというのは、彼が標的に送る、【殺人予告状】に書かれる、彼の名乗り名だ。自己紹介の時も、shadowと名乗って、話は終わりだと言わんばかりに離れて行った。

 【希望ヶ峯学園入学者スレ】によれば、彼が狙うのは、暴行罪の懲役から出所してきたが、まるで反省する様子の無い男や、お金の力で犯罪をもみ消す悪徳政治家などの、【法では捌けない悪人】だ。それも一つの正義だと、ネットでは彼をヒーロー視する声も少なくない。

 でも、法律を破って人を殺すことを、真面目な石丸君は許せないのだろう。

 

「荒れてますね、石丸君。」

「あ、舞園さん!!」

「おはようございます、苗木君。」

「おっす苗木、俺もいるぜ。って、また石丸と影の奴がもめてんのか。」

「あ、桑田君も、おはよう。」

 

 次に入って来たのは、日本人なら誰でも知ってる超有名アイドルグループの線あーを務めている、【超高校級のアイドル】舞薗さやかさんと甲子園優勝チームのピッチャーであり四番だった、【超高校級の野球選手】桑田玲音君だ。

 ちなみに桑田君本人は、野球はそこまで好きじゃないらしい。本当は、ミュージシャンになるのが夢なんだそうだ。

 

『随分そろってるね』

 

 すると、耐火素材のジャンパーに身を包み、口元に白いスピーカーを付けた少女、

 

「梔子さん。おはよう。」

『ん。おはよう。』

 

 梔子(くちなし)さん。ロック、ポップ、ボーカロイドから和風の三味線などを使った音楽や演歌、様々なジャンルでヒットソングを生む、【超高校級の作曲家】。

 【梔子】というのはペンネームで、ボクは本名を知らない。彼女からも、『【梔子】って呼んで。』と言われてる。彼女の声は、スマホで文字を打ち込んで、それをスピーカーが喋っている。彼女の肉声を聞いた事も無い。どんな声をしてるんだろう?

 そんな事を考えてると、黒いコートにリーゼントの彼と、茶髪の、セーラー服の女の子が入って来た。

 

「大和田君、不二咲君、おはよう。」

「ん?苗木か。よう。」

「おはよぉ、苗木君。」

 

 いかつい彼は、関東最大の規模を誇る暴走族、【暮威慈畏大亜紋土】の総長を務める、【超高校級の暴走族】の大和田紋戸君と、数々の有名なプログラムを生み出した、【超高校級のプログラマー】不二咲千尋さんだ。

 

「やっほ~、苗木。」

「苗木、良い朝だな。」

「あ、朝比奈さんに、大神さん、おはよう。」

 

 二人は、水泳で高校生最速記録を大幅に塗り替えた、【超高校級のスイマー】朝比奈葵さんと、人類最強と名高い、【超高校級の格闘家】大神さくらさん。体育会系の女性同士だからか、二人は結構仲が良い。

 余談だけど、shadow君と大神さんは、よく共に鍛錬しているとか。どんな鍛錬なのか、気になるような知りたくない様な…………。

 

「ふあ~ぁ。お、苗木っち、おはようだべ。」

「おはよう葉隠君、って、どうしたの?眠そうだね。」

「ああ、ちょっと昨日、不安で眠れなかったべ…………ちと寝不足気味だべ。」

「そう…………なんだ…………。体は大事にね。」

「おう。苗木っちもな。」

 

 そう言ってボクに人懐っこい笑みを浮かべてくるのは、占い界の超新星、何回かだぼった経験があるらしい【超高校級の占い師】葉隠康比呂君だ。

 彼曰く、彼の占いは万能なものではなくて、三割の確率で当たるんだとか。色んな話をしてくれるけど、オカルト信者なのか否定論者なのかよ、ちょっとく分からない。そんな事を考えていると、

 

「う、うわぁ!!や、やめろ!!」

「ほら、そんなに暴れんなよ。タブレットないんだから、ここに来る以外方法ないだろ?」

「それでも僕は孤独がいいんだ!!18人も顔を合わせるなんて御免だよ。」

「今回ばかりは仕方ねぇだろ。お前タブレットあのクソクマに取り上げられてんだろ?」

「そうだけど!!嫌なものは嫌なんだ!!」

 

 おしゃれな服装の青年にジタバタと暴れながら引っ張られて行くの、アニメで出てくるようなフーデットローブを着た彼は、株やトレードでお金を儲け、自作のロボットが家事や接客を行う、豪華な自宅に一人で引き籠る【超高校級の引き籠り】小森晶(こもりあきら)君。

 ロボットが接客を行うっていうのは、行ってみればわかるらしい。

 極度のコミュ障っぽくて、あまり人前に出たがらず、何時も、今引っ張ってる彼、世界最高のベーシストとたたえられる、フリーベーシスト、【超高校級のベーシスト】小池智也君に、引っ張り出されてる。

 世界を飛び回るミュージシャンと引きこもりが友人っていうのは信じられないけど、二人はチャットアプリのWAINEで知り合ったそうだ。

 

「フン。そろっている様だな。」

「…………。」

「あ、腐川さん、十神君、おはよう。」

「「気安く話しかけるな(ないでよ)。」」

「あ、ごめん。」

 

 金髪で、眼鏡をかけた、目付きの鋭い人と、二つ結びの女の人。生まれた時から、ありとあらゆる帝王学の髄を叩き込まれた、日本有数の財閥、十神財閥の御曹司、【超高校級の御曹司】十神白夜君と、執筆作品が社会現象をも引き起こした、【超高校級の文学少女】腐川東子さんだ。腐川さんは十神君によく付きまとってる。十神君がそれについてどう思っているかは知らないけど…………。

 

「あら?随分と遅れてしまいましたわね。」

「う~む、寝坊のせいで不覚を取ってしまいましたな。」

 

 くるくるカールの黒い髪、第一印象、【お嬢様】なゴスロリ系の服に、太陽を一度も浴びてない様な白い肌。外国人な印象が、この個性的なメンバーの中ではshadow君以上に強いのは、参加者全員の全財産を奪い合う究極の裏ギャンブル、【キングオブライアー】で優勝して、全参加者の全財産を全て我が物にしたという噂を持つ本名不詳、出身地不詳の謎多き【超高校級のギャンブラー】セレスティア・ルーデンベルクさん。

 そして、彼女の僕の様に彼女の後ろにいるのは、学園祭で、規格外の量の売り上げを叩きだして見せた、【超高校級の同人作家】山田一二三君だ。

 ちなみに、彼が書く同人誌のコンセプトは、『性の向こう側』という奴らしいけど…………どんなものなのか、知りたいような、知っちゃいけない様な…………。

 この学園に、モノクマによって閉じ込められたのは、全部で19人。後の二人、来てないのは…………。

 

「皆、おはよう。」

 

 来た。銀髪のストレートヘアに、白のブラウス、黒のジャケットにオレンジのネクタイと、一言で表すとした、【女刑事】という印象がピッタリな、霧切響子さん。僕が今のところ、みんなの中で超高校級の才能が分かってない人だ。

 これはボクの予想だけど、【超高校級の捜査官】とかだったりして。

 

「おはよう。霧切さん。」

「おはよう、苗木君。見たところ、ほとんど来てるのね。」

「うん。霧切さんが、最後から二番目。後来てないのは、」

「江ノ島さんね。」

 

 うん。と、ボクは頷く。超高校級のメンバーの最後の一人、それは、ファッショナブルな容姿から、モデルとしても活躍する、【超高校級のギャル】江ノ島盾子さんだ。

 

「おっす、おはよ~。」

「あ、江ノ島さん。」

「あ、苗木じゃん。ってうわ、もうアタシ以外全員揃ってんの?マジ?ビリッケツ?」

「あ、そ、そうだね。ところでさ、」

 

 肩をがっくり落すような動作と共に、落ち込んだそぶりを見せる江ノ島さんに、ボクは凄く気になっていることを聞いた。

 

「その手に持ってるもの、何?」

「ん?ああ、これ?」

 

 江ノ島さんがヒョイと掲げた、右手に持ってるもの。それは、矢だ。金色の矢じりが付いた、矢。

 

「偶然見つけたんだけどさ、その時に先端で指切っちゃって。」

 

 見ると、親指に絆創膏がまかれてた。

 

「へ、へぇ、そうなんだ…………。」

「苗木も触ってみる?スッゲーよく切れるよ?」

「あ、アハハ、遠慮しとくよ。」

 

 切れると分かってる刃物には触れたくないな。すると、

 

「?この矢…………ちょっと見せてくれない?」

「え?いいけど。はい。」

「ありがとう…………ッ!!」

 

 渡され、矢を調べてるとき、うっかり、霧切さんの指が切れた。

 

「き、霧切さん!!大丈夫!?って痛ッ!!」

「な、苗木君、ごめんなさい。」

 

 それを手当てしようと近づいたら、霧切さんの持ってた矢で、腕を切ってしまった。そして、その時霧切さんが取り落とした矢をボクがうっかり蹴ってしまい。

 

「痛ッてぇ~~!!」

「く、桑田君!!」

「どうしたんですか?桑田君?ッてきゃあ!?」

「舞園さんまで!!大丈夫!?」

「へ、平気です。」

 

 蹴っ飛ばして回転しながら床を滑って行く矢が、桑田君の足元を掠めて、さらに、その矢を舞園さんが踏んで終い、踏んだ矢が跳ねあがって舞園さんの太腿を掠める。

 そして、その矢は机に落ちて、そこにあった葉隠君の手に、

 

「どうしたべ?くわtあだ~!?」

 

 葉隠君の手にぶっ刺さる。そしてその痛みで上げた手の反動でその矢は回転しながら、

 

「ぐおっ!?」

「きゃあ!?」

「ッ!?」

「ヒィッ!?」

「ア~!?みんな済まんべ~!!」

 

 大和田君の頬、不二崎君の肩、十神君の手の甲、腐川さんの二の腕を掠めて、床に転がるそして、

 

「ギャア!?」

「ちょッ!?」

 

 うっかりなのかおっちょこちょいなのか、再び矢を踏んだ山田君の贅肉たっぷりなお腹を掠め、セレスさんの真っ白な掌を掠める。

 山田君の体重で踏みつけられたせいかその刃は小森君のもとに飛んで行き、

 

「うわあ!?ぎゃああぁぁぁぁ!!」

「ちょ、小森、暴れんな、ただのかすり傷dッ!!」

 

 小森君と小池君の指を掠め、shadow君に飛んで行く!!

 

「あ、危ない、shadow君!!」

 

 と、ボクが叫んだ瞬間、カァン!!と、甲高い音がした。shadow君の腕が、一瞬で振られて、ナイフが弾かれる。手には、いつの間にか握っているナイフ…………これが、超高校級の殺し屋の、一閃。

 

「チッ。」

 

 しかし、shadow君は、自分てを見て舌打ちする。右手に、浅い傷があった。さっき振るった時に、

 

「見誤ったか。意思持たぬ矢にこの俺が傷着けられるとはな。」

 

 そう呟き、弾いた矢を見た。矢は、石丸君の足首を掠めて止まっている。

 

「い、石丸君!!みんな!!大丈夫!?」

「ふん。大したことは無い。」

「白夜様がそう言うなら、私も問題ないわ。」

「大丈夫ですよ苗木君。気にしてません。」

「痛てて…………ま、問題ねぇよ。」

「問題ないとも!!」

「この程度。同様には値しない。」

「も、もちろん拙者も大丈夫ですよ?」

「わたくしの指が…………まぁ、この程度の傷、すぐに治りますわ。」

「大丈夫だよぉ。」

「問題ねぇ。」

「平気だべ。(こんな状況で一人だけ苗木を責められないべ…………。)」

「くっ…………ああもう!!痛いけど別に大したことないよ!!全く、綺麗にバスバス傷つけやがって!!この矢はピ○ゴラスイッチかよ!!」

「ほら、落ち着けよ小森、矢に恨み言ぶつけても仕方ねぇだろ。矢なんだし。」

 

 なんか後半が不安だけど、大体大丈夫そうだな。それにしても、

 

「江ノ島さん、こんな矢、何処で見つけたの?」

「それがさ、体育館の傍に落ちてたんだよね。」

「体育館?」

 

 何でそんなところに?そう思ったら、

 

「騒がしいねぇ、キミたち。」

「「「「「ッ!!」」」」」」

 

 全員がその声の方から飛びのいた。そこに居た、白と黒のゆるきゃらみたいなクマのぬいぐるみ…………

 

「モノクマ!!」

「あ~も~、そんな風に警戒しないでよ。ボクが用があるのはその矢だからさ~。」

 

 なんか煽ってるみたいで癇に障るド○えもんボイスでそんな風に言って、矢を指さす。

 

「これ?」

「うん。これね、ボクの落し物なの。」

「お前のだぁ!?」

 

 そう言ったのは大和田君だ。

 

「そそ、偶然落っことしちゃったみたいで~、それはキミ達には必要ないし、扱えないような代物だから~、没収しま~す!!」

 

 何かこっちを馬鹿にした様な言い方で、そう言う。

 

「はぁ!?何の権利があってそんなことするんだよ!!」

「教師が校則違反な私物を没収するのは当然の権利ですよ?それに、それはボクの落し物だから。」

「テメェが落したのが悪いんだろうが!!」

 

 そう怒鳴る桑田君。でもそんな彼を、舞薗さんがなだめる。

 

「落ち着いてください、桑田君。落し物なら、返すしかありませんよね。」

 

 そう言って、矢を持って、モノクマに向かって行く。

 

「お返しすればいいんですか?」

「うん勿論。さすが、アイドルの舞薗さんは素直でいいね~愛い愛い。」

 

 なんか悪代官みたいなことを言ってる。すると、モノクマが、舞薗さんの手から流れる血に気が付いた。

 

「…………キミ達、もしかしてだけど、この矢で傷なんてつけてないよね?」

 

 ?何でそんな事をわざわざ聞くんだ?

 

「え?それがどうかしたんですか?」

 

 ニッコリと笑った舞薗さん。けど、目が笑って無い。どこかで聞いた話だけど、舞薗さんみたいな職業は、自分を嘘で塗り固める仕事らしい。そして、アイドルなんていうのは人気の奪い合い、戦争だ。流石超高校級のアイドル(嘘吐き)。いかなる時も、油断してない。

 

「いや、何でもないよ?フヒュ~フヒュ~。」

 

 とっさにヘタクソな口笛を吹く。ますます怪しい。

 

「と、とにかく、没収するものは没収!!渡してもらうよ!!はい!!」

 

 そう言って、手を差しだす。その手に、舞薗さんがしぶしぶ矢を乗せようとした瞬間、その矢は、モノクマの目の前から消えていた。

 

「ん?」

 

 そして、

 

「ぬっ!?」

「キャッ!?」

『ッ!?』

 

 矢で傷をつけられなかった朝比奈さん、大神さん、梔子さんの三人の傍を人影が通り過ぎ、三人から、血が出る。

 そのままダンッ!!と音を立てて机の上に着地したのは、shadow君だ。一瞬だった。モノクマが反応出来ないほどの…………さっきのナイフの早抜きなんて大したことが無いくらいに凄い早業。これが、超高校級の暗殺術…………。

 

「傷があると、何か不都合でもあるのか?モノクマ。」

 

 そう言い、彼は振り返って、唖然とするモノクマを睨んだ。




 次回、苗木たちにスタンドが発現!!
 スタンド予想、ジャンジャン投稿してください。ちなみにヒント、苗木君といえば、言弾ですよね。っていう事は?


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皇帝の拳銃と、真実

「この矢で傷をつける、それの何がまずいんだ? 言ってみろ、」

 

 矢をクルクルと回転させながら、shadow君は、そう言ってモノクマをにらみつけた。

 すると、モノクマは、がっくりうなだれて、

 

「あ~、もう。ほんっとにやになっちゃうな~も~。」

 

 と、腕を組んで言った。

 

「これは、君たちの命を危うくする物質だから、学園長として管理してたっていうのに、」

 

 と、言った瞬間、shadow君がいや、他の皆が倒れだした。

 

「な、なにが…………グッ!?」

 

 僕にも唐突に、心臓を貫くような痛みが来て、床に倒れこんだ。

 

「ボクは知らないよ? この矢は、傷ついた人に、二種類の道を提示するのさ。」

 

 と、怪しげな笑みを浮かべて言う。

 

「残念だけど、みんなは選ばれなかったみたいだね。ま、何人か選ばれても、全員選ばれるなんてありえないけどね~。ブヒャヒャヒャ!!」

 

 と、高笑いを上げる。

 

「き、貴様…………。」

 

 shadow君が憤怒の形相でこっちを睨む。するとモノクマは、

 

「ま、この中の誰かが生き残ったら、視聴覚室においで。 いいものを見せてあげるよ。」

 

 という声とともに、僕の視界は真っ暗になった。

_______________________________________

 

「う…………。」

 

 そして、次に目を覚ました時、真っ白な天井が、視界に入った。

 

「ここは…………。」

「よう。あんさん、目が覚めたようで何よりだぜぇ。」

「ッ!!」

 

 声がして、驚いて振り向くと、そこにいたのは、西部劇のカウボーイみたいな服装をした男。

 

「あ、貴方は…………。」

「ホル・ホース。俺の名前だぜぇ。」

 

 そう名乗って、咥えたタバコに火をつける。

 

「あんさん、名前はなんていうんだよ?」

「え? あ、苗木誠です…………。」

 

 そう言って一礼すると、

 

「素直なガキンチョだぜぇ。」

 

 と、笑みを浮かべた。気に入られた…………のかな?

 

「あんさん、何があったのか、思い出せるか?」

「何が……あったか? ッ!! そうだ!! 矢の傷で、確か、モノクマが『選ばれる』とか言ってて、皆は!?」

 

 そう聞くと、

 

「安心しろォ。あんさんと一緒に食堂にいた奴は、みんな生きてるぜぇ。」

 

 と、笑顔を向けてくれた。

 

「え!?」

「あんさん、あの矢に関して、どれくらい知ってるよ?」

 

 驚く僕に、ホル・ホースさんはそう質問を投げかけてくる。

 

「矢、矢ですか………? ほとんど知りません。」

 

 そう答えると、

 

「俺も、詳しいことたぁ知らねぇのよォ。それを踏まえて聞いてくれ。

 あの矢にはよォ、【スタンド能力】っつう、特別な力を目覚めさせるちからがある。」

「す、スタンド能力?」

 

 な、なにを言っているんだ? この人は。それって、皆の【超高校級の才能】とは違う、僕の好きなゲームや、漫画の中に出てくるようなパワーが、現実にあるってことなのか!?

 

「あんさんが今、ここで生きていて、俺がいるってこたぁ、あんたは矢に選ばれたってことだ。

 ここで念じてみれば、出てくるはずだぜェ。あんさんの、スタンドがよォ。」

 

 念じれば…………出てくる? と、とにかく、やってみよう。

 

「え、えいッ!!」

 

 そう言って、とりあえず念じてみる。すると、確かに感じた。僕の胸の中にある、何か、漠然とした力を。そして、右手に少し重みのある感覚。

 右手を目の前にやってみると、

 

「け、拳銃!?」

 

 見たことがない…………というか、明らかに普通の拳銃とは違う形をした拳銃を、僕は握っていた。

 

「これが、スタンド? そもそも、こぶしを握っていいたはずの僕は、なんで拳銃を持ってるんだ!?」

 

 混乱してオロオロする僕に、

 

「そいつは、本能だろうぜェ。」

 

 と、ホル・ホースさんは声をかけた。

 

「ほ、本……能?」

「おうともさ。あんさんのスタンドは、あんさんの精神そのものだぜェ。つまり、あんさんは、本能でこの能力の使い方をわかってるってことさァ。」

「だから、自然と拳銃を握る形をとった…………。」

 

 と言うと、ホル・ホースさんは呆れた顔をして、

 

「あんまり拳銃拳銃言ってやるな。そいつはタロットカード四番目のアルカナを暗示するスタンド、『皇帝』(エンペラー)だぜェ。」

 

 と、言ってきた。皇帝(エンペラー)?

 

「な、なんで、ホル・ホースさんが、僕のスタンドの名前を?」

 

 と、聞くと、

 

「そりゃぁ、俺はそのスタンドの前の持ち主だからだぜェ。」

 

 と、答えた。 前の……持ち主?

 

「あんさんは、この俺のスタンドを継承したのさ。だから、ここに俺がいる。」

 

 どういう…………ことだ?

 

「ここは夢の世界だぜェ。ここには、俺とあんさんの精神だけが存在している。」

 

 だから、こんな真っ白で殺風景な空間なんだぜェ。と、ホル・ホースさんは続ける。

 

「コイツの力と能力は、あんさんの精神に叩き込んでる。起きれば、使い方がわかるはずだぜェ。」

 

 と言って、扉を指さす。部屋にあった扉は、いつの間にか開いていた。

 

「え、ちょ、ちょっと!?」

「さ、行きな。あんさんの仲間もそろそろ起きるころ合いだぜェ。」

 

 と言って、二本目のたばこに手を付ける。

 

「ぼ、僕はまだ、聞きたいことが、」

「答えられることは何もないぜェ。」

 

 僕の質問を、ホル・ホースさんはそう言ってはねのける。

 

「…………また来ます。」

「おう。待ってるぜェ。」

 

 僕の声に、ホルホースさんはそう答えた。その言葉を背に、僕は扉の奥、白い部屋の外へと出て…………

___________________________________________________

 

「う…………。」

 

 僕は、食堂で目を覚ました。

 

「苗木君!! 大丈夫ですか!?」

 

 そして、舞薗さんに声をかけられた。

 

「あ、ま、舞薗さん…………。」

「よかった。みんな目を覚まして、後は苗木君だけだったんです。」

 

 と、笑みを浮かべて教えてくれた。

 

「み、みんな!? みんな無事なの!?」

 

 勢いよく起き上がって舞薗さんに質問すると、

 

「言っただろう。倒れていたのは貴様が最後だと。」

 

 と、声がした。

 

「うわっ!? しゃ、shadow君…………。」

 

 背後にいたのはshadow君だ。全く気が付かなかった…………。これが、【超高校級の殺し屋】の実力…………。

 

「そんなに驚くな。モノクマは全員生き延びるのはありえないと言っていたが……ありえない、というのはありえない。…………よく言ったものだな。」

 

 あたりを見回してみれば、皆、ちゃんと居る。

 

「まったく。そもそも、お前が余計なことをしでかしてくれたからだぞ。」

 

 と、shadow君に十神君がにらみを利かせる。

 

「フン。その結果、貴様が手に入れた力は余計なものだったのか?」

 

 と、問いかけると、

 

「お前の体で試してやろうか。」

 

 と、二人の体からオーラのようなものが立ち上る。すると、

 

「止めろ!!」

 

 という声とともに、ドン!! という音がした。

 そっちの方向を見れば、大和田君が殴りつけた机は、放射状に大きなひびが広がっていた。

 

「お、大和田クン!!」

「止めたまえ!! 机に失礼ではないか!!」

 

 不二咲さんと石丸君が止めに入る形で大和田君の肩を抑えるけど、

 

「悪い。ひとこと言わせてくれ。」

 

 って、大和田君は二人に断って、

 

「お前ら二人、そんなことしてる場合じゃねぇだろ。」

 

 と、言って、shadow君と十神君ににらみを利かせた。

 

「何だと? 僕に指図をするな。」

 

 と、十神君がにらみを利かせるけど、

 

「今仲間割れしてる場合かよ。その前に、まずはモノクマを何とかするべきだろ!!」

 

 という正論に、黙り込んでしまう。

 

『視聴覚室に来い、とか言ってたよね。』

 

 という機会音声は梔子さん。

 

「行ってみるしかねーんじゃねーの?」

 

 と、桑田君も言う。

 

「でも…………何が待ってるのかな?」

「少し、いや、かなり不安だべ。」

 

 と言うのは、朝日奈さんと葉隠君。

 

「安心しろ。いざとなれば、我が。」

 

 というのは大神さんだ。

 

「ともかく、行かないことには始まりませんわ。」

 

 という、セレスさんの鶴の一声で、全員で全員で視聴覚室に向かうことが決まった。

 

「うん。そうだね、セレスさん…………ッ!!」

 

 ふと、さっき大和田君の叩いた机を見て、僕は目を見張った。あれだけ大きかった放射状のひびが、消えていた。

 

「どうしました? 苗木君。」

 

 舞薗さんにそう聞かれて、僕はとっさに、

 

「ううん。何でもないよ。」

 

 と答えてしまった。とりあえず、モノクマのもとに行くのが優先だ。

___________________________________________________

 

「で、来てみたはいいものの………」

 

 と、小池君が口を開く。

 

「何もいねぇじゃねぇか!!」

 

 そう。大神さんと大和田君が扉をぶち破って突入したが、そこには何も無かったんだ。

 

「ど、どういうこと?」

 

 小森君がうろたえる。その瞬間、

 

『やぁ、諸君。』

 

 モノクマの顔が、正面のスクリーンいっぱいに現れた。

 

「モノクマ!!」

『あ、初めに言っておくけど、質問には答えられないよ。コレ、録画だから。』

 

 と、手をひらひらと振るう。録画…………?

 

『だから、君たちのうち何人が生き残ったかなんて、僕は知らない。もしかしたら、一人しかいないかもしれないけど、ボクはあえて、君たちって呼ばせてもらうよ。』

 

 うぷぷぷぷ~と、癪に障る笑い声でそう言う。ギリッ!! と、shadow君が奥歯をかむ音がした。

 

『生き残った運のいい君たちには、これを見せてあげよう。VYR、スタート!!』

 

 と言って、モノクマがボタンを押した。そして、流れてきた映像に、皆が驚愕した。

___________________________________________________

 

「馬鹿な…………。」

 

 信じられないかもしれないけど、これは十上君がこぼした言葉だ。でも、それ以上に僕が信じられないのは、今流れた映像だった。映像の手前に移っていたスーツ姿の人からの説明みたいなのを聞いた後なのだろう。もしかしたら、この学園の中で一生を終えることになるかもしれない。そんな条件に、僕たち全員が同意していた。

 shadow君だけは、しぶしぶだったけれど。

 

「こ、コイツは…………どういうことだ!?」

 

 大和田君が声を荒げる。そしたら、モノクマの顔がまた出てきて、

 

「君たちは、今、自分が何歳か、わかるよね?」

 

 というのは、モノクマの言葉だ。年齢はもちろん、高校に入ったばっかりだから、15歳だ。

 

「おれっちはダブって二十歳だべ。」

 

 というのは葉隠君の言葉。アハハ…………。

 

『実際はね、君たちの考えのその二歳上。』

 

「「「「「………は?」」」」」

 

 ぼくたち全員の声が、重なった。

 

『君たちが希望ヶ峰学園に入学してからね、世界が変わったの。』

 

 と、ひょうひょうと答える。

 

「世界が、変わった…………?」

 

 不二咲さんが、驚いたような表情をして、

 

『そう!! 人類史上最大最悪の絶望的事件のせいでね!!』

 

 と、両手を高々と上げたモノクマの次にビデオに映ったのは、世紀末だった。

 

「「「「ッ!!??!?!?!!」」」」

 

 モノクマ型の巨大ロボが、大きなビルを破壊している。モノクマの被り物をした暴徒が、色々な物を壊している。人を…………殺している!!

 一人の暴徒が車を叩き、あたりには炎が広がっている。それを見たところで、梔子さんが倒れた。

 

「梔子さん!?」

 

 屈んだ舞薗さんが梔子さんのそばによる。

 

「呼吸が荒い…………。」

「パニック状態だ。」

 

 そうしたら、shadow君が近くによってそういった。

 

「え?」

「以前、似たような症状を目にしたことがある。梔子はよその部屋で一旦落ち着かせ…………」

『だいじょうぶ』

 

 マスクから声が出る。左手で喉を抑えて、右手でスマホを動かしている。変換もしていないみたい。

 

『だいじょうぶ…………だから…………これをきかせて』

 

 呼吸もだんだん落ち着いてきたみたいだ。でも、この映像に皆騒然としている。

 

『だから、君たちはこの学校をシェルターにしたの。窓や扉のロックは、皆がしたんだよ? 必死でね。』

「だったら…………。」

 

 なんで、僕たちがそれを覚えていないんだ!! そう言おうとしたら、

 

『何で君たちがそれを覚えていないのかって?』

「ッ!?」

 

 僕のセリフを先取りされた。

 

『簡単なことだよ。ボクのスタンドの力で、君たちの記憶を奪ったのさ。』

 

 と言った。

 

「なっ!?」

『あ、その記憶が入ったDISCを、皆の顔のプリント付きケースに入れて、段ボール箱に詰めておいてあげたよ。ボクからの卒業記念とでも思ってね。』

 

 と、僕たちに言った。見てみれば、真ん中の机には確かに段ボールがあった。ずっと映像に気を取られて気が付かなかった…………。

 

『五分待つから、DISCを頭に押し当ててごらん?思い出すから。』

 

 言われてる間に、桑田君と小池君が段ボールを開けて、皆にディスクケースを配っていた。僕に回ってきたディスクケースの側面には、僕の顔がプリントされている。皆もそれぞれのケースを開けていた。中に入っていたのは、何の当たり障りもない金属製のディスク。恐る恐る頭に当ててみると、そのディスクは僕の頭に吸い込まれて行って、

 

「ああっ!!」

 

 僕は思わず声を上げた。皆も、似たような反応をしている。思い出したんだ。唐突に、皆との記憶が…………。

 

 ムードメーカーだった舞薗さん。

 その舞薗さんと仲の良くて、なんだかんだで野球を捨てきれない、妹想いな桑田君。

 口うるさい十神君。

 その十神君にベタ惚れな腐川さん。

 そして、腐川さんがくしゃみをすると入れ替わる、超高校級の殺人鬼、ジェノサイダー・翔。

 何時も孤高な雰囲気を醸し出すshadow君。

 火がトラウマだと教えてくれた、梔子さん。

 一緒によくドーナツを買いに行った、朝日奈さん。

 そんな朝日奈さんとよく一緒にいた、大神さん。

 怖いけど、仲間のためならどんな危険だって顧みない大和田君。

 その大和田君に、憧れの目を向ける不二咲さん。

 なんだかんだでこの二人と仲が良くて、『兄弟』と呼ぶくらい大和田君と親友な石丸君。

 切れると豹変する、実は餃子好kじゃなかった紅茶以外は認めない主義のセレスさん。

 そのセレスさんにひどい目にあわされながらもまんざらじゃなさそうな山田君。

 意外といじられキャラな小池君。

 二年間たっても、タブレットとロボット越しに会話しようと徹底する小森君。

 意外と勉強ができて達筆な葉隠君。

 そして…………。

 

「霧切さん…………。」

 

 二年間と数か月の生活の中で、はるかに思いを寄せていた、【超高校級の探偵】。

 

「…………どうやら、私たちは、あってから数日なんて関係じゃなかったみたいね。」

 

 どうやら、霧切さんも…………思い出したみたいだ。それと、もう一つ、

 

「江ノ島さん…………いや、君は…………。」

「…………。」

 

 反対の手で二の腕を握って青い顔をしている人…………江ノ島さん。いや、あの時、江ノ島さんは、雑誌に移っている自分との顔の差は、ソフトを利用して盛ってるからだと言っていたけど、本当の江ノ島さんを思い出した………本当の江ノ島さんと、この人は違う。そして、この人は、今まで記憶に消えていた、もう一人のクラスメート…………

 

「戦場…………クン。」

 

 彼女と親しかった石丸君が、その名を口にした。

 

「ハァ。」

 

 すると、彼女はため息をついて、自分の頭に手をかけて、無造作にウィッグを取り払った。現れたのは、黒髪。

 

「そうだよ。ゴメンね。今までだましてて。」

 

 いろんな所の戦場を渡り歩いた、超高校級の軍人、戦刃むくろの姿が、そこにあった。



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極悪中隊の奇襲

「戦刃君!? なぜ君が、江ノ島君のふりを!? そもそも、江ノ島くんはどこに!?」

 

 石丸君が、そう声を上げる。

 

「……お姉ちゃんに、そう頼まれたから。」

「何っ!?」

 

 つまり、これを命令したのは、江ノ島さんってこと?

 

「どういうことだ戦刃君!?」

「落ち着け兄弟。」

 

 逸る石丸君に、大和田君が肩に手をのせる。

 

「何にせよ、オメーには聞かなきゃいけねぇことが出来たっつーことだよな。」

 

 と、睨みを利かせる大和田君。

 

「……答えることは、無い。」

「そうかよ。だったらよぉ、」

 

 そういう大和田君の背後に、人型の何かが現れる。あれが、大和田君のスタンド?

 

「悪いが殴りつけて聞かせるしかねぇみたいだな!!」

 

 そんな言葉と共にスタンドの拳が戦刃さんを襲おうとしたとき、何かが光ったように見えた。

 

「ッ!! 危ない兄弟!!」

「なっ!?」

 

 そして、そこに飛び出した石丸君の胸に、

 

「ぐあぁっ!?」

「兄弟ーーッ!!」

 

 無数の穴が開いて、石丸君が倒れこむ。彼の真っ白な学ランが赤く染まる。

 

「あ、あそこ、なんか、小さい物が動いてるよぉ!!」

 

 声を上げた不二咲君が指をさした先。視聴覚室の壁のでっぱりのところに、確かに何かがいたように見えたけど、すぐに消えてしまった。

 

「まさか……、アレが戦刃君のスタンドか? …………うっ!!」

「馬鹿野郎!! 腹をやられてるのに喋るんじゃねぇよ!!」

 

 苦しそうな表情を浮かべる石丸君に、大和田君が近寄る。

 

「直せ、クレイジー・ダイヤモンド!!」

 

 そして、大和田君のスタンドが石丸君のおなかに手を当てる。すると、石丸君の傷がふさがって、学ランの血も、綺麗に消えた。

 

「すごい、これが大和田君の能力?」

「おう。俺のクレイジー・ダイヤモンドは物を直す力だ。」

貴方(暴走族)には似合いませんわね。」

 

 セレスの皮肉に、

 

「ンだとぉ!?」

 

 と、反応する大和田君。すると、

 

『あ、そんな絶望世界に残されたオマエラに朗報です。』

 

 と、モノクマがまたしゃべりだした。

 

『ここの空気清浄機は今は正常に作動してるけど、予備電源を壊しちゃったから、その内さ銅が止まっちゃうよ。直すんなら早くしてね~。』

「何ィーッ!!」

 

 それに桑田君が声を上げた。

 

「マジかよ、大和田!!」

「おう。クレイジー・ダイヤモンドで直してやらぁ。不二咲、一人じゃ何かあった時に対処しずらいからよぉ、手伝ってくれや。」

「うん!! 任せて!!」

 

 と言うと、兄弟はおとなしくしてろよ!! 病み上がりなんだからな!! と、くぎを刺してから二人は走っていった。

 

『あと、お前らに言いお知らせです!! ボクがシェルターのプログラムを弄っちゃったから、1日1回、希望ヶ峰学園には暴徒たちがなだれ込んでくるよ!!』

「マジかべ!?」

 

 青ざめる葉隠君。

 

『それじゃぁ、せいぜいこの絶望世界で、頑張って生き抜いてください。ぶひゃひゃひゃひゃ!!』

 

 という笑い声とともに、ビデオは切れた。

 

「奴め、余計な事ばかりしていきおって……。」

「とにかく行かなきゃ!!」

 

 ぼやく十神君に、朝日奈さんが声を上げる。

 

「でも、私のスタンドは、水がないと戦えない……。」

「安心しろ朝日奈よ。戦いに向いた能力だと思う者は我に続け!!」

 

 そう言うと、大神さんに続いて戸上君、桑田君、それに舞薗さんも含めた、ほとんどの皆が出ていった。

 残ったのは、石丸君の為にと僕と霧切さんとセレスさんと朝日奈さんと梔子さん。男子は、僕と葉隠君と小森君に山田君だ。

 

「みんなのスタンドは、戦闘向きじゃないの?」

 

 僕は石丸君の為に残ったけど…………。

 

「ええ。私の能力は正面戦闘には向いてないの。」

「私も……正確にはそういう訳じゃないんだけど、水がないと戦えなくて……。」

 

 と、クールに答える霧切さん。朝日奈さんもそう言ってうつむく。

 

「私のスタンドも、パワーに至っては成人男性以下ですわ。」

「拙者のスタンドも。特に暴徒相手は不向きですな……。」

 

 と、答える。

 

「俺っちも、直接戦闘は避けたいべ。戦えなくはねぇけど、スタンドパワーを馬鹿みたいに食うんだべ。」

 

 本来の力は、一日三回が限度だべ。という葉隠君。そして、終始無言の梔子さんと小森君。

 

「苗木君、気を付けて。戦刃むくろが戻ってくるかもしれないから。」

「でも、信じられないよ。むくろちゃんがあんなことしたってことは……。」

 

 朝日奈さんがそうこぼすと、セレスさんが、

 

「彼女に命令した江ノ島さんが、黒幕と言うことでしょうかね?」

「……そうなのかもしれねぇべ。」

 

 腕を組んだ葉隠君は、そう答えた。

 

「だとしたら、何で私たちに殺し合いなんて起こさせたのかしら。」

 

 疑問符を浮かべる霧切さん。

 

「……そんなのは、我々にはわかりませんな。まさしく、盾子殿のみぞ知る。と言ったところでしょうか。」

「その通りだね……ハァ。」

 

 と、ため息を付いて、皆を待っていた時だった。

 

「おう、帰ったぜ。」

「バッテリー昨日は無事だよぉ。って、皆は?」

 

 不二咲さんの質問に、僕たちは、事情を説明した。

 

「そ、そんなことが……。」

「暴徒、か。それにしても、兄弟は無事か?」

「あ、うん。まだ休んでるけど、」

「いや、もう大丈夫だ。」

 

 そう言って、石丸君が立ち上がる。でも、

 

「兄弟……お前、フラフラじゃねぇか!!」

 

 大和田君が声を上げる。そう。石丸君は、とても万全とは言いずらそうな体制だった。

 

「ああ……まだ、痛みが残っている。済まない、少々気持ち悪いから、トイレに行ってきてもいいか?」

「……おう。好きにしろよ。」

 

 大和田君がそう言うと、石丸君は出ていった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《十分後》

「遅ぇ。」

 

 ふと、大和田君がつぶやいた。

 

「確かに、遅いわね。」

「心配なら、トイレに向かってみてきてはどうですか?」

 

 セレスさんの提案で、トイレに向かった山田君の答えは、

 

「い、いませんでした!! どこにも!! それと、これを!!」

 

 そう言って山田君が持ってきたのは、

 

「これって、窓をふさいでた鉄板……だよね?」

 

 僕たちがどれだけやっても壊れなかった鉄板が、綺麗に切り裂かれていたんだ。

 

「どうやら、石丸君のスタンド能力は、こういう能力のようですわね。」

 

 と、顎に手を当てて言うセレスさん。窓の先には、土に足跡が残っていた。

 

「馬鹿野郎……無茶しやがって!!」

 

 そう言うと、大和田君もその先に飛び出していく。

 

「ぼ、ボクも行かなくちゃ!! 待って、大和田君!!」

 

 不二咲さんも、窓を越えて走っていった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《No Side 希望ヶ峰学園の側。国道》

 

「うがぁ!!」

「ハッ!!」

「げうっ!!」

 

 希望ヶ峰学園の正門の方にたかり、あたりの暴徒の数が少なくなっていることは、石丸にとって幸運だった。

 右手にレイピアのような剣を持った甲冑騎士のスタンドを従える石丸は、球に襲い来る暴徒をスタンドの当て身で気絶させながら、ある場所に急いでいた。

 理由は、江ノ島もとい戦刃が、こっそり彼のポケット潜ませていた紙。

 

『今日一日、幽霊屋敷で待ってる。 戦刃むくろ。』

 

 と、即席で書いたであろう汚い字で書かれた紙を、こっそりと確認した彼は、自信のスタンド、シルバー・チャリオッツで、窓の鉄板を切り裂いていた。

 

「(らしくないのは分かっている。学校を勝手に抜け出すなど言語道断だ。だが、)」

 

 この世界に人類史上最大最悪の絶望的事件。が起こる以前は、軍人と言う肩書と、戦闘能力以外残念な点から、江ノ島からも『残姉』と呼ばれ敬遠されていた彼女と一番真摯に接していたのは石丸だ。時折、大和田にもからかわれるくらい、よく接していた。だからこそ、この紙を石丸のポケットに忍ばせていたのだろうと、石丸は考えていた。

 

「(超高校級の風紀委員としても、一クラスメイトとしても僕は、彼女と話がしたい。)」

 

 僕になら、心を開いてくれるのでは。そういう気持ちから、彼は歩く。幽霊屋敷とは、夏休みの肝試しに向かった、この町のはずれにある謎めいた古い洋館だ。

 

「ここだな。」

 

 その、深紅の空を背景にし、余計におどろおどろしくなった洋館に、意を決して入る。

 

「お邪魔します!!」

 

 ……挨拶を忘れずに。すると、机の上にあった携帯電話が鳴った。

 

「ッ!!」

 

 思わず、それを手に取る。

 

「もしもし?」

『来てくれたみたいだね。石丸君。』

「ッ!! 戦刃君か。」

『そう。』

「電話越しなのか? 出来れば直接…………。」

『ありがとう。私を信じてくれて、そして……。』

 

 ごめんね。という言葉と共に、彼の右側で何かが光った。

 

「くっ!! シルバー・チャリオッツ!!」

 

 素早い剣技と、スタンドが全身にまとった甲冑で、飛んでくるダンガンをはじく。

 スマホのライト機能で照らした先にあったのは、

 

「ミニチュアサイズの兵士!! 小さな兵士が、銃を構えて僕を狙っているっ!! これが君のスタンド能力か!!」

『そう。私のスタンド、極悪中隊(バット・カンパニー)は、誰であろうと生かしては返さない、無敵の軍隊。銃弾の威力が小さいから、複数を相手にすると厳しいけれど、』

 

 クスッ、と笑うような声が聞こえてきた。

 

『ありがとう。私を信じて、一人で来てくれて。』

 

 ライトで照らしたところだけではない。初めに石丸を襲った時のように、ところどころ壁の裏が露出している壁のでっぱりに、階段の上に、すでに、バット・カンパニーの包囲は、石丸が来た時すでに、完了していた。

 

「最初から、僕をはめるつもりだったのか!!」

『うん。絶望した?』

 

 その言葉と共に、複数方位からの銃弾が飛ぶ。

 

「くっ!! シルバー・チャリオッツ!! 壁を切り裂けぇ!!」

 

 とっさにその場から飛びのき、洋館の壁を切り裂いて、中庭に転がり出る。

 

『そうした時も、読んでる。』

 

 しかし、二階のベランダにも、兵士が待機していた。

 

「くっ!! もうすでに、あちこちに布陣を敷いていたというのかっ!! だが!!」

 

 チャリオッツが、バット・カンパニーの弾丸を叩き落とす。

 

「それならばかろうじてはじける。そして、」

 

 チャリオッツの剣を伸ばせば、ベランダにも届く!!

 

「今度の剣さばきはどうだァーーッ!!」

 

 そして、何体かの兵士を、ベランダごと切り裂く。

 

『ぐっ!!』

 

 スマホから、戦刃の声が漏れる。

 

「戦刃君!? そう言えば、スタンドのダメージは本体に……。」

『それがどうしたの? バット・カンパニーは群体型のスタンド。一体一帯がやられてもフィードバックは0に等しい。いきなり痛みが来たからうめいただけ。』

 

 しかし、戦刃は、石丸の言葉を遮るようにそう言う。

 

「な、何を言って……。」

『私は、貴方を始末する気でここに来ている。だから、貴方も、』

 

 一回のベランダにも、隊列を組んだバット・カンパニーが終結して陣形を組んでいる。

 

「ッ!!」

『私を始末する気で来い!!』

 

 すぐさま飛来する銃弾。

 

「ぐっ、シルバー・チャリオッツ!!」

 

 素早い剣閃が それを防ぐ。が、いくら剣が早いとはいえ、二十人の兵士からの斉射をさばききれはしない!!

 

「遠距離攻撃手段のほぼ皆無な近距離パワー型の天敵ともいえるスタンドだ!! これが、超高校級の軍人である戦刃くんのスタンド!! 奇襲と待ち伏せに、戦場に特化した(・・・・・・・)いや、戦場のスタンド!!」

 

 とっさに、石丸は、さっき切り裂いた家の中に逃げ込んだ。

 

「室内には……居ない? 先ほどの隊列に、一階の守りを費やしていたのか? ともあれ、チャンスだ!!」

 

 そう言い、階段を上る石丸。しかし、階段を登り切った先で、足元が爆発した。

 

「ぐわぁ!? じ、地雷だと!?」

 

 バット・カンパニーは、兵士だけではなかったのかと戦慄する石丸。しかも、さらに石丸を驚愕が襲う。

 

「何ィ――ッ!? 戦車だとォ――ッ!?」

 

 そう。戦車の砲口が、地雷で足にダメージを受けて倒れこむ石丸を狙っていたのだ。

 

「(マズイ!! チャリオッツの甲冑では戦車砲は防げない!!)」

 

 そして、この体制では戦車砲の弾丸をはじくだけのパワーは出せない。万事休すかと思われたその時だった。

 

「兄弟―――ッ!!」

 

 彼の後を追ってきた大和田が、声を上げ、彼を突き飛ばした。




 次回、駆けつけた大和田、不二咲と共に、幽霊屋敷を歩む石丸。たどり着いたその先で出す戦刃の答えとは。そして、戦刃との一対一の戦いを望み、外で待つ二人のもとに、新たなスタンド使いが襲い掛かる!!

 次回
 【バット・カンパニーとマンハッタン・トランスファー】


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バット・カンパニーとマンハッタン・トランスファー

「兄弟―――ッ!!」

「なっ、兄弟!?」

 

 バット・カンパニーの戦車砲を受けそうになった石丸を、大和田が突き飛ばした。そして、

 

「ぐおぉっ!!」

「兄弟!!」

 

 大和田の出したスタンドの右腕を思いっきりえぐった。そのダメージは大和田にフィードバックされ、特攻服越しに血が流れしたたり、床を濡らす。

 

「大和田君、石丸君!! ふ、二人とも大丈夫!!」

「なっ、不二咲君まで!? どうしてここに、」

 

 そのあと階段を上ってきた不二咲に、驚きの声を漏らす。

 

「あ、それは……って、大和田クン!! ひどいケガだよぉ。」

 

 説明しようとした不二咲だが、そう声を上げる。

 

「早くクレイジー・ダイヤモンドで治療を……。」

「無理だ。」

 

 そう言うと、大和田は右腕を抑えたまま立ち上がった。

 

「無理って……。大和田クンのスタンドは」

「ああ。傷や損傷を直せる。俺以外のな。俺の傷は治せねぇ。」

「そ、そんな!! じゃあなんで僕を庇ったりしたんだ!!」

 

 と石丸が声を張り上げると、大和田は額に青筋を立てたまま振り返った。

 

「何で、だァ? 石丸、オメェよォ~、それ本気で言ってんじゃぁねぇだろうな?」

「な、なんだと?」

 

 すこし声にドスを利かせている大和田に、石丸はたじろく。そんな石丸に大和田はじりじりと近づいていき、左手でデコピンをかました。

 

「あだっ!?」

「馬鹿野郎が。」

 

 よろめく石丸に大和田がそういう。

 

「おおかた戦刃の野郎に一人で来いって言われたんだろ?」

「…………。」

 

 その石丸の姿勢を見て、

 

「図星かよ。兄弟、生真面目なオメェのことだ。アイツの話を聞いてやりてぇとか、きっとそういうよォ、俺達をだましてぇとか、そういうことを選んでやったことじゃねぇって俺は信じているけどよォ、一人で言っちまうのはねぇだろ。俺たちはよォ、」

「兄弟……だったな。」

「おう。」

 

 苦笑する石丸に笑みを浮かべて大和田君はそう答える。

 

「じゃぁ行こうぜ、兄弟。」

「ああ。」

 

 そう言う二人の周囲を、バット・カンパニーの兵士たちが待ち構えていた。

 

「まずは、」

「ここを突破する!!」

 

 二人は正面にスタンドを顕現させる。そして、

 

「そらそらそらそらッ!!」

「ドララララララララ!!」

 

 剣術で、拳で、弾丸を弾きながら進んでいく。それにじりじりとバット・カンパニーの兵士たちは後退していき。

 

「ドラァッ!!」

「そらァッ!!」

 

 拳と剣が、待ち構えていた兵士たちを吹っ飛ばした。

 

「へっ、さっきの戦車砲でも持って来いっての。ぐっ……」

「大和田君!!」

 

 自信気な顔で大和田はそう言ったが、その後腕を抑えてよろめいた。

 

「出血が酷い……ちゃんと止血しないと!!」

 

 近寄った不二咲がそう言って包帯を取り出す。

 

「不二咲……。」

「思い出したんだぁ。あの事件があってから、治療の勉強をしたこと。」

 

 ボクは力が弱いから……。ちゃんと皆の為にならなきゃって。

 そう言って大和田の腕を治療していく。

 

「ひどい傷だよ……石丸君、」

「な、何だ?」

 

 振り返った不二咲に疑問符を浮かべる石丸。

 

「先に言ってて。ボクはここで大和田君の傷を治してから行く。」

「なっ、おい不二咲……、そいつは」

「いや、頼む兄弟、行かせてくれ。」

「兄弟……。」

 

 反論しようとした大和田に、石丸がそう言って頭を下げたのだ。

 

「もう少し先に、戦刃君と『きもだめし』に行ったときにマッキーで名前を書いた紙を置いていった、思い出の場所がある。戦刃君は、きっとそこで待っている。」

「なら……」

「僕に……。ケジメを付けさせてくれないか?」

 

 そう言い、まっすぐ大和田の方を見る石丸。その目をじっと見ていた大和田はやがてため息を付いて。

 

「分かったよ。」

「兄弟!! 分かってくれたか!!」

「危なくなったら俺のクレイジー・ダイヤモンドで直してやるからよ、決着、つけてこい。」

「……ああ!!」

 

 そう言うと石丸は奥へと走っていった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「戦刃君!!」

 

 ドアを勢いよくあけながら、石丸はそう声を上げる。

 

「……遅いよ。」

 

 そこにいたのは黒髪の、メイクも落とし、江ノ島盾子の派手なファッションから元の機能性重視の衣服に着替えた、戦刃むくろの姿があった。

 

「いくさばく」

「来ないで。」

 

 そう言って拒絶するように素早く拳銃を構える。

 

「……申し訳ないが、それは無理だ。」

「……あなたはすでに、包囲されているのよ。」

「ああ。そうだろうな。」

 

 そう呟いた石丸の背後から、前方の暗闇から、横にあるがれきの下から、バット・カンパニーの兵士と戦車が現れた。

 

「やはり、ここに戦力を終結させていたか。戦刃君。」

「うん。あなたを仕留めるために。」

 

 すると、戦刃の奥から、回転翼(ローター)の空を切る音が聞こえてくる。

 

「ヘリか。そして、地面に地雷を設置して近づけないようにしてる。待ち伏せと不意打ちの強い極悪中隊(バット・カンパニー)の強いところが出たな。」

「ええ。銀の戦車(シルバー・チャリオッツ)がいかに早くても、包囲されたら元も子もないでしょ?」

「ああ。確かにそうだね……。だが戦刃君!!」

 

 石丸は暗い目をした戦刃にそう声を上げる。

 

「何?」

「それは君の望みなのか? 君の意志で動いているのか!? 江ノ島君に何か」

「そうだよ。」

 

 言われれたんじゃないのか。そう言う前に、戦刃は肯定してくる。

 

「私、盾子ちゃんに言われたからこうしてる。誰かひとり、私のスタンドで始末しろって。本当なら、コロシアイ生活の時わざとモノクマを殴ってやられる役回りを演じるはずだったけど、なんならお前が殺してみろって。」

「……そこに、君の意志はあるのか?」

「自分で選んだ。」

「何故、それが僕なんだ?」

「……一番、利用しやすそうだったから。」

 

 戦刃はそう答える。

 

「利用できそうだった。あの時、二年前に私に声をかけてくれたあの時からそう思ってた。」

 

 二年前、【超高校級の軍人】として希望ヶ峰学園に入学した戦刃は、孤立していた。

 暴走族のように人を殺さない、あくまで喧嘩にとどめていた訳じゃない。

 スイマーやのようにきれいでまっすぐな才能じゃない。むしろ逆な、真っ黒で、血にまみれて薄汚れた、暗い暗い才能だ。

 戦闘能力だけなら大神にも匹敵する彼女だが、戦争は周囲を沸かせる格闘技(スポーツ)ではない。

 勉強はからっきし。双子の妹である江ノ島盾子にも、『残姉』と呼ばれて舐められている始末だ。だが、そんな彼女に、

 

『君!! 成績が悪くて困っているそうだな!! ならばともに勉強しようじゃないか!! 僕は少々教えには自信があるのだ!!』

 

 と、笑顔で話しかけてきた彼は、才能なんてなかった。それでも、切磋琢磨して『超高校級の風紀委員』なんて呼ばれるようになっていた。

 

「そんなあなたに吐き気がした。」

「吐き気……か。」

 

 そう言って目を落とした石丸。自分はそんなに戦刃に嫌われていたのかと思ったが、次に放った戦刃の言葉に驚いた。

 

「あなた達も私と同じなのに。」

「同じ?」

「そう。同じ。あなた達も、私も、絶望的な環境で育った。」

「絶望的な環境……か。」

 

 戦刃の過去にも、壮絶な物があったのだろう。双子であるということは、江ノ島にも。

 

「確かに、人生に頂点と底辺があるというのなら、あの時期は、確かに最底辺だったのだろうな。」

 

 石丸には、まだ大和田にも話せていない秘密があった。

 彼の祖父についてだ。

 彼、石丸清多夏の祖父。石丸寅之助は、最大最悪の汚職事件を起こした悪名高い元総理大臣と知られている。もちろん、その泥を被ったのは祖父である寅之助だけでなく、自分たちの家もだった。

 毎日のようにテレビの記者が張り付き、家を出ればボイスレコーダーを突き出しながら遠慮のない質問を投げかけてくる。

 遠慮は、一切、されない。こっちの事情も知らず、家族は知っていたんですか? 実は容認していたのでしょう? 汚職した金で私腹を肥やしていたのではないですか!?

 と、質問を投げかけてくる。本当に、絶望的な人生の最底辺だった。

 親友である不二咲と大和田にも話せていない、彼のトラウマ。

 

「それなのに、貴方はそんなにも笑顔で、私に近づいてきた。」

「…………。」

「勉強を教えてくれた。」

「…………。」

「ずかずかと、こっちに向かってくる。そんなあなたがずっと、大嫌いだった!!」

 

 そう怒鳴り、手をまっすぐ上にあげる。

 

「確かに、君が嫌だと感じることをしていたのかもしれないな。」

「だから、ここで……!!」

 

 死ね!! そう言って手を振り下ろそうとした時だった。彼の行動に、思わず戦刃は手を止めてしまった。

 

「……なにそれ。」

「……僕の、僕なりの誠意だ。」

 

 石丸は、頭を下げていた。スタンドを出すことも、逃げることもしない。彼は腰を直角に折って、戦刃に、頭を下げていたのだ。

 

「……今更?」

「本当に今更だ。だが、君をそう呆れさせるほどに、君の心を理解できなかったことを、許してくれとは言わない。だが、殺される前に謝罪はしないといけない。」

「……本当に、」

「真面目だろう?」

 

 頭を上げて、石丸はそういう。

 

「祖父は天才だから慢心してしまった。天才だから、あんなことを起こしたと思ってる。だから僕は天才が嫌いだ。」

「あなたも、超高校級の才能を持つ天才の癖に。」

「天才なんかじゃないさ。」

 

 戦刃の言葉に、石丸は苦笑する。

 

「僕の肩書(これ)は、ただ僕が必死に努力したからだよ。必死に努力して、努力して、努力した。希望ヶ峰学園への切符をつかみ取ったのも、努力のおかげだ。」

「何でそんなに前を向ける!!」

「君こそいつまで下を向いているつもりだね!!」

 

 戦刃の言葉に石丸は怒鳴り返した。

 

「何を……!!」

「君にも辛い何かがあったのだろう。僕はそれに同情しない。お悔やみ申し上げるとも何とも言わない。君を侮辱するだろうから。だが、ずっと下を向いているなど愚かだ。重荷を引きずることは大事だ。だが、その重荷に縛られ、前を向けなくなるのは愚かだ!!」

「知ったような口を!!」

「知っているさ!! さっき君が言ったように僕は君と同じ、最底辺を経験したものだ!!」

「ッ!!」

 

 その言葉に、次第に戦刃は押されていく。

 

「だからこそ言える。最底辺が何だと。人には最底辺と絶頂がある!! その絶頂がどこかは分からないが、そこにたどり着くためにはなんだって努力して見せるさ。」

「絶頂なんてない!! 私はずっと憂鬱だった!! 子供の頃も、戦場も!!

 

「私には最底辺しかない。そこにあるのは絶望だけだあぁぁぁ!!

 

それは違うぞ!!

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

希望ヶ峰学園

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 BREAK!!

 

「ッ!!」

「戦場も、君の幼少期も、僕は知らない。だが、希望ヶ峰学園はどうだったんだ!?」

「そんなの……」

「僕は知っている。あそこでの君の笑顔を!! アレを嘘だとは言わせない!!」

「何を……。」

 

 たじろく戦刃に、石丸は畳み掛ける

 

「君にも、いいなと思える時はあったはずだ。江ノ島君の、君の言う絶望は分かる。だが、絶望しても前を向いて、歩いていくのが人間だ!!」

「う、五月蠅い!!」

「君にもあるはずだ、大切な時間が!! 僕たちとの、あの学園生活が!!」

「ッ!! 黙れェッ!!」

 

 もう戦刃に出来るのは、叫ぶことだけだった。

 

「五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅いうるさぁい!! 私には、皆を裏切った私にはもう、盾子ちゃんしか、盾子ちゃんしか残ってないんだァ!!」

 

 髪を振り乱しながら叫び、揺らいでいた手を、まっすぐ張る、

 

「全隊!! (これで……!!)」

 

 そして、それをまっすぐ振り下ろそうと、

 

「(終わり……!!) う」

「そんな顔で、」

 

 撃てと、そういう前に石丸が、口を開いた。

 

「そんな悲しい顔で、幸せな自分まで否定しないでくれ!!」

「ッ!!」

 

 その時見えた、まっすぐな石丸の瞳。戦刃の目は、とらえてしまっていた。その瞳に映る自分の、髪を振り乱した、今にも泣きそうな少女の顔を。

 

「あ……。」

 

 そうしたらもう、

 

撃てないよ……

 

 戦刃に出来るのは、

 

「戦刃君……。」

「撃てないよ……。」

 

 極悪中隊(バット・カンパニー)に命令を下すことはできず、崩れ落ちるだけだった。

 

「私には、撃てないよ……。」

 

 そう言う戦刃の下にある床に、透明な液体がしたたり落ちる。

 

「ありがとう、戦刃君。」

「……なにそれ。」

「僕を、撃たないでいてくれて。」

「でも戻れない。戻れないよ……もう。」

 

 皆と一緒には、歩けない。そう涙を流す彼女を石丸は、やさしく抱きしめた。

 

「歩けるさ。」

「無理。無理だよ……。」

「無理じゃないさ。もどって、事情を説明しよう。そして怒られよう。

 さくら君から拳骨が来るかもしれないし、十神君にはいろいろ言われるかもしれない。

 でも、僕も一緒に怒られる。そうしたら、樹っと許してくれるさ。」

「何で……。」

 

 涙でゆがんだ顔を、石丸の方に向ける。

 

「何で優しく……してくれるの? 私……私こんなに……こ‶ん‶な‶に、ひどい‶こと‶……したのに……。」

「優しくするさ。許すさ。だって君も、皆も、僕の大事なクラスメイトなんだから。」

「……」

 

 涙を流す戦刃。そして、呟いて。

 

「でも……無理だよ。」

「何故……?」

「私は、この戦いは、見られてる。」

「ッ!!」

「失敗した私は、用済みだから…………。」

「まさかっ!!」

「もう、始末される。」

「ッ!!」

 

 石丸はその瞬間、何とも言えない、猛烈ないやな予感に駆られた。戦刃を抱いて、そこを飛びのいたその時。

 

「ぐおぉっ!?」

 

 この家の木の板を貫くような音と共に石丸の腹を、弾丸が貫いたのだ。

 

「石丸君!?」

「ぐうぅぅ!? こ、これは……狙撃!?」

『ご名答だ。』

「ッ!?」

 

 機会音声がして、石丸は戦刃を抱え込んで横になったままとっさに辺りを見回す。見れば、床の隅に置かれていた一台のスマホが、通話中の文字を示していた。

 

『ごきげんよう石丸清多夏。上手くその娘を被ったようだな。」

「貴様……何者だ!!」

 

 石丸はそう声を上げる。

 

『スナイパーさ。A(エース)と名乗らせてもらおう。』

「エース……目的は戦刃君の殺害……江ノ島君の命令なのか!?」

『そうさ。あのお方は我々を束ねる【超高校級の絶望】。俺はあのお方の命令で待機していた『保険』だよ。そこの残姉がしくじった時にそいつもろとも始末せよと言われている。』

「ふざけるな……!!」

 

 体を引きずりながら、石丸は怒りをあらわにする。

 

「命は、貴様のおもちゃなどではないんだぞ!!」

『ああそうさ。俺のおもちゃじゃない。あのお方のおもちゃだよ。俺もお前もそこの女も、あのお方の盤上の駒さ。』

「このっ!!」

 

 石丸はそう言いながら体を引きずり、棚の陰に入った。

 

「(あの穴の位置から見て、ここなら狙撃しようにもこの棚の陰で狙えないはずだ。奴がどうやって室内にいる僕たちを狙ったのかはおそらくスタンド能力!! ならば……。)」

 

 と思った矢先だった。連続で音がして、床に複数の弾丸が転がった。

 

「(なんだ? 奴はどこを撃っている!?)」

『風通しはこれくらいで十分だろう? 石丸清多夏。』

「何ッ!?」

 

 すると、壁をすり抜けて、何かが入ってきた。UFOのような風鈴のような、それが何なのか、石丸と、呆然とする戦刃には理解できた。

 

「(スタンドだ!!)」

「シルバー・チャリオッツ!!」

 

 とっさに、射程距離の長いシルバー・チャリオッツで剣を素早く走らせる。だが、

 

「何ィ―――ッ!? かすりもしないだとォ―――ッ!?」

 

 一切当たらないのだ。

 

『無駄だ。そいつは気流の流れに敏感だ。降り注ぐ豪雨だって前段躱せるぜ!! それにコイツは、』

 

 そう言った瞬間、音の壁を突き破って飛んできた弾丸がそのスタンドに辺り、チャリオッツの肩を打ち抜いた。

 

「うぐぅっ!?」

「石丸君!!」

 

 悲鳴を上げる戦刃。

 

「た、大したことはない……。」

『強がるな。鳩尾と右肩だ。それだけで十分致命傷だろう。』

「ふ、ふふ。」

 

 そう、男の言う通り致命傷だ。だが石丸は、笑っていた(・・・・・)

 

『何が可笑しい……?』

 

 通話でいぶかしむ男に。

 

「詰めが甘いと思ってね。」

『何だと?』

「君はさっきの一撃で頭を打ち抜くべきだったんだ。おかげで君の能力が分かった。」

『ほう。』

「ズバリ『中継』!! 君のスタンドは狙撃の弾丸を中継する、いわば狙撃衛星だ!! しかも気流を読んで索敵も出来る!!」

『その通りだ。だがそれでどうした? 俺のマンハッタン・トランスファーは無敵だ。攻撃は当たらない。スタンドマスターには届かない。スタンド能力が分かったからなんだ? 次の弾でお前の脳天をブチ抜いて次の弾でそこの女をブチ抜く。』

「そう喋ってる間に撃つべきだったな。」

『何?』

「僕は一人で来たわけじゃないからな!! シルバー・チャリオッツ!!」

 

 そう叫んだ石丸は、チャリオッツを奔らせ、床を切り裂いた。

 

『何ッ!?』

 

 落下する石丸は、飛んできた弾丸の回避に成功した。さらに、

 

「頼んだぞ兄弟!!」

「任されたぜ、兄弟!! ドララララララァ!!」

 

 そう声を上げたクレイジー・ダイヤモンドの精密な拳が、落ちてくる木材を殴って床に直した(・・・)そしてそのまま二人を担ぎ上げる。

 

「感謝するぞ兄弟。うっ!!」

「兄弟!! オメェ傷だらけじゃぁねぇか!! 待ってろ、今直してやる。

 

 そう言ってクレイジー・ダイヤモンドが石丸に触れれば、傷がみるみるうちに治っていく。

 

「それにしても、オメェはスゲーぜ。石丸。俺はこいつをぶん殴ってブッ飛ばして、そしたらその後野垂れ死のうが構わねぇって思ってた。けどよ、そいつをオメェは許して、そのまま助けてやったんだから。」

「ああ。だが、狙撃手がいた。そのスタンド使いが……。」

「前腹をブチ抜かればばっぁだろうが、馬鹿野郎。」

 

 後頭部をかきながら大和田はそう言い、

 

「オメェらもう走れんだろ。希望ヶ峰学園まで逃げろ。」

「え? そんな、兄弟、僕も一緒に」

「石丸君。」

 

 部屋に入ってきた不二咲が石丸に声をかける。

 

「石丸君は先に帰って、戦刃さんの事をみんなに話してあげてよ。」

「そうだぜ。それに少しは俺達にもいいカッコさせろや。追手のスタンド使いはブッ飛ばしといてやるからよォ。」

「二人とも……済まない。恩に着る。」

 

 その言葉に、石丸は頭を下げた。



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エアロスミスとクレイジー・ダイヤモンド

「先に帰っていろとは言った物の兄弟、どうするつもりだ?」

 

 石丸は大和田にそう問いかけた。それもそうだ。敵のスタンド、マンハッタン・トランスファーは狙撃の弾丸を中継して軌道を変更させる能力を持ち、気流を読んで敵の位置を見極めることも出来る『狙撃衛星』。外に出れば一瞬でズドンだ。

 

「ああ。それなんだけどよ、戦刃、オメェ、そのA(エース)とやらについてどんだけ知ってんだ?」

 

 とりあえず、大和田は戦刃に情報を求める。

 

「あなた達も知っている人。本名は裡貫(うちぬき) 智也(ともや)。」

「なっ!? 列貫 射手彦だと!?」

「なんだ? 知り合いか? 兄弟。」

 

 声を上げた石丸に、大和田が問いかけると、

 

「知り合いも何も大和田クン、逆に知らないの? 三年前……じゃなかった。ボク達が記憶をなくして二年たってるから、五年前の、希望ヶ峰学園の卒業生だよぉ?」

「なっ!? マジかよ……。」

「ああ。クレー射撃など、ありとあらゆるライフルに精通し、その弾丸は百発百中の『超高校級の狙撃手(スナイパー)だ。」

「狙撃だけなら、私より上。」

「射撃の天才……あのスタンドは通りで。」

 

 三人の言葉に大和田は考えこむ。

 

「アイツが私の監視役だったのは、私のスタンドに対して有利を取れるから。」

「有利? ああ。確か、兄弟のチャリオッツの剣を避けきったんだっけか。俺も一回見ただけだが、あのバカみてぇに速ぇ剣を……。」

「マンハッタン・トランスファーは気流を読んで相手の位置を見極めてるだけじゃなくて、気流に乗って移動するんだ。だから、攻撃の『気流』に沿って移動するせいで攻撃が当たらない。集中豪雨だってすべて避けられるっていうのは分からないけど、少なくとも私の極悪中隊(バット・カンパニー)じゃ落とせない。」

「となると、ボクのスタンドも厳しそうだね……。」

「不二咲クンのスタンド……そういえば、僕のことを見つけられたのも、君のスタンド能力か?」

「うん。ボクのスタンドはこれだよぉ。」

 

 そう言って手をまっすぐに伸ばした不二咲の腕を滑走路にするように飛び立ったのは、プロペラ飛行機だ。

 

「ひ、飛行機?」

「うん。ボクの『エアロスミス』は空を飛ぶスタンドなんだ。遠くまで飛び回ることが出来るし、」

 

 不二咲の右目の側には、これまたプロペラで浮いているモニターのようなものが出現していた。

 

「このレーダーで、エアロスミスが二酸化炭素を感知することが出来るんだ。あたりを歩き回っている暴徒たちの中で、一つだけ一直線に進んでいく二酸化炭素、つまり呼吸の反応があったから、それを探知して追ってきたんだ。」

「飛行機というだけあってかなり素早そうなスタンドだな。それに……。」

 

 周囲を低速で旋回するエアロスミスに目を向けた性格には、エアロスミスに装備されている二梃の機銃のような物体にだ。

 

「明らかに殺意の高そうな武装が積まれているんだが……。」

「あ、アハハ……元々はナランチャさんのスタンドらしくて……。」

「ナランチャ?」

「うん。夢の中で、『エアロスミス』の使い方を教えてくれた人だよ。多分外国人かなぁ? ボク達と同じくらいだったのに、日本語もペラペラですごかったよぉ。」

「へぇ、俺は東方仗助っつうイカした男だったけどよ。」

「兄弟、そこら辺の話をしているとややこしくなる。」

「というか、不二咲さん、私の見立てが正しければ、このスタンドのお腹に付いてる物って……」

 

 と言って、周囲を低速で飛び回るエアロスミスの下の部分についたものを指差して言う。

 

「うん。ナパーム弾だよぉ。」

「「「なっ!?」」」

 

 その言葉に大和田も石丸も戦刃まで顔を青くした。

 

「国際条約で禁止された兵器⁉」

「ばっ、オメェなんつぅ危ねぇモン持ち込んでんだ不二咲ィ!! 今すぐ捨てろ!!」

「ま、待て兄弟!! 捨てたりしたらここが火の海だぞ!!」

 

 と、わたわたする三人。締まらない……

 

「でも、エアロスミスのこれがあれば、相手を何とか出来るかも。」

「何? それは本当か⁉ 不二咲クン!!」

「うん。ボクに考えがあるんだぁ。」

 

 不二咲は、寄ってくる三人に、ごにょごにょと耳打ちをした

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《10分後》

「まだか……」

 

 遠方の高層ビル。そこで狙撃中を構えた裡貫は、マンハッタン・トランスファーによる気流感知と、己のスコープ、そして、江ノ島からプレゼントされた、監視カメラのデータの詰まったノートパソコン。それにより家の周囲を監視していたが、一切出てくる様子の無い相手を待ち続けていた。

 

「マンハッタン・トランスファーを中に入れてもいいのだが、罠を仕掛けられていては厄介だ。」

 

 マンハッタン・トランスファーは確かに気流に沿って相手の攻撃を躱すことが出来る。だが、網などで押さえつけられてしまってはそれも無理だ。」

 

「だったら待ってやる。その家には食料も何も無いだろう? ずっと、ずっと待ち続けて、出てきたところを撃ち抜いてやる。」

 

 狙撃手に最も必要な物とは何か? 銃弾を的に当てる技術? 確かにそれは重要だ。しかし、最も重要なことではない。

 

「狙撃手に最も重要な物は胆力だ。獲物をしとめるまで、決して狙撃ポイントから動かず待ち構えられる胆力。俺は元『超高校級の狙撃手』だ。希望ヶ峰学園を卒業してからも、ずっと狙撃の腕と胆力を鍛え続けてきた。お前達がシェルターにこもっている間……!!」

 

 彼は希望ヶ峰学園の卒業生として、人類史上最大最悪の絶望的事件が起こった後も、人類の希望の一人として戦い続けていた。だが、戦力差は絶望的。一人、また一人と仲間が倒れていくのを目にしていた。安全圏の狙撃地点からスコープ越しに。

 そんな彼は、仲間たちからもいい目では見られなかった。わかってくれる人々もいたが、わかってくれない人々の数が多すぎた。

 そして、彼は絶望したのだ。希望ヶ峰学園第78期生。彼らを見て。

 

「ぬくぬくと、お前達だけで希望ヶ峰学園の中に引きこもった。あの安全なシェルターの中に引きこもっていて、今更出てきて正義面とは反吐が出る。」

 

 だから、打ち抜いてやる。こんな世界壊してやる。そんな思いを胸に、スコープを除き続けたとき、気流の感知網に、何かがかかった。

 

「これは……ラジコン飛行機か?」

 

 プロペラが空気を掻く気流の流れ、流線型のボディを感知する。

 

「囮か? いや、連中は大慌てで出てきたはずだ。ならばそんなものを用意してこれたとは思えない。……もしや、スタンドか? カメラで見た大和田紋土のスタンドは少しだけ感知できたが人型だった。石丸清多夏のシルバー・チャリオッツと戦刃むくろのバット・カンパニーではない。となると、不二咲千尋のスタンドか……本体の反応がないとなると遠隔操作型のスタンド。索敵か? だが、それにしては……。」

 

 先ほどから狙撃されないような軌道で動き回って入るが、家のそばを離れようとしない。狙撃手である自分を探すのなら、もっと遠方を索敵するはずだ。

 

「しらみつぶし……という訳でもない。何が目的だ?」

 

 目的が分からない限り、撃てない。もしかしたら、あのスタンドを撃った時、こちらを見つけられる索敵手段があるのかもしれない。そう考えていた時だった。

 

「何かが、離れた?」

 

 飛行機型のスタンドが、何かを切り離すのを感知した。そして、それが地面に辺り、爆発炎上したのだ。

 

「なっ!?」

 

 爆風で乱された気流感知が、家から出て走り出した人影を感知する。

 

「なるほどそれが狙いか!!」

 

 爆風で気流感知は乱されており、狙撃中自体の射角には偶然にも相手はいない。

 

「だが、狙いは外さない!!」

 

 豪雨や暴風の中での狙撃、それも行ったことがある。確かに気流は乱されているが、相手の位置はしっかりと把握している。相対的に、どこに相手がいるのか分かる。

 

「甘かったな!! 戦刃むくろ、あのお方の為に、お前の命はここでもらう!!」

 

 銃の位置を調整、そして、マンハッタン・トランスファーに狙撃を当てて見せた。そして、乱れる気流の中、戦刃むくろの位置を感知する。

 

「(走り方からして、手前が男、後ろが女。石丸清多夏と戦刃むくろという訳か!!)」

 

 そして、弾丸をマンハッタン・トランスファーが曲げる。飛んでいく弾丸が、戦刃むくろの反応に当たるのを、気流感知は確かにとらえていた。

 

「やったか!!」

 

 しかし、その後戦刃むくろの反応が倒れる様子はない。

 

「馬鹿な!? 気流感知は絶対だ。確かに当たっていたはず!!」

 

 横に置かれたパソコンの監視カメラを見る。そこには、走る二人と、その後ろで燃え上がる場所があった。

 

「ただの爆弾じゃなかったのか? 炎上する爆弾。しまった!! 気流感知を歪められた!!」

 

 それだけじゃない。気流感知が捉えた反応は二人だけだった。

 

「大和田紋土と不二咲千尋は……どこだ?」

 

 気流感知に反応は無い。いや、反応があった。

 

「それだけじゃない。どういうことだ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!()?()

 

 気流感知はその様子を的確にとらえていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「見つけた。硝煙と荒い呼吸の反応!! 狙撃を外して焦ってる証拠だ!!」

「でかしたぜ、不二咲ィ!!」

 

 石丸と戦刃の二人が逃げた時、二人は窓からマンハッタン・トランスファーを見ていたのだ。マンハッタン・トランスファーに弾丸が刺さる瞬間を目にするために。目を凝らしていたからこそ少しだけ見えた弾丸の軌道を頼りに、エアロスミスを進めていた。一見無茶苦茶な作戦だ。だが、エアロスミスのレーダーはとらえていた。全く動いていないのに荒い呼吸と、その近くにある薄い二酸化炭素の反応。

 

 そして、裡貫が狙撃を外したのは、投下されたナパーム弾による上昇気流により発生した空気の壁が、気流の流れを勘違いさせたからだ。それを計算して石丸達を逃がし、返す刀で二人で反撃に転じる。それがみんなで建てた作戦だった。

 

「それじゃあ、大和田クン!!」

「任せとけ。けどよ、俺が行く間俺はオメェを直せねぇからよォ、当たるんじゃねぇぞ、不二咲。」

「うん。任せて!!」

 

 不二咲のその声に笑みを浮かべて、大和田は飛び出した。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「クソッ!! 何故ここがバレた、何故こっちに向かってきた!! しかも、何故途中で、一直線に俺の方に軌道を変えた? 迷うことなく!!」

 

 視界はありえない。遠隔操作型のスタンドではあるが、あの距離からじゃ高層ビルにいる彼を見ることはできないはずだ。

 裡貫は必死に頭を巡らせる

 

「何か、何かを感知していた、という訳か。ん?」

 

 苦々しい顔をする彼だったが、そこで、飛行機型のスタンドが、急にアクロバティックな動きを始めたことに疑問を感じた。

 

「どういうことだ? 急に動きが変わった。俺に撃たれることを危惧したのか?」

 

 スタンドとスタンド使いは深くリンクしている。それもそのはずだ。スタンドは、己の精神の形なのだから。だからこそ、スタンドの受けたダメージは本体にフィードバックされる。遠隔自動操縦型や群体型など、一部、ダメージのフィードバックされないあるいは、フィードバックされるダメージの少ないスタンドこそあるものの、この不二咲千尋のスタンドはその類ではないと判断した。

 

「舐められたものだ。撃ち抜いてやる。」

 

 ギリッ。と奥歯をかんで狙撃中を構えた。

 

「飛ぶ鳥やフリスビーだって撃ち落せるんだ。こんなオモチャの飛行機くらい……!!」

 

 スコープを覗き、アクロバティックな動きを繰り返す彼を補足して狙いをつける。

 

「この上空には遮るものも無ければ上昇気流の壁もない!! 終わりだ。不二咲千尋!!」

 

 じっと銃を構えた彼はそう言って引き金に指をかける。

 

「(今だ……!! 絶好の)」

 

 チャンス、と思ったところで、背後で音がした。

 

「なっ……!?」

 

 驚愕の表情と共に振り返る。エレベーターの扉が、ゆっくりと開いていく。そこにいたのは、

 

「へぇ、オメェが裡貫か。」

 

 不敵な笑みを浮かべる大和田だった。

 

「な、何で、ここが……。」

「不二咲が地図で教えてくれたぜ。」

「だとしても、幽霊屋敷からかなり離れていたはずだ。道中に暴徒だっている。何故こんなにも早く……!!」

「忘れたか? 俺は超高校級の暴走族だぜ? ここら辺の道、地図に書いてねぇ裏道まで頭に入ってるにきまってんだろうがよォ~!!」

「くっ!!」

 

 素早く起き上がり、抜いた拳銃を彼は構えた。

 

「超高校級の暴走族だと? ふざけやがって……!!」

「何か、気に入らねぇ見てぇだな。」

 

 銃を構えた彼に、大和田はそう呟く。

 

「気に入らない……か。全く持ってその通りだな。超高校級の才能だか何だか知らないが、お前のような奴が希望ヶ峰学園にいるなど俺は許せない。ましてや、俺たちが戦っている間、ぬくぬくとシェルターにこもっていたような奴らはな!! マンハッタン・トランスファー!!」

 

 そして、引っ込めていたスタンド、マンハッタン・トランスファーを出現さ上空に舞い上がらせる

 

「近づけば狙撃手の俺に勝てるとでも思ったか!? 俺は超高校級の狙撃手だ。近づかれた時のことも対策済みだ!!」

 

 上に照準を向けて、マンハッタン・トランスファーに発砲する。

 

「上空からの弾丸に蜂の巣になって死ね!! 俺たちが血を流している間引きこもっていた報いだ。この社会のクズがーッ!!」

 

 そして降り注いだ弾丸は、

 

「クレイジー・ダイヤモンド!!」

 

 クレイジー・ダイヤモンドが床に振り下ろした結果飛び散ったコンクリート片が再構築された即席の壁に止められた。

 

「なっ!?」

「へっ、その様子だとその拳銃以外にもう隠し玉は無ぇ見てぇだな。

 おい裡貫、確かによォ~。不良なんて今どき流行んねぇしよォ~、俺達だって悪さしてきたことは認めるぜ。けどなぁ、」

 

 歩いて彼に近づいていく。

 

暴走族(そこ)しか居場所のねぇ奴もいるし、俺たちの中にだって絆があんだよ。」

 

 そう言って駆け出す。

 

「く、クソッ!!」

 

 素早く弾倉を取り出して、新しいものに交換。だが、大和田に向けて撃とうと視界を向けた時には、クレイジー・ダイヤモンドの拳が迫っていた。

 

「ドラララララララララララ!!」

「ぐおああぁぁぁぁ!?」

 

 そして、全力の連撃を叩き込む。

 

「ドラァ!!」

 

 とどめに重い一撃を入れられた裡貫は、白目をむいて転がった。

 

「それを勝手に社会のクズ呼ばわりする権利はテメェに無ぇよ!!」

 

裡貫 智也 スタンド名 マンハッタン・トランスファー 再起不能(リタイア)



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