白いウサギは人肌に溶ける(全年齢版) (37級建築士)
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(1)まどろみのたわわ 神ヘスティア

勢いで執筆、続くかどうかは正直気分次第


 お爺ちゃんは言っていた。オラリオには何でもあると、とくに大きいことに関してはなおさらだと、よく口癖のように言っていた。

 

 月曜日になると特にあれはたまらない。男として生まれた以上、あれなしに人生は語れないと、本当にお爺ちゃんは熱く僕に語ってくれた。

 

 

……ベル、オラリオはすごいんじゃ!なんせ、オラリオのおなごは皆、たわわなんじゃからな!!

 

 

 たわわ、とにもかくにもたわわがすごいと、お爺ちゃんは特にそれが何かを語らずに僕に熱弁していて、幼い僕にはたわわという言葉が擬音であることも理解していなかった。

 

 そう、その言葉の意味を、たわわの実態を知らずままに僕はオラリオに来た。そして、僕はついに知った、たわわとはなにか、何がお爺ちゃんをそんなに熱くさせたのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……たわわ」

 

 無意識に、その言葉を口にした。

 

「……寝ぼけてる、かな」

 

 独り言つる自問自答、今日はたまの休みの日、でも時間はまだ早朝。神様と二人で暮らすこのホームの部屋では日の光を感じない。体内時計と置時計で今の時間をようやく実感して、そして中途半端に早く起きたこともまた実感する。

 

 

……夢、お爺ちゃんの夢、懐かしいなぁ

 

 

 まだうつろぐ意識、残滓のようにどこかこびりつく夢の映像を僕はまだみている。 そうだ、たわわだ。お爺ちゃんが熱心に語ったたわわ、その意味も僕はとうに知っている。というか、開始早々に知らされたのだ。

 

 

……うん、だってもう、本当に

 

 

「オラリオの女の人、なんでみんな……胸が大きいんだろう」

 

 

 そう、大きい。どういう原理か、この街には大きい女性しかいない。仮に今は小さくても女性は皆大きくなる宿命でもあるのかというぐらいに、なぜかたわわな、そうたわわなお胸をお持ちでいらっしゃるのだ。

 

 平均バストIカップ、誰が調べたのか、それがこの街での統計が示した確かな数字らしい。なんというか、でもそうであることは確かだ。

 

 

「……はぁ」

 

 

 なんだろう、ちょっとあれだよね

 

 

……こんな朝からこんなこと考えて、うん、よくない、よくないよね

 

 

 

「顔、洗おう」

 

 

 ベッド代わりのソファーから起き上がり、ベルは水場の方へと一直線に

 

 

「……んッ、ぁ」

 

 

「!」

 

 

 艶のある声、とっさに振り返りベルはベッドの方を見てしまった。

 

 声の主、それはもちろんというべきか。彼女、神ヘスティアの声であった。連日のバイト、確か昨夜は夜遅くまで用事があったとか、そうとなれば起こすのは失礼に当たる。

 

「……神様」 

 

「んぅ……べる、くぅん……おしょうゆ、とっておくれ………すぴぃ」

 

 わかりやすい寝言、寝間着姿を少しはだけさせて、布団も蹴飛ばしていらっしゃる。

 

「……もう、風邪ひきますよ」

 

 気を使い、床に傾き堕ちた布団を手に、ベルはそっとヘスティアの体にかける。

 

 その際、仕方ないのだけれど、ベルはヘスティアの体を見てしまう。はだけた服、ボタンが掛け違っていたせいか、その奥の肌色が見えてしまっている。ふくらみ、仰向けで寝てなお主張のはげしい、そう

 

 

……神様の、たわわ

 

 

 大きい。その小さな体躯にはあまりにも不釣り合いな果実。面と接ればどうあっても裂けることのできないその部位。わかってはいても、視線は自然とそのふくらみを捉えて逃がさない。

 

 

「……うぅ」

 

 

 恥ずかしさで視線を顔ごと横へ。寝ている女性に対する背徳感、僕はそっと乱雑に布団を直した。胸は隠れて、もうこれで「うぅ、暑いッ」

 

 

……ばさり

 

 

「……」

 

 再びどける布団、寝返りを横に、今度は重力に逆らわない形でたわわを拝む。

 

 

……バチンッ

 

 

「!」

 

 と、その時だ。神さまの第三ボタンが今外れた。そのせいか、胸元の隙間が開いて、内容物が外にはみ出てしまった。

 

 見えてしまっているのだ。神様のたわわの、その隙間。二つのふくらみが作る、どこまでも蠱惑的な深淵が

 

 

「か、神様……ど、どうしよう」

 

 よくよく観察をしてみると気づく、服のボタン、元々上四つだけしか締めてないけど、残りの三つもすでに限界が見えている。今にもパーンしそうなのだ

 

「と、とにかく、布団で隠して……それで「うぅ、さむいよぉ」……ヘッ?」

 

 

 

……ガシッ

 

 

 

「お布団を、取らないでおくれよ……ヘファイストス……むにゃ」

 

 

 

 

 

「――――――ッ!!?!?!!?」

 

 

 

 

  

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教会のぼろい地下室のベッド、いつもは神様が寝るために使うベッド、でも僕はいったいどうしてか

 

 

 

……むぎゅぅ、むにゅにゅ……ぱふ、むぎゅぅ

 

 

「もう、ベルくんってば……こういうことをするなんて中々やるね。僕、そういうの嫌いじゃないぜ」

 

「――――」

 

 語るに語れない、今僕は表情筋の一本たりとも動かすことは出来ない。

 

 

……かみさまの、胸に……顔、埋まるッ!!

 

 

 なぜか、ベッドに引き込まれたうえこうして添い寝を継続して、なんだったら頭を撫でられている。

 

 神様のたわわで、僕は意識がいつ昇天してもおかしくない。でも、それは駄目なんじゃないかって、頭の奥の理性が踏みとどまってどうにか意識が保たれている。現状、それが僕の現状である。

 

「えへへ、ベルくんと添い寝だぁ…………うん、このまま二度寝しちゃおっか、お互い、今日は休みだからさ」

 

「…………ッ!!」

 

「こらこら、暴れない暴れない……観念して、甘えて寝ちゃっておくれ。僕も、今はそうしたいよ」

 

「――――ッ」

 

 一層深く、後頭部を撫でる手の動きで僕の顔はより埋まっていく。

 

 横向き、頭を抱きかかえる態勢、確実に神様のたわわは僕の頭をジャストフィット受け入れてしまっている。

 

 神ヘスティア、ロリ巨乳と称されるその胸、実に脅威は100㎝越え。柔らかさはもちろんのこと弾力としなやかな肌質が顔を優しく包み込む。その上直に感じるボディーソープのいい匂い、ほとんど直に感じる暖かさは郷愁を感じさせ、それは転じて母性という二文字へと変わって脳内にしみ込んでくる。それはきっと、どんなに手良くしようと避けられようがない。

 

 

……気持ちいい、駄目なのに…………恥ずかしいこと、なのに

 

 

「……ベルくん、良い子良い子。うん、たまにはいいじゃないか……ぼくのおっぱい、君になら構わないよ」

 

「…………ッ」

 

「子守唄はいるかい?抱き締める力は?…………いいよ、甘えん坊のベルくんも、僕は大好きだよ」

 

 とろかしてくる。誘惑を思わせるような、堕落へと誘い込む甘い言葉。けど、そこに悪意は一切なく、神様は本心から、僕をそのたわわな果実で甘やかそうとしてくるのだ。

 

 いけない、これ以上は駄目だと、もはや頼りない独り言を脳内で叫んで、でも実際今僕は神さまの豊満に顔を預けるという不敬を働いていて

 

 

 僕は、僕はもう

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、ベルくん君、なんだか眠そうになってないかい?」

 

「…………」

 

 頷いた、というか力が抜ける。

 神様の胸の中、ただそれだけで、少し息苦しくもあるはずなのに、どうしてか体は言うことを聞いてくれない。

 

 最上のクッションに鼻先をうずめたまま、肩の力は抜け落ちて体は柔らかく、柔らかく

 

 

「……ベル君、べーるくん……もう、限界なのかい」

 

 

「……ッ」

 

 神様に抱き着いて、そのまま眠ろうだなんて、絶対ダメなのに

 

 

……だめ、これもう……ほんとに

 

 

 

「…………すぅ」

 

 小さな寝息、それは次第に等間隔に

 

「……うん、いい子だね。じゃあ、はあぁ……んっ、僕も、眠いから、おやすみ」

 

 

……もぞ、むにに……きゅ、むぎゅぅ

 

 

 抱き寄せるヘスティアの手、ベルの吐息を胸に感じながら、静かに自身もまた呼吸を静かに

 

 休みの朝、まどろみに落ちて二人は寝入る。共にベッドで、二人密着して、離れずに

 

 

 

 

 

「「…………」」 

 

 

 

 

 

 穏やかな休日の二度寝、片や最高に贅沢なクッションで惰眠を貪っている。目覚めたのち、羞恥と罪悪感で悶え叫び散らすか、それとも何か別の進展があるのか

 

 それはまた、別の話で

 

 

 

 

 




月曜日のたわわの娘は前髪の子と妹が推し




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(2)ご褒美はたわわ エイナ・チュール

一話目から評価二人も付いて、というか今まで新作始めた時と比べて明らかに反応が大きくて驚きます。一話が深夜二時に投稿したのに200以上UAついたりして、ちょっと驚きながらも二話目投稿……無理ない範囲で続けていきたい


リクエストボックス置きました。感想で書くと運営に消されそうな内容、こんなたわわな展開があったら見たいとか、そういうのを好きに書いていただければ幸いです。







 エイナ・チュール。年齢は19歳、種族ハーフエルフの女性。

 

 すらっとした体つき、しかし出る所は大変立派に出ておられるなんともたわわなお姉さん、そんな彼女は冒険者のアドバイザーとしていつもの日課がある。

 

 担当冒険者、ベル・クラネル少年の為に、彼女は人のこない応接間で個人的なレッスンを施す。そこだけ聞けば誤解が生じそうになるが、彼女はただ熱心に相手の為に尽くしているだけであり、そんな彼女の甲斐もあってかベル・クラネルは最近躍進を遂げている。

 

 7階層の到達、勇み足のごとく進んでいく少年の為にも、今日も今日とて

 

 

 

 

「ベルくん、集中」

 

「は、はい……えっと、今ってどこの」

 

「……」

 

 

……ぎりりり

 

 

「いっ!」

 

「べ~るく~ん」

 

 お怒りの鼻つまみ。ふぎゃっと情けない声を上げてベルは涙目にごめんなさい

 

 半分仕置き、もう半分はいたずら心。謝罪を聞いて満足そうに、エイナは軽く鼻を弾く

 

「うっ……エイナさん、ちょっとひどい」

 

「ひどくない、ちゃんと聞いてくれないと意味がないでしょ。ほら、先生の言うこと聞けない悪い子は、もしかしてベル君なの、どうなの」

 

「……はい、ちゃんとします」

 

「うむ、それならよろしい……ふふ、でもちょっと悪かったかな。ごめん、ベルくんが可愛いからついね」

 

 流し目の優しい微笑み、整った顔立ち故にベルはつい目を逸らす。

 

「……へっ」

 

 

……さわわ、くしゃ

 

 

「ん、隙あり……ほら驚かない」

 

 くしゃり、ベルの柔らかい頭髪を指で漉くエイナの手

 

 姉が弟を慰めるように、献身的な手の平がベルの頭を撫でて癒す。

 

 

「……ごめんね、やっぱり疲れてたりするのかな」

 

「!」

 

「レベル1で、七階層まで来て……毎日頑張って戦って、そして空いた時間に私の授業もしっかり受けて。よしよし、よくがんばってるね、えらいえらい」

 

「……ッ、そんな、あの」

 

 べた褒めの甘やかし、胸中を直にくすぐられる心地はベルの赤面をより濃く変える。次第に頭のなでなでも、顔のあたり、耳の裏と言った、どこか小動物をかわいがる手つきのごとく

 

「あ、ごめん……なんかすごい撫でちゃってる。ベル君?」

 

「ひゃ……ひゃい、あぅ」

 

「あらら、やりすぎちゃった……ごめんごめん」

 

「……ぅ」

 

「講義、戻らないとね……ほら、時間がもったいないから」

 

「……はい」

 

 おぼつかない、どこかもじもじと、甘やかしの喪失感でベルは落ち着かない。

 

 しっかりしないといけない、でもさっきみたいにされるとどこか年相応の幼さゆえに心が切ない。ベルは葛藤を抑え込み、今一度筆とノートに向き合う。

 

「つ、続けます……あの、どうぞ、講義を」

 

「え、ええ……じゃあ、さっそく」

 

 

 

 

 

 

 

 

  ×  ×  ×

 

 

 

 

 

 

 

「はい、じゃあ八階層の講義は、とりあえずこの辺りで一時中断……なにか、質問はあるかな」

 

「いえ、もうとくには……くっ、あぁ終わった」

 

 両手を上に、体を伸ばし声を上げる。

 

 窓の外はすでに夕暮れ、朱色の日差しが眩しくも、濃淡な影が部屋の薄暗さを醸している。

 

……おそくなった、でも今日は頑張ったし

 

「うん、よく頑張りました。ベル君、お疲れ様」

 

「はい、エイナさんも本当に、ありがとうございました」

 

 エイナさんも、僕を褒めてくれる。年上の魅力あるお姉さんに褒められる、それは背中が少しむずがゆくて、でも癖になってたまらない。

 

「うんうん、でもね……やっぱり、疲れてる?」

 

「……いえ、もうそれは」

 

「嘘……ついてない?」

 

「!」

 

「やっぱり、ね」

 

 おもむろに立つ。向かい合っていたエイナが机を回り込み、そのままベルの斜め横に 

 

「……ちょっと失礼」

 

「!?」

 

 前髪を掻き分け、ベルの額に自分の額をくっつける。

 

 女性らしい、少しひんやりとした肌の温度、そして何よりもエイナの端正な顔立ちが今目と鼻の先に。これは比喩ではない

 

「え、エイナさんッ」

 

「うん、やっぱり熱っぽい」

 

 仮に本当に疲労で風邪気味だったとしても、今の体温は絶対に別原因だ、そうベルは確信している。

 

 

……ち、近いから……エイナさん、近いですッ

 

 

「う~ん、もしかして……照れてるだけだったり」

 

「あぅ…………そ、そうですからッ、もう本当にそうですからッ」

 

「そっか、じゃあ違うんだ」

 

「……」  

 

 やっと離れるエイナ、安堵でほっと息を吐くのもつかの間

 

 

「じゃあ、やっぱり退屈なのかな」

 

「!」

 

 続けて、エイナは畳みかけた。

 

 

……違う、そんな理由じゃ

 

 

「ぼく、退屈だなんて思ったりしません。大事なこと、エイナさんがプライベートの時間も割いてしてくれることに、僕はそんなこと」

 

「いいのいいの……勉強の好き嫌いは誰だってあるしね」

 

「違います、本当に違いますからッ」

 

「……じゃあ、他に理由」

 

「!」

 

「他の理由、あるならさ……言って欲しいかな」

 

 低めの声、気にしないとは裏腹に気の落ちようは隠せていない。

 

 ベルはそんなエイナの感情をくみ取ってしまった。故に

 

 

 

……どうしよう、でも

 

 

 

 

 本当に理由、講義に集中しきれない原因

 

 

 

 

 

……でも、言えない……エイナさんに、というか女性にッ

 

 

 

 

 

 そう、言うことができない。ベルがずっと、今日の講義も、今までも含めて抱えてきた悩み

 

 

 

 

 

 

「そっか、言えないか……うん、まあいいかな。でもね、出きれば次からはもう少し」

 

「!」

 

 言えない、だが言わないといけない。エイナさんに対して不義を働いている、そんな印象を

 

 僕は、己の恥と天秤にかけて放置する選択肢を取ることは、どうしてもできなかった。

 

 

 

 

「……見て……から」

 

「?」

 

 目線は合わせられない。夕日で染まる以上に顔を真っ赤に、ベルは恥を飲み込み打ち明ける。 

 

「エイナさんの、その……服が」

 

「服?」

 

 エイナの服装、今日というか、こうして二人きりの場でいる時エイナは黒のスーツを脱ぐ。肩ッ苦しい制服を下ろして、タイトなジーンズにワイシャツのいで立ちでいつも講義の望むのだ。

 

 だが、それ故に問題は起きた。いつもならスーツの下で隠れるたわわ。シャツと下着だけの締め付けでは抑えきれないそのたわわ

 

「い、今も……その、見えてるんです」

 

「え……あっ」

 

 

 

 そう、見えている。

 

 ボタンが一つ取れかけて、エイナの胸の下着がちらほらと。ライトブルーのランジェリーが、微かに布地から見えていたのだ。

 

 

「だから、その」

 

 気になってしまえば、つい視線は行き交ってしまう。

 

 その上都合の悪い事、いや良いことなのか、エイナは基本無防備故に

 

「講義の時、前かがみになって……隙間が、その」

 

「……」

 

「ぼく、ダメだってわかって……でも、きになってって……あぁ、その、ごごご、ごめんなさいぃいいッ!!?!?」

 

 全力の謝罪。テーブルに手を着き土下座を思わせるような低頭でベルは叫ぶ

 

 

 

……僕、何を言って……こんなの絶対セクハラだって思われるッ

 

 

 

 いつか、どこかで見かけた光景。セクハラ発言で掴まり、周りの住人からは冷たい目で見られる、そんな誰かと自分を重ねた。というか、村にいた頃の祖父の姿だ。

 

 

「……ベル君」

 

「は、はいぃ!!」

 

 面を上げる。心境としては、裁判の被告人。判決が下される直前、判事の下した決とはいかに

 

 

 

「手、出して」

 

「へ?」

 

「いいから、ちょっとね」

 

 ベルの手、おそるおそる伸びた手をエイナは掴む。開いた手の平に、エイナは

 

……ぷち

 

「よっと、はい」

 

「!」

 

「ご褒美、今日の分……ほら、渡したんだから、握って」

 

 胸を張り、膨らみがほんの少し大きくなって、そしてほつれかけのボタンがぷちんと弾けた。はじけたボタンはベルの手に、未だにどこか困惑気味でうろたえるベルを他所に、エイナは続けて

 

「今度からは、ちゃんと講義に集中してね。」

 

「……え、はい……でも、これは」

 

「今日のご褒美、気を使ってくれたんだし、まあ許します。ベル君も男の子だから、おっぱいが気になっても仕方ない、のかな」

 

 傍に畳んだスーツを着て、エイナのたわわは服の中に

 

 ボタン一つが完全に外れ、中の下着どころか少し柔肌も覗いたのは、ベルの眼にしかと刻まれている。

 

 もんもんと、次第に羞恥の感情で顔が染まる。恥じらうベルとほほ笑むエイナ

 

「え、エイナさん……ぼく、そんなつもりで」

 

「じゃあ、渡したご褒美はいらない?」

 

「……ッ」

 

「ごめん、意地悪な質問だね」

 

 くすくすと笑い、強張った緊張の空気はとうに無くただエイナは愛らしいベルのあどけなさに破願して、ついには涙目に

 

「ふふ、くす……ベル君、本当に君は、いい子で、可愛いね」

 

「…………ッ」

 

 真っ赤になる、うつむいて頭から湯気が噴き、プルプルと涙目をこらえる。

 

「あはは、ごめんね……うん、もうこれぐらいにしておこっか。いいよ、おっぱいのこと、もう怒らないし、気にしてないから」

 

「そんなこと……言われましても」

 

 すねた調子、さしものベルもからかわれ過ぎてか、上目遣いに抗議の視線を飛ばす。

 

「意地悪って、そんな目してる……うん、ごめんなさいだね」

 

「……ぅ」

 

「はいはい、怒らない怒らない。ねえ、ベルくん」

 

 くしゃりと、またも頭を撫でながらエイナは机を挟んだ距離を

 

「次の講義、頑張ってくれたら」

 

 机の上に乗り上げ、どこかしなをつくるようにエイナはベルに接近する。

 

 ベルの額にたわわが押し付けられるようで、ギリギリ触れない位置。もどかしく、視界いっぱいに拝む質量の暴力にベルは言葉を失う。ドキドキの心音が外に零れ落ちているベルに、頭の上でエイナはそっとささやく。

 

「がんばれ、がんばれ……私、ちゃんとほめて伸ばすタイプだから。それに、ね」

 

 吐息で肌をくすぐるように、艶やかな音色に乗せて言葉を贈る。

 

「ちゃんと先生はご褒美を上げます……なんて言ったりして。うん、だからねベル君、次のご褒美も……期待しててね」

 

「!」

 

「頑張って、ちゃんと頑張りきれたいい子にはご褒美を上げます。ちなみに、ご褒美は少しずつランクアップする予定です。最初はボタンでも、何回もランクアップしたら……ふふ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あと何回ご褒美をもらえたら……私のおっぱい、直に触れるのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 聞き間違いではない、耳孔をくすぐるようなささやきは、そう確かに呟いたのだ。

 

 

 

「――――ッ」

 

 

 処理しきれず、ベルは沸騰してそのままうんともすんとも言わず固まってしまった。

 

「もう、仕方ないなぁ」

 

 そう言いながらも表情は楽し気に、仕方ないとベルをこの世に引っ張り上げた。

 

 その後、ベルは気が付くとホームに帰宅しており、それまでの記憶があやふやでまた困惑するのだが

 

 

 

……直に、直ってことは

 

 

 

「え、えええ、エイナさん、エイナさんッ!?」

 

 肝心な記憶だけは、脳裏の奥深くまでしっかりと刻み込まれていたのであった。一人部屋で床をのたうち回り悶える姿を、何度もヘスティアに晒しまたひと悶着起こったりするのは、とくに語る必要のない話だ。

 

 

 

 

 

……がんばれ、がんばれ

 

 

 

 

 

……おっぱい、直に触れるのかな?

 

 

 

 

 

 




微エロ展開、どこかサキュバスじみたエイナさんとベルくんでした。改竄しすぎかな?

感想、評価などあればよろしくお願いします。


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(3)たわわな誘惑 リリルカ・アーデ

リリが仲間になりました。気持ち的に三巻の前半ぐらいが時系列です。





 最近の僕の日々は少し、いや大きく変わった。というのも、僕にパーティーメンバーが、リリが正式に仲間になったからだ。

 ソーマファミリアの件はどこか腑に落ちないけど、でも今は安心してリリと僕は一緒にいられる。これから先、ずっと頼れる仲間として共に冒険を

 

 

……冒険を、するはず、なんだけど

 

 

「ベル様、ベル様!」

 

「……へ」

 

「へっ、ではありません。ほら、いつまでここにいるんですか。さ、冒険に行きますよ」

 

 朝から元気よく返事をするリリ、場所は噴水公園前でいつもの待ち合わせ、ダンジョンに行く前の出来事。

 

 僕よりも背の小さいリリを見下ろし、その姿を伺う。リリと横並び、歩幅を合わせて一緒に歩く。一緒に、出来るだけ真横に

 

 真横から確認して、やはり自分の違和感が正しかったと、再認識する。

 

 

「……」

 

 

……大きい

 

 

 視線は一点、僕は今とても失礼なことをしている。だって、凝視しているのは女性の胸だ。

 けど、どうか弁護をさせて欲しい。だって、前まではそんなこと無くて、でも今日からいきなり

 

 

 

「ベル様?」

 

「……」

 

「もう、ベル様……」

 

「!」

 

 立ち止まり、そして飛びつくようにリリが僕へと迫る。肩を掴まれ、上体を前に傾かされて耳元がリリの方へ

 

 引き寄せ、ちゃんと耳元近くで、リリはこう喋った

 

 

 

……そんなに見られると恥ずかしいです。リリのおっぱいに興味がおありなのですか、ベル様?

 

 

 

 

「ーーーーッ」

 

 

 あぁ、本当にいったいどうして

 

 僕は飲み込みきれていない。リリのバストサイズが明らかに倍近く膨れ上がっていることを

 

 わからない、もしかして僕が知らないだけで、実は女性のそれは日毎に突然大きくなったり…………いや、さすがにそれはない。僕でもそれはわかる

 

 

「ベル様、さあ行きますよ」

 

「……」

 

 

 

 

 

  ×  ×  ×

 

 

 

 

 その後、僕はダンジョンで

 

「ふっ……はっ!」

 

『――――ッ』 

 

「キャーベル様かっこいい!」

 

 飛び跳ねるリリ、だからそのぶぶんも

 

 

……ぶるん、ぶるるんッ

 

 

「!?」

 

 あぁ、僕は駄目な男だ。だって

 

「よっと、魔石を拾うのも一苦労です……ん、っしょ」

 

 

……ぐにゅ、むにゅにゅ

 

 

「!……ああもう」

 

 気になる、見てしまう。しゃがむと今度は足の間に膨らみが推し潰れて、リリの抱える大きな果実がいかに豊満なのか、もう動きの一挙手一投足から僕はバストの実像を浮かべてしまう。

 

 想像に浮かぶ、裸の姿、体のライン、艶めかしく映るリリの起伏を、僕は今鮮明に

 

 

「……ベル様」

 

「ひゃははぁああぁ!!?!?!」

 

「ベル様?」

 

 急に後ろからつつかれて、思わず変な声が出てしまった。

 

「り、リリ! いや、なんでもないよ、びっくりしただけ……だから、うん」

 

「……」

 

 いぶかし気に見てくる。腕を組む態勢

 

 だから、また

 

「!」

 

「……ぁ」

 

 気づいたような顔、リリの表情が実に面白そうに僕を見てくる。

 

「……ベル様、もしかして」

 

「み、見てない!見てないから!」

 

「……はぁ、これは仕方ないですね。すみません」

 

 すたっと、飛ぶように僕へと近づき、寸前で停止。壁際に追い込まれ、そして僕は片あって動けなくなる。

 下手に動けない、だって、今

 

「あ、あの、リリさん……これは」

 

「生理現象、起きてますか?」

 

「起きてない、起きてないからッ」

 

 わからない。でも今は緊張でそれどころじゃないし、でも極録見ないようにしよう。

 

「リリの胸、お気になりますか」

 

「いや」

 

「構いませんよ、なんでしたら直接触っても」

 

「!!」

 

「では、今脱ぎますから…………少々お待ちを」

 

 

……するり

 

 

 

「!?」

 

 布が擦れる、服を脱ぐ音がする。咄嗟に目を閉じて見まいとするけど、でもそれでいっそうに妄想は働いてしまう。

 

 大胆なリリの振る舞い。本当にこんなことをどうして、いったい何が目的で

 

 

「……手を」  

 

 

 そう言い、リリは引っ込む僕の手を引っ張り出し、その手のひらに

 

 

「…………ぷふ、くふふッ」

 

「?」

 

 笑っている。まるで我慢しきれずに失笑したみたいに

 

「リリ…………はっ!」

 

 見開いて、そして見た

 

 手につかんでいる、それは布でできた、しいて言えば下着に近い形。だけど、この膨らみは

 

「ふふ、ははは…………ベル様、それは詰め物です」

 

「へ?」

 

「パットです。変装用に、体型を誤魔化すために身に付けていたんです。」

 

「!!」

 

 変装、身に付けていた、それはつまり

 

「……ソーマファミリアの人達に、バレない為?」

 

 今、リリの姿は小人ではなくあくまで獣人、小動物的な耳と尻尾で飾られている。それもこれも、リリを騙したあの人達に知られないため

 

 変装の理由はわかる。だけど

 

「じゃ、じゃあ…………さっきまでの、その、胸は」

 

「ベル様、申し訳ございません。リリはその、少し楽しんでいました」

 

 いじらしくも愛らしい、片眼を閉じてにっと舌を出す。

 

「り、リリ~ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ダンジョンから帰還、僕たちは家路につく帰りの道を同じにする。

 

 道中、あまり会話がはかどらない。僕はまだ、自分の赤面を取り払えないでいる。

 

「うぅ……」

 

「ベル様、まだお怒りですか?」

 

「……怒っては、無いよ」

 

 ことがこと故にベルもどこか腑に落ちない心境だが、しかし向きにはなれない。興味を持って目を離せなかったのは、恥ずかしい自分の落ち度だからだ

 

「……見たのは、僕だから」

 

「いえ、それはリリのせいでもあるんです。本当に、りりのおふざけが過ぎました。ベル様、申し訳ございません。」

 

「い、いいよ……そんなにかしこまらないで。」

 

「……わかりました。でも、これだとベル様だけ損ではないでしょうか」

 

「……」

 

「ベル様、お許しください」

 

「!」

 

 手を引かれ、帰りの道を急ターン、連れていく先は横道の狭い通り、薄暗く建物に光が遮られているからもう夜のように暗い。

 

「り、リリ」

 

「……よし、ここならいいでしょう」

 

 ついた先、そこは住宅街の中に作られた小さな公園。でも人気は無い、早くも付いた街灯が薄暗い空間を微かに照らしている。

 

 街道の喧騒が遠く、人の気もなく二人きり。僕の傍にリリがいる、リリと二人だけになっている、二人の存在が強調されていく。

 

「……なにを、するの」

 

 不安な声色、リリはそんな僕にふっと、柔らかい笑みで答える。

 

「いえ、何も手荒なことをするつもりはないです。ただ、お伺いしたいのだけです」

 

「!」

 

「言いましたよね、リリを見ても構わないですと」

 

 はらりと落ちるローブ、タイトな白と赤のシャツ、その裾を握り一気にたくし上げる。ベルの目に映るのはライトグリーンのシンプルなブラ。膨らみは体の大きさ相応で、谷間も肉感も十分に備わっている。

 

 なにより、今この二人だけの場で、異性の艶姿が相手によってさらされている。そんな異質な状況に思考がまとまらず、ベルは発言が喉の奥から出てこない。

 

「見てください、小ぶりですが……これがリリのバストです。ベル様は、さっきのお胸とこの胸、どちらが好みですか?」

 

「……ッ」

 

「ベル様は、欲が無さ過ぎます。リリをお救い下さったベル様には返しきれない恩があって、リリ自身ベル様をお慕いしてもいるのです。だから、これぐらいは」

 

「り、リリ……か、隠して、まずは、おねがい!」

 

「……はい。でも、ふふ……お可愛い反応です」

 

 服を降ろし、リリはベルから半歩下がる。静かに丁寧に、こちらを気遣う姿勢を崩さないままに、リリは僕の心にその手を伸ばしてくる。誘惑、色香を使うという手段で

 

「……ベル様は、もう少し得をしてもいいのです」

 

「得?」

 

「ええ、リリは女ですし、その気になれば魔法で姿を変えられます。ベル様の望むことなら、リリはなんだって、それこそ……女にしかできないことでも」

 

「そ、そんなの……駄目だよ、リリが傷つく」

 

「つきません、むしろベル様の傷なら……それはリリの喜びです。ですが、もし手を出すことをためらうなら」

 

……かくん

 

「!」

 

 ベルの体重が崩れた。急に足のつっかえが外れたように、そのまま崩れ落ちそうになるところを、リリが抱き留める。

 

 血に膝をついて、目線がリリより下に。僕の顔はちょうど、リリの胸の位置に

 

「……リリは、今幸せです。ベル様といられる幸せ、ベル様にお仕えする幸せ。でも、リリはこれでもお姉さんなんです。知っていますか、リリの年はベル様より上ですよ」

 

「!!」

 

 知らなかった事実に驚愕、でもリリは止まらずさらに畳みかける

 

「ベル様が望むなら、リリはベル様好みの体になります。年上の異性に甘える快感も、リリなら与えられるんです」

 

「……年上、甘える?」

 

「ええ、お好きでございますよね……理解、していますから」

 

 艶のある落ち着いた声、さっきからリリが妙に色っぽい。

 

 気づけば僕の顔をリリは触れていて、耳の裏を指先がかいてきて、もう一方の手も髪を優しく撫でてくる。

 

「……ッ、リリは、お姉さん、なの」

 

 柔和な笑み、そうですよとリリは無言で応える。

 

 甘く優しい質問を繰り返すリリに、気づけばベルは開いた口が塞がらず溶けかかっている。酩酊感に似た心地、けどこのままでは

 

「……リリ、それは……でも僕は」

 

「遠慮ですか……ベル様、リリは」

 

「違うよ、ごめんね……袖に振りたい訳じゃないんだ」

 

 かぶりを振り、ベルは意識をはっきりさせる。足腰に力を入れ、まずはリリの手から離れる。

 

「……ベル様」

 

「嫌じゃないよ、リリがお姉さんで、僕に優しくしてくれるなら……多分、逆らえないし、拒みたくない。うん、ごめん……たまにぐらいはその、頭を撫でて、欲しいかな」

 

「ベル様……いいんですけど、すごく揺れてますね」

 

「うぅ……言い返せない、けど……でも、これだけは言わせてほしい」

 

 しゃきっと、ベルは一度自分で量のほほを叩く。

 

 バチン、顔に赤い紅葉が張り付き、ようやっと意思が定まる。

 

「よし、ねえリリ……リリは、僕に感謝して、報いたいって思っていて、それとその、好意をもってその、接してるんだよね」

 

 好きだと思っている、そう直接の表現はできない。やはり異性と向き合うのは恥ずかしいけど、でも

 

「これだけは、伝えるよ。僕にとってリリは、姿を変えなくても十分に、ありのままのリリが僕には、その…………異性として魅力的で、ドキドキするんだ」

 

「!」

 

「……あぁ、もう」

 

 言ってしまった。ベルは羞恥でその場に蹲り顔を隠す。だから見ていない、リリの顔が驚くほどに赤面していることを

 

「……べ、ベル様」

 

「だ、だから、そういうことだから……その、今はそれで、お手柔らかに、してくれないかな?」

 

「…………」

 

「ね、ねえリリ……その」

 

「……帰ります」

 

「へ?」

 

 踵を返し、表情を見せないままにリリは早歩きで進む。後を追うようにベルも一歩

 

「え、えっと……ま、また明日……ダンジョンで!」

 

 だけど、一歩目でベルは止まった。

 

 自分の返答が思った以上にリリを赤面させてしまったこと、どこかばつが悪くなったような心境でベルは立ち止まる。

 

 改めて、リリの突然のアタックの数々、でも騒動が終わったあと出し、リリは僕の知らない過去がいっぱいあるから、だからそれゆえの想いなら僕は軽率に扱えない。

 自分なりに、本音を出してリリに答えた。でも、そのおかげで自分の心にも飛び火はしてしまった。

 

「……明日から、ちゃんと向き合えるかな」

 

 明日一番にリリにかける言葉を何にするべきか、ベルはしばらく考えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ありのままのリリが、魅力的で、ドキドキ

  

 

「……ふふ」

 

 貸家のベッドで、一人気味悪く笑みを漏らしている。わかってはいるが、今は仕方ない

 

 あれだけ重ねた行動と言葉、でも自分は相手の一言だけで、こうもやられてしまった。自分は、リリルカ・アーデという女は、もうどうしようもないくらいあの年下の恩人に夢中なんだと

 

「ベル様……もう、ありのままですか」

 

 ベルから見たありのまま。だが、その姿とは

 

「……ッ」

 

 思い立って、リリは上着をその場に脱ぎ捨てる。ブラも外し、布一枚無い肌色の姿を外気に晒す。

 

 明かりの無い部屋、月明かりが背中を艶やかに照らし、影がシルエットのように体の前面を映す。

 

「ありのまま、には……少し遠いですね。ベル様、ごめんなさい……リリはまだ少し、嘘を付いています」

 

 少しの嘘、それはなんでもない、思ってみれば納得のいく嘘だ。

 

 リリは手を伸ばす。伸ばした先には先ほど脱いだブラ、の隣にあるもう一つ

 

 胸に被せ、紐を背中でひっかける。ぶかぶかと隙間の浮く下着、だがそれがリリにとって本来の適正であった。

 

 

「……響く、十二時のお告げ」

 

 口にした、それは己の変身魔法を説く詠唱。

 

 変装のために施した犬人の特徴たる耳と尻尾が消える。そして、消えると同時に起きるもう一つの変化

 

 

「ん……ぁ」

 

 

 声が出る。デリケートな部分故に、感度が刺激されてしまった。

 

「……ぁ、もどった、リリの、本当のおっぱい…………ふふ」

 

 収まりがつかないブラに、みるみると膨らんだ柔肉が綺麗に納まっていく。小さな体躯には不釣り合いなたわわな果実。カップ数だけなら、それはGカップか、だが体の比率からすればもう一段階上がってもおかしくない。

 

 ともすれば爆という一字があてがわれてもおかしくない、それほどのモノなのだ。

 

 

……でも、こんなもの人前ではぶら下げられない。

 

 

 ソーマファミリアの時代、成長期にかけてどうしてか見事に成長を遂げた乳房、だが下手に悪意ある眼に晒されても困るために、リリはこうして体に見合ったバストを装っていた。

 

 今回の目論み、元をたどれば理由はそれにあった。が

 

 振り反って、今回の致した行為は本当の姿をさらすためにベルを試したいという動機あってのこと。ベル好みの、たわわに実った魅力を用いて、より今の関係を進めたい、そう思って挑んだ結果があれだった。

 

 

 

 結果は、すでに十分ということだった。胸の魅力を開放せずとも、自分は彼に魅惑ある人物として映っていたのだ。

 

 

 

 嬉しくて仕方ない。そして何より、これから先が楽しみで仕方ない

 

 

……今はまだ、このままの関係で構いません……でも、この先は

 

 

「……絶対、リリに振り向かせます。その時に、本当のリリを全部、ベル様に捧げる…………あぁ、楽しみだな。照れるよね、ベル…………ぁ」

 

 吐息は艶やかに、恋慕を抱き指先は濡れる。

 

 暗い夜、水滴が滴る音と嬌声は静寂によく映える。己の音色に心は乱れ、シーツの染みはより大きく

 

 

 リリルカ・アーデ、背の低い愛らしい少女の姿はどこにもない。震える唇、汗滴る肢体、その姿はまさしく成熟した女の艶姿であった。

 

 

 

 

 

 




消されるかな、消されないかな?

次の投稿は気ままに、感想・評価などあればよろしくお願いします。


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(4)好奇心でたわわ前編 アイズ・ヴァレンシュタイン

気が乗ったのでまた投稿、アイズの胸も少し盛ってます。当然


 いつもの朝、僕はダンジョンではなく、城壁の上を目指す。

 

 朝露が寒い、日も昇りきらない薄暗い早朝。寝起きはつらいけど、でもそれが日課だし、何より楽しみでもある。

 

 

……アイズさんに会える

 

 

 早朝の稽古、アイズさんにて合わせをしてもらえる時間。それはとても

 

 

 

             *

 

 

 

「――――ッ!?」

 

「あ、ごめん」

 

 ずさぁっと、勢いよく石畳を体が滑っていく。

 

 加減を知らないアイズさん、未だに勢い余ってクリーンヒットが炸裂。正直胸のアーマーが無かったら肺に穴が開いてもおかしくない。

 

 ヴェルフに、お礼言わないと

 

「……大丈夫?」

 

「は、はい……もんだい、ありません」

 

 やせ我慢、痛みをこらえてなんとか立つ。飛ばされたり、気絶されたりするけど、この時間は良い時間だ。強くなるため、成長するため、この体に刻まれる痛みの全てがとても最高だと……うん、ちょっとこの言い方は語弊があるかな

 

 

……やっぱり、やられっぱなしじゃだめだよね

 

 

「……がんばり、ますッ」

 

「うん……がんばれ、ベル」

 

 刃を構える。互いに構えを取り、そして再会

 

 踏み込み、向こうが先に仕掛けるよりも早く

 

「ベル……危ない」

 

 

……ズボッ

 

 

「へ……あッ!」

 

「!?」

 

 踏み込んだ、はずが妙に足が沈む。というか、

 

 

……あれ、ここ穴が

 

 

 石畳の一部が崩れ、どうやらしたが排水の側溝に蓋でもしていたのか。空間があり、要はとにかく足がはまった

 

「!!」

 

 こけるベル、だが勢いはそのままに、結果不安定で過剰な前のめりで、とにかく前に、そう前方向に

 

「ベル、掴まって……っ」

 

「はい、アイズさ「むにゅり」……へぁ!?」

 

 

 

 

……ぎゅむ、ぽよん

 

 

 

「―――――――ッッ!!?!?!?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……アイズさん、ごめんなさい」

 

「……ベル」

 

 日は昇り、すっかり気持ちのいい朝の陽ざしが心地い時刻。そんな時にベルの頭は砂利だらけの石畳にこすりつけられている。

 

 その態勢は謝罪、極東に伝わる伝統的な謝り方である。

 

「ベル、怒ってないよ……事故だから、私はなんとも」

 

「駄目です、怒ってください、なじってください!!……じゃないと、僕は……僕はッ」

 

 額をこすり、とにかく謝罪卑屈度マックス。ベルは自身を許せなかった。

 

 時折、膝枕されるぐらいは慣れた。恥ずかしいが、神様やエイナさんとのスキンシップ(一方的に与えられる)で、あまり動じなくなっている。受け入れてしまう癖がついているというべきか

 

 

「よくない、僕はアイズさんに、とても失礼なことを」

 

 

 

 こけた瞬間、伸ばした手はアイズの手をからぶった。そして、手をすれ違いたどり着いた先、そこは案の定問うべきか

 

 想像して欲しい、左手を伸ばした先、そこはアイズのチェストアーマーの右側。普通、胸当てというものは全体を覆うもの。だが、何の理由かアイズのそれは、なんということか右胸だけが半ば覆われていない。

 

 指先はまず、下乳に触れ柔肉の形を変える。そして滑り込むようにアイズの右胸をその手に平に収めたのだ。そして

 

 

「お、押し倒して……あろうことか、胸を……僕は」

 

「……」

 

 ベルを見下ろす形で、アイズは少し困り顔をしている。

 

「ベル、おねがい……顔を上げて」

 

 膝をつき、そっとベルをおこす。

 

「……ッ」

 

「!」

 

 なきじゃくり、すっかり顔が真っ赤になっている。幼くあどけない、少年の顔

 

「……かわいい」

 

「!」

 

「ベル、おこってないから……ほら、座って、くれる?」

 

「は、はい……うぅ」

 

「……ベルは、照れ屋さんだね」

 

 ふふと、薄い表情が笑みでピンクに染まる。謝罪をするベルに対して、アイズの笑みはどう向き合えばいいわからない、余計に気を動揺させるものだ。

 

「ねえ、ごはん……食べに行こ」

 

「!」

 

「お腹いっぱいになったら、落ち着くと……思う?」

 

「なんで、そこで疑問」

 

 

 

 

  ×  ×  ×

 

 

 

 食事、と言ってもアイズさんが行くのは屋台。そう、じゃが丸君だ

 

 足を運び、ご飯を買い、そしてまた城壁に戻る。人目につくとやはりアイズさんなわけで、あまり僕が傍にいて目立っても悪い。有名人だということを忘れてはいけないのだ

 

「時間、良かったかな」

 

「へ、あぁ……そうですね。いつもは、もう僕ダンジョンに行く頃ですものね……今日は、一人で潜る予定でしたので」

 

「そう、じゃあよかった……あむ」

 

 ジャガ丸くんが入った袋を抱え、アイズさんは一つを頬張る。小さな口ではぐはぐと夢中で、つい見惚れてしまっている。

 

「!」

 

 

 

……いけないぞ僕、アイズさんの顔を凝視するなんて

 

 

 ただでさえ、この手は既に罪を犯しているのだから、そうベルは自分に心で言い聞かせる。

 

 

 

……じゃが丸君の味、なんだか感じない

 

 

 未だに手に残っている気すらある。感触、ノーブラ故に鮮明に伝わるたわわな質感は、なんだったら先端の硬い

 

 

「!!」

 

 

……ぐしゃぁ!

 

 

「…ベル?」

 

「は?」

 

 思わず力んでしまった。落ち着け、落ち着け僕

 

「ベル、なんで」

 

「あ、えっと……すみません、ちょっと油で手が滑「ガシッ」……え、アイズさん?」

 

 ギリギリと、というか普通に痛い力で僕の手首をつかむ。うん、これはあれだ、怒っている

 

「い、ごめんなさい……アイズさん落ち着いて、ごめんなさいッ!」

 

「……じゃが丸君、ダメ……粗末にしたら、ベルでも」

 

 怒る、見たことの無い気迫を身にまといアイズさんはそう「切るかもしれないから」

 

「ハイ、ボクモウコレカラ絶対シマセン。ジャガ丸君ハサイコウデス」

  

 身の毛がよだち、考えるより先に言葉が羅列する。聞き届けて、アイズさんの鬼の様な気迫はすっと消え失せる。

 

「……気を付けて、ベル」

 

「は、はい……あぁ」

 

 袋からもう一つ、無言の圧力でジャガ丸君を手渡される。だけど

 

「……その、今はもういいです。なんというか、食欲が」

 

「ベル駄目、ちゃんと食べないと」

 

「いえ、その……食べたくないわけじゃなくて、いやでも、うぅ」

 

 言えない、さっきの感触が頭から離れないから、それで落ち着かないから、だなんて言えるはずがない。

 

 このまま穏便に、今日はもうこれ以上荒事を引き起こしたくない。そう思っている矢先

 

 

「……まだ、さっきのこと」

 

「!」

 

 アイズの方からまた口火を開いた。終わらせたい議題、恥ずかしい問題をベルにぶつけるのだった。

 

「……あの、アイズさんは」

 

「気にしているなら、もういいよ。私、ベルに怒ってないから」

 

「それは、でもやっぱり……悪い事、ですから」

 

「……悪いこと、なのかな?」

 

「へ」

 

 おもむろに、アイズはジャガ丸袋を横に、その場で自分の胸当てを外す。

 

「これ、見られるのは恥ずかしいけど……でも、触られるのって、悪い事?」

 

「!」

 

 自分で自分の胸に触れる。胸当てが外れ、アイズさんのそれは一層大きさを増している。

 

 エイナさんにも劣らない、アイズさんのたわわな果実。タイトな服越し故にその肉感が余すことなく目に映る。下着をつけていないから、先端の微かなポッチなどはまず直視できない。

 

「……ベルは、悪い子じゃないよ」

 

「あ、アイズさん」

 

「ベルの辛い顔、やっぱり見たくない。恥ずかしがって、涙目になったりすると、ちょっとかわいいかもって思うけど「アイズさん?」……でも、ダメだよね」

 

 だから、と

 

 

「緊張、するなら……しないように、してみたらいいと思う。だから」

 

「だから?」

 

「練習、してみる……私の、おっぱいで」

 

「!?!??」

 

 

 

 

 

次回に続く

 

 




今回はここまで、長くなりそうなので二部構成で

普段はエチエチで書いてるものなので、なんか書いてて今にもベッドインしそうな話ばっかり書いてるなって、自分で自分を笑ってます。消されないように気を付けなければ


次回は未定、しばらくは書かないので、あしからず


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(5)好奇心でたわわ後編 アイズ・ヴァレンシュタイン

落としどころに悩みました。いつも書いてるR18なら簡単なのに、みたいなことを思ったり。





「今、なんと」

 

「……だから」

 

 

 

 

……私のおっぱい、触ってみる?

 

 

「!?」

 

 聞き間違いじゃない、確かに言ってのけた。アイズさんの口から、おっぱいという単語も、そしてそれに触るかという勧誘も

 

 全部、本人の口から

 

「あ、アイズさん……その、冗談ですよね。冗談だって言って」

 

「……煮え切らない」

 

……ガシッ

 

「!!」

 

「ベルは、いつもそうやって逃げる……だから」

 

 

 

 

……むにゅ、ふわっ

 

 

 

 

「だから、今日は強引」

 

「――――ッ!!」

 

 硬く、掴まれた手は決して逃さない。

 

 アイズはベルに手をもって、自分の胸に押し当てた。そんな大胆な行動、なぜ自分がそんな音をしたいのか、感情の理由も整理するよりも先に、行動は先走った。

 

 服越しに、胸に当たるベルの手の感触。くすぐったく、それ以上になんか複雑な感覚が体を駆け抜ける。

 

「……んッ」

 

「あ、あああ……あいず、しゃん」

 

 沸騰したポットのごとく顔から湯気を放つ。突然のことに情報が処理できないまま、ベル自身もまた複雑な感覚にまずは戸惑いを感じ取る。

 

「え、あぁ……えっと」

 

 押し付けられた。それだけでも手の平にはえも言われない感覚が走る。女性の体温、特に柔らかさはこの上ない。

 

 だが、静の状態でこれほどなら……もし

 

 

……指、動かしかしたら

 

 

 このまま、握力をいれてしまえばどうなるか

 

 

「……ッ」

 

 

 してはいけにない、そう思っているのに

 

 本能は、理性を振り切ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んあっ♡」

 

 

 

 

「!?!?!?!?!」

 

 意識が冴える。そして見た。自分の手が、指が、アイズヴァレンシュタインの右胸を

 

 

……ぐにゅ、むにゅぅ

 

 

「あ、これは……その」

 

 鷲掴んでいる。その奥の肋骨に指が届かんばかりに、思いっきり掴んで揉み込んでしまっていた。

 

 上気した表情で、目を閉じて艶やかな声を上げる、初めて見るアイズさんの姿

 

「!!」  

 

 思わず手を離した。手首の拘束も振りほどいて、僕は

 

「……ベル、今の」

 

「僕、どうしてか自分でも……でも」

 

 どうしてか、第一声が謝罪じゃない。僕も気がおかしくなっている

 

 

「だって……それは」

 

 こんなこと、言おうとしている自分がどこか他人ごとで、自分が自分じゃないみたいに、僕はアイズさんに接してしまっている。

 

 

「いいと言ったのは……アイズさん、ですよね」

 

「!」

 

 胸を抑え、アイズさんは顔をより真っ赤に染めた。

 

 服越しに触った胸の感触、忘れられない、アイズさんの音色

 

「……もっと、知りたい」

 

「べ、ベル……まって」

 

「なにを、待てって言うんですか」

 

 そうだ、もう待てない。これ以上、お預けを食らうのは……ごめん、で

 

 

 

 

……ぼた、ぼたぼた

 

 

 

 

「だから、アイズさんに………ぁ、きゅぅ」

 

 

 

 

 

……バタンッ

 

 

 

 

 

 大粒の鼻血、世界は暗転した。

 

 血の気が冷める。芽生えた本能はすぐに消え失せていく。さながら、暴走措置の安全機能でも働いたのか、なんとも都合のいい毛細血管であった。

 

 

 

……あれ、僕なんで……地面に

 

「……ベルなら、私……ベル、ベル?」

 

 

 

 

 

 

 

 

   ×  ×  ×

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ましたら、そこは知らない天井だった

 

「!」

 

 知らない天井、そこはいたいどこか。体は妙に軽く、すぐに体は起きた。

 

 

……部屋、どこかの宿

 

 

 簡素な部屋づくり、ベッドのほかには小さな机と椅子、調度品は一輪挿しの花瓶だけ。だがその過敏にも花は生けていない。

 

 わかりやすい安宿。だけど、そんな中に咲く大輪の花

 

 

「……あいず、さん?」

 

「起きたんだね……ベル」

 

 いた、というか傍にいたのだ。

 

 ベッドの真横、アイズさんはいた。そしてその手は布団の中で

 

「へ……あぁ、あああッ!?」

 

「……ベル、そんなに驚くこと?」

 

「だ、だって……手をつないで、もしかして寝てる間、ずっと」

 

「うん、一応ね……でも、うん」

 

 一呼吸、少し頬を染めて、しかめた視線でアイズは

 

「ベル、私の胸……触ったのに比べたら」

 

「!!」

 

 思い出す、決して夢ではなかった。

 

 あの感触、声、何もかもが鮮明に

 

 

「……駄目ッ」

 

「ぐッ……うぁ、ぁいじゅさん」

 

 ベルのほほを両の手で包むようにパチンと、その言葉の先を止めんとアイズは感情的に動いた。

 

 加減はしている、だが紅葉を張るには十分は威力、ベルの目には微かに涙が浮かぶ

 

「……ベル、ごめんなさい」

 

「い、いえ……その、やっぱり僕が全面的に」

 

「駄目、それは違う……やっぱり誘った私にも責任がある。なんで、むきになったか自分でもわからない。あんな恥ずかしい事、どうしてしたのか……私、わからない」

 

「……アイズさん」

 

 少し饒舌に、アイズはベルに語り掛ける。話ながら、その旨を手で隠す振る舞いは微かに目の毒なことには、さすがに気づいていない

 

「……」

 

 だが、ベルは視線を避けたため、結果アイズは 

 

「!」

 

 顔を赤くし、アイズはベルの布団を奪い取った。今度はそれで首から下を全て隠す。

 

「……あぁ、その」

 

「ごめん、今はこのままにさせて」

 

「それは、アイズさんの自由に」

 

「……ねえ、ベル」

 

「はい!」

 

「……私、君が寝ている間に考えてみたの。なんで、君がずっと謝って、辛そうにしているのを見て……嫌だなって思ったのか。でも、それは」

 

「それは……なんですか?」

 

「……こんなこと、今まで思ったこと無かった。ベルが私の胸に触ったのに、ベルがずっとつらいのは、何か嫌だなって…………だから、たぶんだけど」

 

 

 

 

 

 

『私に魅力がないって、ベルが思ってたら……わたし、なんだか嫌だ』

 

 

 

 

「!?」

 

 だから、確かめたい。アイズはそう締め括った。

 

 確かに、言われてみれば自分の振る舞いはずっと謝罪一辺倒だった。だが、それ自体は無理のない事。でも、そこに違和感を覚えるなんてこと、まさか予想はできない。

 

「……アイズさん、じゃあ」

 

「うん、本当にその……君触られたのはびっくりだけど、嫌とは思えなかった。でも」

 

「……でも」

 

「……最後の」

 

「!」

 

「私が悪いのはわかる。でも……最後だけは、ちょっと……エッチだったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

……エッチだったよ

 

 

 

 

 

……エッチだった

 

 

 

 

 

 

……エッチ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご、ごごご…………ごめんなさいぁああ」

 

 

 

 

 

 

 

「でも、本当は駄目かもしれないけど……私は許したい」

 

「……ッ」

 

 ガシャン、大きく音が鳴った。べっどをとびだし、そのまま床に額をこすり付けようとしたけど、その言葉に体が止まり着地に失敗した。

 

 アイズさんは、何を言いたいのか……たぶん、きっと本人もわかりきっていない。わからないなりに、答えを模索しながら、言葉を紡いでいるのだろうか

 

「……誰かが、言ってた。その、エッチなことは、何も悪いことばかりじゃないって……その、私はよく知らないから、だから、今回のことはきっと知らないことが原因。私もベルも、勉強が足りない」

 

「た、足りないと言われても……その、どうしろと」

 

「……勉強、すればいい」

 

 椅子から降りる、床に膝をつき、アイズさんは手を差し伸べる。

 

 どこか慈母愛しき姿に、タイミングよく日光が逆行に、頭髪は光を纏い後光を帯びる。

 

 優しく、淡い笑顔は品のいい。綺麗な姿でアイズさんは僕に告げた。

 

 

「男の子のことを、ベルは私に教えて…………そうしたら私のことも、女の子のことを、今度は私が教えられるから」

 

 

 

 

「そうすれば、ベルにおっぱいを触られたいって思った理由……ちゃんと、わかるかなって」

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

 耳の先まで赤くなる感覚、言葉がくすぐったくて、その提案にも背中がぞくっとなる。言葉でこそ綺麗に振舞っているけど、どうにもアイズさんの本音はそこにあるのか

 

 僕は、欲のままに一度だけ手を出してしまった。でもその前、先に欲を出したのはアイズさんなのだ。結局の所、この問題は同省も無くお互い様なのだろう。知識も経験も浅い僕たちは、無鉄砲に走って、そして我に返って今に至るのだ。

 

 でも、知ってしまった今、無かったことには絶対できないの。

 

 男と女、男女の関係は、僕だってよくわからない。でも、今きっとその理解こそが必要だと、打算があるかもしれないけど、きっとそうなのだ。

 

 僕は、結局の所アイズさんに惚れているし、だから渡りに船だなんて、それは否定のしようが無いことだ。

 

 でも、もしアイズさんが

 

 僕なんかに、女と男の何かを意識しているなら、それは……見ないふりをすることは決してできない。どんな手を使てでもはっきりとさせたい

 

 天然なところもあるけど、僕はアイズさんの言葉にある、僕にとって都合のいい本音をもっと深掘りにしたい。

 

 なんとも、打算的で欲深い男になってしまったものだ。

 

 

「アイズさん、その……おねがいします、でいいのですかね」

 

「うん、多分……ベル、よろしくね」

 

 悪手、手の平を合わせ合う感触。これだけでも胸がドキドキする、まずは手をつなぐことから、初歩を改めて認識する。

 

 

「一緒に研究しよ……目標は、おっぱいの正しい使い方?」

 

「……あの、出来るだけ抑えてください」

 

 握った手がどうしてか崩れて離れた。というか床に僕が突っ伏してしまった。

 

 天然故の無鉄砲な好奇心、振り回されるのにも慣れておかないと……本当に、理性が持たないッ

 

 

 

 

 

 

 




これにて終了、まあこのまま突っ走りすぎるとダメだからブレーキ、みたいな展開です。性の関心を得たアイズとベルの研究ライフ、続きはまたいつか


いっぱい評価貰えて、その上ランキングにも載ってて嬉しい限りです。感想・評価などあればまたよろしくお願いします。次はどんなたわわ娘を出してやろうかしら


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(6)たわわキッチン シル・フローヴァ

シルは料理下手、だからあえて今回はとても美味しい料理を作らせてみました。

ぶっちゃけ悪ノリで書いた、でも後悔はしていない


 豊穣の女主人、オラリオでは知らないものはまずいない、ここらで最もおいしい酒と、美しい店員たちを並べる名物酒場である。特に、美しい店員、豊穣の女神たちとも言うべき彼女達の一人、その一人はどこか他の人と比べると接し方が違う。

 

 きっかけは小さなこと、でもどうなってかその距離感はすっかり短くなっていて、本当にどうしてこんなに綺麗な人が僕によくしてくれて、その上

 

 

 

 

 

 

……ベルさんのこと、待ってますから

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 何気ない一言、お店の客引きだったとしても、その言葉は男には突き刺さる。

 

 本当に、どうしてあんなに胸を揺さぶってくるのやら

 

「……シルさん」

 

「呼びましたか、ベルさん」

 

「へっ……へぁあぁああああッ!!?!?」

 

 転がる、石畳の道路の上で僕は坂を転がるように転がっていく。

 

「もう、ベルさんたら……そんなに驚かなくてもいいのに。傷ついちゃいます」

 

 そんな気はないのに、シルさんは片目をつぶってニッと舌を出す。

 

 愛らしい容姿、整った顔立ちは明るく柔らかく、どこか暖かい。

 

 豊穣の女主人の店員、その一人であるシル・フローヴァ。お店の皆はとてもきれいだけど、本当の意味で女神を称するのはこの人が一番適している。そう思ってしまうのは、無理もない。

 

 

「……シルさん、その……あの」

 

「おはようございます。今日も、ダンジョンですか?」

 

「はい……あ、すみません」

 

 手を貸してくれた。尻もちをついた僕はシルさんの手を取りその場を立つ。

 

 立って、そして

 

「……あの」

 

「あら……なんですか?」

 

 手を離さない。だから、距離が近い

 

「この距離、さすがに照れちゃいますね」

 

「なら、離しては」

 

「いやです。」

 

「そう、ですよね」

 

 声の震えが顔に届く。僕とシルさんの身長差はそれほどない。間近で見るきめ細やかな肌、透き通る瞳、潤った唇、月並みの言葉だけど、眼前で見るその情報はあまりにも複雑で、僕の語彙だけでは解明しきれない。

 

 指先がからむ。握手のようにつないだ手が、指と指を交わして握り合う恋人繋ぎに

 

「!」

 

「手、男の子の手って感じで……ベルさんのかっこいいのが、手の平で伝わってくるようです」

 

「……ッ」

 

「もう一つ、繋ぎますか?」

 

「え、遠慮します……その、シルさんお願いだから」

 

「……ふふ」

 

 一歩、軽やかに一呼吸分の距離を置いた。間近で見た姿が、今は全身を映す。給仕のエプロン服を着た可愛らしい姿。いたずらに成功して、満足げに笑みを見せる姿

 

「文句……あるならどうぞ。私、聞いてあげますから」

 

 上目遣いに、挑戦的に言って見せる。でも、文句なんてものは、当然

 

「…………せん」

 

「?」

 

「!……ありません、その、ごちそうさまでした」

 

 言えるはずがない。感じる吐息、手の平の感触、お金をに換算すればきっと僕には手に余る、とにかく、過ぎたご褒美だ。

 

「はい、ベルさんに頂かれました」

 

「あの、シルさん?お願いですから、それを周りにそのまま言わないでください」

 

 語弊がある表現、どこから知らないけどものすごく怖い獣の視線にさらされるような、とにかく言い表せない恐怖が背中を突き刺してくる。

 

 朝のやり取り、シルさんは可愛くて、優しくて綺麗で、でも少しだけ意地悪だ。お弁当を貰う立場だから、多少からかわれるのは致し方の無いことなんだろうけど

 

 

 

「ベルさん、そういえばですけど……今日は早いですね。ダンジョンに行くのはいつものことですけど、何か大事なことでもあるのですか?」

 

「……はい、その……実は」

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 中層、ついに果たした進出。今日はその記念すべき初日だ。

 

 だからか、緊張でいつもより早めに目が覚めて、その上いつもよりまた少し早めに出てしまった。シルさんとあって、少し駄弁って、それでもまだ朝は完全に上り切っていない。城壁の陰に隠れて、街は少し薄暗いままだ。

 

 で、そんな僕は今何をしているかというと

 

 

「……あの、シルさん」

 

「まってください、まだもう少し」

 

「……」

 

 そう言われ、僕はまだ席で動かない。

 

 シルさんに事情を話して、後はお弁当を受け取ってダンジョンへと行く。そうするはずなのに、僕は今酒場の店内で食事を待っている。

 

「……あの、シルさん。さっきも言いましたけど」

 

「駄目です。朝食はちゃんと食べないといけません」

 

「だから、それは露店でパンでも」

 

「それじゃあ味気ないです。どうせなら、ちゃんと暖かくて精の付くものを食べないと……というわけで、はい」

 

「!」

 

「いいですよ、もう目を開けてくださっても構いません」

 

「……はい」

 

 目を開けていい、やっとその許しが降りて僕は少しほっと息を吐く。

 

 どうしてか、いったい何故か、シルさんは僕に目をつぶって待つことをお願いした。でも、その割には音が静かで、別に台所で火を使った様子もない

 

 というより、ずっと向かいの席で待っている。目をつぶっている僕の前で、シルさんは何もしていないのだ

 

 だから、気になる。いったい、何をしていたのか

 

「……ん」

 

 ぼやけた視界、それが元に戻るまで数秒。

 

 じんわりとした映像が徐々に明快に、僕の前に置かれたお皿にあったのは

 

 

 

 

「……パン」

 

「はい、ただのパンです」

 

「……」

 

 小さな白パン。それも一個、別に何かを挟んでいるとか、別段変わった調理は見られない

 

「早く食べないと、冷めちゃいます」

 

「……はい」

 

 

……これが、精の付く?

 

 

 疑問を解せないまま、僕はそのパンを手に取った。

 

 そして、すぐ疑問を解へと導く小さな気づきを得た

 

 

「!」

 

 一口、二口、パンをかじる。少し甘めで、ふんわりと柔らかい上質なパンだ。

 

 それに、このパンは

 

 

「……暖かい、でも」

 

 

 それは、とても不思議な温度だ。焼きたてというわけでもなく、なんだったら少し温いぐらいだ。そう、その温度は……覚えがある。

 

「人肌……温めて」

 

「それだけ、ですか」

 

「……匂い」

 

 ほんのりと、パン以外の香。どこか、甘いようで、でもそれは食材の放つ者とは質のレベルで違う。

 

 妙に、この匂いを感じると、何かいけない気持ちになってしまう

 

「……あと、ほんのりと塩気……シルさん、このパン」

 

 このパンは、一体何か

 

 聞くため、視線をパンから離す。眼を開けてから、今初めてシルさんの方を眺めた

 

 そして、僕は自分の目を疑った

 

「……あ、すみません……お見苦しい所、お見せしちゃいました」

 

「!」

 

 視線を逸らした。シルさんはエプロンを脱ぎ、そして首元のボタンを外していた。

 

 扇情的なブラジャー、そしてそこに収められた豊満な果実の作る谷間。不遜ながら、僕は女神の秘するところをその眼に収めてしまった

 

「な、なんで着崩して」

 

「ふふ、何でって……必要な調理ですから」

 

「でも、シルさんはずっとここに」

 

「はい、だからここで調理していたんです…………まだ、わかりませんか?」

 

「へ……それ、どういう」

 

「……嘘」

 

「!」

 

「もうわかってるはず……ベルさん、美味しかったですか?」

 

「……ッ」

 

 思考が高速で回る。言葉ではわかっていないと言いながら 

 

 僕は、完全に解答を得てしまった。

 

 

……人肌のパン、良い匂い……それは、つまり

 

 

「……ベルさん」

 

「!」

 

 色っぽい声、艶やかな呼吸が事細かに聞こえてくる。

 

 固まって動けないでいる僕の手を掴み、シルさんはまた僕に

 

「……おかわりは、いりますか?」

 

「!!」

 

 もう一つのパン、人肌に温められ、最上の芳香を纏ったパン

 

 それは、僕の目のまえで、シルさんお胸の谷間から姿を現した。

 

「――――ッ!?」

 

 

 食べたパンは、シルさんのおっぱいに挟まれ、最上の調味を施された女神の一品だったのだ。

 

 

 

「言ったでしょ、暖かくて、精の付くものを食べましょうって……だから、これです」

 

 しっとりと、微かに湿り気を得て柔らかくなったパン、それ一口分千切り、僕の口元へ運ぶ。

 

 色香に揺さぶられ、まるで石化したように固まって動けない僕に、シルさんは

 

「!」

 

「ちゃんと、食べてください……よく噛んで、味わって」

 

 舌に乗るパン、込められた温度はどこまでも生々しく、そして味わいを甘露に変える。

 

 舌でパンを、つまんだ指からもシルさんの味を、その温度を感じ取ってしまう

 

「……ぁ、こく…………しる、さん」

 

 息が荒い、呼吸が乱れて体が熱い。

 

 どうして僕は朝からこんな、ダンジョンに行かないといけないのに、なのに今

 

「……もっと、召し上がりますか」

 

「―――ッ」

 

 意識がぼやける、お酒に酔ったような、どこか現実を離れた感覚に心が解けていく。

 

 溶ける、溶けた僕はどこに行くのか。不安で仕方ない、このままが嫌になる

 

「……しる、さん」

 

 ふらつく、体の芯が亡くなったようで、座ってすらいられない

 

「……ベルさん」

 

 

 

……むぎゅ、わふぅ

 

 

 

「……」

 

「すみません、すこしやりすぎてしまいました」

 

「…………ぁ」

 

 顔が暖かい、何かに包まれている。暖かくて、でもこの温度を僕は味わったことがある。包まれる。うちも外も暖かく

 

 溶けて、でもなぜか安心して、受け手止められて

 

 

「……ごめんなさい」

 

 

……なんで、謝って

 

 

「だって、あなたも悪いんです。他の皆と、あんなに進んで……だから、私も攻めてみました」

 

 

「――――」

 

 

「もう、聞こえてないですよね……ふふ、構いません。」

 

 

 

 

 

 

 

……いっぱい、味あわせたから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ちゃんと、教えてあげたから

 

 

 

 

 

 

…誰の胸が一番あなたに優しくて、暖かいか

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベルさん、私は待ってあげるけど……でも、いつかは」

 

 

 日が昇る。

 

 窓辺から伸びり陽光、それが照らす女神の姿。白髪の少年を胸に抱き、甘い言の葉を注いでくる彼女は

 

 目を疑ってしまう。息をのみ、同時に身をすくませるような美の出で立ちは、果たして真に人の範疇なのか

 

 

 

「絶対に、遅れは取らない……だから、早く気づいてね。じゃないと私」

 

 

 

 

 

……悪い娘に、なるかもしれないから

 

 

 

 

 

 

 

 




シル可愛いよね、良いヒロインだよね……悪いこと、スルハズガナイヨネ



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(7)犬とウサギは使いよう ナァーザ・エリスイス

タイトルは勢い、特に意味は無いです。あとたわわ縛り止めました


 ダンジョンに行く前の準備、この街に来て冒険者を始めて数日、僕はある神さまに呼び止められた。その名はミアハ様、神様の友神らしくその上とても人当たりのいいさわやかなイケメンである。街ですれ違っては、いつも僕にポーションをおすそ分けしてくれて、そんな神さまがいるから僕はずっとミアハの薬舗をひいきにしている。

 

 他にも探せば安い店もあるだろうけど、いつも良くしてくれるからこそ、礼には礼を尽くして通わなければいけない。

 店に行けば、そこではまたもミアハ様がいて、あの屈託のない笑顔で僕に優しく接してくる。良い隣人を持つこと、ミアハ様の口癖だけど、本当にそう思う。

 

 良い隣人、人との縁をつなぐことは大事。

 

 だから、この人とも、僕は

 

 

 

  

 

 

「……いらっしゃい、ベル」

 

 力の無い、ふわりとした印象の声。戸を開け、カランと鈴がなると。奥からその人は姿を現した。

 

「はい、ナァーザさん」

 

 出迎えてくれるのはおっとりとした犬耳、シアンの女性。名をナァーザ・エリスイス。ミアハファミリア唯一の団員で、本人曰くこの店の看板娘とか

 

 いつも眠そうな顔で、けど柔らかい印象とは逆に中身はしっかりしていて。主にその点は

 

 

 

「……あの」

 

「ん、どうしたかな」

 

「これ、ポーション頼んだのに……一瓶だけ色が」

 

「うん、さすがよく気が付いたね。ハイポーション、今朝作ったばっかり、鮮度は良いよ保証する」

 

 野菜や魚じゃないのだから、鮮度もなにもないはずでは

 

「いらない?でも必要だよ。前にも助かったんでしょ、なら一つや二つは持っておかないと」

 

 前にシルバーバックに襲われた時のことを言っているのだろうか

 

「……えっと、でも今日は本当にポーションだけで」

 

「じゃあ、今なら3割引き。ハイポーション一つが3割引き、これはお得」

 

「あ、それなら買えて……いや、でも無駄遣いは」

 

「無駄じゃない。ベルは、頑張ってる。頑張るベルにはこれが必要。ね、助けると思って、勝ってくれたらこれからもサービスするから」

 

「……」

 

 駄目だ駄目だとはわかっている。でも、この独特なトーンで畳みかけられて、その上時たまに視線を合わせてこちらを焦らしてくるのだから

 

 

「……ッ」

 

 

 

 

 

……すっ

 

 

 

 

「毎度あり、良い買い物したよ。」

 

「うぅ……はい、ありがとうございます」

 

 買ってしまう。言いくるめられている自覚はあるけど、結局は買ってしまう

 

「うん、これで売れ残りは消化……ベル、ちょっとおいで」

 

「え、さっき今朝作ったって……って、あの」

 

 カウンターから身を乗り出し、そのまま僕の肩を掴み、首まで手を回し、引き寄せられて

 

「そ、もっとこっち。カウンターに、頭下げて……よし」

 

 

……ふわ、くしゃ

 

 

「!」

 

 髪に触れる五指の感触。側頭部を支え、上から後頭部をゆっくりと撫でる手つき

 

 そう、撫でられているカウンターの上で前のめりになって、僕はナァーザさんにされるがままだ。この態勢、何がまずいかというと、顔が、額のすぐそばにナァーザさんのあれが

 

 

……ナァーザさん、着やせするんだ

 

 

「……見てる、エッチ」

 

「うぅ」

 

「そっちは別料金だよ。ほら、目をつぶって、ちゃんと集中して」

 

 

……くしゃ、かりかり……ぞぞ、さわ

 

 慣れた行為、ナァーザさんは撫でるのが旨い。だから、あれ……どうして、いつも

 

「15、14、13………三割引きだから、今日は30秒……言ったでしょ、サービスだよ」

 

「……それは、あぁ……ぅ」

 

「はいはい、抵抗しないで……お姉さんに身をゆだねて……うん、もう少し触ってあげる。人目も無いしね」

 

「……ッ」

 

 固定される頭。決して力は込められていないのに、ただ撫でられているだけで肉体は素直に、与えられる安心感に喜んでしまう。

 

 動かない、音だけが響く。自分の髪がこすれてさらつく音が、ナァーザさんの手のひらの感触が

 

「……なぁーざ、さん」

 

「はい、これで終わり」

 

「……へ」

 

 離れる手、頭に残る感覚がわびしく感じる。

 

「ベル、もう終わり……甘えん坊は可愛いけど、しっかりもしないとダメだよ」

 

「え、あの……あぁ、すみません」

 

 恥じらい、顔が染まる。そんな姿をナァーザさんは楽し気に見て小さく口角を上げる。

 

「ベルは可愛いね」

 

「な、ナァーザさん」

 

 可愛がられて、結局はからかわれる。優しいようで、おっとりしているようで抜け目がない。侮れない人、それがナァーザさんだ

 

 

「無くなったら、また買いに来ておいで……ベルの嬉しいサービス、欲しいなら考えてあげてもいいよ」

 

「……でも、また色々と買わされるんですね」

 

 これまでも、そしてこれからも、恐らくは良いように振り回されているのだろうけど、それでも変えようがないのはこの人がすごく僕の壺を、御し方を心得ているからだろう。

 

「今まで、それで後悔したことあるのかな?……ほら、撫でられてるときはじっとして、静かに…………ベルは、いい子いい子されるのは嫌いなのかな?」

 

「……」

 

「ほら、やっぱり素直ないい子。また来てね、待ってるから」

 

「……はい」

 

 買ったポーションをホルダーにしまい、僕は深々と礼を下げた。

 

 店を去る。色々あるけど、これからも付き合いは続くし、なら割り切って楽しみにしても、罰は渡らないはずだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中層の激動的な事件、無事帰還を果たして数日

 

 僕は、再びナァーザさんと会った。いや、正確には呼び出されたのだ。

 

「!」

 

 いた、待ち合わせの場所。手紙に記された場所、時計塔がある小さな広場。そこのベンチでナァーザさんはいた。

 

 いつもと変わらず、対照的な袖のローブを纏った姿。僕の姿を見ると、柔らかく微笑み軽く手を振る。余裕のあるお姉さんの出で立ち、綺麗な容姿に心がドキッとなって、少し震えた。

 

「ベル、お帰り」

 

「え、あぁ……はい、そうですね。ただいま、ですね」

 

 地上に戻ってから会うのは初。傍まで近づくと、横に座りなさいと手で招く。

 

「……ぁ、えっと」

 

「ベル、それじゃだめ」

 

「?」

 

「ほら、ここ」

 

「へ……アッ」

 

 肩を引き寄せられて、そのまま膝の上に後頭部を預けて仰向けに。下から見上げるのはナァーザさんの尊顔……あとは、あまり注視してはいけない箇所だ。

 

 

……ナァーザさん、すごく大きい

 

 

 いつも分厚く着重ねしたコーデの為、あまりその全容を知る由が無かった、ざっくりと大きい事実だけは理解できた。でも、今の服は半袖のシャツで、生地は胸の膨らみを押さえつけはしない。膨らみは布を持ち上げて、下から見上げればそのボリューム感は一目瞭然だ

 

「あの、これは」

 

「膝枕、嫌い?」

 

「いえ、嫌いじゃ……でもなんで」

 

「……なんで、かな」

 

 こっちの疑問も、ナァーザさんはいつもの調子で受け流すだけ。淡く笑みを浮かべて、静かに、そっとやさしく触れるだけ。

 

 前髪を軽く払い、そのままの手で僕の顔に触る。手の平が頬を撫で、指先が首をさわさわとくすぐる。

 

「ベル、恥ずかしいの?」

 

「……だって、こんなこと」

 

「いいの、何も気にしないでいい。ここ、あまり人は来ないし、それに見られても別に変じゃない。仲のいい姉弟がいるって思われるぐらい」

 

「それは……それで普通に恥ずかしい気が」

 

「……なら、止めようか」

 

「それは……その」

 

「冗談、止めないよ。それに、私だって止めたくない」

 

 恩返し、しきれてないから……と

 

「ベル、騙してたこと、本当にごめん」

 

「それは……もう、気にしないでください。もう、終わったことですし……それに、ナァーザさんにも事情が……って、あの、聞いてます?」

 

 顔を触られている。手袋をした手で、頬や首回り、額に鼻と、表情をぐにぐにと弄るようにナァーザさんは触れてくる。

 

「うん、聞いてる」

 

「あ、そこ……ナァーザさん」

 

「……でも、償いは止めない。中層のことを聞いて、やっぱりベルにしたこと、私はいけないって考えたから。」

 

「そんな……別に」

 

 気にしなくていい、ナァーザさんが過去にしでかしたことはもう気にもとどめていない。水増しの件は確かに悪いことだけど、でもその件は既に終わったことだ。

 

 ナァーザさんとの関係、これからも良い隣人でいたいと思うのは僕の本心だ。だから  

 

「なんで、ナァーザさんはもう十分に」

 

「謝った……うん、そうだよね。でも、これはちょっと違う。」

 

「へ……あっ」

 

 ナァーザさんの顔が降りる。胸を押さえて、顔を見せて視線を合わせる。

 

 

 

「ねぎらいたいから……それじゃあ、ダメなの?」

 

「!」

 

「私は、手を貸せなかった。ダンジョンに潜れないから、ベルを迎えに行くことができなかった……救出隊に加われなかったこと、今も後悔してる。」

 

「……それは、でも」

 

「できないから仕方ない、そう諦めるのは嫌。君を騙した私を、ベルは許してくれたから、それはとても返しきれない恩。だから、この恩は返さないと」

 

 

……する、くしゅ

 

 

「ぁ……ナァーザさん」

 

 撫でる手つきが変わった。膝に寝かして、胸をポンポンと叩いてくれながら、空いた手は髪を掻き分け頭皮をこする。義手の手で頭を撫でて、作り物とは思えないぐらいに撫でる手つきは優しく穏やかに、だから力が抜けてしまう。ナァーザさんの手の優しさを感じながら、次第に体は力が抜けて、淡く眠気すら起こってくる。

 

「?」

 

 

……なんだろう、甘い匂い……ナァーザさんから

 

 

「気にしないでいい、リラックスできる効能の香水だから。ほら、もっと体重を預けて。力を抜いて」

 

「……はい」

 

「頑張った……ベルは、いっぱい頑張った」

 

 繰り返す言葉、流し目の優しいまなざしで僕に微笑んで、甘い言葉を上から振りまく。

 

「ちゃんと、帰ってきてくれた。ベルは、すごく頑張った。それは褒められること、ベルはすごく偉い、よくできました。だから…………ベルは、いい子」

 

 甘く優しい言葉が降ってくる。吐息の音を交えて、優しく耳に降りてくるのだ。ナァーザさんの声、いつものスローで落ち着いた甘い声

 

 僕の頭を撫でて、その上で優しく囁いてくれたナァーザさんの声

 

 

「……ッ」

 

 

「寝返り、もう少しこっちに……そう」

 

 引き寄せられる。体を横に、僕は何か柔らかくて暖かい布に顔をうずめた。

 

 おそらく、ナァーザさんが来ていた服。毛布に顔をうずめたように、心地い気分に体が変わっていく。

 

 

 

……ナァーザさん

 

 

 

 体を右向きに、僕は今ナァーザさんのお腹に顔を向けている。ナァーザさんのお腹に顔をうずめて、狭く暗い空間で息を静かに繰り返す。

 

 頭の横には柔らかい感触。ナァーザさんが今どんな態勢で、その上僕の頭を抱えていることで、どんな姿をしているか。しかとそれを理解した。

 

「ベルが、いつも見てたから」

 

「……」

 

「よく頑張ったね……だから、目いっぱいサービス。騙しなんて欠片もない、100%ほんとの気持ちだから……安心、してね」

 

「……ぁ、んん」

 

「いいよ、眠くなったなら寝ていいから……お姉さんの柔らかいサービス、遠慮しないで、貰って欲しいから」

 

「……ふぁ、ん……ぁぃ」

 

「うん、素直だね……ベルは甘えん坊だね。だから、いい子だね」

 

 吐息混じる、優しい囁き。考えは虚ろに、何もしなくなくなって……心が、溶けて

 

 

……もう、ダメ

 

 

「……すぅ」

 

「ふふ、寝ちゃった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後も、ナァーザさんは僕との日々は依然変わらず、ミアハ様の言葉を借りるなら、それは良き隣人というべき関係が続いている。

 

 道具を売る側と買う側、だけどそこにほんの少し特別なふれあい。子ども扱い、甘やかされ、きっと他人から見られれば情けないと謗られるのだろう。でも、それをわかっていてなお僕は拒めない。拒みたくない。

 

 照れくさくて、人には言えない恥ずかしい秘密。ミアハ様も知らない、僕とナァーザさんのちょっとした秘密の関係

 

 

 

 

 

 

  




ナァーザさんは良いものをお持ちで、ケヒトの湯の話で見せた姿はとてもたわわ、公式から提供はありがたい。


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(8)観察日記 きょうのベルくん 

タイトル通りです。6人分のエピソードを纏めてますので、なのでちよっと長めです。


AM.05:00

 

 

「……ッ」

 

 ベル・クラネルの朝は健康的に始まる。早寝早起きは三文の徳、昔の人は上手いことを言ったものだ

 

 ただ、その言葉の意味は正しくもあるけど、現実に起こる徳、それははたして

 

 

「べぇるくぅん……えへへ」

 

 

 

……ぎゅむぅ、ぎゅぎゅ

 

 

 

「――――ッ」

 

 

 果たして、それは三文程度の小銭で済むと言えるだろうか

 

 

……神様、また

 

 

 毎朝の早起き、健康的な習慣からそれは出来ているかと聞かれれば、多分少し違う。

 

 神様と僕は別の場所で寝ているはずなのに、気づけば僕は神様と同じベッドで寝ていて、朝になる頃にはどうしてか僕は掴まって抱き枕に

 

 そしてそのご立派なクッションに顔を塞がれて

 

 

「はぁ……また、神様……わぷ」

 

 息が苦しくて、ちょっと危ないところで目が覚める。

 

 

 

……ほんとうに、いつか、死ぬかもッ

 

 

 

「うぅ……さむいよ、温めておくれよ」

 

「……ッ」

 

 息ができない。余すことなく柔らかいたわわの前に、僕の呼吸は封じられる。

 

 幸せな体験だけど、幸せが過ぎてこれでは天国に行ってしまう。

 

 そして、この幸せからも抜け出ないと、僕はこの状態からどうにか神さまを剥がさないといけない。

 

 

……剥がして、でも

 

 

 おそるおそる、手を伸ばして掴むは神様の腕。服の上から触れるけど、指が皮膚を押し込む感覚は柔らかくて暖かくて、言ってしまえば生々しい

 

 

「あまり、考えないように……神様、ごめんなさい」

 

 謝罪を口にしながら、ベルは少しずつヘスティアの抱きしめをほどいていく。顔から離れる乳房の感触に名残惜しさを覚えながら、ベルは少しずつ、少しずつ

 

「……うぅ、さむいよぉ」

 

 

……ごろんッ

 

 

「へ……あぁアアッ!??!?」

 

 

 引き込まれた。神様の腕が僕の首に絡み、そのまま僕を連れさて寝返り

 

 その地さな体のどこにそんな力があるのか、神様に引きずられて、僕たちは

 

 

「ぐはッ!」

 

「……んっ」

 

 僕は、神様の下敷きになって、床に体を打ち付けました。頭が痛い、でもそれ以上に

 

「あれ、ベルくん……ありゃ、僕ってばベッドから転げ落ちてるよ。ほわ、おはよう」

 

「か、神様……その、こんな状況ですけど、おはようございます。あと、できれば」

 

 どいて欲しい、けど

 

「うぅん……ベル君のベッド。もう少し、んっ」

 

……ぱふぅ、もにゅり

 

「!」

 

「朝は、寒いんだ……もうすこし、おやすみなさい」

 

「――――ッ」

 

 またも襲い掛かる柔らかさの暴力。

 

 良い匂いが脳をとろかして、ぬるま湯のような暖かさは体の力を奪って行く。

 

 

「……ッ」

 

 

……起きないと、アイズさんの待ち合わせ、遅れるのにッ!

 

 

 

 

 

 

 

AM.06:00

 

 

 

 

 

 早朝、アイズさんと会う。目的は訓練、だけどそれは今までとは少し違う。

 

 アイズさん曰く、これは男女の関係についての研究、僕がどきどきして戸惑わないように、それとアイズさん自身の好奇心を埋めるため

 

 とまあ、理屈は立てたけど、たぶん理由の十割は最後だ。

 

 

 

 

 

「今日の訓練は手をつなぐこと。ベル、手を出して」

 

「は、はい」

 

 早朝、僕は城壁の上でアイズさんの手を握る。昇る朝日をバックにしたこの光景はさぞ映えるものなのだろう。

 

 

……よかった、わりかし普通のことで

 

 

「ベルの手、意外と大きいね」

 

「……は、はいッ」

 

 変な抑揚で声が出た。握った手、とわいえ意中の異性に触れていることには変わりない。

 

 

……アイズさんの手、柔らかい

 

 

 ドキドキしてしまう、握手の距離というのも中々巧妙で、すぐ近くにその美しい尊顔があると

 

「……ベル」

 

「!」

 

「なんで、よそ見」

 

「……ご、ご勘弁を」

 

「ふうん……そう」

 

 

……なんで残念そうに、そんなに僕の顔を見ても面白くないのに

 

 

「……手、大丈夫だね。うん、男女の勉強、取り合えずいい感じかな」

 

 

……ベルのドキドキした顔、ちゃんと見たかった。そらさないで欲しいな

 

 

 

 朴念仁の片思い、対面の相手も関心があるくせに天然気質、どこか歪で効率の悪い、だがそれ故に

 

 

「ベル、もう少し試すね」

 

 アイズは無自覚に、大胆な行動で少年にアタックを仕掛ける。

 

「え、アイズさん?」

 

 握った手は離さず、そのままアイズはもう一方の手を取る

 

 向かい合ったまま、合わせて手を握り合う姿、まさに恋人同士にのみ許される恋人繋ぎ、その意味をよく考えないままにアイズは実行した。

 

「ひゃッ!」

 

「……ベル、ドキドキする?」

 

 迫る、両の手を封じられ、更には間を詰めてアイズはベルを追い詰めてくる。

 

 好奇心に動かされて、顔を背けるベルに対して迫っていく姿はまるでキスをせがむ伴侶にも見えるだろう。

 

 

 だが、そんな暢気なことはベルには浮かべる余裕などない。良い匂いで、目がとてもきれいで

 

「あ、アイズさんッ……あた、あたって」

 

「……当ててる」

 

「なんで!」

 

「……」

 

 

……むにゅ、ぱふ

 

 

「!」

 

 好奇心が止まらない、そんなお年頃アイズに振り回されて、ベルの朝の日課は過ぎていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM.07:40

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベルさん、これ今日のお弁当です」

 

「はい、ありがとうございます。シルさん」

 

 アイズとの訓練、かっこと意味深が付くその内容は決して人には言えない。当然、目の前の子の令嬢にも

 

「ベルさん、何か疲れてるみたいですけど」

 

「えっと、特訓がありまして……あはは」

 

「あまり、無理をなさらないでくださいね。怪我なんてしたら、私心配で倒れちゃいます」

 

 しなをつくって、あざとい演技が胸をゆさぶる。

 

 シルさんらしい、この人の振る舞いは実に愛らしくて、油断はできない。

 

「……えっと、じゃあそろそろ行きますね」

 

 弁当をバックに詰めて、僕は少し急ぎ足で去ろうとする。

 

 不思議だ。どうしてか、最近シルさんを見ると胸がおかしくなる。ドキドキするのはいつものことだけど、何かいけないことそしているような

 

 

 

……あの日、なんだかよく覚えていない

 

 

 

 少し前、シルさんに会った日に僕は疲れから眠ってしまい、起きるまで店の中で介抱されていたことがあった。

 

 頑張りすぎだって言われて、シルさんの言葉を信じて僕はそう納得した。

 僕は自分の体調を気遣うことに決めた一方で、心のどこかで少し疑問が残っていた。

 

 そしてそれはシルさんに会うたびに大きくなって、心の中でつっかえてくる。

 

 あの日、僕はシルさんに、何かをされたんじゃ

 

 

「……ベルさん、ベルさん!」

 

「!」

 

「まって、ください……もう、そんなに急がなくても」

 

「え、あぁ……シルさ、むぐっ」

 

 振り返った瞬間、僕の口に何かが押し込まれた。

 

 柔らかく、少し暖かい。どこか牛乳のような優しい香りがする白パン

 

 

「ごはん、食べないとダメですよ」

 

「……ん、あむ……はい、でも今朝はちゃんと」

 

「私、これからは朝ごはんも用意してあげます。特訓の後なんですから、お腹空くはずですよね」

 

「……」

 

 手に持った食べかけのパン、シルさんとパンを交互に見て、少し考えて

 

「……はむ」

 

「ふふ、決まりですね……あ、お代わりあるから言ってくださいね」

 

「……ふぁい」

 

 空腹、今日は別に体を動かしたわけじゃないけど、なんだか色々と持ってかれてカロリーも消費している気がする。

 

 シルさんのパン、手作りなのかいつも食べてる味とは何かが違う、暖かいし、表面も少し味が付いていて

 

 

「どうですか、おいしいですか?わたしの……パンは」

 

「……は、はい。その、とても」

 

「ふふ、やったぁ」

 

 シルさんが笑う。屈託のない花のような笑みに、つい羞恥で視線が逸れてしまう。

 

「……」

 

 

 

……でも、このパン。本当にどうやって作ってるのかな

 

 

 

「おかわり、言ってくださいね。もう一つ、もう温めちゃってますから」

 

 

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM.00:00

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リリ、ポーション貰えるかな?」

 

「はい!」

 

 ダンジョンの中、僕は傷を押さえて壁に腰掛けている。

 

 ちょっとした油断。けど、それは手痛い負傷という、忘れてはいけない反省の証を残している。

 

 

……前に出過ぎた、かな……リリに、かっこ悪い所、見せちゃったかな

 

 

「……痛みますか、ベル様?」

 

「ううん、でも染みるね……うん、大丈夫だよ」

 

 服が破けて、剥き出しになった裂傷にポーションが染みて痛い。戦いのさなかなら興奮であまり気にならないのだろうけど、こうして傷の治療となると痛みはひとしお強く感じてしまう気がする。

 

「……」

 

「リリ、怒らないの?」

 

 黙々と治療をしてくれるリリ、さっきのことで小言を貰う覚悟でいたけど、リリは何も言おうとはしない。

 

「なんですか、怒って欲しいのですか?」

 

「……いや、そういうわけじゃ。でも、失敗したから」

 

「そうですね、でも……ベル様は反省しているのでしょ。」

 

「……」

 

「なら、リリから言えることはありません」

 

 これでよし、そう言って包帯の帯を断ち切った。

 

 傷の処理は終わり。これでまた冒険に戻れる。気持ちも切り替えて、立ち上がろうとしたその時

 

「!」

 

「よしよし……痛くない痛くない」

 

 抱きしめられた顔、僕の顔は覚えのある柔らかい感触に包まれる。ローブ越しの厚めの布でも、その弾力と豊満さはよく

 

「……リリ、もしかしてこれ」

 

「ええ、また仕込んでます。安心してください、ただのパットですから」

 

「……う、うん。でもなんで」

 

「リリはベル様を怒りません。ですが、慰めないとは言っていませんから」

 

「……それは、そうだけど」

 

「そろそろお昼時ですし、少し休憩にしましょう。ほら、リリが疲れを取ってあげますから、この胸に甘えてください。大丈夫ですよ、だってこれは、ただのパッドですから」

 

「……」

 

 強引ともいえるリリの行動、リアクションを取って跳ね除けて、それで気丈に振舞うべきなのだろうけど。

 

 

……だめだ、こうされると、やっぱり弱いや

 

 

「リリ、いくらその……パッドでも」

 

「ふんふ~ん……ベル様、ベル様」

 

「……」

 

 夢中で撫でる手を止めない。自分よりも背も低い異性にまるで母親のごとく甘やかされる。リリと僕だけの時になると、時折こうしたことが起きる。

 

 たぶん、欲は無いと理解している。でも、なんでか抗えない

 

 

 

……ぱっど、だっけ?

 

 

「……でも、暖かくて、柔らかくて、落ち着く」

 

「ええ、まるで本物みたいな……ベルさまの大好きな、大きい乳房のよう」

 

「……ねえ、これって本当に」

 

「ええ、パッドです。だから、枕に顔を埋めているのと変わりません」

 

「……そう」

 

 力を抜き、一層胸に顔を埋める。谷間に吐息を吐いて、リリの熱を吸い込む。

 

 呼吸が落ち着く。不思議と、傷の痛みも和らいでくる。

 

「ベル様、二人きりですからね……お気になさらず、リリに甘えてください。いっぱい、サポートしてあげますから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM.05:30

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、これが今日の稼ぎです。頑張ってるね、えらいえらい」

 

「……エイナさん」

 

 場所は変わってギルド。どうしてかいつもの換金所じゃない。講義の時に使う応接室で、僕はエイナさんと二人横並びに座っている。

 

「……あの、今日って講義は」

 

「聞いたよ、今日ケガしたって……だから、もう一度知識の再確認。アーデさん、優しいからあなたに甘やかすだけで、怒ったりはしなかったでしょ」

 

「……それは、はい」

 

「だから、飴の分の鞭は私のお仕事。さ、集中してね。今日はそんなに時間は無いんだから」

 

「……ッ」

 

 熱血気味にエイナさんは迫ってくる。それはいい、言ってることは確かだし、僕も今日のことを反省して復習はするべきと思っていた。だけど

 

 今は、そのことよりも

 

 

「あの、エイナさん」

 

「なにかな、ベル君?」

 

「……いえ、なにも」

 

 エイナさんはずっと笑顔だ。ここにきてからずっと、エイナさんはニコニコと笑顔を耐えない。

 

 だから、ちょっと怖い。

 

 

……怒ってる、のかな。僕、何かしたのかな

 

 

「……ベル君、君ねぇ」

 

「は、はい!」

 

 すっとんきょうな返事が出る。いったい何が待っているのか、覚悟を決めて僕はエイナさんを

 

 

 

「…………えい!」

 

 

……むぎゅぅ

 

 

 

「ふぇ?」

 

 身構えて、そんな僕に待ち受けていたのはとても大胆なエイナさん。

 

 抱き締められた。顔に押し付けられる感触はエイナさんのそれ、僕はすぐ理解した。

 

 

 

……おっぱいの感触、もう覚えちゃった

 

 

 

「ねえ、ベル君…………最近さ、君の回り」

 

 優しい拘束、でも声色は優しいまま、エイナさんは僕に続けて唱えた。

 

 

 

 

……最近、君の回り、大きい女の子増えてない?

 

 

 

「!」

 

「ま、それはいいの。もう仕方ないし、ベル君をみて母性が刺激されない女の人はいないしね。」

 

 でもね、と

 

「だけどね、私だって女の子だよ。だから、他の娘に負けたくないの。君に魅力的だって思われたい…………でも、おっぱいの大きい、優しいエイナお姉さん、ってだけじゃ弱いのかな?」

 

「…………」

 

 悩みながらも、打ち明けながらもエイナさんは僕を捕まえて離さない。柔らかさ、暖かさ、どれをとっても魅力的で、何よりこれはエイナさんにしかない魅力だから。だから決して劣るとかの判断は当てはまらない。 

 

 そう、口にして言いたい。けど、胸で、口がモゴモゴして

 

 

……しゃ、喋れない!

 

 

「だから、さ…………ベル君に対して少しアプローチを変えてみよっかなって」

 

 

「へ………エイナさん何を、ひゃ!?」

 

 

 抱き締める力が強く、その上でエイナさんは大きく動いた。ソファの上、動揺して身動きできない僕に、この人は

 

 

「………い、いたッ!」

 

 

 与えた。それは痛み、感じたのは紛れもなく痛みだ。

 

 けど、その方法は

 

 

 

「んっ…………ンんっ!」

 

「ひぁ、だめ、えいなしゃん…………ぁ、はぅ」

 

 力が抜ける、吸いとられる。

 

 首筋、鎖骨の部分の柔らかい皮膚、エイナさんの唇が強く張り付いて、それが痛い。

 

 痛み、でも何かおかしい。

 

 胸の奥が沸騰したみたく熱くなって、その感覚がドキドキなんだと理解するまでに時間がかかった。

 

 エイナさんの行為、首根っこに付けられる何か。

 

 

……え、エイナさんの、キス?

 

 

 

 

「…………ぷはっ!はぁ、ふぅ…………ふうぅ」

 

 呼吸を見出し、顔を染めたエイナ。ベルの首に着けた痣模様を見て、満足そうに笑みを浮かべる。

 

 

 強く刻まれたキスの跡、指でなぞりながらベルは問うてみる。

 

 

「な、なんで…………こんな」

 

「ふふ、ちょっとしたいじわる、かな。でも、抵抗しなかったよね。」

 

「……ッ」

 

「あはは、ほんとそういうところが可愛いんだから。うん、今日はもう講義は無し。いっぱい撫で撫でしてあまやかしてあげる。痛くしたぶんは、ちゃんとかえしてあげるから、ね」

 

 

「…………」

 

 異論反論、思い付く言葉はいくらでもある。でも

 

「……抱き締めて、ください」

 

「うん、いいよ」

 

 拒めない。ベルは静かに、誘われるままにエイナの胸に顔を預ける。

 いっそ、キスのついでに骨でも抜けたのかと、本気で疑ってしまう。そんなベルだった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM.08:00

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋台街で適当に惣菜を購入した。今日はもう、酒場に赴く体力はない。まっすぐ帰路につく、そんな道中。

 

 

……遅く、なっちゃった。帰らないと、でも

 

 

 エイナさんの元を離れて、僕は帰路につく前に在る場所へ赴く。今日は傷のこともあってポーションを減らした。だから、ナァーザさんお店に買い付けに訪れた。

 

 店前で出迎えたのはミアハ様。呼びかけられ少し早足で向かう

 

 

「ベル、今日遅いのだな。危うく、店を閉める所だったぞ」

 

「はい、ミアハ様……って、それは」

 

「うむ、いつものおすそわけだ。こういうことは続けてこそ「あの、後ろを見た方が」……む、どうしたというのだいったい」

 

 

……ゴゴゴゴゴッ ←金を払えと訴えるプレッシャー

 

 

「ナァーザさん…………はい、そうですよね。」

 

「ん?」

 

 店の奥から漏れるナニカ、ナァーザさんが耳をとがらせてミアハ様の甘い行動に厳しく取り締まる。

 

「ミアハ様、お店に来たんですから、ちゃんと買わせていただきます。では」

 

「……う、うむ」

 

 いそいそと店に駆け込み、僕はバリスを出していつもの注文を取る。

 

「……今日、遅かったね。なに、してたの?」

 

「あ、その…………まあ講義のようなことを」

 

「……それで、キスマーク?」

 

「!?」

 

「だいたい察しがつくね。いいよ、聞かないでおいてあげる」

 

「……すみません」

 

「謝らないで良いのに。で、今日はどうするの、道具、買うんでしょ」

 

「……はい、じゃぁ」

 

 他愛ない会話を挟み、僕は必要な道具を交渉する。

 

 最近、こういう買い物の際にするべき交渉の仕方、正しい物の買い方というのを教わった

 

 そう、この目の前にいる人、ナァーザさん本人からだ。

 

 あの日、中層から帰還して、すっかりナァーザさんの印象は変わった。

 

 

「ふふ」

 

「!」

 

「なんでもないよ、ベルの顔が可愛かっただけ。」

 

「……ッ」

 

「今日も、いっぱい揉まれたんだね、女の子に…………でも、もしかして揉む側だったり」

 

 手を前に出して、自分の胸を揉んで見せる

 

 目を背けて顔を真っ赤にしてしまう。そんな僕を見て、ナァーザさんは楽しげに微笑む

 

 

……本当に、変わったよね。ナァーザさん

 

 

 広場で僕に癒しをくれた日から、ナァーザさんは僕に対して少しだけ特別な接し方をしてくれる。他のお客には見せない、年上の、優しいお姉さんの振る舞いを見せてくれる。

 

 そして、見せてくれるだげじゃなく、その上で

 

 

「…………ベル」

 

「!」

 

「どうしたの、ボケってしちゃって。ほら、ちゃんと買ったものを確認して」

 

「……はい」

 

 指示された通り、僕は購入した。ポーションや各種道具類を一つ一つ目を通す。でも、あまり集中はしていない。

 

 ずっと、ひとつのことばかりで

 

 

「…………あの、今日は「これ、ポーションの詰め合わせ。空き瓶も回収するから、出して」

 

「…………はい」

 

 受け取った商品をポーチに入れて、使用して空き瓶になったガラスをまとめて手渡す。

 

 

……やっぱり、今日はもう

 

 

 店の外ではミアハ様が通行人に呼びかけをしている。だから、今日のナァーザさんは

 

 

「……その、やっぱり今日は無いんですか?」

 

「……」

 

 意を決っし思ったことを聞いてみる。でも、反応はスルー

 

「……その、すみません。あ、お金これ……はい、また来ます。では」

 

 粛々とやり取りが終わる。空回りみたいで、なまじ期待していたから、どこか恥ずかしくていたたまれない。

 

 

……でも、して欲しい

 

 

 求めるのはあの日の延長。お店に来て、こうしてカウンターを隔てる距離で、僕はこの人のサービスを求めてしまう。

 

 頭を撫でて欲しい。優しい言葉を、そのふんわりとした気持ちのいい声で囁いて欲しい

 

 ナァーザお姉さんの感触を、ほんの少しでいいから感じ取りたい。

 

 

……でも、わがままだよね。これ以上は

 

 

「失礼します、ナァーザさん」

 

 今日は諦めよう。そう思い、出口へと足を

 

「……ベル」

 

「!」

 

 呼び声、僕の心は一気に奮え立つ。

 

 体がちぎれんばかりに、素早く振り返るとそこには

 

「忘れ物、受け取って」

 

「へっ」

 

 指でくいっと、服を引っ張られ体が傾く

 

 頭が何かに受け止められた。柔らかくて、でも弾力もある、この世で最もやさしいクッション

 

 

 

「!!」

 

 

「もう、こけたら危ないよ……ほら、もう行きなさい」

 

 手に握らされた何か、けど

 

「……は、はい」

 

 受け答え、でも妙に頭が沸騰して返事はおぼつかない。

 

「おや、ベルよそなた疲れておるのか?」

 

「そうみたい、フラってしたのを受け止めた。ベル、今日はもう帰りなさい。ね」

 

「はは、ナァーザは良い隣人だな。ベル、ではまた明日に」

 

 

 

 

    ×    ×    ×

 

 

 

 

 ふらふらと、どこか頼りない足取りで道を行く。

 

「……ナァーザさん」

 

 一瞬、受け止められたあの時。僕の額に何かが触れた

 

 僕の顔はナァーザさんの胸に埋もれていた。だから、触れたのはきっと

 

 

……ナァーザさんの唇

 

 

「!」

 

 

 真っ赤になったベルの顔、一心不乱に走って帰路につく。

 

 ホームについて、一人冷静になって荷物の整理をしたさい、またも仕掛けはあった。

 

「?」

 

 手渡されたハンカチ、ポケットに押し込んでいたのを今ホームで就寝前にベルは開いた。

 

 底にあったのは短い文章が書かれた手紙。コイネ―で記されたメッセージとは

 

 

 

 

 

……明日、ミアハ様は用事でいないから

 

 

 

……だから、またお店に来たら今度こそ二人きり

 

 

 

……もっとイイコトしてあげる。お姉さんの優しいサービス、ベルにしてあげる

 

 

 

……良い子にしててね、愛してる…………なんて、ね

 

 

 

 

「――――ッ」

 

 

 

 その夜、ベルは悶々とした気持ちを押さえられず、結果翌朝に寝坊をするのだった。

 

 一日は終わる。そしてまた、ベル・クラネルの一日は始まるのだ。

 

 

 

 

 明日から出会うお姉さんは、いったいどんな人だろうか

 

 

 

 

PM.11:00  就寝

 

 

 

 きょうもベルくんはみんなにモテモテ、よかったね、べルくん!

 

 

……チャンチャン

 

 

 




次回の投稿ですが、予定では来月以降に、またしばらくしてからになります。

目次で説明してるように、たわわ以外にもいろんな内容をやってみるつもりです。どんな内容で誰をネタにするか、そのあたりもじっくりと、感想やリクエストボックスを見返しながら考えていきたいと思っています。

それではまた来月に


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(9)恨むも何も、初めから許していました ヤマト・命

久々の投稿、本家の方に夢中でちょっと忘れていました。申し訳ない




 教会の地下で寝泊まりしていたのはもう過去の話。引っ越したこの新居は空調装置完備で、個室も十分広く庭だってついている。でも、新しくなったものといえば、比べてしまうのはやはりここ

 

 

 

……カポーン

 

 

 

「ほっ」

 

 お風呂だ。なんだかんだ念願だった、ホーム備え付きの自由に使える浴室だ。

 

 暖かい湯気、暖かい床板。温かいということがとてつもなくありがたい。前のホームではシャワーだけで、古い給湯機だったからお湯が出るのに時間がかかったし、何よりぬるかった。

 

 でも、今僕がいるここはどうだ。新しく仲間になったあの人のおかげで、ここはとっても良いもので、なんせ

 

「だって、このお風呂は命」

 

 

 

 

 

 

『……ぁ、きもちいぃ』

 

 

 

 

 

 

 

「……さんが」

 

 作ってくれた、極東風の檜のお風呂。広々といた浴場は開放的で、自由に手足を伸ばして湯に浸かるのはさぞ気持ちのいいこと。今僕の目のまえにいるこの人のように、艶いった声で独り言つるぐらいには、そうなのだ。

 

 湯気に混じる安らぎの香、風情漂うお風呂を堪能するには、隣に寄り添う極東美人の存在が欠かせない、と前向きに考えればいいのだろうか。

 

「……えっと」

 

 しかし、自分にはそんな破滅的な楽観さは無いし。見るべきは、この状況への分析だ。

 

 スムーズに後ろを向いて、呼吸を整え状況を確認。男湯の暖簾をくぐって、男湯で見慣れた脱衣所を通って、今浴室に来たのだ。なら、ここは

 

 

……命さん、どうして男湯に

 

 

 出会って、そして寝床を共にするようになって、まだ日は浅い方だ。人の趣味は人それぞれ、深く言及して良いことはない。

 

 

「……ぼ、ぼくは……なにもみていない、です。お風呂は、またあとで」

 

 

「!」

 

 

 棒読みなセリフを吐いて、出来る限り早くこの場を去ろうとする。そんな僕を

 

 

 

 

「ま、待ってください!!」

 

「ヘっ?」

 

 声の大きさに思わず振り向いてしまった。すると、そこに在るのは二つの大きな果実

 

 そしてすぐ暗転。湯で温められたそれは、しっとりと顔を包み込んでなんともいえない

 

 

 

……ガツンッ!!

 

 

 

「アガッ」

 

 そう、なんとも言えない、というよりは痛みに悶絶して声も出せないような心地で、というか、うん

 

 

「べ、ベル殿! どうか気を確かに!ベル殿!!」

 

 

 

 

 

 

 

「痛ッ」

 

「動かないでください、少し切っています。失礼」

 

 

……じわ

 

 

「うぅ」

 

 傷口に染みる消毒液。今ここは僕の部屋で、ベッドに腰掛けた僕に命さんは治療を施してくれている。

 

 床に頭を打ち気絶しかけなぼくを部屋まで運んで、気づけば僕は今こうして治療を受けて、うん

 

 治療を受けて、それで……それで

 

 

 

……ぼけってしてる。同じことばっかり、考えて

 

 

 

「……失礼」

 

「!」

 

「動かないで、ください……今、薬を」

 

「……み、命さん……うぅ、染みる、染みるけど……あぅ」

 

「申し訳ございません。誠に、その……すみません」

 

 消え入りそうな声、先ほどから何度も繰り返す謝罪。けど、ソレをする前に目の前のこれを

 

 たぶん、惚けているのは頭を打ったからだけじゃなくて、この目の前の感触も

 

「……ん、ひほほ、はん」

 

「うっ……治療、ですから……その、少しでも罪滅ぼしも含めて、殿方の、嬉しいことを」

 

「…………ッ」

 

 まるで、天然で暴走する春姫さんのように、命さんは僕の顔にわざと胸を押し当てて

 

 けど、今命さんの服装は浴衣で、紐が緩いから、というかほとんど肌の

 

「……本当に、ごめんなさい」 

 

「ぇ……いつッ」

 

 止まらない。なんだか少し暴走気味というか、妙に切羽詰まっている気がする。

 

 

……さっきから、ずっと謝ってばっかり

 

 

 極東の人は謝罪の文言を会話に多用する文化と聞くが、ここには本当に意味での謝罪がこもっている。

 

 先ほどからずっと繰り返す謝罪。なんだか、今日は変だ。というか、そもそも

 

 

 この休日の昼間、僕にお風呂を勧めた上で……何故か、男湯で一糸まとわぬ姿で先んじて待っていた。そのことの説明が、まだ終わっていない。

 

 

「あの……そんなに、んっ」

 

「いえ、本当に申し訳ございません。この命、ベル殿にはご迷惑ばかりかけて」

 

「……ッ」

 

 迷惑ばかりかけて、そう繰り返す命さんの手はもう動いていない。薬を塗って、タオルを巻いて治療を終えたのに、まだ僕の顔は命さんのものに包まれたまま

 

 ついには、傷の部分を避けて、その手が僕の頭を撫でる。おそるおそる、よしよしとぼそぼそ声でつぶやきながら

 

 

「あの、なんで……み、命さん」

 

「……聞き、ましたから」

 

「へ?」

 

「……ナァーザ、殿から。その、ベル殿は、甘えたいのだと」

 

「!」

 

「ですから、その……罪滅ぼしは、これで……うぅ」

 

「み、命さん!」

 

 抱きしめる腕に手を入れ、僕は命さんの体を離す。

 

 肩を掴んで、腕の長さだけ距離を開けた。視線が合えば、命さんは羞恥で顔を背ける。

 

「も、申し訳ございません。命のような若輩が、ベル殿に母性など……うぅ」

 

「……命、さん」

 

「本来は、ベル殿のお背中を流すつもりで……あぁ、待てど来る気配がないのをいいことに、誘惑に負けた命は、つい入浴を」

 

「はぁ……なんで、背中を……というか、どうして女湯を使おうとしなかったんですか?」

 

「今日は、普段は手を出さない高い入浴剤を……我慢できなくて、くっ」

 

「……えぇ」

 

 呆れの声が無意識に、しかしただ理解できないで流すのもまたできない。温泉好きが末期な命さんらしいと言えばそれまで、けどわざわざ僕にこんな、行き過ぎたまでの奉仕を行おうとするなんて

 

 

……やっぱり、おかしい

 

 

「……何か、あったんですか?」

 

「い、いえ……何も、ベル殿は気になさらず」

 

「じゃあ、なんで背中を流そうだなんて……おかしいですよ、命さん」

 

「……実は、私は痴女の趣味嗜好が」

 

「バレバレな嘘を付かないでください!しかも顔を真っ赤に、やっぱり恥ずかしがっているじゃないですか! 胸元、隠してください!」

 

「!?」

 

 ほどけかけた帯、ついぞほどけて胸元過ぎてお腹まで

 

 全身を真っ赤に染めるほどに羞恥に爆ぜた。命さんは後ろを向いて、体を隠して蹲る。

 

「……き、気になさらないで」 

 

 まだ、しらを切ろうとする。つい、そんな振る舞いに感情が荒立つ。

 

「気になります! だって、仲間だし……こんな命さん放っておけません」

 

「!」

 

 放っておけない。出口を塞ぐように、僕は回り込んで立ちふさがる。

 

 さっきから見せるこの罪悪感にまみれた振る舞い。確かに命さんは罪滅ぼしと言った。なら、それは

 

 

「まだ……あの時のことを」

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

 中層での悲劇、パスパレードの件は確かに罪滅ぼしをしたいと宣うものだ。無理もない

 

 リヴィラでは、ヴェルフは桜花さんを殴りかかろうとしたし、リリだって容易には許そうとはしなった。けど、そうした事件も、今となっては過去だ。

 

 

……命さん、あなたはそれでも

 

 

 償いは受け取った。ゴライアスとの決戦、戦争遊戯の助力、そして春姫さんの事件を機に僕たちはもうわかり合って、対等な仲間に至っていたはずなのだ。

 

 けど、それでも

 

 

 

 

「……命さん、どうしてもダメ、ですか?」

 

 

 自分を許すことは、出来ないのかと

 

 

「……ベル殿は、お優しすぎます」

 

「そんなこと……」

 

「いえ、あるんです。あなたは、善人で……ずっと、清い。だから、皆に愛されて、異性に可愛がられて甘やかされて……ハーレム?」

 

「――――ッ」

 

「あ、申し訳ございません! ベル殿、お顔が、火に炙られたがごとく真っ赤に」

 

 

……ジュッ

 

 

「……は!?」

 

 氷嚢が頬に触れている。命さんが、僕の顔を冷やしている。

 

「……ありがとう、ございます」

 

「い、いえ……気になさらず」

 

 赤面、命さんは顔を背けている。

 

 距離が近い。ベッドの上で、二人きりなのに、こうも間近に顔を見て

 

 

……すごく、綺麗な肌

 

 

「……ぁ、ごめんなさい……もう、大丈夫です」

 

 つい、見続けてしまった。罪悪感いっぱいで接する相手に、なんとも弱みに付け込んでいるみたいで、良くない。

 

「……」

 

「ぁ…………その、えっと……使い、ますか?」

 

 視線が合っただけで、何も言わず足を差し出す。

 

 女座りで、そのスリットからはみ出す柔肌の生足に、頭を預けてもいいと

 

 

「……命さん」

 

「甘えても、構いません。社にいた頃は幼子の面倒も見ていましたから、あの子たち曰く……程よい肉付きがたまらないと」

 

「あの、その子供たち大丈夫じゃ……あぁ、いえ……遠慮しま…………せん」

 

 少し闇が見えた気がするけど、今はスルー。差し出された膝枕にはノーを示した。

 

 示したけど

 

 

 

 

 

「……ベル殿」

 

 

 

 

「……」

 

 辛そうに、僕の名をぽつりとつぶやく。命さんは憐憫だ

 

 チガウのかもしれない、そう思えた。

 

 罪滅ぼしはしなくていい。忘れてもいい、そう言えるのは、僕が気軽な立場だから。

 

 

……無責任、だったのかも

 

 

「……何か、言われたのですか?」

 

「……ぇ」  

 

「なんとなくですけど、そうじゃないかと」

 

「……ベル殿、それは……はい」

 

 

 命さんは口を開いた。

 

 聞いてしまえば、なんとも単純な話。どうやら、他所の冒険者に心無い言葉を言われたのだ。

 

 ダンジョンでモンスターに囲まれた他所のパーティを助けて、でもその相手はベテランだけど未だにレベルが1の、言ってしまえばろくでもない人達らしく

 

 その時は桜花さんやタケミカズチファミリアのメンバーとの行軍で、きっと見比べて感じたのは卑下する感情。助けた相手なのに、その冒険者は心無い言葉を吐いてしまった。

 運悪く、その言った相手はゴシップを知っていた。今となっては誰も気にはしない、ダンジョンという場所ではその行為は特段珍しくない。

 

 だけど、命さんには、未だ突き刺さり続ける、毒の言葉だった

 

 

 

 

 

「パスパレードを仕掛ける、卑怯な悪女……そんなことを言われました」

 

「……それは、でも」

 

「気にしない方がいい、それはわかっています。ええ、こんなに取り乱して、空回りも良いことなのは、自分が一番理解しています。ですが」

 

 そっと、自分の胸に触れた。谷間の付近、だけどそれはきっと、心の場所という意味

 

「ここは、どうにもならないのです。頭では、整理できないことがあるのです。駄目な女と笑ってください、命は、結局の所自分勝手で、思慮が浅い」

 

「……」

 

「命は、ベル殿にお返しがしたい。ですが、なんとも身勝手な理屈です。こんなのでは、ベル殿が望む母性は到底」

 

「…………」

 

「……あの、ベル殿」

 

 命さんの手が伸びる、大丈夫かと差し伸べた手

 

 なんだろう、こんなことをしようとする僕は、我ながら変だ

 

 

「……命さん」

 

「へ?」

 

 

 命さんに不遜なことを言った人、その人の言葉にむかついた、それで感情的な行動をとりたくなった、というのもある。

 

 だけど、今はただ

 

 

 

……命さんの、聞きたくない

 

 

 

「へ、えぇええ!?」

 

「……ッ」

 

 少し強引にでも、僕は命さんの言葉を変えたい。

 

 命さんの口から、命さんを貶める言葉を聞きたくない。その為なら

 

 

「へ、ベル殿……ベル殿!」

 

「……うッ」

 

 頭を乗せた。横向きに寝転がって、だから

 

 

……ほっぺた、暖かい。ふともも、気持ち良い

 

 

「へ、あの……何故急に」

 

「……ッ」

 

 強引にでも、命さんの気を好転させるためなら、恥をかくぐらい何だっていい

 

「おねがい、します」

 

「……」

 

「その、お願いします……えっと、痛いから、さすって欲しくて…………ぅ」

 

 自分で言ってて恥ずかしくなった。なんというか、普段からしている行動が、こんなにも恥ずかしいことだと思わなくて

 

 

「……うぅ、いたた」

 

「ベル殿、痛いのなら」

 

「いえ、気になさらずに。その、僕が命さんに頼って、それで気持ちが済むなら……安い、ものです」

 

「……」

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

 あの時のことは、今も忘れられない。

 

 桜花の判断を飲んだ自分は、間違いなく切り捨てた側の人間だ。それに、もしあの場に桜花がいなかったとしても、追いつめられた自分はパスパレードをしなかった、そう言いきれる自信はない。

 

 仲間を助けるために、それが正しいと飲み込んだ。毒を含んだのは自分から、どこまでも自業自得で、救いはない。

 

 時間が経っても、この毒は消えない。頭をぶつけでもしない限り、この毒は消えない。なのに、自分は消そうと躍起になって、そして空回りを続けた。

 

 同じく、朴念仁を想い人に持つ者同士、ナァーザ殿は良きアドバイスをくれたが、こんな心境のままではうまくいく方法も台無しになる。

 

 何でもできる、器量の良い女、そう褒められてはいるのがなんとも間抜け。

 

 だから、この方は、いや

 

 

……この子は、ただ一つの明快な答えを、私に示してくれた

 

 

「……年下なのに、悔しいなぁ」

 

「?」

 

 きょとんとした顔でこちらを向く。あどけない顔で、見れば見る程胸がほだされる。小動物を見るようで、この髪の毛も触れれば

 

 

「……柔らかい、くせっ毛……ふふ、ベル殿」

 

「ぁ……へっ」

 

 ベルの頭に触れた。さっきまでのおっかなよそよそしく触れる手つきとは変わって

 

 

……やさしい、さっきよりも落ち着いてる?

 

 

「ベル殿、随分と膝枕に慣れているのですね」

 

「うっ……」

 

「こういうの、神の言うセクハラだと知りませんか?」

 

「せ、せく……うぅ」

 

 真っ赤になる顔。顔色がポンポン変わって、しかし撫でられて膝枕されたままでは逃げられない。

 

 こちらが余裕をもって振舞えば、こうも簡単に上を取れてしまう。いや、簡単に取られてしまうのだろう

 

 

「……くす」

 

「?」

 

 

 韋駄天のごとき功績。純粋に夢を抱いて、そして真っ直ぐに駆け抜けるこの清々しさ

 

 けれど、ふたを開けてみれば

 

 

 

……あなたは、年下の男の子なんですね 

 

 

 

「……お可愛い、かもです」

 

「命さん……ぁ」

 

 ベルの視界が回る。仰向けに寝かされると、少し後頭部の感触が変わる。

 

 

 

「少し、態勢を変えてみました。こちらのほうが、こぶに当たらなくて楽でしょう」

 

「……はい」

 

 命の取った態勢、ベルの頭を仰向けに寝かせるため、正座を崩した態勢に。

 

 浴衣の布がずれて、太ももの表面が剥き出しなのはかなり扇情的。だが、今ベルの目は命の顔にだけ向けられている。

 

 太ももで挟むように、少し力を入れると内腿の肉でベルの頬を歪ませられる。

 

「ん、ひほほはん」

 

「ベル殿、お顔が面白くなっています」

 

「らって……うぅ」

 

「ふふ……すみません、ですがお許しを。言った通り、甘やかしているのですから」

 

「……ッ」

 

 ベルの前髪を払ってやる。無抵抗で身をゆだねて、なんとも童のように無抵抗な姿だと

 

 

……あどけない、この方は本当に

 

 

「み、命さん……その、もう大丈夫なのですか?」

 

「……さあ、それはどうですかね」

 

「えぇ」

 

「濁しているわけではないです。ただ、忘れるために下を向くのは……違うと気づきました」

 

 

 あぁ、そうだ。

 

 いつまでも気にして、下を向いても毒は出てこない。今を見て、上を向かないと、この過去とは向き合えない。

 

 

……過去は変わらないけど、過去の向き合い方は、もう少しうまく変えられる。

 

 

「今は、そう思います」

 

「?……ぁ」

 

「ベル殿、御髪を直してあげます……動かないで、ください」

 

「……はぃ」

 

 髪に触れて、指先が肌をつつく。

 

 顔を動かせないから、視線だけはちらほらと、時折触れる視線は胸や顔

 

 正直に言えば、少しぐらいサービスを施してもいい。そんな、気の迷いが置きそうになる。そう、命は心で独りつぶやき

 

 

「……ふふ、ベル殿……まるで赤子です。はは」

 

 

 笑っていた。

 

 

「……ッ」

 

 

 命の素直な笑みを拝み、ベルもまた表情を崩す。

 

 和やかな空気、今日という日で何かが劇的に変わるわけではないが

 

 ほんの少し、少しだけ

 

 

 

 

 ベル・クラネルとヤマト・命の距離が、何歩かほど近づいたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……命さん、たまに、ちょっとだけ

 

 

 

……はい

 

 

 

……駄目になっても、良いですか?

 

 

 

……ええ、かまいません

 

 

 

……撫でてくれませんか  

 

 

 

……ええ、もちろん

 

 

 

 

「…………ッ」

 

「よしよし、ベル殿は幼子ですね……しっかりしませんと、格好いい男子にはなれませんよ」

 

 そう言いながら、撫でる手つき、髪を漉いてやる指先は甘やかす母親のそれ。やることと言っていることは反しているが、それも無理はない。

 

 命は今日、初めてベルとの接し方で年上の異性として振舞っている。時折覗いたヘスティアやリリの行うそれを見て、こうした行為があるとは知ってはいた。しかし、実践してみれば

 

 

……存外、悪くない、ですね。ベル殿も、甘え上手というか、うぅ

 

 

 心に浮かぶ想い人、というより想い神の姿。天秤で揺れる足場でうろたえるイメージが脳内に浮かぶ。

 

 

「信仰が、いえ……女として、試されている気が」

 

「?」

 

「あ、いえ……気になさらず。さ、今は甘えなさってください」

 

「……はい」

 

「何か、して欲しいことはありませんか」

 

「えっと」

 

 う~んとうなるベル。口元がつぐんでむにゃむにゃと、唇に指を伸ばしてそっとなぞってやりたくなるが、命は寸での所で手を戻す。

 

 

……いけない、いけない

 

 

「えっと、じゃあ……美味しいご飯が、食べたいです」

 

「あ、はい……精一杯作らせていただきます」

 

「あの、前に作った照り焼き……極東のチキン料理、また食べたいです」

 

「ええ、ではお肉料理で献立を作りましょうか。では、他に」

 

「……じゃあ、その」

 

 恥じらい、もじもじとしている。

 

 言いよどむ言葉、しかし意を決してベルは告げた

 

 

 

 

「じゃあ、その……野菜の、苦い料理……じゃないのを」

 

「……」

 

「ぁ……今のは、ちが」

 

 命の表情が固まる。和やかな笑みを浮かべたまま、じりじりと足の力が強まる。

 

 筋肉が硬直して、ベルの頭をロック。逃がさない、そんな雰囲気が場を漂う

 

「だめ、ですか?」

 

「はい」 

 

「その、別に食べたくないわけじゃ……でも、命さんがご飯をつくるようになってから、サラダとか、あえ物とか、野菜の味が強く感じる料理が増えて……前に比べて健康的なのはわかっているんですが、苦いのは苦手で…………炒め物とか、それか濃い味付けで」

 

「ベル殿…………いえ、ベル」

 

 

……むぎゅるうぅぅ

 

 

「!!」

 

 生足がベルの顔を圧迫。柔肌を感じる暇も、頭頂部に在るショーツが丸見えなのも気にすることはできない。ぐりぐりと太ももの万力がベルを仕置きしている。

 

 命の顔も、和やかな顔から怒り顔に

 

 

 

「あ、いつ……命さん、頭潰れちゃう!」

 

「いけない子です。好き嫌いも、偏った食事も……まったく、許しがたい発言ですね。」

 

「で、でも……神さまだって、この前お鍋を食べてた時、僕の皿に春菊を」

 

「ええ、そうですか。それは知りませんでした。では、神ヘスティアも後でお説教です」

 

「……うぅ」

 

 

……ごめんなさい、神さま。意図せず情報漏洩をしてしまいました

 

 

 

「あ、甘やかしてくれるって」

 

「ええ、それは違えません。ですが、母性とは優しさだけではありません」

 

「……そ、それ……ふぎゅ」

 

 拘束は緩む。だが、頬は太ももでつぶされた。不格好な顔を見て、命は楽しげにまた笑う

 

 

「甘やかすのも母親。ですが、厳しく管理するのも、また母の仕事。 ベル殿の求める母を、命は勤めてみせます。しかし、やり方は私の流派ですので……ご覚悟を」

 

「ひゃ……ん、ひぅ」

 

 指先がベルの唇に触れた。そのまま口内に滑り込み、歯をなぞり舌をかき回す。

 

 口内の粘膜をくすぐられる。敏感な神経がしびれて、どこか快感のような刺激が背筋を駆け抜けた。

 

 

「ひゃ……ひ、ひほおはん……あぅ」

 

「油っこく、濃い味付けに慣れた舌。ベル殿の為に、この命が治してさしあげます。」

 

「――――ッ」

 

「覚悟してください。あなたが甘えたいお母さんは……一筋縄ではいきませんよ」

 

 

 

次回に続く




命の甘やかし展開でした。ご満足いただけたかちょっと心配

しっかりものな彼女にはS的な要素で甘やかしを考えてみましたが、命推しとって許容範囲かどうか、そこが気がかり。感想頂ければ参考にします。




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(10)友人の彼をつまみ食いした話 ミィシャ・フロット

ピンク髪はエロい。歴史がそう語ってきた

マイナーヒロインにスポットライトを当てたいどうも建築士です。


 

 同僚に彼氏ができた。これは、見過ごせない事態である。まあ厳密にいえば彼氏であるかどうかは未定、しかし最近のあの娘はずっとベルベルベル……そう、相手は担当の冒険者君だ

 

 担当の冒険者を持ってから妙にあの娘ったら色気づいて、というか最近は私に対して惚気話ダラダラ。、飲み会でも宅飲みでも、エイナったら自慢自慢でやれベル君が可愛い、甘える声がキュンキュンする、かっこいい活躍しても撫でれば甘えん坊んなっちゃう所なんかもう!……ああもう、耳にタコ。いい加減にしてよあの母性ハーフエルフ!

 

 

「もう、脳がおかしくなるぐらいにさ、聞かされて。でも、現場見てないからどこか信じ切れなくてね……でも……まあ、こっそり望いたらさ、見ちゃったのね」

 

 あのエイナに恋愛なんて高尚なものが身につくはずが、そんな淡い期待は一瞬で崩壊

 

 あの子が嘘で着飾るはずがないから、決まりきったことの確認だったんだけど、実際に見てしまうとそこには、あぁ、やらしぃ

 

 

「見ちゃったんだなぁ、あのエイナが……男の子にキスしてた。しかも、唇じゃなくて首筋、鎖骨ちょい外側ぐらいの所、キスマーク付けてたのッ……あのエイナが!」

 

 

 

 すごい光景だった。エイナがまるで淫魔に見えてしまうぐらいに、というか見ているこっちがむらむらしてきた。花を摘みに行った際に、ちょっとだけシちゃったのは秘密

 

 でも、あてられたのは仕方ない。自分だって、そんなハレンチなのは妄想だけ。意中の相手を拘束したいがための女の必殺。そんな大技をやってのけるエイナは、どこか遠い所に離れたように感じちゃった。

 

 その上、それをされているのは母性刺激する年下の可愛い男の子。つまり、エイナは目覚めた。おねショタ恋愛に

 

 

「そりゃ、友人の春は喜ぶよ。でも、惚気聞かされるこっちはたまったものじゃないよ! しかも質が悪いことに、それがうらやましいからなお悔しい!!」

 

 叫ぶミィシャ、その声の大きさにはさすがに

 

 

 

 

 

 向かい合って話を聞くベルも、静止せずにはいられない。

 

 

 

 

 

「あの、ミィシャさん落ち着いて……声聞こえちゃいます。その、僕とエイナさんのことあまり広められると」

 

「へ? そんなのギルド職員の女はみんな知っているよ!」

 

「へ?」

 

「女の職場で秘め事なんてできると思う? というか、この待合室をカップル部屋にしている君に言われたくないよ」

 

「……ぅ」

 

 一蹴、身長差はさほどないが妙にベルのほうだけ小さく見えてくる。

 

 親しくしてくれるエイナ、相手はその友人とのこと

 

 

……ミィシャさん、ほぼ初対面なのに、すごくグイグイ来る

 

 

 応接間という密室で、いつも行う勉強会の相手がどうしてかこの人。部屋に入れば待ち構えていて、開始一番から愚痴のような、モノローグというか、一人語り調でつらつらと話だしたと思えばハイテンションな抗議文

 

 エイナさんと比較すればなんとも対照的で、元気があってそれが逆にとっつきにくいような。でも、綺麗な人だし、制服越しに見るスタイルも魅惑的。さすが、エイナさんのご友人

 

「……ッ」

 

 悪い人ではないのは確か。だけど、今までの恥ずかしいコミュニケーションを熟知されている上、声高に指摘されてしまえばなんとも面はゆい。気づけば手は痒くもない顔をかいて、目線もおぼつかない所をうろついている。

 

「……あの、もしかしてその……良く、思っていない感じですか? ぼくの、こと」

 

「え?」

 

「……ごめんなさい、なんだかその……すみません」

 

「いやっ……ストップストップ!」

 

「……ぇ」

 

 ミィシャさんが慌ただしく取り乱す。

 

 つい卑下して、謝罪の流れを持ち出して、すると驚くほどに取り乱してしまった。表情をころころ変えて、ああでもないこうでもないと一人言葉を並べて、最後はいっぱいうなって

 

「?」

 

「ごめん、ちょっと調子に乗りすぎた。反省」

 

 しょんぼりと、肩を下ろした

 

 

「あの、謝る必要は……」

 

「いいの、いい……う~んごめんね、ちょっと調子乗りすぎたから。君は気にしないで」

 

「……」

 

「あ、そう言えば講義……時間もったいないよね。さ、始めよっか」

 

「……はい」

 

「心配しないで、エイナからは色々聞いているし……私、年下の弟欲しかったからさ、嫌じゃないよ。」

 

「え、そうなのですか?」

 

「え、そこに反応するんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「風邪でお休み、ですか?」

 

 ギルドに訪問して、エイナさんの場所にいた職員さんから聞かされた不在通告。

 

 午前中に探索を終えて今日もまた講義の時間、けどエイナさんはいない。事情は聞けば、今日は別の仕事で合間が無い。

 

 エイナさんのご褒美が貰えないのは切ない。でも仕方ないから、踵を返して去ろうとした時。

 

「あ、ベル・クラネルさん……貴方に言伝です」

 

「へ?」

 

「エイナ嬢はいませんが、エイナ嬢のご友人があなたをお呼びです。エイナから、講義は彼女から受けてとのことです。」

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

 と、そんなこともあって今僕はミィシャさんと面と向かう機会を得て、その上二人密接な時間が訪れてしまった。

 

 悪い人じゃない。繰り返しになるけど、エイナさんの友人だしそこはかとなく感じる人柄も悪い印象はない。

 

 

 

……でも、なんだろう

 

 

 

「えっと、ここは違うね……ここを踏破するならリスクの質も変わるから。ホーネットの遠隔攻撃が挟撃になるから、対応が出来る出来ないで事故につながるんだ。」

 

「……えっと、ならこのルートは」

 

「うん、それが正解だね。エイナからも言われてると思うけど、リスクは割けないとね。よし、ここは満点」

 

「はぁ、ありがとうござい……わっ」

 

 くしゃりと、髪の毛に触れた手。エイナさんと違って少し雑……でも、嫌いじゃない?

 

「……あの、これは」

 

「ん、いつもこうしてるんでしょ……エイナも好きだね。でも」

 

「え、あぁ……あの」

 

「ほほぅ、ここはこんな……男の子っていうか、小動物?」

 

「ひっ……ミィシャさん」

 

 向かい合っていたはずが、間の机を回り込んで詰め寄ってきた。

 

 なんだか、近い。というかミィシャさん、目が

 

「……ベル君、でいいよね」

 

「あ、はい……あの、撫でてくれるのは嬉しいですけど……その、ぅ」

 

 両の手で髪を撫で、というか弄られている。シャワーで洗い、自然に乾かした髪がミィシャさんの手でかき回されていく。元のくせっけがよりうねって爆発頭に

 遊ばれている。淡々してしまう僕を見てなんとも楽し気だ

 

 

……なんで、なのかな

 

 

 初対面と変わらない面識。でも妙に親しすぎて、というか

 

「う……あの、ミィシャさん」

 

「う~ん、整った顔立ちだよね……幼いけど目元はキリってしてるし。君、モテるでしょ。年上の女性全般」

 

「え、あの……ぁ」

 

「肌すべすべ。男の子なのに……なんかずっと触ってられる」

 

「ひゃ、やめて……恥ずかしいッ」 

 

「……あぁ、ごめん」

 

 

 やっと手が離れる。頬に触れた手のぬくもりが冷めると、少し切ない。

 

 

……切ない? なんで、僕

 

 

「……今、あぁもう終わっちゃったって顔してるね」

 

 にやけづく顔、見透かされているようでなんとも恥ずかしい。

 

「……ミィシャさん、攻めすぎです。色々と」 

 

「あはは……うん、そうだよね。君年下だし……年上の異性に詰め寄られたら、ちょっと困るよね……うん、反省」

 

「……ッ」 

 

 軽い接し方。スキンシップは止まらない、反省と繰り返しながらも手の平は僕の顔を撫でている。

 

 顎の下あたり、耳の裏、頬、手つきが雑なのがどんどん優しくなってくる。手慣れてきている、のかな

 

「……ここ、気持ちいの?」

 

「んッ」

 

「そっかそっか……あぁもう、君いいよね。エイナがうらやましい」

 

「……エイナ、さんが」

 

「うん、うらやましいね……だから嫉妬した。でも」

 

 

 

……すっ

 

 

 

「へ?」

 

「よっと……んへへ、今はこうして触れるから、エイナにも負けないよ。」

 

「あ、隣」

 

「気にしない気にしない。エイナだって同じことしてるでしょ」

 

「……ッ」

 

 さりげなく、向かいの席に帰るのではなく、そのまま僕の隣に座った。足と足がくっつく距離で、ぴったりと 

 

「……」

 

 

……ミィシャさん、エイナさんと同じこと、しているのかな?

 

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

 

 横に座って、近くで見てみるとやっぱり

 

 

「君、甘やかされるの……慣れてるよね」

 

「!」

 

 表情がわかりやすい。少年の照れ顔は何度見ても飽きがこないものだ。

 

 

……エイナがハマる理由、わかるなぁ

 

 

「ま、人間関係にとやかくは言わないけど……で、エイナとはどんな感じ?いつもお姉ちゃんと弟の関係?」

 

 率直に聞く。膝の上に乗せた手はベルの鼓動を確かめるセンサー。そして、触れられたベルは嘘を吐けない、そんな気分になっている。

 

「……否定、しないです」

 

「だよね。君、甘やかしたくなるもん。だから……」

 

 

……つまみ食い、したくなっちゃった

 

 

 

「は? へぶッ」

 

「嘘、冗談」

 

 振り向いたベルの頬をつつく。崩れた表情を見て、また和やかに笑って、そして次は両の手でベルの頬に触れた。

 

 顔と顔の距離が近い。赤らめて、若干涙目なベルを、じっとミィシャは見続けて

 

 

 

「ベル君。君さ、中々可愛いね……エイナに嫉妬しちゃうぐらいに、ね」

 

 

 

 

「……ッ」

 

 ドキッとした。あどけなさが見えるその尊顔が、今和やかな眼で僕に語り掛けている様子は

 

「ん、どうかしたの?」

 

「……いえ」

 

 年の差を意識してしまうしっかりとしたお姉さんだった。

 

 

……そうだ、思い出した。ミィシャさん、この人

 

 

 ギルド職員は美形が多い。特に、アドバイザーを務める女性職員は、それぞれ著名なアイドルのように信望者が集まるのもザラだ。エイナさんも、そのうちの一人に入るし、そしてそこには、この彼女の名もあるのだ

 

 隠れがちだが、ミィシャ・フロットは人気の高い女性だ。冒険者をはじめ、異性や年配の方からも好感度を集めるヒューマン。丁寧な所作を持ちながら、根っこの陽気さ、無邪気さを程よく魅せる彼女は好かれやすい。

 

 恋愛対象というよりは、常に一緒にいてもいい気の置けない友人。友人として求むる素養をさりげなく満たしている彼女は、掘り下げれば掘り下げるほどに魅力を見せてくれる。

 

「……」

 

 魅力的な人、でも

 

 今の彼女は、世間は知ってるのだろうか?

 

「あ、今おっぱい見た?」

 

「……い、いえ……すみません」

 

 逸れた視線がつい行ってしまった。

 

 指摘されてしまえば余計に意識してしまう。エイナさんにも負けないサイズ。体躯にあった、バランスのいい膨らみ。

 

「……見たい?」

 

「い、いえ……見ません、から」

 

 強がって、そんな言葉を吐くも笑われて一蹴

 

 ミィシャさん、親しい友達のような気軽さに年上の色香を合わせて、僕に攻め寄ってくる。どことなく、エイナさんのご褒美と同じ、僕の内面にメスを入れて、揺さぶってくる感じ。

 

 ギルド職員の女の人、みんなSよりな人かな

 

 

「エイナから言わているんだ。私の代わりによしよししてあげてって」

 

「……エイナさん」

 

「でも、これは違うかな……君可愛いから、私情で可愛がってあげるね」

 

「……お世辞」

 

「だったらもっと盛るよ。ベル君、ほらほら……おいで~」

 

「……」

 

 膝枕の誘いか、手をポンポンと叩いていざなおうと

 

 エイナさん以外の相手に、しかもまだ面識の浅い人なのに。

 

 

 

……でも

 

 

 

 

「エイナさん、頼まれたんですよね」

 

「うんうん、だから遠慮せずおいで~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エイナから言われたのは、あくまで講義の代行。そこには決して、こんなスキンシップは入っていない。

 

 

 

……でも、やるなとは言われてないんだよね

 

 

 

「……ふふ、癒されるなぁ」

 

「ぁ、ミィシャさん……その、講義は」

 

「あぁ、もちろん続けるよ……でもでも、休憩も大事だから……ほら、お姉さんが耳かきしてあげようか?」

 

「……いえ、大丈夫です」

 

「そ、じゃあ頭のマッサージしてあげるね……私、そう言うの詳しいんだ」

 

「……ぁ、うぅ」

 

 側頭部を起点に、ベルの髪をミィシャは漉いてやる。時折伸びる指先が顔をなぞって、頬をフニフニとつつく。

 

「ぁ……首は、その」

 

「よしよしよし……ごろごろしちゃえ~」

 

「それ、猫です……ぁ」

 

 

 

……ゴロゴロゴロ

 

 

 

「ふふ、可愛い」

 

 表情がにやけて戻らない。恥ずかしながらも、ミィシャの甘やかしを受け入れてしまっているベルはスキンシップに反応してしまっている。

 

 その腰に尻尾があれば、ゆっくりと尾を揺らして興奮を隠しきれない様が晒されていたことだろう。

 

 

 

……何この子。うるうるして、ふわふわして……目が合うだけでもじもじ

 

 

 

「うわ、どこ触っても柔らかい。反応が新鮮、これは毒だね」

 

「……あの、講義」

 

「うん、わかってるわかってる。もう少し、ね……そう言えば君年は?」

 

「……14、です」

 

「グッド!」

 

「?」

 

 

……14、14歳の男の子……たまらない、エイナずるい!

 

 

「ベル君……ちょっと起きて」

 

「……はい」

 

 

 言われるままに体を起こす。蕩けかけた意識を元に戻すようい、その場でかぶりを振り頭をはっきりさせんと

 

「……うぅ、あの……これ以上は、はぶッ!?」

 

 

 

 

……むぎゅぎゅ、ぎゅうぅ

 

 

 

 

「ずるい!エイナずるい! 君なんで私の担当にならなかったの? エルフだからでしょ、エルフだからエイナを選んだでしょ!絶対そうだ!!」

 

「!!」

 

 興奮飽和気味のミィシャはベルの頭をロック、つまりは抱擁、というか

 

 

 

……なんで、なんでパフパフ!?

 

 

 

「あ、もうくすぐったい……いやらしい子だね。でも、なんかそれでもいい!」

 

「……ぁ、あふぁって、みひははんッ……ふへ、あはっへ」

 

「そうだよ、あててるの! ああもう、なんで君が私の担当じゃなかったの!?」

 

 声を荒げて、妙な怒りで爆発するミィシャ

 

 力づくで離そうにも、そうするにはその両手は体に触れざるを得ない。スタイルの良いくびれた腰、肉付きは十分な臀部、触れてしまえばきっと……喜ぶのかな

 

 

 

 

「抱き心地もいいなぁ……君、姉がいたらダメだよ、絶対一線超えちゃうもん。アタシだったら我慢できない!」

 

「――――――――ッ」

 

 抵抗は、意味がないかもしれない。そう、悟らざるを得ない。

 

 ミィシャ・フロットは夢中。自分からそう声高に言えないけど、この人はもう、僕に夢中、なのだろう

 

 

 

……慣れない、恥ずかしい。積極的な人、多分弱点なのかな?

 

 

 

 抱擁されながら、谷間に埋めたままで視線をちらほら。見えた時計の針から見て講義の時間はまだ十分ある。だけど、このままだと何もしないままに終わりそう

 

 大事な講義の時間。講師がいなければどうにもならないのだから、今はもうどうにもできない。

 

 ミィシャ先生が満足するまで、今は無抵抗に、受け入れるしかない。

 

 

 

「可愛いなぁ、君……私のおっぱい、そんなに落ち着くんだ」

 

「……うぅ」

 

「おっぱい、結構あるでしょ。これでもDはあるんだよね、まあ使い道がないおっぱいだけど」

 

「……あの、うぶっ!」

 

「ん、おっぱいは恥ずかしい? もう、初心だねえ。ま、そこがいいんだろうね……ほらほら、役得だぞ。でも匂いは嗅がないでね。感触だけ、服越しにね」

 

 

 押し付ける腕の力が増していく。ブラの硬い感触の先、鼻先が乳房の柔らかさを捉えている。

 

 

「――――ッ!?」

 

 理性と本能の戦い。エイナさんとはまた違った意味での強敵を相手に、僕はこのまま一時間ほど苦戦を強いられるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

―時刻、夕方―

 

 

 

「ごめんなさい! その、暴走して」

 

「……」

 

「怒ってるよね、いやあ……すみませぬ」

 

「……ッ」

 

 

……悪気、ではないし

 

 

 時刻は過ぎて、もう講義は終わっていた。結局、ミィシャさんが満足するまで、僕は胸に抱かれて撫でられて、そのまま寝落ち。ついでにミィシャさんも

 

 目を覚ませばすでに黄昏。そして今、低く頭を下げて

 

 

 

「……もう、構いません。嫌では、無かったですし」  

 

「え、そう?」

 

「……」

 

 うなずく。異性として、ミィシャさんは魅力的なお姉さんで、正直たまらない。

 

「……怒れません。僕、嬉しかったですし」

 

「!」

 

 

……がバッ

 

 

「へ、また!」

 

「あぁもう、君はいい子だなぁ……エイナ、分けて欲しいな」

 

 人目を気にせず抱擁。あわあわと取り乱すぼくを周囲の女性は生暖かい目で見つめる。

 

 集める視線。でも、その中に

 

 

 

 

「!」

 

「えへへ…………あっ」

 

 視線が一点。僕とミィシャさんを冷ややかに見つめてほほ笑む。とっても美しくもおっかない女性だ。

 

「ベル君、ミィシャ……何してるの?」

 

「……ッ」

 

「あちゃぁ……めんご、エイナ」

 

 平謝り、しかしエイナさんは歩みを止めない。

 

 ただ歩いているだけなのに地面を砕くような音が聞こえる。ゴゴゴと、背景に威圧的な音が見えるほど

 

 

……怒られる、エイナさんにッ!

 

 

「……ベル君」

 

「へ……ぁ」

 

 冷ややかに、しかし猛烈に怒っているエイナさんは

 

 

 

……むにゅん

 

 

 

「――――ッ!!」

 

 ミィシャさんから僕を奪うように、割って入って抱きしめた。

 

 またも抱擁、でもこの感触は良く知っている。エイナさんの胸の感触、嫌でも感じてしまう。

 

「ベ~ルくん。どういうこと、かな?」

 

「……ッ!」

 

 逃げ場がない。息の根を押さえられた今、僕は悲しげにうなるしかできない。

 

「あぁ、ごめんねベル君……エイナも怒らないでさ」

 

「ミィシャ、あなた」

 

「いいじゃん、いつも自慢してるんだし……ちょっとぐらい、つまんでもね」

 

「ミィシャ!」

 

「はいはい……じゃあお二人でお好きに」

 

 面倒ごとから逃げた。ミィシャさんは僕を置いて行く

 

「……あの」

 

「ベル君、ちょっと時間良いかな?」

 

「ひっ」

 

 笑顔で怒っている。そして少し口を開き、舌なめずり

 

 指先が首元に忍ぶ。鎖骨辺りを、服をずらして

 

 

「!」

 

「お仕置き、もっと強く刻まないといけないみたいね……すぅ、はむ、んじゅるうぅッ!!」

 

 

「ひゃ、らめ……えいなしゃ、ぁああぁあァアアアアアアアッッ!!?!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ちょっと悪い事、したかな?

 

 

 

……でも、ミィシャお姉ちゃんが欲しくなったら、いつでも呼んでよね。ベル君 

 

 

 

……今度はエイナも一緒に、君が泣くまで甘やかし続けてあげるんだから

 

 

 

 

 




以上、ミィシャのたわわ甘やかし定食です。エッチなお姉さんの友人もまたエッチなお姉さん、ピンク髪は可能性の性獣



感想・評価など頂ければ幸いです。捗りますので、ではまた次回に


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(11)悪いお酒にご用心、二日酔いにはたわわが効く 神デメテル

ひっっっっっさしぶりに投稿

デメテルさまに甘やかされるベル君が書きたくて、衝動で執筆


  

 地に足がつかない。前に進んでいるのか、それとも落ちているのか、感覚はずっと荒波で揺れる小船のように不安定だ

 慣れない蒸留酒の甘み、親切に話しかけてきた名も知らない冒険者達、賑やかな酒宴

 気分良く飲んでいたのは最初だけ、考える間もなくお酒を飲んで、飲まされて、そして、今は何処かもわからない場所を歩いている

 壁にもたれて、転んで、そのまま座ってしまった。地面に手を付いた時、ヌルッとした感触は雨でぬれた土、雨が降っていた中歩いていたことにすら僕は気づいていなかった

 

 気づかなかったこと、気持ち悪くて揺れる視界が嫌で目をつぶる。そうすると、嫌でも自分が受けた行為が悪意のあるものだとわかってしまう

 

 

……不注意だった、本当に情けない

 

 

 一人街を歩いてた。皆用事があって、夕餉は外で済ますとなった日だから、それで普段から通っている豊穣の女主人へ行けばいいものを

 偶然話しかけられた先輩冒険者に乗せられて、こういう付き合いも大事かなと自分に言い聞かせて誘いにのったことはなんと愚かなことか

 

 リトルルーキーに酒を奢る。新しい英雄に酒を渡せ、皆陽気に楽しむ空気に僕は流されて、義務感でジョッキを持って、慣れない蒸留酒の味を流し込んだ

 

 水で割ってと頼んだけど、きっとそれも最初だけだ。周りは僕と同じようにお酒を飲んでいて、皆飲んでいるのに自分だけ飲まないことへの罪悪感をかんじてしまった。感じる必要のない過ちだと気付くのは、あまりにも遅すぎた

 

 その日であった冒険者同士、出会った縁を祝って酒を酌み交わす、そんな趣深い冒険者の営み、書物や演劇で見知った趣深い情景がそこにあると知って、とくに疑うことも無く僕は誘いを受けてしまった。

 英雄譚好きな僕の趣味が悪く働いてしまったのだろう。今となっては、本当に軽率な判断だったと猛省している

 結論だけ言うなら、僕は悪い酒で嫌がらせをされた。飲むだけ飲ませて、そして酔いつぶして放置して去る。そんな陰湿ないじめを受けてしまったのだ

 

 皆で酒を酌み交わす様に見せかけて、実際あの場で飲んでいたのは僕だけだったのだ。平気な顔で飲んでいたみなみなのジョッキには僕と同じ程度の濃さのお酒なんて入ってなかったのだろう

 

 見知らぬ他人の悪意、何度も何度も言い聞かされて、注意していたつもりだったけど。結局僕は理解しきれていなかった。

 リリに申し訳が立たない。エイナさんもきっと怒るはずだ。神さまは戦争遊戯だなんて騒ぎ出すかもしれない

 

 悪いのは相手だとみんな言う。だけど、僕はそんな危険に気づけもしなかった青い自分が恥ずかしくて、それが一番いやだ

 

 強がりかもしれないけど、しっかりしている自分を大事にしたい。面目を保つという行いをしたいのだ。だから、せめて

 

 

「……ほぉ、む……かえ、ら……い、と」

 

 

 濡れる体、ぐらつく頭。どうにか力を込めて、壁に手を付いて立ち上がる。

 

 ひどい足取り。それでも足を動かさないと

 

「ん、ぐ……けほ、うっぷ」

 

 目が覚めるほどの気持ち悪さが喉奥を突き刺す。あれだけ飲んだお酒は、僕の体に入ることなく拒絶されていた

 

 手を付いた壁に向かって、僕は何度も嗚咽をまき散らす。

 

 辛くて、涙を流して、恥ずかしくて

 

 

……お水、のみたい

 

 

……さむい、べっどにはいりたい

 

 

 

 

 

 

……かえりたい、ほーむに

 

 

 

 

 

 

 

「あら、あらあらあら……あなた」

 

 

 

 

 

 

「?」

 

 

 

 

 

 耳に触れた綺麗な音、反応して顔を向けるけど何も見えない

 

 暗い夜、雨に打たれて、涙に暮れて。まともに目が機能していない。そんな中

 

 意識は消える。何かにつかまって、体重を預けて、そしてまた気持ち悪いものを吐き散らした。吐いたせいか、少し意識が冴えるも今度は寒気で体が動かなかくなった

 

 おぼつかない意識で、嫌悪を感じる体の感覚だけは機能してしまう。苦しむ中、苦しみで無理やりに覚まされる意識の中で、僕は

 

 

 

「大丈夫よ、もうすぐだから……楽にしてあげるから、それまで頑張って」

 

 

 

 優しくて綺麗な声を、苦しみから逃れる薬の様に縋った

 

 吐いた液で歯がきしむ心地が気持ち悪い。息をするたびに自分の汚さを戻すようで気持ち悪い

 

 雨に濡れて冷えた体が気持ち悪い。酒の毒でずっと揺れ動く頭の中が気持ち悪い

 

 

 気持ち悪い。心の底から気持ち悪いのに、なのに

 

 

 

 

「……大丈夫、大丈夫だから。ね、安心して……汚くなんてないもの。ひどい飲まされ方だったのね、ならあなたが悪いわけじゃない。服なんて洗えばいいもの……だから泣かないで、汚くなんてないから、ね、大丈夫よ。安心して、女神さまに頼っちゃいなさい」

 

 

 

 

 女神は、あなたを見捨てないから

 

 

 

 

「……ぁ、ぅぁ」

 

 

 語り掛ける言葉は、僕を暖めて包む。体はとても気持ちが悪いけど、心はとても気持ちが良い

 

 

 

 

 

「…………ッ」

 

 

 

 

 

 

 苦しみでもがくひと時が終わっていく。

 

 意識が消えていく。苦しさで無理やり覚まされ続けていた意識が消える。楽になる

 

 怖くはない。不安も無い

 

 女神の声に、僕の心は清められていく

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌朝~

 

 

 

「……」 

 

 

 煮える窯の音が聞こえる。布団が暖かくて、けど体は一ミリも動かない

 

 起きているのか、眠っているのか。頭は冴えているのに、指先すら動かない。そして

 

 

……気持ちが悪い

 

 

「……ぁ、う……はぁ、ぁ……うぅ、ぅ」

 

 

 ジンジンと痛む頭の中、乾いた口の中の気持ち悪さ。動けないのに、嫌な感覚だけはずっと鮮明に機能してしまう。

 辛い。助けて欲しい、お水が飲みたい

 

 

「……ぁ、ひぅ……ぁ、あぁ」

 

 

「はいはい、お水ね」

 

 

「…………ぇ」

 

 

 なぜか、僕の部屋で知らない声が聞こえた。 

 

 いや、知っているとおもう。けどわからない、思い出せるほど頭が動かない

 

 

「いいわ、まだ起きれないでしょ……大丈夫、こっちでしてあげるから」

 

 

「……」

 

 

 会話がはじまっていた。けど、声を出したつもりはないし、できたとも思えない

 

 目を閉じて、開けられなくて。だから、触覚と聴覚だけで、相手に接する。女の人だ、それもとてもきれいな人、だと思う

 

 背中、抱きかかえられるようにして、体が起き上がる。

 

 背骨に力が入らない。首も座らない、だけど上半身は安定していた

 

 柔らかくて、良い匂いがした。吸い付くような感触は、女性の胸であると理解できた。理解したうえで、大きさに驚いた

 

 

……これ、すごい、こんなのって

 

 

「あらあら、変な気を起こしても駄目よ……わたし、そこまでは責任持てないもの。ヘスティアにも悪いし……ほら、お水」

 

「……あ、ぁぁ……ん、んッく……く」

 

「あせらないの、ゆっくりでいいから、ゆっくり……少しずつ飲みなさい」

 

「…………ん……ん、む」

 

「そう、上手よ……いい子ね、いい子いい子」

 

 

 水の味、目が覚めるほどに美味しくて、気分が良くなる。

 

 遅くなったけど、これが夢でないと僕は気づくことができた。冷たい水が、動かない頭の中をかき回して活発にする。

 

 体は動かないけど、ここがホームの自室でないことは理解できた

 

 

……そうか、この人……いや、この神さまは

 

 

 抱きかかえられて、顔の横半分を柔らかくて暖かいもので包まれて、身を預けて楽になっている相手

 

 まるで乳飲み子のように水を施されて、甘い言葉をかけられて、そんな施され過ぎる体験を僕に与えている女神さまは、僕の知っている相手だった

 

 そういえば、以前にもこんな風じゃないけどお胸に顔をうずめた体験をした。あの時は、僕を追いかける鬼の役だったけど

 

 今は、まさしく豊穣の女神。豊かな優しさで、僕を包んで溶かしにかかる

 

 女神デメテル、デメテルさまのいるここはきっとこのお方の自室か

 

 どうして、僕は

 

 

…………理由、なんだろう

 

 

 

 わからない、そこまでの頭は回らない

 

 気分がすぐれない。もう少し寝たい

 

 楽になりたい。だから、この柔らかさに、少し、頼りたい

 

 

 

「ぁ、あらあら……あらら」

 

 

「……すぅ」

 

 

 柔らかい、良い匂いもして暖かくて気分が良い

 

 気持ちよく二度寝ができそうだ。そうしたら、ホームに帰って、それで、そうして、から

 

 

 

 

 

「あなた、わざとなの?」

 

 

「…………すぴぃ」

 

 

「わかりやすい寝方ね……もう、これじゃあ動けないわ」

 

 

「……すぅ……ぅ…………ふぅ、んぅ」

 

 

「うふ、くすぐったい。けど、可愛い寝顔ね……これじゃあ怒れないじゃない」

 

 

 

……もぞもぞ、ぽふん

 

 

 

「おっぱいに甘えて、もしかして習慣なのかしら?……やん、イケない子なのねあなた。でも、すごくかわいい」

 

 

 

…………もぞ、ずず

 

 

 

 

「……ん、ふぅ……あらら、もう…………ん、ふふ……いいわ、今はいっぱい甘えなさいな。女神の胸はそのためにあるものね」

 

 

 

 

…………くぅ、すぅすぅ

 

 

 

 

「大きいおっぱい、好きなのね……かわいい子」

 

 

 

 

「駄目ね、ヘスティアの大事な子供なのに、良くないわ……ええ、良くない……あん、でも仕方ないわね。だって、こんなに甘え上手で、ん、迫られているもの。おっぱいぐらい、許しちゃうわ……服を着てるなら、別に、ね……あはは、わたしったら悪い神さまだわ」

 

 

 

 

「………………本当に気を付けないと。友神の大事な子、食べちゃったりしたら流石に取り返しがつかないわね、なんて、よくないわほんと。よくない、よくない……気を付けないと怖いわ。こんなにかわいい子、女神のお胸が疼いちゃう」

 

 

 

 

 

「駄目よデメテル。本当に駄目よ、駄目……ふふ、くすす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




健全な物語なので、さすがに一線は越えません。悪しからず


酔いつぶされた若い男の子が年上の綺麗なお姉さんに介抱される。そんな展開がダンまちにあったっていいよね、ね



デメテル様癒し


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(12)いつでも遊びにおいで、美味しいミルクはいかが? 神デメテル

勢いで執筆、デメテル様のお話は二部構成でした。




 

~Side.デメテル

 

 

 

 その子を見たのは、ヘスティアの秘密を探ろうという悪戯がきっかけだった

 

 おめかしして二人出かけようとするところに皆と押しかけてたあの時。そういえばその時には胸に抱きしめたりもしたわね。だって、とってもかわいい男の子だったし

 

 それからは、ヘスティアの大事な子供というのもあったけど、彼はとても有名人になったから、関心を向けようと向けまいと自然耳に情報は入ってきた。

 有名になれば当然興味がわく。会いに行こうかとも思った。けれど流石にそれはぶしつけだし、ヘスティアを困らせるから、だからそれまで

 

 それなのに、偶然出会った一人の彼に、それまでの遠慮はどこかに落ちてしまった。気になって、その姿を見ていた。観察していたのだ

 

 店に入って、楽しくお酒を飲む光景を、同じく店に入って遠目に見ていた

 

 ちょっとした探偵ごっこか、そんな悪戯。今度ヘスティアと駄弁るときにいいネタになるから、だから見過ごしていた

 

 今思えば、わたしも悪いことをしたなって思う。まさか、酔いつぶそうとする相手だったとは、気づかなかった

 

 

……そこからは、我ながら大胆な行動だったと思う

 

 

 

 ホームに帰る道すがら、彼が家屋の壁にもたれて苦しんでいる姿に驚いた。

 

 デメテル・ファミリアのホームに、偶然たどり着いたのか彼はいたのだ。私を先回りするように、ベル・クラネルは私の視線を奪い、そして本能を直に殴りつけたのだった

 

 そこからは、わたしも躍起になっていた。他派閥の眷属をホームに招いて、そして自分のベッドで朝を迎えさせた。よろしくないことはヘスティアの顔を見れば十分わかる

 朝になって、ルノアに頼んでヘスティアに言伝を送って、そしてそれからすぐにヘスティアはホームに駆け込んできた。

 

 全部説明して、そしてまだ動けない彼を見て、ヘスティアは重い溜息を吐いた。吐ききった後に私にこう言った

 

 

『……事情は分かったよ。夕方になったら迎えに来るから、それまでベル君をお願いしていいかい?』

 

 

 無論、構わないと頷いた。

 

 長年の神友であるからと、わたしを頼ってヘスティアは自分の仕事に向かった。本当はここにいてずっと手を握っていたかっただろうに、都合が悪いことにギルド関連の外せない用事だったとか

 

 後ろ髪をひかれながら、どうにか場を後にしたヘスティアに手を振り、今一度私は布団で顔色を悪くして眠る彼と向き合う

 昼餉を作る必要があるから、今はごめんなさいねと言って、そっと頭を撫でてあげる

 

 

『君のことは信用しているけど、けれど……お願いだから、ベル君に変な気を起こさないでおくれよ』

 

 

「……ごめんなさいね、ヘスティア」

 

 

 真っ白な髪の毛、今は瞑っているけどその奥のルベライトの瞳は愛らしくあどけなさが隠しきれていなかった。

 真っ青な、未だ汚れを知らない青年であり、少年。ニキビ一つない滑らかな頬を触れば、胸の奥から先までびりりと痺れが走る

 

 乳房が熱い。熱を灯して疼いてしまう。ここが、母性を与える場所だから、生理的な反応が生々しくて、我ながら笑ってしまった

 

 ヘスティアには申し訳ないけど、でも仕方がない

 

 女神である以前に、女として

 

 豊穣の女神である私は、イケない欲が出てしまった

 

 この欲には逆らえない。だから

 

 

 

『ごめんなさいね』

 

 

 

 

 

 

…………とぷぷ、とぷん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~午後三時~

 

 

 

「……」 

 

 

 

 汗だくの体、借りたシャワーを終えた後、僕は用意された服を着る。

 

 可愛らしい、オレンジの花柄のパジャマだった。女性の着るものなのにすんなりと体にはまった。団員の私服を借りたらしくて、それは良いのかと聞いたけど事情を離したらむしろ着て欲しいとまで言っていたと、女の人は良くわからないことが多い

 

 昼過ぎに目を覚まして、なんだかんだでもう三時になってしまった。

 

 未だ体調がすぐれず、動きもぎこちない僕はベッドに腰掛けて、茫然とその背中を見ている

 僕の介抱をしてくれた女神様。神さまの友神で何度か顔を会わしたこともある。けど、こうして二人だけになるのは初めてだ

 

 

「もう少しだから、ちょっと待っててね」

 

 

「……はい」

 

 

 

 初めてだ。陽光が柔らかく部屋を照らす南向きの寝室。簡易キッチンでエプロンを身に着け大匙をかき回す。食事を用意している母親のようなたたずまいで、デメテル様はそこにおられる

 

 僕のために、神さまが迎えに来るまで面倒を見ると、さっき言った

 

 事情も聞かされて、昨夜からは本当にいっぱい迷惑をかけてしまったことも、聞かされた

 

 ごめんなさいを言う前に、大丈夫だよと励まされて頭を撫でられるのは、とてもずるい

 何も言えず、この甘々な施しに僕は蕩かされている

 

 こんな状況で、僕は落ち着いてしまっている。居心地が良くて、部屋もいい匂いで

 

 まだ、顔半分や肩に人肌の感覚は残っている

 

 

……どうして、こんなに

 

 

「……リトルルーキー君」

 

「え、僕ですか?」

 

「あなた以外にいないでしょ。でも長いわね、名前で呼んでも?」

 

 構わないです、首を縦に振る。嬉しそうにちょっと跳ねた。主に、一部分が

 

「ベル、ベルくん……ぁ、ベルちゃんなんて」

 

「……ぅ」

 

「ベルくん、の方が良いのね……ごめんなさい、あなた可愛いからつい」

 

 いけないおばさんでごめんなさいねと、笑っておどける姿に心が揺さぶられる

 

 怒るものも怒れない、もとよりそんなつもりはないのだけれど

 

 でも、きっとこの人の一挙手一投足には不思議な力があるのだろう、と思う

 

 

「お腹空いていないかしら、栄養一杯のスープがあるから、よかったらいかが?」

 

 

 

「……はい、その」

 

 

 

 

 言い淀む声、喉の奥で出かかる言葉は、寸でのところで噛み砕く

 

 その言葉でこの人を呼んでしまえば、きっと僕は取り返しのつかない所へと転がり落ちてしまうからだ

 

 

 

「で、デメテル様……はい、頂きます」

 

 

 

 お盆に乗った、スープ皿には白濁した色が目に映る。

 

 牛乳を使ったシチューなのだろう。オレンジや緑と、野菜のいい匂いが漂う

 

 食欲なんて無いと思っていたけど、優しいスープの匂いが胃袋に活を入れる。そうなれば、スプーンを手に取るのは早かった

 

 暖かい、良い匂いで、暖かくて、暖かすぎて

 

 

「……いいかしら」

 

「!」

 

「病人なら仕方ないわ」

 

 抵抗することもできず、その手は僕から匙を回収した

 

 恥ずかしいから大丈夫ですと、言い張ることも許さない。問答無用で、この人は甘い母性を施してくるのだ

 

「ちょっと失礼」

 

「……ぁ」

 

 

 ベッドの横に椅子で腰かけていたデメテルさまは、何を思ってかベッドの方へと腰かけて、体をぴったりと僕の横にくっつける

 お盆が傾かないよう必死で、拒む言葉は出せない。全部が先手で、何もできない後手に回っている

 

 

「……庭の畑でとれたお野菜、そしてミルク、甘くて美味しいミルクなのよ」

 

 ミルク、その言葉で反応してしまう。まさか、いやまさか

 

「牛乳よ、お嫌いかしら?」

 

「……だ、大丈夫です」

 

「そう、ならよかった。酔った次の日には優しいスープが欲しくなるものね、昨日はあなた本当にひどく酔ってたから、たくさん戻して、空っぽの上荒れているから……胃に優しい味に仕上げたのよ」

 

「……ッ」

 

 

 木匙を手に、一掬いのシチューにデメテル様の吐息がかけられる。

 

 潤った唇、口先を少しすぼめて吐く息の温度が溶け込んでいく。看病の、ごくありふれた光景。経験が無いなんて言わないし、なにもおかしい行動じゃない

 

 だけそ、間近に体を寄せて、デメテル様のお顔で行われるから、きっと、それは良くないことに思えてしまう

 

 背徳的で官能的、顔が熱くなる。まだ何も食べていないのに

 

 

「さ、お口を開けて……あ~ん」

 

 

「……ぁ、んむ……ん、く」

 

 

 暖かい、熱すぎずぬる過ぎない温度が舌に触れる。先に熱が口内に染みて、遅れて味が感じられてくる。

 

 死んだ感覚に生が吹き込まれる。水しか口にしていないから、唾液がどっと溢れて喉が唸る。あまくてしょっぱい、まろやかな舌触りの優しいスープ

 

 溶け込んだ野菜の滋味、潰して溶けたイモ類のコク、キノコのうま味。内臓が喜びで震える味だ

 

 

「……おいしい?」

 

 

「はい、とても……うぅ」

 

 

 涙が出てしまう。取り留めなく溢れる涙が、きっと昨夜の痛みを思い出したから

 

 嫌なことをいっぱい体験して、そして今は優しさを施される。そのうえで、この暖かい味はとどめとなった。

 

 我慢できず、涙があふれて。だけどお腹は空いて

 

 

「ん、ぐく……はむ、うぅ……ひく、でめてるさまぁ~~ッ」

 

 

「もう、泣いたり食べたり忙しい子ね……うふふ、やっぱり可愛い子」

 

 

 笑われて、可愛がられて、恥ずかしいのに心地が良い

 

 気丈に振る舞うことも意味は無いと悟る。きっと、この人の持つ魔力がそうさせるのだ。神デメテル様のもつとっても強い力

 

 神デメテルの持つ母性に、きっと地上の人々は容易に抗うことはできない。証言できる、この人の母性は最強なのだ

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

 時刻は夕暮れ、あっという間に時間というものは過ぎ去っていく

 

 ベッドに坐して、何でもないお話をしあって、時にちょっとした暇つぶしの遊戯に興じたりもした。料理の手伝いもして、今は夕飯の料理を籠に抱えて神さまと帰路についている

 

 看病を受けて、服も着替えて、昨日の雨が若干残る帰り道を行くのだ

 

 湿った匂い、街を流れる風の温度

 

 あの、デメテル様の部屋で過ごした感覚が上書きされていく。デメテル様の温度も、匂いも、全部、過去になるのが物寂しい

 

 

 

「ベル君?」

 

 

「……はい」

 

 

「大変だったね、ホームに着いたらまた休んでおくれ。して欲しいことがあったら言うんだよ、僕は君にいっぱい看病するつもりなんだぜ。本当なら、ギルドの用事なんてほったらかしたかったんだ……ベル君、やっぱり寂しかったかい?不安だったかい?」

 

 

 腕に抱きつき、柔らかく神さまは迫ってくる

 

 不安か、寂しいのか、その問いかけはには

 

 

「……はい、そうですね」

 

 

「うはーッ! 君って子は、うんうんわかってる、いっぱい甘えたかったんだね。そうだろうとも! 看病はいっぱいしてあげるから、このぼくに何でも言っておくれよッ」

 

   

  

 

 ホームについて、神さまは言葉の通り僕に尽くし過ぎるぐらいに看病を施した。そんな中、色々と喧嘩とかあったりして、騒々しいいつものホームで見る姦しい光景をよそに、僕は早い就寝に落ち着く

 

 満たされていないとは思っていない。帰りたかったホームに帰れたのに、文句は言わない、だってこれ以上は贅沢だから

 

 贅沢、そう贅沢なんだ

 

 

 

 

……でも

 

 

 

 

 贅沢すぎる願いはあさましい。だから、心は本音をしまい込んで、賢い振る舞いを保とうとするのだ

 

 あの家ではできなかったことだ。あの女神さまは、僕のそういう頑張りを簡単にやめさせる。所詮メッキ、容易にはがれるもの

 

 だけど、そんなメッキもはがせない僕もいる

 

 強がることに意味も無い。そうはわかっていても肩ひじは張ってしまう。時に楽になって、駄目な自分を見られてもいいかなって、そうなることは以前にもあった

 

 だけど、あの人の人時は今までの日じゃない。そう、あの母性の前には、僕は僕ではいられない。

 

 怠惰で、甘美で、どこまでも駄目になってしまうそんな体験

 

 

 

……贅沢だ、よくない、よくないのに

 

 

 

 ありのままの、恥ずかしい僕であっても受けれいてしまう女神さまがいる

 

 あぁ、これは本当にたまらない。誘惑に抗うのは、武器を持って戦うことよりも難しい

 

 

 

…………良くないのはわかっている。だから、一度

 

 

 

 

 最後に一度、一度だ

 

 それを気に、踏みとどまるべきだ。だから、明日か、明後日か、体が治り次第会いに行く

 

 デメテル様に会う。お礼をするために、謝罪をするために

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数日後~

 

 

 

 

 

 日を改めて、訪れたホームの出先に彼女はいた

 

 まるで、僕が来るのを先んじて予期していたように、デメテル様は花に水やりをしていた

 

 じょうろの水が鉢植えから溢れている。きっと、来るとは思っていなかったのだろう。わかりやすく反応していた。だから、予言は無い

 

 今日は、運が良い日ということだ

 

 

 

「あの、これ!」

 

 

「……あら、あらあら」

 

 

 陽気でぽかぽかした反応を見せる。僕が渡したのはお金だ、正確には服屋で使える商品券数枚だ。

 

 直接お金を渡すよりはこの形が良いと思ったから、それで渡したのは一万バリスの券を四枚

 

 

「あの日、汚してしまってごめんなさい!」

 

 

「……あ、そういうこと」

 

 

 いきなり渡された商品券の意味を理解し腑に落ちたといった感じだ。前置き無く渡したのは間違いだったと反省。けど、以前のこともあるから頭が常に下がりっぱなしなわけで、うん、思い出したらね、本当に申し訳なさすぎるというか

 

 介抱してくれたことには本当に感謝している。そこは揺るがない、けど問題は対価だ。僕が一方的に迷惑をかけて、それで助けられて、お礼はしてもしきれない

 

 だから、最低限この弁償だけは優先するべきだと思った。僕の吐いたモノで汚してしまった服のお金、いくらかかるかわからなかったけど、でも多めに見積もって渡して、これでどうにか足りると踏んだ

 

 

「いただけない、って言ったら」

 

 

「……ッ」

 

 

「プルプル震えて、そうね……わかった、もらって気が済むならそうするわ」

 

 

 ありがたく、そう言い僕の手を取り券をしまう。胸の谷間に、よりにもよってなぜ?

 

 

「この服ポケットが無いもの」

 

 

「……じゃ、じゃあこれで」

 

 

「あ、ちょっと待ちなさい……ねえ、待ってて」

 

 

 呼び止めに後ろ髪が捕まった。デメテル様はおっとりした調子で、何かを考えて、そしてまとまったのか一人何度もうなずいた

 

 

「ベル君」

 

 

「!」

 

 

 未だ慣れない呼びかけに背中が伸びる。デメテル様は凍り付く僕に近づいて、そして

 

 

「……手を出して」

 

 

「は、はい」

 

 

 

 言われるままに、促されるままに、差し出した右の掌

 

 手首をそっと掴む。そして何を思ったのか

 

 

「えい」

 

 

 

……もにゅん

 

 

 

「ふひゃわああああああああああああああああああああああああああああッ!!?!?!?!?」

 

 

 

 

 訳の分からない声が出てしまった。なんで、どうして

 

 

 

「……お詫び」

 

 

「!」

 

 

 

 デメテル様は笑っている。悪戯が成功した顔をして、そしてあどけないまま言葉を繰り出す

 

 予想外で、だけど腑に落ちる

 

 デメテル様は、僕の手を掴んで胸の前に抱き留める。引き寄せて、近くなって

 

 

 

「ベル君、わたし結構暇な神さまなのよね」

 

「……さ、さよう、で」

 

「だからね、ホームの裏口からすぐ私の部屋に入れるわ。ね、菜園をまっすぐ抜けて」

 

「…………え、えっと、つまり?」

 

 

 意図が見えずにいる、そんな僕を面白がって、最後のとどめとばかりに

 

 一歩、踏み込んだデメテル様に僕はつんのめって、顔が落ちる。いや、落とされた

 

 

 

「!」

 

 

 

 覚えている、忘れるわけもない

 

 あの辛い夜も、そして穏やかな朝に、そして気持ちのいい昼に

 

 僕はこうやって包まれた。デメテル様の豊かな谷間で、まどろみを得たのだ

 

 

 

「……暇つぶし、付き合ってちょうだいな」

 

 

 

「————ッ」

 

 

 

 力が抜ける。砂糖を煮詰めた暖かい液体が、耳から伝わって脳を溺れさせるような心地で

 

 甘すぎる母性が、僕の力を奪っていく

 

 

 

「……いけないわ、ほんとうにいけない遊びよ。ええ、でも」

 

 

 

 ほんの少しだけ、小さくささやいか言葉に、海の底に沈むようなおどろおどろしさを覚える

 

 こんなにも甘くて、優しくて、暖かい、そんな女神の言葉に

 

 僕は、ああ、もしかしなくても

 

 

 

 

「裏口の鍵、隠している場所を教えてあげる。たまにでいいの、貴方が疲れた時、ちょっと駄目になりたい時が来たらここへ遊びに来なさい、美味しいものを作ってあげるわ」

 

 

「……ふぁ、ふぁぃ」

 

 

 

 

 抵抗できず、力が抜けきって僕は肯定の言葉を唱える

 

 誰にも明かせない、一人隠れてこっそりと通う日々が今日から始まる

 

 頻繁にじゃない、それだけは弁えて、都合のいい関係を僕はデメテル様から与えられた

 

 お礼も、謝罪も、何も通じない

 

 施しは、ずっと続くのだ

 

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

 

「……ごめんなさいね、ヘスティア」

 

 

 

 

 罪悪感はある、良識は捨てていない

 

 だけど、自分に嘘をつくのは神も人も変わらない。どこまで行っても、神は身勝手で独善的で、利己的だということがよくわかる

 

 施す行為は、施す側にとっても甘美だから。だから、この胸はあの子の不浄すら受け入れてしまった

 

 嫌悪感も無く、ただただ慈愛で接してしまう

 

 噴き出る母性は、きっとそのせいで。薬を飲んだってこの熱は収まらない

 

 ため込んでしまえば、体にだってきっと悪い。だから、だからこれは仕方ない

 

 謝罪は受け入れない、お礼は受け取っても関係はそのまま

 

 施し続けるのが良い。きっと、あの子の方もそれでいいのだから

 

 

 

「ヘスティアには悪いけど、いやいっそ二人で……ふふ、それもありかしらね」

 

 

 

 子供はいつだって母性に飢えている。施すことは良いことだ、だから、ほら

 

 

 

 私は何も間違ってはいない、うふふ

 

 

fin




以上、デメテル様の母性愛にロックオンされたベル君でした。噴き出る母性(意味深)に触れてしまったベル君の不運というか幸運、そんなお話

デメテル様いいよね、もっと出番欲しい


感想等あれば幸い、モチベ上がって日々健康に過ごせます。


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