転生したら女神様!?〜退屈だから子育てやらなんやらします〜目指せ世界最強お母さん! (参勤交代02)
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第一章
プロローグ1
目が覚めたら知らない場所にいた。暑くもなく寒くもない全てが真っ白な世界。そんな場所に俺はいた。
「どこだここ.....?」
こんな場所俺の記憶にはないし、そもそも一度見たら忘れないだろう。
俺が一人で考えていると後ろから声が掛かった。
「お〜い、大丈夫?聞こえてる?」
その声に振り返るとそこには女神と言えるほどの美貌を持つ女性がいた。
長く艶やかな黄金の髪に整いすぎていると思うほどの顔、目線を下げれば薄手の布からとても豊かな双丘がこれでもかと主張している、そして微笑みながら髪と同じ金の瞳で俺を見ていた。
「えっと....その…女神様...?」
やっと出た言葉がそんなのだった。なんだよそれ!!我ながら情けない!
「うん!女神だよ〜身体の方は大丈夫そうかな?」
「えっはい、大丈夫ですけど正直現状を理解できてないです」
なんか割とノリの軽い女神様だった。そのお陰で今返事返せたけど
「ありゃ、そうなのか〜じゃあ説明するね、簡単に言うと君はもう死んじゃったんだよね」
「死んだ....?」
「そう、襲われそうになってる女の子を庇って最後にナイフでぐっさりと刺されちゃったんだよ、覚えてない?」
「あっ....」
今女神様に言われて思い出した。そうだ俺はあの時襲われそうになってるあの子を助けようとしたんだ、まさかナイフを出してきてそのまま刺されるとは思ってもなかったけど。
「そっか、俺は死んだのか...」
「思い出した?」
「はい、全部思い出しました。それで...あの子は助かったんですか?」
「うん、安心して良いよ。君のおかげであの子は助かってご両親のところにきちんと帰ったよ」
そう言って笑った女神様に俺はとても安堵した。死に損じゃなかったこともあるのだけれどそれ以上に俺の命で誰かを救えた事がとても嬉しかった。
「君は優しいね、自分が死んだのにその事よりも助けた子の安否を聞いて喜ぶなんて」
女神様がそんなことを言ってくれるが別に大したことではない。それに俺だって死んだことについては少しは気になる。
「そんなことないですよ、それで女神様は死んだ俺に何のご用なんですか?お話するためじゃないでしょう?」
「あ、それは今から説明するから安心してね〜.....それと!私の名前はリュクシールって言うからそう呼んでね!」
「分かりましたリュクシール様」
「うんうん!君には別の世界に転生してそこで過ごして欲しいんだ!」
別の世界!それは異世界転生ってやつか!本当に実在したのか!
「転生して普通に過ごすだけでいいんですか?」
「大丈夫だよ〜、あっでも女神として転生するからそこは気を付けてね」
「なるほど女神として..................ってうぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
「あはは、やっぱり驚くよね〜」
そりゃ驚くよ!!なんで女神ィ!!えっ俺女になるの!!嘘でしょ、どういう事だよ!!
「どいう事ですか!リュクシール様!!!」
「えっと〜君の魂にはかなり高位の女神になれる素質があって、それと私が管理する世界を代わりに見ていて欲しいな〜って」
「女神の素質って....そんな簡単に女神になれるものなんですか.....」
「ほんとにごく稀だよ!君が特殊なんだよ」
女神として異世界転生か〜ほんとなんてラノベだよ。でも別に悪くはないよな、どうしよっか
「で、どう?転生する?」
そう聞いてくるリュクシール様
まぁ別にいいかな女神になってもやることは変わらないだろうし
「はぁ.....分かりました、女神として転生します。あっ女神になっても弱くていきなり死んだりとかありませんよね?」
「ん?あ〜大丈夫だよ、君なら最高位のスペックになれるから魔法はなんでも使えるし、武器も使いこなせるから。でも最初は力の加減が出来ないかもしれないから気をつけてね」
あれ?予想以上にすごい女神になれるのか?それはよかったよかった。けど力の加減が出来ないのか....行ってから確認しないとな
「分かりました気をつけます。今すぐ転生するんですか?」
「そうだね、あんまり時間もかけらんないしもうやっちゃおっか」
そうしてリュクシール様が俺に手をかざすと足元が金色に輝き始めた。なんか凄いなこれが魔法か
「じゃあいくよ!向こうの世界も楽しんでね!」
それを聞いた俺の視界は金色に染まり俺は意識を手放した
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プロローグ2
気が付くと俺は見知らぬ森に座っていた。ちょうど目の前には川があり森がずっと続いている。
「どこだここ....?」
まるで田舎町のようなのどかな川や森を眺めながら俺は頭の中を整理し、今の状況を考えた。
「そっか、俺リュクシール様に異世界に転生させてもらったんだっけ」
その事を考えながら俺は周りを見回した。
ほんとに川と木しかないな、そう思いながらも見ていると近くに何か革袋のようなものがあった。
「ん?なんだあれ?なんであんなところに袋が?ひょっとしてリュクシール様がなにかくれたのかな」
そう思い革袋の方に行こうと立ち上がった時俺は自分の身体に違和感を感じた。不思議に思い目線を自分の下に持っていくと俺には付いているはずのない大きな二つの双丘がそこにはあった。
「うわっなんだこれ!?.............って、そうか俺女神として転生したんだった」
俺は自分が女神になったことを思い出し、自分に二つの大きな塊があることに納得した。思えば声も男性のものではなく、どこか落ち着いた感じの女性の声だった。
そして革袋を手に取り、その中に手を入れ中身を探った。
「ん?見た目に反してやけに袋の中が広いな。これも俗に言うマジックアイテムだったりするのかな?」
しばらく中を探っていると手に紙のようなものが触れた。そのまま掴んで取り出してみるとそれはリュクシール様が書いた俺宛の手紙だった。
「手紙?俺になにかあったのかな」
『やっほ~これを読んでるってことは無事に転生できたみたいだね、よかった!よかった!君の今の状況とこれからのことについて話すからきちんと最後まで読んでね!それと、この手紙が入ってた革袋はアイテム袋と言って、たくさんの物が入るマジックアイテムだよ~これから君に必要な物が入っているから活用してね』
どうやら俺の為にわざわざ物を用意して手紙も書いてくれたらしい、正直かなり助かる。あとこの袋はやっぱりマジックアイテムらしいこういうのって貴重品だったりするのかな。そう思いながら手紙を読み進める。
『基本的には君の好きなように過ごしてもらって大丈夫だよ~たまに私からお願いするかもだけど。そして、君の女神としての名前はシェリアに決まったから今後はその名前を名乗ってね!』
好きなように生きていいのか、なんかすごい好待遇だな。それにシェリアか.......なんかすごいしっくりくるな。さらに読むと最後に注意事項などが書かれていた。
『最後に!!君はもう女神なんだから口調や態度については気を付けてね!女神が俺なんか言っちゃダメだよ?見た目も気になるだろうからアイテム袋に全身鏡なんかも入れといたから確認してね~街は川沿いに行くとあるからこれから頑張ってね~!』
そこで手紙は終わっていた、なんか最後まで軽い女神様だったな。
全身鏡か......確かに見た目は気になるな。それからおれはアイテム袋から全身鏡を取り出した。どうやらアイテム袋は出したいものをイメージすると取り出せるらしい。
俺は鏡に映った自分を見た。その姿に俺は思わず目を見張った。
髪は腰に届くほど長く、色は雪のように真っ白であり絹のようにサラサラでなんかキラキラしている。
顔もリュクシール様のように整っていてどちらかといえば優しい印象を与え、瞳はすんだ空色。
身長は女性にしては高く百六十後半はあると思われる。胸も改めて見るとすごく、リュクシール様に匹敵するくらいの大きさを持っている。
こうして全身を見ると本当に美しい。
「まさか、これほどとは......」
さすがに驚いたが、自分の身体だからかそれ以上は特に何も思わなかった。
それと、リュクシール様に言われたのは口調と態度か、確かに女神になった以上はその辺もしっかりしないとな。ぼろが出ない様に常に敬語にするか。
あれ?俺ってこんなに順応性高かったっけ?これも女神になった効果?
ま、とりあえずはいっか....今は口調を変えることに意識を向けよう。
........................................................................................................................................................................................................。
“よし.....これから俺《・》
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プロローグ3
あれからかなりの時間が経ちました。途中から数えていませんがリュクシール様曰くもう数千年はたったようです。
最初は新しい世界ということで少々....いやかなりテンションが上がっていました。今思うとはしたなく恥ずかしい限りです.....
ん?元男が何を言ってるんだ、ですか?元男でも数百年経つと意識も変わってきます。
まぁさすがに男性に恋愛感情を抱くことはないのですが。
とりあえず!そのことは置いておいて、私は異世界に来て早速やらかしてしまいました。私は転生前リュクシール様に『最初は力の加減が出来ないかもしれないから気をつけてね』と言われました。
しかし、そのことを完全に忘れていた私は魔物を倒すために魔法を全力で使ってしまいました......ちなみにこの世界にもしっかりと魔物というものがおり、それを討伐する冒険者なんかもいます。
その結果森の一部を完全に更地にしてしまい、その場を逃げました。
その後、反省した私はもうこのようなことをしないよう人が寄り付かない森に行きそこで自分の力を確認し、制御できるようにしました。正直かなり大変でした。
リュクシール様が言った通り私はすべての魔法を使え、武器も扱えるためやることが多くそれだけでもかなりの時間を使ってしまいました。まぁその分便利な魔法もたくさん覚えましたが。
力をきちんと制御できるようになった後、私は初めて街に行きました。転生してから何年も経ってようやくいくことが出来ました。アイテム袋にはお金や服などの他に身分証も入っていたので問題なく街に入ることが出来ました。街に入って改めてここが本当の異世界なんだと感動しました。
それとやっぱり見た目のせいなのか多くの人の視線を感じました。特に胸。もう慣れましたけどあれは良いものではありませんね。
その日は街を探索し、軽く買い物をしてから宿に泊まり次の日に冒険者ギルドに行きました。
やはり異世界に行ったら冒険者でしょう!!ギルドに入ると案の定注目を集めましたが気にせず冒険者登録をし、テンプレよろしくな先輩冒険者たちを軽くひねったりしました。
そこからの流れはすごかったです。冒険者として依頼をこなしていくうちに気付けば最高ランクになっていたり、孤児院の子供たちに勉強や魔法をおしえたり、逆に私がこの世界の事を教わったりととても充実した時間を過ごしていました。ですが楽しいことばかりではなくちょっと大変な目にあうこともありました。
特にあれですね、王国が私に目を付けて王都に呼び出した時が大変でしたね。なんと、謁見の際に国王と一緒にいた第一王子が私に惚れてしまったのです!そこからはてんやわんやで、どうにかして私と王子をくっつけようとする人たちと逆に私という異分子を消そうとする人たちでひどい目にあいました。
結局私はばれない様に王都を出て国から出ることにしました。手配書なんかも出していたようですが、そこは腐っても女神、魔法などを使うことで衛兵たちを避け国を出ることが出来ました。
その後は目立たない様にフードを被って世界中を旅しました。ダンジョンを攻略したり料理を作ったりここでもまた子供たちに魔法を教えたりとここでも自由に過ごしました。
途中リュクシール様から連絡があり、凶悪なモンスターを退治したりアイテムを預かったりもしました。そして、ある程度やりたいことをやりつくした私は最初に魔法の特訓を行った場所に戻り、そこで前世でも流行ったスローライフというものを始めました。自分で食料を狩ったり、農場栽培をしたりなどこれはこれで楽しい時間を過ごしました。
世界中を回って手に入れたお金や武器、装備、アイテムは全部この家にあります。なんかもったいなくて手放せないんですけど、いつか活用する日が来るのでしょうか?
とまぁ私が転生してからの話をざっくりと話すとこんな感じですかね。ん~思っていたよりも意外と短かったですね。かなり削りましたしこんなものですか。
そして退屈になってしまった私はそこから魔法の研究や武器の創造・強化を無心で行ってきました。それこそ時間を忘れるほどに........
それから私はリュクシール様の『シェリアちゃん、ずっとそれやってるけどもうあれから数千年経っちゃったよ』という声を聞き初めて気が付き今に至ります。
「まさか、そんなに経ってしまっていたとは........どうしましょうか....う~ん、気分転換に遠くの森でも散歩しましょうか」
この散歩で私の新しい生き甲斐が生まれるなんてこの時は思ってもいませんでしたね。
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第一話 森でのひと時・戦闘
気分転換をするために私の家からかなり離れた森にやって来ました。来る途中にも思いましたが、やはり数千年経つと世界というのはかなり変わるそうです。全く見たこともない地形もありました。
しばらく歩いていると少々小腹が空いたので早速魔法を使ってみたいと思います。使う魔法は“探査魔法”その名の通り周りを探査する魔法です。これを使えば自分の周りから欲しいものを探すことができ、魔力を込めれば込めるほど遠くを探査できます。
「あ、あそこにリンゴがいくつかありますね。もらっていきましょうか」
魔法を使ったおかげですぐにリンゴを見つけることが出来ました。実はこの世界前世の食べ物の名前がそのまま使われてるんですよね。おかげで間違えずにすみますが。
歩いて直ぐのところにあったのでその内の一個を取り、アイテムボックスから皿とナイフを取り出しました。このアイテムボックスは私が魔法の研究をした時に開発したもので、空間を別のとこへ繋ぎそこに物を保管するという魔法です。
魔力量によって容量が決まってしまうのですが、私の場合はほぼ無制限ですね。かなり高度な魔法なので普通の人はアイテムボックスを習得するよりもアイテム袋を使った方がいいですね。
「さて、そのままかじるのは少々はしたないので切りましょうか。こういう時魔法はとても便利ですね」
「キュッキュッ!」
「あら?あれはもしかしてアルミラージ?どうしてここに.........ひょっとしてあなたも食べたいんですか?」
声のした方に顔を向けるとそこには見た目はウサギだが角が生えている魔物アルミラージがいました。特に敵意を感じなかったので私がそういうとアルミラージはトコトコと私の方へ寄ってきた。
「少し待っていて下さいね、今あなたの分も切りますので」
「キュッ!!」
そう言って私はナイフでリンゴを一瞬で切り分けました。この身体だとナイフの技術も達人級ですね。時間が経っても身体はなまってなさそうです。そうして切ったリンゴを皿に分けアルミラージに渡しました。
「はい、どうぞ。切っただけですけど召し上がって下さい」
「キュッキュッ.........モグモグ.....キュ~~」
「うふふ、とても美味しそうに食べますね、では私も........うん!とても美味しいですね!!」
アルミラージはまるで子供のように一心不乱にリンゴをかじって幸せそうな顔をしている。
瑞々しくて甘いリンゴでした。前来たときはこんなにおいしくはなかったのですがやはり時間が経つと変わるものですね。
そういえば私魔法研究などをしている間農場の方に一度も行ってないですね.......やってしまいました。後で環境を保護する魔法なんかをかけておきましょう。
私がそんなことを考えている間にアルミラージはリンゴを食べ終わったみたいで私の方をジッと見つめていた。
「どうかしましたか?」
「キュッ、ペコリ」
私が言葉をかけるとアルミラージはかわいく一礼してそのまま森に帰っていった。
「ふふ、随分と礼儀正しいアルミラージでしたね。さて、私も森の散歩を続けましょうか」
アルミラージも森に帰ったことで私も散歩を再開しました。
森の中で風が吹くと、風が頬をくすぐるような感じがしてとても気持ちがいいですね。
もう少し風を堪能しようと思っていたら妙な気配を感じました。
「これは魔物と.....人ですか」
感じた気配は魔物と人でした、探査の魔法で詳しく見るとその魔物はオークで三体おり人が四人でそれぞれ剣士、盾役、回復役、魔法使いの冒険者のようですね、バランスの良い編成ではないでしょうか。
「見た感じはいいですけど......う~ん、あれは少しまずいですね」
優勢なのはどうやら魔物の様でした。冒険者達も悪くはないのですが四人中の一人、盾役の子が怪我をしていて回復役の子が治療していますね。そして魔物を押さえるために剣士の子が一人でオーク三体のヘイトを集め、魔法使いの子が外からそれをサポートしてる感じですか。今はなんとかなっていますがこれではジリ貧ですね。
「このままではいずれ全滅、未来ある子たちに死なれても困りますから助けに行きましょうか」
そう言いながら私は全身に魔力を行き渡らせ森を駆けた。
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今この場に四人の冒険者がいる。
剣士の名はライアそして盾役をロン、回復役をセシリア、魔法使いをリーシャという。
現在四人は絶体絶命の状況である。ロンがオークの攻撃を利き腕に食らってしまい盾が持てなくなってしまった。それによりライアがリーシャのサポートを受け一人でオークの相手をしていた。
「クソッどうすればいいんだっ!!!このままじゃ.....!!」
「とりあえずライアはそのまま持ちこたえててッ!!!!私の魔力ももう残り少ないッ!!!」
「まじかよッッリーシャの魔法がなけりゃさすがにこれ以上持ちこたえるのは無理だっ.......セシリア!!ロンの回復はまだかっ!!!」
「すみません!!まだ終わりません!!傷が深くて回復しきれません!!」
「うぅっ....すまない俺があいつらの攻撃を食らったからっ....最悪俺のことはいいから逃げろッ!」
「そんなことできるかッ!!!」
「そうよ!!!そんなこと....ッッッライア!!右!!」
「ッッッッッ!!!」
ライアの集中が途切れたせいかそれとも疲労のせいか、理由は定かではないがライアの右にいたオークは既に右腕を振り上げた状態にあり、その腕を振り下ろせばライアは一瞬でつぶされるだろう。
そして、オークが腕を振り下ろす瞬間......
「させませんよ」
真っ白なフード付きのローブを着た一人の女性によって、そのオークは
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第二話 戦闘・そして出会い
今私はオークと戦っている冒険者たちのところに向かっています。剣士の子が頑張ってくれていますが、正直いつやられてもおかしくはないので少し急いでいます。
「助けるのはいいですが、やはりあまり目立ちたくはないですね」
ふとそう思った私は走りながらアイテムボックスから真っ白のフード付きのローブを取り出した。これは別にマジックアイテムでもなんでもなく、単に私が街で一目見て気に入って買っただけの普通のローブです。
これを着れば顔なんかはある程度は隠すことができるでしょう。
「武器は無難にロングソードでいいですか。一振りで首を切り落としましょう」
しばらく森を駆けていると複数人の声が聞こえて来ました。よかったまだ誰も死んではいないようですね。ひとまずその事に安堵します。
ほんとは転移魔法を使って来たかったのですが、転移魔法はその行き先のことを明確にに知っていなければならず、前の時代ならまだしも今の時代について私はほとんど知らないので転移魔法は使う事が出来ませんでした。
「クソッどうすればいいんだっ!!!このままじゃ.....!!」
「とりあえずライアはそのまま持ちこたえててッ!!!!私の魔力ももう残り少ないッ!!!」
「まじかよッッリーシャの魔法がなけりゃさすがにこれ以上持ちこたえるのは無理だっ.......セシリア!!ロンの回復はまだかっ!!!」
どうやらほんとにピンチのようですね。よし行きましょう。オークはとりあえずすぐに片付けます。
「すみません!!まだ終わりません!!傷が深くて回復しきれません!!」
「うぅっ....すまない俺があいつらの攻撃を食らったからっ....最悪俺のことはいいから逃げろッ!」
「そんなことできるかッ!!!」
「そうよ!!!そんなこと....ッッッライア!!右!!」
「ッッッッッ!!!」
ライアと呼ばれた剣士の子に向かってオークが右腕を振り上げています。そのまま腕を振り下ろせば間違いなく彼は死んでしまうでしょう。
「させませんよ」
ですが、そんなことはこの私が認めません。私は右手でしっかりと剣を持ち右足で踏み込みジャンプをしました。それと同時に右腕に魔力を集め剣自体にも魔力を纏わせます。そしてそのまま横に一閃、まずは腕を切り落とし、その勢いのまま、首も切ります。
魔力を剣に纏わせることで、切れ味をかなり上げる事ができオークぐらいなら簡単に切れます。その分魔力のコントロールは難しいので慣れないと出来ませんね。通常ならばここまで簡単に切ることは不可能でしょう。
首を切られたオークはそのまま後ろに倒れ動かなくなりました。まずは一。残りの二体は私から見て正面と左にいますね。いきなり仲間の一体が倒されたことで完全に動きが止まってます。
まぁそれは後ろの子たちも一緒ですが.....
「え....助かったのか.....?」
「オークを腕ごと.......一撃で....?」
さて、残りの二体も手早く片付けましょうか。早く盾役の子の治療もしたいですからね。見たところ傷はたしかに深そうですがまだまだ完全に回復できる範囲ですね。
私はまた、さっきと同じように脚に力を入れ一瞬でオークの目の前まで移動します。オークは驚いて私の攻撃を腕をクロスさせることで防御しようとしましたが、遅いです。それに私の剣の前ではそんなのは無駄です。
右にステップをしオークの側面を沿うように後ろに回りその流れで首を切ります。これでニ。残りの一体は私の攻撃を見て怖くなったのか後ろに下がり逃げようとしましたが、逃がしません。一瞬で移動し切り伏せます。
これで終わりましたね。さすがにオークに苦戦するようなことはありません。魔法を使えばもっと簡単に倒せたのかもしれませんが、まぁいいでしょう。あとは後ろの冒険者の子たちの対応ですね。
「大丈夫ですか、立てますか?」
出来るだけ警戒させないように、フードの中で笑みを浮かべながら剣士の青年ライアに声を掛けます。
呆然としていたライア君ですがすぐに顔を引き締め立ち上がり、私にお礼を言ってきます。
「.......あっすいません、大丈夫です。危ないところを助けていただきありがとうございます。」
「私からもお礼を、助かったわ」
そういってライア君に続いて魔法使いのリーシャさんも私にお礼を言ってくる。
「いえいえ、大丈夫なようならよかったです。あとは、あの子の治療ですね」
私は二人に返事を返しながら盾役のロン君のところへ行きます。隣にいるセシリアさんという子も私が来た時はこちらを見てロン君の腕を治療しながらお礼を言い、ロン君も同じように私にお礼を言ってきました。
「やっぱり私じゃ回復しきれない.....」
「大丈夫だ、今から街に戻ればまだ間に合うさ」
ロン君の腕を見てみると傷が深く、かろうじて腕が繋がっている感じでした。高位の回復師の魔法なら完全に治せそうですが、今のこの子では少々難しいですかね。
私はロン君のそばにしゃがみ回復魔法を使います。
「少し、失礼しますね」
「えっあの、なにを.....」
「エクストラハイヒール」
私がそう唱えるとロン君の腕が輝きだし、先程の酷い傷が嘘のようになくなり元の状態に戻りました。エクストラハイヒールは完全回復魔法で、死んでいなければどんな怪我も治せます。
治った腕を見たロン君とセシリアさんはとても驚いており、後から来た二人も同様に驚いていました。
「あの傷を一瞬で.....」
「まさか、完全回復魔法.......?」
「治しましたがどうですか?腕の調子は?」
「はい、大丈夫です...むしろ前より調子がいいかもしれないです」
さすがにエクストラハイヒールを使ったのでほんとに大丈夫そうですね。
では、目的も達成しましたし、これ以上はここにいる必要はないですね。近くに魔物の反応もないですしこれなら街までちゃんと帰れるでしょう。
「でしたらもう大丈夫ですね、周りには魔物もいないので真っ直ぐ街に行けると思いますよ」
そう言って四人から離れようとするとライア君が呼び止めて来ました。
「待ってください!ほんとうにありがとうございました!俺の名前はライアって言います。そして仲間のリーシャ、ロン、セシリアです。あなたの名前を教えてくれませんか?」
ライア君は自分や仲間の名前を告げた後私の名前を聞いて来ました。
う〜ん、名前なら別に大丈夫ですかね、今の時代に私のことを覚えてる人なんていないでしょうし。ならいいかと思い私はライア君に体を向け名前をいいました。
「私はシェリアと言います。それと、そこまでお礼を言わなくてもいいですよ。偶然居合わせただけですから。それではさようなら」
そして今度こそ四人から離れ、出来るだけ遠くに行くように森の中を走りました。
しばらくしてから走るのをやめ、今はまた森の中を歩いています。既に日は暮れていて辺りは薄暗くなっていました。
「あの時はフードを被っていましたが大丈夫でしたかね?まぁ顔を見られていたとしも今はまだ大丈夫でしょう。結構な時間も経ったのでこの辺で一度帰りますか」
「ガサッ」
「また人ですか、そこにいるんですか?出てきても大丈夫ですよ」
転移魔法で帰ろうとすると横の茂みから人の気配がしたので、またかと思い声をかけたのですが出てきた二人を見て私は少しばかり固まってしまいました。
「子ども.....?どうしてここに?それに身体がボロボロじゃないですか!」
そう、どう見ても子供の男の子が同じぐらいの女の子を背に乗せ出て来たからです。こんな時間の森に子供がいるのはありえないですし、それだけじゃなく服も所々が破けていて、切り傷も何箇所かありました。
私が固まっていると男の子の方が声を出しました。
「お願い.....します.....俺はいい...から.....妹を..たす...け」
そういって男の子は倒れてしまいました。
さっきまで固まっていた私ですが、すぐに身体を再起動させ冷静になりながら男の子のそばに行きました。
「大丈夫、気を失っただけですね。妹さんの方も問題なし。何か事情がありそうですが、さすがに放っておけませんね。傷を治してから私の家へ連れて行きましょう」
それから、二人の傷を回復魔法で治してから、私は転移魔法で移動しました。
これがあの二人と初めて出会った時の出来事です。
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第三話 双子
家に帰ってきた私は直ぐに二人を二階のベッドに寝かせました。傷は治ったとはいえ、疲労は溜まっているでしょう。一日中森をさまよっていたようでしたし。
服も破れていた物から綺麗で清潔なものに変え、身体も魔法できれいにしました。
この魔法は生活魔法の一つであるクリーンです。文字通りきれいにする魔法です。これを使えばいつでも、どこでも身体をきれいに出来ますが、私はお風呂が好きなので外でしか使いませんね.....
家は二階建てで、一階はリビング、台所、トイレ、風呂、洗面所などがあり二階は部屋が三部屋あるだけの一人で済むには広いなくらいの家ですね。
一階に戻ってきてから、いつ二人が起きて来ても大丈夫なように料理をしながらこれからのことについて考えました。おそらくあの二人は身寄りがいないのでしょう。でなければあんな森にいるわけがありませんし、助けも求めません。ではなぜいないのかですが、これはあまり考えても仕方ありませんね。このままはい、さようならなんて事はさすがに出来ないので勿論面倒は見ます。
「丁度今、私は暇ですしね」
と言っている間に料理....おかゆが出来たので火を止めます。起きて来たらまずは自己紹介ですかね。お互い名前も知らないですし、それだとあの二人が不安がってしまうかもしれませんし。
「先に農場の方を見に行きますか。といっても大したものはありませんが」
この家の裏には私が前に作った農場があります。以前は野菜などを植えたりしてそれを食べていましたが、どう言う訳か生育スピードが異常で2日に一回には収穫ができてしまい、私のアイテムボックスの中にはまだ大量の野菜達が残っています。なのでもう野菜は育てていないのですが、なにか残っていましたかね。
そして農場に着くと案の定作物はありませんでしたが、一部分に同じ葉っぱが大量に生えていました。
「これは確か.... 霊草ですね。エリクサーの材料になるので育てていましたね。これ以外にとくに何もないので保護魔法だけかけて戻りますしょうか」
そのまま私は農場に保護魔法をかけて家に戻りました。
家に戻ってからは特になにもすることがなく暇になってしまったので、薬品の調合や部屋の掃除をしたりとできる事をやり時間を潰しました。
気が付けばもう夜が明けてしまい朝になっていました。時間を忘れるのは悪い癖ですね。上の二人はまだ寝ているのでしょうか。
「一度様子を見に行きましょうか」
私は二階に上がり二人が寝ている部屋をノックをしてから入りました。部屋に入るとすでに二人は目が覚めていてベッドから起き上がり、部屋に入ってきた私を見ていました。
「目が覚めたんですね。どうですか?なにか調子が悪いところはありませんか?」
「は、はい、特にはないです.....あの、ここは?」
「ここは私の家ですよ、覚えていませんか?昨日森の中であなたが助けを求めて来たんですよ」
「じゃあ、やっぱりあれは夢じゃなかったんだ....その...助けてくれてありがとうございました....」
近くの椅子に座りながら私は二人に現状を伝えた所男の子が私にお礼を言ってきました。女の子の方は何も言わずただ私を見つめて来ました。
「いえいえ、さすがにあなたたちのような子どもを見捨てる事はできませんよ。私の名前はシェリアと言います。あなたたちの名前も教えてくれませんか?」
「俺の名前はレインと言います。そしてこっちが妹の.....」
「.....アリア.......です.....」
男の子の方をレインといい、女の子の方をアリアと言うそうです。歳もあまり変わらなそうですし双子でしょうか。レイン君は鳶色の髪に綺麗な緑目、翠眼でしょうか。アリアちゃんの方は薄めの金髪にレイン君と同じ綺麗な緑目をしています。
「レイン君にアリアちゃんですね。よろしくお願いしますね。二人ともお腹は空いていませんか?今下からおかゆを取ってきますね」
お互いに自己紹介をした後私は一階からおかゆを取ってもう一度部屋に戻り、二人にお粥とスプーンを渡しました。
「はいどうぞ、召し上がって下さい。まずは食べてからお話をしましょう」
私はそう言ったのですが二人はまだ手を動かしません。どうしたのでしょうか、お腹は空いていないんですかね。頭の中で疑問符を浮かべながら私は二人に聞きました。
「どうしたんですか?やっぱりお腹は空いていませんか?」
「い、いえ....いただきます!」
「.....いただきます」
どうやら大丈夫のようですね。一口目を食べてからは夢中でお粥を食べています。少し多めに渡したのですが、これならすぐに無くなりますね。それからすぐにお皿は空になってしまいました。
「ごちそうさまでした!美味しかったです!」
「....美味しかったです」
「うふふ、お粗末様でした。お皿片付けますね」
もらったお皿を片付け、私は改めて二人に向き合いました。
「さて、じゃあお話の続きをしましょうか。どうしてあの場所にいたんですか?」
「そ、それは....」
「話したくないなら構いませんよ。無理には聞きません」
「................」
「捨てられたんです」
「アリア?!」
「捨てられた?」
なんと話し出したのはアリアちゃんの方でした。今までずっとレイン君が話していたので、てっきり彼が話すのかと思っていました。
「助けてくれたから、こっちも話さないと。それにこの人には知ってもらいたい」
「アリア....そうだね、俺もそう思うよ。アリアが話す?」
「うん、私が話すよ」
それからアリアちゃんは今までの事を話してくれました。どうやら二人は村で生まれた頃から両親にあまり愛されておらずよく放置をされていたようです。近くに住んでいたお爺さんが二人の世話や言葉遣いも教えてくれたようですが、その人も亡くなってしまい、先日人売りに売られてしまったそうです。
そこからも大変で、街に移動していた馬車が魔物に襲われ、商人も護衛もやられてしまったそうです。その際に二人は馬車から抜け出し魔物に襲われる恐怖に怯えながら森の中をひたすら走り、ずっと森を彷徨い続けて心身共にボロボロになった時あの場所で私と出会ったようです。
「話してくれてありがとうございます。まだ幼いのに辛い経験をしたんですね」
アリアちゃんたちの話を聞いて色々と思うところがありますが、私は決めました。今の私にできることはこの子たちに愛情を与え育てる事、ならば自分たちを誇れるように立派に育てあげましょう。
「ですが、安心して下さい。好きなだけここにいていいですからね。今更あなたたちを見捨てることはしません」
「えっ...いいんですか?」
「ほんとうに?」
「ええ、嘘なんかつきません。これからよろしくお願いしますね。
私は笑ってそう言いました。
なりますよ私は、この子たちのお母さんに!!
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第四話 初めての朝
私がレインとアリアのお母さんになると決めてから一日が経ち、今は朝です。昨日はあの後二人と話すことはあまりなくお風呂を沸かす時に魔法を使っていたのを見て少し驚いていたくらいです。
お風呂は入り方を教えた後別々で入りました。いきなり一緒では気まずいでしょうからね。ちなみに二人は五歳でもうすぐ六歳を迎えるそうです。それにしては随分と大人びてる感じはしましたが、生まれた環境と途中までお世話してくれたお爺さんの影響ですかね。
ですが、もっと距離を縮めるにはどうすればいいのでしょうか。孤児院で子どもたちの面倒を見たことはありますが、子育ての経験はないので難しいですね。
私は朝食を作りながらそんな事を考えていました。今日の朝食はパンに目玉焼き、サラダ、ベーコン、スープです。かなりシンプルな物なのであの子たちも美味しくいただけるでしょう。
今日も部屋に持っていった方がいいのかなと思っていると、階段から誰かが降りて来ました。
「あの、おはようございます」
「...おはようございます」
階段の方に目を向けるとレインとアリアがいましたが、どちらもまだ少し緊張しているようでした。私はそんな二人の緊張をほぐすために、笑って優しく挨拶を返しました。
「はい、おはようございますレイン、アリア。もう朝食の準備は出来ているので三人で食べましょう」
私がそう言うと二人は椅子に座ってテーブルにある料理を見ました。
「すごい.....」
「わぁっ美味しそう!」
料理を見てレインとアリアはそう言ってくれました。なんだか嬉しくなってしまいますね。それから私も椅子に座り(レインとアリアが隣同士で私がその対面)手を合わせて食事前の挨拶をしました。
「では、いただきます」
「「いただきます?」」
「あ、そうでした知らないですよね。これは今目の前にある
料理に携わってくれた方々への感謝、そして食材への感謝を込めて食べる前に言う言葉です。一緒にしますか?」
「料理に感謝.....はい!やります!」
「私も!」
「じゃあ、三人で改めてやりましょうか。手を合わせて.....」
「「「いただきます!」」」
なんかいいですね、こういう普通の家族のようなやりとりは。これからもこのやり取りは大事にしていきたいですね。改めて挨拶をしてから私たちは朝食を食べ始めました。二人は私の作った料理をほんとに美味しそうに食べてくれます。こんなに美味しそうに食べてくれるともっと作ってあげたくなってしまいます。好き嫌いもあまりないのか野菜も全部なくなり皿だけが残りました。
「こんなに美味しいの久しぶりに食べた!」
「ふふっありがとうございます。美味しそうに食べてくれてこちらも嬉しいですよ」
「え!あ、その....ご飯ありがとう....ございます」
私がアリアに話しかけると少し俯きモジモジしながら私にお礼を言ってきました。
うん!なんて可愛いのでしょう!なんだか心が穏やかになりました。レインもそんなアリアを微笑ましそうな顔で見ていました。
「いえいえ、いいんですよお礼なんて。これから毎日食べることになるんですから毎回言うことになりますよ。ですが感謝の気持ちを忘ないことはいい事ですよ」
「毎日.....」
「えぇ、ですからレインもアリアも遠慮はしなくていいですよ」
「「.........」」
それから食器を運ぼうとするとレインが私を止めて来ました。
「あ、待ってください!食器洗いなら俺がやります!」
「え?いえ、食器は魔法で綺麗にするので洗う必要はありませんよ。お気持ちだけ受け取りますね」
「なら台所まで食器を運びます!」
そう言ってレインはテーブルの上にある食器をまとめて洗い場の方へ持って行きました。
「何かすごい気迫を感じましたね。いきなりどうしたんでしょうか」
「あの、私もなにかすることはないですか?」
「えぇ!アリアもですか!ほんとにどうしたんですか!」
「私たち昨日からシェリアさんに助けてもらってばっかりだから、少しでも力になりたくて.....レインも同じ気持ちだと思います」
レインに続いてアリアまでそう言ってくるので驚きました。二人があまりにもいい子過ぎて感心までしてしまいました。
「まだそんな事を考えなくてもいいと言いたいところですが、二人の気持ちを無碍にも出来ませんね。わかりました、じゃあアリアはテーブルをきれいにしてくれますか?」
「はい!」
それからアリアはテーブルフキンを使ってテーブルを拭き始めました。
こういうのも家族と言うのでしょうか。ただ、なんとなく悪い気はしませんね。お皿などは今までアイテムボックスに入れてましたが今度から食器棚にしまいましょうか。
「レイン、アリア!今から服を買いに行きますよ!」
片付けが終わりひと段落したところで私は二人に向かってそう言いました。それを聞いた二人は首を傾げて私を見てきました。
「服.....ですか?」
「そうです。今二人が着ている服は私が準備したものですがやはりお店に買いに行きましょう。そちらの方が多く買えますしデザインもいいです」
今二人が着ている服はどちらも無地のシャツとズボンです。正直自分のデザインのなさに悲しくなりますが、それを差し置いても服は必要です。なので近くの街に買いに行こうと思いました。
「でも、お金は.....」
「安心してください。こう見えて私お金いっぱい持っているので」
アリアがお金のことについて言って来ますが、世界中を旅していた時にお金は沢山手に入ったので問題ないです。数千年経ってるから物価とか色々変わってそうですが、まぁ大丈夫でしょう。
「さぁ、今から行きますから私の近くに寄って下さい」
「えっと.....」
「行こうアリア、シェリアさんもああ言ってるし」
「うん...」
少し遠慮していたアリアですが、レインに言われた事でこちらに来ました。やはりアリアは少し遠慮がちな子ですね。アリアに限らずレインも、もっと甘えてくれていいんですけど。
「私から離れないでくださいね。じゃあ行きますよ」
そういって私は転移魔法を使いレインたちと一緒に街へ移動しました。
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第五話 街へ行こう
「はい、着きましたよ」
転移魔法を使って街の近くの平原に来ました。ここからでも街の城壁が見えます。街の中にいきなり転移するのは後々面倒なことになる可能性があるのでちゃんと正面から入ります。
「すごい、さっきまで森の中にいたのに....」
「こんな魔法あるんだ....」
「ふふっ驚きましたか?これは転移魔法といって、自分の好きなところに移動できる魔法なんですよ。ふたりは魔法を見たことはありますか?」
「水を出したり火を起こす時に魔法を使ってる人は見たことがありますけど、こんな魔法は知らないです」
「うん、聞いたことない」
「この魔法はかなり難しいですからね。多分ですが、この世界でも使える人はそうそういないでしょう」
今の時代でも日常的に魔法は使っているのですね。衰退とかしていなくて安心しました。転移魔法については使える人がいたら是非とも一度会ってみたいですね。世界に名を残すような魔法師なら使えるのでしょうか。
私が転移魔法について話すと二人はどこかキラキラした目で私を見てきました。
「やっぱりシェリアさんってすごい人ですね」
「かっこいい」
「あはは.....そんな目で見られると恥ずかしいですね。街はすぐそこなのでそろそろ行きましょうか」
それから私たちは歩いて街の方へ向かいました。途中人間以外の種族の人とすれ違ったのですが、二人は他種族の人を初めて見るらしく少々失礼ではないかと思うくらいジロジロ見ていました。その方は私の方を見ていましたが......
ほどなくして街の入り口へ着き、そこには二つの列がありました。左の列がこの街に住んでいる人や冒険者などが並ぶ列、右の列は商人や私たちのように住民でも冒険者でもない人が並ぶ列です。私も冒険者でしたがそれは大昔の話になってしまうので、ここでは使えません。なので私たちは左の列に並びました。衛兵の方が検問を行い問題のない人が街に入ることが出来ます。順番が来るまで待っているのですが、その間周囲からの目線がこっちに向いてきます。昔からなのでもう慣れてしまいました。
「シェリアさん、これって何をしているんですか?」
私が周りについて考えているとレインが質問をしてきました。
「レインもアリアも街に来るのは初めてでしたね。あれはこの街の衛兵の方が街に入る人を検問しているんです」
「検問....?」
「そうです、街に入れる前にその人のことについて確認するんです。商人の人だったらどこに行きたいのかそして何を売るのかですね、もし違法な積荷を持っていたらそれを街に入れるわけにはいきませんからね。私たちの場合は滞在目的を言って犯罪者じゃないことが確認ができたら街に入れます」
「次の方どうぞ!」
話をしていると私たちの順番が来ました。二人の衛兵の人たちの前に来ると呆然とし顔も少しばかり赤くなっていました。
「あの、検問をお願いしたいのですが....」
「あっこれは失礼しました!あまりに綺麗な方だったのもので..........では、この街に来た目的は?」
「この子たちの服や日用品を買うためです」
「そちらはあなたのお子さんなんですか?」
「はい、息子と娘です。」
「「!!!」」
私が息子と娘というとレインとアリアは一瞬ビクリとしていました。
「そうですか、失礼ですがとてもお子さんが居るようには見えませんね」
「あはは、そうでしょうか?たしかに見た目はそうかもしれませんが」
「はい、とてもお若く見えます。それでは最後に犯罪歴がないか確認しますのでこちらのプレートに手をかざして下さい。犯罪歴があれば赤色になければ青色に変化します」
そう言って衛兵さんは金属でできたプレートを出して来ました。なるほどこれを使えばすぐに犯罪歴があるかどうか判断できるのですね。私が知らない間に便利なマジックアイテムも増えているのでしょうね。
「分かりました。これはこの子たちも確認するのですか?」
「いえ、お母様だけで大丈夫ですよ」
ということなので私はそのプレートに手をかざしました。結果はもちろん青です。さすがに犯罪は犯していません。
「犯罪歴も問題なし、はいもう大丈夫ですよ。このまま門をくぐってください。ようこそノルンの街へ!!」
衛兵さんの歓迎を受けながら門を抜けて街の中へ入ります。
「あの、シェリアさん.....」
「ん?どうしたんですかアリア?」
「さっきのあれって....」
アリアが話しかけてきました。さっきのあれ....あぁ私がアリアたちのことを息子と娘と言ったことですね。
「もちろんあれは嘘ではありませんよ。私はほんとうにあなたたち二人のことを自分の子どもだと思っていますから」
そういって私が笑うとアリアははにかみながら下を向いてそれ以上はしゃべらず、レインも少し恥ずかしそうでした。
街の中は住民や冒険者がたくさんおり、かなり発展しているようでした。今さっきまで黙っていた二人も街の様子を見て驚きの声をあげていました。
「人がこんなにたくさんいるの私初めて見た....」
「うん、そうだね....」
「二人とも!はぐれないように気を付けてくださいね!」
街は人が多いので私たちははぐれないように並んで歩いて目的地を目指しましたが、私はこの街を知らないのでどこに服屋があるのかわかりませんでした。
「困りました、服屋がどこにあるのか分かりません。しょうがないです街の人に聞きましょう」
私は近くにいたおばさんに服屋の場所を聞きました。
「あの、すみません服屋の場所を教えてもらってもいいですか?」
「服屋?それならこの道をまっすぐ.......ってあんたすごい別嬪さんだね!もしかして貴族様かい?」
「いえいえ、貴族ではありませんよ。子どもたちの服を買いに来ただけの一般人です」
「おや、ちがうのかい。わたしゃてっきり貴族様かと思ったよ。それにしてもあんた若いのに子どもいるのかい、そっちの二人がそうかい?」
「えぇ、そうですよ。ほら二人とも挨拶して下さい」
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
「はい、こんにちは。すごくいい子たちだねぇ。服屋はこの道をまっすぐ行った右側にあるよ」
「そうですか!ありがとうございます」
おばさんはそう言って道を教えてくれました。おばさんに言われた道を進んでいると周りの人たちの声が少し聞こえてきました。
「見ろよあれ、すげぇ美人」「ほんとだ、俺声かけてみようかな」「すごい綺麗な人がいる」「ひえーほんとに綺麗、横にいる子たちも可愛いねあと人の子供かな?」「違うよ、親子というより姉弟妹じゃない?」
うぅ、やっぱり目立ちますね私。それにしてもさっきの衛兵さんといい私ってそんなにお母さんに見えないのでしょうか、なんかショックです。
「シェリアさん、大丈夫ですか?項垂れてますけど」
「大丈夫ですよレイン、少し自分に不甲斐なさを感じていただけですから」
「えぇ!?」
しばらく歩くといかにも服屋という建物がありました。
『フェルゴール』という看板がかけてあり、なにかのブランドなのでしょうか。
「着きましたね入りましょうか」
チャリンチャリン〜
「いらっしゃいませ〜ってすごい美人さん!今日はどうされたんですか?」
お店に入ると黒髪の若い店員さんが出てきて、私たちに話しかけてきました。お店の中はとても綺麗で高級感にあふれています。もしかして結構高級店なのでしょうか。
「今日は私じゃなくてこの子たちの服を買いにきたのですが、いくつか見繕ってくれませんか?」
「お子さんがいらっしゃるんですか。かしこまりました、少々お待ちください。サイズを測りたいのでこちらにきてもらってもいいですか?」
「分かりました。レイン、アリア行ってきて下さい」
「「分かりました」」
レインとアリアがサイズを測りに行ったので、私はその間近くにある服を見ていました。プロの人が作っただけあり質もデザインもいいですね。
「この黒のコートいいですね。私の髪色に合いますかね?」
しばらく服を見ていると先程の店員さんが私のところに来ました。
「サイズを測り終わって試着もしたので一度奥へ来て見てもらえませんか?」
「ええ、分かりました。あとこのコートも買いたいのですが一緒にいいですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
お店の奥に行くと服を試着しているレインとアリアがいました。
レインは紺色のシャツに黒のズボン。アリアは薄い緑のワンピースの上から白のカーディガンのようなものを着ています。レインは髪色と合わさって落ち着いた雰囲気を感じますし、アリアは瞳と同じ色のワンピースでとても可愛らしいです。
「なんか落ち着かないです...」
「ちょっと恥ずかしい」
「そんなことないですよ!二人ともとてもよく似合っています。素敵な服を選んでくださりありがとうございます」
「いえ、仕事ですから。これの他に五着ほど準備したのですがどうしますか?」
「そうですねぇ、それも一緒に買います。今着ている服はそのままでも大丈夫ですか?」
「はい問題ないです。では残りの服も準備しますね」
そのあと店員さんから残りの服ももらいそれをアイテムボックスではなくアイテム袋に入れながら金貨が入った袋を渡しました。確か30枚ほど入っていたと思いますが......
「そこに入っているので足りますかね?」
「確認するのでお待ちください...........ってこれじゃ多いですよ!これの半分ほどで結構です!」
「え、そうなんですか?ですが服を選んでもらったりしてもらいましたしそれはそのまま受け取ってください。それではさようなら行きますよ二人とも、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
「あ、ありがとうございました!」
呆然としている店員さんを置いて私たちは店を出ました。私や二人のコート買えましたからとてといい買い物でした。
「シェリアさん、服ありがとうございます」
「ありがとうございます」
私が内心うきうきしてるとレインとアリアがお礼を言ってきました。そんなに律儀にお礼なんて言わなくても大丈夫ですのに。
「気にしないでください。さっきも言いましたがあなたたちはもう私の子どもです。だから服を買ってあげるなんて当たり前のことなんです」
二人は少し驚きながらも嬉しそうにしていました。
「さぁ!せっかく街に来たんですから何か食べて帰りましょう!」
それから街でご飯を食べ、しばらくしてから家に帰りました。
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第六話 お母さん
レインとアリアの二人と街に出かけてから早くも一週間ほどが経過しました。早いものですね、あれからはまたいつも通りの一日を過ごし、たまに街へ出かけたりと楽しく過ごしていましたが、まだあの子たちに母と呼ばれたことはありません。
ところどころで私は二人のことを本当の息子と娘だと思っていると言ったりしているのですが、それではダメなのでしょうか。
二人は私が何かをしようとするとすぐに自分には何かすることはないかと聞いて来ます。アリアは純粋に手伝いがしたいという感じなのですが、レインの場合はなんでしょう、少し急いで焦ってるような、そんな感じがします。一体どう言う事なんでしょう。
私はあの子たちにどうしてあげればいいんでしょうか。この一週間そんな感じで夜になるとずっと悩み続けています。
「それに、今はまだ私たち三人で大丈夫ですが近いうちに同年代の子たちがいるところへ行かないといけないですよね。二人は人間ですからずっとこの森にと言うわけにもいきませんし......」
そうなんです、私は一応これでも女神なので別に一人でも問題はないのですがレインとアリアは人間。友人が絶対に必要になります
「となるとやはり魔法学校ですか。たしか前に街で地図を買って見た時王都にあると書いてありましたが、王都ですか....あまり良い思い出がありませんね」
前の時代で王子に惚れられたことで酷い目に遭いましたからね、今でも覚えてます。
「いずれにしても魔法と戦い方は教えておいて損はありませんね。今度二人にこの二つを知りたいか聞いてみましょうか」
今日はこのくらいにして寝ようかと思い椅子を立つと階段からアリアが降りて来ました。
「シェリアさん...」
「アリア?どうしたんですかこんな時間にもう寝ないとだめですよ?」
「ご、ごめんなさい....その、寝れなくて」
「え?そうなのですか?なら仕方ないですね。で、その手に持っているのは本ですか?」
「はい、部屋にあったものです......それで、この本を読んで欲しくて...」
アリアが持っていたのは前に私が街で買って二階の部屋に置いておいた絵本でした。内容は詳しくは知りませんがお店の人に聞いたおすすめの本でした。
それにしてもアリアが自分から本を読んで欲しいとお願いをしてくるなんて。嬉しくなって少し大きめに返事をしてしまいました。
「え?本を.....はい!いいですよ!読みましょう!では、そこのソファーに座って下さい」
それからアリアはリビングにあるソファーに座り、私もその隣に座って早速絵本を読もうとするとアリアは本ではなく私の足を見てきました。
「どうかしたんですかアリア?」
「えっと...膝の上に座っていいですか?」
「........えぇ、いいですよ」
一瞬何を言ったかの分からず固まってしまいましたが、なんとか声を出しました。そしてアリアはソファーを立って私の膝の上にちょこんと座りました。アリアが私の膝の上に....
「じゃあ読みますね」
『遠い昔のこと、ある国に王子として生まれた男がいました。彼は小さい頃から次期国王として教育を受けて来ました。とても大変なことだったと思いますが彼は文句も言わず弱音も吐かずそれをこなして来ました。
彼が青年と呼ばれる年になった時国に一人の女性が来ました。彼女は国の中でも数の少ない最高位の冒険者でしたがそうとは思えないほど美しく、その姿を見た王子は女性に一目惚れしてしまい彼女にアプローチをしいつしか二人は両思いとなりました。しかし家臣達はその事にいい顔をせず二人の中を引き裂こうとしましたが王子は全員を認めさせるために一層努力を、女性の方は王子と結婚できるほどの武勲を得るために奔走しました。
二人の努力の結果王子は歴代最高の王と呼ばれ、女性は偉業と呼べるほどの武勲を得ました。これでは家臣達も反対することは出来ず二人の結婚を認めました。
二人はその後、結婚をし子供にも恵まれ、いつまでも幸せに暮らしました』
絵本の内容はよくあるハッピーエンドな話でしたが、これってもしかして昔の私のことですかね。あの王子には嫌と言うほどアプローチをされましたし、私が国を出た後もたしか歴代最高の王とか呼ばれていた気がします。ところどころの内容や結末は違いますが、概ね私の記憶と一致します。まさかあの出来事が美化して絵本になるとは思いもしませんでした。
「王子様も冒険者の女の人もどっちもすごいです。周りから反対されても諦めないなんて」
「そうですね、必ず成功するとは限りませんがそれまで諦めず努力したことは価値のあるものです。アリアも何事も諦めずに色々なことに挑戦してみてくださいね」
「私なんかが....そんなことできないです」
「何言ってるんですか、アリアの人生はまだまだこれからでしょう?焦らないでゆっくりでいいからやってみてくださいアリアならできますよ」
アリアの頭を撫でながら私はそう言いました。さらさらの髪でずっと触っていたくなりますね。
「私なら........そうすればシェリアさんの子どもになれますか....?」
突然アリアはそんな事を言い出しました。私の子ども?一体何を言っているんでしょうかこの子は。私はアリアをこちらに向けて言いました。
「アリアならとっくに私の子どもですよ。いつも言ってますよね?」
「でも、私なんかじゃシェリアさんの子どもに相応しくない。シェリアさんは綺麗で優しくて料理もできていつも私たちのことを考えてくれてて、それなのに私は.......」
そこまで言ってアリアは泣きそうな顔で黙ってしましました。そんなアリアを見て私は反射的にアリアを抱きしめました。
私は愚かです。二人の事を考えているようで自分のことしか考えておらず、この子が思っていた気持ちにも気付くことが出来なかった。こんなのでは母親失格です。
「ごめんなさいアリア、そんなあなたの気持ちに気付いてあげられませんでした。私はあなたたちが笑顔でいてくれたらそれでいいんです、他には何もいりません。だからそんな事を言わないでください」
「シェリアさん....?」
「アリア、私をあなたのお母さんにさせてはくれませんか?」
「えっ...?お母さん?シェリさんが?いいの、私で...?」
「えぇ、あなただからいいんです」
「ほんとにほんと?嘘じゃない?」
アリアがまるで縋るような声でそう言ってきますが、もちろん嘘な訳ないです。私は本気でこの子に私の娘でいて欲しいのです。だから言います。
「ほんとのほんとです、嘘でもありません」
「うぅっ.......お母さん......お母さん!!」
私がほんとであると、嘘ではないと言うとアリアは私のことをお母さんと言いながら強く抱きついてきました。私も強く抱きしめながら思います。
待ってるだけじゃダメです、もっとこの子たちに歩み寄らないと。それが母親になるということなんですから。
しばらくするとアリアは私から離れてこちらを見て、少し緊張しながら声を出しました。
「お、お母さん..」
「はい、なんですかアリア?」
「えへへ、呼んでみただけ」
そう言って私に満面の笑みを向けてきました。
あぁ、お母さんと呼ばれています。すごく可愛いです!それに話し方も敬語だったのから随分と砕けたものになりました。
「ふふっなんですかそれは。さぁ、もうかなり遅い時間ですし今なら寝れるのではないですか?」
「さっきよりも眠いから寝れると思う」
「では、お部屋に戻りましょうか」
「うん、あっそうだお母さんに伝えたいことがあるんだ」
「ん?なんですかアリア?」
私がアリアに尋ねるとアリアは少しだけ悲しそうな顔で言ってきました。
「レインのことだけど、多分レインすごく無理をしてると思う。売られてからずっと泣かないで私を守ってくれて、今でも毎日なにかを考えて過ごしてる。だから心配で、お母さんから何か言って欲しいなって」
たしかにレインが私の手伝いをする時に少し違和感を感じましたし、さっきのアリアのこともあります。きっと私が気付かないだけでレインもなにかを思っているのでしょう。しっかりと母親として聞いてあげなければ。
「たしかにそうですね。私も最近どこか違和感を感じていましたし、明日レインにも私から話してみます」
「お願いお母さん。お休みなさい」
「えぇ、お休みなさい」
明日はレインと話をしないといけませんね。
私はレインとアリアのことを考えながらその日を終えました。
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第七話 兄の気持ち
アリアにお母さんと言われた日の翌日の朝、私は昨日アリアに言われたことについて考えていました。
「無理をしている、ですか。たしかにアリアに比べてレインはおとなしいというかとても五歳とは思えないほど大人びていますね。自分の気持ちを隠しているということでしょうか」
考えながらいつも通り朝食を作っているとレインとアリアが起きて来ました。私が何も言わなくても朝食の時間にはしっかり起きてくる。本当にいい子たちです。
「おはようございます、レイン、アリア」
「シェリアさん、おはようございます」
「おはようお母さん!」
「えっ......アリア今お母さんって....」
「うん、昨日の夜お話ししてお母さんって呼ぶことにしたの」
「そ、そうなんだ....よかったなアリアお母さんができて」
「何言ってるんですかレイン、あなたのお母さんも私ですよ?」
そうです、アリアのお母さんが私なのならその兄であるレインのお母さんも私なのです。その意味も込めて言ったのですが、レインは気まずそうに目線を逸らしながら
「えっいや、俺は.....」
と言いました。
やはりレインも私が気付いていないだけで、何かを抱えているようです。私がしっかりとこの子のことも母親として見てあげなければいけませんね。
「無理はしなくていいですからね、いつかそう思ってくれたらでいいですから」
「は、はい.....」
「レイン、お母さん、早く朝ご飯食べよう?」
少し気まずい空気になりましたが、アリアが間に入ったことでその空気もなくなりました。アリアに気を使われてしまいましたね。それからはいつも通り三人で朝食を食べました。
朝ご飯を食べ終わり片付けようとすると当たり前のようにレインが食器をまとめて持っていこうとしましたが、持っていく前にアリアに食器を取られてしまいました。
「うわっどうしたアリア、食器なら俺が持ってくよ」
「だめっレインは最近色々と考え込んでるから今日は私がやる。レインはじっとしてて」
「えぇ!?ちょっと待ってよアリア!」
アリアはそのままレインをおいて洗い場まで行ってしまいました。昨日の夜でなにか吹っ切れたのでしょうか、今日はアリアがとても積極的です。あんな風にレインももっと素直になってくれたらいいのですが。
それから昼を過ぎて夕方になりました。そろそろ夕飯の準備をしなければと思っていると、近くにアリアがきて私に話しかけてきました。
「お母さん今日はお願いがあるの」
「お願い?なんですか?なんでも聞いてあげますよ」
「今日はお母さんに料理を習いたい!私も美味しい料理を作りたい!」
アリアは料理を教えてもらいたいそうです。アリアが自分から料理を習いたいと言うなんて、あぁなんか泣いてしまいそうです。
「料理ですか、いいですよ。いくらでも教えてあげます。アリアだけではなんですからレインも一緒にどうですか?」
「え!俺もですか....でも俺は」
「いいから!レインも一緒にお母さんと料理しよう?」
「アリア......わかったよ、やるよ」
アリアに言われた事でレインもやることに決めたようです。やっぱりこういう事は全員でしなければいけませんからね、アリアナイスです。
「では何を作りましょうか?三人で作れて楽しくできるもの.......うん!餃子にしましょうか!」
「餃子?」
「お母さん餃子ってなに?」
「餃子というのはですね、小麦を原料とした皮で肉や野菜などで作った餡と呼ばれるものを包んで焼いた料理のことですよ。焼く以外にも茹でる、蒸す、揚げたりしたものなんかもありますね」
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餃子なら材料を切る事も教えられますし、その後の皮に包むというところで楽しくできます。皮は大変なので私が作って材料を切ったり、混ぜたりはアリアとレインにやってもらいましょうか。
「いまいち想像できないです」
「う〜ん、私もよく分かんない」
「まぁ、そうですよね。私は皮を準備しますので二人には材料を切るのと切った材料を混ぜるのをお願いしますね。それと手も洗って来て下さい」
「は〜い」「わかりました」
それから私は豚肉、キャベツ、ニラなどを出して二人に切ってもらいました。指を切らないように横でしっかりと見ながら教えてあげます。
「レイン包丁を持っていない手はこのように丸めるんですよ」
「はい...難しいです」
「アリア手前に引きながら力を入れると切れやすいですよ」
「うん.....ほんとださっきより切れやすい」
材料は全て切り終わり、今はその材料を混ぜています。二人は切るのにかなり苦戦していたようですが最初はこんなものですね。これから上手くなっていけばいいんです。
さて、二人が切った材料を混ぜている間に私は皮の準備をしましょうか。アイテムボックスから小麦粉を出しそれをボウルに移し塩を入れ、水も入れます。それを菜箸でまぜ、手で混ぜながら捏ねます。生地に弾力が出たら丸くし寝かせるのですが、ここでは魔法を使います。加速魔法を生地自体にかけて時間を早くします。
そのあとは生地を均等に分け手で薄く伸ばすように丸くして完成です。
「二人の方はどうですか?混ぜられましたか?」
「うん、終わったよ」
「混ぜ終わりました」
「ではそれを皮に包みましょうか、まず私がやりますからそれを見ながら二人もやってくださいね」
私は餡をスプーンで取り皮に乗せ両端を合わせて折るように包みました。
「はい、こんな感じです。二人はどうですか?」
「合わせて折るのが難しいです。形がきれいにならない」
「私もお母さんのようにきれいな形にならない」
「最初はそんなものですよ、少しずつ慣れていきましょう」
それから三人で餡を皮に包み、全ての皮に包み終わりました。あとは焼くだけですから早速焼きましょうか。
火魔法で火をつけそこにフライパンを置きました。フライパンが十分熱くなったら油を入れ、そこに餃子を円を描くように置きました。少し焼いたら水を入れ蓋をします。
「レイン、アリアお皿を出してくれませんか?」
「うわ〜いい匂い、早く食べたい」
「アリアお皿出すから手伝って」
しばらくしてから蓋を開けて焼けているのを確認してから火を止め、お皿に移しました。うん、とても美味しそうです。テーブルの上に餃子を置くと二人も少しワクワクしたような感じで餃子を見ています。それから三人で椅子に座り、食事の挨拶をしました。
「二人ともお皿ありがとうございます。では、食べましょうか、手を合わせて」
「「「いただきます!!」」」
「わぁ!これすごく美味しい!」
「ほんとだ、皮がモチモチで美味しい...」
「三人で作ったものですからね美味しくて当たり前です!」
しばらく三人で餃子に舌鼓を打ちながら楽しみました。
気が付けばあっという間に餃子はなくなりお皿だけが残りました。
「とても美味しかったですね。また作りましょうか。」
「うん!私もまた食べたい!」
「俺もまた食べたいです」
私がまた作ろうかと言うとレインとアリアはそんなことを言って来ます。確かに美味しかったのもそうですが、三人で料理をするというのもとても楽しく良いものでした。餃子じゃなくてもまた作りましょう、三人で。
その後は後片付けをしてお風呂に入り、時間を見るともう二人が寝る時間になっていました。
「お母さん今日はもう寝るね、おやすみなさい」
「俺も寝ます。餃子美味しかったです。おやすみなさい」
レインとアリアが私に向かっておやすみなさいを言ってきましたが、今日はまだレイン話したいことがあるのでまだ寝かせることはできません。
「あ、レインは少し待ってください。アリアは別に大丈夫ですよおやすみなさい」
「俺ですか....?」
「わかった、じゃあレインおやすみ」
レインはとても驚いており、どうして俺?という顔をしてます。ですが昨日アリアと話してからレインと話すことは決めてました。そうです、私から歩み寄らなければいけないのですから。
「レインひとまずここまで来てくれませんか?」
「わ、わかりました」
まずレインを私のそばまでこさせて目線を合わせるために膝を床に着けて話します。
「レイン、単刀直入に聞きます。私ではあなたの母にはなれませんか?」
「え?」
「あなたはいつも私から一歩引いていますよね?私はそんなに信用ならないですか?」
「いや!そんなことはないです!シェリアさんのことは尊敬してるし信用してます、けど」
「けど?」
私がその先を聞くとレインは下を向いて自分の手を強く握りました。そして絞り出すように声を出し話し始めました。
「それでもやっぱり怖いんです。また捨てられないかって、アリアを守らなくちゃって思って、捨てられないように頑張らなきゃって、だから....」
そこまで言って私はレインを抱きしめて頭を撫でました。
「あなたは凄い子ですね。まだ子どもなのに妹を守るために自分は我慢してたった一人で頑張って、ほんとにいいお兄ちゃんです」
レインは固まって黙ったままですが、私は構わずそのまま続けます。
「辛かったでしょう、苦しかったでしょう、今でも苦しんでいるかもしれません。でも、今は私がいます、あなたが妹を守るように私もあなたを守ってみせます。だからもう無理をしないで、母である私を頼って下さい。本当に今までよく頑張りましたね」
私がそう言うと、固まっていたレインは私を抱きしめ返して来て泣きながら私に言ってきました。
「おれっっおれっ、今まで辛かったしッ、苦しかったしッ、泣きたかった!けど、もっと頑張らなきゃって思って.........俺ももっとアリアや母さんと笑いたいッ!楽しく過ごしたいよッ!!」
「ならこれからでも遅くはないです。もっと三人で笑って楽しく過ごしましょう。安心してください、ずっと私がそばにいます」
「うんっ!うんっ!母.....さん!母さん!」
それからしばらくレインは今まで溜まっていたものが全て流れるように泣き続けました。そしてそのまま泣き疲れてしまったのか『母....さん』と言いながら寝てしまいました。
やっとレインとも家族になれた気がします。
私はそのままレインを二階の部屋へ連れて行きレインをベッドの上に寝かせました。その時アリアが私に向かって笑顔を向けて来たので、私も笑い返しました。
あぁ、なにか二人と胸のなかで繋がったような気がします。
なんとなくですがこれからもっと楽しくなる予感がしてきました!
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第八話 魔法を覚えよう
レインやアリアと本当の意味で家族になった日の翌日私はとても気持ちよく目覚めました。これからあの子たちと過ごす日々を想像するだけで自然と笑みが溢れてしまいます。
「さて、起きて朝ご飯の準備をしないとですね」
私はベッドから起き、着替えてから一階に降りて料理を始めました。しばらくすると二階からレインとアリアが下りてきました。
「おはよう、母さん」「おはよう!お母さん」
「おはようございますレイン、アリア。朝から元気ですね」
二人が元気に朝の挨拶をしてきました。そしてついにレインとアリアの両方からお母さんと呼ばれました。あぁなんと言えばいいのでしょう、この幸福感を言葉にするのは難しいですね。
それからいつもより笑顔も多く、幸せな雰囲気で朝ご飯を食べました。
三人で片づけをした後私は前にも考えていたことを二人に聞きました。
「レイン、アリア二人に少し話したいことがあるのですがいいですか?」
「なに?お母さん?」
「どうしたの?」
「二人のこれからについて話したいんです。今私たちは誰もいないこの森で三人で暮らしていますがそれでは二人にとってよろしくありません。絶対に同年代の友人が必要です。ですからレインとアリアには学校に通うかどうかを決めてもらいたいんです」
「学校って魔法の?でも俺たち魔法なんて使ったことないよ」
「うん、使ってるところしか見てないし魔法学校に行けるほどの魔法なんて無理だよ」
二人に学校に行くかどうか聞いたのですが、行く云々よりもそもそも学校に行けるのかどうか心配なようですね。ですがそこは安心してほしいです、なぜなら魔法やその他のことは私が教えるからです。それなら魔法学校には問題なく行けます。
「大丈夫です、安心してください。魔法については私が教えます」
「えっお母さんが教えてくれるの?」
「それなら行く意味がないんじゃ......」
「いえ、そんなことはありませんよ。学校はただ学ぶだけのところではありません、自分の目標を見つけたり他者とのコミュニケーションだったり、友達と日常を過ごしたりとここでは絶対にできないことが出来るところでもあります」
「へぇ、そうなんだ....面白そう」
「うん、学校......私行ってみたいかも」
私の話を聞くと二人とも自分が学校に行ったことを想像でもしたのでしょう。どこかワクワクしている感じがします。
「そうですか、では魔法学校には行くということでいいですね?」
「「うん!!」」
二人からの返事を聞いて私はこの子たちに魔法を教えることになりました。
―――――――――――――――――――――――――――
早速魔法を教えるために私たちは外に出ました。この森なら広いですし、何かあった時も対処がしやすいですね。
「二人は魔法がどのようにして起こっているか知っていますか?」
「えーっと確か魔力を使うんだよね母さん」
「そうです、人でも魔物でもそこにある木でもどの生物も必ず持っている力、それが魔力です。その魔力を私たちの手で変換させることで魔法を行使できます」
「変換?ってどうやってやるの?よくわかんない」
「変換といってもそう難しい事ではありませんよ、要はイメージです。ただ漠然と水が出ろと思っても魔法は使えません」
魔法はイメージが一番大切です。どのように魔法を使いたいのかどのくらいの威力が出るのかその事をしっかりと考えていなければ失敗します。もちろん魔力のコントロールも大事です。複雑な魔法になればなるほど難しくなりコントロールを間違えると暴発します。
「魔法を使うときはイメージする....」
「それなら大丈夫かも!」
「あはは、口で言うのは簡単ですけどね、それよりも二人はまず自分の魔力を感じられるようにならなければなりません。少し私を見ていて下さい」
私は目を瞑って集中し始めました。身体に魔力を循環させそれを周りに出すようにします。
すると私の周りに魔力が広がり風が吹き始めました。
「うわっなんだこれ!」
「すごーい、なんかピリピリ感じる!」
「どうですか二人とも、周りに出ていた魔力を感じましたか?」
二人はブンブンと首を縦に振って来ます。密度の高い魔力を出すと今のように他人でも魔力を感じる事ができます。
「今のが魔力です。レインとアリアには自分の中にある魔力を感じてもらうのが目標です。目を瞑って身体の中にあるものを全身に巡らせるようにしてみてください」
「うん、やってみるよ」 「身体の中にある.....」
私がそう言うと早速二人は集中し始めました。しばらくは見守っていましょうか。
十分程が経った頃レインの方から微かにですが魔力を感じました。かなり早くて少し驚いてしまいました。
「いいですよレイン出来ています。それを維持し続けて下さい」
「わかったよ母さん、でも難しいなこれ」
「私もっ.....」
レインが出来た数十分後にアリアからも微かに魔力を感じました。
「おめでとうございますアリア、しっかりと出来ましたね」
「けど、レインに負けたー」
「勝ち負けじゃないと思うけど」
アリアは少し苦戦していたようですが、レインが早かっただけでアリアも十分早いです。もしかしたらこの二人には才能があるのかもしれませんね。
「二人ともすごいですよ!まさかこんなに早く終わるとは思いませんでした!これなら次のステップに行けますね。次はその魔力を外に出して実際に魔法を使ってみましょう」
「え、もう魔法ってつかえるの?」
「そうですよレイン、本来なら自分の魔力を感じるところで時間がかかるのですが二人はそんな事はなかったのでもう魔法を使います。といってもそこからも難しいですけどね。このようにさっき流した魔力を掌の一点に集中させ身体から出すように意識するんです」
手を木に向け魔力を集めます。すると何か球体のものが出てきました。
「魔力を集めるとこの様に目で見えるようになります。そしてここからが重要で、出したい魔法のイメージをします。今回は水魔法を使うのでイメージは水、それを球体にする。そしてそれを飛ばし弾けるようにします」
今言ったようにイメージすると手の魔力は水の球となり木に飛んで行き、当たると弾けました。
「このように魔力を集めてそれをどうしたいかイメージする事で初めて魔法が完成します。どうですか二人とも、出来そうですか?」
「考えても分かんないからとりあえずやるよ!」
「私も!次はレインに負けない!」
「ふふっその意気ですよ、レイン、アリア!」
それから二人は私がやったように木に手を向けて魔法の練習をし始めました。さぁこれも意外と難しいですがどうでしょうか、案外さっきと同じですぐに出来てしまうかもですね。
さすがにすぐとはいかず一度昼休憩を挟んでもう一度魔法の練習をし始めました。私も二人にアドバイスしながらしばらくやっていると、アリアの手から水の球が出て木に当たりました。
「やった!出来た!出来たよお母さん!」
「えぇ、しっかり見てましたよ。よく出来ましたねアリア」
「うん!今度はレインに勝った!」
「アリアに先越されちゃった」
魔力を流すことはレインの方が早かったですが、魔力を出すことはアリアの方が早かったですね。その後もアリアは水をいろんな形に変えて飛ばしています。あぁいきなりそんなに魔法を使ったら.....
「あれ?なんか身体が重くて頭が痛い」
「魔法をたくさん使うからですよ、魔力が切れると身体が動きづらくなり最悪立てなくなります」
「え、そうなの?なんで言ってくれないのお母さん!」
私が魔力切れのことを話すとアリアが私に吠えてきます。
「一度身を持って知った方ががいいからですよ、一度知ればそうならないように気を付けるでしょう?ほら、私の魔力を渡しますからこれで楽になりますよ」
「あ、ほんとださっきよりも楽になった...」
「やった!できた!」
アリアと話しているとレインが声を上げました。どうやらレインも魔法を使えたようですね。
「出来たよ母さん!」
「おめでとうございますレイン、よくできました。これで二人とも魔法を使えましたね。まさか一日でできるようになるとは思ってもいませんでした。レインとアリアは天才なのかもしれませんね」
これは冗談で言っているわけではありません。私は昔にも子どもたちに魔法を教えた事がありますが、一日で魔法を使えた子はほとんどいませんでした。なのでそう考えると二人は本当に天才です。
「私たちが天才.....」
「そうなのかなぁ、でもどうして魔力を感じるのは俺の方が早かったのに、魔法を使うのはアリアの方が早かったんだ?」
「魔法といっても色んな種類があります。今回使ったのは水魔法で魔力を外に放出する魔法ですが、この他にも身体に魔力を流して強化をしたり武器に魔力を纏わせたりといった魔法がありこちらは魔力を循環させたり溜めたりする魔法ですね。ですのでアリアは放出系の魔法が、レインは身体に循環や溜めたりする魔法が得意なのかもしれませんね」
魔力を出すだけが魔法ではありません、身体に流すのや溜めるのだって立派な魔法です。このように魔法はかなり自由がききます。イメージと魔力量、コントロールによってはどんな事でもできる可能性があります。
「そうなんだ、なら俺は武器を使った戦い方のほうがいいのか」
「じゃあ私は後ろで魔法を打つ方がいいの?」
「う〜ん、どちらにしろ魔法はいろんなものが使えた方がいいですし、武器を使った近接戦闘もできるようになった方がいいですよ」
それにまだそういうのを決めるには早いですからね。もっと様々なことが出来るようになってからでも遅くはないでしょう。
「では、今日はここまでにしましょうか。続きはまた明日、疲れたでしょう?夜ご飯を食べてお風呂に入って寝ちゃいましょう」
「「は〜い」」
一日の二人の成長が私の予想をはるかに超えて来ましたが、それはそれで良い事です。これからの成長がとても楽しみですね
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第九話 王都を観に行く
あれから約半年ほどが経ちました。二人はあれからほぼ毎日魔法の練習や武器の扱いなどをしています。子どもの成長というのは本当に早いもので、まだ一年も経っていませんが結構様になって来ています。
そして今、私はレインと木剣を使った模擬戦をしており、初めて魔法を使った数日後に二人にこれから扱う武器を選ばせました。まだ身体が小さいのでこれから武器が変わってくるかもしれませんが、とりあえずレインは長剣、アリアは槍のような杖ですね。
理由としてはレインは魔力を流したり何かに纏わせたりといったことが得意なので近接戦闘ができる長剣を、アリアは身体に流すと言うよりも外部に放出したり魔力の形を変えたりするのが得意なので槍であり杖でもあるものを使ってます。
「ふっ!これならどうだ!」
レインが足と剣に魔力を流し、私との距離を一気につめて切り掛かってきます。それを後ろにステップをして躱し完全に止まってるところへ剣を向け首元まで持っていきます。
「魔力の流し方も以前よりも一段とよくなりましたね。ですが攻撃を躱された後そのまま止まってしまったのはダメです。戦闘の際は常に行動を考えなければなりませんよ」
「うっ...今のはいけたと思って考えてなかった。また負けたよ母さん」
「当たり前ですよ、レインような子どもに負けるほど私は弱くはありませんから」
このように最近は特にレインと模擬戦をしています。といっても、まだまだ戦いと呼べるようなものではありまんけどね。
「お母さんってほんとに何者なの?魔法もいっぱい使えるし、剣を使った戦いも強いし.....」
レインとの模擬戦を横で座って見ていたアリアが私にそう聞いてきます。何者と聞かれてもずっと昔からいる女神としか言いようがありませんね。ですが今はまだ言う必要はないですね。いつかこの子たちが私の元を離れるときにでも話しましょうか。
「私はあなた達のお母さんです。それ以上でもそれ以下でもありません」
「え〜いつもそうやって誤魔化すじゃんお母さん」
「別に何者でもいいよ、母さんは母さんなんだから」
レインがそう言ってくれるとわたしも気持ちが楽です。
「さぁ次はアリアの番ですよ、準備をしてください」
「は〜い、よいしょっじゃあ行くよお母さん!出すのは水そしてそれを壁のように変える!」
アリアはまず私の前に水の壁を出して来ました。まだ頭の中で全てを構築するのは出来ていませんが、魔法の精度はかなりいいです。
「アリアも以前よりもスピードも精度も上がっていますね。では、これならどうでしょう」
私は水の壁に手を向けて逆に火の壁を作ります。その結果水の壁は蒸発、火の壁は消えてしまいました。しかし、私はそこからあらかじめ用意しておいた土の魔法でアリアの足を捕らえました。
「え!いつ魔法を使ったの!これじゃ抜け出せない!」
「ふふっこれは魔法をあらかじめ準備しておいたんですよ。火の魔法を使った時に同時に」
「そ、そんなことできるの?私にもできる?」
「えぇ、今のアリアの魔法精度なら練習すればできると思いますが、まずは魔法を言葉にせず頭で構築して出せるようにならなければいけませんね」
そう言って私は魔法を解除しました。これはやっていることはそう難しくはないのですが、一度に二つの魔法をコントロールしなければならないのでまずは一つの魔法を瞬時に出せないと難しいですね。
「う〜ん簡単にはできないか〜、でも絶対できるようになる!」
「その気持ちがあれば必ずできるようになりますよ。それとこの後は一度王都に行ってみますよ」
「王都に?なんで行くの母さん?」
「それは、二人が試験を受ける学園が王都にあるからです。ついでにお昼ご飯もそこで食べましょう」
私たちが住んでいる森は地図で見ると北部の方に位置し、リゼミア王国という国の近くにあります。レインとアリアにはこのリゼミア王国の王都ガルレールにあるガルレール魔法学園に通ってもらう予定です。入試倍率がとても高く貴族平民問わず、国中から多くの人がこの学園を目指すらしいのですが、うちのレインとアリアなら問題なく試験は合格するでしょう。
「へぇ、王都か〜やっぱノルンの街とは違うのかな?」
「私たちが行くかもしれない学園ってどんな感じなんだろ?大きくて綺麗なのかな〜」
「私は一度行ったことがありますが、王都ですのでその辺の街とは随分と違いましたよ」
「やっぱそうなんだ!今からもう行くの?」
「いえ、一度休憩を挟んでから行こうと思いますが、二人はどうしたいですか?」
私が二人に尋ねるとレインとアリアはお互いに顔を見合わせ一度頷いてから同時に言ってきました。
「「今すぐ行きたい!!」」
―――――――――――――――――――――――――――
それからすぐに転移魔法を使って王都の近くに転移しました。やはり王都なだけあってここからでも人の流れが分かりますね。
そのあとは以前と同じように検問を受けてから王都の中へ入ります。ちなみに今の私は前に冒険者たちを助けた時のようにフード付きのコートを着ています。理由はまぁあれですね......
「お母さんどうしてそんなの着てるの?」
「アリア.....自分で言うのもなんですが私は非常に目立つ容姿をしています。王都は人が多い分注目されてしまいますからそれを避けるためにフードを被っています。これでも多少は見られるかもしれませんがまだマシな方です」
「そっか....お母さんすごい綺麗だもんねそりゃみんな見ちゃうよ」
「俺も森で最初見た時本物の女神様かと思ったくらいだよ」
「め、女神様って....それは言い過ぎではないですか?」
レインが中々鋭いことを言ってきますが、とりあえず否定しときましょう。
「んーそうかなー、私お母さんが女神様って言われても信じちゃうかも」
「アリアまで........とにかく私もそうですが二人も客観的に見て容姿が整っているので気を付けて下さいね?」
今更ですが二人の容姿はかなり整っています。将来は美男美女兄妹ですかね、ちょっと楽しみです。
検問を終え王都の中に入ると人の規模も建物もノルンの街とは全然違います。前に来た時も思いましたが、やはりすごい活気ですね、街の勢いに押されてしまいそうです。
レインとアリアもぽけーっとしながら周りを見ています。
「ここが王都....すごいや」
「私たちが行こうとしてる学園がここにある......」
「二人とも、はぐれないようにしてくださいね。なんなら手を繋ぎましょうか」
レインとアリアに手を出すと呆けていた二人はすぐに気を取り直してレインが右手、アリアが左手を握ってきました。
先にお昼を済ませてから学園の方へ行きたいのですが、どこかいいお店はないですかね。前に一度来ましたが食事をする前に帰りましたからね。衛兵さんに聞けば教えてくれるのでしょうか。
「あの、すみません少しいいですか?」
「ん?...はい、なんでしょう」
フードを被った私を見て一瞬訝しげな目をしましたが、レインとアリアを見て何かを察したかのように私に返事をしてきました。
「子どもたちとお昼を食べたいのですが、どこかおすすめのお店などはありませんか?」
「お店...それでしたらこの道の奥にあるフレイスというレストランが人気ですよ」
「そうですか!わざわざありがとうございます。これからそちらに行ってみます」
衛兵さんからレストランの名前を聞いた私は早速その場所へと向かいました。
「王都の料理って美味しいのかな!」
「衛兵の人が言ってたお店だからきっと美味しいよ」
「そうですね、今から楽しみです♪」
―――――――――――――――――――――――――――
「おーい、一体なにを聞かれてたんだ?」
「ん?あぁ、昼食を摂りたいからおすすめの店を聞かれてな、とりあえずフレイスの場所を教えておいた」
フレイスと聞いたもう一人の衛兵は驚いたように声を上げた。
「フレイスゥ?!あそこって貴・族・なんかが行く高級店だろ!大丈夫なのか?」
「あぁ、最初はフードを被っていて少し怪しかったがその佇まいや子どもたちを見てお忍びの貴族だと判断した。だから問題ない」
「そ、そうかならいいけどよ」
―――――――――――――――――――――――――――
道中人に道を聞きながら私たちは『レストラン フレイス』に着きました。建物の見た目はとても派手で敷居が高そうです。もしかしてここってかなりの高級店なのでしょうか。
「母さん、ほんとにここなの?」
「なんかすごい高級感がある.....」
レインとアリアが不安げな声で私に聞いてきますが、私だってこれは予想できていませんでした。
「確かに少し躊躇しますが、折角教えていただいたのですからお店に入りましょうか」
店内に入ると中も豪華で、いかにも貴族という方たちが食事をしていました。しばらく店内を突っ立っているとウェイターの方が近くに来ました。
「いらっしゃいませお客様、何名様でございましょうか?」
「三名ですが席は空いていますか?」
「はい、空いております。三名様ですね、どうぞこちらへ」
ウェイターの後をついていき私たちはテーブルにつき椅子に座りました。レインとアリアはどこか落ち着かないようでソワソワしています。
「こちらメニューになります。ご注文がお決まりになりましたらお声掛けください」
「あ、待ってください。今日のオススメを聞いてもよろしいですか?」
「はい、本日のオススメはキングボアのステーキになります。そちらをお持ちしましょうか?」
「そうですね、ではそれとアップルジュースを三つお願いします。」
「畏まりました。少々お待ちください」
一礼してウェイターは離れて行きましたが、二人はまだ固いままです。どうしましょうか。
「二人とも、いつも通りテーブルマナーを守って食べれば大丈夫ですよ。一度教えましたよね?」
「いつも通り......うん、そうだね。食べるなら美味しく食べないと」
「そうだよ母さんから食事のマナーは学んだんだ....大丈夫」
私が一声掛けるといつもの二人に戻りましたね。これなら安心です。
それからしばらくするとウェイターが料理を持って来ました。
「お待たせ致しました。こちらキングボアのステーキとアップルジュースになります」
「ありがとうございます。では二人とも手を合わせて」
「「「いただきます」」」
さて、食事をする時にフードはさすがにダメですよね。取りましょうか。私がフードを取ると周りから何か聞こえて来ますが無視します。そしてステーキをナイフで切りフォークで刺して口まで持っていきます。
うん、このキングボアの肉は美味しいですね。脂身も少なくお肉も柔らかいです。前の二人を見ると美味しそうにお肉を食べています。
「美味しいですか、二人とも」
「うん、すごく美味しいよ」
「とっても美味しいよお母さん!」
二人が満足そうなら私も満足ですね。それからもステーキを食べ続け三人とも完食しました。ちょくちょくこちらに視線が向いて鬱陶しかったですが....
「「「ごちそうさまでした」」」
しっかりと食後の挨拶もし会計をするために席を立ちました。
「会計をお願いします」
「畏まりました。全て合わせて金貨一枚と銀貨二十枚になります」
意外とするんですねキングボアの肉、金貨一枚が前世の約十万円、銀貨一枚が約千円なので全部で約十二万円ですね。袋から言われた分の金貨と銀貨を出して会計をします。
「金貨一枚に銀貨二十枚、丁度お預かりいたします。またのご来店をお待ちしております」
「とても美味しかったです、ごちそうさまでした」
「「ごちそうさまでした」」
「.......ごちそうさまでした?」
ウェイターに一礼してフードを被ってからお店を出ます。とても美味しかったですしあのぐらいの値段なら問題ないのでまた来ましょうか。次は学園の方に行かなくてはいけませんね。学園の場所は確か王都の東部の方でしたので少し歩きますが行きましょうか。
「きゃ...!......めて!.....はな....!」
しばらく歩いていると路地裏のほうから微かに女性の声が聞こえてきました。
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第十話 お母さんキレる
「いいじゃねぇかよぉ、ちょっと楽しむだけだからさぁ」
「いやぁ!誰か助けて!」
探査魔法で見た感じどうやら冒険者の男性が女性の手を掴んで引き摺り込もうとしているようです。
「まずいですね」
「どうしたの、お母さん?」
「レイン、アリア!私は路地裏で襲われている女性を助けて来ます!なのでそこから動かないでくださいね!」
「えっ!ちょっ!母さん!?」「どういうこと!?」
困惑している二人を置いて私は駆けます。少し進むと魔法で見たように女性と男性がいます。
「なにをしているんですか?」
私が後ろからそう問うと男は後ろを振り向き下卑た笑みを向けてきました。
「なんだぁ、お前....ってすげぇ身体してんなぁ!ひょっとしてお前もまざりたいのか?いいぜ、こっちに来いよ」
なんというか、ほんとに不愉快な人ですね。嫌悪感しかありません。
「あなたのような下衆のところに行くほど私は安くはありません」
そう言って私は魔法でまず男の足を凍らせます。
「うわっなんだこりゃ!?」
そして懐まで一瞬で移動し鳩尾に魔力を纏わせた拳を撃ち込みます。本来ならそのまま吹き飛びますが足を凍らせているのでその場に止まります。そこから身体をくの字に曲げている男の顎をサマーソルトで蹴り上げます。この際足にかけていた魔法を解いて上に吹っ飛ぶようにします。
男はそのまま地面にぶつかり動かなくなりました。さすがに死なないように威力は調整したので気を失ってるだけですね。
「さて、大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」
「は、はい!大丈夫です!助けていただき本当にありがとうございます!」
私が女性に問題はないかどうか聞くと、彼女は腰を九十度に曲げ私に頭を下げてお礼を言ってきました。よっぽど怖かったのでしょう、目が涙目になっていました。気にしなくてもいいと彼女に声をかけようとすると、私が来た方向とは別の場所から声が聞こえました。
「すまない、私はギルドに所属しているAランク冒険者のジルという者だ。ここで女性が襲われていると聞いて来たのだがこれはどういう状況だ?」
来たのは紅蓮の髪を後ろに一本結びにしている若い女性の方でした。どうやらAランクの冒険者のようで誰かが通報してくれたのでしょうか、それを聞いてここまで来てくれたらしいです。
「はい、そこにいる男がこの方を襲おうとしていたので僭越ながらも助けさせていただきました」
「なに、そうなのかそれは助かった、礼を言わせてもらう。あなたも含めどこか怪我などはないか?」
「はい、大丈夫です。無傷です」「私もこの方のお陰で」
「そうかならよかった、向こうに私の仲間がいるからそこまで行くといい。私はこの男の確認をする」
そうジルさんが言った後助けた女性はジルさんの仲間がいる方向に歩いて行きました。ジルさんは横に転がっている男に近づきしゃがみ込んで、男の確認をしました。
「ん?こいつ、ギヨームじゃないか」
「知っているんですか?」
「あぁ、こいつは一応Cランクの冒険者なんだが、前から問題行動が目立っていてギルド側でも手を焼いていたんだ」
私が聞いてみると、どこか苦虫を噛み潰したような顔でジルさんがそう言ってきました。なるほど前々からこのようなことをしていたんですね。このような顔をするのも納得です。
「そうなんですか、よく今までギルドから除籍されませんでしたね」
「こいつはこんなでも実力はあったからな、しかし今回の件で今度こそ除籍は免れないだろう。それにしてもギーヨムを無傷で倒すなんて、もしやあなたも冒険者か?」
「いえ、私は違いますよ。近いうちになろうとは思っていますが」
「そうなのか、是非とも冒険者になる時は私の名を出してくれ私が推薦しておこう。名前は?」
「シェリアと言います。あ、フードを被ったままでは失礼ですね」
どうやらジルさんは私のことを冒険者ギルドに伝えるらしいです。あまり目立つのはよろしくありませんが、折角ですのでそのご厚意に甘えましょうか。それからフードを取るとジルさんは驚いたような顔をしました、もう見慣れましたね。
「シェリアか今まで見た事ないほど綺麗だな、覚えておこう。さて、確認も終えたしこいつを連れて戻るか。シェリアはこの後は?」
「私はここに来る際に子どもたちを置いてきてしまったのですぐに戻ります」
「子どもがいるのか、それはいけないな。こちらは問題ないからすぐに戻るといい」
「はい、ありがとうございます。では失礼します」
ジルさんがそう言ってくれたので私は路地裏を離れて先程いた場所に戻ろうと歩き始めました。
(?二名ほどからいつもとは違う視線を感じます。いったいなんでしょう?)
少し気になりながらも先程の場所に戻ったのですが、そこにレインとアリアの姿はありませんでした。近くにいるのかと思い探してみても見つかりませんでした。
「レイン、アリアどこに行ってしまったんですか」
探しても見つからないので探査魔法を使おうとすると横から声をかけられました。
「こんにちはそこの方、大変そうだね〜」
「なんですか、あなたは」
私はいきなり話しかけてきた男に警戒心を抱きながら返事を返しました。そんな私に対して男は飄々とした態度で私の耳元に近づき話しました。
「そんな警戒すんなって、子どもたちがどうなっちまっても知らないぜぇ?」
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?
今この男はなんと言いましたか?子どもたちがどうなっても知らない?つまりこの男ないしその仲間達がレインとアリアを連れ去ったということですか。なぜそんな事を、なぜあの子たちを......
私が頭の中で考えていると男がまた喋り始めました。
「驚いて固まっちまったか、おっと変なことは考えるなよ?さっきあんたの戦い方は見たがあれじゃあ俺らは倒せない」
なにを言ってるんですか、私があなたのような者に負けるはずがありません。
「さてとりあえず子どもを返して欲しければ金を渡しな、レストランから見ていたがあんた金持ってるだろ。だから金を準ッッがっ!?」
喋っている途中でしたが私は男の首を掴み持ち上げました。
「あの子たちはどこにいるんですか?探査魔法を使いましたが見つからなかったのでなにか隠蔽魔法でも使ってるのでしょう?」
「くそっ!この女っ!調子に乗ってんッッぐっ!!」
「いいから話してください、うっかりあなたの首の骨を折ってしまいそうです」
「おいっ!大丈夫か!!今なんとかしてやる!」
私が手に力を入れると別の方向からもう一人の男が出てきて私に魔法を使おうとしていますが、無駄です。男が魔法を使う前に先に私が重力魔法を使い男を床に縫い付けます。
「な、なん....だ..これ、から....だ..が......おも、く」
「そのままそこにいて下さい。それであの子たちはどこですか?ある程度の場所を教えてくれればそこから見つけます。」
殺気を向けながら再度質問をすると、男は震えながら質問に答えました。
「お、王都の東側にあるコングって名前のバーの地下にアジトがある。だ、だから、そこに...」
「わかりました。そこにレインとアリアがいるんですね」
男から二人の居場所を聞いた私は再度殺気をぶつけて男の気を失わせたあと手を放しました。重量魔法をくらった方も床に伏せながら気絶していました。
「東側のバーですね、早くあの子たちを助けないと」
魔力を足に纏わせ加速魔法を使いながら私は王都の屋根をかけました。かなりのスピードが出ているので街の人たちに姿を見られることはありませんでした。探査魔法を使い建物にも注目しながらしばらく移動していると何か引っ掛かりがある建物がありました。看板には『コング』と書いてあります。間違い無いですね。
「見たところまだ開いてないですね。このまま強行突破しましょう」
屋根から降りて建物の前にたち全身に魔力を流しながら入ります。
「んぁ?すまねぇなお客さん今はまだ開いてな......ってなんだお前!客じゃねぇな!」
「えぇ、お客じゃありません。子どもたちを返してもらいに来ました」
「こ、子ども?一体何のことを言ってるんだ?」
一瞬焦ったような顔をして誤魔化そうとしましたがこちらはもう分かっています。明らかに奥の壁から魔法の気配がします。
「誤魔化しても無駄です。あなたに用はないので奥失礼しますね」
「え?!ちょっとまて!」
男を無視しながら奥の壁へ着き魔力を込めた拳で壁を殴りました。するとなにかガラスが割れたような音が鳴りなにもなかった壁に扉がありました。
「そ、そんな?!高位の魔法師がかけた隠蔽魔法だぞ!そんな簡単に破られるわけが....」
「私の前ではただのガラスと変わりません。では行きましょうか、この先に二人がいるはずです」
そのまま扉を開け下に続く階段を降りました。ここまで一気に来ましたが、一度落ち着くと段々と怒りが沸々と湧いてきました。
階段が終わり目の前にはまた扉があり、そこを開けると広めの部屋に男が5人おり一人のボスらしき人の側にレインとアリアがおり、レインが守るようにアリアを背に隠していました。二人とも私を見るなり涙目になりそのまま見てきました。
「なんだお前、どうやってここに来た」
私にボスらしき人が何者なのか尋ねてきました。他の四人も私に少なからず警戒しいつでも飛び掛かれるようにしています。
「母さん!」「お母さん!」
「私はそこの二人の母親です。取り返しにきました。」
「母親ぁ?チッ、ニグスたちやらかしたな、だがお前一人ではどうすることもできん。この隠蔽魔法を破ってきたってことはかなり腕の立つ魔法師のようだが、近接特化の五人相手では勝てるわけがない」
「…………」
「最初はお前から金を奪ってこのガキ共だけ売っ払う予定だったが、お前も中々いい身体付きしてるじゃねぇか。ガキ共と一緒にどこかに売っ払ってやるよ」
ブワッッ!!
男の言葉を聞いて私の何かが切れました。
金を奪うだけじゃなく、この期に及んであの子たちを売る?ふざけないでください。
「そんなことさせません、あなたたちは私が倒します。覚悟して下さいね」
「な、なんだ...それは」
「母さんの身体から、白いオーラが出てる」
「綺麗....」
私の身体から何か出ているようですが、これは大量に流れる超高密度の魔力が身体から溢れて見えるようになったもので、この状態では身体能力などが爆発的に上がり魔法力も上がります。
「ではいきますよ」
「くそっ!あの女を止めろ!たかだか魔法師だ、全員でかかれ!」
男が言うと同時に残りの四人が私に一斉に襲いかかってきましたが、今の私にはほとんど止まって見えます。アイテムボックスから剣を取り出し、剣の腹で四人を壁まで叩きつけます。一瞬で四人がやられた光景をボスの男は信じられないとういう目で見ています。
「なにが起こったんだ、一瞬でやられるなんて」
「簡単なことです、ただ剣の腹で叩いただけです」
「そんなバカなことがあるか!それにさっきまで剣なんて持っていなかった!」
うるさいですね、もう声も聞きたくないので男の目の前に瞬時に移動し、身体に触れ私の魔力を流します。すると男は泡を吹いて倒れました。過剰な魔力を流された事で身体が耐えきれなかったようですね。
これで全て終わりました。私は魔力を解除してレインとアリアの元に行き二人を抱きしめました。
「レイン!アリア!」
「母さんっ!俺、またアリアと二人だけになるんじゃないかって!」
「おがぁざぁん!ごわがっだよぉ!」
レインは啜り泣くように、アリアはワンワン泣きながら私の胸に蹲ってきました。
「ごめんなさい二人とも、私が目を離したせいで....でももう大丈夫です。私はここにいます」
それからしばらくすると二人も落ち着き私から離れました。
「ほんとは学園を見る予定でしたが、今日はもう帰りましょうか」
「「うん」」
私たちはそのまま学園を見ることはせずに家に帰りました。
―――――――――――――――――――――――――――
「母さん、俺もっと強くなりたい!」
「お母さん!私ももっと魔法を使えるようになりたい!」
昨日の一件があった翌日の朝レインとアリアは私にそう言ってきました。
「急にどうしたんですか二人とも?」
「俺昨日なにも出来なかった、もっとアリアや母さん、みんなを守れるようになりたい!」
「私はもう守られるのはやだ!今度は私が守る方になりたい!」
二人は意思のこもった目でそう言ってきました。正直昨日の一件でもうダメかもと思っていましたが、私の子どもたちは私の予想以上に強い子たちのようです。
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第十一話 学園を観に行く
「今日こそ学園を見に行きましょう!」
以前王都に行った日から早くも三ヶ月が経とうとしていました。このままではずっと行かなくなってしまいそうなのでそろそろ行った方がいいでしょう。
「今日?また王都に行くの?」
「お母さんはいつも急だよね〜」
「うっ、そこは気にしないでくださいアリア」
あの日からレインとアリアは今まで以上に強くそして賢くなろうと努力をしています。私もそんな二人につられて以前よりも厳しく指導をしているのですが、二人はけっして根を上げず食らい付いてきます。そのせいか最近私への遠慮がなくなっている気がしますが........まぁ以前よりも距離が近くなったと思えばいいでしょう!
「とにかく!前回あんなことがあったので見ることは出来ませんでしたが、今の二人ならある程度のトラブルは回避できるでしょうし私もそばを離れません。なので行きましょう」
そう言うや否や二人を椅子から立たせ転移魔法で再び王都へと移動しました。
前回と同じように一度王都の近くに転移してから徒歩で向かい、検問を受けて王都に入ります。そろそろめんどくさいですから冒険者登録をしましょうか?確かジルさんが私を推薦すると言ってましたね。学園を見た後行ってみましょうか。
「さて、着きましたね。学園は王都の東側にあるのでそこまで歩きましょうか」
「前はあんな目にあったけどやっぱり王都のこの感じは好きだな」
「私もこの騒がしいのが王都っぽくて好き!」
怖がらずにそう言えるのならこの先も問題なさそうですね。少しテンションが上がっている二人を連れて学園へ向かいますが詳しい道は知らないので、街の人に道を聞きながら進みます。
教えてもらった通りに歩いていくと、街の中で一際大きい建物がありました。入り口に『ガルレール魔法学園』と書いてあるのでここで間違いないですね。敷地もとても広く大きな棟が五つほどあり、なにか闘技場のようなものもあります。
「ここがそうですね、やはり国中から受験者がくる学校だけあってとても広いですね」
「うん、すごいよ.....ここが俺たちが目指す学園...」
「今って中に人いるの?」
「今日は特にお休みでもないので中で授業を受けているのではないですかね?」
「そっか....ここで授業...」
二人は自分たちが目指す場所を見て少し固くなってしまいました。学園は初等部、中等部、高等部に分かれており、レインたちが受けるのは初等部からで九歳のときです。それまでには今よりもっと魔法の使い方が上手くなっていると思うので、もっと自信を持って欲しいですね。
「そんなに身構えないでください、今の調子で頑張っていけば必ず大丈夫です。私が保証します」
「そ、そうだよね。お母さんに教えてもらってるから心配いらない」
「俺は大丈夫だよ、母さん。絶対に受かる!」
「ふふっそれなら安心ですね。建物の中にはさすがに入れないでしょうからこのまま王都をゆっくり見て帰りましょうか」
その後は三人で商店をまわったり、出店で串焼きを買ってベンチで食べ近くで有名な劇団が劇を行なっていたのでそれを見たりとしばらく王都を満喫しました。最近はレインもアリアも頑張っていましたからいい息抜きになるでしょう。この年で息抜きとはなんですが....もしかして少し厳しいでしょうか?
「ん〜!楽しかった〜!串焼き美味しかったし、劇もお姫様可愛かった!」
「うん!最後勇者が魔王を倒すのはすごくかっこよかった!俺もあれくらい強くなりたい!」
二人とも楽しんでくれたようですね。劇の内容はよくある話で、平民の主人公が勇者に選ばれ魔王に連れ去られたお姫様を救うというものでした。特にレインたちぐらいの子どもたちにはとても面白い話でしょう。
「勇者や魔王って実際にいたりするのかな〜?」
「さすがにいないだろ」
「それが、大昔には居たと言われていますよ。魔王も勇者も」
「え!」「ほんとうに?!」
「えぇ、ですが話が古すぎて今ではただの作り話ではないかと思われています。先程の劇の主人公とは違い別の世界から勇者を召喚したなんて話もあります」
「別の世界!なにそれ!」
「そんな話もあるんだ...」
二人には言われていると言いましたが実際にはいました。私が研究に没頭する前にリュクシール様から魔王と勇者が出現すると言われたときはかなり困惑しました。話を聞けば魔王というのは世界に魔物がおりそして魔力がある限り数千年単位で現れるらしく、それと同時に魔王に対をなす勇者が現れ倒し倒されを繰り返しているらしいです。
私も何度か勇者と会ったことがあり彼は辺境の村の出身でした。女神は魔王に対して直接手を出すことができないので、勇者である彼を鍛えたりなどサポートをして魔王を倒せようにしました。
あれ、数千年単位ってことはもしかして近いうちに勇者と魔王が現れるんですかね?その時はまたサポートとしてあげましょうか。
「二人も物語の勇者のように優しく強い子になって下さいね」
「なれるかな....?」「私はなるよ!」
レインは考えながら呟くように、アリアは元気いっぱいに返事をしました。もしかしたらこの子たちが勇者になるのかもしれませんね。
そして転移魔法を使い家に戻り、昼食を食べている二人を見て別の目的を思い出しました。
「あ、そういえば。レイン、アリア私は一度王都に戻って冒険者ギルドに行ってきすので家で大人しくしていて下さい」
学園を見た後冒険者ギルドに行くのを完全に忘れていました。今から行きましょうか。
「冒険者ギルド?」
「母さん冒険者になるの?」
「以前王都で女性を助けた時近くにいた冒険者さんからギルドに推薦をすると言われてしまいましたので折角ですからギルドに登録してきます」
私はそれだけ言うと転移魔法を使ってもう一度王都に移動しました。
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第十二話 冒険者になる
はい、再び王都に来ました。ほんとに転移魔法は楽に移動できていいです、作った甲斐がありました。いつかレインたちにも教えられたらいいですね。
街の中を回っていたりしていたので冒険者ギルドの場所は既にわかっています。ガルレール学園からそれほど距離がなく意外にも近くにあり、学園の生徒たちも中等部の上の子たちや高等部の子はギルドに登録をするらしいです。
しばらく歩くと盾の上から剣が二本クロスしているエンブレムが目立つそこそこ大きい建物に着きました。建物も綺麗で中からさまざまな人の声がします。
冒険者と聞くと少し粗暴なイメージを持つ人がいるかも知れませんが、この世界の冒険者はそんなことはなくジルさんのような誠実な人もいます。ランクがA以上になると国からも一目置かれる存在となり皆んなの憧れになるなど立派な職業です。ですが、その分若い子たちが無理をして命を落とすということもありますが....
「ひとまず冒険者登録をして軽く受けられる依頼があったら受けましょうか」
扉を開けてギルドの中へ入ります。中も割と綺麗で毎日こまめに清掃していることが分かります。建物は三階建てで一階に受付や酒場などがあり、二階と三階は職員や冒険者が寝泊まり出来るように部屋があります。宿が取れなかったりした時にギルドに行きお金を払えば泊まることができます。
中に入ると案の定注目されてしまいました。最初はここでは見ない顔が来たのだと思って見たのだと思いますが、その後フードを被っていた私を見て視線が下に行きそこで止まります。やっぱり胸ですか、ほんとにいつの時代も変わりませんね。
「なぁ、あんなやつ見たことあるか?」「いや、ないが....すごいな」「うっひょぉ、あの人顔見えないけどすげぇおっぱい!」「おいバカやめろ!聞こえるだろ!」
全部聞こえてます...男性からだけではなく女性からも視線があります。やはり冒険者だけあって遠慮がないですね、街の人たちはそこまでではないのですが。
そんな視線を受けながら私は受付へ向かいます。特に並んでもいなかったので正面の受付に行くとそこにいた受付嬢さんも私を見ていたのか笑顔を向けて挨拶をしてきました。
「こんにちは!ようこそ冒険者ギルドへ、受付嬢のソフィと申します。本日はどのようなご用件ですか?」
そう言ったソフィーさんは黒髪ショートの随分と綺麗な方で美人と言うよりは可愛い系ですね。というよりもギルドの受付嬢はみんな美女、美少女揃いです。採用する時になにか基準でもあるのでしょうか。
「こんにちは、今日は冒険者登録をしに来ました。お願いできますか?」
「はい、畏まりました。うん?冒険者登録....白いフード....もしかしてあなたがシェリアさんですか?」
「えぇ、そうです。ジルさんから何か聞いてますか?」
「はい、聞いていますよ。Cランク冒険者を軽く倒す実力者だから悪いようにはしないで欲しいと言われています」
どうやら本当にジルさんはギルドに話したらしいですね。何か待遇がよくなったりするのでしょうか。周りでも『あれがジルさんが言っていた』とか言っていますし。
「そうですか、それで何かが変わったりするのですか?」
「はい、今から説明しますね。シェリアさんは冒険者のランクについては知っていますか?」
「知ってます」
冒険者のランクは全部で七つあり、一番高いランクがSであり一番下はFになります。Eランクまでが新人冒険者と呼ばれそこから依頼をこなしていくとDランク、中級者レベルになります。ここから少し上がりにくくなりCランクまでいくと冒険者としてはいいと言われます。
それより上Bランクは才能がないと難しいとされ、A ランクにもなると天才の中でもさらに努力を続けたものがなれるレベルで皆んなの憧れになれます。Sランクはもはや天災級と言われ街一つを一人で壊滅できる戦力を持ち、世界でも珍しくほとんど数はいません。ここまでくると国から注意人物となり名が世界に知られます。ちなみに数千年前の私はSランクでした。今は何人いるのでしょうね。
「なら話は早いです。シェリアさんはDランクから始めていただきます。初心者では受けられない討伐依頼も受けていただいて構いません」
「いきなりDですか、大丈夫なんですか?そんな私だけ待遇を良くして」
「普通はこういったことは少ないのですが、推薦したのがジルさんですから問題もないと判断しました」
どうやらジルさんはさっきの周りの冒険者の反応も見た感じ私が思っていた以上に冒険者ギルドに対して発言力があり信頼もされているようです。この出会いは大事にしないといけませんね。
「そこまでジルさんはすごい方なんですか?」
「はいそれはもちろん、王都が誇るAランクパーティ紅蓮のリーダーであり、本人も誠実な方ですからここの冒険者の憧れ筆頭ですね」
「そんな方に推薦されていたとは....今度またお礼を言わなくてはいけませんね」
「冒険者登録には名前とこの魔力量を測る水晶に触れていただきます」
「魔力量を測る?そんなものがあるのですか?」
魔力量を測る水晶なんて私は知りません、ということは私が籠っている間に新しくできたマジックアイテムなんでしょう。
「はい、魔法を使う人使わない人限らず登録の際には必ず測らせてもらっています。もし魔力量が高かった場合は魔法職を勧めたりするためですね」
なるほどちゃんと理由があって測っているのですね。ですが魔力量が高いから魔法職になるというのはどうなんでしょうか。剣などを使って近距離で戦う人も魔力がいくらあってもいいような気がしますが.....
「なるほど、そんな理由が。これは触れればいいんですね?では、いきます」
私はそう言って水晶に触れ魔力を込めました。しっかりとやったら水晶が壊れてしまいそうになったのでかなり抑えて魔力を込めます。途中水晶がカタカタと震えて思わず冷や汗をかいてしまいました。
「はい、もう大丈夫ですよ.....わぁ!すごい魔力量ですよシェリアさん!ジルさんが推薦するだけありますね!」
「そ、そうでしょうか?それならよかったです。あはは」
ちゃんと抑えることが出来たようです。何気にコントロールが難しく精神力を使ってしまいました。これで特訓したらかなり魔力の扱いが上がってしまいそうです。
「これで登録は以上です。こちらが冒険者カードになります。なくしてしまうと再発行になってしうので気を付けてください」
そう言って名前やランクが書かれているカードを渡されました。微弱ながら私の魔力が流れていてこれで情報を管理してるらしいですね。前はもっと質素なものでしたが、これも進化ですか。
「はい、分かりました。ありがとうございます。早速依頼を受けようと思うのですが、どうすればいいですか?」
「それでしたら、あちらにある依頼掲示板にあるものから受けたい依頼のものを取ってきて受付に出してくだされば依頼を受けることが出来ます」
ソフィさんが示した方を向くと、壁に依頼者が沢山貼ってありその周りに多くの冒険者がいます。こういうところはあまり変わってないのですね。
「わかりました。依頼を見てきますので私はこれで」
「はい、シェリアさんの活躍を楽しみにしています」
そのまま依頼掲示板を見に行きました。採取がメインのものや魔物の討伐だったりと多種多様な依頼がありますね。家にレインとアリアがいるのであまり時間が掛からなそうなものを選びましょうか。しばらく依頼を眺めているとちょうど良さそうな依頼がありました。
「これなんかいいんじゃないでしょうか?フォレストウルフの討伐」
内容は森に増えてしまったフォレストウルフを討伐すると言うもので報酬は討伐した数によって決まるらしいです。ちなみに魔物ランクはDですね。魔物のランクも冒険者同様S〜Fまであり、それぞれ脅威度がちがいます。受ける依頼も決まりましたし早速受付へ持っていきましょうか。
「ソフィさん依頼の受注お願いします」
「はい、分かりました。フォレストウルフの討伐ですね。フォレストウルフは群れで行動することが多いので十分気をつけてください」
ソフィさんの忠告を聞き私は依頼を達成するため冒険者ギルドを出ました。
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第十三話 初依頼
王都を出て近くの森まで来ました。ギルドを出てから誰かしらに絡まれると思っていたのですがそんなことはなく普通にここまで来ることができました。
「ですが、視線は多かったですね。興味を示すように見る人や好色のようなものもありましたが、特に敵意はありませんでしたし」
私の予想ではもっと積極的に絡んできて少し面倒くさいことになると思っていたのですがね。そういえば以前別のところで助けたあの四人の冒険者、確かライア君たちでしたっけ.....は元気でしょうか。これでもう死んでいたとかだとさすがに思うところがありますね。
さて、いちいち歩いて探すのも大変ですし毎度おなじみの探査魔法を使って探しましょうか。
早速探査魔法を使い、あたりを探ります。森の少し奥のところにフォレストウルフの反応がありました。
「あ、いました。結構数が多いですね、三十二体ですか。群れで行動するそうですがこれはかなり規模が大きいですね。他の方が出会って交戦する前に倒しましょう。あれでは新人や中級者の冒険者はきついでしょうからね」
フォレストウルフたちがいる場所まで森を駆け、魔法の準備をします。魔法は風魔法を使ってエアカッターにでもしましょうか。これで半分は減らしたいですね。
そこから風魔法を飛ばし、頭を飛ばします。
「キャウン?!」「ガッ?!」
うまく当たったようですね。ですが半分はいかなかったようで残り二十一体になりました。仲間がやられているのを見て他のフォレストウルフたちは周りを警戒し始めました。魔力を探っている訳でも無さそうなので隠密魔法を使って気配を完全に消しながら近づきアイテムボックスからロングソードを出して攻撃します。
(このぐらいの魔物なら隠密魔法を使ってしまえばこっちのものですね。この調子で倒していきましょうか)
隠密魔法は自分の気配を消す魔法で、使いこなせば先程のように完全に気配を消し攻撃が出来ます。しかし一応魔法であるため魔力までは完全に消せず、魔力を探られると割と簡単に見つかるのである程度レベルの低い相手ではないと通用しません。
「さぁ、どんどん行きますよ!加速して切り返して切る!」
加速魔法も使ってフォレストウルフの周りを縦横無尽に移動しながら、時に直角に切り返したりと連撃を放っていきます。その結果、風魔法で攻撃してから一分も経たないうちに三十二体いたフォレストウルフを討伐することができました。討伐した数は冒険者カードに記録され依頼達成の報告をする時に使われます。
「特に疲労もないですし、囲まれた時にはからり有効な立ち回りですね。今度レインにも教えてあげましょう」
周りに転がっているフォレストウルフの死体をアイテムボックスではなく持ってきたアイテム袋に入れます。今のところこの魔法を使っている人に会ったことがないのでトラブルを避けるためにこのことは秘密にしています。
「これで十分ですかね、ギルドに戻って依頼の報告をして帰りましょうか」
私が王都に戻ろうと踵を返すと何か大きな気配が近くに出現しました。
「これは、かなり大きな力を感じますね、一応見に行ったほうがいですね」
近くに人の気配はないので誰かが襲われていると言う訳でもないでしょうからそこまで急がずに気配を消しながら移動します。
感じた気配のところに近づけば近づくほど強い魔力を感じ少し周りがピリピリしています。これはBランクか、もしくはAランク相当の魔物の魔力です、さらに放置が出来なくなりました。
「まさかいきなり現れるなんて、今日依頼を受けておいてよかったです」
魔物にも冒険者と同じでランク付けがされていますが、それの基準が魔物と冒険者では違います。魔物のランクはもしAランクだった場合倒すために最低でもAランク冒険者が三人必要です。中には単騎で討伐できる人もいるでしょうが世界的な基準はそれです。そして、そもそもAランク冒険者はそこまで数はいないのでこんな森でAランクの魔物が出たら少なからず被害が出てしまいます。
「ここでこの魔物を放置したら必ず怪我人や最悪死者なんかが出てしまいますから、ここは私が対処しましょう」
さすがにAランクの魔物だった場合今使ったロングソードでは少し戦いにくいので目を瞑り胸に手を当てます。そして胸から剣を抜くようにすると私の手には剣の柄が握られ別の剣が出てきました。
取り出した剣は白色をベースとした剣身に光っている水色のラインが入っている丁度私の髪や瞳の色と同じ色合いをした神秘的な剣で、私の愛剣です。この剣はこの世界では存在しない物質で出来てる剣で所謂神器のようなものです。どんなに私の魔力を全力で流したとしても壊れる事なく、切れ味も凄まじいものです。私が女神になったときからあった剣でどうやら私の身体の一部らしいです。
「おひさしぶりですねカエルム、また力を貸していただきますね」
私はカエルムを持って強い魔力反応のある場所は向かいます。Aランク級の魔物がいるせいか他の魔物の気配が一切しないので遠慮なく森の中を駆けます。ある程度まで行くと明らかに場の雰囲気が変わり重苦しいプレッシャーに包まれました。
そして目の前に凄まじい魔力を放っている魔物がいました。体長は五メートルほどと大きく直立して二本の脚で立ち手には大剣が握られています。皮膚は浅黒く目は金色、そして牛の顔をして立派な二本の角を持った魔物が私に対して明らかな敵意を向けています。
「これは....ミノタウロス!ですが肌が黒いのなんて初めて見ました。突然変異でしょうかそれともミノタウロスに似た全く別の魔物なんでしょうか?」
「ブモォォォォォォ!!」
私が目の前にいるミノタウロスについて少し考えているとミノタウロスがこちらのことなんて知らないと言わんばかりに大剣を振って来ました。明らかな奇襲ですが落ち着いて横にズレて躱します。
「そちらがその気なら私も本気で行きますよ。あまり時間をかけていられません。はっ!!!」
「ブモッッ?!ガッ!」
身体に魔力をながして、剣にも魔力を纏わせながら一気に近づき剣を振るいます。ミノタウロスもそれに対抗して持ち前の反射神経と魔力で反応して私の攻撃を受け止めましたが、剣にさらに魔力を流し押し切ります。そして、弾き飛ばして後ろに体勢が崩れたミノタウロスに雷魔法を撃ち込み痺れさせ、動きが止まっている隙をついて剣に流していた魔力を収束そして圧縮させることで剣身が蒼く輝き高周波ブレードのようにさせます。
そしてミノタウルスに向けて剣を振り下ろします。
「ブモォォ.....ドスン」
「さようならです、ミノタウロス。ランクはAの下位といったところですか。新人や中級者でも無理ですね」
倒したミノタウロスを見て私はそう言います。たしかに魔力量や威圧感は凄かったのですが、魔力の使い方や持っていた武器の扱いなどがあまりなっていなかったので苦戦はしませんでした。他の方ならそうもいかないと思いますが...
「これも回収して今度こそギルドに戻りましょうか。これだけの気配だったので気付いている人もいるでしょうから早く戻りましょう」
テキパキとミノタウロス(黒)の死体をアイテム袋ではなくアイテムボックスに入れて王都に戻ります。その際カエルムも私の身体にしまいます。
―――――――――――――――――――――――――――
王都入り口の門に着くとどこか騒がしい様子でした。どうしたのでしょうか、やはりあのミノタウロスの事ですかね。王都に入ろうとすると門の前にいた衛兵さんに話しかけられました。
「おい、あんた依頼のために森に行くって言ってたよな大丈夫だったか?」
「えぇ、大丈夫でしたよ。もしかしてあの大きい気配のことですか?」
森のことを言っていたので十中八九ミノタウロスのことでしょうが一応聞きます。
「あぁ、高ランクの冒険者たちが森に強大な魔力を感じたから誰も近づくなと言っていてな。それの対応を今してるんだ」
やはり高ランクの方は気付いたようですね、現れたことに気付いたという事は私が倒して消えたことにも気付いているのでしょうか?なんかまた一波乱ありそうな気がします。
「そうなんですか、お疲れ様です。私は一度ギルドに依頼の報告をしてきます、では」
そういって衛兵の方に別れを告げギルドへと戻ります。ギルドに入ると先程よりもギルドが騒がしくなっていました。ここでも対応しているのでしょう。様々な冒険者の声が聞こえてきます。
とりあえず私は報告をするためにソフィさんのいる受付へ向かいます。
「ソフィさん、戻りました。依頼の確認をお願いします」
「あ!シェリアさん!よかったご無事だったんですね!確認しますので冒険者カードをお願いします」
冒険者カードを渡し確認してもらうと、ソフィさんは目玉が飛び出そうなほど目を見開き私を見てきました。
「え、あのシェリアさん.....これってどういうことですか?」
はて、なにか問題でもありましたかね?冒険者カードで確認するのは確か依頼内容と討伐した魔物の名前......あっ
「倒した魔物のところにブラックミノタウロスがあるんですけど.....」
「あはは、えっと、それは〜」
私としたことがやってしまいました、冒険者登録をした初日でAランクの魔物を倒すなんて普通じゃありません。あぁもうこの場から逃げてしまいたいです。
「ブラックミノタウロスはAランクの魔物で同じくAランクの冒険者パーティが戦って倒せるような相手なんですよ!!それをシェリアさんはどうやって....もしかして一人で倒したんですか?!!!」
ソフィさんが大きい声を出すから周りの冒険者に聞かれてしまいました。信じられなような目で私を見てきます。
『え、ほんとにあいつがやったのか』『信じらんねぇよ、嘘だろ』『でも冒険者カードに書いてあったんだよね?ならほんとなんじゃ』『いきなり気配が消えたのはそのためか....』
もう諦めるしかありませんね。はい認めましょう。
「は、はいフォレストウルフの討伐をしたと近くに大きな気配を感じたので、被害が出る前に私が交戦して倒しました.....」
そう言うと、ソフィさんはしばらく無言になってから
『えぇぇぇぇぇぇぇぇ?!』っと叫びました。
レイン、アリア。お母さん少し大変な目に遭いそうです。
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第十四話 幸せ
「はぁ....なんだか疲れました、今日はどこかでお弁当を買って帰りましょうか....」
私がブラックミノタウロスを倒したと発覚してしまった後、ソフィさんや他の人たちから質問責めにあいました。
『どうやって倒したんだ?』『なんで居場所が分かった』『どんな武器使ったの?』『シェリアさんそんなに強いんですか?』
等々沢山のことを聞かれました。馬鹿正直に答えるわけにもいかなかったので、ある程度はぐらかしながら質問に応えました。
しばらく質問に答えた後もっと詳細に知りたいということで奥まで来て欲しいと言われたのですが、さすがにこれ以上ここにはいれなかったので子どもたちが家で待ってると言いまた今度話すということになりました。
そして今、ちょうどギルドから出たところです。
「また後日話すとは言いましたが何を話すのでしょうか?今はあまり冒険者を本格的にやるつもりはないのでランクが上がっても意味がないんですよね」
私の予想では冒険者ランクが上がるか、それに近い内容になると思っています。上がっても今はレインとアリアを育てるのに忙しいですからあまり冒険者活動は出来ないんですよね。するにしてもせめてあの子たちが学園に入学してからではないと。
「話の時にそのことも含めて言いましょうか、子育てが忙しいから冒険者が出来ない人ってどのくらいいのでしょうか?」
そんな事を考えながら宿の食堂で弁当をもらい家に帰りました。
―――――――――――――――――――――――――――
「ただいいまです。二人ともいますか?」
「おかえり母さん......大丈夫?」
「お母さんお帰り〜ってお母さんなんか疲れてる?」
玄関を開けて帰宅の挨拶をすると二人が私の近くまで来て挨拶をした後私の心配をしました。やっぱり疲れてるように見えるようですね。肉体的には然程疲れてはないのですがやはり精神的には疲れています。
「えぇ、少し冒険者ギルドの方でいろいろありまして、疲れてしまいました。今日はこの弁当を食べてください、すみません今はご飯を作る気力がないです」
「うん、分かったよ。母さんは休んでていいから」
「いつも作ってもらってたし、今日ぐらい休んで?お母さん」
あぁ、天使です、天使たちがここにいます。アリアは私の手を取ってソファまで連れて行き座らせた後レインがコップに入れたジュースを渡してきます。とても優しい子たちです、なんだか感動して泣いてしまいそうです。思わず出そうになる涙を引っ込めて二人にお礼をいいます。
「二人ともありがとうございます。あなた達も冷めないうちに弁当を食べてください」
「母さんの分は?」
「私はお腹が空いてないので後で食べますから先に食べて大丈夫ですよ」
「ええ!じゃあお母さんが食べるまで私も食べない!」
先に食べていいと言うとアリアがテーブルを叩きながらそう言いました。私はいいですが二人はお腹が空いているでしょう、なんで我慢なんてするのでしょうか。
「でも、お腹空いているでしょう?」
「空いてるけどいい!お母さんと食べる!」
アリアは引く気がないようでフンスと胸を張っています。隣にいるレインを見るとアリアを見てから私を見て笑いながら言ってきました。
「俺らは母さんと一緒に食べたいんだ、一人で食べるよりみんなで食べた方が美味しいでしょ?」
「そうそう!だから一緒に食べるの!」
「......」
二人はさも当たり前のように私と一緒に食べたいと、一人でも三人の方が美味しいと言います。たしかに二人が私の子どもになってから毎日の食卓が賑やかになり料理を作る時もいつもより気分が良かった気がします。作った後も二人と食べて、美味しいと言ってくれるこの二人が愛おしくて幸せな気持ちになりました。
そうでした、一人でいる時間が長かったからそんなことも忘れていました。レインとアリアは三人で食べる食事を楽しいと思っていてくれたんですね......あぁ、ダメですもう我慢できません。勝手に涙が出てしまいます、この子たちの前で泣くなんてほんとダメですね。
「そう...ですねっ、三人で食べましょうっ」
「え?!お母さん急にどうしたの!」
「か、母さん!なんで泣いてんの?」
泣いてしまったせいで余計に心配させてしまいました。でも大丈夫です。これは悲しくて流れているのではなくて本当に、心から嬉しくて幸せだから流れているんです。
「なんでもないんです、なんでも。それより冷める前に弁当を食べちゃいましょう。二人とも椅子に座って下さい」
「あれ、お母さんお腹すいてないんじゃ....」
「二人を見ていたらお腹が空いてきました、それはもうとても、だから早く食べましょう?」
「....!なら食べよう、三人で。な、アリア?」
「うん!食べよう!みんなで!」
少し強引だった気がしますが二人はスルーして私と一緒に椅子に座りテーブルにある弁当を開けました。
「では、手を合わせて」
「「「いただきます!!」」」
その後は三人で楽しく、そして賑やかにお弁当を食べました。やっぱりこの瞬間が一番幸せで、心が穏やかになります。この子たちが私の元を離れるその時まで大事にしたいですね。
「そういえばなんでお母さんそんなに疲れてたの?」
もう寝る時間の頃にアリアがそう聞いてきました。この子たちにはちゃんと言っといた方がいいですかね。
「それは、少しギルドで質問責めにあいまして」
「質問責め?なんで母さんが?」
「討伐依頼を受けたんですが、そこで別の魔物を倒しましてしかもそれがかなり強い魔物で新人冒険者の私がそれを倒してしまったので、どういう事なのか色々と聞かれたんです」
私がそこまで言うと二人は驚いていましたがどこか納得したような顔をしていました。
「なんていうか、母さんだね。普通に倒しちゃうの」
「うん、それに少し抜けてることろも」
私は二人にどう思われてもいるのでしょう、強くてどこか抜けてるお母さん?え、そんな感じなんでしょうか。
「あはは、そうですかね。それでもう少し詳しく説明するためにまた冒険者ギルドのとこへ行ってくるので、二人は家で自由にしてていいですよ」
「そうなんだ、じゃあ魔力のコントロールの練習しようかな?剣使ってもいい?」
「私も魔法の練習したーい!」
ゆっくりしててもよかったんですが、二人は本当に熱心ですね。二人だけだと少し危険な気がしますが二人を信じましょうか。
「えぇ、構いませんよ。剣を使うときは怪我しないように、魔法は暴発しないように気をつけるんですよ?それを守れるならいいです」
「うん、分かった。ありがとう母さん」
「ありがとう!」
それを聞いた二人はうれしそうに私にお礼を言いました。なんか甘やかしちゃいますね。私も気を付けないと。
「じゃあ、そろそろ寝ましょうか、レイン、アリア二階に行きますよ」
「あ、待ってお母さん、今日はお母さんと寝ていい?」
アリアが私と寝たいと言ってきました。そういえばもう長いこと一緒にいますがアリアたちと一緒に寝た事はありませんでしたね。いいですね、今日は一緒に寝ましょう。
「いいですよ、一緒に寝ましょうか。レインもですよ」
「え、俺も?」
「うん、レインも!ほら行こ!」
レインはまさか自分もとは思っていなかったのか驚いていましたがアリアに手を引かれて二階に上がっていきました。もう寝るのに元気ですね。
「ほら、そんな急がないでください。怪我しますよ」
その後は三人で一緒の布団に入り、右レインがそして左にアリアが寝て私は幸福感に包まれてその日を終えました。
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第十五話 話し合い
「では、レイン、アリア。行きます」
「行ってらっしゃい母さん」
「行ってらっしゃ〜い」
翌日の昼再び王都に行くために私は家を出ました。ちゃんと三人で食事が摂れるように夕飯の時間には帰ってこようと思います。昨日、私は改めて三人で食卓を囲むことの幸福、そして二人の大切さを知ることが出来ました。
誰にもあの二人は渡しません.............いや、まぁレインやアリアが好きな人や恋人が出来た時はさすがに考えますよ、しっかりした子でなかったら認めませんが。
「その時がきたらちゃんと祝福して送り出してあげましょう。少し寂しい気がしますが......。さて、王都に転移しましょうか」
いつも通り王都の近くに転移し入口のところまで歩き検問を受けます。今は冒険者カードがあるのでそこまで長いこと待つことはなくすぐに王都に入ります。
いつも転移魔法でこちらに来てますがこれって普通ではないですよね、少し怪しいですかね。ガルレール学園は国中から人が来るだけあって確か全寮制だったはずです。
二人と離れたくないから王都で暮らしましょうか.....いや難しいですね。なんというか身の危険を感じます。
「二人が学園生活を楽しんでくれたらそれでいいですね」
そこからは特になにもなく気づけば冒険者ギルドの前にいました。フードをよく被り扉を開けて中に入ります。中はお昼の時間だけあって以前来た時よりも多くの人がおり、私が入るとほぼ全員がこちらに視線を向けてきて仲間の人たちとなにやら話し始めました。
どうやらすでに昨日の話は広まってしまったようですね、さすが冒険者情報の伝達が早いです。相変わらず胸への視線もありますが。
『あいつがそうだよあの........』『え!あれがブラックミノタウロスの.....』『普通の女じゃねぇか......』
そんな冒険者たちの横を通り過ぎてまっすぐ受付のところへ向かいます。受付についてソフィさんを探そうとすると声が掛けられました。
「シェリアさん!こちらです!お待ちしてました!!」
声の主はソフィさんだったようで、わざわざ手を振りながら大きな声で私を呼んできました。まるで私が来るのを分かっていたようでした。
(ギルドに入ったときからこちらを見ていたんですかね?)
「こんにちはソフィさん、随分と元気ですね?」
「えへへ、すみませんついテンションが....昨日の話の続きをするために来てくれたのですよね?」
「はい、今日はそのつもりで来ました。子どもたちにも言ってきたので大丈夫です。ここでそのままお話するのですか、それとも場所を変えますか?」
「あ、その事なんですが今日はこの奥に行ってもらいギルドマスターと話していただきます。そこでこれからのシェリアさんについてお話なさると思います」
ギルドマスター....文字通りギルドのトップですがそんな人と話をするのですか。ギルドマスターは基本元高ランクの冒険者がなれる役職です、元冒険者としても今回の件は無視できないようですね。
「ギルドマスターですか....分かりました。では、案内をお願いできますか?」
「はい、もちろんです。そちらにあるカウンターからこちらに来てもらい、私についてきて下さい」
ソフィさんに言われた通り受付の横にあるカウンターからソフィさんたちのいる中へ入り、彼女の後ろをついて行きます。どうやらギルドマスターの部屋は一階のこの奥にあるようです。もっと二階とかにあると思っていたんですがね。
「ソフィさん王都のギルドマスターはどんな方なんですか?そういったことは知らなくて......」
ふと気になったことをソフィさんに聞いてみます。どんな方なんでしょう、そもそも男性か女性かもわかりません。ギルドマスターになるぐらいなんですから真面目な方なんでしょうか、それとも冒険者らしく豪快な方なのでしょうか。色々と頭の中で考えているとソフィさんが教えてくれました。
「アントンさんですか?そうですねぇ基本真面目ですけど少しガサツな人ですかね。元Aランクの冒険者で当時は豪剣のアントンって呼ばれるほどの実力者だったらしいですよ」
異名からしてかなり豪快そうな方ですね、気難しい方よりは話しやすそうなので良かったです。ギルドマスターとは是非友好的な関係を築きたいですね。
「そうなんですか、それはお会いするのが楽しみです」
その話が終わると、とても豪華でいかにも機関のトップがいるという雰囲気がある部屋につきました。緊張しているわけではないですがやはり最初の印象は大事です。気を引き締めていきましょう。
「ここがギルドマスターがいる部屋になります。まず私が中に入りますのでそれに続いて入ってきて下さい」
私が了解の意味を込めてうなずくとソフィさんは扉をノックして部屋の中の主に声を掛けました。
コンコン「アントンさん、ソフィです。昨日言ったシェリアさんをお連れしました」
「おっ、そうか分かった、入っていいぞ」
中から男性の声がし、ソフィさんが扉を開けて中に入ったので私も続いて中に入りました。
部屋は正面にテーブルとその左右にソファが置いてあり、その奥に大きな執務机に座っている大柄の男性がいました。
「ソフィご苦労、そしてお前があのブラックミノタウロスを倒したやつだな。俺はここのギルドマスターをやっているアントンだ、よろしく頼む」
そう言ってギルドマスター、アントンさんは私に挨拶をしてきました。
アントンさんはとても大きく、二メートル近い身長にギルドマスターの制服を押し上げる筋肉とまるで熊のような肉体をしており、短い茶髪を逆立て頬には傷跡が残っています。そんなアントンさんに一瞬呆けてしまいましたがすぐに立ち直り挨拶を返します。
「初めまして、先日ここで冒険者に登録をしたシェリアと申します。本日は昨日の話をするためにこちらに来ました」
「あぁそれについては昨日少し聞いたよ、今日はわざわざすまないな早速話をしよう。そこのソファに座ってくれ」
アントンさんに言われた通りソファに座ると、アントンさんはもう一つソファへそして一緒に来たソフィさんはアントンさんの隣に座りました。
「あ、話し合いをするのにフードでは失礼ですよね。すみません今取ります」
「ん?あぁ、それなら無理に取らなくてもいいぞ。冒険者にも色々と事情があるやつがいる......から......な.....」
「え.......」
話し合いをするのにフードを被ったままでは失礼だと思い、二人の前で被っていたフードを取ると目の前の二人は固まってしまいました。
「?どうかしましたか、アントンさん、ソフィさん?」
話掛けられた二人はハッとした顔になった後、アントンさんが私の顔を見てため息をつきながら言ってきます。
「はぁ.....お前がフードを被っている理由はその顔を隠して無駄な面倒を避けるためか?」
「えぇ、そうです。絡まれたりと大変なのでフードで隠してます」
「なるほどな、その顔じゃあ納得だな。これからもその方が良いと俺も思う」
「シェリアさん、綺麗.....」
と、そんなことがあってやっと本題に入ります。今回話すことは他でもない私がブラックミノタウロスを倒してしまったことについてです。これは昨日も少し話したことですがもう少し詳しく知りたいということで話します。
「つまり、依頼を受けてフォレストウルフを狩っている途中でデカい気配を感じたから見に行ったらそれがブラックミノタウロスで、そんでそのまま倒して戻ってきた。そういうことか?」
「はい、概ねその通りです」
私がブラックミノタウロスを倒すまでの経緯を話すとアントンさんはこめかみを抑えて天井に顔を向けた後こちらを見て呆れたような声で言ってきました。
「なんともまぁ規格外なやつだな、気配を感じてそこに向かうのもそうだし挙句の果てにブラックミノタウロスを一人で討伐とは.....聞いているかもしれないがブラックミノタウロスはAランクの冒険者パーティーが戦うような魔物だぞ?」
「えぇ、知っています。ソフィさんから聞きました」
「そうだよな.....」
アントンさん先ほどとは違い右手の親指と人差し指を顎にあて一層難しい顔をしてなにやらソフィさんと考え始めました。
「この話が事実ならこいつの実力はすでにAランク相当....下に置いておくのはもったいない。しかし登録したばかりのやつをいきなり上げるのは......」
「ですがこれほどの実力者はなかなかいませんよ....」
どうやら私の冒険者ランクをどうするのか考えていたようです。色々考えているようですが残念ながら今の私はそこまで冒険者ランクを上げたいとは思っていません。そこはちゃんと言っとかないとですね。
「あの、アントンさんいいですか?」
「あ、あぁすまん、なんだ?」
「色々と考えているようですがすみません。今の私はそこまで冒険者ランクを上げるつもりはないんです」
「!そうなのか?なぜだ、冒険者なら当然ランクを上げたいだろう?」
「今は子どもたちの面倒を見るので忙しいんです。なのであまり冒険者自体を出来ないので上げる気はないんです」
そうです、今の私はレインとアリアを育て学園に入学させるという大事な仕事があります。空き時間くらいしか依頼なんて出来ません。それならランクなんて上げない方がいいです。
「子どもがいるのか、確かにそれじゃあ厳しいな.....しかしなにも無いというのも問題だからせめてCランクには上げてもらうぞ」
「えぇ、それくらいならあまり他の冒険者の反感も買うこともないでしょうし大丈夫ですよ」
結果的に私はCランクに上がるという事で話し合いは終わりました。その後は、倒したブラックミノタウロスの素材を売ってほしいと言われたのでアイテム袋ごとそれを渡し、渡された二人がひどく驚いたりなどありましたが無事終わりました。
「ほんとに子どもがいるのか?改めてお前を見るととてもそうとは思えんぞ...」
「私も昨日そう思いました。」
話し合いが終わったので部屋から出ようと再びフードを被るとアントンさんとソフィさんがそう言ってきます。確かにこの見た目で子どもがいるようには見えませんよね.....
「本当にいますよ、息子と娘が......まぁ、拾い子なんですけどね」
「..…っそうだったのか、それは大変だな」
「すみません、シェリアさん.....」
二人が少し気まずそうに私に言ってきますがそんな気にすることではないです。なぜなら....…
「気にしないで下さい、私はあの子たちを心から愛していますし、あの子たちも私を母と笑って呼んでくれますから」
そう、私は心の底からあの子たちを愛しているのですから他人がどう思おうと関係ありません。
「ふっ...…そうか。いらねぇ心配だったみたいだな」
「シェリアさんがお母さんなんて、その二人は幸せ者ですね♪」
「ふふっ、ありがとうございます」
笑ってそう言ってくれる二人に感謝しつつギルドマスターの部屋を出て、そのまま冒険者ギルドも出ます。ギルドを出ると辺りはすでに日が傾き夕方になっていました。すぐ帰って夕飯の準備をしましょう。二人はちゃんとお利口にしていますかね。
「では、帰りましょうか愛するわが子が待つ家へ!」
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第十六話 初めての実戦
太陽が元気よく地上を照らしている日、私は今日も今日とてレインとアリアに魔法と戦い方を教えていました。
冒険者登録をしてブラックミノタウロスのごたごたから早くも一年ちょっとが経ち着々と二人の試験の日が近づいて来ました。
子どもの成長とは早いものでレインとアリア、二人の身長などが去年よりも上がっており魔法や身体の使い方も上手になっています。私が教えたことをスポンジのごとく吸収していくので教える側からしてもかなり楽でした。
冒険者のレベル的に言えば少なくとも贔屓目なしでDランクレベルはあると思います。ちなみに私はあれから空いた時間のみ冒険者ギルドの方に行っていたのでランクは変わらずCランクのままです。アントンさんやソフィさんなんかは早くランク上げて欲しそうでしたが..........
さて、十分戦える力も付いたことですしそろそろ実戦経験が必要ですね。本当はもっと早くに経験させるつもりだったのですが、二人にもしものことがあってはと心配だったので今までやってきませんでした。なので今日は二人には頑張ってもらいましょう。
「レイン、アリア今日は練習ではなく、実際に魔法などを使って魔物と戦ってもらいます」
「え、魔物?いいけど、大丈夫なの?母さん?」
「うん、私も大丈夫だけど、お母さんは平気なの?」
「え〜っと、それはどういう意味でしょう?二人とも」
あれ、これから頑張ってもらおうと思っていた二人に何故か私が心配されています。どういう事なんでしょう、私過去に何かしましたっけ?
「だってお母さん前に私たちが魔物と戦いたいって言った時珍しく慌てて私たちのこと止めて来たじゃん」
「あれから魔物はダメなんだなーって思ってたんだけど」
「........」
そんなことがあったんですか.....ん〜確かに一度だけレインたちにそんな事を聞かれたような気がします。もしかしてその時の記憶消したんですかね。まだ記憶に関する魔法は使えないんですけど.....
「そ、それはもう過去の話です!今のあなた達ならランクの低い魔物を倒すことは造作もないはずですから、そろそろ実践経験を積みましょう」
「なんか怪しいなぁ、まぁ魔物と戦えるからいっか。それで何と戦うの?」
「今回は初めてということなのでゴブリンとコボルトにしようと思います。二人ともどんな魔物か覚えていますか?」
「えっと、たしかゴブリンが緑色の皮膚をもった子どもくらいの大きさの魔物で、知能が低くて見た目が良くないんだっけ?で、コボルトが........?」
「ゴブリンと同じで小柄でこっちは犬のような見た目をしている魔物。人と犬の間のような身体だから二本足で立ったり物を持ったりも出来るから注意が必要なんだよね」
私が二人に戦わせる予定の魔物について聞くとアリアは少し悩みながら答え、レインは自信を持って答えました。答え方に違いはありますが、二人が言ったことはちゃんと合っています。私が以前教えたことをしっかりと記憶していたようですね。偉いです。
「はい、レインとアリアどちらも正解です。ゴブリンは知能が低く、コボルトは少なからず知能があります。ですがその分ゴブリンは力が強いので気を付けてくださいね」
そう言いながらしゃがみ、二人の頭を撫でます。レインの髪は男の子らしく少し硬いですが、反対にアリアの髪はとてもサラサラしています。
「ちょっと母さん、くすぐったいよ」
「お母さんに撫でられるの好き~」
レインは少し恥ずかしそうに、アリアは笑顔で私を見てきます。あぁ私の子供たちは世界一可愛いです、ずっと撫でていたいです。名残惜しいですが話を続けるために手を頭から離し、笑いながら言います。
「もしも二人の身になにかあったら私が全力で助けます。ですからレインもアリアも遠慮はしないで全力で立ち向かってみてください」
「分かったよ、母さん!」
「私も!全力でやる!」
二人の元気な返事を聞いて私もうなずき転移魔法を使って別の場所へと移動します。私たちが住んでいる森にゴブリンレベルの魔物はいないので戦うには別の森に行かないといけません。
―――――――――――――――――――――――――――
「さて、着きましたね。ここから遠くないところにゴブリンやコボルトがいるはずなので自分たちで探して戦ってみてください私は見えないところから見ていますので」
そう言って母さんは一瞬で消えてしまった。もう驚かないつもりだけど相変わらすごいなぁ。
「お母さんいなくなっちゃったね、これからどうする?」
妹のアリアがこれからの行動を聞いてきたが、近くにいることが分かっているからそれを探すしかないだろう。
「母さんは近くにいるって言ってたから魔法を使って探そう。アリアお願いできる?アリアの方が広く探せると思うから」
「分かった、探査の魔法だよね。ちょっと待って集中するから」
アリアは目をつぶって魔法を使い始めた。アリアは俺よりも魔法が得意だからこういったことはアリアに任せてしまおう。俺ももっと魔法が上手くならないかな?母さんは俺には剣の才能があるからそこを伸ばすと良いって言ってたけど、もっと派手な魔法使いたいよなぁ。そう考えているとアリアは終わった様で俺に話しかけてきた。
「探した感じだとこのまま真っ直ぐに行くとゴブリンが四体いて、左の方に行くとコボルトがいるよ、数は分かんなかったけど......」
「それだけ分かれば十分だよ、まずはゴブリンの方にいこうか。走るけど大丈夫?」
「大丈夫、レインほどじゃないけど私も身体強化できるから」
アリアは俺とは違い魔力を身体に流したりするのが苦手だ、そこはアリアには負けないと思っている。なんかいい感じにバランス取れてるよね俺たち......
そこから森の中を少し走ると何かの声が聞こえてきたからアリアに目配せし止まる。
「俺がまず手前のやつを攻撃するからアリアは残りの二体を攻撃して。それで倒せなかったら一度下がって立て直そう」
「分かった。いつでもいいよ」
それからさっきよりも足と剣に魔力を流し一気に駆けて剣を振るう。
(こういった人型の魔物は首を切れば倒せるって母さんが言ってた)
そのままイメージ通りゴブリンの首を切り反転しながらもう一体の首も切る。
「グッ!ガァ!!」
気づかれてしまい深くは切ることができず、後ろに下がられてしまった。でも、こうなった時の対応はもう考えてる。俺は腕に魔力を大量に流し、そのまま振りかぶって剣を投げる。
「グガッ?!ガッ!」
ゴブリンもまさか剣を投げてくるとは思っていなかったようで、そのまま躱されることなく首に当たり動かなくなった。
「よし、完璧!」
「レイン、こっちも終わったよ。問題なし!」
アリアの方を向くとすでにゴブリンは焼けて死んでいた。どうやら炎魔法を使って倒したようだ。俺も使えば良かったかな?投げた剣を回収しながらアリアの方に向かった。
「お互い大丈夫だね、それじゃこの調子でコボルトの方も行こう!」
「いいけどレイン、お母さんに武器を投げて攻撃するの剣がなくても戦えるようになってからって言われてなかった?」
「うっ、たしかにそうだけど、さっきのはあれが一番いいと思ったから多分大丈夫だよ....」
そうだった前に母さんにそんな事を言われてた。後で怒られるかな....あれ、そういえば俺ら母さんに一度も叱られた事ないな?じゃあ大丈夫かな?
それからまたアリアに探査魔法を使ってもらいコバルトの位置を確認して森の中を走った。コボルトの数はさっきのゴブリンと同じだったため作戦も同じにした。
「じゃあさっきと同じようにダメだったら一度下がろう」
「うん、分かった。気を付けてね」
アリアと分かれコボルト二体の方に向かっていき、今度はゴブリンの時とは違い母さんに教えてもらった隠密魔法を使いながら攻撃をする。まだ母さんほど気配を消す事はできないけどコボルトたちは気付いていないためそのまま剣を振るう。
「ワウンッ?!」「ガフッ?!クゥ.....」
母さんが言ってた通りこの魔法はすごいな、相手に一切気が付かれる事なく攻撃が出来た。隠密魔法のすごさを実感しながら魔法を解除してアリアの方を見ようとすると、横からもう一体のコボルトが飛び出して来た。
「ワン!ガアッ!!」
「え、もう一体?!どこから!」
「レイン!!」
やばいこのままだと攻撃が当たってしまう。避けなきゃと思っても身体が動き出すよりもコボルトの攻撃の方が早い。間に合わないと思い、受けるのを覚悟すると.....
「レインから離れて!!」
「キャウンッッ?!.......ガクッ」
「......え?」
アリアの手から光ような白・い・閃光が迸り、コボルトを貫き飛ばした。
(なんて速さと威力なんだ、一瞬しか見えなかった)
「今の.....なに?」
アリア自身も何が起きたのか分からないようだった。一体何が起きたんだ?
お互い呆然としていると今度はアリアの後ろから少し焦げた後のあるコボルトがアリアに向かって牙を向いた。
「アリア!後ろ!避けろ!」
「え........っ!!」
(まずい今度はアリアが!どうすればいい、そうだ母さんがきっと助けにきてくれ...........って違うだろ!俺がアリアや母さんを守るって決めたんだ、だから絶対アリアを助ける!)
どうすればいい、そう考えると剣を握っていた右手から感じたことのない力を感じた。
(なんだこれ、でもこれならもしかして.....)
それからその力を魔力を流すのと同じ要領で剣に流し、コボルトに向かって力を流した剣を振るう。するとさっきのアリアと同じように光のような白い閃光が剣を纏いリーチを伸ばしてコボルトを一刀両断した。
ズバンッッ
「........」
「........」
本当にできちゃった、なんなんだこれは。ピンチを切り抜けたというのに俺とアリアは無言でそこに立ちすくしてしまった。するとそこへ母さんが来た。
「二人とも.......今のは.....まさか、いえ....そんなはずは」
どうやら母さんにとっても予想外だったようで、いつもの優しい顔をひどく驚かせている。でも母さんは今のことを何か知っている反応をしている。
「とりあえず、二人ともお疲れ様です、見事な動きでしたよ。最後のはどういうことか分かりませんが、ひとまず家へ帰りましょう」
「う、うん。そうだねお母さん」
「帰ろう、疲れた」
未だにあの力の感覚が右手に残っている。すごい力だった。
あれがなんなのか分からないけど、もっと強くなるためにはあれをしっかりと使いこなさなければならないと俺は無意識に感じた。
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第十七話 神の子
私は戦うレインとアリアの様子を隠密魔法で気配を消しながら見ていました。最初は無闇に動くことはせず、アリアが魔法を使い周囲を探って倒すべき目標を見つけてから行動を開始しました。
ゴブリンの方へ走って行ったので、先にゴブリンから倒すことにしたようです。アリアは見事な魔力コントロールを見せ、ゴブリンを火魔法で倒しますが、レインは二体目のゴブリンが倒せずニ撃目で剣を投げてゴブリンを倒しました。あまり褒められた事ではないですが、悪くない選択です。
(ゴブリンくらいなら全然問題ないですね、この調子でコボルトも倒せるといいのですが)
この時の私は二人が先程のゴブリンと同じようにコボルトも楽に倒せると思い、特に何もなく終わると考えていました。二人があの力を使うまでは.....
レインが別のコボルトに攻撃されそうになった時私は助けるために出ようとしましたが、その前にアリアが光のような白い閃光を放ちコボルトを倒しました。今のアリアが使った力を見て思わず固まってしまいました。
頭の中でなんで、どうして、と考えていると今度はアリアの方にコボルトが襲い掛かりました。少し焦げたところがあるのを見るに、アリアの火魔法がしっかりと当たっていなかったのだと思います。先程のことで身体が固まってしまいマズイと思いましたが、次はレインが、さっきのアリアと同じ力を剣に流し剣を振るい、剣はリーチを長くしそのままコボルトを一刀両断しました。
「は...........?」
思わず声が出てしまい、レインとアリアの前に出てしまいました。
「二人とも.......今のは.....まさか、いえ....そんなはずは」
私も動揺してしまい声が出ませんでした。しばらく呆然としてしまいましたが、それではダメだと身体に言い聞かせて動き出し、もう一度声を掛けます。レインとアリアは自分たちが何をしたのか理解できていないようでどこかボーっとしていました。
「とりあえず、二人ともお疲れ様です、見事な動きでしたよ。最後のはどういうことか分かりませんが、ひとまず家へ帰りましょう」
「う、うん。そうだねお母さん」
「帰ろう、疲れた」
一度情報を整理するためにひとまず家に帰ります。ひとまず落ち着いて考えたいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――
家に着いてから私は二人が先程使った力について考えます。ちなみに今二人はお風呂に入っています。疲れをとるためというのと私の考える時間が欲かったためお風呂に行かせました。
「レインとアリアが使った力......あれは間違いなく神気でした。本来なら私のような神だけが使える力、なのにどうしてあの二人が......」
あの白い光に威力、どれを取っても神気に当てはまる事です。
神気とは、文字通り神の気でこの世界に存在する魔力と同じような事ができる力のことです。しかし同じことと言ってもその内容は異なり、魔力のように変換して魔法を使うことは出来ません。
使う際はあの二人がしたように神気が直接白い光のように現れ攻撃や防御などを行うことが出来ます。威力も魔力とは桁違いに強く、使いこなせればどんな危機的状況でも逆転することが可能になります。しかし、その力は人というものに全能感を与えてしまい、その結果力に溺れて暴走なんて事もあるそうです。それ故にこの力は神のみが使えるものであり、人間が神気を宿しあまつさえ使用するなどあり得ないはずなのです。
「あり得ないはずなんですけどね.....」
考えても何故このような事が起きたのか分からず沈んでいると、一つだけ解決策というか知っていそうな神が頭の中に浮かんできました。
「そうです!リュクシール様ならあの子たちの神気について何か知っているかもしれません!」
そう、前世で死んだ私をこの世界に女神として転生してくださった女神リュクシール様がいました。これしかないと思い早速リュクシール様に連絡を取ろうとしました。連絡と言っても天界にいるリュクシール様に声が届くように意識するだけですが。
『リュクシール様聞こえますか、シェリアです。聞こえていたら返事を下さい』
『ん〜?あれ、シェリアちゃん?珍しいねそっちから来るなんて。で、どうしたの?何かあった?』
リュクシール様に声を掛けるとすぐに返事をしてくれました。相変わらず軽い感じの女神様ですが、根は真面目で話をきちんと最後まで聞いて、アドバイスまでくれる優しい方です。
『はい、少し私の予想外の事が起きまして。実は.....』
それからリュクシール様に子どもが出来たこと、そしてその子どもたちが神気を使ったことを事細かに説明しました。話が終わった後、リュクシール様は『う〜ん』と唸っていましたが何か解ったようで私に話し始めました。
『多分だけどね?そのレイン君とアリアちゃんが神気を使えるようになったのは、シェリアちゃんが原因だと思うよ』
『え?!私が原因って....一体どういう事ですか?!』
あまりにも意外なリュクシール様の結論に驚きテーブルを叩いて立ち上がり、座っていた椅子を倒してしまいました。
『ちょっと、落ち着いてってば〜ちゃんと説明するから。ね?』
『あ、すいません。取り乱しました....』
とりあえず落ち着いて倒れた椅子起こして座り直しながらリュクシール様の説明を聞きます。一体なにが原因だというのでしょうか。
『えっとね、シェリアちゃんはその子たちのことを、心の底から本気で愛しているよね?それで、ほぼ毎日一緒に居て魔法とか戦い方も教えてるんでしょ?』
『はい、そうです。私はあの子たちを愛していますし、自分の身を守れる為にもその辺も教えています』
『じゃあやっぱりシェリアちゃんだね、恐らくその100%ラブの愛情を受け取って、それと同時にシェリアちゃん自体の神気も入り込んだから、肉体も変化したんだと思うよ』
まさかの原因に一瞬声が出ませんでした。私が愛したが故に神気が使えるようになった、そんなことあるでしょうか。
『そんなことがあり得るのですか?神気が身体の中に入って使えるようになるなんで.....』
『普通はあり得ないけど、純粋な神気をずっと受け取ってたならあり得るかもしれないね。あとは、まだ成長途中の子どもだったからっていうのもあるかも』
『なるほど全くあり得ないわけではないんですね』
リュクシール様に聞いて正解でした。胸のモヤモヤが晴れた気分です。お礼を言って話を終わりにしようとします。
『ありがとうございます、リュクシール様。お陰様で謎が解けました』
『ううん、いいのいいの気にしないで。それで、シェリアちゃんは今後あの二人をどうするの?いくら神気が使えると言っても量は少ないからずっと持続して使えるって訳でもないよ?』
『それでも、ここぞという時の切り札にはなると思うので、使い方は教えます。それに下手に教えないであの子たちに暴走なんてされたら、私はもうこの先生きていけません」
結局は貰い物の力ですから、ずっと使える訳ではないとは思いますが、将来絶対レインとアリアの力になるはずです。ならば、今のうちから教えてしまいましょう。しっかりと使いこなせれば心配はありませんし。
『ふ〜ん、そっか、なら良いと思うよ♪でも、女神のこと話さなきゃだけど大丈夫なの?シェリアちゃんまだ言ってないんだよね?』
『うっ、まぁそれはちゃんと言います。あの子たちのためですから』
私は覚悟を決めたような声でリュクシール様に言います。
その後はリュクシール様と少し世間話や仕事の愚痴などを聞いて時間を潰し、レインとアリアがお風呂から上がってくるタイミングで話を終わらせます。
『それではリュクシール様、疑問に答えていただきありがとうございました。久しぶりにゆっくり話せて楽しかったです』
『あれぐらいならいつでも聞いて大丈夫だからね〜、私も楽しかったよ!じゃあまたね〜』
そう言ってリュクシール様の声は聞こえなくなりました。話を終わらせたすぐ後にレインとアリアがお風呂から上がって部屋に来ました。
「母さん、お風呂上がったよ」
「気持ちよかったー」
帰ってきた直後の少し張り詰めたような雰囲気はなくなってどちらもさっぱりしたように感じます。しかし、すぐに目を真剣なものに変え私に質問をしてきます。
「ねぇ、母さんは俺たちが使った力を見たよね、あれってなんなの?」
「お母さん、私も気になる。あの時すごい力が身体に流れたからどうしてか気になるの」
「それは.....」
早く話そうと思っても口が思うように動きません。どうしてでしょう、私は二人にあの力について教えて使いこなして欲しいです。ですが....
(やはり、私が実は女神ですと言うのは怖いですね。この子たちにどう思われるのか、話してもこの子たちの母親でいれるのか)
「母さん....?もしかして俺らに話せないの....?」
「そんなにまずいの、あの力....?」
不安そうに眉を下げて私の目を見てきます。こんな顔させてはいけません。
「いえ、そんな事はありませんよ、安心して下さい。でもその前に一つ私の話を聞いてくれませんか?」
この子たちを信じないと、きっと今まで通りで何も変わらないで三人で過ごせるはずです。
そして私は、二人に話し始めました。
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閑話 お風呂
これはある女神の家の生活の一ページの話である。
「お母さん!今日は一緒にお風呂入りたい!」
そう言うのは娘のアリアである。アリアはだいたい一人でいつもお風呂に入っていたが、今日は母親と入りたいため夕食後にお願いをしに行った。
「お風呂ですか?いいですよ、入りましょう。先に脱衣所に行っていて下さい」
母親であるシェリアも娘から一緒にお風呂に入りたいと言われ、嬉しくなり少し高くなった声で返事した。
了承の返事を聞いたアリアは笑顔で『は〜い』と言いながら脱衣所へ向かった。
「そうです、せっかくですからレインも一緒にどうですか?」
「え?!俺?俺はいいよ、二人で入ってきてよ。上がったら教えて」
二人だけではどうかと思いシェリアが息子のレインにも一緒に入ろうと声をかけたが、レインは驚いた顔をした後断りの返事をしそそくさと二階に行ってしまった。
「そんな逃げるように断らなくても.....しょうがないですね、アリアが待っていますから脱衣所に行きますか」
そのままシェリアは着替えを持って脱衣所へ行った。中に入るとすでにアリアは服を脱ぎ始めており既に下着姿であった。その横でシェリアも同じように服を脱ぎ始めるとアリアから視線を感じた。
「.........」ジーッ
「あの、アリア?そんなに見られると脱ぎにくいのですが......」
「あ、ごめんなさい。お母さんってやっぱり綺麗だなぁって」
「え?ふふっありがとうございます。アリアも大きくなったら綺麗になりますよ」
どうやらアリアはシェリアの姿に見惚れていたようだ。たしかに女神だけあって肌は綺麗でシミひとつなく、スベスベしおり、とても魅力的な身体をしている。見惚れるのも無理はないだろう。
「え!本当に?!お母さんみたいになれる?」
「えぇ、ちゃんとご飯を食べて動いてよく寝るときっと綺麗になりますよ」
シェリアはしゃがみ込んでアリアの頭を撫でながらそう言った。その後は二人とも下着を脱ぎ一糸纏わぬ姿になった後浴場へと入った。下着を脱ぐ際アリアはシェリアの胸をずっと見ていたが。
「さて、まずは身体をキレイにしますよ。洗ってあげますからここに座って下さい」
「は〜い」
アリアを風呂椅子に座らせ、ジャンプーを手に付けてシェリアは髪を洗い始めた。シャカシャカと音を立てて髪を洗い、洗われているアリアは気持ち良さそうに目を細めている。
「アリアの髪はサラサラで綺麗ですね」
「そう?お母さんの髪もすっごく綺麗だよ、なんかキラキラしてるもん」
「ふふっありがとうございます。レインもアリアも将来が楽しみですね」
「え?どうして?」
「それは、二人ともかっこよくて綺麗になると思っているからですよ。アリアはきっと美少女になりますよ」
「ほんとに!お母さんみたいになれる?」
「えぇ、私なんかよりも綺麗になれますよ」
「お母さんより綺麗は無理だよ〜、今まで見てきた中でお母さんより綺麗な人なんていなかったもん」
そんな会話を続けながらアリアとシェリアは髪や身体を洗い終わり、二人揃って湯船に浸った。二人とも髪が長いためしっかりと髪を結ってから入り、身体を温めた。
「ん〜!やはりお風呂は気持ちいいですね、アリアはどうですか?」
シェリアがお風呂を満喫し、アリアにもその感想を聞くと、アリアはとても真剣な顔である一点を見つめていた。それは....
「え〜と、アリア?なんでそんな私の胸・を見ているんですか?」
「改めて見るとすごく大きいなって、それになんか浮いてるし」
アリアはシェリアの胸を凝視して、目を細めて少し不機嫌そうに言った。シェリアの胸は某女神と同じくとても大きい、異性同性関係なく見てしまうほど。それが湯船に浸かる事でプカプカと浮いている。
「あはは、そんなこと......ないですよ?」
「嘘っ!街でもお母さんぐらいの人なんてほとんどいなかったもん!」
「それはそうかもしれませんが、アリアもこれから大きくなりますから」
「ほんとかなぁ、想像できないよ...」
「それに、大きいければいいというものでもありません。何事も限度があります。」
シェリアはそれから胸が大きいとどんな問題があるのか一からアリアに説明した。説明を聞いていくにつれてアリアは段々とうんざりした様な表情になっていった。
「____ということになります。少しは分かりましたか?」
「うん、周りにジロジロ見られるのは嫌だなぁ。でも全く無いのもやだ!」
「ですから大きすぎない程度がいいんです。アリアはそれを目指して下さい」
「うん!そうするよ!」
訳の分からない事を話しながら二人はその後も話しながらお風呂を楽しんだ。気付けばすでにお風呂に入ってから一時間経っており、これ以上はのぼせてしまうため風呂から上がった。
「アリア、着替えたら髪を乾かしてあげますからね」
「分かった!お母さんに乾かしてもらうの好き!」
「そうですか、それは嬉しいですね。レインにも言っとかないとですね」
「レインもお母さんにやってもらうの絶対好きだと思うよ!」
「そうなんですかね、あまりそう言った感じはしないのですが....」
「恥ずかしがってるんだよ、レインは」
それから着替えて脱衣所からも出て、シェリアはまず二階にいるレインにお風呂から上がった事を伝え、言った通りにアリアの髪を乾かし始めた。乾かし方は勿論魔法である。
「アリアもその内一人で乾かせられるようになるんですかね」
「もう少しコントロールが上手くいけばできそうかな、でもずっとお母さんにやってもらいたい!」
「あらあら、アリアは随分と甘えん坊さんですね。レインもこれくらい甘えてくれたらいいのですが」
「レインは無理だよ、そういう感じじゃないし」
「たしかに、それもそうですね。甘えてきた時にとことん甘やかすとしましょうか」
髪も乾かし終わり、二人がリビングでしばらくゆっくりしているとレインがお風呂から上がって戻ってきた。
「あら、もう上がったのですか?早いですねレイン」
「あれは母さんたちが長いだけだよ、多分」
「そうですかね?まぁいいです、レイン髪を乾かして上げますからここに座って下さい」
そう言ってシェリアが指示した先はシェリアの膝の上であった。
「え、いや俺は........ううん、お願いするよ母さん」
レインは一度シェリアの提案を断ろうとしたが、やっぱりシェリアに髪を乾かしてもらうのは嫌ではないらしく素直にお願いした。それからシェリアはレインの髪も魔法を使って乾かし始めた。
「レインの髪は少し固いですが触り心地はいいですね」
「何言ってるの母さん、変だよ?」
「レインもいつか全部自分で出来る様になるのでしょうね。なんだか寂しく感じちゃいますね」
「母さんがやらなくても大丈夫なようになったら今度は俺が母さんの髪を乾かしたりするよ」
「まぁ、それは素晴らしいですね。楽しみにしてますよ」
「なら、その時は私がレインの髪を乾かす!」
「いいですね、それ。そのうち皆んなでそれぞれ違う人の髪を乾かしましょう!」
「えぇ?!それってもしかしてずっとやるつもりなの?!」
こうして、三人で騒がしくも楽しく話しながら、女神たちの一日が終わる。
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第十八話 正直に話す
今私たちは椅子に座って真面目に向かい合っています。私の対面にレインが座り、その隣にアリアがいます。まずは私から話さないといけないと思い口を開きます。
「まず、あなたたちが先程使用した力、あれは神気と呼ばれるものです」
「神気?」
「なにそれ?」
「神気とは、文字にすると神の気と書きます。分かりやすく言うと神の力です」
二人に自分たちが使った力がどのようなものなのか知ってもらう為に神気の概要について話します。それでも完璧には理解できないようで頭に?をあげています。
「魔力とは違い何かに変換することなく直接力を使い攻撃や防御をする事ができます。威力も当然違い、魔力を使うよりも強力なものになります。二人も神気を使った時、魔力とは違った力を感じませんでしたか?」
「たしかにあの時、剣を持ってた手から今まで感じた事もないほどの力を感じたよ」
「私もレインを助けたいって思った時、身体から今までなかったものが溢れ出るように感じたよ、お母さん」
「やはり、そうですか。先程言いましたがその力は神の力本来であればあ・な・た・た・ち・のような人が使えるようなものではありません。それに、それは人に全能感を与え最悪の場合力に溺れて暴走してしまう可能性もある、危険な力でもあります」
二人はまだ初めて神気を使ったため強い力を感じただけで済んでいますが、このまま放置していればそうはいかなくなります。リュクシール様に聞いた話によると別の世界で人が神気を宿し暴走したところ、その世界の半分以上の生物が絶滅したそうです。
私の話を聞いたアリアは先程の真剣な表情の中に不安げな気持ちを混ぜたような顔で私を見おり、レインも大体アリアと同じような顔なのですが、どこか引っ掛かりを覚えてるような表現をしてます。そして、アリアが絞り出すように声を出します。
「そんな力が.....ねぇ、私たちどうしたらいいの?お母さん」
「大丈夫です、安心して下さい。私が神気の使い方を一から教えます。二人を暴走させたりなんかしません、約束します」
「ちょ、ちょっと待って!なんで母さんがその神気の使い方を知ってるの!それにさっき『あなたたちのような』って、まるで母さんは違うような.....母さんは俺たちに何を隠しているの....?」
「え....?お母...さん?」
レインは私が言ったことの違和感を感じ取り私に向かって悲しそうに、そしてどこか泣きそうな顔で質問をしてきます。アリアもレインに言われたことでその違和感に気付き目を見開いて私を呼びます。
ここから先を話すためには私の今まで隠してきたことを話さなければなりません。いずれ話すのだろうと思ってはいましたが、まさかこんなに早く話すことになるとは思ってもいませんでしたね。
「それはですね、レイン、アリア、私が二人とは違い人ではないからですよ」
「「え......」」
私の言ったことに対して二人は呆然としたまま固まってしまいました。人間本当に驚くと何もリアクションがなくなるようです。
「ですが、人ではないと言っても化け物や幽霊なんかではありません」
「え、じゃあ...なんなの?」
「ヒントは先程言いましたよ。私は本来は神しか使えない神気が使えると」
「それってもしかして.....母さんは神様ってこと?」
「神様!?」
やっと答えに辿り着きました。ですが、神様と聞いてレインとアリアはますます混乱してしまったのかなんだかあたふたしていたので、私はもっと具体的になんなのか説明しました。
「神様と言うよりも女神が正しいですね。私はこの世界にずっと前から存在している女神です」
「母さんが、女神....」
「えっと、お母さんが実は人じゃなくて女神でそれで....」
「あの、大丈夫ですか?」
二人が落ち着くまで数分待ち、話が出来る状態になった後もう一度話始めます。私が女神と言ったせいなのか、さっきとは違った意味で固くなっています。
「どうですか、落ち着きましたか?」
「う、うん大丈夫」
「私もとりあえず大丈夫...」
「なら続きを、先程言った通り私は女神です。ですから勿論神気を使うことも出来ますし、その使い方を二人に教える事もできます」
「そっか、今は神気の話をしてたんだよね。お母さんのことで驚いて忘れてた」
「大丈夫、俺もだから...」
私のカミングアウトが衝撃的すぎて、話していた事を忘れていたようです。なんか申し訳ないことをしてしまった気分になります。もっと早く言えていれば....
「あはは、それは申し訳ありません。少し言うのが怖かったもので...」
「怖かった?どうしてお母さんが?」
「私が人じゃないと分かったら、あなたたちが私から離れて行ってしまいそうな母親でいられなくなさそうな気がしたんです」
そうです、私はそれが一番怖かったのです。私の本当のことを知ったレインやアリアから拒絶されるんじゃないか、母親と思ってくれなくなるのではないかと思ってしまっていたのです。そんな事ある訳ないのに....
「そんなこと絶対にしない!母さんが何者でも関係ない!俺たちは母さんに救われたんだ!あの時、あの場所で」
「そうだよ!お母さんはお母さんだよ!私はどんなお母さんも大好きだよ、それにお母さんが女神って聞いてもなんか納得しちゃったし!」
「レイン....アリア、そうですよねそんなことも分からないなんて私は大馬鹿者ですね」
私が思っていた事を二人に伝えると、二人は間髪入れずにそれを否定してきました。レインは思わずテーブルを叩いてしまうほど、アリアは私に近づくようにかなり前のめりになりながら伝えてくれました。
こんないい子たちのことを信じきれていないなんて、ずっと母親になると言ってきたのにこれでは本当に母親失格ですね。ずっと前に信じると決めていたのに、恥ずかしい限りです。
「母さん、俺らはずっと一緒に居たいって思ってる。だからこれからもずっと俺らの母さんでいてよ」
「うん!お母さんがお母さんじゃないなんで私絶対いや!」
「こちらこそ、ずっとあなたたちの母親でいさせて下さい」
それから一度お茶を入れて休憩を挟み、今度そこ神気を教えることについて話します。
「レインとアリアに神気がある原因は私が近くにいたからでもあります」
「母さんが原因なんだ...」
「お母さんが私たちを育ててくれてるからなの?」
「詳しくは分かりませんが、二人には私と同じ神気が宿っています。ですが、やはり人ですので私のような本物の神ほどの量はないので使うとしてもここぞと言う時の切り札として使うのが良いでしょう」
神気の容量は決して無限という訳ではありません。当然私やリュクシール様も使うにも限界があり、そこまで大量に神気を宿しているわけではないレインとアリアでは一撃に込めたりする程度しか出来ないでしょう。それでもかなりの攻撃手段になると思いますが。
「その力の使い方を母さんが俺たちに教えてくれるって事なの?」
「使えないと暴走しちゃうかもなんだよね...」
「えぇ、だからこそしっかりと私が教えます。しかし結局のところ最後は本人の意思によって決まってしまうので、そこは二人に頑張ってもらわなければなりません」
力の出し方や扱い方は私が全て教えることが出来ますが、力に溺れてしまうかどうかは本人次第です。
「神気を使えるようになったら今よりも強くなれる?」
「神気はとても強力な力です。使えれば逆境を覆すことも可能です。しかし無闇矢鱈に使うことはオススメしません」
「なんでなの?お母さん」
「そんな力を使えたら周りの人達が黙っていません。どうにかしてその力を手にしようとしたりと、余計な火種を増やすだけになってしまいます。ですので、二人には本当に必要な時のみ使用を許可します」
これは今のうちにしっかりと言っておかないといけません。神気のことが伝わったら確実によからぬ輩が近づいてくるはずです。それを避けるためにも使用を控え、目立たないようにするのが得策です。
「そっか、そういったこともあるのか。うん、気を付けるよ母さん」
「約束は守る!」
「それなら安心ですね。では、早速明日から神気については教えてあげます。今日はもう寝ましょうか、二人も色々あって疲れているでしょう?」
「そうだね、知る事が多すぎてもう無理」
「私もお母さんの正体を知ったりで疲れちゃった」
二人に声を掛けると、どちらも少し眠そうに返事をしました。私のことを話しましたが、別になにが変わる訳でもなくいつも通りでしたね。
「二階に行きましょうか」
「あ!今日はお母さんと一緒に寝たい!いい?」
「それなら俺もいい?俺も母さんたちと寝たい」
「私とですか?ふふっ良いですよ。今日は家族三人で寝ましょうか」
アリアが提案し、レインもそれに賛同したので今日は私の部屋のベッドで三人仲良く寝ました。
「お母さんいい匂い〜」
「なんか落ち着く....」
「大好きですよ、二人とも」
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第十九話 新しい力
私が二人に神気のことと、実は女神であった事を話した日の翌日、私たちは特に変わることもなくいつも通りの朝を過ごし、今は家を出てレインとアリアがよく魔法などの練習をしている場所にいます。
「では、今から神気の扱い方を説明します。しっかりとよく聞いて分からないところがあったら遠慮なく言ってくださいね」
「了解、母さん」
「なんか、ドキドキする」
「真剣にやることは大切ですが、そこまで身構える必要はありません。正しい使い方をすれば暴走なんてとこはあり得ませんし、二人なら出来ると信じています」
レインの方は神気を使いこなすという強い意志のようなものを感じるのですが、アリアはどちらかというと不安の方が強そうでした。
神気は確かに一歩間違えれば文字通り身を滅ぼすような力ですが、私はレインとアリアの二人ならきっと正しく使ってくれると信じています。
その後、二人に現在神気をどの程度感じる事ができるのか知るために質問をします。
「レインとアリアは今自分の身体の中にある神気を感じる事ができますか?」
「私はあんまり感じない、あの時は身体から流れるように出てきたのに...」
「俺もそんな感じ、なんとなく何かがあるって事ぐらいしか分からない」
「やはりそうですか。おそらくあの時は二人がお互いを助けたいと強く願ったため、神気がそれに応えたのでしょう」
これは少し苦労するかもしれませんね。無意識的に出来たものは今度自分でやってみようとしても中々上手くいかないものです。
なので、魔力を教えた時と同じように、まずは神気というものがどのようなものなのか実際に見てもらうために手に神気を集めます。最初は魔力を集めた時と変わらず球体のようなものが出てきましたが、次第に白く輝き出し周りにバチバチと雷のようなものが出始めました。
見た目は魔力と同じように見えるのですが、その実エネルギー量が全く違います。特にこれはかなり神気を圧縮しているので、これをそのままその辺に放ったら辺り一帯が消えて無くなってしまうほどの威力を秘めています。
「見えますか、これが神気を圧縮して集めたものです。この状態を保つのにかなりのコントロールと集中力を必要とし、私でも長くは持ちません。ですので、あなたたちは間違っても今はまだこれをしないで下さい」
「魔力に見えるけど、全然違う.....なんていうかすごい威圧感を感じる」
「それになんか、神々しいって言うのかな?つい見惚れちゃう」
「一応神の力ですから、そう見えるのかもしれませんね。ふぅ、とりあえずいきなりは無理かもしれませんが神気を使えるよう頑張っていきましょう」
手に集めていた神気を消しながら私は二人に実際にやってみるよう言いました。
それからしばらくの間レインとアリアは神気を出そうと集中をし始めましたが、案の定魔力を使った時のようにすぐ出来る様になるということはなく、私の目の前でレインは目を瞑って眉を顰めながら、アリアはう〜う〜唸りながら今も続けています。
「やはり、難しいですか。レイン、アリア一度休憩を挟みましょう。お昼ご飯を食べてから再開して午後も頑張りましょう」
「分かった....」
「うん.....」
二人のテンションがかなり下がっています。これでは出来るものも出来なくなります。どうにかならないですかね、この子たちにできることは....
家に一度戻り、三人でお昼ご飯を食べます。ちなみに今日のお昼はサンドウィッチです。あらかじめ作っておいたものを机で項垂れている二人の前に置き食べるよう言います。
「どうしたんですか、まだ午前中だけやっただけでしょう?そんな状態にならなくても....」
「いや、そうなんだけど、魔力の時とは違って全くあの時のようにできる気がしないからこうなってるんだよ母さん」
「私もおんなじ〜、もうよく分かんない。コツとかないの?お母さん」
「コツですか、そうですね....二人は普段どのようにして魔法を使っていますか?」
アリアがコツを聞いてきたので、まず魔力をどのように使って魔法を使用しているのか聞きます。
「魔法は身体から魔力を伝わせて、あとはお母さんが言ってように使いたい魔法のイメージをしてから使ってるよ」
「俺も同じ」
「神気は魔力に似ていますが、違うものというのは先程言いましたよね?神気は身体に流れているのではなく宿・っ・て・い・ま・す・。ですから、使うときはもっと深く自身の魂から出すように意識するといいかもしれません」
ここまでくるとかなり感覚的なところが多いので説明が難しいですが、二人は何かを理解したらしく真剣な顔で考え始めました。
少しの事しか言ってないのにそれを理解して更に自分で考えるという事は当たり前のようで当たり前には出来ることでありません。ずっと言っていますが、本当に優秀な子たちですね。
「そっか、宿ってるものだから考え方が少し違うのか」
「もっと深く、自分の魂から....」
「自分で考えてて、偉いですよ二人とも。でも、考えるのもいいですが今はお昼ご飯を食べちゃいましょう」
「そうだね、よし食べよう!」
「いただきま〜す!」
さっきとは打って変わってサンドウィッチを食べ始めた二人を見て微笑ましく思いながら、私もサンドウィッチを食べました。
―――――――――――――――――――――――――――
暖かい日差しが照りつける中、とてもピクニック日和だと呼べる昼下がりに、レインとアリアが午前に引き続き神気の練習をしています。
「何かあるのは分かってるんだけど.....」
「頭がモヤモヤするよ〜、なにがいけないんだろう?」
再開してから三時間ほど経っているのですが、二人はまだ一度も神気を出せたことがありません。午前とは違って何かを感じてはいるそうなのですが、形となってはいません。
「二人とも大丈夫ですか?かれこれ三時間は経ってますよ」
「うん、大丈夫だよ母さん。ちょっと疲れただけだから」
「私も疲れたけど、大丈夫だよ」
「そうですか....今日は一度やめにしませんか?別に一日で出来ないといけないというものでもないですから」
二人があまりにもストイックに行っていくので一度止めることを提案したのですが、レインもアリアも顔を上げてまだやるという気合のこもった瞳で言ってきました。
「やだ!まだやる!このまま終わりにしたくない!」
「俺もだよ、母さん。まだやりたい」
「そこまでですか、分かりました。今日はとことんやりましょうか」
「ありがとう、母さん。あの時のようにできるまで......そうだっ!母さん、お願いがあるんだ!」
「え?お願いですか?一体どうしたんですか、レイン?」
「いきなりどうしたの?」
「思い出そうとして出来ないなら、もう一度あ・の・時・のように戦えばいいんだ!だから!母さんには、俺たちと戦って欲しい」
レインが思い付いたように言ってきたことは、私を驚かせるには十分なものでした。確かに、出来た時のことを再現すれば同じ事ができる可能性がありますが、それは模擬戦ではなく実戦形式で行わなければなりません。
つまり、この子たちと本気で戦わなければならないということです。
「レイン、それはちゃんと言っている意味が分かってて言っているんですね?」
「もちろんだよ、母さん。アリアもそれでいい?」
「え〜っと、戦うってことは、お母さんと模擬戦じゃなくてちゃんと戦うってこと?」
「そういうこと。それならもう一度神気が使えるかもしれないし、俺たちにも良い経験になる思うんだ」
「ん〜そう聞くとそれがいい気がしてきた、ちょっと不安だけど...」
レインが少し熱く語ったことで、アリアもそちらの方がいいと思い始めたようです。私としては二人同時で来てくれた方がやりやすいですし、すぐに終わるということもないと思います。
「私は普段、あなたたちにかなり甘いと自覚していますが、その二人が望むのであれば私は真剣に戦うことについては構いません」
「あ、お母さん自覚あったんだ....」
「ほんとね.......それじゃあ母さん、お願いするよ」
「はい、分かりました。武器はこちらを使って下さい」
本気の戦いということで、いつも使っている木剣ではなくレインには真剣を、アリアには槍状の杖を渡します。剣をもらったことでレインたちも意識を変えて私から距離を取ります。
「私は今からあなたたちのお母さんではなく、一人の敵です。遠慮しないで本気で倒すつもりで来てください」
今の私の瞳はとても自分の子どもを見ているようなものではないでしょう。そんな目で見られた二人は蛇に睨まれた蛙のように身体が動かなくなりましたが、頭を振って戦闘を行う構えをしてきます。
「じゃあ、行くよ!母さん!」
「せっかくやるなら全力で!!」
いいですよ、来てください。そしてあなたたちの神気を見せてください。
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第二十話 母対子
対面してから、母さんの雰囲気が変わった。いつも俺たちに接してくれるあの優しい母さんじゃなくて、まるで別人のような、俺たちを敵として見ている者のように感じる。
「お母さん、本気だね。いつもと全然違う」
「うん、ちゃんと俺たちのためにやってくれてるんだ」
「どうしたんですか、二人とも。早くかかってきて下さい」
あまりの変化に息を呑んでいると、母さんから早く来いと言われてしまった。アリアに視線を向け、お互いに頷き合うと俺は一気に母さんへと掛けた。
後ろでは既にアリアが魔法の準備をしており、俺のサポートをする様に動いている。
直線で近づき剣を横に振るうが 母さんはなんてことないように横に避けて、そのまま蹴りを入れてくる。
咄嗟に蹴りを剣で受け止め、身体にも魔力を流して耐える。
(流れるように反撃してくるっ、やっぱり身体の動き方が全然違うな)
「やぁッ!!」
そのまま俺に追撃をしようとした母さんだが、横からアリアの火と風の魔法が来たことで後ろに下がった。その隙を突いてもう一度母さんとの距離を縮め、剣を握っている手と剣自体に思いっきり魔力を流し、全力で剣を振り下ろした。
しかし....
「ふっ、やりますね。あそこから詰めてくるなんて」
「結構渾身の一撃だったのに....くっ」
「まだまだ、ここからですよ!」
あっけなく受け止められ弾かれた後、俺と母さんの打ち合いが始まった。アリアも魔法を撃ち続けているのだが、母さんはその魔法を一つ一つ相殺しながら俺と戦っている。
ガキンッ、ガキンッ
時々フェイントを入れながらの攻撃もしたが、全く通用せず段々と追い詰められてきた。そろそろまずいと焦り始め、額から汗が出てきた時アリアが声を上げた。
「全然当たらないっ、もうこうなったら、火水風土光闇、その他諸々全部いけーーっ!!」
アリアは当たらな過ぎて痺れを切らしたのか様々な属性の魔法を展開して撃ち込んできた。
「こんなに一気に異なる魔法を....成長しましたねアリア」
母さんの意識がアリアの魔法へと向いたので、すぐにそこから離脱し、アリアの方へと下がる。母さんはそこから一歩も動くことなく魔法を見据え、右手を上げると周りをシールドのようなものが貼られ魔法を防いだ。
「アリア、助かった。あのままだったら多分やられてた」
「それは良かったんだけど、あの魔法全部防がれたのはちょっとショック.....」
「そんなに落ち込まないでください。普通の人なら今の魔法を全て防ぐというのは容易ではないですよ」
項垂れているアリアに母さんはそう言うが、正直それは慰めにはならないと思う。
「アリアこの後どうしようか?何やっても通用しない気がして何も思い付かない...」
「ん〜いっその事二人同時に近づいて攻撃してみる?前よりこれ使えるようになったからいけるよ」
「来ないんですか?こないならこちらから行きますよっ」
「やばっ、アリア!二人でいこうっ」
「う、うん!」
今度は母さんから攻めてきたため、アリアの提案どおり二人で迎え撃った。主に俺が母さんを押さえ、アリアが隙を見て槍で攻撃をしている。常日頃二人で練習し、コンビネーションも悪くはないと思うのだが、それでも攻撃を当てることはできず、母さんは俺たちの攻撃を全て見切って応戦している。
「くっ、これならどうだ!」
「私もっ!えいっ!」
「なっ!」
俺は剣に火を、アリアは槍に雷を纏わせて攻撃をした。俺たちの隠し技に母さんは一瞬面食らった顔になり慌てて攻撃を身体を捻って避けたが、避けた先にアリアが雷の魔法を速攻で放ち母さんを森の奥まで吹き飛ばした。
「はぁ、はぁ、やっと当たったよ」
「まずは一撃、だね」
やっと与えられた攻撃に俺たちは顔を見合わせて笑った。
二人で喜んでいると、母さんは既に起き上がっておりこちらへ無・傷・の状態で歩いてきて、笑って言った。
「まさか、あんな攻撃方法を習得してるなんて驚きました。よくもやってくれましたね」
「ッッッッ!」
「ヒッ.....!」
俺はその笑顔に言いようのない恐怖を感じ、震え上がり身体が動かなくなってしまった。
(なんだ...あれ、怖い、あれは何?)
アリアも俺と同じように感じたようでガタガタと身体を震えさせている。
さっきよりも凄まじいスピードで動いたのか分からないが、気付けば母さんは俺たちの目の前におり、光のない冷徹な目で俺たちを見ていた。見られている間、まるで死神に見つめられているように感じた。
「か、かあさ......ぐはッッ!!!」
「レイン!っっきゃっッ!」
母さんに話しかけようとすると俺は蹴り飛ばされ、アリアは魔法で攻撃をくらっていた。一瞬で意識が刈り取られてしまいそうな、さっきとは桁違いの威力の蹴りだった。
「どうしたんですか、二人とも、そんなのではその辺の魔物さえ倒せませんよ」
「くっ、いきなりどうしたんだよ....」
「いいから来て下さい。今のあなたたちならあれが出来るはずです。私を本気で殺すつもりで戦って下さい」
「殺すって....でも、お母さん....」
「やらないなら、私が先にやりますよ」
その言葉を聞いて、母さんが嘘ではなく本当にそう言ってる事が分かった。こっちが本気でやらないと、殺られる。
(なら、俺も本気で挑まないと)
俺は剣を取り、立ち上がって母さんに立ち向かった。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
もっと、もっと魔力を込めて、鋭く正確に....
しかし、俺の攻撃は母さんには全く当たらず、逆に俺は母さんの攻撃を受けている。ダメージは増えているが勢いは劣ることはなくひたすらに攻撃を続けた。
「レインが頑張ってる.....私も....」
「ふっ、はっ、やぁぁぁ!!」
(たとえ、今は届かなくても...!いつか絶対この人に追いつきたいっ!いや....)
「絶対に母さんに追いつくっ!!!!」
胸の中でそう想い口にも出して、ひたすらに剣を振っていると、右手にあの時と同じ感覚が蘇ってきた。まさか、と思いながらも母さんを鋭く見据えあの時と同じように魔力を流すと、白い光が剣を包み込みその光を纏った。
「できた!これなら...はぁ!」
「くっ、流石ですねレイン。しかし、まだまだですよ!」
母さんはそう言うと、さっきよりも攻撃が激しく、そして鋭くなった。
「神気を使ってこれか.......!アリアっ!」
「っ!な、なに?!」
「アリアも本気で戦え!俺に出来たんだ、アリアにも絶対出来るっ!母さんのようになりたいんだろ!だから....!」
俺はまだ横で座り込んでいる妹に半ば怒鳴るように言った。アリアはしばらくの間その場で動かず、視線を地面に向けていたが、途端に何かを決意した顔になって立ち上がり、手のひらを母さんに向けた。
「そうだよね....私は、綺麗で優しくてかっこよくて、なんでもできる、お母さんのようになりたい!だからっ、いっけぇぇぇぇぇぇ!!」
その瞬間アリアの手からあの時と同じかそれ以上の光が迸り母さんに向かっていった。母さんは身体を地面すれすれまで下げてそれを躱し、バク宙をしながら離れた。
「レイン、ありがとう!レインが言ってくれたから私も使えたよ」
「それならよかった、よし、アリアこっから反撃だ!」
「うん!」
アリアも神気を使えたことでこれから巻き返そうと構え直し母さんの方を向くと、母さんは下を向いてプルプル震えていた。
「アリアも神気を....よかった、心を鬼にした甲斐がありましたぁぁぁぁぁぁ!」
「......は?」
「......え?」
なんと母さんは、さっきまでの姿が嘘のように俺たちを見て大泣きしていた。
―――――――――――――――――――――――――――
「つまり、俺たちに本当の意味で本気で戦わせるためにあんなことしたの?」
「はい....」
私は二人が神気を使えるようになったところで我慢しきれず泣いてしまい、現在二人になぜあんな事をしたのか話しています。
「二人が武器に魔法を纏わせて攻撃した時、微かに神気を感じたのでどうにかして引き出したいと思ったんです」
「だから、あんな感じだったんだ、ほんとに怖くて泣きそうだったんだよ?」
「うん、あれは確かに怖かった。二度とあんな母さん見たくない」
「ほんとうにごめんなさい!ふたりとも!私もとても辛かったのですが、あなたたちの為にと.....」
二人の顔を見て、罪悪感に駆られ思いっきり抱きしめました。涙が止まらず、また涙で顔がぐちゃぐちゃになってしまいます。
「いいんだよ、母さん。結果的に俺ら神気使えるようになったし」
「そうだよ、元のお母さんに戻ったんならそれでいいよ!」
「うぅ、でも私はあろうことか二人を魔法や蹴りで飛ばして怪我まで.....私は母親失格ですっ」
「ちょっと、母さん...」
「これは重症だね、あはは」
それから一時間ほど二人を抱きながら泣いて、慰めながら過ごし、私が少し落ち着いたところで辺りも暗くなっていたので、家に戻り話を続けます。
「二人の前で大泣きしてしまい、申し訳ありません。傷は大丈夫ですか?痛みませんか?」
「お母さんが回復魔法使ってくれたからどこも痛くないよ」
「俺も問題ないよ」
「それなら良いのですが、レインとアリアはもう神気をすぐに使えるのですか?」
二人はそれを聞くとそれぞれ手のひらを出し、そこに微量ではありますが神気を出し、にっこりと笑って言いました。
「できるよ、ほら!」
「お母さんのおかげでね!」
「いえ、私ではなくそれは二人が頑張ったから出来る様になったんですよ」
私は二人を誇りに思います。まだ小さいのに努力を惜しまず壁を乗り越えていく、私にはもったいない子どもたちです。
「今日の晩御飯は、先程のお詫びと言ってはなんですが、二人の好きなものを作ってあげますよ。なんでも言ってください」
「ほんと!じゃあ私オムライス!レインは?」
「俺は、そうなだな〜前食べたハンバーグが美味しかったからハンバーグで!」
「オムライスにハンバーグですね、分かりました。今から作りますので手を洗ってテーブルをキレイにして待っていて下さい」
二人の食べたいものを聞き、台所に行ってエプロンを付けてから料理を開始します。
(それにしても、私に追いつきたい、なりたい、ですか....とても嬉しいです。いつまでもあの子たちの目標である母親でいないといけませんね)
料理をしながら私は二人が言ったことを思い出し、自然と笑顔になり、これからの二人のことを考えました。
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閑話 俺の母さん
俺の母さんは、なんというか不思議な人だ。
いつも丁寧で落ち着いているのだが、たまにテンションが上がって俺らの予想外の行動をしたり、ドジしたりしている。
でも、いつだって俺らには優しかった。ご飯を作ってくれたり、手伝ってはいるが掃除や洗濯もしてくれている。分からないところがあれば理解するまで教えてくれて、俺たちに怒った事など一度もない。
俺は、母さんに拾われ、母さんの子どもになれて本当に心の底から良かったと思っている。
―――――――――――――――――――――――――――
物心ついた頃から、俺たちが両親から愛されていないことは理解していた。ご飯をもらったことや名前を呼んでもらったのも両手で数えるほどしかなかったと思う。
いつ死んでもおかしくない生活をしていた俺たちの面倒を見てくれたのは、近くに住んでいた名前も知らないお爺ちゃんだった。
爺ちゃんは俺たちに食べ物をくれたり、いつか役に立つからと言葉遣いまで教えてくれて、その頃の俺とアリアは比較的笑って過ごすことが多かった。爺ちゃんが死ぬまでは.......
そこからの流れはとても早かった。
爺ちゃんが死んでしまったことで、また元の生活に戻ってしまった俺たちは、ある日の朝珍しく両親たちに名前を呼ばれた。アリアと二人で両親のところまで行くと、そこにはここでは見たことのない上等な服を着ている男がいた。
どうやらこの親は、邪魔な俺たちをこの男に売り金を受け取っているようだった。俺とアリアは見てくれが良いので街で高く売れると上機嫌だとばかりに言っており、それを聞いた両親も揃って笑っていた。アリアは俺にしがみついてきて、俺もアリアの手を強く握った。
人売りの男に大人しく従って馬車に乗り、俺たちを乗せた馬車は街へ向かった。馬車の周りには護衛のような人が、中には俺たち以外にも子どもがおり、悲しげな顔や泣いている子、果てには全てを諦めている子などがいた。
アリアと並んで座りこれからについて考え、自分はいいからアリアだけは助かる方法はないかと頭の中で必死に考えた。
だが、そんな都合のいい方法が考えつくはずもなく、時間だけが過ぎていった。
しばらくの間馬車に揺られていると、外が騒がしくなり、いきなり馬車が止まった。どうしたのかと思っていると悲鳴が聞こえてきた。聞こえた方向へ顔を向けると、そこには二足歩行で歩く犬のような生き物が馬車の中の子どもを襲っていた。俺は瞬時にそれが爺ちゃんが言っていた魔物だと気づき、無意識のうちにアリアの手を掴んで馬車から飛び出した。
馬車から抜け出すと、すでに俺らを連れてきた人売りの男やその護衛は魔物にやられており、辺りは血の匂いで充満していた。それを見た俺は、内から湧き上がってくる恐怖心に耐えながら、森の中へとアリアを置いて行かないよう全速力で走った。
幸い魔物が追いかけてくることはなかったが、とてもじゃないが安心することは出来なかったのでひたすらに走った。
それから森の中を魔物に襲われる恐怖におびえながら一日中彷徨った。体力も限界で、途中転んだりしたため怪我もしてしまい、辺りは薄暗くなってきた。夜の森の静かでなんとも言えない雰囲気が余計に恐怖心を煽り、次第に呼吸も荒くなってきた。
アリアが倒れこんでしまいったため、俺はアリアを背中に担ぎながら歩き続けた。段々と俺も限界が近くなり、まだ生きたいという気力だけで森の中を歩いた。
すると、すぐそこに何かがいるのか分かった。人なのか魔物なのか、それともまた違った生物なのか詳しいことは分からなかったが、意識が朦朧としている中で俺は最後に賭けることにした。
(ここで負けたらもう潔く諦めよう、ごめん、アリア)
背中にいる妹に謝りながら、俺はなかがいる方へと向かった。
茂みを抜けるとそこには真っ白な髪がとても綺麗なまるで女神様のような人がいた。それを見て俺は、もう死んだんだと思ったが、最後にその人に話そうとした。
「お願い.....します.....俺はいい...から.....妹を..たす...け」
そこで俺の意識はなくなった。
―――――――――――――――――――――――――――
その後は、目が覚めるとベッドの上にいて、母さんがおかゆを持って来てからこっちの事情を話し、ずっと家にいていいと言われたりとかなりの急展開だった。
母さんは俺たちのことを本当の子どもだと言っていたが、俺はあまりそうは思わずまた捨てられないようにと家の手伝いをしたり自分の気持ちを隠したりと、かなり精神的に無理をしていた。逆にアリアはどんどん母さんに甘えるようになり俺は自分がどう思っているのか分からなくなってきた。
そして三人で料理を作った日、母さんに呼ばれこんなことを言われた。
『私ではあなたの母にはなれませんか?』
咄嗟に俺はそんなことないと否定し、母さんに思っていたことを話した。それを聞いた母さんは俺を抱きしめ、今まで一人でよく頑張った、今度は私を頼って欲しいと言われた。
そう言われた瞬間俺は母さんに抱き着き、自分でもびっくりするくらい涙が溢れ、今まで我慢してきたことを全部吐き出した。
それからだろう、母さんを本当の意味で母さんと思い始めたのは....
母さんのことは俺たちを愛してくれる、穏やかで包み込んでくれる優しい人だと思っているが、同時に、大きく頼りになる父親のような人だとも俺は思っている。
いつか絶対追いつき、母さんの自慢の息子でいれるよう頑張っていきたいと思う。
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閑話 私のお母さん
私のお母さんは、綺麗で優しくて強くて、おまけに料理なんかも出来る完璧な人だ。
なんでも知っていて、私が疑問に思ったことを聞くとすぐに教えてくれるし、お母さんって呼ぶと笑って返事をしてくれて、私のこともアリアって呼んでくれる。
レインと一緒に三人で毎日を何気なく過ごす。たったそれだけの事なのに、それが私にとってはたまらなく幸せなことだ。
レインもそうだと思うけど、私はお母さんの子どもになれて、今すっごく幸せなんだ。
―――――――――――――――――――――――――――
気づいた時には、すでに私の本当の両親は私やレインのことを見ていなかった。ご飯をくれたことや名前を呼んでくれたことなどはほとんどなかった。
話しかけようとしてもまるでゴミを見るような目で私を見てきてそのまま無視される。
どうして私たちがそんなに邪魔なのか全く分からず、段々と私は素直に自分の気持ちを話さなくなり、口数も減った。
それから近くに住んでいたお爺ちゃんにしばらくの間、ご飯をもらったり文字や言葉遣いなど様々なことを教わったりして、とてもお世話になった。レインと一緒にお爺ちゃんと過ごした時はとても楽しかったが、その生活が長く続くことはなく、お爺ちゃんは私たちを置いて死んでしまった。
悲しかったけど、涙が出ることはなく、ただ漠然とまた元の生活に戻るんだなと思っていた。
でも、そんな予想を裏切り私の両親は私たちを人売りに売った。人売りの男の全身を品定めするような、まるで私たちを人とは思っていない視線は今でも覚えていて、思い出すだけで気分が悪くなる。男と一緒に笑っている両親を見て、私は思わずレインにしがみつきレインも私の手を握ってくれた。
馬車に乗り、移動している中でもレインは自分だって不安なはずなのに私のことを気に掛けてくれて、いつもレインに守られている私は、少し申し訳なさを感じていた。
売られたことについては割り切っていたつもりだったけど、心のどこかでは自由に生きて幸せになりたいと思っていた。
しばらく馬車の中でぼーっとしながらそんなことを考えていると、馬車が急に止まり辺りが騒がしくなった。特に同じ馬車にいたと思われる子の悲鳴が聞こえたのでそこを見ると、人ではない恐ろしい生き物、魔物が子どもをその長く鋭い牙で襲っていた。
あまりの事態に私の身体は動かず、目の前で襲われている子どもを見ていることしか出来なかったが、いきなり横から引っ張られ、そのまま流れるように立ち上がり馬車の外へと出た。
私の手を引っ張ったのはレインのようで、今まで見たことのないような焦った顔で森の中へと走りだした。その時周りの様子はあまり見ていなかったが、あたり一面が血で溢れていたのを見て、私は急に怖くなった。
全力で走っていたが、レインは私を置いて行かないようスピードを合わせてくれており、ここでもまたレインに申し訳ないと思ってしまった。
その後、魔物が追いかけてくるということはなかったが、そんなの関係なく私たちは森の中を走り続けた。もう体力もなくて、途中転んだりしたから怪我もした。
あたりも薄暗くなり精神的にも限界が近くなり、私は周りが見えなくなり、倒れ込んでしまった。レインが私に向かって何かを言っている気がしたが、何も聞こえなかった。
もうこのまま死ぬんだと思った。最後までレインに守られ、迷惑をかけてしまったと、自分が少し情けなく感じた。でも、もう身体は動かずだんだんと眠くなってきた。そのまま寝ればこんな辛く苦しいことが終わると思うと、なんだか気持ちが楽になった。
(レイン、今までごめんね。もし、次生まれ変わることができたら、今度こそレインと一緒に優しくて私たちを愛してくれるお父さんとお母さんの三人で楽しく過ごしたいな....)
レインへの謝罪と私が欲しいと思っても手に入らなかったものを願いながら、私は目を瞑った。
―――――――――――――――――――――――――――
最初目が覚めた時は、ここは天国なんだと思ったが隣のベッドにレインがいた事でこれは現実なんだと、私は生きているんだと理解した。
私が倒れた後の話をレインから聞いても私はよく分からなかった。私たちを助けたって何も良い事などないと思ったからだ。
その後、部屋に入ってきたお母さん見て私はとても驚いた。今まで見たこともないほど綺麗で、同性の私でも見惚れてしまうほどだったからだ。
お母さんのことは最初よく分からない人だと思っていた。私たちのお世話をする理由が分からない。また、あの両親と同じようにいつか捨てるんじゃないかと思っていた。
でも違った、お母さんは純粋に心の底からの愛情を私たちに注いでくれた。私が欲しくてたまらなかったものを....
それから、お母さんのことをお母さんと呼びたいと思っていたけど、心の中で私はお母さんの子どもに相応しくないと思ってしまい、素直に言うことが出来なかった。
しかし、部屋で絵本を見つけた時、勇気を出してお母さんに読んで欲しいと言った。お母さんは笑顔で頷いてくれて絵本を読んでくれた。
絵本を読み終わった後、私はお母さんに内で思っていたことを零してしまい、それを聞いたお母さんは私を抱きしめてこう言った。
『アリア、私をあなたのお母さんにさせてはくれませんか?』
私は嘘じゃないのか、本当に私でいいのか何回も聞き、お母さんもその度本当のことだと言ってくれた。
この時、私は今度こそ本物のお母さんができた。
私はお母さんのように綺麗で優しくて強い人になりたい。お母さんは私の憧れであり目標だ。お母さんは私の自慢のお母さんだから、私も自慢の娘と言われるようになりたい。
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第二章
第二十一話 魔法学園試験日
「はぁぁ!」
「そこっ!」
「うっ、そう来ますか。ですが、そのくらいなら全然対処できますよっ!」
「くぅっ、やっぱダメか....」
「結構考えてやったのに、さすがお母さん」
「相手が私ではなかったら、決まっていたかもしれませんね」
私は今、レインとアリアの二人と模擬戦を行っています。二人と出会って母となることを決めた日からもうすでに四年の時が経ち、二人は今年で九歳になります。
魔法や戦闘方法を教え始めたときとは比べ物にならないほど強く、賢くなり、身体もずいぶんと大きくなりました。
「さて、二人とも今日はここまでにして後は身体を休めましょう。疲れを取らないで、明日の試験で実力を発揮出来ないとなっては、目も当てられませんよ」
私がそう言うと、悔しそうに眉を顰めながらレインが言いました。
「負けたまま終わるのは悔しいけど、母さんの言う通りだし、今日はもうゆっくりするよ」
「明日がついに試験か〜、うぅ、緊張してきた....」
「大丈夫ですよ、魔法は私がとことん教えましたし、座学だってそうです。おまけに神気まで使えるようになった二人なら絶対に受かります。自信を持って下さい」
明日は以前から言っていたガルレール魔法学園の入試日であり、レインとアリアがその試験を受けに行きます。入試日の数か月前に王都のある学園へ受験志願をしに行き、一週間ほど前に二人分の受験票と、持ち物や注意事項が書かれた紙が届きました。
届けてくれたのは、学園の先生が出した使い魔で、志願をしに行ったとき一緒に受験票の届け先に登録しました。
現在の二人は元々の才能もあったため、あれからぐんぐんと魔法の扱いや戦闘の動き方が良くなっていき、神気についてもほとんど自分自身でコントロール出来るようになったりと成長速度が凄まじいです。座学に関しても同じで、常に真面目に勉強していたため九歳にしては知識があると思っています。
「そうだよね!よ~し、明日頑張るぞ!ね、レイン?」
「俺はアリアほど緊張も心配もしてないよ、受かるなら首席で受かりたいし」
「あら、レインは大きく出ましたね、いいですよその気持ちです」
「えぇ~、レインが目指すなら私も目指す!」
「でしたら、二人で主席と次席を取っちゃいましょう。楽しみにしてますよ」
それから、二人とも今日の練習を終わらせ、家に戻ってゆっくりしてから明日の試験の勉強と持ち物や日程の確認など、試験に対して万全な対策をしました。途中アリアやレインから質問をされ、それに答えながら時間は過ぎて行きました。
夜になり、三人で夜ご飯を食べ始めました。今日の夜ご飯は、明日が試験ということもありオーク肉の生姜焼きです。
豚肉は疲労回復や免疫力アップといった働きがあり、翌日のコンディションを整える効果が期待できるためこの料理を選びました。
「ご飯を食べたら、お風呂に入ってすぐに寝ちゃって下さい。明日は朝早いですからね」
「分かったよ、母さん」
「は〜い!あ、今日もお母さんと一緒に寝たい!」
「ふふっ、大きくなってもアリアは変わりませんね」
「ほんとに、アリアはずっと甘えん坊かもね」
「それでもいいもんね〜、私はお母さん大好きだから!」
そんな事を話したあと、風呂に入ってから(アリアと一緒に入った)三人並んでベッドで寝ました。
―――――――――――――――――――――――――――
朝起きてから外を見ると、空は雲一つない快晴でとてもいい天気でした。
私は先に一階に降りて、朝ごはんとレインとアリアに渡すためのお弁当を作り始めました。お弁当は食べやすいようにおにぎりにして、具もそれぞれ変えました。
一通り作業が終わった後、もう一度二階へ行き二人を起こします。
「レイン、アリア、朝ですよ。起きてください」
「んっ、母さん、おはよう...」
「ん〜、ふぁ〜あ、おはよう、お母さん」
「はい、おはようございます。もうすぐ朝ごはんが出来るので、顔を洗ってから来てくださいね」
二人にそう言い、一階に戻って料理を続けます。程なくしてレインとアリアがリビングに来たため、料理をお皿に分けてテーブルに置き、三人で挨拶をしてから食べ始めます。
「二人とも、よく眠れましたか?体調は大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ、母さん」
「私ももう眠くないし、体調も大丈夫だよ」
「それならよかったです。学園までは私も付いて行きますが、そこから先はあなたたちだけで行かなければなりませんからね?」
「いつまでも母さんと一緒じゃなきゃダメな俺じゃないから心配ないよ」
「ほんとだよ、お母さん心配し過ぎ〜」
二人から、そんなことを言われてしまいました。どうやら緊張していたのは私もだったようですね。自分が試験を受ける訳ではないのに、なんだかドキドキしてきます。
朝ご飯を食べ終わり、少し早いですが早く行って損はないので転移魔法を使って移動します。
「忘れ物はないですか?受験票と筆記用具は持ちましたか?」
「うん、持ったよ」
「忘れてないよ」
いつものように街の近くへ転移して歩いていると、いつもより人が多く感じ、門の近くに行けば行くほどそれを大きく感じました。
それから王都の中へ入り、学園へ移動を開始したのですが、レインやアリアくらいの子どもを連れた集団と一緒に行くことになってしまいました。
「もしかして、この人たち俺たちと同じなのかな?」
「おそらくそうでしょう。あなたたちのライバルになる子たちですよ」
「そっか、一緒に試験を受けるからライバルなのか....」
「そんなに思い詰めなくてもいいですよ、いつも通りにすればいいんです」
学園の前に着くと、そこにはまだ時間にかなりの余裕があるのに大勢の人がそこにはいました。平民の方が多いように感じますが、中には貴族だと思われる人もおり、入試受付も左側が平民、右側が貴族と明確に分かれていました。
(学園内は平民貴族関係ないようですが、ここではそうもいかないようですね)
「こんなに受けるひとがいるのか、さすがに予想外だった...」
「この人たちもライバル.....」
「この中から合格するのはたったの百五十人、とても狭き門ですが、二人なら受かると信じています」
あまりの人の多さに呆然としてしまった私たちですが、気を取り直して平民が並ぶ列である左側へ並びます。
相も変わらずフードを被っている私は、並んでいる間色んな意味で注目されていました。
『あの人なんで、フードなんて被ってるんだろう?』
『なんか立ち振る舞いが、俺たちと全然違う気がするんだが....』
『両隣にいる子たちが受けるのかしら、というかかなり美形の子どもね、こっちに並んでるけど本当は貴族なのかしら?』
ここ数年で、美形に育ってきた二人も周りの人たちに目立っていました。二人にもそんな声が聞こえているのかと思い見てみると、レインは真っ直ぐ前を見据えて、アリアは落ち着かないのか辺りをキョロキョロと見ていました。どうやら周りの声は聞こえていないようです。
「次にお待ちの方、こちらへどうぞ」
呼ばれた方へ行くと、そこには眼鏡をかけた男性が人懐っこい笑顔を向けながら挨拶をしてきました。
「おはようございます。確認をいたしますので、受験票を出していただけますか?」
「おはようございます。受験票ならこの二人が持っています」
「これが受験票です。お願いします」
「私のはこれです。よろしくお願いします」
「はい、ありがとうございます。礼儀正しいいい子たちですね」
「ふふっ、そうですか?礼儀だけではなく魔法の腕も素晴らしい子たちですから期待していて下さい」
「えぇ、母さん?」
「ちょっとお母さん!」
「それはそれは、ここまで言う人も中々いませんよ。では、楽しみにさせていただきます。ここから先は保護者の方は行く事ができないので、お母様は帰宅してもらっても問題はないです。お二人は、この先を行って試験会場に向かって下さい」
「分かりました、ありがとうございます。それと、よろしくお願いします」
「「ありがとうございます」」
受付が終わり、列から離れました。職員の方から指示があった通り、私はここからは一緒に行く事が出来ないので、ここで最後に二人と話します。
「では、私は一度戻ります。試験が終わる頃にまた戻ってきますね。二人とも、頑張ってください。お母さん、応援してますからね!」
「うん!絶対首席で合格してくるよ!」
「私も私も!」
力強くそう言ってくるレインとアリアを見て、地面に膝をつき二人を抱きしめます。
「いつも通り全力で取り組んでください。それだったら大丈夫です。なんたって、あなたたちは私の自慢の息子と娘さんなのですから」
それだけ言うと私は二人から離れて目を真っ直ぐ見て言います。
「行ってらっしゃい、二人とも!」
「「....!行ってきます!!」」
レインとアリアは学園の奥へと向かっていきました。ある意味戦場へと向かっていく二人の後ろ姿を見ていて、私はとても誇らしく感じました。
「さて、私はどうしましょうか?待っていても落ち着かないのでギルドで依頼でも受けましょうか、最近顔も出していないですしね」
なぜか試験を受ける張本人ではないのに緊張してきてしまった私は、気を紛らせるために最近あまり行ってない冒険者ギルドへと向かいました。
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第二十二話 ギルドで依頼を受ける
レインたちと別れてから、私は冒険者ギルドの前に来ました。最後にここに来たのはもう半年前の話で、受けた依頼も大したことのないものだったため、少し気まずいです。
「ランクアップの話も曖昧になっていますし、また今度話し合わないといけませんね」
扉を開いて中に入ると、朝だからか冒険者たちがいつもより多くいました。今日の依頼はなにがあるのか見ようとすると、受付から大きな声がしました。
「あ、シェリアさん!お久しぶりです、どうぞこちらへ!」
私を呼んだのは案の定ソフィさんで、私を見てから少し興奮したように言ってきました。
大きな声で呼ばれたせいで目立ってしまいましたが、無視をするわけにはいかないので、身体の向きを変えてソフィさんの方へ向かいました。
「ソフィさん、久しぶりなのは分かりますが、そんなに大きな声を出さなくても聞こえますよ」
「す、すみません、そうですよね。前に来たのが半年ほど前の話だったのでつい....」
「なにやってんのあんた。いきなり大きな声だして、結構響いてたわよ。それと、久しぶりねシェリア」
「エルケさん?!」
後ろから話に割って入ってきたのは、身長が高く、濃い紫色の髪を腰にまで伸ばしている女性で、エルケさんと言い、ソフィさんと同じく冒険者ギルドの受付嬢の方です。
私も何度か話した事があり、以前顔を見せない理由を聞かれたため、フードを取って顔を見せたこともある人です。
「エルケさんもお久しぶりです。お仕事は大丈夫なんですか?」
「ん?あぁ、大丈夫よ。今はまだ受付に人は来ないからね。シェリアはどうしたのかしら?」
「今日はガルレール魔法学園の試験日なので、子どもたちが終わるまでに私も依頼を受けようかと思いまして」
「あぁ、そういえばそうだったわね。だから街に人が多かったのね。子どもと言うとレイン君とアリアちゃんだったかしら」
「じゃあ、時間の掛からない軽めの依頼の方がいですね。何かありましたっけ?」
「私もそうしようと思っていたのですが、なにかいいものは有りますか?」
そう言うと、ソフィさんは腕を組んで悩み始め、頭を捻っています。さすがに全ての依頼を覚えているわけでもないと思うので、私も依頼掲示板で探さないといけないなと思っていると、横にいるエルケさんが教えてくれました。
「なら、新人冒険者の引率の依頼はやってみない?」
「あ、それいいですね。それほど時間はかからないですし、シェリアさんなら安心出来ます」
「引率、ですか?」
あまり聞き慣れない事だったので、まずは詳細を聞きます。
「そうです、Eランクなどの新人冒険者と呼ばれる人たちは初めて討伐依頼などを受ける場合、最初に必ずCランク以上の冒険者が付き添いのもと、行わなければならないんです」
「でも、誰でもいいってわけじゃなくて、真面目に最後までやってくれる人じゃないと頼めないの。だから、シェリアなら信頼できるしいいかなと思ってね」
この依頼を受ける人の中には、てきとうに流していたりいい加減なことを教えたりする人もいるらしいです。ソフィさんとエルケさんはどこかうんざりしたように言いました。
(確かに私にはぴったりの依頼かもしれませんね。時間もそこまで掛からないそうですし、受けましょうか)
「分かりました、その依頼受けさせていただきます。その冒険者の方々はもう来ているんですか?」
「ほんとですか!ありがとうございます。そのパーティはこの場にいますのですぐにお呼びします。少し待っていてください」
「ありがとね、他に人がいなくて少し困ってたのよ。あとの事はよろしく頼むわね」
ソフィさんは私に頭を下げた後、受付カウンターを出てその冒険者を呼びに行きました。特にすることはないので、受付近くの椅子に座ってソフィさんを待ちます。
しばらく座っていると後ろに四人の冒険者と思われる人を連れたソフィさんがやって来ました。立ち上がって会釈をすると四人もぎこちなく頭を下げてきました。
「シェリアさん、お待たせしました。こちらが今回引率してもらう冒険者の子たちです」
「そうですか、初めまして今回皆さんの依頼に付いて行くCランク冒険者のシェリアと申します。呼び捨てで構いませんし、言葉遣いも好きなようにしてください。よろしくお願いします」
丁寧に挨拶をして、礼をするとしばらく返事が返ってこなかったですが、少し経ってから四人が声を出しました。
「え、えっと、私はモニカって言います!今日はよろしくお願いします、シェリアさん!」
「あたしは、クレア。よろしくね、シェリアさん」
「俺の名前はリングス、よろしくね〜シェリアさん〜」
「最後に、俺はバリー。あんたがあのシェリアか?」
最初に挨拶をしてくれたのは背が小さく小柄で栗色の髪が可愛らしいモニカちゃん、そして次がモニカちゃんとは違い出るところは出ている青髪ショートのクレアちゃん、次に少しチャラそうな雰囲気がある茶髪のリングス君、最後にどこか問いただすような感じで聞いてくるのが黒髪のバリー君でした。
「え、何のことですか?」
「あんただろ、四年前ブラックミノタウロスを倒したっていう冒険者は」
「あぁ、その事ですか。はい、私で合ってますよ」
「やっぱりか、何をしたんだ?どうやってブラックミノタウロスを倒した?」
どうやら私が以前にブラックミノタウロスを倒したことを知っていたようで、その話を詳しく聞こうと私に顔を近づけて来ました。ですが、それを素直に話すことは出来ないので困りました。
「え〜っと、それはですね。あまり詳しく言えないといいますか.....」
「ちょっと、バリー!いきなりシェリアさんに失礼でしょ!今日はお世話になるんだからそんな態度は良くないよ!」
「いや、モニカも気になるだろどうやってこいつが倒したのか」
「だから、こいつじゃなくてシェリアさん!いつも言ってるじゃん、ちゃんと人の名前を呼んでって」
「あ〜あ、また始まった...」
「バリーとモニカがすみません、シェリアさん」
クレアちゃんが私に頭を下げて謝ってきますが、特に気にしてはいないですし、そもそもクレアちゃんが悪いわけでもないので頭を上げさせます。
「いえ、大丈夫ですよ、気にしていませんから。それと、すみませんバリー君。その事については詳しく話す事が出来ないのです」
「ふん、そうなのか.....ならいいや。さっさと依頼を達成して終わらせよう。俺は早く高ランク冒険者になりたいんだ」
私の言葉を聞いたバリー君はそれだけ言うとすぐに冒険者ギルドを出ようとしました。まだ、私が四人が受ける依頼内容どころか何も知らないのですぐに引き留めて、情報の共有をします。
「あ、ちょっと待ってください。私は今さっきソフィさんからこの依頼を受けたので、あなたたちの依頼内容などの情報が分からないんです。なので、ここで話してはくれませんか?」
「え、そうなの?ソフィさん」
「はい、先程シェリアさんに提案して受けてもらった依頼なのでまだ全部のことは知りません」
「そうなの、じゃああたしが説明するね。今日は初めての討伐依頼でゴブリンを討伐しに行くの。数は問わないで、一人一匹が目安になるの。大丈夫そう?」
「なるほど、ゴブリンですか。最初に戦うならいい相手ですね。ここで、討伐という依頼にも慣れておきましょう。武器などの準備も大丈夫ですか?」
「はい、問題ないです。いつでも行けます」
「あたしも勿論大丈夫だよ」
「俺もOKだよー」
「俺もだ」
四人とも準備はしっかりとしてきたようで問題は無さそうです。一応武器や持ち物をもう一度確認した後、ソフィさんに挨拶をした後、五人で冒険者ギルドを出ます。
基本的に私はトラブルに対処したり、四人が疑問に思ったことに答えるのが仕事ですので、後ろ側を歩きます。
「なぁなぁ、どうしてシェリアさんはずっとフードを被って顔を隠しているんだ?」
「これも色々と事情があるんですよね。できればあまり突っ込まないでくれると有難いです」
「そうなのか、それはすまん。もしかしたらすげぇ美人さんなのかと思っちゃってねー」
リングス君がどこか期待しているような目で私を見てきますが、、本当のことは言わず笑って誤魔化します。するとそこにモニカちゃんとクレアちゃんも混ざってきました。
「それ私も思った。なんかそういう雰囲気があるっていうか」
「最初の挨拶もそうだったけど、なんかシェリアさんて上品だよね。バリーもそう思うでしょ?」
「ん?あぁ、まぁすげぇ丁寧な人だとは思ったよ」
「バリー君まで.....ほら、もうすぐ街の外です。初めてなんですから気を引き締めて行きますよ」
ずっと話が続いてしまいそうだったので、無理矢理その話を終わらせ四人と一緒に街の外、ゴブリンがいる森まで向かいました。
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第二十三話 新人冒険者の引率
「ところで、皆さんは最近Dランクになったのですか?」
森に着くまでに、ずっと黙っているのも味気ないため私は四人に話しかけます。一番最初に反応してくれたのはモニカちゃんで、身長差で少し見上げるように言ってきました。
「はい、そうですよ。今から大体二週間ほど前にDランクに上がりました」
「あたしたちは皆んな近くの村でずっと住んでいて、二ヶ月前くらいにここで冒険者になったの」
「では、四人は幼馴染なんですか、とても仲がいいんですね」
「仲がいいってより、腐れ縁って感じだけどな、俺たち」
「たしかにね...」
「あはは....」
仲がいいと言うとそれにリングス君が答え、それを聞いた二人は苦笑いをしながら、どこか納得しているような顔をしていました。
「そうなんですか?見た感じは仲がいいように思えますが。それでは、何故冒険者になったのですか?私が言うのもなんですが、かなり危険な事もある職業ですよ?」
私がそう聞くと、モニカちゃんたちは少し恥ずかしそうに顔を逸らし、前を歩くバリー君はピクリと肩を動かしました。それからクレアちゃんが目を合わせず、前を向きながら言いました。
「高ランクの冒険者になればお金が沢山手に入るっていうのもあるんだけど、あたしたち小さい頃から物語に出てくる英雄とかに憧れてて、その人たちのようになりたいって思ったから四人でパーティを作って冒険者になったの」
「なんか恥ずかしいけど、まぁそういうことだな」
「うん.....」
「...........」
「憧れの存在になりたい、ですか。いいじゃないですか、憧れ目指すことは人が持つ当然の権利です。応援はすれど、笑ったらなんかはしません」
「まっすぐ言われると余計に恥ずいな、それじゃあシェリアさんはなんで冒険者になったんだ?」
リングス君に質問をされた事で私は少し悩みます。二回目に登録した時は単純に身分証になるものが欲しかったからですが、今言うべき答えには適さないためもっと昔に登録した時のことを話します。
「私は、そうですね....この広い世界を見て回って見たいと思ったからですかね。冒険者なら世界中どこへでも行く事ができますしね」
私が冒険者になったのは、もちろん異世界に行ったら冒険者だろ、という理由でなったのもありますが、この降り立った新しい世界を自分の目で見たいという気持ちもありました。女神なら寿命を気にしないでゆっくりと見られますからね。
「世界か〜シェリアさんもすごいな、スケールが違う」
「じゃあ、今も旅の途中なんですか?」
「いえ、もう旅はしていないですね、今はやりたい事や、やるべき事が見つかりましたから」
「え、やるべき事...ですか?それって....」
「おい、そろそろ森に着くぞ、無駄話はその辺にしとけ」
もう少し話してもよかったのですが、バリー君に注意された事で話すことをやめ、目の前のことに集中します。
森に着いてから四人は武器を出して位置につきます。バリー君はロングソード、リングス君は弓、クレアちゃんはショートソードと盾、モニカちゃんは長さ五十センチ程の杖を使います。
「討伐依頼はまず目当ての魔物を見つけなければ何も始まりません。ですので、誰かが魔法を使いながら探すのが得策となりますが、見つからない場合、周りを把握しながら魔物を探さなければなりません」
本格的に依頼を開始する前に、私は討伐依頼に対しての行動と考えを話します。四人とも初めての討伐依頼となるので、私の目を見ながら真剣に話を聞いています。
「魔法というと探査魔法のことですか?それなら私使えます」
「俺も使えるけど、モニカの方が魔力多いしそっちの方がいいかな」
「しっかりと役割を決めておいてくださいね。探索魔法を使う際はずっと使い続けるのではなく、一瞬だけ使用し魔物のいる位置と方角が分かるだけで十分です。それなら魔力をあまり使わずに済みます」
「なるほどね、位置と方角だけ分かれば後はそこに進むだけでいいんだね」
「討伐依頼ではいかに魔力を消費しないか、か」
一を説明すれば、そこから自分たちで考え最適解を見つける、どうやらこの子たちはいい冒険者になりそうですね。思わず笑みを浮かべてしまいました。
それからモニカちゃんが探査魔法を使い、ゴブリンがいる位置を見つけた後四人でそこに向かって歩いていきました。バリー君とクレアちゃんが前衛で、リングス君とモニカちゃんが後衛です。
「意識し続けろとは言いませんが、何が起こっても動けるように警戒は怠ってはいけませんよ」
「緊張してきた....」
「大丈夫だってモニカ、前にはバリーとクレアがいるから問題ないよ」
「そろそろモニカが言った場所だ、慎重に行くぞ」
バリー君はそう言うと、歩みのスピードを落としゆっくりと進んでいきます。やはり、四人とも緊張をするようで無意識のうちに呼吸が浅くなってきました。
しばらく進んでいくと人ではない生物の声が聞こえ、その声の主を見ると今回の討伐対象であるゴブリンが四体地面に座って何かを話しているようでした。
「あれが、ゴブリン....」
「予想以上に醜い生き物だね」
「どうやって攻めたらいいんだ?」
「こちらの存在がバレていないようでしたら、奇襲が一番の手です。リングス君の弓でゴブリンに向かって先手を撃ち、裏からバリー君やクレアちゃんが仕留めるという方法が確実でしょう」
「あの、私は何をすれば....?」
「モニカちゃんは、もしもの時のために下がっていつでも魔法を放てるようにしていてください」
四人が私が言ったように動き始め、まずはリングス君がゴブリンに弓矢を放ちます。矢は真っ直ぐ進みゴブリンの頭を綺麗に撃ち抜きました。
リングス君が矢を射ったのを合図にバリー君とクレアちゃんが飛び出し、ゴブリンを攻撃します。武器の扱いは上手いものでしっかりと使えており、さっきの緊張は嘘のようにいとも簡単にゴブリンを倒しました。
(これは予想外ですね、実力でいったらDランクでも上位に入りそうですね)
「あれ、意外とあっさりだったね、ゴブリン」
「あぁ、そうだな。低ランクの魔物ならこんな感じか」
「う〜っ綺麗に決まると気持ちいいねぇ」
「私何もしてないけど、皆んなすごかったよ!」
四人で初めての討伐依頼の達成に喜び合っているところに入っていき私も四人を褒めました。
「おめでとうございます、皆さん。これで依頼は達成ですね。特に言うこともありませんし、実力も十分です」
四人は私にも言われた事で、さらに依頼達成を実感したのか満足そうな顔をして私を見てきました。
「ありがとうございます、シェリアさん!」
「シェリアさんの言う通りに動いただけだけどね」
それからゴブリンの死体は、残念ながら使い道はないため火魔法で燃やし、しばらくしてから王都に戻り始めました。
道中も森の中は警戒しながら進み、特にトラブルもないまま森を出る事ができ、改めて四人に向かって声をかけました。
「改めてお疲れ様です。動きも悪くなかったですし、連携や技術もDランクなりたてとは思えないほど素晴らしいものでした。今回は私が作戦を言いましたが、今後は自分たちで考えられるよう頑張ってください」
「それなら俺がこれから考えるから大丈夫だ」
「バリーなら安心出来るかな...」
「だね」
「んじゃあ、バリーで決まりだな」
ここで、ふと思いついた事があるので四人に聞きます。
「せっかくですから、記念になにかあなたたちにご褒美をあげたいと思ったのですが、何がいいですかね?」
「え、いやいいですよ!わざわざそんなのしてくれなくても...」
私の提案に四人は遠慮をしてきたのですが、私が引く気がないと考えると悩み始め、しばらく待つとモニカちゃんが恐る恐るという感じで手を上げ言いました。
「じゃ、じゃあシェリアさんの顔が見たいなって、ずっと気になってるので」
「あ、それいいかも!シェリアさん、出来る?」
「俺もそれがいいな〜」
「何でもいいから、モニカたちが決めたのでいい」
「顔ですか.....分かりました。それでいいのでしたら取りましょうか」
モニカちゃんたちは私の顔を見たいと言ってきました。少し悩んで下を向いてしまいましたが、別に問題ないだろうと判断をしてフードを取ります。
「うわぁ〜〜〜〜!」
「すごい、綺麗.....予想以上....」
「あちゃー、まさかこれほどとは.....」
「なっ.....!」
「これでいいですか?もう終わりはしますよ。あまり見られたくはないので」
四人にしっかりと顔を見せた後、どこに人がいるか分からないのですぐにフードを被ります。その間もモニカちゃんたちは固まっているようでした。
「では、戻りましょうか、もう夕方になってしまいますから。それと、この事は黙っていてくださいね、お願いします」
それから四人を置いて歩き出しました。
「あんな綺麗な人見たことないよ私」
「そんなのあたしもだよ、絶対美人だと思ってたけどさ....」
「ほんとな.....おい、バリー大丈夫か?」
「あ、あぁ大丈夫だ」
門をくぐって無事に王都に帰る事ができ、ギルドに戻るとソフィさんの受付が空いていてあくびをしていたので、そこへ行き依頼の報告をしました。
「ソフィさん、今戻りました。依頼の確認をお願いします」
「頼む」
「あ、シェリアさんにバリー君たちも、お疲れ様です。今確認しますので少々お待ちください」
冒険者カードを渡して、それをソフィさんが確認をし、しっかりとゴブリンを倒していたので無事、四人の初めての討伐依頼が終わりました。
「シェリアさん、今日は本当にありがとうございました。また機会があれば、是非ともよろしくお願いします」
「そうですね、また時間が合えばその時にお願いします」
ソフィさんと別れ、そろそろ二人のところへ行かなければと思っていると、モニカちゃんたちが私のところへ来ました。
「シェリアさん、この後時間ありますか。今日記念に四人でご飯を食べようと思っているんですけど、シェリアさんはどうですか?」
なんと晩御飯へのお誘いでした。残念ながらこの後子どもたちのところは行かないといけないため、頭を下げながらそのお誘いを断りました。
「すいません、モニカちゃん。この後子どもたちの試験が終わるので、そちらに行かないとならないんです」
「え、シェリアさんって子どもいたんですか!」
「え、ほんとに?!」
「まじかよ.....」
「子ども......」
私が子どもがいると言うと四人は目を見開いて驚愕していました。もはや、この反応ももう見過ぎて慣れてしまいました。
「はい、実子ではないですがいますよ。あ、もう時間がないので行かないといけません、あなたたちならこれからもっと上に行けると信じていますので頑張ってください、ではまた」
急いで冒険者ギルドを出てから、レインたちがいるガルレール学園に向かいました。
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第二十四話 試験の出来
いつもより早く歩きながら学園へと向かい校門の前へ着きましたが、まだ試験が終わっていないらしく、子どもたちの姿はありませんでした。
「よかった、まだ終わってなかったのですね。このままここで二人を待ちましょうか」
近くの壁の前に立ちながらしばらくの間待っていると、段々と学園の奥の方が騒がしくなっていき、レインやアリアと同じくらいの子どもたちが大勢出てきました。
そのまま一人で帰って行く子や私と同じで待っていた親と帰って行く子、それ以外だと馬車で帰って行く子もいました。
「レインとアリアはどこですかね、まだ出てきませんか。もしかして試験の出来が良くなかったのでしょうか....」
「母さん、こっちだよ」
ある程度待っても姿が見ないため少し心配になってしまいましたが、すぐ後ろからレインの声が聞こえ、振り返るとレインとアリアの二人が笑いながらそこにいました。
「お母さん大丈夫?なんかおろおろしてて面白かったよ」
「お、おろおろ.......はい、私は大丈夫ですよ。それより、お疲れ様ですレイン、アリア。二人はどうでしたか?試験の出来は大丈夫ですか?」
アリアに言われたことを少し恥ずかしく思いながら、二人に今日の試験の手応えを聞きます。聞かれた二人は、一度お互い目を合わせてから私の方を見て、手でVサインをしながら満面の笑みを向けてきました。
「全然問題なし!実技も筆記も全部出来た!」
「私もバッチリ!特にひっかかるところも無かったよ!」
「まぁ!それは凄いですね、二人とも。そこまで自信があるなら結果が届くのがとても楽しみです」
「楽しみにしててよ!首席もとれちゃうかも」
「それは分かんないけど、自信はある」
「それだったら本当に素晴らしいですね。さぁ、二人とも一日試験で疲れているでしょう?晩ご飯の準備をしますからすぐに帰りましょう」
手を繋いで王都の中を歩き、しばらく歩いたところで転移魔法を使い家に帰ります。
家に着いた後は、二人にリビングでゆっくりしてもらい私は料理を作ります。今作っているのは二人の好物であるオムライスとハンバーグです。材料はあらかじめ買っておいたためすぐに作る事ができました。
「さ、出来ましたよ、二人とも。あったかいうちに食べてください」
「うわぁ!今日はオムライスだ!」
「あ、ハンバーグもある。やった!」
レインとアリアはテーブルにある料理を見て目を輝かせ始め、一瞬で席について食べる準備をします。あまりの反応に少し苦笑いしながら私も席につき挨拶をしてご飯を食べ始めます。
「「「いただきます!」」」
「うんっやっぱりお母さんのオムライスおいしい〜」
「ハンバーグも美味しい、毎日食べられる」
「そう言われると作った甲斐がありました。ところで、試験とはどのようなことをしたのですか?」
試験に実技と筆記があることは知っていましたが、その詳しい内容については知らなかったため二人に聞きます。
「筆記は魔法をどのようにしたら使うのか、とか計算問題もあって地理なんかもあったけど、全部母さんに教えてもらったから難しくはなかったよ」
「実技はね、自分が使える魔法を使って的を壊したり、魔力を測ったりしただけだから、いつも通り魔法を使ったりして他は特に何もなかったよ」
「なるほど、そのような内容ならレインとアリアがつまづくことはあり得ませんね」
「あ、でもね実技をやっている時、すっごく綺麗な子が近くで一緒に受けてて魔法も上手だった」
「たしかにそんな子いたね、周りに人が多かったから俺は遠目でしか見れなかったけど...」
試験よ話を聞いても二人なら出来て当然だろうと思っているだけでしたが、アリアが話したその子について考え、心当たりがあったのでそのことを言いました。
「それはもしかしたら、この国の第三王女様かもしれませんね。たしかあなたたちと同じ年代の子だったと思います」
「王女様、言われてみればそんな感じがしたかも」
「王女様もあの学園を受けるんだね、なんか意外」
「今はほとんどの人が魔法を使えますから、王族がしっかりと扱いが出来ないと示しがつかないのでしょう。二人が無事合格したらその王女様と同じ学校になるんですよ」
魔法を使えない人がほとんどいない世界で魔法が使えない王族というのはあまりよろしくならないのでしょう。特に王族は昔の偉人の血が流れている優秀な家系ですので、それもあるのでしょうね。
私が王女様のことについて話すと、レインはいつも通りですが、アリアが期待に満ちた目で私を見てきました。
「王女様と同じ学園.....それってすごくない?!仲良くなれるかな〜」
「同じクラスになれるか分からないし、俺たちが話してもいいのか?そもそもまだ合格した訳じゃないし.....」
「仲良くなるのはいい事ですが、あまり失礼なことをしないでくださいね。親しき中にも礼儀ありです」
その後も試験の話から、私が今日受けた依頼の内容など、さまざまなことを話したりしているとご飯の時間が終わっていきました。
「私も将来冒険者になろうかな〜自由だし」
「それもいいね、ならなくても登録はしておきたいね。母さんはもっとランクを上げたりしないの?」
「二人が学園に行くようになったらしっかりと冒険者をやろうとは思っていますよ。他にすることもないですしね」
私は二人が学園に通うようになったら今までてきとうにやってた冒険者を本格的にやろうと思っています。レインとアリアは寮に行くことになると思うので、とても寂しいです。
食器を片付けて、魔法で洗ってからアイテムボックスにしまい、お風呂にも入った後、やはり二人とも疲れが溜まっていたようで、すぐに部屋に戻り深く眠り始めました。
眠っている二人を見てて思わず笑みを浮かべながら部屋を出て、私も眠りにつきます。
二人の合格を祈りながら
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第二十五話 合否通知
ガルレール魔法学園の試験があってから二週間ほどが経ち、朝の日差しが暖かく気持ちい春と呼べる季節になりました。
試験が終わってからも二人は魔法の練習や勉強を続けており、まだ合否通知が届いてもいないのにも関わらず、学園で何をしたいのか、何をするのかを話していました。
そろそろ結果が来てもおかしくないと思ってベランダの窓を開けると、受験票を受け取ったときと同じ使い魔と思われる鳥が、封筒を持ってこちらにやってきました。
「あら、もしかしてこれは合否通知ですか?ありがとうございます、確かに受け取りましたよ」
「ヒューイッ!!」
私が封筒を受け取ると使い魔は声を上げて空に飛び去って行きました。手元には二人分の合否通知があり随分と綺麗な封筒で、レインとアリアの名前がそれぞれ入っていました。
もうここで見てしまいたいという欲求が出てきましたが、試験を受けた本人ではない者が見るのはご法度なためそのまま別の場所にある棚に封筒を置きます。
「母さん、おはよう」
「おはよう、お母さん」
「おはようございます、レイン、アリア。朝食は出来ているので冷める前に食べちゃってください」
合否通知が届いたことを言ってしまうと二人は朝食どころではなくなってしまうため、まずは朝食を食べてもらいその後に話をします。
レインとアリアはいつもと同じように私の料理を美味しそうに食べ、すぐに食器に乗っていたものがなくなりました。
「「「ごちそうさまでした」」」
「今日は何をしようかな、レインは今日どうするの?」
「俺は神気のコントロールの練習をしようかな、やっておかないと、いざという時に使えなくなっちゃうからね」
「あ、待ってください、今朝二人宛に封筒が届きましたよ。まずはそれを見てください」
「私たち宛に?......それってもしかして...」
「はい、先日の試験の合否通知ですよ」
そう言って私は棚からしまっていた封筒を取り、テーブルの上に置いて二人に見せます。
「これがその封筒です。今開けて見ますか?」
「うん!見たい!合格したのか気になる!」
「俺も見るよ、早く結果が知りたかったしね」
二人はそれぞれ自分の名前が書いてある封筒を手に取り、丁寧に開けて中に入っている折られた紙を取り出しました。しかし、そこから指が動かずなんとも言えない時間が経過していき、なんだか私も緊張してドキドキしてきました。
「ど、どうしたんですか...?見ないのですか?」
「いや、そうなんだけど、いざ見るとなると怖くて....」
「私も....急に不安になってきちゃって...」
「そうですか、しかし見ないとずっとその状態ですよ。もうバッと見ちゃいましょう」
その言葉を聞いた二人は覚悟を決めたそうで、一斉に折られた紙を勢いよく開きました。そして恐る恐ると言った感じで二人がその内容を呼んでいくと、二人の表情が次第にきらきらとし始めました。
これはもしや....と思っているとレインとアリアが声を上げました。
「やったよ母さん!合格したよ、しかも首席で!」
「私も合格したよ!主席はレインに取られたけど次席だって!」
「!!!!!」
レインたちの試験の結果を聞いて、私は自分のことのように嬉しくなってしまい二人を抱きしめ持ち上げ、その場でクルクルと回ってしまいました。
「あぁ!素晴らしいです二人とも!まさか、首席と次席で合格してしまうなんて!あなたたちは私の誇りです!」
「うわぁ!ちょ、ちょっと母さん降ろして!」
「あはは、グルグル回るの楽しい!」
しばらくの間そうしながら、一旦落ち着いたところで二人を降ろして私も内容を読みます。
そこには二人の魔法、座学共にトップレベルの成績を取ったため首席と次席にすると書かれていました。どうやら座学の試験で僅かにレインの方が点数が高かったため、レインが首席のようです。
「改めて、レイン、アリア本当におめでとうございます。お母さん、嬉しいです」
「合格できたのも、母さんのお陰だよ。ありがとう」
「うんうん!お母さんのためにも絶対合格したかったからね」
「何を言っているんですか、二人が頑張って努力したからこそのこの合格でしょう、もっと自分を褒めてください」
「自分を褒める.....そうだね、ここまで頑張ったんだからもっと誇ってもいいよね」
「よ〜し!よく頑張った、私!レイン!学園でも頑張るぞ!」
そうやって三人で合格を喜んだ後、私は合格が書かれた紙をもう一度よく見てからアイテムボックスから額縁を取り、紙に保護魔法をかけてから額縁の中に入れました。
「また、思い出が一つ増えましたね。これから更に増えていくのでしょうか」
「お母さん何やってるの?」
「多分俺たちが合格した記念にその紙を飾ってるんだよ」
「そうですよアリア、ここには三人の思い出を沢山飾る予定なんですよ」
「じゃあ、これからもっともっと増えていくんだね」
「ここに飾れるような賞とかも取らなくちゃだね」
それからはいつもと変わらない日常を送り、レインとアリアに魔法や神気、戦闘技術などを指導して昼食を摂ってから
、今度は学園の入学前にやっておかなければならない事について話し合いました。
封筒には合格が書いてある紙の他にもう一枚あり、そちらには入学前に必要なものや制服の案内なども書いており、レインの紙にはまた別のことが書いてありました。
「レインは首席合格ですから、入学式の際に新入生代表挨拶をしなくてはいけません。なので早いうちに読む内容を考えておかなければなりません」
「へぇ〜、首席になるとそんなこともしなくちゃいけないんだね」
「代表挨拶か、どんなこと言えばいいのかな?貴族の人たちも聞くだろうから、あんまり偉そうなことは言えないよね」
「自分の思ったことを言えばいいのですよ。レインがこの学園で何をしたいのか、どのような人間になっていきたいのか、それを自分の言葉にして話せばいいんです」
「自分の言葉でか....少し考えてみるよ、まだ入学式まで時間はあるし。あとは何かあったっけ?」
レインは少し悩んだ後にもう一度考えてみると言いましたが、目を見ている感じだともうある程度何を話すかは決まったようです。
紙をもう一度読んで、内容を確認してから二人に話します。
「あとは、教科書の購入についてと制服の準備ですね。こちらは王都に行って、指定のところで買わなくてはいけないらしいです」
「制服ってあれだよね!ちょっと白っぽくて可愛いやつ!何度か王都で見たことあるから、前からいいな〜って思ってたんだよ」
「あ〜、あれか、たしかに綺麗な制服だったね。王都の学校だから制服もすごいな〜って思ってたけど」
「その制服ですね、今度教科書と制服を買いに王都まで行かなくてはいけませんね。いつ行きましょうか?」
「明日でいいんじゃない?急いでる訳ではないけど、そういうのって早めに準備したほうがいいと思うし」
「それもそうですね、早く準備して入学式まで余裕を持ちましょうか。アリアもそれでいいですか?」
「うん、私も大丈夫だよ〜。ていうか早く制服着たい!」
ということで、明日王都に行き教科書と制服を買いに行くことに決定しました。売っている場所も紙にちゃんと書いてあったのでスムーズに買えると思います。
「では、午後は軽くやって早めに終わらせて、明日に備えましょうか。じゃあ外に出ますよ」
「は〜い」
「分かったよ」
午後も二人と一緒に魔法の指導をし、ある程度のことをやったところで切り上げ、本を読んだり話したりしながらゆっくりと過ごしました。
晩御飯は三人で作って食べたりして、そこからお風呂に入り夜を迎えました。
そして、例のごとく今日は私の部屋で仲良く並んで寝ました。
朝起きたらアリアが私の胸に顔を沈めながら幸せそうに寝ていましたが.....
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第二十六話 入学準備 前編
合格通知書が届いた翌日、私たちは早速学園で必要なものを買うために王都へと来ました。
「さて、まずは教科書の方を買いに行きましょうか」
「ん〜?なんで制服じゃなくて教科書なの?」
「それはですね、制服は採寸をしてからサイズを決めなければならないので時間がかかるのです。ですから先に買うだけで済む教科書にするのです」
「なるほど〜」
「場所はどこだっけ?もらった紙に書いてあったよね?」
「はい、書いてありましたよ。どちらも学園に行く際の通り道にあるようです」
「あ!そういえば服とか置いてあるお店あったかも!きっとそこだよ!」
「近くに本屋なんかあったのか、面白い本ないかな....」
三人でお喋りしながら王都の中を歩いて行くと、人が多く賑わっている場所につき、紙に書いてある案内を見ながら進んでいくと周りに比べてさほど大きくない建物に着きました。
窓ガラスから中を見ると大量の本が所狭しと置いてあったためここで間違いないと判断し中に入りました。
カランカラン
「あれ、誰もいない?」
「静か.....」
「すいません、誰かいませんか?教科書を買いに来たんですけども.....」
「あぁ、すいません。少々お待ちください」
中に入っても人の気配がしなかったため少し声を大きくして出すと、お店の奥の方から声がし、白い髭を生やした温厚そうなお爺さんが本を両手に抱えながら出てきました。
「よっこいせ、ふぅ、お待たせいたしました。本日はどうされたんですか?」
持っていた本を近くの机に置きながら私の方を向き、対応をしてきました。
「えっと、今日はこの子たちの教科書を買いに来たのですが、ありますでしょうか?」
「教科書?あぁ!ガルレール学園のですかな、お二人とも合格なさったので?」
「えぇ、とても頑張っていたものですから、無事合格することが出来ました」
「しかも、私が次席でこっちのレインが首席なんだよ!」
「おい、アリア、あんまり言わないでよ恥ずかしい...」
「主席と次席!?それは誠ですか.....?」
アリアの発言に目の玉が飛び出るほど驚いたお爺さんは、さすがに嘘の可能性もあると判断したのか、二人の保護者である私に確認の意味を込めて目を向けてきました。
その目線に私はフードの中で苦笑しながらも頷き、嘘ではないことを伝えました。お爺さんは心底驚いたという顔をしながら言葉を発しました。
「これは驚きましたな、首席と次席の方が私の店に来るとは.....しかも兄妹で.....すぐに準備させていただきます、お掛けになってお待ちください」
そう言ってまたお店の奥へ消えていき、私たちは近くにあった椅子に座り戻ってくるまで待つことにしました。
「アリア、あんまり首席とか次席とか言わないでよ、なんか嫌だし言いふらしたくないし....」
「えぇ~、でもやっぱり言いたいじゃん、せっかくなれたんだし」
「気持ちはわかるけど.....でもさ~」
「自慢することも別に悪いことではありませんが、ずっと言い続けることはあまりよろしくはありませんよ。いつか足元を掬われてしまいますからね」
「うぅ、そっか、あんまりよくないことなんだね、気を付ける....」
「!で、でも、そうやって自分の気持ちを素直に言えることはアリアの良いところでお母さん好きですよ!」
「そ、そうだよ、全くしちゃダメってことじゃなくて、し過ぎなければいいんだよ!」
私が少し注意すると悲しそうに顔を俯かせてアリアが声を出したので、慌ててレインと一緒に声を掛けフォローをしました。
(うっ、やっぱりアリアのこの表情には弱いです.....)
「お待たせいたしました、こちらがガルレール魔法学園で使用する教科書になります」
そんなやり取りをしているとお爺さんが戻ってきて教科書を机の上に置きました。
「あ、ありがとうございます。全部でいくらになるのですか?」
「いえ、お代はいりませんよ。ガルレール学園に受かった人は教科書と制服は無償なんですよ」
「え!そうなのですか、知りませんでした。では、これはそのままいただいても....」
「はい、問題ありません。お二人も、これからのご活躍を期待していますよ」
「ありがとうございます。では、これで失礼します。行きますよ、レイン、アリア」
「は〜い」
「.........」
「レイン?」
用が済んだため、お店を出ようとするとレインの反応が無かったため、どうしたのかと思い見てみると、レインは一冊の本を手に取って止まっていました。
「そちらの本が気になるのですかな?その本は大昔に存在したと言われている女性剣士の話が書かれているものなんですよ」
「女性剣士?」
「そうです、絹のように綺麗な銀髪を持ちとても美しい女性でありながら、数々の強大な魔物を倒していったとされる英雄の一人ですね」
「その人って.....」
レインが呟き私を期待するような目で見てきました。おそらくというか絶対だと思いますが、私のことですね。
「気に入ったのならそれも持っていっても構いませんよ」
「え!?いいんですか!」
「あの、本当にいいのですか?お金ならきちんと払えますが」
私がそういうと、お爺さんはにっこりと笑い自身の髭をいじりながら言いました。
「いいんですよ、私もその本が好きでしてね、だから是非とも読んでもらいたいんですよ」
「そうなのですか、なら有り難くいただきます。ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございました!」
私とレインはお爺さんに頭を下げ、何故かアリアも一緒に頭を下げてお礼を言い、それからお店を出ました。
「教科書と本が買えた......いえ、もらえたことですし次は制服の方は行きましょうか」
「制服着るの楽しみだな〜、早く行こう!」
「この本、帰ったらじっくり読もう。ここに書いてある人ってきっと母さんのことだよね?」
「あ、それ私も思った!特徴がすごく似てるもん!」
「あはは、多分そうでしょうね、なんだか気恥ずかしいです」
教科書と本をアイテム袋にしまってから今度は制服を売っているお店に向かいました。
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第二十七話 入学準備 後編
「制服はこのお店ですね、とても大きいお店ですね。なんというか貴族用という感じがします」
「ほんとだね、でも前にもこんな見た目のお店入ったことあるけどね」
「あぁ、あったねそんなこと。あの時は緊張したな〜」
「ふふ、これからもこういう所に沢山来るかもしれませんよ」
目の前の建物はルクスの街で寄った服屋よりも大きく、中も少し豪華な装飾で彩られていました。看板を見るとお洒落なフォントで『フェルゴール』と書かれていました。それは二人が今着ている服と同じ、私たちがよく利用するお店の名前と一緒でした。
「フェルゴール、ですか。ルクスの街にもありましたね、もしかしてここが本店なのでしょうか?」
「フェルゴールっていつも行ってるとこの?」
「王都に本店があったんだな、道理であの店が高い訳だよ」
「え、あれは高いのでしょうか?」
「はぁ、ずっと思ってたけど母さんの金銭感覚っておかしいよね」
「うん、それは私もそう思うよ.....」
あの金額が高いのかどうか疑問に思っていると二人から呆れられてしまいました。物価は基本的に確認はしていたのですが、前の感覚が全く抜けていないようです。
二人の視線から逸らしながらお店の中に入ります。カジュアルな服からドレスのようなものまで、さまざまな種類の服があり、色々と目移りしてしまいます。
「いらっしゃいませ、本日はどうされましたか?」
早速女性の店員さんに話しかけられたので、来た目的を簡潔に話します。
「今日はこの子たちのために、ガルレール学園の制服を用意してもらいたいのです。お願いできますか?」
「ガルレール学園に....合格おめでとうございます。ただいま用意をさせていただきます、採寸を行いたいのですがお子様を預からせてもらっても大丈夫でしょうか?」
「はい、問題ありません。レイン、アリア私は外で待っていますから終わったら呼んでください」
「は〜い」
「わかったよ」
二人はしっかりと返事をしてから採寸をしに行きました。私は特にすることはないのでなにをしようかと思っていると先程の店員さんがこちらに来て言いました。
「よろしければお母様も服を選んではどうでしょうか?入学式に出るのでしたらなにかご用意しますよ」
「え、私の服....ですか?そうですね、でしたらお願いできますか?」
私は現在持っている服で入学式に行こうと思っていたのですが、せっかくなら新しい服で二人の晴れ舞台を見たいと思いお願いする事にしました。
「畏まりました。それでは採寸を行いますのでお母様もどうぞこちらへ、お子様は別の者が測っておりますので、お母様は私が測らせていただきます」
店員さんの後に続く形で私もお店の奥に行き、レインたちはいなかったですが少し広めの試着室に入りました。中に入ると店員さんがメジャーを持っていたので測る前に聞きました。
「今着ている服は脱いだ方がいいでしょうか?」
「いえ、着たままで構いませんが、そのローブは脱いでくださると助かります」
「分かりました、今脱ぎますね」
言われた通りフードを取りローブを脱ぎます。それから脱いだローブを綺麗に畳んでから近くに置き、店員さんの方を向きました。
「はい、脱ぎました。あの、大丈夫ですか?」
「え.....あぁ!大丈夫です、すみませんとても綺麗な方だったもので、今測りますね」
固まっていた店員さんは私に声をかけられてから動き出し、メジャーを使って私の腰まわりと胸まわりを測りました。
すると何故か急に下を向きブツブツと呟き始めました。
「腰まわりはこんなに細いのに、胸まわりはすごく大きい.....同じ女として羨ましすぎるっ!私はこんななのにっ」
「........」
今のは聞かなかったことにしました。確かに彼女の胸は平均的に見ても小さい気がしますが.....
「それでは、採寸が終わりましたのでサイズが合う服をお持ちいたしますね」
「は、はい、お願いします....」
店員さんはそのまま店の中へと行き、しばらくしてから服を両手に何着か持って、こちらに戻ってきました。
「お母様のサイズですとこの辺りの服になるのですが、お気に召すものはありますでしょうか?」
「そうですね.....と言っても主役はあくまでも子どもたちですからあまり目立つものはダメですよね」
「それでしたらこちらなんていかがでしょう?目立つ色でもありませんし、お母様にとても似合うと思いますよ」
そう言って彼女が手に取ったのは、薄い灰色のワンピースで腰の部分を布で締めるタイプのものでした。私は早速そのワンピースを受け取り、その場でそれを着ました。
鏡で見ると変に目立つこともなく私にも似合うものだったため、私はこれにする事を決めました。
「いいですね、気に入りました。これでお願いします」
「畏まりました。では、こちらを準備しますので隣の試着室へ行ってください、お子様がいるはずですので」
「分かりました、ありがとうございます」
レインとアリアが隣にいると言われたので、着替えてから隣の試着室へと向かいました。私が試着室に入ると二人はちょうど試着をしているところで、鏡で姿を確認していました。
「レイン、アリアどうですか?ちゃんと着られましたか?」
「あ、お母さん!見て見て、どう?」
「アリア、急にそんなに動いちゃダメだよ」
私に気付いたアリアがこちらまで来て、その場でくるりと回り、そんなアリアをレインが注意していました。
二人は黒色のワイシャツの上から白色のブレザーを着て、下は白色のズボンとスカートでした。これからを見越してなのか少し大きめのものを着ていて、二人ともとても似合っていました。
「二人とも、とても似合っていますよ。なんだかいつもとは違う雰囲気を感じますね」
「えへへ、そうかな〜」
「これ着るとなんか意識が変わる感じがするよ」
「お二人のサイズも測り、ご覧の通り試着もしているので、あとはお母様の確認だけなのですが、よろしいでしょうか?」
「えぇ、問題ないです。用意してくださりありがとうございます」
「いえいえ、これが仕事ですから。お二人とも制服を脱いで私に渡してくださいね」
それから、レインとアリアは制服を脱ぎそれを受け取った店員さんは別の場所へと行ったので、私たちもお店の元の場所に戻りました。
「そういえば、隣から母さんの声が聞こえたけど、母さんも何か買ってたの?」
「そうですよ、二人の入学式に行く際の服を買わないかと言われたので、私もサイズを測ってたんですよ」
「え!お母さんも?どんな服を買ったの?」
「あまり目立たない薄い灰色のワンピースですよ、あなたたちが主役なのですから」
「私もお母さんの姿見たかったな〜」
「どうせ入学式の時に見れるから大丈夫だよ」
しばらく話しながら待っていると、先程私の服を用意してくれた店員さんが制服とワンピースを持ってやって来ました。
「お待たせいたしました。こちら制服とワンピースになります」
「ありがとうございます。代金はいくらになりますか?制服はお金がかからないのですよね?」
「はい、そうですが一応確認のため合格証明書を見せて頂くことは可能ですか?」
教科書を買った時に代金はいらないと言われたので聞いたのですが、どうやらこっちではきちんと確認が取れてからではないと無理らしいです。
なので私は、アイテム袋から二人分の合格と書かれた紙を取り出して店員さんに渡しました。
「大丈夫ですよ、少し待ってください.....はい、こちらがその紙です」
「ありがとうございます、確認させていただきます。レイン様にアリア様ですね.......っ!しゅ、首席に次席合格!?兄妹で!?」
「あぁ、やっぱりそんな反応になるんだね」
「んふふ、なんだか嬉しいね!」
「はっ!すみません取り乱してしまいました。お二人ともとても優秀なのですね、ありがとうございます確認が取れたのでもう大丈夫です」
「あはは、そんなに驚かれる事なのですか?」
さすがに連続でここまで驚かれると気になってしまうので聞いてみることにしました。
「それはもちろん、首席や次席は殆どが高名な貴族の方がなれるものです。稀に他の方もいるらしいですが数は少なく、それに兄妹で首席と次席を取るだなんて聞いたこともありません」
「なるほど、そうなんですね。だからそんなに驚かれたんですね」
首席や次席を殆どが貴族が取ると聞いて不思議に思うと同時に納得もしましたが、驚く理由は理解しました。やはり私の息子と娘はとても優秀な子たちらしいです。
「はい、それにしてもこれからのお二人の活躍が楽しみですね。制服の代金は大丈夫ですが、お母様のワンピースの方の値段は金貨一枚になります」
「分かりました......はい、金貨一枚です。今日はありがとうございました」
「「ありがとうございました」」
「いえいえ、これが私どもの仕事ですから。またのお越しをお待ちしております」
私のワンピース分の代金を支払ってから制服とそれをアイテム袋に入れお礼を言ってからお店を出ます。
「ふぅ、とりあえず教科書と制服は買えましたね。どうですか二人とも、お腹は空きましたか?」
「う〜ん、少しだけ.....」
「俺もだね....」
「では、ここで何かを食べてから家に帰りましょうか。行きますよ二人とも」
辺りが少し暗くなってきたのでレインとアリアにお腹が空いてないか聞くと空いていると言ったため、私は二人を連れて飲食店でご飯を食べてから帰りました。
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第二十八話 入学式
暖かい春の日差しの中、私はガルレール学園の入学式に行く前に最終確認を行っていました。
「二人とも準備は出来ましたか?もうそろそろ出発しますよ」
レインとアリアがいる二階に声を掛けると返事が返ってきましたが、降りてきたのはレインだけでした。
「は~い、ちょっと待っててっ」
「俺は大丈夫だけど、アリアがちょっと準備にとまどってる」
「あはは、そうですか、なら待ちましょうか。代表挨拶で話す内容はどうですか?覚えましたか?」
「え?あぁ、うん、完璧に覚えたわけじゃないけどある程度は暗記したよ」
「ふふっ、それなら安心ですね。楽しみにしていますよ」
レインは今日首席合格者ということで、入学式で新入生代表挨拶をすることになります。学園側が準備したものを読むという選択肢もありましたが、レインはそれを断り自分で一から書きあげて完成させました。
私も一度聞きましたが、中々によく書けているものだったと思います。
それから少し待つとアリアもこちらにやって来ました。二人とも先日買った制服を着こなし、ピシッと立っており、制服を着ている二人はとてもかっこよくて綺麗で、どこからどう見ても美少年、美少女です。
「二人ともよく似合っていますよ、立派なガルレール学園生です」
「えへへ、ありがとう。お母さんもすごく似合ってる!なんかお姫様みたい!」
「たしかにそうだね、母さん、すごい綺麗だよ」
レインとアリアがとても褒めてくれました。今の私は二人の制服を買いに行ったときに一緒に買ったワンピースを着ており、軽く化粧もしています。せっかくの子どもたちの晴れ舞台なので、少し気合を入れてしまいました。
「ありがとうございます、そう言っていただけると買ったかいがありました。では、アリアも来たことですし出発しましょうか」
―――――――――――――――――――――――――――
王都に着き学園へ向かうと、学園は大勢の人で溢れていました。学園の生徒に新入生、そしてその保護者などがいました。
私はここから会場となる講堂へと行き、レインとアリアは教室の方へ向かいます。つまり、ここで別れると二人とはもう気軽に会えなくなってしまいます。
今日から二人は寮で同級生たちと生活をしだし、さらに成長していきます。少し寂しい気がしますが、二度と会えないわけではないので耐えられます。
「さぁ、ここで一度お別れですね。大丈夫ですか、二人とも?」
レインとアリアもそのことをしっかりと分かっているのか、顔を少し俯かせています。入学式で、しかも首席と次席がこんな顔ではいけないと思い、私はしゃがんで二人を抱き寄せます。
「もう、そんな顔しないで下さい。あなたたちは今日からこの学園の生徒なんですよ?ここで多くのことを学び成長していくはずです。それに、これが今生の別れではありません。私は成長した二人の姿を楽しみにしています」
「母さん......」
「お母さん.....」
二人が顔を上げたので、私も二人を離し目を合わせて笑って言います。親が子どもを送るときの言葉を.....
「ですから、行ってらっしゃい、レイン、アリア」
「っ!うん、行ってくるよ母さん!」
「私も!行ってきますお母さん!」
レインとアリアは私に向かって笑ってそうはっきりと言ってくれました。
それから二人と別れ、私は講堂の方へ、レインとアリアは教室の方へと向かいました。
「すいません、今日入学するレインとアリアの母ですが、入っても大丈夫でしょうか?」
「レイン、アリア....あなたがあの首席と次席の....はい、問題ありません、お入り下さい」
「ありがとうございます」
「あ、申し訳ないのですが、中ではそのフードを取っていただけると助かります」
講堂の前へと着き、受付をしてから中に入ろうとしましたが、入る前に受付の人に顔を隠すために被っていたフードを取るように言われました。たしかに入学式でそれはまずいと思うので、了承します。
「分かりました、席に着いたら取らせていただきます」
そのまま中を進んで行き講堂の二階の席に座ります。それから受付の人に言われた通りフードを取ります。今から二人の入場が待ちきれませんでした。
しばらく式の時間が来るまであたりを見ながら待っているとあることに気が付きました。
「あら、私の周りに誰もいません。他の席は埋まっているのに.....はぁ、フードを取ったからでしょうか?」
私の席の周りだけ、まるでごっそりと刈り取ったかのように空席が残り、それ以外の場所では、他の人たちが続々と座っています。さすがにまずいのではないかと思い、席を立って今いる位置とは違う上の端っこのところにちょこんと座り直しました。
すると先程いたところが新しく来た人で埋まっていったのですが、依然として私の左側は席が空いており、心の中で頭を抱えていると凛とした綺麗な耳に心地いい声がしました。
「失礼します、お隣よろしいかしら?」
「あ、はい、大丈夫ですよどうぞ」
「ありがとうございます」
そう言って隣に座ったのは薄い紫色の髪が艶やかな綺麗な女性の方でした。装いや立ち振る舞いもとても洗練されたもので一目で上流階級に位置する方なのだと分かりました。
「まずは自己紹介を、私名前は....テレサとお呼び下さい。あなたは?」
「私はシェリアと言います。初めましてテレサさん」
『ね、ねぇあれってもしかして』『おそらく...そうですわね』『隣にいる方は誰なんでしょう?』
隣に座った女性はテレサさんと言い、自己紹介をしてきたので私も自分の名前を名乗りました。なんか他の人がコソコソと話していましたが、距離があるため聞こえることはありませんでした。
「では、シェリアと。シェリアの周りには見事に人がいないのね」
「え、えぇそうなんですよ、なんでこうなってしまったのか.....」
「あなたがとても綺麗だからよ、どこかの王族と言われても信じてしまうわ」
なんだか急にテレサさんの口調が砕けましたが、特に言うことでもないので会話を続けます。
「王族だなんて....私はただの平民ですよ。それよりテレサさんの方が王族に見えますよ、私は」
「え?ふふっ、そうかしら、それは嬉しいわね」
何か含んだように笑ったテレサさんでしたが、それ以上何も言うことはなく、今度は話を変えてこれから来る子どもたちについて話しました。
「シェリアの子どもたちは確か首席と次席なのでしょ?凄いわね、私も娘が入るのだけれどそこまでの成績は取れなかったわ」
「ど、どうして私の子どもたちの結果を知っているのですか?」
「私の娘がどうしても気になるって言うものだから調べてもらったのよ。それであなたたちのことを知ったわ」
試験の結果を知ろうと思えば知る事ができる....テレサさんは私が思っていた以上に権力のある方だったようです。少しテレサさんに対して意識を変えようと思いました。
「そ、そうですか。それは、なんというかとても....」
「そんなに固くならないで?私も純粋に気になって調べただけなのだから。あら、そろそろ式が始まるそうね、静かにしていましょうか」
テレサさんと会話を続けていると、講堂全体が暗くなり他の保護者の方もシンと静かになりました。
それからファンファーレが響き渡り、今年の新入生たちが続々と講堂に入ってきました。
すぐさまレインたちの姿を探すと先頭にレインが、そして真ん中の方にアリアがいました。二人とも緊張して周りを見る余裕がないのか私には気付きませんでした。隣のテレサさんは笑って手を振っていました。
「気付いてくれたのですか?」
「えぇ、私の方を見て笑ってくれたわ、シェリアは?」
「二人ともこういう事が初めてで緊張しているようで、私には気付きませんでした」
それから全員が席に着きついに入学式が始まりました。式は着々と進んでいき、学園長である老齢の男の人が新入生にこの学園について話し、在校生代表による歓迎の言葉が終わった後レインの番が来ました。
「続きまして、新入生代表挨拶、首席入学者。レイン」
「はいっ!」
レインが返事をしてから、席を立ち壇上に上がりました。
「中々にカッコいい子だけど、あなたにはあまり似てないわね」
「あぁ、それは二人が私の実の子どもではなく、拾い子だからですね」
「あら、そうだったの。それはごめんなさいね」
「いえ、大丈夫ですよ。私にはそんなこと関係ありませんから」
「ふふっ、シェリアはいい母親ね....」
壇上ではレインが懐に入れていた紙を取り出し、広げてから話し始めました。
「暖かな春の訪れと共に、私たちはガルレール学園の新入生として入学式を迎える事ができました。私はこの学園で沢山の仲間たちと共に切磋琢磨し成長していきたいと思っています。
これからの生活が楽しみで仕方ありません。私にはいつか追いつきたいと思っている人がいます。それは、母です。母は優しく、強く、私の永遠の目標です。この学園で生活を送っていき、尊敬する母に少しでも追いつき、母に誇れる自分でありたいと思っています。
ガルレール学園の生徒という自覚を持ち、これからの規律、マナ ーを守り、勉学に励むことをお約束し、新入生の言葉とさせていただきます」
聞いていて思わず泣いてしまいそうになってしまいました。あのレインがここまで立派になったと思うと感動してしまい、涙が溢れてしまいます。
それから講堂に惜しみなく拍手が送られ、レインは壇上を降りて元の席に座りました。新入生代表挨拶最後に入学式が終わり、生徒たちが講堂を退場し始めました。
私も拍手をして送っているとレインとアリアが私に気付いて、二人とも笑顔で手を振ってくれたので、私も心からの笑顔で手を振りました。
「シェリア、気持ちは分かるけどその表情はやめた方がいいわ、何人か倒れているわ」
「え、えぇ?わ、分かりました」
テレサさんが何を言っているのか分かりませんが、言われた通りにします。
新入生が退場した事で、私たち保護者も続々と退場し始めました。私は端っこの方にいたので前の方が出るまで待ちます。
人が減ってそろそろ出ようとするとテレサさんから話しかけられました。
「シェリア、今日はありがとう。私はここでやらなくてはいけない事があるから、また今度ゆっくり話しましょう」
「はい、私もありがとうございました。その時は是非ともよろしくお願いします」
テレサさんはそのまま別の場所へと歩いて行ったので、私もフードを被って講堂の外へと出ます。
これからレインとアリアには会えなくなってしまいますが、それ以上に再び会った時二人がこの学園でどのように成長していったのかを見ることが楽しみになりました。
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第二十九話 二人がいない日
入学式の翌日の朝、いつもと変わらない時間に私は目を覚ましました。寝間着から普段着に着替えて一階のリビングへと降り、慣れた手つきで朝ごはんを作ります。
何気なく料理をしているとあることに気付きました。
「やってしまいましたね、いつもの癖で三人分の朝ごはんを作ってますね、これは」
一人で食べるにはだいぶ多くの食材を作っている事に気付き、いないレインとアリアの分のものまで作っていました。
今から料理をやめることも出来ないため、一度全部作り終えてから自分の分だけ食べて、残りはアイテムボックスに入れてまた今度食べることにしました。
それからすることもなく、なんとなく部屋の掃除をし、二人の部屋の中にも入り整理をし始めました。
「あら、ここにあった二冊の本がなくなっています.....もしかして二人が持って行ってしまったのでしょうか?」
棚を整理しようとすると、本が置いている場所に見覚えのある二冊の本が見当たりませんでした。
一つはアリアに初めて読んで欲しいと言われ読んだ昔の私がモチーフにされている絵本、そしてもう一つは先日教科書を買いに行った時に一緒に買った、これまた昔の私のことを書いた本でした。
「二人にとって、あれは大切なものだったのですね。二つとも私の事が書かれている本というのは少し恥ずかしいですが....」
その後も掃除や整理を続け、家の中全てが終わるとリビングに戻り、お茶を淹れて一息つきます。
いつもは何かしら賑やかな家の中が、今日は嘘のように静まりかえり物寂しい気持ちになってしまいます。
「レインたちと出会う前は、いつもこんな感じだったんですけどね....」
二人と出会う前のことを思い浮かべ、今ではありえないことだなと考えていると、このまま何もしないのはダメだなと思い始めました。
「二人は今日から学園で頑張っていくんですから、私もその分頑張らないとですね。よし、決めました....もう一度冒険者を本格的にやりましょう!」
椅子から立ち上がって胸を張ってそう言いました。二人から尊敬される母親でいるためにもなにかを成し遂げた方が良いと思い決めました。
「以前ランクアップの話の時も断ってしまいましたし、今回は遠慮なんかせずどんどん上げていきましょうか」
早速準備.....といっても持ち物は全て持っているのですぐに転移魔法を使って冒険者ギルドへ向かいます。
―――――――――――――――――――――――――――
王都の中を真っ直ぐと進んで行き、ギルドに着いてから勢いよく扉を開けてギルドの受付へと向かっていきます。
受付へ行くといつも通りソフィさんがそこにおり、私に気付くと笑顔で話しかけてきました。
「こんにちはシェリアさん、お子さんの試験の結果はどうでしたか?」
「こんにちはソフィさん、それについては問題なく合格出来ましたよ。しかも首席と次席です!」
「はぁ〜〜、首席と次席ですか....さすがはシェリアさんのお子さんですね」
「ありがとうございます、私の自慢の子どもたちです。今日は一つお話がありまして....」
ソフィさんの驚く顔が見たくてついつい自慢をしてしまいましたが、想像通りの表情が見れたことに満足し、私は今日来た目的について話すことにしました。
「お話ですか?一体なんでしょう?あ、もしかして遂に冒険者を本格的にやるという事ですか!」
「えぇ、そのまさかです。以前は断ってしまいましたが、子どもたちは学園に行きましたしそろそろランクを上げたいと思います」
「えぇ?!本当ですか!今すぐギルドマスターに伝えてきますので少々お待ちください!」
そういうや否やソフィさんはダッシュでギルドの奥へと消えました。今のやり取りを見ていた他の冒険者からの視線を受けながら待っていると聞き覚えのある声に話しかけられました。
「ん?そこにいるのはシェリアじゃないか、久しぶりだな何をしているんだ?」
声を掛けてきたのは初めて会った時と変わらず紅蓮の髪を後ろに一本結びにしている女性、ジルさんでした。最初会った時よりも大人の雰囲気が出ており、実力もこの四年間でさらに伸ばしているAランクの冒険者です。
「ジルさんですか、こんにちはお久しぶりです。今はギルドマスターのところへ行ったソフィさんを待っているんです」
「ギルドマスター?なぜソフィが彼のところへ?」
「実は今日から本格的に冒険者を始めてランクを上げて行こうと思いまして、それをソフィさんに言ったら走って行ってしまいました....」
私が説明すると少し苦笑いをしたジルさんでしたが、その後は何故か嬉しそうに笑って腕を組み、ウンウン頷きながら話しました。
「そうかそうか、シェリアもやっとランクを上げるんだな、推薦したのに全くギルドに来ないからどうしたのかと心配してたんだぞ」
「うっ、それはなんと言いますか....少し事情がありまして....」
ジルさんにそれを言われてしまうと反論が出来ないため、理由を説明しようとすると右手の手のひらを私に向け、首を横に振りながら私に言いました。
「いや、いいんだ、勝手に推薦したのはこちらであるし、二人の子どもがいるんだろう?それなら仕方ない」
「そう言っていただけると私も気持ちが楽です。ジルさんは依頼を受けに来たのですか?」
「いいや、今日は休みだ。今度依頼で王都を離れるためその前の準備と確認をするために来たんだ」
「そうなのですか、気を付けて下さいね」
「あぁ、それはもちろんだ。シェリアもこれから冒険者をやっていくなら十分気を付けろ、と言ってもブラックミノタウロスをソロで倒すような奴には無用な心配か?」
ジルさんが私のことを心配してくれましたが、最後にニヤニヤしながら揶揄うように言ってきました。私もそれを言われピクリと反応してしまい、ジルさんに聞きました。
「やめてくださいよ、というよりも何処から漏れてるんですか、その情報」
「割と有名な話だぞ、フードを被った女がブラックミノタウロスを単騎で討伐したとな、新たなSランク冒険者の登場だとも言われていたな。私も初めて聞いた時は驚いたぞ」
それからジルさんとしばらくたわいもない会話をしていると、受付の奥からソフィさんが急いで戻ってきました。かなり急いだようで少し息を切らしています。
「シェ、シェリアさん....お待たせ...しました。奥にギルドマスターがいますので.....案内します....」
「ソフィさん....なにもそこまで急がなくても、ジルさん私はもう行きますので今日はこの辺で」
「そうだな、久しぶりに話せて楽しかった、また今度ゆっくり話そう」
ジルさんはそう言って別の場所へ行ってしまいました。私もソフィさんの方へ振り返りギルドマスターの方へと向かいます。
「あれ、ジルさんもいたんですね、気付きませんでした...」
「ソフィさん、案内してくれるのでしょう?はやく行きましょう」
奥へと進んで行き、以前入った時と変わらない扉に着き、ソフィさんがノックをしてから後に続くようにして中に入り、ギルドマスターであるアントンさんに会います。
「よぉ、久しぶりだなシェリア。まぁそこにかけてくれ」
中に入るともうすでにアントンさんがソファに座っており、向かいのソファを指差しながら座るよう言っています。
私は言われた通りにソファへと座り挨拶をします。
「お久しぶりです、アントンさん。いきなりすみません」
「いいんだよ、お前がランクを上げたいと言ってきたら俺も無視出来ないからな。で、早速ランクの話なんだが、さすがに今すぐ上げるというのは出来ない、すまねぇな」
アントンさんが謝ってきますが、私もそんな今すぐ上げられるとは思っていなかったので別に怒ったりはしません。
「いえ、いきなり上げられるとは思っていませんでしたから。やはり何か依頼をこなさないとダメですか?」
「そうだな、何か一つレベルの高い討伐依頼を達成すれば、Bには上げられるな、そこからさらに依頼をこなしていけばAもすぐだろうさ」
「では、何か丁度いい依頼などはありませんか?あるのでしたら今すぐ行ってきます」
そう言うと、ソフィさんが私に一枚の依頼書を渡してきました。内容を読んでみると、それはワイバーンの討伐依頼でした。
「最近、王都の近くの森でワイバーンが頻繁に目撃されているんです。本来ならパーティで挑むような依頼ですが、これならランクを上げる事が出来ますし、シェリアさんなら問題ないと思います」
「という事だから、この依頼を達成できればこちらも文句なしにBランクには上げる事ができる、やるか?」
アントンさんがニヤリとしながら聞いてきますが、答えは決まっています。
「もちろん、受けさせていただきます。すぐに終わらせて来ますので待っていて下さい」
「よし、それなら後の手続きはこっちでやっとくからお前はもう依頼に行っちまえ、お前にはAランクを超える素質があるからな」
「気を付けてくださいね」
その後のことをソフィさんたちに任せて、私はギルドを出てから討伐対象がいる森の奥に向かいました。
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第三十話 ランク上げ
王都を出てから転移魔法で森まで向かい、移動してからあたりを確認します。
「ワイバーンの目撃場所は森の奥でしたね、崖のところにでもいるのでしょうか?」
しらみ潰しに探しても日が暮れてしまうため、こういう時に便利な魔法である探査魔法を使います。
「ん~、いましたが....かなり奥の方ですね、走りましょうか」
魔力を足に込めて森の中を駆け抜け、しばらくしてからワイバーンの反応があったところまで着きあたりを見渡すと、崖の途中の穴のところに腕と翼が一緒になっている四足歩行の魔物、ワイバーンがそこにいました。
「ピシャオーンッ!!」
そのワイバーンは私を目で捉えると勢いよく咆哮し、その咆哮によって近辺にいた別のワイバーンたちを呼び寄せ、全部で十体を越えるほどのワイバーンたちが来ました。
全員が捕食者の眼で私を見ており、しばらくは見つめ合っているだけでしたが、二体のワイバーンが飛び上がり私に向かって突っ込んできました。
「急に来ますか....いつもでしたら躱してから反撃をしますが、今日は正面から受けて立ちます!」
私は剣を取り出し、そのまま向かってくるワイバーンをその場で受け止めました。防御魔法と剣を使って完全に勢いを殺してから右手を二、三度振りワイバーンを斬り伏せました。
「ガフッ.....」「パシャァォ....」
「さぁ、これだけではないでしょう?全員この場で倒させていただきます!」
「ピシャァァァァァ!!!」
一瞬で斬られ、絶命した仲間の姿を見て怒ったのか、目を先ほどよりも見開き瞳孔を細めて一気に襲い掛かってきました。
ワイバーンは火を吐くなどのことは出来ないので、鉤爪や牙で攻撃をするために急スピードで接近してきます。およそ十体ほどのワイバーンが攻めてくるため素の状態では厳しいと判断し、全身に魔力を大量に流します。
ブワッッッ!!
すると、先ほどまでかなりのスピードで来ていたワイバーンがスローモーションで見えるようになり対処が容易になったため、そのまま右に左に腕を振り切り裂いていき、ほんの瞬き一瞬で全てのワイバーンを片付けました。
「ワイバーン程度ではこんなものですか、意外と呆気ないものですね。今からギルドに戻っても時間がまだまだありますから、他の依頼を紹介してもらいましょうか?」
そんな事を考えながら倒したワイバーンをアイテム袋に入れ、転移魔法を使って冒険者ギルドに帰りました。
―――――――――――――――――――――――――――
それほど時間もかからず冒険者ギルドに戻ってきた私は、すぐさま受付に向かいます。受付の場所にソフィさんの姿がなかったので、他の職員の方にソフィさんを呼んでもらうようお願いし、近くで待ちます。
少しの間待っていると受付の奥からソフィさんがとても驚いたような顔で話してきました。
「シェ、シェリアさん?!こんな早くにどうしたんですか!何か問題でも?」
「いえ、そういう訳ではなく、すでに依頼を達成したので確認してもらいたいのと別の依頼を紹介して欲しいのです」
「も、もう終わった.....?え、でもまだ一時間と少ししか経ってませんけど.....?」
私の発言にどこかぽけーっとした顔をしたソフィさんはありえないとでも言うように言葉を溢しました。嘘ではなく本当の事だと信じてもらわなければならないので、冒険者カードを渡して確認してもらいました。
「あ、ほんとだ、ワイバーンを十三体しっかりと倒してます。でも、一体どうやって....?」
「それはまぁ、秘密という事にさせてください。それよりももっと他に依頼はありませんか、どんな依頼でもすぐに達成してきます」
「ほ、他の依頼ですか....分かりました、少しお待ちください。今準備しますので」
そう言ってソフィさんは近くに置いてあった依頼書を手に取ってペラペラとめくり、何枚か取り出してそれを私に渡してきました。
「でしたらこれらなんかどうでしょう?バジリスクにマンティコアにグリフォン、全部昔に依頼された魔物で危険度も高く、特にグリフォンなんかは見ることすら稀の魔物ですからこれらを全て討伐してきたらAランクにもなれるんじゃないでしょうか、あははは....」
なにやらソフィさんの様子が少しおかしいですが気にせずその依頼書を読みます。
「なるほど、それぞれ希少な素材が欲しいという事なんですね、少し前のものですが達成金額も悪くないですし、いいですねこれにしましょう」
「え、あのシェリアさん?まさか、本当にこれ全部受けるんですか?」
「えぇ、もちろんです。全て今日中に片付けてきます、時間がもったいないのでもう行きますね。では、また後ほど」
「あ、ちょっとシェリアさん?!待ってくださ〜〜い!!」
踵を返して、すぐさまギルドを出てまた王都を出ます。三体それぞれの生息地が違っていたため転移魔法を使い、順番にその場所に行きながら依頼を達成します。
―――――――――――――――――――――――――――
まずはバジリスクのところへ向かいます。バジリスクは先程ワイバーンがいたところよりももっと深く、森というよりジャングルになっている場所にひっそりと存在していました。
バジリスクは本来石化の魔眼を持っており相手と目を合わせて睨み付けただけで死をもたらす力を持っています。見た目は鶏のようですが羽は蝙蝠のようで尾は蛇になっています。
依頼書にはバジリスクの眼球の納品と書かれているので目は傷付けずに討伐をします。石化の魔眼は女神である私には効きませんが、口から猛毒を放ってきたりと少々めんどくさいので、身体からカエルムを取り出し飛行魔法を使ってバジリスクの頭上へ行き、ついでとばかりに神気を纏わせて首を一刀両断しました。
神気を纏わせた攻撃だったのでいとも簡単に首を斬る事ができ、首と一緒に死体を回収して次の目的地へと向かいました。
次に向かった先はグリフォンのところで、山の奥に生息しているという事でそちらに向かい、探査魔法を使ってすぐに見つけました。
グリフォンは前世でもよく聞いていたようにワシの上半身と翼、ライオンの下半身を持つ魔物で、とても威厳のある見た目をしています。
こちらはバジリスクと違い私が近づいた事に気付き火を吐いて来ましたが、魔法でそれを防ぎ、逆にそれ以上の火魔法で丸焼きにしてあげようと思いましたが、依頼内容がグリフォンの毛皮の納品だったためすぐに考え直し、踵落としで空中から地上に落としてから私も地上に降りてグリフォンの心臓付近に目掛けて魔力を込めず正拳突きを放ちました。
私の拳を食らったグリフォンはそのままぐったりとして動かなくなりました。無事グリフォンも討伐出来たのでアイテム袋に入れてから最後のマンティコアの場所に移動しました。
最後にマンティコアがいた場所は砂漠に存在した遺跡のような場所の中で眠っているようでした。
今までの魔物の中で一番気味の悪い見た目をしており、人のような顔にライオンの体、サソリの尾を持った魔物で、この姿だけで威圧されてしまいそうです。
そんなマンティコアに、近付くと気配を隠していたのにも関わらず気付かれてしまい攻撃を受けてしまいました。
壁際まで弾き飛ばされてしまいそのまま追撃をされそうになってしまいましたが、魔力を身体に流して瞬時に躱しカエルムを取り出してしばらくの間攻撃を受け流し、頃合いを見て後ろに下がってから居合斬りの構えを取り、光の速さでカエルムを横に一閃しました。
無事三体の魔物を討伐し、依頼内容を達成出来たところで、王都の冒険者ギルドへと戻ります。全てが終わる頃にはすでに辺りは暗くなってしまいました。
ギルドに戻って、ソフィさんに全ての依頼が終わったと報告すると彼女は持っていた書類を手から滑り落としてしばらく固まっていた後、勢いよく動いて奥まで消えていき、戻ってきたと思ったら私の手を強く引っ張ってギルドマスターの部屋まで連れていきました。
「それで、どうしてまたこの部屋に来ることになったのですか?」
「どうしてってお前.....こんなの呼ぶ以外に決まってるだろ....」
「そうですよシェリアさん....依頼を紹介したのは私ですがこれは余りにも....」
ソフィさんはとても疲れたような顔で、アントンさんは右手の手のひらを顔に当てて下を向きながら呆れるような声で言ってきました。
「バジリスクにマンティコアにグリフォンだと?一人で倒しちまうのもそうだが、半日でそれを終わらせるなんてありえねぇよ...」
「そ、そうですかね....?案外出来てしまうものかもしれませんよ....?」
「はぁ、詳しくは聞かねぇと言いたいところだが、今回ばっかりはそうはいかないんだよなぁ。お前が何をしたのかしっかりと話してもらうからな。今日はもうこれ以上驚きたくないからいいけどよ」
「....分かりました、今日のことはしっかりと話させていただきます。明日でよろしいでしょうか?」
「あぁ、そうしてくれ、安心しろお前の冒険者ランクは文句なしにAまで上げてやるからよ.....」
「また明日、お待ちしています.....」
二人の疲れた表情を見ながら私は部屋を出て、いろんな冒険者の方の視線を感じながら家に帰りました。
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第三十一話 飛び級
家に帰り、着替えてから一人で料理の準備をして出来たものを黙々と食べます。ここでも二人がいない事で静かになってしまったリビングに寂しさを感じてしまいました。
「はぁ....レインたちは大丈夫でしょうか、学園の人たちと上手くやれていけますかね?」
ずっと心配ないと思っていましたが、いざ二人が学園へ行くととても心配になってしまいます。そんな事を思いながら夜ご飯を食べ終わり、特にすることもないためお風呂に入った後すぐに寝てしまいました。
翌日、目が覚めた私はいつものように朝ご飯を食べて着替えたりなど準備をしてから家を出て、冒険者ギルドへと向かいました。
「ソフィさん、来ましたよ。昨日の話の続きをしましょう」
「あ!シェリアさん!昨日は本当に大変だったんですよ....?依頼者への連絡や他の冒険者の対応なんかで....」
私が挨拶をすると、ソフィさんはぐったりとした表情でそう言ってきました。彼女のそんな姿を見て罪悪感が湧いてきてしまい、謝罪をしました。
「そ、そうだったのですか....申し訳ありません、まさかそのような事になるとは....」
「はぁ、シェリアさんだから許してあげます。これからもどんどん活躍してくれたらそれでいいので」
「あはは.....」
ソフィさんに許してもらい、これからも頑張らないといけないと苦笑いしながらもそう思っていると、ソフィさんが続きを話し始めました。
「それでは、今日もアントンさんはあの部屋にいるので早く行きましょうか、付いてきて下さい」
ソフィさんの後ろを付いていき、ギルドマスターの部屋へと入りました。昨日と同じでアントンさんはすでにソファに座っており、私たちに気付くとソファへと目配せをしたので向かいのソファに座ります。
「さて、来たな。これからお前の冒険者ランクについて話すからな、よく聞いておけよ?」
「はい...」
アントンさんが真剣な目つきで話してくるので、私も背筋を伸ばして心して聞きます。
「昨日一日で終わらしたワイバーンの群れ、バジリスク、マンティコア、グリフォンの依頼はどれも一人では難しいと言われている依頼だ、特に後ろの三つはな」
そこで一旦口を閉じて目も瞑ってから、一呼吸置いてアントンさんは目を開いてから言いました。
「これらの功績を考慮し、お前.....シェリアを今日をもって冒険者ランクをCランクからAランクへとする。これは王都のギルドマスターである俺が認めた事だ」
「やはりBランクではなくAランクなのですね」
「そりゃそうだろ、ブラックミノタウロスの時も言ったがお前ほどの実力者を下のランクに置いておくつもりはない」
「それにシェリアさんはギルドでの態度も良く、物腰も柔らかいので信用出来るとアントンさんは判断したんですよ」
アントンさんの横からソフィさんがそう付け足してきてのでアントンさんを見ると、どこがいつもとは違う優しい笑顔で私を見ていました。
「ま、そういうことだ。俺としてはAランクよりも上のSランクでもいけるんじゃないかと思ったが、Sランクにするにはここだけじゃなく、他国のギルドマスターとも話し合わないといけねぇからな」
「あぁ、そういえばそうでしたね」
以前Sランクになった時も、各国のギルドマスターたちが、きちんと話し合ってから決めていました。どうやら今もSランク冒険者というのはかなり慎重に決めるらしいです。それほど重要な立ち位置の人間になるということなのでしょう。
「まぁ、とりあえずお前はこれからもどんどん依頼をこなしてくれ。Aランクなら危険な依頼も問題なく受けられるし、信用もされる、これからもよろしく頼む」
そう言ってアントンさんは私に向かって手を差し出してきました。なので、私もアントンさんの目を見てしっかりとその手を握ります。
「えぇ、やると決めたからにはきちんと依頼はこなしますので安心してください」
「私もシェリアさんのもう専属みたいなものなので、これからもよろしくお願いしますね」
「ふふっ、たしかに専属みたいなものかもしれませんね、こちらこそよろしくお願いします」
「他の冒険者たちには、早くても明日には話が広まってる可能性があるからしばらくは注目の的かもな」
アントンさんが笑ってそう言ってきますが、当人からしてみたらあまり笑っていられるものでもありません。
「そ、そうですか.....それは覚悟しないといけませんね」
それからギルドマスターの部屋を出て、ギルドの受付まで戻りました。戻ってからも受付の場所でソフィさんとこれからについて話しました。
「シェリアさんはAランク冒険者となったので、これからは指名依頼なんかも来ることがあるかもしれませんね」
「指名依頼.....ですか?」
「はい、難易度の高い依頼を出す依頼者は、それを受ける冒険者を指名する事ができるんです。受けるかどうかはその人によりますけどね」
指名依頼は主にBランクやAランク冒険者の方に来るもので、依頼者がこの人なら受けてくれる、依頼を達成出来ると思った人に指名して依頼することであり、その分報酬が高かったりします。
「なるほど、でも私に指名依頼なんて来るのですかね?そこまで知名度がある訳でもないですし」
「今はなくても、これから依頼をこなしていけばシェリアさんなら絶対に来ると思いますよ。知名度は.....今でも割とあるかもしれませんよ、ブラックミノタウロスやら昨日の件で」
「やっぱりその情報は広まってしまってるんですね。なんというか複雑な気分です」
「良い意味で注目されているんですからいいじゃないですか、それで今日はこの後どうされるんですか?」
「そうですね....今日も依頼を受けましょうか、何かないか探してきますね」
ソフィさんに今日の予定を聞かれたので依頼を探しに掲示板の方へ行こうとすると、ソフィさんが声を上げて私を止めてきました。
「あ、待ってください!依頼を受けるのでしたら、その、溜まっている依頼を受けてくれませんか?」
「溜まっている依頼ですか、それまたどうしてですか?」
「それが.....報酬金が少なかったり、難易度の高いものは王都でも残ってしまうんです。ですから、それらを受けてもらえないかな〜と.....」
ソフィさんは段々と気まずそうな顔をしながら残ってしまっている理由を説明して、それを受けてくれないかと聞いてきました。私は立ち止まって一度考えました。
(報酬金が少ない...別に私はお金に困っていないので問題ないです。難易度も私からしたらどれも特に変わらないものですのでこれも大丈夫です。いつもお世話になって、今回も面倒を掛けてしまいましたし、受けましょうか)
「はい、いいですよ、どのような依頼なのですか?」
「え、本当ですか!ありがとうございます!やっぱりシェリアさんは最高です!」
そしてソフィさんから説明を受けて、私はその依頼をこなしに行きました。
山の奥にある貴重な草を取ってきたり、どう考えても報酬金と釣り合わないような魔物を討伐してきたりとあまりやり過ぎてはいけないため、ある程度常識の範囲で依頼を達成しました。
冒険者ギルドに戻ると、ソフィさんやエルケさん他の受付の方がとても喜んで私にお礼を言ってきたので、これからも時間があったら溜まっている依頼を受けてもいいかなとも思いました。
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第三十二話 二人からのお手紙
私がAランク冒険者となり、様々な依頼をこなし始めてから早くも三ヶ月程経ち、もうレインとアリアがいない生活にも慣れてきました。
朝起きてから朝ご飯を食べ、今日も冒険者ギルドへ行こうと思っていると、リビングの窓をコンコンと叩く音がしました。
「ん?なんでしょう、もしかして学園の使い魔ですかね?」
窓を開けると、そこには受験票などを持ってきてくれた時と同じ鳥が口に封筒を挟んでおり、私に気付くとその場に封筒を置きペコリと頭を下げました。
「あぁ、やっぱりそうでしたね、運んでくれてありがとうございます」
「ヒュゥイ!」
私がお礼を言うと大きく一鳴きし飛び去っていきました。届けてもらった封筒を見ると、案の定ガルレール学園からのもので、母さんへと書かれていました。
「!まさか、二人からの手紙でですか!ふふっ、どんな内容なんですかね?」
封筒の中から折られた手紙を取りそれを広げて読みます。一枚目はレインが手紙を書いており、二枚目の方はアリアが書いていました。自分の子どもからの手紙に思わずワクワクしてしまいます。
『母さんへ
母さんは元気にしていますか?俺たちは毎日学園で元気に過ごしています。同年代の子たちと同じことをして学んでいくのはとても新鮮で楽しいです。アリアなんかは毎日元気過ぎるくらい元気で、良い意味でも悪い意味でもクラスの中心的存在になっています。
俺たちSクラスは優秀な人たちが集まったクラスだそうで殆どの人が貴族で、平民の人は少ないですが、仲良くしてくれる人が多いです。中でも、マークという子とはとても仲良くしています。今度の長期休みで母さんにお願いと言うか伝言があるのですが、それはアリアの方で伝えます。母さんに会えるのを楽しみしています。
レインより』
レインは学園の方で楽しく過ごせているようです。それを聞いて私はどこかホッとし、レインからの手紙から目を離し、今度はアリアの手紙を読みます。
『お母さんへ
お母さんは元気にしてますか?私とレインはとても元気です。クラスに入ってから毎日が早く過ぎていって、皆んなと一緒に過ごすのがすごく楽しいです。魔法の授業なんかはほとんどお母さんから教えてもらったのが多かったので、特に困ることはありませんでした。
クラスの全員に話しかけたけど、何人かはまともに口を聞いてくれませんでした。でも、その中でエレーナちゃんは違って私ととても仲良くしてくれます。エレーナちゃんはこの国の王女様で入試成績が私の次だったらしいです。
それで、今度の長期休みなんだけど、エレーナちゃんのお母さんが、お母さんに会いたいって言っているらしいので、休みになったらガルレール学園まで来てください。そこから案内してくれるって言ってました。久しぶりにお母さんに会えるのを楽しみにしています
アリアより』
「........」
アリアの手紙は、最初の方は微笑ましくて笑いながら読んでいましたが、最後の内容で一気に固まってしまいました。見間違いだと思い何度も読み返してみますが、もちろん内容が変わる事はなく同じ事が書いてあります。
アリアが言うエレーナちゃんとはアリアたちと同い年の第三王女様で間違いありません。そして、そのお母さんが呼んでいる....つまりこの国の王妃様が私と会いたいと言っているということです。
「な、なんでですか!?自分の娘と仲のいい子の母親を見たいからですか、それとも二人が首席と次席を取っているからそれについての文句とか.....全く予想がつきません」
しばらくの間、家の中をうろうろしながら理由を考えましが、何も思い当たるものがなかったため諦めて割り切る事にしました。
「まぁ、分からないものを考えてもしょうがないですし、先に出来ることをやりましょうか、何か手土産が必要ですよね.....王妃様が喜びそうなもの、あれにしましょうかね」
私はアイテムボックスからエリクサーを取り出して、それを比較的綺麗な箱に何個か詰めて、アイテムボックスではなくいつも使ってるのとは違うアイテム袋に入れます。
エリクサーはどんな怪我でも瞬時に治す事ができ、怪我をしてすぐなら欠損部位も治すことが出来ます。他にも、化粧水のように肌に塗るとお肌が綺麗になったりと女性には嬉しい効果があります。
「持ってくものはこれでいいですね、後は着ていく服ですか.....昔着ていたものを出しましょう、王妃様の前に出るのなら下手なものは着られませんからね」
服もアイテムボックスから何着か取り出し、時間を掛けて選んでいきました。前世では、女性が服を選ぶのになぜそんなに時間が掛かるのか分かりませんでしたが、今なら理解する事が出来ます。
ある程度今出来るうちに準備を終わらせて、その日は冒険者ギルドに行かずに終わってしまいました。
ガルレール学園が長期休みに入るまで後一週間ほどありますが、今から不安です。
―――――――――――――――――――――――――――
それから一週間が経ち、ガルレール学園の長期休みの日になりました。
私はいつもよりも早く起きて準備をし、レイン達に会う用意をします。それから用意を終わらせて持っていくもの、服装をチェックし、家を出て王都へと向かいます。
王都へと着きそのまま学園に行きます。学園に着いて、しばらく校門の前で待っていると、数ヶ月ぶりとなる我が子の声がしました。
「母さん!」
「お母さん!」
声のした方は顔を向けると、レインとアリアが笑いながら手を振って走ってきました。その姿を見て私は自然と笑顔となり、手を広げて走ってきた二人を受け止めます。受け止めた時に、別れた時と比べて微かに大きくなっていることを肌で感じ、感慨深い気持ちになりました。
「ふふっ、レイン、アリアお久しぶりです。元気そうで安心しました」
「母さんも元気そうでよかったよ、俺たちちょっと心配してたんだよね」
「そうそう、私たちがいなくなってお母さん寂しくしてないかな〜って」
「もう、たしかに寂しかったのは事実ですが、それでダメになってしまうお母さんではないですよ」
「えへへ、お母さんの匂いやっぱり落ち着く....」
「アリア、一応ここ学園の前だよ?」
アリアが私の腕の中で顔を埋め、顔を少し擦りながら匂いを嗅いでいると、横にいたレインに注意されていました。そして、お互いに再会を喜んでいると横から二人とは違う、少し芯のある声がしました。
「あの、お話中すみません、迎えの馬車が来ているのでいいでしょうか?」
そこにいたのは、どこかで見たことのある薄い紫色の髪を持った、レインたちと同じくらいのとても綺麗な女の子でした。
「あ、はい、大丈夫ですよ。もしかして、あなたは....」
「はい、アリアやレインと同じクラスのリゼミア王国第三王女、エレーナ・リゼミアと申します。いつも二人にはお世話になっています。今日は母の我儘を聞いてくださりありがとうございます。私もお会い出来るのを楽しみにしていました」
「ご丁寧にありがとうございます、私はレインとアリアの母のシェリアと言います。こちらこそ二人がお世話になっています。今日はよろしくお願いしますね、エレーナちゃん」
エレーナちゃんがとても丁寧に挨拶をしてきたので、私もそれならって丁寧な挨拶をしました。エレーナちゃんはとても落ち着いていて、アリアとは全く逆の印象を受けます。
「お〜い!ちょっと待てよ三人とも!俺を置いていくな!」
「あ、マークのこと完全に忘れてたわ、ごめんなさい」
「忘れてたって.....少し離れたら全員いなかったから探したんだぞ!見つかったからよかったけどさぁ」
私がエレーナちゃんに挨拶をすると、学園の方から赤髪の男の子が走ってきてエレーナちゃんの前で止まり、何やら文句を言い始めました。マークと呼ばれたこの子は、おそらくレインの手紙に書いてあった友達で間違いないでしょう。
マーク君とも挨拶をするために二人の会話に少し割り込む形で入ります。
「あの、もしかしてあなたがマーク君ですか?」
「え?誰.....あぁ!レインのお母さんか!初めまして、俺の名前はマーク・ミルドリッヒ!これからよろしく頼む!」
「えぇ、よろしくお願いします。私は二人の母親のシェリアと言います」
「いや〜レインはまだしもアリアのお母さんとは思えないな、なんというか気品が違う」
「マーク....あまりそういうこと言うものじゃないわよ?」
「そうだそうだ!私はちゃんとお母さんの子どもだよ!」
「あ〜あ、アリアにそれは言っちゃいけないよ、マーク」
「え、ちょ、ごめんって俺が悪かったよ!」
もう私を置いて四人で楽しそうに会話している姿を見て、ずっと見ていたい気持ちになりましたが、そういうわけにもいかないため私が四人に声を掛けます。
「はいはい、そこまでにしましょうね。話すのはいいですが、もう馬車が来ているのでしょう?」
「そうでした、もう迎えの馬車がもう来ているので行きましょう、こっちです」
エレーナちゃんに案内してもらい五人で少し道を歩くと、豪華な高級そうな馬車が置いてあり、執事のような方が馬車の前で綺麗に立っていました。
「ジョセフ、待たせたわ、もう出発出来るかしら?」
「勿論でございます、エレーナ様。皆様、どうぞ馬車にご乗車ください」
ジョセフさんがそう言うと、エレーナちゃんがまず馬車に乗り、その次にアリア、マーク君、レインと続いていき、残りは私だけになりました。
「あなたがシェリア様ですね、お待ちしておりました。私執事をしております、ジョセフと申します。どうぞよろしくお願いします」
「はい、初めまして、シェリアです。今日はよろしくお願いします」
「王妃様もあなたと会えることを心待ちにしておりましたよ」
「あはは、なぜ王妃様が私と会いたいのか分からないのですがね.....」
「それは、私の口からは言えないのです。王妃様に黙っておくよう言われたものですから」
「そ、そうなんですね」
ジョセフさんと軽く挨拶をして話してから私も馬車に乗ります。これから王宮に向かい王妃様とお会いしますが、まったく予想もつかず不安ばかりです。
私も、横で楽しそうに話している四人のように気楽に行きたいものです。
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第三十三話 王宮へ行く
馬車に乗り、王宮に着くまでの道のりで私は四人から学園での生活について話を聞いていました。ちなみに馬車の中ということと二人の友達という事でフードは取っています。
「それでね、学園は教室だけじゃなくて寮もすごく綺麗なんだよ!」
「出てくるご飯も美味しいしね」
「学園で働いている料理人は、全員王都でも腕利きの方たちなのよね」
「たまに家で出てくるものよりも美味いと思う時があるくらいだしな」
「そうなんですね、やはり国で運営している学園はそういったもころも完璧なのですね.......ってどうしたんですか、アリア?」
学園の設備や食事などについてを聞き、私がそれに相槌をしていると、隣に座っていたアリアが何故か頬を膨らませていました。私以外の三人もどうしてアリアがそんなことをしているのか分からず、首を傾げていました。
私が声をかけるとアリアは少し小さな声で呟くように言いました。
「たしかに食堂のご飯は美味しいけど、お母さんの料理の方が美味しいもん....学園に来てから何回もお母さんの料理が食べたいって思ってた....」
「アリア.....クスッ、嬉しいことを言ってくれますね、いいですよ、今度好きなだけアリアの食べたいものを作ってあげますからね」
「え!ほんとうに!約束だよお母さん!」
「えぇ、約束です」
あまりにも可愛らしい理由で膨れていた事が分かり、私はアリアの頭を優しく撫でながらそう言います。すると、アリアは先程とは打って変わって、まるで大輪の花を咲かせたように笑顔となり、私に向かって身を乗り出してきました。
「アリアは本当にお母様が大好きなのね、あんな顔学園でも見たことないわ」
「ほんとな〜、あれ、ライアンあたりが見たらやばいだろうなぁ」
アリアが調子を取り戻し、また五人で会話に花を咲かせていると、エレーナちゃんがレインとアリアのことで気になる話をしだしました。
「そういえば、レインとアリアは私たちのクラスで一番の成績を取っているのですよ」
「え、そうなのですか?そんなこと手紙には書いてなかったのですが.....一番とは具体的にどういうことなのですか?」
「二人はどの分野においてもトップの成績なのです、座学に関しては平民の方とは思えないほど教養を備えており、魔法や武器を扱うことにおいてはもうほぼ学ぶことがないのではと思ってしまうほど完成されています。私も魔法には自信がありましたが、二人を見ているとまだまだだということを自覚させられますね」
「エレーナちゃんにそこまで褒められると照れちゃうな〜」
「自分から言うものでもないと思って手紙にも書かなかったんだよな」
「まさか俺が剣で負けるとは思ってなかったわ、あの時負けた事が信じられなくて、しばらく動けなかったな」
二人の学園での成績について聞き、私が鍛えたのである程度は予想はしていましたが、そこまで同年代と実力に差が出ているとは思っていなかったので目を見開いて驚いていると、エレーナちゃんから強い視線を感じました。
「二人はお母様であるあなたに全て教わったと聞きました、私も王宮で様々な先生方に座学や魔法を教わってきましたが、魔法や武器の扱いはレインとアリアには全く敵いません。それにその容姿もとても平民の方とは思えません。レインとアリアを育てたあなたは一体何者なのですか?」
その目線はまるで正体不明の生物を見る、またはこちらの正体を探ろうとする王のような目で見てきます。とても九歳の女の子が出来る視線ではなく、いやでもこの子が王族に名を連ねる者なのだと自覚させられます。
その視線から逃げることはせず、しっかりとその綺麗で吸い込まれてしまいそうな瑠璃色の瞳に目を合わせ、答えます。
「私は二人の母親であり、それ以上でもそれ以下でもありません。たしかに魔法などは二人に教え、そこら辺の人には絶対に負けないという自信がありますが、それは単純に私の実力があるというだけです。エレーナちゃんからしたら私は、ただの友達のお母さんでしかありませんよ」
「そうですか......ふふっ、お母様がシェリアさんを気に入る理由が分かった気がします、ただの友達のお母さん....私も今度シェリアさんに魔法を教わってもよろしいですか?」
「あ、なら俺もシェリアさんに剣術教えて欲しい!レインに負けたままは悔しいからな」
私の言葉を聞いたエレーナちゃんは、少し面食らった顔をした後、目尻を下げて笑いました。その笑顔はエレーナちゃんの素顔が出ているようでとても美しく可憐でした。マーク君も元気に私にお願いをしてきて、雰囲気につられて私も笑ってしまいます。
「えぇ、もちろん時間がある時にいくらでも教えてあげますよ。レインとアリアにとって競い合うライバルのような関係になれば私としても嬉しいですね」
「エレーナちゃんがお母さんから魔法を教わっても、私はずっと前から教えてもらってるから絶対負けないよ!」
「俺もマークに負けたら今まで鍛えてくれた母さんに申し訳ないからね、負けるつもりはないよ」
なんだか、四人が目線を合わせて火花を散らし始めました。とても良い関係の四人で、二人にこんなに良い友達ができてよかったと思うと同時に、学園へ行かせたのは正解だったと改めて思いました。
「エレーナ様、そろそろ王宮に着きます」
「分かったわ、ありがとうジョセフ。王宮に着いたらすぐにお母様のところへ案内しますね」
ジョセフさんが、外からもうすぐ王宮に着くことを教えてくれエレーナちゃんが王宮では自分が案内すると言いました。王妃様に対面する時が刻々と近づいてきて、私はいつも以上に心臓が激しく脈打ってきました。
それからすぐに王宮へと着き、四人が降りた後馬車を降りると、そこはまるで別世界のように感じました。とても大きく豪華な造りの建物をしており、平民では見ることも難しい調度品などが複数置かれていました。
「うわぁ、ここが王宮.....雰囲気というかオーラがちがうなぁ」
「なんか俺たち場違い感ないかな?周りに圧倒されそうなんだけど」
「大丈夫だって、こう言っちゃなんだがお前たちは見た目がいいからな。立ち振る舞いも平民にしてはしっかりしてるし、シェリアさんなんかどこかの王女様と言われても信じるね、俺は」
「さて、お母様がいる部屋はこちらですよ、中はかなり広く初めて来る方は迷子になる方が多いのでしっかりと私に付いてきてくださいね」
エレーナちゃんが言った通り、王宮の中はまるで迷宮のように広く、複雑で迷子になってしまうという人の気持ちがこれでもかと分かってしまいます。レインとアリア、特にアリアは王宮の中の装飾などについて興味津々のようで、周りをキョロキョロとしながら見ていました。
マーク君はなんてことのない顔をして、腕を頭の後ろに組みながら歩いていました。マーク君のその姿を見る限り王宮に来る事に対して慣れているように感じ、王宮に来ることに慣れる貴族なんて珍しいですから、一体どの位の大貴族なのかと思ってしまいました。
しばらく王宮を縦に横にと移動していると、エレーナちゃんがある扉の前で止まりました。見ると扉もかなり芸術的なものを感じる見た目をしており、来客用の部屋の扉のように感じました。
「ここは、他国からなどの重要な方をお通しする来客用の部屋で、他の部屋とはまた違った意味を持ってきます。今日はこの部屋にお母様がいるので、私が入ったら一緒に入ってきてください」
「ここにエレーナちゃんのお母さんが......」
「王妃様ってことだよね、変に緊張してきた」
「大丈夫だって、テリーザさんはそんなおっかない人じゃないし基本優しい人だぞ、俺もよくお世話になってたしね」
「そうよ、お母様はかなり気さくな人だから、そんなに緊張しなくても大丈夫よ」
どうやら王妃様は私が想像しているよりもおおらかな人のようです。自分が予想してしていたのとは大分外れていそうだったので顔には出さないですが、内心安心してしているとエレーナちゃんが部屋の扉をノックしました。
コンコン
「お母様、私です、エレーナです。言われた通りお客様を連れて来ましたよ」
「ん?あら、そう。分かったわ、ありがとう。入ってきても大丈夫よ」
扉の中からした声は私の記憶にある声でした。確かあの声は、入学式の時に....
「分かりました、では、私の後に続いて入ってください」
「え、あ、はい」
私が記憶の中を探って考え事をしているとエレーナちゃんから声が掛かり、思考を中断しました。まだ疑問が解けずに悶々としながら中に入るとそこにいたのは....
「こんにちは、初めましてレイン君、アリアちゃん....そして、久しぶりねシェリア....ふふっ、どうしたのそんな顔をして」
「テ、テレサさん?!?!」
中にいたのはエレーナちゃんと同じ薄い紫色の髪を持った美しい女性、テレサさんがそこにはいました。
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