私が、先生を救う。 (原初の白)
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悲劇の終わりと、新たな希望 ~why am I here?~

……こえが、……聞こえる。

「…………さま……お嬢さま!」

その声は私にとって、もう会うこともないはずの人のもの。

「お嬢さま!朝食の時間に遅れてしまいますよ!」

なのに意識がはっきりしていくにつれ、その声もはっきりと聞こえるようになっていく。

……どうして?

サローネがここに、名もなき島にいるはずがないのに。

…………いいえ、そんなことより。

そもそも、私が生きていること自体がおかしいわ。

 

……私は確かに、3年前に全てを一人で背負っていなくなった先生を見つけだして、剣を折ろうとして殺されたのだから。

 

 

第0話 悲劇の終わりと、新たな希望 ~Why am I here?~

 

 

「……皆さまは既に席にいらしております。

 お嬢さまもお急ぎ下さいませ」

「え、……えぇ。わかったわ、ばあや」

私が起き上がると、サローネはそう言い残して部屋をでていく。

返事はしたものの……訳が分からない。

何で私はマルティーニのお屋敷の自分の部屋にいるの?

……一瞬、死の淵にいる私が走馬灯でも見ているのかしら、とも思ったけれど、

それにしては意識や感覚がはっきりしすぎている。

多分、これは現実。

じゃあ今までの出来事が全部夢?……そんな訳ない。

あの島での日々……カイル達一家や島の住人たち(アルディラお姉さまやマルルゥたち)、そして先生との思い出がただの夢だったなんて思えるわけがない。

……なら、どうして?

疑問は解けないけれど、これが夢や走馬灯でないなら、そろそろ食堂に行かないとサローネに叱られてしまうわ。

とりあえず髪だけでも整えようと鏡台に向うと、そこに映った私の顔は……

「………………え?」

 

最後に鏡を見た……私の記憶では2日前に見たときと比べて、5才分は若かった。

 

 



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二話 悲劇の終わりと、新たな希望~Why am I here?~(2)

食堂に入ると、そこには確かに全員……お兄様とアリーゼとナップ、それから部屋の隅に控えているサローネとメイドたちがいた。

お父様の席は空いているけれど、それはいつもの事。

それよりも大事なのは、お兄様たちが私の記憶より少し幼い顔立ちをしていること。

鏡台で自分の顔を見たときからもしかして、とは思っていたのだけれど……私は先生に殺された時より、数年……少なくとも5年以上前の過去に戻ってきてしまったようね。

島での出来事もこの状況も現実なのだから、結局はこの結論に辿り着くしかないわけだけど……そうなると、また別の疑問が浮かんでくる。

一体誰が、どうやってこんなことをしたの?

あの島の皆に、時間を(さかのぼ)れるような力を持った人なんていなかったはず。

不滅の炎(フォイアルディア)にもそんな能力は……そうだ、フォイアルディアは今も私と共ににいてくれているのかしら?

今すぐにでも確認したいけれど、もし本当に剣がいた場合呼びかけると少なからず魔力が漏れるから、人気(ひとけ)のない場所を探さないと……

「ねーちゃん、早く座ってくれよー?」

……い、いけない。考え事に集中しすぎて今の状況を忘れていたわ。

ナップに急かされながら席に着き、食事を始める段になって、マルティーニ家での食事の作法が全部は思い出せない事に気が付く。

サローネは作法にかなり厳しいのよね……仕方ないわ。ちょっと挙動不審にとられるかもしれないけど、忘れちゃった部分はアリーゼを見て真似しましょう。

 

……そういえば、過去に戻ってきたのは私だけなのかしら?

私を過去(ここ)に連れてきてくれた人にも、時間を遡るなんていう常識はずれな事が何度も出来るとは思えないけれど、万が一ということがあるかもしれない。

一人一人、それとなく確認してみるのも忘れないようにしないといけないわね。

 

 

朝食を食べ終えたら、すぐ自分の部屋に戻る。

……今が先生と会う数年前だとわかってから、思考が『それ』に行き着かないよう必死で思考を逸らし続けていたけれど、もう限界だった。

「…………っく、ぅ……っ」

ここなら一人で、誰にも見られずに涙を流せる。

やらなきゃいけない事、考えなきゃいけない事……まだたくさんあるけれど、今は……

「……先生……せんせぇ……っ!」

今はただ、思いっきり泣いて感情を吐き出そう。

 

 

 

…………私はまた、先生に会えるんだから!

 



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