INFINITE・THE WORLD (ZZZ777)
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設定集 ※ネタバレ注意、途中更新あり
設定集 ジュウオウジャー編


〇門藤操

 

本作主人公。

ジュウオウザワールドに変身する青年。

性格は卑屈で内気。

だが、現在はある程度改善されている。

元々の名前は織斑一夏。

優秀な兄からの虐めが原因で卑屈な性格になってしまっていた。

この虐めには周りの人間も関わっていて、味方だったのは篠ノ之束だけだった。

13歳の時、第2回モンド・グロッソで姉である織斑千冬の優勝妨害目的で誘拐された際、別次元の世界に転送される。

その世界で犀男、鰐男、狼男の3人のジューマンのジューマンパワーを注入され、デスガリアンのブラッドゲームのエクストラプレイヤー、ザワールドに改造される。

その後、ジュウオウジャーによって洗脳は解けるものの、記憶を失ってしまっていた。

その際に風切大和から門藤操という名前を与えられる。

卑屈な性格だけは残っていたので最初は戦う事すら出来ないくらいだったが、6人目のジュウオウジャー、ジュウオウザワールドとして戦う事を決意。

デスガリアンとの戦いの中で、かつての織斑一夏としての記憶が蘇り、戦えなくなってしまうもこれを払拭。

大きく成長する。

そうして戦いが終わった後、大和のサポートをしながら人間とジューマンが手を取り合えるように活動していく。

戦いが終わった10年後、23歳になったとき、飲み会の帰りに謎の球体に吸い込まれ、自分が織斑一夏として過ごしていた世界に戻って来る。

ドイツ軍のIS部隊であるシュヴァルツェ・ハーゼを違反IS使用者から助けたことにより関わりを持つ。

そんな中、かつての唯一の味方だった篠ノ之束と再会。

篠ノ之束、そしてシュヴァルツェ・ハーゼの隊長ラウラ・ボーデヴィッヒと副隊長のクラリッサ・ハルフォーフの3人にジュウオウザワールドの説明をした。

その後シュヴァルツェ・ハーゼの隊員たちと友人になりながら過ごしていたが、ISを起動できることが判明。

束の協力もあり、ドイツ国籍を所得し、IS学園に入学することになった。

そうして、IS学園に入学するために日本へ。

犀男のジューマンパワーから、感覚に非常に優れている。

 

〇ジュウオウザワールド

操が変身する姿。

下半身は黒で、上半身は中央が黒、右腕側が金、左腕側が銀という縦縞カラーリングになっていて、胸には右からワニ、サイ、オオカミの顔が描かれている。

腰には銀のベルトをしていて、それのバックルにもサイとワニとオオカミが彫られている。

 

 

〇ジューマンワールド

 

一夏達の地球とは異なる次元の地球に存在する異世界。

ジューマンと呼ばれるそして動物の頭部を持ち、二本足で歩行する亜人種が住む。

人間界とはリンクキューブによって行き来できたが、キーである王者の資格が1つ盗まれ、行き来出来なくなり、人間界にいたジューマンが戻れなくなる。

そんな状況だったが、デスガリアンとの戦いの果て、リンクキューブが復活し、ジューマン達が戻ったとたんに人間界と融合する。

そうして、操や大和が中心となって人間と共に生きるように模索している。

また、戦いが終了してから10年でジューマン達は完全に人間に擬態できるようになる。

王者の資格は、ジュウオウチェンジャー(ジュウオウチェンジャーファイナル)へと変化し、操以外のジュウオウジャーはこれを使用して変身する。

 

 

〇風切大和

 

ジュウオウイーグル、ジュウオウゴリラ、ジュウオウホエールに変身する青年。

動物学者で、子供達を相手に野生動物のガイドの仕事等もしている。

幼少期に謎の鳥男から王者の資格を貰っており、偶然遭遇したリンクキューブにはめ込んだことによりジューマンワールドに迷い込む。

人間界に戻って来た時にデスガリアンのブラッドゲームでの襲撃に遭遇。

その際に本来ならジューマンにしか使えないはずだった王者の資格を起動させ、ジュウオウジャーとなる。

そこから地球を守るために戦う決意をする。

また、門藤操の名付け親。

戦いが終わった後は、動物学者として本格的に活動している。

 

 

〇セラ

 

ジュウオウシャークに変身するサメのジューマン。

男勝りな性格で、負けず嫌い。

他人に自分の弱さを見せたくないため、普段はクールに振る舞っている。

だが、大和の友人の結婚式に勝手に付いて行ったときには、ロマンを感じるなど乙女な一面も持つ。

家族は仕事が忙しく全員揃う事が少なく、両親に変わり弟の面倒を見ていた。

その為、家族の仲を引き裂いたり、絆を踏みにじったりする行為が大嫌い。

聴覚が非常に優れている。

 

 

〇レオ

 

ジュウオウライオンに変身するライオンのジューマン。

ハイテンションなお調子者で、ジュウオウジャーのムードメーカー的存在。

裏表がない性格で思った事はすぐ口にしてしまうので、それが原因でトラブルになる事も多い。

だが、自分が悪いことは潔く認めるなど、責任感もしっかりと持ち合わせている。

そして、雄ライオン特有の重度の女好きで、誰であっても女は絶対に殴らない。

また、夢を笑ったり馬鹿にしたりする事が大嫌いであり、足がとんでもなく臭い。

声がもの凄くデカい。

 

 

〇タスク

 

ジュウオウエレファントに変身するゾウのジューマン。

冷静で落ち着いた性格。

だが、デスガリアンの襲撃の際逃げ腰になっていたりと臆病な一面もある。

多少人見知りが激しく引っ込み思案な一面もある。

規則や規律にも厳しい。

だが、その真面目な性格が災いしてつい一言多くなったり、相手に少々棘のある言い方をしてしまう事もしばしば。

自分でも何とかしないといけないと思っている。

幼いころに父に本を読んでもらった影響から読書好き。

その為、書物や物を大切にする気持ちを馬鹿にされる事が何よりも大嫌い。

嗅覚が非常に優れている。

 

 

〇アム

 

ジュウオウタイガーに変身するホワイトタイガーのジューマン。

困った事があっても、自分でどうにもならない事は気にしない性格。

人を騙す事が大嫌い。

観察眼が鋭く、他人の心の動きに敏感で、不安や迷いを和らげる一言で仲間を落ち着かせたりなだめる場面が多い。

味覚が非常に優れている。

 

 

〇バド

 

プロローグには本格的に出てない。

ジュウオウバードに変身する鷲のジューマン。

幼い頃、大和に盗んだ王者の資格とジューマンパワーを渡す。

大和が王者の資格を使えたのはバドのジューマンパワーがあったから。

ジューマンパワーを渡すことは寿命を削る事に等しい為、白髪になってしまっている。

王者の資格を盗んだ理由は、ジューランドに迷い込み負傷していた人間の男性を救助したものの、彼はジューランド上層部の意向により拘束され、逃げようとした彼は崖から転落してしまい、それを隠蔽したジューランドに不信感を抱いたから。

ジューマンパワーを消費し過ぎたため最終決戦に参戦することは出来なかったが、人間界とジューマンワールドの融合後、世界を旅している。

 

 

〇森真理夫

 

今作でも名前だけは出ている。

大和の叔父で動物彫刻家。

森の中にアトリエを兼ねた住居を構え、創作活動をおこなっている。

少々変わり者で、作品を作るときは動物の気持ちを理解するためにモデル動物のコスプレをする。

当初はセラたちがジューマンだと知らなかったが、デスガリアンに捕まった際に真実を知ることに。

その後、人類の王者、ジュウオウヒューマン(コスプレ)で戦おうとした事もある。

その際には止められたが、操からは『初めて出来た友人の家』、セラ達にとっては『人間界の帰る場所』と言われたことで、帰って来る場所を守るのが人類の王者の役目と宣言した。

 

 

〇犀男/鰐男/狼男

 

名前の通り、犀、鰐、狼のジューマン。

本名は不明。

人間界からジューマンワールドに帰れなくなっていたところをデスガリアンに捕まり、一夏をザワールドに改造するためにジューマンパワーを引き出されてしまう。

操の前に何度が幻影として出現するが、全て操の妄想である。

最終決戦後、講演会に出席した操の前にも登場し、多くの人間やジューマンの前で演説をやり遂げた操を見届けたかの様に消えていった。

 

 

〇リリアン

 

本作でも名前だけは出てる。

犀の女性ジューマン。

操の恋人。

 

 

〇ラリー

 

本作でも名前だけ出てる。

ゴリラのジューマン。

人間界からジューマンワールドに帰れなくなっていたジューマンの1人。

崖から落ちて重症だった大和にジューマンパワーを分け与え救出。

この際、大和はジュウオウゴリラへの変身が可能になる。

だが、ラリー自身は寿命を削り、老化してしまう。

 

 

〇ケタス

 

本作では影も形も無い。

古代に生きた鯨のジューマン。

今よりはるか昔....地球に凶悪な怪物が現れ、古代のジューマン達を強襲。

それに立ち向かったのが若き日のケタスであり、勇猛果敢に怪物に挑んだものの圧倒的な力の差で押されていた。

しかし、地球に眠る力が与えた大王者の資格/ホエールチェンジガンを使ってケタスはジュウオウホエールに変身し怪物を倒した。

その後、彼はジューマン達が安全に暮らせるようにとホエールチェンジガンを大王者の資格に戻してリンクキューブのコアとして接続、やがて住みやすい国であるジューランドを作り最初の大王となった。

現代では大王者の資格に残っていた彼のジューマンパワーを大和が引き継いだことで、大和がジュウオウホエールに変身する。

 

 

〇デスガリアン

 

どれだけ生き物を苦しめ葬るのかを争う遊び、ブラッドゲームを繰り返して99個の惑星をを滅ぼしてきた宇宙の無法者たちの集団。

ブラッドゲームの記念すべき100個目の遊び場として定められたのが、地球である。

そうして、地球を守るために立ち上がったジュウオウジャーとの戦いが開始する。

何度も何度もぶつかり合い、デスガリアンのオーナー、ジニスが撃破されたことにより壊滅した。

 

 

 

 




今後の物語での変更点が出たら変更します。(操以外殆どないけど...)


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設定集 ISキャラ編

〇篠ノ之束

 

ISの開発者の天才、そして天災。

幼少期に虐められていた一夏の唯一の味方だった。

そうして、宇宙を目指して作ったISが軍事用に転用されたことが切っ掛けで、ISのコアを467個作って世界から失踪した。

その後、ドイツで観測されたエネルギー反応を追ってドローンを飛ばす。

その映像で、ジュウオウザワールドがISを圧倒している場面を目撃。

変身解除した操を見て、直ぐにドイツに向かう。

シュヴァルツェ・ハーゼの基地で夕食を食べようとしていた操に抱き着く。

だが、操が一夏ではないといった事で落ち込むも、操から話したい事があるという事を聞き、その日の夜再び基地へ。

その場で操の過去の話を聞き、これからサポートすることを決意。

操のドイツ国籍の取得、ISが扱えることの発表と操の保護などの様々なサポートをする。

操が日本に行くときに自身のデフォルメぬいぐるみを貰った。

 

 

〇ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

原作ではヒロインだが、残念ながら今作ではヒロインではない。

ドイツ軍IS部隊シュヴァルツェ・ハーゼ隊長。

生体兵器の試験管ベイビー、アドヴァンスドで元々は優秀な個体だったがはIS適正を引き上げるための処置であるヴォーダン・オージェ移植手術の不具合で出来損ないと呼ばれるようになってしまう。

そんな中、教官としてやって来た織斑千冬の指導で部隊最強の座に再度上り詰める。

そうしてISの研究データ盗難事件の際に、犯人の女が不法に所持していたISに襲われるが、ジュウオウザワールドに変身した操に助けられる。

その日の夜、操から過去の話を聞き、自身の中の織斑千冬が崩れ操に強さを尋ねる。

その際に操から仲間がいる強さだと言われ、考えを改める。

操ともいい関係を築く。

操が日本に行くときに自身のデフォルメぬいぐるみを貰って顔を赤くする。

 

 

〇クラリッサ・ハルフォーフ

 

ドイツ軍IS部隊シュヴァルツェ・ハーゼ副隊長。

ラウラの事を副官として支えている。

日本のサブカルチャーヲタク。

作者の別小説に引っ張られてはいけない。

悩んでいたラウラを立ち直らせてくれた操には恩を感じている。

操が日本に行くときに自身のデフォルメぬいぐるみを貰って顔を赤くする。

 

 

〇織斑春十

 

アンチ対象。

転生者で、一夏に代わり主人公になる事を目論む。

その為一夏を事を虐め抜く。

春十自身が一夏より優秀だったため、周りの人を巻き込んで一夏の事を虐め続けた。

一夏、そして操の性格が卑屈になったのはこれが原因である。

世界で2番目の男性IS操縦者として操が紹介された際は原作にないイレギュラーとして焦るが、自身が転生者である事で、何時か排除しようと考える。

 

 

〇織斑千冬

 

一夏と春十の姉。

2人が幼少期の頃からお金を稼ぐため忙しく、一夏のSOSサインに気が付かなかった。

ISが登場してからは、世界最強の称号であるブリュンヒルデと呼ばれるようになる。

第2回モンド・グロッソの際、一夏が誘拐され行方不明になった事を知り、落ち込むも、春十に励まされ何とか立ち直る。

そうして、ドイツ軍に1年間だけ教官として働き、日本に戻って来る。

 

 

〇篠ノ之箒

 

アンチ対象。

束の妹で、春十に惚れている。

春十にそそのかされて、一夏の事を虐めていた。

今現在はクラス対抗戦の時の違反行為で拘束室で生活している。

 

 

〇凰鈴音

 

アンチ対象。

虐められていたところを春十に助けられ、春十に惚れる。

春十にそそのかされて、一夏の事を虐めていた。

今現在はクラス対抗戦時の違反行為、並びに恐喝問題で帰国中。

表面上は停学だが、その実退学が決定している。

 

 

〇セシリア・オルコット

 

アンチ対象。

イギリスの国家代表候補生。

女尊男卑主義者だったが、クラス代表決定戦での模擬戦で春十に惚れる。

今現在はクラス対抗戦の違反行為で帰国中。

 

 

〇ティナ・ハミルトン

 

2組のクラス代表。

鈴が転校してきた際に脅されて無理矢理クラス代表を変わらされたことがある。

その時に操と出会い励まされた事で前を向けた。

 

 

〇更識簪

 

4組の代表候補生で日本代表候補生。

長らく姉との蟠りがあり、かなり内気になっていたが操との出会いによってちょっとずつ前を向いて行けるようになる。

姉との蟠りも現在は解消され、仲のいい姉妹に戻る。

 

 

〇布仏本音

 

1組の生徒で簪の幼馴染兼メイド。

メイドという立ち位置だがかなりフレンドリーで、ただの友達と言った関係である。

間延びした喋り方が特徴。

簪が前を向けるきっかけになった操に感謝している。

 

 

〇更識楯無

 

IS学園生徒会長でロシア国家代表。

そして暗部組織更識家の17代目当主。

幼い頃から優秀で妹である簪を守ろうとしていたがそれが逆効果だと気づけなかった結果、蟠りが生じてしまう。

それも今は解消されている。

 

 

〇布仏虚

 

IS学園整備課の3年生で楯無の幼馴染兼メイド。

妹である本音と異なり主君である楯無にかなり敬った喋り方をする。

 

 

 

 




今後変更点や追加点が出たら修正します。


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原作開始前
ザワールドの誕生


新作1話です。
ジュウオウザワールドが好きだったので書きました。

駄文だとは思いますが、是非読んで行ってください!


「はぁ、はぁ」

 

 

そんな、少年の荒い息遣いがあたりに響く。

その少年は拘束されていて、辺りには武装をした男たちが立っていた。

少年の名は織斑一夏。

彼は、ドイツで武装した男たちに誘拐されたのだ。

 

 

彼は、幼少期から虐められていた。

彼の姉の織斑千冬、双子の兄の織斑春十は優秀だった。

成績も運動も、右に出るものはいないと呼ばれる程優秀だった。

一夏も同学年の児童に比べると優秀な方だったが、姉や兄と比べると如何しても見劣りしてしまう。

その為、周囲からは姉や兄と比べられ、蔑まれていた。

そして、春十からは

 

 

「お前がいると、僕や姉さんの功績に傷がつくんだよ!!」

 

 

と言われ、虐めの主犯として一夏を虐めていた。

一夏は姉の千冬に助けを求めた。

だが千冬は忙しさを理由に一夏の言葉を碌に聞かなかった。

その為、一夏への虐めは止まる事は無かった。

 

 

春十以外にも、一夏の事を虐める奴はいた。

春十と千冬が通っていた剣道場の娘、篠ノ之箒。

彼女は春十に惚れており、春十の言うまま一夏の事を竹刀や木刀で殴るなどの暴力を働いた。

何度も、何度も。

一夏は殴られることにより何度も血を流した。

だが、それでも千冬は一夏の話を聞かず、春十の転んだだけという説明だけを聞いた。

 

 

そして、一夏と春十と箒が小学4年生の時に、事件が起こった。

箒の姉の篠ノ之束がIS(インフィニット・ストラトス)と呼ばれるマルチフォーム・スーツを発表した。

ISは宇宙を目指すための翼として発表されたが、最初は誰にも認められなかった。

そんな中、全世界の軍事基地のコンピューターが同時ハッキングされ、日本に向けて合計2341発以上のミサイルが打たれた。

だがそのミサイルは1機の白いISによって全てが墜とされた。

それを見た世界各国はこのISを捕えようと戦闘機を発信させたが、そのISは戦闘機も全て墜とし、ステルスを発動させ何処かへと消えた。

この事件は白騎士事件と呼ばれ、この事件をきっかけに世界はISに対する評価を一転させた。

世界はISを軍事兵器として使用しようとしたが、アラスカ条約という条約により、今の所はスポーツの一種として落ち着いている。

 

そんなISを作った束はISのコアを467個作ったところで世界から失踪した。

その事で、束の家族である篠ノ之一家は要人保護プログラムによって転校した。

一夏はいったん安堵するも、その後更なる暴力に見舞われることになる。

 

 

千冬がISの世界大会、モンド・グロッソで優勝し、ブリュンヒルデと呼ばれるようになる。

その結果、一夏への虐めはさらに激しいものになる。

小学5年生になったとき中国からやって来た転校生、凰鈴音は言語の違いから虐められていた。

だが、春十によってそれが無くなると、鈴も春十に惚れ、一夏を虐めるようになった。

 

 

中学生になっても虐めは無くなることが無かった。

春十は一夏の事を虐めているのにも関わらず、家の家事一切合切を一夏に押し付けていた。

そんな生活を続けていた一夏は、ドンドン心を擦り減らし、かなり卑屈な性格へとなってしまった。

そうして、中学1年の時に、第2回のモンド・グロッソが開かれることになった。

本来なら、一夏は来る気など無かったのだが、千冬に無理矢理連れてこられた。

 

 

ホテルでも、春十は一夏にベッドを使わせないなどをしていた。

そうして、モンド・グロッソの決勝戦の直前、一夏は何者かに頭を殴られ、気が付いたら何処かの倉庫だと思われる所に拘束されていて、周りに武装した男たちが立っていた。

 

 

「.....俺を誘拐したのは、織斑千冬の優勝妨害か..........?」

 

 

一夏は掠れた声で、そう言葉を零す。

 

 

「坊主、勘が良いじゃねえか。そうだ、俺達は織斑千冬に優勝してほしくないんだよ」

 

 

一夏の言葉に、男たちのリーダー格だと思われる男がそう返す。

 

 

「しっかし楽だったぜ。ガキ1人誘拐すればいいんだからなぁ!」

 

 

「ああ。織斑千冬は弟思いで有名だからなぁ!」

 

 

2人の言葉に応じて、その場にいる一夏以外の人間は声に出して笑う。

だが、その笑いは一夏の1言でピタッと無くなる。

 

 

「残念だけど...俺に人質としての価値は無い」

 

 

そう呟いた一夏に、男の1人が拳銃を持ちながら近付く。

 

 

「坊主、如何いう事だ?」

 

 

「そのまんまだ。俺じゃなくて、兄の織斑春十だったら、目的を達成できただろうな...」

 

 

一夏の言葉に応じて、その男が仲間にラジオを付けさせる。

すると...

 

 

『さぁ、たった今織斑選手が入場してきました!その身に纏うは、専用機の暮桜だ!さぁ、織斑選手は2連覇出来るのでしょうか!?』

 

 

そんな実況が聞こえて来た。

それを聞いた瞬間、男たちは焦る。

 

 

「何でだ!?ちゃんと日本政府には伝えたんだよな!?」

 

 

「当たり前だろ!クソ!織斑千冬は弟想いなんじゃないのかよ!」

 

 

そんな男たちに、一夏は

 

 

「だから言っただろ?俺には人質の価値は無いって...」

 

 

そう声を掛ける。

すると、男たちは荷物を片付け始める。

 

 

「クソ!失敗だ!撤収するぞ!」

 

 

「ガキは如何する!?」

 

 

「顔見られてるんだ!バラすに決まってんだろ!」

 

 

焦りながら会話して、リーダー格の男が一夏に拳銃を突き付ける。

 

 

「そういう訳だ、坊主。悪く思うなよ」

 

 

すると、一夏は光の無い目でその男を見ながら

 

 

「好きにしてくれ。俺に生きていく資格は無い...」

 

 

そう呟く。

それを確認した男は一夏の額に拳銃を突き付ける。

 

 

「潔いな...じゃあな坊主。悪く思うなよ」

 

 

そうして、拳銃のトリガーに指を掛ける。

そのまま、一夏に銃弾が放たれる...

 

 

その直前に。

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

 

 

 

 

 

そんな音が、その場に響く。

男たちと一夏は、その音の発する方の方向を向く。

するとそこには...

 

 

黒い、球体の様なものが、そこにはあった。

 

 

「な、何だよ!あれ!」

 

 

「お、俺が知る訳ないだろ!?」

 

 

男たちは口々にそう言う。

すると、その球体は周りのガラクタを吸い込み始める。

 

 

『う、うわぁあああああ!?!?』

 

 

男たちはそう叫びながら慌てて逃げ始める。

その場に一夏を残して。

球体は、ドンドン吸い込む勢いを強くしていく。

拘束されている一夏はその場から動くことなど出来ない。

やがて、一夏もそのまま球体に吸い込まれる。

 

 

「う、ああああ!?」

 

 

一夏のその叫び声を残し、球体はその場から消滅した。

そうして、この世界から、織斑一夏は、消え去った.....

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏は球体に吸い込まれてから、今までの人生を振り返っていた。

兄に虐められ、兄の友人に虐められ、姉には助けてもらえなかった。

そんな人生を。

 

 

(でも、束さんは俺に暴力を振るわなかったな...)

 

 

そんな中、一夏はとある女性の事を思っていた。

その女性は、ISの開発者である篠ノ之束。

今まで関わって来た人間の中で、唯一自分に暴力を振るわなかった人の事を。

 

 

(だが、しかし...本当は束さんも俺の事をうざったく思ってたんじゃないか...?)

 

 

でも、一夏は今までの生活により卑屈になってしまった性格では、そんな束の事も信じる事が出来ていなかった。

暫くそうしているうち、視界に光りが入る。

そうして、そのまま一夏は空中に放り投げられるものに似たような感覚を覚える。

その後、地面に落ちる。

 

 

「あ、ぐぅ...?」

 

 

拘束されているため受け身を碌に取れず、そのまま背中に鈍い痛みを感じる。

一夏の視線に映っているのは、黒い天井。

 

 

(し、室内...?)

 

 

一夏がそんな事を思うと同時に、

 

 

〈はっはっは...これはこれは。なかなか上物が釣れたではないか〉

 

 

そんな声が、部屋に響く。

一夏は、その声を発した人物を見るために何とか顔を上げる。

 

 

「ヒィ!?」

 

 

その人物を見た瞬間、一夏は悲鳴を上げる。

それは当然だろう。

一夏の視線の先にいたのは...

 

全体は白く、機械的な外見。

上半身は鋭角的な突起を各所から伸ばした細身の魔人の様な姿で、その上半身の倍以上に大きい下半身を持つ、化け物だった。

 

 

〈その、実に暗い、卑屈な目...実に素晴らしい!これは、本当に良い釣りをした〉

 

 

その化け物は、そんな歓喜の声を上げる。

それを聞いた一夏は恐怖と混乱に支配される。

 

 

(な、何だよコイツ!?着ぐるみ...じゃない!?そもそもここ何処だよ!?な、何なんだよ!?)

 

 

一夏がそんな混乱していると、その化け物は新しく言葉を発する。

 

 

〈フフフ...では、早速始めようか。ナリア〉

 

 

〈はい、ジニス様〉

 

 

その言葉に応じて、新しい声がこの部屋に響く。

一夏がその方向を振り向くと、そこにいたのは...

 

全身にスライムの様な形状のパーツがあしらわれた、女性的なシルエットのボディを持つ別の化け物だった。

 

 

「うわあああ!?」

 

 

その化け物を見て、一夏は更に悲鳴を上げる。

 

 

〈あなたは、ジニス様の忠実な駒となるのです〉

 

 

女性的な化け物はそう言うと、拘束されていた一夏の身体を担ぎ、何処かに連れて行く。

 

 

「ヒィ!?な、何なんだよ!?」

 

 

〈お黙りなさい〉

 

 

一夏は悲鳴を上げるも、化け物はそのまま一夏を連れて行く。

そうして、ある部屋に着いたとき、一夏はあるものを目にする。

それは...

 

拘束されている、民族風の衣類を着た、人間ではない何かの生物だった。

しかも、3体分もある。

その外見は、犀、鰐、狼に近かった。

 

 

(犀に、鰐に、狼?しかも、身体は人間に近い...あれだ、漫画とかの獣人ってやつか?それでも、これも着ぐるみではない...)

 

 

一夏はそれを見て疑問を感じるも、それは直ぐにそれ以上考えられなくなる。

自身を運んでる化け物は、一夏の両手を縛っている手錠をいったん壊すと、天井から垂れている2本の鎖に手を再拘束する、

これで、一夏は鎖で吊らされている状態となる。

 

 

「な、何!?」

 

 

一夏はそう声を発するも、目の前の化け物は一夏の言葉には反応せず、

 

 

〈ジニス様。準備完了いたしました〉

 

 

そう声を発する。

すると...

 

 

〈ご苦労だったな、ナリア。その部屋から退出しろ〉

 

 

と、さっきの白い化け物の声が聞こえてくる。

 

 

〈了解しました、ジニス様〉

 

 

女性型の化け物は、その声の指示に従い部屋から出て行く。

そうして、この部屋には天井に鎖で吊らされた一夏と、3体の獣人だけが残された。

 

 

「はぁ、はぁ、何なんだよ!?」

 

 

一夏は、そう声を漏らす。

さっきまでドイツで誘拐されていて、殺されそうになっていたのに、今は鎖で天井に吊るされていて、人間ではない化け物や獣人たちに出会うという訳の分からない体験をしたら、こうなってしまうのも仕方が無い。

 

 

〈さぁ...始めようかぁ...〉

 

 

その化け物の声に応じて、3体の獣人たちが闇のエネルギーに包み込まれる。

 

 

〈あ、あああががああ!?〉

 

 

〈ぐあぁああ!!〉

 

 

〈ぎゃあああああ!!〉

 

 

さっきまでピクリとも動かなかった3体は、急に苦しそうな声を発する。

 

 

「な、何だよ!どうなってんだよ!」

 

 

一夏は驚きの声を上げるも、それだけで状況が変わる訳がない。

そのまま3体から、何か光る粒子の様なエネルギーが溢れ出てくる。

それと同時に、一夏の足元にも3体を包んでいる闇のエネルギーが発生する。

一夏がその事を確認したとたんに、一夏の全身をも包み込む。

 

 

「あ、ああががあああがががああああ!!」

 

 

その瞬間に、一夏も苦しそうに叫び声をあげる。

 

 

〈では、次だ...〉

 

 

その声が響いた途端、獣人から溢れ出て来た粒子エネルギーを、闇のエネルギーで包み込む。

そうして、粒子エネルギーを包み込んだ闇のエネルギーは、一夏に近付く。

 

 

「ああああああああああ!!」

 

 

だが、一夏は苦しそうに身を捩っているため、その事に気付いていない。

そうして、その粒子エネルギーは、闇のエネルギーによって無理矢理一夏の身体へと注入される。

 

 

「あ、ああああああああああ!!!」

 

 

一夏は、一層苦しそうに叫ぶ。

 

 

〈はっはっは〉

 

 

そんな中、白い化け物...ジニスは、笑う。

 

 

〈さぁ...我らデスガリアンのブラッドゲームのエクストラプレイヤー.....ザワールドの誕生だ!〉

 

 

 

 




正直に言います。
ザワールドへの改造シーン、そこまで覚えてません。
今作ではこういう事で...

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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世界の王者の帰還

一気に10年くらい時間が飛ぶ。
ジュウオウジャーの解説が殆どってマ?

そんな今回ですが、楽しんでください!


三人称side

 

 

『デスガリアン』。

どれだけ生き物を苦しめ葬るのかを争う遊び、『ブラッドゲーム』を繰り返して99個の惑星を滅ぼしてきた宇宙の無法者たちの集団。

ブラッドゲームの記念すべき100個目の遊び場として定められたのが、地球。

だが、地球には今までのブラッドゲームでは現れなかった対抗勢力が現れた。

それが、動物戦隊ジュウオウジャー。

 

 

地球。

そこには、人間が主になって暮らしている人間界。

そして動物の頭部を持ち、二本足で歩行する亜人種『ジューマン』達が住む異世界、『ジューランド』が存在する。

人間はジューランド、並びにジューマンの事を知らないが、逆にジューマン達は人間界がある事を知っている。

 

この2つの世界は『リンクキューブ』によって行き来することが可能であったが、ある時何者かにそのキーである『王者の資格』の1つが盗まれ、多くのジューマンがジューランドに戻れなくなってしまう。

そんな中、とある駆け出しの動物学者、『風切大和(かざきりやまと)』は幼少期にとある鳥男から譲り受けた王者の資格を偶然遭遇したリンクキューブにはめ込んだことにより、リンクキューブの機能は復活し、ジューランドに迷い込んでしまう。

ジューランドに迷い込んだ大和はサメのジューマンの『セラ』、ライオンのジューマンの『レオ』、ゾウのジューマンの『タスク』、ホワイトタイガーのジューマンの『アム』の4人と出会う。

そうしてジューランドにいた大和だが、リンクキューブが鼓動した事によってセラたちと共に人間界に転送される。

そこでは、デスガリアンの幹部の1人、『ジャグド』がブラッドゲームを開始していた。

ジャグドはデスガリアン幹部が持つ『メーバメダル』から戦闘員である『メーバ』を生成し、人々や動物達を甚振り、森を火の海にするなどの残虐な行為をしていた。

その際に、リンクキューブまでもが破壊されてしまう。

そのあまりにも非道すぎる行為に、セラたちジューマンは激怒。

破壊されたリンクキューブから落ちた王者の資格はセラたちが拾い上げると『ジュウオウチェンジャー』に変化した。

セラたちはそれを使い、ジュウオウジャーに変身するも、ジャグドはメーバの援護もあり4人を圧倒。

だが、大和も王者の資格を拾い上げると、本来ならジューマンにしか王者の資格は反応しないはずだが大和の

 

 

「俺だって...人間だって、動物だーッ!!」

 

 

の掛け声に応じて、王者の資格はジュウオウチェンジャーに変化した。

そしてそのまま大和はジュウオウイーグルへと変身し、そのままジャグドと交戦。

ジャグドはそのまま撃退されてしまう。

だが、デスガリアンのオーナー、『ジニス』はジュウオウジャーに興味を持ち、秘書の『ナリア』に命じて『コンティニューメダル』を投入したことにより、ジャグドは巨大化して復活。

そのまま暴れようとしたが、ジュウオウジャーが召喚した1辺13メートルの立方体、『ジュウオウキューブ』の変形した動物モードに追い詰められる。

そしてジュウオウイーグル、ジュウオウシャーク、ジュウオウライオンが合体した巨大ロボ、『ジュウオウキング』にそのまま終始圧倒され、そのまま撃破された。

これが、動物戦隊ジュウオウジャーの始まりである。

 

その後、6個ある王者の資格の内の1つが無くなっていたり、リンクキューブの破損もあって、4人のジューマンは大和と共に暮らすことになる。

王者の資格を持っているジューマンは、完全とはいかないが人間に擬態しながら生活を送る事になる。

そうして、デスガリアンから地球を守りながら、残り1つの王者の資格を探すことになる。

 

 

ジュウオウジャーとデスガリアンの戦いが激化する中、ジニスは考えた。

ブラッドゲームを更に盛り上げようと。

その為、ナリアにジューマンの捕獲を命じ、犀男、鰐男、狼男の3人のジューマンの捕獲に成功する。

そして暗く、卑屈な人間を探し、別次元の地球から転送された少年...『織斑一夏』に3人のジューマンから取り出した生命エネルギー、『ジューマンパワー』を無理矢理注入させる。

そうして、一夏はブラッドゲームのエクストラプレイヤー、『ザワールド』へと改造、同時に洗脳された。

洗脳されたことにより、虐められ、卑屈になっていた性格は好戦的かつ攻撃的な性格へと変貌した。

 

 

ザワールドは、ジュウオウジャーとブラッドゲームのプレイヤー、『トランパス』の戦いに乱入。

デスガリアンと戦い、絆も深まりある程度成長していたジュウオウジャー5人を

 

 

「レベルが違うんだよ!」

 

 

と1人で圧倒。

その強さからくる恐怖心で、ジュウオウジャーは戦闘不能になってしまう。

だが、そんな中叱責と激励によって立ち直った大和の奇策でジュウオウイーグル、そしてその派生形態のジュウオウゴリラと一騎打ちとなるが、これをも圧倒。

トドメを刺そうとした途端異変が起き、一夏の姿に戻る。

一夏はそのままナリアによって連れ戻され、ジニスによって洗脳を強化される。

だが、この時大和は変身解除された一夏の苦しげな表情から、本心では戦いたくないと思っている事を見抜く。

そうして、再びザワールドとしてジュウオウジャーの前に立ち塞がるが、大和の説得で心が動き始め、遂には声が届き、自らの意識でジニスの呪縛を振り払い、自我を取り戻すことに成功した。

 

 

だが、自我を取り戻したは良いものの、一夏には記憶が残っていなかった。

覚えていたのは、言語と、自分が虐められていたという事、そして改造される直前の、3人のジューマンが苦しんでいる姿と自分を改造したジニス、そしてザワールドとしての記憶だけだった。

自分の名前も、何処から来たのかも、誰から如何いう理由で虐められていたのかも覚えていない。

だが、自分が虐められていたという事実から本来の卑屈な性格に戻ってしまい、救出時に上半身裸だったのにも関わらず、着る服を借りるのを拒否してしまう。

その後何とか押し切られる形で服を借りるが、話し合おうとした途端に

 

 

「やっぱり無理!!」

 

 

と逃げ出してしまう。

ジューマン3人の命を奪ってしまった罪悪感からか、ジューマンである4人に恐怖を覚えてしまったらしい。

そうして、パワーを奪われたジューマン3人が自分を恨んでいると思い込み、幻影の彼ら(妄想)に怯えていた。

そんな中、彼を回収するようにジニスから命令されたデスガリアンの幹部である『アザルド』と『クバル』によってジューマン4人が捕らえられ、交換条件で引き渡しを要求されるも、悩む余りに決断が鈍る。

だが、大和の必死の説得と自分の為に命を張る4人の姿、そして幻影のジューマン3人(妄想)からの後押しにより、自分の罪滅ぼしと仲間の為にも戦う事を決意。

 

 

「今日から俺は、世界の王者!ジュウオウザ...ワールド!」

 

 

6人目のジュウオウジャーとしてデスガリアンと戦い始める。

こうして、無事にジュウオウジャーの仲間入りを果たすことになる。

この時、名前を忘れていたため、大和が門藤操(もんどうみさお)という名前を新たに与え、織斑一夏だった少年は、門藤操として生きていくことになった。

 

 

そこから操はジュウオウジャーの一員として大和、セラ、レオ、タスク、アムと共に行動していくことになるのだが、彼の極度の卑屈さによってレオからは

 

 

「いい加減にしろ!!」

 

 

と怒られ、タスクからは

 

 

「その面倒くさい性格を何とかしろ!!」

 

 

とキレられてしまう。

 

 

だが、爆弾が仕掛けられたビルを一本釣りして空中に放り投げる荒業をする。

ジュウオウキング、ジュウオウワイルド、トウサイジュウオーといったロボ3体分のジュウオウキューブを即興でワイルドトウサイキングに合体させる。

宇宙船を一本釣りして地面に引きずり落とし、中に捕らわれていた子供達を開放する。

テンションがブレなくなる程の怒りを燃やし、大和の代わりに名乗りのセンターを務める。

とある宇宙海賊と関わる。

海中で毒を撒き散らす宇宙船を発見し、自分が毒にやられる事を承知で宇宙船を攻撃、これ以上海に毒が撒かれるのを食い止める。

囚われた大和を救出する。

ハロウィーンではしゃぐ。

そういった経験から、操は落ち込んで体育座りする回数はゼロにはなっていないものの、卑屈な性格はかなり治って来た。

 

 

だが、ある時ジョギング中に自身を改造したジニスが現れる。

過去のトラウマから操は思うように動けず、そのまま連れ去れてしまう。

実はこのジニスは、幹部の1人クバルがジニスに反逆するための駒としてジュウオウジャーを招き入れるためのコピーであり、連れ去られた操自身もコピーを作られてしまう。

その後、大和たちに発見され近くの病院に運び込まれるも、操はそのまま戦える心理状態では無くなってしまった。

ジニスへのトラウマがあるというのも理由だが、それだけでは無い。

コピーとはいえ、自身がまだ織斑一夏であったころにしか対面しなかった存在と出会った事で、織斑一夏としての記憶が戻ったのだ。

兄の織斑春十を始めに、様々な人間に虐められた事。

姉の織斑千冬は助けてくれなかった事。

その全てを。

 

 

病院の外では巨大化したクバルが暴れている中、病院のベッドの上で体育座りをして、犀男、鰐男、狼男の3人(妄想)と脳内会議を行う。

すると、3人は全員で操の事を叱咤激励。

それを受けた操は

 

 

「変わりたいんじゃない、変わるんだ!」

 

 

と、戦う意思を取り戻し、傷ついた体に鞭を撃ち、病院から出て行く。

 

 

「俺に怯えている資格は無い!」

 

 

そうして、操は織斑一夏としての自分を乗り越え、トウサイジュウオーに乗り込み、クバルと戦う。

 

 

「俺はもう逃げない!ジニスがなんだ!デスガリアンがなんだ!出来損ないがなんだ!俺にはみんながいる!昔の俺とはレベルが違うんだよォォォォッ!!!」

 

 

自分の過去を乗り越えた操は、改めて自分は門藤操として生きていくことを決意する。

 

 

そして、操はジュウオウワールドとしてデスガリアンと戦い続ける。

そうして、ジニスとの最終決戦で、ジニスに生み出された自分もジュウオウジャーの1人として地球に認められたことを実感。

仲間たち全員と共にジニスを倒した後、ジューマン達4人がジューランドに帰る前に円陣を組んで抱き合う。

リンクキューブが復活して再起動するのを見届けた.....直後にジューランドが人間界と一体化したのを目撃する。

その後は人間とジューマンの橋渡しをする為、ゴリラのジューマンのラリーが開いた講演会に出席。

そこで壇上に上がり、大勢の人間とジューマンの前で

 

 

「俺達は共存できる。友達になれる。仲良くなれる!」

 

 

と堂々と宣言した。

 

 

デスガリアンとの戦いの後は、人間とジューマンが手を取り合えるように活動をしながら、『地球王者決定戦』に出場し、優勝する。

その際、犀のジューマンの女性格闘家『リリアン』と男女交際を開始。

 

 

そして、ルパンレンジャー、パトレンジャー、キュウレンジャーの3戦隊がドン・アルカゲという敵との最終決戦の場に突如として乱入。

3戦隊の誰とも面識が無かったため

 

 

「誰!?」

 

 

と困惑されるが、

 

 

「細かいことはいい!」

 

 

その様に発言し、ハイテンションで戦闘を開始するも、戦闘員に突っ込んで行って何処かに走り去り、エンディングダンスのキュータマダンシング ルパパトvsバージョンを笑顔で踊って帰ってくるという奇行を行った。

大和がその事を尋ねると、

 

 

「何となく行かないといけない気がした」

 

 

らしい。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

そして、操が一夏を辞めて、操になってから、10年。

操は23歳になり、動物学者の道を進んでいる大和のサポートをしながら、今でも人間とジューマンの共存の為にあれこれ試行錯誤している。

 

 

『カンパーイ!!』

 

 

そして今は、大和の学芸会での発表が終わった事を祝う飲み会に参加していた。

メンバーはジュウオウジャーの6人だ。

 

 

「にしても、もう尻尾が無いレオ達にも慣れたな」

 

 

操はそう口にすると、ジューマンの4人は自分の背面を見る。

そう、この10年の研究により、ジューマン達は王者の資格無しで完全に人間に擬態することに成功した。

今までの擬態は尻尾などが隠せていなかったが、今回の擬態ではそこも隠せており、王者の資格を持たない一般ジューマンも、同じく擬態出来るようになった。

リリアンなどは常に擬態しながら操と一緒に過ごしている。

 

 

「そうだね。操くんの言う通り、私達も尻尾が無いのに違和感あったけど慣れたよ」

 

 

さきほどの操の呟きに、アムがそうやって返す。

アムの言葉に、セラ、レオ、タスクも頷く。

 

 

「それはそうとみっちゃん。飲まなくていいのか?」

 

 

ここで、大和がビールが入ったジョッキを持ちながらそうやって操に聞く。

この場にいる6人で、操だけが酒では無く烏龍茶を飲んでいたからだろう。

 

 

「俺まで酒飲んだら誰が運転するんだよ」

 

 

操が苦笑いしながらそうやって返す。

それに大和も笑いながら返す。

それから、飲み会は大盛り上がりして、2時間後。

操の運転で大和の母方の叔父の万里生宅に着いた。

全員が車から降りて、一斉に伸びをする。

 

 

「あー、飲んだぁ!!」

 

 

そうして、レオが声を上げると同時に、全員が笑い声をあげる。

そのまま全員が万里生宅に入ろうとした時、

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

 

 

 

 

 

そんな音が背後から響く。

全員が一斉に振り返ると、空中に、黒い球体の様なものがあった。

 

 

「な、なに!?」

 

 

セラがそう声を上げると同時に、操の身体が球体に引っ張られ、空中に浮く。

 

 

「っ!操!!」

 

 

咄嗟にタスクが操の腕を掴む。

だが、操を吸い込もうとする力は強くなっていく。

大和たちも、車や家も反応していないのに、操だけが吸い込まれようとしている。

 

 

「みっちゃん!」

 

 

「操!」

 

 

「操!踏ん張れ!」

 

 

「操くん!手を握り返して!」

 

 

そんな操の腕を大和たちも思いっ切り掴む。

だが、黒い球体の操を吸い込もうとする力はドンドン強くなっていき、大和たちは操の腕を離しそうになる。

 

 

「大和!これ以上は無理だ!絶対戻る!あとは...任せた!!」

 

 

操がそう言うと同時に、更に勢いは強くなる。

そうして、大和たちは酒の影響もあって手を離してしまう。

 

 

「うあああああああ!?」

 

 

「みっちゃぁあああああん!!」

 

 

そうして、操は黒い球体に飲み込まれた。

そのまま、操を吸い込んだ黒い球体は、消滅したのだった...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

操side

 

 

「あ、くぅ...?」

 

 

思わず、口からそんな声が漏れる。

俺の視界にあるのは、やけにボロボロの天井。

穴が開いていて、その向こうには青空が見える。

 

 

「ここは...?」

 

 

俺はそう呟きながら、身体を起こす。

すると、そこは何年も手入れされていなさそうな廃倉庫だった。

 

 

「...どこかで見たような...?」

 

 

何処でだっけ...?

俺がそんな事を考えていると、倉庫の入り口とは反対の方向から大きな物音が聞こえる。

俺はそのまま壁に空いている穴から倉庫の外に出ると、そのまま音が聞こえた方向に進んで行く。

すると、そこにあったのは...

 

 

「栃木県の某所の某採掘場...?」

 

 

そう、何回か言った事がある場所にそっくりだった。

俺は崖の上から下の方を見る、

すると、そこには黒い軍服を着た女性の集団と、その女性たちに囲まれているボロボロの外套に身を包んだ女性だった。

 

 

「大人しく捕まれ!」

 

 

そんな声が微かに聞こえる。

ギリギリ声は聞こえる範囲なのか...

よくよく見ると、軍服を着た女性たちのリーダーの様な銀髪の女性が外套の女性にそういう。

如何やら、外套の女性が何かをして、軍服の女性たちがそれを捕えようとしているらしい。

 

 

「フン!捕まる訳ないでしょ!」

 

 

その外套の女性はそう叫ぶと、その身体が光に包まれる。

崖の上にいた俺まで思わず目を逸らす。

そして、その女性は、その身体に機械のパワードスーツを身に纏っていた。

 

 

「IS...!?」

 

 

銀髪の女性にの近くにいた副官らしき女性が声を上げる。

IS。

それを聞いた途端、思わず地面に座り込んでしまう。

思い出すのは、織斑春十から受けた虐めの数々。

ISがあるって事は、ここは...俺の世界。

な、なんで急にこの世界に...?

俺がそう混乱していると、ISを纏った女性は銃を発砲。

軍服の1人の女性が被弾してしまう。

俺は行動しようとするも、身体が思うように動かない。

クソ!

俺は門藤操だ!

織斑一夏じゃないのに...!

 

 

〈何悩んでんだよ!〉

 

 

ここで、犀男がそう話し掛けてくる。

 

 

〈お前がこの世界に大きなトラウマがあるのは知ってる。でも、今それは関係あるか!?〉

 

 

〈今のお前は、織斑一夏とは比べ物にならないほど成長した!何を怖がる!?〉

 

 

鰐男と狼男もそう言ってくる。

 

 

〈あの女性たちを見殺しにする気か!〉

 

 

「そ、そんなつもりは!」

 

 

狼男の言葉に俺は否定をする。

 

 

〈なら大丈夫だって。俺達のジューマンパワーがあれば、イケる!〉

 

 

〈お前は門藤操だ!織斑一夏じゃない!出来る!〉

 

 

〈〈〈だから、操!戦え!〉〉〉

 

 

ジューマン3人は、そう言ってくる。

その言葉を聞いて、俺は立ち上がる。

 

 

「...ああ!やってやる!」

 

 

俺はそう言うと、懐から()()()()()()()()()()()()()()()を取り出した..

 

 

 

 




操の戦いは是非ジュウオウジャーをご覧ください。
本編の操と殆ど同じ事を元一夏の操もしてます。

リリアンの人間擬態の姿は、皆さんのお好きな女性の姿を当てはめて下さい。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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黒兎との接触

続き。
今作初めての戦闘シーン。
相変わらず私は戦闘シーンが苦手だ...


ラウラside

 

 

私はドイツ軍IS部隊、『シュヴァルツェ・ハーゼ』の隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒ。

私は今、部下と共にとある女を捕まえようとしていた。

この女はIS研究所から研究データを盗んだ犯罪者だ。

今現在は崖のふもとに追い込んでいる。

この女を捕えるミッションだけは、失敗できない...!

 

 

シュヴァルツェ・ハーゼの隊員たちは、全員が『アドヴァンスド』と呼ばれる生体兵器だ。

その中でも、私は優秀な個体だった。

そんな時にISが登場し、アドヴァンスド全員はIS適正を引き上げるための処置であるヴォーダン・オージェ移植手術を行う事になった。

この手術は危険が無い安全なもののはずだった。

だけれども、私には不具合が発生。

左目が金色に変色し、能力が上手く制御できず、出来損ないと言われるようになってしまった。

 

 

そんな私だったが、転機が訪れる。

ドイツ軍の教官としてやって来た、織斑千冬教官との出会いだ。

教官の特訓により、私は部隊最強の座に再度上り詰めた。

教官はもう既に日本に帰られ、今ではIS学園で教鞭を取られているらしい。

 

 

私は、今年からIS学園に通う事になっている。

専用機が完成してからなので4月の始めからとはいかないが、教官に会うことが出来る。

そこで、成長した私を見せることが出来れば...教官の弟を超えていると証明出来たら、教官はドイツに戻ってきて下さる!

だから、このミッションだけは何としても成功しなければならない!

 

 

「大人しく捕まれ!」

 

 

崖のふもとに追い込んだ女に対して、私はそういう。

部隊の全員で女の事を囲んでいる。

これで逃げる事は出来ない!

だが、女は

 

 

「フン!捕まる訳ないでしょ!」

 

 

そう叫ぶ。

それと同時に、女の身体が光に包まれる。

その光が止むと同時に、女の身体には、IS『ラファール・リヴァイヴ』が装着されていた。

 

 

「IS...!?」

 

 

私の隣に立っていた、副隊長のクラリッサがそんな声を漏らす。

クソ!

女がISを所有しているだなんて情報聞いてないぞ!

 

 

「邪魔よ!」

 

 

女はそのままアサルトライフルを展開し、発砲してくる。

 

 

「避けろ!」

 

 

私は咄嗟にそう指示を出す。

女の正面にいた隊員たちは地面を蹴り、銃弾を避ける。

だが、

 

 

「きゃあ!!」

 

 

「っ!ネーナ!」

 

 

クラリッサがネーナの名前を呼ぶ。

そう、反応が遅れた隊員の1人、ネーナが足に被弾をしてしまったのだ。

ネーナの近くにいた隊員マルチダがネーナに駆け寄る。

 

 

「如何やらISは無いらしいわねぇ?」

 

 

女は銃を構えながらそう言ってくる。

クソ!

如何したら...

 

 

「私の邪魔をするのがいけないのよ!」

 

 

女は、私に銃口を向けながらそう言って、引き金に指を掛ける。

 

 

「隊長!!」

 

 

クラリッサがそう声を上げる。

だが、今ここからでは...!

 

 

そうして、女が引き金を引く...

 

 

 

 

 

その直前に、黄色い糸のようなものが女の構えているアサルトライフルを絡めとる。

そうして、アサルトライフルはそのまま黄色い糸によって崖の上の方に引っ張られていく。

 

 

「な、何よ!?」

 

 

女はそう叫び、崖の上の方を見る。

それにつられて、私達も崖の上に視線を向ける。

 

 

するとそこには、逆光で姿をキチンと確認できないが、誰かがそこにいる事を確認した。

その右手には長いロッドの様なものを持っていて、左手には女の手から離れたと思われるアサルトライフルを手にしていた。

そして、その人物はアサルトライフルを地面に落とすと、そのまま踏みつけて破壊した。

...全てが陰になっているから、恐らくとしか言えないが。

 

 

「な、何よアンタ!」

 

 

女がその人物に向けてそう叫ぶ。

すると、その人物は右手に持つロッドを仕舞うと、崖の上から飛び降りた。

そのまま地面にしゃがみながら着地すると、立ち上がる。

そうすることで、その人物の容姿を確認することが出来た。

 

 

その姿を見て思った事は、疑問。

その人物は、全身にISとは異なるスーツを着用していた。

そのスーツの下半身は黒で、上半身は中央が黒、右腕側が金、左腕側が銀という縦縞カラーリングになっていて、胸には右からワニ、サイ、オオカミの顔が描かれている。

腰には銀のベルトをしていて、それのバックルにもサイとワニとオオカミが彫られている。

そして頭部は、口元が金で目元から上は黒。

黒い部分はサイの頭部を模しているようだ。

こんなもの、見たことが無い。

 

 

「だ、誰よ!!」

 

 

女は半分ヒステリックにそう叫ぶ。

するとその人物は両腕を時計回りに大きく回してから、右手を上げて、握り拳を作りながら、

 

 

「世界の王者!」

 

 

そう言うと、右足を前に出して身体を屈めると、そのまま立ち上がり左腕を腰に、右腕を頭上に伸ばす。

そして、両腕を体の前で回してから右手を正面に、左腕を腰引きながら

 

 

「ジュウオウザワールド!」

 

 

そう、言う。

その声は、私が勝手に想像していたものよりも圧倒的に低いもの...男の声だった。

 

 

「男?ハッ!ふざけるのは程々にしておきなさい!ISに、女に男が何か出来る訳が無いんだから!」

 

 

女は別の銃...ショットガンを展開しながらその人物にそういう。

だが、その人物は

 

 

「手負いの人間もいるからな...さっさと終わらせる!」

 

 

そう言うと、先程まで持っていたと思われる黄色いロッドを取り出す。

 

 

「ハン!なら、死になさい!」

 

 

女はそう言ってショットガンを発砲する。

だが、その人物は後ろに大きく跳躍しながらそれを躱す。

そこから女は何度も発砲するが、ショットガンは距離と反比例して威力が格段に低下する銃だ。

簡単に避けられてしまっている。

 

 

「ちょこまかと!」

 

 

女はそう叫ぶと、スーツの男を追うように移動する。

 

 

「た、隊長!」

 

 

そんなやり取りをしていると、隊員たちが集まって来た。

被弾してしまったネーナの事はマルチダ達が緊急手当てをしている。

 

 

「あ、あの人物はいったい...?」

 

 

すると、隊員の1人であるイヨがそんな事を言ってくる。

 

 

「私が分かる訳ないだろう!」

 

 

「で、ですよね...」

 

 

私がそう返すと、イヨもその答えだと分かっていたように頷く。

そんな会話をしている間も、女が発砲し、男が避け、女が移動して撃つを繰り返している。

男は反撃をする気が無いように、ただひたすら避けている。

いったい何がしたいんだ...

 

 

「もしかして、私達に流れ弾が来ないように誘導してる...?」

 

 

私がそんな事を考えていると、クラリッサがそう声を漏らす。

まさか、そんな事があるのか...?

 

 

「チッ!弾切れ!」

 

 

女はショットガンを見ながらそう舌打ちする。

如何やら、ショットガンが弾切れしたらしい。

すると、男は手に持ったロッドから糸を取り出すと、女に向かって振るう。

 

 

「ハァ!!」

 

 

待て、ロッドから糸?

これは、つまり...

 

 

『釣り竿!?』

 

 

私達負傷しているネーナ以外のシュヴァルツェ・ハーゼ全員の言葉が揃う。

そう、男が持っているのは、釣り竿だ。

私達がそう驚いていると、糸は女のISの装甲に当たり、装甲からは火花が散る。

 

 

「し、SE(シールドエネルギー)が!?」

 

 

それを見て、更に私達は驚く。

ISにはシールドバリアーがある。

これは、ISの周囲に張り巡らされている不可視のシールドで、攻撃を受けるたびにSEを消費していく。

だが、攻撃でないとそもそもシールドバリアーは発動しない。

本来だったら糸ごときでは発動しないものなのに、あの男の釣り竿から出ている糸はシールドバリアーを発動させ、火花まで散らしている。

 

 

「ハァ!ハァ!オラァ!!」

 

 

「ぎゃあ!」

 

 

そのまま、男は釣り竿を振るい、糸で女を攻撃する。

女はそのまま糸での攻撃を受け、ガリガリとSEを削っていく。

 

 

「クソ!このぉ!!」

 

 

女は弾切れしたショットガンを捨てると、接近用ブレードを展開して、そのまま男に突っ込んでいく。

スラスターも使い、かなりのスピードが出ている。

だが、

 

 

「ハァ!」

 

 

男はそのまま大きく跳躍し、女の事を躱す。

そうして、そのまま男は着地すると、釣り竿を振るう。

すると女の足に糸が絡みつく。

 

 

「え!?」

 

 

女が驚愕の声を上げる。

 

 

「オラァ!!」

 

 

それと同時に、男は釣り竿を振り回す。

当然、糸に絡みついている女も振り回される。

 

 

「エ、エグイ...」

 

 

イヨがそうボソッと呟く。

隊員たちも頷く。

そんな事をしている間にも、男は女の事を振り回している。

そして

 

 

「ハァアア!!」

 

 

という男の声と共に女の足に絡まっていた糸が取れる。

だが、女は勢いそのままに崖の方へ吹っ飛んでいき、崖にめり込んで巨大な跡が出来る。

 

 

「あ、がぁ...」

 

 

めり込んだ女はそんな声と共に地面に落ちてくる。

だが、如何やら上手く立てないらしい。

あのようにものすごい勢いで崖に突っ込んだら当然か。

 

 

「何で、私が...ISが、男に!」

 

 

女がそう言うと、男が女に近付いていく。

 

 

「1人で戦ってるお前に、俺は負けない!」

 

 

男はそう言うと、女の事を蹴り上げる。

 

 

「ハァ!!」

 

 

「ぎゃあ!!」

 

 

すると、女は大きく吹き飛ぶ。

そして、地面に転がるとISが強制解除される。

如何やら気絶したようだ。

 

 

それを見て、私達は何も言葉が出なかった。

ISは、現代において最強の兵器。

嘗て白騎士がやったように、1機だけで戦闘機10機を墜とすことなど造作もない。

だが、目の前の奇妙な男はそんなISを1人で完全に叩きのめした。

コイツはいったい、何者だ...

そこで、再び視線をその男に向ける。

すると...

 

 

何かをブツブツと呟きながら、体育座りをした。

ほ、本当に、いったい何なんだ?

 

 

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操side

 

 

やっちまった...

俺は体育座りをしながらそんな事を考えていた。

 

 

俺は、ISを使っていた女性と交戦し撃退した。

そこまではいい。

そこまでは。

だが、チョッとやり過ぎた。

元々は無力化だけするつもりだったのに、ISを纏っていた女性はそのまま気絶してしまった。

やり過ぎた...

これでは女性から情報を聞き出すことも出来ない。

それに、俺がこの世界から離れたのは10年前。

その10年前でもISに関わっていたわけではない。

そう、俺はISの事が全く分からない。

IS装着者の安全性なんか、これぽっちも分からない。

もしかしたら、女性は身体に障害を負った可能性がある。

完全にやっちまった。

 

 

「俺にこの世界で戦う資格は無い...」

 

 

俺がそう言いながら体育座りをしていると...

 

 

「ちょ、ちょっと良いか?」

 

 

と声を掛けられる。

そっちの方に顔を向けると、そこには黒い軍服を着た女性たちが立っていた。

戦闘には、さっきの女性がISを展開する前に話し掛けていた銀髪の女性...いや、近くで見ると女性と言うより少女だな。

確実に20歳は超えていないような年齢。

恐らく、15、6くらいだろうか。

それに後ろに控えている他の女性も思っていたより若い。

一番大人っぽい銀髪の少女の副官の様な女性でも、俺と同じくらいの年齢だ。

まさか、こんなに若い人たちだったなんて...

 

 

「敵対するつもりはない...」

 

 

俺はそう女性たちにそう言う。

声を掛けて来たという事は、そういう事だろう。

ここで敵対するとまた戦わないといけないので、俺は取り敢えず敵対する意思はない事を伝える。

すると銀髪の女性は、

 

 

「なら、そのスーツを脱いでくれ」

 

 

そう言う。

確かに、俺変身したまんまだったわ。

俺は立ち上がると、そのまま変身を解除する。

すると、女性たちは一斉に驚いたような表情をする。

 

 

「お、織斑、一夏!?」

 

 

.....まぁ、そうなるか。

織斑千冬は有名だし、不本意だが俺は織斑春十とも顔が似てるんだ。

織斑千冬の弟である織斑一夏の事を知っていても不思議ではない。

だが、違う。

俺は...

 

 

「いや、俺は織斑一夏ではない」

 

 

「な、なら、名前を教えてくれないか?」

 

 

副官の様な女性がそう聞いてくる。

 

 

「俺は操。門藤操だ」

 

 

そう、俺は門藤操だ。

俺は織斑千冬と織斑春十の弟じゃない。

 

 

「すまないが、そちらも自己紹介をしてくれないか?」

 

 

俺がそう言うと、戦闘に立っていた銀髪の少女が口を開く。

 

 

「私達は、ドイツ軍IS部隊シュヴァルツェ・ハーゼ。私は隊長のラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 

こんな若そうなのに、隊長。

凄いな...

それに、ドイツ軍って事は、ここはドイツか。

この某採掘場らしき場所から勝手に栃木県だと思ってた。

こういう場所って世界中にあるんだなぁ...

俺がそう考えていると

 

 

「私は副隊長のクラリッサ・ハルフォーフだ」

 

 

と、ラウラさんの隣に立っていた副官らしき女性もそう言ってくれる。

やっぱり副官だったか...

 

 

「織斑一夏ってやつは、そんなに俺に似てるのか?良く間違えられるんだが...」

 

 

如何あがいても顔は織斑一夏のものと一緒なんだ。

俺は咄嗟にそう言う嘘をつく。

 

 

「あ、ああ。そっくりなんだ。誤解して悪かった」

 

 

すると、クラリッサさんがそう言う。

これで良し。

 

 

「それで、あの女性って大丈夫か?」

 

 

IS部隊なら、ISについて詳しいだろう。

俺はそう聞く。

 

 

「ああ。第二世代型の訓練機としても使える機体で、実験機じゃないんだ。絶対防御も問題ないだろう。ただ気を失っているだけだ」

 

 

それを聞いて、俺は胸を撫で下ろす。

良かったぁ.....

もしこれで死んでるとか言われたら、俺はもう立ち直れない。

ん?

第二世代型?

あれ、10年前で第一世代だったよな。

そんなに技術の進歩って遅いのか?

...一応確認しよう。

 

 

「第2回のモンド・グロッソから何年たった?」

 

 

俺がそう尋ねると、ラウラさんが首を傾げながら

 

 

「そうだな...当時中学1年生だった教官の弟が今年に高校入学のはずだから...3年だな」

 

 

3年...?

まさか、この世界とジューランドがある世界では時間の流れる速度が違うのか...?

 

 

「隊長!早くネーナを運びましょう!」

 

 

ここで、先程被弾をしてしまった女性の近くで治療をしていた女性がそう声を上げる。

 

 

「マルチダ!ネーナは無事か!?」

 

 

クラリッサさんがそう尋ねる。

 

 

「はい!取り敢えず、致命傷は避けれてます!ですが、早く運んだ方が良いのに変わりはありません!」

 

 

それを聞いたラウラさんは、

 

 

「ならば今から帰還する!容疑者の女は確保しておけ!」

 

 

「「「はい!!」」」

 

 

そう指示を出す。

すると、3人の女性が気絶している女性の事を拘束する。

 

 

「すまないが、詳しく話を聞きたいから、付いて来てくれるか?」

 

 

「分かった」

 

 

クラリッサさんがそう言うので、俺は頷く。

そうして、俺はシュヴァルツェ・ハーゼの基地に移動するのだった。

 

 

...大丈夫だよな。

俺、このまま拘束されたりとか殺されたりしないよな。

大丈夫、話を聞かない事には如何することも出来ないだろう。

だが、しかし...心配だ.....

 

 

 

 




名乗りポーズ書くのってムズイ。
理解できなかったらジュウオウジャー見てください。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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天災の襲来

遂に、みんな大好き?なあの人が!

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

薄暗い部屋の中で、唯一光るモニターのディスプレイ。

その前には、1人の女性が座っていた。

その女性は頭に機械のウサミミを着けていて、胸元が大きく開いたエプロンドレスを着用していた。

そう、この女性こそがISの開発者の篠ノ之束だ。

 

 

「えっと、確かエネルギーが確認されたのはここら辺だったはず...」

 

 

束は、唐突に確認されたエネルギーの事を調べていた。

 

 

「このエネルギー反応が前に確認されたのは、いっくんがいなくなっちゃった時か...」

 

 

束はそう呟くと、ディスプレイの隣に置いてある写真立てに視線を向ける。

そこには、幼い一夏の写真があった。

 

 

「いっくん、何処に行っちゃったの...?」

 

 

束は心配そうな表情でそう呟く。

そう、束は幼少期から虐められていた一夏の事を唯一気にかけていた。

みんなが一夏の事を虐め、姉である千冬が一夏の話を聞かなかった中、束だけは一夏の味方でいた。

 

 

「お、映像来たね」

 

 

束はそう呟くと、ディスプレイに視線を戻す。

そう、束はエネルギー反応があった所を確認するためにドローンを飛ばしていたのだ。

 

 

「ん~と...特に変わった所は無いかなぁ?」

 

 

束はドローンを操縦しながらそう呟く。

だが、とある崖のふもとで行われている事を見た瞬間に動きが止まる。

ディスプレイには、ISを身に纏った女が銃を発砲して、別の軍服を着た女がそれを被弾してしまった映像が映っていた。

 

 

「この女...私の可愛い可愛いISで...」

 

 

束は、自分の発明品であるISで人を傷つけているこの女の事を許せないようだ。

だが、特に撃たれた人の心配をしていないあたり、束らしい。

そんな束の表情は、直ぐに驚愕のものへと変わる。

崖の上にいた謎の人物が女の手からアサルトライフルを吊り上げるとそのまま交戦を開始。

ISを纏っているはずの女を、赤子の手を捻るように簡単に撃退した。

 

 

「っ!な、何者...!?」

 

 

束はディスプレイに顔を近付けてまじまじと見る。

その人物が身に纏っているものがISではない事は、ISの開発者である束は直ぐに分かった。

だからこそ、衝撃が大きい。

自身の最高傑作ともいえるISを簡単に撃退できるこの人物は、いったい何者なんだと。

 

 

そんな束だったが、次の瞬間には更に驚いた表情へと変わる。

ディスプレイに映るその人物が身に纏っている謎のスーツを解除したからだ。

それによって、その人物の素顔が見れるようになる。

 

 

「い、いっくん...?」

 

 

そう、その人物は、行方不明の一夏にそっくりだったのだ。

束が驚いていると、その人物はその場にいた軍服を着た女たちと共に何処かへ移動を開始していた。

 

 

「い、行かなきゃ!ここは...ドイツ!!」

 

 

束はそう呟くと、ディスプレイの電源を落とすこともせずそのまま部屋から飛び出る。

そうしてニンジン型のロケットに乗り込むと、そのままドイツに向かって飛んでいく。

その表情は、とても焦っているものだった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

操side

 

 

ドイツ軍IS部隊シュヴァルツェ・ハーゼの基地。

そこで俺は与えられた部屋にあるベッドに仰向けに寝ころんでいた。

ベッドと簡略机とパイプ椅子しかないとても質素な部屋だが、牢屋じゃないだけマシだ。

 

 

「それに、()()()没収されてないからな...」

 

 

俺はそう言いながら懐から中央にキューブが付いた懐中電灯...『ジュウオウザライト』を取り出しながらそう言う。

暫くジュウオウザライトを見つめた後、懐に仕舞う。

そして、身体を横向きにしてからため息をつく。

 

 

あれから、負傷してしまった隊員...ネーナは基地の医務室に運び込まれた。

弾丸は貫通していたため残っておらず、それに静脈や動脈などの重要血管も無事だったため、今は普通に会話ができるくらいにまで回復しているらしい。

それは本当に良かった。

もし、俺があの崖のふもとで喋ってたから間に合いませんでしたなんか言われたら、俺は多分立ち直れない。

 

 

そして、ネーナの容態が問題ないと言われてから、俺は改めて全員に自己紹介をした。

自己紹介の時に23といったら驚かれた。

何で?

そして、シュヴァルツェ・ハーゼ全員俺より年下という事で、全員を呼び捨てとため口で話す許可を貰った。

これは楽でいい。

そうして、全員の名前と顔を暗記してから、俺は全員に説明をすることにした。

それは当然、ジュウオウザワールドの事。

だがジューマンワールドの事などを説明する訳にもいかない。

その為、俺は大分誤魔化して説明した。

 

先ず第一に、俺は織斑一夏ではない事。

次に、ジュウオウザワールドはISでは無く、俺の独自開発したパワードスーツだという事。

あの場にいたのは、世界中を旅していて、偶々あの場に居合わせたという事。

 

そんなザックリとした説明で一応みんな納得してくれた。

だが、ラウラとクラリッサだけはまだ疑問が残っているようだった。

ただ、それはジュウオウザワールドに関する事と言うよりかは、俺個人に対しての疑問のようだ。

それも仕方ないのかもしれない。

認めたくは無いが、俺の顔は織斑春十にそっくりなんだ。

23になった今でも面影は残ってしまっているだろう。

 

 

そんな事を思い返しながらベッドの上でゴロゴロしていると、時刻が6時20分になっていた。

俺はベッドから立ち上がるとそのまま部屋を出る。

理由は簡単、今から夕食なのだ。

ISを倒すという前代未聞な事をしてしまったらしい俺だが、今の所その事実はシュヴァルツェ・ハーゼの隊員以外には知らされていない。

今後の対応は明日以降話し合うという事で、今の所俺はシュヴァルツェ・ハーゼの基地から出なければ自由行動が出来る。

このまま特に問題なく過ごせたらいいんだがな...

俺がそんな事を考えていると、食事部屋に着いた。

俺が扉を開けると、中にはまだ殆ど人がおらず、今日の食事担当のファルケがせっせと準備をしているだけだった。

 

 

「ファルケ、手伝うぞ」

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

シュヴァルツェ・ハーゼのみんなは、俺が年上という事もあって全員敬語を使う。

そこまでしなくても良いんだけどな...

俺はそう思いながら、食事の準備を手伝う。

盛り付けの1部をしたり、机に料理を運んだりしている。

普段から大和のサポートで飯は作ってるからこれくらいなら全然問題ないな。

そうやっていつしか俺メインで準備をしていると、続々と人が集まって来た。

全員俺が準備を手伝っているのに首を傾げていたものの、何も言わずに席に座っていく。

そうして、ファルケも席に着いたタイミングで、俺も自分の分の料理を持って席に行く。

今日のメニューはパンにサラダに焼いた牛肉。

これだけだったら普通に感じるが、軍の食事という事で味付けは最低限で、栄養全振り感がMAXだ。

一回美味しい食事を食べてみても良いと思うんだけどなぁ...

俺がそんな事を考えていると、

 

ドォォオオオオオオン!!

 

そんな音と共に地震の様な衝撃があたりに響く。

その衝撃により地面が揺れ、俺が持っていた夕食が乗ったプレートが地面に落ちて、辺りに散乱する。

 

ガッシャァアアアン!!

 

揺れが収まったタイミングで、全員の視線が俺に集まる。

 

 

「俺には夕食を食べる資格は無いのか.....」

 

 

俺がそう言うと、一瞬空気が気まずくなるが、

 

 

「い、今の揺れはなんだ!地震では無いんだろう!?」

 

 

というラウラの声で何とか俺を含め現実に帰って来た。

確かに、地震のような揺れだったが、緊急地震速報はなっていないし、そもそもドイツでは地震など滅多に起こらないし、起こったとしてもここまで大きなものにはならない。

つまりは、これは何か別の要因での揺れという事である。

みんなが一斉に行動をしようと席を立ちあがる。

俺も取り敢えず散乱した元夕食を片付けようとゴミ袋を取りに行こうとした時、

 

ズドドドドドド!!

 

そんな、廊下を爆走する足跡が聞こえてくる。

俺を含めた全員が部屋のドアに視線を向ける。

そうして、勢いよく扉が開き、

 

 

「いっくぅううううん!!」

 

 

と奇声を上げながら1人の女性が突っ込んで来た。

その女性を見た瞬間、全員の動きが止まる。

機械のウサミミを頭に着け、胸元が開いたエプロンドレスという奇抜な格好や、急に出て来たという事に驚いている...という訳では無いだろう。

確かに、それも十分に驚く要素ではあるが、今回みんなが驚いているのはそこではない。

みんなが驚いているのは、その人物そのものに対してだ。

その人物は、ISの開発者...そう、篠ノ之束その人だ。

 

 

「いっく~~ん!!」

 

 

「ちょ、ま!」

 

 

俺が制止するのも聞かず、篠ノ之束は俺に抱き着いてくる。

その勢いに耐え切れず、俺は仰向けに倒れる。

 

 

「いっく~ん!今までどこにいたのぉ!!」

 

 

俺の胸に顔を埋めながら、篠ノ之束はそう言う。

 

 

「いったん離れろ!いっくんって誰の事だ!」

 

 

俺がそう言うと、篠ノ之束はピタッと動きを止めると、俺の胸元から顔を上げる。

 

 

「な、何を言ってるのかないっくん?いっくんはいっくんでしょ?」

 

 

そして、篠ノ之束はそんな声を発する。

その声と表情から、動揺しているのが目に分かる。

 

 

「俺は門藤操だ!いっくん要素なんてない!」

 

 

そんな篠ノ之束に、俺はそう言う。

すると、篠ノ之束はしゅんとしたように顔を俯かせる。

チラッと周りを見ると、シュヴァルツェ・ハーゼ全員が呆気に取られたような表情をしている。

まぁ、それはそうなるか...

 

 

「いっくん...何処にいるの...?」

 

 

とここで篠ノ之束がボソッとそう呟く。

その表情は何とも言えない、悲しそうなものだった。

.....これは、1回ちゃんと説明しないといけないかもな。

 

 

()()()

 

 

俺が周りに聞こえないようにそうボソッと呟くと、束さんは小さく反応する。

それを見ながら、俺は言葉を発する。

 

 

「後でちゃんと説明します。俺の部屋への侵入くらい出来るでしょう?」

 

 

そうすると、束さんは

 

 

「...分かった」

 

 

と小さく返す。

 

 

「ん~~、勘違いだったか!邪魔しちゃったね!バイビー!!」

 

 

そのまま、束さんは笑顔でそう言うと、そのまま何処かに消えて行った。

 

 

『.....』

 

 

シュヴァルツェ・ハーゼのみんなは、固まったまま動かない。

そんな中、俺は上体を起こして

 

 

「俺の夕食...」

 

 

と呟く。

すると、ただでさえ微妙な空気だった食事部屋が更に気まずくなる。

お、俺のせいで...

やっぱり俺に夕食を食べようとする資格は無い...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

あれから時間は進み、今は10時30分。

俺は自分の部屋でジュウオウザライトを見つめながらパイプ椅子に座っていた。

 

 

あれから、俺の分の夕食は非常用の保存食となった。

まぁ、食べれないよりはマシだったが、それでもやっぱり悲しいものは悲しい。

それに気まずい空気の中食事をするのも耐えられなかった。

何回逃げ出そうと考えた事か...

 

 

そうして夕食の後、俺はラウラとクラリッサに声を掛けた。

どうせ束さんに説明するんだったら、シュヴァルツェ・ハーゼの1部にも説明しておいた方が良いだろう。

そう判断した俺は、隊長と副隊長である2人にも説明をすることにした。

...正直言うと、ジューマンワールドの説明をしても納得してくれるかどうかは分からないが、説明はしよう。

3人が聞きたい事は、俺と織斑一夏との関係性だとは思うんだがな...

 

 

「...いざ話すとなると、不安だなぁ」

 

 

俺はそう呟く。

すると、

 

 

〈なーにしけた顔してんだよ!〉

 

 

と鰐男が声を掛けてくる。

 

 

「心配なものは心配なんだよ」

 

 

俺がそう返すと、

 

 

〈操なら大丈夫だって!〉

 

 

〈心配はいらねぇよ!〉

 

 

狼男と犀男もそう言ってくる。

 

 

「...そうだな。頑張るわ」

 

 

〈〈〈ああ、頑張れよ!〉〉〉

 

 

俺がそう答えると、犀男、鰐男、狼男はフェードアウトする。

俺が気合いを入れ直した時、

 

コンコンコン

 

と部屋の扉がノックされる。

 

 

「どうぞ」

 

 

俺がそう返事をすると、部屋の扉が開く。

そこにいたのは、当然ながらラウラとクラリッサだ。

俺は2人に見られる前にジュウオウザライトを懐に仕舞う。

 

 

「ん。わざわざ来てくれてありがとう」

 

 

「そ、それは良いのだが...」

 

 

俺がそう声を掛けると、ラウラがそう言う。

そうして、2人はそのまま部屋の中に入ってきて、扉を閉める。

 

 

「それで、話したい事っていうのはいったい何ですか?」

 

 

そうして、クラリッサがそう聞いてくる。

 

 

「後1人呼んでるから待ってくれないか?」

 

 

「あ、後1人?」

 

 

「そう、後1人」

 

 

俺がそう言うと、2人とも首を傾げる。

そこから待つこと5分くらい。

窓の外から何からガサゴソ音が聞こえてくる。

 

 

「っ!何が...」

 

 

ラウラがそう声を出して、警戒感をあらわにする。

だが、俺はそのまま窓に近付くと窓を開ける。

 

 

「あ、危ないですよ!」

 

 

「大丈夫だ。正体は分かってる」

 

 

クラリッサの言葉に俺がそう返すと、2人とも警戒を緩める。

その表情は、疑問を感じているようだった。

まぁ、窓の外から急に鳴って来た音の正体を知っていると言われたら疑問も感じるだろう。

 

 

「良いですよ、束さん」

 

 

「は~い」

 

 

俺がそう言うと同時に、窓から束さんがそのまま入ってくる。

その瞬間に、ラウラとクラリッサが驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「ん?何お前ら」

 

 

束さんはラウラとクラリッサの事を見ながらそう言う。

 

 

「ド、ドイツ軍IS部隊シュヴァルツェ・ハーゼ隊長のラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 

「同じく副隊長のクラリッサ・ハルフォーフです」

 

 

ラウラとクラリッサは束さんに自己紹介をする。

すると、

 

 

「ふーん、そうなんだ。束さんは束さんだよ」

 

 

と投げやりに束さんも自己紹介をする。

 

 

「えっと...IS開発者の篠ノ之束博士ですか?」

 

 

「そう言ってるじゃん」

 

 

ラウラの確認に対して、束さんは心底面倒くさそうにそう言う。

すると、ラウラとクラリッサは驚愕の声を上げる。

まぁ、ISの開発者が目の前にいるんだから驚くのも当然か。

 

 

「もう、うるさいなぁ...これだから凡人は...」

 

 

束さんは面倒くさそうにそう言う。

それに対して、俺はため息をつく。

 

 

「それじゃあ、説明を始めていいですか?」

 

 

俺がそう言うと、束さんも面倒くさそうな表情を止めて、真面目な表情になって俺の方を見る。

ラウラとクラリッサも、俺の事を見てくる。

 

 

「じゃあ、先ずは...俺の事についてですね」

 

 

そうして、俺は説明を開始するのだった...

 




操「作者」

ん?如何した、操

操「EDダンスはまだか?」

まだプロローグだから...
本編入ってからね。

操「了解した」

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

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まさかの発覚

前回の続き。
一気に話が進みます。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

シュヴァルツェ・ハーゼ基地、操に貸し与えられた部屋。

そこで、操が束、ラウラ、クラリッサの3人と向き合っていた。

理由は単純、操がこの3人にジューマンワールドの事や、織斑一夏に関することを説明しようと3人を集めたからだ。

 

 

「じゃあ、先ずは...俺の事についてですね」

 

 

操がそう言うと、束、ラウラ、クラリッサは元々真面目な雰囲気を出していたが、更に真面目な表情になる。

 

 

「俺の名前は門藤操。年齢は23歳。だけど...10年前、13歳くらいまでは別の名前で呼ばれていた」

 

 

「っ!そ、それって...」

 

 

操の言葉に、束がそう返す。

操は束、ラウラ、クラリッサの順番で視線を向けると、1度息を吐く。

そして...

 

 

 

 

「その名前は、織斑一夏」

 

 

 

 

そう、言った。

その瞬間に、3人は驚きと納得が混ざったような表情を浮かべる。

操の顔は成長して大人のものになっているが、春十とそっくりだからこその、驚きと納得。

だが、暫くすると3人とも同じように表情に...疑問を感じている表情に変える。

 

 

「ま、待て。お前が織斑一夏なら、何故23なんだ?年齢は、織斑春十と同じなはずだろう」

 

 

ラウラがそう操に尋ね、束とクラリッサが同調する様に頷く。

それは当然の疑問だ。

この世界で、春十は今年に高校入学する年齢...誕生日をまだ迎えていないので、15歳。

一夏と春十は双子なので、一夏も本来だったら15歳のはず。

それなのにも関わらず、今の操は23歳。

その顔つきから年齢を偽っていない事は3人とも分かっている。

だからこそ、その矛盾点ともいえる疑問が出て来たのだ。

 

 

「...まぁ、そうなるよな...」

 

 

それを聞いた操はそのように言葉を漏らす。

こう言ったら、こんな疑問が出て来るのは操も分かっていたようだ。

操はいったん視線を3人から外す。

そこで深呼吸をするように、息を大きく吸い込んで、息を吐く。

 

 

「そこを含めて、今から説明する」

 

 

操は、視線を3人に戻しながらそう言う。

視線を向けられた3人は固唾を呑んで操のことを見る。

そこから操は話し出した。

織斑一夏としての、虐められ続けた人生。

そして、第2回モンド・グロッソの時に別次元の世界に転送された事。

そこの世界で記憶喪失となり、名前を門藤操に変えた事。

そこから、ジュウオウザワールドとして戦った事。

戦いの途中で織斑一夏としての記憶が蘇りはしたが、その上で門藤操として生きる決意をした事。

戦いが終わった後、急にこの世界に戻ってきたこと。

そうした門藤操としての今までの人生、全てを。

 

 

話が終わったとき、部屋の中は静寂に包まていた。

束もラウラも、クラリッサも何も喋らない。

その表情は、驚愕と動揺がありありと浮かんでいた。。

そんな中ラウラが

 

 

「きょ、教官が...そんな事を...?」

 

 

何とかといった感じでそう絞り出す。

 

 

「教官?織斑千冬はドイツ軍の教官してんのか」

 

 

ラウラの言葉に、操がそう反応する。

 

 

「いえ、今はもう日本に帰られてます。1年間だけ、教官をしてくださってました」

 

 

操の疑問にクラリッサがそう答える。

それを聞いた操は納得したように頷いていた。

だが、そこで会話は終わってしまう。

そこから暫く、また室内が静寂に包まれる。

 

 

(お、俺のせいで...俺に話をする資格は無いのか...)

 

 

そんな微妙な空気の中、操は内心落ち込んでいた。

だが、体育座りをするまでには至っていない。

と、ここで

 

 

「うんうん、なるほどね~~」

 

 

さっきから一言も発していなかった束が急にそう声を発する。

当然ながら、束に操とラウラとクラリッサの視線が集まる。

 

 

「私は昔から織斑春十(あのバカ)の言動は知ってたけど、まさかちーちゃん...いや、織斑千冬がそんな事をしてたなんてね...」

 

 

束はそんな事を呟く。

千冬の呼び方があだ名からフルネームに変わったことで、束の中での千冬に対する見方が変わったことは操にも分かった。

 

 

「まぁ、そこは良いんだよ。それで、えっと...銀髪、名前何て言ったっけ?」

 

 

「ラ、ラウラ・ボーデヴィッヒです...」

 

 

ここで、束が唐突にラウラの名前を聞き直す。

束は単純にラウラに興味が無かったので覚えてなかったんだろう。

唐突に名前を聞かれたラウラは、動揺しながらも名前を言う。

 

 

「うん、じゃあ...ラウちゃんで良いかな?ラウちゃんは、なんでそんなにショックを受けてるんだい?織斑千冬がただ教官ってだけじゃ、そこまでショックは受けないはずだよ」

 

 

そんなラウラを見ながら、束はそう尋ねる。

それにつられて、操もラウラの事を見る。

2人に見られているラウラは、クラリッサの事を見る。

その表情は、物凄く不安そうなものだった。

 

 

「...隊長、言いましょう」

 

 

視線を向けられたクラリッサは、ラウラの事を見ながらそう言う。

そう言われたラウラは、暫くの間黙っていたがやがて覚悟を決めたように視線を束と操に向ける。

 

 

「.....分かった。そこの理由を含め、少し私の話に付き合って欲しい」

 

 

ラウラがそう言うと、操と束が頷く。

それを確認したラウラはそこから話し出した。

シュヴァルツェ・ハーゼのメンバーは全員アドヴァンスドと呼ばれている試験管ベイビーである事。

ラウラは元々優秀な個体だったが、ヴォーダン・オージェ移植手術によって出来損ないと言われるようになってしまった事。

そんな中教官としてやって来た千冬の指導によって再び部隊最強へとのし上がった事。

その、全てを。

 

 

それを聞いた操と束は納得した。

何でさっきラウラが必要以上とも思えるくらいショックを受けていたのか、その理由を。

 

 

「私にとって、教官は全てなんだ。だけれども、そんな教官が、教官が...」

 

 

ラウラは、そんな事を呟く。

クラリッサはそんなラウラの事を心配そうな表情で見つめている。

操と束は何も言わず、表情も変えずにただただラウラの事を見ている。

 

 

「お、教えてくれ!私は、私は如何したらいい!?ISを簡単に倒せるくらい強いお前だ!お、教えてくれ!」

 

 

ラウラは半分泣きながら操にそう詰め寄る。

 

 

「隊長.....」

 

 

そんなラウラを見てクラリッサはそう呟く。

そうして、ラウラに詰め寄られた操は...

 

 

「俺は弱いよ...それに、なんなら何もしなくていいんじゃない?」

 

 

そう言う。

それを言われたラウラ、それに聞いていた束とクラリッサも驚いたような表情になる。

 

 

「な、何を言って...!」

 

 

「まぁまぁ、話は最後まで聞けよ」

 

 

それを聞いたラウラは思わず反論しようとするが、操が宥めたことによって収まる。

そんな操に3人の視線が集まる中、操はパイプ椅子に座り直す。

そうして、ジュウオウザライトを取り出してから喋りだす。

 

 

「俺は弱い。特に心がな」

 

 

「心が...弱い...?」

 

 

「ああ。俺は、直ぐに落ちこむ。今はマシになったけど、前は戦闘中に体育座りしながら落ち込む時もあった」

 

 

「「「.....」」」

 

 

操の言葉に、3人は何も言わない。

それを確認しながら、操は話を続ける。

 

 

「そんな俺でも、自分は強いって思えるところがある。それは.....」

 

 

 

 

「仲間を想う事」

 

 

 

 

操のその言葉に、

 

 

「仲間を想う事...?私が訪ねているのは、そう言う強さじゃ...!! 」

 

 

「だから、最後まで聞けって」

 

 

ラウラが反応し、操がまた宥める。

 

 

「隊長...」

 

 

「.....」

 

 

クラリッサと束は、大きな反応を見せずラウラと操の事を見つめている。

 

 

「俺は大和に教えてもらった。『タイミング等がそれぞれ違うから生き物は支え合う』って。いろいろな生き物がいて、それが支え合う事の強さ。それを、俺は学んだ」

 

 

「支え合う事の、強さ...」

 

 

操の言葉を自らに落とし込むようにラウラがそう呟く。

 

 

「そして、生き物がバラバラであるように、人間もバラバラだ。考え方も、自らの長所も。だから、ただ力でねじ伏せる強さをラウラは持って無くても、別の強さがある」

 

 

操はそう言いながら、視線をラウラの後ろに向ける。

ラウラもそれにつられて振り返る。

その視線の先にいたのは、クラリッサだ。

 

 

「仲間がいるっていう、強さがさ」

 

 

「仲間がいる、強さ...」

 

 

ラウラは、再び操の言葉を繰り返す。

そうして、ラウラの右目から涙が一筋零れる。

 

 

「隊長.....」

 

 

それを見たクラリッサからも、涙が一筋零れてくる。

ラウラはそのまま視線を操に向ける。

 

 

「やっぱり、強いな...」

 

 

そうして、そう言葉を漏らす。

 

 

「そろそろ名前でもう1回呼んで欲しいなぁ」

 

 

それに対して、操はそう呟く。

その瞬間に、ラウラ、クラリッサ、束はアッ...という表情になる。

3人の反応を見た操は、苦笑いをしながら席から立ち上がる。

そうして、言葉を発する。

 

 

「俺は織斑一夏じゃない。俺の名前は門藤操。そして...」

 

 

そこまで言ったところで、ジュウオウザライトを仕舞う。

 

 

「世界の王者!ジュウオウザワールド!」

 

 

そうして名乗りポーズをしながらそう宣言した後、ニコッと笑う。

その笑顔を見た3人は、同時に顔を赤くする。

 

 

(何で顔赤くなってんだ?)

 

 

操はそう考えながらも、ラウラに近付く。

 

 

「だから、ラウラは自分の強さを信じろ」

 

 

そして、ラウラの頭を撫でる。

頭を撫でられたラウラは、一瞬身体をビクっとさせたが、やがて気持ちよさそうに目を細めた。

 

 

(小動物みたいだな...)

 

 

操はそんな事を考えながらラウラの頭を撫で続ける。

そんな2人を、束とクラリッサは暖かく見守る。

 

 

((...いいなぁ.....))

 

 

その視線に、羨ましさを混ぜながら。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

操はその後、3人に他言無用だという事を伝えて、その場は解散になった。

ラウラとクラリッサはそれぞれの部屋に戻り、束は気が付いたら何処かに消えていた。

 

 

その日から大体1ヶ月程が過ぎ、3月。

結局、操の事はシュヴァルツェ・ハーゼの隊員たち以外には知らされていない。

操はシュヴァルツェ・ハーゼの隊員たちとかなり打ち解けていた。

操からの提案もあり、操には敬語を使わなくなり、かなりフレンドリーに会話するようにもなった。

そんな生活を操がしていると、唐突に事件が起こる。

 

 

とある日本の受験生が、ISを起動したのだ。

その名前は、織斑春十。

織斑千冬の弟である。

そのニュースが飛び込んだとたん、世界中は大混乱。

そうして、世界中で男性に対するIS適正の調査が行われた。

それの結果、操もISを起動してしまったのだ。

 

それだけだったらまだいい。

だが、この世界には門藤操という人間はおらず、操には今現在国籍が無いのである。

操の事を如何しようかと隊員全員で話し合っていると、再び束が乱入してきた。

そんな束の助力で、操はドイツ国籍を取得することにした。

 

 

「門藤操という名前は絶対に変えない!」

 

 

という操の強い意志によって、操は『門藤操』のままドイツ国籍の取得に成功した。

そうして、ドイツで第2の男性IS操縦者が見つかった事を束が公表した。

世界各国は、春十が見つかったとき以上に混乱に陥った。

そして、千冬の弟という後ろ盾がない操を研究室送りになどの意見も出て来たが、束とドイツ政府がそれを一蹴。

こうして紆余曲折の末、春十と操はIS学園に入学することになった。

 

23歳ではある操だが、13歳の頃にジュウオウザワールドとなり、そこから戦い続けた操は碌な高校生活を送っていなかった。

その為、操は内心ウキウキである。

 

 

だが、この紆余曲折によってマイナスな出来事も起こってしまった。

ドイツは操を守るために力を注いでしまった結果、専用機の開発スケジュールに遅れが出て来てしまった。

ドイツが新しく開発していたISは、第三世代型が2種類...ラウラとクラリッサの専用機である。

2機ともGW明けまでには完成する予定だったが、このままだと7月までは掛かってしまう。

その為、クラリッサの機体の開発を一旦ストップしてラウラの機体を全力で造る事になった。

その結果、何とかラウラの機体はGW明けまでには完成する予定になった。

 

だが、自分のせいでクラリッサの機体開発がストップしたと知った操は

 

 

「俺のせいで...俺に学園生活を楽しむ資格は無い...」

 

 

とかなり落ち込んでいた。

立ち直るのには、隊員全協力のもと30分掛かった。

 

 

IS学園への入学が決まってから、操は様々な準備をした。

IS知識の予習だったり、軍で使える訓練機を使ったIS訓練などだ。

操はISスーツを着るのに羞恥心からかなりの時間が掛かっていたものの、ISの操縦自体は直ぐに出来るようになっていた。

これも、10年前からジュウオウザワールドとして戦ってきた操だからだ。

 

そんな中、1つの議題が出て来た。

ジュウオウザワールドを如何するかである。

ISのコアには絶対数があり、そう簡単に専用機を持つことは出来ない。

それに、飛行能力などのIS基本機能すらない。

訓練機を使用するという手があるが、そうした場合他国や企業が専用機を与えると言われて、操争奪戦が起こってしまう。

そうした中、束が三度目の乱入。

ジュウオウザワールドを、束が男性用に新しく作った特別製のISという扱いにして全世界に発信したため、その問題は片付いた。

 

 

そうして、4月。

後1週間でIS学園の入学式という日。

操は大きなバッグを背中に背負い、シュヴァルツェ・ハーゼの基地の正門前に立っていた。

操の前には隊員全員と、4度目の乱入となる束が並んでいた。

この短期間で4回も束が乱入してきたことにより、隊員たちは完全に慣れてしまったようだ。

 

 

「みっちゃん、頑張ってきてね!」

 

 

束が操にそう言う。

それを言われた操は

 

 

「...その呼び方は、大和だけにしてほしかった」

 

 

そう呟く。

 

 

「なんだよう!良いじゃんかぁ!!」

 

 

束はプンプンという感じで操に詰め寄るが、操はそれを軽く流す。

そうして、隊員たちに視線を向けて、

 

 

「実は、みんなに渡したいものがあるんだ」

 

 

そう言う。

言われた隊員たちは、首を同時に傾げる。

それを見た操は1回基地の中に戻ると、両手に段ボール箱を抱えながら戻って来た。

そうして、それを地面に置いて、箱を開ける。

 

 

「じゃーん!特性ぬいぐるみ!!」

 

 

操は、笑顔でそう言いながら中身を取り出す。

その中身とは、可愛らしくデフォルメされた、ラウラとクラリッサのぬいぐるみだった。

操はそのまま2人にそれぞれのぬいぐるみを渡す。

受け取った2人は、一気に顔を赤くする。

それに首を捻りながらも、操は段ボールから他の隊員のデフォルメぬいぐるみを渡していく。

そうして、全員に配り終わった後、操は束にもデフォルメぬいぐるみを渡す。

 

 

「えっと...これは?」

 

 

クラリッサが操にそう尋ねる。

 

 

「仲良くなった証!」

 

 

操がそう言うと、束を含め全員が一気に顔を赤くする。

操はそれに首を傾げながら、

 

 

「じゃあ、頑張ってくる!」

 

 

そう言うと、

 

 

『頑張って!!』

 

 

と声を掛けられる。

そのまま操は、空港に向かうためにバス停に歩き出す。

 

 

こうして、ジューマン世界の世界の王者は、IS世界へと1歩踏み出した...

 




操が渡してる人形は、本編で出てたジューマンぬいぐるみの束バージョンやラウラバージョン、クラリッサバージョンなどです。
私に画力があればイメージ図を出せたんだ...

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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とある男の転生

原作入る前にもう1話。
サブタイまんま。

今回は短めですが、お楽しみください!


三人称side

 

 

白い。

空間全てが真っ白な空間。

そんな空間に、1人の男が倒れていた。

 

 

「ああ...ここは?」

 

 

その男は、そんな声を漏らしながら立ち上がる。

そうして、男は辺りを見回し、

 

 

「ど、何処だよ、ここ!?」

 

 

そんな動揺の声を発する。

目を覚ましたら、急にこんな空間にいたとしたら動揺もする。

そうして男が暫くキョロキョロとしていると、

 

 

「うん、目を覚ましたか」

 

 

そんな声が、男に掛けられる。

男は声が聞こえた方に振り返る。

すると、そこには.....

 

 

全身白装束に身を包み、白髪で髭を携えた初老の男性だった。

 

 

「だ、誰だ!?」

 

 

男はそんな事を言う。

さっきまで自分以外誰もいなかった空間に、急に初老な男性が現れたら驚愕するに決まっている。

 

 

「儂の事か?まぁ...神様だな」

 

 

「か、神様?」

 

 

初老の男性...神様の言葉に、男はそう返す。

 

 

「ああ。お前さん、ここに来る前に何をしていたか覚えとらんか?」

 

 

「ここに来る前...?」

 

 

神様にそう言われ、男はここに来る前の行動を思い返していた。

朝普通に起きて、朝食を食べ、そのまま家を出た。

そして、その後道を歩いていたら、上から何かが...

 

 

「そうだ!なんか、頭上から落ちて来て、そこから、記憶が...」

 

 

「そう、お前さんは頭に植木鉢が落ちて来てそのまま死んだ」

 

 

神様が男の言葉に続けてそう言った事で、男の顔が真っ青になる。

記憶が鮮明に蘇ったことで、目の前の存在が神様だという事も信じられるようになったんだろう。

 

 

 

「だけれども、お前さんは本来ここで死ぬはずじゃなかったんだ」

 

 

そんな男の表情は、その神様の一言で一瞬で明るいものに変わる。

 

 

「だから、別の世界に転生してもらう」

 

 

「しゃあ!」

 

 

そして、神様のその言葉に男は思わずガッツポーズを取る。

転生。

そんな憧れの事が出来るとなったら、それは喜ぶ。

例え、今自分が死んだと言われた直後でも。

 

 

「転生先はランダムになってしまうが、特典くらいはやろう」

 

 

その神様の言葉に、男は大きく頷く。

転生して、そのまま活躍出来たらどんな世界でも構わないという事だろう。

 

 

「それでは、このくじ引きを引いて貰おうかな」

 

 

神様がそう言うと、何処からともなく巨大なくじ引きの箱が出て来た。

急に出て来た箱に男は驚くも、そのまま箱に空いている穴に腕を突っ込み、その中に入っている紙を1枚取り出す。

そして、その取り出した紙を開く

その紙に書いてあったのは...

 

 

インフィニット・ストラトス

 

 

その1文だった。

 

 

「おお、インフィニット・ストラトスか...」

 

 

その紙を覗き込んだ神様はそう呟く。

 

 

「ほ、本当にISの世界なのか!?」

 

 

男は興奮気味に神様にそう尋ねる。

 

 

「ああ、そうだよ」

 

 

「やった!!」

 

 

神様の答えを聞いた男は、歓喜の声を上げる。

 

 

(あの世界に転生するんだったら、俺もハーレムを作れる.....いや、寧ろ俺が、俺だけがハーレムを作れるんじゃないか!?)

 

 

男は内心そんな事を考え始める。

と、男が妄想にふけっていると

 

 

「それじゃあ、転生特典を考えておくれ。4つまでだ」

 

 

神様がそんな事を言う。

それを言われた男は考え、考え、転生特典4つを神様に伝えた。

 

①織斑一夏の兄として転生。

②専用機に白式を。

③千冬並みの身体能力。

④同学年の中では圧倒的な知識。

 

この4つを。

それを聞いた神様は

 

 

「ふーん、成程...分かった。ではこの4つを転生特典としてお前にやろう」

 

 

男に向かってそう言う。

それを言われた男は、

 

 

(よし!これで俺が主人公に...!!)

 

 

そんな事を考えていた。

 

 

「んじゃあ、早速行ってもらうか」

 

 

神様がそう言うと、男の身体がだんだん透けていく。

そうして、男は笑みを浮かべながら、転生した。

 

 

「.....」

 

 

そうして、その場に残った神様は、

 

 

「コイツ、多分だが織斑一夏君に変わって主人公だ!とか考えてるな...あの世界の物語は、お前が転生したことにより崩れるのは確定してるんだがな...」

 

 

そう、呟くのだった...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

男は織斑一夏の双子の兄、織斑春十という名前で転生した。

そこから、春十はやりたい放題だった。

 

 

姉である千冬が忙しい事を良いことに、一夏に家事一切合切を押し付けた。

家事を一夏に押し付けておいて、自分は一夏の事を虐め抜いた。

転生特典による頭脳と身体能力を生かし、自分は圧倒的な成績を残し続けた。

そして、その自分の成績を一夏の成績を比べるという手段を使って、一夏の事を罵倒し、時には蹴り殴りの暴力を加えながら生活を続けていた。

 

 

自身の暴力によって、一夏の性格はドンドン卑屈になっていく。

卑屈になっていった一夏は友達を作ることは出来ず、春十はその身体能力で友達を増やして行った。

そうして出来た友達をも使い、春十は一夏の事を虐め続けた。

 

 

そんな春十は、小学生の時に1つの大きなミッションをする事になった。

千冬と共に通っていた剣道場、篠ノ之道場。

その道場の娘姉妹の妹である篠ノ之箒を自身に惚れさせ、姉である篠ノ之束に気に入られるというものだ。

春十は原作での過去のエピソードを思い出しながら、箒と関わり、時には原作での一夏がしていなかった行動をしたりもして、無事に箒を惚れさせる事に成功した。

ただし、束に気に入られる事があまり上手く出来ていなかったと春十は思った。

だが、直ぐに原作でも幼少期に束と頻繁に関わっている描写が無かったという事を思い出し、特に深刻に考えていなかった。

 

 

そんな中、原作通りに束がISを発表。

そのまま白騎士事件が起き、あれよあれよと束は失踪。

箒も転校してしまう。

原作知識を持っている春十にとって、これは物凄いプラスの事で、箒には見せなかったが、春十は物凄い笑みを浮かべていた。

それに、千冬がISで活躍する事により周囲の人間は春十の思い通りに一夏と春十を比べる。

その結果周囲の人間も一夏の事を虐めるようになり、一夏の性格は更に卑屈になっていく。

 

 

そうして、原作通りに中国から凰鈴音が転校してきた。

原作の流れを理解している春十はそのまま鈴の事をも惚れさせる。

そのまま中学校に進学し、新しい環境に変わっても一夏の事を周りの人間も使いつつ虐めていった。

そんな中、第2回モンド・グロッソの際に一夏が誘拐され、行方不明になる。

その事に落ち込んだ千冬を春十が慰めつつも、春十は歓喜した。

今まで邪魔ものだった一夏がいなくなったのだ。

一夏の捜索の御礼として、千冬もドイツ軍に行ったので、IS学園に入ってからのラウラとの絡みも完璧だと判断したんだろう。

 

 

そこから時間は流れ、中学3年生に春十はなった。

春十は原作の一夏のように受験会場を迷い(わざと)、そのままISを起動させた。

そのままの流れでIS学園への入学が決まった。

 

 

「よしよし、もう直ぐIS学園に入学できる!長かった...だが、ここから俺のハーレムだ!」

 

 

春十は自宅リビングでそんな事を呟いていた。

机の上には、IS学園から送られてきた電話帳の様な分厚さの参考書。

春十は原作の一夏のように捨てようかどうか悩んだが、結局そのまま勉強することにした。

後で絶対に勉強しなきゃいけないのは決まっているので、先にしておくのが良いと判断したんだろう。

 

 

「そろそろバラエティー番組が始まるな」

 

 

春十はそう言うと、そのままテレビのリモコンは手に取り、電源を付ける。

すると、そのバラエティー番組の前に放送していたニュース番組が流れる。

それを確認しながら春十はソファーに座る。

そのままそのニュース番組を眺めている春十の表情は一気に驚愕のものに変わる。

 

 

『た、たった今情報が入ってきました!篠ノ之束博士が、ドイツで第2の男性IS操縦者が発見されたと公表しました!!』

 

 

ニュース番組のアナウンサーがそんな事を言ったからだ。

 

 

「はぁ!?ふ、2人目!?」

 

 

春十はそう叫ぶ。

 

 

『名前は、門藤操!23歳で、最近ドイツ国籍を取得したドイツ人との事です!』

 

 

「門藤操...誰だよ!最近ドイツ国籍を取得したって事は、元々日本人か!?」

 

 

その春十の叫びに応じて、テレビ画面に操の顔写真が出る。

その顔を見た春十は

 

 

「一夏!?」

 

 

そんな反応をする。

だが、驚いたものの冷静になってくると

 

 

「いや、今23歳って...確かに、よく見てみると確実に俺より年上だな...ったく、ビビらせやがって」

 

 

操が確実に年上だという事に気が付いた。

その為、春十はただ顔が似ているだけの別人だと判断したようだ。

 

 

(あいつが一夏じゃ無いのは分かったが、どのみち邪魔だな...何処かで排除しないとな...)

 

 

春十はそう思いながら時計を見る。

時刻はもう既にバラエティー番組が開始している時間だ。

だが、テレビは一向にニュースから変わらない。

春十はテレビのチャンネルを変える。

当然のように、何処のチャンネルも操の事について報道していた。

 

 

「ちっ!何処も同じかよ!」

 

 

春十はそう言いながらテレビの電源を切り、リモコンを机の上に放り投げる。

そのままイラつきながらそのまま参考書を持ちながら自分の部屋に戻る。

そうして、そのまま自分の部屋に置いてあったスマホを手に取る。

すると、友人である五反田弾からメッセージが来ていた。

 

 

『おい、2人目が発見されたってな!』

 

 

それを見た春十は、若干イラつく。

操という、春十にとっての障害となりえる存在が、本当に要るんだという事を認識したからだ。

そうイラつきながらも春十はメッセージを返す。

 

 

『そうらしいな』

 

 

すると、直ぐに既読が付きメッセージが帰って来る。

 

 

『まぁ、春十はすげぇからな!2人目も春十には勝てないと思うぜ!』

 

 

そのメッセージを見て、春十は笑みを浮かべる。

 

 

『ありがとな』

 

 

春十はそうメッセージを返してから、スマホの電源を切る。

 

 

「そうだ!俺は、転生特典を貰った転生者なんだ!今までも俺の思う通りに事が進んで来たんだ!」

 

 

そうして、春十はそんな事を言いながら、ベッドに寝転がる。

 

 

「一夏を消した俺は主人公だ!」

 

 

そうして、春十は笑みを浮かべるのだった...

 

 

 

 




設定集上げてから本編に入ります!

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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1学期
IS学園入学


お待たせしました!
原作突入!

今回もお楽しみください!


操side

 

 

今日は、IS学園の入学式の日。

俺は荷物を背負ってIS学園の正門前に立っていた。

 

 

日本に来てからは、ホテルで1週間を過ごした。

IS学園は全寮制だけど俺は男だから暫くはこのホテルに宿泊することになるだろう。

 

 

そして、今正門前にいる理由。

俺は入学式への参加はしないからだ。

ただでさえ男というイレギュラーなのに、俺は23歳。

だから混乱を避けるために入学式後のHRから参加するらしい。

そう言われただけだから詳しくは良く分からいけど。

 

 

「そろそろ入学式は終わる時間だな...」

 

 

俺は腕時計を見ながらそう言う。

俺の今の服装は、ただのビジネススーツ。

流石に23歳が制服を着るのはあれなので、俺は特例でスーツで良いことになった。

本当にただの黒スーツだが、胸元にはIS学園の校章が付いている。

これが最大のIS学園生徒であるという主張...らしい。

これだけで良いのかと思うが、そう説明されたのでそう納得するしかない。

 

 

「学園生活...楽しみだなぁ」

 

 

13歳の時に、俺は門藤操になった。

そこから、最低限の卒業資格とかは取ったけど、それ以外は基本ジュウオウジャーとして戦うか、大和のサポートしてるだけだったからな。

楽しみだ。

だけれども、ただ楽しむだけではいられないだろう。

 

 

「...織斑春十に、篠ノ之箒...」

 

 

あの2人は絶対にいるだろう。

それに、ラウラから聞く話では織斑千冬は教師としてここにいるらしい。

不安だ。

不安だが...如何でもいい。

 

 

「俺は門藤操。織斑一夏ではない」

 

 

門藤操は織斑となんの関係もない。

だから、何も不安になる必要は無い。

 

 

俺がそうやって改めて気合いを入れると、

 

 

「門藤君。遅くなって申し訳ありません」

 

 

と正門の中からそう声を掛けられる。

俺がその方向に振り返ると、そこには優しそうな表情を浮かべた壮年の男性がいた。

 

 

「初めまして。私はIS学園学園長の轡木十蔵です」

 

 

「学園長...」

 

 

あれ?

学園長って女性だったよね?

俺がそう疑問に思っているのに気が付いたのか、

 

 

「ああ、今学園長となっている女性は私の妻です。IS学園の学園長が男だと女尊男卑の人達が暴徒化するんですよ。なので、私は表向きは用務員という事にしてるんです」

 

 

と説明してくれた。

 

 

「なるほど...あ、門藤操です。23歳で男というイレギュラーでご迷惑をお掛けするかも知れませんがよろしくお願いします」

 

 

その説明で俺は納得した。

そして、俺はそのまま簡単に自己紹介と挨拶をして頭を下げる。

 

 

「ええ、此方としても君のサポートはするつもりです。周りとは性別だけでは無く年齢も違うとストレスがたまるでしょう。私に出来る事があったら何でも言って下さい」

 

 

何ていい人なんだ...

 

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

そうして、俺と学園長は笑い合う。

 

 

「では門藤君、クラスに案内します」

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

そうして、俺は学園長の後に付いて行き自分のクラスに向かう。

おお、綺麗な校舎。

流石は世界で唯一のIS専門学校。

 

 

「ところで、私はどのクラスなんですか?」

 

 

「門藤君は1年1組です。担任は、織斑千冬先生で、もう1人の男子もいますよ」

 

 

「っ!」

 

 

その名前が出た瞬間、俺は思わず身体を震わせてしまう。

 

 

「門藤君?如何しました?」

 

 

そして、学園長は心配そうに俺に尋ねて来る。

 

 

「いえ、その...昔から、顔つきが織斑千冬に似てると言われてたので...」

 

 

「なるほど」

 

 

俺の咄嗟の説明で、一応学園長は納得してくれたようだ。

 

 

「血の繋がりもない赤の他人なんですけどね...」

 

 

「世界には顔が似ている人間はいますし、仕方ないですよ。門藤君はドイツ人なんでしたっけ?」

 

 

「まぁ、ドイツ国籍を取得したのでそうなりますね。元々は日本です」

 

 

「元々が同じ国なら、顔つきが似ていても不思議では無いですね」

 

 

そこから暫く歩き、1年生の教室があるフロアにやって来た。

まぁ、1組なら多分端だろう。

 

 

「1組は端です」

 

 

学園長はそう言う。

やっぱり。

他クラスからも賑やかな声が聞こえてくる。

今は自己紹介中だな。

そして、1組の教室前に着いた。

学園長が扉を開けようとする直前

 

 

『きゃあああああああ!!』

 

 

と、叫ぶ声が廊下まで響いてきた。

 

 

「な、何が!?」

 

 

俺がそれに対して驚いていると、

 

 

「大方織斑先生が挨拶したんでしょう。ブリュンヒルデでもある彼女は生徒に人気なんですよ」

 

 

と学園長が説明してくれた。

 

 

「あ、ああ。なるほど」

 

 

俺が頷くと、学園長は扉を開ける。

 

 

「突然申し訳ありません。もう1人の男性を連れてきました」

 

 

そして、学園長はクラスに向かってそう声を発する。

その瞬間に、クラスの中からザワザワした声が聞こえてくる。

まぁ、話を聞く限り織斑春十もこのクラスのようだし、2人しかいない男子生徒が1つのクラスに集まったらそうなるか...

 

 

「では門藤君、入ってきてください」

 

 

「はい」

 

 

学園長に呼ばれたので、俺は教室に入っていく。

入った瞬間に、一斉に視線を向けられるのが分かる。

俺は黒板前でクラスメイトとなるみんなに身体を向け、笑顔で自己紹介をする。

 

 

「門藤操です。趣味は釣りで、特技は裁縫。特にぬいぐるみを作るのが得意です。動物学者のアシスタントをしていて年齢は23歳です。この度ISを動かせるという事が分かりましたので入学させていただきました。年齢や性別の差を気にせず接してくれると嬉しいです」

 

 

俺はここで言葉を区切り、視線を教壇の横に立っていた織斑千冬...いや、敬意を払うのは必要だから織斑先生に向ける。

織斑先生は、驚いたような表情を浮かべていた。

俺はそれを確認してから視線を元に戻す。

 

 

「それと、昔から顔が織斑先生に似てると言われるが、血のつながりは無い全くもっての他人だ。これは他のクラスとかにも拡散してほしい」

 

 

俺がそう言うと、何人かが驚いたような表情を浮かべる。

まぁ、顔が似てるからな。

それは仕方が無い。

 

 

「取り敢えず、1年間よろしくね!」

 

 

最後に、更に笑顔になってそう言う。

すると

 

 

『きゃああああ!!』

 

 

と叫ばれる。

俺がそれに驚くと

 

 

「凄い!優しそうなイケメン!」

 

 

「釣りが趣味...アウトドアイケメン!いい!」

 

 

「ぬいぐるみ作りが得意っていうのもいい!」

 

 

といった感じでみんながそう言う。

 

 

「賑やかですね...では私はこれで。織斑先生、山田先生、後は任せました」

 

 

学園長は笑みを浮かべながらそう言い、教室から出て行った。

えっと...如何しよう?

 

 

「全員静かにしろ!」

 

 

『はい!』

 

 

俺が如何しようか考えていると、織斑先生がみんなを黙らせる。

 

 

「えっと...門藤君」

 

 

そして、織斑先生の隣に立っていた緑の髪でかなりの童顔女性が声を掛けて来る。

多分この女性が学園長の言っていた山田先生だろう。

 

 

「はい、何ですか?」

 

 

「門藤君の席はあの中央の1番後です」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

俺はその指示のまま中央の1番後の席に移動する。

その際に、中央の1番前の席に座っていたもう1人の男子、そして窓際に座っている黒髪ポニーテール、そして金髪ロングの3人が睨むような視線を向けて来ていた。

はぁ...

俺は内心ため息をつきながら席に座る。

そして、前を見ると織斑先生と目が合った。

その瞬間に、織斑先生はビクっと身体を震わせた。

 

 

「と、取り敢えずこれでHRは終了だ!この後直ぐに授業が始まるので準備しておくように!」

 

 

そうして、織斑先生と山田先生は教室から出て行く。

IS学園はISの授業を扱う関係上初日から授業があるのだ。

少し面倒だが、それは仕方が無い。

周りから視線を物すんごい感じるが、まぁ、頑張りますか...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

時間は進み、今は2時間目の後の休み時間。

俺はクラスメイトとなるみんなと共に談笑していた。

みんな年齢の差を感じてか最初はぎくしゃくしてたけど、今では普通に喋ってくれる。

 

 

「へー、門藤さん、結構長い間アシスタントしてるんですね」

 

 

「ああ。もう10年近くになるな。最初の方はまだ13だったこともあって偶にしか手伝えて無かったけど、今では普通にアシスタントしてる。いや、してたになるのか?」

 

 

この世界には大和はいないからな...

そこから暫く談笑し、次の授業がもう直ぐ始まる時間になったのでみんな席に戻っていく。

俺も自分の席に座り、次の授業で使う教科書類を取り出す。

そのまま視線を前に向けると、自分の席の列の最前線に座っているもう1人の男子生徒...織斑春十が視線に入った。

 

 

織斑春十は、HR後に黒髪ポニーテールの女子生徒...篠ノ之箒に連れられて何処かに行ってた。

まぁ、廊下かどっかで会話してたんだろう。

そして、1時間目の後の休み時間、そこでは金髪ロングの女子生徒...確か、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットが織斑春十に絡んでいた。

その時の発言を聞く限り、セシリア・オルコットは女尊男卑の人間だろう。

動物は、雄雌両方がいないと成り立たないし、支え合わないと生きていけない。

それなのに、何故そういう考えになるんだろうか。

考え方は人それぞれだが、その考えだけは納得できない。

 

 

「フム、全員座っているな」

 

 

俺がそんな事を考えていると、教室の扉が開き織斑先生と山田先生が入って来た。

そして、織斑先生はそのまま教壇前に立つ。

ここまでの授業はずっと山田先生が授業してたけど、やっと織斑先生が授業するのか。

 

 

「さて、授業を始める前に、決めるのを忘れていたクラス代表を決めたいと思う」

 

 

織斑先生は、此方を見ながらそんな事を言う。

その瞬間にクラスがざわつく。

だが、織斑先生の咳払い1つで静かになる。

 

 

「織斑先生、クラス代表って何ですか?」

 

 

すると、さっきまで俺と話していた1人である生徒、相川清香が織斑先生にそう質問する。

 

 

「クラス代表とは、読んで字のごくクラスの代表だ。教師のサポートをしたり、クラスの纏め役をしてもらう。それと、今度のクラス対抗戦にも出場してもらう」

 

 

そういうのは忘れたら駄目だろ。

何やってんだ。

 

 

「推薦は自他問わない。誰かいないか?」

 

 

織斑先生はそうみんなに尋ねる。

すると

 

 

「はい!門藤さんが良いと思います!」

 

 

「私もそう思います!」

 

 

「私は織斑君が良いと思います!」

 

 

と、生徒達が一斉に俺と織斑春十の事を推薦する。

 

 

「織斑先生、23歳ですし辞退したいんですが?」

 

 

「す、推薦されたものに拒否権は無い」

 

 

何でだ。

拒否させてくれ。

っていうか、何故織斑先生は俺が話し掛けただけでそんなに動揺するんだろうか。

門藤操と織斑千冬は初対面なんだけどなぁ...

 

 

「で、では候補者は織斑春十と門藤操の2人以外にいないか?いないのならこの2人で「待って下さい!納得がいきませんわ!」...如何した、オルコット」

 

 

織斑先生の言葉を遮って、セシリア・オルコットが机を叩きながら立ち上がり、そう声を発する。

そうして、クラス中の視線がセシリア・オルコットに集まる。

 

 

「そのような選出は認められませんわ!下等生物である男がクラス代表だなんて、とんだ恥さらしですわ!」

 

 

ああ、面倒くさい。

俺は思わずため息をついてしまう。

セシリア・オルコットは未だにベラベラ喋っている。

おいおい、日本の事まで馬鹿にしたぞ。

国家代表候補生ならまずいんじゃないか?

俺は別にドイツ国籍だし、織斑一夏はこの国で虐められてたからイラっとはしないが、周りの日本人生徒達は表情が怒ってるぞ。

なんか、もうセシリア・オルコットの事が嫌いになりそうだ。

まぁ、嫌いでもしっかりと関わっていかないとな。

面倒だが仕方が無い。

人間は、動物は支え合わないと生きていけないからな。

 

 

と、俺がそんな事を考えているとセシリア・オルコットに織斑春十が反論した。

何で面倒ごとを拡大する。

こういうのは1回全部言わせた方が良いって。

セラとかは言葉途中で遮ると怖いもん。

ほら、口喧嘩に発展する。

山田先生がオロオロしちゃってるよ。

 

 

「決闘ですわ!私が勝ったらあなたは召使い...いや、奴隷ですわ!」

 

 

おお、何かヤバい発言が出たぞ。

イギリス、おたくの代表候補生がかなりヤバいセリフ言ってますよ。

ん?

何で織斑春十は笑みを浮かべてるんだ?

訳が分からん。

そして何でそんな元気よく肯定する。

 

 

「はぁ...教師を除いて勝手に決めるな」

 

 

ここで、織斑先生が声を発する。

それに伴い、セシリア・オルコットと織斑春十に向けられていた視線は織斑先生の方に向く。

 

 

「では、候補者はオルコット、織斑、門藤の3人で問題ないな?ならば、来週の月曜日にこの3人で模擬戦をしてクラス代表を決める事とする」

 

 

「待った!何で俺が巻き込まれてるの!?俺は決闘するだなんて言ってない!」

 

 

「門藤、お前も候補者として推薦されてたからだ」

 

 

何て滅茶苦茶な...

やるって言って無いのに参加させられるだなんて...

 

 

「俺に選択する資格は無いのか...」

 

 

はぁ...

 

 

「んん、さて、ではこれから授業を」

 

 

俺の呟きが聞こえないかのように織斑先生が口を開いたその時、

 

キーンコーンカーンコーン

 

とチャイムが鳴り響き、織斑先生は動きを止める。

如何やらセシリア・オルコットの喚きと織斑春十との口喧嘩でかなりの時間を使ったらしい。

 

 

「...これで授業を終了する」

 

 

織斑先生はそう言うと、そのまま教室を出る。

山田先生は一瞬心配そうな視線を俺に向けて来たが、織斑先生を追うように教室から出て行く。

ああ、俺の楽しい学園生活はいったいどこに?

大変な事になったなぁ...

 

 

 

 




操が入る前のクラス内の様子や春十とセシリアの言い合いは、一夏が春十である事以外はほぼ原作通りです。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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放課後でのひと悶着

操「前回久々にエンディングダンスしたなぁ...」

書いてないけどね。
それで、如何だった?

操「大和たちがいないし、俺と犀男と鰐男と狼男以外踊ってないのが寂しい」

まぁ、仕方が無い。
暫くすれば踊ってくれる人は増えるよ。

今回もお楽しみください!



操side

 

 

俺がセシリア・オルコットと織斑春十の喧嘩に巻き込まれて模擬戦する事が決まった日の放課後。

俺は生徒指導室に向かっていた。

理由は簡単。

織斑先生に呼ばれたからだ。

 

 

あの後、クラスの雰囲気は微妙だった。

初日からイギリスの国家代表候補生と2人しかいない男子生徒の1人が喧嘩したらそうなるだろう。

ぎくしゃくとした雰囲気の中で、俺はクラスメイトとの交流をして、仲良くなっていった。

正直に言うと、俺も喧嘩に巻き込まれたし微妙な対応をされるかと思ったがそんな事は無く、みんなしっかりと対応してくれた。

年齢の差もあってまだ友達とは言えないかもしれないが、仲良くできる人達がいるのは普通に嬉しい。

クラスの外から他クラスや他学年の生徒達が俺や織斑春十に視線を向けて来ていたのには気が付いていた。

気が付いていたが、対応は出来ない。

取り敢えず、クラスメイトの大多数と親しくなってからだ。

 

 

そうやって、年齢の差をみんなが気にしないように仲良くなろうと模索していた昼休み、織斑先生から放課後生徒指導室に来るように言われたのだ。

何も問題を起こしていないのに呼び出されたので、余り行きたくないのだが、ここでバックレると後々面倒くさいので、俺は素直に従う事にした。

 

 

「不安だなぁ...」

 

 

〈操、なーにビビってんだよ〉

 

 

俺が不安を口にすると、鰐男がそう話し掛けて来る。

 

 

「不安なものは不安だ。だって教師に生徒指導室に呼び出されたんだぞ」

 

 

〈なんだ。織斑千冬に会うからじゃないのか?織斑千冬だぞ〉

 

 

すると、今度は狼男がそう言ってくる。

 

 

「ああ。門藤操と織斑千冬は初対面だ。『織斑千冬に会うこと』にビビってる訳ではない」

 

 

〈なるほど。まぁ、操が大丈夫なら良いんじゃないのか。最悪何かあったら学園長を頼ろう〉

 

 

そして、最後に犀男がそう言ってくれる。

まぁ、学園長に頼るのは、本当に最悪な状況になったらだけど、

 

 

「犀の意見を、採用しよう」

 

 

俺がそう呟くと、気が付いたらもう生徒指導室前に付いていた。

俺は身だしなみを整え、扉をノックする。

 

 

「門藤操です。入っても宜しいでしょうか?」

 

 

そして、そう声を発すると、

 

 

『は、入ってきてくれ』

 

 

扉の向こうからそんな声が聞こえる。

俺はその指示に従い、そのまま扉を開ける。

 

 

「失礼します」

 

 

そして、軽く頭を下げながらそう言ってから頭を上げる。

生徒指導室の中には、当然ながら織斑先生が席に座っていた。

そして、俺は扉を閉めてから

 

 

「それで、何か御用でしょうか、織斑先生。特に何かした覚えは無いのですが?」

 

 

そう織斑先生に尋ねる。

すると、織斑先生は

 

 

「一夏!今まで何処にいたのだ!心配したんだぞ!」

 

 

と言ってくる。

 

 

「一夏?誰の事ですか?」

 

 

「何を言ってるんだ!お前は私の弟の一夏だろ!」

 

 

「違いますが?」

 

 

何を言ってるんだこの人は。

俺がそう切り捨てると、織斑先生はガタッと席から立ち上がる。

そして、俺の肩を掴んでくる。

 

 

「私が弟の事を見間違えるはずがない!お前は、私の!」

 

 

「あなたとは赤の他人だと自己紹介の時言いましたが。それに、あなたの弟さんは今年で16と聞いています。今の私の年齢と合っていないんですよ」

 

 

俺はその腕を払いながらそう織斑先生に言う。

すると、織斑先生は固まって動かない。

 

 

「これだけですか?なら失礼します」

 

 

俺は最後にそう言うと、そのまま生徒指導室を出る。

織斑先生は、特に何も反応しなかった。

そして、生徒指導室から出た俺は歩き始める。

 

 

「...学園長室に行くかぁ」

 

 

この先、また同じような事で絡んで来たら大変だ。

ただでさえ、今度の模擬戦が大変なのに。

だから、俺は学園長室の方向に移動する。

まさか初日から学園長に頼る事になるとは...

はぁ...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

三人称side

 

 

操が去った生徒指導室。

そこでは相変わらず千冬がいた。

 

 

「一夏...何でだ.....」

 

 

千冬は、生徒指導室の扉を見つめながらそう言葉を零す。

その表情は、納得していないといったものだった。

 

 

第2回モンド・グロッソの時に一夏を失った千冬は、かなり荒れていた。

だが、もう1人の弟である春十に励まされ、千冬は今まで生きてこれた。

そうして、せめて春十だけは守ろうと生きていた千冬は、とあるニュースを見て衝撃を受けた。

春十がISを動かせることが分かったことで全世界で始まった男性を対象にしたIS適性検査。

それにより、ドイツで2人目の男性IS操縦者が見つかったのだ。

その事は当然ながらニュースで報道され、その男の顔写真も世界に出回った。

千冬が衝撃を受けたのは、その顔。

その顔は、一夏にそっくりだったのだ。

ニュースでは門藤操という名前だったりドイツ国籍である事だったり23歳である事も伝えられていたが、そんな事千冬には聞こえていなかった。

 

 

一夏が生きていた。

そう思った千冬は、何としてでも一夏を取り戻そうと考えた。

また、自分と春十と一夏の3人で暮らそうと。

 

 

そして、IS学園の入学式の日。

千冬は自身が担当するクラスに男性IS操縦者が2人とも在籍することを知り、歓喜した。

そして初めてのHRの途中に操が教室にやって来た。

千冬はその顔を見て、再度心の中で歓喜した。

だが、操は、

 

 

「血のつながりは無い。全くもっての他人だ」

 

 

そう言った。

その事で千冬は混乱した。

だから、改めて操に問いただすために放課後生徒指導室に呼び出した。

そこでも、操は千冬の弟である事を否定した。

千冬は、その事に納得していなかった。

 

 

「何でだ、一夏...お前は私の弟だろう?」

 

 

千冬は、未だにそんな事をブツブツと呟く。

そうして、かなりの時間が経ったとき、唐突に生徒指導室の扉が開き

 

 

「織斑先生...まだここにいましたか...」

 

 

十蔵がそう言いながら入って来る。

急に十蔵が入って来たことに千冬は驚くが、慌てて姿勢を正す。

だが、十蔵はそんな事を気にせず言葉を発する。

 

 

「織斑先生、あなたは何をしているんですか?門藤君から相談がありましたよ。『織斑先生が自分の事を弟だと訳の分からない事を言ってくる』と」

 

 

「訳が分からない訳無いじゃないですか!アイツは私の弟の一夏です!」

 

 

十蔵の言葉に、千冬が勢いよく反論する。

そんな千冬に若干イラつきながら十蔵は

 

 

「彼はしっかりと門藤操という名でドイツ国籍を取得していますし、IS学園の生徒情報にもその名で登録されてます。彼はあなたの弟さんでは無いんですよ」

 

 

そう言い捨てる。

 

 

「私が弟を、一夏を見間違えるはずがありません!」

 

 

「そんな事、私は知りません。ともかく、これ以上彼にそんな事を言わないように。今は注意に留めますが、次に相談があった場合処罰を与えます」

 

 

十蔵はそう言うと、そのまま生徒指導室から出て行った。

そうして、生徒指導室にはまた千冬が1人きりの状況になった。

 

 

「何故だ...何故一夏は否定をし、周りは邪魔をする!私は、家族全員で過ごしたいだけなのに...」

 

 

千冬は、虚空を見つめながらそう呟くのだった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

操side

 

 

学園長に相談をし、学園長が織斑先生に注意をしてくれるという事になった後。

俺は職員室に向かっていた。

理由は簡単。

寮の鍵を受け取りに行くからだ。

 

 

学園長から聞いたのだが、如何やら男子生徒も今日から寮に入るらしい。

何でも防犯上の都合があるとの事。

ホテルに置きっぱなしの俺の荷物はもう既にこっちに手配をしていて、多分もう届いてるとの事だ。

 

 

「まぁ、ライトは元々持ってたし見られて不都合のあるものなんてないから良いか」

 

 

そう考えていると、職員室に着いた。

確か、山田先生が対応してくれるはず。

俺はそのまま職員室の扉をノックして

 

 

「失礼します、1年1組門藤操です。山田先生はいらっしゃいますか?」

 

 

扉を開けてそう声を発する。

なんか、スーツを着てるのに学生の対応をしてるから違和感がいっぱい。

 

 

「あ、門藤君!お待ちしていました」

 

 

俺がそんな事を考えていると、山田先生が此方に来てくれる。

その手には鍵が1本。

 

 

「山田先生、どうも」

 

 

「はい。では早速案内します。これが鍵です」

 

 

そう言いながら山田先生は俺に鍵を差し出す。

俺はそのままその鍵を受け取る。

 

 

「門藤君の部屋は、教員寮の1部屋です」

 

 

「教員寮?」

 

 

俺は山田先生の言葉に首を傾げる。

あれ?

俺は生徒のはず...

何でだ?

 

 

「門藤君は23歳なので、生徒寮に入るのはチョッと...」

 

 

「なるほど、了解しました」

 

 

俺が疑問に思っていたことを丁度山田先生が説明してくれた。

確かに、1年生寮にいるのは16歳、誕生日を迎えていなかったら15歳。

23歳を同じ寮に入れる訳にはいかないか。

 

 

「では、案内します。付いて来て下さい」

 

 

「山田先生も寮に行かれるんですか?」

 

 

「はい!もう既に今日のお仕事は終わってるので!」

 

 

つまりは、俺の為に職員室にいて下さったのか...

申し訳ない。

 

 

「先ず、寮に行く前に荷物を受け取っていいですか?届いてるんですよね?」

 

 

まぁ、もう仕事が終わっているのなら山田先生も帰りたいと思うが、荷物を受け取らないと何もできない。

俺がそう言うと、山田先生は

 

 

「あっ!?」

 

 

と声を出す。

...これは?

 

 

「忘れてました?」

 

 

「.....はい」

 

 

俺がそう言うと、山田先生はそう返事をする。

 

 

「人間、忘れるものです。仕方ありません」

 

 

「う、うう...はい」

 

 

山田先生か軽くショックを受けているようだ。

真面目ないい先生だな。

俺はそんな事を考えながら山田先生と共に職員室の隣の事務室で俺の荷物を受け取り、今度こそ寮に向かう。

その道中、俺は山田先生と軽く会話をする。

 

 

「今年から急に男子生徒2人が入って来てご迷惑をお掛けしてます」

 

 

「い、いえいえ!確かに、私はあまり男の子と関わって来ませんでしたし、1人は私より年上だと聞いていたので不安でしたが、優しそうな男性で安心しました」

 

 

「年上...ですか?」

 

 

「はい。私は22歳なんですよ」

 

 

へ~~。

確かに山田先生はかなりの童顔。

正直学生服を着ていればクラスメイトと言われても不思議ではない。

 

 

「そんな年上が生徒ってぶっちゃけ如何ですか?」

 

 

「そうですね...正直、困惑してます」

 

 

ここで、山田先生はとある事を思い付いたように表情を変える。

 

 

「もしかして、門藤『君』じゃなくて門藤『さん』じゃないといけない...?」

 

 

そして、山田先生はそう声を発する。

それを聞いた俺は思わず苦笑してしまう。

 

 

「いやいや、生徒なんですから普通に接してください」

 

 

「そうですか...そうしますね!」

 

 

そこから、もう暫く会話をする。

山田先生の学生時代だったり、俺の過去などを。

まぁ、ジューマン達の説明をする訳にもいかないので、普通に色々な友人と共に動物学者のアシスタントをしてるという事しか言えないけど。

 

 

「そんな友人達ですが、まぁ、暫くは会えないですね」

 

 

「それは、悲しいですね...」

 

 

「はい。それに、恋人(恋犀?)にも会えないですし...」

 

 

「え!?門藤君、恋人いるんですか!?」

 

 

俺の言葉に、山田先生が驚愕の声を上げる。

何でだ。

 

 

「俺に恋人がいるのがそんなに不思議ですか?」

 

 

「いえ、そういう訳では無いのですが...しょ、少々お話を聞いても?」

 

 

山田先生は興味津々といった表情で俺の事を見てくる。

なんか、更に子供っぽく感じてしまう。

こう考えるのも失礼に当たるのだろうか?

 

 

「リリアンっていうんですけど、本当に可愛いんですよ!献身的で家事も得意で、格闘技をしていてそれでかなり強くて。それなのにしっかりと甘いものが好きっていう女子らしい一面もあって...」

 

 

リリアンは可愛い。

異論は認めない!

そこから暫く俺はリリアンの魅力について語った。

大体10分くらい歩いたところで話も終わり、教員寮にも着いた。

 

 

「大体こんな感じですね」

 

 

「な、なるほど...甘いですね...」

 

 

山田先生は顔を真っ赤にしながらそう言葉を零す。

そんな山田先生を見て、俺は思わず気まずくなってしまう。

チョッと喋りすぎたかな...?

 

 

「で、では門藤君。また明日」

 

 

「はい。今日はありがとうございました。また明日」

 

 

最後にそう挨拶をすると、山田先生は自分の部屋に入っていった。

俺はそれを確認すると、鍵に書いてある自分の号室を確認する。

1-1号室か...

つまるところ、1階の1号室か。

そうして、俺はその1号室に移動する。

そしてそのまま俺は部屋に入っていく。

 

 

「おお。流石はIS学園。教員寮も豪華だ」

 

 

冷蔵庫に電子レンジ、炊飯器や洗濯機、エアコンといった家電は全て揃ってるし、クローゼットとかの収納スペースもそこそこ。

ベッドもかなりいいやつだ。

俺は取り敢えず荷物が入っている段ボールを床に置く。

...一応、盗聴器類を確認するかぁ...

俺はそう判断し、部屋中をくまなく探す。

 

 

「.....あった」

 

 

マジかよ。

これは、又もや学園長へ相談か...?

その後も出るわ出るわで、合計5個。

これはかなりの量だ。

俺がこの部屋に入る事を知っていないと、盗聴器を仕掛ける事なんて出来ない。

つまり、教員。

もしくはそれに近い立場の人間...例えば、生徒会。

そこら辺だろう。

 

 

「まぁ、取り敢えず相談かぁ...」

 

 

学園長、初っ端からご迷惑を掛けまくります。

申し訳ありません。

俺はそんな事を考えながら段ボールを開ける。

まぁ、俺の荷物の大部分はあっちの世界なので、着替えしかないけど。

俺はそのままその服をクローゼットに仕舞う。

そうして仕舞い終わった後、俺はベッドの縁に座り、懐からジュウオウザライトを取り出し、それを見つめる。

 

 

「大和、セラ、レオ、タスク、アム、バド、真理夫さん、リリアン。俺は、やる」

 

 

正直に言うと、織斑春十と戦うのは怖い。

織斑一夏が虐められていたという事から、如何しても恐怖心が出て来てしまう。

だが、そんなもの関係ない。

俺は、門藤操。

世界の王者、ジュウオウザワールド。

 

 

「俺に怯えている資格は無い!」

 

 

さぁ、やってやる!

 

 

 

 




なんか、こう、学園長が大変そうだ。
今度お茶でも差し入れしよう。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

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クラス代表決定戦

少し時間が飛ぶ。
戦闘シーンは次回からで...

今回もお楽しみください!


操side

 

 

入学式の日から週が明け、月曜日。

今日は、クラス代表を決定するための模擬戦がある日だ。

 

 

あの日の翌日、俺は再び学園長に相談しに行った。

勿論、部屋にあった盗聴器類を手に持って。

学園長は苦笑いをしながらその盗聴器を受け取って調査をしてくれるとの事。

そして、部屋の鍵は1日で新しくなった。

何でも軍などでも使われている鍵を作っているメーカーが販売している最新の家庭用のものらしく、もうこれでピッキングはされにくいとの事。

初日から学園長に迷惑を掛けまくってしまったが、これは仕方が無い。

今度何か差し入れしよう。

何だろう...お茶とかが良いかな?

それとも差し入れじゃなくて釣り...

いや、生徒と教師が一緒に釣りに行くのはアウトか。

 

 

そして、その日の朝のSHR。

そこで織斑先生が衝撃の発言をした。

織斑春十に専用機が与えれれると。

ISを作るには必ずコアを使わないといけなく、そのコアは全世界で467個しかない。

専用機は名前の通り個人専用のものなので、所有している人間はかなりのエリートという事になる。

そんな専用機を初心者が与えられるとの事で、クラス内はざわついた。

セシリア・オルコットはなんか織斑春十に絡んでいたが気にする事では無い。

 

俺も、ジュウオウザワールドを束さんが特別に造ったISという事で全世界に発信したため、専用機持ちという扱いだ。

まぁ、専用機を与えたとしか言ってなかったから見た目などの情報は出てないからみんな興味津々という目で見て来たけど。

 

 

それから時間は流れ、今日。

今現在はまさに織斑春十とセシリア・オルコットが試合している。

アリーナの観客席には、生徒達が集合している。

男がISで戦うという初めての光景を見たいんだろう。

試合順は、織斑春十とセシリア・オルコットの試合後、俺とセシリア・オルコットが戦い、最後に俺と織斑春十だ。

何で喧嘩に巻き込まれた俺が大トリみたいな立ち位置なんだろうか。

俺はそんな事を考えながら、自身に与えられたアリーナのピットにいた。

情報アドバンテージ差が出ないように自分が出ていない試合を見る事は出来ない。

だから、暫くの間暇なのだ。

 

 

「これから、試合かぁ...」

 

 

俺は、ジュウオウザライトを取り出しながらそう言葉を零す。

 

 

「俺はもう覚悟を決めた。何も迷う事は無い」

 

 

そうだ、俺は織斑一夏ではない。

そうやって俺が改めて覚悟を決めた時、

 

 

『予定していた第2試合ですが、セシリア・オルコットさんが辞退したため中止になりました』

 

 

とアナウンスが鳴り響く。

辞退か...

何か心境の変化があったのか?

 

 

『その為、第3試合に予定していた門藤操VS織斑春十の試合を決行します。双方、準備してください』

 

 

俺はそのアナウンスに従い、ピットの入り口に移動する。

さぁ...行きますか!!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

三人称side

 

 

「アハハハ!良し!良し!!このままいけば...!!」

 

 

春十に与えられたピットの中で。

セシリアとの試合が終わった春十は高笑いをしていた。

 

 

IS学園に入学してからも、全ては春十の思う通りに物事が進んでいた。

入学式の日、自己紹介の時に頭を叩かれた事。

箒と再会した事。

セシリアとクラス代表を決めるための模擬戦をする事になった事。

昼休みに先輩に声を掛けられたが箒が束の名を使って追い払った事。

専用機を受け取ると言われた事。

剣道しかしてこなかった事。

白式を使ってセシリアと戦い、ギリギリのところで一次移行が終わるも結局自滅した事。

その全てが、原作通りだったからだ。

 

 

だが、そんな中でも原作と異なっている事が1つ。

 

 

「良し!あとは、ここで門藤操をボコボコにすれば...!」

 

 

そう、操である。

入学式の日の最初のHRから1組にいた操。

そんな操の事が春十にとっては邪魔だった。

クラスメイトと馴染み、普通にいる存在。

だが、自分以外の男がいる。

そんな状況が、春十にとって物凄く気に入らないものだった。

それに、顔が一夏に似ているというのも、春十をイラつかせる要因だった。

だからこそ、春十はここで操の事をボコボコにしようと考えた。

そうすれば操の人気は一気に落ちるだろうと考えたから。

 

 

「フム、織斑。一先ず試合お疲れ様と言っておこう」

 

 

すると、唐突にピットにそんな声が響く。

春十がその方向を振り向くと、そこには千冬と箒がいた。

 

 

「あ、千冬姉」

 

 

「織斑先生だ」

 

 

千冬はそのまま出席簿で春十の頭を叩く。

叩かれた春十は頭を押さえてその場でうずくまる。

だが、その時に千冬と箒に見えないように笑みを浮かべる。

千冬姉と呼んだら直ぐに出席簿で叩かれるという事が原作通りだからだろう。

そこから、千冬が何故急に敗北となったかの説明をした。

春十にとっては原作で聞いた事がある内容だが、聞かない訳にはいかないので大人しく箒と共に千冬の説明を聞いていた。

零落白夜という単一能力がもう使える事に箒は驚いていたが、春十は当然ながら驚いていなかった。

 

 

そうして、千冬の説明が終わり暫くすると

 

 

『予定していた第2試合ですが、セシリア・オルコットさんが辞退したため中止になりました』

 

 

というアナウンスがピット内に響く。

そのアナウンスに千冬と箒は驚いていたが、春十は

 

 

(良し!これは、セシリアが俺に惚れたからだな!着々と俺のハーレムが出来上がってるぜ!)

 

 

そんな事を考えていた。

表情には何とか笑みを漏らさないようにしているので、千冬と箒は特に気にしていない。

 

 

(ここで、門藤操を潰す!そうして、不純物を削除してやるぜ!!)

 

 

『その為、第3試合に予定していた門藤操VS織斑春十の試合を決行します。双方、準備してください』

 

 

春十が改めて操をボコボコにしようと考えた時、丁度準備のアナウンスが鳴る。

 

 

「春十!丁度いいではないか!あのもう1人の男にお前の方が凄いという事を知らしめてやれ!」

 

 

そうして、そのアナウンスが鳴ったときに、箒が自信満々な表情でそう春十に言う。

それを言われた春十は、笑みを浮かべながら

 

 

「おう!確かに今は負けちまったけど、今度は負けない!」

 

 

と箒に言い切る。

それを見た箒も笑みを浮かべる。

そんな2人を見ながら、千冬は複雑そうな表情を浮かべる。

千冬はこの1週間、何とか操と接触しようとした。

だが、学園長から言われた事、そして操自身が関わろうとしなかったので千冬は操に接触出来なかった。

操は一夏ではない。

本人からも、十蔵からもそう言われているのに、千冬は未だにその事を認めていない。

だからこそ操に接触しようとしているのだ。

 

 

(一夏...春十と戦う事によって、帰ってきてくれ...)

 

 

千冬は、またそんな事を考える。

 

 

「では、春十。私と篠ノ之は移動する。頑張れよ」

 

 

「...分かった、千冬姉」

 

 

最後に千冬と春十はそう会話をして、千冬と箒は移動をする。

そうして、また1人になった春十は

 

 

「ハハハ!良し、箒や千冬姉からの好感度もばっちりだ!」

 

 

そう高笑いをする。

と、ここでアリーナの中から何やらざわついているのに気が付いた。

 

 

「あ?観客席からか?」

 

 

春十はそう首を捻るも、考えても理由は分からないと判断した。

そして、与えられた専用機、『白式』を展開。

そのままカタパルトを使い、アリーナに飛び出す。

 

 

春十のカタパルトから移動した千冬は、箒と共にアリーナの管制室に向かっていた。

本来なら管制室に生徒は入れないのだが、もう観客席が埋まっているので、千冬が特別に連れて来たのだ。

その道中、箒は千冬に

 

 

「ちふ...織斑先生、何でこんなにざわついているのか分かりますか?」

 

 

と質問をした。

春十がピット内で聞いたざわつきは、箒も気が付いていたのだ。

千冬も当然それに気付いていて、箒の質問に対して暫く考えた後、

 

 

「いや、分からない。管制室に行けば、何かが分かるかもしれない。直ぐに移動しよう」

 

 

そうして、2人は若干早歩きになって管制室に移動する。

管制室に付き、そのまま中に入る。

すると、管制室内もざわついていた。

 

 

「山田先生、いったい何がありました?」

 

 

千冬は、取り敢えず管制室にいた真耶に声を掛ける。

すると、真耶は振り返り、

 

 

「あ、織斑先生」

 

 

と反応をする。

 

 

「山田先生、いったい何が?」

 

 

千冬が再度真耶にそう尋ねると、真耶はアリーナの中に視線を向ける。

それにつられ、千冬と箒も視線をアリーナの中に向ける。

 

 

 

「「「なぁ!?」」」

 

 

アリーナに出た春十、そしてアリーナに視線をやった千冬と箒は、同時に同じ様な声を発する。

だが、それは当然だろう。

アリーナには、春十の他に、当然ながら操がいた。

驚いたのは、操がいたからではない。

 

 

操が、私服でそこに立っていたからだ。

そう、私服。

私服である。

ISを身に纏っていないどころか、ISスーツすら着ていない。

そんな状態で操はアリーナに立ち、俯いていた。

 

 

私服で立っている操を見て、観客がざわついていた理由が分かった。

そうして、春十は笑みを浮かべる。

 

 

(私服...つまり、降参か!これで...!)

 

 

春十がそんな事を考えている中、操はというと

 

 

(やれる...俺は、やる!)

 

 

何度目か分からない覚悟を決めていた。

 

 

そして、春十が操の事を煽ろうと口を開く、その直前に。

操は俯かせていた顔を上げて春十の事を見る。

そして、操は懐からジュウオウザライトを右手で地面と平行になるように取り出す。

 

 

(懐中電灯?)

 

 

春十がその事に疑問を感じる。

操は、そのまま両腕を身体の左側に持っていき、ジュウオウザライト後部のスイッチを押す。

 

 

《ザワールド!》

 

 

そうして、その音声が鳴り響く。

その事に春十や観客は驚きの表情を浮かべるが、操は気にしない。

そうして、身体の左側にあった両腕を今度は右側に持っていき、

 

 

「本能覚醒!」

 

 

その掛け声と同時に、ジュウオウザライトの中央に付いているキューブを回転させ、犀の顔が描かれている面に合わせる。

そして、左足の膝を曲げながら上げ、そのままジュウオウザライトのスイッチを膝で押す。

 

 

《ウォーウォー!ライノース!》

 

 

「はぁぁぁぁぁ...」

 

 

その音声と共に、操は右手を後ろに大きく回転させ、下から上に右腕を上げる。

それに伴い、操の身体を辺が黒、金、銀の3色に分かれているエネルギーで出来たキューブが覆う。

 

 

「はぁ!」

 

 

そして、あげた右腕を振り下ろす。

その瞬間に、エネルギーで出来たキューブは操の身体に纏わりつき、顔以外の全身に黒のスーツが装着される。

そして、操の身体を後ろから鰐、狼、犀の順番で通過する。

通過した時に、右腕と体の右3分の1が金に、左腕と体の3分の1が銀に変わる。

3色に分かれた身体部分、金の部分に鰐、銀の部分に狼、黒の部分に犀、それぞれの顔が描かれる。

描かれた後に、唯一何も装着していなかった顔に口元が金、顔の上部が黒で犀を模しているマスクが装着されている。

 

 

『ええええええぇぇぇぇぇ!?!?』

 

 

春十と観客は、管制室にいる教員と箒を含め、一斉に驚愕の声を上げる。

そんな声を無視して、

 

 

「世界の王者!ジュウオウザ...ワールド!」

 

 

操は...ジュウオウザワールドは名乗りポーズをする。

 

 

(動物戦隊!...って、1人か...)

 

 

心の中でそう思い、軽く落ち込む。

だが、直ぐに切り替え目の前の春十に視線を戻す。

 

 

「は、え、はぁ!?」

 

 

春十は未だに混乱していた。

だが、何とか落ち着き

 

 

「な、何が世界の王者だ!勝つのは俺だ!」

 

 

と、自分の親指でさしながらそうジュウオウザワールドに言い切る。

だが、まだ動揺が完全に抜けきってないからか、そこまで迫力がない。

 

 

『そ、それでは両者構えてください』

 

 

ここで、アリーナにそうアナウンスが鳴り響く。

それを聞いて、ジュウオウザワールドは懐から黄色いロッド...『ジュウオウザガンロッド』を取り出し、構える。

春十も、白式の唯一の武装である接近ブレード、『雪片弐型』を展開し、構える。

 

 

『それでは、門藤操VS織斑春十。試合...開始!』

 

 

そうして、戦いが、始まる...

 

 

 

 




変身シーンをここまで詳しく書くのは今回だけです。
ですが、あれとか、あれとか、あれの初登場時はまた詳しく書きます。

っていうか、詳しく書いたつもりなのに伝わってる気がしない...
しっかりと見たい方は、是非ジュウオウジャーをご覧ください。

いちいちジュウオウザワールドとかしっかり書いてるのは、ザワールドだけだとエクストラプレイヤー時代と同じ表記になるからです。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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世界の王者VS転生者

サブタイまんま。
相変わらず私は戦闘シーンが上手く書けない。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

『それでは、門藤操VS織斑春十。試合...開始!』

 

 

試合開始のアナウンスと同時に、ジュウオウザワールドはジュウオウザガンロッドから糸を取り出しフィッシングモードにすると、そのまま糸を春十に向かって振るう。

 

 

「つ、釣り竿!?」

 

 

『え、えええ!?』

 

 

その事に春十は勿論、見ていた観客も衝撃の声を発する。

糸に驚いたことで反応が遅れた春十はそのまま糸による攻撃を受ける。

そして、そのまま装甲から火花が散る。

 

 

「ぐぁ!?」

 

 

春十は攻撃を受けた衝撃でそう声を漏らし、体勢を崩す。

 

 

「はぁ!はぁ!」

 

 

体勢を崩した春十に向かって、ジュウオウザワールドはジュウオウザガンロッドを振るって糸で攻撃をする。

何度も何度も攻撃を受け、白式のSEがガリガリと削れていく。

 

 

「が、がぁ!クソ!」

 

 

攻撃を受け続けた春十だが、流石に何時までも攻撃を喰らっている訳ではない。

スラスターを使い大きく移動し、離脱する。

 

 

(はぁ、はぁ、クソ!如何なってやがる!何でこんなに、ダメージを受けてるんだ!こういうのは主人公補正で案外避けれるもんなんじゃないのかよ!?)

 

 

離脱をしながら、春十はそんな事を考える。

自分を主人公だと思ってるが故の、補正がある事前提の考え方。

セシリア戦でほぼ原作通りの戦いをしたので、それが更に強まった。

だから、そう考える。

 

 

(こうなったらぁ!これで決める!)

 

 

その瞬間に、春十が持っている雪片弐型が変形し、エネルギーの刃が展開される。

 

 

「っ!」

 

 

それを見たジュウオウザワールドは直ぐにジュウオウザガンロッドを両手で持ち、構える。

このエネルギーの刃は、白式の単一能力、零落白夜。

相手のエネルギー兵器を無効化したり、シールドバリアーを切り裂き直接ダメージを与えることが出来る、白式最大の攻撃。

それを、春十は発動したのだ。

 

 

「うおおお!」

 

 

そして、春十は雪片弐型を構えジュウオウザワールドに突っ込んでいく。

白式は全ISの中でトップレベルのスピードを出せるため、かなりの勢いが出ている。

だが、零落白夜は近接専用であり、ジュウオウザワールドが飛行能力が無く地面に立っているため、自然と春十も高度を下げなくてはいけない。

 

 

「はぁ!」

 

 

「な!?」

 

 

だから、高度が下がっていた春十の事を、ジュウオウザワールドは地面を思いっ切り蹴り、空中で前転しながら飛び越える。

その事に春十は驚き、動きが止まる。

その隙に地面に着地したジュウオウザワールドは、

 

 

「はぁ!!」

 

 

ジュウオウザガンロッドを振るい、糸を春十に飛ばす。

そして、その糸の行きつく先は...

 

 

「な!雪片弐型に!?」

 

 

そう、春十の持つ雪片弐型だ。

ジュウオウザガンロッドの糸は、雪片弐型の持ち手部分に巻き付いている。

 

 

「おらぁ!」

 

 

「あ!?」

 

 

ジュウオウザワールドは、そのままジュウオウザガンロッドを引き、釣りの要領で雪片弐型を手元に手繰り寄せる。

糸が絡みついた事に呆気に取られていた春十は、そのまま雪片弐型を離してしまう。

春十の手元を離れたことで、雪片弐型のエネルギー刃は消失し、変形も元に戻る。

そして、

 

 

「はぁ!はぁあ!」

 

 

「な!?ぐぁ!」

 

 

ジュウオウザワールドはジュウオウザガンロッドを振り、糸の先端に括りつけたままだった雪片弐型で春十の事を攻撃する。

春十はそのまま雪片弐型によって切り付けられる。

そうして、何度か切り付けられ、春十はアリーナの壁際に吹き飛ばされる。

 

 

「あ、がぁ!」

 

 

(クソ!もうSEが...何で、俺がこんなに追い詰められてるんだよ!)

 

 

吹き飛ばされた春十はそんな事を考えながらジュウオウザワールドの事を睨む。

ジュウオウザワールドはそんな視線を気にせずジュウオウザガンロッドを引き、先に括りつけている雪片弐型を手に取る。

そして、そのままそこら辺に雪片弐型を放り捨てる。

 

 

「てめぇ!よくも、千冬姉の剣を!」

 

 

その瞬間に、春十はそう声を上げると、ジュウオウザワールドが放り捨てた雪片弐型に向かって飛んでいく。

だが、そんな春十に向かってジュウオウザワールドは再び糸を飛ばす。

そして、今度はその足に糸が括りつけられる。

 

 

「はぁあああ!!」

 

 

「な、うわぁあああ!?」

 

 

そして、そのまま春十ごとジュウオウザガンロッドを振り回す。

 

ががががが!!

 

アリーナの壁に春十はぶつかりながら回転させられる事によってSEがガリガリと削れていく。

 

 

「おらぁ!!」

 

 

「がぁ!」

 

 

そして、ジュウオウザワールドがジュウオウザガンロッドを大きく振り抜く事で、春十の足に括りつけられていた糸が解け、春十はアリーナに転がる。

白式のSEはまだ辛うじて残っているが、もう普通の蹴りで無くなってしまう程しか残っていない。

 

 

(クソ!何でだ!何で俺が地面に転がっていて、アイツが立ってんだよ!俺は主人公だろ!)

 

 

地面に転がった春十はジュウオウザワールドを睨みながらそんな事を考える。

 

 

だが、ジュウオウザワールドが春十の事を圧倒出来るのは当然である。

春十は転生者故原作知識があるが、ISを使う事、そして戦う事に関しては素人である。

それに対し、ジュウオウザワールドは...操は10年前にデスガリアンと戦い、その後も何度も戦っていた。

戦闘は、訓練も経験も非常に大切である。

確かに情報も大きなアドバンテージになるが、戦う本人が未熟では意味ないし、そもそも春十はジュウオウザワールドを知らないので情報アドバンテージなど無い。

その為、素人である春十が勝てる訳がない。

 

 

ジュウオウザワールドは、ジュウオウザガンロッドを肩に担ぎながらゆっくりと春十に近付き、

 

 

「はぁ!」

 

 

春十の事を蹴り上げる。

 

 

「あがぁ!」

 

 

春十はそんな声を発する。

そうして、春十が身に纏っている白式のSEはゼロになり、機体が強制解除される。

その瞬間に試合終了のブザーが鳴り響き、

 

 

『白式、SEエンプティ!勝者、門藤操!』

 

 

ジュウオウザワールドの、操の勝利アナウンスが鳴り響く。

 

 

『わぁああああああああ!!』

 

 

そうして、観客は一斉に歓声を上げる。

その歓声を受け、ジュウオウザワールドは軽く右手を上げてから自身のピットに戻っていく。

敗北した春十は、一応救護班の教員が春十のピットに連れて帰って行く。

 

 

(負けた...クソ!クソォ!!何でだよ!何で俺が、負けたんだよ!俺は、主人公だろうが!)

 

 

その道中に、春十はそんな事を考える。

納得していないようだが、春十は負けたという事実は変わらない。

 

 

自身のピットに戻り、変身を解除した操は

 

 

「ライノスだけで終わったか...まさか、()()()()()()()()()()すら使わないなんてな...」

 

 

そんな事を呟く。

そして、ピットに備わっていたベンチに座り、

 

 

「やばい...怖い印象を植え付けたかもしれない...」

 

 

そう言いながら頭を抱える。

戦闘中は集中して思いつかなかったが、終わってみると思いつく。

 

 

「大丈夫だよな...もし仮にそういう印象を植え付けていたとしても、まだ4月。まだ、まだ挽回できる」

 

 

操は少しだけ前向きな事を呟くと、ピットから出て行った。

その表情は、少し不安が残っていたが、明るいものだった。

 

 

だが、操は忘れている。

この模擬戦に勝った為、自分がクラス代表になるという事を...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

操side

 

 

模擬戦の翌日の朝のSHR前。

俺は普通に教室に向かっていた。

 

 

「大丈夫、大丈夫だ...」

 

 

だが、如何しても不安を拭いきれない。

だって昨日あれだけ暴れたんだ。

不安を覚えない方がおかしい。

 

 

そんな事を考えているうちに、気付いたら1年1組の教室前に着いていた。

俺はいったん深呼吸をしてから、教室の扉を開ける。

 

 

「お、おはよう...」

 

 

そして俺はクラスのみんなにそう挨拶をする。

すると、

 

 

「あ、門藤さん!おはようございます!」

 

 

と、クラスメイトの清香が元気よく挨拶を返してくれる。

その清香の挨拶で、他のみんなも俺に反応してくれる。

 

 

「門藤さん、昨日は格好良かったですよ!」

 

 

そんな中で、1人のクラスメイトがそんな事を言ってくれる。

 

 

「き、昨日は怖く無かったのか?」

 

 

「はい、全然怖く無かったですよ。凄く強くて、格好良かったです!」

 

 

その言葉に同意するようにみんなが頷く。

それにつられて、俺も笑みを浮かべる。

良かったぁ...本当に良かったぁ...

 

 

それはそうと。

 

 

「なぁ、あれって如何いう状況?」

 

 

俺は、教室の窓際に視線を向けながらそうみんなに尋ねる。

するとみんなも俺と同じ方向に視線を向ける。

俺らの視線の先では、織斑春十を挟みながら篠ノ之箒とセシリア・オルコットが何か言い合っていた。

本当に何があったらああなる?

 

 

「えっと...篠ノ之さんと織斑君が話してたら、織斑君にオルコットさんが謝罪して、オルコットさんに篠ノ之さんが突っかかって喧嘩が始まりました...」

 

 

その説明を聞いて納得した。

 

 

「つまり、修羅場か...」

 

 

俺のその呟きに、周りのみんなが頷く。

昨日セシリア・オルコットが辞退した理由が分かった。

織斑春十に惚れたんだろう。

あれだけ男の事をボロカス言ってたのに、急に掌返しか...

好印象は持てないな。

そもそも、俺は織斑春十と篠ノ之箒が苦手...いや、嫌いだ。

門藤操はあの2人との関わりが無いが、俺には織斑一夏の記憶がある。

その記憶があるから、あの2人の事が嫌いだ。

そんな織斑春十に惚れたとなると...セシリア・オルコットの事も嫌いになりそうだ。

 

 

俺がそんな事を考えていると、朝のSHRの時間になり、チャイムが鳴り響く。

それに従い、俺達は自席に座るが、織斑春十達は未だに何かやってる。

 

 

「席に座れ馬鹿者共!」

 

 

「「「痛っ!?」」」

 

 

そうして、教室に入って来た織斑先生が出席簿で3人の頭を順番にすっぱたく。

うわ、痛そう...

織斑先生、教員が暴力振るって良いんですか?

普通に駄目な気しかしないんだが...

後ろで一緒にやって来た山田先生がアワアワしてますよ。

頭を叩かれた3人は直ぐに席に戻っていく。

3人がしっかりと座った事を確認した山田先生は口を開く。

 

 

「さて、門藤君、織斑君、オルコットさん、昨日はお疲れさまでした!そして、模擬戦に勝利した門藤君が、1年1組のクラス代表に決定しました~~!」

 

 

「....やっべ、忘れてた」

 

 

そうじゃん!

昨日の模擬戦、クラス代表を決めるための模擬戦じゃん!

みんなからの反応が心配すぎてすっかり忘れてた...

 

 

「門藤、クラスに向かって何か一言喋れ」

 

 

俺がそんな事を考えていると、織斑先生がそう指示をしてきた。

少し面倒だが仕方が無い。

俺は席を立ち、教壇前に移動してからみんなの方を向く。

 

 

「えっと...23歳で年齢が離れていますが、頑張りますので協力してくれたら嬉しいです。よろしくお願いします!」

 

 

『よろしくお願いします!』

 

 

俺がそう言うと、みんなもそう返してくれる。

だが、例の3人は何処か睨むような視線で俺の事を見て来た。

はぁ.....

俺は心の中でため息をつきながら、自席に戻る。

 

 

「んん!さて、SHRで伝えるのは以上だ!次の授業は私の授業だ、準備を忘れるなよ」

 

 

そうして、織斑先生は最後にそう言うと山田先生と共に教室から出て行った。

さて、今日も頑張ろうか!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

『門藤さん、クラス代表就任おめでとう!』

 

 

「ありがとう!」

 

 

時刻は進み放課後。

俺はIS学園の食堂にて俺のクラス代表就任記念パーティーに参加していた。

食堂を貸し切ってまで開催されたこの集まり。

何でか知らないが1組以外の1年生も集まっている。

まぁ、ただただ騒ぎたいだけだろう。

それはそれで賑やかだし、他のクラスの人とも関われるから良いか。

 

 

「...大和達がいたら、もっと楽しいだろうな」

 

 

俺はそんな事を思わず呟いてしまう。

この世界に大和達はいない。

そんな事分かっているのに、そう思ってしまう。

ラリーとか絶対にこういうの開催するの得意だからな...

 

 

因みに、この場に例の3人はいない。

誘ったらしいのだか断られたようだ。

俺からしても正直いない方が良いからありがたいんだが、何時までもこんな事じゃ駄目だよな...

その内何とか仲良くとまではいかなくても顔を合わせても何も思わないくらいまでは改善したい。

だけれども、あの3人の態度的にそれも無理だな...

 

 

「はいはーい!新聞部でーす!話題の門藤操さんにインタビューしに来ました~!」

 

 

そんな事を考えていると、食堂内にそんな声が響く。

食堂の入り口の方に視線を向けると、そこには眼鏡を着用し首からカメラを下げ、腕には新聞部と書いている紙を付けた生徒がいた。

リボンの色的に、2年生か。

 

 

「お、いたいた!私、新聞部副部長の黛薫子です!よろしくお願いします!」

 

 

そうして、その生徒...黛さんは名刺を差し出してくる。

随分と本格的だな...

 

 

「門藤操です。よろしくお願いします」

 

 

俺は取り敢えずそう返す。

黛さんは、俺が座っている前の席に座ってメモ帳を取り出し、ボイスレコーダーを机の上に置く。

 

 

「じゃあ、早速インタビューを開始します!」

 

 

あれ?

俺承認したっけ?

 

 

「クラス代表に就任しましたが、何か一言どうぞ!」

 

 

俺はそう疑問を感じたものの、黛さんは畳み掛けるようにそう質問してくる。

これは何か言っても無駄な奴だ。

仕方が無い、素直に応対しよう。

 

 

「まぁ、程々に頑張ります」

 

 

「えー、それだけですか?まぁ、捏造するから...」

 

 

「おっと、それは駄目だ」

 

 

何やら怪しい事を呟いたので机の上のボイスレコーダーを奪い取る。

 

 

「あ、ちょ!」

 

 

「今すぐさっきの言葉を訂正しないとこれを学園長に聞かせる」

 

 

黛さんは奪い返そうとしてきたが、俺がそう言った瞬間に土下座する。

流れるような土下座。

これは何度もこういう状況を経験してるな?

 

 

「それだけは勘弁してください!」

 

 

「なら訂正してください」

 

 

「します!しますから!」

 

 

それを聞いた俺はボイスレコーダーのデータを自分のスマホにコピーしてから黛さんに返す。

簡単にコピーが出来る最新式で助かった。

 

 

「ううう...では、続きをさせてもらいます...」

 

 

まだするか。

正直これで帰ると思ってたんだが...

 

 

「好みの女性のタイプは?」

 

 

「リリアンです」

 

 

黛さんの質問にすぐさまそう返答すると、黛さんは呆気に取られたかのような表情を浮かべる。

チラッと周りを見てみると、聞き耳を立てていたみんなも同じ様な表情になってる。

 

 

「えっと、その...リリアンっていうのは...」

 

 

黛さんは恐る恐るといった感じで聞いてくる。

周りのみんなもさっきまでの賑やかな雰囲気をおさめ、俺の事をじっくりと見てくる。

 

 

「恋人(恋犀)の名前ですけど」

 

 

若干の気まずさを感じながら俺はそういう。

すると、

 

 

『ええええええ!?』

 

 

と、全員が一斉に絶叫する。

ビックリしたぁ...

急に叫ぶのは止めてくれ...

 

 

「も、門藤さん恋人いるんですか!?」

 

 

「そう言ってるじゃん。俺に恋人がいるのがそんなに不思議か?」

 

 

山田先生もそうだったし...

俺、そんなにパッとしない?

なんか、嫌だなぁ。

イメチェンしようかな?

 

 

「そ、そんな...」

 

 

「き、貴重な男性が...」

 

 

周りの生徒達はそんな事を呟く。

何だ何だ?

訳が分からん。

 

 

「あ、ありがとうございました...」

 

 

黛さんもそう言って帰ってしまう。

えーと...この状況、如何しよう...?

 

 

 

 




思ったより早く決着が着いた。
春十が弱いのか、操が強いのか...
どっちもか。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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中国からの転校生

遂にタグで出てた3人目が出て来ます。
いったいどうなっていくのか...

今回もお楽しみください!


操side

 

 

俺のクラス代表就任記念パーティーからチョッと経ったある日。

俺は何時も通り教室に向かっていた。

 

 

入学してから1週間以上経って、23歳の俺もそこそこクラスに馴染んで来た。

まぁ、あのパーティーの後は何故か少し気まずかったけど。

正直、馴染めなくても仕方が無いと考えていたから凄い嬉しい。

このまま学園生活を楽しめたら良いんだけどな...

 

 

そんな事を考えていると、教室の前に着いた。

俺はそのまま教室の扉を開ける。

 

 

「おはよう!」

 

 

「あ、門藤さん。おはようございます!」

 

 

「おはようございます!」

 

 

クラスメイトと挨拶をしてから、一先ず自分の席に荷物を置く。

 

 

「あ、そうだ!門藤さん、噂聞きましたか?」

 

 

「噂?何の事?」

 

 

席に荷物を置いたタイミングで、そう聞かれたので俺は正直に答える。

本当に心当たりがない。

も、もしかして何か俺に関する事か?

いや、でも、噂になるような行動はしていない...はず。

 

 

「隣のクラスに、転校生がやって来るっていう噂です!」

 

 

その言葉を聞いて、俺は胸を撫で下ろした。

良かった、俺の事じゃない。

それにしても、転校生...

 

 

「まだ4月なのにか?」

 

 

「そうらしいですよ」

 

 

へ~、珍しい事もあるんだな。

 

 

「そう言えば、あの3人は相変わらずか?」

 

 

「はい、そうです...」

 

 

俺が教室の前の方の席に集まっている3人の方に視線を向けながらそう言うと、肯定が帰って来る。

俺の視線の先では、織斑春十を挟み何やら言い合っている篠ノ之箒とセシリア・オルコット。

あの3人は、模擬戦の翌日から常にあんな感じだ。

織斑春十を巡って、2人が口喧嘩をする。

その喧嘩は授業開始時間まで続くため、3人纏めて織斑先生が叩く。

その繰り返しだ。

 

 

「正直、もういい加減にして欲しいな」

 

 

「確かに、チョッとうるさいですよね」

 

 

俺が思わず言ってしまった言葉に、肯定の言葉が続く。

あの3人のやり取りは、もう面倒だと思われているらしい。

これ以上は陰口になっちゃうから何も言わないけど、あれを止めたらみんなと仲良くなれる気がするんだけどな。

そうすれば、俺の織斑春十と篠ノ之箒に対する嫌悪感も緩和されるかもしれない。

 

 

「それよりも門藤さん!もう直ぐクラス対抗戦ですね!」

 

 

「まぁ、入学して直ぐの行事だからね」

 

 

ここで、友人(だと思ってるクラスメイトの)清香がそう言ってきたので、俺は笑いながらそう返す。

クラス対抗戦は、入学して直ぐに行われ、学年別で各クラスのクラス代表が直接ISで戦うというものだ。

正直、クラス代表が代表候補生とかじゃないと物凄く辛いと思う。

不公平さを感じるが、ルールなので仕方ない。

 

 

「確か、優勝したらデザートフリーパスだっけ?」

 

 

「そうなんです!私達、絶対に欲しいです!」

 

 

「俺も欲しい!」

 

 

デザートフリーパスだよ。

欲しくない訳がない。

 

 

「これは、勝ちたいな!」

 

 

「そうですね、でも門藤さん強かったですし大丈夫ですよ!」

 

 

そうやってワイワイと会話していると、

 

 

「織斑春十っている!?」

 

 

と、教室の前の扉の方からそんな声が教室内に響く。

俺や俺の周りの席にいた友人達も一斉に教室の扉に視線を飛ばす。

するとそこには、小柄で髪をツインテールにしている少女がいた。

げ、アイツは...

 

 

「あ、あなたは?」

 

 

教室の入り口の近くにいた生徒がそのツインテールの少女にそう質問する。

 

 

「私は、中国国家代表候補生の凰鈴音よ!」

 

 

その少女...凰鈴音は、胸を張りながらそう言う。

やっぱり...

凰鈴音。

俺は、正直コイツの事も嫌いだ。

コイツは、篠ノ之箒が要人保護プログラムによって転校した翌年に中国から転校してきた。

当初は言語の違いから虐められてたけど、気が付いたら周りに馴染んで織斑一夏の事を虐める側になっていた。

だからこそ、俺は嫌いだ。

流石にずっと嫌いって言ってられないから、門藤操としては何とも思わないくらいまで改善したい。

 

 

「鈴!やっぱり鈴じゃないか!」

 

 

俺がそんな事を考えていると、織斑春十が席を立ち凰鈴音に向かっていく。

そんな織斑春十は凰鈴音の事を見て、篠ノ之箒とセシリア・オルコットはプルプルと肩を震わせているのが分かる。

俺の周りの友人達も、2人の事を見ている。

 

 

「なぁ、みんな。あの2人の事を見るのもいいけど、もうそろそろ朝のSHR始まるよ」

 

 

俺がそう言うと、みんな一斉に教室にある時計に視線を向け、

 

 

「ありがとうございます!戻ります!」

 

 

「教えてくれて本当にありがとうございます!」

 

 

そう言いながら、自分の席に戻っていった。

俺の席の周りに集まっていた人がみんな一斉に席に戻ったから、俺の周りにいなかったクラスメイトもSHRが始まる事に気が付き、席に戻っていく。

そうして、教室内には入り口付近で話をしている織斑春十と凰鈴音、その2人を見てなんかキレてる篠ノ之箒とセシリア・オルコット。

その4人だけが立っている状態になった。

おいおい、席を立ってると...

 

 

バァン!

 

 

俺がそんな事を考えていると、教室内にそんな音が鳴り響く。

見ると、教室の入り口に立っていたはずの凰鈴音がその場に蹲っていた。

そんな凰鈴音の後ろには、出席簿を持っている織斑先生。

それで察した、織斑先生が出席簿で叩いたのだろう。

 

 

「痛った~!!」

 

 

「凰、SHRだ。教室に戻れ」

 

 

「ち、千冬さん...」

 

 

「織斑先生だ!」

 

 

「は、はい!」

 

 

そう会話をして、凰鈴音は自身の教室に戻っていった。

 

 

「貴様らも席に着け!」

 

 

「「「は、はい!」」」

 

 

織斑先生は立っていた3人にそう言い、言われた3人はすぐさま席に座る。

 

 

「はぁ...それでは、今日のSHRを始める!」

 

 

そうして、織斑先生は朝のSHRを開始した。

まぁ、殆ど話をしていたのは織斑先生の後から教室に入って来た山田先生だったけど。

そのまま話は終了し

 

 

「それでは、次の授業はISの実技だ!遅れないように!」

 

 

と、最後に織斑先生がそう言い、SHRは終了した。

そのまま織斑先生と山田先生は教室から出て行った。

さて、実技って事はみんな着替えるから、さっさと教室から出ないとな。

俺はそう判断し、ポケットにしっかりとジュウオウザライトが入っている事を確認してから教室を出る。

授業も頑張るか!

 

 

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三人称side

 

 

時刻は進み、昼休み。

大勢の生徒が食堂で昼食を食べていた。

そんな中、とある4人の集まりが注目を受けていた。

春十、箒、セシリア、鈴の4人である。

今現在は春十を中央に、箒とセシリアと鈴が会話をしている。

 

 

(よしよし、鈴もしっかり転校してきたし、授業内容とかも今まで原作と違うところはない!)

 

 

そんな中で、春十はそんな事を考えていた。

模擬戦の後、殆ど春十の予想通りに授業などが進んでいた。

初の実習でお手本として飛行した事やその時に地面に突っ込んだことなど、殆どを原作の一夏がしていた行動に沿って行動していた。

そして今日、鈴も転校してきてこれまた原作のように箒とセシリアと会話をしている。

しっかりと原作通りに進んでいる事に、春十は喜んでいた。

 

 

(後は、門藤操さえいなくなれば!!)

 

 

そうして、春十はそんな事を考えている。

今までの学園生活で唯一の誤算。

それが操の存在だった。

そんな操の事を、春十は邪魔に思っていた。

 

 

(まぁ、焦らずとも、シャルやラウラを惚れさせてからで問題は無い!俺がハーレムを作って、その上でアイツをボコボコにする!)

 

 

春十がそんな事を考えている中、箒とセシリアと鈴は会話をしている。

 

 

「え!?1組のクラス代表、春十じゃないの!?」

 

 

ここで、鈴が心底驚いた表情でそう言う。

 

 

「そうなのだ。あの、もう1人の男だ」

 

 

「何よそれ。空気読めてないわね~~」

 

 

かなり身勝手な言葉だが、その鈴の言葉に箒とセシリアは頷く。

 

 

「あの男は、春十さんの活躍の機会を奪ったのですわ!」

 

 

そのまま、セシリアはそんな事を言う。

模擬戦まで自分で春十の事を馬鹿にしていたのに、その事は棚に上げて会話している。

 

 

(ははは!セシリアも完璧に俺に惚れてる!)

 

 

そんなセシリアの言葉を聞いて、春十は心の中で歓喜する。

 

 

「春十、私がもう1人の男をボコボコにしといてあげるわ!」

 

 

そんな春十に、鈴がドヤ顔でそう宣言する。

春十は鈴に何か言おうと口を開いたその時

 

 

「貴様ら!何時まで食べてる!もう直ぐ昼休みは終わるぞ!」

 

 

と、千冬が食堂内に響くように声を発する。

その言葉を聞いた春十達は一斉に食器を片付け始める。

 

 

(アハハハ!こういう細かい事も、しっかりと原作通りだ!待ってろ門藤操!)

 

 

その途中、春十は笑みを浮かべながらそんな事を考える。

1度ボコボコにされているのに、何故そんな事を思うのか。

それは、春十がハーレムの事しか考えていないからだろう。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

操side

 

 

隣のクラスに、凰鈴音が転校してきてからそこそこな時間が経った4月末。

週明けにはとうとうクラス対抗戦が開催される、とある日。

俺は学園長室に向かっていた。

理由は単純、学園長に盗聴器関係が如何なっているかの確認をするためだ。

 

 

あれから、如何やら隣のクラス...2組のクラス代表は凰鈴音に変わったらしい。

元々クラス代表だった生徒はどうなったんだと聞きたいが、俺に分かる事ではない。

そして、凰鈴音は寮でなんか騒いで織斑先生に叱られたらしい。

俺は教員寮に住んでるからそこら辺を良く知らないが、織斑春十と同室の篠ノ之箒に部屋を変われと迫ったらしい。

何とも我儘だ。

その場は織斑先生の出席簿アタックによって如何にかなったらしい。

それから、織斑春十の訓練には篠ノ之箒とセシリア・オルコットと凰鈴音の3人が付き添うようになったとか。

そこら辺はまぁ、そこまで俺に関係ないからいいや。

 

 

そんな事を考えていると、学園長室の前に着いた。

身だしなみをチェックして、扉をノックする。

 

 

「門藤操です、入っても宜しいでしょうか?」

 

 

『はい、問題ないですよ。入って来てください』

 

 

「失礼します」

 

 

そうして、軽く頭を下げながら学園長室に入る。

 

 

「門藤君、今日はわざわざ来てくれてありがとうございます」

 

 

「いえいえ、気にしないで下さい。元はといえば私の部屋にあったものなんですから」

 

 

「そう言ってくれると、此方としても気が楽です。座って下さい」

 

 

「失礼します」

 

 

学園長に言われたので、俺はソファーに座る。

まだ4月だというのに、ここに来たのはもう3回目。

正直申し訳なくなってくる。

 

 

「早速ですが、説明をさせていただきます」

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

そうして、学園長は説明を開始してくれる。

 

 

「先ず、門藤君が教員寮の1号室に入るという情報が外部に漏れた形跡はありませんでした。必然的に、これはIS学園内部の人間が起こした事件です」

 

 

「やっぱりですか」

 

 

そうだと思ってた。

 

 

「これは、私の落ち度でもあります。本当にすみません」

 

 

「気にしないで下さい。こうやって調査をして頂けるだけでもありがたいです」

 

 

「...ありがとうございます」

 

 

そう言って学園長は頭を下げる。

あれ?

普通逆じゃないか?

 

 

「続けます。それで、内部の人間を今洗っている所です」

 

 

「なるほど...現段階で、怪しいと思っている人の名前を教えて頂いても?」

 

 

「はい、現段階では、織斑先生と更識生徒会長が怪しいと考えています」

 

 

「生徒会長?」

 

 

織斑先生は、俺の事を一夏一夏と呼んでくるし納得できるが、生徒会長には疑問を持たざるを得ない。

俺が疑問を感じたのを学園長も察したのだろう。

息を吐いてから説明をしてくれる。

 

 

「他言無用でお願いします。更識生徒会長は、日本人なのですが今現在はロシアの国家代表を務めています」

 

 

「それは...何でですか?」

 

 

「それは、彼女の実家に秘密があるからです。彼女の実家、更識は日本政府の対暗部用暗部。いわゆる裏社会の家系です。その特別性から、更識家には自由国籍権が認められており、その結果彼女はロシア国籍になったのです」

 

 

「な、なるほど」

 

 

そういう秘密があるのか。

確かに、裏社会関係者なら情報を得るために俺の部屋に盗聴器を仕掛けても不思議ではない。

 

 

「教えてくれてありがとうございます。ですが、何で私に教えてくれたのですか?」

 

 

俺がそう聞くと、学園長はいったん目を伏せてから、俺の方に視線を戻す。

 

 

「正直、私の判断で伝えていい事ではありません。ですが、男性IS操縦者の保護...そして、大事な生徒の保護の方が優先度は高いと判断しました」

 

 

「学園長...」

 

 

何ていい人なんだぁ!

 

 

「くれぐれも、他言無用でお願いします」

 

 

「それは当然です」

 

 

こんな生徒の事を思っている人を裏切るような真似はしない。

そんな事をしたら、俺はもう胸を張って大和達に会えない。

 

 

「折角来てもらって申し訳ないのですが、今日お話しできるのはこれくらいです」

 

 

「いえ、それが聞けただけでもありがたかったです。今日はありがとうございました」

 

 

「また何かあったら、いつでも相談してください。そして今度のクラス対抗戦、頑張って下さい」

 

 

「...!分かりました。失礼します」

 

 

ここで、会話は終了した。

なので俺は学園長室から出た。

そうして、そのまま時刻を確認する。

17:10か。

 

 

「もう寮に帰るか」

 

 

俺はそう呟くと、寮の自室に向かって歩き出す。

 

 

「取り敢えず、織斑先生と更識生徒会長には気を付けておくか」

 

 

俺、更識生徒会長の顔知らないけど。

そんな事を考えながら歩いていると、教員寮に着いた。

まぁ、同じ敷地にある建物だし直ぐついて当然か。

 

 

「ただいま~」

 

 

しっかりと手洗いうがいをして、俺はベッドの上に座る。

 

 

「はぁ~~盗聴器の犯人、どっちなんだろう」

 

 

これは正直、学園長に任せるしかないな。

今はそれよりも、

 

 

「クラス対抗戦...どうなるんだろうか」

 

 

それが気になる。

2組のクラス代表が変わったという事は、俺は凰鈴音と戦う必要がある。

それは...嫌だなぁ。

 

 

「でも、大丈夫だ。俺は織斑春十とは戦えた」

 

 

強さで言うと、確実に凰鈴音の方が強いだろう。

だが、俺の心理状況的には、織斑一夏のトラウマ的には、織斑春十の方がずっと強かった。

ならば問題ない。

 

 

「デザートフリーパスもあるしな!頑張ろう!」

 

 

大丈夫、俺なら出来る!

 

 

 

 




操「はぁ、踊った踊った」

毎回同じダンス踊ってるけど、飽きないの?

操「当然!だって戦隊っていったらこれでしょ!」

そ、そう...

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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クラス対抗戦

前回の続き。
そして、戦闘シーンは相変わらず低クオリティーなのでご了承ください。

今回もお楽しみください!


操side

 

 

学園長から、盗聴器類についての話を聞いてから翌週。

今日は、とうとうクラス対抗戦当日だ。

 

 

クラス対抗戦は、生徒内ではデザートフリーパスを賭けた熾烈な戦いだが、学園や世界各国や企業からするとそれ以外の目的がある。

代表候補生や代表が戦うのなら、開発したISのアピールに。

一般生徒が戦うのなら、スカウトが出来る。

そんな、結構大人の欲望渦巻くイベントなのだ。

 

 

「...おお、人が多い」

 

 

教員寮から出て、アリーナに向かう道中。

どれだけの人が来てるか気になり見に来た俺は、思わずそんな声を漏らしてしまう。

ぱっと見だけでも、100人を超える来賓の方がアリーナ前に集まっていた。

まだ7時くらいなのに。

 

 

「...こんな大勢の前で、俺戦うの?」

 

 

緊張する...

ま、まぁ、何とかなるだろ。

 

 

「さて、対戦表を確認するか」

 

 

俺はそう呟いてから、アリーナ付近に張り出されている対戦表を確認する。

 

 

「...1年生、1回戦第一試合、1組VS2組」

 

 

おいおい、1番最初かよ...

しかも、あの凰鈴音が対戦相手...

やべぇ。

さっきまでも緊張してたのに、余計緊張してきた。

でも大丈夫だ。

俺なら出来る。

 

 

俺はそんな事を考えながら、アリーナ前から移動し校舎に入る。

今日も朝のSHRは普通にあるからな...

そうして校舎内に入ったのはいいが、やる事が無い。

現在時刻、朝の7時チョッと過ぎ。

SHRはまだまだ先の時間だ。

如何やって時間を潰そうかな...

 

 

「まぁ、偶にはブラブラしてみるのもありだな」

 

 

そうして、俺は校舎内をブラブラする事にした。

朝の時間帯で校舎内は明るい。

それなのに殆ど人がいないという不思議な感じ。

そんな空間をスーツ着た23歳男が歩いているという無関係の人間が見たら不思議を通り越して不可解な状態だと感じながら、俺は校舎内を歩く。

普段はあまり行かないような空き教室の位置の把握もしておこう。

そんな事を考えていると、不意にとある階段が目に入った。

 

 

「あの階段は、屋上に向かう用の...」

 

 

そう言えば、屋上に行ったことが無かったな。

IS学園の屋上は普通の学校の屋上とは異なりかなり整備されていて、昼休みには生徒に解放されている。

 

 

「.....行ってみようかな」

 

 

流石に今この時間に解放されている訳がないのだが、屋上に続く扉の前くらいだったら行けるだろう。

俺はそう思い、その階段を上り始める。

屋上は解放されていると言っても、殆どの生徒が食堂で昼食を食べ、そのまま教室で昼休みを過ごす。

その為屋上に行く生徒は少ないらしい。

だが、そんなあまり人が来ない所でもしっかりと掃除が行き届いているのが凄い。

さてさて、もう直ぐ着くな...

 

 

「っ!」

 

 

そうして屋上前の扉が視線に入ったとき、俺は思わず目を見開いた。

理由は簡単。

そこに先客が居たからだ。

長い金髪が特徴的な女子生徒。

後姿の為リボンが確認できないから、何年生かは分からない。

 

 

「え...?」

 

 

その女子生徒も、俺が来たことに気が付いたんだろう。

咄嗟に振り返る。

リボンの色は、1年生のもの。

だが、俺が注目したのはそこではない。

その女子生徒の表情だった。

それは何故か。

その女子生徒が、泣いていたからだ。

 

 

「え、あの、その...」

 

 

やべぇ!

気まずい!

何でこのタイミングで来てしまったんだ!

 

 

「あ、え?あ...」

 

 

その女子生徒も、そんな声を漏らしながら目を泳がせている。

えっと...如何しよう。

ヤバい。

 

 

.....でも、泣いていた理由が気になる。

初対面だしそっとしておいた方が良いかもしれない。

だが、俺に出来る事があるのならしてあげたい。

...お節介かもしれないし、迷惑かもしれない。

1回話を聞いてみよう。

断られたら謝罪して素直にこの場から立ち去ろう。

 

 

「えっと、初めまして。門藤操です。それで、その...何かあった?俺で良かったら、話を聞いても?」

 

 

俺がそう言うと、その生徒は一瞬驚いた表情を浮かべた後、考えるような表情になった。

そうして暫く考えた後

 

 

「...すみません、話だけでも聞いて貰えますか?」

 

 

と、俺に言ってきた。

表情から察するに、取り敢えず話して気持ちを楽にしたいといったところだろう。

俺は頷いてから階段を上りその女子生徒の隣に移動する。

そんな俺の行動を見てから、その女子生徒は話を始める。

 

女子生徒の名前は、ティナ・ハミルトン。

2組の、元クラス代表。

凰鈴音が転校してくる前に、クラスのみんなから認められクラス代表になった。

志願した理由は、故郷であるアメリカの代表候補生になりたかったから。

まぁ、そう考えるのは普通だろう。

IS学園の生徒なら、国家代表候補生、そしてその先の代表になりたいと思うのは当然の事だ。

そうして、気分も上がっていたところに転校してきたのが凰鈴音。

凰鈴音は代表候補生であるからクラス代表を変われと言ってきた。

断ると、脅してきたらしい。

その内容は詳しく聞かなかったが、その表情から恐怖を感じる内容だったのは簡単に理解できた。

泣いてしまっていたのは、自分が酷く弱く感じていたから。

 

 

「門藤さん、話を聞いてくれてありがとうございました」

 

 

話し終わったハミルトンさんは、鼻を啜りながらそう言ってくる。

 

 

「.....」

 

 

話を聞いていた俺は、何も言う事が出来なかった。

でも、こんなに悲しそうにしているのに、何も言わない訳にはいかない!

 

 

「こっちこそ、話してくれてありがとう。その上で、1つ聞いて欲しい事がある」

 

 

俺がそう言うと、ハミルトンさんは俺の事を見てくる。

俺はジッとハミルトンさんの眼を見ながら口を開く。

 

 

「ハミルトンさんは、さっき自分が弱いって言ってたね。でも、それは当然だと思うよ?」

 

 

「え、それは、如何いう...」

 

 

「だって、自然界にはサメ、ライオン、ゾウやタイガーみたいな人間よりも何倍も強い生物がいっぱいいるんだ。人間なんて、弱くて当然だ」

 

 

「.....」

 

 

ハミルトンさんは、俺の話をしっかりと聞いている。

だが、その表情は疑問を感じているものだった。

まぁ、今までのハミルトンさんの話とは大きく離れているからな。

そう思うのも無理はないか。

 

 

「でも、今の食物連鎖の頂点には人間がいるだろ?それはなんでか。勿論、それには色々な要因がある。道具とかね。でも、俺はそれ以上に大事な事があると思ってるんだ」

 

 

「...それは、いったい?」

 

 

俺の眼を見返しながら、ハミルトンさんはそう尋ねて来る。

俺はいったん息を吐いてから言葉を発する。

 

 

 

 

 

「コミュニケーションを取れる事」

 

 

 

 

 

俺の言葉を聞いたハミルトンさんは

 

 

「え?」

 

 

と、眼を見開きながら声を漏らす。

そんな光景に笑みを浮かべながら、俺は話の続きをする。

 

 

「人間っていうのは弱い。でも、みんなが支え合う事で、1つの大きな力になる事が出来る」

 

 

「.....」

 

 

「確かに、凰鈴音はIS操縦者としては強いかもしれない。代表候補生になれるくらいだからな。でも、凰鈴音って人間としては強いのかな?」

 

 

「え?」

 

 

俺の言葉を黙って聞いていたハミルトンさんは、眼を見開いて俺の事を見てくる。

俺は微笑みながら話の続きをする。

 

 

「さっきも言ったけど、人間は支え合う事で大きな力を得る。凰鈴音は、ハミルトンさんから無理矢理クラス代表の座を奪った。それは、全くもって支え会えて無い」

 

 

「た、確かに...」

 

 

「凰鈴音も織斑春十みたいに多少は仲間がいるかもしれない。でも、いくら個々が強くても支え合う人数が少なかったら、余り強くはなれない」

 

 

「っ...」

 

 

「ハミルトンさん、君は先ず人間として成長した方が良い。IS操縦者として成長する機会は、この3年間でいっぱいある。でも、人間として成長できる機会っていうのはこういう時くらいしかない」

 

 

俺は、またハミルトンさんの顔をもう1回しっかり見てから、言葉を発する。

 

 

「だから、今は人間としてクラスのみんなと関わってみるんだ。そうすれば1歩成長できるし、色んな人と関わる事で、見えて来る世界もあるから!」

 

 

俺は最後にそう笑みを浮かべて、ハミルトンさんに言う。

ハミルトンさんは暫く呆けたような表情を浮かべた後、

 

 

「...はい!」

 

 

と笑顔になって返事をしてくれた。

その事に、俺は頷く。

 

 

「前を向けたようで何より」

 

 

「はい、お陰で、1歩進めそうです。ありがとうございました、門藤さん」

 

 

「俺の事は操でいいよ」

 

 

「...分かりました。なら、私の事もティナで良いですよ」

 

 

「ん、分かった。じゃあ、これから友人としてよろしく、ティナ」

 

 

「はい、操さん!」

 

 

ここで、俺はティナと握手をする。

やったぁ!

学園で初めての名前で呼び合える友人ゲット!

ただでさえこの世界で名前で呼び合える友人はシュヴァルツェ・ハーゼのみんなだけだったからな!

嬉しい!

 

 

「じゃあ、そろそろ朝のSHRだから教室に戻らないとな」

 

 

俺は腕時計を見ながらそう呟く。

時刻は8時丁度。

そろそろ教室に戻らないとSHRに間に合わない。

 

 

「そうですね。操さん、今日のクラス対抗戦頑張って下さい!」

 

 

「当然!でも、俺を応援して良いのか?俺が勝ったらデザートフリーパスは1組のだよ?」

 

 

「...デザートフリーパスは確かに欲しいですけど、操さんのお陰でスイーツ以上の大事なものが得られたので」

 

 

「そっか」

 

 

そこから暫く会話しながら教室に向かう。

そうして、教室前に着いた。

 

 

「操さん、今日はありがとうございました。頑張って下さい」

 

 

「おう。ティナも頑張れ!」

 

 

「はい!」

 

 

そこで別れて、俺は自分の教室に入る。

 

 

「おはよう!」

 

 

「門藤さん!おはようございます!」

 

 

「門藤さん、今日は頑張って下さい!」

 

 

「ああ、勿論!」

 

 

教室に入った瞬間、クラスメイトが挨拶をしてくれる。

ティナと話す前誰もいなかった教室だからチョッと違和感がある。

さぁ、クラス代表選、頑張ろう!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

三人称side

 

 

時刻は進み、とうとうクラス対抗戦が開幕する直前となった。

1年生の1回戦第一試合が行われるアリーナには、世界各国からやって来た来賓たちが殆ど集まっていた。

理由は単純、操が戦うからだ。

男性IS操縦者の試合は、是非とも見てみたいものだろう。

操が試合をするのは今回が2回目なのだが、1回目の試合はクラス代表決定戦だった為、公の場で試合をするのは今回が初めてなのである。

その為、この試合は非常に注目が集まっているのである。

当然、来賓だけでは無くIS学園の生徒もアリーナに集まっている。

またアリーナに入れなかった生徒の為にディスプレイに試合映像を流したりもしている。

 

 

『さぁ、皆さん!1年生クラス対抗戦1回戦第一試合、間もなく開催いたします!』

 

 

ここで、アリーナ内にそんなアナウンスが鳴り響く。

その瞬間に、1組に与えられていたピットから操が私服でアリーナに出て来る。

 

 

「門藤さーん!頑張って下さーい!!」

 

 

「門藤さん!ファイトです!」

 

 

IS学園の生徒達...特に1組の生徒は一斉に操に声援を送る。

 

ザワザワザワ

 

来賓の人達は、一斉に動揺する。

ISどころかISスーツすら身に纏っていないので、初めて見ると驚きもする。

だが、操のISは束特性(という事になっている)ので、次第に全員が納得していった。

操がアリーナで立っていると、2組に与えられたピットから鈴が飛び出て来る。

その身には中国が開発した第三世代型IS、甲龍(シェンロン)を纏っていた。

 

 

「何、生身?ひょっとして、私に怖気づいた?」

 

 

鈴は挑発するように笑いながら操にそう声を掛ける。

だが、操は鈴の言葉を無視してジュウオウザライトを取り出し、

 

 

《ザワールド!》

 

 

「本能覚醒!」

 

 

《ウォーウォー!ライノース!》

 

 

「はぁぁぁぁぁ...はぁ!」

 

 

ジュウオウザワールドへと変身する。

その姿を見た鈴と来賓は驚きの声を上げ、生徒は歓声を上げる。

 

 

「世界の王者!ジュウオウザワールド!」

 

 

そうして、ジュウオウザワールドは名乗りポーズをしながらそう宣言する。

 

 

「ハン!どうせハッタリでしょ!」

 

 

鈴はそう言いながら甲龍の武装である大型の青龍刀、双天牙月を2本展開して構える。

それを見たジュウオウザワールドはジュウオウザガンロッドを展開し、構える。

 

 

『それでは、1年生クラス対抗戦1回戦第一試合。門藤操VS凰鈴音!試合.....開始!』

 

 

「一瞬で決めてあげるわ!」

 

 

試合開始のアナウンスと同時に鈴がジュウオウザワールドに突っ込んでいく。

ジュウオウザワールドはジュウオウザガンロッドから糸を取り出しフィッシングモードにすると、そのまま糸を鈴に向かわせ攻撃をする。

 

 

「チッ!この!ウザいわね!」

 

 

鈴は文句を言いながら糸の攻撃を避ける。

 

 

「ハァ!ハァ!!」

 

 

「く、この!きゃあ!」

 

 

だが、ジュウオウザワールドは何度も攻撃し、鈴に遂に攻撃がヒットする。

 

 

「オラァ!」

 

 

「く、あ!?」

 

 

そうして、今度は鈴の足に糸が絡みつく。

 

 

「ハァ!!」

 

 

ジュウオウザワールドはジュウオウザガンロッドを大きく振るい、鈴を地面に叩き付ける。

その瞬間に足に絡みついていた糸が解け、鈴は地面に転がる。

 

 

「このぉ!やったわね!」

 

 

鈴はジュウオウザワールドを睨みながらそう言葉を漏らす。

 

 

「こうなったら!喰らいなさい!龍咆!」

 

 

そうして、鈴はそう叫ぶ。

龍砲。

それは、甲龍の最大の武装。

空気に直接圧力を掛けて砲身を作り、衝撃を打ち出す衝撃砲。

砲弾も砲身も何も見えないのが特徴で、しかも砲身の稼動限界角度は無いというトンデモ武装だ。

そんな武装を、鈴は使用したのだ。

眼に見えない砲弾がジュウオウザワールドに迫る。

 

 

(何もしていないように見えるが...だが!)

 

 

ジュウオウザワールドは、変身したことで強化された感覚、そして10年前から戦って来ていた経験から鈴が何かしたことを見抜き、その場から大きく跳躍する。

その瞬間に、先程までジュウオウザワールドがいた地点に砲弾が着弾し、土煙が発生する。

 

 

「...不可視の攻撃か!」

 

 

ジュウオウザワールドは、この一瞬で鈴の今の攻撃が不可視であることを見抜いた。

 

 

「へぇ、龍砲を初見で躱したのはアンタが初めてよ。でも、ここからは私のターンよ!」

 

 

鈴は余裕の笑みを浮かべながら、そうジュウオウザワールドに宣言する。

そうして、龍砲を連射する。

 

 

「クソ!面倒だな!」

 

 

ジュウオウザワールドは何度も大きく跳躍する。

 

 

(大きく避けるのは時間と体力のロスが大きい!如何にかして最小限の動きにしないと!)

 

 

ジュウオウザワールドはそう考えながら避ける。

 

 

「この!ちょろまかと!」

 

 

鈴は若干イライラしながら龍砲を連射する。

ジュウオウザワールドがアリーナの外壁近くを周るようにしながら避けていると、鈴も身体の向きを変える。

 

 

(...あれ?あのユニット、全角度行けそうだよな?何で体の向きを.....そうか!視線か!)

 

 

ジュウオウザワールドは気付いた。

鈴が龍砲を発射するとき、着弾点に視線を向けている事を。

 

 

(それさえわかれば避けるのは簡単だ!)

 

 

そこから、ジュウオウザワールドは跳躍しながら避けるのを止め最小限の動きで龍砲の砲弾を避ける。

 

 

「な!?」

 

 

急に避け方が変わったことで、鈴は驚きの声を上げる。

 

 

「ハァ!」

 

 

その一瞬の隙をつき、ジュウオウザガンロッドを振るい糸を飛ばす。

糸はそのまま甲龍の装甲を切り裂き、火花が散る。

 

 

「きゃあ!」

 

 

「ハァ!ハァア!!」

 

 

そのまま何度もジュウオウザワールドは攻撃を繰り返し、甲龍のSEをガリガリと削っていく。

そうして、SEが半分を切った所で、鈴は大きく離脱して距離を取る。

 

 

「はぁ、はぁ、このぉ!よくもやったわね!」

 

 

鈴はジュウオウザワールドの事を睨みながらそう言葉を零す。

ジュウオウザワールドが接近しようと地面を蹴る。

その瞬間、

 

 

(っ!殺気!?)

 

 

ジュウオウザワールドは殺気を瞬間的に感じ取ると進路を変更、大きく跳躍する。

 

 

 

 

 

その瞬間に、ジュウオウザワールドがさっきまで経っていた位置に、4方向からのビーム射撃が着弾した。

ジュウオウザワールドが発射された方を見ると、そこには...

 

 

「っ!ビット!」

 

 

蒼いビットが4基飛翔していた。

 

 

「惜しいですわね」

 

 

そうして、そんな言葉を呟きながら。

セシリアがブルーティアーズを身に纏いながらアリーナに乱入してきた。

 

 

「チョッと!私ヤバかったんだけど!」

 

 

「お前が粘らないのが悪い」

 

 

鈴が文句を言うと、今度は訓練機である打鉄をその身に纏った箒が乱入してきた。

その瞬間に、アリーナにいた観客は一斉に驚愕の声を上げる。

 

 

「凰鈴音!篠ノ之箒!セシリア・オルコット!何が目的だ!」

 

 

ジュウオウザワールドがジュウオウザガンロッドを構えながらそう言うと、

 

 

「決まってるでしょ?春十の活躍の機会を奪ったアンタをボコボコにするためよ!」

 

 

「今すぐに倒して、春十さんの前に跪かせて差し上げますわ!」

 

 

「今更謝っても無意味だからな!」

 

 

そう、3人が笑みを浮かべながらジュウオウザワールドに言う。

 

 

「...何でそんな事でボコボコにされないといけないんだ」

 

 

ジュウオウザワールドは声を低くしてそう呟きながら、笑みを浮かべている3人の事を睨むのだった...

 

 

 

 




束は味方なので、ゴーレムの乱入は無しで。
その代わり3馬鹿になって頂きました。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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世界の王者VS愚か者

今回、遂にジュウオウザワールドが!
そして前回も言いましたが、戦闘シーンは低クオリティーです。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

1年生クラス対抗戦1回戦第一試合、1組VS2組が行われているアリーナ。

今この場には、観客の動揺の声が響いていた。

 

 

試合の途中、1組クラス代表である操が変身したジュウオウザワールドが2組クラス代表の鈴に接近しようとした時、セシリアと箒が乱入してきたのだ。

乱入してきたセシリアはジュウオウザワールドに攻撃をし、それを躱したジュウオウザワールドが3人に目的を尋ねる。

3人が答えた内容は、春十の活躍の機会を奪った操をボコボコにするというものだった。

 

 

『篠ノ之さん!オルコットさん!何をしているんですか!今すぐにフィールドから退場してISを解除してください!』

 

 

アナウンスでそんな注意が鳴り響く。

 

 

「五月蠅い!黙っているのだ!」

 

 

だが、箒はそう喚きISを解除する気など見せない。

 

 

『今すぐ解除しなさい!さもないと、教員部隊を...』

 

 

「必要ない!」

 

 

教員部隊を送るというアナウンスを遮るように。

ジュウオウザワールドが声を発する。

その瞬間、アリーナの観客の視線がジュウオウザワールドに集まる。

 

 

「俺が片付ける!」

 

 

ジュウオウザワールドがそう言い切ると、

 

 

「ハン!アンタなんかに出来る訳無いでしょ?こっちは3人なのよ!」

 

 

と、鈴がジュウオウザワールドに指を指しながらそう叫ぶ。

その瞬間に、鈴の横に立っていたセシリアがレーザーライフル、スターライトmkⅢを、箒が接近用ブレード、葵を構える。

その後、鈴も自身の両手に持っていた双天牙月を構える。

だが、ジュウオウザワールドはそれを無視すると、ジュウオウザガンロッドを仕舞い右手でジュウオウザライトを取り出す。

そうしてそのままジュウオウザライトを顔の左横に持っていき、左手で後部のスイッチを押す。

 

 

《ザワールド!》

 

 

「あ?何やってんのよ」

 

 

ジュウオウザワールドは鈴の言葉を無視し、ジュウオウザライトが顔の前に来るように横向きにする。

そして、中央のキューブを回転させ狼の顔が描かれている面に合わせる。

ジュウオウザワールドは左足の膝を曲げながら上げ、そのままジュウオウザライトのスイッチを膝で押す。

 

 

《ウォーウォー!ウルフー!》

 

 

その音声が流れると同時に右手を後ろに大きく回転させ、下から上に右腕を上げ体の正面で止める。

そうして、ライト部分に狼の顔が浮かび上がり発光する。

 

 

「眩し!?」

 

 

「きゃあ!?」

 

 

「む!?」

 

 

「本能覚醒!」

 

 

その光に3人が驚いてくと同時にジュウオウザワールドはそう叫ぶ。

そうして腕を振り下ろした時に、フェイスパーツの黒い犀を模した部分が上にスライドし、その下から銀の狼を模したフェイスパーツが出て来る。

 

 

「ふっ...」

 

 

それと同時にジュウオウザワールドは右足を前に出して軽く体を屈める。

その瞬間に、狼の鳴き声がアリーナに響く。

 

 

「ハン!何かと思えば、顔が変わっただけじゃない!そんなもの!」

 

 

鈴が笑いながらそう言うと同時に

 

 

「セシリア!」

 

 

とセシリアに指示を出す。

それを聞いたセシリアはライフルを構え言葉を発するが

 

 

「分かってま...」

 

 

その言葉は途中で止まる事になる。

それは何故か。

さっきまで目の前に立っていたジュウオウザワールドが何時の間にかいなくなっていたからだ。

 

 

「っ!何処だ!」

 

 

箒はそう言いながらあたりを見回す。

ISにはハイパーセンサーという全方位を知覚出来るようになるセンサーが存在するのだが、箒は初心者故上手く使えず目視をしているのだ。

 

 

「箒さん!後ろですわ!」

 

 

セシリアの声に従い箒が慌てて振り返る。

するとそこには、ジュウオウザワールドがパンチを放って来ていた。

 

 

「な!?」

 

 

箒は慌てて葵でジュウオウザワールドの拳を防ごうとするが間に合わず、そのまま攻撃を受ける。

 

 

「がぁ!?」

 

 

そのまま何発かパンチを叩き込んだのち、鈴が此方に向かって来ているのを察したジュウオウザワールドは地面を蹴り一瞬で離脱する。

 

 

「.....」

 

 

ジュウオウザワールドは無言でジュウオウザガンロッドを取り出すと、持ち手部分のスイッチを押し、持ち手を曲げジュウオウザガンロッドをガンモードに切り替える。

そうして持ち手を左手で持ち、銃身は右手で支える。

そうして照準を鈴に合わせ左指でトリガーを引く。

 

 

「え!?銃!?」

 

 

さっきまで釣り竿状態だったジュウオウザガンロッドが急に切り替わったからだろう。

鈴は反応しきれずにそのまま銃弾を受ける。

 

 

「この!」

 

 

セシリアがスターライトmkⅢの銃口をジュウオウザワールドに向ける。

 

 

「え!?」

 

 

だがもうそこにはジュウオウザワールドはいなかった。

 

 

「ふっ!」

 

 

ジュウオウザワールドは、もう既に箒の後ろに移動していた。

そのままジュウオウザガンロッドでの射撃を行う。

 

 

「な!?ぐあ!!」

 

 

咄嗟の事で反応出来なかった箒はそのまま銃弾を受ける。

 

 

「このぉ!」

 

 

鈴が接近し双天牙月をジュウオウザワールドに振るう。

だが、ジュウオウザワールドは地面を蹴ると一瞬の残像を残し移動をする。

これが、ジュウオウザワールド、ウルフフォーム。

基本形態のライノスフォームがバランス型なのに対しスピード型で、鷲のジューマンであるバドからジューマンパワーを貰い動体視力に優れている大和でも反応出来ない程である。

その速度を生かし、ガンモードのジュウオウザガンロッドでの射撃を主な戦い方にしている。

 

箒の後ろから移動したジュウオウザワールドはセシリアの背後に周る。

 

 

「は、早すぎますわ!」

 

 

セシリアが驚愕の声を上げるが、ジュウオウザワールドは気にせず右手でジュウオウザガンロッドのリールを回し先程までとは異なり連射をする。

 

 

「きゃあああ!!」

 

 

至近距離からの連射を喰らったセシリアは大きく吹き飛び、アリーナの壁に大きな跡を付けその場に崩れ落ちる。

 

 

「セシリア!このぉ!」

 

 

「貴様!飛び道具だなんて卑怯だぞ!それでも日本人か!」

 

 

「今はドイツ国籍だからドイツ人だ!」

 

 

ジュウオウザワールドに鈴と箒が斬りかかるが、ジュウオウザワールドはその場から一瞬で移動する。

そうしてまたジュウオウザガンロッドを仕舞い代わりにジュウオウザライトを取り出し顔の左横に持っていき、左手で後部のスイッチを押す。

 

 

《ザワールド!》

 

 

ジュウオウザライトが顔の前に来るように横向きにし、中央のキューブを回転させ鰐の顔が描かれている面に合わせる。

そして、左足の膝を曲げながら上げ、そのままジュウオウザライトのスイッチを膝で押す。

 

 

《ウォーウォー!クロコダーイル!》

 

 

先程と同様に右手を後ろに大きく回転させ、下から上に右腕を上げ体の正面で止める。

ライト部分の鰐の顔が浮かび上がり発光する。

 

 

「本能覚醒!」

 

 

ジュウオウザワールドの声に応じて、口元の金のパーツが開きそのまま鰐を模した頭部となる。

 

 

「うおぉ!」

 

 

ジュウオウザワールドはそう声を発しながら左腕を頭上に掲げる。

その瞬間に鰐の鳴き声がアリーナに響く。

ジュウオウザワールドはそのままジュウオウザガンロッドを取り出すと持ち手部分のスイッチを押し持ち手を戻す。

それと同時にジュウオウザガンロッドの先端の赤いパーツが伸び、ロッドモードとなる。

 

 

「っ!喰らいなさい、龍砲!」

 

 

ジュウオウザワールドがその行動をした事で漸く場所を掴んだ鈴は身体の向きを変え、龍砲を連射する。

その衝撃は地面にも伝わりあたりに土煙が発生する。

 

 

「やったわ!」

 

 

鈴は笑みを浮かべて喜びの声を上げる。

だが、その表情は一瞬で驚愕のものになる。

土煙が少し収まると、その中から無傷のジュウオウザワールドが歩いてきたからだ。

 

 

「オラァ!」

 

 

ジュウオウザワールドはジュウオウザガンロッドを槍投げのように箒に向かって飛ばす。

 

 

「な!?」

 

 

そのままジュウオウザガンロッドは箒に当たり、装甲から火花が散る。

そうしてはじかれたジュウオウザガンロッドをジュウオウザワールドは回収するとそのまま箒と鈴に突っ込んでいく。

ジュウオウザワールド、クロコダイルフォーム。

パワー型であり、ジュウオウエレファントとジュウオウライオンの2人同時に相手しても持ち上げられる程である。

そのパワーを生かし、ロッドモードのジュウオウザガンロッドを振り回す戦いを基本スタイルにしている。

 

 

「オラァ!ハァ!」

 

 

「ぐ、あ!」

 

 

「この!がぁ!」

 

 

ジュウオウザガンロッドでの打撃やパンチなどの猛攻をし、ドンドン鈴と箒にダメージを与えていく。

そうしてある程度ダメージを与えた後、ジュウオウザガンロッドを横向きにして鈴と箒に押さえつける。

そして

 

 

「おおおおお!!」

 

 

ジュウオウザガンロッドを持ち、右腕だけで鈴と箒をISごと持ち上げる。

 

 

「「な!?」」

 

 

「オラァ!」

 

 

その事に鈴と箒が驚いた声を上げ、ジュウオウザワールドはそのまま地面に2人の事を押し付ける。

 

 

「「ああ!?」」

 

 

その瞬間にジュウオウザガンロッドも2人に強く押し付けられ、装甲から火花が散る。

ジュウオウザワールドはそのままジュウオウザガンロッドごと2人の事を踏みつける。

 

 

「「がぁ!!」」

 

 

ジュウオウザワールドはジュウオウザガンロッドを足で弾きキャッチすると、

 

 

「ハァ!」

 

 

そのまま振るい鈴と箒の事を吹き飛ばす。

吹き飛ばされた2人はアリーナの地面を転がっていく。

 

 

「り、鈴さん!箒さん!」

 

 

ここで、先程壁際に崩れ落ちていたセシリアがようやく復帰し、2人に接近する。

 

 

「はぁ、はぁ、何でよ!何で私達が一方的に攻撃されてるのよ!」

 

 

鈴は身体を何とか起こしながらそんな事を言う。

 

 

「お前たちのように支え合う事をせず、自分の事しか考えていない奴に、俺は負けない!!」

 

 

ジュウオウザワールドは3人の事を見ながらそう叫ぶと、ジュウオウザガンロッドのトリガーを長押しする。

 

 

《ジュウオウザフィニッーシュ!》

 

 

その音声がなると同時にリールを回転させ、エネルギーをチャージする。

 

 

「はぁぁぁぁ...」

 

 

そうしてエネルギーが溜まった瞬間、

 

 

「ジュウオウザフィニッシュ!ハァ!」」

 

 

と叫びながらジュウオウザガンロッドで地面を打つ。

その瞬間、ジュウオウザワールドのサポートメカの1体であるキューブクロコダイルを模したエネルギー波が発生し、3人に打ち付けられる!

 

 

「「「うわぁあああ!!」」」

 

 

3人は衝撃で声を漏らす。

だが、まだSEは本当に僅か、パンチ1発で無くなるくらいの量は残っている。

 

 

《ザワールド!》

 

 

《ウォーウォー!ウルフー!》

 

 

「本能覚醒!」

 

 

だが、ジュウオウザワールドは攻撃の手を緩めない。

再度ウルフフォームになり、3人が吹き飛ばされる方向に超スピードで先回りをする。

そうしてガンモードにしたジュウオウザガンロッドのトリガーを長押しする。

 

 

《ジュウオウザバースト!》

 

 

その音声が鳴ると同時に、リールを回しエネルギーをチャージする。

 

 

「お前たちの世界はここで終わりだ!」

 

 

エネルギーがチャージし終わり、ジュウオウザワールドはジュウオウザガンロッドを構える。

 

 

「ジュウオウザバースト!ハァア!」

 

 

そうしてその掛け声と同時にトリガーを引く。

その瞬間、今度はキューブウルフを模した銃撃が放たれ、3人に直撃!

 

 

「「「ぎゃああああ!!」」」

 

 

3人の悲鳴と共に爆発が起き、アリーナが一瞬黒煙でおおわれる。

だが、その煙は直ぐに晴れ、ボロボロの状態のISを身に纏いながら気絶した3人がその場に寝ころんでいた。

 

 

(...フィニッシュもバーストもフルチャージじゃなかったけど、こんなものか)

 

 

ジュウオウザワールドはそんな事を考えながらジュウオウザガンロッドを肩に担ぐと、そのまま1組のピットに戻っていった。

 

 

ジュウオウザワールドがアリーナを去った2分後、教員部隊が突入してきた。

3人とも気絶しているためISを解除させるのに手こずったが、解除させると3人に一応の拘束をしたうえで担架に乗せ運んでいった。

 

 

そうして、ジュウオウザワールドも、鈴たちも、教員部隊もいなくなったアリーナ。

今この場は静寂に包まれていた。

観客の来賓も、生徒も、管制室などにいた教員や、警備員。

そして中継で見ていた生徒。

この試合を見ていた全員が一言も発しなかった。

そのくらい、今起こっていた事が衝撃的だったから。

セシリアと箒が乱入した時でもここまでの衝撃は受けていなかった。

だが、これも仕方のない事だ。

最新式の第三世代型の専用機2機を含んだIS3機を、1人で、しかも終始圧倒しながら倒したのだからそれは驚きもする。

しかもそれだけでは無い。

 

 

「今はドイツ国籍だからドイツ人だ!」

 

 

この発言が一気に注目を集めていた。

ドイツは、操を代表候補生に出来ないものかと本国に映像と共に送る。

そしてドイツ以外の国は何とか操を自国国籍にしようと色々と模索し始めた。

そうこうしていると

 

 

『申し訳ありませんが、1年生のクラス対抗戦は今現在を持ちまして中止とさせていただきます』

 

 

といったアナウンスが鳴り響く。

その事に生徒達は若干肩を落とすも仕方が無いと切り替える。

そうして世界各国からの来賓は特に気にした様子もなく操に関してのやり取りを本国としていた。

だが、そんな中で明らかに周りと異なる反応をする国が2つあった。

そう、中国とイギリスである。

自国の代表候補生が公の場で違反行為を働いたのだ。

今現在各国は操に夢中であるが少し落ち着いたら直ぐにでも批判が飛んでくる。

そうなったら経済などに大ダメージを追ってしまう。

その為少しでもダメージを減らそうと、イギリスと中国の来賓は慌てて近くにいる教員に声を掛け、学園長に会いに行くのだった。

 

 

こうして、立場による様々な反応を見せ、1年生クラス対抗戦は幕を下ろすのだった...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

操side

 

 

「やり過ぎたかもしれない.....」

 

 

アリーナからピットに戻って来て変身を解除した俺は、そんな事を呟く。

威力を抑えていたとはいえフィニッシュからのバーストはやり過ぎた。

如何しよう...

ISをボロボロにしたから弁償しろとか言われないよね?

そうなったら借金するかラウラ達に借りるか...

どっちも借金であることに変わりはないか。

借りるところが違うだけで。

 

 

『申し訳ありませんが、1年生のクラス対抗戦は今現在を持ちまして中止とさせていただきます』

 

 

ふーん、そうなんだ。

まぁ、ガッツリ違反行為が起こったから続行は出来ないか。

 

 

「取り敢えず、如何しよう?」

 

 

教室に行った方が良いのか、職員室に行った方が良いのか、学園長室に行った方が良いのか、帰っていいのか...

指示が無いから分からない。

まぁ、職員室に行ったら間違いはないか。

俺はそう判断し、ピットを出てスーツに着替えるために更衣室に向かう。

その道中、

 

 

「門藤君!」

 

 

「門藤君、お疲れ様です」

 

 

と声を掛けられる。

この声は...

 

 

「山田先生、学園長」

 

 

俺に声を掛けて来たのは、山田先生と学園長だった。

 

 

「門藤君!お怪我はありませんか!?」

 

 

山田先生が焦りながらそう言ってくる。

それに対し俺は笑いながら

 

 

「はい、全然問題ありませんよ」

 

 

と返事をする。

俺の返事を聞いた山田先生は安心したように息を吐く。

ここまで心配してくれるなんて...いい先生だ。

 

 

「そうだ、学園長。これからどうなりますか?」

 

 

取り敢えずその事を聞かないと。

そう判断した俺は学園長にそう尋ねる。

すると学園長は

 

 

「1時間後、緊急で職員会議を開きます。そこで、あの3人に対しての処罰を決める方針です」

 

 

と答えてくれる。

 

 

「私に対しての罰則等は無いんですか?」

 

 

「勿論です。門藤君は今回違反行為を犯した3人を止めてくれました。処罰などあるはずがありません。先程イギリスと中国から連絡が入りましたが、専用機を傷つけたことに対しては何も言わないそうです」

 

 

学園長の言葉を聞き、俺は胸を撫で下ろす。

良かったぁ...

本当に良かった。

 

 

「門藤君、後の事は私達に任せて、今日はもう休んでください。教室にも行かずに寮に戻って大丈夫ですよ」

 

 

「はい、そうさせて...あ、そうだ」

 

 

いけないいけない、忘れるところだった。

 

 

「学園長、2組のティナ・ハミルトンさんが凰鈴音に脅されたと言っていました」

 

 

「「な!?」」

 

 

俺がその事を言うと、学園長と山田先生は驚いた表情を浮かべる。

 

 

「それは本当ですか?」

 

 

「はい、あくまで本人から聞いただけですので事実関係は取れていません。すみませんが、此方の調査もお願いしても?」

 

 

「それは当然です」

 

 

俺のお願いを学園長は快く受けてくれた。

 

 

「学園長、入学してまだ1ヶ月も経ってないのに色々ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」

 

 

「門藤君は問題に巻き込まれているのですから気にしないで下さい」

 

 

.....本当に良い学園長だよ。

 

 

「では、お言葉に甘えて失礼します」

 

 

俺は最後にそう言うと、2人に頭を下げ教員寮に向かって歩き出す。

 

 

「.....みんな、こっちは大変だよ。そっちは如何だ?」

 

 

その道中、俺はジュウオウザライトを取り出しながらそう呟く。

 

 

「でも、大丈夫だ。こっちにも友達は出来たんだぜ。だから、俺は戦うよ」

 

 

俺は空を見上げる。

今の空は、雲1つ無い青空だった。

 

 

「俺も、動物戦隊ジュウオウジャーだから」

 

 

俺はそう呟くと、再び歩き始める。

入学してからまだ1ヶ月も経ってないのに色々あった。

盗聴器の事件はまだ解決してないし、今後も色々問題が起こる気がする。

でも、俺は戦う。

さて、取り敢えず今は休もう。

疲れた...

 

 

 

 




という事で、ウルフフォームとクロコダイルフォームの初登場です!
作者はクロコダイルのフェイスが1番好きです。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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職員会議

今回で3人の罰則を決めます。
いったいどうなるのか...

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

1年生クラス対抗戦で違反行為を行った鈴、箒、セシリアの3人をジュウオウザワールドに変身した操が倒してから約1時間後。

会議室には十蔵を始めとした教員が殆ど揃っていた。

今いないのは、世界各国への説明を担当している教員だけだ。

教員達が集まっている理由は単純明快。

違反行為を行った3人への処分を決めるためだ。

 

 

「ふぅ...」

 

 

説明担当の教員が戻ってくるまで会議は開始できない。

その為、十蔵は軽く息を吐きとある事を考え始めた。

 

 

(全く、今年はトラブルが多いですね...これも、門藤君と織斑君が入学したからですね)

 

 

そのとある事とは、まだ4月だというのに立て続けに起こっているトラブルについてだった。

 

 

(門藤君は巻き込まれているというのに、律義に私に謝罪をしている...申し訳ないです)

 

 

十蔵は操が巻き込まれているだけなのに責任を感じている事に、申し訳なく感じている。

思わずため息をつく。

 

 

(...門藤君は、もう成人してますからやはり物凄く落ち着いて、しっかりしています。しかし、あの戦い方...如何考えても戦い慣れています。まるで、10年ほど前から戦っているかのように...篠ノ之博士とも関わりがあるようですし、何やら波乱な人生を送っているようですね)

 

 

十蔵がそう考えた時、会議室の扉が開く。

 

 

「すみません、遅れました」

 

 

そうして、説明担当の教員が戻って来た。

その事を確認した十蔵は

 

 

「いえ、気にしないで下さい。では、空いている席に座って下さい」

 

 

と指示を出す。

 

 

「分かりました」

 

 

指示をされた教員は、そのまま空いている席に座る。

その事を確認した十蔵は頷き、口を開く。

 

 

「それでは、これから緊急職員会議を開始します。まず初めに、今一度状況整理をします。山田先生、お願いします」

 

 

「はい、分かりました」

 

 

十蔵に指示された真耶は席から立ち上がる。

それと同時に、会議室のディスプレイにアリーナで戦っている鈴とジュウオウザワールドの映像が映る。

 

 

「1年生クラス対抗戦、1回戦第一試合。1組対2組、門藤操君対凰鈴音さんの試合中、違反行為が発生しました。1組生徒、篠ノ之箒さんとセシリア・オルコットさんがアリーナに乱入。門藤君に攻撃しました」

 

 

ディスプレイに映っている映像は、まさに箒とセシリアが乱入してきたものになっていた。

 

 

「この2人は、2組のピットからアリーナに乱入してきています。その為、凰さんが事前にピットに2人を招き入れていた可能性が高いです」

 

 

映像はいったん巻き戻り、2組のピットへのアップ映像に変わる。

確かにそこから箒とセシリアが乱入しているのを全員が確認した。

 

 

「その後、3人は門藤君と交戦。そのまま門藤君によって倒され気絶しました」

 

 

映像はスキップされ、ジュウオウザワールドがジュウオウザバーストを発動した場面になる。

キューブウルフを模した弾丸が3人に直撃し、爆発。

そして黒煙が発生し、その中からボロボロのISを身に纏った3人が出て来る。

ここで、映像は止まる。

 

 

「甲龍、ブルー・ティアーズ、打鉄のダメージレベルはCでした」

 

 

真耶のその言葉に、教員たちは驚く。

ダメージレベル。

その名の通り、ISが受けたダメージをそのダメージごとに分けて表す事。

ダメージレベルCはスクラップギリギリという程までダメージを受けていた事を表している。

たった1人でIS3機をダメージレベルCまで追い込んだという事に教員たちは驚いているのだ。

 

 

「以上です」

 

 

「山田先生、ありがとうございました。着席してください」

 

 

「はい」

 

 

報告が終わった真耶は十蔵の指示に従いそのまま着席する。

真耶が着席したタイミングで、ディスプレイの映像は消える。

それを確認した十蔵は頷き

 

 

「それでは、次に凰さんとオルコットさんの処分について2人の本国から連絡が来ています。榊原先生、お願いします」

 

 

と1人の教員に指示を出す。

 

 

「はい、分かりました」

 

 

指示をされた教員...榊原菜月は席を立つ。

そうして、ディスプレイには2枚の書類が映る。

 

 

「先ず、中国からの連絡の内容です。『この度我が国の代表候補生が違反行為を働いたことは、大変申し訳なく、迷惑を掛けたことをここに謝罪する。そして凰代表候補生についての処分だが、基本的にはそちらの指示に従う。我々の要求が飲まれるのなら、凰代表候補生を帰国させたうえで、代表候補生資格剥奪も含めた処分検討をしたい』との事です」

 

 

菜月のその言葉に、何人かの教員は難しそうな表情を浮かべる。

このまま簡単に国に返せるわけが無いと考えているのだろう。

そう考えるのは当然の事だ。

 

 

「続けます。次にイギリスからの内容です。『オルコット代表候補生が今回起こした違反行為、本国としても憤りを覚えている。オルコット候補生の処分に関してだが、本国としては専用機返還、並びに代表候補生資格剥奪を行いたいと考えている。そちらの都合次第だが、オルコット候補生を帰国させたい』との事です」

 

 

「.....」

 

 

菜月の報告を聞きながら、千冬は難しい表情を浮かべていた。

 

 

(一夏...何処でそんな力を.....)

 

 

千冬はそんな事を考える。

 

 

(一夏、何でお前は私を否定する?そんなものでは無く、春十のように私と同じ力を使うべきなんだ...)

 

 

「榊原先生、ありがとうございました。着席してください」

 

 

「はい」

 

 

千冬が身勝手な事を考えていると、十蔵は菜月に着席の指示を出し、そのまま菜月は座る。

 

 

「それでは、報告も終了したので、3人の処分についての話し合いを始めます」

 

 

十蔵が改めてそう言うと、会議室内の空気が変わる。

十蔵は軽く咳払いをして言葉を発する。

 

 

「先ず、オルコットさんについてです。現段階では、彼女は7月の臨海学校直前までの停学処分、そしてイギリスの要請通り帰国してもらう事を想定しています」

 

 

「学園長、何故臨海学校直前までの停学なのですか?」

 

 

十蔵の言葉に、1人の教員が手を上げながら質問する。

十蔵はその教員の方を見て頷くと説明を開始する。

 

 

「先ず、今回の違反行為はかなりの重罪です。しかし、死亡者や怪我人もおらず、器物損壊なども起こっていません。それに、オルコットさんはイギリスが資格剥奪の意思を表明しているとはいえ代表候補生です。そう簡単に退学処分には出来ません」

 

 

「な、なるほど...」

 

 

「その為一先ずそこまでの停学とし、臨海学校での態度によってその後の判断をしようと思います」

 

 

十蔵のその言葉に、教員たちは納得した。

 

 

「反対意見やその他の意見はありますか?」

 

 

十蔵は教員にそう質問するが、誰も挙手をしなかった。

だが、千冬は

 

 

(オルコットが停学!?オルコットは春十と仲が良いからなるべく庇いたいが...今の私では無理だ。停学明けに何とかまともになっている事を願うしかない...)

 

 

そんな事を考える。

誰も言葉を発しない事を確認した十蔵は再び話し出す。

 

 

「では次に凰さんについてです。彼女もオルコットさん同様、停学処分にして中国に帰国してもらおうと考えているのですが...」

 

 

「他に何か問題でもあるのですか?」

 

 

十蔵が言いよどむと、1人の教員がそう質問をする。

十蔵はため息をついてから説明をする。

 

 

「凰さんは、2組のクラス代表になる際に、ティナ・ハミルトンさんを脅して交代させたらしいのです」

 

 

『な!?』

 

 

その言葉を聞いた瞬間、十蔵と真耶以外の全ての教員が驚愕の声を発する。

それはそうだろう。

代表候補生でもある彼女が、まさか脅迫を使ってまでクラス代表を交代させていたのだから。

 

 

「そ、それは本当なんですか!?」

 

 

1人の教員がそう質問をする。

十蔵は頷いてから

 

 

「話を聞く限りでは、確かにそう言う情報が入って来ています。間違いないですよね、山田先生」

 

 

と言葉を発する。

話題を振られた真耶もしっかり頷く。

 

 

「はい、間違いないです。職員会議前にハミルトンさんに確認をしましたが、確かに脅されたとの事です。ですが、凰さんへの聞き取りは出来ていません」

 

 

そうして、真耶はそう発言をする。

 

 

「.....凰への確認は、担任である私が担当します」

 

 

ここで、2組担任のクレア・ロードが手を上げながらそう言う。

 

 

「クレア先生、よろしくお願いします」

 

 

「分かりました」

 

 

十蔵はそんなクレアに調査を頼み、クレアはしっかりと頷く。

 

 

「それで凰さんの処分ですが、いったんは停学処分としますが、中国による処分が決まったのち退学処分を取ります」

 

 

十蔵のこの言葉に教員の殆どが頷く。

 

 

(馬鹿な...凰が...鈴音が退学!?そうなったら春十が....クソ!如何にかして学園に残せないものか...)

 

 

だが、その殆どではない教員...千冬はそんな事を考える。

 

 

(クソ!何故全員私の邪魔をする!私は一夏を取り戻し、春十を含め全員で暮らしたいだけなのに!)

 

 

「この脅迫に関しては、後で中国にも伝えます。クレア先生、そこまでお願いできますか?」

 

 

「お任せください」

 

 

クレアがしっかりと頷いたので、十蔵も頷き返す。

 

 

「反対意見やその他の意見はありますか?」

 

 

千冬が1人でそんな事を考えているあいだに、十蔵がそう全員に呼びかける。

反対意見は出ず、千冬は唇を噛み締める。

 

 

「では、最後に篠ノ之さんです。篠ノ之さんは、篠ノ之束博士の妹という事で、退学処分等にしたら国際IS委員会が横槍を入れて来るのは考えるまでもなく分かります」

 

 

十蔵がそう言うと、教員の何人かが顔をしかめる。

その言葉に納得したからだろう。

 

 

「なので、篠ノ之さんもオルコットさんと同じ期間の停学処分にしたいと思います。反対意見やその他の意見はありますか?」

 

 

十蔵はそう全員に質問をするが、誰からも反対意見は出なかった。

 

 

「では、今回違反行為を働いた3人への処分はこれで決定です」

 

 

『はい』

 

 

十蔵の言葉に、千冬を除く全員がしっかりと頷く。

 

 

「それでは、これで緊急職員会議を終了します。各自、自分の仕事を再開してください」

 

 

十蔵がそう指示を出すと、教員は続々と会議室から職員室に戻っていく。

 

 

「.....」

 

 

そんな中、千冬もフラフラと職員室に戻っていく。

 

 

「はぁ...」

 

 

十蔵はそんな千冬を見ながらため息をつく。

 

 

「織斑先生、あなたは何がしたいのですか?」

 

 

十蔵は、自身以外誰もいなくなった会議室でそう言葉を口にする。

 

 

「教員だというのに、まるで我儘な子供のような雰囲気...生徒よりも子供っぽいとはどういうことですか...」

 

 

十蔵はそう呟くと、学園長室に戻っていくのだった...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

操side

 

 

「~~♪」

 

 

現在時刻は、夜の7時。

俺は寮の自室で晩御飯を作っていた。

今日のメニューは豚の生姜焼き。

もうキャベツの千切りはお皿に盛り付けてあるので、後は今焼いているお肉を盛りつければ完成だ。

 

 

「...これでOK!!」

 

 

そのお肉も焼き終わったので、しっかりとタレと絡まっている事を確認してから俺はお皿に移動する。

俺はそのままそのお皿を机に持っていく。

その後茶碗を取り出して、炊飯器から白米を茶碗によそう。

そうしてその茶碗も机に持っていく。

そして麦茶が入ったコップとお箸も持っていく。

 

 

「さて、いただきます!」

 

 

俺はそのまま晩御飯を食べ始める。

教員寮に最初っから家電が揃ってて本当に良かった。

 

 

「.....あの3人の処分は、まぁ妥当なのかな?」

 

 

俺は夕ご飯を食べながら、違反行為を働いた3人について考えていた。

何故俺が知っているかと言うと、職員会議を終わらせた山田先生がわざわざ教えてくれたからだ。

本当にいい先生だ。

 

脅迫なんてことをしたんだ。

凰鈴音が退学なのは当然だろう。

それに、篠ノ之箒とセシリア・オルコットも停学。

それに加えセシリア・オルコットはイギリスが代表候補生資格剥奪の意思を示しているとか。

これで停学明けには今回みたいな事件は起こらないな。

 

 

「ご馳走様でした」

 

 

そんな事を考えていたら、夕食を食べ終わった。

俺はそのまま食器類を洗う。

 

 

「...もう直ぐGWか。釣りに行こう!」

 

 

大和の学芸会での発表の手伝いでごたごたしてたから出来てなかったし、こっちの世界に来てからもしていない。

久しぶりにのびのびと釣りをしよう。

あ、そうだ!

親睦の意味を含めて何人かと一緒に行こうかな?

でも、23歳の男が数人の女子高生と一緒に釣りに行くのは...

いや、ここで行動しないと駄目だ!

みんなもGWの予定は入れ始める頃だろうし、明日にでも何人かに声を掛けてみよう!

と、俺が明日からの予定を考えていると、

 

♪~~~♪~~~

 

と、スマホが着信音を鳴らす。

このスマホは、俺がドイツ国籍を取得した際にラウラ達が買ってくれたもの。

正直年下の女の子たちに買ってもらうのは心がいたかったが、俺が元々持ってるスマホはこっちの世界じゃ使えないから仕方が無い。

そう言えばごたごたしててラウラ達に連絡して無いな~

そんな事を考えながら俺がスマホの画面を見る。

お、これは...

 

 

「はい、もしもし。操です」

 

 

『あ、みっちゃ~~ん!!束さんだよ!!』

 

 

通話に出た瞬間、大きな声でそう俺の名前を呼んでくる。

そう、通話の相手は束さんだ。

 

 

「た、束さん...鼓膜が...」

 

 

『あ、ごめんごめんみっちゃん』

 

 

「いや、大丈夫ですけど...それで、何か用ですか?」

 

 

俺がそう聞くと、束さんは話し始める。

 

 

『いやぁ、みっちゃんに謝ろうと思って』

 

 

「謝る?何でですか?」

 

 

束さん、何かやらかしたっけ?

 

 

『ほら、束さんの愚妹がみっちゃんに迷惑かけたのに、罰が軽かったでしょ?それって、絶対に束さんが関係してると思うんだ』

 

 

「あ、ああ。でも、それは仕方ないんじゃないですか?」

 

 

今が4月末で臨海学校が7月の始めだからその期間の停学はそこそこ重い処分では?

俺はそんな事を考えているが、束さんは納得していないみたいだ。

...待て!

 

 

「っていうか、何でその事を知ってるんですか!?」

 

 

『ふふん、束さんに分からないことなど無いのさ!』

 

 

ぐ、チョッと納得してしまったじゃないか。

 

 

『それで、今度私は全世界に向けて、篠ノ之箒に何をしても手を出さないって声明を発表する事にしたんだ!』

 

 

「おお、つまり、また万が一篠ノ之箒が違反行為を働いても、今度は退学くらいの処分が出来ると?」

 

 

『YES!いやぁ、みっちゃんは理解が早くて助かるぜ!』

 

 

束さん、あなた女性なんですからその言葉遣いは...

まぁ良いか。

束さんだし。

 

 

『時期は多分、愚妹の停学が終わったところらへんにすると思う!』

 

 

「了解しました」

 

 

まぁ、万が一臨海学校で何かしようと思ってても、このメッセージがあれば行動できないか。

 

 

『じゃあ、伝える事は伝えたから!通話終わるね!』

 

 

「もうですか?」

 

 

『うん、束さんは世界から逃亡してる身だからね。あまり長い時間通話できないんだ』

 

 

「なるほど」

 

 

確かにそうか。

 

 

『んじゃあね!バイビ―!!』

 

 

「はい、さようなら」

 

 

ここで、通話は終了した。

 

 

「...じゃあ、釣り堀でも調べようかな」

 

 

そうして、俺は検索アプリを開き、釣り堀を検索する。

お、ここ初心者でも行きやすいな!

良し、誰かを誘う事に成功したらここに行こう!

 

 

 

 




今回は、こういう罰則にしました。
これで良かったかな?

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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春十の考え

前回の続きです。
さてさて、春十はどうなるかな?

今回もお楽しみください!


操side

 

 

違反行為を働いた3人の処分を聞いた翌朝。

俺は何時ものように自分の教室に向かっていた。

昨日は結局IS学園から行ける範囲の釣りが出来るところを色々探していたら寝るのが結構夜遅い時間になってしまった。

仕方が無い、楽しみなんだから。

そんな事を考えていると、1組の教室前に着いた。

 

 

「おはよう!」

 

 

「あ、おはようございます!」

 

 

俺が教室に入ってから挨拶をすると、挨拶が帰って来た。

俺はそのまま自分の席に向かい荷物を置く。

すると俺に周りにみんなが集まってくれる。

 

 

「門藤さん!昨日は凄かったですね!」

 

 

「IS3機と同時に戦えるだなんて凄かったです!」

 

 

そうして、みんながそう言ってくれる。

 

 

「そう言ってくれると嬉しいな」

 

 

褒められて嬉しくない人間だなんていないだろう。

多分。

もしかしたら嬉しくない人もいるかもしれないが...まぁ、限りなく少数だろう。

 

 

「それにしても、あの2人は何がしたかったんですかね?」

 

 

俺がそんな事を考えているとクラスメイトの1人、鷹月さんがそんな事を言ってくる。

 

 

「さぁ?良く分からない」

 

 

俺は篠ノ之箒とセシリア・オルコットの席を見ながらそう言う。

当然ながらそこには誰も座っていない。

織斑春十は2人がいないからか首を捻っている。

 

 

「あの2人と2組の凰さん、違反行為を働いてましたよね?どうなるんですかね?」

 

 

うーんと、まぁ言わない方が良いよな。

 

 

「分からない。まぁ、罰則はあるんじゃないかな?」

 

 

昨日山田先生から聞いたあの3人への処分は言わない方が良いと判断したので、取り敢えずはぐらかしておいた。

俺の言葉にみんな頷いているし、問題は無いな。

.....そうだ!

俺の席の周りにみんなが集まってるから、釣りに誘うなら今がチャンス!

 

 

「話題が変わるんだけどさ、みんなGWの予定って入ってる?もし空いてたら、俺と釣りに行かない?」

 

 

俺がそう言うと、みんな一斉に予定を確認しだす。

お、おう。

そこまで必死になって確認しなくても...

 

 

「あ、空いてる!空いてます!」

 

 

「く、もう殆ど埋まってる...何でこんなにも一気に入れてしまったんだ!」

 

 

地面に手をついて震えるほどか?

良く分からない。

 

 

「分かった。じゃあ決まり次第連絡するから、連絡先交換しよう」

 

 

「え!?良いんですか!?」

 

 

「うん」

 

 

そうして、俺は予定が合う何人かと連絡先を交換した。

やったぁ!

友人の連絡先だ!

束さんとラウラ達以外連絡先増えないんじゃないかとか思ってたから嬉しい!

 

 

「じゃあ、そろそろSHRだから座った方が良いんじゃない?」

 

 

「あ、そうですね。教えてくれてありがとうございます!」

 

 

そうして、俺の周りに集まっていたみんなは自分の席に戻っていく。

約2分後にチャイムが鳴り、教室に織斑先生と山田先生が教室に入って来た。

SHRの開始までに篠ノ之箒とセシリア・オルコットがまだ来ていないからか、みんなが若干だがざわつく。

 

 

「さて、本日のSHRを始める。先ずは全員に知らせておくことがある」

 

 

織斑先生がそう言うと、教室内の空気が緊張したものに変わる。

 

 

「昨日のクラス対抗戦で違反行為を働いた篠ノ之とオルコットは、停学処分となった」

 

 

織斑先生の言葉を聞いて、さっきまでとは比べ物にならない程教室内がざわつく。

それは当然か。

まだ4月だというのに停学になるクラスメイトが2人も出たら驚きはする。

だが、織斑先生や山田先生が何かを言う前にみんなが落ち着きを取り戻した。

クラス対抗戦の試合に乱入という重大な違反行為には、これぐらいじゃないとつり合わないとか考えたのかな?

 

 

「そして、2組の凰も停学処分になった。その為、2組のクラス代表が変更になった。まぁ、これは同じクラス代表である門藤以外にはあまり関係が無いかもしれないが、覚えておいてくれ」

 

 

あ、変更になったんだ。

誰だろう?

やっぱりティナかな?

 

 

「停学の期間は、7月の臨海学校の直前までだ。その為、臨海学校には参加する事になる」

 

 

織斑先生がそう言うと、みんなが頷く。

ん?

何で織斑春十はあんなに驚いてるんだ?

普通に考えたら罰則があるのは当然だろう。

 

 

「では、これで私の話は終わる。山田先生、何かありますか?」

 

 

「いえ、特にありません」

 

 

「それでは、これでSHRを終了する。織斑には話があるのでついてこい」

 

 

最後に織斑先生はそう言うと、教室を出ていった。

山田先生もその後に続いて教室を出ていく。

 

 

「.....」

 

 

織斑春十も、黙って席を立つとそのまま織斑先生を追いかけるように教室を出ていった。

フム、織斑春十に話って何だろうな?

.....凰鈴音が停学明けには退学って事を伝えるのかな?

まぁいいや。

次の授業の準備をしようっと。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

三人称side

 

 

「ち、千冬姉!如何いう事だよ!箒と鈴とセシリアが停学って!?」

 

 

「織斑先生だ!」

 

 

教室から離れた人通りの少ない廊下で。

春十は千冬にそう言って、千冬に出席簿で頭を叩かれていた。

 

 

(な、何がどうなってるんだ!?そんなの原作にはないはずだろ!!)

 

 

春十は叩かれた部分をさすりながらそんな事を考える。

 

 

「そのままだ。篠ノ之、オルコット、凰の3人は違反行為を行った。その為の罰則だ」

 

 

「た、たった1回で停学って!如何にか出来なかったのかよ!」

 

 

「無理だ。オルコットと凰に関しては国から帰国命令が出ている。代表候補生の資格剥奪と専用機の没収は間違いないだろう」

 

 

「なぁ!?」

 

 

(なんだよ、それ!!専用機がなくなる!?そうなったら、臨海学校とか、この先の物語はどうなるんだよ!?)

 

 

春十は心の中でそう叫ぶ。

原作知識を持っている春十からしたらたまったものじゃないだろう。

だが、普通に考えてゴーレムの乱入じゃ無く、箒とセシリアが乱入した時点でこのようになるという考えは無かったのだろうか。

 

 

「それで織斑、今回お前を呼び出したのはこれの確認の為じゃない」

 

 

「え?じゃあいったい何が...」

 

 

「.....凰は、停学が明けたらIS学園を退学になる」

 

 

「............はぁぁあああ!?」

 

 

千冬の言葉を聞いた春十は、絶叫を上げる。

 

 

「ど、如何いう事だよ!何で鈴が退学になるんだよ!?」

 

 

そうして、春十は千冬の肩を掴みながらそう質問する。

 

 

「...凰はクラス代表を変わる際、前任者を脅迫していたらしい。その為、退学処分となる」

 

 

「そ、そんな...」

 

 

千冬にそう言われ、脱力したように春十は千冬の肩から手を離す。

 

 

(た、退学...それだけは、それだけは!)

 

 

「ど、如何にか出来ないのかよ千冬姉!!そうだ、特記事項第21は!?」

 

 

春十は千冬に詰め寄る。

 

 

(そうだ、原作でもシャルはこれで留まっていた!これで何とかなるだろ!)

 

 

「無理だ。そもそもこれは学園側の決定だ。特記事項第21は関係ない。帰国命令も学園が許可を出してる以上、撤回は出来ない」

 

 

春十は内心自信満々だったが、千冬のその言葉で一気に絶望の表情を変える。

 

 

「そ、そんあぁ.....千冬姉!ブリュンヒルデだろ!何とかしてくれ!!」

 

 

春十は縋りつくようにそう千冬に言う。

 

 

(俺のハーレムは、ここで終わっちゃ駄目なんだよ!!)

 

 

しかし、その理由は何ともくだらないものなのだが。

そして縋りつかれた千冬はというと

 

 

(春十...そうだな、友人が離れていくのは悲しいよな。それに、凰は春十に惚れている。春十は気付いていないかもしれないが、春十の幸せには必要なんだ)

 

 

「分かった。可能な事をしてみよう」

 

 

春十の事を考え、行動をする事を口にした。

それを聞いた春十は笑みを浮かべる。

 

 

(春十も一夏も、私の弟だ!私の家族は私が守る!そして、春十と一夏の為の、味方も守る!)

 

 

そうして、千冬は改めて決意をしていた。

 

 

「...織斑、そろそろ授業が始まる。教室に戻れ」

 

 

「分かりました、織斑先生」

 

 

そうして、春十は教室に戻っていった。

 

 

(これで、鈴は守られる!俺のハーレム計画は、絶対に終わらせはしない!)

 

 

その道中でも、春十はそんな事を考えている。

そうして、そんな春十の背中を見ている千冬は

 

 

(春十、大丈夫だ。私が何とかするからな)

 

 

春十がハーレムだなんてものを考えているとも露知らず、そんな事を考えている。

弟の考えている事を少しも分かっていないとなると、果たしてそれは姉として弟の事をちゃんと見ていると言えるのだろうか...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

操side

 

 

「ふぅ、今日の授業も終わり...」

 

 

後は帰りのSHRで今日も放課後だ。

6時限目の授業が終わったので、俺は軽く伸びをしながらそう言葉を零す。

 

 

今日でGWの釣りの予定は大体決めることが出来た。

決まっているメンバーは、鷹月さん、四十院さん、谷本さん、夜竹さんの4人。

正直後3人くらいは一緒に行けるけど、まぁ良いかな。

取り敢えず、この4人との関係を只のクラスメイトから名前で呼び合える友人にまでグレードアップさせる!

あ、ティナも誘ってみようかな?

でもティナ以外のメンバーが全員1組だからな...

まぁ、誘うだけ誘ってみよう。

断られても俺の心にダメージが入るだけだ。

.....結構しんどいな、それ。

俺がそんな事を考えていると、教室に織斑先生と山田先生が入って来た。

 

 

「では、SHRを始める」

 

 

そうして、そのまま織斑先生は教壇に立ってそう言葉を発する。

SHRは特に問題や大きな報告もなく、終了した。

 

 

「さて、2組に行くか...」

 

 

俺は荷物を纏める前に取り敢えず2組に向かう事にした。

その時に、視界に織斑春十が入る。

織斑春十はなんか今日おかしかったな。

朝のSHRの時はオーバーに感じるほど驚いていたし、その後織斑先生に付いて行ってからは笑みを浮かべたりなんか絶望したような顔になったり...

そんな感じで表情がコロコロ入れ替わっていた。

チョッと不気味だった。

その証拠に、周りの席のクラスメイトだったり、休み時間に教室の前の廊下にいた人たちは、教室内の織斑春十の事を見て若干引いていた。

そんなにあの3人が停学したり退学するのがショックなのか?

 

さて、2組の教室に着いた。

まぁ、1組のすぐ隣なんだけど。

 

 

「すみません、門藤ですけど。ハミルトンさんいますか?」

 

 

「あ、あああはい!直ぐ呼びます!」

 

 

俺は教室の入り口付近にいた2組の生徒にそう声を掛けると、その生徒は焦ったようにティナの事を呼びに行った。

そんなに急がなくても良いんだけど...

 

 

「操さん、何かありましたか?」

 

 

俺がそんな事を考えていると、ティナが俺の所にやって来た。

 

 

「おう、ティナ。いや、GWに釣りに行こうと思ってるから誘おうと思って...」

 

 

「行きます!」

 

 

ティナの即答に、俺は思わず苦笑いしてしまう。

そうして、一応連絡先を交換して、待ち合わせ場所と時間を伝える。

 

 

「じゃあ、それだけだから。楽しみにしてる」

 

 

「私もです!」

 

 

そうして、俺は1組の教室に戻る。

その際に2組の教室から

 

 

「ティナ!何時門藤さんと仲良くなったのよ!」

 

 

「教えてよ!」

 

 

「え、えっとぉ...」

 

 

という声が聞こえてくる。

なんか、チョッと申し訳ない。

俺が悪いわけじゃない...よな?

なんか心配になる。

そうして、1組の教室に戻って来たので俺は鞄に教科書類の荷物を纏める。

 

 

「さて、部屋に戻ろうかな」

 

 

俺はそう呟き、教室の外に出る。

その瞬間に

 

 

「あ、門藤さ~~ん」

 

 

と、間延びした声で俺の名前が呼ばれる。

この声は...

 

 

「布仏さん」

 

 

俺は声を掛けられた方向を見ながらそう声を発する。

そこにいたのは、袖丈がやたらと長い制服を着用し常に眠たげな雰囲気を醸している女子生徒。

布仏本音さんだった。

布仏さんは基本的に人の事をあだ名で呼んでいるのだが、俺の年齢が23歳だという事を考慮してか普通に苗字にさん付けで呼んでくれる。

私的にはみんなにみたいにあだ名で呼んで欲しい。

まぁ、布仏さんのあだ名ののほほんさんで俺も呼んでないからどっこいどっこいかな。

 

 

「何か用かな?」

 

 

「うん、かんちゃん...私の友達が、門藤さんに会いたいって言ってて~~」

 

 

「布仏さんの友達?」

 

 

誰だろう?

布仏さんは基本的に誰とでも仲が良いからな...

かんちゃんっていうあだ名に俺は心当たりが無いから、多分俺の知らない人だろう。

 

 

「別にいいけど、俺に会いたいって理由は?」

 

 

「それは~~、私からじゃ説明できないな~~」

 

 

何か事情があるんだろうか?

まぁ、布仏さんが説明できないと言っている以上、ここで粘っても意味は無いか。

 

 

「分かった、じゃあ会いにいくよ。何処に行ったらいい?」

 

 

「あ、私が案内するので、付いて来て下さ~い」

 

 

布仏さんはそう言うと、歩き出す。

だが、そのペースはかなりゆっくりめだ。

それこそ、小学生の方が早く歩けるんじゃないかと思う程には。

普段からまったりしてるとは思ってたけど、まさか歩く速度もまったりしてるとは...

これ、時間は大丈夫だよな?

着いたらもう最終下校ですとかならないよな?

俺はそんな事を考えながら布仏さんのペースに合わせて歩く。

 

 

「此処だよぉ~」

 

 

そうして、大体20分後。

布仏さんはとある大きな扉の前で立ち止まった。

 

 

「此処って...」

 

 

「整備室~~」

 

 

そう、ここは整備室だ。

ISのや武装の点検だったり、整備課の先輩方が実習で使用する場所。

何でこんな場所に...

俺がそんな事を考えていると、布仏さんは整備室の奥の方に歩いて行く。

慌てて追いかけなくても追いつく速度なのがありがたい。

そうして、整備室の最奥に着いた。

 

 

「っ!」

 

 

その瞬間、とあるものが視界に入って来る。

そのとあるものとは...

 

 

「IS...?」

 

 

そう、ISだった。

だが、俺が首を傾げたのには理由がある。

そのISが、何処から如何見ても未完成だったからだ。

そして、そのISの近くで何か作業をしている生徒が1人。

 

 

「かんちゃ~~ん!来たよぉ!!」

 

 

布仏さんがそう声を発する。

すると、その作業をしていた生徒が立ち上がり、此方に顔を向けて来る。

水色で内巻きの癖毛の髪。

四角い眼鏡。

そしてISのヘッドギアみたいなものを頭に着けているのが特徴的だ。

 

 

「門藤、操さん...」

 

 

そうして、その女子生徒は俺の名前を呟く。

 

 

「そ、そうだけど。君は?」

 

 

俺がそう尋ねると、その女子生徒は一瞬視線を逸らした。

な、何だ?

俺がそう考えていると、その女子生徒は決意の籠った視線を俺に向けて来て、言葉を発した。

 

 

「私の名前は、更識簪。門藤さん、教えてください。あなたの、強さの秘密を」

 

 

 

 




今日からEDでティナと真耶と十蔵も踊ってくれたよ!

ティナ「なかなか、疲れる...」

真耶「こ、これ毎回ですか?大変ですね」

十蔵「私には、適度な運動に感じましたがね」

操「楽しんで踊れればそれで大丈夫!」

3人「「「分かった!(分かりました!)」」」

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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強さが欲しい少女

前回の続き。
さて、操は簪に何を言うのか...

今回もお楽しみください!


操side

 

 

「私の名前は、更識簪。門藤さん、教えてください。あなたの、強さの秘密を」

 

 

あの3人の処分を聞いた翌日の放課後。

俺はクラスメイトの布仏さんに連れられて整備室に来ていた。

呼び出された理由は、布仏さんの友人が俺に会いたいというからだ。

そうして案内した先にいたのが、この更識簪さん。

更識さんは俺が門藤操だという事を確認したら、先程の言葉を俺に向かって言ってきた。

 

 

その言葉を言われて、俺が感じたのは戸惑い。

だって初対面でそんな事を尋ねられたんだ。

動揺しない方が可笑しい。

でも、更識さんの真剣な表情が、この言葉が冗談ではない事を示している。

 

 

「えっと...更識さ「簪」え?」

 

 

俺が取り敢えず名前を呼ぶと、更識さんはそう言葉をかぶせて来た。

 

 

「え、あの、その...苗字で呼ばれるのは好きじゃ無いので、名前で呼んでくれると...」

 

 

「...分かった、簪さん」

 

 

苗字で呼ばれるのが嫌い...

絶対に何かあるな。

 

 

「それで簪さん、俺の話をするのは全然良いんだけど...その前に、君の話を聞かせてくれるかな?正直、急にそう言われたから理解が追いついて無くて...」

 

 

俺がそう言うと、簪さんはハッと表情を変えた。

多分、自分の説明をしていないという事に気が付いたのかな?

なんかこう、アワアワしてるし。

暫くしたら簪さんは落ち着いた。

 

 

「大丈夫?」

 

 

「は、はい。大丈夫です...」

 

 

「.....かんちゃん、話すの辛かったら私が...」

 

 

「大丈夫、これは本音じゃなくて、私がしっかりと言葉にしないと...」

 

 

俺が大丈夫か如何か確認すると、その後に布仏さんと簪さんがそう会話をする。

...この会話で、俺は簪さんの過去に何かあったという事を更に実感した。

 

 

「...じゃあ、私の話をします」

 

 

「ああ、分かった」

 

 

簪さんが言った事に、俺はしっかりと頷く。

俺が頷いたのを確認した簪さんは、そのまま説明をしてくれる。

 

 

簪さんは、日本の代表候補生で専用機持ち。

だが、専用機は完成していない。

完成していない理由は、織斑春十。

織斑春十の専用機、白式と簪さんの専用機、打鉄弐式は開発元が同じ倉持技研という企業で、元々は打鉄弐式の開発だけがされていたが、急遽造る事になった白式に全ての技術者を取られてしまい、未完成となってしまった。

そして未完成の打鉄弐式は、今現在簪さんが1人で組み上げている。

 

ここで、俺は疑問に思った。

途中まで作ってあるとはいえ、ISを1人で造るだなんて無茶な事を、何でしようと思ったのかと。

俺の疑問を察したのか、簪さんはその事も説明してくれる。

 

その判断をしたのは、簪さんの姉が原因らしい。

彼女はロシアの国家代表で、専用機持ち。

そして、その専用機は彼女が1人で組み上げた。

簪さんはそんな姉に対して、強いコンプレックスを抱いているようだ。

簪さんは昔から優秀な姉に周囲から比較されていたらしい。

時には罵倒されることもあった。

それでも頑張って来たが、ある日姉に言われた一言で完全に絶望してしまったらしい。

だから、力を、強さを欲したんだと。

姉や周りを見返すほどの、強さを。

 

 

そこまで聞いて、俺は思った。

 

 

.....何て、織斑一夏にそっくりなんだろうと。

優秀な姉に比べられ、罵倒され、絶望する。

当然だが出来事に差異はある。

それでも、余りにも織斑一夏に似すぎていた。

 

 

「門藤さん、お願いします!あなたは、IS3機を圧倒するほどに強かった!だから...だから.....!!」

 

 

全ての説明を終えた簪さんは、泣きそうになりながらそう俺に言ってくる。

...これは、俺の話もしないといけないな。

 

 

「...簪さん、君の話はしっかり理解できた。何故、強さを求めてるのかも。その上で、チョッと俺の昔話を聞いて欲しい」

 

 

俺はしっかりと簪さんの眼を見ながら、そう言葉を発する。

簪さんは、少し驚いた表情を浮かべたがやがて頷く。

チラッと隣を見ると、布仏さんも驚いているようだ。

それを確認してから、俺は言葉を発する。

 

 

「.....俺も、昔は簪さんと一緒だった」

 

 

「え?」

 

 

「俺の元姉と元兄は優秀だった。それに比べて俺は普通だった。だからこそ、俺も比較され、罵倒された」

 

 

「「っ!」」

 

 

俺がそう言った事で、簪さんと布仏さんは目を見開いている。

そっくりだという事に気が付いたからだろう。

 

 

「それだけじゃない。俺は元兄に虐められていた。友人なんか1人もいなくて、俺の周りにいる人間は、ほぼ全員俺の事を虐めて来た。元姉は助けてくれなくて、唯一俺の味方だった近所のお姉さんも引っ越してしまった」

 

 

「「.....」」

 

 

2人とも、俺の話を黙って聞いている。

その表情は悲しそうなものだった。

 

 

「でも、俺は変われた。さっきから元姉と元兄って言ってるのは、俺があの2人の弟だった人間とは違う人間になったからだ」

 

 

「?」

 

 

「俺は10年前、記憶をきれいさっぱり失った事がある」

 

 

「「え!?」」

 

 

俺の言った事に、簪さんと布仏さんが驚いたような声を発する。

まぁ、急に記憶喪失の経験があるだなんて言ったら驚くのも当然だ。

 

 

「その時に出会ったのがみんな...俺のかけがえのない友人で、俺を門藤操にしてくれた人達なんだ」

 

 

正確に言うなら、人間よりもジューマンの方が多いけど。

 

 

「みんながいたから、俺は変われた。みんながいたから、俺は強くなれた。みんながいたから、支え合うことが出来たから、俺は今こうやって前を向いて生きていけてるんだ」

 

 

俺はそう言って、改めて2人の事を見る。

2人とも、目をしっかりと開いて俺の事を見ている。

 

 

「その上でさっきの質問に答えよう。俺の強さの理由を」

 

 

俺が改めてそう言うと、簪さんはグッと身を寄せて来る。

その事に俺は笑いながら、言葉を発する。

 

 

「俺が強く入れるのは、さっきも言った通りみんながいて、支え合えう事が出来るから」

 

 

「支え合う事が、出来るから...?」

 

 

「そう。人間、いや、動物は1人で出来る事には限界がある。だからこそ、生き物は支え合うんだ。そうする事で、1人での限界は、乗り越えることが出来るから」

 

 

俺がそう言うと、簪さんは下唇を嚙む。

 

 

「でも!お姉ちゃんは、1人でISを!」

 

 

「お姉さんと簪さんは、違うだろ?」

 

 

簪さんが言った言葉に俺がそう返すと、簪さんは目を丸くする。

 

 

「確かに、お姉さんは1人で組んだのかもしれない。だからって、それが簪さんに関係があるかどうかと言われたらそれは否だ。だって、人間は、動物は、同じ種族でもバラバラで、だからこそ、支え合うものだ」

 

 

「人間は、バラバラ...」

 

 

「そう。何から何まで同じ人間がいたら、それはもう人間じゃない。クローンかロボットだ。簪さんは、お姉さんとは違う人間だ。だから、簪さんは簪さんなりの強さを見つければいい。自分の強さっていうのは、他の人達の影響を多少を受けるとはいえ、最終的には自分で決めるものだよ」

 

 

「っ!」

 

 

俺がそう言うと、簪さんは衝撃を受けたような表情を浮かべる。

俺はそれを見てもう1回笑ってから言葉を発する。

 

 

「それに、俺からしてみれば簪さんは十分強いと思うよ?」

 

 

「え?」

 

 

「自分でISを組み上げようとした意志の強さと、布仏さんを頼った支え合える強さはあるじゃないか」

 

 

俺がそう言うと、簪さんは布仏さんの事を見る。

見られた布仏さんは、少し恥ずかしそうに笑みを浮かべる。

 

 

「だから、簪さんも自信をもって1歩踏み出してみようよ!」

 

 

最後に、俺はしっかりとそう言う。

すると、簪さんは暫くキョトンとした表情を浮かべていたが

 

 

「.....はい!」

 

 

満面の笑みを浮かべて、そう返事をしてくれた。

ふぅ~~。

簪さんが前を向けるきっかけにちょっとでもなれたかな?

 

 

「門藤さん、今日は話をしてくれてありがとうございました」

 

 

「いやいや、簪さんが前を向けたらそれでいいよ。あと、俺の事は操でいいよ。布仏さんもね」

 

 

「...分かりました、操さん。私の事は呼び捨てで良いですよ」

 

 

「私も~~、あだ名で良いですよ~~」

 

 

「.....これから、友達としてよろしくね、簪、のほほんさん!」

 

 

「「はい、よろしくお願いします!」」

 

 

良し!

新しい友人ゲット!

嬉しい!!

 

 

「...連絡先交換する?」

 

 

「良いんですか?」

 

 

「自分から言ったのに断らないよ」

 

 

「私も良いですか~~?」

 

 

「勿論!」

 

 

そうして、俺は簪とのほほんさんの2人と連絡先を交換した。

.....如何する?

釣りに誘うか?

仲を深めるなら誘った方が良いけど、流石にいきなりすぎるか...?

 

 

「えっと、操さん、如何しました?」

 

 

いや、誘おう!

それに、これは簪の為にもなるかもしれない!

 

 

「簪、GWって空いてるか?俺、何人かと釣りに行くんだけど、簪も来る?」

 

 

「え、釣り...ですか?」

 

 

「うん、メンバーは俺と1組の4人と2組の1人だけど、簪、話を聞く限りクラスメイトとも馴染めて無いんだろ?」

 

 

「う!?」

 

 

「なら、チョッとここでコミュニケーションの練習してみない?」

 

 

俺がそう言うと、簪さんは暫く考えるように顎に手を置く。

そうして約3分後。

 

 

「行かせてください」

 

 

「ああ!のほほんさんも来る?」

 

 

「かんちゃん1人だと心配だから、私も行きま~す!」

 

 

のほほんさんがそう言うと、簪は

 

 

「チョッと!それじゃあ私が子供みたいじゃない!」

 

 

と少し顔を赤くしながらのほほんさんに詰め寄る。

のほほんさんはアハハ~~と誤魔化しているが、如何考えても誤魔化せてない。

 

 

「ま、まぁまぁ。簪、落ち着け」

 

 

「.....は、はい」

 

 

俺が宥めると、簪は何とかといった感じで落ち着く。

 

 

「じゃあ、そろそろ時間だから帰ろうか」

 

 

俺は腕時計を見ながらそう言う。

そこそこな時間話しをしていたため、もう既に時刻は最終下校時刻に迫っていた。

 

 

「そうですね、帰りましょう」

 

 

「うんうん~~帰ろう~~」

 

 

そうして、俺はそのまま2人と共に雑談をしながら移動をする。

 

 

「へぇ、簪は特撮ヒーローが好きなんだ」

 

 

「はい!だから、操さんの専用機もまさに特撮ヒーローみたいでカッコイイって思ってました!」

 

 

ヒーロー、か。

俺は世界の王者、ジュウオウザワールド。

動物戦隊ジュウオウジャー。

デスガリアンと戦い、地球を救った。

そうだけ聞くと、ヒーローなのかもしれない。

でも、俺はヒーローなのだろうか?

 

 

「操さん、如何しました?」

 

 

でも、俺は仲間を、地球を守るために戦う。

これまでも、そしてこれからも。

 

 

「いいや、何でもない!」

 

 

この先、何も起こらない可能性もある。

でも、何かあったときは俺が戦う。

それが、門藤操だ!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「いただきます!」

 

 

時刻は、19:30。

俺は自室にて今日の晩御飯を食べていた。

今日のメニューは餃子。

皮は市販品だけど、タネは自作のものだ。

俺はタレが付いた餃子を白米にバウンドさせてから口に入れる。

その後、白米を口の中に入れる。

うん、美味しい。

 

 

「.....簪のお姉さん、か」

 

 

簪の苗字は、更識。

そして、俺の部屋に盗聴器を仕掛けた疑いがあるのは、更識生徒会長。

簪のお姉さんと更識生徒会長は如何考えても同一人物だ。

 

 

「さてさて、如何なって来るのかねぇ...」

 

 

俺はそう呟いて、そのままご飯を食べ進める。

 

 

「ご馳走様でした!」

 

 

俺は食べ終わったので食器類を洗う。

そうして、俺はベッドの縁に座って一息つく。

スマホを取り出してメッセージアプリを開く。

そして取り敢えず友達登録している人物一覧を開く。

そこには、ズラッと名前が連なっている。

その事に俺は思わず笑みを浮かべてしまう。

織斑一夏としての記憶がある俺としては、こんなにも友人と呼べる人物がいるのが嬉しくなる。

あっちの世界ではジューマンのみんながまだスマホ使うのが難しくて、ジュウオウチェンジャーや折り畳み携帯電話で連絡してたから、俺の元々のスマホには大和と真理夫さんと何人かの動物学会のスタッフの人と、後はジューマンの中でも比較的スマホに慣れたバドとラリーしか登録されて無かったからな。

 

 

「そうだ!ラウラに連絡を入れよう!」

 

 

確か、ドイツと日本の時差は...8時間か。

って事は今こっちが19:50だから、ドイツは11:50。

そろそろ軍での仕事もお昼休みだろう。

俺はそう判断し、メッセージを打ち込み、送信する。

 

 

『連絡最近してなかったな。そっちは如何だ?』

 

 

そうして、ラウラからの返信が帰って来るまで暇だから俺は釣りの時に持っていく持ち物の確認をする。

といっても俺の私物の釣り道具はあっちの世界にあるから、道具はレンタルになる。

だから、俺が持っていくのはジャケットと交通費、後はエプロン類。

俺達が行こうとしているのはIS学園からモノレールと電車で約2時間の所にある釣り堀、『釣っちゃいますか!!』だ。

此処は釣った魚を各団体2匹までだったら無料で捌いて食べることが出来る。

ただ、調理道具は揃っているとはいえ流石にエプロンやゴム手袋は無い為自分で持っていく必要がある。

うん、しっかり揃ってるな。

楽しみだ!

 

ピロン♪

 

俺がそんな事を考えていると、スマホが着信音を発する。

お、ラウラから返信来た!

 

 

『ああ、久しぶりだ。私を含め、こっちは全員元気だぞ。そっちは如何だ?』

 

 

『こっちも元気だよ』

 

 

『そうか、それは良かった。GWにはドイツに来るのか?』

 

 

『いや、日本に残るよ。今度釣りに行く予定なんだ』

 

 

『了解した。それと、1つ伝える事がある。私はGW明けにIS学園に転入する』

 

 

『お!専用機完成したんだ!』

 

 

『ああ。操、お前と模擬戦したり、学園生活を送るのを楽しみにしている』

 

 

『俺もだ!じゃあな』

 

 

『ああ、また今度』

 

 

ここで、ラウラとのメッセージのやり取りは終了した。

ラウラIS学園に来るのか。

楽しみだな!

さてと、GWまでは後2日あるからな。

明日の授業の準備でもしよう!

 

 

 

 




操、釣りに行く気MAX!
楽しんでよ!

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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さぁ、釣るぞ!

GW!
サブタイまんまの内容です。
作者は釣りを全然したことが無いので、間違った点も見逃してください...

今回もお楽しみください!


操side

 

 

簪とのほほんさんとの会話から暫くたったある日。

俺はIS学園から日本本土に向かうモノレールの駅の前にいる。

今日は前々から計画していた釣りに行く日なのだ。

 

 

もう既に2日ほど前に世間はGWに突入している。

IS学園は世界立の学園ではあるが日本にある学園の為、祝日などは日本と同じものになっている。

 

 

「う~~ん」

 

 

俺は軽く伸びをしてから腕時計で時間を確認する。

現在時刻は朝の7:15。

待ち合わせは30分なので、丁度いい時間だろう。

天気は曇り。

完璧に釣り日和だ。

晴れてると釣り糸が水中で光って魚が寄ってこないからな...

 

 

「操さ~~ん!!」

 

 

俺がそんな事を考えていると、ティナが手を振りながら駅にやって来た。

当然ながら何時も見ている制服では無く私服なので結構新鮮だ。

 

 

「おはよう、ティナ」

 

 

「おはようございます、操さん!」

 

 

俺が挨拶をすると、ティナは元気に挨拶を返してくれる。

 

 

「結構朝早いけど元気だな」

 

 

「はい!GW期間も朝しっかりと起きてるので!!」

 

 

「なるほど」

 

 

如何やらティナは休みだからって生活リズムが変わる事が無いらしい。

俺がそんな事を考えていると

 

 

「門藤さん!」

 

 

「おはようございます!」

 

 

そんな声が聞こえてくる。

 

 

「おはよう!」

 

 

俺は声が聞こえて来た方向を向きながら挨拶を返す。

そこには、俺のクラスメイトの鷹月さん、四十院さん、谷本さん、夜竹さんの4人がいた。

鷹月さんと四十院さんはしっかりと目を開いているが、谷本さんと夜竹さんは少し眠そうに目をこすっている。

如何やら2人はGWに入ってからは結構寝ていたようだ。

 

 

「2人とも大丈夫か?」

 

 

「は、はい...取り敢えずは大丈夫です...」

 

 

「多分着いたら元気になります...」

 

 

「そ、そう」

 

 

明らか眠そうな2人の返答に俺は思わず苦笑いを浮かべてしまう。

さて、後は簪とのほほんさんが来れば全員揃うな。

俺はそんな事を考えながら時刻を確認する。

もう既に待ち合わせ時間の30分になっている。

まぁ、多少は遅れても問題ないが、結構キッチリしている簪が遅れるだなんて...

俺がそんな事を考えていると

 

 

「本音!もう時間だよ!急いで!」

 

 

「かんちゃ~ん...そう言っても~~」

 

 

と、遠くの方からそんな声が聞こえてくる。

この声は...

俺はティナたち5人と目を合わせると、一斉に聞こえて来た方向を向く。

するとそこには...

 

 

「ほら、本音!!」

 

 

「かんちゃ~ん、待って~~」

 

 

ダボダボの服を着て、もう半分寝てるんじゃないかという感じののほほんさんを引きずっている簪だった。

その光景にティナ以外の1組の生徒が思わず笑ってしまう。

のほほんさんは普段からのんびりしていて、何となく朝が弱そうだとは思っていたが、まさか簪に引きずられながら来るとは...

 

 

「簪!のほほんさん!おはよう!」

 

 

俺はそんな2人に向かって手を上げながらそう言葉を発する。

すると、2人とも俺達が全員揃っている事に気が付いたようだ。

 

 

「ほら本音!操さんも、他のみんなも揃ってるよ!」

 

 

「う、うう...分かったぁ...」

 

 

1分前まで寝てたのか?

思わずそう思ってしまう程、のほほんさんはふらっふらだった。

そのダボダボな服装と相まって余計そう思ってしまう。

って言うか、これから釣りに行くんだよ?

何でその服装なの?

絶対に釣りに向いて無いよ、それ。

 

 

「操さん、すみません遅れちゃって」

 

 

「いやいや、まだ3分くらいだし気にしなくていいよ。それにしても、のほほんさんは何時もこんな感じなの?」

 

 

「はい...昔から異常に朝が弱くて...」

 

 

「.....普段よく朝のSHR間に合ってるね」

 

 

俺のその呟きに、のほほんさん以外のこの場にいる全員が笑みを浮かべる。

 

 

「はぇ?みんな如何したの~?」

 

 

のほほんさんは呆けた表情を浮かべながらそう疑問を口にする。

その事に、更に笑みが濃くなっていく。

 

 

「さぁ、じゃあ時間も勿体ないし行こう!」

 

 

「「「「「おお~~!!」」」」」

 

 

「お、おお~~」

 

 

「おぉお...」

 

 

俺の掛け声に応じる感じで、ティナと鷹月さん達は元気に、簪は少し控えめに、のほほんさんはボーッとしながらそう返事をする。

その事に俺は苦笑いを浮かべながら、先頭に立って駅の中に入っていくのだった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「着いたぁ~」

 

 

モノレールに乗ってから約2時間後。

俺達は釣り堀、『釣っちゃいますか!!』に着いた。

 

 

「おお、ここが...」

 

 

「なんかもう楽しくなってきました!」

 

 

モノレールに乗る前は少し眠そうにしていた谷本さんと夜竹さんもしっかり目が覚めたようだ。

 

 

「じゃあ、受付してくるね」

 

 

俺はそう言って、入り口の受付係の人に声を掛ける。

 

 

「すみません、予約していた門藤ですけど」

 

 

俺がそう言うと、係の人が顔を上げて言葉を発する。

 

 

「はい、8名様で道具レンタルの門藤様ですね」

 

 

「はい、そうです」

 

 

「分かりました、では5千6百円になります」

 

 

俺は財布からそのままピッタリ5千6百円を取り出し、受付の人に渡す。

 

 

「.....はい、丁度頂きました。それでは、道具は中に入ってからの受け取りになりますので」

 

 

「分かりました。みんな、行くよ!」

 

 

『は~い!』

 

 

俺はみんなにそう声を掛け、受付横のゲートを通っていく。

GWという事もあって、釣り堀には俺達以外にも釣りをしている人がいる。

結構家族連れの方が多いな...

そんな中、女子高生7人と23歳成人男性の集団だからか結構浮いてる気がする。

まぁ、釣り好きな人に悪い人はいないからな。

特に悪口は言われないだろう。

俺はそんな事を考えながら8人分の釣り竿を受け取る。

ジュウオウザガンロッドは普通に釣り竿として使えるけど、ここで使うと無断IS展開になる可能性があるから今日は使わない。

 

 

「確か、全員が釣り初めてだっけ?」

 

 

俺は場所を確保してからそうみんなに尋ねる。

全員同時に頷いたため、俺は荷物から餌を取り出す。

 

 

「じゃあ、取り敢えずこれが餌だよ」

 

 

俺は取り出した餌を見せながらそう言う。

今日俺が持ってきたのは市販品の餌。

虫にしようかとも思ったが、流石に女子に虫を触らせるのはあまり良くないと判断したためこれにした。

 

 

「はぁ、これが...」

 

 

「そう、これを針の先につけて水の中にいれるんだ」

 

 

俺はお手本として自分の分の釣り竿に餌をつける。

そうして、それを水の中にいれる。

 

 

「じゃあ、順番に餌を着けて」

 

 

俺はそう言って、1番近くにいたティナに餌を渡す。

そうして、ティナをはじめとして全員が自分の釣り竿に餌をつける。

だが、やはり初めての為手こずったから俺がサポートしたけど。

 

 

そうして、今は全員が備え付けのベンチに座って魚がヒットするのを待っている。

こうやって魚が来るのを待つのも釣りの醍醐味だ。

ゆったりと、ボーッとしながら魚を待つというのは、それだけでリラックスになる。

そんな事を考えながら大体10分くらい経った時

 

 

「きゃ!き、来た!」

 

 

という声が聞こえて来た。

視線を上にあげると、簪の釣り竿が引いている。

今日の初ヒットは簪か。

 

 

「あ、網!」

 

 

「はい、更識さん!」

 

 

「あ、ありがとう」

 

 

「支えてるから、しっかりと踏ん張って!」

 

 

そんな簪の事を、ティナや谷本さん達がサポートする。

俺も立ち上がり簪たちに近寄る。

 

 

「大丈夫か?」

 

 

「は、はい!と、取り敢えずは...」

 

 

俺がそう声を掛けた時、水面に魚が見えた。

 

 

「網、網!」

 

 

「簪さん、竿は任せて!」

 

 

「ありがとう!」

 

 

ティナがそのまま釣り竿を受け取り、簪が谷本さんから受け取った網の中に魚を入れ、そのまま水中から魚を持ち上げる。

 

バシャバシャ!

 

水面を魚が叩く音がなり、その魚は完全に釣りあげられる。

お、イサキだったのか。

 

 

『釣れたぁ!』

 

 

その瞬間に、簪たちが笑顔でそう声を発する。

それにつられて俺も笑みを浮かべる。

 

 

「嬉しいのは分かるけど、魚がビックリするからチョッとボリュームを絞ろうか」

 

 

『はーい』

 

 

俺がそう言うと、全員同時にしっかりと頷く。

そして釣りあげたイサキはクーラーボックスに入れる。

俺はそれを確認してから、自分の竿の前に戻る。

そうしてベンチに座ってもう1度ボーッとし始める。

.....お。

 

 

「来た」

 

 

俺は迅速に網を近くに持ってくると、そのまま釣り竿を手に持つ。

そうしてタイミングを見計らいながら、魚との駆け引きをしながらリールを巻く。

魚が視認できるくらいにまで水面に近付いてきたので竿を片手で持ち空いた方の手で網を持つ。

太ももに竿の後ろ部分を当てながら片腕で引き、魚を手前に引き寄せる。

そして、タイミングを合わせ網でその魚をすくい上げる。

 

バシャバシャ!

 

そんな音をあたりに響かせながら、その魚は釣りあげられる。

 

 

「...真鯛だぁ」

 

 

何で?

さっきのイサキもそうだったけど、これ海魚だよね?

何でここで釣れるんだろう...?

 

 

「門藤さん!凄いですね!」

 

 

「だろ?」

 

 

四十院さんがそう声を掛けてくれたので、俺はそう返す。

 

 

「みんな!もう2匹釣ったからこれ以降のはリリースね!」

 

 

『は~い!』

 

 

俺がそう声をみんなに掛けると、みんな一斉にそう返事をしてくれる。

この釣り堀、食べれるのは1グループ2匹までだからな。

釣りあげた真鯛は、さっきのイサキと同じクーラーボックスに入れる。

 

 

そうしてそこから暫くの間、全員で釣りを楽しんだ。

誰かがヒットすれば、何人かが直ぐにサポートに入る。

釣りあげた魚はそのままリリースする。

それの繰り返し。

俺はあっちの世界で何回も釣りをした事があるから基本1人で大丈夫だったけど、やっぱり魚が大きくなってくると誰かにサポートしてもらわないといけなかった。

当然ながら、俺も他の人のサポートをしたりした。

 

この1時間くらいで、簪はかなり周りと打ち解けたようだ。

さっきまではみんなは簪の事を更識さんと呼んでいたが、今はもう名前で呼んでるし、簪も違和感なくみんなの名前を呼べている。

それに、俺もみんなの事を遂に名前で呼べるようになった。

これでIS学園で名前で呼べる友人は7人(1人はあだ名)になったんだぜ!

超嬉しい!

本当に、まさかこの世界で、俺が織斑一夏だった時に生活していた世界で友人なんてものが出来るとはな...

これも大和達のおかげ...俺が門藤操に、ジュウオウザワールドになれたからかな。

 

 

「う~ん、私だけなかなか釣れないな~~」

 

 

俺がそんな事を考えていると、のほほんさんがそう声を漏らす。

そう、今日釣りに来た8人の中でのほほんさんだけが異様に釣れていない。

それだからかなんなのか、さっきからボリボリとスナック菓子を食べている。

 

 

「まぁ、そういう日もあるから」

 

 

そんなのほほんさんに簪が言葉を返すが、のほほんさんはやっぱり少しつまらなさそうだ。

確かに、周りはいっぱい釣れてるのに1人だけ釣れなかったらつまらなくなるよな。

まぁ何回も釣りに来たらそう言う待ち時間すら楽しくなるけどな。

 

 

「あ!来た~!」

 

 

お、遂にのほほんさんもヒットしたみたいだな。

30分ぶりくらいかな?

俺がそう思っていると、簪を始めとしてティナたちがのほほんさんに近付く。

 

 

「く、お、重い!」

 

 

「わ、わわわ!引っ張られる!」

 

 

「わー!落ちる~~!」

 

 

ウソォ!?

そんなに引っ張られる!?

俺が慌てて見ると、確かにのほほんさんが落っこちそうになっていた。

俺も迅速にのほほんさんに近付くと、そのままのほほんさんの身体を掴み、引き寄せる。

 

 

「フンッ...!」

 

 

俺は23歳成人男性、しかも犀男、鰐男、狼男のジューマンパワーが存在するため基本的な身体能力は一般人よりも高い。

その為、落っこちそうだったのほほんさんの事をしっかりと掴み、そのまま引っ張る。

 

 

「おわわわわ~!」

 

 

のほほんさんはそんな声を発しながらも、俺に合わせてバランスを取ってくれる。

良し、これで...!

 

 

グシャ!!

 

 

グシャ?

なんだこの音は...

 

 

ズル!

 

 

足が滑ったので、俺は慌てて足元を見る。

するとそこには...

さっきまでのほほんさんが食べていたスナック菓子の空き袋...

 

 

「何でぇ!?」

 

 

ボチャアアアアアアン!!!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「ハックション!」

 

 

結局、のほほんさんを助けたのはいいが、スナック菓子の袋で滑った俺はそのままダイブした。

GWなので5月、気温はあったかいとはいえ、水温はまだまだ低い。

そんな水の中に全身ダイブしたので物凄く寒い。

 

 

「操さん、大丈夫ですか?」

 

 

「あ、ああ。大丈夫大丈夫」

 

 

ティナがそう声を掛けて来たので、俺はタオルで身体を拭きながらそう返答する。

いやぁ、何かあったときの為に持って来ておいて良かった。

でもこれ、服乾かないと電車とかモノレール乗れないぞ。

 

 

「み、操さ~ん、ごめんなさ~い」

 

 

「いやいや、気にしなくていいよ」

 

 

のほほんさんが謝って来たので俺は笑顔でそう返答する。

そうして、俺は立ち上がる。

 

 

「さぁ、取り敢えず時間も時間だから調理して食べよう!」

 

 

「そうですね、食べましょう!」

 

 

そうして、イサキと真鯛が入っているクーラーボックスを手に持って調理室に全員で移動する。

さっさと調理しないと、これ以上は腐るからな。

 

 

「じゃあ、如何やって調理する?」

 

 

「う~ん...お刺身!」

 

 

「OK!じゃあ、どっちも刺身にしよう。魚捌ける人?」

 

 

俺がそう尋ねると、簪だけが手を挙げた。

 

 

「簪だけか。簪、どっち捌く?」

 

 

「じゃあ、折角なら自分で釣ったイサキにします」

 

 

「なるほど、つまり俺は自分で釣った真鯛か」

 

 

そうして、俺と簪はそれぞれエプロンを着用し、ゴム手袋を着けて調理室備え付けの包丁とまな板で魚を捌き始める。

魚を、しかも真鯛を捌くのは久しぶりだな~。

鱗を取り、腹から包丁を入れていく。

そのままドンドンと捌いて行き、5分くらいで真鯛の刺身が完成した。

 

 

「は、早い...」

 

 

「そうかな?慣れたらこんなもんだよ」

 

 

鷹月さん...じゃなくて、静寐がそう声を掛けて来たので、俺はそう返答しながら刺身を盛りつけたお皿を食事用卓に持っていく。

そうして、俺に一瞬遅れて簪も捌き終わり、刺身をこっちに持ってくる。

 

 

「さて、手を洗って食べようか」

 

 

『は~い!』

 

 

全員で手を洗って、刺身を食べ始める。

うん、美味しい。

 

 

「美味しい!」

 

 

「釣ったばっかりのお魚の刺身ってこんなに美味しいんだ!」

 

 

みんなにも好評のようだ。

良かった。

 

 

そうして、全員で刺身を完食して片付けをする。

片付けは魚を捌いて貰ったからとティナたちがしてくれたので、俺と簪はゆっくりさせてもらった。

 

 

「じゃあ、俺の服も乾いたしそろそろ帰ろうか」

 

 

「そうですね、帰りましょう」

 

 

俺達は、自分の荷物を持ち調理室から出る。

そして釣り竿を返却してから駅に向かって歩き出す。

 

 

「今日は如何だった?」

 

 

「凄い楽しかったです!」

 

 

「なんか、釣りにハマりそうです!」

 

 

「それは良かった」

 

 

釣り好きが増えるのは嬉しいからな。

 

 

さて、私的にも今日は楽しかったな!

こうやって、ずっと平和にわちゃわちゃ過ごせたら良いんだけどなぁ...

 

 

 

 




いやぁ、平和だなぁ。
出発の時にキラメイGO!って言わせようか悩みましたが止めました。
あくまでジュウオウジャーだからね。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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釣りの裏で

前回の裏。
いったい何があったのか...

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

「クソ!私では、如何することも出来ないのか!」

 

 

GW、操たちが釣りに行っているのと同じ日。

千冬は学生寮の寮長室でそんな事を言っていた。

 

ガァン!

 

千冬はそのまま机の事を殴る。

そうして暫くそのままの格好で固まっていた。

 

 

千冬は春十と話し合ったあの日から、何とか鈴が学園に残れないかと模索してきた。

だが、如何してもそれは出来なかった。

 

 

鈴、そしてセシリアの2人はもう既に祖国に帰国している。

そもそもこの帰国、そして停学処分と退学処分は鈴とセシリア、そして箒の自業自得なのだ。

模擬戦に乱入するというかなりの重罪を犯し、鈴はその上で脅迫というそれ以上の罪を犯したのだ。

しかも、模擬戦への乱入は世界各国からの来賓に見られているので言い訳もできず、しかも鈴とセシリアの祖国が帰国を提案し、学園が了承したのだ。

ただの教師でしかない千冬にそれを止めることなど出来ない。

千冬にはブリュンヒルデという一見すると物凄く権力がありそうな肩書がある。

だが、これは所詮名誉称号でしかないのだ。

名誉称号ごときでは、如何する事も出来ない。

 

 

「クソ、クソ!」

 

 

ガァン!ガァン!

 

 

千冬は再び机を殴る。

 

 

千冬は、何とか鈴が帰国する前に鈴と会って会話をしたかった。

だが、鈴は帰国する直前まで拘束され、IS学園の拘束室に箒、セシリアと共に押し込まれていた。

そしてそんな鈴に会うのが認められていたのは学園長である十蔵とクラス担任であるクレアだけだった。

無断で侵入しようかとも千冬は考えたが、拘束室には脱走を防ぐために窓などは存在せず、それと同じ理由で常に拘束室前には交代制で監視の教員や警備員が存在するため侵入は出来なかった。

そうやってもたもたしている間にGWに入り、鈴とセシリアは帰国したのだ。

 

 

「これでは、春十の期待に応えられない...!」

 

 

千冬は拳を握りながらそう呟く。

そうして暫く千冬はそのままの体勢でいたが、やがて床に座り込んだ。

 

 

「どいつもこいつも、私と春十の邪魔をする!」

 

 

そうして、千冬はそう言葉を零す。

そもそも自分たちの行動が只の我儘であり、自己中心的なものであるのだがそれに千冬は気付かない。

 

 

「...そうだ、そろそろ春十が来る時間だな......」

 

 

千冬はそう呟くと、散らかっている空のビールの缶や日本酒の瓶を乱雑に片付け始める。

そう、千冬が呟いたように今日はこれから春十がこの寮長室にやって来るのだ。

その理由は、GWに入ったときに春十が鈴たちがどうなったのか知りたいと言ってきた為、千冬が寮長室に来るように言ったからだ。

 

 

大体10分後、お世辞にも綺麗になったとは言えないがそこそこ室内は片付いた。

そして千冬は長い事使っていなかったであろう少し埃が着いたコップを取り出し、軽く水で洗う。

そのままそのコップに水道水を入れて、飲む。

 

 

「ふぅ...」

 

 

千冬が息を吐いたとき

 

コンコンコン

 

と、部屋の扉がノックされる。

千冬はコップをシンクに置いて部屋の扉に向かう。

 

 

「千冬姉!」

 

 

「織斑先せ...いや、プライベートだから良いか」

 

 

扉の前にいたのは、当たり前だが春十だった。

千冬はそのまま春十の事を寮長室の中に入れる。

寮長室の中に入った春十は部屋が汚い事に驚いたが、自分で掃除する事は出来ないのでスルーした。

そうして、春十と千冬は机を挟む形で向かい合って床に座る。

 

 

「それで千冬姉、鈴たちってどうなった?」

 

 

「...春十、しっかり聞いて欲しい」

 

 

そこから、千冬は春十に説明をした。

鈴とセシリアはもう帰国している事。

鈴とは1度も会話出来ていない事。

そして、国と学園の決定に千冬1人では如何する事も出来ない事を。

 

 

「そ、そんな...」

 

 

その事を聞いた春十は絶望したような表情を浮かべてそう言葉を零した。

 

 

(何でだ!?何で鈴とセシリアと箒が停学で、その上鈴は退学なんだよ!?ヒロイン3人がこんな物語の序盤でそんな仕打ちを受けるんだよ!?)

 

 

そして、春十は心の中でそんな事を考えている。

何でも何も、鈴たちの処罰は鈴たちがした行動のツケなのだが、春十はそれを理解していない。

原作知識があるが故の、一種の障害ともいえるこの思考。

改善しないと痛い目を見るのは春十なのだが...

 

 

(そ、そうだ!鈴が退学なのは脅迫があるから!その事実さえ如何にかなれば...!)

 

 

春十はそう考えた後、ガバッと

 

 

「千冬姉!その、鈴の脅迫は本当なのかよ!確認はしたのかよ!?」

 

 

「春十、さっきも言った通り、鈴音とは会話出来ないし、そもそももう帰国しているから確認は不可...」

 

 

「そっちじゃなくて!脅迫された方だよ!まだ学園にいるんだろ!」

 

 

春十のその言葉を聞いて、千冬は考えるように顎に手を置く。

暫くして、千冬は息を吐きながら首を横に振った。

 

 

「無理だ。もう既に山田先生が確認をしているから、教員である私が終わった問題について改めて聞くと問題になる」

 

 

「そ、そんな...っ!な、なら生徒である俺が聞けば!」

 

 

「それも無理だ。そもそも生徒であるお前がこの情報を知っている時点で問題があるし、私がその生徒の名前をお前に伝えたら更なる問題に発展する」

 

 

千冬がそう言うと、春十は力が抜けたように肩を落とし、俯く。

 

 

(何で、何で...如何考えてもおかしいだろ!何でなんだよ!俺の、主人公のハーレムはどうなるんだよ!)

 

 

そんな春十の事を見て、千冬はその表情を悔しそうなものに変える。

 

 

(春十...!そうだよな、悲しいよな...クソ!私は一夏に続いて、春十の事も守れないのか!)

 

 

そして、千冬はそんな事を考える。

何処までいっても、春十がハーレムというどうしようもない事を考えている事に気が付かない。

 

 

「春十、今日の所はこれで終わりだ。今日は帰れ」

 

 

「あ、ああ。分かった...」

 

 

そうして、春十はゆっくりと立ち上がるとフラフラとした足取りで寮の自室に戻っていく。

 

 

(何でだよ...何でだよ...俺は主人公...ハーレムを、築くはずだったのに...)

 

 

その道中で、そんな事を考えながら。

 

 

「春十...」

 

 

1人になった千冬は、扉を見つめながらそう言葉を零す。

そうして、千冬は右手を握りしめる。

 

 

「これ以上、お前に悲しい思いはさせないからな...!」

 

 

そう覚悟を決めるように呟く千冬の表情は、とても必死なものだった。

 

 

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「ふぅ、GWでも私は休めないですね」

 

 

場所は変わって学園長室。

休憩用のお茶を飲みながら十蔵はそう言葉を零していた。

そんな十蔵の目の前には、机の上に山のように積まれた書類。

世界で唯一のISを学ぶためである学校であるIS学園。

そんなIS学園の学園長である十蔵は、たとえGWでも休む事など出来ない。

特に、今年は操と春十というイレギュラーが在籍中なのだ。

例年よりも更に忙しいものになっている。

 

 

「さて、そろそろ再開しますか...」

 

 

十蔵はそう呟くと、書類の処理を再開した。

 

 

「......門藤君関係の書類が多いですね」

 

 

十蔵が思わずそう呟いてしまう程、操に関する書類が多かった。

それもこれも、ジュウオウザワールドが束特性のISという扱いになっている事と、クラス対抗戦での圧倒的な戦闘力が原因だろう。

その書類の内容は殆どが操を自国の代表候補生に、又は企業に所属させたいというものだった。

そして、その書類はドイツ以外の先進国殆どから送られてきていた。

その事に十蔵はため息をつく。

 

 

「はぁ...如何しようも無いですね...」

 

 

十蔵はそう呟くと、操関係の書類殆どを処理していく。

まぁ、殆どが不可で処理をしているのだが。

 

 

「ん?これは仕事では無く報告書ですね...」

 

 

十蔵はそう呟くと、1枚の書類を手に取る。

仕事の書類に混じっていたが、それは仕事関係の書類では無く報告書だった。

十蔵は混じっていたことに少し驚いていたが、じっくりとその報告書を読んでいく。

その報告書は、鈴とセシリアが帰国する前に拘束室の警備を担当していた責任者からのものだった。

 

 

「...織斑先生が、何度も拘束室前に来ていた?」

 

 

報告書を読み終わった十蔵はそう言葉を零す。

そうして、十蔵は思いっ切りため息をついた。

 

 

「織斑先生、1年前までは頼りがいのある先生でしたが...今年になってから如何もおかしいですね」

 

 

そうして、その報告書を机の上に置きながらそう呟き、頭を押さえる。

 

 

「これは、警備責任者を変えないといけないですかね...」

 

 

まるで頭痛がすると言わんばかりの表情で十蔵はそう言う。

十蔵は取り敢えず心を落ち着かせる為に再び湯呑を手に持ちお茶を飲む。

そうして、暫くそのまま休憩していたが、操関係以外にも仕事はあるので空になった湯呑を机の上に置き、仕事を再開する。

予算、教育方針、世界各国や各企業からの視察や、中学校からの見学依頼など。

様々な仕事をしていく。

そんな中、十蔵は2枚の書類を見て手を止める。

 

 

「転入書類...そう言えばそうでしたね」

 

 

十蔵はそう言うと、その書類を確認する。

そう、その書類はGW明けにやって来る転入生2人の書類だった。

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒさん。ドイツ代表候補生で、ドイツ軍IS部隊シュヴァルツェ・ハーゼの隊長...まさか、軍人を転入させてくるとは」

 

 

十蔵は苦笑いを浮かべながらそう言葉を零す。

 

 

「なるほど、専用機持ちなのですか。それに、ドイツという事なら門藤君とも関わりがあるかもしれないですね。まぁ、これなら門藤君の負担にはならないでしょう」

 

 

十蔵は視線を上げながらそう少し安心したように言葉を零す。

操は入学してから千冬関係だったり、盗聴器だったり、試合へ乱入されたりなど様々なトラブルに巻き込まれている。

その事をたびたび相談されている十蔵にとっては、操の事が心配だったのだ。

だからこそ、新たなトラブルにはならなさそうで十蔵は安心したのだ。

 

 

「さて、もう1人は......何ですと!?」

 

 

そうして、ラウラの書類を置いた十蔵はもう1枚の書類を確認し、珍しく大きな声を発する。

だが、それも仕方が無いだろう。

何故ならば...

 

 

「シャルル・デュノア。フランスの代表候補生で、3人目の男性IS操縦者...」

 

 

十蔵は自分の目が、自分の認識が正しいものであることを確認するかのようにそう呟く。

そう、もう1人の転校生はまさかの3人目だったのだ。

 

 

「いろいろと怪しいですね.....」

 

 

何で今になって発見されたのか。

何故もう既に代表候補生になっているのか。

そして、デュノアというファミリーネーム。

 

 

「...デュノア社のスパイという可能性がありそうです」

 

 

十蔵は眉間を押さえながらそう呟く。

そう、デュノア。

訓練機であるラファール・リヴァイヴの開発元であり、IS世界シェア3位の大企業である。

しかし、最近は技術の遅れでドンドン経営難に陥っているという噂もある企業。

そんな企業と同じ名前を持つ、異様な時期に発見された男性IS操縦者。

怪しくない訳がない。

 

 

「これは、やはりトラブルに発展するという事ですか.....」

 

 

そうして、十蔵は今までの人生で1番大きいんじゃないかという程のため息をつくのであった...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「隊長、そろそろお時間です」

 

 

「ああ、分かっている」

 

 

ドイツ、シュヴァルツェ・ハーゼの基地で。

大きな鞄に荷物を入れたラウラは、クラリッサにそう返事をする。

GW明けにIS学園に転校するラウラは今から日本に向かうのである。

 

 

「隊長、()()は本当に持っていくんですか?」

 

 

クラリッサは、ラウラの目の前の机の上にある2()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を見ながらそう言葉を零す。

ラウラは頷いてから言葉を発する。

 

 

「ああ。操の話を聞く限り、()()は操のものだろう。外見的にもな」

 

 

「確かにそうですね」

 

 

クラリッサが頷いた事を確認したラウラはそのまま()()も鞄に詰める。

その際に、()()が暴れたため、クラリッサと協力して約15分を費やして鞄に詰め込んだ。

 

 

「ふぅ、ふぅ、かなり大変だったぞ」

 

 

「はい、そうですね...検疫で引っ掛からないですかね?」

 

 

「ああ、大丈夫だろう...第一、()()をおもちゃ以外にどうやって申請しろと?」

 

 

「...なるほど」

 

 

少し疲れた雰囲気を醸し出しながらラウラとクラリッサはそう会話する。

 

 

「さて、そろそろ空港に向かう事にしよう」

 

 

ラウラはそう呟くと、その荷物を全て手に持ち、移動を開始する。

そんなラウラの後に続いてクラリッサが付いて行く。

そうして、2人が基地の外に出ると

 

 

『隊長!』

 

 

と、シュヴァルツェ・ハーゼの隊員全員が揃っていた。

 

 

「それでは隊長、頑張って下さい!」

 

 

『頑張って下さい!』

 

 

そして、隊員たちはラウラに向かって笑顔でそう言う。

操が来る前はあまりラウラと隊員たちの仲は良くなかった。

だが、操のお陰で今はこうして全員に笑顔で送り出してもらえる。

その事に、ラウラも口元に笑みを浮かべる。

 

 

「ああ、行ってくる!」

 

 

そうしてラウラはそう返事をすると、4月の操と同じように、空港に向かうためにバス停に歩き出したのだった...

 

 

 

 




もしや、もしや...
アイツ等なのか!?

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告何時もありがとうございます!
今回も是非よろしくお願いします!


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金と銀の転校生

サブタイそのままです。
どうなるのかな?

今回もお楽しみください!


操side

 

 

「うぅ...朝か...」

 

 

アラームが鳴る音で目を覚ました俺は、ベッドから上体を起こしながらそう呟いた。

そのままアラームを止めてベッドから降りそのまま洗面所に向かう。

うがいをして、顔を洗う。

 

 

「ふぅ...目が覚めた」

 

 

俺は顔を拭いてからそう呟くと身体を伸ばしてからキッチンに向かう。

そして、朝食の材料を取り出すとそのまま調理を開始する。

今日の朝ご飯は白米と納豆とみそ汁と焼き鮭。

みそ汁はもう昨日のうちに作っておいたし、納豆は市販品のものだから今から準備するのは白米と焼き鮭だけ。

米をとぎ、炊飯器にセットする。

そしてそのまま高速炊飯で炊き始める。

IS学園教員寮は1人暮らし専用なので、置いてある家電は基本的に1人用のものだ。

なのでこの炊飯器も1人用のものなので高速炊飯だったら10分くらいで炊きあがる。

そうして、炊きあがるのを待つ間に鮭を焼き始める。

 

 

「今日からまた学校か。釣りは楽しかったなぁ...」

 

 

鮭を焼きながら俺はそう言葉を発する。

釣りに行ったメンバーとはかなり仲良くなれた。

本当に嬉しい。

やっぱり、仲間は、友達は大事だからな。

 

 

「そう言えば、ラウラはGW明けに転校してくるって言ってたけど、今日からかな?」

 

 

だったら嬉しいな。

それにしても、クラリッサの専用機が俺のせいで開発ストップしたのは今思い出しても心が...

 

 

「はぁ...って、まだ朝なのに落ち込んでたら駄目だ!取り敢えずご飯食べて元気になろう!」

 

 

そうして、焼き鮭を作り終えたので皿に移す。

みそ汁も準備し、焼き鮭と共に机に持っていく。

麦茶の入ったコップを用意し、納豆と共に机に移動させると、丁度白米が炊きあがった。

茶碗を取り出し、白米をよそってから箸と共に机に持っていく。

 

 

「さて、いただきます!」

 

 

男の飯の時間なんて、10分もかからない。

それが朝食なら尚更。

その為、自炊すると準備や片付けの時間の方が長くなる。

いや、それは全員か。

 

 

「ご馳走様でした」

 

 

食べ終わったので、俺は食器と調理道具を洗う。

片付け終わったのでそのまま歯磨きをする。

そしてスーツに着替え、胸元にIS学園の校章を付ける。

 

 

「さて、教科書類は入れ忘れないな」

 

 

教科書の確認をしてから、俺は鞄を持つ。

そしてジュウオウザライトを懐に入れてから部屋を出て鍵を掛ける。

 

 

「いい天気」

 

 

思わずそう呟いてしまうくらい、いい天気だった。

 

 

そうして、俺は教室に向かって歩いて行く。

実は入学してからまだ1ヶ月くらいだ。

だけれども、もう教室まで行くのは慣れた。

この慣れが所謂5月病に繋がるのかな?

そんな事を考えていると教室前に着いた。

 

 

「おはよう!」

 

 

教室の扉を開けて俺は挨拶をする。

 

 

「門藤さん!おはようございます!」

 

 

「おはよーございます!」

 

 

そんな元気な返事を聞きながら俺は自席に移動し、荷物を机に置く。

すると、俺の席にのほほんさんを始めとした釣りメンバーが集まって来た。

 

 

「操さ~ん、おはよぉございます」

 

 

「ああ、おはよう。それにしても、釣りの時よりかは起きてるね」

 

 

のほほんさんが話し掛けて来てくれたので、俺はそう返事をする。

すると、のほほんさんは『にへぇ』という擬音が似合うような笑みを浮かべると

 

 

「目覚まし10個掛けたうえで、かんちゃんに起こしてもらいました~~」

 

 

と、何処か誇らしげにそう言う。

その事に俺を含めこの場にいる全員が苦笑いを浮かべた。

そこから暫く全員で談笑した後、SHRの時間が迫って来たので各自席に戻った。

そうして大体10分後、チャイムが鳴り

 

 

「全員席に着け。SHRを始める」

 

 

と言いながら織斑先生が、その後を追うように山田先生が教室に入って来た。

 

 

「さて、山田先生。お願いします」

 

 

「分かりました」

 

 

織斑先生がそう言うと、山田先生が教壇の前に立つ。

山田先生は普段から少し幼い印象を受けるが、今日はなんか一段と幼く感じる。

何だろう?

良い事でもあったのかな?

 

 

「今日はなんと皆さんに嬉しいニュースです!今日からこのクラスに転校生がやって来ます!」

 

 

『やったぁあああああ!!』

 

 

山田先生がその言葉を言うと、間髪入れずにみんながそう喜びの声を叫ぶ。

ノータイム過ぎてチョッとビックリした。

それにしても、転校生!

って事はラウラかな?

 

 

「それでは、お2人入って来てください」

 

 

山田先生は教室の扉を見ながらそう言葉を発する。

 

 

...2人?

そんな事があるのか?

俺がそんな事を考えていると、教室の扉が開き件の転校生2人が教室に入って来た。

 

 

「......え?」

 

 

転校生を見た俺は、思わずそんな疑問の声を発してしまう。

転校生の1人は少し小柄で、長い銀髪の左目に付けた黒い眼帯が特徴的な女子...ラウラだった。

ラウラはいい。

GW明けに来ることを知ってたし、俺も予想していた。

俺が驚いたのは、もう1人。

金髪で少し長めの髪を後ろで結んでいて、穏やかそうな笑みを浮かべている。

そして、男子用の制服を着用した、そのもう1人に。

 

 

「では、自己紹介をお願いします。先ずはデュノア君!」

 

 

「はい」

 

 

山田先生がそう言うと、その金髪の男子生徒が1歩前に出る。

 

 

「初めまして、フランスからやって来ましたシャルル・デュノアです。いろいろと不慣れな事が多いですが、よろしくお願いします」

 

 

そして、その生徒...シャルル・デュノアはそう言った後、ぺこりと頭を下げた。

 

 

「だ、男子...?」

 

 

クラスの誰かがそうポツリと尋ねた。

すると、シャルル・デュノアは笑みを浮かべてから言葉を発した。

 

 

「はい、此方に僕と同じ境遇の方が2名いると伺い、本国より転校を...」

 

 

『きゃあああああ!』

 

 

シャルル・デュノアの言葉を遮るように、クラスのみんなが絶叫を上げる。

 

 

「み、耳、耳がぁ...!」

 

 

いてぇ...

やっぱり、こんだけの人数が一気に叫ぶとダメージが...

 

 

「男子!3人目の男子!」

 

 

「門藤さんの優しくて頼りがいのある感じとは違う、守ってあげたくなる系!」

 

 

みんなは一様にそんな事を言う。

それにしても、男子...

骨格的には女子だと思うけど...

俺だって大和と一緒に動物の研究をしていたんだ。

見た目で骨格の形くらいは分かるようになってる。

それは人間でも同じ事。

大和の言う通り、人間だって動物だからな。

その上で、やっぱり女子に見える。

なんか怪しい...

 

 

「全員落ち着け!まだ1人残っているだろう!」

 

 

『はい!』

 

 

織斑先生のその言葉で、少し騒がしかった教室は直ぐに静かになる。

 

 

「では、次にボーデヴィッヒさん、お願いします」

 

 

「はい」

 

 

静かになった事を確認した山田先生がそう言うと、今度はラウラが1歩前に出る。

 

 

「ドイツ軍IS部隊シュヴァルツェ・ハーゼ隊長で、ドイツ代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒだ。軍人ゆえあまり世間一般常識に詳しくないのでいろいろと迷惑を掛けてしまうかもしれないが、是非仲良くしてくれ」

 

 

ラウラは簡単に自己紹介すると、少し、ほんと~~に少しだけ、口元に笑みを浮かべた。

その瞬間に

 

 

『か、かわいい...!』

 

 

と、クラスのみんながそう声を漏らしていた。

スゲェ揃ってる。

急にかわいいと言われたからかラウラは若干視線を泳がせた。

その瞬間に、俺と軽く目が合う。

俺が笑みを浮かべると、ラウラも笑みを返してくれた。

 

 

ん?何で織斑春十は固まってるんだ?

シャルル・デュノアの自己紹介の時は普通だっただろ。

ラウラの自己紹介に何か変なところでもあったか?

 

 

「ではお2人とも、席について下さい。デュノア君がこっちで、ボーデヴィッヒさんがそっちです」

 

 

山田先生は開いている席を指さしながらそう言う。

その指示に従い、ラウラとシャルル・デュノアはそれぞれの席に歩いて行く。

織斑春十の前を通る際、ラウラは何処か睨むような表情で織斑春十の事を見ていた。

まぁ、アイツの過去の行動は俺が言ってあるからな。

嫌悪感を抱いたのかもしれない。

それもこれも織斑春十の自業自得だ。

 

 

「さて、これで転校生の紹介は終わりだ」

 

 

2人が席に着いた事を確認した織斑先生はそう言葉を発する。

その瞬間に、2人に集まっていた視線は織斑先生に戻る。

 

 

「この後の授業は2組との合同実技だ。第一アリーナに着替えてから集まっておけ!それと、織斑はデュノアを男子更衣室に案内するように」

 

 

相変わらず軍隊のように指示を出しますね、織斑先生。

そんな感じで良いんですか?

 

 

「さて、伝える事はもう無いのでSHRを終わる。直ぐに行動を始めろ!」

 

 

織斑先生はそう言うと、そのまま教室から出て行った。

山田先生はそんな織斑先生の後を追って教室から出て行った。

だが、その表情はさっきまでとは異なり、何処か呆れたような、疲れたような、そんな感じの表情だった。

さて、教室ではみんなが着替えるから早く移動しないとな。

俺も席を立ちあがり教室の外に出る。

チラッとラウラの事を見ると、席の周りにそこそこな人が集まっていた。

ラウラは部隊のみんなと仲が良いから、あの状態だったら直ぐに馴染めるだろう。

本人が言ってたように世間とのズレが気になるけど。

ま、ラウラなら大丈夫だろ!

 

 

俺はそんな事を考えながら第一アリーナに向かって廊下を歩く。

 

 

「みんな!転校生を探すわよ!」

 

 

「何処だ何処だ~~!?」

 

 

「皆の衆、であえであえ!」

 

 

その道中、何やら2、3年生の先輩だったり他クラスの生徒達がそんな事を言いながら何処かに向かって移動していた。

言葉から察するに、シャルル・デュノアの事を探してるのかな?

何時からIS学園は武家屋敷になったんだろう?

 

 

「...まぁ、良いか。転校生に、それも男子に注目が集まるのは普通だな」

 

 

少し怪しいけど。

さて、早くアリーナに行かないとな...

 

 

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三人称side

 

 

時刻は進み昼休み。

食堂には多くの生徒が集まり、昼食を食べていた。

 

 

1時間目の合同実技では、教員の実力証明という事で春十と真耶が模擬戦をする事になった。

その間にシャルルは真耶が使用していたラファール・リヴァイヴの解説をしようとしていたが、春十があっさりと負けた為解説が出来なかったというハプニングもあったがそれ以外では特に大きなトラブルも無かった。

専用機持ちが一般生徒に教える時間では、普段ISを使用していない操だけれども、シュヴァルツェ・ハーゼでの短期間でのトレーニングとIS開発者直々の指導によって訓練機の扱いはほぼ完璧である。

その為、問題なく教える事が出来ていた。

 

 

専用機持ち2人は停学(1人は退学も決定)なので教えるメンバーは少し少なかったが、現役軍人でIS部隊隊長のラウラの活躍によりスムーズに授業は進んでいた。

そんな中で、春十はあまり上手く教えられていなかった。

初心者であるというのもそうだが、3人が停学になった事をまだ受けられていないのかしっかりと行動が出来ていなかった。

 

 

そして今、食堂では1つの人だかりが出来ていた。

その中心にいるのは、春十とシャルルの2人である。

2人は授業前から千冬の指示で一緒にいたので、そのままの流れで昼休みも2人で行動しているのだ。

 

 

そんな人だかりから外れた位置では

 

 

「...!うまい!」

 

 

ラーメンを啜りながら目を輝かせているラウラがいた。

 

 

「もうちょっと落ち着いたら?」

 

 

同じくラーメンを啜って、ラウラの正面に座っている操が苦笑いを浮かべながらラウラに向かってそう言う。

そんな操とラウラの近くには、簪を始めとした釣り組が揃っていた。

食堂内の殆どが春十とシャルルに注目されているため、同じ転校生であるラウラもクラスのメンバーと操と関わりがある人以外からの注目は今現在はあまりなかった。

 

 

「ふぅ、ご馳走様」

 

 

「ご馳走様でした」

 

 

そうして、ラウラと操は同じタイミングでラーメンを食べ終わった。

ラウラは満足したのか箸をおき、少し笑みを浮かべている。

 

 

『かわいい...』

 

 

そんなラウラを見て、簪達は思わずそんな事を呟いた。

 

 

「それにしても、1ヶ月ぶりだな、ラウラ」

 

 

「ああ、久しぶりだ」

 

 

操がそう言うと、ラウラはそう返事をする。

 

 

「えっと、お2人の関係ってどういったものなんですか?」

 

 

ここでティナが操とラウラにそう質問をする。

2人はティナの方に顔を向けると、言葉を発した。

 

 

「俺にとってのラウラは、友達で、お世話になった人かな?」

 

 

「私にとっての操は、友人であり、私の、私達の可能性を広げてくれたんだ」

 

 

「えっと...?」

 

 

操とラウラがした説明に、簪がそう首を捻る。

 

 

「まぁ、今の説明じゃそうなっちゃうか」

 

 

操はそう言うと、ラウラと共に説明を開始した。

ジュウオウジャーの世界の説明をする訳にはいかなかったので、操が仕事関係でシュヴァルツェ・ハーゼの基地で生活する事になった際、悩んでいたラウラに声を掛けたというかなり端折ったり誤魔化したりした説明をした。

その説明で、全員が納得したようだ。

 

 

「はぇ~~、そんな事があったんだねぇ、ラウラウ」

 

 

「ラ、ラウラウ?」

 

 

本音がラウラの事をあだ名で呼び、ラウラが呆気に取られたようにそう呟く。

 

 

「うん!ラウラだからラウラウ!良いでしょ~~」

 

 

「...まぁ、特に問題は無いな」

 

 

笑顔でそう言う本音に、ラウラは若干笑みを浮かべながらそう返す。

ラウラも、やはり友人が新しく出来るというのは嬉しいんだろう。

 

 

「そうだ。操、お前に渡したいものがあるんだ。放課後に寮の部屋に行って良いか?」

 

 

「ん?渡したいもの?俺、基地に何か忘れ物してたっけ?」

 

 

ラウラが操に声を掛けると、操はそう声を発する。

 

 

「いや、そういう訳では無いんだ」

 

 

「分かった。それは放課後じゃないといけないのか?」

 

 

「そこそこなサイズがあってな。今は私の荷物と共に部屋にあるんだ」

 

 

「なるほど」

 

 

ラウラの説明に操は納得したように頷いた。

だが、直ぐにその表情を少し曇らせる。

 

 

「...俺、教員寮に住んでるんだよね。来て大丈夫かな?」

 

 

操がそう言うと、ティナたちが一斉に考える。

 

 

「無許可では駄目なような気がします」

 

 

「そうだよな...仕方が無い、後で山田先生に確認しよう。許可が取れなかったら、何処か空き教室で良いか?」

 

 

「ルールを破るわけには行かないからな。それで良いだろう」

 

 

ここでいったん会話を終わらせ、全員が食器類を返却する。

そうして、食堂を出る際に操がチラッと春十とシャルルの方を見ると、シャルルが周りからの質問攻めにあっていた。

これも転校生の定めだと操は考え、そのまま食堂を出て行った。

そうして、1組の教室に移動してから全員で談笑した。

 

 

「今あまり関係ないけど、簪の専用機ってどうなったんだ?」

 

 

「あ、クラスのみんなにその事を話したら、みんな協力するって言ってくれて...今みんなで造ってます。多分、6月末までには...」

 

 

「おお!俺も手伝うから、何かあったら言ってね」

 

 

「はい!」

 

 

操と簪がそんな会話をしている側では、ラウラが本音を始めとしたクラスメイト達と喋っていた。

時には笑いが起こっているので、ラウラもかなり馴染み始めているのだろう。

 

 

「あ、そろそろ予鈴なるから簪とティナは教室に戻ったら?」

 

 

「あ、そうですね。もう戻ります」

 

 

「それじゃあ、また今度!」

 

 

簪とティナはそう言うと、1組の教室からそれぞれの教室に戻っていった。

その後、操やラウラ達も自分の席に座った。

そして続々とクラスメイトが教室に戻ってくる中、春十とシャルルは戻ってこなかった。

先輩達によって質問攻めにあったシャルルと春十は結局授業に遅れ、千冬の出席簿によって叩かれるのだった。

 

 

 

 




今日からラウラと簪と本音もEDダンスを踊ってくれるよ!

簪「はぁ、はぁ、つ、疲れる...」

本音「かんちゃん、漫画とかゲームだけじゃなくて、運動もしよ~よ」

ラウラ「ダンスか。今までしたことが無かったから新鮮だったぞ」

操「取り敢えず、楽しんで踊ろう!」

3人「ああ!/はい!」

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告何時も本当にありがとうございます!
今回もよろしくお願いします!


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再会!戦友のアニマル!

サブタイでのネタバレ。
遂にアイツ等の出番です!

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

「何だよ!何が如何なってるんだよ!」

 

 

放課後、IS学園の生徒寮の1室で。

同室であった箒の停学処分により1人部屋になった自室で、春十はそんな事を叫んでいた。

 

 

「何でだよ!何でラウラがあんなにしっかり自己紹介してるんだよ!」

 

 

春十はそう言うと、壁の事を殴る。

痛かったのか、殴った右手の甲を左手で撫でる。

 

 

そう、春十が騒いでいる原因。

それは今日転校してきたラウラだった。

原作では、ラウラは千冬の事を崇拝し力が全てだと思い込み、その結果一夏の事を恨んでいたり周りに対しても冷たく当たっていた。

そんなラウラが普通に自己紹介をしたのだ。

転生者であり、原作知識がある春十は混乱するに決まっている。

 

 

「クソッ!クソッ!!」

 

 

春十は苛立っていた。

箒とセシリアは停学、そして鈴は退学。

原作ならばあり得ない出来事が重なったうえでの今回の出来事。

苛立ちを覚えるのも当然なのかもしれない。

 

 

だが、そもそもの話、春十の存在自体が原作にはないものなのだ。

春十の存在が、原作離脱の最初の切っ掛けなのだ。

その事に気付いていないあたり、状況把握がしっかりと出来ていない。

 

 

「それもこれも、全部あの門藤操のせいだ!アイツが、主人公の俺から活躍の機会を奪うからだ!」

 

 

春十は、原因が操だと考えている。

完全な思い違いの八つ当たりなのだが、春十はそれを分かっていない。

 

 

そうして、暫くの間春十は同じような内容の事を喚き散らかしていたが、やがて肩で息をし始めた。

 

 

「くっそぉ...!!」

 

 

春十がそう恨むような表情で呟いたとき、

 

 

コンコンコン

 

 

「織斑君、山田です。デュノア君を連れて来ました。今大丈夫ですか?」

 

 

部屋の扉がノックされ、部屋の外からそんな真耶の声が聞こえる。

その声を聞いた瞬間、春十は口元に笑みを浮かべた。

 

 

「はい、大丈夫です」

 

 

春十がそう返事をすると部屋の扉が開き、大量の荷物を持ったシャルルが部屋に入って来た。

 

 

「では、私はお暇しますね!」

 

 

真耶はそう言うと、そのまま歩いて行った。

 

 

「シャルル、荷物大丈夫か?」

 

 

「春十、大丈夫だよ」

 

 

シャルルはそう言うと、荷物を取り敢えず地面に置き軽く伸びる。

そんなシャルルの事を見て、春十は再び口元に笑みを浮かべる。

 

 

(良し!シャルは原作通りだ!これで、後は正体が判明した時に俺が励ますだけだ!)

 

 

春十は心の中でそんな事を考える。

そんな春十の事はつゆ知らず、シャルルは荷物から着替え等を取り出し、仕舞おうとする。

その時に、下着類を春十に見えないように隠していた。

 

 

(ふぅ、取り敢えず同室にはなれた。本当は門藤操が良いって言われるけど、春十でも問題は無いみたいだし...はぁ...何で僕がこんな事を...)

 

 

シャルルは内心でため息をつきながら荷物を仕舞っていく。

 

 

「これからよろしくな、シャルル!」

 

 

(ハハハハハ!俺はハーレムを作るんだ!シャルも俺に惚れさせてやる!)

 

 

シャルルが荷物を仕舞い終わった事を確認した春十は、笑顔で右手を差し出しながらそう声を掛ける。

表面上は普通なのだが、内面はまたろくでもない事を考えている。

 

 

「うん、よろしく。春十」

 

 

右手を差し出されたシャルルは、笑顔でそう返答しながら握手をする。

 

 

(僕の自由の為なんだ...利用させてもらうよ、春十)

 

 

シャルルもシャルルで、内心そんな事を考えている。

そんな、2人とも何かを企んでいる2人は、取り敢えず夕食を食べるために食堂に向かうのだった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

操side

 

 

「さて、早く学園長室に行かないと」

 

 

昼休みにラウラ達と共に談笑してから時刻は進み放課後。

俺は学園長室に向かっていた。

 

 

あの後、山田先生にラウラを教員寮に入れて良いかの確認をしたところ、OKを貰ったのだが、その時に放課後学園長室に来るように言われたのだ。

何でも学園長が話したい事があるとかで...

わざわざ学園長が話したいと言っているのだから、何か重要な事なのだろう。

断れるわけが無いので、ラウラに言って先に学園長室に向かっているのだ。

 

 

「それにしても何だろう?盗聴器の犯人でも分かったのかな?」

 

 

いい加減捕まって欲しい。

まぁ、今の所新しい危害がある訳でも無いし、気長に待ちますか...

 

 

そんな事を考えていると学園長室前に着いた。

身だしなみを確認してから、扉をノックする。

 

 

コンコンコンコン

 

 

「門藤操です。入っても宜しいでしょうか?」

 

 

『はい、大丈夫ですよ。入って来てください』

 

 

入室の許可を貰ったので、俺は扉を開ける。

 

 

「失礼します」

 

 

「門藤君、今日は呼び出してすみません。どうぞ、座って下さい」

 

 

「はい」

 

 

学園長に言われたので、俺は学園長の向かいのソファーに座る。

学園長を見ると、如何も少し疲れているように感じる。

何かあったのかな?

仕事がいっぱいあったとか...

あれ?

だったら俺が原因じゃないか?

なんか、凄い申し訳ない...

 

 

「それで、今日はいったい何があったのでしょうか?」

 

 

「実は、シャルル・デュノア君の事なのです」

 

 

「シャルル・デュノアの?」

 

 

やっぱり、アイツ何処か怪しいからな...

 

 

そこから、学園長は説明を聞いた。

デュノアというファミリーネームは、IS世界シェア3位の大企業であり訓練機のラファール・リヴァイヴの開発元でもあるデュノア社と同じものである事。

そして、デュノア社は技術の遅れでドンドンと経営困難な状況に陥っているという事を。

 

 

「なるほど...つまり、シャルル・デュノアは...」

 

 

「はい。デュノア社のスパイの可能性があります」

 

 

スパイ、か。

本当にいるだなんて...

 

 

「それじゃあ、シャルル・デュノアには注意をしておいた方が良いですね」

 

 

「その方が良いと思います」

 

 

学園長はそう言うと、ため息をついた。

やっぱり疲れているらしい。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

 

「はい、大丈夫です...しかし、少し疲れてますね...」

 

 

俺がそう尋ねると、学園長は疲れた様子など隠さずにそう言葉を漏らした。

 

 

「私が入学してから、たびたび負担をお掛けしてすみません」

 

 

「いえいえ、門藤君もトラブルに巻き込まれているのですから気にしないで下さい」

 

 

ここで、俺と学園長は同時にため息をつく。

全く、俺と学園長が何をしたっていうんだ...

ISを動かしました。

はい。

 

 

「では、私はこれで。この後約束があるので...」

 

 

「はい、今日はわざわざありがとうございました」

 

 

俺はそんな学園長の言葉を聞いてからソファーから立ち上がり、入り口の方に移動する。

 

 

「失礼しました」

 

 

そう言ってから軽く頭を下げ、学園長室から出て扉を閉める。

 

 

「はぁ...またいろいろと大変だなぁ...」

 

 

俺は思わずそんな事を呟いてしまう。

あ、早く自室に戻っておかないと...

俺はそう判断し、学園長室前から教員寮に向かって歩き出す。

 

 

そうして、校舎から外に出た時生徒寮がある方向にラウラが見えた。

その手にはそこそこなサイズの箱を手に持っている。

 

 

「お~い!ラウラ~!」

 

 

俺が呼びかけると、ラウラも俺に気付いたようだ。

俺の方に視線を向けて

 

 

「操!もう終わったのか?」

 

 

という。

俺はラウラの近くに駆け寄る。

 

 

「ああ、今丁度終わったんだ」

 

 

「そうか。ならタイミングが良かったな」

 

 

「そうだな。じゃあ、早速俺の部屋に行こうか」

 

 

「ああ」

 

 

そう短く会話した後、俺とラウラは並んで教員寮に歩いて行く。

 

 

「へぇ、クラリッサが日本の漫画を大量に...」

 

 

「ああ、たしか100冊ほどまとめて購入していたぞ」

 

 

「そ、それは多いな...」

 

 

如何やって保管するんだよ。

シュヴァルツェ・ハーゼの基地の部屋、そんなに広くないだろ。

雑談をしながら歩いていると、教員寮に着いた。

俺とラウラはそのまま俺の部屋の前まで移動し、そのまま扉の鍵を開け部屋の中に入る。

 

 

「そう言えば、俺の部屋に俺以外が入るのは初めてだな」

 

 

「そうなのか?」

 

 

「教員寮だからな。座ってていいぞ、お茶準備するから」

 

 

「そうさせてもらおう」

 

 

俺がそう言うと、ラウラはその箱を地面に置いてから机の前に座る。

それを確認してから、俺はお茶を準備する。

まぁ、と言っても2Lのペットボトルからコップに移すだけだけどな。

棚からコップを2つ取り出し、それぞれにお茶を入れる。

 

 

「はい」

 

 

「ありがとう」

 

 

机の前に移動した俺はそのままコップの片方をラウラに差し出す。

ラウラはそれを受け取ると、そのまま飲み始める。

...何と言うか、小動物みたいで可愛いな。

シュヴァルツェ・ハーゼ、黒い兎か。

 

 

「まさに兎...」

 

 

「っ!ゴホッ!ゴホッ!」

 

 

「ちょ!?大丈夫か!?」

 

 

俺が思わずそう呟くと、ラウラが急に咳き込んだ。

慌てて立ち上がりラウラの後ろに移動するとその背中をさする。

暫くラウラは固まっていたが、やがて深く息を吐いた。

 

 

「きゅ、急にどうしてそんな事を言うんだ!」

 

 

「え?思った事を言っただけだけど」

 

 

俺がそう言うと、ラウラは顔を赤くして視線を逸らした。

そんな動作が小動物感を加速させてる気がする。

 

 

「これは、1年1組のマスコットになる未来もすぐそこか?」

 

 

「やめろ!恥ずかしい...」

 

 

ラウラはさっきまでよりも顔を赤くして俯きながらそう言う。

これは、クラリッサ達に写真を送りたい。

何だかんだんでシュヴァルツェ・ハーゼのみんなはラウラの事大好きだからな。

 

 

「それで、俺に渡したいものって?」

 

 

「あ、ああ!そうだった」

 

 

俺が今日の本来の目的を改めて聞くと、ラウラは思い出したかのような声を発すると、床に置いていた箱をもう1度持ち俺の方に持ってきた。

なんか、本当にそこそこのサイズがあるな...

ん?

なんか少しガタガタしてない?

ほ、本当に何が入ってるんだ...?

 

 

「開けて良いか?」

 

 

「ああ、良いぞ」

 

 

ラウラに許可を取ったので、俺は箱の蓋に手を掛ける。

そうして、蓋を開けると

 

 

ゴォン!

 

 

「痛ぁ!?」

 

 

は、鼻がぁ!?

箱を開けたとたんに、箱の中に入ってる何かが俺の顔面に激突してきた。

滅茶苦茶痛い!

俺は思わず鼻を押さえて床に転がる。

 

 

「大丈夫か!?」

 

 

ラウラが俺に駆け寄って来る。

俺は暫くの間床に寝転がっていたが、痛みが引き始めると上体を起こす。

 

 

「あ~、痛い~」

 

 

「だ、大丈夫か?」

 

 

「あ、ああ。取り敢えずは...」

 

 

ラウラが心配そうに俺に声を掛けてくれる。

俺はそう返しながら、箱の方に視線を向ける。

いったい何が激突してきたんだ...

 

 

「えっ...?」

 

 

俺は箱の中から出て来たであろうものを視認したとたん、そんな声を漏らしてしまう。

 

 

 

「ライノス!ウルフ!クロコダイル!何でここに!?」

 

 

そう、箱の中にあったもの。

それは俺の...ジュウオウザワールドのサポートメカのキューブアニマル、キューブライノス、キューブウルフ、キューブクロコダイルだった。

ライノスは楽し気に床を走り回っており、ウルフとクロコダイルは俺に向かってくる。

 

 

「痛ててててて!?おいクロコダイル!指を噛むな!」

 

 

余程嬉しかったのか、クロコダイルは俺の左手の指を噛んでくる。

ただでさえ鼻を痛めたのに指まで痛めるだなんて!

 

 

「ライノス!足に激突するな!」

 

 

痛くはないけど、衝撃は感じる!

 

 

「おお、ウルフ...お前は何もしないんだな」

 

 

ライノスとクロコダイルが俺に何かと激突してくる中、ウルフだけは俺に近寄ってピョンピョンしてるだけだった。

俺はウルフの事を撫でる。

すると、ウルフは嬉しそうに遠吠えの様な動作をした。

 

 

「取り敢えずみんな、落ち着いてくれ!」

 

 

俺がそう呼びかけると、クロコダイルとウルフはキューブモードに戻りってライノスの荷台に搭載される。

ライノスはキューブアニマルの中で唯一キューブモードが無いので、そのまま部屋の端の方に移動した。

そこまでしなくても良いんだけど。

 

 

「何でラウラがキューブアニマルたちを持ってたんだ?」

 

 

取り敢えず落ち着いたので、俺はラウラにそう質問をする。

俺がこの世界に来た時に、確実にキューブアニマルたちは持って無かった。

なのに何でラウラが持ってるんだ?

するとラウラは

 

 

「4月の中旬くらいの事だったな。任務で再び私達が初めて会ったところの近くに行ったんだ」

 

 

「ああ、あの廃倉庫の近くで、某採掘場の様な場所か」

 

 

あの時から3ヶ月も経ってないのに、随分と懐かしく感じる。

これが年...?

いや、まだ23だ!

全然若い!

 

 

「それで、その廃倉庫の近くに落ちてたんだ」

 

 

「廃倉庫の近くに...」

 

 

何だ?

もしかして追いかけて来たのか?

だったとしたら、1ヶ月近く放置していたと?

 

 

「...ごめん!」

 

 

俺はライノスたちに頭を下げる。

すると、ライノスがまるで気にするなと言わんばかりに走り回る。

特に怒ってないようで安心した。

いや、あの嚙みつきや激突が怒りの表現だったのかな?

 

 

「ラウラ、届けてくれてありがとう」

 

 

「ああ、どういたしまして」

 

 

俺がラウラにお礼を言うと、ラウラは笑みを浮かべながらそう返事をしてくれた。

これで、何かがあったときには()()が使えるな。

まぁ、()()はISとの戦闘じゃ使えないだろうし、学園で使うと被害凄そうだし、学園長に負担を掛ける事になるから本当の緊急時以外は使用厳禁だな。

 

 

俺がそんな事を考えていると、ラウラの表情が少し曇っている事に気が付いた。

 

 

「ラウラ、何かあったのか?」

 

 

俺はキチンと座り直してからラウラにそう尋ねる。

 

 

「何で分かった?」

 

 

「そんなに表情を曇らせてたらな...」

 

 

俺がそう言うと、ラウラは若干苦笑いを浮かべた。

そうして、そのままラウラはポツリポツリと話をしてくれた。

 

 

「...操の話を聞いて、織斑春十がかなりの外道だという事は理解した。今日実際に会ってみて、アイツからは良い印象を抱かなかった」

 

 

外道...確かにそうだな。

織斑一夏の事を虐め倒していた織斑春十は、少なくとも悪人であろう。

 

 

「でも、教官は、教官は未だに信じられないんだ。かつての操は助けてもらえなかったのかもしれない。でも、私が教官に救っていただいたのは事実なんだ。だから...」

 

 

ラウラのその言葉は、最後の方はまるで消えるようだった。

...こんな悩みをラウラに与えてしまったのは俺だ。

そんな俺に言葉を掛ける資格は無いのかもしれない。

でも、言わないといけない。

 

 

「え...?」

 

 

俺はラウラの頭を撫でる。

すると、ラウラが呆けたような表情をして、そんな声を発した。

俺は笑みを浮かべながら言葉を発する。

 

 

「人間は悩んでいくものさ。俺も、悩んで、挫折して、また悩んでの連続だった。でも、俺は大和達のお陰で自分の過去と、織斑一夏と決別できた。だから、ラウラもきっとその悩みは何時か解決するさ。大丈夫、辛くなったら頼っていいから」

 

 

「...ああ、ありがとう」

 

 

俺がそう言うと、ラウラは口元に笑みを浮かべた。

 

 

「さて、私はそろそろ帰ろうと思うのだが...」

 

 

「折角だから、夕ご飯作るよ」

 

 

「良いのか?」

 

 

「勿論!」

 

 

「そうか。なら食べさせてもらおう」

 

 

そうして、ラウラが夕食を食べていく事が決定した。

 

 

シャルル・デュノアの事でまだまだ悩む事は多そうだけど、ライノスたちと再会出来たし、取り敢えずこれからも頑張っていくかなぁ!

 

 

 




はい、キューブアニマルたちの登場回でした!
登場したは良いものの、活躍までは時間が掛かりそうだ...

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、いつもありがとうございます。
今回もお願いいたします。


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生徒会長の接触

さてさて、今回もサブタイで中身がまるわかり。

今回もお楽しみください!


操side

 

 

ラウラに持って来てもらったキューブアニマルたちと再会した翌日。

俺は普段通りに教室で授業を受けていた。

 

 

今朝は朝食を食べた後、キューブアニマルたちを持ってこようかとも迷ったが、流石にキューブになれないライノスは目立つので、ポケットに入るクロコダイルとウルフだけを連れて来た。

休み時間とかに人目に付かない所でポケットから出してやると嬉しそうにあたりを走り回っていた。

やっぱり初めて来るところは興奮するんだろうか。

真理夫さんのアトリエでも、結構走り回っていた記憶がある。

今度はライノスも走り回れるところに連れて行こうかな。

まぁ、何はともあれ授業に集中しないと。

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

集中して授業を受け、気が付いたら授業終了のチャイムが鳴った。

 

 

「あ、じゃあ授業はここで終わりね。次の授業はこの問4からだから、覚えておいてね」

 

 

今まで授業をしていたエドワーズ・フランシィ先生はそう言うと、教室から出て行った。

その瞬間に、みんなは身体を伸ばしたり、教科書を仕舞ったり、早速席から立ち上がったりしていた。

今の授業は4時限目。

つまりこれから昼休みなのだ。

 

 

「さて、俺も昼ご飯を食べよう」

 

 

今日はお弁当を作って来たからな。

何処で食べようか...

そうだ、折角だから屋上に行こう。

ティナと会ったときは屋上の扉の前だったから結局屋上には行った事が無いし、良い機会だから行く事にしよう。

俺は席を立ち、弁当箱を包んでる包みを手に持って屋上に向かう。

屋上に向かう階段前に来たので、そのまま上っていく。

 

 

「おお~~、綺麗ないい景色」

 

 

屋上に来た俺は、そう感想を漏らす。

屋上だというのに綺麗な床。

そして、IS学園が人工島丸々1つを使ってるが故の景色。

吹いてくる風は何処か爽やかさを感じる。

なるほど、これは良い場所だ。

それなのにも関わらず、俺以外には人はいない。

 

 

「1人占めしてるようで、気分が良いな♪」

 

 

俺はそう呟いてから備え付けのベンチに座り、膝の上に包みを乗せる。

そして包みを開けて弁当箱を取り出すと、そのまま弁当箱の蓋も開ける。

 

 

「さて、いただきます!」

 

 

俺は箸を手に持ってからそう言うと、そのままお弁当を食べ始める。

 

 

「うん、まぁまぁ」

 

 

味見した時も思ったけど、やっぱりもうちょっと味濃い方が良かったかな~~?

食べれる味ではあるし、もう作っちゃったものは修正できないからいいや。

そのままお弁当を食べ進めていると、不意に校舎内に続くドアが開いた。

視線をドアの方に向けると、そこには

 

 

「はぁ...何で僕が...」

 

 

と、ため息をつくシャルル・デュノアがいた。

シャルル・デュノアは俯いていて、如何やら俺に気付いていないらしい。

 

 

「あ、えっと...」

 

 

俺は何て言って良いのか分からず、思わずそんな言葉を呟いてしまう。

その瞬間に、俺がいる事を察したのだろう。

シャルル・デュノアはがばっと顔を上げる。

そして、俺とシャルル・デュノアの視線が合う。

 

 

「あ、え...?」

 

 

...気まずい!

暫くの間、屋上は静寂に包まれた。

俺が何か言おうとアワアワしていると、

 

 

「あ、えっと、門藤操さん...ですよね。ちゃんと話すのは初めてですね。シャルル・デュノアです」

 

 

と、シャルル・デュノアが挨拶をしてきた。

 

 

「あ、門藤操です。これからよろしくね、デュノア君」

 

 

俺は取り敢えずその挨拶に返す。

そして、俺とシャルル・デュノアは握手をする。

...細い。

初めて見た時からずっとそう思ってたけど、こうやって握手をしてみると余計にそう感じる。

やっぱり、もしかして...

 

 

「えっと...如何しました?」

 

 

「あ、ああ、ごめんごめん」

 

 

シャルル・デュノアに言われ、ずっと手を握ったままだったのを思い出した。

俺は慌ててその手を離す。

 

 

「えっと...門藤さんは何でここに?」

 

 

「ん、ああ。お昼ご飯を食べてたんだ」

 

 

俺は膝の上に乗ったままだった食べかけのお弁当を指さしながらそう言う。

それを見て、シャルル・デュノアも納得したようだ。

 

 

「すみません、お昼ご飯の邪魔をしてしまって」

 

 

「いやいや、屋上はみんなのものなんだから気にしないで。逆に、何でデュノア君は屋上に?」

 

 

俺は取り敢えず会話をしようとそう言った。

それに、屋上に来て直ぐに言っていた言葉、確か...『何で僕が』。

この言葉の理由も気になる。

 

 

「いや、あの、その、えっとぉ...き、気分で...」

 

 

シャルル・デュノアは思いっ切り視線を泳がせながらそう返答をする。

絶対に何かある。

寧ろ、私が隠してるのは何でしょうといった質問ゲームなんじゃないだろうか。

 

 

「そ、それじゃあ僕はこの辺で...」

 

 

シャルル・デュノアはそう言うと、踵を返して校舎内に続く扉に歩いて行く。

これは...気になるな。

 

 

「ウルフ、クロコダイル、頼む」

 

 

俺はポケットからウルフとクロコダイルを取り出すと、そのまま屋上の床に置く。

その瞬間に、キューブモードだったウルフとクロコダイルはアニマルモードになると、俺はスマホのボイスレコーダーアプリを起動してウルフに手渡す。

そのままウルフとクロコダイルでえっせえっせとスマホを運びながらシャルル・デュノアを追うように校舎内に入っていった。

良し、取り敢えずこれで何かあったらウルフとクロコダイルが教えてくれる。

本当はこんな手段取りたくないんだけどなぁ...

少しは勘弁してほしい。

 

 

「.....残り食べるか」

 

 

俺はそう呟き、食事を再開するのだった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

シャルル・デュノアと屋上で初めて話をした翌日の放課後。

俺は学園長室にいた。

理由は単純明快、シャルル・デュノアの事だ。

 

 

昨日昼休みにシャルル・デュノアに付いて行ったウルフとクロコダイルは、その日の放課後には戻って来た。

スマホの充電はまだ残っていたので、そのままボイスレコーダーに録音されていた音を再生した。

すると、シャルル・デュノアはこんな事を言っていた。

 

 

『何時データを抜こうかな...』

 

 

『全く、タイミングが掴めないよ...』

 

 

『はぁ、何で僕がこんな事をしないといけないんだ...』

 

 

こんな事を。

この音声が本当だったら、シャルル・デュノアは確実に黒だ。

でも、それと同時にシャルル・デュノア本人の意思ではない可能性が出て来た。

これは俺1人では判断できないと思い、音声を保存。

そうして学園長室に来て、学園長にこの音声を聞いて貰ったのだ。

 

 

「なるほど、これは......」

 

 

学園長は音声を聞き終わった後、眉間に皺をよせ頭を押さえながらそう呟いた。

まぁ、そりゃそうか。

転校生がスパイなのがほぼほぼ確定し、しかもそれが本人の意思ではなさそうという事になったら頭痛もする。

 

 

「かなり厄介な事になって来ましたね...」

 

 

「そうですね...」

 

 

俺と学園長は同時にため息をつく。

これはかなり厄介だ。

 

 

「それにしても、門藤君はこの音声を何処で?」

 

 

「ああ、それはこいつ等に録音してもらいました」

 

 

俺はそう言うと、ポケットからウルフとクロコダイルを取り出す。

そうして机の上に置くと、ウルフとクロコダイルはキューブモードからアニマルモードに変形する。

 

 

「こ、これは...?」

 

 

「キューブアニマルって言って、私の...ジュウオウザワールドのサポートメカです」

 

 

「なるほど...門藤君のISは篠ノ之博士特製と聞いています。このサポートメカもそうなのですか?」

 

 

「まぁ、そうです」

 

 

束さんの名前出せばどんなことでも納得してくれるんじゃないか?

そんな事を考えてしまうくらいにはスムーズに納得してくれた。

流石は束さん、ISの生みの親だ。

 

 

「それで...デュノア君はどう対応しましょうか...」

 

 

「そうですね...せめて、本人の意思かどうかが分かれば...」

 

 

俺と学園長は、うーんと頭を抱える。

キューブアニマルたちでは得られる情報に限界がある。

せめて、もう少し情報が...それも、デュノア社の情報が欲しい。

如何するか......

束さんが出て来ると、また別の問題が起こりそうだし...

 

 

ん?

あ、そうだ!

()()()に協力してもらえばいい!

だけれども、俺とは殆ど関わりが無い。

う~ん...

なんか、目的の為に利用しちゃうようで悪いけど、これしかないか。

 

 

「学園長、1つ案が...」

 

 

「何ですか?」

 

 

俺は学園長に思い付いた1つの案を説明した。

話しをじっくりと聞いていた学園長は、やがて息を深く吐いた。

 

 

「なるほど、確かにそれしか無さそうです」

 

 

「はい...事情を悪用するようで心苦しいですが...仕方ありません」

 

 

「分かりました。門藤君の案で行きましょう」

 

 

「はい。根回しや準備は私がします。学園長、申し訳ありませんが、ジュウオウザガンロッド...武装で使用している釣り竿の使用許可と、場所の提供をお願いします」

 

 

「それは当然です」

 

 

学園長とそう会話した後、今後の大体の方針を決めた。

俺はそのまま学園長室から出て、教員寮へと向かう。

そうして自分の部屋に着いた俺はそのまま部屋の中に入って、鍵を閉めてからスマホを取り出し、とある人物に電話を掛ける。

 

 

「......あ、もしもしのほほんさん?操だけど、今良いかな?......うん、実は、チョッと協力してほしい事が...」

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

三人称side

 

 

操と十蔵がシャルルに対する話し合いをした週の金曜日の放課後。

 

 

「♪~~~」

 

 

操はIS学園の廊下を鼻歌を歌いながら歩いていた。

その表情も楽しげなもので、普通に見れば特に違和感が無いだろう。

だが、そんな操を影から睨む人物が1人。

 

 

「門藤、操.....!」

 

 

その人物は、水色の外側にはねたショートカットで、2年生を示す黄色のリボンを胸元に付けている。

そして、その手には力を籠め過ぎたのか若干罅の入った扇子を持っている。

彼女の名前は更識楯無。

簪の姉であり、生徒会長であり、操や十蔵から盗聴器事件の犯人ではないかと疑われている人物である。

そんな楯無が、操の事を睨みながら後を付けているのである。

 

 

「絶対に、許さない...!」

 

 

楯無はそう呟いて、更に扇子を持っている手に力を入れる。

ミシミシと扇子が悲鳴を上げているが、楯無はそれを気にしない。

 

 

「簪ちゃんに手を出すだなんて!」

 

 

楯無がそう言うと、ぴくっと操が立ち止まり声が聞こえてきた方向を振り返る。

楯無は咄嗟に物陰に隠れる。

操は暫く振り返った方向を見ていたが、やがて元々を向いていた方向に向き直ると再び歩き始めた。

操が歩いて行った事を確認した楯無は物陰からひっそりと身を出すと、そのまま操を追うように歩き始める。

 

 

楯無がここまで怒りを露わにしている理由。

それは、妹である簪の幼馴染にして専属メイド、本音からの情報だった。

何でも、門藤操が簪に手を出したと。

楯無と簪は間に亀裂が残ったままだ。

それでも...いや、亀裂が入る以前から。

楯無はド級のシスコンだった。

亀裂が入ってしまった原因である、楯無が叩き出した成績と、簪に掛けた言葉。

それも、元をたどれば簪に良いところを見せたいためだった。

そんなド級シスコンが、妹に手を出されたと伝えられて怒りを覚えない訳がない。

だから、操に痛い目を見させるチャンスをうかがう為に、操の後を付けているのだ。

 

 

(それにしても、何処に向かってるのかしら?)

 

 

操に付いて行きながら、楯無はそんな事を考える。

今は放課後。

校舎内に残ってるのは部活がある生徒か自習等をしている生徒が殆どだ。

しかし、操は部活に所属していない。

そして向かっている方向には自習室も図書室もない。

あるのはせいぜい学園長室や職員室に会議室、それに応接室や事務室などである。

通常なら、余り近寄らないような場所が殆どだ。

 

 

(職員室...にしては楽し気よね)

 

 

楯無は一瞬職員室に用があるのではないかと考えたが、操が鼻歌を歌っているのでそれは無いと判断した。

 

 

そうして暫くの間操は歩き続け、その後を追いながら楯無も歩く。

 

 

(本当に、何がしたいの?)

 

 

楯無が若干呆れたような表情で操を見ていると、

 

 

「良し!」

 

 

ダッ!!

 

 

操が急にそう言うと、廊下を走り出した。

 

 

「な!?」

 

 

楯無は驚きの声を発したが、慌てて後を追いかける。

 

 

(何で、急に走り出したの!?まさか、バレた!?)

 

 

そんな事を考える楯無の視線の先で、操が廊下を右に曲がった。

一瞬遅れて楯無も廊下を右に曲がる。

すると...

 

 

「い、いない!?」

 

 

曲がった先には、もう既に操がいなかった。

何処かに隠れたのかと考え、辺りを見回すが人一人が隠れられる場所などなかった。

 

 

「いったい何処に.....」

 

 

 

楯無がそう呟いた瞬間だった。

 

 

ビュッ!!

 

 

 

そんな音が背後からなったかと思うと、

 

 

シュルルルル!!

 

 

楯無の身体に、黄色い糸が巻き付いた。

その時の拍子で手に持っていた扇子が床に落ちる。

 

 

「ぐっ!?これは!?」

 

 

楯無は拘束から逃れようと必死にもがくが、その糸は切れる事も緩まる事も無かった。

 

 

「一応、確保。かな?」

 

 

糸が飛んできた方向から、そんな声が聞こえてくる。

楯無がその方向に向くと、そこには。

 

 

ジュウオウザガンロッドを手に持ち、安心したような表情を浮かべた操がいた。

 

 

「門藤、操!!」

 

 

「初めまして、更識楯無生徒会長」

 

 

楯無は思いっ切り睨みながら操の名前を呼び、操はその余りにも鋭い眼光に若干引きながらもそう挨拶をする。

 

 

「早速ですみませんが、チョッと付いて来て下さい」

 

 

「大人しく付いて行く訳ないでしょ!」

 

 

「まぁまぁ、そう言わずに」

 

 

操はそう言うと、ジュウオウザガンロッドを肩に担ぎそのまま歩き出す。

糸で繋がれている楯無の身体は当然ながら引っ張られるため、楯無も歩かないといけない事になる。

 

 

「チョッと!離しなさい!って言うか何この糸!全然切れないんだけど!」

 

 

「ライノスラインっていう特別製の糸です。戦闘で使用するものなので簡単には切れないですよ」

 

 

楯無の言葉に操がそう返す。

そう、この糸...ライノスラインは操の中にあるジューマンパワーを使用し生成されたものなので、そう簡単に切れないのである。

そうして楯無を引きずりながら歩く事数分、目的地に着いた操は肩に担いでいたジュウオウザガンロッドを操作し、楯無に絡みついていた糸を外す。

 

 

「こ、此処って...」

 

 

この場所を認識した楯無が固まっていると、操が扉をノックする。

 

 

「...学園長、門藤操です」

 

 

『入って来てください』

 

 

学園長の返答を聞いた一夏はそのままこの場所...学園長室の扉を開ける。

その部屋の中にいる人物を見て、楯無はビシッと動きを止めてしまう。

 

 

「門藤君、更識生徒会長、ようこそ」

 

 

先ずは十蔵。

これは良い。

何故なら此処は学園長室だから。

楯無が驚いたのは、十蔵以外の人物3人である。

 

 

「お、お姉ちゃん...」

 

 

3人のうちの1人...簪が、楯無の事を見て信じられないといった表情でそう呟く。

 

 

「か、簪ちゃん...」

 

 

楯無も、簪の事を見てそう呟く事しか出来なかった。

 

 

「虚さん、のほほんさん、協力ありがとうございました」

 

 

「いえいえ、気にしないで下さい、門藤さん」

 

 

「そうだよ~~」

 

 

操は3人のうち残りの2人...本音と、本音の姉であり楯無の幼馴染にして専属メイド、布仏虚に声を掛け、2人はそう返答する。

 

 

「う、虚さん?本音?操さん?これはいったい...」

 

 

「ごめんねかんちゃん」

 

 

「でも、こうしないと簪様とお嬢様は、もう2度と話をなされ無さそうでしたので」

 

 

簪が訳が分からないという声で呟いたことに、本音と虚がそう返答する。

 

 

「お嬢様も、騙してしまい申し訳ありませんでした」

 

 

「え、え?虚ちゃん?え、じゃあ、本音ちゃんが言ってたのは...」

 

 

「ごめんなさい、嘘です」

 

 

「え、ええええええええ!?」

 

 

虚と会話した楯無は、そう驚きの声を発する。

 

 

「簪、更識生徒会長、ここからはいったんお2人の時間です。良く話し合って下さい」

 

 

操がそう言うと、簪と楯無以外の4人は学園長室から出て行く。

そして、この場には簪と楯無の2人だけ。

 

 

「「......」」

 

 

2人は、視線を合わせたまま、何も言えないのだった...

 

 

 




2人はどうなるのだろうか...

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告何時もありがとうございます!
今回も、よろしくお願いします!


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蟠りの解消

前回の続き。
いったいどうなるのか...

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

IS学園の学園長室。

今此処には本来ならいるはずの十蔵すらいないこの状況で。

とある姉妹が2人きりで、お互いの目を見つめ合っていた。

 

 

「.....」

 

 

「あ、あ、あ...」

 

 

妹である簪はただ静かに。

姉である楯無は、口を開いて閉じてを繰り返しながら。

暫くの間2人とも何も言葉を発していなかったが、2人きりになってから10分ほど経った時

 

 

「...お姉ちゃん、こうやって2人でいるのは久しぶりだね」

 

 

と、簪が口を開いた。

 

 

「え、ええ!久しぶりね、簪ちゃん...」

 

 

楯無が慌ててそう返すが、そこで会話が終わってしまう。

また、暫くの間学園長室内を重苦しい空気が包み込む。

 

 

(ど、如何しよう如何しよう!?)

 

 

楯無は内心そんな事を考えながら、アワアワと視線をあっちこっちに向けている。

今の楯無からは、姉や生徒会長、そして暗部の長といったありとあらゆる威厳を感じなかった。

 

 

(...お姉ちゃん.....私は、如何したいんだろう?許したいのかな?それとも、もう関わりたく無いのかな?)

 

 

そんな楯無を横目に見ながら、簪は自分にそう尋ねる。

そうして考えているうちに思い返したのは、操との初対面の時の操の言葉。

 

 

『人間、いや、動物は1人で出来る事には限界がある。だからこそ、生き物は支え合うんだ。そうする事で、1人での限界は、乗り越えることが出来るから』

 

 

(支え合い...それが生み出す強さ...)

 

 

『お姉さんと簪さんは、違うだろ?』

 

 

(お姉ちゃんとは違う、私の強さ...)

 

 

此処で、もう1度簪は楯無の顔を見る。

顔を見られた楯無はビクっと大袈裟に身体を震わせる。

 

 

(私の、やるべき事は...)

 

 

「...お姉ちゃん」

 

 

「ピッ!?な、なに!?」

 

 

簪に名前を呼ばれた楯無は、信じられないくらい変な声を出す。

そんな楯無を無視して簪は話し始める。

 

 

「私は、お姉ちゃんと比べられて凄い嫌だった。私だって努力してるのに、お姉ちゃんを超えられない。そして、周りはその事で馬鹿にしてきた。私は努力してるのに、それを認めてくれない。そんな状況が、途轍もなく嫌だった」

 

 

「簪ちゃん...」

 

 

簪の淡々とした話を聞いた楯無は、簪の顔を見て名前を呟く事しか出来なかった。

 

 

「勿論、お姉ちゃんに悪意が無かったのは分かってる。寧ろ、お姉ちゃんには守って貰ってたのも分かってる。でも、それでも、周りから比べられるのは嫌だった。お姉ちゃんを超えるために、お姉ちゃんを見返すために、ISを1人で造ろうとした。本音が止めてくれたけど、言う事聞かなかった。でも、私は今はクラスのみんなと協力してISを作ってるんだ」

 

 

「.....」

 

 

「ねぇ、お姉ちゃん。私って、何で変われたと思う?」

 

 

簪は、楯無の目をしっかりと見ながらそう質問をする。

 

 

「な、何でって言われても...」

 

 

分かる訳が無いと言わんばかりの表情で、楯無はそう呟く。

 

 

「私が変われたのは、操さんと出会ったからだよ」

 

 

そんな楯無に対して、簪は笑顔でそう言う。

その言葉を聞いた楯無が呆けた表情を浮かべているのを見ながら、簪は口を開く。

 

 

「操さんが言ってくれたの、生き物はバラバラだから支え合うって。私とお姉ちゃんは違う人間なんだから、違う強さがあるって」

 

 

そう語る簪の表情は笑顔で。

そんな簪を見る楯無の表情は、驚いたような表情で。

 

 

「だからお姉ちゃん」

 

 

「な、何?」

 

 

簪はジッと、楯無の目を見ながら、覚悟の決まったような表情で言葉を発した。

 

 

「もう、私の事を守ろうと頑張らなくて良いから。私は、私なりに頑張るから」

 

 

その言葉を聞いた楯無は、ギリッと奥歯を噛み締めた。

そして、その表情を悔しそうなものに変えていく。

握っているその手は手から血が出るんじゃないかという程に強く握りしめられていて、プルプルと震えている。

 

 

「.....ってに....」

 

 

楯無は、そうボソッと呟いた。

だが声量が小さすぎて簪には届かなかった。

 

 

「お姉ちゃん、何?」

 

 

簪がそう聞き返すと、楯無は一度俯いた。

そして

 

 

「私の気持ちも分からないのに、勝手に言わないで!」

 

 

ガバッと顔を上げた楯無はそう叫ぶように言葉を発した。

簪は驚いたようにビクっと身体を震わせるも、それを気にしないように楯無は言葉を続ける。

 

 

「私は、簪ちゃんが何よりも大事だから!だから今まで頑張って来たのに!そんな、急にそんな事を言われて!」

 

 

そう言う楯無の両目からは、少量の涙が流れ出ている。

 

 

「お姉ちゃん...」

 

 

「周りが簪ちゃんに何か言ってるのは知ってた!でも!それでも、私は簪ちゃんを守るためにいろいろな事をしてきた!でも、それでも無理で!そして、簪ちゃんにあんな事言われたら、私はこれからいったいどうすれば...」

 

 

泣きながら喋る楯無の表情は、ぐっちゃぐちゃに濡れていた。

 

 

「お姉ちゃん!」

 

 

「何、簪ちゃ...っ!」

 

 

簪に呼ばれ、顔を見た楯無は言葉を詰まらせた。

何故ならば、簪も泣いていたからだ。

楯無に比べると、涙の量は少ないかもしれない。

でも、確実に涙を流していた。

 

 

「私は、別にお姉ちゃんがもういらないって意味で言った訳じゃない!」

 

 

「簪ちゃん...」

 

 

「私は、私はぁ...!!」

 

 

簪はここで大きく息を吸って、吐いた。

 

 

「お姉ちゃんと、支え合いたいの!!」

 

 

その言葉を聞いた楯無は、

 

 

「えっ......?」

 

 

涙を流しながらもそんな呆けた声を漏らした。

 

 

「私1人じゃ限界なのはもう分かってる!それに、お姉ちゃんが私の為にいろいろしてくれた事も、その苦労も分かってる!だから!」

 

 

簪はそう言うと楯無に近付き、そのまま抱きしめる。

 

 

「お姉ちゃん、今まで避けててごめんなさい!そして、仲直りしてください!また一緒に、笑い合える姉妹に戻ろう!」

 

 

そう言った簪は、涙を流しながらそのまま楯無の事を抱きしめ続ける。

 

 

「簪ちゃん...」

 

 

楯無は簪の名前を呟くと、そのまま抱きしめ返した。

 

 

「簪ちゃん、私こそ...私こそごめんなさい!簪ちゃんの事を守ろうとして、1番大事な簪ちゃんの心が疎かになってた!こんなお姉ちゃんで、本当にごめんなさい!そして、こんな私と一緒に居たいって言ってくれてありがとう...!」

 

 

「お、お姉ちゃん...」

 

 

「私からも、言わせて。簪ちゃん、今まで本当にごめんなさい!また、昔みたいになりましょう!また、2人で一緒にいましょう!」

 

 

楯無がそう言うと、簪と視線を合わせる。

暫くの間、2人はそのまま見つめ合っていたが、やがてどちらからともなく笑い合った。

 

 

「お姉ちゃん、本当にごめんね。そして、改めてよろしくね」

 

 

「簪ちゃん、私こそごめんなさい。これから、よろしくね!」

 

 

そうして、また暫くの間2人は抱きしめ合って、暫くの間2人きりで雑談をした。

2人の表情は、穏やかな笑顔だった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

操side

 

 

「お嬢様と簪様は、大丈夫でしょうか?」

 

 

簪と更識生徒会長を学園長室の中に残して廊下に出た瞬間に、虚さんが心配そうな表情でそう呟く。

 

 

「あの2人なら大丈夫だよ~~、お姉ちゃん」

 

 

「ええ、大丈夫だと思いますよ」

 

 

そんな虚さんに、のほほんさんと学園長がそう声を掛ける。

 

 

「...俺は更識生徒会長と関わりが無いので、何も言えないですけど...」

 

 

そもそも、盗聴器事件の犯人の可能性があるとして学園長に聞いていただけだったし。

でも、それでも...

 

 

「...あの嘘で騙されるくらいには簪を大事にしているんですから、大丈夫ですよ」

 

 

「......そうですね!」

 

 

俺達3人の言葉を聞いて、虚さんは僅かな笑みを浮かべた。

まぁ、本当にこればっかりは2人が自分たちで解決しないといけない事だから、俺達に出来るのは信じるだけだけどな。

 

 

「...それにしても、良く協力して頂けましたね。こんなに強引で、状況を利用するような計画に」

 

 

虚さんとのほほんさんの事を見ながらそんな質問をする。

この計画の相談をした時、正直に言うと断られると思っていた。

虚さんやのほほんさんにとって、簪と更識生徒会長は幼馴染で、主に当たる人だ。

そんな大切な人達を騙す計画なのだ。

断られても仕方が無かった。

俺の言葉を聞いた虚さんとのほほんさんは暫くの間視線を合わせると、やがて口を開いた。

 

 

「...操さんがかんちゃんに話をしてくれるまで、かんちゃんはほんと~~にただ1人でISを作ってて、かなり心配だったからね~~」

 

 

「それが門藤さんと関わる事で年相応の、少女のような顔をされています。だから、私達は計画に乗る事にしたんです。成長した簪様なら、きっと大丈夫だと思ったので」

 

 

「そうですか」

 

 

そう言われると、此方としても安心する。

 

 

「ところで、そこまでしてお嬢様に頼みたい事は、本当にデュノアさんの事だけなのですか?」

 

 

ここで、虚さんが俺と学園長の事を見ながらそう質問をしてきた。

 

 

「はい、頼みたい事はそれだけです。ただ......」

 

 

「ただ?」

 

 

「...1つ聞きたい事はありますけどね」

 

 

虚さんとのほほんさんは俺の言葉を聞いて首を傾げていたが、学園長は頷いていた。

そんな学園長の反応を見て、2人は更に首を傾げさせる。

 

 

そこから暫くの間、声が学園長室内に入らないくらいの声量で4人で簡単な雑談をする。

学園長が混ざってても普通に会話出来ているのだから、学園長の人の好さが分かる。

たった1人の生徒の為にここまでしてくれるのだから、本当に良い人だ。

学園長だなんて絶対に暇な訳が無いのに。

そんな事を考えながら雑談をする事十数分。

 

 

ガチャ

 

 

扉が開く音がした。

バッと視線を学園長室の扉に向けると、そこには当然ながら簪と更識生徒会長がいた。

2人の両目は泣いた後なのか真っ赤だったけど、その表情は笑顔だった。

 

 

「仲直り出来た~?」

 

 

のほほんさんがそう2人に問いかける。

だけれども、のほほんさんの表情は答えが分かり切っているようなものだった。

 

 

「「...うん!」」

 

 

簪と更識生徒会長は、より一層濃い笑みを浮かべながらそう返答した。

そんな2人を見て、安心したのでほっと息を吐いた。

俺と同タイミングで学園長と虚さんも息を吐いていた。

 

 

「操さん、わざわざこの場を用意してもらってありがとうございました」

 

 

「いやいや、気にしないで」

 

 

簪がお礼を言ってきたので、慌ててそう返す。

寧ろ俺は謝らないといけないのでは?

そう考えて口を開こうとした時、

 

 

「あの...」

 

 

と、更識生徒会長が声を掛けて来た。

 

 

「はい、何ですか?」

 

 

「あの、その...ごめんなさい!さっき、後を付けるような真似をして!」

 

 

「ああ、全然気にしないで下さい。寧ろ付けてもらわないとこうやって話し合いさせる事も出来なかったですし」

 

 

俺がそう言うと、更識生徒会長はアハハと笑みを浮かべた。

 

 

「改めて、IS学園生徒会長の更識楯無です。これからよろしくお願いします」

 

 

「門藤操です、よろしくお願いします。あ、操で大丈夫ですよ」

 

 

「なら、私も楯無で大丈夫です」

 

 

「分かりました、楯無さん」

 

 

そう言って、楯無さんと握手をする。

さて、ここからが俺にとっての本番だ。

 

 

「実は、楯無さんに頼みたい事が1つと聞きたい事が1つありまして...」

 

 

「簪ちゃんとの仲を取り持って下さったので、可能な限りでかなえますよ」

 

 

楯無さんが自身タップリといった感じでそう返事をしたのを確認したので、取り敢えず再び学園長室に入る

そして、そのまま先ず頼みごとに必要な説明をした。

学園長から更識がどんな組織のかはもう聞いている事。

シャルル・デュノアがデュノア社のスパイであることが高い事。

その上で、骨格から判断して女性である可能性もある事。

でも、スパイ行為は本人の意思では無い可能性もある事。

 

 

「なるほど、つまりデュノア社の調査をすればいいんですね」

 

 

「はい、お願いできますか?」

 

 

「分かりました。元々デュノア社には黒い噂が多いので、更識内でも調査する案が出ていたんです。この調査はお引き受けします」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

頭を下げながらそう言う。

そして暫くしてから頭上げる。

 

 

「では、次に聞きたい事なんですけど...学園長、現物はまだありますか?」

 

 

「はい、少し待っていてください」

 

 

学園長はそう言うと、学園長室に置いてあるロックが掛かった棚の中から袋に入っている例の盗聴器を取り出すと、そのまま楯無さんに見せた。

 

 

「あの盗聴器、何か知ってますか?」

 

 

「いや、初めて見た奴ですけど....何ですか、あれ?」

 

 

「.....4月の始め、俺が使用している教員寮の部屋に仕掛けられていたものです」

 

 

「「「「えっ!?」」」」

 

 

俺の言葉を聞いた学園長以外の4人が、そう驚愕の声を発する。

 

 

「操さん、本当なんですか!?」

 

 

「ああ、初日に一応調べてみたらあったんだよ。あの時調べてなかったら、この量の盗聴器からいろいろ聞かれていたことになる」

 

 

簪の疑問に、そう返答する。

しかし、今自分で言っておいて何だが恐ろしいな...

 

 

「犯人に心当たりは無いの~~?」

 

 

「...正直、暗部の話を聞いたから楯無さんも怪しいと思ってた」

 

 

「ま、まぁそれはしょうがないです」

 

 

「でも、今違う事が分かったから、残りの怪しい人は...」

 

 

「織斑先生、ですね」

 

 

俺の言葉に続くように、学園長がそう言葉を零す。

その言葉を聞いた4人は、また驚いた表情を浮かべていた。

まぁ、それは当然だろう。

俺や学園長は織斑先生のいろいろ面倒な行為を知っているが、他の人達はそれを知らないのだ。

その為、ブリュンヒルデでもある織斑先生が怪しいと聞いたら驚くに決まっている。

 

 

「ほ、本当なんですか?」

 

 

「はい、みなさんは知らないかもしれませんが、織斑先生は今年に入ってから何処かおかしいのです」

 

 

「如何やら、何年か前に亡くなった弟さんと俺の顔が似ているらしい。それで、勘違いをして俺に迫ってきているんだ」

 

 

「織斑先生の弟さんは、織斑春十君なのでは?」

 

 

「それが、かつてはもう1人おられたようなのです。確か名前は...織斑、一夏君ですね」

 

 

学園長がそう言うと、4人がはぁ~~、と頷いた。

...織斑一夏は、過去の俺なので何となくこそばゆい。

でも、門藤操と織斑一夏は違う。

だから気にしないことにしよう。

 

 

「なるほど、それで織斑先生が怪しいんですね」

 

 

「はい、しかし確定的な証拠は無いので、何も出来ないんですよね」

 

 

虚さんが呟くように言った言葉に、学園長が同調する様に頷く。

 

 

「ま、まぁ!取り敢えず重い話はここまでにしましょう!」

 

 

何となく重苦しい雰囲気になったのでそう声を発する。

いや、もとはと言えば俺が言った事なのだけれども。

でも、折角簪と楯無さんが和解した後なのだ。

重い話はここまで!

 

 

「学園長、今日は場所をお借りして申し訳ありませんでした」

 

 

「いえいえ、気にしないで下さい」

 

 

「「「「「失礼しました」」」」」

 

 

最後に学園長とそう短く会話した後、5人纏めて学園長室から出る。

 

 

「お腹空いた~~」

 

 

その瞬間にのほほんさんがそんな事を言うので、思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

 

「じゃあ、食堂で何か食べようか」

 

 

「そうしましょう、偶にはケーキでも」

 

 

「ケーキ!食べよ~!」

 

 

簪と虚さんが言った事に、のほほんさんが心底嬉しそうにそう反応する。

 

 

「操さんは如何しますか?」

 

 

「折角だから食べようかな」

 

 

「分かりました」

 

 

簪はそう言うと、楯無さんの前に近付き、

 

 

「お姉ちゃん、行こ?」

 

 

と手を差し出しながら言う。

 

 

「ええ、行きましょう!」

 

 

楯無さんは笑顔でそう返答すると、簪の手を掴み食堂に向かって歩いて行った。

 

 

「もう心配はいらないな」

 

 

「そうですね」

 

 

「じゃあ、私達も行こう~~!」

 

 

1歩遅れて、俺と虚さんとのほほんさんも食堂に向かって歩き出すのだった。

 

 

 




操は1年生だから楯無たちに敬語を使うけど、操の方が年上だから楯無たちも敬語を使う。
おかしくないのに、何となく変に感じる。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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デュノア社調査

さてさて、前書きに書くことが無い。

今回もお楽しみください!


操side

 

 

簪と楯無さんが和解した翌日の朝のSHR前。

俺は何時ものように教室にいた。

昨日はいろいろとあったが、簪は4組だし楯無さんは2年生、虚さんは3年生。

そしてのほほんさんは

 

 

「ふぁううううう」

 

 

と、自分の机で眠そうに蹲っているのでSHR前である今は特に今までと変わった事は無い。

平和だ。

 

 

「おはよう」

 

 

「あ、デュノア君!おはよう!」

 

 

そんな事を考えていると、そんな会話が聞こえて来た。

声が聞こえて来た方向に視線をむけると、そこには笑顔でクラスメイトに挨拶をしているシャルル・デュノアがいた。

...やっぱり、女性に見えるんだよなぁ~。

 

 

「布仏さんもおはよう」

 

 

「うん、おはよぉ~~」

 

 

シャルル・デュノアの挨拶に眠そうにそう返すのほほんさん。

だけれども、そののほほんさんの目は一瞬だけだけども鋭いものになった。

...暗部である更識の幼馴染で専属メイドである布仏も、暗部であるという事か。

 

 

「あ、門藤さん。おはようございます」

 

 

「おはよう、デュノア君」

 

 

シャルル・デュノアがわざわざ教室の後ろの席に座っている俺にまで挨拶をしてきたのでそう返す。

でも、会話が続かない。

如何しよう...気まずい。

 

 

「あ、じゃあ僕はこれで...」

 

 

同じ気まずさを感じ取ったのだろう。

シャルル・デュノアはそう言うと自席に向かっていった。

 

 

「はぁ...いろいろと大変だなぁ」

 

 

シャルル・デュノアの後姿を見ながら思わずそう呟いてしまう。

あ、そうだ。

ラウラにもこの事伝えておいた方が良いのかな?

う~~ん...如何なんだろう?

まぁ、良いや。

楯無さんから連絡が来る前に決めれば。

そんな事を考えながら視線を前に戻す。

すると、

 

 

「......」

 

 

織斑春十が覇気の無い顔で教室に入って来ていた。

アイツ、最近元気無いな。

そんなにあの3人が停学だったり退学になるのがショックなのか。

もうGW終わって暫くしたぞ。

何時まで引きずってるんだ。

いや、まぁ、確かに中のいい友人が急にいなくなったらショックを受ける。

俺だって大和達が元の世界で急にいなくなったらショックを受ける。

でも、あの3人は自業自得なんだし、いい加減切り替えたらどうだろうか。

 

 

そんな事を考えているとドンドンとクラスメイトが教室にやって来る。

そうして時間は過ぎ、SHRの開始時刻になった。

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

「フム、全員席に着け!SHRを始める!」

 

 

チャイムと同時に織斑先生が教室に入って来てそう指示を出す。

まぁ、指示を出される前に全員座っているのだが。

織斑先生から1歩遅れて山田先生が教室に入って来る。

 

 

「さて、先ずは全員に説明する事がある。もう直ぐ行われる学年別トーナメントに関してだ」

 

 

織斑先生がそう言うと、教室内が少しざわつくが少し静かになる。

学年別トーナメント。

その名の通り、学年別で行われるISを使用したトーナメント戦。

約1ヶ月の間で学んだ事を生かすという名目ではあるが、確かクラス対抗戦と同じように代表候補生の選考にも使うから結構大人の欲望が渦巻くイベントだったはず。

 

 

「先日のクラス対抗戦ではアクシデントがあったが、主犯の3人は停学中の為、通常通り開催される事になった」

 

 

おお、それは良かった。

 

 

「学年別トーナメントには、体調不良等の特別な理由が無い限り全員参加となる。そしてレギュレーションに関してなのだが、専用機持ちには武装とSEの制限が掛かる。あとで専用機持ちには細かいルールの紙が配布されるので確認しておくように」

 

 

まぁ、それは当然だな。

専用機持ちと一般生徒は訓練してきた期間、そして専用機と訓練機のスペックの差がある。

ハンデが無いのはおかしいだろう。

 

 

「他には...そうだ。今回のトーナメントは1学期の成績に加味される。全員緊張感をもって望むように」

 

 

なるほど、成績に入るのか。

確かに基本全員参加でトーナメント形式の模擬戦なのだから成績を付けるにはうってつけの機会か。

 

 

「ああ、それと門藤は不参加なので覚えておくように...」

 

 

ほうほう、俺は不参加...

ん?

俺は不参加ぁ!?

 

 

「何でですか!?」

 

 

思わず立ち上がりながらそう言ってしまう。

やっば、やっちまった。

 

 

「あ、すみません...それで、何で不参加何ですか?」

 

 

取り敢えず謝罪を入れてから、改めて織斑先生に聞き返す。

 

 

「門藤、お前はこの間のクラス対抗戦で違反行為を行った3人と同時に戦闘をし、圧勝した。しかも、2人の専用機持ちを含めてだ。ハンデを付けても他生徒とかなりの戦力差になると判断された結果、お前は不参加となった」

 

 

う、確かに...

そもそもジュウオウザワールドはSEの調整が出来ない。

そうなると不参加しかないか...

 

 

「...成績ってどうなるんですか?」

 

 

「門藤の分の成績はあの戦闘を考慮し、今回のトーナメントで与えられる成績の、満点を与える事になった」

 

 

「分かりました」

 

 

良かった、筆記試験とかにならなくて。

そう思いながらそのまま席に座る。

 

 

「さて、伝える事はこれで全部だ。山田先生、何かありますか」

 

 

「いえ、特に何もありません」

 

 

「では、これでSHRを終了する!この後の授業の準備をしておけ!」

 

 

織斑先生は最後にそう言うと、教室から出て行った。

そんな織斑先生を追うように山田先生も教室から出て行く。

さて、IS座学だ。

集中して授業を受けないとな...

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

三人称side

 

 

「クソ!何なんだよ!」

 

 

その日の放課後。

春十は人気のない廊下でそんな事を呟いていた。

 

 

「何でトーナメントがタッグじゃ無いんだ!」

 

 

春十はそう叫ぶと、廊下の壁を殴る。

学園の壁を殴ったらいけないという小学生でも分かる事を理解していない行動はさておき、春十が荒れている理由。

それはトーナメントがシングルマッチだからだろう。

原作では、この学年別トーナメントはタッグマッチであり、ラウラとの和解のきっかけになる大事なイベントだ。

ただ、そもそもの話原作でタッグマッチになった理由はクラス対抗戦で無人機が襲撃してきたからなのだ。

無人機の襲撃が無い時点でこうなる事は分かっているはずなのに、春十は納得していない。

 

 

「それに、ルールに触れるタイミングもおかしいじゃねえか!まだシャルの正体は分かってないぞ!」

 

 

春十は再び壁を殴りながらそんな事を呟く。

春十が言っているのは、ルールがタッグマッチに変更になったシーンの事だろう。

確かに、あのシーンはシャルロットの正体が明確になった後なのだが、あのシーンのきっかけはラウラがセシリアと鈴をボコボコにして医務室送りにしたから発生したのだ。

ラウラはとっくに...というよりも、学園に入る前から性格は原作の物とは変わっており、それにセシリアと鈴はもう学園どころか日本にいないのだ。

そんな事が起こるわけが無い。

 

 

「クソ!クソ!」

 

 

壁を殴りながら春十は何時までもそんな事を言っている。

これまで、原作と違う事が何度も起こっているのに何故こういう展開を予想できないのか。

そして、何時まで現実逃避をしてしっかりとした事態の確認をしないのか。

 

 

「はぁ、はぁ......まだだ、まだだぁ!!」

 

 

春十は叫び終わった後、暫くイライラした表情で息を吐いていたが、やがて虚空を睨みながらそう言葉を発した。

 

 

「まだ、シャルのイベントが残ってる!それに、ラウラだって!まだだ、まだだぁ!」

 

 

そう言うと、春十は口元にニチャアと気味の悪い笑みを浮かべた。

その表情は決して他人に見せられるものでは無い。

 

 

「そうだ、そうだぁ!俺は主人公なんだ!俺は、この世界の中心の存在なんだ!俺がハーレムを作るんだ!」

 

 

春十はそう叫ぶと、天井を見上げ

 

 

「アッハハハハハ!!」

 

 

と、狂ったように笑うのであった...

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

トーナメントの説明があり、春十の変人っぷりが改めて確認できた日から暫くたったある日の放課後。

操は生徒会室に向かっていた。

理由は単純明快。

楯無に呼ばれたからだ。

 

 

「生徒会長か...初めて会うな」

 

 

「そうか、ラウラは会った事が無かったな」

 

 

そんな会話を操とラウラがする。

そう、今日はラウラも生徒会室に向かうのだ。

 

 

操はラウラに話すべきか1人での判断が出来なかったので十蔵に相談した。

その結果、今は味方が多い方が良いとの事でラウラに操がこの問題の説明をしたのだ。

因みにその際に盗聴器事件の事を説明すると、未だに心の整理が付いていないラウラでも引いていた。

ラウラが踏ん切り付く日も近いかもしれない。

 

 

「しかし操、少し良いか?」

 

 

「ん?何だラウラ」

 

 

その道中、ラウラが操に話し掛けた。

操が反応したことを確認したラウラは口を開いた。

 

 

「お前、結構簡単に友人が作れているではないか」

 

 

「あ~、確かに。入学前に思っていたよりかは友達が今はいるなぁ」

 

 

「そんなに心配する事あったのか?」

 

 

ラウラのその言葉を聞いた操は、表情を少し暗いものにする。

 

 

「...俺が門藤操になれた世界で、同じような状況になったらこうも心配しなかった。でも、旧名の時の記憶が抜けなかったから。あの時は、兎さん以外まともに話せる人がいなかったから」

 

 

「兎...ああ、なるほど」

 

 

ラウラは一瞬兎さんなる人物が誰か分からなかったが、少し考えるだけで直ぐに分かったようだ。

そんなラウラの表情も少し暗いものに変わっていく。

 

 

「すまない。あまり思い出したくないものを思い出せてしまったな」

 

 

「気にしなくていいさ。今こうやって、前を向いて生きていける。そして、周りには仲間と友達がいる。それだけで十分さ」

 

 

操は穏やかな表情を浮かべてそんな事を言う。

そんな操を見て、ラウラはフッと笑みを浮かべた。

 

 

「そうか。お前は強いな」

 

 

「大和達がいたから、そしてラウラ達がいるからだよ」

 

 

操がそう言うと、2人で同時に笑い合う。

そこから暫くの間雑談をしていると目的地である生徒会室に着いた。

2人は身だしなみを軽くチェックすると、操が扉を4回ノックする。

 

 

「1年1組、門藤操とラウラ・ボーデヴィッヒです。更識生徒会長に用事があって来ました」

 

 

『あ、入って下さーい!』

 

 

入室の許可を得た操は扉を開け、ラウラと共に生徒会室に入っていく。

 

 

「「失礼します」」

 

 

「操さん、それにラウラちゃんね。ようこそ、生徒会室へ」

 

 

生徒会室の中央、生徒会長というプレートがたてられた席に座った楯無が操とラウラに向かってそう言葉を掛ける。

 

 

「どうも。ご無沙汰してます、楯無さん」

 

 

「初めまして、ドイツ軍IS部隊シュヴァルツェ・ハーゼ隊長、ドイツ代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒです」

 

 

操は楯無に簡単に挨拶をし、ラウラは初対面なのでしっかりと自己紹介をする。

 

 

「私はIS学園生徒会長、そしてロシア国家代表の更識楯無よ。よろしくね、ラウラちゃん」

 

 

楯無は席を立ってラウラの前に移動してから自己紹介をする。

 

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

ラウラは返答すると、楯無に右手を差し出した。

楯無はフフッと笑みを浮かべると、そのまま握手をする。

 

 

「しかし、もう終わったんですね。もうちょっと...トーナメント後までは掛かると思ってましたよ」

 

 

「フフフ、更識を舐めないで下さい操さん。これくらい、簪ちゃんにハグするくらい簡単ですよ♪」

 

 

「...難しくないですか、それ」

 

 

楯無がドヤ顔で言った事に、操が苦笑いをしながらそう返す。

そう言われた楯無はアハハハと苦笑いを浮かべるだけだった。

 

 

「じゃあ、早速...と言いたいけど、チョッと他の人達を待っても良いですか?」

 

 

「他の人達...ああ、簪達ですか。確かに簪達も知った方が良いですからね。待ちましょう」

 

 

それから暫くの間、3人は椅子に座ってのんびりしていた。

その途中、生徒会室に置いてある客用のお菓子を食べていた時、ラウラが夢中で食べている姿を見て操と楯無が

 

 

「「小動物...」」

 

 

と思わず呟いてしまい、ラウラの顔が真っ赤になるといった出来事はあったが、まぁのんびりしていた。

 

 

ガチャ

 

 

「あ、操さん。もう来ていたのですね」

 

 

「ん?ああ、虚さん。どうも」

 

 

急に扉が開き、生徒会室に書類を持った虚が入って来た。

操が軽く挨拶すると

 

 

「初めまして、ラウラ・ボーデヴィッヒです」

 

 

「生徒会会計、布仏虚です。よろしくお願いします」

 

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

ラウラと虚が軽く自己紹介をしあった。

虚は持っていた書類を楯無に差し出しながら

 

 

「織斑先生からです。明日までにこの書類を終わらせろ、と」

 

 

と言った。

その言葉を聞いた楯無は表情を若干険しいものにしてから書類を受け取る。

そしてジッと読んだあと、ため息をつきながら机の上に書類を置いた。

 

 

「この書類、如何考えても教員の物よね、虚ちゃん」

 

 

「はい、その様です」

 

 

「......つまり、織斑先生から仕事を押し付けられたって訳ですか?」

 

 

「「はい」」

 

 

操が確認するように呟いた事に、間髪入れずに楯無と虚が頷く。

2人の表情は、若干死んでいるようだった。

この表情から今までも何回もあったんだと操は察した。

 

 

「そうか...教官がそんな事を......自分の仕事を、全うしないとは......」

 

 

そんな会話を聞いて、ラウラは周りに聞こえない程のボリュームでそう呟いた。

その表情は、何処か踏ん切りがついたような表情だった。

 

 

コンコンコン

 

 

『学園長の十蔵です。更識簪さん、布仏本音さんも一緒です』

 

 

「あ、入っても大丈夫です」

 

 

ここでノックと共に十蔵のそんな声が聞こえた。

楯無が返事をすると、扉が開き十蔵と簪、本音が入って来た。

その瞬間にラウラが改めて身だしなみを整える。

そうして、ラウラは十蔵と簪に自己紹介をした。

それに十蔵と簪も軽く挨拶を返した。

この時、ついでのようにサラッと本音が言った生徒会書記という肩書に操とラウラが本気で驚いていたのは仕方あるまい。

普段の様子を見ていると、生徒会メンバーであるとは誰も思わないだろう。

 

 

「あ、学園長、報告の前に少し良いですか?」

 

 

「どうかしましたか?」

 

 

「あの、織斑先生からこれをやれと言われて...」

 

 

虚がさっき持ってきた書類を十蔵に見せる。

その書類を見た十蔵はその表情をとても険しいものに変える。

どれくらい険しいかというと、簪と本音が若干ビックリしたくらいには険しかった。

 

 

「はぁ...すみません。これは織斑先生に返します。しっかりと注意しておきます」

 

 

「お願いします」

 

 

十蔵は思いっ切りため息をつきながらそう言うと、虚から書類を受け取る。

そんな十蔵を見て、

 

 

(学園長...なんか、すみません...)

 

 

操は関係が無いのに何故か申し訳なくなっていた。

何度も十蔵にいろいろなお願いをして迷惑を掛けていると考えているんだろう。

 

 

「んん、それで楯無さん。報告をお願いしても?」

 

 

切り替えるように頭を振った操はそう言葉を発する。

その瞬間に、生徒会室の中の空気が少し重たいものになる。

 

 

「分かりました。順番に説明するので、全員座って下さい」

 

 

楯無に言われ、十蔵達が席に着く。

その事を確認した楯無は小さく頷くと、そのまま調べたことを順番に報告した。

先ず第一に、デュノア社社長夫妻にはシャルル・デュノアなどという息子はいない。

でも、子供がいない訳では無い。

名前はシャルロット・デュノア。

今年で16歳になる娘である。

そこまで聞いて、操たちは察した。

そのシャルロット・デュノアが、シャルル・デュノアであるという事を。

事実、楯無から見せられたシャルロットの顔写真は、如何見てもシャルルのものと一緒だった。

 

 

そして、楯無は次の説明を続けた。

シャルロットは、社長の娘ではあるが社長夫人の娘ではない...つまり、社長と愛人の子供らしいとの事だ。

そんな生まれのシャルロットは、物心ついたときから自由な生活が出来ていなかったらしい。

母親と貧困的な生活を送り、母親が亡くなってしまった瞬間にIS適性を買われてデュノア社のテストパイロットに。

でも、社内幹部からは快く思われておらず、かなりひどい扱いを受けていたとの事。

 

 

そんなデュノア社だが、ここ最近危機が訪れていた。

技術不足による経営難だ。

訓練機であるラファール・リヴァイヴの開発元で、IS世界シェア3位なのに、だ。

そんな状況で男性IS操縦者が見つかった。

それをチャンスだと感じたデュノア社は何を想ったのかシャルロットに男装してIS学園に侵入し、男性IS操縦者とその専用機のデータを盗んで来るように命令されたとの事だ。

 

 

「これが、私達が分かった全部です」

 

 

楯無はそう言うと、報告を終わらせた。

 

 

「なるほど、そんな過去が...」

 

 

十蔵は、そう呟く。

そうして暫くの間、生徒会室を重たい空気が包み込む。

思っていた以上にシャルル...いや、シャルロットの過去が重たかったので、少し受け入れるのに時間が掛かっているのだろう。

 

 

(そうか、そうか...なら、俺は......)

 

 

それは、操も同様だったが、他の人達と違い直ぐにその表情を変えた。

操の表情は覚悟が決まった表情だった。

 

 

「操さん、何か、思いましたか?」

 

 

そんな操の表情の変化に気付いた楯無がそう声を発する。

 

 

「...ああ」

 

 

操が頷いた事で、視線が操に集まる。

それを確認した操は口を開いた。

 

 

「...俺は、シャルロット・デュノアを助けたい。綺麗事だとか、偽善だとか言われても。困って、苦しんでる人を、俺はほっとけないんだ」

 

 

世界の王者として。

ジュウオウザワールドとして。

動物戦隊ジュウオウジャーとして。

矛盾してるところもあるかもしれない。

それでも、譲れないのだ。

 

 

「......ふっ、お前ならそう言うと思っていたさ」

 

 

ラウラは笑みを浮かべながらそう返す。

 

 

「私達姉妹を助けてくれた操さんなら、デュノアさんも助けられます」

 

 

「そうだよ~~!操さんがやるなら、私達も手伝いま~す!」

 

 

「はい、手伝います」

 

 

簪と本音と虚はもう既にやる気満々と言った感じの返答をする。

 

 

「...門藤君」

 

 

「はい、何ですか」

 

 

「.......特別な事情を抱えていようと、スパイ行為を働こうとしていようと、まだ起こった訳ではありません。制裁処分は免れないですが、それでも、まだデュノアさんは大切な生徒です」

 

 

「はい」

 

 

「ですから、デュノアさんを助けましょう」

 

 

『はい!』

 

 

最後の十蔵の言葉には、操だけではなく全員が返事をした。

 

 

「...取り敢えず、最悪のシナリオはスパイ行為を実践してしまう事。その前に、一刻も早く止めないといけない」

 

 

「なら、先ずは本人の意思を確認しては如何でしょうか?」

 

 

「この間のかんちゃん達みたいに、思いを全部吐き出させるんだね~~」

 

 

「...確かに、そうすればいったんは思いとどまってくれる...はずだ。その後の処分や処置は、また後で考えよう」

 

 

「ならば、する事は決まったな」

 

 

ラウラの確認するかのような言葉に、全員が頷く。

 

 

「楯無さん、此処、お借りします」

 

 

「寧ろ使って下さい、私達もその場にいると思います」

 

 

「どうやって呼び出すんですか?」

 

 

「同じクラスの俺かラウラかのほほんさん...のほほんさんだな。呼び出してもらう。その後に最悪また俺が縛るから此処に連れて来る」

 

 

「良し、それで行こう」

 

 

「その後の事も~、チョットは考えていた方が良いんじゃない~~?」

 

 

「なら、亡命の手続きの準備をしておきます。日本が良いでしょう。まぁ、本人の希望次第で直ぐに変更できるくらいに留めておきますが」

 

 

いろいろと話し合いをしながら、今後の予定を決めていく。

 

 

「じゃあ、作戦決行は明日。みんな、行くぞ!」

 

 

『おおー!!』

 

 

操の声に、全員がそう返答する。

 

 

シャルロットを助けられるかどうか、明日で決まるのだ...

 




タッグにする理由が無い(乱入者はいないし、ラウラも既に味方)ので普通に個人戦です。
結構珍しい展開になったかな?

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、いつもありがとうございます!
今回も是非よろしくお願いします!


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秘めたる思い

戦隊を扱ってるのにゼンカイジャー最終回とドンブラザーズ1話の感想を書いていない事に気付いた。
何をやってるんだ!
兎に角、ゼンカイジャーお疲れ様でした!
ドンブラザーズ、まだ1話なのになんかもう凄くてこの先楽しみです!


操side

 

 

「じゃあ、作戦の最終確認をしよう」

 

 

『分かりました』

 

 

楯無さんからシャルル...じゃなかった。

シャルロット・デュノア関連の報告を聞いた翌日の朝のSHR前。

俺は生徒会室に再集合していた。

最悪の事態を回避するには、迅速な対応が求められる。

だから、今日の放課後にも作戦を決行する必要がある。

今生徒会室にいるのはその作戦の最終確認の為なのだ。

この場には俺以外にも楯無さんや虚さん、簪に本音にラウラと仕事がある学園長以外のメンバーが集まっていた。

 

 

「先ず、作戦結構は今日の放課後。それまでにシャルロット・デュノアが俺、もしくは織斑春十へのスパイ行為をしないように監視をする」

 

 

「そうして、放課後になったら本音がデュノアさんに声を掛けて、生徒会室までに誘導する」

 

 

「その後、デュノアさんと会話して、スパイ行為をやめるよう操さんが説得する」

 

 

...上手く行くだろうか。

俺が上手く説得出来なかったら寧ろこっち側が不利になる。

成否の全てが俺にかかってると言っても過言ではない。

正直、滅茶苦茶不安だ。

でも、俺がやるって決めたんだ。

 

 

「良し、じゃあ、行こう!」

 

 

『おおー!!』

 

 

俺が気合いを入れるように言った事に、全員がそう返してくれる。

そうだ。

俺には仲間がいる。

大和達みたいに何年も一緒に居る訳じゃ無い。

でも、それでも。

大和達とだって出会った最初の方からデスガリアンと戦ってたんだ。

大丈夫、きっと大丈夫。

だって俺は1人じゃ無いんだから。

 

 

そうして、生徒会室を出た俺達は楯無さんと虚さんと別れ1年生の教室に向かって歩いて行く。

 

 

「なんか、今更だけどこうやって制服の女子に混ざるスーツの男ってさ、怪しいよね」

 

 

「あー...まぁ、全く関係ない人が見たら怪しいと思うかもしれないですけど...」

 

 

「私達は友達ですよね~?なら、問題無いじゃないですか~~」

 

 

「優しい言葉が響く...なんか頑張れる気がする。仲間って、友人って大事...」

 

 

俺が勝手に1人で感動に浸ってると、

 

 

「フム、仲間というだけなら私達だけでは無いだろう」

 

 

と、ラウラが言葉を発した。

思わず立ち止まってラウラの事を見る。

 

 

「此処にはいないが、操にはまだ友人がいるだろう。この学園にも、シュヴァルツェ・ハーゼにも。それに...」

 

 

ラウラはそこで言葉を区切ると、俺の眼を見てくる。

 

 

「今は会えないが、繋がっているんだろう?大事な仲間たちと」

 

 

「...ハハハハハ!そうだな!」

 

 

そうだ。

俺の仲間は、ラウラ達だけじゃ無いんだ。

確かにラウラ達以外はこの作戦に関係ない...と言うより作戦の事を知らない。

大和達だなんて、俺が元の世界に帰って来たって事すら分からないだろう。

でも、仲間がいるという事実が、俺の勇気になる。

 

 

そうしてここで簪と別れ1組の教室に向かう。

 

 

「おはよう!」

 

 

「おはよぉ~~」

 

 

「おはよう」

 

 

教室に入り、取り敢えず俺達は挨拶をする。

 

 

「あ、おはようございます!」

 

 

「アレ?何で3人一緒なんですか?」

 

 

「ああ、さっき偶々会ったから話しながら来たんだよ」

 

 

まぁ、偶々では無いのだがさっき会ったのも話したのも事実だし。

誰かに聞かせるわけでも無い言い訳を心の中でしながら自分の席に移動して教科書類を準備する。

そうして自席近くでクラスメイト達と暫くの間談笑する。

そうこうしていると、シャルロット・デュノアが教室に入って来た。

 

 

「あ、デュノア君!おはよう!」

 

 

「うん、おはよう」

 

 

シャルロット・デュノアは周りのクラスメイトに挨拶をしながら席に歩いて行く。

今日の放課後で、この先の運命が、未来が決まる。

さぁ、取り敢えずSHRとか授業を受けよう。

そして、放課後で、全てを決める!

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

三人称side

 

 

「えっと、布仏さん?本当にこっちであってるの?」

 

 

「うん、大丈夫だよぉ~」

 

 

時間は進み放課後。

IS学園の生徒会室に続く廊下でそんな会話をしながら歩いている2人組。

本音とシャルロットである。

本音がシャルロットを誘導する形で歩いているが、物凄いゆっくりと歩くので必然的にシャルロットの歩くペースもゆっくりである。

 

 

(何処に行ってるんだろう?ここら辺に来たこと無いな...)

 

 

キョロキョロとあたりを見ながらシャルロットはそんな事を考える。

生徒会室に続くこの廊下は、それこそ生徒会室に用が無いと訪れない場所なので2年生や3年生でも訪れたことが無い人、1、2回しか訪れたことが無い人の方が多いのだ。

転校してきて1ヶ月も経ってないシャルロットが物珍しくあたりを見回すのは当然である。

 

 

(それにしても、僕に会いたい人、か...いったい誰なんだろう?そして、会って何がしたいんだろう?)

 

 

ゆっくりとしたペースなので、歩きながらシャルロットは呼ばれた訳を考えていた。

 

 

(もしかして、バレた...?いやいや、ボロは出してない。同室の春十にもバレてないんだし、他の人にバレる訳無い)

 

 

シャルロットは一瞬自分の正体がバレたか不安になったが、直ぐに落ち着く。

 

 

「......」

 

 

だが、その一瞬浮かべた不安そうな表情を本音は見逃さなかった。

 

 

(結構不安がってる~。これは~、本当に操さんのトークスキルに掛かってるな~。まぁでも、操さんなら大丈夫~。だってかんちゃんが前に向けたんだから)

 

 

本音は心の中でそんな事を考える。

だが、シャルロットと違い表情に変化はなかった。

 

 

そうしてそこから大体十数分後。

 

 

「着いたよぉ~」

 

 

「え、此処って...」

 

 

生徒会室前に着いた本音はそう言い、シャルロットはその表情を驚きのものに変える。

急に会いたい人がいると言われ呼び出されたのが生徒会室だったら驚くのも無理はない。

 

 

「え、ほ、本当に生徒会室なの?」

 

 

「うん、あってるよ」

 

 

シャルロットの問いに本音はそう返しながら扉に近付く。

 

 

「ほら、入って入ってぇ~」

 

 

「え、あ、うん」

 

 

本音はドアノブに手を掛けながらシャルロットに部屋に入るように促し、取り敢えずシャルロットも扉に近付く。

そうして本音が扉を開き、シャルロットが部屋に入る。

 

 

「...やぁ」

 

 

「え、門藤さん?」

 

 

シャルロットが部屋の中に入った瞬間、生徒会室のソファーに座っていた操がシャルロットに声を掛ける。

まさか此処に操がいるとは思わなかったのだろう。

シャルロットは操を見て固まってしまう。

 

 

バタン!

 

 

「え!?」

 

 

その一瞬の隙を付くかのように、シャルロットの背後で扉が音を立てて閉まる。

シャルロットは閉まった扉を見て驚愕の声を発する。

急に扉が閉まったから、そして本音が入ってこなかったから。

いろいろ原因はあるがこの状況になって驚かない方がおかしい。

 

 

「まぁまぁ落ち着いて。コーヒーと紅茶、どっちが良い?」

 

 

そんなシャルロットを落ち着かせるように操が飲み物を出そうとそう質問をする。

 

 

「あ、え...こ、紅茶で...」

 

 

「了解」

 

 

シャルロットの返答を聞いた操は生徒会室に置いてある紅茶と自分の分のコーヒーを淹れる。

 

 

「ほら、座ってよ」

 

 

「わ、分かりました」

 

 

操に言われ、シャルロットはさっきまで操が座っていたのと反対側のソファーに座る。

紅茶とコーヒーを淹れ終わった操は紅茶が入った方のコップをシャルロットに差し出す。

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

シャルロットは操にお礼を言うとそのまま紅茶を飲む。

操もソファーに座り直してコーヒーを飲む。

 

 

「ふぅ...今日はごめんね。急に呼び出して」

 

 

「あ、いやいや!き、気にしないで下さい!それで、僕に何か用ですか?」

 

 

「ああ、少し話したい事があってね」

 

 

操はそう言うと、ジッとシャルロットの目を見る。

見られたシャルロットは少し居心地が悪そうにしているが、操は構わず言葉を発する。

 

 

「君の今後についてだよ。シャルロット・デュノアさん?」

 

 

「え...?」

 

 

シャルロットは持っているコップを落としそうになるがギリギリで堪えるとそのまま机の上に置く。

 

 

「は、ははは。だ、誰の事ですか?僕はシャルル・デュノアですよ?だ、誰と間違「シャルロット・デュノア。デュノア社社長アルベール・デュノアとその愛人の娘」っ!」

 

 

誤魔化そうとするシャルロットの発言に重ねるように、操は言葉を発する。

操の言葉を聞いたシャルロットはその表情を驚愕のものに変える。

 

 

「幼い頃から母親と田舎で不自由な暮らしをしていたが、母親が死亡したことにより父親に...デュノア社に引き取られる。そのまま暫くの間デュノア社で生活していたが、存在を快く思わない幹部からは酷い扱いを受けていた」

 

 

「......」

 

 

「ISが登場し、IS適正が高い事が判明してからはテストパイロットとして生活していた。だが、デュノア社はドンドンと経営難になっていく。そんな中、世界では2人の男性IS操縦者が現れた。それをチャンスだと感じたデュノア社は男装してIS学園に転入、そして男性IS操縦者に接触してデータを盗むように指示された」

 

 

操はそこまで言って、もう1度コーヒーを飲む。

 

 

「これであってるかな?」

 

 

操のその問いに、シャルロットは力なく頷く。

 

 

「何処で、その情報を...」

 

 

「知り合いに優秀な情報屋がいるからね」

 

 

「そうですか...」

 

 

シャルロットは俯きながら言葉を発している。

そんなシャルロットを見ながら操は言葉を発する。

 

 

「それで、スパイ行為をするよう命令があった訳だけど実際にはまだして無いんだよね?」

 

 

「...」

 

 

操の言葉に力なく頷く。

 

 

「それじゃあ、今後何をしたい?」

 

 

「え...?」

 

 

操のその問いに、シャルロットは疑問の声を発しながら顔を上げる。

呆気に取られていたようなその表情は、やがて自嘲する様な笑みに変わった。

 

 

「さぁ...?スパイ行為は未遂とはいえ、計画した時点でアウトですから...このまま捕まって、本国に強制送還されて、そのまま良くて専用機と代表候補生の肩書剥奪の上での終身刑ですかね...」

 

 

その悲しく、痛々しく、全てが如何でも良さそうな笑みを見て操は表情を歪ませる。

 

 

「俺が聞きたかったのはそう言う事じゃない」

 

 

「?これが事実なのに変わりはな「俺が聞きたいのは、周りが如何こうでもなく、この先どうなるでもなく、シャルロット・デュノアという人間自身が何をしたいのかだ」っ...!」

 

 

その言葉を聞いたシャルロットは、プルプルと肩を震わせながら顔を俯かせる。

そして、目元にうっすらと涙を浮かべながら、バッと顔を上げる。

 

 

「僕だって...僕だって!自分で自分の行動を決めたいよ!」

 

 

「...」

 

 

「でも、でも!結局僕には何も出来ないんだよ!唯一の味方だったお母さんは死んで!周りの人たちは全員僕を道具みたいに扱って!誰も助けてくれなくて!」

 

 

泣き叫びながらそう自分のため込んでいたものを吐き出すシャルロットを見て、操はギリッと奥歯を噛み締める。

 

 

(似てるなぁ...織斑一夏と。味方が1人だけだったこと、周りが全部敵だったこと...似てるなぁ)

 

 

「愛人の子である僕には、味方はいなくて!僕の事なんて、みんなみんな如何でも良いんだ!だから「ふざけるな!」え...?」

 

 

「如何でも良かったら、今こうやって話してない!」

 

 

「っ!」

 

 

シャルロットの言葉を否定するように。

操は言葉を発した。

その表情は怒っているようで、でも優しそうなもので。

 

 

「如何でも良くないから、今こうやって話してるんじゃないか!今後如何したいかを尋ねたんじゃないか!」

 

 

「っ!そう言っても!あなたには僕の気持ちは分からな「分かる!」え?」

 

 

「この際だから言う!俺だって、幼少期は虐められてた!両親は元々いなくて、兄は俺に暴力を振るって、姉は助けてくれなくて!唯一の味方だった近所のお姉さんも引っ越して!途中から1人になった!でも、それでも!今こうやっていられてる!それは、大切な仲間が出来たから!」

 

 

「た、大切な、仲間...?」

 

 

「そうだ!人間は、動物は支え合う事で生きていける、支え合う事で強くなれる!」

 

 

そこまで言って、操は1度大きく息を吸って、吐いた。

 

 

「確かに今までは、味方がいなかったかもしれない!でも、今こうやって話してるのは、何とかしたいと思ってるからなんだよ!分かってくれ!今まで殆ど関わりは無かったけど!俺は助けたいんだよ!だから今こうやって話してるんだよ!」

 

 

操は真剣な表情で、そうシャルロットに訴えかける。

 

 

「ぼ、く、を、助けたい...?僕を?」

 

 

「ああ」

 

 

シャルロットの漏れた声に操はそう反応すると、席を立ちシャルロットの隣に座る。

そして右手をシャルロットの頭の上に置き、そのまま頭を撫で始める。

 

 

「ふぇ?」

 

 

「スパイ行為をしようとした事実は変わらない。だから無罪放免とはいかない。でも、此処で正直に言えば罪は軽くなる。デュノア社の被害者ともいえるんだからな。だから、正直に話そう。そうして全てが終わったら、ゆっくり暮らせばいい。その時は、俺も、俺の仲間もサポートするから」

 

 

「ほ、本当に...?僕を、サポートしてくれるの?」

 

 

「言ったでしょ?人間は支え合う事で生きていけるって」

 

 

操はそう言うと、優しい笑みを浮かべる。

そんな操を見たシャルロットは口元を震わせて両目を見開きながらそう呟く。

 

 

「ああ」

 

 

操が頷くと

 

 

「う、あ、あ、うわぁぁああああああ!!」

 

 

シャルロットは泣きながら操に抱き着いた。

そんなシャルロットの頭を操は撫で続ける。

そこから暫くの間、2人はそうしているのであった。

 

 

因みに、生徒会室の扉の外では

 

 

「う、チョッと涙が...」

 

 

「お嬢様、ハンカチを...」

 

 

「そう言うお姉ちゃんこそにじんでるよ~」

 

 

「本音も、そして私もね...」

 

 

「私もだ...いや、全員だな」

 

 

「そうですね...」

 

 

操とシャルロットのやり取りを聞いていた楯無、虚、本音、簪、ラウラ、十蔵が泣いていた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「う、ううううう...みっちゃん、良い事言うじゃぁあああん...」

 

 

世界の何処かにある束のラボ。

その中で束はディスプレイの前に座り、号泣していた。

そのディスプレイにはIS学園の生徒会室の様子が映っており、そばにあるスピーカーからは生徒会室の音声が流れていた。

そう、束は操が今何をしているのかを監視していたのだ。

 

 

「束様、ハンカチどうぞ」

 

 

「うぅぅ...クーちゃん、ありがとぉ~」

 

 

そんな束にラウラによく似た銀髪で両目を閉じている少女...クロエ・クロニクルがハンカチを手渡す。

クロエは束が昔に保護した少女で、そこから束の助手、そして娘として共に生活をしていたのだ。

ハンカチを受け取った束はそのまま涙を拭きとる。

 

 

「しかし束様。確かに操様の言葉は感動するものでしたが、何故にそこまで涙を流しておられるのですか?」

 

 

「...私はみっちゃんの過去を...ううん、いっくんの事を知ってるからだよ」

 

 

束はそう言うとディスプレイの前から移動し、実験器具やコンピュータが積み重なった棚の中でも唯一綺麗な場所から1つの写真立てを取り出すとそのまま中に入っている写真をクロエに見せる。

 

 

「これは...?」

 

 

クロエはそう呟くと、そのままその写真を見る。

その写真に写っていたのは、今よりも若い...高校生の時の束と、幼少期の操...ではなく、一夏だった。

だが、束は普通に笑っているのに対して、一夏の表情はまるで覇気がないかのような...もっというのなら、死んでいるかのような表情だった。

 

 

「昔、まだISを発表する前。いっくんと写真を撮ろうと思って、写真を撮ったんだ。でも、いっくんは笑ってくれなかった。何回も撮り直したけど、結局笑ってくれなくて、その写真が1番いい表情なんだ」

 

 

「これで、ですか」

 

 

クロエの表情は、信じられないものを見た表情だった。

こんなに小さい子供の写真で、こんなに死んだ表情の写真が1番いい表情のものだなんて信じられないのだろう。

 

 

「束さんは、いっくんを助けてあげられなかった。自分の、ISの研究に夢中になって、そのまま発表して、白騎士事件を起こして...寧ろ、いっくんを追い詰めた。だから、束さんも織斑春十や織斑千冬たち(あのゴミクズども)と何も変わらないんだよ」

 

 

「束様...」

 

 

クロエは何とも言えない表情でそう呟く。

束はそんなクロエの頭を撫でた後、視線をディスプレイに戻す。

 

 

「あの時...第2回モンド・グロッソの時、いっくんがいなくなって凄い後悔した。如何してもっと見てあげられなかったんだろうって。如何して、助けてあげることが出来なかったんだろうって。でも...」

 

 

束はそこで1度言葉を止め、ディスプレイをジッと見つめる。

そこには泣き崩れるシャルロットの頭を撫でる操の姿があった。

 

 

「いっくんはいなくなって、みっちゃんになった。みっちゃんは、ああやって強くなってた。だから、束さんは嬉しいんだ。あの笑えなかったいっくんが、笑って、寧ろ他の人を笑わせられるみっちゃんになって」

 

 

そう言い切った束の表情は、何とも穏やかで、優しいものだった。

 

 

「1回、会ってみたいですか?一夏様を操様に変えた、別世界の人達に」

 

 

「そりゃそうだよ!だって、ジューマンだよ?会って色々調べたい!」

 

 

「た、束様...」

 

 

クロエは苦笑いを浮かべながらそう言葉を零す。

 

 

「冗談冗談。でも、会いたいのは本当だよ。会って、お礼を言いたいな。みっちゃんと一緒に居てくれて、みっちゃんを支えてあげてくれてありがとうって」

 

 

「.....あまり、束様らしくありませんね」

 

 

「なんだよう!束さんだってこういうことくらい考えるんだぞ!偶には!」

 

 

「常に考えてください」

 

 

クロエがそう言うと、2人同時に笑みをこぼした。

 

 

「さて、じゃあ作業を再開しようかな」

 

 

「はい」

 

 

「これが、私が出来る最大限の事だから」

 

 

束はそう言うと、クロエと共に作業室に向かおうと1歩踏み出した。

その瞬間、

 

♪~~~♪~~~

 

と、スマホが着信音をならし始めた。

 

 

「アレぇ?みっちゃんしか知らないはずなのにどうして...チッ。そう言えば忘れてたよ」

 

 

束はスマホに表示された相手の名前を確認した瞬間、一気に機嫌が悪くなったように舌打ちをし、表情を歪ませた。

だが、それも仕方ないだろう。

だって表示されていた名前は、『箒ちゃん』だったのだから。

 

 

「はぁ...出ないと面倒くさいじゃんもう...」

 

 

束は心底嫌そうにそう呟くと、そのまま通話ボタンを押し通話に出る。

 

 

『もしもし、姉さん』

 

 

「ああもしもし。それで何の用?さっさとして欲しいんだけど」

 

 

『なっ...?それが妹に対する態度ですか!?』

 

 

「うるさいなあもう..切るよ」

 

 

「待って下さい!実は、姉さんに頼みごとが...』

 

 

「なんだよさっさと言え」

 

 

『私に、私だけのISを...専用機を作って下さい!』

 

 

「は?嫌だよ」

 

 

束は声には出していないが、相当怒っている。

事実、そばにいるクロエが若干引いてしまう程怒気に表情を歪ませているのだから。

 

 

『なっ!?なんでですか!?あなたならISくらい簡単に作れるでしょう!』

 

 

「ISくらいぃ?なに、舐めてんの?絶対に作らないよ。そもそも何で欲しいのさ」

 

 

『決まってるでしょう!春十の隣に立つためですよ!その為には力が必要なんです!あの忌々しい門藤操を殺せるくらいの!』

 

 

その言葉を聞いた束は

 

 

「ふざけるなよ」

 

 

そんな、聞くだけで恐怖を覚えるほどの低い声でそう言葉を発した。

 

 

『ひぃ!?』

 

 

電話の向こうの箒は恐怖でそんな声を発するが、束は気にしない。

 

 

「私の可愛い可愛いISを、人を、みっちゃんを殺すために使わせるわけが無い。もういい。二度とそんな事を言うんじゃない。言ったら私直々に殺してやろう」

 

 

束はそう言うと通話を切り、スマホを物理的に破壊した。

 

 

「はぁ...今度みっちゃんに新しい番号伝えに行かなきゃ...」

 

 

束はそう言うと、さっきまで座っていたディスプレイ前の椅子に座り直した。

 

 

「ごめんクーちゃん。束さん、気分が今穏やかじゃないから作業はまた今度にしよう」

 

 

「分かりました。では気分を落ち着かせるため、紅茶等の準備をします。それでは」

 

 

クロエは1度頭を下げ、紅茶の準備の為にキッチンに向かっていった。

 

 

「...もう間違えない。絶対に。絶対に、みっちゃんを守る」

 

 

未だにシャルロットの頭を撫でる操の事を見ながら。

束は決意の籠った表情でそう呟くのだった...

 

 

 

 




箒はあくまで謹慎中で拘束室の中にいます。
監視もいるので外には出られない為、せめてもの情けでスマホの使用は1日30分だけ許可されてます。
説明が差し込めず申し訳ありませんでした。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告何時もありがとうございます!
今回も是非よろしくお願いします!


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身柄保護

今回でシャルはいったん退場です。

今回もお楽しみください!


操side

 

 

シャルロットは泣き止むのに、大体20分くらいかかった。

泣き止んだシャルロットは顔を上げて生徒会室備え付けとティッシュで鼻をかんだ後、俺に視線を戻す。

 

 

「え、あ、そ、その、ごめんなさい!」

 

 

すると、急に何故か謝って来た。

視線を自分の身体に向けると、シャルロットの涙でスーツが濡れてしまっていた。

 

 

「いやいや、気にしないでよ」

 

 

確かに、スーツはシャルロットの涙で結構濡れてしまっている。

でも、こんなの全然気にならない。

だってシャルロットが心を開いてくれたんだから。

例えそれがほんのちょっとだったとしても。

最悪の事態にはならなかった。

それだけで良いじゃないか。

 

 

「さて、みなさん入って貰って良いですよ」

 

 

扉に視線を向けながらそう声を発する。

それにつられてシャルロットも視線を扉に向ける。

だが、暫くしても扉が開くことは無かった。

アレ?おかしいな...

 

 

「入っても良いですよ?」

 

 

もう1度そう言うも、やはり反応が無い。

如何したんだろう...

もしかして、長く話し過ぎて帰った?

そう思い時間を確認する。

話し始めてからもう45分も経っていた。

う、帰られてても不思議では無い...

少し不安になったので立ち上がって扉の前に移動する。

 

 

「...気配は感じる」

 

 

勘違いでは無い。

確かに扉の前に6人分の気配を感じる。

6人って事は、ラウラ、簪、のほほんさん、楯無さん、虚さん、学園長かな?

扉の前にいるなら、なんで入ってこないんだ?

そう疑問に思いながら扉を開ける。

 

 

「え、あ、ちょ!?」

 

 

「......如何しました?」

 

 

扉を開いたら、そこには予想通りの6人がいたのだが...

何故か全員が泣いていた。

 

 

「あう、そ、その...」

 

 

「あの、その、だなぁ...」

 

 

簪とラウラがそう口を開いて、口を閉じるを繰り返している。

本当に如何した?

そう考えていると、虚さんが口を開く。

 

 

「...操さんとデュノアさんの会話を聞いて、少しウルッと来てしまいまして...」

 

 

「......したんですか」

 

 

正直、そんなに聞いてる人を泣かせるようなことを言った気はしない。

ただただ俺の考えてる事を言っただけだ。

偽善だのなんだの言われようとも、俺の本心を只話しただけ。

それだけなんだけどなぁ...

 

 

「まぁいいや、取り敢えず入って下さい。シャルロットも待ってます」

 

 

「そうだね、入ろ~」

 

 

のほほんが頷いたのを確認したので、生徒会室の中に戻る。

俺の後ろではまだ泣いたあとが残っている楯無さんが消そうといろいろしていたが、結局消えなくてそのまま入って来た。

 

 

「え、あなた達は...」

 

 

「しっかりと顔を合わせるのは初めましてですね。IS学園学園長、轡木十蔵です」

 

 

「初めまして、シャルロットちゃん。IS学園生徒会長の更識楯無よ」

 

 

「えっ...!?」

 

 

学園長と楯無さんの自己紹介を聞いたシャルロットはそう驚きの声を発する。

まぁ、今まで会った事が無かった学園長と生徒会長に急にあったら驚くに決まってる。

それに、今は状況が状況だし。

そんな事を考えながら全員分の紅茶とコーヒーを準備する。

う~ん、と...俺と学園長がコーヒーで、残りの人達が紅茶でいいか。

そう判断し準備を進めているうちに、虚さんや簪もシャルロットに簡単な自己紹介をしたようだ。

 

 

「紅茶とコーヒーです」

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

「ありがとぉ~ございま~す」

 

 

俺から紅茶とコーヒーを受け取ったみんなは飲み始める。

...俺の座るスペース無いや。

少々行儀が悪いが立って飲むしかない。

 

 

「あ、美味しい。操さん、紅茶淹れるの上手なんですね」

 

 

「そうですかね?自分では良く分からないんですけど...」

 

 

「謙遜する事は無いですよ。コーヒーもとても美味しいです」

 

 

「...ありがとうございます」

 

 

虚さんと学園長が言うならそうなんだろう。

 

 

「さて、じゃあシャルロットちゃん。美味しい紅茶と共に楽しいお話をしたいんだけど...そうはいかないのは分かってるわね?」

 

 

「...は、はい」

 

 

楯無さんがさっきまで涙だだ流ししてた人と同一人物とは思えないほどの真面目な雰囲気でそう言う。

それにつられシャルロットの表情も固いものに変わる。

 

 

「スパイ行為は未遂、そしてそれは本人の意思では無かった。それでも、罰則がある事に変わりが無いのは理解してるかしら?」

 

 

「それは...はい、理解しています」

 

 

「ならデュノアさん、デュノア社とのやり取りは記録として残っていますか?」

 

 

「記録として...ですか?」

 

 

学園長が言った事に、シャルロットが疑問の声を発する。

 

 

「ああ、例えば送られてきた指令書だったり、通話での音声データだったり、スパイ計画書だったり...とにかく、スパイ行為が本人の意思ではない事を証明できるものが欲しい」

 

 

「操さんの言う通りよ。証拠が無いと、デュノア社からシャルロットちゃんが勝手にやった事と切り捨てられてしまう可能性があるわ。だから、絶対に証拠は欲しいの」

 

 

俺の説明に楯無さんが補足を付け加えると、シャルロットは考えるように額に手を当てた。

パッと出てこないって事は、つい最近にそう言うものは無かったという事...

あってくれ...!

 

 

「あ、そうだ!」

 

 

シャルロットは突然がばっと顔を上げそう声を発した。

 

 

「会社との通信機器は、自動録音機能が付いていたはず!」

 

 

「それに、シャルロットちゃんの意思が関係ない内容は入ってるの?」

 

 

「はい、僕は1回拒否を言って怒鳴られた記憶があるので...」

 

 

「なるほど、それなら大丈夫ですね」

 

 

シャルロットの返答を聞いた虚さんは安心したようにそう声を発した。

それにつられて楯無さん達も少し表情を緩める。

でも...

 

 

「......妙だな」

 

 

『えっ?』

 

 

俺の呟いた言葉に、学園長を除く全員が呆気に取られたかのような声を発する。

 

 

「わざわざ通信機器に自動録音機能を付ける必要がある?」

 

 

「ええ、こうなった場合の事を想定していなかったのでしょうか...」

 

 

俺の呟きを肯定するように、学園長が呟く。

そう、わざわざ通信機器に自動録音機能だなんてものを付けておくメリットが感じられないのだ。

 

 

「それは...後でもう1度確認するためではないのか?」

 

 

「後で確認が必要なら文章で送ればいい。しかも、シャルロットの言ってた内容的に確認が必要とも思えない...」

 

 

ラウラの言葉を否定すると、この場の空気が少し重くなる。

...もしかして。

 

 

「なぁ、その通信機器を用意したのは誰だ?」

 

 

「え、お父さんですけど...」

 

 

なら、なら...!

 

 

「......なら、もしかして、シャルロットを守るためだったのかもしれない」

 

 

「......え?」

 

 

「社長本人は、これに反対だったのかもしれない。だから、せめて娘が誰かに助けてもらえるように証拠を残せるようにしたのかもしれない」

 

 

俺がそう言うと、全員が驚きの表情を浮かべる。

まぁ、それはそうだろう。

だってシャルロットの話を聞く限りこういう行動はしなさそうだから。

でも、俺はその可能性があると十分思ってる。

だって、血の繋がりのある子供の事を考えない親はいないだろうから。

親は子供の事を支えるためにいるんだから。

 

 

「...まぁ一先ず、そこの議論は置いておきましょう。じゃあシャルロットちゃん、その通信機器を持って来て頂戴な」

 

 

「はい、分かりました」

 

 

「それを使えば大丈夫だと思うけど、他にも証拠は欲しいわ。だから、私達がデュノア社に関して根掘り葉掘り調べるわ」

 

 

「え、会長さんが...ですか?」

 

 

「ええ、操さんが言っていた情報屋は私達の事よ」

 

 

楯無さんがウインクしながら言った言葉に、シャルロットは驚きの表情を浮かべる。

まぁ、生徒会長がそういう事をしていると知ったら驚くに決まっているか。

 

 

「ですが、その調べている間デュノアさんの身柄をどうしましょうか。このまま学園で生活をしていると他の生徒にもバレる可能性があります」

 

 

「なら、更識の屋敷で保護したらどうでしょうか。ねぇ、お姉ちゃん」

 

 

「ええ、そうね。幸いにも屋敷にはあまりの部屋があるし、不自由なく生活できるわ」

 

 

「なら早速連絡をしておきます」

 

 

「虚ちゃん、お願いね」

 

 

流石虚さん、仕事が早い。

もう既に生徒会室から出てるし。

 

 

「そうなりますと、学園は1度休学扱いにしておきましょう。理由は後で考えておきます」

 

 

それで良いのか学園長。

まぁ、良いか...

 

 

「フム、それは良いのだが織斑春十は如何するのだ?同室なんだろう?」

 

 

「それは~、今日最低限の荷物をもってぇ~、そのまま黙って出て~、そして朝のSHRで病院に言ってるとかでっち上げれば良いんじゃな~い?」

 

 

「その喋り方とは合わない内容だ」

 

 

ラウラのその言葉に思わず苦笑いを浮かべてしまう。

まぁでも、それが良いか。

 

 

「お嬢様、準備完了との事です。直ぐにでも迎え入れられると」

 

 

「分かったわ。シャルロットちゃん、善は急げっていうし、早速荷物を回収しましょう。織斑君に見つかる前にね」

 

 

「分かりました」

 

 

そうして、直ぐにでも行動する事が決まった。

まぁ確かに、織斑春十に見つかると面倒くさいからな。

 

 

「デュノアさん、今後更識生徒会長たちが情報を掴んだらデュノア社は崩壊します。それと同時にあなたも裁判にかけられるでしょう」

 

 

「......はい」

 

 

「ですが、デュノアさんは私達の大事な生徒であることに変わりはありません。たとえIS学園を強制退学になっても、私達はあなたのサポートをします」

 

 

「そうよ。それに、何ならずっと私達の屋敷で生活しても良いのよ?そうなったら、お掃除とかのお仕事をしてもらう事になるけどね♪」

 

 

学園長と楯無さんが次々とそう言う。

...これは俺も言わねぇとなぁ。

そう判断したので、シャルロットに少し近付き、また頭を撫でる。

 

 

「如何いう結果になっても、俺達が味方な事に変わりはないから。心配しないで。全部が終わったら、釣りにでも行こう。楽しいからさ」

 

 

そう言ってから笑顔を浮かべると、シャルロットは暫く呆けた表情を浮かべた後

 

 

「...はい!」

 

 

と笑顔になって返してくれた。

...こんなにも良い笑顔を浮かべてくれるなら、もう大丈夫だろう。

 

 

「じゃあ行きましょう。モノレール駅までは付いて行くわ」

 

 

「私も同行します」

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

そうして、3人は立ち上がる。

 

 

「みなさん、今日はありがとうございました...!!」

 

 

最後にシャルロットは頭を下げながらそう言うと、楯無さん達と共に生徒会室から出て行った。

 

 

「...じゃあ、俺達も解散しようか」

 

 

「そうですね、みなさんお疲れ様でした。私は仕事が残っているのでこれで失礼します」

 

 

学園長は1足早く帰って行く。

って言うかまだ仕事あるのか...

お疲れ様です...

 

 

「...食堂でご飯食べようか」

 

 

「そうしよ~」

 

 

そうして、俺達残った4人は食堂に向かって歩いて行く。

 

 

「みんな、今度のトーナメント頑張ってね」

 

 

「当然だ!」

 

 

「勿論です!まだ完成はしてないですけど、丁度このトーナメントで私の最新データが揃ったら後1歩!全力で頑張ります!」

 

 

「私も~やるときはやりますよ~!!」

 

 

三者三様の答えが返って来る。

これは、どんな戦いになるのか楽しみだな。

そんな事を考えながら、歩いて行くのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

三人称side

 

 

シャルロットとの会話から暫くたち5月末。

今日はとうとう学年別トーナメントの初日だ。

参加をしない操と体調不良の数人以外の生徒達は全員朝からテンションMAXで気合いを入れていた。

 

 

シャルロットはあの会話をしたその日のうちに学園からこそっと出て更識の屋敷に移動していた。

当然同室の春十はシャルロットがいない事、そして荷物の一部が無くなっていたことに非常に取り乱していた。

そして、次の日の朝のSHRでシャルロットは体調が悪くなったので暫くの間学園を休むことが告げられた。

この事を聞いた春十は

 

 

「ふざけんなよ..ふざけんなよ!シャルが暫く休む?そんなの原作になかっただろうが!まだ正体バレイベントも起こって無いだろうが!」

 

 

と、再び1人部屋になった自室で叫んでいたとかなんとか。

 

 

そして、楯無たち更識家が行っているデュノア社調査。

1週間も経過していないのに叩けば叩くほどにいろいろ不正の証拠が出て来ているようだ。

幹部の横領、違法取引、掲示詐称等々。

もう黒も黒、真っ黒だった。

今まで1つも露見してこなかったのが不思議なくらいには証拠が出て来ていた。

その中には当然、今回のスパイ計画の計画書、それに加えシャルロットに対する扱いの酷さを証明するものまで出て来た。

これでもう言い逃れは出来ない。

後はこれをフランス政府や国連に告発すればデュノア社には正式に捜査が入るだろう。

だが、学年別トーナメントでバタバタしている学園の事を考慮し取り敢えず調査を続けながらタイミングを見計らっているとの事だった。

 

 

更識の屋敷で保護されているシャルロットだが、屋敷でのびのびと生活をしていた。

もともと田舎で母親と2人きりで過ごしていたシャルロットの家事能力は高く、屋敷での掃除や料理を手伝いながら生活をしている。

屋敷のお手伝いさんと共に笑いながら過ごしているシャルロットには、もうこれ以上の心配はいらないだろう。

 

 

そして、今IS学園では

 

 

「フム、私は初戦か」

 

 

「そうみたいだな」

 

 

操たちが学年別トーナメントの対戦組み合わせを確認していた。

 

 

「そしてラウラの対戦相手は...」

 

 

「......織斑、春十」

 

 

そう、初戦のラウラの対戦相手。

それは春十だった。

 

 

「ラウラなら大丈夫だろ、勝てるさ!俺でも織斑春十に勝てたんだしな!」

 

 

「操と比べるな!...まぁでも、そうだな。私は私の全力を出すだけだ!」

 

 

ラウラは口元に笑みを浮かべながらそう言う。

 

 

「私も結構序盤...対戦相手は、ティナ...」

 

 

「ティナか...ティナは2組の中でもかなりの実力者だからな...いけるのか、簪?」

 

 

「当然です!私の全力でぶつかるだけです!」

 

 

操の言葉に簪は気合十分と言った感じでそう返答する。

 

 

「私の相手は~、キヨキヨカぁ~。全力で頑張るぞぉ~!!」

 

 

「本音、それいまいち気合いを感じない」

 

 

「かんちゃん!?それは酷いよぉ~!」

 

 

本音の間延びした喋り方に簪がツッコミを入れ、本音がそれに反論する。

その少しコミカルな様子に操とラウラは微笑を浮かべる。

 

 

「じゃあ、俺はそろそろ観客席に行くから。みんな、頑張ってね!」

 

 

「ああ、私の戦いを見ていろ!」

 

 

「頑張ります!」

 

 

「頑張るぞぉ~!!」

 

 

そう会話した後、操は観客席に向かっていった。

残ったラウラ達はISスーツに着替えるために更衣室へと向かっていった。

 

 

もう直ぐで、学年別トーナメントの幕が開ける...!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈...さぁ......コンテニューだぁ.........〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Q ISなのに恋愛要素が殆どないのはどうして?

A 操は23歳だし、もう既にリリアンという恋人がいるからさ!

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告何時もありがとうございます!
今回も是非よろしくお願いします!


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学年別シングルトーナメント

シングル。
ここ、大事。
そして相も変わらず戦闘シーン雑過ぎる問題。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

学年別トーナメント、初日。

これから1年生の第一試合が始まる第一アリーナには多くの観客が集まっていた。

そして、その観客にはこの間のクラス対抗戦同様、各国や各企業からの来賓も含まれている。

IS学園の生徒達と来賓の観客によって、第一アリーナの観客席は満席だった。

 

 

今日の午後から戦う生徒や2日目以降の生徒は勝ち上がったときに戦う相手の観察をしておきたいというのもあるだろう。

だが、ここまでこの第一試合が注目されているのはそれが理由ではない。

第一試合で戦うのが、ラウラと春十だからである。

方やドイツ軍IS部隊の隊長。

方や世界に2人しかいない男性IS操縦者で世界最強の弟。

注目されない訳がない。

そしてそれは、学園外からの観客も同様だった。

ラウラの専用機はドイツの最新式の第三世代型。

そして、春十の専用機も第三世代型である。

それに加え、クラス対抗戦の時に操が見せた圧倒的な戦闘力を考えると同じ男である春十の戦闘力に注目されるのも当然である。

まぁ、クラス代表決定戦の際に春十が操にボコボコにされるのを見たIS学園生徒達はそこまで期待はしていないのだが。

 

 

『さてさて!もう直ぐ学年別トーナメント1年生の部、第一試合が始まります!本日のアナウンスは私、新聞部副部長黛薫子がお送りします!』

 

 

会場にそのアナウンスが鳴り響いた瞬間、観客がわぁああああ!!と盛り上がる。

その瞬間、片方のピットから1機のISがアリーナに飛び出してきた。

黒い機体カラーに右肩にあるレールカノンが特徴的なIS。

 

 

『おおっと!先ず先に現れたのは、ラウラ・ボーデヴィッヒさんだ!その身に纏うは専用機シュヴァルツェア・レーゲン!どんな戦い方をするのか非常に楽しみです!』

 

 

ラウラはそのアナウンスを聞きながらいったん目を閉じる。

そして息を吸って、吐いた。

そうして眼を開いたラウラの表情は、覚悟が決まったものだった。

 

 

(私は、私の部下たちに、友人達に、操に、私自身に恥じない戦いをする。それだけだ)

 

 

ラウラはそう考えながら反対側のピットを見つめる。

するとピットから、白式に身を包んだ春十が飛び出て来た。

 

 

『そして!織斑春十君の登場です!その身に纏うは専用機白式!何でも彼の姉である織斑千冬先生の専用機、暮桜と同じ単一能力である零落白夜が使用できるとの事です!』

 

 

そのアナウンスを聞いた来賓の観客は少しざわつく。

生徒達は見たことがあるから知っているが、知らなかったら驚くのは当然だろう。

何故なら零落白夜は織斑千冬を世界最強たらしめる技なのだから。

それが使えるとなれば驚くのは当然である。

 

 

『それでは、両者構えてください!』

 

 

そのアナウンスを聞いたラウラは視線を鋭くすると、シュヴァルツェア・レーゲンの装備であるワイヤーブレードやレールカノンをすぐさま使えるようにスタンバイする。

それに少し遅れて春十は雪片弐型を展開し、構える。

だが、春十の表情はあまり良いものでは無かった。

 

 

(くそ、結局シングルのままじゃねえか!どうなってんだよ!だが、第一試合の対戦相手がラウラなのは変わりない...ここで、俺がラウラを惚れさせる!)

 

 

こんな状況になってもそんな事を考え続ける春十。

その目的に対する執着心だけは寧ろ尊敬に値するものなのかもしれないが、こんな状況でも考え続けるのは愚かとしか言えないだろう。

 

 

『学年別トーナメント、1年生の部第一試合!ラウラ・ボーデヴィッヒ対織斑春十!試合...開始!』

 

 

「うぉおおおお!!」

 

 

試合開始アナウンスと同時に、春十は声をあげながらラウラに突っ込んでいく。

白式は第三世代型のISで、全ISの中でもトップクラスのスピードを誇る機体。

最初からトップスピードは出ないものの、それでもかなりのスピードが出ていた。

だが、

 

 

「ふっ!」

 

 

突っ込むだけではただの的である。

ラウラはレールカノンを春十に向けて発射する。

 

ドキュウン!!

 

その様な射撃音がアリーナに響く。

 

 

「うぉ!?危ねぇ!?」

 

 

春十はそれを避けるため大きく横に移動する。

だが、意識をレールカノンに持っていかれてしまった。

その瞬間に

 

 

「ハァ!!」

 

 

ラウラはワイヤーブレードを展開、春十に振るう。

ラウラに意識を向けていなかった春十にそれを避ける事は出来ず、そのまま攻撃を受ける。

 

 

「う、がぁ!?」

 

 

SEが減り、春十はそう声を発する。

完全に意識外からの攻撃を喰らってしまった事で、春十は動きを止めてしまう。

 

 

「ふっ!」

 

 

「あ、う、ぐぅ...?」

 

 

そうしてラウラは右手を春十に向けると、春十の動きは停止してしまう。

アクティブ(A)イナーシャル(I)キャンセラー(C)

シュヴァルツェア・レーゲンの最大の武装。

ラウラ自身は停止結界と称するこの武装は、対象を任意に停止させることが出来るという反則級な能力を持っているのである。

ただし、使用には多大なる集中力が必要であり、多数を相手にした際や光学兵器を弱点とするが1対1では上手く使用するだけで完封できるほどである。

 

 

「ふっ!」

 

ドキュウン!!

 

「うわぁ!?」

 

 

動きが止まった春十に対してラウラはレールカノンを発砲。

当然春十に避ける事など出来ずにそのままヒットする。

それと同じタイミングでラウラはAICを解除。

春十は大きく吹き飛びアリーナの壁に激突した後地面に落ちていく。

 

 

「が、あぁ...!?」

 

 

地面に落ちた春十は身体をあげようとするも、またAICに囚われ身動きが取れなくなる。

 

ドキュウン!!ドキュウン!!

 

「ぐぅ!?がぁ!!」

 

 

ラウラはそんな春十に向かってレールカノンを連射する。

当然ながら全弾春十にヒットしドンドンとSEが無くなっていく。

春十の...白式の単一能力である零落白夜だったらこのAICの突破も出来るかもしれない。

だが、シングルマッチであるが故動きを封じられてしまったらその可能性もない。

それに加え、零落白夜は自身のSEを削り発動する技。

ここまでSEが削られるともはや発動できるのかすら怪しい。

 

 

(なんでだ!?なんでだよ!!なんでなにも出来ないんだ!!俺は主人公だろ!?なんでこんなにボコボコにされたんだよ!?)

 

 

身動きも取れない中、春十はそんな事を考える。

こうなっているのは当然なのだが、原作知識があるゆえんそんな考えに至らないらしい。

まぁ、原作でもタッグマッチだったから攻略出来たのだが、都合の悪い事は忘れているらしい。

 

 

(こんなものか...あっけないな。もう終わりにしよう)

 

 

ラウラはそう考えながらレールカノンを発射準備をする。

後1発当たれば、白式のSEは無くなるだろう。

そうして、ラウラが発射しようとした、その瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈はっはっはっ......〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな声が、ラウラには聞こえた。

 

 

「なに!?」

 

 

ラウラはあたりをハイパーセンサーであたりを確認するも、そんな声が発せられたと思われるものなど近くに存在しない。

 

 

〈さぁ...コンテニューの時間だ...〉

 

 

またも聞こえた声に、ラウラは今度は自分の目であたりを確認するも、当然ながら声の発生源は存在しない。

 

 

(これは...頭の中に直接...!?)

 

 

ラウラの様子がおかしい事に気が付いた観客がざわつく。

 

 

(貴様!誰だ!コンテニューとはなんだ!)

 

 

ラウラは頭の中の声に対してそう質問をする。

集中力などもうなくなり、AICの束縛も無くなっている。

だが、春十は立ち上がる事もせず、混乱したように頭を押さえるラウラを見て笑みを浮かべていた。

 

 

(良し!これはVTシステムだ!!)

 

 

春十は心の中でそんな事を考える。

だが、原作においてVTシステムが発動したのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

こんなに圧倒的有利な状況において、V()T()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

〈そのままの意味だ...今からお前はコンテニューし、新たに生まれ変わるのだ〉

 

 

(ふざけるな!私は、コンテニューする必要など...〈本当にそうか?〉何...?)

 

 

〈出来損ないと言われ、尊敬していた師の真の姿を知る...そんな人間、底辺以外の何物でもない〉

 

 

(うるさいうるさい!私には、私にはぁ...!!)

 

 

〈黙れ、身をゆだねろ〉

 

 

ラウラの頭の中の声がそう言った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チャリィィィン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな、まるでメダルを落としたかのような音がアリーナに響き渡った。

 

 

「う、ぐぅ、がぁあああああああああああああああ!?!?!?!?」

 

 

ラウラは苦しそうに急にもがき始めた。

シュヴァルツェア・レーゲンからは、()()()()()()()()()()が溢れ出て来る。

大量のメダルはそのままシュヴァルツェア・レーゲンごとラウラを包み込むと、グニャグニャと形を変えていく。

 

 

「え、な、え!?」

 

 

春十は思っていたものとは違う変化を見せるシュヴァルツェア・レーゲンとラウラに動揺を隠せない。

そして、メダルの変化が終了すると、そこにいたのは...

 

 

〈がぁあああああああああ!!」

 

 

白い、化け物だった。

 

 

『うわぁあああああ!?』

 

 

その姿を見た観客たちは悲鳴を上げ、一目散にアリーナから逃げようと席を立ち走り出す。

 

 

〈ぎゃあああああ!!」

 

 

その化け物は咆哮をあげる。

ラウラの声と、低い声が混じったような耳障りな声。

その見た目は全体的に尖っていて、禍々しい印象を覚える。

 

 

「な、な、な!?」

 

 

(なんだこれ!?VTってこんなのじゃないだろ!?なんだよこれ!?)

 

 

〈ぐるぁあああああ!!」

 

 

混乱する春十をよそに、化け物は咆哮をあげながら地面に降りる。

そしてそのまま地面を蹴り春十に接近する。

 

 

『春十!避けろ!』

 

 

「っ!あ、ああ!!」

 

 

ここで、春十に向かって千冬からのプライベートチャネルによる連絡が入る。

その指示に従い、春十は地面を這いながらその場から移動する。

その1秒後、さっきまで春十がいたところに化け物が到達した。

停まったときの勢いで地面は抉れ、アリーナの壁に罅がはしる。

 

 

『春十!逃げろ!』

 

 

『ちょっと織斑先生!早く避難誘導を...』

 

 

『黙れ!アリーナには春十がいるのだぞ!』

 

 

『それは他の先生で良いじゃないですか!有事の際の指揮権を持っているのは織斑先生なんですよ!』

 

 

〈がぁあああああ!!」

 

 

通信機の向こうでそんな会話が起こっている最中でも、化け物はお構いなしに咆哮をあげる。

 

 

『きゃああああ!?』

 

 

未だに避難しきれていない観客が悲鳴を上げる。

そうして、化け物は再び春十に向かって接近する。

 

 

「うわぁあああ!?」

 

 

『春十!!』

 

 

春十はその場から動けず、その場で目を瞑る。

千冬も絶叫を上げる。

その瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュルルルルルルルルルルルルルル!!

 

 

「えぁ!?」

 

 

グィ!

 

 

「うわぁあああああああ!?」

 

 

春十に黄色い糸が絡みつき、そのままピットに引っ張られる。

 

 

「ぐへっ!?」

 

 

ピットに着地した春十はそんな間抜けな声と同時に機体が強制解除され、絡まっていた糸も解ける。

春十が見上げると、そこには。

ジュウオウザガンロッドを手に持つ、ジュウオウザワールドがいた。

 

 

「早く逃げろ。ここは俺が引き継ぐ」

 

 

「何を言って...!」

 

 

春十の言葉を無視し、ジュウオウザワールドはジュウオウザガンロッドを肩に担ぎながらアリーナに出る。

 

 

〈ぐぁあああああ!!」

 

 

ジュウオウザワールドを見た化け物は咆哮をあげる。

 

 

『門藤!何をしている!無断行動は...』

 

 

『いいえ、彼は無断行動ではありません!』

 

 

『なっ!?』

 

 

『学園長から連絡が来ました!学園長直々にアレの対処を門藤君に任せたとの事です!』

 

 

アリーナの放送機能で千冬が何か言おうとした時に別の教員が説明をする。

それを聞いていた春十も驚愕の声を発する。

 

 

『織斑先生!早く避難誘導に行きますよ!』

 

 

『ぐっ...分かりました...』

 

 

そうして千冬は避難誘導の為に漸く動き出した。

ピットにいた春十も慌ててピットから出て行く。

そうして、アリーナにはジュウオウザワールドと、白い化け物。

 

 

「ラウラ...」

 

 

ジュウオウザワールドは化け物を見据えながらそう言うと、ジュウオウザガンロッドを構える。

 

 

「絶対に助ける!」

 

 

〈がぁあああああ!!」

 

 

化け物は咆哮をあげながらジュウオウザワールドに突っ込んでいく。

 

 

「ハァ!」

 

 

ジュウオウザワールドはジュウオウザガンロッドを振るいライノストリングを飛ばす。

ライノストリングは白い化け物に当たるも、大したダメージを与えれていないのかそのまま突っ込んで来た。

 

 

「なっ!?」

 

 

〈ぐるぁああああ!!」

 

 

「ぐっ...!?うっ...!?」

 

 

ジュウオウザワールドはそのまま突撃をくらい大きく吹き飛ぶ。

 

 

《ザワールド!》

 

 

《ウォーウォー!クロコダーイル!》

 

 

「本能覚醒!」

 

 

吹き飛ばされた先でクロコダイルフォームになったジュウオウザワールドはジュウオウザガンロッドをロッドモードに切り替え構えなおす。

 

 

〈ぎぃあああああ!!」

 

 

「うぉおおおおお!!」

 

 

白い化け物とジュウオウザワールドがぶつかり合う。

 

ガキィ!

 

ジュウオウザガンロッドと白い化け物の腕の鍔迫り合いの音があたりに響く。

 

 

(くそ!どうしたら良い!?如何したらラウラを助けられる!?)

 

 

〈がぁあああああ!!」

 

 

「ぐぅ!?」

 

 

化け物は腕を振るい、ジュウオウザワールド事ジュウオウザガンロッドを弾き飛ばす。

弾き飛ばされたジュウオウザワールドは転がりながら着地する。

 

 

《ザワールド!》

 

 

《ウォーウォー!ウルフ―!》

 

 

「本能覚醒!」

 

 

ウルフフォームになったジュウオウザワールドは地面を蹴り、超高速で移動する。

 

バァン!バァン!

 

ガンモードにしたジュウオウザガンロッドで化け物に射撃を行う。

 

 

〈ぐぅううううう!?」

 

 

「今!」

 

 

少し化け物がひるんだタイミングでジュウオウザワールドは接近すると、ジュウオウザガンロッドのリールを回し連射する。

 

ババババババババババァン!!

 

〈ぎゅやああああああああああああ!?!?!?!?」

 

 

流石に近距離での連射を受けた化け物はそう悲鳴を上げ、辺りに白い細胞な様なものを撒き散らしながら大きく吹き飛ぶ。

その瞬間、ジュウオウザワールドは視認した。

白い化け物の身体に出来た傷の中から、必死な表情を浮かべているラウラを。

 

 

「ラウラ!」

 

 

だが、その傷は直ぐに塞がってしまい、ラウラも中に取り残されてしまう。

 

 

(こうなったら...やるしかない!)

 

 

《ザワールド!》

 

 

《ウォーウォー!ライノース!》

 

 

「本能覚醒!」

 

 

ライノスフォームに戻ったジュウオウザワールドはジュウオウザガンロッドを仕舞う。

そして、1度大きく息を吸ってから、言葉を発する。

 

 

「野性...大解放ぉ!!」

 

 

その瞬間、ジュウオウザガンロッドの胸の犀の顔の目が光り、ジュウオウザワールドの両肩に黒い犀の角を模したような突起が出現する。

その一瞬後、狼と鰐の目も光り、ジュウオウザワールドの左腕は狼の鉤爪を模したものになり、右腕は鰐の尻尾の様なものに変わる。

 

 

「うぉおおおおお!!」

 

 

まるでキメラの様な見た目になったジュウオウザワールドは大声をあげて化け物を見る。

吹き飛ばされていた化け物はフラフラと立ち上がる。

 

 

「ハァアアア!!」

 

 

ジュウオウザワールドは狼の鉤爪にエネルギーをため込むと、そのまま振るいエネルギーの斬撃を飛ばす。

 

 

〈ぐぎゃあああああ!?!?」

 

 

「オラァ!!」

 

 

化け物が悲鳴を出すと同時にジュウオウザワールドは右腕の鰐の尻尾を振るい化け物にぶつける。

 

 

〈ああああああああ!?!?!?」

 

 

その瞬間にも化け物は悲鳴を上げる。

そうして尻尾の形に傷跡ができ中のラウラを視認できるようになる。

 

 

「はぁああああ.....」

 

 

ジュウオウザワールドは姿勢を低くして肩を前に出すと、ざっざっと2回地面を足でこすり、

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

雄叫びをあげながら黒いエネルギーを身に纏いながら化け物に突っ込んでいく。

 

 

「ワールドザクラッシュ!!」

 

 

そうして、フラフラな化け物に肩の角を激突させる!

その瞬間に右腕の尻尾をラウラに絡みつかせ左腕で抱え込むと、そのまま化け物の身体を貫通する!

 

 

〈ぐぁああああああ!?!?!?!?〉

 

 

最後に、低い声だけでそう悲鳴が上がる。

 

 

ボカァアアアアアアン!!

 

 

ジュウオウザワールドの背後で、化け物は爆発する。

そうして、その場には半壊したシュヴァルツェア・レーゲンが落ちていた。

 

 

「ラウラ!おい!しっかりしろ!ラウラァ!」

 

 

変身を解除した操はラウラの頭を自分の膝に置きながら寝かせ、そう呼びかける。

操がラウラの首に手を当てて脈を確認すると、正常に脈がある事を確認する。

今度は呼吸を確認すると、呼吸もある事を確認する。

 

 

「取り敢えず、生きてる...良かったぁ...」

 

 

操は安心したかのように息を吐いた。

そうしてラウラを医務室に連れて行こうとラウラを抱えながら立ち上がり、振り返った時だった。

シュヴァルツェア・レーゲンの残骸から、何かが這って出て来た。

顔や腕の先や足の先が白く、胸もとは黄色や赤でそれ以外は青。

額や口の近くから角の様なものが出ていて、額の中央には赤い宝石のようなものが付いていた。

それは暫く這っていたが、やがて力尽きたように動かなくなると、そのまま消滅した。

そうして、それを見ていた操は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()......?」

 

 

驚愕の表情でそう呟く事しか出来なかった。

 

 

 

 




特に反撃のチャンスすらなくボコボコにされるだけの春十。
これくらいがお似合いか。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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事件後

前回の続き。
どうなるのかな?

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

「う、うぁ...?」

 

 

IS学園、医務室。

通常の保健室とは異なり最先端の医療機器が揃っているこの場所で。

1人の女子生徒が目を覚ました。

ラウラだ。

 

 

「痛っ...!?」

 

 

上体を起こそうとしたラウラは、身体を動かした際の全身の痛みで顔をしかめそのままベッドに寝ころぶ。

そうして1度大きく息を吸った。

 

 

「身体が動かせない程痛い...何が、あった?」

 

 

寝起きの影響か、ラウラは何でここにいるのかはっきりと覚えていない様だ。

暫くの間考え込むように目を閉じていたが、

 

 

「そうだ...あの時、変な声が聞こえ痛っ!?」

 

 

思い出したようだ。

その際身体を少し動かし、また痛みで顔をしかめる。

そうして、痛みが無くなって落ち着いたラウラは息を吐くと、そのままぽつりと呟く。

 

 

「あの時、コンテニューとか聞こえて、そして何か身体が飲み込まれるような感じがして......駄目だ、その先が思い出せない...!!」

 

 

ラウラは若干悔しそうな表情になる。

その瞬間

 

ガラガラ

 

そんな音を立てながら医務室の扉が開く。

ラウラが視線だけをその方向に向けると、そこには白衣を身に纏い優しそうな表情を浮かべた女性がいた。

 

 

「あら、目を覚ましたのね」

 

 

「あな、たは...?」

 

 

「私はここ、IS学園医務室に勤務してる医師、エミリー・シエントよ」

 

 

ラウラの質問に、その女性...エミリーはそう返答する。

 

 

「ボーデヴィッヒさん、あなたは全身筋肉痛よ。数日間は凄まじい痛みが全身走ると思うけど、逆に言うとそれ以外は無事。もし救出されるのがあと少し遅かったから骨や内臓に異常が出てた可能性が高いわ」

 

 

骨や内臓に異常が出る可能性があった。

それを聞いたラウラは思わず身構えてしまう。

 

 

「...何があったのか、教えてもらえませんか?何も覚えて無いんです」

 

 

「覚えてない?それは本当なの?」

 

 

「はい...身体が何かに飲み込まれる感覚は覚えてるんですが、それ以降の記憶が...」

 

 

「そう......」

 

 

エミリーはそう呟くと、ラウラのベットの隣に置いてある椅子に座る。

 

 

「じゃあ、説明するわね。あの後何があったのかを」

 

 

そうして、エミリーはラウラに説明をした。

戦闘の途中、シュヴァルツェア・レーゲンから急に白いメダルの様なものが溢れ出た事。

溢れたメダルはシュヴァルツェア・レーゲンごとラウラの事を飲み込み形を変え、白い化け物になった事。

ジュウオウザワールドが交戦をし、ラウラを救出した事。

 

 

「そんな、事が...」

 

 

「ええ。あとで門藤さんには感謝しておきなさい」

 

 

「そうします...ところで、私はこの先どうなるのでしょうか?」

 

 

「それは私にも分からないわ。あとで確認しておいてね」

 

 

「......はい」

 

 

エミリーのその声に、ラウラは表情を暗いものにする。

 

 

「じゃあ、私は職員会議に参加するから少し抜けるわ。何かあったらそのブザーを押してね」

 

 

「分かりました」

 

 

そう言って、エミリーは医務室から出て行った。

 

 

「...私は、如何すれば......」

 

 

ラウラは俯きながら、そう言葉を零すのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

『それで隊長は、隊長は無事なんですか!?』

 

 

「ああ。取り敢えず生きてはいる。今は医務室で寝てる」

 

 

IS学園の屋上で。

操がスマホを使用し通話をしていた。

通話の相手は、シュヴァルツェ・ハーゼの基地にいるクラリッサだ。

ラウラの暴走は観客の各国の来賓を通じて世界各国に知られていた。

それを知った操は、シュヴァルツェ・ハーゼのみんなが心配しているだろうと察し、取り敢えず副隊長であるクラリッサに電話を掛けたのだ。

 

 

『生きてるんですね!良かったぁ......!』

 

 

「取り敢えずは、ね。それで、今の所ラウラに何か罰則があるとかそういう情報は出てるの?」

 

 

『特にそういう情報は無いですね。寧ろ、隊長は被害者なのではという声の方が多いと上から聞きました』

 

 

「それは良かった」

 

 

クラリッサの言葉を聞いた操は安心したような声を発した。

 

 

「じゃあ、お見舞い出来ないかもしれないけどラウラがいる医務室に行ってみる。事情聴取もあるからその後にもう一回連絡する」

 

 

『分かりました』

 

 

ここで通話を終了し、操はスマホをポケットに入れる。

そして操は屋上から医務室に向かっていく。

操は歩いている途中、難しそうな表情を浮かべている。

 

 

(なんであの場にメーバが...まさか、まさかアイツがいるのか?)

 

 

操はその考えに至ったとたん、不安そうな表情に浮かべ、足を止めてしまう。

暫くの間そのまま固まっていたが頭を振ると再び歩き出した。

 

 

「ん?あれは...シエント先生!」

 

 

「あ、門藤さん」

 

 

その道中、操はエミリーとすれ違った。

 

 

「医務室、入って大丈夫ですか?」

 

 

「はい、問題ないですよ。ボーデヴィッヒさんは今は目を覚ましてます。全身筋肉痛で動けそうにないですが」

 

 

ラウラが目を覚ました。

それを聞いた操は安心した表情を浮かべる。

 

 

「そうだ、門藤君。君には後で事情聴取があるとの事です」

 

 

「把握しています」

 

 

「そうですか。では、私は会議があるので」

 

 

「はい。呼び止めて申し訳ありませんでした」

 

 

ここで操とエイミーは会話を終了させると操は医務室に、エイミーは会議室に向かって歩いて行く。

そうして暫くある事数分。

操はラウラがいる医務室前に着いた。

 

コンコンコン

 

「操だけど、ラウラ、起きてるか?」

 

 

操はノックしてそう声を発する。

 

 

『ああ、起きてるぞ。入って大丈夫だ』

 

 

ラウラからの返答を聞いた操は扉を開け、そのまま医務室の中に入る。

 

 

「大丈夫...では無さそうだけど、取り敢えず無事でよかったよ。ラウラ」

 

 

「ああ...身体が痛すぎて身体を起こすことも出来ないが、取り敢えず生きてる」

 

 

操の問いかけにラウラは口元に少しだけ笑みを浮かべる。

それを見た操も笑みを浮かべると、そのままベッド横の椅子に座る。

 

 

「操。助けてくれてありがとう」

 

 

「気にしないでいいよ。それよりも部隊のみんなも凄い心配してたよ。動けるようになったら自分で連絡してあげな」

 

 

「ああ、そうするさ」

 

 

ラウラはここで、1度考えるような表情を浮かべた後、操に質問をした。

 

 

「今回、私が暴走してしまった時。教官は...織斑千冬は、何をしていた?」

 

 

「......聞いた情報だと、避難誘導をせずに織斑春十に呼びかけるだけだったらしい。有事の際の指揮権を持ち、1番最初に避難誘導をしないといけないにも関わらず、ね」

 

 

それを聞いたラウラは、考え込むような表情を浮かべる。

 

 

(そうか...自分の仕事を全うしない。その上で周りに迷惑を掛ける。そんな人を、私はもう信用しない)

 

 

「ラウラ?どうかした?」

 

 

「あ、い、いや、何でもない。大丈夫だ」

 

 

「そうか...あ、そうだ。少なくともドイツ内ではラウラに対する罰則はないってさ」

 

 

「そ、そうか...」

 

 

操の言葉を聞いたラウラは途端に安心したような表情になった。

やはり、罰則が怖かったのだろう。

操はラウラの身体を揺らさないように注意しながらラウラの頭を撫でる。

撫でられたラウラは少し嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

 

「それに、仮に国際社会からの非難があってもとある兎さんが助けてくれるかもしれないし?」

 

 

「ハハハ、それは無いだろう。操もなかなか面白い冗談を「おおっとぉ!良く分かったねぇみっちゃん!」え?」

 

 

操の言葉を笑いながら否定しようとしたラウラの言葉に被せるように...

何処からともなく声が聞こえて来た。

その事にラウラは驚いたような表情を浮かべ、操は若干呆れたような表情を浮かべる。

 

 

「本当に来たんですか...束さん」

 

 

「うん!あなたの心にラブリーラビット!世紀の天才、束さんだよぉ!!」

 

 

操がそう言うと、束が何処からともなく現れ、キランという擬音が聞こえてきそうなポーズを浮かべながらものすっごい笑顔でそう言った。

 

 

「し、篠ノ之博士...」

 

 

「みっちゃんの友達なら束さんが手を貸さない訳がない!もしなんか世界の奴らがうるさく言って来ても束さんがちょちょいのちょいと...」

 

 

「やり過ぎは許さないですよ?」

 

 

放っておくと暴走しそうな束に操は刺さるのか怪しい釘を刺しておく。

 

 

「へーきへーき!そうだみっちゃん、束さんスマホ変えたんだぁ~。だから新しい連絡先あげるね!」

 

 

「は、はぁ...前のスマホどうしたんですか?」

 

 

「ん~?むかついたから壊しちゃった♪」

 

 

「何があったんですか...」

 

 

操はそう言いながらもスマホを取り出す。

そうしてそのまま束の新しいスマホを連絡先に登録する。

 

 

「篠ノ之博士が、そうも簡単に連絡先を教えるだなんて...」

 

 

「みっちゃんだからね!みっちゃんはぜった~~いに悪用なんてしないもんね!」

 

 

「まぁ確かにしないですけど」

 

 

操は笑みを浮かべるとそのままスマホをポケットに仕舞う。

 

 

「それで、いったい何の用ですか?束さんがわざわざ連絡先を教えるためだけに来たとは思えないんですが」

 

 

「流石みっちゃん!束さんの事良く分かってるぅ~!!」

 

 

操の問いかけに束はおっちゃけた様子でそう返答する。

だけど、その次の瞬間。

 

 

「ISの暴走に関して、聞きたい事があったんだ」

 

 

笑顔だった表情は一気に真顔になり、真面目な雰囲気を醸し出す。

それにつられ、操の表情も固いものになる。

 

 

「なんでその事を...」

 

 

「束さんだよ?そういう事を把握してない訳無いじゃん」

 

 

「それで納得できるのが凄いな...」

 

 

束の言い分に、操は不思議と納得していた。

『篠ノ之束だから』

それだけでたいていの事は納得できてしまうくらいには、束は天才で、天災なのである。

 

 

「みっちゃん、戦いが終わったとき呟いてたよね。『メーバ』って。詳しく教えて欲しいな」

 

 

「...操、私からも良いか?」

 

 

束の言葉を聞いたラウラは、視線だけを操に向けながらそう言葉を発した。

それに伴い操と束がラウラの事を見ると、ラウラは言葉を発した。

 

 

「私が、暴走する前に声が頭に響いてきたんだ。『コンテニュー』って。操なら、何か知ってるんじゃないか?」

 

 

コンテニュー。

その言葉を聞いた操は、その表情を険しいものにする。

 

 

(コンテニュー...そうか、やはり.......!!)

 

 

「みっちゃん?如何したの?」

 

 

「......分かりました。話します」

 

 

操はそう言うと、1度大きく息を吸って、吐いた。

 

 

「メーバっていうのは......デスガリアンの、戦闘員なんだ」

 

 

デスガリアン。

それを聞いた束とラウラは驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「デスガリアンって、それって...!」

 

 

「ああ。向こうの世界で、俺が、俺達が戦った奴らだ」

 

 

操はそう言うと、ポケットからジュウオウザライトを取り出す。

 

 

「なんで、そんな奴らの戦闘員が...!」

 

 

「メーバが、ただの戦闘員だったらどれだけ良かったのかな...」

 

 

「「え?」」

 

 

操の呟きに、束とラウラは同時にそう呆気に取られたような声を発する。

 

 

「さっきラウラが言ってたコンテニューっていうのは、ブラッドゲームのプレイヤーが倒された時に、巨大化する時のものなんだ。倒されたプレイヤーは、デスガリアンのオーナーであるジニスの細胞が注入された『コンテニューメダル』を身体に投入されることで巨大化する」

 

 

「コンテニューと、メダルって...!!」

 

 

操の言葉を聞いた束はそう声を発した。

ラウラから聞いたコンテニューという言葉。

そしてシュヴァルツェア・レーゲンから出て来たメダル。

そのどっちもが言葉に含まれていたからだ。

 

 

「コンテニューメダルに秘められた力は絶大なものだ。プレイヤーを巨大にさせるだけじゃない。洗脳も出来る」

 

 

「「洗脳...!?」」

 

 

「ああ。エクストラプレイヤーだった時に、実際に俺も投入されたことがある」

 

 

メダルを投入するだけで、簡単に洗脳が出来る。

そんなものが存在する事に束とラウラは思わず身構えてしまう。

 

 

「ここで大事なのは、ジニスの正体なんだ」

 

 

「正体?」

 

 

「それが何か関係あるのか?」

 

 

「ああ。ジニスの正体は..............................................メーバの集合体なんだ」

 

 

「「えっ!?」」

 

 

ジニスの正体の説明を受けた束とラウラは、同時にそう声を発する。

それは当然だろう。

戦闘員の集合体が、その組織のトップだとは誰も思わないだろう。

実際に戦っていた操たちも大和が見抜けなかったら分からないままだったのだから。

 

 

「え、そ、それじゃあ、そのメーバがこの世界にいるって事は...!?」

 

 

「...多分、いる可能性がある。ジニスが、この世界に」

 

 

「そ、そんな事が可能なのか...?」

 

 

「ああ。もともと俺があっちに行ったのはジニスが俺を呼び寄せたからだ。自分が異世界に渡る手段がある可能性の方が高いだろう。.......まぁ、いるという確証はないがな」

 

 

操のその言葉はもはや気休めにもならない。

操自身もそれを理解しているのかそれ以上はなにも言わなかった。

そこから暫くの間、医務室は重い雰囲気に包まれた。

 

コツコツコツ

 

ここで、医務室の外から足音が聞こえて来た。

 

 

「じゃあみっちゃん。束さんはここで帰るね。なにかあったら連絡して」

 

 

「分かりました。今度もし機会があればご飯を作りますよ。お元気で」

 

 

「それは楽しみ!バイビ―!!」

 

 

最後に束は笑顔でそう返すと、一瞬で目の前から消えて行った。

目を離していないのに操にもラウラにも何処へ行ったのかは全く分からなかった。

思わず操とラウラは苦笑いを浮かべた。

その瞬間に

 

コンコンコン

 

「学園長の轡木十蔵です。入ってもよろしいですか?」

 

 

部屋の扉がノックされ、十蔵の声が聞こえて来た。

 

 

「はい、大丈夫ですよ」

 

 

ラウラが返事をすると、扉が開き十蔵が医務室の中に入って来た。

 

 

「おや、門藤君もいたんですか」

 

 

「はい。ラウラが心配だったので」

 

 

「私も心配でしたので、こうやってお見舞いに来ました」

 

 

「ありがとう、ございます」

 

 

十蔵に視線だけ向けながら、ラウラは十蔵にお礼を言う。

 

 

「ボーデヴィッヒさん。先程の職員会議の結果、IS学園からあなたに罰則等はありません。世界各国にも確認をしましたが、ボーデヴィッヒさんに罰則をという声は聞こえませんでした」

 

 

「そう、ですか」

 

 

十蔵にそう言われたラウラは口元を綻ばせる。

やはり、罰則が無いと言われたら安心したんだろう。

 

 

「ですが、ドイツ本国への非難は世界から相次いでいます」

 

 

「それは...まぁそうでしょう。専用機を用意したのは国なんですから」

 

 

「その結果、門藤君の引き抜き交渉が鳴りやまないらしいです」

 

 

十蔵のその言葉を聞いた操とラウラは若干表情を歪ませる。

 

 

「...私自身は、国籍をこれ以上変えるつもりは無いのですが」

 

 

「それでもです。やはり、世界に2人しかいない貴重な男性IS操縦者。それに加え、門藤君の戦闘能力は圧倒的です。何処の国も欲しいんでしょう」

 

 

「仕方が無い。あとでクラリッサを通して国に連絡を入れて声明を出して貰おう。『国籍を変えるつもりはない』って」

 

 

「そうした方が良いでしょう」

 

 

そう言って、3人は同時にため息をつく。

 

 

「それで、レーゲンはどうなるんですか?」

 

 

「今現在は門藤君が撃破し半壊した機体を回収して検査に掛けられています。近日中に検査が終わり次第返却されるかと」

 

 

「なるほど...分かりました」

 

 

レーゲンの今現在の状態を聞いたラウラはそう返答した。

その表情は、やはりというかなんというか、若干曇っていた。

 

 

「それでは門藤君。そろそろ事情聴取の時間です」

 

 

「あ、そうですか。分かりました」

 

 

そう言うと、操と十蔵は立ち上がる。

 

 

「じゃあラウラ。お大事にね」

 

 

操は最後にもう1度ラウラの頭を撫でると、そのまま十蔵と共に医務室を出て行った。

ラウラはそんな操の背中を見続けていた。

そうして扉が閉まったとき、ラウラは視線を天井に戻した。

そして。

 

 

「操、私は決めたよ。私は......もう、織斑千冬を信用しない。私が信用するのは、部下と、友人達だけだ」

 

 

そう、覚悟の決まった表情で呟くのだった。

 

 

 

 




実はオリキャラで唯一2作品に出演しているエミリーさん。
無限の成層圏と煉獄騎士の『こんな時に』以来の出演です。
ただの露骨な宣伝なので興味ある人は是非。

次回も何時になるのか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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しばしの平穏

平穏です。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

「クソ!クソ!何なんだよぉ!!」

 

 

操とラウラが医務室で会話しているのと同時刻。

IS学園の生徒寮、春十の部屋で。

春十はそう言いながらベッドの事を殴っていた。

 

 

「クソ!クソ!クソォ!!」

 

 

春十は最後に思いっきりベッドを殴り、はぁはぁと肩で息をする。

そうして春十はベッドの縁に腰掛けると、そのまま頭を抱えるような体制になる。

 

 

「なんでだよ!なんでだよ!暴走が全然原作と違うじゃねえかよぉ!」

 

 

春十は、ラウラの暴走が原作と違う事に苛立っていた。

原作でのラウラの暴走はVTシステムに飲み込まれて起こった事だった。

黒いドロドロとしたものに巻き込まれ、千冬の専用機だった暮桜を模倣したものになっていた。

だが、今回ラウラはレーゲンから溢れたメダルに飲み込まれ、白い化け物になった。

 

 

「それに、なんで俺が活躍出来なかったんだよ!結局門藤操に良いとこどりされたじゃねえか!」

 

 

良いとこどりでは無く、そもそも操が行かなければラウラは助かっていなかったし春十は何も出来ていなかったのだか、春十にそれは理解できない。

だから何時まで経っても何も変わらないのである。

 

 

「クソ!クソォ!!鈴は学園からいなくなって、箒とセシリアは停学になって!その上シャルは惚れさせる事も出来ないまま入院して!ラウラは門藤操に取られた!どうなってるんだよ!俺は神に選ばれた転生者だろ!なんで俺の思う通りに事が進まねぇんだよ!俺は主人公だろ!」

 

 

春十はそう言うと、自分が座っているベッドの事を殴る。

 

ギシッ...

 

ベッドに入ってるスプリングがそう悲鳴を上げるも春十は特に気にしていない様だった。

 

 

「まだだ、まだだ!もう直ぐ7月には臨海学校がある!その前には箒とセシリアも学園に復帰し、シャルも退院してる!そうして、臨海学校では銀の福音の暴走事件がある!そこで今度こそ俺が活躍するんだ!そして俺が主人公だと証明するんだ!そうすれば、シャルもラウラも俺に惚れる!そうして俺はハーレムを作るんだ!!」

 

 

春十はそう叫ぶと、そのまま立ち上がって窓に近付き外を見る。

そうして、何処か虚ろな目をしながら

 

 

「俺が主人公だ。俺は主人公だ。俺は主人公だ。俺は主人公だ。俺は......主人公だ」

 

 

そう、狂ったように呟くのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

ラウラの暴走事件から暫くたった6月のある日の昼休み、生徒会室で。

 

 

「はい、みなさんの分のお弁当です!」

 

 

操は作ったお弁当を手渡していた。

 

 

「ありがとう」

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

「ありがとぉ~ございまぁ~す!!」

 

 

「ありがとうございます♪楽しみ!」

 

 

「わざわざ私にまでありがとうございます」

 

 

その相手はラウラ、簪、本音、楯無、虚の5人だった。

何故生徒会室で操が弁当を5人に渡しているのかというと、操が

 

 

「みんなに手作りのお弁当食べてもらいたい!」

 

 

と言い、楯無が

 

 

「折角ですからご飯食べながら談笑会でもしましょう!」

 

 

そう言ってそれに乗り、場所として生徒会室を使用する事になったからだ。

 

 

操からお弁当を受け取った5人はそのまま包みを解き、弁当箱の蓋を開ける。

その瞬間、

 

ビシッ

 

そんな擬音が聞こえてきそうなほど、全員が固まった。

 

 

「...?如何しました?」

 

 

操は固まった5人を見て不安そうな表情を浮かべる。

自分の作ったお弁当を見た人が固まったら誰だって不安になるだろう。

だが、5人が固まるのも無理はない。

それは何故か。

 

 

「......なにこの見るだけで美味しいお弁当!?」

 

 

そう。

お弁当の完成度があまりにも高いからだ。

白米におかずが数品のオーソドックスなお弁当。

おかずの彩は良く、食欲をそそられる。

そして、白米もおかずも丁寧に作られているのが1目で分かるほど綺麗だった。

このお弁当を23歳成人男性が作ったという事実が、5人の女心を抉ったのである。

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

先程の楯無の驚愕の声を素直に称賛の声だと受け取った操はそうお礼を言いながら自分の分のお弁当を開ける。

 

 

「さて、じゃあいただきます」

 

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

 

操の声に続くように、5人はそう言う。

そうしておかずの1つであるミニハンバーグを箸でつまむと、そのまま口に放り込む。

その瞬間。

 

ビシッ!パリィン!

 

今度は何かが砕けるような擬音が聞こえてくるように5人が固まった。

 

 

「ど、如何したんですか?」

 

 

操は再び心配そうにそう呟く。

 

 

「「「「「ま、負けた...」」」」」

 

 

「???」

 

 

5人が呟いた事に操は首を捻る。

だが、5人がそう呟くのも無理はない。

固まってしまうくらいには、操の料理は美味しかった。

素材の味を生かすための薄味、だけれども物足りないという訳では無く、寧ろ素材の味を高めて濃厚な味を生み出している。

そんなお弁当を食べたことにより5人のプライドは打ち砕かれた。

 

 

「ここまで、とは...」

 

 

「負けた...」

 

 

「これには勝てないよぉ~」

 

 

「料理にはそこそこな自身があったのだけど...」

 

 

「これに勝とうとするのは、寧ろばかばかしいですね...」

 

 

「???」

 

 

5人はそう呟きながらも箸は止まらない。

箸を止めていられない程美味しいという事なのだろう。

操はそんな5人の様子に首を傾げながらも、自分のお弁当を食べ進める。

 

 

(う~ん、もう少しだけ塩入れた方が良いかな?でもそうすると素材の味薄れちゃうんだよなぁ...まぁ、今度やってみよう)

 

 

そうして、そこから暫くの間6人はお弁当を食べながら談笑をしていた。

 

 

「いやぁ、ラウラが無事で本当に良かったよ」

 

 

「そうだな。もう運動や訓練をしても問題ないという事だ」

 

 

操の言葉にラウラが自分の身体を見下ろしながらそう返答する。

一時は身体を動かすだけで激痛が生じていたラウラだが、月も変わった事で以前までと変わらない生活が出来るくらいまでしっかりと回復していた。

 

 

「それに、我が国は多少の責任を負う事になったが全然問題ないしな」

 

 

「なんでだろうね?」

 

 

「操がいるからに決まってるだろう」

 

 

「そうなのかな?」

 

 

そう、ラウラと操の言う通り、ドイツは今回の暴走の件で責任を負う事になり世界各国からの経済制裁を受ける事になったのだが、それはそこまで深刻なものでは無かった。

それもこれも、操がドイツ国籍だからだろう。

圧倒的な戦闘力を持つ男性IS操縦者がいる国に対して強気に出れないのだろう。

 

 

「まぁ、レーゲンも手元に戻って来たしもう問題無いだろう」

 

 

「専用機と言えば、簪の専用機ってどうなったの?」

 

 

操のその言葉を受け、全員の視線が簪に向けられる。

簪は急に視線を向けられた事に驚きつつもそのままその質問に返答する。

 

 

「もう機体自体は完成してて、後は演算処理機器が出来れば良いんですけど...それが難航してて......」

 

 

簪は言い終わった後少し俯いてしまう。

 

 

「かんちゃん、最近ずっと計算してるんだけど全然上手く行かなくて...」

 

 

「でも、あと少し、ほんのあと少しなんです」

 

 

「簪ちゃん、大丈夫?お姉ちゃんが手伝ってあげようか?」

 

 

「手伝ってくれるのならお姉ちゃんより虚さんが良い」

 

 

「ちょっと!何でよ簪ちゃん!お姉ちゃんが信頼できないの!?」

 

 

「信頼できないんじゃなくて、もっと単純に整備課の虚さんの方が頼りになる」

 

 

「なら私が参加しても良いじゃない!」

 

 

「生徒会の仕事、如何するの?」

 

 

「あっ......」

 

 

簪に言われて、楯無は固まった。

完全に忘れていたんだろう。

そんな楯無を見て操とラウラは苦笑浮かべる。

 

 

「そういう訳だから、本音、虚さん、手伝って」

 

 

「もちろ~ん!!」

 

 

「当然です!生徒会の仕事はお嬢様に一任しましょう!」

 

 

「チョッと虚ちゃん!虚ちゃんまでそんな事言うの!?」

 

 

「「...ハハハハハ!」」

 

 

「操さんにラウラちゃん!声を抑えながら笑わないで下さい!」

 

 

遂には耐えられなくなった操とラウラが笑い声を漏らすと楯無が必死の形相でそう叫ぶ。

すると

 

 

「「「「「アッハハハハハ!!」」」」」

 

 

このやり取りに耐えられなくなった楯無以外の5人が声を出して大笑いする。

 

 

「むぅ~~!!」

 

 

そんな5人の反応を見て、楯無は不満を覚えたのかそう頬を思いっ切り膨らませながらそう唸る。

それを見て更に5人は爆笑する。

 

 

「楯無さん、もう完全に簪に負けましたね」

 

 

「ううううう...簪ちゃんの成長は嬉しいけど、こう手玉に取られるのは...」

 

 

「手玉に取って無いよ。お姉ちゃんが勝手に取られてるって言うか、私の手の中に勝手に入って来ただけだよ」

 

 

「ぐふっ!?」

 

 

簪に心を抉られた楯無は地面に両手をつき身体を震わせる。

 

 

「おおお~~、かんちゃんが凄い成長してる~~~」

 

 

「成長したのかな?」

 

 

「ハハハ、してると思うよ?前までだったら楯無さんにそこまで言えて無かったと思うし」

 

 

「はい、操さんの言う通りです。簪様はかなり成長していらっしゃいます。これからも自信をもって下さい」

 

 

「操さん、虚さん......そうですね、これからも頑張ります!!」

 

 

操と虚に言われて自身が付いたのか、簪は眩しい笑顔を浮かべる。

 

 

「お~、楯無様が地面に突っ伏してる~~」

 

 

「昼食を食べたばかりだし消化に悪いんじゃないか?」

 

 

本音とラウラは、そんな会話を聞いてもう完全に地面に倒れた楯無を見てそう感想を漏らす。

 

 

「楯無さん、いくら生徒会室が綺麗に掃除されてるとはいえそこら辺はさっき歩いた所で汚いので顔をあげてください」

 

 

「うぅううううう...操さんのお弁当に女としてのプライドを砕かれ、簪ちゃんには心を抉られ......」

 

 

楯無は幻覚の涙が見えるくらいのテンションで立ち上がりながらそう呟いた。

 

 

「そう言えば、お弁当箱返してください。まだまだ使い回すので」

 

 

「あ、忘れてました。お弁当ご馳走様でした!美味しかったです!」

 

 

「ごちそ~さまでした~!ありがと~ございました~!!」

 

 

「ご馳走様でした。とても美味しかったです」

 

 

「ご馳走様。かなり美味しかったぞ」

 

 

「ううううう......ご馳走様でした」

 

 

操がお弁当箱を回収しようとすると、各々感想を言いながら操にお弁当箱を返していく。

ショックを受けていた楯無も何とかといった感じで操にお弁当を返す。

 

 

「お粗末様でした。喜んでくれて良かった!」

 

 

操は素直に笑顔でそう返事をすると、そのまま自分の分のお弁当箱を含め6個のお弁当箱を包みに仕舞う。

 

 

「お嬢様、そろそろ立ち直って下さい。みっともないですよ」

 

 

「みっともないって言わないで!!」

 

 

虚に言われた楯無は今度はがばっと少し元気を取り戻したかのようにそう反論する。

 

 

「いや、みっともないよお姉ちゃん。いつまでも引きずるだなんて」

 

 

「簪ちゃぁあああん!!なんでそんなこと言うのぉおおおおお!?」

 

 

「...なぁ、操」

 

 

「如何した、ラウラ」

 

 

楯無が嘆いているのを見たラウラが操に話し掛け、操はそれに反応する。

 

 

「あの人が本当に生徒会長で、暗部の長なのか?」

 

 

「ああ。あの妹や従者に心を抉られているのが、我らがIS学園の生徒会長にしてデュノア社の闇を暴くことも出来る力を持った暗部の長、更識楯無さんだ」

 

 

「操さん?馬鹿にしてませんか?」

 

 

「してませんしてません」

 

 

楯無は操に詰め寄る形で質問し、操は首を振りながら否定する。

 

 

「まぁ、それなら良いんですけど」

 

 

楯無は違和感のない操の様子にそう納得すると、そう引いたのだった。

そうして暫くの間、生徒会室を静寂が支配する。

が、

 

 

「ぷっ、あはははは!」

 

 

「はっはははははは!」

 

 

楯無と操が同時に吹き出し、それにつられ他の4人も笑みを浮かべる。

 

 

「さぁ、まだまだ昼休みはあるんだし、もう少しお話でも...」

 

ピピピピピピピピピ

 

 

楯無の言葉は、そんな電子音によって途切れた。

その音を聞いた楯無と虚の表情は今までの緩やかな物から一気に険しいものに変わる。

そんな2人を見た操たちもつられて真剣な表情になる。

 

 

「お姉ちゃん、もしかして」

 

 

「ええ。更識家からよ」

 

 

楯無はそう言うと電子音が鳴っている端末を手に取りそのまま生徒会室の隅の方に移動する。

 

 

「楯無よ。......ええ、分かったわ。ええ、それで?...なるほど、そうなっちゃうか。身柄は?......ええ、分かったわ。じゃあそういう風に手配して。ええ...じゃあ、よろしく」

 

 

通話を終わらせた楯無はそのまま通信端末を仕舞い、操たちの近くに戻って来る。

 

 

「お嬢様、内容はいったい?」

 

 

「デュノア社に関する事よ」

 

 

「「「「「!!!」」」」」

 

 

その言葉を聞いた5人は一斉に表情を驚きのものに変えた後、真剣な表情に変える。

 

 

「楯無さん、今、聞いても?」

 

 

「はい。じゃあ説明しますね」

 

 

操の言葉に頷いた楯無はそのままソファーに座り直す。

そうして、説明を開始した。

 

 

「私達が入手したデュノア社の情報。それをフランス政府、並びに国際IS委員会、国際連合に報告しました。その結果、近々デュノア社には強制捜査が入るとの事です」

 

 

「そうですか...」

 

 

「はい。強制捜査に乗り出たらニュースにも報道されるでしょう。そして、社長や社長夫人、幹部の人達は逮捕される可能性が高いです」

 

 

「......シャルロットは、どうなりますか?」

 

 

「確実に専用機は国に返還、代表候補生は辞めさせられることになります。その後は...国際社会や、調査機関の判断になるので私達には分かりません」

 

 

それを聞いた全員は少し表情を重いものにする。

折角救われたシャルロットがこの先どうなるのか分からない。

つまり逮捕される可能性があるというのが、全員の顔を暗くしているのだ。

事実、話をしている楯無も表情は重い。

 

 

「シャルロットちゃんの身柄はまだ家で保護できるみたいですが、引き渡しの話になったら素直に引き渡すしかありません」

 

 

「それはそうですね...仕方のない事ですが」

 

 

楯無の言葉に、虚がそう返す。

先程までとは異なる静寂が生徒会室を支配する。

 

 

「......取り敢えず、生徒会室から出ましょうか」

 

 

「そうだな。もう直ぐ昼休みも終わるしな」

 

 

操の言葉にラウラが同調し、残りの4人は時計を確認する。

すると確かに、昼休みがもう直ぐで終わる時間だった。

その為6人はそのまま自分の荷物を持ち生徒会室から出る。

 

 

「操さん、今日はお弁当ありがとうございました」

 

 

「では、また」

 

 

「はい、また」

 

 

そうして学年が違う楯無と虚とは分かれ、残った4人は1年生の教室に向かう。

 

 

「......そう言えば、もう直ぐ臨海学校ですね」

 

 

「あああ~!!そうだった~!!忘れてたよぉ~~!!」

 

 

その道中、簪がそう呟き本音がそれに反応する。

臨海学校。

学園では出来ない実習を行う事を目的とした校外実習で、花月荘という旅館に2泊3日で泊まり様々な実習をするのである。

実習という名目だが1日目は完全自由であり、海で遊ぶ事も可能なのである。

 

 

「あ~、なら準備の買い物しないとな」

 

 

「フム、ならば今度全員で買い物に行くか?モノレールの駅の近くには、確か商業施設があるんだろう?」

 

 

「うん。レゾナンスっている大型総合施設があるね。多分、水着のお店とかもあると思う」

 

 

「じゃあ買い物行こ~!!」

 

 

その会話を聞いた操は視線を少し泳がせる。

 

 

「あー、俺は個人的に...「行くんですよね?」...はい」

 

 

そうして、何となく簪に手玉に取られながら操はそう反応する。

 

 

(あれ?成長し過ぎじゃね?)

 

 

(なんか~、成長し過ぎな気がする~)

 

 

(聞いてた人物の印象と違うぞ?)

 

 

簪の何となくの成長を感じた3人は内心そう考えながら簪を見る。

簪は3人の視線に気が付かないようにそのまま歩く。

 

 

「それじゃあ、また後で」

 

 

「ああ、また後で」

 

 

そうして簪と別れ3人は1組の教室に入っていった。

 

 

(...重い話は有ったけど、漸く平和だった気がするな。買い物...なんだかんだで楽しみな自分がいる)

 

 

操はそんな事を考えながら自分の席に座るのだった。

 

 

 

 




平和だなぁ。
......ヘイワダナー。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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臨海学校準備

サブタイそのままです。

今回もお楽しみください!


操side

 

 

生徒会室でみんなにお弁当を食べさせて、なんとなく簪が成長し過ぎに感じた日から暫くたったある休日。

俺はIS学園に繋がるモノレール駅に程近い大型総合施設、レゾナンスに来ていた。

理由は単純明快。

もう直ぐ行われる臨海学校に必要なものを買いに来たのだ。

俺はこの世界に荷物などを殆ど持って来ていない。

その為、水着等は勿論の事着替えとかを入れる大きめのバッグなども無いのだ。

だから、今日はかなり大量に買い物をする事になる。

そして今日俺はレゾナンスに1人で来ている訳では無い。

 

 

「操さん、早く早く!」

 

 

「少し待ってくれぇ!」

 

 

今日はラウラ、簪、のほほんさん、ティナ、静寐、神楽、癒子、さゆかの8人、つまりはラウラと釣り組と共にレゾナンスに来ているのだ。

なんというか、大所帯である。

しかも女子高生8人に23歳成人男性1人とかいう良く分からない、周りから見るともはや怪しさすら感じるんじゃないかというメンツである。

大丈夫だよな?

通報されないよな?

俺だって一応高校生だし...

でもはたから見ると23歳成人男性は社会人なんだよなぁ...

まぁ良いや。

そん時はそん時だ。

取り敢えず合流して買い物をしよう!

 

 

「はぁ、はぁ...ふぅ......それで、取り敢えず何買うの?」

 

 

「そりゃあ勿論、水着ですよ!!」

 

 

全員と合流したので最初に何を買うのか尋ねると、ティナがそう返答してくれた。

 

 

「水着か...男用売ってるのかな?」

 

 

「あ、あー...」

 

 

俺の素朴な疑問に、さゆかが苦笑いを浮かべながらそう反応した。

この女尊男卑な世の中で、男性の地位が下がると同時に店頭からは男用の種類が減ったり、取り扱いをしなくなっていったりしているのだ。

そんな中で女尊男卑になる前から女性用のものが優遇されていた水着なんてもう売ってる店なんて無いんじゃないだろうか。

 

 

「取り敢えず行ってみないと分からないぞ」

 

 

「確かに。じゃあ取り敢えず店に行こうか」

 

 

ラウラの言葉に反応した俺の言葉に全員が頷いた。

そうして、全員で水着が売っている店に移動する。

その道中なにやら視線を感じたのは気のせいでは無いだろう。

すれ違う女性からも男性からも視線を向けられているような気がする。

具体的に言うと、女性からは軽蔑の、男性からは嫉妬の視線を感じる。

はぁ...なんとも面倒な世の中だ。

大和達とワイワイ過ごしてたのがもう懐かしい。

この世界に来てから1年も経ってないんだがなぁ...

そんな事を考えていると、水着のお店の前に来た。

そう、前に来たのだが...

 

 

「......男用、あるか?」

 

 

「無いかもしれないですね...」

 

 

俺の呟きに、簪がそう反応する。

そう、店の前からは如何考えても男用のものが見当たらなかった。

 

 

「もしかしたらぁ~、奥の方にあるかもですよぉ~」

 

 

「...入る勇気が出てこない」

 

 

なんだ、このデスガリアンと戦う時には感じなかった謎のプレッシャーは!?

 

 

「...確かにそうかもしれないですね」

 

 

「じゃあ私達が見てきますね」

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

静寐と神楽がそう言ってくれたので素直にお願いする。

すると、8人はそのままお店の中に入っていった。

俺はやる事が無くなったので周囲のお店を確認する。

...なんか、やっぱり女性専用のお店が多い。

こんなんじゃあ男性は生活しにくいに決まってる。

そう考えていると、ラウラが戻って来た。

 

 

「無かったぞ」

 

 

「やっぱりか...水着持ってねぇしどうするか......」

 

 

そうしてあたりをもう1回見渡すと、スポーツ用品店が目に入った。

あそこならスポーツ用のものが置いてるかもしれない。

 

 

「ラウラ。俺はあっちのスポーツ用品店を見てくる。あそこになかったら、もう泳ぐのは諦める」

 

 

「通販は...そうか、男性用のものを通販で買おうとするとやけに高いからな」

 

 

「ああ。男性用のものは製造数が少ないからな。あらゆる人が購入できる通販だと供給より需要の方が上回り過ぎて高いから店頭で買わないと俺の財布が...」

 

 

「了解した。みんなにも伝えておく」

 

 

「ああ。よろしく頼む」

 

 

そうして、ラウラはそのままお店の中に戻っていった。

それを確認してから俺もスポーツ店に向かっていく。

頼む...!

海で1人だけジャージで突っ立ってるのは嫌だ......!!

クソ、釣りが出来たらいいのになぁ!!

まぁ、遊泳可能な浜辺の近くで釣りが出来る場所が無いのは分かってるけどさ。

そんな事を考えていると、件のスポーツ用品店の前に着いた。

そうして、俺はそのまま店の中に入る。

入ってすぐに、バスケットボールのユニフォームをバスケットシューズを履き、ボールを手に持っているマネキンがあった。

おお!

これは男性用だ!

これなら男性用の水着があるかも...!!

 

 

~数十分後~

 

 

「無かった...」

 

 

あれから店内をくまなく探したのだが、男性用の水着を発見する事は出来なかった。

否、正確にいうのなら販売スペースはあったのだがそこの棚はすっからかんだった。

もう売れてしまっていたのだろう。

 

 

「これで、俺は泳げない事が確定した......」

 

 

最悪だ...

俺にこの世界の海を楽しむ資格は無い...

取り敢えずみんなの所に戻らないと。

そう判断し、さっきまでいた店の前に戻る。

すると、そのタイミングで買い物袋を手に持ったみんなが店から出て来た。

 

 

「あ、操さん!水着ありました?」

 

 

「ははははは...あったら買ってるよ...」

 

 

 

「「「「「「「「............」」」」」」」」

 

 

何も持っていない両手を掲げてそう言うと、みんなは若干悲しそうな表情で俺を見て来た。

止めてくれ...そっちの方が辛い...

笑ってくれた方が何倍もマシだったような気がする.....

 

 

「ま、まぁ臨海学校は泳ぐだけじゃないから!!浜辺でジャージでわちゃわちゃするとするよ!!さぁ、次の買い物に行こう!!」

 

 

このまま暗くても良い事は無い。

暗かったら何時までも暗いままだってセラとアムに教えてもらった。

だから取り敢えず切り替えて次の買い物に行く事にした。

 

 

「そ、そうですね!次に行きましょう!!」

 

 

「じゃあ、寝間着買っていいですか?結構だるだるの服しか無くて...」

 

 

「いいじゃん!買いに行こう!」

 

 

そうして、そこからは全員で様々なお店を周った。

服屋では数少ないメンズコーナーからシンプルなジャージを3着買い、化粧品店では日焼け止めとかを買っているみんなを外から眺め、バッグの店では1種類しかなかったメンズ用の大きなバッグを買い、ボードゲーム屋ではみんなでどのゲームが面白いのかを吟味し...とにかくいろいろな買い物をした。

そうして、今はみんなで昼食をどうするか話しあっている。

 

 

「どこかで食べるにしても、この人数でこの荷物は邪魔かな?」

 

 

「確かに邪魔かも。それに、そもそも今日は休日だから9人で入れるところの方が少ないんじゃないかな?」

 

 

「なんなら俺ご飯作るよ?」

 

 

俺がそう言うと、みんながガバッと俺に視線を向けて来た。

だが、ティナたちが目を輝かせているのとは対照的にラウラ、簪、のほほんさんの3人は若干引いていた。

なんで料理作るって言ったら引かれないといけないんだ。

俺には料理をする資格も無いの?

 

 

「操さん、作ってくれるんですか!?」

 

 

「ああ。って言っても今流石に9人分の材料は無いから買って帰らないといけないけどね」

 

 

「それでも良いです!是非お願いしま「「「チョッと待ったぁ!!」」」どうしたの?」

 

 

癒子の言葉を遮るようにラウラ、簪、のほほんさんの3人が声を発する。

なんだなんだ?

のほほんさんが間延びをしないだなんて、そんなに重要な事なのか?

 

 

「操の料理は危険だ!女のプライドが打ち砕かれる!!」

 

 

「うんうん!この前実際に砕かれた!」

 

 

「もう自分の料理に自身が無くなっちゃうよぉ~!!」

 

 

「......いやいや、そんな訳無いじゃん。素人だぞ?プロの料理人の方なら分かるが素人の料理でそんな事になる訳無いじゃん」

 

 

自分で食べていろいろ改良したくなるし、そんな訳が無いんだよなぁ。

事実、言われたティナたちもキョトンとしている。

 

 

「そこまで何ですか?」

 

 

「自分ではそうとは思わない。自分で食べると改良点が続々と出て来る」

 

 

「あの完成度でか!?」

 

 

「どの完成度の事を言っているのかは分からないが、俺の料理はまだ改善の余地ありだ」

 

 

何時か、大和達を満足させるために!!

 

 

「なんか、話を聞いてると凄い気になってくる」

 

 

「うん。これはぜひとも1回食べたい!」

 

 

「よし、じゃあ決定!!」

 

 

「「「決定してしまった...」」」

 

 

俺の言った事に、何故かラウラと簪とのほほんさんがそう言葉を零した。

俺の普通な料理の何処にそんなショックを受ける要素があるというのだ。

 

 

「じゃあ、取り敢えずスーパーに行こう!」

 

 

「そうですね、行きましょう!」

 

 

そうして、俺の言葉にティナが頷き全員でスーパーに移動しようとした、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!殺気!!」

 

 

殺気を感じた俺は近くにいたみんなを突き飛ばし周りから離させる。

 

 

「きゃあ!」

 

 

ごめん!

後で土下座する!

 

 

「死ねぇ!門藤操!!」

 

 

それと同タイミングで、ナイフを手に持った女が俺に向かって突っ込んで来た。

 

 

「危ね!?」

 

 

ナイフを避け、その足を払おうとする。

しかし、

 

 

「大人しく死ね!!」

 

 

「そう簡単には死なない!」

 

 

もう1人ナイフを持った女が現れて斬りかかって来た。

その攻撃を避けるために身体を反らすと、さっき突っ込んで来た方がまた斬りかかって来た。

 

 

「ちっ!」

 

 

「操さん!!」

 

 

「警備員の人を呼んで来て!俺は殴れない!」

 

 

「分かりました!」

 

 

全く、正当防衛でも男が女を殴れないだなんて、何て不便なんだ!

 

 

「何が目的だ!」

 

 

「男のくせして神聖なるISにのるお前は女の敵!ここで排除する!」

 

 

「そんなんで排除されてたまるか!」

 

 

過激派の女尊男卑主義者か!

面倒だ!

右、左、右、右、左、上、下。

斬りかかって来る2本のナイフを避けながら俺は後退する。

今この場に他の買い物客の方がいないのが幸いだった。

巻き込まずに済んだからな!

 

 

「死ね!!」

 

 

「とっととくたばれ!」

 

 

「......はぁ......」

 

 

〈操!簡単な事だ!相手を傷つけずに、避ける!それだけだ!いけるか!?〉

 

 

犀男が俺に語り掛けて来るような気がした。

 

 

「当然だ!」

 

 

そうして、ナイフを避ける事数分。

 

 

「こっちです!」

 

 

「お前たち!何をしている!」

 

 

簪の声が聞こえてきた方に視線を向けるとそこには何人かの警備員を連れたみんながいた。

 

 

「ただこの女の敵を殺そうとしてるだけよ!」

 

 

「そんな事が許されてたまるか!確保だ!!」

 

 

『はい!』

 

 

警備員の隊長の様な女性がそう言うと同時に、控えていた他の警備員の方々が女たちを確保する。

 

 

「離しなさいよ!」

 

 

「私達は女の権利を守ろうとしただけよ!」

 

 

暴れていた女2人はそうもがきながらも拘束され警備員室に連れていかれた。

 

 

「操!大丈夫か!?」

 

 

「ああ、一応な。それよりも、さっきは突き飛ばしてごめんね」

 

 

「そんなの気にしないで下さい!操さんが無事で良かったです!」

 

 

簪の言葉に他のみんなもうんうんと頷いてくれる。

...良い友人達だよ、本当に。

そう考えていると、警備員の隊長であろう女性が話し掛けて来た。

 

 

「お怪我は無いですか?」

 

 

「ああ、はい。大丈夫です」

 

 

「それは良かったです。それで、申し訳ありませんが少しお話を聞いても?」

 

 

あ、これ事情聴取ってやつだ。

お昼ご飯、抜きか...

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「あ、あ~...疲れた...」

 

 

あれから。

事情聴取は数時間に及び時刻はすっかり16時30分。

俺は買ったものを持ち1人でIS学園に向かっていた。

もう他のみんなはとっくの等にIS学園に帰ってる。

なんか、俺のせいで折角の休日が駄目になってしまって申し訳ない。

後でもう1回謝罪しておこう。

 

 

「...お腹減った」

 

 

警備員の人が一応おにぎりくれたけど1個じゃ足りない。

23歳成人男性は流石におにぎり3つは欲しいぞ。

でももう16時過ぎてるから今更ご飯食べようとも思わない。

どうするかな...

 

 

「...あんまりしたくないけど、クレープでも食べるか」

 

 

駅に行くまでの道のりでレゾナンス総合出入口近くのクレープ屋が目に入った。

甘いものでお腹を満たしたくは無いのだが...今の時間と空腹具合から考えると、クレープくらいがちょうど良いだろう。

そう判断したので俺は早速注文する事にした。

 

 

「えっと...あ、照り焼きチキンで」

 

 

おかず系あるじゃん。

 

 

「照り焼きチキンですね、450円です。......丁度お預かりしました今から作りますので。少々お待ちください」

 

 

注文を聞き、料金を受け取った定員さんはそのままクレープを作り始める。

良かった、おかず系あって。

無かったら少ししんどかったかも。

そうして大体数分後。

 

 

「お待たせしました」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

出来た照り焼きチキンクレープを受け取り、近くのベンチに座って食べ始める。

 

 

「...美味しい」

 

 

そのままガツガツと食べ、3分くらいで食べ終わった。

これで夕ご飯までは持つし、夕ご飯も食べられるだろう。

出たごみを適当にポケットに入れてそのまま荷物を持ち直し、モノレール駅に向かう。

そうしてモノレールに乗り、IS学園に戻っていく。

 

 

「...やっぱりこの世界は生きにくいなぁ」

 

 

織斑一夏にとっては、織斑春十に虐められた世界。

門藤操にとっては、いろいろなトラブルに巻き込まれる世界。

なんとも大変なんだろうか。

まぁ、あっちの世界でもデスガリアンと戦ったがあったが、それが終わったら平和だった。

でも、今が大変だったとしても。

 

 

「俺は戦う。この世界の友人達と」

 

 

そう改めて覚悟を決めた時、IS学園に着いた。

モノレールから降り、IS学園の敷地に入る。

そうしてそのまま教員寮に向かっていく。

その道中、

 

 

「あ、山田先生」

 

 

「あ、門藤君」

 

 

山田先生と出会った。

山田先生はその手に何やら書類を持っており仕事終わりである事がうかがえる。

休日なのに...流石教師。

休みが無いのは本当なのか。

 

 

「門藤君、帰って来たんですね。大丈夫でしたか?」

 

 

「ああ、まぁ、はい。一応は」

 

 

そうか、学園側にも連絡は入っているのか。

 

 

「すみません、学園外でトラブルを起こして」

 

 

「いえいえ!気にしないで下さい!門藤君が無事ならそれで良かったです!!」

 

 

山田先生はブンブンと首を振りながらそう言ってくれる。

そう言ってくれると俺としても気が楽だ。

そうして、俺と山田先生は並んで教員寮に向かう。

 

 

「それで門藤君は買い物に行ったんですよね?目的の物は買えましたか?」

 

 

「...水着以外は」

 

 

「あっ......」

 

 

止めてください。

そんな哀れな小動物を見る目で俺を見ないで下さい。

ただでさえ悲しいのに更に悲しくなります。

 

 

「通販で買うと高いですし、もう泳ぐのは諦めます」

 

 

「そうですか.......あ、そうだ!なら、これのお手伝いをしてくれませんか?」

 

 

そう言って山田先生は手に持っている書類を俺に見せてくれる。

え~と、なになに?

『臨海学校の教員出店について』

 

 

「え~っと...これ、なんですか?」

 

 

「これはですね、臨海学校の初日の自由時間で教員たちによる出店をするんですよ」

 

 

「へぇ、ただでさえ教員の方々は忙しいのにそんな事をするんですか」

 

 

「はい、そうなんですよ。それで、門藤君には出店のお手伝いをして欲しいんです!」

 

 

「え、俺がして良いんですか!?」

 

 

それなら、浜辺で突っ立ってるだけのジャージ姿の悲しい23歳成人男性にならない!

 

 

「はい!引き受けてくれるのなら、門藤君には焼きそば等を料理して欲しいんです!」

 

 

なに!?

しかも料理出来るだと!?

 

 

「やります!!」

 

 

「ありがとうございます!では、後日教員たちに連絡しておきますね!」

 

 

「はい!」

 

 

そうして、教員寮に着いたので山田先生と別れ自分の部屋に入る。

購入したモノたちを取り敢えず床に置きそのまま手洗いとうがいをする。

 

 

「これで臨海学校も楽しめるな!」

 

 

楽しみだけが目的じゃないけど、取り敢えず楽しめないと始まらないからな!!

 

 

 

 




悲報 操、泳げない。
朗報 操、手料理を振舞えることになる。

今回から楯無と虚もEDで踊ってくれるよ!

楯無「簪ちゃんを見ながら一緒に踊れるって最高!!」

虚「お嬢様、落ち着いて下さい」

楯無「それで操さん。この歌詞のイーグルとかの要素ってなんですか?」

操「あ、あー、まぁ、気にしないで下さい!」←楯無達には元の世界の話してない人。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

誤字報告や感想、何時も本当にありがとうございます!!
今回もよろしくお願いします!!


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準備の裏で

前回の裏です。
そして4場面あるので1場面分は短いです。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

「......帰って、来るのか」

 

 

操たちが買い物に行っているのと同日。

生徒寮の寮長室にいる千冬は呆然とそう呟いていた。

千冬の視線の先にはカレンダーがあり、今日の日付から3日後に赤丸がしてあった。

その赤丸がしてある日。

その日はイギリスに帰国しているセシリアがIS学園に帰ってくる日であり、拘束室にて生活している箒が解放される日でもあるのだ。

 

 

「しかし、鈴は...!!」

 

 

千冬は悔しそうにそう呟くと拳を握り込んだ。

他2人と違いもう既に退学が決定している鈴はもうIS学園に...いや、日本に帰って来る予定は無いのだ。

クラス対抗戦での違反行為に加え、脅しの容疑。

そんな危険人物がIS学園にいられる訳が無い。

今のところはまだ中国からもIS学園からも鈴が代表候補生の資格と専用機の剥奪、並びにIS学園退学は発表されていないものの、もう直ぐ公表のタイミングなのは千冬でも理解しているのだ。

 

 

「クソ...!!何故周りの奴らは私と春十の邪魔をするんだ...!!」

 

 

千冬はそう恨めし気に言うと壁を殴った。

 

 

「クソ、クソ、クソ...!!春十にとって必要な人間はIS学園からいなくなったり、専用機を奪われたり...そして、一夏は私の所に帰ってこない...!クソ、クソォ!」

 

 

千冬はそう叫んだあと足の踏み場もないくらい散らかっている室内を移動する。

そうして台所に着いた千冬は洗ってあるのかも怪しいコップを手に取ると水道から水をコップに注ぎ一気に飲み干す。

 

 

「はぁ、はぁ...クソッ!」

 

 

乱雑にコップを置いた千冬は誰もいない空中を睨みながらそう言葉を絞り出した。

そうしてベッドまで移動し縁に腰掛けた千冬は考え込むように頭に手を置いた。

 

 

「何故、何故私の思う通りに物事が進まないんだ...!!」

 

 

千冬は奥歯をギシギシ言わせながらそう呟く。

自分の思い通りにならない事の方が多いというのは誰しもが分かっている筈の事。

それに、教員である千冬は尚更知っていなくてはならない。

それなのにも関わらず、千冬はまるで幼稚園児の様な事を考えている。

いや、ブリュンヒルデという名誉称号を持つだけの実力があり、女尊男卑の狂信者たちなどにはかなりの発言力があるだけ幼稚園児よりたちが悪い。

 

 

「クソ...!何故一夏は私の所に帰ってこないのだ!姉と兄のいる場所に帰って来るのが普通だろう!」

 

 

操本人が自分は千冬の弟ではないと言っているのだが、もはやそれは千冬には届いていないらしい。

自分の考える事が真実だと思い込み、そうして構築した自分の妄想の世界の通りに行かない事に苛立っている。

妄想の世界は、自分の都合のいい事しか起こらない。

現実の世界では自分の都合の悪い事も勿論起こる。

だから自分の思い通りに物事が進まない方が普通なのである。

そんな当たり前の事を、千冬は理解しきれていない。

 

 

「誰が一夏を騙し、洗脳しているんだ...!今すぐにでも見つけ出して懲らしめないと...!」

 

 

千冬は開いていないカーテンの方を見ながらそう呟く。

その表情は、口元に笑みを浮かべながらも狂気を含んでいるものだった。

 

 

「一夏を私のもとに連れ戻す...そうして家族3人で幸せに暮らすんだ.......」

 

 

呆然とそう呟く千冬は、如何見ても狂っていた。

 

コンコンコンコン

 

此処で、唐突に寮長室の扉がノックされた。

 

 

『織斑先生。もうそろそろ臨海学校に向けた1年生職員会議が始まりますよ?』

 

 

そうして、部屋の外からそんな真耶の声が聞こえてくる。

それを聞いた千冬は視線はカーテンから扉に向けられる。

 

 

「ああ、すみません...今から準備するので、先に会議室に向かって下さい」

 

 

『分かりました。絶対に来て下さいね』

 

 

そんな声の後に足音が聞こえる。

そうして、部屋の前から気配が完全に消えてから千冬はベッドの縁から立ち上がるとそのままこの汚部屋の中ではかなりマシな場所からスーツを引っ張り出してくる。

けだるげに着替えた千冬は散らかっている床から会議に必要な書類を引っ張り出すと寮長室の外に出る。

扉に鍵を掛けた千冬は視線を上げると会議室に向かって歩き出す。

 

 

「春十、一夏...お前たちの事は、姉である私が何とかするからな...!!」

 

 

千冬は、未だに狂った表情のまま、そう呟くのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「ふぅ...」

 

 

IS学園、学園長室。

今日も休みなく仕事をしている十蔵は目元を抑えながらそう息を吐いた。

十蔵の隣の机には、処理済みの書類の山が3つほど出来ていた。

しかし、もう反対側の机には未処理の書類の山が5つあった。

 

 

「ここ最近に起こったトラブルが多くて、かなり仕事が多いですね...」

 

 

疲れたような表情を浮かべながら十蔵はそう呟いた。

ラウラの暴走事件。

これだけでもかなりの書類が送られてきているのに、もう直ぐで停学処分だったセシリアと箒が帰って来る。

それに加えもう直ぐでデュノア社の事も公表されるだろう。

そうなったら今もこんなに処理しないといけない書類があるのに更に増える事になるわけで...

 

 

「......想像するのは止めておきましょう。胃が痛いです」

 

 

十蔵はなんとなく左手でお腹をさすると、右手で麦茶が入っているコップを手に取り少し飲む。

そうして軽く息を吐くと席から立ち上がり窓の近くに移動する。

空を見上げると、何処までも続いているかのような青空が広がっていた。

 

 

「空はこんなに平和で、この先には永遠に広がる宇宙があるんですがね...」

 

 

十蔵は苦笑いを浮かべながらそう呟くと、今度は視線を地面に向ける。

 

 

「地上では人類が争い合っている...ISとは本来宇宙に行くためのもの...全く、宇宙に行くためのものを使用して地球で争ってどうするんですか」

 

 

十蔵のその声は、学園長室に、空に消えて行った。

暫くの間外を見ていた十蔵だったがやがて視線を机の上に戻すと仕事を再開する。

 

 

「はい、はい...なんですと!?門藤君が学園外で襲われた!?大丈夫なのですか!?...はい、はい、分かりました」

 

 

途中、十蔵は操がレゾナンスで襲われたと報告を受けた。

 

 

黙々と仕事を続ける十蔵。

外が暗くなり始めたので時刻を確認すると、もう19:00になっていた。

 

 

「もうこんな時間ですか...時間が過ぎるのは早いですね」

 

 

十蔵はガチガチに固まっていた肩を自分で揉みながらそういう。

しかし、自分んを肩を自分で揉んでも特にコリが改善される事は無い。

数度揉んだだけでそれを再確認した十蔵は苦笑いを浮かべると肩から手を離すと学園長室から出る準備をする。

コップを洗い、処理済みの書類は何時でも配送できるようにして置く。

そして今日新たに届いた未処理の書類はまた明日直ぐに仕事に取り掛かれるように、それでいて外部の人間が侵入してきても簡単には見つからない場所に入れておく。

 

 

「ふぅ...それでは帰りましょうか」

 

 

十蔵はそう呟くと学園長室を出て、扉をしっかりと施錠する。

そうしてそのまま帰ろうと身体の向きを変えた時、

 

ピピピピピ

 

と、教員用の通信端末から着信音が鳴った。

十蔵はポケットから通信端末を取り出すとそのまま通話に出る。

 

 

「こちら十蔵です」

 

 

『あ、学園長。山田です。今お時間大丈夫ですか?』

 

 

「はい、大丈夫ですよ。どうかしましたか、山田先生」

 

 

通話の相手は真耶だった。

十蔵が話の内容を尋ねると真耶は話し始める。

 

 

『臨海学校での教員出店の事なのですが...』

 

 

「はい、何か問題が発生しましたか?」

 

 

『いえ、そういう訳ではありません。門藤君に出店を手伝っていただいても問題は無いですよね?』

 

 

「門藤君に...ですか?」

 

 

『はい、門藤君、如何やら水着を購入できなかったようで...』

 

 

「ああ、なるほど...」

 

 

今この世界での男性用の物の品数は少なく、通販で購入するとかなり高いのは十蔵も理解している。

折角の臨海学校なのに泳げない操の事を考えると同じ男性として十蔵は心が痛くなった。

 

 

「分かりました。私の方からは許可します」

 

 

『はい。ありがとうございます。では、私はこれで...』

 

 

「すみません、1つ聞きたい事があるのですが宜しいですか?」

 

 

通話を終わらせようとした真耶の言葉を遮って十蔵はそう言葉を発した。

 

 

『はい、問題ないですが...何かありましたか?』

 

 

「...今日の職員会議で、織斑先生の様子は如何でしたか?」

 

 

十蔵が聞きたかったこと。

それは千冬の様子だった。

ここ最近...というより、1年生が入学してからの千冬の様子がおかしいと十蔵は日に日に感じていた。

その為、自分がいなかった会議での様子を聞いておきたかったのだ。

 

 

『織斑先生、ですか...特に変な行動はしていなかったですけど、雰囲気は少しおかしいと感じましたね』

 

 

「雰囲気が...ですか?」

 

 

『はい。何と言うか...口で説明するのは難しいんですけど...その...機械のような感じで、何か1つの事についてずっと考えていたって感じました』

 

 

「1つの事についてずっと考えていた、ですか...」

 

 

『あくまで私がそう感じ取っただけなのでそれ以上は何とも言えないですけど...』

 

 

「分かりました、ありがとうございました」

 

 

『はい、それでは』

 

 

最後に真耶からの言葉を聞いて、十蔵は通話を終了させる。

そうして通信端末をポケットに仕舞うと思いっ切りため息をついた。

 

 

「絶対に、門藤君関係ですね...」

 

 

そう呟いた十蔵は歩き始める。

 

 

「今年は、本当に大変です。ですが、それ以上に門藤君が大変そうです」

 

 

そう呟いた後十蔵は

 

 

「はぁ...」

 

 

と、重い足取りで歩くのであった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

操たちの買い物、そして職員会議の日から2日後の夜。

 

 

「箒さん...お久しぶりですわ」

 

 

「ああ、久しぶりだな...」

 

 

IS学園拘束室にて2人の少女...セシリアと箒がそう会話していた。

この2人は、明日から停学処分が解除されIS学園に復帰するのだ。

その為、今日まではこの拘束室で生活する事になっておりセシリアも此処に来たのである。

 

 

「お前は、確か専用機が無くなったんだったか?」

 

 

「ええ...代表候補生も辞めさせられ、専用機も剥奪されました...そして、家が、家が...」

 

 

「それ以上は何も言わなくていい...」

 

 

セシリアと箒はそう会話した後、セシリアは凄く簡素なベッドに座る。

 

 

「春十さんは、如何していますの?」

 

 

「それは分からない。教員に聞いても無視された」

 

 

箒は悔しそうにそう呟く。

 

 

「生徒からのお願いを無視するだなんて...この学園の教員はおかしいですわ!」

 

 

「そもそも私達を此処に閉じ込めている時点でおかしいんだ!」

 

 

セシリアと箒は何とも身勝手で我儘で、醜い事を言い合う。

4月末のクラス対抗戦からもう2ヶ月近くたっているのに、改心どころか反省もしていない。

というよりかは、自分たちがこんな目に合っている事に納得していない様だ。

 

 

「そう言えば鈴さんは何処ですの?鈴さんも明日から復帰なのでは?」

 

 

「確かに...だが、鈴はまだ此処に来ていないぞ」

 

 

「もしかして、鈴さんにはこれよりひどい仕打ちがされているというのですの!?本当に許せませんわ!」

 

 

「ああ、許せないな!」

 

 

2人はいかにも怒っていますといった表情を浮かべながらそういう。

ひどい仕打ちでは無く、これくらいが妥当、いや、もっと重くても良いくらいの事を鈴はやらかしているし、自分たちもやらかしているのだ。

だが、その事に気付けない。

気付こうともしない。

 

 

「そう言えば、もう直ぐで臨海学校だな」

 

 

「そう言えばそうでしたわ...それなら、春十さんに水着を見せませんと!!」

 

 

「何を言う!春十に最初に水着を見せるのは私だ!!」

 

 

そこからギャーギャーと2人で揉める。

停学になる前だったら千冬が出席簿アタックで強制的に黙らせていたやり取りなのだが、此処は拘束室。

千冬が来ることは無いので2人の言い合いは終わらない。

そうして言い合う事大体30分。

 

 

「「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ......」」

 

 

ずっと騒いでいた2人は肩で息をしていた。

よくもまぁそんなに騒げると思わず感心してしまう程である。

 

 

「...待てセシリア。ここは1回休戦だ」

 

 

「どうかしましたか?」

 

 

「私達には共通の敵がいるのを忘れていた。」

 

 

「共通の敵...ああ、なるほど。確かに忘れていましたわ」

 

 

箒とセシリアはそう言い合うと、怒りに満ちた表情を浮かべる。

 

 

「「門藤、操......!!」」

 

 

そうして、奥歯をギシりと軋ませながらそう呟いた。

2人の表情は、親の仇を見つめるかのような表情だった。

この場には操本人がいないのにも関わらず、だ。

そこまで操が憎たらしいという事なのだろう。

 

 

「あの下種な男程憎たらしいものはありませんわね!」

 

 

「ああ。春十の活躍の機会を奪い、私達が不当に捕まる事になった原因!」

 

 

清々しいほどの八つ当たりに逆恨みなのだが、生憎2人にそんな事を指摘する人間などいない。

 

 

「セシリア、何時かアイツを排除して春十に跪かせるぞ!」

 

 

「ええ!そして、もう2度と逆らえないようにさせますわ!!」

 

 

そう言い合って、箒とセシリアは笑い合うのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「「......」」

 

 

世界の何処かにある束のラボ。

巨大なディスプレイ前に座っている束とクロエは、怒りの表情を浮かべながらディスプレイの事を見ていた。

そのディスプレイには、笑い合う箒とセシリアが映っていた。

 

 

「ねえ、クーちゃん」

 

 

「何でしょう、束様」

 

 

「束さん、キレた」

 

 

「私もです」

 

 

束は手に持っているジャンク品のパイプを握りつぶしながら、クロエは拳に力を入れながらそう会話する。

この2人が何故IS学園の拘束室の様子を監視しているのかというと、束が停学が終わる箒があの電話からどれくらい反省したのかを確認したかったからである。

しかし、いざ確認してみると全くといって良いほど反省していない。

その上でまだ操に手を出そうとしていたりしているのだ。

聞いていた2人がキレないわけがない。

 

 

「いやぁ、まさかあんなに愚かだったとは...アイツ、本当に束さんと血繋がってるの?そんな事実認めたくないんだけど」

 

 

「しかし、いくら束様がそう思ってもそれは事実な事に変わりありません。私もあんなに酷い人間が束様の身内だと考えたくないのですが」

 

 

束とクロエはそう言い合うと同時にため息をついた。

 

 

「クーちゃん、もう束さんは我慢の限界だよ。あんなのが束さんの妹だっていうくだらない理由で罰が軽減されてるのだ」

 

 

「束様...つまり、全世界に向けて発表するのですね」

 

 

「うん、するよ」

 

 

束は立ち上がると、1つのUSBメモリーを手に取る。

そうしてそのままUSBメモリーを手元で弄りながら束は言葉を続ける。

 

 

「もうあの愚かな篠ノ之箒に手を出しても、束さんは何もしないって」

 

 

そう言う束の表情は、決意の固まったものだった。

 

 

「ねぇ、クーちゃん。アレ持って来てくれるかなぁ?」

 

 

「分かりました。少々お待ちください」

 

 

束はクロエにそう指示を出し、クロエはとある書類を持ってくる。

その書類には、『絶縁状』と書かれてあった。

 

 

「束さんはこれを持って臨海学校に乗り込む。みっちゃんには迷惑掛かっちゃうかもしれないけど、もうこのタイミングしかない」

 

 

「はい、分かりました...束様のご両親は、如何するおつもりなんですか?」

 

 

「ん?あの馬鹿2人?あ~...考えてなかったねぇ」

 

 

両親の話題なのに、馬鹿2人。

つまりは、そう言う事なのだろう。

 

 

「良いのですか?」

 

 

「うん。だってアイツ等織斑春十と篠ノ之箒が道場でいっくんに暴力振るってても止めなかったんだもん。そんな奴ら、束さんには必要ない」

 

 

束は冷酷な視線を浮かべながらそう呟く。

その強すぎる眼光を向けられたクロエは思わず1歩後ずさってしまう。

束はそんなクロエを見て慌てて表情を柔らかいものにする。

 

 

「ごめんごめん、クーちゃんを怖がらせるつもりはなかったんだ。ただ、如何も束さんはイライラしちゃって」

 

 

「それは仕方のない事だと思いますよ。あんな低レベルな会話を聞いた後なのですし」

 

 

クロエがそう言うと、束は視線をディスプレイに...そこに映っている箒に戻した。

そして

 

 

「もう、お前の自由は無いからな?お前は散々言ってた、束さんは関係ないって。それを現実にしたらどうなるのか教えてやるよ」

 

 

ディスプレイの中の箒を睨みながら、そう呟くのだった...

 

 

 

 




セシリアと箒の会話を書いている私はイライラしてました。
なんだコイツら。
なんで帰って来たんだ?(自分でやってる)

次回も何時になるか楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告何時もありがとうございます!
今回も是非よろしくお願いします!


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臨海学校の始まり

操、本日教員の様な感じ。

今回もお楽しみください!


操side

 

 

「ふぁぁあああああ...もう直ぐで着くのか?」

 

 

「そうだな。予測ではもう直ぐ着く」

 

 

ユラユラと揺れるバスの中。

俺の呟きに隣に座っているラウラが俺の呟きにそう反応した。

俺達がバスに乗っている理由。

そう、それは!

今日から臨海学校だからである!

それに伴い、バスの中も物凄い盛り上がっている。

 

 

『次歌う人!』

 

 

「ラウラ、歌わないのか?」

 

 

「...いや、私は歌を知らないんだ。だから遠慮させてもらおう」

 

 

「まぁ、俺も最近の曲は良く知らないんだが」

 

 

つい最近...とはいってももう7月だから3ヶ月と少しか。

それくらい前ではこっちの世界にいなかったのだ。

こっちの世界の曲なんて分からない。

そもそも俺はそんなに歌を聴かないからな...

 

 

クラスメイトたちのカラオケでの歌声を聞きながら俺はボーッとする。

もう、なんか疲れた。

なんで移動で疲れるのかな...?

まさか、年...?

いや、まだ23歳!

全然若い!

多分、周りの高すぎるテンションについて行けてないだけだ!

......あれ?

それって結構おっさんじゃね?

.......もうこれ以上考えるの止めようっと。

 

 

「海!見えたぁ!!」

 

 

「お」

 

 

クラスメイトの誰かがテンション高めの声でそう叫んだので、ラウラと共に窓の外を確認する。

すると、確かに青く綺麗に輝く海が見えた。

 

 

「あれが海か...綺麗だな」

 

 

「行ったこと無いんだっけ?」

 

 

「軍事演習であまり綺麗とは言えない海に2回ほど行ったことがある程度だ。だから、あそこまで綺麗な海を見るのは初めてだ」

 

 

「そっか」

 

 

確かに、軍に所属しているとそう簡単に海に遊びに行くなんてこと出来ないか。

更にシュヴァルツェ・ハーゼの基地はドイツの中でもそこそこ内陸の方なので地理的な影響でも行きにくいのか。

 

 

「そういう操は如何なんだ?」

 

 

「俺は...あれだ、釣りの為だったら何回も行ってるけど、海水浴場には行かないな~~」

 

 

「そうなのか...」

 

 

「ああ。まぁ、折角の泳げるところだけど水着が無いんだけど」

 

 

「それは......」

 

 

「ああ、ごめんごめん。気にしないで気にしないで」

 

 

折角の臨海学校前なのに空気を悪くしちまった。

 

 

「そろそろ降りる準備をしておけ!」

 

 

ここで、織斑先生がそう怒鳴るように指示を出す。

全く、もうちょっと穏やかに出来ないのかな?

そう思いながら、荷物を纏める。

とはいっても23歳の男の荷物はクラスメイト達と比べると全然少ない。

今日は泳がないから海で使うものはせいぜいジャージとタオルくらいしか持って来てないし、化粧水とかなんかそういう美容関係の物もないしゲームとかも持って来てないから本当に少ない。

正直ゲームくらいは持ってこようかと思ったけど23歳成人男性と遊んでても楽しくないと思うから止めた。

そして、キューブアニマルたちはお留守番である。

なんか見られたら臨海学校におもちゃ持って来てるヤバい奴に診られると思ったからである。

 

 

そうして、織斑先生の指示があってから大体5分後。

バスは駐車場に着いた。

荷物を持ち、順番に降りていく。

バスを降りた目の前には、何とも風情がある大きな旅館。

此処が、臨海学校でお世話になる旅館『花月荘』である。

 

 

「はぁ~、デカいなぁ~」

 

 

「そうだな。管理が大変そうだ」

 

 

あはは、それが最初に出て来るか。

...なんか視線を感じる。

しかも、普通の視線では無く、なんか刺すかのような視線が。

 

 

「操、見られてるぞ」

 

 

「ああ、分かってる」

 

 

ラウラも気が付いているようだ。

いや、当然か。

ここまで露骨に視線を向けられたら誰だって気が付く。

俺とラウラは同時にその視線の元を見る。

そこには、俺を睨んでいる黒髪ポニーテールの生徒と、金髪ロール髪の生徒...篠ノ之箒とセシリア・オルコットがいた。

 

 

「はぁ......」

 

 

思わずため息をついてしまう。

そう、完全に存在を忘れていたのだが、少し前くらいからこの2人の停学が明け復帰したのだ。

因みに、それと同時に凰鈴音の退学が正式に発表された。

だが、正直にいってみんなあまり驚いたりしてなかった。

俺と同じように存在を忘れていたってのもあるし、あれだけの事をやらかしたのでこれくらいが妥当だろうと思っているのだろう。

寧ろ、あの2人が復帰したことに驚いている人の方が多かった気がする。

それと、ティナとかは鈴の退学を聞いて喜んでいた。

まぁティナは鈴に脅されたりしたのだ。

もう2度と学園に来ることが無いという安心感は凄まじいんだろう。

 

 

「操、あの2人と何があったんだ?話を聞く限りあの2人は以前違反行為をしたんだろう?何故操を睨む?」

 

 

「さぁ...?俺は退学になった奴と一緒に違反行為していたアイツ等を倒しただけだぞ」

 

 

「...それが原因では無いのか?」

 

 

「だったらただの逆恨みじゃない?」

 

 

「確かにな。悪いのはあの2人なんだからな」

 

 

全く、理由はもうどうでもいいから睨むのを止めて欲しい。

凄い気になって仕方が無い。

そんな事を考えていると他のクラスのバスからも続々と生徒達が降りて来る。

すると、旅館の方から1人の着物を着用し優しそうな笑みを浮かべている女性が出て来た。

 

 

「さて、諸君!此方が今日から3日間お世話になる花月荘だ!挨拶をしろ!」

 

 

織斑先生は全員にそう怒鳴るかのように指示を出す。

 

 

『よろしくお願いします!!』

 

 

「フフフ、みなさんお元気ですね。私は当旅館の女将、清洲景子と申します。今日から3日間、皆様のサポートをしてまいりますのでよろしくお願いしたします」

 

 

その女性...清州さんはそう言うとぺこりとお辞儀をした。

 

 

「あの体幹...凄まじいな」

 

 

「確かに。ブレてないもんな」

 

 

流石は旅館の女将さん。

IS部隊の隊長から見ても凄い体幹なのか。

 

 

「今年は異例の男性2人が在籍中でご迷惑をお掛けしました」

 

 

「いえいえ、気にしないで下さい」

 

 

「おい、挨拶しろ」

 

 

織斑先生は俺と織斑春十に視線を向けながらそういう。

もうちょっと優しく言えないのか。

 

 

「あ、え、あ...お、織斑春十です......」

 

 

「門藤操です。ご迷惑をお掛けしてしまうかと思いますが、よろしくお願いします」

 

 

「フフフ、ええ、よろしくお願いします」

 

 

織斑春十と俺の挨拶を聞いた清州さんはまた微笑むと軽くお辞儀をする。

しっかし汗1つかいてないなんて凄いな...

もう7月で暑いなかで着物を着てるのに...

 

 

「それでは、海に行かれる場合は離れの更衣室をお使いください。海に直通ですので、直ぐに泳ぐことが出来ますよ。場所が分からなかったら、遠慮なく従業員にお聞きください」

 

 

『は~い!』

 

 

清州さんのその言葉には、全員がそう返事をする。

元気で良い事だ。

 

 

「それでは、全員自分の部屋に行って荷物を纏めろ!その後は自由時間だ!」

 

 

織斑先生の指示に従い、ぞろぞろと順番に旅館の中に入っていく。

だが、ここで1つ問題がある。

 

 

「操さ~ん!」

 

 

「ん?のほほんさん、どうしたの?」

 

 

「操さんの部屋って何処なんですか~?部屋割りに書いてませんでしたけど~」

 

 

「さぁ?俺も分からない」

 

 

そう、その問題とは俺の部屋が何処か分からないのだ。

部屋割り表に書いてないし、空き部屋なども無いっぽい。

 

 

「廊下なのかな?」

 

 

「夏だし~良いかもしれないですね~。あ~、冷たいって」

 

 

「寧ろ海風が来て寒いかもしれないから、部屋が良いな...」

 

 

まぁ、良いか。

取り敢えず織斑先生に...

 

 

「あれ、織斑先生は?」

 

 

「さっき織斑春十を連れて旅館内に入っていったぞ」

 

 

俺の呟きに、ラウラがそう反応する。

マジかよ...

 

 

「...山田先生に確認するか。ラウラ達は部屋に荷物を置いてきていいよ。早く遊びたいでしょ」

 

 

「分かりました~!!」

 

 

俺がそう言うと、のほほんさんがかな~りゆっくり歩いて行く。

そんな様子にラウラが苦笑いを浮かべながら後を追いかけて行き、直ぐに抜かした。

 

 

「さてと、山田先生は...」

 

 

俺も山田先生を探すために旅館内に入る。

 

 

「まぁ、教員部屋かな?」

 

 

そう呟き、教員部屋の方向に歩いて行く。

そうして歩く事約2分。

 

 

「あ、門藤君!!」

 

 

「山田先生!」

 

 

教員室の方から山田先生がやって来た。

 

 

「良かった、これから門藤君を探しに行こうと思ってたんですよ」

 

 

「もしかしなくても部屋割りですか?」

 

 

「そうです!」

 

 

良かった。

こう言われるって事は廊下ではないらしい。

 

 

「それでは、早速門藤君の部屋に案内します!」

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

山田先生に先導される形で移動を開始する。

結構奥の方なんだな...

そう考えながら歩く事約5分。

 

 

「此処です!」

 

 

「此処って...?」

 

 

山田先生がそう言った場所の扉は、旅館の襖では無く、ニスが塗られただけの無機質な扉。

ドアノブとか蝶番はなんか錆びてるような気がする。

 

 

「如何見ても物置部屋ですか...」

 

 

「はい、元々は物置部屋です」

 

 

「いじめですか?」

 

 

なんで旅館に来て物置部屋で寝ないといけないんだろうか。

いや、廊下よりかはマシだけど。

 

 

「いやいや!そういう訳では無いんです!!ほら、見てください!!」

 

 

山田先生は焦ったようにそういうと、その無機質な扉を開く。

 

ギィィィィ

 

と、潤滑油を注油したくなるような音を発しながら開いた扉の向こうは、カーペットが敷いてあり、簡易的な机があり、部屋の隅の方に畳んである布団一式が置いてある。

特に何か段ボールとか荷物とかがある訳では無く、部屋の中も埃とかは無く綺麗な状態だった。

 

 

「ほら!キチンと掃除して、セッティングしたんですよ!」

 

 

「...確かに」

 

 

想像していたものよりも格段にいい部屋だ。

此処が物置とは思えない...寧ろ、此処が格安ホテルの1室だと言われても信じられる。

 

 

「それで、えっと...なんで物置部屋なんですか?」

 

 

「はい、門藤君は男性なので、女子生徒と同室には出来ないんですよ」

 

 

「流石にそれは分かってます」

 

 

同室だって言われたら俺はそれこそ廊下で寝るぞ。

 

 

「それで、1人部屋とか織斑君と同室だと睡眠時間を無視した生徒が部屋に突撃してくると思ったんです」

 

 

「そうですかね?」

 

 

わざわざ23歳成人男性の部屋に女子高生が突撃してくるとは思わないけど。

 

 

「その為、織斑君はお姉さんである織斑先生と同室、門藤君は生徒達の部屋から離れて、なおかつ分かりにくい()物置部屋になりました」

 

 

山田先生は元の部分を強調しながらそう言う。

なるほど、そういう事情だったのか...

だからさっき織斑先生は織斑春十を連れてどっかに行ったのか。

 

 

「なるほど、把握しました」

 

 

「理解してくれて良かったです」

 

 

山田先生のその言葉を聞きながら俺は取り敢えず部屋の入口近くに荷物を置いておく。

ふぅ~

ずっと荷物持ってたから少し肩が痛い。

あ、そうだ。

教員屋台に関しての事を聞いておかないと。

 

 

「山田先生、教員屋台って何時からスタートですか?」

 

 

「えっと...大体11時からスタートですね」

 

 

「という事は、大体10時半くらいから準備すればいいですか?」

 

 

「そうですね。そこら辺からお願いします。門藤君は、焼きそばとフランクフルトを作ってくれるんですっけ?」

 

 

「はい!自家製のソースを持ってきたので焼きそばはすっごい自信があります!」

 

 

今日の為にいっぱい作って来たからな!

みんなに食べてもらうのが楽しみだぜ!

 

 

「分かりました。では、私はこれで」

 

 

「はい、部屋への案内ありがとうございました」

 

 

山田先生はそう言うと、何処かへと歩いて行った。

多分、教員の人達はいろいろ会議とかがあるんだろう。

教員の方は大変だ。

 

 

「えっと、今何時だっけ?」

 

 

時計を確認すると、9時半を示していた。

準備までの時間は後1時間。

 

 

「...海風に当たろうかな?」

 

 

折角だから海感は味わっておきたい。

そう思ったのなら、早く行動しよう。

そう判断したので、IS学園の制服から動きやすい黒のジャージに着替える。

冷感生地を使ってるらしく、ひんやりしていて気持ちいい。

熱気も籠らないし、凄いな。

 

 

「さて、海に!!」

 

 

俺はそう言うと、そのまま部屋から出て行く。

え~っと、離れの更衣室ではみんなが着替えてると思うからそこを通らないルートで...

 

 

「一夏、待て!!」

 

 

俺が旅館の外に出ようと歩いている時、背後からそんな声が掛けられた。

まぁ、俺は一夏なんて名前じゃないし俺じゃないな。

さてさて、早く外に行こうか。

 

 

「待てと言っているだろう!!」

 

 

そう言われると同時に、肩を思いっ切り掴まれた。

 

 

「...名前は一夏では無いのですが?」

 

 

そう言いながら振り返ると、そこには。

俺の肩を掴んでいる織斑先生がいた。

 

 

「一夏!まだそんな事を言っているのか!?」

 

 

「だから、俺の名前は門藤操だ!織斑一夏ではない!」

 

 

全くもう!

面倒くさいなぁ!

いい加減諦めれくれよ!

 

 

「一夏、私の所に帰ってこい!春十と一緒に、家族3人で暮らそう!」

 

 

「もう!俺は織斑一夏じゃ無いんです!いい加減にしてください!」

 

 

4月の最初の方...っていうか初日からだぞ!

もう3ヶ月は経ってるし、その間ずっと否定してたんだからさぁ!

 

 

「何を言う!私が弟の事を見間違えるはずがない!」

 

 

「あなたの弟さんは今年で16ですよね!?俺は23歳!今年で24!年齢があって無いんです!」

 

 

「そんな嘘はつかなくていい!お前は騙されているんだ!」

 

 

「誰にですか!?俺は自分の意思で生活してますよ!」

 

 

これじゃあ水掛け論だ!

何時まで経っても終わらないぞ...

どうする?

 

そう考える俺の視界に、なにやらあたりをキョロキョロしている教員の人が見えた。

確か...そう、榊原先生だ!

お願いします、気が付いて下さい!

 

 

「だから、それが騙されていると言って「織斑先生!ここにいたんですか!」チッ...」

 

 

織斑先生がまだ何か言おうとした時、榊原先生が織斑先生に声を掛けて話を中断させてくれた。

助かったぁ...

 

 

「織斑先生!もう直ぐ職員会議が始まりますよ!早く行きましょう!」

 

 

「し、しかし...」

 

 

「いいから!行きますよ!」

 

 

榊原先生はそう言うと、そのまま織斑先生の事を引きずっていく。

 

 

「ふぅ~~、助かったぁ...」

 

 

榊原先生、本当にありがとう!

しかし、何故織斑先生はあそこまで織斑一夏に固執するんだろうか。

第2回モンド・グロッソの時に織斑一夏は死んだ事になってるんだから、普通はそこで死を受け入れ、気持ちを切り替えるんじゃないのだろうか。

う~ん......良く分からない。

 

 

「今何時だ?」

 

 

腕時計で時間を確認する。

すると

 

 

「10時...」

 

 

もう既に10時近くになっていた。

う~ん...

この時間で海風を浴びると、準備開始まで結構ギリギリか?

1度戻って、ソースとかの材料を持って行って、手を洗って、調理器具の準備をして、また手を洗うから...

うん、ギリギリだな。

 

 

「やめとくか」

 

 

はぁ......

なんでまだ遊んだり調理したりしてないのにこんなに疲れてるんだ?

いや、まぁ、理由は分かってるんだけどさ。

愚痴も言いたくなるじゃん。

本当にいい加減にして欲しいな...

 

 

「学園長に連絡入れとくか...」

 

 

そう呟いてから、自分の部屋に戻る。

スマホを取り出し学園に電話を掛ける。

 

 

『はい、こちらIS学園、事務の斎藤が承ります』

 

 

「あ、もしもし。1年1組の門藤なんですけれども」

 

 

『門藤君、どうかしましたか?今は臨海学校なのでは?』

 

 

「はい、そうなんですけど、少し相談したい事があって..学園長に変わって頂けますか?」

 

 

『分かりました、少しお待ちください』

 

 

そうして、保留音に切り替わる。

大体10分後、保留音が終了すると

 

 

『はい、学園長の轡木です。門藤君、どうしましたか?』

 

 

「あ、学園長。実はですね、さっき織斑先生が絡んで来まして...」

 

 

『......またですか』

 

 

「はい。私の事を『一夏』と呼んで来て、執拗に絡んで来たんですよ」

 

 

俺がそう言うと、暫くの間無言の時間が続く。

なんだろう、学園長の姿は見えないのに、眉間に手を当てている学園長の姿が簡単に想像できた。

 

 

『...分かりました。後日織斑先生に注意しておきます』

 

 

「ご迷惑をお掛けします。よろしくお願いします」

 

 

『ええ。それでは私はこれで』

 

 

「はい、わざわざありがとうございました」

 

 

ここで学園長との通話を終了させる。

 

 

「はぁ...俺も学園長に迷惑しか掛けてねえや」

 

 

夏休みにでもお詫びしよう。

ふぅ。

さて、気持ちを切り替えて!

 

 

「早速出店の準備をしよう!」

 

 

みんなに美味しい焼きそばとフランクフルトを食べてもらうぞ!!

 

 

 

 




作者の別小説だと仕事が入って遊べなかった主人公。
この作品では千冬に絡まれ、水着が無く遊べない主人公。
あれ、私は主人公に遊ばせたくないのか?

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、何時もありがとうございます!
今回も是非よろしくお願いします!


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遊ぶ人と見守る人

引き続き、操は教員の様な感じ。
因みに作者は料理勉強中なので料理シーンは適当です。
間違ってても温かい目で見てください。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

「う~~ん...はぁ....」

 

 

臨海学校1日目、自由時間。

自由時間とはその名の通り自由な時間でああり、IS学園の1年生達は海にて遊んでいた。

そんな中、水着を着用した簪がストレッチをしながら声を漏らした。

海に入る前の準備体操はとても大切である。

 

 

「ふぅ...さて、本音は......」

 

 

準備体操を終わらせた簪はキョロキョロとあたりを見回して本音を探す。

すると、

 

 

「お~~い!かんちゃ~ん!!」

 

 

と簪に声が掛けられた。

簪が聞こえて来た方向に視線を向けると、そこにはものすんごくゆっくりとこちらに向かって来ている本音がいた。

そのあまりにおっそい速度の本音を見て、何時も見ている筈なのに簪は苦笑いを浮かべてしまう。

 

 

「本音、物理的に遅い」

 

 

「それは酷いよぉ~!かんちゃ~ん!」

 

 

簪の言葉に本音がそう反論する。

しかし、未だ簪の近くにたどり着けていないのでそこまでである。

 

 

「簪~!」

 

 

「あ、ティナ!」

 

 

本音の後ろから、かなり大胆な水着を着用したティナがやって来た。

その豊満なバストを見た簪は思わず自分の物と見比べ、ティナに恨みがましい視線を向ける。

 

 

「か、簪?如何したの?」

 

 

「別に......少し格差を感じただけ」

 

 

「???」

 

 

簪の様子の変化の理由が分からないティナは首を捻る。

そんなティナは簪に向かって歩いていた本音を抜かし簪のもとに来る。

 

 

「本音...流石に後から来たティナに抜かされるのは...」

 

 

「ほぇ~~?」

 

 

「え?簪のところに歩いてたの?」

 

 

「ちょっとぉ~ハルハル?如何いう事~~?」

 

 

「え、だって遅いから...」

 

 

ティナは若干引いた表情を浮かべながらそう言葉を漏らす。

同じところを目指していて、後から来た自分が先に到着するとは誰も思わないだろう。

 

 

「本音、流石にもうちょっとテキパキ歩いたら?虚さんに言ってお菓子禁止にしてもらったら何か変わるかな?」

 

 

「それは駄目!?お菓子禁止は駄目!」

 

 

「ふ~ん...そこまで必死になれるなら、禁止にしてもらった方が良いかな」

 

 

「かんちゃ~~ん!?!?」

 

 

簪は少し冷たい瞳を本音に向けながらそう言うと、やっと簪の近くにたどり着いた本音が崩れ落ちる。

そんな2人の様子を見たティナは

 

 

(あれ?初対面の時はなんか内気そうでおとなしめだったんだけど...何時の間にこんな感じに?)

 

 

以前操たちが感じた簪の物凄い成長を、ティナも感じ取った。

そのプレッシャーで、1歩後ろに下がってしまう。

ここで、更衣室の方から

 

 

「ほら!ボーデヴィッヒさん!行くよ!」

 

 

「し、しかし...」

 

 

「良いから行く!」

 

 

「止めろ、押すな!」

 

 

そんな会話が聞こえて来た。

3人は更衣室の方に視線を向ける。

そこには、バスタオルでぐるぐる巻きになった人物を引きずる静寐、神楽、癒子、さゆかがいた。

 

 

「えっと...なにやってるんだろう?」

 

 

「私に聞かれても...」

 

 

「あはははは~!ミイラだ~!」

 

 

簪とティナは困惑しながらそう会話し、本音は能天気に笑う。

 

 

「お~い!何してるのぉ~!?」

 

 

ティナが静寐達に向かって声を掛けると、静寐達も簪達がいるのに気が付いた。

バスタオルぐるぐる巻きの人物を引きずりながら向かってくる。

 

 

「はぁ、はぁ......」

 

 

「つ、疲れた....」

 

 

簪達のもとに着いた途端、神楽とさゆかがそんな声を漏らす。

 

 

「えっと...そのバスタオルお化けは......?」

 

 

「ああ、ボーデヴィッヒさんがなんかいざ海で水着着るとなると恥ずかしいって言うから...」

 

 

「ううう...」

 

 

簪の疑問に癒子がそう返すと、バスタオルの中からそんな唸り声が聞こえてくる。

 

 

「ラウラ、そんなに恥ずかしがらなくて良いんじゃない?」

 

 

「し、しかし...」

 

 

「じゃあ私達は海で遊ぶから、ラウラは此処にいたら?」

 

 

「っ!と、取れば良いんだろ、取れば!」

 

 

簪の脅しにラウラは慌ててバスタオルを放り捨てる。

ラウラの水着は、確かに今までのラウラのイメージをは違う可愛らしいものだったが、かなりラウラに似合ってた。

 

 

「ラウラ、可愛いじゃん」

 

 

「止めろ!わ、私はそういう事を言われ慣れてない...」

 

 

簪のその誉め言葉にラウラは顔を赤くし俯きながらそう返答する。

そんなラウラの言動に、簪達は

 

 

『小動物......』

 

 

と、同時に呟いた。

それを聞いたラウラは更に顔を赤くする。

 

 

「じゃあ、全員揃ったんだし遊びましょう!」

 

 

「時間は~有限だぁ~!!」

 

 

ティナの言葉に、立ち上がった本音がそう同調する。

 

 

「準備運動は?」

 

 

「もうしたよ!」

 

 

「私達もしてる!」

 

 

「してな~い...」

 

 

「ならしないと、海なら危ない」

 

 

「は~い...」

 

 

この場で唯一準備体操をしていなかった本音が準備体操をし始める。

だが、歩き同様かなりゆっくりな準備体操なので、簪達は苦笑いを浮かべながら本音の事を見ている。

すると、遠くの方からギャーギャーと騒ぐ声が聞こえてくる。

簪達が視線をそっちの方に向けると、

 

 

「箒さん!春十さんと遊ぶのは私ですわ!」

 

 

「いいや!私だ!セシリアは黙っていろ!」

 

 

「ふ、2人とも落ち着いて...」

 

 

「「春十さんは黙っていてください!!」」

 

 

「お、おぅ...」

 

 

と、騒ぐ春十、箒、セシリアがいた。

 

 

「...あの3人は何をしているのかな?」

 

 

「ただ騒いでいるだけだろう。気にしたら駄目だ、悪い影響が出る」

 

 

「それは言い過ぎ...じゃないかもね...」

 

 

ラウラの辛辣な言葉に、ティナは思わず納得してしまう。

周囲の事を気にしないで騒ぐ3人は如何考えても迷惑だった。

 

 

「そうだね、気にしないで遊ぼう!」

 

 

「あそぼ~あそぼ~!!」

 

 

空気を切り替えるようにさやかが言った言葉に本音がそう同調する。

そして8人は遊び始める。

海辺で水を掛け合ったり、浅瀬で泳いだり、他のグループと混ざってビーチバレーをしたり...

兎に角遊び通した。

そうして、今は浅瀬で海水につかりながら雑談をしている。

 

 

「そう言えば、みんなはお昼ご飯どうするの?」

 

 

「あー、考えてなかったね...」

 

 

ここで神楽が切り出し、癒子がそれに反応する。

今日の昼ご飯は旅館のご飯か、教員出店のご飯である。

 

 

「教員出店と旅館だよね?どっちにしようかなぁ~~」

 

 

「折角海なんだし、出店で食べたい気がするけどね」

 

 

「確かに~~、焼きそば食べたぁ~い!」

 

 

本音のその言葉に、ティナとラウラが首を捻る。

 

 

「「焼きそば?」」

 

 

「2人は知らないのか。中華麺とかを、野菜と一緒に炒めてソースを絡めた奴だよ」

 

 

「なるほど...興味があるな」

 

 

「うん!焼きそばっていうのがあるなら、教員出店で食べようかなぁ」

 

 

簪の説明を聞いた2人はそう反応する。

その空気もあり、なんとなくこの8人の中では教員出店で食べる流れになっていた。

 

 

「そう言えば、今って何時だっけ?」

 

 

「時計無いよ...」

 

 

「もう直ぐ11時だ」

 

 

「あれ、ラウラ持ってたの?」

 

 

「防水腕時計くらいはしてある」

 

 

「なるほど、軍人らしいね...」

 

 

ラウラが見せて来た黒い腕時計を見ながら簪がそう呟く。

 

 

「それじゃあ、そろそろご飯食べる準備しようか」

 

 

「そうだね、身体拭かないといけないし」

 

 

そんなこんなで、8人は海から上がると昼食を食べる準備をするために更衣室に向かっていく。

タオルは更衣室に置いてあるし、ご飯を食べた後直ぐにまた泳ぐわけでも無いのでいったんラフな格好に着替えようという訳である。

そうして、本音のゆっくりなペースに合わせて歩いていると

 

 

「ん?なんだあの人だかりは?」

 

 

砂浜で、やけに人が集まっているのを見つけた。

 

 

「あそこが教員出店じゃなかったっけ?」

 

 

「なるほど...だが何故あそこまで人が集まってるんだ?」

 

 

「それは...分からない」

 

 

「気になるなら見に行けば~~?」

 

 

本音のその言葉で、8人は何となく見に行くことにした。

着替えてからでも良かったのだが、見るだけならそんなに時間は掛からないから取り敢えず見る事にしたのだ。

人混みの隙間から覗くと、そこでは...

 

 

黒、金、銀の3色で構成されている法被を着用し、赤、青、黄、緑、白、オレンジの6色のねじり鉢巻きを頭に巻いた操が、鉄板の前に立ち、ヘラを使用し何か調理しているのであった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

操side

 

 

さて、織斑先生とのドタバタで時間を取られてしまった。

学園長に連絡もしたから時刻はもう10時20分だ。

準備が後10分後だから、取り敢えずトイレに行って準備するか。

 

 

そしてトイレに行ってきたので、取り敢えず必要なものを持っていくとしよう。

え~っと、鉄板とかは先生方が準備してくれるから、俺は食材を持っていけばいいのか。

 

 

「良し、俺のソースと()()も持っていくぞ!」

 

 

俺のバッグから自作ソースととあるものが入った袋を取り出し、そのまま食材が置いてある旅館の厨房に向かう。

 

おおお...すっげぇ調理室だ...

綺麗で整理されてるのは当然として、パッと見るだけで置いてある調理機器が隈なく高級品なのが分かる。

 

 

「すみません、教員出店用の食材を受け取りに来ました」

 

 

「そこに置いてある段ボールとクーラーボックスです」

 

 

「分かりました」

 

 

その場に置いてあったのは、そこそこなサイズの段ボール3つとクーラーボックス1つ。

4つ、4つかぁ...

 

 

「...1回で行けるな」

 

 

そう呟き、置いてあった段ボールとクーラーボックス計4つをいっぺんに抱える。

なんかさっき段ボールを教えてくれた従業員の方から驚きの視線を向けられている気がする。

まぁ、特に問題ないし良いか。

 

 

そうして、そのまま段ボール3つとクーラーボックスを抱えたまま砂浜の教員たちのもとに向かう!

 

 

「山田せんせ~い!!食材持ってきましたぁ~!!」

 

 

「あ、門藤君、ありがとうございま...ええ!?」

 

 

何故だ。

山田先生が驚愕の声を発しているぞ。

それに、他の教員の方も山田先生と同じような表情を浮かべている。

 

 

「どうかしましたか?」

 

 

「いや、あの、だって!段ボール3つとクーラーボックスを一気に運ぶって...」

 

 

「あはは、これくらいは余裕ですよ」

 

 

前にビルだったり宇宙船だったりを釣った俺にはこれくらい余裕だぜ。

 

 

「取り敢えず、何処に置けば良いんですか?」

 

 

「あ、そこに置いておいてください」

 

 

「はい」

 

 

山田先生が指さしたところに段ボールとクーラーボックスを置く。

ふぅ...

流石に少し疲れたな。

 

 

「それで、俺の作業スペースは何処ですか?」

 

 

「その1番大きい鉄板とその隣の焼き機です」

 

 

そう言われ、その鉄板を見る。

...デケェ。

なんだこのデカい業務用の鉄板は。

15人前ぐらいは一気に作れそうだ。

それに、このフランクフルト焼き機も業務用。

 

 

「はぁ~、凄いですね」

 

 

「IS学園ですから!これくらいは簡単に用意できるんです!」

 

 

他の事にお金を使えとも思うが、来年以降も臨海学校はあるんだろうしその時に使うと考えるとまぁ確かに必要な経費なのかもしれない。

 

 

「よ~し...気合入って来た!」

 

 

まぁ、何はともあれこんなに良いものを使わせて貰えるんだ。

気合は十分!

良し、行くぞ!

気合いを入れた俺は持ってきた袋から黒と金と銀...ジュウオウザワールドカラーの法被と、赤、青、黄、緑、白、オレンジ...他のみんなのカラー全部のせの鉢巻きを取り出す。

そして法被を纏うとねじり鉢巻きを頭に巻く。

 

 

「えっと、門藤君、それは...?」

 

 

「ん?法被とねじり鉢巻きですよ?」

 

 

「えっと...何処で入手したんですか?」

 

 

「気にしたら負けです」

 

 

「そ、そうですか...」

 

 

元の世界だとこんな感じの良くあった気がするし、普通だろ。

そして服装の準備を終わらせた俺は焼きそばとフランクフルトを作る準備...の前に手指を消毒しビニール手袋とゴム手袋を装着する。

今日の料理は俺が食べるんじゃなくて、みんなに食べてもらうものだ。

衛生面はしっかりしないと。

そして、衛生面を整えてから焼きそばとフランクフルトの材料を取り出す。

 

さて、先ずは食材の下処理から。

焼きそばに入れる野菜はキャベツと玉ねぎ、豚肉。

紅ショウガは後乗せだから1回後回し。

あくまで麺がメインだから、啜ったときに一緒に食べられるくらいのサイズに切っていく。

でも、細かくし過ぎるとボリュームが足りなくなっちゃうからそこら辺は注意。

 

 

「な、何て良い手際...」

 

 

山田先生のそんな呟きが聞こえるが今は無視。

そうして全てを切り終えたので鉄板の準備をしていく。

鉄板に油を敷いて、温める。

折角こんな良い鉄板を使うんだから麺は外は少しパリパリにして中はもっちりにしないと勿体ない。

だから麺を焼く部分に油は少し多めに。

 

鉄板を温めている間にフランクフルトを作り始める。

ソーセージに切れ込みを入れ、串を刺す。

そして焼き機にセットして焼き始める。

あくまで焼きそばの調理をメインにしないといけないからゆっくり火を掛けていく。

まぁでも、途中で温度調整はしないといけないな。

 

さて、焼きそばを作っていく。

先ずは先程切ったキャベツを炒めていく。

この時、さっき多めに油を敷いた部分じゃない所で炒める。

そしてキャベツの次に玉ねぎを同じ位置で、豚肉は少し離れたところで炒め始める。

 

良し、次は麺。

さっき多めに油を引いた所でヘラを使い麺を焼き始める。

 

ジュ―――

 

油が多いからそんな音があたりに響く。

そうして大体焼けて来たタイミングで俺の自家製ソースを絡めていく。

まぁ、自家製といっても市販のウスターソースに調味料とかを足しただけだけど。

ソースを絡めた瞬間に、辺りにソースの濃厚な匂いが広がる。

 

ザワザワザワ

 

と、辺りが少し騒がしくなってきて、生徒達が集まって来た。

良し、そろそろ野菜と一緒にするか。

そうして野菜と麺を一緒に炒めていく。

 

 

「す、凄...」

 

 

「夏祭りの屋台の人とかより全然凄い...」

 

 

「あの法被と鉢巻きなんだろう...?」

 

 

良し、これで少し放置。

フランクフルトを確認する。

...良い感じに焼けてるな。

焼き機から取り出し紙皿に乗せる。

そしてケチャップとマスタードを塗って、そのまま紙皿ごと机の上に並べる。

 

 

『おおお...』

 

 

焼きそばに戻る。

良い感じに外パリになったのでプラスチック容器に移し、紅ショウガを入れてから輪ゴムを掛け割り箸を挟む。

そうして出来た焼きそばを机の上に並べる。

チラッと他の教員の方々を見ると、まだ作っている最中だった。

かき氷に、焼きトウモロコシ等々...

屋台の定番商品をズラッと作っていた。

さてさて、時刻は...丁度11時か。

 

 

「山田先生、そろそろ開店良いですか?」

 

 

「はい、そうですね...開店します!」

 

 

「よ~し...」

 

 

山田先生に開店許可を貰ったので思いっ切り息を吸う。

 

 

「教員屋台、開店で~す!!完成した料理を好きなように持って行ってくださ~い!!」

 

 

『おおお!!』

 

 

俺のその言葉に、周りに集まっていたみんなが次々と焼きそばとフランクフルトを持っていく。

それを横目で見ながら次のフランクフルトと焼きそばの準備をする。

 

 

『いただきま~す!』

 

 

みんなはそう言うと、そのまま焼きそばを食べ始める。

まだ11時なのに良い食べっぷりだな。

やっぱり海で遊ぶとお腹が減るのかな?

そんな事を考えながらフランクフルトを焼き機にセットする。

そうして次の焼きそばを作り始めようとした時にチラッとみんなの事を見る。

喜んでくれてると良いんだけど...

そう思っていると

 

ビシッ!!

 

そんな擬音が聞こえるくらいで、みんなが固まっていた。

 

 

「負けた...」

 

 

「こんなのって、無い...」

 

 

「イケメンで、強くて、料理も上手いってなに...?」

 

 

「もう普通の焼きそば食べられないかも......」

 

 

「???」

 

 

なんでそんな事を言うんだろうか。

確かに焼きそばには自信があるが、それはあくまで素人目で見たらの話。

本職の人よりかは絶対に上手くできてないと思うんだけどなぁ...

なんでだろう?

まぁ、取り敢えず焼きそばを作って行こう!

 

 

そうして焼きそばとフランクフルトを作り続ける。

やはり時間が進むにつれて生徒数が増えて来た。

それに、焼きトウモロコシ等を食べる人も当然ながらいるが、なんか俺の焼きそばとフランクフルトが1番人気のような気がする。

 

 

「操!なにしてるんだ!?」

 

 

「ん?ラウラ!それに簪達も!どうかしたか?」

 

 

5回目の焼きそば作りをしていると、ラウラ達が話し掛けて来た。

流石にもう慣れ、話しながらでも作れるようになってきた。

でも視線を外すとまずいから直ぐに鉄板に視線を戻す。

 

 

「いや、あの、操さん?何やってるんですか?」

 

 

「焼きそばとフランクフルト作り」

 

 

「いや、それは分かってるんですよ!なんで作ってるんですか!?」

 

 

「水着が無くて遊べないからどうするかと思っていたら、山田先生から手伝わないかって言われたから」

 

 

簪と会話しながら焼きそばを作る。

良し、完成!

丁度出来上がった焼きそばを8つの容器に入れて、そのまま割り箸事みんなに渡す。

 

 

「はい、出来立て!」

 

 

「ありがとぉ~ございま~す!」

 

 

取り敢えずのほほんさんに8人分一気に渡して、後は配ってもらおう。

余りの焼きそばも容器に移して紅ショウガを乗せ、割り箸と輪ゴムをしてから運ぶ。

 

 

「く、やはり...!」

 

 

「こんなの勝てない...」

 

 

「美味しすぎ~~!!」

 

 

すると、ラウラ、簪、のほほんさんからそんな感想が聞こえてくる。

前々から思ってたけど勝つとか負けとかってなんだろう。

さて、ティナ達は...

 

 

「なに、これ...」

 

 

「美味しい...」

 

 

「自信無くす...」

 

 

「対抗心すら出てこない...」

 

 

「料理辞めようかな...」

 

 

「なんでそうなるの!?」

 

 

なんで俺の料理を食べたら料理を辞めるんだい!?

 

 

そうしてドタバタと料理をし続ける事約2時間。

なんとか全ての食材を使い切った。

 

 

「教員屋台、終了で~す!!」

 

 

再び俺がそう叫ぶ。

まぁ、現在時刻はもう1時を過ぎている。

今からご飯って人はもういないだろうし、これで今日の仕事は終わり。

 

 

「門藤君、お疲れ様でした!」

 

 

「山田先生こそ、お疲れ様です」

 

 

山田先生が話し掛けて来てくださったので振り返りながらそう返答する。

 

 

「いやぁ、門藤君は料理が上手ですね!凄かったですよ!」

「そうですかね?あれくらいは誰でも出来る気がするんですけど...」

 

 

「出来ません出来ません。それで、教員用のお昼ご飯が旅館の中にあるのでもう食べて良いですよ」

 

 

「え、いや、後片付け...」

 

 

「これくらいは私達がやっちゃいますから!ほら、門藤君もお腹空いてるでしょう?」

 

 

確かに、料理中は気にならなかったけどそこそこお腹は空いた。

 

 

「なら、お言葉に甘えさせてもらいます」

 

 

「はい!食堂に行ってその旨を伝えれば受け取れますよ!」

 

 

「分かりました。失礼します」

 

 

そうして、山田先生に頭を下げてから旅館に向かっていく。

 

 

「ふぅ~~、疲れたな」

 

 

法被と鉢巻きを取りながらそう呟く。

いやぁ、みんなが喜んでくれたようで良かった!

勝ち負けは良く分からないけど。

さて、食堂に...

 

そうして食堂に向かって歩いて行くと、曲がり角の向こうから人の気配がする。

誰だろう?

他の先生かな?

そう思いながら曲がり角を曲がる。

そして、そこにいたのは...

 

 

「誰...?」

 

 

両目を閉じた、銀髪の女性。

それに、どこかラウラに似てる。

こんな人、見たこと無い。

俺に気が付いたのか、その女性は両目を閉じたまま頭を下げる。

 

 

「初めまして、門藤操様。私は束様の助手を勤めています、クロエ・クロニクルと申します」

 

 

そうして、その女性...クロエ・クロニクルさんは、そう言葉を発するのだった...

 

 

 

 




特撮あるある。
何処で入手したのか突っ込みたくなるような小物。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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初日の終了

今日まで操はほぼ教員。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

臨海学校初日。

教員屋台を終わらせたので、教員用の昼食を食べようと旅館内に入った操の前に、束の助手であるクロエが姿を見せた。

 

 

「束さんの助手...だと...?」

 

 

クロエの自己紹介を聞いた操は警戒心バリバリでそう言葉を発する。

束は今世界中から追われている生活を送っている。

そんな人の助手と言われても簡単に信じられる訳が無いし、警戒するのは当然だろう。

それはクロエも当然承知である。

 

 

「警戒しなくても大丈夫です......とは言っても警戒心を解けないのは分かっています」

 

 

「...貴女が束さんの助手という証拠は?」

 

 

クロエの閉じられたままの目を見ながら、操はそう声を発する。

右手はポケットに向けられており、直ぐにでもジュウオウザライトを取り出せるようにしている。

 

 

「束様から話は聞いています。操様の元の名前が、織斑一夏であるという事」

 

 

「っ!」

 

 

クロエの口から発せられた事に、操は小さく反応した。

相手が千冬だったら軽く流す...というよりかは少し怒りを覚える言葉なのだが、初対面の相手から言われたら驚きを覚える。

 

 

「それだけではありません。貴方が織斑春十を始めとした周囲の人達から受けた虐めの数々。そして、此処とは違う世界で、動物戦隊ジュウオウジャーとしてデスガリアンやバングレイ等々といった敵との戦い...その全てを」

 

 

「っ!!そこまで、知ってるのか......」

 

 

クロエの口から発せられたデスガリアンを始めとした単語。

それは、束とラウラとクラリッサにしか説明をした事のないものだ。

それを理解しているという事は、この3人の誰かの関係者であるという事は間違いないのである。

 

 

「最後に、この2枚の写真を」

 

 

クロエはそう言うと、懐から写真立てを2つ取り出し操に手渡す。

それに収められた写真を見た操は表情を驚愕のものに変える。

その写真は、クロエと束が並んで映っているもの。

そして、幼少期の操...否、幼少期の一夏と束が並んで映っているものだった。

こんな写真を持っているんだから、クロエが束の関係者であるという事は証明される事になる。

 

 

「...なるほど、貴女が束さんの関係者であるという事に間違いはないみたいですね」

 

 

「理解をして下さったようで良かったです」

 

 

操がポケットから手を離しながらそう言った事で、警戒心を一応解いた事をクロエも理解した。

 

 

「あ、これ、返します」

 

 

「いえ、そちらの写真は束様からのプレゼントです。どうぞお持ちください」

 

 

「そうですか...ありがとうございます」

 

 

操はそう反応すると、その2枚の写真を仕舞おうとする。

その前に、一夏と束の写真を見て物凄く悲しそうな表情を浮かべた。

春十を始めとした様々な人間に虐められた嘗ての自分。

そしてその時に唯一味方だった束。

その頃の写真を見て、複雑な感情を抱いているのだ。

 

 

「......」

 

 

そんな操の雰囲気を察して、クロエもまた少し表情を曇らせる。

そうして、暫くの間静寂がこの場を支配する。

 

 

「...それで、いったい何の用ですか?わざわざ臨海学校に侵入するって事はそれなりの事だと思うんですけど...?」

 

 

その静寂を、操がその質問で破る。

 

 

「束様からです。『みっちゃん!ご飯食べ終わった後で良いからクーちゃんに案内してもらって束さんの所に来て!』」

 

 

「...一語一句同じように言わなくても...」

 

 

クロエの急なテンションの変化で、束の言葉を全く同じように言ったとを察した操は苦笑いを浮かべる。

 

 

「分かりました。じゃあ取り敢えず食べて良いですか?お腹空いたので...」

 

 

「はい、問題ありません」

 

 

「それじゃあご飯を食べ終わったら行くので...旅館の後ろにいてください」

 

 

「はい。それでは」

 

 

クロエは頭を下げると、そのまま一瞬で姿を消した。

 

 

「...束さんの助手だと動きまで同じように出来るのか」

 

 

一瞬前までクロエがいたところを呆然と見ながら操はそう呟いた。

暫く固まっていたがやがて頭を振るとそのまま食堂に向かい、昼食を受け取り、食べた。

 

 

「フムム...なるほど、これは...」

 

 

その昼食を食べながら操が頭の中で自分の料理に応用できる部分を探していたのは余談である。

 

 

そうして昼食を食べ終えた操は食器類を返却してから、自分で指定した旅館の後ろの方に向かって行く。

先程まで屋台で焼きそばとフランクフルトを作るという明らかに教員のようなことをしていた操だが、一応生徒なので今日1日は自由行動なのである。

つまるところ、今から束の所に行ったりしても

 

「部屋でまったりしてました」

 

とかで簡単に誤魔化せるのである。

操の部屋が元物置の1人部屋なので更に誤魔化しやすいだろう。

 

 

「クロエさん!」

 

 

「操様、どうも」

 

 

旅館の後ろにひっそりといたクロエに操が声を掛けると、クロエも操に気が付き目を閉じたまま顔を操に向ける。

 

 

「それではご案内します」

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

そうして、操はクロエに案内されながら移動をする。

旅館の裏手にある森の中にまで入っていく。

そして、森の中にある崖の麓にまで来た。

 

 

「此処です」

 

 

「此処って...崖...」

 

 

「はい、そうです。ですが...」

 

 

クロエはそう言うとその岩肌に手を伸ばす。

すると、クロエのその腕はするりとすり抜け、崖の中に入っていく。

 

 

「ホログラムです」

 

 

「なるほど...」

 

 

クロエの言葉に操はそう反応する。

そうしてクロエの後に続きそのホログラムを通る。

するとその先には、近代的な...いや、現代の技術を軽く超えているであろうものが至る所に転がっている研究室が広がっていた。

 

 

「束様、操様を連れて来ました」

 

 

「お!ありがとクーちゃん!!」

 

 

クロエが言葉を発すると、研究室の奥からピョコという擬音が似合いそうな感じで束が顔を出した。

 

 

「みっちゃ~ん!!久しぶり!!あの暴走事件以来だね!!」

 

 

「そうですね、束さん。お久しぶりです」

 

 

束は笑顔で操に近付いて行き、操もしっかりとそう返答する。

 

 

「それで束さん、いったい何の用ですか?わざわざこんな研究室まで用意して」

 

 

「うん。ちょっと束さんやる事が出来たから、みっちゃんには伝えておこうと思って」

 

 

「やる事...ですか?」

 

 

束のその言葉に、操は首を捻った。

今束は全世界から逃亡している身。

そんな人がわざわざやる事があると言ったら疑問を持つだろう。

 

 

「うん......束さんのあの愚妹と、絶縁しに来たんだよ」

 

 

絶縁状をピラピラとさせ、何処か冷めたような瞳をしながら束はそう言う。

そんな束に、操は驚いたような視線を向ける。

しかし次第に納得した表情に変わっていった。

 

 

「そうですか、遂に...」

 

 

「うん、漸くだよ。いやぁ、長かったねぇ~~」

 

 

あくまでもあっけらかんと話す束を見て、操も察した。

束が此処まで冷めた反応をする何かがあったんだと。

 

 

「それで、確か明日は装備品の確認とかがあるんだよね?」

 

 

「はい。明日は専用機持ちに...とはいってもラウラだけですけど、ラウラに装備品が送られてきて、一般生徒はアリーナではやりにくい訓練をする予定です」

 

 

「その訓練の前に、束さんは乱入しようと思うんだ」

 

 

「なるほど...つまり、そこでその絶縁状を篠ノ之箒に叩き付けると」

 

 

「そう言う事!みっちゃんは理解力が高くて助かるなぁ!!」

 

 

束は操の背中をバシンバシンと叩きながらそう笑顔で言う。

操はそんな束に苦笑いを浮かべながら引きはがす。

 

 

「むにゃあ!?みっちゃん、力が強いってぇ!?」

 

 

「あ、ごめんなさい」

 

 

束に言われて慌てて手を離す。

さっきまで操に抑えられていた部分をさすりながら次の言葉を発する。

 

 

「それで、みっちゃんには束さんのサポートをして欲しいんだ」

 

 

「束さんのサポート...ですか?」

 

 

「うん。束さんが乱入したら、絶対に織斑千冬とか織斑春十とかが絶対に反応するじゃん?」

 

 

「まぁ、確かに...」

 

 

「だから、束さんがスムーズに話を進められるように対応して欲しいんだ」

 

 

「なるほど...ジュウオウザワールドはこの世界では束さんお手製の男性用の特別ISって扱いだから、俺が対応するのが1番自然と...」

 

 

「そう!そうなの!やっぱりみっちゃんは優秀!」

 

 

束の言葉を全て聞く前に察した操に、束は嬉しそうな笑みを浮かべながらそう反応する。

束の楽しそうな表情を見たクロエもまた、少し嬉しそうな表情になった。

 

 

「そう言う訳だから、みっちゃんよろしくね!」

 

 

「はい、俺程度で良かったら」

 

 

操はニコッと微笑みながらそう返答し、その操の笑顔を見た束は顔を少し赤くする。

そんな束を見て操は首を捻るが、直ぐにその表情を何か思いついた表情に変える。

 

 

「そうだ、今ここで料理出来ますか?この間約束しましたし、簡単なおやつくらいなら今作っちゃいますよ?」

 

 

「え、良いの!?」

 

 

操の言葉を聞いた束は一瞬で目を輝かせて操に詰め寄る。

 

 

「は、はい。取り敢えず材料と道具があればですけど...」

 

 

「クーちゃん!ある!?」

 

 

ガバッとクロエに視線を向けながら束がそう質問する。

急に視線を向けられたクロエは驚きながらも首を縦に振る。

それを確認した束は再び操に視線を向ける。

そんな束の表情はまるで3歳の子供のようにキラッキラしていた。

 

 

「それじゃあ早速作りますね。クロエさん、すみませんが材料の所まで案内してもらっても?」

 

 

「はい、分かりました、こっちです」

 

 

クロエに案内された操は、そのまま2人分のお菓子と夕ご飯を作り、旅館に帰って行くのだった。

 

 

因みに、操の料理を食べた束とクロエのプライドは打ち砕かれたらしい。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

時刻は進み、夕食の時間。

何故か花月荘は食事時浴衣着用必須という謎ルールが存在するので、生徒達はみな浴衣姿で座っていた。

IS学園には国籍が様々な生徒が在籍しており、その為宗教上の理由や文化の違い等から正座が出来ない生徒もいるため、そういう生徒の為にテーブル席も用意されている。

そして生徒達の前にはカワハギの刺身を始めとした豪華な食事がズラッと並んでいた。

 

 

「それでは、夕食の時間だ。全員しっかり食べて明日に備えろ」

 

 

生徒達と同じく浴衣を身に纏い、何故か同じ様に座っている千冬がそう言葉を発した。

教員たちは教員たちで別室で食事をする事になっている。

しかし、その教員である千冬が生徒達と同じ部屋で食事をしようとしているので、生徒達は千冬に不思議そうな顔をしている。

そしてもう1つ、生徒達は疑問に感じている事がある。

それは....

 

 

「織斑先生、門藤さんは何処ですか?」

 

 

1人の生徒が手を上げながらそう質問をする。

そう、今この場には操が存在しないのである。

23歳である操だが、れっきとしたIS学園の生徒。

この場にいないのはおかしいのである。

千冬もその質問が来ることを分かっていたのか、若干不機嫌そうな表情を浮かべながら言葉を発する。

 

 

「......門藤は教員と同じ部屋で食べる事になっている。なんでも昼の屋台関係で昼食を用意してもらったら、手違いで夕食分も教員用で準備されたらしい」

 

 

千冬の説明を聞いた生徒達は納得をした。

昼食時にずっと焼きそばとフランクフルトを作っていた操は昼食の時間に何も食べていなかった事を思い出したからだ。

あの場で何も食べていなかったのだから、そう言う事になっても不思議では無い。

 

 

「それと、私が此処にいる理由だが...昼の時間にやけに騒いでいた奴らがいるから、それの監視だ」

 

 

千冬はぎろりと視線を春十、セシリア、箒の3人に視線を向ける。

この3人は昼にギャーギャーと騒ぐだけ騒いだ3人だ。

3人の騒ぎを見ていた生徒達は納得の表情を浮かべていた。

 

 

「それでは、全員食事を始めろ!」

 

 

『い、いただきます』

 

 

千冬の号令により、全員が食事を開始する。

それを確認した千冬も食べ始める。

 

 

(き、気まずい...)

 

 

生徒達は、一斉にそう考える。

千冬がいるこの状況で少し騒がしくなろうものなら直ぐに怒られるのは誰でも想像できる。

だからこそ、生徒達は会話すら出来ないのだ。

 

 

そんな、生徒達が少し不自由な食事をしているのと同時刻。

 

 

「おおお...豪華......」

 

 

操もまた浴衣を着用し、教員たちと共に夕食が配膳されるのを見ていた。

教員たちの食事は生徒達のと比べると若干グレードダウンしているが、それでも豪華な事に変わりはない。

 

 

「かなり豪華なんですね」

 

 

「そうなんですよ。これでも生徒達の方が豪華なんです」

 

 

「はへぇ~...IS学園って凄いですね」

 

 

隣に座っている真耶とそう会話しながら操は配膳される様子を見ている。

 

 

そうして大体10分後、全ての教員に料理が配膳された。

いざ食べようと操は箸に手を伸ばす。

しかし、その直前にとある声が響く。

 

 

「お酒で~す!!」

 

 

「え?酒?」

 

 

操は思わず声が聞こえてきた方に振り返る。

するとそこには、大量のビール缶を持った教員の人が3人ほど立っていた。

そして、その教員たちは他の教員と操にビール缶を渡していく。

操はそのままの流れで受け取ったが

 

 

「...生徒に酒渡すんですか?」

 

 

と、若干ジト目で真耶の事を見る。

視線を向けられた真耶は若干テンション高めで返答する。

 

 

「はい!門藤君は成人してるので問題ないです!学園長にも許可は取ってるんですよ?」

 

 

「わざわざ...ありがとうございます」

 

 

真耶の返答を聞いた操は若干にやける。

この世界に来てから一度も飲酒していない操。

それにこの世界に来る前には飲み会の運転手で周りは飲酒していたのに1人だけ烏龍茶を飲んでいたのだから、何だかんだ飲酒できるのは嬉しいんだろう。

 

 

「それじゃあ、みなさ~ん、準備は良いですか~~?」

 

 

真耶が立ち上がりビール缶を掲げながらそう声を発する。

何をするのか察した操はビール缶を開け、同じくビール缶を掲げる。

それとほぼ同時に他の教員も操と同じように開いたビール缶を掲げる。

 

 

「カンパ~イ!!」

 

 

『カンパ~イ!!』

 

 

真耶の号令と同時に全員が声を発しながらビール缶を突き出す。

そして全員がビールを飲む。

 

 

ゴクッゴクッゴクッ!!

 

 

「ぷはぁあ!!」

 

 

ビール缶の半分くらいを一気に飲んだ操はそう声を漏らした。

 

 

「暫くぶりのビール...身体に染みる......」

 

 

操はそう声を漏らしてから食事をし始める。

今回の料理はそれ単体でも成立するのだが、酒の肴としても成り立つものばかりだ。

それがより一層酒を加速させる。

とはいっても、『酒は飲んでも飲まれるな』という名言が存在するように、酒は限度を超えて飲むものではない。

操は当然のように理解しており、そこそこ飲んでいるが自分の限度は超えていない。

そう、操は。

 

 

「うぇ~ん!!門藤く~ん!!なんで私は良い彼氏が出来ないのぉ~~!?」

 

 

「俺に聞かないで下さい!」

 

 

「どうやったら私は教員としての威厳を持てるんですか!!」

 

 

「だから俺に聞かないで下さい!」

 

 

酒に完全に酔った教員2人...榊原菜月と真耶が操にダルがらみしていた。

菜月は今現在29歳。

そろそろ結婚も考える年齢だ。

しかし、菜月はことごとく男運が無い。

同性でも引いてしまうような男ばっかり好きになってしまうのだ。

その為なかなか良い恋愛が出来ず、実家からはお見合い用の写真が大量に送られてくるらしいのだ。

 

 

「もうこの際門藤君が彼氏になってぇ~~!!」

 

 

「彼女います!それになんで教員が生徒と付き合おうとするんですか!っていうか俺榊原先生としっかり話すの今日が初めてですよね!?」

 

 

「そんなの関係ない!」

 

 

「あるわ!」

 

 

操は思わず敬語が外れてしまう。

 

 

「なんで織斑先生の言う事はしっかり聞くのに私の話は聞いてくれないんですかぁ~~!!」

 

 

「それはほら、あの~~山田先生は織斑先生みたいに恐怖で押さえつけないから反動で親しめになっちゃうんじゃないですか?」

 

 

菜月の悩みに比べて真耶の悩みがあまりにも深刻だったため操はついつい言葉を発してしまう。

それを受けて真耶は若干涙目になる。

 

 

「うぇぇぇん!」

 

 

「門藤く~ん!」

 

 

「ああああああ!もう!」

 

 

シュトン!!

 

 

真耶と菜月が更に面倒くさくなったので操はそう声を発すると、真耶と菜月に首トンをして気絶させる。

首トン。

それは、限られた強者のみが許される技。

10年前から戦ってきた操は、この領域にまで達しているのである。

そんな操の首トンを見て、他の教員が驚いた表情を浮かべる。

 

 

「門藤君、首トンって...」

 

 

「あ~~~練習したので」

 

 

(あれ?首トンって不可能なのでは?)

 

 

操の返答を聞いて教員全員がそう疑問に思った。

しかし、操があまりにも普通なので次第に疑問は消えて行った。

 

 

「取り敢えず部屋まで運んでもらって良いですか?」

 

 

「あ、うん。分かったわ、任せて」

 

 

自分で気絶させたのだが、流石に気絶した女性を運ぶことなど操に出来ない。

その為、他の教員が真耶と菜月をそれぞれの部屋に運んでいった。

それを見届けた後、操はため息を着いてから新しいビール缶を開けて中身を飲むのだった。

 

 

こうして、生徒と教員でかなりの差がある夕食時間を経て、時刻は22:00。

操は自分の部屋でジュウオウザライトを見つめていた。

あれからは特になにか大きなトラブルが起こった訳でも無く、操は消灯時間を過ぎた今さっき風呂に入って来たのだ。

 

 

「...またなんか起こりそうな気がするな...」

 

 

操はそう呟くと、窓の外を見る。

今までのイベント2回、それでどちらも事件が起きてるのだ。

なにか起こると考える方が当然だろう。

 

 

「......何かあっても、俺は戦うさ。俺も、動物戦隊ジュウオウジャーだから」

 

 

操はそう呟くと、ジュウオウザライトを仕舞いそのまま布団に入っていった。

 

 

こうして、臨海学校の初日は終わるのだった...

 

 

 

 




『俺程度』...ねぇ...

1人だけ特撮だから周りとズレてる操。
首トンを現実でやろうとすると首の骨が折れるくらいの衝撃が必要なんだぜ。
仮にそれだけの衝撃でも100%気絶するとは限らないんだぜ。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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天災と愚妹の絶縁

操、漸く生徒に。

今回もお楽しみください!


操side

 

 

クロエさんに束さんの所に案内されていろいろ説明を受けた後に、酒に酔った山田先生と榊原先生を首トンさせたりした翌日。

今日は装備試験の日だ。

装備試験とはその名の通り、国や企業から送られてきた専用機向けの装備を試験するというものだ。

まぁ、とはいっても今日はドイツ以外からの装備は送られてこない。

簪の専用機は開発元から捨てられてるから送られてくる事は無い。

セシリア・オルコットは専用機の所有権が無くなったし、織斑春十の専用機...えっと...そう、白式はなにやら追加武装が無いらしい。

そして俺のジュウオウザワールドはISじゃないので追加武装など無い。

だから、ラウラへの武装以外は送られてこないのだ。

 

因みに、専用機を持たない一般生徒は訓練機を使用しIS学園のアリーナではなかなか出来ない訓練をするという訳である。

 

 

そして今は浜辺に整列し、1年生全生徒が集合するのを待っているのだが...

 

 

「......織斑と篠ノ之とオルコットはどうした?」

 

 

織斑先生が腕を組みイライラした表情を浮かべながらそう言葉を零す。

そう、もう既に集合時間なのに織斑春十、篠ノ之箒、セシリア・オルコットが来ていないのだ。

 

 

「...アイツ等は何をしているんだ?」

 

 

「さぁ...?」

 

 

隣に立っているラウラが疑問の声を発し、その更に隣に立っている簪が同調する様に首を傾げる。

1人だけならまだしも、3人も遅れるだなんて何かあったのだろうか。

正直、日差しガンガンで気温も湿度もムシムシの中ずっと立ってるのキツイから早くして欲しい。

あ、一般生徒列にいるのほほんさんが暑くて逆に眠そうにしてる。

それになんか山田先生と榊原先生の顔が青い。

まぁあの2人は多分2日酔いだろうから取り敢えずは良いか。

辛そうだったら声を掛けよう。

そう考えながら待つこと数分。

旅館の方からバタバタと走る音が聞こえて来た。

生徒全員と教員全員がそっちに視線を向けると、慌てた様子で走って来るISスーツ姿の件の3人が居た。

 

 

「貴様ら!遅いぞ!」

 

 

『ご、ごめんなさい!』

 

 

砂浜に到着した3人に対して、織斑先生が開口1番怒鳴る。

まぁ、これはあの3人の自業自得だ。

特に何とも思わない。

それにしても、束さんは何時来るのだろうか?

来るという事しか知らないからタイミングが分からない...

 

 

「織斑先生、時間も時間ですし一先ずこのへんで...」

 

 

「む、そうか...なら、これより訓練を開始する!一般生徒はこのまま私の指示に従って順番に訓練だ!専用機持ちは追加武装のあるものはテスト!無いものは各々山田先生に確認を取り訓練しろ!」

 

 

わお、何ともアバウトな指示。

なんだよ山田先生に確認取って各々訓練って。

山田先生も苦笑いをしていらっしゃるぞ。

まぁ、兎にも角にも指示を出されたから行動をしよう。

 

 

「そう言えば、簪の専用機ってどうなったんだ?」

 

 

「フフフ...それがですね......なんと完成したんですよ!」

 

 

「「おお!!」」

 

 

遂に!

 

 

「とはいっても完成したばかりなので、あんまり激しい動きをせずに取り敢えずは訓練しようかなと」

 

 

「なるほどな...それくらいが良いだろう」

 

 

ラウラと簪と共に軽く雑談をしながら山田先生の元に移動しようとする。

そうして1歩踏み出した時に

 

 

ドドドドドドドドドド!!

 

 

なにやら遠くの方からそんな爆走する足音が聞こえて来た。

ガバッとこの場にいる全員がその音が聞こえて来た方向に視線を向ける。

するとそこには

 

 

「お~い!!みっちゃ~~~~ん!!」

 

 

と、俺の名前を叫びながら爆走する束さんがいた。

 

おいおいおい!

なんて派手な登場なんだ!

 

そう考えるのも束の間。

束さんは勢いを緩めることなく俺に突っ込んで来た。

 

 

「グへぇ!?」

 

 

「操!?」

 

 

束さんの突進を避ける事など出来ず、感じた衝撃に思わず変な声が出る。

その声を聞いたラウラが驚きの声を出す。

 

 

「みっちゃん!久しぶりだね!!」

 

 

「...はい、お久しぶりです、束さん」

 

 

本当は昨日ぶりなのだが、束さんがそういう事にするらしいので合わせよう。

なんか周りから驚愕の視線を向けられてるし、なんかザワザワしてる。

まぁ、急に爆走してやって来た機械ウサミミエプロンドレスの女性と俺が話してるんだからそりゃそうか。

 

 

「3月末にジュウオウザワールドを受け取って以来ですけど......取り敢えず周りに自己紹介をしてもらっても?」

 

 

「しょうがないなぁ~~」

 

 

俺の言葉に素直に頷いた束さんは未だ驚愕の表情を浮かべているみんなの方向にくるりと身体を回転させる。

そして満面の笑みを浮かべて両手でピースしながら言葉を発する。

 

 

「やぁやぁ!ISの開発者にしてみっちゃんの友達!世紀の天才篠ノ之束だよ!!」

 

 

束さんはそこまで言って可愛らしくウインクする。

するとその瞬間に、ビシリと空気が固まった音が聞こえた。

俺は咄嗟に簪の耳を塞ぐ。

 

 

『えええええええええええええええええええええええええ!?!?!?』

 

 

殆どの生徒と教員がそう驚愕の声を発する。

 

 

「ぐぅ...!!」

 

 

なんて声量なんだ...!!

チラッと隣を見るとラウラはしっかりと自分の耳を塞いだようだ。

 

 

「操さん...ありがとうございます...」

 

 

「き、気にしないで気にしないで......」

 

 

耳キーンなってるけど。

結構耳キーンなってるけど。

俺がその場に蹲って自分の耳を押さえていると、束さんは視線をギロリとある方向に向ける。

そっちの方に俺も視線を向けると、そこには呆けた表情を浮かべる件の問題児3人が居た。

束さんが1歩そっちの方向に踏み込むと

 

 

「束、待て」

 

 

と、織斑先生が束さんに声を掛けた。

束さんはピタッと止まると視線を織斑先生の方向に向ける。

その表情は、先程までのニコニコしたものではなく冷たいものだった。

 

 

「束、いったい何の用だ」

 

 

「お前に関係ない」

 

 

「なっ...!?何だその言い分は!」

 

 

「ちっ...束さんは、アイツに用があって来たんだよ」

 

 

織斑先生の言葉に束さんは面倒くさそうな表情を浮かべ、舌打ちをしてからそう言うと視線を元の方向に...もっと正確に言うのなら、篠ノ之箒に向ける。

視線を向けられた篠ノ之箒はビクっと身体を震わせる。

そんな篠ノ之箒に向かって束さんは歩いて行く。

生徒達はザッと篠ノ之箒から離れていく。

 

 

「ね、姉さん...」

 

 

「久しぶり。もう2度と顔を合わせたくなんて無かったんだけど、しょうがないから来てあげたよ」

 

 

束さんは先程までよりも更に冷たい表情でそう言う。

 

 

「今日はプレゼントがあるんだ。今日は、誕生日だからね」

 

 

「っ!!」

 

 

え、今日篠ノ之箒の誕生日なの?

知らなかった。

 

 

「もしかして、あいえ「ほら、これだよ!!」」

 

 

篠ノ之箒の言葉を遮って、束さんは懐から取り出した1枚の紙を叩き付ける。

その紙を見た篠ノ之箒の表情が青ざめていく。

 

 

「ね、姉さん、これって...」

 

 

「見たらわかるだろ、絶縁状だよ!!」

 

 

絶縁状。

その言葉を聞いた周囲の人達はザワザワとし始める。

そりゃ、急にそんなのを聞いたら驚くに決まってる。

 

 

「お前言ってたよなぁ!?『私は姉さんとは関係ない』ってなぁ!!だから、束さんはわざわざそれを叶えてやるんだよ!!」

 

 

束さんは篠ノ之箒に向かってそう叫ぶ。

まるで今まで耐えて来たものを吐き出すかのように。

 

 

「ね、姉さ「黙れよ!!」ひぃ...!!」

 

 

「ああ、そうだ。良い事教えてやるよ」

 

 

束さんはそう言うと視線を生徒や教員たちに向ける。

そうしてニヤリと笑みを浮かべてから言葉を発する。

 

 

「たった今、この瞬間!束さんのメッセージが全世界に向けて発表されてる!」

 

 

「め、メッセージ...?」

 

 

「ああ...束さんは篠ノ之箒を始めとした篠ノ之家と絶縁する。こいつ等に何をしても、束さんは何もしないってね。ねぇみっちゃん!」

 

 

「はい?」

 

 

なんで急に俺に...

 

 

「スマホでさ、見てみてよ!ネットニュース速報!」

 

 

束さんに言われたのでそのままスマホを取り出し、ネットニュースを確認する。

これは...

 

 

「...『篠ノ之博士、全世界に家族との絶縁の声明を出す!!いったいその意味とは!?』......30秒前の記事ですね」

 

 

「でしょでしょ?他の人達もさぁ、見て見なよ!」

 

 

その言葉と同時に、教員のみなさんがタブレットを操作する。

するとすぐにその表情を驚きのものに変える。

生徒達はISスーツに着替えてる関係上スマホを置いて来てるから自分たちでは確認できない。

それを教員の人達も理解しているので生徒達の所に歩いて来て何となく全員に画面を確認させている。

俺もスマホを隣のラウラと簪に見せる。

すると、やはり全員が驚いた表情を浮かべる。

そして一通りみんながネットニュースを確認したので、再び束さんと篠ノ之箒に視線が集まる。

 

 

「......そういう訳だから、もう束さんの事を『姉さん』だなんて呼ばないでね。赤の他人なんだから」

 

 

「......」

 

 

束さんの言葉を篠ノ之箒は黙って聞いている。

その表情は、目の前でお気に入りのおもちゃが壊された子供の様だった。

......ん?

なんで織斑春十まで同じような表情を?

いや、急な事で驚くのは分かるが...

なんで同じく絶望したような表情なんだろうか?

........まぁ良いや。

取り敢えず後で。

なんか俺って取り敢えず後にしたことを確認した事って無いかもしれない。

 

 

「これからは、束さんの名前で守られないんだから、自分の罪はしっかり100%自分で償えよ」

 

 

「えっ...?」

 

 

束さんの言葉を聞いた篠ノ之箒は、呆気に取られたような表情を浮かべる。

え、あの反応...

まさか...?

 

 

「はぁ...お前、まだ自分の罪を理解していなかったんだな。もういいや」

 

 

やっぱり...

篠ノ之箒はまだ自分のやらかしたことを理解していなかったみたいだ。

束さんはもう興味を無くしたようで篠ノ之箒の事を見もせずこっちのほうに歩いてくる。

 

 

「みっちゃ~ん!!馬鹿との会話疲れた~~!!」

 

 

「あ、あはは...よしよし?」

 

 

あんまり人を馬鹿と言ってはいけないのだが...

まぁ、これは仕方ないか。

そんな事を考えながらなんとなく束さんの頭を撫でる。

ウサミミが邪魔だが、まぁこれくらいなら問題ない。

そもそも頭撫でるのに問題とは?

 

 

「ほぉ...これはなかなか......」

 

 

すると束さんは顎に手を当てて目を細めてそう呟いた。

なにがなかなかなんだ?

 

 

「「......」」

 

 

『......』

 

 

それにラウラに簪にみんなや。

ジッと見ないでくれ。

居心地が悪い。

 

 

「それじゃあみっちゃん!束さんはそろそろお暇「束!待て!!」んあ?」

 

 

束さんの言葉を遮るように、織斑先生が声を発する。

心底面倒くさそうな表情を浮かべながら束さんは振り返る。

 

 

「なに?もう束さん帰るんだけど?」

 

 

「束!!お前、今自分が何を言ったのか理解しているのか!?」

 

 

「束さんは天才だよ?自分の発言くらいしっかり意識してるさ。どっかの単細胞と違って」

 

 

誰だろう、単細胞って。

篠ノ之箒の事なのか、織斑先生の事なのか...

正直、俺に対する態度だけで考えるとどっちも単細胞としか言えないんだけど。

まぁ、どっちでも良いか。

 

 

「お前!!自分の妹に何を言ってるんだ!!」

 

 

「部外者のお前に関係ない」

 

 

「束!家族になんてことを言ってるんだ!」

 

 

「家族ぅ?あんなんがぁ?ないない」

 

 

織斑先生の言葉に束さんはケラケラと笑みを浮かべる。

暫く笑みを浮かべていた束さんだが、やがて織斑先生に冷たい視線を向ける。

 

 

「お前もさ、いい加減いっくんの死を受け入れたら?家族に執着してもいい事なんて無いよ」

 

 

「なっ...!?」

 

 

束さんの言葉に、織斑先生はそう固まる。

織斑先生の反応を見た束さんはまたケラケラと笑みを浮かべる。

 

 

「束ぇ!!お前、一夏に関する何かを知ってるのか!!」

 

 

「ん~~?いっくんはあの日に死んだんだよ?あの、お前がいっくんを放って大会に出たあの日に」

 

 

「ふざけるな!一夏は死んでない!まだ、一夏は!!」

 

 

「しつこいなぁもう。いい加減にしたら?いっくんに迷惑だよ」

 

 

なんだろう、この会話。

俺からするとすっごい複雑なんだけど。

 

 

「束ぇ!!知ってることを全部話せぇ!!」

 

 

「ちっ...」

 

 

織斑先生が束さんに突っ込んでいくと、束さんは織斑先生に回し蹴りをくらわせる。

 

 

バキィ!!

 

 

「ぐぅ...!?」

 

 

なんか鳴ってはいけない音が鳴ったと思ったら、織斑先生が吹っ飛んでいった。

 

 

バシャア!!

 

 

「あ、が、あああぁぁぁ...」

 

 

海の方から、織斑先生が海に落ちた音と唸り声が聞こえてくる。

そんな織斑先生を見て、束さんはニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

「それじゃあ、もう2度と束さんに顔見せないでね。不愉快だから」

 

 

束さんは織斑先生と篠ノ之箒の事を見てからそう言うと、俺の方に向かってくる。

 

 

「それじゃあみっちゃん!!束さんはここでお暇するね!また後で!!」

 

 

「後ってどれくらい後ですか!?」

 

 

「アハハハハ!!バイビー!!」

 

 

束さんはそのまま瞬きをしていないのにも関わらず一瞬でこの場から消え去った。

なんだろう、直ぐに戻ってくる気がする。

そうして、何とも言えない重苦しい空気があたりに漂う。

どうしよう、これ。

 

 

「......取り敢えず、どうするんだ?」

 

 

「どうするんですか?」

 

 

「どうするんだろうか?」

 

 

ラウラ、簪、俺の順番でそう呟く。

この重苦しい空気、どうするんだろう?

なにすりゃええか分からん。

 

 

「はっ!!お、織斑先生!大丈夫ですか!?」

 

 

「あ、そうだ!織斑先生!!」

 

 

そんな事を考えていると、山田先生を始めとした教員たちが海に落ちた織斑先生に駆け寄っていく。

 

 

 

「あ、あ、あ......」

 

 

「織斑先生!大丈夫ですか!?」

 

 

「っ!だ、大丈夫だ...」

 

 

「一応保険医に診てもらいましょう」

 

 

「は、はい...」

 

 

まぁ、さっきなってはいけない音が鳴った気がするからな。

織斑先生は教員の1人に連れられて保険医の先生の所に向かって行った。

そうして、再びこの場を静寂が支配する。

 

 

「え、ええと......取り敢えず、一般生徒のみなさんは榊原先生たちの指示に従って訓練を開始してください!」

 

 

『はい!』

 

 

如何やら山田先生がいったん仕切ってくれるらしい。

山田先生の指示を聞いた一般生徒達はしっかりと返事をする。

それを聞いた榊原先生たち一般生徒を担当する教員の人達は一般生徒達の所に向かって歩いて行く。

 

 

「門藤君、ボーデヴィッヒさん、更識さん、織斑君は私の所に来て下さい!!」

 

 

「「「はい!!」」」

 

 

「は、はい...」

 

 

山田先生に言われたので俺達は山田先生の所に小走りで移動する。

俺達に数歩遅れる形で織斑春十もやって来る。

 

 

「それでは、みなさんは専用機持ちという事で各個人での訓練になります。現状での予定を教えてください」

 

 

「はい。私は本国から送られてきた武装の試験をします」

 

 

「俺はそれのサポートをします。ドイツ国籍なので問題はありません」

 

 

「私の専用機はついこの間完成したばかりなのでそこまで激しい事はせず、数値計測範囲の訓練をするつもりです」

 

 

ラウラ、俺、簪の順で山田先生にこれからの訓練の説明をする。

そして、俺達4人の視線が織斑春十に集まる。

すると視線をあちこちに泳がせる。

あ、これはもしかして...

 

 

「あ、あの、えっと...特に決まって無いです......」

 

 

やっぱり...

何んとなくさっきの反応で察したが、織斑春十は特に訓練内容を思い付かなかったらしい。

まぁ確かに急に織斑先生に言われたからまだ決まって無くて当然か。

当然......か?

 

 

「そうですか...なら、織斑君は加速の訓練をしましょう。織斑君の白式は近接戦しか出来ないので早く動けて損は無いですし、今日は壁も無いので思いっ切り出来ますよ」

 

 

「わ、分かりました。そうします」

 

 

おお、流石は山田先生。

この一瞬で思い付くだなんて。

昨日酔った勢いで『生徒に話を聞いて貰えない』と愚痴っていた人とは思えない。

 

 

「それじゃあ、早速門藤君とボーデヴィッヒさんは武装の準備を...」

 

 

山田先生は、此処まで言って言葉を途切れさせた。

いや、途切れざるを得なかった。

 

 

ピロン

 

 

と、山田先生が手に持つタブレットが通知音を鳴らした。

山田先生はちらりとタブレットの画面を確認する。

すると、ドンドン表情が青ざめていく。

 

 

「す、すみません!た、大変です!!」

 

 

山田先生は焦ったようにそう言うと他の教員の人達の所に行って話し始める。

 

 

「......何かあったみたいだな」

 

 

「ああ、確実に何かが....トラブルが、発生したと考えて良いだろう」

 

 

俺とラウラがそう会話していると、

 

 

「トラブルが発生しました!!訓練は中止です!!一般生徒は旅館の中で待機してください!!専用機持ちは私達について来て下さい!!」

 

 

山田先生がそう叫んだ。

急な事で一般生徒達はザワザワとしだすが

 

 

「旅館内に入って!!」

 

 

「自室で待機よ!!」

 

 

教員の方たちによって誘導されていく。

 

 

「...ラウラ、簪、行くぞ」

 

 

「ああ!」

 

 

「はい!」

 

 

そうして、俺達は山田先生の所に走っていく。

いったい何があったんだ...!!

 

 

 

 




さぁ、遂に事件発生。
操、如何する!?

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

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事件発生

前回の続き。
さぁ、どうなるかな?

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

臨海学校の2日目。

装備試験前に束が乱入し、箒に絶縁を言い渡したり千冬に回し蹴りをした直後。

緊急事態が発生したと教員たちが通告。

一般生徒達は旅館の各々の部屋で待機をし、操、ラウラ、簪、1歩遅れてる春十の専用機持ち達4人は真耶に付いて行き旅館の中の『作戦会議室』という紙が貼られてある部屋に入っていった。

作戦会議室の中にはもう既に一般生徒の誘導を終えた教員たちが揃っており、部屋の中央には2枚のモニターと、それに繋がっている通信機器が置いてあった。

 

 

「それでは、みなさんはそこに座って下さい!」

 

 

「「「はい!」」」

 

 

「は、はい」

 

 

真耶の指示に従い、操たちは正座で着席する。

先程束に蹴られた千冬と、その千冬の治療をしている保険医を除いた全ての教員、そして呼ばれた全専用機持ちが揃った。

その事を確認した真耶が話し始める。

 

 

「先ずは、今現状起きている事、そして私達がどんな対応をするのかの説明をします。準備は良いですか?」

 

 

『はい』

 

 

全員がしっかりと頷いたのを確認した真耶は1つ1つ説明を開始する。

 

 

「今から十数分前、ハワイ沖で、アメリカとイスラエルが共同開発している軍用IS、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が暴走をしました」

 

 

「「「っ…!!」」」

 

 

真耶の言葉に、初めて聞く操、ラウラ、簪は表情を驚愕のものにする。

しかし、それぞれ世界の王者、軍人、代表候補生である。

直ぐに切り替えられる。

事実、もう既に表情を真剣なものに切り替えている。

そして教員たちはもう先程聞いているので表情を変える事は無く、春十は転生者故既に臨海学校の事件を知っているので特に表情を変える事は無かった。

 

 

「そして、その対処を偶々近くにいた私達IS学園がする事になりました」

 

 

「「「はぁ!?」」」

 

 

『ええっ!』

 

 

だが、流石に操たちも教員たちも今の真耶の言葉にはそう反応せざるを得なかった。

言葉を発した真耶自身も納得がいっていないというか、驚きの表情を浮かべている。

 

 

「どういう事ですか!?」

 

 

「それに関しては、こちらのお2人から説明が……」

 

 

「い、今通信を開始してます。す、少し待って下さい」

 

 

操がそう真耶に質問をすると、真耶はモニターを見ながらそう声を発し、まだ驚きから戻り切っていない菜月が通信端末を操作しながらそう反応する。

そうして約1分後。

2枚のモニターにそれぞれ別の人物が映る。

1人は、何時もの柔和そうな表情とは程遠い表情を浮かべている十蔵。

もう1人は、同じく真剣な表情を浮かべる美しい金髪を持つ美人女性。

 

 

『織斑君とは初対面なので一応自己紹介をしておきます。IS学園学園長、轡木十蔵です』

 

 

画面の中で十蔵は椅子に座ったまま、ぺこりと軽くお辞儀をする。

それと同時にほぼ反射的にこの場にいる全員がお辞儀をし返す。

全員が顔を上げたのを確認してから、金髪の女性が話し始める。

 

 

『国際IS委員会、委員総長を勤めていますイグニス・ナーシャと申します』

 

 

国際IS委員会の委員総長、つまりはトップ。

そんな人まで出て来た事に操たちに緊張がはしる。

 

 

『時間が無いので簡潔に説明します。暴走したISの対処をあなた達に…もっと正直に言うのなら、あなた達だけに対処してもらいたいんです』

 

 

「私達だけ、ですか?なんでまた…」

 

 

『先ず第一に、直ぐに出れる部隊があなた達以外にいない事が大きいです。他国からの部隊は間に合いませんし、日本の自衛隊部隊は現在演習で沖縄に居ます。その為、現場に1番近く、尚且つISが直ぐに動かせるあなた達に白羽の矢が立ったという訳です』

 

 

十蔵のその言葉に、この場にいる春十を除く全員が難しそうな表情を浮かべる。

十蔵の言っている事は理解できる。

だからといって、学生まで戦場に出していいのか。

それに、まるで自分たちを狙い撃ちしたかのような状況とタイミング。

なにか思うところはそれぞれあるだろう。

 

 

『……納得出来ない部分や、不安な部分があるかもしれません。ですが、あなた達にしか頼めない事なのです』

 

 

『参加したくない、出来ないのならば、今ここで降りて下さって大丈夫です。それを踏まえてお願いします。私達に力を貸してください』

 

 

十蔵とイグニスはそう言うと画面の中で頭を下げる。

降りてもいい。

そう言われても、誰もこの作戦会議室から出なかった。

春十を除く全員の表情は、とっくのとうに変わっていた。

その、覚悟の決まった表情に。

それを確認した十蔵とイグニスは、口元に僅かながらの笑みを浮かべる。

 

 

『それでは、現場の対応はみなさんにお任せします。全ての責任はIS学園、並びに国際IS委員会が負うのでみなさんは目標ISを止める事だけを考えてください』

 

 

『目標のスペックデータを送信します。作戦の参考にしてください。ただ、関係のない第三者に情報が漏れた場合、最低でも2年間の監視はつくので決してそんな事の無いように、お願いします』

 

 

ここで、十蔵とイグニスとの通信は終了した。

時間が無いというのは、目標の事もそうだが、2人もまだ仕事があるという事だったのだろう。

 

 

「目標のスペックデータ、受信しました。モニターに表示します」

 

 

「分かりました。もう1度注意しますが、第三者に情報を漏らさないで下さい」

 

 

『はい』

 

 

真耶の言葉に全員がしっかりと頷く。

モニターにスペックデータが表示され、全員で作戦会議を始める。

 

 

「射撃特化型か…」

 

 

「しかも、広域殲滅を目的にしているから相当厄介そう……」

 

 

「それに、この多方向推進装置も厄介だな...偵察は出来ないのですか?」

 

 

「無理ですね。かなり高速で移動しています。接触のチャンスも1回です」

 

 

「ですけど、無人機ならば最悪ISのコアだけ取り出せれば…」

 

 

操、ラウラ、簪、教員で作戦会議をする。

そんな様子を何処か遠目で見ながら、春十は1人で考える。

 

 

(クソ、なんだよ!なんなんだよぉ!束さんと箒が絶縁!?おかしいだろ!!この福音事件は箒を活躍させたかった束さんが犯人なんじゃないのかよ!?どうなってるんだよ!?)

 

 

未だにそんな事を考える春十。

そんな状況では無いのに考え続けるのは、原作知識がある故なのか、ただの馬鹿だからか。

 

 

(だが、まだだ!!この福音事件では俺の零落白夜が決定打になるし、何より白式が二次移行する見せ場!!そうだ、そうなんだぁ!!)

 

 

春十が1人妄想の世界に浸っているのを放っておいて操たちは作戦の話し合いを進める。

 

 

「偵察は出来なくても、暴走してからの飛行中の映像は無いんですか?」

 

 

「それなら、ハワイの基地から飛び立った直後の映像が…」

 

 

ラウラのその言葉に、菜月が通信端末を操作する。

そして、モニターにはまさに基地から飛び出す瞬間の目標IS…銀の福音が映っていた。

 

 

「これは…かなりのスピード…」

 

 

「かなり厄介だな…」

 

 

全員がそのスピードに驚いている中、操だけは違和感を感じていた。

 

 

(あれ?今何か違和感が…)

 

 

「すみません。巻き戻して貰って良いですか?」

 

 

「あ、はい。分かりました」

 

 

操に言われ、菜月は映像を巻き戻す。

そして、その映像をもう1度見た操はその表情を驚愕のものに変える。

 

 

「っ!無人機じゃない!人がいる!!」

 

 

『なっ!?』

 

 

操の言葉に、未だ妄想に浸っている春十以外の全員が驚いた表情を浮かべる。

送られてきた情報では銀の福音は無人機。

なのに有人機だと言われたのなら驚くに決まっている。

 

 

「今のところ静止してフェイス部分アップしてください!金髪が少し見えてます!」

 

 

「わ、分かりました!」

 

 

操に言われ、菜月は慌てて映像を操作する。

そして、モニターには銀の福音のアップされたフェイス部分が映る。

すると静止してもなお分かりづらいが、確かし少量の金髪が見えていた。

狼男のジューマンパワーを得ている操だからこそ分かったのだ。

 

 

「っ!た、確かに金髪が…」

 

 

「も、門藤君良く分かりましたね…」

 

 

「それは今は後です!暴走したISに人が入ってるって事は、その人が危険です!」

 

 

操のその言葉で、全員が必死に思考を働かせる。

 

 

「銀の福音の移動速度的にも、接触チャンスは1回」

 

 

「そのたった1回のチャンスで、銀の福音を機能停止させる…つまりは、一撃必殺に近いような攻撃をする必要がある…」

 

 

「そんな攻撃、どうやって……」

 

 

「それなら!!」

 

 

真耶の言葉のすぐ後に、今の今まで妄想に浸っていた春十が急に声を発したことで全員の視線が春十に集まる。

 

 

「俺の零落白夜ならいける!!」

 

 

春十がそう言った瞬間に、春十以外の全員が納得すると同時に、とある事を考えた。

 

 

(…大丈夫なのかな?)

 

 

春十は4月の最初の方にあったクラス代表決定戦ではセシリアに勝利しているものの、その後の対ジュウオウザワールド戦では一撃も攻撃を当てることなく敗退したのだ。

少しばかり不安を覚えるのは当然である。

しかし、それくらいしか案が出ないのも事実。

取り敢えず春十を主軸にしようと真耶が言おうとした直前

 

 

「え~~?でもそいつIS乗るの下手くそじゃん」

 

 

といった声が、作戦会議室に響いた。

その声は、数十分前に嵐のようにやって来て去って行った兎と同じ声。

 

 

「束さん?」

 

 

「やぁ!さっきぶりだね!!」

 

 

操が確認するようにそう呟くと、天井から束が落ちて来た。

また急な登場に操以外の全員が驚いた表情を浮かべるが、起こっている事態が起こっている事態。

全員が直ぐに表情を切り替える。

 

 

「一撃必殺ってだけなら絶対みっちゃんが良いと思うけどなぁ~~」

 

 

「門藤君が…ですか?」

 

 

「そうだよぉ~?みっちゃんから話を聞いた限りだとみんな見てるんだよね?ジュウオウザワールドの単一能力、野性大解放を」

 

 

野生大解放。

それを聞いた教員たちは思い出した。

シングルトーナメントでのラウラの暴走事件。

白い化け物に変化してしまったISを倒したのは野性大解放状態のジュウオウザワールドだ。

ワールドザクラッシュの威力ならば、銀の福音を止める事は出来るだろう。

 

 

「だが待って下さい!コイツのIS飛べないじゃないですか!!」

 

 

それに待ったを掛けたのは春十。

その表情はいたって真剣で、傍から見るとこの作戦を絶対に成功させようという覚悟を持っているように見える。

だが、その実は

 

 

(ふざけんな!また俺の活躍の機会が取られちまうじゃないか!!)

 

 

自分が活躍したいだけである。

 

 

「それは…」

 

 

束が自信満々でまた何か言おうとしたが、その言葉は発せられることは無かった。

操が鋭い眼光で束を止めたからだ。

 

 

「……確かにジュウオウザワールドには飛行能力がない。他のISに運送してもらっても労力が大きすぎる。この作戦、俺は待機だ」

 

 

そして、束が固まっている間に操がそう言葉を零す。

その瞬間に春十が勝ち誇ったような笑みを浮かべ、ラウラ達は仕方が無いといった表情を浮かべる。

そうして、春十を主軸とした作戦が立てられていく。

しかし、作戦の要である春十本人が妄想に入り浸っていて碌に話を聞いていない。

自ら待機になった操は少し外れたところで会話を聞いていた。

そんな操に束が小声で声を掛ける。

 

 

「…みっちゃん、良かったの?」

 

 

「ああ。俺の言った事は事実だ。俺の出る幕は無い」

 

 

「でもみっちゃん、()()使えば……」

 

 

()()は出来るだけ使いたくない。使うとしたら、よっぽどの事があったらだ。それに、優先するのは人を助ける事だ。織斑春十が助けられるなら、それが良い」

 

 

「……分かった。そのもしもの時の為に、みっちゃんが出れるようにしておくね」

 

 

「出来るんですか?」

 

 

「勿論。束さんだよ?」

 

 

「分かりました。お願いします」

 

 

「うん。バイビー」

 

 

束は操との会話が終わった瞬間に音もなく消えていった。

操は驚きながらも意識をラウラ達の会話の方に向ける。

 

 

「良し、では早速行動しましょう!」

 

 

『はい!』

 

 

その瞬間に、真耶の声が聞こえたかと思うと全員が元気よく返事をする。

そうして全員が立ち上がり行動を開始する。

 

 

「あれ?篠ノ之博士は……?」

 

 

「帰りました」

 

 

操は真耶とそう会話すると、最低限自分に出来る事をし始めるのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

大体10分後。

旅館前の砂浜には既に各々の専用機を身に纏ったラウラ、簪、春十がスタンバイしており、その周囲を教員たちがせわしなく動いていた。

今回の作戦はいたってシンプル。

春十が零落白夜で銀の福音に攻撃し、機能を停止させる。

これだけである。

そして、そんな春十をサポート…いや、掩護するためにラウラ達が出撃する。

ラウラはレールカノンやAICで銀の福音の動きを制限させる。

簪は専用機が完全したばかりなので前線に長い時間いられない。

その為春十がエネルギーを全て零落白夜に割けるように春十の運搬をする事になった。

教員たちは生徒の訓練用に持ってきた訓練機を全て使用し作戦海域の封鎖、並びにラウラと共に銀の福音の動きの制限させることになった。

 

 

もう既に海上封鎖部隊は出動しており、もうすぐで完了するとの事。

そして今は交戦部隊が使用する訓練機の最終チェックをしている段階だ。

 

 

(ハハハハハ!!来た、来た!!遂に俺の活躍の機会が!!門藤操に取られていた、俺の活躍が!!)

 

 

そんな緊張感あふれるこの場に置いて、1人緊張感が欠片もない春十は心の中で爆笑していた。

表情に出ないようにしているが、なんとなくニヤニヤしている雰囲気はラウラも簪も、そして少し離れた位置でISのチェックを手伝っている操も感じ取っていた。

 

 

(((なんだアイツ?)))

 

 

操達3人は春十の事を見ながらそんな事を同時に考えるも、今はそんな場合では無い為直ぐに意識を切り替えた。

そして周囲から気味悪がられているとは思いもしない春十は再び妄想を加速させていく。

 

 

(俺がここで活躍して、俺が主人公だと証明するんだ!!)

 

 

そもそも、原作の状況と今回の状況は異なる。

原作では一夏と箒だけが…白式と紅椿だけが出撃している。

その後一夏が密漁船をかばい撃墜されたり白式が二次移行したり紅椿の単一能力が覚醒したりと様々な出来事(バリバリの主人公補正)のお陰で銀の福音を撃墜した。

 

しかし、今この状況は如何だろうか。

箒も紅椿もない。

それにラウラ、簪といった2人も最初っから出撃している。

いや、原作ではそもそも簪は臨海学校時点では登場していない。

作戦の成功確率は原作のフワフワ作戦に比べて多少は上がっている。

だが、原作知識を過信するあまり妄想に入り浸って碌に聞いていなかった春十が、原作とは違う展開の中上手く活躍できる訳が無い。

 

 

(それに、白式もここで二次移行するんだ!俺がもっと主人公に相応しくなるんだ!!)

 

 

春十はこの臨海学校で白式が二次移行すると思っている。

だが待って欲しい。

春十は原作一夏とほぼ同じ行動をとっているから、二次移行は間違いないと思っている。

しかし、クラス対抗戦での無人機戦をしていないし、トーナメントでの偽暮桜との戦闘もしていない。

つまり今の春十と今この段階での原作一夏でさえ、積んできた経験量が段違いなのだ。

そんな経験不足な春十で、果たして白式は二次移行してくれるのだろうか?

 

 

「ISチェック終わりました!出撃準備完了です!!」

 

 

未だ春十が妄想に浸っている中、真耶のそんな声があたりに響く。

そうして、旅館に残って情報確認をする真耶を始めとした数人を除いた出動部隊が乗り込んでいく。

それを傍目で見ながら、操はラウラと簪の近くに駆け寄る。

 

 

「ラウラ!簪!」

 

 

「操、どうかしたか?」

 

 

操の声掛けにラウラがそう反応する。

近くまで来た操は軽く息を整えてから声を発する。

 

 

「いや、俺は待機だからさ。少し伝えたい事があるから」

 

 

「伝えたい事…ですか?」

 

 

「ああ……なんか、嫌な予感がするんだ。想定外の事が起こる気がさ」

 

 

操の言葉に、ラウラと簪が難しい表情を浮かべる。

この言葉が他の人から言われたら、想定外の事が起こる可能性くらい分かっている、と反論していただろう。

しかし、わざわざ操が言いに来たのだ。

2人の心にはその言葉が引っ掛かっていた。

特に、ラウラはジュウオウザワールドの本質やデスガリアン(この世界の異分子)について知っているので尚更だ。

 

 

「だから、気を付けてくれ」

 

 

「ああ。警戒は怠らないようにしよう」

 

 

「分かりました。気を付けます」

 

 

操の言葉にラウラと簪が頷く。

 

 

「それでは、出撃します!!」

 

 

「それじゃあ、頑張って」

 

 

出撃部隊の教員の言葉を聞いた操は旅館の中に戻っていく。

それと同時に、春十が簪に近付く。

 

 

「さ、更識さん、よろし」

 

 

「早く乗って」

 

 

「あ、うん…」

 

 

簪に急かされ、春十は慌てて打鉄弐式の背中に乗る。

 

 

「更識さん、ボーデヴィッヒさんから順番に出撃してください!!」

 

 

「「了解!!」」

 

 

そうして、銀の福音鎮圧作戦の幕が上がる…!!

 

 

 

 




操「大和、今度の映画(Vシネ)に出てる聞いたんだけど、本当?」

大和「ああ。機界戦隊ゼンカイジャーVSキラメイジャーVSセンパイジャーには、俺、ジュウオウイーグルもセンパイジャーとして出演してるんだ!まぁ、変身後だけだけど」

操「なるほど。俺も1回キュウレンジャーとルパンレンジャーとパトレンジャーの映画に乱入したけど、やっぱスーパー戦隊はみんないい人達だからなぁ」

大和「みっちゃん、アレ何で行ったの?」

操「さぁ…?俺にも分からない」

機界戦隊ゼンカイジャーVSキラメイジャーVSセンパイジャー
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銀の福音鎮圧作戦

前回の続き。
春十は活躍出来るのだろうか…?

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

臨海学校2日目。

装備試験をしようとしたIS学園に暴走したIS、銀の福音の撃破依頼が来た。

それを承諾したIS学園は、零落白夜を一応使える春十を中心とした作戦を立案、決行した。

 

 

旅館から少し離れた海上。

銀の福音に向かって飛んでいくIS学園の部隊がいた。

 

 

「目標は捉えた!?」

 

 

「まだだ!そっちは!?」

 

 

「こっちもまだ!」

 

 

ラウラと、春十を運搬する簪。

 

 

「こちらもまだよ!」

 

 

訓練機を身に纏い、ラウラ達の近くを飛行する教員の交戦部隊。

 

 

『みなさん!こちら海上封鎖部隊です!100%封鎖完了しました!』

 

 

「了解です!」

 

 

海上封鎖部隊からの連絡を受け、春十を除く全員が一斉に更なる注意を払い銀の福音を捜索する。

 

 

『こちら作戦本部、山田です。状況を教えてください』

 

 

「こちら交戦部隊、ボーデヴィッヒです。現在全員で捜索していますが目標を捉えていません」

 

 

『こちら海上封鎖部隊、ロードです。海上封鎖、完了しました』

 

 

『了解です。現在目標はこちらでもレーダーで捜索していますがスピードが速すぎてレーダーでは捉えられない可能性の方が高いです。なんとかそちらで発見してください』

 

 

「了解!」

 

 

そこで通信は終了し、ラウラ達は再び銀の福音を捜索する。

そんな緊迫感溢れるこの場に置いて、唯一能天気な馬鹿が1人。

 

 

(まだかよ、俺の活躍の場面は!!)

 

 

言わずもがな、春十である。

簪に運んでもらっているので春十は今自分で動いていない。

その為ハイパーセンサーに全意識を割けるので今この場に置いて銀の福音の捜索が1番向いているのは春十なのである。

しかし、春十は未だ妄想に耽っている為ハイパーセンサーでの捜索もしていないのである。

 

 

(早く俺に活躍させろよ!俺が主人公だって証明するんだ!!)

 

 

もうこの際目的は如何でもいいので自分で捜索しろと言いたくなるが、生憎誰も春十の思考を読むことが出来ないので、全員何も言わない。

寧ろ黙ってジッとしているので、傍から見れば真剣に捜索しているように見える。

 

 

「っ!!2時の方向、3000m!!」

 

 

ラウラのその報告と同時に、全員がその方向を確認する。

するとそこには、確かに1機のISを確認した。

 

 

「本部!更識です!目標と思われるISを捕捉!これから交戦準備をします!」

 

 

『了解です!くれぐれも注意してください!』

 

 

「了解!」

 

 

簪の報告と同時に春十は簪の上から離れ、雪片弐型を展開する。

それに一瞬遅れラウラ達も各々の武装を展開し、構える。

そして、ぐんぐんとISが近付いて来てそれと同時にしっかりとその姿を視認できるようになる。

だが、その姿を視認した全員が驚愕の表情を浮かべる。

そのISが銀の福音な事に間違いはない。

先程確認した映像と同じシルエットである。

しかし、そのカラーリングはその映像で確認した美しい銀色では無くなっていた。

 

 

「なっ…!?」

 

 

「なんで白くなってるの!?」

 

 

そう、銀の福音のカラーリングは、真っ白に染まっていた。

まるでトーナメントの時に暴走したラウラのISのように。

 

 

「……カラーリングの変化くらい関係ない!交戦開始!!」

 

 

この場で唯一暴走の原因だと思われるデスガリアンの事を知っているラウラ。

その表情には少し不安が浮かんでいたものの、その考えを振り切り自分や周囲を鼓舞するように声を発する。

それと同時に作戦通りに銀の福音の動きを制限するためにラウラや教員たちが銀の福音に向かって弾幕を展開する。

 

 

バババババァン!!

 

 

ドガァン!ドガァン!

 

 

『La………♪』

 

 

それに気が付いた銀の福音。

まるで歌うかのような電子音が鳴り響いた後、ひらりひらりと踊るように弾幕を躱していく。

 

 

「……」

 

 

簪はそんなやり取りを見ながら作戦通り戦闘に巻き込まれないように少し離れた位置に移動する。

 

 

「本部、こちら更識です。目標ISとの戦闘を開始しました」

 

 

『了解しました。現段階でなにか報告事は他にありますか?』

 

 

「それが…目標ISのカラーリングは先程確認した映像とは変わっているんです」

 

 

『えっ…!?』

 

 

簪の報告を聞いた真耶は驚きの声を発する。

 

 

『……分かりました。ですが、カラーリング以外は特に変化は無いのですね?』

 

 

「はい、そうです」

 

 

『なら、作戦は続行します。くれぐれも注意してください』

 

 

「了解!」

 

 

簪と真耶のそのやり取りの間でも、ラウラ達は銀の福音と交戦していた。

 

 

「ぐ、このぉ!!」

 

 

「ハァ!」

 

 

『Laaaa!!』

 

 

ラウラ達の放つ攻撃を銀の福音は簡単に避け、逆にラウラ達に向かって背面にあるウイングスラスター、銀の鐘(シルバー・ベル)から高密度に圧縮されたエネルギー弾を放つ。

 

 

「くっ…!?」

 

 

「今だぁ!」

 

 

だが、銀の鐘は砲台であると同時にスラスターである。

全方向に砲撃が出来る武装ではあるが、ある一定方向に砲撃をするとその反対側にほんの一瞬隙が生まれる。

その隙は、本当に一瞬。

あって無いようなものかもしれない。

だが、この1対多の状況では話は別だ。

その僅かな隙で、銀の福音の背後にいたラウラがレールカノンを発砲する。

 

 

ドキュウン!

 

 

『Laaaaaaa!?』

 

 

レールカノンがヒットし銀の福音から苦悶のような電子音が鳴り響く。

その瞬間にラウラが右手を銀の福音に向けAICで拘束しようとする。

だが、その直前に

 

 

チャリィィィン

 

 

『Laaaaaaaaaaa!?!?』

 

 

まるでメダルが落ちるかのような音があたりに鳴り響いた後、銀の福音がより大きな電子音を鳴り響かせると同時に、銀の鐘の根本あたりから()()()()()()()()()()()が溢れて来た。

 

 

『なぁっ……!?』

 

 

それを見た全員が驚愕の声を発する。

だって、そのメダルは以前ラウラの暴走時に現れたものと同じものなのだから。

 

 

〈LAAAAAAAAAAAA!!!!』

 

 

銀の福音の咆哮と同時に、溢れ出たメダルは4枚の新しい翼へとなっていく。

その3対の翼を携えたその姿は、遠目に見れば天使のように見えるであろう。

しかし、今の銀の福音は暴走している破滅の天使。

見惚れていたら、危険である。

 

 

〈LAAAAAAAAAAAA!!!!』

 

 

その咆哮と同時に、6枚になった銀の鐘から弾丸が放たれる。

 

 

「くぅ!?」

 

 

「このぉ!」

 

 

翼が3倍になった事により、弾丸数も3倍。

先程は隙を付き反撃する事は出来たが、3倍になってしまっては避けるのが精いっぱいで隙を見つける事すら困難だ。

そしてその弾丸は少し離れた位置でスタンバイしている簪の元にもかなりの量が迫っていた。

 

 

「ほ、本部!こちら更識です!緊急事態!目標ISの武装の砲台が急に増加しました!!」

 

 

『え!?ど、如何いう事ですか!?』

 

 

「そ、そのままです!わ、私達も何が何だ…きゃあ!」

 

 

簪は必死に真耶に報告するも、その報告に意識を割き過ぎていたため足元に掠ってしまう。

 

 

『更識さん!?大丈夫ですか!?』

 

 

「は、はい…い、一応は…っ!」

 

 

〈LAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』

 

 

銀の福音の咆哮、射撃は止まらない。

 

 

「くぅ…!?」

 

 

「きゃあ!?」

 

 

「うわぁ!?」

 

 

教員達も少しずつ攻撃に掠ってしまっている。

 

 

『…簪!聞こえるか!?』

 

 

「操さん!?」

 

 

そんな混戦状態の中、本部の通信担当が真耶から操に変わり、操が簪に声を掛ける。

 

 

『簪!完成してるんだろう!?マルチロックオンミサイル!!使わないとヤバいぞ!!』

 

 

「え!?で、出来てますけど、でも……!!」

 

 

操の言葉に、簪はそう反応する事しか出来なかった。

マルチロックオンミサイル自体は完成している。

だけれども、簪が使っていないのには理由がある。

先ず第一に、実戦で使った事が無いという事。

打鉄弐式は完成したばかり。

このような実戦も初めてだし、模擬戦すらしたことが無い。

そんなぶっつけ本番で簡単に使えるほど、状況は良くない。

 

そして、もう1つ理由はある。

ここ最近の簪は操達と関わる事で嘗ての楯無と比べられていた時のような思考をする事は無くなった。

でも、心の何処かでやはり引っ掛かってしまうのだ。

『自分の作った武装で、周りに迷惑を掛ける事になるのでは』と。

そんな思考、とうに振り切ったはずなのに。

心に負った暗い感情は、振り切った後でも傷跡として残るのだ。

 

 

『大丈夫だ!』

 

 

操はそう訴えかける。

通信機越しだから相手の表情だなんて確認できない。

だけれども簪には、優しそうな、でも真剣な表情を浮かべている操の姿が簡単に想像できる。

 

 

『確かに根拠はないかもしれない!でも!簪なら大丈夫だ!!簪が今までしてきた努力は絶対に報われる!!楯無さんも言ってただろ!!「簪ちゃんは凄いんだから」って!!だから大丈夫だ!!簪なら、出来る!!だから!!』

 

 

「……」

 

 

操の訴えを聞いた簪は、1度大きく息を吸い、吐いた。

 

 

「………やります!!」

 

 

『頑張れ!!』

 

 

簪の言葉を聞いた操は、最後にそう短く激励すると通信を終了した。

 

 

「ラウラ!聞こえる!?」

 

 

「簪!どうした!?」

 

 

「…マルチロックオンミサイルを、山嵐を使う。それで砲撃の何割かを相殺するから、後は任せてもいい!?」

 

 

「……ああ!任せろ!!」

 

 

ラウラの頼もしい返事を聞いた簪は、少し離れた位置から銀の福音に近付いて行く。

そうして、簪は使用するタイミングを見計らう為に銀の鐘の砲撃を避ける。

 

 

〈LAAAAAAAAAAAA』

 

 

銀の福音は咆哮をあげ、辺りに弾幕を展開していく。

 

 

そんな混戦状態の中、作戦の要である春十が何をしているのかというと

 

 

「うわぁ!?」

 

 

特に反撃の機会を伺うでもなく、ただただ逃げ惑っていた。

 

 

(はぁ、はぁ、ヤバい!クソ!なんで俺がこんな逃げまどうような事を!!原作だったらもっとすんなり福音に肉薄で来てただろ!!)

 

 

声には出さないものの、春十は心の中でそう悪態をつく。

自分は何もしていないのに随分と身勝手である。

そして、原作で一夏が銀の福音に接触出来たのは、箒の、紅椿の存在が大きい。

暴走した銀の福音のスペックを上回る第四世代。

いくら箒自身が未熟でもスペックで無理矢理何とか出来た。

しかし、今この場にはそんな第四世代型ISは存在せず、目標である銀の福音も何故か銀の鐘に当たる翼が6枚になっている。

上手く接近出来ないのは仕方が無い。

 

そもそも、現時点の春十は原作の臨海学校時点の一夏とも積んできた経験量が違う。

仮に周囲の状況が原作通りだったとして、原作の一夏と同じ行動が出来る訳が無いのだが。

 

 

そして、そんな自己中の事を放って…というよりもはや頭の片隅にも残ってない状態で、ラウラ達は今でもチャンスを伺っていた。

 

 

〈LAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 

銀の福音の攻撃はドンドンと激しくなっていっている。

しかし、こんな状況でも幸いなのは銀の福音が本土の方に無理矢理にも進行していない事だ。

もし銀の福音がラウラ達との交戦ではなく本土への進行を優先していたら、ラウラ達は自分の身体を犠牲に足止めをしなくてはいけなかっただろう。

だが、銀の福音は現在ラウラ達を攻撃する事を優先している。

攻撃は激しいが、避けるのに専念しても銀の福音が進行する事は無い。

そして、反撃のチャンスを伺う事も出来る。

 

 

「……」

 

 

簪は避けながら山嵐を使用するタイミングを見計らう。

 

 

(チャンスは多分1回…そしてエネルギー弾を相殺するだけじゃ駄目…ラウラ達が銀の福音に反撃できるタイミングで……)

 

 

簪の頬には緊張の汗が流れている。

今までの砲撃を避ける途中で何発か掠ってしまい、SEも削れてしまっている。

そんな状態でも、じっくりとタイミングを見計らう。

 

 

〈LAAAAAAAAAAAA!!!!』

 

 

銀の福音がそう咆哮をあげ、それと同時に銀の鐘から大量のエネルギー弾を発射する。

 

 

「っ……!!」

 

 

(銀の福音とラウラ達の位置関係…今……!!)

 

 

簪はその瞬間に空中にキーボードを出現させると、素早く打ち込みミサイル全弾を発射準備する。

 

 

「山嵐、全弾ロックオン………発射!!」

 

 

バシュシュシュシュシュシュ!!!!

 

 

簪がそう言うと同時に、48発もの大量のミサイルが一斉に発射されエネルギー弾に向かって行く。

その大量のミサイルに、分かっていたはずのラウラ達でさえ少しギョッとしてしまう。

 

 

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガァァアアアアン!!!!!!

 

 

そして、ミサイルとエネルギー弾がぶつかり合い物凄い爆撃音があたりに響き、大量の黒煙が発生する。

 

 

「うっ…!!」

 

 

48発ものミサイルでも、エネルギー弾全てを相殺できる訳では無い。

事実、黒煙の中から姿を現すエネルギー弾に簪も掠ってしまう。

 

 

〈LAAAAAAAAAAA!?!?』

 

 

銀の福音は予想外の事だったのか。そう驚いたような音があたりに響く。

 

 

「…今!!」

 

 

『任せろ!!』

 

 

簪の声にラウラ達が返事をすると、銀の福音に向かって一斉射撃が行われる。

 

 

ババババババァン!!

 

ドキュウン!ドキュウン!

 

 

〈LAAAAAAAAAA…………!?!?』

 

 

銀の福音は当然のようにそれに反応するも全てを避ける事は叶わず、全身にその攻撃を受ける。

 

 

「ハァア!!」

 

 

そして、動きが固まった銀の福音に向かってラウラが今度こそAICを発動する。

 

 

〈LA…LAA…LAA……!!』

 

 

銀の福音はAICの拘束から逃れようと身を捩るも、ラウラの集中力が持続している限りAICが解除される事は無い。

これで条件は整った。

 

 

「織斑君!今です!!」

 

 

教員の1人が春十にそう声を掛ける。

 

 

「……あ、ああ!」

 

 

未だ妄想に耽っていた春十は反応が遅れるも、漸く現実に戻ってきた…いや、現実にやって来た春十が雪片弐型を構え銀の福音に突っ込んでいく。

 

 

「うぉおおおお!!」

 

 

零落白夜を発動させ、一思いに銀の福音の事を切り裂く。

 

 

〈LAAAAAAAAAAAAA!?!?!?』

 

 

銀の福音のその咆哮と同時に今までの戦闘で疲労していたラウラの集中力が限界を迎え、AICが解除される。

拘束から解除された銀の福音は重力に従い海へと落下していく。

 

 

『やったぁ!!』

 

 

「良し…!こちらボーデヴィッヒ、目標ISの撃破を確認!」

 

 

その事に簪達は思わず声を出して喜び、ラウラが本部へと撃破の報告をする。

そんな中、介護されまくりとはいえ最後に攻撃を決めた春十はというと

 

 

(…はぁ!?おかしいだろ!!なんでこのまま普通に倒せたんだよ!?)

 

 

混乱していた。

原作では第一接触時には密漁船をかばい一夏は気絶してしまう。

そうしてなんやかんやあり白式が二次移行したのだ。

春十は自分もそうなると思っていたので、驚いているのだ。

自分では特に何もせず、周りしか頑張っていなかったのに随分と身勝手である。

 

 

そんな春十を放っておいて、ラウラ達は旅館に帰還しようとする。

その直前

 

 

『みんな!緊急事態だ!!』

 

 

と、操が焦りながら全員に通信する。

 

 

『未確認のIS反応あり!注意!!』

 

 

操のその言葉に、全員が一斉にハイパーセンサーを使用する。

 

 

「っ!下です!!」

 

 

簪のその声と同時に全員が視線を下に向ける。

するとそこには……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…こんなにあっけなくやられるとは……」

 

 

銀の福音の事を抱えながら、そう言葉を零す1機のISが存在した。

バイザーで顔が隠れているその操縦者は、金髪で長髪。

そしてそのISも同じく黄金であり、巨大な尾のようなパーツが特徴的である。

 

 

「なっ!?貴様、何者だ!?」

 

 

「…うるさいわね、少し黙って貰いましょう」

 

 

ラウラがそう詰問をすると、そのISに乗っている女がそう声を発すると同時に女の周囲に幾つもの巨大な火球が出現する。

 

 

「ふっ!」

 

 

その火球は女の声と同時にラウラ達に向かって飛ばす。

 

 

「くぅ!?」

 

 

「危な!?」

 

 

ISを纏っているのにも関わらず感じる熱に、ラウラ達は思わず顔をしかめ動きを固めてしまう。

そんなラウラ達から視線を銀の福音に移した女は、懐からあるものを取り出す。

それは、メダルだった。

全体のカラーは金だが、中央部分にオレンジ色のまるで染みのようなものがあるそれを、女は5枚取り出した。

 

 

「貴様、何を……!!」

 

 

「我々のボスから頂いたエネルギーです」

 

 

ラウラの言葉を無視して、女は5枚のメダルの内1枚にキスをする。

 

 

「無駄遣いせぬよう、励みなさい」

 

 

チャリィン

 

 

女はそう言いながら5枚のメダルを銀の福音の背後…銀の鐘の根本に何故か存在するメダル投入口に5枚一気に投入する。

 

 

〈LA!?LAAAAAAAAAA!!!!!!』

 

 

その瞬間に今の今まで動かなかった銀の福音がそう電子音を発生させる。

 

 

「なっ!?」

 

 

「なんで、急に!?」

 

 

その事に教員たちが驚愕の声を発する。

 

 

「フフフッ…」

 

 

その様子を見た女はそう笑みを浮かべると、火球を再び1つ発生させ、それを海へと打ち付ける。

 

 

バシャアン!!

 

 

そんな激しい音と同時に水蒸気が大量に発生する。

その水蒸気が晴れる頃には、女はその場から消えていた。

 

 

「ど、何処に行ったの!?」

 

 

「それよりも銀の福音だ!様子がおかしい!!」

 

 

簪が女が消えた事に対して声を発するが、ラウラの声と同時に視線を銀の福音に向ける。

それと同時に教員たちも視線を銀の福音に向ける。

 

 

〈LAAAAAA…GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』

 

 

銀の福音は今までとは全く異なる、まるで生物のような声を発する。

それと同時に、そこ装甲の隙間から紫の光を放つ。

そして、銀の福音の身体は()()()()()()()

 

 

「なっ!?」

 

 

「なんで!?」

 

 

「で、デカい…!!」

 

 

〈GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』

 

 

バシャァアアアアアン!!!!

 

 

海の中に足についてもなお、腰上が水上に出るほどまでに巨大化した銀の福音は、獣のような咆哮をあげるのだった…

 




春十の出番、殆どゼロ。
全く、ここまで介護してもらわないといけないなんて…

ラーの方がマシだよ?
おっと失礼、これは関係ない事でしたね。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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動物合体!

さぁ、アイツ等の出番です!

最近ニチアサを見る余裕が無くなって辛いです。
録画をしてはいるのですが録画だと後でいいやってなって結局ドンドン溜まっていきます。
リバイスはそろそろクライマックスに差し掛かるだろうし、ドンブラザーズも結構話進んでるはずだから…
今度余裕出来たら一気に見ます。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

銀の福音鎮圧作戦の途中。

簪が山嵐を使用するタイミングを見計らっているのと同時刻の作戦会議室。

 

 

「簪…!」

 

 

「更識さん…!」

 

 

戦闘開始からかなり経った今漸く捕捉できる範囲に入った監視用ドローンからの映像を見ながら、操と真耶がそう呟いていた。

作戦会議室には2人以外にも菜月などの数人の教員が残っているのだが、菜月達も操達と同じような表情を浮かべながらモニターの事を眺めていた。

 

 

何故かカラーリングが違う銀の福音。

何故か増えた銀の鐘の翼の枚数。

懸念点を上げればキリがない。

けど、操達は信じていた。

簪なら、そしてラウラ達なら、絶対に上手くやれると。

そしてラウラ達のサポートがあれば春十も流石に攻撃を当てれると。

 

春十への信頼レベルが簪やラウラ達に比べると低いのは仕方が無いだろう。

操は織斑一夏の記憶から。

教員たちは今までの戦績から。

どうしても簪達の方が信頼できる。

操は兎も角教員達からも同じ評価だというのは、それ程までに今までなにも活躍していないという事である。

 

 

そしてそのまま硬直した戦況を見守る事数分。

 

 

『山嵐、全弾ロックオン………発射!!』

 

 

簪が遂に山嵐を使用した。

銀の鐘のエネルギー弾とミサイルがぶつかり合い爆発音が鳴り、モニターを黒煙が支配し、スピーカーからはノイズが流れる。

 

 

「カメラに異常は!?」

 

 

「無いです!黒煙が晴れたら問題なく映ります!」

 

 

真耶と菜月がそう会話したのを確認たので、操はジッとモニターの事を見つめる。

そうして暫くして、黒煙が晴れノイズも鳴りやみ再びモニターで戦況が確認出来るようになる。

 

 

『うぉおおおお!!』

 

 

今まさに、零落白夜を発動させた春十が銀の福音に突っ込んでいく場面だった。

AICによって拘束されているのが一目でわかる感じで静止している銀の福音が、零落白夜特有のエネルギーの刃によって切り裂かれる。

 

 

〈LAAAAAAAAAAAAA!?!?!?』

 

 

『やったぁ!!』

 

 

銀の福音は海へと落ちていき、簪達が歓声を上げる。

それと同時に、操達も笑顔を浮かべる。

 

 

「良し!」

 

 

「やりましたぁ!!」

 

 

『こちらボーデヴィッヒ、目標ISの撃破を確認!』

 

 

そして、ラウラから撃破の連絡が入る。

操がそれに応えるためにマイクをONにしようとする。

その瞬間、

 

 

「っ!緊急事態です!」

 

 

と、菜月が急に声を発する。

全員の視線が菜月に集まる。

 

 

「未確認のIS反応がボーデヴィッヒさん達の近くに!」

 

 

菜月の言葉を聞いた瞬間、全員が驚きの表情を発した。

折角今銀の福音を撃破したばかりだというのに、未確認のIS反応が確認された。

そんなもの驚かない訳が無い。

操は慌ててマイクをONにする。

 

 

「みんな!緊急事態だ!!未確認のIS反応あり!注意!!」

 

 

操のその言葉でラウラ達がそのIS反応を捜索する。

簪の発見と同時にカメラも簪達の視線の先に向ける。

するとそこには、銀の福音を抱える黄金のIS

 

 

「あ、あんなIS今まで見た事ありません!」

 

 

「な、なんであんな場所に!?というか、何時!?」

 

 

そのISを見た作戦会議室内も軽くパニックに陥る。

そんな中で、操だけはモニターから視線を外さずISの事を監視していた。

 

 

(モニター越しでも分かる隙の無さ…どう考えてもナリアのような幹部級の手練れ…そんな実力者が、何故?)

 

 

その間にISは火球をラウラ達に飛ばしたりする。

火球を生み出せるという見たことが無い能力。

それを見た教員達もかじりつくようにモニターに視線を向ける。

そして、そのISの女は懐からとあるもの…5枚のメダルを取り出す。

それを見た操は目を見開く。

そのメダルは、元の世界で何度も目にしたメダル。

 

 

「コンテニューメダル…!!」

 

 

操は真耶達に聞こえないくらいの声量でそう声を発する。

そう、そのメダルとはデスガリアンのボス、ジニスの細胞を抽出する事で生み出されるコンテニューメダルだった。

 

 

『我々のボスから頂いたエネルギーです。無駄遣いせぬよう、励みなさい』

 

 

女は、操にとっては要所要所の言葉は違うものの聞きなれた、教員達にとっては全く聞き覚えの無い言葉を発する。

そして女は銀の福音の背面、銀の鐘に何故かあるメダル投入口に5枚のメダルを全て投入する。

 

 

〈LA!?LAAAAAAAAAA!!!!!!』

 

 

そうしてその瞬間に銀の福音がそう咆哮をあげる。

 

 

〈LAAAAAA…GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』

 

 

教員達が呆気に取られ、操が睨むような表情を浮かべている中銀の福音は紫の光と共にその身体を巨大化させてゆく。

 

 

〈GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』

 

 

そうして、銀の福音は海の中に足を付けても腰から上が出るくらいにまで巨大化し、海に着地した。

 

 

「な、な、なっ!?」

 

 

「なに…あれ!?」

 

 

巨大化を初めてみる教員たちは、その表情を恐怖で染め、何度も見た操は奥歯を噛み締める。

 

 

(やはり…もともとデスガリアンに何の関係も無かったバングレイがコンテニュー出来ていたから、ISでも出来るのか…!!)

 

 

そうこうしているうちに巨大化した銀の福音は銀の鐘から巨大なレーザーを6本同時にラウラ達に向かって放つ。

 

 

『ドガァアアアアン!!』

 

 

「うきゃあ!?」

 

 

スピーカー越しでも響く爆撃音に悲鳴が上がる。

操は再びマイクをONにして全員に語り掛ける。

 

 

「みんな!退避だ!今までの戦闘で消耗してるみんなじゃあんなデカいのどうしようもない!」

 

 

『りょ、了解!!』

 

 

スピーカーから全員の焦ったような返事を聞く。

そうして全員が旅館側に戻って来るのを確認した時、再び銀の福音がレーザーを放つ。

ドローンがそれに巻き込まれ、モニターの映像がここで途切れ、スピーカからの音も無くなる。

それを見て、操はモニターを睨む。

 

 

(如何する?()()を使えば銀の福音と戦える。けど、目立つし説明が…いや、なりふり構ってられない。取り敢えずみんなが戻ってきた事を確認してから出撃を…)

 

 

「みっちゃん!口と鼻塞いで!!」

 

 

操が行動に移ろうとした時、そんな声が作戦会議室に響く。

操は咄嗟の反射でそのまま口と鼻を塞ぐ。

 

 

カラン

 

プシューーーー

 

 

その瞬間に天井から1本の缶が落ちて来て、作戦会議室内を白い煙が満たす。

 

 

「え!?いった、い、な、にが……」

 

 

ドシャア

 

 

その煙を吸ってしまった教員たちはたちまち意識を手放し作戦会議室内で倒れる。

煙が晴れた時、操は天井を見て声を発する。

 

 

「何をしたんですか、束さん」

 

 

「ただ眠らせただけ!特に身体に悪影響は無いよ!」

 

 

操の声と同時に天井裏から束が出て来る。

取り敢えず教員達に悪影響が無いと知った操を安堵する。

 

 

「それで、何が目的で?」

 

 

「みっちゃん()()、使うんでしょ?」

 

 

「はい。そのつもりです」

 

 

「だからさ、後々説明が面倒くさくならないようにした。今から周囲のカメラとかの機能駄目にしたり、密漁船なんかが入らないように船の通信機器ジャックして引き返させる。」

 

 

「…分かりました、お願いします」

 

 

今更束の技術力には驚かなくなった操はそう束にお願いする。

 

 

「そうそう、今戦ってた奴らも戻ってきたら眠らせちゃうね」

 

 

「ラウラは知ってるので起こしてあげてください」

 

 

「勿論。それで、起きた後の対応は任せたよ」

 

 

「分かりました」

 

 

時間が無いので、束と操は会話をそこで終わらせ、各々する事の準備に入るのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「急げ急げ!」

 

 

海上。

今まで銀の福音と戦っていたラウラ達は急いで旅館へと戻っていた。

その後ろには、時折レーザーを放ちながら迫って来る巨大化した銀の福音。

その巨体故先程までのような速度は無いものの、その巨体から放たれる威圧感に、どう考えても高すぎる威力のレーザー。

操の言う通り、疲弊しているラウラ達が戦える相手じゃない。

 

 

(クソ!どうする!?どうすればいい!?どうすれば、あんなに巨大な相手と戦える!?)

 

 

逃げる中でラウラは必至になりながら銀の福音への対抗策を考える。

しかし、万全の状態であっても対抗できないであろうあまりにも巨大すぎる銀の福音。

対抗策など微塵も思いつかない。

 

 

『ラウラ!聞こえるか!?』

 

 

そんなラウラに、操からプライベートチャネルで声を掛けられる。

ラウラもプライベートチャネルで返事をする。

 

 

「どうした!?」

 

 

『…()()を使う。説明が面倒にならないように教員の人達は束さんが眠らせて、録画とかが出来ないように今周囲の撮影可能なカメラを束さんがクラッキングしたり船の電波をジャックしたりしてる』

 

 

「っ!そうか!」

 

 

操の言葉に、ラウラは思わずそう反応する。

確かに操ならばなんとかできる。

そう思ったからだ。

 

 

『だから、みんなも戻ってきたらラウラ以外少し寝てもらう事になる。束さんに協力してくれ』

 

 

「ああ、分かった」

 

 

『じゃあ、急いで戻ってきてくれ』

 

 

「了解」

 

 

ラウラの返事を聞いた操は通話を終了する。

そうして、ラウラは表情に出さないようにしながら旅館に向かって行く。

 

 

約3分後。

海上を封鎖していた教員達と合流して飛行していくと、旅館が視界に入って来た。

旅館の前には、焦った様子で手を振る操がいた。

 

 

「みんな!」

 

 

「操さん!!」

 

 

操に簪が反応する。

 

 

「と、取り敢えず作戦会議室に向かってくれ!そこで学園長と通信の用意が出来てる!!」

 

 

「わ、分かりました!門藤君は!?」

 

 

「カメラ等で出来るだけの情報を集めます。早く!」

 

 

教員の1人の疑問に手に持っているカメラを見せながらそう説明をする。

操の言葉を聞いた簪達は頷きISを解除してから作戦会議室に向かう。

その瞬間に操とラウラはアイコンタクトをして頷き合う。

そうして、教員を含めた全員が作戦会議室に入っていく。

それを確認した操はジュウオウザライトを取り出す。

 

 

《ザワールド!》

 

 

「本能覚醒!」

 

 

《ウォーウォー!ライノース!》

 

 

「はぁぁぁぁぁ...はぁ!」

 

 

変身が完了したジュウオウザワールドは海の遠くを見つめる。

 

 

〈GYAAAAAAAAAAAAA!!』

 

 

すると、遠くの方から獣のような叫び声が聞こえてくる。

変身したことで強化された視力では、膝から上が海上に出ている銀の福音を確認出来た。

 

 

「デスガリアン…!!」

 

 

あのISが何処所属なのかは分からない。

でもコンテニューメダルを所有しているという事は、絶対にデスガリアンと…ジニスとつながりがある。

そして、ジニスがこの世界にいるという事だ。

 

 

「みっちゃん!」

 

 

「操!」

 

 

旅館から束とラウラが駆け寄って来る。

 

 

「全員眠らせたぞ!」

 

 

「カメラとかも全部OK!問題なく戦えるよ!」

 

 

2人の言葉を聞いたジュウオウザワールドは

 

 

「了解!旅館に戻ってカメラで見ていてくれ!」

 

 

と、束とラウラに声を掛ける

 

 

「うん!」

 

 

「分かった!」

 

 

そうして2人が旅館内に戻った事を確認してからジュウオウザライトを構え、後部のスイッチを2回押す。

 

 

《ジャンボ!》

 

 

中央のキューブを回転させ犀の顔が描かれている面に合わせもう1度スイッチを押す。

 

 

《キューブライノース!》

 

 

ドガァアン!!

 

 

その音声と共に、荷台にキューブクロコダイルとキューブウルフを乗せ、巨大化したキューブライノスが岩山を突き破って現れた。

 

 

「はぁ!!」

 

 

ジュウオウザワールドは跳躍しキューブライノスのコックピットに乗り込む。

ジュウオウザライトを操縦桿としてコックピットシートに接続し、ハンドルが付いたキューブステアリングと併せて操縦する。

 

 

キィィイイイイ!!

 

 

そんなブレーキ音を響かせながら砂浜に停止する。

 

 

〈GYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 

砂浜から目視でおよそ5000mの所にまで銀の福音がやって来た。

キューブライノスを認識した銀の福音は咆哮をあげる。

 

 

「デスガリアン…お前たちの目的がなんであろうと、お前たちの好きにはさせない!」

 

 

ジュウオウザワールドはそう言うと、ハンドルを回しキューブライノスを銀の福音に向かわせる。

 

 

「この星を、舐めるなよ!」

 

 

接続してあったジュウオウザライトを取り出し、後部のスイッチを3回押す。

 

 

《ライノス!クロコダイル!ウルフ!》

 

 

中央のキューブを回転させ犀、鰐、狼の3匹が描かれている面に合わせる。

そして、掛け声と同時にスイッチを押す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「動物合体!」

 

 

《ウォーウォー!ウォウウォー!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荷台からキューブクロコダイルとキューブウルフが宙に浮く。

キューブライノスは前方と後方が分かれ、前方からは犀の角部分が取れる。

前方部分は腰と足に、後方部分は両肩と腹部に変形し、直立した前方部分の上に後方部分が重なり合体する。

それと同時にライノスの角部分が左腕となる。

 

 

《9!》

 

 

キューブクロコダイルは変形しビッグクロコダイルジョーズを展開。

右腕として合体する。

 

 

《7!》

 

 

キューブウルフは上半身となった荷台の中央にキューブモードのまま、搭載され合体する。

 

 

《8!》

 

 

そして、キューブウルフのパーツが開き、頭部が出現する。

 

 

 

 

《トウサイジュウオー!!》

 

 

「完成!トウサイジュウオー!」

 

 

 

 

これが、ジュウオウザワールドの巨大戦力にして、ジュウオウジャーの3号ロボ。

トウサイジュウオーである。

トウサイジュウオーは海へと進んで行き、銀の福音と同じく膝下が海に沈むくらいのところまでやって来る。

 

 

〈GYAAAAAAAAAAAA!!』

 

 

銀の福音はトウサイジュウオーに向かって咆哮をあげ、殴り掛かって来る。

 

 

「させない!」

 

 

トウサイジュウオーは右腕のビッグクロコダイルジョーズでその殴り掛かって来た右腕を掴む。

 

 

〈GYAAAA!?』

 

 

「オラァ!」

 

 

驚いた声をあげる銀の福音にトウサイジュウオーは左腕での連続パンチを放つ。

 

 

〈GYAAAAAAA!!』

 

 

銀の福音は咆哮をあげ、大きく後ずさる。

 

 

〈GYAAAAAAAAA!!』

 

 

銀の福音は体制を立て直すと、巨大な6枚の翼をトウサイジュウオーに向ける。

そして同時に巨大なレーザーを6発同時に放つ。

 

 

ドドドドドドキュウン!!

 

 

「ハァ!」

 

 

トウサイジュウオーは銀の福音とは比べ物にならない速度で横に移動し、レーザーを避ける。

 

 

バシャアアアン!!

 

 

レーザーは海へと着弾し、巨大な水柱を発生させる。

 

 

「お返ししてやる!」

 

 

トウサイジュウオーは右腕のビッグクロコダイルジョーズの間…キューブクロコダイルの口部分からレーザーを銀の福音に向かって放つ。

 

 

〈GYAA!?』

 

 

そのレーザーは翼を1枚貫く。

 

 

「良し!このままいくぞ!」

 

 

トウサイジュウオーは銀の福音に向かって走り出す。

 

 

〈GYAAA……GYAAAAAAAA!!』

 

 

銀の福音は咆哮をあげ走り出す。

レーザーの打ち合いでは勝てないと判断したんだろう。

 

 

〈GYAAAAAA!!』

 

 

「甘い!」

 

 

銀の福音の突進を利用し、トウサイジュウオーはショルダータックルをくらわせる。

 

 

バシャアアアン!!

 

 

銀の福音は体制を崩し海へと倒れ込む。

 

 

〈GYAAAAA……』

 

 

銀の福音はフラフラと立ち上がる。

そんな銀の福音の事をトウサイジュウオーは右腕でアッパーする。

 

 

「ハァア!」

 

 

〈GYAAAAAAAAA!?!?』

 

 

大きく吹き飛んだ銀の福音は空中に舞い上がり、再び海へと落下する。

 

 

「お前の世界は、ここで終わりだ!!」

 

 

ジュウオウザワールドのその言葉と同時に、ビッグクロコダイルジョーズにエネルギーが溜まり始める。

海へと落下した銀の福音は立ち上がり、エネルギーをチャージしているトウサイジュウオーが視界に入る。

 

 

〈GYAAAAAAAAAAAA!!!!』

 

 

残っている5枚の翼でレーザー発射の準備をする。

 

 

「トウサイ…トリプルザビースト!!」

 

 

〈GYAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』

 

 

トウサイジュウオーは動物モードのキューブライノス、キューブクロコダイル、キューブウルフ型のビームを、銀の福音は5本のレーザーを放つ。

ビームとレーザーはぶつかり合う。

 

 

「うぉおおおおおおおおおお!!」

 

 

ジュウオウザワールドから溢れるジューマンパワーを受け、トウサイジュウオーの目は発光し、ビームの威力が上がる。

ぶつかり合っていたレーザー毎押し切り、遂に銀の福音に到達する。

 

 

〈GYAAAA……GYAAAAAAAAAAAA!!!!』

 

 

銀の福音の叫び声を聞きながら、トウサイジュウオーは銀の福音に背を向ける。

 

 

 

ボガァアアアアアアン!!!!

 

 

 

その瞬間に、銀の福音は爆発する。

黒煙が発生し、水飛沫も発生する。

 

 

「っ!パイロットの人!!」

 

 

ジュウオウザワールドはそう叫び再びトウサイジュウオーを爆発した方向に向ける。

すると、黒煙の中から吹き飛んでくる金髪の女性が見えた。

トウサイジュウオーは左腕を伸ばし、女性をキャッチする。

そうして、そのままコックピットの方まで連れて来る。

 

 

「よっ……と」

 

 

コックピットの中で、ジュウオウザワールドはその女性を抱え込む。

 

 

「あ、あな、たは…?」

 

 

「今は休んでください。起きた時に説明します」

 

 

「う、うん…」

 

 

ジュウオウザワールドを見て不思議そうな表情を浮かべていた女性だが、そう言われ気絶するかのように意識を失った。

 

 

「怪我は…ぱっと見ではないか……」

 

 

一先ず見ただけで分かるような怪我がない事に安堵するジュウオウザワールド。

そうして、コックピットの中から空の向こうを睨む。

 

 

「お前たちの目的がなんであろうと、俺が絶対に阻止してやる!!」

 

 

そう、自分を鼓舞するように呟くと、トウサイジュウオーを操作し旅館に戻っていくのだった。

 

 

 




遂に登場!
トウサイジュウオー!!
再登場予定、約1年後!!(私の投稿ペースによって前後しますし、無くなる可能性もあります)

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、よろしくお願いします!


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世界の王者と天災兎

そこそこ前の話なのですが、家から自転車で20分ぐらいのところの中古リサイクルショップにジュウオウキングが1000円で投げ売りされてて悲しくなりました。
いや、まぁ、ジュウオウジャーのロボのおもちゃは変形合体プロセスの関係上プロポーションが悪いですし可動部分なんてほぼ無いに等しいのですが、それでもジュウオウジャーのロボは好きなので悲しいです。

因みに私がその中古屋に行った理由は、仮面ライダーザイアゼツメライズキーセット用のサウザンドライバーです。2500円でした。ありがとうございました。
「Presented by ZAIA……」

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

「ふぅ…さて、これからどうするか……」

 

 

臨海学校2日目。

1度撃破した筈なのに謎のISによって巨大化させられ復活した銀の福音を、トウサイジュウオーを使用し撃破した後。

浜辺には変身を解除した操が銀の福音のパイロットであるナターシャ・ファイルスを抱えながらそう呟いていた。

操の足元には、巨大なサイズから何時ものサイズに戻り、キューブクロコダイルとキューブウルフを荷台に乗せたキューブライノスがいる。

 

 

「ライノスは…取り敢えず仕舞うか…」

 

 

操はそう呟くと、ナターシャの事を抱えたまま器用にキューブライノスを手に取り、そのままポケットに仕舞う(特撮特有の何処にそれが入るんだよ現象)

そうして、ナターシャの検査をしないといけないと思い旅館に向けて歩き出す。

すると、

 

 

「みっちゃぁ~~~ん!!」

 

 

「操!!」

 

 

と、旅館から束とラウラが飛び出て操に駆け寄っていく。

 

 

「みっちゃん!凄かったよぉ!!」

 

 

束は興奮状態でそう操に話し掛ける。

ISを開発した束は1人の科学者として未知なるテクノロジーであるキューブアニマル達の本領を見て血が騒いだのだろう。

そんな束を見て操はついつい苦笑いを浮かべるも

 

 

「そう言ってくれるのは嬉しいですけど、取り敢えずこの人を安静なところに寝かせないと」

 

 

という。

その言葉を聞いた束は

 

 

「そうだね」

 

 

と頷く。

そして、操と束はラウラの案内で旅館の空き部屋に移動する。

そこに置いてある布団一式を拝借してナターシャをその上に寝かせる。

 

 

「ふぅ…疲れたぁ…」

 

 

ナターシャを寝かせた操は軽く伸びをしながらそう呟く。

 

 

「お疲れ様、操。ほら」

 

 

「ん?おお、ありがとう」

 

 

そんな操にラウラが準備していたスポーツドリンクを手渡す。

そのまま半分まで一気に飲み干した操はペットボトルから口を離し言葉を発する。

 

 

「束さん、その人の検査お願いできますか?」

 

 

「勿論!束さんに任せんしゃい!!」

 

 

「じゃあお願いします。俺は部屋から出ますね」

 

 

「分かった!あ、ラウちゃんは手伝って!!」

 

 

「……あ、ああ!はい!」

 

 

急にニックネームで呼ばれたのでラウラは一瞬反応出来なかったが、すぐさま立ち上がり検査の準備の手伝いをする。

そんな2人を見て、操は束がラウラの事を気に入ったんだなと思うと部屋から出て廊下に立つ。

 

 

「そうだ、今のうちにライノス達をリュックに仕舞っておこう」

 

 

そう呟いた操は自身の部屋に向かい、キューブアニマル達をリュックに仕舞う。

 

 

「お、おい!狭いのは分かるけど我慢してくれって!!」

 

バン!バン!

 

ドン!ドン!

 

リュックに仕舞う際にそんなやり取りがあったのはご愛敬である。

ポケット(特撮特有の異次元空間)は大丈夫なのにリュックは駄目らしい。

なんとも不思議である。

 

 

そうしてコミカルな格闘の末なんとかキューブアニマル達をリュックに押し込んだ操は残りのスポーツドリンクを飲み干すと束達のいる部屋へと戻っていく。

 

 

「あ、みっちゃん!」

 

 

「束さん!」

 

 

部屋の前で操を待っていた束とラウラと合流する。

 

 

「どうでした?」

 

 

「問題ナッシング!今はまだ気絶してるけど、もうじき目を覚ますと思うよ」

 

 

「それは良かった」

 

 

安心したように息を漏らす操。

しかし、次の瞬間には穏やかだった表情から一変し、真面目な表情と雰囲気になる。

 

 

「じゃあ、次に何をするのか決めないとですね…」

 

 

「そうだな。それに現状確認もしておきたい」

 

 

「それじゃあさ、どっかで話し合おうよ。ここじゃあ万が一目を覚ました誰かに聞かれちゃうかも」

 

 

「じゃあ俺の部屋に行きましょう」

 

 

操の言葉に2人は頷く。

そうして操の部屋に移動した3人は座り、話し合いを始める。

 

 

「取り敢えず、みんなへの対応からかな…巨大化した銀の福音をバッチリ見てる訳だし……」

 

 

「…夢オチで誤魔化せないか?」

 

 

「夢オチって何処でその言葉を…?」

 

 

「クラリッサだが?」

 

 

「なるほど」

 

 

操はそう言うと、若干呆れた表情でドイツの方角を見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くしゅん!」

 

 

「お姉様?風邪でも引かれましたか?」

 

 

「い、いや、誰かが私の事を噂しているのかもしれん」

 

 

「あはは、隊長と操だったりしますかね?」

 

 

「…いや、それは無いだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、そんな事をしている場合では無いので操は直ぐに視線を元に戻す。

 

 

「でもでも、ラウちゃんの言う通り勘違いで通すのが良い気がするな」

 

 

「まぁ、確かにそれはそうですね。じゃあ、俺とラウラでそんな感じで誤魔化します」

 

 

「ああ。なるべく違和感が無いように演技をしないとな」

 

 

正直言うとそこそこな人数をこれで誤魔化すのはかなり無理があるが、記憶操作など簡単に出来ない…というより、出来たとしてもあまりいい気分にならないのでしないのでこうするしかないだろう。

そうして次の話題に行こうとした時、ラウラが何かに気が付いた。

 

 

「ISの戦闘ログには映像残ってしまっているぞ」

 

 

そんなラウラの言葉を聞いて、束はガバッと立ち上がる。

 

 

「そこは束さんに任せんしゃい!!開発者である束さんの手に掛かれば修復が不可能な程完璧にログから映像と記録を消し去ってあげよう!!」

 

 

「おお、流石束さん。頼もしい」

 

 

「みっちゃん!もっと褒めて褒めて!!」

 

 

「あはは…よしよし」

 

 

束がハイテンションになったので、操は苦笑いを浮かべながら束の頭を撫でる。

頭を撫でられた束は更にテンションを高くする。

 

 

「よっし!じゃあ眠らせた奴らが起きる前にチャチャッとやっちゃおう!あ、そうだ。ラウちゃんのISからも消去して良い?他の奴らに見られたら面倒だし」

 

 

「はい、問題ないです。よろしくお願いします」

 

 

ラウラは束に待機形態であるレッグバンドを手渡す。

 

 

「じゃあ、2人ともついて来て」

 

 

「「分かりました」」

 

 

そうして、3人は未だに全員が眠っている作戦会議室に移動する。

 

 

「えっと、ISは~~……これか」

 

 

簪から打鉄弐式の待機形態を丁寧にとり、春十から白式の待機形態を乱暴にぶんどった束は何処からともなく取り出したノートPCに有線でシュヴァルツェア・レーゲン、そしてカメラ映像記録と共に接続する。

 

 

「う~んと……終わったよぉ!」

 

 

「「早っ!?」」

 

 

PCを操作する事約5分で作業を終わらせた束に、操とラウラが驚きの声を発する。

 

 

「ふっふ~ん、束さんに掛かればこんなものちょちょいのちょいなのさ!!」

 

 

2人の反応に気分を良くしたのか束はドヤ顔を浮かべる。

そうしてISからケーブルを抜き、打鉄弐式を簪に、シュヴァルツェア・レーゲンをラウラにそれぞれ返し、白式を春十にこれまた乱暴につける。

 

 

「それじゃあ2人とも、そろそろ起きちゃうかもしれないから束さんは外の訓練機から消したら帰るね……あの変なISについての話し合いは、また今度しよう」

 

 

「…はい、分かりました。束さん、お元気で」

 

 

「うん!バイビー!!」

 

 

束はそう言ったと思ったら次の瞬間には作戦会議室からいなくなっていた。

 

 

(ナリアみたいに直ぐに消えるんだよなぁ…まぁ、ナリアよりも分かりにくい…っていうか、どうやってるのか分からないけど)

 

 

「そうだ。ラウラ、悪いけどそろそろもう1回パイロットの人を……」

 

 

「んん、んぅ…?」

 

 

束のすぐ消える様にかつての敵を思い出しながら操がラウラにナターシャの様子の確認をお願いしようとした時、そんな第三者の声が作戦会議室に響く。

ガバッと2人が同時に視線をそっちの方向に向けると、頭を押さえながら簪が目を覚ましていた。

 

 

「簪!起きたか!!」

 

 

「ん、んん…み、操さん……?ラウラ……?」

 

 

簪は目を擦りながらそう言葉を発する。

 

 

「ん、ぁあ…?」

 

 

「あ、れぇ…?」

 

 

その瞬間に、今まで寝ていた教員達や春十も目を覚ましていく。

全員が目をシパシパさせたり、目を擦ったりしている。

まだ寝ぼけているようだ。

その隙に操とラウラは視線を合わせ頷き合う。

 

 

「みなさん、起きましたか?」

 

 

「え、あ…もしかして、寝ちゃってました?」

 

 

「はい、それはもうぐっすりと。びっくりしたし心配したんですよ?簪達は帰ってきた瞬間に寝ちゃうし、山田先生たちもそれにつられて寝ちゃうし……」

 

 

操の言葉を聞いた簪や真耶達は顔を赤くする。

素直に操の前で寝顔を晒したのが恥ずかしいんだろう。

しかし、直ぐにその表情は疑問のものに変わっていく。

まさか、これだけの人数が同時に寝る事があるのだろうか?

そう考えた簪達はその寝た時の記憶を思い出そうとする(そんなものは無い)。

そうして、簪達は思い出した。

巨大化した銀の福音の事を。

 

 

「っ!!そ、そうだ!!巨大化した銀の福音は!?どうなったんですか!?」

 

 

簪は焦ったような表情を浮かべ操とラウラにそう聞く。

声には出していないものの、真耶達も同じ様な表情を浮かべている。

しかし、操とラウラは…

 

 

「巨大化?何を言ってるんだ簪?」

 

 

「寝ぼけているのか?」

 

 

事前の打ち合わせ通り誤魔化し始める。

2人の言葉を聞いた簪は呆気に取られたような表情を浮かべる。

 

 

「え、い、いや、え…?」

 

 

「も、門藤君?ボーデヴィッヒさん?な、何を言ってるんですか?実際にみ、見ましたよね?」

 

 

簪は困惑したように言葉を零し、真耶も同じく困惑しながらも2人にそう質問する。

しかし、操とラウラはトウサイジュウオーの事を隠さないといけないのでしらを切り続ける。

 

 

「山田先生もですか?同じような夢見るだなんて、よっぽど銀の福音が印象に強かったのかなぁ…?」

 

 

「そこまで言うなら、ISの戦闘ログやカメラの録画映像を見ればいい。銀の福音は普通に撃破したぞ」

 

 

そう言われ簪と春十は自身の専用機を、真耶達はカメラのログを確認する。

すると確かに、銀の福音を撃破した後特に何事もなく旅館に戻っていた。

 

 

「あ、アレ?本当だ?じゃ、じゃああの記憶は…?」

 

 

「う~ん…1回検査してもらったら?銀の福音がトラウマになってるかもしれないし……」

 

 

(う……騙しているという罪悪感がグサグサと……)

 

 

心の中で罪悪感という刃でぐっさぐっさと刺されている操。

しかし、ボロを出すわけには行かない。

 

 

「…そうですね。更識さん達は戦闘が終わった後バイタルチェックもしていませんし、1回全員バイタルチェックをしましょうか」

 

 

半分苦し紛れだった操の言葉に、真耶が肯定しそう全員に指示を出す。

操とラウラは視線を合わせ安心したような息を吐いてから、ラウラはバイタルチェックを受けに、操は出来るだけの手伝いをし始めるのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「♪~♪~~~」

 

 

夜の海の崖。

そこで足をプラプラさせながら束が鼻歌を歌っていた。

操とラウラには帰ると説明していた束。

実際に帰るつもりでいたのだが、1つやり残したことがあった。

だから、今こうやって待機しているのだ。

 

 

「いやぁ~、みっちゃんは格好いなぁ~~」

 

 

束は空中ディスプレイで操の…ジュウオウザワールドの戦闘シーンを見返していた。

そう、実は束はひっそりと今までのジュウオウザワールドの戦闘全てを録画していたのだ。

この世界で初めての戦闘であるシュヴァルツェ・ハーゼが追っていた女との戦闘、クラス代表決定戦やクラス対抗戦での無双、学年別トーナメントでの暴走ISとの戦闘、そして今回のトウサイジュウオーの戦闘。

その全てを。

 

 

「良いなぁ~解析させてくれないかなぁ~~いつか束さんも変身したい!!」

 

 

あくまで純粋な研究者としての言葉なのだが、変身したい(そのフレーズ)は完全に幼い男児である。

仮に解析できたとしても、ジュウオウザライトは嘗て古代の時代を生きたジューマン、ケタスがアザルドという名のプレイヤーの封印に使った地球の結晶に由来されるキューブをジニスが解析・使用した事で生み出されたものなので、いくら束でも再現は不可能なのだが。

 

 

そうしてそのまま楽し気にジュウオウザワールドの戦闘を見返していた束。

 

 

「……来た」

 

 

すると、急に真面目な表情と声色になりディスプレイを消す。

そうしてザ、ザ、ザと足音が聞こえてくる。

束はプラプラさせていた足を上げ、振り返る。

ニヤリと口元を歪め、この場に歩いてくる人物に声を掛ける。

 

 

「教員が抜けだしたらマズいんじゃないの?織斑千冬」

 

 

「……束ぇ!!」

 

 

その人物…鼻に包帯を巻いた千冬が束の事を睨みながらそう声を発する。

そんな様子に束は笑みを濃くする。

 

 

「それにしてもさぁ、有事の時にいないだなんて教員としても世界最強としても失格だよねぇ?何処にいたのぉ?」

 

 

「黙れ!お前が私の事を蹴飛ばしたからだろう!!」

 

 

「アッハハハ!!あの程度でくたばるお前が悪いんじゃ~ん!!」

 

 

煽るような言葉に千冬の表情は怒りに染まっていく。

 

 

「それで?わざわざここに来たんだからなんか用あるんでしょ?さっさとしてくれない?束さん帰りたいんだけど。それに、もう2度と見たくなかった面見てあげてるんだから」

 

 

束の面倒くさそうな声色を聞いて更に怒りを貯める千冬だが、それを振り切って言葉を発する。

 

 

「束ぇ!一夏について知ってることを全て言え!!」

 

 

千冬は束に詰め寄りながらそう言葉を発する。

 

 

「何だ、結局それかよ。なら面見ずに帰ればよかった」

 

 

「なんだと!?貴様ぁ!!」

 

 

千冬に背を向けながらそういう束に、激昂しながら殴り掛かる千冬。

 

 

「学習しないなぁ。おら!!」

 

 

「ガハッ!?」

 

 

しかし、束はそれを簡単にいなすとそのまま千冬の腹に蹴りを入れる。

予想外の衝撃に苦悶の声を漏らしながら千冬は地面に転がる。

 

 

「弱いなぁ。事件前にも言った気がするけど、もうそっちから顔見せるなよ。今回が特別だからな」

 

 

「ぐ、ぐぅ…!!まだ、質問に答えてないぞ……!!」

 

 

冷たい瞳で言葉を発する束に対し、千冬は腹部を押さえ苦しそうな表情を声色でそういう。

 

 

「へぇ……まだそんな事言うんだ。しつこいなぁ。もう言っちゃった方が良いかぁ……」

 

 

何時までも同じ事を言う千冬に、とうとう束が折れた。

 

 

「いっくんは…織斑一夏は死んだ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 

「ふざけるな!一夏は死んでない!!まだ死体だって見つかって無いんだぞ!!」

 

 

「そりゃそうでしょ。だって死体処理したの束さんだし」

 

 

「なっ…!?」

 

 

束の言葉を聞いた千冬は驚きで目を見開きそのまま固まる。

そんな千冬を見て再び束は笑みを浮かべる。

実際には織斑一夏は名前を変え、かつての自分を捨てただけなので死体など無いのだがそういう事にしておいた方が何かと都合がいいのだ。

 

 

「いっくんはかわいそうだったよ。姉に助けてもらえず、誘拐犯に殺されて、死体はそのまま放置されて…だから、束さんはいっくんの死体を回収して、しっかり埋葬してあげたよ。あの世では、今までの苦しみとは無縁になれるようにさ」

 

 

「っ…!!違う、違う!!私は一夏を助けようとした!!」

 

 

「はぁ?助けられなかったのは事実。そして、助けようとしたのは嘘」

 

 

「なっ…!?私はあの日、一直線に現場に…「違ぇんだよ!!」っ!?」

 

 

このままじゃ伝えたい事が伝わらない。

そう判断した束は声を荒げる。

その表情は、怒りに燃えていた。

 

 

「いっくんは、いっくんは!!お前に何度も助けを求めてた!!織斑春十を始めとしたゴミクズ共に虐められてたから!!」

 

 

「なぁっ!?」

 

 

千冬は驚きの声を発し、呆然とした表情を浮かべる。

一夏が虐められていた。

それも、春十に。

その事実が衝撃的で、受け入れられなかった。

 

 

「う、嘘だ!!そんな事ある訳無い!!は、春十が虐めをするなんて!!」

 

 

「あるから言ってるんだよ!!お前は、忙しいのを理由にいっくんの話を聞かなかった!!SOSを受け取らなかった!!いっくんを追い詰めていたのはお前たち織斑家だ!!」

 

 

「あ、あ、あ…」

 

 

束の言葉を聞いていくにつれて、ドンドン千冬の表情は青ざめていく。

 

 

「いっくんを追い詰めていたから!誘拐に気付けなかった!いっくんを殺したのは、織斑千冬!!お前なんだよぉ!!」

 

 

言い切った束は、はぁはぁと肩で息をする。

 

 

「違う、違う、私は、私はぁ…」

 

 

千冬は茫然自失といった雰囲気を醸し出し、虚ろな目をしながらそう呟いている。

 

 

「壊れたか…いい気味。それじゃあ、束さんは今度こそ帰るね。一生そうしていろ」

 

 

束は最後にそう言い捨てるとその場から消えるようにいなくなった。

そうしてこの場には座り込みうわ言を呟く千冬が1人。

 

 

「違う。私は、私は家族を守っていたんだ。そうだ、そうなんだ……」

 

 

千冬は絶望の表情を浮かべ、涙が滲んでいる虚ろな目を空に向けながら、ずっと、ずっと同じ事を繰り返すのだった。

 

 

 




次回で漸く臨海学校編が終了です。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、是非よろしくお願いします!!


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臨海学校の終わり

前回の前書きで話題にあげた中古屋にもう1回行ってきました。
すると、ジュウオウキングは5体に増えていて箱無しのやつが500円でした。
悲しい。
ワイルドキングは1500円でした。
つまり、ワイルドジュウオウキングが2500円です。
トウサイジュウオーは無かったですが、キューブライノスはありました。3000円でした。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

「クソッ!クソッ!どうなってんだよ!!」

 

 

臨海学校2日目の夜、千冬と束が会話しているのと同時刻。

旅館の春十の部屋で、春十は枕を殴りながらそんな事を叫んでいた。

春十が荒れている理由は単純明快。

今日の銀の福音鎮圧作戦である。

 

 

「なんで、白式が二次移行しなかったんだよ!」

 

 

そう、この銀の福音鎮圧作戦では原作にあった白式の二次移行が起きなかった。

それに、1回の出撃で銀の福音を倒すことが出来た。

原作とは全く違う出来事に、春十は苛立っているのだ。

 

 

「クソッ!クソッ!」

 

 

春十はまた暫くの間枕を殴り続ける。

操がクラスにいるところから既に分かっている筈の原作とのズレ。

いや、そもそも自分という存在がいる時点でこの世界は原作の世界とは全く違ってくるというのに、春十はそれを理解していない。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

喚き続けた春十は肩で息をしながら布団の上に寝っ転がる。

 

 

「そもそも何でラウラ達が最初から出てるんだよ!何で簪がもういるんだよ!」

 

 

しかし、まだ文句は止まらない。

文句を言ったってなにも変わらない。

流石の春十でもそれは理解しているのだが、それでも文句を言わずにはいられなかった。

 

 

「しかも、俺の活躍殆ど無かったじゃねぇか!どうなってんだよ!俺は主人公だろ!!」

 

 

春十がした事といえば、最後に1回零落白夜で攻撃を当てただけ。

主人公の活躍とは言えない。

しかし、これが妥当だ。

だって、春十は主人公では無いのだから。

だけれどもその事を知らない春十は文句を垂れ流しているのである。

 

 

「はぁ……ん?そう言えば千冬姉帰って来ねぇな…」

 

 

喚き続けた春十は漸く千冬が帰ってきていない事に気が付いた。

 

 

「……まぁ、良いか。取り敢えず俺の声は聞こえて無いだろうし…寝るか」

 

 

まだ消灯時間では無いが、もう疲れたのだろう。

春十は部屋の電気を消して布団に入る。

そして天井を見上げながら春十は考える。

自分の今後の事を。

 

 

「俺は、まさかこのまま何も出来ないのか…?俺が、主人公が何も活躍出来ずに、終わるのか……?」

 

 

そう呟く春十の表情は、絶望に染まっていた。

そのまま暫くの間同じ様な表情を浮かべていたが、やがて狂気的な笑みを浮かべ始める。

 

 

「まだだ、まだだ!これから夏休み、そして学園祭がある!」

 

 

未だにハーレムを、自身の活躍を諦めていない春十。

そんな事起こりえ無いというのを理解できるようになるのは、いったい何時になるのだろうか。

 

 

「ははははは、アッハハハハハ!!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

時刻は少し遡り、現在時刻16:45。

ナターシャが横になっている部屋。

 

 

「ん、んぅう……?」

 

 

部屋の中央の布団で寝ていたナターシャが目を覚ました。

ナターシャは暫く天井をボーッと見上げていたがやがて頭を押さえながら上体を起こす。

そして、辺りを見回すようにキョロキョロと視線を泳がせる。

 

 

「此処、何処…?私、なんでこんな場所で寝て…」

 

 

困惑したような言葉を発しながら、ナターシャは今日の自分の行動を振り返る。

 

 

「えっと、今日は福音のテストがあって、乗り込んで、そこから……駄目、思い出せない……」

 

 

そこから暫くの間1人で悶々と考えていたが、やがて自分だけでは思い出せないと察したナターシャは息を吐くと再び辺りを…この部屋の事を見回す。

 

 

「日本の旅館っぽい感じだけど…本当に日本?そもそもハワイで実験してたのに日本に来れる訳…」

 

 

ナターシャはそう呟くと、視線を襖に向ける。

しっかりと掃除が行き届いている部屋に、布団。

管理がされていて、誰かが自分にちゃんと布団を掛けてくれたのは明らかだ。

部屋の外に出ようか、それともその誰かを待つか。

 

 

「……どうしようかしら?」

 

 

思案するようにナターシャはそう呟く。

しかし、その試案は直ぐに中断される事になる。

 

 

コンコンコンコン

 

 

と、少し遠慮しているようなノック音があたりに響く。

 

 

『起きていますか?』

 

 

そして、襖の向こうからそんな声が聞こえてくる。

 

 

「はい、起きてます」

 

 

『あ、目が覚めたんですね。良かったです。入っても大丈夫ですか?』

 

 

「大丈夫です」

 

 

ナターシャの返答を聞き、襖が開く。

そうして、部屋の中に操、ラウラ、真耶が入って来る。

 

 

「無事そうで何よりです」

 

 

「あ、あの、えっと、貴方たちは…?」

 

 

「IS学園1年1組、門藤操です」

 

 

「同じく、ラウラ・ボーデヴィッヒです」

 

 

「IS学園教員の山田真耶です」

 

 

ナターシャに言われ、操たちは自己紹介を行う。

それを聞いて、ナターシャも自己紹介をする。

 

 

「アメリカ軍所属、ナターシャ・ファイルスです」

 

 

「ファイルスさん、何かお身体に違和感はありませんか?」

 

 

「と、特には…」

 

 

操の質問にナターシャはそう返す。

その返答を聞いた操達は安心したような息を吐くも、ナターシャは困惑したような表情を浮かべる。

 

 

「えっと、どういう事ですか?そもそも、此処はいったい…?」

 

 

その言葉を聞いた操達は一瞬視線を合わせ、頷き合う。

ナターシャが何も覚えていない事を察したのだろう。

 

 

「それでは、何があったのかの説明をしますね」

 

 

「なら俺はお粥とか胃に優しいもの作ってきます」

 

 

真耶と操はそう言い、操は旅館の食堂に向かって行く。

そうして残った真耶とラウラが説明をし始める。

ハワイ沖で実験をしていた銀の福音が暴走した事。

偶々近くにいたIS学園がそれの対処に当たり、無事に撃破出来た事。

気絶していた為、此処に寝かせた事を。

 

 

「そ、そんな事が……」

 

 

その全部を聞いたナターシャはそう呆然と呟いた。

まさかそんな事になっているとは思いもしなかったのだろう。

だが、それと同時に疑問も抱いていた。

微かに残っている記憶にある、トウサイジュウオーのコックピットとジュウオウザワールドの顔。

それについての説明が無かったからだ。

だが、かなりぼんやりとした記憶の為見間違いや夢だったのかもと次第に思い始めた。

 

 

「……」

 

 

そんなナターシャの様子を見て、ラウラはその感じている疑問を察した。

しかし、操の許可を貰っていないしそもそも真耶がいるので説明が出来ない為スルーした。

 

 

「えっと…それで、私はこれからどうなるんですか…?」

 

 

「すみません、それは分かりません。あとでIS学園の学園長や国際IS委員会の委員総長と協議の後決定します」

 

 

「そう、ですか。分かりました」

 

 

少し不安そうにナターシャが返事する。

やはり自分のこの先が未確定だと誰だって不安になるだろう。

そうして、少し部屋の空気が重たくなったところで襖が開く。

 

 

「お粥出来ました~~」

 

 

そうして、その手に湯気が立っている茶碗と木製のスプーンが乗っているお盆を持った操が部屋に入って来た。

その瞬間に部屋に美味しそうな匂いが充満する。

 

 

「では、私は学園長達と相談をしてきます。ボーデヴィッヒさん、門藤君、後は任せました」

 

 

「「はい」」

 

 

そうして、真耶は少し駆け足で部屋から出て行く。

それをなんとなく見届けながら操はナターシャに近付く。

 

 

「どうぞ。余ってた卵で作った卵がゆです。お口に合えばいいんですが…」

 

 

「ありがとうございます。いただきます」

 

 

お腹が空いていたナターシャは操から卵がゆを受け取ると、そのままスプーンで掬い息を吹きかけてから口にする。

一口食べたその瞬間、ナターシャは両目を見開く。

そして口元を震わせながら言葉を発する。

 

 

「負けた……」

 

 

「何にですか?」

 

 

「お前にに決まってるだろう」

 

 

ナターシャの呟いた事に操が首を捻り、そんな操にラウラがジト目を向けながら声を発する。

 

 

「俺は別に他人を負かそうと思って料理して無いんだけど」

 

 

「お前にその意図が無くても、受け取った人間が敗北を感じるんだ」

 

 

「料理で敗北ってどういう事だ?料理バトル漫画じゃないんだから…」

 

 

操とラウラがそんな会話をしている側で、ナターシャは黙々と食べ進める。

それだけ美味しいという事だろう。

そうしてそこから数分後。

 

 

「ご馳走様でした」

 

 

「お粗末様でした」

 

 

ナターシャはぺろりと卵がゆを完食した。

操はナターシャから食器を受け取る。

そしてそのまま食堂に持っていこうとする。

が、その前にラウラによって止められる。

 

 

「操、あの事を説明していないのだが……しておかなくて良いか?」

 

 

「そうか、ファイルスさんには見られてるのか…」

 

 

ラウラに言われ、操は考え込むように顎に手を置き目を閉じる。

そうして大体5分後、操は息を吐きながら目を開き、ナターシャに視線を向ける。

 

 

「ファイルスさん、これから話すことはかなり衝撃的な事で、機密事項です。決して誰にも話さないと、今ここで誓ってくれますか?」

 

 

「……わ、分かったわ」

 

 

操の真剣な表情を見て、ナターシャは緊張の面持ちでそう返答する。

それを受けて、操は説明を開始した。

銀の福音が1度撃破された事に間違いは無いが、その後謎のISが乱入し銀の福音が海に足を付けても上半身が上に出るほどの大きさに巨大化した事。

その巨大化した銀の福音を、操が自身の戦力であるトウサイジュウオーを使用して撃破したことを。

だが、向こうの世界やデスガリアンの説明はせず、トウサイジュウオーも束から貰ったという事にしておいた。

 

 

「そ、そんな事が……」

 

 

全ての説明を聞いたナターシャは信じられないといった表情を浮かべていた。

誰しもそんな突拍子もない事を聞いたらそんな反応をするだろう。

だが、それと同時に納得もしていた。

先程夢と片付けた記憶がハッキリと蘇って来たからだ。

 

 

「さっき山田先生たちがこの事を説明した無かったのは、トウサイジュウオーを知っている人間を少なくするためにいろいろ誤魔化したからです」

 

 

「な、なるほど……」

 

 

操の言葉を聞いたナターシャは呆然と呟く。

自身の今後が分かっていないのに、そんな事にまでなっているとすれば、誰だって不安になる。

それは操とラウラも分かっていた。

だからこそ、優しい表情を浮かべてナターシャに声を掛ける。

 

 

「ファイルスさん、この先の事が分からなくて不安だとは思います。でも、人間は、動物は支え合って初めて生きていく事が出来ます。ですから、私達に出来る事はサポートさせて貰います。ねぇ、ラウラ」

 

 

「ああ。万が一アメリカ軍をクビになったらシュバルツェ・ハーゼにスカウトしてもいい」

 

 

「寧ろ狙ってないか?」

 

 

「まぁ、正直な」

 

 

ラウラと操は同時に微笑を浮かべる。

ポカンとしていたナターシャも、その雰囲気につられ笑みが漏れる。

 

 

「…ファイルスさん。初対面のこんな奴らが言ってるんです。軍の中でも、ファイルスさんの味方は絶対に居ます。自分だけで抱え込まず、誰かに助けてもらう事も大事ですよ」

 

 

「……そうね」

 

 

操の言葉に、ナターシャは先程までより濃い笑みを浮かべる。

そうして、操はいったん食器を片付けてから元の部屋に戻り、3人で時間ギリギリまで会話した後、2人はナターシャに連絡先を渡し部屋に戻り、ナターシャは保険医の検査を受け問題無しと判断を受けるのであった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

翌日、臨海学校3日目。

3日目とは言っても特に訓練は無く、ただ学園に戻るだけである。

 

 

全員で朝食を食べ終えた後、荷物が入ったリュックを背負った操は旅館の外で思いっ切り伸びをしていた。

行きとは違い中にキューブアニマル達が入っているので少し重たいがこれくらいだったら特に問題は無い重さである。

 

 

「操さん!」

 

 

「ん?お、簪、ラウラ」

 

 

そんな操に、簪が声を掛ける。

簪の側にはラウラもいる。

 

 

「疲れは取れたか?」

 

 

「はい、それはもうバッチリ」

 

 

「私もだ」

 

 

「それは良かった」

 

 

2人の元気そうな姿を見て、操は安心したような表情になる。

昨日ドンパチ戦闘した後なのだ。

一応会話はしておいたとは言え元気になってるか心配だったのだろう。

特に簪は。

 

 

「かんちゃ~ん!」

 

 

「あ、本音!」

 

 

そんな3人の元に本音やティナをはじめとした釣り組が集合する。

 

 

「なんか初日ぶりのような気がするけど、元気だった?」

 

 

「はい、それはもう元気です!」

 

 

操の言葉に、元気よくティナが返事をする。

そんな様子に、操、簪、ラウラは笑みを浮かべる。

 

 

「ねぇ、かんちゃん。昨日何があったの~?」

 

 

「機密事項だから話せない。聞いたら監視が付いてお菓子が自由に食べれなくなるから聞かない方が良いよ」

 

 

「聞かない!!」

 

 

本音にあるまじき速度と声の出し方で操達はついつい苦笑いを浮かべる。

 

 

「簪とティナはクラスに戻った方が良いんじゃないか?」

 

 

「そうですね。早めに戻っておきます」

 

 

操の言葉で、ティナと簪は各々のクラスの列に戻っていく。

操達も列に並んでおこうと動こうとした時、

 

 

「……」

 

 

絶望したような表情を浮かべ、鼻に包帯を巻いた千冬が視界に入った。

 

 

「あ、織斑先生……」

 

 

「どうしたんだろう?何時もの覇気が無いように感じるけど……」

 

 

「考えても分からない。だが、特に問題は無いんじゃないか?疲れているだけだろう」

 

 

千冬の様子を見た神楽とさゆかが疑問の声を漏らすも、ラウラがバッサリと切り捨てる。

昨日の千冬と束の会話を見ていないのでそんな結論になるのは当然である。

しかし、操だけが感じ取っていた。

只の疲れではない事に。

 

 

(ただ疲れてるって訳では無いみたいだな……束さんがなんかやったのか?いや、昨日は帰るって言ってたし、もう顔を見たくもないって……まぁ、俺に危害が加わらないなら良いか)

 

 

違和感は感じ取ったものの、それの正体だけは確定させられなかった。

 

 

「みなさ~ん!4組から移動していきま~す!!」

 

 

真耶がそう大声で指示を出したので、操達は迅速に列に並ぶ。

そうして1組の移動の番になったとき

 

 

「あ、門藤君!ボーデヴィッヒさん!こっちに来て下さい!」

 

 

「「はい!」」

 

 

操とラウラだけが呼ばれたので列から抜け真耶の元に駆け寄る。

 

 

「ファイルスさんがお2人と会話したいって事なので、それが終わり次第合流してください」

 

 

「「分かりました」」

 

 

真耶は2人にそう指示を出すと、1組と一緒にバスに乗り込んでいく。

そうして2人だけで待つこと約2分。

 

 

「2人とも!待たせてごめんね!」

 

 

とナターシャが駆け寄ってきた。

 

 

「ファイルスさん、お身体は大丈夫ですか?」

 

 

「ええ、一応はね」

 

 

操の言葉にナターシャは笑顔で返答する。

 

 

「それで、2人には話しておきたいんだけど、私は特に罰則が無い事になったわ」

 

 

「おお、それは良かったです」

 

 

「そうなんだけど…私、アメリカ軍辞めようと思うの」

 

 

ナターシャのその言葉を聞いた2人は驚きの表情を浮かべる。

 

 

「えっと、その…理由をお伺いしても?」

 

 

「……銀の福音が凍結される事になったの。私としては、あの子とずっと一緒に居たかった。でも、このままうじうじしてても仕方が無い。ここで、あの子とは別れて新しい道に進もうと思ったの」

 

 

「なるほど…まぁ、ファイルスさんが良いなら、それでいいと思いますよ。折角の人生なんですから、自分のやりたい事をやらないと」

 

 

ナターシャの言葉を聞いた操がそう返答すると、ナターシャは笑みを浮かべる。

 

 

「それでね、もう次の就職先は決まってるの」

 

 

「ほう、聞いても良いんですか?」

 

 

「ええ、IS学園って言うんだけど」

 

 

「「…ええ!?」」

 

 

揃って驚いた声を出す2人に、ナターシャは気分が良くなったのかニコニコとした笑みを浮かべる。

 

 

「学園長がね、言って下さったのよ。『うちでISの講師サポートをやりませんか』って。教員免許が無いから最初はサポートしか出来ないけど、その内免許を取って授業もするつもり」

 

 

「はぁ~~、学園長も強かだ。まさかこんなところから人材を得るだなんて」

 

 

「軍の退職手続きをしないといけないから、2学期からだけどね」

 

 

「なるほど。じゃあ2学期からよろしくお願いします。ファイルスさん」

 

 

操がそう言うと、ナターシャは何処か浮かないような表情を浮かべて少しもじもじする。

暫くの間そうしていたが、やがて少し顔を赤くしながら声を発する。

 

 

「えっと、その…な、名前で呼んでくれる?」

 

 

「?分かりました、ナターシャさん」

 

 

なんで顔を赤くするのか分からなかった操だが、名前で呼ぶことに抵抗は無かったのですぐさま名前で呼ぶ。

その瞬間に、ナターシャの顔は更に赤くなる。

 

 

「じゃ、じゃあ私そろそろ行かないとだから!!」

 

 

ナターシャはその言葉を残し逃げるようにその場から立ち去った。

 

 

(はぁ、コイツは…)

 

 

首を傾げている操に、ラウラはジト目を向ける。

 

 

「まぁ、俺らもバスに乗るか」

 

 

「そうだな」

 

 

そうして、操とラウラもバスに向かって行く。

 

 

「いやぁ、もう直ぐ夏休みだな」

 

 

「ああ。私は軍に帰るのだが、操も来るか?」

 

 

「行く行く。それにしても、今回の事件を含め1学期は濃かったな~~」

 

 

「途中から来た私でもそれは感じるほどに、濃かったな」

 

 

そこまで会話して、操は空を見上げる。

 

 

「……多分、これから本格的に戦う事になると思う」

 

 

「そう、だな……」

 

 

「そうなっても、俺は戦う。学園を、みんなを守るためにな」

 

 

「私もだ。お前と共に戦うぞ、操」

 

 

「ありがとな」

 

 

そう会話する2人の表情は、決意の決まった表情だった。

これにて、銀の福音暴走事件、並びに1学期は終了した。

 

 

だが、戦いはまだまだ終わらない……

 

 

 




ギアトリンガー MEMORIAL EDITIONが欲しい!
けど、金がねぇ!!
誰か私の分も買って下さい。

次回から夏休みです。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告等もよろしくお願いします!


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夏休み
基地に帰ろう


夏休み!!
やっとだぜ。

今回もお楽しみください!


操side

 

 

この間の臨海学校での銀の福音暴走事件から暫く経った。

あの事件の後は特に大きな事件も無く平和に過ごしていた。

 

 

期末テスト勉強では釣り組と一緒に勉強したのだが、のほほんさんが顔を真っ赤にして頭から煙を出し倒れた時には物凄い焦った。

まぁ、簪がアイスをチラつかせると復活したのでそこまで心配はしなかったんだけど。

 

 

そうして臨んだ期末テストはみんな赤点を取ることなく無事に終了した。

向こうの世界で高校卒業資格を持っているとはいえすっごい久しぶりに勉強したので正直不安だったから安心した。

 

 

これは静寐から聞いた話なのだが、織斑春十、篠ノ之箒、セシリア・オルコットは赤点になったらしい。

…まぁ、篠ノ之箒とセシリア・オルコットは長らく拘束されてたりしたからなんとなくそんな気がしていたが、織斑春十もだとは思わなかった。

IS学園で赤点を取るとかなりえげつない量の補修を受けなくてはいけないので、大変だと思う。

俺には関係ないからこれ以上は何とも思わないが。

 

 

そうして、IS学園は無事に夏休みに突入した。

だけど、開始して間もなく世界中にニュースが轟いた。

 

 

『デュノア社、倒産!』

 

 

こんなニュースが。

遂にこの時が来たようで、今でもニュース番組を見るたびにこの話題が上がっている。

楯無さんに聞いた話ではデュノア社の社長はもう既に裁判に掛けられているらしい。

シャルロットはまだ更識の屋敷で生活しているらしいが、もう直ぐ裁判に掛けられるため身柄が引き渡されるとの事。

最後に1回くらいあっておきたいが、どうなる事か。

 

 

そして今日。

俺が何をしているのかというと

 

 

「いやぁ、飛行機に乗るの久しぶりだなぁ」

 

 

「操は3月末以来、私は5月の始め以来だな」

 

 

ラウラと共に空港でドイツ行きの飛行機への搭乗開始を待っていた。。

そう、何を隠そう俺達はこれからドイツに…シュバルツェ・ハーゼの基地に帰るのである。

 

 

「私はただ帰るだけだが、操は果たしてどうなるかだな」

 

 

「…まぁ、確かにあの時とは俺の状況が違うからなぁ」

 

 

前に基地に寝泊まりしてた時はまだ俺の事が発表されてなかったけど、今は全世界に俺の事は知られてるからなぁ。

それも、なんか俺の所属先云々で国同士が揉めてるとか聞くし……

 

 

「もしかしたら、基地に入れないかもな」

 

 

「止めてくれ。基地に入れなかったら俺は帰国しないといけない」

 

 

俺はドイツに身寄りがある訳では無いのだ。

ホテルにずっと泊まると財布へのダメージが半端じゃないので、残された選択肢は帰国だ。

 

 

「まぁ、そんな事は無いとは思うがな」

 

 

「自分から不安にさせておいてそれはないぜ……」

 

 

俺がボソッとそう呟くとラウラはニヤリと悪そうな笑みを浮かべる。

そんなラウラの様子を見て思わず苦笑いを浮かべてしまう。

そのまま暫くの間ラウラと雑談をする。

 

 

『それでは、これより搭乗手続きを開始いたします』

 

 

「お、来た来た」

 

 

「良し、行くか」

 

 

リュックを背負い、順番が来てから席を立ちラウラと共に飛行機に乗り込む。

そして少し歩き自分たちの席に到着した。

 

 

「…此処か」

 

 

「ラウラ、鞄入れるからくれ」

 

 

「すまないな」

 

 

ラウラから鞄を受け取り、自分のリュックと共に座席上部の棚に仕舞う。

そしてラウラが窓側、俺が通路側に座る。

 

 

「う~ん…これで寝ると絶対に身体がバキバキになるな」

 

 

「仕方が無い、エコノミーなんだから」

 

 

座席を触りながらそう呟くと、ラウラがそう反応する。

そう、今回の飛行機の座席はエコノミークラスなのだ。

夏なのでただでさえ高かったのに、ビジネスクラスとかのリッチな席を取るともう財布へのダメージが半端ではない。

臨海学校で高いからといった理由で水着を諦めた程俺はカツカツなのだ。

 

ラウラは軍勤めで代表候補生でもあるのでそこそこ給料が入って来ているので俺と違って別にビジネスクラスをとってもそこまで財布へのダメージは無い筈だが、何故か一緒にエコノミーを取った。

まぁ、俺と一緒に取った方が楽だし、席も隣同士の方が楽だからだと思う。

 

 

そんな事を考えているとシートベルト着用云々だったり緊急時避難の手順だったりのアナウンスと映像が流れ始める。

これはしっかり確認しないとな。

そうして全てが終わると飛行機は動き出し、離陸する。

ラウラの向こうの窓から海が見える。

 

 

「また釣り行きたいな」

 

 

「確かにそうだな」

 

 

お、ラウラも乗り気だ。

やっぱり釣りは楽しいからな。

ハマってくれて嬉しい。

そして暫くの間ラウラと周囲の迷惑にならない程度で雑談をする。

 

 

「ふぁああああ……」

 

 

少し経った時、不意にラウラがそうあくびを漏らした。

視線を周囲にチラッと向けると、他の乗客の方達も眠そうにしていたし、なんならもうアイマスクをしてバッチリ寝ている人もいた。

 

 

「俺らも寝るか…」

 

 

「ああ、そうだな……」

 

 

そして俺とラウラは備え付けのエコノミークラス特有の薄めの毛布を膝に掛けアイマスクを掛ける。

 

 

「おやすみ」

 

 

「ああ、おやすみ」

 

 

ラウラとそう言い合ってから、眠りに付いた。

 

 


 

 

三人称side

 

 

「身体が痛い…!」

 

 

「元々分かっていたんだがな…!」

 

 

飛行機は無事に目的地に到着した。

操とラウラはバッキバキに固まった身体をほぐしながら到着ゲートから出て来た。

荷物を受け取り到着ロビーに歩いて行く。

 

 

「えっと、基地近くへの次のバスは…40分後か……」

 

 

「まぁもともとここら辺へのバスは本数が少ないからな」

 

 

「まぁ、基地周辺は一般人は行かないし、軍関係者の人は軍用車で行くからな」

 

 

「どうする?ご飯でも食べるか?」

 

 

「俺まだ換金して無いからしていい?」

 

 

「ああ、別にいいが…お前の収入源は何処だ?」

 

 

「学園と国際IS委員会。男性IS操縦者用給付って名目だから多分織斑春十にも払われてる」

 

 

「なるほどな」

 

 

「ただ、やけに値段が低い」

 

 

「どれくらいなんだ?」

 

 

「月7万円。いや、働いて無いのにそれくらい貰えるのはありがたいかもしれないし、寮暮らしでそこで使う光熱費とか水道費とかは免除されてるけど食費は自分で払わないといけないから結構カツカツだ」

 

 

成人男性の1月の平均の食費は約4万円。

操は結構節約してるので月3万円。

残った4万円も服などで消えていく。

 

 

「なるほど、つまり今日もかなりギリギリで来たんだな?」

 

 

「ああ。もう日本に帰ったら短期バイトする」

 

 

「そうしておいた方が良いだろうな…」

 

 

そんな会話をしながら操とラウラは換金所まで移動し日本円を換金する。

その後空港でご飯を食べゆったりと過ごし、バスに揺られ移動する。

そして時差ボケで眠気がピークに差し掛かって来たタイミングで基地の前に着いた。

2人はフラフラした足取りで検閲所へ向かう。

心配していた操も無事に通過した。

そのまま基地の生活舎に向かって行く。

 

 

「眠い…」

 

 

「なんで、今なんだ…」

 

 

2人は頭を揺らしながら扉を開け中に入る。

 

 

『お帰りなさい!』

 

 

その瞬間に中で待機していたシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達が笑顔で出迎える。

流石に眠くて疲れていても流石にそれには反応しないといけない。

 

 

「ああ、ただいま」

 

 

ラウラは頭を振ってから笑顔を浮かべる。

隊員達は2人に駆け寄っていく。

 

 

「隊長!お久しぶりです!」

 

 

「ああ、久しぶりだ。私のいない間大丈夫だったか?」

 

 

「はい、それはもう!」

 

 

ラウラの事が大好きな隊員達は笑顔でラウラと話し始める。

物凄く眠いラウラだが何だかんだ嬉しいのでしっかりと応対している。

操はそんな様子を温かい目で見ていたのだが

 

 

「操も、お帰りなさい」

 

 

同じく温かい目で見ていたクラリッサにそう声を掛けられる。

急に声を掛けられたことで操は驚いたような表情を浮かべる。

その瞬間に脳裏に浮かんだのは真理夫のアトリエ。

そしてそこで迎えてくれる大和達。

 

 

「……うん、ただいま」

 

 

操も笑みを浮かべてそう返す。

 

 

「1回電話したけど、直接会うのは4ヶ月ぶりくらいか?」

 

 

「そうだな。大体それくらいだ」

 

 

「にしてもラウラとクラリッサって話し方似てるよね。見てる人ごっちゃにならないか心配だよ」

 

 

「見てる人…?なんの事だ?」

 

 

「いや、こっちの話だ」

 

 

特撮は偶に第四の壁を超えるのである。

 

 

「お姉様!操!そんなところで話してないで行きましょう!」

 

 

そんなメタな会話を繰り広げていた2人にネーナがそう声を掛ける。

 

 

「行く?何処に?」

 

 

「良いから良いから!」

 

 

首を捻った操の手を取り引きずっていく。

操がラウラに視線を向けると、ラウラも同じ様な状態だったので恐らく自分たちだけが知らない事だと察した。

そうして誘導される事数分。

 

 

「着きました!」

 

 

「此処って…」

 

 

「食堂だな」

 

 

操とラウラは食堂にまで誘導された。

隊員達はバッと扉を開ける。

 

 

「おおっ!?」

 

 

「これは…」

 

 

食堂の中を見た2人は同時にそんな声を発する。

それも仕方が無いだろう。

何故なら食堂の壁には

 

『隊長、操、お帰りなさい!!』

 

とデカデカと書かれた横断幕が壁に貼ってあり、その周囲も綺麗に飾り付けしてある。

机の上には栄養重視で味気ない軍用食事ではなく、チキン等々の豪華な料理が並んでいた。

 

 

「どうですか?頑張りました!」

 

 

「いやはや、これは凄いな」

 

 

「ああ、驚いた」

 

 

操とラウラが正直な感想を漏らすと、隊員達は嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

 

「それじゃあ、早速お帰りなさいパーティーを…」

 

 

「その前に荷物置いてきていい?」

 

 

マルチダの言葉を遮るように発せられた操の言葉に、隊員達は同時に

 

 

『あっ』

 

 

と声を発した。

そんな隊員達の様子に操は苦笑いを浮かべラウラはため息をつく。

そうして一先ず荷物を置くため2人は移動を開始する。

 

 

「なんか、眠気のピーク過ぎたな」

 

 

「ああ、そうだな。っと、操、お前の部屋は前と一緒の所だ」

 

 

「ならこっちだな。じゃあ、また後で」

 

 

「ああ」

 

 

ラウラと別れ、操は1人歩いて行く。

その道中、ふと立ち止まってジュウオウザライトを取り出す。

 

 

「……会いたいな」

 

 

少し悲しそうな表情を浮かべながらそうボソッと呟く。

10年前、操が操になった瞬間から常に一緒に居る仲間達。

そして、こっちの世界に来てから1度も会っていない、いや、もう今後会えるかどうかも分からない仲間達。

会いたいと思うのは当然だろう。

暫くの間そのままジュウオウザライトの事を見つめていたがやがて顔を上げて再び歩き始める。

 

 

「大丈夫。こいつを持っている限り、俺は動物戦隊ジュウオウジャーだからな。さぁ!新しい友達とのパーティーを楽しもう!!」

 

 

操はそう笑顔で言うと立ち止まっていた分を取り返すように走り出す。

 

 

そうして荷物を置き食堂に戻った操とラウラは隊員達とパーティーに臨んだ。

暫くぶりに会う友人達との会話を楽しみながら料理を楽しんだ。

だが、やはり眠気は完全に無くなった訳ではないので途中で2人は船をこぎ始めた。

そこでこのパーティーは解散となり各々の部屋に戻った2人は泥のように眠るのであった。

 

 


 

 

そんなこんなで翌朝、再び食堂に集まり全員で朝食を食べていた。

 

 

「なんかやっぱり味気ない」

 

 

昨日は普通の食事を食べたからか、軍用の食事の味を後回しにしている料理に納得がいかない操。

 

 

「操、お前の料理に比べたら全ての料理が味気なくなるぞ」

 

 

「そんな訳無いじゃん」

 

 

「あるから言ってるんだ」

 

 

操とラウラのそんな会話を聞いて他の隊員達は首を傾げる。

 

 

「隊長、何の話をしているんですか?」

 

 

「ん?ああ、操の作った料理がハイレベル過ぎて食べた者のプライドをへし折るという事件があったんだ」

 

 

「ちょっとラウラ、嘘を言わないで」

 

 

「事実だろ」

 

 

ラウラに切り捨てられ何とも言えない表情を浮かべる操。

そんな一見するとコミカルなやり取りを見て隊員達は笑みを浮かべるも、ラウラにそこまで言わせる操の料理が気になったのだろう。

チラリと操に視線を向けている。

自分に視線を向けられているのだから操も当然それに気が付く。

 

 

「…今度作ろうか?」

 

 

操がそう言うと、隊員達は目を輝かせながら操を見る。

 

 

「待て!止めておけ!」

 

 

「なんでだよ」

 

 

自らの部下の女のプライドを守るために足掻いたラウラだが、結局そのまま明日の夕ご飯を操が作る事となった。

そう既にプライドをバッキバキに折られているラウラはもう気にせずただただ操の料理を楽しみにしている。

 

 

そんなこんなで賑やかな朝食の時間も終わる。

全員で後片付けをしてミーティング室に移動する。

席に座り、操が言葉を発する。

 

 

「それで、今日の予定は?」

 

 

「今日は特に決まってないぞ」

 

 

「え、軍で予定ない日とかあるの?」

 

 

今日の予定を聞いた操はラウラから帰って来た答えに素っ頓狂な声を発する。

 

 

「ああ、あるんだ。何しろお前がいるからな」

 

 

「…なんとなく察したような違うような……」

 

 

操はギリギリ納得したようなして無いような良く分からない感情を抱いたが、いくら自分がそんな感情を抱いても何も変わらないと理解しているので頭を振って切り替える。

 

 

「それじゃあ今日何するの?」

 

 

「全員で今から考える」

 

 

「本当に軍か…?」

 

 

疑問を感じている操を放っておいて、隊員達は話し合いを始める。

そんな話し合いを聞きながら操も考える。

 

 

(あ、そうだ)

 

 

そして1つの案を思い付いた。

 

 

「なぁ、1つ良いか?」

 

 

「ん?どうした操」

 

 

手を上げながら言葉を発した操に視線が集まる。

全身で感じる視線に謎の緊張感を感じながら操は言葉を発する。

 

 

「ラウラ、俺と訓練機で戦ってくれ」

 

 

操のその言葉を聞いた全員が驚きの表情を浮かべる。

急にそんな事を言われたら誰だってそんな反応をする。

 

 

「…私としては別に構わないが…理由を聞いても?」

 

 

ラウラの言葉を聞いた操は懐からジュウオウザライトを取り出す。

 

 

「いや、ほら、ジュウオウザワールドは普通のISと違い過ぎるからさ。普通のISを1回使っておきたい」

 

 

操の言葉を聞いた隊員たちは納得したような表情を浮かべた。

ジュウオウザワールドはISではない。

飛行能力が無い為スラスターも無く、そもそも身体を覆うスーツ(装甲)が全然違う。

ラウラとクラリッサ以外にはISではない事の説明はしていないものの、通常のISと同じとは思わないだろう。

 

 

「それに…」

 

 

「それに?」

 

 

操はラウラに視線を向けると、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

「1回ラウラと同じ条件で戦いたい」

 

 

それを聞いたラウラは驚きの表情を浮かべるも、直ぐに操と同じような笑みを浮かべる。

 

 

「私も操と全力で戦ってみたかったんだ」

 

 

ラウラがそう返答したことで、操VSラウラの模擬戦が決定した。

 

 

「訓練機はラファール・リヴァイヴで問題無いな?」

 

 

「あ、リヴァイブあるんだ」

 

 

「元々レーゲンの前代機の第二世代型機があったのだが、私とクラリッサの専用機の開発で解体されてしまってな。訓練が出来なくなったのでリヴァイヴを2機支給されたんだ」

 

 

「なんか計画性が…」

 

 

シュヴァルツェ・ハーゼにラファール・リヴァイヴ支給された経緯を聞いた操は正直な感想を漏らす。

 

 

「良し、善は急げだ。早速」

 

 

「ああ、移動しよう」

 

 

「私達見学して良いですか?」

 

 

「ああ、問題ない」

 

 

そうして全員はミーティングルームから出て移動を開始する。

 

 

「そう言えば操、ISスーツは?」

 

 

「3月に貰った奴がある」

 

 

「捨ててなかったんだな」

 

 

「流石にねぇ」

 

 

操のその言葉を聞いたラウラは苦笑いを浮かべる。

 

 

「それじゃあ、ISスーツ取って来る」

 

 

「ああ。では」

 

 

ここで操は別れ自分の部屋に向かって行く。

ラウラ達は訓練所に移動し、ISの準備や武装のしていく。

 

 

「あったあった。持って来ておいて良かった」

 

 

自分の部屋でISスーツを取り出した操は着替えていく。

 

 

「やっぱ恥ずかしいんだよなぁ…」

 

 

ISスーツ特有のピッチリ感がそうさせるのか、操は気恥ずかしそうに頬を掻いた。

ジュウオウザワールドと何が違うのと言ってはいけない。

 

 

「スゥー、ハァー」

 

 

1度大きく息を吸って吐いた。

そして、操は笑みを浮かべる。

 

 

「さぁ、行こうか!」

 

 

 

 

 




今日はシュヴァルツェ・ハーゼのみんなも踊ってくれるよ!

クラリッサ「ふぅ…なかなか大変ですね」

ラウラ「毎回踊ってたら慣れるけどな。しかし操、兎が無いのはどうしてだ?」

操「俺に言われても」

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想。誤字報告もよろしくお願いします!


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世界の王者VS黒兎隊隊長

前回の続き。
相も変わらず戦闘シーンは雑なのでご了承ください。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

シュヴァルツェ・ハーゼの基地、訓練棟にある室内アリーナ。

此処では、訓練機であるラファール・リヴァイヴを身に纏った2人が対峙していた。

片や、このシュヴァルツェ・ハーゼの隊長、ラウラ。

片や、世界の王者、ジュウオウザワールド、操。

2人とも相手の足や手の動きは当然として視線の先、果てや呼吸までしっかりと観察をしていた。

そんな2人が対峙しているアリーナの映像はクラリッサ達隊員がいる待機室にリアルタイムで流れていた。

 

 

急遽行われることになった2人の模擬戦。

使用可能な装備品は接近用ブレードが1本。

アサルトライフルが1丁、弾丸が5000。

グレネードが10発。

以上である。

 

 

この最低限の装備。

使用しているISが訓練機のリヴァイヴなので、勝敗を分けるのは各々の技量だろう。

 

 

「こうやっていざ向かい合うと、凄い緊張するな」

 

 

「そうだな」

 

 

操がラウラに声を掛けると、ラウラは短くそう返答する。

そして、ラウラは接近用ブレードを展開するとその切っ先を操に向け、構える。

 

 

「操…本気で行くぞ?」

 

 

口元にニヤリと笑みを浮かべ、挑発するように言葉を発するラウラ。

それを見た操も笑みを浮かべ返す。

 

 

「当然だ。俺も本気で行く」

 

 

操はそう言うと、両腕を上げ

 

 

「世界の王者!ジュウオウザワールド!」

 

 

ポーズを取りながら名乗りを上げる。

実際には変身していなくても、気持ちは変身しているという事だろう。

名乗りを上げた操はそのまま接近用ブレードを展開し、構える。

 

 

『模擬戦開始5秒前。4…3…2…』

 

 

カウントダウンが進むにつれ、お互いの視線は鋭くなっていく。

ラウラは飛び掛かる準備をするかのように姿勢を低くし、操は逆にその場にどっしりと構える。

 

 

『1。模擬戦開始!』

 

 

「ハァ!」

 

 

開始のアナウンスと同時に、ラウラがスラスターを使用し一気に操に接近するとブレードを振るう。

操もそれに反応しその斬撃をブレードで受け止める。

 

 

ガキィン!

 

 

「流石…だな!」

 

 

「そりゃ、どうも!」

 

 

操は体重移動でラウラの持つブレードをそらすと1歩踏み込みラウラの事を切り付ける。

 

 

「ハァ!」

 

 

「ぐっ!?」

 

 

攻撃が当たった事を確認した操はもう1度斬りかかろうとするも、視界の端でラウラがアサルトライフルを展開するのを視認したためスラスターを使用し斬りかかろうとした勢いのまま離脱する。

そして直ぐに身体の向きをラウラに向けようとするも、ラウラがアサルトライフルを構え発砲する方が早かった。

 

 

バァン!

 

 

「っ!?」

 

 

その弾丸は操を掠り、操は少し表情を歪める。

その隙を付き、ラウラはグレネードを1発展開し操の近くに向かって放り投げる。

 

 

ドガァアン!

 

 

爆発と共に黒煙が発生し視界を遮る。

ラウラはハイパーセンサーを使用し操の様子を確認する。

しかし、それよりも早くアサルトライフルを展開した操が黒煙から飛び出て来た。

リヴァイヴの装甲の表面には爆発で出来たであろう細かな傷が出来ていた。

 

 

バババババババァン!!

 

 

勢いを殺さずに高速で移動しながら放たれたその弾丸は、全てがラウラにヒットする。

 

 

「ぐぅ…!!」

 

 

操はアサルトライフルを収納し再びブレードを展開するとラウラに斬りかかる。

 

 

「させるかぁ!」

 

 

ラウラもブレードを展開し直し受け止める。

 

 

ガキィン!

 

 

再び金属同士がぶつかり合う音が響く。

 

 

「ハァァァァアアアアア!!」

 

 

「なっ!?」

 

 

操の雄叫びと同時にブレードに籠められる力が強くなり、ラウラは押されてしまう。

そうして出来た一瞬の隙で操はラウラの事を斬る。

 

 

「ぐぅ!だが…!!」

 

 

斬られた衝撃で身体の重心がズレたラウラ。

そのズレた重心のままアサルトライフルを展開し操に向かって発砲しながら離脱する。

 

 

バババァン!

 

 

「がぁっ!?」

 

 

操は短くそう声を漏らすもラウラから離れるように移動し、アサルトライフルを展開し、構える。

離脱したラウラもアサルトライフルの銃口を操に向け、構える。

 

 

「「……!!」」

 

 

操はアリーナの外周をかなりの速度で移動しながら、反対にラウラは中央で身体の向きを回転させながら発砲をする。

そうして暫くの間撃ちあっていたが、

 

 

「ふっ!」

 

 

操がグレネードをラウラに向かって投げる。

 

 

「っ!」

 

 

ラウラは当然ながらそれに反応し、中央から一気に外周に移動する。

 

 

ドガァアン!

 

 

それとほぼ同時にグレネードが爆発し、再び黒煙が視界を奪い去る。

 

 

「っ!ここか!!」

 

 

だが、ラウラは直ぐにブレードを展開すると防御するかのように構える。

 

 

ガキィン!

 

 

「やっぱ防がれるか!」

 

 

「それはな!」

 

 

その一瞬後に発生した金属同士がぶつかり合う音とそんな会話が聞こえてくる。

黒煙が晴れると、そこにはブレードで鍔迫り合いをしている操とラウラがいた。

2人はそのまま暫くの間必死の表情で鍔迫り合いをしていたが、やがてラウラがバッと後ろに後退する。

 

 

「くらえ!」

 

 

それと同時にラウラはアサルトライフルを展開、発砲する。

 

 

「ちっ…!」

 

 

操は舌打ちをするとその弾丸を避け寄る。

 

 

「凄い…」

 

 

「拮抗してる…」

 

 

待機室にいる隊員達は操とラウラの対決を見てそんな感想を漏らしていた。

確かに、今戦況は拮抗している。

だから、操とラウラの実力に差はない…という訳ではない。

確かに総合すると同程度であることは確かだ。

だが、細かく見ていくと差が存在する。

 

 

素の身体能力は、性別や体形の差…そして、身体に満ちている3人分のジューマンパワーから確実に操の方が上である。

そして、操は10年に向こうの世界でデスガリアンという強大な敵と戦い、勝利を収めている。

つまり積んできた経験量がラウラとは違う。

ラウラも軍人としての経験は積んでいるものの、操の積んできた経験とはレベルが違う。

もしこれが生身の対決だったら、操の方が有利に戦っていただろう。

 

 

だが、今こうやって拮抗しているのは操がI()S()()()()()()()()()()()()からだ。

操は今年初めてISに触れ、ISを操作したのもIS学園入学前の短い期間だけだ。

それだけの期間で今こうやって問題なく使用できている事は凄いのだが、それでも若干粗削りな面は否めない。

それに反して、ラウラはこのシュヴァルツェ・ハーゼの…ドイツ軍IS部隊の隊長なのだ。

操よりはるかにISを使い慣れている。

 

 

また、使用している武装にも慣れの差がある。

ラウラは普段の武装そのままという訳では無いものの、訓練で使用慣れはしているし使い方も普段の武装と似ている。

しかし操が普段使用しているのはジュウオウザガンロッドのみ。

あまりにも勝手が違い過ぎる。

 

 

身体能力と戦闘経験で勝っている操、ISと使用武装の慣れで勝っているラウラ。

この2人だからこそ、拮抗した勝負が成り立っているのである。

 

 

「ぐぅっ…!」

 

 

「このっ…!」

 

 

操とラウラは何度目か分からない斬り合いを行う。

双方、SEはかなり減っていてもう1割も残っていない。

何度もぶつかり合ったブレードは細かな罅がはしっていた。

 

 

「ハァア!」

 

 

ラウラがそう短く雄叫びを発すると操に一気に接近しブレードを振るう。

限界に近付いて行っているとは思えない程綺麗に、そして凄まじく早い斬撃だった。

 

 

「甘い!」

 

 

だが、操も同様だった。

疲労が溜まっているとは思えない程素早く反応し、ブレードで斬撃を受け止める。

 

 

ガキィン!

 

 

今日何度目か分からない金属音が鳴り響く。

 

 

「ぐ、ぅう…!!」

 

 

「が、くぅ…!!」

 

 

双方ぶつかり合った際の衝撃で苦悶の声が漏れるほど疲労が溜まっている。

バッと同時に後退し、これまた同時にブレードを構える。

どちらももうアサルトライフルとグレネードの使用は考えていなかった。

今の疲労した状態でアサルトライフルを構えると隙だらけになってしまうし、グレネードは自爆の危険性があると判断したんだろう。

 

 

「操…これで決める!」

 

 

「ラウラ…来い!」

 

 

そう会話した2人は同時にスラスターを使用し加速をしながら接近していく。

 

 

 

「これで!」

 

 

先に反応出来たのはラウラ。

ブレードを振るう。

そのボロボロの切っ先は確実に操の事を捉えている。

このままいけば、ラウラの攻撃の方が先に当たる……

 

 

「うぉぉおおおおおおおおおお!!!」

 

 

「っ!?」

 

 

攻撃が当たろうとしたその瞬間、操が雄叫びを上げる。

操の背後から姿を見せる犀と狼と鰐が自分に向かって威嚇をしている………ラウラが思わずそんな光景を想像してしまうほどに、今の操には迫力があった。

ラウラは思わずブレードを振るう手を止めてしまう。

 

 

「お前の世界は、ここで終わりだ!」

 

 

その隙を付き操は超速でブレードを振るい、ラウラの事を斬り捨てる。

 

 

「がぁぁああ!?」

 

 

『そこまで!勝者、門藤操!』

 

 

ラウラの声と同時に操の勝利のアナウンスが流れる。

 

 

「おっしゃあ!」

 

 

歓喜の雄叫びを発する操の勝利で、この模擬戦は幕を閉じた。

 

 


 

 

「疲れたぁ!」

 

 

「ふぅ……疲れた……」

 

 

模擬戦終了の5分後。

ラファール・リヴァイヴを定位置に戻し、リヴァイヴから降りた2人は同時にそんな声を発する。

大量に汗をかいているし、かなり疲労している。

その証拠に、操もラウラも備え付けのベンチに座り込んでいた。

 

 

「ブレードも、装甲も、ボロボロにしちゃったな…」

 

 

「それだけ、激しかったという事だろう」

 

 

その言葉と同時に、2人はリヴァイヴとブレードに視線を向ける。

表面に細かな罅が入っており、特に操が使用していたブレードは刃がかけてしまっている。

 

 

「怒られないかな?」

 

 

「問題ないとは思うが…」

 

 

「最悪この映像みせれば何とかならない?ほら、『男性IS操縦者の戦闘データ』って事で」

 

 

「そうすれば上も黙るだろうが…良いのか?見せても」

 

 

「俺から言い出しているんだから良いに決まってるじゃん」

 

 

「そうか…ならば、最悪の事態になったらそうさせてもらおう」

 

 

操とラウラがそんな会話をしていると、かなりの人数の足音が聞こえてくる。

2人は顔を見合わせて笑みを浮かべると視線を扉の方に向ける。

 

 

「隊長!操!お疲れ様です!」

 

 

扉がバァンと開き、クラリッサを始めとした隊員達が入って来た。

 

 

「お、おー」

 

 

操が右手を上げ間の抜けた返事をする。

この様子を見て2人がかなり疲労していると察した隊員達。

 

 

「お疲れ様です。どうぞ、スポーツドリンクとタオルです」

 

 

「ありがとー」

 

 

「ああ、ありがとう」

 

 

マルチダが2人にスポーツドリンクが入ったペットボトルとタオルを手渡す。

2人はそのままタオルで顔や腕の汗を拭きとり、ペットボトルの蓋を開け中身を飲む。

 

 

「はぁ…疲れた」

 

 

「疲れた」

 

 

同じタイミングで同じことを言う操とラウラに、隊員達は微笑を浮かべる。

 

 

「それにしても、凄かったです!」

 

 

「殆ど拮抗してましたし!」

 

 

「あはは、ありがとう。でも、まだまだだな」

 

 

「え?アレで?」

 

 

「ああ。もっと改善するところはある。ラウラもそうだろ?」

 

 

「当然だ。今日の模擬戦で私はまだまだだと思い知らされたよ」

 

 

あれだけの激闘を繰り広げたのにも関わらず、まだまだ精進するところがあると語る2人。

 

 

「…ならば、私達も精進しないといけませんね」

 

 

「隊長達を見て、凄いやる気が出ました!」

 

 

そんな2人に感化され、隊員達もまた精進する決心をする。

自分の部下たちの士気が上がった事を確認したラウラは微笑を浮かべ、

 

 

「今日はありがとうな、操。お陰で部隊の士気が向上したよ」

 

 

と操にお礼を言う。

その事に操も笑顔を浮かべると

 

 

「俺からもだ。我儘に付き合ってくれてありがとう」

 

 

とお礼を言う。

 

 

「それでは、今日は解散!」

 

 

『お疲れ様でした!』

 

 

ラウラの号令で、その場は解散となった。

操とラウラはシャワーを浴び、隊員達は疲れた2人の為に食事等の準備をするのだった。

 

 


 

 

操とラウラの模擬戦から4日が経った。

この4日の間で、操の料理は3回振舞われ隊員達の女のプライドというものは消失した。

打ち砕かれるでもなく、消失した。

 

 

そして、そんなプライドと引き換え?に隊員達はこの短い期間だけで結果に表れるほど身体能力や技術が向上していっていた。

体力の増加、対人武術の熟練度向上などなど。

こんなに直ぐ結果に出たことに本人達も驚いていた。

だが、操やラウラと同様にこれで満足はせずまだまだ精進するつもりである。

 

その2人もまた訓練を怠っておらず、操はIS操作技術の向上を目指し、ラウラは対人戦闘術の向上を目指していた。

結果

ただ、操はどうしてもジュウオウザワールドとしての戦い方の癖が残ってしまっているような動きであった。

 

 

そしてこの4日間は訓練だけをして過ごした訳では無かった。

操主催で料理教室をしたり(プライドの復活はしなかった)、ぬいぐるみを作ったり等々楽しい事もしていた。

因みに、操とラウラ以外の隊員達が隠れるように集まって何かをしているのを2人は知っていたのだが、それが何かまでは知らない。

1度ラウラがクラリッサに聞いたのだが

 

 

「あの、そのぉ…あ、あはは…」

 

 

と、全く誤魔化し切れていない返事をされ、ラウラはあのクラリッサがわざわざ隠すほどの事…それも、自分には知られたくない事だと察し追及するのを辞めた。

 

 

そして今日。

今日は操とラウラが日本に帰る日である。

2人ともまだこっちにいても良いとは思っているものの、飛行機のチケットの関係上今日帰らないと次にチケットを取れるのが夏休み終了3日前になってしまうので絶対に帰らないといけないのである。

 

 

「なんやかんや、あっという間だったな…」

 

 

朝食を食べた後、自分の部屋で荷物をリュックに仕舞いながら操はそう呟いた。

 

 

「楽しいときは一瞬で過ぎるとかいうけど、その通りだな」

 

 

微笑を浮かべた操はリュックを部屋の扉近くに置き掃除を開始する。

使わせてもらった部屋を綺麗にして帰るという操の真面目さが出ている。

床や壁、窓などを綺麗に拭き掃除し、ベッドメイクまでしっかりする。

そうして初日よりも綺麗な状態にしてからリュックを背負い、部屋から出て行く。

 

 

「お、操」

 

 

「ん?あ、ラウラ」

 

 

生活舎の正面玄関に続く廊下でばったりラウラと合流した。

 

 

「そう言えばラウラ、クラリッサ達は?さっきから姿が見えないんだけど」

 

 

「いや、私にも分からない。任務は無い筈だが…」

 

 

「ふ~ん…まぁ、ラウラに分からないなら俺にも分からないや」

 

 

そんな会話をしながら2人は移動する。

そうして生活舎の外に出たその瞬間、

 

 

「うわぉ」

 

 

「これは…」

 

 

2人して目を見開き、そんな声を発する。

それはそうだろう。

何故ならそこには

 

 

『隊長、操、行ってらっしゃい!!』

 

 

と大きく書かれた横断幕を掲げた隊員達が居たからだ。

此処に帰って来た時に食堂に貼ってあったものよりもはるかに大きい横断幕。

 

 

「これを作っていたのか…」

 

 

ラウラはクラリッサ達がしていた作業の正体を知り、そう声を漏らした。

その表情は口元が若干にやけている。

やはり自分達の為に何かしてくれるという事は嬉しいのだろう。

操も同じ様な表情を浮かべている。

 

 

「隊長!操!」

 

 

「クラリッサ…凄いなこれ。大変だっただろ?」

 

 

「まぁ、少し」

 

 

操の言葉に隊員達の代表であるクラリッサがそう反応する。

素直な反応を見せるクラリッサに2人は微笑を浮かべる。

そんな2人に向かって、隊員達は声を掛けていく。

 

 

「お2人とも、これからいろいろ大変だとは思いますが、頑張って下さい!」

 

 

「隊長と操ならどんな事があっても大丈夫です!」

 

 

「そして、また元気に帰って来てください!」

 

 

その言葉を聞いた2人は1度顔を見合わせると、濃い笑顔を浮かべる。

 

 

「ああ、勿論だ!」

 

 

「お前たちも、精進を怠るなよ」

 

 

『はい!』

 

 

ラウラの言葉に、隊員達は元気よく返事をする。

そんな返事を聞いて、ラウラはしっかりと頷く。

そして、2人はもう1度笑みを浮かべると、言葉を発する。

 

 

「「行ってきます!」」

 

 

『行ってらっしゃい!』

 

 

隊員達に手を振ってから、操とラウラは歩き出す。

そんな2人の背中が見えなくなるまで、隊員達は手を振り続けるのだった。

 

 

 

 




良い隊員達だぜ。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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短期バイトも楽じゃない

サブタイそのまま。

今回もお楽しみください!


操side

 

 

ドイツから戻って来て5日が経った。

この5日間で残ってた夏休みの課題は全部終わらせた。

大和のレポートの手伝いでこういう作業に慣れておいて良かった。

結構苦も無くサクサク進められた。

まぁ、普通に量が多かったから大変ではあったけど。

 

 

そして今、俺が何をしているのかというと…

 

 

「う~ん…良い求人無いなぁ~」

 

 

朝ご飯を食べながらの求人検索だ。

この間ラウラに俺の収入源を説明した時に思ったが、やはり俺の財布はカツカツである。

その為夏休みの間短期バイトをしようと求人情報を確認しているのだが…良い求人が無い。

 

 

「夏休みだから良いのいっぱいあると思たんだけどなぁ~」

 

 

求人自体はそこそこな量がある。

しかし、その殆どが女性専用なのだ。

男用もあるっちゃあるのだが、数は少ないし時給は低いし待遇は微妙というか悪いし…碌な求人が無い。

 

 

「つくづく男が生きづらい世の中だ…」

 

 

しょうがない。

もう最悪この時給900円で用具自腹で福利厚生無しの清掃アルバイトにするかぁ?

いやぁ、あまりにも待遇が悪い。

せめて用具ぐらい支給してくれよ…

そんな事を考えながら朝食で使っていた食器をキッチンに持っていく。

ささっと洗い、水切りラックに入れる。

 

 

「どうしようかな~?」

 

 

俺がこの後の予定を考えながら部屋の中をうろうろしていると

 

 

ピーンポーン

 

 

「んぁ?」

 

 

部屋のチャイムが鳴った。

しかし俺の部屋のチャイムが鳴るだなんて珍しい。

いや、なんなら初めてか?

そんな事を考えながら玄関に向かい、扉を開ける。

そこにいたのは…

 

 

「操さん、おはようございます」

 

 

「おはよぉ~ございまぁ~す!」

 

 

「簪、のほほんさん、おはよう」

 

 

簪とのほほんさんの2人だった。

2人ともオシャレな服に身を包んでおり、どう考えてもお出かけ前である事は簡単に察せられる。

それに比べて俺は黒い半袖ポロシャツに黒いスラックスという何とも言えない地味な部屋着。

もうちょっとまともな服で出ればよかった!

だが、今更後悔しても仕方が無い。

取り敢えず此処に来た理由でも聞こう。

 

 

「それで、何か用?見たところお出かけ前っぽいけど…」

 

 

「はい、今から出掛けるところなんですけど、操さんもどうかなって」

 

 

「俺も?」

 

 

「操さん、アルバイト探してるんですよね?なら、街に一緒に行きましょうよ。店頭の張り紙を見るのも1つの手段ですよ」

 

 

確かに!

盲点だった。

 

 

「でも、良いのか。俺が同行して」

 

 

「私達から誘ってるんです。問題無いですよ」

 

 

「荷物持ちお願いしま~す!」

 

 

「ちょっと本音!?」

 

 

あまりにも潔く荷物持ちをお願いしたのほほんさんに簪が慌てた様子で注意しようとする。

 

 

「アハハ、いいよ、荷物持ちくらい。じゃあ、準備するからちょっと待ってて」

 

 

「はい、分かりました」

 

 

「待ってま~す!」

 

 

2人の返事を聞いてから扉を閉める。

さてと、ちゃっちゃと準備しちゃいますか。

歯磨きなどなどを終わらせいざ着替え。

オックスフォードシャツにサマーニット、テーパードパンツに無地ソックス。

うん、無難。

あんまりファッションに自信は無いからな、こんなもんで良いだろ。

一緒に行くあの2人に恥ずかしい思いさせる訳にもいかないし。

さて、いざ荷物持ちと求人情報収集だ!!

 

 


 

 

三人称side

 

 

準備を終わらせた操は簪、本音と合流し外出届を速攻で提出してモノレールに乗り込みレゾナンスに到着した。

そうして店頭の求人情報を確認しながらいろいろなお店を周る。

アニメとか漫画のグッズを販売しているお店で簪が合計2万円超の買い物をしたり、本音がコスプレ衣装も取り扱っている店で着ぐるみパジャマを購入したり、まだ海を諦めきれてない操が水着を確認しあえなく撃沈したり、釣り具点で3人各々が好きに物色したり…

 

 

そうして今は12:30。

お昼時である。

3人はファミリーレストランに入り各々好きな料理を注文していた。

この時操が好きな料理ではなく腹を満たせるだけの量を確保した最安値を計算していたのでかなり切羽詰まっている事を2人は察した。

 

 

「そんなにギリギリなんですか?」

 

 

「ああ、この間ドイツ行ったときの飛行機代で持ってかれて…マジでヤバい」

 

 

「大変ですね~。かんちゃん、更識からあげられないの~~?」

 

 

「どうだろう…お姉ちゃんが許可出せば大丈夫だと思うけど…」

 

 

「待って待って、許可出ても流石に受け取れないって」

 

 

本音と簪の会話を聞いていた操が慌てて止める。

いくら生活がカツカツでも流石に友人の実家からお金を受け取るのは憚られる。

その実家が暗部で、知り合いにその長がいたとしても。

 

 

「最悪金くれなきゃ自殺するぞとか言えばなんとかなるだろうけど、流石に出来ないし」

 

 

「アルバイトの求人はそんなに良いもの無いですし…」

 

 

「八方塞がりだ~!」

 

 

「「はぁ…」」

 

 

操はバイトが出来ない現状に、簪は呑気過ぎる本音にため息が出る。

 

 

「って、まだまだ混んでるんだしそろそろ出よう。この後行くところある?」

 

 

「私は特にないですね」

 

 

「私もないで~す!」

 

 

「なら、そろそろ帰るか」

 

 

「そうですね、帰りましょう」

 

 

「帰ろ帰ろ~」

 

 

そんな会話をして、3人は席から立ち上がる。

そうしてレジに向かおうとした時

 

 

「はぁ………」

 

 

と、先程の操と簪のため息以上に音量が大きいため息が聞こえてきた。

思わず3人が同時にそっちの方向に視線を向けると、そこには1人で食事をしている女性がいた。

スーツをピッチリ着用したキャリアウーマンのような女性。

しかしどこか疲れ切ったような表情を浮かべながら椅子に座り込んでいる。

そんな女性がなんとなく気になった3人。

顔を見合わせて頷き合い、取り敢えず簪が声を掛ける。

 

 

「あのぉ…すみません、どうかしましたか?」

 

 

簪の声を聞いてゆったりとした動作で顔を上げる女性。

その活力が削がれたような表情の顔で簪、本音、操の順にその顔を見る。

 

 

「っ!」

 

 

女性は一瞬にして表情に活力を取り戻すとガバッと立ち上がり簪と操の肩を掴む。

 

 

(マズイか!?)

 

 

操が直ぐに交戦できる体勢になる。

しかし、そんな操の様子が気にならないかのように女性は鬼気迫った表情で言葉を発する。

 

 

「あなた達…バイトしない?」

 

 

「「「……へ?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんやかんやで1時間後。

レゾナンスに存在するメイド・執事喫茶『@クルーズ』。

 

 

「なんか、動きずらい…」

 

 

「は、恥ずかしい…」

 

 

「かんちゃ~ん、似合ってるよ~」

 

 

今此処には執事服を着用した操とメイド服を着用した簪、そして何故か着ぐるみパジャマに身を包んだ本音がいた。

 

 

「良い感じ良い感じ!」

 

 

そんな3人を見て、先程操達をバイトに誘った女性…この店の店長が目を輝かせながらそう声を掛ける。

 

 

店長がファミレスで活力を失っていたのは、今日はセール日であると同時に本部から視察の人が来るという超重大な日なのにも関わらず従業員が突如として大量に辞めてしまい人員不足で運営が出来なさそうだったからだ。

そんな中で見つけたイケメンと美女2人。

スカウトしない訳にはいかない。

 

 

そんな訳でスカウトされた3人だが、当初は断る気でいた。

しかし、提示された条件(時給1500円、制服支給、特別手当あり、気に入ったら時給1200円で引き続き労働可)に時給900円、用具自腹、福利厚生無しに応募する事も視野に入れていた操がぐらついた。

無許可でバイトする訳にもいかないのでいったん学園に連絡を入れた。

そうして対応した十蔵だが、今の男の生きづらさを理解しているのでそこまでの労働条件が整っている事はなかなかない事も理解している。

その為学園に戻って来てから書類を記入する事を条件に許可を出した。

 

 

許可が出たので操がバイトする事になり、操がやるならと簪と本音も参加する事になった。

 

 

そうして緊急研修も終わり実際に仕事着を着用したところである。

 

 

「いやぁ、本当にありがとうね!ほんとーに危なかった!」

 

 

「それは良いんですけど…なんでのほほんさんは着ぐるみパジャマなんですか?」

 

 

操がそう質問すると、店長は操に顔を近付けてヒソヒソ声で話す

 

 

「ほら…あの子、どちらかというとメイドよりあの服で集客してらった方が良いというか、それ以外やらせるとドジ踏みそうというか…」

 

 

「あ、あああ…ま、まぁ…」

 

 

初対面の店長に見抜かれてしまう本音の本質。

操は苦笑いを浮かべながらそんな微妙な反応をする。

そんな2人のやり取りの側では、簪と本音が会話をしていた。

 

 

「かんちゃ~ん、かわいい~」

 

 

「ほ、本音、大丈夫かな?違和感ないかな?」

 

 

「だいじょ~ぶ!それにしても意外だったな~」

 

 

「なにが?」

 

 

「かんちゃんがこーゆーとこで働くなんて」

 

 

本音の言葉を聞いた簪は目を伏せながら息を吐く。

その脳裏に浮かんでいるのは、今までの引っ込み思案だった頃の、操と出会い、姉妹の仲が悪かった頃の自分。

今思い返してみると、あの頃の自分が小さく感じる。

柄でもない事を思っているな、という感情とまるでヒーローの回想シーンみたいだ、という感情を同時に抱き思わず簪は笑みを浮かべる。

 

 

「私も、成長してるの。あの時とは、違うから」

 

 

「そっかー。じゃあ私も成長しないと!」

 

 

「……お菓子禁止」

 

 

「駄目!それは駄目!」

 

 

ボソッと呟いた事を聞き逃さず物凄い勢いで拒否をする本音に、簪は思わず苦笑いを浮かべる。

 

 

「さ、3人とも、今日はお願いね!全力でね!」

 

 

「「「はい!」」」

 

 

店長が両手をパンパンと叩きながらそう言い、3人が元気よく返事をする。

そうして、操、簪、本音のアルバイトが開始した。

 

 


 

 

「門藤君!これ3番テーブル!」

 

 

「はい、分かりました」

 

 

3人が働き始めて約1時間。

指示を受けた操がコーヒーと紅茶が入ったカップとソーサー、おしぼりと砂糖とミルクが入った容器が乗ったお盆を受け取り3番テーブルに向かって堂々とした足取りで歩いて行く。

3番テーブルに座りスマホをいじっていた2人組の女性客は、自分達の席に向かってくる黒髪イケメン執事の事を視認する。

2人は思わず操に見入ってしまう。

 

 

「お嬢様方、お待たせしました。紅茶とコーヒーになります」

 

 

「あ、ありがとうございます…」

 

 

「よろしければこちらで砂糖とミルクをお入れしますが、いかがなさいますか?」

 

 

「こ、コーヒーにはお願いします!」

 

 

「紅茶もお願いします!砂糖とミルク、タップリで!」

 

 

「畏まりました」

 

 

実は普段あまり砂糖とミルクを入れない2人。

しかし、今日だけはこのイケメン執事を少しでも長く近くで見ていたいという一心で半場無意識にそうお願いしていた。

そんな内心気にもせず微笑んだ操はいったんお盆を机の上においてからコーヒーのカップを手に取ると砂糖とミルクをコーヒーに入れマドラーでしっかりと混ぜる。

人間の味覚は均一に混ざったものよりも不均一なものの方が美味しく感じるという一説があるが、流石に客に出すコーヒーでやる訳にはいかないので均一になるように混ぜる。

 

 

「こちらコーヒーでございます」

 

 

「ありがとうございます///」

 

 

先程コーヒーについて口にした女性の前にソーサーを置き、その上にカップを置く。

 

カチャ

 

と、ソーサーとカップがぶつかる音が小さく鳴る。

物凄く様になっている一連の流れを見てその女性は顔を赤くする。

操はそれを見て再び笑みを浮かべると紅茶も手に取り同じように砂糖とミルクを入れる。

しかし、コーヒーと異なりミルクティーにならないように量を調整する。

 

 

「こちらアッサムティーでございます」

 

 

「あ、ありがとうございますぅ///」

 

 

「何かありましたら、遠慮なくお申し付けくださいませ。では、ごゆっくり」

 

 

操は恭しく頭を下げ、奥に戻っていく。

その動きに見惚れていた女性2人がそれぞれのコーヒーと紅茶に口を付けたのはそれから3分後だったとか。

 

 

「ふぅ……疲れるな」

 

 

「門藤君、もうバッチリ!」

 

 

「あ、店長…」

 

 

客に見られない場所で椅子に座りそう呟いた操に、店長が声を掛ける。

操が顔を上げて反応すると、店長が興奮したような様子で話し始める。

 

 

「いやぁ、研修はしたけどまさかここまでとは!もしかして前にやってた?」

 

 

「いえ、執事になるのも、飲食店でバイトするのも初めてです…」

 

 

「それでこの腕前…執事の才能あるよ!」

 

 

「あ、あはは…そうですかね?」

 

 

店長がバシバシ操の背中を叩きながらそう言い、操が苦笑いを浮かべながら返す。

 

 

「いやぁ、本当にありがとうね!君たちのお陰でなんとかなりそうだよ!」

 

 

「それは良かったです…そう言えば、簪達は……」

 

 

操はそう言うと、店内をぐるりと見回す。

 

 

「お待たせいたしました。こちらメロンクリームソーダとグラタンでございます」

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

お盆からコースターを机の上に置きその上にグラスに入ったメロンクリームソーダを、その隣にグラタンを置く青髪メイド…そう、簪である。

簪に接客してもらっているのは恐らく20台前半あたりだと思われる男性。

その男性は、簪の動作に見入っていた。

 

 

「では、ごゆっくり」

 

 

「え、あ、あう、あ…」

 

 

簪が頭を下げてから席から離れる。

男性はまだ簪と会話をしたかったようだが、止めることも出来ず何とも言えない表情を浮かべていた。

 

 

(や、やっぱり緊張するよぉ~~!!)

 

 

簪はやはりまだ緊張しているようだった。

 

 

操は店の出入り口の方に視線を向ける。

すると、店の入り口近くで着ぐるみパジャマ本音がメイドと共に店の看板を持っていた。

普通だったらメイド・執事喫茶の呼び込みに着ぐるみパジャマ姿の人だなんて使わないのだが、本音はやけに似合っている為特に違和感を持たれていなかった。

寧ろ、珍しいと人目を惹き結果売上アップに貢献していた。

 

 

「特に問題無さそうだな」

 

 

2人の現状を確認した操はそう安心したような声を漏らす。

 

 

「ほらほら門藤君!次は5番にこれだよ!」

 

 

「はい!分かりました!」

 

 

そんな操に店長が物凄い大きくてフルーツマシマシのパフェが乗ったお盆を手渡す。

それを受け取った操はそのまま5番テーブルに向かって行く。

 

 

そうして暫くの間平和な時間が過ぎる。

トラブルが起こったのは約2時間後。

店に入って来た男3人組が

 

 

「全員頭に手を当ててその場に蹲れ!!」

 

 

と、拳銃を突き付けながら叫ぶというある意味ベッタベタな言動をしたのだ。

急な事に店にいた操と簪を除く店員と客が呆気に取られたような表情を浮かべてる。

 

 

「あ、あのご主人様?いったい何を…」

 

 

「うるせぇ!とっととしろ!!」

 

 

パァン!!

 

 

店員の1人が声を困惑したように声を掛けると男の1人が手に持っている拳銃を天井に向かって発砲する。

 

 

『キャアアアアアア!?!?』

 

 

発砲音を聞き、悲鳴を上げる店員と客。

 

 

パァン!!パァン!!

 

 

「とっととしろって言ってるだろうが!」

 

 

兎に角、この強盗犯を刺激してはいけない。

そう考えた全員が大人しく指示に従う。

それは操と簪も同様だった。

離れた位置にいた2人は自然な動作で合流するとその場で蹲る。

 

 

「操さん、どうするんですか?」

 

 

「現状は待機だ。下手に刺激すると怪我人が出る」

 

 

そんな会話をした2人は頷き合うと注意深く強盗犯に視線を向ける。

ザワザワと店の外からの野次馬の声がだんだん大きくなっていく。

 

 

「ちっ!うるせぇ奴らだ!」

 

 

「まぁまぁアニキ、良いじゃないっすか。そんだけ俺らが注目されてるって事ですよ」

 

 

「そうですよそうですよ」

 

 

リーダー格であろう男がイラついた声を発するも残りの2人が宥めるように声を発する。

それを聞いたリーダー格の男は納得したように頷いた。

 

 

「おい!そこの女!」

 

 

「は、はいぃ!?」

 

 

手下の1人が店長に向かって拳銃を向ける。

店長は

 

(強盗?え、ヤバ、本部にどうやって説明しよう?)

 

とか的外れた事を考えていたのに急に拳銃を突き付けられ思いっ切りビビってる表情を浮かべる。

 

 

「これに店の売上金を全額詰めて、俺らにコーヒー淹れろ!」

 

 

「は、ははははい!」

 

 

(店長…)

 

 

男に指示された店長は泣きながら袋を受け取り店の奥の方に向かい売上金を詰める。

そうして震える手でコーヒーを3杯淹れ、袋と共に強盗犯達に手渡す。

店長から袋とコーヒーをひったくるかのように受け取った強盗犯達は席に座るとそのままコーヒーを飲み始める。

操と簪は視線を鋭くさせ注意深く3人の言動の事を見ている。

 

 

「簪、タイミングが来たら俺が行く。拘束に使えるものを探してくれ」

 

 

「分かりました」

 

 

操がそう言うと、簪は強盗犯にバレない範囲で店内を見回し拘束に使えるものを探す。

操は何時でも強盗犯達に飛び掛かれる体制になり、なにか武器になりそうなものを探す。

最悪ジュウオウザガンロッドをロッドモードで振るえばどうにでもなる…というよりそっちの方が操も取り回しやすいのだが、束特別製IS扱いであるジュウオウザワールドの武装なので下手に取りまわすと後々面倒になる可能性があるのだ。

いくら緊急時だとしても、相手が生身の人間だからだ。

 

 

『えー、犯人達に告ぐ!君達は完全に包囲されている!大人しく銃を捨て、投降しろ!』

 

 

「チッ!?もうサツが来たのか!?」

 

 

ここで、外から拡声器越しのそんな声が聞こえてくる。

犯人達が外に視線を向ける。

 

 

「あ、アニキ!ど、如何しましょう!?」

 

 

「こうなったらぁ……!おいお前!来い!!」

 

 

「わにゃあ!?」

 

 

リーダー格の男が近くにいた店員を掴み、そのこめかみに拳銃を押し付けて店の外にいる警察に向かって大声を発する。

 

 

「お前らぁ!逃走用の車を準備しろ!さもねぇと、コイツの頭が吹き飛ぶぞ!」

 

 

その瞬間に簪が小さく息を詰まらせる。

何故なら、男が掴んだ店員が

 

 

「本音……!!」

 

 

本音だからだ。

友人があんなことになって衝撃を受けない人なんていない。

 

 

「オラァ!とっととしやがれ!」

 

 

警察や野次馬は、突然の事にザワザワと動揺の声が大きくなっている。

それを見ながら強盗犯達はほくそ笑む。

このままいけば、逃げ切れる。

そう考えているからだ。

 

 

「ん?おいお前!」

 

 

そんな中、部下の1人が本音に詰め寄る。

それは何故か。

 

 

「お前、何笑ってやがる!」

 

 

本音が、こんな状況なのにも関わらず笑みを浮かべているからだ。

 

 

「え~?だって~、今このお店には世界の王者がいるから~」

 

 

「はぁ?てめぇ何言っ」

 

 

その言葉は、そこで途切れた。

いや、途切れざるを得なかった。

 

 

「オラァ!」

 

 

「グヘェ!?」

 

 

執事服に身を包んだ世界の王者が、その男の事を掃除用モップで思いっ切り殴ったからだ。

 

 

「なっ!?てめぇ!?」

 

 

「ハァア!」

 

 

慌てて男の1人が操に銃口を向けるも、操はそのまま大きく踏み込んで銃口の死角に入るとそのままモップで男の金的を叩く。

 

 

「あがぁ!?」

 

 

「寝てろ!」

 

 

操はその男のことを蹴り飛ばす。

そうしてそのままの勢いでリーダー格の男に視線を向ける。

 

 

「て、てめぇ!動くんじゃねぇ!この女がどうなっても……」

 

 

「ハァッ!」

 

 

「いてぇ!?」

 

 

リーダー格の男が何か言おうとする前に操は男の眉間に向かってモップを投擲する。

綺麗に回転しながら放たれたモップは眉間にクリーンヒットする。

その時の衝撃で手から拳銃を落とし、本音の事を解放する。

 

 

「お前らの世界は、これで終わりだ!」

 

 

その言葉と同時に操は男に向かって思いっ切り拳を振るう。

 

 

「ぐふっ!?」

 

 

綺麗なフォームで放たれたそのパンチは男の腹にクリーンヒットし吹き飛ぶ。

 

 

「簪!確保!」

 

 

「はい!」

 

 

操の言葉と同時に店の奥で梱包用の紐を発見していた簪がやって来て、素早い動きで拘束を開始する。

 

 

「ぐ、がぁ…!こう、なったっ!?」

 

 

「コイツは回収だな」

 

 

リーダー格の男が最後の抵抗をしようとした時、操が男の腕を掴んで拘束するとその着ている服を開き身体に巻き付いていた自爆用だと思われるダイナマイトを回収する。

 

 

「なん、で、それが…!」

 

 

「悪いな。爆発物を見つけるのには慣れてるんだよ」

 

 

犀男のジューマンパワーを得ている操は手の感覚が犀の皮膚のようにとても敏感なのである。

嘗ての世界でこの感覚を生かし町から爆発物を探していたように、男を殴った際に服の下に爆発物があるというのを察したのである。

リーダー格の男はそのまま気絶し、簪によって拘束される。

 

 

「のほほんさん!大丈夫!?」

 

 

「だいじょ~ぶです!操さん、ありがと~ございましたぁ!」

 

 

元気な様子を見た操と簪は安心したようなため息をつく。

 

 

『……おおおおお!!』

 

 

パチパチパチパチ!!

 

 

呆気に取られていた野次馬は大きな歓声と拍手を操と簪に送る。

 

 

そうして、それから男3人は無事逮捕され操達3人も事情聴取を受けたが目撃者が何人もいた為特に御咎め無しで解放された。

この時に操が男性IS操縦者だとバレはしたものの特に大きなトラブルはなく、また@クルーズの店長や本部の人に感謝された。

帰ったらもう1回事情聴取があるんだろうなぁ、とか考えながら3人はIS学園に帰って行くのであった。

 

 

因みに、操はここでのバイトをまだ続ける事にしたそうである。

 

 

 




@クルーズの店員さんのプライドブレイクが無かった理由は操の仕事が調理ではなく配膳と接客だったからです。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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動物園に行こう

サブタイそのまま。

作者の私生活が7月いっぱいまでありえないくらい忙しくなるので、更新頻度が下がったり下がらなかったりします。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

操達が強盗犯を撃退し警察の事情聴取を受けた数十分後。

3人はIS学園でも聞き取りを受けていた。

 

 

操達はただバイトしているところに巻き込まれただけであり、警察からも御咎め無しだった為IS学園からも罰則は無しになった。

聞き取りが終わり会議室から出た3人は身体を伸ばす。

 

 

「あぁ…疲れたぁ……」

 

 

「疲れましたね……」

 

 

「疲れた~~~」

 

 

操、簪、本音の順番でそう呟く。

 

 

「ごめんね2人とも、変な事に巻き込んで」

 

 

「いえいえ、操さんは悪くないですよ。悪いのはあの強盗犯です」

 

 

「そ~ですよ。気にしないで下さい」

 

 

「そっか。ありがとう」

 

 

あの現場に巻き込んでしまったのは自分がバイトのスカウトをあの場で受けたからなので、多少なりとも責任を感じていた操。

簪と本音にそう言われ安心したような息を吐いた。

 

 

「それじゃ、そろそろ帰ろうか。部屋まで付き添うよ」

 

 

「え、でも…」

 

 

「良いから良いから」

 

 

「…分かりました、お願いします」

 

 

そうして、操は寮の部屋まで2人に付き添う事になった。

校舎の外に出ると、少し熱気をおびた風が吹く。

 

 

「まだ明るいし、まだ暑いな…」

 

 

「そうですね…暑いとやになっちゃいます」

 

 

「アイスは美味しく感じるんだけどねぇ~~」

 

 

どんな時でも平常運転の本音に、操と簪はついつい苦笑いを浮かべてしまう。

 

 

「のほほんさんはどんな時でものほほんさんだね」

 

 

「まぁ、本音が変わっちゃったらそっちの方が慌てる自信がります」

 

 

「むぅ。私だって、変わろうと思えば変われるんだよぉ~?」

 

 

「じゃあお菓子禁止にして成長を「駄目!それだけは本当に駄目!!」これも含めて本音」

 

 

2人のやり取りを見て微笑ましい表情を浮かべていた操だが、

 

 

ダダダダダ!

 

 

「ん?足音?」

 

 

遠くの方から聞こえてくる足音に首を捻る。

 

 

ダダダダダ!

 

 

「え?」

 

 

「んー?」

 

 

足音は大きくなり、簪と本音も気が付いた。

3人が足音が聞こえてきた方向に視線を向ける。

操は万が一に備えポケットに入っているジュウオウザライトに手を伸ばす。

だが、そんな警戒は直ぐに解かれることになる。

何故なら

 

 

「簪ちゃぁあああああああああん!!」

 

 

涙をボロボロ流しながら簪の名前を叫ぶIS学園生徒会長が猛スピードで簪に突っ込んでいったからだ。

 

 

「ちょ、お姉ちゃん!?」

 

 

「簪ちゃぁん!簪ちゃぁああん!!」

 

 

楯無は簪に抱き着き胸元に顔を押し付けわんわんと泣き始める。

簪は急に抱き着かれ、尚且つ楯無が泣いているのでどうしたら良いのか分からずアワアワする。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」

 

 

「あ、虚さん」

 

 

「み、操さん、どうも…」

 

 

楯無がやって来た方向から、息を切らしながら走る虚がやって来た。

肩で息をして、なんとか呼吸が整ったのを確認してから操が話し掛ける。

 

 

「あの…楯無さんどうしたんですか?」

 

 

「か、簪お嬢様が強盗事件に巻き込まれたと聞きまして…」

 

 

「あ、あー、はい」

 

 

それだけで全てを理解した操。

 

 

「すみません、俺がバイトしなければ…」

 

 

「いえいえ、気にしないで下さい。操さんも生活があるでしょうし…」

 

 

「あ、簪から聞いたんですか?」

 

 

「はい、アルバイト前にお電話を頂きまして。勝手に聞いてしまい申し訳ありませんでした」

 

 

「気にしないで下さい。事実しか言ってないんですし」

 

 

ここで会話を終わらせ、操は簪と楯無に視線を向ける。

それと同時に虚も視線を2人に向ける。

楯無は未だに簪に抱き着いていた。

 

 

「流石に引きはがしましょうか?」

 

 

「お願いできますか?」

 

 

「任せてください」

 

 

操は2人に向かって歩いていく。

 

 

「簪、今からこの会長を引っぺがすから」

 

 

「分かりました」

 

 

会話の後、簪の肩と楯無の頭に手を置く。

そして

 

 

「フンッ!!」

 

 

力を籠めて無理矢理引きはがす。

 

 

「あ、ありがとうございます…」

 

 

「どういたしまして…なのかな?」

 

 

操は首を捻る。

それはそうとと、楯無の事を立ち上がらせる。

 

 

「楯無さん、簪も本音も無事ですから」

 

 

「お姉ちゃん、私は無事だから」

 

 

2人が楯無にそう声を掛ける。

 

 

「簪ちゃん…操さん…」

 

 

暫くの間呆けたような表情を浮かべていたが、やがてゴシゴシと涙を拭き笑顔になる。

 

 

「お帰りなさい!」

 

 

「「…ただいま!」…で、良いんですかね?」

 

 

楯無の言葉に簪は笑顔で、操は苦笑をし首を傾げながらそう反応する。

そんな3人の事を、布仏姉妹がニコニコしながら見ていたのだった。

 

 


 

 

激動の日から3日が経ったある日。

操と更識姉妹、布仏姉妹は電車に揺られていた。

理由は単純。

これから5人は動物園に行くからである。

 

 

事の発端は2日前。

楯無が急に

 

 

「みんなで動物園に行きましょう!」

 

 

と言い出したからだ。

もとより賑やかな事が大好きな楯無。

折角の夏休みなのでなにかお出かけをしたかったのだろう。

 

 

動物園に行くのに拒む理由は無い。

そういう訳で、この5人で動物園に向かっているのである。

 

 

「動物園ってどういうところなんですか?」

 

 

「最近出来たばっかりの所ですね」

 

 

「良くチケットとれたね、お姉ちゃん」

 

 

「ふっふん!今日の為に1か月前から頑張ったからね!」

 

 

「…今日無理だったらどうしてたんですか?」

 

 

操がそう尋ねると、楯無はわざとらしく視線を泳がせる。

 

 

「お嬢様、決めていなかったのですね?」

 

 

「……はい」

 

 

虚に言われ、しゅんと肩を落とす楯無。

それを見て虚はため息をし、操と簪は苦笑いを浮かべる。

 

 

「お姉ちゃんらしいというか、なんというか」

 

 

「あ、あはは…」

 

 

そうしていると、電車内に降車アナウンスが流れ始める。

操達は準備をし始めるのだが…

 

 

「スピィー、スピィー」

 

 

「本音、起きて、起きて」

 

 

本音がぐっすりと眠っていて起きない。

簪が肩をゆすりながら声を掛けるも、一向に起きない。

 

 

「まだ朝の9時50分なんだけどな…いや、9時50分だからか?」

 

 

「は、恥ずかしい…」

 

 

操が苦笑しながらそう言うと、虚が視線を逸らす。

姉として妹がこんなぐーたらだと恥ずかしいのだろう。

どうやって起こそうかと操達が考えていると、簪が本音の耳元で囁く。

 

 

「本音…起きないと本音のお菓子全部食べちゃうよ」

 

 

「起きる!起きます!」

 

 

一瞬でガバッと起きた本音。

簪の手際の良さに操達3人が驚きの表情を浮かべる。

 

 

そんなこんなで駅に停車し、5人は降りる。

動物園は駅からバスに乗る必要があるのでバス停に向かう。

バスに乗り込み揺られる事十数分。

 

 

「着いたぁ!」

 

 

「着いたぁ~」

 

 

5人は目的地である動物園『超!楽しい!ワイルド園!!』にやって来た。

 

 

「名前…」

 

 

「エクスクラメーションマークの主張が…」

 

 

「もっと考えられなかったのかな…」

 

 

出入口となるゲートにでかでかと掲げられている看板を見て操、虚、簪の順でそう呟く。

 

 

「早く行きましょう!」

 

 

「行こう行こう~!!」

 

 

さして気にする様子を見せずはしゃいでいる楯無と本音。

操達は苦笑いを浮かべると2人の後に付いて行き園の中に入る。

 

 

~サバンナコーナー~

 

 

「ライオンだぁ~!」

 

 

「あ、あっちはアフリカゾウ!」

 

 

「へぇ、最初っからライオンとかを見せてくれるだなんて珍しい気がする」

 

 

「それに、ライオンがしっかり出て来てますね。暑いから奥にいる場合も多いでしょうに」

 

 

まず最初にやって来たのはサバンナコーナー。

多種多様な生き物が一度に見れる目玉コーナーの1つ。

楯無と本音はキラッキラした目で見ているし、簪と虚も興味深い視線で動物たちを見ている。

そんな中、操はライオンやゾウを見て少し悲しそうな表情を浮かべる。

 

 

(レオ、タスク…それに、シマウマとかキリンも…)

 

 

だが、折角楯無が誘ってくれたのだと頭を振って意識を切り替えると、4人を追いかけていく。

そうしてサバンナコーナーをいろいろ見ていく。

 

 

「あ、犀だ」

 

 

「おっ?」

 

 

そうして、5人は犀の前にやって来た。

操がピクリと反応し近付いていく。

 

 

「あ、そうか。操さん、犀とは関わりが…」

 

 

「そうそう」

 

 

簪と操がそう会話したことで、他の3人はジュウオウザワールドに犀が描かれている事を思い出した。

操としてはただ描かれているだけでなく身体に犀男のジューマンパワーが存在する為犀とはズブズブの関係(一方的にそう思っているだけ)なのだ。

恋人であるリリアンも人ではなく犀のジューマンである為尚更そう思っている。

 

 

〈…!!〉

 

 

「ん?なんだ?」

 

 

犀たちは一斉に操に視線を向けると、同時に操に向かって歩いてくる。

操が驚いたような声を発するが、そんな事犀には関係が無い。

柵ギリギリまでやって来た犀たち。

 

 

〈……〉

 

 

「えっ…?」

 

 

「これは…?」

 

 

「さ、犀たちが…」

 

 

「跪いている…?」

 

 

「凄~い!」

 

 

操、簪、楯無、虚の順番で呆けたような表情を発し、本音が無邪気に笑い声をあげる。

そう、犀たちは並ぶとまるで跪くかのようにしゃがんだのだ。

周囲の他の客たちもその異様な光景を見てなんだなんだとザワザワし始める。

 

 

(もしかしなくても、犀男の影響だよな?え、もしかして犀のジューマンの中でもかなり身分高かったの?)

 

 

その疑問を抱くと同時に、久しぶりに脳内会議が開かれる。

 

 

〈そうだぜ?俺は結構すごかったんだぜ?〉

 

 

〈はっ!それを言うなら?俺の方が凄いんだよなぁ?だって俺は狼の王だったんだからな!〉

 

 

〈それを言うなら俺だって!俺も鰐の王…〉

 

 

〈おいおい、それは某ゴリラのゲームの敵キャラじゃんか。パクリだパクリ〉

 

 

〈違うし!それを言ったらお前だってアメリカの著書と被ってるじゃんか!〉

 

 

〈ええいお前ら!今は俺が凄いって事を話してるんだよ!〉

 

 

〈〈なぁ~にぃ~~?〉〉

 

 

(あああ、もう!ちょっと落ち着いてよ!)

 

 

「…さん?操さん!?」

 

 

「はっ!?」

 

 

脳内会議に集中し過ぎて暫くの間ボーッとしていた操。

簪に肩を掴まれ揺らされ漸く現実に戻ってきた。

 

 

「どうしました?」

 

 

「い、いや、なんでも無いよ。ちょっと暑かったから」

 

 

「休憩しましょうか?」

 

 

「いや、大丈夫ですよ。次行きましょう!」

 

 

簪と虚が心配するが、操がそう言った事で切り替える事にした。

犀たちももう既に元居た場所に戻っている。

それを確認した操達は次のコーナーに向かうのだった。

 

 

~小動物コーナー~

 

 

「「可愛い~~!」」

 

 

「か、簪ちゃぁん…簪ちゃんも可愛いわよぉ…」

 

 

「た、楯無さん落ち着いて下さい!」

 

 

「お嬢様!お気を確かに!」

 

 

小動物コーナー。

兎やモルモット、少し離れたところには水族館でも無いのにカワウソもいるコーナー。

簪と本音がふれあいコーナーで兎とふれあい笑みを浮かべていた。

それに伴い楯無が暴走しかけているが、操と虚が必死に抑えている。

 

 

「ふぅ、ふぅ…ご、ごめんなさい。落ち着きました」

 

 

「全く…お嬢様、少しはその暴走癖を直してください」

 

 

「癖じゃないわよ!癖じゃない、わ、よ?」

 

 

「なんで不安になってるんですか…ほら、俺達も行きましょう」

 

 

「そうですね、行きましょう!」

 

 

なんとか楯無の暴走を未然に食い止めた操と虚は楯無と共に簪達と合流する。

 

 

「あ、操さ~ん、お姉ちゃ~ん、お嬢様の暴走抑えれたんですか~?」

 

 

「なんとか」

 

 

「……うちの姉がすみません」

 

 

「簪様、お気になさらず。お嬢様の暴走を鎮めるのも私の仕事です」

 

 

「ちょっと!?それじゃあ私が問題児みたいじゃない!」

 

 

「そう言ってる」

 

 

「そう言ってます」

 

 

簪と虚に切り捨てられ、ショックを受けたのかズーンとした表情を浮かべる楯無。

 

 

「お嬢様~、もふもふですよぉ~~」

 

 

良い意味で空気を読まない本音が楯無に声を掛ける。

しっかりと手入れが施され、もっふもふの綺麗な毛並みを持つ兎。

 

 

「可愛い!」

 

 

落ち込んでいた楯無も、その可愛さにテンションが上がる。

本音のように兎を撫でようと1匹の白い兎に手を伸ばす。

手を伸ばされている兎も楯無に気が付いた。

兎の視力は人間で言うところの0.05~0.1程。

しかしその分聴覚や嗅覚に優れている為、楯無の匂いに反応したのだ。

そうして楯無の手が兎に触れる…その瞬間。

 

 

「痛いっ!?」

 

 

「「「「ぶっ!?」」」」

 

 

楯無が指を兎に噛まれた。

思わず他4人が噴き出す。

 

 

「痛たたたた!?ちょ、離して離して!!」

 

 

「ふ、ふふふ!」

 

 

「アハハ~!」

 

 

「笑ってないで助けてよ!痛い痛い!」

 

 

「お、お嬢様、い、今すぐ助けますので…プフッ」

 

 

「虚ちゃんも笑ってるじゃない!」

 

 

楯無が助けを求めても、簪、本音、虚は笑っている為助けてくれない。

最後の希望として操の事を探す楯無。

その操はというと…

 

 

「お~、よしよし」

 

 

「せめて興味は示してください!?」

 

 

兎を撫でていた。

楯無の悲鳴に笑みを浮かべているあたり、わざとなのだろう。

 

 

「楯無さん、もう離されてますよ」

 

 

「え?そういえば…」

 

 

操に言われ、自分の指がもう痛くない事に気が付いた楯無。

視線を向け直すと、さっきまで自分の指を嚙みちぎらんばかりの勢いで噛んでいた兎が頬で手をすりすりしていた。

 

 

「か、可愛い…!」

 

 

「チョロい」

 

 

「簪ちゃん!?」

 

 

簪に言われ、悲鳴を上げる楯無。

そんなやり取りを見て、残りの3人は苦笑を浮かべるのであった。

 

 


 

 

あれから、5人は動物園をひとしきり楽しんだ。

食事の際には本音がレストランや外の売店で売っているスイーツを全種類食し操達や他の客たちを驚かしたり、室内のコーナーで展示されていた爬虫類や両生類に簪と虚がビビったり、鳥類のコーナーで鷹を見た操がやはり悲しそうな表情を浮かべたりなどなど…

 

 

時刻は15:30。

帰らないとIS学園到着するのがかなり遅い時間になってしまうので、もう既に5人は帰路についている。

 

 

「操さん、すみません。荷物持ってもらっちゃって」

 

 

「気にしないで気にしないで。寧ろ男の仕事でしょ、荷物持ちは」

 

 

簪の言葉に、操が笑顔でそう返答する。

操は今、簪達がお土産として購入したぬいぐるみ等が入った袋を抱えているのだ。

 

 

「すみません、つい楽しくなっちゃって…」

 

 

「いえいえ、折角なんですからお土産は買わないと」

 

 

「でも操さんは買って無かったですよね?」

 

 

「最近バイト始めたばっかりなんで、まだ給料入って無いんですよ。あの当日の奴は食費になりましたし」

 

 

「なるほど…」

 

 

虚と会話した操はチラッと袋の中のぬいぐるみに視線を向ける。

 

 

「いやぁ、ぬいぐるみなぁ。今度久々に作ろうかな」

 

 

「えっ!?操さんぬいぐるみも作れるんですか!?」

 

 

その呟きを聞いた楯無が驚きの表情を浮かべる。

 

 

「そうですよ。昔からぬいぐるみ作りは得意なんですよ。ちょっと待っててください」

 

 

操はそう言うと大きな荷物を持っているとは思えない程器用にスマホを取り出すと画像を表示させ楯無達に見せる。

そこに映っているのは、操が3月末に作りラウラ達にあげたぬいぐるみの写真。

 

 

「これは…?」

 

 

「今ドイツではラウラの部隊にお世話になってるんですよ。その隊員達にあげた手作りぬいぐるみですね」

 

 

バキィ!!

 

 

説明を聞いた途端、そんな何かが折れる音が聞こえた。

気がした。

 

 

「どうしました?」

 

 

身に纏っているオーラが明らかに暗くなった4人へ操がそう質問する。

しかし、4人はそんな操に反応することなく(反応する余裕などなく)、4人で固まるとヒソヒソと話し始める。

 

 

「負けた…」

 

 

「はい…私なんかのより全然綺麗です…」

 

 

「操さんには料理では絶対に勝てないけど、裁縫でも勝てないなんて…」

 

 

「もしかしたら~、掃除とかでも負けてたりして~…」

 

 

「…それは全然あり得る」

 

 

「そうなったら、私達何一つ操さんに勝って無いわよ?」

 

 

「お姉ちゃん、学園最強なんじゃないの?」

 

 

「あ、あんな凄いのに直接戦ったら負けちゃうかもしれないじゃない!」

 

 

「それは確かに~」

 

 

「……と、言う事は何一つ操さんに勝てる自身が無い、という事ですか……」

 

 

「「「「はぁ……」」」」

 

 

「???」

 

 

同時にため息をついた楯無達。

操は首を傾げる。

 

 

「どうしたんですか?」

 

 

「い、いや、なんでも無いです…」

 

 

「そうです、なんでも無いです…」

 

 

「なら良いですけど…ずっと此処に留まってる訳にもいかないですし取り敢えず移動しましょう」

 

 

操にそう言われ、楯無達は再び歩き始める。

 

 

(なんだ?俺が原因か?)

 

 

なんで楯無達が落ち込んでいるのか理解できないが、なんとなく自分が切っ掛けなんだど察した操。

なんとか雰囲気を良くしようと言葉を発する。

 

 

「きょ、今日は楽しかったですね!のほほんさん、どうだった?」

 

 

良くも悪くも切り替えるのが素早い本音。

操に尋ねられ、明るく返答する。

 

 

「楽しかったですよ~!いろんな動物見れましたし!」

 

 

先程まで自分達と同じように落ち込んでいたはずの本音が明るく答えた事で、自分達が未だに引きずってるのがバカバカしくなり、簪達は笑みを浮かべる。

 

 

「簪達はどうでした?」

 

 

「楽しかったです!」

 

 

「思い出もたくさんできましたし!」

 

 

「はい、とても有意義な時間でした」

 

 

操に問われ、3人は笑顔のままそう返答する。

雰囲気が明るいものに切り替わったので操もホッとしたような息を吐く。

 

 

「まだまだ夏休みはありますから!」

 

 

「そうですね、まだまだ楽しんで思い出作りましょう!」

 

 

「「「おー!」」」

 

 

そうして、5人は笑顔のままIS学園に帰って行くのだった。

 

 

 




なんか終わりスゲェ微妙になっちまった。
許してください。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、よろしくお願いします!


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夏祭りは燃え上がれ

祭りだ祭りだぁ!
灼熱祭りだぁ!

真っ赤に燃えろ一番星!
俺より強い奴は居ねぇ!!


三人称side

 

 

操達5人が動物園に行ってから暫くたったある日のお昼。

バイトの為IS学園にいない操を除いた釣り組がラウラの部屋に集まって夏休みの課題を行っていた。

ラウラと簪はもう既に終わっているのだが、他の人達の…特に本音の…サポートの為に参加している。

そして今は勉強を休憩し、全員で昼食を食べていた。

 

 

「ふぇええ…つーかーれーたーよー」

 

 

「本音、お行儀悪い」

 

 

ぐでーっと机の上に伸びている本音に簪が注意をする。

そんな2人に他の人達が微笑ましいものを見る表情を浮かべる。

 

 

「あはは、まぁ仕方が無いんじゃない?私達も結構疲れたし…」

 

 

「そうそう。ボーデヴィッヒさん達は凄いね、こんな量をもう終わらせてたなんて。まだ流石に終わってないと思ってたよ」

 

 

ティナと静寐に言われ、簪とラウラは顔を見合わせる。

 

 

「まぁ、私達は代表候補生で専用機持ちだからな」

 

 

「これくらい出来ないと、示しがつかない」

 

 

「はへぇ~、専用機持ちってそういうとこまで考えないといけないんだね」

 

 

「いや、本当はここまでしなくても良いとは思うんだけど…」

 

 

「操を意識したらこうなってしまうんだ」

 

 

簪とラウラの言葉を聞き、ティナ達が首を捻る。

 

 

「操さんを?」

 

 

「ああ、操には料理でも裁縫でも戦闘でも勝てないんだ」

 

 

「え、操さんって裁縫も出来るの?臨海学校で料理できるのは知ってたけど…」

 

 

「少し待っててくれ」

 

 

ラウラはそう言い席を立つと、クローゼットの中から自身のデフォルメぬいぐるみを取り出すと戻って来る。

 

 

「これは?」

 

 

「以前に操が作ってくれたぬいぐるみだ」

 

 

「うわ…縫い目綺麗すぎる…」

 

 

「生地もしっかりしてるし、それに可愛い…」

 

 

目の前のあまりの完成度を誇るぬいぐるみ。

これを見て操の裁縫技術の高さを理解したティナ達。

戦闘力の高さはもう既に春十との模擬戦や乱入者3人との戦闘で十二分に分かっている。

 

 

「そういう訳だから、せめて勉強は勝ちたいなって…まぁ、そもそも勉強は勝ち負けを付けるものじゃないんだけど」

 

 

「あれ?でも操さんこの前の期末かなり点数高かった記憶が…」

 

 

「そもそも動物学者のアシスタントしていたらしいし、元々かなり頭良いのでは?」

 

 

「「………」」

 

 

さゆかに言われ、ラウラと簪は黙り込んでしまう。

 

 

「と、取り敢えず勉強を再開するぞ!」

 

 

「そうだね!早く再開しよう!」

 

 

ラウラと簪は逃げるように食べ終わった食器を片付け始める。

そんな様子にティナ達は苦笑を浮かべるも、自分達も食器を片付ける。

因みに、本音はラウラがぬいぐるみを取りに席を立った時にはもう寝ていたらしい。

 

 

そうして勉強を続ける事数時間。

現在時刻16:00。

 

 

「終わったぁ~~!!」

 

 

「本音、おめでとう」

 

 

「ありがとかんちゃ~ん!」

 

 

本音を始めとした簪とラウラ以外の全員の夏休みの課題が無事に終了した。

嬉しさと疲れで床に倒れ込む本音にラウラ達が苦笑いを浮かべながら視線を向けている。

 

 

「なんか、小腹が空いたね」

 

 

「ね。おやつみたいなの少しだけ食べたいかも」

 

 

「すまないが、私の部屋に菓子類は置いて無いんだ」

 

 

神楽と癒子の言葉に、ラウラが申し訳なさそうな表情を浮かべながらそう言う。

 

 

「私の部屋にはお菓子がいっぱいあるよ~」

 

 

「うん、なんとなく分かってた」

 

 

「それじゃあ、私と本音が取ってく…」

 

 

簪の言葉は、そこで遮られた。

理由は単純明快。

 

 

ピーンポーン

 

 

部屋のチャイムが鳴ったからだ。

 

 

「なんだ?予定にない人が私の部屋に来ることなんて今まで無かったぞ?」

 

 

ラウラはそう呟くと扉に向かって行き、そのまま開く。

 

 

「操?」

 

 

「よっ」

 

 

扉を開けた先にいた操に、ラウラは驚きの声を発する。

 

 

「あれ、操さん?今日はアルバイトなんじゃ…」

 

 

「今終わって帰って来たところ」

 

 

部屋の中から顔を出した簪に操がそう返答する。

ラウラに連れられ部屋の中に入る操。

 

 

「あ、操さん」

 

 

「課題終わった?」

 

 

「はい、なんとか…」

 

 

「それは良かった」

 

 

部屋の中にいたティナ達をそう会話した後右手に持っていた箱を机の上に置く。

 

 

「これは?」

 

 

「店長から貰ったあまりのクッキー。俺よりみんなの方が好きだと思ったからあげる」

 

 

「いーんですか!?」

 

 

「うん、食べて食べて」

 

 

丁度いいタイミングでの操からの差し入れ。

それに歓喜した本音が早速箱を開ける。

そうしてティナ達や簪、ラウラと共にクッキーを食べ始める。

 

 

「食べながら聞いて欲しいんだけどさ」

 

 

「うん?」

 

 

「これ、どう?」

 

 

操は机の上に1枚の紙を置きながらそう言う。

それと同時にラウラ達がそれに視線を向ける。

その紙にはでかでかと

 

『夏祭り開催!』

 

と書かれており、その下には花火と屋台、そして浴衣を着用した美人の絵が描かれていた。

 

 

「これは?」

 

 

「3日後の夏祭りの開催チラシ。みんなどうかなーって思って」

 

 

操のその言葉を聞き、ラウラ達は顔を見合わせた後操に視線を向け、一斉に頷く。

こうして、全員の夏祭り参加が決定した。

 

 


 

 

3日後、夏祭り本番の日。

時刻は17:50。

会場である『篠ノ之神社』の鳥居前。

此処にはラウラ達を待つ操がうちわで扇いでいた。

 

 

今の操の格好は男性用の浴衣。

浴衣の前面の右側は何時ぞやの法被のように黒、金、銀の3色で構成されており、前面左半分には犀、鰐、狼が描かれている。

そして背後には2匹の鷲にサメ、ライオン、ゾウ、トラ、ゴリラ、クジラが描かれている。

まさしく1人ジュウオウジャーである。

 

 

「操さ~ん!」

 

 

「お?」

 

 

自身を呼ぶ声が聞こえて操は視線をそちらの方に向ける。

その視線の先には、煌びやかな女性用の浴衣に身を包んだラウラ達が歩いて来ていた。

 

 

「みんな!」

 

 

「操さん、お待たせしました!」

 

 

操に簪が代表してそう声を掛ける。

 

 

「へぇ~、みんな似合ってるじゃん」

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

「操さんも浴衣似合ってますね!」

 

 

「そうかな?」

 

 

イケメンが浴衣を着用しうちわで扇いでいるのだ。

なかなか絵になっている。

 

 

「それで、ラウラはどうしてそんなに奥に引っ込んでるんだい?」

 

 

操の言葉通り、ラウラはさゆかや静寐の奥に隠れるようにしていた。

綺麗に結われた銀髪がチラッと見えているが、それ以外は浴衣の裾以外見えていない。

 

 

「い、いざこう人が大勢の所に来ると、は、恥ずかしい…」

 

 

(か、可愛い……)

 

 

ボソボソとそう呟くラウラに、操以外の全員が同時にそんな思いを抱く。

 

 

「1年1組のマスコット枠はのほほんさんから交代かな?」

 

 

「えっ?私ってマスコット枠なんですか~~?」

 

 

心底意外そうな表情を浮かべながら本音がそう言う。

すると、本音本人以外の1組生徒全員が同時に頷いた。

 

 

「確かに、本音はマスコットになりうる」

 

 

「かんちゃんまで~?」

 

 

簪に言われてもなお、本人は納得出来ていないようだ。

そんな本音をいったん放っておいて、操はラウラに声を掛ける。

 

 

「ラウラ、恥ずかしがること無いよ。大丈夫だって」

 

 

「う、だが、だがな…」

 

 

未だにうじうじしているラウラ。

次はどうしようかと思案をしていると、簪がピョコッと操の背後から首だけを出してラウラに声を掛ける。

 

 

「ラウラ、早くしないとあの人が密集してる場所に押し込むよ」

 

 

「っ!で、出ればいいんだろう、出れば!」

 

 

簪の言葉を聞いて、バッと飛び出るラウラ。

 

 

「やっぱり。変なところ無いから大丈夫だよラウラ、似合ってる」

 

 

そのラウラの浴衣姿を見て、操は素直な感想を漏らす。

隠れていた時でも見えていた結われた銀髪は浴衣にとても似合っている。

何時もの眼帯はそのままだが、それが逆に浴衣の雰囲気を引き立てるものになっていた。

 

 

「さ、折角のお祭りなんだ。楽しもう!」

 

 

『おー!!』

 

 

「お、おぉぉ…」

 

 

操の言葉に、ティナ達が元気よく、ラウラがまだ恥ずかしがりながら返事をする。

全員で屋台に向かって歩いていく。

浴衣を着用した美女8人にイケメン1人。

そこそこ目立っている。

しかし向けられている視線を無視して操達は屋台を物色する。

 

 

「操さん、気になってることがあるんですけど」

 

 

「どうしたティナ」

 

 

「その浴衣、何処で用意したんですか?」

 

 

「気にしたら負けだ」

 

 

「は、はぁ…」

 

 

それ以上聞いても答えが返ってくるわけではないと察したティナは操への質問を止めた。

取り敢えず全員が各々好きな食べ物を購入し、食べ始める。

 

 

「あっぶねぇ~、マジでバイトしててよかった。高すぎだろ」

 

 

「お祭りですし、それは仕方ないですね」

 

 

「まぁ、それは分かってるけどさ」

 

 

焼きそばを啜りながら操と簪がそう会話する。

 

 

「ふむ、これは熱いがなかなか美味しいな」

 

 

「あ、ボーデヴィッヒさんたこ焼き初めて食べるんだ」

 

 

「ああ」

 

 

ラウラはティナやさゆかと共にたこ焼きを頬張っている。

 

 

「う~ん!やっぱり焼きトウモロコシが一番美味しい!」

 

 

「いやいや、ジャガバターでしょ!」

 

 

静寐と神楽が自分の好きな食べ物を語り合っている。

そうして完食した操達が合流する。

 

 

「あれ、本音は?」

 

 

「いや、見てないぞ」

 

 

「こっちも見てないよ」

 

 

そんな中、本音だけが合流していない。

全員で周囲を確認すると、案外すぐに発見することが出来た。

理由は単純。

 

 

「う~ん!美味し~!!」

 

 

本音が両手にわたあめや焼きイカ、りんご飴等々の大量の食べ物を抱えているからだ。

幸せそうに頬張っているからか本音は気が付いていないが、かなり目立っている。

 

 

「ほ、本音…」

 

 

簪が思わず頭痛を堪えるかのように頭を押さえる。

 

 

「あはは、あれがのほほんさんらしいか」

 

 

「確かにそうですけど…」

 

 

操が微笑を浮かべながらそう言うと、簪がため息を吐いてから言葉を零す。

そんなやり取りをしていると、本音も操達に気が付いた。

 

 

「あっ!操さ~ん!かんちゃ~ん!」

 

 

ゆったりとした足取りで合流する。

 

 

「良くそんな量を食べれるな…」

 

 

「ふっふ~ん!私にとってはこれくらい朝飯前だよ~~」

 

 

「もう夕方なんだけど」

 

 

「そう言う事じゃなくてね」

 

 

本音の言葉に疑問を抱いたティナ。

静寐が説明しているのを聞きながら、操は言葉を発する。

 

 

「それじゃあ、腹ごしらえも出来た事だし、遊ぼう!」

 

 

『おー!』

 

 

そうして、未だに食べている本音以外の全員が屋台を物色し始める。

 

 

「あ、射的!」

 

 

癒子が指差す先には、その言葉の通り射的の屋台が存在していた。

そこそこ豪華な景品が棚に陳列されている。

そしてその前の机の上にはコルク銃が何丁か準備されていた。

 

 

「お、いいじゃん。やろうやろう」

 

 

「よ~し!」

 

 

そうして、射的をする事になった。

先ずは癒子、静寐、神楽、さゆかの4人。

料金を払いコルク銃を構える。

1回で5発撃つことができ、的を落とす事でそれを景品としてもらう事が出来るというオーソドックスなルール。

 

 

「う~ん…」

 

 

「あ、惜しい!」

 

 

「やった!」

 

 

「あ~!」

 

 

結果として、全員大物を落とすことは出来なかった。

精々お菓子やストラップ程度の小物しかゲット出来なかった。

 

 

「う~ん、悔しいな…」

 

 

「良し、じゃあ次は俺達だな」

 

 

「頑張るぞ~!!」

 

 

操の言葉に、ティナが元気良くそう続ける。

そして操、簪、ラウラ、ティナの4人が料金を支払いコルク銃を構える。

射的とは思えない程構えている姿がバッチリ決まっている操とラウラと簪。

屋台のおっちゃんもその迫力に若干ビビる。

 

 

「よしっ」

 

 

「ふっ!」

 

 

「はっ!」

 

 

「ひ、ひぇ」

 

 

「あ、あわわ…」

 

 

操、ラウラ、簪の放った弾丸は綺麗に大物に吸い込まれていき、華麗に倒していく。

その容赦のなさにティナは若干引き、おっちゃんはあわあわし始める。

 

 

「ふぅ、まぁこんなもんか」

 

 

「ああ、なかなか良いんじゃないか?」

 

 

「やった…買えなかったフィギア…まさかこんなところで手に入るなんて…」

 

 

「あ、簪、俺の分もあげるよ」

 

 

「良いんですか!?」

 

 

「ああ、俺フィギア飾る棚持って無いから。だったらフィギア好きな人にあげた方が良いでしょ?」

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

「フム、ならば私のもあげるとしよう」

 

 

「ラウラも!ありがとう!」

 

 

操とラウラと簪がそんな会話をしながら歩いていく。

欲しかったフィギアを一気に大量に、しかもお得に入手した簪はホクホクした笑顔を浮かべている。

そんな簪の反応を見て、操とラウラも笑顔を浮かべる。

 

 

「あ…」

 

 

残されたすっからかんの棚を見て、おっちゃんは崩れ落ちる。

ティナ達はどうしたら良いか分からなかったが、やがて操達の後を追いかけて行った。

 

 

「ふぇえ、みんな待ってぇ!!」

 

 

未だに食べていた本音が、慌てて後を追いかける。

その後、得た景品を持ち運ぶのに苦労しながらも金魚すくいや型抜き等々の昔懐かしの屋台ゲームを楽しんだ。

そして今はこの祭りの目玉の1つである神楽舞を見ていた。

 

 

「あの人、なんか見覚えがある気がするな」

 

 

「なんというか、あの人本人というよりかあの人に似た人を見たことがあるような無いような…」

 

 

「あー、あれだよ。篠ノ之箒だよ」

 

 

『確かに!』

 

 

操の言葉に全員が納得したような声を発した。

 

 

「この神社の名前も『篠ノ之神社』だし、もしかして篠ノ之さんの実家なのかな?」

 

 

「さぁ…?分からないね」

 

 

「まぁ、そこまで興味もないけど」

 

 

全員箒に良い印象を抱いていないのでそこそこ辛辣な言葉を発するティナ達。

そうしてそのまま何事もなく神楽舞は終了した。

観客からの拍手があたりに響く。

 

 

「さて、次の目玉の花火までは時間あるし、どうする?」

 

 

「どうしましょうか」

 

 

「なんかもう1回屋台行く気分でも無いですし、暫く休憩で良いんじゃないですかね?」

 

 

「確かに。じゃあそうするか」

 

 

一先ず人混みから離れるように移動する操達。

 

 

「花火の場所取りしなきゃね」

 

 

「あ、それは俺がやっとくよ」

 

 

「良いんですか?」

 

 

「場所取りくらい大丈夫だよ」

 

 

それからとめどない雑談をし始める。

花火開始の時間が近付いてきたので、操が下見に行く。

 

 

「あー、しまった…もうそこそこ埋まってるなぁ…直ぐみんな呼んだ方が良いか?」

 

 

そう言いながら周囲を見回す操。

すると、なにやら見知った機械のウサミミを発見した。

しかも頭に装着している訳でも無く、これみよがしに自分だけが見えるように手に持ってピラピラしている。

 

 

「……」

 

 

一瞬で思案を巡らせた操。

その機械のウサミミを持つ人物を追いかける事にした。

人物も操の行動に気が付いており、するりするりと人混みを避けていく。

大体10分後。

茂みの近くにまでやって来た操。

 

 

「何の用ですか、束さん」

 

 

「にっひっひ!」

 

 

操の言葉に返って来たのは笑い声。

すると、バサッと服を風にたなびかせ木の上から束が操の前に飛び降り着地した。

一般的ではない登場の仕方に驚きつつも、束だと思えばなんかおとなしめだなとか的外れな事を考える操。

 

 

「お久しぶりです、束さん。臨海学校以来ですね」

 

 

「うんうん、久しぶりだね。みっちゃん」

 

 

「それで、いったい何の用ですか?」

 

 

「んっとね、みっちゃんに伝えたい事があって」

 

 

「伝えたい事…ですか?」

 

 

操が首を捻りながらそう言うと、束は頷いてから言葉を発する。

 

 

「臨海学校で乱入してきた金色のISあったじゃん」

 

 

「っ!はい、ありましたね」

 

 

まさかの話題提起に驚いた表情を浮かべた操だったが、直ぐに真面目な表情に切り替える。

 

 

「あのISの事を独自で調べてみたんだけどさ、かーなり面倒になってる」

 

 

「…と言うと?」

 

 

「あのISの所属先が分かった」

 

 

「…どこ、なんですか?」

 

 

「……亡国企業」

 

 

「ファントム、タスク?」

 

 

束の言葉に聞き覚えが無かった操は首を捻る。

束は頷くと、説明を開始する。

 

 

亡国企業。

国際的なテロリスト。

第二次世界大戦の際にはもう既に存在していたと思われているが、組織の規模、活動場所、目的は一切不明のまさに亡霊のような組織。

 

 

「…そんな組織が……」

 

 

全ての説明を聞き終えた操はそう言葉を漏らす。

なにも束の説明が理解できないとか、組織が存在している事に驚いているという訳でない。

金のISはコンティニューメダルを所有し、尚且つ使い方まで理解している。

つまりは、デスガリアンとの関わりがあるという可能性の方が高い。

しかも所属先が国際テロリスト。

 

 

「これは、かなりマズい可能性が高いですね…」

 

 

「うん、そうなんだ。だからみっちゃん、2学期とか気を付けてね」

 

 

「分かりました。忠告ありがとうございます」

 

 

操がお礼を言うと、何故か束は不満そうな表情を浮かべる。

 

 

「どうしました?」

 

 

「…みっちゃんさ、何歳?」

 

 

「え、23…いや、今年で24ですね」

 

 

「そう!そうなんだよね!」

 

 

「そうですけど…それがどうかしました?」

 

 

「だったらさ、束さんに敬語使わなくて良いんじゃない?」

 

 

「えぇ…」

 

 

確かに、年齢的には問題無いかもしれない。

けど、一夏としての記憶もある操としては近所のお姉さんのイメージが強い束に対してため口は使いづらいのだ。

 

 

「お願い!みっちゃん!」

 

 

束は両手を合わせ頭を下げる。

ここまでされたら断る事など出来ない。

はぁ、と息を吐くと

 

 

「分かったよ、束」

 

 

と、束の事を呼び捨てで呼んだ。

 

 

「っ!!うん、うん!やっぱりそれが良い!」

 

 

束は嬉しそうにキャッキャと笑みを浮かべる。

 

 

「そうそうみっちゃん、これから花火じゃん?」

 

 

「ああ、そうだな」

 

 

「それならさ、この先に良い感じのスポットがあるんだ」

 

 

「へぇ、なるほど。教えてくれてありがとうな」

 

 

「どうしたしまして!それじゃあね!バイビー!」

 

 

束はそう言うと、そのまま瞬きもしないうちにその場から消えていった。

 

 

「…みんなを呼んでくるか」

 

 

操はそう呟くと、元居た場所に戻る。

 

 

「あ、操さん。どうでした?」

 

 

「会場の方は埋まってる。けど、穴場があるから」

 

 

「穴場?」

 

 

「ああ。前に束さんに教えてもらった場所がある」

 

 

操の説明に全員が納得したような表情を浮かべた。

そうしてそのまま操の案内で移動する。

そして到着したのは、木々の中でぽっかり空いた場所。

まるで風景を切り取ったかのような綺麗な場所。

 

 

「うわぁ!凄~い!」

 

 

「ねぇ!凄い!」

 

 

ティナやさゆかがテンション上がったような声を発する。

声には出していないものの、ラウラや簪達も同じ様な表情を浮かべている。

そんなラウラ達を見て、操は少し難しそうな表情を浮かべる。

 

 

「操、どうかしたか?」

 

 

「ん?ああいや、大丈夫だよ」

 

 

「そうか…なにかあったら相談しろよ」

 

 

「分かったよ、隊長」

 

 

隊長と呼んだ操をラウラがポカポカと叩く。

衝撃を感じながら操は考える。

 

 

(もしかしたら、IS学園を舞台に戦う事があるかもしれない。いや、可能性は高い)

 

 

「あっ!始まった!」

 

 

ぴゅぅぅぅうううう!ドカァアアン!!

 

 

静寐の言葉と同時に、花火が1発夜空に打ち上げられる。

赤い綺麗な花が夜空を彩る。

ラウラ達はその鮮やかな景色にくぎ付けとなる。

その1発を切っ掛けとして、様々な色、形の花火が夜空に咲いていく。

そんなカラフルな空を見ながら操は息を吐く。

 

 

(その時には俺が戦う。俺がみんなを守る。門藤操として…ジュウオウザワールドとして)

 

 

覚悟の決まったその瞳には、花火と、それに釘付けになるラウラ達が映っているのだった。

 

 

 




みなさんは夏祭りでどんな事をしたいですか?
私は暑いので行きたくないです。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想もよろしくお願いします!


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イベントの裏で

前回とか前々回の裏。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

「う、ぐぐぐぐぐ…」

 

 

「ええっと?これがこうで…あら?何でこうなるんですの?」

 

 

「ん?ん?ん?」

 

 

操達が動物園に行っている日。

IS学園1年1組の教室には夏休みだというのに制服を着用し問題が書かれた紙を見ながら、ノートに計算式を走らせ、解答用紙に答えを書き込んでいる男子生徒1人と女子生徒2人。

言わずもがな、補習の春十と箒とセシリアである。

今は数学Aの授業中であり、説明を受けた後練習問題を解いているのである。

 

 

「「……」」

 

 

そんな3人を見ながら疲れ切ったような表情を浮かべ、教室の後ろで椅子に深く座り込んでいる教員が2人。

数学教師のエドワーズ・フランシィと何故か巻き込まれた真耶である。

 

 

「…山田先生」

 

 

「なんですか、フランシィ先生」

 

 

「監視は織斑先生の仕事だったのでは?」

 

 

「そうだったんですけどね…」

 

 

真耶とフランシィは疲れを隠さずに、それでも春十達の邪魔をしないように小声でそう会話する。

そう、真耶を巻き込んだのはフランシィではなく千冬なのだ。

 

 

本来この場に居なければならないのは数学を教えるフランシィと、担任である千冬だ。

千冬の役目は、春十達がふざけないように監視する事である。

本来の補習だったら監視など必要ないのだが、箒とセシリアは大きすぎるやらかしをした後だし、この2人は春十がいると暴走する可能性があるので監視が必要なのだ。

 

 

そしてその千冬がおらず、代わりに真耶がいる理由。

それは千冬が真耶に押し付けたからだ。

 

 

「押し付けられたんですよね…」

 

 

「…なるほど。それにしても、今年の織斑先生おかしいですよね?」

 

 

「そうなんですよね。去年までだったら絶対に自分の仕事は自分でされてたんですが…今年は何があったんでしょうか?」

 

 

「去年と大きく変わった事と言えば、男子生徒が入って来た事ぐらいしか思いつかないんですけど…それだけであそこまで変わりますかね?」

 

 

「さぁ…それが分かったら苦労して無いですよ」

 

 

真耶が疲れ切った表情で笑うと、フランシィは心配したような表情を浮かべる。

 

 

「山田先生、辛いなら学園長に相談した方が…」

 

 

「いやいや、学園長の方が忙しそうじゃないですか」

 

 

「……確かに」

 

 

真耶に言われ、フランシィは思い出した。

十蔵も千冬関係で頭を悩ませているし、それ以外にも男子生徒入学関係で仕事が多いのだ。

あの仕事量を知っている身としては簡単に相談がしづらいのだ。

 

 

「まぁでも、辛くなったら誰かには相談します。門藤君とか」

 

 

「生徒相手に相談しても…いや、門藤君なら良い相談相手になってくれそうですね。私も相談しようかな……」

 

 

2人は同時に苦笑いを浮かべる。

 

 

「さて、そろそろ…」

 

 

そう呟いたフランシィは立ち上がると黒板の前に立つ。

 

 

「そこまで!それでは丸付けをするので解答用紙を渡してください。その間は休憩で良いですよ」

 

 

春十達はフランシィに解答用紙を手渡すと、頭を使って疲れたのか椅子に深く座り込む。

そんな様子を横目で確認してからフランシィは丸付けを開始する。

だが、次第に頭痛がするかのように頭を押さえ始める。

 

 

先程フランシィが疲れていた理由。

それはただ単純に春十達の理解が遅く、逐一詳しく説明しないといけないからだ。

普段の授業とは異なり、これは補習。

ただ単純に授業をし直せばいいという訳ではない。

やり直しで理解が出来るのならば、そもそも補習になっていない。

だからこそ、補習は補習用で別にいろいろ考えないといけない。

つまりは、補習というのは生徒としても辛いかもしれないが、教師としても辛いのだ。

少なくともこのIS学園では。

 

 

「…それでは解答を返します」

 

 

未だに頭を押さえながらフランシィは春十達に解答用紙を返却していく。

自分の点数を見た春十達は絶望したかのような表情を浮かべる。

そう、さっきまでみっちりと勉強していたのにも関わらず、春十達の点数は目も当てられないほど悲惨なものだった。

3人全員落ち込んでいるが、特に落ち込んでいるのはセシリアだった。

 

 

セシリアには一応貴族としてのプライドがある。

そのあって無いようなプライドがこの低すぎる正解率を見て粉々に砕けたのだ。

まぁ、そもそもそんなプライドがあるのならば最初から違反行為などしなければ、停学処分にならず授業に出れていたのでここまで酷い有様にはならなかった筈なのだが。

 

 

「はぁ…」

 

 

3人の反応を見たフランシィはため息をつく。

まさかここまで理解が出来ないとは思っていなかったのだろう。

その表情には疲れの他に一種の呆れのようなものも見えていた。

 

 

「それではもう1回説明をしますので、しっかり理解してください」

 

 

だが、いくら呆れてもやらない訳にはいかない。

フランシィは再び説明をするために用意した自分のノートを開く。

それと同時に春十達も椅子に深く沈みこませていた身体を起こしシャーペンを手に取る。

そんな光景を見ながら真耶はまるで遠いところを見るような表情を浮かべる。

 

 

(後何時間かかるんでしょうか…私も別の仕事まだ残ってるんですけど……)

 

 

今日で終わらせないといけない箇所全てで春十達が合格点を出せたのはそこから大体3時間後だったようだ。

 

 


 

 

フランシィが必死に春十達に授業をしているのと同時刻、寮長室。

 

 

「んぐっ、んぐっ、んぐっ…はぁ……」

 

 

此処では、真耶に監視の仕事を押し付けた千冬が日本酒を一升瓶から直接ラッパ飲みしていた。

 

 

今の千冬の格好はもうどれくらい洗濯していないのか判断が出来ない程汚れてくたくたになったジャージ。

所々穴も開いており、だらしなく下着もはみ出ている。

髪の毛はぼっさぼさで手入れがされているように見えない。

千冬の目の前の机の上や床、備え付けのキッチンは以前にもまして汚くなっておりゴミが散乱していて、異臭を放っている。

 

 

「…無くなったか」

 

 

空になった一升瓶を見ながら千冬はそう言う。

立ち上がりゴミを避けながらキッチンに向かい、中をすすぐことも無くキッチンの隅に置く。

そこももう何ヶ月も片付けていないのか、他にも空の一升瓶やらビール瓶やらワインボトルやらウィスキーの瓶がゴロゴロ転がっていた。

千冬はそのまま洗ってあるのかも怪しいコップを取り出すと水道から水を注ぎ、そのまま一気に飲み干す。

 

 

「はぁ…」

 

 

ため息をつき、コップをそこら辺に置きベッドに戻る。

流石に酔っぱらっているのか、その足取りはフラフラだ。

 

 

「あああああ…」

 

 

ベッドの縁に座り込みそんな唸り声を発する。

暫くの間そのまま固まっていたが、やがてだんだんと雰囲気が変わっていく。

 

 

「クソ…クソ!嘘だ、嘘だ、春十が一夏の事を虐めていたなど…一夏が死んだなど嘘だ!!」

 

 

千冬は半狂乱のようになりながらそう叫ぶ。

そのまま頭をガリガリとかきむしる。

そう、千冬は未だに臨海学校の時に束に言われた事を信じていない。

全く信じられない。

 

 

「アレは違うんだ!嘘だ!そう、嘘だ!束が私を騙そうとしているんだ!」

 

 

千冬はそう叫ぶと感情に任せに枕を投げつける。

 

バァン!

 

当然ながら枕はゴミにぶつかり、ゴミが弾け飛ぶようにあたりに散乱する。

だが、その周囲も元々散らかっている為更に汚くなったなとは思いにくい。

暫くの間千冬は同じ様な内容の事を延々と叫んでいたのだが、やがて疲れたのか肩で息をし始める。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…なんでだ、なんでなんだ…」

 

 

千冬はベッドに座ったまま壁に背を預けて天井を見上げる。

そうして呆然とした表情を浮かべ、ボソボソと呟き始める。

 

 

「私は、家族3人で幸せに暮らしたいだけなのに…何故邪魔をしてくるんだ…家族と暮らしたいと思うのがそんなに悪い事なのか!!」

 

 

最後に叫び声に変わり、千冬はベッドの事を殴る。

 

ギシィ!!

 

ベッドが悲鳴をあげ、殴られた個所からスプリングが飛び出て来る。

殴ったのは自分なのに千冬はその事にイラつくとスプリングの事を殴る。

スプリングはビヨビヨするだけで特に変化は起きない。

 

 

「だいたい何故一夏は私達の所に帰ってこないんだ!家族と一緒に暮らすのは世の中の常識だろう!何故だ!何故なんだ!!」

 

 

千冬は叫ぶ。

この状況を受け入れられないから。

だが、ここまで一夏の事を思っているのに、何故幼少期に一夏の助けの声を聞かなかったのか。

何故春十の虐めに気が付かなかったのか。

何故、何故周囲の人の声を聞かないのか。

 

 

「世界の奴らは何故春十から友人を奪うんだ!春十に対する虐めなのか!」

 

 

鈴が退学になったり、セシリアや箒が停学になったのは自業自得。

それなのにも関わらず、千冬は怒りを露わにする。

 

 

「束もだ!何故私にあんな嘘をつく!何故大切な家族にあんな事を言える!」

 

 

千冬の怒りは収まらず、束にも文句を言い始める。

 

 

「なんで、なんで…!世界は私の、私達の邪魔をするんだ!」

 

 

叫び、今度は壁を殴る。

痛みで顔をしかめることも無く、はぁはぁと肩で息をし始める。

 

 

「まだだ…まだだぁ!!私にはまだ春十と一夏がいる!私には、まだっ…!!」

 

 

千冬は狂ったような瞳をしながらそう呟く。

先程まで呟いていた事と全く内容が繋がっていない。

『狂ったよう』ではなくもう狂っているのかもしれない。

 

 

「もう、他に何もいらない…私が、私が家族を、弟を守るんだ……!!」

 

 

そう呟いた千冬は、薄っすらと狂気的な笑みを浮かべながらずっと同じような事を延々と呟くのだった。

 

 


 

 

「ふふふふふ~~ん♪」

 

 

「束様、上機嫌ですね」

 

 

束の研究室。

上機嫌に鼻歌を歌いながらキーボードを超速で叩いている束にクロエが声を掛けながらコーヒーを手渡す。

 

 

「ありがとクーちゃん!ふっふ~ん、やっぱりわかっちゃう?」

 

 

「ええ、それはもう」

 

 

「あはは!」

 

 

束はクロエと会話しながら良い笑みを浮かべる。

そんな主の笑顔を見て、クロエも微笑みを浮かべる。

それを見て束は自慢げに話し始める。

 

 

「なんとね!遂にみっちゃんが束さんの事呼び捨てしてくれたんだよ!」

 

 

「おおお」

 

 

ニッコニコの束にクロエはそんな反応をする。

正直反応する事すら難しい事だとは思うのだが、流石はクロエといったところだろう。

 

 

「良かったですね、束様」

 

 

「うんうん、本当に良かったよぉ~~!!」

 

 

束は元気よく返事すると、コーヒーを一口のんでほぅ、と息を吐くと作業を再開する。

 

 

「束様、差し支えなければ何の作業をしているのか伺っても宜しいですか?」

 

 

クロエがそう尋ねると、束は身体を少しずらし操作しているPCの画面をクロエに見せる。

それを覗き込んだクロエは疑問の表情を浮かべる。

何故ならば、その画面には束の助手をしているクロエにさえも理解が出来ない難解な数式がびっしりと映っているからだ。

 

 

「これは…?」

 

 

「んっとね、ドイツにあるISのコア状況。みっちゃんがこれ動かして戦闘したっぽいからさ、データ欲しいなって」

 

 

「何処でその情報を…それ以前に不法アクセスに当たるのでは?」

 

 

「ふっふふふ、束さんはISの生みの親だよ?この世界で誰よりもISに対する権限を持っているのさ!つまり、これは不法行為では無いのさ!」

 

 

「なるほど…それにして、操様が戦った情報はどうやって?」

 

 

クロエのその質問に、束は露骨に視線を逸らす。

それだけで盗撮によるものだと理解したクロエはため息をつく。

 

 

「束様、程々にしておかないと操様に嫌われるかもしれませんよ」

 

 

「う、それは…控えまーす」

 

 

しゅんとなりながらも束の作業するスピードは落ちない。

そこから大体1分後、取り敢えずデータをコピーし終わったので束は侵入を終わらせる。

 

 

「出来た出来た。どれどれ、どんな感じかな~~」

 

 

束は興味津々といった表情でそのデータを見ていく。

クロエも束の背後からピョコッと顔を出し画面を覗き込む。

見落としが無いようにじっくりと見ていくも、それといって特に発見は無い。

 

 

「う~ん、普通の数値と特に変わらないなぁ」

 

 

「そうですね…ところで束様、何故操様の戦闘ログを?」

 

 

「うん?えっとね、みっちゃんの為になれたらなーって」

 

 

「操様の為…ですか?」

 

 

クロエの零した疑問に束は優しい笑顔を浮かべながら説明を開始する。

 

 

「うん。束さんがISを作ったからみっちゃんに…いっくんに迷惑を掛けちゃったからさ。せめて何か出来ないかなーって。それでさ、束さんは意外とおバカだから開発くらいしか出来ないんだよ。だから何か造ってあげようと思って」

 

 

「なるほど、それで1回操様のデータをかき集めているという事ですね」

 

 

「そう言う事!流石クーちゃん、理解が早い!」

 

 

束はわしゃわしゃとクロエの頭を撫でる。

クロエはくすぐったそうな表情を浮かべるも、暫くすると疑問の表情を浮かべる。

 

 

「……それなら操様に来ていただいて直接データを採った方が早いし確実なのでは?」

 

 

「それじゃあサプライズが出来なくなっちゃうじゃん!!」

 

 

「な、なるほど…」

 

 

正直、操がそんなサプライズに喜ぶかと言われたら微妙な反応をしそうというのがクロエにも想像できるのだが、束がやりたいならそれで良いかと割り切る事にした。

 

 

「それでは束様、私はこの辺で」

 

 

「うん、ありがとクーちゃん!」

 

 

クロエは頭を下げると、研究室から出て行った。

束はう~んと身体を伸ばすと、再びPCを操作し数値を確認していく。

 

 

「やっぱり特に変わった所は…ん?こ、これは…!!」

 

 

戦闘ログの最後の方、すなわち戦闘でも最後の方の出来事。

今までの数値とは明らかに異なる数値が確認できた。

 

 

「っ!確かここら辺はみっちゃんが雄叫びを上げたとこらへん…」

 

 

そう呟きながら、束はPCを操作しちゃっかり保存している操とラウラの模擬戦の映像を確認する。

すると束の予想通り、最後に操がラウラにとどめをさす直前の咆哮のタイミングで、丁度数値が変化をしていた。

 

 

「みっちゃんの咆哮で数値に変化が…?いったい何が…」

 

 

束はブツブツと呟きながら何度も何度も映像を繰り返し見たり数値の確認をする。

ノートとペンを引っ張り出し自分の考察を書き込んでいく。

そうして大体10分後、1つの仮説をはじき出した。

 

 

「みっちゃんのジューマンパワーがISに反応した…?」

 

 

そう呟いた束は、思考を更に巡らせる。

 

 

「ISのコア人格がジューマンパワーに反応したのか、ジューマンパワーの方がISに反応したのか…はたまた実はISの数値が変化したのは副産物で、別の何かと反応したのか…ジューマンパワーが正直良く分からないから何とも言えないなぁ…」

 

 

束は席から立ち上がり部屋の中をうろうろしながらブツブツと呟いていく。

 

 

「う~ん…サプライズとか言ってないでみっちゃんに頼もうかな…?ジューマンパワーが何か分からなさすぎる…でもサプライズはしたい…」

 

 

こんな状況でもサプライズをしたいという思考を捨てないのは流石は束と言ったところだろうか。

そこから考える事数分。

1つの結論に至った。

 

 

「良し!みっちゃんには調理器具か釣りの道具あげる!そんでもってその時にデータサンプル貰う!」

 

 

そう言いながら束は早速準備に取り掛かる。

 

 

「えっと、これに血液入れてこれに髪の毛入れてこれに唾液入れて…と」

 

 

試験管やポリ袋など、サンプルをいったん保管する為のものを引っ張り出していく。

 

 

「作って上げるのは調理器具が良いかな?釣り具が良いかな?う~ん……調理器具はまだ使えるっぽいし、釣り具をプレゼントしよう!よ~し、善は急げってね!」

 

 

次の行動を決めた束は、早速釣り具の設計図を書き始める。

直ぐに行動に移せるのは素晴らしい事なのだが、逆に言うと落ち着きがなく感じる。

普段から騒がしい束だったら尚更だ。

実際掃除をしているクロエが物音だけで

 

 

(あ、束様何か作り始めましたか)

 

 

と察せられる程には。

そうして大体1時間後。

 

 

「設計図完成!!」

 

 

完成した設計図を誇らしげに掲げながらニッコニコの笑顔でそう言う。

そうしてその設計図をいったん3DモデルにするためにPCに入力しようとする。

椅子に座ってPCを操作すると、不意に1つのファイルが目に入った。

 

 

「そう言えば、あの日変な反応があったんだよなぁ~。みっちゃんがこっち帰って来た時の前兆みたいな感じの奴」

 

 

そのファイルは、何日か前に観測したデータのファイル。

普段から世界を観測しているのだが、この日のこの瞬間だけは変な反応が確認されたのだ。

操がこの世界に帰って来た時に観測したエネルギー反応と似通っている、しかし限りなく微弱なものが。

 

 

「……アレ?そう言えばこの日って……」

 

 

束はそう呟きPCを操作する。

そして、その表情を驚愕のものに変える。

 

 

「っ!?やっぱり!みっちゃんの模擬戦の日だ!!」

 

 

そう、このエネルギー反応はまさしく操とラウラの模擬戦の日…そして、時間も全く一緒だった。

 

 

「このエネルギーとみっちゃんが反応したの…?」

 

 

考えれば考えるほど、束でも訳が分からなくなってくる。

束は困惑したまま暫く固まっていたが、やがて切り替えて釣り具の製作を開始するのだった…

 

 

 




さてさて、どうなるかな?

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、よろしくお願いします!


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苦労組の釣り

お待たせしました。
闇の力、お借り…違う違う。
会社が違うんだから危ないって。

さてさて、サブタイは誰の事かな?

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

操達が夏祭りに行ってから暫く経ち、8月ももう末になって来た。

もう少しで夏休みも終わりという事でラウラ達も色々と友達と連日遊びに出かけて思い出を作っているようだ。

 

 

そんな中、操はこの間束に呼び出されて研究室へと向かった。

束は理由はふわっとさせながら操の血液や唾液、毛髪と言ったサンプルを収集した。

この時束が操に普通の状態の時と、ジューマンパワーを出来るだけ活性化した状態の2種類のデータが欲しいと言われた操は若干困っていた。

変身したら血液等の採取が出来ないので生身でするしかない。

しかし、今までの10年間で極限状態でも無いのに生身で活性化させることが無かったので戸惑ったのだ。

 

 

少し時間は掛かったものの無事にデータサンプルを得た束。

作っておいた釣り竿を始めとした釣り道具を操にプレゼントした。

ちょっと触っただけで高精度なものだと分かるほどのもの。

これを貰えるとなると釣り好きの操はテンションが上がった。

 

 

そのテンションのまま操は束とクロエの為にスイーツを作った。

以前にプライドブレイクをしている為特にこれ以上ダメージを負うことなく2人はスイーツに舌鼓を打った。

操が帰った後、束は早速サンプルを使用し調べ物を開始したのだった。

 

 

そして今日。

操が何をしているのかというと…

 

 

「静かで心地よいですね…」

 

 

「はい、リラックスできます…」

 

 

「ははは、釣りは良いものですよ」

 

 

十蔵と真耶と共に海釣りに来ていた。

2人はライフジャケットをしっかりと着用し、竿を竿受けにつけて椅子に座りながらボーッと海を見つめ風の音を聞いていた。

操も同じくライフジャケットを着用しあまりにも疲れ果てている様子の2人を見て苦笑いを浮かべていた。

何故3人が一緒に釣りに来ているのかと言うと、話は3日前にまで遡る。

 

 

~3日前~

 

 

この日、操は職員室に向かっていた。

@クルーズでのアルバイト申請は夏休みの間だけだったが、2学期以降も続けるため追加申請の書類を提出する為だ。

操は夏休みが明けてから書類を提出する気だったが、よくよく考えると2学期になってからで大丈夫なのか不安になった。

電話で確認したところ、どっちでも良いが出来れば夏休み中に提出して欲しいとの事だったので提出しに来たのだ。

 

 

「う~ん、教員の人って社会人だから学生よりも夏休み短いのは当然なんだろうけど、結局その夏休みも部活の顧問とかでつぶれるだろうし大変だな…」

 

 

書類は特に問題なく提出が完了し、受理された帰り道。

操はそんな事を呟いた。

 

 

教員という職業は極端に休みが少ない。

授業の準備で家でもプリント制作等の作業をし、授業をし、提出物のチェックをし、部活の顧問をする。

それに加え生徒指導やテスト等々やる事が多すぎる。

良く虐めで生徒の訴えを聞かなかったという事が問題になるが、それはこの異常な労働量が原因の1つでもある。

だからこそ、教員の方への接し方は考えないといけないのだ。

 

 

此処IS学園では問題児は現状3人しかいない変わりに、教員の1人が他の教員に迷惑を掛けているのだが。

 

 

「兎に角、俺は教師の方達に迷惑を掛けないように心掛けよう」

 

 

操は胸に手を置きそう誓う。

実際には真耶やフランシィから良い相談相手になりそうというとても高い評価を受けている操だが、本人はその事を知らないのだ。

 

 

「今日はもう何もすること無いし、帰って晩御飯の仕込みでもしようかな…」

 

 

鶏肉使わないといけないし唐揚げにでもしようかな、とかそんな事を考えながら歩く操。

すると、ふと視界に2人の人影が入って来た。

 

 

「あれ、学園長に山田先生…」

 

 

その2人とは、十蔵と真耶だ。

なにか話し合いでもしていたのか、小会議室から2人が同時に出て来ていた。

それだけったら操は特に何も思わず、挨拶をしてそのまま帰っていただろう。

 

 

「……」

 

 

しかし、操は少し立ち止まってしまう。

それは何故か。

会議室から出て来た2人が異様に疲れたような雰囲気を醸し出しているからだ。

只の話し合いならば絶対にあそこまでは疲れないと他人が分かるほどに疲れている2人。

それを見たら流石に放っておくことなど出来ない。

操は早歩きで2人に近付く。

 

 

「学園長!山田先生!」

 

 

「おや?」

 

 

「ん?」

 

 

その言葉で、2人も操の存在に気が付いた。

視線のいる方向に向ける。

 

 

「お久しぶりです」

 

 

「はい、お久しぶりですね、門藤君」

 

 

「門藤君は、何故夏休みなのに校舎に?」

 

 

「アルバイトを2学期以降も続けることにしたので追加申請に」

 

 

「ああ、なるほど」

 

 

3人は取り敢えずそんな会話をする。

さして引っ張る意味も無いので、操は気になっている事を尋ねる。

 

 

「お2人とも、やけに疲れているようですが何かあったのですか?」

 

 

操に尋ねられた2人は視線を見合わせると、同時にため息をついてから説明を開始する。

 

 

「口外はしないでいただきたいのですが、実は織斑先生が…」

 

 

「織斑先生…ですか?」

 

 

「はい」

 

 

それから、十蔵と真耶は操に最近の千冬の勤務態度の酷さを説明していった。

途中から真耶はもうほぼ愚痴を吐いているだけだったが、操はそれでも真剣に聞いていた。

 

 

「はぁ~、そんなに…何というか、かなり傍若無人な振舞いですね…」

 

 

説明を全て聞き終わった操は思わずそんな感想を漏らした。

1学期までの自分に対する行動だったり織斑一夏の記憶だったりで、千冬がかなり自分勝手なことは理解していた。

だけれども、2人の説明では操の予想を軽く飛び越えるほどの我儘っぷりだった。

操が引くのも無理はないだろう。

 

 

「そうなんです…だから、ちょっと疲れちゃって」

 

 

「夏休みもほぼ休めなかったですし、息抜きがしたいですね…」

 

 

十蔵と真耶は再び同時にため息をつく。

それを見て操は思考を巡らせ、日付を確認する。

 

 

(…3日後なら大丈夫…だな。あとは学園長達がOKすれば…)

 

 

そうして、操は2人の事を見ながら言葉を発する。

 

 

「学園長、山田先生」

 

 

「はい、なんですか?」

 

 

「……3日後、時間ありますか?」

 

 

「「…はい?」」

 

 

~現在~

 

 

操はあの後、気分転換に釣りは如何だと提案した。

聞いた当初は微妙な反応をしていた2人だが、釣り好きの操の熱弁を聞き興味を持った。

そうして結構ノリノリでやって来たのだ。

 

 

沖向きの堤防に持ってきた簡易的な椅子を置き、魚がヒットするまでボーッと景色を眺める。

これだけで疲れた大人には心地よさを与えるのだ。

 

 

「門藤君、誘っていただきありがとうございます」

 

 

「いえいえ、私も夏休みの間に釣りには1回行っておきたかったですし」

 

 

「それでもです。落ち着きます~」

 

 

(レオと違って釣りの良さが分かる人達で良かった)

 

 

以前レオに釣りを教えた際言い合いになった事を思い出し、感慨深げな表情を浮かべる操。

 

 

「おっ!山田先生!ヒットしてます!」

 

 

「えっ、きゃっ!」

 

 

操に言われ、自分の竿に魚がヒットしている事に気が付いた真耶。

慌てて釣り竿を手に取りリールを巻き始める。

十蔵と操は手持ち網やバケツを持ち真耶に近付く。

 

 

「ゆっくり、落ち着いてリールを巻いて下さい」

 

 

「は、はいっ!」

 

 

本日初めてのヒットである為若干緊張しながらも真耶はしっかりとリールを巻いていく。

そうして魚と格闘する事20秒。

水面に魚の陰が見えた。

 

 

「あとちょっとです!」

 

 

「頑張って下さい!」

 

 

操と十蔵に応援され、真耶は改めて気合いを入れる。

2人は網を一応持っているものの、此処は堤防。

身を乗り出して網で捕まえるにはそこそこ危険な高さがある場所なので、必然的に真耶が頑張らないといけないのだ。

 

 

「はいっ!!」

 

 

「良し!」

 

 

格闘の末、真耶が魚を空中に釣りあげる事に成功した。

操がそれを網で受け取り、十蔵が持つバケツへと入れる。

置いたバケツの事を3人が同時に覗き込む。

釣った魚は元気よくバケツの中を泳いでいた。

 

 

「やったぁ!」

 

 

真耶が喜びの声を発する。

 

 

「おめでとうございます、山田先生」

 

 

「これは…キスですね。天ぷらが美味しいんですよ」

 

 

十蔵は真耶に称賛の声を掛け、操はキスの調理法を考え出す。

真耶はニッコニコの笑顔を浮かべ嬉しそうにしていた。

 

 

「っ!学園長!来てます!」

 

 

「おっと!」

 

 

此処で、今度は十蔵の竿がヒットした。

十蔵と操は網と別のバケツを持ち竿の元に行く。

真耶も2投目をしてから側に向かう。

 

 

「おお、大きい大きい!」

 

 

「学園長、頑張って下さい!」

 

 

「はい、これは、なかなか重い…」

 

 

竿にヒットした魚はそこそこの大きさがあり、それに伴い抵抗力も重さも大きい。

十蔵は苦労しながらも確実に魚を引き寄せていく。

 

 

「よっ…!」

 

 

「はいっ!」

 

 

先程と同様に、空中に釣りあげた魚を操が網キャッチし、バケツへと入れる。

 

 

「これは…アジですね!」

 

 

「学園長、おめでとうございます!」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

中々の大物を釣った十蔵は、表情にはあまり出ていないもののとても嬉しそうだった。

 

 

そうして釣りをし続ける事約2時間。

夏で水温が高く、しかも昼間という事を考慮すればかなり大量に釣れた操達。

この堤防を管理している団体が運営している貸しキッチン施設にて昼食をとっていた。

この施設は低料金で調理器具使いたい放題であり、しっかりと食べるスペースも確保されている。

 

 

「「「いただきます」」」

 

 

3人は手を合わせ、食べ始める。

本日の調理は全て操が担当した。

十蔵と真耶も手伝おうとはしていたのだが、操の手際があまりにも良く自分達が手を出すとかえって迷惑になると察したため操に一任したのだ。

 

 

キスの天ぷらを箸でつまみ、口に運ぶ。

 

 

サクッ!

 

 

外に聞こえるほどにサックサクに仕上がっている衣。

それで尚且つ丁寧に処理されたキス。

1つ1つの完成度がかなり高く、とても美味しいのだ。

 

 

「うん、まぁまぁかな」

 

 

操本人はそこそこな完成度だと自己判断する。

が、他2人からの評価は違う。

 

 

「ほぉ、これはなかなか…料亭で出て来ても違和感はない…いや、それよりも高い完成度かもしれないですね…」

 

 

十蔵は驚きの表情を浮かべながらも、かなりの高評価をし、

 

 

「……」

 

 

真耶は無事世界の王者のプライドブレイク被害者の仲間入りを果たした。

そこから3人は軽く雑談をしながら昼食を食べ進める。

 

 

「そろそろ夏休みも終わりますね」

 

 

「そうですね。2学期にはイベントも目白押しですし、忙しくなりそうです」

 

 

操と真耶がそう会話する。

以前までだったら疲れている表情を浮かべていたであろう真耶。

だが、今回の釣りでリフレッシュできたからかその表情は晴れやかだった。

 

 

「ええ、大変だとは思います。ですが、それ以上に生徒のみなさんが充実した学園生活を送れるように、頑張っていきたいと思います」

 

 

十蔵も以前までと違い穏やかな、でもしっかりとした表情でそう呟く。

 

 

「学園長はもう十分に頑張っていらっしゃると思いますけど」

 

 

「門藤君の言う通りです。学園長は一番努力されてる方だと思います」

 

 

「そう言って貰えると嬉しいです。ですが、今まで以上に生徒全員が成長できる学園を作らないといけません」

 

 

覚悟の籠った表情を浮かべている十蔵を見て、真耶と操も同じ様な気がする。

 

 

「私も、もっと頑張らないといけないですね!」

 

 

「私もです。今以上に精進しないといけません」

 

 

真耶、操の順でそう言葉を発する。

その瞬間に、操はチラリと窓から空を見上げる。

 

 

(束さ…束に忠告もされてるからな…より一層、俺は頑張らないといけない)

 

 

そんな事を考えていると、十蔵が穏やかな表情を浮かべながら言葉を発する。

 

 

「結局、全員が前に進むという事ですね」

 

 

その言葉を聞いた真耶と操も同じ様な表情を浮かべる。

 

 

「はい」

 

 

「人間は進歩してこそ人間ですから」

 

 

操のその言葉に、3人は濃い笑みを浮かべる。

 

 

「それでは、2学期以降も頑張っていきましょう!」

 

 

「「はいっ!!」」

 

 

十蔵の言葉に、真耶と操が同時に返事をする。

全員の表情は笑顔であり、それでいて意欲にあふれているものだった。

3人は洗い物の後片付けをして、帰路につく。

 

 

操や束がなんとなく察している通り、2学期には今まで以上に様々な事が起こるだろう。

だけれども、操は、操達は戦う覚悟は出来ている。

どんな事が起こっても、きっと突破できるだろう。

 

 

こうして、夏休みは終わりを迎えたのだった。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

操がいる世界には存在しない駄菓子屋カフェ。

今現在店内には店主の女性を除き、15人の人影と1匹の鳥型ロボットと2人の小人が居た。

もっと正確に言うのならば、14人の人影の内人間は4人。

残りの11人の内6人は人間に擬態している別の生物で、4人はそれぞれ赤、黄色、ピンク、青がメインカラーの機械生命体。最後の1人はぱっと見人間と機械生命体のハーフの青年である。

 

 

人間1人と擬態している6人の計7人と、残りの8人と鳥と小人2人が中央の鉄板焼き用の机があるお座敷を挟み向かい合っている。

 

 

「…それで」

 

 

7人側の人間の青年が話題を切り出す。

 

 

「本当にみっちゃんを見つけられるんですか?」

 

 

青年のその言葉を聞き、向かいにいる人達が反応する。

 

 

「とーぜんっすよ!大丈夫だって、パイセン方」

 

 

「そうであります!私達ならば絶対に見つけられます!」

 

 

何故だろうか。

元気よく肯定されているだけなのにも関わらず、それ以上の何かを感じる。

7人側は全員そんな感じの表情を浮かべている。

 

 

「ノリについてけねー」

 

 

「確かに確かに」

 

 

訂正、声にも出ている。

 

 

「…正直それは分からなくもない」

 

 

「なんだよぉ、こっち側なのにノリ悪いぞ!」

 

 

「君たちがこんな時でも能天気なんだ!」

 

 

言い合いを始めた2人をよそに、8人側の内金髪の青年とポニーテールの少女が好奇心が溢れている表情で声を発する。

 

 

「いいお宝が見つかりそうだな…」

 

 

「うんうん!あー、良いのパクれたらいいなぁ」

 

 

この2人は、話し合っている内容よりも向かう先で発見できる可能性があるお宝に興味があるようだ。

 

 

「そうだぜそうだぜ!」

 

 

「お宝!お宝!」

 

 

同調する様に、小人2人が元気よく声を発する。

そんな自由奔放な彼らを見て7人は何とも言えない表情を浮かべる。

 

 

「なんか、個性的だね…」

 

 

「う、うん…」

 

 

「ああ…なんか、前に同じ様な事を思ったような覚えが…」

 

 

話しを切り出した青年が胃のあたりを押さえながら呆然とそう呟く。

そんな様子を見て鳥が飛び回り始める。

 

 

「レジェンドの方達を困らせどーするッチュン!?さっさと真面目に話し合えチュン!!」

 

 

「セっちゃん!落ち着いて!」

 

 

「そーもそもこの場所にこの方達がいる事自体が凄い事なのを分かってるチュン!?」

 

 

「分かってる分かってる!」

 

 

8人側の1人の青年と会話している鳥は興奮が収まらないかのように元気よくバタついている。

その青年は落ち着かせながら、確認をするかのように言葉を発する。

 

 

「それでさセっちゃん、どの世界にいるか探せないの?」

 

 

「う~ん…なにせ、世界は多いッチュン。なんの手がかりも無いのに何処の世界に行ったかをしらみつぶし探すのは骨が折れるチュン」

 

 

「ゾックスたちは?」

 

 

「こっちも無理だ。お宝ならまだしも、1人の人間の情報なんて手に入る訳がないだろ」

 

 

金髪の青年が首を振りながらそう言う。

 

 

「…そうだ、操のジューマンパワーは3人分。それだけ大きければ世界の壁があっても感知できる可能性があるのではないか?」

 

 

ずっと会話を聞いていたお腹を押さえている青年の横に立つゴーグルを頭に付けている白髪の男性がそう呟いた。

その発言を聞き、周囲の人達は確かにと納得する。

これならばしらみつぶしではなく、確かな指標で判断が出来る。

 

 

「確かに!それならなんとか!」

 

 

「だが、それでも難しいんじゃないか?ジューマンパワーの反応を色んな世界から探すだなんて…それに、全部の世界を把握している訳でも無いんだろう?それこそスーパー戦隊がいない世界は山のように…」

 

 

1人が不安そうにそう呟く。

それを聞いた鳥を落ち着かせている青年がニッと笑顔を浮かべる。

 

 

「だいじょーぶ!此処にいるみんなの力を合わせれば、絶対に出来る!」

 

 

根拠も何も無い。

でも、その言葉には不思議と説得力があった。

 

 

「ああ、そうだな。動物は、支え合う事で初めて強くなれるんだから」

 

 

お腹を押さえていた青年も、穏やかな笑顔を、でも確かな覚悟を感じる表情を浮かべる。

それを見た青年はバッと右手を前に突き出す。

 

 

「みんな、全力全開でいこう!!」

 

 

『おおお!!』

 

 

その言葉を合図に、全員が行動を開始した。

彼らが目的を達成した時、世界の王者の元への道が、開かれる…

 

 

 




全力全開…?なんだ、それ。

今回で夏休みは終了!
次回から2学期です!

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていて下さい!

評価や感想もよろしくお願いします!


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2学期
2学期の始まり


お久しぶりです。
遂に2学期!

作者の忙しさが当分変わらなさそうなので投稿ペースを戻すことが不可能だと判明しました。
申し訳ありません。

今回もお楽しみください!


操side

 

 

学園長と山田先生と共に釣りに行ってから暫くが経った。

夏休みも昨日で終わり、今日からとうとう2学期である。

 

 

「んぁああああ…朝だぁ…」

 

 

そんな日の朝、カーテンの隙間から覗く太陽の光で俺は目を覚ました。

身体を起こし、伸びをしてから時計を見ると時刻は5:50。

まだまだ始業式には余裕がある。

だけど、もう1回寝る気分にもならない。

 

 

「起きるかぁ…」

 

ベッドの上で寝るか起きるかの検討の結果、起きる事にした。

時計のアラームを止めてからベッドから降りる。

そしてもう1度伸びをすると、着ている服が結構びしょびしょで、身体もベトベトになっている事に気が付いた。

如何やら寝汗を大量にかいてしまったらしい。

 

 

取り敢えずシャワーを浴びよう。

そう思い、下着とサマースーツを準備してからシャワールームに入る。

 

 

シャワーを浴びてさっぱりしたので、身体を拭き下着を履いてから髪を乾かす。

そうしてサマースーツを着用する。

 

 

「朝ご飯は…そうだ、昨日面倒くさくなってなんも下準備してないや」

 

 

此処で朝ご飯の用意を何もしていない事に気が付いた。

どうしようかな……

今から準備するとなると大したものは出来ないし、時間に余裕があるとはいえ遅刻する可能性もある。

……よし、食堂に行こう!

今日から夏休みが空けるという事は、今日から食堂の朝営業も再会するという事。

食堂ならばお金を払えば出来立てのご飯を食べる事が出来る。

こんな状況にピッタリ!

 

 

そうと決まれば早速準備だ。

食堂は朝の6時からやってる。

シャワーを浴びたしもう6時過ぎている。

そんな訳で、今一度洗面所で身だしなみを整える。

整えた後は腕時計を付け、スマホや課題とか教科書とかを鞄に入れる。

 

 

IS学園は入学式の日に授業があったが、それは2学期も共通。

つまり、今日もバリバリに授業があるのだ。

 

 

「仕方が無いとはいえ、やっぱり気分は上がらないな~~」

 

 

そんな事を呟きながら鞄を閉じる。

生徒としたら全くと言って良いほど気分が上がらない初日授業。

だが教員のみなさんからしても初日授業は気分が上がらないだろうし、何より普通に大変だろう。

何せ前に夏休みにバイト延長申請に職員室に行ったときでさえ、教員のみなさんは大変そうだったのだ。

夏休み明けで生徒と会うのも久しぶりなのに、その上で授業だ。

いくら事前準備をしていてもきついだろう。

 

 

だからまぁ、俺みたいな生徒が文句を言うのはお門違いなのは分かってる。

けど、やっぱり気分は上がらないのだから心の中で思うくらい許して欲しい。

 

 

いやぁ、俺もちゃんと学生してるなぁ~~。

織斑一夏の時からすると、こんなまともな学生の考えを持つ日が来るとは思わなかった。

まぁもう23歳、っていうか今度の誕生日で24歳なんだけど。

って、来年俺アラサーじゃねぇか…

28歳以上とか言う人もいるけど、25歳以上って言う人もいるし…

なんか、心が傷つくからこれ以上考えるのは止めよう。

 

 

そんな事を考えながら財布とかを準備する。

そして、最後にジュウオウザライトをポケットに仕舞おうと手を伸ばす。

手に取り自分の元へ手繰り寄せる。

 

 

シィィィン……

 

 

「ん?」

 

 

すると、ジュウオウザライトのライト部分が一瞬光った。

ように見えた。

 

 

「なんで今光って…」

 

 

ジッとジュウオウザライトを見つめてみる。

しかし、それからは何も変化しなかった。

 

 

「……」

 

 

さっきは何かに共鳴しているようにも感じた。

だけど、ジュウオウザライトと共鳴しそうなのはジュウオウチェンジャーと向こうの地球くらいしか思いつかない。

暫くの間考えてみたけど、俺1人じゃ結論を出せる訳が無かった。

頭の片隅に残しておこう。

そうしてジュウオウザライトをポケットに仕舞い、鞄を手に持つ。

 

 

「いってきます」

 

 

返事が返ってこないとは分かっていても、やっぱり言いたくなるのは人間だからだろうか。

そんな事を考えながら部屋に鍵を閉め、食堂に向かって歩いていく。

食堂でご飯を食べればそのまま教室に行けるから、ちょっとゆっくりできるな。

 

 

歩く事数分。

食堂へとたどり着いた。

 

えっと…朝食セットで良いか。

食券を購入し、食堂のオバちゃんに手渡す。

 

 

「あら、門藤君!食堂に来るなんて珍しいわね~。それに、朝に来るなんて初めてなんじゃない?」

 

 

「あはは、昨日の夜面倒になって朝ご飯の下準備サボっちゃって」

 

 

「偶にはそれでいいのよ。朝食セットね、待ってて」

 

 

なんだろう、今までまともに話した事が無い人にここまで知られてるとなるとムズムズする。

これも男性IS操縦者の宿命か…

まぁ、変な噂じゃないから別に良いんだけど。

 

 

「はい、お待ちどうさん」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

オバちゃんから朝食セットを受け取り、そのまま席に向かって行く。

まだ朝早い時間でもあるからか、結構食堂は空いていた。

いや、結構自炊する生徒も多いのかな?

俺には特に関係ないんだけど。

 

 

「いただきまーす」

 

 

料理は出来立てが1番美味しい。

料理を放置する事は、その料理に関わった人や食材に失礼な行為だと思う。

そんな訳でさっさと食べよう。

箸で白米をつまみ口へ運ぶ。

おお、美味しい。

やっぱり丁寧に調理されてる白米はそれだけでも十分美味しいなぁ。

 

 

そんな事を考えながらパクパクと食べ進めていく。

なんか数少ない生徒達からの視線を感じるような気がしないでも無いが、特段害がある訳じゃ無いから別に良いか。

 

 

「お、操」

 

 

「ん?」

 

 

ここで誰かから声を掛けられた。

誰か、とは言っても俺の呼び方で大体分かる。

俺の事を下の名前で呼び捨てで呼ぶ人だなんて学園では1人しかいないんだから。

 

 

「おはよう、ラウラ」

 

 

「ああ、おはよう操」

 

 

声が聞こえてきた方向に振り向くと、そこには予想通りお盆を持ったラウラがいた。

 

 

「向かい、大丈夫か?」

 

 

「それはもう全然」

 

 

会話の後、ラウラは俺の向かいに座る。

 

 

「久しぶりだな」

 

 

「夏休みちょこちょこ会ってたけどね」

 

 

「それでも大体1週間ぶりくらいだろう?」

 

 

「確かにそうか」

 

 

最後の方はバイトしたり学園長達と釣りに行ったりしてたし。

そこからラウラと会話しながら朝食を食べ進める。

 

 

「結構少ないけど、それで足りるの?」

 

 

「…だ、ダイエット……」

 

 

「あ、ごめん。でも、軍人なんだからある程度は食べとかないと」

 

 

「分かってる。これがその最低限だ」

 

 

「なるほど」

 

 

やっべぇ、かなり失礼な事を言ってしまった。

ラウラは特に気にしてないみたいだけど、次からそう言う事も思考に入れて話さないとな。

 

 

「操」

 

 

「ん?どうした」

 

 

脳内反省会を繰り広げていると、ラウラが話し掛けてきた。

何時の間にか空になっていた茶碗を机の上に置き視線をラウラに向ける。

すると、ラウラはニコッと笑みを浮かべると

 

 

「2学期にはいろいろな事が予定されているからな。頑張ろう」

 

 

と右手を出してきた。

 

 

「ああ!頑張ろう!」

 

 

俺も笑みを浮かべ返すと、コツン、と自分の右手を突き合わせる。

 

 

そうして、朝食を食べ終えたので食器類を返却して2人で教室に向かう。

久々に会うクラスメイト達との会話もそこそこに整列して体育館に行く。

 

 

ラウラの言う通り、2学期にはいろいろあるからな!

さぁ、気合い入れていきますか!!

 

 


 

 

IS学園、体育館。

今此処では2学期の始業式が行われていた。

学園長や教師からの長い話も終わり、今は表彰の時間。

その名の通り、夏休み中に部活で好成績を残した生徒を表彰するのである。

 

 

『全国高校生水泳大会、女子400m自由形、優勝、立川六花』

 

 

「はい!」

 

 

『記録、4:23.59』

 

 

パチパチパチパチ

 

 

表彰される生徒が元気よく返事をし、堂々とした足取りでステージ上へと歩いていく。

その表情はとても晴れやかなものだ。

そんな彼女の事を見ながら生徒や教員達は盛大な拍手を贈る。

 

 

「いやぁ、全国優勝かぁ。凄いなぁ」

 

 

拍手をしながらそんな感想を漏らす操。

水泳に関してはずぶの素人でも、全国優勝が凄いという事は流石に理解できる。

 

 

「ああ、国の中で1番という事だろう?凄いな」

 

 

操の隣に立つラウラも同じような感想を漏らす。

 

 

「それにしても、1つ疑問に思う事があるんだが」

 

 

「どうした?」

 

 

「なんで『全国』で日本全体の事を言うんだ?」

 

 

「……分からん」

 

 

『全国高校生吹奏楽コンクール、3位入賞、吹奏楽部。代表して、部長、ルーサー・エランリィ』

 

 

「はい!」

 

 

『副部長、青木楓』

 

 

「はい!」

 

 

「おっと」

 

 

パチパチパチパチ

 

 

ラウラが小声で発した疑問に操が遠い目をしながら同じく小声でそう返すと、丁度そのタイミングで次の表彰者2人が呼ばれた。

少し慌てて拍手を贈る。

 

 

そうして暫くの間表彰の時間が進む。

表彰される内容の殆どが全国区規模の大会のものの事に、操とラウラは驚きの表情を浮かべる。

 

 

「IS学園って、IS以外の事でも普通に優秀校なんだなぁ」

 

 

「そうみたいだな。部活動をしていなから詳しくは知らなかったが、まさかここまでとは」

 

 

『以上で表彰を、終わります』

 

 

司会をしていた教員は最後に礼をすると、マイクの前から離れて行った。

それと入れ替わるように、真耶がマイクの前に立つ。

 

 

『ありがとうございました。では、最後に大切なお知らせです。学園長、お願いします』

 

 

「はい」

 

 

真耶の声の後、十蔵がステージ上のマイクの前に立つ。

先程もう既に学園長からの話しは終わっているので、生徒達は不思議そうな表情を浮かべる。

 

 

『みなさん、今日は大事なお知らせがあります。今日からIS学園で働いて下さる方がお1人増えます』

 

 

その言葉を聞いた生徒達は一瞬ざわつくも、直ぐに静かになり十蔵に視線を向ける。

そんな中、操とラウラは察した。

何故なら臨海学校の時に、2学期からIS学園に来る予定だという人の話を聞いたからだ。

 

 

『それでは、ナターシャ・ファイルス先生、挨拶をお願いします』

 

 

「はい」

 

 

十蔵の言葉の直後、ステージ袖に控えていた金髪の美女…元アメリカ軍所属のナターシャ・ファイルスがマイクの前に歩いていく。

殆どの生徒達は美人なナターシャに同性ながら思わず見とれ、操とラウラは予想通りと笑みを浮かべる。

マイクの前についたナターシャは緊張しているような表情だったが、ニコリと笑みを浮かべ話し始める。

 

 

『初めまして。本日からIS学園に勤務させて頂く事となりました、ナターシャ・ファイルスです。教員免許は今試験中な為所有していませんので、全学年の実技授業のサポートをします。慣れない事も多く、迷惑を掛ける事もあるかもしれませんが、精一杯頑張りたいと思いますので、よろしくお願いします』

 

 

パチパチパチパチ

 

 

ナターシャはマイクの前でお辞儀をし、生徒達は一斉に拍手を贈る。

ナターシャは少し安心したかのような息を吐くと、そのままステージから降りて行った。

 

 

『それでは、これにて2学期修行式を終了します。各学年の1組から順に各教室に戻って下さい』

 

 

真耶の指示に従い、生徒達が各教室に戻っていく。

 

 

この後、10分間の休憩を挟み2学期最初のLHRだ。

成績表の返却や夏休みの課題の提出、2学期にあるイベントに関する話など重要な時間になっている。

 

 

そんな時間の前なので、教室に戻った操は直ぐにトイレに向かう。

始業式前にも一応行っておいたとはいえ、なんとなくもう1回行っておこうと思ったのだ。

 

 

IS学園は特殊な環境にあるため男子トイレというものが非常に少ない。

その為トイレに行くにはそこそこな距離を移動しなければならないのだ。

大変という訳では無いが、それでも気楽に立ち寄れないという点では不満を覚えてしまう感じだ。

だからといって、自分(と春十)の為だけに新しくトイレを立てる事など不可能だと分かっている操は愚痴をこぼすことも無く、スタスタとトイレに向かう。

 

 

「はぁ…ずっと立って話を聞いてると腰が…」

 

 

その帰り道、操はボソッと呟くと腰をさする。

するとピタッと立ち止まり、そのまま暫くの間思考を続ける。

大方今の動作は年なのかどうかを検討しているのだろう。

 

 

「大丈夫だ!まだアラサーじゃないぃ!」

 

 

操は周囲に誰もいないのに必死に言い訳するかのような声を発する。

はぁはぁと肩で息をした後、息を整え教室へと向かい歩き出す。

 

 

「あっ、門藤君!」

 

 

「ん?」

 

 

そんな操は背後から声を掛けられた。

反射的に振り返り、少しだけ驚きの表情を浮かべる。

何故なら、そこにいたのは

 

 

「ナターシャさん!」

 

 

さっきまでステージに立っていたナターシャだったからだ。

ナターシャは操の近くに駆け寄って来る。

 

 

「ナターシャさん、お久しぶりです」

 

 

「ええ、久しぶり」

 

 

「あ、ナターシャ先生の方が良いですかね?」

 

 

「どっちでも良いけど…ふ、2人の時はさんの方が…」

 

 

「?分かりました、ナターシャさん」

 

 

少しもじもじしながら話すナターシャに操は首を傾げるも名前で呼ぶ。

 

 

「2学期はいろいろなイベントがありますから、ナターシャさんみたいなしっかりした人が新しく来てもらえると生徒側からしても安心感がありますね」

 

 

「逆にしっかりしてない人ってどんな人なのよ」

 

 

「……織斑先生とかですかね」

 

 

「え?あのブリュンヒルデが?」

 

 

ナターシャの中では世界最強のIS乗りとしての千冬のイメージしかなく、IS学園で見せる駄目教師としての姿を知らないのだ。

そんな反応になるのも仕方が無い。

ナターシャの反応を見て、そう言えば千冬のあの態度はIS学園内でしか(というかほぼほぼ自分の前でしか)見せてないものだと思い出した操。

頬をポリポリとかきながら苦笑いを浮かべる。

 

 

「ああ、まぁ、その…暫くすれば分かると思いますよ」

 

 

「そ、そうかしらね?」

 

 

操がふわっとした返事をしたので、ナターシャもまだ半信半疑のようだ。

だが、ナターシャもそこまでしないうちに千冬の野蛮な行動を目の当りにする事だろう。

 

 

「おっと、そろそろLHRが始まっちゃいますね」

 

 

「あら、そうね」

 

 

ここで2人はもう直ぐLHRが始まる事に気が付いた。

千冬にとやかく言われると絶対に面倒な事が起こると操も理解しているので早急に戻ろうとする。

 

 

「それでは、俺は直ぐ教室に戻りますね。ナターシャさん、改めましてよろしくお願いします」

 

 

操はニコッと笑顔を浮かべるとナターシャに向かって右手を差し出す。

その意図を直ぐに理解したナターシャは笑みを浮かべ返すと同じく右手を差し出し、2人は握手をする。

 

 

「ええ、よろしくね、門藤君」

 

 

「あ、2人の時は名前で良いですよ」

 

 

「えっ…よ、よろしくね、操君」

 

 

ナターシャは若干気恥ずかしそうにしながらも操の事を下の名前で呼ぶ。

操はもう1段上の笑みを浮かべると急ぎ目に教室へと戻っていった。

ナターシャは暫くの間気恥ずかしそうな雰囲気を醸し出しながらその場に留まっていたが、自分の仕事もあるため足早に職員室へと向かうのであった。

 

 


 

 

その後、操はギリギリだがLHRの開始に間に合ったため、千冬にぐちぐち言われることは無かった。

提出物の提出後、初日の授業が行われた。

とは言っても夏休み明け初の授業だ。

夏休みの課題のやり直しや解説をして全ての授業が終了した。

 

 

そうして放課後。

操は生徒会室を訪れていた。

理由は簡単で、夏休みに動物園に行って以来楯無と虚に会っていなかったので、顔を見せに来たのだ。

 

 

1度寮の部屋に戻り前日までに用意していた手土産が入った袋を抱え、生徒会室へとやって来た。

ノックをし、いざ部屋の中に入った時目の前に広がる光景に操は表情を固まらせた。

 

 

「あ、操さん」

 

 

「さっきぶりで~す!」

 

 

先ず簪と本音。

この2人は良い。

操へ入室の許可を出したのは2人だからだ。

生徒会室のソファーに座って紅茶を飲みながら、操と同じ方向を見て遠い目をしている。

 

 

問題はここからだ。

 

 

「…あ…あ……あぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

 

生徒会長の机に突っ伏し、ゾンビのようなうめき声をあげている楯無と

 

 

「……」

 

 

そんな楯無の前で仁王立ちをし、恐怖を感じる笑みを浮かべている虚の2人だ。

生徒会室に入った瞬間にこんな光景が広がっているのだから、いくら操でも固まってしまう。

 

 

「えっと…どういう状況?」

 

 

操は困惑した声色を発しながら簪と本音に視線を向けながらそう質問をする。

2人は紅茶の入ったカップを机の上においてから操に視線を向け説明を始める。

 

 

「事の発端は、確かお姉ちゃんが夏休み中に終わらせるはずだったお仕事をまだ残してて、期限ぎりぎりだったから虚さんが怒ったんです」

 

 

「それで~、その怒りに怯えながら凄いペースで仕事をして~~、それで提出が終わったからさっきまで雷を落とされてたんで~す」

 

 

「なるほど、大体理解した」

 

 

2人の説明で事情を理解した操はどうしようかと思考を巡らせる。

説教が終わってどのくらいたったタイミングで自分が来たのかは分からないが、虚がまだ恐怖の笑みを張り付けているという事は、怒りは収まっていないという事だ。

となると、自分の来訪にすら気が付いていない可能性が高い。

 

 

「良し…」

 

 

操は覚悟を決めると、袋をいったん置いてから虚の前にまわりこみ声を掛ける。

 

 

「虚さ~ん、こんにちは~」

 

 

「はいっ!?」

 

 

操に声を掛けられた操はビクっと驚いたように身体を震わせる。

操の仮説通り、来訪にも気が付いていなかったようだ。

 

 

「あ、やっぱり気が付いてませんでしたか」

 

 

「み、操さん…い、何時の間に…」

 

 

「さっきノックして簪達に許可を貰って入ってきましたが?」

 

 

苦笑しながら操がそう言うと、虚は気恥ずかしそうに視線をそらした。

 

 

「虚さん、事情は聞きましたが、この辺にしておきましょう。これ以上怒るのは虚さんの方が辛いでしょう?次やらかさない為にしっかりお灸を添えといたらこの場は良いと思いますよ」

 

 

「…そうですね、この辺にしておきましょう」

 

 

操に宥められ、虚は楯無への説教を止めた。

 

 

「…という訳なので、楯無さんも虚さんの事が大事なら仕事はちゃんとしましょう」

 

 

「は、はーいぃぃぃぃ……」

 

 

楯無はうつ伏せの状態から背もたれに全体重をかける体勢に変わると、そんな気の抜けた返事をする。

普段の楯無からは想像もできない程弱っている姿を見て、操達はついつい苦笑いを浮かべる。

 

 

「それで操さん、わざわざ生徒会室に何か用ですか?」

 

 

「ああ、楯無さんと虚さんは動物園行って以来会って無かったので、顔を出しておこうと」

 

 

「その為に、わざわざありがとうございます」

 

 

「いえいえ、自分の意思で勝手にやっただけですし。あ、そうだそうだ。手土産があるんです」

 

 

虚との会話で手土産の存在を思い出した操はさっき置いた袋の元に向かう。

背もたれにもたれかかっていた楯無を含め、全員が操に視線を向ける。

操は袋の中から手土産を取り出すと、

 

 

「これです!」

 

 

笑顔を浮かべながらバッと楯無達に見せる。

 

 

持ってきたのは、操手作りのデフォルメぬいぐるみ。

以前シュヴァルツェ・ハーゼの隊員達に作ったものと同様のものである。

可愛らしくデフォルメされた楯無、簪、虚、本音の4人。

縫い目も綺麗で完成度も高いぬいぐるみは、一目見ただけで丁寧に作られている事が分かるものだった。

 

 

「そ、それは…?」

 

 

「自作のぬいぐるみです!そこそこ自信作です」

 

 

操は胸を張りながら自慢げな笑みを浮かべると、それぞれにぬいぐるみを手渡していく。

可愛らしい自分のぬいぐるみを見た4人。

 

 

「「……」」

 

 

操のぬいぐるみ制作技術を知らなかった楯無と虚は、料理での敗北で壊れたプライドを、更に踏みつけられて粉々になったかのような感覚を覚えた。

 

 

「「あぁぁ…」」

 

 

以前ラウラにぬいぐるみを見せてもらった簪と本音は、傷口に塩を塗られた。

 

 

「ど、如何しました…?」

 

 

4人の表情が暗くなった事で不安になった操がそう質問すると、4人はハッと笑顔を浮かべる。

 

 

「ご、ごめんなさい!凄く嬉しいです!ありがとうございます!」

 

 

「私、ここまで裁縫が上手くないので参考になります!」

 

 

「お、おお、どういたしまして」

 

 

4人とも、プライドは砕かれたがぬいぐるみを貰って嬉しくない訳では無い。

笑顔でお礼を言い、操はその勢いに若干気圧されながら言葉を発する。

 

ここで、ゴホンゴホンと楯無が咳ばらいをする。

全員の視線が自分に集まった事を確認した楯無は口を開く。

 

 

「今日から2学期、そんな訳で……」

 

 

言いながら楯無は右手を前に突き出す。

その行為でやりたい事を大体察した操達。

 

 

((((さっきまで怒られて疲れてた人がやっても締まらないなぁ))))

 

 

と考えながら同じく右手を前に出し、手を重ねる。

 

 

「頑張っていきましょう!!」

 

 

「「「「おーーー!!!!」」」」

 

 

5人は右手を上にあげ、同時に笑顔を浮かべる。

 

 

波乱万丈が予想される2学期の始まりは、こうして幕が上がったのだった。

 

 




二十歳超えてるけど高校生な操だから生じる年齢の葛藤。
頑張ってくれ。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、よろしくお願いします!


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学園祭の話し合い

お待たせしました。
サブタイそのままです。

少し前からですが、ジュウオウジャーの配信が始まりましたね!
作者はTTFCに加入していないので、実は当時ぶりに見返すことになります。
その為、見ていると

「あ~こんなだったなぁ~」

がよくあります。
ジュウオウザワールドが出たら、書き直す部分も出るかもしれません。


三人称side

 

 

2学期始業式の日、操が生徒会室に顔を出しているのと同時刻。

IS学園の屋上では1人の男子生徒がベンチに座り、呆然とした表情で空を見上げていた。

操が生徒会室にいるという事は、この場にいるのは操以外のもう1人の男子生徒…春十という事である。

 

 

「くっそ…なんだよ、なんなんだよぉ……!!」

 

 

春十はさっきから同じ内容を延々と呟いており、かなり苛立っているのか頭をガリガリと搔きむしっていた。

 

 

「ふざけんなよ…!なんでナターシャ・ファイルスが教師になってんだよ……!!」

 

 

ガァアン!!

 

 

そう呟いた春十は自分が座っているベンチの事を殴る。

だが、何時も苛立っている時に殴っている自分のベッドや自分の部屋ではなく、屋上のベンチ。

しかも殴った場所は角なのでかなり痛い。

事実、春十は殴った右手を左手で押さえ若干涙目を浮かべている。

 

 

「くっそ…何で、何で俺の思う通りに行かねぇんだよ!!」

 

 

春十は恨みの籠った表情を浮かべながらそう叫んだ。

 

 

春十はこの世界に転生してからIS学園に入る前までの間、全てが自分の思う通りに進んで行っていた。

その長い年月を過ごす中で、春十は勘違いをしてしまった。

この世界の全ては自分の思う通りに動くものだと。

勘違いをし続けたままIS学園に入学した結果、操という存在に、原作とは全く違った展開に、自分の思う通りにいかない現実への怒りをずっとため込んでいた。

 

 

だが、世界が自分の思う通りに進む事など絶対にないというのは、小学生でも分かる事。

それを春十は受け入れていない。

 

 

そもそも、春十が思い通りに出来ていたのは自分の周囲の環境だけ。

その狭い範囲で起こった事を、世界全てに当てはめて考えてしまっていた。

そうして勘違いを真実だと思い続けた。

年月をかけて定着したその思考は、簡単に変わるものではない。

だから、1学期と夏休みの約4ヶ月を経ても春十は未だに同じ事を考え続けているのだ。

 

 

「クソッ…!クソッ…!クソォオオ!!」

 

 

ガリガリと再び頭を掻きむしる。

そんな中、右手に装着されている白いガントレットが春十の視界に入って来た。

それはこの世界において重要な存在であり、春十の専用機でもある白式の待機形態。

朝、自分で右腕に付けた時は特に何も感じなかったのだが、イライラしている今それを見た春十の感情が爆発した。

 

 

「お前もお前だ!何で臨海学校で二次移行しなかったんだよ!俺の活躍全くなかったじゃねぇか!」

 

 

腕から白式を外し、叫ぶ。

その表情は怒りに満ちており、溜まった鬱憤を白式にぶつけていた。

 

 

「クソッ!クソォ!!お前がポンコツだから俺が活躍出来ないんだよぉ!」

 

 

春十は苛立ちから白式を屋上の床にたたきつける。

完全な八つ当たりである。

大切な専用機を雑に扱っている時点で、春十のIS操縦者としての意識がとても低いという事が分かる。

それと同時に、この行為が白式が二次移行する事は万に一つもないという事を裏付けた。

 

 

春十はすっかり忘れているのだが、二次移行というものは本来ISのコアとの同調が高まる事によって起こるのだ。

ISから見て、自分を大事にしない操縦者と果たして同調しようと思うのだろうか。

余程の事が無い限り、そうはならないだろう。

 

 

つまり、春十は自分の行動で、白式の二次移行を、強いては自分自身の強化を遠ざけているのだ。

その事を未だに理解できない。

だからこそ、取る行動取る行動全てが裏目に出ているのだ。

 

 

「それだけじゃねぇ!何で俺の成績があんなに低いんだよ!おかしいだろ!転生特典はどうなってんだ!!」

 

 

春十は、1学期の自身の成績がとても低かった事も納得していないようだ。

転生特典で前世よりは頭脳が強化されているのは事実。

だがしかし、それに胡坐をかき碌に勉強をしてなかったのもまた事実。

自分が勉強をしなかった結果の低成績であり、夏休みの補習だったのである。

 

 

その事実を認めず、他人や環境ばかりに原因を探す。

だから春十はずっと成長せず、たださえ負けている操達との差が開く。

その開いた差を見て、また自分を守り、責任を擦り付ける。

悪循環から脱しない限りは、春十は永遠に成長出来ないであろう。

 

 

「クソッ!クソッ!クッソォオオオ!!」

 

 

春十の怒りは収まらない。

結局そのまま最終下校時刻まで、ずっと叫び続けているのであった。

 

 


 

 

操side

 

 

2学期が始まってボチボチしたある日。

今日は集会がある。

全校生徒がクラスごとの列になり、集会が始まるのを静かに待っていた。

 

 

それにしても、この間始業式やったばっかりなのにまた集会か…

集会が多いな。

まぁ、仕方のない事だし、教員のみなさんからしても集会って面倒な事だとは思うから文句は言わないけど。

 

 

「…遅いな」

 

 

隣に立つラウラがボソッと呟く。

それを聞いて体育館の時計をチラッと確認すると、確かに予定時間から5分程遅れていた。

 

 

「…まぁ、簪から聞いた話だど楯無さんがやけにウキウキしてたらしいから、また何か企んでるから遅れてるんだと思うけど」

 

 

「なるほど。それならば納得だな」

 

 

するんだ。

まぁ、説明にこれを選んだ俺も俺だけどさ。

しっかし、本当に何か企んでいるんだとしたらとてもいやな予感がしてヒヤヒヤする。

なんでだろうね、俺は直接には関係ないのに。

 

 

「…なにか面倒な予感がするな」

 

 

「ラウラもするんだ」

 

 

なんだ、俺だけじゃないのか。

楯無さん、普段の言動如何にかした方が良いんじゃないですかね?

 

 

と、楯無さん本人には聞かせられないかもしれない事を考えていると

 

 

『お待たせしました。これより、全校集会を始めます』

 

 

司会進行の山田先生がマイクに向かって話し出した。

おっと、しっかり集中して話を聞かないと。

 

 

そうして、集会は恙無く進んで行く。

メインの内容は、もう直ぐ行われる学園祭についてだ。

如何やら学園祭は色々な国の人が来るし、来たがるらしい。

まぁ確かに、クラス対抗戦の時だったり学年別トーナメントの時でも沢山の人が来てたんだ。

ISでの戦闘が無いとはいえ、国の人が来たがるのは当然か。

それに、IS学園への進学を希望している中学3年生の人達からすると、貴重な学園見学の機会でもあるのだ。

学園祭に来たがる人は総合するとIS戦闘イベントより断然に多いだろう。

 

 

だから、生徒1人に招待券が配られ、それを使わないと外部の人の学園祭への参加が不可らしい。

 

 

…招待券を上げる人が居ない。

俺はこっちの世界ではIS学園以外の友人はシュヴァルツェア・ハーゼのみんなしかいないのだ。

果たして学園祭の招待券が欲しいのだろうか?

いや、隊員のみんなはラウラの事が大好きだから、寧ろ欲しいのか?

……分からないから後で電話で聞こう。

 

 

そんな事を考えている間にも集会は進んで行く。

今日から本番までの大まかな流れだったり、準備や本番の際の注意点だったり…

まぁ、後でクラスでもう1回説明があるとは思うけど、全体の場で話しておくのは大事か。

 

 

『それでは、続いて生徒会からです。更識生徒会長、よろしくお願いします』

 

 

「はい」

 

 

山田先生に呼ばれ、楯無さんがステージ上に上がる。

そうして礼をしてからマイクを使い話し始める。

 

 

『1年生の中には初めましての人も多いかもしれませんね。IS学園生徒会長の更識楯無です。よろしくね』

 

 

楯無さんはニコッと笑顔を浮かべてそう挨拶する。

それを言われて思い出したが、そういえば確かに楯無さん集会とかで話しているの見たことが無い。

1学期の終業式も、この間の始業式も楯無さん喋って無かった。

俺は参加しなかったから分からなかったけど、てっきり入学式では喋っているものだと思ってたけど…如何やら話してなかったらしい。

自分でも表情が呆れているものになってるのが分かる。

 

 

「良くそれで生徒会長が務まるな…」

 

 

同じく呆れたような表情を浮かべているラウラがそう呟く。

そうか、ラウラはGW明けに転校してきたから入学式に参加してる訳が無いか。

 

 

『さて、それでは生徒会からは学園祭の目玉イベントについての説明をします』

 

 

目玉イベント。

その言葉を聞いた周囲の生徒はザワザワし始める。

だが、俺とラウラは思わず身構えてしまう。

あ、ステージ近くにいる虚さんが頭押さえてる。

 

 

『IS学園の学園祭では毎年、各部の売り上げに応じその部の部費を増やすという事をしてるんだけど…』

 

 

そんなことしてたの!?

なんて滅茶苦茶な学園なんだ!!

…いや、案外こんなものなのか……?

普通の高校に通った事が無いから分からない。

まぁ良いや、今更俺が何か言ったってなにも変わらないし。

 

 

『今年はそれではつまらないと思いました。そこで!!』

 

 

楯無さんがそう言うと、その背後にプロジェクターでデカデカと俺の顔写真が映し出される。

……はぁっ!?

俺の顔写真!?

お、織斑春十じゃないよな、アレ!?

 

 

『売上1位の部活に、門藤操さんの特別ランチプレゼントです!』

 

 

「はぁあああああ!?」

 

 

『やったぁあああああああ!!』

 

 

は、え?

ナニィ!?

聞いて無いんだけど!?

 

 

『ふふふ、本当は強制入部と言いたかったんですが、それだと23歳成人男性だからと逃げられそうだったので…』

 

 

そりゃそうだ!

俺が16歳でも女子部に入るなんて滅茶苦茶に恥ずかしいのに、俺もう直ぐ24なんだぞ!

入れる訳無いだろうが!

 

 

『そんな訳で、1位の部活には門藤操さん手作りランチを1食分プレゼントしまーす!』

 

 

「勝つ!勝つわよ!絶対勝つ!」

 

 

「1に優勝、2に優勝!」

 

 

「次の大会なんて放っておいて!」

 

 

「それは駄目だろ!?」

 

 

大会に全力になって!

なんの為に部活してるの!?

あ、虚さんが頭だけじゃなくてお腹も押さえてる…

ん、目が合った。

 

 

「……」

 

 

視線の先で必死にペコペコしている虚さんを見ると、なんか怒る気が無くなっていく。

まぁ、仮にこの後楯無さんを捕まえて怒ったとしても今こんな大々的に言った事を、撤回出来るとは思えないし…

良し、もうあーだこーだ言うのは止めた!

こうなったら、全力で料理してやる!

 

 

と、俺が1人で怒ったり吹っ切れて気合い入れたりしているうちに、楯無さんは話を終えステージ上から降りていた。

 

 

『それでは、全校集会を終わります。各学年の1組から順に教室に戻って下さい』

 

 

俺達は1年1組、つまり最初に帰るのである。

何時も思うのだが、この組の番号若ければ若いほど早く帰れるシステム、結構理不尽なんじゃないだろうか。

クラスの番号は自分達では決められないんだから、偶には1組が1番最後とかで良いんじゃないだろうか。

あ、それだと真ん中あたりは変わらないか。

……俺が考えても意味無いや。

 

 

そんなどうでもいい事を考えながら、教室に戻っていった。

 

 


 

 

三人称side

 

 

「え~それでは、優勝賞品にされた男が仕切っていきま~す」

 

 

全校集会後の所謂学活の時間。

教壇に立つ操がそう声を発した。

この時間は、学園祭で1年1組の出し物を決める時間である。

 

 

教室に戻ってきた操は、スマホに虚からの連絡が入っている事に気が付いた。

その内容は

 

 

『操さん、申し訳ありません。楯無様はしっかりと叱っておきます。不服でしたら撤回しても大丈夫ですので…』

 

 

だった。

それを見た操は苦笑いを浮かべながら

 

 

『昼食の用意くらい全然大丈夫ですよ。でもお説教はお願いします』

 

 

と返信した。

1分もしないうちに

 

 

『お任せください。改めまして、本当にすみませんでした』

 

 

と返って来た。

 

 

そうして休み時間が終了し、教室に千冬と真耶がやって来た。

だが、千冬はこの時間にやる事をザックリと説明し、さっさと職員室に戻って行ってしまった。

30秒にも満たない滞在時間に思わず全員が固まったが、復帰した真耶が進行を操にお願いした。

真耶が進めても良いのだが、折角の学園祭の出し物の話し合いなのだ。

クラス代表である操に任せた方が良いと判断したのだ。

 

 

そうして教壇に立った操。

取り敢えず未だに固まったままのクラスメイトが数名いるので、雰囲気を柔らかくする発言をした。

その狙い通り、真耶を含めたほぼ全員が思わずクスッと笑みを浮かべた。

それを確認した操は内心で安心の息を漏らすと同時に、気が付いた。

 

 

(……睨まれてるなぁ)

 

 

そう、クラスメイトの中の2人程に睨まれている事を。

チラッと気付かれない程度に窓際に座る黒髪ポニーテルと、後ろの方の金髪ロールに視線を向ける。

2人…箒とセシリアは不機嫌なのを隠そうとせずに操を睨みつけていた。

 

 

(大方、そこに相応しいのは織斑春十なんだぞ的な事を考えているんだろうけど…やりにくいったらありゃしない。止めてくれないかな)

 

 

操は内心でため息をつきながらそんな事を考えるも、意味が無いと切り替える。

 

 

「それじゃあ、1組で何をしたいのかを周りの人と話しあいながら考えてくれ。時間は…大体5分間で」

 

 

操の指示に従い、不機嫌な2人とどうしたら良いのか分からない春十を除いた全員が話し合いを始めようとする。

だが、その直前にとある可能性を思い付いた操はハッとした表情を浮かべると、慌てて声を発する。

 

 

「あっ!俺と織斑h……君だけをメインに添えた奴は止めてくれよ?」

 

 

操は自分がもう直ぐ24になるおっさんだという自覚がある。

実は秘かに同じテンションで参加できるのか如何か不安だというのに、出し物のメインにされたら溜まったものではない。

春十は目立つのが好きという偏見を持っているのだが、ここで言わないのは違和感があるので名前を言った。

 

 

「わ、分かってますよ~~、あはははは…」

 

 

「そ、そうですよそうですよ。誰か個人の負担が大きい案なんて…」

 

 

クラスメイトの数人がそう声を発するが、視線が泳いでいた。

声には出していないものの、問題児以外の全員何処か動揺しているような表情を浮かべていた。

操は苦笑を浮かべながら、自分でも何かいい案が無いかと考える。

 

 

(…何があるかな……釣りは駄目だし…料理教室か裁縫教室…それぞれに部活あったわ)

 

 

結局操は自分ではいい案が出せなかった。

だが、これはクラス会議なのだ。

三人寄れば文殊の知恵と言うように、1人では駄目でもクラス全員で話し合えばいい意見が出る。

 

 

「え~、それじゃあ意見が出た人は挙手を。俺が差したら具体的に説明をお願い」

 

 

操がそう言うと、話し合っていたグループから代表が数人手を上げる。

順番に意見を聞き、黒板に箇条書きでメモしていく。

 

 

『お化け屋敷』

 

 

『喫茶店』

 

 

『テーマ別の展示』

 

 

等々。

一般的に見て無難なものばかり。

 

 

「う~~んと…これだけだと多分他クラスと被るから、なんか1つ工夫したいんだけど……」

 

 

『確かに』

 

 

操の呟きに、問題児を除く全員がそう声を発した。

 

 

「山田先生、なんかアイデア無いですかね?」

 

 

「ここで私に振るんですか!?えっと、えっと……」

 

 

急に話を振られた真耶は驚きの声を発し、咄嗟に思考を巡らせる。

クラスのほぼ全員が視線を向ける中、真耶はあたふた視線を泳がせ、手をバタバタさせていたが

 

 

「ご、ごめんなさい…何も出ないです…」

 

 

申し訳なさそうに頭を下げた。

 

 

「あ、いや、急に話を振ってすみませんでした」

 

 

まさかここまで落ち込むとは思わなかった操は真耶に謝罪する。

 

 

「でも、山田先生でも駄目となると如何したものか…もう1回話し合って……」

 

 

「は~い!」

 

 

「ん?」

 

 

操が顎に手を置きどうしようかと悩んでいると、1人の生徒が手を上げた。

クラス中の視線が集まるその手は、ダボダボの制服の裾から指だけが出ていた。

 

 

「はい、のほほんさん」

 

 

操はその生徒…本音の事を差す。

本音はそのままニッコニコの笑顔で言葉を発した。

 

 

「メイド・執事喫茶で良いんじゃないですか~?だって操さん働いてますし」

 

 

「ぶふぉっ!?」

 

 

急に本音が自分のバイト先の暴露をしたので操は盛大にむせた。

ゴッホゴッホと1分ほど咳をして、漸く収まった時、操は気が付いた。

問題児以外のクラスメイトの視線が自分に集まっている事を。

 

 

「あ、あはは…えっと…はい、事実です……」

 

 

操は消えそうな声で肯定の言葉を発する。

だが、肯定の言葉を発したという事実はクラス全員に届いていた。

 

 

「なら、口調とか仕草は門藤さんに指導してもらえば!」

 

 

「うんうん!門藤さんは従業員っていうか、店の店長とかマスターみたいな感じで!」

 

 

「男子はうちしかいないから、執事がいるっていうのは大きい!」

 

 

「それなら、私衣装作る!」

 

 

などなど、クラスメイトは盛り上がっていく。

 

 

「ちょ、山田先生、助け…」

 

 

あまりの盛り上がりに、操は真耶に助けを求めようと視線を向ける。

だが、

 

 

「良いですねぇ!」

 

 

と、真耶は一緒になって盛り上がっていた。

操は思わず右手で顔を覆う。

だが、僅かに見えているその口元は笑みを浮かべていた。

 

 

(…まぁ、重苦しい雰囲気じゃないし、寧ろほぼ全員が一丸となってるし…良い感じだな!)

 

 

操はそんな事を考えながら、顔から手を離す。

その顔は、満面の笑みを浮かべていた。

 

 

そこから大体10分後。

問題児以外の全員の合意で、1年1組の出し物はメイド・執事喫茶に決まった。

詳しいメニューや内装を決めるのはまた後日時間があるので、取り敢えず今日の話し合いはここで終了だ。

操は真耶から受け取った既定の用紙に行う事、そして調理室使用希望等々の必要な事を記入した。

 

その後職員室の千冬に提出しようとしたが、真耶が変わりに出してくれるとの事だったので素直に真耶に渡した。

そんなやり取りの中で、操は感じていた。

春十、箒、セシリアの3人が自分の事を睨んでいた事を。

箒とセシリアは最初からなので分かっていたが、遂に春十まで睨んで来たと操は心の中でため息をついた。

 

 

クラス内にそんな不安要素を残しながらも、学園祭へ向かって時間は流れていくのだった……

 

 

 

 




相も変わらず馬鹿は馬鹿。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想もよろしくお願いします!


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準備がなんなら1番大事

かなりお待たせしました。
サブタイどおり学園祭の準備回です。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

学園祭に向けた話し合いを行ってから、少しの時が過ぎた。

IS学園の空気は、学園祭一色に染まっていた。

 

 

それは操が所属している1年1組も同様である。

学園祭が近付いていくにつれ、クラスのテンションはそれに比例する形で高まっていっていた。

 

 

そんなこんなで、学園祭開催1週間前。

土曜日であり、通常なら警備員と時間外労働をしている教員以外校舎にいないはずの日。

 

 

「おーい!赤のペンの予備何処だっけ!?」

 

 

「そこ!エリシィさんの机の下!」

 

 

「模造紙足りないんだけど!?」

 

 

「えっ!?あ、この間の修理で結構使っちゃったんだ!直ぐに先生に注文しないと!」

 

 

「衣装出来たよぉ!」

 

 

「かわいい~~!」

 

 

だが、この日のIS学園からは、生徒達の楽しそうな、そしてとても元気な声が至る所から聞こえてくる。

学園祭が迫ってきているので今日と明日は各教室を解放し、作業が出来るようになっているのである。

学園祭前最後の休日で、前日を除けば終日作業が出来るのはこの2日間だけという事で、各クラス、各部活が本気を出しているのだ。

 

 

そしてそれは、1年1組も同じ事。

メイド・執事喫茶を行う1年1組。

当日は役割を大きく4つに分ける予定だ。

 

 

1つは接客。

メイド(執事)のコスプレをして、やって来るお客さんの席に案内したり、注文の品を給仕する。

また、メイド喫茶の特徴である萌え台詞なども担当の為、当日の主役と言っても過言ではない。

 

 

2つ目は調理。

喫茶店は、当然ながら商品は飲食物である。

そして買ってきた既製品をそのまま提供するのはルール違反なので、飲み物をコップに移したり、盛りつけしたり、一部メニューは実際に調理する。

 

 

3つ目は集客。

当日は自分達の出し物の告知をするために、ポップを持って学園内を歩く事が可能。

その為、衣装を着用しポップを持ち学園中を練り歩くのだ。

担当する人数は少ない。

 

 

最後に4つ目、店長。

当日店の全体を仕切り、トラブルが起こったときの対処等を行う。

担当はクラスで唯一本物のメイド・執事喫茶でのバイトを続けている操。

店長とはいっても、ほぼ裏方なので余程の事態が起こらない限り表に出る事は無い。

 

 

そして、今操が何をしているのかというと…

 

 

「おお!凄く良いと思う!」

 

 

「ですよねですよね!これは我々衣装班の自信作です!」

 

 

教室で接客班の衣装の確認である。

自信作という言葉通り、その完成度はかなり高い。

それはもう、バイトで本当に接客をしているプロが着用しているものを間近で何度も見ている操が見ても、かなり完成度が高いと言えるものだった。

 

 

「へぇ~、ここフリルにしたんだ」

 

 

「そうなんですよ!これが1番のこだわりです!どうですか、可愛いでしょう!?」

 

 

「………うん、可愛いと思う」

 

 

操としては、ただフリルについて話しただけだったのだが、衣装担当代表、岸原理子の思った以上の反応に若干引いてしまう。

やはり操も男。

『可愛い』という言葉に対する認識は女子とはやっぱり違うらしい。

 

 

「それで、メイド服しかないけど、織斑は…君が着る執事服は?」

 

 

操がそう疑問を口にするもの当然だった。

何故なら、目の前にあるのはメイド服のみ。

店長をする操を除けば、唯一の男子生徒である春十はほぼ強制的に接客担当になった。

別に春十がメイド服で接客してはいけないという決まりは無いが、春十の性格から考えてメイド服を着用するとは考えにくい。

 

 

(いや、もしかしたら本当にメイド服の可能性も……)

 

 

操はメイド服を着用した春十を一瞬だけ想像して、春十の顔が自分の顔とほぼ同じ事を思い出し、なんとなく嫌な気分になったので直ぐに止めた。

だがしかし、春十がメイド服を着用する可能性が無くなった訳では無い。

操は理子に視線を向ける。

理子は分かってますと言わんばかりに頷くと、

 

 

「実は、何人かにもう衣装を着てもらっているのです!」

 

 

と胸を張って言う。

 

 

「ああ、なるほど。それで」

 

 

「そうなんです!では、全員入って来て!!」

 

 

理子の言葉と同時に、2人は視線を教室の扉に向ける。

 

ガラララ

 

教室の扉が開き、数人が教室の中に入って来る。

 

 

「おおっ!全員似合ってる似合って…る……」

 

 

操の声のボリュームはだんだんと小さくなっていく。

だが、目の前の光景を考えればそれも仕方が無いだろう。

 

 

先ずは執事服を着用した春十。

性格や価値観は兎も角、見た目はイケメンなので似合っている。

執事服のクオリティーもメイド服同様かなり高く、プロの現場で実際に着用している操が見ても、かなりの完成度だとハッキリ言えるものだった。

顔が自分に似ているので、なんとなくバイトの時の自分を客観視しているようで気恥ずかしい事と、春十の今までの態度という懸念点を除けば、春十に関しては完璧だろう。

 

 

その評価を下し、操は視線を少し横にずらす。

そこにいるのは銀髪黒眼帯メイド。

そう、ラウラである。

操がさっきまで見ていたメイド服とサイズが違う事以外同じものを着用している。

医療用じゃない眼帯という、メイド服にミスマッチすぎるものをしているのに、ラウラの綺麗な銀髪や整った容姿のお陰で不思議と似合っていた。

顔を真っ赤にしているのはご愛敬。

 

 

操は再び視線をずらす。

そこにいるのは、同じくメイド服を着用した静寐、神楽、癒子、さゆかの4人。

ラウラとは異なり、そこまで恥ずかしがっては居ないようだ。

とても自然にメイド服を着こなしており、似合っている。

 

 

ここまでは良い。

ここまでは。

 

 

操は最後に表情を懸念のものに変えながら視線をずらす。

そこにいるのは、1年1組マスコット枠のほほんさんこと本音。

本音が此処にいる事事態は別に何の問題は無い。

本音も1年1組の生徒なのだから。

だが、問題があるのはその身に纏う服だった。

 

 

ラウラ達と同じメイド服でもなく、ましてや春十と同じ執事服でもない。

その身に纏うは、全身を覆う着ぐるみパジャマ。

なんとなく気だるげな表情に見えるキツネのような動物の顔が頭の上に来ており、とっても似合っている。

そう、とても似合っている。

似合ってはいるのだが……そう言う問題じゃない。

 

 

「全員似合ってるよ。織斑君も格好いいし、ラウラ達は可愛い」

 

 

「っ!可愛いって直接言うなぁ!!」

 

 

「ちょっ!?ラウラ、暴れない暴れない!」

 

 

「折角のメイド服破れちゃう!」

 

 

「ぬぁあ!私達の3時間がぁ!!」

 

 

「えっ!そんなにかかったの!?」

 

 

予備も含めてザッと30着ほどのメイド服が完成している。

1着3時間かかるとしたら、単純計算で90時間。

私『達』と言っているので、1着を何人か手分けして作った可能性大。

手分けして3時間かかったとなると、その労力は90時間よりもはるかにかかっていると言っても過言ではない。

そんなもの、余計に欠損させる訳にはいかない。

 

 

そうしてなんとかラウラを落ち着ける事に成功した。

だが、未だに恥ずかしいらしくメイド服を汚さないようにしながら、器用に教室の端で縮こまっている。

 

 

因みに操はしれっとラウラの事を写真に撮り、クラリッサに送ってあげた。

恐らく1時間後には全隊員に写真が共有されているだろう。

後日操の元にはクラリッサ達からの感謝の連絡が大量に来たというのは余談である。

 

 

「それで、のほほんさんはなんでチベットスナギツネの着ぐるみパジャマなの?」

 

 

「お、流石操さん!初見でチベスナを見抜けるなんて!」

 

 

「チベットスナギツネってそう略すんだ…」

 

 

本音の着ぐるみに使われている気だるげなキツネことチベットスナギツネ。

哺乳類ネコ目(食肉目)イヌ科キツネ属の動物である。

猫なの?犬なの?狐なの?とは言ってはいけない。

チベットスナギツネである。

 

 

「って、チベットスナギツネの話題はそこまで重要じゃないんだよ」

 

 

「え、でもチベスナの話題自体が結構レアなイメージあるんですけど」

 

 

「カップ麺が原因じゃない?」

 

 

「あ、それですね。操さんって実際に見たことあるんですか?」

 

 

「標本は見たことある。流石に生きてるのは見た事無いけど」

 

 

「おお、流石は動物学者のアシスタント!」

 

 

「ありがと~」

 

 

「「あはははは」」

 

 

「操さん操さん、結局話それてますよ?」

 

 

「ハッ!?」

 

 

静寐に指摘されて、理子の話術に丸め込まれていた事に気が付いた操。

そのハッとした表情を浮かべる操を見て、静寐達は珍しいものを見たなぁ、といった表情を浮かべる。

操はみんなの前では何時もしっかりしていて、操にはあまりこういったポンコツ行為のイメージが無い。

その為こうして物珍しく見えるのだろう。

 

 

まぁ、その内気で卑屈な性格がまだ酷かった頃はジュウオウジャーのメンバーに散々迷惑かけたのだが…静寐達がそれを知る由は無い。

 

 

「こ、コホン。それで岸原さん、なんでのほほんさんは着ぐるみパジャマなの?メイド・執事喫茶だよね?」

 

 

「本音にはメイド服よりこっちの方が似合うので、これで客呼びでも」

 

 

「……岸原さんは店長と同じ感性の持ち主のようだ」

 

 

夏休みの体験バイトの時に同じ様な事を喋っていた店長の事を思い出し、遠い目で教室の窓から@クルーズがある方向を見つめる操。

ブンブンと頭を振り、改めて本音の着ぐるみパジャマを見る。

チベットスナギツネというそこそこマイナーな動物をセレクトした以外は、ツッコミどころの無い完成度。

顔と指先以外肌が見えていないので、よりチベットスナギツネ度が上がっているのもまた良い。

果たしてメイド・執事喫茶にチベットスナギツネが必要なのかは謎だが。

まぁ、動物と触れ合えるカフェは繁盛してるし、マスコット枠がいても問題は無いだろう。

多分。

 

 

「ともあれ執事服も、メイド服も、チベットスナギツネも確認OK…と」

 

 

ひと悶着どころかふた悶着くらいあったので、ドッと疲れたような表情を浮かべながら操はチェック用の用紙に記入していく。

 

 

「操さん操さん」

 

 

「ん?どうしたさゆか」

 

 

「調理室行かなくて良いんですか?」

 

 

「え゛!?」

 

 

さゆかの指摘を受け、慌てて時計を確認する操。

操は衣装チェックの次に調理室に行き、提供するメニューのチェックもしないといけない。

そして、今日の調理室の使用状況は結構カツカツなので、たとえ1秒でも遅れる訳にはいかない。

時刻は操が調理室に居なくてはいけない時間の4分前。

調理室は家庭科の調理実習でも使用する、いわゆる移動教室の1つなので2、3分で移動が出来る範囲ではある。

だが2、3分掛かってしまうのは事実。

つまり……

 

 

「ごめん!俺もう行く!今日は解散で良いから!お疲れ様!!」

 

 

操は慌てて教室から飛び出て、走らない程度での最高速度で調理室へと向かって行った。

操にとっては早歩きだったとしても、常人から見ればかなりの速度の為、教室に残っている静寐達は暫く驚いた表情を浮かべていた。

 

 

「取り敢えず、みんな着替えよっか」

 

 

「そうだね。ほら、何時までもそんなところで蹲らないで」

 

 

「ううう…」

 

 

メイド服に傷をつけないように気を付けながら、静寐達はラウラを更衣室へと引きずっていく。

理子もメイド服を回収しないといけないので後に付いて行く。

 

 

「あ、織斑君!執事服、教壇の上においてくれたら帰って良いから!」

 

 

「あ、ああ…」

 

 

理子の言葉に春十は呆然とした表情で返事する事しか出来なかった。

そうして、1人でポツンと教室に残された春十。

暫くの間呆然とした表情を浮かべていた春十だが、やがてとても疲れたような表情を浮かべて椅子に座り込む。

 

 

「クソッ…なんだよ、なんなんだよぉ!なんで学園祭であんなもん着てんだ!?そんな描写なかっただろうが!!」

 

 

春十は憤りを露わにし、机の事を殴る。

未だに原作との違いに対して憤る春十。

 

ガン!ガン!ガン!

 

何度も何度も机を殴る春十。

今まで、気に食わない事があれば物にあたり、罵詈雑言を発していた。

何一つ変わらない…つまり、何一つ成長していない行動。

そんな事すら、春十は理解していない。

 

 

「クソッ!クソッ!クソッ!!」

 

 

結局、春十が執事服から着替えたのはそれから10分後だった。

 

 


 

 

「う~~ん…ついに明日かぁ…」

 

 

ドタバタしていた準備の日から約一週間後。

学園祭前日の放課後。

操の姿は屋上にあった。

 

 

もう既に、学園祭で使用する教室という教室は全て学園祭仕様になっている。

まぁ、まだ準備がギリギリ終わっていないクラスや部活もちょこちょこあったりしているのだが、その作業ももう終わりに近いだろう。

 

 

1年1組の教室も、完璧にメイド・執事喫茶仕様になっている。

当然、元が教室の為学園祭感というか、学生クオリティー感がどうしても拭いきれていないが、そもそも学園祭なのだ。

手作り感がある方が味があって良いだろう。

 

 

もう準備は明日の朝、服装や提供品などの最終チェックをするくらいである。

全員既に解散しており、全員が寮の自室に戻っているか、部活の方に顔を出しているだろう。

 

 

そんな中で、操は1人空を見上げていた。

空は生徒達の期待に応えるかのようで、何処までも青く広がっていそうだった。

 

 

「綺麗な空だなぁ…あ、鷲…」

 

 

IS学園は日本の本土に無い。

こんなところにまで鷲が飛んでくるのは珍しい。

その鷲が見えなくなるまで、操は鷲の事をボーッと眺めていた。

自由気ままに、だが凛々しく、堂々と飛ぶ鷲。

全く関係が無い筈なのに、操はその姿に今は会えない友人の姿を重ねていた。

 

 

「今頃みんなどうしてるかなぁ…会いたいなぁ……」

 

 

操はそう呟くと、ポケットからキューブモードのキューブクロコダイルとキューブウルフを取り出し、空に掲げる。

キューブライノスはキューブモードに変形できず、空に掲げるのも一苦労なので今回ははぶった。

 

 

手の中でクロコダイルとウルフを弄りながら、思いをはせる操。

視線を再び空に向ける。

時間が経っている訳では無いので、空はさっきまでと変わらず青く澄んでいる。

そして、その先には地球という枠組みから外れ、生物が存在していない宇宙が広がる。

 

 

「こうしてると、束がそこを目指した理由がなんとなくわかる気がするな。まぁ、あの天災の思考を完全に理解できるとは全くもって思わないけど」

 

 

操は苦笑交じりにそう言葉を零すと、クロコダイルとウルフをポケットに仕舞い、屋上の端に移動する。

そうして学園の敷地……大きく言うと地球を見下ろしながら、優しい表情を浮かべる。

 

 

「でも、俺はやっぱり宇宙より地球が好きだな。いろいろな生物がいて、互いを支え合って生きるこの惑星(ほし)が」

 

 

この世界でも、向こうの世界でも。

地球では今この瞬間にも何処かで新たな命が生まれ、また別の何処かでは消えている。

生とし生きるもの、何時かは死が訪れる。

そんな限りある生命は、一個体だけでは生きてはいけない。

いろいろな個体が支え合って、前を向いて生きている。

勿論、そこには食物連鎖等の命の奪い合いはある。

だがそれも、地球という惑星の摂理だ。

 

 

そんな、生命を感じられる地球が、操は好きだ。

だからこそ、操は宇宙へのこだわりがあまりない。

 

 

「もし俺が宇宙に行く事があるとしたら……地球で戦うとヤバいくらいの巨大な敵と戦う時くらいかな?」

 

 

操はそう言葉を漏らし、苦笑を浮かべる。

 

 

「まぁ、トウサイジュウオーに飛行能力が無いから連れて行ってもらわないといけないけど」

 

 

そろそろ帰ろう。

そう思った操が身体の向きを屋上の扉に向けた時、

 

 

ガチャ

 

 

と音を立て、屋上の扉が開いた。

操が扉の方を向いていたため、必然的に顔を合わせる事になる。

 

 

「あ、楯無さん」

 

 

「操さん!」

 

 

屋上に入って来た楯無は操の事を視界に確認すると、パタパタと駆け寄る。

 

 

「操さん、こんなところで何してたんですか?」

 

 

「あ~、宇宙(そら)地球(ほし)を見ながら思いにふけってました」

 

 

「ふふふ、なんですかそれ」

 

 

操の言葉に、楯無がクスクス笑いながらそう返す。

そんな反応が帰って来ることは重々承知だったのだが、事実ではあるので冗談だという事も出来ず、操は苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。

だが、頭を振って切り替えると、

 

 

「楯無さんこそ、どうしてわざわざ屋上まで?生徒会、忙しいのでは?」

 

 

と質問し返した。

その質問を聞いた楯無は、何処か疲れたような笑顔を浮かべ、遠くを見ながら言葉を発する。

 

 

「仕事の息抜きです。5分だけ許可を虚ちゃんから貰ったんです。勿論、この後も最終下校時刻ギリギリまでやる事がありますよ?なにせ明日は色んな国から外部の人が来ますし、中にはスカウトも……」

 

 

「お、お疲れ様…であってますかね?っていうか、なんで前日にその作業してるんですか?そもそも、それは本当に生徒会の仕事なんですか?」

 

 

いくら楯無が偶に仕事をさぼって簪の観察に行くとは言え、流石に学園祭に関する事を、前日までため込むなんて愚かな行為はしないと操は理解している。

それと同時に、操の脳裏には1人の教師の姿が思い浮かんでいた。

 

 

(もしかして、こんな事態になった原因は……)

 

 

「織斑先生が、仕事ためてました?」

 

 

操の言葉に、楯無がブンブンと首を縦に振る。

 

 

「そうなんですよぉ!織斑先生が、1学期の内からやっておかないといけない仕事をため込んでてぇ!!教師の人達で必死に消化してたんですけど、それでも間に合わないみたいでぇ!!私達にぃ!!回って来たんですぅう!!!」

 

 

「うわぁ……」

 

 

あの楯無が若干涙目に見えなくもない表情で叫ぶ。

その内容に、思わず操は表情を引きつらせた。

楯無は暫くの間そう騒いでいたが、やがて落ち着くとはぁはぁと肩で息をする。

 

 

「す、すいません、なんか思い出したら怒りが止まらなくて……」

 

 

「それで暗部務まるんですか?」

 

 

「うっ、痛いところを…生徒会長モードだからこうなってるんです!暗部モードならこんなに感情は動かないです!」

 

 

「……生徒会長モードでも、冷静でいるべきでは?」

 

 

あまり深く考えてない操の正論に、楯無は心にダメージを受けた。

胸を押さえ、その場に蹲る。

そんな反応を見た操は慌てて楯無に駆け寄っていく。

 

 

「す、すみません、なんか生意気なこと言って」

 

 

「き、気にしないで下さい…事実であることには間違い無いので…簪ちゃんに嫌われないように頑張りますっ!!」

 

 

「あ、はい。頑張って下さい」

 

 

楯無がガバッと立ち上がり、決意に満ちた表情でそう言う。

その気迫に、操はただ応援する事しか出来なかった。

ここで、ふと操は気が付いた。

 

 

「楯無さん、時間大丈夫ですか?さっき休憩5分って……」

 

 

「え?」

 

 

操に言われ、楯無は時間を確認する。

すると、その表情からさぁっと血の気が引いていく。

 

 

「い、今すぐ戻らないと!!」

 

 

楯無は慌てて走り出そうとするが、急に走り出したためかバランスを崩し、顔面から倒れていく。

 

 

「ちょっ!危ない!!」

 

 

操が屋上の床を蹴り、楯無と床の間に滑り込むと、その身体を優しく受け止める。

 

 

「ふぅ…大丈夫ですか?慌てて行動して、怪我したら元も子もないですよ」

 

 

「はい……気を付けます……」

 

 

「ところで提案なんですけど、俺で良かったら手伝いますよ?生徒会じゃない人間が見て良いのか分からな「手伝って下さい!!!!」あ、はい」

 

 

食い気味で来た楯無に若干引きながら、操は首を前に倒す。

 

 

「操さんが手伝ってくるなら百人力!早く行きましょう!時間は有限です!!」

 

 

「わ、分かったので生徒会長が走らないで下さい!っていうか、その腕の何処に俺を引っ張れる力があるんですか!?」

 

 

楯無に思いっきり引っ張られる形で、操は生徒会室へと向かった。

結局休憩時間を過ぎていたため虚に怒られそうになったが、そんな事してるほど余裕が無いので、すぐさま仕事にとりかかった。

そうして、仕事が終わったのはそこからキッチリ2時間後だった。

 

 

疲れ果てた表情で職員室に提出に行ったとき、教員達はそれ以上に疲れていた。

如何やらこの後も残業確定らしい。

だが、悲しい事にこれ以上は何も手伝えないし、手伝う気力もわいてこないので全員大人しく帰宅した。

 

 

(前日がこんなんで、明日本当に大丈夫か…?事件なんか起こりませんように……)

 

 

どうやっても拭えない不安を感じながらも、操は明日に備えベッドに横になる。

疲れも溜まっていたので、直ぐに夢の世界へ旅立つことになった。

 

 

こうして夜は更けてゆく……

 

 

 




なんともはた迷惑な教師。
でも、それを定期的に確認しなかった学園側にも問題はある。
はてさて、どうなってしまうのやら。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想もよろしくお願いします!


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学園祭開幕

実はしれっと1周年記念日を過ぎました。
お待たせしました!

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

ドタバタした前日から一夜明け、朝。

今日は待ちに待った学園祭当日である。

 

 

前日、最終下校時刻ギリギリまで生徒会の仕事を手伝い、教員達の更なる残業を見た操。

大丈夫なのかと気が気ではなかったが、無事に開催され、操はホッとしていた。

 

 

裏側でギリギリの戦いが繰り広げられていたことはつゆ知らず、生徒達は朝から非常に盛り上がっていた。

今日の為に、ずっとクラスで頑張って来たのだ。

テンションが上がらない訳が無い。

 

 

そして、そのテンションが高いのは1年1組も同様である。

完璧にメイド喫茶仕様になった教室には、もう既に生徒全員と真耶が集合していた。

元々教壇があった場所に操が、その隣に真耶が立っており、2人の前には各々の衣装に身を包んだ生徒達が立っている。

本来ならば担任である千冬もこの場に居ないといけないのだが、教室にその姿はない。

先程説明を求められた真耶曰く

 

 

「職員室には居た気がしたんですが……今は何処にいるか分からないです……」

 

らしい。

それを聞いた操は思わずイラついてしまったが、本人がいない場所で怒っても仕方が無いのでグッと堪えた。

 

 

「さぁみんな、今日は待ちに待った学園祭だな!」

 

 

クラスにそう語り掛ける笑顔の操。

この喫茶の店長という設定なので、身に纏うのは何時ものビジネススーツだ。

唯一何時もと違うのは、その胸にIS学園の校章を着けていない事ぐらいだろうか。

だが、その校章は23歳である操の、IS学園の生徒らしい唯一の持ち物。

それが無くなった事で、店長だと言われても自然に信じられるようになっている。

 

 

「今日の為に、クラスみんなで頑張って来た。だから、今日は全力で楽しもう!!」

 

 

『おおぉぉぉ!!』

 

 

操の言葉に、真耶を含めたほぼ全員が盛り上がりの声を発する。

殆どの生徒達は制服だが、午前の接客班の生徒はもう既にメイド服を着用しているので、その動作は若干違和感があるかもしれない。

だが、これは学園祭なのだ。

これくらいがちょうど良いだろう。

 

 

だが、そんな明るい雰囲気の中。

前に立つ操に、恨みがましい視線を向ける人物が3人。

 

 

「「「……」」」

 

 

そう、春十、箒、セシリアの問題児組である。

3人は、というより箒とセシリアは、操が仕切っているのが気に食わないのか学園祭にあまり乗り気ではない。

言われた事は一応やるのだが、逆に言うと言われた事しかしないし、明らかに嫌々やってるので、周りの雰囲気を悪くする。

春十は真面目にやっているものの、問題児2人が言い合う原因になりがちで、その言い争いを止めず(止められず)、結果として周囲の負担を増やしてしまいがちだ。

その結果として、3人一括りで問題児だというのがクラス内での共通認識になりつつあるのだ。

 

 

因みに、唯一の男子なので春十は強制的に接客班なのだが、箒とセシリアは違う。

調理班が作ったものを、接客班に渡す係である。

元々は調理班か接客班をやってもらう予定だった。

だが、ただ盛りつけるだけのはずのメニューでも、見た目がかなりぐちゃぐちゃになったり、勝手に何か足したのか味が刺激的になったりするので、調理班はクビになった。

そして接客なのだが、箒はメイド服を断固として拒否し、セシリアは一応貴族なので自分で給仕するという行為になれて無さすぎてみてる側がヒヤヒヤするので、接客班もクビになった。

集客班は人数が規制されているのでこれ以上増やすことが出来ない。

 

 

その為、本当の職場だったら左遷と言われても仕方が無い役職に落ち着いた。

本人達は不服そうなのだが、そもそも理不尽なパワハラとかではなく、自分達が原因なのだからこれくらいは許して欲しい。

 

 

「そんな訳で、最終準備!」

 

 

『はいっ!!』

 

 

操の指示に従い、全員での最終確認を行う。

因みに、千冬は1回も顔を出さなかった。

 

 

『それでは、これよりIS学園学園祭を開始いたします』

 

 

「良し、それでは、午前の人は営業開始!午後の人は、解散!!」

 

 

学園祭開始のアナウンスが流れたので、操がそう声を発する。

 

 

「周ろう周ろう!」

 

 

「何処行く?」

 

 

「う~ん、3年生の……」

 

 

その声に従い、午後担当の生徒達は幾つかのグループに別れ、各々の好きな場所に向かって行く。

そんな中、グループに入っておらず孤立する箒とセシリア。

最初から2人を働かせると不安でしか無かったので、午後に回された2人。

自分達から周囲に声を掛けたりという事をしなかったので、結果として孤立してしまったのだ。

 

 

「……」

 

 

「……行き、ましょうか?」

 

 

「そうだな……」

 

 

いくら問題児でも、ずっとこの場に居ると迷惑だと分かっている。

2人はトボトボといった足取りで教室から外に行く。

 

 

学園祭は開始されたが、お客さんが来ないと営業は開始されない。

そして、外部からのお客さんはまだ手荷物検査等を受けているので、そこまで直ぐに来ないだろう。

なのでこのタイミングで来るとしたら、IS学園生という事になる。

外部からのお客さんは、自分を招待してくれた人の所や、自分達が目を付けている生徒の所に1番最初に行くが、学園生にそういったものはない。

つまり、自分達が行きたいと思える出し物をしている所に行くのだ。

 

 

そして生徒達が行きたいと思える出し物は、それだけ斬新な物だろう。

特に去年等を経験している2年生3年生はよりその傾向にある。

 

 

1年1組の出し物はメイド喫茶。

学園祭だと考えると、言ってしまえば定番のもの。

ある程度のお客さんは来るだろうが、開店からとても混むという事も考えづらい。

 

 

だが、操は直感的に感じていた。

直ぐにお客さんは来ると。

何故なら此処には……

 

 

 

 

 

操と春十という、男子生徒(1人は23歳)がいるのだから。

 

 

ガラガラガラ

 

 

「お帰りなさいませお嬢様。何名様でしょうか?」

 

 

「あ、はい。1人です」

 

 

「お席にご案内します。どうぞこちらに」

 

 

操の予想通り、直ぐに1人目のお客さんが来た。

さゆかによって席に案内される。

 

 

「やっぱりな…」

 

 

操がそう呟いたのも束の間、次のお客さんがやって来た。

 

 

「お帰りなさいませ」

 

 

そのお客さんの後にも、続々とお客さんがやって来る。

学年、個人、団体関係なくやって来て、席は直ぐに満席になる。

続々と注文が入り、接客班が駆り出される。

メイド喫茶なので指名システムがあるが、やはり人気なのは春十のようだ。

1組の生徒からは問題児だと扱われているが、他の生徒達はあまり春十と関わっていないので、それ程人気等が落ちてないという事だ。

結構引っ張りだこになっている。

 

 

全員が全員自分の仕事を行う中、操は教壇があった場所にずっと立っていた。

理由は単純で、操の仕事が店長だからだ。

本物のお店なら1番忙しい役職なのだが、これは学園祭。

トラブルに咄嗟に対応するのが仕事だが、逆に言うとトラブルが発生しないと暇になってしまう。

 

 

「そろそろ良いかな……?」

 

 

だが、操にはもう1個仕事がある。

ボソッと呟いた操は、懐からそこそこ立派なカメラを取り出す。

ジュウオウザライトやジュウオウザガンロッドをポケットに仕舞えるのだから、大きいレンズがあるカメラもポケットに入るのだ。

 

 

そう、操のもう1個の仕事とは、写真撮影である。

これは卒業アルバム等に使う写真である。

肖像権とかが問題になりそうだが、IS学園生は入学の際に許可の書類を提出してもらっているし、外部からのお客さんにも、招待券に注意事項としてしっかり記入してあり、学園祭に来たという事は同意したという事。

つまり、此処にいる時点で学園が写真を撮っても問題無いという事である。

 

 

因みに、この仕事は元々真耶の仕事だった。

だが店長としての仕事があまりにもなさ過ぎて相談に来た操にカメラと共に託したのだ。

真耶は、ただでさえ教員としての仕事に加え、万が一千冬が何かやらかした場合のリカバリーもしなければいけない。

写真を撮っている暇など無いので、真耶としても操に託せて良かったのだ。

 

 

まぁ、写真はそう何枚もいらないので、午前数枚、午後数枚程度だろう。

 

 

「早速1枚……」

 

 

パシャッ!!

 

 

良い感じに商品を運んでいるラウラと静寐と神楽の3人を写真に収める。

 

 

「ッ!……///」

 

 

メイド服姿を撮られたラウラ。

一瞬恥ずかしそうに操の事を睨んだが、操が左の人差し指を唇の前に置いた事でなんとか理性を保ち、そのまま配膳を続ける。

 

 

それから暫くの間操はクラス中を見回していたが、やがてある事に気が付いた。

 

 

(あれ?なんかやけにお客さん多くない?お客さんが退店してから、その席に次のお客さんが座るまで1分も無くないか?)

 

 

それは、やけに来店人数が多いという事だ。

開店直後から人は多かったが、それにしても多い。

というより、IS学園生よりももはや外部のお客さんの方が多くなってきた。

良い歳のおっさんやおばさんが、女子高生にご主人様と呼ばれている光景はなかなか変だが、まぁ特に問題は無い。

問題は無いのだが、やはり多すぎる。

それに、なんとなく全体を監視している操に向けられる視線がだんだん多くなっていっている気もする。

 

 

(これは……マズイか?)

 

 

取り敢えず、どれだけ並んでいるか、そして入り口に立っている本音達はどういった状況なのか。

それを確認しないといけない。

操はスッと教室の方の扉に移動する。

今日は前方扉が入り口、後方扉が出口、というように出入口を分けている。

その為、仮に混雑していた場合前方から確認すると余計に混雑してしまう可能性があるので、操は後ろから確認する事を選択した。

 

 

扉を開け、1歩踏み出し教室の外を確認する。

その瞬間に、操は驚愕の表情を浮かべる事になる。

 

 

「ッ!?」

 

 

(お、多い!?多すぎる!!なんだこの人数!?)

 

 

列に並ぶ人数があまりにも多い。

それに、学園生よりも外部のお客さんの方が割合的に圧倒的に多い。

操があっけに取られているような表情を浮かべながらその列をしばし見ていると、外部のお客さんがギラリと操に視線を向ける。

それはまるで、狩りの得物を見るライオンの様で、操は思わず表情を引きつらせる。

 

 

(くっ…男性IS操縦者というネームバリューを甘く見過ぎてた……のほほんさんは大丈夫そうか……って、こんな人数来てちゃんと回ってるか?ヤバい、直ぐ確認に行かないと!)

 

 

操は直ぐに切り替えて、教室の中へと戻る。

店内は先程までより慌ただしい雰囲気だが、今のところなんとか出来ている。

 

 

(接客班は大丈夫。調理は!?)

 

 

接客班が取り敢えずは機能しているのを確認した操。

すぐさま移動を開始し、調理班の様子を伺う。

 

 

「大丈夫!?」

 

 

「あわわわ、だ、大丈夫じゃないです!」

 

 

調理班の光景を見た瞬間、操がそう声を発し、とても焦った様子の返答が帰って来た。

所詮高校生が作る学園祭のメニュー。

調理行程はとても簡単なものしか無いのだが、それでも調理班はパンクしそうなほど忙しかった。

 

 

(男性IS操縦者への接触目的なら変に注文するんじゃねぇ!)

 

 

「俺も手伝う!直ぐ手を洗ってくるから!」

 

 

「分かりました!」

 

 

操は慌てて調理班の加勢に入る。

予備のバンダナを頭に巻き、マスクを着け、水道で手を洗い、消毒する。

その後、予備の調理用手袋を着用し、その上からもう1回消毒してから調理に入る。

 

 

「コーラ4、コーヒーブラック1、コーヒーミルク3……」

 

 

「は、早い…」

 

 

「手を動かして!」

 

 

「は、はい!」

 

 

バイト先ではホールの操だが、元々の家事能力がかなり高いのだ。

これくらいお茶の子さいさいである。

 

 

「はい、これよろしく!4番!」

 

 

「分かりました!」

 

 

「次の注文です!」

 

 

「了解!」

 

 

操が加勢した事で、調理班はなんとかパンクせずに持ち直した。

互いに掛ける声が学園祭のメイド喫茶のものではなく、お昼時の中華料理屋みたいになっているのだが、それも気にならないくらい忙しい。

そこから大体1時間後。

 

 

「ピーク過ぎたぁ…」

 

 

「も、もう疲れた…」

 

 

「みんな、お疲れ様」

 

 

なんとかピークを乗り越えた。

調理班の生徒達はとても疲れた様子で膝に手を置いていたり、肩で息をしている。

生徒達より体力がある操は、そのまま1人で調理を進めている。

 

 

「俺もう1回接客班確認したいから抜けて良い?」

 

 

「あ、はい、大丈夫です。助けてくれてありがとうございます」

 

 

「お礼は良いって。俺は店長だからな。それじゃ、後は任せた!」

 

 

「はい!」

 

 

調理班の面々に後を託し、操は再び接客班の様子を確認しに行く。

マスクと手袋をゴミ箱に捨て、バンダナを外す。

元のスーツ姿に戻った操は、そのままの足取りでホールに戻る。

 

 

(調理が大丈夫だから多分大丈夫だとは思うが、接客はただ運ぶだけじゃないからな…心配だ。特にラウラ)

 

 

そんな事を考えていると、直ぐにホールに着く。

操はすぐさま状況を確認し、

 

 

「……」

 

 

思わずその場で足を止めた。

理由は至って単純明快。

目の前の光景に驚いたからだ。

 

 

先程はバタバタとしていた店内だが、今はかなり落ち着いている。

空席がある訳では無いが、それでも生徒達の表情は切羽詰まったものから、ある程度余裕があるものになっている。

そんな店内で、とあるテーブルだけが異様に目立っていた。

それだけだったら操は特に足を止めたりしなかっただろう。

操が足を止めるくらい驚いた理由。

テーブルに座っているお客さんが知っている人間だったからだ。

 

 

「良い、とっても良い…」

 

 

「これは素晴らしい…」

 

 

「う、ううう…」

 

 

操の視線の先にいるのは、顔を真っ赤にしながらお盆をギュッと抱えるように持つラウラと、椅子に座ってラウラの事を見ているクラリッサとネーナという、ワクワク黒兎セットの3人だった。

クラリッサはラウラから、ネーナは操からもらった招待券でやって来たのだ。

 

 

しばしの間操がその場に立ち止まっていると、ラウラ達の方が操に気が付いた。

席に座っている2人がホクホクの笑顔で操に手を振る。

ラウラのメイド服姿を直接見れたのが、余程嬉しかったようだ。

操は手を振り返しながら、視線をラウラに向ける。

 

 

(みっ、操!助けっ!助けて!!)

 

 

ラウラは部下たちにメイド服姿を見られたのが恥ずかしすぎるのだろう。

若干涙目になりながら、視線で必死に助けを求める。

 

 

(これ、絶対助けてって言われてるよな…)

 

 

操は当然のように視線の意図に気が付いている。

なんとかしようと思考を巡らせるが、こんなにワクワクしている2人を如何にかできる方法が考え付かなかった。

 

 

「…是非、お楽しみください」

 

 

操は笑顔でそれだけ言うと、そそくさと退散し始める。

 

 

(操!?操ぉ!!)

 

 

(すまんラウラ。俺には無理だ。頑張ってお嬢様方を楽しませてくれ)

 

 

アイコンタクトのみで会話するラウラと操。

ラウラはまだ何か言いたそうにしていたが、席に座り嬉々とした表情を見ると、もう何も言えなくなってしまう。

 

 

「隊長!1回、1回で良いので『生萌え萌えキュン』を私に見せてください!」

 

 

「も、萌えっ!?」

 

 

「手でハートを作って、可愛く!」

 

 

「う、ううう……」

 

 

普段と立場が完全に逆転している隊長と部下達。

だが、此処で逃げるのは羞恥心の中に残っているラウラのプライドに反する。

暫くの間葛藤をしていたが、やがて覚悟を決めたように手でハートを作り、

 

 

「も、萌え萌えキューン……///」

 

 

真っ赤を通り越して、良く分からない顔色になりながらも、要望通り萌え萌えキュンを行う。

 

 

「「最高…!!」」

 

 

クラリッサとネーナの2人は、ラウラの可愛さに思わず悶える。

 

 

因みに、こんな3人のやり取りは当然ながら周囲に知られており、この事を知ったラウラが半狂乱に陥るのはまだ先のお話である。

こうして学園祭の午前中は過ぎていく……

 

 


 

 

「操さん操さん」

 

 

「ん?どうした静寐」

 

 

営業開始から暫くたった、もう直ぐで午前が終了するという時間。

静寐から声を掛けられた操は、身体の向きを静寐に向ける。

 

 

「そろそろ操さん休憩したらどうですか?」

 

 

「休憩?」

 

 

静寐にそう言われ、パッと腕時計に視線を向ける操。

確かにさっき色んな事が起こったので疲れている。

休憩できるのなら休憩したい。

だが…

 

 

「みんながまだ働いてるのに、俺だけ休むのは気が引けるよ」

 

 

「いやいや、私達は午後から交代ですけど、操さんは午後も仕事じゃないですか」

 

 

「まぁ、店長だしね」

 

 

「だから、今この余裕あるときに休憩しちゃってくださいよ」

 

 

「……分かった。お言葉に甘えさせてもらうよ」

 

 

このまま言い合っても平行線になる未来が見えた操は、降参を示すように両手を上げた。

その後、操はクラスメイト達にこの事を伝え、休憩に入った。

午後の開始には教室に戻っておきたいので、時間自体はさほど長くは取れない。

なので短いこの休憩時間を、のんびり過ごそうと決めた。

 

 

行く当てもなく、ブラブラと学園内を練り歩く操。

全身に突き刺さる視線になんとなく4月を思い出しながら、キョロキョロと周囲を見る。

 

 

「いやぁ、この感じ良いなぁ」

 

 

向こうの世界では高校に通ってない操。

高卒資格は試験で取ったので、もう高校に通う必要は無いと考えていた。

だが、少々…否、かなり特殊な高校とはいえ、こうやって通って学園祭に参加してみると、良いものだと感じる。

 

 

「あれが門藤操…」

 

 

「チフユ・オリムラと似ているような気がするな…」

 

 

「けど、血縁関係は無いらしい」

 

 

「フム、確か今はドイツ国籍だったな…如何にか引き抜けないものか……」

 

 

(聞こえてるよ……はぁ、こういう話題の中心になるのは苦手だ……)

 

 

周囲の大人たちのヒソヒソ話は、当然のように操に届いていた。

まわりで自分の事に関する話をされていたら、誰だっていい気はしない。

その話の内容が、もしかしたら自分の立場や学園の安全等々が脅かされる可能性が、少ないとはいえはらんでいるのだったら尚更だろう。

 

 

(出来るだけ気にしないで行こう。注目はされてるが、声を掛けられる訳では無いし)

 

 

操はなるべく気にしないようにしながら学園を散策する。

時折、他クラスや部活の宣伝に声を掛けられるが、混んでるところに寄ってると時間が無さそうなので当たり障りない言葉で華麗にスルーする。

 

 

「そろそろトイレに行っておかないとな……」

 

 

改めて時間を確認した操はそう呟くと、進路をトイレの方に変える。

学園祭でも、男子トイレは1ヶ所しかない。

ISの会社やどの国の政府でも今は女性の方が多いし、権力がある。

したがってIS学園にやって来る人も女性の方が多いのだ。

男子トイレが少なくても、何も問題は無い。

 

 

道中でバンダナを頭に巻いた赤髪の男子とすれ違いながらも、トイレに到着した操。

そのまま用を足し、手を洗ってから教室へと向かう。

 

 

「やっぱりここら辺は人いないなぁ…」

 

 

男子トイレという、普段は片手で数えれる人数しか使用せず、それに伴い付近でも自分以外の人間と遭遇する事が滅多にない場所。

学園祭で、少ないとはいえ男性が外から来ているのに、此処は全くと言って良いほど人が居ない。

何時もと違う学園で、何時もと変わらず人が居ない場所。

思わず苦笑を浮かべてしまう。

 

 

「って、こんなことしてる場合じゃない。さっさと戻らないと」

 

 

少し急ごう。

そう考え1歩踏み出そうとした、その瞬間だった。

 

 

「門藤操さんですね!?」

 

 

と、操の名を呼ぶ女性の声が()()()()聞こえて来て、操は踏み出そうとした足を踏みとどめた。

遂に話し掛けられた、面倒だと考えたのも束の間。

 

 

(背後から?何でだ?後ろには男子トイレしか無い筈なのに……!!)

 

 

操は違和感を感じ、バッと振り返った。

そこに立っていたのは、オレンジ色の髪を下ロングヘア―の女性。

ビジネススーツを身に纏い、柔和な笑顔を浮かべており、パッと見だったら普通のキャリアウーマンだと思うだろう。

だが、ジュウオウジャーとして戦ってきて、戦いという事だけに関してはベテランの域に達していると言って良い操は、直感的に感じ取っていた。

目の前に立つ女性も、同じく戦いに慣れている手練れだと。

 

 

「あなたは?」

 

 

操はジュウオウザライトとジュウオウザガンロッドのどちらも直ぐに取り出せるようにしながら、その女性に語り掛ける。

 

 

「初めまして、私、IS装備開発企業『みつるぎ』の巻紙礼子です」

 

 

女性…礼子は丁寧にそう言いながら、操に名刺を差し出す。

受け取らないと話しが進まないと察した操は、なるべく警戒心を出さないようにしながらその名刺を受け取る。

名刺自体には何も細工は無く普通のものだったのだが、礼子の視線が一瞬、まるで値踏みするかのようなものになっていたのを、操は見逃さなかった。

 

 

(少なくとも、何か企んでは居そうだ……)

 

 

「ご用件はなんですかね?」

 

 

「はいっ!門藤さんに是非、わが社の製品を使用して頂きたく!」

 

 

礼子はまくしたてるような勢いでパンフレットを取り出す。

だが、そのパンフレットを開かれる前に操が言葉を発する。

 

 

「すみません、私は今新しい武装を考えていないので、申し訳ありませんがお引き取りお願いします」

 

 

「そこを何とか!!」

 

 

「急いでいるので。失礼します」

 

 

強引に話しを終わらせた操は急ぎ足でその場を去る。

礼子は追いかけようとしたが、1歩踏み出した時には操は角を曲がっていた。

礼子も角に来た時には、もう既に操の事を見失っていた。

 

 

その場に残された礼子。

暫くの間黙っていたが、

 

 

「クソがっ!!」

 

 

と、さっきまでの態度が嘘のように、荒々しくパンフレットを床に叩きつけた。

イライラした様子を隠そうともせず、礼子は歩き出す。

 

 

「チッ!アイツ、俺の事疑ってたな…フン、だがその程度でこのオータム様から逃げれると思うなよ…!!」

 

 

自身の事をオータムと呼び、交戦的で狂気的な笑みを浮かべながらそう呟いた。

 

 

 

 

 

「ふぅ…ヤバすぎる…よく俺攻撃されなかったな…」

 

 

男子トイレからかなり離れたところまで来た操。

ポケットからハンカチを取り出し、額に浮かんでいる冷や汗を拭きとる。

礼子と対面していた時は大丈夫だったが、離れて落ち着くと対面していた相手のヤバさを実感する。

 

 

あの女は、絶対に何かを隠している。

そして、あの状況だったら自分の首は飛んでいてもおかしくなかった。

それを今になってヒシヒシと感じている。

 

 

「俺も、鈍ったな…」

 

 

苦笑しながらそういう操。

だが、首を振って表情を敷き詰める。

 

 

「久々に、訓練でも模擬戦でもない戦いになりそうだ…」

 

 

操はそういうと、微笑を口元に浮かべる。

そうする事で自分の中の闘争心を高める。

その姿は、まさしくジュウオウジャー。

さっきまでのプレッシャーを感じていた操は、もうどこにもいなかった。

 

 

「もう遅刻確定だな…」

 

 

もう既に午前の生徒と午後の生徒は入れ替わっている時間だった。

 

 

「みんなには申し訳ないけど、今は戻っている場合じゃない…」

 

 

そう呟いた操は、ポケットからスマホを取り出す。

そして電話帳のアプリを開き、登録されている電話番号を呼び出す。

そのまま通話ボタンを押し、スマホを耳に当てる。

数回のコールの後、相手が電話に出た。

 

 

『もしもし?』

 

 

「もしもし、操です。虚さん、忙しいのにすみません。今大丈夫ですか?」

 

 

『はい、大丈夫ですけど……どうかしましたか?』

 

 

電話の相手…虚は少し困惑したような声色でそう尋ねる。

電話される心当たりがなく、しかも今は学園祭の真っ最中なのだ。

困惑するのも当然だろう。

 

 

「……戦闘になる可能性が高そうです。信頼できるメンバーを集められますか?」

 

 

『っ……分かりました。操さんですから、嘘は無いでしょう。30分後に生徒会室まで』

 

 

「はい、分かりました。迷惑を掛けてすみません」

 

 

『いえいえ、気にしないで下さい』

 

 

ここで通話は終了した。

操はスマホをポケットに戻す。

 

 

「…謝りに行くか」

 

 

取り敢えず、クラスに一声かける必要はあるだろう。

操は全速力で教室に向かう。

 

 

IS学園を舞台として、戦闘は起こってしまうのだろうか……

 

 

 




なんか、最後の文が今までにない書き方です。
良い言葉が思いつきませんでした。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想もよろしくお願いします!


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この学園をなめるな

大変お待たせしました…
最近、マジで執筆する余裕が無いんです……

サブタイが格好いい!(と思う)

今回もお楽しみください!



三人称side

 

 

IS学園、学園祭の真っ最中。

昼休みが終了し、午後の部が始まった直後。

生徒会室には操と、操から連絡を受けた虚が集めたメンバー、楯無、簪、ラウラ、本音、十蔵の7人がいた。

 

 

「急ですみません」

 

 

「いえ、学園の危機になる可能性があるのなら、生徒会長である私が対応しない訳にはいきませんので。それに、操さんがわざわざ言うんだったら、間違いは無いでしょうし」

 

 

「更識会長の言う通りです。門藤君が異変を感じたのなら、それは本当なのでしょう」

 

 

「…ちょっと信頼が高くて、若干恐れ多いです」

 

 

操の謝罪に、楯無が真面目な表情でそう返答する。

ラウラ達も同じ様な表情を浮かべている。

IS学園の学園長と生徒会長という2トップに加え、友人達からのかなり高い信頼がある事に、操は苦笑する。

だが、そんな事してる場合ではないので、直ぐに切り替え説明を開始する。

 

 

「事の発端は、午後の部開始直前です。男子トイレに行った帰り、女性に話し掛けられたんです」

 

 

「女性に…」

 

 

「はい。ただ、教室がある方向を向いていた時に、背後から話し掛けられたんです」

 

 

「っ…それは……」

 

 

操の言葉に反応したのは十蔵だけだった。

だが、それも仕方が無いかもしれない。

男子トイレ付近の事をよく知っているのは、男子トイレを使う人ぐらいだ。

わざわざそんなところにまで行く機会などない楯無達は、反応など出来ないだろう。

 

 

「男子トイレ付近って、どんな風になってるんですかぁ~?」

 

 

本音が手を上げながら、少し重たい雰囲気をぶち壊すかのような間延びした声で尋ねる。

そう質問が来ることは予想済みだったので、特に間をおかずに説明する。

 

 

「男子トイレは、IS学園校舎の端も端、行くのがとても面倒な場所にあるんだけど……」

 

 

「「……」」

 

 

一生徒の、遠回しと言うほどでもない、トイレが使いづらいという苦情に、十蔵と楯無はスッと視線を逸らす。

それを無視し、操は続ける。

 

 

「それで、男子トイレから出て、そのまま教室の方を向くと、自分の後ろには男子トイレ以外何もない筈なんだ」

 

 

『っ!』

 

 

立地の説明を受け、ラウラ達も漸く理解した。

操は、男子トイレしか無い筈の方向から、女性に声を掛けられたのだ。

 

 

「つまり、その女は偶々操を見つけたから声を掛けた、という訳ではなく、操と接触する機会を伺っていた可能性が高い、と」

 

 

「ああ、しかもわざわざ後を付けて、2人きりになれる場所で、な」

 

 

ラウラが呟いた言葉に、操が頷く事で肯定する。

取り敢えず、今起こった事の状況は理解できた。

 

 

「何というか、かなり怪しいな」

 

 

「ああ、かなり怪しい」

 

 

百人が聞いたら、百人が同じ反応をするほど怪しさプンプンな話である。

 

 

「それに、対面した感覚でしか無いんですけど、恐らく相当な手練れです。あの時交戦になってたら、多分俺の首は身体から1人立ちしていました」

 

 

操は自分の首に指を当てながらそういう。

 

 

「操がそこまで言うのなら、相当な手練れである事に間違いは無いな…」

 

 

ラウラが顎に手を置きながらそう反応する。

その表情は、若干身構えているものだった。

楯無達としても、思うところは同じだった。

操の、ジュウオウザワールドの戦闘力はもはやIS学園に関わるものなら、知らない人等いないだろう。

そんな圧倒的な強さの操が、さっき交戦してたら負けると言っているのだ。

身構えてしまうのも仕方が無い。

 

 

ずっとこうしている訳にもいかないので、操は話題を切り替える為に懐を探る。

 

 

「これが、受け取った名刺なんですけど…」

 

 

そう言いながら、先程受け取っておいた礼子の名刺を机の上に置く操。

その名刺を見た瞬間、楯無と虚が眉を顰める。

 

 

「『みつるぎ』…?虚ちゃん、この企業って……」

 

 

「はい。確かほぼペーパー企業だったような気がします」

 

 

「ペーパー企業?」

 

 

楯無と虚のその言葉に、簪が首を捻る。

2人は頷くと、説明を開始する。

 

 

「此処にいる人間全員、更識の事を知ってるから言うけど、今は裏社会もISが中心。どの組織もISのコアや、情報、武装等を常に狙っています」

 

 

「まぁ、それはそうでしょうね」

 

 

なんの誇張も無く、ISは1機有るか無いかで、かなり変わって来る。

単純な戦力強化に加え、交渉の有利化等々様々な事が起こる。

裏社会でも、喉から手が出るほど、という表現じゃ足りない程欲しいだろう。

 

 

「裏社会に生きるからといって、表社会の情報が要らない訳ではありません。寧ろ、表の情報があってこそ、裏での暗躍が出来るというものです。そして、表社会で最も入手したい情報は、やはりISです。つまり……」

 

 

「なるほど。IS関係のペーパー企業を立てておくことで、表の、それもIS関係の情報が入って来やすいと」

 

 

「流石ラウラちゃん。飲み込みが早い!」

 

 

楯無の言葉に、ラウラが顎に手を置いたままそう呟く。

楯無がウインクをしながらそういう中、十蔵が口を開いた。

 

 

「つまり、門藤君に接触したその女性は、裏社会の関係者である可能性が高い、と……」

 

 

「そうなりますね。テロリストなのか、スパイなのか、それはこれから調査しなければなりませんが」

 

 

十蔵の言葉に、虚がそう反応する。

これで、今どういった事が起こっているのか、そして対処するべき相手がどういった存在なのかが、かなり大まかにだが、理解できた。

次に話し合わなければいけないのは、これからの行動だ。

寧ろ、ここからが本番だ。

 

 

「先ず、この巻紙礼子の目的だけど…見当は?」

 

 

「俺に接触をしてきた時点で、恐らく男性IS操縦者だとは思いますけどね。殺すのが目的なのか、研究サンプルとして持ち帰るのか。はたまたISだけ持ち帰るのか……」

 

 

「さっき、すぐさま交戦しなかったから、殺すのは無いと思いますけど……」

 

 

「それは断定できないわ簪ちゃん。いくら男子トイレが、その……IS学園の端とは言え、交戦になったら目立つのには間違いない。大騒ぎになるのは向こうだって避けたいはずだし」

 

 

「みつるぎの名を使っている以上、巻紙礼子は何かの組織の一員である事は間違いない。そう考えるのが妥当だろうな……」

 

 

「目的を断定してしまうのは危険ですが、やはり男性IS操縦者狙いだと考える方が自然です。それらへの対処を最初に考えた方が良いですね」

 

 

虚の言葉に、この場に居るほぼ全員が頷く。

そんな中、この重苦しい雰囲気の中で唯一ニコニコした表情を崩さない本音。

誰もその事について言及しないのは、

 

 

(本音だからなぁ)

 

 

と思っているからか、

 

 

(こんな状況でも雰囲気や表情が微塵も変わらない…?えっ、なんかもう怖くなってきたんだけど……)

 

 

と思っているからか。

 

 

「じゃあ、取り敢えず午後から予定してた生徒会の出し物は中止した方が良さそうね…勿体ないけど」

 

 

「その方が賢明かと。あのようなふざけた出し物、中止した方が学園の為です」

 

 

「虚ちゃん!?それは酷いんじゃない!?」

 

 

「事実です」

 

 

虚があまりにもバッサリと切り捨てるものだから、いったいどんな事を企んでいたのか気になった操達。

そんな場合では無いが、ついつい聞いてしまった。

 

 

「因みにですが、何をやらかそうとしていたんですか?」

 

 

「操さんまで!変な事なんか、私は提案してな「観客参加型即興劇です」うっ!?」

 

 

「……なんですか、その聞いた事の無いものは」

 

 

「言葉の通りです。台本無しの即興劇で、観客の方も巻き込むつもりでした。因みに、主演は門藤さんです」

 

 

「聞いてねぇ~~!」

 

 

「お姉ちゃん、それはふざけてる」

 

 

「良くそれで通ったな……」

 

 

「生徒会特権だ~~!」

 

 

「「「なるほど、そろそろ没収」」」

 

 

本音の言葉に、操、ラウラ、簪が寸分変わらない言葉を同時に発する。

十蔵は苦笑し、楯無はへなへなと力の抜けたような表情を浮かべ、虚は当然だと言わんばかりに鋭い視線を楯無に向けている。

 

 

「んんっ!男性IS操縦者狙いなら、織斑春十への連絡も必要だな」

 

 

「うん。だけど、うちが暗部って事を知られる訳にもいかない。そこはかとなく、頭の片隅に残す程度が限界かも」

 

 

「ああ。それは俺からやっておくよ。あと、考えなきゃいけないのは、巻紙礼子が如何やってここに来たのか、だが……」

 

 

「招待券を偽造した…とか?」

 

 

「いえ、それはあり得ません。学園祭の招待券は、現在流通している貨幣などよりも高度な偽造防止を施しており、招待券を読み込む機械も最新式のものです。不正入場はほぼ不可能です」

 

 

「となると、1番可能性が高いのは……」

 

 

「IS学園生の誰かが、巻紙礼子に招待券を渡した、だな……」

 

 

操がその言葉を発した瞬間、生徒会室内の空気がより一層重くなる。

本音は表情を変えない。

 

 

まだ仮定ではあるが、裏社会の人間である可能性の高い礼子。

そんな人物に招待券を渡すという事は、つまり。

その生徒は裏切り者という事である。

 

 

「……間違いだったら、どれほどいい事か」

 

 

「作戦を立てるのに、間違いだったらを考える必要はありません。その場合は『いろいろと変に考えてごめんなさい』で済むだけですので」

 

 

「そうですね。切り替えていきましょう」

 

 

ここで重い空気になるのは間違いだ。

人間という生き物は、自分の心の持ちよう……いわゆる、テンションや気合いといったもので、発揮されるパフォーマンスにかなり差が出るのだ。

これから交戦が起こる可能性もあるのだから、気持ちは常に前を向いていなければいけない。

 

 

「招待券から、誰が巻紙礼子に渡したのかは分からないんですか?」

 

 

「流石にどの生徒にどのシリアルナンバーの招待券を渡したのか分からないので、それは不可能です」

 

 

「なら、裏切り者がいるとしても、今は考えない方が良さそうです」

 

 

「そうですね……じゃあ次に行きましょう」

 

 

「はい。巻紙礼子を誘いだし、本当にその手のものか見分け、場合によっては拘束する必要があります。その際、他生徒や招待客のみなさんの安全確保が前提です。どのようにして……」

 

 

 

虚がそこまで言った、その瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドガァアアアアン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

『っ!?』

 

 

そこまで遠くない場所から、爆発音が聞こえてきた。

生徒会室にいたメンバーは、突然の事に驚きはしたものの混乱はしない。

何故なら、交戦の為の話し合いをしていたからだ。

 

 

「此処にいる全員に、有事の際の特別行動権を認めます!ISの展開、交戦、また学園施設の使用、並びに破壊を一律許可します!生徒、並びに来賓の安全を確保してください!」

 

 

『了解っ!』

 

 

十蔵の指示に、全員が同時に返事をしてから生徒会室から飛び出る。

 

 

「虚ちゃんは放送室!緊急避難の放送をして!」

 

 

「はいっ!」

 

 

「私達はみんなの安全確保!破壊許可は貰ってるから、万一防犯施設のシャッターが誤作動したら破壊して!」

 

 

「楯無会長!今この場には、私の部下が2名います!協力させますか!?」

 

 

「お願い!」

 

 

「本音!私達はこっちから!」

 

 

「うん!任せて~!!」

 

 

虚は放送室に向かい、簪と本音は途中で別れ、手分けして避難誘導をする。

本音が珍しくテキパキ動いている事に、操は謎の感動を覚えながらも走る。

 

 

「クラリッサ!私だ!ネーナと共に周囲の人間の避難誘導をしろ!場所の把握は!?……よし、なら問題ない!行動開始!」

 

 

「2人は何処にいるって!?」

 

 

「1年生教室近くです!」

 

 

「分かった!」

 

 

「楯無さん!俺が巻紙礼子を引き付けます!その間に!」

 

 

「えっ…でも…!」

 

 

「生徒会長が悩んでる場合ですか!?さっきは後れを取ったようなものですが、今は大丈夫です!任せてください!」

 

 

操はジュウオウザライトを取り出し、力強い視線を楯無に向ける。

 

 

「分かりました!ラウラちゃん、私達はこっちよ!」

 

 

「了解!」

 

 

楯無とラウラも、避難誘導の為別れる。

その瞬間、

 

 

 

 

 

ドガァアアアアアアン!!

 

 

 

 

 

「っ!そっちか!!」

 

 

再び爆発音が鳴り、操は進行方向を変更。

直ぐに出来るだけの全速力で爆発音が鳴った方向に向かう。

 

 

「今の方向的に、男子更衣室!!」

 

 

虚による放送、そして教員達による避難誘導を確認しながら走る。

 

 

(あ、ナターシャさんだ。スゲェ、1ヶ月経ってないのにもうあんなにテキパキと…元軍人だし、こういう有事の際には慣れてるのかな?……そういえば織斑先生マジで何処行った?こんな緊急時だってのに…いや、楯無さん達の方にいるのかもしれない。その事は後だ!もっと、もっと早く走れ俺!!)

 

 

緊急時だというのに、姿を見せない千冬。

操は千冬の事が好きでは無いが、その実力が高いのは知っているので、こういう緊急時くらい役に立ってくれと思うのだが、居ないならば仕方が無い。

緊急時のたらればは無駄な行為でしかない。

今操がする事は、全速力で爆発音がした場所へ向かい、避難完了まで紙巻礼子を引き留める事だ。

 

 

走って、走って、走って。

遂に目的地である男子更衣室前にたどり着いた。

 

 

ドガァアアアアアアアン!!!!

 

 

「ハハハハハ!!踊れ踊れぇ!!」

 

 

「うわぁああああああ!?!?」

 

 

「そこか!!」

 

 

3度目の爆発音。

否、ここまで近くに来れば分かる。

これは、火薬を使用した爆発ではない。

床や壁や天井が、物理的な攻撃で破壊されている音だと。

 

 

ガッシャアアアアアン!!

 

 

「ぐふぅっ!?」

 

 

「っ!織斑君!?」

 

 

更衣室の壁を突き破り、専用機である白式を展開した春十がゴロゴロ転がって来た。

スラスターはひしゃげており、装甲もかなりボロボロになっている。

 

 

「くくくくく!男って言うのはどいつもこいつもやりがいがねぇなぁ!」

 

 

破壊された壁の向こうから、そんな笑い声が聞こえてくる。

ガシャン、ガシャンと音を立てながらゆっくりと何者かが近付いてくる。

操は腰を落とし、いつでも、どんな行動でも出来るように構える。

 

 

姿をあわらしたのは、1機のIS。

まるで蜘蛛のようなシルエット。

それを形成しているのは、背中に存在する8本のサポートアームだ。

各々が独立し、蠢いている事によってとても怪しい雰囲気を醸し出している。

そのISの名はアラクネ。

アメリカが開発したものである。

ヘッドパーツが顔全体を覆っている為その顔を確認する事は出来ないが、先程の言葉の内容や、感じる雰囲気からその表情は嬉々としたものであると、操は直感で感じた。

ISの操縦者も、操がこの場に来た事に気が付いた。

 

 

「ハハハハハ!門藤操!お前までやって来るとは好都合だ!!」

 

 

「その声…巻紙、礼子だな?」

 

 

ISに乗っている女は、操の事を見ると再び笑い声をあげる。

その声を聞き、操は視線を鋭くし、更に警戒心をバリバリにする。

聞こえてくる声は、先程聞いた紙巻礼子のものだ。

だが、操の発した言葉が疑問形なのは単純明快。

先程までの喋り方とかなり印象が違うからだ。

 

 

胡散臭い匂いはプンプンしていたが、とても丁寧だった口調の礼子と、今目の前にいる荒々しい喋り方のIS操縦者。

声が同じものでも、一瞬疑いたくなるのは仕方が無い。

それに、操があっちの世界で戦っていた奴らは人間じゃないし、メーバという発せられる音がほぼ同じような戦闘員がゴロゴロいたのだ。

余計にそんな反応になる。

 

 

「ハハハハハァ!!そうだぜ、門藤操ォ!だがな、紙巻礼子ってのはただの偽名だ!俺様の名はオータム!覚えておきな!!」

 

 

笑いながら自分の名前を叫ぶオータム。

 

 

「わざわざ名前を教えてくれるなんて、随分と丁寧だな。自分が捕まった時の事を考えていないのか?」

 

 

「そんな事考えてる訳無いねぇ!何故なら、お前ごときが勝てる訳無いからなぁ!!」

 

 

自信満々といった様子でオータムがそういう。

だが、その言葉は自意識過剰という訳ではなく、確固たる自信と、それを裏付ける実力があってのものだった。

操も、目の前オのオータムから発せられる尋常じゃないプレッシャーを、全身で感じていた。

 

 

「それは、どうかな?」

 

 

そんなオータムの意見をぶった切り、操は志う不敵に笑う。

否、それは笑みであって笑みではない。

まるで、犀のように大胆で。

狼のように猟奇的で。

鰐のように凶暴な表情だった。

 

 

端的に言うと、戦う覚悟は等に出来ている、という事だ。

 

 

「はっ!やってみろ!」

 

 

「ああ、やってやるさ!」

 

 

《ザワールド!》

 

 

オータムの声に、操はジュウオウザライトの後部スイッチを押す。

 

 

「本能覚醒!」

 

 

《ウォーウォー!クロコダーイル!》

 

 

ジュウオウザワールド、クロコダイルフォームへと変身。

同時にジュウオウザガンロッドを取り出し、ロッドフォームで構え、そのままオータムに向かって走り出す。

 

 

「うぉおおおおお!!」

 

 

雄叫びと共にジュウオウザワールドは走り出す。

未だに倒れたまま動かない春十の事を飛び越え、オータムに接近する。

 

 

「そんな攻撃、通用する訳ねぇだろ!!」

 

 

ガキィイ!!

 

 

飛び掛かった時の体勢のまま、オータムにジュウオウザガンロッドを振るうも、サポートアーム4本に阻まれてしまう。

地面に着地したと同時、残り4本とオータム自身の攻撃がやって来る。

多方向からの同時攻撃は、確実に身体の急所と呼ばれる幾つかの場所を、的確に狙っていた。

 

 

「このぉ!!ハァア!!」

 

 

ジュウオウザワールドは、絡めとられていたジュウオウザガンロッドをパワーで無理矢理解放すると、サポートアームの事を弾く。

 

 

「足りないねぇ!!」

 

 

ドゴォ!!

 

 

「ぐふっ!」

 

 

だが、オータム本人からの攻撃を避ける事は出来ず、胴体に強烈な一撃を貰ってしまう。

ISによって強化された強烈なパンチは、ジュウオウザワールドに大きなダメージが入る。

 

 

「オラァ!」

 

 

「くっ!」

 

 

ジュウオウザロッドを掴んでいた4本が、ジュウオウザワールドを襲う。

地面を蹴り、あえてオータムに接近する。

こうする事で、残りのサポートアームを使用した場合自傷するという状況を狙う。

 

 

「んなもんお見通しだ!」

 

 

オータムは機体の特性を熟知している。

相手が自滅狙いを狙ってくるという可能性も当然把握しており、それに対する対策もとっくのとうに出来ている。

 

 

もう攻撃を行った4本のサポートアームは床に突き刺さる。

だが、それが狙いである。

オータムは地面を蹴り跳躍し、床に刺さったアームを基点に身体の向きを大きく変え、残った4本のアームで攻撃を行う。

だが、

 

 

「こっちも、な!!」

 

 

ジュウオウザワールドは、こう来ることを予想していた。

オータムほどの実力者が、自分の機体の特性を熟知していない訳が無いと理解していた。

身体を捻り、ジュウオウザガンロッドを持ち替え、槍のようにオータムを突く。

 

 

「ハァア!」

 

 

「ぐふっ!」

 

 

的確に突かれたジュウオウザガンロッドは、オータムの喉元に直撃する。

ISを纏っている為、絶対防御が発生して生身の時ほどダメージは身体に入らないだろう。

だが、衝撃そのものは発生する。

オータムは苦悶の声を漏らし、空中での体勢か崩れる。

その結果として、ジュウオウザワールドに向かって来ていた攻撃も僅かにそれ、床に突き刺さる。

 

 

ドゴォ!!

 

 

「ハハハハッ!いいねいいねぇ!久々に倒しがいのある相手だぁ!!」

 

 

「…ただの戦闘狂か……」

 

 

オータムは心底嬉しそうな声を発すると、ジュウオウザワールドに向かって行く。

その様子を見て、思わず戦闘狂と呟いたジュウオウザワールドは、先程と違い後退をする。

 

 

「はっ!ちょこまかしても無駄だぞ!!」

 

 

オータムの攻撃はだんだんと激しくなっていく。

 

 

「くっ!このっ!」

 

 

ガキィン!ガキィン!ガキィイン!!

 

 

ジュウオウザガンロッドで攻撃を弾きつつ、後退する事で攻撃を捌いていく。

 

 

単純に接近戦では使用できる腕の数が多いオータムに、接近戦を挑むのは些か無謀に感じる。

クロコダイルフォームよりも、銃撃戦が出来るウルフフォームで戦うという選択も当然あった。

だが、操がクロコダイルフォームを選んだ理由は当然ある。

 

 

先ず第一に、此処は男子更衣室前であるという事。

此の限られたスペースでは、ウルフフォームの持ち味である残像を残すほどの超スピードが活かしにくい。

ならば、パワーに優れたクロコダイルフォームで戦った方がまだマシだと判断した。

 

 

そして第二に、先程よりも重大な理由がある。

それは、この場に気絶した春十がいるという事だ。

身に纏う白式も損傷しており、身の安全の確保が第一。

だが、この状況では春十の事を抱えて運んだり、ましてや治療を行う事など出来ない。

だからこそ接近する事で、オータムの意識を自分に向けさせ、春十を、ひいては他の生徒や来賓の人を被害から守るという選択をした。

 

 

操は春十が嫌いだ。

本音を言うんだったら、別に放っておいていいんじゃないかとすら感じている。

 

 

だが、先程学園長に頼まれたのだ。

生徒の安全を確保しろ、と。

それに反する訳にはいかない。

 

 

それに加え、操は動物戦隊ジュウオウジャーだ。

1人の命も救えなかったら、胸を張って仲間達と会えなくなる。

 

 

(まさか、あんなに嫌いで、怖かった織斑春十を守る事になるとはな…俺も、ちょっとは成長出来たのかな?)

 

 

マスクの下で、操は微笑を浮かべる。

 

 

ガキィン!ガキィン!ガキィイン!!

 

 

「どうしたどうしたぁ!?そんなんじゃ、勝てねぇぞぉ!!」

 

 

何度も何度も攻撃がジュウオウザワールドを襲う。

全てを完璧に避けきるのは非常に難しく、ジワジワとダメージが蓄積されていく。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

(まだ、まだ……もう少し、もう少しだけ……!!)

 

 

そうして耐え、後退し続ける事十数分。

漸くチャンスがやって来た。

 

 

場所としては、先程までと大きく変わるところなどない。

だが1つ、たった1つだけ、とても重要な変更点がある。

それは……

 

 

「ハァアアアア!!」

 

 

ジュウオウザワールドは雄叫びをあげ、オータムに向かって行く。

 

 

「ハハハ!そう来ないとなぁ!!」

 

 

オータムは笑い声をあげると、8本のサポートアームでジュウオウザワールドを攻撃する。

 

 

「ぐぅぅううう!!」

 

 

全身に攻撃を受けるも、ジュウオウザワールドは止まらない。

ジュウオウザガンロッドをオータムの腹部に押し当て、腕に力を籠める。

 

 

「うぉおおおおお!!」

 

 

そのパワーに、オータムの身体が壁際へと移動させられる。

 

 

「なっ!?てめぇ!!」

 

 

自分の身体が動かされている事に気が付いたオータム。

ガンガンとジュウオウザワールドを殴り、スラスターも使用しなんとか逃れようとするも、遅い。

 

 

「オラァア!!」

 

 

ガッシャアアアアン!!

 

 

気合いの方向と共に、ジュウオウザガンロッドを思いっ切り振り抜く。

オータムは壁を突き破り、開けた場所へと転がっていく。

 

 

場所が狭く、遠距離戦のウルフフォームが活かしづらいのなら、開けた場所へと移動させればいい。

先程十蔵から破壊許可を貰っていたので、気兼ねなく壁を突き破り無理矢理移動させるという事を選択出来たのだ。

 

 

無論、屋外に出してしまったら、そのまま逃走されるという可能性もあったし、別の場所への攻撃が開始される可能性もある。

 

 

逃走してくれるのなら万々歳だ。

情報が欲しくない訳では無い。

だが、第一として生徒や来賓たちに被害を出さない方が最優先だ。

逃げる場合、これ以上の交戦が無いので、これ以上の被害が出る可能性はかなり低くなる。

 

 

別の場所への攻撃が行われるかどうかは、半場賭けだった。

もし負けた場合、被害は大きくなってしまうだろう。

だが、ジュウオウザワールドは確信していた。

オータムという、戦闘狂は。

絶対に逃げたりターゲットを変えたりしない事を。

 

 

「てめぇ!よくも、やりやがったなぁ……!!」

 

 

事実、オータムはより凶暴性の増したような声を発しながら、身体を起こす。

見えないはずのその顔は、怒りで歪んでいるというのが簡単に分かる。

 

 

《ザワールド!》

 

 

《ウォーウォー!ウルフ―!》

 

 

「本能覚醒!」

 

 

ウルフフォームへと変身したジュウオウザワールドは、ジュウオウザガンロッドをガンモードへ変形させる。

 

 

「おいおい、そんな怖い声出すなよ。折角の綺麗な顔が台無しだぜ?」

 

 

珍しく挑発するような言葉を発する。

 

 

「黙れぇ!」

 

 

オータムは叫びをあげると、ジュウオウザワールドに向かって行く。

 

 

「ハッ!」

 

 

バァン!バァン!バァン!バァン!

 

 

ジュウオウザガンロッドによる射撃で、自分に向かってくるアームを的確に逸らす。

 

 

「チッ!」

 

 

オータムが舌打ちをすると同時、ジュウオウザワールドは地面を蹴りオータムの背後へと一瞬にして移動する。

 

 

「なっ!?」

 

 

バババババババババババババババババァン!!

 

 

オータムが反応するよりも早く、ジュウオウザガンロッドのリールを回転させ、連射。

大量の弾丸を至近距離から浴びせる。

 

 

「うわぁあああああああ!?!?」

 

 

避ける事が出来なかったオータムは、叫び声と共に吹き飛んでいく。

装甲からは火花が散り、ダメージを大きく受けた事が一目に分かる。

 

 

「ハッ!」

 

 

ジュウオウザワールドは再び地面を蹴ると、吹き飛んでいったオータムの着地予想点に先回りをする。

そして、こっちに向かってくるオータムに銃口を向けると、

 

 

バババババババババババババババババァン!!

 

 

再びリールを回し、オータムに向かって連射する。

 

 

さっきの連射は、地面に立っていた時に背後から撃たれた。

だが、今回は自分が吹き飛んでいく方向から、吹き飛んでいった時と同じ勢いの連射を受けたのだ。

単純に、その身に受ける威力は先程よりも上になる。

 

 

「ぐわぁああああ!?」

 

 

事実、先程よりもオータムは苦しそうな声を発し、吹き飛んでいく。

 

 

「く、ぅううう!!」

 

 

また反対側にまわられて、同じく連射され吹き飛んでいくわけには行かない。

1人射撃バドミントンの羽では無いのだから。

オータムはサポートアームを地面に突き刺し、威力を殺す。

 

 

「はぁ、はぁ、てめぇ、よくもやりやがったなぁ…!!」

 

 

「お前が『そんなんじゃ勝てない』とか言うから、攻め方を変えたんだよ」

 

 

激昂しているような声色で叫びながら、フラフラと立ち上がるオータム。

 

 

ジュウオウザワールドの長所の1つ。

それは、多彩な戦闘方法である。

近中遠全ての間合いで戦えるというのは、ありとあらゆる敵や状況でも戦えるのである。

 

 

また、万能型は特化型の得意分野での対決に持ち込まれると、どうしても勝てないという弱点が存在する。

だが、洗脳中だったとはいえジュウオウジャーの他メンバーと1対5の戦闘を行い、圧勝出来るほどの実力を有するジュウオウザワールドに、それは大きく当てはまらない。

負ける事があるとしたら、それはもはや万能型だの特化型だの言える敵ではない。

 

 

「くっそがぁあああああ!!」

 

 

バァン!バァン!バァン!バァン!バァン!

 

 

叫びながらジュウオウザワールドに攻撃しようとするオータムだが、それよりも早く、足元付近への射撃を行う。

正確に着弾し、フラフラだったオータムは再び倒れ込み、転がっていく。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……クククククク!!アハハハハハハハハハ!!」

 

 

「……何がおかしい?」

 

 

ジュウオウザワールドが更に攻撃をしようとした時、不意にオータムが地面に転がったまま大笑いをし始めた。

警戒しながらジュウオウザガンロッドを構えると、オータムはゆっくりと立ち上がる。

 

 

「あああ……こんなにもちゃんと戦闘するのは、久しぶりだぁ!!さぁ、行くぜぇ!!」

 

 

オータムはそう叫ぶと、さっきまでよりも早い速度でジュウオウザワールドに突っ込んでいく。

 

 

「っ!!」

 

 

地面を蹴り、残像を残し一瞬で背後に移動すると、そのままの流れでジュウオウザガンロッドを構え、発砲する。

 

 

バァン!

 

 

だが、オータムは身体の向きを変えずにサポートアームで弾丸を撃ち落とす。

 

 

「っ!?」

 

 

(ISのハイパーセンサーか?いや、それも多分あるとは思うが、それだけだったらさっきまでの攻撃を避けられていなかった理由にならない…単発だったからか?それとも……)

 

 

「はっ!その程度かぁ!?もうそれは、通用しねぇぞぉ!!」

 

 

オータムは身体の向きを変え、ジュウオウザワールドに突っ込んでいく。

ジュウオウザワールドは再び地面を蹴り、背後に移動すると今度はリールを回し、連射を行う。

 

 

バババババババババババババババァン!!

 

 

さっきまでだったら、全弾当たっていたのと同じ攻撃。

だが。

 

 

「ぐっ!?このぉ!!」

 

 

この攻撃さえも、オータムはサポートアームで弾いた。

弾数が弾数なので全てを弾く事は出来なかったが、それでもかなりの量を弾く事に成功し、ダメージを抑える。

 

 

「っ!」

 

 

(やっぱり!この短い時間だけで、俺の戦い方、そして射撃の癖を理解されている!)

 

 

「これは…かなりの強敵だ…!!」

 

 

ジュウオウザワールドは地面を蹴り、距離を取る。

ここまでの戦闘で、オータムが接近戦メインだと理解したので、離れる事で体勢を整える。

 

 

「アハハハハ!どうしたどうしたぁ!手が割れたらそれで終わりかぁ!!」

 

 

装備は最初よりもボロボロになり、体力も削られているのにも関わらず、その動きは機敏だ。

さっきフラフラだったのは演技だというのか。

そう考えてしまう程、今のオータムの迫力は凄かった。

 

 

《ザワールド!》

 

 

《ウォーウォー!ライノース!》

 

 

「本能覚醒!」

 

 

ジュウオウザワールドはライノスフォームに変身すると、ジュウオウザガンロッドをフィッシングモードに変形。

ライノスラインを引っ張り出し、オータムに向かって振るう。

 

 

「ハァッ!!」

 

 

「チッ!このっ!」

 

 

オータムはサポートアームで受けるも、それは間違いだった。

 

 

「なっ!?」

 

 

サポートアームに、ライノスラインがぐるぐるに絡みついたからだ。

 

 

「フンッ!!」

 

 

ジュウオウザワールドは腕に力を籠めると、一本釣りの要領でサポートアームをへし折る。

 

 

バチィ!!

 

 

「ぐうっ!?」

 

 

引き裂かれた断面からスパークが散る。

ちぎれた先を手元に手繰り寄せたジュウオウザワールドは、それをそこらへんに放ると再びジュウオウザガンロッドを構える。

 

 

「てめぇ、よくもやったなぁ!」

 

 

オータムは叫び、ジュウオウザワールドはジュウオウザガンロッドを振るおうとする。

が、その直前

 

 

「操!避けろ!」

 

 

背後からのその声に、ジュウオウザワールドは瞬時に反応。

半ば倒れ込むような形でその場から避けると、その一瞬後にジュウオウザワールドが立っていた場所を通過する形で、オータムへの攻撃が行われる。

 

 

「ぐわぁあああ!?」

 

 

オータムはふっ飛んでいき、ジュウオウザワールドは攻撃が来た方向を向く。

 

 

「ラウラ!簪!」

 

 

そこには、今まさにレールカノンによる攻撃を行ったラウラと、山嵐を何時でも発射できるようにスタンバイしている簪だった。

 

 

「操さん!大丈夫ですか?」

 

 

「ああ、俺は大丈夫だ。楯無さんは?」

 

 

「学園長の所だ。避難確認をしているらしい」

 

 

「了解」

 

 

ジュウオウザワールドの隣にやって来たラウラと簪とその様な会話をした後、オータムに向き直る。

 

 

「ちっ…流石に3対1はマズいなぁ……」

 

 

ふっ飛ばされたオータムは、ゆっくりと立ち上がりながら小声でそう呟く。

 

 

(仕方ねぇ、アイツに頼る事になるのは、非常に、非常に!ひ!じょ!う!に!!気に食わねぇが、頼らざるを得ないようだ)

 

 

思考を纏めたオータムはバッと右手を掲げる。

その右手には、赤いボタンが1つだけ付いた黒い箱状のものという、何処か非常に古臭く感じるものだった。

 

 

「なんだそれは?」

 

 

レールカノン、やAICといった全ての行動に迅速に移れるようにしながら、ラウラがそう声を発する。

 

 

「これか?良いぜ、教えてやるよ…これはなぁ!アリーナに仕掛けた爆弾の起動スイッチだ!!」

 

 

「「「っ!?」」」

 

 

オータムの口から発せられた衝撃的な言葉に3人は驚くも、焦りはしない。

明らかにこちらが追い詰めているこの状況で、そんな言葉など口から出まかせの可能性の方が高い。

だからといって、確認しない訳にはいかない。

簪とラウラはアイコンタクトを取ると、手分けしてアリーナをハイパーセンサーによってアリーナをそれぞれ探索する。

一瞬後、簪がハッとした表情を浮かべ、慌てたような声を発する。

 

 

「っ!第一アリーナ、天井付近!!」

 

 

その言葉を聞き、ジュウオウザワールドは視線を第一アリーナに向ける。

 

 

「アレか!!」

 

 

変身した事による強化された視界には、確かに簪が示した位置に、前までは存在しなかった黒い四角形の物体が映った。

これが大和だったら、もっと鮮明に見えたのだろうが、ジュウオウザワールドにはこれが限界だった。

だが、ISのハイパーセンサーを使った簪がそう言うのなら間違いは無い。

 

 

「ひゃはははは!これで終わりだぁ!!」

 

 

「っ!貴様ぁ!!」

 

 

オータムのその言葉に、ラウラが反応するも、手の中にあるスイッチを押すのを妨害するのは非常に困難だ。

AICが使用できれば止める事は可能かもしれないが、絶大な集中力が必要であるAICを瞬時に発動させるのは、いくら現役軍人のラウラでも難しい。

その事もラウラは分かっているので、ワイヤーブレードでの妨害を試みるも、遅い。

オータムによって赤いスイッチを押されてしまう。

 

 

「ひゃはははははははははぁ!!」

 

 

「くっ!?」

 

 

その一瞬後、ワイヤーブレードによってスイッチが弾かれる。

弾かれたスイッチを、ジュウオウザワールドは回収する。

すると、赤いスイッチの下部に、同じく赤いデジタル数字が表示されている事に気が付いた。

 

『2:53』

 

これが本当で、さっき確認したものが本当に爆弾だったのだら、もう時間が無い。

 

 

「くっ!貴様ぁ!!」

 

 

「ハハハ!」

 

 

ラウラはオータムに攻撃を仕掛けるも、オータムは軽々とそれを避ける。

 

 

(アイツの助けを借りねぇといけねぇのは癪に障るが…これしかねぇからなぁ。それにしても、コイツ押した時点で連絡が行ってる筈なんだが…居ねぇなぁ……)

 

 

ラウラからの攻撃を躱しながらオータムはそんな事を考える。

 

 

「ハァア!!」

 

 

「ぐっ!?」

 

 

考え事をしているからか、ラウラの攻撃を一撃くらう。

さっきまでジュウオウザワールドにボコボコにされていたため、ダメージが残っている。

その為、たった一撃でもそこそこなダメージになるのだ。

 

 

「みっ!操さん!ど、どどどどうしましょう!?」

 

 

簪は焦ったような声を発し、ジュウオウザワールドに意見を求める。

ジュウオウザワールドは視線をアリーナに固定したまま、言葉を発する。

 

 

「簪、俺に考えがある。ラウラと一緒にオータムを拘束してくれ」

 

 

「オータム…巻紙礼子の本名ですか?」

 

 

「本名かは知らんが、さっき丁寧に教えてくれた」

 

 

「そうですか……操さん」

 

 

「なんだ?」

 

 

「後は、任せました!!」

 

 

簪は、ジュウオウザワールドなら、操ならなんとかしてくれると信じ、指示通りオータムの拘束へと向かう。

それを確認したジュウオウザワールドは、第一アリーナに向かって走り出す。

 

 

「はっ!今更何が出来るって言うんだ!!もう遅いんだよぉ!!」

 

 

そんなジュウオウザワールドに向かって、オータムは馬鹿にするような声を発する。

 

 

「遅い?そんなもん……知るかぁ!!」

 

 

「あ?」

 

 

「お前たちは知らないかもしれない!だけどな!この学園には、世界中から、ISに憧れたみんなが集まって来るんだ!中には、嫌な奴もいる!でも!みんな支え合って、目標に向かって努力してるんだ!そんなみんなの想いは、お前みたいな奴に、壊されていいものなんかじゃない!俺が、俺達が絶対に守る!」

 

 

ジュウオウザワールドは、その雄叫びと共にライノスラインをめいいっぱい伸ばし、アリーナに向かって放つ。

 

 

シュルルルルルルルルルルルル!!

 

 

激しい音と共に、普段使用している長さの何倍か分からない程長いライノスラインが放たれ、アリーナをグルグルに絡めとる。

そして、

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

精一杯の力でジュウオウザガンロッドを引く。

 

 

「なっ!?てめぇ、まさか!?」

 

 

「操さん!?」

 

 

「このまま、アリーナ毎釣り上げる!!」

 

 

ジュウオウザワールドが考え付いた解決方法は至ってシンプル。

アリーナに向かって爆弾を撤去する時間が無いんだったら、アリーナを爆発させても問題無いところに移動させればいい。

 

 

「はっ!そんな事出来る訳ねぇだろうが!!」

 

 

「出来る、出来ないじゃない!やるんだ!俺は、学園のみんなを、守る!!」

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 

 

その咆哮と共に、アリーナが揺れ始める。

揺れは地面を伝わり、ジュウオウザワールドたちの足元も振動を始める。

 

 

「なっ!?てめぇ!!」

 

 

オータムは慌ててジュウオウザワールドを攻撃しようとするが、

 

 

「隙ありだ!!」

 

 

「ハァア!」

 

 

その隙に、AICによってその場に固定され、簪の攻撃を全身に受ける。

アラクネが強制解除され、生身となったオータムがそこらへんに転がる。

 

 

「確保!!」

 

 

「うん!」

 

 

すかさず2人によって、オータムは拘束される。

 

 

「くそがぁあああ!!」

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

オータムのその叫び声をかき消す勢いで、ジュウオウザワールドの叫び声が辺りに響く。

 

 

「絶対に、この学園を守る!」

 

 

〈踏ん張れ操!〉

 

 

〈前にビルと宇宙船釣った事もあるんだ!お前ならいける!〉

 

 

〈おお、ちょっと動いたぞ!いけいけぇ!!〉

 

 

操の妄想の犀男、狼男、鰐男も声援を掛けながら、ジュウオウザワールドの身体を引く。

その言葉に励まされ、更に身体に力を入れる。

 

 

「くっ、ううう!!」

 

 

だが、妄想の身体は直接的なサポートにはどうしてもならない。

あと1歩、あと1歩の力がどうしても足りない。

如何したものかと思考を超高速で巡らせていると、不意に直接的に身体を後ろに引かれた。

 

 

「っ!」

 

 

咄嗟に後ろを振り向くと、そこにはジュウオウザワールドの身体を引っ張っている、自身の専用機を展開した楯無と、訓練機であるラファール・リヴァイヴを身に纏ったナターシャと真耶だった。

避難誘導や、その後のチェックを終わらせた3人。

ナターシャと真耶は十蔵から訓練機の使用許可を特例で得て、楯無と共にやって来たのだ。

 

 

「「「……!!」」」

 

 

3人は真剣な表情を浮かべながら、同時に頷く。

今何をしているのか、どうしてこんな事をしているのかなどの説明は一切受けてない。

だけれども、ジュウオウザワールドの事を、操の事を信頼しているから。

説明も無しに、今こうやって協力しているのだ。

 

 

「っ!」

 

 

表情から、その考えを察したジュウオウザワールドも頷く事で答える。

そして、4人は改めて視線をアリーナに向けると、全身に力を入れ直し、アリーナを全力で引っ張る。

 

 

「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 

 

アリーナを釣り上げるのが遅れれば地上で爆発する。

もう既に時間は残されていない。

ここが、勝負どころだ。

 

 

「「「「ハァアアアアアアアアアアア!!!!」」」」

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 

 

遂にはアリーナ半分が持ち上がる。

 

 

「オラァアアアアアア!!」

 

 

身体の向きを変え、ジュウオウザガンロッドを振り抜く。

 

 

バキバキバキバキ!!

 

 

アリーナは激しい音と共に空中に舞う。

そして

 

 

ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!

 

 

アリーナは空中で爆発し、黒煙が発生する。

アリーナの残骸がIS学園の敷地中に落下してくる。

 

 

「あはは…こんな事になってたんですか…片付けが大変だ……」

 

 

「まぁまぁ山田先生、アレが地上じゃ無かっただけマシじゃないですか」

 

 

「っていうか、アリーナを釣り上げて折れたり壊れたりしないあのロッドはいったい…?」

 

 

真耶、楯無、ナターシャがそう呟く中、ジュウオウザワールドはラウラと簪に拘束されているオータムに向かって歩く。

オータムが信じられないといった表情を浮かべている中、膝を折り視線を合わせる。

 

 

「言っただろ?出来る出来ないじゃない、やるんだって。俺達が、絶対に守るって」

 

 

「っ!てめぇ…!!」

 

 

ジュウオウザワールドの言葉に、オータムは恨みがましい表情を浮かべる。

そんなもの、気にもしないように言葉を続ける。

 

 

「この学園(ほし)を、なめるなよ」

 

 

「くそがぁあああああ!!」

 

 

最後にオータムの叫びを残し、操達は校舎の中に戻っていく。

オータムの所属組織だったり、今回の目的等々分からない事が多い。

安全確保が出来た後、すぐさま緊急会議や被害確認をしなければならないだろう。

今のところの被害はオータムとの交戦時に空いた壁の穴と、地上で爆発させない為に空中に放ったアリーナ1個ぐらいだろうか。

 

 

(…破壊許可あったとはいえ、俺ぶっ壊し過ぎじゃね?)

 

 

操は苦笑いを浮かべながら、歩く事しか出来なかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フン、オータムの奴め…しくじったか」

 

 

そんな操達の様子を、遠くの方から見つめている少女が1人。

その身にはISを纏っており、顔の上半分はバイザーによって隠れている。

 

 

彼女は、オータムの仲間。

オータムが押したスイッチは爆弾を起動させるだけでなく、彼女への連絡も同時に行うものだったのだ。

 

 

その為、さっきからずっとIS学園を観察していた彼女だが、手を出さなかった理由は主に2つ。

 

 

1つは、彼女が此処に来た時にはもうオータムがかなりピンチになっていたからだ。

交戦して負けるなんてことを想定した訳では無いが、攻撃をする前にオータムが捕まる可能性の方が高かった。

だったら、わざわざ自分がいるという情報を与えるより、向こうの情報を収集する方が良いと判断したのだ。

 

 

「ククククク…あのボスは気に食わんが…これだけは感謝しておいてやる…」

 

 

自分の首元を触りながらそう呟く。

彼女の身体には、監視用ナノマシンが投入される予定だった。

だが、その直前に組織のトップが変わり、その計画は白紙になった。

なので、ここまで自由に行動が出来るという訳だ。

 

 

そして、彼女が手を出さなかったもう1つの理由。

それは……

 

 

「ジュウオウザワールド…門藤操…ハハハハハ!!本当に面白い奴だ……!!」

 

 

操の行動に、目を奪われていたからだ。

 

 

「ISのアリーナを釣り上げるという発想も!それを実際にやり遂げてしまう力も!自分がやり遂げるものに対する想いも!何もかも素晴らしい!」

 

 

操の突拍子もない発想や決断力に、彼女は惹かれた。

 

 

「ククククク…ハハハハハ!!いつか、お前とやり合うのが楽しみだ!!」

 

 

最後にその言葉を残し、彼女はIS学園から撤退する。

頭の中でオータムを見捨てた言い訳を考えつつも、その口元はとても嬉しそうに歪んでいた。

 

 

「なぁ、門藤操……………………兄さん」

 

 

 

 




IS学園学園祭特別イベント「アリーナ一本背負い」
参加条件
・学園長より破壊許可を得ている
・10年以上戦った経験がある
・地球を救った実績がある
・男性IS操縦者である

以上4つの条件を全て満たす方で、腕に自信のある方は是非!

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想もよろしくお願いします!


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事件後の会議

さてさて、何時もの戦闘後会議です。

最近中古おもちゃショップ巡りにハマっていますが、ライダーのおもちゃに比べ戦隊の少なさ…
なんか悲しくなります。
あと、『高価買取中!!』とかのポスターで、ルパンカイザーはよく見るのにパトカイザーは絶対に居ない。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

IS学園の学園祭での襲撃事件から約2時間後。

これから、襲撃事件を受けての緊急会議が行われる。

 

 

そんな会議開始の約20十分前。

この時間タップリと休息をとった操は、肩をゴキゴキさせながら会議室に向かっていた。

 

 

「う、うぅうううん…なんか、まだ疲れが取れないなぁ…」

 

 

軽く伸びをし、ため息をついてからそう操が呟いた。

戦闘中は出まくっていたアドレナリンも鳴りを潜め、疲労を忘れるほどに集中するものも無くなった為、シンプルに身体の疲労が抜けないのだ。

 

 

「これが年か……?もうちょっと食生活見直して、トレーニング内容も見直すことにしよう……」

 

 

もう直ぐ24歳になる成人男性である操。

何年も戦ってきた歴戦の戦士ゆえ、一般的な成人男性よりも体力は多い。

だが、周りにはエネルギーが無限で永遠に活動できるとまで言われている女子高生が大量にいるIS学園という場所に居る。

それに、仲が良く、一緒に居る時間が長い生徒達は、大体専用機持ちだったり、国家代表だったり候補生だったり、そうでなくても周囲よりも更にISの訓練への意欲が高い、やる気と気力に満ち溢れているメンバーばかりなので、操が多少体力面で劣っていると思っても仕方が無い。

 

 

「まぁ、まだ大丈夫だ。揚げ物食べれるし。腹も出てないし」

 

 

そう呟いたは良いものの、こういう発言がおっさん臭いなぁ、と心の何処かで思いながら歩いていく操。

 

 

「操さん!」

 

 

「ん?」

 

 

その道中、背後から声を掛けられた。

 

 

(なんか、俺って学園にいると声掛けられることが多くねぇか?気のせい?)

 

 

ぼんやりとそう考えながら、振り返る。

そこに居たのは、簪とラウラと本音と虚の4人だった。

 

 

「簪、ラウラ、のほほんさん、虚さん」

 

 

名前を呼びながら、操は4人に駆け寄っていく。

 

 

「操、体調はどうだ?」

 

 

「ん~、疲れが完全に抜けてない気がするが、まぁ問題無い範囲だと信じたい」

 

 

ラウラに言われ、操は右肩を左手で叩きながらそう返答する。

 

 

「信じたいって……」

 

 

「いやぁ、自分の身体は自分が1番良く分かる、とは言いますが、だったら定期健診だの無症状の内に検査を受けようだのは要らないので」

 

 

虚が苦笑しながらつぶやいた言葉に、操も同じく苦笑しながらそう返答する。

 

 

((それはそうだが、何か違うような気もする))

 

 

簪とラウラは声には出していないものの、同じような事を考え、

 

 

「あはは、おじさんだぁ~~」

 

 

グサッ!!

 

 

「ぐはぁっ!?」

 

 

本音は、鋭すぎる言葉のナイフで操の精神を深く刺した。

1学期からずっと気にしている事を、華の女子高生に面と向かって言われた場合のダメージは、先程の戦闘で物理的に受けたダメージを凌駕する。

右手で心臓を抑え、その場に蹲る。

 

 

「操ォ!!」

 

 

「操さぁん!!」

 

 

ラウラと簪は、慌てて操に駆け寄るというノリの良さを見せ、

 

 

「本音っ!そんな失礼な事を言ってはいけません!大体あなたは何時も何時もフラッとしていて、思った事を直ぐに口にして、書類仕事はサボって……!!!」

 

 

「ふぇぇえええ……」

 

 

虚は本音へのお説教を開始した。

途中から操が関係なくなっているが、常日頃思っていた不満や怒りが爆発したのだろう。

背後に威嚇をしているライオンが見えるのは、声がでかいレオの雄叫びを何度も見て来た自分だけだと信じたい、と操は考えた。

 

 

「虚さん、今度こそ本音のお菓子禁止を…」

 

 

「簪お嬢様…そうですね。本音、あなたは経った今からIS学園を卒業するまで、菓子類、並びにスイーツ類、フルーツ類を食すことを禁止します」

 

 

「えええええええ!?」

 

 

簪が今まで脅しとして、お菓子1年間禁止をチラつかせる事は何度もあった。

だが、今回虚が言い放った禁止は、お菓子だけでなく、スイーツにフルーツも含まれ、更に期間もIS学園卒業まで…つまり、約2年と半年もの間、自分の大好物を食べる事が出来ないのだ。

 

 

「因みに、イチゴなどの分類上は野菜に含まれるものも、私がフルーツと判断すればフルーツです」

 

 

「因みに、トマトは野菜ですが、フルーツトマトはフルーツですか?」

 

 

「……それは永遠に結論が出ない問題ではありますが、今回はフルーツと私が決めました」

 

 

「なるほど」

 

 

虚とラウラが呑気にも聞こえる会話をしている側で、ダラダラと冷や汗を流す本音。

余程嫌なのか、風邪をひいているように顔色が悪く、ガタガタと震えている(ように見えるほどのオーラが漂っている)。

 

 

「そ、それは勘弁してください~~!!」

 

 

「それは駄目。本音、私は今まで何度も言っていたけど、最後には見逃してきた。だけど、流石に今回は見逃せない」

 

 

「その通り。今日は逃がしません。反省しなさい!」

 

 

涙目になりながら泣きつく本音に、ぴしゃりと言い切る簪と虚。

この説教のきっかけになった操、そしてそこそこノリが良かったラウラの2人は苦笑をしながら本音達の事を見ていた。

 

 

「そ、そこを何とかぁ~~。で、出来る事なら何でもしますからぁ~~!」

 

 

本音は先程の有事の際と同等かそれ以上の速度で、虚の足にしがみつく。

その必死さに、思わず操は右手で視界を覆い、ラウラはスッと視線を逸らした。

 

『出来る事なら何でもする』

 

その言葉を聞いた瞬間、虚は口元をにやりと歪ませ、眼鏡がキラリと光った(気がした)。

 

 

「本音、言いましたね?」

 

 

「う?うん。い、言ったよ?」

 

 

虚の言葉に、よく分かっていないまま本音は返答する。

此処で直ぐに返答しなかった場合、どんな事になるか分かったもんじゃないからだ。

 

 

「よろしい。なら、禁止の期間を1年生が終わるまでに短縮しましょう」

 

 

「ほ、本当!?」

 

 

「ただし!生徒会役員では無くなるまで!毎日しっかりと生徒会室で仕事をすると、今ここで誓えば、の話ですが」

 

 

虚は冷酷とも感じる声色で、淡々とそう語る。

 

 

「なるほど、これが虚さんの本当の目的か…」

 

 

「ああ。菓子類を禁止して反省させるよりも、キチンと仕事をさせる方が良いと判断したんだろう」

 

 

操とラウラのその呟きは、本音には聞こえていなかった。

2年と半年という期間が、(真面目に働きさえすれば)半年にまで減るのだ。

乗らない訳が無い。

逆に、お菓子さえ我慢すれば仕事しなくてもいいという訳にならないのがミソだ。

 

 

「やる!やります!だから、だからお菓子は~~!!」

 

 

「契約成立です」

 

 

虚は、長年の願いが叶ったと言わんばかりの表情を浮かべながら宣言する。

操、ラウラ、簪は思わず拍手をしていた。

この契約でも半年ほどはお菓子を食べられないし、何より生徒会役員である間は放課後の殆どの時間が拘束されることが約束されたため、なんなら卒業までお菓子禁止よりもキツイ可能性が高い。

まぁ、生徒会の仕事は、本来ならばこんな契約なしに、しなければならい事だと突っ込んではいけない。

 

 

「操さん、改めてうちの愚妹がすみませんでした」

 

 

「ごめんなさ~い」

 

 

本音の頭を掴み、自分と一緒に無理矢理頭を下げさせる。

謝罪された操は頬をポリポリと掻く。

 

 

「いや、ははは…もう大丈夫なので気にしないで下さい」

 

 

操の許しを得たので、2人は顔をあげる。

 

 

「操さん、虚さん、ラウラ、本音」

 

 

「「「「ん?」」」」

 

 

此処で、簪が4人に声を掛ける。

全員の顔が簪に集まる中、簪はスマートフォンの画面を見せる。

 

 

「そろそろ時間、危なくないですか?」

 

 

そこに表示している時間が正しいのなら、簪の言う通りかなりギリギリの時間だった。

本音のまったりとしたペースに合わせていたら、5人全員が遅刻してしまうかもしれない。

 

 

「「……!!」」

 

 

操とラウラはアイコンタクト。

一瞬にして意思を確かめ合うと、すぐさま実行に移す。

 

 

「簪!のほほんさん!ごめん!」

 

 

「きゃあっ!?」

 

 

「わぁああ~~!!」

 

 

操は簪と本音の2人を。

 

 

「失礼」

 

 

「えっ!?」

 

 

ラウラは虚を抱える。

 

 

「「急げぇ!!」」

 

 

操とラウラは同時にそう声を発すると、そのまま会議室に向けて地面を蹴った。

本音はまったりし過ぎだし、簪も操やラウラに比べると瞬発力が些か不安だ。

虚に関しては、運動能力を把握している訳では無いが、どうせなら運んだ方が良いと判断した。

 

 

常人の走りと変わらないくらいの早歩きで移動する事1、2分。

そこそこ余裕がある時間に、無事会議室前に辿り着いた。

 

 

「「「……」」」

 

 

まさかの運ばれ方をした3人は、魂が抜けたような表情を浮かべながらその場にへたり込む。

 

 

「ははは、急ですみません。けど、ああしないと間に合いそうになかったので。特にのほほんさんが」

 

 

「取り敢えず呼吸を整えろ、早く入らないと無駄になるぞ」

 

 

ラウラに急かされ、3人は立ち上がると呼吸を整える。

 

 

コンコンコン

 

 

「門藤操、ラウラ・ボーデヴィッヒ、更識簪、布仏虚、布仏本音、来ました」

 

 

操が扉をノックする。

 

 

『どうぞ』

 

 

入室の許可が出たので、操が扉を開け、会議室内に入る。

 

 

「「「「「失礼します」」」」」

 

 

軽く頭を下げながらそう言い、頭をあげる。

 

 

「遅れてしまって申し訳ありません」

 

 

「いえ、門藤君達は前線で戦闘を行ったり、生徒の避難誘導をしてくださいました。まだ疲れも残っているでしょう。気にしないで下さい」

 

 

「お心遣いに感謝します」

 

 

「席はそこの5つです。座って下さい」

 

 

「はい」

 

 

操達5人は、十蔵に示された席に順番に座る。

その際、もう既に座っていた楯無が

 

 

(もう、みんな遅いわよぅ。あとでお仕置きねっ!)

 

 

という言葉が瞬時に再生されるような表情を浮かべながらウインクをする。

 

 

「「「「……」」」」

 

 

何故、こんなに楯無が言いそうにない…否、言いそうではあるが、喋らないであろう口調なのに、楯無の声で再生されたのかが分からない。

唯一分かるのは、途轍もなく悪寒が走り、イライラするという事である。

本音以外の4人は、理不尽な八つ当たりだと理解しながらも楯無の事を一睨みしてから席に座る。

 

 

「!?!?」

 

 

急に4人から睨まれた事で、心当たりが全くない楯無は柄にもなく目を白黒させる。

本音は特に何も反応せず、まったりとした動作でワンテンポどころかスリーテンポ程遅れて椅子に座る。

 

 

席に座った操は、改めて会議室内を見回す。

全力で急いできたため、到着時刻にはまだ一応余裕があった。

それを表すように、会議室内にはまだ空席が数個あった。

 

 

今此処に居ない教員は、普段からよくデータを纏める事務作業をしている人が殆だと操は気が付いた。

学園祭前に手伝った書類を出す時だったり、アルバイトの申請をする時だったりなどで職員室を訪れて確認しているので間違いが無い。

 

 

だが、世の中どんな時でも例外はあるというもので。

 

 

(……やっぱり織斑先生が居ない)

 

 

そう、その例外とは千冬である。

朝から教室に姿を見せず、避難誘導の時も見かけなかった。

そして普段の様子から、データ纏めなどの作業をしているとも、残念ながら思えない。

 

 

そんな事を考えていると、慌てた様子でいなかった教員達が続々とやって来た。

操の仮説は当たっていて、資料を配ったり、ディスプレイの準備だったりをし始める。

こういう大変な事を任せてしまっているので、会議室内の誰も文句は言ず、しっかりと感謝の弁を述べる。

 

 

だが、千冬はやってこない。

教員達が席に座る事で、最後の空席が否が応でも目立つのだ。

 

 

「……」

 

 

十蔵は傍から見ても怒っているのが一瞬で分かる表情で、その空席を見ていた。

その迫力に、操は若干ビビり反射的に視線を逸らしてしまう。

すると、ここで漸く操は春十が居ないことに気が付いた。

自分がオータムと交戦を開始する前に、もうボッコボコにやられていた。

と、言う事はつまり春十ももれなく戦闘をしていたという訳で。

 

 

(だからてっきり呼ばれてると思ってたが……いや、そう言えば結構ボロボロだったな……あの後放置したから知らないけど、もしかしたら今は医務室にいる可能性が高いな。なんだろう、あんなに嫌いだったのに、忘れててすまんって思える)

 

 

操が遠い目をしながらそんな事を考えていると、会議開始の時間になった。

だが、千冬はやってこない。

自然と会議室内の全員の視線が、長である十蔵に集まる。

 

 

「……」

 

 

頭が痛いと言わんばかりに、右手で顔を覆う。

一瞬にして思考を巡らせ、2秒後。

 

 

「……全員が揃っていませんが、時間は有限です。これより、IS学園襲撃事件後緊急会議を開始します」

 

 

十蔵は会議を開始する事を選んだ。

その宣言に伴い、会議室内の空気が一気にピリッとしたものに変わる。

 

 

「では先ず、何が起こったのかの整理をしたいと思います。更識生徒会長、お願いします」

 

 

「はい」

 

 

十蔵の指示を受け、楯無が席から立つ。

 

 

「会議前にお配りした資料にも同じ内容が書かれてありますので、目を通しながら聞いて下さい」

 

 

その言葉通り、操達は自分達の前に置いてある資料に手を伸ばし、簡単にのぞき見されないように付いている表紙を捲る。

 

 

「学園祭午後の部開始直後に、事件は発生しました。突如として男子更衣室付近から爆発音が発生しました」

 

 

楯無の説明を聞きながら、資料に目を通す。

うんうんと全員が自分の記憶と資料、説明の一致を確認したのを確認し、楯無は続きを話す。

 

 

「学園には生徒、並び来賓の方がいる為、すぐさま避難誘導を開始しました。この際、布仏虚は放送室での避難誘導の呼びかけを」

 

 

その言葉と同時、全員の視線がチラッと虚に注がれる。

だが、虚の声の避難誘導の放送を思い出すと同時、視線は楯無に戻る。

 

 

「門藤操は爆発音が発生したと思われる地点へ向かい、襲撃者『オータム』との交戦を開始しました」

 

 

先程の虚の時と比べ、あからさまにしっかりと操に視線が向けられる。

自分から進んで交戦を開始したのだ。

否が応でも注目されるのは仕方が無い。

操が苦笑をしながら頬を掻いていると、

 

 

「んんっ!」

 

 

楯無が咳払いをし、場の空気をリセットする。

再び視線が楯無に戻ったのを確認し、続きを話し始める。

 

 

「襲撃者はオータム1人。門藤操が交戦をし、注意を引き付けてくれた為避難誘導はスムーズに終了しました」

 

 

「はい、ありがとうございます。では門藤君、交戦を引き受けた理由、並びに交戦をしてから起こった事の説明をお願いします」

 

 

「はい」

 

 

楯無が席へと座り、それと入れ替わる形で操が席から立つ。

その瞬間に、視線を向ける対象も当然入れ替わる。

 

 

(うっ…この視線の重圧…あんな冷静に喋れる楯無さんってスゲェ…流石生徒会長兼暗部の長…いや、あの時の講演会を思い出せ、大丈夫、俺なら喋れる)

 

 

4月や学園祭の午前とはまた違った視線の重圧。

それを全身で受け、操の中でここ最近下がり気味だった楯無の評価が一転向上した。

同時に脳裏にて思い出すのは、向こうの世界での一幕。

デスガリアンとの戦いが終わった後、ジューマン世界と人間世界が融合してしまい、ジューマンと人間の共存が余儀なくされた時の事だ。

 

 

未知の種族との共存。

誰だって怖い。

だからこそ、今までセラたちと、ジューマン達と関わって来た人間である操がジューマンと人間の懸け橋になる為に、講演会にて演説を行った。

 

 

その時の事を思い出し、別に会議内で説明するなんて大したことないと思うと、特段重圧を感じなくなった。

 

 

「先ず、交戦を引き受けた理由ですが、襲撃者オータムは事前に偽名を使い接触してきました」

 

 

「その際に操さんが受け取った名刺が、資料に添付してあります。確認してください」

 

 

操の言葉を捕捉する形で発した楯無の言葉に、全員が改めて資料に目を通す。

白黒コピーではあるが、オータムの巻紙礼子としての名刺を確認する。

その『みつるぎ』という名称を見た瞬間に、察しのいい教員達は大体察した。

 

 

「その時、応対した際に違和感を感じ、更識生徒会長、並びに学園長に相談をしました。その結果、このみつるぎという企業がペーパー企業である可能性が高いという事が分かり、その名前を使ってきたオータムも怪しいという考えが纏まりました」

 

 

ここまで言って、みつるぎの事を知らなかった教員でも、殆ど察することが出来た。

 

 

「ここまで怪しい人間が、わざわざ男性IS操縦者の俺が、トイレに行ったタイミングで1人で接触してきた。警戒しよう、となった矢先に爆撃音が学園に響き渡りました。この際、同じ男性IS操縦者である、織斑春十君が襲撃されたのでは?と考えました。生徒のみんなや来賓の方の安全確保を最優先するならば、同じ男性IS操縦者である俺が応対した方が良いと判断し、交戦を引き受けました」

 

 

教員達は、全員納得した用に頷く。

それを確認し、操は続きを話し始める。

 

 

「戦闘開始地点は、男子更衣室前でした。そこに着いた時には、もう既に織斑春十君が交戦しており、装甲が破損した状態の白式を展開し、気絶していました。その場で戦闘を続行すると危険になると判断したので、壁を破壊し外に出ました」

 

 

サラッとした壁の破壊報告に、そういう場合じゃないと分かっていても教員達はついつい苦笑をしてしまう。

だが、そこは流石のIS学園の教員。

すぐさま表情を真面目なものに戻す。

 

 

「外での戦闘中、ラウラ・ボーデヴィッヒと更識簪が加勢に加わった事で、事態は有利に運びました。ですが、オータムを捕えようとしたその直前、オータムは『アリーナに爆弾を仕掛けている。スイッチを押せば爆発させる』という旨の言葉を発しました。ISのハイパーセンサーで確認したところ、確かに第一アリーナに爆発物が設置されている事を確認。その瞬間にオータムが起爆スイッチを押し、爆発物が起動してしまいました」

 

 

操の表情が、

 

(ここで押すのを防げてたらあんな大変な事しなくて良かったんだけどなぁ……)

 

といった表情になる。

その表情から、さっき操と共に戦ったメンバーは大体考えている事を察し、苦笑を浮かべる。

 

 

「その地点から第一アリーナに向かい、爆発物を対処するのは不可能だと判断しました。ですが、爆発の規模が分からない為、放っておく訳にもいきませんでした。オータムから奪い取った起動スイッチには、起爆までの残り時間が表示されていました。その為、ジュウオウザワールドの武装であるジュウオウザガンロッドを使用し、アリーナを一本背負いの要領で釣り上げ、空中で爆発させる事にしました」

 

 

『うぇっ!?』

 

 

先程の壁破壊とはくらべものにならない程の行動を、同じくらいのテンションでサラッという操。

流石の教員達も、これには思わず大きなリアクションを取ってしまう。

それが確かである事を何度も何度も資料と操の事を交互に見る。

 

 

「本来こういう質問は、話しをし終えた後にするものですが、気になる人も多いと思うので今質問します。門藤君、何故そういった発想に至りましたか?」

 

 

その気持ちは重々承知だと言わんばかりに、頭の中で整理する時間を確保する意図も含めて十蔵がそう質問する。

 

 

「今から大体…10年くらい前に、ビルを1本背負いした経験があったので。ビルで出来るならISアリーナでも出来るだろうと」

 

 

『……』

 

 

だが、その意図とは裏腹に操は更にぶっ飛んだ事を言った。

さっきまで普通に話を聞いていた十蔵や楯無でさえも、思わず呆気に取られたかのような表情を浮かべている。

こんなにぶっ飛んだ内容なのに、嘘でも冗談でも無いのがたちが悪い。

この場に、操の向こうの世界での活動を知ってるのは、本人を除くとラウラのみ。

そう簡単に信じる事は出来ないが、操がこういう場面で嘘を言う人間じゃないと全員知ってるし、その表情が何処までも真面目なものだと一瞬で理解できるものだったので、次第に全員が落ち着いていった(納得したとは言ってない)。

 

 

「釣り上げの途中で、楯無さん、山田先生、ファイルス先生の3人が手を貸してくれて…というよりも身体を引っ張ってくれて、無事に爆発のタイミングで釣り上げる事に成功しました。その結果として、アリーナは空中で爆発。IS学園の敷地内に残骸が降り注ぐ事になりました。周辺の海などにも散っている可能性はありますが、大まかには全て敷地内に残骸が残っているかと」

 

 

操のその言葉を受け、楯無達はさっきまでの光景を思い出す。

確かに、そこそこな量の残骸がそのまま落ちて来ていた。

時間が無かったので詳しく確認していないし、後片付けもしていないが、あの量なら第一アリーナのほぼ全てだろう。

 

 

「以上です」

 

 

「はい、ありがとうございました」

 

 

十蔵に言われ、操は席に着く。

それと同時、深く息を吐いてから十蔵に視線を向ける。

 

 

「さて、此処からは今後の対応を協議したいと思います。先ず、今後の授業に関してです」

 

 

「やはり、アリーナの残骸除去に時間を割かないといけない事に加え、アリーナが1つ使えなくなってしまったので実技授業の進行具合への影響も考えなくてはいけないですね」

 

 

「うっ…」

 

 

十蔵と真耶の言葉に、操は思わずそんな反応をしてしまう。

あの時は切羽詰まっていたので、あの行動をせざるを得なかったが、普通に爆弾を解除出来ていればこんな事を考える必要すらなかったのだ。

普段から忙しく仕事をしている2人に余計な手間を掛けさせる事になったとなると、途轍もなく申し訳なさが出て来る。

苦労組の絆は、生徒と教師の垣根を超えるのだ。

 

 

「振替休日もあるので、残骸の撤去はそこまで問題無いのでは?」

 

 

「しかし、今回の襲撃を受け、IS学園からも声明を出さないといけません。他にも事務作業を我々はしなければなりませんので、除去は外部業者に頼らざるを得なく、そうなった場合振替休日中で作業を完了する事は難しいのでは?」

 

 

「簡単に外部業者に頼っていいのでしょうか?」

 

 

前代未聞の事だ。

授業をするための残骸撤去1つとっても、考えないといけない事が多量にある。

 

 

「フム…更識生徒会長、どう考えますかな?」

 

 

「そうですね……」

 

 

十蔵に話を振られた楯無は、顎に手を置き思案するような表情を浮かべる。

その瞬間に会議室内の視線が一斉に楯無に向けられる。

一瞬後、楯無は手を離し、ゆっくりと話し始める。

 

 

「瓦礫の撤去ですが、これにはISを使用するのが1番効率的です。幸い、私を含めこの場だけでも4人の専用機持ちが居ます。それに加え、今日襲撃事件が起こったばかりですので、安全を確保する為と言えば、訓練機の貸し出し、そしてアリーナでの自主訓練は中止出来るので、訓練機も作業に使用できます。その為、撤去作業は我々だけで問題無いと考えます」

 

 

(((サラッと休みなく働いてもらうって言われた)))

 

 

楯無の言葉に、その専用機持ち3人(1人は専用機じゃない)は同時に楯無に半眼を向ける。

それに気が付いていないのか、気が付いて無視しているのか定かではないが(恐らく後者)、楯無は続きを話し始める。

 

 

「それに、確かに第一アリーナは無くなってしまいましたが、まだ他のアリーナはありますし、授業にもそこまで問題は無いのでは?どちらかというと、放課後の生徒自主訓練の方が影響は大きいかと」

 

 

「なるほど…」

 

 

楯無の意見を聞き入れ、十蔵はしばしば考える仕草をした後、言葉を発する。

 

 

「更識生徒会長の意見を基にします。先ず、第一アリーナの残骸撤去は外部業者に頼らず、我々で撤去します。門藤君、ボーデヴィッヒさん、更識簪さんには作業を手伝ってもらいます。大丈夫ですか?」

 

 

「「「はい」」」

 

 

この場での返答は、果たして「はい」以外に存在するのか如何か怪しいが、操達はしっかりと返事をする。

 

 

「そして、今後の授業内容の変更は行いません。反対意見等ありますか?」

 

 

十蔵はそう言いながら会議室内を見回す。

誰からも反対意見は出ず、この意見が採用された。

 

 

その後、第一アリーナの再建はどうするかなどなどの議論しなければならない事を議論し続ける事5時間。

流石にそろそろ疲労が限界になって来た。

 

 

「フム、そろそろ時間ですね……では、区切りも良いので本日は解散とします。残りの議題や、本日で決定しきれなかった議題は後日再び会議して決定します」

 

 

5時間も会議をしてまだ決めないといけない事があるというのが、日本の会議の長さというかテンポの悪さを表している。

おかしいね、日本にあるとはいえ世界唯一のIS専門学校だから世界各国から人間が集まっているのに。

 

 

なにはともあれ、今日は解散だ。

操達も早く帰りたいので、そそくさと会議室を出る。

 

 

「疲れたぁ~~!」

 

 

「ただ座ってるだけなのに、やっぱり会議ってだけで疲れちゃいますね……」

 

 

操が軽く体を伸ばしながらそう呟き、簪もそれに同調する様に肩を摩る。

 

 

「ふぁぁあああ…眠~い……」

 

 

「本音、こんなところで寝てはいけません。早く寮に帰りますよ」

 

 

「は~い……」

 

 

「ちょっとちょっと!」

 

 

「本音っ!しっかりして!」

 

 

本音がフラフラとした足取りで歩くものだから、虚と簪はアワアワと本音の事を支える。

 

 

「これは…もう2人で担いでいった方が早いですね?」

 

 

「……手伝えないのがな。ごめん」

 

 

「いえいえ、操さんは男性ですから。気にしないで下さい」

 

 

「お嬢様、申し訳ありませんがそういう訳なので。お先に失礼します」

 

 

「はいは~い」

 

 

簪と虚は、そのまま2人して本音を担ぎながら移動を開始する。

そうしてここに残ったのは、操と楯無とラウラ。

 

 

「楯無さんも早く休んだ方が良いのでは?生徒会も声明用の資料作らないといけないんですよね?」

 

 

「操さぁん!手伝って下さい!」

 

 

「あくまでも『生徒会』として出さないといけないなら、役員ではない操が手伝っては駄目なのでは?」

 

 

「うっ!?」

 

 

ラウラからの正論に、楯無は胸を抑えダメージを受けたかのようなリアクションをする。

数瞬後、はぁ、と思いっ切り肩を落としながらため息をつく。

 

 

「そうですね…取り敢えず今日は帰ります……」

 

 

そうしてトボトボと歩いていく。

 

 

「……なぁ、ラウラ」

 

 

「ん?どうした、操?」

 

 

そんな背中を見送りながら、唐突に操がラウラに声を掛けた。

ラウラが見上げるように操の事を見る。

窓からもう暗くなりかけている空の、更に遠くの方からポツリと言葉を零す。

 

 

「オータム、絶対バックに組織あるよな?」

 

 

「そうだな…会議の段階ではまだ何も情報を吐いていないようだが、ISを使用している時点で何かしらの組織の一員である事に間違いは無い。何故単騎で突っ込んで来たのかという疑問はあるが……」

 

 

ラウラはポリポリと頬を掻きながらそう返答する。

 

 

「これから、戦いが激しくなりそうだな……」

 

 

そう語る操の脳裏に浮かんでいるのは、デスガリアンとの戦闘。

地球の命を文字通り遊びで奪っていくブラッドゲーム。

そして、それを嬉々として行う外道との戦い。

もしかしたら、それ以上に激しい戦闘が、今後IS学園を舞台に巻き起こるかもしれない。

 

 

「そうだな……だが、もし。もしそうなったとしても、私達のやる事は1つだろう?」

 

 

ラウラは操を挑発でもするかのような、でも普通に可愛らしい笑みを浮かべながらそう言う。

それを見て、操もフッと笑みを浮かべる。

 

 

「そうだな。俺達で、みんなを守る。俺達は、その為に戦う」

 

 

「ああ。お前が教えてくれたからな。『支え合う事の強さ』を」

 

 

「ははは!覚えてたか」

 

 

「当然だろう?」

 

 

2人して暫くの間笑い合い、歩き出す。

生徒寮と教員寮で暮らしている建物は違うが、途中までは一緒だ。

 

 

「ラウラ」

 

 

「どうした?」

 

 

「……頑張るぞ」

 

 

「勿論」

 

 

2人はもう1度笑い合うと、各々自分の部屋へと戻っていくのであった。

 

 


 

 

「エム!あなた、いったい何を考えているの!?」

 

 

「……何の事だ?」

 

 

世界の何処かの建物の一室。

部屋の奥を隠すようにカーテンが掛かっており、その前にコの字型に机と椅子が並んでいる、如何にも怪しい部屋。

そこで、金髪美人の女性が、黒髪で小柄な少女に詰め寄っていた。

 

 

「なんでオータムを見捨てたの!?あなたのミッションはオータムのサポートだったはずよ!?」

 

 

「確かにそうだな。だが、危険だと判断すれば帰還する許可をボス直々に貰ったからな」

 

 

「なっ…ボスが!?」

 

 

「ああ。そして、危険だと判断したから帰って来た。まぁ、交戦しても私なら負けないだろうが、確実に勝てる、という状況でも無かったのでな」

 

 

エムと呼ばれた少女は、特に悪びれる素振りも見せずに淡々とそう述べる。

金髪の女性が再び声を発しようとした時、

 

 

〈見苦しいぞ、スコール……〉

 

 

「「っ!」」

 

 

カーテンの奥から、そのような声が聞こえてきた。

 

 

〈一端のプレイヤーに過ぎないオータムなどよりも、エムの方が希少価値が高いと何度も説明した筈だ……私の意思に逆らうのなら、貴様を切っても良いんだぞ…?〉

 

 

「…も、申し訳ありません……」

 

 

溢れ出る圧に、スコールと呼ばれた金髪女性は頭を下げる。

そんな光景を見て、エムは口元をにやりと歪める。

スコールはエムの直属の上司のような存在だ。

以前だったら、こんなに反抗的な態度は取れなかった。

もし取ろうものなら、その瞬間にエムの頭は胴体から独り立ちしていただろう。

 

 

だが、組織のボスがこのカーテンの向こうにいる存在に変わり、状況は一変した。

ボスがエムを優遇視し始めたのだ。

無論、立場上はスコールの方が上なのだが、今回のような状況になった場合はエムの方が優遇されるのだ。

 

 

何故自分の事をそこまで優遇させるのか、エムにも分からない。

そもそも姿を直接見た事もないし、どうやってトップになったのかも分からない。

 

 

だが、エムにとってそんな事どうでもよかった。

自分の暴れたいように暴れられるなら。

そして、自分を優遇してくれる今のボスはエムにとって都合が良いのだ。

 

 

〈座れ、スコール〉

 

 

「はい」

 

 

スコールは悔しそうな表情を浮かべながら席に座り、その隣にエムが座る。

暫くすると、部屋の中に続々と人が入って来て、席へと座っていく。

だが、その際スコールに向かってほぼ全員が馬鹿にするかのような笑みを浮かべており、その度にスコールは悔しそうに拳を握りしめる。

 

 

そうして全ての席が埋まった時、カーテンの奥から声が発せられる。

 

 

〈揃ったな……では、始めようか……〉

 

 

 

 




いろいろ大変。
特に駄目教師関係。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想もよろしくお願いします!


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会議の裏で

もはや恒例、裏。
何時もより短めです。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

操達が会議室で戦闘後の会議を行っている頃。

朝から教室に姿を見せず、避難誘導もせず、会議にも出席していない駄目教師、織斑千冬の姿は、寮長室にあった。

何時も常に散らかっているこの部屋ではあるが、今日はより一層散らかっていた。

 

 

積み重なり、悪臭を放っている脱ぎ捨てられた衣類。

ハエなどの虫が周囲を飛んでいる流しや空き酒瓶置き場。

その他にも使ったままで片付けていない小物や、部屋の隅に潜んでいるゴキブリなど。

とても人が住んでいるとは思えない…そして、寮長であるとは思えない汚部屋に、千冬は居る。

 

 

「んぐ、んぐ、んぐ、はぁ…」

 

 

ゴミにまみれて、もう何処にいるのか分からない状態だというのに、千冬は酒を飲んでいた。

休憩を挟まずにゴクゴクと缶ビールを飲み、口を離した頃には、もう缶の中身は無くなっていた。

 

 

「もう無くなったか…」

 

 

千冬は缶を数度振って中身が無くなった事を確認した千冬は、持っていた缶をそこらへんに捨てた。

中身が無いとはいえ、洗わないと数滴ビールが残っているし、匂いもキツイ。

それなのにも関わらず、千冬は本当にそのまま缶を捨てた。

 

 

「ちっ、もう無いか…」

 

 

千冬は周囲にもう酒が残っていない事に若干怒りを覚えながらそう呟くと、身体を伸ばしながら立ち上がった。

アルコールが入っている事、そして足の踏み場が無いくらいに部屋が散らかっている事が相まって、千冬はフラッと身体を揺らす。

 

 

「くっ…」

 

 

だが、腐っても世界最強。

体幹の強さだけで転ぶのを耐えた。

 

 

千冬が、朝から教室に姿を現さなかった理由。

それは単純明快で、昨日の夜からずっと、ずっっっっっと酒を飲んでいたからだ。

昨日の夜に酒を飲み始め、夜が更け日を跨いで日が昇り、事件が起き日がだんだんと沈んで来た今。

漸く千冬は酒を飲むのを止めた。

 

 

眠らずにずっと座っていたので身体は凝り固まっている。

千冬が少し動くだけで、身体がバキバキと音を立てる。

 

 

足元には大量の酒瓶や空き缶が転がっており、今の千冬の吐息はアルコールの臭いしかせず、零した酒が服に染み込んでいた。

 

 

「今、何時だ?」

 

 

カーテンを開けたのは、いったいどれくらい前なのか。

少なくともここ数ヶ月開けていないので、千冬は太陽の動きから大体の時間を察する事すら不可能だ。

時計を見て、時間を確認する。

 

 

「……朝か?夕方か?」

 

 

しかし、アナログ時計が故それだけを見ても今が朝方か夕方かが分からない。

千冬はチラリとカーテンと玄関を見比べる。

カーテンに近付き開けるよりも、玄関から外に出た方が移動が簡単だと判断。

玄関の方に向かう。

 

 

ゴミをかき分け、身だしなみを整えたりチェックしたりする事もせず、玄関から外に出る。

外に出ても寮の廊下なのだが、部屋の換気を余りにもしなさ過ぎて、空気が随分と新鮮に感じる。

ぼっさぼさの髪などを他人に見られないようにしながら寮の外に出る。

 

 

「夕方か……」

 

 

太陽の位置と空の色から大体の時刻を理解した千冬は、のそのそとした動作で部屋に戻っていく。

アリーナが1つ無くなっている事や、そもそも今日が学園祭である事などには気が付かなかったらしい。

そうして部屋の扉の前に戻って来た時、千冬は気が付いた。

扉に、1枚の封筒が張り付けられている事に。

 

 

「なんだ、これは」

 

 

千冬は怪訝そうな表情を浮かべながら、その封筒を剥がす。

コンビニやスーパーで簡単に買えるような、茶色で無地のもの。

差出人などの情報は一切書かれておらず、書いてあるのはたった2文だった。

 

 

『織斑千冬様へ

 織斑一夏について』

 

 

「っ!?」

 

 

その文を見た瞬間、千冬は両目を見開くと、とても素早い動きで扉を開け部屋に入っていった。

 

 

千冬がこんな、教師とは思えない部屋で、教師とは思えない飲んだくれになっているのには、当然理由がある。

それは夏休み前、臨海学校2日目の夜に束に言われた言葉。

『一夏は死んだ』『一夏を殺したのはお前たちだ』

その言葉は、時が経つにつれ比例するように千冬の中で枷のように、重く響いてく。

千冬から気力を奪い、こんな自堕落な人間へと変貌を遂げたのだ。

 

 

部屋に戻った千冬は、部屋で唯一しっかり座れるところこと、ベッドの上に行くと、封筒を開け中身を確認する。

中身はたった1枚の紙。

千冬はゴクリと唾を飲んでからその紙を開く。

 

 

『織斑千冬様へ

 

貴女は自分の弟の真実を篠ノ之束に聞いて、絶望しているのかもしれません。

しかし、それは事実ではありません。

貴女の敵となった篠ノ之束が、貴女の気力を奪うためについた嘘です。

 

織斑春十が織斑一夏を虐めていたという事実はなく、織斑一夏が死亡したという事実もありません。

本当ならば、織斑一夏の居場所などもお伝えしたいのですが、この情報も無料で得たわけではありませんので、対価を払っていただきます。

 

具体的に説明をしますと、我々の組織に加入して頂き、協力をして頂きます。

1つ注意ですが、加入した場合上からの命令は絶対です。

違反した場合、罰則が伴います。

 

1週間後の21:00に貴女の自宅にお伺いします。

この話に賛同して頂く場合は、ご帰宅をお願いします。

 

良い返事を期待しています。

 

             亡国企業』

 

 

どう考えても胡散臭い内容の手紙。

しかし、今の千冬にこの手紙の内容を疑うという思考は無かった。

 

どうして束との会話を知っているのか。

何故一夏の事を知っているのか。

いろいろツッコミを入れたくなる内容もある筈なのに、それもしない。

 

 

「一夏……」

 

 

千冬は濁り切った眼で、手紙の事を見つめていた。

なにを考えているのか、本人にしか分からない。

こうして時間は過ぎて行った。

 

 


 

 

「うん…んぁ?」

 

 

千冬が手紙を読んでいるのと同じ時刻。

オータムにボッコボコに負けた春十が、医務室で目を覚ました。

 

 

操が間に合わなければ、もしかしたら死んでいたかもしれなかった春十。

白式を展開していたとはいえ、かなりの重症だ。

全身を包帯でぐるぐる巻きにされており、腕には点滴が刺さっていた。

 

 

「医務室…?なんで…?」

 

 

長らく気絶してたため、意識が混濁しているようだ。

暫くボーッと天井を見上げていたが、次第に自分が何で気絶していたのかを思い出した。

 

 

「そうだ、俺は、オータムに……」

 

 

そう呟いた春十は、改めて自分の身体を見下ろす。

 

 

「クソが!なんであそこで主人公が勝てないんだよ!」

 

 

前々からずっと成長していない春十。

吐く言葉の内容にも成長が見られない。

 

 

「クソッ!クソッ!なんで誰も助けに来ねぇんだ!主人公のピンチだぞ!?」

 

 

原作での学園祭オータム戦では、なんやかんやで一夏のピンチに、楯無が駆け付け事なきを得た。

だがしかし、春十の戦闘中は増援は無く、敗北後に操がギリギリ間に合った形だ。

春十視点からすると、誰も助けに来なかったという事になる。

 

 

そもそも他人が助けに来る前提なのが、春十の今の実力の低さを暗に自分で認めているのだが、それに春十は気が付いていない。

 

 

「はぁ、はぁ、クッソ……」

 

 

叫び続け疲れたのか、肩で息をし始める春十。

ふと視線を周囲に向けると、白式の待機形態のガントレットが無い事に漸く気が付いた。

 

 

「あれ、白式は…!?」

 

 

慌てて視線を様々なところに向けるも、白式は見当たらない。

春十がオータムに敗北した際、白式もかなりのダメージが受けていたので、春十が医務室に運び込まれるのと同時に白式は整備室に運び込まれたのだ。

その為白式は(一応)無事なのだが、気絶していた春十がそれを知る筈も無い。

 

 

「あれ?そう言えばオータムはあの後どうなったんだ!?学園は!?」

 

 

そうして、ここまで来て春十は自分の敗北後、自分が戦っていた相手がどうなったのかが気になった。

普通だったら誰も助けに来なかった事を恨む前に気になる事だが、春十は目を覚ましてから暫くして漸く意識した。

 

 

今こうやって自分がIS学園の医務室に寝かされている事、特に爆発音などの戦闘を感じるものも無い。

取り敢えず戦闘が終わっている事は察せられるが、それ以上の情報は何もない。

 

 

「白式が持ってかれたか…?」

 

 

暫くの間、最悪の可能性に呆然としていたが、やがてその思考は変わっていく。

 

 

「どうでもいい…どうでもいい!あんな、あんな二次移行もしない欠陥機なんか!!」

 

 

春十はそう叫ぶと、包帯が巻かれている事など気にせずに…というより、包帯が巻かれている事を忘れているかのように、拳をベッドに振り落とした。

 

ギシィ!!

 

スプリングが悲鳴を上げるかのように軋む。

学園の備品なのだが、今の春十に…いや、通常時だったとしても、春十にそんな事を考える思考は無い。

 

 

「そうだ!そもそも俺が勝てないのは、アイツに問題があるんだ!俺が弱いんじゃない!アイツが弱いんだ!!」

 

 

甚だしいまでの責任転嫁。

それならば、他人のサポートを受けていたとはいえ、碌に訓練も受けていない状態で、しかも春十とは違い知識も殆どないなかで、白式で戦い抜けた原作の一夏よりも、春十の方が下だと言っているようなものである。

 

そう、かつて虐め、散々馬鹿にした一夏よりも、自分が下だと春十は認めたのだ。

しかし、その事実に春十は気が付かない。

そして白式が二次移行しない原因は、白式ではなく自分だという事にも。

 

 

「もっと、もっと強い専用機があれば…!!」

 

 

確かに白式はかなりのピーキー機体だ。

遠距離武器が無く、武装の追加も出来ない。

しかし、零落白夜という文字通り一撃必殺の技が使えるのだ。

ほぼ同じような性能で、第一世代型の暮桜で最強と呼ばれていた千冬の事を考えると、白式は長期戦は不可能だが、十分戦えるだけのポテンシャルは有している筈だ。

 

 

それなのにも関わらず、勝てはしないまでも惜しい勝負すら出来ないとなれば。

原因は春十の弱さだ。

 

 

「なんで、なんでだ!なんで主人公がこんなに活躍出来ねぇんだ!!」

 

 

春十はもう1度ベッドを殴ってから思考する。

そうする事約10分。

春十は不意に顔をあげた。

 

 

「そうだ…門藤操だ!アイツのせいだ!!あのバグがいるからだ!!」

 

 

そうして、何故か笑顔でそう声を発した。

 

 

確かに、操の振るう力は不具合(バグ)であるという事は事実だ。

しかし、春十という転生者の存在も、バグである。

春十はその事を棚に上げて思考をしている。

 

 

「俺に、俺にアイツを上回る力があれば…!!そう、もっと力が……!!」

 

 

そうして、春十は何かを悟ったような表情でそう呟く。

 

 

「そう、亡国企業みたいな……!!」

 

 

それから。

春十は救護教諭が部屋に来るまで。

狂ったように同じ内容を呟いていた。

その表情も、同じように狂っていた。

 

 


 

 

会議と同時刻。

戦闘開始時に避難をしていた来賓は、会議に参加していない警備員などに誘導されて、各々の国や企業への帰路についていた。

 

 

唐突に開始された戦闘。

それに対する不安はかなりのものだ。

特に、来賓の人達は戦闘慣れしている訳では無い。

つまり、急な戦闘に対する心構えが出来ていないのだ。

全員が全員、とても疲弊した様子で帰路についていた。

 

 

そして、来賓が帰路につくのと同時に、一般生徒への避難指示も解除。

ある程度自由に行動できるようになった。

がしかし、そこそこ遅い時間である事、教員達が会議をしているという事もあって、出来るだけ直ぐに寮の自室に帰る事を促された。

 

 

男子更衣室近くには近付く生徒は居なかった為、付近の壁が破壊されている事に気付く生徒は居なかった。

だが、流石に第一アリーナが丸々無くなり、周囲に残骸が大量に残されていたら、第一アリーナが破壊された事を…それ程までの戦闘が繰り広げられた事を、ほぼ全員が察した。

 

 

そうして、会議が終了し操達が各々の部屋に帰る頃。

生徒寮のとある一室で、2人の生徒が密会をしていた。

 

 

1人は黒髪ポニーテールで、もう1人は金髪ロング。

そう、篠ノ之箒とセシリア・オルコットである。

 

 

箒はISの開発者の妹だが、その姉から縁を切られ。

セシリアは専用機は国に没収され、代表候補生の資格を失い。

成績は落ち、夏休みには補習だらけだった。

特別な生徒から一転、ただの落ちこぼれになってしまった2人。

 

 

戦闘が始まった時、2人は足手纏いどころか只の犠牲にしかならないのに春十の所に行こうとしたのだ。

無論教員に止められ、とても強引に避難所に誘導(連行)された。

そう、緊急時なのにも関わらず無駄に教員の負担を増やしたのだ。

 

 

その時や戦闘終了後もいろいろやる事が多すぎて、まだ2人に説教は出来ていない。

その為、2人がそれだけ迷惑な行動をしたという事を、当人たちは理解していない。

まぁ説教して確実に理解するかと言われたら、首を横に振らざるを得ないのだが。

 

 

「クソ!アイツ等、私達が春十の元へ行くのを邪魔しやがった!!」

 

 

「全くですわ!本当、迷惑甚だしいですわ!」

 

 

現に、遠回りに自分達を助けてくれた教員を『アイツ等』と呼び、恨み節を吐いているのだから。

 

 

「どうしたら良い!?どうしたら春十や私達の邪魔をする害悪共を、どうしたら抹消できる!?」

 

 

箒は親の仇が目の前にいるのかと言わんばかりの表情を浮かべながら、絞り出すようにそう叫んだ。

そう、これが2人がこの部屋で密会している理由。

春十や自分達の邪魔をしている(と本人達が思い込んでいる)奴らを、どうやったら抹消するのかの相談である。

 

 

はっきり言おう、この2人は馬鹿である。

 

 

春十の事が好きな2人。

いや、好きというよりも、もはや崇拝や妄信に近い。

だからこそだろう。

冷静で客観的な思考が出来なくなっている。

 

 

春十や自分達が全ての中心だと考え、それに異を唱える者どころか、自分達が気に食わないもの全てを敵と認識する。

 

 

「特に、あの忌々しい門藤操を…!!」

 

 

「ああ、鈴の仇もあるしな!」

 

 

セシリアが親指の爪を噛みながらそう言い、箒がそれに賛同するように左の掌に右の拳を打ち付ける。

春十からクラス代表の座を奪い、クラスの中心になっているのが気に食わないのだろう。

 

 

だが、セシリアと鈴が専用機を使用したうえで3対1でフルボッコにされたのに、何故操に歯向かおうとするのか。

正々堂々と勝負し、負けたのが悔しいから自分を鍛えてリベンジをする。

というのなら理解できるし、それならば操も真剣勝負をしようとするだろう。

 

しかし、以前卑怯な手段を使っておきながら敗北し、それ以降特に鍛えもしなかった2人と、操は戦わないし、戦ったとしても負ける事は無い。

仮に闇討ちなどをしようとしても、ビットでの不意打ち射撃を避けれたように、操にその戦法は通用しない。

 

 

そしてなにより、操には仲間がいる。

箒とセシリアは今は利害が一致している為こうして協力をしているが、仮に目的を達成した場合、どちらが春十に相応しいのかで争うだろう。

しかし、操達は違う。

しっかりと仲間達との絆と信頼関係を築いている。

そういったところでも、操を超える事など不可能なのだ。

 

 

だが、この2人はそう言った事を理解していない。

理解しようともしない。

そして、自分達の実力の無さに目を向けず、他人に責任を擦り付けるだけ。

だからこそ成長しない。

そして成長しない理由を理解しようとせず、他人を攻撃するという悪循環に陥っている。

 

 

「もっと、もっと私に力があれば、邪魔者など簡単に蹴散らすことが出来るのに!!」

 

 

箒はもう1度悔しそうな表情をしながら拳を打ち付ける。

元より気に食わない事があれば直ぐに手を出すような性格だったが、その性格は悪循環の中で更に捻じ曲がったようだ。

 

邪魔者を蹴散らす。

箒の目的はそこで終わっている。

蹴散らした後どうしたいのか、その先が無い。

そして、蹴散らしたい理由も『自分達の邪魔をするから』だけだ。

目的も小さい。

 

 

「全くですわ!!」

 

 

箒の言葉に賛同するように、セシリアも憤激したような表情を浮かべる。

思考が捻じ曲がったのは、箒だけではなくセシリアもだ。

 

 

入学直後は女尊男卑に染まり切って喧嘩を吹っ掛ける程には、セシリアも元々かなり横暴で、暴力的だった。

その後のクラス代表決定戦で春十に負け、女尊男卑の考えを改め、春十に惚れた。

そこまでは良い。

チョロすぎるが良い。

だが、問題はここからだ。

 

 

春十に惚れる事で、暴力的な性格の箒や鈴と恋敵になった。

そんな2人と関わり、時にぶつかり合う事で次第にセシリアも影響を受け、次第に思考が同じようになっていった。

 

 

そうして、箒と同じように邪魔をするものを排除すればそれでいいという、最悪すぎる思考で落ち着いてしまった。

3対1で操にフルボッコで負けても、専用機を没収され代表候補生の肩書を剥奪されても、それは戻る事は無かった。

寧ろ、箒と同じような悪循環に陥り、余計に拗れ捻じ曲がったのだ。

もはや、どうして代表候補生を目指し、どのような努力を積んで来たのかも、忘れてしまったのかもしれない。

 

 

「クソッ!クソッ!どうすればいい、どうすれば……!!」

 

 

「本当に周囲には邪魔者ばかり……どうすれば……」

 

 

2人は思考を巡らせ、意見を交換し合うも、中々良い案は出ない。

只の一般生徒2人に出来る事などたかが知れている。

箒とセシリアに出来る最良の手は、更生し真面目に授業を受け、しっかりと訓練を積む事なのだが、最大限捻じ曲がったこの2人にはもはやそんな発想出てこないだろう。

もし出て来たとしても、今のこの2人なら

 

『そんな馬鹿馬鹿しい事するわけが無い』

 

と、その案を自分で速攻否定するだろう。

 

 

「どうすればいい?どうすれば力を……」

 

 

「そして、鈴さんという味方の救出も考えなくては…」

 

 

「必要か?あんな奴」

 

 

「箒さん、少々頭を冷やしてください。今、私達の周りには邪魔者しかいません。となれば、国に強制帰国させられたお馬鹿さんでも必要ではありません事?」

 

 

本当に頭が冷えていたら、この会話自体が馬鹿な事だと分かるものだが、残念ながらこの場にそれを指摘できる人間はいないし、この2人にその指摘を受け入れる程の余裕も無い。

『どうすればいい』と呟くだけの中身が無い会話を繰り広げていると、消灯時刻が過ぎた。

しかし、寮長の千冬が堕落している為見回りなどは殆どない。

そして、近くの部屋の生徒も、この2人に下手に注意をすると暴力を振るわれてしまうという事をここ半年くらいで理解しているので、結果として誰も注意に来ない。

 

 

その為、2人の意味の無い密談は更に続く。

明日は休みの為、起床時間を気にする必要は無い。

箒とセシリアなら、授業があっても気にしないのかもしれないが。

 

 

同じ様な内容を延々と語り、日を跨ぎ午前3時。

流石の2人もそろそろ眠くなってきた。

セシリアの部屋は本来別なのだが、誰も戻ってこないのでこのまま寝てしまおうと部屋の電気スイッチに向かった時。

 

 

♪~~♪~~

 

 

「私ですわね」

 

 

セシリアのスマホが着信音を鳴らした。

スマホを操作し、内容を確認する。

 

 

「っ!!鈴さんですわ!!」

 

 

「何っ!?」

 

 

噂をすればなんとやら。

数時間前話題に出ていた、件の鈴からだ。

 

 

「アイツ、久々だし何でこんな時間なんだ?」

 

 

「さぁ…?連絡手段をなかなか入手できず、入手しても監視のせいでこの時間しか使えなかった、とかではありませんか?」

 

 

「ああ、そうかもしれないな。私達とは違い、アイツは1人だからな。周囲の邪魔者の妨害も激しいのだろう」

 

 

そんな会話をしながら、セシリアは鈴からのメッセージを確認する。

読み進めていくと、その口元は嬉しそうに歪んでいく。

 

 

「どんな内容だ?」

 

 

「これですわ」

 

 

箒が内容を聞くと、セシリアが画面を箒に見せる。

すると、箒の表情もセシリアと同じような笑みへと変わっていく。

 

 

「ハハハハ!凄い!鈴の奴、やるじゃないか!!」

 

 

「ええ!よくこんな組織と連絡を取れました。でも、本当に信じていいのでしょうか?」

 

 

「フン、どうせこのまま過ごしていても、どうにもできないんだ。騙されたってどうでもいい。力を得れるのならな!!」

 

 

「確かにそうですわね!じゃあ、返事をしましょう」

 

 

セシリアは鈴に返事をすると、スマホを机の上に置く。

 

 

「じゃあ、そろそろ寝るとするか」

 

 

「そうですわね、そろそろ寝ましょう」

 

 

そうして、2人は先程までとは打って変わり上機嫌で眠りに付いたのだった。

 

 

 




不穏。
ただただ不穏。
もうこれ以上無いくらいに不穏。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想もよろしくお願いします!


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束の間の安息

タイトル通り平和です。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

IS学園が襲撃を受けた学園祭から日は過ぎ、いろいろな処理が終わった後の最初の登校日。

朝の6:30に、操はベッドの上で目を覚ました。

 

 

「ん、んぁ…朝か……」

 

 

セットしていた目覚ましが鳴る前に起きた為、目を擦りながら目覚ましを止める。

身体をグググ、と伸ばしてからベッドから降りる。

あくびを一つ零してから、顔を洗ってから朝食を作り始める。

 

 

昨日まで、IS学園の敷地内にバラバラに散っていた第一アリーナの残骸回収作業に追われていたため、まだ絶妙に疲れが残っている。

だが、この程度だったら操には大した問題ではない。

朝食を食べ終わる頃には、何時もと同じテンションになっているだろう。

 

 

昨日の就寝前に殆どの下処理は終えているし、そもそも作るメニューは凝ったものでは無いので、大した時間を有さずに朝食を操は作り終えた。

コップに入れた水と共に、完成した朝食を机に運ぶ。

本日のメニューは白米に味噌汁、焼いたベーコンに卵焼き、納豆。

とても簡素ではあるが、朝にはこれくらいがちょうどいい。

朝から大量に食べると胃もたれするからである。

 

 

「数年前なら、朝っぱらから揚げ物食べても問題無かったような気がするんだけどな……」

 

 

操は苦笑いを浮かべながらそう呟くと、水を一杯飲んでから

 

 

「いただきます」

 

 

朝食を食べ始める。

やはりホカホカの温かいご飯を朝に食べるという行為だけで、一気に意識がハッキリとする。

 

 

「うん、まぁまぁかな」

 

 

相も変わらず操は自分の料理に対する評価がいまいちである。

もとより操は料理に対する向上心がかなり高く、こっちの世界に戻って来てからは忙しすぎて出来てはいなかったが、よく自分料理研究などを行っていた。

だが、その向上心故何時まで経っても自分で納得できず、結果として操の料理はプライドブレイカーへとなったのだ。

 

 

それでも納得していないのは、以前の操の落ち込みがちだった性格の名残でもあるのかもしれない。

前に自分で熱中して自分で落ち込んでレオに説教されたのに。

もうそんな事は忘れているのかもしれない。

 

 

「ご馳走様でした」

 

 

操は手を合わせてそう呟くと、そのまま食器とコップを流しに持っていく。

 

 

「いやぁ、昨日までマジで大変だったぁ…特に事故って大量の瓦礫が俺に降って来た時」

 

 

洗い物をしながら、操は昨日までの残骸回収作業を思い返していた。

クロコダイルフォームで大量の瓦礫を運んでいる最中、同じくらいの瓦礫を持ち上げようとしていた真耶がバランスを崩し転倒。

真耶に怪我は無かったものの、持っていた瓦礫が全てジュウオウザワールドへと降り注いだ。

変身していたし、咄嗟に持っていた瓦礫を捨てジュウオウザガンロッドのロッドモードで墜ちて来る瓦礫を全て叩き落したので事なきを得たのだ。

 

 

「山田先生滅茶苦茶焦ってたなぁ…減給とかになってなきゃいいけど」

 

 

前々から真耶がドジをする事はあった。

だが、最近はそれが落ち着いていたのだが、此処で結構な事故を起こしてしまった。

操自身怪我して無かったので、特にこれと問題にしたくないのだが、そこは学園の…引いて言うなら十蔵次第だろう。

 

 

「まぁ、織斑先生みたいに問題起こしてる訳じゃ無いから、そんなに重くないと思うけど」

 

 

操はそう呟くと、洗い物を終わらせ手を拭く。

パパっと制服に着替え、身だしなみを整える。

そして自然解凍が出来る冷凍食品と白米の残りを弁当箱に詰めれば、今日のお昼ご飯は完成。

教科書類は昨日の内に準備を終わらせているので、これを鞄に入れれば登校前にやる事は終了。

後は時間を潰して登校するだけ。

 

 

「何しよう……本でも読むかな」

 

 

バイトを始めた事でお金に多少余裕が出来た為、この間バイト帰りに購入した本を読む。

 

 

「もう少しシフト多くしたいけどな…平日は流石に学園外に出るの無理だし…仕方が無いか」

 

 

購入した本は、所謂生物学の本。

生物が辿ってきた進化、それに伴う生態系の変化について、通説に疑問を投げかける内容だ。

無理矢理通説を否定するのではなく、通説を認めたうえで違った視点もあるのではないか、と提案する形で執筆されていて、非常に引き込まれる。

 

 

読書する事数分。

時間を確認する為顔を上げた操は、不意に

 

 

「さっき思い出せって感じだけど、織斑先生本当に見てないな……」

 

 

そう呟いた。

学園祭の前日から酒を飲み、当日の夕方まで飲み明かした千冬。

その後の残骸回収作業に1回も姿を見せず、今日を迎えたのだ。

教員用の連絡端末で、何度も何度も連絡を入れたのにも関わらず、だ。

作業に参加するどころか姿も見せず返信も無い。

もしかしたら、連絡があった事にすら気が付いていないのかもしれない。

 

 

「今日は流石に織斑先生来るよな…?うちのクラスの担任だもんな…」

 

 

なんとなくの恐ろしさを感じていると、もう時間になっていた。

本を置き、寮の部屋から出て、しっかりと戸締りをしてから教室へと向かう。

 

 

その道中、遠くの方からザワザワとした声が聞こえて来る。

まぁ、第一アリーナが忽然と姿を消していたら、誰だってそんな反応になる。

アリーナを釣り上げた本人である操はなんとなくの気まずさを感じるも、出来るだけ無視しながら教室への歩みを再開する。

 

 

「おはよう」

 

 

「あ、おはようございまーす!!」

 

 

操が教室に来た時、クラスの半分程はもう登校していた。

操は軽く挨拶をしながら自分の席に荷物を置く。

 

 

「操さん操さん」

 

 

「ん?どうかした?」

 

 

その瞬間に、静寐を始めとした本音を除く1組の釣り組がやって来た。

視線をそっちに向けながら反応をする。

 

 

「気が付いてますか?第一アリーナが無くなってるの」

 

 

「……ああ、うん。流石に気が付くよ。アリーナが丸々なくなったら」

 

 

若干視線が泳ぎ声が震えているが、静寐達は気が付かなかったようだ。

 

 

「急に無くなってビックリしたよね~~」

 

 

「ね~。何があったんだろう?」

 

 

(……仕掛けられた爆弾が爆発しそうだったので、俺が空中に釣り上げてそのまま爆発させました)

 

 

静寐達が会話をする中、窓越しに遠くの海を見ながら操は心の中で白状する。

そんな感じで、会話を聞き適度に相槌を打っていると、ラウラもやって来た。

 

 

「あ、ラウラ!おはよう」

 

 

「おはよう」

 

 

操の声に反応したラウラは、自分の席に荷物を置いてから操達の所に少し急ぎ足でやって来る。

その時の動作が、完全に

 

テコテコテコ

 

という擬音で表せる感じだったので、操達は思わずクスッと笑顔を浮かべる。

そんな様子に、ラウラは小首を傾げる。

事件の際はまさしく軍人といった凛々しい雰囲気だったのだが、事件が終わると一転クラスのマスコットの1人に戻ったようだ。

元々軍人なのだから、『戻った』は適切では無いのかもしれないが。

 

 

「何の話をしていたんだ?」

 

 

「いやぁ、急にアリーナが無くなってたから、なんでだろうって」

 

 

「……ああ、なるほど」

 

 

ラウラはチラッと操に可哀想なものを見る表情で視線を送ってから、さゆかの言葉に反応した。

操は視線に対して反応しそうになったが、したら説明をしなきゃいけなくなるのでグッと堪えた。

 

 

周囲でラウラ達が会話しているのを聞きながら、操は教室をぐるりと見渡す。

続々と生徒は登校してきて、気が付けばほぼ全員が揃っている状態だった。

 

 

(今居ないのは…織斑春十達3人だけか)

 

 

操は教室の状況を確認すると、そのまま顔の位置を元に戻した。

 

 

(まぁ、織斑春十はもしかしたら、まだダメージから回復しきってない可能性もある…回収作業にもいなかったし)

 

 

学園祭から昨日までを思い返す。

ISの装甲が半壊するまでボッコボコにされていたうえ、専用機持ちが駆り出された作業にもいなかったとなると、まだ怪我から回復していないと考えるのが妥当だろう。

まぁ、怪我から回復していても大事を取って教師から参加しなくていいと言われた可能性もあるが。

それは大した問題ではない。

 

 

(篠ノ之箒とセシリア・オルコットは…正直分からん。学園祭準備は一応真面目だったが…途中から姿見えなかったし、もしかしたらサボってたかもな…まぁ、もう終わった事だからいいや)

 

 

しばしの間考えたが、考えても意味が無いという結論に至った為思考を放棄した。

そのまま会話を聞き続けていると、チャイムが鳴り響く。

 

 

生徒達は一瞬にして自分の席へと向かい、座る。

それと同時に教室の扉が開き、出席簿を持った真耶が姿を現した。

 

 

『……?』

 

 

その光景を見た1組生徒全員が同時に首を捻る。

結局チャイムが鳴っても春十達が来なかったというのもそうだが、千冬が教室に来ず、何時も千冬が持っている出席簿を真耶が持っているのだから、それは疑問を感じるに決まっている。

 

 

「はいみなさん!おはようございます!」

 

 

真耶は元気を通り越して心配になるくらいのハイテンションで真耶が挨拶をする。

 

 

((あ、これ絶対に深夜テンションとかのと一緒の疲労によるハイ状態だ))

 

 

『お、おはようございます』

 

 

操とラウラが真耶の状態を察するのと同時、クラス全員が若干引いたような声色で挨拶を返す。

 

 

「はい、みなさん元気ですね!早速出席確認をします!!」

 

 

真耶はそのままのテンションで出席確認を開始する。

だが、そこは流石のIS学園教員。

朝なのに深夜テンションを継続させる訳無く、出席確認が終わる頃には何時もの優しくて温厚な真耶に戻っていた。

 

 

「もう1回確認しますが、織斑君、篠ノ之さん、オルコットさんがいない理由は誰も知らないんですね?」

 

 

真耶は確認するように教室内を見回しながら再度そう確認する。

全員が頷いている事を確認すると、真耶は短くため息をつく。

 

 

「分かりました…後で確認をしておきます。さて、では連絡事項です」

 

 

居ない人間に時間をさけるほど、朝のSHRは余裕がある訳では無い。

切り替え、連絡事項に移る。

 

 

「先ず、気が付いている人も多いとは思いますが、第一アリーナが無くなりました。これはこの間の学園祭襲撃事件によるものです。授業への影響はそこまでありませんが、放課後の自主訓練には影響が出てしまいました」

 

 

真耶のその言葉に、数人の生徒達が表情を少し暗いものにする。

まさにアリーナの使用申請をしていた生徒達である。

折角予約を入れていたのに、影響が出ると言われたら当然そんな反応になる。

特に、放課後の訓練は多くの生徒が望む事で、中々予約出来ないのだからより顕著になるだろう。

 

 

「影響のある生徒には、後で個別で連絡が行きます。対象の生徒は、もし今後予約を取りたかったら優先的に取れますので、教員に相談をしてください」

 

 

『はい』

 

 

返事を聞き、真耶は満足そうな笑顔を浮かべると、次の連絡事項を話す。

今日の授業に関すること等、重要な事を述べていく。

 

 

「そろそろ時間ですね。ちょっと早いですかこれでSHRを…」

 

 

「山田先生!質問いいですか!?」

 

 

なにやら真耶が重要な事を説明せずにSHRを終わらせようとしたため、操が慌てて右手を上げ声を発する。

 

 

「はい門藤君、どうしましたか?」

 

 

「織斑先生はどうしました?」

 

 

学園祭の日からずっと姿を見せなかった千冬。

そして朝のSHRも終わるという時間なのに教室に来ていないのだから、流石にどうなっているのか気になる。

操のその言葉に同調する様に、クラスメイト達が頷いて真耶に視線を向ける。

 

だが、その質問を投げかけられた真耶は数舜の間視線を泳がせる。

後頭部を数回掻き、ため息をついてから言葉を発する。

 

 

「その…織斑先生は数日前から連絡が取れなくて…」

 

 

『え゛!?』

 

 

思わず凄い声が出た。

だが、それも仕方が無いと思えるくらいには、衝撃的な言葉だった。

いくら駄目な部分が目立つとはいえ、自分達の担任の教師と連絡が取れないと知ったら、誰だってこんな反応になる。

 

なにより、千冬が暮らしているのは1年生寮の寮長室だ。

IS学園はその敷地が日本列島から離れた離島。

その離島に立っている寮なのだから、そう簡単にフラフラと外へはいけない。

 

 

「通信端末やスマホを使用しての連絡は全て無視。寮長室の前で呼びかけても反応無し。みなさんご存じのとおり、生徒寮の鍵は寮長室を含めスペアを学園で保管してますし、なんならマスターキーもあります。それを使って部屋の扉の施錠を解除しても、物理的に扉があかなくて中の確認が出来ないんです」

 

 

「物理的に開かない…?何かがつっかえて開かない、って事ですか?」

 

 

「そうなりますね……なので、もうどうしようも無いんです」

 

 

教室内の空気が少し重たいものになる。

 

 

「と、取り敢えずその事は教員に任せてください!これで、今日のSHRを終わります。今日も頑張っていきましょう!!」

 

 

真耶は無理矢理空気を切り替えると、そのまま逃げるように教室から出て行った。

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

『…………』

 

 

チャイムが鳴っても、誰も声を発しなかった。

無言の時間がしばし続く。

 

 

「…さて、1時限目は数学だったかな」

 

 

わざと周囲に聞かれるくらいの音量で独り言を呟きながら、教科書類を取り出す操。

それに釣られるように、クラスメイト達も教科書の準備をし、こそこそではあるが会話を始める。

操はそれを見て、ため息を1つ。

 

 

(何が起こってるって言うんだ……)

 

 

ボーッとそんな事を考えていると、授業開始を意味するチャイムが鳴り響いたのだった。

 

 


 

 

「なんだろう、いろいろ考えて無駄に疲れた……」

 

 

時刻は進み昼休み。

操は屋上にいた。

別に大した理由があった訳では無く、ただ風に当たりながらご飯が食べたかったからだ。

いろいろな事が起こり過ぎて、歴戦の戦士でも流石にキャパオーバーだ。

 

 

「えーっとぉ?まず織斑先生が音信不通で?あの3人も結局連絡が取れなくて今日は無断欠席扱いになって?学園内だけでもこんなにもにいろいろ起こってるのに、オータムの後ろの組織だったりとの戦闘が予測される…はぁ、大変だなぁ……」

 

 

ため息をつきながら、良い感じに解凍されているおかずを1つ箸で口の中に放り込む。

力を持っているからこそ。

戦う覚悟を、とっくのとうに済ませたからこそ、様々な事を考えてしまう。

 

 

そんな操の事を心配するように、足元でキューブクロコダイルとキューブウルフが足元に寄り添っている。

キューブライノスは何時ものようにお留守番だ。

 

 

「……さて、俺はどう行動したら良いのだろうか……ずっと受身という訳にはいかないだろうし…だけど、俺にどうのこうの出来る情報力は無いし」

 

 

1人でぐるぐると考えていると、いつの間にかご飯を食べ終えていた。

 

 

「ご馳走様でした……と」

 

 

操はごそごそと弁当箱を風呂敷に仕舞う。

息を吐いてから、澄んだ青空を見上げる。

 

 

何処までも続いていそうなほど広く、綺麗な青空。

見ているだけで、煮詰まり切った思考がクリアになっていくような気がする。

 

 

ビュオオオオオ!!

 

 

「んぉ、そこそこ強い」

 

 

その瞬間に、冷たい風が吹き抜ける。

咄嗟に右手で顔を覆う。

 

 

「…はは、ちょっと頭冷やせって地球が言ってるのかな?」

 

 

思考が行き詰ったタイミングで拭いた冷たい風に、操は思わず笑みを漏らす。

すると、唐突に屋上の扉が開く。

 

 

「ん?あ、ラウラ!簪!」

 

 

「操!」

 

 

「操さん、屋上に居たんですか」

 

 

屋上に入って来たのは、ラウラと簪だった。

操が右手を軽く振ると2人は駆け寄って来る。

 

 

「ああ、弁当を食べてたんだ。2人は何で屋上に?」

 

 

簪の問いに弁当箱が入っている風呂敷を掲げながら返し、2人が此処にやって来た理由を尋ねる。

2人は一瞬顔を見合わせると、気恥ずかしそうに頬を掻いてから言葉を発した。

 

 

「その…襲撃事件から今日まで、色々あったじゃないですか」

 

 

「だからまぁ、色々考えてたんだ。それで、気分転換に屋上にでもと」

 

 

「なんだ、俺と一緒か」

 

 

操と同様に、ラウラと簪も力を持ち、覚悟がある。

同じ様な思考になるのは、もはや当然なのかもしれない。

くすりと笑みを浮かべながら言う操に、2人は意外なものを見た表情を向ける。

 

 

「なんだその表情。俺が悩むのがそんな意外か?」

 

 

笑みを浮かべたまま、そうおどけるような声色でそう言う操。

 

 

「ああ、意外」

 

 

「操さんは、私達より何時も冷静っていうか、達観してる感じがしてるので」

 

 

「ははは、まぁ簪達より長く生きてる分いろいろな経験はしたが……」

 

 

いろいろな経験。

操の詳しい過去を知らない簪は、

 

(私より年上なら、その分人生経験も豊富だよね)

 

と言葉通り受け取っていたのだが、向こうの世界や決別した前の名前を含めた全ての過去を知っているラウラは、

 

(お前の過去は『いろいろな経験』だけで済ませたら駄目だろう)

 

と苦笑いを浮かべていた。

 

 

そんな2人の表情で各々が考えている事を大体察した操は後頭部を掻く。

 

 

「それでもさ、いろいろ悩む事はあるよ」

 

 

そう言った後、苦笑いを浮かべる。

それを見た2人も笑みを浮かべ返す。

 

 

「まぁ、取り敢えず座ったら?風が気持ちいいよ」

 

 

「そうするとするか。立ちっぱなしも辛いからな」

 

 

「そうですね。じゃあ失礼して」

 

 

操に言われ、操が座っているベンチに腰を掛ける2人。

中央に操が座っていたため、右にラウラが、左に簪が座る。

 

 

ビュォオオオオオ!!

 

 

その瞬間に、再び冷たく強い風が吹く。

操は先程と同様に右手で顔を覆い、簪とラウラは片手で髪を抑え、もう片方で顔を覆う。

 

 

「今日は風が強い日だな…」

 

 

「そうなのか?」

 

 

「ああ、さっき2人が来る前にも結構強い風が吹いてたんだよ」

 

 

「そうなんですね。何だか、『考えすぎんな、頭冷やせ』って言ってるんですかね」

 

 

「ふっ!」

 

 

簪の呟いた言葉に、操は思わず吹き出した。

その後、笑いを堪えるように口元を抑えるも、堪えきれず身体をピクピクさせている。

急に笑い出した操を見て、2人はキョトンと首を傾げる。

 

 

「ご、ごめんごめん。簪が思った事と同じような事をさっき俺も思ったからさ」

 

 

「!ふふふ、そうなんですか」

 

 

操が吹き出した理由を理解した簪は言葉と共に笑顔を浮かべ、ラウラも言葉は発さないものの同じ様な表情を浮かべる。

そのまま暫くの間、3人は笑い続けた。

 

 

「なんだか、悩んだのが馬鹿らしくなってきたね」

 

 

「いやいや、適度に悩むことは大事だぞ?悩み過ぎて塞ぎ込んだりネガティブになるのは駄目だが」

 

 

「うっ!?」

 

 

簪の軽口に、冗談めかして返したラウラの言葉が、深々と操に突き刺さった。

もとより内気な性格の操。

最近は改善されているが、向こうの世界でジュウオウジャーに加わったばかりの頃は相当酷く、色々と迷惑を掛けて来たのだ。

操の中ではもはやその事実は下手なポエムなどよりも恥ずかしい黒歴史となっており、面と向かって言われた訳では無いのに操に突き刺さるのだ。

その際の衝撃は、この間の本音のおじさん呼びに匹敵する。

 

 

「あっ……」

 

 

そんな反応を見て、やってしまった事に気が付いたラウラ。

慌てて操に向き直り、両手を慌ただしくバタバタさせながらフォローを開始する。

 

 

「み、操!そんなに気にするな!」

 

 

「良いんだラウラ…どうせ俺なんか……」

 

 

両隣に人が座っているのに、器用にベンチの上で体育座りをする。

かなり久々の内気モードだ。

理解が出来ない簪がポカンとしている中、ラウラが操に語り掛ける。

しばしの時間が経過し、操は立ち直った。

 

 

「いやぁ、ごめんごめん」

 

 

「気にしなくていい…私も迂闊だった」

 

 

「ええっと……?」

 

 

なんとなく終わった事を察し、ずっと黙っていた簪が気まずそうに声を漏らす。

 

 

「ああ…普段の様子からは全く想像できないとは思うが、操は結構ネガティブ思考なんだ。最近改善したと思ったら、私が言葉のナイフで塞がりかけてた傷口を広げてしまったんだ」

 

 

ラウラが立ち上がり、簪の側に移動してからヒソヒソ声で簪に教える。

簪は驚きの表情を浮かべ、ラウラの事を見た後操に視線を向ける。

 

 

「ん?どうかした?」

 

 

「い、いや、なんでも無いです」

 

 

操の首を傾げながらの質問に、誤魔化すように返答するとラウラに向き直る。

 

 

「ほ、本当にそうなの?」

 

 

「ああ、本当だ。操が今はドイツ国籍なのは知ってるだろ?」

 

 

「うん、なんか前に言ってたのを聞いたような気がする」

 

 

「ふわっふわだな…まぁ良い。それで、4月で操が此処に入学する前に一時期一緒に過ごしていたのだが、その時も結構ボロボロでな」

 

 

「へぇ~、そんな事が…」

 

 

「本人談では前よりマシになっているとの事なんだがな」

 

 

「さっきから何の話をしてるんだ?」

 

 

ギリギリ聞こえないくらいの声量で、ずっとヒソヒソ話されていたら流石に気になって来る。

女子の話の内容を聞くだなんて無粋な事、しない方が良いと思っていたのだが、ついつい聞いてしまった。

2人は慌てて視線を操に向ける。

 

 

「ん~、あ~、なんだ。大した事では無い」

 

 

「そうですそうです。操さんは気にしなくて良いですよ」

 

 

「…なら良いか」

 

 

正直こうやってぼかされるとかえって気になるのだが、多分ここで追及しても話してくれないし、隠したい事を無理に聞き出す趣味も無いので、操は大人しく引き下がる事にした。

 

 

「危ない危ない、操が年上で助かった」

 

 

「どういう事?」

 

 

「いや、大人じゃ無かったら絶対にもっと追及されるという意味だ」

 

 

「なるほどね。実年齢が年上でも精神年齢は子供だったりする場合もあるけど、操さんは精神も大人だもんね」

 

 

「そう言う事だ。まぁ、なんだ、簪。この事は他言無用で頼む」

 

 

「うん、分かった」

 

 

ラウラと簪が操の秘密共有で更に仲を深めたのと同時、

 

 

「そろそろ良いか?」

 

 

会話が終わったのを察した操が声を掛ける。

 

 

「どうした?」

 

 

「いや、そろそろ昼休み終わるからさ」

 

 

操がスマホの画面を見せながらそう言う。

 

 

「あ、本当ですね。そろそろ戻っておかないと」

 

 

「5限目はなんだったか?」

 

 

「1組はIS座学」

 

 

そんな雑談と共に立ち上がる3人。

軽く伸びをすると、バキバキと固まっていた背骨が音を立てる。

 

 

「……まぁ、なんだ。多分今後もいろいろと悩むことはあるけどさ」

 

 

それと同時、操のあれこれで有耶無耶になっていた話題を操が引っ張り出してきた。

2人が視線を向けると、口を開く。

 

 

「俺達は1人じゃ無いんだ。みんなで協力して、これからも戦っていこう」

 

 

そう言った操は、決意の籠った表情を浮かべる。

それを見た2人も、笑みを浮かべてから同じような表情になる。

 

 

「ふふっ、そうだな」

 

 

「はい、頑張っていきましょう!」

 

 

3人はコツン、と右手で作った拳を合わせると、そのまま屋上から去って行った。

 

 

ラウラと簪が屋上にやって来た時に隠れるように離れていたキューブクロコダイルとキューブウルフは、満足そうに頷く動作をした後、扉が閉まり切る前に学園内に戻り、周囲の人間に気が付かれないように操の鞄に戻っていったのだった。

 

 

 




本当に平和だった。
不穏な影はあったけど。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想もよろしくお願いします!


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不穏な行動

今までにないくらい間が開きました…
本当に申し訳ありません…


三人称side

 

 

千冬や春十達が朝のSHRに姿を見せなかった日から、1週間が経過した。

結局この1週間、4人全員ただの一度も姿を教室に見せなかった。

それだけでは無い。

休憩時間や放課後、はたまた休日など。

 

 

授業と関係ない場合だとしても、誰もその姿を見せていない。

食堂などの生活に必要な場所でも、だ。

 

 

しかも、連絡が無い。

千冬が音信不通なのは前から分かっていた事だが、まさかの春十達3人とも連絡が取れない。

部屋に行きマスターキーで錠を開けても、寮長室と同じく何かに引っ掛かってるのか開かないのだ。

 

 

毎日毎日4人の部屋に行き、僅かに開く扉から呼びかけていたのだが、これ以上同じ事をやり続けても意味が無いと判断。

無理矢理にでも部屋に突入する事にした。

 

 

最初にやって来たのは1年生寮寮長室。

つまり千冬の部屋だ。

1番最初に音信不通になったので、取り敢えず最初に来たのだ。

 

 

メンバーは真耶と十蔵、楯無に虚、つまり副担任(現担任代理)と学園長と生徒会会長と生徒会会計という、かなり立場が高めの4人だ。

こうまでしないといけないと判断したのは、一応千冬が世界最強だからだろう。

 

 

コンコンコンコン

 

 

「織斑先生?山田です。起きてますか?返事してください!織斑先生!」

 

 

取り敢えず真耶が、今までと同じように扉をノックしてから呼びかける。

だが、もはや当然のように反応が無い。

 

 

コンコンコンコン

 

 

「織斑先生?織斑先生!」

 

 

ドンドンドンドン!!

 

 

真耶の声が大きくなり、ノックの音も大きくなる。

だがしかし、それでも反応は無い。

 

 

「織斑先生、更識です。今から30秒以内に反応が無い場合、扉を壊してでも部屋に入りますよ」

 

 

今度は楯無がそう呼びかけるも、やはり反応は無い。

そこから、約束の30秒。

楯無はISを部分展開、蛇腹剣であるラスティー・ネイルを握りしめる。

 

 

「それじゃあ、壊しますね」

 

 

ラスティー・ネイルを振り上げたところで、最終勧告を行うも、反応は無い。

 

 

「ハァ!」

 

 

楯無はそのままラスティー・ネイルを振り下げ、扉を切り裂く。

 

 

ガラガラガラ

 

 

音を立てながら、扉だったものが床に崩れていき、部屋の中を確認出来るようになる。

 

 

「「「「汚っ!?」」」」

 

 

部屋の中の様子を確認した瞬間、全員が同時に同じ事を口に出した。

それこそ、千冬の安否がどうのこうのという此処に来た目的よりも先に出て来るほどであり、十蔵や虚といった、普段絶対にそんな事を言わない2人も言うほどだ。

本当に散らかっている。

 

 

足の踏み場もないくらいいろいろな物で散乱した床。

積み重なりかなりの高さを誇っている服。

もはや腐っている食べ物しか入っていない食器類。

蠅がたかっているキッチン。

そして、部屋のスペースの3分の1を埋めていると言っても過言ではない程の空の酒瓶。

あまりにも汚すぎる。

 

 

そして、一瞬遅れて楯無達の鼻に届く悪臭。

それはもう、まるで匂いの粒子が1個1個凶器を持っていて、鼻の粘膜を攻撃しているんじゃないか。

そう考えてしまう程に、あまりにも悪臭すぎる。

酸っぱくも苦い、混沌としたこの匂いは、数分嗅いでいるだけで気分が悪くなってくる。

 

 

「「「「……」」」」

 

 

4人が無言で鼻を押さえる。

そして、楯無が部分展開を解除し部屋の中に入る。

 

 

「織斑先生?いらっしゃいますか?」

 

 

部屋の扉を開けただけでは、ゴミが死角を生み出している為、部屋の全貌が良く分からない。

もしかしたら死角で寝ているかもしれないので、非常に気は進まないが部屋に入って確認するしかない。

覚悟を決めた真耶が部屋に入る。

床のゴミを避ける事はもはや不可能なので、踏んでも痛く無さそうな場所を選ぶ。

 

 

「織斑先生?織斑せんせーい?」

 

 

真耶は千冬の名を呼びながら部屋の奥に進んで行く。

 

 

「痛っ!?」

 

 

痛く無さそうだった場所でも、その下に潜んでいる鋭いものが足の裏に刺さったりしながらも、真耶は奥へ進む。

キッチンを一度のぞき、誰も居ないしただでさえキツイ匂いがより濃く充満しているのでそそくさと離れる。

 

 

「織斑先生?」

 

 

そもそもにして、寮長室は部屋数が多い訳では無い。

後は一番大きなゴミ山の向こうだけだ。

そして、そこを確認した瞬間。

真耶は驚きで両目を見開き、叫んだ。

 

 

「い、いません!織斑先生が、何処にも!!」

 

 

「「「っ!?」」」

 

 

楯無達も匂いや足元を気にせずに部屋に突入。

改めて部屋の中を確認する。

ここまでのゴミがため込まれているのだ。

確実に人は此処で生活を行っていた。

だが、真耶の報告の通り、部屋の主たる千冬の姿が何処にもなかった。

 

 

「っ!直ぐに織斑先生の痕跡を探します!虚ちゃん、手袋!!山田先生、学園長、他の教員のみなさんに通達をお願いします!織斑君達の部屋にも強制的に迅速に突入を!」

 

 

「は、はい!」

 

 

楯無の判断は早かった。

すぐさまに指示を出し、虚は手袋を取りに走り出し、十蔵と真耶は他の教員、そして申し訳ないと思いつつも万が一の戦闘要員として操達に強制突入の指示を出し、緊急会議の用意も進めさせておく。

 

手袋が必要なのは、不用意に指紋などを付けない為と、シンプルに素手でゴミをかき分け手掛かりを探すのが嫌だったからだ。

数分もしない間に虚が軍手を人数分持ってきた。

 

 

早速それを着用し、部屋の中を漁り始める。

 

 

「うわぁ、虫!」

 

 

「うっ…なんですか、このあまりにも臭い干からびたものは……」

 

 

漁れば漁るほど、千冬の痕跡とは関係が無い、気分が悪くなってくるものばかりが発掘される。

生きてるのと死んでいるのが混じった虫の群れ、もはやただのボロ雑巾以下に成り果てた衣服類、その他正体すら良く分からない何か分からないもの等々。

全くと言って良いほど千冬の痕跡が全く見つからない。

 

 

「これ、ゴミ捨て部屋では無いですよね…?」

 

 

「はい…間違いなく寮長室ですね……」

 

 

疲れたような表情を浮かべながらそう言葉を漏らす。

この疲労は、肉体の疲労というよりもこのゴミ部屋にそこそこな時間滞在し、尚且つゴミをかき分け漁るという行為に対する精神的な疲労だ。

IS学園に勤めている為一般の人達に比べればかなり高い精神力を持っているが、それでもここまで疲弊してしまう。

裏社会に生きている楯無と虚も、2人程では無いが疲労を見せているのが、いかに精神疲弊が凄まじいかを表している。

 

 

「ふぅ…そろそろ切り上げましょうか」

 

 

「そうですね…緊急会議用の準備も簡易的でいいのでしないといけませんし」

 

 

楯無が軽く伸びをしながらそう呟き、それに同調する様に真耶が反応する。

真耶の言った事は何も間違ってはいないのだが、それ以外にも一刻も早く、このジャングルの奥地以上の魔境ともいえるこの部屋から出たいという本音が滲み出ていた。

 

 

「虚ちゃん?そろそろ行くわよ?」

 

 

楯無達3人が部屋から出ようと立ち上がる中、虚はずっとしゃがんだままだった。

楯無が声を掛けても、手元にある何かを凝視したまま反応を示さない。

普段、主たる楯無の言葉には些細な事であっても(反対意見を含め)何かしらの反応を示す虚が、だ。

 

 

今までこんな事無かったので、流石に怪訝に思い楯無は虚に近付き、上から顔を覗き込む。

 

 

「虚ちゃーん?大丈夫ー?」

 

 

「ひゃいっ!?」

 

 

ここまでして、虚は漸く楯無の接近に気が付いた。

珍しくビクっと肩を震わせて反射的に言葉を漏らす。

 

 

「珍しいわね、虚ちゃんがそうなるなんて」

 

 

「す、すいません」

 

 

「別に怒ってないから良いわよ。それで、なにをそんなにジッと見ていたの?」

 

 

「これを……」

 

 

楯無が首を傾げながら尋ねると、虚は詳しい事は何も言わず手に持っているものを差し出した。

それは、そこらへんのコンビニで購入できそうなただの茶色の封筒と、男子小学生の机の中の奥の方からよく発掘されるようなぐちゃぐちゃに丸め込まれている1枚の紙だ。

 

 

「ええっと……?」

 

 

取り敢えず封筒の方に何もない事を確認した楯無は、ぐちゃぐちゃの紙の方に視線を向ける。

ついさっきまで虚が見ていたのにも関わらず、非常に読みにくい。

楯無は眉間に皺を寄せながら読み進めていく。

 

 

「っ!!」

 

 

そうして、全てを読み終えた時。

楯無は驚愕の表情を浮かべた後、ギリッと奥歯を噛み締める。

背後に居る真耶と十蔵からは、その表情を見る事は出来ない。

だが、その変わった雰囲気、そして若干震えている肩からその紙に書かれている内容がとても重要な何かであるという事が、簡単に分かる。

 

 

「更識会長?」

 

 

十蔵が名を呼ぶと、楯無はゆっくりと振り返った。

 

 

「……どうやら、かなり厄介な事になってるようです」

 

 

手に持っているぐしゃぐしゃの紙を、2人にも見せる。

その、亡国企業の名が記されている千冬宛の手紙を。

見せられた2人も、楯無と同じようなリアクションを取り、書いてある事を理解した。

すぐさま深刻な表情を浮かべ、思案する。

 

 

「その様ですね…まぁ、此処でうじうじ考えても埒が明きません。緊急会議の予定は入れてあるので、他の報告を聞いてから改めて考えましょう」

 

 

「そうした方が絶対に良いですね…」

 

 

「じゃあ、そろそろ戻って会議の用意を…」

 

 

「あ、ちょっと1つだけ…」

 

 

3人の発言を遮る形で、虚が遠慮がちに声を発する。

視線が向けられる中、虚は口を開いた。

 

 

「この部屋の片付け、どうしましょうか」

 

 

「「「……」」」

 

 

完全に意識を紙の方に持っていかれていた為、此処がゴミ溜めの汚部屋であるという事をすっかり忘れていた。

虫刺されに気が付く前は何ともなかったのに、気が付いた瞬間に痒くなるのと同じように。

匂いが酷いという事も思い出した。

 

 

「…操さんが家事得意だから、意見を聞こう」

 

 

「「「賛成」」」

 

 

知らない所で操の仕事が1個増えた。

だが、今の4人にその事を気遣う余裕は無かった。

そそくさと部屋の外に出ると、部屋の扉を閉める。

1歩出るだけで、空気がかなり美味しく感じる。

 

 

4人はほぼ同時に深呼吸をしたのち、いったん各々の部屋に戻り会議の準備をしてから、会議室に向かったのだった。

 

 


 

 

場所は変わり、1年生寮の非常階段付近。

ここには、先程十蔵から連絡を受けた万が一の場合の戦闘要員である、操、ラウラ、簪が待機をしていた。

何時、何処に呼ばれてもいいように移動がしやすい場所がいいだろうという事で、待機場所が此処になったのだ。

 

 

「腰が痛ぇ……」

 

 

操が遠い目をしながら、右手で腰を叩く。

1歩遅れて、今の自分の言動が限りなくおっさんくさいものだったと理解した。

 

 

(ヤバい……マジで最近急速なおっさん化が進んでる……トレーニングもうちょっと頑張ろう)

 

 

操が心の中でそう呟くと同時、ラウラと簪も口を開く。

 

 

「まぁ、ずっと立ちっぱなしだからな。確かに私も辛くなってきた」

 

 

「非常階段付近に椅子が置ける訳無いから、しょうがないんですけどね」

 

 

待機を開始してはや十数分。

現役軍人でも、その間歩いたりもせず同じ場所にずっと立ちっぱなしは流石に応えたようだ。

それに声を出していないものの、簪も疲れたような表情を浮かべている。

その反応を見て、操は内心安堵する。

 

 

「だけれども、何が起こったんだろうな。織斑は…君達の部屋に強制突入だなんて」

 

 

「ここ1週間ずっと欠席していたから、安否が流石に気になりだした頃だったが、わざわざ強制突入とは…理由の検討もつかないな」

 

 

「あ、1週間休んでたんですか?」

 

 

「ああ。というよりも、それよりも前から姿は見てないな。織斑君は学園祭の時にボコボコにやられてたのを見たのだが最後だし、残り2人に関しては学園祭の途中…だと思われる所から見てない」

 

 

「と思われる?」

 

 

「要は良く分からないタイミングだという事だ」

 

 

「なるほど」

 

 

3人がされた説明は

 

 

『織斑君達の部屋に強制突入する事になりました。危険は無いとは思いますが、万が一の為に待機をお願いします』

 

 

だけだった。

何故突入するのか、何が起こっているのか、そこらへんの詳しい説明がこれっぽっちもされていない。

こんな疑問を思うのも当然だ。

 

 

「確か、お姉ちゃんが今日仕事があるって言ってたけど…」

 

 

「楯無さんが?」

 

 

「はい」

 

 

「ふむ、関係があるのか、はたまた無いのか…検討もつかないな」

 

 

「あのさ、この話どんな角度から話しても『今は検討もつかない』で終わるから、詳しい説明があると信じて止めにしない?」

 

 

「確かにな」

 

 

「そうしましょう」

 

 

会話はここで一旦終了。

特に他の話題がある訳では無いので、操は先程誓ったトレーニングの見直しとシミュレーションを脳内で行い、ラウラはクラリッサからのメッセージを確認し、簪はソシャゲのログボを受け取る。

 

 

特に呼ばれる事は無く、数分後。

 

 

「ちょっと喉乾いたな…何か飲み物を買いに行って良いと思う?」

 

 

「うーん…寮近くの自販機程度だったら問題無いんじゃないか?」

 

 

「じゃあ行ってくるわ。2人とも、何かいる?」

 

 

「ブラックコーヒーで」

 

 

「あ、えっと…アップルジュースで」

 

 

「ん、分かった。なるべくチャチャッと…」

 

 

慌てて招集され、ずっと此処で待機していた為流石に喉が渇いてきた。

操が一瞬だけ離れ飲み物を買おうと1歩歩き出した時。

 

 

バタバタバタバタ!!

 

 

「「「ん?」」」

 

 

教員達が随分慌てた様子で走って来た。

 

 

「門藤君!更識さん!ボーデヴィッヒさん!」

 

 

「「「はい!」」」

 

 

「緊急会議です!」

 

 

「「「…はい?」」」

 

 

なにか戦闘が必要になったのかと思い、一気に引き締めた気が緩まった。

別に会議も重要な事だというのは3人とも言わなくても理解しているが、それにしたって急すぎる為、こんな反応になってしまうのも仕方が無い。

 

 

「か、会議!?会議ですか!?」

 

 

「会議です!急いでください!」

 

 

「な、何故会議なんですか!?碌に状況説明もされて無いのに!」

 

 

「会議室でしますから!」

 

 

「…分かりました!」

 

 

もう、肯定の返事をするしか無かった。

その返事を聞いた瞬間、教員達は慌ただしく駆けて行った。

 

 

「「「……」」」

 

 

嵐のように一瞬の出来事。

急げと言われているのに、3人は一瞬その場から動く事が出来なかった。

 

 

「…行くか!」

 

 

「そうだな!」

 

 

「行きましょう!」

 

 

操が1番最初に再起動し、ラウラと簪もそれに続く。

一旦自動販売機で小さいサイズの飲み物を購入し、一気に飲み干しゴミを捨ててから会議室へとダッシュで向かう。

 

 

「最近マジで会議室に行く事が多いな…寮、教室、アリーナの次位には会議室に居るんじゃないか?」

 

 

「食堂は?」

 

 

「俺よっぽどのこと無ければ自炊だし」

 

 

「「確かに」」

 

 

そんな会話をしながら、会議室に到着。

ノックして入室許可を貰い、中に入る。

操達の席3つ以外の席は、もう既に埋まっており、操達が最後だと示している。

 

 

「遅くなってすみません」

 

 

「いえ、大丈夫です。それよりも碌に説明も無いまま、急に戦闘待機や会議に参加をさせてしまいすいませんでした」

 

 

遅れてしまった事を謝罪する操だが、十蔵がそれよりも急な行動をさせてしまった事への謝罪をする。

取り敢えず操達は空いている席に座る。

それを確認した十蔵は口を開く。

 

 

「それでは、緊急会議を開始します。まず始めに、今回どのような経緯で会議をするに至ったのか、山田先生、お願いします」

 

 

「はい」

 

 

十蔵から指示を受けた真耶が立ち上がり、説明を開始する。

先ず千冬の部屋に強制突入する事になった経緯から、簡素的だがしっかりと要点を抑えた説明。

それを聞いている操達3人の心境は

 

 

(((先に言えただろそれくらい!)))

 

 

だった。

その後、千冬の部屋に千冬が居なかった為、春十達の部屋にも突入する判断をした事、そして万が一の為に自分達が駆り出された事を知った。

真耶の説明が終了した後は、春十達の部屋に突入した教師陣の説明に移る。

 

 

春十達の部屋はゴミに突っかかって開かないという事は無く、マスターキーを使用しスムーズに部屋に突入出来た。

だがしかし、何処にも春十、箒、セシリアの姿は無い。

IS学園の制服などは部屋に残っていたものの、私服やスマートフォン、財布といった私物、そしてISスーツに白式など戦闘に必須なものがごっそり無くなっていた。

 

 

「以上です」

 

 

「はい、ありがとうございました」

 

 

説明を終えた時、会議室の中の空気は今年度が始まって以来の最大の重苦しい空気になっていた。

元世界最強の教師に、世界で2人しかいない男性IS操縦者(専用機持ち)に、元国家代表候補生に篠ノ之束の元妹の計4人が、IS学園から綺麗さっぱりいなくなってしまったのだ。

正直言って、今までの言動のせいでこれっぽっちも悲しく無いのだが、流石にこれは緊急事態だ。

 

 

「今回の緊急会議は、織斑千冬、織斑春十、篠ノ之箒、セシリア・オルコットの計4人が行方不明になった事に関してです」

 

 

十蔵が改めて今回の会議の議題を明確にする。

 

 

「さて、みなさん知っているかと思いますが、IS学園は世界でもトップレベルの警備体制を取っています。そんな中で、4人の人間を誰にもバレずに、何の痕跡も残さずに拉致するのは不可能に近いと言っても過言ではありません」

 

 

世界で唯一のISの専門学校、それに世界のどの国や企業からも影響を受けない場所。

しかも、訓練機として有しているISの数は世界の正当な組織の中ではかなり上の方で、世界各国の代表や候補生、(一応英雄扱いをされていた)千冬などの重要人物も多数在籍し、生活しているのだ。

その警備レベルは、かなり高い。

 

 

の割に学園祭で結構簡単に襲撃を受けてしまったが、それは実行犯がオータム1人と最少人数だったので、侵入を許してしまったのだ。

だがしかし、人の誘拐は1人ではとても不可能、3人以上は欲しい筈だ。

しかも4人を誘拐するとなると、単純計算で12人、もしくは最大4回侵入しなければならない。

 

 

方法は様々な方法があるが、それでもやはり痕跡を1つも残さずにいるというのはほぼ不可能に近い。

特に、学園祭後警備が更に厳しくなった直後だから、尚更そうだ。

となると、4人が行方不明になったのは、誘拐などではなく……

 

 

「自分で、何処かに行った、そう考えるのが自然だという事ですね?」

 

 

「そう言う事になります」

 

 

操の言葉に、十蔵が頷く。

無論、それで確定させるのは危険な判断ではあるが、そうとしか考えられない。

何故そうなってしまったのか、何処に行ってしまったのかなど考えたい事は色々あるが、そんな答えが分からない無駄な議論をするための会議では無い。

具体的な対策の話し合いをしなければならない。

 

 

「さて、先ずは4人の捜索からです。何より4人を発見しなければなりません」

 

 

普段の素行がどうであれ、学園の関係者なのだ。

捜索をしなければならない。

特に春十は世界で2人しかいない男性IS操縦者であるし、何度も言うが千冬もあんなんでも元世界最強。

放っておけるわけが無い。

 

 

「と簡単に言っても、そもそも何の手掛かりも無い状況です。世界規模の捜索をするしかないのでは?」

 

 

「そうなると、IS学園だけでは不可能になるので、世界各国に協力を要請しないといけない…」

 

 

「つまりは、この事実の公表に繋がる訳ですが……」

 

 

事実の公表を渋っているのは、責任追及をされたくない訳では無い。

寧ろ、自分達の首であれば喜んで差し出すほどの覚悟はある。

それでもなお渋るのは、各国が捜査協力の見返りに何を求めるのかが分からないからだ。

いや、分からないとは言っても、殆ど確定のようなものなのかもしれない。

 

 

捜査機関を動かすとなると、莫大な金が必要になる。

となると、やはり何かの利益が無いと何処の国も協力しない訳で。

 

 

今の現状、世界各国がIS学園に求められるもので、1番利益が大きいとなると……

 

 

「俺かぁ」

 

 

操はため息をつきながらそう言葉を漏らす。

そう、春十が行方不明の今、遺伝子情報などのサンプルを自由に取れる男性IS操縦者は操だけだ。

そして男性IS操縦者のサンプルデータは、発見から半年以上が経過した今でもどの国も喉から手が出るほど欲しい筈だ。

つまり、IS学園に要求する対価として操を要求される可能性が非常に高いのだ。

 

 

今現在操はドイツ国籍ではあるものの、国家代表候補生という訳では無い。

ドイツも、操のデータに関しては入学前に数度動かした時のデータと、夏休みにシュヴァルツェア・ハーゼの基地でラウラと行った模擬戦のデータくらいしか持って無い。

庇ってくれる可能性は低い。

 

 

「そう、なってしまいますね……」

 

 

操の呟きに、十蔵が申し訳なさそうに反応を示す。

 

 

「門藤君が不本意なのならば、私達教員が全力を持って門藤君を守「いえ、その必要はありません」門藤君……」

 

 

正直に言って、操は4人の事があまり好きではない。

寧ろ嫌い寄りだ。

わざわざこの4人の為に、不確定要素ではあるが、自分の身を差し出すという事はしたくない。

 

 

でも、だけれども。

だからといって、完全に見捨てる理由にもならないのだ。

 

 

操は向こうで教わった。

生き物は互いに支え合わないと生きていけないという事を。

そして、この世界でもそうやって今まで、ラウラと協力してきたし、その精神を持っていたからこそ簪やティナ達とも絆を結べた。

 

 

「俺のデータくらいだったらいくらでも差し出します。だから、捜索を」

 

 

織斑一夏は、春十達からは虐められ、千冬には無視された。

一夏は自分を卑下する様な性格になり、殻に籠った。

 

 

門藤操になり卑屈の殻から抜け出しても、入学当初はやはり4人の事を毛嫌いしている節があった。

だが、織斑一夏と門藤操は違う。

今度こそ、今年から関わり始めた年の離れたクラスメイトと、年の近い教え子として4人としてかかわるべきだ。

何故なら、操は動物戦隊ジュウオウジャーなのだから。

 

 

操はそう考え、覚悟を決めた。

 

 

「……分かりました。確定した訳ではありませんが、もしもの時はお願いします。ですが、危険を感じたらいつでも頼って下さい」

 

 

「……はい」

 

 

十蔵の言葉に頷く操。

そして会議が故言葉に発する事は出来ないものの、ラウラや楯無達も十蔵と同じような表情を浮かべている。

それを見た操は、もう1回頷く。

 

 

(本当、良い人たちだな……今度こそ、ちゃんと話せたら良いな……)

 

 

その後、その他の対応を話し合うために会議は続き、終わったのは日付が変わった直後あたりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本から遠く離れた孤島。

一見なにも無い無人島だが、その実巧妙にカモフラージュされているが、その実島全体が巨大な研究施設である。

行われている研究は薬品からISを含めた技術面、はたまた人体実験という多様で、表に出せない真っ黒な施設だ。

 

 

そんな施設は今現在、とても慌ただしかった。

理由は単純、現在仕事量がとても多く仕事が非常に忙しいからだ。

 

 

「数値は?」

 

 

「4体とも問題ありません」

 

 

「良し、このまま続ける」

 

 

「了解」

 

 

研究施設のとある部屋。

この部屋では今まさに実験が行われていた。

 

 

主任だと思われる人物が部下に指示を出している。

部下が操作をする設置タイプの端末からは管が伸びており、途中で5本に枝分かれして『あるもの』へと繋がっていた。

 

 

「しっかしまぁ、上はどうやってこいつ等を捕まえて来たんかねぇ」

 

 

主任はその『あるもの』を見ながらそうボヤく。

 

 

「あれ、主任も知らされていないんですか?」

 

 

「それは良いから手を動かせ」

 

 

「は、はい!すいません!」

 

 

その『あるもの』とは、一言で言うのならば生体ポット。

それが5つ。

 

 

どう考えても普通じゃない液体に、全裸で身体中にチューブが刺さっている少女が3人、少年が1人、成人女性が1人漬かっていた。

 

 

「投与を開始します」

 

 

部下のその言葉と同時に、全身のチューブから人物たちに向かって薬品が注ぎ込まれ始めた。

 

 

「何だかなぁ、いい顔と身体の女が4人全裸で目の前に居るのに、全くと言って良いほど興奮しねぇなぁ」

 

 

「そうですね…実験開始前の行為ではあれだけ昂ったのに」

 

 

「こうしなくても、単純に性処理道具として全然使えるのになぁ。名器が勿体ないぜ」

 

 

「まぁ、そこらへんは弄って無いので終わればまた使えるんじゃないですか?寧ろ意思が薄くなる分やりやすかったり」

 

 

「そうかもしれないな……」

 

 

そんな会話をする主任と部下の背後には、見るも無残な姿にまで分解された一機のISがあった。

分解し、適当に置かれていたパーツが地面に落下し、音が鳴る。

その音はまるで、悲鳴のように聞こえた。

 

 

 

 



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捜索開始

マジで申し訳ない。
最近集中して作業が出来ない…
もっと努力します。


三人称side

 

 

「う、ぐぅ、おぇえ…くっさ…」

 

 

緊急会議から数日たったある日。

IS学園1年生寮の寮長室では、とある人物が涙目で、時に吐きそうになりながら掃除を行っていた。

その人物とは、そう、我らが操である。

 

 

会議前の強制突入で発覚した、寮長室のあまりにもな汚部屋化。

どう考えても犯人は千冬なので、千冬に掃除をさせたいのだが行方不明な為、操に白羽の矢が立ったのだ。

 

 

会議の日に楯無が半場冗談で言った事が本当になってしまった。

この話が来た時、操は寮長室の惨状を知らなかったので2つ返事でOKした。

 

 

そして今日。

掃除道具を持ってやってきた操は、部屋の中を見て1秒もしないうちにOKしたのを後悔した。

 

 

2重のマスクを貫通する悪臭。

匂いしかしない筈なのに、何故か口の中で味がする。

そして、見るだけで不快になる汚れやゴミや虫の死骸やカビ。

 

 

後悔しないわけが無い。

そんな状態でも、操が掃除できているのは。

操が1人で作業していないからだ。

 

 

「う、うぅぅ……もう、やだぁ……」

 

 

操以上に涙目…というか、もう泣きながら作業をしているのは真耶。

この部屋の新たな主である。

 

 

いくら何でも、学生寮の寮長が居ないというのは問題がある。

その為千冬と1番関わっていたという理由で、真耶が任命されたのだ。

千冬が居なくなった後、1組の副担任から担任に変わったばっかりなので、かなり大変になるとは思うが今は自分が頑張り時だと考え、引き受けた。

だが、その時の真耶は此処が汚部屋だと完全に失念していたのだ。

 

 

操だけに掃除を任せるのは教師として情けないとの事で、掃除を共にしているのだ。

 

 

その他にも

 

 

「あ、やば…うぅ……」

 

 

最初に操の名を出した楯無が、巻き込むだけ巻き込んで自分が何もしないのは、あまりにも情けないとのことで参戦し、

 

 

「う、く……いやぁ……」

 

 

「う、おぇ゛え゛え゛え゛え゛」

 

 

簪とラウラも、放っておけないとの理由で参戦した。

 

 

総勢5人で作業をしているのに、中々終わらない。

その理由は至って単純で、あまりにもな悪臭で長時間作業をしていると気分が悪くなってきてしまうため、結構な頻度での休憩が必要だからだ。

 

 

向こうの世界で幾度となく戦闘を繰り返してきた操、現役軍人のラウラ、暗部の更識姉妹、元代表候補生でIS学園教師の真耶という、中々の精神力を持つ5人がここまで疲弊してしまうという事実が、この部屋がどれだけ酷い状態なのかを物語っている。

 

 

作業開始から、約10時間後。

 

 

「しゅ~りょ~」

 

 

「「「「お疲れ様で~す……」」」」

 

 

操の声に反応する形で、4人が床に寝っ転がりながらそう言葉を漏らす。

足の踏み場もなく、汚れ切っていた部屋は、寝っ転がれるくらいにスッキリし綺麗になったのだ。

 

 

「はぁ……もう、本当に、終わらないかと思った……」

 

 

「全くです。まぁ、廊下に出しっぱなしのゴミを運ぶという作業が残ってますが」

 

 

「あ、そうだった……」

 

 

操の指摘に、真耶が絶望したような表情を浮かべる。

結構な頻度で休憩を入れたのだが、やはりかなり精神的に疲れてしまったようだ。

 

 

「しかし、あそこまで散らかせるのはもはや一種の才能だな……」

 

 

「絶対に身に付けちゃいけない才能だけどね」

 

 

ラウラの呟きに、簪がツッコミを入れる。

その光景を見た操は

 

 

(一応俺と出会う前は織斑先生の事を尊敬してた人なんだけどな……)

 

 

と苦笑をしながら考えた。

 

 

「さ、実はもう夕食時なんですよね」

 

 

「えっ!?お昼ご飯食べてないのに!?」

 

 

操の言葉に、楯無が心底驚いたような表情と声色で反応する。

普段の会話などで時たまわざとオーバーリアクションを取って周囲の気を引くことが多い楯無だが、今回ばかりは素のリアクションだった。

あまりにも疲弊し過ぎて、窓から外の景色を見れるのにも関わらず時間感覚がバグっていたのだろう。

 

 

「じゃあ、早く食堂に行こう!」

 

 

「あれ、今日って食堂設備点検で休みなんじゃ?」

 

 

「あっ……」

 

 

「な、なんともタイミングが悪い……」

 

 

「でも、今日やらないと次やれるの何時?ってなっちゃいますからね」

 

 

少しの間、部屋を沈黙が支配する。

いろいろと他とのかみ合いが悪い日というのはたまにあるが、それがまさか今日になるとは。

なんとも運が無い。

いや、まぁ、この部屋を掃除しなければいけないという事実そのものが、運がない事そのものなのだが。

 

 

「あ~、じゃあ、夕ご飯作りますよ」

 

 

「えっ!?良いんですか!?」

 

 

「ああ、昨日注文したのが届いたばっかりだから、6人分ぐらい作れる。ただ、仕込みとかをなにもしてないから簡単な物しか出来ないですけど」

 

 

「いや、これで『6人分の仕込みも終わってるんで』とか言われた方がビックリします」

 

 

「あはは、そりゃそうか」

 

 

「でも、良いんですか?6人分作れるって事は、まとめ買いしたんですよね?」

 

 

「ああ、一週間分まとめて買ったからな、全然余裕はある。まぁ、使った分だけ買い直すことにはなるが……困る範囲じゃない」

 

 

「じゃあ、ご厚意に甘えてご馳走になりましょう!!」

 

 

操にプライドブレイクをされて久しいラウラ達だ。

もはや単純に操の料理が楽しみなようだ。

 

 

寝っ転がっていた面々が立ち上がる。

一先ず廊下に出しっぱなしのゴミ袋をいったん部屋の中に戻し、後日ゴミ出しに行こうという会話をしながら部屋の扉に向かうと。

 

 

ガチャ

 

 

と扉が開き、

 

 

「あ、やっぱりまだ此処に居ましたか」

 

 

「ナターシャ先生?」

 

 

手に資料を持ち、操達とはまた違った疲労の雰囲気を醸し出しているナターシャが部屋に入って来ていた。

 

 

「疲れてる事すみません。門藤君、ちょっと良いですか?」

 

 

「はい、丁度終わった所なので問題無いですけど……ナターシャ先生の方こそ大丈夫ですか?なんか、尋常じゃない程疲れてません?」

 

 

操達も相当疲労している。

何せ約10時間汚部屋の清掃作業をしていたからだ。

だが、その高頻度で休憩を取っていたので、その疲弊は肉体的というより精神的な疲労の方が強い。

 

 

その反面、ナターシャはシンプルに肉体的な疲労をしている顔をしている。

 

 

「あはははは、大丈夫ですよ。これも教員としての仕事のうちです。通常の範囲内ですよ、そう、通常の……」

 

 

「な、ナターシャ先生?大丈夫ですか?背後から深淵が……」

 

 

笑顔で話している筈なのに、底冷えする様な雰囲気を醸し出している。

顔に影が掛かっているというか、目からハイライトが消えているというか……

とにかく、見ているだけで心配になって来るという雰囲気を漂わせていた。

 

 

「ああ、確かに教師になってまだ3ヶ月もしてませんから、そのレベルですよね……」

 

 

「生徒会の方が、忙しい事も多いのですから……」

 

 

「山田先生?楯無さん?更なる深淵をチラつかせないで下さい。あと、楯無さんはもうちょっと虚さんに迷惑かけないように…」

 

 

「うがぁ!?」

 

 

正論が突き刺さり崩れ落ちる楯無を横目に、他のメンバーはナターシャに向き直る。

 

 

「何か御用ですか?さっきの言葉的に、操さんを探しているみたいでしたけど」

 

 

「じゃあ、早速本題に」

 

 

簪の言葉で、本題に入る事に成功したナターシャ。

手に持っている資料を操に手渡す。

 

 

「これは?」

 

 

「世界各国が送って来た、請求する男性IS操縦者データのリストです。確認をお願いします」

 

 

「え゛っ!?こんな分厚いの、全部それだけですか!?」

 

 

「はい、確認をお願いします」

 

 

「……今ですか?」

 

 

「お願いします」

 

 

「Yes Ma’am!!」

 

 

問題無いと言ったのは操なので、抵抗はやめにして資料に目を通す。

かなりギッチリと文字が詰め込まれていて、物理的に読みにくいし、シンプルに1枚読むのに時間が掛かる。

 

 

そんなA4サイズの紙が、単行本程の厚さに纏まっている。

 

 

「ナターシャ先生、なんでこんなに読みづらいんですか?」

 

 

1枚読み終える前に、目が痛くなってきた操。

ついついナターシャにそう尋ねてしまう。

すると、ただでさえただならぬ雰囲気を醸し出しているのにも関わらず、更に深い闇を全身から漏らす。

 

 

「見やすくするためのレイアウトにしたり、表を使ったりしようとすると、試算では台車を使わないと運べない量になるので。そっちはそっちで文句言われるでしょうから、検討の後持ち運びを優先しました」

 

 

「わざわざありがとうございます!!」

 

 

操は勢いよくお礼をいう。

その表情は笑顔だが冷や汗をかいており、余程焦っている様子が伺える。

 

 

その光景を、ラウラ達は見ていた。

手伝おうにも、あの書類は操が確認しなければならない内容なので手出しは出来ず。

変わらない光景に飽きて来たので、暫くもしないうちに全員が床に座り込みスマホを弄りだした。

 

 

お腹は中々に空いて来て、油断したらお腹の虫が鳴いてしまうんじゃないかと思うが、操のご飯が楽しみなので文句を言わず待っている。

ただでさえ全員が疲弊している中、約1時間半後。

 

 

「……はい、チェック終わりました」

 

 

漸くチェックが終了した。

途中から操とナターシャも足腰が痛いという理由で座っており、資料をナターシャに返した後の操が眉間を抑え肩を叩いているので、見るだけでも相当な労力だったのが伺える。

 

 

「取るべきデータは把握しました。これは何時から取り始めると良いんでしょうか?」

 

 

「明日からで」

 

 

「明日っ!?」

 

 

「何か問題は?門藤君は部活や委員会などに入っていなかったですし、アルバイトのシフトも明日は無い筈ですよね?」

 

 

「はい!その通りです!やらせていただきます!!」

 

 

もうこれ以上ナターシャからヤバい雰囲気を醸し出させてはいけないと判断。

即時OKを出した。

 

 

「それじゃあ、だいぶ遅くなりましたがご飯食べましょうか」

 

 

『わ~い!』

 

 

「反応が幼稚園児!!」

 

 

お腹がすき過ぎて、何故か幼児退行のようなことまで起こしている。

その光景に操が苦笑していると

 

 

「みなさんでご飯食べるんですか?あれ、でも今日って食堂は設備点検で開いて無いですよね?」

 

 

「ええ、開いて無いですね。なので、門藤君が作ってくれることになったんですよ」

 

 

「ああ、なるほど」

 

 

当然ナターシャから疑問が出るが、真耶がウキウキな様子で説明し納得したようだ。

その際先程の操のツッコミと同じ事を内心で思っていたのはご愛敬と言ったところか。

 

 

「それでは、私はk」

 

 

ぐぅ~~~~~~~~

 

 

ナターシャの言葉を遮るように、誰かのお腹が激しく音を発する。

別にお腹が鳴るのはいけない事では無いので、過剰に反応すべきでは無いのだが自然と周囲を見てしまう。

すると、発言を遮られたナターシャが顔を真っ赤にしているのが直ぐに分かる。

 

 

その反応だけで大幅を全員が理解した。

微妙な空気が部屋を支配する。

 

 

タップリ数十秒後。

 

 

「……ナターシャ先生も、ご一緒にどうですか?」

 

 

「……では、お言葉に甘えて」

 

 

なんとか絞り出した操の提案に、ナターシャは顔を赤くしたまま頷く。

こうして、タップリ時間を掛けて漸く寮長室から外にでた。

操の部屋は学生寮ではなく教員寮なので一旦外に出ないといけない。

 

 

もうこの時間になると肌寒い季節になった。

しかも、IS学園は敷地が丸々島なので風を遮るものがあまりない。

その為、海で冷えた風が強く吹き、身体を冷やしていく。

 

 

出来るだけの最高速度で操の部屋へと向かう。

操の部屋は教員寮1階の1号室という抜群のアクセスを誇るというのが唯一の救いか。

 

 

「ただいま~、そして、いらっしゃ~い」

 

 

『お邪魔しま~す』

 

 

部屋に帰って来て、直ぐに操は手洗いうがいをしてからエプロンを身に着ける。

 

 

「それじゃあ、チャチャッと作っちゃうんで、手洗いとかをして座っていてください」

 

 

顔だけラウラ達の方に向けながら指示を出すと、すぐさま調理を開始する。

ラウラ達は大人しく操の指示に従い、手洗いうがいをしてから机のまわりに座る。

 

 

ただ、この部屋にある家具は元々の備え付けのもの…つまり、1人用のものである。

そこまで大きい机という訳では無いので、真耶やナターシャなどはもはや机のまわりではなく普通に床に座っていると言っても過言ではない。

 

 

数分後。

操が料理を完成させ、机の上に並べていく。

 

 

操もこの人数が机のまわりに並べるとは思ってないし、そもそもにして人数分の食器は無い。

その為、本日のメニューは片手でも食べられるおにぎりだ。

具は一般的なものだが、一つ一つの工程がとても丁寧に行われており、ともすれば専門店に商品として並んでいてもおかしくないクオリティに仕上がっている。

 

 

主食だけだと物足りないと判断したのか、紙コップに注いだ味噌汁も準備した。

夕食用に少しだけ濃く作っており、またおにぎりと同様にかなり丁寧に作られている。

 

 

片手でおにぎりを持ち、もう片方の手で味噌汁入りコップを持つ形になるだろう。

 

 

「さて、それじゃあ…いただきます!!」

 

 

『いただきます!!』

 

 

しっかりと全員が手を合わせながら挨拶をしてから、おにぎりと味噌汁を食す。

 

 

『美味しい!!』

 

 

その瞬間に、操以外の全員が驚きの表情を浮かべる。

勿論それは、あまりにも高すぎるクオリティーに対してだ。

 

 

おにぎりや味噌汁などの庶民的な食べ物でも、専門店などで少々高いお金を支払えば、自分では再現しにくい完成度のものを食べる事が出来る。

それは、専門店が故の拘った食材を使用したり、仕込み等にも時間を掛けて、商品を提供する事を生業としているが故に成り立つ。

 

 

だが、(年齢はともかく)操は学生。

本業は学業であり、IS学園という特別な環境にいる以上鍛錬も欠かせない。

そして、金銭面に関してもそこまで余裕がある訳では無いので、出来る範囲では拘っているものの、やはり高級な食材などは使用できない。

更には、この料理は予定になかった突発的なものである。

 

 

その上でなお、専門店と変わらないどころか上回っているんじゃないかと思わせるほどの美味さだ。

 

 

「そりゃあ良かったです」

 

 

だが、これほどの腕を持っておきながら、自分の料理は精々普通レベルだと思っている操はそれをお世辞として受け取った。

嘗ての内気でネガティブだった頃の考えが、未だに根付いているのかもしれない。

 

 

そんなこんなで、全員でご飯を食べ進める。

だが、ここで1つ問題が。

共通の話題が無いのだ。

 

 

年齢も育ってきた環境もバラバラ過ぎる。

更識姉妹ですら、各々の趣味嗜好がかなり異なるので、やはり共通の話題は無いに等しい。

強いて言うのならISくらいだが、今どうしても話したい内容などなく。

次第に言葉数は少なくなっていった。

 

 

(やべぇ……気まずい……)

 

 

操は内心冷や汗ダラダラだった。

自分がこの部屋の主であり、全員を食事に誘った張本人である。

その為ラウラ達が感じている気まずさの6倍の気まずさを感じていた。

 

 

(なんか、なんか無いのか!?全員が参加できる会話!!)

 

 

必死にぐるぐると考える。

もはやおにぎりと味噌汁を口に運び咀嚼するだけのマシーンになっていたが、1つ話題を思い付いた。

思い付いたというよりかは、先程聞いておいた方が良かった事を思い出したと言った方が正しいが。

 

 

(いや、だけど食事の時に聞く事では……)

 

 

食事時の話題ではないのは事実。

だが、これ以上無言の時間が続くと如何にかなってしまいそうなので、気は進まないが話題に出すことにした。

 

 

「そう言えばナターシャ先生、1つお聞きしたい事があるんですけど」

 

 

「何ですか?」

 

 

「世界各国から求められてるデータのリストがあるって事は、各国と連絡を取ったって事ですよね?」

 

 

「はい、そうですけど…」

 

 

「なら、捜索状況の報告とかって来てたりします?」

 

 

「……ご飯の時にする話では無いな」

 

 

「仕方が無いだろ!これぐらいしか話題無いんだからさぁ!!ラウラにはあるのか!?」

 

 

「いや、無いが…」

 

 

「だろ!?」

 

 

操の言葉にラウラが反応するが、何故かコントのようなやり取りに発展する。

そんな光景を見ながら、楯無が何故か(この場に置いて不適切な表現ではあるが)、感慨深そうな表情を浮かべる。

 

 

「流石はラウラちゃんと操さん、息ピッタリ。この中で家族を除いたら1番関わりが長いコンビなだけありますね」

 

 

「長いと言っても、知り合ったの入学前の2月とかですけどね」

 

 

「あ、そんなもんだったんですね。2人ともドイツ国籍ですし、夏休み一緒にドイツに行ったと聞いてましたからてっきりもっと前からの付き合いだと……」

 

 

なんだか話がそれにそれまくっている。

操が咳払いをしてから改めてナターシャに尋ねる。

 

 

「それで、どうなってるんですか?」

 

 

「報告は来ています。ですが、その……」

 

 

ナターシャの表情は明るくない。

それだけで操達はなんとなく内容を察したが、続きを待つ。

 

 

「何処からの報告も、碌に進展して無いみたいで……」

 

 

「やっぱりですか…どれだけ些細な事でもいいので、せめて何か1個発見してから請求して欲しかったんですけど…」

 

 

「まぁ、そこは文句言ったって仕方が無いぞ」

 

 

「分かってるよ」

 

 

ラウラの言葉に、ため息をつきながら反応する操。

操の疑問は、なんとか重たすぎる雰囲気になる事は無かった。

それが功を奏したのか、そこからは少し踏み込んだ会話も出来るようになり、なんとか無言地獄から脱出に成功した。

 

 

暫くの間会話を楽しんだのち、操は明日データ取りがあるため早めに休んだ方が良いだろうという事で、食事が終わったら楯無達は直ぐに帰っていった。

操は簡単に後片付けをし、明日の朝食の仕込みなどやるべき事を全て終わらせ、消灯しベッドに横になる。

 

 

「…表面上は得に大きな動きは無いが…やはり、動いているんだろうなぁ」

 

 

操はベッドの側に置いてあったジュウオウザライトを持ち、顔の前に持ってくる。

 

 

「どうしても後手になってしまうのが悔しいが…仕方ない」

 

 

暫くの間ジュウオウザライトを見つめていたが、やがて睡魔がやって来た。

 

 

「必ず、みんなを守る」

 

 

操はそう呟いてから、置いてあった場所に戻し、明日の為に眠りにつくのだった。

 

 

~~~~~

 

 

アメリカ。

 

 

「隊長、目的地まであと800mです」

 

 

「よし、このまま進行を続ける」

 

 

『了解』

 

 

軍の捜索部隊が、とある場所を目指し碌な手入れもされていない森を進んでいた。

捜索対象は勿論、行方不明の千冬達だ。

 

 

何故こんな森を進んでいるのかというと、とある目撃証言があったからだ。

曰く、

 

 

『白衣を着て、ガスマスクを装着した人物が何名もこの森の奥に進んで行ったと』

 

 

衛星写真を確認したところ、1ヶ月前にはなかった筈の建物が建っていたのだ。

これは流石に調査しない訳にはいかない。

 

 

捜索部隊は少数精鋭の全員男性。

しっかりと武装をし、訓練を積み重ね何度も実践を行ってきたベテランたちだ。

 

 

そこから森を進行する事、約750m。

 

 

「っ!何者かを発見」

 

 

「止まれ。陰から様子を伺うぞ」

 

 

先頭を進んでいた隊員が何者かを発見し、流れる指示で全員がその場にしゃがみ込む。

そうして、バレないように慎重に顔を出し、様子を伺う。

 

 

そこに居たのは、1人の女性だった。

綺麗で長い黒髪をポニーテールに纏めており、隊員達から90度右を見ている。

 

 

ここまでだったらまだいい。

いや、何故こんなところに女性が1人で居るのかという問題があるが、まぁ大した問題ではない。

 

 

その女性は、何故か全裸なのだ。

あまりにも豊満で綺麗に整っている胸も、秘所も隠すことなく、女性は立っている。

 

 

女性の顔は狐を連想させるような白い仮面で隠されており、二の腕や太もも、首などにメカニカルな模様が入っている黒い帯のような何かを巻き付けていた。

 

 

隊員達に気が付いた様子もなく、指先一つ動かさずに裸で立っている。

隊員達は小声で会話をする。

 

 

「どうしますか?」

 

 

「どうするってったって……」

 

 

「一先ず話を聞いてからだな」

 

 

取り敢えずの方針を固めたところで、女性にも動きがあった。

 

 

「……」

 

 

ザッ……

 

 

無言のまま、女性は身体の向きを変え、隊員達がいる方向に身体の全面を向ける。

その大きすぎる乳房がばるんという擬音が聞こえて来るんじゃないかと言うほど、激しく揺れる。

仮面と帯を除けば全裸の女性を真正面から見る事になり、隊員達は思わず顔を下に向けてしまう。

 

 

「……」

 

 

ザッザッザッザッザッ

 

 

女性はそのまま隊員達の方に向かって歩いて来る。

身体を軽く動かすだけで乳房は激しく揺れ、近付いて来る度にいろいろな所が詳しく見れるようになってくる。

 

 

部隊が全員男性というところが足を引っ張っている。

だが、そこは流石にプロ。

無理くり思考を切り替え、持って来ていた武装を構える。

 

 

「あと5歩で警告を開始、10歩で攻撃開始」

 

 

『了解』

 

 

隊長の指示に、部下達が間髪入れずに答える。

女性はその場から4歩歩いた地点で、足を止めた。

それと同時、右腕を動かし手を顔前に持ってきた。

 

 

『っ……!!』

 

 

隊員達の表情が一気に固くなり、武装を持つ手にも力が入る。

それを知ってか否か、女性は特に何の反応も見せず、右腕を地面と水平に振り抜いた。

 

 

ヒュン

 

 

空気が切れる音がした。

それを、隊員達が聞いた直後。

 

 

ズパババババッ!!

 

 

物理的に、何かが連続で斬れる音がした。

 

 

ゴトトトトトッ!!

 

 

同じ数、何かが地面に落下する音がした。

 

 

木々を始めとした、植物ではない。

野生動物でもない。

ましてや、街中にあふれている人工物でもない。

 

 

武装を構え、警戒をしていた筈の隊員達の首から上が、全て綺麗に斬り落とされていた。

 

 

切り口からドクドクと血液が噴き出る身体が倒れる。

女性は草をかき分け全員の首を飛ばした事を確認すると、そのまま遺体に背を向け歩き出す。

 

 

その進行方向にあるのは、隊員達が目指していた建物。

女性が戻ってきた事を確認したからか、出入り口から白衣を纏った男が3人出て来た。

白衣3人の目の前まで歩いてきた女性は立ち止まる。

裸体をこんなに至近距離で異性に見られているというのに、女性は微塵も動揺しない。

 

 

「仮面を渡せ」

 

 

3人のうち中央の男が手を出しながら言った言葉に、女性は指示通り仮面を外す。

素顔を晒した女性……篠ノ之箒は人形のように生気の無い表情で仮面を手渡した。

 

 

仮面を受け取った男は、懐からコード付きのタブレットを取り出し、仮面の内側にコードの端子を差し込み有線で接続する。

その間に残りの2人は同じくタブレットを取り出し、箒の首などに巻き付けてある帯に端子を接続した。

 

 

この仮面と帯は箒の戦闘ログを蓄積したり、指示を出したり、最悪の場合仕込んである即効性の高いドーピング薬などが投与されるものなのだ。

男たちは戦闘ログと動作の確認をしているという訳だ。

 

 

「問題無し」

 

 

「こっちもです」

 

 

「同じく」

 

 

数分後。

確認を男たちは確認を終え、タブレットを仕舞う。

 

 

「他4人の調整を一時中断して調整しただけあって、中々だな」

 

 

「ああ。こちらで逐一指示を出さないといけないのは少々手間が掛かるが、勝手な行動をされないというのは中々便利だ」

 

 

男の内2人がタブレットの内容を見ながら会話を繰り広げる。

その間、箒は一言も言葉を発しないどころか、身動き一つ取らなかった。

生気の無い表情、焦点が合っていない瞳など、どう考えたって正気の人間ではない。

 

 

「さてと……」

 

 

男の1人が唐突にそう呟くと、全裸で突っ立っている箒の胸を鷲掴みにした。

 

 

以前までの箒だったら妄信的に惚れている春十でさえ、胸に触りでもしたら直ぐに顔を赤くし感情的になりながら攻撃をしていた事だろう。

 

 

だが、今の箒は何も反応しない。

 

 

「性処理でもしてもらおうか」

 

 

「……」

 

 

箒は無言で頷くと、言われた希望を叶える行動を取り始める。

 

 

「おいおい、勝手な事を……」

 

 

「別にいいだろ。数値上問題は無いからな。お前達もしてもらえばいい」

 

 

そんなこんなで、外という明らかにおかしい場所での行為が始まった。

箒は止めて良いと言われるまで、休むことなく行為をした。

 

 

全てを終えた後、全裸の身体を拭く事もせず3人と共に建物に入った。

ぺたぺたと裸足の箒の足音が響く中、施設の奥の方に向かう。

 

 

そこにあったのは、周囲に大量の機材や薬品が置かれたベッドだった。

漸く身体を拭き、箒はベッドに寝かせられる。

その後、男たちによって身体中に機材との接続用や薬品投与用の管を刺されて、調整を受ける事になった。

 

 

同じ部屋には、箒と同じように全裸で黒い帯を首などに巻いている女が3人、男が1人。

ベッドに寝かされていた。

箒との最大の違いは、寝ているベッドに『調整一時停止中』と殴り書かれた紙が貼り付けてある点だ。

 

 

そう、紙に書かれている内容の通り、この4人は箒と同じような調整を受けたものの、今は箒にリソースを大幅に割いている為、一時中断をされているのだ。

呼吸による僅かな胸の上下以外ピクリとも身体を動かさないその様子から、箒と同様もう普通ではない事になってしまっているのが分かる。

 

 

何故このようになったのか。

そもそも何を望んでいたのか。

自らとは、いったい何なのか。

 

 

それすらも忘れた彼女らは。

人形のように、物のように扱われるだけだった……

 

 

 



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