とある喰種の日記 (物書きB)
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昔書いてたのをちょっと投稿します。
未完です。


 ◯月×日

 

 二人の子供を拾ってきてしまった。

 いや、拾ったといってもその辺に落ちていたわけではないが。

 俺は喰種だ。そのため人を捕食する必要がある。

 今日は赫子の調子がおかしかったことで昼間から狩りが始まってしまったのがよくなかった。

 幸いにも、狩り〜完食までの工程は即座に行われたし、また場所もしっかりと人目のない路地裏を選んだため問題ないと思っていた。

 しかし、捕食後に後ろを振り返ると、子どもたちがいたのだ。

 とりあえず笑顔でコミュニケーションをとろうとしたのだが、反応もなし。見られた!と思った俺は即座に逃げようとしたが、表通りには多くの人がいる。

 頭が真っ白くなってしまった俺は咄嗟に子どもらの手を取り、深く考えず自宅まで直帰してしまったのだった。

 帰宅してしばらくは誘拐をしてしまったかと焦っていたが、話を聞いてみると何やら訳ありな様子。

 親もいない、帰る家もないらしい。

 家出かな?とは思ったしもちろん警察なんかが探しに来る危険性も考えたが、いざとなれば俺は逃げればいいだけだ。

 うちでよければ住む?と聞くと渋々ではあったが頷いたため、この子らは俺の家に一緒に住むことになった。

 はぁ、経験もないのに俺もついに子持ちか。俺の勤めてる人間の会社じゃ育休なんて取れないだろうな。

 あと喰種だってバレないようにしないと。

 

 

 ◯月△日

 

 子どもらが来て数日、今日は日曜日で仕事も休みのため、買い物に行った。

 子どもらの衣服や、うちで使う食器などが致命的に少なかったからだ。今までは、コンビニで貰える箸や、昔何かで使った紙のコップと皿を使って食事をし、服はかなり大きいが俺の物を貸し出していた。

 しかし、当然それでは快適とは言えない。

 ちょうど食糧を買う必要もあったため、買い物に繰り出したというわけだ。

 大型というには小さく、中型というには賑わい過ぎているデパートでの買い物は非常に困難なものだった。

 一応洗濯もしているため汚れなどは落ちているのだが、子どもらの服はかなり痛んでおり、俺の服との綺麗さに差が出てしまったことで大きく注目され。

 ならばと子ども服から購入しようと行くと、俺と子どもらのどこかチグハグな会話に、店員から冷たい目を向けられ。

 食器を買いに向かうと、綺麗に並ぶ食器に子どもの弟の方がはしゃぎ過ぎてしまい、棚をひっくり返したことで一騒ぎがあり。

 本来なら食糧もそこで買う予定であったのに、主婦たちにより貪られた食糧コーナーには良いものは残っておらず買えず仕舞い。

 子育てってこんなに大変なのかと一人不思議と感動した。

 まあ、その後食糧は子どもたちが買いに行ってくれたし、一緒に料理をしたりと楽しいことも沢山あった。

 しかし、食事をするときのこの子らの顔はかなり渋い。自分的にはなかなか上手く出来始めたと思っていたばっかりにこれはなかなか辛いものだ。

 今度仕事帰りにレシピ本でも買って来ようと思う。日記帳にメモしておこう。

 

 

 ◯月▷日

 

 今日仕事から帰ってくると、子どもの姉の方が泥だらけの服を洗濯しているところを発見した。

 公園で遊んでいるときに転んだと言っていたが本当だろうか?

 念のために怪我の有無を確認させてもらったが特に見つけることはできなかった。

 服には破れていた箇所もあるってのにやっぱ子どもは大人より器用なのだろう。

 破れてしまった服は俺のだったため謝られたが気にする必要はないと言っておいた。もともとかなり使い込んでいた服だったし、こういうときのために子どもようの服も買っていたのだ。

 急に始まった子育てにかなり不安だったが、このまま元気に成長してほしい。

 …学校とかどうしよう。

 

 

 ◯月▽日

 

 前日には気が付かなかったが冷蔵庫に見慣れない肉が保存してあった。

 食糧の買い物はみんなで買い物に行った日以来、子どもたちに任せていたため尋ねてみると、安く肉を提供している肉屋を発見したらしい。

 牛単体、豚単体ではなく、それぞれのかけらなどを合わせて売っているため安く提供されているようだ。

 説明されてからよく見てみると、確かに肉片それぞれの色や、質感も異なっているように感じる。

 俺は食べる肉に特にこだわりはないため、安く肉を入手できるのならありがたいものだ。

 ならば早速と、肉を使わせてもらい朝食を作るといつもよりは美味しそうに食べてくれた。野菜は苦手なようであまり進んでいなかったが。

 しかし、なんだろう。美味い肉なんだが、やはり安物なのか、俺には何か足りないような気がするんだよな。

 

 

 ◯月◁日

 

 今日は仕事終わりに赫子が疼いたため、少しペース早めだが狩りの時間となった。

 やはりある程度の抵抗はあるが、俺の赫子は強い方なのだろう、ごく短時間で狩りは終了した。

 しかし、そこからは少し時間がかかった。

 子どもたちを待たせているのはわかっているが、捕食のスピードを自分で上げることは出来ない。

 申し訳ないと思いつつも、帰りが遅くなることを覚悟してから帰宅して───なんだかとても怒られてしまった。

 どうやら俺が何者かに襲われて死んでしまったのではないかと思っていたらしい。

 かなり突飛な発想だが、このご時世だし確かに俺が喰種だと知らなければ、そう思うこともあるのかもしれない。

 心配してくれたことのお礼を言うと、無言でサッと子どもたちの寝室に帰ってしまった。

 この時、俺が思っていたより怒っていたことに気がついた。

 明日の朝にでもすぐに謝ろう。

 

 

 ◯月◇日

 

 今日は朝から子どもたち(主に姉)の機嫌が悪かった。

 間違いなく昨日の俺のせいであるため、ひたすらに謝った。

 なんとか許してもらうことはできたが、これからはもっとしっかりしようと思える出来事だったと思う。

 ご機嫌取りと言われればそうだが、一応仲直りの記念としてケーキを買ってきた。

 子どもたちはやはり甘いものが好きだろうとの考えだ。

 家族にプレゼントをするんだと言う話を店員の人としていると、メッセージカードを付けるかどうか聞かれた。しかし、ここである驚愕の事実が判明した。

 なんと、俺は子どもたちの名前を知らなかったのだ!更に言うなら、子どもたちに俺の名前を教えた記憶もない。

 つまり、俺たちは名前も知らない相手と何日も暮らしていたことになる。

 悲しい事実に気がついてしまったようだ…。

 なんとなく勇気が湧かなかったため夕食の際にも後にも言いだすことは出来なかったが、まあ、今日はケーキに喜んでくれたようで良かった。

 名前を書くことが出来なかっため、メッセージカードには“愛する子どもたちへ”と在り来たりな言葉を書いてもらったのだが、気がついただろうか。

 

 

 ◯月◆日

 

 遂に、子どもたちの名前を聞くことができた。

 上手く自然に聞く方法を思いつかなかったため、思い切って直接聞いたのだが、呆気なく感じるくらい素直に教えてくれた。

 代わりにと言って俺の名前も聞かれたため答えた。

 これでやっとお互いに名前を把握できたと言うことだ。

 性は霧嶋で、名前は董香と絢都。姉が前者で、弟が後者だ。

 漢字は最初は子どもたちも見たことはあっても書けなかったため、一緒に辞書を見ながら探した。せっかくなのでちゃんと覚えていよう。

 名前を知るだけでもなんとなく心理的距離が縮んだような気がして、なんだか嬉しかった。

 明日の仕事も頑張ろう!

 

 

 ●月◎日

 

 詳しい話は分からなかったが、董香と絢都の関係者を名乗る男と出会った。

 今となっては自分のことを棚に上げてなに考えてるんだと思うが、当時の俺は、これ新手の誘拐だ、とかの男のことを半ば決めつけていた。

 無愛想な上に、言葉少なになにかを言われたため正直仕方がないと思う。

 とりあえず、〝子どもたちの面倒なら俺が見る〟と強く言っておいた。

 しかし、俺がまだ若いからか、更にお前に力が〜とか、教えることが〜とかなかなか諦めてくれない。

 仕方がなく、相手が喰種だと言うことは分かっていたため赫子で脅すことで事なきを得たが、未だによく分からない話だ。

 子どもたちにも聞いてみたが、親戚の事など知らないようだ。

 これからは子どもたちだけでの外出も控えさせるべきだろうか。

 

 

 ●月*日

 

 ああ、最悪の事態が起こってしまった。

 仕事を終え、帰路に着いた俺を待っていたのは燃え盛る俺んちでしたって…笑えない。

 どういうわけかは分からないが、捜査官に俺の存在がバレてしまったのだろう。いつもなら全くしない、人間の匂いが僅かだが残っていた。

 彼らは、子どもたちの影を俺のことと勘違いして攻撃したのかもしれない。

 赤熱している俺の家には、燃えた後とは明らかに違う傷が付いている。

 ここまで書いて気がついたのだが、子どもたちはどうしたのだろう。

 燃えている家の中を探索した時にはそれらしい死体なんてなく、いつも畳んであった服や、いくつかの食器もなかった。

 もしかすると、何らかの方法で襲撃を察知し、事前に避難したのかもしれない。

 しかし、そうすると何故戦闘痕があるのか謎になってしまうのだが。う〜ん。

 何にしても子どもたちが心配だ。まずは、聞き込みでもしてみよう。

 

 

 ●月∈日

 

 子どもたちを探し始めて早数ヶ月、俺は現在11区まで来ている。

 元々住んでいた20区を始めとして、いろんな場所を回ってみたが、思うように情報が集まらなかったからだ。

 子どもたちだけで歩いていれば目につくはずだ。それがないということは、すでに保護されているか、またはその逆か。

 こんなことなら携帯とか持たせるべきだったと、今更ながらの後悔をしつつ、気を紛らわせるために今日も日記を書いている。

 こんな時でも元気な我が赫子が羨ましいよ。

 

 

 ●月〆日

 

 董香や絢都は見つからなかったが、喰種の子どもを見つけてしまった。

 いや、子どもとは言っても見た目が幼いだけで俺と少ししか違わないそうだが。

 捜査官に襲われたようで酷い怪我を負っており、発見した当初は驚いたものだ。

 見て見ぬ振りをするのは気がひけるため、簡単なものだが手当てをしてあげた。

 家に僅かに残っていた清潔な布などは、これで使い切ってしまったため、今度はどこかで頂いてこなければ。

 盗みをしないといけないのは心苦しいが、家を燃やされても文句が言えない立場からするとそのくらいは許してもらいたいものだ。

 さて、更に驚いたことにこの子は小規模ではあるが、喰種の集団を率いていた。

 目的とかはよく分からないが、若いのによくやるもんだと思う。俺だったら何かやりたいことがあったとしても、人なんて集まらないだろう。

 まぁ、そんなことは別に重要ではない。

 なんと、応急処置をしたお礼に、彼女らの拠点に好きなだけ泊まっていっていいと言われたのだ!

 宿無しで人探しをしていた俺にとってこれがどんなに嬉しいことか、俺以外にはきっとわかるまい…。今夜は熟睡出来そうだぁ…。

 

 

 

 

 

 

 ・経過報告

 

 赫胞異常なし、赫子の形成にも滞りは見受けられない。良好である。

 赫子の確認できる最大数は八。鱗赫のみ。

 出力では並の喰種とは比べものにならない。直接Rc細胞が組み合わさった影響が推測される。

 偏食傾向あり。これにより赫者へと至る可能性有り。もしくは既に到達済みか。

 

 懸念事項としては、赫眼の確認が未だに出来ていない。赫子を扱う際にも発現が見受けられないため、なんらかの不全症が起こっているものと推測される。

 また、食事に関してだが、人間と同じような内容のものが多い事が確認された。しかし、それによる赫子の能力低下は確認されなかった。これについては、相手が格下の喰種のみのため確定はできない。

 

 まとめとして、多くのデータが得られたが、赫者への変化ついて、赫眼について、人間と同様の食事による影響についてなど分からないことも未だ多い。しかし、強力な喰種との戦闘が行われることでこれらのことについて、ある程度のデータが得られると考えられる。継続して観察していきたい。

 

 

 



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 ●月§日

 

 さて、拠点を手に入れたのはいいが、どうやらここでは俺はあまり歓迎されていないらしい。

 起き掛けには監視の喰種数名に舌打ちをかまされ、拠点内を歩いていれば視界に入るすべての喰種ににらみつけられる。

 一体俺が何をしたというのか。

 全く、疑問だ。

 

 だが、そんな中でも比較的友好的に開いて相手をしてくれる喰種もいる。

 

 最初に出会った少女の喰種がそうだ(ちなみに話してみると俺より1つ年上だった…)。

 あとは無口な仮面の喰種と、ガスマスクをつけた喰種。

 彼らはここでも立場はいい方らしく、そんな彼らに守らているらしいのが俺のようだ。

 なんか俺の赫子の偏食が問題らしい。

 

 …そういえば喰種の集団だったね、ここ。

 

 

 ●月Φ日

 

 霧島兄弟の捜索が思いのほか煮詰まっている。

 ここの喰種たちは俺がいることは許してくれたようだけど、協力的な負けではないから頼りにはできない。

 したがって1人で地道に聞き込みや、パトロールをしているわけだが一向に成果は上がらない。

 

 さすがに喰種間で噂すらないというのはおかしいと思い、喰種少女たちに話を聞きに行った。

 その結果わかったのは衝撃の事実である。

 

 なんとここは11区にはまともな喰種や力のない喰種は来ないらしい。

 

 なんだそれ?といった感じだが、周りの反応からすると本当のようだ。

 昔はそうでもなかったらしいが、最近結構危ない場所になったんだと。

 

 じゃあ、子供たちなんて絶対来ないじゃん。

 

 

 ●月Γ日

 

 ということで今日でこの拠点ともお別れすることになりました。

 仲良くなった少女たちには少し悲しがられたが、仕方がない。

 今は子供たちのほうが心配だ。

 襲われて行方不明ということで安否すら分かたらないという状況。

 せめて生死の確認だけでもしておきたい。もちろん死んでいてほしくはないが。

 

 ということで荷物をまとめて拠点を出たのだが、案の定、襲われた。

 少女たちから離れたことでチャンスだと思われたのだろう。

 

 襲いかかってきたのは、日ごろから不穏な目を向けてきていたメンバーたちだ。

 人数にして5人。

 少女たちの貴重な戦力を奪うことに申し訳なさを感じはしたが、正当防衛だとして全員いただいた。

 

 最近俺の赫子の補充ができていなかったためそれはもう目にも留まらぬ速さで消えちゃいましたとさ。

 

 

 Ⅴ月Θ日

 

 ところ変わって、年月も経って、俺は20区にいた。

 探し人は見つからず、同胞を襲っては金を稼ぎ、渡り歩く日々。

 正直、何をやっているんだと思わなくもない生活が続く毎日だ。

 

 だが、幸運なことに不自由を感じる生活ではない。

 なぜなら、俺の正体が世間にばれた様子がないからだ。

 あの俺の家の火災を見た際は、『終わった…』と思っていた俺だったが、あれは勘違いの可能性がある。

 ならあれは何だと言われると困るのだが…。

 

 まあとにかく!

 素性が割れていないおかげで買い物は簡単にできるし、ネカフェにも泊まれた。

 唯一赫子の捕食時にだけは気を付けていなければならないが、逆に言えばそこさえ見られなければ問題ない。

 

 そして俺は自由な捜索生活を過ごしていたというわけだ。

 

 しかし、捜索に進展はない。

 一番大事なことのみがうまくいっていない。

 

 はー、もうやめようかな。

 子供二人組なんてどこかの人間の施設に保護されて当然かー。

 

 …今日仕入れた二人組の子供の情報だけ確かめてから考えることにしよう。あとは、喰種の喫茶店か。

 迷子って感じの情報じゃなかったから怪しいもんだけど。

 

 

 Ⅴ月Ж日

 

 見つけた。やっと見つけたぞ。

 2人組の子供、間違いなく霧島兄弟だった。

 いやしかし、あの子たちが喰種だとは思いもしなかったな。

 

 俺が見つけた現場は人間を襲っている最中だった。

 高校生くらいの年若い女の人間だったが、死にそうな状況の割には元気にしていたな。

 

 人間がいるので顔を隠しての再開となってしまったせいで、俺のことには気が付かなかったようだ。

 こちらを確認するとすぐに攻撃を仕掛けてきた。

 2人ともが羽赫の超高速攻撃。

 だが、俺の赫子は人より多いから、半分が防御、半分が攻撃をすることであの子たちに対応していた。

 正直赫子の制御はうまくないのでやりすぎることが無いようにだけ気を付けて戦闘が終わるのを待っていた。

 

 すると、5分も経たないうちにあの子たちは引いていってくれた。

 羽赫はスタミナがないらしいのでそのおかげだろう。

 

 戦闘音を聞いた他の人間が来ないうちに、襲われた女性の手当を手早く行い、その場を離れた。

 

 さて、ここにいることの確認がやっと取れた。

 明日からはひたすら探すだけだ。

 

 あれだけちゃんとした格好をしていたのだ。

 きっと子供たちでは生活してはいまい。

 

 まずは、噂の喰種が集まるという喫茶店にでも顔を出してみるとするかな。

 

 

 Ⅴ月Σ日

 

 いた。普通に。

 噂の喰種の喫茶店。

 

 マスターはそれなりに年を召した男性の喰種だ。

 芳村と名乗ったその男に話をすると、喫茶店の二階にいたらしい董香を呼んできてくれた。(絢都は今はいないようだった)

 董香はたいそう驚いたようだったが、次第に顔は真っ赤に染まり憤怒の形相で俺に怒鳴り散らし始めた。

 俺が心配する以上に俺のことを心配してくれていたらしい。

 

 怒りが冷めた董香は次第に涙ぐみながら、あの日とそれからのことを話してくれた。

 

 董香たちが捜査官に見つかったこと、最低限の荷物を勝手に持って行ったこと、危険を知らせようと家を荒らして火をつけたこと。

 2人で隠れながら暮らしていたこと、ここに拾われたこと、実は自分たちの顔も割れてしまったわけではなかったこと、今は強くなったということ。

 

 つまり、俺が喰種だということは発覚しておらず、なのに姿を消していた俺が死んでしまったのでないかとこの子たちは思っていたらしい。

 

 まあ、なんだ。

 俺が家を失った以外は何も悪いことは起きていないということらしかった。

 いや~良かった良かった。

 

 それからはマスターの厚意によって二階を貸してもらい今までのことをお互いに語り合った。

 昔を思い出しながらの会話は何とも楽しく、11区を出てから会話に飢えていた俺はそれはよく話しこんだもんだ。

 お前らに昨日襲われて死ぬかと思った、といえばぎょっとした顔になって面白った。

 

 

 Д月Ь日

 

 最近知ったが、絢都はしばらく帰ってこないらしい。

 寂しそうな顔をしながら話すもんだから詳しくは聞けなかったが、この子らは仲が良かったから、離れるのは…な。

 

 だが、ここ20区は素晴らしく安静な場所だった(・・・)

 

 喰種は芳村さんが治めてくれているし、喰種が暴れないおかげで捜査官も少ない。

 喰種からすれば人間社会に溶け込みやすく、人間からすれば喰種を恐れる必要は少ない。

 

 それが、ここ20区のはずだった。

 この女性が来るまでの話だったが。

 

 神代利世、と名乗った女性は、一見すると清楚でお淑やかな雰囲気を醸しているが、その実大食らいの化け物だ。

 女性に化け物とは失礼かもしれないが、そう表すしかない。

 

 俺の赫子も大食らいだという自負があるが、それ以上の頻度で食事を行うというのだから驚きだ。

 

 彼女が来たせいで20区の喰種たちはざわついている。

 数少ない自分の狩場がとられるかもしれない、彼女について捜査官が増えてしまうかもしれない、などの不安があるのだろう。

 

 現に喫茶店に顔を出す喰種たちも数が減ってきていた。

 

 何度か話をしてみたが、神代利世は結構強情だった。

 口調こそ穏やかなものの、食べたいから食べるという主張を曲げる気は無いだろうと思う。

 

 幸運なことに俺に狩場はないため、そっちの方の問題はないが、捜査官が増えるのはよろしくない。

 俺が襲われる分には、まあ、許せる。

 だが、学校にも通い始めた董香にとっては迷惑な話だ。

 少し前には友達ができたと楽しそうに話していたし、今更学校を辞めさせるのは酷なことだろう。

 

 だから、少しは自嘲というものを神代利世に覚えてほしいが…。

 

 

 Д月&日

 

 とか言ってたら、神代利世が死んだという報せが届きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・経過報告

 

 前報告より特筆に値する変化なし。

 経過良好。異状なし。

 

 長期間の断食による飢餓状態への移行は見られない。

 赫子の攻撃性能には僅かな影響あり。

 

 11区からの移動時、戦闘データ入手。

 赫子による捕食を確認。同時に、赫者である確証を入手。

 

 

 

 



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