黒澤家の長男です。 (カイザウルス)
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特別ストーリー
【黒澤 ダイヤ誕生日記念】 元日の朝



ハッピーバースデー!!ダイヤちゃん!!

そして皆さんあけおめ!




 

 

朝の陽ざしがカーテンの隙間から漏れ出ている。

何とか起き上がり、携帯を確認。

今は1月1日の朝だ。

 

「ん~~~~~!!……あれ?あいつらは?ってか頭痛い…」

 

昨日は忘年会で酒をかなり飲んだ。

更に飲みなおしということで、1人暮らしである俺の部屋で年越しまでは覚えているが……。

その後の記憶が全くない…それにしても。

 

「何だこの惨状は、泥棒でも入ったのかな?」

 

酒の空き缶に、つまみ類の袋、何だったら出しっぱなしのお皿と汚すぎる。

冷蔵庫から水を取り出し一口。

そしてその後の行動を考えた結果。

 

「面倒くさいし、明日大掃除しよう!」

 

今日は年始だしゴロゴロしても誰も怒らないよね~。

毛布を口元まで被り、目を閉じた。

だが次の瞬間、インターホンがなった。

 

「あ?誰だよ…年始に」

 

どんちゃん騒ぎした、友人の一人だろうか。

とりあえずベットから立ち上がり、ドアを開ける。

 

「あけましておめでとうございます。瑠璃、とりあえず中にいれ…」

 

ドアを閉めた。

まさか姉貴の幻覚を見る事になるとは。

すると今度は、ドアを叩かれる。

 

「何で無視しますの!!」

 

仕方なくドアを開けるとやはり姉がいた。

一体何なのだ。

 

「何しに来た?」

「近くを通りましたので、挨拶を…って何だか部屋が汚そうですわね」

「ん?ああ、ちょっと同期と飲みすぎてな」

「まったく仕方ありませんわね…」

 

ダイヤは俺を横切り、靴を脱ぎ中に入ろうとしている。

とっさにダイヤの前に立ち、中に入らせないよう立ち塞ぐ。

 

「いや、いきなり入るなよ!」

「……はぁ」

 

なぜかダイヤがため息を吐き、口を開いた。

 

「どうせあなたの事ですから、汚い状態で二度寝して後で掃除すればいいか……なんて思っているのでしょう?」

 

ま…まぁ、間違いではないが…今日はいつも以上に汚れているから、可能なら人を入れたくないのだが。

しかしダイヤの言うことも一理ある。

いまだにダイヤは俺から目を離さない。

 

「はぁ…わかったよ」

「ふふっ、よろしい」

 

ダイヤ俺の頭に手を伸ばし、撫で始めた。

ん?何で撫でられた?ダイヤはそのまま中へ。

ドアノブに手をかけて開けると、

 

「な……何ですのこれは!?泥棒!?瑠璃!泥棒が入ったみたいですわ!?」

 

予想通りの反応をするダイヤ。

 

「だから入れたくなかったんだよ」

「まったく…袋はどこですの?」

 

俺はキッチンから袋を取り出しダイヤに渡す。

するとダイヤは手首に着けていたシュシュで、髪をまとめポニーテールにする。

 

「それで始めますわよ!!」

 

鼻息を荒くし、次々と部屋が綺麗に片付いていく。

その間に俺はシャワーを浴びて来よう。

服を片手に浴室へ向かった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

シャワーから出て少し二日酔いも覚めたような気がする。

それと同時にある事を思い出した。

リビングに目を向けると。

 

「うわ…めちゃくちゃ綺麗になってる」

 

なんということでしょう!っと言いたくなるような仕事ぶり。

先ほどまで転がっていた空き缶は、跡形もなく消えています。

そんな匠の技を披露したダイヤが見当たらない。

しかし机の上にある書置きを見て納得した。

そこには…冷蔵庫の中に何も無かったのでスーパーに行って参りますっと、書いてある。

ふむ…それなら少し時間かかるか。

俺は上着を羽織り、目的のものを買うために走り出した。

その後、目当ての物を買い、家に帰ると既にダイヤが買い物から帰って来ていた。

買った物を隠しながらリビングに行くと、

 

「おかえりなさい。どこ行ってましたの?」

「ただいま、ちょっと買い物にな…はいこれ」

 

俺は買ってきた花束とケーキをダイヤに渡した。

ダイヤは花束を見て、驚いた様子を浮かべたが、首を傾げ口を開いた。

 

「なぜ花束とケーキが?」

「今日誕生日だろ」

「………………ああ!わたくしの誕生日ですわ!!」

 

今日は、1月1日、姉であるダイヤの誕生日だ。

黒澤家の元日はかなり忙しい為か、ダイヤは自分の誕生日をよく忘れる。

笑みをこぼしながら、嬉しそうにケーキを見ているダイヤ。

反応を見る限り、渡して正解だった。

 

「誕生日おめでとう、姉ちゃん」

「ふふっ、ありがと瑠璃。さぁ!ご飯にいたしましょう」

「はいよ、その後にケーキ食べよう」

「楽しみですわ!」

 

鼻歌を歌いながら冷蔵庫にケーキをしまう。

さてと、俺もごはんの準備を手伝うことにしますか。

 

 

 

〜said out〜

 

 

 

Happy Birthday ダイヤ

 

 

 






改めて、あけましておめでとうございます。
今年も「黒澤家の長男です。」をよろしくお願いいたします。



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【松浦 果南誕生日記念】 小さな箱には大きな幸せが

ハッピーバースデー!!果南ちゃん!!

それでは特別ストーリーをどうぞ!


 

 

まだまだ寒い空気が流れる2月上旬。

荷物を愛車に乗せて、エンジンをかけパートナーが来るのを待つ。

ハーッと息を吐くと白い吐息が出てくる、今日の気温は-3度だったはず。

 

「瑠璃~!お待たせ~!」

「来た来た」

 

俺はパートナーの元に向かう。

 

「ごめんごめん、予想よりも荷物多くなっちゃった」

「大丈夫だよ。荷物入れるから頂戴…果南」

「うん!お願いするね」

 

そう言ってパートナー……俺の彼女である果南の荷物を受け取った。

彼女とは付き合って、3年が経つ。

 

『果南姉……いや、松浦 果南さん。あなたが大好きです。俺と付き合って下さい』

『ッッ!?……うん、私も…瑠璃の事が大好きだよ』

 

そんな告白から3年、色々あったが今では仲良くやっている。

荷物をしまい運転席へ。

彼女は助手席に乗り音楽をかけようと携帯を繋げる。

 

「お、久々にAqoursの曲か」

「久々に聞きたくなってね」

「んじゃ、出発するぞ」

「お願いしま~す」

 

アクセルを踏み目的の場所へ。

俺と果南は1ヶ月に1度キャンプをするようになった。

当初の理由は、俺の治療のためでもある。

いま俺はプールに入るのが怖い…飛び込み台に立つと、動悸・めまい・息苦しい・吐き気などの症状が出てプールに入れないでいる。

いわゆる“イップス”になってしまった。

大学1年生のころチームのエースとして様々な大会で好成績を残していた。

しかしとある大会のリレーで俺がミスを犯してしまい、予選落ちしてしまった。

その際のリレーのメンバーやチームのみんなから罵詈雑言の嵐を受け、何とかミスを取り返そうと大会に出たが何故か記録は落ちていくばかりでメンバーからも外され、尚且つ泳ぐのが楽しくなくなった。

そんなことが続き、部屋に引きこもる様になった中で、果南が連れ出してくれた。

その後は大学を編入し、今は水泳から足を洗い、大学も卒業し、教員として充実した生活を送っている。

そんなこんなでAqoursの曲を聞きながら、休憩のためサービスエリアへ。

 

「運転お疲れ様」

「ん、ありがと。休憩ついでに夕飯の買い物でもしよう」

 

お互いに車を降りてサービスエリア内のスーパーへ。

果南はポケットからメモ用紙を取り出して凝視する。

 

「今日は何作るの?」

「キムチ鍋!寒いからね~…ん」

「ふ…はいはい」

 

果南は手を突き出して俺を見る。

いつもの手を繋ぎたい時の合図だ。

右手で果南の手を握り、左手には買い物カゴを持つのが、果南と買い物に行くときの状態だ。

俺の存在を確かめる様に果南は手を握った。

 

「えへへ」

「果南ってスキンシップとか好きだよな」

「スキンシップ?」

「手を握るだったり、ハグするだったり、キスしたり」

「人前ではハグとキスはしないけどね」

 

ニコニコしながら答える果南。

 

「瑠璃はスキンシップ嫌い?」

 

下からの目線でニコッと笑顔で首を傾げる果南。

昔は見上げていたが今じゃ俺の方が身長は高い。

それより、首を傾げて聞いてくる果南が滅茶苦茶可愛い。

俺は空気を吸込み。

 

「すぅ~~…今すぐ抱きしめたい…」

「会話になってないよ?」

 

果南はハハハッと笑いながら、どんどん商品を入れていく。

すると商品を入れる際に俺の耳元で静かに

 

「後でね?」

「ッッッ!?」

 

そう言うと果南は、俺から離れてお肉コーナーへ向かった。

色々と刺激が強すぎたが…ハグだけで俺は我慢できるのだろうか…。

その後、車に戻りハグだけで我慢できずキスもした……。

そして車を走らせて目的のキャンプ場に到着。

受付も済まして車に戻ると、外に出て体を伸ばしていた。

 

「受付してきたよ」

「ありがと、ここは空気が綺麗だね!」

 

ここは森に囲まれているキャンプ場だ。

地面には松ぼっくりも落ちている。

 

「松ぼっくり拾ってから、テント建てる所に行こうか」

「乾燥して傘が開いている松ぼっくりだよね」

 

松ぼっくりを何個か拾ってから、テントをはる場所へ。

そしてテントを完成させた俺と果南は、毛布に包まりリラックスする。

 

「ココア飲む?」

「うん、飲む」

 

ガスコンロでお湯を沸かして、お揃いのマグカップにココアの粉とマシュマロを入れ、お湯を注ぐ。

果南は俺のところに持って来てくれた。

 

「眠そうだけど寝る?」

「ん~…もうちょい起きてるよ」

 

ココアを受け取り、一口。

やっぱりマシュマロ入りココアは最高だ。

景色を堪能しながらボーっとするのが、俺にとって最高時間だ。

果南は本を取り出して読み始めた。

徐々にまぶたが重くなり、俺は抗うことなく目閉じた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ん?……ん~」

 

パチッと言う音が聞こえて目を覚ます。

辺りは薄暗くなり、焚き火台には火がついてる。

 

「果南…よく着けられたね」

「うわぁ!ビックリした。起きたんだ、おはよ」

「おはよ」

 

俺は立ち上がり、固まった体を伸ばす。

果南は本にしおりを挟み、ガスコンロに火をつける。

鍋にはスーパーで買った美味しそうな魚介が、赤いスープに浸かっていた。

 

「あと温めたら終わりだから。ちょっと待っててね」

「うん、ありがと」

 

果南は俺から視線を外し、鍋に集中する。

俺は先ほどまで果南が呼んでいた本を手に取り、中身を確認する。

 

「これって…」

 

中身は“イップス”に関しての本だ。

果南はやっぱり気にしているのだろうか…。

そんなことを考えていた時だった。

 

「あ…ははは、バレちゃったか」

「果南…気にしてたんだね」

 

果南はガスコンロを止めて、俺の隣に腰掛けて、両手を握ってきた。

そして果南は真剣な表情になり、口を開いた。

 

「この間、水泳の大会がテレビであったでしょ?」

「…うん」

「瑠璃が羨ましそうに見てて…泳ぎたいのかなって思って……私が瑠璃を連れ出さなければあそこにいたのかなって…だから遅いと思うけど、“イップス”について調べてた…」

「!!」

 

果南は目に涙を浮かべながら話した。

俺は、あの時がきっかけで水泳が嫌いになった。

しかし嫌いになったとしても、あの水の感覚を体が覚えている…あの美しさを心が覚えてる。

水泳の楽しさをまだ俺は覚えている。

そうか…俺はまた泳ぎたいのか。

だけど気づくのが遅かった。

水泳から足を洗って5年以上経っている。

体も衰えていて、あの時のトップスピードに戻るのは難しいだろう。

そこで俺はある隠し事を話した。

 

「実は…今日は果南に大事な話があるんだ」

「ん?」

 

目元をタオルで拭きながら聞いてくる果南。

俺は、鞄から小さな箱を取り出した。

 

「今日は果南の誕生日だからちょうどいいと思ってね」

「ッ!?」

 

小さな箱を見て何かを察したのか、果南は口元を両手で抑える。

綺麗な紫色の目から涙が流れ出した。

 

「俺はあの時に…果南姉が連れ出してくれなければ、今とは違う場所にいたと思う。けど俺にとってあそこ…水泳の大会よりも価値がある所を見つけたんだ。果南姉…いや、果南の隣がいま一番価値のある場所だ」

「ッッ!!?うん!…う…うん!」

「実はさ、来期から水泳部の監督をやる事になってるんだよ。果南のおかげでまた水泳に携わろうと思えたんだよ。」

 

果南の涙が止まらない。

その様子に俺も涙があふれてきた。

 

「だからこれは感謝の気持ち…それと俺からのお願いだ」

 

俺は片膝をついて、果南の前で小さな箱を開ける。

 

「松浦果南さん…これからも隣で感謝を伝えさせてください。そして僕とけっっっ!!??」

 

最後の言葉を言おうとした途端、果南は俺に勢いよく抱きついてきた。

その顔は涙でぐちゃぐちゃになっている。

小さな箱には大きな幸せがあると誰かが言っていた。

俺は、そう確信した夜だった。

 

 

 

〜said out〜

 

 

 

Happy Birthday 果南。

 

 





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【バレンタイン特別ストーリー】 みんなのバレンタイン



バレンタイン特別ストーリーです!どうぞ!


 

 

浦の星男子学院のとある教室で1人の男が口を開いた。

 

「2月14日!それは男たちがソワソワする日。普段ワックスしない奴が髪を立て始めたり、香水だなんて縁のないやつから香水の匂いがしたり!それぞれ男たちは胸を膨らませる…。それがバレンタインデー!!!」

 

机に足をかけ、拳は空を突き刺している。

もう日が落ち始め空はオレンジ色に、カラスも鳴いている。

 

「……大丈夫かお前?」

「んな!?お前はいいじゃねぇか!!姉と妹からもらえるんだろ?羨ましいぃぃぃ!!!」

「興味ねぇよ。んじゃ帰るわ」

 

俺は友人に一言言い残し帰路に着く。

明日はバレンタインデーだ。

元々は男性から女性にプレゼントを贈る日だが、ここ日本では女性が男性にチョコを贈る日になっている。

友人には興味ないといったものの俺だって男だ、正直チョコをもらえたらめちゃくちゃ嬉しい。

……貰えるよね?一応Aqoursのみんなとは関わっているし、貰えると思いたい。

ダメだ、いったんこの話は忘れよう。

俺はチョコの事を考えたからなのか口の中が、チョコを求め始めてる。

 

「甘いの食いて~」

 

俺はそんな思いに陥りながら玄関のドアを開け、家に帰宅した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

【松浦 果南のバレンタイン】

 

早朝。

いつも通りにランニングをしていたら、俺の前を走る見覚えのあるシルエットが。

少しスピードを上げ横に並走する。

 

「おはよ果南姉」

「お?瑠璃おはよ」

 

Aqours随一の体力お化けである松浦 果南がいた。

とりあえず挨拶を済ませて並走していると、果南姉が話しかけてきた。

 

「そう言えば今日は、バレンタインデーだね」

「ん?ああ、昨日友達が色々話してたよ」

「瑠璃は誰かにもらう予定なの?」

「ん~どうだろ。ダイヤとルビィからは毎年貰ってるかな」

「そっか!それじゃ…」

 

果南姉はスピードを緩めその場に止まる。

そして腰のポーチから何かを取り出し、俺に投げてきた。

 

「ハッピーバレンタイ~ン!」

「…いや、チョコ味のプロテインバーじゃん」

 

いやいや、果南姉らしいけども。

俺は手作りのチョコをだな……はぁ、まぁいいか。

何故か満足気の果南姉を見たら何も言えなくなった。

袋を開けて、受けっとたプロテインバーを食べる。

…うん、不味くもなく美味くもない。

とりあえず飲み込み、果南姉にお礼を言う。

 

「ありがと」

「ホワイトデーは3倍でいいよ」

「3倍も取るの!?何かは準備するから、それで勘弁して」

 

果南姉はエ~っと言いながらブツブツと文句を言っている。

残りのプロテインバーを食べて果南姉にある事を聞いてみた。

 

「剛さんには渡したの?」

「…………何がかなん?」

 

明らかに動揺が見えた。

少しからかってやろうと話を続ける。

 

「バレンタインだよ~!流石にサバサバした性格の果南姉でも、剛さんへのバレンタインでプロテインバーはないでしょ~」

「…たし」

「え?何でござるか~?」

 

あんまり聞こえなかったから、煽るように話した。

果南姉は恥ずかしそうに口を開いた。

 

「ちゃんと渡したし…手作りのチョコ」

 

唇を尖らせて、顔を赤くしながら告白する果南姉。

その姿に、果南姉も女の子だって事を改めて理解した。

 

「やるな果南姉。まさかそんな乙女な一面があったとは思わなかった」

「……どういう事?」

「いやいや、あの松浦 果南だよ?Aqoursのみんなに言ったら驚くでしょ!サバサバして物事にこだわりがない果南姉がまさかの本命には手作り!!いや~乙女だわ~」

 

俺ですら、果南姉の手作りチョコを貰ったことないのに、剛さんが少し羨ましい。

まぁ1人の姉貴が取られて悔しいみたいな感じだ。

 

「へ~瑠璃はそんなこと思ってたんだ?」

「へ?……なんか怒ってます?」

 

果南姉から何だか圧を感じる。

某海賊漫画の覇気のようなものだろうか!?果南姉は俺に近づき、拳を頭上に高く挙げた。

 

「つまり瑠璃は……私が乙女な一面もないサバサバした女の子と思ったってことでいい??」

 

あ…ヤバい…煽りすぎた。

だが後悔はない……ここで言い訳しても意味がない。

ならば覚悟を決めよう。

 

「……ごめんなさい」

「問答…無用!!」

 

そのまま果南姉の鉄拳制裁を受けある教訓を習った。

女の子はあまり煽るものではないと……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

【黒澤 ダイヤのバレンタイン】

 

「ただいま」

「おかえりなさ……どうしましたの?頭に大きなコブが着けて」

「ちょっとね……煽りすぎた」

「?」

 

俺の言った事に首を傾げて、台所に入っていったダイヤ。

俺は服を脱ぎ浴室へ向かった。

 

「瑠璃?」

「ん?」

「チョコを作りましたので、一口食べてほしいのだけど…」

「ああ、いいよ」

 

先ほど脱いだ汗だくの服をまた気が引ける為、上裸でキッチンへ。

そこには浦女の制服に赤いエプロンをしたダイヤが、チョコのラッピングをしていた。

俺が来たことに気付きこちらに振り向いた。

その顔は何故かしかめた。

 

「なんで裸ですの?」

「汗だくの着るのは、流石に嫌だからね。俺のこれ?」

 

色々あるラッピングの中から1つ取ろうとした。

その瞬間、手を叩かれた。

 

「痛い」

「このラッピングは、日頃お世話になってる。Aqoursの皆さんに渡しますの!あなたのは…」

 

そう言うとダイヤはチョコを爪楊枝に差し、俺の口元へ。

 

「あ…あ~ん」

「…どうしたの姉ちゃん」

 

余りにも衝撃すぎて昔の呼び方になってしまった。

するとダイヤ、自分の行動が恥ずかしかったのか頬を赤くし始め、口を開いた。

 

「ほ…ほら!早く食べなさい!チョコが溶けますわよ!」

「あ…ああ」

 

口元に持って来てくれたチョコを食べる。

うん、これは生チョコか…普通に美味い。

 

「ど…どうですか?」

「美味い」

「そ…それはよかったですわ!色々作りましたから食べて下さい」

 

するとまた口元にチョコを運んでくるダイヤ。

せっかく作ってもらったんだ、ありがたく頂くとしよう。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

【桜内 梨子のバレンタイン】

 

いつも通り自転車に乗り曜の迎えに行こうと思ったのだが、向かっている途中で[今日は来なくていいから]とメールが来ていた。

何だか文章の雰囲気から少し心配になる。

曜は毎年くれるし、今年も貰えるだろうと踏んだのだがな…。

そして学校に向かっている途中で珍しい人にあった。

 

「あれ?黒澤くん?」

「ん?お~桜内」

 

浦女前のバス停でバスから降りてきた桜内。

こんなに朝早くから何事だろうか?

 

「珍しいな、桜内がこの時間にいるの」

「うん、ピアノが弾きたくなって。黒澤くんは朝練?」

「まぁな…いつものことだ」

 

軽く話していると、そうだっと言いながら自分の鞄を開く。

そして鞄から取り出したのは何かに箱だ。

 

「はいどうぞ、ハッピーバレンタイン!」

「………………マジ?」

 

箱の正体はクッキーだった。

チョコチップが散りばめているクッキーとピンク色のクッキーだ。

 

「一応手作りだから……不味かったら「ありがとう!!!」キャッ!?え?黒澤くん?」

「うお~!マジか!?めちゃくちゃ嬉しいよ!ありがとう!」

 

桜内から貰えるとは思ってなかったからめちゃくちゃ嬉しい。

桜内の手を握り、感謝を伝える。

そんな俺の様子に困惑している桜内が口を開く。

 

「えぇ!?そ…そんなに嬉しいものなの?義理で作っただけだよ?」

「手作り!?いやぁ~感激だよ!貰えるとは思わなかったから、めちゃくちゃ嬉しい!ありがと!!」

「ッ!?」

 

早速ピンク色のクッキーを1口頂く。

ほんのりとイチゴの味がするクッキーだ。

 

「んまぁ!?これイチゴか!?」

「う…うん、そうだよ」

「マジありがと!超美味い!ん?」

 

再度感謝しようと桜内に目をやると、顔がうっすらと赤くなっている。

 

「…顔赤いけど大丈夫?」

「へぇ!?な…何でもない!!大丈夫!大丈夫だから!」

 

大丈夫そうなら大丈夫だろう。

俺は気にせずにクッキーを口に入れていった。

すると桜内が急に口を開き。

 

「それじゃ私行くね」

「おう!ホワイトデー楽しみにしとけよ!」

 

俺と桜内はその場を後にそれぞれの場所に向かった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

【1年生たちのバレンタイン】

 

朝練が終わり、教室に向かおうとした時だった。

校門に顔見知りの後輩が3人並んでいる。

そう浦男の校門前だ。

浦男でAqoursと関係があるのは俺だけだし、今日はバレンタイン。

校門前でプレゼントを貰ったら、めんどくさいことになる。

……よし!目を合わせないでおこう。

俺は隠れてその場をやり過ごそうとしたが…。

 

「見つけたわよ!リトルデーモン!!」

「あっ!お兄さんずら!」

「花丸ちゃんに善子ちゃん!あんまり目立つ様なことしないでよ〜」

 

Aqoursの1年たちにバレてしまったようだ。

俺はため息を吐きながら1年たちの元へ、そちらに行く際周りの生徒達の視線がズキズキ刺さる。

 

「なんか用か1年ズ」

「ちょっと!来てあげたんだから感謝しなさいよ!」

 

善子はどうやら俺の態度が気に入らないようだ。

俺は善子のお団子を掴んで引っ張る。

 

「男子校に女の子3人が俺の名前を呼んだらその後が大変何だよ」

「痛たたたっ!!離しなさいよ!」

 

俺は団子を離しルビィとずら丸を見る。 

 

「ピギィ…」

「ずら…」

「………次からは学校終わってから来るんだぞ?」

「うん!」

「ずら!」

「ちょっと!?扱いの差が違い過ぎない!?」

 

いやぁ無理でしょ?涙目でこちらを見るのはズルい。

善子が何か言っているがとりあえず無視。

 

「それで?何しに来たんだ?」

「はい!お兄さん!バレンタインずら」

 

丸はしっかりとラッピングされたチョコを俺に渡してきた。

するとそれに続き。

 

「はい!リトルデーモン!しっかりと味わうのよ」

「お兄ちゃん!いつもありがと!」

 

続いてルビィと善子が俺にチョコをくれる。

お〜妹分の3人からチョコを頂けるとは有難い。

 

「ありがたく頂かせていただきます」

 

俺はそれぞれ3人から袋を頂き中身を確認すると、棒の先端に丸いチョコがオシャレに着いている。

善子のは角と羽が付いたチョコで、丸のは花が付いている、ルビィは小さなハートが付いたチョコだ。

 

「おお…めちゃくちゃ本格的だ」

 

俺は1口食べようと口にした瞬間。

 

「アイツだぁぁぁぁぁぁ!!バレンタインチョコを手に入れた男は!!」

「締め上げろ〜!!」

「打首じゃゃゃぁぁ!!!!」

 

校門から残念ながらチョコを貰えてない男達が、俺に殺気発しながら走ってきた。

これがあるから浦男の生徒の前で受け取りたくなかったんだよ!!

俺はチョコを袋に戻し、走り出す準備をする。

 

「とりあえずありがと!!大事に食べる!!」

 

アイツらに捕まったらチョコ取られる!俺は全速力でその場を後にした。

 

「い…行っちゃったずら」

「…男子校って大変なのね」

「えへへ…お兄ちゃん喜んでくれた」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

【小原 鞠莉のバレンタイン】

 

何とかアイツらから逃げ切った俺は教室に着きしっかりと授業を受けた。

そして現在昼飯時なのだが、浦女と浦男の理事長である鞠莉姉に理事長室に来るようにと放送で呼ばれた。

一体なんなんだ?とりあえずノックしてから理事長室のドアを開ける。

 

「失礼します」

「チャオ〜瑠璃!」

「鞠莉姉何かあった?態々呼び出して…仕事の手伝い?」

「NO!私がそんな事の為に瑠璃の事を呼ばないわ!」

 

それならば一体なんなんだろ…。

すると鞠莉姉は鞄から小さな箱を取り出し、俺に渡してきた。

 

「ハッピーバレンタイン瑠璃!チョコをあげるわ!」

「おっ、ありがと…まさかこの為に呼んだの!?」

「ええそうよ」

 

その為に放送で呼ばれるとは、思わなかったぜ。

まぁありがたく受け取るけど…。

それにしても箱から分かるぐらい高級感溢れる凄いチョコだな。

 

「これいくらぐらいだったの?」

「さぁ?10万円ぐらいかな?」

「10万!?マジかよ…」

 

夏にシャイ煮を作った時もだけど、金銭感覚がどこかおかしい鞠莉姉だ。

これは大事に食べよう。

俺は鞠莉姉からチョコを受け取ろうと手を伸ばした。

 

「?…鞠莉姉手の怪我どうしたの?絆創膏貼ってあるけど」

「え?…ああ!少しクッキングをして見たんだけど慣れなくて怪我しちゃったの!気にしないで?」

「ふ〜ん…」

 

鞠莉姉が料理するのは珍しいな。

しかし気になるものを俺は見つけた。

 

「足元に置いてある赤い袋のは?」

「え?…あ…」

 

見た目からして普通の紙袋だ。

 

「瑠璃の為にバレンタインのチョコを作ったら失敗しちゃって…あまり美味しくないし……けど勿体ないから私のおやつにしてるの!だから瑠璃はその高級なチョコを食べてね!」

 

少ししおらしく答えた鞠莉姉だが、直ぐに何時もの鞠莉姉に戻った。

しかし、俺の為に作ったと直接言われるのは少し恥ずかしいな…。

俺は鞠莉姉の足元にある袋を拾い開ける。

 

「ダ…ダメよ瑠璃!あまり美味しくできなかったから…」

 

鞠莉姉の静止を無視しチョコを取り出す。

歪な形をしたハートのチョコ。

とりあえず口に運び食べる。

 

「ちょ…ちょっと!何で無視するのよ!」

「……うん…美味しいよ鞠莉姉」

「え?ほ…ホント?」

「うん!寧ろ高級なチョコをくれるよりは、鞠莉姉が頑張って作ってくれたチョコの方が何万倍も嬉しいよ。ありがと鞠莉姉」

「ッッ!?……そ…そう…それならそのチョコレートをあげるわ!せっかくだしチョコに合うコーヒーも入れるわね」

 

鞠莉姉はコーヒーを入れようと、理事長席から離れる。

俺の横を通り過ぎた際に嬉しそうにニコニコしながら鼻歌を歌っていた。

俺は鞠莉姉の作ったチョコを口に入れながらコーヒーを待つ事にした。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

【高海 千歌のバレンタイン】

 

「お前もか……」

「あ!ルーくんいた!」

 

学校終わり…千歌が校門の前にいた。

案の定周りの男達からの視線が痛い。

 

「今日は練習ないのか?」

「うん!今日はダイヤさんと鞠莉ちゃんが忙しいみたいだからおやすみなんだ」

 

ダイヤと鞠莉姉か…後で手伝いに行こうかな。

適当にそう考えていたら千歌が自分の鞄から袋を取り出し渡してくる。

 

「はい!チョコだよ!」

 

予想通りバレンタイン関係だった。

まぁありがたく受け取るが…。

 

「とりあえず場所移動しながらでいいか?ここだとちょっと」

「?…うん!わかった!」

 

こうして俺と千歌は歩きながら話し、近くの公園へ。

そして改めて

 

「はい!ハッピーバレンタイン!えへへ」

「ありがと、中見ていいか?」

「どうぞどうぞ!自信作なんだ~!」

 

千歌はニコニコしながら俺が箱を開けるのを見る。

開けると中からオレンジと甘いチョコの香りが漂い、鼻孔をくすぐった。

そこにはオレンジピールにチョコをコーティングしたものがあった。

 

「おぉ…もしかして手作りか?」

「うん!ちょっとお父さんに聞きながら作ったよ」

 

確か千歌の親父さんは、旅館の料理長だったな…。

まさかデザートまで作れるとは…。

しっかりと両手を合わせて…。

 

「いただきます」

「ど…どうぞ」

 

1つ摘まみ口に入れる。

甘いオレンジの味にそれを包む様にチョコの味が…凄く調和されて滅茶苦茶美味い。

 

「美味い」

「本当!?いや~良かったよ~!実は何回か失敗してようやく出来たものなんだよ~!」

 

アハハハハっと頭を搔きながら答える千歌。

そうか…気持ち込めて作ってくれたのか…やはり気持ち込めて作って貰ったものは嬉しいな。

そのまま俺は食べ進めようとした時、視線を感じたので千歌を見る。

そこには涎を垂らしてこちらを見てる千歌がいた。

 

「……食うか?」

「え!?いいの!?」

「お…おう」

「あ~~」

 

千歌は口を開けこちらに向けてきた。

え?なんで?俺が口に入れるの!?

 

「ルーくんまだ~」

「お…おう!い…いまやるから」

 

千歌はまだ~っと言いながら待っている。

なんで俺が…千歌は恥ずかしくないのか?いや…千歌は何処か抜けている事があるし、無意識なんだろう。

俺は1つ摘まみ千歌の口へ、オレンジピールを運ぶ。

普段見ることない口の中が見える事に、何かすごいドキドキする…。

 

「ん~美味し~~~!!!」

「…もっと食べたいなら、自分で取れよ」

「ううん!もう大丈夫!……ルーくんから食べさせてもらいたかっただけだし」

「!!!…お…おまえ…」

 

クソ…やられた…。

千歌はイタズラが成功した子供のように、笑みを浮かべてこちらを見ていた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

【渡辺 曜のバレンタイン】

 

さてAqoursのみんなから無事にバレンタインのチョコをいただいたが……1人だけもらってない人がいる。

毎年チョコを準備してくれている曜だ。

何かあったのだろうか…そう思い来たのはとある展望水門へ。

エレベーターから降りてベンチを見るとそこには

 

「曜」

「へ?瑠璃くん」

 

曜は何か悩み事や思い詰めている時はここで船を見ている。

隣のベンチに座る。

 

「何かあったか?」

「別に…」

「あっそう。んじゃ…ん」

「?」

 

俺は曜に手を差し出す。

曜はキョトンとした顔で首を傾げる。

 

「俺さ…毎年曜からのチョコ楽しみにしてるんだけど……今年はないのか?」

「……ある」

 

曜はそう言うと鞄から箱を取り出した。

しかしその箱は少し潰れていた。

 

「朝、瑠璃くんを待ってるときに転んで……箱がつぶれちゃったんだよね」

「…それで渡すのが恥ずかしくなって、渡せなかったって事か」

「…うん」

 

だいぶしおらしくなった曜。

曜の持ってる箱を奪い、リボンをほどいて見て見ると、潰れているマカロンが散乱していた。

これは……ショックだよなぁ…更にマカロンか…。

 

「あははは、また後日ちゃんとしたのを渡すね」

「そっか……んじゃこれいらないんだよな?」

「え?う…うん。帰って私が食べようかなって」

 

俺は潰れてるマカロンをそのまま口に入れた。

その姿を驚いた様子で見る曜。

 

「えぇ!?ちょっと瑠璃くん!?また後日ちゃんとしたの持っていくから」

「そうか…ありがと。けどこれは食う」

「な!なんでよ~!」

 

曜は俺の右腕をポカポカと叩きながら聞いてきた。

俺は口いっぱいに食べてるマカロンを飲み込み、曜の目を見て答えた。

 

「曜が心を込めて作ってくれたバレンタインだ。まずいわけないだろ?けどこれじゃ足りないな……また作ってくれるか?」

 

曜はそんな俺の様子を見て、涙目で笑顔になってくれた。

 

「も~~!瑠璃くん優しすぎだよ~!」

「痛い痛い…叩くな叩くな」

 

また強く腕を叩いてきた曜だったが、自分の涙を拭いてベンチから立ち上がった。

両手を俺の頬に当て、俺は曜の顔に視線を向けた。

 

「本当に…優しすぎるよ。ありがとね瑠璃くん」

 

曜の顔は赤くなりながらこちらを見ていた。

夕焼けが曜を照らしており、その姿はとても綺麗に見えた。

 

「…おう」

「ひひひ、よ~し!!明日また持ってくるね!!ありがと瑠璃くん!」

 

そう言い曜はその場を去った。

この建物には俺だけだろう…それにしても“マカロン”か……。

確かバレンタインでマカロンを送る意味は……いや曜のあの態度だ深い意味はないだろう。

残された俺は曜のマカロンを食べて、その場を後にした。

 

 

 

 

 

~♢Happy Valentine♢~

 

 

 





皆さんハッピーバレンタイン!!
糖分は足りましたでしょうか?

感想・評価お待ちしてます!!


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第1期
プロローグ


初めまして!お久しぶりです!

仕事も落ち着き体調も何とか復活しましたので、宣言通り(3年ぶり)にリメイク版を投稿させていただきます。
この3年間色々なことがありましたが…それは置いといて…。

3年間お待たせして申し訳ございませんでした!!!


それではリメイク版をどうぞよろしくお願いします。


 

 

 

 

水は生き物だ。

飛び込めば牙をむき襲い掛かかってくる。

だがしかし、拒まずに受け入れれば、水は美しい生き物となる。

 

 

俺は、この言葉を当時のスイミングスクールのコーチに教えてもらったのを今でも覚えている。そして、その言葉の意味も理解できる。

 

その美しさを知ることができたから俺は〖水〗が大好きだ。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

湯気が立ち上がる浴室の中に俺はいた。

どうも初めまして、黒澤 瑠璃(クロサワ ルリ)です。

朝のお風呂が俺の日課の一つだ。

 

「まずい…眠気が…」

 

時間は朝の6時ごろ、まだお天道様も登り始めた時間帯。

しかし、同時にこの眠気が飛ぶ時間帯でもあるのが俺の日常でもある。

 

「瑠璃!!いつまで浴槽につかっていますの!?」

 

いつも通りにノックもせずに扉を開け、鋭い目がいつもよりキレが増している実姉。

黒澤家の長女、黒澤 ダイヤ。

 

「毎回言っているけどさ、ノックぐらいしろよ」

「ノックしましたわよ。だいたいあなたは…」

 

始まったよ…またグチグチと。

一応これでも今の所は将来の黒澤家の網元を継ぐ予定である。

大丈夫か?うちの家系は…?まぁ俺が気にする話ではないない。

目の前でわめいているダイヤを放っておき立ち上がる。

 

「ちょ!?瑠璃!!女性がいるのですからいきなり立ち上がるのはやめなさい」

「は?わかっていて入ってきたんじゃないのかよ…ほら着替えるから出てってくれ」

 

バタンッ!!と勢い良く顔を赤くして扉を閉めるダイヤ。

それによく確認してほしいものだ。

 

「俺は水着をはいているのだが」

 

俺の朝風呂は水着を着用する。

何となく続けていたら癖になってしまいルーティンに取り入れている。

 

「さっさと着替えよ」

 

乾いたタオルで全身の水気を拭き取り制服に着替える。

すると、コンコンっと控えめにノックの音が聞こえた。

 

「お…お兄ちゃん」

「ルビィか、おはよ」

 

声の主は、妹の黒澤 ルビィだ。

気が弱く泣き虫なのが難点だが、そんなところも可愛い大事な妹だ。

 

「お…おはよ。またお姉ちゃんと喧嘩したの?」

「いつもの事だよ。風呂入っていたらいきなり来て裸を見て赤くして出てったよ」

「そ…そうなんだ…」

 

ルビィの話を聞きながらネクタイを結び扉を開ける。

目の前にはいきなり出てきた俺にビックリしたのか、小さくピギィっと呟き驚くルビィ。

ルビィの頭を軽く撫で洗面所玄関に向かう。

 

「そんじゃ朝練行ってくる」

「…今日もご飯食べて行かないの?」

「……」

 

俺は高校に上がってから諸事情であまり家ではご飯を食べる事がなくなった。

原因はただの黒澤家の当主への反発だ。

 

「ルビィ…何をしている?早く着替えなさい」

「ピギィ!?は…はい!お父様!!」

 

急に現れたこの男は黒澤家の現当主…俺の親父だ。

ルビィも親父への対応が苦手のようで自分の部屋へ一目散に向かった。

親父との間に一瞬沈黙が流れるが、親父は俺に目もくれずその場を後にした。

まぁ…いつものことだ。

玄関の扉に手をかけ。

 

「行ってきます」

 

やり場のない様々な感情に背を向けて家を出た。

これが黒澤 瑠璃の朝の日常。

 

 

 




ということでプロローグでした。

前書きにもありましたが、本当にお待たせしてしまい申し訳ございませんでした。
この作品のリメイク前の話は非表示にさせてもらっています。
また、この三年間生死をさまよったり、人生の分岐点があったりと濃い三年間でしたが、ここにまた投稿することができて嬉しく思います。

文章の完成度など未熟ではありますが、趣味の範囲で頑張りますので宜しくお願い致します。







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第1話

早速ですが、第1話です。
よろしくお願いいたします。


 

 

朝の海の香りを嗅ぎながら目的の場所へ自転車で向かう。

大好きな内浦の海を見ると朝から漁師の方々がせっせと働いている。

 

「お~い!瑠璃く~ん!!」

 

目的の場所には既に友人がおり、こちらに気づくと笑顔で手を振ってくる。

友人の目の前に自転車を止め。

 

「おはよ曜。今日も元気だな」

「おはヨーソロー!私は何時でも元気であります!」

 

渡辺 曜(ワタナベ ヨウ)

彼女とは小学校から同じスイミングスクールで、今でも関わりがある友達だ。

いわゆる幼馴染と言ったものだ。

 

「はいこれ!どうせ今日も朝ごはん食べてないでしょ?」

「いつも悪いな」

 

俺が家で食事を取らない事を知っている曜は、定期的に弁当に包んで渡してくれる。

最初はコンビニなんかで済ましていたが曜がそれを許してくれなかった。

受け取った包みを鞄に入れて、自転車の後ろをトントンと叩く。

 

「今日も高海の家までだろ?送る」

「うん!ありがと!」

 

曜が後ろに座ったことを確認し、自転車を漕いだ。※

高海の家までだいたい15分ってところだ。

 

「瑠璃くん!最近、水泳はどう?」

「ん?まぁボチボチだな。今年こそ全国決勝行きたいしな、曜は高飛び込みどうなんだ?」

「今年の目標は全国大会出場!!は行けると思う!」

「ははっ!それは楽しみだ」

 

こんな感じでお互いの近況や部活の話をしながら自転車を漕いでいたら、15分はあっという間だ。

大きな旅館の前に到着し自転車を降りる。

 

「相変わらず立派な旅館だよな」

「千歌ちゃん家は旅館経営だからね~。瑠璃くんも千歌ちゃんに会ってく?」

「高海はどうでもいいけど、しいたけには挨拶しとこうかな」

「ひど~い!」

 

曜はケラケラ笑いながら答える。

そしてそんな高海家には大きな犬がいる。

 

「バァウ!!」

 

毛むくじゃらで目元まで長い体毛の大きな犬だ。

 

「おお、しいたけ元気か~??相変わらずモフモフしてるな~」

「バァウ!バァウ!」

 

しいたけの頭を撫でながらスキンシップをとる。

 

「瑠璃くんはしいたけ好きだよね~」

「このモフモフ感やばいだろ」

 

犬好きの俺からしたら、しいたけは理想に近い犬だ。

俺も将来は大型犬でモフモフした犬と暮らすんだ!!

 

「お待たせ~!曜ちゃんにルーくんおはよ!!」

 

アホ毛を揺らし橙色の髪をした高海が玄関から元気よくでてきた。

彼女の名前が、高海 千歌。

彼女とは曜経由で紹介された中学からの知り合いだ。

 

「千歌ちゃんおはヨーソロー!」

「おはよ高海、うるさいぐらい元気だな」

「ルーくんいまバカにしたでしょ!?」

 

おっと口が滑ってしまった。

まぁこれくらいの軽口はいつも通りだ。

 

「曜はここから高海とバスだよな?」

「うん、いつも送ってくれてありがとね」

「弁当作ってもらっているし、たいしたことない」

「ルーくんいいなぁ!曜ちゃんの弁当」

 

高海が羨ましそうにこちらを見る。

その視線に少し自慢したくなる。

 

「いいだろ?マジで曜の弁当は美味いからな!毎日作って欲しいぐらいだ」

「ま…毎日!?」

 

何故かそこに反応する曜。

ん?なんか顔赤い?そんな姿を見た高海はニヤニヤしながら。

 

「曜ちゃん毎日だって~!良かったね~」

「う…うるさい…」

「?」

 

まだ顔が赤いが熱はなさそうだし大丈夫だろう。

自転車に跨ぎ、曜と高海に

 

「そんじゃ俺は学校向かうよ…朝練ももうすぐだし」

「う…うん!朝練ファイトであります!!」

「また明日ねルーくん!」

 

俺は朝練に間に合うようスピードをだした。

今日も1日頑張るか。

 





※自転車の2人乗りで公道を走る事は道路交通法で禁止されています。あくまでフィクションとしてお楽しみください。



ご感想・評価をよろしくお願いいたします。


≪誤字報告ありましたので編集いたしました!ありがとうございます!≫




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第2話

編集しました!
理由は第3話に投稿する内容が予想よりも、文字数が足りなっかので、追加させて頂きました。改めてよろしくお願いします。




 

 

浦の星男子学院。

浦の星女学院の姉妹校で、その名前の通り男子校だ。

そして俺は浦の星男子学院の水泳部に所属している。

水泳部の朝は15分間のストレッチから始まり、10分×3の体幹トレーニングで終了。

朝練自体は自主参加で人もまだらの中、1人の男が近づいてきた。

 

「瑠璃来ていたか」

「あ…先輩お疲れ様です。」

「ん」

 

水泳部の主将(ツヨシ)先輩。

バタフライでは全国常連選手でもある。

眼光も鋭くて肩幅が広い、尚且つ身長もあるためよく怖がられる事が多いが実は…。

 

「…腹が減った」

「そ…そっすか。朝食べてないのですか」

「5杯は食べた」

「けっこう食べましたね」

「どんぶりで」

「めっちゃ食べましたね」

 

少し抜けている所がある。

どんぶり5杯ってやばくね?取り敢えず先輩との話を切り上げて体幹に入ろう。

はぁ…水に浸かりたい。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「はぁ~~~……」

 

学校が終わり帰り道。

まさかのプール点検により、今日の部活は一先ず休みとなった。

俺の癒しを返してくれ。

 

「はぁ…曜の家行こ」

 

とりあえず自転車を押しながら曜の家に空の弁当箱を渡す。

 

「今日も美味かったな……ん??」

 

たまたま海の方を見たら、見慣れない制服を着た美少女がジーっと海を眺めている。

観光客か??しかし周りに誰もいないなら迷子の可能性もあるな。

 

「あんた大丈夫か!?」

「……」

 

聞こえてないみたいだ。

仕方がない…俺は自転車を駐車し美少女の元へ向かおうとした時だった。

バッシャーン!!っと誰かが飛び込む音がしたと同時に美少女がいなくなっており、着ていたであろう制服が無造作におかれていた。

 

「噓だろ!?まだ4月だぞ!?」

 

俺は制服のブレザーを脱ぎ海へ飛び込んだ。

運がいいことに深く潜っていなかったためか、女の手を掴み何とか浜辺に引き上げる。

彼女は俺がいることに驚いたのか目を丸くしている。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

「ゲホゲホ!はぁ…はぁ」

 

海に飛び込んだ際に少し水を飲んでしまい息が苦しい。

落ち着いてきたと同時に女を見る。

 

「おいアンタ!!」

「は…はい!!」

「こんな寒い4月に海に入るバカがいるか!!死んだらどうするんだ!?」

「え…えっと……ごめんなさい」

 

何か事情でもあるのか?一先ず反省していそうだ。

鞄から乾いたタオルを取り出し、水着姿の彼女に渡す。

 

「あ…ありがとうございます」

 

彼女はタオルを受け取り、体を拭き始める。

俺はそれを確認してから自分の体を拭く。

 

「…」

「…」

 

聞こえるのは、海の波の音と風の音のみ。

き……気まずい。

それによく考えてみろ、水着の美少女に濡れた制服を着ている男。

知り合いにでも見られたら色々めんどくさ…

 

「ルーくーん!!!」

 

ちくしょう!一番見つかりたくないやつに見つかった!!

俺のことをルーくんと呼ぶのは1人しかいない。

あいつ……高海 千歌が俺を見つけるや否や全速力でこっちに向かって来ている。

 

「夕方なのに元気だなお前は」

「そんなことないよ!」

 

そんなことあるだろ。

高海のアホ毛が犬の尻尾のように揺れているが、きっと気の所為だろう。

すると高海は、いまだ水着姿の彼女に指を指し。

 

「そんなことよりルーくん!!」

「人に指を指すものじゃないぞ」

「この子誰!?」

「何て説明すればいいのか…」

「まさか…曜ちゃんに黙って彼女でも作ったの!?」

「何で曜が出てくるのだよ、関係ないだろ」

 

そこで曜の名前が出てくるのは謎なのだが…。

というか、高海の元気さにあっけにとられている彼女はまだ水着だった。

俺は脱いでいたブレザーを拾い彼女の肩にかける。

 

「寒いから早く着替えろよ」

「ご…ごめんなさい」

「いや、謝られても…」

「ちょっと!千歌を無視しないでよ!!」

 

あ~~めんどくせぇぇぇ!!!

とりあえず俺は一から高海に状況の説明をした。

 

 

「な~んだ!そういうことだったんだね」

「そうそう…だから変な誤解はしないでね」

 

何とか説明し理解してもらい一安心

そして、先ほどまで水着を着ていた彼女も制服を着て、俺のブレザーを渡してきた。

 

「あの…黒澤くん…制服ありがとう」

「ん…もう変なことするなよ桜内」

 

高海に状況の説明をしている時に彼女の事もわかった。

桜内 梨子(サクラウチ リコ)

東京出身でピアノをやっているとのこと、しかしあることからピアノが弾けなくなったそうだ。

そしてそのトラウマを払拭し、海の音が聞く為に海へ飛び込んだようだ。

うん…わからん…。

 

「私は…海の音が聞きたくて」

「だったらダイビングショップに行けよ…近くにあるし」

 

どうやら自分の体は二の次のようだ。

にしても体張りすぎだろ。

さてと、俺は曜に弁当箱届けて帰ろう。

 

「そんじゃ高海、あとよろしく」

「えぇ~!!ルーくん帰るの!?」

「制服濡れたし早く帰りたいからな」

 

倒れている自分の自転車を立たせて乗る。

クソ…濡れたYシャツが肌に張り付いて気持ち悪い。

 

「そんじゃ頼んだぞ」

「む~…仕方がないな…」

「じゃ、桜内も」

「うん…ホントにごめんね」

「おう」

 

挨拶をすませて、自転車を進める。

早く用事を終わらせて風呂に入ろう。

 

「そうだ!!ルーくん!!!」

 

……今度は何だ…。

進んだ道を戻り、高海の前に止まる。

 

「…何?」

「そ…そんな顔しないでよ…顔怖いよ?」

 

ついつい顔に出ていたようだ。

と言うよりも早く本題を話してほしい。

 

「ルーくん私ね」

「おう」

「スクールアイドル始めようと思うの!」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『瑠…瑠璃…』

『ん?なんだよ姉ちゃん』

『わ…わたくし…スクールアイドルを始めようと思っていますの』

『え!?ホントに!?それならライブがあったら応援しにいくよ!!』

『!?…ありがとうございます。その時は期待していますわ』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「?…ルーくん??」

 

!!…スクールアイドルと聞いてつい昔の事を思い出してしまった。

高海こちらを不思議そうに見ている。

 

「そっか、スクールアイドル頑張れよ」

「うん!ルーくんも応援してね!」

「おう!頑張れよ」

「へへへ!ありがと!」

 

高海は嬉しそうに笑みをこぼし、桜内の所へ戻る。

俺はそんな高海の後ろ姿が太陽のように眩しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





評価・感想よろしくお願いします!


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第3話


よろしくお願いします!


 

 

 

桜内との騒動から次の日の朝。

いつも通りに曜の家に向かう。

 

「高海がスクールアイドルか…」

 

前日の高海との会話を思い出す。

高海は曜と同じ浦の星女学院に通っていたはずだ。

さらにそこの生徒会長は俺の姉である、黒澤 ダイヤだ。

ダイヤがスクールアイドルを了承するとは思えないが、大丈夫なのだろうか…。

そんなことを思いながら、曜の家に到着。

玄関には既に曜が立っていた。

 

「お…おはよ~!はい弁当」

「おはよ。いつも悪いな」

 

気のせいだろうか、何だか曜の様子がおかしい。

とりあえず弁当を受け取り鞄にしまう。

そして曜は、俺の後ろに座り。

 

「ぜ…全速前進!」

「お…お~」

 

ペダルを漕ぎ前へ進む。

目指すは高海家なのだが、なんだが変だ。

 

「…何かあったの?」

「へ!?な…何が!?」

「いや、明らかに様子が変だから聞いたんだけど」

「何でもないよ!?」

「……まぁ別にいいけど、何か相談があれば何時でも話せよ」

 

聞かれたくない事なのだろう。

これ以上深掘りしないでおこうと思い、俺は自転車の運転に集中した。

すると後ろから深呼吸をして何か覚悟を決めた曜が俺に話しかけてきた。

 

「ふ~…ねぇ瑠璃くん」

「ん~?」

「私ね、千歌ちゃんの始めようとしているスクールアイドル…やろうかな~って思ってるんだよね~」

「ふ~ん……はぁ!?」

「うわっとと!!」

 

まさか曜からスクールアイドルの話がでて驚いた。

自転車を急ブレーキして、曜を見る。

 

「曜がスクールアイドル!?」

「…ちょっと…その反応は何さ」

 

何故か不服そうにこちらを見る曜。

言い方に不満でもあったのだろうか?それよりも、俺は本題を切り出す。

 

「お前…高飛びどうするの?」

ああ…そっちね…もちろん!続ける予定だよ!」

 

どんな意味で捉えたのだろうか?まぁ高跳びは続けるのか…。

俺は曜が高飛びを楽しそうにしているのが好きだ。

それを辞めてしまったら少し悲しい。

とりあえず自転車を漕ぎだす。

 

「まぁ続けるならよかったけど…。そっちってなにが?」

「ん?」

「いや、さっきそっちか~って言ったじゃん」

「!?いや、何でもないよ!?」

 

いきなり顔を赤くする曜。

赤くなる理由が分からないが、赤くしている曜はまた珍しい。

 

「何でもないはないだろ?気になるし」

「う~~~……かわいくないから似合ってないって思われたかと思ったの!!!」

「…はい?」

 

曜は恥ずかしいのか、顔を先ほどより赤くして答える。

可愛くない?曜が?何を言っているんだこいつは。

 

「お前さ…もうちょい自信持てよ。曜はちゃんと可愛いぞ」

「え!?」

 

曜は両手で頬を抑え、顔をさらに赤くした。

珍しく恥ずかしがっている曜に、少しちょっかいかけたくなる。

 

「まだまだあるぞ?いつもはボーイッシュな曜だが俺のために作ってくれている弁当が嫁度を引き出している」

「は…はぁ!?きゅ…急になに!?」

「実は乙女な一面もあるのがまたギャップを感じさせて可愛い」

「わ…わかったから…もう」

「隠していると思うけど、実は制服オタクなのも知っている」

「何で知ってるの!?」

「曜ママに教えてもらった」

「何で教えてるのお母さん!!」

「まだあるけど…言っとく??」

「もう…大丈夫…です」

 

今の曜は真っ赤と言う言葉がぴったりなぐらい顔赤い。

たまには曜をいじるのも楽しいなと思いながら自転車を漕ぎ、高海の家に到着した。

 

「到着~」

「ん、ありがと」

 

少し不機嫌な顔を見せる曜。

ちょっかいをかけすぎたようだ。

 

「え~っと…曜?」

「…なに」

「なんだ…すまなかった。流石にデリカシーなかった」

 

よくよく考えたら、女性…ましてや曜にかわいいと公共の場で言ったのはデリカシーがないような気がする。

曜が可愛いのは変わりないのだが。

 

「そんなこと…」

「これから気を付ける」

 

自転車にまたがり、俺は学校へ向かおうと漕ごうとした瞬間。

曜がうつむいた状態で俺の腕を掴んだ。

 

「瑠璃くん…私いままでそういう風に言われたのが初めてで…その恥ずかしかったけど」

 

うつむいていた顔が上がり、俺と目が合う。

その顔は変わらず赤くなっていたが笑顔だった。

 

「嬉しかった…その、ありがと」

「っ!?」

 

その笑顔は変わらず愛しく、不覚にもドキッとしてしまった。

徐々に胸から何かがこみ上げて来るのを察した。

 

「そ…そか!うれしかったならよかった!俺もう行くな!」

「うん!いってらっしゃい!」

 

何とかその場を後にしたが、俺の心はざわめいていた。

 

「ちくしょう…やっぱり可愛いじゃねーか…」

 

学校に着くまで、4月の冷たい海風で火照った顔を冷やすことにした。

顔が赤くなったのバレてないよな?

 

 

 

 





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第4話

よろしくお願いします!


 

 

今日は、浦の星男子学院の入学式だ。

自分の席から見える校門にはまだ制服を着なれてない男子たちが次々と入ってきている。

この中から水泳部に入部する人もいるのだろう、楽しみだ。

 

「黒澤~!先輩が呼んでるぞ~!」

「ん?ああ、ありがと」

 

入口を見ると剛先輩がいた。

何のようだろうか?

 

「おはようございます」

「ああ、おはよう。今日、入学式で部活の練習休みだからその連絡をしにきた」

「げ、マジっすか」

「ホントにお前は水泳が好きだな」

 

入学式で部活がないと早めに帰ることになるから、それが嫌なだけだが。

まぁ別に水泳が嫌いというわけでもない。

 

「そういえば今年の入部希望者が何人か部室に来ていたな」

「早いですね、何人くらい?」

「3人だ。中々生意気そうな奴らだったよ」

「生意気って…」

 

言葉選びが少しおかしいが言いたいことは伝わる。

うちは一応、全国常連の部活出し成績を残している奴らが入る事は多い。

そのためか少し天狗状態でくる新入部員もいる。

 

「去年の瑠璃も中々生意気だったからな」

「やめてくださいよ」

 

実は俺もその1人だった。

昔の話だし、あまり思い出したくない黒歴史でもある。

 

「まぁ、まだまだ増えると思うから教育頼んだぞ」

「え?俺が教育係ですか!?」

 

浦男水泳部の教育係。

基本的には一年生の教育を主にする係だ。

更に、時期部長になるというジンクスもある。

俺が1年の頃は、剛先輩が教育係だった。

 

「まぁ去年と同じ感じで……軽く折っていいから」

 

折るとは、天狗状態の奴らの鼻を折るという意味だ。

浦男水泳部名物の一つでもある。

ついでにこの餌食を食らった1人も俺だ。

目の前にいる剛先輩にボコボコに折られました。

 

「懐かしいですね…。とりあえず了解です。部活開始は?」

「来週からだ。新入部員も明日から来るからよろしく」

 

来週か…今日可能なら、軽くS1*1以外調整しておきたいな、スクールでプール借りよう。

 

「とりあえず以上だ」

「ありがとうございます」

 

剛先輩は軽く俺の肩を叩きその場を後にする。

とりあえず帰りスクールに寄ろうかな、ついでだし曜も誘ってみる事にしよう。

俺は曜に連絡を入れたタイミングで、鐘が鳴る。

席の戻り、今日も学校生活が始まった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

入学式も終わり、スクールへ向かう途中の出来事。

 

「あ、ルーくん!」

「お…お兄ちゃん」

 

高海に抱き着かれている天使……ルビィがそこにいた。

周りには曜に、ルビィの友達もいた。

 

「何やってるのお前…」

「スカウト中です」

「そんなドヤ顔で言われても…妹何だ、離してやってくれ」

 

そう言うと少し不服そうにルビィを解放する高海。

ルビィはそのまま俺の後ろに隠れた。

するとルビィの友達が俺の前に、

 

「お兄さん!お久しぶりです!」

 

嬉しそうにニコニコと挨拶する丸。

この子は、国木田 花丸(クニキダ ハナマル)

ルビィとは中学からの友だちのようで、ルビィ経由で何度か会っている。

 

「今日は学校終わりずら?」

 

この特徴的な語尾はどうやら方言のようで、最初は驚いたがもう慣れた。

 

「今日は入学式だけだったからな、確か浦女もだったよな。入学おめでとう」

「ずら!」

「あとルビィもおめでとう」

「うゅ…」

 

とりあえずルビィの頭に手を置き、撫でるように動かす。

 

「~♪」

 

ルビィは嬉しいのか気持ちよさそうに目をつぶる。

それを見た丸が何故か羨ましそうにこちらを見ている。

 

「お兄さん!ま…丸も入学したずらよ?」

「え?あ…うん、おめでとう?」

「そうじゃないずら!丸も!入学したから撫でられる資格があるずら!さぁ!お兄さんどうぞ!!」

 

なんというとんでも理論だろうか。

丸も頭を撫でて欲しいようで、頭を出してきた。

一応女の子だし、頭に触れるのは気が引けるが、撫でてほしいのなら仕方がない。

丸の頭に手を置き、ルビィと同じように撫でる。

 

「ずら~~♪」

 

ご機嫌になったようで何よりだ。

右手にはルビィ、左手には丸と、落ち着いて状況判断をしたが…。

これは両手に花ではないだろうか。

 

「瑠璃くんって年下に甘いよね~。スクールでもそうだった気がする」

「いや…これは抗えないだろ」

「わからなくもないけど…」

 

むしろ断ったら俺が悪いみたいじゃないか。

そういえば、

 

「メールしたけど見た?」

「見たよ!けど今日は千歌ちゃんの家に行く約束あるから行けない!」

「そうか、それなら仕方ないな」

 

曜にフォームのチェックをお願いしようとしたが仕方がない。

スクールの先生にでも頼もう。

さてと、いい加減2人をなでるのを止めてスクールに向かおう。

 

「んじゃ、俺は用事あるから」

「先生によろしくね!」

 

他の3人にも挨拶しその場を後にし、俺はスクールへと自転車を漕いだ。

 

 

 

 

*1
専門種目や得意種目のこと





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第5話

よろしくお願いします!


 

スクールで無事にプールを借りることができた。

一通り調整もしたので、来週からの部活も大丈夫だろうと思った矢先だった。

携帯電話がなったため確認すると、画面には黒澤 ダイヤと書かれている。

ダイヤから電話が来るのは珍しいことだ。

特に思い当たる節もないが、ここで電話にでなければ後々面倒でもある

 

「はぁ…何だろ…もしもし」

「もしもし、瑠璃?」

「はいはい、なんだよ」

「えっと…お母さまから今日お夕飯は食べるのかと伝言ですわ。それと今日は魚の煮付けのようですわよ」

 

魚の煮付けは、俺の大好物の食べ物だ。

夕飯食べたいのは山々なのだが、親父も一緒のため気が引ける。

仕方ない…今回も断ろう…。

 

「悪いけどやっぱり…「ルビィが久々に一緒にたべたいなって呟いていましたわ」バカ!それを早く言え!」

 

ルビィからの誘いなら断る理由はない。

まぁ、煮付けが食べたいって理由もあるけど。

 

「はぁ…本当にルビィには甘いですね」

「ダイヤに言われたくないよ」

 

俺は通話を切り、家に向かった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ただいま」

 

玄関を開けて帰宅の挨拶をすると、奥からドタバタと足音が。

 

「おかえり!お兄ちゃん!」

 

足音の正体はルビィだった。

ルビィはそのままの勢いで胸に飛びついてきたため、しっかりと受け止める。

 

「急にどうした?」

「お兄ちゃん、今日は一緒にご飯食べられるの!?」

「おう。俺の席は何時ものところか?」

「うん!ルビィとお姉ちゃんの間だよ!」

 

嬉しそうに話すルビィだが、こんなに喜ぶとは想像できなかった。

とりあえず靴を脱ぎ台所に向かう。

向かう途中もルビィは俺の片腕をガッツリ掴みニコニコしている。

 

「母さんただいま」

「あらおかえりなさい。ご飯もうすぐできるわよ」

「うん、ありがとう。何か手伝う?」

「大丈夫よ。お茶飲んでダイヤと待っていて」

 

台所から居間を見るとダイヤがいた。

俺も夕飯ができるまで待つとしよう。

片腕に引っ付いているルビィを引き離し、自分の鞄や水着を片付けてから居間に向かう。

とりあえずダイヤの前に座る。

 

「おかえりなさい」

「ん?ただいま」

 

ビックリした…まさかダイヤから話しかけて来るとは。

ダイヤはお茶を飲みながら本を読んでいる。

俺も飲もうと湯のみを取り出し、急須を手にしようとした瞬間。

本を勢い良く閉じたダイヤが口を開いた。

 

「ちょっと、勝手に入れないで」

「別にいいだろ。ケチケチすんなよ」

 

静止を聞かずに急須を持とうとした瞬間。

パチンっと手を叩かれた。

 

「……」

「……」

 

再度触れようとしたらパチン。

反対の手で触れようとしたらパチン。

 

「……」

「……」

 

負けじと触れようと何度も挑戦するが全て叩かれた。

 

「何だよ!?」

「何か一言あってもいいのではありませんの!!」

「あなた達~ご飯できたわよ~」

「たかが湯のみ一杯でケチケチすんなよ!」

「ケチケチではありません!人として必要なことですわ」

「融通が利かないな!だから硬度10って言われるんだよ!!」

「ちょっと聞こえてる~?」

「誰が高度10ですか!あなただって水の変態って言われていたでしょ!!」

 

何時もの言い合い。

そしてそれをニコニコと見守るルビィがいた。

 

「何でルビィはニコニコしているんだよ」

「え?…どうしてですのルビィ?」

 

ダイヤもそれに気づいたようで話しかける。

するとルビィは嬉しそうに答えた。

 

「仲いいなって思ったんだ♪」

 

はい?……俺とダイヤが?

俺とダイヤは顔を見合わせてため息を吐く。

 

「何処をどう見たらそうなるんだよ!!」

「何処をどう見たらそうなりますの!!」

「ピギィ!!!」

 

俺とダイヤがルビィの発言に反論しようとした瞬間だった。

俺とダイヤの肩を、急に現れた母さんが掴む。

 

ご・は・ん!!…聞こえなかったかしら??」

 

額には血管が浮き出ており、雰囲気でもわかる位に怒っている。

気のせいなのか頭から角が生えているようにも見えた。

その雰囲気を感じとった俺とダイヤは直ぐに謝った。

 

「「…すみませんでした」」

 

その日の夕食は親父もいなく、美味しくいただく事ができた。

偶には家でご飯もいいものだ。

 

 





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第6話


よろしくお願いします!
今回は長めの投稿になりました。


 

 

朝日が穏やかな海に日差しが反射し、俺に突き刺さる。

今日は部活も休養だし、特にやることも無いので1日ゴロゴロするつもりだった。

しかし、昨日の夕飯後に曜からのメッセージで。

 

「明日、暇だよね!ダイビング行こう!朝迎えに来てね!」

 

とのこと、確かに暇だけど俺の予定も聞いてほしいものだ。

そんなこんな考えていたら曜の家に到着した。

インターホンを押すと元気よく飛び出してきた。

 

「おはヨーソロー!」

「はい、おはよ」

 

そのままいつも通りに、後ろに座る。

 

「発進!!」

「今日はテンション高いな」

 

曜のテンションがいつも以上に高い。

高い理由を聞いたところ、みんなで遊ぶのが楽しみだからとのこと。

それと今日は、高海に桜内もいると聞いて驚いた。

そうこう話していたら集合場所である、ダイビングショップに到着した。

てか…ここって…。

 

「あ!ルーくん!」

「よう高海…あと桜内も」

「こ…こんにちは黒澤くん」

 

相変わらず元気な高海に、美少女の桜内がショップの中から出てきた。

受付はもう済んでいるらしい。

一通り挨拶を済ませてから中に入ろうとしたが、船着き場に見覚えのある女性が重そうなものを運んでいる。

3人を先に行かせて、女性の元へ。

 

「こんにちは、お手伝いしましょうか?」

「え?いえ!大丈…夫…」

 

俺の顔を見た途端、女性は言葉を発さなくなった。

久々に会うから驚いているのだろう。

 

「お久しぶりです。松浦先輩」

「瑠璃!?ビックリした!久々だね」

 

この女性は、松浦 果南(マツウラ カナン)

姉であるダイヤと同じ高校3年生で、曜とは違う幼馴染の一人だ。

そして……俺の初恋の相手でもある。

 

「元気してた?」

「はい、松浦先輩も元気ですか?」

「も~、松浦先輩だなんて他人行儀じゃん。昔みたいに果南姉でいいんだよ?」

 

昔幼い頃は良く果南姉と呼んでいた。

しかしもう高校生だし、流石に恥ずかしい。

 

「いえ、もう高校生何でやめときます」

「…そっか…ちょっと残念」

「ぐっ…」

 

松浦先輩は悲しそうな表情を浮かべた。

そんな顔をさせたくて、俺は話しかけたわけじゃないのだが…。

俺はこの人には強く出れない。

周りを確認してから。

 

「ふ…二人の時は呼ぶようにするよ……果南姉…」

 

うわ…すげぇ恥ずかしい。

松浦先輩の反応。

 

「…うん!そうしてくれると嬉しいかな」

 

クソ……本当に俺はこの人に弱いと、改めて理解できた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

松浦先輩の操縦する船に乗りダイビングスポットへと到着した。

高海に桜内と曜は、ウエットスーツを着替え海に潜っているが。

 

「梨子ちゃんどう?」

「…わからない」

「ん~どうやったら聞こえるかな~海の音」

 

どうやら海の音っというものが聞きたくて潜っているようだ。

…よくわからないが、桜内はその音を必死に探している。

そして、今現在船には俺と松浦先輩の2人だけだ。

 

「瑠璃は入らないの?」

「俺は後で入りますよ」

「…」

 

返事が帰って来ないので振り向くと、なんか半目で見られていた。

…あ、そう言う事か。

 

「あ~…俺は後で入るよ…これでいい?」

「ふふ…よろしい」

 

満足そうに笑顔に戻る松浦先輩。

どうやら敬語なのが気に入らなかった模様。

そんなことよりも松浦先輩の格好に目のやり場が困る。

何でウエットスーツのファスナ下げているの?たわわに実ったものが、はみ出ているよ。

 

「瑠璃はさ」

「はい!?」

「ん?」

 

いけない、急に話しかけられてビックリしてしまった。

 

「ダイヤと仲良くしてる?」

「…まぁ仲はいいのかな?ルビィにも仲良しだねって言われたし」

「そっか。姉弟仲良しで何よりだよ」

 

俺個人的にはどこが仲いいのだか分からないが。

まぁ一応姉弟だし嫌いではない、突っかかるのはムカつくけど。

 

「それとさ」

「ん?何?」

「……鞠莉と「ルーくーん!!!」…」

 

松浦先輩が何か話そうとした瞬間、高海が大きな声で呼ぶ。

高海の声で松浦先輩の話声がかき消された。

 

「速くおいでよ~~!!」

「あいつ…ごめんま…果南姉、何か話そうとした??」

「ううん、大丈夫。あたしは船見とかないとだから、行っておいで」

「…わかった」

 

何か話していた気がするが、気にしないでおこう。

松浦先輩に一言断り海へ飛び込んだ。

まだ4月の寒い海だから冷たいが、透明度がよく綺麗に見える。

3人に近づき桜内に話しかける。

 

「どうだ?何か掴めそうか?」

「ううん」

「そっか」

 

悲しそうな表情を浮かべ、落ち込んだ様子の桜内。

内浦の海に来てその表情はあまり見たくないな。

 

「海の音ってのはよくわからないけど…いい潜り方を教えてやるよ」

「え?」

「少し深めに潜って上見てみろよ」

「上?」

 

内浦の海の透明度も高くキレイで有名だ。

そんな中で今日は日差しもあり、曇一つない程の快晴だと海の中は綺麗に見える。

 

「確かに梨子ちゃんずっと下を向いてるもんね!」

「うん、違う見方をするのはいいと思うよ」

 

高海に曜も賛成してくれた。

後は桜内次第だ。

 

「…うん、次は上向いてみる。ただ…」

「ん?」

「私、上手く潜れないみたいで…その少し怖くて…」

「ああ、そんなことか」

 

上手く潜れない、それなら俺が引っ張れば良いだろう。

海中にある桜内の手握り、水面に上げる。

 

「こうすれば怖くないだろ?」

「う…うん」

 

…ん?何だこの空気。

高海と曜がすごい顔している。

ついでに桜内は何だか俯いている。

 

「お前ら何だよ」

「いやいやいや!ルーくんそれセクハラになるよ!!」

「こんなんでセクハラになったら、男性の肩身が狭すぎるだろ」

 

随分とぶっちゃた事を言う高海。

それに対して曜は何だか覚悟を決めた目でこちらを見る。

 

「わ…私も、潜るのが怖いな~…なんて」

「アホか、お前潜るのが怖かったら飛び込み何てできないだろう」

「む~!」

 

何か、頬を膨らませ機嫌を悪くさせてしまったようだ。

は?俺なにかしたか?

 

「意味わからんこと言ってないで潜るぞ。桜内は大丈夫か?」

「う…うん!大丈夫!」

 

桜内に確認をとる。

高海と曜も大丈夫そうだ。

 

「そんじゃいくぞ?せーのっ!!」

 

俺の号令に合わせ、海の中へ。

右手から桜内の握力を感じ桜内を見ると、ギュッと目をつぶっていた。

いやいや、目を閉じちゃダメでしょう。

桜内の肩を叩き、上を向くように指示する。

桜内は恐る恐る目を開ける。

そこには、

 

「ッ!!」

 

太陽が水中を明るく照らし内浦の海の透明度がよくわかる。

相変わらずとても綺麗だ。

桜内も見入っている。

そんな姿を見た高海と曜も笑っている。

その時だった。

 

「「「「―――――ッ!!」」」」

 

何かが聞こえた。

海で聞こえる遠雷のような音とは違う。

これが海の音なのかは分からないが、美しい旋律が聞こえたような気がした。

3人も何だか聞こえた様子だ。

息の限界も近づいてきたため、海面から顔を出す。

息を整えるといきなり、

 

「黒澤くん!!」

「うおっ!?何だよ…」

「聞こえた!私、聞こえたよ!」

 

桜内が俺の右手を両手で持ち顔を近づける。

 

「梨子ちゃん!私も聞こえた気がする!」

「私も!」

 

徐々に集まりだす高海と曜。

すると桜内が

 

「黒澤くんは聞こえた?」

「…ああ、聞こえたよ。綺麗な音だった気がする」

 

先ほどまで不安そうにしていた表情が消え、笑顔になる桜内。

 

「ッ~~~~~!!やった~~~~!!!」

 

高海が自分のことの様にうれしかったようで、曜と桜内に俺を包むように抱き着いてきた。

その為、女の子3人と必然的に距離が近くなる。

 

「ちょっ!!高海!近い!近いから!!」

「ん?わぁ!?ルーくん離れてよ!?」

「お前が抱き着いてきたんだろ!?」

 

3人に囲まれ離れようにも離れられない。

その後、一通りダイビングを楽しみ、松浦先輩に挨拶してから解散した。

高海と桜内はバスで帰ったが、俺は曜を後ろに乗せ送る事にしたのだが、

 

「曜」

「……」

「お~い、曜ちゃ~ん??」

「……」

 

返事がないただの屍のようだ…っと冗談は置いといて。

俺が桜内と手をつないでから、返事がない。

不機嫌な曜は正直めんどくさい。

こんな状態の曜のご機嫌を取る方法は一つだ。

 

「曜コンビニよるぞ~」

「……」

 

自転車を駐車して、コンビニに入る。

曜が好きなものと水を買い自転車へ。

頬を膨らまして、コンビニのベンチで待っている曜の頬に、買った飲み物をくっつけた。

 

「うひゃ!?」

「ほれ、みかんジュース」

「…ありがと」

「おう」

 

曜の隣に座り、買った水を飲む。

曜もみかんジュースを一気に飲み、半分まで飲み干している。

喉乾いていたのか?さてと……。

 

「それで?何で怒ってるの?」

「!!」

 

ビクッと肩を動かしたが、また無視された。

とりあえず、あの時の状況を整理してみよう。

態度が変わったのは桜内と手を繋いでた時だった……。

 

「まさか…繋ぎたかったのか?手を」

「ッ!?」

 

どうやら図星のようだ。

徐々に顔を赤くしていってる。

というかそんなことかよ…。

俺は立ち上がり、手を前に出した。

 

「ん」

「…ん?」

 

どうやら曜に伝わってないようだ。

 

「手…繋ぎたいんだろ?ここから曜の家まで近いし…昔みたいに手繋いで歩いて行こ」

「~~~!うん!!」

 

ようやく可愛いらしい表情になってくれた曜なのだが、曜は手を繋がずに俺の腕ごと抱き着いてきた。

いきなりの行動に驚いたが、曜の表情は嬉しそうだ。

 

 「えへ」

 「あは…どした?」

 「えへへ!」

 「あはは…だからどした?」

 「えへへへ!!」

 「あははは…はぁ、もう好きにしろ」

 

 そういうと曜は更に力を強めて抱きつく。

 曜の胸が腕に挟むような形になってくっついているが、今更気にしてられない。

 はぁ…本当に単純で可愛い幼馴染だな。

 そう思いながら、ため息を吐き帰路を歩いた。

 

 





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第7話


よろしくお願いいたします!


 

 

ダイビングの日から翌日。

今日も曜に誘われ高海の家へ向かっている。

その際に色々聞いたのだが、桜内が高海と曜のスクールアイドル活動の為に、作曲をしてくれるとのこと。

そして今日はその作詞の為に集まっているようだ。

そこに俺が呼ばれる理由は分からないが、行くだけ行ってみよう。

高海の家に到着し、インターホンを鳴らす。

 

「はーい!あら瑠璃くんじゃな~い。久しぶり~」

「お久しぶりです。お元気ですか?」

 

高海家の長女である高海 志満(タカミ シマ)

妹の高海とは違い、おっとりとした雰囲気を出している女性だ。

 

「私は元気よ~。相変わらずカッコいいわね~」

「はは…ありがとうございます。曜に呼ばれて来たんですけど…」

「みんな千歌ちゃんの部屋にいるわ、入って入って~」

「お邪魔します」

 

入室の許可を頂き、頭を下げ中に入る。

志満さんは相変わらずニコニコしている。

すると急に、

 

「瑠璃くんは千歌ちゃんとはどうなの~?」

「…へ?どうとは?」

「瑠璃くん気遣いできるし、カッコいいし!千歌にピッタリだと思うのよね~」

 

急に何を言い出すんだこの人は、俺と高海が?

 

「高海はいい子だと思いますが、俺にはもったいないですよ」

「そう~?私はいいと思うんだけどな~」

「ははは、ありがとうございます」

 

とりあえず当たり障りない回答だと思う。

いまは俺自身、部活一筋だし恋愛というものに今は興味がない。

…いつかはまた恋愛したいけど。

まぁ、そんなことを思いながら高海の部屋へ。

扉をノックすると、

 

「はーい」

「俺だけど入っていいか?」

 

するとドタバタと騒がしくなり、扉が開かれた。

 

「ルーくんだ!」

「おう、こんちは」

「こんちか!」

 

高海は敬礼しながら元気に挨拶する。

てか、こんちかってなんだよ。

 

「入っていいか?」

「うん!どうぞ」

 

部屋に入ると丸机を囲んで、曜に桜内がいた。

話は聞いていたので、一通り挨拶をかわし買ってきた飲み物を渡す。

 

「はい、曜と高海はみかんジュースだな、桜内は紅茶とお茶どっちがいい?」

「紅茶貰ってもいいかしら?」

「ほい…ストレートだけどだよかったか?」

「ええ、ストレートで大丈夫よ。ありがと」

 

そんなやり取りをしていると曜がこちらをジッと見ていた。

 

「なんだよ」

「何だか仲がいいね」

「はぁ?昨日、ダイビングしていれば仲は良くなるだろ?」

「…まぁそうだけど」

 

何だか少し拗ねてる?意味わからん。

とりあえず話を終わらせ、机にあるノートを見る。

 

「ホントに作詞しているんだな…出来そう……ではないな」

 

ノートの中身を見ると言葉が書いてあるだけで、作詞と言える文章がない。

すると高海は、みかんジュースを飲み干してため息を吐く。

 

「そうなんだよ~…μ'sのスノハレみたいな恋愛ソング作りたいのに、全然出てこない~~!!」

 

みゅーず?ああ…ダイヤとルビィがハマっていたスクールアイドルか。

スノハレは曲なのだろう…ていうか恋愛ソングなのかよ。

 

「恋愛ソングって、それなりに恋愛経験ないと難しいんじゃないか?」

「そうなのかな~」

「ついでに高海は、恋愛経験あるのか?」

「……ないけど」

 

ないのかよ、

それなら難しいだろうな。

すると高海から凄い視線を感じた。

 

「どした?」

「……別に何でもない」

「そか」

 

何かあるのだろうか?まぁ、深く追求しないでおこう。

なら作曲する桜内はどうだろうか。

 

「桜内は?」

「私も特に思い当たらないかしら」

「へ、意外だ綺麗だし恋愛経験は豊富そうだと思ったよ」

「く…黒澤くんってサラッとそう言う事するわよね」

 

ん?ああ、綺麗って話しか…。

姉と妹がいると意識せずに行ってしまうのだろうか?言い訳しようとした瞬間、曜が口を開いた。

 

「瑠璃くん、梨子ちゃんみたいな女の子がタイプだもんね~」

「え?」

「へ?」

「ん?」

 

…こいつとんだ爆弾落としやがった!?いや間違いではないけども!!

すると高海が机を乗り出して詰め寄ってくる。

 

「そうなのルーくん!!?」

「待て、一旦落ち着け高海」

「く…黒澤くん?」

「待て桜内、そう体を隠す仕草をやめろ俺が悪いみたいじゃないか」

「わたし、知らな~い」

「お前ふざけんな!曜が落とした爆弾だろ!?」

 

少し騒がしくなった瞬間、高海の部屋の襖が勢い良く開かれた。

 

「あんた達うるさい!!!

 

高海家の次女である、高海 美渡(タカミ ミト)が出てきて事態を収集し、4人で全力謝罪した。

そんなこんながあり、美渡さんを落ち着かせ部屋に戻ってもらった。

 

「とりあえず俺は恋愛に興味はない!そこだけは勘違いするな!」

「な~んだ、つまんないの!」

 

高海はつまらなさそうにその場で寝転ぶ。

桜内はハハハっと苦笑い。

 

「とりあえず友人として仲良くしてくれると助かるよ」

「ええ、改めてよろしくね黒澤くん」

 

俺と桜内はとりあえず握手をかわし、和解した。

さてとそこで下手くそな口笛を吹いている曜に体を向ける。

 

「おい船バカ」

「な…何でしょうか?」

「何かいうこと…は?

「ご…ごめんなさい」

「よろしい」

 

速攻で謝りやがったぞこいつ、曜にはこれくらいで良いだろう。

とりあえず話の続きから、

 

「恋愛経験の話だけど、曜はどうなんだ?」

「…………えぇ!?」

 

何だか凄く同様して顔も徐々に赤くなっていく。

こいつは以外だ、曜はそうゆうのが興味ないと思ったのだが。

 

「なに?あったの?」

「な…………ない」

「ないのかよ」

 

動揺したからあるかと思ったけど、単純にこう言った話が苦手なのだろうか?

恋愛経験……そう思うと俺は松浦先輩の事を思い出す。

綺麗な青い髪に、落ち着いていて何処かクールな雰囲気を纏っていた彼女に俺は、心底惚れていたのだと思う。

…………あの事が会ってから合わなくなり、俺の彼女への恋心も沈んだのだろう。

まぁ昔の話だし思い出す意味もない。

 

「ルーくんは恋愛経験あったの?」

 

高海は唐突に質問して来た。

 

「ん~…まぁ好きな人はいたことあるかな?」

「…なんで疑問形?」

「いま色々考えると難しくてな…それに俺の体験談をお前らの曲に載せても意味がないだろ?」

「それもそうだよね~」

 

高海は再度ノートを開き考え込む。

そんな姿を見るとやはり厳しいのではないだろうか。

 

「恋愛経験ないんじゃ難しいだろ?」

「じゃぁ、μ'sも当時は恋愛してたってことかな?」

 

ふむ、確かにそういうことになるのかもしれない。

高海の言い分に納得する。

 

「調べてみる!」

 

高海はパソコンでμ'sのことを調べ始める。

すると桜内が口を開く。

 

「も~作詞に来たんでしょ?…はぁ」

「千歌ちゃんはスクールアイドルに恋しているからね」

 

いまスクールアイドルに夢中な状態はもしかしたら恋に誓いのかもしれない。

ん?恋に近い?

 

「「「あ」」」

 

どうやら桜内に曜も気づいたらしい。

高海は今現在、スクールアイドルに恋をしている。

ならばその気持ちを歌詞にすればいいのではないか?っと伝えようとしたが、曜が隣で既に言っていた。

すると高海は目を輝かせてながら、

 

「それなら沢山書ける!!」

 

そういうと、先ほどとは打って変わり、ノートに単語や文章を書き始めた。

これで作詞の方も、何とかなるのでわないだろうか。

適当にそう思い、俺は時間が経つのを待つことにした。

 

 

 

 






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第8話


よろしくお願いします!




※今回は、Aqoursの皆さんは出ません!
 瑠璃くんの部活の話です。



 

 

浦の星男子学院 水泳部は全国常連の県内でも強豪校にあたる。

そんな水泳部は毎年30人以上の1年生が入部するが、その中で3年生まで続けているのは僅か数人。

その理由は厳しい練習メニューや部内の上下関係が悪いなのではない。

みな口をそろえて≪化物たちには勝てない≫と。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

1日の学校生活が終わり、これから水泳部で入部式だ。

一先ず水着に着替え、プールに向かうと

 

「「「「「こんちわぁぁぁぁ!!!」」」」」

 

総勢30人位から一斉に挨拶される。

こいつら教育するの?めんどくさ…中には一癖二癖ありそうな奴が数人いるな。

とりあえず挨拶だけでも。

 

「初めまして、1年の教育係になった黒澤 瑠璃です。あと30分位で練習始まるからそれまでに各々準備体操するなり、談笑するなりで過ごして下さい」

「「「「「はい!!!」」」」」

 

元気があって何よりだ。

さてと、俺もボチボチ準備体操しようと思った瞬間。

 

「る~り~♪」

「うわぁ!銀次先輩!?」

 

後ろから急に水泳部の副主将の銀次(ギンジ)先輩に抱き着かれた。

背泳ぎでは全国常連の選手だが、一度だけ個人メドレーでも全国出場の経験がある。

何でもそつなくこなせるが、俺はこの人が本気を出した所は見たことがない。

それとこの人の抱きつき癖は少し怖い。

 

「相変わらず真面目ちゃんだね~」

「何すか!?離してください!」

「はいはい」

 

すると銀次先輩は少し考えるそぶりを見せ、口を開いた。

 

「肩回りの筋肉がつき始めているね、バランス良く鍛えないとダメだよ?」

「う…うっす」

 

そう言うと自分の準備体操を始め、その場からいなくなる。

銀次先輩はスポーツ一家の家庭で父親がスポーツトレーナーのようだ。

そのおかげなのか、体を触れると触った相手の状態がわかるらしい。

俺も偶にアドバイスをもらう為に、話すが抱き着くのは本当にやめてもらいたいものだ。

そんなこんなで、準備体操をして部活を始めようとした時だった。

 

「すみません!遅くなりました!」

 

入口から1人の男が入ってきた。

ネクタイの色から新入生だろう。

 

「これから始める所だ、早く着替えて整列しろ」

「はい!すみません!!」

 

そう言うと直ぐに新入生の更衣室に向かわせた。

直ぐに来るだろう。

 

「右からの順番に、出身と名前と得意分野をそれぞれ言ってくれ」

「「「「「はい!!」」」」」

 

果たして今年の1年は何人残るかな?

それぞれの自己紹介を済ませて最後に、遅れてきた新入生の番まで回る。

 

「じゃ最後」

「は…はい!柳石 蛍(ヤナイシ ホタル)です!えっと…得意分野は平泳ぎです!よろしくお願いします!!」

 

柳石とは珍しい名前だ、覚えやすい。

とりあえず全員の紹介が終わったので一言。

 

「改めてよろしくな。とりあえず最初だし」

「あの」

 

新入生の1人が手を挙げる。

何か質問だろうか?名前がわからん。

 

「どした?何か質問か?」

「えっと…先輩って中3の最後の大会で一回戦負けでしたよね?」

 

中3最後?ああ…あの時か。

それが何だろうか。

 

「俺あの時となりのレーンにいたんですよね~」

「うん、それで?」

「わからないかな~…俺より遅い人に教わりたくないんですよ?他の人に代わってもらえないですか?」

 

なるほどね~…なるほどなるほど。

こいつは俺に挑発しているんだな?えっと名前は…覚えてないからモブでいいや。

モブはニヤニヤしながら馬鹿にしたように見てくる。

チラっと剛先輩の方を見ると、親指を立て了承をえた。

 

「まぁ…元々やるつもりだったし?いいんだけど、気に入らないなら泳ぐか?俺が負けたら俺が卒業するまで奴隷になってやるよ」

「…へ~自信満々ですね?」

「はっ!別に自信満々じゃねぇよ……雑魚がいきがるなよ、高校デビューか?」

「ッ!!」

「おい新入生!」

 

俺は水泳キャップを被り、ゴーグルを装着しスタート台に上り宣言した。

 

「このモブが話したように、俺に勝てる自身がある奴だけスタート台に乗れ…相手してやるよ」

 

そう言うと何人かの新入生がスタート台に並ぶ。

え?こんなに舐められてるの俺…まぁいいや。

俺はスタート台に乗らなかった新入生の1人にスタートの合図をお願いした。

 

「種目はフリー100mでいいよな?」

「…ああ」

 

モブが返事をすると同時に、スタート台に並ぶ新入生たちも頷く。

しかし、等々敬語が抜けたぞこいつ。

まぁいいや、集中集中…。

一呼吸おいてから後頭部にあるゴーグルの紐を後ろに引っ張り手を離す。

パチンッ!!と音を立て後頭部に軽い衝撃が入ってからスタート台に立つ。

俺の集中する為のスイッチだ。

 

「用意……ドン!!」

 

その瞬間、俺は飛んだ。

手先から足先まで綺麗に着水し…一気に加速する。

周りの一年からの圧は感じる…絶対に抜く!追い付く!等々の感情は感じるがまだ甘い。

折り返し地点の50mの壁を蹴る。

その際にモブと目が合う…その顔は悔しさがにじみ出ていた。

ここで手を抜いて≪いい思い出≫を残してあげるのが普通だろうが、ここは浦男水泳部だ。

そんな甘い考えがあるならこの先、続けるのは無理だろう。

手を抜かず、100mの壁を触る。

 

「ふぅ…さてと」

 

俺はプールから先に出た。

そして次々と100mの壁を触り先にプールから出た俺を見る。

 

「確かに俺はあの時一回戦負けしたが、ここに来てからは逃げ出したくて血反吐を吐く程の努力もした」

 

スタート台の足を乗せ、プールから出ない新入生達を見下ろす。

 

「…俺を舐めるんじゃねぇよ?」

 

プールにいる新入生達だけでなく、プールサイドにいる新入生達までもが怯えた様子だ。

あれ?流石にやりすぎたか?何かフォローを入れようとした瞬間。

 

「ここでは常に部内で競争がある」

 

剛先輩が俺と新入生の間に入る。

 

「瑠璃に負けたお前らは負けたままでいいのか?男なら這い上がってこい。ここにいる新入生は考えてほしい…今から1分だけ時間をやる。這い上がる覚悟がない者は、着替えて出て行って貰おう」

 

すると新入生の何人かが続々と水泳部を後にしていく。

そして残ったのは10人ほど新入生…蛍にモブもいる。

すると剛先輩が少し笑みを浮かべて笑う。

 

「ようこそ水泳部へ…君たちの覚悟はしかと受け取った。さぁ、練習を始めよう」

「「「「「はい!!!!」」」」」

 

新入生達は先ほどの面構えとは、打って変わり面構えが違う。

さて俺も練習に参加するとしよう。

 

 

 





感想・評価お待ちしております。


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第9話

続けて2話投稿させていただきました!
よろしくお願いします。

※今回の話は鞠莉ちゃんファンにとっては不快になるかもしれませんので、
 ご注意下さい。


練習終わり、久々の部活だったが何だかんだついていけた。

1年生たちはもう立ち上がる事も出来ていなかった。

さてもう夕暮れ時だし、早く帰ろう……。

自転車に乗り込み、校門から出ようとしたが何だか黒塗りの車止まっており、近くには執事のような人が…。

執事の人は俺に気がつき話しかけてくる。

 

「お待ちしておりました。黒澤様」

「は…はぁ?」

 

何だ?何かやらかしたのか俺。

すると執事は車の扉を開けて向かい入れる。

 

「どうぞ」

「…いや、俺自転車あるし」

「他の者が自転車をご自宅にお届けしますので」

「そうですか、それなら…ってならないですよ」

 

本当に何なのだ?全然思い当たる節がない。

すると次の瞬間。

 

「シャイニー☆」

「うわぁ!!」

 

後ろから急に押されそのまま車の中へ。

そして、勢い良くドアが閉まり車はそのまま進んだ。

考えが追いつかなかったが、俺の背中を押した犯人を一言文句を言ってやろうと振り向いた。

するとそこには信じられない人物が……。

 

「チャオー☆瑠璃!久しぶり!」

「え?…………鞠莉姉?」

 

小原 鞠莉。

ダイヤと松浦先輩と同い年で、幼い頃からよく知っている女の子だ。

俺にとっては松浦先輩と同様に、もう1人の姉のような存在だ。

 

「すっかり高校生らしくなって、大きくなったじゃない?」

「…」

 

久々に会えて嬉しそうに話す鞠莉姉。

しかし…

 

「何だかんだ2年経ってるものね!」

「……」

 

俺の中には

 

「久々に帰ってきて、ビックリしたわ!」

「………」

 

彼女に対して

 

「だからただいま!」

「…………」

 

喜びとは真逆の

 

「…瑠璃?」

「――――ッ!!」

 

負の感情しか湧かなかった。

 

「何で内浦に戻って来てるんだよ!!」

「…え?」

 

俺の中の負の感情がグルグル回る。

鞠莉姉は驚いている様子だ。

 

「俺がアンタにおかえりって言いながらニコやかに話すと思ったのか?ふざけんな!!」

「…そう…よね」

 

2年前に裏切られた傷は簡単には癒えない。

それにこの人は、姉ちゃんを泣かした。

 

「急にAqours(アクア)も辞めて…アンタが姉ちゃんを泣かした」

 

頭に中に出てくるのは、衣装を持ってすすり泣く姉ちゃんの姿だ。

鞠莉姉は黙ったまま聞いている。

 

「何も言わずに内浦から出て行って……今さら何なんだよ」

「…それは…」

「事実だろうが!!」

 

そう言うと鞠莉姉は押し黙ってしまった。

 

「アンタの言い分は聞きたくない!これ以上俺に関わらないでくれ」

「――――ッ!?」

 

車が止まり、窓から外を確認すると家の前だ。

流石は車だ、自転車に比べればやはり早い。

ドアが開かれて外に出る。

 

「送って頂きありがとうございました。」

 

一言鞠莉姉に…………いや、小原先輩に挨拶する。

そして

 

「もう、俺の前に現れないで下さい…さようなら」

 

俺はそう言い残してその場を後にした。

小原先輩の頬には、目から流れた涙が見えたが俺には関係ない。

俺は車に背を向け、玄関を開けてそのまま自分の部屋に向かった。

自分の行き場のない感情をぶつけるように鞄を投げる。

枕に顔を埋め深呼吸する。

小原先輩が内浦に帰って来ている、ダイヤと松浦先輩は知っているのか?色々と考えがまとまらない時だった。

携帯がなっている事に気付き、画面を見ると曜からだ。

 

「はい?」

「ヨーソロー!」

 

うるさい。

耳元にいきなり大声を食らってしまい、頭がキーンとなる。

 

「なんだ?」

「部活お疲れさま!新入生達はどう?」

「ああ…中々面白い奴らが」

 

そういいながら今日1日の出来事を話す。

曜からは、桜内が作曲だけではなくスクールアイドルもやる事や、今度浦女の体育館でライブをするなどの近況報告を聞いた。

気づいたら30分ほど話していたようだ。

 

「ああ!それでねグループ名も決めたんだよ!!」

「それは良かった。それで?グループ名は?」

Aqours(アクア)!」

「…………は?」

「だから…Aqours(アクア)にしたの!」

 

偶然か?あのAqoursなのか?俺の頭にとある3人が楽しそうに踊る姿が横切る。

彼女らも心のそこから笑顔だった。

そんな笑顔に俺は惹かれていき、俺に出来る手伝いを何度もした。

しかし、それが全部水の泡となって消えた。

その3人はもういないし、憧れた3人はもういない。

 

「瑠璃くん?」

「!!…ああすまん、そうかAqoursか…いい名前だと思うよ」

「でしょ?私たちも気に入っているんだ~!」

 

嬉しそうに話す曜とは違い、俺は感情が織り交ざっていく。

しかし、その感情を曜にぶつけるのは違う。

 

「そうか頑張ってくれ、応援する」

「うん!ありがと!…それじゃ、電話ありがとね!おやすみ!」

「ああ、おやすみ」

 

携帯を切って枕に顔を埋める。

今日は本当によく2年前の記憶を思い出す日だ。

ただただ行き場のない感情を飲み込み、俺は眠りについた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

次の日の朝、体力作りの一環で砂浜を走った。

というよりどちらかと言うとリフレッシュに近いのかもしれない。

昨日の出来事から胸に重りがあるように重い。

疲れた体を休ませる為、その場に座る。

そんな時に遠くから声が聞こえた。

 

「1.2.1.2」

「ん?」

 

声の方を見ると、曜に高海に桜内がダンスのステップの練習をしている。

その顔は笑顔で、かつてのAqoursを思い出す。

………あ~ダメだ、引きずってるな…あれから2年なのに。

過去を引きずる自分が嫌になる。

 

「帰ろ。帰って風呂入って部活行こう」

 

3人にバレないように帰ろうと動いた瞬間。

 

「あ!ルーくんだ!!」

 

俺を見つけるやいなや手を振っている高海。

見つかったなら仕方がない、方向転換し渋々高海たちの所歩く。

 

「おはよ!ルーくん!」

「はい、おはよ」

「瑠璃くんおはヨーソロー!!」

「はい、おはよ」

「おはよう黒澤くん」

「おはよう桜内、練習頑張ってるみたいだな」

「「なんで私たちは適当なの!!」」

 

む…バレてしまったらしい。

まぁそんな事はどうでもいいだろう。

 

「練習か?」

「うん!曲もいいものができそうなんだ!」

「おお、それは凄いな」

 

作詞と作曲はついこの間の事じゃないか?もう出来上がりそうなのは凄いな。

…それくらいスクールアイドルに本気ってことだよな。

俺は何処かで彼女たちのアイドル活動を応援していなかったんだと思う。

どうせ頑張っても、直ぐに諦める…あの頃のAqoursに勝てるはずがないと思いながら…。

 

「なぁ高海、ずっと気になってたんだけど…なんでスクールアイドルをやりたいんだ?」

「……“普通“の私でもμ'sみたいに輝きたいからだよ!」

「――――!!」

 

彼女は笑顔でそう言った。

いい加減過去の話はもう辞めよう、Aqoursは彼女たちのだ。

自分で過去に終止符を押し彼女たちを見る。

 

「お前は“普通”じゃないよ」

「え~!“普通”だよ!」

「“普通”だったらスクールアイドルって考えは思いつかないだろ」

「え~~!!」

 

何処か胸の重りが取れたように感じた。

とりあえず今はこれでいいだろう。

 

「3人とも頑張れ!応援する」

 

俺は笑って言った。

3人は顔を見合わせて頷く。

この3人なら跡を継ぐ事ができる。

だったら昔からのファンとして出来ることは、見守り応援することだ。

朝に見ていた海は、更に綺麗に見えたような気がした。

 

 




ご感想・評価をよろしくお願いいたします。


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第10話



よろしくお願いします!


 

 

本日は部活の自主練日。

うちでは1週間に1度は自主練日を設けている。

そんな俺も軽く泳ぎ、今は運動後のストレッチの真っ最中だ。

今日は、Aqoursに取って大事な日だ。

どうやら理事長がAqoursの活動を認めるには、ライブをして浦女の体育館を満員にするのが条件のようで、今日がそのライブの日だ。

そういえば理事長って誰だろう。

ストレッチも終わり、更衣室に向かう途中。

 

「あ、黒澤先輩」

「げ…黒澤…」

「おお蛍に……誰だっけ?モブ?」

峯岸 珊瑚(ミネギシ サンゴ)です!」

 

そうそう!珊瑚だ!珍しい名前の奴だ。

とりあえず俺は珊瑚の額を鷲掴みし力を込める。

 

「それで?…げっとはなんだ?」

「痛痛痛痛ッ!!すみません!すみません!」

「たく…そんなに俺が嫌いか?」

「大っ嫌いですよ!!」

 

こいつは思ったことを正直に答えてしまう性格で、よく敵を作るらしい。

しかし、気持ちを隠さずに答える奴は嫌いじゃない。

イジリがいがあるし。

 

「それで?今日は早いなお前ら」

「今日は浦女でスクールアイドルのライブがあるみたいなので、行ってみようと思っています」

「…俺は興味ないけどこいつに誘われました」

 

蛍はどうやらスクールアイドルオタクのようで、よく更衣室で熱く語る姿をよく見ている。

そしてそんな蛍の話を聞いたりしているのが、珊瑚だったりする。

 

「じゃあっちで会うかもな」

「黒澤先輩もスクールアイドル好きなんですか!?」

「違う違う、Aqoursは俺の友達がやっていて誘われたんだ」

「マジで!?」

 

ん?

俺と蛍の会話に急に入ってきた珊瑚。

すると蛍がニヤリと笑いながら口を開いた。

 

「こいつ興味ないっていいながら、Aqoursのチラシ貰って来ていましたよ?」

「お前!それは言わない約束だろ!!」

「へ~~」

「ニヤニヤするな!!」

 

何だかかなり仲良しの様子の2人だ。

更にこいつらは現在の1年の中では、トップを争うほどの実力もある。

俺の同期の数人もこいつらに抜かれている。

 

「柳石!俺は先に行ってるぞ!!」

 

少し不貞腐れながらその場を後にした。

蛍も一礼して珊瑚についていく、そんな姿を見て頬が緩む。

さてと、さっさと着替えて浦女に行くとしよう。

俺は軽くシャワーで汗を流し、着替えて浦女の体育館へ向かう。

途中差し入れで飲み物も買っていく事にしよう。

曜から体育館のとある部屋にいると連絡があり、その部屋に向かう。

Aqoursと書かれた紙が扉に張られている部屋を見つけた。

 

「お~い、入るぞ?」

 

ドアノブに手をかけ、扉を開くと。

 

「わぁ!ルーくん!?」

「え!?瑠璃くん!?」

「黒澤くん!?」

 

下着姿のAqoursの3人が目の前に広がっていた。

おっと…着替え中でしたか…。

女子の下着姿を不注意とはいえ見てしまった俺は、この後に何が起こるか瞬時に把握。

 

「「「ッ!?き」」」

「ちょっと待った!!!」

 

叫びそうなところを止める。

言い訳を考える為に、全力で脳を回転させ答えを見つける。

 

「確かに見た俺も悪い!…しかし!ドアに着替え中という貼り紙を貼り付けて置くべきじゃないか?3人とも……だが見たのは変わりない……という事で!!」

 

ネクタイを緩めワイシャツを脱ぎ、水泳部の過酷なトレーニングで鍛え抜かれた上半身をさらけ出す。

ついでにチャームポイントは…上腕三頭筋だ。

 

「俺も脱ぐからおあいこでどうだろうか!?」

「「「出てって!!!」」」

 

3人に怒鳴られ出ていきました。

なにが、俺も脱ぐからおおあいこでどうだろうか?…だ。

思ってもいないことを口走ってしまった。

その後3人が着替え終わるのを待ち、全力で土下座した。

 

「ほんっっっとぉぉぉに、すみませんでした!!」

「はははは…」

「……」

 

曜は苦笑いしながら頬を書いているが、桜内に関しては軽蔑する目で俺を見ている。

しかし高海は違った。

 

「ほら、私たちも紙貼ってなかったしね!ね!曜ちゃん!」

「そ…そうだね!ほら梨子ちゃんも」

「…ノックはしてほしかった…」

 

本当にその通りです!!何故俺はノックしなかったのかが、わからない。

次から気を付けよう。

 

「すみませんでした」

「……次から気を付けて」

「ありがとうございます!」

 

何とか許しをいただき、顔を上げる。

今度はみんなしっかりと衣装を着ていた。

 

「3人とも似合ってるよ」

「でしょ~?曜ちゃんが作ったんだ!」

 

昔から裁縫が得意だった事は、俺も知っているけど、衣装まで作るとは凄すぎる。

 

「やるじゃん」

「それほどでも~~」

 

えへへっと笑みを浮かべ、ほんのり頬を赤くする曜。

すると高海が口を開いた。

 

「それで?ルーくんは何しに来たの?」

「そうそう…これ差し入れ」

「みかんジュースだ!」

 

小さめのパックに入っているジュースを渡して話を進める。

 

「緊張はしているかなって思って見に来た」

「そっか!ありがと!」

 

そう言うと高海は鼻歌を歌いながらライブの準備を始めている。

意外とこういう事には強いようだ。

しかし、それと打って変わり桜内は緊張している様子だ。

 

「桜内は緊張中…だよな」

「発表会とは違う空気だし、緊張するわよ」

 

発表会?あ~ピアノか、まぁ同じ音楽関係でも種類は違うし、そんなものなのだろう。

そんな中で俺はある事を思い出し話す。

 

「失敗するって思うから緊張するんだよ」

「え?」

「俺も最初の水泳の大会は緊張したけど、いまは緊張しないんだよ。なんでだと思う?」

「…慣れたからじゃないの?」

 

確かにそれもあるだろうけど、俺が言いたいのはそうじゃない。

 

「俺は失敗しないし、いつも通りにやるって心掛けているからだ」

「いつも通り?」

「桜内だってたくさん練習しただろ?だから大丈夫だ」

 

俺は親指を立て笑顔で話した。

すると桜内は深呼吸し、こちらに目を合わせた。

 

「ありがと、少し安心したわ」

「それは良かった!衣装も似合って可愛いし、自信持て」

「……黒澤くんって自覚ないの?」

「え?何が?」

「はぁ…ありがと!練習通りに頑張るわ」

 

自覚?…ああ可愛いってのか、あんまり意識しなかった。

意識なく言うのも気を付けた方がいいのだろうか?っと考えていると。

桜内は緊張が少し解けた様子だ。

ついでに曜の様子は……何かすげぇこっち見ている。

 

「何だよ?」

「別に~、私には一言ないの?」

 

一言?曜には必要ないだろう……と思ったが曜にはアレだろう。

俺は右手の拳を前に出した。

 

「頑張れ!会場で見てるからな」

「!!…うん!任せて!」

 

そう言うと曜は、自分の拳を俺に合わせて元気よく頷く。

この一連の行動は、曜のルーティンのようなものだ。

飛び込みの大会の時や、水泳の大会なんかでやっていることだ。

曜は満足したのか、ステージを見に行こうとしていた桜内と高海についていく。

あ、そうだ。

 

「衣装似合ってて可愛いぞ!」

「わざわざ言わなくていいよ!ありがと!」

 

曜をおちょくって見たが、成功のようだ。

その証拠に曜の耳が、少し赤くなっているのが見えた。

3人がステージの確認をしに行ったのを見送り、俺は3人のライブが見やすい場所へと向かった。

 

 

 

 





ご感想・評価をよろしくお願いいたします。

それと誤字報告凄く助かってます!ありがとうございます!


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第11話



よろしくお願いいたします!


 

 

 

ライブの見やすい場所は直ぐに見つかった。

というのも、人があまりいない。

ちらほらと集まりだしているものの、満員までは程遠い。

俺は全体が見える位置として、一番後ろの壁に寄りかかってライブの開始を待った。

 

「あ!お兄さんずら!」

「ん?」

 

声のした方に目を向けると、ルビィに丸がこっちを見ていた。

 

「ルビィと丸か、知ってたのか?」

「う…うん。駅でチラシ配りして貰ったんだ」

 

ルビィは俺の質問に答えるように、チラシを見せてきた。

チラシには今日の日付とライブの案内が書かれている。

 

「スクールアイドルが好きなら見るべきだな、丸もスクールアイドル好きなのか?」

「ん~丸はあまり興味ないずら。けど、ルビィちゃんが笑顔だと嬉しくなるずら」

 

まぁAqoursのライブはルビィが行きたいって言ったから、付き合ってきたのだろう。

友達思いの丸が、ルビィの友達で良かった。

 

「そうか、これからもルビィをよろしく頼む」

「任せてほしいずら!」

「俺のことはいいから、2人は前で見ておいで」

 

そう言うと2人は頷き、ステージ前に走っていった。

そんな2人の後ろ姿を見て微笑ましく思う。

 

「相変わらず年下に甘いですのね」

「うおっ!?ビックリした、ダイヤか」

 

急に現れたダイヤに驚く、いきなり話しかけるなよ。

あと一言言わせてほしい。

 

「年下に甘いんじゃなくて、妹とその友達に優しいって言って欲しいな」

「その妹好きは何とかなりませんの?」

「お前にだけは言われたくない」

 

妹に気をかけるのは兄として当然だ。

するとダイヤは、はいっと関係者と書かれた腕章を渡してきた。

 

「あの子たちの関係者なのでしょ?正式に許可が下りた状態で会った方がいいと思いますわ」

「なるほど…ありがと」

「いえ」

 

するとダイヤがその場を去ろうと動き出した。

あのAqoursのライブだ、思うことがあるはずだ。

そして俺は気づいたら口を開いていた。

 

「見て行かないのか?せっかくのライブだよ?」

 

沈黙が俺とダイヤの間に流れた時、ダイヤの答えが返ってきた。

 

「まだ……やる事がありますから」

 

様々な意味が込められているのか、その言葉に重みを感じた。

やることは?って聞くべきなのだろうが、そんなことも聞けなかった。

ダイヤはその場を後にした。

するとステージの幕が上がる。

最初は笑顔だったが、体育館の観客の人数を見たことで少しずつ曇っていく。

 

「さぁ…どう立ち上がる」

 

アイドルとはお客様を笑顔にする仕事だ。

それはスクールアイドルも間違いはずだ。

今の彼女たちは笑顔ではない、彼女たちが笑顔じゃなければ観客も笑顔にはなれない。

すると高海は覚悟を決めた様子で前に出る。

 

「私たちはスクールアイドル!せーの、」

 

「「「Aqoursです!!!」」」

 

高海の声に曜に桜内も反応した。

音ノ木坂から転校し、音楽を心の底から恋をしている桜内。

 

「私たちはその輝きと!」

 

俺の幼馴染で内浦の海や船に恋をしている曜。

 

「あきらめない気持ちと!」

 

そしてセンターにいるみかんが大好きで、何よりスクールアイドルに恋をしている高海。

 

「信じる力に憧れスクールアイドルを始めました!目標は、スクールアイドル〝μ's〟です!!聴いてください!」

 

照明が一気に消えた。

立ち上がり何とかなったが、体育館を満員に出来なかった事には、変わりがない。

Aqoursに取って最初で最後のステージになるのだろう。

そしてステージが一気に明るくなり、Aqoursのステージが始まる。

何だったかな曲名は確か……。

 

 

~ダイスキだったらダイジョウブ!~

 

 

曲が始まり3人はどんどん観客を、歌や踊りで魅了していく。

そんな3人を心から凄いと思った。

観客も少ない中で徐々にボルテージが上がっていくのがわかる。

最初の不安そうな顔色もしていない3人は、楽しそうに踊っている。

 

「あいつら、すげぇな」

 

そしてサビの部分に入ろうとした瞬間だった。

雷の大きな音と同時に、照明で明るかったステージが暗くなる。

同時に、音楽も消えた。

最悪のタイミングでの停電。

観客もザワザワと同様し始める。

 

「……無理だったか」

 

観客は満員じゃない、ステージは暗くなる。

Aqoursはやっぱりあの憧れた3人ではないとダメだったのだろう…。

俺は内心諦め、電気が戻るのを待った。

すると次の瞬間。

暗いステージから弱弱しい高海の声が聞こえる。

それに続き、曜と桜内も歌いだす。

3人はまだ諦めていない…考えろ俺、3人の為にも…Aqoursの為にも何ができる。

諦めていた自分に苛立ちを覚え俺は体育館を出た。

俺の通っている浦男は、授業の関係上で姉妹校の浦女の体育館を借りる時がある。

そのため体育館の倉庫の居場所も知っているし、何があるかも覚えている。

雨で濡れる制服も気にせず猛スピードで倉庫に向かう。

 

「ん?ダイヤ!?」

「!瑠璃!?どうして…」

 

倉庫に姉であるダイヤがいた。

そしてその足元には発電機が2つ、考えている事は一緒のようだ。

 

「これ発電機だよな?」

「な…何のことでしょうか?」

 

口元のほくろを書きながら、視線を外すダイヤ。

何か隠したい時に出るクセだ。

近くの台車に発電機を置いて、

 

「これどこ持って行けばいい!?」

「こ…こっちですわ!?」

 

ダイヤに案内され、ついていく。

案内された場所は電気機器が置いてある場所だ。

発電機を下ろし、繋げて稼働させる。

 

「結局…ダイヤも後輩に甘いじゃん」

「ふふ…何のことでしょうか?」

 

ここに来てまだしらばっくれるダイヤ。

体育館の電気が走り、照明にスピーカーも元に戻っただろう。

その証拠に、ここから少し離れている体育館から音が薄っすらと聞こえる。

 

「はぁ…疲れた。制服もびしょびしょじゃん」

「少し休んでいてください。わたくしは体育館の様子を見てきますわ」

「ああ、お願い」

 

ダイヤはその場を後にし、体育館へ。

すると携帯に一件のメッセージが来た。

確認をするとルビィから、その内容を見て笑顔になった。

 

『お兄ちゃん!体育館が満員だよ!!』

 

更に満員だとわかる写真まで付けてくれている。

 

「そっか良かった。ん?はは!雨も止んだ」

 

外を見ると、先ほどまで降っていたのが信じられないぐらいの爽快な青空が広がっていた。

まるでAqoursの晴れ舞台に満足しているようだ。

 

「あ…見られなかったなAqoursのライブ」

 

少し残念だが、仕方がない。

次に期待しようじゃないか。

 

「ライブ祝いに何か奢るとするか!」

 

俺は立ち上がり、彼女たちの元へ向かった。

 

 






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第12話

よろしくお願いいたします!


Aqoursのライブから翌日。

無事に体育館を満員にすることが出来たようで、浦女でのスクールアイドル活動は認められたようだ。

曜や高海に桜内も嬉しそうにしていたのを、思い出す。

実は見られなかった事を話したら、次のライブは絶対に見てね!っと、高海に釘を刺された。

さてと、今日は部活も終わって曜の所に弁当も返したし家に帰るだけだ。

 

「バァウ!バァウバァウ!!」

「ん?」

 

声が聞こえた為、振り返ると大きな毛むくじゃらが飛びついてきた。

幸い怪我はないが、重い。

しかし何処かで触った感触…。

 

「バァウバァウ!!」

「…しいたけか?」

「バァウ!」

 

正体は高海家のしいたけだ。

俺はしいたけの頭を撫でながら、上から降ろした。

 

「お前…飼い主はどうした?」

 

しいたけは来た方向に振り向く。

すると高海が全力でこっちに向かってきた。

 

「ごめんなさい!うちのしいたけが……ルーくん!?」

「お~高海、リードはしっかり付けないとだめだぞ?」

「しいたけが急に走ったから、ビックリしたよ!ルーくんを見つけたんだね?」

「バァウ!」

 

会話からして、どうやら俺はしいたけになつかれているようだ。

嬉しくなりしいたけの頭をなで続ける。

 

「ルーくんは部活終わり?」

「おお、帰る前に小腹空いたからコンビニに行こうかなって」

「そうなんだ!…ねぇルーくん」

「ん?何?」

「うちでご飯食べていきなよ!迷惑かけたお詫びで」

 

迷惑?しいたけのことだろうか?腹が減っている俺からしたらありがたいが、お世話になるわけにはいかない。

丁重にここは断ろう。

 

「ありがたいんだけど、「志満姉がいいって!」最後まで話は聞こうね」

 

まぁ許可も貰ってしまったのなら仕方がないのか?俺も後で連絡入れておこう。

 

「それじゃ、よろしくお願いします?」

「えへへ!喜んで~!」

 

高海は嬉しそうに笑う。

俺は自転車を押し、高海と他愛のない会話をしながら高海の家へと向かった。

夕飯何が出るのかが、楽しみだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

夕飯が凄かった。

流石は旅館を経営しているだけの事はある。

 

「ごちそうさまでした。お皿洗わせて下さい」

「あらいいのよ~。まとめて洗うから」

 

志満さんが言うなら、置いておこう。

高海は美味しかった~っといいながら、その場で横になっている。

志満さんとは大違いだ、だらしがない。

本当に姉妹なのか?そういえば……

 

「今日、美渡さんは?」

「今日は残業みたいでね~、ほら千歌ちゃん!直ぐに横にならないの」

「は~い」

 

何気ない会話が続く。

夕飯もいただき、お暇しようと思ったときに、志満さんが冷蔵庫から2人分のケーキを出して、俺と高海の前に出してきた

 

「これ良かったら食べて?」

「いいんですか!ありがとうございます!」

「わぁ!ケーキだ!ルーくん部屋で食べよう!」

 

予想外のケーキに少し気持ちが高揚する。

高海も同じように、昂っっている様子だ。

とりあえず高海に言われた通りに部屋に移動する。

 

「私の部屋で~す!」

「いや何度も曜と来てるし、早く開けろよ」

「ぶ~」

 

何故か不貞腐れる高海。

しかし2人だけの状況というのは以外にも始めてではある。

俺と高海の出会いは、中学時代に曜の紹介だ。

以前から曜の飛び込みの大会に来ていたのは、知っていたのだが、ちゃんと話したのは中学時代からだった。

 

「ほらルーくん!こっちこっち」

 

高海は自分の隣のクッションを差しながら、誘導する。

言われた通りに座り、机の上にあるパソコンの画面に目が止まる。

そこにはスクールアイドルの事や、μ'sのことなんかも調べているようだ。

 

「ほら見て!昨日のライブ!本当に楽しかったな~」

「…途中で泣いていたけどな」

「んぐ!?あれはしょうがないじゃん!」

「まぁそうだけどもな、仮にもアイドル何だから笑顔は心掛けとけよ」

「は~い…ん~!ケーキうま~♪」

 

随分と美味そうに食べるものだ。

さて、俺も一口…美味い!クリームが溶けたぞ!

 

「これ絶対に高い奴だろ!?」

「ね~!うま~♪……ねー、ルーくん」

「ん?」

 

高海が何かを聞こうとしている。

何だろう?何か悪いことでもしたか?

すると高海が少し深呼吸をしてから話だす。

 

「なんで、美渡姉や志満姉には名前で呼んでるのに、なんで私は高海って呼ぶの?」

「は?高海は高海だろ?」

「そうだけど…曜ちゃんには曜って下の名前で呼ぶじゃん」

 

何だ?つまり高海も下の名前で呼んで欲しいってことなのか?しかしな…。

 

「高海は…ほら!曜ほど関わりなかっただろ?」

「…じゃぁ、いつになったら呼んでくれるのさぁ…ちょっと悲しい」

 

高海を下の名前で呼ばない理由は、恥ずかしいからというのもある。

何だかんだ高海と関わるのも、曜を通じてだったりする。

ん~…まぁ何だかんだ中学からの付き合いだしな。

 

「お前は嫌じゃないんだな?」

「うん!千歌ちゃんでも千歌っちでもいいよ!!」

 

機嫌が良くなり、高海の目がキラキラしてる。

俺は少し勇気を振り絞る。

 

「わかったよ、呼べばいいんだろ?」

「うん!さぁ、ドンと来なさい!」

「わかったよ…千歌」

「―――ッ!?」

 

目の前にあるケーキを食べ落ち着く。

女の子を下の名前で呼ぶのは、やはり変な緊張するな。

…名前で呼んだのはいいが、高海…改め千歌から反応がない。

千歌に視線を向けると、顔を隠していた。

 

「千歌?」

「いや…あの…ちょっと恥ずかしいね?えへへへ…」

「ッ!?…自分から言って照れるなよ」

 

そこには顔を赤くして照れている千歌がいた。

自分から言ったのに?千歌がここまで照れると俺まで恥ずかしくなる。

お互い落ち着くまで、ケーキを食べ続けた。

その後、何とか落ち着きを取り戻し、スクールアイドルの話や学校での話をして時間を過ごした。

気が付いたら遅い時間だった為、帰ることに。

 

「お見送りまで悪いな、ありがと」

「ううん!またいつでも来てね」

「おう。それと自分から言ったんだから、名前呼び慣れてくれよ?」

「う…うん!頑張ります」

「なんで敬語なんだよ」

 

まだ千歌は少し恥ずかしそうにしている。

俺は自転車に跨りペダルに足をかけた。

 

「夕飯もごちそうさま、それじゃ!」

「うん、バイバイ……瑠璃くん」

「ちょ!?お前!?」

 

千歌から呼び慣れていない呼び名で呼ばれ、心臓が跳ねた。

そんな千歌はまるでイタズラが成功した子供のような笑みを俺に向ける。

この野郎……やられた。

俺は自転車を漕ぎ始め、夜の海の風で赤くなった頬を冷やそうと全力で自転車を漕いだ。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

≪蜜柑色の少女は隠す≫

 

ルーくんが顔を赤くしていたのがわかった。

私にだけ恥ずかしい思いをさせたからだ、ざまあみろ。

けど……ようやく名前で呼んでくれた。

ずっと“千歌”呼んでほしかった。

こんなに気持ちが昂るとは思わなかった。

けど………。

 

『曜ちゃんってルーくん好きだよね?』

『え!?…………う…うん…』

『そっか!それなら応援するね!』

『ち……千歌ちゃ~~ん!』

 

昔の記憶を思い出した。

応援したいという気持ちは本当だ。

名前で呼ばれる曜ちゃんが羨ましい、2人で話す姿が羨ましい。

 

『高海は、恋愛経験ないのか?』

 

聞かれたときは心臓が跳ねた。

私は“”をしている。

けどその相手は、幼馴染が片思いをしている相手。

だからこそ私は……この“”は心にしまわないとダメ。

そう心に誓ったんだ。

けど……少しだけ我儘を行ってもいいよね?

私はそう思いながら、夜風にあたり昂った気持ちを押さえ込んだ。

 

 




ということで千歌ちゃん回でした!
ご感想・評価をよろしくお願いいたします。


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第13話



よろしくお願いいたします。

※今回も、Aqoursの皆さんは出ません!
 瑠璃くんの部活の話です。


 

 

千歌の家に行ってから、数週間が経った。

その間に何と、ルビィと丸がスクールアイドル部に入部したようだ。

あの気弱なルビィがしっかりと自分の意志で入部を決めた時は、成長を感じて嬉しさのあまりに涙が止まらなかった。

そして何時も通りに部活が終わり、更衣室で着替えていると、スクールアイドルが好きな蛍からある動画を見せられた。

どうやらAqoursの新しい動画のようだ。

 

「ヨハネ様のリトルデーモン4号。く…黒澤 ルビィです。一番小さい悪魔…可愛がってね!!」

 

ゴスロリ姿の妹が、変なポーズを取っていた。

可愛い…じゃなくて!?

 

「滅茶苦茶かわいくないですか!!!」

 

蛍は目をキラキラさせながら聞いてきた。

 

「ふ…妹だからな」

「シスコンかよ気持ち悪い」

「………」

 

俺と蛍の話に後ろを通りすぎ際に、珊瑚が毒を吐いて言った。

しかし俺は逃がさない。

肩を掴み首に腕を回した。

 

「誰が変態シスコン野郎だ!モブが~~~!!!」

「そこまで言ってねぇよ!!あと珊瑚だ!!」

 

珊瑚が暴れるがしっかりと拘束している為、外せないでいる。

 

「さぁ珊瑚くん……何か言うことは~?」

「…すみませんでした」

「不服そうにしているんじゃね~~!!」

「ぎゃぁぁぁ!!すみませんでしたぁぁぁ!!」

 

今日も浦の星男子学院水泳部は平和です。

その後、珊瑚を一通りにしばき終わり、俺はある人を自転車に乗って待っていた。

 

「すまん瑠璃、待たせたな」

「珍しいですね。剛先輩が俺と帰るだなんて」

 

水泳部主将の剛先輩。

珍しく帰り誘われ一緒に帰ることになった。

 

「まぁ、と言ってもすぐ近くの船着き場までだからな」

「そういえば剛先輩って淡島に住んでいるんですよね」

「ああ」

 

淡島出身者は船で帰るのが一般的だ。

幼い頃、淡島には何度も行ったことがあるし、もしかした何処かですれ違っていると思う。

 

「それで早速なのだが」

「ん?何でしょうか?」

 

急に真剣な雰囲気が流れた。

何か部活関連で大事な話だろうか?俺は真剣に話を聞こうとその場に立ち止まる。

 

「瑠璃…お前…」

「ッ!?…はい」

「…………腹が減らないか?」

「…………はい?」

 

なんて言ったこの人?こんな真剣な状態で腹が減っただと…?

いや、何時もの剛先輩らしいか。

とりあえず剛先輩に連れられ、近くのコンビニで中華まんをおごってもらった。

近くのベンチに腰掛け、中華まんをいただく。

 

「それで?いい加減、話してくださいよ」

「お?……そうだな」

 

剛先輩は半分あった中華まんを一口で口に入れて飲み込んだ。

 

「もうすぐ東京遠征だろ?」

「そうですね。もうそんな時期なんですね」

 

夏に入るこの時期に、毎年水泳部は東京の大きなスポーツ施設を借りて練習する。

他校の水泳部も来たり、大会さながらの練習をしたりと、2泊3日でかなりきつい日程になる。

 

「そこで。メドレーリレーもやるのだが…瑠璃」

「は…はい」

「メドレーリレーのメンバーになってくれないか?」

 

メドレーリレー。

水泳競技でも、花形を飾る競技の一つ。

浦男水泳部のリレーのメンバー決めは、主将の役目で選ばれたメンバーそのまま、夏の大会で泳ぐことも決定している。

 

「俺でいいんですか?」

「ああ、俺が最高だと思ったメンバーで泳ぎたいんだ」

 

普段、無表情の剛先輩は眩しい笑顔をこちらに向けた。

剛先輩は不思議な人だ。

普段何考えているかわからないし、天然で偶にわけわからないことも言う。

けど…水泳に対する熱い思いは浦男で一番だ。

だから俺はこの人を尊敬している。

この人の作ったリレーメンバーなら参加してみたい。

だからこそ、俺の答えは決まっている。

 

「それなら、よろしくお願いします!」

「おう!…ただな」

「ん?何でしょうか?」

 

また急に真剣な顔で唸る剛先輩。

すると一枚の紙を取り出し、俺に見してきた。

そこにはメドレーのメンバー表だった。

最初に泳ぐ、Bc*1は銀次先輩・Br*2は空欄・Fly*3は剛先輩・Fr*4は俺の名前が書かれている。

 

「なるほど…ブレストですか」

「ああ…候補2人はいるのだが、どちらも1年だ」

「1年!?マジっすか!?」

 

驚いた。

1年からまさか選抜されるとは…まぁ浦男のリレーは速い人じゃなくて、主将が泳ぎたい人だからな。

そしてその2人とは、

 

「珊瑚に蛍だ」

 

………確かに難しい、2人ともタイプが違いすぎる。

蛍の専門は、Brだ。

普通に行けば専門の蛍を選ぶが、珊瑚も負けてない。

そんな珊瑚の専門は、俺と同じFrとIM*5だ。

つまり全部の種目が得意なのだ。

Brもそつなくこなすだろう。

 

「珊瑚の荒々しく一気に伸びるブレは俺好みだ。しかし、蛍の基本に忠実で後ろから来るプレッシャーも1年とは思えない」

「……わかります。滅茶苦茶わかります」

 

剛先輩のそれぞれ2人への感想は、同意できる。

しかし、メドレーは1人しか選べない。

 

「瑠璃、お前ならどっちを選ぶ」

「…俺ですか」

 

俺なら、どちらを選ぶか。

荒々しく派手な珊瑚か、忠実で静かな蛍。

今いるメドレーメンバーに合う選手は、1人しかいない。

そしてもう1人は未来の為に切り捨てる。

 

「俺はーーがいいです。もう1人は俺が来年チームを作る時に選びます」

「―――!?…ははははは!そうかそうか!うん、そうしよう」

 

結構真剣に答えたのだが、まさかあの剛先輩に笑われるとは…。

おかしなこと行ったのか?剛先輩は空欄の部分に俺が言った名前を書いた。

 

「発表は、近いうちに言うから内密にな」

「了解です。そう言えば他の種目もその時ですか?」

「ああ、まぁお前は安定だろ。自由形の100mと200mじゃないか?」

「剛先輩はバッタの100mと200mですかね」

 

そんな会話を続けているうちに、日差しは徐々に沈んで行っていった。

剛先輩はベンチから腰を上げ、時間を確認する。

そして俺の顔を見て口を開いた。

 

「目指すは全国優勝だ。俺の我儘に付き合ってくれ」

「!?…はい!」

 

主将…剛先輩からの我儘を叶える為、全国優勝の為。

より一層俺は自分に気合いを入れた。

次の日、いつも通りに朝起きてランニングの準備をしたら、ルビィがゴスロリ姿の小悪魔になっていたのは、また別のお話。

 

 

 

*1
背泳ぎ(バック・Back Stroke)の略。

*2
平泳ぎ(ブレスト・Breast Stroke)の略。

*3
バタフライ(Butterfl)の略。又は【Ba】

*4
自由形(フリー・Free Style)の略。

*5
個人メドレーのこと。






専門用語多くてすみませんでした。
読みずらいという意見があれば、工夫します!

感想・評価お待ちしております。


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第14話

かなり難産でした…いつもより長めになってしまいました泣
前半は浦男回で、後半はAqoursがでます!!


今回もよろしくお願いいたします。



剛先輩と話し合い数日。

授業が終わり、部活に行こうと思ったときに、ある噂が浦男で流れていた。

 

「浦女が統廃合?」

「ああ、何か浦女にいる彼女から連絡きてな…ほら」

 

友人が俺に携帯画面を見してきた。

俺は昔の憧れた3人を思い出しながら考えた。

あの3人も廃校を阻止しようと、Aqoursを作ったからな。

 

「とりあえず教えてくれてありがと」

「おうよ!んじゃ部活頑張れよ」

 

統廃合を聞いて今のAqoursはどう思うのだろうか?きっと驚いていることだろう。

さて、さっさと部活にいくとしよう。

今日の部活は騒がしくなる。

何たって今日はメンバー発表の日だ。

俺は部室に行き、着替えてプールへ。

何時も通りに体操をしていると、剛先輩が紙を持って入ってきた。

 

「集合!」

「「「はい!!!」」」

 

剛先輩の前に整列する。

剛先輩はみんながいるのを確認してから、口を開いた。

 

「もうすぐ東京遠征だ、その際のメンバーを発表する。まず1年から、珊瑚 個メ!」

「はい!!」

 

呼ばれた珊瑚が元気よく返事をする。

隣にいる蛍が嬉しそうに珊瑚に拍手を送っている。

 

「次2年、瑠璃 100mと200mフリー!」

「はい!」

 

他の同期たち次々と呼ばれていく。

そして次は3年。

 

「3年、銀次100mと200mバック!俺が100mと200mのバタフライ…」

 

3年生も続々と呼ばれ最後のメドレーのメンバー発表。

 

「次にメドレーなのだが……今回選んだメンバーに付いてだが、悩みに悩んで俺が今いっしょに泳ぎたいと思った奴らを入れた。よし、発表するぞ!メドレー、バック 銀次」

「は~い」

 

そう言うと銀次先輩は剛先輩の隣へ。

その表情はニコニコしている。

 

「よろしく頼む」

「ん、任せて頂戴」

「次、ブレ 蛍」

 

その瞬間周りがざわめき出した。

個人種目にも選ばれていない1年生が3年生最後のメドレーに選ばれるとは思っていなかっただろう。

蛍も困惑している。

 

「どうした蛍?前に出ろ」

「え?いや…けど」

 

まだざわめいている周りを、不安そうに見る蛍。

仕方がない…周りの奴らを黙らせるために、一言言ってやろうとした次の瞬間。

 

「ギャーギャーうるさいっすよ先輩方」

 

蛍の隣にいた珊瑚が口を開いた。

 

「こいつはアイドルオタクだし、弱弱しいし、体力も並ほど……正直俺もこいつが選ばれたのは不快です」

 

周りの奴らも徐々に珊瑚の言った“不快”に同意していく。

そしてそんな様子をジッと見ている剛先輩。

しかし、珊瑚の話はまだ終わっていない。

 

「けど、先輩方よりこいつは努力しています」

 

同意した奴らがピタッと止まった。

 

「朝、誰よりも速くプールで泳いでいるし、部活後先輩方の自主練の為にコースを開けてスクールでこいつ泳いでいるの、見たこといる奴いますか?いないっすよね?見てない癖に、ギャーギャー言うのは……浦男としてどうですか?」

 

シーンっと静まり返る。

そう蛍は見せないだけで、誰よりも努力家だ。

俺もそれを知ったのはここ最近で、剛先輩に蛍を推薦したのもそれが理由だ。

続けて珊瑚は、蛍を見て口を開いた。

 

「お前もオドオドするな!ここにいる先輩方より剛先輩が泳ぎたいって思わせて、選ばれたんだろ!胸を張れバカ!!」

 

すると泣きそうな表情をグッと堪え剛先輩を見る。

 

「お前には拒否権はある。どうだ?俺と泳いでくれるか?」

「ッ!?はい!!」

 

蛍は前に出た。

珊瑚はフンっと鼻を鳴らした。

次にっと剛先輩が続ける。

 

「バッタは俺で、フリー 瑠璃」

「はい!」

 

やはり悔しそうにする先輩方がいる。

けど安心して下さい先輩方、俺は優勝トロフィーを取りに行きます。

俺は心に誓い前に出た。

その後、メンバー発表は終わりを迎えいつも通りに練習が始まった。

そして練習が終わり、トイレへ。

その理由は簡単だ。

 

「ッ!?……黒澤…先輩……」

「今回は呼び捨てじゃないな」

 

珊瑚がトイレで涙を流していた。

俺はそれを尻目に便所へ。

 

「笑いたければ笑えよ」

「敬語が抜けているけど……今日は許してやろう」

 

便所をすまして、手を洗う。

いまだに顔を腫らして涙をこらえようとしている。

 

「来年さ…俺が部長になる可能性が高いんだよ」

「……」

「この1年間で俺がお前と泳ぎたいと思わせてくれよ」

「――ッ!?…うるせぇ!偉そうにすんな!」

 

顔の涙を拭きそのまま出口に向かう珊瑚。

途中で止まり、一言俺に言い残していった。

その一言に少し顔が緩んだ。

 

「はは。見てろよ…か」

 

相変わらず負けず嫌いで可愛げのない後輩だ。

俺はそう考える珊瑚の後をついていった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

次の日、今日は海開きの為に内浦の人達が集まって砂浜を掃除する。

この行事は毎年行っている。

そんな俺も現在、水泳部のジャージを着てゴミ袋を片手に掃除をしている。

隣には曜がせっせとゴミを拾っている。

 

「どうだ曜、集まったか?」

「うん。元々ゴミが少ない砂浜だし、すぐ終わりそうだね!」

 

朝から相変わらず元気な曜。

お互い最近会っていなかったため、久々な感じがする。

 

「そう言えば曜」

「ん~?」

「昨日、インターハイのメドレーリレーに選ばれた」

 

昨日選ばれた事を報告。

しかし、反応がない。

聞こえなかったと思い曜の方向に振り向くと、笑顔でこちらを見ている曜がいた。

 

「な…なに?」

「いや~良かったね~!去年は選ばれなくてしょげてたからさ~!」

 

曜は俺の背中をバシバシ叩きながら話し始める。

 

「別にしょげてないし」

「いやいや!俺の方が速いって言ってたじゃん!」

 

去年の俺はフリーの100mしか出場出来なかった。

リレーにも出たかったけど、去年選ばれたのは当時の3年だった。

今考えれば仕方がないことだと納得ができる。

 

「けど、やったね!おめでとう!」

「!…ああ、ありがと」

 

曜は笑顔で賞賛してくれた。

照れくさいが、俺は曜の笑顔が好きだ。

そして曜は遠くにいた、千歌と桜内を見つけたようで2人の元へ。

俺はというと、続きのゴミ拾いを始めようと思った矢先だった。

 

「おはよう。瑠璃」

「うお!?ビックリした…先輩いたんで……何でパジャマ?あとナイトキャップもかぶっているし」

 

後ろから、白の水玉模様のパジャマ姿をした剛先輩がそこにいた。

 

「パジャマのギャップが凄い」

「ん?ああ、俺はちゃんとパジャマを着ないと眠れないんだ。似たようなものをあと5着ほどある」

 

いやパジャマの説明は求めてないが、ギャップが強すぎる。

きっと遠征でも持ってくるだろう。

 

「先輩1人で来たんですか?」

「ああ、本当は幼馴染と行く予定だったんだけどな。先に行ってしまったみたいでな」

 

剛先輩は、あそこにいるっと指を向けた所には松浦先輩にダイヤ…それと小原先輩がいた。

え?幼馴染だったの?すると剛先輩は松浦先輩たちのもとへ。

正直、気まずいが付いていく。

 

「果南」

「ん?あ、剛…何でパジャマ?」

 

お互いに呼び捨てで呼び合う2人。

俺はダイヤと小原先輩と目が合ったが、軽く頭を下げた。

 

「うっかり着てきてしまった」

「ははは、剛らしいね」

「そう言えば果南、イルカは出たか?」

「イルカはまだかな?けどこの間はカメ見たよ」

「本当か?それは行かなくては…果南近いうちに遊びに行く」

「はいはい、ほんと海の生物好きだよね」

「ああ、1番シャチだ」

「知ってるよ。何年の付き合いだと思ってるの?」

「10年から先は覚えてない」

 

え?なにこれ?まったく会話に入る隙がない。

更に気のせいだろうか?剛センパイは基本無表情のため感情を読むのが難しいが、少し声のトーンが上がっているような気がする。

 

「剛さんと果南さんは、親同士の仲が良いみたいですわ」

 

ダイヤが近くによって話しだした。

ついでに小原先輩は、剛先輩と松浦先輩の会話をニコニコしながら見ている。

 

「剛先輩から幼馴染だって聞いたよ。ダイヤも剛先輩知ってるんだ」

「幼い頃に何度か会いましたわ。あんまり関わりはありませんでしたけど」

 

いまだに会話している2人が少し微笑ましく思う。

 

「あの!皆さん!」

 

ん?いきなり声がした。

声のする方に振り向くと、台に登って千歌が何かを呼びかけようとしている。

何をしているんだアイツは。

 

「私たち、浦の星女学院でスクールアイドルをやっているAqoursです!!」

 

千歌が大きな声でAqoursの紹介。

すると砂浜にいる人達が一斉に千歌の方に振り向く。

 

「私達は学校を残すために、ここに生徒をたくさん集めるために皆さんに協力して欲しい事があります!!」

 

そこには俺の知っている千歌の表情ではなく。

スクールアイドルAqoursのリーダー、高海千歌の表情だった。

 

「みんなの気持ちを形にするために!!!」

 

そこからのAqours行動は早かった。

内浦の人達に協力を求めて、スカイランタンの作成や衣装の作成。

更に千歌の働きに感動した剛先輩は、浦男水泳部の全員も協力した。

Aqoursと関わりが深い俺はというと。

 

「千歌、撮影に使ったカメラはどこ持っていけばいい?」

 

Aqoursの撮影の協力をした。

と言ってもカメラから合図を送ったり、スイッチを入れたり消したりと簡単なものだ。

そのカメラを何処にしまえばいいのかわからないから、千歌に聞いたのだが返事が全くない。

千歌は、綺麗な朝日を見ながら口を開いた。

 

「私、心の中でずっと叫んでた。助けてって、ここには“何もない”って…」

 

“何もない”内浦はどこにでもある“普通”の田舎だ。

“普通”がコンプレックスの千歌にとっては、この内浦も“普通”の1つだったのだろう。

 

「でも違ったんだ」

 

クルっとこちらに顔を向けた

 

「追いかけてみせるよ!ずっと!ずっと!この場所から始めよう、できるんだ!!」

 

その表情は何かに気づき、覚悟を決めた表情だ。

また一歩彼女たち…Aqoursは進んだのかもしれない。

 

「そう言えば」

「ん?」

「曲のタイトル聞いてないんだけど、タイトルは何?」

 

すると千歌は深く息を吸い込み高らかにタイトルを。

この内浦(普通)に生きるひとりひとりの思いを形にした、その曲のタイトルは……。

 

 

夢で夜空を照らしたい

 

 

 

 

 




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第15話


よろしくお願いいたします。


 

 

太陽がまだ顔を出してない時間帯に俺は目を覚ました。

いつもより荷物を多めに準備した、部活の鞄を持ち1階へ。

PV撮影から数日経過した今日は、東京遠征の日だ。

そしてなんと、あの時のAqoursのPV撮影は見事に大成功したようで、Aqoursは東京のスクールアイドルのイベントに参加する様だ。

そのため奇妙なことに今日、Aqoursも東京に向かうとルビィが言っていた。

何か軽く朝ごはんを食べようと思い、居間に向かうと

 

「おにぎり?」

 

“瑠璃”っと書かれた紙にラップしてあり、2つおにぎりが置いてある。

隣にはお湯を入れてできる味噌汁。

母さんだろうか…ありがたい。

 

「いただきます」

 

用意された味噌汁にお湯を入れて、おにぎりを2つ頬張る。

中身は梅とおかかだ。

しかし…。

 

「母さん塩加減間違えたか?少ししょっぱい」

 

せっかく作ってくれたおにぎりだ。

残さずいただき、味噌汁に喉を通した。

しっかりと手を合わせ。

 

「ごちそうさまでした」

 

お皿を流しに置き、東京に向うために黒澤家を出た。

学校に到着し、準備されているバスに乗り込み指定された席に座る。

そう言えば俺の隣は誰だろう?すると1人の1年が徐々に近づき、俺と目が合う。

 

「はぁぁ…最悪」

「そんないやそうな顔するなよ珊瑚」

 

俺の隣は珊瑚のようだ。

 

「何で黒澤さんが、隣なんだよ」

「仲が良いからだろ?」

「仲良くねぇよ!」

 

ムスっとした表情で俺の隣に座った。

あのメンバー発表以来、珊瑚は俺のことを“さん”付けで呼ぶようになった。

たまに敬語が抜けるが…距離は大分近くなった。

珊瑚は欠伸をしながら座る。

 

「朝は辛いか?」

「いや、友人から服のアドバイス頼まれて…ふぁ~……少し夜更かし」

「律儀な奴だな、男なんて黒ズボンと白シャツとかでいいだろ」

「いや、女子なんすよ」

「ああ…わからんな」

 

お洒落はよくわからない、俺自身興味がないというものがある。

もし何かあったら俺も珊瑚に頼もう。

 

「黒い羽着けだすし、白塗りにするし、着け爪長いしで散々っす」

 

黒い羽?白塗り?何それ怖。

駅とかにいたら絶対避けるわ。

再度欠伸をし、眠そうにしてる珊瑚。

 

「眠いなら寝た方がいいぞ」

「…なんで?」

 

俺は鞄から取り出したアイマスクを着けながら話した。

 

「体力ないとこの遠征ついていけないよ」

「…了解」

 

珊瑚は深く座り、眠りに入った。

俺もさっさと眠ることにしよう。

バスの揺れが心地よく、俺は直ぐに眠りに入った。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「え!?ルーくんも東京来てるの!?」

「うん、部活の遠征みたいだよ」

 

千歌ちゃんは少し興奮気味に答えた。

私たちAqoursは無事に東京の秋葉原に到着した。

各々観光したのちに、千歌ちゃんが行きたがっていた神社を見た後の出来事だった。

 

「もしかして明日のイベントに来るのかな?」

「部活で来ているから、難しいんじゃないかしら?」

 

千歌ちゃんが見に来てほしそうに、話したが梨子ちゃん言う通り難しいと思う。

するとヨハネこと……津島 善子ちゃんが思い出したかの様に口を開く。

 

「そう言えば、珊瑚も遠征だって言ってたわね」

「珊瑚??」

「ふ…あたしの最初のリトルデーモンよ」

 

ギランっとポーズを決めて話し出す。

善子ちゃん曰く、中学の知り合いで私の堕天使の能力を見破った男だそう。

すると花丸ちゃんが

 

「つまり堕天使モードで引かなかった、唯一の友達ってことであってるずら?」

「堕天使モードって何よ!!」

 

きっと善子ちゃんにとっては大事な友達何だろう。

みんな何だか見に行きたそうな状態に私は閃いた。

 

「それじゃ、瑠璃くんが泳いでる所行ってみる?」

「「「「「え?」」」」」

 

そこから私たちは、瑠璃くんの遠征先であるスポーツセンターに移動した。

去年の遠征と同じなら、出入りは自由だったはず。

 

「わ~!広いね~!」

「色んなスポーツの大会でも使われる施設みたいだよ!」

 

この施設はかなり広い。

有名選手も利用するぐらい

みんなは珍しそうに周りを見ながら、観客席に向かう。

観客席に続く扉を開くと大きな声が辺りを響かせた。

 

「お前ら気合いたんねぇえぞぉぉぉ!!!」

「腑抜けた泳ぎしてるんじゃねぇ!!」

「やる気ないなら帰れよ!!!」

 

相変わらず凄い熱気だ。

私は去年見に来ているし、こういった感じの空気なんかは慣れているが。

後から入ってきたみんな絶句している。

特に1年のルビィちゃんが、熱気に当てられ怖がっている様子だ。

 

「ルビィちゃん大丈夫?」

「う…ちょっと怖い」

「曜さん、丸…ルビィちゃんと外で待っていていいですか?」

「うん、外のベンチで少し休んどいで」

 

ルビィちゃんと花丸ちゃんは観客席を後に出ていった。

そして善子ちゃんはジッと誰かを見ている。

目線を追うと男の子がいた、そしてその隣には浦男水泳部の主将さんが

 

「はぁ!はぁ!クッソが!!」

「珊瑚少し休め」

「まだ!…いけます!!」

「ダメだ休め。怪我したら意味ないぞ」

「チッ……うっす」

 

観客席まで声が聞こえた。

そして男の子は、悔しそうな表情でベンチに座った。

 

「ねぇ曜」

「ん?どうしたの?」

「競泳の練習って辛いの?」

 

凄く真剣な表情で私に聞いてきた。

友達思いの善子ちゃんは心配をしているのだろ。

 

「ここにいる人達は、みんな全国を目指している人達だから練習はかなりきつい方だと思うよ」

「そうよね…」

 

複雑そうな表情をする善子ちゃん。

友達の辛そうな表情を見て何か思うところがあるのだろう。

しかし、辛いだけじゃないのが部活だ。

 

「けどね…ほら見て」

 

男の子の方を見ると、瑠璃くんがどこからか出てきて話しかけていた。

何故かくねくね動きながら。

 

「あれれ~?俺に“見てろ”って言ったのに~」

「…うるさいあっちいけ」

「こんなことで疲れていちゃ……まだまだだな~」

「あああ!うるさい!泳げばいいんだろ!!??」

 

瑠璃くん何やっているの?後輩をいじめている様にしか見えない。

しかし次の瞬間、善子ちゃんはフフフっと笑い出した。

 

「珊瑚楽しそうね」

「楽しそうなの?」

「ええ!ほら!」

 

再度、男の子改め珊瑚くんを見ると薄っすら微笑んでいるようだった。

 

「珊瑚の扱いが上手なのね!あの人は」

 

先ほどまでとは打って変わり、嬉しそうな表情をする善子ちゃん。

……なんか怪しい。

 

「ねぇ善子ちゃん」

「善子じゃなくてヨハネ!」

「珊瑚くん好きなの?」

「…………ふぇ!?そ!そそそそんなわけないでしょ!!??えっと…そう!リトルデーモンに気を遣うのは、主人の勤めよ…。だからその…好き……とかじゃないんだから~~~!!!」

 

そう言うと善子ちゃんは観客席から出ていった。

へ~そっか、善子ちゃんも“恋”してるんだ。

 

「剛先輩!次なんですけど……」

「ああそうだな」

 

瑠璃くんの声に反応してついつい目で追ってしまう。

去年と比べて幼さが消え、大人びた彼は私の好きな人。

胸からこみ上げてきた熱は、徐々に顔を熱くさせた

 

「やっぱり…かっこいいな~…」

「曜ちゃん?」

「ッ!?な、なに梨子ちゃん!?」

 

梨子ちゃんが話しかけてきたのに少し驚いた。

しかし、その姿を見た千歌ちゃんがニヤニヤしながら

 

「曜ちゃんルーくんの事見すぎだよ~!さっきから話しかけてたよ!」

「うぇ!?ご…ごめん梨子ちゃん!」

「…気付いていたけど、曜ちゃんは黒澤くんが好きなの?」

 

まさかの質問に少しうろたえた。

てか千歌ちゃんに言われるぐらい見とれていたのか私…。

こんな姿を見れば、まぁ梨子ちゃんも気づくよね。

 

「……瑠璃くんは気が付いてくれないけど、うん…好きです」

「…そっか、素敵だと思う!頑張ってね」

 

梨子ちゃんは綺麗な笑顔でそう答えてくれた。

友達に応援されると、恥ずかしいけど嬉しく思う。

 

「うん!ありがと梨子ちゃん!」

 

私も、梨子ちゃんに笑顔で返した。

すると千歌ちゃんが飛び上がり、私と梨子ちゃんに抱き着きながら。

 

「よ~し!私たちAqoursも明日のイベントがんばるぞ~~!!!」

 

千歌ちゃんは水泳部の熱気に当たり気合が入ったみたいだ。

こうして私たちは水泳部にも負けないぐらいに気合いを入れ直し観客席を後にした。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

≪桜は蜜柑に触れた≫

 

 

「ははは…みんな寝ちゃったね」

「そうね…遠出だしきっと疲れちゃったのよ」

 

私と梨子ちゃんは明日のイベントのこともあって眠れなくなっていた。

そんな時、梨子ちゃんが私の顔を見て口を開いた。

 

「曜ちゃん…黒澤くんが好きだったのね」

「そうなんだよ!もう好き~ってオーラが出ているのに、全くルーくんは気づかないんだよ」

「ふふ…黒澤くんらしいわね」

 

ホントにルーくんは鈍感すぎるんだよ!っとそんな話をした時だった。

 

「千歌ちゃんは?」

「…え?」

「千歌ちゃんも黒澤くん好きでしょ?」

「―――ッ!?」

 

ばれた?いや、そんなことない!私がルーくんに対しての気持ちは心にしまった。

親友の好きな人を好きになるだなんておかしいんだから。

 

「な…何を言ってるの?ルーくんは曜ちゃんの好きな人だよ?親友の好きな人を好きになるわけないじゃん!も~変な梨子ちゃん」

「…この間ね、千歌ちゃんが黒澤くんと2人で話をしてたところ見たの」

「―――!?」

「何時もの“ルーくん”から“瑠璃くん”って呼んでたから驚いたわ」

「な…名前を呼んでみただけだよ~」

 

やめて

 

「今日、黒澤くんに会いに行く時に嬉しそうだったし」

「友達に会うなら普通だよ!」

 

お願い…この気持ちに名前を付けないで

 

「泳いでる黒澤くんを見てる時の千歌ちゃん…………曜ちゃんと同じこ「やめて!!」……」

 

気が付いたら私は梨子ちゃんの口元を抑えていた。

ハッと我に返り、直ぐに距離を取った。

 

「ご…ごめん梨子ちゃ「好きなんだよね?」ッ!?」

 

確信に触れられた。

隠したはずの気持ちが見つかった。

また隠さないといけないのに……私の次の言葉は言いたいことと真逆のことだった。

 

「好きだよ…ルーくんが。瑠璃くんが好き」

「……やっぱり」

「けどダメだよ」

 

私は眠っている曜ちゃんを見る。

可愛い寝顔でぐっすり眠っている彼女が微笑ましい。

 

「先にルーくんを好きになったのは、曜ちゃん。私は2番目だから!親友の背中を押すのが私の役目だもん!」

「…そう」

 

私はまたこの“”をしまった。

絶対に見つからないよう…“”に鍵をかけた。

 

「ねぇ梨子ちゃん…このことは2人だけの秘密ね?」

「…………わかったわ」

「心配してくれてありがとう!……ほら明日は早いよ!おやすみ梨子ちゃん!」

「…おやすみ千歌ちゃん」

 

私は目を瞑り闇へ落ちた。

また目が覚めたら私は、曜ちゃんの“親友”で瑠璃くん……ううん、ルーくんの“友達”に戻る。

私はいつも通りにこの“恋”を抑えつけた。

 

 

 





感想・評価よろしくお願いいたします。


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第16話


今回もよろしくお願いいたします。


 

 

東京遠征は無事に終わりを迎えた。

そして現在帰りのバスの中だ。

隣では遠征で疲れた珊瑚がぐっすり寝ている。

今回の遠征はかなり良かった方だ、特にメドレーだ。

蛍の成長スピードが予想よりも速かった。

この調子でいけば、メドレーで全国も夢じゃない。

しかし……それとは裏腹に……。

俺は携帯でスクールアイドルのイベントを調べて順位を確認した。

 

「最下位か…」

 

あの時といっしょだ、あのキラキラ輝いていた3人の時と…。

俺は拳を握り、いまのAqoursが解散しないことをただ願うことしか出来なかった。

その後、無事に学校に着いた。

軽くミーティング後をし解散、その足で駅に向かいAqoursの帰りを待つ。

しかし…会って何を話す?あの時、何もできなかった俺がいったい何ができる?頭の中に流れた2年前の不甲斐ない自分の姿に、嫌悪感を抱いた。

 

「瑠璃?」

「ん?…ダイヤ。ただいま」

「ええ、おかえりなさい」

 

俺の名前を呼ぶ声に気付き振り返ると、そこにはダイヤがいた。

きっとルビィを迎えに来たんだろう。

すると俺のとなりのベンチに座り、Aqoursの帰りを待つ。

 

「なんて話しかけますの?」

「……わかんない」

「はぁ…普通考えとくんじゃなくて?」

「うっせ…ダイヤはなんて話しかけるんだよ?」

 

俺に聞くということは、自分はもう決まっているのだろう。

そう思い興味本意で聞くと、ダイヤは少し考え口を開いた。

 

「おかえり…と言おうと思っていますわ」

「……そっか」

 

すると階段からAqoursの面々が出てきた。

その表情はとても暗い。

ダイヤはAqoursの面々に近づき、

 

「おかえりなさい」

 

ただ一言。

するとルビィは目に涙をためダイヤに抱きつきながら泣き出した。

…悔しい思いをしたんだ…今日ぐらい存分に泣いた方がいい。

俺はルビィの頭を撫ですぐに幼馴染である曜の前に立った。

 

「……瑠璃くん」

 

曜…お前まで泣きそうな顔をするなよ…。

俺は曜が被っている帽子を深くかぶせて、頭に手を優しく置き。

 

「帰るぞ」

「うん……ッ……うん」

 

そうとう悔しかったのだろう。

曜は瞳から大粒の涙をこぼした。

涙をみんなに見せないように、目元を隠している。

 

「曜ちゃん…」

 

曜の後ろから千歌の声が聞こえた。

 

「悪いな千歌、曜は俺が送ってくから」

「あ、うん…お願いします」

 

俺の知っている、明るく元気な千歌とは別人のように弱々しい。

その顔わ見てあの時の姉ちゃんを思い出した。

 

「なぁ千歌」

「ん?なに?ルーくん?」

「…やめるのか?」

「…え?」

 

しまった。

あの時の後悔を思い出してつい聞いてしまった。

続けるか続けないかは彼女たちの自由だ。

 

「すまん。忘れてくれ」

 

俺は曜を連れてその場を去った。

走らせてから、曜は一言も話さなかった。

俺も夜風にあたりながら自転車を走らせている。

 

「瑠璃くん」

「ん~?」

「喉乾いた」

 

泣いて喉が渇いたのだろうか?この先に自動販売機があったはずだ。

 

「はいよ」

 

自動販売機の横に自転車を止めて、ジュースを買う。

ベンチに座り買ったジュースを曜に渡した。

 

「ほらよ」

「ん、ありがと」

「…少し落ち着いたか?」

「……」

 

返事がない。

自分の飲み物を開けて飲む、夜の海を見ながら曜が落ち着くまで待つ。

風が吹き、水面に細かい波が立つ度に潮の香りが鼻腔をくすぐる。

この塩のにおいは何だか落ち着くような気がする。

すると、

 

「私さ、今回のイベント…自身あったんだ」

「…おう」

 

曜が口を開いた。

 

「ダンスも…歌も…ミスなくて……今までで1番の出来だった」

「おう」

「だけどさ…順位は最下位…更には0人だよ?」

 

0人。

会場の誰ひとりAqoursの踊れに心を震わせた人がいないということだろう。

曜は内浦の暗い海を見ているが、その瞳は涙をためている。

自然に曜の頭をそっと触れた。

 

「俺はさ、お前らの踊りや歌を見たわけじゃない。けど涙をためるぐらい悔しっかたんだな」

「…うん」

「お前らは頑張ったよ。だから我慢すんなよ」

 

触れた曜の頭を撫でた。

すると曜は瞳から、大きな涙が絶えずあふれ出した。

 

「うん…ッ!……うんッ!」

 

曜は俺の撫でている手をどかし抱き着く。

いきなりの事に少し驚き困惑したが、親友の涙を見て少し落ち着いた。

 

「よしよし…頑張ったな」

「うっ…ううッ…!!」

 

こんなに泣いてる曜は初めてだ。

子供のように泣き出した曜を、俺は優しく腕を回して抱きしめた。

そしてその後、何とか泣き止んだ曜だったが、恥ずかしかったのか今は両手で顔を隠してる。

 

「今頃かよ」

「うるさい!こっち見ないでよ!」

「痛ッ!?」

 

肩をグーで殴ったぞこいつ!?俺は元気を取り戻した曜を見て一安心した。

他のAqoursのメンバーが気になるが、そっちはダイヤが何とかしているだろう。

すると曜は赤い顔でこちらをジーっと見ていた。

 

「何だ?恥ずかしいのは収まったか??」

「……瑠璃くんってさ、何でそんなに私たちを気にかけてくれるの?」

 

私たちとはAqoursのことだろう。

気にかけているか…。

 

「違うよ曜」

「ん?」

「気にかけてるんじゃないよ。これは―――贖罪だよ」

「贖罪?」

 

俺があの時のしっかりと動いてれば、姉ちゃんの涙の理由を聞ければ、果南姉にもっと気にかけていれば、鞠莉姉を信じなければ…。

あの時の事は後悔がどんどん蘇ってくる。

だからこそ今回のAqoursを気にかけていたところもある。

 

「…少し昔話してもいいか?」

「うん。聞かせて」

 

曜は真剣な目でこちらをジッと見た。

 

「あれは……2年前の話だ」

 

昔の記憶を、糸を手繰るように思い出し曜に話した。

 

 

 





次回から過去編。
瑠璃くんと元祖Aqoursに一体何が!?

感想・評価お願いします!


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第17話


ということで直ぐに投稿です!
今回もよろしくお願いします


 

 

水は生き物だ

飛び込めば牙をむき襲い掛かかってくる。

だがしかし、拒まずに受け入れれば、水は美しい生き物となる。

スクールのコーチに教えてもらったこの言葉の意味は、俺はまだ知らない。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「ただいま~」

 

中学の部活が終わり無事に帰宅。

曜とも帰りに少し話したけど、遅い時間ではない。

 

「おかえり!お兄ちゃん!」

 

バタバタっと玄関まで迎えに来てくれたルビィ。

ルビィの頭に手を置き撫でる。

 

「ただいまルビィ」

「~♪」

 

頭を撫で終わるとそのままルビィは、腕に抱き着きながら台所に向かう。

台所には母さんが料理をしていた。

匂いからするに、魚の煮付けだろうか?

 

「母さんただいま」

「おかえりなさい。あら?も~ルビィったらお兄ちゃんが大好きなのね」

 

母さんは、俺の腕に抱き着いているルビィを見て笑顔になる。

そして何故か満足そうな顔をしているルビィ。

 

「父さんは?」

「お父さんはまだ仕事で帰ってきてないわ。先にいただいちゃいましょう!」

 

そっか…最近父さんの帰りが遅い。

久々に話がしたかったけど仕方がない。

 

「あら、瑠璃おかえりなさい」

「あ、姉ちゃんただいま」

 

後ろから姉ちゃんが話しかけてきた。

 

「姉ちゃん、勉強でわからない所があるから教えて欲しいんだけどいい?」

「ええ!構いませんわ!お夕飯食べてからにしましょう。ルビィ?夕飯の準備をしましょ!」

「は~い!」

 

そう言うと姉ちゃんはルビィを連れて夕飯の準備へ。

俺も着替えてから夕飯の準備を手伝う。

やっぱり今日は、煮魚だった。

その後、夕飯を食べて姉ちゃんの部屋に行き勉強を教えてもらった。

 

「ありがと姉ちゃん。何とかなりそうだ」

「いつでも頼って下さい。何たってお姉ちゃんですから」

 

胸を張りフンっと息を吐き、何故か誇らしげだ。

個人的にはいい加減、姉弟離れした方がいいと思うけど…。

俺はノートを片付け部屋を出ようとしたら。

 

「る…瑠璃」

「ん?なに?」

 

姉ちゃんに呼ばれて振り向くと顔をほんのり赤くしている姉ちゃんの姿。

何だろう?とりあえず片付ける手を止めて話を聞く。

 

「実は…わたくし、スクールアイドルを始めようと思っていますの」

 

スクールアイドル…姉ちゃんとルビィが好きなものだったはず。

そのスクールアイドルになるのはすごいことだと、余り詳しくない俺でも分かる。

 

「スゲェじゃん!ライブとかあるの!?」

「い…いえ、まずはグループ名を決めなければ……そこで明日、鞠莉さんのところにいこうと思っていますの…瑠璃はどうしますか?」

「行く!鞠莉姉の所行く!」

 

鞠莉姉は俺の親友だ。

最近、部活で会えてなかったし久々に会いたい。

 

「あと、果南さんも来ますわ」

「果南姉も来るの!?」

「ん?何か問題でも?…少し顔も赤いですが?」

「ううん!全然!何でもないよ!!」

 

あ…危ない。

姉ちゃんに果南姉の事が好きなのがバレる所だった。

この事を知っているのは鞠莉姉だけだ。

久々に会う2人……楽しみだ。

その日の夜は明日の為に直ぐに寝た。

そして次の日、姉ちゃんと船に乗り淡島のホテルオハラの鞠莉姉の部屋へ向かった。

 

「鞠莉姉と果南姉もスクールアイドルやるの!?」

「そうなのよね、スクールアイドルには余り興味はないのだけれど…」

 

鞠莉姉は少し恥ずかしそうに答えた。

ついでに果南姉と姉ちゃんは後ろでチーム名を決めようと色々アイディアを出しあっている。

そっか…2人もスクールアイドルか…。

鞠莉姉は紅茶を飲みながら2人の様子を見ている。

 

「けど、鞠莉姉も美人だし!直ぐに人気になるんじゃない?」

「ッ!?」

 

鞠莉姉は、ビクッと体を震わせたこちらをジッと見てきた。

え?なんかした??

 

「はぁ…瑠璃?そういう事は私じゃなくて果南に言わないとダメよ?好きなんでしょ?」

「う…うん。ごめん」

 

何か注意された…本当のことなのにな…。

すると今度は机をたたく音が、振り向くと姉ちゃんと果南姉が、チーム名で白熱していた。

 

「やはりここは、浦の星少女隊がいいですわ!」

「違うよ!スピカの方がいいよ!!」

 

予想よりもかなり白熱してる。

 

「止めなくていいの?」

 

鞠莉姉から出された紅茶を飲みながら、鞠莉姉に聞く。

するとニコニコと笑みを浮かべながら答えた。

 

「いいんじゃない?私は楽しいわよ!」

 

そう答える姿は、本当に楽しそうだ。

ん~…チーム名か……内浦に関係するのがいいとなれば……。

 

「みかんガールズとかは?」

「「「それは絶対にない」」」

 

3人からまさかの拒否。

いいと思ったんだけどな…。

すると鞠莉姉は近くの紙に英語を書き始め見せて来た。

紙にはAqoursと書いてある。

 

「Aqoursなんてどうかしら?水を意味するaquaと、私たちのものって意味のoursを組み合わせてAqours!」

 

鞠莉姉が淡々と説明。

何だか異様にしっくり来た。

そして、姉ちゃんと果南姉は目を合わせて

 

「Aqours……響きがいいですわね!」

「うん!私の考えたスリーマーメイドよりいいかも!」

 

どうやら気に入ったようで、次の段階の話に移行した。

その後話し合った結果、果南姉が作詞兼リーダー、鞠莉姉が作曲、姉ちゃんが衣装作成と役割を分担した。

俺はというと、3人からお願いされAqoursサポートをする事になった。

こうして、姉ちゃん・鞠莉姉・果南姉の3人でスクールアイドルAqoursは始動した。

その後、結成から半年もたたずAqoursは地元でも有名になり、“東京スクールアイドルワールド”のイベントに招待される事になった。

 

「3人とも忘れ物はない?」

 

俺は3人を見送りに来た。

俺の問いに鞠莉姉がピースしながら答える。

 

「ノープロブレム!問題ないわ!」

「それならよかった、今回は水泳の大会が近いから調整で行けないけど……応援してるから思い切って楽しんでね!」

「ええ!頑張るわ!」

 

鞠莉姉の気合いは十分に伝わった。

それに比べ…姉ちゃん…。

 

「人を3回書いて飲む…人を3回書いて飲む」

「緊張しすぎじゃない?」

「東京ですよ!?緊張しますわー!」

 

ダメだ、姉ちゃんが壊れた。

とりあえず肩を叩き落ち着かせる。

 

「いつも通りにいけば大丈夫!姉ちゃんならできる!」

「…ホント?」

「ホントホント」

 

少し涙目にこちらを見てきた姉ちゃんを何とか励ます。

すると落ち着いたのか、姉ちゃんは深呼吸をして覚悟を決めた様子で。

 

「ありがと瑠璃、行ってきますわ!」

「うん!いってらっしゃい!」

 

姉ちゃんはそのまま改札口へ。

すると果南姉がジッとこちらを見てる。

 

「な…なに?果南姉」

「私には何かないのかな~って」

「え~…果南姉は緊張とかしないでしょ?」

 

果南姉は今までのステージも何だかんだそつなくこなしていた。

緊張している様子はないと思えたが、果南姉は頬を掻きながら

 

「ははは、私だって緊張はするよ?あんまり表には出してないだけで」

 

その言葉に少し衝撃を受けた。

勝手に果南姉は大人だと思ってたけど、同じ子供何だ。

俺は果南姉の目を真っ直ぐ見た。

 

「頑張れ果南姉!応援してる」

「…うん!ありがと!瑠璃も部活頑張って!」

 

果南姉は俺の頭を軽く撫で鞠莉姉達のもとへ。

電車は出発し、見えなくなるまで俺は手を振り続けた。

―――そしてこれが最後に4人で笑った日でもあった。

 

 

 






第16話の文字数が少なく感じたので、投稿致しました!

個人的な好みなのですが…僕は瑠璃くんと元祖Aqoursの絡みが大好きです(⌒∇⌒)
ということで、次の投稿は明日になります!

感想・評価お待ちしてます。

そう言えばもうすぐバレンタインですが…バレンタインの話需要ありますかね?
ということで初めてアンケートやります!


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第18話

今回もよろしくお願いします。


 

 

俺の大会まで残り1週間と数日が切った。

そして今日は、姉ちゃんたちが東京から帰って来る日。

部活が終わり次第、速攻で家に向かった。

イベントの結果を聞く為とイベントの雰囲気など…Aqoursなら好成績を残して、これから様々なイベントに呼ばれるかもしれない!っと想像が膨らんだ。

そして玄関を開けて。

 

「ただいま~」

「おかえりなさい」

「おかえり」

 

母さんと父さんが玄関にいた。

これから出かけるのだろうか?すると父さんは俺を見ながら。

 

「部活か?」

「うん!もうすぐ大会だからね!」

「……そうか。無理はしないようにな」

「うん!そう言えば姉ちゃん帰ってきて…「シーっ」…???」

 

母さんが俺の口に人差し指をあて、静かにするようにと目でこちらを見た。

とりあえず頷くと手が離れていき、すぐに笑みを浮かべて

 

「いまはそっとしてあげて?東京で疲れているみたいだから」

「??…わかった」

「いい子ね。あなた行きましょう」

 

そう言うと父さんと母さんは、どこかへ出かけた。

確かにこの数日、色々あったら疲れるか…Aqoursの話はまた今度にしよう。

俺はそのまま手洗いうがいをして自分の部屋へ。

自分の部屋へ向かう途中、姉ちゃんの部屋の襖が少し空いている。

開いた隙間から姉ちゃんの部屋覗くとそこには、Aqoursの衣装を顔に押し付けながら泣いている姉ちゃんの姿が……。

 

「うっ…うう……これで…これでいいんですわ」

 

衝撃的だった。

あの強い姉ちゃんが声を我慢して泣いている。

俺は何もできず自分の部屋へ向かい、ベットに横になった。

先ほどの光景が脳裏から離れない……東京で何かあったのかと思い直ぐに、電話をかけた。

 

「もしもし?」

「あ、鞠莉姉?俺だけど……」

「ああ、瑠璃?どうしたの?」

 

鞠莉姉が出たが……流石に姉ちゃんが泣いていたなんて言えない。

 

「お…お疲れ様!イベントどうだった?姉ちゃん寝ちゃってさ…」

「イベント………色々あったけど大丈夫よ!次は花火大会でのイベント頑張るわ!」

 

ん?色々?何だろう?それと、何だか違和感がある回答だ。

俺は“色々”とは何か聞こうと口を開こうとした瞬間。

 

「ごめんなさい瑠璃。マリーとってもスリーピングなの…また後日改めて話しましょ?」

 

東京から沼津までの移動に東京で何かがあった事で、体力を消費したのだろう。

 

「わかった。後日連絡頂戴?」

「もっちろん♪それじゃ!グッナイト!」

「う……うん。おやすみ」

 

鞠莉姉からは後日連絡が来る。

俺はもう1人の人物…果南姉に電話をかけるか迷っている。

しかし果南姉も同様に疲れているだろう。

そう思い俺は、鞠莉姉から連絡が来るのを待った。

そして……待って1週間がもうすぐ経とうとしていた。

いまだに鞠莉姉から連絡はない…それどころか最近Aqoursの3人で集まっている様子が全くない。

1つだけわかったことがある、“東京スクールアイドルワールド”のホームページを見るとAqoursの順位は最下位になっていた。

思うに、ショックで姉ちゃんは泣いていたんだろうと予想している。

そんなことを思っていた矢先の出来事だった。

 

「やめた?」

「ええ、スクールアイドルはもうやめましたわ」

 

耳を疑った。

あんなに楽しそうにアイドル活動をしていた姉ちゃんが…。

 

「ははは、面白い冗談だね?」

「…冗談ではありませんわ。だからあなたも、大会に集中しなさい」

「そんな…納得できるわけないじゃないか!」

 

俺はホームページで見つけたイベントの順位を見せながら、姉ちゃんに訴えた。

 

「最下位だったんでしょ?また頑張ればいいじゃん!」

「ッ!?…とにかく!もうやめましたの!もうスクールアイドルの話をしないでください!!」

 

姉ちゃんはそのまま家を飛び出した。

俺はその後ろ姿を見ることしかできなかった。

ハッと我に返り、直ぐに果南姉に電話を掛けた。

 

「もしもし、瑠璃?」

 

果南姉の声を聴いた瞬間、何かが溜まっていたかのように果南姉に吐き出した。

 

「姉ちゃんがスクールアイドルやめるって!!ど……どういう事!?」

 

それを聞いた果南姉は何かを察したのか、深く深呼吸をしてから話しだした。

 

「……私とダイヤはあの時歌えなかったの。やっぱり学校を救うなんて無理なんだよ」

 

意味が分からなかった。

こんな事を言うこの人は本当に果南姉なのかと思った。

俺の知っている…俺の好きな松浦 果南はこんなことで挫折しない。

俺は深く追求しようとした思った瞬間、

 

「悪いけど……もうスクールアイドルをやらない」

 

そういいながら電話を切られた。

また再度掛けなおしたが電話が繋がらない。

一体…Aqoursで何が起こってるんだ…まったく検討がつかない。

急に姉ちゃんが辞めて、果南姉まで辞めた。

もしかして鞠莉姉が何か知っている?俺は鞠莉姉にメッセージを送信する。

すると鞠莉姉から、直ぐに返事が来た。

 

『連絡できなくてごめんなさい。直接話したいから瑠璃の大会後、ここで待ち合わせしましょ!』

 

メッセージには位置情報も添付されている。

色々あったが数日後は大会だ……大会後に真実が聞ける。

いったんAqoursの事を忘れようと心に決めた。

しかし、そう簡単には行かなかった。

その後の大会では、コンディションが悪く、まったく大会に集中できなく結果は予選落ち。

中学最後の大会は最悪の結果で幕を閉じた。

悔しい思いを胸に俺は、直ぐに添付された位置情報を頼りにとある公園へ。

少しの遊具とベンチしかない、小さな公園だ。

周りを見る限り鞠莉姉は来ていない。

とりあえず待つことにした。

ようやくAqours現状を知れる!久々に鞠莉姉に会える。

そんなことを思いながら待った…日が沈み始めたが待った……日は完全に沈んだが待った………近くの家から美味しそうなカレーの匂いがしたが待った…………誰も来ない。

携帯を確認したが何もメッセージはない。

自分の中の黒い感情が芽生え始めた。

裏切り?バックレた?そんなことない!鞠莉姉がそんなことするはずない。

俺はホテルオハラに向かった。

そこなら確実に鞠莉姉に会える!そう思い自転車を走らせた。

ホテルオハラに着き、ロビーにいるスタッフさんに話しかけた

 

「すみません。鞠莉ね…じゃなくて小原 鞠莉さんの友人の黒澤 瑠璃なんですけど、鞠莉さんはいらっしゃいますか?約束があるのですが…」

「お嬢様ですか?少々お待ちください」

 

スタッフはこちらに一礼して何処かに向かった。

近くのソファーに待つこと数分、先ほどのスタッフがこちらに向かってくる。

立ち上がり話を聞く。

 

「黒澤様、お待たせして申し訳ございません。お嬢様なのですが……」

「はい」

 

何だろうか?急な用事でも入ったのはだろうか?それならそれでメッセージをすればいいのに

 

「今日の午前中に留学の話を受け入れ、海外へ行かれました。どうやら数年は内浦に戻らないとのことです」

「―――は?」

 

俺の中の黒い感情が爆発した。

その後、裏切られたショックからなのか気が付いたらベットに横たわっていた。

帰りの記憶が曖昧だ。

そして俺の中では今までの事が頭を駆け巡り1つの仮設にたどり着いた。

Aqoursの解散…姉ちゃんの涙…果南姉が歌えなかった…鞠莉姉の留学……裏切り。

あぁ…そうか

 

「鞠莉姉がAqoursを潰したのか…姉ちゃんを泣かせて、果南姉のやる気を削いだ。全部鞠莉姉が悪いのか」

 

鞠莉姉…小原 鞠莉は裏切りものだった。

頭の中では嫌なことがグルグルと回る。

いままであの人を信頼していた俺がバカだった。

俺はAqoursを潰したあの人を、絶対に許さない。

行き場のない怒りがこみ上げて枕に、それをぶつけ目を閉じた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

そして現在に至る。

自分の過去の話を終わらせて曜を見る。

 

「これが理由かな…俺がもう少し気を使って行動していたら、姉ちゃんと果南姉はスクールアイドルを辞めずに済んだと思うよ」

「今思うと…あの時の瑠璃くん、少し荒れてたもんね」

 

その後に親父との一軒もあったのだが、それは別の話だ。

実際にあの時は無我夢中で泳いでたからな…。

 

「ま、お前らは歌えただけでもすごいと思うよ。そろそろ帰るか」

「…うん」

 

何かを考えている様子の曜を尻目に自転車に乗る。

曜も後ろに乗り込み、俺はバランスを取りながら前へと漕ぎ始めた。

すると曜が口を開く。

 

「瑠璃くんは、いまのAqoursは続けるべきだと思う?」

 

曜からの質問に少し戸惑った。

俺の本心からは続けてほしい…しかし俺は答える資格がない。

 

「そういうのは……昔のAqoursとか気にせずに、今のAqoursのみんなが決めることだと思う」

「そうだよね、ごめん」

「謝んなよ」

 

きっと先ほどの話を聞いたうえでの質問だったのだろう。

俺は内浦の風を感じながら、曜を家まで送った。

その後、家に帰り俺は直ぐに眠りについた。

翌日、今日は遠征の疲れを癒す為に部活は休みだ。

そして俺はある人からの着信音で起きた、画面には“千歌”と書いてある。

昨日のこともあったので、眠い目をこすりながら出た。

 

「はぁ~…もしもし?」

「あ、ルーくん?ごめん!起こしちゃったね」

「いや、大丈夫だ。どした?」

 

電話の内容はAqoursのことだろうと予想し、話を続ける。

千歌は深呼吸をして話しだした。

 

「Aqours続けることにしたよ!」

「!!…そうか、よかった。それなら頑張ってくれ」

「うん!もちろん!…ありがとね」

「ん?何が?」

 

何かをした覚えが全くない、急な感謝の言葉に理解ができない。

すると千歌がまた話しだした。

 

「あの時の“やめるのか?”って言葉が私を動かしてくれた」

「ん~?よくわからんが、それは良かった」

 

俺の言葉に千歌が動いてくれたのなら、あの時の失言は成功だったのかもしれない。

 

「そ…それでなんだけど……えぇ~、ほんとに言うの?

「千歌ちゃん?」「わ…わかったよ…」

 

ん?何やら騒がしいな…。

それよりも何だかんだ千歌の様子がおかしい。

すると電話越しで再度深呼吸し、よしっと気合いを入れて話しだした。

 

「明日!お礼したいので!ご飯行きませんか!?」

 

…………は?お礼?いやそんなことよりご飯?

 

「また急な提案だな」

「え!?ええっとその……迷惑かけちゃったから……お礼したくて…」

 

徐々に声が小さくなっていった千歌。

明日は、部活もないため学校が終わったら帰る予定出し、予定はないな。

 

「予定もないし構わないぞ?」

「ホントに!?」

「あ…ああ」

 

先ほどの態度が噓のように元気になった千歌。

急に食いついて来て、びっくりした。

 

「それじゃ明日、学校終わりに駅に集合ね!!」

「了解」

「明日楽しみにしててね!バイバイ!!」

 

勢い良く電話を切られた。

まだ話終わってないのにな…まぁ明日になればいいか。

てか異性と出かけるなんてまるでデー……ト?

その瞬間、何かが俺の顔を熱くさせた。

 

「ッ!?」

 

え?明日まさかのデート!?いやいや、千歌だぞ?ぜっっったいに千歌は意識してないはず。

普通に友達とご飯の感覚でいいはずだ。

けど…あの戸惑い方……まずいな、明日どんな顔で会えばいいんだよ。

俺はそんなことを思いながら、今日1日を過ごした。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

≪桜は蜜柑の背中を押す≫

 

 

ルーくんとの電話を切って隣を見る。

 

「ふぅぅぅ…これでいい?梨子ちゃん」

「うん!よくできました」

 

Aqoursの作曲担当の梨子ちゃんがニコニコと嬉しそうな表情をしている。

千歌はある罰ゲームを受けてます。

罰の理由は、今回のAqoursの騒動を1人で何とかしようと考えたから。

みんなから罰ゲームを受ける中で、梨子ちゃんだけ趣向が違っていて、その内容はというと

 

「何で罰ゲームがルーくんとご飯なのさ~」

「千歌ちゃん喜ぶかなって」

「……梨子ちゃんは意地悪だ」

 

私がルーくんの事を好きなのを知っているのは梨子ちゃんだけ…。

どうしてこんな事をするのか分からない。

 

「ねぇ千歌ちゃん」

「…なに?」

「確かめてほしいの」

「?」

「千歌ちゃんは本当に黒澤くんが好きなのか…」

 

…どういう事だろう?私がルーくんの事を本当に好きなのか?

 

「もし確かめて…それでも曜ちゃんを応援するなら止めない」

「梨子ちゃんは曜ちゃんを応援しないの?」

 

だから千歌の事を後押ししてるのかと思って聞いてみた。

すると梨子ちゃんは直ぐにそれを否定した。

 

「そんなことないわ!黒澤くんと曜ちゃんも似合ってると思う!…ただ」

「…ただ?」

「千歌ちゃんが2人を見る目が少し悲しそうだったから」

「ッ!?」

 

図星だった。

ここ最近…特に“瑠璃くん”って呼んだあの日から私は曜ちゃんに少し嫉妬していた。

けどルーくんと曜ちゃんが付き合っても、私は祝福できる!それは自身がある。

けど明日のルーくんとのご飯を楽しみにしてる自分もいる。

また溢れてきそうなこの“”。

 

「…わかった。明日ルーくんとご飯いって確認する」

「千歌ちゃん…」

「それで終わり!曜ちゃんにも悪いし、別の恋を探す!」

 

そう決めて私は決心した。

今回で最後にしてこの“”に終止符を打つ。

 

 

 




ということで唐突の千歌ちゃん回です!
果たして千歌ちゃんは自分の気持ちに終止符を打てるのか!?そして瑠璃くんは意識せずにいられるのか!?

ブラックコーヒーを持ってお待ちください。


感想・評価お待ちしてます!


※今週の金曜日(2022/1/28)に更新予定でしたが、私生活が忙しくなり始めたので更新が遅れます(´;ω;`)

大変申し訳ございません!!

来週金曜日(2022/2/4)に更新しますので、よろしくお願いいたします!


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第19話


先ずは大変申し訳ございませんでした。
前話で2022/2/4(金)に投稿予定だったのですが、中々執筆が進まなくようやく完成いたしました!!

改めて、申し訳ございませんでした。


早速ですが第19話よろしくお願いします。


 

 

私は過去の記憶を思い出していた。

 

『千歌ちゃん!紹介するね、黒澤 瑠璃くんです!』

『初めまして、曜から色々聞いているよ。高海…でいいんだよな?』

 

彼と始めてあったのは、中学一年生の頃。

親友の曜ちゃんの紹介だ。

最初の印象は物静かで真面目そうな人だった。

 

『うん!初めまして!高海 千歌です!』

 

そこから彼とは中学生活ずっと関わってきた。

そんな中で…私があることで悩んでいた時だった。

 

『またやめたって?』

『…黒澤くん…ほっといてよ』

『そうか…じゃぁ、ほっとくよ』

 

彼は近くの自動販売機に行き何かを買って、隣に腰掛ける。

 

『曜が心配していたからさ、様子見に来たんだ』

『…ほっといてよ』

『ほっときたいのは山々なんだがな…めんどくさいし』

『じゃぁなんで』

 

黒澤くんには、わからない。

千歌の悩みなんてわかるはずがない。

‘’才能‘’がある彼に‘’普通‘’である私の悩みなんて。

 

『まぁ…これでも友人だしさ……親友に話辛いのなら友人はどうだ?』

 

そこで私は何かが切れた。

溜まっていたものを黒澤くんに吐き出した。

 

『‘’才能‘’のある黒澤くんや曜ちゃんにはわからないよ!!’’普通’’の私の悩みだなんて!!だからあっち行ってよ!!』

『……ようやくこっちを見たな?ほらよ』

 

黒澤くんは何かを投げてきた。

紙パックのみかんジュース?すると彼は口を開いた。

 

『吐き口になるから話してみ?最後まで聞くから』

『ッ!?』

 

そこから悩みを打ち明けた。

何かに挑戦や続けても、曜ちゃんや黒澤くんや‘’才能‘’のある人と比べて止めてしまうことを。

気が付いたらジュースも飲み終わっていた。

 

『少しスッキリしたか?』

『…うん』

『んまぁ…本気だからこそ周りと比べて、自分が嫌になるんじゃないの?』

『うん…千歌だって頑張っているけど……自分が“普通”だって思うと…嫌になる』

『…なら頑張らなくていいんじゃね?』

『え?』

 

衝撃が走った。

“頑張らなくていい”なんて言われたのは初めてだ。

黒澤くんはそのまま話を進めた。

 

『だって高海、頑張るのが楽しそうじゃないし』

『ッ!?』

 

図星だった。

周りと比べて千歌もやらなきゃって…。

そう思った瞬間にくる嫌な感情、何度も来た嫌な感情。

 

『どう続けるか何て問題じゃない。頑張るのが楽しくないなら、続けるのは無理だと思う。まぁそれでも続けたいなら止めないけど…』

『…そっか』

 

何かがストンっと心に落ちた。

そして先ほどまでの、嫌な感情が薄れていった。

そっか…頑張らなくていいんだ。

 

『ありがと黒澤くん、ちょっと考えてみる』

『おう』

 

家に帰り一晩考えた。

そして次の日に答えを出して、黒澤くんのもとに向かった。

 

『黒澤くん』

『ん?おぉ高海。答え出たか?』

『うん…やっぱり辞めることにしたよ。余り好きじゃなくなってたから』

 

いままでこの言葉…“辞める”って言葉で何人も複雑そうな表情を見てきた。

黒澤くんも同じ表情になるかと思いきや

 

『そっか…まぁいいんじゃね?』

 

本当に他人事のように答えた黒澤くん。

しかし、その表情が凄く私にとっても新鮮だった。

そして黒澤くんは自分の頭を搔きながら

 

『まぁなんだ…夢中になれるもの見つけたら教えてくれ、全力で応援する』

 

ニカっと笑いながら千歌の肩を叩いた。

その瞬間、黒澤くんを見る目が変わり、心が温かくなった。

その感情に私は“恋”と名付けた。

 

『ねぇねぇ黒澤くん!』

『ん?』

『ルーくんって呼んでもいい?』

『また唐突だな……別に構わないが』

 

気が付いた時には私は、“黒澤くん”の事を“ルーくん”って呼んでいた。

そんなある日、あることに気が付いた。

それは曜ちゃんもルーくんに“恋”をしていた事に…。

 

『曜ちゃんってルーくん好きだよね?』

『え!?…………う…うん…』

 

絶望だった。

親友と好きな人が被った…罪悪感が押し寄せてきた。

けど口から出たのは思いもよらない事だった。

 

『そっか!それなら応援するね!』

『ち……千歌ちゃ~~ん!』

 

曜ちゃんは嬉しそうに私に抱き着いてきた。

これでいい…これでいいんんだ。

私はこの“恋”に蓋をし、親友を応援する道を選んだんだ。

そして、現在。

私は自分の気持ちを再度確かめるために、ルーくんとデートに行く。

……デート…………デート……。

 

「ていうか!デートってどうすればいいのぉぉぉぉぉぉ!!??」

 

私は海に向かって叫んだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

俺、黒澤 瑠璃は緊張している。

その理由は友人である千歌からの誘いでご飯に行くことになったからだ。

友人が言うには、異性と出かけるのは“デート”だといっていた

そして、現在俺は待ち合わせ場所のカフェで普段飲まないコーヒーを飲みながら待っていた。

 

「苦っ……やっぱり砂糖とミルク入れよう」

 

カッコつけてブラック頼むんじゃなかった…。

席にあるミルクと砂糖を入れて、苦みを抑え一口。

すると、オレンジ色の髪に特徴的なアホ毛を揺らして走っている少女、高海 千歌が走って来た。

千歌はキョロキョロと周りを見ている…中にいるの気づいてないのだろうか?俺は窓を軽く叩こうとした瞬間。

クルっと周り、窓に映る自分の姿を確認している。

崩れている前髪を治して、ニコッと笑い気合いを入れている様子だ。

……何か見てはいけない様な物を見てしまったな……。

すると窓越しに俺と目が合った。

 

「…………」

「…………ッ!!??」

 

数秒間が開いた瞬間、みるみると顔が赤くなった。

そして、店に入り俺が座っている席の前に顔をうつぶせるように座った。

 

「お決まりでしょうか?」

「あ…オレンジジュースを1つお願いします」

「かしこまりました」

 

とりあえず千歌の代わりに頼み顔を上げるのを待った。

すると千歌はほんのり赤い顔を上げて口を開いた。

 

「本日は誘いに乗ってくれてありがとうございます」

「なかった事にするのか…まぁいいけど」

 

頭を下げだした千歌に、つい心の声が漏れてしまった。

そして頼んだオレンジジュースが届き、千歌は嬉しそうに飲む。

さて本題だ。

 

「ご飯に行くって言ってもこの辺何もないだろ?何食べるんだ?」

「ふふふ、じゃじゃーん!美渡姉からチケットをもらいました!」

 

そう言って千歌が取り出したのは、1枚のチケットだった。

そこには某有名ケーキバイキングのお店の名前が書かれており、更には無料と書かれている。

 

「ケーキか」

「ルーくんケーキ好きでしょ?」

「嫌いじゃないけど、曜といけばいいんじゃないのか?」

 

異性と2人で行くところなのか?っとそんなことを思いながらコーヒーを飲みながら話した。

しかし、返事がない。

チラッと千歌の方に目を向けると、目をウルウルしほんのり頬を赤く染めこっちを見ている。

 

「千歌と行くの……嫌?」

 

衝撃が走った。

というか凄いドキっとしたぞ俺!?そんなこと言われたら断れない。

 

「い…嫌じゃないけど」

 

恥ずかしさを隠すように、コーヒーを一気に飲み干して意識を別のところに向けた。

すると千歌はフッと笑い席を立ち上がった。

 

「それじゃ~、出発進行!」

「あ、お前!?」

 

気づいたらオレンジジュースを飲み干していた千歌は外へ。

会計を済まして千歌を追いかけた。

そのまま電車に乗り、目的のケーキバイキングの元へ。

電車の中では色々な話をした、これからのAqoursの事や中学校の思い出等々。

そして目的の場所に到着した。

店内はハートやピンクを強調した作りで、女性の客が9割いる。

めちゃくちゃ入りづらい…。

しかし千歌はというと、目をキラキラさせながら店内を見渡している。

 

「いらっしゃいませ~♡お客様2名様ですか~♪」

「あ、はい2名です」

 

何だかテンションの高い店員さんだ。

千歌はチケットを店員に渡す。

すると店員は俺と千歌を見比べて、口を開いた。

 

「こちらは~カップル専用のチケットなんですけど~?お2人はカップルでしょうか~?カップルでしたら、何か証明できるものを見せてもらってもいいですか~☆」

「…は?」

 

え?カップル専用?俺はチケットを確認すると、端っこに小さくカップル用と書いてある。

いや、これ絶対におかしいだろ!?俺は千歌の方を見ると、予想していなかったのか顔を赤くして固まっている。

と…とりあえず。

 

「証明と、いいますと?」

「そうですね~…ツーショット写真の写真だったり、手を繋いだり、キスだったり!ですかね~♪」

 

ニコ~♪っと笑いながら話す店員。

…仕方ない、カップルじゃないし普通の料金を払うとしよう。

俺は財布をポケットから出そうとした瞬間。

俺の右腕に何かに掴まれた。

 

「こ…これでいいですか!?」

 

千歌は恥ずかしそうに俺の右腕に抱き着きながら、店員さんに見せつける。

ムニュっと何かが右腕を挟んでいる感触や千歌の匂いなどで俺の心臓が一気に加速した。

そしてその姿を見た店員さんは

 

「チッ……ではこちらご案内しますね~♪」

「おい、いま舌打ち「何のことですか~♪お席ご案内しますね~☆」……」

 

遮るように話されて、何も言えない。

そして俺と千歌は店員に案内されるがまま席についた。

店員さんに案内された席は、ソファー型の席で並んで座るタイプの席だ。

 

「それではスイーツバイキング90分でのご案内になります♪それではスタートで~す☆☆」

 

店員さんはその場をさり、取り残された俺と千歌。

 

「と…とりあえず何とかなったね!」

「お前……チケットちゃんと見てくれよ」

「いや~!ごめんごめん!」

 

本当に思ってるのかこいつ…。

まぁ済んだことだしいいだろう…。

そんなことより…俺は右腕にまだ残ってる触感を思い出した。

俺の周りでは幼い頃から、大きいサイズの方々と関わることも多い。

果南姉とか小原先輩や最近では曜もその1人だ。

慣れているつもりだったが……思い出すと少し恥ずかしい。

 

「ルーくん!!」

「は…はい!何だ?」

「さっきから呼んでるのに無視しないでよ!」

「す…すまんすまん。ケーキ取りに行こう」

「うん!」

 

いけないいけない、考えすぎて聞こえてなかった。

こうして俺と千歌は、食材が並んでいる棚からそれぞれ好きな物を取り席へ。

俺はパスタやケーキなどをバランス良くとっているで千歌はというと

 

「全部みかんが入ってるケーキじゃねぇか」

「えへへ、つい取っちゃったよ~」

 

嬉しそうに笑う千歌に少し和む。

とりあえず食べてしまおう。

 

「「いただきます」」

 

先ずはパスタを一口。

麺にしっかりとクリーミーな味わいが絡まって、チーズの味がかなり強めだ。

俺は濃い味付けが好きなので問題ない。

パスタを終わらせてケーキを口に入れた。

うん!これも美味い!!どんどん食べ進めていくと

 

「ルーくんって幸せそうに食べるね」

「ん?そうか?」

「うん!ほら!」

 

そう言って千歌は携帯の画面を見せてきた。

そこには俺が笑顔でケーキを食べている姿が、というか勝手に撮ったのかこいつ。

 

「許可なく撮るなよ」

「いいじゃん!減るもんじゃないし!」

 

何故かニコニコと写真を眺める千歌。

その姿に笑みがこぼれある事を思い出した。

今更だが、俺はスクールアイドルとご飯食べに来てるんだよな。

千歌は自分のことを“普通”や“平凡”と言うが十分魅力的な女の子だ。

その証に、浦男では千歌のファンが何人もいる。

 

「ん~…ルーくん」

「ん?何だ?」

「流石にジッと見られるのは恥ずかしい…」

 

千歌は恥ずかしそうに顔を隠す。

そんなに長く見ていた覚えがないのだが…。

しかし千歌のこういう反応は新鮮だ。

 

「悪かったよ。ほらこれでも食って機嫌治せよ」

 

俺は残りケーキをフォークで突き刺し、千歌に向ける。

すると千歌は一瞬、間をおいて一気に顔を赤くした。

 

「え!?ルルルルーくん!?」

「は?何を慌ててるんだよ?」

「え!?いやいやいや!だって…か…間接キス…」

「…ッ!?」

 

予想外な答えに驚いた。

確かにこの状況は、俺が千歌にケーキを食べさせる様に見えるだろう。

そして周りからヒソヒソと“仲いい”羨ましい“”カップル“なんかの言葉が聞こえる。

恥ずかしくなり、俺は差し出したケーキを食べた。

 

「あ~!」

「…おかわり行ってくる」

 

俺は立ち上がりケーキを取りに向かった。

千歌も自分のを食べ終わらせ、後からついてくる。

その後、俺たちは時間いっぱいまで食事をし、駅に向かった。

そして駅に到着したので電車が来るのを待った。

 

「いや~!食べた食べた!」

「当分の間、甘いのいらないな」

 

初めてケーキをあんなに食べた。

今度はダイヤとルビィでも誘って来ようかな…。

そんなことを考えてると、千歌が何かをひらめいたようにフフフっと笑い出した。

 

「当分、糖分いらない…だね!!」

 

もうすぐ夏なのに冷たい風が吹いた。

こいつ何言ってるんだ?急な親父ギャグにビックリしていたら

 

「今のはね、当分と糖分を掛けたオヤジ「言わなくていいから」…」

 

更に説明までしようとしたので止めた。

そろそろ電車が来る時間だろうか?携帯の時計を確認しながら電車を待つ。

 

「ルーくん」

「ん~?何だ~?」

「昨日はありがとね」

 

昨日のことで改めてお礼を言われた。

 

「別に気にすんなよ。今のAqoursをどうするのかとかは、リーダーである千歌の判断だと思う。けど続けるのは嬉しいよ」

「えへへへ、そう言ってくれて良かったよ…………ねー、ルーくん」

「なんだよ?」

 

俺は千歌に呼ばれ振り向くと、ベンチに座っている千歌がこちらを見ていた。

ん?何だろう?

 

「ルーくんはさ、いま好きな人とかいる?」

 

また唐突な質問だな。

歌詞の参考にでもするのだろうか?

 

「いまはいないな…部活もあるし、今は部活に集中したい」

「…そっか」

「千歌はいるのか?俺だけ答えるのも不公平だろ?」

 

恋愛話では何気ない質問だろう。

すると千歌は、少し間をおいて答えた。

 

「…いる…かな?」

「かな?」

 

なぜか疑問形である。

すると千歌は、ゆっくりと話始めた。

 

「AちゃんとBくんとCちゃんがいます」

「急に物語になったな」

 

千歌は物語口調で話し始めた。

曰く、AちゃんとCちゃんは大の仲良し、そしてAちゃんはBくんに好意を寄せている。

しかし実はそれを知らなかったCちゃんもBくんが好き。

後日、AちゃんがBくんの事を好きだと、Cちゃんに相談した。

Cちゃんは応援すると言ったものの、Bくんが好きだと諦められない……どうすればいいと思う?っとの事。

 

「そのCちゃんに相談されたのか?」

「まぁ…そんな感じかな?」

 

ふむ…急な恋愛話はこの為か、しかし千歌の友達は中々難しい状況にいるようだ。

 

「俺の意見だけど…先ずはAちゃんに話すべきじゃないか?」

「だよね…けど先にBくんの事を好きになったのは、Aちゃんでだから……諦めるべきだと思う…」

「?関係ないだろ?」

「―――え?」

 

千歌は目を大きく開いて、驚いた顔でこっちを見た。

 

「“好き”に時間何て関係ないだろ?その人の事を“好き”になったのは仕方ないと思……う」

 

千歌の顔を見て衝撃が走った。

大きな雫が瞳からあふれていた。

 

「え?なッ…だ…大丈夫か?」

「え?あっ……ごめん!違うの!何か…わかんないけど……スッキリして」

「?…まぁ、いいけど」

 

なんだかよくわからないが、千歌は涙を隠そうと顔を隠す。

流石に泣いている女の子をほっとくわけにはいかない。

俺は鞄から部活で使っているタオルを取り出し、千歌の頭に顔が見えない様タオルをかけ、泣き止むのを隣で待った。

 

「――――、――――」

「??」

 

電車がタイミングよく通り、何かをつぶやいていた千歌だが聞き取れなかった

何本か電車が来たが、千歌が落ち着くまで待つ。

そして

 

「落ち着いたか?」

「うん、急にごめんね。タオル洗って帰すね」

「まぁ、1人で抱え込んでたんじゃないのか?」

「…うん。そんな感じかな」

 

何だか先ほどとは打って変わり、スッキリした様子の千歌。

俺はその姿を確認し、少しホッとする。

 

「そのさっきの話を聞いて思ったことだ。あとはそのCちゃん次第じゃないのか?」

「うん、そうだね。そう伝えとくね!」

 

千歌は立ち上がりクルッと周り座ってる俺を見る。

すると千歌は何かを伝えようと口を開いた。

 

「ルーくん」

「ん?どした?」

「こうやって“2人”で出かけたいから、また誘ってもいい?」

 

普段の千歌ならみんなで遊ぶというタイプのはずだ、そんな千歌が“2人”でと限定するのに少し違和感を感じた。

しかし断る理由もないし、実際今日は楽しかった。

違和感を払拭し、俺も答えた。

 

「部活がない日とかならいいよ」

「えへへ、ありがと!」

 

その後、俺と千歌は電車に乗って帰った。

最寄り駅から自転車で送っていこうとしたが、どうやら志満さんが迎えに来てくれるとのこと。

俺と千歌は駅で別れた。

今日1日を振り返り俺は床に就き、目を閉じた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

≪蜜柑の少女は決意する(上)≫

 

『“好き”に時間何て関係ないだろ?その人の事を“好き”になったのは仕方ないと思……う』

 

私はその言葉を聞いた瞬間、心のモヤモヤが晴れた。

それと同時に目から涙が止まらなかった。

止まれ、止まれ、止まれと思いながら、顔を隠した。

するとフワッと何かが頭に置かれた。

それはルーくんが使ってるタオルだ、ルーくんは静かに私にタオルをかけて隣で待ってくれた。

その瞬間、胸の奥がギューッとなると同時に、心にしまったあの言葉が無意識に漏れる。

 

「やっぱり、好きだな」

 

電車が来てルーくんには聞こえなかっただろう。

けど自覚してしまった。

この気持ちは止められない…この気持ちは主張してくる…この気持ちは隠せない。

私は、ルーくんに“恋”している。

バイキングで撮ったルーくんの写真を見て、ニヤニヤが止まらない。

私はその写真をルーくんの連絡先に登録した。

けど……曜ちゃんにはなんて話すべきだろう。

私はそのことを考えながら眠りについた。

 

 





ということで千歌ちゃん回でした。
ブラックコーヒーは足りましたでしょうか?徐々に「甘ぁぁぁぁぁぁい!!!」っと言わせるシーンを増やすつもりですので、よろしくお願いします。

さて次回は、本編の《未熟DREAMER》の回です。
ここは瑠璃くんのターニングポイントてきな回ですので次回の投稿はかなり遅れると、思います。よろしくお願いします!(投稿日未定…)

あとアンケートの協力ありがとうございます!
《バレンタインストーリー》は投稿させていただきます!!
あ、そう言えば果南ちゃんの誕生日ももうすぐですね(* ̄▽ ̄)フフフッ



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第20話


大変お待たせ致しました!!
3月中に出せずにすみません(´;ω;`)


 

 

Aqoursが解散して1ヶ月、セミがまだまだうるさい夏の中旬。

 

『水泳を辞めろ』

『は?』

 

父さんにそう言われた。

そして父さんは続けて話し始める。

 

『いい機会だろ。高校からは“黒澤家”のために過ごせ』

『…え?いや…え?高校は水泳部に……』

『はぁ…いい加減に遊びを辞めろ。お前は“黒澤家”の長男だぞ』

 

遊び?その言葉に不快を感じた。

 

『遊びって……水泳のこと?』

『…それ以外の何がある?全国大会には行けず…予選落ち。俺が水泳に目をつぶっていたのは…お前が全国に行って“黒澤家”の名を広める可能性があったからだ』

 

頭を殴られた様な衝撃を全身に走る。

それじゃ、応援してくれたら言葉も全部ウソだったのか?

 

『中学で名を残さなければ全国なんて夢物語だ』

『ッ!?…か…勝手に決めつけないでよ。高校から選手になった人だって…』

『選手?』

『?…俺は将来、海外でも活躍できる水泳選手になりたいんだ』

 

すると父さんは驚いた顔から、直ぐにため息を吐きながら答えた。

 

『お前はうちの網元を継ぐんだ。それに…今のままじゃ選手になれるわけないだろ』

 

Aqoursの出来事でひびが入っていた心が、父からの言葉に俺は完全に心が砕けた。

そこから俺は荒れていた。

がむしゃらに泳いで、家に帰るのも嫌になった。

こんな俺に手を差し伸べて、変わらず笑顔に接してくれたのが……………。

 

「ん…んん~~!!…夢か…」

 

過去の自分と親父の夢を見た。

あれから2年が経っているが、親父とは話してない。

勝手に水泳を“遊び”と言い、俺の将来を決めようとした親父が俺は大嫌いだ。

先ほどの夢を忘れようとベッドから立ち上がり、朝のランニングに出た。

潮の匂いを嗅ぎながら走るこの時間は、俺にとって最高の時間の1つだ。

足にしっかりと意識を向けながら、足を上げて走る。

走っていると、前に人影が見えた。

更に見覚えのある深い青色のポニーテールをした女性が止まってストレッチしている。

そしてそれを隠れながら見ているAqoursの面々。

 

「何やってるんだお前ら?」

「あ、瑠璃くんおはよ」

「ん、おはよ」

 

Aqoursみんなからの挨拶を済まして、いったい何事なのか話を聞く。

どうやら昔果南姉とダイヤ、小原先輩でスクールアイドルをやっていた事しって、その真実を突き止めようと手始めに果南姉を尾行しているということ……いや可笑しいだろ。

 

「真実も何も……小原先輩がスクールアイドルを潰した。それだけだろ…」

「う~~ん…そうなのかな~」

 

千歌が何かうなっているがほおっておこう。

 

「あ!動いたずら!」

 

果南姉は走り出し、Aqoursの面々も同時に動き出した。

俺も流れでついていく事にしよう。

とても楽しそうに走る果南姉だが、それに比べAqoursは2年生を除いてついていくのに精一杯の様子だ。

そして果南姉は沼津にある弁天島神社に足を運んだ。

 

「ここ登るの!?」

「もう疲れたずら~」

「ピィギ~」

 

1年生たちはここで体力の限界のようだったので、置いていくことにした。

俺たち2年生は果南姉の後を追った。

そして階段を登り切った所で、果南姉が楽しそうに踊る姿が目に飛び込んできた。

綺麗に周り、飛び跳ね、体を動かす姿はブランクを感じさせない程の完成度だった。

その姿に見惚れていた。

 

「瑠璃くん」

「あ、ああ悪い」

 

曜に呼ばれ意識を戻す。

草むらに隠れている様子を伺う。

すると奥から、小原先輩が拍手をしながら現れた。

果南姉の楽しそうな顔から一気に顔をしかめて呟いた。

 

「鞠莉…」

「ようやく復学届提出したのね。やっと逃げるのを諦めた?」

 

は?逃げる?その意味が俺にはわからなかった。

 

「勘違いしないで。学校を休んでいたのは、父さんの怪我が元で…。それに復学してもスクールアイドルはやらない」

「私の知っている果南はどんな失敗をしても、笑顔で次に走りだしていた。成功するまで諦めなかった」

 

あの解散のことを話しているのだろうか?しかし小原先輩の言ったことには、同意できる。

すると果南姉はため息を吐きながら口を開いた。

 

「卒業まであと1年もないんだよ?」

「それだけあれば十分!それに今は後輩も…瑠璃だってまた手伝ってくれる」

「だったら千歌たちや瑠璃に任せればいい。どうして戻ってきたの?私は戻ってきて欲しくなかった」

 

……何だろう…うまく説明できないが、なにか違和感がある。

果南姉から発した言葉がまるで本心じゃないような…。

それに小原先輩の態度…旧Aqoursを潰したのは小原先輩だろ?まるで自分は待っているような言い方だ。

果南姉の言葉を聞いた小原先輩は、少し驚きつつ薄く笑みを浮かべて

 

「果南は相変わらず頑固な「もうやめて!」…!?」

「もうあなたの顔見たくないの」

「……果南」

 

何かが可笑しい。

その場を去る果南姉の後ろ姿を小原先輩は、悲しそうに見ている。

Aqoursを潰した人があんな悲しそうな顔をできるのか?そんな事を思った。

 

「瑠璃くん?」

「ッ!?な、何だ?」

「凄い汗だよ?」

 

曜にそう言われ、自分の顔を触れると湿っていた。

体温は熱くないが、この汗は冷や汗だろう。

果南姉と小原先輩の会話…小原先輩の悲しそうな表情から俺は心の何処かで思ったんだ。

2年間小原先輩への憎しみは、間違っているのではないかと俺は思ったんだ。

その後、千歌たちと別れ自宅に帰り、学校へ向かった。

学校生活でも俺の頭の中は果南姉と小原先輩との会話がグルグル回っている。

授業も余り集中できていない…そんなさなか、千歌から連絡があった。

放課後、部室に来てほしいっとのこと。

部室とはスクールアイドル部の部室だろう…あの部室には旧Aqoursのころに何度か足を運んだ事もある。

俺は了解っと千歌にメールを送信し、曇りだしている空を見上げ時間が過ぎるのを待った。

そして放課後。

スクールアイドル部の部室に着いた。

 

「あ〜!!イライラする〜!!」

「その気持ちよ〜く分かるよ〜!ほんと、腹立つよね!コイツ!!」

 

中から会話が丸聞こえだ。

中を覗くと現Aqoursだけでなく旧Aqoursの3人まで揃っている。

更には小原先輩は果南姉に指を指して、怒っている様子だ。

俺から言わせてもらうと…お前が言える立場じゃねぇだろっと言いたい。

とりあえず中に入る。

 

「あ、瑠璃くんいらっしゃい」

「ああ、遅くなったな」

 

俺が入ると一斉にこっちに視線が集まる。

小原先輩と目が合ったが、直ぐに目をそらし曜に視線を向けた。

 

「帰っていいか?」

「ダメ!!!」

 

俺は曜に聞いたはずだが、果南姉を見ている千歌に拒否をされた。

てか…かなり怒ってないか?すると果南姉が口を開いた。

 

「とにかく!私はもうスクールアイドルが嫌になったの!!もう…絶対にやらない!!」

 

そう言うと部室から出ていった。

スクールアイドルが嫌になった?神社で楽しそうに踊ってた果南姉が、そんな事を言うのはおかしい。

自分の頭の中が整理出来なくなり、俺はダイヤに尋ねた。

 

「ダイヤと果南姉が、Aqoursを辞めたのは…小原先輩がスクールアイドルを潰したからじゃないのか?」

「え?」

 

小原先輩は俺の言葉に反応し、こちらを見た。

ダイヤはその場からゆっくり立ち上がり……逃げた。

全速力でその場から去ろうとしている。

 

「善子ちゃん!」

「ギラうわっ!?」

 

津島の横を抜け、俺は逃げようとしたダイヤの手を掴んだ。

 

「な…なぁ、違うのかよ?姉ちゃん?」

「ッッ!?」

 

2年間…俺は小原鞠莉を憎んだ。

旧Aqoursを潰した小原鞠莉を憎んでいた。

しかし朝の会話と現在の会話を聞き、俺の中に疑問が生じた。

小原鞠莉は本当に旧Aqoursを潰したのか?っと。

小原先輩を憎んでいる感情…疑問に思っている感情…そして、もしかしたら無実では無いかと思う不安な感情が、俺の中でグチャグチャに混じり始めた。

いまの俺の顔は見れたものでは無いだろう。

そして、姉ちゃんは真実を話すといい場所を黒澤家へと移した。

全員を客間に案内し、口を開いた。

 

「「「「「「わざと!?」」」」」」

「ええ、果南さんはわざと歌わなかったのですわ」

 

ダイヤは淡々と過去を思い出しながら話を始めた。

いわく、小原先輩は当日練習で足首を痛めており、さらには留学の話が同時期に出ていた。

そこで果南姉と姉ちゃんは、これ以上足首に負担をかけたら小原先輩の将来の可能性を潰してしまう事になると、判断し果南姉がイベントで歌わず、Aqoursの解散を言い渡したとのこと。

その話を聞いた俺は理解した。

小原先輩は悪くない…しかし、2年間彼女を恨んでいた心は簡単には認めてくれない。

何処かで揚げ足を取れないか探している、自分に腹が立つ。

 

「まさか…それで…!!」

 

話を聞いた小原先輩は、顔を上げその場を去ろうとする。

その姿をみたダイヤは口を開いた。

 

「何処へ行くんですの?」

「ぶん殴る!一言も相談せずに!!」

「おやめなさい。果南さんはずっと貴方のことを見てきたのですよ?貴方の立場も…貴方の気持ちを…そして、貴方の将来も……誰よりも貴方のことを考えている」

 

すると鞠莉姉は目に涙をため口を開いた。

 

「そんなのわからないよ……。どうして言ってくれなかったの…?」

「ちゃんと伝えていましたわよ。あなたが気づかなかっただけ」

 

姉ちゃんがそう言うと小原先輩は、外が雨の中走り出した。

そしてその場に静寂が漂う。

 

「はっ!……一言も相談せずに?ふざけんな!あの人だってそうだ!留学?転校?怪我?俺だって初めて聞いたわ!結局おれは…3人との繋がりがなかったんだよ…何で話してくれなかったんだよ……」

 

おれはAqoursのサポート役だった。

3人と何かをするのが楽しかった。

そんな大事な話をされてない俺は…3人にとって何なのか…見失い始めた。

その瞬間、姉ちゃんの声が聞こえた。

 

「次は……瑠璃?あなたですわ」

 

すると姉ちゃんは千歌たちを見て

 

「2人っきりにしてもらえますか?」

「あ、はい!みんな行こ!」

 

千歌の合図でAqoursは客間から出ていった。

俺は顔を見せまいと膝を抱えて座る。

すると頭に重みを感じた。

姉ちゃんが俺の頭に手を置いて動かした。

暖かく…安心する手だ。

小さい頃はよく撫でられていたが、高校生になって撫でられるとは思わなかった。

そして、俺は口が開いた。

 

「俺知ってるんだよ…姉ちゃんが自分の部屋で泣いていたの」

「ええ」

「それが心配で…それが嫌で、話を聞こうとした!けど、誰も教えてくれなかった」

「…ええ」

「中学最後の大会の後に…鞠莉姉が来るって言ったのに…来なかった…」

「…」

「留学の話だって初めて知ったし、姉ちゃんや果南姉が抜けたタイミングでの留学………俺は鞠莉姉を恨んだ。Aqoursを潰した鞠莉姉を恨んだ」

 

もうわかっている。

3人の気持ちに気づかず、自分の中で勝手に解釈。

人の気持ちも考えないでの発言。

 

「これじゃ…クソ親父と変わんねぇじゃねぇか」

 

勝手に俺の人生を決め、水泳部を下らないものと解釈する親父と同じ事をした。

そんな自分が嫌になり、両膝に顔をうずめ深々と嘆く。

すると姉ちゃんは口を開く。

 

「…鞠莉さんが、貴方に留学の事や旧Aqoursの事を言わなかったのは、貴方の事が大切な存在だからこそ……心配をかけまいとしたのでしょう」

「心配?」

「それは…私たちも…一緒ですわ」

 

声が震えている?顔を上げるとそこには、涙で頬が濡れている姉ちゃんがいた。

急なことで驚くと続けて話出した。

 

「あの頃のあなたは、大会で上位を狙う為に遅くまで練習をしていましたでしょ?」

 

あの時の俺は大会が近づくに連れて、帰りが遅くなっていた。

それは、上位に入れば鞠莉姉や果南姉、姉ちゃんが喜ぶと思っていたからだ。

 

「貴方が留学の事を知れば…Aqoursのことをわかったら……その事で頭がいっぱいになって、水泳に手をつけられなかったでしょう?だから話さなかった……瑠璃?」

 

俺の頭から重みは消えて、今度は手を前につき頭を下げた。

 

「本当にごめんなさい。あなたにもっと速く…言えば貴方が嫌な気持ちにならずに済んだと思いますわ」

「姉ちゃんが謝る必要ないよ。俺の勘違いから生まれたことだよ…だから頭を上げてくれ」

 

姉ちゃんはゆっくりと頭を上げた。

俺は自分のハンカチを渡すと、ありがとっといいながら涙を拭く。

 

「それともう1つ…鞠莉さんは、あの日会おうとしていたそうですよ?」

「え?」

 

会おうとしていた?つまり来る予定ではあったってことか。

 

「急遽、飛行機の便が早くなり、貴方に話せないまま…行ってしまったそうですわ」

「ッ!?」

 

その瞬間、2年間の裏切られた感情の糸が切れ、瞳から雫が流れ始めた。

涙を流すのは、何時ぶりだろうか。

 

「ふふっ…相変わらず、泣き虫ですわね」

「…ズズズッ…うるせぇ…姉ちゃんだって泣いてるじゃん」

 

鼻をすすり、腕で涙を拭こうとしたら姉ちゃんが、先ほど渡したハンカチを俺に返してきた。

ハンカチを受け取り、涙を拭う。

 

「鞠莉姉は許してくれるかな?」

「鞠莉さんは、また昔に戻りたいと言っていましたわ。きっと許してくれますわ」

 

姉ちゃんは綺麗な笑顔で俺の質問に答えた。

久々に姉ちゃんの笑顔を、ちゃんと見た気がする。

ハンカチをしまい、俺は早速行動に移す。

 

「鞠莉姉のところに行ってくる」

「お父様とお母様には、遅くなると伝えておきますわ」

「ありがと」

 

そう言い残し客間から出ようと障子開けると

 

「うわぁ!?」

「ん?」

 

声のする方を見ると、何故かふせている曜がいた。

もしかして隠れているつもりか??

 

「何してんだお前」

「えっと…瑠璃くんが心配で…」

 

言いづらそうに話す曜。

相変わらず優しい所は、昔から変わらないな…。

曜の気遣いが嬉しくなり、曜の頭を雑に撫でた。

 

「うわぁ!?な…なに!?」

「心配かけた、ありがとな」

「!!…うん!」

 

曜は戸惑いながらも笑顔で答えてくれた。

やはり笑顔が一番だ。

俺は曜の横を通り、外に出ると先程の雨が嘘のように晴れていた。

その足でホテルオハラに全速力で足を動かした。

そして、ホテルオハラに無事に着きカフェスペースで鞠莉姉の帰りを待つ。

頼んだ飲み物も氷が溶けて、グラスの周りに水滴が出来ている。

 

「黒澤様、お待たせしました。お嬢様のお部屋へ案内します」

「あ…お願いします」

 

鞠莉姉は帰ってきたようだ。

外を見るとすっかり暗くなっている。

腹をくくり、俺は鞠莉姉の部屋へ案内してもらった。

鞠莉姉の部屋の前に着き深呼吸をする。

先ほどのスタッフさんは、ごゆっくりっと言い下がっていった。

 

「…よし」

 

ドアを2回ノックすると、中からはーいっと言いながらドアが開かれた。

寝間着姿の鞠莉姉が目を開き驚いている。

 

「瑠璃…どうして…?」

「…夜遅くにごめんなさい。少し話したいんだけどいいかな?」

 

俺が話しかけると、少しビクッと肩を動かした。

 

「え…ええ…どうぞ」

 

すると鞠莉姉はドアを大きく開けて向かいれる。

鞠莉姉の横を通り中に入ると、あの2年前とほとんど変わらない内装、相変わらず綺麗に内浦の海を覗ける大きな窓。

高級感が溢れている。

 

「いま…紅茶出すわね」

「うん、ありがと」

 

非常に気まずいが…鞠莉姉は直ぐに紅茶を出してきた。

高級な紅茶葉なのだろうか?部屋全体が紅茶の匂いに包まれるのに時間はかからなかった。

 

「どうぞ」

「ありがと」

 

紅茶を受け取り、口に含む。

やはり市販のとは違う風味でかなり美味しい。

向かいに腰を下ろした鞠莉姉も一口飲む。

静寂を破ろうと口を開こうとした瞬間。

 

「こうして、瑠璃と紅茶を飲むのは久々ね」

「…そうだね、2年ぶりかな」

「そう…2年」

 

この2年、鞠莉姉を忘れたことがない。

しかしそれは悪い意味でだ。

そして俺は口を開き、頭を下げた。

 

「ごめん」

「ッ!ど…どうして…」

「俺は、鞠莉姉がいなくなって2年間ずっと恨んでた!鞠莉姉の気持ちや思いも考えずに、かってに決めた。一番自分がやられて嫌なことを鞠莉姉相手にした。……けど許して欲しい何て言わない」

 

俺は鞠莉姉とどうなりたい?許しが欲しい?いや違う。

昔のようにふざけあって、遊んで、紅茶を飲んで、また笑顔で俺の名前を読んで欲しい……そんな都合のいい考えを持つ自分に吐き気がする…………!けどもし、鞠莉姉も同じ気持ちなら。

昔のように“親友”に戻れたら。

 

「瑠璃…」

「また…また…“友達”になってほしい」

 

鞠莉姉が困惑している声が聞こえる。

それもそうだろう、気が付いていたら目に涙を貯めていた。

すると……。

 

「私も…!」

 

鞠莉姉の顔を見ると涙でぐしゃぐしゃになっている。

 

「瑠璃にもっと早く相談すれば、こんな事にならなかったってあの時から考えているわ。…私も…また昔に戻りたい」

 

俺と鞠莉姉の涙はドンドンあふれてくる。

鞠莉姉は再度口を開く。

 

「だから、“友達”じゃなくて“親友”に戻りましょ?」

 

両手を広げてハグを待つ彼女の顔は、笑顔で目が腫れていた。

俺は鞠莉姉の両腕に入り抱きしめた。

昔は同じぐらいの身長だったが、いまでは俺のほうが大きい。

その後、俺と鞠莉姉は朝日が見えるまで、この空白の2年間を埋めるように話した。

 

 

 

 

 





瑠璃くんにとってのターニングポイントである今回の回。
リメイク前の"黒澤家の長男"を投稿している時からずっと考えていシチュエーションでもあります!

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