相馬君に幸福を (大連並日β)
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第1話 「身の程を知ってしまいました」

世界ってのは真っ暗で、真っ黒で、不鮮明だ。
それでも俺は希望を持って見届けよう。
それが、自分を殺してでも。


「なんっでお前はそんなに出来ねぇんだよ!!」

 

 

この世界はなんでこんなにも真っ暗なのだろうか。

いつも、いつも、こんな光景を見せられるのは、不幸以外に何も無いだろう。

 

 

「あぁあぁ、こんなに青くなっちまってなぁ。それもこれもお前のせいだよ!!」

 

 

自分の身体が蹴りつけられているのに、痛そうだなぁ、なんて考えている。まるで遠くの風景を見ているかのように感じていて、自分とはなんの関係もない出来事のように思える。

 

 

「ほどクソガキだなぁ。死ねば楽になれるのに、なんで生きてんの?」

 

 

蹴るのをやめて20代ぐらいの背が低く若い男が倒れている自分の顔を覗き込む。

お腹が痛い。それ以上に頭も痛い。いつもこうだ。自分が生きているとなんの益かも生まれない。不幸だ。

 

 

「応えろよ、死ね」

 

 

なんか支離滅裂だなぁ。なんてぼんやり考えてみる。意外と余裕があるのか、俺。

 

 

「おい、レイ。こいつどうにかしろよ」

「...私だって産みたくて産んだんじゃないもの!!知らないわよ!!」

 

 

黙っていた母親が急に怒鳴りだした。

それに神経を苛立たせた男が俺を殴り始めた。

これはいつ終わるんだろうか。

早く寝たい。

 

 

 

 

 

 

 

朝が来た。知らない天井ではないし、完全に実家の天井だが、朝が来た。

現在時刻0630。そんな時間に榛東相馬(17)は布団から身体を起こす。

この時間はあの男は居ないだろう。というより、仕事に出かけているだろう。朝は夜よりは安心だ。ある程度だけだが。

 

 

「おはよう」

「...」

 

 

母親は普通にリビングに座っていた。挨拶をするのはしないと怒られるため。反応はしないのだがしないと怒られる。うん。怖い。

 

 俺は台所から食パンを2枚取り出してリビングに持っていきそのまま食べる。むしゃむしゃと食パンを食べながら、味しねぇなぁ、と心の中で愚痴りながらも40秒で食べ切る。

 

食パン(無味)食べたあと、制服に着替えて黒のリュックを背負い家から出る。うん。くそ家庭だな。なんて声に出せない(chicken)けれど、まぁ、うん。強く生きています。

 

 

俺が通う学校は自宅から徒歩約15分とかなり近い。だから、なにか忘れた時とかにはとにかく役に立つ。実例だと体操服忘れたり、傘を忘れたり、酷い時は鞄を忘れたりした時だ。鞄を忘れた時はガチで焦った。昇降口の前で忘れたことに気づいて、思いっきしUターンして登校中の奴らに見慣れないように走ったね。もちろん遅刻はしなかった。

 

上記の理由でなかなか便利なのだが、今回は如何せん早すぎて、現在時刻午前0630。今教室に入るのは少し自分的に不都合だ。ボッチ教室は恥ずかしい。この時間をどうやって暇を潰すか。

 

 

「散歩でもしようか」

 

 

ということでゆっくり周辺を散歩することにした。

 

散歩中、トト○とかワ○ピースとか、RX-78とかと出会わねーかな。なんて考えてしまう。あ、でもクトゥルフ先輩は帰って、どーぞ。

そんなこんなでふざけながら学校の周りをゆっくり歩いていると、視界がふらりと揺れる。

 

 

 

 「うぅぁ...」

 

 

 イイッ↑タイ↓アタマガァァァ!!!どこぞの爆裂では無いが、マヂで痛い。やべぇ、頭が割れる。

原因はわかっている。昨日の夜のアレだろう。ああいうのがあると一週間はこうなる。耐えろ、俺。

 

 近くの座れそうな適当なところに座り、落ち着くのを待つ。深呼吸をすると段々と落ち着いていき、意識も平常に戻る。

 

 はぁ、と大きなため息を吐く。

 

 

 「...つらいなぁ」

 

 

 なんとなく、誰も居ないのに愚痴を吐き出す。そりゃこんなことを何回も繰り返してら愚痴りたくなる。(怒)

 

 『仕方ない。そう仕方ないんだ。こんな人生もこんな現実もこんな生き方も。全て仕方ないし自分が悪い。出来損ないの自分が悪い。だから仕方ない。』

 

 そう心で磔にしつつ、今度こそ教室に向かう。現在0730。丁度いい時間だろう。

 

 

 

 

 

 1200 教室にて

 

 午前の授業が終わり、昼ごはんのおにぎりを食べる。もちろん俺が作ったおにぎりだ。具は梅干しと塩おにぎりだ。

 

 周りを見ると、みんな机を囲んで食べているのに対し、俺は一人でおにぎりを食べていた。そりゃそうだ、友達がいないのだから仕方ない。これも全て自分のせいだ。あ、絶対塩入れすぎたしょっぱ。

 

 そんなことを考えながら咀嚼していると、見覚えのある同級生がこちらに歩んできた。

 

 簡単に次の風景がわかった。あぁ、いつもの憂さ晴らしか。今回は何分でどのくらい耐えればいいのだろう。正直痛いのには慣れているのだか、痛いのは痛いのでやめて欲しい。

 

 

 「よぉ、相馬。ちょっとこっち来いよ」

 

 

 その声に周りの生徒の目線が俺の方へギョッと向く。その目は哀れみとかそんなものではなく、ただの排他したいという侮蔑の目線。こんないじめられっ子を早く消したいのだろう。

 

 俺はゆっくり椅子から立ち上がり、彼らの方向へ歩いていく。

 

その先は、なにも、考えなかった。

 

 

 

 

 

 

1600 帰路にて

 

「痛いなぁ」

 

肩が痛い、足が痛い、唇が痛い。

 

色んなところから、ズキズキと痛みが呻いてくる。青アザになっているところもあるし、腫れているところだってある。いつも通りのあんまりな日だ。痛みのせいか、足どりが重くなる。明日もこんな所に通わなきゃ行けないのか。頭が痛くなって抱えたくなる。帰ってもまたあのクソ環境で生きなくちゃ行けないのか。目の前が真っ暗になりそうだ。いや、そんなことよりも、

 

授業の課題山積みじゃね?

 

一瞬よぎったこのフレーズで俺の中の雑音のベクトルを全て真っ直ぐびっちり揃えられた。やべえな今日一日で終わっかな?助けてドラエもーん。

 

とにかく帰ったら机と向き合うところから始めよう。じゃないと最悪やらないかもしれない。

 

 

「.....まさかの一徹確定コース?」

 

 

今日の睡眠時間は30分でした。



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第2話「やっと...でも」




 

おすおす、榛東相馬っす。おすおす。

 

悩みの種だった課題も全部無事に終わらせました。いやぁきついっすね、睡眠時間30分で、途中からランナーズハイっていうか深夜のテンションでもうにやけながらずっと書きなぐってましたよ。えぇ。

 

え?計画的にやればそんなことにはならない?それが出来れば苦労しませんよ。

 

しかし、人生っていうのはよくわかんないもんですよね。

 

ほら、人生は小説より奇なりって言うじゃないですか。まぁ、小さい頃からあんな環境で生きてきたやつが言ったらひにくに聞こえるかもしれまけんけど。

 

それでも物語より変にこじれることは確かですよね。

 

ちょっとした些細なことが連鎖に連鎖して話が訳分からなくなって、収拾がつかなくなる。なんてよくありませんか?

 

 

「まぁ、でも、これは」

 

 

こじれる、てよりネジ切れてるよなぁ。

 

なんて正四角形の薄暗い部屋で、榛東相馬(囚人)は手首についている手錠の冷たさに溜息をつく。

 

時間は24時間前に遡る。

 

 

 

 

 

その日もいつも通りの朝でいつも通りの登校模様だった。家のちょっと軋んだドアを閉め、階段をおり、いつも通り散歩を少しした後校舎に入る。

 

そして下駄箱を開けたら、当然かの如く画鋲で溢れていた。俺、掲示板に貼る掲示物無いんだけどなあ。どしよこれ。

 

とにかく画鋲達をバックにたまたま入っていた紙袋に入れる。そして、異変に気がついた。

 

 

「上靴ねぇじゃん」

 

 

 

肝心のものが無かった。

 

明らかに隠されたな。しかし、ここで慌てたらあいつらの思うつぼだ。ならばここは堂々と以降ではないか。

 

そう考えた俺は上靴を諦め教室に向かう。歩く姿は範馬勇次郎バリに風を切っていて、サングラスでもかけたい気分だった。勿論周りの目は痛い。

 

そのまま教室に到着し自分の机に着いた瞬間、鞄を下ろし寝た。

 

ふふふ、これが俺の防御技。この状態を作り上げた俺は誰にも干渉されない。ボッチの俺には最適な技だ。うん、ボッチですから。

 

そんなこんなで朝礼まで寝て過ごした。

 

その後は普通に授業を受けて休憩では寝るを都合3回くりかえした。

 

そして昼休みになり今日も今日とて塩むすびを食す。今日も塩加減は最悪だ。

 

「そういえば上靴どこいったんだろ」

 

遅すぎる愚痴を両足の指先の開放感で思い出す。母親は上靴を買ってくれるんだろうか、怪しい。まぁ、買ってくれなかったらそのまま学業き専念しよう。たかがあと2年だ。気張って頑張ろう。

 

そんなことを心の中でつついていると、よく知ってる顔がドアから入ってくる。

 

 

「よぉ、相馬。今日も遊ぼうや」

 

 

あぁ。しょっぺぇ。

しょっぱ過ぎて反吐が出る。

 

無表情で席を立ち、この続きの展開を分かっていながらも廊下へ出て、あいつに追従する。

 

高崎提示。同じ学年で違うクラスの、俺の事をいたぶってくれる愛されざるべきクソ野郎だ。こいつの嫌なところは、自分は強い人間だとちゃんと弁えてくるところだ。だから、自分が勝てる奴にしか手を出さない。徹底的にその手法を取ってくる。

 

ドラえもんのジャイアンは映画版では優しくなるが、こいつだけは映画化しても平常運転だろうと、ある意味信頼できる。そういう男だ。褒めてはいない。

 

屋上に着くとそこには素行の悪そうな集団が屯っていた。いつの時代のヤンキーだよ。

 

 

「よぉー。連れてきたぞー」

「待ってました」「遅せぇよバカ」「ぶっ殺すなよめんどくせぇから」

 

ここから始まるのはリンチというか、暴力というか、まぁ、憂さ晴らしの時間だった。その最後は俺がボロボロになるだけだ。それでも逃げられないことは確実だ。ならば、耐えることをするしかない。

 

さぁ、嫌な時間の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

何分、経った、のだろう。

 

ただ体の節々が、痛いのは分かるし、内出血を、起こしている箇所もあるのは、分かっている。血を、流しすぎて、意識が、ぼんやりしている。

 

ただ、額縁の中の絵を、見ているような、そんな、俯瞰した意識で、捉えてしまっている。

 

しかし、今回は殴られ、すぎたなぁ。もしかしたら、今度こそ、死んでしまうかもしれない。

 

 

「まぁ、それも、好都合だ」

 

こんな日々を過ごすより、死んで見切りをつけた方がいいことはとっくの前に知っていた。だけど、死にきれずに、引き伸ばして引き伸ばして、それがこのザマだ。

 

死にかたは最悪だし、死に様も最悪だが、俺らしいっちゃ俺らしい。

 

さぁ、ここで見切りをつけようぜ。

 

 

「あぁ、でも、もうちょっとだけ、幸福に、なりたかったなぁ」

 

 

 

 

 

そして、奇跡は訪れた。

 

ここが俺の記憶の最後の場所。

 

あの時、俺はあいつらに殴り殺されたはずで、ようやっと死を迎えたはずなのだ。それがなんとこんな暗くて誰も居ない、黒棺の中身みたいな場所で目が覚めて、誰も来ないし、何も無いし、ワケワカンナイヨ!!

 

 

 

 

 

さて、ここからは彼が知らぬ続きだ。

 

 

 

 

 

 

そこには、非現実が訪れた。

 

荒れ狂う嵐の中、1人を除いた生徒たちの身体は、姿の無い逆襲の徒に暴行の限りを尽くされた。

 

身体中の骨は滅茶苦茶に折られ、顔は原型を無くし、青くないところが無くなるほど殴られた。

しかし、これが自業自得の結末だ。

 

ただし意識を失っている彼が、榛東相馬がされた暴行の数々を再現しているだけだ。

 

息をしているだけの肉塊になろうと、どれだけ殴っても耐えられるかとサンドバッグにされようと、口の中に画鋲を入れて開閉させて口内をズタズタにされようと、全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て、

 

 

「お前らの自業自得」

 

黒髪の少女は語る。

 

今は意識無き不幸な主に代わり、自業自得を執行する。この世界にいつか、害するものがいなくなるように、いつも自分を閉じ込める必要が無くなることを実現するために。

 

もうこれ以上不幸を知らずに済むために。

 

 

「本当は学校ごと、破壊してしまいたい。けど、流石に負担が、大きいから」

 

 

これで、お終い。

 

、と彼女は姿なき逆襲を消し去る。幸い、彼らは息をしており、被暴力者は姿形は原型を留めてないが生きてはいるらしい。

 

術を解いた彼女は主の前まで歩いていき、淡い光を主にかける。みるみるうちに怪我が治っていき、か細かった息が安定していった。

 

 

「これで、大丈夫」

 

 

その一言を放ち、彼女は光の粒子になって消えてしまった。

 

 



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第3話 「首が絞まる思いです」

子は親を選べないけれど、逆に親は子を選べない。だから、カエルの子はカエルというか、自分に似た子供がだとむしゃくしゃしてしまうのも分かってしまう。だって、自分は自分自身が好きになれる程出来がよくないし、こんなにも許されたいなんて独りよがりな自分が見にくく見えて、とても好きになれない。
だから、ごめんなさいしか、言えないのだろう。


はいはい、どーもどーも、絶賛拉致られ中の榛東君です。

 

「って誰に話してんだろ、俺」

 

何も無い、真っ暗な空間でため息混じりの愚痴を吐く。暑くも寒くもない空間でただ1人なんて、なかなかの苦痛だ。荒手の拷問かな?

 

「てか、そもそも扉どこだよ」

 

 

出ることを前提条件にしたとして、扉が分からなければ出ることさえできない。周りを見わせば漆黒のみ、よくここまで暗くできたな。

 

考えてもどうすることも出来ずに約10分、そんな俺がとった行動が、

 

 

「開け、ゴマ」

 

 

奇行だった。

 

開く筈がない、というかそれで開いたら驚きだ。

 

しかし、前述したとおり現実は小説よりも奇なりという。

 

ドゴン!!!

 

 

「開いちゃったよ..、、」

 

 

爆音で正面に長方形の穴が綺麗に開いた。そういう仕様の扉なのかな?なわけねーか。

 

扉(穴)から光が入ってきて、久しぶりの明かりに眩しくて目が上手く開かない。

 

 

「あぁあぁぁ...やってちゃってよぉ。元気いいなあ少年」

 

 

逆光であまり見えないが中年で少し痩せていて髪の毛が長くボサボサ頭のスーツ姿の男が立っていた。

 

男は目の前まで歩いて来て、いつの間にか置いてあった机の前にこれまたいつの間にかあったパイプ椅子にどっかり座る。

 

 

「こんにちは少年。俺の名前は...まぁ、ジョン・ドゥとでも呼んでくれ」

 

「身元不明の死体なんて、縁起悪いっすね」

 

「言わんでいいそんなこと。そもそも君があんなことしでかすから俺が呼ばれるんだよ。榛東相馬君」

 

 

身元が割れている。

 

瞬間顔がひきつりそうになるも、無表情を保つ。悟らせるな、相手に読ませるなら、常にペースは保っていけ。そんなことを心で唱えながら会話を続ける。

 

「自分の名前を抑えられてるってことは、公的な機関なんですか?ここ。まるでここに来るまでの記憶がないんですが」

「そりゃそうか。1日ずっとここで寝てて、起きたら真っ暗な所で隔離だもんなぁ。本当に上が考えてる事はわからねぇな」

 

 

うんうん、と勝手に納得され把握された。しかし、上が居るってことはこいつは幹部職じゃないってことか。なら、上を引きずり落とせば、なんとか。

 

 

「質問の答えはな、確かにここは国の機関のひとつだが、公にできるような組織じゃねえな。

組織の名前はソロモン。またの名を『裏側』って呼ばれてるらしい」

 

「おぉ、かっけぇ」

 

 

実に感服した。そんな冴えたネーミングセンスものには世界の半分を捧げたいぐらいに。

 

しかし、だ。俺はこの状況をちゃんと読むと、『得体の知れない組織に拉致られ、俺の情報も身柄も相手に渡っている』となんとも危ない場面であるのは間違いない。とにかくどうにかしなければならないのは変わらない。

 

 

「それで、こんな俺をどうしたいんですか?」

 

「ん?あぁ、そうだな。お前の処遇だがな、殺されることになった」

 

「ウェ?」

 

「そんでもってお前の死体を良いように扱われた挙句、金に変えて世界にばらまくらしい」

 

「...」

 

 

ちょいちょいちょいちょい、話が吹っ飛んでいるんだが。そも俺が死ぬ時点からおかしいのだ。何故こんな平凡な少年が殺されなければならない。こんな純粋無垢でピュアな瞳をしているこんな素敵少年がだ。(虚偽)

 

そういえば似た展開の漫画があったような希ガス。うーんと、なんだっけ。なんか、両目を隠してるナOトに居た棒教師みたいな。

 

 

「困惑しているところ申し訳ないが、これは決定事項だ。お前は死ぬ。これは変わりないらしい」

 

「困惑っていうか...この展開どっかで見たことあるような気がしてて。なんだったけなぁって」

 

 

そんな返答にポカンとするジョン。そりゃそうだ。俺も半ば反射で答えてしまったが、逆の立場だったら俺もポカンとしてしまうだろう。

 

 

「...君は、状況を理解しているのかな」

 

「んまぁ、ある程度。多分、自分が上のお偉い人達が恐怖するようなヤベェことをしてしまったんだろうなぁというの位は」

 

「物分りがいいようだね。そうだ、君は君と同じ学校の生徒達数人を魔法で全員病院送りにして、それから大量の魔力を周辺に撒き散らしたんだ」

 

 

その会話の中で、俺は1つだけ聞き間違いなのかと思った言葉があった。

 

 

「...魔法...ですか?」

 

「あぁ、魔法だ...ってまさか魔法を知らないのか?」

 

「えぇ、そんなのファンタジーでフィクションの産物だと思うんですが」

 

 

するとジョンは焦ったようにガラケーを取り出し、すぐさま席を外して外に出て行った。

 

数分後戻ってくると、幾つかの資料らしき紙媒体を持って椅子に座って話を切り出した。

 

 

「まさかと思ったが、魔法に対して素人だとはね」

 

「そりゃそうですよ。そんなの存在するなんて知りやしませんよ。俺は普通の高校生ですよ?」

 

「いや、盲点だった。だって、生徒をあんな残状に出来るやつだっから、てっきり凄腕なのかと思ってた。こちらの捜査不足だった」

 

 

うーんダメだ。こっちの記憶と齟齬が激しすぎてあっちが言っていることがよく分からない。そもそも、高崎君らのリンチで俺は死んでいる筈だし、俺はアイツらがどうなったかなんて知りはしないのだ。要はこちらの記憶に信用性が取れてない。

 

それにあっちの言っていることを鵜呑みにしてしまうと、こちらを上手く使われてしまう。そんなの俺の趣味じゃない。

 

 

「それで、俺が死ぬのはくつがえらないんですか?」

 

「あぁ、確実だ。上は君の事怖くて仕方ないんだろうね。屋上一帯を魔力放出だけで危険域にしたてあげたんだからそりゃあ無理ないのかもしれないけど」

 

「そうですか」

 

「...死ぬのは、怖くないのかい?」

 

 

真顔でそして真剣に聞かれた。

 

俺はその問いにある意味驚いていた。

 

初めてだったからだ。自分の死生観というか、自分の主観を問われるのは。

 

 

「まぁ、十分生き恥晒しましたから。いつ死んでもおかしくない家庭状況で、いつ死んでもおかしくない学校生活でしたから、十分延命しました。だから、今更死ぬのは何気怖くないですね」

 

 

逆に、やっと死ねる。なんて思いかけているのが現状だった。

 

するとジョンは少し悲しそうな顔をした後、立ち上がって俺に告げた。

 

 

「なぁ、もしチャンスがあるとしたらどうする。死ななくてはいけないこの状況で、また延命する策があるとしたら、君はどうする」

 

 

チャンス。

 

この言葉は何回も聞いた気がする。

 

生き続けるチャンス。代償は自分を殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して、自分の自我を削ること。

 

正直正気の沙汰じゃないことをしていたし今もしている。そりゃそうだ、こんな異常事態でただの高校生が対応するのだ。できるだけ発狂しないように、取り乱さないように、殺し続けなければならない。

 

 

『お前のその中にあるものはなんだろうな?』

 

 

劣等感。

心の中の自分自身に騙られ、即座にその答えを思い描いてしまう。

 

劣等感。

 

あぁ、分かっていたさ。ここで俺が死んでいいわけが無い。この胸の痛みも、心に巣食う不幸感も、全部、お前のせいならば。

 

劣等感。

 

俺は至極普通に言う。

 

 

「...多分俺は、生き汚く、生き恥晒して生き続けるでしょうね」

 

 

劣等感。

 

どうしてこんなに俺はマイナスなのか。

 



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