咲-Saki- side K 京太郎、雀士への道 (しおんの書棚)
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第一局 別れる道
一本場 兆し


京太郎side

 

 俺の名は須賀京太郎(すがきょうたろう)、長野にある公立清澄(きよすみ)高校の1年生。

 ちょっとした切欠から少し前に麻雀の楽しさを知って麻雀部へ今年1番で入部した所謂(いわゆる)新入部員ってやつだ、ちなみに男子部員は俺1人だったりする。

 

 俺が入部した時、部員は3年で部長の竹井久(たけいひさ)先輩と2年の染谷(そめや)まこ先輩2人だけ。そのすぐ後に同じ1年の原村和(はらむらのどか)片岡優希(かたおかゆうき)が入部して来て楽しくやってた。

 で、団体戦に出るには女子5人必要ってことで最後の1人を探してたんだが……。

 

 中学からの付き合い。っていっても男女のじゃなくて、仲は良いけど危なっかしくて放っておけない女友達の宮永咲(みやながさき)

 咲が麻雀を打てると知った俺は、いつも1人で本を読んでる咲に女友達ができるかもしれないというお節介。そして団体戦メンバーが揃うかも? という一石二鳥の理由で強引に部室へと連れてった。

 

 部室へつくと咲を入れて1年4人、そうなればする事は対局だろ? 半荘(はんちゃん)三回やって勝ったり負けたりした後、なんでか咲は逃げる様に出て行った。

 

 そこで途中から咲の後ろで見てた部長に言われるまで気付かなかった異常。咲が三連続±0だった事実、それが意識的(・・・)に出来る程の実力差があるんじゃないかという指摘。

 

 まあ、それをどう受け取ったのか和が咲を追いかけたり、部長が咲と何やら約束して後日もう一度打つことになった。で、部長が咲に「持ち点1,000点と思って打ったら?」とアドバイスして始めた半荘一回。咲は圧倒的強さで勝つ。

 

 その後、和と咲の間で一悶着あったみたいだけど咲が四月初旬に入部。和や優希とも仲良くなって、部長達念願の県予選団体戦へエントリー出来る様になった。

 

 ……そこまでは良かったんだ。

 

 念願叶った部長達が咲・和・優希を鍛えるため色々手を打つ中、俺はネット麻雀と雑用に明け暮れる毎日。

 俺が強ければその輪に入れたかもしれないが、初心者と実力者じゃ手の貸しようもない。それでも居場所が無くならないよう部長が気遣ってくれたんだと思って必死にこなして来た。

 

 けどさ、俺だって麻雀がやりたくて、楽しみたくて、強くなりたくて入部したんだぜ? そんな風に雑用しながら考えることが日に日に増えていく。でも、邪魔はしたくなくてさ。

 

 だから休日、気分転換しようと電車に乗って適当な駅で降りたんだ……。

 

京太郎 side out

 

 

?? side

 

 普段、こんな人混みの多い所なんて滅多に来ない。ただ今日は気分が良かったからお気に入りの喫茶店で過ごそうと思って珍しく外出した、それがそもそもの間違い。

 

 横断歩道で信号待ちしてたら、何かが後ろからぶつかって。

 気がついたら車道で、迫って来る車がゆっくりに見えて。

 ああ、死ぬんだって冷静な自分がいて、私は諦めて目を閉じた。

 

「手を伸ばせ!」

 

 え? 突然聞こえた声に私は不思議に思ったけど、まだ死にたくなかったのか腕は勝手に声の方へと伸びて……。

 

?? side out

 

 

京太郎 side

 

 信号待ちしていた俺は斜め前にいる同じ年位の女の子が気になっていた。

 

 艶やかな黒髪、好みな横顔と結構なおもち、そして儚げな雰囲気と今まで出会ったことの無いタイプの女の子……。

 いや、ストーカーじゃないからね!? ほんと横断歩道で止まったらいたってだけだから! って、誰に言い訳してるんだか、俺は。

 

 まあ、いいか。とにかく、ちょっと部活のことを忘れたくて初めて来た街。そこでたまたま目に入ったその子が妙に気にかかってさ。で、子供が狭い所でぐるぐる母親の周りを走ってる、その前に彼女はいた。

 

 あれって危なくねぇか? 子供が転んでぶつかったりしたら……。考え過ぎかもしれないけど俺が彼女に話しかけようとした瞬間の出来事だった。くそ! マジか! こんな予感的中とかふざけんな! 俺は咄嗟に動きながら大きな声で叫んだ!

 

「手を伸ばせ!」

 

 俺の声に伸びた手をしっかり掴むと思いっきり引き寄せた。その直後、さっきまで彼女がいた場所を車が通り過ぎる。

 

「間一髪だったな……」

 

 安心した俺はそう呟いた、冷や汗を流しながら……。

 

京太郎 side out

 

 

?? side

 

 私は混乱の極地にいたっす、何故なら助けてくれた男の子の胸に抱き止められてたから。まあ、他にも理由はあるっすけど。

 

「あの、もう少し離れてくれないっすか」

「うお! ごめんなさい、ごめんなさい! 何卒(なにとぞ)通報だけは!」

 

 彼は慌てて飛び退く様に離れながら言う、けど私は手だけ離さずに。

 

「いやいや、そんな事はしないっす。命の恩人っすから」

 

 私の話に安堵したのか、ふぅなんて聞こえて来た。落ち着きを取り戻した私は期待を込めて質問する。

 

「もしかして私が見えるっすか?」

「え? 見えるけど?」

 

 彼は当たり前だとばかりにそう言ったけど……。

 

「ほら、大丈夫?」

「うん、なんかぶつかった〜」

「何もないわよ?」

 

 聞こえてきた親子の会話に彼は怪訝(けげん)な表情を浮かべた。

 

「多分この子が私にぶつかったんじゃないっすか?」

 

 彼が母親に何か言いそうだったからそう話しかけて。

 

「その通り、何知らんぷりしてるんだか」

「待つっす。多分、今私達は見えてないし、聞こえていない(・・・・・・・・・・・・・・)っすよ」

「え?」

 

 そう言うと彼の視線は私と親子の間を行ったり来たり、信号はまだ変わらないっすね? 私は手を繋いだまま彼を軽く引いて親子の前に立つと顔の前で手を振ってみせた、勿論反応がある訳無いっす。

 

「試してみるっす」

「あ、ああ」

 

 同じ様に彼が手を振っても同じ。

 

「本当に見えてないなんてあり得るのか? いや、でも実際反応無かったし……」

「とにかく説明するにしても場所が悪いっす。

 良い所があるので着いてきて欲しいんすけど……、いいっすか?」

 

 頷く彼を見て私は最高の笑顔を浮かべた。私を見つけてくれた人がいる、その実感が湧いて来たっすから!

 

?? side out

 

 

京太郎 side

 

 あれから少し歩いて小道を通った先にちょっとした公園が見えた。

 

「ここは今時間殆ど人がいないっす。

 特にあの木陰にあるベンチは気づく人も少ないので話すのに最適っすよ」

 

 そう言う彼女は見惚れる程の笑顔で繋いだ手を引いてる、当然俺も笑顔を返す。

 いや、ホント嬉しいよ? でもさ、初対面で手を繋いだまま歩くとかいいのか、これ。あれか? まだ信じられないけど見えないからいいとか? いやいや、そう言う問題じゃないよな。

 

 それに此処。マジで人気が無いんだけど、俺大丈夫? 怖い人出て来ないよね? 今更気付いても遅いんだけどさ。まあ、悪い子には見えないから着いて来たし、覚悟を決めよう!

 

 そんな事を考えているうちにベンチに着いた。ん? ちょっと汚れてるな。俺は手を離すとベンチにハンカチを敷いて彼女に即す。

 

「じゃあ、そこに座ってくれるか?」

「いやいや、それは流石に悪いっす」

「いいからいいから。ちょっと見栄はらせてよ、な?」

 

 俺はジーンズだけど彼女はスカートだ、この程度は俺でも気をまわせる。ということで俺はさっさと座って待つことにした、すると彼女は少し考えてから一言。

 

「……お言葉に甘えるっす」

 

 そう言ってやっと座ってくれた、そこでふと名乗って無いことに気付く。

 

「あ〜、今更だけど俺は須賀京太郎。清澄高校の1年だ」

 

「私は東横桃子(とうよこももこ)っす、鶴賀(つるが)学園の同じく1年。先輩かと思ってたっすよ。

 ところで清澄から此処は随分離れてないっすか?

 誰かに会う予定だったら申し訳無いっす……」

 

 あ〜、ちょっと気落ちさせちまった、東横さんが気にすることでもないしフォローしとくか。

 

「いや、ただの気分転換で適当に降りた駅が此処ってだけだから気にしなくていいぜ。

 目的もなかったし、話し相手になってくれて助かってる」

 

 そう言うと東横さんは、ぱあっと笑顔を浮かべる。ホント笑顔が似合う子だなぁ、俺はそう思っていた。

 

京太郎 side out

 

 

桃子 side

 

 須賀京太郎さん、私を初めて見つけてくれた人。それは私にとって特別っす。嬉しくて今すぐ泣きたい位だけどなんとか堪えたっす、だって彼を困らせたくなかったから。

 

 私は存在感が無いを通り越して認識されないって言う特異体質。意図して目立つ様なことでもしない限り誰にも見えないし、聞こえない。

 

 普通の人が言う孤独なんて私から見れば生温い、しかも特異体質は酷くなる一方で。だからコミニュケーションを取ろうとすることをすっかり諦めていた。一生誰にも気付いて貰えず死ぬんだなって思ってたぐらいっすから。

 

 って、まだお礼も言ってなかったっす!

 

「遅くなったけど助けてくれてありがとうっす!」

 

「いや、実はさ。少し前から危ないと思ってたんだけど、いきなり声かけるのも気が引けて……。

 やっと決心して声をかけようとしたんだけど遅くてさ。

 早く声かけてれば危ない目に遭わせなくて済んだと今更後悔してるんだ」

 

 そう言うと須賀さんは顔を伏せた、そんなこと言わなければわかりもしないのに誠実で優しい人なんすね。

 

「須賀さんは優しいっすね、私はそんなの気にしないっす。

 命の恩人なんすから胸を張っていいんすよ?」

「そう、なのかな」

 

「助けて貰った私が言うんすから安心するっす!

 須賀さんが私を見つけてくれなかったら間違いなく死んでたんすよ?」

「そっか。じゃあ、その感謝、素直に受け取るよ。助けられて本当に良かった」

 

 今、私と須賀さんは手を繋いでないのに普通の会話が出来る。それが嬉しくて須賀さんの笑顔に私も笑顔で応えた。

 

桃子 side out

 

 

京太郎 side

 

 なんか新鮮だな。

 いつもの雑用でも感謝とか気遣いの言葉は貰うけど優希なんかは当たり前みたいに言うんだよな。しまいには“犬”とか言ってくるし……、だから正直言うと心が篭ってない気がしてた。

 

 でも、東横さんの言葉と笑顔には心が篭ってるって感じる。助けられたのは偶然だけど、俺は今すっげー嬉しかった。

 

 ……そう言えば見えるとか見えないって話があったな、俺で良ければ相談にのりたいって心から思ったんだ。

 

「そう言えばさっき見えてないって証明されたんだけどさ。

 嫌じゃなかったら相談に乗りたいんだ、力になれるかはわからないけど」

「ありがとうっす!

 私は存在感が無いどころじゃなくてマイナス、今まで誰も私を見つけられなかったっす。

 目立つ動きとかすれば見える様になるんすけど須賀さんみたいに見える人には会った事なくて。

 もし今、誰かが私達を見たら須賀さんは1人で話してるヤバい人っすよ、はははっ……」

 

 東横さんの言う事は本当なんだと俺は感じた。

 だってさ、話を進める程に辛そうで声から元気が無くなっていく。最後には乾いた笑いまで……、だから俺の中ではもう放って置けなくなってた。

 

「でも、一つは見えるかもしれない方法が見つかったんだろ?」

「相手に触れてる間だけ同じマイナスになる、それは他人から見えなくなるのがわかっただけ。

 元々見える須賀さん以外ではまだ分からないけど試す価値はあるっすね」

 

 希望が見えたからか少し元気になったか? やっぱりこれは別の意味で咲以上に放って置けないんじゃないか? 誰にも認識されないなんて孤独どころの話じゃないだろ、なら……。

 

「今日会っていきなりかも知れないけどさ……、よかったら俺と友達になってくれないか?」

「ホントっすか! こちらこそ是非お願いするっす!」

 

 うおっ! すっげー元気になった。

 

「じゃあ今から俺達は友達だ、俺のことは京太郎でもなんでも好きに呼んでくれ」

「ん〜じゃあ、京さんって呼んでもいいっすか? 私の事はモモって呼んでくれると嬉しいっす」

 

 京さんか、初めて呼ばれたな。

 

「じゃあ、遠慮なくそう呼ばせてもらうよ、モモ。俺の呼び方は任せたから構わないぜ。

 京さんなんて呼ばれたのは初めてだから、ちょっと照れくさいけどな。

 とりあえず連絡先交換しようか」

「勿論っす、京さん!」

 

 俺達はそう言うと早速連絡先を交換した、にしても随分衝撃的な出会いから友達か。世の中どうなるかわからないもんだな、なんて嬉しそうなモモを見ながら思っていた。

 

京太郎 side out

 

 

モモ side

 

 そう言えば気分転換なのに適当な駅で降りたって言ってたっすね、しかも目的がないって……。

 

 出逢ってから貰ってばっかりっす。話し相手が地元にいない様な人に感じないから、身近な人には話せない? 話を振って断られたら引き下がるけど、聞くだけ聞いてみるっす!

 

「京さんは気分転換に来たんすよね?」

「ん、ちょっとな。身近な人には言えないモヤモヤがあってさ。

 偶然降りた街でモモに出会ったのも今話してるのもちょっと出来過ぎだよな、流石に」

 

 運命って奴っすか!? ちょっとドキドキするけど今はそのモヤモヤを解消してあげたいっすね。

 

「良かったら話して欲しいっす、無理にとはいわないっすけど」

 

 京さんは空を見上げて少しの間、沈黙。そして吐き出す様に語り始めた。

 

「これは独り言だ、俺はちょっとした切欠から麻雀が好きになって今は麻雀部にいる初心者。

 女子5人に男子は俺1人で当然女子全員俺より強くてさ、去年の全中チャンプまでいるんだぜ?

 女子は3年目にしてやっと団体戦に出られる様になったから必死にやってる。

 ちなみに女子3人は俺と同じ一年だ。

 

 俺が強ければ協力しながら麻雀できたんだろうけどそれが出来ない。

 そんな俺を部長は気づかってくれてさ、居場所が無くならない様にサポート役をくれたんだ。

 だから毎日色々な雑務とネット麻雀をやってる。

 

 ……日に日に思うんだ、好きな麻雀を楽しく打ちたい、強くなりたい。

 そのために入部したんだろってさ。

 

 でも邪魔はしたくないんだ、皆の気持ちもわかるから。

 どうしたらいいんだろうな、もう俺にはわかんねぇよ」

 

 それを聞いた私は京さんが優しいから他の5人が甘えてるとしか思えなかったっす、1年が4人いるなら雑務は分担すればいいだけっすから。

 

 うちも人のこと言える学校じゃないけど清澄も無名校、ノーマークで実力者が集まったと仮定して県大会。 まかり間違って全国大会まで放置したら、半年以上京さんはこのままっす。

 

 それは絶対駄目っすね、京さんの気持ちを(ないがし)ろにし過ぎてるし、麻雀的にもマズい。なら、一つだけ案があるっす。

 

「私も独り言っす、鶴賀学園は今年から共学になったんすけど、男子は定員割れしてるっす。

 今年入学した男子は3年間公立高校と同じだけの授業料で入学金免除。

 けど女子が多くて馴染めず転校する人が結構出て転入者は更に優遇される事になってるっす。

 男子寮があるんすけど実績作りに食費も含めて無料、でも転入者はまだいないらしいっす。

 

 もう一つ。実は私、麻雀部から勧誘を受けてるけど見つけられたらって言ってあるっす。

 入部はしないけど、ちょっと調べてみるっすよ。

 

 初心者って事は今、基礎固めしておかないと伸びるものも伸びない。

 変な癖がつくかもしれないから1番大事な時期っす、聞いた限りでの判断っすけど……。

 正直言って今の環境は最悪っす。

 

 とりあえず、うちがちゃんとした環境だったら連絡するっすよ」

 

 京さんは空を見たまま。

 

「今の環境は最悪なのか……、自分じゃわからないもんだな、真剣に考えてみるよ」

 

 その言葉が空に溶けた……。

 

モモ side out




あの!京太郎が(を)モモを(が)ナンパしましたよ!どっちさw

2022/03/08 改定


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二本場 ステルスモモのスパイ大作戦と京太郎の決意

流石に一話だけでは何も判断できないだろうと思い連投してみますね。


モモ side

 

 まずはアンケートっすね。そう思いながら昨夜、部屋のPCで作ったアンケートを持って麻雀部に人が来るのを待つ。するとこっちに向かって歩いてくる人達がいた。

 

「ゆみちん、まだ探してるのか?」

「勿論だ、あんな魅力的な打ち手は逃せない」

 

 お、この人が私を勧誘した人っすか。そんなことを考えながら様子を窺ってると、麻雀部の鍵を開けてドアが思いっきり開けられた。ちょっと驚いたっす。

 

蒲原(かんばら)、少しは加減しろ」

「ワハハ」

 

 今のうちっす! 素早くすり抜けて中へ。私は邪魔にならない場所で部員が集まるのを待った。

 

「あ、智美(ともみ)ちゃんと加治木(かじき)先輩! 早いですね」

「こんにちは」

津山(つやま)妹尾(せのお)か、揃ったな」

 

 これで全員……、雰囲気は良い、仲良さそうっすね。ここに私と京さんが加わったら清澄と同じメンバー構成っすか……。

 

 雀卓に向かわず談笑してる今がチャンスっすね、その間にアンケートを置いて様子を見るっす。あ、ついでにボイスレコーダーもっと。

 

「じゃあ、始めようか」

 

 そう言いながら雀卓の前まで来て、確か加治木先輩? が封筒に気付いた。

 

「誰か置いたか?」

「おー、ゆみちんにラブレターか? 私は置いてないぞ〜、ワハハ」

「私も」

「私もです〜」

 

 加治木先輩が怪訝そうに封筒を開く、そしてアンケートを見て……。

 

「彼女からか!」

 

 そう言うと読み出した。

 

モモ side out

 

 

ゆみ side

 

“勧誘を受けている者です、諸事情あってアンケートを送ります。

大袈裟ではなく人生を左右する内容ですので嘘偽り無く真剣にお答え下さい。

また、お答えいただいた内容について入部した場合は遵守して下さい、よろしくお願いします。”

 

 出だしからコレとは……。しかし、どうやって此処に?

 

「ワハハ。責任重大だぞ、ゆみちん」

「笑い事じゃないぞ、蒲原。とにかく全員で真剣に考えるぞ」

 

“問1 女子・男子部員の2名が入部しました、女子部員が入った事で団体戦に出る事ができます。

男子部員は初心者ですが本気で麻雀をやるための入部、麻雀部はどの様な対応をしますか?”

 

 正直なところ団体戦に専念したくはある。だが、初心者でやる気がある者を育てる事すら出来ない場所は部を名乗ることすら烏滸(おこ)がましい。

 勿論、育てる事はそれ自体が教える者の力を高める手段の一つでもあるしな。

 

「ワハハ。何も考えることはないぞ、ゆみちん。

 誰だって初めは初心者なんだ。佳織(かおり)も初心者だし、皆で鍛えるぞ〜」

「そうだな、私もそう思う。よし、次だ」

 

”問2 入部した男子部員が唯一の1年生でした。麻雀部の雑務について、どの様に対応しますか?”

 

「雑務と言うと牌磨きや部室の掃除、あとはちょっとした買い出しでしょうか?」

「それなら今までも皆で分担してやってたから変わらないよね〜?」

「ああ、誰か1人に押し付けるような事は私自身好まない。

 

 それよりもさっきからずっと気になっているんだが……。

 この男子生徒。余程酷い扱いを受けていた、もしくは受けているかの様に読み取れる。

 それを彼女が、勿論彼かもしれないが快く思っていない。

 

 だが、うちの麻雀部に男子生徒はいない、転入でも考えてるのか?」

 

 そうとでも思わなければ質問の意図が分からない。

 

「そう言われてみると確かに、ともかく次に行きましょう」

「ああ」

 

“問3 女子生徒が男子生徒への指導について異論を唱えました、麻雀部はどの様に対応しますか?”

 

「悩むまでも無いな。より良い方を選ぶし、全員で意見を出し合って更に良い方法をも探す。

 

 それとこの女子生徒は彼の事を本気で応援しているのが窺える。

 友人か恋人かわからないが余程大切なんだな」

「恋人じゃなくても好きな人だったらわかりますね」

「そう言われればそうだな、さて最後は……」

 

“ご協力ありがとうございました。

内容を書き記した後、封をして部室前の窓辺に置いて下さい。

 

また、置いた後は部室にお戻り下さい。詮索は禁じます。

私の入部条件は現状、自力で見つけるという事をお忘れなく。”

 

「ワハハ。先に釘を刺されたな、ゆみちん。私が置いてこよう」

「ああ、頼む蒲原」

 

 そう言うと蒲原はまた豪快にドアを開けて、封書を指定の場所に置くとすぐ戻って来た。

 

「しかし、あそこに置いて誰か他人に持ち去られることは考えないのか?

 そもそもどうやってアレを部室の雀卓に置いたのかすらわからんぞ」

「ワハハ、これだけ探して見つからないなら幽霊だなあ」

 

 足音に聞き耳を立てていたが何も聞こえない……か。まったく蒲原は……、妹尾が青くなってるぞ? わざとだな?

 

「馬鹿を言うな。

 幽霊が学校に通ってネット麻雀を打ち、アンケートを作ってあそこに置ける訳が無い」

「そ、そうですよね〜」

 

 待て、自分の言葉に疑問が湧いた。逆説的に考えれば幽霊は無いが他の可能性が出てくる、それが原因で見つけられないのか?

 

 しばらくしてから皆で部室を出たが封筒は無くなっていた、人の足音や気配すら感じなかったにも関わらずだ。

 

「一体どうやって……」

 

 そう皆は驚いていたが、私はさっきの予想が的外れでは無いと直感していた。

 

ゆみ side out

 

 

モモ side

 

 自宅の部屋、私は一人ゴロゴロ転がりながら悶絶していた。

 

「やばいっす、恥ずかし過ぎるっす!」

 

 ただ必要な事をアンケートにしたつもりだったけど、よくよく読み返して見れば……。

 

「誰から見てもあの先輩の言う通りっす! あそこに入るっすか!?」

 

 アンケート結果は最高。京さんに伝えれば今の仲間(正直仲間とは思えないっすけど)と家族から離れるデメリット。それ以上に金銭的な負担は減り、麻雀に取り組めるメリットの方が上回るはずっす。

 

 まあ京さんは優しいから、それだけで判断しない可能性はある。そう思いつつも来てくれると私には思えた、当然来てくれれば私は凄く嬉しいっす!

 

 それはいいんすけど一緒に入部するつもりだった麻雀部に私の好意がもろバレと考えると……。

 

「ああああううぅぅぅっ、超恥ずかし過ぎるっす!」

 

 一時止まり考えていた私は再びゴロゴロ。そこでふと思い出す、“余程大切な”。

 

「それっす! 京さんは命の恩人で友人をアピールすれば解決!」

 

 そう無理矢理自己完結した私は頭を切り替えて早速連絡することに。

 ワンコール、ツーコール、スリーコール……。

 

『もしもし、どうした?』

 

 あれ? 名前で呼んでくれないっすか? もしかして……。

 

「今、部活中っすか?」

『ああ、けど大丈夫だ、例の件か?』

 

 やっぱり、流石に女子5人の中で私の名前を呼んで誰かの耳に入れば面倒事になりそうっすね。

 

「そうっす、部員は良い人そうで雑務は全員で分担。

 団体戦に出るとしても、しっかり鍛えるって確認したっす。

 もし指導に納得出来なかったら全員でもっと良い方法を考えるとも言ってくれたっすよ?」

『そうか、それはありがたい話だな。俺も資料はネットで確認した、少し考えさせてくれ』

 

 京さんがそう言った時、とんでもない言葉が聞こえてきたっす。

 

『犬! 飲み物が切れたじぇ!』

『わかった! すぐ準備するからちょっと待ってろ、優希!

 ごめん、そう言う事だからまた連絡するよ』

「良い返事を期待して待ってるっす」

『ああ、またな』

 

 そう言うと電話は切れた。

 

「なんすか、犬って。京さんは私の世界一大切な人、許せないっす。

 

 それに飲み物ぐらい自分で用意すればいいじゃないっすか。

 『親しき仲にも礼儀あり』って言うのは当たり前なのに……。

 確信したっす、清澄は最悪なだけじゃなくて最低っすね! 絶対転入すべきっす!」

 

 私は心の底から怒っていた、さっきまでの好意云々を完全に忘れる程に……。

 

モモ side out

 

 

京太郎 side

 

 あの日、モモを見送ってから俺は直ぐに病院へ向かった。

 

「全治一週間ですか?」

「ええ、ですが治っても肩から上には殆ど上がらないでしょう。

 先ほど伺った以前の故障に加えて部活の雑務で徐々に蓄積。

 そんな状態で人ひとり引っ張ったのは致命的です。

 殆ど痛みが無いのも肩まで上がるだけでも相当運が良かった。

 

 サポーターで肩を保護します、あとは定期的に無臭の湿布を交換して下さい。

 勿論、重い物を持つのは厳禁です」

 

 モモを引っ張った直後は予想外な事も重なり変なアドレナリンでも出てたんだろう、落ち着いて話している内に肩が熱を持ってると気付いて出た診断結果がこれだ。

 

 麻雀するのに支障は無い、けど以前ほど無理は効かなくなった。

 

 不幸中の幸いか、開校記念日を含んだ3連休初日にやったお陰で順調に回復してる。

 怪我については両親以外に話してない、誰にも言わないよう頼んであるから余程の事が無い限りバレる事も無いだろう。

 

 そして迎えた休み開けの今日は月曜日、モモから早速連絡があったと言う訳だ。とりあえず向こうの環境が整ってるのはよくわかった。

 

 それはそれとしてだ。モモの言う清澄の環境は置いておくとしても俺に出来る事は極端に減るだろう、それだけは間違い無いと断言できる。特に部長は結構な無茶振りをするから尚更だ。今後、力仕事でも頼まれたら俺はそれに応えられない。

 

 そうこう考えながら優希のついでに全員へ飲み物を配る、そして俺は和の後ろで牌譜を取りながら卓の全員を真剣に観察していた。勿論、和の打ち筋もだ。完治までの残り四日間で俺は身の振り方を決める、これはその一環であり俺なりの行動指針による物。

 

「須賀君、今日は随分と熱心ね」

「部長、揶揄(からか)わないで下さいよ。俺には何もありませんからね、和の言うオカルトなんて特に。

 なら現実的に言って和の打ち筋から少しでも学ぶのが一番でしょ?」

 

「のどちゃんから学ぶとは目の付け所が良いじょ! 流石は私が躾けた犬だ!」

 

 はあ、どうして優希はいつもこうなんだ?

 

「ていうか、お前に躾けられた覚えは無い!」

 

 親愛の形なんだろうけど、他人が聞いたらどうなるか誰か教えてやってくれよ。マジで大変な事になる前にさ。

 

「まあまあ、ともかく京太郎の言う通りじゃ。ウチらの打ち筋は参考にゃあならんしのぉ」

「残念ながらそう言う事です。ほら、俺のこと気にしてる余裕なんかあるんですか」

「そうですね」

 

 話はここまでという意図で放った言葉、和が照れ臭そうに同意して麻雀は再開された。

 

京太郎 side out

 

 

久 side

 

 須賀君には本当に悪いと思うけど、私にとって念願であり最初で最後のチャンス。団体戦参加が決まってからメンバーの強化に全力を尽くしているんだけど……。

 彼には指導一つしてないのが現状。当然罪悪感を覚えるし、好意に甘えるだけで何も返せていないジレンマを常々抱えていた。

 

 そんな状況にも関わらず彼は私達のサポートを嫌な顔一つしないでこなしてくれる。卓に寄り付こうともしないで、ネット麻雀を利用した自主練習の日々。

 きっと邪魔にならないようにとか考えて気遣ってくれてるのよね、でも感謝することはあっても邪魔だなんて思った事は一度も無かった。だから決めていたのよ、大会が終わったら私に出来る限りの恩返しを必ずするってね。

 

 そう思っていた私の目に今日の須賀君は何かが違って見えた。いつもなら和を見てデレデレしそうな距離。そこで牌譜を取りつつ全員を観察し、和の打ち筋から何かを得ようとする真剣な表情。

 だから、揶揄う素振りで話しかけたんだけど……、軽くあしらわれたうえに反論の余地も無い正論が返って来た。

 

 皆は違和感を感じないのか、それとも須賀君なりの取組みに感心したのか肯定した。私も良い事だとは思ってるけど、どうしてか違和感が拭えない。

 とはいえ何一つ教えてすらいない私と、サポートをこなしつつ自主的に学ぼうとする彼。止める意味もなければ追及する程の確証は無いし、理由は彼自身から既に聞いた。

 

 結局、何もわからないまま部活は終わり、須賀君だけが後始末に残るいつもの光景。本当にこれでいいのかと思いつつも、また彼の好意に甘えてしまった。

 

 思えば何故この時、残って彼と話さなかったのか、『後の祭り』っていうのはこういうことなんだとわかった時には既に手遅れ。一生後悔し続けるかどうかのターニングポイントを見誤ったのに気づいたのは……。

 

 須賀君が消えた後だったのだから。

 

久 side out




原作によれば京太郎は中学時代、ハンドボール部でしたが肩を痛めたと言う経緯があります。
確か県大会準優勝だった筈です、つまり怪訝さえ無ければインターミドル全国大会出場の可能性が……。

2022/03/09 改訂


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三本場 須賀京太郎の一週間 その壱

うーん、とりあえず更新はここまでで一旦止めます。
その後の反応をしばらく見て続けるか、やめるか判断しますね。


京太郎 side

 

 連休初日に肩をやって、モモの言葉を思い出した俺は基礎固めを決意した。

 

 半端だった役と符計算を完全に覚える第一歩は早々にクリア。

 

 自分に有利な状況を作るため意識的に表情をコントロールする第二歩。

 これは簡単じゃないから、まずはポーカーフェイスと平常心を。それが出来る様になったら、相手を惑わす方向へ意識を切り替えることにした。

 

 河・捨て牌や相手を観察して聴牌・安牌を察知し、回す手札を不用意に減らさないようにしたり降りたりするための第三歩。

 ただ役を作るため考え無しに鳴くのも聴牌したらリーチするのも止めて振らない麻雀を。そう考えた結果、鳴きとリーチを封印。

 

 俺はハンドボールの経験から視野の広さと観察眼には結構自信がある。だから聴牌・安牌の察知に必要な読みを鍛えるため教本をぼろぼろになるまで読み込んだ。後はネット麻雀で対局したり、実際に観察して精度を上げていく。

 

 和って言う先駆者がいるんだ、そこから学ばないなんて馬鹿げてるという事で、ここまでを第一段階とした訳だ。

 

 当然いきなり強くなる訳が無いし、振らなくてもツモ上がりは防げない。けど、振ってしまえばそれ以前の問題だ。場合によっては振らず凌いで上がることも不可能じゃないしな。

 

 そこまで行ったら鳴きを解禁するのが第二段階。まあ、そうは言っても一朝一夕でここまで来れるとは思っていないから、まずは第一段階だ。

 

 3連休は治療と並行して、第一段階を意識したネット麻雀に食事と寝る時間以外全て費やした。

 鏡を置いて表情の確認も忘れずにやり続けた結果、なんとかポーカーフェイスは保てる様になったし、放銃率も打てば打つほど下がっていく。

 如何に適当だったか、よくわかって自分の事ながら呆れた。そりゃ、初心者だって言われる訳だと納得した位だしな。

 

 これに加えて部活では和の後ろからリアル麻雀の全てを観察して、俺は自分の成長に取り組んだ。和が打っていても俺が打ってると意識することでポーカーフェイスも磨いた。

 

 帰って来たら、またネット麻雀三昧。ただし、寝る時間を馬鹿みたいに削りはしない。かえって集中力が下がるし、そんな状態で打っても伸びないのはハンドボールで十分わかってる。

 脳にしろ体にしろ休ませることを怠っては無駄になるからな、だから必要な休息を忘れず毎日過ごす内に六日間はあっという間に過ぎていった。

 

 ちなみにその間、モモからアドバイスを受けられたのには感謝してる。気分転換にもなるし、仲良くなれた俺は正直言って嬉しかった。それとは逆に部活で何も無い事で、居場所の無さを十分実感させられて。

 

 そして、今日。モモとよく相談して一週間目の明日、俺は5人に挑むことにした。これまでで此処に俺がいる必要はないんだと思い知ったし、今の自分を図るために。

 観察は十分、打ち筋も能力も傾向すら掴んだ。短期間だったけど初心者だからこそ、今の俺は振らない雀士の第一段階をほぼクリアした。

 

『あとは実践あるのみっすよ』

 

 ああ、そうだな、モモ。俺は明日、どんな結果が出ようと鶴賀に行く、能力に頼らない雀士が集まるあの学園へ。

 

 既に両親と担任を通して両校に話はつけてある。明日には両校で編入について詰めることも確認済だ、上手く行けば来週の月曜日から鶴賀学園に通えるとも。

 

 そうそう、鶴賀学園といえばモモが麻雀部に入部した。聞いた話では、モモを見つけられはしなかったけど教室まで来てこう叫んだそうだ。

 

『私は君が欲しい!』

 

 聞いた時には流石に唖然としたさ。どこの世界に見つからないけど教室にいると確信したからって、そんなプロポーズ紛いの言葉を叫べる? 百合か? 百合なのか? って思った俺はおかしくないと声を大にして言いたい。

 

 モモ曰く。

 

『あそこまで探そうと必死になって私を必要としてくれた唯一の人っすから。

 でも、京さんの方が私には大事っす!』

 

 ちょっとグッと来た俺は自意識過剰だと自制した、まさかポーカーフェイスの訓練で養った平常心がこんな所で役立つとは思わなかったけどな。

 

 まあ、そんな経緯で入部してだ。モモが打ったら対局中にリーチも捨牌すら認識されなかったらしい、体質だからどうにもならないとはモモの弁。

 因みにモモを能力持ちなんて俺には絶対言えない、苦しむ体質から生まれたそれは代償でしか無いんだと俺は心から思うから。

 

 とにかく清澄はある意味、能力持ちの巣窟だ。そこで俺がどれだけ通用するか図る、それに対抗できなくてもある程度凌げるだけで個人戦への指標にはなるだろう。

 なんせ男の雀士で能力持ちは圧倒的に少ない、プロでも南浦プロが優希の南場版ぐらいしか俺は知らないんだ。なら、学生にそう多くいるとは思えない。

 

 女流雀士が人気なのには能力持ちの多さや派手な展開が影響してるし、インターハイチャンピオンなんかその最たる物。比べて男の麻雀が盛り上がらないのは地味だからだ。

 

 さて、いい時間になったな。俺は明日に向けて必要な睡眠を取る。今発揮出来る最高のパフォーマンスを引き出すために……。

 

京太郎 side out

 

 

咲 side

 

 今週に入ってからの京ちゃん、麻雀に対する取り組みが中学校時代のハンドボールと同じ。ううん、それ以上になってると私は気づいてた。

 きっと皆にも真剣さは伝わったんだと思う、京ちゃんに刺激されて前より練習が濃くなってるんだから間違いないよね。

 

 部活以外でも京ちゃんが教本を読んでたり、スマホ? で麻雀してるのをよく目にしてた。

 

 その他は、いつもと変わらない京ちゃん。言い訳にしかならないけど……だから私は気づけなかったんだと後で思い知ることになる、いつも手を引いてくれた京ちゃんを失うっていう最悪の形で。

 

 金曜日、もう当たり前になった部室へ京ちゃんと一緒に向かう。

 

「一番乗りだね、京ちゃん」

「そうだなぁ。さて、俺は準備を始めるとするか〜。

 咲は自分のことに集中してていいぞ」

 

 いつものやり取り、そして京ちゃんが雀卓や飲み物の準備を始めた。二人の時間は短くて次々と皆が部室に集まって来る、女子四人が揃ったところで対局が始まった。

 

 全員が揃って女子の対局は続く、飲み物を配った京ちゃんは今日も原村さんの後ろで牌譜を取っていた。

 たまにはそこで何故切ったかとか、何から安牌を読んだか質問する京ちゃん。原村さんの答えに納得して頷くのも最近では珍しくなかった。

 今の京ちゃんってどの位の打ち手なんだろう? さっきの質問も結構鋭かったから気になる。

 

 でも、全国に行ってお姉ちゃんと戦うためには練習が必要で。ちょっとした休憩を挟みながら入れ替わり立ち代わり打ち続けた。

 

 部活の時間が残り少なくなってきた頃、不意によく知る声が聞こえてくる。

 

「部長、お願いがあります」

「何かしら?」

 

 京ちゃんがお願い?

 

「東風戦二回、俺に打たせて下さい。メンバーは全員と打てれば任せます、どうですか?」

 

 今まで一度も打ちたいなんて京ちゃんは言わなかったのに、私はただ驚いて部長の返事が聞こえてくるまで京ちゃんを見ていた……。

 

咲 side out

 

 

久 side

 

 これが晴天の霹靂って言うものかしらね、まさか須賀君から打たせて欲しいとお願いされるなんて思ってもいなかった。

 

 けど、この願いを私は断れないし、その気もない。サポートを一手に引き受け、自分自身の手で実力を磨いていく姿。それを見せられ続けた私には。

 だって、そうじゃない? 私は彼のために何も出来ていないのよ。

 

 それに気になってた今の力量、和への質問内容から言って決して低いとは思えない。仮に、あくまでも仮にだけど私達と渡り合えるまで成長してたなら部全員にメリットがある。

 新たな打ち筋を持った対局者が増えれば、まこのデータが増えて対応力が向上。勿論、全員にも言えることだけどね?

 

 そして、これが本命、須賀君を鍛える事ができるようになって私の恩返しにもなる。まあ、どちらにせよ打つことに変わりはない。

 

「わかったわ。初めはまこ、和、優希で行きましょう。それでいいかしら?」

「ありがとうございます。

 一つだけ追加ですが俺の手牌を後ろから見るのは打ち終わった人以外禁止でお願いします」

 

 何か策があるようね。

 

「OKよ。じゃあ、始めましょうか」

 

 私の声で席決めが始まる。

 

「東風戦をこの私に挑むなんて百年早いじぇ!」

「あ〜、そうだよなぁ」

 

 柳に風ね、精神的にも強くなってるのかしら?

 

 優希が東場で親。まこ、和、須賀君の順に決まり席に着いた。さて、どうなるかしらね? 楽しみだわ。

 

久 side out

 

 

優希 side

 

 席に着いてサイコロを回す、ツモってきた配牌を理牌して驚いた。

 

「おかしいじぇ……」

 

 思わず口にして、すぐ黙る。気付いたら部長と咲ちゃんが後ろにいた。

 

「どうかしましたか? 優希」

「なんでもないじょ!」

 

 のどちゃんが首を傾げてるけど、それどころじゃないんだじょ。なんで東一局の配牌が“普通”なんだじぇ!? とにかく親番、気合いを入れていくしかないじょ!

 私は最初の牌を切って皆がそれに続く。けど、ツモってもツモっても手がいつもみたいには進まない! そんなことを考えてたからか周りが見えてなかったんだじぇ……。

 

「ロン、平和、三色同順。30符3翻は3,900点だ、優希」

 

 はっとして顔を上げれば、真剣な顔の京太郎と申告された手が見える。あっさり親を流されたじょ……、それは私にとってあまりにもショックだった。

 

優希 side out

 

 

まこ side

 

 優希が見た時、京太郎は理牌を終えてた。つまりじゃ、それまで理牌せずに打ってたと。

 なるほどのぉ、どうりで手配の並びから読めん訳じゃ。しかもツモってきた牌を入れたり入れんかったりする、並びはまったく参考にならんの。

 

 今の待ちは面前で聴牌も早い方じゃったんだろうが次はどうなるかの? わしが一向聴(イーシャンテン)、和も聴牌しとらんかった。

 京太郎が何処まで読めてたかは判断できんの。わかったのは情報をまともに与えん位じゃ、河にも迷彩がかかってたしの。

 

「次じゃ」

 

 配牌を終えたわしは眼鏡を上げる、よっしゃ! 勝負手が入って来た! 今日は優希の調子がおかしいのか、随分順調に手が伸びるの。という事は和も京太郎も伸びとるのか?

 そう懸念しとる内に聴牌。純チャン、三色、ドラ3の8翻で倍満確定。リーチ一発でも変わらんし、裏ドラに期待して振り込みたくはないの。ここはダマじゃな。

 

 河からチャンタは読めるじゃろうが、そこから先はどうかの……。和も今のツモで張った。

 

 さて京太郎はどうするって、わしと和の安牌を手出しで切りおった! しかもツモって来た牌で張った! そう、うちの勘が告げとるんじゃ。捨て牌から見れば断么臭いが読み切れん。

 

 優希が危ういのぉ、聴牌は遠そうじゃ。後は3人の捲り合いか……。

 

 にしても京太郎は随分固い雀士になったようじゃのぉ。以前なら間違いなくリーチしてたはずじゃ、にも関わらずダマな時点で降りも考慮しとると。

 

 優希は降りたの、和は安牌を切ったが安目に手代わりしたか?

 

 わしのツモは……。あがれんなぁ、しかも生牌(ションパイ)中張牌(チュンチャンパイ)。純チャン消して満貫一向聴か、しゃーないの。

 

「ツモ、断么、平和、赤1。20符4翻は1,300/2,600点」

 

 危な! 捨ててたらあがられとったわ、京太郎の1人浮きか。運の要素があるとはいえ大した成長じゃの、残り二局が楽しみじゃ。

 

まこ side out

 

 

和 side

 

 須賀君、見事ですね。たった四日間。後ろから見ていただけでは、ここまでにならないでしょう。ネット麻雀で鍛えたという事でしょうか。

 

 ですが同じデジタルなら私に一日の長があります、簡単に負ける訳には行きません。配牌は悪くないですね、優希はいつもの調子が出ないようですが……。

 

 とはいえ残り二局。点差は無いに等しく、満貫でトップに立てる程度。場は粛々と進み、今回は優希も伸びている。配牌の良さの割に時間がかかりましたが、これで聴牌ですね。

 

 次順で染谷先輩が、続いて須賀君が、最後に優希が意地で通して聴牌。

 既に残り牌は少なくなっているうえにツモって来たのは不要牌、降りるしかありませんね。私はノータイムで既に決めていた安牌を切りました。

 国士無双以外では上がれないドラ表示牌、白の暗刻落としで3順凌げますから。後はこの不要牌が順子になる事を願うばかりですが、そう都合良く行くはずがありませんね。

 

 染谷先輩も降りましたか、既に河にある発を切ったと言うことはこちらも暗刻落としですね。須賀君は……、優希の安牌をツモ切り。優希もツモれず、手出しで須賀君の安牌を切りました。

 

 そこからはひたすらに安牌を切り続けて流局。

 

「ノーテン」

 

 私の後に染谷先輩と優希が続き……。

 

「聴牌」

 

 そう言ったのは須賀君一人で3,000点追加。勝利条件は最低跳満ですか、少し厳しくなって来ましたね。

 

 そしてこの三局で須賀君は振らない麻雀を突き詰めていると確信しました。彼一人聴牌だったのは回り順による物ですが、三局とも鳴きがありません。それに有利な状況でリーチしなかったのですから間違い無いでしょう。

 

 ツモあがりと流局時のノーテン以外では今の須賀君から点を取るのはまず無理ですね、それが私の結論でした。

 

和 side out

 

 

咲 side

 

 優希ちゃんは東場での力をまったく発揮出来ていない、まるで封印されてるみたいだと私は思っていた。いつもと違うのは京ちゃんと打ってることだけ、でも京ちゃんからは何も感じない。

 

 それにしても京ちゃんは強くなった。私ならツモあがりか、大明槓からの嶺上開花(リンシャンカイホウ)じゃないと点を奪えない。京ちゃんがミスしない前提だけど。

 

「オーラスだ」

 

 京ちゃんの声で始まったこの局も優希ちゃんの配牌は普通。ツモも普通か、それより悪い位。精神状態が影響してそう。

 優希ちゃんがこの状況だと他は伸びやすいのか見たくて原村さんの後ろに移る、数順見たけどやっぱり伸びやすいみたい。

 

 原村さんは順調に手を伸ばしてるし捲るつもりかあ、跳満をツモればそれで終わる。けど、京ちゃんが先に聴牌した。当然だよね、早あがりすればそれで終局。高い手を狙う必要なんて無いんだから。

 

 こうなると他は厳しい、なんといっても京ちゃんのあたり牌は河から読むしか手が無い。理配しないまま引いて来た牌を入れたり、通常字牌の位置に置くからどこに何があるか読みを効かせる情報が減ってる。

 工夫はそれだけじゃなく、河にも迷彩がかかってたりなかったりして引っかけも狙ってる。今なら安手で十分だから余計に読みづらい、役牌でも平和でもいいんだから。

 

 実際、東と北は河に一枚だけ。三元牌も似たりよったり。まあ、原村さんが北と中の暗子を抱えてるから残りってことになるけどね。

 中がドラだから後は一杯口(イーペーコー)混一色(ホンイツ)かチャンタ、三暗刻(サンアンコウ)混老頭(ホンロウトウ)。どれも狙えるけど、決め手の牌が来ないから進めない。

 

 そして、その時が来た。

 

「ロン、白のみ。50符1翻は2,400点だ」

 

 面前で東の対子(トイツ)、白。残りは順子で両面(リャンメン)待ち。 

 

 ……振り込んだのは優希ちゃん。集中力を欠いてたし、河から読み切れないあたり牌、安牌は無かったんだろうね。

 

【東風戦一回目】

 優 希 -13

 和   - 8

 ま こ - 7

 京太郎 +28

 

 京ちゃんがダントツでトップ、原村さんに勝つなんて凄いよ! 私は純粋に喜んだ、京ちゃんの努力が実ったことに。

 

咲 side out




堅いデジタル打ちの雀士を目指す京太郎、東風戦とはいえ勝ちは勝ちですね。
筆者は麻雀素人です、結構勉強して闘牌を私なりに表現して見ましたが如何でしょう?
感想・できれば高評価お待ちしております。

2022/03/09 改訂


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四本場 須賀京太郎の一週間 その弍

応援ありがとうございます、私も投稿と言う形でお応えします。
今後も反応をみての投稿になりますので、よろしくお願いします。


京太郎 side

 

 優希がおかしかった、東場であいつが暴れないのを見た事が無い。咲や和がそれを上回って先にあがったのならわかるが、流局まで長引くのを初めて見た。

 ともかく優希が不調で集中力を欠いてたからこそのあがりが二回、それが勝負の分かれ目になったのは間違いない。

 

 そして俺の目指す振らない麻雀は間違ってなかった、ただ運が良かった事は否定しない。実際、東三局の聴牌は回り順次第で俺が降りてたからだ。

 

 とにかく一戦目はツモれたこともあって人生初のトップ。だけど、二戦目がさらに厳しい戦いになるのは目に見えている。たった一度勝った位で勝利の余韻に浸れるほど、いくら俺でも楽天的にはなれない。

 麻雀は運の要素が勝負を決めるのも珍しくないからな、しかも東風戦なら余計に。だから俺は、第二戦に備えて集中力を高める。

 

 咲の嶺上開花、部長の悪待ちは能力だ。優希が東場に強いのも能力の筈なんだが……。まあ、わからない事に意識を割く余裕は無い。

 

 ただ、部長の悪待ちにはその前に癖がある。悪待ち聴牌する局では牌を引き入れる時、ほんの一瞬だけ遅れるんだ。

 

 咲は正直言ってどうしようもないな、槓材が入れば嶺上開花の餌食にも関わらず、槓材が配牌の時点であったり集まって来たりする。

 もし咲を乱す方法があるとしたら“アレ”くらいな物。まあ、まず有り得ないから意味ないな。

 

 どちらにせよ、俺は俺の麻雀を打つだけだ。

 

京太郎 side out

 

 

久 side

 

 さっきの優希はいつもと違っていた。そして、いつもと違う要素は須賀君だけ。

 

 確かに須賀君は予想以上成長して堅い雀士になっていたけど、それとこれは別の話。どちらにせよ、次でハッキリするわね。なら続きといきましょうか。

 

「私と咲が入るわ。優希とまこ、チェンジよ」

 

 和はなんの影響も受けてない様に見えた、安定したデジタル打ちの強みね。それに優希は、打たせるべきじゃない位のショックを受けてる。

 

「まあ、妥当じゃの」

 

 まこはわかってくれたみたいね、私と入れ替わってくれる。

 優希はふらりと席を立ってベットへ、本当はこういう時に立ち直れる強さが必要なんだけど今はそっとしておくのが一番かしら。

 

「早速、席決めからね」

 

 和が起家(チーチャ)。私、須賀君、咲の順に決まり席に着いた。

 

 さあて、どうなるかしらね? あら、まこは咲の後ろ?

 

 和が賽を回して配牌、まあ普通よね。

 

 ちらっとまこを見ると丁度目が合って首を横に振る。咲の表情も硬い、というか顔色が悪い? やっぱり何かあるわね……。

 

 こうして始まった第二戦東一局。私が見る限り、それぞれ手が進んでる。勿論、私も。けど違和感がずっと付き纏っていた。

 

 ()()()()()()()()()。それは手が進んでるにも関わらず、私にとって()()()()()()を感じないのよ。

 

 そうこうしているうちに須賀君から聴牌の気配……、咲はまだね、和は今のツモで聴牌か。そして私もこのツモで聴牌。

 二人に通る安牌を切れば悪待ち、この状況じゃリーチは無理ね。いつもの確信が無いけど、どっちにしろこれを切るしかないわ。

 

 須賀君は……引き入れて二人の安牌を切った、安手に手代わりした?

 

「ツモ、断么、平和。親の20符3翻、1,300点オールです」

「やるわね、和」

 

 これで一つハッキリした、ツモは防げないのね。点棒を払いながら、そう分析している冷静な私がいた。

 

久 side out

 

 

咲 side

 

 どうなってるの? いつもなら来る槓材が来ないし、牌がよく見えないよ。

 

 さっきなんか七対子直前で暗子無し、しかも鳴けなかった。優希ちゃんが変だったのはこういう感じだったのかな……、これって本当に麻雀なの?

 

 私は泣きそうになってた、それでも対局は続く。

 

 東一局一本場……。あれ? さっきは全く見えなかったし配牌も酷かったけど、今回は槓材があって配牌も結構良い。それに一瞬だったけど加槓すればあがれる嶺上牌が見えた!

 

 手は順調に伸びてる、これなら行ける!

 

 私は勝負を決める態勢に入っていた。部長は聴牌、原村さんと京ちゃんは一向聴かな。そして、遂にそのチャンスが!

 

「ポン」

 

 部長の捨て牌を副露(フーロ)、原村さんは安牌をツモ切り。京ちゃんが今ツモって手出しで安牌を切った……聴牌だ。

 

 でも私はツモれた、狙い牌を! ここで決める!

 

「カン!」

 

 来る! 嶺上開花が! あがりを確信して嶺上牌に手を伸ばす。

 

「咲、その嶺上牌は取れないぞ」

「え?」

「まさか! 嘘でしょ!?」

 

 部長? どう言うこと?

 

「ロン、槍槓、断么、平和。30符4翻7,700点の一本場は8,000点だ」

 

 ゾクリと背筋に悪寒が走った、私の嶺上開花が狙われた? あまりのショックに呆然とする。

 

「槍槓なんて役満より遥かに出づらいのに……」

「そうですね、私も初めて見ました」

「……」

 

 部長と原村さんの会話、それを京ちゃんは無言で聞いてた……。

 

咲 side out

 

 

久 side

 

 須賀君、とんでもない楔を打ち込んでくれたわね? これで咲は加槓に迷いが生じる。槍槓自体は偶然でしょうけど、何も言わないことでさらにプレッシャーをかけるなんて……。

 

 それとまた一つわかったことがある、須賀君の影響力には恐らくブレがあるのね。咲が嶺上開花を確信してたから間違いないわ、という事はまだ未完成なのかしら?

 

 ともかく東二局は私の親番、連荘させてもらいましょうか。

 

「さて、私の親番ね」

 

 態と声に出して咲の意識を麻雀に引き戻す、配牌はまあまあかしら。手なりに進めてたんだけどツモって来た牌に意味を感じた、やっぱりブレがあるのは確定ね。

 

 そして聴牌、カンチャンの悪待ちでリーチと行きましょう。他はまだ聴牌にはなっていないし、ツモれる確信があった。

 

「リーチ!」

 

 須賀君との対局、初のリーチよ。そして一巡後……。

 

「ツモ! リーチ、一発!」

 

 打ち上げた牌を卓に叩きつける。

 

「30符3翻は2,000オールね」

 

 須賀君が2,000点の僅差でトップ、あって無いようなものよ。

 

「一本場、勝負はこれからよ」

 

 私はそう宣言した。

 

久 side out

 

 

和 side

 

 部長の親は流局で終了、聴牌していた私と須賀君が1,500点を得て須賀君の親番になりました。ですが私は私の麻雀を打つだけです、強いて言えば宮永さんの様子が気になりますが……。

 先程は嶺上開花が不発、それから萎縮している様に見えますね。毎回槍槓なんてオカルトはありません、いつもの様に私を楽しませて下さい。

 

「東三局、俺の親番だな」

 

 須賀君の一言で始まったこの局、私の配牌は速攻でのあがりが狙える一向聴。一巡してツモった牌で暗子を含む断么を聴牌、迷う事なく……。

 

「リーチ」

 

 河には捨て牌一枚、それ以外に安牌はありません。

 

 部長は迷う事なく安牌ですか、須賀君は……ドラ表示牌の中。暗子だった訳ですか、これで三巡須賀君からはあがれませんね。宮永さんは完全に勘でしょう、とはいえ通ったのですから見事です。

 

 私のツモ、残念ながら一発は無い様ですね、河に安牌がもう一つ増えましたがいつまで凌げますか?

 

 そこからは先程の焼き回し。部長の対子落とし、須賀君の暗子落とし。宮永さんは先程私が捨てた牌を持っていた様ですね。

 

 そして……。

 

「ツモ、リーチ、断么。40符3翻は1,300/2,600点です」

 

 トップですね。誰かが満貫以上をあがるか、私が誰かに振らない限り負けはありません。さあ、オーラスですよ、宮永さん。貴女の麻雀を見せて下さい。

 

 私の意識は縮こまっている宮永さんに向いていました、かと言って他の面子を見ていない訳ではありませんが。

 

和 side out

 

 

京太郎 side

 

 第二戦のオーラスが始まった。配牌は三向聴、まあまあだが一切油断出来ない。

 だけど、部長じゃないが麻雀は勝ちを目指す物。守りながら少しでも高目を狙う、最低でも満貫が必要だ。

 

 淡々と進めながら、周りの観察は怠らない。とはいえ一向に動く気配が無い中、来たのはドラ。

 まだ誰も聴牌している気配は感じない、俺はそれを抱えこんだ。

 

 次順、ドラが重なる。三色、ドラ2 で一向聴まで来た。だけど続かない、そして残り牌は減る一方だ。

 

 強いて言えば誰も聴牌してないのが救いだろう。そんな時だ、和がドラを切ったのは。一瞬悩んだ俺だったが……。

 

「ポン」

 

 ここは勝負時。封印を解いて鳴き、聴牌しての単騎待ちでプレッシャーをかけてツモにかける!

 

 咲は安牌を切ったが、あがりを諦めていない。和はドラ3と俺の聴牌から安牌を手出し、安手でいいんだから聴牌を目指す。部長も死んではいない、安牌を手出しして和への直撃狙いのためにこちらも聴牌を目指してる。

 

 そして、ここから膠着状態が続いたがまず咲が完全に降りた。俺はまだツモって来れない。単騎待ちだから読み辛く出あがりを期待するけど、ここまで来れば安牌も多い。

 

 次いで降りたのは部長、引ききれず安牌の手出し。マズいな、まだツモって来れないし、出あがりは期待できない。

 

 そして、ついに和も降りた。残り配は極僅か、自力で引くしかない。そして……。

 

「流局か、聴牌」

 

 俺の宣言に返って来たのは三人からノーテンの声。

 

【東風戦二回目】

 和   +25

 久   - 5

 京太郎 ± 0

 咲   -20

 

「このメンバーで二位。出来過ぎですね、運が良かっただけか」

 

 最後の鳴きに後悔は無い、あそこで鳴いてなかったら誰かが聴牌してあがった筈だ。それでもあそこまで行ったら勝ちたかったな、俺はそう思っていた。

 

京太郎 side out

 

 

和 side

 

 私は須賀君の力量をこの東風戦二回で認めていました。

 

 何故なら須賀君はある意味パーフェクトゲームを成功させたからです。彼は結局一度も振らなかった、これは同じデジタル打ちとして見事というしかありません。

 

 優希や宮永さんが不調だったのは確かでしょう。ですが、それはツモに関してしか影響を与えない。なら、振らなかったのは須賀君の力量という事に変わりないのです。

 

「須賀君、とても楽しい麻雀でした。

 特に最後の鳴きは、あの局の優勢を決定付ける最高の鳴きだったと私は思います。

 

 もしもの話に意味は無いかもしれません。

 それでも須賀君がツモっていたなら間違いなくトップだったのは事実です。

 

 堅守しつつあがりを目指し、勝利への道を切り開くのが須賀君の麻雀なんですね。

 これからは一緒に切磋琢磨して行きましょう」

 

 私より強い雀士は沢山います、それでも須賀君の健闘と今日までの努力にどうしても言葉を贈りたいと思ったのです。同じデジタル打ちの一人、原村和個人として。

 

「俺はまだまだ未熟だから、振らない麻雀を目指した。

 

 自分で考えたのは、ただ鳴いて手牌を減らさないこと。

 安易にリーチして降りれなくなったり、手を変えてでもあがりを目指せなくなるのを防ぐこと。

 与える情報を極力制限したり、誤認させること。

 そのためにリーチと鳴きを封印して、門前で打つことを第一段階として鍛えてきた。

 

 本当ならこの二戦で鳴くつもりは無かった。

 けど、あの状況を打開して勝利するには鳴くしかないって思ったら鳴いてた。

 和が言う通りあそこで鳴いたからこその結果だと俺も思う。

 だから意味のない鳴きはしないが、本当に必要だと感じた時はもう鳴いてもいいって思ってる。

 

 けど、極力鳴かない今の打ち方は変えない。

 リーチも見極めが出来る様になるまで封印して振らない麻雀を続けるつもりだ」

 

 一人でそこまで考えて鍛えたからこその結果。私は須賀君の考えを応援したい、そう思いました。

 

和 side out

 

 

久 side

 

 確かに須賀君の力量とその努力は誰もが認めてる。けど、あの影響力は優希や咲、下手したら私の打ち筋を殺してしまう。それさえなければ手放しで喜べるのに……。

 

 私は決断を迫られていた、でも答えは既に出ている。ごめんね? 須賀君、本当にごめんなさい。

 

「須賀君、さっきの二戦で須賀君には相手の能力を制限する影響力があるってわかったのよ。

 まだブレがあるみたいだけどね」

「そんなオカルトありません!」

 

 和やまこには影響無かったからわからないことよね、これは。まあ、まこは咲の後ろから見てたから気づいてるんだけど。

 

「じゃあ、和。直接、優希と咲に聞いてみたら? ちなみに私は影響を受けたわ」

 

 私の言葉に和は優希と咲を見て絶句した。そりゃそうよね。優希は震えてるし、咲なんか泣いてるんだもの。

 

「宮永さん、どうして……」

「いつもなら見えるのに何も見えなくて……、あれって本当に麻雀なの?」

「ゆ、優希?」

「東場なのに何も出来なかったんだじょ……」

 

 辛いわよね、同じデジタル打ちで競えるかも知れない相手。それが大切な友達を、結果として傷つけたんだから。

 

「わかってくれたかしら、それで須賀君には申し訳ないんだけど……」

「何言ってるんですか? 俺は今日二戦お願いしただけです。

 もう打ちませんから問題無いですよね?」

 

 あ、あら? 随分あっさりしてるわね。

 

「須賀君!」

「ありがとう、和。でも、俺の事は気にしなくて大丈夫だから。

 

 さて、ちょっと遅くなったんで俺は片付けてから帰りますね。

 皆はいつも通り早く帰った方がいいですよ、暗くなると危ないですし」

 

 珍しく和が後ろ髪引かれる思いだったようだけど、優希と咲も心配で一緒に出ていく。そして、私はまこを連れ出して先に帰って貰った。

 

 部室に戻ると中から鍵が掛かってる。

 

「須賀君?」

「一人にしてくれませんか、今は誰とも話したくありませんし聞く気もありませんから」

「……わかったわ」

 

 ドア越しに聞こえてきた拒絶の言葉、今の私にはそれ以上何も出来なかった……。

 

久 side out

 

 

京太郎 side

 

 慣れって怖いもんだな、気づけば終わっていた後片付けを見てそう思った。

 

 それにしても卓につく能力者の力を制限する……か。それってただ全員同じ条件での実力勝負になるだけで、麻雀は本来そういうもんだろ? あったもんが無くなれば困惑するのはわかる、けど一緒に打てない理由にはならない筈だ。

 

 優希の南場と同じなんだから、東場で配牌も引きもいいのにあがれない相手の練習になる。実際、咲と和が一緒だと東場でもあがれない事が多いんだからな。

 染谷先輩は見た事がある対局のパターンが増えて強くなれる筈だ。

 和だって今は実力差があるけど、いずれ追いつけるかもしれない。そうなれば同じデジタル打ち同士、切磋琢磨できて悪いことじゃないよな。

 部長は悪待ち以外での実力を引き上げるいい機会だし、感覚で打つ咲の自力を上げるのにも役立つ筈なのに。

 

 ……ただ自分の能力が意味なくなるのを嫌がってるだけじゃないのか? 強いて言えば自信を失うのがマズいって所か。土台が俺は何もした覚えはない、ただ全力を尽くしただけだ。

 

 まあ、それももうどうでもいいさ。此処に俺の居場所は無いどころか打たせる気すら無いってハッキリしたし、月曜日からは受け入れてくれる人達の下で一緒に麻雀をするんだから。

 

 俺は退部届を白い封筒に入れ、ホワイトボードに張り付けると部室を出て施錠する。そして、もう二度と訪れることのない場所を振り返ることなく立ち去った。

 

京太郎 side out




未だ全容は掴めませんが、京太郎には能力を封じるなんらかがあるようです。
久が言う様にムラがあるようですが……。

2022/03/10 改訂


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五本場 開花

思った以上には反響がある様で投稿します、問題はストック切れが近いことですね。
読んでいただいてお分かりかと思いますが、咲で小説を書くのはかなり難しいのです。
特に私程度の実力ではどうしても時間がかかります。
加えて京太郎を説得力があるよう育てながらと言うのは結構な難題です。

好きな漫画ですし、読書の皆さんにも推しなどいると思いますのでキャラクターの扱いにもある程度の説得力を持たせるため非常に気を使いますので……。

ちなみに私は承認欲求が強いくせに豆腐メンタルという難儀な奴です。
これは一人言ですが赤いままで増えていけばいいなあと思っています、贅沢な話ですが……。


京太郎 side

 

 帰宅した俺は両親から鶴賀学園への転入手続きが無事終わったと告げられた。

 本来なら転入試験があるんだけど、清澄の入試問題と答案。それに加えて清澄での素行を確認した鶴賀側がOKを出して免除になったそうな。

 モモが言ってた定員割れを少しでも解消したいがための優遇措置臭いがありがたい。

 

 教科書は他に転校していった生徒の物が新品同様であるから譲ってくれるそうだ、買わなきゃいけないのは指定の制服と体育着だけ。

 

 とりあえずそんな話を聞いた後、両親に礼を言って今に至る。

 

 持っていくのは寮生活に必要な私服類と洗面用具にノートPC、後は寝具で十分だな。

 テレビとかエアコンなんかの一般家電は備え付けってどんだけ力入れてんだか。

 

 さて、モモに連絡するか。

 

「もしもし、須賀ですが」

『モモっすよ、どうなったっすか? 京さん』

「月曜から俺も鶴賀の一員だ、クラスは1-A」

『同じクラスっす!』

 

 随分喜んでる気がするな。ま、俺も知らない人間ばかりじゃないのはありがたい。

 

『ところで麻雀はどうだったっすか?』

「東風戦二回でトップと二位……、だったんだけどなぁ。

 なんか俺には相手の能力を制限する影響力があるらしい、何もした覚えはないんだけどさ。

 

 まあ、去年の全中チャンプのデジタル打ちからお墨付きを貰ったからな。

 それなりに腕は上がったってことでいいんじゃないか?」

 

 俺はモモにそう報告した、釈然としないものを感じながら……。

 

京太郎 side out

 

 

モモ side

 

 私は、京さんの話を聞いて、見えた理由を察したっす、その影響力の副産物だと。

 でも、それだとおかしいっすね? 手を繋いで見えてなかったのを確認した時は効果が無かったっす。

 

 何かの要因であの日以降に影響力が強くなったんすかね? 私の体質に近い物を感じるっす。

 

 でも、今聞くのは京さんの気持ちを考えるとちょっと……。

 なら元気を出して貰える様に話をするっす!

 

「とりあえず余計なことは全部忘れて強くなったことを誇るっすよ!

 こんな短期間で凄すぎるっす!」

『そうだな! これもモモと出会って色々アドバイスしてくれたお陰だ、ありがとな』

 

 それだけで強くはなれないっすよ? 京さん、でも気持ちは嬉しいっす!

 

「京さんの努力の結果っすよ、けど少しでも力になれたなら嬉しいっすね。

 皆も待ってるっす、早く一緒に打ちたいっすね!」

『そっか、俺の居場所があるんだな! 俺も同じ気持ちだ』

 

 そう言った京さんの声にはさっきまでの陰りは無かったっす、私はそのことに安堵した……。

 

モモ side out

 

 

京太郎 side

 

 土曜日、新しい寝具を買って荷造り・発送。

 その後は制服を頼みに鶴賀方面へ行ったり、寮で荷解きしたりと忙しく動いた。

 

 で、今はなんだかんだで夜、俺は黒塗りの高級車に乗ってる。そして、着いた先は……。

 

「着きましたわ! 衣が待ってますわよ!」

 

 声の主は龍門淵透華(りゅうもんぶちとうか)さん、つまり此処は彼女の実家だ。

 

 いやぁ、金持ちってすげーなーと棒読みになるレベルの豪邸。

 なんでこうなったかと言えば俺が無謀にも電話して頼んだからだ。

 

 実は去年の牌譜を女子団体戦情報収集のため見てたら、当然龍門淵高校は嫌でも目に入る。

 その牌譜の中で見つけた異常な打ち手が天江衣さんと井上純さん。

 特に天江さんは海底一巡前にリーチしたら必ず海底撈月(ハイテイラオユエ)であがる。

 カンしたら嶺上開花で必ずあがる咲と同じ位の異常さだ。

 

 部長、いや、もう退部したから竹井さんって呼ぶか……。

 その竹井さんに指摘されたことが本当か確信を得るため異常な打ち手を求めた結果だ。

 

「しかし貴方もついてませんわね、今日の衣と打つなんて」

「電話でお話しましたが私の影響力が本当ならいつでも一緒では?」

「まあ、そうですわね。ですが此方もお話したように壊されても責任は持てませんわ」

「重々承知しています。

 とはいえ、自慢にもなりませんが私ほど負け慣れている打ち手はそうそういないと思います」

 

 そう話しながら豪邸を進んで行った、そうですかと言った龍門淵さんの後に続いて……。

 

京太郎 side out

 

 

透華 side

 

 この方、須賀京太郎さんといいましたか。

 彼のいう影響力が本当なら衣は閉じ籠った殻から出ることが出来る。

 

 わたくし達がどれだけ時間をかけても衣は未だ孤独のまま。

 正直なところ自分自身の力不足をこれほど嘆いたことはありませんわ。

 

 ですから賭けたのです、その影響力とやらに。

 

「衣と打ちたいなどと言う奇特な輩は(なんじ)か。

 金剛不壊(こんごうふえ)でなければ(にえ)供御(くぎょ)となるは必定、覚悟はできているな?」

「衣が自分から来るなんて珍しいですわね」

 

 何か感じるものがあったのかしら?

 

「貴女が天江衣さんですか?」

「如何にも、衣は衣だ」

 

 まあ、普通の反応ですわね。

 

「そうですか、初めまして。私は須賀京太郎と申します、今日は是非一緒に麻雀を楽しみましょう」

「衣と麻雀を楽しむ?」

「ええ、そのために来たのですから」

 

 この男、今まで出会ったことのないタイプですわ。

 今の衣を前にして、よくそんなことを! やばげ、やばげですわ!

 

「さあ始めましょうか! 最高の麻雀を!」

 

 そう言った彼、須賀京太郎さんは笑っていましたわ。本当に楽しみだと言う様に。

 

透華 side out

 

 

衣 side

 

 この男、衣と麻雀を楽しむと言ったか?

 今宵は満月、所詮は有象無象の戯言……いつまで続くか見てやろう。

 

「トーカ、ジュン」

「俺か!?」

「当然ですわね」

「では、東風戦でお願いします」

 

 ふん、即刻終了、衣の親で飛ばす!

 

 起家は衣。トーカ、ジュン、そして、キョータローとか言ったな。

 

 賽を回して配牌、理牌……。なんだ、これは? とはいえ他は海に沈むのみ!

 そう衣は思っていたのだ、この時は。

 

衣 side out

 

 

純 side

 

 おかしい、今日は満月で夜だぞ? なんで手が進む?

 しかも、あの衣からプレッシャーを感じないだと!?

 

 透華から聞いたアイツの影響力ってのは本物か?

 特に影響も無く淡々と進む場は衣を知ってる俺からすればかえって不気味だ。

 

 そして俺は気づくのに遅れたことすらわかっていなかった。

 

 アイツ! いつの間に張った!? っく、河から待ちが読みきれねぇ。

 とりあえず安牌でここを凌いで次順に流れを……流れを? 流れが感じられないだと!?

 とにかく安牌だ!

 

 衣も透華も張ってないなんてありえんのか!? 一巡がこんなにも長く感じたことはねぇぞ……。

 

「ツモ、断么、平和、一盃口、ドラ2。跳満は3,000/6,000点です」 

 

 くそ、やられた! いつもの俺なら須賀に一杯口はつかねぇ。

 鳴きを入れてるんだから、ここでツモることも無かった。

 衣の支配も効いてねぇ、俺は流れが見えない。

 

 アイツ以外全員が驚愕した、この影響力の恐ろしさに。

 

純 side out

 

 

透華 side

 

 衣の支配が……しかも満月の夜、最高の状態で破られるなんて……。

 

 それも須賀さん一人じゃなく恐らく全員、本当に場の能力者全てへの影響力。

 純が鳴けなかった所を見れば、流れも見えていなかったと言うことですわ。

 

 ですが私には関係ありませんわね、デジタル打ちで巻き返すのみですわ!

 

「わたくしの親番ですわ!」

 

 彼が理牌しないのは先程わかりました、あたり牌は河から読むしかありませんわね。

 配牌は良形、先ずは連荘を目指しましてよ! とはいえなかなか手が進みませんわ。

 

生猪口才(なまちょこざい)な、衣の支配を逃れたとて勝てると思うか? ポン!」

 

 東をポン!? 回る、衣まで回っていく。

 

「ツモ! 対々和、三暗刻、東、赤ドラ! 跳満は3,000/6,000!」 

 

 流石は衣ですわね、でも負けませんわ!

 

透華 side out

 

 

京太郎 side

 

 天江さんが海底ではあがれてない。

 海底であがるにはそこまで行く必要がある、逆に言えば、海底まで行けなくなったという事。

 

 だが流石最多得点王の名は伊達じゃない、ツモあがりは折り込み済だし腕が違う。

 けど、俺は振らない。

 

 それに楽しいだろ、天江さん?俺は楽しいぜ?

 

「俺の親番か」

 

 この人が井上純さん、あのよくわからない鳴きで他家(ターチャ)を悉く安目にしてた打ち手。

 けど俺があがった時に鳴きは無かったから、あがり目は一杯口になって高めだった。

 

 清澄での二戦、ここでの二局で竹井さんの言う通り影響力があるのは証明された訳だが……。

 それはそれで俺にとってはいいことか、純粋な麻雀を楽しめるんだからな。

 

 配牌は……ははっ、マジかよ! 俺は優希じゃねぇぞ?

 ここは行く所だろ? 俺はツモ切りで……。

 

「リーチ」

「何!?」

 

 俺の方が驚いてるさ。

 けど、この安牌がたった三枚しかない現状なら解禁するしかないだろ? リーチを……。

 さあ、もっと楽しもうぜ! 天江さん!

 

京太郎 side out

 

 

衣 side

 

 っく、何故だ? いつもなら見えるあたり牌も海底牌も見えん。

 

 だが、ツキはある! 安牌が手牌にある今は! 衣が運に期待するなど初めての事。

 しかし、この気持ちはなんだ?

 いつもは結果など見えている、それが今や一寸先は闇。衣は楽しんでいるのか? この麻雀を……。

 

「天江さん、楽しいでしょう? 自分の力で打つ麻雀は」

「己が力量のみでの闘牌、それが汝の言う麻雀なのか?」

「私だけではありません、能力の無い雀士は皆いつもこんな闘いをしてるんです」

 

 衣は問う。

 

「トーカ、ハジメ、トモキ、そうなのか?」

「そうですわね」

「ぼくも透華と同じかな」

「……同じ」

 

 ……そうなのか。

 

「俺は!?」

「貴女は運の流れを変える能力者ですわ」

「透華だって、ほら冷たい透華? がいるだろ!?」

「あれはわたくしの意思ではありません! それにあんな麻雀、わたくしは認めませんわ!」

 

 笑いが込み上げてくる。

 

「くくくっ、あっははははっ! 気に入ったぞ? キョータロー。

 衣のことは衣と呼ぶがいい、存分に楽しもうぞ!」

 

 そう告げ安牌を打つ、そして一巡後。

 

「ロン。リーチ、混一色、發、赤1、ドラ1。跳満は12,000点です」

 

安牌の無い中から衣の意思で選んだ牌は久方ぶりの振り込み。

悔しい……しかし楽しくもある、これが本当の麻雀。

 

「見事、だが次は衣があがる!」

「負けませんよ」

「わたくしもですわ!」

「てか次オーラスだし、あがれなかったら透華と俺は焼き鳥」

 

皆が騒ぐ中、キョータローは楽しそう告げた。

 

「オーラスは私の親ですね! 勝負です、皆さん!」

 

 そしてオーラスが始まった。負けぬ、絶対に。衣は初めての感情と共に気炎をあげた。

 

衣 side out

 

 

京太郎 side

 

 正直な話、地力でこのメンバーにはまず勝てない。

 あがった二回、全員が制限された能力に動揺していた。

 

 しかし呼べって言われても先輩だから、“衣さん”でいくか。

 恐らく衣さんからの出上がりは素で打った事が殆ど無かったからだろう。

 その上で安牌が無ければ、読み切れるほど河に捨て牌は無かったからな。

 

 だが、この局は違う。勝負と焼き鳥(笑)がかかっているから誰一人として油断も慢心も無い。

 

 けど、俺のやる事はただ一つ。

 振らない麻雀を打ち、期待出来ない出上がりじゃなくツモを目指す、それだけだ。

 

 配牌はまあまあな良形、高く仕上げる必要は無いな。

 他も観察しているが悪くはなさそうだし。

 

 聴牌気配に注意しつつ、局は淡々と進み中盤へ。張った……、周りも察した様に感じる。

 

 だが直後のツモで衣さんが張ったのを感じた。逆転を狙っている以上、デカイのは予想が付く。

 

「勝負だ、キョータロー!」

 

 良い笑顔が出来るじゃないか! 手出しの牌が不要牌で安牌、強いな全く。

 

「ええ、勝負です!」

 

 それでも俺は俺の麻雀を打つ。

 龍門淵さんが、井上さんが安牌を捨てながら冷や汗をかいている、やっぱり相当でかそうだ。

 

 俺のツモ、安牌を捨てて役が増えた。

 

 衣さんがツモって……。

 

「キョータロー、良い勝負であった! しかし今宵は衣の勝ちだ。

 

 ツモ! 混一色、平和、二盃口、赤1、ドラ2! 三倍満、6,000/12,000だ!」

 

 此処でツモれるのか、それでこそ最多得点王。

 

「や、焼き鳥…」×2

 

 そういえばそうだった、龍門淵さんは椅子にもたれて、井上さんは卓に突っ伏してる。

 特に龍門淵さんはショックがでかそうで、口から魂が出てる様に見えるほど。

 まったくどこに行っても俺はフォロー役か?

 

「東風戦ですから起きますよ、これが半荘なら無かったんじゃないかと」

 

 そう言うと、ガバッと起き上がる二人。

 

「そ、そうですわね!」

 

「ああ、そうだなぁ」

 

 あ、井上さんは察したのか、そこまではフォロー出来ないから自分でなんとかしてくれ。

 

【東風戦一回戦】

 衣   +27

 透華  -17

 純   -14

 京太郎 + 4

 

 まあ、出来過ぎだろうが結論は出た。

 俺の意思に関係なく同卓した能力者はそれを発揮できなくなる……、まるでモモの体質みたいだな。

 

 さて、それはそれとしてだ。

 

「衣さん、麻雀楽しかったですか?」

「楽しかったぞ! キョータロー、それでな? その……」

 

 なんだ?

 

「キョータロー、衣の友達になってはくれぬか?」

「喜んで」

「ホントか!? 二言は無いな!?」

「ありませんよ。ああ、二言は無いんですけど一つお願いが」

 

 そうなんだよ、これが辛い。

 

「願いとは?」

「普通に話してもいいですか? この畏まった口調はすごく疲れるんです」

「そんなことか! 好きにするがいい、衣は気にしない」

 

 マジか、良かった〜。

 

「あ〜息苦しかった! ありがとう、衣さん」

 

 俺の一言に全員の笑い声が響いたのは言うまでもない。

 

京太郎 side out




京太郎が影響力を持つことは証明されました、しかし何故発現したのか……。
どの様な影響力かは判明しましたが今の所そこまで、今後詳細が明らかになって行くでしょう。

ちなみにこの作品の京太郎は麻雀に対して非常にクレバーな努力家です。
また原作でもありましたがハギヨシからタコスの作り方を習った様に行動力もあります。
勿論、ハンドボール部時代に培った経験から正しい努力の仕方を知っている。
……これで育たない方がオカシイというキャラ付けがなされているとご理解下さい。


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六本場 友と仲間、影響力の真価

京太郎 side

 

 俺と衣さんが友達になれたのは影響力のお陰なんだろうな。

 ふと思い出したのは衣さんと同卓してた人の牌譜……、全員が一向聴地獄だった。

 何一つ出来ない面々と卓を蹂躙する衣さんでは友達になれなかったし、結果の見えてる麻雀が楽しい訳も無い。

 

「トーカ! 衣に初めて友達が出来たぞ!」

 

 ああ、やっぱり。そう思った時、井上さんが衣さんに抱きついて言った。

 

「なんだよ、衣。俺達だって友達だろ〜?」

「お前達はトーカが集めた衣の……」

「きっかけは関係ない……」

「始まりはそうだった、でも今のボクは衣もみんなも友達で家族だって思ってる。ダメかな?」

 

 なるほどな、そういう集まりだったのか。

 

「ダメじゃないっ! じゃあ、トーカも友達で家族?」

「勿論! 当たり前ですわ!」

 

 目の前で繰り広げられる光景、今の俺には眩しすぎるよ。

 俺は一人抜け出し、離れたソファーに保たれて黄昏てた。

 

 不意に陰が差して見上げれば……。

 

「龍門渕さん?」

「違いますわ! 衣の友達ならわたくし達の友達という事。

 なら、そんな他人行儀ではなく透華と呼んで下さいまし!」

「勿論、俺達のこともな」

 

井上さ……、いや純さんか。その声と同時に小さな影が飛び付くのを受け止める。

 

「衣さん?」

「トーカ! キョータローも一緒がいい!」

 

ちょっ、話についてけないんですけど!?

 

「いい考えですわ! 貴方、龍門渕に来ませんこと? 歓迎しますわよ!」

 

「ありがたい申し出だけど、出会うのが少し遅かった。

 俺は月曜からある学校の麻雀部員だからな、待ってる友達も歓迎してくれてる人もいるんだ。

 

 それに龍門渕へ行っても五人が卒業したら俺一人になる」

 

「土日だけ無所属という訳でしたのね、規約の隙を突くなんて大胆な。

 逃した魚は大きかったですわ」

 

 そう言いながら爪を噛む透華さん。

 

「折角誘ってくれたのにごめんな、衣さん。

 でも友達なのは変わりないんだ、連絡先を交換しようか! 良かったら皆も」

 

 涙目の衣さんを思わず撫でながら俺はそう言った、年上なのに幼い先輩を想って。

 

京太郎 side out

 

 

衣 side

 

 折角友達になれたのに一緒にいられないのは悲しい。

 だが、キョータローにはキョータローの道がある、待ってる友がいるなら余計に。

 ならば、キョータローの本質を伝えて力になろう。それが今、衣に出来ることだ。

 

「キョータロー。

 先程の影響だが能力者の力とそれに由来する副産物全てを喪失する強力な物だ。

 衣は普段他家が上がった場合の危険度と海底牌が見え、他家は一向聴地獄に陥る。

 しかし、その牌すら見えなかったのだ。

 

 聴牌気配は感じられたが、これは衣自身の経験や勘から来た物。

 

 能力者にとってキョータローは天敵だな、あとは更に腕を上げよ」

「初心者から一週間、必死に自力で鍛えた程度だから、そこは理解してる。

 県大会は6月中旬、まずはそれまでに地力を引き上げるよ」

 

「なんですって! 貴方、部に所属していたのでしょう? 何故そんなことに。

 いえ、そもそもアレで一週間の腕前なんて信じられませんわ……」

 

 キョータローの力は能力とは違う、能力者特有の気配が全く感じられないのだ。

 表現するなら確かに影響力、緩急自在に出来るものでもない。

 衣が察したのは感知能力の高さ故に感じた微かな違和感のみだ。

 

「ところでその影響力はいつからなのだ?」

「入部した時には無かった……と思う、ぼろぼろにやられてたからなあ。

 指摘されたのは昨日、能力者3人と打った時でブレがあるって言われたよ」

「そして、今日か。ブレなど皆無、完全に機能していた」

 

 能力を喪失……。

 

「キョータロー、過去から遡って何か喪失してはいないか」

 

 これは衣の勘だ。だが、それが原因だと衣は確信していた。

 

衣 side out

 

 

京太郎 side

 

 喪失? 心当たりが無い訳じゃないが……。

 

「俺は中学の時、ハンドボールの県大会決勝で肩を壊したんだ。

 リハビリの結果、普通の生活は出来ても投擲できなくなったから引退した。

 そしてつい最近、人助けで無理をして肩から上に腕が上がらなくなり重い物も持てなくなった。

 高校に入ってからは部活での居場所を早々に失ってる。

 ついでに昨日転校前、二戦だけ頼み込んで打った後で一緒に打つ事も禁じられた。

 思い当たるのはそんなところだ、それと転校することもどこに行くかも教員しか知らない」

「それが原因だな、喪失に次ぐ喪失を繰り返して徐々に強化された。

 止めは昨日の出来事故に今日はブレすら消えて完成を見たのだろう。

 

 持つ者から一時的に持たざる者へ変える影響力。

 加えて恐らくだが……、誰かに触れればその者は能力者からの影響を受けない可能性が高い」

 

 心当たりは……ある。モモが見えたのは影響力の所為で、その時はそこまでの力だった。

 じゃないとモモと二人とも消えた理由が立たない。

 

 なら今モモと手を繋いで俺の影響力が上回っていれば……、モモは皆に見えるかも知れない!

 

「トーカ、ハジメ、トモキ。試すのに付き合って欲しい」

 

 そう言って始まった東風戦。

 衣さんの能力が猛威を奮ったが、二人づつに触れて対局した結果は衣さんの言う通り。

 触れていた二人は自分の麻雀を普通に打てる。

 そして、触れていない一人だけが衣さんの影響を受けるのを確認。

 流石にこれには全員が大いに驚くこととなった。

 

「ところでキョータロー。

 転入する学校の麻雀部が女子団体戦に出るなら遠慮なく衣達の情報を伝えるがいい」

「衣さん、俺にだって通すべき筋がある」

 

 いくらなんでも協力してくれたうえで友人になった人に対しての不義理、裏切り行為なんて俺には出来ない。

 

「それをわかったうえで言っている、倒すべき敵は強い方が衣も麻雀を楽しめるからな。

 

 キョータローとの麻雀は勿論楽しい。

 だが、それとは別に能力すら競っての麻雀も楽しみたいのだ。

 

 それにだ。

 キョータローのお陰で衣は麻雀を真剣に打つ楽しみを知り、相手を侮辱する打ち方を反省した。

 自身の感覚頼りの麻雀を打たされていたことにも気づけた。

 これからの衣はより一層強くなるぞ、だから安心して欲しい」

 

 そこまでの覚悟と自信があるのか。

 そして、衣さんの語り口から言えば遊び癖があってもあの強さだったと。

 

「……わかった、衣さんのライバルが生まれるよう俺に出来ることは全てやる。

 ただし、転入する学校内にそこまでの強者がいるかは保証出来ないけどな」

「それで十分だ、県大会決勝であい(まみ)えよう」

 

 決勝戦は確定なのか。いや、去年の全国出場校だからこその自信。

 そして今日の成長による確信なんだろう。

 

 その後、俺は惜しまれつつ送りだされ、来た時と同様黒塗りの高級車で実家へ帰宅した。

 さて、まずはモモに連絡するか。

 

「もしもし、モモか」

『京さん、こんばんわっす! どうしたんすか? こんな時間にって言う程でもないっすけど』

 

 21時30分、まあ言う通りかな。

 

「実は龍門渕高校の麻雀部、天江衣さん、龍門淵透華さん、井上純さんと打ってきた」

『……』

 

 ん?

 

『どういうことっすかー!?』

 

 うおっ、耳がぁー!?

 

「お、落ち着け! 今話すから、な?」

『当然っす! 何とんでもないことやってんすか!?』

 

 そこから経緯と結果をわかりやすく説明。勿論、規約に引っかからないことも合わせてな。

 

『とりあえずわかったっす。

 あと京さんが私を見える理由と、もしかしたら誰にでも私が見える方法も。

 それで今後はどうするっすか?』

「モモ、明日10時30分頃から何か予定入ってるか?」

『明日は暇してるっすよ?』

 

 丁度良かった、街を案内して貰いながら制服を取りに行こう……という口実で誘ってみるか。

 

「明日、制服とか体育着を受け取りに行くんだけどさ。

 良かったら、その時に街を案内してくれないか?」

『……二人きりっすか?』

 

 あー、流石に二回目で図々しかったかぁ。

 

「そう思ってたんだけど悪い、ちょっと図々しかったな」

『待つっす! そんな遠慮は無用、行くっすよ!』

 

 食いつき、はや! でもモモがいいなら俺も嬉しい。

 

「じゃあ、10時30分に駅前で待ち合わせだ。

 先に街を案内して貰ってから、制服を取りに行くってことで」

『わかったっす。じゃ、楽しみにしてるっすね〜♪ おやすみっす!』

「おやすみ、モモ」

 

 なんかやたら機嫌良くなったな、少しは脈あるのか? それはそれとしてっと……。

 

「まだ寝るには早いな……。

 そうだ、折角だからネット麻雀を新しいアカウントで始めて放銃率0%を目指すか!」

 

 俺の麻雀は始まったばかりなんだ。

 目標を高く設定した方が集中力の増す俺はそう決めると早速新規アカウントを作成。

 名前はフラン(振らん)にしよう。

 

 そういえば、そのうち俺を少しは認めてくれた和とネットで打つ事もあるんだろうか。

 けど結局最後は咲と優希を選んだんだ、もう清澄の事は忘れよう……。

 

「さあ、始めるか!」

 

 気分を一新して始めたネット麻雀、結局この日は一度も振らなかった。

 麻雀だけに集中してる時の俺に雑念は一切なかったんだから。

 

京太郎 side out

 

 

透華 side

 

 京太郎を入部させながら居場所を奪い、打つ事すら禁じた。

 

 自力であそこまでの打ち手になるのがどれほど難しいか、わたくし自身の経験からある程度想像できますわ! しかも一週間であれならばなんて恐ろしい成長速度。

 努力か才能かなど既に関係ありませんわ、仮に適切な指導があったなら今以上の相当な打ち手になっていた筈なのですから。どちらにしても……。

 

「許せませんわ」

「トーカ、事前調査でキョータローは清澄だったな? どういう状況だったか調べるぞ。

 友達を侮辱する有象無象にかける情け無し」

 

 衣にとって初めての友達、その怒りは今日という日もあって並ではありませんわね。

 当然、恩人であり友人となったわたくしもですが。

 

「勿論ですわ、特に清澄には原村和もいますし今の代では初出場。

 他にどんな打ち手がいるかわかったものではありません。

 

 普段であれば気にも留めませんが今回だけは別、タダで済むと思わないことですわ。

 京太郎を追い出した愚かさ、一生悔いるほど徹底的に……」

「「叩き潰す!」」

 

 衣と二人、笑みを浮かべる。

 

「ありゃヤバいぞ」

「でも、同感でしょ?」

「……同じく」

「まあな、あいつはいい奴だ。タダで済ますつもりはないぜ」

 

 あら、流石は自慢の家族ですわね? わたくしは聞こえてきた話し声に納得していました。なら早速。

 

「ハギヨシ!」

「速やかに調査を開始します、透華様。では、失礼します」

 

 名を呼べば、どこからともなく現れたハギヨシが即座に意図を察して行動を開始した事にわたくしは満足したのでした。

 

透華 side out

 

 

モモ side

 

 今日は日曜日、京さんとの約束で一緒に買い物っす。

 と言っても制服や体育着を取りに行くだけなんすけど、街を案内するし一応デートっすよね!

 

「遅れるのは失礼っすからね」

 

 待ち合わせ場所へ早めに来た私はそう呟く、聞こえる人は京さんしかいないから。

 

「おはよう、モモ」

 

 肩に軽く手を置かれてから、かかった声に思わず問いかけた。

 

「いつからいたっすか?」

「モモの声が聞こえた位かな」

 

 迂闊だったっすー! 浮かれて見落としたっすか!?

 でも問題無いっす! 同時、同時はセーフっすよね!?

 

 そんな私を京さんは特に気にすることなく言った。

 

「さて、モモ。まだ10時だし、喫茶店かどこかで少し時間を潰そうか」

 

 確かに、ほとんどのお店は10時30分開店が多いっすね。

 

「それじゃあ、私のとっておきに案内するっす!」

 

 隠れ家的なお店で私的にも人目を遮った席があるから安心して行ける数少ない場所。

 そう思って歩き出そうとしたんすけど……。

 

「モモ、俺がさっきから肩に手を置いてる理由、わかってないな?」

 

 そう言った後、小声で囁いた。

 

「急に可愛い子がどこからともなく現れたから見られてる(・・・・・)ぞ」

 

 その言葉に赤くなりながら周りを見れば、慌てて目を逸らす人達が見えた……。

 

モモ side out

 

 

京太郎 side

 

 モモは律儀そうだし、俺が頼んでおきながらモモより後に着くのは失礼だと余裕を持って来て正解だった。

 実の所、モモが来る更に前から駅前を見渡せる場所で待ってた訳だ。

 

 こう言ったら咲に怒られそうだが、モモと同じ様に誘っても友人だからと特に思う事は無かった。

 強いて言えば迷子の心配くらいなものだ。

 

 和は確かに好みだったけど高嶺の花、想像が関の山で付き合えるなんて思ってもいなかった。

 結局最後の二局以外、俺なんて眼中になくて何故か咲ばかり見てたし無理な話さ。

 

 けどモモは違う、初めて見た時から気になって。

 お互いの話を聞いて、今の俺を作る気力と居場所をくれた。

 

 今となっては、これまで出会った誰とも比べられない魅力的な女の子。

 用事を口実にして誘うのですら俺の人生で一番勇気が必要だった。

 

 今までの事を思えばモモには幸せになって欲しいと心から思う。

 例え、その隣に俺が立てなかったとしても。

 

 まだ諦めた訳じゃないぜ? けど、彼女いない歴=年齢な俺には自信が無くてさ。

 とはいえだ、何も行動すらしないで諦めるのは違うだろ? だからさ……。

 

「それじゃあ、モモのとっておきに行こうぜ!」

 

 俺はモモの手を取るとそう言った。

 

 勇気を出した新しい須賀京太郎の第一歩、それはモモと一緒に楽しむことから始めよう。

 今日、ここから始まる鶴賀での生活が実りある物になるよう願って。

 

京太郎 side out




甘〜い!w いや、書いたのは私なんですけどね?

それはともかく龍門淵高校の麻雀部全員と交友関係を構築した京太郎。
そして物騒な発言連発の彼女達。これ、結構大事ですね……。


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七本場 反応

日間5位とか普通に驚きました。
皆さんの応援のお陰です、ありがとうございます。

第八局から書いては投稿という形になりますので、お時間いただきたいと思います。
クオリティを少しでも上げて説得力を持たせるには何度も繰り返し添削が必要なので。

ちなみにモモ可愛いとのお言葉をかなりいただいています。
ユミちんはモモを孤独から救い気配を察知できて原作の様になるなら、見えてそれ以上の京太郎とは……ねえ?(笑
個人的にモモの体質は不遇だと思っているので、少しでも可愛いく幸せそうに表現できていたなら嬉しいです。
部屋で転がりながら悶えてるの想像したら萌えませんか?w


咲 side

 

 今朝はいつもの待ち合わせ時間に京ちゃんが来なかった。

 京ちゃんは優しいから、あんな態度を取った私に気を使って……。

 

 休日で冷静さを取り戻した私はそう考えて。

 本当は来るまで待って謝りたかったんだけど遅刻しちゃうから仕方なく登校した。

 一人での登校は京ちゃんと友達になった三年前から殆ど記憶に無い、それ位いつも一緒だった。

 

 教室に着いて、先生が来ても京ちゃんの席は空いたまま。

 私は風邪でも引いたのかな?なんて心配してた。

 

「HRを始める前に残念な知らせがある」

 

 残念な知らせ?

 

「須賀がご家庭の事情により転校した、急な話で挨拶出来ない事を残念がってたが察してやれ。

 理由も転校先の詮索も禁止だ、いいな?」

 

 京ちゃんが転校!? 私は想像もしてなかった現実に動揺を隠せなかった。

 

 家庭の事情、そう言われても最近お邪魔した時は……。

 そこまで考えた時、京ちゃんの家に行ったのって麻雀部に入る前が最後だって気づいた。

 一緒に帰るのも最近はずっと原村さん……。

 

 私は京ちゃんの今をあまりにも知らない。

 あんなにサポートしてくれて、いつも助けてくれていた京ちゃんの事を……。

 

咲 side out

 

 

和 side

 

 部長は須賀君にああ言いましたが……。

 そもそも同じ一年の部員でありながら待遇に差があっていいわけがありません。

 今まで私は、私達は須賀君に甘えていたのです。

 

 ですから部長を説得して一緒に打つ事、準備や後片付けを分担する事。

 そう休日に決めた私は放課後の部室に向かいました。

 

 須賀君はいつも一番に来て準備し、最後に片付けてから帰るのがわかっています。

 ですから急いで部室に向かったのですが鍵が閉まっていました。

 

「何か用事でしょうか?」

 

 そう一人呟き、鍵を取りに戻ろうとして……。

 

「原村さん。京ちゃん、転校したんだって」

「宮永さん? 須賀君が転校、ですか?」

 

 聞こえて来たのは不意に現れた宮永さんの言葉。

 けれど私の問い掛けには何も言わず、鍵を開けると準備を始めました。

 

 雀卓の準備を黙々とする宮永さん。

 私は須賀君がいつもしてくれた様に飲み物の準備を始めました。

 

 少しして優希が珍しくおどおどしながら現れて一言。

 

「なんで、のどちゃんが飲み物の準備してるんだじょ? 京太郎は?」

「いない人に準備は出来ないよ、優希ちゃん。だって突然転校したんだから。

 理由もどこに行ったかも家庭の事情だから詮索禁止だって先生が」

「え?」

 

 優希も、勿論私もですが須賀君が突然転校したこと以外何もわかりませんでした。

 

 ただ淡々と感情の乗らない声で聞こえてくる宮永さんの言葉。

 それが宮永さんの喪失感から来るものだと何度も転校を繰り返した私にはわかったのでした。

 

和 side out

 

 

優希 side

 

 京太郎が転校した、わかったのはそれだけ。

 

 本当は今日謝って、部長にお願いして一緒に打つつもりだったんだじょ。

 だって南場ならいつもあんな感じだし、東場でも咲ちゃんやのどちゃん相手だと上がれない事が結構多いって思い出したから。

 

 私は休日、自分のメンタルが弱い事に気付いて。

 それを克服しようとして、京太郎に協力をお願いするって決めた。

 

 でも京太郎はもういない。

 そう思いながら部室を見回すとホワイトボードに張ってある封筒が目に入った。

 

「封筒が張ってあるじょ」

 

 そう言いながら封筒を手に取ってみる。表には“清澄高校麻雀部の皆さんへ”、裏には……。

 

「京太郎からだじょ!」

 

 私の声に二人が振り向くのと、部長と染谷先輩が入ってきたのはほとんど同時だった。

 

「何かあったんか?」

「須賀君がどうかしたの?」

 

 似たような言葉が聞こえてくる。

 

「京ちゃんが転校しました、麻雀部の誰にも理由すら知らせずに」

 

 咲ちゃん……。

 

「家庭の事情だから転校先も理由の詮索も禁止らしいじょ。

 でもホワイトボードに京太郎からの封筒が張ってあったんだじぇ」

 

 私はそう付け足して部長達に説明する、そして部長に封筒を手渡した。

 

優希 side out

 

 

久 side

 

 須賀君が転校した? 家庭の事情で?

 

 私は驚きも限度を超えるとかえって冷静になると知った。

 その結果、さっきの説明に違和感を覚える。

 

 理由は言えなくても転校することは伝えられる筈。

 それをあの須賀君がしなかったとしたら、伝える気がなかった(・・・・・・・・・)という事。

 

 それともう一つ、ここで二度と打たないって言うのはこう言う事ね。

 それは転校するからか、それとも……。

 

「本当に家庭の事情なのかしら……。

 

 いえ、それよりも大切なことが。

 須賀君の献身に恩返しが出来なくなってしまった事、本当に心苦しいわ……」

「家庭の事情じゃなかったら私達が追い出したんです!

 個人的な理由に京ちゃんを巻き込んで! だってクラスでは何も問題なかった!」

 

 しまった!

 最初の余計な一言が一番身近だった咲の燻っていた感情に火をつけて全員へと叩きつけられる。

 部室は静まりかえって誰も話し出せない空気が広がっていた。

 

「今日は解散じゃ」

 

 え?

 

「こんなんじゃ練習する気にもならんじゃろ、わしと部長で片付けるから三人は早う帰り」

 

 まこがそう言うと咲は鞄を持って無言で出て行く。

 

「宮永さん!」

「咲ちゃん! 待って!」

 

 そして、そんな咲を心配した二人が追いかけて行った。

 

久 side out

 

 

まこ side

 

 全く世話の焼けるやつじゃの、久は。私は二人きりになったところで話しかけた。

 

「久は、たまに余計な事をいう癖がなおっちょらんの。

 憶測で物を言わんとも封筒があったじゃろうに」

 

 わしの指摘に封筒を見ながら、そうねと一言。そして開けた封筒から出て来たのは退部届だった。

 

「一身上の都合により退部します、か」

 

 わしも久が予想した通り家庭の事情じゃないと思っとった、だから驚きは少ない。

 

「他に何か入っとるんじゃろ?」

 

 態々退部届だけを封筒に入れる必要はなか、同封する物が無い限りはの。

 

「一人一人に手紙があるわ」

 

 そう言うとわしの分を手渡された。

 

“染谷まこ様へ

 

 入部した当初、とても楽しい日々でした。

 あの日々が続けば、私が転校することはなかったでしょう。

 

 頂いたアドバイスの数々、遅くなりましたが私の力となり心から感謝しております。

 

 他校へ転校する私は、そこで麻雀部の一部員として。

 一人の雀士として研鑽を重ね大会に出場します。

 

 ですので清澄を応援することは出来ませんが健闘をお祈りいたします。

 

 元清澄高校麻雀部 サポート係 須賀京太郎より”

 

 手紙の内容に不満はなか、転校理由は恐らく麻雀を打たせなかったことかの。

 確かに入部当初、京太郎は楽しそうに打っとった。これはわしらに非があるの。問題は……。

 

「サポート係ってのはなんじゃ?」

「それは私のせいね……」

 

 そう言った久は酷くショックを受けたようじゃの。

 

「何が書いてあるか見ても大丈夫か?」

 

 そう聞いたわしに久は頷いた。

 

まこ side out

 

 

久 side

 

 私は何もわかってなかった、須賀君がどう思って日々を過ごしていたのか何一つ。

 

「自分の馬鹿さ加減に嫌気がさしたわ」

 

 そう言って、まこに手渡す。

 

“竹井久様へ

 

 今年最初に入部したのは私だったのを覚えておいででしょうか?

 入部した当初のとても楽しい日々。

 あの日々が続けば、私が転校することはなかったでしょう。

 

 初心者の私は女子経験者五人が揃った時点で居場所を失いかけました。

 そんな時、部長にサポート係を任せて頂いたお陰で、部に居場所ができたことを感謝しております。

 

 ですが私は麻雀を楽しむために、強くなるために入部したのです。

 

 ですから今週四日間。

 私は意欲を見せ、声をかけて頂けるのを待ちましたが残念ながら何もありませんでした。

 

 その結果、木曜日の放課後。

 私は転校手続きを行う事に決め、金曜日には既に秒読み段階まで進んでいたのです。

 

 他校へ転校する私は、そこで麻雀部の一部員として。

 一人の雀士として研鑽を重ね大会に出場します。

 

 転校先は事前調査で指導の確約と、環境が整っている事を確認済。

 また楽しく麻雀を打ち強くなる、それだけが私の望みです。

 

 ですが私は部長を責めている訳ではありません。

 二年待った団体戦、最後の機会に全力を尽くすのは当然です。

 どうか悔いのない大会となるよう祈っております。

 

 元清澄高校麻雀部 サポート係 須賀京太郎より”

 

「あいつ、なんちゅう勘違いを……」

「でも、須賀君がそう思うのも無理ないわ。

 私は須賀君の言う通り何もしなかったし、サポートを全面的に任せた。

 

 せめて一言で良かったのよ。

 大会が終わるまで専念させて欲しいってお願いするだけでも結果は違った筈。

 指導だって実力に合わせた課題を与えておけば……」

 

 “後悔先に立たず”とはこのことね、あの違和感を感じた時にもっと追究しておけば……。

 

 いえ、今更よね。

 私はベットに倒れ込むと腕で顔を覆った、去ってしまった大切な仲間の心中を想って。

 

「のう、久。気付いとるか?」

「何を?」

「おんし、今年のために悪待ちするっていっとったの?」

 

 ああ、言ったわね。そして団体戦メンバーが、全国すら目指せる女子が遂に揃った。

 

「ええ、そして遂に揃ったわ」

「いや、それは間違いじゃ。

 悪待ちでツモった牌は京太郎、京太郎が入部してなければ咲は来んかった。

 

 わしも人のことは言えん。

 じゃが久が卓に叩き付けたようとした京太郎は去ってしまった、これではもう上がれん。

 

 ……これから大変じゃぞ? 特に咲と和は」

 

 私は、まこの言葉に愕然とした。自分の犯した過ちの大きさに。

 

久 side out

 

 

和 side

 

 宮永さんを励ましてから帰宅した私は須賀君へ電話しました。

 

『おかけになった電話は現在お客様の都合によりお繋ぎ出来ません』

 

 繋がらない、優希はどうでしょう?

 

『どうしたんだじょ、のどちゃん』

「優希、須賀君に電話は……」

『繋がらなかったじょ……』

「清澄とは完全に縁を切るという事ですか……」

 

 これは部長の言う通り家庭の事情ではありませんね、あの封筒に答えがあるのでしょうか?

 

『のどちゃんも?』

「ええ、繋がりませんでした。とにかく今日は休んで、明日封筒の中身に期待しましょう。

 おやすみなさい、優希」

「おやすみだじょ、のどちゃん……」

 

 優希もショックが大きいようですね、須賀君とは仲が良かったから余計に。

 

「私もそろそろ休むとしましょう、今日はネット麻雀という気分になりませんから」

 

 人のことは言えないようですね。

 私自身、須賀君の堅いデジタル麻雀が嫌いではありませんでした。

 いえ、むしろ共感できて一緒に打つのが楽しみになっていたんだと気付いたのですから。

 

和 side out

 

 

透華 side

 

「という事でした、透華様」

 

 ハギヨシの報告を聞いた私は耳を疑いました。

 確かにやっと揃って出られる最初で最後の団体戦、かける意気込みはわからなくもありません。

 

 だからと言って部員一人を放置するのは筋違い。

 ご自身の言う通り、通すべき筋という物があります。それを何一つ行わないなんて……。

 

「論外ですわね」

 

「キョータローが不憫でならん。

 だが衣は鶴賀への転校を早期決断したキョータローの決意を推す。

 そこで研鑽錬磨したならば……。

 

 県大会男子個人戦。キョータローは台風の目となろう、間違いなく予想外の結果が出る。

 成長次第ではあるが全国へ行くことも十分考えられるぞ」

 

 確かに。男性雀士に能力者は少なく競技人口も同様、そのうえ京太郎に能力は効かない。

 ならば必要なのは実力ですが……。

 驚異的に伸びているところで指導が加われば更に加速することは自明の理。

 

「やはり惜しかったですわ」

「だが友達の門出だ、衣は祝おうぞ! キョータローに幸あれと」

 

 そう言った衣は笑顔でした、ただ……。

 

「まあ、清澄に活路無し。

 そのマコと言ったか? 奴の言う通り自滅するか、衣達に蹂躙されるかの違いはあろうがな」

「うちとあたるまで持つか?」

「京太郎の言う通りなら能力者の巣窟なんだよね。

 チームワークが取れなくても個人能力で県大会なら上がってくるよ、きっと」

「……どちらでも一緒、清澄は消える運命」

 

 やはりそうなりますのね、わたくしはその言葉に苦笑いで頷いたのでした。

 

透華 side out




残された清澄の面々、事情を知った龍門淵の友人、それぞれの反応が今話の内容になります。
まあ、妥当な線かな? と個人的には思っていますが如何でしょう?


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第ニ局 新たな環境
一本場 転入、鶴賀学園


大変お待たせしました、今回から鶴賀学園で京太郎の物語が始まります。


京太郎 side

 

 目が覚める、見慣れない天井に此処が鶴賀の男子寮だと思い出した。

 

 高校生という事もあって男子寮は学園の敷地内。

 夜遊びして問題を起こさない様にこうなったらしい。

 そうは言っても外出届を出せば外出・外泊可能、休日まで缶詰じゃないあたり中々の匙加減だ。

 

 ちなみ転校した男子生徒が予想より多いのか、俺の部屋より奥は全部空室。

 そりゃ待遇も良くなる訳だと納得した。

 

 とにかく今日から俺は此処で学び、麻雀に打ち込む。

 気合いを入れて起きると身支度を整え朝食に向かった。

 

「初めて見る顔だね、新しい子かい?」

「はい、今日からお世話になる須賀京太郎です」

 

 声をかけてきたのは、まさにおふくろという雰囲気の年配女性で人当たりが良さそうな感じに好感を持った。

 

「そうかい、しっかり食べて頑張るんだよ」

「はい、ありがとうございます」

 

 そんな普通のやり取りが、やけに温かく感じる。やっぱりこの人も良い人だ。

 なんだろうな、モモが切っ掛けをくれて龍門渕の人達と友達になってさ。清澄を辞めるって考え始めてから出逢った人達は……みんな本当に温かくて。

 別に清澄が冷たかったとまでは思ってないけど現状を見れば、まるでこの道の選択を祝福してくれてるみたいに俺は感じてる。

 

 それに何もできなかった俺が衣さんを救ったって透華さん達は言ってくれた。

 だから思うんだ、きっとこれからも俺にしかできないことがあって、俺が俺らしく過ごすことでいろんな物を手に入れられるんじゃないかってさ。

 

 なら、やってみせるぜ? 昔に戻った須賀京太郎がこの鶴賀学園から最高の物語を生み出してやる。

 なんせ新たな学園生活は今日から始まるんだからな! 朝食を食べてお礼を言うと俺は歩き出した、進むべき道を見据えながら……。

 

京太郎 side out

 

 

モモ side

 

 京さんと一緒だった昨日は過去最高の日曜日。

 少し恥ずかしかったっすけど、好きな人と手を繋いで街を散策するのがどれだけ幸せなことか……。

 テレビで見聞きしても全く理解出来なかったのに実感できたっす!

 

 そして、今日からは……。

 

「SHRの前に皆さんへ朗報です、男子の転入生がこのクラスに来てくれました!」

 

 うちのクラスにも何人かいたっすけど既に転校したんすよね。

 それにしてもみんな騒ぎ過ぎじゃないっすか? ほぼ女子校だから、こうなると予想してはいたっすけど予想以上っすね。

 

「では、入って自己紹介をお願いしますね」

「失礼します」

 

 来たっす! ホントに京さんが鶴賀の制服で!

 私は事前に聞いてたっすけど転入してまさかの同じクラス、部活では三年間一緒ということも凄く嬉しくて。

 その幸せを噛み締めていたら京さんの自己紹介が始まったっす。

 

「皆さん、初めまして。清澄高校から転入して来た須賀京太郎です。

 今、力を入れているのは麻雀、特技は家事全般。

 

 それと髪は金髪なのですが地毛なので怖がらないでくれると助かります。

 クラスに男一人という事で迷惑をかけない様に努力しますが気付かないこともあるでしょう。

 その時はやんわりと教えて下さい、よろしくお願いします」

 

 私は気にならなかったけど地毛なのに金髪だからって結構苦労したんすね……、とにかく京さんはそう言って自己紹介を終えたっす。

 それにしてもクラスメートはそわそわしてるし、小声で話してる子も。むむっ、京さんだけは誰にも譲らないし渡さないっすよ!

 まだ、その……恋人って訳じゃないっすけど私が普通に見えてコミニュケーションを取れるのは京さん唯一人で普通の人とは京さんの価値が全く別次元。

 勿論、理由はそれだけじゃないっすよ? 優しくて気遣いのできる努力家な人柄に私は救われて惹かれたんすから。

 

「はい、静粛にね? それじゃあ須賀君はあそこの空いてる席に」

「わかりました」

 

 空いてる席って隣っすか!?

 京さんは席まで来て私と隣の子に挨拶、それから着席してSHRが始まった。

 

モモ side out

 

 

京太郎 side

 

 休み時間の質問責め、どこかしらから突き刺さる複数の視線。

 なるほど、これは転校する訳だと理解した。

 けど長続きはしないだろう、俺ってイケメンでも無いし今は物珍しいだけさ。勘違いするほど自惚れてないからな。

 そう感じているうちに気づけば、あっという間に放課後。

 

 ともかく昼休みに入部届は提出済、モモの案内で部室へ向かおうとする俺にクラスメート達が声をかけてきた。

 

「須賀くん、時間ある? 良かったらお話しない?」

「折角声かけてくれたのにごめん。

 麻雀部に入部したんだけど、大会まで期間があまり無いから練習頑張りたいんだ」

 

 俺は悪いと思いつつも、軽く頭を下げて断りを入れる。

 折角転入者である俺とコミニュケーションを取ろうとしてくれたんだ、最低限の礼節は当然必要だろう?

 それに此処は殆ど女子校、悪印象を与えて噂が広まりでもしたら大変な事になるしな。

 

「ううん、気にしないでね? 大会頑張って、応援してるからね!」

「ありがとう、良かったら明日の休み時間にでも話そうか。俺も早くクラスの一員になりたいからさ」

「OKOK、じゃあまた明日!」

 

 彼女達に笑顔で頷くと俺は教室を後にする、望んだ環境で全力を尽くすために。

 

京太郎 side out

 

 

ゆみ side

 

 モモの話によれば今日転入生、須賀京太郎という男子生徒が来る筈だ。

 例のアンケートとモモの情報から随分と不遇だったのは周知の事実、そんな彼は転校してまで麻雀に打ち込もうとしている。

 

 私とて蒲原に誘われて打ったのが切っ掛けで麻雀の楽しさや奥深さを知り虜となった一人。

 彼の境遇に同情しつつも同好の士として、モモの友人として。そして同じ部に所属する者として全力を尽くすつもりだ。

 

 私の目標は当初、高校生活最後の思い出として団体戦に出ることだったが今は違う。

 須賀君の情熱と覚悟から影響を受け、出るからには勝つと私は決めた。そうでなければ此処を選んだ彼に失礼極まりない。そんな私の雰囲気を察したのか、蒲原が話しかけてきた。

 

「ユミちんは本気になっちゃったみたいだなぁ、ワハハ」

「当たり前だ、私は彼が全力で取り組むために選んだ部の部員で三年だぞ。

 そういう蒲原だって部長で同じく三年なんだ、情けない姿は晒さないでくれよ?」

「ユミちんは難しいこと言うなぁ、ワハハ」

 

 そんなやり取りをハラハラしながら見ている妹尾。

 普段と変わりない様に見えて緊張が隠せない津山。

 それぞれの心境はともかくモモと須賀君が来るのを全員楽しみに待っていた、特に聞いただけで私に影響を与えた本人を。

 

「あそこが鶴賀学園麻雀部の部室っすよ、京さん。みんな待ってるっす!」

「そんなに引っ張らなくても部室は逃げないって、モモ」

「部室は逃げなくても、みんなはわからないっすよ?」

「お、おい、モモ。それはどう言う意味だ? 何を話したらそうなる!?」

「秘密っす!」

 

 ドア越しに少し離れた場所から聞こえてくる話振りで二人の距離感が伺えるな、モモは命の恩人と言い張ってたが……。誰がどう聞いても好意を隠せていない、仕方ないとも思うがな。

 

 私達は顔を見合わせると全員笑みを浮かべた。聞いたことの無い程に楽しそうなモモ、そしてそれを成した須賀君の姿を想像して……。

 

ゆみ side out

 

 

京太郎 side

 

 モモに急かされて部室の前まで来た俺は一抹の不安を抱えながらドアをノック。

 さっきの会話が気になってはいる、けれどそれはそれと割り切った。

 

「失礼します、新入部員の須賀ですが」

「遠慮なく入ってくれて構わない」

「加治木先輩っすね、行くっすよ」

 

 そういうとモモが先になって部室へ入る、すると待っていてくれたらしい四人が目に入った。

 

「君のことはモモから聞いている。

 私は三年の加治木ゆみだ、転入してまでの入部を私達は歓迎する」

 

 この人がモモにあの衝撃的な勧誘を行った人か、落ち着いた雰囲気からは想像もできないな。

 聞いた話では部で一番の実力者らしい、しかも麻雀歴は短いと言うのが気になっている。

 

「ありがとうございます、加治木先輩。一年の須賀京太郎です、よろしくお願いします」

「ワハハ、堅苦しいのはやめよう、ユミちん。同じく三年の蒲原智美だ、よろしくー」

「部長の蒲原がしっかりしないからだというのに……」

 

 部長の蒲原先輩か、確かに緩い雰囲気だけど一番麻雀歴が長いと聞いた。

 こういうタイプは顔に出づらいだろうな、打ち筋にも興味が湧く。

 それはそれとして加治木先輩が苦労してそうだな。

 

「智美ちゃんの後なら私でしょうか……、二年の妹尾佳織です〜」

 

 この人が噂の初心者で役満ばかりあがるっていう妹尾先輩……、もしかして自覚の無い能力者かもしれない。

 ビギナーズラックにしては頻度が高すぎるって聞いたし、まあ一度打てばハッキリする。

 

「同じく二年の津山睦月です、よろしくお願いします」

 

 割と堅い打ち筋の津山先輩……か。

 割とじゃ厳しいだろうな、この人は相当鍛える必要がありそうだ。

 

「最後は私っすね!」

 

 そしてモモ、実力が高く体質で“消える”ことができる……か。オーダーの予想はついたな、ともかく全員にもう一度挨拶するとしよう。

 

「改めまして一年の須賀京太郎です、皆さんよろしくお願いします」

 

 これで俺は鶴賀学園麻雀部の一員になった訳だが……、一つ確認と行こうか。

 

「ところで質問です、この麻雀部が大会で目指すのは何ですか?」

「勿論、勝利のみだ」

「……つまり全国制覇ということですね?

 ではハッキリ言いましょう、現状では県大会すら抜けられません。

 

 私は龍門渕・清澄の麻雀部と対局経験があり、モモから皆さんの実力を聞いています。

 予想されるオーダーは、津山先輩、妹尾先輩、蒲原部長、モモ、加治木先輩……。

 理由は先鋒での失点を抑える堅い津山先輩。

 予想のつかない妹尾先輩を次鋒として、フォローを歴の長い部長が中堅で勤める。

 副将戦でモモが稼ぎ、加治木先輩は大将戦で臨機応変に対応すると見たからです」

 

 俺は自分にもそうだが、勝ちを目指すなら甘えは許されないと思っている。

 加治木先輩は勝利すると言った、けど何を根拠に?

 だから現実を突き付けて実力を最大限引き出すためなら衣さんの言葉通り情報を活用する、悪いとは思うが清澄についても。

 それぐらいしないと能力者と普通の打ち手じゃあ差があり過ぎて勝負にならないのを俺は身を以って知ってる。

 だから見せてくれ、今の俺にできる最大限の協力をするために本気で勝とうとする意志とその覚悟を……。

 

京太郎 side out

 

 

モモ side

 

 京さん、最初から本気っすね……。確かに期間が無いからわかるっすけど凄い勇気、入部早々口にできるほど簡単なことじゃないっす。

 

「オーダーは須賀君の予想通りだ、厳しいだろうことも理解している」

「失礼ですが何をもって厳しいと判断したのか教えて下さい」

「私達の実力と他校の戦績からだ」

 

 あ、駄目っす、加治木先輩。それじゃあ足りないっす(・・・・・・)よ? 能力者相手には。

 そういう私も京さんから聞いて理解したんすけど。

 

「……私は清澄で対戦校のデータに一通り目を通しています、戦績だけでなく牌譜も含めて。

 

 極端な例を挙げますが……。

 龍門渕の天江衣さんは夜に近づくほど、満月に近づくほど場を支配する力が強くなる能力者。

 自分以外は一向聴地獄に陥り、海底一巡前にリーチして必ず海底撈月(ハイテイラオユエ)であがる。

 しかも地力の高さから当然出上がりもあって、去年の最多得点王になりました。

 ……大将戦だけで飛ばせる相手と何も知らずに戦って勝てるとは思えません」

「なるほどな、つまり敵を知り己を知れということか……」

 

 その通りっす、加治木先輩。

 

「ええ、逆に能力者相手でも勝てることを証明している人がいます。

 姫松高校の愛宕さんは地力で勝ってますので」

「では、私達に必要なのは可及的速やかな地力向上と情報収集による対策検討ということだな。

 なら早速地力を上げることから始めるとしようか、須賀君の実力も知りたいしな」

 

 京さんの話をみんな真剣に聞いてたっす、特に加治木先輩が。

 そして鶴賀学園麻雀部で京さんの実力を示す機会が早速訪れたっす、心から望んでいた強くなるための対局が……。

 

モモ side out




本気になっちゃた加治木ゆみ率いる鶴賀勢に京太郎の加入で勢いは加速。
原作では決戦まで来て欲が出たユミちんですが、この差はどんな結末に結びつくのか。そして京太郎は?

次回、デュエルスタンバイ!w


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二本場 必要な物

大変お待たせしました、記念すべき鶴賀での一局目をお送りします。


ゆみ side

 

 須賀君の麻雀はモモ曰く鉄壁、振らないことに全力を傾けていると聞いた。

 そして私達に足りない地力を引き上げる土壌もそこにあるというのが彼の言いたいことだろう。

 

 特に先鋒を勤める津山の相手は往々にしてエース、ツモられるのはやむを得ないが振るのは避けなければならない。

 ならば最初のメンバーは決まった、須賀君が自力で鍛えた実力を見つつ私達の穴を自覚させてもらうとしようか。

 

「まずは東風戦で全員対局するとしよう、最初は私・津山・モモ・須賀君だ」

 

 このメンバーならまず間違いなく自覚できるだろう、誰が一番脆いかを。

 私の言葉によって集まったメンバーで席決めが行われる。

 

 津山が東場で親。モモ、私、須賀君の順となり席に着いた。

 さて私に、私達に見せてくれ。須賀君の力とその意志、勝つために必要な物を。

 

 そして私達は須賀君の成長を助ける、今まで打てなかった分など余裕で取り返せるように。

 そのためにも私は全力を尽くそう、そう決意して席に着いた……。

 

ゆみ side out

 

 

京太郎 side

 

 見る目があるな、加治木先輩は。俺がまず危惧した先鋒の津山先輩、半端な堅さなら役目を果たせないと自覚させるのが目的としか思えないメンバー。

 俺のことは置いておくがモモと加治木先輩は、この部の上位二人だと聞いてるからだ。

 

 そして俺が打つということはモモも実力で勝負することになり、必然的に地力が引き上がるだろう。

 俺という実例がある以上、モモの体質が効かない相手もいる筈。その時に物をいうのは地力だ、誰が相手だろうと絶対的に必要なんだからな。

 

 俺を除く全員の理牌が終わって鶴賀での最初の麻雀が始まった。手配は悪くない、二向聴とはツイてる。

 

 津山先輩が切り出して、淡々と場は進んで行く中でも俺は全員の観察を怠らない。

 勿論、手作りしつつ河に迷彩をかけ、さらに聴牌気配にも意識を割く。振らないということは聴牌を察する観察眼や勘が重要だからだ。

 

 どうも一番手が進んでいるのは津山先輩の様だ、なら安牌を確保しつつあがりを目指すとしようか!

 

京太郎 side out

 

 

睦月 side

 

 配牌が良かったお陰で聴牌、3人はまだの様に私には見える。

 ただ須賀君の河は迷彩が掛かっていて確証が持てない、ここはダマで安全に行こう……。

 幸い切るのは安牌、少なくともここで振ることだけはない。

 

 黙々と場が進んで行く、本当に誰も聴牌してないのか……?

 そう思う私は偶々、全員の安牌を引いては切り続けていた。

 

 だが、そんな幸運がいつまでも続くとは思っていない。

 そして遂に引いてしまった……、思わず私の手が止まる。

 安牌ではない……、2人は聴牌してない様だけど須賀君は読み切れず……。

 どうしようか……、降りるのが正しそうな……。

 

 そして出した答えは押すこと。

 親は私、ここで押さなくてどこで押すと考えた結果。しかし……。

 

「ロン、混一色、發、ドラ1。満貫は8,000点です」

 

 っく、押すと決めた直後に振るなんて。

 須賀君の河から混一色を読み切れず、聴牌気配も見て取ることができなかった……。

 

 こうして私の親はあっさりと流れ、東二局へと移る。

 

睦月 side out

 

 

モモ side

 

 京さんは理牌しないんすね、申告の時に理牌するのを見て初めて知ったっすよ?

 今まではネット麻雀だっだから知らなかったっす。

 

 東一局は様子見に徹したんすけど、河の迷彩といい理牌しないことといい情報コントロールが徹底してるっす。

 むっちゃん先輩が手本にするには最高っすね、しかも本人からあがったのは効果的。

 それにしても混一色を隠し切ったのは見事っす、私も聴牌には気づいてたっすけど混一色とは思ってなかったっすから。

 

「やるっすね、京さん。また腕があがってるっす」

「どういう事だ? モモ」

 

 あ、言ってなかったっすね、そう言えば。

 

「私はネット麻雀で京さんと打ってたっすから、ある程度は知ってたっす。

 実際に打つのは今日が初めてっすけど、リアルの方が強いっすね」

「河の迷彩はネット麻雀でも見てとれるが、理牌しないのはリアルでなければわからない……か」

 

 加治木先輩の言葉に頷く、それだけじゃないっすけどね?

 まあ、加治木先輩は言わなくてもわかってそうっすから。

 

「私が親っすね」

 

 私は配牌を終えると切り出した、三向聴、まあまあっすね。

 しかも順調に手が伸びるっす、さて堅さ比べといくっすか?

 

 そんなことを考えてる内に聴牌。純チャン、三色、ドラ1の6翻で親の跳満確定っす。

 リーチ一発でも裏ドラ次第でも倍満、上手く乗れば三倍満っすか……。

 けど京さんが張ってるんすよね、振り込みたくないし連荘狙い、ダマで勝負っす!

 

 河からチャンタは読めるっすね? って加治木先輩も聴牌っすか!

 京さんは……張り替えて安牌を手出し、やるっすね……。

 捨て牌から見て断么っすけど、見せかけって可能性もあって読み切れないっす。

 

 むっちゃん先輩は降りたっすね、正解っす。後は3人の捲り合い……。

 ホント京さんは堅いっす、また張り替えたっすよ? なんかヒキが良いように感じるっす。

 

 加治木先輩も降りたっすね、私もそろそろヤバいっす。

 ん? むっちゃん先輩の手が止まったっす、もしかして安牌切れたっすか?

 うわー凄いとこ通したっすね、運も実力のうちっすからありっすけど。

 

 あ、駄目っす、私も降りるしか無いっすね。

 

「ノーテン」

 

 むっちゃん先輩、私、加治木先輩と続き……。

 

「聴牌」

 

 京さんだけが聴牌、結局流されたっすけどより一層堅くなったっすね、見事っす。

 まあ、今のは回り順もあるっすけど。

 

 これで京さんだけが浮き、でも残り二局あるっす! 次こそあがるっすよ!

 

モモ side out

 

 

ゆみ side

 

 これは予想以上の堅さだな、こうなればツモるしかあるまい。

 トップの須賀君とは11,000点差、親の私なら満貫で十分だ。

 

 予想通りなのは、やはり津山がこの中で一番脆い。先程は運良く通ったが、アレで終わっていてもおかしくないからな。

 

「私の親番だな」

 

 そう言いつつ配牌、理牌。二向聴か、勝負時だな。

 ここは意地でもあがりたいところだ、まあ振るのは論外だが。

 

 そう思いつつ切り出して割と順調に引き、聴牌まで来た。

 断么、平和、一盃口、ドラ2の両面待ちで親の満貫確定。

 リーチすれば跳満だがリスキーだ、モモにしろ須賀君にしろ堅いからな。

 

 津山からの出あがりか、自力でツモるしかないだろうがその前に振る可能性が高い。

 二人共聴牌が近く感じるし、安全策でダマがいいだろう。ツモれば跳満なのは変わらないしな。

 

 津山は手が遅いのか降りたか、モモが張ったな、ダマで正解だ。

 引いて来た牌を入れ替え安牌を手出しで聴牌継続、須賀君も張ったか。

 

 ……運もあるんだろうが須賀君は想像以上に腕がいい。

 こんな打ち手を腐らせておくとは清澄の考えが理解できないな、私には。そして……。

 

「ツモ、断么、平和、一盃口、ドラ2。親の跳満だ、6,000オール」

 

 今回はツモに恵まれたな、まあ連荘を狙わせて貰おう。

 

 それにしても本当に須賀君は堅い、いい打ち手だ。女子なら妹尾と入れ替えて蒲原を次鋒、中堅以降で使いたい位に安定している。

 もしくは先鋒で失点を抑えて貰うのもありだ、易々と点を減らさない打ち筋は個人・団体戦問わず有効だからな。

 

 私は理牌しながら、そう考えていた。

 

ゆみ side out

 

 

京太郎 side

 

 配牌やヒキが良かったのはあるんだろうけど、加治木先輩の待ち方は俺に似てる。

 モモにしても加治木先輩にしても改善の余地はあるけど十分堅い、比べて津山先輩は聴牌気配の読みが甘い分脆い。

 その結果、降りる判断ができなくて俺に振り、遅れては安牌が切れる悪循環。

 

 なるほど、人の振り見て我が振り直せってヤツだな。

 俺がさらに堅くなるには聴牌を察するのは勿論だけど、その前段階の一向聴や二向聴まで見て取る必要がある。降りるにしても安牌を切らさない徹底した準備が必要で、機を逃すのは論外という訳か。

 

「さて一本場だ」

 

 このまま加治木先輩を連荘させれば流れが一気に持っていかれる、非科学的だけど往々にしてそういうことが起きるのが麻雀だ。

 そして俺は知ってる、そんな流れをコントロールする打ち手が実際にいることを。井上純さんという能力者、その存在が“流れはある”ことを証明してるんだからな。

 

 既に配牌は終わってるんだが、四向聴……。

 これは少し遠いな、安牌を確保しつつ手作りするしかない。

 しかも冗談抜きで加治木先輩に流れはあるのか手が進んでる様に見える、モモと津山先輩は手が遅そうだ。

 

 上手く安牌を抱えて一向聴まで来たが、加治木先輩もそろそろ張りそうだ、どうする?

 その時、加治木先輩が捨てたのは……、見た瞬間これだと直感した俺は禁を破った。

 

「ポン」

 

 白を鳴いて聴牌、安牌は十分確保してるし、ツモに賭けつつ加治木先輩から流れを奪う!

 そして次巡、加治木先輩は聴牌したが……。

 

「ツモ、白のみ。30符1翻の一本場は400/600点」

 

 偶然だろうが上手くいったな、俺は連荘を阻止した上であがれたことを素直に受け止めた。

 

京太郎 side out

 

 

モモ side

 

 京さんが鳴いた……、手牌を見た私はそこに並ぶ“加治木先輩の安牌”。そこから察したっす、加治木先輩の連荘を阻止して流れを持って行かれない様にしたんだと。

 実際、加治木先輩の聴牌は一巡遅くて京さんがツモったっす、つまり流れを自分に……。

 

 凄いっす! 京さん! 例えその結果が偶然だとしても、あの鳴きがなければこうはならなかったっす。

 それにこういうのはリアル麻雀の方が重要で、理論だけじゃ説明つかない物っすから。

 ……負けてられないっすね。

 

「オーラスですね」

 

 京さんの声で始まった東四局、配牌は三向聴でまあまあなんすけど……。

 京さん、引きが良すぎじゃないっすか!? 二巡で聴牌とかさっきので流れが傾いて?

 ……ちょっ、なんで千点棒持ってるんすか! まさかっすよね!?

 

「リーチ」

 

 京さんがリーチ!? 状況的にはわかるっすけどマズいっす!

 あーもう、降り、降りるしか無いっす! 安牌が少な過ぎて選択の余地無し!

 捨て牌から読める状況にないっす、とりあえず手出しで凌ぐしか!

 

 流石にみんな苦しそうっすね……って、え?

 

「ロン、リーチ、断么。40符2翻は3,900点です」

 

 暗刻二つで両面待ちの断么をトップの加治木先輩から直撃っすか!

 あの納得した表情だと安牌は切れてたし読み切れる状況じゃなかったって感じっすね。

 まだ加治木先輩がトップっすけど連荘。これはマズいっす、次、次で止めてみせるっすよ!

 

「一本場、続けましょう」

 

 落ち着いた京さんの声で東四局一本場が始まる。

 

モモ side out

 

 

睦月 side

 

 三局打ってわかったのは私の守りが他の三人に比べて弱いということ。

 しかし、守りを重視して来た私にとって悔しいというより喜びが勝っていた。

 それはまだまだ強くなる余地があって、しかも手本となりアドバイスを貰える相手がいるとわかったから……。

 

 今のままでは駄目だけど大会までには……、そんなことを思いながらも対局は粛々と進んで行く。

 配牌は三向聴とまあまあだった割にヒキがよくない……。

 

 しかも須賀君とモモから聴牌気配……、先程の二の前にならないようすぐに降りを選択。

 安牌を切って凌ぐのに全力を尽くしていたが……。

 

「ツモっす! チャンタ、ドラ1。40符4翻は満貫っすね、2,000/4,000っす!」

 

 暗刻二つに頭が字牌の両面待ちでツモ、確かに満貫。結局一度もあがれなかったが収穫の多い対局に私は納得していた。

 

「津山、気づいたか?」

「はい、加治木先輩、これからもっと鍛えます」

 

 私はこのメンバーが“そういう理由”で選ばれたと気づいていた。

 鶴賀学園麻雀部が勝ち進むために自分が必要とされていること、そしてそのために目指す物を知るためだったと。

 

【東風戦一回目】

 睦 月 -22

 モ モ - 4

 ゆ み +28

 京太郎 - 2

 

 それにしても加治木先輩のトップはともかく初心者から鍛え始めてそれほど経たない須賀君が二位という好成績。

 この結果は私が目指すべき物に間違いがないという証明でもある。それは一度も振ることなく勝ち取った順位なのだから……。

 

睦月 side out




睦月に自覚させて自身を鍛える気にさせるという、ユミちんの目的は達成。
加えて京太郎の腕を正当に評価しました。

まあ、随分とヒキが良かった気もしますがそこはそれ、勘弁してください。

それと睦月本来の口調はゆみに割と似ていて語尾に……が多く、先輩と話す時は丁寧になるのを咲日和から把握。
ちなみに同級生以下からの返事は「うむ」、モモにはむっちゃん先輩と呼ばれてる……がモモをどう呼んでるかわからないのでモモに仮設定しました。
こんな感じでいい筈です、多分、きっと、メイビー……。


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三本場 埋める物

お待たせしました、今年最初の更新です。


智美 side

 

 私が入学した時、鶴賀学園には麻雀部が無かった。立ち上げたのは私とユミちんが仲良くなった一年の時だったなー。

 たまたま一緒に麻雀する機会があって誘ったユミちんが負けず嫌いでハマってなー、立ち上げることになったのが懐かしい、ワハハ。

 けど残りの三人はすぐ幽霊部員、だから大会に出たことが無かった。それでユミちんが今年こそは出るって言い出した結果が今の状況なんだけどな?

 

 ……正直にいえば二年から私は出たかった。

 一番麻雀歴が長いのは私で、強くはないけど好きだからなー。

 最後の年になんとか出られる様になって楽しむつもりだったんだけど、モモの手紙と色々聞いた話で気が変わった。

 ユミちんだけじゃない、私にも火をつけたんだ、須賀京太郎って人間がさー。

 

 京太郎……キョウタがいいな? キョウタの情熱をモモから聞いた今の私は本気で勝ちたい。

 だからキョウタには感謝してるし、胸に空いてしまった穴を埋めるのが私に、私達にできるせめてもの恩返しだろー?

 

「なあ、キョウタ〜。次は私が相手するぞー?」

「もしかしてキョウタって私の渾名ですか?」

「そうだぞ、いいだろ〜。私は渾名付け名人だからな、ワハハ。

 ついでにキョウタも素で話していいんだぞ? なんか無理してるだろー」

 

 こうやって少しでも早く距離を縮めていけるのが私、キョウタには居場所が必要だろー?

 だからこっちから砕けていくのが一番良いんだ。

 部長らしいことはユミちんの仕事だけど、らしくない部長の私にはこっちが向いてるからなー。

 

「ありがとうございます部長、じゃあ俺らしく話しますよ」

 

 そういってキョウタは笑ってくれた……。

 

智美 side out

 

 

ゆみ side

 

 蒲原が須賀君に渾名を付けるのは不思議じゃない、一通り付けた実績があるからな。

 だが私は知っている、それが蒲原の信念に基づく行動であり、だからこそ部長は蒲原なのだ、と。

なんでもない様にするりと懐に入って、いつのまにか仲間になっている、蒲原にはそれができるからこそ私は部長を断った。

そして今、須賀君もペースに巻き込まれて素を引き出されたという訳だ。

 

「それが須賀君本来の口調か。

 蒲原も言ったが私達は仲間でライバルだ、遠慮などする必要はない。

 ここはそういう場所、そして君の居場所だ」

「そうっす! みんなで競って、みんなで楽しんで分かち合う場所っすから、京さん。

 もう一人じゃないっす、みんなが、私がいるっすよ!」

「そっか、俺も輪に入れるんだな……」

 

 モモのヤツ、さりげなくアピールしてるつもりだな? まったくこれで隠せてるつもりでいるとは可愛い後輩もいたものだ。

 それにしても私達にとっては普通のこと、しかし須賀君にとっては……。

 

「なに当たり前のこと言ってるんだー? さあ次いくぞー」

 

 はははっ、やはり蒲原には敵わないな。軽々と空気を変えられるのも蒲原らしい。

 

「そうだな、当たり前の話だった。さて、蒲原と妹尾が入って私と津山が抜けよう。

 津山は須賀君の麻雀から学ぶことがある筈だ、彼の後ろでよく見るといい」

「同じ事を考えてました、牌譜を取りながら見ることにします」

 

 さて……、これで妹尾の役満が能力か判別できる。津山の実力を引き上げることもだ。

 そして蒲原、お前だってまだまだ強くなれると私は信じてる、そのための起爆材が目の前にいるんだからな。

 

 こうして東風戦二戦目のメンバーが決まった。勿論私も学ばせてもらおう、須賀君が自分自身の力で築き上げてきた“振らない麻雀”の真髄を。

 

ゆみ side out

 

 

京太郎 side

 

「早速、席を決めるぞー」

 

 部長の言葉で意識を引き戻され、新しいメンバーで席決めが行われる。

 

 部長が東場で親。妹尾先輩、俺、モモの順となり席に着いた。

 さて切り替えていくか……、まずは噂の役満が能力なのか確認するとしよう、それによって妹尾先輩の鍛え方が変わるからだ。

 部長は一番麻雀歴が長いとはモモの情報、今後を考えれば実力もすごく気になるしな。

 

 さっきのモモは堅かったけど振るわなかったからか随分気合いが入ってる、俺も人のことは言えないが。

 再び俺を除く全員の理牌が終わって二戦目の麻雀が始まった。

 手牌は普通か……けど、どんな状況だろうと堅くいきながら上がりを目指すのは変わりない。

 

 部長が切り出して場が進んでいく中、いつものように俺は全員を観察する。

 勿論、手作りしつつ河に迷彩をかけ、さらに聴牌気配に意識を割くのもいつものことだ。

 既にこの辺りは無意識で行う様になっているのは成長の証だろう、加えてさっき気づいた聴牌までの近さを読み取れ!

 

 それにしても嫌な感じがする、一番手が進んでいるのは噂の妹尾先輩だ……。

 

「三つずつ、三つずつ……」

 

 そんな呟きが聞こえるが、これで役満が出る様なら“能力者じゃない”。

 見極めさせてもらいますよ、妹尾先輩。鶴賀が県大会を抜けられるキーになれそうなその力を。

 

京太郎 side out

 

 

佳織 side

 

 よくわからないけど、一杯三つずつが揃ってきた。対々和だったかな? もうちょっとで上がれるんだよね、これ。

 

 私は全然麻雀を覚えられないんだけど、智美ちゃんに連れて来られて部員になった初心者。

 最後の年だから大会に出たいって言う智美ちゃんの願いを叶えてあげたくて所属したんだ。

 そしたら睦月さんと桃子さんが加わって大会に出られる様になって単純に私は喜んでいた。

 

 でも須賀君の話を聞いてから智美ちゃんも加治木さんも変わった、大会を楽しむ予定が勝つことに目標が変わったんだって気づいてる。

 だからって私が強くなれると思えないけど、できるだけ迷惑をかけない様にはなりたい。

 

 そんなことを考えてたら持ってきた牌で揃っていた、ツモっていうんだっけ?

 

「あ、ツモです。えっと対々和? かな?」

「それは四暗刻、役満ですね、妹尾先輩」

 

須賀君が教えてくれたけど、よくわからない。

 

「え? ええと?」

「いつもながらとんでもないな、妹尾は。

 子の役満、8,000/16,000だ」

 

 それを聞いているうちにみんなから点棒が一杯渡された、私が麻雀をするとこういうことが結構ある。

 みんなは驚くんだけど、やっぱりよくわからない。ただ、大会でもこうできたら迷惑をかけないで済むのはわかってる。

 

 だから弱い私は麻雀を打つ、みんなとの楽しい時間が少しでも長く続く様に……。

 

佳織 side out

 

 

モモ side

 

 京さんが同卓していて役満をあがったってことは能力じゃないんすね、ってことはビギナーズラックっすか!?

 流石に続き過ぎとは思うんすけど、他に理由が思いつかないっす。

 それが本当なら、かおりん先輩には余計なことを覚えさせないに限るっすね。

 チョンボだけ避けられれば多少振ったところで一気に回収できるっすから。

 

 それにしても京さんの成長速度は怖いくらい早いっすね、今むっちゃん先輩に説明するから手牌を晒したんすけど……。

 なんすか? あの安牌の山。まだ私が一向聴なのにロンあがりできないほど準備済み。

 部長が聴牌にはまだ遠かったってことっすよね? その集め方は。それでいて京さんはダマで聴牌とか……。

 

 かおりん先輩がツモらなかったら、多分京さんがあがってた。

 気になるっすね……。さっきといい今といい、京さんの引きは良過ぎる気がするっす。

 そんな都合良く集まるもんじゃないっすよね? “相手の安牌で聴牌”とか。

 

 だから、むっちゃん先輩も食い付いてる。そんな理想的聴牌が目の前で出来上がったんだからわかるっすよ、その気持ち。

 でも、その割にあがれてはいないんすよね……。能力が発現したならあがってたはずっす、かおりん先輩が役満をツモる前に。

 

「おーい、そろそろ次行くぞー?」

 

 おっと対局中だったっすね、って京さんは全く集中力を切らしてなかったのか手牌の準備が終わってるっす。

 部長は勿論終わっていて、私とかおりん先輩は配牌から理牌。そしてかおりん先輩が切り出した……。

 

モモ side out

 

 

睦月 side

 

 須賀君の麻雀、理牌しないことで位置から手牌を読ませない。そしてツモった牌もランダムに並べてトコトン情報を制限してる……。

 それは河にも言えて迷彩をかけ……って今回はかけてない? これも正確な情報を与えず読ませない手法か!

 引っかけも視野に入っていると……。とにかくありとあらゆる物を利用した堅い打ち筋、にも関わらず安牌確保と聴牌を同時に目指す。

 

 私から見てもわからないんだけど須賀君は“誰が一番聴牌に近いか”を観察で読み取れるらしく、その相手の安牌で手作りしてみせた。

 さっきはモモが一向聴だったからと聞いたし、佳織から危険な雰囲気を感じたけど“態と”無視したという。

 例の役満が能力か確かめたかったそうだけど……、そう言いながら結果がアレだというのには脱帽するしかない。

 

 ちなみに今回の須賀君は二向聴スタート、これだと早々に聴牌する可能性が高いのは言うまでもないか………。

 だけど、そんな状況でも安牌確保はしっかりやっていて、どうも見たところ相手は部長みたいだ。

 佳織とモモは手が遅いということか、そして……。

 

「リーチだぞー」

「安易なリーチは危険だぞ? 蒲原」

「ユミちんは慎重過ぎるぞー、行く時は行かないと勝てるものも勝てなくなるからなー」

 

 どちらの言い分もある意味で正しいと思う、しかし……。

 

「ロン、断么、平和、一盃口、ドラ2

 満貫は8,000点ですよ、部長」

 

 これが須賀君の怖さ、“安牌で構成された手牌によるあがり“。

 今回は一歩部長が遅かった、しかし堅い守りとあがりを同時にこなすのはとても難しい。

 そして同時に思うのは引きが良過ぎるんじゃないかという疑問。

 

「だから言っただろう、須賀君は堅いだけじゃない。常にあがりを目指している。

 安易なリーチは逃げ道を潰し、手作りを優先すれば振るのは蒲原もわかっていただろう?」

「……こんなことでは泣かないぞ」

 

 ちょ、部長! そこまで悔しいですか? いや、今の部長は勝ちに拘っているから……。

 

「部長」

「なんだー、キョウタ〜」

「今、恐らく普段ならしない場面でリーチしましたよね? それは焦って強くなろうとしたからじゃないですか?」

 

 通って来た道なんだろう、須賀君も。だから部長の気持ちが……。

 

「……キョウタ、私は勝ちたい。高校生活最後の大会をみんなで勝って少しでも長く一緒にいたいんだ……」

「蒲原……」

「智美ちゃん……」

 

 そう言った部長と名前を呼んだ加治木先輩に佳織、俯いた部長に声をかけるのは憚られ……!?

 

「いいじゃないですか! 俺も勿論勝ちにいきますよ?

 そのために鶴賀の麻雀部ができることは一つです、それは振らない堅さを得ること。

 これは絶対条件です、その上であがるという麻雀の基本を極めるしかないんじゃないですか?」

 

 みんなが須賀君を見ている、勿論私も。

 

「今の麻雀、特に女子は能力に頼っています。勿論、地力をしっかり鍛えた選手もいますが。

 そんな相手に勝つには俺の経験が生きる筈です。

 能力持ちに負け続けていたにも関わらず勝って鶴賀に来た俺の」

 

 そう言うと須賀君は席を立ち、ホワイトボードにこう書いた。鶴賀学園麻雀部強化合宿と……。

 

睦月 side out

 

 

京太郎 side

 

 何がそうさせたのかはわからないが、本気で勝ちたいんだという意思は俺に伝わってきた。

 俺だってまだまだ弱いけど、それでもできることがある筈だ。

 なら、それを伝えてみよう。それが鶴賀学園麻雀部の輪に温かく迎えて貰った俺の今できる全てだから。

 

「強化合宿……か、案としては悪くないな。須賀君、説明してくれるか?」

 

 加治木先輩は乗り気だな、この人も勝ちに来てたけど部長より冷静だった。

 部長は気持ちが先行し過ぎてるから、色々と説明が必要だろう。

 

「ええ、加治木先輩。

 まず麻雀という競技から能力を除いた強さを獲得しなければいけません。

 何故なら、能力持ちの方が間違いなく少ないからです」

「つまり本来の麻雀を極めろということか。

 それで須賀君の持論である堅い守りの麻雀に行き着くという訳だな?」

 

 理解が早くて助かるな、とはいえ加治木先輩だけわかってもダメだ。

 

「ええ、麻雀は技術を競う物、間違っても能力を競う物ではありません。

 確かに能力持ちは強力ですが、それを憂う前に自分自身を鍛えきってますか?

 俺は鍛えきれていません、勿論ここにいる全員もそう見えます」

「そこに強くなる余地があるってことっすね? 確かに素の雀力が無いと凌げないっす。

 そこを凌ぎきってからが私のステルスの出番っすから」

 

 ん、ありがとう、モモ。そうやって援護してくれると話を進めやすい。

 

「今、モモが言った様に持っている人ですら、地力が無ければ活かせない。

 なら、持っていない人は何を置いても地力向上が必須ですよね?

 そこで単純に打つだけでは得られない物を、俺が経験して得た全てを伝えます」

「そんなことしていいのか、キョウタ〜。それはキョウタの財産だろー?」

 

 そう言った部長は申し訳なさそうで、けど貪欲さも見える目をしていた。

 

「俺の居場所なんですよね? 鶴賀学園麻雀部は。なら嫌でも受け取って貰いますよ。

 俺達は勝つんですから、昨年の覇者龍門渕にも名門風越にも、勿論その他の麻雀部にもね」

 

 不敵な笑みを浮かべてそう言い切った、言い出しっぺが強気でなくてどうするっていうんだ?

 俺に居場所をくれたみんなに感謝を込めて、意地でも衣さん達が待つだろう決勝までは絶対に辿り着いて貰う。

 そこで勝てるかはこれからの日々にかかっているんだから……。

 

京太郎 side out




鶴賀の面々は京太郎を温かく迎え、京太郎はそれに応えようとしています。
京太郎の失った物を埋め、鶴賀学園麻雀部員に足りない物を埋める。
そう言う意図でタイトルとしました。

ちなみに少々しつこく、もしくはテンポが落ちた様に感じるかもしれません。
ですが、鶴賀の面々の想いや今後の行動へ至る経緯を表現しないとなんの脈絡もなくアレコレ知ってたり、行動が原作から大きく離れた理由が不明で後程違和感として襲って来ます。
今話でそこはクリアしたので心置きなく次の展開へ移ることができるんだとご理解下さい。

そう言うことで次回は思い切り時間を飛ばす予定です、お楽しみに!


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第三局 県予選 女子団体戦
一本場 集う想いの形


さて修行パートはサクッと飛びます、テンポ重要!
いよいよ始まります、闘いが(色々な意味で)。

追伸:私にしては早い更新、温かい感想や高評価いただけるとモチベーションになります。
   筆者に愛の手を! すっかり飢えているので更新が止まりかねません(; ;


和 side

 

 須賀君が転校してから約二か月、その間色々とありました。一時期は酷い状況で特に宮永さんが……。

 ですが、それぞれの想いや大会へ臨む理由を話し合い、須賀君からの手紙に記された応援の言葉の後押しもあって清澄高校麻雀部は県大会に臨み全国を目指すために団結。

 私は優勝することで長野に残るため、宮永さんはお姉さんとの和解のために頂点を目指して。

 

 個人的に気になったことと言えばネット麻雀界に新たな風が吹いたことでしょうか。

 放銃率0%、運営のNPCではないかとまで言われる存在、名前とそのスコアからミス・パーフェクトと呼ばれるフランさんの出現。

 

 恥ずかしながら同じ様に噂される“のどっち”こと私も幾度か対局する機会があったのですが、その堅さは鉄壁で、ツモ以外ではフランさんから点をまったく奪えませんでした。

 そして感じる既視感、思い出すのは須賀君とのあの対局。何故ならフランさんは余程の状況でない限り鳴かず、リーチもしない。それは須賀君が言っていた事と同じだからです。

 

 ただ本人だという確証が持てない理由もあります、あまりにも腕が違い過ぎるのです。ですが、それも技術を磨いた結果だとしたら……。

 須賀君は大会に出ると全員に手紙で宣言しています、仮に地区が同じなら県大会で、別ならば全国大会で会える筈です。

 私は大会を勝ち進めば何処に居ようと会えるという想いもあり、より一層意気込みを強くして今日という日を迎えました。

 

「宮永さん、絶対に勝ちましょう」

「そうだね、原村さん。私は京ちゃんに会って謝りたい、お姉ちゃんと麻雀を通して話したい」

「私も須賀君に謝りたいですし、負けられない理由がありますから」

 

 私達を優希が手を振って呼んでいますね、部長と染谷先輩もそこに。

 

「行きましょう! 宮永さん!」

 

 私はそういうと宮永さんの手を取って、そちらに向かいました。インターハイ長野県大会会場へと……。

 

和 side out

 

 

ゆみ side

 

 県大会会場は鶴賀から遠かったが、私達の戦意やコンディションは最高だった。

 あの日、蒲原が胸の内を明かしてから始まった須賀君の強化プラン。それから私達は恐ろしい程に濃密な日々を過ごしてきた。

 徹底した観察や対策による論理的麻雀談義と各々の経験に基づく感覚的麻雀の共有。

 そしてゴールデンウィークを利用した合宿での実践と反省会をひたすらに繰り返すというスパルタ練習、いやアレはそんな生優しい物じゃなかったな。

 まさか須賀君が元ハンドボール部のエースであり、事にあたっては妥協を許さない体育会系だとは思いもしなかった。

 

「だが、地力が上がったのは事実だ、“色々な意味”でな」

 

 なんとも情け無い話だが急激に腕が上がった要因は須賀君による妥協なき強化プランの賜物、今や鶴賀の麻雀部と言えば須賀君無しには語れないほどだ。

 それだけ彼はストイックに麻雀と向き合い、愛し闘い続けた。加えて、その姿を私達に見せることで“強力な自主性の発揮と意欲向上“を齎すことに成功する。

 そして生まれ変わったのだ、全員が。ライバルとして彼に負けるものかと、仲間として彼を一人にするものかと。

 

「まあ、妹尾は少し違うがな」

 

 妹尾の役満は能力ではなく“無知からくる無欲が運を引き寄せる”と私達は結論付けた。

 そして運が一定量ある時に役満へ到達するというあまりにも非科学的な現象、だが状況証拠からそうとしか言えないのだ。

 だから妹尾にはチョンボしないだけの知識しか“態と”与えていない。

 そして気負わない様に上手く誘導した結果、未だこの現象が起き続けている以上、そう的外れではないという証拠だろう。

 

「鶴賀に能力持ちはいないが、現象持ちなら“三人”いる……か」

 

 能力の尋常ならざる強力さを聞いて折れかかった私達に須賀君がくれた言葉、それは今も心に残り力になっている。

 だから私達は恐れず、受け止め、ただ最善を尽くせばいい。そうすれば自ずと結果は付いてくるとも言っていたな。

 そのための事前調査、各校の能力者洗い出しや対策検討を須賀君はいつの間にか終え揃えてくれた。

 

「自分のついでなんて理由、女子校分は通用しないとわかっていながら……」

 

 そう呟いた時、フッとよく知る気配を感じる。

 

「モモか、どうした?」

「それが京さんっすよ、加治木先輩。優しいから傷つけられて、それでも意思の強さで諦めず鶴賀に来てくれた。

 そこから“ここまで”這い上がって消されかけた本来の強さを取り戻したっす、私達を鍛えながらも」

 

 どこから聞いていたのやら……、だが事実だな。

 

「ああ、そうだな、モモ」

「そうっすよ! 京さんは私の命の恩人で今や鶴賀学園麻雀部のブレーン。

 そしてネット麻雀界にまで名を刻む存在になったんすから」

 

 今、聞き捨てならない言葉が……。

 

「何? それはどういう……」

「みんな、待ってるっす。行くっすよ、加治木先輩!」

 

 ネット麻雀界に名を刻む? 私はその言葉に疑問を感じながらモモに引っ張られて会場入りする。

 かけがえのない最高の仲間達でありライバルでもある存在と少しでも長く過ごすためには、県大会で足を止める訳にいかないのだから……。

 

ゆみ side out

 

 

透華 side

 

 京太郎のお陰で衣は救われ、今は以前より確実に強くなりましたわ。それは人としても雀士としても。

 あの日を最後に会えていない友人、衣はここのところソワソワと落ち着かなくて困ったものですが。

 

「む、トウカ。衣に無礼なことを考えたか?」

 

 無礼も何も本当のことですわ、まったくこういうところは変わらないんですのね。

 それでも最初から会場入りするだけ良くなったのでしょう、いえ、いつ消えてもおかしくないですわね。

 まあ、ハギヨシが付いていますから問題ありませんわ。なら話を逸らすには……。

 

「京太郎のことを考えていただけですわ、どこまで強くなったのか楽しみで」

「キョータローは衣でも感じ取りづらいからな。

 だが約束したのだ、鶴賀が強くなっていればキョータローはそれ以上に強くなっている。

 会うのもキョータローの麻雀を見るのも楽しみだ、勿論鶴賀と打つのもな」

 

 やはり変わりましたわね、衣は。以前の衣なら楽しみだなんて言葉は出てこなかった筈ですわ。

 ですが今は不敵に笑っています、心の底から楽しそうに。

 

「そろそろ行こうぜ、京太郎が来てるんだろ? もしかしたら会えるかもしれないぞ」

「む、それは本当か? ジュン」

「会えるかも、だ。入ってみなきゃわかんないだろう?」

 

 まあ、純の言う通りですわね。なら行きましょうか、原村和よりわたくしが上だと証明して差し上げますわ!

 そして、わたくしの予想通り原村和が“のどっち”かどうか。加えて“フラン”が京太郎なのかも暴いてみせましてよ!

 

「……そろそろ時間」

「うん、開会式が始まるから行こう、衣、透華」

「真打ちは最後に登場するものですわ! ですが、遅れるのも厳禁ですわね。行きますわよ、衣」

「そういうものか。では行くとしよう、有象無象を叩き潰して京太郎との約束を守りに」

 

 ……物騒な物言いは直りませんでしたわね。わたくしはそう思いながら開会式に臨んだのです、頼もしく大切な家族と共に。

 

透華 side out

 

 

京太郎 side

 

 大会までの期間、俺にできることはやり切ったし、吸収できる物を貪欲に吸収するための強化プランを練って全員で共有した。

 実は転入する時、学業は勿論だが麻雀に打ち込める環境があるからと動機を告げていたのが功を奏し合宿許可が出たんだが、みんなには秘密にしてある。

 所謂利害の一致というやつで、俺は麻雀に取り組める環境を、鶴賀学園は欠員の出ている男子生徒の補充と実績作り。

 だからこそなんの実績も無い麻雀部が合宿できたという訳だ。

 

 とはいえ予算なんか無いから俺が勝ち取った方法は、ガラガラに空いている男子寮を活用するという物。

 目的は食堂でコミュニケーションを取ったり、一緒に食事することでチームワークを強固にすること。

 そして一つ屋根の下で暮らせば使える時間全てを麻雀だけに注げるから、自分でもやり過ぎだと思うくらいの麻雀漬け生活が送れる。

 

 昼間は部室で卓を囲み、夜はネット麻雀。ただし、しっかりと睡眠を取ってコンディションは落とさない俺のやり方を守ってもらった。

 時に真剣に、時に楽しく過ごしたからか弱音を吐いた部員は一人もいなかったし、その結果、大幅に地力が向上して今に至る訳だ。

 

 そんなことを思い返しているうちに開会式は終わり、それぞれに与えられた部屋へ移動……しようとしたんだけど小さな影が俺を呼びながら飛びついてきた。

 

「会いたかったぞ! キョータロー!」

「久しぶりですね、衣さん。お元気でしたか?」

「衣は元気だ! みんなもな!」

 

 うわー、すっげー注目されてる。それもそうか、最多得点王と無名の男が抱き合ってるようにしか見えないよな。

 その証拠に俺の左肩がめちゃくちゃ痛い、いやマジで!

 

「京さん、公衆の面前っすよ……。それと説明を求むっす」

「ん? 汝は鶴賀学園麻雀部の者か? 衣は衣だ、キョータローとは友達だぞ?」

 

 衣さんの言葉を聞いて肩の痛みが消えた、モモ、ちょっと怖いぞ。

 

「君が龍門淵の天江衣さんか。私は鶴賀学園麻雀部、三年の加治木ゆみ。

 ところで決勝での対局が終わるまで必要以上の他校との接触は禁じられている、旧交を温めたいのはわかるが遠慮して貰いたい」

「む、そうなのか、それは済まないことをした」

 

 衣さんがそう言って俺を離すと、息を切らせて透華さん達が現れた。

 

「衣! いきなり走って何処に……って京太郎を見つけたんですわね。ところでこの人集り、どうやら迷惑をかけた様で。

 わたくしは龍門淵透華、貴女は鶴賀学園の?」

「ああ、加治木ゆみだ。君も須賀君の友人の様だが規定もある、すまないが……」

「わかっておりますわ。衣、控え室に行きますわよ、今は駄目ですわ」

 

 透華さんの言葉もあって衣さんは素直に従ってくれた。

 

「うむ、ではキョータロー、決勝の後でな!」

「ええ、決勝の後で会いましょう、衣さん」

 

 そう言うと衣さん達は立ち去ろうとしたんだが……。

 

「犬! あっ違うじょ! 京太郎!」

 

 聞き慣れた呼び名と声に俺を含め全員が足を止めた、視線の先に声の主達を捉えて……。

 

京太郎 side out

 

 

咲 side

 

 開会式場から出た私達は人集りに足を止めた。

 

「誰か有名人でも来てるのか? 見に行ってみるじょ!」

 

 そう言って優希ちゃんが歩き出した時、聞こえてきた会話。

 

「うむ、“キョータロー”、決勝の後でな」

「ええ、決勝の後で会いましょう、衣さん」

 

 京太郎? それに今の声は間違いなく京ちゃん……だよね?

 

「咲ちゃん!」

 

 その声に釣られて優希ちゃんと人集りをかき分けた先には京ちゃんがいて、私は思わず固まった。

 なんて声をかければいいんだろう、そう迷ってるうちに声が響いて。

 

「犬! あっ違うじょ! 京太郎!」

 

 その瞬間、周囲の視線が私達に集まった。

 

「失礼な人っすね、“どこの誰っすか?“ 私達の仲間を犬呼ばわりするのは!」

「ご、ごめんだじょ、その、思わず……」

 

 急に現れた黒髪の女の子が大きな声で凄く怒ってて、周囲の視線にも軽蔑の気配がするし、ヒソヒソと非難の声が聞こえる。

 

「もう一人の子〜、私は鶴賀学園麻雀部の部長で三年の蒲原智美だー」

「あっ、私は……」

 

 そこまで話したら声が割り込んで。

 

「宮永咲さんですわ、清澄高校一年の。インターミドルチャンピオン、原村和と同じ所属ですわね」

「なるほどなー、これだからキョウタは……」

「その通りだ、衣は清澄を許さない。衣の最初の友達、キョータローを苦しめた罪は万死に値する。

 行くぞ、鶴賀の。この様な輩にキョータローを含め汝らが関わる必要はない。我は天江衣、道を開けよ!」

 

 その一喝に人集りが割れて11人はその場を後にした、京ちゃんはなんとも言えない視線でこっちを見てたけど一言も発さずに……。

 

咲 side out

 

 

京太郎 side

 

 だから言ったんだ、その癖が公衆の面前で出れば大変なことになるってさ。

 あれから約二か月、結局誰も指摘して直させなかったんだな……。

 

「あの子が片岡優希だろー? 東場で豪運を発揮するっていう」

「当たれば津山の相手だが冷静にな? 特にモモ。全員合宿を思い出せ、どんな時も平常心だ」

 

 鶴賀の仲間はこうやってお互いの色々な部分を改善してきた。モモがあんな大声を出すとは思って無かったけど、それを嬉しく思う俺がいる。

 

「大丈夫っす、確かに怒ったけど心理戦の意識もあったっすから」

「なるほどなー、まあ使える物は何でも使わないとな、勝率を上げるために。

 まあ、キョウタの受け売りだけどな、ワハハ」

 

 強かさ(したたかさ)は必要不可欠、特に能力の無い雀士が勝つためには絶対だ。

 

「俺のせいで嫌な想いをさせましたね、すみません」

「それこそまさかっす! 京さんは何も悪くない、そうっすよね?」

 

 その問いかけに全員が微笑みながら頷いてくれた、なら……。

 

「じゃあ、さっきのことは忘れましょう!

 俺達は勝つためにここへ来た、相手が誰であろうといつものように打って倒すのみです!」

「「「「「おー!」」」」」

 

 鶴賀学園の控え室は一致団結して勝利への意欲に満ちる、出番を今か今かと待ちながら……。

 

京太郎 side out




鉢合わせた3校、ぶつかる想いと意志。
優希の悪癖が咄嗟に出て完全な対立関係となってしまいました、京太郎の予想通りですね。

勘違いして欲しくないのは私に嫌いなキャラクターはいないという事です。
優希の不用意な発言は場所を選ばないと認識していますし、一度付いた癖は咄嗟に出るもの。
何かに意識を割けば、言葉まで回らず出てしまう。それが口癖ですので起きるべくして起きたと私は思っています。

ですから清澄が嫌いとか貶め様などとは考えておらず、あり得る可能性を表現したまで。
清澄大好きな方には特に理解して欲しく思います。

さて、次回デュエルスタンバイ!w


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二本場 その裏で、そして

予選!


美穂子 side

 

 開会式を終えて控え室に向かおうとしたのですが……。

 

「なんか進めないし!」

 

 華菜の言う通り人集りで進めずにいると不意に声をかけられました。

 

「悪いわね、どうもウチの部員がチョット……ね。私も解決に行きたいんだけど進めないのよ」

「私は風越の福路美穂子と申しますが、貴女は?」

 

 どこかで会った様な……そう記憶を探りながら私は問いかけます。

 

「清澄の竹井久よ、一応部長をやってるわ。よろしくね? 福路さん」

「竹井久さん……ですか? どこかでお会いした様な……」

 

 その時、名字に記憶は無かったのですが“久”という名は私にとって特別で。

 そして思い出したんです、三年前のインターミドルで私を苦しめた上埜(うえの)さんを。間違いないという確信と一緒に。

 

「上埜さん……ですよね? 三年前のインターミドルで対局した」

「あら、よく覚えてたわね。色々あって今は竹井よ、福路さん。

 さて、なんとか通れそうね。私はそろそろ行くわ、迷惑かけて悪かったわね」

 

 そう言いながら上埜さん……、いえ竹井さんは人混みに消えました。

 

「キャプテン、そろそろ控え室に行けそうだし!」

「そうね、みんな行きましょうか」

「「「はい!」」」

 

 私の声に返事をしてくれたみんなと一緒に控え室へと向かいました、竹井さんの麻雀を思い出しながら……。

 

美穂子 side out

 

 

久 side

 

 控え室は御通夜ムード、参ったわね……。

 

「今回は優希の発言が問題じゃった、次からはきーつけるんじゃぞ?

 それと二人共、そろそろ切り替えていかんと負ける。それでいいんか?」

 

 まこが諌めて発破をかけてくれてる、あと一押しかしらね?

 

「まあ、鶴賀にいるってわかっただけ良しとしましょう、機会は私がなんとかするわ」

 

 そう言うとやっとのことで顔を上げた二人。

 須賀君は私が追い出した様なものだからできることはするって決めていた、だから覚悟はできてる。

 

「本当ですか? 部長」

 

 予め決めていたことだし、咲の問いかけに私は即答した。そうでなければ誰も付いてこないと十分わかっているから。

 いえ、須賀君が消えてからの日々で学んだが正解ね。

 

「二言はないわ、でもその前に私達にはすることがあるわよね?」

 

 二人は深く頷いた、意志の光を再び目に灯して。なら言うことは一つ。

 

「私達はそれぞれの目的のために勝つしかないわ、どこが相手でも……ね」

 

 こうして清澄高校麻雀部の団体戦は幕を開けた、勝つというただ一点で団結して……。

 

久 side out

 

 

京太郎 side

 

 鶴賀学園麻雀部は女子団体戦と男子個人戦に参加している、そして個人戦は団体戦の後だ。

 だから俺は控え室で女子団体戦をサポートしつつ、応援と他校の技術見得に挑んでいた。

 

「それにしても随分思い切ったっすね、京さん」

「ああ、髪のことか? 俺も気合い入れるのに昔を思い出して切ったんだ、似合わないか?」

 

 随分と伸びた髪、ハンドをやってる時は短くしてた。俺は今回の大会前日にバッサリ切って昔に戻したという訳だ。

 まあ、それだけが理由って訳でもないんだけどな? とりあえず置いとくが。

 

「良いんじゃないか? 何かを変えることでより一層気合いが入ることもあるだろう」

「私も良いと思うっす! 短髪も新鮮でいいっすね!」

「キョウタが鬼軍曹に見えるぞー、合宿の時それだったらなー」

 

 部長のネタでみんなして噴き出した、いい雰囲気だな。俺がネタじゃなきゃ尚良いんだけどさ。

 まあ、リラックスできてる証拠だ。そして今、闘っている津山先輩の調子がいいからこうやっていられる。

 

「さて、須賀コーチ。この対局、どう見る?」

「そうだな…って止めて下さいよ、加治木先輩」

 

そう言うとまた笑い声が、それが静まるのを待って私見を述べ始めた。

 

「とりあえず有難いことに何処も新人がいない。

 つまり能力持ち不在で事前調査済みの相手ばかりです、油断せず鶴賀の麻雀を打てば問題無いでしょう。

 それにしても部長のくじ運に助けられましたね、新人が能力持ちで無い限り何処が上がってこようとうちが有利なブロックなんですから」

 

 そう、うちには妹尾先輩とモモがいる。この二人の得点力は正直とんでもない。

 多少振ろうと役満で回収してしまう妹尾先輩、ステルスが発動すれば気づかれることなく振り込ませられるモモ。

 残る三人は堅守に徹するだけで十分勝利できる、それでいて加治木先輩には得点力もあって盤石だ。

 だからこそ津山先輩と部長には堅い麻雀が必要、そしてそこをクリアしたからこそ俺は問題無いと判断した。

 

「智美ちゃんは昔からくじ運いいよね?」

「そうだなー、実は時間無かったから教習所で車の免許取ってなー、そしたら車欲しくなるだろー?

 それで目についた懸賞に応募したら車が当たってなー、流石に私も驚いたぞ、ワハハ」

 

 は? そんな都合良く?

 

「とんでもないっすね……」

「運がいいじゃすみませんよ、部長……」

 

 ここまで極端な話だと驚きを通り越して呆れるんだな、初めて知った。

 声の聞こえなかった加治木先輩を見れば頭を抱えてる、まあ気持ちはわからなくもないな。

 

「蒲原、頼むからその運を大会で使ってくれ……」

 

 そう言った加治木先輩の声からは本気のニュアンスが……、さりげなくモモが気づかうのを見て俺はふと思い出した。

 俺が加わった直後の鶴賀って、こういう緩いところだったな……と。

 

京太郎 side out

 

 

ゆみ side

 

 須賀君のいう通り、私達が対局した麻雀部には結局能力持ちがいなかった。

 そして鶴賀の麻雀を徹底した私達は信じ難いことに初出場ながらも決勝の舞台に上がる権利を昨日得て再びこの控え室にいる。

 

「目標に掲げはしたが、まさか現実になるとはな……」

「初めに言った筈ですよ、能力持ちがいなければ不測の事態でも起きない限り勝てる、と」

 

 私の独り言に反応した須賀君は誇らしげに言ってくれた、その言葉に信じていたという想いを感じて胸が熱くなる。

 なら、乗せられてみるのも悪くない。そう思った私はこう返した。

 

「ふっ、という事は決勝で勝つのは難しいということになるな? 須賀コーチ」

「そんなこと本気で思ってないでしょう? 挑みもしないで諦めますか? 鶴賀学園麻雀部の大将が」

 

 参ったな、これは一本取られた。そう思っていると……。

 

「これを受け取って下さい」

 

 須賀君はそう言って津山に御守りを贈る。

 

「先鋒の津山先輩。堅い麻雀で清澄の豪運、龍門淵の流れを操る能力、そして針の穴を通す読みの風越に打ち勝って下さい。

 清澄はツモってくるでしょうが龍門淵が黙っていません、ですが同時に風越が雪辱を晴らすため龍門淵を喰らおうとする筈です、それこそ周りを利用してでも。

 ですがその三すくみにこそ勝機があります、振らずチャンスをモノにして下さいね」

「うむ、全力を尽くすさ、須賀君。私達は全国に行く……、ここは通過点だから……」

 

 次いで妹尾。

 

「次鋒の妹尾先輩。相手に能力持ちはいません、安心していつも通り自分のペースで打って下さいね」

「ありがとう、須賀君。私もみんなと少しでも長く一緒に居たいから精一杯闘ってきます」

 

 この流れなら蒲原だな。

 

「中堅の部長。龍門淵と風越は実力者です、そして清澄は能力持ち。ですが癖と打ち筋はご存知の通り。

 惑わされる事なく堅守して、隙があれば逆に清澄を食って下さい」

「任せろ、キョウタ。私の成長を見せるぞー、けど調子に乗らない様にするからなー」

 

 モモの番か。

 

「副将のモモ。屈指の堅さを誇る三人が相手だ、デジタル打ちが二人、実力者が一人のな。

 だけど龍門淵は時にデジタルから外れる、清澄は絶対に外れない、風越はそこを見極めた打ち手。

 ステルスは強力な武器、だけど例外がいることも想定しておくんだぞ」

「よーくわかってるっすよ、京さんで。チャンスは逃さないっすけど、十分注意して稼ぐっす!」

 

 最後は私だな。

 

「大将の加治木先輩。大会屈指の強力な能力持ち二人と風越二年連続大将の得点力、打ち破るのは困難を極めます。

 能力は判明していてご存知の通り、そして能力に関係無くあがってくるのが非常に危険。

 ですが秘密兵器を用意しました、対抗できる筈です」

 

 秘密兵器? そう言われても思いつくものは無いんだが……。しかし、須賀君は嘘をつかない。なら……。

 

「秘密兵器とやらはわからないが、私は臆すこと無く闘おう。須賀君の献身に報い、鶴賀が全国へ行くために。

 みんな、気合いは入ったな! 私達は勝つためにここに居る!

 最高の麻雀を見せてやろうじゃないか、鶴賀学園麻雀部が誇る麻雀を!」

 

 私の宣言にみんな雄叫びを上げた。ありがとう、須賀君。最高の激励に私達は応えよう、結果をもって!

 

ゆみ side out

 

 

京太郎 side

 

『さあ、ついに始まりました、長野県予選決戦!

 泣いても笑っても全国に行けるのはこの四校のうち一校のみ!』

 

 控え室のモニターで俺は一人、各校の紹介を見ていた。まったく面識がないのは風越だけっていうのは流石に出来過ぎな気もするが、実力から言えば順当か……。

 そんな事を考えているうちに五人は戻って来た。

 

「ああも注目されると流石に疲れるな、まあ貴重な経験だが」

「贅沢な話ですね、負けた高校に怒られますよ? 加治木先輩」

 

 軽口が出ている内は心に余裕がある証拠だ、俺にできるのはリラックスさせること。

 

「ふっ、そうだな。彼女達の想いも背負っている事を肝に銘じよう、さてルールの確認と行こうか。

 決戦は一人半荘二回ずつ、トータル十回で点数は引き継がれる。昨日までとは違って二倍以上の集中力が必要だ」

 

 確かに、だけどメリットも存在する。

 

「そういう見方も当然ありますがチャンスが二倍とも言えますね、仮にミスを犯してもフォローできる。

 とはいえ油断は禁物ですし、態々不利になる必要もありませんから上手く集中と休養を取って下さい」

「その辺は合宿で散々やったからなー、事前準備が大切だってよくわかったぞ、キョウタ〜」

 

 わかってる事に手を打たないのは愚策にも程があるからな、メニューにはそういうのも入れておいて正解だった。

 

「そういう事です、さてそろそろ出番ですね、津山先輩」

「うむ、まあいつもの様にいつもの如く、だったな……」

「ええ、無駄に力む必要はありませんよ。今まで通りに楽しんで来て下さい、それが一番です」

 

 そういうと津山先輩とハイタッチする。

 

「行ってくる……」

「鶴賀の麻雀を見せつけて下さい」

「ここから応援してるっす!」

「まあ、気楽になー」

「私も応援してます!」

「ああ、行ってこい」

 

 それぞれの特徴が出た応援に手を上げて津山先輩は会場へと向かった……。

 

京太郎 side out

 

 

?? side

 

 そろそろあちらも決勝でしょうか、御役に立てればいいのですが……。

 京太郎様、私は貴方を諦めませんよ。私を救ってくれて一人の人間、一人の女性として扱って頂いた貴方を。

 

「何をお考えでしたか?」

「勿論、京太郎様の事です。貴女も思うところがあるのでしょう?」

 

 私はそう問いかけました、あの場に居合わせた彼女に。

 

「●様の命の恩人であり、私達の不徳により起きた事を解決して下さった方。

 できれば●様に婿入りしていただき、こちらの人間になっていただきたいと思っております」

「それは本心では無いでしょう? 隠すことはありませんよ」

「……」

 

 少々意地悪でしたね、ですが彼女にもチャンスがあっていいと思うのです。

 

「どちらにせよ、まずは大会を制しなければいけません。

 皆の活躍に期待しています、勿論私も京太郎様に相応しい人となるため全力を尽くしましょう」

「皆に伝えておきましよう、それでは失礼します」

 

 全国でお会いしましょう、京太郎様。貴方様なら必ず勝ち上がって来ると信じております。

 私はその想いを長野へ届けとばかりに強く念じたのでした。

 

?? side out




さてさて、ついに始まります、決勝戦。
京太郎には秘密兵器があるようで?

加えて最後のは一体誰なんでしょうね?w

とにかく次回から決戦戦の模様をお送りします!


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三本場 前半 先鋒戦 睦月は鶴賀の麻雀を貫く

さあ、先鋒戦前半行ってみましょう!
(原作では13ページであっと言う間に終わり、手すら無かったので死にそうです)


京太郎 side

 

『先鋒戦、各校の選手を紹介します。

 昨年の覇者、龍門淵高校二年、井上純! 王座奪還なるか、風越女子三年、福路美穂子!

 初出場ながら破竹の勢いで決戦進出、清澄高校一年、片岡優希!

 同じく初出場ながら堅実かつ安定した打ち筋で決戦進出、鶴賀学園二年、津山睦月!』

 

 アナウンスに合わせてモニターにはそれぞれの顔が映った、何かあったのか? 優希の顔色がよくない。

 他は慣れたもので津山先輩からは特に過度な緊張が見えなかった、いい状態だな。

 

「清澄先鋒の優希は何かトラブルを抱えてるみたいです、表情に焦りが見えました」

「それは気の毒だが朗報だ、勝負の世界だからな」

 

 確かに、優希の爆発力は侮れないからな。それが少しでも下がるというなら先鋒戦の行方はウチにとって良い方向に転がる。

 加えてあそこには純さんがいる。流れをコントロールして確実に抑えてくる筈だ、問題は……。

 

「風越の福路さんは個人戦入賞の常連、正直言って一番怖いのは福路さんですね。

 優希は南場に入れば一気に失速しますが、福路さんには安定した強さがある」

「むっちゃん先輩が上手く読ませない河を作れるかっすね、堅さは心配してないっすから」

 

 俺達はそう話しながら見ていると対局が始まろうとしていた、運命の決勝戦が……。

 

「信頼して見守るだけだなー、今できるのは応援することだぞー」

 

 そう言った部長の言葉に全員が頷いた。

 

京太郎 side out

 

 

睦月 side

 

 此処が決勝戦の場……。だというのに私は落ち着いていた、何故なら私は私にできる事をするだけ……。

 今までと何も変わらない、相手が能力持ちだからといって私にできることは鶴賀の麻雀を打つのみだから……。

 

「清澄の片岡だったな、お前ら終わったぞ? うちの大将が御立腹だからな、まあ俺もだが」

「……言い訳はしないじょ、でも最後に勝つのは清澄なんだじぇ!」

 

 須賀君の言う通り、龍門淵は清澄を狙ってる……。けど油断はしない、全員が“倒すべき敵”。

 私は余計冷静になっていく。観察の重要性を知り、実践を経たこの大会で確信したからだ。

 見逃していいものなど一つもないという須賀君の言葉が正しいことを……。

 

 そして見た、清澄の片岡さんが“半分のタコス”を食べたのを。彼女はタコスを食べてゲンを担ぐと聞いた。

 それを半分ということは……、後半戦があると知らなかった? どちらにしろ、本領が発揮できないならチャンスが広がる。

 

 私にとって初めての決勝、先鋒戦が始まった……。

 

睦月 side out

 

 

優希 side

 

 一回分しかタコスを準備してなかったから半分にして持ち込んだんだじぇ、これで持てば……。

 親は私、龍門淵のノッポ、鶴賀のポニーテール、風越のお姉さん。配牌も悪くないじぇ、これなら行けるじょ!

 

 そう思ってたのに東場で無敵の私が“やっと”一向聴……。やっぱり半分じゃ、いつも通りにはいかないじぇ。

 

「ポン」

 

 ポニーテールの捨て牌をノッポが鳴いた? 私の引いた牌は不要牌。そして一巡後に今度は……。

 

「チー」

 

 また鳴いたじぇ、そして私は未だに聴牌できてない……。おかしいじょ、こんなことって……。

 

「ロン、断么、ドラ1。30符2翻、2,000だ」

 

 あっ……、集中できてなかった私はノッポに振り込んだんだじょ。京太郎と打った、あの時みたいに……。

 

優希 side out

 

 

京太郎 side

 

「龍門淵の純さんは完全に潰しにいってますね、最初から流れを奪って」

「まだ一度あがっただけだが……」

「いえ、奪った以上はそう簡単に逃しませんよ、純さんは」

 

 親になってエンジンがかかった、そして鳴きを入れてはどんどん流れを引き寄せて……。

 

『ロン、中、白。60符2翻は5,800!』

 

 中は暗カンで両面待ち、優希から直撃か。完全に純さんのペースだ。

 東二局一本場、やっぱり強いな、けど……。

 

「これで二度目(・・・)ですね」

「ああ、須賀君の言う通りになったな。このままワンサイドゲームになりかねんか。

 厄介だな、能力持ちは。だが津山は失点していない、まだ始まったばかりだ」

「ええ、その通りですね。今の津山先輩は不用意に振ったりしません、それに……」

 

 手牌を見て俺は確信していた、津山先輩があがる、と。

 

「そうだ、こういうこともある」

 

 純さんの目が優希に行ってる隙を上手くつけた、効いてる(・・・・)な。

 

『ロン、白、發。50符2翻3,200点の一本場は3,500点です……』

 ※咲原作において一本あたり300点がルールですので、それを適用しています。

 

 まあ、削られてるのは優希なんだが。

 

 ところで俺は運と流れに相関関係があると思ってる。そして場にある運の総量は一定で、それをより多く掴むのが流れ。

 そこからいけば優希の能力は東場に限り“全員の運を自分の物にする”というものだ。

 

 それを純さんが崩して奪った、そんな中で津山先輩はあがった訳だが……。

 さて、このあがりの意味がわかるかな? 龍門淵のみんなには。

 

 俺は上手くいったことに安堵した、神代さん達に感謝しながら……。

 

京太郎 side out

 

 

純 side

 

 馬鹿な……、アイツからは流れを感じなかった(・・・・・・・・・)ぞ! どういうことだ!?

 俺が見落とした? あり得ないな……。ならアイツも何か能力持ちなのか? それとも京太郎が鍛えた結果だとでも?

 

 いや、わからないことを考えてミスるのだけは御免だ。アイツにも気をつけながら行くしかない。

 風越も何を考えてるかわからないな、慎重に行くとするか。

 

 親はアイツか……、手牌は状況から見て悪くないし流れもある。さっさと流すのが正解だな、なら……。

 俺は思惑通りに手を最速で組み上げた、速度重視の……。

 

「ツモのみ、30符1翻はゴミだ」

 

 これでいい、アイツに何かされる前に親は流した。次は東四局で風越の親番だな、要注意だ。

 その上で……、清澄を削って息の根を止める!

 

 間違いなく今回も流れは俺にあるな、そして手牌は……。ぶち当てるか、清澄に。

 

「ポン」

 

 これで一飜、發を喰った。手は染まりかけてる……って、ソイツだ!

 

「チー」

 

 聴牌、ここで溢すのは清澄だろ? ……ほらな?

 

「ロンだ。混一色、發、ドラに赤ドラで満貫。8,000!」

 

 これで南入、この調子で行く。もう清澄は沈んだ、あとは鶴賀と風越に気をつけるとしようか!

 

純 side out

 

 

美穂子 side

 

 龍門淵の井上さんは調子がいいのね、波に乗っているわ……。だけどいつまでも主導権を渡してはおけないの、昨年の雪辱を晴らすためにも。

 私は前半戦、見極めに使うと決めてたので気にする様な展開という程ではないのだけど……。

 

 ところで清澄の片岡さんは本当なら東場に強いのね? 井上さんが集中的に狙ってるので間違いなさそうです。

 鶴賀の津山さんは堅くてとてもいい麻雀を打ちます、出上がりもあって理想的ね。ただ、少し気になるわ……。

 もう少し見極めが必要そうです、勝負は予定通り後半戦に持ち越しましょう。

 

「チー」

 

 また仕掛けるんですか? 片岡さんに。

 

「ロン。清一色、満貫だな。8,000だ!」

 

 次は井上さんの親です、片岡さんがとても危険な状態ですから流してあげますね。

 それにしても津山さんはとても冷静なのね、風越でもレギュラー争いができるレベルですよ?

 待ちの麻雀ですが本当に堅い、先程の聴牌は危なかったですし。

 

「チー」「ポン」

 

 チーとポンが同時ならポンが優先、私は井上さんの鳴きを邪魔しながら手を仕上げました。

 この辺で一度、流れを変えた方がいいと感じたから。

 

「っく」

 

 そうそう思い通りに行くと思われては困りますよ? 今度は井上さんがかぶる番。

 これだけ早い仕掛けです、井上さんの麻雀なら安牌確保が間に合ってない筈ですね。

 そして……。

 

「ロン。混一色、發、ドラ3に赤ドラ、跳満ですね? 12,000点です」

 

 ドラを増やしてお返ししますね? あまり波に乗られて離され過ぎる訳にもいかないわ。

 そして次の南三局は津山さんが親です、もう一度ゆっくり観察させてね。

 

 私はいつも通り観察を続けることにしたの、後半戦に備えて……。

 

美穂子 side out

 

 

モモ side

 

「さっきのポンで流れが変わった。風越の福路さんは様子見することが多いけど、ここぞという時にはあがってくる」

 

 京さんの調査結果は詳細で、特に強ければ強いほど入手し易い牌譜から風越のキャプテンさんを丸裸にしてるっす。

 能力持ちかはハッキリしないって言いながらも、それがどうして通ると判断できるのかわからないケースが多いから、多分能力持ちだとは言ってたっす。

 

「じゃあ、このまま波に乗るっすか?」

「いや、様子見だと思うぞ? ここまでの感じからして観察に徹してる。

 たださっきは手牌が良かったのと、龍門淵の独走を許さないために楔を打ち込んできた。

 見られてるのは清澄とウチだな、後半戦は一層厳しくなりそうだ」

 

 なるほど……、やっぱり情報は大事っす。これはどんな結果が出ても京さんには感謝してもしきれないっすね。

 対策を検討できたのは京さんの調査結果があったから。それに私達だけじゃ清澄と龍門淵の情報をあそこまで正確には手に入れられなかったっす。

 

『前半戦も南三局! 現在のトップは名門、風越女子! 次いで昨年の覇者、龍門淵高校ですが僅差です!

 新鋭の二校では流石に厳しいのか、特に清澄高校が苦戦しています!』

 

『いや、そうとも言い切れない。特に鶴賀の先鋒の相手はずっとエースだった、だがここまでの試合でまったく振ってない。

 ポイントゲッターが後ろに控えている以上、元点で十分なんだろう』

 

 この態度の悪い人が藤田プロ……、まくりの藤田って異名があったっすね。

 

「やっぱり藤田プロはわかってるな、流石は“まくりの女王”。

 ウチが厳しい? どこに目を付けてるんだか、この解説者。

 藤田プロの言う通り津山先輩はしっかり自分の麻雀を打って振りはしてない。

 それどころか出あがりしてる分だけ役目以上、メンバー構成を把握してから言って欲しいな」

「ホントっすね、能力持ち三人と闘って元点以上なら言う通り実質勝ちっすから!」

 

 私は初心者だった京さんがここまで強くなるとは流石に思ってなかったっす。

 けど、今の鶴賀で一番強いのは間違いなく京さん。私は自分のことの様に嬉しいっすよ?

 だって、それだけの努力を最初から見て来たのは私だけなんすから……。

 

モモ side out

 

 

優希 side

 

 東場でまったくあがれなくて、南場でもそれは同じ。それどころか振り過ぎて……。

 ! 駄目だじょ! どんな時も全力を尽くすって京太郎との麻雀から学んだ私が諦めちゃ!

 

 確かに南場は苦手だけど逃げたら余計酷くなる! 今できるのは少しでも多く点を残して南場を切り抜けることだじぇ!

 後半戦の東場で盛り返すためにも、これ以上は失点しないじょ!

 

 ん? なんかいつもの南場より手牌が良いような気がするじょ? とにかく頑張るじぇ!

 

 あれ? 本当に手が進む……。でも、どうしよう……。

 このままあがりを目指す? それとも守りに? 迷ったまま手なりに進んだら……。

 

「リーチだじぇ!」

 

 私は結局攻める麻雀を選んだんだじょ、だってそれが私だから。けど……。

 

「チー」

 

 ノッポ! いい加減にして欲しいじぇ! 思った通りツモってこれなくなったじょ!

 

「ロン」

 

 へ? ポニーテールがノッポの捨て牌であがった?

 

「七対子、ドラ2。25符4翻は9,600点です」

 

 命拾いしたじぇ……、私は失点が怖くなって次からは守るって決めたんだじょ。

 リーチ棒、勿体なかったじぇ……。

 

優希 side out

 

 

睦月 side

 

 清澄を狙っていた龍門淵から当たり牌が溢れた、なら遠慮なくあがらせてもらう……。

 鶴賀の麻雀は基本堅守、チャンスを逃したりは絶対にしないしできない。

 

 何かあったのか龍門淵は驚いてるが……、ここは今まで同様冷静に堅守して行こう。

 

 南三局一本場、手牌はまあまあといったところ。安牌を確保しながら安全に打っていく……。

 引きはそれなりに良い、聴牌まで二向聴か。だけど無理は禁物だ……、安牌を十分確保しなくては。

 

 ……妙に警戒されてるな、龍門淵と風越に。私は特別なことなど何一つしてないんだが。

 そう思いつつ私は鶴賀の麻雀を貫く。常に観察し、そこから情報を得て振らず、機会があればあがる。

 だから気づいた、龍門淵の聴牌気配に。折角得た点を必要以上に減らす必要はない、親に拘る理由も。なら……。

 

「ノーテン」×3

「聴牌」

 

 龍門淵は悔しそうだが、これでいい。私の役目は振らないこと、あがるのはオマケの様な物だ……。

 千点棒を出して前半戦オーラスを迎える。ただただ役割に準じ、次へと繋げるために。

 

睦月 side out

 

 

衣 side

 

 キョータローは約束を守ってくれた、ジュンの顔を見ればわかる、何か起きてる(・・・・・・)と。

 だが、その何かがわからぬ。まるで雲を掴むが如し、能力持ちで無いことだけは確かなのだが。

 まさかキョータローと同類か? にしても特有の違和感の無さからそれもあり得ぬ……。

 

「おかしいですわね、純が振るなんて。まだ風越相手ならわかりますが、鶴賀の先鋒は堅いだけですわ」

「……純は驚いてた、流れを感じなかった?」

「そういう生き物ってこと? そうは見えないんだけどな、僕には」

 

 うむ、良い線までいってると思うが衣にもわからぬ。()()()()! キョータロー!

 しかし、見事と言っておこう、友達の手腕に!

 

『ノーテン』×3

『聴牌』

 

 見事に稼いで凌ぎ切ったな、ジュン相手に対等とは。先鋒でこれならば大いに期待できるというもの。

 此度も楽しませてくれるな! やはりキョータローは、そこらの有象無象とは違う。

 衣は嬉しくて仕方なかった、これまでの相手は歯応えが無いにも程があった(・・・・・・・・・・・・・)からな。

 

『先鋒戦前半終了! ほぼ三校が横並びで後半戦を迎えます! 清澄高校の巻き返しなるか!

 五分の休憩後、同じ面子による後半戦を開始します! 御来場の皆さんは……』

 

 ジュンには後で聞くとしよう、一体何が起きたのかを。衣はそれを楽しみにしていた……。

 

 

 【先鋒戦前半終了時結果】

 龍門淵高校 二年 井上 純   109,300点(+ 9,300点)

 風 越女子 三年 福路 美穂子 109,700点(+ 9,700点)

 鶴 賀学園 二年 津山 睦月  111,600点(+11,600点)

 清 澄高校 一年 片岡 優希   69,400点(-30,600点)

 

衣 side out




何故か原作を踏襲しつつ睦月が振らない様にしたら、トップになっていた。
何を言ってるかわからねぇと思うが、俺にもって感じです、正直。

いやはや、睦月には自覚がありませんが、周りは違和感を感じる様です。
後半戦はちょっと時間下さい、マジで知恵熱出そうw

ちなみに筆者の表現力不足でわかりずらいかも知れませんが勘弁して下さい!
これでも必死に書いたんですー!

そうそう、京太郎が清澄にいない以上、タコスは誰も準備できません。
こんな所でも弊害が出るんですから、京太郎は清澄が勝つために必要な仲間だったと私は思っています、少なくとも優希には。
今後、どうなるかはわかりませんが。


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三本場 後半 先鋒戦 凌ぐ睦月、試練の時間を

が、頑張ったじぇ……。


優希 side

 

 休憩時間、私は後半戦用のタコスと大切な物を取りにいこうと会場を出たら……。

 

「ほれ、これじゃろ」

 

 そう言って待っていた染谷先輩が手渡してくれたんだじぇ、半分のタコスと“京太郎の手紙”を。

 

「苦しいのう、じゃが簡単には負けられん。そうじゃろ?」

 

 頷いた後、私は何度も読んだ京太郎の手紙を読み返す。

 

 

“片岡優希様へ

 

 最初の頃は楽しかったな、優希。

 咲はいなかったけど五人で代わる代わる打った麻雀、今も思い出すぜ?

 東場では好き放題されて、でも南場で取り返して。あの時期が俺にとって最高の時間だった。

 

 咲が入部して、俺は実力不足からサポート係として居場所を残して貰えた。

 だからサポート頑張ったんだけど、本当は俺も打ちたかったんだ。

 強くなるために、そしてまた楽しくみんなで過ごすためにもな?

 

 だから四日間、俺は俺にできる方法で意欲を見せたつもりなんだが……。

 まあ、過ぎた事はしょうがない。これを読んでるなら俺が転校したってことだからな。

 

 転校先は環境が整ってて、仲間に迎え入れてくれるそうだ。

 俺は強くなるぜ? そして大会に出る。

 

 優希、転校するから清澄を応援できないけど、お前はお前の麻雀を頑張れよ!

 俺も自分の麻雀で勝ち抜いてみせるからな、みんなが驚く位に!

 

 最後にひとつだけ、「親しき中にも礼儀あり」って言葉を覚えとけ? お前のためにな。

 

 元清澄高校麻雀部 サポート係 須賀京太郎より”

 

 

「私は馬鹿だじぇ……、ちゃんと京太郎は教えてくれてたのに」

「……なんのことかは聞かん、じゃが大切な事が書いてあったんじゃろ?

 なら後半戦で示すしかない、わかっとるな?」

 

 私はもう一度頷く。最初に読んだ時、決めたんだじぇ! 絶対全国へ行くって!

 追い出しちゃったのは私にも原因がある、ならそれだけの結果を示さなきゃいけないんだじょ!

 

「気合い入ったじぇ! 後半戦は……勝つ!」

 

 私は席に戻る、取り戻した意欲と強い想いを胸に……。

 

優希 side out

 

 

純 side

 

 なんだ? チビの様子が……。ちょっとカマかけてみるか。

 

「タコスより焼き鳥が似合ってるぜ?」※麻雀用語で焼き鳥は一度もあがらず終わった事を指す。

「だからどうしたんだじぇ? 好きに呼べばいいじょ」

 

 何があったか知らないが立ち直ってやがる。いやそんなもんじゃないな、こいつは。

 だが、その強気な態度も始まるまでだ。あんないい奴を追い出したお前達、誰が許しても俺は許さないからな!

 

「お二人共? 仲良く、ね?」

 

 風越か……、勝負の最中にお優しいことで。そんなだからウチに負けたんだ、まあ衣相手じゃ当たり前だけどな。

 それにしてもチビは黙々とタコスを食ってやがる、やる気十分ってことか。

 

『只今より後半戦、スタートです!』

 

 またチビからスタート、順に鶴賀、俺、風越。しかもチビから良さげな気配がするな、どうする?

 四万点差だ、ここは普段なら見送るんだが……。

 

「リーチだじょ!」

 

 こいつはっ! 流石にほっとけねえぞ、行くかっ!

 

「チー!」

 

 やばい気配に俺は喰った、流れを変えるために……。

 

純 side out

 

 

ゆみ side

 

「本当に流れを変えられるんだな……」

 

 私は清澄の一発を潰した鳴きに呟く。

 

「ええ、それが純さんの麻雀です、流れをコントロールして優位に立つという。

 アレをやられると今見た様になって極論あがれなくなるんです」

「防ぐ方法はあるのか……?」

 

 いや、そんな都合よくある訳が……。

 

「ありますよ。純さんを上回る能力持ちか、奪い切れない程の豪運があれば」

「……なるほど、簡単なことではないが能力で打ち破れないなら運を味方につける……か」

 

 そこに丁度、今のシーンについて解説が流れてきた。

 

『それにしても龍門淵高校の井上選手、時折不可解な鳴きが見られますが……どう思われますか?』

『そうだな……、断言はできないが手の進み具合や良し悪しを察してる雰囲気はある』

 

 流石はプロと言うべきか、見ただけでそこまで把握できるとは……。

 

『私にはとてもそんなことができる様には思えませんが、藤田プロは如何ですか?』

『……私にもムリだ。まあ、なんとなくならともかくな。それに私にはあの鳴き自体、訳がわからん。

 そうだな……、強いて言うなら流れが存在していて操っている(・・・・・・・・・・・・・・)様に見えんこともない』

 

 その後、須賀君と藤田プロの言葉を裏付ける様に清澄はあがれず。

 

『ロン、發のみ。30符1翻は1,300点です……』

 

 先程のチーで回ってきた發によって津山があがり、結果清澄の親は流れることに。

 まったくもって厄介な代物だ、能力というヤツは。私はそう感じながらも津山の健闘を見守り続けた。

 

ゆみ side out

 

 

優希 side

 

 まだだじょ! 私は絶対諦めない! 親じゃなくても東場には変わりないんだじぇ?

 なら、この私があがれない訳がない(・・・・・・・・・)! もっと勝利への意思を強く持つんだじょ!

 

 京太郎は数日で私達と闘えるまで自分を鍛えた! なら私はこの対局中にでも強くなってみせるんだじぇ!

 牌は応えてくれてる、ならノッポに負けないだけの意志でねじ伏せてみせる!

 

 最高打点じゃなくてもいい、とにかくあがるんだじょ! 絶対に負けられないんだから!!

 そんな想いに応えてか手牌はどんどん伸びてく。でも、もっと、もっとだじぇ! ノッポに邪魔されても稼げるだけの手を私に!!

 そして高得点が期待できて裏が乗れば数え役満を聴牌、私は勝負に出る!

 

「リーチ!」

 

 あれ? ノッポが鳴かない? ……違う、鳴けない(・・・・)んだじぇ!

 やっぱり東場は私の物だじょ、誰にも譲るもんか!! 

 

「ツモ! リーチ、一発、ツモ、清一色、一気通貫!」

 

 裏に期待するけど乗らなかったじぇ、でもやっとあがれた!

 

「裏は無し、三倍満は6,000/12,000だじぇ!」

 

 見たか、ノッポ! 私はもっと強くなる、京太郎に誇れる様に!

 この調子で一気に稼いでみせるじょ、まだ元点にも届いてないんだから!

 

優希 side out

 

 

睦月 side

 

 ……ツモだけは防げない、しかも親かぶりでほぼ元点。けど、私にできるのはただ一つ。

 苦しくても耐え忍んで、チャンスをモノにするだけ……。

 

 そして、わかったことが一つ。龍門淵が能力持ちでも鳴けない時はあるという事。

 能力も万能じゃない証拠……、ただそうなれば清澄が今の様に猛威を振るう。それでも私は鶴賀の麻雀を冷静に貫くと改めて誓った。

 

「リーチ!」「ポン!」

 

 清澄のリーチ、曲げた牌を龍門淵が鳴いて一発は消えた、これで清澄は……。

 な!? どうして手牌を? まさか!

 

「ツモ! 混一色、一盃口、發、ドラ1! 倍満は4,000/8,000だじぇ!」

 

 どういうことだ……、もしかして龍門淵の能力を上回った、とか? この短時間で?

 そんなことがあり得るのだろうか……。いや、現実を冷静に受け止めるのが基本、情報を整理して対処する鶴賀の麻雀を打つのみだ。

 龍門淵はもう清澄を止められないかも知れない……。なら焦りからミスが出る筈、狙い目は鳴いた龍門淵の捨て牌。

 

 そして私の予想は当たることになる……。

 

睦月 side out

 

 

純 side

 

 どうなってやがる!? 鳴いて流れを変えた筈が変えきれてない(・・・・・・・)なんて初めてだぞ!

 この対局中にチビの能力が俺を超えたっていうのか!? くそっ、そうとしか考えられねえ!

 

 かと言って放置すれば打点はもっと高くなる、鳴かない訳にもいかねぇ……。って、またか!

 

「リーチ!」

 

 いや! 今度は鶴賀から鳴ける! 好きにはやらせねぇぞ!

 

「チー!」

 

 よし! 今のはいい感じだった、後はコイツを切って……。

 

「……ロン」

 

 なんだと!? 俺の捨て牌を狙ったっていうのか? 流れが希薄でコイツを見逃した!?

 

「七対子、ドラ2。6,400点です……」

 

 くそっ! 俺はしくじったのか!? 清澄に構い過ぎて目を離し過ぎだ! 何やってるんだか!

 こうして後半戦は南入した、チビと鶴賀にいい様にやられて……。

 

純 side out

 

 

透華 side

 

「京太郎の色が見えますわね、あの打ち筋。それにしても純は何をしてるんですの!?」

「落ち着け、トウカ。清澄の気配が後半戦から強くなっていた、ジュンを超えたのだ」

 

 私は思わず衣に振り向きましたわ、そんなことが……。

 

「休憩時間に何かあったとしか考えられん、それが原因で意思力が純を上回った。

 能力は意思に大きく左右される、清澄の先鋒は意思力を引き上げるのに成功したのだ。

 それ自体は認めてやろう。だが、どちらにせよ衣が全てを覆す! 皆は安心して自分の麻雀を打つがいい」

 

 京太郎との出会いは衣に良い刺激を与え続けてますわね、敵を認めるなんて考えられなかったことですわ。

 そして、それ以上に麻雀への情熱が芽生えた事実。それをわたくしは、いえ、わたくし達は嬉しく思ったのです。

 

「頼もしいですわね、そうさせてもらいますわ。とはいえ、衣まで保つかは保証できなくてよ?」

「それならばその程度の相手だっただけのこと、全国で衣の力を見せ付けるまで。

 だが、鶴賀との麻雀は打ちたいものだ。またジュンを喰った先鋒だけ見ても期待以上だからな。

 今もジュンを狙い打った、本当にキョータローは衣を楽しませてくれる!」

 

 そう言った衣は不敵に笑いましたわ、わたくしの言った様にはならないとでも言う様に……。

 

透華 side out

 

 

美穂子 side

 

 もう観察は十分ですね、ここからは私達風越の番ですよ? 皆さん。

 片岡さんの東場は終わり、井上さんは動揺しています。津山さんは相変わらず冷静ですね。

 さあ、始めますよ? 私の麻雀を。まずは井上さんに沈んで貰います、雪辱を晴らすために。

 

 既に井上さんがリーチしているのですが、片岡さんの理牌癖から見て聴牌したようです。

 前半戦では無かった南場でのあがりができそうなんですね? ですがリーチするのを躊躇っている……。

 

 私は閉じていた目を開きました、オッドアイの右目を。こうすることで普段以上に“視える”のが私の能力。

 捨てたいのは……ドラの七筒、リーチに対して悩んでるのね? 大丈夫、それは通るのよ?

 私の視界に映る七筒は完全に安牌、だから道を作ってあげる。

 

「ロン、断么、ドラ2に赤ドラ。 満貫は8,000点です……」

 

 え? 私が津山さんに振ったの? 右目を使った視界で見落とすのは初めて……、どういうことかしら?

 まさか井上さんが振って驚いたのもコレが原因……、なら他の人と一緒に削るのは諦めるしかありませんか。

 私自身が振った以上、“何かがある”のは確かね。ここは津山さんの弱点、ツモで勝負するしかないようです。

 あとは基本的に井上さんを削りながら親まであがり続けますね?

 

「ポン!」「ロンです、30符2翻は2,000」

 

 ごめんなさいね? 片岡さん。

 そして甘いですよ、井上さん。私は能力に頼りきりではありません、鍛え続けた技量こそが最大の武器。

 これからは狙いますね、井上さんを。龍門淵を倒すために。

 

「ツモ、赤1。80符2翻は1,300/2,600です」

 

 そして迎えた南四局は私が親。みんなのためにも連荘して、少しでも多く稼ぎますね?

 

「ロンです、中のみ。30符1翻は1,500」

 

 一本場。

 

「ロン、断么。30符2翻2,900の一本場は3,200です」

 

 二本場。

 

「ロン、白のみ。30符1翻1,500の二本場は2,100です」

 

 三本場。

 

「ロンです、断么、赤1。7,700の三本場は8,600」

 

 そして四本場。

 

「ノーテン」×3

「聴牌」

 

 流石にそういつまでも続く訳がありませんね、ですがこれで一応トップ。

 井上さんは十分に削りましたから、あとをみんなに任せましょう。

 

 それにしても津山さんが何をしたのか結局わからなかったわ。

 

『先鋒戦終了! リードしたのは名門、風越女子! しかし三校が僅差で並ぶ展開となりました!

 龍門淵高校の巻き返しはなるのか! 次鋒戦に注目が集まります!』

 

 アナウンスが流れる中、私はそれだけが気になっていた……。

 

 

【先鋒戦最終結果】

龍門淵高校 二年 井上 純    69,900点(-30,100点)

風 越 女 子 三年 福路 美穂子 113,300点(+13,300点)

鶴 賀 学 園 二年 津山 睦月  109,000点(+ 9,000点)

清 澄 高 校 一年 片岡 優希  107,800点(+ 7,800点)

 

 

美穂子 side out




優希は原作でいうところの一皮剥けた状態一歩手前となり、現状の純では流れをコントロールし切れなくなった結果、プラス収支。
睦月は振らずに耐え忍び、隙を見てはあがったため、これまたプラス収支。
その余波で美穂子は原作より稼げませんでしたが、純を原作以上削ることに成功。
これで次鋒戦がよりスリリングになりましたね!

ちなみに強調したい部分とテンポ重視の部分を設けた結果、美穂子が割りを食いました。
美穂子ファンの方、勘弁してください(汗


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四本場 前後 次鋒戦 妹尾佳織は鶴賀の切り札

さあ、役満のかおりん登場です!


京太郎 side

 

 あのメンバーの先鋒戦をプラス収支で終えた津山先輩が控え室に帰って来た。

 ほっとしたのか表情が柔らかくなって、お互い笑顔で讃えあうのが微笑ましいな。

 

「見事だったな、津山。能力持ち三人を相手にプラス収支だ、私は誇りに思うぞ」

 

 ははっ、加治木先輩が誉め殺して、津山先輩はタジタジ。でも、その言葉が相応しい闘いぶりだったのは事実だ。

 

「ホント凄いっす! 特に龍門淵の鳴きからの捨て牌であがった時は痺れたっすよ!」

「……アレは須賀君のお陰。思い出したからな、つねに冷静な観察の大切さを。それで鳴いた後の油断した捨て牌を狙ってた……」

 

 そう言って貰えるのは嬉しいけど、あの場でそれをやるのがどれだけ難しいか。

 今後を考えるなら自信をつけてほしいな、油断は禁物だが。なら……。

 

「いえ、津山先輩の実力です。必要な時に必要な思考ができたなら、俺の力じゃありませんよ」

「そうだぞー、とにかくお疲れ〜。で、次は佳織の番だぞ? 準備はいいかー?」

 

 なんだかんだ言って部長もちゃんとやることはやってるんだよな、勘違いされがちだけど。

 

「須賀君から貰った御守りも持ったし、大丈夫だよ? 智美ちゃん」

「妹尾、いつも通りでいいんだ。周りを気にせず楽しんで来い、そうすれば結果も付いてくる」

 

 そして、加治木先輩が締めると。まったくよく出来たメンバーだよ、鶴賀は。

 

「うん、加治木さん。それじゃあ行って来るね!」

 

 そう言って妹尾先輩は笑顔で会場に向かう、俺達の声援を受けつつ部長に背中を押されて……。

 

京太郎 side out

 

 

佳織 side

 

 みんなはとても優しくて、私にいつも通りでいいって言ってくれた。

 でもね? 津山さんの頑張りを見た私も、初心者だけど頑張ろうと思うんだ。わからないなりに出来ることがある筈だから。

 

 須賀君の御守りを握ると、なんだか頑張れそうな気がしてきて。だって、この御守りには須賀君の想いが詰まってる。

 自分だけじゃなく私達のために一杯手伝ってくれた須賀君、だからその想いに私は応えたい。

 

『決勝戦次鋒の選手を紹介します。

 リードをさらに広げることができるのか! 風越女子二年、吉留未春!

 僅差の新鋭、トップを奪えるのか! 鶴賀学園二年、妹尾佳織!』

 

「ちょ、ちょっと押さないでも行くから! 智美ちゃん!」

「ワハハ、いいからいいから」

 

 紹介が放送される中、グイグイ押してくる智美ちゃんは私を心配してくれてる。でも大丈夫、私も鶴賀学園麻雀部の一員なんだから、ね?

 

『此方も僅差の新鋭、名門風越を捉えられるか! 清澄高校二年、染谷まこ!

 大波乱、昨年の王者は巻き返せるのか! 龍門淵高校二年、沢村智紀!

 まもなくスタートとなります、選手の皆さんは……』

 

 アナウンスを聞きながら会場に入ると足が止まる、ここが決勝戦の場で津山さんが闘ってた場所。

 もう他の三人は先に来ていて私を待ってたみたい、まだ時間には余裕があるけど気合いが入ってるのかな?

 

「佳織…」

「大丈夫だよ、智美ちゃん。私も精一杯闘ってくるの、今できる全力で、ね?」

 

 そう言うと智美ちゃんに笑顔を見せてから席に向かったの、私も闘いの舞台へとあがるために……。

 

佳織 side out

 

 

まこ side

 

 優希はあの厳しいメンバー相手にようやった、東場で稼げなかった前半戦分以上に後半戦で稼ぎ出して元点を超えたんなら上出来じゃ。

 しかも前回全国出場校の龍門淵が最下位っちゅうオマケ付き、あとはワシらが風越と鶴賀から稼ぐだけじゃの、任せとき!

 

 そして始まるウチの挑戦。起家は鶴賀、ウチ、風越、龍門淵の順じゃ。

 

 ワシはいつも通り眼鏡を外す、こうすることで今まで見てきた無数の対局の似たような状況を記憶から引き出して打つのがワシの麻雀の特徴。

 実家が雀荘で素人はこない(・・・・・)からの、あらゆる局面が記憶にある。そうそうミスを犯さないのがワシの強みじゃ。

 勿論、普通の雀力も客観的に見て低い訳じゃなか。つまりウチの麻雀は実力と記憶を活かしてこそっちゅうことになるの。

 

 さて配牌は……、悪くはないの。じゃが今はまだ勝負手と言えるほどでもなか、ここは慎重に進めるかの。そう思って数順後……。

 

 「リーチ」

 

 風越のリーチ、先鋒戦の勢いか? そう考えながら引いてきた牌は七筒、浮いてるのは中、さてどうするかの。そしてワシは記憶を引き出す。

 ……似たような状況を見つけたで、これは危ないの。ウチは中を引き入れて七筒を切った、ここはオリじゃな。

 

 って鶴賀の! 生牌の中を切るのはなんでじゃ!? 振り込むぞ!?

 

「ロン」

「ヒャア!?」

 

 ヒャアじゃなか! 何考えとるんじゃ、言わんこっちゃない。

 

「リーチ、一発、中。40符3翻、5,200」

 

 今の打ち筋から見てこの下家は素人臭いの、これは鴨か? ウチはそう思いながら彼女を見ていた………。

 

まこ side out

 

 

智美 side

 

 私は控え室で佳織の対局を見て思わず口にした。

 

「態と教えなかったとはいっても佳織は下手っぴぃだなー、ワハハ」

 

 まあ、役満のためだしなー。仕方ないんだけど、佳織には悪いことしてるって思ってるぞ?

 

「だが、蒲原のツテとはいえ彼女が入部してくれたからこそ団体戦に出ることができた。

 しかも、その得点力は鶴賀で最高なのだから本当にありがたい話だ」

 

 佳織はなー、私の幼馴染権限で連れて来たからなー。

 

「始めは出れるだけでって思ってたんだけどなー、キョウタに会って絶対に勝ちたくなったんだぞ?」

「そうなんですか? まあ、それがなくてもきっと同じ気持ちになっていたと思いますよ。

 みんな、なんだかんだ言って負けず嫌いですから」

 

 それは違うぞー、でもキョウタはそう思ってるんだな? まあ水を差す必要もないから……。

 

「ワハハ、そうかもしれないなー。とにかくここまで来たんだ、絶対勝つぞー」

「ああ、勿論だ。そのために私達は鍛え上げたんだからな」

「そっすね、このまま全国っすよ!」

 

 佳織、一緒に全国だぞー。私は心から佳織の勝利を願った……。

 

智美 side out

 

 

佳織 side

 

 格好良く? わからないなりにできることはあるからって思ったけど現実は厳しいよね。

 今もチョンボ? だけはしない様に私は三つずつ揃えようとしてる。

 

 ん? あれ? あっ!

 

 「リーチします!」

 

 リーチの時は千点棒を出す、だよね? うん、大丈夫。これはちゃんと出来た、役? はよくわからないけど。

 そして二巡後……、き、来た!

 

「ツモです!」

 

 えっと、これを捲って裏ドラ? を確認してから私は手牌を見せる。

 

「リーチ、ツモ、対々和……でしょうか?」

「それは! 四暗刻じゃ!」

 

 ヒャア! ビックリしたぁ。そうだった、これって“すーあんこー”って言うんだったね。点数は、点数は……。

 

「点数ですか? 子ですから32,000点ですよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 また、よくわからないけど点棒が一杯。でも、これで私もみんなの役に立てたんだ、このまま頑張ろう!

 私は須賀君のお守りを握り締めて、そう思っていました。

 

佳織 side out

 

 

透華 side

 

「あっはっはっは! キョータローは衣を笑い殺す気か!?」

 

 ぐぬぬぬ、何をしてますの、智紀!?…って。

 

「いつまで笑ってるんですの、衣!?このままでは終わってしまうんですのよ!?」

「しかしだな、これを笑わずしてどうする。衣達を追い詰めているのは素人、なのに役満を平気で上がってくる輩。

 そしてキョータローは先鋒に続き次鋒も期待以上を用意した、ある意味でだ」

 

 それはそうですが……って、それどころではありませんわ!

 

「って、またですの!?」

 

 素人ですから当然振りもしますが、ツモった時の打点が高い!

 

「大きく削られているのは清澄。因果応報、天罰覿面という物だ。

 その証拠に清澄が親の時ばかりツモる、トモキはその分を他家から回収して維持。

 このままなら今度は清澄が喰われるのみ、問題なかろう」

「……そう言われればそうですわね。でしたら、わたくし達が稼ぐのみですわ!」

「そうだね。まだ次鋒戦が終わった訳じゃないけど、僕も稼ぐから」

 

 今年は去年より格段に強い衣がいますし、勿論わたくしも原村和に負けるつもりはありませんわ。

 原村和、いいえ、のどっちを最初に地に墜とすのはわたくしですから!

 

「それにしても素人なのにとんでもない得点力だよね、この人。能力持ちには見えないんだけどな、僕には」

「能力など持っておらんぞ、ただし運が寄り付く様だ」

「それはそれで厄介ですわね、対策の立てようがありませんし」

 

 衣の感覚はずば抜けていて、この手の内容を外したことがありませんわ。

 

「まったく、京太郎はどこから見つけてきたのかしら」

 

 智紀の闘いを見ながら、わたくしはそう呟いたのです。

 

透華 side out

 

 

久 side

 

「参ったわね」

 

 私は優希と二人、控え室で対局を見ていた。咲と和は、和の寝不足解消に仮眠室で休んでる。

 

「何がだじょ?」

「鶴賀の次鋒が素人っていうのがよ、優希」

 

 私も想定してなかったわ、まさか素人が大会に出てくるなんてね。

 

「運よくあがっただけで、振りまくってるじょ? いつまでも続かないじぇ!」

「それがそうでもないのよ、まこにとってはね」

 

 そう言ったのは、()()まこが降りた時。

 

「まこはさっきも話した通り、過去の膨大な記憶から最適解を探すわ。けど、そこに初心者のデータ(・・・・・・・)は無いのよ。

 雀荘に来るお客さんに素人はいないって言ってたしね、それが仇になって鶴賀の妹尾さんについて読み切れない。

 そして、降りた結果……」

 

『鶴賀学園の妹尾選手、またしてもツモ! 振った分を大きく超える得点で鶴賀学園がダントツのトップ!

 二位の風越女子との差は三万点程に開きました!』

 

「という様にツモるチャンスを与えてしまってるのよ、そして他校も乱されてるわ」

 

 結果、次鋒戦は鶴賀の独走。私達は少なくない点を失って三位まで後退することになった……。

 

久 side out

 

 

佳織 side

 

 終わった……、私は点数を見てホッとしました。みんなに迷惑をかけたくないし、少しでも長く一緒にいたい。

 沢山協力してくれた須賀君にも報いたい、それだけを願った私の闘いは鶴賀のトップという結果。

 

 後は智美ちゃん達を信じて応援するから、みんなで全国に行こうね。

 そう思いながら戻った控え室で待っていたのは……。

 

「かおりん先輩、最高っす!」

「ヒャア!」

 

 いきなり現れた桃子さんに抱きつかれてビックリしました。

 

「モモのいう通りだなー、佳織。本当に良かった、大活躍してくれて私は嬉しいぞー!」

「あの、私なりに頑張ってみたので、その……」

 

 智美ちゃんにも褒められて思わず、しどろもどろになってしまいました。

 

「ああ、十分どころか最高だ、妹尾。あの収支に不満などある訳がない、そうだろう?」

「ええ、妹尾先輩は最高の成績を残したんですよ。もっと誇っていいんです」

「加治木さん、須賀君……」

 

 思わず涙腺が……、でもまだ早いよね。泣くなら全国が決まってからがいいって私は思ったので我慢したんです。

 そうするうちに加治木さんが話し始めました。

 

「蒲原、わかってるな?」

「当たり前だろー? ユミちん、振らず逃げ切ってみせるぞー!」

「当然だな、蒲原が連れて来た妹尾がここまでやったんだ。なら、それに応えるのは蒲原の役目。

 とりあえずは昼休みだ、今はリラックスして次に備えよう」

 

 こんなに嬉しそうな智美ちゃん、初めて見たかも。それにあんな真剣な顔……。私はそう思いながら、みんなとの昼休みを楽しく過ごしたのでした。

 

 

【次鋒戦最終結果】

龍門淵高校 二年 沢村 智紀   58,400点(- 9,900点)

風 越 女 子 二年 吉留 未春  112,100点(- 1,200点)

鶴 賀 学 園 二年 妹尾 佳織  141,200点(+30,600点)

清 澄 高 校 二年 染谷 まこ   88,300点(-19,500点)

 

佳織 side out




いやー、先鋒戦より情報の無い次鋒戦。
あったのはかおりんがリーチ・一発・中を振って5200減、四暗刻をツモって32000増の二つだけ!
それと三回まこが親かぶりでかおりんにやられたってことのみ!
なので、原作と全く同じ点数だけ動かし、それぞれの控え室をお送りしました。
(また、風越が無いんですが。みはるんも二言しか話してないと言うのは勘弁してください)

着々と点を稼ぎトップに立った鶴賀、中堅戦には久が出てきますね。
はてさて、ゴッソリ減っている龍門淵とそれに次ぐ清澄。風越はトップに返り咲けるのか、次回をお楽しみに!グフッ(反応が無い、ただの屍の様だ……)


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五本場 前半 中堅戦 仲間・友人・共感、そして

先に明記しますが、私は決してどこの誰のアンチでもありません。
ただ京太郎を主人公としたこの物語では今までの経緯からこうなった、ただそれだけだと御理解下さいね?


智美 side

 

 昼休みが終わる少し前に私は控え室を出て必ず鉢合わせになる場所で待っていた、どうしても確認したかったからなー。

 

「あれ? 確か鶴賀の部長さんだったよね?」

 

「おー、そうだぞー? そっちこそどうしたんだー? はじめっち」

 

 声をかけて来たのは龍門淵の中堅、国広一だから“はじめっち”で決まりだなー。

 

「はじめっちって……。まあ、いいけどもしかして待ってる(・・・・)?」

 

「そうだぞー、そっちもかー?」

 

「当然だね、大切な友達が酷いことされた。黙ってられないでしょ?」

 

 キョウタの友達っていい奴ばっかりだなー。それと実は私も詳しくは知らないんだよなー、何があったかは。

 

「はじめっちは、キョウタが何されたか知ってるのかー? 私はコレしか知らないんだー」

 

 そう言ってモモのアンケートを取り出した。

 

「何それ? アンケート? 見てもいいかな?」

 

「キョウタの友達ならいいぞー、それ以上知ってたら教えてほしいんだけどな?」

 

 そう言った私に、はじめっちは頷いたんだー。

 

智美 side out

 

 

一 side

 

 なるほどね、だから京太郎は鶴賀に行くって決めたのかあ。僕はアンケートの答えを見てそう思った。

 それに次鋒はちょっと別だけど、先鋒の麻雀は京太郎の色が出てて上手くやってたのが伝わってくる。

 そして、僕と同じ様にここで待ってるこの鶴賀の部長。うん、これは伝えるべきだね。

 

「なるほどね、京太郎が僕達の誘いを断って鶴賀に行った理由がわかったよ」

 

「キョウタを誘った!?」

 

 ああ、それも知らないんだ。ホント京太郎は律儀だよね、別に言ったっていいのにさ。

 

「うん、京太郎が僕達と打ったのは知ってるんだよね?」

 

「おー、それは知ってるぞー?」

 

「その時、うちに誘ったんだけど待ってくれてる人がいるって断ったんだよ、京太郎は」

 

 流石に想定外だったのか、驚いたみたいだ。まあ、当然だよね。どう考えても龍門淵の方が鶴賀より実績があるんだから、去年の全国出場校だしね。

 でも今の鶴賀を見る限り、京太郎の判断は正しかったって僕には思える。

 

「で、京太郎が何されたかだったよね? 簡単に言えば部活をさせて貰えなかったんだよ。

 雑用を全部京太郎に任せて教えもしないし打たせもしない。

 

 京太郎が頼んで最後に打った時には負けたくせになんて言ったと思う?

 流石にびっくりしたよ、『一緒には打たない』って部長自ら部員に宣言したんだ。

 

 そうだよね? 清澄の部長さん」

 

「……否定しないわ、私の内心はどうあれ事実だから」

 

 僕は気づいていた、途中から聞いていたこの人に。だから事実だけを話したんだ、絶対言い逃れできない様にね。

 

「ねえ、知ってる? うちの大将、天江衣は能力やそれに類似した物に詳しくてさ。

 その衣によると京太郎の影響力って本当は無かった筈の物なんだって」

 

「え? でも、実際に……」

 

 鶴賀の部長さんは黙って聞いてる、この人は想像より手強そうだ。今も(はらわた)が煮え繰り返ってる筈なのに冷静さを極力保ってる。

 

「うん、実際には発現したよ? それは条件を満たしたからなんだってさ」

 

「条件……」

 

「そう、条件。それは次から次へと失ったからだって衣が言ってた。

 心当たりがあるんじゃない、清澄の部長さんにはさ?

 だから自業自得なんだよ、最後のトリガーを引いたのは清澄の麻雀部と部員だったんだから」

 

 僕は言わなきゃいけないことをそのままぶつける、少しでも京太郎の痛みを伝えるためにね。

 

一 side out

 

 

星夏 side

 

 私は聞いてしまった、そして自分がどれだけ恵まれていたのか再認識して。同時にそのキョウタロウという人がキャプテンの存在しなかった私に聞こえて……。

 キャプテンは大所帯の風越で雑用を全部1人でやってまで私に、私達に打って強くなる時間を作ってくれた優しい人。

 そんなキャプテンがいて応援してくれたから校内ランキング78位の私が2か月で5位まで上げることができたし、団体戦メンバーになれたんだ。

 

 そう思ったら私は行動していた。同情じゃなくて共感、そして絶対に許せなかったから。

 

「失礼します。

 私は風越女子の文堂星夏といいますが清澄高校の竹井さんに一つだけ伝えさせて下さい」

 

 突然話しかけたので驚いたみたいだけど返事はすぐに来た。

 

「……何かしら」

 

「風越女子が大所帯なのはご存知ですよね?

 その雑用を全部進んでやってくれたのはキャプテンの福路美穂子先輩です。

 部員が少しでも多く打って強くなれる様に、と言ってくれました。

 その結果、私は団体戦メンバーになれたんです。それだけ伝えさせて貰います。

 

 では卓でお会いしましょう、貴女には絶対負けませんから」

 

 普段の私なら出ない言葉が口をついて出て、私は会場へ向かおうとしました。

 

「……あのなー、私の麻雀をよく見ておけよー(・・・・・・・・)

 

 隣からそう聞こえて。

 

「さ〜て、僕も行こっと。君、いい啖呵だったよ」

 

 逆からも。

 

 私達は3人並んで会場入りしました、多分同じ気持ちを抱いて……。

 

星夏 side out

 

 

久 side

 

「参ったわね……」

 

 去っていく背中から熱を感じる、それも3人全員。それぞれ須賀君との関係性は違うけど、どうも標的は私1人になったと見て間違いない。

 それでいて正直なところ私はショックを受けていた、龍門淵のいう通りなら全ての原因は……。

 

「けど負ける訳にはいかないのよ、私も」

 

 追うようにして会場に入ると丁度選手の紹介が始まった。

 

『県予選決勝中堅戦の選手を紹介します!

 大波乱! 現在最下位は昨年の覇者! 龍門淵高校二年、国広一!

 二位からトップへ躍り出るか! 風越女子一年、文堂星夏!

 次鋒戦でダントツのトップに立った新鋭! 鶴賀学園三年、蒲原智美!

 ここから昇り詰めることができるのか! 清澄高校三年、竹井久!』

 

 まあ、好き放題言ってくれるわね。でも、私には丁度良い。逆境でこそ悪待ちは活きるんだから。

 起家は龍門淵、私、風越、鶴賀の順か。配牌は五向聴って微妙な手ね、でもまあ自分のやり方で行きましょう!

 

 淡々と進み、八巡目。完全に裏目った、いえ、この一萬が来た意味って……。そして九巡目、来た!

 

「リーチ!!」

 

 さあ、相手になってあげようじゃない! と息巻いてみたものの全員現物ってどういうことよ。

 それが切れたら今度は生牌!? 

 

「聴牌」

「ノーテン」×3

 

 まさかよね? 私は途轍もなく嫌な予感に襲われた……。

 

久 side out

 

 

一 side

 

 風越と鶴賀の捨て牌、現物のうちは理解できたけど生牌になって意味がわかったよ。

 「よく見ておけよー(・・・・・・・・)」っていうのは清澄の攻略法だったとはね、どうもこの人、悪い待ちにするとあがれるらしい。

 開いた手牌から確認できた、まず間違いないね。あとはそれに騙されないようにだけ気をつければ敵じゃない。

 

 東二局も清澄は聴牌、けど誰も振らずに手牌が晒される。もう間違いない、清澄はツモ以外ではあがれない!

 なら、最下位から追い上げるとしようか! 透華が買ってくれた正攻法の麻雀で!

 

 一本場、配牌から最短で手が仕上がった。これなら行ける!

 

「リーチ!」

 

 僕のリーチに堅い鶴賀、競争率の激しい中で一気に昇り詰めた風越は手堅くオリてくる。まあ、そうだよね。

 で、清澄の悪待ちさんはどうかなって見てたんだけど……。へー、こういう時はしっかりオリてくるんだね、清澄の部長さん?

 でも出あがりなんか僕は期待してない……、来い!

 

「ツモ! リーチ、一発、ツモ、断么、平和。跳満の一本場は3,100/6,100!」

 

 うん、僕は真っ直ぐな僕のまま勝ってみせる! さあ、これからだよ!

 

一 side out

 

 

靖子 side

 

 久、完全に研究されてるぞ。私は東一局と二局でそう結論付けた、でなければあのオリ方はおかし過ぎる。

 

「先程から清澄高校の竹井選手が聴牌すると安牌はわかりますが……。

 生牌を次に選ぶというのは理解できませんね、如何ですか? 藤田プロ」

 

「そうだな、だがそうでなければあがっていた。

 なんらかの理由があるんだろう、ここからではわからない何かが」

 

 私と久は気の合う知り合いだ、当然久の麻雀はよく知ってる。だがこの先がある以上、迂闊に話せん。

 

「それに比べて龍門淵高校の国広選手は正攻法で着々と追い上げていますね」

 

「元々実力のある雀士だ。鶴賀は堅守、風越も無理をしていない、そして清澄はあがれず。

 なら必然的に龍門淵が追い上げるだろう?」

 

 粛々と進む対局、徐々に盛り返す龍門淵。そうこうしているうちに前半戦が終わる。

 久は完全に抑え込まれたな、後半戦でどうなるか……。

 

「トップは依然として鶴賀学園! 次いで風越女子と順位に変動はありません!

 大きく盛り返したのは龍門淵高校! 実力を遺憾無く発揮して唯一のプラス収支!

 清澄高校は3校にあがりを阻まれ、苦しい状況で後半戦を迎えます!」

 

 私はそんな実況を聞きながらも鶴賀に注目していた、次鋒はともかく先鋒と中堅の堅さが並じゃない。これで初出場、しかも能力持ちが今のところ出ていない。これはまったく読めなくなってきたな……。

 

 だが大将戦まで縺れれば天江衣が出て来る。

 今の天江は昨年と違って遊びが無く、麻雀を打たされていない(・・・・・・・・・・・)

 清澄の大将も大概だが今の天江に勝てるか? 私はそう思いながらモニターを見ていた……。

 

靖子 side out

 

 

星夏 side

 

 キャプテンが教えてくれた攻略法、そのお陰で被害は最小限に抑えられた。そして、竹井さんの手作りもあれだけ開けば当然わかる。

 私は前半戦、他校も含めて見ることにしていた。竹井さんがいなければ違っただろうけど、お陰で私はまた強くなった実感がある。

 

『5分の休憩の後、同じメンバーによる後半戦を行います。御来場の……』

 

 アナウンスが流れる中、誰も卓を離れずに座っていた。私は竹井さんの手作りと国広さんの手作りを思い出しながら後半戦での巻き返しに備える。

 蒲原さんは堅くて見る機会が無かったけど、勝てないとは思えなかった。

 

 ……やりようはある。今ならそう自信を持って言えます、キャプテン。だから見てて下さい、キャプテンのくれた時間で恩返ししますから。

 そして覚悟して下さい、竹井さん。キャプテンが昔苦しめられた分、私が共感したキョウタロウという人の分。受け取って貰います、絶対に。

 

 その上で風越は全国へ行くんです。だって私は風越女子の序列5位、文堂星夏。貴女達を倒す者なんですから!

 

 

【中堅戦前半結果】

龍門淵高校 二年 国広 一    76,700点(+18,300点)

風 越 女 子 一年 文堂 星夏  104,900点(- 7,200点)

鶴 賀 学 園 三年 蒲原 智美  136,300点(- 4,900点)

清 澄 高 校 三年 竹井 久    82,100点(- 6,200点)

 

 

星夏 side out




完封された久。
鶴賀は京太郎から、風越はキャプテンから。
龍門淵は智美の言葉と捨て牌から悪待ちがバレていますので当然こうなります。
後半戦はどうなるかわかりませんが……。

ちなみに原作では不遇だった文堂さん、私はあの努力と意気込みを買っています。
咲という物語は、能力持ち以外だと割と不遇な扱いが多いです。
しかし、能力持ち以外が勝てないなら余程好きでない限り誰も麻雀しないんですよ、私が思うに。
ですから、誰もが活躍できるんだという想いで書いています。


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五本場 後半 中堅戦 蒲原智美は鶴賀の部長也

さあ、中堅戦後半スタートです!

追記
お気に入りの増減を見ていると清澄派の方が多い様です。
うーん、こればっかりは“この物語上”、どうしようもありませんね(汗

ちなみに筆者には誰派もどこ派もありません。誰でも応援しますし、どこでも同じ。
ただ本当の努力をした能力の無いキャラは熱が入る感じです、原作で活躍できなかったとしても。
勿論全員努力してるんでしょうが、能力がぶっ飛んでるとそれだけで勝ててる“様に見える”ので無い人を応援したくはなりますね。


久 side

 

 悪待ちは使えなくなった……な〜んて思う訳ないのよね、甘いのよ。

 私がただ開いてみせると思う? アレは撒き餌(・・・)なの。東二局で悪待ちがバレてると察して態と(・・)見せた、後半戦の布石ってヤツよ。

 

 悪待ちだけなら勝てないでしょうけど、そこに定石通りの麻雀を混ぜたら? 当然疑心暗鬼になって迷いが出る、それが私の狙い。悪待ちだと思って切った生牌であがられ、定石通りに切ってもあがられるっていうのはキツイわよ?

 

 それに私達は絶対負けられないの、結果として須賀君っていう犠牲を出していながらこんな所で終わっていい筈がないじゃない。勝つしかないのよ、私達は。そうじゃなきゃどんな顔をして須賀君に謝ればいいのかわからないわ。

 

『只今から後半戦のスタートです!』

 

 さあ、ここからが本番よ、久。全員をペテンにかけて清澄勝利への道を開く、それが部長である私の役目。三年待った最初で最後の団体戦で全国制覇するために!

 

「ふ〜ん、まだ諦めてないんだ? でもさ? 何考えてるか知らないけど……。

 思惑通りいくなんて思ってるなら流石に舐めすぎじゃないかな?」

 

 起家は私、鶴賀、風越、龍門淵。席決めと同時にそう言ったのは龍門淵の中堅、国広一。

 私は表情に出してなかった筈……、ならこれはひっかけの可能性もある。ここは上手くやり過ごすしかないわね。

 

「舐めてなんかないわ、ここからどうやれば巻き返せるっていうのよ。

 ただ私は諦めが悪くてね、最後まで足掻かせて貰うわ」

 

 怪訝な表情……。騙し切れてはいないみたいだけど、確証もないって所ね。でも、それで十分なのよ。そうやって悩ませることができれば上出来なんだから。

 私は最初の牌を切る、この後半戦で巻き返して勝利に繋げるために……。

 

久 side out

 

 

智美 side

 

 早速キョウタのアドバイスが効いたなー。

 この人の言うことを真に受けるなって言われたんだぞ、私は。言動も行動も仕草や表情に至るまで信用するなってなー? 見るべき所もしっかりアドバイスしてくれた。

 だから、何をやっても私には通じないぞ? それにな? どうも幸運の青い鳥は清澄を見離したみたいだ。

 

「リーチ!」

 

 ……なるほどなー。キョウタありがとう、実際に見て意味がよくわかった(・・・・・・・・・)ぞー。

 私は迷わず筋を切った(・・・・・)、手の内は割れてる。そして席順が意味を持った。

 

 全員が私の捨て牌に驚いたけど、文ちゃんもはじめっちも私に倣う。だってな? 今回は普通(・・・・・)だから読みが利くんだぞー。

 

 それにリーチは首を絞める、今の清澄じゃツモってこれない(・・・・・・・・)からな? だって自分の打ち筋じゃないんだぞ? そういう所がここって時に大事だってキョウタは教えてくれた。

 

 だから私は鶴賀の麻雀を貫くんだぞ。よーく観察して相手を知る、それができて初めて成立する守りを重視しながらチャンスにあがる(・・・・・・・・・・・・・・・・・)麻雀をなー。

 そして筋が通るってわかれば手作りもできる、こんな風にな?

 

「ロン、七対子、赤1、ドラ2。満貫は8,000だぞー」

 

 清澄の部長はドラで手作りすることが多い。

 でもなー? それは悪待ちの時にあがれるから意味がある(・・・・・・・・・・・)

 けど、普通の麻雀を打ってリーチした時にはかえって邪魔になるんだぞ。引いてきちゃうだろー? 不要なドラをな? だからそこを狙った(・・・・・・)

 

 清澄から溢れるドラを狙った単騎待ち、同じドラを使って点を稼ぐ手作りでお返しするぞ? そして私は告げる。

 

「なー、知ってるか? 鶴賀には幸運の青い鳥がいるんだぞ?」

 

 三人共ポカンとしてる。まあそうだよなー、でも最後まで聞いとけよー?

 

「清く澄んだ水辺が濁ったから春に移ってきてなー、今は鶴達と仲良くやってる。だからな……」

 

 そこまで言うと私は一度言葉を切って……

 

「鶴賀が清澄に負ける訳が無い!」

 

 今の言葉、しっかり覚えておくんだぞ? もうこの中堅戦で清澄が勝つ可能性はゼロなんだからなー。私は溜まりに溜まった怒りを、キョウタへの感謝と尊敬を込めて叩きつけた。

 

智美 side out

 

 

京太郎 side

 

「部長……」

 

 俺はそこまで想われてるとは思ってなかった。

 清澄での経験が怖くて最後の最後が踏み出せなかったんだ。

 みんなを信用してなかった訳じゃないけど、もしかしたらまた……って思いがどうしてもブレーキをかけててさ。

 

「京さん、良かったっすね。やっぱり京さんの居場所はこの鶴賀っす!」

 

「ああ、私も蒲原やモモと同じ想いだ」

 

「勿論、私もです!」

 

「うむ、その通りだ……」

 

 次々とかけられる声、そのどれもが温かくてさ。俺は自分の馬鹿さ加減を知ることになった。

 

「それにしても蒲原にしては随分と思い切ったな、何かあったか?」

 

「……恐らく、部長は話したんだと思います、竹井さんと。

 

 前半戦からずっとおかしいとは思ってました、その不自然さもそれなら説明がつくんです。

 そして、その場に他校も鉢合わせた、そうとしか考えられません」

 

 部長は随分早く控え室を出た、そして待ち伏せしたんだと今更気づいて。それなら辻褄が合うんだ、全てに。

 

「そして、なんらかの方法で攻略法を伝えた……か。なるほど、筋は通っている。

 蒲原にしては考えたな。余程腹に据えかねたらしい、三校で潰そうとするとは」

 

 そうこう話してる内に一さんや風越までがあがり出した、席順が悪待ちかそうでないかを伝えるのに一役買ってる。

 なるほど、俺のことは置いとくが部長曰く青い鳥は竹井さんを見限ったらしい。

 

 俺はただただ部長の麻雀を目に焼き付ける、鶴賀は負けないと言い切ったその麻雀を……。

 

京太郎 side out

 

 

一 side

 

 この打ち筋、京太郎にかなり近い。ならアドバイスしたのも京太郎だね。だって短いとはいえ同じ部に所属してたんだ、その間に癖を見抜いた(・・・・・・)

 だから判断できる、そして周り順が清澄を追い詰めてくんだ。やっぱり鶴賀の部長さんは想像以上に強いよ。流石は京太郎だね、しっかり衣との約束を守ってくれた。

 なら僕もそれに応えなきゃ、京太郎の友達として、衣の家族としてさ。

 

 今度はダマで悪待ち……ね、ならこっちもダマでいくよ? 振り込みたくないし。

 あ、でもここで飛ばしたらウチが負けちゃう、なら聴牌で流すか風越からあがるかだね。今の衣なら鶴賀との点差位は簡単にひっくり返せるからさ。

 そうこうしてるうちに清澄が降りて流局、聴牌は僕一人だからこれで南二局だね。

 

 鶴賀としては飛ばしたいんだろうけど、また悪待ちかあ……って風越も聴牌した。うん、よくわかってるね、ダマで正解だよ。

 鶴賀の部長さんはしっかりオリた、やっぱり堅いや。僕は悪待ちと風越の筋を避けながら手作りしていく、清澄は運に見放されたのかツモれない。

 そして張った、二校の現物を切って勝負に割り込む。

 

 うん、やるなあ、風越の子。今、牌を引き入れて手を変えた。しっかり安牌を切って、あがりも目指し続けてる。

 まあ、僕も負ける気は無いからね、同じ事をさせて貰うよ。けど今の清澄に同じ事ができるかな? ふ〜ん、しぶといね。まだ食らいついてくる気力があるんだ、でもこの局は僕が貰う!

 

 そこからは三校での捲り合いになったんだけど先にあがったのは僕だった、相手は勿論清澄。

 

「ロン、断么、赤1、ドラ1。30符3飜、3,900!」

 

 自分の麻雀が打てないっていうのは窮屈であがり辛い、鶴賀の部長さんが言ってたようにね。

 さて、もう少し稼ごうか!

 

一 side out

 

 

星夏 side

 

 あがれはしなかったですが現状維持、まだまだ私は行きたい。蒲原さんのお陰で竹井さんの打ち筋変化がわかるのに助けられている。

 そして南三局は私の親です、この面子だと厳しいけどそれでも! キャプテン、見てくれていますか? 私はキャプテンの時間をお返しできていますか? 必ずプラス収支で次に繋いでみせますから応援してくださいね、キャプテン。

 

 そんな想いに牌は応えてくれた、これであがってみせる! 私の、文堂星夏の積極的な麻雀で!

 

「ダブルリーチ」

 

 安牌はたった一つ。清澄は許せないけど風越の勝利が最優先、どこからでもツモってでも私は点棒を積み上げるんだ。

 幾ら蒲原さんが堅くても……って、同じ北!? え? 国広さんも? 待って、まさか……。

 

 清澄が切った時点で私の親は流れた、四風連打(スーフーレンダ)で。

 ※一巡目に風牌(東・南・西・北)の一種が四連続で出た場合を指す、通常親は流れる。

 

 こんな時に出なくても……。違う、私のミス。可能性から除外する位に視野が狭まってたんだ、ダブルリーチに目が眩んで……。

 でも、まだ終わってない! オーラスは私があがって終わらせるんだ!

 

星夏 side out

 

 

美穂子 side

 

 文堂さん、今のは仕方ないわ。私はそう思ってモニターを見つめていました。そして文堂さんはオーラスであがろうと今も諦めていません、なら私は応援するだけです。

 ここまで竹井さんを抑えて三人共あがっています、アドバイスした文堂さんはわかりますが他校はどうやって……。当初はそう思っていたけれど、鶴賀の蒲原さんがキーだってわかったわ。

 それがハッキリしたのは後半に入ってから、竹井さんが打ち筋を変えても聴牌した時点で蒲原さんは見切ってるの。

 きっと癖があるのね、流石にそこまでは見つけられなかったのだけど。

 

「凄く惜しかったし!」

 

「四風連打なんて、まず出ませんから仕方ないですね」

 

 華菜や吉留さんが口々に今の四風連打について話してる、なら私も。

 

「そうね、文堂さんはいい麻雀を打ってるわ。あの場面なら私も同じことをしたもの」

 

 きっと文堂さんはミスしたって思ってる、でも大丈夫よ? あれはミスじゃなくて文堂さんの麻雀。チームの誰も文堂さんを責めたりしないわ。

 だから最後まで頑張って。二か月でここまで来てくれた文堂さんなら、またあがれるって私は信じてるから。

 

美穂子 side out

 

 

久 side

 

 今のは正直言って助かったわ、それにしても四風連打なんて珍しい。まあ、稀にこんなこともあるわよね。特にダブルリーチになんか誰も振り込みたくないから当然よ。

 それにしても参ったわね、鶴賀は私がどっちで張ってるかがわかってる。私の知らない癖でもあるのかしら? そしてあったなら伝えたのは須賀君……。

 それだけだったらまだ対処のしようもあったんだけど、周り順が最悪。

 

「言っただろー? 青い鳥は鶴達と一緒だぞって。

 鶴賀には最高のブレーンでコーチがいる、清澄がよく知ってるなー」

 

 ……須賀君はそこまで強くなったのね、そして各校のデータを調べたのも須賀君。だからブレーンでコーチ、そうなんでしょ?

 そして、どちらにしてもオーラス。私はまだ一度もあがれていない、どうすればいい?

 

 いえ、悩む必要は無いわね。ここまで来たら読まれていようが私は私の麻雀を打つのみよ、そう優希に言ったのは私なんだから。

 

 手牌はここまでで一番いいわね、あとはしっかり仕上げていきましょう。ありがたいことに聴牌すれば警戒してくれるんだから最悪3,000点は貰える、けどもっとよ。

 ……聴牌したならリーチして攻めるわ、悪待ちで必ずツモって見せようじゃない! あがれないって決まった訳じゃないんだから!

 

 それにしてもなにかしら? この微かな違和感……って余計なこと気にしてられるほど余裕は無いわね。私は自分の麻雀に集中する、勿論他の様子も見逃さない。

 ん、この牌の来た意味って……。いつもの感触に私は自分の麻雀を打ち続ける、まだ聴牌した相手はいない。けど油断はできないわって言ってる側から鶴賀が聴牌したわね、って風越も。龍門淵は上手く躱して手が進んだ? そして……来た!

 

「リーチ!」「ロン」

 

 なっ! 筋は読み切ったわって、まさかっ!?

 

「悪待ちには悪待ち、鶴賀の守りは勝つために堅いんだよなー。

 それにさっき教えたぞ? 誰がコーチかってなー。断么、ドラ2、30符3翻は3,900」

 

 シャボ待ちですって! ならあの河は……。

 やられたわね、まさか私が悪待ちに振るなんて。しかもあの河は須賀君仕込みなのね? それを最後だけ使ってきた……、完敗よ。

 

『中堅戦ついに決着! 鶴賀学園が点を稼ぎトップを堅守!

 次鋒戦に続き風越女子がそれを追う展開!

 龍門淵高校は中堅戦最多得点で次に託します!

 清澄高校は完封され、厳しい状況に追い込まれましたが副将戦に期待しましょう!』

 

 

【中堅戦最終結果】

龍門淵高校 二年 国広 一   79,600点(+21,200点)

風 越 女 子 一年 文堂 星夏 112,300点(+ 2,200点)

鶴 賀 学 園 三年 蒲原 智美 149,200点(+ 8,000点)

清 澄 高 校 三年 竹井 久   57,900点(-31,400点)

 

 

久 side out




京太郎は清澄時代に久の癖を見つけていましたよね?
それと席順が後半戦の勝負を決定付けました。

文堂さん、惜しかったんですがそれでも原作以上の活躍でしたね。
一は原作同様、やれば出来る子でしたw

今回の久は原作と違って完全にメタられたので活躍できず。
代わって鶴賀の部長こと智美が存在感を示した回だったと言えるでしょう。

さて、次からは強豪犇めく副将戦。
がんばえ〜、もも〜と幼児化しつつ応援します、私はw


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六本場 前半 副将戦 のどっち、リアルに降臨す

さー、副将戦前半がやって参りました! 早速どうぞ!


モモ side

 

『さあ、県予選決勝! 副将戦です!

 現在、初出場の鶴賀学園が二位の名門風越女子に三万点リード!

 このまま逃げ切るのか、それとも大逆転劇が起きるのか!

 果たしてどのチームがインターハイへのチケットを手にするのでしょう!

 副将戦に注目が集まります!』

 

 これから打つ相手が京さんの麻雀に影響を与えた原村和……、私がそう思いながら歩いていると走り抜けて行く人が。

 あの制服は……。会場の入り口に近づいた頃、目の前には龍門さんが立ち止まっていたっす。

 

「原村さん! 頑張って!」

 

「宮永さん…!?」

 

 ドアの隙間から見えたのは、応援するその声に腕を突き上げた原村和の姿。

 ……なんなんすか? それ。どうして京さんにはそうやって声をかけなかったんすか? 応えてあげなかったんっすか?

 

『副将戦、三分前です! 選手の紹介を始めます!

 さてこの副将戦、やはり注目はこの選手でしょう!

 一年生で日本一強いかも知れない昨年のインターミドルチャンピオン!

 清澄高校一年、原村和!!』

 

 うるさいっすよ、解説者さん。私の前であんまりその名前を出さないでほしいっすね、京さんを追い出した学校の名前を。

 

『そしてもう一人、県屈指と呼ばれるデジタル派!

 昨年の全国大会でも脅威の和了(ホーラ)率を誇った龍門淵高校二年、龍門淵透華!!』

 

 ああ、龍門さんは目立ちたがりなんすね? 出待ちってヤツっすか。私とは正反対……って、なんか雰囲気がおかしいっす。

 ツカツカと無言で卓へ向かった龍門さんは原村和に近づくと……。

 

「友人の痛み、この場で返させていただきますわ!」

 

 そうっすか……、そうっすね。龍門さんの言う通りっす、ちゃんと京さんのには友人も仲間も。そして私がいるっす!

 

『昨年に続き堅実な技術で今年もレギュラーを射止めました! 風越女子二年、深堀純代!

 初出場ながら堅牢な麻雀でここまで来ました! 現在トップの鶴賀学園一年、東横桃子!』

 

 そんな紹介を聞きながら私は卓へ。証明してみせるっすよ、京さん。京さんの、鶴賀の麻雀が最高だって!

 席決めが始まる中、私は京さんへの想いを胸に御守りを握り締めた……。

 

モモ side out

 

 

透華 side

 

 ここまでの打ち筋から言って、まず間違いなく原村和がのどっち(・・・・)……。ネットと全く同じとは言えませんがリアルの情報を上手く処理できていないのでは? と、わたくしは予想しています。

 

 馬鹿馬鹿しい話ですがあのペンギン、普段の環境に近づける意味があるのではなくって?

 どちらにせよ、京太郎の意趣返しものどっち(・・・・)の敗北もこの場で成し遂げて見せますわ!

 

『副将戦、開始です!』

 

 起家は風越、清澄、鶴賀、わたくしの順。わたくしは自分の打ち方を貫いて、あなたを絶対に倒させていただきます!

 そして始まった東一局の八巡目。

 

「リーチ」

 

 風越がリーチですか、この状況ではオリるしかありませんわね。鶴賀は……、愚問でしたわ。京太郎がコーチして、この程度判断できない筈がありませんわよね。

 結局、堅い面子だけに流局。風越が3,000点増えましたか、まあすぐに取り返しますから構いませんわ。

 

 続く東一局一本場も七巡目……、よくありませんわね。原村和が聴牌してますわって、それは!

 

「ロン、断么。30符1翻の一本場は1,300です」

 

 風越が振って原村和の親ですか……、ここは切り替えていきますわ。

 配牌はいい感じの二向聴、両面十分ですわね。無理に鳴かずあがりを目指しましてよ!

 

「ポン」

 

 發を鳴いてきた? 聴牌が近いんですの?

 

「チー」

 

 二副露! しかしまだ張ってはいませんわね。

 そしてこちらは一向聴! さあ、いらっしゃいまし!!

 ふっ、来ましたわ! 行きますわよ? 皆さん、よろしくて?

 

「リーチですわっ!」

 

 わたくしの気合いを他所に揃ってベタオリ……、原村和はそれだけの手牌でオリきれるつもりなんですの? そんなわたくしの疑問などどこ吹く風と流局……、本当に堅い面子ですわね。

 それにしても原村和、のどっちのプレッシャーには未だ至らず……。まだ本調子では無い様ですわね、冷静に観察を続けるわたくしはそう思っていました。

 

透華 side out

 

 

和 side

 

 東三局流れ一本場ですか……。

 不思議ですね、今までこんなことはなかったのに私は緊張していました。

 

「リーチ」

 

 風越がリーチ……。

 

 よくよく思い出してみれば中学団体戦は早々に敗退して機会がありませんでしたし、逆に今の状況は相当厳しい。

 (わだかま)りが完全に無くなったとは言えませんが、チームでの勝利をかけた決勝は初めてでしたね。

 そして宮永さんが、須賀君が見ている! この決勝で私が証明するためには対局に集中して清澄に勝利を! ……そうは思っても思い通りにいかないのが麻雀です。

 

「聴牌」

 

「ノーテン」×3

 

 東四局流れ二本場ですね……。

 

 ……今ならわかります、部長の意図が。エトペンを持つこと、ツモ切りを無意識な物にすること。全ては緊張していても私を最高の状態、部屋でネット麻雀をしている時と同じにするため必要だったという訳ですね……。

 

「ポン」

 

 中を鳴いて二向聴。

 

「ポン」

 

 七筒を鳴いて一向聴。

 

「チー」

 

 三筒を鳴いて聴牌、そして……。

 

「ロン、中のみ。40符1翻の二本場は1,900」

 

 今の私には、全てがネット麻雀の様に見えてきていました……。

 

和 side out

 

 

咲 side

 

 ……南一局、原村さんはここまで少しずつ稼いでる。堅い面子だから流局も多いけど、それでも着実に原村さんの麻雀で。私は信じてる、二人で交わした約束をきっと守ってくれるって。そして配牌を見たみんなが話し始めた。

 

「対子が五つだじぇ、ここはチートイ一択だじょ」

 

「役牌もドラも無いわ、そうでしょうね。少なくとも私ならそうするわ」

 

「うちは染め手が得意じゃけん、染めれそうなら鳴いてくがの」

 

 それぞれの打ち筋から、みんなはそう言ってたけど原村さんはどうだろう?

 

『ポンですわ!』

 

 龍門淵透華さん、だったっけ、鳴いて二向聴。断么、ドラ4ならそれが普通だよね。そして原村さんは引いてきた牌で聴牌、これはいけるかも。

 

『清澄高校の原村選手! この局面、なんと二巡目で聴牌!

 しかも深堀選手の切った当たり牌を見逃しました!

 これはどういうことでしょう? 藤田プロ』

 

『原村はリーチをかける気なんだろう、そのためにあがる確率が高い待ちを狙ってる(・・・・・・・・・・・・・・・)

 既に使った牌は15種、二回に一度は待ちが良くなる計算だからな。

 私がまくるなら使う手でもある』

 

 そういうことなんだね、原村さんの麻雀ならそうかもしれない。そして原村さんは西を積もって……。

 

『リーチ』

 

 カツ丼さんの言う通り、西に待ちを変えて原村さんはリーチをかけた。

 

『原村選手、西単騎でリーチ! 一枚は場に出ていますから残りは二牌!

 藤田プロの言う通りになりましたね』

 

『まあ、その程度、雀士なら計算するさ。

 それはそれとしてだ、この堅い面子から出あがりは期待してないだろうな。

 原村はツモる気でこの待ちを選んだ』

 

 あっ、龍門淵さんが西をツモって……オリた。そして九巡後……。

 

『ツモ、七対子。25符4翻は1,600/3,200点です』

 

 そう言った原村さんは顔を赤らめて柔らかい表情、ここから原村さんの本当の強さが発揮されるんだと私は確信した。

 

咲 side out

 

 

透華 side

 

 南二局早々、原村和の様子が変わったのと同時に強烈なよく知るプレッシャー(・・・・・・・・・・)。そうですか、やはりのどっちは! これでより一層倒し甲斐があるという物ですわ!

 とはいえ、この手牌。いえ、わたくしはわたくしの麻雀を打つ、それを忘れてはいけませんわね。心は熱く、頭は冷静に。例えそれが誰相手だろうとも。

 そうこうするうちに風越が聴牌……、ですがわたくしもでしてよ? 我慢比べと行きましょう!

 

「聴牌」×2

 

「ノーテン」×2

 

 流局……、流石にもどかしくなってきましたわね。幾ら堅い面子とはいえ異常ですわ、流石に我慢の……いえ、もう一度耐えてみせます。それで駄目な時は……。

 

 ともかく南三局流れ一本場、ここで……。

 

「ポン」

 

 この飛ばれさる不快感、いい加減ウンザリですわ。それに風越は索子を二副露、染め手が見え見えでしてよ。そして七巡目……。

 

「リーチ」

 

 親の鶴賀がリーチ? 京太郎の麻雀から行けば危険ですわね。そして風越が親リーの一発目に七筒ですって? こちらも張ったと見ましたわ。

 ……原村和からも聴牌気配、オリですわね。

 

「ポン」

 

 は? 中を鳴いてドラ3ってまさか! 待ちを増やした(・・・・・・・)ツモ狙いですの!?

 

「ツモです、中、ドラ3。30符4翻の一本場は2,100/4,000点です」

 

 やってくれましたわね、もう我慢の限界です!わたくしの親で仕掛けますわ! このわたくしが友人の仇も取れないなんて耐えられるものですか!

 

 そしてオーラス、十一巡目。断么、平和、一盃口、赤1 ……もう一手欲しいですわね。次順のツモは……原村和にできてわたくしにできないとでも? さあ待ちを増やしたこの一撃!

 

「リーチ! ですわ!!」

 

 ええ、そうでしょうとも。貴女達はそうやってオリていればいいんですわ、何故なら……。

 

「さあ、いらっしゃいまし! ツモ!!

 リーチ、一発、ツモ、断么、平和、一盃口、赤1、ドラ2、親の倍満!

 8,000オール、いただきます!! まだまだこれからですわ! 連荘でしてよ!」

 

 わたくしは声高らかに宣言しました。

 

透華 side out

 

 

モモ side

 

 そろそろっすかね……。

 私は待ってたっす、消える(・・・)のを。これだけ周りがバチバチやってて、やたらと目立つ存在が二人。ただ腕が良過ぎると消え辛い(・・・・)、だから待っていたっすよ、このタイミングを。

 

 これだけ衆目を集めれば私は意識の外、龍門さんには悪いっすけど利用させてもらうっすね。

 まずは前半戦を終わらせて、後半戦へ。そこが私の本領を発揮できる場、そのために京さんの麻雀で凌いできたっす。

 

 正直に言ってこの面子の中で本当なら私が一番脆かったっす、けど京さんとの日々が。あの合宿や毎日の対局がより一層私の体質を活かせる様にしてくれた。

 だからこその現状、そしてこれからも私は京さんが仲間だから鶴賀は強いって証明するために。あの日救って貰った命、私を孤独からも救ってくれた感謝を込めて頂点へ!

 

 っと、落ち着くっす。気持ちだけ先走るのは駄目っすね、京さんの教えがまた活きたっす。

 配牌は三向聴、まあまあっすね。まずは手堅く聴牌を目指して八巡目。

 

「リーチっす」

 

 捨て牌を見る限り、間違いなく消えてる(・・・・)っすね。できれば、あそこからあがりたいっすけど……そして十巡目。

 

「ロンっす、メンタン。40符2翻の一本場は2,900、これで前半戦は終了っすね」

 

 悪いっすね、龍門さん。いい手だったみたいっすけど諦めるっすよ? 無警戒で振り込んだ(・・・・・・・・・)龍門さんは驚いた顔をして前半戦が終わったっす。

 

『副将戦前半終了! 龍門淵高校と風越女子はほぼ元点、清澄高校はプラス収支。

 しかし依然トップは三万点差で鶴賀学園が堅守! 後半戦も要注目です!

 只今から五分間の休憩後、後半戦を行います。御来場の皆様は……』

 

 アナウンスを聞き流しながら私は廊下へ、やっぱり待ってくれていたっすね、嬉しいっす! 京さん! 加治木先輩も。

 

「モモ、消えた(・・・)みたいだな」

 

「いやー、流石に決勝は手強いっす、京さん。けど、これからっすよ?」

 

「ふっ、心強いことだな」

 

 私の命の恩人で世界一大切な人と、私を唯一見つけようとした人……。

 

「任せるっすよ、加治木先輩。

 私のリーチには誰も気づけないし、振ることもない。

 リーチにアタリ牌を打つことすら相手のフリテンになる。

 

 私は……存在しない」

 

「ちょっと違うな、モモ。存在しないのは卓でだけだろ?」

 

 京さん……。

 

「そうっすね!

 とにかくここからはステルスモモの独壇場、必ずプラス収支で繋げて見せるっす!」

 

「ああ、信じてるさ。だが、例外(・・)がいることを忘れるなよ?」

 

 そう言った加治木先輩と私が京さんを見ると肩をすくめて苦笑い、そしてこう言ったっす。

 

「モモ、これは俺の予想だけど影響力や体質も精神力に依存する。一応、覚えておいてくれ」

 

 私は京さんの言葉を疑わない、だからとびっきりの笑顔で頷いたっす!

 

 

【副将戦前半結果】

龍門淵高校 龍門淵 透華  95,500点(+15,900点)

風 越 女 子 深 堀 純 代 103,200点(-11,100点)

鶴 賀 学 園 東 横 桃 子 134,100点(-151,00点)

清 澄 高 校 原 村 和   67,200点(+10,300点)

 

 

モモ side out




展開としては原作と全く同じですが、心持ちはまったく異なります。

いやー、今回は情報過多。
パクリにならない言葉選びとかで色々と苦労しました、マジでw

とにかく楽しんで頂けたら幸いです!

なんかもモモの愛が重い? 私の書き方が悪いのかヤンデレ風味になってません?w


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六本場 後半 副将戦 逆鱗に触れる一言

さあ、吹き荒れろ!闘牌の嵐!


モモ side

 

『それでは注目の副将戦、後半を開始します!』

 

 起家は龍門さん、風越、原村和、私。けど、今の私には関係ないっす。

 目立ちたがりだけど友人思いの人とか、腹だたしい存在感のあるパーツを持つ人がいる。

 なら、その逆がいて当然っすよね? 私は存在感が無いなんてレベルじゃなく、表現するならマイナスの気配(・・・・・・・)。マイナスは声どころか捨牌まで巻き込んで誰にも聞こえず見えないっす!

 あっ、「京さん以外」が正確っすね。

 

 そして5巡後。龍門さん、一向聴っぽいっすね。なら……。

 

「リーチっす」

 

 私のリーチはダマと一緒っす。おや、いいのを張ったっすか、龍門さん?

 

「リーチですわっ!」

 

「ドラ切りでリーチ、いいんすか? それ。

 ロン、リーチ、一発、ドラ1。40符3翻は5,200(ゴンニー)っす!」

 

 あー、龍門さんの顔が怖いっすねー。

 

「貴女っ、しっかりリーチ宣言を発声いたしまして!?」

 

「したっすよ?」

 

 ……聞こえないだけで。

 

 そこでふと視界に入ったカメラ、機械を通せば私も沢山の人に見てもらえるんすね。この試合、きっと凄い多くの人が見てるんだろうけど私を見てくれるのは京さんだけでいいっす。

 

 京さんに出逢うまで私は自己主張しない限り認識されない存在で、子供の頃からどんどん酷くなる状況にうんざりしてコミニュケーションを放棄してたっす。そんなことをしていれば余計に拍車がかかったっすけど、どうでもよかった。

 

 けど、そんな私の命を救ってくれて。普通のコミニュケーションの楽しさを思い出させてくれて、普通の恋愛だって。

 なのにそんな京さんを追い出したのは絶対に許せないっす、そして私の存在を証明してくれた様に京さんの存在は私が証明してみせるっすよ! だからいくらでも頑張れる。私は頑張るっすよ、京さん!

 

「リーチ!」

 

 おっと、思い出に浸ってる場合じゃないっす。原村和、調子良いっすね。……でも私はもうオリない(・・・・・・)っすよ。そして、これが例え当たり牌だったとしても……。

 

「ロン、リーチ、一発、平和、ドラ2。満貫は8,000」

 

 そんな、はずが……。

 

「まさかっすけど……、見えるんすか、捨て牌が?見えないんじゃ……」

 

「見えるとか、見えないとか……。そんなオカルトはありえません(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 ……は? 今なんて言ったっすか? 見えるとか見えないとかありえないって……私の存在を全否定したっすね!!

 ただ見えるって答えならまだよかった、けどそれだけは絶対に認められないっす!! 私の孤独も苦しみもわからないくせに!!!

 

 『モモ、これは俺の予想だけど影響力や体質も精神力に依存する。一応覚えておいてくれ』

 

 その時、浮かび上がったのは京さんの言葉。精神力に依存するなら……。

 私は卓でだけこの体質を心から受け入れた(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

モモ side out

 

 

衣 side

 

 この瞬間を衣は決して忘れないだろう、その場に立ち会うなどまずもって希少。まさかこれ程の物を秘めていたとは!

 

「今、奇幻な手合が生まれた……」

 

「え?」

 

「ハジメ、トモキ、ジュン。……このままではトーカは負ける。

 覚悟だけはしておけ、点が残らなければ衣とてどうにもできぬ。

 説明など一切合切不要、刮目してみよ」

 

 東三局、鶴賀の妖異が目覚めたのはあまりにも早過ぎる序盤。これではいくら点を奪われるかわかったものではない。

 実のところ、衣はあの者から微かな気配を感じていた。トーカが二度も無警戒で振るなど異常、そう思い期待していたのだが……。

 

「衣相手ならばなんとかなろうに……、いや相対してみなければ断言はできんか。

 そして今のトーカでは……、あの面子ではそう簡単に止められるものではない。

 可能性があるとするならば、治水のトーカか……」

 

 見よ、先程までトーカ以上に見えていた清澄の狼狽を。効果まではわからんが絶対的有利を齎す物なのは間違いない。

 

「アレを凌ぐには三者の協力が有効、しかしそれはあり得ん。

 ここでもキョータローが影響してくるとは……、約束を守るにしても度が過ぎるぞ」

 

『東二局で振り込んだ鶴賀の東横選手。

 不可思議な行動はありましたが落ち着いての東三局になります。

 

 それにしてもあの堅い打ち筋から危険牌を切ってまで最速で聴牌を目指す強気な打ち筋。

 随分と思い切りましたね、藤田プロ』

 

『危険牌どころか当たり牌もだ、だが全員見逃している(・・・・・・・・)

 私にも理由は全くわからんが……、あの場で何か起きている(・・・・・・・)のは間違いなさそうだな』

 

 ふっ、一応はプロということか。

 ここで見る限り麻雀自体に何の違和感も無い、見た目はな。だが誰もあがらない(・・・・・・・)

 

『ロンっす、リーチ、一発、断么、平和、赤1。満貫は8,000っすね、返して貰うっす』

 

 ……本人以外はな、そして衣はこの対局から目が離せなくなっていた。

 

衣 side out

 

 

和 side

 

 私は、私にはもういつもの麻雀が打てなくなっていました。いえ、正確ではありませんね。何故か東横さんのリーチに気づかず、しかも筋から読み切れる当たり牌を切ってしまったのです。

 

「私の親番っすね」

 

 その声は普通なのに何故こんな不安を……、とにかくもう一度あの状態へ!

 こんな時ですが手牌は応えてくれました、後は私の麻雀を打つのみです。

 

 三巡後、聴牌。ここはリーチする場面ですね。

 

「リーチ」

 

 さらに三巡後、風越からの当たり牌に……。

 

「ロン!」

 

「いいんすか? それ、フリテンっすよ?」

 

「え?」

 

 そう言われて見た東横さんの捨て牌には確かに私の当たり牌が……、そんな!

 しかし、現実に私は見逃していてフリテンに間違いは無く……。親の東横さんに4,000、子の二人に2,000を……。

 

「東四局一本場っすね、続けるっす」

 

 淡々と過ぎていく中、私はなんとか聴牌まで漕ぎ着けました。しかし、一度崩れてしまった自信を取り戻すのは難しくて。

 

「ロン」

 

 東横さんの声に思わず怯えてしまいました、しかし振ったのは龍門淵。

 

「リーチ、混一色、發、ドラ3。親の倍満の一本場、24,300っす。二本場、続けるっすよ」

 

 リーチを聞き逃した? 龍門淵も驚愕の表情で……。けれど、そこにある現実に点棒を渡すしか私達にはできなかったのです。

 

和 side out

 

 

純代 side

 

 先程から何かがおかしい、インターミドルチャンピオンの原村和がフリテンするなどいい例。ここはもうツモるしかない、それ以外は危険だと私は感じていた。

 安くてもいい、とにかく鶴賀を流すのが最優先。親を継続されて振り込めば点差の広がりが大きすぎる。

 

 一向聴の配牌! ツモのみでもいい、とにかく私は流すために最速の聴牌を目指す。そして二巡後聴牌、まだ他は張っていない。仮に出たとしてもツモ以外ではあがらないと決めて次順。

 

「ツモのみ、30符1翻の二本場は500/700です」

 

 これでいい、そしてここからはひたすらツモを目指す。それ以外はあまりにも危険だと私の経験が訴え続けているのだから。

 

純代 side out

 

 

京太郎 side

 

「ステルス中のモモが振った時にはどうなるかと思ったが……。

 あれ以降は問題無い様だな、偶然か?」

 

 加治木先輩の話を聞きながら俺はずっと考えていたことを話す。

 

「いえ、モモのステルスに偶然は通用しません。

 少なくともあの時、理由はわかりませんが和には見えていた(・・・・・)

 

 ですが、その後フリテン。

 これは何かがきっかけになってモモの体質が強化されたと見るべきでしょう。

 それが和を上回った。精神力が影響するとの仮説、当たっていた可能性が高いです」

 

「確かにあの時、何か話していたが……。流石に、ここでは聞き取れんからな。

 

 そう話しながらも南一局を見続けている。モモの表情はどこか冷たく感じるな、何かあったのは確実だ。

 そしてモモは実力を遺憾無く発揮、五巡目で聴牌か。

 

『リーチっす』

 

 ……声に感情が乗ってない、心配だな。けど、今の俺達にできるのは応援することだけだ。

 

『リーチですわ!』

 

 透華さんの追っかけリーチ、本人は自分だけだと思ってるんだろうが。

 

『鶴賀の東横選手リーチ、負けじと龍門淵透華選手が追っかけリーチ! ああっと、これは!』

 

 風越が振ったか。

 

『ロン、リーチ、一発、南、ドラ1、裏1。満貫っすね、8,000っす』

 

『前半戦、あれほど堅かったメンバーが次々と東横選手に振り込んでいます!

 そして二位の風越とは七万点差! 鶴賀の独走状態です!』

 

 一度見破った和を抑えてしまえばモモは無敵だ、唯一の弱点といえるのが風越のやった速攻でのツモのみ。

 これは……、ちょっと待てよ? そう言えば純さんが何か言ってた様な……。そうだ、冷たい透華さんだ。けど、俺はどういう状態か能力かも知らない。

 

 どちらにせよ、まだ安心はできないな、なんせ衣さんと咲がいる。点差は多いに越したことはないけど……モモ、無理はするなよ? 俺は頑張るモモを応援しつつ同時に心配していた……。

 

京太郎 side out

 

 

透華 side

 

 なんなんですの、なんなんですの!? リーチ宣言を聞き逃し、捨て牌を見逃す? このわたくしが? ありえませんわ!

 ここまでくれば、もうなんらかの能力と見て間違いありませんわね! そして比較的安全なのは風越があがったツモのみですか。

 

 いくら京太郎のチームメイトとはいえ、この場では敵。原村和はのどっちに戻れない(・・・・・・・・・)ようですし、倒すべきは鶴賀ですわ。

 やることはただ一つ、最速で手作りしてのツモあがり。それまでに振ったなら当たりご不幸、いえ先にあがってみせます、絶対に!

 

 既に南三局、残り二回はわたくしがあがって終わらせる。そう決意しての配牌は良い感じの二向聴! ツイてますわね、ここで一気に追いつけという啓示に違いありませんわ!

 

 一巡目、有効牌。二巡目、こちらも有効牌で最速聴牌ですわ! 役も跳満は確定、裏が乗れば倍満……。危険ですがこの捨て牌であがられる可能性がある以上、リスクは変わりませんわね。なら、貴女の網を潜り抜けてツモるのみです!

 

「リーチ! ですわ!!」

 

 ……通った? ならば引いてみせますわ! そして一巡後わたくしのツモ番……、っく! 何故引けませんの!? いえ、まだですわ!

 これを通して次こそは! ……通りましたわ! さあ、いらっしゃいまし!! 次こそ次こそは! そしてツモったのはまたしても!!

 

「ロン、リーチ、一発、中、ドラ3。跳満は12,000っす」

 

 その瞬間、わたくしは……。

 

透華 side out

 

 

モモ side

 

 龍門さんから跳満をあがって申告した直後から寒気がするっす、なんすかこれ……。それに点棒を渡す龍門さんの雰囲気が……。

 でもこれでオーラス、何をどうやっても36,000以上は稼げない。なら、私は最後まで打ち切ってみせるっす!

 

 配牌は……、五向聴。流石に遠いっすね、なんか急に遠くなった気がするんすけど……。

 やっぱり何かおかしいっす、なんすか? この妙な静けさは。周りを見回しても同じ様な雰囲気、龍門さんも含めてっす。

 

 今までで一番長い局になってきたっすね、誰も聴牌気配が無くてかえって不気味っす。

 けど……、遂に来たっすね? 多分この妙な静けさの原因、龍門さん!

 

「リーチ……」

 

 雰囲気が違い過ぎるっす、本当に龍門さんっすか? こっちはまだ聴牌できてないっす。

 

「ツモ……、リーチ、一発、ツモ、断么、平和、ドラ1。跳満……、3,000/6,000」

 

 終わったっすか……。でも、ちゃんと勝ったっす……よ? 京……さんって、あ……れ……?

 

『遂に決着! 副将戦最多得点は鶴賀学園の東横桃子選手!

 他校を大差で引き離し、大将戦に全国の切符を託します!』

 

 そんなアナウンスが聞こえた様な気がした……。

 

モモ side out

 

 

京太郎 side

 

「やばい!」

 

 終わった瞬間、モモの様子がおかしかった。そしてさっきのが冷たい透華さん(・・・・・・・)。走り出した俺に加治木先輩も急ぎ着いてきた。

 

「どうした! 須賀君!」

 

「モモが意識を失ったかもしれません!」

 

「何!?」

 

 一気に会場へ足を踏み入れると、ゆっくりモモが!

 

「誰か! モモを支えてくれ! 意識を失ってる!!」

 

 俺の声にいち早く動いたのは隣の和、そしてすぐに風越も。とりあえず間に合ったがギリギリだったな。

 状況を見て気づいたのか、少し遅れてストレッチャーが。そのままモモを乗せると救護室に搬送された。

 追って来た部長達がモモに付き添ってくれて助かったよ、本当に。

 

「ありがとうございました、後程お礼に窺います」

 

 俺は礼を言うと頭を下げて、その場を後にする。和が何か言いたそうだったが今はそれどころじゃないんだから……。

 

 

【副将戦最終結果】

龍門淵高校 龍門淵 透華  64,500点(-15,100点)

風 越 女 子 深 堀 純 代  96,900点(-17,400点)

鶴 賀 学 園 東 横 桃 子 183,900点(+34,700点)

清 澄 高 校 原 村 和   54,700点(- 2,200点)

 

 

京太郎 side out




原作ではあっさり受け入れたモモですが、本作では認められませんでした。
その結果、体質になんらかの強化がかかり、勝ちはしましたがリスクもある様です。

いくら和がデジタルの化身とはいえ、機械ではありません。強化されたモモの声は聞こえず、捨て牌が見えなくなり“のどっちは原村和に戻りました”。

そして遂に登場、冷たい透華こと治水の透華。しかし、出て来るのが遅かった様です。
原作でも能力者まみれでなければ簡単には出て来なかったので、モモ一人だと透華が追い詰められてやっと出て来たといったところです。

さて通常ならもう決まった様な点差ですが、化物が二人も待っている大将戦。
怖いわー、マジでw


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七本場 前半 大将戦 加治木ゆみ、仕掛ける

恐怖の大将戦前半、いつもより少々長くなりました。
さあ、麻雀を楽しもうか!


ゆみ side

 

 医師の説明を受けた蒲原曰く、モモはかなり消耗してはいるものの命に関わったり後遺症が出たりする心配は無いとのことで今は眠っている。

 付き添いは須賀君に頼み、秘密兵器についてもその場で明かされた。聞かされてみれば納得できるソレ。これほどのモノならば、なるほど確かに秘密兵器だ。

 

『加治木先輩、衣さんと咲の能力は伝えた通りですが……。

 和の例をみれば、より強化されていると見て間違いないでしょう。

 

 ですが、弱点や攻略法が無い訳ではありません。

 特に秘密兵器を持つ加治木先輩とその麻雀センスがあれば。

 

 難しい注文をしているのは十分承知していますが……。

 俺にできて加治木先輩にできない訳がありません。

 

 見せつけてやって下さい、能力が無くても勝てるということを。

 麻雀が技術を競う競技だと知らしめるために、集った六人で鶴賀は全国へ。

 

 ここで負ける様なら、当然全国では通用しませんよ?

 何故なら龍門淵は去年、全国で敗退してるんですから』

 

「ああ、そうだな、須賀君の言う通りだ。ここは通過点、だが正念場でもある全国への試金石。

 五人でここまで積み上げた(・・・・・・・・・・・・)、なら私にもできない筈が無い。

 相手がどれだけ理不尽で強かろうと私が諦めることは無いと誓おう」

 

 最後まで全力を尽くしたモモが起きた時、笑顔で会うために。私と蒲原の誘いに応じてくれた津山や妹尾に報いるために。

 そして、ここまでの道筋を付けてくれた須賀君の献身に応えるためにも……。

 

「絶対に……勝つ」

 

 そう口にした私は、かつてない程に高まっていく自分を感じながら会場へと向かう。

 ここは終わりじゃない、もう一度そう心に刻んで……。

 

ゆみ side out

 

 

靖子 side

 

「県予選決勝も遂に大将戦を迎えました! 各校の命運を委ねられたメンバーを紹介します!

 

 昨年の覇者、龍門淵高校の大将はやはりこの人! 最多得点王、天江衣!

 名門、風越女子も昨年決勝で闘った得点力の高い打ち手! 池田華菜!

 初出場ながら現在圧倒的大差で独走状態! 鶴賀学園! 加治木ゆみ!

 準決勝までに他校を飛ばした大将! 清澄高校! 宮永咲!」

 

 うーん、この得点差は予想外だが衣がいる以上、勝負はこれからだな。十二万点差なら普通は決まった様なものだが衣と同じ長野にいたのは不運というほか無い。

 

「全国大会へ出場できるのは一校のみ! 残す東南戦二回の結果で決まります!」

 

 いや、当たり前だろ、それ……。

 

「次鋒戦からトップを守り積み上げ続けた鶴賀学園。

 このままインターハイへ勝ち抜けるのか!

 それとも昨年のファイナリスト二校が、ここから巻き返すのか!

 

 どうお考えですか? 藤田プロ」

 

「最多得点王、龍門淵高校の天江がこのまま終わるとは思えんな」

 

 というか私は衣が食い潰すと思ってるんだが鶴賀のせいでまったく読めん、ここまでも悉く(ことごと)予想外だったからな。

 

「天江選手ですか。

 インターハイでも多くの記録を残した選手です。

 今年もどんな闘いになるのか期待が高まりますね」

 

 そして気になるのがもう一人。

 

「ああ、それと個人的に注目してる選手がもう一人いる」

 

 すっかり失念していたがな……。

 

「清澄高校の宮永だ」

 

「なるほど、それでは注目の大将戦前半開始です!」

 

 私はその背中をモニター越しに見ていた、宮永咲の……。

 

靖子 side out

 

 

衣 side

 

 起家は風越、清澄、鶴賀、衣。

 

 それにしても京太郎、よくぞ約束を守ってくれた。そして予想通り上がって来た清澄、其を玩弄し打ち壊す! 風越何する者ぞ!

 だが油断はしない、衣は衣の意志で麻雀を打つ楽しみと信じるべきモノ(・・)を幾つも得た。故に……。

 

「御戸開きと行こうか」

 

 最初から本気で勝負する! だが気をつけねばな、飛ばしてしまえば終わる。狙いは……。

 

「鶴賀の、ユミと言ったか? 勝負の世界だ、許せとは言わぬ。覚悟せよ」

 

「それは光栄だな、だができるかな? うちのブレーンは最高だぞ?」

 

 何!? 清澄や風越は衣の支配を感じているというのに、ユミのこの余裕。まるでキョータローと……。

 

「それと、よくこう言ってたよ……。さあ、麻雀を楽しもうか! とな!」

 

「よくぞ言った! 気に入ったぞ、ユミ!」

 

 最高だ、キョータロー! 衣の最初の友達がキョータローで良かったと、衣は心から思う!!

 

衣 side out

 

 

咲 side

 

 やっぱりこの人! この感じ! なのに、なんで鶴賀の人は……。

 それに一向聴からまったく手が進まない、このツモどうかしてるよ〜。

 

 けど! 私は負けられない! なら……。

 

「ポン!」

 

 よし! これで……。

 

「……所詮その程度か、清澄の?それでキョータローを追い出したと?」

 

 それはっ! 何も言い返せないよ……。

 

「そう虐めるものではないぞ、天江?それにこの場はこうするものだろう?」

 

 え?

 

「ロン」「なっ!」

 

 あの人、えっと天江さん?が立ち上がって驚いてる……、それにどうして鶴賀の人はこの一向聴地獄で聴牌できるの!?

 

「断么、ドラ2。30符3翻は3,900だ」

 

 この人からは何も感じないのに……、私はカンすらできずに振ってしまった。

 

咲 side out

 

 

華菜 side

 

 鶴賀の絶対おかしいし! あの一向聴地獄で一人では聴牌できない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)のにあがってるし! 

 

「なあ、天江。そんなことをして勝って楽しいか?

 本気を出せ(・・・・・)、私は彼の想いも背負っている。だから私には効かんぞ(・・・・)?」

 

 なんてこと言うし! って効かない!? じゃあ一向聴地獄じゃなかった?

 

「……一人では無かったという事か。キョータローめ、どこから見つけてきたのだ?

 だが、それでこそ楽しめるというもの! 有象無象など放っておけ、ユミ。衣が相手しよう!」

 

 二人で勝手に話を進めないでほしーし! とりあえず東二局、清澄が親。けど、また一向聴地獄だし!

 

「ポン」

 

 これでルートイン! 早くなんとかするし! 鶴賀の!! なんで何もしないし!!!

 

「リーチ」

 

 ああ……、天江のリーチが、海底が……。

 

「カン」

 

 え? ここで南をカンって天江の海底が無くなった?

 

「言った筈だ、本気を出せ、と」

 

 まさか……。

 

「ツモ、嶺上開花、南、ドラ4。跳満は3,000/6,000」

 

 なんなんだし! 天江以上にヤバいし! 私はこの異常さに驚くしかなかった……。

 

華菜 side out

 

 

ゆみ side

 

 清澄からあがれたのは私も一向聴地獄だと思っていたのが原因(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)の無警戒。

 

 そして天江の海底を阻止する事で優位に立つため、鳴ける準備を幾つか整えておいたんだが……。

 暗刻のドラが出てカンせざるを得なくなり、結果、残り牌の少なさから運良く嶺上開花。

 

 須賀君から清澄の目の前で嶺上開花をあがれば、自分のテリトリーを侵される恐怖効果がある筈と言われてはいたが……。

 とはいえ、こうも上手くいくとは。これも秘密兵器のお陰だったりしてな、いや偶然か。

 

 しかし、これで精神的優位に立ったことは間違いない。

 

「衣の海底が……」「私の嶺上開花が……」

 

 気の毒だが天江の言う通り勝負の世界。稼げる時には稼ぎ、飛ばせれば最高だが削り切られないのもまた手の一つ。

 私自身守りの麻雀では無いが、須賀君から手解きは十分受けている。勝利への道筋は多いに越したことはないからな、なんとしても勝つためには手段を選んでいられん。

 

 だが、まさかこれがトリガーになるなど、この時の私にはまったく想像もつかなかった……。

 

ゆみ side out

 

 

衣 side

 

 キョータロー、本当にとんでもない打ち手を衣に……。今までも本気ではあった、だがこれからだぞ(・・・・・・)

 清澄は衣の気に当てられたな? この程度でその体たらく、話にならん。比べてユミを見よ、平然としてるではないか!

 

 さあ、ユミ。この東三局で衣の本気を見よ! ……行くぞ?

 

「ポン」

 

 副露

 

「ポン」

 

 二副露、そして終わり(・・・)だ。

 

「聞こえるか? 昏鐘鳴の音(こじみのね)が。

 ロン、対々和、東、白、赤2。跳満は12,000だ、ユミ。

 世が()(ふた)がるにつれ、衣は強くなり続ける!」

 

 さあ、麻雀を楽しもうではないか!

 

衣 side out

 

 

咲 side

 

 私はまだ一度もあがれてない……、取り返さなきゃいけないのに。

 

「ポン」

 

 ダブ東……!! そして……。

 

「ツモ! 対々和、ダブ東、赤1。親の跳満、6,000オール!」

 

 このままじゃ駄目だ、あの状態(・・・・)じゃなきゃ。思い出すんだ、自信に満ちた私はどんなだった? 原村さんに認められた私は、そして私の麻雀は……。

 

 ……東四局一本場、ここから捲る(・・・・・・)

 

 また一向聴地獄? ううん、違う。ほら、槓材があるよ。なら私はあがれる、そう自信を持って言えるんだ。

 

「カン」

 

 明槓で一向聴。

 

「ポン」

 

 二副露で聴牌、槓材もできたよ。

 

「カン」

 

 加槓、そして……。

 

「ツモ、嶺上開花、ドラ4。跳満の一本場は3,100/6,100です!」

 

 さあ、これからだよ!

 

咲 side out

 

 

ゆみ side

 

 まさかより強力になるとはな、初めにあがっておいて良かったよ。それに清澄が嶺上開花可能となった、天江の支配下でだ。須賀君が懸念した通り、強化されていた訳だな。

 良い状況とは言えないが闘えるなら問題は無い。どちらも基本ツモあがり、天江に振るのと清澄の大明槓には要注意だな。

 私も全力であがらせて貰う、これからはチキンレースだ。削り切られる前にあがり、流せ!

 

 南一局、親の風越は一向聴地獄か。親だけに焦りが出る頃合いだが、さて。ともかく天江と清澄にツモられずにあがらせて貰おう。

 この配牌、うってつけだ。須賀君仕込みの河を読み切れるものなら読んでみるがいい! 私は六人で闘っているんだ!

 

 まずは清澄の順を飛ばす。

 

「ポン」

 

 南で特急券、だが捨て牌に気をつけろ。ここは一九字牌を避けるんだ、天江の副露はそれが多い。清澄が副露したなら……“狙う”だったな! 須賀君!

 

「ポン」

 

 清澄か! ならこれで……。よし! 風越の捨て牌に反応せず……。

 

「カン!」「ロン!」

 

 ん? 聞こえていないのか?

 

「その嶺上、取るべからず。既にロンと言ったが聞き逃したか?

 搶槓、南、ドラ2、赤1。満貫、8,000だ」

 

 簡単に削れると思われては困るな、鶴賀のブレーンは癖さえ覚えている(・・・・・・・・)のだから。

 

ゆみ side out

 

 

衣 side

 

 なんという打ち手! 衣とて槍槓など狙えはしない、だが今のは確実に清澄を狙っていた(・・・・・)

 ……キョータローの入れ知恵か? だとしても余程の信頼関係が無ければ受け付けんぞ!

 

 楽しいな、キョータロー! 楽しいぞ、ユミ! 気に入らんが清澄も一役買っている。

 なら次は衣の番だ! 大物を仕留めるとしよう!

 

 南二局、この配牌であれば速攻あるのみ! 夕闇が覆い今日はほぼ満月、不可能は無いに等しい。

 一巡目で聴牌、さあ行くぞ?

 

「リーチ!」

 

 安牌など切った二筒しかありはしな……。

 

「カン」

 

 清澄が性懲りも無く!

 

「ツモ、嶺上開花、断么、ドラ2、赤1。親の跳満は6,000オールです!」

 

 っく、余計な茶々を! 気づいているのか? 清澄! 今の状況がユミの手の内にある(・・・・・・・・・)ことを!

 それとも連荘して削り切るつもりか? 衣は苛立ちを覚えていた、清澄の麻雀に……。

 

衣 side out

 

 

京太郎 side

 

 モモ、聞こえるか? 加治木先輩の闘う音が。俺はモモのいる部屋からモニターで観戦している、付き添いながら。

 

 そして俺の予想通り、咲は強くなっていた。衣さんの支配下で嶺上開花を連発、まったく凄いというかとんでもないというか……。

 それでも現状は加治木先輩の思惑通り、ツモられる分は上手く稼いで削られるのを最小限に抑えている。

 

『現在、南二局一本場ですがとんでもないことが起こっています!

 天江選手のロンあがりを除けば、嶺上・槍槓・嶺上・嶺上! どう思われますか、藤田プロ?』

 

『偶然、とは言えんな。少なくとも鶴賀の嶺上開花と搶槓は状況から見て狙った物だ。

 まあ、狙ったからといって100%できる物ではないが確率は引き上げていた』

 

 流石はプロだな、目の付け所が違う。

 

『嶺上開花の時は牌が極僅か、搶槓は恐らく癖を見抜いて利用した(・・・・・・・・・・)

 宮永が加槓すると読んだ訳だが加槓できる保証は無い、ただ宮永には槓材が集まる様に見える。

 私が言えるのはこんなところだな、なんにしても鶴賀の部長(・・・・・)は大した物だ』

 

 あー、やっぱりそう思うよなあ、部長をよく知らなければ。

 

『なるほど、ちなみに鶴賀の部長は中堅の蒲原です。

 さて、清澄の親は話題に登った加治木選手が速攻でツモあがり。

 白のみでしたが、これだけの点差を考えれば当然と言ったところです』

 

『はあ!? マジで!? え? 部長!?』

 

 藤田プロ……、ご愁傷様です。それにしてもこれで南三局か、このまま凌げれば一息つけるんだが……。信じてますよ、加治木先輩。

 

京太郎 side out

 

 

華菜 side

 

 なんなんだし! なんで私だけ何もできないし! 点差はあったけど二位だったのがあっという間に八万点を切った。

 清澄は六万点、龍門淵には追いつかれて八万点、トップが十八万点。このままじゃ……。

 

 !? 配牌がなんか違うし! とりあえず高目狙ってって……、それだ!

 

「ポンだし!」

 

 ドラで自風牌の西! やっと聴牌だし! 多面待ちの混一色、これで!

 

「カン!」

 

 え?

 

「ツモ、嶺上開花、対々和、南、北。跳満は3,000/6,000です!」

 

 そんな……、いや、まだだし! オーラスで少しでも! また配牌が良いし今度こそ!

 慎重に行く……、手が伸びるし……。でも、まだだし。まだ全然足りない! 

 

「ツモ、断么、ドラ2、赤1。満貫、2,000/4,000」

 

 は、はははっ、鶴賀はなんなんだし……。もうどうしたらいいのかわからないです、キャプテン……。結局、私だけがあがれないまま前半戦は終わった……。

 

 

【大将戦前半結果】

龍門淵高校 天 江 衣   79,400点(+14,900点)

風 越 女 子 池 田 華 菜  73,800点(-23,100点)

鶴 賀 学 園 加治木 ゆみ 177,000点(- 6,900点)

清 澄 高 校 宮 永 咲   69,800点(+15,100点)

 

 

華菜 side out




最初から本気を出した衣。
しかし秘密兵器と情報・知略、そしてユミちんの力量が合わさり約10万点差をキープして衣と咲は抑え込まれました。
風越の池田ー!は悉く潰されて、ほぼ三校が横並びの展開に。

とはいえ夜はこれから深ける一方でさらに強くなるだろう衣。
一点狙いの大明樌を持ち、原作モードを残している咲。

ユミちんの闘いは、まだまだこれからですね!


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七本場 後半 大将戦 東場 試される時

いやー、思いのほか長くなりそうなので分割しました、ご容赦を。
では後半戦東場、行ってみようか!


ゆみ side

 

 今のところ順調だが……。

 これから天江はより一層強化されるんだったな、しかも今日はほぼ満月。

 それに清澄が搶樌を恐れず、侵されたテリトリーをもねじ伏せてきた。こっちもまったく油断できない。そして風越だが……。

 

「ごめんなさい、華菜。来てしまったわ……、何も言えない私だけど側にいていいかしら……」

 

「お願いします、キャプテン……」

 

 ……絆、か。得てしてこういう事が力になるものだ、名門風越で二年連続大将を務め天江と闘っているだけでも賞賛に値する。今の彼女は秘密兵器の無い私の姿(・・・・・・・・・・)。ここから立ち上がれれば波乱が起こりかねんな、四面楚歌ということか。

 

 ちなみに清澄は前半戦終了後、飛び出す様に会場を出て行った。何やら逼迫(ひっぱく)している様子だったが……。

 

「ユミちん」

 

 突然よく知る声、予定には無かった筈だが。

 

「蒲原か、どうした?」

 

「良い話と悪い話があってなー。良い話はモモが起きたぞ、キョウタが側にいて嬉しそうだ」

 

 ふっ、モモらしいな。だが安心した、懸念事項が消えたのは確かに良い話だ。

 

「そうか、悪い話は?」

 

「キョウタから伝言だぞ、予想以上になったら恐らく最後まで保たない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)ってなー」

 

 なるほどな、須賀君。まあ当然だろう、ならば……。

 

「全てを賭けて乗り越えてみせよう、鶴賀の麻雀(・・・・・)でな」

 

 私は須賀君から受け取った御守りを手にそう告げて、策を準備(・・・・)した……。

 

ゆみ side out

 

 

咲 side

 

 平気だったのは集中してた間だけ。前半戦終了でホッとしたら思い出した様に、その……。つまりトイレに向かったんだけど、また迷子になった。

 こんな時、前なら京ちゃんが助けてくれたんだっけって思い知らされて……。

 

「うう……、また迷っちゃっ……」

 

「宮永さん!」

 

「原村さん!」

 

 助かった……、でも来てくれた原村さんの目は赤くて腫れぼったい。そうだよね、だって自分の麻雀を否定されて……。

 

「大敗した私が言えた義理ではありませんが……。

 大将戦の最中ですよ? どうしたんですか!?」

 

 ううん、それは違うよ? 原村さん。でも、今はとりあえず説明しなきゃ。

 

「トイレに行こうと……」

 

「……そして、また迷子になったと?」

 

 うう、きっと呆れられてるよ。京ちゃんだけじゃなくて、原村さんまで失ったら……。

 

「……何度でも見つけます、さあ急ぎましょう!」

 

「! ありがとう、原村さん!」

 

 大急ぎでトイレを済ませた私を原村さんは会場まで送ってくれた、心配だからって言って。

 

「……私が不甲斐ないばかりにここまでの大差。

 ですが信じています、宮永さんなら逆転できると。

 そして私も含めた全員からのメッセージ……全てを託します、後悔の無い最高の麻雀を!」

 

 その言葉は、その想いは私の胸に火を点けた。そして思い出したんだ、初心を。私は強い人と戦いたい、もっと勝ちたいって思ったから麻雀部に入ったんだって。

 なら今はそれだけいい、お姉ちゃんも京ちゃんも関係無い。

 

「うん、行ってきます!」

 

 さあ、魔物退治に行くよ! そして私は……、私達は勝つんだから!

 

咲 side out

 

 

衣 side

 

 楽しさのあまり思考が疎かになるとは……我が事ながら笑止千万、落ち着き考えれば至極明瞭。

 キョータローとユミの差(・・・・・・・・・・・)など歴然ではないか、ユミはキョータローの劣化したモノに過ぎん。何故なら効果がユミ自身に限定されている(・・・・・・・・・・・・・・・)

 清澄の嶺上開花は狙った搶樌以外で止められず、衣の支配は風越に効いているのが証拠だ。

 

 であれば、その強度とて劣ろう。既に日は落ち、次第に夜闇が満ちゆく。衣の能力がユミを上回った時点で……、勿論清澄の嶺上使いとて例外では無い!

 

 そして衣にあって清澄の嶺上使いに無い物、それが勝負を分ける。ユミがどこまで耐えられるか、それを試すも一興。覚悟するがいい、同卓する(ともがら)よ、有象無象共よ。衣に双ぶ者無しと刻みつけ……、勝利を衣と家族の手に!

 

『二日間に渡る熱闘、遂にファイナルゲームを迎えました!

 県予選決戦大将戦、その後半戦で全てが決まります!

 

 最終決戦を制し、トップに昇り詰め、全国の切符を手にするのは果たして!?

 運命の後半戦、開始です!』

 

 運命など切り拓く物とキョータローが身をもって教えてくれた、ならば衣が!

 すまないな、キョータロー。その教えをもって勝たせて貰うぞ!

 

 起家は風越、衣、清澄の嶺上使い、ユミ。まずは見せてやろうではないか! 知るがいい、コレが衣だ!!

 

 そして始まった東一局、なんと! もう沈むのか、ユミ……?やはり衣と打ち合えるのはキョータローのみ! ならば一切合切沈むがいい(・・・・・)! 

 十七巡目、当然衣は……。

 

「リーチ」

 

 やはりユミも……、そして清澄の嶺上使いも手出しできず。

 

「ツモ。リーチ、一発、ツモ、海底撈月(ハイテイラオユエ)、断么、ドラ1。跳満、3,000/6,000」

 

 これで約八万点差、続く東二局の親は衣。ここで連荘するとしようか!

 そして再び訪れた十七巡目。

 

「リーチ」「カン!」

 

 なんだと!? 

 

「ツモ、嶺上開花(リンシャンカイホウ)、断么、赤2、ドラ4。倍満は4,000/8,000です!」

 

 またしても邪魔するか、清澄の嶺上使い! 衣は子より親が好きなのに!

 連荘を阻まれた衣は怒り心頭。そして決めたのだ、必ず清澄を潰す(・・)と……。

 

衣 side out

 

 

華菜 side

 

 私と何故か鶴賀が蚊帳の外……、優しいキャプテンを泣かせてしまったし。東三局の配牌を理牌しながら、私は考え込んで。

 

 このままで本当にいいのか、私?キャプテンを泣かせて何もできないままで? 去年の屈辱も反省も今日までの全てでリベンジするんじゃなかったのかって思ったら、何か……きっと何かができる筈だって思えてきた。

 それに文堂から聞いた……、あんなことしたチームにも絶対負けちゃ駄目だし!

 そして思い出したんだ、私は図々しい(・・・・・・)ってことを! ありがとうございます! キャプテン!! 助かったし! 文堂!!

 

「にゃぁぁぁあああ!!」

 

 気がつけば叫んでた。今さら人目なんて気にならない、それにまだまだ頑張れるし! だって華菜ちゃんは図太いんだから!!

 ん? あれ? こんなんだったっけ? って思ったら聞いてたし。

 

「誰かイジった、牌?」

 

「いや、何も」

 

 とりあえず、ありがとう鶴賀の。

 ……なんだ、これ。さっきまでは何も感じなかったのに今は! ならイメージするし! ここからの勝ち筋を!!

 

 再開して自巡が来る度、細かった道が開ける様に自然と手が進む。一歩、また一歩と進めば進むほど何かが強くなってる気がして。

 そうだ! しっかり前を見て進むし! 立ち向かわない者になんか勝利の女神は絶対に振り向く訳ないし!

 

 私はひたすら進む、泣かせてしまった優しいあの人(福路先輩)の笑顔を取り戻すためにも必ず勝つと決めた。なら理由はそれだけでいい、そう心に秘めて……。

 

華菜 side out

 

 

美穂子 side

 

 突然叫んでびっくりしたわ、華菜。でも雰囲気が一変してる、あれは私のよく知ってる強い華菜……。お願い、応えてあげて? 今の華菜にはその資格があるでしょう? 私はモニターを見ながらそう祈っていました。

 

 「ツモ……ですが、これだと1,100にしか……」

 

 ううん、違うわ、吉留さん。華菜の目が言ってるもの、ここで終われない(・・・・・・・・)って。そして次順。

 

「一盃口……、フリテンだけどツモれば!」

 

 文堂さん、まだよ? そうでしょ、華菜?

 

「ドラを引いた……」

 

 これで4,000、けど華菜の手は止まらない。

 

「フリテン解消の平和!」「高目なら三色も!!」

 

 そうね、そうよね、華菜。今、華菜は闘ってるのに見られてない(・・・・・・)わ。なら、振り向かせるのが華菜でしょ? そしてそれが今!

 

『……リーチせずには、いられないな!』

 

 お願い! 華菜!

 

『ツモ……。リーチ、一発、平和、純全三色(ジュンチャンサンショク)、一盃口、ドラ……3!

 数え役満は32,000、8,000/16,000だし。私も混ぜろよ、勝負はこれからだ!』

 

 よく一人で立ち直ったわ、華菜! 私が見るモニターは次第に滲んだの、歓喜の涙で……。

 

美穂子 side out

 

 

ゆみ side

 

 流石と言っておこうか、風越の大将。やはりこうなった訳だが、甘く見て貰っては困るな。

 比べる物では無い、しかし私は胸を張って誇れる。六人で築き上げた鶴賀の麻雀とその結果(・・・・・・・・・・)を。

 現時点での二位は風越の約十万、そしてこちらは十六万程……。ここはもう一度、差を広げる必要があるだろう。

 

 天江は私に失望したのか清澄に目が行っている、その結果として風越がチャンスを掴んだ。

 それこそが天江の支配が緩んでいる(・・・・・・・・・・・)動かぬ証拠。

 東四局は私が親、まさにうってつけだな、須賀君。ここは君の言う私のセンスとやらを活かす時と見た。

 

 手牌から言って速攻で仕上げるには……、清澄の捨て牌を利用させて貰うのが一番だな。ならば、鳴いていく(・・・・・)

 

「チー」

 

 副露で一向聴。

 

「チー」

 

 二副露で聴牌、さて謀る(たばか)としようか。そうだろう、須賀君?

 次順、四枚目の東。態と入れ替えて目眩し(・・・・・・・・・・)、利用できるものは全て利用してペテンにかけろ!

 

 ……そして、当たり牌は天江から溢れた。

 

「ロン、ダブ東、ドラ3、赤2。跳満、18,000」

 

 さて、続けるとしようか。

 

「一本場」

 

 そう宣言した後だった、清澄が不可思議なことを言い出したのは……。

 

ゆみ side out

 

 

咲 side

 

 気持ちは本調子なのに何かが違う、私は違和感を感じて原因を探してた。合宿の時との違いは何? 昔、打ってた時とどこが違うの? そしてやっと思い出したんだ!

 

「あの、靴脱いでもいいですか(・・・・・・・・・・)?」

 

「え? あ、ああ」

 

 ちょっと変な子って思われたかな、でもやっぱり必要なことだったって脱いだら確信したんだ。

 昔、打っていた時も。合宿で打った時も、裸足の方が強かった(・・・・・・・・・)って。

 

 今は東四局一本場、トップの鶴賀とは十万点差。けど……手はある!

 

 七巡目、風越の人が張った。私の準備にはもう少しかかる、そして八巡目。

 

「ツモ、四暗刻! 一本場は8,100/16,100だし!」

 

 今回は(・・・)間に合わなかった、けどチャンスは最低四回ある。それにトップとの差が縮まるのはありがたいよね。

 

 さあ、切り替えていこうか!

 私は手ごたえを感じていた、次の機会を物にできるって確信と一緒に。

 

 

【大将戦後半東場時点結果】

龍門淵高校 天 江 衣   49,300点(-15,200点)

風 越 女 子 池 田 華 菜  128,100点(+31,200点)

鶴 賀 学 園 加治木 ゆみ 163,900点(-20,000点)

清 澄 高 校 宮 永 咲   58,700点(+ 4,000点)

 

 

咲 side out




まず最初に、この展開は原作で龍門淵がトップだった時の各部分をほぼ模しています。
その結果、華菜は原作ではあがれなかった四暗刻をあがれる訳です。

これは池田あぁぁっ!とはなりませんね、区間トップですし、今。
そして苦しいのは衣と咲ですが、まだまだ余裕で逆転できるんですよね、二人に関しては。

という事で、下手すると一万字行くんじゃ?って思いまして、東場だけを先出し。
南場は少々お待ちくださいませ♪


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七本場 後半 大将戦 南場 勝利は誰の手に

遂に決着! お楽しみいただければ幸いです!


靖子 side

 

「ロンあがりを除き前半戦は搶槓と嶺上開花、後半戦東場では海底、嶺上、数え役満、役満!

 長らく解説をしている私も見たことが無い異常事態!

 

 依然トップは鶴賀ですが役満二回で名門風越、一気に約三万点差まで詰め寄りました!

 苦しい昨年の覇者、龍門淵が現在最下位。清澄と共に十万点差は絶望的か!」

 

 ここまで差が埋まらないとは思っていなかったが、衣にとっては十分射程圏内。それよりも異常なのは……。

 

「天江に目が行きがちだが、清澄のあがりは全て嶺上開花。

 それが四度ともなれば、これこそ異常だ」

 

「確かにそうですね。

 準決勝までに幾度かあったことを考えると、その異常さが一層浮き彫りになります」

 

 宮永咲……、宮永? まさかとは思うが二年連続インハイチャンプの宮永(てる)、その関係者か? であれば幾分納得できる。とはいえ発言する様な内容では無いな。

 なんせ方や東京は白糸台、方や長野だ。憶測で物を言うべきでは無いだろう、事実だとしてどんな事情があるかわかった物じゃない。

 

「さて、南一局ですが静かな立ち上がり。今のところ淡々と場は進んでいますが……」

 

『カン』

 

「話題に登った清澄の宮永選手、ここでトップの鶴賀からカン! またしても嶺上開花か!?」

 

 いや、それでは勝てん。なら、狙いは……。

 

「大明槓か!」

 

「宮永選手、嶺上開花を見送り……」

 

 まさか、いや……もしそうだとしたら!

 

『もいっこカン!』

 

 馬鹿な! しかし現実に目の前で起きていることは否定できん! なら、ここでは止まらない!

 

「宮永選手、連続カン! しかも、またしても嶺上開花!? 見送り、見送りました!」

 

『もいっこ、カン!!』

 

 三槓子! しかもこれで五筒をツモれば清一色だと!? そして宮永がカンした以上は! 私は予感した、してしまった。

 

「宮永選手、三連続カン! そして、これはっ!?」

 

『ツモ、清一色、対々和、三暗刻、三槓子、赤1、嶺上開花。数え役満は32,000です!』

 

 コイツは……、本物だ!

 

「大明槓からの数え役満! トップの鶴賀に炸裂!

 県予選二度目の数え役満で風越と合わせて三連続役満!

 しかも何度あったでしょう、全て嶺上開花!!

 

 三位とはいえトップの鶴賀とは三万点差まで一気に詰め寄りました!

 二位の風越は四千点以上あがればトップの位置に浮上!」

 

「……牌に愛された、か。この試合、まだまだ荒れるぞ」

 

 本来ならこれで宮永の勝ちを予感するだろう、だがここまでされて黙ってるお前じゃないだろう? なあ、衣。私は未だ勝者は決まっていないと確信していた……。

 

靖子 side out

 

 

衣 side

 

 迂闊、清澄を潰すべくまばったばかりにユミと風越に大物を許した挙句、この様な……。

 淵底の向こうは衣の支配がおよばぬ、その王牌から! そう思いを巡らせている最中、聞こえたのは清澄の嶺上使いの声。

 

麻雀って楽しい(・・・・・・・)よね」

 

「な、に?」

 

 今、此奴はなんと言った?

 

「今日も色んな人と打てて本当に楽しい(・・・・・・)よ」

 

 聞き間違いでは無いのだな、清澄の嶺上使い! 貴様は……貴様だけは! 絶対に許せん(・・・・・・)!!

 衣の怒りは天にも届き、会場は闇に包まれた……。わかる、今の衣は過去最高の妖異となった(・・・・・・・・・・・)ことが。

 

「停電!? 対局者は動かないで下さい! 今、予備電源に……」

 

 (わずら)わしい……、それよりも……。

 

「清澄の嶺上使いに問う、その楽しさを奪ったのは誰だ(・・・・・・・・・・・)

 

 キョータローから楽しさを奪った貴様に、貴様らに……、麻雀の楽しさを語る資格があろうか。否! 断じて否!!

 

「え? あっ……」

 

「吐いた唾は飲み込めんぞ? 貴様はここで終わる運命が決まった(・・・・・・・・・・)

 

 衣の全てを賭けてでもキョータローの無念、骨の髄まで刻み付けて見せよう! 二度とその様な口がきけぬ程に。

 そして衣の真の闘いが幕を開ける(・・・・・・・・・・)

 

 闇は晴れた。だが世闇深く月満ちて衣の意志が固まった今、見敵必滅。故に……。

 

 「沈め(・・)

 

 何人(なんぴと)たりとも今の衣は止められぬ、ならば結果など決まっている。 

 南二局、衣の親、十七巡目。

 

 「リーチ」

 

 そして次巡。

 

 「ツモ、リーチ、一発、海底撈月(ハイテイラオユエ)、三暗刻、三色同刻(サンショクドウコウ)、赤2、ドラ3。

  数え役満、16,000オール」

 

 衣は淡々と告げた。もう勝ちは揺るがない、その確信と共に。

 

衣 side out

 

 

透華 side

 

「これは……決まりましたわね」

 

 今の数え役満でうちが十万、鶴賀と風越が十一万強、清澄は八万強。しかも衣の親は継続で、最高の状態。

 

「それにしても言って良いことと悪いことがあるよね。

 ここまでのことは御屋敷でも起こったこと無いよ、それだけ衣は許せなかった」

 

「そうだな、まあ巻き込まれた二人には悪いが恨むなら清澄だってわかるだろ」

 

 まったくもってその通りですわね、(はじめ)の話からいって風越にも伝わった可能性が高いですし。

 

「……もうすぐ」

 

「十七巡目、か……」

 

『リーチ』

 

 いつもの様に衣がリーチを宣言して牌を曲げた瞬間、わたくし達は予想もしなかった声を聞きました。

 

『カン!』

 

「なんですって!?」

 

 今の衣相手に対抗できるっていうんですの!?

 

『ツモ、嶺上開花。30符1翻の一本場は400/600です!』

 

 わたくしはこの時のことを決して忘れないでしょう。驚きに彩られた衣の表情、そして背中に流れ落ちた冷たい汗の感覚と共に……。

 

透華 side out

 

 

華菜 side

 

 天江の親が流れた、正直助かったし! さっきのは今までで一番酷かった、なんか寒気がしたし……。

 

「馬鹿な……」

 

 天江の呟き、そしてそこから私は滅多に見せない動揺を感じとった。これならきっと、いや絶対行けるし!

 天江だって完全じゃないのは今までで証明されてる、ならやりようはあるし!

 トップとの差なんて無いようなものだし! まずは天江と同じ位ヤバい清澄の親を速攻で流す! 無理はしない、高かったらラッキーくらいの気持ちで行くし!

 

 南三局を含めて、残り二局で捲る! そしてうちが、風越が勝って絶対キャプテンに恩返しするんだ!!

 

 配牌、理牌。やっぱり天江の調子、さっきよりは落ちてるし! ってことはどこも仕掛けてくるから、やっぱり速攻しかない!

 ここは最速で聴牌を目指してく! 出あがりは期待しない、ツモるんだ!

 

華菜 side out

 

 

咲 side

 

 ……さっきのは私が悪かった、けど! どうしても負けられない!! 私はみんなに、ううん、原村さんに託されたんだから!! だから謝るのも泣くのも全部終わってからだって決めて。

 

 龍門淵の人、数え役満の時よりは落ちてるけど……。それでもまた狙える程じゃない(・・・・・・・・・・)、ならもう一度揺さぶって! 行くよ!!

 

「カン」

 

 發を暗槓。

 

「もいっこ、カン!」

 

 一筒を暗槓、そしてこれを切る(・・)

 

「? 切りました」

 

「……ああ、すまない」

 

 さあ、準備は終わったよ? 風越の人。

 

「リーチ! だし!!」

 

 かかった(・・・・)ね、龍門淵の人。風越の人の手が気になるんだよね? だって()()()()()だから、そして溢れ落ちたのは一萬。

 

「カン!」

 

 一萬を鳴いて三槓子!

 

「ツモ、嶺上開花、三槓子、混老頭、發。跳満の一本場は12,300です!」

 

 まだまだ、これからだよ!

 

咲 side out

 

 

衣 side

 

 ……今、衣は驕ったのだな、キョータロー。なんと情け無いことか! だが、キョータローが教えてくれた本当の楽しさ(・・・・・・)。それを奪った盗っ人は衣の手で必ず!

 

 ああ、再び先程の感覚が蘇る(・・・・・・・・)。もう驕りはしない、終焉を向かえるまで鬼となろうぞ!

 

 南三局二本場、再び沈め(・・・・)

 決して衣は止まらぬ、しかして驕りも無い。ならば……。

 

「ポン」

 

 さあ、海底まで付き合ってもらうぞ! 足掻けるものなら足掻いてみよ! それすらも打ち砕いてくれる!!

 そして十八巡目。衣は掬う、海の底にまで光を届け美しく映る満月を。

 

「ツモ! 海底撈月(ハイテイラオユエ)、断么、三色同順。

 満貫の二本場、2,200/4,200!」

 

 さあ、次で終焉の刻だ。衣は油断無く、盗っ人を見ていた……。

 

衣 side out

 

 

咲 side

 

 大丈夫、私には確信があった。トップは鶴賀の人で十一万強、そして私は八万強。今ならもう一度できる(・・・・・・・)って。だからオーラスの南四局、ここで決める!

 

 配牌から予想より少しかかる(・・・・・)のはわかった、けどそれだけ。この場には追いつける気配が無いから……。

 さあ、始めよう! この闘いを勝って終わらせるために!

 

 そして、十巡目(・・・)。これで終わる、私は鶴賀の人から大明槓するんだ。

 

 コトリと切られた牌。え? 違う、どうして? ううん、悩んでる場合じゃない。なら少し遅れるけどコッチに切り替える、大丈夫、まだ追いつかれてない。そして、来た!

 

「ポン!」

 

 いける! 次順をツモって加槓すれば四槓子で逆転勝ち! そして……。

 

「カン!」「ロン」

 

「え?」

 

 今の声は……、鶴賀の……人?

 

 今のタイミング、開かれた手牌。私が河にすっかり騙された(・・・・・・・・・・)と気づいた時には……、もう遅かったんだ。

 

「国士無双。親の役満、48,000だ」

 

 搶槓は警戒してた、けど河で国士無双は無いって判断して……。

 

「これが鶴賀の麻雀、コーチの教え、その集大成だ」

 

 親のあがり止めで終局、私は……勝てなかったんだ。そう思ったら、もう動く気力も無くなっていった……。

 

咲 side out

 

 

ゆみ side

 

『長い、本当に長い闘いでした! その対局も遂に決着!

 最後の最後に飛び出したのは搶槓による国士無双!!

 

 まさに劇的な幕切れ! トップに立ってから一度も譲らず役満で締めた初出場の鶴賀学園!

 二位の風越女子に五万点以上の差をつけ、インターハイへの切符を手にしました!!』

 

「勝ったぞ、須賀君……」

 

 アナウンスを聞きながら、私はそう呟き深く椅子に腰掛けて振り返っていく。

 

 須賀君からのアドバイスを聞いた私は策を用意した、それは秘密兵器の温存(・・・・・・・)だ。

 使えば保たない、なら本当に必要になるまで使わなければいい。簡単ではないが、風越にできて私にできないなどとは口が裂けても言えない。

 

 そして、秘密兵器とは何か。物としては須賀君から贈られた御守りだが、これにはとある効果が秘められている。

 須賀君曰く、この御守りは中に入れた物の霊的劣化を極限まで抑える(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。ならば中身が重要となるのだがもうわかっただろう、須賀君の髪(・・・・・)だ。

 

 須賀君が触れている人間は能力の干渉を受けない、ならば彼の一部。特に霊的な意味を持つ髪はそういった物を蓄えるという。

 

 よって私は南場開始前に肌から極力離し、あの停電最中に再び直接肌へと当たる様にした。後は天江と清澄を欺くのに、最後まで邪魔をできないと見せかけた(・・・・・・・・・・)という訳だ。

 

 特に効果的だったのは一度大明槓を清澄が成功したことだろう、これにより清澄は選択肢を自ら狭めた。その結果、二度目を狙うと読んだ私は河に迷彩をかけて国士無双で対抗。ここは運の要素もあるが天江の支配が幾分影響し出していたのを利用させて貰った。

 

 ここからは須賀君の受け売りなのだが、清澄の嶺上開花も天江の海底と同じ様に場の支配が働いている。そうでなければ都合よく大明槓からの数え役満など不可能だ。そしてそれは先程実証された訳で、これも良くは無いのだが、須賀君が清澄にいたからこそ使えた手と言える。

 

 さて、この御守りを卑怯というなら能力者は全員卑怯者ということになるだろう。何故ならただ普通の麻雀を打てる様にした(・・・・・・・・・・・・・)だけで、誰の純粋な競技麻雀も邪魔していないのだから。

 

 

【大将戦最終結果】

龍門淵高校 天 江 衣   93,000点(+28,500点)

風 越 女 子 池 田 華 菜 111,700点(+14,800点)

鶴 賀 学 園 加治木 ゆみ 163,500点(-20,400点)

清 澄 高 校 宮 永 咲   31,800点(-22,900点)

 

 

ゆみ side out




私の描いた鶴賀学園女子団体戦勝利への道筋、楽しんでいただけたでしょうか?

ここまでの点数計算と破綻しない展開は、やはり原作あっての物です。
改めて原作者様に敬意を表したいと思います。

それはそれとして、改変した分の辻褄合わせは本当に苦労しました。
展開は先に決めていましたが、点数調整は頭が痛くなるほど大変でしたね。
オーラスの点数差がキッチリしてないと咲が大明樌を狙わないですし、衣と華菜が同時に勝てる状況を整えるとなれば余計に。

読者様一人一人、思うことはあるでしょうがこの物語ではこうなったんだなあと受け入れていただきたく存じます。

ちなみに役満が多いと思われるでしょうが、原作でも華菜は四暗刻単騎待ちをツモって勝負のために捨てました。
ゆみはオーラス9巡目で国士無双一向聴だった描写がありますので10巡目に聴牌させたのですが、原作を知れば知るほど楽しめるように考えたつもりです。

それはさておき勝負は終わっても必要なことがあります、もう少し男子個人戦はお預けですねw


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八本場 終わりは新たな始まり

一つの闘いが終わった場でのお話をお送りします。


ゆみ side

 

 さて、浸ってばかりはいられんな。用を済ませて、モモと須賀君が待つ部屋に行かなくては。

 

「清澄の宮永、須賀君から君達宛の手紙を預かっている」

 

 私の言葉にピクリと反応した彼女の目に幾分か光が戻る。その想いがあるなら須賀君がいる間に示すべきだったな。そう思いつつ手渡す時、気づけば一言だけ告げていた。

 

「君が味わったものと同じではないだろうが……、須賀君は何をどれだけ味わったのだろうな。

 だが、彼は自力で立ち上がり前へと進んだ。宮永、君は。君達はどうだ?」

 

 勝負の最中に怒りを覚えたのは確かだ。だが、例え宮永自身の放った言葉が原因だとしても敗者を痛ぶるほど私は落ちぶれていないつもりだ。

 そしてだ、そんなことを須賀君が望むとは私には思えない。ならば彼女の背中を押すのが他校とはいえ上級生である者の務め、そうだろう、須賀君?

 

 しばらくの間、手紙をじっと見詰めていた宮永だったが、ふらりと立ち上がり……。

 

「今の言葉、京ちゃんの手紙をよく読んでもう一度考えてみようと思います。

 対局、ありがとうございました」

 

 そう言った宮永は、私達に深々と礼をしてから対局室を出て行った。須賀君の癖が移ったか? 私も随分とお人好しになったものだ。さて、次はこちらか……。

 

「風越の池田、私は君を尊敬する。

 苦境から立ち上がり、最後まで諦めず鎬を削ったこの対局を私は一生忘れないだろう。

 君達風越が決勝の相手で良かったと、心からそう思うよ」

 

 須賀君が対抗策を用意してくれたからこその勝利だと私は思っている、ではもし無かったら? 池田の様に立ち向かえたと、私には断言できない。

 対抗策、つまり御守りの加護が無かった局の精神的苦痛は並ではなかった。それを彼女は最初から最後まで凌ぎ、数え役満を含む役満を二度もあがって見せた。

 そして遂には一度も振ることなく風越の二位を勝ち取ったのだ、これを尊敬せずに何を尊敬するというのか。

 

「……正直に言って鶴賀は眼中に無かった。

 龍門淵に勝って去年の雪辱を晴らすのが風越の目標だったし。

 けど、進むにつれて強敵だってわかった。

 

 それに聞いたんだ、キョウタロウっていう人のことを文堂から。

 私達には他人事に聞こえなかった、だから清澄には絶対負けられないって思ったし。

 

 加治木……さんは来年いないけど、次に勝つのは風越だし!

 私も覚えとく。初出場で全国の切符を手にした鶴賀の大将、その打牌と言葉を」

 

 そう言って池田は手を差し出した、勿論私はその手を握る。

 

「ユミよ、衣との麻雀は楽しかったか?」

 

「勿論だとも、さきほど池田にも言ったが一生忘れられない対局となった。

 須賀君の言葉の意味を身をもって思い知らされたしな。

 天江のお陰で全国への心構えがより一層強固になったさ」

 

「私も楽しかったし! けど来年は風越が勝つ!」

 

 私に続いて池田が笑顔でそう言ったのを聞き、天江も笑顔になった。……余計な(しがらみ)さえなければ宮永も此処にいたんだろうが非常に残念だ。

 

「ほざいたな? 風越のカナ、だったか?

 名は覚えた、次は完膚なきまでに叩き潰すゆえ楽しみに待つがいい。

 

 それにしてもキョータローは本当に凄い奴だな。

 こうして衣が他人と麻雀を楽しめる日が来るとは……」

 

 天江には天江なりの苦しみがあった……ということか? 須賀君はプライベートな話は一切漏らさなかったからな。差し出された天江の手を私は握り返し……。

 

「ああ、彼は大切な仲間であり、素晴らしいコーチ。

 そして、鶴賀インターハイ出場の立役者だ。ところで天江……」

 

「衣でいい、ユミ。それとだな……、衣と友達になってはくれぬか?」

 

 私の話を遮って天江、いや衣は対局中の態度から想像できないほど不安げにそう告げた。私は迷うことなく……。

 

「ああ、これも何かの縁。私からも是非頼むよ、衣」

 

 そう言いながら笑顔で答えると、衣は別人の様に幼くも天真爛漫な笑顔になった。

 

「そうか! よろしく頼む! ユミ!

 

 ところで決勝後に会いに行く約束だった、何か要件がある様だが想像はついている。

 その場で見て話す(・・・・・・・・)としよう、家族もキョータローに会いたがっていたからな。

 龍門淵全員で行きたいのだが……、案内を頼めるか?」

 

 天江、いや衣の話に頷くと私はこう告げた。

 

「ああ、では行こうか、須賀君が待っている。池田もそろそろ仲間の所に戻るのだろう?」

 

 その後、私達は三人揃って対局室を出る。今はただの学生として、他愛無い話をしながら……。

 

ゆみ side out

 

 

京太郎 side

 

「流石は加治木先輩、これは俺も続かないとな? なぁ、モモ……

 決戦で勝てたのは稼ぎ続けた点差を有効に活かしたからだ。

 

 モモはよくやったよ、でも無理は禁物だぞ? 気持ちはわからなくもないけどな」

 

 あれから随分と時間が経って点滴も外れてる。車椅子なら出歩いてもいいと許可は出てるんだが……俺が無理させたくなかった。

 何があったかは、なんとかモモから聞くことができた。あれは和の口癖みたいな物なんだが、モモにとっては認められる訳が無い(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「あの時はただ許せなかったっす。

 冷静になった今なら他意は無かったって、一応理解してるっすよ?」

 

一応(・・)、ね。

 まあ、俺がモモの立場でも同じだったとは思うから、この話はここまでだな。

 

 で、そろそろみんなが来ると思うんだが……」

 

 加治木先輩に頼んで勝敗に関わらず、衣さんには俺が呼んでるって伝言を。咲には手紙を渡して欲しいと頼んでいた、あの時何か話したいことがあったみたいだからな。

 そう思っているとノックの音がして……。

 

「どちら様っすか?」

 

「私だ、モモ。入るぞ」

 

 そして入って来たのは鶴賀のみんなと……衣さん達、龍門淵が全員揃っていた。

 

「キョータロー、よくぞ約束を守ってくれた。まさか我らを下すとは思っていなかったがな」

 

「約束? 何の話だ、衣?」

 

 ん? 今、加治木先輩が衣さんを名前で呼んだってことは……そういうことか? なら良かったな、衣さん。

 

「聞いてないのか? 我らの事を仔細に告げて相手になる者を用意してみよと言ったのだ。

 だから衣はキョータローが集めたものだとばかり思っていたのだが……、どうも違う様だな」

 

「鶴賀にはそんなことをしなくても闘えるメンバーが始めから揃ってたんだ、衣さん。

 打ち筋や能力は伝えたけど、勝ったのはみんなの実力だよ」

 

 俺の言葉に繁々と見られるみんなは面映いのか、なんとも言えない表情だったけど俺は本気でそう思ってる。

 

「……須賀君、誉め殺しはやめてくれ。君の協力があったからこその結果だ」

 

「そうっすよ! 京さんがいなかったら……」

 

「貴女! 倒れたと聞きましたけど大丈夫ですの!?

 いえ、それも大切ですが何をしたのか聞かなければ! わたくしの気が晴れませんわ!」

 

 そこまで言ったモモの言葉を遮ったのは、ステルスの餌食になった透華さんだった……。

 

京太郎 side out

 

 

衣 side

 

 トーカ……、いくらなんでも今のは無いぞ? 衣ですら空気くらい読むというのに……。

 

「落ち着いて、透華。ここ病室だよ? あまり大きな声で騒ぐとナースさんが飛んで来る」

 

 うむ、ハジメの言う通りだな。しかし、ここまで来てやっとわかった。だが、一応聞いておくとしよう。

 

「うむ、とりあえず、トーカ、少し待て。キョータロー、衣に話があるのだろう?」

 

「ええ、実はここにいるモモの状態を聞きたくて」

 

 やはりか……、だが。

 

「モモというのはトーカと打った、そのベットにいる者だな?」

 

「はい、そうですって……、あれ? もしかして見えてる(・・・・)んですか?」

 

 なるほど、やはりそういった能力(・・・・・・・)か。

 

「トーカに見えて、衣にも見える。他の者はどうだ?」

 

「質問の意味はわからないが見える(・・・)ぞ?」

 

「まあ、そうだよね……って、ああ、そういうこと?」

 

「……見えない打ち手?」

 

 唖然としているな、だがそれも当然か。恐らくは……。

 

「一つ聞く、モモとやらは本来見えなかった(・・・・・・)のだな?

 だが今は見えている、どうだ? キョータロー」

 

「え、ええ。俺以外には見えなかった……筈なのに今はみんな見えてる?」

 

 答えは出たな、これはやはり恐ろしい能力だ。だが、今はまだ使い熟せていない(・・・・・・・・)……か。

 

「うむ、衣の予想が入ってはいるが一応答え合わせといこうか。

 

 モモとやらは以前見えなかった、それは能力が能力と言えないほど不完全な状態で発動していたからだ。

 例えるならガスがわかりやすいだろう、生産するが制御されておらず弁から漏れ出ていた。

 漏れ出る以上、納める量の把握ができずに生産量は増加していく。

 

 だが、生産するからには蓄えることもコントロールすることも本来ならできる。

 そして今見えるのは、漏れ出ていない(・・・・・・・)からだ」

 

 よく考えて完全に受け入れよ、さすれば……。

 

「じゃあ、今はどこに行ったんすか? そのガスは」

 

元々あった貯蔵タンク(・・・・・・・・・・)にだ、空になったのだから今は蓄えている。

 

 其方、あの対局中に一度受け入れたであろう?

 それまでは受け入れていなかったゆえタンクのバルブは閉まっていたのだ。

 それを一気に解放した結果、本来の今まで通っていなかったルートを無理矢理開き全放出した。

 

 倒れたのはその反動だ、故に心から受け入れよ。

 さすれば訓練次第で自在に発動と停止が可能になる。

 

 恐ろしい能力だぞ、己の意志一つで自由自在に消える(・・・)など。

 だが、ガスの様な物である以上は多用すると枯渇しかねん、今回の様にな?

 普段は極力温存し、ここぞという時に使ってこそ最大限の効果を発揮するであろう」

 

 この能力が完成すれば全国で強力な武器となる、鶴賀が勝ち進むには絶対に必要となるだろう。そう思った衣の目に映ったのは……、涙を零すモモとやらの姿だった。

 

衣 side out

 

 

モモ side

 

 もう孤独に怯えなくていい、京さん以外のみんなとも普通に過ごせるんだって思ったら自然と涙が溢れたっす。

 

「私はずっと独りだったっす、春に京さんと出会うまでは。

 麻雀部にいても、わかってはいるんすけどいないって思われるのは正直辛かったっす」

 

「モモと呼んでもよいか?」

 

 今のは天江さんっすよね!? 何か話があるっぽい雰囲気、知らず知らずの内に頷いてたっす。

 

「モモよ、衣は見えているからこそ幽閉された」

 

「えっ……」

 

 どういうことっすか? 全然想像がつかないっす。

 

「衣は異常に強力な能力を持って生まれた、だがその能力を恐れられ疎まれたのだ。

 父君と母君が現世(うつしよ)にいた頃は良かった。

 だが御隠れになったのは衣のせいだと叔父上は……。

 

 よいか、モモよ?人は見えていようがいまいが他人の都合で簡単に孤独へと陥る。

 衣とモモは特に似ているな、能力によって孤独になった(・・・・・・・・・・・・)という点においてだ。

 

 だが、そこから救い出してくれるのもまた人なのだ。衣を救ったのは、キョータローと家族。

 そして、モモを救い出したのもキョータローと仲間ではないのか?」

 

 私はみんなを見たっす、最後に加治木先輩、そして京さんを。不意に髪を撫でる感触が……。

 

「モモはとっくに一人じゃないだろ? 俺も加治木先輩も、そしてみんながいる。

 気づけない時はあったかもしれない、でも麻雀部にはモモの居場所があったじゃないか。

 

 みんなと一緒に合宿してさ、勝って負けて泣いて笑って。その時間は全員の物だった筈だろ?

 そしてこれからはもっと仲良くなれるんだぞ?

 

 前を向け、モモ。これから全国に向けて、まだまだ扱いてやるからな!」

 

「うむ、良い事を聞いた。トーカ、鶴賀が全国で闘えるよう友達に力を貸す(・・・・・・・)ぞ。

 

 我らですら敗北したのだ、何も知らず全国に乗り込めば敗北は必至。

 二か月の間、可能な限り、我らで相手をする。そしてさらに腕を上げるのだ。

 それに折角集めた情報を活かさぬ手は無い、構わんな?」

 

「勿論ですわ! わたくし達に勝った以上、全国制覇して貰わなくては!」

 

 いやいや、個人戦はどうするつもりっすか?

 

「有難い申し出ですけど、個人戦があるなら規約違反ですよ、透華さん?」

 

「何を言ってるのだ、キョータロー?衣の初めての友達が個人戦で闘うのだぞ?

 衣達が個人戦に出ていては応援できないではないのか」

 

 うわー、京さん、とんでもないっすね。まさか龍門淵全員個人戦不参加とか、まあ人のことは言えないんっすけどね? こっちも全員不参加なんすから、京さんには秘密っすけど。

 

「は、はははっ、理由にはなってるっすね、それ」

 

 私の笑いに釣られて、みんなが笑ってる。ああ、今、私はここにいる(・・・・・)んっすね。ありがとう、京さん! ありがとう、みんな!

 私はもう二度と一人だなんて思わないっす、だってこんなにも大きな笑いが響いてるんすから!

 

モモ side out




さて、モモの能力が限定解除され、コントロール可能な準備ができました。
完全なコントロールに訓練が必要とは衣の弁。

そして龍門淵五人衆という強力なスパーリングパートナーが誕生、全国大会に必要な情報を携えての参戦は追い風になるでしょう。

さらに龍門淵と鶴賀の女子個人戦不参加が決定済。愛されてるねー、京太郎!

とまあ今回は以上の情報と関係構築メインのお話でした、次回は清澄側の出来事などでひとまず締めます。

その後、次局、男子個人戦編へ突入です!


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九本場 想いは多様な形となって

さて、それでは女子団体戦後のお話を始めましょう!


久 side

 

 大将戦が終わった直後から控え室に声は無かった。心配だった優希が唯一のプラス収支で後は全てマイナス…と言っても、まこの失点は事故の様な物だし、咲は盛り返して逆転の一手すら打ってみせた。

 

 いつもの和なら咲の所へ飛んでくんでしょうけど、それすらできないのは大量失点の責任を感じて声も無く泣いているから。

 聞けばいつもの台詞を鶴賀の東横さんに言った直後から、彼女の河は見えなくなり、声も聞こえなかったとか。

 モニター越しの私達には見えるし、聞こえていたこと。和以外にも同じデジタル打ちの龍門淵さんが、あり得ない振り込みをして驚いた様子からそういう能力(・・・・・・)だったと私は思ってる。

 

 つまり全力を尽くした和にも責任は無いのよ、なら部長である私が大戦犯。まこが言ってた通り、須賀君というあたり牌を切ってしまった時点で私自らこの結果を引き寄せた。いえ、そういう問題じゃないわよね。何考えてるのかしら、私は……。

 

 そう考え込んでいると不意にガチャっと音がして、出入り口を見れば咲が。

 

「すみませんでした、最後の一手を読まれて河にも騙されて……」

 

「あれは仕方ないわ、咲。向こうが一枚上手だった、そういうことよ」

 

 加治木さんはセンスがズバ抜けてた。しかも恐らく須賀君から吸収した河や手牌による情報制限・誘導が恐ろしく上手い。そして鶴賀には私達の情報が強化合宿前のものとはいえ全て伝わっていて対策も完璧だったし……って、私は咲が手紙を持っていることに気づいた。

 

「咲、その手紙は?」

 

「京ちゃんから私達にって……、加治木さんから手渡されました」

 

 その言葉に全員が反応した。当然よね? 勝って謝りたいと思っていた相手からまさかの手紙。

 咲から渡された手紙には確かに須賀君の名が、私は開封して読むことに。

 

“清澄高校麻雀部の皆さんへ

 

 先日、何か私に話したい様子が窺えましたので筆を取りました。

 この手紙を書いている時点では、どの様な結果になったのか当然わかりません。

 ですが勝ち負けに関わらず、お会いするつもりはありません。

 

 何故なら皆さんの団体戦は終わったのでしょうが、私の闘いはこれからです。

 話をすることで闘いに影響が出る可能性がある以上、今は無理(・・・・)だと御理解下さい。

 

 以前、手紙に記した様に私は鶴賀学園麻雀部の一員として大会に参加しています。

 同時に全国へ行くこと、そしてその先でも勝つために一局一局が背水の陣の覚悟。

 ですので、お話を聞くのは個人戦の結果が出てからにしていただきたいと思います。

 

 また皆さんも個人戦に出るのでしたら、ご健闘をお祈りいたします。

 

 鶴賀学園麻雀部 須賀京太郎より”

 

 ……当たり前過ぎて自分の馬鹿さ加減にほとほと嫌気がさした、私は自分のしたいことばかり考えて須賀君の想いをまったく考慮していなかったのだから。

 

「何も学んでないなんて……、自分のことながら呆れるわ……」

 

 無意識に呟いた言葉、それが全てだった。

 

久 side out

 

 

咲 side

 

 部長は手紙を読んで呟いた。

 

「何も学んでないなんて……、自分のことながら呆れるわ……」

 

 何も学んでない? そう思ってたら染谷先輩が……。

 

「わしらにも見る権利はあるんじゃろ?」

 

 そう言って部長から手紙を受け取ると、全員が読める様にしてくれたんだ。そして部長の言葉の意味が良くわかった、また間違えてたんだって。

 あっ、加治木さんの言葉もみんなに伝えた方がいいよね。

 

「あの、大将戦の後で加治木さんから言われたんですけど……」

 

 そう言って私は一言一句変えずに伝えた。あの言葉には悪意が無かったし、何か込められてるって思ったから。

 

「加治木さんは大人ね、他校の下級生やチームにそんな言葉をかけられるなんて。

 しかも、須賀君の件があるんだから余計に、ね」

 

「君達はどうだ……か。すまんがわしは個人戦を辞退する、京太郎の応援をしたいんじゃ」

 

 染谷先輩……。

 

「目標だった団体戦には出ることができた、それは須賀君から始まったって気づいてはいたのよ。

 そしてそれこそ今更だけど、私の未熟で自分本位な考えが須賀君を転校にまで追い込んだ。

 罪滅ぼしじゃなく、私自身が須賀君を応援したい。だから私も辞退するわ」

 

 部長……。

 

「私も辞退するじょ、京太郎には迷惑ばっかりかけたのに悪い所を教えてくれたんだじぇ?

 ……それをあの時に活かせなかった私だけど、謝る前に行動で示すんだじぇ!」

 

 優希ちゃんまで……。

 

「……須賀君には申し訳ないですが私は出ます。

 どうしても勝たなければいけない理由がありますから。

 

 宮永さんはどうするんですか? 宮永さんの目標は団体戦じゃなくても叶えられる筈です」

 

「私は……、私は個人戦を全力で闘い抜きます!」

 

 そうだ、まだ可能性はある! 京ちゃん、応援できなくてごめんね? 全部終わったら会って謝らせて欲しいっていうのは、我儘で虫が良すぎると思う。けど、そんな未来が来ることを私は心から願った、新たな決意と共に……。

 

咲 side out

 

 

華菜 side

 

 強がってみたけど、あそこで捲れなかったのは正直堪えるし……。でも去年とは違う! 私は全力を出し切ってミスもしてない! キャプテンを団体戦で全国に連れて行ってあげられなかったのは悔いが残るけど、胸を張って帰るんだし!

 

 そう思いながら、控え室のドアを開けて……。

 

「華菜! 華菜は私達の誇りよ!」

 

「うわっぷ」

 

 いきなりキャプテンの声が聞こえたと思ったら、前が見えなくなったし。って、これ……。気づいた私は顔が熱くなるのを感じたし。

 

「池田」

 

 コーチの声が聞こえたと思ったら、キャプテンが私を胸から解放してくれたし。とりあえずコーチに向き合うしかない。

 

「池田、私が見て来た風越の大将でお前が一番だ。

 今日のお前は完璧だった、全国出場は逃したが……私も誇らしく思う」

 

「コーチ……」

 

 駄目だ、もう涙が我慢できない。狡いし、コーチ。今日に限ってそんな優しい表情と声で……。そしてコーチは私の横を通り抜けながら言ったし。

 

「連泊できる様にしてある、親御さんにも連絡済だ。個人戦に向けてしっかり備えろよ?」

 

 そう言い残すとコーチは笑顔で控え室を出て行った、感極まった私達を残して……。

 

華菜 side out

 

 

京太郎 side

 

 あれからしばらくいた衣さん達が引き上げて、ここには俺達しかいない。

 

 さっきの騒ぎを聞きつけナースさんが本当に来て怒られた、というかモモの容態を見に来たらって話なんだが。一緒にいた先生の診察で、モモは無理しないって条件付きだけど表彰式に出られる様にもなった。

 まあ、そういう条件だから移動は車椅子ということになって、そこは変わらない。

 

 そう思いながら色々とみんなで話してたら、俺のスマホから着信音が。って、これは……。

 

「はい、須賀です」

 

『京太郎様、団体戦全国出場おめでとうございます』

 

 そう、電話の主は今回お世話になった……。

 

「ありがとうございます、神代さん達も団体戦全国出場おめでとうございます。

 丁度、皆さんの協力に感謝していたところです」

 

『……』

 

 あれ? 返事が無いんだが……。俺、何か変なこと言ったか?

 

「あの、神代さん?」

 

『小蒔と呼んで下さる様にお願いしましたよね、京太郎様?』

 

 あー、確かに言われたがここでそれを言うのか? ちょっと、いやかなり拙い気がするんだが……。そう思いながらも俺は腹を括った、じゃないと話が進まないからな。

 

「えっと、小蒔さん、ありがとうございました」

 

『はい♪ それでは個人戦頑張って下さいね? 応援しております。

 全国の会場でお会いできるのを楽しみに待っていますので、それでは』

 

 そう言って電話は切れた……が、別のモノもキレたらしい。

 

「京さん……、小蒔って女っすよね?」

 

「いてててっ! 落ち着けって、モモ! 左肩がっ! あー!!

 離してくれないと話せないだろって!」

 

 何か日本語がおかしくなってる気はするが、それどころじゃない! マジで痛いって!

 

「神代小蒔……、団体戦全国出場ということは永水女子か?」

 

「知ってるんすか、加治木先輩!?」

 

 その声に手が緩んだ!加治木先輩! ありがとうございます!!

 

「ああ、一応な。去年の全国で活躍してインハイチャンプの宮永照、衣と同じ位に有名だからな。

 そう言えば巫女でもあったか?」

 

「ええ、鹿児島にある霧島神宮の巫女ですね。

 そして、あの御守りは神代さん達の手による特別な一品。

 昔、家族旅行で行った時に知り合ったんですが、その時のツテでお願いしました」

 

 まあ、往復丸一日かかったうえ、麻雀に付き合わされて大変な目にあったんだけどな?

 

「じゃあ、あの二日間で行ったんすか!?」

 

「行ったぞ? 往復だけで丸一日かかる。だから、あの二日間だけ休みにした(・・・・・・・・・・)んだ」

 

 なんだ? また沈黙が……。

 

「……須賀君、今日はゆっくり休んで明日に備えてくれ」

 

「? ええ、勿論万全の状態で臨みますよ?」

 

 よくわからない溜息をみんなにつかれた、なんでだ? まあ気にしても仕方ないか。

 とにかく俺は俺のやり方でコンディションを最高に仕上げて、一局一局の結果を積み上げるんだ。そう、手紙に書いた様に!

 

京太郎 side out

 

 

ゆみ side

 

 ……先程話題になった二日間、それは大会までに許された唯一の完全休養日(・・・・・・・・)。その二日間は須賀君からの申し出で大会前のコンディション作りとして休みにしたが、彼だけは休んでいなかった(・・・・・・・・・・・・)事になる。

 

 まあ、自己管理できるアスリートだった須賀君が、他人を見れて自分を見れないとは思っていない。ただそれとこれは別、気持ちの問題だからな。大切な仲間であり、団体戦全国出場の立役者である彼。そんな存在の心配をしない方がどうかしている、であれば安堵の溜息が漏れたのは当然だろう。

 

 そんな取り留めも無いことを考えながら私は表彰式会場の控え室へ、本当に勝ったんだと実感が湧いたのは……。

 

「風越の福路美穂子です、最後の団体戦で皆さんと闘って私は大切な物を得たわ。

 おめでとう、そして全国での活躍を応援しています」

 

「鶴賀の加治木ゆみだ。その言葉、そっくりそのまま返そう。

 そしてありがとう、長野代表として恥じない闘いをするとここに誓うよ」

 

 個人戦全国の常連、福路美穂子。恐らく今年も行くのだろうな、特に龍門淵が一人もいないなら例え清澄のメンバーが全員出ようと問題にならん。

 

「それにしても少し残念だよ、君と打ってみたかったな」

 

「個人戦には出られないんですか?」

 

「ああ、鶴賀の麻雀部にはもう一人大切な仲間がいるからな。

 彼のお陰でこの場にいると言っても過言では無い」

 

 そう言った瞬間、彼女の顔が曇って……。

 

「あの、立ち入った話だから断ってくれてもいいのだけれど……。

 その彼は清澄から転入して来た人で、不遇な扱いを受けていたっていうのは……」

 

「本当の話だ。須賀京太郎君というのだが……、雑用を押し付けられていた様だ。

 女子団体戦のメンバーが確保できてからは麻雀すら一切打たせなかったとも。

 指導など一度もなく、ネット麻雀を一人打っていたらしい」

 

 口にするだけで感情が乱れる。それだけ私は彼に恩義を感じているし、大切な仲間だからな。

 

「……らしいって、本人からは?」

 

「本人はそう受け取っていない様でな……。

 ただ麻雀に打ち込める環境じゃないとの判断で転入を決断した、それ自体には敬服するよ。

 だが、とある筋からの情報と彼の話を統合した結果、浮かび上がった内容は今話した通りだ」

 

 須賀君は多くを語らない、ただ前を向いて進むのみだ。だからといって私達まで許せるかといえば……、答えなど決まっている。

 

「龍門淵……からなのね? 華菜に聞いたわ、その彼が天江さんの大切な友人だって……」

 

「ああ、衣を含む龍門淵全員が彼を気に入っている、応援のために個人戦を全員辞退する程にな。

 勿論、私達はそれ以上。鶴賀も個人戦には参加せず、彼の応援とサポートに全力を尽くすさ」

 

「そう……、なのね。ごめんなさい、どうしても信じられなくて確認したかったの」

 

 そう言った彼女は、とても悲しそうな表情だった……。

 

ゆみ side out

 

 

モモ side

 

『只今よりインターハイ長野県予選の表彰式を始めます。

 呼ばれた各高は順次壇上へ上がって下さい』

 

 まさか本当に全国へ行けるなんて、未だに信じられないっす。けど、この場にいるってことはそういうことっすよね。ちょっと現実味が湧かないっすけど。

 

『準優勝、風越女子高校麻雀部。

 名門の名に恥じない素晴らしい闘いぶりでしたね、藤田プロ』

 

『ああ、特に先鋒と大将戦は見事だったな。

 他にしても非常に高レベルだった、来年が楽しみだ』

 

 コメントが流れる中、風越のメンバーは慣れた感じで段上に登ると拍手が。流石は常連っすね、うちとは大違いっす。

 

『続いてインターハイ長野県代表を初出場で勝ち取った優勝校、鶴賀学園高等部麻雀部。

 終始安定した麻雀で一度トップに立ってからは譲らず、最後は劇的な国士無双で決着。

 如何ですか? 藤田プロ』

 

『そうだな、堅守が持ち味だけにどこも隙が極めて少ない。

 それでいてチャンスをモノにする嗅覚にも優れている印象を受けた。

 加えて副将と大将の得点力は驚異的で、特に大将のセンスは本物だ』

 

 プロの目からはそう見えるんすね? で、私のことに多く触れないのは全国を考えてって辺りが妥当っすかね?

 そう思いながら一際高い段に登ると、想像以上の歓声に驚いたっす。そして、もう一つ……。

 

 私は今、ここにいて誰からも普通に見える(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。それが何よりも嬉しかったっす。

 ありがとう、京さん! あの時、私を助けてくれて。今の私があるのは全部京さんのお陰、だから最高の笑顔で歓声に応えるっすよ! 見てくれてるっすか? 京さん! これが今の私にできる唯一の恩返しっす!

 

モモ side out




清澄は和と咲のみ、個人戦に参加。二人とも戦意を取り戻した様です。
残る三人はそれぞれの想いで京太郎の応援に、特に久は過ちに気づけた様で良かったと言えるでしょう。

風越は大団円、全国出場こそ逃しましたが龍門淵を倒すという目標は達成。今回は池田あぁぁ!されなくて、優しいコーチに違う意味で泣かされました。
美穂子は京太郎の件について信じられず、ゆみと会話。しかし、現実と知り何やら悲しげな様子でしたね。

そして表彰式は……、ハイ! モモ祭りです!
モモの京太郎愛が溢れた台詞を書く自分が非常にキモかったですw

それは置いといて、これもまたモモの能力コントロールに良い影響を齎すでしょう。
これだけ多くの人に認識されたことを実感できたのですから。

さて、男子個人戦は少々お待ち下さい。丁度キリもいいことですし。


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第四局 県予選 個人戦前夜
一本場 思わぬ影響


ちょっと男子個人戦の前に入れたい話がありまして、ではどうぞ!

追記
原作では団体戦の一週間後が個人戦なのですが、本作では翌日からと独自設定しております。


衣 side

 

 キョータロー達の所から早々に退散したのは、やりたい事があったからだ。鶴賀の麻雀を見て感じたキョータローの色、そのうちの一つは……。

 

「トーカ、準備(・・)はできたか?」

 

「勿論ですわ! ハギヨシ!」

 

「透華様、男子団体戦の全牌譜と映像で御座います。量が量ですので整理は既に」

 

 そう、情報(・・)だ。キョータローはあらゆる情報を活かす、勿論誰しも情報を求めるがあくまでも使うのであって活かすに至る者は限られる(・・・・・・・・・・・・)

 トーカと打った清澄の者など、いつ何時誰相手だろうと打ち筋に変化が無い。あれはあれで意味はある、しかし()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだと衣はキョータローとの対局で知った。

 その逆が、ユミの搶樌。あれは狙ったもの、清澄の嶺上使いがどう打つか把握している前提でのみ可能になる。聞けばそれを示したのはキョータロー、つまり情報を活かすことこそがキョータローの強みの一つ。知る者ではなく、識る者の証。

 

「ハギヨシ、忠勤御苦労。ここからは衣達に任せよ、大義であった」

 

「御用が御座いましたらいつでもお呼び下さい、それでは失礼致します」

 

 さて、衣の家族でこの様な事に最も長けているのは勿論……。

 

「トモキ」

 

「……二時間、いえ一時間半」

 

 流石に話が早いな、既に取り掛かりながらの答えに衣は頷く。

 

「でしたら画像チェックはわたくし達ですわね」

 

「そうだね、まあ大半は京太郎の敵じゃないけど」

 

「言えてるな、個人戦ルールほど京太郎に向いてるルールは無いぜ?」

 

 確かにな、まず前提としてユミ以上の力量をキョータローは持っている。これはユミ本人の言であり、信頼に値するだろう。だが団体戦の様な一発勝負では、キョータローの持ち味を存分に発揮するのは難しい。

 しかし、個人戦ルールなら話は大きく変わる。東風戦20回・半荘10回の総合得点方式であれば、トーカやトモキの様な長期的勝率の高い者が有利。そしてキョータローはそちらに該当する、つまりプロ雀士向き(・・・・・・)なのだ。

 

「とはいえ油断大敵とキョータローが教えてくれた。

 そして人事を尽くす事に意味があるとも、鶴賀全国出場という結果で示したからな。

 まあ、キョータローは天命など待たずに自身で切り拓く者だが」

 

 そう言って笑みを浮かべた衣に、家族は揃って頷いた。

 

衣 side out

 

 

ゆみ side

 

 須賀君は女子団体戦の情報収集を男子個人戦と合わせてやってくれた、つまり二年生分までは既に対策済と見ていい。であれば私達と同様に一年生のデータが欠けている、ならばそこを埋めるのが今できるサポートだ、とはいえ……。

 

「これは……、多いな……」

 

 思わず溢してしまったが今年は男子に有能な雀士が多かったのか、それとも二・三年生が少なかったのか、とにかく一年生が多いのだ。

 

「まさか去年の男子インターミドルチャンピオンも長野とはなー。

 今まで意識してなかったから、どこが強いかもさっぱりだぞ?」

 

「片っ端から当たるしか……」

 

 そう言ってる最中にノックの音、心当たりは須賀君ぐらいのものだが……。そう考えている間に妹尾が覗き穴から見て一言。

 

「龍門淵の人達!?」

 

『あら、声が聞こえましてよ?』

 

『夜分済まぬ、ユミよ、衣達だ。其方らにも関係する故、見て貰いたい物があって訪ねてきた』

 

 私達にも関係があって、見せたい物? ともかく中で話を聞くとしようか。

 

「妹尾、入って貰ってくれ」

 

 そう言った私に頷くと妹尾はドアを開けて、衣達を招き入れたのだった。

 

ゆみ side out

 

 

美穂子 side

 

 私は文堂さんの話、加治木さんの話、そして中堅戦を思い出しながらずっと考えていたわ。

 もしも文堂さんが鉢合わせて言った言葉、それが蒲原さんの発言に繋がったんだとしたら? 文堂さんの実力を認めてる私だけど、後半戦の結果に大きく影響したのも間違いないと思うの。

 

 竹井さんが須賀君に加治木さんの言った事をした……、それはとても悲しいこと。

 けれど須賀君は鶴賀でとても大切な人達に出会って、加治木さん達もそれは同じだと私には感じられたわ。そして私達もその関係に助けられた部分がきっとあって、全国には行けなかったけど龍門淵に勝つことができた。

 

 一度も会ったことの無い須賀京太郎君という人が決戦戦に大きな影響を与えた結果なら、私は少しでも力になりたいと思うの。

 

「キャプテン、どうしたんだし」

 

 考え込んでいたから心配させてしまったのね? 見渡せばみんなが私を見ていた。

 

「ごめんなさい、悩んでいた訳じゃないから心配しないで?

 ただ、須賀君のお陰で私達が有利になった部分はあったんじゃないかって思ったの。

 それなら彼のために何かできることはないかしらって……」

 

 色々考えてみたけれど良い方法が思い浮かばなかったので、私に感謝してるって言ってくれた華菜達に考えを伝えてみたわ。

 私にとっては部長として次代の風越を育てるのは当たり前だったし、お洗濯やお弁当を作るのは好きだから苦じゃなかったのだけど、みんなにとってはそうじゃなかったみたいで須賀君に共感したのが力になったとも聞いたから。

 

「……あるし」

 

「え?」

 

 今、華菜はあるって言ったの?

 

「鶴賀の大将は言ってたし、その人がブレーンでコーチだって。

 ずっと考えてたけど……、あの搶樌も悪待ち対策もきっとその人が分析した結果だし。

 そして個人戦に出るなら事前分析は終わってる、けど……」

 

「……新人の分は今やってる?」

 

 華菜と吉留さんからそう聞いた私は納得したわ、偶然じゃなく必然だったのね? 私達と鶴賀が同じホテル(・・・・・・・・・・・)だということが。

 そして風越は部員が多くて、みんなで牌符を準備してくれたから、個人戦に出る私達の準備がもう終わってるのも。

 

「行きましょう、キャプテン!」

 

 須賀君に一番共感していた文堂さんの声、みんなも頷いてる、それなら!

 

「そうね、行きましょう!」

 

 そう宣言すると、私達は部屋を後にしたのでした。

 

美穂子 side out

 

 

智美 side

 

「それでころたんは、何を見せたいんだー?」

 

 衣だから、ころたん。うん、またいいあだ名をつけたなーと思いながら返事を待ってみる。

 

「サトミといったか、そのころたん(・・・・)というのは衣のことか?」

 

「そうだぞ? 衣だからころたん、キョウタの友達は私の友達だからな、ワハハ」

 

「蒲原……、いくらなんでも早過ぎだ、会ったばかりだぞ?」

 

 そんなことは言われなくてもわかってるぞ? でも、ころたんってなんか難しい言葉を使うけど寂しがり屋に見えるんだよなー。

 

「いや、ユミ、衣は気に入ったぞ! サトミと衣は友達なのだな?」

 

「勿論だぞ?」

 

「トーカ! 衣に友達がまた増えたぞ!」

 

 うん、やっぱり寂しかったんだなー、理由はわからなくても見てればなんとな〜くわかるんだぞ? 私には。龍門淵はみんな仲良いな? ワイワイと盛り上がってる。

 

 さて、じゃあ話を元に戻すかーって思った時に、チャイムが鳴った。仕方ない、私が行くかー。

 

「む、流石にもう心当たりは無いんだが、誰だ……っていきなり開けるな! 蒲原!」

 

「もう遅いぞ?」

 

 開けたら、そこにいたのは風越の……。

 

「お、文ちゃん達だ、どうしたんだー?」

 

「手伝いに来たし!」

 

 って、なんか猫っぽいのが言ったんだー。

 

智美 side out

 

 

まこ side

 

「さて、行くとするかの」

 

 わしは今まで良い意味でも悪い意味でも干渉してこんかったが、今回ばかりは動くと決めた。

 

「行くってどこに? まこ」

 

「決まっとる、鶴賀んとこじゃ。

 応援するのはわしらの勝手、それだけではただの自己満足にすぎんじゃろ?

 少しでも京太郎の役に立つことせんと、わしは自分を許せんよ。

 例え罵られようが許されなかろうが構わん、わしはわしのやり方で京太郎に協力するだけじゃ」

 

 みんなは久が封じ込まれたのも咲が河に騙されたうえ搶樌で狙い打ちされたのも、京太郎の情報が原因だと思っとる。

 勿論それもあるが、それだけであそこまでできるもんか? わしにゃあ情報だけじゃ同じことはできん。

 

 つまりじゃ、それができる様になる前提があったとわしは考えた。それで鶴賀の牌符を見とったら、ある事に気づいたんじゃ。

 

「久、鶴賀の強さの一因は対策じゃ。

 どこ相手じゃろうと、研究して対策しとったのが牌符を見てようわかった。

 ……似たような経験に記憶があるじゃろ? しかも清澄の部室で」

 

「……須賀君との東風戦。それじゃあ、その対策を練ったのは!」

 

 少しは頭が回ってきたか? 久。

 

「そうじゃ、わしは京太郎だと思っとる。

 わしの麻雀から得るのは難しいとか言いながら、しっかり持っていきおった」

 

 わしは膨大な過去の対局を記憶に残して、そこから似た局面を引き出すことができる。それを京太郎は逐次情報を集めた上で研究し尽くし、対局に臨むことで自分の物にした。

 勿論研究と対策自体は誰にでもできるし、やっとるとこは多い。じゃがその深さが違い過ぎる、でなければ搶樌などあのギリギリの局面で狙えん。

 

 そしてそれだけの信頼を勝ち取ったのなら……、今の京太郎は鶴賀の大将より手強いということにもなる。ただし、裏を返せば初見に弱いとも言えるが。まあ、対策有無の差であって実力が低いという意味には決してならんがの。

 

「あ、靖子? 鶴賀が泊まってるホテル、わかる!?」

 

 やっとらしくなったの? そうじゃ、それが竹井久じゃ。わしは藤田プロに電話する久を見ながらそう思っとった……。

 

まこ side out

 

 

モモ side

 

 龍門淵が来たと思ったら、風越が来たっす。まあ、龍門淵は加治木先輩から聞いてたから、まだわかるっすけど風越とは何も無かった……って、あれっすか? 部長が話したからとか?

 

「夜分にごめんなさい、加治木さん」

 

「いや、構わないが……とりあえず中に入って説明してくれるか?」

 

 和室で良かったっすね、これで十五人っすよ? 割と限界な人数に膨れあがった室内で話が始まったっす。

 

「まずは衣から頼む」

 

「うむ、実はキョータローに必要だと思って男子の情報を洗ってきた。

 量が量だからな、牌符と画像を整理して一通り目を通し、絞り込んである。

 キョータローに見せる前にユミ達と確認しようと思っていたのだ」

 

「それはありがたいな、私達はこれから手をつける所だった」

 

 京さん、ホントに友達っすか? 普通一緒に打っただけでここまでしないっすよ? それとも聞いてないだけで何か特別な理由があるんすかね?

 

「あら、それは丁度良かったわ」

 

 今度は風越っすか……。

 

「丁度良いということは……」

 

「ええ、須賀君には間接的にだけど助けられたと私達は思ってるわ。

 それで新人分の情報整理が必要だろうから手伝いたくて来たの」

 

 こっちもっすか? まさか本当に?

 

「あー、文ちゃんから聞いたのかー?」

 

「聞いたし! 私達にとっては他人事じゃないから気合いも入った。

 文堂も助けられたし、私も折れそうになった時、耐えられたのは話を聞いたからだし」

 

 うわー、京さんの影響力が凄過ぎるっす、でもわかるっすよ? 私も助けられた一人っすから。

 

「ならば今はキョータローのために協力して迅速に確認せぬか?」

 

「そうね、あまり時間はかけられないから急ぎましょう?」

 

「そうだな、では全員よろしく頼む」

 

 そう加治木先輩が言って頭を下げた直後、三度目の来客を知らせるチャイムが鳴った……。

 

モモ side out




鶴賀に、龍門淵に、風越にと京太郎は直接間接問わず影響を与えました。その結果、こんなことに。
そして遂にまこが動き、決戦四校が!
次回、(別の意味で)デュエルスタンバイ! あー、恐ろしい(汗

ちなみに和室、人口密度やばいですねw

そうそう、ころたんは咲日和から連れてきました! ころたん、イェ〜イ♪ w


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二本場 月夜の妖異、再び

さあて、どうなることやら。


モモ side

 

 現状から見て来たとするなら心当たりはたった一つっす、つまり……。

 

「流石にもう心当たりは……」

 

「駄目っす! 開けるのも聞くのも絶対駄目っす!!」

 

 誰がなんと言っても絶対認めないっす! 清澄なんか!!

 

「モモよ、もしや……」

 

「消去法っす! 後は京さんを追い出した清澄しか! だから絶対駄目っす!!」

 

 ここは京さんが作り上げた温かい場所、いていいのは京さんを純粋に応援したい人だけっす! あいつらにその資格なんて無い! どんな理由があっても、例え京さんが許しても私は絶対に許さない!!

 

「……ユミ、外に出る、共に来るか?」

 

「……ああ」

 

「それじゃあ、私達で進めるわ……」

 

 ここにはいれない? そう聞いた私は……。

 

モモ side out

 

 

衣 side

 

 今のモモを刺激するのは危険だ、能力が安定していない上に無理を通した影響など医学で計れるものではない。過剰に反応しているのも恐らくは感情の暴走……。

 

「おっと!」

 

「ジュン、安静にしてやるのだぞ?」

 

「任せとけ!」

 

 案の定、激昂した後に安堵したのかモモは崩れ落ちかけた。まったく清澄は余計な事しかしない、灸を据えねばならんか……。

 

「行くぞ、ユミ、屋上だ。トーカ、任せてよいな?」

 

「ええ、これだけのメンバーがいますもの、余裕ですわ!」

 

 そしてユミを引き連れた衣はドアを開けると、そのまま部屋を出て自動施錠に任せる。目の前には三人、しかしモモの声が聞こえたのだろう、言葉も無い。

 

「話を聞いてやろう、だがここでは駄目だ、貴様らが来ただけで既に一人倒れたからな……」

 

 今の衣は冷静を通り越している、故に淡々と告げることはできるがあくまでも表面上に過ぎん。まあ、モモが派手に取り乱したのを見てというのもあるが、それはそれだ。ともかく衣を先頭にユミ、清澄が続き屋上に出た。

 

「話せ」

 

「わしは清澄の二年、染谷まこじゃ。話をする前にこれを、京太郎の手紙を読んで欲しい」

 

 キョータローの手紙? ああ、ユミが嶺上使いに渡した物か。

 ユミが受け取り、二人で読む。うむ、キョータローは自分をよくわかっているな、当然ともいえるが此奴らならやりかねん。

 

「……須賀君には会えない、だが私達を訪ねた。……罪滅ぼしのつもりか?」

 

「こんなことでどうこうなるなんて欠片も思っとらん。

 じゃがなんと言われてもいい、ほんの少しでも京太郎の力になりたいと思って行動した。

 それだけじゃ、他意はなか……」

 

「ほう? それを今さら口にするのか、有象無象。

 ならば何故最初からそうしなかった? 衣は知ってるぞ?

 そこの部長とやらが二度と一緒に打たないと宣言し、貴様はそれを止めなかった」

 

「なに!? 初耳だぞ! そんな馬鹿げた話があっていいと思っているのか!?」

 

 まあ、当然そうなるな、わかっていて話した(・・・・・・・・・)のだから。キョータローの手紙を読めばわかる、清澄を悪く思っていない以上、鶴賀に伝える訳がない。

 衣が知っているのは影響力について調べるため聞き出したからであって、そうでなければキョータローは話さなかっただろう。

 

「……確かに止めんかった、部員の中で反論したのは和だけじゃ。

 じゃが天江、どういう経緯で京太郎と知り合ったか知らんが……。

 おんし京太郎と打ったことがあるか?」

 

「ある、それがなんだと?」

 

「京太郎の影響力を知らずにか?」

 

 ああ、なるほど? 奴腹は恐怖したのか、悲しいことだ……。

 

「何かと思えば……、衣はキョータロー自身に対局を望まれ、お互いを知りつつ打った。

 だが、貴様らの様な有象無象と一緒にするな、衣は楽しかった(・・・・・)ぞ? 最高に!

 そしてキョータローも楽しかったと言ってくれて友達となったのだ、初めてのな!」

 

「……能力を封じられて楽しかった?」

 

 キョータローを犬呼ばわりした奴か……、貴様や嶺上使いが壊れるのを懸念した訳だ。なんと情け無い理由、まったくもって度し難いがキョータローならば……。

 

「実力で勝負することのなんと楽しいことか、結果のわかる物ほどつまらん物はないからな。

 お誂え向きに三人か……、ならばここで衣と打て。

 さすればわかる、それがどういうことかな……、ハギヨシ!」

 

「衣様、こちらに」

 

「うむ」

 

 さて事前に聞いておこうか、念のためな。

 

「貴様らが来たということは個人戦に出ないのだな?」

 

「そうじゃ、うちらは辞退したからの」

 

 ならば遠慮は無用……、示してみよ! その覚悟を!

 

「ユミよ、ここは衣に任せよ。

 そして貴様らは知るがいい、能力を封じられることなど及ばぬ恐怖(・・・・・・・・・・・・・・・・・)をな!」

 

 さあ、始めるとしようか! それ以上の痛みを負っても進み続けるキョータローの強さを知らしめるために、そして貴様らを衣自ら測る!

 

衣 side out

 

 

久 side

 

 私達はただ少しでも須賀君に協力したかっただけで、誰かを傷つけるつもりはなかったのに、一人の子があんなに嫌がって倒れてしまった。

 それだけじゃないわ、須賀君は鶴賀で私達の麻雀については話したけど、それ以外何一つ……。

 

「ユミ、清澄の先鋒を有利にする方法は?」

 

「東風戦で起家にすればいい、最も能力を発揮する筈だ」

 

「ならば東風戦で清澄は好きに座るがいい、衣は残った席に座ろう。

 協力し易い席を勧めるぞ? これは慢心ではなく貴様らのためだ。

 ハッキリいうが衣の支配を破るには上回るか、人の輪を利用するしかない。

 

 打つ打たないは好きにしろ、だが結果の責任は己で持て、くれぐれも後悔せぬ様にな?」

 

 三対一でも勝てるっていうの? でも今の言葉には自信とは違う何か、いうなれば確信めいたものがあって。気が付けば優希、まこ、天江さん、私の順で座っていた。

 今の天江さんには逆らえない何か、さっき言っていた支配の様にも感じられる雰囲気があるわ、よく咲は闘えたわね……って始める前から呑まれてどうするのよ!

 

「ふむ、心意気に免じて衣が誰か一人にでも負けたなら、協力とやらをさせてやろう。

 だが……、それは断じてありえん!」

 

「!」

 

 なんなの!? この酷い感覚! 思わず後ずさった私は見てしまった、いきなり嘔吐する優希の姿を……。

 

久 side out

 

 

ゆみ side

 

 ここまで夜が()ければ衣の能力は、ほぼ最高になる筈。正直言って同卓したくはないな、決戦戦より酷いのは目に見えて明らかだ。

 その証拠に能力を発揮し易い状況にいた片岡は、影響を強烈に受けて耐え切れず……。そういえば宮永もギリギリだったな、能力の強さが反動になって返ってくるのか? 無くて良かったなどと思う日が来ようとは因果なものだな。

 

 それにしても信じ難いことを口にしたものだ、二度と同卓しないなどとは。詳しい経緯はわからないが……、転入を決意するには十分過ぎる理由だ。

 そしてこの対局、衣が本領を発揮したならまず一向聴地獄から抜け出せない。抜け道は先程言った三人による協力、しかしそれすらも海底を逃れるのが精一杯で得点力の高い出あがりの餌食になるだろう。

 

 つまり衣に勝たせる気など一切無い、ならばどうして条件をつけた? 何を期待している?

 

「まずは挨拶代わりだ」

 

 片岡の復調を待って始まった東風戦東一局、進むにつれて苦渋に満ちた表情となっていく清澄の面々。

 

「ポン」

 

 衣の副露でコースイン、だが誰も鳴かない、いや鳴けないが正解だな、決まりだ。

 

「ツモ。海底撈月(ハイテイラオユエ)、断么、三色同順、赤3、ドラ2、倍満、4,000/8,000」

 

 これは宮永の邪魔が無い分、十全に能力を発揮できているのか? 始めから打点がここまで高いとは……。

 

「ふむ、では続けるとしようか」

 

 何かを確認する様に衣は告げた、やはり目的があるのだな? ならば私は見届けよう、この先に待つ何かを。

 

ゆみ side out

 

 

優希 side

 

 東場の親で何もできなかったじぇ……、一向聴までは行けるのにそこから一つも進まない……、しかも倍満の親被り……。

 それにさっきの感覚、まるで海の底に引き摺り込まれてくみたいだったじょ、また気持ち悪くなってきた……。

 

「わしの親番じゃな」

 

 染谷先輩はそう言って気合いを入れたみたいだじぇ、けど私はまた一向聴地獄、そしてあっという間に十七巡目……。

 

「リーチ」

 

 今リーチをかけるってことは……、また!?

 

「ツモ。リーチ、一発、海底撈月(ハイテイラオユエ)、三暗刻、三色同刻、断么、赤1、ドラ3。

 数え役満、8,000/16,000」

 

 なんなんだじぇ、これ! ホントに何もできないじょ……、しかも染谷先輩が満貫もらっただけで飛ぶ! そして次の親は……。

 

「……先に教えた筈、何故全力を尽くさない?

 このままでは本当に(・・・)終わるぞ、少しは抗って見せよ!

 それともキョータローへの想いとは、所詮その程度ということか!!」

 

 今、なんて言ったんだじぇ? 確かに私達が京太郎を追い出しちゃったのは事実だけど、あの日から京太郎のことを想わなかった日は一日もなかったんだじょ!

 

「冗談言わないでくれるかしら」

 

「そうじゃの、笑えない冗談じゃ」

 

「勝負はこれからだじぇ!」

 

 今の私が一番怖いのは京太郎の力になれないこと、ならこれくらい乗り越えてみせる! 咲ちゃんにできたんなら……、東場で私にできない訳ないんだじょ! そう思った瞬間、何かが変わった気がした……。

 

優希 side out

 

 

衣 side

 

 む、彼奴の気配が明らかに変わった、同時に衣の支配への介入を感じる。やっとか、まったく手間をかけさせてくれるな、清澄は。

 

「ならば見せてみよ! その言葉に相違無いと麻雀でな!」

 

 衣の親、配牌には陰り無し。しかし、月に若干の陰りを感じる。

 意志の力で能力の強度が上がった(・・・・・・・・・・)な? ならば、こちらも本気で行くとしようか! そしてこの試練に幕を下ろそうぞ!

 

 衣の手の進み具合に違和感がある、勝負に影響するほどでは無いが油断大敵、一切手を抜かずに勝つ! そんな衣の内心を知る由もなかろうが抵抗は徐々に強くなっていく。

 ふっ、ふふふっ、昂ぶるなっ! そうでなくては張り合いが無い! そして、キョータローの手助けをする資格もな!

 

「リーチ!」

 

 遂に抜け出たか! 態々条件を整え、引き出した(・・・・・)のだ、そうでなくてはな! 東場の豪運使いよ!

 

「うむ、よくぞ衣の支配から抜け出したと言っておこう、だが!」

 

 一巡遅かった(・・・・・・)な、そして……。

 

「ツモ! 断么、三暗刻、三色同刻、赤3、ドラ2!

 親の三倍満は12,000オール! そして……、終局だ」

 

 マコといったか? 奴腹を飛ばした衣はそう宣言した。清澄の三人は悔しさを滲ませている、ならば教えてやろう、この対局の意味を。

 

「よく聞け、三人共。

 貴様らが今感じているもの、それを京太郎に幾度となく味合わせてきたのはお前達だ。

 

 悔しかろう、腹立たしかろう、だが貴様らはそれすらも京太郎から奪った。

 その感情がある限り、そこな東場の豪運使いが今成した様に自身を高められるにも拘らずな。

 

 加えて京太郎がいれば貴様らはもっと高みへ昇れたというのに……、愚かなことだ」

 

 心当たりがある筈だ、その証拠に俯いているのだから。そして、衣の本題はここからだ(・・・・・・・・)

 

「さて、勝負はついたが……、何か言い分があれば聞こう」

 

「……恥を偲んで頼む、ほんの少しでもいいんじゃ、京太郎の力にならせてはくれんか?

 うちらのことを伝えて欲しいなどとは言わん、どうか聞き入れて欲しい、頼む!」

 

 そういったマコとやらは伏している、勿論三人揃ってな。さて、今ならば真にキョータローの苦しみを理解しただろう、ならば……。

 

「ユミよ、あの部屋に清澄を連れてはいけんな?」

 

「……ああ、流石にそれは無理だ、清澄に反感を持つ者は多いからな」

 

「ふむ、衣もそう思う。そこでだ……、ハギヨシ!」

 

 ここまでして追い返すなら、そもそも話しなどせん。まったく衣も甘くなったものだな、そうは思わんか? キョータロー。

 

「一室確保しました、いつでも御利用になれます」

 

 その声に顔を上げた清澄の三人は驚きの表情であったが、期待は隠し切れておらんな。

 

「清澄の、ハギヨシに案内させる。そこで待て、多少融通してやろう。

 それならよかろう? ユミ」

 

「一つだけ、何故三人なのか聞きたいところだが時間的に厳しいな、手紙にでも記してくれ。

 それと衣、作業するには部屋が狭い、私達もそちらでどうだ?」

 

 ふむ、それは妙案だ、彷徨(うろつ)かれてモモやキョータローに遭遇されては困るというのだな?

 

「では、そうするとしよう」

 

「恩にきる! 本当にありがとう!」

 

「勘違いするなよ? あくまでもキョータローを想えばこそだ。

 勿論、キョータローだけでなく誰にも遭遇しないよう細心の注意を払え」

 

 そう言い残し、衣とユミは部屋へと戻る、別室で作業する旨を伝えるために……。

 

衣 side out




モモはまだまだ本調子ではありませんので、精神的に疲弊して休養せざるを得なくなりました。

衣はゆみに真実の一端を教えつつ、自分の感情より京太郎ならと考えての行動。
京太郎が与えた影響の大きさは予想以上の様ですね。

そして突如勃発した最多得点王、月下の天江衣VS清澄の麻雀対決。
この条件下では衣のいう通りまず間違いなく勝てません、ですが目的を達成し御眼鏡になんとか叶った結果、折衷案としてこうなりました。

まあ、あの部屋に入れたら作業どころじゃないので当然ですね、モモもいる訳ですし。

とにかく今回の主役は天江衣。その存在感が表現できていればいいなと思う筆者でした。


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三本場 誓う挑戦者

少々更新に時間がかかりました、リアルで色々ありまして(汗


智美 side

 

 ユミちんと、ころたんが出ていった後、キョウタの打ち筋がわかる私達を一人含めた四人チーム三つ作って分担。作業を効率よく進めるのに態と時間差ができる組合せにしたんだ、まあ佳織はアレだからそこは龍門淵二人な?

 こうすれば終わったチームから届けて見てる間に次が終わるだろー? まあ、実際のところは龍門渕でしっかりやってあったから余裕がある位なんだけどな? そういうことで私のチームから届けに行くぞー。

 

「キョウタ〜、お届け物だぞー」

 

 チャイムを鳴らしてから声をかけるとキョウタが出てきた。

 

「部長、お届け物って……、はっ? え?

 透華さん……は、まだわかるとしても風越のお二人は何故ここに?」

 

「まあまあ、キョウタ。説明するから、とりあえず中に入るぞー」

 

 こういう時は多少強引な方が手っ取り早いんだよなー、キョウタは。だから私はそのまま中に入ったんだけど、そこには予想外の物があってな?

 

「……まさか持ち込んでるとは思わなかったぞ?」

 

 ホテルの和室に備え付けられたテーブルには広げられたマットと牌、私はまだキョウタの信念を甘く見てたと知ったんだ……。

 

智美 side out

 

 

美穂子 side

 

 この人が須賀京太郎君、風越は女子校だからよくわからないんだけど、男の子の金髪って普通なのかしら? いけない、思考が別な方向にいってるわね、まずは……。

 

「初めまして、風越女子三年の福路美穂子です」

 

「二年の池田華菜だし!」

 

 挨拶は大切よね? そう思って告げた私に華菜も続いたわ。

 

「鶴賀学園麻雀部一年の須賀京太郎です。

 それにしても凄いメンバーですね、部長の福路さんと大将の池田さんとは驚きました。

 とりあえず立ち話もなんですから中へどうぞ、勿論、友人の透華さんも遠慮なく」

 

 やっぱり……、今のやり取りには戸惑いがなかったわ、つまり私達のことをよく知ってるのね?

 

「失礼しますわ!」

 

 龍門渕さんはそういうと迷うことなく中へ、私達もお言葉に甘えましょう。

 

「失礼するわね、須賀君」

 

「お邪魔するし!」

 

 お部屋に入って、すぐ目に映ったのはテーブルを見つめる蒲原さん、その視線を追えば……。

 

「あの、どうして牌が全て表向き(・・・・・・・)なのかしら?」

 

 牌を持ち込む人はいるかもしれないわ、けど手牌も山も関係なく全て表にして打つ、少なくても私は見聞きしたことがなくて……。

 

「ああ、あれですか? 四人分打っていたんです、男子団体戦の牌符を実際に」

 

 えっと、それだけじゃわからないんだけど困ったわね……。

 

「どういうことだし!?」

 

 ありがとう、華菜!

 

「そうですね、簡単にいえば相手を識る(・・・・・)ためでしょうか。

 こうして実際に打つと、どう考えていたのかより見えてきますし、打ち筋や癖も同様です。

 セオリーからのズレが多ければ、能力持ちか判別できて特徴も掴めるので対策にもなります」

 

「牌符からだけじゃ足りないということなの?」

 

 風越では相手を知るために牌符を見るわ、けどさっきの方法論からいえば、それだけじゃ足りないということになる。

 

「一概にはいえませんね、福路さんの様に視える人(・・・・)はそれで十分かもしれません。

 

 ですが、私は自分のできることを全てやって、後悔しない一打を積み上げる。

 その結果なら勝っても負けても納得できますよね? そういう麻雀が打ちたいんです。

 そして常に挑戦し続けると決めた結果、辿り着いたのがこの方法だっただけですよ」

 

 須賀君は普通に説明してくれたのだけど、その言葉は確かな重さと熱量を伴って私に届いたわ。鶴賀の人達、龍門淵の人達、華菜や文堂さん、そして私自身が彼に協力したくなったのかわかった気がして。

 

 !? ちょっと待って! 今、私を視える人(・・・・)って! その言葉でどうしてあの時、振り込んだのか気になっていたのを思い出した……。

 

美穂子 side out

 

 

透華 side

 

 いい覚悟ですわ、京太郎! そうでなくては!! わたくしは心からそう思っていました。

 比べてわたくしは副将戦を最後まで自分の意思で打ちきれなかった、それは京太郎のいう後悔しない一打を積み上げきれなかったということ、不甲斐なくて不完全燃焼もいいところです。

 

 ふと見まわせばいい面子ですわね? 京太郎の調整になりますし、わたくしも今の京太郎と打ちたくて仕方ありませんわ! ここは一つ提案とまいりましょう!

 

「京太郎、研究は勿論大切ですわ! ですが、もっと良いものが目の前にありましてよ?」

 

「そうですね、普段打つ機会のない相手との対局は得るものが多いかもしれません」

 

 あら、ダシに使われましたわね? でも構いませんわ!

 

「そういうことなら相手になるし!」

 

「一理ありますね、それではよろしくお願いします、先輩方。

 ですが先にいっておきます、鶴賀は今年の団体戦全国出場を決めた麻雀部です。

 その一員である私が負ける訳にはいきません、ですから……」

 

 そういった京太郎は、雀士の自分を曝け出しましたわ、絶対の意志をその瞳に宿して。

 

「その壁、全力で乗り越えてみせましょう!」

 

 いい、いいですわ! 京太郎!! そうでなくては張り合いがないというもの!

 わたくしはこの一戦に全力で挑み、打ち勝って見せますわよ? そして暴いてみせますわ! フランの正体を!

 

透華 side out

 

 

京太郎 side

 

 それにしても随分と豪華なメンバーだな、まだ何をしにきたかも聞いてないんだけど、俺に異論なんかある訳がない。

 

 女子個人戦全国出場の常連、福路美穂子さん。

 一年から名門風越の大将を務める、池田華菜さん。

 デジタルだけならず一撃があり、詳細不明の能力すら持つ、龍門淵透華さん。

 

 不思議なもんだ、清澄にいた頃ならネームバリューだけで負けを覚悟した相手、なのに今の俺は卓へつけば麻雀だけに集中できる(・・・・・・・・・・)

 麻雀最大の敵は自分自身というのが俺の持論、まあ麻雀に限らず競技全般にいえることだが、これをクリアするのはとても難しい。もしかしたら和は対局中、今の俺と似たような状態(・・・・・・・)だったのかもしれないな、モモが見えたことからの予想(・・・・・・・・・・・・・)だけどさ。

 

「あー、あんまり時間かけてると目的が果たせなくなるぞ?」

 

 部長の言葉から目的がある(・・・・・)ことはわかったな、まあ用もないのに来る様なメンバーじゃないから何かあるとは思ってたけどさ。

 

「それもそうですわね、なら東風戦で勝負ですわ!」

 

「そうね、そうしましょう」

 

「わかったし!」

 

 ……もしかして池田さんと福路さんって、咲と和みたいな関係なのか? ただの先輩後輩の距離感じゃない気がする、阿吽の呼吸というか分かり合ってるというか。まあ、今は関係ない話だ、始めるとしようか!

 

「そうですね、では早速始めましょう!」

 

 起家は池田さん、透華さん、福路さん、俺の順。さて、有言実行して明日に弾みをつけよう! 鶴賀で鍛えた俺の麻雀で!

 

京太郎 side out

 

 

華菜 side

 

 この人が文堂の言ってた……、でも今は明るくて自信に満ちてるし! 私はそれが嬉しかった、鶴賀へ行って加治木さんにあそこまで言わせたのは、須賀自身築き上げた物だから。

 私達はキャプテンのお陰で今がある、けど須賀は自力で……、ホント凄いし! あとは打てばわかる、そういう想いを込めて最初の牌を切った。

 

 打ってるメンツは全員堅いってわかってる、加治木さんの話からいけば、その元が須賀の麻雀だから間違いないし!

 そして、一番打点が高いのは、私! 慎重に、それでいて必要な時は強気にでる、それが私の麻雀だから!

 

「リーチだし!」

 

 出あがりなんかありえない面子、ツモってみせる!

 

「チーですわ!」

 

 一発が潰された!

 

「ポン」

 

 キャプテン!? 龍門淵の捨てた東を鳴いて特急券だし! そう思いながら須賀を見て目を疑った、だって笑ってるし!

 

「やっぱり楽しいですね、麻雀は。ですが、いいんですか?(・・・・・・・)

 

 そういった須賀が無造作に切った牌は、私のリーチを難なく躱して通った……。

 

華菜 side out

 

 

美穂子 side

 

 華菜のリーチは中盤に差し掛かった頃、そして今は終盤まできてる。華菜はツモれなくて、誰も振らない状況がずっと続いてたわ。そして遂に全員が聴牌、一番危険なのは勿論華菜、あの言葉は華菜に向けたものだったのね?

 

 ここまで見てきてわかったのは、須賀君の麻雀が私の知る中でも一,二を争うほど堅実だということ。それは全国レベルを意味する(・・・・・・・・・・)わ、これが二カ月程の腕前という事実に驚けばいいのか、それともその努力を称賛すればいいのか。いえ、積み重ねた努力の質と量が実を結んだのね、須賀君の麻雀からはそう感じさせる何かがあるもの。

 

「随分と余裕があるんですね、福路さん」

 

「え?」

 

 そう言った須賀君は、まるで視えてるかの様に難なく通してみせた、三人の聴牌をするりと潜り抜けて。

 

「そろそろ本気でお願いします(・・・・・・・・・)

 

 華菜が運良く通った。

 

「えっと、私は本気よ?」

 

 龍門淵さんが、遂に降りた。

 

「片目では説得力がありません、福路さん、私は識っています(・・・・・・)から。

 それに貴女はまだ降りない、視る(・・)しかありません、違いますか?」

 

 確かにこの状況、降りないなら視るしか……って、まさか!

 

「私の牌符、から!?」

 

 そして、私は右目を開けた(・・・・・・)

 

美穂子 side out

 

 

透華 side

 

 鶴賀のブレーンでコーチと称される一年生、京太郎。先程言っていた通り、既に識られている(・・・・・・・・)んですのね? この場の全員は。まあ、女子団体戦対策を練ったんですから当然ですが。

 

 そして、私が気づかなかった福路さんの秘密、彼女も能力者だった……。そうとわかれば納得できる場面を、幾つも思い出しましたわ、これがヤバげに感じた理由でしたのね。

 

 ですが、京太郎に能力は通用しない(・・・・・・・・・・・・)

 

 そういえば団体戦で珍しく振ってましたわね? もしやアレも京太郎が関係して? そんなことを考えながら様子を伺えば、福路さんは以前見たように確信を持って切りましたわ。

 

 そして、その瞬間、良く通る声が聞こえました。

 

「ロン」

 

 ガタっと音がした方を向けば、驚愕の表情を浮かべている福路さん。珍しいですわね、冷静を絵に描いた様な貴女でも、その様な行動をされることがあるんですのね。

 

私の視界では安牌だった(・・・・・・・・・・・)筈なのに、どうしてなの!?」

 

「キョウタに能力の類いは通用しないぞ?」

 

 いいタイミングですわ、流石は部長ということでしょうか。

 

「え?」

 

 あら、随分と可愛いらしく驚きになりますのね、福路さん?

 

「そうですわね、京太郎に能力は通用しませんわ、衣ですら無効化されましたから。

 

 先程の行動と言葉からいって、右目を開ければ針の穴を通す様に視えるのでしょう?

 ですが、無効化されて自覚できる能力と、できない能力があるようですわね。

 貴女の場合、自覚できない部類の様ですから、見誤って振り込むのは当然」

 

「うむ、其方の気持ちはわからんでもないが、今夜はここまでにして貰おう」

 

 わたくしの言葉に続いて聞こえてきたのは……、衣のそんな言葉でした。

 

透華 side out

 

 

衣 side

 

 サトミに塩梅を尋ねるべく連絡してみれば、対局することになったと聞き、ハギヨシの“すまほ”なる物で奴腹と共に見ていた訳だが……。

 想像以上の打ち手になったものだな、キョータロー? いや研鑽を永続するのだ、遥か彼方の限界すら超えてみせるのだろう、流石は衣が認めた打ち手で友達だ。

 

 先程の駆け引き、誰も気づいておらんのか? 態と能力に頼らせ振らせるとは策を講じるのもお手のものか、手札は多いに越したことはない、それを彼奴相手に試す度胸は称賛に値する。

 

 さて、まだ本題すら告げてないとはサトミの言、迅速に事を済ませるとしよう。清澄についての言及は避けざるを得んが奴腹も納得済、悪く思うなよ?

 

「キョータロー、よく聞け。

 鶴賀は勿論だが、我ら龍門淵と風越合わせて十五人が、一年男子の情報を整理した。

 順次届く故、明日に備えよ、あまり時間も無いことだしな」

 

「それが目的で、ここに……」

 

 一人納得したのか、そう呟くキョータロー、そして……。

 

「ありがとうございます、皆さんにもそう伝えてください、衣さん。

 その、何故風越までという疑問は残りますが、感謝の気持ちに変わりはありません。

 

 福路さん、池田さん、透華さん、対局ありがとうございました。

 お陰様で自信をもって挑めます、勿論データも活かして結果で応えましょう」

 

 一礼してから、そういったキョータローは笑顔で、衣はそれが一番嬉しかった。

 

衣 side out




京太郎の実力、その一端が明かされました。
美穂子をして全国レベル、しかもその比較対象は女子ですから、相当ですね。

ところで京太郎が主人公だと、こういったエピソードを出さないのは物語として不自然ですよね?
もう少し個人戦前夜にお付き合いください、団体戦を終えて本筋の京太郎物語になったので!


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四本場 事情を知る時

タイトル通り、そういう時期に来ました。


久 side

 

 ハギヨシさんが準備してくれたスマホから、私達は一部始終を見ていた。それはもうこれ以上ないってぐらい理想的な麻雀で、咲が聞いた加治木さんの言葉を裏づける確かな証拠。

 

「あのメンバー相手に……」

 

 思わず溢れ落ちた言葉、だってしょうがないじゃない? 全国出場経験者の二人と名門風越の大将を相手にしてまったく動じないどころか、言葉巧みに場を支配したのは二カ月前まで初心者だった須賀君なのよ?

 最後の対局とすら比べるのが馬鹿馬鹿しくなる程の違いに、彼の気持ちを察しようともしなかった私は、麻雀にかける想いの強さをまざまざと見せつけられた。

 

「久の口撃まで自分流にして使うんじゃな、京太郎は。

 同じデジタルでも和と違って、相手の情報(・・・・・)も当然麻雀に活かす……か。

 堅くて読み辛い麻雀、そして振らずにあがる力量、京太郎は理想を体現した(・・・・・・)んじゃな」

 

 優希は言葉も出ないようね、福路さんと打った訳だし、その手強さをよく知ってるんだから余計に。

 

「須賀君が本領を発揮したなら、私達の誰も勝てなかった。

 本気ではあるが先程のはまだ序の口、少しでも知ってるなら理解できる筈だ」

 

鳴いてない(・・・・・)、そういうことかしら?」

 

 私の言葉に加治木さんは頷いて続ける。

 

態と鳴かなかった(・・・・・・・・)から、あそこまで長引いた。

 まあ、須賀君のことだ、あの場で何かを得るためだろうな。

 

 彼は対局の全てを無駄にしない、そして得られたものが須賀君の実力を高め続ける。

 私達も彼を見習ったからこそ、堅さや思考の柔軟性を得られた」

 

 加治木さんは須賀君と自分達を誇らしげに語る、天江さんが言った「より高みに」ってことの結果が、鶴賀全国出場の決め手なんだという意味を込めて。

 そんな話をしているうちに天江さんの説明から始まった会話も終わり、屈託のない笑顔で須賀君が礼を述べ、本来の目的である研究に移った所で電話は切れた。

 

「良い笑顔だったな、だからこそやり甲斐がある。

 私達や龍門淵は直接、風越は間接的にだが須賀君を知った。

 彼の人柄に惹かれた者、境遇に共感した者といった違いはあるが……。

 助けになりたいという想い(・・・・・・・・・・・・)、集う理由としては十分過ぎる」

 

 そう言って沈黙、それが私達の本心はどうなのかと問いかけているようで……。

 

「わかっているとは思うが……。

 君達のことを最低でも三校十五人は多かれ少なかれ快く思っていない。

 その中でもうちの東横桃子は須賀君に命を救われ、特別な理由や経緯があり彼を慕っている。

 君達が来て倒れたのはモモだ、モモは私達以上に君達のしたことを知っているようだからな」

 

「え?」

 

 私は思わず間の抜けた声を発してしまった、それは須賀君が清澄にいた時、すでに東横さんと知り合いだったってことを意味するから。

 だから鶴賀に? その疑問の答えは一枚の紙で氷解したわ、手渡されたアンケートという形で。

 

「鶴賀も女子団体戦メンバーが不足していてな? その時、部員ではなかったんだ、モモは。

 校内LANを利用した麻雀イベントで目星はつけたものの、素気無(すげな)く断られた。

 まあ、見つけられたら入部してくれるとは言ってくれたが、匿名で特定できなかったんだ。

 そして届いたのが、ソレだ」

 

 読めば何を懸念してるのかわかる内容、そして身に覚えがあり過ぎる内容。

 

「ソレが届いたのは、須賀君に助けられた後だったと、今ならわかる」

 

「東横さんは……、須賀君のために鶴賀の麻雀部を下調べした、と?」

 

 加治木さんは頷いて、経緯を話し始めた。

 

「モモはその時、清澄で須賀君は育たないと確信していたそうだ、それで自主的に調べた。

 鶴賀は鶴賀で共学にしたものの男子の転校が相次いでな、転入者の優遇が決まった頃だ」

 

「……京太郎が麻雀に打ち込めて、転入しても家族に負担がかからんどころか、軽減される。

 じゃからか、あれほど突然いなくなれたのは……。

 ならこっちも誠意を見せんとな、京太郎の置き手紙じゃ、読んで欲しい」

 

 そう言ったまこは手紙を取り出すと加治木さんに手渡した、目を通した加治木さんは柔らかく、けれど力なく笑って。

 

「須賀君らしい、彼だけだよ、君達を悪く思っていないのは。

 少なくとも私は彼の口から聞いたことがない、君達に対する愚痴の一つも。

 

 だからモモは清澄に連れ戻される可能性を恐れた、そして知るからこそ君達を拒絶する。

 少々過剰反応だったと思うが……、気持ちはわからなくもないな」

 

 聞けば聞くほど、須賀君を犠牲に言い訳しながら、私は自分自身の目標を優先してたという事実と罪深さを突き付けられる。

 それとは逆に、例え命の恩人であったとしても東横さんは須賀君のことを一番に考えて行動したんだと。

 そして最終的に置き手紙の経緯を経て、須賀君が自分の意志で鶴賀へ転入したのは正しい選択だったことも、さっきの対局と団体戦の結果が証明していた。

 けれど、過ぎてしまったことを嘆いても過去に戻れる訳じゃない。ならやっぱり私は、私達は今できることを!

 

「そうね、私が同じ立場だったら東横さんに近いことをしたと思うわ。

 けど私達も引けない、なんて言われようと貰った機会、今更だろうが全力を尽くすだけよ!」

 

 誰になんて思われようと関係ない、須賀君が知らなくても構わない、できることをする、ただそれだけのこと! 強いて言えば、須賀君の望む麻雀ができる手助けの一片にでもなれば本望よ!

 

久 side out

 

 

衣 side

 

 作業の進捗を見るに問題ないと判断した衣は、風越のメンバーに礼を述べ宿舎に帰した、風越は個人戦に出るのだから限度があろうと説得するのは骨が折れたが。

 まったくキョータローの求心力にも困ったものだ、そう思いつつトーカとサトミに後を任せて清澄の元へと戻って来たのだが……。

 

「なんだ、この雰囲気は! 暑苦しいにも程がある!

 説明せよ、ユミ! 流石に鬱陶しいぞ!!」

 

「現実を直視した結果、かえって本気度が増したといったところだ、衣」

 

 目論見(もくろみ)通りになったのはいいが、効き過ぎたということか? ならば流石に文句は言えんな、やむを得んか……。

 

 サトミからキョータローがトーカ達と打つと聞いて、衣は使えると思ったのだ、今のキョータローを知らねば此奴らなど役に立たんからな。

 勿論、衣自身見たかったのは言うまでもないが、最も重要なのはキョータローの力になる(・・・・・・・・・・・)ことで、それが何よりも優先される。

 そのためならば奴腹がどうのといった感情など衣は抑えてみせるし、それこそユミとて同じだろう、清澄のことなど結果をもって後からゆっくり考えればいいのだ。

 

「ふむ、それで進捗と出来は?」

 

「必要性を感じた時はアドバイスしているが、やはり直に見たのが効いている。

 予想以上のペースだな、良い物に仕上がるだろうが……」

 

 ふむ、良い物止まりでは駄目だ(・・・・・・・・・・・)、妥協は許されん。

 

「衣達も加わるぞ、ユミ」

 

 ユミは衣の言に頷くと、最高の物を仕上げるべく作業に加わった、全ては友達であるキョータローのために!

 

衣 side out

 

 

美穂子 side

 

 天江さんに説得された私達は、挨拶してから帰ることにして須賀君の部屋を訪ねた。

 

「それじゃあ、須賀君、明日はお互い頑張りましょうね」

 

「はい、福路さん。風越の皆さんも本当にありがとうございました。

 私も皆さんのご健闘を祈っています、厚遇の御礼は結果で示して見せましょう」

 

 そう言った須賀君を華菜が揶揄ったり、文堂さんが止めたりと随分仲良くなったのね、時間は短かったけれど良い出会いだったと思いながら、私は微笑ましく見ていたのだけど……。

 

「お帰りになるところ申し訳ないのですが、福路さんに一つ質問してもいいですか?」

 

 急に真剣な表情になった須賀君、答えられるものなら、そう思った私は……。

 

「ええ、私でよければ」

 

 そう言ったわ、けど須賀君はこう返したの。

 

「話したくなければ無理に話さないで下さいね?」

 

 どんな内容かはともかく、気遣ってくれてるのは嬉しくて、余計に答えられればと思ったわ。

 

「ええ、ありがとう、でも大丈夫よ? 聞かせてくれるかしら」

 

「では遠慮なく、いつから片目で麻雀を?(・・・・・・・・・・・)

 

 その瞬間、心臓を鷲掴みにされたかと思うくらい私は動揺してしまった、だってそれはトラウマに触れる内容だったから。そんな私を見て、須賀君は……。

 

「すみません、今の質問は忘れて下さい、ただこれだけはお伝えしておきます。

 福路さんの瞳はとても綺麗でした、事情はあるのでしょうが隠しているのが勿体無いくらいに」

 

「え?」

 

 私は小さい時から、この目のせいで一人だった。男の子に揶揄われて、女の子に嫌われる、それが普通で……、だから片目を閉じた。そうしたら友達ができたわ、嬉しくて私なりに色々頑張ったんだけど、今度はウザがられる様になってまた一人に……。

 

 そんな私にとって華菜は特別、自分から私の所に来てくれて、自分の方がウザいから私はウザくないなんて……、本当に嬉しかったの。

 そして須賀君、彼は私の目を見ても揶揄うどころか綺麗だって……、そんなことを言った男の子は初めてだった。

 

「その、本当にそう思うの? だって、昔からみんなは変だって……」

 

「それを言ったのは小学生男子では? そうなら好きな子を揶揄って気を引きたいからですよ。

 女子はそれを見て、その男の子が好きだからいじめたりするっていうやつですね、きっと。

 

 福路さんは、とても優しくて家事も万能だと風越の皆さんから聞きました。

 私も優しい方だと、他校の私なんかに力を貸してくれた、とても魅力的な人だと思っています」

 

 須賀君は笑顔でそう言い切ったの、私を真っ直ぐ見つめながら……。

 

美穂子 side out

 

 

京太郎 side

 

 片目で打つようになった理由が必ずある(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、それはオッドアイに関連するんじゃないかとは予想したけど、酷く動揺したからデリケートな問題に踏み込んでしまったと判断してその話を打ち切った。

 

 知りたかったのは経緯じゃない、まずは片目の期間、次に初めて両目で視た時の影響(・・・・・・・・・・・・)、最後は両目に慣れるまでの期間だ。

 

 片目で麻雀をしたら最初は見落としが増えるだろう、けど人は慣れる生き物で使った側の目が適応しだすと観察力は徐々に上がり、最終的には片目だけでも十分な実力に届くんだと福路さんを見て思った。

 

 そこまでになった時、もう片方の目を使ったら? 多分情報過多で熱が出たり、頭痛になったりした筈だ。

 片目で十分な情報量を得て処理していた脳に、追加で情報を与えれば処理しきれないだろ? そうなれば何か影響が出てもおかしくないからな。

 

 そして、そこをクリアしたなら素養次第で能力に昇華されるんじゃないか、モモの件から福路さんの異常な観察力を俺はそういう類のものだと予想して質問したんだ。

 

 ところが、その福路さんからタブーっぽい目について聞かれるのは流石に想定外。

 聞けば、ガキの頃ならよくある話。とはいえ本人にとっては辛い過去なんだと思った俺は、わかりやすく説明することにした訳だ。

 

 まあ、口説き文句みたいになったのはアレだが、これで少しでも自信に繋がればと御礼にもならないだろうけど思ったことをそのまま伝えてみたんだけど……、もう少し必要か? なら……。

 

「あー、ちなみにですが私は金髪ですよね? これが原因で私も随分色々とあったんですよ。

 ですが生まれ持ったものはどうしようもないので、一度は地毛だって説明しています。

 その後はもう開き直ってますね、だってこの姿が須賀京太郎なんですから。

 

 福路さんだって生まれ持ったもの、隠す以外に思いつかなかったのでしょう?

 私は事情も知らなければ悩みもわかりませんが、その瞳は福路さんだけのチャームポイント。

 そういう風に良い方へ捉えてみませんか? きっと何かが変わると私は思います」

 

 俺に言えるのはここまでだな、今の言葉でさえ捉え方一つで良くも悪くもなるし。

 

「きょ・う・さ・ん? 何、口説いてるんすかー!?」

 

「モモ!? 何勘違いしてるんだ……って、やめろー! 俺は口説いてねー!

 そうですよね!? 部長って、なんで一緒にー!!」

 

「ワハハ、諦めろ、キョウタ〜」

 

 いつの間にか現れたモモと、面白がった笑顔の部長に簀巻きにされた俺だったが、まあいいかと思っていた。

 

「ふふふっ、鶴賀は仲が良くて賑やかなのね」

 

 そう言った福路さんは、笑顔だったのだから……。

 

京太郎 side out




清澄勢は京太郎の実力と現状、これまでのことを。
ゆみは京太郎が清澄でどう思っていたのかを。
美穂子は京太郎が思う過去の理由を、それぞれ知ることになりました。

京太郎は美穂子の観察力を独自解釈して、知りたいことがある様です。

新たな視点を示した京太郎と何かが変わったかもしれない美穂子。
まあ、最後はモモと智美の手で簀巻きにされて締まらない京太郎でしたw



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五本場 絆は力に、そして不器用な優しさ

大変お待たせしましたが復活です!よろしければ、またお付き合い下さい。

ちなみに“この物語では“こうなんだーってくらい単純に楽しんでいただけると嬉しいです。


追伸
感想などいただけると狂喜乱舞しますw
モチベーションも上がるので、よろしくお願いします♪



モモ side

 

 清澄が来て、いつの間にか意識を失った私が気がついたのは、ついさっき。体調に問題なかったので京さんの所へと来たら、風越の先鋒さんを口説いてる最中だったっす。

 とりあえず部長と一緒に問答無用で簀巻きにしたんすけど、後のことをまったく考えずに勢いでやったから、どうしたもんすかね……。

 

「東横さん、だったわね? ちょっといいかしら」

 

 そういうと風越の先鋒さんは私の手を引いて、部屋の隅に移動したっす。

 

「あのね、東横さん? 須賀君は私を励ましてくれただけなの、誤解なのよ?」

 

 最初から聞いてた訳じゃないから、そうかもしれないっすけど……。

 

「モモ〜、福路さんのいう通りだぞ?」

 

 いつの間にか部長も混ざって……、え!?

 

「ちょっ、部長! それなら止めて欲しかったっす!」

 

「面白いからいいかと思ってなー、ワハハ」

 

 笑いごとじゃないっす! あ〜、最悪っすよ、そう思って頭を抱えていたら小声で福路さんが……。

 

「東横さんは須賀君のことが好きなのね? 大丈夫よ、私は取ったりしないわ」

 

 私は顔が熱くなるのを感じたっす、福路さんにはバレバレっすか!?

 

「それとさっきのはね? いつから片目で麻雀していたか質問を受けたんだけど……。

 私が動揺したから須賀君は話を打ち切って気遣ってくれただけなのよ、だから安心してね?」

 

 勘違いでとんでもないことを! 慌てて京さんの所へ戻った私は急いで解放したっす、多分顔は赤いままだったと思うけど構っている余裕なんてまったくなかったんすから……。

 

モモ side out

 

 

美穂子 side

 

 今日、見聞きしたり、少しだけ話した私でも須賀君が仲間想いで、とても信頼されてるのはわかったわ。

 東横さんが須賀君を想ってることに関しては、清澄の拒絶具合やさっきの言動を見れば、多分誰でも気づくんじゃないかしら?

 

「それにしてもさっきの質問は……」

 

 慌てて解放する東横さんを見ながら、私は須賀君の意図を考える。思い起こせば小学生低学年の頃に目を閉じて、それ以降、麻雀以外では開かなかった私。

 そしてある日気づいたの、両目で見るとそれまで以上に視野が広がって得られる判断材料が格段に増えること、その情報量を処理して知識や経験からの読みが格段に上がる状態になれるって。

 私はそれを視界(・・)と名付けて、ここぞという時に使い勝ってきたわ。使い始めた頃は、時間にもよるけど頭痛や熱が出たりしてたんだけど……。いつの間にかそれも無くなった、使い熟せるようになったっていうより適応した(・・・・)んだと私は思ってるの。リスクが消えて、視界は能力に昇華した(・・・・・・・・・・)んだって。

 

「まさか……」

 

 須賀君の質問は、いつから片目で麻雀を打っていたかだったわね。つまり自分の物にする(・・・・・・・)ための質問! もしも私に能力者の資質があってリスクが消えたとするわ、須賀君にそれが無かったならリスクを背負うことになる。

 

「けど、積み上げるつもりなのね?」

 

 恐らく確認のためだった質問、答えがあってもなくても須賀君は鍛えるつもりなんだって私には思えたの。硬い麻雀をより高みへ引き上げるために必要、そう彼が判断したなら……。

 

美穂子 side out

 

 

京太郎 side

 

 衣さんが風越の団体戦メンバーを帰して、その前から次々と届く情報を俺は頭に叩き込んでいく。リハーサルにしては強過ぎるメンバーと打てたのも、勝負感の維持・向上へと繋がってありがたかった。

 

「あとは福路さんの件か……」

 

 あの反応は俺の話した時期があってたってことだ、つまり小学生の頃から片目で打ち、鍛え続けたことになる。試合を見る限り今はリスクが無いか、少なくてもかなりの時間、問題ないと……。

 

「仮に問題なかったとしたら、能力に昇華されたってとこだな」

 

 なら、俺は? 時間的に今は(・・)無理だけど取り入れられる物はある、全国に行ければ(・・・・・・・)だけどな。だってそうだろ? 数ヶ月でも今よりは確実に成長できる見本が存在するんだ、福路さんっていう結果を伴って。

 まあ、能力に昇華できるとは思っていない、だけど今より精度が上がるのだけは確かだ、ならやらない手はないだろ? 特に俺の麻雀なら、な。

 

「結局、勝ち抜くってことに集約される訳だ」

 

 神代さん達との約束もある、鶴賀の仲間として意地も。だから俺は絶対に負けられない、勿論、誰にも負けてやる気なんかないけどさ。

 とにかく考えは纏まった、あとはひたすらデータと睨めっこだな。俺はみんなが協力してくれた成果に集中する、万全な状態で明日勝つ、ただそれだけのために……。

 

京太郎 side out

 

 

優希 side

 

 私達は京太郎に必要なデータを十分纏めたつもりだった、けど全然足りないって天江と加治木さんが加わって思い知ったんだじぇ。

 

「ここまで必要なんか、京太郎……」

 

 染谷先輩の声が聞こえる。きっと対局の記憶(・・・・・)っていうある意味でデータを使うから、そう言ったんだって私は思ったんだじょ。

 

「参ったわね、マコのいう通り相手を丸裸にしてでも必ず勝ち筋を見つけるってレベルよ?」

 

「その結果を見たであろう? 風越の二人もトーカも研究し尽くされていた。

 故にキョータローが負けるとしたら、基本的に初見殺しか天運が相手にある時のみ。

 能力などキョータロー相手に無意味、故に完全なる実力勝負、衣はそれが楽しくて仕方ない」

 

 天江の能力は、麻雀は強過ぎた。だって全然勝負にならなかったんだじょ、けどそれは天江にとってもつまらなかったってことで……、私は思わず聞いてた。

 

「京太郎との麻雀、どうだったんだじぇ?」

 

「たった一週間の腕で追い詰められた。

 勝ったのは衣だったが……、あれは運が傾いただけのこと。

 心躍る対局などあれ以来一度も……、いや決勝はまあ楽しめたか」

 

 強いっていうのは孤独なのか……、勝てれば楽しいとしか私は思ってなかった。けど天江は寂しそうな顔をしてから、嬉しさが溢れる表情になったんだじぇ。

 

「東場の、衣は何度打っても貴様に負けることは無い」

 

 うっ、そこまで断言されると流石に凹むんだじょ……。

 

「だがキョータローは別だ、次に打って必ず勝てるなどと間違っても衣には言えん。

 キョータローは凡人だが努力とあらゆる手段で実力を引き上げ続ける、常に進化しているのだ。

 その成長速度こそがキョータローの強み、それをキョータロー自身よく知っているのだからな」

 

 さっきの麻雀を思い出す。硬い守りに揺さぶりや情報制限、やってるのは基本なのに勝ったのは京太郎。私は自分の東場に強い能力に頼り過ぎだったって、二度と忘れられない教訓を今度こそ心に刻み込まれたんだじょ。

 それとさっき嬉しそうだったのは京太郎のことを考えた時に自然と浮かんだ表情で、それだけ気に入ってるし、一緒に打って楽しかったんだなって私に思わせた。

 

「それについては私も同意する」

 

 そして加治木さんが引き継ぐ様に切り出す。

 

「須賀君ほどの熱意を持って早くから打ち込まなかったのか、そう思ったことは数え切れない。

 今回の結果も須賀君がいたからこそ成し得たものだと私は、私達は実感している。

 須賀君が来てくれなければ運良く決勝まで辿り着いても負けただろうな、まず間違いなく」

 

「うむ、その通りだな、その場合はまず衣達が勝っていただろう。

 まあ、清澄の嶺上使いがどこまでのモノ(・・)かが懸念材料といったところだ。

 片鱗は見たが、あれで全力だったと言い切れる程の確証が無い故な」

 

 天江のいう通り咲ちゃんはうちで一番強い、けど京太郎のことがあって、もしかしたら何かが噛み合っていなかったのかも。私はそんなことを考えてたんだじぇ、そしたら……。

 

「さて、君達の望みは叶えた、データもこれでいいだろう。

 それにそろそろ君達も宿舎に戻るべきだ、ここにいない二人は仲間なのだろう?」

 

「本当は二人も来たかったのよ、けど……」

 

 加治木さんの言葉に部長が答えかけたけど、それを遮ったのも加治木さんだった。

 

「私は責めてなどいない、誰にでも事情があると理解しているつもりだからな。

 だが、理由はどうあれ彼女達は須賀君より自身を優先したのも事実。

 それに君達とて事情があれば、恐らくこなかっただろう?」

 

「それは……」

 

 うっ、そう言われると弱いじぇ……。部長も口籠っちゃったし、染谷先輩は黙ったままで。

 

「沈黙が答えだ、衣達は京太郎と出会ってすぐに個人戦を辞退した。

 トーカなどハラムラだったか? あれと決着をつけたがっていたが迷いすらしなかったな」

 

「私達も同じだ、須賀君が入部して人柄を知り早々にな。

 繰り返すが責めている訳ではない、ただ事実を述べたまでだ」

 

 そんな二校と私達、この差はどこでできちゃったのか私にはわからないままホテルを後にしたんだじぇ……。

 

優希 side out

 

 

衣 side

 

「まったくもってユミは優しいな」

 

 奴腹が出て行った後でそう告げる。清澄が気づいたかはわからん、しかし気持ちがあるなら動き続けろ(・・・・・)と発破をかけるとは。

 

「私はあくまでも事実を述べたまでだ、どうするかは彼女達次第、そうだろう、衣?」

 

「まあ、言わんとしていることはわからんでもない。かといって、簡単に許せるかといえば……」

 

 答えは否、反省すればよいというものでもない。既に実害をキョータローは被ったのだ。

 

「だが、私達が変われた(・・・・)のはある意味、そのお陰ともいえる。

 確かに許し難いと思うことは多い、しかし人は間違いを犯すものだろう?

 心当たりがある筈だ」

 

 確かにユミのいう通り、衣が変われたのはキョータローのお陰、それまでの衣が誤ちだったなら……。

 

「奴腹だけを責めるのは理不尽だというのだな?」

 

「ああ、私達とて同じ轍を踏まなかった保証は無い。ならば責めるのではなく、償いに期待する。

 少なくとも今回動いたのだからなんらかの変化があった筈だ、簡単に認めはしないが」

 

 うむ、まあどちらにせよ、決めるのは……。

 

「衣達がどう思おうとキョータローが決めること、といったところだな」

 

 衣の言葉にユミは深く頷いた。

 

衣 side out

 

 

ゆみ side

 

 私達が纏めていたのは男子団体戦決勝、能力と思わしきモノも確認された。とはいえ、それ以前のデータは既に須賀君の下へ届き、検証・把握している筈。

 つまり駄目押しのこのデータを届ければ、須賀君の事前準備は整う。そういう意味で彼女らが関わるリスクを最小限に抑え、そこに私と衣が加わり、問題無い物が準備できた訳だが……。

 

「須賀君、加治木だ、入るぞ」

 

 そう告げて衣と入室した私達は目の前の光景に言葉を失った。唖然とするみんなの前で須賀君は四人分を打っていたが、それは決勝戦の牌符に酷似していたからだ。

 

「事前のデータから、ここまで読み切った……のか?」

 

 しかも、私達の声は届いていない。それだけ集中しているし、相手になりきり思考している。加えてこちらに反応しないのは、外因で須賀君の集中力をそう簡単に乱せない証拠。

 

「また強くなったな。衣もさらに地力を引き上げねば……、次は負けかねん」

 

 その言葉に思わず振り返った。御守りがなければあれほど対抗できなかったと理解しているし、決して地力が低い訳ではない衣にそこまで危機感を与えるのか、今の須賀君は。

 

「これならば私達の出番は無いな」

 

 そう判断した私は須賀君の側にデータとメモを置くとみんなに声をかけた。

 

「ここからは私達がいても意味がない、須賀君一人にするのも気遣いだ」

 

「その様だな、トーカ、衣達も戻るとしよう」

 

「そうですわね、流石に驚きましたが衣のいう通りにしますわ」

 

 こうして私達は解散、あとは須賀君次第となったのだった……。

 

ゆみ side out

 

 

京太郎 side

 

 ふと気づけば部屋には俺一人。あー、集中し過ぎて気づかなかったのか? 申し訳ないことをしたと思った時、視界に追加データとメモが映った。

 

「加治木先輩らしいな」

 

 目を通したメモには一言、『自身を貫け』の文字。俺は幸せ者だ、理解してくれて、協力してくれる人が沢山できた。勝てじゃなく、自身を貫けってことは勝敗よりも俺の麻雀を、俺自身を尊重してくれたってことだから。

 

「ええ、自身を貫きますよ、加治木先輩。

 みんなや衣さん達、風越の団体戦メンバーの協力、決して無駄にはしません」

 

 だから、改めてここに誓う。俺は俺自身の麻雀を貫いた結果、勝って気持ちに報いると。

 

「最後のデータも活かしきって……」

 

 そう言いながら読みだしたところで、妙な違和感を感じた。なんだ? 何かこれまでの纏め方とは若干違う様な……。

 

「……今は気にしている場合じゃない、か」

 

 時間も時間だ、そう思った俺は内容だけに集中していく。自身を貫き通すために……。

 

京太郎 side out




京太郎は能力無しで凡人ですが、努力の仕方も自分自身も理解しています。
そうなれば辿る強化方法などある程度限られるのですが、和と美穂子という必要な要素と出会いました。
加えてこれまで、清澄での経験、龍門淵邸での対局、鶴賀女子団体戦の情報収集などを通して目指す指標が確立されたのでブレません。
勿論、フランとしての対局数は膨大。今後が楽しみですね!

……と、自分を追い込む筆者でした(汗


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第五局 県予選 個人戦
一本場 京太郎の麻雀と広がる波紋


●個人戦ルール(原作準拠)
 前半戦 東風戦 二十戦
 後半戦 半 荘  十戦
以上のトータルスコアによる順位決定となっております。

今回はちょっと長めです、では、どうぞ!


モモ side

 

 今日は待ちに待った個人戦! 京さんの凄さを沢山の人が知る日で、その努力が報われる日でもあるっす!

 昨日のデータを見る限り、女子みたいなヤバい人は見当たらなかったし、能力持ちがいても京さんには関係ない。福路さんから上がれる実力があるんすから大丈夫、今も自分のことみたいにワクワクしてるっす!

 

「少し落ち着いたらどうだ、モモ。打つのは須賀君だぞ?」

 

「だ・か・ら、盛り上がってるっす!」

 

 苦笑いを浮かべた加治木先輩にそう言われても、京さんの努力を最初から見てきた私には抑えきれないっすよ!

 

「まあ、いいではないか、ユミ。衣も楽しみでならんぞ?」

 

「その通りっす!」

 

 ころたん先輩はわかってるっすね!

 

「ま、俺に勝ったんだ、心配してねえけどな」

 

「まあね、順当に行けば大丈夫じゃないかな?」

 

 そんな龍門淵の人達の話が聞こえる中、遂にアナウンスが!

 

『さあ、始まります、男子個人戦。前半は東風戦でポイントを積み上げます。

 早速ですが南浦聡プロ、注目の選手はおられますか?』

 

『二年連続全国出場の裾花高校大将と、同じく裾花高校先鋒の全中チャンプだな。

 ダークホースに期待したいところだが、流石に難しいだろう』

 

 わかってないっすね……。まあ、長野共学で一番の強豪は裾花っすから? 当然、強い男子は裾花に行く。けど、それは……。

 

今までの話(・・・・・)っす。今日、鶴賀が長野共学最強になるんすから」

 

「なるほど、確かにそうですわね」

 

 龍門さんには伝わったっすか? 京さんを知ってれば誰でも同じ答えに辿り着ける簡単な話、個人戦ルールは京さんのためにある様なものっすからね。対局数が多いほど、硬くて安定した麻雀は真価を発揮するっす。女子で福路さんが個人戦全国常連なのが良い例、硬さで京さんと張り合おうなんて……。

 

「ふっ、片腹大激痛! 衣を笑い殺す気か!? ロートル!」

 

 私が口にしなくても、みんなわかってるっす。今日の主役が誰かってことを……。

 

モモ side out

 

 

久 side

 

「自業自得とはいえ、蚊帳の外ね」

 

 盛り上がってる鶴賀と龍門淵、そう離れていない所には風越、須賀君が築いた関係者が集まってる。けど私達は離れて見ていたわ、昨日の状況を見る限り歓迎される訳ないでしょうし。

 

「まあ、当然かの。にしても、咲や和に行って来て欲しいとまで言われるとは……」

 

「二人共、すっごい気にしてたじょ。けど、どうしても行けないからって」

 

 まあ、そうね。咲と和、それぞれ事情があって全国へ行かなきゃいけない。けど須賀君の応援もしたい、だから代わりにってね……。

 

「……他を気にしてる場合じゃないわね、須賀君の麻雀、しっかり見届けるわ。

 鶴賀を全国レベルへ引き上げた、本人の麻雀とその行方を」

 

 咲と和は個人戦を勝ち抜くでしょ。龍門淵も鶴賀も不在なら懸念する相手はごく僅か、特に今日は気合いの乗りが別次元だったし、だから私達はここに安心していられる。

 そしてスクリーンに映るのは普段通りの落ち着いた須賀君、これから始まる対局が今日までの集大成。

 

「勝つんだじょ、京太郎……」

 

 優希の強い願いが込められた珍しい声音。心からの言葉が私の耳朶を、いいえ、胸を打った……。

 

久 side out

 

 

聡 side

 

 私の予想通り、トップは裾花の大将、次点が先鋒とここまでは順当。

 

「だが、三位は……」

 

 初出場で無名、強いて言えば昨日全国出場を決めた鶴賀学園麻雀部唯一の男子生徒というだけ。まったく予想もしていなかった存在故にこの対局が初見なのだが……。

 

「……怖いな」

 

 とにかく堅い。鳴かず、リーチせず、振らない。ここまで東風戦五局を終えて放銃()

 

「それでいて、きっちり上がってくる。

 ほんの少しでも隙を見せれば喰われるか……、東風戦でこれならば半荘ではさらに強い」

 

 後半戦は半荘勝負だ、トップを食いかねん、それにだ。

 

「まさか彼女達を鍛えたのが彼だったとは……」

 

 数絵の件もあり、女子団体戦の映像は全て見た。そして私は鶴賀の麻雀に共通の理念を感じたのだ、昨今の女子では殆ど見ることが無い本来の麻雀(・・・・・)を。だから期待した、彼女達が全国で波乱を起こすことを。ところが蓋を開けてみれば、その力量は届いていなかった(・・・・・・・・)のだ。

 

「南浦プロ、女子団体戦全国出場を決めた鶴賀学園。

 その麻雀部、唯一の男子部員である須賀選手はいかがですか?」

 

「……源流、本家本元、レベルが違い過ぎる」

 

「と、言いますと?」

 

 ああ、実況が問いかけてたか。答えたかの様な形になってしまったな、呟いただけなんだが……。まあ丁度いい、話しておくとしよう。

 

「鶴賀学園の女子団体戦メンバーに共通する本来の麻雀(・・・・・)

 基本ではあるが能力偏重の現在、女子ではあまり見られなくなったもの。

 それが本来の麻雀、振らずに上がる堅い麻雀だ」

 

 私は今、少々興奮しているんだろう。彼の、須賀京太郎の麻雀から目が離せない。

 

「ここまでの須賀君のデータ、読み上げてみればわかる」

 

「東風戦五戦でトップ二回、二位三回。放銃……、零ですか!?」

 

 その驚きに満足しながら、補足していく。

 

「それだけじゃないな、鳴きもリーチも零だ。

 さて、これは能力か否か。それとも本来の麻雀(・・・・・)、実力か。

 私は実力であることを期待するがな、何故だと思う?」

 

「……そういうことですか! 源流、本家本元!!

 そうならば鶴賀女子団体戦全国出場の一端は彼ということに!?」

 

 わかってきたじゃないか、こいつは一大事だぞ?

 

「私はこれから須賀君を重点的に見ることにした、すまないが他は君に任せる」

 

 そう告げると何やら叫んでる実況を無視して、彼の対局を私は追い続けるのだった。

 

聡 side out

 

 

衣 side

 

「気づくのが遅過ぎるぞ、ロートル」

 

 実況する有象無象は今更気づいた様だが、キョータローの麻雀が安定しているなど至極当然。無能力故に唯一点を磨き続けた者のみ辿り着ける境地を目指しているのだ。しかも、その道は未だ途上、故に一戦ごと強くなる!

 

「備えるは破ること容易く許さぬ堅き盾。

 隙あらば仕留める槍に張り巡らされた数多の罠。

 陣を敷いた万全のキョータローを破るには天運、つまり神仏の助力が必須」

 

 そして衣の感じる男供の能力は微弱、しかもキョータローに能力は無意味。

 

「ならば何が勝負を決めるのか?」

 

 以前の衣にはわからなかったが……、今なら理解できる。どれだけ牌を愛したか(・・・・・・・・・・)、そうだろう、キョータロー?

 ユミに聞いたが分担しているにも関わらず、必ず牌を磨き、卓を整備してから己の修練を行うそうだ。麻雀を始めてからの日は浅かろう、だが注ぐ情熱、牌への愛は他者の追随を容易に許すものではない。

 

「牌に愛されたなどと衣に(のたま)った者がいたな。

 しかし、それは衣にとって呪いも同然、だが愛した結果に応えるならば福音となろう」

 

 故にキョータローの麻雀には牌が応えようとする、そして、その結果は……。

 

『ツモ、断么、三色同順、赤3、子の跳満は3,000/6,000です』

 

 申告、それに実況が続く。

 

『鶴賀学園の須賀選手、オーラスを跳満で締めた!

 前半十戦終了現在、三位をキープし、二位に肉薄!

 しかも硬い麻雀で放銃零という十戦全てをある意味パーフェクトゲーム!』

 

『ここまでとなれば疑う余地はない。

 能力の有無に関わらず彼は安定した強さを発揮する本来の雀士だ。

 どこまで続くか楽しみだな、だがこれから二強と当たる、そこが分水嶺になるだろう』

 

 ふん、能力がなければあの程度の気配しかない雀士に負けるキョータローではない!

 

「京さん、残りもパーフェクトっす!」

 

「ですわね、衣と打ち合える京太郎があの程度の雀士に負けるとは思えませんわ!」

 

 トーカ、声が大きいぞ? まあ構わんが。

 

「おい、今の聞こえたか?」

 

「衣って、天江だろ? 今、打ち合えるとか言ってたよな? って、あれ龍門淵透華じゃ……」

 

「マジか!? あいつ、やべーぞ!」

 

 ふむ、本来なら締め出すところだが良しとするか。そう思ったこの時の衣はよくわかっていなかったのだ、何故、有象無象供の声が気にならないのか。いや、心地良かった(・・・・・・)のか、その理由が……。

 

衣 side out

 

 

京太郎 side

 

 誰と卓を囲んでも俺の麻雀は変わらない、鳴かず、リーチせず、堅守からの一撃を積み重ねる。それが俺の目指した麻雀、無能力者が勝つための振らない麻雀。

 鶴賀のみんなは結果で証明してくれた、俺の麻雀は勝てる麻雀だって。

 なら、それを伝えた俺が積み重ねた努力の結果を、対抗手段と一緒に駆使すれば個人戦ルール(・・・・・・)で負けてやる訳にはいかない。

 そうだよな、モモ? そうですよね、みんな!

 

 一打一打に想いを込めて、一挙手一投足を見逃さず、一言一句聞き逃さない。

 すべては今日この時のため、そして、その先へと進むためにも今を全力で! そう思いながら一局一局を戦っていた。

 

「予想通り、昨日の対局の方がよっぽど手強かったな」

 

 東風戦十戦を終えて今は休憩中、この後は……。

 

「十四戦目に全中チャンプ、十九戦目が二年連続全国出場者とか」

 

 そう呟いたところでよく知る気配、わかるんだよなあ、なんか前よりさ。

 

「けど問題ないっすよね? 京さん」

 

「ない、と言いたいところだけど油断に繋がるからノーコメントだな」

 

 声の方に振り向けば、やっぱりモモの姿が。なんだろうな、この感じ。俺に変わる要素の心当たりはないんだよな、なら例の一件でモモが変わったからとか?

 まあ、今考えることじゃないな、そう思った俺はモモとの会話を楽しんでリラックスすることにした。

 

「データも今日見た感じでも男子は基本に忠実っすけど……」

 

「そうだなぁ、上を知らなさ過ぎるんだよ」

 

 ある意味で俺は幸運だったかもしれない。デジタルの化身、和。理不尽な能力との対局、それが俺の乗り越える最低基準にあったから突き詰めて行けてるって今は思える。

 それに俺は俺のままで勝ちたい、純粋な麻雀を楽しみたいんだ。例えその相手がプロだったとしても、異常な女流雀士ですらも、いずれは勝ちたい。

 

「前半の東風戦は残り十回、後半の半荘が十回。狙うんすか、トップ」

 

「狙うっていうより、結果がついてきてそうなればいいな」

 

 半荘換算で二十回。トップを取り続けようとしても運の要素がある限り、そう簡単にできる物じゃない。だから俺は俺の麻雀を打つだけだ、それならどんな結果でも納得できるだろ? それにポイント制だからな、積み重ねた結果で全てが決まる。

 

「とにかく、今は麻雀を楽しみながら全力を尽くす時だ。

 まあ、鳴きもリーチも必要になってないから使ってないけどさ」

 

「そうみたいっすね」

 

 モモもわかってくれるのがほんと嬉しいよ、理解者がいるっていうのがこんなにも力になるなんて知らなかったな。

 

「とりあえず少し座って休むか、集中し続けるのは疲れるからさ」

 

 そう言ってモモと二人、ソファで談笑を始めた。俺にとって一番リラックスできる相手は、やっぱりモモなんだから……。

 

京太郎 side out

 

 

靖子 side

 

「アイツか、原因は」

 

 急に久達が個人戦を辞退した、何かあると来てみれば……。

 

「靖子……」

 

 コソコソと物陰から様子を伺っている久を見つけて声をかけたわけだが……。話が見えん、聞くしかないな。

 

「ここでは藤田プロだ、清澄の竹井。見つかるのは不味いんだろ、場所を変えるぞ?」

 

 そんな経緯で、今は私の控室にいる。

 

「何があった、久。あの制服は鶴賀だな? さっきの男子生徒が関係してるのか?」

 

「靖子、彼は……、須賀君は二か月前まで清澄の麻雀部員だったのよ」

 

 余計にわからん、少なくとも今は鶴賀の麻雀部員、何の関係がある? 私が訝しげな表情をしてると久は話を続けた。

 

「私が女子団体戦に賭けてたのは知ってるでしょ?」

 

「ああ」

 

 久の頼みで態々宮永・原村と打って危機感を煽った位だからな。まあ、あそこが私の行きつけだからできたが、かなり黒よりのグレー。そこまでしたのは久が今年に賭けてるのを十分知ってたからだ、宮永に興味が湧いたのもあるが。

 

「だが須賀だったか? 彼は団体戦に無関係だろう」

 

「……須賀君は今年最初に入部してくれた新入部員で初心者だった。

 けど団体戦に賭けてた私は指導もしなかったし、課題すら与えなかったわ。

 それでいで雑用は全部任せていた、須賀君に甘えてたのよ」

 

 つまりあれか? 愛想を尽かして麻雀のために(・・・・・・)鶴賀へ転入したのか、その須賀という男子生徒は。また随分と思い切ったもんだな、たいした行動力だ、とはいえだ。

 

「確かに褒められたものじゃないな、だが今更だろう」

 

 そう、今更後悔しても過去は変えられん、なら個人戦を辞退して何になる?

 

「須賀君はね? 自力で鍛えて私達と互角以上に戦ったの、東風戦二回でトップと二位よ?」

 

「なに? 宮永や原村と同卓してか?」

 

 私の問いかけに久が頷く、東風戦とはいえ初心者があの宮永や原村と同卓して、その戦績は流石に異常だ。

 

「どういうことだ、いや、何かあったんだな?」

 

「ええ、須賀君はあるキッカケで同卓している能力者の能力を無効化する(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)様になってしまったの。

 その上で実力がついていたから、動揺した咲や優希は封じ込まれたわ、私も含めてね」

 

「なんだと!?」

 

 とんでもない話だぞ、それは。トップ雀士はほぼ能力持ち、それを無効化するとなれば実力次第では……。しかも今高校一年だ、鍛えれば途轍もない雀士になりかねんぞ!

 

「けどね、靖子? そんなことはどうでもいいのよ。

 問題は私が須賀君に宣言したこと、一緒に打たない(・・・・・・・)ってね……」

 

「……大会前に宮永達が壊れない様にか? とはいえ、それは流石に問題だな」

 

 能力が必ずしも通用するとは限らないだろう、逆に耐性をつけて鍛えるには打ってつけだ。まあ、私に能力は無いからな、持つものの気持ちなど予想しかできんが。

 頷く久を見ながら考える、話の流れからいけばこういうことか?

 

「つまり須賀という部員を蔑ろにしてまで取り組んだが、結果を出せなかった。

 せめてもの罪滅ぼしという訳か? 個人戦を辞退してでも応援することで誠意を示すと?」

 

「結局、自己満足でしかないんでしょうけどね、それでも何かせずにはいられなかったわ」

 

「ということは昨日の電話は……」

 

 須賀に協力するためだった訳か。

 

「ええ。それとこれ、須賀君からの手紙よ、ほんと私は何してたのかしらね」

 

 手紙? 渡されたそれを読んで、私は須賀という雀士の心意気に触れた。なるほど、コイツは強くなるな。恨み言一つ無く自分の道を進んだことに尊敬さえ覚える。

 

「戦績は?」

 

「東風戦十回で三位、放銃零。今のところパーフェクトよ」

 

「そいつは東風戦とはいえ、いや東風戦だからこそとんでもないな……」

 

 男子に能力持ちは極めて少ない、しかも須賀との対局では能力の意味がない。それでいて放銃零という堅さに戦績から見えてくる安定した得点力。加えて女子団体戦、鶴賀の麻雀。

 

「今年の台風の目は鶴賀、キーマンは須賀、そういうことか?」

 

 私の問い掛けに頷くと、久はこれまでのことや現状を話し始めた……。

 

靖子 side out

 

 

聡 side

 

 数絵が個人戦に出ることもあり男子の解説を受けたが、団体戦の様子では二年連続全国出場者と全中チャンプが勝ち抜く……。

 

「そう予想していたんだが、耄碌したものだな」

 

 昨日、“あの”天江衣を下して全国を決めた鶴賀学園、その麻雀部には唯一の男子部員がいた。

 

「まさか彼の麻雀だったとは予想もせんかったよ、流石は本家本元、堅さが段違いだ」

 

「お爺様」

 

「順調……とは言い難いか、数絵」

 

 かけられた声の主は孫の数絵、私と同じく南場で風が吹く能力者(・・・・・・・・・・)。だが予選前半は東風戦……。

 

「龍門淵が不在にも関わらず、覚悟していた風越の福路さんに加えて清澄の二人が……」

 

「お手本の様なデジタルと嶺上開花の使い手、どちらも昨日より強いな。

 東風戦では凌ぐより他あるまい」

 

「はい、男子の方でも波乱が?」

 

 私の声を拾っていたのか、数絵が珍しく興味を示した。

 

「ああ、怖い雀士が出てきた、お前と同じく個人戦のみの出場だ」

 

 あれ程の打ち手が無名というのは恐ろしいことだ、それは入学してからの短期間であの実力を得た(・・・・・・・)ことを意味する。

 

「怖い……ですか?」

 

「見た目には昔気質(かたぎ)の実力で黙らせてくる打ち手、まるで昭和の雀士だ。

 しかも前半の東風戦十回で放銃零、鳴きとリーチも零。

 能力の条件か否か、持っているのか否か、何一つわからん」

 

 数絵が息を呑む、私とて予想もしなかった打ち手の登場に正直言って興奮を隠しきれん。停滞している男の麻雀界に新たな風を吹き込む可能性があるからだ。まあいい、今は数絵へのアドバイスが先だな。

 

「四位か」

 

「はい、ですが予選後半は半荘です」

 

「真正面から当たっても今日の三人(・・・・・)には勝てん、周りを仕留めることだ」

 

 福路美穂子、原村和は硬い。宮永咲はどこからでも上がってくる。ならば、他を潰して勝ち抜くしかあるまい。

 

「チャンスがあれば」

 

「その時は狙え、だが欲をかけば負ける」

 

 苦虫を噛み潰したような表情、それだけ異常さを感じている証拠……か。

 

「宮永の大明槓には気をつけろ」

 

「はい、お爺様」

 

 宮永か、あの異常さ、宮永照の血縁者か? 去って行く数絵の背を見送りながら、そんなことを考える。

 

「それにしても怖いが楽しみな存在が出てきたものだ、これは荒れるな」

 

 そう口にして、私は彼の麻雀を思い出すのだった……。

 

聡 side out

 

 

モモ side

 

 短い休憩時間すけど、私は少しでも一緒にいたかったし、リラックスして欲しかったっす。勘違いじゃなければ、京さんが一番素を出せる相手は私っすから。

 もしそうじゃなくてもリラックスして欲しかったのは本心っす、だって相手の強弱に関係なく精神力や集中力を使う麻雀が京さんの麻雀。だから力になりたかった、今度は私の番すから。

 

「じゃあ、そろそろ時間すから席に戻るっすよ?」

 

 本当はもっと一緒にいたい、けど今はそんな場合じゃないっすよね? だってこの日のために京さんは頑張ってきたっす。鶴賀の、ううん、世界中の誰にも負けない努力をしてきたって、ずっと見てきた私は思うから。

 

「ありがとな、モモ。みんなにも言っといてくれ、俺は全力を尽くすからってさ」

 

 そう言った京さんに私は最高の笑顔で応えるっす!

 

「わかったっす! 応援してるっすから!」

 

 ホントっすよ、京さん? 世界中の誰よりも心から応援してるっす、私のヒーローを。少しでも京さんの力になればって私の想いを精一杯込めて。

 

「ありがとう、百人力だ!」

 

 その言葉が凄く嬉しい、だって伝わった気がするから。

 そして京さんは会場に向かったっす、自分の言葉を実現するために。私はその背中に手を振りながら見送ったっす、京さんの姿が見えなくなるまで、ずっと……。

 

モモ side out




さて、まともな闘牌描写がないのは東風戦二十回もやってられないのと、名前ありのオリキャラを出さない方がいいかな?と配慮して結果です。

それはそれとして、色々と描写していますが。
次話からちゃんと闘牌描写しますので、今回はこの辺でご勘弁下さい。

いやー、難しいっす、男子個人戦。
ネームドキャラが京太郎しかいなーい!w


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二本場 予選東風戦 十四戦目 前半

よくよく考えると男子の参加者が女子並みな訳はないんですよね。
そうなると女子と同じだけ回らない訳ですが、回るようにしました(汗

追記
皆さんの応援が力になっています、感想、高評価ありがとうございます!


聡 side

 

 私が注目する組合せの一つ、全中チャンプと須賀君が遂に卓を囲むか……。

 

「それにしても南浦プロ、今年の長野は男子個人戦参加者が非常に多いですね」

 

「ああ、その結果、例年なら一人の男子個人戦全国枠が二人になった訳だ」

 

 まあ、建前(・・)はな。実際には話題作りだ、全中チャンプもインターハイにという思惑があったのは確かだろう。それほどに女子と比べて話題が乏しいということだ。

 だが、それは須賀君の参加でどうなるかわからなくなった。とはいえ話題性でいけば須賀君に軍配が上がる、女子団体戦と男子個人戦双方に初参加の鶴賀からインターハイ出場となれば。

 

「そうですね。

 そして十三戦現在の状況ですが、トップは変わらず二年連続全国出場の裾花高校大将。

 二位は辛うじて全中チャンプ、三位に僅差で鶴賀の須賀選手。

 これから始まる十四戦目で二位と三位の直接対決となりますがどうお考えですか?」

 

「この一戦は今後の展開に大きな影響を及ぼしかねん」

 

 全中チャンプは能力持ちだ、だが女子の異常さに比べれば強力という程ではない。だからこそ麻雀の実力も決して低くはないが、実力という点でいけば須賀君に軍配が上がる。

 今までの全中チャンプの相手はネームバリューで実力を発揮できていない者が多かったが須賀君はどうだろうか、私には誰相手でも変わらないと思える。

 

「と、いいますと?」

 

「メンタルの問題だ。

 仮にここで須賀君が勝てば、それは周りに伝播するだろう、勿論全中チャンプ自身にも。

 逆を言えば全中チャンプは勝てばいい、だが須賀君が簡単に負けるとも思えないがな」

 

 十三戦、放銃零、これは途轍もない記録だ。確かに男子のレベルは女子より低いが、私の見た限り須賀君は振らないという意識が他者と一線を画す。

 当然の話、誰もがそう思って麻雀を打つが、どこかで博打を打たなければならない状況に陥るもの。だが須賀君にそれは見られなかった、事前の危機管理が徹底しているからだ。まあ、何をどうすればあそこまで備えられるのか私にもわからんが、危険に対する嗅覚(・・・・・・・・)に優れているのだけは間違いない。

 

「確かに飲まれている選手は多い様に見えますね、参加者の多い一年生は特に。

 その全中チャンプを須賀選手が下せば、影響が出るというのも頷けます」

 

 さて、今までとは違い、今回は能力持ち。ここで彼、須賀君の真価が問われる。見たいものだな、本来の雀士(・・・・・)が能力さえ乗り越える姿を。

 

聡 side out

 

 

京太郎 side

 

 流石は能力持ち、なかなか差を縮められなかったけど直接対決なら関係ない。俺としては、できるだけ大差をつけて勝っておかないとな、まあ相手もそのつもりなんだろうけどさ。

 

 ちなみに全中チャンプの能力は五巡目までにリーチした場合、十巡目に絶対ツモるっていう場の支配の一種。これにヤミテンを混ぜてあがったり、引っかけたりと有利に立ち回るスタイルでそういう意味では上手い。そして絶対ツモる(・・・・・)っていうのは堅い麻雀の天敵だ。まあ、能力は俺と対局するなら関係ないけどな。

 

「さて、席決めしますか」

 

 おーおー、自信たっぷりだな。ちなみに視線は俺に向けられてたりするんだが、こうやっていつも圧をかけてペースを乱そうとする。とはいえこんな程度が俺に通じる訳ないんだよ、打ってきた相手がヤバ過ぎてさ。まあ、ここは演技といこうか、油断してもらうとしよう。

 

「……そう、だな」

 

 なにやら満足そうだ、単純な奴だな。とりあえず起家が全中チャンプ、東福寺の次鋒、俺、千曲東の中堅か。

 

 東一局はさっさと流すに限る、できれば親から上がりたいが。配牌は三向聴か、いつもと同じく安牌を確保しながら行くとしよう、全中チャンプの手が早そうだ。

 そして五巡目、全中チャンプが張った、さてどうくる?

 

「リーチ」

 

 来たか。周りは手が遅いのか顔色が悪いな、どうも知ってるらしい、俺もそれらしい顔をしておく。

 東福寺は安牌を切った、そして俺の番。実は一向聴だったんだが来てくれた、安牌を素知らぬ顔で切る。

 お? 千曲東の中堅は三年生なんだけど俺の聴牌に気づいたらしい、流石中堅を任されるだけはある。その捨て牌を見て、他の二人も気づいた。

 全中チャンプの顔色が悪いな、まあ逃げられないのにリーチするからだ。プレッシャーをかけるのにやったんだろうが五巡目は悪手だろ、安牌が五つもある状況だぞ? 俺ならヤミテン一択だ。

 

「ロン、チャンタ、東、ドラ3、跳満は12,000です」

 

 風牌がドラだったのはありがたかった、幸先のいいスタートだな、俺は全中チャンプから上がって親を流すことにも成功した。

 

京太郎 side out

 

 

ゆみ side

 

『鶴賀の須賀選手、全中チャンプに直撃! 先制は須賀選手となりました!』

 

『普通なら五巡目で安牌を確保しようとは思わんが、全中チャンプの能力を知っていれば話は別だ。

 有名税というヤツだな、三人共確保済。須賀君の聴牌に気づいた千曲東の中堅は三年、経験が違う』

 

 南浦プロのいう通り、知っていれば対策するのは当然。そして全中チャンプはリーチしづらくなったな、須賀君は楔を打ち込んだ訳だ。だが、目的は他にもある。

 

「キョータローめ、味な真似をする。この一戦、奴に気づかせない(・・・・・・)つもりだな?」

 

 流石は衣、気づいたか。

 

「ああ、私もそう思う、後半戦への布石だろう」

 

「……なるほど、そういうことですか。

 ではこの一戦、全中チャンプがリーチした場合、かかっても九巡以内に仕留めるつもりなんですのね」

 

 私は頷く。そう、須賀君は全中チャンプに能力の喪失を気づかせないつもりなんだろう。

 そして、それは須賀君だからこそ選べる策(・・・・・・・・・・・・)でもある。

 

「相手がヤミテンでも振らない自信が京さんにはあるっす、誰でもできることじゃないっすね」

 

「流石はキョウタだなー、まあ福路さんと打ち合えるんだから当然だけどな?」

 

 モモと蒲原の言う通り、須賀君の堅さがあって初めて成立する、まったく大した後輩でコーチだよ。私達は主語を隠しつつ話しながら須賀君の麻雀を目に焼き付けていた、自分の糧とするために。

 

ゆみ side out

 

 

京太郎 side

 

 衣さんや加治木先輩辺りは俺の意図に気づいただろうな、実のところ全中チャンプは堅い方だけど福路さんや和に比べれば穴だらけだ、男子には通用しても女子に通用するほどの堅さじゃない。

 

 しかも男子には少ない能力持ちだからか無意識だろうけど能力で優位に立ちたがる(・・・・・・・・・・・)傾向があって、俺の見る限り依存してる、あの時の咲や優希と一緒だ。そうなれば堅さを追求するまではいかないんだろう、純粋な競技麻雀を目指す俺としては正直いって悲しい話さ。

 まあ、だからこそ最初から狙っていた訳で、上手くハマった結果が東一局の結果に結びついた。

 

 こうなると人間慎重になるもんだ、それはペースを乱す。俺が思うに自分を貫き通してこその麻雀だろ? それを乱されれば実力を発揮するのは難しい。ジャイアントキリングなんてのは麻雀に限らず、揺らいだ方が負けるっていういい例だろう。つまり、たたみかけるなら今ということだ。

 

 その証拠に全中チャンプは三巡目で聴牌したにも関わらずリーチしなかった、はっきりいって逆だろう、さっきすべきじゃなかったんだ。ちなみに聴牌には全員気づいている、さっきの分を取り返そうとしてるのが雰囲気で伝わってくるからだ。和を知ってると本当に全中チャンプなのか信じられなくなるな、崩せば脆いって感じか?

 

 おいおい、聴牌を崩して引き入れたってことは高めを狙いにいったってことだけど……。

 

「ポン」

 

 東福寺の次鋒が鳴いた、特急券だ、そして聴牌。ついでに聴牌を崩して出てきた以上、もう一牌あるのが確定した訳だ。まあ、国士無双以外では使いようが無いから捨てるんだろうな。

 

「ポン」

 

 今度は千曲東の中堅か、俺を警戒してとばしつつ、こっちも聴牌。言わんこっちゃない、自分のペースを乱したから他が動きやすくなった訳で、全中チャンプはもう降りるしかない。

 両方に通すのは厳しいだろうから聴牌しても無意味、これで運は尽きた、もう上がれない。

 

 東福寺の次鋒はツモ切り、そして俺の番だが張った、流れが変わったな? 二人に通るのは……こっちか、俺は迷わず切った。

 

京太郎 side out

 

 

聡 side

 

 上手いな、ここでそうくるか。

 

「ここで須賀選手、七対子を聴牌して見事に通しました! 放銃零の腕前が冴えます!」

 

「それだけじゃないな、あの河から上がり牌は読めん、それでいて安牌を確保している。

 こうなれば他は下りるか、運良く安牌を引く以外で凌げない」

 

 そして、その先はもう決まった様なものだ。読み違えば振り、今の様に下りて時間を与えれば……。

 

『ツモ、七対子、ドラ2、満貫は2,000/4,000です』

 

 当然、こうなる。これが本来の麻雀だ、須賀君はよく考えているな。

 

「鶴賀の須賀選手、他家をよそに見事ツモ!

 東風戦での連続上がりは勝利を大きく引き寄せます、そして次の親は須賀選手!

 南浦プロ、これは一気に行く可能性が高まりましたね」

 

「確かにな、ここでの立ち回り次第で決まるかもしれん。

 とはいえ須賀君は自分の麻雀を崩すことはない、その上でどうするか楽しみだ」

 

 この局の布石が東一局にあったと気づいたのは何人いるか……。あそこで全中チャンプに楔を打ち込んでペースを乱した結果、三人が動きやすくなり最も堅い須賀君は有利にたった。さらに動きやすくなった二人を利用して、ツモまでの時間を稼ぎ出したのだからな。

 

「そうですね、このまま須賀選手が独走するのか、それを阻むことができるのか!

 予選前半戦注目の一戦、須賀選手の親番が始まります!」

 

 私は須賀君の麻雀を既に認めている、ここから先が本当に楽しみだ。

 

聡 side out

 

 

まこ side

 

「ほんまに強くなったのお、京太郎は」

 

 わしは思わず呟いていた、昨日の麻雀では言葉を、今日はそれに加えて……。

 

「ええ、相手のペースを乱して自分の土俵に引きづり込んだわ。

 三人に下りさせて、ツモる確率を上げるのに時間を稼ぐ、その間に上がってもいい。

 完全に須賀君のペースよ、自分の麻雀で場を支配したともいえるわね」

 

 わしは頷く。そうじゃ、久のいう通り能力に頼らずとも京太郎は場を支配してみせた、自分の麻雀で。

 

「東一局が効いとるの、あれが布石じゃ」

 

「どういうことだじぇ?」

 

「全中チャンプは須賀君ほどじゃないけど堅い方よ、そのうえ能力持ち。

 けどね、私達も知る通り穴がある、そこを利用してペースを乱したのよ」

 

 久のいう通り京太郎がペースを乱したのは確かじゃ、けどそれだけじゃなか。

 

「もう一つ、京太郎は全中チャンプに気づかせないつもりじゃ」

 

「ええ、そうね、私もそう思うわ」

 

 まあ、知っとるからこそいえる話じゃ、知らなければ想像もできんよ、こんなことは。

 

「……京太郎は凄いじぇ、私はそんなこと考えながら打ったことないじょ」

 

 久が優希を気遣ってアドバイスしちょるが、優希は考えて打てば強くなるタイプじゃなか。向いてるのはうちじゃ、理由はそれだけじゃないが、わしは京太郎の麻雀を応援しながら真剣に見続けていた。

 

 わしは素の雀力が低い訳じゃなか、けど記憶に頼り過ぎて初心者に大負けした。

 全中チャンプと一緒(・・・・・・・・・)じゃ、妹尾さんが意図した訳じゃないが同じ様にペースを乱されたんは、うちのミスじゃけんの。

 だからこそ京太郎の麻雀を目に焼き付けるんじゃ。自分の麻雀を貫くことの大切さとわしの持つ弱みを削る必要性、それを強く感じながら……。

 

まこ side out

 

 

【東風戦 十四戦目 東二局終了時点】

裾 花高校 先鋒 一年生 12,000点(-15,000点)

東福寺高校 次鋒 二年生 23,000点(- 4,000点)

鶴 賀学園 須賀 京太郎 47,000点(+20,000点)

千曲東高校 中堅 三年生 25,000点(- 2,000点)




京太郎の麻雀は考える麻雀です、できることはなんでもします。
それが異常な能力の無い雀士にできること、京太郎の強みの一つですね。


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