変身ヒロインは悪の組織に捕まりたい (牧村九天)
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第1話「ラック・ラックは今日も行く」

AIのべりすとで変身ヒロインが自白装置による拷問に屈服する話を書いていたら思いついてしまった。発想を逆転させて拷問されたくてもされない変な人が主役の話を。


この世界は幾度となく危機が訪れていた。そんな地球を守るため、地球の意思により力を授かった人々が変身ヒーローや変身ヒロインとして人知れず戦っていた。

 

そして今も宇宙からの侵略者モーゲン帝国が地球を狙っていた。

そんな地球を守るため、新たな変身ヒーローや変身ヒロインが戦う。

 

これはそんなヒロインの1人が歩む奇妙に物語である。

 

とある山にある屋敷。そこで棒術のトレーニングをしているショートカットの少女がこの物語の主人公である。

 

名前は周治 望(しゅうじ のぞみ)。歴史ある家に生まれたことで一般家庭よりは良い生活をしており、いかなることにも努力を欠かさない少し乱暴な所はあるが、優しい少女である。

 

そんな彼女には2つ秘密があった。それは変身ヒロイン、ラック・ラックの真の姿であること。

 

そしてもう一つは彼女には破滅願望があり、悪の組織に囚われて自分の尊厳を徹底的に凌辱されたいという願いがあったのだ。ラック・ラックという名前も拷問台を意味するRackと不足・欠乏を意味するLackを合わせた物だ。

 

今日も彼女はそれを願いながらモーゲン帝国の送り込む怪人と戦うが、

そんな彼女の望みを阻む最大の壁は彼女自身であった。

なぜなら彼女は強いのだ。物凄く強いのだ。

 

元々、習い事として格闘技を習っており、同年代の少女の中では身体能力が高い方であった。それが変身により強化されたことや格闘技の経験が手伝ってとても高い戦闘力を持ったのだ。

 

しかも戦いの中でその実力が磨かれ、日本で5本の指というほどではないものの、ベスト30程度には入る程度の実力者となったのだ。

 

捕まりたいならわざと降伏すれば良いものを、彼女には実力で敗北して囚われてこそ美しい敗北ヒロインであるという常人には理解しがたい美学を持つ。自分を打ち負かせる怪人が現れるのを待っているのだ。

 

そうこうしている内にどんどん強くなってしまい現在に至る。

 

「アタシを屈服させるような強い奴はおらんのか早く来い来い侵略者」

 

一般人にとっては迷惑な話である。なお、実力による敗北以外で彼女が認めるのは一般人を人質にとられて囚われるのみである。

 

そんな事を言っていると本当に侵略者が現れたことを変身アイテムであるメイデンブレスから放たれた光が伝える。どうやらすでに他のヒロインが向かっているようだが、自分も行ってみることにした。

 

「求めよ、女神の加護を!」と叫ぶと彼女の体は銅色のアーマーに身を包んだヒロイン、ラック・ラックに変身した。頭に装備されたバイザーから敵の位置を確認すると走り出すラック・ラック。

 

町のスタジアムの前では、新米ヒロイン、レディYが現れたバラ型の怪人ローズモーゲンと戦っていたが、怪人は体の茨をダーツのように無数に飛ばして彼女の体を傷つけ、さらには蔦で彼女を打ち付け、時には首を締め上げるのだ。

 

全身が傷だらけになったレディYはローズモーゲンの蔦に体を巻き取られていた。

レディYは白と金を基調としたファンタジー作品の神官のような姿をしているが、それも攻撃を受けてボロボロにされていた。美しい銀髪も同様で汚れ切っていた。

 

「観念しろ小娘!」と彼女の心臓を貫かんと迫る怪人。

 

そこに駆けつけてきたラック・ラックが立ちふさがり、彼女を拘束していた薔薇の蔦を蹴り飛ばすことで解放することに成功する。

 

「大丈夫?」

 

尋ねるラック・ラックに対して、「ありがとうございます。助かりましたわ」とお礼を言うレディYだった。

 

「あんたは弱いんだから無理しない事よ」

 

「何者だ貴様! その小娘は私の獲物だ」と怒るローズモーゲン。

 

「アタシはラック・ラック、その娘を手を出すのはアタシを倒してからにしな!」と武器である大剣を構えながら大見を切る。

 

その内心では(おお、茨の鞭だ良いなぁ、全身のトゲも良い、あれで捕まえて基地に連れ帰って欲しい)と淫らな願望が満ちていた。

 

しかし、手を抜かないのが彼女のモットーである為、全身全霊をかけてローズモーゲンに戦いを挑むラック・ラック。まずはジャンプキックをお見舞いするが当然の様にかわされる。

 

さらに連続で繰り出すパンチやハイキックもことごとく回避された。

 

(このままじゃダメね、あいつは動きを読んでくるタイプみたいだし、ここはあえて力押しで攻めるか?)と考え始める。

 

(待てよ、ここはあえて動かずに行けば)と制止する彼女。それを見たローズモーゲンは勝利を確信し、一気に倒さんと飛び込んでくる。

 

それが彼女の作戦であり、飛び込んできた相手を大剣で切り裂き、勝負は決まった。

 

「他愛もない。もっと強い奴はいないのかしら?」と余裕を見せるが、

「油断は禁物ですよ」という声と共に無数の光弾が降り注ぐ。

 

とっさにレディYを抱きかかえて回避したラック・ラックが視線を攻撃があった方向を見るとそこには金髪ロングの女性が立っていた。

 

「私の名前はイレーネ。つい先ほど地球制圧軍の司令官に就任いたしました。以後お見知りおきを」

 

名乗りを上げたこの女性はモーゲン帝国の幹部の1人である。

改造手術の名手としてその名を轟かせているが、地球人は知る由もない。

 

「ふん、また雑魚か……ってなんだ!?お前は、女幹部だと!!」驚くラック・ラック。

 

「ああ、麗しいですね。あなたのような美しく気高き女性を私は待ち望んでいたのです。是非とも我が組織に入っていただきたい」と勧誘を始める始末であった。

 

「美人からのお誘いは嬉しいけど、そんな勧誘受ける人間が変身ヒロインになるかよコノヤロー」

 

武器を構えるラック・ラック。レディYもそれを肯定するように頷く。

戦闘が開始された。

 

1対2の状況であったが、レディYは殆ど2人の戦いについていけず、事実上、ラック・ラックとイレーネの勝負であった。

 

この2人の実力は互角に等しいが、パワーではラック・ラックが勝り、スピードではイレーネに分があるといった所である。

 

そのような状況での戦闘であるが、ラック・ラックはレディYを守りつつ戦うように立ち回っていた。

その為、常に一方的な戦いではなく、時間切れで引き分けに終わった。

 

「今日のところはこの辺にしておいてあげます。

 ですから、今度会うときはどうか、歓迎の準備をしておいてください」

 

「そうだな、地獄行きの豪華客船を用意してやるよ」

 

捨て台詞を残し、姿を消す敵を見送った。

 

「実力を考えずに怪人に挑んだら無駄死にするって何度言ったらわかるのよ!」

 

ラック・ラックがレディYに詰め寄る。

ラック・ラックがレディYを助けたことは今回が初めてではないのだ。

 

「しかし今回は危ないところでしたわ、本当に感謝いたしますわ」深々と頭を下げる彼女に慌てるラック・ラックだったが、「まあ別にいいけどさ」と言って頭をかくしかないのだ。

 

「それでこれからどうするんだ? まだ怪人探しを続けるつもりかい?」

 

「もちろんそのつもりです」

 

「あんまり深入りするんじゃないよ。

 そもそもあんたは支援技が得意なんだから、誰かと組んだほうが良いよ」

 

そう言って去ろうとするのだが、彼女はこう尋ねた。

 

「あなたはどうしてそこまでしてくれるんですの?」

 

その質問に対して、少し考えて、答えを口に出す。

それは彼女自身も今まで考えた事の無い回答だった。

だが、自然とその言葉が出た。ただそれだけの理由である。だから素直に伝えた。

 

「やれることは常に全力でやるってだけよ。次に会う時にあんたが死体になってないことを祈ってるわ」

 

「次に会った時は負けません。次はもっと強くなってみせます。

 それまでご壮健でいて下さいましね。

 それと、私の本当の名前はまだ秘密でございますので、その時が来るまでしばしのお別れです」

 

「あんたの名前なんか知りたくないよ」と笑いながらラック・ラックは帰っていくのであった。

 

 

望の家は駅近くのマンションである。彼女はこの家に一人暮らしだ。

実家の祖父が死去したことから両親が実家を継いだことが理由である。

 

「あーあ、今日も捕まえてくれなかったなぁ。薔薇の鞭もあのイレーネって奴も冷徹に責め立ててくれそうだったのに」とベッドに寝転がりながら嘆く望。そもそも破滅願望のあるヒロインがいるなど敵も知らないのであるが。

 

「夢の中で良いからアタシを責め立ててくれ」と眠りにつくのであった。

 

「油断しましたね、ラック・ラック」と言いながら拘束椅子に座らされたラック・ラックを見下ろすイレーネ。

 

「う、うるさい、黙れ!!」

 

「そんな口を聞けるとでも?」

 

コントロールパネルを操作するイレーネ。それと同時にラック・ラックの頭上にある装置から強力な光線が降り注ぐ。

 

光の柱の中に閉じ込められ、焦げ臭い匂いが立ち込める中ラック・ラックが絶叫をあげる。全身を焼かれるような痛みが襲い掛かるが声すらまともに出ない様子であった。

 

しばらくすると光が収まると同時にラック・ラックが倒れたまま動かなくなる。既に意識はないようだ。

 

「起きなさい」と平手打ちを何発も浴びせて彼女の意識を呼び戻す。

 

「くそっ、こんなものでアタシが」

 

「捕まってるのに強がっても滑稽なだけよ。もう一度光線を浴びる? それとも鞭? スライム責め? 私は優しいから好きな責めを受けさせてあげる」

 

「な、なんでもありません。大人しくするので許して下さい」と涙目になりながらも命乞いをした瞬間、またしても光線を浴びせられ、ラック・ラックが絶叫を上げる。

 

「あんな大口をたたいておいてすぐに命乞いとは面白くないじゃありませんか」と光線の出力をどんどん高くするイレーネ。声にならない声を上げ続けるラック・ラック。

 

だが、その瞬間に彼女の意識は現実へと戻る。

 

「夢か……正夢だと良いなぁ」と起き上がった望は一日の生活をスタートさせるのであった。

 

「何だか寒気がします」

モーゲン帝国の基地で白衣姿のイレーネが悪寒に襲われていた。

よもやラック・ラックが破滅願望持ちの変態とは思うまい。

 

 

 




AIのべりすと様のおかげでここまで形にできましたわい。
書くのが苦手な戦闘シーンやら展開に詰まった時に思いもよらぬ展開を示してくれて助かります。

この作品のセカンドユニット監督はAIのべりすとですよ。アクションシーンやらはセカンドユニットの担当ですからねぇ。

ちなみにイレーネさんはAIが考えたキャラをもとに肉付けしました。


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第2話 「望の生き方」

ラック・ラックこと周治望は駅前のマンションに居住していることになっているが、狒々山の屋敷で暮らしていることが多い。

 

ここは元々彼女の祖父が所有していた山で祖父が死去した後は父親の所有地であるが、"祖父はこの山と屋敷は望の物にしろ"と生前口うるさく言っていたこともあり、実質的に彼女のものになっている。

 

実はこの山には鬼を撃退した鎧武者の伝説がある。その武者が望の一族の始祖とされており、その鎧の力こそがラック・ラックの力として望に受け継がれている。

 

なお、祖父はラック・ラックの力の源である石の存在を知っており、望に"お前が鎧を継ぐのなら山も継ぐんだ"と何度も語っていた。

 

望は朝食にチーズハムトースト2枚とインスタントコンソメスープをぺろりと平らげた望は風呂場に向かう。風呂好きの祖父が作った風呂もあり、1人で過ごすには広すぎるものだ。

 

「快適な風呂だよねぇ。毎日ここで暮らせるわ」とダメ人間の筆頭と化する望。

 

そして、「あぁ~気持ちいぃ……でも今日は何するか考えてなかったんだよね……」と平和過ぎる問題に直面していた。風呂からあがりバスローブに着替えるとベッドに寝ころぶ望。「ああぁ……もうだめぇ……幸せすぎて動けないぃ」と言いつつそのまま眠ってしまった。そして昼食を食べることなく眠り続けた。

 

夕方になると流石に腹が減ってきたため近くのコンビニへ向かうことにする望。その途中、公園で子供が泣いているのを発見したため声をかけてみることに。

 

「君たち、どうしたの?」

 

子供たちによると「おうち帰りたいよぅ」「おとうさん、おかあさーん」と言っている。迷子らしい。しかし子供だけとなると一体何があったのかと不思議がる。

 

「よし、私に任せなさい!」そう言うと子供2人を抱え上げ走り出した。

 

彼女はラック・ラックに変身しなくとも簡単な特殊能力を使うことが出来る。

子供たちの臭いを辿ることなど容易いことだ。数分後、無事家にたどり着くが、家に居たのは自分と同じ年頃の少女だった。

 

「2人とも、どこに行ってたのよ!?」と心配しながら怒る少女。

 

望が事情を説明すると少女は「弟たちを助けてくれてありがとうございます」と頭を下げながら「私は依田幸子(よだゆきこ)です」と自己紹介するが、望は(どっかで見た顔だなぁ)と考えていた。実はこの少女、レディYの正体である。

 

「アタシは周治望。まあ、困った時はお互いさまってことでまた縁があったら会いましょう」と依田家から去って行くが、幸子に押し切られる形で連絡先を交換することになってしまった。

 

モーゲン帝国の海底基地。墜落した宇宙船を改造して基地としている。指揮官に着任したイレーネが部下たちに今後の計画について説明していた。

 

「まず、私が載って来た宇宙船を移動要塞に改造して日本各地を攻撃します。それによって日本人に恐怖を与え降伏を促すことが目的です。さらに太平洋上の島。ここは知覚フィルターにより人間たちから認識できなくなっています。ここに地上の拠点となる基地を作り、本格的な日本侵攻に備えるのです」とイレーネは部下たちに今後の作戦を説明していた。

 

「イレーネ様、宇宙船の改造や地上基地建設に必要な機材や資源はどう確保すのですか?」

 

「資源と機材に関しては明日にも複数の無人船が島に到着します。それに積まれている資源および、無人船そのものも資材として使う予定です」と淡々と答えるイレーネ。

 

「さて、次の議題として我々の地球侵略を阻む人間達が言うところのヒーローやヒロインに対する対策を話し合おうと思います。

 そもそも私が派遣されたのは地球侵略の遅れを取り戻す為ですから」と地球の征服が順調に進まないことを嘆くような口調で話し始める。

 

「私も先日、着任早々に2人のヒロインと会いました。

ラック・ラックとレディYというものです。

 ラック・ラックは私にも匹敵する戦闘力があると言っても過言では無いと思います。その者の情報はどの程度あるのですか?」

 

「はい。データによりますと戦闘経験は少ないもののその実力は高く、

 イレーネ様がおっしゃられるように幹部クラスと同等の戦力があると思われます。

 下手に怪人を送っても撃破されてしまい、戦力を無駄に消費すると思われます」

 

「ですが……あの女は戦闘中に妙な反応を見せる事があります。

 攻撃を受けた際に喜んでいるような反応を見せる事が有るのです」

 

別の部下が言う。

 

それは事実である。彼女がダメージを受けた際、彼女は苦痛の表情を一瞬浮かべるが、その直後にどこか満ち足りた様子になるのは目撃されていた。しかしそれがどういう意味なのか理解するものはいない。なぜなら彼女たちは人間ではないのだから……。

 

「映像を分析すると、妙な反応を見せるのは触手などで拘束された際や後ろから羽交い絞めにされた際など動きを封じられた時のようです」

と部下が続ける。しかしイレーネには心当たりがあった。

 

(まさか、そういう趣味が有るとでもいうのでしょうか?しかしなぜ?)

「その件については私に考えが有ります。そのためにはもっと情報が欲しいですね……」と言いつつ不敵に笑うイレーネであった……

 

翌日、大量の物資や無人機が島に届けられると同時に島の基地の建設が開始された。同時にロボット兵士や強化服などの兵器が運び込まれていく。

 

「後、移動要塞の中にこのような部屋を作っておいてください」と部下に命令を出す。対ラック・ラックのための準備だ。

 

そしてその下準備としてラック・ラックともう一度戦う必要があると感じていたイレーネはロボット怪人の中から強いものを見繕うように部下に指示を出した。

 

そしてその日のうちにロボット怪人たちの中で一番強力な者1人が選ばれた。

「では早速、出撃準備です」と命令を出す。

 

そのころ望は学校から表向きの家である駅前のマンションに向かっていた。基本的には狒々山で暮らしている彼女であるが、今日はこの前知り合った依田幸子と会う約束をしているからだ。

 

駅に着くと「あっ!望さん!」という声とともに手を振っている女性を見つける。どうやら彼女のようだ。「えっと幸子ちゃんだったかな?」と言うと「はい」と笑顔で返す幸子。

そのまま並んで歩き出す二人。

 

望が隣を見ると「どうかしましたか」と言われる。そこで「ああ、ごめん。そう言えばこの前のことなんだけど、弟君たちは大丈夫だった?」

 

「はい、今日も元気です」

 

それから2人はカラオケボックスで歌を歌ったり、食事をしてからショッピングをする。途中、ジュエリーショップの前を通り、そこで幸子が足を止めた。

 

看板には『ジュエリー ナオコ』と書かれていていかにも怪しい雰囲気がする。しかしなぜか入ってみたいという欲求が強く湧き上がってくるので好奇心に従うことにした。

店内に入る……そこには色々な宝石を使った装飾品が売られており、中にはアニメのキャラクターをモチーフにしたものもあったがどれも完成度が高く素晴らしいものだと感じた。

(しかしなんで店名が『ジュエリー ナオコ』なんだ?あれか。店長の名前でも入っているのだろうか)

しばらく商品を眺めた後「気に入ったのが有りましたか」と背後から声をかけられたので驚いて振り向くと……茶色のスーツを着た女性が立っていた。

 

(この人がここのオーナー?でもなんか変だ。気配が人間じゃないような?でも敵意は無さそうだし)と少し悩むが「この二対の腕輪が気に入りましたが、自分のような学生に手が出るようなものなんでしょうか?」と疑問をぶつける。

 

すると「ほう……よくぞ気づきましたな。あなたはなかなか目が良いようです。しかしこれは……」と言って棚の方へ行くとその品を手に取って見せた。金色の腕輪に鎖があしらわれた二対の腕輪。

 

「こちらの物は一点物。この世に2つとない逸品。そしてあなたの手に渡ることを待ち焦がれているのです。そう……この腕輪を着ける資格のある者が現れるこの時が来るのをずっと待っていた……」と言うと静かに望を見る。その眼差しはとても真剣なものだった。

 

その後彼女はゆっくりと近付いてきて手を優しく取りながら、「この腕輪は運命。きっと貴方に渡されるために存在しているのです」と言う。

 

「あの価格は?」と聞く望。それに対し彼女はニコリと笑い、こう答えるのだった。

 

「ああそれは私からのプレゼント。遠慮はいらないわ」と こうして望は彼女、ナオコから金色の腕輪を譲り受けることになる。

 

「そしてもう一人のお嬢さん」と幸子のほうを見るナオコ。先ほどまでの真面目な態度と違い今度は親しげな雰囲気が漂っていた。

 

「貴女にはこのネックレスを得る運命なのです」と銀色のネックレスを渡してくる。

 

幸子は恐る恐る受け取ると「これもですか?」と聞き返すが

 

「ええ、それも私の店で売られているものの中でも一番の一点モノですよ」とニッコリと笑う。

 

幸子も思わず嬉しくなって微笑み返すが「ところでこの店の店主さんですか」という質問に対しては首を振った後、ニヤリと笑って「ふふっ」とだけ言う。それ以上は何を聞こうが話してくれなかった。

 

店を出た2人。幸子は望に「鎖が好きなんですか?」と尋ねる。

 

「何で?」と望が聞き返すと、「さっき買った腕輪も今付けてるイヤリングにも鎖がついてます」と答える。

 

「ああ、確かにそれはあるかも」

 

望のイヤリングからは小さな鎖が下がっている。実はコレ、彼女が手作りした物で手枷がモチーフなのだ。

敵に囚われたいという願望が無意識に現れているからこそ鎖を好んでいるのである。

 

2人は駅に向かって歩いて行くのだが……平和を破壊するモーゲン帝国のロボット怪人が現れたことで事態は一変する。突然の爆発音と共に建物が破壊される。逃げ惑う人々や建物の陰から様子を伺っている人達が騒ぎだす中……幸子は「こんな街中で……許せない!」と言い出す。望も変身することを考えるが、幸子も望も変身ヒロインであることはお互いに知らず、変身することが出来なくなっていた。

 

だがその時、ロボット怪人の攻撃で破壊されたビルの破片が落下し、咄嗟によけた幸子と望は瓦礫によって離れ離れにされてしまった。

 

「よし、これで変身できる!」とメイデンブレスを実体化させた望は「求めよ! 女神の加護を!」と叫びラック・ラックに変身。

 

一方の幸子も「望さんが逃げてますように」と祈ると「人々のために私は歩む」と叫びレディYに変身する。

 

暴れるロボット怪人タンクモーゲンの前に最初に立ちふさがったのはレディYだった。

 

「そこまでですよ」

 

レディYの武器は持っている杖が主体で、それで敵と格闘したり、上部に嵌められている宝石から放つ光線が主な武器だ。仮に最高出力の光線が直撃すればタンクモーゲンも倒せるだろう。

 

しかし、それにはパワーを集中することが必要。タンクモーゲンは全身に火器を装備しておりミサイルやビーム砲などを雨のように降らせている。こんな相手に動きを止めれはレディYはやられてしまうだろう。

 

そこにラック・ラックも駆けつけ、レディYに気を取られていたタンクモーゲンに切りかかる。

 

「アタシが時間を稼ぐからあんたはビームの準備をしな!」とレディYに向かって叫ぶ。

 

ミサイルを発射するタンクモーゲンの攻撃を回避しつつ、斬りかかりつつ隙を狙って攻撃をしていく。

 

「ロボットの怪人なんてはじめて見たけど……」と言って切りかかるが、相手の固い体はビクともしない。

 

一方、レディYの方はというと、杖のエネルギーチャージはまだ終わらないようだ。このままだと2人とも危険にさらされる。

 

何とか時間を稼ごうとするラック・ラックは力任せに切りかかっても剣が折れるだけだと悟り、精神を集中して剣にエネルギーを纏わせる。

 

剣を通じて敵の内部をエネルギーを叩きこもうという作戦だが、タンクモーゲンは腕からチェーンソーのような武器を出し、ラック・ラックの剣に対抗する。

 

「俺だって接近戦用の武器はあるんだぜ。せいぜい頑張るんだな。その剣を落としたらすぐに切り刻んでやるからよ」と向かってくるタンクモーゲン。

 

(こいつなかなか厄介だね。やたら固いし何で出来てんだ?)と舌打ちをする。(何といっても飛び道具中心でチェーンソーなんて捕まっても楽しくなさそう……早いとこレディ弱いじゃなくてYの奴がエネルギーを貯めてくれんと)

 

一方でようやくエネルギーチャージを終えたレディY。

 

「お待たせしました」

 

彼女の持つ杖に嵌められた宝石から最高出力の光線が放たれ、直撃を受けたタンクモーゲンはその威力に耐え切れずに吹き飛ばされる。

 

しかし完全に沈黙したとはいえ体の大半は残っているなど尋常でなく丈夫な事が見て取れる。

 

「とりあえず、奴の残骸を片付けないと」とラック・ラックが言う。地球の技術をはるかに超えるロボット怪人が悪意のある地球人の手に渡ればそれをリバースエンジニアリングして兵器を開発する可能性は十分にある。

 

「私が運びます」とレディYが力を籠めるとタンクモーゲンの残骸は光に包まれて浮かびだす。だがそこに皮鞭が飛びレディYはかわしたものの集中が途切れたことでタンクモーゲンを落としてしまい、その残骸は突如として現れた黒い裂け目に吸い込まれていった。

 

「人の組織の持ち物を盗まないでもらえますか?」

 

「イレーネか……」

 

「覚えててくれたんですね」

 

「忘れるわけねぇだろ」と言いながら剣を構え直す。レディYも杖を構えている。

 

「今日も私の相手をしてもらいますよラック・ラック。レディYも来たければご自由に」と自分を眼中に入れていないイレーネの発言に怒るレディY。

 

「あんたの目的は何だ? アタシ達を狙うのはどうしてなんだよ?」

 

「簡単なことですよ。私は地球侵略部隊の指揮官。貴女は現状では最も遭遇する可能性の高い脅威ですから、早めに手を打つ必要があると思いまして」と淡々と語る。

 

ラック・ラックはタンクモーゲンとの戦闘による消耗からか少し呼吸が荒い。これ以上長引けば勝てる相手ではないかもしれない。

 

しかし……レディYも先程の戦いで体力を消耗している。

 

「さあ、どうします? 降伏して我が組織に尽くすというなら受け入れますよ」と言いながら鞭を振るうイレーネ。それを避けたラック・ラックだが、次に飛んできた鞭をよけきれず縛り上げられてしまう。

 

「うっ」とうめきを上げるラック・ラックに「これで終わりですね」(やはり攻撃されて喜んでる?)

イレーネにレディYが攻撃しようと構えるが、「おっと……妙な真似はしない方が良いですよ?」と鞭で縛り上げたラック・ラックを立たせて後ろに隠れるイレーネ。

 

レディYはラック・ラックを人質にとられて何もできなくなった。

 

「さあ、次は貴女の番ですよ?」とレディYに迫るイレーネ。

 

だが、その時、「これ以上の勝手は許さない!!」

 

その言葉とともにレディYの体から光が溢れ、両肩に銀色の装飾品が新たに装備された。ラック・ラックは苦しみながらも彼女の両肩の装備はジュエリー ナオコから譲ってもらったネックレスと同じデザインであることに気づく。

 

(あのジュエリーショップのネックレスはマジックアイテムかなんかかよ。アタシの腕輪も何か使えんのか?)と考えるもののもがいたせいで首にまで鞭が巻き付いており、息がしにくくなっている状態では何もできない。

 

レディYを見たイレーネは焦る。レディYのパワーレベルが急速に上昇しているからだ。網膜に投映されている簡易スキャナーの表示からレディYの強さこの一瞬で上がったことを示していた。彼女はパワーの増加により必殺技のエネルギーチャージも数秒で出来るようになっていることが分かる。

 

(こちらもそういつまでも持ちませんし。ここは一旦引くべきですね。本来の目的は果たしましたし、次の段階に進めましょう。レディYの対策も考えねばなりませんね)

 

「今日の所は私の負けです。また会いましょう」とラック・ラックを解放してイレーネは去っていった。何とか危地を脱した2人は改めて合流していた。

 

「今回はあんたのおかげで勝てよレディY」

 

「はい!」

 

「パワーダウン」と叫ぶとラック・ラックは望の姿に戻り、それを見たレディYも「変身解除」と呟き幸子の姿に戻る。

 

「やっぱりあんたか……」と望が言うと「やはり望さんでしたのね」と幸子が答える。

 

「とりあえず、これからもよろしく」と望が言い、幸子が笑顔で返事をしたところでこの話は終わるはずだったが……。

 

望が鞄からタブレットが無くなっていることに気づいたのはマンションに帰ってからであった。

 

(あれ?……どこにやったかなぁ~?)

 

どうやらどこかで落としたらしい……。

望は不安になるも探す当ては無いため、新しい物が届くまで我慢することにする。

 

モーゲン帝国の基地建設が行われている島。着陸した宇宙船の一つを臨時司令部としている。その内部には回収されたタンクモーゲンの残骸があった。

 

「残骸を回収する必要はあったんでしょうか?」問う部下にイレーネは「こいつの体にはメガタイタニアム合金が使われています。地球上では作る手がない以上、貴重な資源です」と答える。

 

「さて、私はこいつの解析作業に集中するために海底基地に戻ります」と言うイレーネの手にはタブレットがあった。

 

実は望が変身した時に鞄からこぼれ落ちていたタブレットは戦いを視察していたイレーネの手に渡っていたのだ。

 

「こいつを調べれば面白いことが分かるかもしれません」と言ってその場を離れるのだった。

 

今夜の望さんの夢。

 

「さあ、どうします? 降伏して我が組織に尽くすというなら受け入れますよ」と言いながら鞭を振るうイレーネ。

 

それを避けたラック・ラックだが、次に飛んできた鞭をよけきれず縛り上げられてしまう。

 

「うっ」とうめきを上げるラック・ラックに「これで終わりですね。おっと……妙な真似はしない方が良いですよ?」と鞭で縛り上げたラック・ラックを立たせて後ろに隠れるイレーネ。

 

レディYはラック・ラックを人質にとられて何もできなくなった。

 

「さあ、次は貴女の番ですよ?」とレディYに迫るイレーネ。

 

「待ってくれ……その娘は見逃してくれ……アタシのことは奴隷にでも実験台にでもしてくれて構わないから。アンタの靴を舐めろってんなら舐める」とラック・ラックが懇願する。

 

「そうですねぇ。レディY、お優しいお友達に感謝して消えなさい。そうすれば見逃してあげます」

と言うと「くそっ」と言って引き下がるレディY。

 

「さあ、基地で可愛がってあげますよ。嬉しいでしょ?」と言われ基地に連れてこられたラック・ラックは磔台に拘束された。

 

「シンプルにくすぐりと行きましょう」と言うと磔台の後ろから無数の手が生えてきて彼女の全身をくすぐりだした。

 

「ひゃっ! やめて~やめて~」とラック・ラックが笑い転げるが「やめない」と手の動きが加速した。

 

「いひゃい。ひゃめて~」

 

「ダメですね。まだ私を怒らせた報いが足りていません。もっと出力を上げます」と言うと羽やブラシを持ったアームが現れてくすぐりに加わる。

 

ラック・ラックの体はあっという間に汗まみれになっていた。

 

さらに足の裏をしつこくくすぐられて悶える。

 

「ひゃはははは、ひひひひひ」と笑うが「まだまだこれからですからね」と言うとイレーネ自身もくすぐりに加わり両脇を10本の指が同時に動いて激しくくすぐる。

 

「ひゃは、もうひょ、ひゃはは、ゆるひ、へはははははは」と許しを請うラック・ラックだが、イレーネのくすぐりの手が緩む気配はない。

 

それから1時間以上もラック・ラックは笑わされ続けた。ようやく解放されたときにはぐったりとして気絶してしまった。

 

 

次の日の朝。

 

「ふぁー良く寝た!良い夢を見れてすっきり爽快」

 

夢の中で責められたおかげで望の心は満ち足りていた。

 

「でもなぁ夢の中のアタシは簡単に堕ちすぎだよ。

 変身ヒロインたるもの人々の憧れでなければならない。常にプライドを持っていかないと」

 

しかし望はあの時、夢と同じ行動をとっていれば自分の念願が叶ったのではないかと思ってしまう。

 

「それは違うよね。幸子を犠牲にすることは無い。

 自分の邪な夢の為に他人を犠牲には出来ないよ」

 

妙な所で真面目な女である。

彼女はあくまで美しく強いヒロインとして敗北し汚されることを望んでいるのだ。

 

「でも……あの場に幸子がいなかったら……

 多分捕まることを選んだよな」

 

それこそがラック・ラックになった理由。

彼女は敵に敗北し、自分の全てを滅茶苦茶にされたいから戦っている。

 

「アタシって何なんだろうね。何がしたいんだろうね?」

 

捕まりたいのに妙な美学の為にその機会を逃し続けている。

幸子のように真っ当に戦う人を見ていると自分が恥ずかしく思うこともある。

 

破滅願望が詰まった体の表面を正義のヒロインの要素で覆っているだけのはっきり言って普通ではない人間。

 

「ま、細かい事を気にしてもいつかは死ぬのなら、後悔が無いように生きましょう」

 

そう呟きながら身支度を整える望は棚に飾ってあるジュエリー ナオコから譲り受けた腕輪を見ながら「帰ったらコレをつけよう。鎖付きの腕輪。手枷みたいで素敵だな」と独り言を言う。

 

「そう言えば、あのタブレットにはアタシの秘密が書いてあんだよねぇ。パスワードはかけてあるけど……」と昨日失くしたタブレットを気に掛ける望であった。

 

一方のモーゲン帝国の基地。

 

「なんですか、この悪寒は……」と基地のコンピュータに望のタブレットを繋いで調べようとしていたイレーネは突如として悪寒に襲われていた。

 

「イレーネ様は着任早々に働き過ぎなんですよ。

 少しお休みを取られたほうがよろしいと思います」

 

「そうですね……この程度のコンピュータの分析なら自動解析機で出来ますし、

 お言葉に甘えて仮眠を取らせていただきます」と仮眠室に向かっていくイレーネ。

 




望さんは面倒くさいMなので捕まって嬲られるのは望でも闇堕ちはしたくないのです。

そんな変態に目をつけられたイレーネ様はある意味では最大の被害者。

『魔法少女にあこがれて』のうてなさんみたいな人が派遣されてたら丸く収まったんじゃないかと思いながら、今宵はこれまでいたしたいと思います。

正直、夢の拷問パートを書くのが楽しすぎて、このままでは望さんが悪の幹部以上の拷問を妄想する極めて危ない女になってしまいそうです。え? もう遅い?


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第2.5話 「望さんの秘密」

今回は自分の性癖全開です。


ここ最近はモーゲン帝国の動きがおとなしいらしく、望は暇を持て余していた。

 

昼食後、レンタルDVDショップに向かっていた望は巨大な蜘蛛の巣がビルとビルの間に作られているのを見つける。

 

こんな巨大な蜘蛛の巣はモーゲン帝国の仕業だろうと考えた望だが、巣の主は不在のようだ。

 

「さて、相手の出方を見るべきか、それともすぐに変身すべきか」と少し離れたビルの中庭に隠れて作戦を練っていた望だが、突然目の前に巨大な蜘蛛が現れその脚で抱きしめるように拘束され、地面の穴に引きずり込まれてしまった

 

 

「トタテグモか、しまった!」と叫んだ時には遅く、彼女は真っ暗な空間の中にいた。

 

「この感覚、どこかの次元世界に取り込まれたか」と呟きながら周囲を見渡すと、目の前の光景を見て唖然としてしまう。

 

そこは広々とした部屋で、壁は全て鏡張りであったからだ。部屋の中央には大きな機械が設置されており、それはどうやら人間を磔にするためのもののようだ。

 

「おお、磔台だ。いいなぁアタシもこんなのに磔にされて滅茶苦茶にして欲しい」

 

正義のヒロインにあるまじき、本人としては当然の淫らな発言をしていると、突然肩をたたかれ、振り返るとのイレーネがいた。

 

「お久しぶりですね。ラック・ラックさん。あなたの願いを叶えるために参りました。ここは私が作り出した異次元世界でございます」

 

「アタシが望むこと?」と首を傾げる。

 

「えぇそうです。例えばあそこにある大きな十字架とか」と言いつつ指を指す。

 

「ふむ。確かにあれならアタシを縛り付けてくれるだろう。是非試してみたいものだ」と言うと「だが一つ足りないものがあるぜ」と言って立ち上がり、「求めよ! 女神の加護を!」と叫んでラック・ラックに変身する。

 

「アタシは変身した後の姿で敵の嬲られたいんだ。人間のままじゃすぐにくたばっちまうだろ? 演出を勉強しな」と言うが早いがイレーネに向かって突撃していくラック・ラックだが、イレーネに背後を取られてしまう。

 

 

「無駄ですよ」と笑みを浮かべるイレーネによって両腕が後ろ手に縛られてしまった。

 

「ちょっ!? 何すんだ!!」と言いつつも力いっぱい振りほどこうとするがビクともしない。今度は両脚が縄のようなもので結ばれている。それもかなりの強度がありそうだ。更によく見ると椅子のような物が宙に浮かんでいるではないか。どう見ても普通のものではないことが一目瞭然である。おそらくこれに座れば手足の自由が完全に奪われるであろう。

 

 

「忘れちゃいけませんね。この世界のルールは私が全て決めているということを」と言った彼女は腕輪を操作する。すると天井付近から大量の鎖が降り注ぎ、全身に巻き付くように拘束してしまった。

 

「ぐあああっ!! まさかさっきのはこのための時間稼ぎだったのか」

 

「その通り。今の私は誰よりも強いのですから勝てると思った時点で負けなんですよラック・ラックさん。さぁ今から楽しみましょう」

 

ラック・ラックは何とか脱出しようとするが、もがけばもがく程締め付けられる。

 

「命乞いしたら許してくれる?」と思ってもいない提案をするラック・ラックであったが、それに対してイレーネは不敵に笑うだけであった。

 

「さあ、貴女の望みが叶いますよ。最初は磔ですか、拷問椅子ですか、それとも鞭ですか? 時間をかけて全部を体験させてあげます。それとも貴女を捕えたアラクネモーゲンのエナジードレインを喰らいますか?」

 

長年の望みが叶うものの、現実と妄想の違いに多少の恐怖を感じていた。

 

「殺さないって約束してくれる?」

 

「もちろんですよ」と言いながら彼女の手を取り、最初は拷問椅子に拘束する。その後、彼女を吊るしていたチェーンを外すとそのままゆっくりと拷問椅子に座らせると彼女は体を震わせていた。

 

拷問椅子から無数のケーブルが現れ、彼女の全身に繋がれる。さらに巨大なライトのような物体も彼女の頭上にはライトのような物体が現れる。それは自白装置の本命である精神操作光線の発射装置だ。

 

「お楽しみの始まりですよ」と装置を起動させる。5秒もしないうちにラック・ラックが悶え始める。息が荒くなり苦しそうな声をあげる。

 

「ねぇお願い……やめて……」と言いつつも喘ぎ続ける姿を見たイレーネは「あらぁまだ始めたばかりなのにもう降参かしら」と言いつつ先ほどより強く出力を上げる。

 

「頭が割れる! 頭が壊れる!」

ラック・ラックはあまりの出来事に気を失いかけるが、装置に装備された安全システムがそれを許さない。

 

「あなたはどこから来たの?」と最初の尋問を始めるイレーネ。

 

「自分の家から歩いてきたんですが」と答えると鞭が乳房に飛ぶ。

 

「ひぃ」

 

「ふざけてると許しませんよ。この場で処刑しても良いんですよ?」と言われて怯えてしまうラック・ラック。

 

「それで、貴女は何者なの?」

 

「周治望です。女子高生です」と答えると鞭打ちが続く。

 

「もう一度聞きたいのだけれど貴女の所属はどこ? 家族構成と好きな男性の有無も教えて欲しいんだけど」

と立て続けに聞かれる。

 

「所属はしてないフリーランス。家族は父と母ですけど、同居はしてません。

 好きな男はいません。アタシはオムニセクシャルなので……」

 

と答えた途端、「そう、もっと色々聞かせてもらうわよ。」と言うと自白装置の出力を上げていくイレーネ。

 

ラック・ラックがまた暴れだすと鞭で打って落ち着かせる。

 

「少し落ち着けるようにお薬を打ってあげる」と言いながらラック・ラックの右腕に注射針付きのチューブをあてがう。

 

「や、やめ……」

 

「大丈夫よ、恐怖を忘れる快楽物質だから」

 

と言い終える前に針を突き刺し注入すると同時に再び出力を上げてラック・ラックを苦しめた後に尋問を開始するイレーネ。

 

「貴女はどこから来たの?」と最初の質問を繰り返す。

 

「自分の家から歩いて来ました」

と答えるラック・ラックだが、今度も乳房に鞭が当たる。

 

「言い方を変えるわ。貴女の家はどこ?」

 

「本宅は駅前のマンションですが、狒々山にある別宅で過ごしてます」

 

と答えるラック・ラックに対し、自白装置の出力を上げるイレーネ。

 

「それはどこにあるのかしら?」

 

「この町の外れにある山です。あの山は先祖代々の所有地で、今は父の所有です」

と言い終わるのを待って再び鞭を振るうイレーネ。

鞭による苦痛に耐えるラック・ラックにイレーネはさらに追い討ちをかける。

 

「では貴女のご先祖さまは誰?」と聞く。

 

「大昔、鬼が村を襲った時に山の神から授かった鎧で村を守ったとか伝えられてますね」

と返すと再び鞭が振り下ろされる。しかし鞭が止まらず、さらに激しく振るわれ、体を仰け反らせるラック・ラック。

 

「痛い……止めて下さい。言うことを聞いてるじゃないですか」

 

イレーネはそれを無視し続けながら更に出力を上げ続けた。

 

「次はいつ頃からあの山で暮らし始めたの?」

 

「変身できるようになってからですかね。

 昔から爺様に言われたんですよ。もしお前が鎧に選ばれたのならあの山で暮らせって」

 

(嘘ではないようだ)と思いつつも更に出力を上げた後で次の問いを始めるイレーネ。

 

「どうやって変身できるようなったの?」

 

「山の祠にあった石を拾ったら出来るようになったんです」と答えると鞭が振るわれる。

 

「真面目に答えなさい!」と鞭を振るい続けるイレーネ。

 

「嘘はついてないですよ。祠のご神体の石が落ちてたから戻そうと拾ったらいきなり光り出して変身ブレスに変わってたんです」と返す。

 

すると鞭を止めて「じゃああの石にどんな謂れがあるのか知っているかしら?」という質問をする。

 

「家の先祖が山の神から授かった鎧で鬼と戦ったって話はさっきしましたよね?」

 

「そうね」と鞭を弄りながら答えるイレーネ。

 

「鬼を倒した後、鎧は石に変わって、次に必要になる時まで眠りについたって言い伝えがあるんです。

 伝説が事実ならその鎧が今のアタシの力なんじゃないかと」

 

「面白い話だけど作り話では無いようね。他に知ってる事はある? 」

 

「もう何も知りません……少しでいいから休ませてください」

 

「良いわよ。お眠りなさい」とイレーネが再び出力を上げる。それに合わせてラック・ラックも叫びだす。それでも懸命に耐えていたが自白装置の出力が上がり続け、ついに絶叫し意識を失った所で拷問は終了した。

 

 

「何ですかこれは……」とイレーネが頭を抱えながら言う。

 

ラック・ラックの正体である少女の持ち物であるタブレットを拾ったイレーネが中身を解析している際に見つけた物、それはラック・ラックが書いた自身が敵に捕まって責め立てられる妄想小説。しかもイレーネ自身が登場し彼女を責め立てていた。

 

「まさかラック・ラックが破滅願望持ちのドMとは……ひょっとして地球人はみんなこんな性癖なんでしょうか? 嫌ですよそんな星を支配するのは……」と呟くイレーネだった。

 

ラック・ラックの小説の中ではイレーネに散々虐められて悦ぶ姿が書かれていた。

 

「私ってこんなに人を虐めることが好きな人に見えるんでしょうか?」

 

ラック・ラックが自分に対してこのような感情を抱いていることは意外だった。

 

「しかし、この小説の設定はどこまで本当なんでしょうかね?」

 

この小説はある程度事実に基づいて書かれていると推測できる。

彼女の拠点や鎧の力の話が本当なら今後の作戦の参考になるはず。

 

 

「あの娘は予想外の出来事に弱い感じがしますね……奇襲に特化した怪人を作るのが良いかもしれません」

 

まずイレーネは部下に命じて周治望という人物の所在を調べることにした。

 

「とりあえず、アラクネモーゲンは作っておきますか……」

 




本当はイレーネさんが「こんな変態惑星いらない」と地球から撤退してENDの予定だったんですが、あと少しだけ続くのです。


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第3話 「悪夢のダイビング」

モーゲン帝国の海底基地。

望のタブレットを解析して得た情報を自身のコンピュータに記録し情報の整理をしているイレーネの姿があった。

 

「色々と頭が痛くなりましたけど、使えそうな情報はいくつか手に入りました。

 ラック・ラックが破滅願望の持ち主と分かった以上。

 望みを叶えてこっちの戦力として引き込むことも出来なくは無い」

 

とは言ったものの、イレーネは望が妄想しているような女王様キャラでは無い。あくまで侵略軍の司令官として敵には冷徹に振舞っているのであり、基本的には優しい人物である。敵に対しては容赦はないものの、降伏して捕虜になったものには基本的な人権を保証する主義である。

 

これは彼女の経験によるものが大きい。モーゲン帝国は基本的に侵攻した星を徹底的に略奪し、原住民を根絶やしにせん勢いで攻撃する司令官が大半だ。

 

また、一部の例外を除いて侵略に成功した星の支配権は侵略部隊の指揮官が得る。イレーネは現在の地位に就く前、自分の上司だった者たちが私利私欲のための略奪や強制労働を行い続けて反乱を起こされたという事例を何度も見ている。

 

イレーネ自身が温和な性格であることもあるが、基本的に彼女は侵略が完了すれば原住民も帝国の臣民となるのだから反感を抱かせることは得策ではないという判断でなるべく現地の人間に対して危害を加えないことを心掛けていたからだ。

 

ラック・ラックを味方に引き込みたいのもまた、敵対した存在であっても恭順すれば受け入れると地球人に理解させるためであった。

 

彼女は支配した星の文化・宗教を尊重する主義であり、一般市民は基本的に支配される前と殆ど変わらない生活を送ることが出来る。このような支配体制は彼女が穏健派なのもあるが、基本的に彼女は辺境地域担当であり、侵略の優先度の低い地域を担当しているため、このような勝手が許される一面もある。

 

「さて、ラック・ラックは敵に捕まって自分の尊厳を徹底的に破壊されることを望んでいるとわかりましたが……どうすれば良いんでしょう?」

 

イレーネは温厚な性格でラック・ラックが望むような女王様なキャラを演じられるかどうかわからない。彼女の経験上、あの手の人間は演技を見抜く能力がやたら高いことを知っていた。

 

下手な演技をすれば計画は水の泡だ。本国に応援を要請し、腕の良い拷問士を派遣して貰うことも考えたが、予算の都合上難しい上に、帝国最高の拷問士と自分はそりが合ないというのもある。

 

「帝国最高の拷問士ローゼンブラッド……あの女の顔ははっきり言って見たくない……」

 

それに今更助けを求めるのかとも思う。だが、彼女以外に誰がこの計画を進めることが出来ようか? 仮に他の誰かに任せるとしよう。恐らく上手く行かない可能性が高い。いや、絶対に無理だ。それくらいなら自分が進んで引き受けた方が良い。

 

「私も皇位継承権のある人間。支配者としての演技ぐらいできなければ……」

 

モーゲン帝国の司令官クラスの人間は皆、皇帝から認められた者たちである。

認められた際に皇帝の細胞を植え付けられ、皇帝の子供と扱われる。

イレーネは全体からみれば15番目程度であり、脱落してるようなものだが。

 

「今後に向けて演技レッスンにで通いましょうかね……」

ただでさえ多忙を極めているのに、イレーネの受難はこれからも続くことになりそうであったが……彼女の頭にある計画が浮かぶ。

 

イレーネは必要なものを部下に発注することにした。

 

 

数日後、ラック・ラックこと周治望は無くしたタブレットの変わりを買うために家電量販店を訪れていた。

売り場のテレビからは"俳優のグラム・レンこと上田哲男さんが自宅の敷地内にある演技教室のスタジオ内で倒れているのが見つかりました"

 

「今まで持ってた奴の後継機種あったかな……」と店の中を探す望。

目当てのものがあったのでそれを購入し、タブレットの入った袋を持って店を後にした望は小腹がすいたので喫茶店に向かう途中、赤いフードを被った占い師に声をかけられた。

 

「もしお嬢さん」

 

「ふぇ?」

 

突然声をかけられた望に占い師は「貴女は近い内に人生最大の壁にぶつかりますよ」と告げる 望は興味を抱いたようで占い師の方に振り向いて話を聞く体勢になる。

 

すると占い師はその水晶玉を片手に語り出す。その口調はとても淡々としており感情のようなものを読み取ることは出来なかった。

 

「占いによると貴方はまもなく最大の選択をする時が来ます。その選択を誤らなければ貴女の望みは叶います。もし誤れば、二度とそれを叶える機会は無く、破滅が待っているとも」と告げ、「このカードは正位置の意味『破局』を持つ物です。破滅的な運命から逃れるには今すぐ何かを変えるべきでしょう。これはお守り代わりです」と黒い石を渡す。

 

その後、占い師は何も言わずその場を立ち去った。

しばらくポカンとした表情をしていた望だが我を取り戻し、先ほど占い師から受け取った黒い石を改めて見る

(何だろうこれ?)と思いながらも取りあえずバッグの中にしまう。この時、望は知らなかったが占い師の言葉はこの先の波乱に満ちた人生を暗示するものだということを……

 

数日後、学校帰りの望が海辺で黄昏ていると周りをモーゲン帝国の戦闘員たちが取り囲んでいた。

 

「良い気分を台無しにしやがって雑魚どもが……」とメイデンブレスを実体化させて変身しようとした望だが、戦闘員たちがそうはさせじ攻撃してくる。

 

「変身を妨害するとはふてぇ奴らだ」

 

とは言っても戦闘員たちは銃を持っている。変身する時間を稼ぐため、望は岩場まで一気に走ることにした。

 

そしてそこにたどり着くと同時に彼女は叫ぶ「求めよ!女神の加護を!」次の瞬間、彼女の周りに光の柱が出現して全身にまとわりつくように装甲が形成される。最後にヘルメットが形成され、ラック・ラックが完成した。同時に彼女は走り出し、敵の懐に入り込んで殴り飛ばす!殴られた戦闘員はそのまま吹っ飛んでいった。

 

変身してしまえば戦闘員など敵では無いのだ。そのまま次々と蹴散らしていく。数分後、その場に立っていたのは望だけであったが……突如足元から網が現れ、彼女を捕らえてしまう

 

「なんじゃこりゃ!?」

 

どうやら海草の塊でできたネットらしい。絡めとられる前に脱出できたラック・ラックだったが、何人もの人々が意識を失った状態で網に囚われていることに気づく。

「今助けてやるから!」と着地するがありとあらゆる場所に罠があり、ラック・ラックは逃げ回る事しかできない。

 

少し離れた岩に着地したラック・ラックだったが、足を何かに掴まれて海に引きずり込まれてしまう。口元が露出しているラック・ラックは即座にヘルメットの潜水モードを起動して窒息することは免れたが、自分の足を巨大な蟹のはさみが拘束していることを知る。

 

「バカねぇ、戦闘員を巻いたつもりで罠に飛び込むなんて」と嘲笑うのはクラブモーゲンだ。無数のハサミを有すカニ型女怪人

 

「ほう、女怪人とは珍しいな」と余裕を崩さない望。

 

それに対して「随分強気じゃない?私の実力を知らないようね」とクラブモーゲンはラック・ラックの両腕をもハサミで拘束しようと迫る。

必死で逃れようとするが岩場に拘束されては悪あがき、即座に両腕も拘束されてしまう。

 

(これはマズい……拘束されて喜んでる場合じゃない。潜水モードは一時間ぐらいしか持たんし、何とか脱出して地上に出ないと)

 

「逃げようとしたら地上の網にかかってる人間は皆殺しよ?」と言いながらラック・ラックの首にハサミを近づけるクラブモーゲン。

 

(こんな時に幸子が……レディYがいてくれたら……何を言ってるんだ。アタシは一匹狼。仲間なんていらないんだ)

そう思うラック・ラックだったが、先日イレーネとの戦いでレディYに助けられてから彼女の心境に変化が起きていた。

仲間がいる事の良さや、破滅願望のある自分への恥など。しかし、それを認めれば自分のこれまでの人生を否定することになるから、認められないのだ。

 

「アタシが降参するなら捕まってる奴らを解放してくれるか?」と取引を提案する。これで相手を油断させて倒せても良し、このまま捕まれば自分の欲望が叶う。

 

「良いわよ。それじゃあ基地に行きましょうか?」と彼女を拘束するハサミを外したクラブモーゲンはラック・ラックを両腕を掲げるような形で掴み。地上へと上がっていく。

地上では網に閉じ込められていた人々がいたが解放される様子は無い。

 

「あいつらを解放しろ。それが降伏の条件だろ!?」

 

「約束なんて守るわけ無いでしょバーカ。あいつらの目の前をアンタの首をちょん切って人間ども絶望させてあげるわ」

 

「そうかい、ならこっちもおとなしくする理由は無いな!」と言うとラック・ラックの背中から爆炎が放たれた。

それは一瞬にして周囲を火で包む。そして次の瞬間には……「ギャアァーッ!!」と悲鳴を上げるクラブモーゲン。

そのスキに拘束から脱出したラック・ラックが岩場に着地する。

 

「これぞ裏技よ」

 

ラック・ラックは変身時に発生する余剰エネルギーを背中に溜めてあり、必要に応じて放出することも出来るのだ。

つまり、決めポーズの最後に背後が爆発するシーンの演出用である。

 

「そろそろ鍋が恋しいだろ」

 

「よくもやってくれたわね……」とクラブモーゲンは巨大なハサミでラック・ラックを再び捕らえようと迫る。しかしそれを見切ったラック・ラックは大きくジャンプ!空高く飛び上がりハサミをかわして空中から落下速度を利用してキックを放つが、クラブモーゲンは素早く回避。

 

「くっそ!」

 

ラック・ラックはかなり強い部類のヒロインであり、並の怪人なら相手にならない。

しかし、内心にある敗北への願望とイレーネがもたらした技術により怪人が強化されていることなどから苦戦を強いられているのだ。

 

下手に近づけばまたハサミの餌食。ラック・ラックは飛び道具らしい飛び道具は有していない。手から火炎を出すことは出来るが決め手にはならないであろう。

 

「あら、私のハサミが怖いのね? 臆病なヒロインちゃん」と挑発してくるクラブモーゲン。

 

「あの野郎、一気に叩き潰してやる!」と思った瞬間。彼女の手に何かが現れる。それは占い師に貰ったお守りの石であった。

それが黒い光に包まれるや黒い剣へと変化した。

 

「なんだコレ……凄い力だ」

まるでイレーネとの戦いの時のような高揚感を覚えながらその剣を振り上げるラック・ラック。そのまま振り下せば衝撃波が発生して周囲の敵を巻き込みながら吹き飛ばしていく。

更に追い打ちをかけるように剣が黒く輝きラック・ラックの力を強化する。

 

「こいつなら……勝てる!」と一気にクラブモーゲンに切りかかるラック・ラックだが、頭の中に"その力を使ってはダメです! 貴女が貴女ではなくなってしまう"と言う謎の声が響く。同時に彼女は全身から力が抜けるような感覚を覚えたが構わず攻撃する。

 

しかし、一撃目は何とかかわすことに成功したものの二撃目、三撃目の連続攻撃を喰らいダメージを受けるクラブモーゲン。

 

(なんだコレ、楽しいぞ!)

圧倒的な力を振るう快感に支配される望はクラブモーゲンに何度も切りかかる。

 

「どう言うことよ……」困惑しながらも必死に応戦するが、ついには体を切り裂かれて消滅する。

変身を解除した望は捕まった人たちが無事なのを確認すると家に帰っていく。

 

「疲れた……」

マンションに帰った望は腕輪を外して棚に置く。

「あれ?」

望は気づく、腕輪の裏側には自分の知らないが彫られていることに。

そして占い師からもらったお守りにも似た文字が彫られていた。

 

意味はそれぞれ、腕輪が"人の為の力"、お守りが"自分の為の力"だが、望が知ることない。

 

今夜の望さんの夢。

 

「アタシが降参するなら捕まってる奴らを解放してくれるのか?」と取引を提案する。

 

「良いわよ。それじゃあ基地に行きましょうか?」

 

ラック・ラックが連行されたのは海底の洞窟に作られた基地。

その奥には鉄格子の嵌った一角があった。

 

「ここが貴女の終の棲家よ」とクラブモーゲンはラック・ラックの背中に蟹のハサミを突きつけながら言う。

 

「入りなさい」と命令されしぶしぶ従う。中には鎖と手錠がかけられていて逃げ出すことは不可能だろう。

 

「何するつもりだ」

 

「拷問よ拷問よ、接待でもしてくれると思ったの?」と笑うクラブモーゲンは彼女の腹部を掴み強く挟み込む。グチャリと言う音が鳴り響いて激痛で意識を失いそうになるラック・ラックだったが、すぐに痛みは和らぎ代わりに全身を心地よい脱力感が支配する。

 

これは彼女が気絶しないギリギリの力加減で行っているため、長時間続けられると気絶すら許されない苦しみを味わう事になるだろう。

 

「どう? モーゲン帝国に逆らった愚かさを反省する?」と言いながら力を強めるクラブモーゲン。その度にラック・ラックの口から苦痛の叫びがあがるのだが……

 

「反省するなら命だけは助けてあげる」とクラブモーゲンが悪魔のささやきを行う。するとラック・ラックの顔色が変わった。

 

「分かった。アタシが悪かった。だから止めてくれ!」と涙を浮かべ懇願し始めたのだ。

 

(こいつ演技派なのね。中々楽しめそうだわぁ♪ もっと責めてやるわ!)

 

クラブモーゲンの心に嗜虐的な感情が湧く。

それからしばらく時間が経過したが一向に許してもらえる気配が無い。それどころか、先程より力を込められている。

 

「もう無理ぃ……本当に謝ってるじゃないですか!」

 

「駄目ね。そんな事言い出した時点で反省する気はないんでしょ?」とさらに挟む力を強めるクラブモーゲン。ラック・ラックの顔色が絶望に染まっていく。

 

「違う! 違う! 本当に反省してます!」

 

「忠誠の証を見せなさい。出来ないなら死ぬことになるわよ」と宣告するクラブモーゲンはハサミの一つをラック・ラックの首へと突きつけ、「首を刎ねるから覚悟するのね」と脅されたラック・ラックは必死に謝罪しながら彼女のハサミにキスをして舐め回す。

 

「ごめん……なざい。もう、逆らいまぜ、ずぅ……ひぎっ!?︎」と言った途端に激痛に襲われ悲鳴を上げるラック・ラック。

 

クラブモーゲンが更に腕の力を強めたのだ。「忠誠心がない奴の言葉なんか聞く価値はないのよ。このド変態」と吐き捨てる。

 

「心から誓います心から誓います。モーゲン帝国にいや、クラブモーゲン様に忠誠を誓います!」

 

必死に誓うラック・ラックの目からは涙を流し許しを求めるように両手を差し伸べる。手錠さえなければ彼女に出来る最大級の土下座であっただろう。

 

悪夢なのか吉夢なのかわからない夢をみて悶えている望。そんな彼女を見下ろしている存在がいた。あの占い師の女だ。

 

占い師は眠っている望の頭を軽く撫でると、「そうだ……お前は欲望のままに生きろ。間違っても真っ当なヒロインになってはならない。その時は私がお前を滅ぼす……ラック・ラックに許されるのは欲と力に溺れた未来だけだ……」と耳元で言う。その声はとても優しい声で、どこか悲しげでもあった……。

 

一方のモーゲン帝国海底基地。

 

「クラブモーゲンがやられたですって?」

 

「勝手にラック・ラックと戦闘したようでして……」とイレーネに説明する部下。

 

「強化型でも勝てないんですか……」

 

「かなり善戦したようですが……」

 

「こちらの計画を進めましょう。変身には変身で対抗するんです」と言うイレーネの視線の先には彼女自身が設計した変身装置と強化アーマーがあった。

 

「アーマーの完成を急ぎなさい。今度こそ決着をつけますよ」と力強く言うイレーネに部下たちもまた力強く答えるのであった。

 




構想してる今後のストーリーがどんどんシリアスになってきてコメディ要素がどっか行っちゃってる。

変なヒロインに敵組織が振り回される話を構想してたのに。誰か助けて。


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第4話 「ワイヤーアクション、香港アクションへの挑戦」

モーゲン帝国海底基地の司令室に新しい幹部の姿があった。軍服姿の麗人である。

 

「ベルベット、遅ればせながら着任しました」

 

「久しぶりですねベルベット」と笑顔で迎えるイレーネ。

 

ベルベットはイレーネの副官なのだ。イレーネが地球の前に制圧した星の後始末を終え地球に着任したのだ。

 

一方の狒々山の山中。

今ここではラック・ラックとレディYによる戦闘が繰り広げられていた。

 

クラブモーゲンとの戦いで自分が慢心していたことを思い知った望が幸子に頼んで模擬戦を頼んだのだ。

 

そもそも捕まりたいなら特訓などしなければよいのだが、彼女の中には敗北ヒロインは負ける瞬間まで強くなければならないという理念があった。

 

「たあぁぁぁ」と杖を振り下ろすレディYの攻撃を剣で受け止めるラック・ラック。

 

(幸子の奴、強くなってる……)

 

攻撃のキレも威力も知り合ったころとは雲泥の差。今の幸子ならローズモーゲン程度なら簡単に倒せてしまうだろう。

 

「でい!」と突き技を出すラック・ラックだが、レディYはそれを回避するとラック・ラックの首に杖を突きつける。

 

「参った……負けだ。付き合ってくれてありがとうな幸子」

 

「良いですよ。私も勉強になりましたし」

 

「アンタも強くなったね。アタシもそろそろ引退かな」

 

「望さんがいないと私なんて戦えませんよ」

 

「嬉しいこと言ってくれる。アタシにも光線技とかあればなぁ」

 

「考えれば良いんじゃないんですか?」

 

「どういう事?」

 

「私たちの力は心の力。自分の心の中で形に出来れば使えるようにはなるはずですよ」

 

「なるほどね。考えたことも無かった」

 

「研修で習わなかったんですか?」

 

「アタシは組合員じゃないし。とりあえず試しにやって見るか」

 

望はイメージする自分の理想とする戦闘法、つまり香港風のワイヤーアクション。ラチェットを使った欧米風よりも香港風の手引きワイヤーの動き。

 

 

(レディYの奴がアタシの方を指さしながら唖然としてる……)とラック・ラックが振り向くと、そこにあったのはクレーン、ハーネスに滑車にワイヤーにロープにその他諸々。

 

「ワイヤーアクションの機材を実体化させちゃった……」とラック・ラックが言うとレディYがズッコケてしまう。

 

「早く消してください! そもそもあの人たちは何なんですか!?」

 

怒鳴るレディYの指さす先には何人もの人間がいた。無論、術で作られたまやかしだが。

 

「多分、ワイヤーリガーだと思う。ワイヤーアクションの時にワイヤーを操作するプロ。試しにワイヤーやってみよ」と機材を装着させてもらうラック・ラックにレディYは「駄目ですよ!」と怒鳴るがそうしているうちにラック・ラックはワイヤーリガーたちの「セーノ!」という掛け声と共に宙を舞う。

 

その姿は完全にアクションスター。その様は正に空中浮遊。

ワイヤーリガーたちの手腕によりラック・ラックの体が宙を舞いながら動く。

そして、着地して終了。

 

「快感……」満足そうな顔のラック・ラックだったが。

 

「やりすぎです!」

 

「うぎゃぁぁぁぁ!」

 

当然のごとくレディYから制裁を受ける羽目になる。

 

結局この日の成果としては幸子のレベル上げとワイヤー技術の取得ぐらいしか出来なかったが充実した一日になったと言えよう。

 

「でも今日はありがとう幸子。今度の日曜日にでもご飯おごるよ。弟たちも連れてきな」

 

「本当ですか!楽しみにしてますね!!」

次の日曜に約束を取り付けた幸子は満足そうに自宅へ戻って行った。

 

その様子を見ているものがいた。モーゲン帝国のドローンだ。

 

「やはりあそこがラック・ラックの隠れ家ですか……」とドローンから送られてくる映像をモニターで確認するイレーネ。

 

「直ちに攻撃を仕掛けましょう」と進言するベルベット。彼女が攻撃命令を出そうとするがイレーネは「お待ち!」と制止する。

 

「私の目的はラック・ラックを正面から屈服させることです。疲労した相手では駄目です」とあくまでも戦うのは自分の実力を示してからだと反論。

 

「しかし、イレーネ様、これ以上の地球侵略の遅れは致命的です。我々の敵はラック・ラックとレディYだけでは無いのですよ」と答えるベルベット。

 

ラック・ラックとレディYはローカルヒーローのようなものであり、世界各地にこのようなヒーローやヒロインがいる。

 

ちなみに、ラック・ラックとレディYがいる地域には後、ヒロインが1人とヒーローが1人いるが、戦闘による負傷の為、行動不能となっている。

 

「だからこそ、私はこの指輪を作ったのです。次こそは私に敗北は無い」というイレーネの両方の中指には同じデザインの指輪が嵌められていた。

 

「しかし、アーマーのシステムがまだ完成していないではありませんか……」

 

「そうですね……もう少しデータが必要かもしれません」

 

「ならば……私がラック・ラックと戦ってきます。それで奴のデータを集めます。無論、私が奴を屈服させてもよろしいのでしょう?」と不敵に笑うベルベット。

 

「よろしい……許可します。ですが、危なくなったらすぐ逃げるんですよ」

 

日曜日のお昼時。望は幸子と2人の弟、幸典と直樹を連れてある飲食店を訪れていた。

その名は石村フードハウス。望が子供のころから知る町の飲食店である。

 

ドアを開けると丁度そこには店主の石村次郎がいた。

 

「いらっしゃい望ちゃん、一緒にいるのはお友達かい?」

 

「まあね、依田幸子と弟の幸則くんと直樹くん」

 

3人を順に紹介する。幸則は恥ずかしさからなのか顔を下に向けていたが、直樹は笑顔を浮かべて手を振っていた。

 

そんな姿を見て安心したのか微笑みかけると席へと案内された。

 

「メニューになくても大抵のものは作れるぞあの人」とは望が言う言葉である。実際その言葉は嘘ではなく。客に出す料理は全て手作り。特に人気なのがカレーライス、カツ丼などの洋食系であるが、ラーメンも根強いファンが多く、望の行きつけでもある。

 

注文して5分も経たないうちに4人の前には湯気立つ熱々の皿が置かれた。

 

「ごゆっくりどうぞ」と笑う青年にどうやら幸子は見惚れているらしい。

 

「幸子……見惚れてるとこ悪いが、あの人、仁さんはホモだぞ」

 

という言葉を聞いた瞬間、我に返った幸子は真っ赤になっている。

 

そして「お、美味しいですね!!このハンバーグ!」と無理やり話題を変えるように食事に集中し始める。

それからしばらく談笑しながら食事を楽しんでいる最中、店内に設置されているテレビから流れてくるニュースに気を取られる望と幸子。

 

落海 承子(おちうみ しょうこ)と言う高校生が失踪したことを伝えるニュースだ。望と幸子が気を取られたのは落海 承子という名前だ。

 

彼女たちの記憶の中にある日本でも五本の指に入るエリートヒロインであるライトニングプリンセスの変身者と同じ名前だったからだ。

 

「承子さんは先月15日、防犯カメラに姿を撮影されて以降、行方が分からなくなっています。警察によると承子さんは事件に巻き込まれた疑いがあり……」というアナウンサーの声を聞きながら望と幸子は無言のまま食べ続ける。

 

雰囲気を変えようと「そう言えば幸子たちの両親ってどうしてるの?」と望が問う。

 

すると少しの間を置き、「お母さんは妊娠中で、お父さんは仕事で家を離れてます」と答えた。それを聞いて何となく事情を悟った望はそれ以上何も聞かなかった。

 

そこに石村がやってきて4人に飲み物を振舞う。

 

「新メニュー候補のジュースなんだが、飲んでみてくれんか?」と尋ねてくる。

 

「遠慮無く頂きます」と4人は恐る恐るとコップを口に運ぶ。

 

「うまいっ!」

 

「これ美味しい!」

 

「おいしいです!」と大好評の様子だった。

 

「口に合ったようで嬉しいよ。また、いつでも食べに来てくれ」

 

「ありがとうございます!」

 

その後、会計を済ませた際に、代金を受け取るのを拒否する店主に対し、何とか料金を支払うことに成功した。

 

幸子たちも喜んでいたことだし満足そうな顔でその場を去った一行であった。

 

幸子たちと別れて駅前のマンションに戻った望は先ほど見た高校生の失踪事件についてパソコンで調べていた。

 

ニュース記事に掲載されている高校生の顔写真を自分の記憶にある落海承子すなわちライトニングプリンセスと同じ容姿をしていた。

 

「あの高慢ちきがやられたってなら相手は滅茶苦茶強いぞ。もしそいつと遭遇したらアタシは確実に負ける……」

 

承子のことを望は好いてはいなかったが実力は認めており、自分より上の存在として敬意は払っていた。

 

そんなライトニングプリンセスを倒せる相手がいるのなら、自分は絶対に勝てない相手だ。

 

「そんな奴と遭遇したらどうなるんだろうね? 捕まえて基地に連れてってくれるなら良いんだけど"お前のような弱者は死あるのみ"とか言われたら嫌だし」と呟く望。

 

 

「まあ、その場合でも最後まで抵抗はするよ……願いが叶わなくとも正義の味方の端くれだし最後の最後まで戦い抜く覚悟はあるからね」

 

一方の幸子たち3人。直樹は「望お姉ちゃんって良い人だね」と笑顔で良い幸則も肯定するように頷く。

 

「うん……とっても強くて良い人。でも、誰か止める人がいないと駄目な所がある人だと思う……」

 

そう言う幸子の脳裏に浮かぶのは先日のワイヤーアクション騒動だった。

 

 

 

翌日の夕方。望は幸子とともに町の広場に来ていた。

 

そこで佇む女性を見かけた望はその人物を知っているようで、親し気に話しかけるが……

 

「オオバさん!」と望が言うや否やその女性の表情が鬼の様になり、望にアイアンクローを喰らわせる。

 

「人をオバさん呼ばわりするのはその口か!?」

 

「いふぁいいふぁあい! ごめんなさい許して」と必死の懇願。

 

「それで私に何の用だい?望ちゃん」

 

「久しぶりに見かけたから話しかけただけだよ……」と痛みに悶える声を出しながら答える望。

 

「望さん……この人は?」と恐る恐る尋ねる幸子。

 

「この人は大場るいさん……石村のおっちゃんの弟子で隣町で飯屋をやってる」

 

「大場るい……さん……シャドウレオパルド?」と呟く幸子。

 

シャドウレオパルドとは10年前に宇宙からの侵略者スノーブラッド帝国を倒した4人組のヒロインチーム、スピリットナイツの1人である。

 

「昔の事よ……あんたも変身ヒロインなのね?」

 

「はい、依田幸子と申しますレディYです」と丁寧に頭を下げる。

 

その姿に「なかなか見どころのある小娘じゃないかい」と言いつつ頭を撫でまわす。

 

「あわあわ……」と慌てる幸子の姿に笑う望。

 

「まあ、とっくに引退した私が言えることは一つ。憎しみに囚われたら負けるよ」と告げるるい。

 

「私たちは最後の最後で大切な仲間を死なせた……」と語るるいなの眼には薄らと涙があったように幸子と望の目には映った。

 

(この人は復讐のために戦ったんじゃない大切な人の仇を取るために戦うのではなく……ただ、正義感の強い人なんだろう)

 

その瞬間、公園のモニュメントが真っ二つに切断され、人々が悲鳴を上げながら逃げ惑いだす。

 

「見つけた……ラック・ラック」とサーベルを構えたベルベットが姿を現す。

 

「誰だお前?」

 

「私はベルベット。イレーネ様の副官。さあ、早く変身するんだ」

 

「私はあそこにいる子供たちを連れて行く。後は頼んだからね」とるいは走り出す。

 

望と幸子は即座に変身し、ラック・ラックとレディYへと変わる。さっそく切りかかるラック・ラックだが、ベルベットはその攻撃を己のサーベルで捌く。

 

(何なんだコイツは? 強い……けど何か違和感が有る……)

 

ラック・ラックを援護しようと飛びかかるレディYにベルベットは「お前の相手は別に用意してある。現れよアラクネモーゲン」と叫ぶと蜘蛛型の女怪人が地面の下から現れレディYを引きずり込んでしまう。

 

「アラクネモーゲン!?」と驚くラック・ラック。

 

「お前の小説のアイディアを拝借させてもらった……」

 

「アタシのタブレットを盗んだのはお前らだったのか! しかもアタシの秘密まで」

 

「ふふっ……イレーネ様はお前の秘密を知って驚きだが、お前の望みを叶えてやらんと手ぐすね引いてお待ちかねよ……素直に降伏して捕まったらどうかな?」と余裕の笑みを見せるベルベット。

 

「ふざけんな! 実力でアタシを倒してからにするんだな」と剣を構える。

 

「いいだろう……勝負は一騎打ちに限る」とこちらもサーベルを構える。

 

一方、アラクネモーゲンによって亜空間に拉致されたレディYは糸で拘束されていた。

 

「おとなしくしていれば酷い事はしないわ。殺すなって言われてるんでね」と退屈そうに言うアラクネモーゲン。

 

「私としては暴れてもらった方が楽しいけどね」と残酷な笑みを見せる。

 

「悪の組織に従えるものですか!」と叫んで糸を引きちぎろうと力を込める。

 

「無駄よ。その糸は特別製でねぇ……抵抗したからお仕置きが必要よね?」とレディYに後ろから抱き着いて首筋に口を近づける。

 

「クモはね。消化液を獲物に注入して溶かした内臓や筋肉を吸い取って食べるのよ……体験する?」と舌を這わす。

 

「ひぃ~止めてください!」と恐怖で体を震わせながらも拒絶の意思を示す。

 

「それとも生命エネルギーだけを吸うこともできるけど……」と耳元で囁く。それを聞いたレディYの顔が青ざめる。

 

「大丈夫よ。殺したりしないわ。でもお仕置きはするわよ……」

 

レディYの体に糸が纏わりつき操り人形のように全身を操られてしまう。

 

「嫌だぁぁ、こんな格好は嫌です~」と嘆くレディYは胸を強調するようなポーズを強制させられていた。

 

「チビだけど出るところは出てるのね。次は……四つん這いになって投げキッスのポーズよ」

 

「やめてぇ~」

 

糸が動き出しレディYの意志を無視してセクシーポーズをとらされてしまう。そして屈辱的な投げキッスをさせられるレディYであった。

 

一方、るいはこどもたちの安全を確保した後に広場に戻ると先ほどいた場所に望も幸子の姿もなかった……。

 

「まさかあの2人が負けたのかい? だとしたらまずいよ……」

 

だが、彼女の目には見えていた。亜空間の扉である歪みが。

 

「あの中に誰かいるね……」

 

そう呟くるいは鞄の中からあるものを取り出した。スピリットナイツの変身アイテムであるナイトモーファーだ。

 

彼女のモーファーは10年前の決戦で破損しており、変身できるかもわからない代物。

しかし、後輩の危機を黙って見過ごすことの出来る人間ではないのだ。

 

「自分の心にある戦士を呼び起こせ!」と叫びモーファーに手のひらから出て来た黒豹をあしらったキーを刺して回す。

 

黒い光ともにるいの体が黒豹をあしらったコスチュームに包まれていく。最後に黒豹のマスクが展開し顔半分を覆うことで変身が完了する。

 

「影より悪を狩る狩人。シャドウレオパルド!」

 

亜空間内ではレディYは糸による辱めに耐え続けていた。アラクネモーゲンはその様子に興奮を抑えられない。

 

「いいわ! もっと悶えなさい」と糸を強く引くアラクネモーゲン。

 

痛みにより「うっ!」と悲鳴を上げ涙目になるレディY。

 

その瞬間、亜空間を切り裂いてシャドウレオパルドが飛び込んでくる。その勢いを利用して彼女を縛る糸を全て切り落とすと蹴り飛ばし距離をあける。

 

「大丈夫かい? 後輩」と笑顔を向ける。

 

「るいさん?」と息を整えるレディY。それに対して力強く答えるシャドウレオパルド。

 

「もちろんだよ」

 

「アンタも人形にしやるわ。歳考えなさいよおばさん」

 

おばさんという言葉はるいことシャドウレオパルドにとっては最大のNGワードであり、彼女の怒りは一気に頂点に達する。

 

「よくも私の事をババア呼ばわりしてくれたな! こうなれば実力行使よ! もう許さんわ!」と激昂する。

 

("憎しみに囚われたら負けるよ"って言ってた気が)と唖然とするレディY。

 

「そもそも誰がババアよ、私はまだ27だ!」と叫ぶシャドウレオパルド。

 

「うるさいわね! 年寄りには関係ない話よ」と言いながら糸を放つアラクネモーゲンだがその全てを軽々と回避される。

 

シャドウレオパルドは何度もアラクネモーゲンの体を殴っては蹴りを繰り返して確実にダメージを与えていく。さらに力任せに投げ飛ばし、現実世界へとたたき出すことに成功する。

 

それを追ってレディYとシャドウレオパルドも亜空間から脱出すると、そこはラック・ラックとベルベットが戦いを繰り広げる無人ビルの駐車場だった。

 

「アラクネモーゲンの亜空間を力任せに破ったというのか!?」

 

「るいさん!?」

 

「望、こんなとこにいたのかい。あんたのお友達がそこの蜘蛛女に玩具にされて弄ばれてたってのに……」

 

「何だとレディYに何をしやがった!?」

 

 

「アンタが一番よく知ってるでしょラック・ラック?」

 

「幸子を操り人形にしやがったな!?」と殴りかかろうとするがベルベットの攻撃が遮る。

 

「お前の相手は私だ。アラクネモーゲン! お前は残りの2人を始末しなさい」

 

「行くよ! 幸子ちゃん」

 

「はい!」

 

シャドウレオパルドとレディYが一斉にアラクネモーゲンに攻撃を仕掛ける。シャドウレオパルドが殴り、次はレディYのビームが降り注ぐ。

しかし、シャドウレオパルドの変身が解除されてしまった。

 

「駄目か……もうパワーが無い」

 

破損したスピリットモーファーではもう戦えないのだ。それを見たアラクネモーゲンが糸でるいを絡めとろうと迫るがレディYの杖が彼女の動きを阻む。

 

「邪魔するんじゃないよ。お前もまた人形にしてやる!」と怒るアラクネモーゲンだったが、レディYはビームのエネルギーを杖に集めて叩き込んだ。エネルギーが体内で爆発したことでアラクネモーゲンはそのまま消滅する。

 

その頃、ラック・ラックはベルベットとの死闘を続けていたが決定的なダメージを与えることができずに疲弊していた。

 

ベルベットも汗を流しており明らかにダメージを蓄積しているように見えた。

 

(手段を択ばずに殺すことは出来る……こいつを屈服させる方法を考えなければ……)

 

そう言う意味ではベルベットのほうが不利だ。

 

(このままじゃまずいな。もっと早く動かないと……ワイヤーアクションのような素早く動く)

 

イメージを固めたラック・ラックは縦横無尽に飛び回ってベルベットを翻弄する。

 

(速いな……イレーネ様にも匹敵する。だが、攻撃が大ぶり過ぎるのよ)と冷静にラック・ラックの動きを見極める。

 

一方のラック・ラックはベルベットの隙を見つけては攻撃を仕掛けるがサーベルに阻まれてしまう。

 

「この程度でおしまいか?」と嘲笑うが、

「これでも喰らえ!」という言葉と共にラック・ラックの手から放たれた火炎放射に怯む。

 

「小賢しい真似をする……」と呟いた瞬間、ラック・ラックの姿が無いことに気付いた。

 

「どこへ行った!?」と周囲を探すベルベットだがラック・ラックは既に背後に移動していてベルベットの首に剣を突きつけていた。

 

「アタシの勝ちだな……」

 

「今回は負けのようだ……次こそはお前の最後だ」とテレポートで退却していく。

 

「逃げられたか……」

 

変身を解除した望と幸子は倒れていたるいを抱え起こす。

 

「大丈夫ですかオオバさん?」

 

「誰がおばさんだ!」と望の頭にゲンコツをお見舞いするるい。

 

「痛いじゃないですか! これだけ元気なら大丈夫そうですね」と泣きながら笑う望。

 

「そうだねえ……」とるいも笑いだす。

 

そんな様子を見ていた幸子は「やっぱり先輩強いです! 私なんかじゃとても敵わないくらいに!」と笑顔で答える。

 

「それは違うよ後輩。確かに私達は強くなったけど、本当に強くなったら誰かを守れるようにならないと意味がないんだよ。いいかい? 強さってのは自分を守る力だけを指すんじゃない。大切なものを守りたいと思う気持ちこそが本当の強さなんだ。だからあんたはもっと自信を持ちなさい。少なくとも私は後輩が頑張ってる姿を見て心が熱くなった。それだけで十分な理由になるんじゃないか?」

 

「はい!」と涙目になりながら大きく返事をする幸子。

 

モーゲン帝国海底基地。

 

「申し訳ありませんでした……」と頭を下げるベルベット

 

「問題はありませんよ。本来の目的であるデータ収集は十分すぎるほど出来ましたし」

 

「しかし、スピリットナイツの生き残りが現れたのは予想外でした。あれさえなければレディYは始末できたでしょうに」

 

「スノーブラッド帝国を壊滅寸前にまで追い込んだ奴らですからねぇ。簡単には倒せませんよ。ある意味ではモーゲン帝国の勢力拡大に貢献してくれた恩人ではありますが」

 

スノーブラッド帝国は10年前まで銀河の大半を支配していた帝国だったが、スピリットナイツにより支配者であった皇帝が倒されたことで急速に勢力が衰え、他勢力の侵略活動が活発化することを招いたのだ。モーゲン帝国もそうやって領土を拡大していた勢力の1つである。

 

「スノーブラッド帝国の残党は最近、新しい指導者のもとで活動を活発化させているようですが、もはや脅威では無いでしょう」

 

「次はどうしますかイレーネ様」

 

「次こそが最後の戦い。これ以上、私の勧誘を拒むのなら死んでもらいます。そして侵略の遅れを一気に取り戻すのです。アーマーの改良と地上基地が完成したら出撃しますよ」

 

「御意」と頭を下げるベルベットだが、その瞳には怪しい光が宿っていた。

 




ワイヤーアクション参考文献 - 坂本浩一「ハリウッド・アクション!―ジャッキー・チェンへの挑戦」

レディYを虐めるのもある意味では楽しい今日この頃のわたくしです。


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第4.5話「周治望暗殺計画」

ベルベットとの戦いを終え、幸子と別れた望はるいとともに隣町へと繋がる道を歩いていた。

 

「望……あんたはまだ敵に捕まって滅茶苦茶にされたいとか思ってるの?」

 

呆れ顔のるいに望は答えられなかった。

敵に捕まって滅茶苦茶にされたいというのは彼女の夢であり変身ヒロインを続ける理由でもある。

 

だが、同時に彼女は自分が敵の手にかかったとき、それがどういう結果をもたらすのかを知っていた。

 

だからこそ迂闊に敵を挑発するような行動が出来なかった。

 

「私はスノーブラッド帝国と戦っていた時に誘拐されて人体実験された人の遺体を数え切れないほど見てきた。適当な改造をされて人間としての意識を保ったまま化け物にされた人たちもね……あんたが敵に捕まってそうなったら……悲しむ人がいるってわかってるの?」

 

答えることが出来ない望。望は両親との仲ははっきり言って悪い。

友人らしい友人もいない。心を許して接することができるのは幸子だけともいえる。

 

「あんたは少し自分を過信しているわ。確かにあんたは強い……だけど無敵じゃない。いつかあんたが限界を迎える時が来るかもしれない。その時に大切なものを守れないなんて嫌でしょ?」

 

「はい……」と小さく返事をする望。

 

「もし、あんたが捕まって怪人に改造されて幸子ちゃんと戦ったとしよう。そしてあんたを倒した幸子ちゃんが相手があんただと知ったら一生癒えない傷を心に負うんだよ?」

 

「わかりました……」とさらに小さくなる望。

 

 

「私は最後の戦いでモーファーを破壊されて役に立たなかった……そして大切な仲間を死なせた。もちろん、私が変身できていたからといってその結果が覆るなんて思ってないよ」

 

「えっ?」と驚く望。

 

「でもね……最後まで戦えなかった事への後悔はあるんだ。私だって自分の命は惜しいさ。死ぬのは怖い。死にたくない。だから最後まで戦うことを諦めたわけじゃない。きっと勝てるって信じていたよ。でも、現実は残酷だった。私達の努力は実らなかった。だからせめて次の世代にはそんな思いをして欲しくないんだよ……」

 

るいは立ち止まり空を見上げる。そこには雲一つ無い青空が広がっていた。

 

幸子やるいのような人を見るとその思いは強くなる。だからと言って考えを改めたりすれば自分の今までの人生を否定することになるのではないかとも思うのだ。

 

「まあ、あんたの人生だ。あんたが敵に捕まってどうなろうとそれはあんたの選択の結果だ。でも……怪人に改造されたあんたが現れたなら、私はもう一度シャドウレオパルドに変身して相打ちになってでも倒すよ……」

 

そう言い残し、るいは再び歩き出す。

望はその後姿を黙って見つめることしかできなかった。

 

 

そんな様子を見たるいは「まったくもう!」と言って手を引っ張り歩き出す。

 

「ちょっと先輩! いきなり引っ張らないでください!」と抗議する望を無視してるいは言う。

 

「私はあんたの先輩だからね! 困っている後輩がいたら助けるのは当たり前でしょ? まあ、たまには先輩らしいところを見せないとね!」と笑う。

 

(この人はいつもそうだ。私が落ち込んでいる時は明るく接してくれる)

 

「ありがとうございます」とお礼を言う望に対してるいは笑顔を見せるのであった。

 

「暇があったらあたしの店にも来な。とっておきの料理を用意してやる」と笑うるい。

 

「はい!」と元気よく返事をする望。

 

 

その夜遅く、狒々山の屋敷の中にある望の寝室。

 

「ああ……糸をそんな……これ以上吸わないで……やめて……死んじゃう……」

 

いつものように怪人に拷問される夢を見ている望。

それを見降ろしている人物がいた。ベルベットである。

 

「何なんだこいつは……本物の変態だな……」

 

呆れながらもサーベルを抜いて望の心臓に狙いを定める。

 

「イレーネ様には申し訳ないが……お前にはここで死んでもらう」

 

その瞬間、何者かがベルベットを後ろから投げ飛ばした。

 

「何者!?」

 

そこに立っていたのは赤いフードに身を隠した占い師。

 

「お前は……」とサーベルを構えるベルベット。

 

「アタシかい? アンタのご主人様の計画を応援してる者さ……

 ラック・ラックを闇堕ちさせる会の会長とでも名乗っておこうかしら」

 

そう言いながら手を前にかざすとベルベットの体に衝撃が走り、

気が付くと彼女はどこかの無人島の岩場に飛ばされていた。

 

「強制テレポート!?」と驚愕するベルベットの前に占い師が現れる。

 

 

「あの娘はせっかく良い夢を見てるのに起こしたら可哀そうじゃないか? ここなら邪魔が入らずに戦える」

 

そう言いながら占い師が手を天にかざす。

すると望のマンションに棚にあるはずの黒い石が彼女の手に現れ、黒い剣に変化する。

 

「暗黒の剣!?」

 

そう、この剣はモーゲン帝国の皇帝の持ち物であり、皇帝本人かその許可を得た者しか持つことが出来ない代物なのだ。

 

「何者なんですか……」と恐怖するベルベット。

 

「さあ、誰かな?」と剣を構える占い師。

 

「まあいい。正体は後でゆっくり調べさせていただきましょう」とサーベルを構えて戦闘態勢に入るベルベット。

 

「アタシを舐めない方が良いぞ……」と剣を一振りすると黒い光の刃がいくつもベルベットに向かって放たれる。

 

 

「くっ!」と回避しながら攻撃の機会を伺う。

 

「逃がさないよ」とさらに追撃する占い師だが、ベルベットは素早く移動し、何とか距離を取ることに成功した。

 

「やはり強いですね……」と冷や汗を流すベルベット。

 

暗黒の剣が本物なら彼女に勝ち目はない。

斬撃を受け止めようものならサーベルごと切り裂かれるような代物だ。

 

「アンタも中々強いよ……でも世の中には上には上がいるってことを知るんだね」

 

「私は負けませんよ」と構え直すベルベット。

 

「いい心意気だよ。そういう奴は嫌いじゃない」

 

「行きます!」

 

突っ込むベルベット。しかし、占い師は軽やかな動きでベルベットの攻撃をかわしていく。

 

(速い!)と焦りを覚えるベルベット。

 

「遅い」と言いながらカウンターを仕掛けてくる占い師だが、ベルベットはなんとか防御に成功する。しかしその一撃の重さの前にバランスを崩し、倒れてしまう。

 

次の瞬間にはベルベットには剣が突きつけられていた。

 

「別にアタシはアンタを殺る気は無い。

 馬鹿な考えを捨ててもらうだけさ……サンダー!」

 

そう叫ぶと暗闇の中から黒いフードで顔を隠した女性が現れる。

 

「お呼びですか?」

 

「この頭でっかちの頭の中を書き換えるのよ」

 

占い師が命じるとサンダーと呼ばれた女性は黒い水晶玉を取り出してベルベットの眼前に持っていく。

 

「この水晶は貴女の魂と繋がる……貴女は周治望を暗殺などしない……さあ、受け入れなさい」

 

それに抵抗するベルベットだが、次第に意識が遠のいて行く。

 

「貴女の意識はこの水晶玉の中にある……

 貴女は周治望を暗殺などしない……そしてこの夜の事は忘れなさい」

 

サンダーが念じ、ベルベットはその場に倒れ込む。

 

「よくやった……お前に成長は目を見張るものがある」とサンダーの頭を撫でる占い師。

 

「貴女様が与えて下さった力のおかげですよ」と高揚した声で答える。

 

「この女はどうしますか?」と倒れたままのベルベットに視線をやるサンダー。

 

「基地に帰る様に暗示をかけなさい……」

 

「了解しました」とベルベットの頭に手を置くと何か呪文の様な言葉を呟き始める。

 

「これで大丈夫です」

 

「そうかい……」と占い師は再び闇の中に消えていく。

 

「では私もこれにて失礼いたします」とサンダーも姿を消す。

 

その後ベルベットは目を覚ますと自分がなぜここにいるのか分からず困惑するが、すぐに気を取り直して立ち上がる。

 

「イレーネ様のもとに戻らねば」

 

一方その頃、望はベッドの上で寝返りを打っていた。

夢の中では触手に絡みつかれ、鞭で打たれ、生命エネルギーを吸収されの桃源郷状態。

 

「ああっ……もう駄目だぁ」

 

それを水晶玉越しに見ている占い師は「もうすぐお前の理想は現実となる……」と呟くのであった。

 




最終回までのプロットは出来てるんだけど、望さんが向かう道がこれでいいのか悩む。


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第5話「死の恐怖(前編)」

完成した孤島基地の司令室。玉座に腰掛けたイレーネの横にはベルベットの姿があった。

 

「基地は完成しました……ついに本格的な攻撃に移りますよベルベット」

 

「御意……」と頭を下げるベルベットだが、その時、基地に緊急通信を告げるアラームが響いた。

 

その通信の主はモーゲン帝国の皇帝である。それを知ったイレーネとベルベットはモニターの前に跪き通信を開く。

 

『イレーネ……久しいな……』

 

この声の主こそはモーゲン帝国第25代皇帝ザダル・バ・モーゲンである。

 

「はい。お久しぶりでございます陛下……」

 

『お前にある程度の裁量が認められているのはこれまでの功績あってのもの……それは分かっているな?』

 

ザダルの言葉を「勿論ですわ」と言うがその表情には焦りが見えた。

 

『だがお前は地球に派遣されて以降、全くと言っていいほど功績を挙げていない……地球の制圧はおろか町一つも制圧できていないとはどう言うことか? お前が成し遂げたことは基地を一つ作っただけではないか!』と怒りを露わにする皇帝。

 

「返す言葉もありません……」と頭を下げるイレーネ。

 

「恐れながら陛下……」とベルベットが声を出す。

 

「制圧が進まぬ理由として……この星には変身ヒーローやヒロインと呼ばれる怪人に匹敵する戦闘力を持つ変身能力を持った人間が異様なほどに存在しています」

 

それを聞いた皇帝が『それがどうした?』と答えると、今度はイレーネが答える。

 

「下手に怪人を送っても撃退されます……私は奴らの能力を分析し兵器を作りました……

 私自らが出撃し、現在侵攻している地域にいる変身ヒロインを始末します。

 私を処分するのはその結果を待ってからにして頂けませんか?」

 

皇帝はその申し出に『ふむ……では任せたぞイレーネ。期待して待っているぞ……人手が足らんと言うなら応援を送ろうか? ローゼンブラッドが是非変身ヒロインを嬲ってみたいと言っていたがな……』

 

ローゼンブラッドは皇帝直属の拷問士であり帝国最高の腕があると呼ばれる女だ。冷酷非情な性格で穏健派なイレーネとはソリが全く合わない人物だ。

 

「冗談だ……今のところな……お前がこれ以上失敗すれば……分かるな?」と言う皇帝の言葉を最後にモニターの通信が切られた。

 

立ち上がったイレーネはベルベットの目を見据えながら「ラック・ラック討伐作戦を開始しますよ」と言うのであった。

 

「ラック・ラックを倒したとして奴が従うでしょうか……」と問うベルベット。

 

ラック・ラックは敵に捕まって破滅する願望はあるが、悪に従う趣向はなさそうに見える。

 

「その時は私と貴女の腕の見せ所ですよ」と答えるイレーネ。

 

「洗脳するという手もありますが……あの妙に確立された自我を操るのは至難の業かと……あの連中に頼んでみますか?」

 

「空上支配会ですね……」

 

ベルベットの提案を受けてイレーネがつぶやく。空上支配会とは太平洋にある離島・空上島を拠点とする弱小組織で、戦力的にはモーゲン帝国の敵では無い存在。

しかし、彼らは卓越した精神操作技術を持つ。他組織の下請けとして洗脳業務をこなすことで生き延びている組織だ。

 

「あの人たちの技術を目を見張るものはあります……とても地球の技術とは思えない……最終手段として候補には入れておきましょう」

 

そう言うイレーネだが、彼女は洗脳のような非人道的行為を嫌っているため、やりたくはないと思っているが、

事実上の最後通告が来ている状態ではなりふり構っていられない。何としても次の戦いでラック・ラックを倒すしかない。

 

イレーネは覚悟を決め・司令室から出て行く。

 

そして1人になった部屋でベルベットは、「イレーネ様の勝利のために私がやらなければ……」と呟いていた。

 

 

次の木曜日。学校帰りの望はある人物と出会った。

 

赤く染めたポニーテールが特徴的な彼女は榛田 美紀(はるた みき)。変身ヒロイン、グランドセイバーに変身する少女だ。

 

弟の榛田 美紀(はるた けんいち)ことグランドディフェンダーとともにこの町で戦っていた存在である。

 

彼女は今、戦闘による負傷で療養中で、外出許可を得たものの、未だに傷は言えておらず松葉杖をついていた。

 

「久しぶりだな望……」

 

美紀は望にとって戦い方を教えてくれた師匠のような人物だ。

 

「久しぶり……怪我はどうなの?」

 

「私は今年中には復帰できるけど、弟はダメだ。もう歩けない」

 

美紀と弟の健一はトーフ―教という組織を追って空上島に向かった際の戦闘で負傷。美紀は軽傷だったが、健一は脚に深い傷を負い、歩くことが出来なくなってしまった。

 

そして単独で戦い続けた美紀も戦闘で負傷し活動を休止したのだ。

 

「弟の力を誰かに託すにもグランドディフェンダーとグランドセイバーは2人で1人。私が背中を任せられるような奴なんているのかな?」

 

そう力なく言う美紀だが、望はあることを思い出す。

 

「もともと一つの力なんだよなあんたと弟の力ってのは? だったらもう一度一つに出来ないの?」

 

「簡単に言うなよ。あの力を制御する自信は私には無い……

 でも、弟が戦えない以上、そうするしかないのかもな……」

 

そして望の方を見て

 

「空上島には親戚がいるんだよな?」

 

「うん……あのあたりの大地主だよ……殆どは島を出て、島に住んでるのはアタシと同い年の女の子だけだけど」

 

「だったら気を付けろ……あの島には私たちが知らない奴らがいる。他の組織の影に隠れて暗躍してる奴らが……弟と私が遭遇したのもそうだった。明らかにトーフ―教の奴じゃない」

 

その時の事を思い出した美紀は体を震えさせていた。

 

「そいつらの事、もっと詳しく聞かせて」

 

美紀の話はこうだった。トーフ―教の怪人と戦っている最中、変身ヒロインの外見をした少女に襲われ、弟は負傷し、退却せざる負えなかった。

 

「久美の奴にそれとなく島の様子を聞いてみるか……」

 

美紀と別れた望は狒々山の屋敷に向かいながらそう考えていた。久美とは空上島に住む望の親戚である。

 

 

望が狒々山の屋敷の部屋に入るとそこには椅子に腰かけたイレーネがいた。

 

 

「おかえりなさい、遅かったですね」

 

「なんでアンタがここに?」

 

「ベルベットから聞いたはずですよ。貴女の正体も家の場所も割れていると……ここも例外ではありせません」

 

「お茶でも出そうか?」

 

「結構です。手っ取り早く本題に入ると、貴女と決着を付けに来ました」

 

イレーネの言葉に驚きの表情を浮かべる望。

 

「私が勝ったら貴女は我が組織の所有物となります。貴女が勝ったら私の命を絶って構いません……どうです?」

 

「良いだろう。ただし、戦うのは今じゃない。今度の日曜の昼に近くの無人島で一対一でやるってのはどうだ?」

 

そう言い出す望を不審な眼差しで見つめるイレーネだったが「いいでしょう。楽しみにしてます」と答えた。

 

こうして、日曜日に約束を取り付けてこの日は別れた。望もイレーネも日曜日の決闘に備えて準備を始める。

日曜日の決戦に向けて…… 決戦当日。午前11時00分。無人の島で望とイレーネが向き合っていた。

 

「求めよ! 女神の加護を!」

 

次の瞬間、彼女の周りに光の柱が出現して全身にまとわりつくように装甲が形成される。最後にヘルメットが形成され、ラック・ラックが完成した。

 

「女神の加護を受ける鋼鉄の騎士……ラック・ラック!」と剣を構えながらポーズを決めると彼女の背後で爆発が起きる。

 

「あら、貴女も名乗りポーズぐらいするんですね」

 

「たまにはやっとかんと忘れるんでな!」とイレーネに切りかかる。それを紙一重で回避され、お返しとばかりイレーネが蹴りを入れるとラック・ラックは後方に吹っ飛ぶ。

 

吹き飛ばされて地面を転がったラック・ラックは立ち上がりながら、「今度こそ!!」と拳を振り上げて飛び掛かるが、スピードではイレーネの方が上であり、彼女の攻撃は空振りするばかりだ。

 

(くっそ……そうだ! あのワイヤーアクションを思い出せ。ああやって宙を舞うような動きを……)

 

するとラック・ラックの体が宙を舞い、イレーネに迫るスピードで動く。

 

「うぉりゃぁああっ!!!」

 

「ほほう……」

 

ラック・ラックの攻撃を回避しながら「中々面白いことを考えるじゃありませんか!」と感心するイレーネだったが、すぐに表情を引き締めて反撃に転じた。

 

横殴りの一撃を食らいまた大きく横に吹き飛んだラック・ラックはすぐに立ち上がると、まだ構えを取り直す。

そんな彼女を眺めながら「やはり戦士としては優秀ですね。ですけどね……」と微笑んだ後、鞭を構えものすごいスピードで振り回し始めた。

 

「鞭の結界とでもしておきましょうか?」

 

下手に近づけば鞭の餌食になってしまう。ラック・ラックは迂闊に近づくこともできず、隙をうかがうしかなかった。

 

そして、ついに彼女が鞭を構える動作を見せると同時に

 

「ここだ!!」

 

彼女はイレーネに飛び掛かった。それを紙一重で回避し後ろに下がったイレーネ。

 

「すばしっこくなりましたね……ですが、私も前の私では無いんですよ?」と言いながら両腕をクロスさせながら天に掲げる。

 

両方の中指にある指輪が怪しく光った直後、両腕を振り下ろし、「外部アーマー起動!」と叫ぶとイレーネがラック・ラックに似たアーマー姿に変身する。全身を銀色の金属で作られた重装鎧だ。

 

「その姿は一体何なんだ!?」

 

「貴女と決着をつける為に開発した強化アーマーですよ」と言うとラック・ラックに殴り掛かるイレーネ。

 

(ちいっ、前より速くなってやがる……それにパワーまで上ってるだと?)

 

防戦一方のラック・ラックだが何とか攻撃を捌き続ける。何とか剣で切り込むがイレーネの装甲は傷一つつかない。

 

「この前のロボットと同じ素材だなコレ……」

 

「ご名答……貴女たちが破壊したタンクモーゲンをリサイクルしました」

 

(あの装甲はレディYの奴のビームじゃないと太刀打ちできねぇ。いや待て……イメージを固めろ。あの装甲を破壊できるような武器でも技でも……)

 

「どうしたんですか? 来ないんだったらこっちから行きますよ!」

 

イレーネの右手首からビームネットが放たれラック・ラックを捕獲する。

 

「止めろ! 出せコラ!」と叫ぶラック・ラックだが、内心では捕獲ネットを受けたことに喜びを感じていた。

 

もがくラック・ラックの首根っこを掴んで自分と向かい合わせた。その表情は笑みで歪んでいた。

 

「捕まってしまいましたね……念願が叶うんですよ喜びなさい……」

 

「だったらアタシを完璧に屈服させてみろよ……」

 

その瞬間、イレーネはネットを放り投げ地面に叩きつける。さらにネットが発光して電撃が放たれた。

 

電撃を浴び続けたラック・ラックは意識を失いかけるが、何とか持ち堪える。

 

「これで……勝ったと思うなよ」

 

そう言いながら剣でネットを破壊したラック・ラック。

さらにビームネットのエネルギーを剣が吸収して切れ味を数倍に上げたのだ!これにはさすがのイレーネも驚く。

 

 

「ほう、面白い仕組みですね」と余裕を崩さないイレーネにラック・ラックは切りかかり、ついにイレーネのアーマーに手傷を負わせることに成功した。

 

だが、手傷を負ったとはいえダメージは軽微な物でイレーネは反撃に出る。ラック・ラックに向かって鞭を放つと彼女は大きく吹っ飛んでいった。

 

地面に叩きつけられる直前、背中と脚部に装着されたスラスターを使い態勢を整えて着地する。

 

(剣にエネルギーを溜めれば奴の装甲に対抗できる……でも、そんなエネルギーをどっから調達する?イレーネの奴はその手の攻撃をもう出さないだろうし。こんな時、幸子の奴がいたらあいつのビームのエネルギーを使えるんだろうけど)

 

「レディYがいてくれたらと思ってますね? 」

 

ラック・ラックの顔つきを見て彼女が悩んでいることを悟ったイレーネは嘲笑いながらラック・ラックを挑発する。

 

「お仲間ならここにはいないですよ。諦めて降参すれば貴女の望みも叶う。私の望みも叶う。自分に正直になりなさい」

 

誘うように囁くイレーネ。自分の夢を叶えてくれるシチュエーションに揺れるラック・ラックだが、ここで降参しては美学に反する。

 

一方その頃、町の公園。弟たちと散歩に来ていた幸子。

すると上空で何かが爆発したかと思うと空の一部が光っていた。

 

「何があったのかしら?」と疑問を抱くが、弟たちには何の影響も無いのを確認して安堵していた。

 

「ねえ2人とも……お父さんに電話をして迎えに来てもらってもいいかしら?私、ちょっとトイレに行きたくなってしまって……」という幸子に対して二人は嫌がらずに言う事を聞く素振りを見せるが、その顔はどことなく暗いものだった。

 

弟の異変を感じ取る幸子だったが、それよりも早く家に連絡を入れてほしかった為か何も言及せずにその場を立ち去った。後にこの姉弟を襲う悲劇も知らず……。

 

しばらく歩いていると後ろから誰かがついてきているような気がした。振り返ると誰もいなかったが、気のせいにしては感覚は妙にハッキリとしていた。そして、再び前を向いて歩くと何者かがいることに気づくと足を止める。

 

そこにはベルベットが立っていた。

 

「見つけたぞレディY、お前を倒させてもらう」

 

そう言いながらサーベルを構えるベルベット。

回りに人がいない事を確認した幸子は「人々のために私は歩む」と叫ぶ。

 

まず幸子の胸に赤い宝石が現れ、次に髪の毛が銀色へと変わった。さらに服がファンタジーの神官を思わせる法衣のようなものへと変わっていく。

そして、右手には杖を持った姿になった。幸子がレディYとなった瞬間である。

 

「戦いたくはありませんが……」

 

そう言いながら杖を構える。戦闘が開始された。まず先制攻撃を仕掛けたのはベルベットだ。一気に距離を詰めてサーベルを振るう。それを杖ではじき返した。続けて振るわれる斬撃を受け止め鍔迫り合いに持ち込むが力で負けている。じりじりと押し返されていく。

 

 

(なんて強さ……)

 

ベルベットは確実に致命傷となる個所を狙って突きを出してくる。少しでも油断すれば心臓を貫かれかねない。

そんな恐怖と戦いながら必死で剣戟を回避するが、回避するのが限界であり攻撃に転ずることができない。

 

「お前に勝ち目は無い」

 

そう言ったベルベットのかかと落としがレディYの肩に直撃して彼女がふらつく。

 

「諦めろ……」

 

「私は諦めません……」

 

そう言うとレディYの腕の装飾品から光の刃が放たれ、ベルベットの左腕に直撃するが軍服が切り裂かれただけに留まった。

 

「狙いは悪くない……私の腕がサイボーグでなければ、そして腕がメガタイタニアム合金で出来ていなければ今頃、死んでいたよ」

 

「まだです!!」

 

ベルベットの言葉など聞かず、右腕を突き出しビームを発射。轟音と共に光線が放たれる。ベルベットはとっさに横に飛ぶことで避けたが左肩が焼かれる。それでも彼女は怯まずに突進してくる。

 

レディYの顔面めがけて渾身のストレートを繰り出す。間一髪杖を割り込ませることでガードできたがその一撃が重すぎて吹っ飛ばされてしまう。地面に転がった彼女をベルベットは追いかけ、剣を彼女の首筋に当てる。

 

「お前の負けだ……大人しく降伏しろ……」

 

「私は力のない人たちの為に戦うと決めた……何をされても屈したりしません!」

 

「現実を受け入れられないとは哀れな女だ……少し痛い目に遭いたいようだな」と言って力を籠めるとベルベットの手から電撃が放たれる。

 

レディYはそれを浴びてしまい悲鳴を上げ、動きを止めてしまう。ベルベットはさらに口を押さえつけて電撃を放つ。

 

「うぅー!!!!」

 

声にならない悲鳴を上げるレディYにベルベットはさらに電撃を浴びせる。

 

(強い…………でも、負けたくない!)

 

「いい加減に諦めろ……そんなに恐ろしい末路を辿りたいなら、すぐそこで震えているお前の弟たちを始末しても良いんだよ?」

 

「え……?」

 

それを聞いた時、背筋がゾッとするレディY。そう、直樹と幸典はまだこの公園にいたのだ。

 

「さあ、どうする? 弟を死なせるか降伏するかだ」

 

脅迫を受けてレディYの頭は真っ白になっていた。その時、「おい姉ちゃん!!何やってんだ!!」という少年の声を聞いて意識を取り戻すレディY。見ると2人の少年が走ってこちらに向かってきていた。そして2人はベルベットの頭に向けて石を投げつけた。

 

「姉ちゃんをいじめるな!」

 

「駄目……早く逃げて……」

 

「変身していても姉と分かるとはたいした姉弟愛だ」

 

2人が投げつけた小石を片手で払うとサーベルを振り上げるベルベット。

レディYは自分の事よりも弟たちの事が心配で仕方がなかった。このままだと殺されると思ったからだ。

 

「お前たちの行動は勇敢ではなく愚行だ……」

 

サーベルを構えたまま幸典と直樹のほうに歩いていく。その足取りを見て恐怖を感じた2人は固まってしまう。邪悪な笑みを浮かべるベルベットだが、レディYが叫ぶ。

 

「待って! 私はどうなっても構いません……弟たちだけは……」

 

そう言いながら土下座するレディY。銀色の髪は土埃に汚れ可愛らしい顔も泥で汚れる。

 

次の瞬間、レディYの背後に立ったベルベットは彼女の髪の毛を掴んで強引に立たせた。

 

手から離れた杖は光となって消えた。

 

 

「両手を後ろに回せ」と命令してくる。彼女はそれに従うしかなかった。後ろ手の状態で拘束され、ベルベットが作り出した光の柱に縛り付けられた。

 

「そこで大人しくしていろ」と言うとベルベットは直樹と幸典の前に立つ。

 

「姉ちゃんを離せ!」と叫ぶ直樹と涙を流しながら睨みつける幸典。

 

それを無視してベルベットが手をかざして何かを呟くと2人は倒れてしまう。

 

「約束が違う!」

 

「勘違いするな、今日の記憶を封印しただけだ。自分のたちのせいで姉と永遠に別れることになった記憶などない方が良いだろう?」

 

もがきながら叫ぶレディYにベルベットは言い放つ。

レディYは確かにその通りだと黙ってしまった。

 

 

「お前にはラック・ラックに対する人質となってもらう。もし逆らえば直ちに弟を殺しに行くからそう思うように……」

 

「………………」

 

無言のまま俯いているとベルベットは舌打ちをすると光の柱を消し、彼女を引きずるように歩き出した。

 



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第5話「死の恐怖(後編)」

ラック・ラックとイレーネの戦いが続いている狒々山。

 

ラック・ラックは何度もイレーネに切りかかるが彼女のスピードと固いアーマーに阻まれてダメージを与えることが出来ないまま体力を消耗していく。

一方、余裕な表情のイレーネの攻撃を避けることが出来ず傷が増えていく。

 

「そろそろ観念なさい。素直に降参すれば幹部候補としてお迎えしますよ」

 

「アタシを屈服させるにはパンチ力が不足だぜ……」

 

そう挑発するが次の瞬間にはイレーネの拳がラック・ラックの腹部に直撃する。

 

「これでも足りません?」

 

即座に反撃しようとしたラック・ラックだが、イレーネのスピードにはかなわずよけられてしまう。

その後、ラック・ラックは殴られ続けたが最後の一撃を食らう直前で間一髪ジャンプすることで攻撃を回避した。そのまま空中で体勢を立て直す。

 

(何か考えろ……イメージを固めろ……あいつに対抗できるような武器でも技でも……)

その時、彼女の両腕に光が宿る。

 

(ジュエリー ナオコのとこで貰った腕輪か……何か力を与えてくれるのか?)

 

そして導かれるように腕を動かすと光線が放たれたが、イレーネは簡単に回避する。

 

「ビームですか……威力は凄いですけどこんな大ぶりな攻撃が当たるとでも思うんですか?」

 

「コツは分かった。一気にやってやる」と言いながら大剣を構える。

 

「そう簡単にいきますかね!?」と飛びかかってくるイレーネにラック・ラックが剣を振るうと剣から光が放たれたのだ。

 

拡散されていたため、威力は低下したが、さすがによけきれずイレーネに攻撃が命中した。

 

「よし!」と言いながら今度は突きの構えをすると剣の先端からビームが放たれる。

 

(下手に近づくとあのビームの餌食……大振りとはいえ至近距離から放たれては避けられない)

と冷静になり距離を取ると彼女は考えた。

(だったらこれで……! 接近戦を仕掛けてくる相手に有効な技を……)

イレーネがラック・ラックに向かって走るとラック・ラックは剣を構えるとビームのエネルギーを剣に込めて斬撃を繰り出す。

その一撃を受けたイレーネはよろめくもすぐに態勢を整えた。

だが彼女の鎧の一部が完全に破損しており、煙が噴出している。どうやらかなりのダメージを与えられたらしいとラック・ラックは判断した。

 

「やりますね……貴女のような実力者は是非とも部下に欲しい……絶対に屈服して貰います」

その言葉と共に電磁鞭を取り出したイレーネはラック・ラックに向けて振り下ろす。

ラック・ラックはそれを大剣で受け止める。

 

(ぐ……重い……それに振動が伝わってくる……だけどここで退くわけにはいかない)

歯を食い縛って耐えようとするラック・ラックだが、ついに堪え切れなくなり地面を滑るように後退してしまった。

それを見てチャンスと言わんばかりに飛び込んできて彼女の首筋に狙いを定める。しかし、その攻撃を何とか回避する。

(速い上にパワーもある……隙を見せない……待てよ……あいつが飛び上がる時に少しスキがある……そこに攻撃を当てれば……)

 

ラック・ラックは深呼吸をすると剣を構える。そして彼女が飛んだ瞬間を狙って光を帯びた刃を薙ぎ払った。それと同時に眩い光が辺りを包み込む。

攻撃を受けたイレーネはそのまま落下していくが、地面に着地した後で動かなくなる。

 

「どうなってるんですか!?」

 

そう叫ぶイレーネのヘルメット内のスクリーンには"システムエラー"と表示されていた。

 

「お前が飛び上がる時に一瞬だけ隙があるんだよ。普通に飛んだ後にアーマーのアシストが入るだろ? そこを狙って攻撃したんだ」

 

「そう言うことですか……」

 

そう言って項垂れる彼女のマスクの内部から蒸気が噴出されているところを見るとかなりダメージを受けているようだ。

 

剣を構えるラック・ラック。こうなってしまえばイレーネのアーマーは重りである。

システムの再起動まで時間を稼がなければイレーネの敗北は必須だ。

 

「待て! ラック・ラック!」と拘束されたレディYを引きずりながらベルベットが現れた。

 

「こいつの命が惜しくないのか?」と言われてラック・ラックの動きが止まる。

 

「そいつはもう戦えないぞ。投降すれば助けてやる。拒否すらなこいつもその弟2人も死ぬことになる」

 

「卑怯だぞ! これはアタシとイレーネの勝負だろうが!」

 

「ベルベット……貴女は何をしているです!?」

 

ベルベットの行動に驚くイレーネ。

レディYの襲撃は全てベルベットの独断でだったのだ。

 

「申し訳ありません……命令違反をしたことは後程処罰を受けます。ですが、今回は勝たなければ……」

 

レディYは涙を流しながら顔を背け、「ごめんなさい……望さん」と力なく詫びる事しかできなかった。

 

「どうする? 降伏しないなら私も本気だという所を見せてやるぞ」と言いながら電撃を発しレディYの体に激痛が走る。

 

「あああ!!」

 

「止めろ!」

 

ラック・ラックは声を荒げる。

 

「ベルベット、お止めなさい! これは私と彼女の勝負です。これ以上水を差すことは許しません」

 

イレーネが一括するとベルベットは肩を震わせていた。

 

「ですが……」

 

「余計な事をしないで見ていなさい……」

 

 

そう言いながらイレーネは再び飛び上がり、今度はそのまま両足蹴りをラック・ラックの胸に叩き込む。

強烈な一撃を吹き飛ばされたラック・ラックは立ち上がれずに仰向けに倒れ込んだままだ。

 

「ここで負けるのも良いか……でもアタシの夢に幸子は巻き込めんし……」

 

望の中では敵相手には決して屈しないのがヒロインである。

しかも他者に見られているなかで降伏するなどあってはならないことなのだ。

さらに言えば友人である幸子に自分の本性を知られ、軽蔑されることを恐れているというのもあるが。

 

倒れたラック・ラックを見下ろしながらイレーネが囁きかける。

 

「貴女……本当は怖いんじゃないですか? 自分が捕まってどんな目に遭わされるかわからなくて……」

 

それはある意味では事実。るいから聞かされたスノーブラッド帝国の犠牲者や、るいの"もしあんたが怪人に改造されたりすれば相打ちになっても倒す"と言う言葉から夢と現実の差に考える事も多くなったのだ。だがそれを認められるほど彼女は強くはない。

 

そもそも望の破滅願望は自分が恵まれた環境に生まれたことと、家族とそりが合わず、友人もいない孤独な人生を送ったことに起因する。

 

変身ヒロインとして戦い、幸子と知り合ったことで彼女の心境には変化が起きていた。しかし、イレーネはそんな彼女に囁きかける。

 

「私に捕まれば貴女を殺したりはしませんよ。貴女の望みのままに施行の苦痛と快楽を味合わせてあげます……」と笑うイレーネ。

 

「ですが……私を拒否して私に勝ったとしても私より恐ろしい奴らが次々と送り込まれてきます。そしてそいつらは甘くはない」

 

イレーネがラック・ラックの剣を奪って胸に突き立てる。

 

「もうおしまいです……降伏しないならここで死んでもらいます」と最終通告をするイレーネ。

 

太刀打ちできない相手に対する死の恐怖をはじめて感じるラック・ラック。

目を見開いてもがこうとするレディYだがベルベットに「弟2人が死んでも良いんだな?」と脅されて動く事すらできなかった。

 

勝利を確信するイレーネだが、次の瞬間予想外の事が起きた。

ラック・ラックの手には占い師の黒い石、つまりは暗黒の剣があった。

 

それと同時に頭の中に響く謎の声が「その力を使って奴を倒せ」その言葉と共に石の暗黒の剣へと変わる。

 

「これはあの時の黒い剣……こいつならあの装甲でも切れる!」と言いながら起き上がって駆けだし、剣を振るうとイレーネのアーマーが切り裂かれる。

 

「何故……貴女がそれを……」

 

イレーネは簡単に装甲が破壊されたことよりもラック・ラックの手にある剣に驚愕していた。

あの剣はモーゲン帝国の皇帝のみが持つことを許される暗黒の剣。皇帝本人か皇帝に許可されたもの以外は触れることさえも出来ない代物だからだ。

 

そしてラック・ラックの身体が黒く輝き出す。まるで全身が闇で覆われるかのような光景。

無言のままラック・ラックがイレーネに切りかかり、彼女のアーマーを次々と破壊していく。

 

「イレーネ様!」

 

レディYを放り出してベルベットがラック・ラックの前に立ちふさがるが、暗黒の剣の切れ味の前にモーゲンタイタニュウム合金製の左腕を切り落とされてしまう。

 

ラック・ラックの体は黒いオーラに包まれ、「凄い力だ……負ける気がしない……」と狂気の混ざった笑みを浮かべる。

 

その光景を見ていたレディYの脳裏にある映像が浮かぶ。

ラック・ラックがあの黒い剣で自分の心臓を一突きにする映像。

そして亡骸となった自分を抱きかかえながら「ゆきこぉ、ゆきこぉ」と泣き叫ぶ望。

 

(止めないと駄目だ……)と思ったレディYは精神を集中して胸の宝石から杖を実体化させると念力で操ってビームを放ち、ラック・ラックの手から黒い剣を撃ち落とす。

 

「何!?」と叫ぶラック・ラック。そのスキを突いたイレーネが石に戻った剣を拾って退却する。

 

「待て!」と言う前にイレーネは姿を消してしまう。

 

イレーネの無事を確認したベルベットは拘束していたレディYを解放する。

 

「お前のおかげでイレーネ様は助かった……弟にも手は出さない……」

 

そう言って立ち去るベルベット。

解放されたレディYだったが先程の攻撃で受けたショックは激しく立ち上がる事すら出来なかった。

 

「大丈夫か? 幸子……」と心配するラック・ラックに対して「私は平気です……それより弟の方を心配してください」と答えるレディY。

 

ラック・ラックはレディYを抱え、急いで幸子の家に行くと普段通りに家にいる2人を見つけた安心と蓄積したダメージでレディYが気絶してしまう。

 

「どうすりゃ良いんだコレ?」

 

変身を解除していない以上、家のベッドに寝かせて弟2人に見つかったら困る。

仕方なしに駅前のマンションのベッドに寝かせることにした望。1時間ほどで幸子の意識は回復したが、彼女は泣きながら望に謝るばかりだ。

 

「ごめんなさい……私のせいであんなことに……」と涙を流す彼女を慰めながら家まで送った望はなし崩し的に彼女の家に泊ることになってしまった。

 

 

 

戦いに敗れたイレーネは基地に戻ると、暗黒の剣となる石を最重要保管庫に仕舞い、司令室に入る。

 

そこには先に帰っていたベルベットが平伏していた。

 

「ご命令に従わなかったうえに役にも立たず申し訳ありません。何なりと罰をお与えください」

 

司令室の玉座に腰掛けたイレーネは「私の許可あるまで自室謹慎とします」と宣告する。

 

その言葉を受けたベルベットは司令室を後にする。イレーネも部屋に戻り休息をとることにした。

 

「これが最期の睡眠かもしれません……」

 

最後通告を受けた以上、自分は処刑されてもおかしくないのだ。

 

一方、最重要保管庫の中に時空の裂け目が発生し、その中から現れたサンダーは暗黒の剣となる石を探す。

 

「こんな広い倉庫の中であんな小さな石を探せとは……人使いの荒いご主人様ですこと……」

 

そう言って探し始めるがなかなか見つからない。

 

「早く見つけて脱出しないとあ捕まってしまいますね」

 

独り言を呟くサンダーだが、5分ほどで石の入った透明ケースを見つける。

 

「ケースごと持ってきますか……」

 

そう言うとケースを自分の懐に仕舞う。

 

「後は時空の裂け目に戻るだけです」

 

そう思った瞬間、背後から何者かが忍び寄る。振り向いたサンダーが見たものはイレーネだった。

 

「あら、ごきげんようイレーネさん」

 

「こんな所に泥棒に入るとは良い度胸です……」

 

「泥棒は貴女の方です。私は主の命令で暗黒の剣を返しに来ただけですから」

 

「そんな言い分が通用すると思っていますか?」

 

「通用しないなら力づくでも奪い取りますよ」

 

2人の視線がぶつかる中、先に動いたのはサンダーだった。

一瞬にして姿を消すと、次の瞬間にはイレーネの背後に現れていた。

反応が遅れたイレーネは咄嵯に鞭を抜こうとするが、それより速くサンダーが首筋に当て身を入れる。

 

「うっ!」と言って倒れるイレーネだが、最後の力で鞭を振るい、サンダーのフードを弾き飛ばす。

 

露出したサンダーの素顔を見たイレーネは「ライトニ……」と力なく呟くがサンダーは「その名前は捨てましたよ」と言いながら時空の裂け目に消えていく。

 

 

何処かの岩場で退治するラック・ラックとレディY。

レディYのビームに何度も受けながらも立ち上がり、「うわああああ!!」と言う声ともに暗黒の剣が振るわれ、レデイYの心臓を貫く。

亡骸となったレディYを抱きかかえながら「ゆきこぉ、ゆきこぉ」と泣き叫ぶ望。

 

力なく倒れ込んだ彼女を見下ろす蛇をモチーフとした装飾品を身に着けた謎の女。

 

「もう貴女に未来はないわ……私のモノになりなさい……」

 

「もう諦めていいよね。そうだよ。これが自分の望みだったんだから……」

 

心が完全に折れ、女の足に縋りつくついたその瞬間、望の意識は現実へと引き戻される。

 

「何なんだよ……今の夢は…‥」

 

望は幸子の部屋のベッドで目を覚ます。自分の横には幸子が寝息を立てていた。

 

彼女は望の手を握って離そうとしなかったのだ。その様子から昨日の事を引きずっていることがわかる。

結局、彼女の部屋から出ていけなかった上に朝を迎えてしまったらしい。

何とか彼女を起こして一緒にリビングへ出るのであった。

 

 

望の様子を占い師が水晶玉越しに見ていた。

 

「それは正夢……お前の運命……お前はお前の手でレディYを殺し深い闇へと落ちる……

 それ以外の運命など私が認めない。私を否定するなら私がお前を滅ぼしこの世界も滅ぼす」

 

そして水晶玉に映る映像が変わる。そこは宇宙の彼方にあるモーゲン帝国の本拠地。

 

玉座に腰掛ける皇帝の前にひれ伏す男女。1人はクワガタムシのような昆虫型エイリアンの男。

もう一人は蛇をモチーフとした装飾品をいくつも身に着けた軍服姿の女。

そんな彼女たちの前で皇帝は口を開いた。

 

「イレーネが敗北した……お前たちのどちらかをラック・ラックの討伐任務に就けたい」

 

「私ならば奴を倒すことができましょう。このルカニー・スタッグにおまかせください」

 

「お待ちくださいな陛下。その任務はこのローゼンブラッドにお任せを」

 

スタッグの言葉にローゼンブラッドも負けじと主張する。

 

「お前たちはどうやって奴を倒す? イレーネの報告では地球には怪人に匹敵する力を持つ人間が数え切れないほどいるとある……そいつらをどう始末する?」

 

「我がインセクトモーゲン軍団に敵はありますまい。昆虫は人間よりもはるかに歴史があり、強力な生物です」

 

「相変わらず力任せですね将軍」とローゼンブラッドが言う。

 

「何か言ったか? 蛇女め……」

 

「別に……さて陛下、わたくしの作戦はこうです。その強力な人間、その星の言葉では変身ヒロインやヒーローでしたか……その者たちを生け捕りにして洗脳し潰し合わせるのです」

 

邪悪な笑みを浮かべながら言い放ったのだった。

 

「そんなこと出来るのか?」と将軍が疑問を抱く。

 

「方法はいくらでも思いつきますわ。まずは力の弱い者を捕えて洗脳し手駒にしましょう。そしてその者に別のヒロインやヒーローを捕獲させて洗脳する。そしてまた捕らえてくる……それを繰り返せばどんなに強い者でも屈服させられることでしょう」と不気味に笑いながら語るのだ。

 

皇帝は考え込み沈黙を続けるが、ついに決断を下す。

 

「よし、スタッグ将軍に任せる」

 

「御意」

 

そう言いながら地球に向かう準備のために部屋を後にする将軍。

それに納得がいかない表情を見せるローゼンブラッド。

 

「ローゼンブラッド、本命はお前だ。地球に行き、洗脳作戦を進めるのだ」

 

「さすがは陛下。地球の邪魔者たちが我が帝国の為に働く兵士となる。素晴らしい未来ですねぇ」

 

「ただし、イレーネやスタッグに気づかれてはならんぞ。お前が表舞台に立つのはスタッグが敗北した後だ……分かったな?」

 

「もちろん心得ておりますわ……フッ、楽しみねぇ」と怪しく微笑むのであった。

 

その様子を水晶玉で確認しながら「私のシナリオは狂わない」と言い放ち笑う占い師の女性。

 

「運命の時は近いぞ」

 



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第6話 「女王蜂の誘惑」

モーゲン帝国の孤島基地の司令室。そこに新たなる幹部が着任していた。

 

「ルカニー・スタッグ将軍……」

 

イレーネは戦慄していた。

自分と同等の地位にある幹部の到着。すなわち自分がお払い箱になったということを意味する。

 

「皇帝の命によりただいま着任した」

 

『イレーネ、スタッグ……』

 

皇帝の声が響き、2人が跪く。

 

『たった今よりスタッグ将軍にラック・ラック討伐の指揮権を与える。

 ただし、イレーネよ。地球侵略軍司令はお前のままだ。

 あのアーマーを私は大変評価している。あれをさらに発展させ、帝国に貢献せよ』

 

「皇帝陛下のお心遣い痛み入ります。私にできることならばなんであろうと尽力させていただきます」

 

イレーネの声はどこか震えており、動揺を隠せていなかった。

 

「陛下……一つ報告したいことがございます」

 

『なんだ?』

 

「先日の戦いでラック・ラックが暗黒の剣を使いました。

 あの剣は陛下かその許可を得た者しか使えないはずです……」

 

そう言うとラック・ラックが暗黒の剣を振るってイレーネのアーマーを切り裂く映像がモニターに映される。

 

『なるほど……』

 

そう言うと皇帝は暗黒の剣を取り出す。

 

『私の剣はここにある……その娘が使ったのは我が帝国の剣では無い』

 

「暗黒の剣は複数あると言うのですか?」

 

「そうなのであろう……話は終わりか?」

 

イレーネは無言で頭を下げる。

 

「スタッグ、イレーネ、吉報を待っているぞ……だが、あまり長くは待てん」

 

そこで通信は途切れ、入れ替わるようにスタッグ将軍が口を開く。

 

「では早速だが、作戦会議を行う。まずは今回の敵について情報を共有しよう」

 

スタッグ将軍の指令により、スクリーンに様々な情報が映し出されていく。

 

「我々の当面の敵はラック・ラックとレディYです。ラック・ラックは幹部クラスに匹敵する戦闘力を持ち、レディYも実力を伸ばしつつあります」

 

イレーネが説明すると2人のヒロインの姿が映し出される。

 

「お前が苦戦するほどの奴か?」

 

「ラック・ラックに関して言えば単純な戦闘力は私と同等と言えます。

 しかし、手段を択ばなければ倒すことは出来なくもない……」

 

「ならなぜ早々に仕留めない?私が来るまで放置するとは何事だ!」

 

スタッグ将軍が怒気を含んだ声を上げる。

 

「あれほどの実力者なら、配下に加えたいと思うのは当然ではありませんか?」

 

「それが出来ないから私が来たのだぞ?」

 

「確かに……あの娘には敵に捕まって破滅したいという願望があります……それを利用して懐柔することを考えましたが、自分を実力で撃破しない限りは捕まらないという珍妙な拘りがあるのです」

 

「それでお前が負けたのか」

 

「えぇ、残念ながら……

 彼女が敗北すれば、私たちの軍門に降らせる方法はいくつか考えてあります」

 

前回の戦いでラック・ラックが暗黒の剣を使わなければ勝利は確実であったことを想うイレーネ。

 

「ならばさっさと始末してしまえば良いだろう!何を考えている!」

 

スタッグ将軍が苛立ちを隠しきれない様子で言う。

 

「それはできません……彼女は貴重な戦力になり得る。

 それに、我々に敵対しない可能性も僅かですが存在しています。

 そんな彼女を殺すわけにもいかないでしょう?」

 

「それで敗北を続けていはては世話が無い。

 お前はどうやってラック・ラックとやらを引き込むつもりだ?」

 

「私はあの娘の持ち物である原始的なコンピュータを入手しています。その中には彼女が書いた自分が怪人に敗北して拷問を受けると言った内容の小説がいくつも保存されていました」

 

「理解できぬ趣味だ……」

 

「私も正直理解できませんが……その小説の内容を参考にした責めを行えば懐柔できるのではないかと思っています……」

 

「奴の望みを叶えてやるのか……」

 

スタッグ将軍が呆れた表情を浮かべると、イレーネは真剣な眼差しを向ける。

 

「彼女の願いを叶え、その上で仲間に引き入れることが出来れば帝国の発展に大きく貢献することができると確信しております」

 

「よかろう。捕縛を得意とするインセクトモーゲンを呼び寄せよう」

 

「それならとっておきの奴がいますよ……」

 

司令室のドアが開き、茶髪でセミロングの白衣姿で全身に蜂を模した装飾品を装備した女が入ってくる。スタッグ将軍の副官ラティシアだ。

 

「私が連れて来た戦闘員たちは毒針で武装した軍団です。数で押せば毒を喰らわせることは可能かと」

 

「なるほどな。すぐに手配しよう」

 

「感謝します。では早速準備に取り掛かりますね」

 

将軍の言葉を受けてラティシアは部屋を出ると、そのまま何処かに消えてしまう。

 

「他に何かあるか?」

 

スタッグ将軍の言葉に対し、イレーネは「私は飛行要塞の建設に専念します……後の事は将軍のご自由に……」

 

「分かった……好きにやらせてもらう」

 

一方の望は空上島のことを調べる為、島に住む従妹の糸塚(いとづか) 久美(くみ)に電話をかけていた。

 

『もしもし?』

 

「アタシだけど、ちょっと聞きたいことがあるんだけど今大丈夫?」

 

『うん。全然平気だけど』

 

「最近島で何かあった?」

 

『何かって?』

 

「変な奴らがいたとか……」

 

『こんな田舎にそんなのがいたらすぐにわかるよ』

 

「だよねぇ……てか久美……また酒飲んでるな?」

 

『バレた?』

 

「アンタねぇ……ウィスキーの密造は犯罪だよ?

 女子高生がウィスキー密造して自分で飲むなんてどういうことよ」

 

『酒はムーンシャインに限るのよ。

 この島の水で作ったムーンシャインは絶品よ。バレなきゃ犯罪じゃないんだから』

 

「まったく……捕まっても知らないよ」

 

『島が気になるなら遊びに来たら?』

 

「え?」

 

『うちの屋敷には空き部屋がたくさんあるから泊るとこはあるし……』

 

「暇が出来たら行こうかなぁ。船あったっけ?」

 

『一番近くの港から定期船が出てるよ』

 

「じゃあ船で行くことにするわ」

 

『はい。待ってますね』

 

電話を切ると、望は大きくため息をつく。

 

(久美の奴……すっかり不良娘になっちゃって……)

 

一方の久美の方では。

 

「望姉さんが何かに気づいた? まさか私たちのことを探ってる?」

 

そう、久美こそが空上島で暗躍する悪の組織、空上支配会の総裁マリオネイティストなのだ。彼女は望の従妹だが、中二病真っただ中の14歳の時に島の地下に隠されていた宇宙人の宇宙船を見つけたことで人生が変わった。宇宙船によって彼女は改造され、宇宙人の技術と知識を植え付けられた。

 

改造された自我と中二病が組み合わさって世界征服の妄想に取りつかれたのだ。

 

「あの女狐……一体何に気づくというの? まあ、別に問題ないか……余計なことに気づいたら捕まえて頭の中を弄繰り回してやるだけさ……」

 

電話を切った望は部屋のベッドに寝ころびながら考える。

空上島には望と同じ変身ヒロインやヒーローはいない。悪の組織が暗躍するには適した環境と言える。

 

 

「空上島に行くにしても……行ってる間にモーゲン帝国の連中がこの町で暴れたら困るんだよなぁ」

 

この状況で頼れそうな人間には1人だけ心当たりがあった。

 

「明日……隣町に行って見るか、どんな目に遭わされるかわからんけど……」

 

翌日、望は隣町に向かう為、家を出た所で弟2人を連れた幸子と遭遇した。

急ぎながらも3人とも表情は幸せそうだ。

 

「幸子、そんなに急いで何してるんだ?」

 

望が呼び止めると幸子が反応する。

 

「望さん、お母さんが妹を生んだんです」

 

「尚子って名前なんだよ望お姉ちゃん」

 

「妹に早く会いたい」

 

笑みを浮かべる幸子。直樹と幸典も口々に言う。

 

「そっか……呼び止めて悪かったよ……またね」

 

そう言って3人を見送った望。

 

「尚子か……なんか聞き覚えのある名前だな……」

 

そんなことを言いながら隣町にある大場るいの店である大場猫にやってきていた。

 

「いらっしゃい望……」

 

「るいさん……」

 

望を出迎えたるいは真剣な表情をしていた。

彼女はここに食事に来たわけではない。

妹分の後輩ではなく、現役の変身ヒロインとして来たからだ。

 

「明日美は奥の個室で待ってるよ……」

 

「それじゃあ……」

 

個室のドアを開けた望。

そこにはレディーススーツ姿の女性が待っていた。

スーパーロングのヘアスタイルが印象的だ。

 

 

彼女は(ひがし) 明日美(あすみ)。かつてはスピリットナイツのリーダー、ファイヤーフェニックスとしてスノーブラッド帝国と戦った女性だ。

 

「久しぶりね……望」

 

「はい……」

 

向かい合って席につく2人。

しばらく沈黙が続いた後。ようやく明日美が口を開く。

 

「お前がまだ悪の組織に捕まりたいと思ってると聞いてあきれたわ……」

 

「その件に関しましてはわたくしも最近、思う所がありまして……るいさんとも先日話し合いましてその……」

 

しどろもどろになりながらも答えていく望。

 

「そのことに関しては後でじっくり説教するとして……私に用とは何かな?」

 

「今度の休みに町を離れたいんだけど……その間に何かあったらファイヤーフェニックスの力を貸して欲しいんだよ」

 

「引退した私にまた戦えと?」

 

明日美のナイトモーファーはるいと異なり無傷の状態で現存している。

変身しようと思えばすることは出来る。

 

「もちろん、アタシの不在時に敵が現れた時だけで良いんだよ」

 

「何故町を離れたいんだ?」

 

「空上島を調べたい」

 

その単語を聞いて明日美の表情が変わる。

 

「あの島か……私も少し前に調べに行ったが……何も掴めなかったよ。

 だが、無数の悪の組織が出入りしていることは確かだ。

 連中があの島に何の目的で来たのかが分からない」

 

「アタシも行って確かめたいんだ。あそこには親戚もいる」

 

「わかった……望が不在の間は私が復帰して戦おう」

 

「本当!?ありがとう明日美さん!」

 

「さて……話は終わったから、説教と行こうか?

 悪の組織に捕まりたいなどと二度と思わなくなるようにな……」

 

明日美の眼光の前に望は動くことが出来ず、正座のまま震えるだけだった……。

 

数時間に及ぶお説教の後……すっかり疲れ切った望は家へと帰って行くのであった……。

 

翌日は平日なので学校である。

いつも通りの授業を受けた放課後、家に帰る前に空上島行きの船の時間を調べる望。

 

「今度の金曜の最終便に乗れば良いか……」

 

1人でブツブツと言いながら駅前のマンションに向かって歩いていると自分の背後で爆発が起きる。

モーゲン帝国の新型戦闘員。蜂型の女性戦闘員が何体も現れ人々を襲い始めたのだ。

 

(しまった……まだこの時間帯には来ないと思っていたのに……!)

 

即座にメイデンブレスを実体化させた望は「求めよ! 女神の加護を!」と叫んでラック・ラックに変身すると剣を抜き戦いを始めるのだった。

 

蜂型の戦闘員たちは空を飛び回りながら腰に装備された装置から毒針を飛ばしてくる。

 

「くっそー、厄介な技を使う奴らが来たもんだな……」

 

何人かの戦闘員が急降下して殴り掛かってくる。何とかかわしたものの、腕にも毒針が仕込まれていることに気づくラック・ラック。

 

さらに戦闘員は細長いサーベルを取り出した。どうやらこれも毒針のようだ。

 

上と左右から襲い掛かる無数の毒針。毒針さえなければ戦闘員たちは敵では無い。ビームを放とうにもこんな街中では町の被害の方が大きい。

 

そんな時、前から飛んできた毒針を避けた瞬間、急降下してきた戦闘員の攻撃が命中してしまう。

毒針が刺さる事は何とか避けたがバランスを崩したラック・ラックに次々と戦闘員たちが襲い掛かってくる。

 

攻撃を避けようとするラック・ラックだが、数が多く避けきれない。

背後から現れた戦闘員に羽交い絞めにして拘束された状態となってしまう。

 

身動きが取れないラック・ラックの前に怪人体に変身したラティシアが現れる。

蜂の怪人であり戦闘員に似た外見だが全身の装備は大型になっている。

 

「僕が作った戦闘員は強いでしょ?」

 

「お前がこいつらのボスか……女王蜂かよ……」

 

「正解! 僕はモーゲン帝国インセクト軍団の副司令官ラティシアだよ」

 

「アタシが何者か知ってるんだろ?」

 

「もちろん、僕たちはイレーネ達に代わって君を倒す為に送り込まれたんだからね……」

 

そう言いながらラティシアはラック・ラックを怪しい色の光を放つライトのような物で照らす。

それと同時に彼女の体に激痛が走る。それはまるで、体の芯から熱されているような感覚。

 

「少しいい子にしててね」

 

そう言いながらラティシアはラック・ラックに光を浴びせ続ける。

悶えるラック・ラックは拘束していた戦闘員を振り払うことに成功したが足が動かず逃げることが出来ない。

 

「暴れないでよ……よし、終わったよ」

 

「一体何をしやがった!」

 

「君の体をスキャンしてデータを取っただけだよ。それじゃあ次は……」

 

そう言いながらラック・ラックのヘルメットを力任せに脱がそうとするラティシア。

 

「やめろ! 痛いだろうが!」

 

「どうやって外すのか教えてよ」

 

「教えるわけ無いだろ!」

 

拒絶するラック・ラックだが、戦闘員たちに毒針を突き立てられてしまう。

無言だが拒否すれば毒を注入すると宣告していた。

 

「うぐぅ……」

 

「さぁ答えなさい! どうやるの?」

 

「耳の下のあたりに金具があるだろ……それを外すんだよ……」

 

「へぇーこれかな?」

 

彼女は言われた通りに耳元を探ると、何か硬い物に指先が当たる。それを思い切り引っ張ると、バキンと音を立ててヘルメットが外れた。

 

「変身すると目の色が赤くなるんだね……まあ良いや、これからが本題」

 

そう言いながらラック・ラックの額に手をかざすラティシア。その直後、ラック・ラックが目を見開いて悶え始める。

 

「どう、僕の精神干渉能力は……君が捕まったらどんな目に遭うか頭の中に注ぎ込んであげたよ。どう? 実地で体験したいでしょ?」

 

ラック・ラックはラティシアの力により頭に焼き付けられたイメージに悶える。

 

そこには自分の理想の世界が広がっているのだ。人知を超えた能力のある悪の組織により自分が玩具にされるという。

 

(そうだ、アタシはそういう扱いを受けたかったんだ……)

 

しかし、ラック・ラックには実力で完全に敗北しなければ最後まで戦う主義だ。

まだ戦える以上、ここで降伏するわけにはいかない。

 

「ああそうだな、アタシもこういう風にされたかったんだな……でもお前に負ける気はないよ」

 

そう言うと手から火炎を放って戦闘員たちを怯ませ距離を取る。

 

そして、ヘルメットを拾い上げて装着するが、先程見た幻覚により、精神的ダメージを受けているようだ。

 

「簡単にはやられねぇぞ……アタシを玩具にしたかったら実力で倒してみな!」

 

そう叫ぶと、手に持った剣を横薙ぎに振り抜いて斬撃を放った。

 

一方、その様子を離れたビルから見守っている者がいた。明日美である。

 

「どうする望……このまま堕ちるか? それとも戦うか?」

 

 

そう呟きながら彼女の手にはナイトモーファーが握られていた。

 

ラック・ラックの放った斬撃をラティシアは難なくかわすと背後に移動し蹴りを放つ。

直撃を受け大きく後退しながらも何とか転倒を防ぐ彼女だがその隙を逃さず追撃を仕掛けるラティシア。

その攻撃を捌ききれないと判断したラック・ラックは大きく後方に跳んで回避行動を取る。

 

着地と共に体勢を立て直すものの、既に目の前まで迫っていたラティシアを見て即座に攻撃に切り替えるがその拳は空を切るだけだった。

 

 

「僕の精神干渉にここまで耐えるとは褒めてあげるよ。

 でも……僕のフェロモンを吸っても強気でいられるかな?」

 

ラティシアの全身からフェロモンが含まれたガスが噴射される。

このガスを吸ったものは彼女に逆らうことが難しくなる。

さらに精神干渉能力と組み合わせる事で効果は数段上がる。

 

「さあ、跪いて許しを請いなさい」

 

ラティシアの誘惑に必死に抵抗するラック・ラックは精神を集中して敵に一撃を加えようとするが幻覚とフェロモンの効果で動きが鈍ってしまう。

 

「その頑張りに免じて今日は引き上げてあげるよ……」

 

ラティシアはその言葉と同時に煙幕を張って逃走した。

去り際に"どうせすぐに会いたくなるけどね……"と言い残して。

 

残されたラック・ラックはそのまま膝をつくと変身を解除した。

しばらく肩で息をしていた周治望だったが、やがて落ち着いてくるにつれてある事に気付いた。

彼女の頭の中には先ほどラティシアが自分に見せた映像が繰り返し流れ続けていた。

 

まるで堕ちろ堕ちろと誘うように……

 

(アタシの欲望が満たされたらあんな感じなんだろうか……あれは……ダメだ、忘れるんだ)

 

だがそんなことは叶わないだろう。何故なら、ラティシアの精神操作を解く方法を望は知らないからだ。

 

つまり死ぬまであの幻覚から逃れることは出来ないということだ。それはすなわち破滅と同義だった。

 

しかし、先ほどまで頭を支配していた感覚が急に消えてしまう。これもまたラティシアの作戦。

24時間幻覚で苦しめるより、ランダムにフラッシュバックさせた方が精神的な負担は大きいからだ。

しかも徐々に効果を強めることでさらに大きなダメージを与える。

 

「大丈夫か……」

 

望に明日美が声をかける。

 

「明日美さん……」

 

「私の復帰戦が今日にならなかったことは喜ばしいよ……」

 

「助けてくれるつもりだったの?」

 

「当たり前だ。無論、お前が情けなくも悪に屈したら敵もろとも始末するつもりだったがな……」

 

明日美はそう言って手に持っていたモーファーを上着のポケットに仕舞う。

 

「望、うちの組織の施設で体を調べてやるからついて来い」

 

「明日美さんのところ……? 分かった、お願いします」

 

望が立ち上がり明日美の後を追う。

 

この先に待ち受ける運命を知ることもなく……

 

 



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第7話「汚染される心」

モーゲン帝国海底基地。謹慎中のベルベットのもとをイレーネが訪ねていた。

 

「ベルベット、ラティシアがスタッグ将軍の副官になっていることをどう思いますか?」

 

「恐らく裏にいるのはローゼンブラッドです……ラティシアはアレに心酔してましたから……」

 

「そうですね……すでに奴に地球に来ている可能性が高い……恐らく将軍は捨て駒。そして私たちも……」

 

イレーネは皇帝の考えを悟り嫌悪した。自分と将軍を使ってラック・ラックをはじめとする地球侵略の邪魔となるものたちを消耗させ、ローゼンブラッドが全ての手柄を独り占めする。皇帝のお気に入りである彼女の皇位継承をより確実とする為にだ。

 

「この状況を打開する方法を考えなければ……」

 

イレーネは孤島基地内の研究室に籠もり、強化アーマーの改良に取り組んでいたが、その表情には焦りが見え始めていた。

 

そんなとき部屋の扉が開き、スタッグ将軍とラティシアが入って来た。

 

「ただいま戻りました地球軍司令官殿」

 

わざとらしく敬礼をする彼女を睨みつけるが、今は無駄な体力を使わぬほうがいいと自分に言い聞かせた。

 

そんな様子を見てラティシアは笑う。

 

「ラック・ラックも風前の灯ですよ……私の術でじっくり料理してあげます。今は下ごしらえです」

 

「彼女を甘く見ない方が良いですよ?」

 

警告するイレーネにラティシアは微笑を浮かべると、彼女の部屋から出て行く。

その時の彼女の顔は獲物を前にした捕食獣のような目をしていた。

 

「奴が何を考えているのかわからんな……」

 

将軍もラティシアの扱いには頭を悩ませていたが、実力の高さから放任していた。

 

「あれを理解できる存在はローゼンブラッドぐらいでしょうね……」

 

イレーネはそれとなくラティシアの裏にローゼンブラッドがいることを示すが、将軍は理解できないようだ。

 

「まあ良い、私は皇帝陛下の命令通り、地球制圧の邪魔者を抹殺するだけだ。あの女がやってくれるならそれで良しだ」

 

それが自身の破滅に繋がる事も理解せず将軍は笑いながら研究室から出ていく。

 

イレーネはそんな将軍を横目に強化スーツの再設計を続けていたが、設計データがコピーされて持ち出されていることに気づく。

 

「あの女の仕業? でも何故……」

 

あのスーツは変身能力の無いイレーネが自分用に設計した物で、

変身能力のあるラティシアやローゼンブラッドには用が無い物の筈だ。

 

そもそも皇帝がこのスーツに興味がある以上、遅かれ早かれデータは各部隊に提供される。

イレーネはラティシアが何故こんな行動をしたのか理解できなかった。

 

 

その夜遅く、狒々山の屋敷の寝室で望は悶えていた。

ラティシアの幻覚に夢の世界が支配されていたのだ。"もっと苦しめ、そして壊れろ"と誘うように。

 

夢の中でヘルメットを外されたラック・ラックの姿で望は蜂型の戦闘員たちに取り押さえられ拷問部屋へと連行される。

 

そこにはラティシアが待っていた。

 

「よく来たねラック・ラック……戦闘員のみんな、まずはそこの磔台に拘束してくれ」

 

指示を受けた戦闘員たちはラック・ラックを手早く磔にする。

 

「最初はどんなことをして欲しいんだい? 君のして欲しい事をしてあげる」

 

「くっ! 誰が!」

 

「へーまだそんな口を利ける元気が有るなんて凄いな~。これはお仕置きが必要だねぇ」

 

そう言うとコントロールパネルを操作しエナジードレイン装置を作動させる。

 

「これでも元気が保てるかな?」

 

「ああぁ!!ぐぅう、はあぁ……」

 

エネルギーを吸収されてラック・ラックが悶える。

 

全身に激痛と倦怠感が広がりまともに動くことも出来ない。

それを見たラティシアが妖艶な笑みを見せる。

 

「フッフッ、これで分かっただろう? もうお前は終わりだって」

 

ラティシアは笑いながらラック・ラックの苦痛の声を聞いている。

 

ラック・ラックの視界が一瞬暗転すると別のシーンに切り替わった。

今度は拘束椅子に座らされていた。

 

「さあ、言う事を聞かない悪い娘はこうだ!」

 

ラティシアがそう言うと精神操作装置が作動しラック・ラックの精神を作り変えていく。

 

彼女は自分が何をされているのか分からない。

ただ、自分の心の中に今までとは違う何かが生まれようとしていた……。

 

「君はモーゲン帝国の兵士として生まれ変わるんだよ」

 

「違う! アタシは嬲られたいけど悪に寝返るつもりはない!」

 

望は最後の瞬間まで正義のヒロインとして嬲られることを望んでいる。

それこそが彼女のヒロイン像であり、絶対であるものなのだ。

 

「極めておバカな宣言ありがとう。

 面倒くさいオタクみたいな拘りを捨てればすぐに楽になるのにね」

 

「嫌!アタシは最後まで正義を貫くの!!」

 

「ふ~ん。そっか。まあいいわ。それなら今度は電気ショックだね」

 

ラック・ラックは必死に逃げようとするが拘束具により動けない。

 

「無駄だよ~ほれスイッチオン!」

 

「ぎゃあアァ――!!」

 

電撃によって強制的に体を痙攣させてしまうラック・ラック。

ラティシアの笑みを見ながら苦しみは続く。

 

 

「僕は暴力的な拷問は好きじゃないんだよね〜君も精神操作や自白装置で虐められるのが好きだろう?」

 

笑うラティシアがラック・ラックに尋ねる。

望は現実的な苦痛より、地球の科学では実現不能な責めで自分を壊してもらいたいと願っている。

だからこそ悪の組織に捕まることを夢見ていたのだ。

 

「知るか……」

 

「あんまり強情を張るとオシオキだよ?」

 

電気椅子から解放されたラック・ラックに怪人体に変身したラティシアが襲い掛かる。

必死で応戦するラック・ラックだが、傷ついた状態では相手の動きに対応できない。

 

「ハハッハ、こんなにボロ雑巾みたいになって可哀想〜」

 

ラティシアは嗜虐的な表情でラック・ラックを追い込み、彼女の心がどんどん絶望に染まっていく。

 

倒れこんだラック・ラックの首根っこを掴んで無理矢理起こしたラティシアは彼女に何度も平手打ちを喰らわせていく。

 

「どうしたんだい? 正義のヒロインがこんなザマとは……」

 

「ぐぅう……」

 

ラック・ラックは痛みに悶えながらラティシアを睨む。

 

「まだそんな目ができるなんて大したものだよ。だけど、僕には勝てなかったようだね」

 

「アタシの心はまだ屈してねえよ……」

 

「変な信念のあるドMだから面倒だよね君。その信念も心も壊してあげるよ」

 

毒針サーベルを構えるが、残念そうな表情を浮かべる。

 

「そろそろお目覚めの時間だ……また夜に会おうね」

 

その瞬間、望の意識が覚醒する。

だが、その精神はこれまでのように晴れ晴れしたものでは無い……

心が自分以外の誰かによって支配されつつあるのだから。

 

望の心は揺れ動いていた。もしまたラティシアと遭遇すれば確実に負ける。

そうすれば自分の望みが叶い、あの夢が現実となる。

 

「どうすりゃ良いんだ……」

 

自分の夢と正義のヒロインとしてのプライドの板挟みになって苦しむ彼女。

 

(そうだ……このまま悪に染まってしまえば……。でもそれで本当に幸せになれるのだろうか?)

 

しかし、今の苦しみから逃れることができると言う思いも心のどこかに有った。しかしそれでも……。

 

「薬……飲んどこ……」

 

明日美の組織に提供された薬で幻覚を抑えることは出来る。

しかしそれは変身していない場合だ。変身するか眠ってしまえば幻覚が望の頭の中を支配せんと襲ってくるのだった。

 

「どうしよう、こんなの誰にも相談できない」

 

望は頭を抱えた。今の状態で正義と悪の境界を歩いているような状態で誰かに相談などできるはずもなかったからだ。

 

そんなことを考えている間にもモーゲン帝国の攻撃が始まった。

 

ラティシアが送り込んだマンティスモーゲンが町を我が物顔で荒らしまわっていた。

 

「我が鎌に切れぬもの無し……」

 

巨大な大顎と鋭利な牙を持つ昆虫怪人が町を切り刻んでいく。近くに到着した望だが、変身すればまたあの幻覚に襲われる。

 

それに恐怖して足がすくんでしまうのだが、自分が正義のヒロインであるという気持ちが勝った。

 

「アタシはヒロインなんだ!引き下がるものか!」と自分に暗示をかけて「求めよ!女神の加護を!」と叫ぶ。

 

そして変身ヒロインとなったラック・ラックが姿を現すと同時にマンティスモーゲインへ殴りかかる。

一方、マンティスモーゲインは巨大かつ鋭いカマを振るう。

剣で受け止めたラック・ラックだが、本来ならかわすことが出来た攻撃。

ラティシアの幻覚が頭に浮かび全力が出せなくなっているのだ。

 

「うぐっ、なんで……」

 

マンティスの攻撃を受け止めたラック・ラックだが衝撃までは抑えきれず後方へ吹き飛ぶ。

 

「お前のことは聞いている……ラティシア様の躾でだいぶ弱っているようだな……」

 

マンティスモーゲンがゆっくりと近づいてくる。

だが、本調子が出せないと言ってもラック・ラックが勝てないほどの相手ではない。

彼女はマンティスの顔に向けて火炎を放射すると一気に切りかかる。

 

マンティスはその炎に耐えながら剣をカマで払いのける。

 

「まだだ!」

 

ラック・ラックがそう叫ぶと剣が炎に包まれ、再びマンティスの体に剣が叩き込まれる。

 

マンティスはそのまま体を真っ二つに引き裂かれたが、「これで終わらないさ……」という不気味な声を残し爆発することは無かった。

 

そしてマンティスの体から細長い何かが飛び出しラック・ラックに巻き付いた。

 

「私のしもべを倒したぐらいでいい気にならないでもらおう……」

 

締め付けているものの正体にラック・ラックは感づいた。

 

「ハリガネムシか……くぅ……」

 

「ご名答、私はゴルドイドモーゲン」

 

そう言いながらゴルドイドは巨大なハリガネムシから人型に変態する。

その間も巻き付いた触手がラック・ラックの体を這いまわって締め付けている。

 

「諦めるんだな……ラティシア様がお前に会いたがっているぞ……」

 

その言葉を聞いたラック・ラックの頭の中で幻覚の支配力が増していき……"堕ちろ……堕ちろ"と誘う。

 

それに抵抗するために必死で精神を保つラックだが徐々にその力は増していく……しかしその時、上空から放たれたエネルギーの刃が触手を切断する。

 

「大丈夫ですか!?」

 

そう言いながらレディYが空から降りてくる。

 

礼を言うラック・ラックに微笑むとレディYは杖を構えてゴルドイドに立ち向かう。

幻覚に支配されていたラック・ラックだったが、なんとか意識を取り戻しつつあった。

 

混乱する頭の中でも精神を何とか集中させエネルギーを剣に集めた彼女は敵に拡散ビームを放って足止めし、その隙にレディYが必殺技を放つ構えに入る。

 

「ファイナルアタック……エナジーチャージ……シュート!!」

光の矢がゴルドイドに向かって飛んでいき、その体を貫く。ゴルドイドは断末魔を上げながら消滅していった。

 

レディYはそれを確認するとすぐに変身を解除し望の元へ駆け寄った。

 

「大丈夫ですか望さん!?」

 

変身を解除して倒れ込んだ望を心配そうに抱き上げる幸子。

 

「心配かけてごめん……最近睡眠不足気味で体力が落ちてるみたい……」

 

変身を解除したことで幻覚は頭から消えたが、体力をかなり消耗している。そんな彼女を幸子が支えようとするが……

 

「大丈夫、1人で歩けるよ」

 

「無理しないでください」と言う幸子を振り切って1人歩き出す。これ以上彼女の負担になって迷惑をかけたくないからだ。

 

 

一方のラティシアは海辺の町にある喫茶店にいた。

向かいの席に座っているのは人間体のローゼンブラッドだ。

 

「例のデータを持ってまいりました……」

 

「ご苦労様……」

 

「しかし、何でこんなものを?」

 

イレーネと同じ疑問をラティシアも懐いていた。

自分たちにはこんなものは必要ないからだ。

 

「地球人の協力者に提供するのよ……協力のお礼としてね……」

 

「地球人ですか?」

 

「えぇ……空上支配会って奴ら……下等動物にしては面白い技術があるから今度の作戦に必要なブツの製造の下請けをさせたのよ」

 

「それならば我らモーゲン帝国のほうが良いではありませんか!? なぜ地球の下等生物に!!」

 

ラティシアは自分のプライドを傷付けられ、憤慨した様子だった。

 

「あの連中の精神操作技術は相当な物よ……地球の技術とは思えない……

 多分、地球外の技術を取り入れてるとは思うけど……」

 

「つまり、私より優れた精神操作を使えるという事でしょうか?」

 

ラティシアの目が怪しく光った。彼女も人並み外れた精神操作力を持つ自信があった。

 

「そういう事になるわ……」

 

「その連中と私も会ってみたいですねぇ……」

 

「今はダメよ……貴女はあくまでスタッグ将軍の副官なんだから……

 あの脳筋ゴキブリが死んだ後じゃないとね」

 

「しかし、その前にラック・ラックは私の奴隷になってるかもしれませんよ?」

 

「その時はレディYって奴に例のブツを使うだけよ」

 

自分の術に絶対の自信のあるラティシアは怪しく笑うが、ローゼンブラッドは軽く答えるのであった。

 

実際、ラティシアの精神操作は空上支配会に劣るものではない。

彼女の精神操作は対象の人格への影響を最低限に操作を行う。

 

これはかなり高度な術で空上支配会は苦手としている。

彼らが得意としているのは対象者の心を封印して新しく作り出した人格に上書きする手法だ。

どちらも恐ろしい力ではあることに変わりは無いが。

 

「まぁいいわ、とりあえずこれで目的は果たせたし……私はそろそろ戻ることにするわ」

 

そう言うとローゼンブラッドは自分の分の会計を済ませて店を出ていく。

残されたラティシアは追加の注文を店員にするのであった。

 

 

それから何度もインセクトモーゲンが送り込まれラック・ラックとレディYに撃退された。

 

本来ならラック・ラックは一般怪人なら負ける事は無い実力者だが、ラティシアの幻覚で弱っている状態では大いに苦戦を強いられた。

 

そして望自身も心の中で"もしラティシアがいたら"と言う恐怖に襲われていた。

この状況でラティシアに勝つことはできないからだ。だが、ラティシア自身が現れることは無かった。

無論、それも敵の作戦である。徹底的に精神を弱らせてから仕留めるためだ。

 

そして夜になって眠れば夢の中でラティシアによって拷問され、最後は怪人体に変身したラティシアによって嬲られることを毎日繰り返していた。

 

「どうしたんだいラック・ラック? 正義の味方が弱腰じゃあいけないなぁ」

 

そう言いながらラティシアの左腕に装備されたオオスズメバチの顎を模した武器でラック・ラックの剣を受け止める。既に何度も打ち合ったが互いに傷はない。

 

しかし、ラティシアはまるで余裕そうだ。それどころか攻撃の手数が増え始めている。

 

一方、こちらはすでに息が上がり始めた頃合でとてもじゃないが立ち向かえるような状況ではない。

 

(これが……悪夢の中だというのか……!)

 

「そろそろ強烈なの行こうかな?」

 

そう言いながら全身に装備された毒針を一斉に放つラティシア。

それを回避したラック・ラックだが、次の瞬間にはラティシアが背後に現れ、毒針サーベルを突き刺した。

 

その威力は絶大であり背中を貫かれたラック・ラックは悲鳴を上げることすらできないまま倒れ込む。

 

「安心して……ただの君の心を開くためのお薬だからさ……」

 

そう言って笑いながら倒れたラック・ラックを蹴飛ばす。

 

「そう言えばまだ催眠音波使ってなかったよね。この毒と組み合わせれば効果は抜群さ」

 

そう言うとラティシアの羽から催眠音波が放たれ望の頭を支配し始める。

 

「さあ、変身なんか解いて本当の君を見せておくれよ」

 

そう言いながらラティシアは人間体へと戻る。

 

「僕は変身を解いたよ。君も変身を解かないと失礼じゃないのかい?」

 

倒れ込んだラック・ラックの中ではラティシアの言葉に従おうとする心と抵抗する心が戦っていた。

 

「僕は人間に戻った君をなぶり殺しにしようなんて思ってないんだよ……」

 

そう言いながらラティシアは倒れたラック・ラックを抱き起し愛おしく抱きしめる。

 

「ほら、早く変身を解きなって……そうしたら優しくしてあげるから……」

 

「ぐぅう……!」

 

それでもラック・ラックは変身を解除する事を拒んでいた。

 

「君が心から僕に屈服すれば君の望むような理想の虐め方をしてあげるよ……」

 

耳元で誘うように言うラティシア。しかし、ラック・ラックは耐え続けた。

 

「仕方がない……ならばこれはどうかな?」

 

ラティシアは右手でラック・ラックの頭を撫でる。

するとラック・ラックは目をトロンとさせ、ラティシアに身を委ねようとする。

 

(ああ……夢を叶えたい……でもこいつに屈したら駄目だと心の奥で言ってる……)

 

「あれぇ?まだ抵抗できるなんて驚きだな。

 もうとっくに心が折れちゃったと思ってたんだけど……」

 

ラティシアは意外そうな顔をするがすぐに元の笑顔に戻った。

邪悪な笑みを浮かべながらラティシアは怪人体へと姿を変えラック・ラックを投げ飛ばすと倒れ込んだ彼女を踏みつける。

 

望は夢から覚めることで何とかこの悪夢から逃げられたが、彼女の精神状態は限界を迎えつつあった。

 

「アタシ……もう駄目かも……」

 

今の望の前にラティシアが現れただけでも屈してしまうだろう。それこそラティシアの足元に縋りついて許しを許しを請う姿が望の頭の中に浮かんでしまう。

 

それほどまでに弱っていているのだ。"実力で敗北して囚われてこそ美しい敗北ヒロインである"という自身の美学さえもはや風前の灯火であった。

 

その頃、某高級ホテルのロイヤルスイートルーム。ルームサービスの料理を食べながら占い師の女とサンダーデストロイが今の望の様子を見ていた。

 

「面白いことになっている……」

 

「しかしご主人様……これは貴女様の筋書きとは異なるのでは?」

 

怪しく笑う占い師にサンダーが尋ねる。

 

その問いかけに対し、妖艶な微笑と共に占い師の女は言った。

 

「問題ないよ……アタシの目的はラック・ラックが闇に堕ちる事で、過程はそれほど重要じゃない。アタシが干渉したことで歴史が変わったかもしれないねぇ。アタシの見た未来にはラティシアなんていなかったからさ」

 

「それはそれで問題では?」

 

サンダーの疑問に占い師の女は妖しく笑うのだった。

 



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