氷の魔将TS魔王様を養うためにVTuberになるの巻 (きつねうどん食べたい)
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プロローグ
よく晴れた平日の昼間のボロアパートで卓袱台を囲む一組の男女がいた。
片方は角の生えたロリという言葉の擬人化と言えるような黒髪幼女、もう片方は腰まで伸びた長い銀色の髪をした厨二病全開の男……というか俺。
そんな俺は今……目の前の幼女に毘沙門天もビックリなレベルでキレていて一周回って口調が穏やかになっていた。
「さて魔王様、この通帳をご覧下さい」
「なんだグラス、それがどうしたのだ?」
「……正確にはこの通帳の“魔王様”が使ったお金を見てくれませんか?」
「――うむ、数字がいっぱい並んでて凄そうだな!」
すぐに自分が使った代金を認める潔さは認めるが、凄そうだな(ドヤ顔)はないだろう?
……まじでぶっ殺してやろうかこの幼女。
おっといけない、落ち着けクールになるんだ氷属性。お前の絶対零度はなんのためにある? そうだ。思考を落ち着かせるためだろう? だから静まれ俺の右手魔法を打とうとするんじゃない。
一先ず心を落ち着かせるために今まで買った物を確認しよう。
まずは三種の神器である洗濯機・冷蔵庫……そして駄々を捏ねられたから買うことになった最新型のテレビ――これはいい。だって俺が今月自分で買った物だから。
で、もう一つは食材と衣類。
流石に食事は必要だし、いつまでも前のごっつい衣装じゃいられなかったから買った物――でもなんだこの最後のクレジットカード使用履歴は? 見間違いでなければ9800という文字が二十個近く並んでいるのだ。
「心当たり……あるんですね」
「んー心当たり? ないぞそんなもの、ルクスが使ったのではないか?」
「そうですか。つまりここに書かれている二十万は俺が使ったのですね」
「そうだ何をしてるのだ我が配下よ来月からどうするのだ?」
「表に出ろクソ上司、今日こそ凍結してやる!」
「だって推しが出なかったんだもん、五凸出来なかったんだもん!」
だもんじゃねぇよ元男が! こうなったら戦争だ。絶対に殺してやる!
……それからどったんばったん大騒ぎの大乱闘。狭い室内で暴れる俺と魔王様は平日の昼間なのに関わらず行われた大喧嘩祭は、最終的に偶然立ち寄ってた大家さんに怒られた事で止められて終結した。
「はぁ……はぁ……あの魔王様今何時か分かりますか?」
「――今か? 今なら午後四時だぞ?」
「ッバイトの時間だから行ってきます魔王様、もうカード使わないでくださいね!」
息を切らして床に転がり、時計に近い魔王様に今の時間を聞いてみれば、そんな答えが返ってきた。それにより頭に浮かぶのはカフェのバイトの時間……遅れたらこっちの世界の上司が怖いので遅れられない。
そう思いながら俺は、壁のポケットに入っているスマートカードを取り出して、近くのバス停に向かって走り出した。
「あと魔王様。夜食は作ってますので、適当に食べてくださいね。コンビニでポテチ買ったら怒りますよ!」
「了解だ。我は今はポテチの気分ではないからそこは心配しなくて大丈夫だぞ!」
そういう事じゃない! とそう言いたかったが、時間がないのでその言葉を飲み込んで俺は家から離れていった。
――――――
――――
――
どうしてこうなったんだと、俺ことグラスは愚痴りながらも全力でバイトに勤しんでいた。異世界転生して二十年……それから現代転移して一ヶ月。なんで自分はこんな風にバイトをしているんだろうと自問自答を繰り返していた。
気付けば辺境の村で死にかけていた今生。毎日過酷な環境で生き残り続けて最終的に今の上司である魔王様に拾われ四天王の一角として仕事に励む日々。
毎日のように全力全開で殺しに来る勇者やその他大勢を相手にする以外は平和な日常が続いていたのに、どうして今の俺はもう帰ることがないと思っていた現代で仕事をしているのだろうか?
しかもあれだ。何の手違いなのか、上司である魔王様は現代に来た反動か何かの呪いか幼女化するし本当に訳が分からない。
俺がいた異世界では魔王ルイスの名前を知らぬ者はおらず、その名を聞けばあらゆる種族は恐怖し頭を垂れるような巨漢の男だったのに、なんでこの世界ではロリロリしい幼女なんだよ……。
あぁ、もうこれもあのスタイリッシュ痴女勇者が率いるパーティーのせいだ。
なんだあいつら急に力つけやがって、しかも普通だったら寝ている深夜に突撃とかふざけてんのか?
狙われてるんだから夜も警備しろよーとか、魔王軍なのに奇襲とか考えないんですか? とかいうツッコミをされそうな気がするが、常識的に考えてくれ。俺達魔族だって生きてるんだから夜ぐらい寝させろよと――。
「あ、グラスさん。自分今日推しの配信があるのでちょっと早めに上がりますねー」
「そんな理由で休むなよ……まあいいや、頑張れよー」
バイトで初めて出来た友人がそういいながら帰って行くのを尻目に、推しってなんだって思考に陥りながらも仕事を続け帰る頃には夜の九時。
バスの中で買ったばかりのスマホで時間を確認しながらついでに最近のニュースを見ていると目に入った記事が一つ。
【今流行のVTuberとは? その全貌に迫る!!】
……ぶいちゅーばーってなんだ? 新しい外国語か?
妙にそれが気になり調べて見れば様は2DCGや3DCGで描画されたキャラクターを用いて動画投稿・生放送を行う配信者の総称らしい。
へーっと思いながら最近のバイト仲間との会話を思い出してみれば、そういえばあいつの口からこの単語が出てきていたことを思い出した。
そっかあいつがよく言っている推しってVTuberの誰かなのか。
というか、今ってそんな事出来る時代なんだな。
俺が現代にいた時って間違ってなければ2015年ぐらいだったから、かなり時代が進歩しているのは知ってるが、こんな事が出来るようになってるとは……人間って凄いなぁ。
「暇つぶしになるだろうし、あとでおすすめのVTuberの事でも聞いてみるか」
この世界に来て初めて出来た友人の趣味だし、ちょっとぐらい見てみよう。
それに、ちょっと自分も今気になっているし丁度良いなとそんな事を思いながら俺は、揺れるバスの中でメッセージを友人に飛ばしたのであった。
――この時、軽い気持ちで踏み込んだVTuberという世界。
それが後の俺の魔族人生を変える出来事になろうとは思ってもみなかった。
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