ボーダー唯一の男性オペレーターは今日も忙しい (マサフ)
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プロローグ

本作はオリジナル主人公によるワールドトリガー二次創作です。
初投稿ですが頑張ります。


「母さん!母さん!」

 

少年はひたすら叫びながら倒壊した家の下敷きとなった母親を助け出そうとする。しかし、瓦礫は少年の力では持ち上がらない。

どうしてだ。どうしてこんなことになった。周辺では少年の家同様、多くの建物が崩れ落ちていた。建物を破壊しているのは謎の白い生き物だった。突如空に穴が開き、そこから白い生き物が現れた。その生き物はうなり声をあげながら街を破壊していく。

 

嫌な予感はしていた。その日の朝から少年には謎の悪寒がしていた。少年は昔から勘がよかった。第六感とでもいうべきなのだろうか、とにかく朝から嫌な予感がしていた。後にその勘の良さは直感と呼ばれるサイドエフェクトだということが判明するが、当然その時の少年にそんなことはわからなかった

 

今日は外出せず家にいたがいい。

少年は母親にそう告げていた。なんなら自分や妹達も家にいたほうがいいと思っていた。しかしその日は平日であったため、当然学校に行かねばならない。なら、学校が終わったらすぐに帰ってこいと妹たちに告げた。二つ下の妹は友達と約束があるのにと不服そうに告げ、五つ下の双子の姉弟は不思議そうな顔をしながらも兄がそう言うならと受け入れた。結局二つ下の妹も母に説得されブツブツ文句を言いながら家を出て行った。母は突然変なことを言い出した少年を咎めることなく息子の言うことを受け入れた。

昔からあんたは勘がいいからねと

 

あんなこと言わなければよかった。少年は瓦礫を持ち上げようとしながらそう考えていた。嫌な予感は確かに当たった。でも自分が家にいてと言ったせいで母は倒壊した家の下敷きとなった。これなら外出してたほうがマシだったんじゃないか。いやでも外出してたらあの化け物に直接襲われてたかもしれない。少年には何が正しかったのか、どうすればよかったのかもうわからなくなっていた。

 

「グガアアアアアアア!!!」

 

背後を見ると白い化け物が自分達に向かって襲い掛かってきていた。少年は急いで母を助けようとするもたった一人で瓦礫が持ち上がるはずもなく、化け物は少年の目前にまで迫っていた。

だめだ、もう終わりだ。ここで死ぬのか

少年が諦めかけた時だった。

 

突然目の前の化け物は真っ二つになって倒れた。

何が起こったかわからない少年の前に一人の男が現れた。

 

「ふう、ギリギリ間に合ったか。大丈夫かい?」

 

男は少年にそう告げた。自分と同じくらいの年の男だった。

 

「…え?あの…あなたは?」

「俺?俺の名前は迅悠一。安心しろ、もう大丈夫だ。」

「迅…あ!そ、それより助けてください!!この瓦礫の下に母さんが!!」

「大丈夫、もうすぐ救助隊が来る。お母さんも助けてくれるよ。俺のサイドエフェクトがそう言っている。」

 

迅は自分の頭を指さしながらそう言った。

 

「悪いけど、俺はもう行かなきゃいけない。助けられる人がまだまだいるからね。」

 

迅はそう言って街のほうへと走っていった。

 

「迅…迅さん…」

 

少年、桐山昴は迅の背中を見つめながらそう呟いた。

 

 

 

 

 

「はあ…」

 

昴はボーダーラウンジでそう呟いた。

 

あの日、大規模侵攻と呼ばれた日から一年が過ぎていた。迅によって助けられた昴はその後様々なことを知った。あの日、街で暴れていた化け物は「近界民(ネイバー)」と呼ばれる異世界からの侵略者だということ。そして迅をはじめとした街をネイバーから守ってくれた人たちはボーダーという組織の人たちでネイバーの侵攻を予見して自分たちを救ってくれたこと。そしてボーダーは人々を守るためさらなる人員を必要としていることを。

 あの後救助隊によって助けられた母は命に別状はなかったものの、頭を強く打ったせいかあの日からずっと目を覚まさなかった。医師曰くいつか目を覚ますかもしれないが今はなんとも言えないとのことだった。父はもういない。母が意識不明となり、家が崩壊したことを知ると昴たちの前から姿を消した。毎月僅かなお金が振り込まれるのみである。

 昴はボーダーに入隊することを決意した。ただし、復讐のためではない。確かにネイバーに対する恨みはあるが、復讐したいとは思わなかった。どちらかと言えば自分たちを見捨てた父の方が憎かった。それよりも昴にあったのは弟妹を守らなければという思いだった。自分の力で弟妹達を守る。そんな思いが昴にボーダー入隊を決意させたのだ。

 

 後ボーダーで働けばこの年でもお金が稼げるという思いもあった。今は貯金があるが父から振り込まれるお金だけでは将来的に弟妹達を養えるか怪しいのだ。

 

 

「なんでだよ…なんで俺はこんなに弱いんだ…」

 

 しかし、現実は甘くなかった。昴には素質がなかったのだ。ボーダーに入隊し、トリオンを計測したが、昴のトリオン量はたったの1。はっきり言って隊員として合格できたのが不思議なレベルであった。トリオン1では当然シューターやガンナー、スナイパーはできず、昴にはアタッカーの道しか残されてなかった。しかしトリオン1の隊員など他のC級からすればいいカモでしかなかった。来る日も来る日も破れ続けたが、それでも諦めることなく相手の戦い方や癖、それぞれのポジションの研究を重ね、約一年かけて昴はようやくB級へと昇格することができた。

 しかしB級になった昴を待っていたのはさらに厳しい現実だった。B級隊員ともなるとC級のような明確な隙やわかりやすい癖が存在する隊員はほとんどおらず、C級時代のように負け続ける日々が再び始まったのだ。そして昴は嫌でも思い知ることとなった。

 素質も才能もなく知識だけで戦ってきた自分が、知識に加えて素質や才能をもつB級隊員に敵うわけがない、と。

 

「俺に…ネイバーと戦う力なんてない…か」

 

 昴の心はすでに折れかけていた。来年には高校生になれる。そしたらアルバイトもできるようになるし、家計を考えたらそちらの方がいい気もしてくる。

するとそんな昴の前にある一人の人物が現れた

 

「昴?どうしたんだ?」

「…秀次か」

 

現れたのは三輪秀次。昴と同時期にボーダーに入隊した人物で昴の友人だった。

三輪は昴のことを気にかけていた。三輪もまたネイバーによって大切な家族を失っているからだ。しかし、昴と三輪には決定的な違いがあった。それは才能の有無であった。三輪はボーダーに入隊してすぐにB級へと昇格。現在はとある部隊に所属しており、A級昇格も目前とのことだった。

 

「ボーダー辞めようかと思ってな…」

「⁉何故だ!ネイバーを全て撲滅するんじゃないのか‼」

「でももう無理だと思うんだ。秀次にもわかるだろ?俺に戦いの才能はないんだよ」

「!それは…」

 

昴に戦いの才能がないこと。それは三輪もよくわかっていた。トリオン量たったの1。そんな戦闘員は昴くらいだ。B級はC級とは違う。本物の実力者でないとB級で戦うことはできない。昴は才能がないと語るが三輪はそうは思わなかった。むしろ才能はある方だと考えている。でなければトリオン量1でB級に上がることなどできないだろう。自身のトリオンのなさを言い訳にすることなく知識を身に着け、努力を重ねB級へと昇格した友人を三輪は尊敬していた。いつか昴と並んで戦う未来を想像していた。だからこそトリオンがないことが本当に惜しかった。昴にトリオンがあれば、三輪がそう考えたことは一度や二度ではない。本人ならばなおさらであろう。

 

「そろそろ潮時なんだろうな。俺にはもう無理だ。」

「昴…」

 

 本当に終わってしまうのか?ここまで努力を重ねてきた友人を三輪はなんとかしてやりたかった。しかしトリオンがない以上戦闘員としてはもうどうすることもできない。

 

「お、久しぶりだな。秀次、昴。」

 

そんな二人の前にある男が現れた。

 

「迅さん…」

「迅…さん」

 

迅悠一。大規模侵攻の日に昴を助けてくれた人物だ。

 

「どうしたんだ?こんなところで。昴も落ち込んでるみたいだが」

「迅さん、あんたには関係ない話だ。関わらなくていい。」

「いいよ、秀次。迅さんにも話せるなら話ときたい。」

「っ…」

 

昴にとって迅は自分と母を救ってくれた恩人であり正直思想は理解できないが尊敬する人物であった。しかし三輪にとっては姉を見捨てた男である迅は好きになれる人物ではなかった。ネイバーと仲良くしようなどという思想も理解できなかった。

 

「迅さん、俺もうボーダー辞めようと思ってるんです。」

「…へえ、これはまた急な話だ。」

「嘘つかないでくださいよ。迅さんにはもう視えてるんじゃないですか?俺がボーダー辞める未来」

「う~ん。今のところは五分五分ってところだな。お前がボーダーを続けてる未来も視える。」

「…まだ続けてる未来も視えるんですね。でも直に辞める未来で確定すると思いますよ。」

「まだわからないって言ってるだろ?それより昴、ちょっと秀次のやつ借りていいか?」

「は?」

「秀次と話すことでもあるんですか?別にいいですよ。」

「ありがとな。てわけで秀次少し話があるんだ。」

 

そう言うと迅は三輪を強引に昴と離れた場所へ連れ出した。

 

「何の用だ。俺にはあんたと話すことなんてない。」

「そう冷たいこと言うなって。昴に関する話だ。」

「昴の話だと?」

「そうだ。昴の未来に関する話だからお前に聞いてほしいんだ」

「…ちっ、なんだ早く話せ。」

 

飄々とした迅の態度にイラつきながらも昴の話となれば聞かないわけにはいかなかった。

 

「さっき昴にはボーダーを続けるかは五分五分と言ったがあれは半分嘘だ。少なくともこのまま戦闘員を続ければ昴はボーダーを辞める。」

「っ…!」

 

想像はしていたがはっきりと言われるとやはり驚いてしまう

 

「だがあくまでそれは戦闘員を続けたらという話だ。逆に言えば戦闘員を辞めれば昴はボーダーを辞めない。」

「戦闘員を辞めたらだと?どういう意味だ?」

「トリオンが少ないために戦闘員になれなかった人たちがやる仕事ってなったらもう限られるだろ?」

「…オペレーターか。」

「その通りだ秀次。そして昴には戦闘の才能はないが戦術の才能はおそらくある。鍛えれば光るものがあると思うんだ」

「…迅さん、結局何が言いたいんだ」

「お前の今所属してる部隊。そこに戦術のプロとオペレーターのプロがいるだろ?」

「…!」

 

三輪の所属する部隊。それは現在ボーダーで破竹の勢いで勝ち続けている部隊。東隊だった。

 

「その二人に鍛えられれば昴はきっとすごいオペレーターになれる。俺のサイドエフェクトがそう言っている。」

「…俺に東さんと月見さんを昴に紹介しろと言うことか?」

「そういうことだ。」

「何故俺に頼む?あんたが直接紹介すればいいだろ。」

「俺だと駄目なんだ。秀次が説得した方が昴はオペレーターとして成長できる未来が視える。」

「・・・」

「だから秀次、お前に説得してほしいんだ。オペレーターになることをね。」

 

三輪はすぐにうなずくことはできなかった。今までずっと努力を重ねてきた友人に戦闘員はもう無理だからオペレーターになれと説得する。昴は何を思うのだろう?今までの努力を否定されてどれだけのショックを受けるだろうか。それは友に対する裏切りになるのではないか。しかし

 

「…迅さん、ほんとに昴に戦闘員はもう無理なのか?今は可能性が低くてもこのまま努力すればトリオン値も成長するかもしれない。そしたら…」

「それはお前もよくわかってるんじゃないのか?秀次」

「・・・」

 

迅の言うとおりだった。本心ではわかっていた。一年間必死に努力を続けても昴のトリオンが上昇することはなかった。これから成長することもおそらくないだろう。仮に成長したとしてもトリオン2で何ができる?そんな隊員は存在しない。戦闘員としての昴にこれ以上の成長はもうないだろう。

 

「…わかった。俺が昴を説得してみる。ただしもし昴がオペレーターになることを望まなければ俺も無理強いをすることはない。いいな?」

「ああ、ありがとな。頼んだよ秀次。」

「勘違いするな、お前のためじゃない。昴のためだ。」

「ああ、もちろんだ。」

 

そう言うと迅は去っていった。

 

「・・・ちっ」

 

俺が迅の頼みを承諾すこともきっと迅の予知通りなのだろう。本当に気に食わない。

 

「おお、戻ってきたか秀次。結局なんだったんだ?」

「…ああ、昴、お前のことだ。」

「俺のこと?」

 

三輪は息を整えて昴に話した。

 

「昴…オペレーターになる気はないか?」

「…オペレーター?」

「ああ、戦闘員をやめてオペレーターになるんだ。」

「・・・」

 

昴は黙り込んでしまった。

 

「…なるほどね。迅さんが秀次に話したのはこういうことか」

「昴…」

「オペレーターかぁ、考えたことなかったな。ボーダーに入る時に採用の人に君のトリオン量じゃ戦闘員は無理だ。オペレーターやエンジニアを目指した方がいいって一度言われたけど気が付けば戦闘員として合格してたからさ。」

「・・・」

 

そういえばそもそも何故昴は戦闘員として合格できたんだ?そんな疑問が一瞬三輪の脳裏よぎった。

 

「でもなぁ。オペレーターじゃ戦えないし妹達を守るのは難しいよなぁ…う~ん。」

「・・・」

 

後オペレーターだとどこかのチームに拾ってもらえないとお金を稼ぐことも難しいしなぁなんてことも考えていた。

 

「やっぱりオペレーターは俺には厳しいよ」

「…そうか」

 

やはり駄目だったか。三輪は思った。俺だって同じだから。仮に俺にトリオンがなかったからと言ってオペレーターになれと言われて素直に受け入れただろうか。答えは否だ。きっとこいつみたいに死に物狂いで努力して戦おうとしただろう。

 

ただし昴が努力したのは家族を守るためであり、ネイバーに対する恨みはそこまで強くない。三輪はそのことに気づいてなかった。

 

「悪いね秀次。。やっぱりもう潮時だわ、ボーダー辞めるよ。世話になったね、せめて俺の分まで頑張ってくれ。」

「昴…」

 

そう言って昴はラウンジを離れようとした。そのとき

 

「待て」

「…なに?」

 

三輪は昴を引き留めた

 

「だったらお前がオペレーターとして成長出来たら俺がお前を引き取ってやる」

「え?」

「俺はいずれ自分の部隊を結成するつもりだ。そのときはお前が俺のチームのオペレーターになってくれ。」

「…ほんとに?」

「ああ、ほんとだ。お前の母の仇も俺がうってやる。」

「…そっか」

 

昴は立ち止まり三輪の方へ振り返って話した。

 

「よく考えたら俺オペレーターのこと全然知らないし、なんにもせずに辞めるのももったいないよな。」

「・・・」

「それに秀次の戦いのサポートができるのも悪くないね。」

「昴・・・」

「よし!わかった!俺オペレーターやってみるよ。」

「そうか!」

「じゃあ早速オペレーターの勉強をしないとな」

「なら俺がぴったりの人を紹介してやる。」

「ほんと?」

「気にするな、俺がお前を誘ったんだ。それくらいのことはするさ。」

「ありがとう!助かるよ」

「ああ、任せろ」

 

二人は拳を合わせて約束するのだった。

 

 

「…ありがとな秀次。これで未来は変わった…」

 

ラウンジの影にいた迅はそう呟くのだった。

 

 

 

 

「着いたぞ昴。ここが東隊の作戦室だ。」

「ここがか…」

 

数日後、昴は三輪に連れられ東隊の作戦室へとやってきていた。

ノックをして二人は作戦室へと入る。すると中では二人の人物が座って待っていた。

 

「おお、よくきたな。」

「いらっしゃい」

「はじめまして、桐山昴です。よろしくお願いします。」

「君が桐山くんか、秀次から話は聞いてる。俺はリーダーの東春秋だ。」

「私はオペレーターの月見漣よ。はじめまして桐山くん」

 

後のボーダーA級一位部隊のリーダーとオペレーターが昴を迎え入れた

 



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昴と東春秋

「早速だがオペレーター志望ということでいいんだな、桐山?」

「は、はい!そうです!東さん」

 

東隊の作戦室にて昴と東が話を始める。

 

(この人が東隊の隊長、東さんか…)

 

初めて見る生の東を前に昴は非常に緊張していた。

東春秋、始まりのスナイパーと呼ばれるその男ことはよく知っている。元々勤勉な昴はランク戦をよく見学していたが、その中でも東隊は群を抜いて強い部隊といえた。

圧倒的なトリオン量から相手を寄せ付けない攻撃を繰り出すシューター、二宮匡貴

スコーピオンを用いたアタッカーとしてもシューターとしても隙がない加古望

そして弧月を用いた近接戦、銃を用いた遠距離戦共に強力なオールラウンダー三輪秀次

そんなメンバーの中で昴はリーダーの東を強く尊敬していた。

スナイパーとしての腕前もさることながら特に注目したのはその巧な指揮だった。東隊のメンバーは一人一人が無類の強さを誇るため極端な話、みなが自由に動いてもポイントを稼ぐことができるだろう。しかし東はそんな三人に的確な指示を飛ばし、動かしている、そして東の指揮を受ける三人に隙は全く見られない。これは相手からすればたまったもんじゃないだろうなぁ。ただでさえすごい人たちがすごい人の指揮を受けてさらに強くなってるんだから。A級一位を取る日もそう遠くないだろうなぁ。昴はそんなことを考えていた。そんな尊敬する東に直接指導を受けられる。秀次からそう聞いた時にはとても驚いたものである。

 

「まず一つ言っておくが、知っての通り俺はオペレーターじゃないからオペレーターについてはあまり詳しくない。そこは本職の月見に聞いてくれ。」

「そういうわけだからよろしくね桐山君。」

「はい!よろしくお願いします!」

「それで、戦術についてはお前がオペレーターとしての知識を一通り身に着けてから教えようと思っている。いいか?」

「は、はい!わかりました!」

「よし、それじゃ頑張ろうか」

 

話を終えた東に対して昴は秀次に話を聞いた時から抱いていた一つの疑問を投げかけた。

 

「あの、東さん。どうして俺にこんなによくしてくれるんですか?俺秀次や東隊の皆さんに比べたら大した才能があるわけでもないのに…」

「ふむ、そうだな…」

 

少し考えた東は笑みを浮かべながら言った。

 

「桐山、まずお前は才能がないというがそんなことはない。お前にも才能はある」

「え?」

「お前のランク戦の映像をいくつか見たが、あれでお前のことはよくわかる。武器の性質や相手の動き方などよく調べているな。」

「でもそれは才能というよりは…」

「ああ、それは努力だな。だがお前に才能を感じたのはそこじゃない。お前の戦い方だ。」

「戦い方?」

「そうだ。相手をうまく動かしていると言うべきかな。相手の戦い方を研究することで相手をこちらの思うようによく動かせている。ただB級以上となると戦い方、相手の動かし方に加えてトリオンも必要になってくる。そこは惜しいところだな。」

「…はい」

「だが、相手の動かし方がわかっているということは相手の付け入る隙をよくわかっているということ。それは指揮官になるには必要となってくる力だな。お前にはその力があるんだよ、桐山」

「動かす力…」

「俺が目をつけたのはそこだ。今はまだ発展途上だが伸ばせばきっとすごい力になる。そんな気がしてな。この力は一度戦闘員を経験したからこそ身に着けることのできた力だ。つまり、お前が戦闘員として積み重ねてきたものは無駄にはならないってことだ。」

「・・・」

「だが、オペレーターとしてこの力を身に着けるには敵の動かし方だけでなく味方の動かし方もよく理解しないといけない。それは普通のオペレーターよりも厳しい道になるぞ?大丈夫か?」

「…はい!やってみせます!俺にそんな才能があるなら俺はそんなオペレーターを目指したいです!」

「うん、よく言った。それじゃあこれからよろしくな桐山。」

「はい!よろしくお願いします!」

 

昴は東に深く頭を下げてそう言うのだった。

 

「じゃあ月見、まずはよろしく頼む。」

「はい、わかりました東さん。それじゃあ桐山君、こっちに来て早速始めましょうか。」

「わかりました!」

 

そういうと昴は月見と共にオペレータールームへと向かうのだった。

 

「東さん、昴のこと引き受けてくれてありがとうございます。」

 

三輪は東にそう感謝を告げた。

 

「気にするな秀次。それにお前があんな風に俺に何かを頼んだことなんて初めてだったからな。」

 

東は笑いながらそう言うのだった。

 

~~~

 

それは昴が東隊の元を訪れる数日前のこと

 

「俺に指導してほしい人がいる?」

「はい、そうです」

 

東隊の作戦室にて三輪は東にそう話した。

 

「桐山昴、俺の同期で先日まで戦闘員だった男です。」

「戦闘員だった、というと?」

「今はオペレーター志望なんです。」

 

東は腕を組み、三輪の話を聞く。

 

「オペレーター志望だったら、俺じゃなくて月見に頼んだほうがいいんじゃないか?」

「もちろん月見さんにもお願いするつもりです。東さんには昴に戦術を教えてほしいんです。」

「戦術か…」

 

三輪は顔を歪めて言葉を続ける。

 

「実は迅の奴に言われました。昴には戦術の才能があって鍛えれば光るものがある。東さんや月見さんの下で修業すれば立派なオペレーターになれる、と」

 

東はなるほど、と納得した。迅の予知によるものならおそらく自分や月見が指導をすることでその桐山昴という男がオペレーターとして大成するのは確かなことなのだろう。

同時に一つの疑問も浮かび上がった。三輪は迅のことを好ましく思っていない。そんな三輪が何故迅の頼みを素直に聞き入れ、自分に頭を下げているのだろうと

そんな東に三輪は言葉を続ける。

 

「ですが、俺は迅の予知を抜きにしても昴に光るものがあると思っています。」

「ほう…」

「あいつはトリオンに恵まれずにずっとC級にいました。トリオン量がたったの1だから当然です。そんな戦闘員は昴以外にいません。」

 

三輪のトリオン1という言葉に驚きながらも東は話を聞く。

 

「しかし、あいつは諦めませんでした。トリオンがないことを言い訳にせず、武器の使い方や相手の動き方、トリガーの善し悪しをC級の頃からずっと学習していました。」

 

俺も参考にしてたくらいです。三輪は苦笑いしながらそう言った。

 

「その努力の甲斐あって、昴は一年かけてようやくB級に上がることができたんです。ですがB級以上だとトリオン1では厳しいというのは東さんにもよくわかることですよね。」

「まあ、そうだな。そもそもトリオン1というのは戦闘員としての適性はないに等しい数値だ。」

「はい、ただ戦闘員としてはダメだからといってあれだけの努力を積んできた昴を俺は見捨てたくないんです。東さん、どうかあいつの指導をお願いできないでしょうか。」

 

再び頭を下げる三輪に東は目を丸くした。普段からネイバーの撲滅のことばかり口にし、ひたすら訓練と戦闘に明け暮れる三輪が友人のために頭を下げる。そんな光景を想像したことがなかったからだ。

 

「よし、わかったよ秀次。お前がわざわざ俺に頭を下げてまで頼み込むほどの男なんだ。一度会って話してみよう。」

「…!ありがとうございます東さん」

「気にするな。それに俺もその桐山に興味が湧いてきた。一度ログでも見てみることにするよ。」

「わかりました。よろしくお願いします」

 

~~~

 

「確かに素質はありそうだ。どれほどのものになるか俺も楽しみになってきたよ。」

「そうですね。きっとあいつなら立派なオペレーターになります。」

 

三輪と東はそんな話を続けるのだった。

 




オペレーターの訓練はよくわからないので飛ばし飛ばしになると思います・・・
後基本戦闘描写も苦手なので恐らく飛ばし飛ばしです・・・


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昴と烏丸京介

プロローグと二話では若干シリアスっぽく感じたかもしれませんがこの小説は基本的にゆる~く進行していく予定です。
(大体、戦闘を含めた複雑な描写が書けないせい)


「それじゃあ、今日のところはこの辺で終わりにしましょうか。桐山君、お疲れ様。」

「お、お疲れ様です…失礼します…」

「…少しやりすぎたかしら?」

 

 月見の指導を終えた昴はそう言うと作戦室を出て帰路についていた。

 ある程度予習はしていたけどまさか月見さんの指導がこれほどキツイとは…昴は非常にぐったりとした様子を見せていた。昴は知る由もないが月見はあの戦闘以外はまるでダメなボーダーNo.1アタッカー太刀川慶の幼馴染である。幼いころから太刀川の尻を叩いてきた影響か、その指導方針は非常にスパルタなものだった。才能のあるダメ男の面倒を見るのが習性な彼女にとって才能があってやる気もある昴は非常に教えがいのある男だったようでその指導はいつにも増してスパルタなものとなっていた。

 

(でも流石東隊のオペレーターを務めている人だ。教えるのもすごくうまいなぁ)

「…あれ、もしかして昴さんですか?」

 

そんなことを考えていた昴に声をかけてきた人物が現れた

 

「ん?誰だ…ってもしかして京介か!?」

「はい、久しぶりですね昴さん」

 

声をかけてきた人物は烏丸京介。昴とは昔からの友人であり幼馴染とも言える間柄だった。

 

「京介お前ボーダーに入ってたのかよ!聞いてねえぞ!?」

「そういえば言ってなかったすね。まあ、しばらく会ってなかったこともありますけど」

「…まあ、確かに言われてみればしばらく会ってなかったな。最近色々あったし。」

「らしいっすね。綾香の奴から最近兄貴がずっと暗い表情してるけど何か知ってる?ってLINEも来てましたし。」

「お前携帯持ってたの!?てか妹とLINE交換するなら俺とも交換しろよ!」

「携帯買ったのは最近だしそもそもしばらく会ってないって言ったでしょ。」

「…そうだったわ」

 

携帯を取り出しながら昴は烏丸とLINE交換しつつ話を続ける。

 

「てか、お前がボーダーに入ったことが驚きだわ。高校入ったらバイトするって言ってたし。」

「それを言うなら昴さんも同じでしょ。」

「俺は弟妹達を守りたいからボーダーに入ったんだ。高校入ったらバイトも併せてやるつもりだし。」

「俺も同じですよ。…にしても少し安心しました」

「何が?」

「昴さんがボーダー入った理由っすよ。おばさんが目を覚まさなくなって昴さんがボーダーに入隊したから俺はもしかしたらと思って…」

「ああそういうことか。確かにネイバーが憎くないかって言ったら噓になるけど別に復讐したいとかは思ってねえよ。それより残った弟妹達のほうが大事だ。」

「そうっすね。俺も下の子たちを守りたい気持ちはよくわかります。」

 

 京介はそう言うと安心したように笑みを浮かべた。それにしても流石はイケメンだ、すごく様になっている。

 

「なんかアホなこと考えてません?」

「京介は相変わらずイケメンだなぁって思ってる。」

「アホなことじゃないすか。てか昴さんも大概イケメンでしょ。」

「お前それ昔から言ってるけどお世辞はよせ。お前に言われても響かん」

「いや、マジで言ってるんすけど」

 

 この人普段は頼りになるいい人だし、しっかり者でかっこいいのに何で顔のことになるといつもこう自分を卑下するんだ?烏丸はそんなことを考えていた。ちなみに昴と京介はどっちも同じくらいイケメンだがお互いが相手のほうがかっこいいと思ってるめんどくさい間柄でもあった。

 

「そういえば最近よく暗い表情してるって聞いてますけど何かあったんですか?」

「ああそのことか。最近戦闘員として伸び悩んでたんだよ。いや、最近というよりずっと前からだな」

「前から?」

「ああ実は俺トリオン1しかなくてさ、おかげで全然勝てなくてな」

「トリオン1…それは…きついですね…」

「だろ?B級も一年かけてやっと上がることができたしな」

 

それでもB級にはあがることができたのか、すごいな。

 

「ま、その問題は解決したしもう大丈夫だよ。」

「解決したというと、何かうまく戦う方法でも見つけたんですか?」

「いや、戦闘員やめてオペレーターやることにしたんだ。」

「オペレーター…ですか?」

「ああ、秀次…ボーダーでの友人に勧められたんだ。今は東隊の東さんと月見さんにオペレーターについて教えてもらってるよ。」

「東隊すか…またすごいところから教えてもらってますね。」

「俺もそう思うよ。ま、くよくよしても仕方ないしオペレーターとして頑張ることにするわ。」

「そうすか…昴さんがそう決めたなら俺も何も言わないです。」

「おう、もう決めたしな。」

「ただ愚痴くらいなら俺も聞きますよ。一年間頑張ってきたうえでの転向なんだし思うところもあると思うんで」

「・・・!」

 

こいつはやっぱりいいやつだな。昔からそうだ。俺がへこんだときにはこうしてさりげなく慰めてくれる。気配りもうまいしほんと年下とは思えん…

 

「流石気の利くイケメンだ…」

「今イケメン関係ないでしょ」

「いや、俺が言ってるのは内面の話だ。お前は顔もイケメンだが中身もすごいイケメンだな」

「それは昴さんもそうだと思いますけど」

「いやいや、俺なんか京介の足もとにも及ばないさ…」

「頭まで並んでると思いますけど」

「謙遜をするな。ありがとな、なんかあったらお前に話すことにするわ。」

「ええ、俺でよければいつでも」

 

とはいえこの人割とため込むタイプだし中々愚痴ることもないだろうな。そんなことを思いながらいざとなったら無理やりにでも聞き出そうかとか考える烏丸であった。

 

「それにしても暗い表情してることがばれてたとは綾香には悪いことしたな…」

「昴さんわかりやすいっすからね。多分優奈と優司の二人も気づいてると思いますよ。」

「マジで?俺そんなわかりやすい?」

「昴さんを見慣れた人ならすぐ気づくんじゃないすかね」

「だったら他の人にはわかりにくいってことだし別にいいや」

「そういう問題じゃないと思うんすけど」

 

この人こういうところはほんとバカだな。やっぱり無理やり聞き出したほうがいいか?

 

「そういえば京介は今ポイントどのくらいなんだ?」

「ついさっき弧月で4000ptになりました」

「え…?てことはもうB級?」

「…そうっすね」

「・・・」

「…なんかすんません」

「…いや気にするな。流石器用なイケメンは違うな」

「だからイケメン関係ないでしょ」

 

 数日後、烏丸が太刀川隊にスカウトされたことを知ってさらにへこむ昴と自分のせいで昴がへこんでしまったことで珍しく落ち込む烏丸の姿が見られたとか。

 

 

 

~~~~~

 

「ただいま~」

「あ、お帰り兄貴」

「お兄おかえり~」

「おかえり、兄ちゃん!」

 

自宅へと帰った昴を妹の桐山綾香と双子の姉弟、桐山優奈と桐山優司が迎え入れたのだった。

 




昴はとりまるの二つ上です。なので原作開始時の年齢は18歳になります。


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桐山家

今回はオリキャラしか出ません


「お兄おかえり、早速だけど今日は疲れたから膝枕をしておくれ」

「おい優奈!兄ちゃんの方が疲れてるんだからいきなりタックルするのはやめろ!」

 

 帰ってきて早々いきなり俺にタックルをかましてきたのは妹の桐山優奈で、その妹をたしなめているのは弟の桐山優司。双子の姉弟で俺の五つ下だ。

 

「仕方ないでしょ優司。ついさっき宿題を終えて疲れ切ってるんだから兄に甘やかしてもらうのは当然」

「その宿題半分俺の写しただろ!どちらかといえば俺の方が疲れてるわ!」

「ほう、つまり優司は自分の方が疲れてるからその分お兄に甘やかしてほしいということだな」

「な…!そ、そうは言ってないだろ!兄ちゃんの方が疲れてるんだから休ませてあげてって言ってるんだよ!」

 

 このように優司はいつもマイペースな優奈に振り回されている。

 妹の優奈は超が付くほどのマイペースで、いつも自由に動いては弟の優司を振り回している。そんな優司は優奈と正反対な真面目な性格だ。いつもこうやって優奈の言うことにちゃんと真面目に答えてるからいいようにされてるんだろうなぁ。

 

「はいはい、その辺でくだらない言い合いはやめなさい。兄貴、もうすぐでご飯できるから先お風呂入ってきたら?」

「うん、わかった」

 

二人の言い合いを止めたのは妹の綾香。俺の二つ下だ。母さんが意識不明になってから母さんの代わりに家事をやってくれてるいい子だ。ただ最近になって兄貴呼びになったのは少し気になるところである。

 

「じゃあ兄ちゃん一緒に入ろうぜ!」

「ああ、いいよ」

「じゃあ私も一緒に入ろうか」

「優奈は姉ちゃんと一緒に入るって言ってただろ!」

「私はお兄とでも構わんが?」

「俺が構うわ!ほら、兄ちゃん入ろう」

 

 そう言うと優司は俺を引っ張って風呂に入れるのだった。

 

「優司、この家には慣れたか?」

「そりゃ一年も住んでたら慣れるよ。」

「ははっ、そりゃそうか」

 

 現在俺たちは頼る親戚もなかったので仮設住宅にて暮らしていた。最初のうちは慣れないことも多かったが、京介やその家族さんの手伝いもあって今ではなんとか暮らせてる。

 

「そういえば兄ちゃんもう大丈夫なのか?」

「何がだ?」

「いや、前までは暗い顔してること多かったけど最近はそれも無くなってきたからさ。優奈も心配してたぞ。」

「…!ああ、もう大丈夫だ。心配かけたな」

 

 京介の言うとおりだった。やっぱり俺ってわかりやすいのかな?

 

「ならよかったけどさ。ボーダーで何かあったのか?」

「いや、大丈夫だよ。もうなんとかなりそうだからさ」

「もしやボーダーでいじめられてる?おのれよくもお兄を」

「はは、そんなんじゃないって…ってええ!?優奈!?」

「ちょ!お前いつの間に」

「お姉に先入ってこいって言われた。」

 

 いやどうやって入ったのほんと。俺も優司も気づかなかったぞ。

 

「それよりもお兄、ボーダーでいじめられてるの?もしそうなら許さんぞ」

「えっと…大丈夫だよ。つい最近まで悩みがあったんだけどもう解決したからさ。心配してくれてありがとな」

 

優奈の頭をなでながらそう言った。

 

「ふむ、しかしいずれ真相を確かめねば…ボーダーに潜入するか?」

「変なこと考えるのはやめなさい」

「でも兄ちゃんが元気になってよかったよ!最近まで兄ちゃん暗かったからなぁ」

「見るに堪えなかった」

「そこまで言う?」

 

 俺ってそんなにわかりやすいの?

 

「まあ、優司も心配してくれてありがとな。」

 

 優司の頭も撫でながらそう言った。

 

「へへっ、いいんだよ」

「ほらお兄、私のことも撫でろください」

 

 こうして俺は風呂をあがるまで二人をなで続けたのだった。

その後風呂からあがった俺たちは綾香の作ったご飯を食べ、テレビを見たり二人と遊んでいるうちに気が付けば22時となっていた。

 

「優奈、優司そろそろ寝る時間だぞ。さあ、おやすみ」

「名残惜しいが仕方ない。おやすみお兄」

「おやすみー」

 

優奈と優司を寝かせ居間へと戻ると綾香が仁王立ちで立っていた。

 

「兄貴、座って」

「え?急にどうした?」

「いいから座って」

 

 何故か綾香に座るよう命じられた俺はとりあえず座った。

 

「京介から聞いたよ。兄貴が最近暗かった理由」

「え…?」

「確かにあたしはボーダーに入ってないからボーダー内でのことはよくわからないけど相談くらいはしてもよかったよね?」

「いやでも」

「口答えしない」

「…うす」

 

 完全に怒ってる…綾香は母さんに似てるところはあるけどそんなところは似なくても…

 

「とりあえず話して。なんで相談しなかったの?」

「さっき綾香も言ってたけどボーダーのことに関しては知らないから話してもしょうがないと思って…」

「へえ・・・」

 

 う、しまった別のことを言えばよかったかな…なんて思ってる場合じゃない。

 

「私言ったよね?京介から話は聞いたって。本当に理由はそれだけ?」

「…言いたくなかったんだよ。ボーダーに入ったはいいけど才能に恵まれずに伸び悩んでたことなんて」

「バカね、かっこつけたがるのも大概にしてよ」

 

容赦ない・・・

 

「兄貴の気持ちもわかるけど、私は日に日に沈んでいく兄貴を見るのつらかったんだよ?私だけじゃない、優奈と優司もそう。わかってる?」

「そうだな…」

「それに兄貴がボーダーに入ったのって私たちを守るためなんでしょ?あんな暗い顔した兄貴に守られるなんて私はいやだよ」

「うん…」

「兄貴が私たちのために頑張ってくれてるのは嬉しいんだからもう無理なことはしないでね。わかった?」

「…うんわかったよ。心配かけてごめんな?」

「うん、わかればよろしい」

 

 京介から聞いてはいたけどまさかここまで心配をかけていたとはな・・・お兄ちゃん失格だ。

 

「それとね、兄貴ってオペレーターっていうのになったんでしょ?」

「うんそうだよ」

「オペレーターって戦う人達を後ろから支援するのが仕事なんだよね?」

「…?うんそうだけど」

「ふ~ん」

 

急になんだ?

 

「決めた。私も来年になったらボーダー入るわ」

「・・・へ?」

「前から思ってたのよ。私もボーダー入ろうかなーって。兄貴も一年すれば立派なオペレーターになってるだろうし、そのときは兄貴が後ろから支援してくれるわけだから戦いやすそうだし。兄貴の組むチームで戦うのも面白そう。」

 

 急に何を言い出すかと思えば綾香がボーダーに入るだって!?いやいや!妹にそんな危険なことはさせられない!ここはビシッと止めないと

 

「綾香!!」

「言っとくけど危ないから許さないなんてことは言わないでね。もしそんなこと言ったら兄貴もオペレーターとはいえ危ないことしてるんだからボーダーやめてもらうからね。」

「・・・はい」

 

 流石俺の妹だ。俺の言うことをよくわかってらっしゃる・・・




お気づきかもしれませんが綾香ととりまるは同級生です。幼馴染で同級生とかいう勝ち組ヒロインですがお互い恋愛感情は一切ありません。


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昴とサイドエフェクト

昴のサイドエフェクト説明回です。
今後活きるかは未定()


昴が東と月見の指導を受けてから約一か月が経過した。

指導はとても厳しいが(特に月見さん)その分着実に力がついているのは自分でもわかる。指導をしてくれる東さんや月見さんはもちろん、俺にこんなすごい人たちを紹介してくれた秀次には感謝してもしきれない。この前妹がボーダーに入りたいと言い出し、しかも俺とチームを組みたいと言い出した時にもどうすればいいかテンパって秀次に相談したが、秀次からは「お前の妹なら大丈夫だ。それにお前たちでチームを組むというなら俺のことは気にしないでいいし、もしよければお前とその妹二人とも俺が組むチームに入れてやる。」という非常にうれしい言葉をもらえた。持つべきものは親友だ。

 

 ちなみに京介からは「その気になった綾香を止めるのは昴さんじゃ無理でしょ。どうしても嫌なら俺から説得しますけど。」というありがたい言葉をもらった。もしかして綾香の中のヒエラルキーって俺より京介の方が高かったりするのだろうか。もちろんそんなことで後輩の手を煩わせるわけにはいかないので丁重にお断りさせてもらった。というかそんなことされたら俺の立つ瀬がない。

 

 

 

 そんな日々が続いてたある日東さんの指導を受けているときにこんなことを言われた。

 

「昴、お前サイドエフェクトの力は活用しないのか?」

「サイドエフェクト?」

 

 ボーダーに入隊するときに受けた検査で俺にもサイドエフェクトがあることが判明した。名前は直感。なんともシンプルな名前である。研究室の人はBランクの特殊体質とSランクの超感覚、どちらにするか迷っていたらしいが結局理論では説明できないサイドエフェクトとしてSランクに分類された。

とはいえ言ってしまえばただの直感。迅さんの未来視と比べたら迅さんのように何が起こるかわかるわけではなく、あくまで何かが起こるような気がするというだけ。そこまで便利なものではない。実際大規模侵攻の際にも何か嫌な予感がしただけで何が起こるかは全く分からなかった。他にも例えばくじ引きのような運ゲーにもあまり役立つものではない。他の人に比べたら当たる確率は少し高いかもしれないが、こういう確率系のものは元の母数が多ければ多いほど直感が働きにくくなる。逆に言えば母数が減るほど働きやすくなるのでテストの二択問題などには非常に有用だが。

 

「う~ん、俺のサイドエフェクトは普段たまに役立つ程度なんで戦闘ではそんなに役に立たないと思いますよ。」

 

 俺は東さんに率直な意見を述べたが東さんはそれを否定してきた。

 

「そんなことはないだろ。お前の戦闘ログはいくつか見たがサイドエフェクトを使ってる戦闘はいくつか確認できたぞ?」

「え?ほんとですか?」

 

 俺自身そんなつもりはなかったがそうなのか…?

 

「なるほど…無意識だったんだな。実際受けたら負けるような攻撃をうまくさばいてる戦闘はいくつかあったな。もちろんお前の相手を研究した成果もあると思うが、それでは説明がつかないような攻防もあったぞ。」

 

 …確かに言われてみればなんとなくこれはくらったらやばそうという攻撃をよけたことは何度かあったな。あの時は気づかなかったがあれはサイドエフェクトのおかげだったのか…

 

「ようするにお前の研究で相手の攻撃をうまくさばけたことで相手の選択肢を減らすことができたから相手の未知の攻撃にはサイドエフェクトが働いたんだろう。つまりお前のサイドエフェクトは努力すればするほど効果を発揮するというわけだ」

 

 まるで頑張った人へのご褒美みたいなサイドエフェクトだな。東さんは笑いながらそう言った。

 

「これは指揮をする時でも同じことだ。こちらの手札と相手の手札、その両方をしっかりと理解していれば例え不意をついたような攻撃でもしっかりと対応できる」

 

 なるほど、確かに東さんの言うことももっともだ。これはもっと勉強する必要があるな

 

「ただ、どんな攻撃がくるかまではわからないのは難点だな。例えば鉛弾(レッドバレット)なんかはただシールドでガードすればいいわけではないだろ?」

 

確かにどんなことが起きるかまではわからないというのは俺のサイドエフェクトの欠点だ。

 

「まあ、そこらへんの欠点は俺もよくわかってるので基本はサイドエフェクトに頼りすぎないようにしてサイドエフェクトが発動すればラッキー程度に思っとくことにしときます」

「うん、それくらいがちょうどいいだろう」

 

 そんなこんなで東さんの指導が終わり、帰宅しようと思ったのだが、月見さんに声をかけられた。

 

「桐山くん、この後時間空いてる?」

「この後ですか?後は帰るだけなんで空いてますよ」

「そう、ならよかった。この後東隊の防衛任務なんだけどそのオペレーターやってみない?」

「…へ?」

 




三輪「お前の妹なら(兄のお前と同じでネイバーに対する憎しみは強いだろうし)大丈夫だ。それにお前たちでチームを組むというなら俺のことは気にしないでいい(兄弟で組むチームなんだからきっと多くのネイバーを討伐するだろう)し、もしよければお前とその妹二人とも俺が組むチームに入れてやる。(一緒にネイバー撲滅できるし)」

すれ違いって怖いね()


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昴と初仕事と炒飯

どうもオペレーター見習いの桐山昴です。今日の勉強も終わったし帰ろうとしたら月見さんにとんでもないことを言われました。

 

「俺が東隊のオペを!?」

「そう、やってみない?」

 

 東隊の防衛任務のオペを打診されました。

 

「いやいや!おれまだ全然見習いなのに東隊のオペレーターなんかやっていいんですか!?」

「オペレーターって言っても防衛任務だもの。基礎的なことさえできれば大丈夫よ。それに東さんたちを指揮しろって言ってるわけじゃないんだし気楽にやってみればいいのよ。私も隣で見てるから」

「気楽にと言われましても…そもそも東隊のオペレーターは月見さんなのに俺がオペしても大丈夫なんですか…?」

「急用が入ったオペレーターが別の人に代役を依頼することなんてよくあることだし気にしなくても大丈夫よ。」

 

 そうは言ってもそんな急に…

 

「いいじゃないか、やってみたらどうだ昴」

 

 すると話を聞いていた東さんも入ってきた

 

「ええ…いいんですか?東さん」

「月見も隣で見てるんだし、そんな気負わなくてもいいぞ」

 

 そんな会話をしていると作戦室に三人の人たちが入ってきた。

 

「失礼します、東さん」

「お疲れ様でーす」

「お疲れ様です…?いたのか昴」

 

 東隊のメンバー、二宮さん、加古さん、そして秀次だった。

 

「おう、三人ともよく来たな。突然だが今日の防衛任務のオペは昴がすることになった」

「・・・」

「あら・・・」

「・・・!」

「ちょ!東さん!」

 

 俺まだ了承してないんですけど!?

 

「どういうことですか?東さん?」

 

 そう尋ねるのは二宮さんだった。

 俺は正直二宮さんが苦手だ…東隊の作戦室で初めて二宮さんに会った時にはいきなり舌打ちされてすごくビビった。さらに俺が東さんと月見さんに指導を受けると知った時にはこう言った

「東さん、こいつに指導するのは時間の無駄です。」

 正直泣きそうになった。後から秀次に聞いた話だと二宮さんは才能のある人間が好きらしく一年間ずっとC級にいた俺を戦う才能がないのに無駄な努力を続けてるとして嫌っていたらしい。そりゃそうだ…その後は戦闘員としてではなくオペレーターとして指導を受けることを知ると俺を一瞥して作戦室を出て行った。それから二宮さんとは一度も話していない。

 

「ああ、月見の提案でな。昴もオペレーターとして少しずつ形になってきたから修行の一環として一度やってみるそうだ」

「へえ…面白そうですね。私はいいですよ」

 

 そう答えたのは加古さんだった。

 加古さんのことは正直よくわからない。初めて会った時に普通に自己紹介されたし、俺が東さんの指導を受けると聞いても二宮さんと違って特に反対しなかった。その後もたまに話はするが自分がどう見られてるのかはよくわからなかった。

 

「俺も構いません」

 

 秀次はそう答えた。まあ秀次ならそう言うと思ってたけどさぁ…

 

「二宮も構わないか?」

「…月見、桐山のオペは問題ないのか?」

「はい、大丈夫ですよ。何かあった時のために私も隣にいますので」

「なら俺も構いません。好きにしてください」

 

 え?…俺は一瞬ポカーンとしてしまった。二宮さんは絶対反対すると思ってたのだが・・・

 

「よし、なら今日のオペレーターは頼んだぞ昴」

 

 東さんは俺の肩を叩きながらそう言った。もう逃げ場はないみたいだ…

 

「…はい!わかりました!よろしくお願いします!」

「あら、ふふやる気満々ね」

「頼んだぞ昴、お前ならできる」

 

 こうなったらもうやるしかない。プラスに考えよう。あの東隊のオペができるんだ、こんな経験は滅多にできない。貴重な体験として頑張ろう!

加古と三輪の声が届かないほど昴は気合十分にオペに臨むのであった。

 

 

 

 

 

「お、終わった?」

「うん、終わったみたいね。ご苦労様桐山君」

 

 結論から言うとオペは滞りなく終わった。門の位置と出現したネイバーの種類と数。これらを順次伝えているうちに気が付けば終わっていた。

 ボーっとしている昴に東から通信が入った

 

『お疲れさん昴。初めてのオペはどうだった?』

「…!お、お疲れ様です!えっと…思ったよりはなんとかなってよかったです」

『はは、だから言っただろう?あまり気負わずにやればいいって』

「そうですね、私も結局一度も手を貸すことがありませんでしたし」

『そうだな。まあとりあえず今回は合格ってことでいいな。もしまた次があったらその時も頼むぞ昴』

「は、はい!わかりました!」

 

 そう言うと東さんは通信を切った。

「は、はあ~…緊張しました」

「ふふ、でもミスすることなくちゃんとできてたじゃない。初めてであれだけできれば十分よ」

「はい!ありがとうございます!」

 

 こうして俺の初仕事は終わったのだった。

 

 しばらくすると東隊のメンバーが作戦室にもどってきた。

 

「みなさんお疲れ様です!」

「桐山君もお疲れ様。よくできてたわよ」

「ああ、月見さんと比べても遜色なかったぞ昴」

「は、はい!秀次も加古さんもありがとうございます!」

 

 秀次と加古さんはそう言って褒めてくれた。嬉しい…

 すると加古さんは二宮さんにこう尋ねた

 

「ねえねえ、二宮君はどう思った?」

「…あれくらいのオペなら誰でもできる。秀次も加古も褒めすぎだ」

 

 う…やっぱり二宮さんは厳しい…

 

「相変わらず二宮君は厳しいわねぇ」

「お前らが甘いんだ。おい桐山」

「は、はい!」

「あれくらいで慢心するなよ。もっと精進しろ」

「はい…わかりました」

「ふん・・・」

 

 やっぱり二宮さんは怖え…

 

「ほんと素直じゃないわねえ二宮君は。桐山君、二宮君は口ではああ言ってるけど内心では結構桐山君のこと認めてるのよ?」

「え?」

「そうよね三輪君?」

「…認めてるかは俺にはわかりませんが昴のC級戦を見てたみたいなんで気にかけてはいたと思います」

 

 言われてみればなんで会ったことのないC級の戦闘なんか見てたんだ…?

 

「おい、二人とも余計な事を言うな。俺はただトリオンもないのにC級で無駄な努力をするこいつを見てられなかっただけだ。戦術の才能があるんだからとっととオペレーターやエンジニアにでもいけばよかったものを」

 

 二宮さんは舌打ちしながらそう言った。

 そうか…二宮さんC級の時から俺のこと見ててくれたのか…やばい、なんか泣きそうだ・・

 昴は涙をこらえながら二宮にこう言った。

 

「二宮さん!俺もっとオペレーターとして努力します!また東隊のオペをすることもあるかもしれないのでその時はよろしくお願いします!!」

 

 二宮は昴の方へ目を向けるとこう言った。

 

「口では何とでもいえる。行動で示してみろ。いいな?」

「はい!!!」

「ふん…」

 

 そう言うと二宮は東に一礼をして作戦室を出て行くのであった。

 

「ほんとデレがわかりにくい男ね二宮君は」

「まあ二宮さんはああいう人ですから」

「ま、いいわ。」

 

 そんなことよりと加古は昴に目を向けた

 

「桐山君。そろそろおなか空いてきてない?」

「ああ、そういえばもうそんな時間ですね」

「今日は桐山君の初仕事成功を祝って私がチャーハンをつくってあげるわ。」

「…!いいんですか!ありがとうございます!」

「気にしないで、チャーハン作りは得意なのよ」

 

 そんな会話をする二人を三輪は青い顔で見ていた。ちなみに東と月見は話の流れで察したのか、既に作戦室を出ていた。

 

「…それじゃあ俺はこれで失礼します」

「あら、だめよ三輪君。どうせまたご飯食べてないんでしょ?三輪君の分も作るから食べていきなさい」

「・・・はい」

 

 三輪は暗い顔で座り込むのだった。

 

「どうしたんだ秀次?まるで数週間前までの俺みたいな顔だぞ?」

「…今にわかる。というかお前のサイドエフェクトでわからないのか?」

「サイドエフェクトって何が…!」

 

 その瞬間昴に悪寒が走った。

 何だこの強烈なまでの嫌な予感は!?まるで一年前の大規模侵攻のようだ…

 

「どうした…」

「何だかわからないけどすごく嫌な予感がする…!」

「やっぱりサイドエフェクト発動してるじゃないか…」

 

 三輪はそう呟く。こいつのサイドエフェクトが発動してるってことはもう確定でアウトじゃないか…

 

「ふんふんふ~ん。桐山君、三輪君二つ作るんだけど右と左どっちがいい?」

 

 その時三輪の頭に電流が走った。二つ、二つということはどちらかは当たりかもしれない!そしたら昴のサイドエフェクトに頼れば助かる道がある!三輪は藁にもすがる想いで昴に尋ねた。

 

「おい昴、お前のサイドエフェクトはどっちに反応してる…?」

「…どっちも」

「…そうか」

 

 終わった…今日は二つとも外れか…三輪はいよいよ諦めた顔でうなだれた。一方昴は何がなんだかわからないがとにかく悪寒が止まらなかった。

 

「よし!完成っと!二人ともお待たせ!さあ召し上がれ」

 

 二人の前にチャーハンが出された。見た目はとても普通のチャーハンだった。

 

「…いただきます」

 

 三輪は諦めた顔でチャーハンに手を伸ばす。

 

「・・・!」バタッ

 

 やっぱりこうなったか…三輪は最後にそんなことを思いながら気を失った。

 

「しゅ、秀次!?」

「あら、三輪君ったら気絶するほど美味しかったのね。」

 

 加古は笑いながらそう言った。

 

「あの、加古さん、秀次のチャーハンに何入れたんですか?」

「今日はもずくにチョコクリームを混ぜたチョコもずく炒飯よ♪初めての組み合わせだからどうなるかわからなかったけど気絶するほど美味しいってことは大成功ね」

 

 そんなわけないだろ!!せめてもずくだけならあんな気絶することにはならなかっただろ。昴は心の中でそう叫んだ。

 

「さ、昴君も冷めないうちに食べて?」

「は、はい」

 

 正直今すぐ帰りたかった。帰って愛する妹の美味しい晩御飯が食べたかった。でも目の前にには楽しそうにニコニコした加古さんが期待した顔で待っていた。こんな加古さんの前で帰れるわけがなかった。

 

「いただきます…」

 

 あふれ出る悪寒を無理やり抑えながら一口食べる。

 

「………」

(辛みがある?これはキムチか?これなら美味しいのでは?いや待てなんだかねばねばする…納豆?…待て待て、まだ大丈夫だ。キムチの辛みとねばねばした納豆の食感、それにもちもちとした…もちもち?)

「あの加古さん、このチャーハンは何を入れたんですか?」

「ん~?最初はキムチと納豆を入れたんだけどそれじゃあ物足りないと思ってタピオカをい入れてみたのよ。キムチ納豆タピオカ炒飯ね♪どう、美味しい?」

「…はい、美味しい…です」

 

 心にもないことを言った昴はその後無心でチャーハンを口の中に掻き込み、完食するのだった。

 

「ごちそう…さま…でした」バタッ

 

 何か嫌なことが起こる予感はしても何が起こるかまではわからない。やっぱりこのサイドエフェクト、クソの役にも立たないのでは…?そんなことを考えながら昴は夢の世界へと旅立っていった

 

「あらあら、桐山君もよっぽど疲れてたのね。食べてすぐ寝ちゃうなんて」

 

 一方そんなこと知る由もない加古は自身のチャーハンを美味しく平らげてくれた昴にご満悦であった。

 

「さて、私もお腹空いたし何か作りましょ」

 

 そう言って加古は自分用のチャーハンを作るのだった。ちなみにその後加古が作ったもずくキムチ炒飯はまずまずの出来だったらしい。

 

 

 

 

「ふう、ごちそうさま…あら?」

 

 チャーハンを食べ終えた加古はふとあることに気づいた。

 

「桐山くんの携帯?ずっと鳴ってるわね」

 

 加古が昴の携帯を見るとLINEと電話が何件も来ていた。

 

「綾香…もしかして桐山君の妹さんかしら?」

 

すると再び着信がきた。加古は気絶している昴の代わりに電話に出ることにした。

 

「もしも」

「やっと出た。兄貴、何度電話したと思ってるの?今何時かわかってる?ご飯食べてくるのかどこかに泊まるのか知らないけど連絡ぐらいしてよ。この前心配かけないって約束したばかりでしょ?なんでそんなにすぐ約束破るの?大体いつも兄貴は…」

「…ふふふ」

 

 こちらに一切言い訳させる気のないマシンガントークに加古は少し笑ってしまう。

 

「ちょっと兄貴聞いてるの?」

「ごめんなさいね?私は桐山君じゃないの」

「…え?あの、どちら様ですか…?」

「私は加古望、桐山君と同じボーダーの人間よ」

「…ボーダーの方ですか?兄貴…兄はどこにいるんですか?」

「心配しないで、うちの作戦室で寝てるわ。初仕事の後でよっぽど疲れてるみたい」

「初仕事…」

「あなたは桐山君の妹さんかしら?」

「あ、はい。桐山綾香です。いつも兄がお世話になってます」

「いえいえ、こちらこそよ。」

「あの加古さん、さっき初仕事って言ってましたけどもしかして今日」

「ええ、うちの部隊。東隊っていうんだけど、その部隊でお試しとして初めてオペをしてもらったのよ」

「そうでしたか。…あの兄はどうでしたか?」

「そうね…しっかり勉強してるのがちゃんとわかるオペだったわ。お兄さんの頑張りがよくわかるわね」

「そうですか…よかった…」

 

 綾香は電話越しにほっとした表情で胸をなでおろした。

 

「ふふ、お兄さんのことがよっぽど心配だったのね」

「あ、いえこれはその…」

「照れなくていいのよ。お兄さんの初任務だもの。緊張して当然だわ」

「…ありがとうございます。兄は最近までずっとボーダーの戦闘員として伸び悩んでて暗い表情してたのでオペレーターに転向してからも不安だったんですけど、うまくいっててよかったです。」

「ええ、私にも何かできることがあったら協力するから心配しないで」

「ありがとうございます、頼もしいです」

 

ボーダーの先輩からのありがたい言葉に綾香は笑顔で答えた。

 

「…ところで綾香ちゃん?お兄さんから聞いたんだけど綾香ちゃんもボーダーに入るのよね?」

「あ、はい。まだ先ですけど」

「もし綾香ちゃんがボーダーに入って成長したら私の作る部隊に入らない?」

「…え?」

「今の私は東隊のメンバーだけど、私もいずれ自分のチームを組むつもりなの。その時に綾香ちゃんもどうかなぁって思って。もちろんお兄さんも一緒にね」

「あの…どうしてそんな急に?それに私まだボーダーにも入ってないしうまく戦えるかもわからないのに…」

「そうねぇ…勘よ」

「…はい?」

「ただの勘。桐山君のサイドエフェクトみたいなものね」

「サイドエフェクト?」

「ああ、ごめんなさい。よくわからなかったわね。ただ私の勘って結構当たるのよ?」

「…ふふ、急に変なこと言わないでくださいよ」

「あら酷い。ほんとによく当たるのに。それでどう?」

 

 加古の問いに綾香はしばし沈黙したが、しばらくすると綾香はこう答えた。

 

「ありがたい申し出ですけど…お断りします」

「…どうしてかしら?」

「私は兄の作るチームで兄の下で戦いたいんです。だから加古さんの下では戦えません。ごめんなさい」

「…うふふ、そう言うと思ったわ。ただわかってたけど残念ね」

「私たち以外にも別の人はいると思うのでそちらの方たちをお願いします」

「でもそうなると中々人が見つからないのよねえ。イニシャル「K」のいい人も中々見つからないし」

「K…ですか?」

「そう、私自分の部隊を作るときはイニシャル「K」の人でメンバーを揃えようと思ってるのよ。でも才能のある「K」の人が中々見つからなくてね」

「…それは大変ですね」

 

 変わったポリシーだなぁなんてことを考えながら綾香はそう返した。

 

「まあいいのよ、気にしないで。ただ気が変わったらいつでも連絡してね?」

「えっと…それは兄の携帯なので…」

「あらそういえばそうだったわ。だったら私と連絡先交換しましょ。」

「…はい、ありがとうございます!」

 

 そういうと二人は電話越しで電話番号を伝えて連絡先を交換するのだった。

 

「それじゃあそろそろ切るわね?綾香ちゃんも何かあったら気軽に連絡してね。後桐山君はもう深く眠っちゃてるから今晩はここで寝かせていくことにするわ」

「わかりました。兄がご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「いいのよ気にしなくて。それじゃあおやすみなさい」

「はい、おやすみなさい」

 

そう言うと加古は電話を切るのだった。

 

「ふう綾香ちゃんか、どんな子か楽しみだわ」

 

 加古はいずれボーダーに入隊する綾香のことを楽しみにしながら作戦室を後にするのだった。

 一方その頃綾香はネットで東隊について調べていた。

 

「東隊…東隊…あ、あった。この人が加古さんかぁ…綺麗な人だなぁ…」

 

 綾香はいずれボーダーに入隊したときに加古に会える日を楽しみにしながらその日は眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、昴が目を覚まして帰宅すると烈火のごとく激怒した綾香によって連絡なしに泊まったことを説教され、加古のチャーハンのことをぼかし気味に説明するもすでに加古に対して憧れの感情をもっていた綾香には信じてもらえずそれどころか火に油を注ぐことになり、誇張抜きに一日中説教を受けることになるのだった。

 

 ちなみに太刀川から加古のチャーハンのことを聴いていた烏丸は少しだけ慰めてくれたものの、「そもそもチャーハン食べる前に一度ご飯がいらないこと連絡したほうがよかったんじゃないすか?」という正論を叩きつけられたという。

 




後半は書いててすごく楽しかった


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昴とオペレーター女子たち

気が付けばお気に入りが90件超えて、評価バーにも色がついてました。ありがとうございます!これからも頑張りますので応援よろしくお願いします!


今日はオペレーターの合同訓練だ。仮想戦闘のオペを行って機器操作や情報分析、並列処理などの能力を測り、オペレーターとしてのパラメーターを計測するのである。ただしオペレーターは戦闘員とは異なりC級やB級といったランクは存在しないため、結果が悪かったからといって後に大きく響いたりすることはない。とはいえ能力が高いオペレーターほど部隊にスカウトされたり、上層部から登用されたりすることもあるため大事な訓練であることに変わりはない。

 ちなみに俺は将来的に妹と部隊を結成することがほぼ決まっているためここでの結果が悪くてもそこまで影響はないがもちろん手を抜くつもりはない。俺の今までの成果を試すいい機会だ。全力で頑張ろう。

 

  

 

 

「まあ、こんなものだよな」

 

 結果は全体の真ん中より少し上といったところ。この訓練は新人からベテランまで、全てのオペレーターに行われるものだ。オペレーターに転向して約三か月が過ぎた今の俺の実力を考えれば中々いいのではないだろうか?そう考えると月見さんには頭が上がらない。

 

「桐山君おつかれ~」

「あ、おつかれ国近さん」

 

 そんな昴に声をかけてきたのは太刀川隊オペレーター、国近だ。

 

「どうだった?桐山君?」

「俺は真ん中くらいだよ。国近さんは?」

「ふふ~ん、私は上から五番目くらいだよ~」

「おお、すげえ」

 

 流石あの太刀川隊のオペレーターだ。オペレーターを始めた時期は俺と同じくらいなのにすごいなぁ

 

「国近さん相変わらずやるね」

「私はもともとこういうの得意だからねえ。ゲーム大好きだからさ」

「ゲーム得意ならオペうまくなるの?」

「知らないけどなるんじゃないかな。」

「マジか、俺もゲームやろうかな」

「ゲームやったことないの?」

「小さい頃はやってたけど家倒壊してからここ一年以上はやってないよ。」

「じゃあ後でうちの作戦室で一緒に遊ぶ?」

「いいのか?」

「私も遊び相手ほしいからね」

「じゃあ行かせてもらいます」

「やったね」

 

 そんな話をしてるとまた別の人が来た

 

「お!国近さん、桐山さんお疲れ様です」

「お、宇佐美ちゃんお疲れ~」

「宇佐美さんお疲れ様」

 

 二人に声をかけてきたのは後の風間隊オペレーター、そして玉狛支部のオペレーターとなる宇佐美栞だった。

 

「桐山さんお久しぶりです!そろそろ眼鏡つける気になってくれましたか!?」

「何度も言うけど俺別に目悪くないから」

「が~ん…桐山さん顔いいから絶対似合うのにぃ…!」

 

 宇佐美のオペの腕も非常に大したものなのだが、昴と顔を合わせるたびに眼鏡を勧めるのが難点であった。

 

「宇佐美ちゃん、私も似合いそう?」

「もちろん!国近さんも眼鏡つけますかな?」

「やった~、でも私も別に目悪くないからいいや」

「上げて落とされた…!」

 

 そんな話をしているうちに人が一人また一人と増えていき気が付けば8人も集まっていた。

 

「そういえばみんなもう所属する部隊は決まってきた?」

 

 そう尋ねたのは昴の師、月見であった。ちなみに合同訓練では余裕のトップだった

 

「私はもう太刀川隊に所属してるからねえ~」

「私も嵐山隊にいますので」

 

 そう言ったのは国近と嵐山隊のオペレーター綾辻であった

 

「私は諏訪さんとつつみんがもうすぐ部隊作るからそこに入る予定でーす」

「私も風間さんに誘われてるけど、まだ風間さんのお眼鏡にかなう隊員がいないみたいだから部隊所属になるのはもう少し先かな~」

 

 そう答えたのは宇佐美と後の諏訪隊オペレーター小佐野である

 

「私はまだどこにも所属する気はないです。まだオペレーターとしての実力も足りないので」

「私ももう少し先になりそうです」

 

 そう答えた二人は後の荒船隊オペレーター加賀美と後の2代目風間隊オペレーターみかみかこと三上であった

 

「俺は1年後にボーダーに入隊する妹とチーム組むつもりなんでまだまだ先ですね」

 

 そして最後に返答したのは昴であった。

 

「へえ、桐山先輩の妹さんボーダーに入るんですね」

「ああ、俺の指揮で戦うのも面白そうとか言ってたよ」

「じゃあ桐山君それまでにもっと腕あげないといけないねえ」

「だな。オペレーター兼隊長も務めるわけだし頑張らないといけねえわ」

「もちろん。オペレーターも隊長も遂行できるようにもっと鍛えてあげないとね」

「はは…お手柔らかにお願いします月見さん…」

 

 そんな会話を聞いていた小佐野は昴にこう尋ねた

 

「それにしても桐山先輩、こうやって女の子に囲まれてるのに全然緊張してませんよねー」

 

 元モデルの小佐野が話す男子は大抵が緊張してあたふたしながら話すので小佐野は不思議に感じていた。増してや自分だけでなくこんなにたくさんの女の子と一緒にいるのに。

 余談だが後にボーダーに入隊してB級へと昇格する男性のほとんどが別に小佐野相手でもそこまで緊張せずに話せるような人たちばかりなのはまた別の話である

 

「ああそうだな、う~ん…女の子に話しかけられるのは別に慣れてるからかなあ」

 

 一瞬空気が凍り付く

 

「桐山君中々すごいこと言うねえ。こんなにかわいい子たちに囲まれてるのに」

「でも学校でも数人の女の子に話しかけられるのはよくあるし」

「ほう…よっぽどモテるんだねえ」

 

 国近が声の高さを1トーン下げてそう尋ねた

 

「はは、そんなことないよ。俺全然モテねえし」

 

 そんな国近の変化にも気づかず昴はそう返した。

 

「でもよく話しかけられてるんですよね…?」

「ああ、まあ話しかけられはするよ」

 

 昴は一呼吸置いてこう答えた

 

「烏丸君の好きな人知ってる?…ってね」

 

 ああ…女性陣達は若干納得したような表情でうなずいた

 

「京介の好きな相手とか、好きな食べ物だとか、普段どんな感じだとかよく聞かれるもんだよ」

「烏丸先輩ボーダー外でも人気なんだ…」

「むしろ人の多さで言えば学校の方が上だしね」

「ま、あいつならモテて当然じゃない?なんてったって京介だし」

 

 昴は軽めの口調でそう答える

 

「桐山さん、そんな風に話しかけられて嫌じゃないんですか?」

 

 そう尋ねたのは綾辻だ。烏丸同様ボーダー内外で高い人気を誇る彼女だからこそ何か思うところがあったのかもしれない

 

「いんや?別に。わざわざそうやって俺に話しかけるのも結構勇気いると思うしな」

 

 可能な限りなら応援してやりたいよ、昴はそう答えた

 

「ま、京介に迷惑かけない程度での話だけどな」

「ほほう、桐山先輩中々男前ですなぁ。とりまるくんや女の子のことそんなに気にかけて」

「お、そうか?」

「そこで眼鏡を付けたらさらに男前になると思うのですが!」

「結局そこに行きつくんかい」

 

 宇佐美の言葉を適当にあしらいつつ、昴は続けた

 

「ま、悪いことばかりじゃないよ。世話になったからってバレンタインにはチョコくれたりしたし」

「やっぱモテてるじゃーん」

「いやいや、義理だよ。その子たちが好きなのは京介だったんだから。でも最近の義理チョコって結構豪華だったりするんだよなあ。普段あんま食べないから有難いよ。」

(((ん…?)))

「義理で豪華だから気兼ねなく妹や弟にも分けてあげられるしな」

(((うわあ…)))

 

 それほんとに義理か?さりげなくえげつないことやってるなあ…何人かの女性陣はそんなことを思ったとか

 そんなわけで何人かの女性陣に怒ってるような憐れんでるような不思議な目を向けられたことを昴は不思議に思いつつ、その日の訓練は終了するのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

後日

 

「…ってことがあったんだけどとりまるくんどう思う?」

「あの人が鈍感なのは昔からなんで」

「やっぱりそうか~」

「後相談だったら俺の方にも結構来てたんすよ」

「ん?」

「桐山君が全然意識してくれないとかです。正直俺に言われても困るんすけどね。一度思い込んだら中々変わりませんからあの先輩は」

「…とりまるくんもとりまるくんで大変なんだね~」

 

 昴に思いを寄せる女性に同情しつつ国近と烏丸はそんな会話を続けるのだった。




結構難産でした。あんまり大人数にせずに絞ったほうがよかったかもしれない。


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昴と東隊

お気に入り100件突破しました!ありがとうございます!


昴が東と月見の下で師事してから約半年が過ぎた。半年も指導を受けた甲斐があってか気が付けば昴のオペの腕はA級部隊のオペレーターと比較しても遜色ないものとなっていた。

 

「気が付けばもう半年かぁ…」

 

 色んなことがあったなぁと昴は考え込む

 オペレーターの修業はもちろん、個人・B級ランク戦を見ての研究も相変わらず続けていた。いずれ自分で作戦を組むとなったらきっと役に立つからだ。他にも加古さんの炒飯を秀次やたまに二宮さんも巻き込みながら食べたり、(余談だが加古さんの炒飯をよく食べる仲で最近堤さんと仲良くなった)テスト前になって急に泣きついてきた国近さんと一緒にテスト勉強したり(甘い雰囲気?国近さんの赤点回避に必死でそんなのこれっぽっちもなかったよ?)…あのときは月見さんも太刀川さんの面倒見るのに必死そうだったなあ…二宮さんも月見さんに頼まれて少し手伝ったらしいけど、「もう二度と手伝わん」って死ぬほど不機嫌そうな顔で言ってたっけ…

 

(なんか半分くらいオペレーター関係ないな)

 

まあいいや

 月見さんと東さんの指導は相変わらず厳しいものだったが辞めたいと思ったことは一度もなかった。着実に自分の力が増しているのがよくわかるからだ。指導は厳しいけど普段は優しいし、東さんがたまに連れていってくれる焼肉はとてもうまい。

 

 二宮さんとは防衛任務以来、普通に話せるようになった。まあそこまで話す機会が多いわけでもないけど、それでも嬉しいものは嬉しい。後話し始めてわかった、あの人割と天然だ。そういうところが加古さんに面白がられてるんだろうけど本人は気づいてない。

 

 加古さんはあの防衛任務からよく話すようになった。後から聞いた話だが、あの日俺が気絶してる間に妹と電話で話したらしく、それ以来俺の妹が気に入ったようでその後もたびたび連絡してるようだ。普段はいい人なのだがあの炒飯だけはできれば勘弁してほしい。犠牲…人数を増やせば俺のサイドエフェクトで回避できる可能性が上がるのだが、そんなことに友達を巻き込むわけにはいかないので毎回ただの運ゲーと化している。ただ太刀川さんだけは一度無理やり押し付けられたのであの人だけは例外。巻き込めるときは巻き込んでます。

 

 秀次は相変わらずといったところ。ひたすらネイバー撲滅を掲げている。少し視野が狭くなってるんじゃないかとは思うが、それが今の秀次の生きる目的になってるわけだし、止める気はない。生き方は人それぞれだ。

 

 まあそんなこんなで今日も過ごしている。そういえばもう一つ大事なことがあった。今期のランク戦で東隊が目標としていたA級1位の座がそこまで迫っているのだ。明日は最終ROUND、ここで勝利すれば東隊はA級1位になれる。今まで東隊のみなさんの努力は俺もよく見てきたし、この部隊ならA級1位も夢ではないと思っていたがいざその時が迫ると俺も興奮してしまう。もちろん明日は全力で応援するつもりだ。

 

 

 

 

 そんなことを考えていたのだが

「桐山君、明日の最終ROUNDはあなたがオペしなさい」

「はいぃ!!??」

 

 流石にこれは予想できなかった

 

「いやいや!いやいやいやいやいや!!!明日の最終ROUNDは東隊のA級1位がかかってる戦いですよね!?それをなんで俺がオペ!?」

 

 月見さんにそう反論する。当然だ、明日のランク戦は今までのランク戦の一種の集大成ともいえるものだ。そんな大事なランク戦を俺がオペするなんて考えただけでも吐きそうになる

 

「あなたの今までの成果を試すためよ。こんないい機会はないわ」

 

 月見さんはそう返した。いやいやいや

 

「それに前から東さんと話し合ってたのよ。もし東隊の最後の試合の時には卒業試験代わりに桐山君にオペしてもらおうと思ってね」

 

ん?最後?卒業試験?

 

「あの最後って…どういう意味ですか?」

 

俺の質問に東さんが答えた。

 

「ああ最初から決めてたことなんだが、東隊はA級1位になったら解散する予定なんだ」

「え…?」

 

 東隊が解散?俺はしばらく呆然としてしまう

 

「どうしてですか?」

「もともとこの部隊は忍田さんから見込みのある隊員を鍛えるために結成された部隊なんだ。だから目標のA級1位を取ったら解散して、それぞれの部隊をつくることになってるんだよ」

 

 そういえば秀次や加古さんも言っていた…いずれは自分たちの部隊を作る予定だって

 

「だからこの最終ROUNDが卒業試験みたいなものだ。3人にとっても、お前にとってもな」

 

 東さんは昴の目をみてそういった

 

「でも…」

 

 渋る昴に二宮が迫った

 

「自信がないならやるな。邪魔になるだけだ。」

「二宮さん…」

「前に言ったはずだ。精進しろ、行動で示せ、とな。あれ以来お前も腕が上がってると思っていたが…俺の見込み違いだったか?」

 

 二宮の言葉に加古が続く

 

「二宮君はああ言ってるけど桐山君はどう思ってるの?私はあなたの努力を見てきたからそうは思わないわ。二宮君も見る目がないわね」

「おい加古、茶化すな」

「加古さん…」

 

最後に続いたのは三輪だった

 

「心配するな昴、お前ならやれる。オペレーターに転向して半年経ったが、お前の努力は俺も見てきたし、よくやってる。その力を示すいい機会じゃないか。見せてくれ、お前の腕を」

「秀次…」

 

 ここまで言われたら俺も引き下がるわけにはいかない

 

「…わかりました、俺やります!必ずみなさんを勝利に導いて見せます!!」

「はは、頼もしいな昴。それじゃあ明日は頼むぞ」

 

 ここまで期待されてるんだ。答えないわけにはいかない。必ずやってみせる!

 

 

 

翌日

 

「そろそろ始まるな」

 

 いよいよ本番が迫る。最終ROUNDの相手は太刀川隊だ。リーダーのNo.1アタッカー太刀川慶が率いるボーダー屈指の精鋭部隊。太刀川隊と東隊は既に何度か戦っており、勝率は東隊の方が上だがそれでも油断はできない。なにせ太刀川隊は太刀川が東隊と戦ってみたくて作った部隊だ。

 その勢いは東隊に迫るものがある上、もし太刀川隊が破れれば東隊は解散してしまう。戦闘馬鹿の太刀川にとってそれは何としても避けたい展開だろう。今日の戦いは今までの戦いの中で最も激しいものになる、それは両部隊とも認識していた

 

「みんな、これがおそらく東隊としての最後の戦いになるだろう。相手は強いがこれに勝てばA級1位だ。無事勝利してみんなでうまい焼肉を食いに行こうな」

 

東が隊員たちにそう宣言した

 

「もちろんです。誰が相手でも俺が撃ち落とします」

「この部隊での最後の戦いと思うと少し寂しいけど、勝って華々しく終わらせましょう」

「はい、必ず勝利します」

 

二宮、加古、三輪の3人は決意を胸に秘めそう答えた

 

「昴、お前にとっては最初で最後の戦いになってしまうが…いけるか?」

「はい、もちろんです!皆さんの力ならきっと勝利できます!なので俺も皆さんが勝利できるよう全力でオペさせていただきます!!!」

 

昴は、絶対に皆さんを勝利に導く!強い決意を胸に秘め東の問いに答えるのだった

 

「よし!時間だ!行くぞ!!」

 

「「「「はい!!!」」」」

 

 東隊最後の戦いが始まる

 

 




こんな風に終わらせましたが結局戦闘は書けないのでダイジェスト方式になるかと思います…
後ランク戦が一部隊vs一部隊なのはこの頃はまだボーダーの隊員数自体が少ないため、それに伴ってチームも少ないのでは?と考えたからです。

メタ的にいえばこの頃のA級部隊が東隊と太刀川隊くらいしか思い浮かばないからです…
風間隊はまだ結成してないし、嵐山隊はこの頃まだB級みたいだし…


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昴と東隊②

総合pt200超えました。ありがとうございます!
ほぼダイジェストですがヒイヒイ言いながら戦闘描写書いてみました。
ワートリ有識者の突っ込みはいくらでも受け付けます。



東隊と太刀川隊によるランク戦最終ROUND。その様子を一目見ようと会場には何人かのボーダー隊員が見物に来ていた。

 

「嵐山、お前たちも来ていたか」

「よお嵐山、久しぶりだな」

「風間さん!諏訪さん!お二人も観に来たんですね!」

 

 嵐山に声をかけたのは風間と諏訪の二人だった。後ろには堤と小佐野、宇佐美もついてきている

 

「おめえらも全員で見に来たんだな」

「はい、なんといっても東隊と太刀川隊のランク戦ですから!風間さんたちも試合を見にに来たんですよね」

 

 そういう嵐山も隊のメンバーである時枝、佐鳥、柿崎、綾辻と全員で試合の見物にきていた

 

「東隊の試合が見られるのもこれが最後の試合になるかもしれないからな。見に来ないわけにはいかない」

「え?最後の試合ってどういうことですか?」

「ああ、東隊はA級1位を取ると解散するそうだ。だからこの試合で東隊が勝利すれば解散することになる」

「ええええ!!??聞いてないですよ!?」

 

 風間の返答に佐鳥は思わず椅子から転げ落ちてしまう

 

「東隊は忍田本部長に二宮、加古、三輪の3人を鍛えるために作られた部隊だからな。目標のA級1位を取ったら解散して各々で部隊を作るそうだ」

「そうなんですか…驚いたな」

 

 風間の答えに柿崎をはじめとする嵐山隊の面々も驚きを隠せない

 

「ただそれは今日の試合に勝てばの話だからな。東隊解散の話は太刀川も知ってるだろうし、今日の太刀川隊はやる気満々だろうぜ」

「だね。俺の予知でもどちらが勝つか、まだはっきりとした未来は見えないな」

 

 諏訪の言葉に返答したのは迅だった

 

「なんだ迅、お前も来てたのか」

「そりゃ来るでしょ。こんな面白そうな試合見に来ないわけにはいかないよ。あ、風間さんもぼんち揚げ食べる?」

 

 迅は風間をはじめとした面々にぼんち揚げを勧めながらそう答えた

 

「でも確かに諏訪さんの言う通り、東隊の解散がかかった試合と考えれば結果はまだわかりませんね。戦うのが大好きな太刀川さんがそれを受け入れるのは考えずらいですし」ボリボリ

「でも東隊が負けるのも考えずらいよなあ。なんてったってあの東さんが率いてる部隊なんだし」ボリボリ

 

 時枝と佐鳥はぼんち揚げを食べながら各々の意見を述べる。東隊が負けるのは考えづらいが、東隊の解散を嫌う太刀川のことを考えれば五分五分といったところだろうか

 

「んじゃ、どっちが勝つか賭けでもしてみるか?」

「いつもの賭けですか諏訪さん」

「おうよ、堤お前はどう思う?」

「私はもちろん東隊ね」

「へえ自信満々だな…って月見ぃ!?」

 

 諏訪達の会話に突如割り込んだ月見はそう答えた

 

「あれ、月見さんなんでここにいるんですか?」

「そうですよ!もうすぐ試合が始まりますよ!?」

 

 小佐野はマイペースに、綾辻は慌てた様子で尋ねた

 

「今日の東隊のオペレーターは私じゃないわ。桐山君よ」

「え!桐山先輩がですか!?」

 

 綾辻が驚いた表情でそう返した

 

「おー桐山先輩すごーい」

「まさか東隊のオペレーターを務めるとはね…!」

「二人とも落ち着きすぎじゃない!?」

 

 いつも通りの小佐野と宇佐美にただ一人綾辻だけは慌てた様子だ

 

「桐山が…!そうか、この勝負はあいつの力を試す場でもあるというわけか」

「ご名答よ嵐山君」

「最終戦でオペを任せるとは月見も大胆なことをするな」

「彼の力を試すためですから、これくらいはやらないと」

「相変わらずスパルタだな月見…」

 

 柿崎は少し引いた表情で答える

 

「お、そろそろ始まるようだぜ」

 

そんな話をしているといよいよ転送が開始された

 

「さあ、見せてくれよ昴…お前がどれだけ成長したかを」

 

 迅は期待に満ちた表情でそうつぶやいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!太刀川が緊急脱出した!」

「てことは…!」

「東隊の勝利か!!」

 

 太刀川がベイルアウトしたことにより決着はついた。ステージに残ったのは東と二宮の二人となり、東隊の勝利が確定したのだった

 

「おお!やっぱり東隊はすげえ!!」

「はあ…!みてるこっちも疲れるすごい試合だったな」

「ですね。最後までどうなるかわからない、いい試合でした」

「流石は東さんたちだな。」

 

 嵐山隊は三者三様の反応を見せ

 

「かーっ!やっぱどっちもすげえなぁ。マジで最後までどうなるかわからなかったぜ」

「ああ太刀川隊も見事なものだったが、それを打ち破った東隊は流石だな」

「だな。にしてもこりゃ試合見るだけじゃ足りねえな。それぞれのチームの話も聞きてえぜ」

 

 風間と諏訪も東隊への称賛を述べる

 

「はー、すごい試合だったね」

「うんうん!こんな試合もう見れないかもだよ!!」

「月見さん、桐山先輩はどうでしたか?」

「そうね…まずみんなの話も聞きたいし、ここに呼んじゃいましょうか」

 

 そういうと月見は太刀川と東、二人を呼び出すのだった

 

 

数分後、太刀川隊と東隊が姿を現すのだった

 

「東さん!太刀川さん!それにみなさん!お疲れ様です!!すごい試合でした!!!」

 

 まず二部隊を称賛したのは嵐山だ

 

「ああ、ありがとな嵐山」

「東さん!やっぱ東さんの狙撃はすごいですね!!東さんもツインスナイプ一緒に練習しましょうよ!!」

「はは、それは遠慮するよ佐鳥」

 

「よお二宮、おめえ今回は危なかったな。危うく何もできずに落ちるところだったじゃねえか」

「…出水の新技に対応できなかった俺のミスです。桐山に助けられました」

 

 諏訪の問いに二宮は苦い表情で答えた

 

「あ、やっぱり俺の合成弾を迎撃せずにシールド張って逃げたのは桐山さんの判断だった?うちの部隊以外には見せてない初見の技だったのになぁ」

「ていうかオペするのが桐山君だなんて聞いてないんだけど!なんで教えてくれなかったの!!」

「いやぁ…直前まで隠しておいたほうが動揺を誘えるかと思って…ごめんね?国近さん」

「となると出水先輩の合成弾を初見で防げたのはやっぱり昴さんのサイドエフェクトすか?」

「ああ、そうだよ」

 

 試合序盤、最初に対峙したのは出水と二宮だった。二宮はいつも通りの撃ち合いを始めようとしたのだが、その瞬間嫌な予感を感じた昴はシールドを張りながら退避するよう二宮に進言したのだ。昴の予感は的中。出水の放った弾は通常の弾ではなくメイントリガーとサブトリガー、2つにセットした弾トリガーを合成した合成弾であった。撃ち合いを始めていればおそらく二宮は火力負けして早々にベイルアウトしていただろう。ただしフルガードでも防ぎきれず開始早々二宮は痛手を負うことになってしまった

 

(ただ二宮さんが俺の言うことに素直に応じてくれたのは意外だったなぁ)

 

 退避を進言した際、昴は根拠を尋ねられたが昴はサイドエフェクトが働いたからと曖昧な理由でしか説明できず二宮には通じないかと思ったが、二宮は意外にも昴の指示におとなしく従い退避を選択した

 

「あのとき出水はかなり派手にやったな。おかげで東隊と太刀川隊のメンバー双方が早めの合流となった。」

「どちらかといえば幸運だったのは東隊のほうでしたね。加古先輩と二宮先輩が先に合流できたおかげで出水先輩と撃ち合いに成功した」

 

 風間と時枝はそう述べる

 その後加古と合流した二宮は加古の張るシールドの下、出水との撃ち合いを始めた。二対一となれば出水に合成弾を生成する暇もできず逆に出水が追いつめられることとなった

 

「合成弾はすぐに撃てるもんでもないからなー。二宮さんを俺が先に見つけたときはほんとに幸運だったんだけどな」

「でも驚いたわ、合流したら二宮君がいきなり被弾してるんだもの。そのうえ合流早々いきなりシールド張れって言いだすんだから」

「あの時は出水の合成弾の仕組みもわからなかったからな。加古のフルシールドと俺のシールドがあれば防ぎきれると思ったからだ」

「強引すぎるのよ二宮君は。というか二宮君がフルシールド張って私が撃ってもよかったじゃない」

「…そんな暇はなかったしトリオンでいえば俺のほうが上だからだ」

「相変わらずのトリオンバカねえ」

「…ちっ」

 

「しかし三輪のほうはかなり危なかったよな。太刀川さんと烏丸二人の相手をするところだったんだからな」

「ほんとだよな~三輪。あれは流石に落とせると思ったんだがな」

「俺も正直終わりかと思ったが…昴の指示に助けられた」

 

 柿崎と太刀川の問いに三輪が答える

 出水と二宮が撃ち合う一方、合流した太刀川と烏丸は三輪と遭遇。太刀川と烏丸二人相手に生き残れる隊員はそうそういない。そんな三輪に出された指示は東のもとへの退避だった。実は東は三輪とそう遠くない位置にいたのだ。三輪はシールドと銃で応戦しつつ東の下へ退避したのだ

 

「ただの銃なら俺も防ぎきれたんだけどなぁ」

「まさか鉛弾とはな。あれは驚かされた」

 

三輪があと一歩まで追い詰められたときにはじめて鉛弾を撃った。通常のシールドでガードした烏丸は鉛弾をうけダウン、その隙を逃さず東に狙撃されベイルアウトとなった。

 

「でもあれ最初から鉛弾撃ってれば三輪くんも逃げきれたんじゃないの?」

 

 小佐野はそう尋ねる

実際そのあと三輪は太刀川との一対一に敗れベイルアウトとなった

 

「それは厳しいだろうな。鉛弾で動きを止めれるのはおそらくどちらか一人だろうから秀次が二人と対峙した時点で秀次の敗北はほぼ確実だった」

「言い方は悪いがあの時点で秀次を捨て駒にするのは俺も東さんも意見は一致した」

 

 東と昴はそう答える

 一度見た技をもう一度受けるほど太刀川隊は甘くない。鉛弾で止められるのが一人だけな以上、早々に鉛弾を撃っていれば二人は鉛弾を受けた部分を切断してすぐに三輪を追っていただろう。ギリギリまで被弾しながらも東の下へ二人を誘導できた三輪の作戦勝ちである

 

「あの後太刀川さんは東さんを追いかけるかと思ったけど、出水くんの方に援護に向かったのは意外だったなあ」

「そうでもない。確かに東さんを放置しておくのは非常に厄介だがあの時点で出水は押し負け始めていた。おそらく合成弾とやらがすぐに撃てるものではないと気付いたんだろう。そのうえ逃げに徹する東さんを追うのは中々難しいことだ。仮に東さんを倒せてもその時に出水が倒れていてはどのみち負けだ」

 

 宇佐美の言葉に返答したのは風間だ

 

「京介が残ってれば分かれていけたんだけどなあ。三輪にあそこまで粘られたのが想定外だったぜ」

「最終戦で負けるわけにもいかないので」

「太刀川が出水の下に到着したら今度は加古ちゃんと太刀川、二宮と出水で戦闘が始まったわけだけど…」

「いくら加古でもサシのやりあいなら太刀川相手はきついわな。加古もそれがわかってるから勝つってよりはできるだけ粘る方にシフトしたんだろうけどよ」

「そうね、諏訪さんの言うとおりだわ」

「そうなると二宮さんと出水くんどちらが勝つかで勝敗が分かれたわけですね」

 

そう言ったのは綾辻だ

 

「だなぁ、二宮さんのトリオンもある程度漏出してたし勝てるかと思ったんだが…」

「ま、こいつの反則トリオンじゃシンプルな撃ち合いは厳しいわな」

「当然だ」

 

 加古がスコーピオンで太刀川と交戦をはじめると、出水の合成弾が自由に撃てるものではないことに気づき始めていた二宮はフルアタックに移行。圧倒的なトリオン量で出水をベイルアウトさせたのだった

 

「でもよく気づきましたね二宮さん、俺の合成弾がすぐ撃てないこと」

「あれだけ撃ち合っていれば大体気づく。それに」

「それに?」

「…昴のサイドエフェクトも発動しなかった。サイドエフェクト抜きにしても合成弾がすぐ撃てるものではないことには気づいたみたいだがな」

「…ん?昴?」

 

 あれ?二宮さん俺のこと名前で呼んだ?

 

「あの…二宮さん?俺の名前…?」

「なんだ、秀次のことも名前で呼んでるんだ。おかしいことでもないだろう」

「あ、はい」

 

 二宮さんがデレた?

 

「あら、みて三輪君。二宮君が桐山君にデレてるわ」

「…そうですね」

 

 加古だけでなく三輪も驚きを隠せないようだ

 

「でも二宮がシールド捨ててフルアタックに移行したのはちょっと驚いたな。加古も太刀川にいつやられてもおかしくねえのに」

「加古もすぐやられたりはしないと思っていたので」

「あら、私にもデレたの?名前で呼んでくれてもいいのよ?」

「うるさい黙れ」

 

 その後加古と太刀川の交戦は加古が防戦一方だったが

 

「まさか加古さんがハウンドの置き弾をしていたとは…」

「ああ、しかも二宮さんと合流する前だろ…」

 

嵐山と柿崎は驚きの表情でそうつぶやく

 

「あのハウンドは最初から作戦だったんですか?」

「いいえ、桐山君の案よ」

「桐山、どうしてハウンドの置き弾を提案したんだ?」

「んー…半分は勘です。もう半分は太刀川さんとの交戦に役立つと思って」

 

 嵐山の問いに昴は答えた

加古は太刀川をハウンドが当たる位置に誘導する形で粘っていたのだ。二宮と出水の撃ち合いで瓦礫も多くなっていたため太刀川もギリギリまで気づかなかったのだ。ハウンドが放たれる直前で気づいた太刀川はガード、しかし反応が少し遅れたために一部に被弾してしまった。あわよくばそのまま太刀川を仕留めたかったがそこまではできず太刀川に敗れた加古はベイルアウト。その後お互いトリオンの漏出が増してきた中、太刀川と二宮最後の交戦となったが

 

「ま、それだけ時間があれば東さんが到着するにゃ充分だわな」

「だよな~はあ、勝ちたかったぜ…」

 

 最後には狙撃位置にたどり着いた東の狙撃と二宮の最後のフルアタックにより太刀川はベイルアウト。東隊の勝利となったのだ。

 

「これで東隊はA級1位入り決定!目標達成ってわけですね!」

「ああ、そうだな。お疲れさん」

 

 昴の言葉に東が答えた

 

「おめでとうございます東さん。二宮、加古、三輪、それに桐山もよくやったな」

「みんなすごいですよ!おめでとうございます!」

「みんなおめでとさん。よくやったな」

「みなさんおめでとうございます!!」

「おめでとうございます!桐山さんもすごいねー」

 

 風間、宇佐美、諏訪、堤、小佐野が祝福の言葉を並べる

 

「東隊の皆さんおめでとうございます!!俺達も皆さんのように精進していきます!!!」

「本当に皆さんすごいです。心から祝福します」

「みんなおめでとうございます!!俺もうすごく感動しましたよ!!!」

「俺も感動しました!本当におめでとうございます!」

「皆さんおめでとうございます!桐山先輩もお疲れさまでした」

 

 嵐山、時枝、佐鳥、柿崎、綾辻と嵐山隊の面々も祝福の言葉を並べる

 

「はあ、これで終わりかあ…やっぱり俺たちが勝ち越すまで隊続けてくれません?」

「いい加減あきらめてくださいよ太刀川さん…でもやっぱ俺も悔しいなあ」

「俺もです。でも解散後も皆さん新しい部隊作るらしいですしその時はもう負けません」

「はっ!そうじゃねえか!!はは、次はもう負けねえぞ!!」

「私ももうみんなが負けるのは見たくないし、それに桐山君!次に桐山君の部隊と戦うときは私も負けないからね!!」

 

 太刀川隊の面々ももう負けないことを誓いつつ、東隊の面々を祝うのだった

 

「桐山君」

「あ、月見さん」

 

 月見が昴へ声をかけた

 

「あの…どうでした?月見さん」

「そうねぇ・・・」

 

 月見の次の言葉を昴はドキドキしながら待つ。そんな昴に月見は笑顔でこう言った

 

「よくやったわ桐山君。もう文句なしの立派なオペレーターよ。卒業試験合格ね」

「…!!ありがとうございます!!!」

 

 月見の言葉に昴はとびっきりの笑顔で感謝を述べた

 

「ああ、いいオペだった。もう俺が教えることは何もないな。これからは自分で学んで高めていけ」

「はい!!東さん!!」

 

「これからも腐らずに精進していけよ。それから…今日のオペは助かった。礼を言う昴」

「…!はい!もちろんです!」

 

「ほんと立派になったわねえ。やっぱり私の作る部隊に来ない?」

「加古さん…お気持ちは嬉しいですがごめんなさい。でも、お世話になりました!!」

「ふふ、残念。いつでも待ってるわよ?」

 

「昴…迅の予知とは言えあの時お前をオペレーターに誘ってよかった。お前はやっぱりすごいな」

「何言ってるんだよ、秀次がいなかったら今の俺はここにいないんだろうし秀次にはほんと感謝してるよ。ありがとな」

「…ああ、俺の方こそ礼を言う。今日のオペはよかった。ありがとう」

 

「よし!それじゃあこの後は打ち上げだ!みんなで焼肉に行こうか。もちろん俺のおごりだ。」

 

 東さんがそう言った。久しぶりのみんなで焼肉だ。楽しみだなぁ

 

「昴、お疲れさん」

「あ、迅さん」

 

 そんな昴に迅が声をかけた

 

「今日の試合見てたぞ。お前も成長したなぁ」

「迅さんの予知のおかげですよ。こうして俺がオペレーターになれたのは」

「そんなことないさ。お前の努力の成果だよ。本当によく頑張った」

「ありがとうございます迅さん」

 

 迅の問いに笑顔でお礼を言った昴は顔を引き締めて迅に尋ねた

 

「…あの迅さん、一つ聞いていいですか?」

「なんだい?」

「俺一つ不思議に思ってることがあって…1年前の俺はなんの疑問も持ってなかったけど、やっぱり俺のトリオンで戦闘って無理ですよね。それなのに俺は戦闘員として一度は戦闘員として合格できた」

 

 戦闘員として合格した時には運がいいなぁと軽く考えていたが、オペレーターに転向した今では自分程度の実力で合格できたおかしさがよくわかる。というか自分程度で合格できるならボーダーの隊員数はもっと多いだろう

 

「・・・」

「それにその後オペレーターになったのも迅さんの予知からだ。半年前は不思議に思わなかったけど…もしかして迅さん何か知ってますか?俺が戦闘員になれた理由とか…」

「それを知ってどうするんだ?」

「別にどうもしませんよ。そもそもこうしてオペレーターになれたのも迅さんの予知があったおかげですし」

 

 実際迅の力で合格してたとしても昴は迅を責めるつもりはなかった。むしろ仮に本当はボーダーに入れなかったところを迅のおかげで入れたのだとしたら感謝するつもりだった

 

「…そうか。悪いけどまだ話せないかな」

「…やっぱり何か知ってるんですね」

「ああ、ただ一つ言えるとしたら…お前が戦闘員として経験を積んだことは無駄にはならない。全ては最善の未来につながってるんだ」

「…わかりました。そこまで言うならもうこれ以上は聞きません。」

 

迅のいう最善の未来。それがどんなものなのかはわからないが今までずっと未来を見てきた迅が最善というものだ。きっと悪い未来にはならないだろう。ましてや自分の力が最善の未来に繋がっていると考えると昴は嬉しさを感じる

 

「それじゃあ失礼しますね。」

「ああ、お疲れ様昴」

 

 迅との会話を終え、去っていく昴の背中を見て迅は呟いた。

 

「…大丈夫、未来はいい方に向かってるんだ」

 

 

 

 

 

 

「やはり、昴が戦闘員になれたのはお前が関わってるのか…!迅…!」

 

 昴と迅の話を三輪が影から聞いてることに昴は気づかなかった。

 

 

 

 その後東たちは焼肉屋で打ち上げを行いその日の勝利を祝い、今後のそれぞれのボーダーとしての門出を祝しながら解散。その帰り道のこと

 

「おい昴」

「どうしたんですか?二宮さん?」

 

 帰り道がたまたま一緒になった昴に二宮が話しかけた。東、月見、加古、三輪の四人は既に別の道で帰っている

 

「お前、これからはどうするんだ?」

「う~ん、とりあえずしばらくはフリーですね」

「部隊には所属しないのか?」

「まあ少なくとも半年以上はフリーですね。妹が入隊してからはわかりませんが」

 

 昴の妹、綾香が入隊するのは少なくとも半年は先、家事の忙しさなどを考えればさらに先になるかもしれない。

 おれもそろそろバイト始めようかな?オペの修行も終わって余裕もできてきたし…昴はそんなことも考え始めていた

 

「そうか」

 

 昴の答えに二宮は一言返しその話は終わったのだが…

 

 

 

 

 

 

 

1週間後、昴の下に1通のメールが届いた

『桐山昴、君に新たに設立された部隊、二宮隊の入隊を命じる

 忍田 雅史』

 

「・・・・・・・・・・・・はい?」

 




氷見さんはちゃんと出るのでご安心を
やっぱ俺に戦闘描写はうまく描けねえ…
とりあえずしばらく戦闘は書きません。


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昴と二宮隊

流石に前回は詰め込みすぎたし少々雑でした…反省してます…
前話の後半を少し加筆しましたのでよければそちらもどうぞ


「忍田本部長からメールで二宮隊のオペレーターに任命されたんだけど国近さん何か知らない?」

「逆になんで私が知ってると思ったの?」

 

 太刀川隊の作戦室で太刀川隊の面々とスモモ鉄というスゴロクゲームをしながら国近に尋ねた。以前の合同訓練後、昴はたびたび国近とゲームで遊ぶ仲となっていた。今は国近の他に出水、烏丸と共に遊んでいる

 

「ていうかなんでそれ俺たちのところに聞きにきたんすか?大人しく二宮さんのところに聞きにいけばいいじゃないすか」

「いや余りにも突然すぎてちょっと心の準備が必要だからまず遊びに…じゃなくて何か知ってるか聞きに来た」

「ただ遊びたかっただけでは?」

 

 京介のやつ相変わらず的確なことを言うな

 

「それなら忍田本部長のところに事情を聞きに行けばいいじゃないですか。それが一番早いと思いますよ」

「さっき行ったけど太刀川さんが正座させられてたからこっちに来た」

「…うちのリーダーがほんとにごめんなさい」

 

 高校がとか卒業がとか聞こえたけどあの人高校卒業も怪しいのか?

 

「ま、後でもう一回行ってみるわ」

「ていうか二宮さんチーム作るんだね」

「ああ、俺も今朝知ったよ」

「隊作ることすら知らなかったんすか?」

「うん」

「そんなことあります?ってああ!桐山さん!俺にキングビンボー付けないでくださいよ!!」

「近くにいたお前が悪い」

 

 ちなみに今の一位は国近さんだ。京介が二位で、俺と出水でビリ争いをしている

 

「そのままキングビンボーと一緒に旅してくれ」

「嫌ですよ!こうなったら柚宇さんに」

「ほい、ぶっとばしカード」

「あああああ!!!!」

 

 あ、出水が誰もいない辺境にぶっとばされた

 

「出水先輩…」

「憐みの目で見るのはやめろ京介!!」

「合成弾なんて隠し球、黙ってた報いだ」

「初見で防いだあんたに言われたくないんですけどぉ!?」

「というかあの合成弾の仕組み今度教えてね」

「ビンボー引き受けてくれるならいくらでも」

「いいだろう戦争だ」

 

 なんかこのゲーム遊ぶたびに喧嘩してる気がするわ

 

「友情破壊ゲームなんて言われてるからねえ」

「国近さんいつも高みの見物してない…?」

「ふっふっふ、ゲーマーをなめてもらっては困るよ」

 

 ただの運ゲーじゃないのこれ?

 

「戦い方というものがあるのだよ。今度教えてあげよう」

「国近さんありがとう。できれば今教えてくれない?」

「頑張れ~」

「ですよね~」

 

 そんなこんなでスモモ鉄を楽しんでた中、突如作戦室の扉がひらいた

 

「ここにいたか昴」

 

 尋ねて来たのは苦い顔をした二宮だった。

 

「あ…二宮さん」

「忍田本部長からのメールは見たか?」

「あ、はい見ました」

「ならなんでこんなとこにいる?」

「心の準備がしたくてうちの作戦室に寄ったらしいです」

 

 余計な事言うな出水。おい、なんだその悪い笑顔は、さっきの恨みか?

 

「心の準備だと?なんのことだ」

「いや、なんの話もなしに二宮隊のオペレーターになってたので…」

「お前半年以上暇と言ってただろう」

 

 いや、確かに言いましたけど…

 

「なら構わんだろう」

「いや、でも俺妹とチーム組む予定なんですけど…」

「お前の妹が入隊するまでで構わん。他のメンバーはもう集まっている」

 

 なんかトントン拍子で話が進んでる…

 すると見かねた出水が口を挟んだ

 

「あの二宮さん、流石に何の話もなしに桐山さんをチームに入れたのはまずかったんじゃないですか?」

「忍田本部長の許可はとっている。そもそも俺が東隊に入ったときも何の話もなかった」

「ええ…」

 

 もしかして忍田さんその時のことでゆすられました?

 

「…本音をいうと後はオペレーターを見つければチームは結成できたが、優秀なオペレーターが中々見つからなかった。だから少々強引な手段だがお前をチームに加えさせてもらった。もしお前が断るなら無理強いはしない。別のオペレーターを探す。ただいずれチームを抜けるから入れないなどと考えているなら気にする必要はない。好きな時に抜ければいい」

「…」

 

 正直ここまで言われたらこちらも言い返せなくなる。そもそも秀次や加古さんの誘いを断ったのは、抜けるとわかってるのにチームに入ることが不誠実だと思ったからだ。だが二宮さんは俺が部隊を結成するまででいいと言ってくれる。ここまで言われたら断るのも悪いだろう

 

「わかりました、引き受けます。これからよろしくお願いします」

「…そうか助かる。こちらこそよろしく頼む」

 

 昴と二宮がそろって頭を下げた

 

「ただもうこういうことはやめてくださいね。こっちもビビるんですから」

「…善処する」

 

 おい

 

「じゃあ早速顔合わせだ。お前以外のメンバーはもう揃っている」

「あ、もう少し待ってください。スモモ鉄がもうすぐ終わるんで」

「後にしろ、行くぞ」

「え、あ、ちょ」

 

 二宮に強引に引っ張られながら昴は太刀川隊の作戦室を後にする

 

「邪魔したな」

「気にしないでください。あ、桐山さん!桐山さんの分も俺が操作するんで安心してください!!」

 

 出水がいい笑顔でそう言った。あ、やめろ。俺にキングビンボーをつけるな。おいラミエルカードを捨てるんじゃねえ

 

「二宮さん、出水のやつ一発殴っていいですか?」

「後にしろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたぞ、ここが俺たちの作戦室だ」

 

 昴は二宮に連れられ作戦室の入り口にたどり着いた

 

「入るぞ」

 

 ノックをした二宮と共に作戦室に入る

 

「お、きたきた。二宮さんお疲れ様でーす」

「お疲れ様です」

 

 中にいたのは二人の男だ。

 

「こいつがうちのオペレーターだ。お前ら聞いたことくらいはあるだろう」

「ええ、知ってますよ。ボーダー唯一の男性オペレーターなんですよね」

「噂で聞いただけで見たことはなかったですね」

 

 俺噂になるレベルだったのか。まあそりゃそうか。オペレーターって基本的に女性がしてるもので、男でオペレーターって俺だけだし

 

「はじめまして、俺は犬飼澄晴。ポジションはガンナー。よろしくね」

「はじめまして、辻新之助です。アタッカーやってます。」

 

 犬飼と辻、どちらも見たことがある。辻は確か三ヶ月くらい前に入隊して新人王だったか。弧月を使いこなしてる姿が印象に残ってる

 犬飼は一ヶ月くらい前に入った新人だったかな。新人ながら突撃銃の扱いが非常にうまく、マスタークラスもそう遠くないとか

 二宮さんすごい人たち連れてきたな…

 

「えっと…はじめまして、おれは桐山昴。オペレーターやってるんでよろしくお願いします」

「いいよいいよ敬語なんて、俺とは同い年なんだし」

「俺は一つ下なので」

「そうか?わかった、ならそうするわ」

 

 簡単な自己紹介を終えた昴たちをみて二宮が号令を取った

 

「よし、俺たちはこの部隊でA級を目指していく。俺が見込んだやつらを集めたつもりだが決して慢心はするな。それぞれの役目をしっかり全うしてもらうぞ。いいな?」

「もちろんです」

「わかりました」

「はい!がんばります!」

「よし、なら早速だが」

 

 まずは訓練だろうか?どんな連携をとるかはチームで戦う上で大事だからな

 

「隊服を作りに行くぞ」

 

 え?隊服?

 

「隊服…ですか?」

「ああ、B級以上のチームはそれぞれチーム別の隊服を着ることになっている。まずはその仕立てだ」

「なるほど…どんな隊服にするんですか?」

 

 隊服かぁ、どんなのになるんだろう。ボーダーの隊服ってどれもかっこいいからなぁ…

 隊服を想像していた昴に二宮は答えた

 

「スーツだ」

「…ん?」

 

 スーツ?

 

「コスプレ染みたダサいデザインは御免だからな。スーツの方が幾分かマシだ」

「「「・・・」」」

 

 スーツだったら余計に浮くんじゃないだろうか?三人はそう思った

 

「それじゃあ俺はここで待ってますね」

「何を言ってるんだ。お前も行くぞ」

「へ?俺もですか?」

 

 オペレーターの制服は基本的に決まってるけど…

 

「当然だ。うちのチームメイトだからな。お前の分のスーツも採寸するぞ」

「…!了解です!」

 

 スーツを着ることには驚いたものの、チームで同じ隊服を着れるのは少し嬉しい昴だった

 

 

 

 

 

「どうだサイズは」

「はい、ぴったりです」

 

 メンバーは採寸を終えるとそれぞれ試着をした

 

「俺スーツなんて初めて着ましたよ」

「はは、俺も。まさか大学に入る前にスーツを着るとはね」

 

 辻と犬飼もそれぞれ試着をしたがぴったりのようだ

 

「でも大丈夫なんですか?二宮さん。俺はいいですけどこれ結構動きずらいと思いますよ?」

「慣れれば問題ない。きついなら緩めればいい」

「もしかして二宮さんってもう一通り動いてみたんですか?」

「当然だ」

 

 一人でスーツ着て試し撃ちする二宮さん…なんだかシュールだなぁ

 

「全員問題ないな?」

「はい、問題ありませんよ」

「俺もです」

「はい大丈夫です」

「よし、なら次は」

 

 いよいよ訓練だろうか?

 

「決起集会だ。親睦会も兼ねて焼き肉屋にいくぞ」

「…へ?」

 

 今度こそ呆けてしまった

 

「東さんもよくやってたことだからな。親睦を深めるなら焼き肉がちょうどいい」

「あ、はい」

 

 言ってることは間違ってないのだがさっきから予想が外れてばかりで少し調子が狂う。犬飼と辻も軽く呆然としてる

 

「あ、二宮さん。その前に忍田さんのところに行っていいですか?朝に行った時には太刀川さんと話が合ったみたいで話せなかったんで」

「…そうか、わかった。ならその間軽く模擬戦をしておく。話が終わったら戻ってこい」

「了解です」

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します、桐山です」

「ああ、入りたまえ」

 

 軽くノックをして忍田本部長の部屋へ入る。

 

「よく来てくれたな。朝はすまなかった。慶のことで少しな…」

「いえ、気にしないでください」

 

 かなり疲れた顔をして忍田さんはそう言った。この人も苦労してるんだな…

 

「さてまず君が来た理由だが…二宮隊のことだな」

「はい」

 

 今度は少し申し訳なさそうな顔をしている

 

「突然のことですまなかったな。二宮から君を隊に加えたいと言われて断り切れなくてな」

「東隊のことがあったからですか?」

「…知っていたのか」

 

 やっぱりゆすられたんじゃないか

 

「あの時の二宮は力ばかりを重視していて戦術を軽視していたからな。荒療治として東隊に入れたんだ。…まさかそのことを持ち出すとは思わなかったがな」

「ほんとですね…」

 

 ほんと何でもありだな

 

「ただ二宮のことを抜きにしても君にはどこかの部隊に入ってもらうつもりでいた。東と月見から指導を受けた人材をフリーにするなど非常にもったいないことだからな」

「でも、俺は将来的に部隊を組むつもりですけどいいんですか?」

「ああ、そのことは東から聞いている。部隊を組むとなったら君の好きにしていい。ただ…」

「ただ?」

「指導をうけたとはいえそれを活かせなければ何の意味もないからな。君の実力は先日のランク戦でも拝見したが確かなものだ。だがそれをどこの部隊にも入らずに生かさないのは非常にもったいないことだ。」

「…そうですね」

 

 確かに忍田さんの言うとおりだ。オペの仕事はある程度するつもりだったが、それでもフリーと隊に所属するのでは全然違うだろう。

 

「二宮も君がいずれ隊を抜けることをわかっていて君をチームに入れたんだ。だから君が負い目を感じる必要はない。」

「はい、二宮さんにも同じことを言われました」

「そうか、では二宮隊で存分に君の力を発揮してくれ。期待しているぞ」

「はい!わかりました!」

 

 ここまで考えてくれてるとは…忍田さんにも感謝だな

 

「ところで話は変わるんだが」

「…?はい?」

「そのスーツは…隊服か?」

「…はい、二宮さんがコスプレ感のする隊服は嫌だったみたいで」

「そうか…」

「やっぱり目立ちますよね?」

「…気にするな」

 

 二宮さんがこのことに気づくことはないんだろうなぁ・・・あの人天然だし

 そんな会話を終え昴は忍田の部屋を後にした

 

 

 

 

「さて、作戦室に戻りますか」

「どこの作戦室にだ?」

「そりゃ二宮隊の作戦室に…」

「へえ二宮隊にね」

「…あ」

 

 後ろをふりむくとそこには三輪と加古が立っていた

 

「昴…お前何故二宮さんの部隊に入っているんだ?」

「私の誘いは断ったくせに」

「いや…えっと」

「お前がどこの部隊に入るのも構わんがまさかなんの報告もなしに入るとは思わなかったぞ」

「ほんと妬けちゃうわ」

 

 加古さんは笑ってこそいるものの目は全然笑ってないし、秀次に至ってはどう見ても怒ってる

 

「説明してもらおうか」

「じっくりとね」

「はい…」

 

 

 その後事情を説明すると二人はすぐさまに二宮さんの下へ向かい、ひたすら文句を言い続けていた。二宮さんも多少負い目があったのか顔をゆがめながら黙って聞いていた。

…少しだけ胸がすいたのは内緒である

 

 



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昴とチームメイト

コメント欄「サイドエフェクトは優れたトリオン能力を持つものに発現するものです」
・・・え?

Googleで検索・・・(゚Д゚)

その・・・トリオンが低いものには発現しないとは書いてないので・・・どうかそういうことで許していただけないでしょうか・・・
本当に申し訳ございませんでした・・・


この前の決起集会から一週間。今日は久しぶりのオペレーター合同任務だった。結果は上位10%に入ることができた。やったぜ。トップは相変わらず月見さんだ。やっぱりまだ月見さんにはかなわないか。

 

「はあ…国近さんにもまだ勝てないかぁ…」

「ふふふ、まだ負けはしないよ」

 

 合同訓練の帰り道、俺は国近さんと一緒に戻っていた。国近さんより上にもまたいけなかった。そろそろいけると思ったんだけどなあ…

 

「桐山君ももっとゲームをしたまえ~そしたら勝てるかもよ?」

「ゲームがまだ足りないのか!もっと遊ばなくては…」

「じゃあ今度はBPEXでもやろうか」

「望むところ」

「いやいや、オペの勉強しましょうよ!」

 

 ツッコミを入れたのは綾辻さんだ

 

「なんでオペの実力を鍛えるのにゲームするんですか!」

「でも実際国近さんはゲームもオペもめっちゃうまいし」

「いや関係ないでしょ!それなら普段の勉強をしたほうが身になりますよ!」

「国近さん学校の成績はめっちゃ悪いよ」

「・・・」

 

 黙っちゃったよ。まあ綾辻さん優等生だし認めがたいのはわかるけど

 

「成績悪いことそんなはっきり言わなくてもいいじゃ~ん」

「じゃあ次のテストは大丈夫なの?」

「ふふ~ん、もちろん次のテストのときもよろしくね?」

「わかってるなら普段から勉強しましょうよ!!」

 

 あ、綾辻さんがまた突っ込んだ。

 

「まあまあ、綾辻ちゃんも試しにゲームやってみよ?きっともっとオペがうまくなるよ」

「いや私は…」

「何事も試してみないとわからないよ?」

「・・・」

「さあ綾辻ちゃんも一緒に沼に入ろうね」

「優等生をたぶらかすのはやめなさい」

 

 綾辻さんも興味わいてきてる顔しないで?

 

「それにしても桐山君もスーツ着てるんだねえ」

「ああこれ?二宮さんが俺の分も見繕ってくれたんだ」

 

 今日の訓練のときに周りの人たちにも聞いたが、やっぱりオペレーターで隊服を着るのは珍しいようだ

 

「顔がいいからよく似合ってるよ」

「ありがと国近さん」

「綾辻ちゃんもそう思うでしょ?」

「うぇ!?そ、そうですね…よく似合ってると思います」

 

 国近さんは普通に褒めてくれたけど綾辻さんは目を背けながら褒めた

 

「う~ん…やっぱりどこか変なのかなぁ…」

「そう?どこも変なところはないけど」

「でもこのスーツ着てからボーダーで女性とすれ違うたびに目を背けられることが増えたんだよ。やっぱ似合ってないのかなぁ…今日の訓練のときも新人の子達なんかは特に目も合わせてくれなかったし」

「う~ん相変わらず鈍感」

 

 国近はあきれたような目で昴をみた。正直普通の女の子には目に毒だと思う

 

「まあ普段はトリガーオフしといたほうがいいかもね~一部の女子のためにも」

「やっぱそうなのかなあ…でも俺的にはカッコいいからできれば着てたいんだよね」

「うん、カッコいいとは思うよ。カッコいいからこそだね」

 

 今度うちのとりまる君にスーツ着せて桐山君と並べてみようかなぁなんて恐ろしいことを国近が考えていると向かいから二人の男がやってきた

 

「お、キリくんお疲れ~」

「…!お、お疲れ様です…」

 

 やってきたのは昴のチームメイトの犬飼と辻だ

 

「あ、犬飼に辻ちゃんお疲れ」

 

 昴も犬飼をまねて辻のことは辻ちゃんと呼んでいた

 

「お、犬飼君に辻君おつかれ~」

「お二人ともお疲れ様です」

「国近ちゃんに綾辻ちゃんもお疲れ。ほら辻ちゃんも」

「お…お疲れ様…です…」

 

 普通に返事をした犬飼に対し、辻はガチガチになりながら返事をした

 

「辻君は相変わらずかたいね~ほれうりうり~」

「ひゃ…!か…勘弁してください…」

 

 ガチガチの辻を面白がって国近はちょんちょんと突く

 

「辻ちゃんをいじめるのはやめなさい。それじゃあ俺たちはあっちだからお疲れさま」

「うん、ばいば~い」

「お疲れ様です」

 

 昴は国近を静止すると二人と分かれ犬飼、辻と共に作戦室へと向かう

 

「桐山先輩はすごいですね…オペレーターの合同訓練って周りみんな女子なんですよね…」

「まあそうだな」

 

 まだ緊張が抜けない辻は昴を尊敬の目で見つめる

 

「前にオペの人達には話したけど子供のころからよく女子とは話してたからなぁ」

「お、キリくん小さいころからモテてたの?」

「小さいころからって別に今もモテてないわ。俺に話しかけてくる女子みんな京介の話が聞きたい子達だし」

「烏丸君?」

「そ、京介の好きな人とか何が好きとか何か知ってる?みたいな」

「それで鍛えられたんですね…」

「そういうことなのかな?後妹も二人いるし」

「へえ、今度ボーダーに入る子以外にもう一人いるんだ」

「ああ、正確には妹と弟の双子だ」

「なるほど」

 

 犬飼は興味深そうに昴の話を聞いていた

 

「だったら辻ちゃん、キリくんに聞いてみれば?女の子とうまく話すコツ」

「いやいやコツって言われてもそんなものないよ」

「何かありませんか?桐山先輩?」

「すごい真剣な表情してるじゃん」

 

 まるで弧月の自主練をしてる時みたいな顔だ

 

「え~…だったら今から俺の言う女子に話しかけてきてっていったら話せる?」

「・・・・・・・・・・相手によります」

「だいぶ溜めたね」

 

 というか大丈夫な人いるの?と犬飼は考えたとか

 

「う~ん…藤丸さんとか?」

「すいません無理です」

「日和るのはや」

「というかなんでののさんなの?」

 

 犬飼が不思議そうに尋ねた

 

「いや藤丸さん結構男勝りなとこあるからそれなら辻ちゃんもいけるかと思って」

「・・・・・」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜

 

「あ、あの…藤丸先輩…その…」

「なんだぁ辻?言いたいことがあるならはっきり喋れオラ!!!」

「ひゃい!…すいません!」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「うん、玉砕する未来しか見えないね」

「ごめん俺も今その未来見えたわ」

「桐山先輩…」

 

 辻が少し恨めしそうな目で昴を見つめた

 

「でもほんとよかったね辻ちゃん。オペレーターがキリくんで」

「はい、ほんとによかったです…」

「そうなの?」

「はい、俺この通り女子が少し苦手なので…」

 

 少し?と首をかしげるが辻が話を続ける

 

「だから部隊を組むってなった時には喋ったことのない女性の方が来るのかと思ってすごく緊張してたんです…そしたら二宮さんが勧誘したのが桐山先輩だったんで本当によかったです」

 

 チーム組んですぐの割に好感度高い気がしたのはこのためだったんだろうか。

 すると昴は一つの懸念事項を伝えた

 

「でも俺妹とチーム組む時には二宮隊抜けるけど大丈夫?」

「…桐山先輩、二宮隊に永久就職してくれませんか?」

 

 まるで個人ランク戦で弧月を構えてる時のような真剣な表情で辻は言った

 

「ランク戦のときより真剣な顔してるけどいいの…?」

「俺は本気です」

 

 なんか微妙に嬉しくないプロポーズみたいだなぁ…昴は複雑な表情をしながらそんなことを考えていた

 なお犬飼は非常に楽しそうな表情で二人を見ていたという

 

 

 

「実際辻ちゃんがまず話しかけるとしたら誰がいいと思う?」

「三上さんあたりがいいと思う」

「その時は一緒に来てください」

「それじゃあ意味なくない?」

 




昴のスーツ姿はにのまるくらいのかっこよさを想像すれば大体あってると思います

多分昴が二宮隊を抜けるときに一番引き留めるのは辻ちゃん


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昴と二宮隊②

お気に入り200件、評価300ptありがとうございます。
今回は短めです


「ではB級上位入りを祝してかんぱーい!」

「かんぱーい!」

「乾杯」

「…フン」

 

 その日二宮隊の四人はいつもの焼き肉屋で打ち上げを行っていた。二宮隊結成から二ヶ月、初のランク戦でB級上位に入ることができたお祝いである。

 乾杯の音頭は昴がとっていた。犬飼は楽しそうに、辻は穏やかに、二宮は一見不服そうにしながらもグラスは合わせていた。

 

「いやーそれにしてもまさか初のランク戦でB級上位に入れるとは思いませんでしたよ」

「そんなことはない。これくらいは予想の範囲内だ」

 

 喜ぶ昴に二宮は冷静にそう告げる

 

「B級の壁が厚いことは認めるがB級上位に入ることは元々目標にしてただろ。あまり浮かれるな」

「う…はいすみません…」

「まあまあ今日くらいいいじゃないですか。初めてのランク戦の打ち上げなんですから」

 

 犬飼は二宮をそう諫める。彼もまた初のランク戦でB級上位に入れたことは非常に喜んでいるのだ

 

「それにしても最初から波乱でしたよね~。まさか東さんがまた部隊を作ってるなんて」

「香取さんの部隊も中々強かったね」

 

 正確には香取さんだけだけど、昴は心の中でそうつぶやく

 ROUND1、二宮隊は東が新たに立ち上げた第二期東隊、そして新人王として名を馳せた香取葉子が率いる香取隊と対戦。

三部隊みながデビュー戦という非常に珍しい戦いとなったのだ

 

「香取の部隊は大したことなかったが東さんの部隊は中々だった。デビュー戦とはいえ東さんが率いてるだけはある」

「香取ちゃんに辻ちゃんは落とされましたけどね」

「あれは辻にとって相手が悪かっただけだ」

「…すいません」

 

 辻は申し訳なさそうに頭を下げた

 ROUND1でいきなり香取と遭遇した辻は何もできずに落とされてしまったのだ

 

「あれは俺が香取さんが接近してることにもう少し早く気づければ辻ちゃんも逃げられたんだし辻ちゃんは悪くないよ」

「お前のその性分はわかった上でうちの部隊に入れたんだ。お前はお前のできることをすればいい」

「桐山先輩、二宮さん…ありがとうございます」

「でももし今後女の子だけのチームができたら辻ちゃん大変だね」

「怖いこと言わないでくださいよ…」

 

後に那須隊と加古隊が結成されることを辻はまだ知らない。

 

 ちなみにその後の試合は最終的に二宮と東が生き残ったままタイムアップ。生存点はなかったものの二宮隊4点、東隊2点、香取隊1点で二宮隊が勝利となった。

 その後は順調に勝ち進んでいきROUND4終了時にはB級上位に入ることとなった。

 

「やっぱり上位部隊はすごいですね。嵐山隊、弓場隊、佐伯隊、ログでは見てましたけど戦ってみないとわからないことも多くありました」

 

 最終的な結果は嵐山隊、弓場隊に次ぐ3位となった。

 

「弓場さんの早撃ちも体感してみたらログで見るよりずっと早く感じましたよね」

「ああそうだな」

 

 弓場との一対一(タイマン)に敗れた二宮は悔しそうにつぶやいた。

 

「もちろん次は負けんがな」

「そうですね。俺も実際に戦ってるみんなをオペすることで相手の戦い方をかなり学習できました」

 

 二人は次のランク戦に向けての思いをそれぞれ語る

 

「次のランク戦でB級の一位を目指すぞ。そしてA級に入る。これが次の目標だ。いいな?」

「「「はい!!」」」

 

 次回のB級ランク戦の目標を告げた二宮に隊の面々は力強く返答するのだった。

 

「そういえば注文したはいいけど全然食べてませんでしたね。あ、俺のカルビ焦げてる」

「みんな話に熱中してたからね~、さ食べよ食べよ」

「では改めていただきます」

「すいません、ジンジャーエールもう一杯お願いします」

 

 その後はみな焼き肉を堪能しつつ打ち上げを楽しむのだった。

 

 




なお、次のランク戦には風間隊、三輪隊、冬島隊が参戦する模様。なんだこの魔境。


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昴と香取隊

本日2本目の投稿になります


B級ランク戦から数週間後、ランク戦のブースで昴は個人ランク戦の見学をしていた。もちろん勉強のためだ。ランク戦の見学をしていれば個々の隊員の戦い方もある程度わかる上、理解が深まるほど昴のサイドエフェクトは発動しやすくなるため、ボーダーで暇なときにランク戦を見学するのは昴の日課の一つであった。

 後強者同士の戦いはシンプルに見てて楽しい。

 

「お、やってるやってる。ってあれ犬飼か。相手は…若村?」

 

 モニターに映っていたのはチームメイトの犬飼だ。相手は香取隊の若村。どうやら10本勝負をやっているらしい

 

「にしてもボコボコだなぁ」

 

 今のところ9:0で犬飼が優勢だ。最後の10本目も犬飼が若村を追い詰めている

 

「あ、終わった」

 

 そして10本目も犬飼が勝利。10:0で犬飼の完全勝利となった

 試合を終えた犬飼がブースへと出てきた

 

「ようお疲れさん」

「あ、キリくんじゃんお疲れ。さっきの試合見てたの?」

「ああ、完勝だったね」

 

 そんな話をしてると先ほどまで試合をしていた若村もブースに戻ってくる

 

「お疲れ様です犬飼先輩」

「うんおつかれろっくん」

 

 犬飼があだ名呼びしてる。いつの間に仲良くなったんだろ

 昴は素直に尋ねた

 

「いつの間に仲良くなったんだ?」

「ああ、ろっくん俺の弟子になったんだ」

「弟子?」

 

 そうだよと犬飼が返す

 

「この前のB級ランク戦が終わったら俺にガンナーのことを教えてほしいって頼まれたからさ。面倒を見てるんだ」

「へえ弟子ね」

 

 まだそこまで時間は立ってないものの昴は東と月見に師事させてもらってた頃を思い出して懐かしくなっていた

 

「あの犬飼先輩この人は?」

「桐山昴くん。うちのチームのオペレーターだよ。ろっくんもボーダー唯一の男性オペレーターの話は聞いたことあるんじゃない?」

 

 男性オペレーター、話には聞いたことがある。女性ばかりのオペレーターの中で唯一の男性オペレーターだったか

 

(この人がそうなのか…)

 

 オペレーターのことをあまりよく知らない若村は少し驚く

 

「一応初めましてかな。よろしく」

「…!ああはい、こちらこそよろしくお願いします」

 

 昴の挨拶に考え事をしていた若村は慌てて返した

 

「ねえキリくん。さっきの試合見てどう思った?」

「どう思ったって何が?」

「普通に感想だよ。何か感じたことはあるかなとかさ」

 

 う~んそうだな

 

「まあ単純に実力差が出たんじゃないか?練度が違うのはみててわかるし」

「…っ!」

 

 昴の言葉に若村は何も言えなくなってしまう。

 そんなことは自分でもわかってる。犬飼先輩の弟子になってから何度か試合はしてるが戦うたびに自分との実力差を思い知らされるだけだ。入隊時期はそこまで変わらないのにどうしてこんなに…

若村は自己嫌悪に陥ってしまう

 

「ただ何もできないままやられるほどの実力差でもないし策を練ればある程度は勝てると思うけどな」

「…え?」

 

 若村は思わず呆けてしまった

 

「まあそこは犬飼の動かし方がうまいよな。前半は堅実に勝利して後半は熱くなってきた若村の隙をついて終わり。10本もすれば後半になると大体相手の動きもつかめるのに焦って思考放棄してただがむしゃらにやるだけじゃそりゃ勝てないわな」

「厳しく言うねえ」

 

 犬飼は軽く流したものの若村にとっては驚きであった

 

「あの桐山先輩、それホントですか?」

「うん。パッと見だけど若村は熱くなりやすいんだと思うよ。別にそれは悪いことじゃないけど若村の場合熱くなると途端に焦った行動が多いからとりあえず頭を冷やして相手の動きを見ること覚えたほうがいいと思う。ただでさえ犬飼の戦い方って相手の嫌がることをやって戦いの場をコントロールするもんなんだから焦ったらこいつの思うつぼだ」

「キリくん俺の戦い方そんな風に思ってたんだ~なんかショックだな~」

「落ち込むふりすんな」

 

 しょげたふりをする犬飼に突っ込む昴を見ながらも若村は少し考え込む

 

(確かによく考えたらいつも後半になるほどあっさり倒されてた。あれも単なる実力差だと思ってたけど俺でもひっくり返せるのか?)

 

「犬飼先輩、もう10本お願いしていいですか?」

「…うんいいよ」

 

 考え抜いた末に若村は犬飼にもう一勝負お願いした

 

 

 

「で、結果は9勝1引き分けで犬飼の勝ちか」

「…ありがとうございました」

「そんなに落ち込まないでよろっくん。最後の一本は俺も少し焦ったよ。今までで一番いい動きできてたしね」

「本当ですか?」

「もちろん、ね、キリ君?」

「ああそうだな。あそこは単純に実力差が出ただけだ。今後鍛えていけばいいよ」

「ガンナーは鍛えれば鍛えるほど強くなれるからね。」

「…わかりました。これからもよろしくお願いします!」

「もちろん。師匠なんだから当然だよ」

 

 そんな会話をしていると突如3人に声がかけられた

 

「ちょっと麓郎!あんたいつまで待たせる…の?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、香取葉子は機嫌が悪かった。正確にはここ数週間ずっとだ。

 記念すべきデビュー戦、新人王にもなれた自分の実力ならすぐに上位に上がれると思っていた。幼馴染の華が戦闘員になれなかったのは非常に悔しかったが、それでも華が自分をサポートしてくれる。それだけで負ける気はしなかった。

 だが結果はどうだ。最初に辻を倒せたところまではよかった。しかしその後は二宮相手に何もできずに落とされてしまった。あの時は余りの衝撃にしばし呆然としてしまった。

 

 それからのランク戦も似たようなものだった。上位相手には何もできずに負けてしまう。結果B級中位。デビュー戦としては悪くないはずだが、上を目指していた香取にとってこの結果には苛立ちを隠せなかった。

 あれ以来やる気が出ずポジション転向も考えるほどだ。

 そんな中今日は防衛任務なのだが時間になってもチームメイトの若村が帰ってこなかった。三浦に探しに行かせようかと思ったが、三浦は華の手伝いをしていた。幼馴染の手伝いをしてる男の邪魔をするわけにもいかず仕方なく香取は若村を探しに行くことにした

 

(ああもう!なにやってんのよあいつ!私と華を待たせるなんていい度胸じゃない!!)

 

 ナチュラルに三浦を省きながらも見つけたら思いっきり文句を言ってやろうと意気込みながらブースまでやってきた香取であった

 

「あ、いた!」

 

 若村は犬飼ともう一人の男と話していた。スーツ姿だから二宮か辻のどちらかだろうと思いながら香取は若村に声をかけた

 

「ちょっと麓郎!あんたいつまで待たせる…の?」

 

 香取の声を聞いて昴は振り返った。

 

「あ、香取ちゃんだ。お疲れ~」

「よ、葉子!」

 

 犬飼が軽く挨拶し若村は慌てて声を出したが香取は軽く呆けていた

 

「おい…葉子?どうした?」

「…へ?あ!麓郎!あんたね…!」

 

 若村の声を聞いて我に返った香取は文句を言おうとしたが、

 

「…大丈夫ですか?」

「…!」

 

「ちょっと!麓郎!あの人誰なの!?」

「あ、あの人?」

 

 香取は小声で若村に尋ねた

 

「犬飼先輩の隣にいる人よ!めちゃくちゃかっこいいじゃない!!」

 

 香取は面食いであった。そのため他のボーダー女子に負けず劣らずのとりまるファンなのだが、目の前の男性はそのとりまるに勝るとも劣らないように感じた

 

(やばい!烏丸くんと同じくらいかっこいいじゃない!あんな人初めて見たんだけど!!)

 

 急にテンションが上がった香取に疑問を抱きながらも若村は答えた

 

「二宮隊のオペレーターだよ。葉子も聞いたことあるだろ?ボーダー唯一の男性オペレーター」

「何それ!初めて聞いたんだけど!」

「知らなかったのかよ!」

 

 若村自身も昴のことはわからなかったが男性オペレーターに関する噂は聞いたことがあった。ただ目の前のリーダーはそのことすら知らなかったらしい。

 

「あんたあんなかっこいい人知ってるなら紹介しなさいよ!なんで隠してるのよ!!」

「俺だって今日初めて会ったんだよ」

 

 小声で話す二人を尻目に昴は少し悩んでいた

 

(まいったなあ…)

 

 香取さんの戦いは何度か見た。粗削りな部分はあるものの才能は確かだし磨けばA級クラスの隊員達にも届くほどだと思っている。問題は香取さんの性格だった

 

(少し気が強くてわがままな性格らしいけど…どう話そう)

 

 昴は気の強い女性が少し苦手であった。正確に言えばそういう女性を相手にどういう風に話せばいいのかがよくわからないのだった。

 犬飼に丸投げしようかと思ったが、犬飼のほうを見るとニヤニヤしながらこっちを見ていた。これ多分助けてくれねえな…

 

(まあ考えてても仕方ないか)

 

 昴は意を決して香取に話しかけた

 

「えっと香取さんだよね?はじめまして」

「…!は、はじめまして!香取葉子です!」

「桐山昴です。どうぞよろしく」

 

 香取さんを見ると何故か緊張しているようだった。よくわからないが何を話そう。戦いのことでも話せばいいかな

 

「香取さんの戦いは何度かみたことがあるけど中々大したものだと思うよ」

「ほ、ほんとですか!?」

「うん。ボーダーに入ってまだそんなに経ってないのにあそこまで戦えるのはすごいよ。鍛えればA級の隊員にも劣らないものになると思う」

「…!あ、ありがとうございます!嬉しいです!」

 

 なんか思ったより素直な子だな。ただの噂だったのかな?

 

「それで若村に何か用?」

「あ…いえ、今日うちの部隊が防衛任務なので探しに来ていて…」

 

 若村を見るとハッとした顔をしている。ランク戦に熱中しすぎて忘れていたのか。

 

「そっか、ごめんね?ランク戦に熱中しすぎたみたいで、ただ何かつかめたみたいだしあまり責めないであげてほしいんだけど…」

「は、はい!もちろんです!」

「ありがとう。それじゃあそろそろ時間か。防衛任務頑張ってきてね」

「はい!ありがとうございます!!いくわよ麓郎!!」

 

 そう告げると香取は若村を引っ張って消えていった

 

「う~ん」

「どうしたの?」

「いや、思ったより素直でいい子だなぁって思って。やっぱり噂ってあてにならないなぁ」

「多分それキリくんと烏丸くんだけだと思うよ」

「え?なんで?」

 

 犬飼は面白いものを見る目で昴を見ながらそう言った。

 

 

 

 

 

 

「はあ…まさか烏丸君と同じくらいかっこいい人がいるなんて!しかも聞いた!?私の戦い見てくれたのよ!桐山さんがああ言うならもう少しアタッカー続けてみようかしら!」

「はあ!?お前アタッカー辞めるつもりだったのかよ!!」

「うるさい!麓郎には関係ないでしょ!!」

 

 気分屋なリーダーにイラつきながらもここしばらく悪かった機嫌が良くなったこと関しては昴に感謝しつつ防衛任務に臨むのであった

 

 

 

 そして防衛任務終了後

 

「ねえ華!聞いて聞いて!今日すっごくかっこいいオペレーターの人に会ったの!!」

「もしかして桐山先輩?」

「そうそう!もしかして知ってたの!?」

「話したことも何回かあるよ」

「ええ!?華ずるい!!」

「同じオペレーターだからね。」

「いいなあ!私も一緒に話したい!」

「その時はちゃんと猫かぶらないとね」

「どういう意味!?」

 

 もぎゃあもぎゃあと騒ぎながらも機嫌がよくなった幼馴染を見て華は嬉しそうにほほ笑むのであった。

 

「そういえば桐山先輩と烏丸君って幼馴染らしいよ」

「うそぉ!?」

「よく一緒に遊んでるんだって」

「その光景見てみたい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後

 

「桐山君、あなた弟子作ってみない?」

「・・・・・はい?」

 

 月見さんの唐突さは相変わらずだなぁ…

 昴は呆然とした表情でそんなことを考えていた

 




今後香取隊に出番があるかは不明()


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昴と氷見亜季

ワートリのオペレーターはひゃみさんが好きです。宇佐美先輩も好きです。国近も好きです。みかみかも好きです。小佐野も好きです。今ちゃんも好きです。ヒカリも好きです。かわいいかわいいマリオちゃんも好きです。要するに大体好きです


「スーーーーハーーー」

 

 氷見亜季は二宮隊の作戦室の前で息を整えていた

 

(落ち着いて…大丈夫…あくまで先生に教えてもらうようなものなんだから)

 

 遡ること数日前

 ボーダーに入って数週間、中央オペレーターで研鑽を積んでいた彼女はある日月見に声をかけられたのだ

 

 どこかの部隊に入る気はない?と

 

 突然声をかけられた彼女は戸惑いながらも断った。オペの実力がまだ不足していると思ったこともあったが一番の理由は自身の性格であった。

 幼いころから緊張癖があって引っ込み思案な彼女は隊に入ればいやでも隊員と関わらなければいけないため部隊のオペレーターになることは気が乗らなかったのだ。ボーダー隊員の多くが男性であることを考えればなおさらであった

 そのことを聞いた月見は頭を抱えながら氷見に昴を紹介したのだ。月見曰く

 

 「あなたオペレーターの才能があるのにそれを生かさないなんて勿体ないわ。私の弟子を紹介するから彼の下で学べばその癖もきっと克服できるわよ」

 

 というわけで半ば強引に昴との会合をセッティングされたのだった

 

(うう…まさか二宮隊のオペレーターだったなんて)

 

 正直帰りたい、それが彼女の素直な心境であった。会ったことのない噂でしか聞いたことがない男性オペレーターの下で学ぶことが非常に億劫であった。これなら月見に指導してもらいたかったが、月見からは

「オペレーターとしてやっていくなら男の人にも慣れておいたほうがいい」

という理由で拒否されてしまったのだ。

できれば入りたくないもののここでずっと立ってるわけにもいかない。

 

「し、失礼します!」

 

 作戦室の扉をノックした氷見は扉を開けて中に入った。

 そこにはお目当ての昴も隊長の二宮もついでにあの飄々とした犬飼もおらず

 

「ひえ…」

 

 女子とのコミュニケーション能力が壊滅的な二宮隊のアタッカー、辻しかいなかった

 

 

 

 

 

 

 

「あ…あの…その、どちら様…ですか?」

「えっと…その私は…」

 

 その後作戦室の椅子に座ってくつろいでいた辻は慌てて立ち上がりしどろもどろになりながらも来客を迎えた。

 

「えっと…桐山先輩という方は…いらっしゃいませんか?」

「き、桐山先輩でしたら…少し用事があるみたいで…そ、その…もうじき帰ってくるとは…思うんですが…」

「そ…そうですか…」

 

 女子が苦手な辻はもちろん、氷見もまた初対面の男性相手であがってしまい、二人の会話は非常にギクシャクとしていた

 

「あの…私は氷見亜季と言います。月見さんの紹介でこちらに来ました…」

「そ…そうですか…えっと…つ、辻新之助といいます…」

「あ、はいわかりました。よろしくお願いします…」

「よ、よろしくお願いします…」

「「・・・・・・・」」

 

 用件を伝えて自己紹介が終わると二人は無言となってしまった。というか座って待てばいいものを二人は立ったまま無言で静止していた。

 

(よりによってなんで俺しかいないときに…)

 

 辻は頬を染めて氷見から目を背けながら心の中でつぶやく。二宮はランク戦、犬飼は弟子の指導、昴は先ほどまでいたのだが少し用事ができたらしく出て行ってしまった

 

(き、桐山先輩早く戻ってきてください…!犬飼先輩でも二宮さんでもいいから誰か…)

 

 辻は泣きそうになりながらメンバーが戻ってくるのを待つしかなかった

 一方の氷見も泣きそうであった。いざ昴に会いに来たら部屋にいたのは辻一人だけ。同級生の宇佐美曰く辻は女性が苦手らしくまともに会話することすらできないらしい。顔を赤らめて不安そうにおろおろするのはやめてほしい。こちらまであがってしまうではないか。

 そんな恨み言を心の中でつぶやきつつこの空気を壊してくれる誰かが来るのをただ待つしかないのであった

 

(一番いいのは桐山先輩…犬飼先輩も話すことは得意らしいから多分なんとかなる…二宮さんは…)

 

 できれば二宮以外のどちらかが戻ってくることを願う氷見だったが

 

ガチャ

 

「…何やってるんだお前ら。というか誰だ」

 

 現実は非情であった

 

「に、二宮さん…あの私は氷見亜季といいます…月見さんの紹介で…」

「…ああ月見が言ってたオペレーターか。辻、昴はどうした」

「き、桐山先輩は少し用事ができたみたいで先ほど部屋を出ていきました」

「ちっ…何をしてるんだあいつは。おい、氷見」

「は…はい!」

「突っ立てないで座って待ってろ。昴なら直に戻ってくるだろう」

「わ、わかりました…」

 

 氷見を来客用の椅子に座らせた二宮は続いて辻に尋ねた

 

「お前も何突っ立てるんだ辻」

「ええと、これは…」

「…ちっ」

 

 おそらくだが辻しかいないときに氷見がやってきて、女とまともに話せないせいで固まってしまった。大方そんなところだろうと目星をつけた二宮は辻に告げた

 

「おい辻、暇ならランク戦にでも行ってこい。今なら風間さんや生駒もいる。相手をしてもらえ」

「…!わ、わかりました!」

 

 二宮の言葉を聞いた辻はほっとした表情で部屋を出ていきランク戦に向かうのであった

 

(ちっ、なんで俺がこんなことを)

 

 もとはといえば氷見は昴の客だ。セッティングしたのは月見とはいえ張本人のあいつが何故いないんだ。二宮はいら立ちを隠せなかった。とはいえ自らの作戦室にやってきた客を無下に扱うほど二宮も鬼ではなかった

 

「おい」

「は、はいぃ!」

「コーヒーは飲めるか」

「は、はい大丈夫です」

「淹れてくるから少し待ってろ」

「い、いえ!お気になさらず!」

「…ちっ」

 

 一方の氷見は内心ガクブルであった

 

(なんで辻君いなくなっちゃうのお!?二宮さんもなんか不機嫌だしこれなら無言でも辻君と二人のほうがよかったのにぃ!!)

 

 二宮は少し不機嫌とはいえ基本的にいつもこんな感じなのだが初対面の氷見にそこまでわかるはずもなくただただ早く昴が戻ってくることを祈るしかなかった。ちなみに二宮はミルクと砂糖も別々で用意していた。意外と気が利く男なのである。

 

ガチャ

 

(来た!?)

「お疲れ様でーす、あれ二宮さんお客さんですか?」

「ああ、昴の客だ」

 

 違った、犬飼先輩だった。というか張本人全然来ない

 

「へえキリくんの、初めまして俺は犬飼澄晴」

「氷見亜季です…」

「ああ!月見さんの言ってた子か。確かキリくんの弟子になるんだよね。よろしくねひゃみちゃん」

「よろしくお願いします…」

(犬飼先輩すごいな…)

 

 さきほどの辻とは正反対ともいえる対応に氷見は少し驚く。というか昔からよく呼ばれてる呼び方とはいえいきなりあだ名…

 

「キリくんはいないんですか?」

「ああ少し用事が出来て出て行ったらしい」

「へえごめんね?待たせちゃって。」

「いえ…大丈夫です…」

 

 それから二宮が入れたコーヒーを飲みつつ待つこと数分

 

ガチャ

 

「お疲れ様です!すいません遅れました!」

(やっと来た!)

 

 気が付けば二宮隊のメンバー全員と話していた氷見はお目当ての人物がようやくやって来たことに安堵した

 

「おい、どこ行ってたんだ」

「京介に太刀川隊の作戦室に呼ばれて…」

(烏丸君と仲いいのかな?)

 

 どうやら用事とは太刀川隊に呼ばれてのものだったらしい。烏丸君を呼び捨てにしてるが仲がいいのだろうか?烏丸のことが気になっている氷見としては少し気になる部分であった

 そんなことを考えているとどうやら話を終えたらしい。ようやく話ができる

 

(二宮隊の人たち全員と話したんだ。大丈夫、普通にすればいい)

 

 しどろもどろだった辻、(一見)不機嫌そうな二宮、話しやすい犬飼と濃い三人と話したんだ。もうどんな人でも大丈夫だろう。氷見は意を決して昴のほうを見た

 

「初めまして桐山昴です。月見さんから話は聞いてるからよろしくね氷見さん」

「・・・・・・・・・・ひゃい」

 

 後に氷見は友人の宇佐美と綾辻に語った。昴と対面した瞬間、二宮隊の人たちと話したこと全て吹っ飛んだ、と

 




サブタイ、氷見と二宮隊でもよかったかもしれない。


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昴と氷見亜紀②

 新年あけましておめでとうございます。今年の投稿はスローペースになると思いますが何卒宜しくお願い致します。




「はあ…どうしようかな…」

 

 昴が氷見の師匠になってからニ週間。昴は食堂で食事をしながらうなだれていた。

 月見さんの紹介ということもあって氷見さんは非常に優秀な人だ。正直俺の教えなんてなくても立派なオペレーターになれると思う。だからオペの指導という面では全く問題はない。問題なのは…

 

「コミュニケーションがうまくとれない…」

 

 月見さん曰く氷見さんはあがり症らしい。話していくうちに慣れるだろうと思っていたがどうやら俺の考えが甘かったらしい。1週間たっても氷見さんとはまともに会話できてない。オペについて教えるときはしどろもどろになりながらも受け答えはしてくれる。ただオペ以外の普通の会話をしようとすると途端にダメになる。というか何か話そうとすると顔を背けられるし、指導が終わったら即座に帰るし、たまにボーダーですれ違ったりすると文字通り固まってしまうし、もしかして俺嫌われてるんだろうか

 あまりの会話のできなさに昴はそんなことまで考えてしまう。

 

「なあ京介、俺どうしたらいいと思う?」

「俺に言われても困ります」

 

 昴と相席していた烏丸はそっけなく返した

 

「そんなこと言わずに一緒に考えてくれよ。やっぱ俺嫌われてるのかな…」

「それだけはないと思うんで安心してください」

 

 以前何かあったら相談に乗るとは言ったが原因がはっきりしてる悩みの相談をされても困る。というかこれは多分いつものパターンだ。烏丸はそんなことを考えていた。とはいえ目の前の先輩は本気で悩んでるし、無下にもしづらかった。

 

「…どうしましょう」

 

 とはいえ何か案が思いつくかと言われればうまい案は思いつかない。おそらく昴の無自覚な部分が原因にもなっていると思うが氷見先輩という方があがり症なのも事実なのだろう。あがり症の治し方と言われれば烏丸にもいい案は思いつかなかった

 結局いい案は浮かばず気が付けば二人とも昼食を食べ終わってしまった。

 

「まあオペの指導は多分うまくいってるし、変なことしてこれ以上関係が悪化するのも嫌だからこのままが一番いいのかもしれないな…少し寂しいけど」

「昴さん…」

 

 せっかくの初めての弟子なのにまともな会話もできないままこの関係が続くのも少し悲しかった。こんな時に犬飼のコミュ力が少しうらやましかった

 烏丸も最初はまじめに取り合わなかったものの悲しげな表情をしてる昴を見ると何とかしてやりたくなってしまう。

 

「とりあえず俺は作戦室に戻るわ。京介はどうする?」

「俺も太刀川隊の作戦室に戻ります」

「じゃあ戻るか」

 

 結局何も解決案が思い浮かばないまま食堂を後にしようとした二人だったが、二人が食堂の入り口を出ようとしたとき

 

「き、桐山先輩と…か、か、から…すまくん…!?」

 

 悩みの張本人とぴったり鉢合わせてしまった。

 

 

 

 

 

 遡ること数十分前

 

「はあ…」

 

 氷見は憂鬱な気分で食堂へと向かっていた

 

「どうしたらいいんだろう…」

 

 悩みの種は自身の師匠となった昴のことであった

 

 初めて会った際には碌に会話もできないまま解散となってしまった。というかあの時の先輩の表情を見ると明らかに困惑していた。あがり症とはいえ少し話せば最低限の会話はできると思っていたがそれすらできなかった。

 それから一週間昴の下で指導を受けているのだが未だにまともな会話はできていなかった。理由は自分でもよくわかっている

 

「あの人顔がよすぎるよ…!それに合わせてスーツまで着るのは卑怯だって…!」

 

 こんなことで昴と話すことができないのは自身が面食いになったようで自己嫌悪してしまう。だがただ顔がいいだけなら数日もすれば少しは話せるようになっていただろう。しかし…

 

「教え方はすごくうまくてわかりやすいし、緊張してる私にもちゃんと気を使ってくれるし、コーヒーは美味しいし…!」

 

 端的に言えばあの人は内面もかっこよかった。外と中、二つ合わせてこちらを攻撃してくる。これでは慣れることなんてできるわけがない。

 

「もう無理…限界…月見さん…恨みます…」

 

 贅沢な悩みだということはわかっている。仮に別の人が昴から指導を受けられるとなればとても喜んで受けることだろう。実際宇佐美や綾辻からは桐山さんはいい人だから大丈夫だよと励まされた(他のオペレーター女子から刺されないようにねと不穏すぎる一言も宇佐美からいただいたが、綾辻も苦笑いしつつ否定はしなかったし)。だがしかしこうなってくると昴を紹介してくれた月見に対しても恨み言を言いたくなってしまう

 そんなことを考えているうちに気が付けば食堂へと着いていた。

 

(とりあえずご飯でも食べよう…)

 

 そう思い氷見は食堂へと入ったのだが

 

「氷見さん…?…お疲れ様」

「氷見先輩お疲れ様です」

「き、桐山先輩と…か、か、から…すまくん…!?」

 

 よりにもよって氷見にクリティカルヒットする二人と鉢合わせてしまったのである。

 

「お…お…お疲…れさまで…す!」

 

 昴だけでもまともに話せないのにそこに烏丸が加わったことで氷見はもはや崩れ落ちる寸前であった。

 

「えっと氷見さん?」

「は、はい!なんですか…?」

「いや…その調子はどうかなと思って」

「は…はい、大丈夫です」

 

 とてもそうは見えないものの氷見はそう返した。

 見かねた烏丸が昴に小声で尋ねた

 

「いやもっと話すことあるでしょ」

「いざ話すってなったら何話したらいいかわからない…相変わらず緊張してるし…」

 

 これ緊張ってレベルか?と思いつつ烏丸も少し話しかけてもものの

 

「氷見先輩大丈夫ですか?」

「…!ひひゃ!?か、烏丸君…!だ…だい…だいじょ…ひえ…」

 

 烏丸相手にはもはや返事すらままならない状態であった

 氷見の余りの緊張具合に現場は少しカオスな状況になっていたが

 

「・・・・・!!!そういうことか!!」

 

 突如昴に一つの考えが思い浮かんだ

 

「氷見さん!!」

「ひゃ、ひゃい!!」

「この後暇?」

「え…えと…はい…」

「ならこの後少し時間を空けといてくれ!教えたいことがある!」

「わ、わかりました…!」

「よし!じゃあまた後で!京介行くぞ!」

 

 そういって昴は烏丸の手を引っ張り食堂を出ていった

 

「急にどうしたんすか昴さん」

「ふふ、なにいい案が思いついたんだ。京介、お前のおかげだ」

「はあ…そうすか。どんな考えなんですか?」

「悪いがそれは言えない。氷見さんのためにもな…」

 

 この人またアホなこと考えてないか?烏丸は不安と呆れを含んだ目で昴を見るのだった

 

「おいなんだその目は」

「昴さんがまたアホなこと考えてるんじゃないかと」

「殴るぞ」

 




この小説がまさかのランキングに入ってて非常に驚きました。皆さん本当にありがとうございます!!

というかランキング一覧をみてランキングに入ってることに気づいたんですけどランキングに入ったことって通知で来ないんですかね?


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昴と氷見亜紀③

総合評価700ptありがとうございます!
評価も赤バーになって嬉しいです!!ありがとうございます!!


二宮隊の作戦室にて昴は氷見を待っていた。氷見への指導はいつも二宮隊の作戦室にて行われている。基本的には二宮達がいない時間に氷見を招待して指導しているが、二宮達も大体の時間を見計らって作戦室を離れるようにしている。チームメイトの気遣いに昴はいつも感謝していた。最も二宮は気を使っていることは絶対に認めないが。一度昴がお礼を言った際に

「勘違いするな、俺はただランク戦に行っているだけだ。」と言い放った様は気心知れてる仲間からすればどう見てもただのツンデレであった。

 

「し、失礼します」

「いらっしゃい」

 

 集合時間の10分前に氷見はやってきた。相変わらず昴とは目を合わすことができず、緊張している。というかいつも以上に緊張していた。原因はもちろん先ほど食堂でばったり鉢合わせたことだ。

 

「ところで氷見さん、一つ聞きたいことがあるんだけどいい?」

「はい…なんですか?」

「不躾な質問かもしれないけど…もしかして京介のこと好き?」

 

 一呼吸おいて昴はそう尋ねた

 

「・・・・・・・・・・・・へ?」

 

 しばし呆然とした氷見だったが、質問の意味を理解したとたん顔が今までにないほど赤くなっていく

 

「な…な…何を!?いや、わ…私は…!!!」

「急に変なこと聞いてごめんね?ただその反応を見るとやっぱりそうみたいだね」

「だ…だから…私は!!というかなんでわかったんですか!!」

「食堂で鉢合わせたときの反応を見たらだいたいわかるよ」

 

 慌てる氷見に昴は冷静に返した。

 

「うう…なんでそんなこと聞くんですか…私を辱めたいんですか…」

「悪いことをしたとは思ってるからその言い方やめてくれない?」

 

 もちろん昴が急にこんなこと聞いたのは嫌がらせのためではない

 

「氷見さん、まず犬飼との会話を想像してくれないか?」

「…はい?なんでですか?」

「いいからいいから」

「はあ…」

 

 氷見は疑問を抱きながらも犬飼との会話を想像してみる。

 コミュ力が非常に高い犬飼はあがり症の氷見でも多少は話しやすい人物である。気軽に話しかけてくる犬飼にそっけなさはありつつも軽い受け答えはできてる姿が想像できた

 

「想像してみましたけど…」

「じゃあ次は辻ちゃんで想像してみて」

 

 辻とは初めて会った時以来まともに会話をしていない。というか初めて会った時にもまともな会話なんてできていなかった。とはいえあそこまで動揺しているとこちらは少し落ち着ける。会話と言えるのかはわからないがそれなりの受け答えができてるのは想像できた

 

「想像しました…あのこれなんですか?」

「まあまあ、次は二宮さん…は別にいいや」

 

 二宮との会話を想像させるのはやめておくことにした。氷見と二宮の会話を想像してみた昴はとても緊張する氷見が見えたため、これを氷見に想像させるとこの後の話に説得力が持たせられなくなると思ったからだ

 

「じゃあ最後に…京介との会話を想像してみてくれ」

「!?か、烏丸君との…!?」

 

 氷見の元に戻りかけていた顔の色が再び赤くなった。烏丸との会話なんて想像しただけで緊張が最高潮になってしまう。何も話すことができずに烏丸の前で撃沈する姿が氷見には容易に想像できた

 

「うう…」

「うん、想像できたみたいだ」

 

 顔を赤くして下を向く氷見を見て昴はそう言った

 

「…こんなことしてなんの意味があるんですか…?」

 

 相変わらず昴の方には目を向けず、少し恨めしそうに氷見は尋ねた

 

「今想像してみてわかったと思うんだが…京介と話すことと比べたら他の人と話すことなんて緊張しないだろ?」

 

 そう言った途端氷見は目を見開いて昴の方を見た。すぐに再び目を背けたが

 

「京介のやつ相手に緊張するのはよくわかる。あいつは顔も中身もどっちもイケメンだからな。女子からすれば高嶺の花と言えるのかもしれない。だがむしろそう考えたら京介以外の人はそこまで緊張することないんじゃないか?」

 

 昴の思いついた案とは烏丸をより強く意識する代わりに他の人物をそこまで意識させないようにさせるものだった。食堂で見た氷見の反応から氷見が烏丸のことを好きなのは昔から烏丸が好きな女子を何人も見てきた昴にはすぐわかった。だからこそそれを利用すれば氷見のあがり症を治せるのではと考えたわけである

 

「…確かに桐山先輩の言う通り烏丸君と話すことと比べたら他の人と話すことは大したことはないですね」

「そうだろ?これで氷見さんのあがり症も克服できると思ったんだが」

「…そうですね。ありがとうございます」

 

 氷見はそう昴に礼を告げたのだが

 

「…ほんとに克服できた?」

「はい、おそらくですができました」

「…じゃあなんでまだ俺から目をそらすの?」

 

 氷見は相変わらず昴から目を背けたままだった

 

(おかしいな…俺の考えが間違っていたのか?)

「あの…氷見さん?やっぱり克服できてないよね?俺に気を使わなくてもいいからさ…」

「いえそんなことはありません。」

 

 相も変わらず目をそらしながらそう答える。確かに受け答えはどもらなくなったがどうして…

 昴は一つ勘違いをしていた。氷見はあがり症を克服できたのだが、そもそも氷見の他の人に対する緊張と昴に対する緊張は全く別のものなのだ。そのため他の人に対する緊張は克服できたが昴に対する緊張は未だ克服できていなかったのだ。そのことに気づいていない昴は

 

(やっぱり俺嫌われてる…?)

 

 新たな勘違いを重ねていた

 

 一方の氷見の胸中も穏やかではなかった。

 

(桐山先輩との会話、烏丸君と同じくらい緊張するんだけど…!)

 

 昴のおかげであがり症はおそらく克服できたものの、昴との会話を想像した結果、この有様である。むしろ悪化してるとまで言えるかもしれない

 そして新たな勘違いを重ねた男は変なエンジンがかかってしまったようで

 

「氷見さん…」

「何ですか?」

 

 以前のように言葉がどもることが無くなっていることを見るにあがり症を克服したのは事実のようだ。となるとやはり…

 

「氷見さんの考えていることはよくわかった」

「・・・!」

「俺はそこまで氷見さんに嫌われていたんだな…」

「…はい?」

 

 昴の言葉に氷見は緊張も忘れ昴の方を見る

 

「すまないが心当たりは何もないんだ…だが俺が師匠として至らなかったことが理由だろうか?何か悪いところがあれば言ってくれ。それか氷見さんが嫌だというなら俺から月見さんに話して…」

 

 昴の言葉に氷見は言葉を失くしてしまう。自分の態度が悪かったとはいえ昴をここまで思い詰めさせてしまったことに後悔を隠せない。しかしそれと同時に怒りの感情も込み上げていた。話には聞いていた。桐山先輩は非常に鈍感だと。烏丸君のことをよくイケメンだと言うくせに自身の破壊力には全く気付いていないと。

 氷見の感情はごちゃごちゃになっていた

 

「…がいますよ」

「・・・ん?」

「違いますよ!!そんなわけないじゃないですか!!桐山先輩にはとてもお世話になってるんですから!!教え方はうまいし、あがり症の私にもすごく気を遣ってくれるし、烏丸君と同じくらいかっこいいし!!!」

「・・・へ?」

「そもそも先輩は自分の顔の良さわかってるんですか!?よく烏丸君のことかっこいいだのイケメンだの言ってますけど桐山先輩も大概ですからね!?そのスーツ姿にどれだけの子が撃沈してきたかわかってるんですか!?」

「・・・え?」

「それでもただ顔がいいだけなら私もそこまで緊張しませんよ!!なのに先輩はずっと目をそらしたり、会話も碌にできてなかった私に根気強く指導してくれて…そんなのより緊張するに決まってるじゃないですか!!」

「…いや…」

「そんな先輩を嫌ってるわけないです!!むしろ先輩にそこまで考えさせてしまった私が悪いんです!!ごめんなさい!!」

「いや氷見さんが謝ることじゃ…」

「でも自分の破壊力をわかってない先輩も先輩ですからね!!わかってますか!?」

「破壊力って大げさな…」

「大げさじゃありません!!さっき言いましたよね!?何人撃沈させてきたかわかってますか!?わかってませんよね!?」

「…はいわかってません」

「だったら先輩も言うことがありますよね!?」

「…ごめんなさい」

「はいよろしい!!」

 

 頬を染めはぁはぁと息を切らした氷見が立ち尽くしていた。そこには普段クールで知られる彼女はどこにもいなかった

 

 数分後、落ち着いた氷見は昴に頭を下げていた

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…勢いとはいえ先輩に対して偉そうなことを言って…」

「いや!俺も悪かったからさ!ごめんね!?あそこまで言わせちゃって!」

 

 お互いに頭を下げあう光景は非常にカオスであった

 

「というかさっき言ってた破壊力とか撃沈とかあれって本当なの…?」

「本当です。むしろなんで気づいてなかったんですか?」

「俺とすれ違うたびに顔を背ける子たちが多くておかしいなとは思ってたけど」

「それで気づかないほうがおかしくないですか?」

「スーツがそんなに似合ってないのかと…」

「その答えに行きつくほうがおかしいと思います」

 

 氷見は冷静にそう返した。気が付けばまっすぐ昴の方を見つめて会話ができていた

 

「そういえば氷見さん、こっち見て話せてるね」

「…さっきの話でなんだかもう吹っ切れました」

「そうか…よかった。初めての弟子だからこうして真っすぐ話せるのはやっぱり嬉しいね。ありがとう」

「・・・・・っ!!」

 

 ほんとそういうところだぞと思わず頬を染めながら腕を振り下ろす氷見だった

 

「…はあ、そういうわけですからもう師匠辞めるなんて言わないでくださいね?まだまだ教えてほしいことはたくさんあるんですから」

「もちろん。むしろやっとスタートラインに立てた気分だ。これからはビシバシいくからな!」

「ええ、望むところです」

 

 そう言ってお互いに微笑みながら二人は他愛ない話を続けるのだった。ぎくしゃくしてた二人がようやく師弟にそして友人になれた瞬間だった

 

「そういえば烏丸君とはどういう仲なんですか?随分仲がいいみたいですけど」

「ああ、京介とは幼馴染なんだよ。幼いころから仲が良くてさ…」

 

 

 

 

「ひゃみちゃんとキリくんやっと仲良くなれたみたいですね~いやーよかったよかった」

「師弟関係ならあれくらい当然だろう。むしろ遅すぎたくらいだ。全くぬるいやつめ…」

「まあまあそう言わずに、辻ちゃんもそう思うでしょ?」

「お、俺は…桐山先輩と…ひ、氷見さんが仲良くなれてよかったと…」

「辻ちゃんドア越しでもそんなに緊張するの?」

 

 作戦室の前では三人のチームメイトが昴たちをそっと見守っていたのだった。

 余談だが自身の作戦室の前で中を覗き見るスーツの三人は非常に目立っていたようで、後日その姿を映した写真がボーダー内に広まったとか。ちなみに炒飯作りが趣味のボーダー隊員は写真との関与をニヤニヤしながら否定したという。

 

 

 

 

 

後日

 

「なあ京介」

「どうしたんすか、そんなに真剣な顔して」

「もしかしてなんだが…俺ってそこそこかっこいいんだろうか?」

「…その発言は全くかっこよくないっすね。というか今更過ぎます」

 

 ようやく気づいたのかこの人はと呆れを含んだ目線で昴をみる烏丸がそこにはいた

 

その夜

 

「なあ綾香」

「なに兄貴」

「俺ってかっこいいのか?」

「顔はかっこいいんじゃないの」

「え?」

「なに?」

「いやそこは冷たく否定するものかと」

「顔はいいけど中身はアホだから」

 

 兄の質問にそっけなく返す妹がそこにはいた




ワートリ本編のひゃみさんももちろん好きですが、どちらかと言えば私は二次創作でひゃみさんにはまったんですよね。


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昴と鳩原未来

「よし、今日のところはこれくらいにしとくか。お疲れ様」

「はい、ありがとうございました」

 

 昴と氷見の和解からしばらく経ったころ、今日も今日とて二宮隊の作戦室にて昴の指導が行われていた

 

「それにしても最近の氷見さんはほんと教えやすくなったなぁ。覚えもいいし嬉しいよ」

「まるで最初のころの私が教えにくかったみたいな言い方ですね」

「いやそこは認めようよ」

「否定はしません。ですが覚えの良さは最初から良かったと思います」

「まあそれはそうだけど」

「ということは私を緊張させてた桐山先輩が悪いということですね」

「どうしてそうなる」

「なにせ桐山先輩のたらしっぷりはボーダーでも随一なんですから」

「謝るからその言い方辞めてくれない?というかそれを言うなら京介もそうなんじゃ…」

「無自覚だった先輩と烏丸君を一緒にしないでください」

「京介も割と無自覚だと思うけど…」

 

 二人の軽口の応酬は二宮隊の部屋ではもはや見慣れた光景であった。

 

「というか氷見さん仲良くなってから無遠慮になったよね」

「前のほうがよかったですか?」

「いやこっちのほうが話しやすいから全然いいよ。氷見さんも楽しそうだし」

「…っ、そうですか…」

 

 そして昴のふとした一言に氷見がドキッとさせられるのもいつものことであった。最近は慣れてきたとはいえ何気ない一言でこちらを打ち抜いてくるので氷見からすれば非常に心臓に悪かった

 

「今日も二人は仲良しだね~少し羨ましくなるよ」

 

 犬飼が二人にそう言って声をかけた

 

「いや犬飼も弟子ならいるだろ」

「ろっくんはちょっと俺に遠慮してる部分があるからね。ひゃみちゃんみたいに師匠を弄ったりしないからさ。もっと気軽に話しかけてくれていいのに」

「若村はそういうキャラじゃないっぽいしちょっと厳しんじゃないか?」

「だよね~ひゃみちゃん、師匠を弄るコツろっくんに教えてあげてくれない?」

「師匠を弄るコツってなんだよ」

「まずは師匠の弱みを握るところからですね」

「氷見さんも律義に答えなくていいから」

 

 相手は大体犬飼であるものの、あがり症を克服した氷見が二宮隊のメンバーと話す光景もあまり珍しいものではなくなってきていた。昴と犬飼、氷見の三人が揃えば犬飼と氷見の二人で昴を弄るのが大体いつもの光景である

 

「辻ちゃんもなんとか言ってよ」

「俺は弟子がいないんでよくわかりませんが桐山先輩と氷見さんみたいな気安い師弟関係もいいと思います」

「ほら辻君もこう言ってますし甘んじて受け入れましょう」

「別に文句はないけど弟子から言うことじゃないよね?」

 

 辻も少しずつ氷見と話すことに慣れてきており、今ではどもらず話せるようになってきている。ただし以前の氷見のように顔を背けた状態ではあるが

 

そんな雑談をしてるとコンコンとノックを鳴らして作戦室に入ってきた人物がいた。隊長の二宮であった。その後ろには見知らぬ女性を連れてきていた

 

「あ、二宮さんお疲れ様です!」

「お疲れ様でーす」

「お疲れ様です」

「お疲れ様で…す!?」

 

 まず挨拶したのは昴だ。次に犬飼と氷見が続き、最後に辻が挨拶したが二宮の後ろの人物を見て固まってしまう。

 

「ああ全員いるな?」

「二宮さん、私は部屋を出たほうがいいでしょうか?」

「構わん。どうせまたすぐにうちの部屋に来るんだ。顔合わせは先に済ましておいたほうがいい」

 

 場合によっては作戦室を出ようと思った氷見だったが二宮の言葉を聞いて部屋にとどまることにした。

 

「に、二宮さん…後ろの方は…?」

 

 女性が苦手な辻は固まりながらも二宮に尋ねた

 

「ああうちの新メンバーだ。自己紹介しろ」

 

 二宮は後ろの女性にそう促し、はいと答えた女性は前に出て自己紹介を始めた

 

「初めまして、鳩原未来です。スナイパーをやっています。よろしくお願いします」

 

 鳩原は自信なさげな表情をしながらも自己紹介をし、頭を下げた

 

「じゃあ次は俺たちだね。おれは犬飼澄晴、ポジションはガンナー。よろしくね」

「初めまして桐山昴です。オペレーターやってます。よろしくお願いします」

「つ…辻新之助…です…あ…アタッカーです…」

 

 犬飼と昴は簡単な挨拶をするも辻はかつての氷見と会った時のようにしどろもどろになりながら挨拶をするのだった

 

「えっと…私は氷見亜紀です。私は二宮隊の所属ではありませんが桐山先輩の弟子なので時々ここにきてます。よろしくお願いします」

 

 氷見も少し戸惑いながら挨拶をした

 

「よし、挨拶は済んだな。鳩原には来シーズンからランク戦に参加してもらう。それまでにチームの連携を整えるぞ。いいな?」

 

「「「(りょ…)了解」」」

 

 辻だけは震えつつも三人は返答した

 

(鳩原さんか…)

 

 聞いたことはある。通常狙撃訓練やレーダーサーチ訓練の成績は非常に良くスナイパーとしての技術はボーダー内でも非常に高いものだと。一方でとある噂も流れていた。

 

「鳩原さん、一つ聞いてもいいですか?」

「何?」

 

 もしかしたら鳩原さんを傷つけることになるかもしれない。しかしチームで戦う以上ははっきりさせておかなければならないことだ。昴は意を決して尋ねた

 

「人が撃てないという噂は本当ですか?」

「…!」

 

 鳩原の顔が青ざめていく

 

「うん…本当だよ。あたしは人を撃つことができないんだ」

 

 鳩原は青ざめた表情でそう返答した

 

「…そうですか」

 

 人が撃てない。はっきり言ってスナイパーとしては致命的だ。だが二宮がそのことを理解してないわけがないだろう。昴は二宮に尋ねた

 

「二宮さんはこのことを知ってるんですか?」

「ああ、聞いている。だから鳩原に点を取ることは期待していない」

「ならどうするんですか?」

「鳩原にやってもらうことは相手の武器を壊すことだ。武器を狙撃して味方の援護をしてもらう」

「武器の破壊…」

 

 武器の狙撃、それは人を撃つことよりも難しいことだ。そんなことをやるスナイパーは他にはいないだろう。

 

「鳩原さん本当にそんなことできるんですか」

「…うん、あたしにできることはこれくらいしかないから…ごめんね…」

「ああ、いえこちらこそ無遠慮でごめんなさい」

 

 昴は鳩原に謝罪する。流石に不躾だったか

 

「信じられないなら後で確認してみればいい。こいつの狙撃の腕前は確かだ。腐らせるのは勿体ない。だからうちで引き取ることにした。働いてもらうぞ鳩原」

「はい…わかりました」

 

 それともう一つ話がある。二宮はそう言って話し始めた

 

「うちの部隊はこれから遠征を目指すことにする」

「遠征ですか?」

 

 犬飼の問いに二宮はああ、と返答した

 

「鳩原は弟を近界に拉致されている。その弟の手がかりを探すためだ。いいか?」

 

 なるほどと昴は思案した。人を撃てないにも関わらずスナイパーとして戦おうとする理由。それは弟を助けるため。そのために彼女なりに戦えるよう模索した結果が武器を破壊して味方の援護をする。そういうわけか。

 

「ええ了解です。そんな事情があるなら俺もついていきますよ」

「りょ…了解…です」

 

 犬飼は快く了承し、辻も震えながら了解した。あの震えは鳩原への緊張からだろうし問題はないだろう。

 

(まいったな…)

 

 一方昴はとある理由から困りこんでしまった。しかし今ここでそれを暴露するわけにもいかない

 

(そろそろ潮時かな)

 

 昴はとある決意を固めることにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで話ってのはなんだ昴?」

 

 鳩原との顔合わせも終わりメンバーと氷見が解散した後、昴は二宮と話をするため二宮を引き留め二人で作戦室に残っていた

 

「はい、次のランク戦が終わったら俺は二宮隊を抜けることにします」

「…そうか」

 

 昴の宣言に二宮は息を吐きながら答えた

 

「突然のことでごめんなさい」

「いや構わない。最初から言っていたことだからな。…理由をきいてもいいか?」

「はい」

 

 いずれ自分の部隊を作る、そう言っていたがこいつの話し方から察するにそれだけではないのだろう。そうあたりを付けた二宮は昴に尋ねた

 

「もちろん一番の理由は妹と部隊を作るからなんですが…二宮隊が遠征を目指すことになったからですね。俺は今まで遠征について考えたことはなかったんですが…万が一のことを考えるとこっちに家族を残すわけにはいかないんで俺は遠征には行けません」

「…そうか」

 

 昴がボーダーに入ったのは家族を守るためだ。それを家族を残して近界に行くというのは昴にとって考えられないことであった。

 とはいえ他のメンバーは遠征への意欲を示しているし、何より大事な家族を失った鳩原の悲しみはよくわかる。それを自分一人の都合で無下にするわけにはいかなかった。

 

「すいません二宮さん、今までお世話になったのにこんな理由で抜けるなんて言ってしまって」

「気にするな。危険だから遠征には行きたくない。それも正しい考えの一つだ。むしろ部隊を作るときに確認をしなかった俺のミスだ。お前の謝ることじゃない」

「…ありがとうございます」

 

 二宮の言葉に昴は感謝を告げる

 

「新しいオペレーターを探さないといけないな…」

「あ、そのことなんですが俺の後任に推薦したい人がいまして」

「…予想はつくが誰だ?」

「氷見さんです。彼女のオペレーション能力は俺にも引けを取りません」

「だろうな。辻の奴も氷見相手には少しは話せるようだし悪くない」

「でしたら…!」

「ああ、後任は氷見に頼むとしよう」

「ありがとうございます!そうだ!以前の東隊の時のようにどこかの試合で彼女に一度オペを任せてもいいですか?」

「構わない。能力を確かめるいい機会だ」

「ありがとうございます!」

 

 自身の提案を快く受け入れてくれた二宮に昴は感謝を告げた

 

「だが意外だな。以前のお前のように最終戦のオペを任せるものだと思っていたが」

「…悪いですけどそこは譲りたくないですね」

 

 昴は好戦的な笑みを浮かべ二宮に言い放つ

 

「最後のA級昇格をかけた試合には俺がみんなを勝利に導きたいですから」

「…なるほどな」

 

 昴の言葉に二宮は少し口角を上げて答えた

 

「次のランク戦で必ず取りましょうね。B級一位」

「ふん、当然だ。全員撃ち落としてやる」

 

 最後のランク戦に向けて昴と二宮はより一層気合を高めるのであった

 

「あ、後もう一つ言っておきたいんですけど」

「なんだ?」

「俺の抜ける理由のことみんなには黙っておいてくださいね。特に鳩原さんがこのことを知ったら余計なもの抱え込んじゃうような気がするんで」

「…そうだな。わかった」

 

 昴は鳩原のため自分が二宮隊を抜ける理由は黙っておくことにした

 

 しかし・・・

 

 

 

 

 

 

「…そっか…あたしのせいで…やっぱりあたしってダメなやつだな…」

 

 扉の前で鳩原が話を聞いていたことに二人が気づくことはなかった

 




できればお気に入りが555件ぴったりの時に投稿したかったけど間に合いませんでした(灰化消滅


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昴と二宮隊③

総合評価1000Ptになってる!!
皆さんの感想と評価、いつも励みになっています!!
本当にありがとうございます!!!


 鳩原が二宮隊に入って数日後

 

「というわけで俺は今シーズンのランク戦が終わったら二宮隊を抜けることになりました」

 

 作戦室にチームメイトと氷見を集めた昴はそう宣言した

 

「そっか寂しくなるね」

 

 話を聞き終えまず声を発したのは犬飼だ。隊が発足してから約半年、いずれチームを抜けるという話は聞いていたもののいざそのときが来るとやはり少し寂しさは感じてしまう

 

「桐山先輩ほんとにやめちゃうんですか…」

 

 続いて言葉を出したのは辻である。ボーダーのオペレーターは昴を除けば女性が苦手な辻にとっては雲の上のような人たちであったため、辻にとって昴は唯一気軽に話せるオペレーターであり、チームを裏から支えてくれてる頼もしい先輩であった。

 

「そんなに落ち込まないでよ辻ちゃん。別にボーダーを辞めるわけじゃないんだからさ」

「でも…」

 

 先輩が隊を抜けることも非常に寂しいが、辻にとって懸念事項はもう一つあった。それは昴の次に入る新しいオペレーターのことである。今までは男の昴がオペしてくれてたおかげで事なきを得ていたが、新しいオペレーターが入ってきたとき、話したこともない女性のオペをちゃんと聞けるだろうか。辻はそこが不安で仕方なかった

 

「辻ちゃんの不安もよくわかるよ。そこでだ、今から俺の後任のオペレーターを発表しまーす」

 

 そんな辻の不安も読んでいた昴がその不安を少しでも払拭するために選んだ新しいオペレーターを発表する

 

「新しいオペレーターさんはぁ・・・なんと!「私です」って氷見さん割り込まないで!!」

「先輩のやり方が大げさすぎるんです」

 

 仰々しく発表しようとした昴に割り込む形で氷見が宣言した。昴が軽い文句を続けるも氷見は平然とした表情でそれを受け流し続けた

 

「ひゃみさんかぁ。まあ予想通りではあったね」

「少しくらい驚いてくれてもいいじゃないか犬飼」

「いやぁでもこれは割と予想できることでしょ」

 

 犬飼はいつもの態度でそう返した。実際昴の後任に氷見が充てられるだろうということは犬飼も二宮も予想できていたことではあった。むしろ予想できていなかったのは

 

「氷見さんが…新しいオペレーターさん…?」

 

 驚いた表情でそうつぶやく辻くらいであった。

 

「そういうことだから辻君、私と桐山先輩が入れ替わるまでに少しは私と話せるようにしてね?」

「うん頑張ります…」

 

 氷見から目を背けながら辻が返答した。とはいえ氷見が後任と聞いて少しホッとしたのも事実であった。まだ少し壁を作っているとはいえ今から氷見以外の人となると自分はまた固まってしまうだろう。そう考えると氷見以上の適任は思い浮かばない。今から新しい人と話せるようになることと比べれば何倍もマシであった

…できれば桐山先輩のままが一番いいんだけどな…とはさすがに言えなかった

 

「ほーら、まずは目をみて話すところから」

「そ…それはまだちょっと早いです…」

 

 ただし完全に打ち解けるにはまだ少し時間がかかりそうだが

 

「鳩原さん、そういうわけなんで短い間ですが改めてよろしくお願いします」

「…うんあたしの方こそよろしくね」

 

 今までの話を黙って聞いていた鳩原に昴は改めて挨拶をしたのだが鳩原の表情は暗いものであった

 

「…鳩原さん、何かあった?」

「ううんなんでもないよ。気にしないで」

 

 暗い表情が気になった昴が訪ねたものの鳩原の返事はそっけないものであった。

 

「…うんわかった。ただ何かあったらいつでも相談してね。短い間とはいえチームなんだからさ」

「うんありがとう」

 

 何かあったことは明白だが鳩原本人が話す気がないためか昴は深追いすることなく話を切り上げた

 

「それにしてもひゃみちゃんも驚いたんじゃない?キリくんにうちのオペレーターを任せるって言われた時にはさ」

「いいえ、犬飼先輩の言ってた通り予想できてたことなので」

「ひゃみちゃんはクールだねぇ」

 

 氷見はそう返したものの事実は異なる

 

 

 

 

 それは昨日の話、作戦室にて指導を終えた昴が帰り支度をしている氷見に二宮隊の後任について話したときのことである

 

「あの…桐山先輩、今なんて言いました?私に二宮隊のオペレーターを任せるって聞こえましたけど…気のせいですよね?」

「いや気のせいじゃないよ。俺が二宮隊を抜けた後の後任を氷見さんに任せたいんだ」

 

 数秒、作戦室を静寂が支配するが、静寂はすぐに消え去った

 

「えええええええええええ~~~!!!???」

 

 帰り支度を済ませて作戦室を出ようとしていた氷見の叫びが作戦室を支配した

 

「ちょ!いきなり何言ってるんですか!?」

「だから俺の後任を氷見さんに任せたいなって」

「そこじゃないですよ!!なんでそんな急に言うんですか!!」

「俺の師匠の月見さんもいつも唐突だったから」

「そんなところはマネしなくていいんですよ!!ほんと先輩は私を驚かせるの上手ですよね!?」

「いやぁそれほどでも」

「褒めてません!!この鈍感!!」

「直球の悪口は傷つくからやめよ?」

 

 以前の爆発したときと同じように氷見の叫びは止まらなかった。そんな氷見をなんとかなだめて昴は話を続ける

 

「まあこれは俺の勝手なお願いだし無理強いするつもりはないよ。もし他に入りたい部隊があるならそっちに行ってくれても構わないし。今すぐ決めろなんて言うつもりもないからゆっくり考えてほしいな」

「………はあ、もう」

 

 氷見はうなだれながらそうつぶやいた。そんな言い方をされては断れないではないか。

急に言われて驚きこそしたものの二宮隊のメンバーとはある程度の親交はできてるし、別にほかに入りたい部隊があるわけでもない。考えてみれば氷見には断る理由が見当たらなかった

 

「いいですよ。先輩の後任は私がやります」

「…え?いいの?」

「何驚いてるんですか。先輩が言い出したことじゃないですか」

「いや…俺もここまで即決してもらえるとは思ってなかったから…」

「だとしたら先輩を驚かせることができて嬉しいですね。ざまあみろです」

「ほんと遠慮しなくなったな…」

「それに辻君のオペをできる子を探すのも大変でしょうし。多少慣れてきた私ならおそらく大丈夫でしょう。」

 

 別のオペレーターが入って完全に固まってしまった辻を想像しながら氷見はそう話した

 

「何より師匠の頼みなんだから断れるわけないでしょ?先輩の後を引き継ぐことで恩を返せるなら安いものです」

「氷見さん…」

「そういうわけなんだし私がやりますよ。いいですよね?」

 

 先ほどまで氷見を驚かせていた昴が今度は逆に驚かされてしまった。

自分に恩を感じる必要はない。一瞬そう言いそうになったがその一言は飲み込んだ。それをいうのは氷見に対して失礼だろう。自分を慕ってここまで言ってくれてるんだから。だったら自分の言うことはただ一つだ

 

「引き受けてくれてありがとう氷見さん。俺の後は任せたよ」

「はいもちろんです」

 

 昴の言葉に氷見は笑顔で答えたのだった

 

「ま、今すぐ辞めるわけじゃないし。今はまだそんなに気負わないでいいよ」

「そうですね。もし今すぐ変わるって言ってたらトリオン体で殴っていたところでした」

「怖っ、まあ俺もトリオン体だしそこまでダメージはないけど」

「当然換装は解いてもらってましたよ」

「それ下手したら死ぬやつ…」

「アホなところがある先輩ならきっと大丈夫です」

「それどういう意味?」

 

 先ほどまでの真面目な空気は一転して二人はいつもの軽口を叩きあうのだった

 

 

 

 

 時は戻って現在

 

 一人黙っていた二宮は話がある程度まとまったことを察すると話を始めた

 

「そういうわけだ。今シーズンで昴はウチを抜けてその穴埋めに氷見が入ることになる。昴がオペをする最後のシーズン、必ずB級一位に上り詰めてA級に入るぞ。いいな?」

 

 二宮の問いにチームメンバーたちは顔を引き締め、声を揃えて返答をした

 

「「「「了解」」」」

 

 昴がオペをする最後の試合がまもなく始まろうとしていた

 

 

 

 

 

 

 

「あそうだ。氷見さん今シーズンのROUND7のオペは氷見さんがやってね。卒業試験ってことで」

「…はい?聞いてませんよ?」

「今言ったからね」

「…ホントに殴っていいですか?」

「いきなり翌日の最終試合のオペを卒業試験にされた俺よりはマシだから大丈夫だよ」

 

 昴は笑顔でサムズアップしながらそう返した。許されるならこの満面の笑みの師匠を弧月でぶった切るかアステロイドで蜂の巣にしたいと思った氷見であった

 

 



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昴と18歳組

ランク戦の前に少し小話
ちなみにタイトルに18歳組とありますが時系列的にまだ18歳ではありません


「断る」

「二宮さん…そこをなんとかお願いします」

 

 昴の二宮隊としての最後のランク戦まで残り二週間を切っていたその日、作戦室にて昴は二宮に対して頭を下げて頼みごとをしていた。しかし二宮はそれを冷たく断っていた。その表情は二宮が初めて昴に会った時と同じくらい冷たいものであった。

 だがそれもそのはず、なにせ昴の二宮への頼み事というのは

 

「知るか、なぜ俺が成績の足りない馬鹿どもを手伝わなければいけないんだ?」

「お願いします…もう俺一人じゃ無理なんです…」

 

 二宮からすれば非常に馬鹿馬鹿しい頼みであったからだ

 

 

 

 遡ること数日前

 

 季節も冬真っ盛りの中、学生たちに学年末テストが迫ってきていたのだ。この学年末テストが一部のボーダー隊員にとって鬼門となった。テストにて赤点を取ったものは後日補修が行われるのだが、その日程がランク戦と丸被りしていたのである。しかもご丁寧に水曜と土曜の二日間。狙ってるのか?と思わざるをえない日程ではあるが、ランク戦を控えた隊員にとっては死活問題であった。

 昴の成績は中の上くらいであるため特に問題はなかったが、問題があったのは他の隊員であった

 

「桐山君ここわかんないよ~!」

「ここさっきも教えたじゃん…もうやだ…」

「お~ね~が~い~!見捨てないで~!!」

 

 まず泣きついてきたのは現在半泣きの国近であった。A級なのでランク戦には影響はないものの、補修があると知るや否や昴に泣きついてきたのである。テスト前になるといつも昴に勉強を教えてもらっていた国近だったが普段のテストと異なり一つの赤点も許されないためその勉強会は普段の倍以上の熱量を秘めていた。

 ちなみに太刀川もまた最後の学年末テストに向けて風間にしごかれている真っ最中であった。

太刀川隊ってバカしかいないのかな?幼馴染には悪いがそう思わずにはいられない昴だった

 とはいえ国近一人であれば昴も一人でなんとかできただろう。

 

「なあ桐山、ここはどうやるんだっけ?」

「だからそこは教科書のこのページを見ればわかるって言っただろ…」

「…おおほんとだ。サンキュー」

 

 問題は赤点の危機を秘めた男がもう一人いたことだった。男の名は当真勇。ボーダーでも鳩原と並ぶほどの実力をもったスナイパーだ。

 当真は今まで隊を組まずソロのスナイパーでフラフラしていたのだがオペレーターの真木理佐に「働け」と一喝されたことでトラッパーの冬島と共にチームを結成、今シーズンからランク戦に参加することとなったのだが問題なのはその成績であった。このままでは赤点を取ってしまいデビュー戦からいきなり躓くことになってしまう。しかしオペレーターの真木は当間の一つ下で勉強は教えられず、リーダーの冬島も勉強を教えられるほど賢くないため昴に白羽の矢が立てられたのだった。

 

「この馬鹿を頼むわ、桐山さん」

 

 正直国近さん一人でも手一杯だったがオペレーター仲間の真木さんに頭を下げられては断れなかった。

そんなわけで昴はただいま地獄をみていた。昴も成績優秀というわけではなくあくまで平均点より少し上というレベルであり、そんな中で馬鹿二人の指導というのは非常に厳しいものであった

 

「ごめんね桐山君、迷惑かけてごめん…」

 

 国近はいつになくしおらしく昴にそう告げた。ランク戦前に昴を巻き込んでしまったことに国近も少なからず申し訳なさは覚えていた

 

「別にいいからさ、今はとにかく勉強しよ?次からはちゃんと予習しような?」

「それはちょっと約束できない…」

「おい」

 

 それはそれ、これはこれであった

 

「しかしお前もよくやるよな~俺が言えた義理じゃないけどよく二人も引き受けてくれたよなぁ」

「ほんとにお前の言えた義理ではないな…正直投げ出したいけど、真木さんにも頼まれてるしそんなわけにもいかんだろ」

「ああ、真木ちゃん怖えもんなぁ」

「そうか?俺は怖いとは思わないけどなあ」

「…もしかしてお前真木ちゃんまで誑し込んでるのか?」

「その言い方俺にも真木さんにも失礼だからな?」

 

 真木さんとは何度か話したことあるけど自分にも他人にも厳しいストイックなだけで怖いって印象はないんだけどなぁ。お願いされて少しオペの指導もしたことあるけど、俺の教え方(氷見さん曰くスパルタらしい、月見さんよりはマシだと思うけど)にも共感してくれたし。    

 後三上さんにはメロメロだし 

 

「とにかく一度引き受けたんだ。途中で投げ出すことなんてしない。最後まで面倒は見る。だから頑張ろうな」

「おお、おお流石ボーダー一の色男だねえ」

「茶化すな当真」

「うう…ありがとう桐山君…今の桐山君顔だけじゃなくて中身もかっこいいよ」

「普段の俺どう思ってたの?」

「思い込みの激しい鈍感」

 

 どうしよう投げ出したくなってきた。それに鈍感はもう昔のはなしだっての

 とはいえ宣言した以上投げ出すわけにはいかない

 

「よし!国近さん!当真!やるぞ!!」

「はい!」

「おう」

 

 数時間後…

 

「少し前の安請け合いした自分をぶん殴りたい…」

「しっかりしろー桐山ー」

「投げ出さないって約束したよねー!!!」

 

 いやほんともう無理なんだが。冷静に考えて一人でおバカ二人を教えるのは無理があった

 

「…よし!今からしばらく自習!助っ人探してくる!誰かに助けてもらおう!うん!!」

「やっぱ桐山君今一かっこつかないね」

 

 うるせえ、どうあがいても無理なもんは無理なんじゃい。だからそんな目で見るな

 

 こうして物語は冒頭へと戻る

 

 

 

「お願いします二宮さん…」

「知るか」

 

 まず昴が頼み込んだのは隊長の二宮だが、ご覧のとおりであった。

 

「そこをなんとか…俺一人ではもう無理です…」

「なら放っておけ、その二人の自業自得だ」

「いえ、一度引き受けたことを断るわけにはいきません」

「ちっ…お人好しな奴め」

 

 二宮からすれば手伝う義理もないので取り付く島もなかった。というかわかりきってる苦行を引き受けた部下のことが理解できなかった

 

「だったら犬飼に」

「犬飼なら鳩原に教えてるところだ」

「え…鳩原さんってもしかして…」

「ちっ…」

(あっ…)

 

全てを察した昴であった

 

「勘違いするなよ。少なくとも国近や当真よりはマシだ。少し不安なところを犬飼がカバーしてるだけだ」

 

 仏頂面の二宮がそう答えた。実際国近や当真よりマシなのは事実である。少なくとも赤点を取ることはないだろう

 しかしこうなってはもはやどうしようもない。二宮は断固として手伝う気がないようだし、犬飼は鳩原の相手で手一杯。辻や氷見はそもそも年下だ。

 

「わかりました…」

 

 昴は諦めて他をあたることにした

 

「おい昴、わかってるだろうが深入りしすぎて赤点を取ったりするようなことは許さんからな」

 

 作戦室を出ていこうとした昴に二宮はそう声をかけた。馬鹿二人がどうなろうと知ったことではないが自身の部下なら話は別である

 

「ええわかってます。最後のランク戦を赤点で出られないなんてことにはしたくありませんから」

「わかってるならいい」

 

 二宮の返事を受け昴は作戦室を後にした。余談だがその後二宮は犬飼と鳩原のもとに何度も顔を出し、最後のほうには犬飼に代わって鳩原に付きっきりとなっていた。部下相手とは言え二宮も大概お人よしであった

 

 

 

「さてどうしよう…」 

 

 作戦室を後にした昴は誰を頼ろうか思案していた

 

(嵐山さん…駄目だ、ただでさえ広報の仕事で忙しいのに迷惑はかけられない。東さんは…いやあの人も忙しいはずだ。頼れない…そうだ!月見さんに頼もう!あの駄目な二人のことを聞いたらきっと手伝ってくれる!)

 

 指導はスパルタになるだろうが知ったことではない。むしろあの二人ならスパルタくらいがちょうどいいだろう。確か月見さんは秀次の作った部隊のオペレーターになったと聞いた。

 昴は三輪隊の作戦室へと向かうのであった

 

 

コンコン

「失礼します!」

 

 作戦室の扉をノックして昴は中へと足を踏み入れた

 

「お疲れ様で「だからここはこの公式を使えと言ってるだろ!!」す?」

 

 作戦室に入った昴が思わず耳を塞ぎたくなるほどの怒号が三輪隊の作戦室には響いていた

 

「何度説明すればわかるんだお前は!」

「いや悪いとは思ってるからあまり怒鳴らないでくれよ秀次」

「あなたの覚えが悪いからよ米屋くん」

「全く…これくらいすぐできるだろ」

「そう言われてもなあ…」

「お前というやつは…ん?昴か!」

 

 昴の存在にようやく気付いた三輪は怒りの表情から一転して笑みを浮かべて立ち上がり昴のほうへと歩み寄った

 

「久しぶりだな昴。どうした?何か用か?」

「ええと…まずどうしたんだ?」

 

 会話からなんとなく察しはついたものの昴は尋ねた

 

「ああ…悪いな。陽介の奴が余りにも赤点が多くてな、俺と奈良坂、月見さんの三人で次の試験に向けて勉強を教えているところだ」

「…そうか」

 

 予想通りの内容に昴はそう返すしかなかった

 

「それで昴、今日はどうしたんだ?」

「ええと…」

 

 正直この光景を見たら月見さんに助っ人を頼むことなんてできない。心なしか月見さんすごくいきいきした表情してるし。死にそうな顔で三人に囲まれていた彼のことを考えればむしろ月見さんに応援を頼んでここから引きはがすべきなのかもしれないが、そうしたら今度は秀次と奈良坂の顔が死ぬことになるだろう。

 

「…秀次がチームを結成したと聞いて少し様子を見に来たんだ!」

 

 結果昴は誤魔化すことにした

 

 いやいや秀次の様子が気になるのも嘘じゃないよ?実際そのうち一度挨拶に行こうかと思ってたし、それがたまたま今になっただけだし

 

「そうか!二宮さんには少し遅れてしまったが俺もやっとチームを結成することができた。これで後はお前が入っていたら嬉しかったが…全く…」

「その文句なら二宮さんに言ってくれ」

「わかっている。だがあの時は本当に驚いたんだぞ。俺の勧誘を蹴ったやつが二宮さんの部隊に所属していたんだからな」

「一番驚いたのは俺だよ。朝起きたら二宮隊のオペレーターになってたんだからな」

「ふっ…確かにそれは驚くしかないな」

 

 久しぶりの友人の来訪に普段は口数が少ない三輪も笑みを浮かべて話をしていた

 

「あら?その言い方だと私だと嬉しくなかったかしら?」

「月見さん…いえそういうわけでは…」

「月見さん!」

「桐山君も久しぶりね」

 

 昴の来訪に喜んでいたのは月見も同様であった

 

「本当ならお茶でも出すべきなんでしょうけど…今は見ての通りよ」

 

 視線の先には唯一残った奈良坂に絞られてる米屋の姿があった

 

「あはは…月見さんも大変ですね」

「やりがいはあるから問題ないわ」

 

 笑みを浮かべて答える月見さんの表情は正直言って少し怖かった

 

「できればもう少し話したいが…あまり余裕もなくてな…」

「いいよ気にすんな。急に来た俺も悪かったよ」

「そうかすまんな。試験が終わればまたゆっくり話そう」

 

 申し訳なさそうな表情を浮かべる三輪に昴はそう返した。また余裕ができればいくらでも話はできるだろう

 

「それじゃあ失礼しました」

「昴!」

 

 部屋を出ようとした昴に三輪は最後にこう言った

 

「俺たちは必ずA級に上がりいずれ必ず全てのネイバーを撲滅する。戦えないお前の分までな。だからお前もオペレーターとしてもっと強くなれよ」

 

 そう言った三輪の瞳には一点の迷いもなかった

 

「…ああ、もちろんだ」

 

 そんな三輪に対して昴は軽い相槌を返すことしかできずに三輪隊の作戦室を後にするのだった

 

 

 

 

「なあ奈良坂~さっきの人誰か知ってるか?」

「二宮隊のオペレーターらしい。秀次とは同期だそうだ」

「へえ…なんかあの人と話してる秀次すごい楽しそうだったな」

「同期だし仲がいいんだろ。そんなことよりお前はさっさと勉強しろ」

「…なあ息抜きにちょっとだけランク戦行っていいか?」

「殺すぞ」

 

 

 

 

「秀次のやつ相変わらずだなぁ…」

 

 あそこまで思想が固まっていると少し生きづらそうに思ってしまう。

 とはいえ仮に自分が家族を全て奪われていたらどうしていただろう。そう考えると三輪の考えを否定することもできなかった。

 

「…あれ?俺何しに行ったんだっけ…」

 

 数秒考えたのち昴は膝から崩れ落ちてしまった

 

「…助っ人探しに行ってたんじゃん!!」

 

 最有力候補の月見さんが潰れてしまった今、新しい人を探さなければいけない。しばらく崩れ落ちていた昴だがここで新しい人物を思い浮かべた

 

「そうだ!王子か蔵内、神田に頼もう!」

 

 弓場隊の王子と蔵内、そして神田の三人は昴と同い年であり頭もよかったはず。特に蔵内は優等生といって差し支えない人物である。

 

そうと決まれば弓場隊の作戦室へ向かおう。そう意気込んでいた昴だったが

 

 

「断る。帰れ」

「いや弓場さんに頼みにきたんじゃないんですけど」

 

 隊長の弓場に門前払いされてしまった

 

「俺は構いませんよ弓場さん」

「何言ってんだァ蔵内。この大事な時期に成績が足りないバカ共の面倒を見る必要なんかねえ」

 

 どうやらランク戦前ということで準備に忙しいようだった

 

「まあまあそう言わずにもう少し話聞きましょうよ弓場さん」

 

 弓場にそう待ったをかけたのは王子だった

 

「そうだそうだもう少し話聞いてくださいよー」

「うるせえぞ桐山ァ!」

「でもただで教えるってわけにはいかないよねぇスバルン」

 

 ちなみにスバルンというのは王子がつけた昴のあだ名だ。余談だが最初はバルスというあだ名だったが何度聞いても天空の城しか思い出せなかったため昴が必死に嫌がり続けた結果現在のあだ名となった

 

「…お金?」

「いやいやお金なんて取らないよ。…そうだねえ、確かスバルンのチームに新しいスナイパーが入ったんだよね。鳩原ちゃんだったかな?その鳩原ちゃんの情報を教えてくれないかな?」

「…そうきましたか」

 

 当然昴の一存でチームメイトの情報を売るわけにもいかない。ただでさえ鳩原にはスナイパーとして明確な弱点があるのだから

 

「そいつはありがてぇなァ。どうだ桐山?」

「そういうことだったらお断りします。」

「まあそりゃそうだろうなァ」

 

 だがなと弓場は話を続けた

 

「今シーズンのランク戦うちはどうしても勝たなきゃいけねえんだ」

「どうしてですか?」

「王子と蔵内が今期が終わればうちを抜けて独立するからだ」

 

 王子と蔵内の独立と聞いては昴も驚いてしまう。チームから二人同時に抜けるなんてことはそうそう聞かないからだ

 

「…喧嘩でもしました?」

「んなことするか。王子が自分でチームを組んでみたいんだとよ」

 

 そういうこと、と言って王子が立ち上がった

 

「僕も自分でチームを作って指揮を執ってみたくなったんだ。それで弓場隊を抜けることにしたわけ。そして弓場隊最後のランク戦ってなったら取りたいよね?一位は」

 

 王子は不敵な笑みを浮かべてそう言い放った

 

「そういうわけでバカ共の面倒を見てる暇はないわけだが…どうする?」

 

 鳩原のことを教えるか?そう言いたいのだろう

 

 昴ははぁとため息をついて返答した

 

「そういうことだったら諦めますよ。仲間の情報は売れませんから」

 

 それにと昴は言葉を続ける

 

「どうしても勝ちたいのはうちも同じですよ」

「どういうことだ?」

「俺も今シーズンが終われば二宮隊を抜けるんですよ」

「ほお…?」

 

 弓場は少し驚きを見せる。王子と蔵内も同様だ

 

「そういうわけなんで悪いですけど今シーズン一位を取るのはウチです」

「言うじゃねえか」

 

 ニィと好戦的な笑みを浮かべて弓場は答えた

 

「だったら俺たちも全力で相手してやるよ。首洗って待ってな」

「それはこっちのセリフです。今度は絶対に負けませんよ…まあ戦うのは俺じゃないですけど」

「何言ってんだ。オペレーターも一緒に戦う仲間だろうがァ。そこは自信持てや」

 

 弓場は淀みなくそう答えた。王子と蔵内もうなずいている。そう言ってくれると昴としても嬉しくなってしまう

 

「てめえらがどんな作戦立てようが叩きのめしてやるよ。楽しみにしてるぜ」

「スバルンの立てた作戦っていうのも面白そうだね。楽しみにしてるよ」

「ええもちろん俺も。最後の試合楽しみにしてます」

 

 お互いの宣戦布告が終わり昴は弓場隊の作戦室を後にしたのだった

 またランク戦で負けられない理由ができたな…どこか爽やかな気分になりながら作戦室を後にする昴

 

「…って違えよ!!助っ人探してるんだよ!!」

 

 本日二度目の崩れ落ちであった

 

 その後も…

 

「荒船!」

「おお!いいところに来た桐山!!」

「カゲとヒカリちゃんのテストが少しまずいんだよ。荒船君とゾエさんだけじゃ少ししんどくてさ…」

「…桐山か…お前も付き合えや」

「わりい!桐山先輩も教えてくれねえか!?」

「…急用を思い出したから失礼します!!」

「ちょ!待てよ桐山!!」

 

 手伝ってもらうはずが手伝わされそうになるのを何とか逃げ出したり

 

「加古さん!」

「あら桐山君ちょうどいいところに今新作の炒飯ができたから堤君と一緒に食べる?」

「…」←すでに死んでる堤

「お気持ちは大変うれしいのですが少し用事ができたので失礼します!!」

 

 せっかく勉強してるのに下手したら教えたこと全てを吹き飛ばしそうな炒飯から逃げたり

 

「柿崎さん!」

「ここはこの単語を覚えてだな…やっぱり俺が教えなくても大丈夫なんじゃないか文香?」

「ふふっ、いえ柿崎さんに教えてもらえて私嬉しいです」

「俺も嬉しいです!」

「ははそうか、なら俺も頑張らないとな。うん?桐山か?どうしたんだ?」

「…いえ失礼します!」

「…なんだったんだ?」

 

 非常に和気あいあいとしていた空間を壊すわけにいかず自主退場したりと結果、誰も見つからなかった

 

「…終わった…」

 

 非常に重い足取りで疲れから少しふらつきながら昴はそうつぶやいた

 

「誰も見つからねえ…」

 

 目星をつけた人がみな全滅ということで昴は軽く絶望を覚えていた。というか半分くらいは俺と似たような状況だったけどもしかしてボーダーってバカな人多いの?

 

 決して…決して?そんなことはないのだが意気消沈した昴にそんなことを考える余裕はない

 こうなったらもう覚悟を決めて自分一人で教えるしかないのか…?だがそれでは…

 

「…あの大丈夫ですか?」

 

 そんな絶望をしていた昴にある人物が声をかけた

 

「…はい?」

「なんだかすごく顔色が悪いですけど…気分でも優れませんか?」

(この人は…)

 

 目の前の人物には見覚えがあった。確か最近ボーダーに入った新人のオペレーターで…同い年だったはず

 

 ほぼほぼ初対面だったが昴は藁にもすがる思いだった。昴は相手の手を掴み尋ねた

 

「あの!」

「は、はい!?」

 

 突如大声をあげて手を握られたことに女性は混乱しながらも返答した

 

「つかぬことをお尋ねしますが…」

「は、はあ…」

「…勉強は得意ですか?今さん」

「…へ?」

 

 顔を真っ赤にした女性、今結花は呆けた表情でその言葉を出した

 

 

 

 

 

それから数日後

 

「赤点回避できたよぉーーー!!!ありがとう桐山君と今ちゃんんんん!!!」

「いやあほんと助かったわ。ありがとよ二人とも」

 

 当真はへらへらしつつ、国近は号泣しながら二人にお礼を告げた

 

「全く…これに懲りたら普段から予習、復習はちゃんとしなさいよ」

「するする!できたらする!!」

「ちゃんとするって言いなさい!!」

 

結局あの後わけがわからないまま連れられてきた今であったが、二人の成績を見るや否や激怒。二人を叱り飛ばしながら昴と共に勉強を教えたことで国近と当真は何とか赤点を回避できたのであった

 

「にしてもよくこんな頭のいいやつ見つけてきたなぁ桐山。俺も同い年だけど知らなかったぜ」

「まだ新人だからな。そこは仕方ないだろ。ほんと運がよかったよ…」

 

 昴は心底安堵した表情でそう言った。実際、今の方から声を掛けられなければ昴は今を見つけ出すことはできなかっただろう。今には感謝の気持ちで一杯であった

 

「ほんと助かったよ今さん…ありがとう…」

「…別に桐山君がお礼を言うことじゃないでしょ。悪いのはこのおバカ二人なんだから」

 

 今は少し頬を赤らめてそう答えた。というか試験期間の間今は昴を見るとずっと頬を赤らめていた

 

「なあ桐山、少し気になってたんだけどさ」

 

 当真は試験勉強の間、ずっと気にしていたことを昴に尋ねた

 

「お前今になにしたんだ?」

「あ、それ私も気になってた」

 

 今ちゃんに何したの?と国近も疑問を浮かべた

 

「何って別に何も………あ」

 

 今との出会いを思い出した昴は急速に青ざめていく。あのときは切羽詰まっていて気が付かなかったが女性の手を無理やり握り、そして強引に仕事を頼みこむ…

 

 セクハラ…パワハラ…

 

 様々な言葉が昴の脳裏をよぎった

 

「大変申し訳ありませんでした!!!」

 

 昴はその場で勢いよく今に土下座した

 

「ちょ!何してんの!?」

 

 慌てて今が止めに入るも昴は聞く耳を持たない

 

「初対面の女性に対して無理やり手を握った挙句、無理やり部屋に連れ込むような真似をして本当にすいませんでした!!!」

「ちょっと!変な言い方しないで!?」

 

 今は顔を真っ赤にしながら国近と当間に弁明する

 

「違うのよ!?部屋に連れ込まれたって言うのはここまで引っ張られたって意味で変な意味じゃないからね!?」

「じゃあ手を握られたのも違うの?」

「…それはその通りなんだけど」

「すいませんでしたああああ!!!」

 

 昴はさらに深く土下座を続けた

 

「ちょっとー桐山君、初対面の女の人の手を握るのは流石にダメだと思うよ?」

「おっしゃるとおりです・・・!ごめんなさい!!」

「いやー言葉だけじゃ足りないだろ。行動で示さないとなー」

「…どうしたらいい?」

「それはもちろん次のテスト前にも私たちに勉強を」

「ちょっと!!どさくさに紛れて変なこと言わないの!!」

 

 冗談半分で昴をいじる国近と当真を押しのけて今は昴の前にしゃがみこんだ

 

「桐山君本当に私は大丈夫だから、気にしないで」

「しかし…」

「嫌な気分なんかにはなってないから安心して。…むしろちょっとドキドキしてたし

「最後なんて?」

「なんでもない!」

「うわあリアル難聴だよ当真君」

「あれがわざとじゃないのがあいつのすごいところだよなあ」

「そこうるさい!!」

 

 外野二人を遠ざけて今は話を続ける

 

「わかった。じゃあ私にオペレーターのこと教えて?桐山君人に教えるのもうまいみたいだし、私新人だからさ。ね?それでチャラよ」

「…本当にそんなことでいいのか?」

「いいのよ。お願いしてもいいかしら?」

「…うんわかった!そういうことなら任せてくれ!!」

 

 今の言葉を受けてようやく昴は土下座を終え立ち上がった。

 

「それに今さんには国近さんや当間のことでも世話になったしね。俺でよければ何でも聞いてくれ」

「うん、じゃあ明日からお願いしてもいいかしら?」

「ああ大丈夫だ。それじゃあまた明日からよろしくな今さん!」

「ええ、よろしく」

 

 今はにっこり笑みを浮かべてそう話すのであった。二人目の弟子と言えるかはわからないが昴に新たな生徒が一人できた瞬間であった

 

「…ねえ当真君」

「なんだ国近?」

「なんか私たちダシに使われてない?」

「だなぁ」

「二人にはすっごくお世話になったのになんか釈然としないなぁ」

「ま、俺らが言えた義理ではねえだろ」

「というかオペレーターなら私でも教えられるのに…今ちゃんめ…」

「はは、妬いてるねえ」

 

 ちなみに当てつけというわけではないが、今後も二人がテスト前になると昴と今を頼るようになるのが恒例行事と化すのはまた別の話である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんと助かったわ。ありがとう桐山さん」

「うんどういたしまして」

 

 後日、冬島隊の作戦室にて昴は真木からお礼の言葉を受けていた。真木が淹れたお茶を飲みながら二人は話を続ける

 

「当真から聞いたけど、あなた国近さんと当間の二人を教えてたのね。ほんと無茶なことをするわ」

「そこは今さんの助けもあって何とか乗り切れました…」

 

 ハァとため息をついた真木は言葉を続けた

 

「今回は助かったけど、できないことならちゃんと断りなさいよ。そしたら私も代わりの人を探してたんだから」

「そりゃあどうしても無理なことは断るけど、わざわざ頼まれたことを断るのも申し訳ないからさ」

「そんなことしてたらあなたいいように使われるだけよ。頼んだ私が言うのも少しおかしなことだけど桐山さんは断ることも覚えたほうがいいんじゃない?」

「うんそうだね…覚えておくよ」

 

 もう少し言いたいことはあったもののお礼をするためにわざわざ来てもらったのにこれ以上お小言を言うのも忍びないと思った真木はそれ以上の言葉は控えることにした

 

「…まあおかげでうちの初陣も綺麗に始められそうでよかったわ。そうね…お礼と言えるかは怪しいけど」

 

 一拍おいて真木は言葉を続ける

 

「今度のランク戦でぶつかることがあれば全員撃ちぬいてあげる」

「…はは望むところ」

 

 お互いに笑みを浮かべながら二人は軽いお茶会を続けるのだった

 

 

 

 

 

 

 

「おい当真、あんな笑ってる真木ちゃん初めて見た気がするぞ」

「一応三上ちゃんの前でも結構笑ってるらしいが…やっぱ誑し込んでるじゃねえか桐山…」

 

 外から作戦室の中を覗き込んでいる当真と冬島は見たことがない真木の笑顔に驚きを隠せないのだった

 

「あ、そうだ一つ頼み事していい?」

「何かしら?」

「次のテストのときにはちゃんと勉強してるか当真のこと見ててほしいな」

「言われなくてもそのつもりよ」

 

 

「」

「…ああ当真?勉強…頑張ろうな?」

 

 そして後のボーダーNo.1スナイパーは自身の作戦室の前で燃え尽きたのであった




小話のつもりだったのに気が付けば今までで一番文字数が多くなってた件


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昴と二宮隊④

アルセウスとモンストワートリコラボとヘンタイ・プリズンで忙しかったので久しぶりの投稿です。
アルセウスでは色違いチュリネが出ました
モンストはレイジさんと出水以外のキャラが全て回収できました。やったぜ
ヘンタイ・プリズンは伊栖未が好きです


「用意はできたな。行くぞ」

 

「「「「了解」」」」

 

 二宮の号令に犬飼、辻、鳩原、そして昴の4人はそう返答した。

 

 

 2月、遂に二宮隊にとって2度目の、そして昴にとって二宮隊としての最後のB級ランク戦が幕を開けた。

 今回のランク戦は開始からいきなり波乱の幕開けとなった。何故なら柿崎隊、三輪隊、冬島隊、風間隊と4つの新チームが参入したからだ。この4チームにより行われたランク戦はB級下位とは思えないほどの激しい戦いとなった。特に新人王を競い合った歌川、照屋、奈良坂の三つ巴の戦いは多くのボーダー隊員の語り草となった。

 

 一方B級上位から始まった二宮隊の戦果はあまり芳しいとは言えなかった。

 

「おい鳩原」

「あはは…すいません…」

 

 険しい表情の二宮に対し鳩原は貼りついたような笑みを浮かべながら謝罪していた

 

 原因は鳩原にあった。現在ラウンド3までを終えた二宮隊だったが、その3試合にて鳩原の武器への狙撃は一度も命中していないのだ。さらに狙撃を外した鳩原はその後確実に落とされているため、他チームへ無償で一ポイントを与えてるようなものであった

 

「仕事をしろ。どういうつもりだ」

「はい、すいません…」

 

 ラウンド1、ラウンド2共に何も言わなかった二宮だったがラウンド3を終えた今、その顔には怒りが浮かんでいた

 もちろん単に狙撃を外したことが理由ではない。ラウンド3において鳩原は王子と戦う辻を援護しようと放った狙撃で誤って辻の弧月を破壊してしまったのだ。その後辻は王子によって落とされ、位置が割れた鳩原も続いて落とされてしまった。

 

「狙撃を外すのはまだいい。お前のやることが通常のスナイパーより難易度が高いことはわかってる。だがチームの足を引っ張るようなら話は別だ。そんな奴は俺のチームに必要ない」

 

 二宮は冷たくそう言い放った

 

「…はい」

 

 そんな二宮に鳩原はうなだれながら返答した

 

「…ふん、少し出る」

「あ、ちょっと二宮さん!」

 

 そういうと二宮さんは俺の静止を聞かずに作戦室を後にした

 

「鳩原先輩、あまり気に病まないでください。俺はもう気にしてないんで」

 

 最初に鳩原さんを励ましたのは辻ちゃんだった。いつもなら女性が苦手な辻だが、鳩原さんに対しては早々に打ち解けていた。本人曰く「優しかったから」とのことだ

 

「二宮さんは少し言葉がきついところがあるけどさ本気でチームから追い出そうとなんてしないからそんなに怖がらなくていいんだよ鳩原ちゃん」

「次はきっとやれますよ。元気出してください鳩原先輩」

 

 続いて犬飼と氷見さんも鳩原を励ます。氷見さんはラウンドごとのランク戦が終わるたびに作戦室へと訪れるのがお決まりとなっていた

 

「うん、ごめんねみんな。ありがとう」

 

 お礼を述べた鳩原さんの顔は暗いままであった

 

「初めてのランク戦だから緊張して当然だよ。今日のミスは確かに少し痛かったけど、同じミスは2度繰り返さなければいいんだからさ、とりあえず今日はもう休もう?」

 

 俺も言葉を出したけど鳩原さんの顔は浮かばれない。やっぱりこういう人を励ますことは向いてないな…

 俺は心の中で自嘲した

 

「桐山君は…いいの?私がうまくやって…」

「え?」

 

 言葉の意味がよくわからなかった

 

「鳩原さん、それってどういう…」

「…ううん、なんでもない。それじゃあ私もちょっと失礼するね」

「あ、ちょ鳩原さん!」

 

 そう言うと鳩原さんは作戦室を後にした。今日はよくスルーされる日だな…

 

「なあ犬飼、今のどういう意味かわかる?」

「う~ん、ごめん俺にもわからないや」

 

 犬飼は手を挙げて首を振っていた。ただ、と犬飼は言葉を続けた

 

「少し思ったのは…鳩原ちゃん、本当にただ緊張してるだけなのかな?」

 

 確かにそれは一理ある。仮にいくら緊張してるとはいえ、それを3ラウンドも引きずるだろうか?

 

「それに鳩原先輩練習では一発も外さなかったし、緊張っていうのは少し考えずらいですよね」

 

 辻ちゃんも同様だった。氷見さんの方も見るとうむとうなずいていた

 

「けど、だとすると一体どうしたんだろう…」

 

 

 

 

 

 結局いくら考えてもわからないままラウンド4が始まろうとしていた

 

 

「鳩原」

 

 出撃前、二宮は鳩原に声をかけた

 

「次こそちゃんと仕事をしろ、いいな」

「…はい」

 

 鳩原の表情は相変わらず暗いままだった

 

 

 ラウンド4の相手は弓場隊と風間隊であった。試合が始まって十数分後

 

「二宮さん、西から敵が接近してきています。おそらく弓場さんと蔵内です」

「ああわかってる」

 

 二宮隊は現在犬飼を落とされ、残り三人だった。二宮の援護をするため二宮に照準を合わせていた鳩原に昴は声をかける

 

「鳩原さん今言った通り、二宮さんに近づいてるのは多分弓場さんと蔵内だ。弓場さんの銃は他の武器と比べても小型だから狙撃は難しいと思う。だから他の場所に移動して…」

「…ううん大丈夫」

 

 別のルートを示そうとした昴だったが鳩原からは断られてしまった

 

「大丈夫?まだ撃ちやすい武器を持ってる人も残ってるけど」

「うん、任せて」

「やれるんだな?鳩原」

 

 二宮も鳩原へ確認したが鳩原の答えは変わらなかった

 

「次は…ちゃんと撃ちます」

 

 ここまで言われては昴にも止める理由はなかった

 

「わかったそれじゃあ任せた」

 

 そう言うと同時に弓場、蔵内と二宮が対峙した。

 二宮の弾幕を蔵内が撃ち落としつつ、弓場は二宮の下へと走り近づく

 

「鳩原さん!そろそろ弓場さんの間合いだ!」

 

 弓場が腰の銃へと手をかけた。鳩原はイーグレットを構える

 

「今!」

「…!」

 

 鳩原が弓場の銃へと向けて狙撃する。

 

 しかしその狙撃は弓場の銃に命中することはなかった。

 

「なっ…!」

「…なに?」

 

 弓場と二宮、敵同士の二人がどちらも驚きの表情を浮かべていた。なぜなら…

 

 鳩原の狙撃は、カメレオンで隠密をしていた歌川に命中したからだ。胸を貫かれた歌川はそのままベイルアウトとなった

 

「マジか…!」

 

 作戦室にて見守っていた犬飼も思わず言葉をこぼしていた。

 

「鳩原ちゃんナイスキル!すごいよ!」

 

 笑みを浮かべた犬飼は喜びのままに鳩原へと通信をする。しかし

 

「鳩原ちゃん?」

「はーっ、はーっ、はーっ…!」

 

 鳩原は返事をすることなく息を荒げていた

 

「おい鳩原どうした。鳩原」

 

 二宮も弓場と交戦しつつ通信するが一向に返事が返ってくる様子はない

 

 

「鳩原さん、大丈夫?返事して鳩原さん」

 

 昴も呼びかけたが結局返事が返ってくることはなく、鳩原はその場から一歩も動かずに落とされたのだった

 作戦室にてそれを見ていた昴は犬飼に告げる

 

「犬飼、鳩原さんに何かあったのかもしれない。鳩原さんを頼む」

「うんわかった」

 

 何かを察した犬飼はそう告げ鳩原の下へと向かった

 

「桐山先輩、鳩原先輩に何かありましたか?」

「昴、鳩原はどうなった?」

 

 戦場に残った二宮と辻はほぼ同時に昴に尋ねた。辻は心配そうな表情で、二宮は険しい表情で

 

「今は犬飼が様子を見ています。話は後にしましょう」

「…辻、了解」

「…わかった」

 

 辻と二宮はそう了承すると戦いの場に戻るのであった

 

 その後試合はペースが崩れた二宮隊の敗北で幕を閉じたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鳩原さん!」

 

 試合終了後、即座に鳩原の下へと向かった。そこでは犬飼が鳩原さんを介抱していた

 

「あ、キリくん」

 

 犬飼もいつもの笑みを浮かべずに心配げな表情で鳩原さんの背中をさすっていた

 その後、試合を終えた二宮さんと辻ちゃん、そしてランク戦を観覧していた氷見さんも息を切らしながら作戦室へとやってきた

 

「ひゃみちゃん、鳩原ちゃんのこと少し任せていい?男の俺じゃ限界もあるからさ」

「…はいわかりました」

「ありがとう、頼むよ。落ち着いたらまた呼んでね」

 

 そういって氷見さんに鳩原さんを任せた犬飼は俺たち三人を連れて作戦室を出た

 

「それで何があった」

 

 開口一番そう尋ねたのは二宮さんだ

 

「はい、まず鳩原さんは弓場さんを撃った後その場から一歩も動かずに時枝に落とされました。俺と犬飼がいくら呼びかけても返事はなかったです」

「それで鳩原ちゃんがこっちに戻ってきた後、俺が様子を見に行ったんですけど…」

 

 犬飼は悲しげな表情を浮かべながら答えた

 

「鳩原ちゃん、その場で吐いてました」

「なんだと?」

「俺の声も聞こえてなかったみたいで…多分人を撃ってしまったショックからだと思います」

 

 人が撃てないと言うのは聞いていたがまさかそこまでだったとは… 

 二宮さんと辻ちゃんも驚きを隠せていなかった。特に辻ちゃんの驚きは大きかったようだ

 

「鳩原先輩…大丈夫でしょうか」

「今はまだわからないね」

 

 辻ちゃんは今にも鳩原さんの下へと向かいたいような心配した表情を浮かべていた

 

「…とにかく、話は鳩原が落ち着いてからだ。いいな」

 

 了解、そう返事を告げると俺たちは無言のまま鳩原さんの回復を待った。結局氷見さんから連絡が来たのはそれから20分後だった

 

 

 



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昴と鳩原未来②

「はあ、どうしたもんか…」

 

 B級ランク戦ラウンド4の翌日、昴はボーダーのラウンジにてうなだれていた。

 結局あの後、鳩原はまともに会話することもできず、ただひたすらごめんごめんという言葉を続けるのみであった。その後もなんの解決もできぬまま解散、二宮隊のコンディションは最悪と言ってもいい状態であった

 

「鳩原さんは何を気にしているんだろう…」

 

 鳩原の様子がおかしかったのはわかっていた。わかっていながらなんの解決策も考えずにランク戦を続けたのは自分たちのミスだ。とはいえ鳩原の不調の原因がわからない以上、手詰まりであった。

 鳩原本人に何があったか尋ねる。それが一番なのはわかっている。だがもしそれが根深い問題だったらどうする?話を聞くこと自体が鳩原を傷つけるのではないか?そう考えると昴は一歩踏み出すことができなかった

 

「お、昴じゃないか。元気にしてるか?」

 

 そんな昴にとある人物が声をかけてきた

 

「東さん!」

「おう、久しぶりだな」

 

 手を振りながら声をかけたのは昴の師、東だった

 

「浮かない顔をしてるようだが…鳩原のことか?」

「…!知ってたんですか?」

「前のランク戦で鳩原が誤って人を撃ったみたいだからな。二宮からも話は聞いた」

「二宮さんがですか?」

「ああ、鳩原を二宮隊に推薦したのは俺だからな」

「ええ!?」

 

 それは昴にとって初耳であった

 

「だったら二宮さんも教えてくれたらいいのに…」

「はは、相変わらずだな二宮は」

 

 東も苦笑しながら話を続ける

 

「鳩原は俺が面倒をみてたスナイパーでな。腕は確かなんだが知っての通り人が撃てない。そのせいか鳩原が入るチームが中々見つからなくてな。何とかしてやりたいと思って二宮に推薦したんだ」

「へえ、そうだったんですね」

「幸い二宮も腕は確かなことと俺の推薦ってことで鳩原のことを受け入れてくれたんだ」

 

 そんな経緯があったとは…二宮さんももう少し説明してくれてもいいのに…

 少し不貞腐れた表情でそう考える昴だった。そんな昴に東は笑みを消して尋ねる

 

「それで鳩原のことだがお前はどう思う?」

「どう…というのは?」

「鳩原の狙撃は少なくとも俺の知るスナイパーの中でもかなりのものだ。はっきり言って俺を超える日もそう遠くない」

 

 もしかしたらもう超えてるかもな、そう続ける東の言葉に昴も納得の表情を見せる

実際武器を狙って撃つことができるスナイパーなんて鳩原さんくらいだろう

昴もそう考えていた

 

「だからランク戦が始まって以来ずっとおかしいと思ってたんだ。鳩原の狙撃がいつまで経っても命中しないことにな。そして前のランク戦ではあの結果だ」

「最初はもしかしたら鳩原が人を撃てるようになったのかと思ったが…そうじゃないんだろ?」

「…そうですね」

 

 もし鳩原さんが本当に克服したとしたら吐いたりなんてしないだろう。あそこまで苦しそうな表情をすることもないだろう。

 

「となれば何か精神的な問題だと思うんだが…何か心当たりはないのか?」

 

 東の問いに昴は複雑な表情で答えた

 

「正直ランク戦始まる前から様子はおかしかったです…俺の気のせいかもしれませんけど鳩原さんにはなんだか避けられてる気がして」

 

 昴の返答に東は少し驚いた顔をした後に不思議そうに言葉を出した

 

「鳩原は温厚で優しい奴だからそんなことをするとは思えんが…鳩原と話はしなかったのか?」

「話はしてないです。避けられてる以上あまり深く突っ込まないほうがいいのかと思ってました」

 

 昴の答えに東は軽く息を吐いて話を始めた

 

「なあ昴、お前がオペレーターに転向した時のこと覚えてるか?」

「…?はいもちろん」

「これは秀次から聞いた話なんだが…オペレーターに転向する前の、アタッカーやってた頃のお前はほとんどの周りの人間を避けてたそうだな」

 

 東の言葉に昴は思わず顔をしかめた

 アタッカーをやってた頃、同期の人間はすぐに上へ行き、後から入ってきた人間にもすぐに追い抜かれ、ようやくB級となってもすぐに周りの人間に叩きのめされ失意のどん底にいた日々。当然忘れるわけがなかった。

 周りの人間を避けていたのも本当だ。自分はこれだけ努力してるのに…周りの人間も努力してることは頭ではわかっていたが心では受け入れられなかった

 

「だがそんなお前に手を差し伸べてくれた人もいる。そうだろ?」

 

 秀次だ。ボーダーを辞めるか本気で悩んでいたころにオペレーターへの転向を勧めてくれた、東さんや月見さんを紹介してくれた。それももちろん忘れるわけがない

 

「そのときの鳩原と今の昴、全く同じだとは言えないが…何か抱えてるものがある以上、そこに突っ込んでいってもいいんじゃないか?」

「・・・っ!」

 

 東はいつもの笑みを浮かべながら昴にそう話した

 

「…そうですね。東さん、俺が間違ってました」

 

 避けられてるから…それがなんだ。なにか抱えてるものがあるならそれを解消してやるのが仲間だろう。それに鳩原さんは俺がいなくなった後も二宮隊で戦うんだ。それを不和を残したままこれからも戦わせるわけにはいかないだろう。

 もう昴に迷いはなかった

 

「東さん!ありがとうございます!俺ちょっと行ってきますね、失礼します!!」

 

 頭を下げた昴は自身の作戦室へと走り去っていくのであった

 

「はは、せっかちなやつだな…頑張れよ」

 

 猪突猛進な弟子を東は笑いながら見送るのだった

 

 

 

 

 

翌日

 

 作戦室に二宮隊と氷見の六人が集結していた。昴と鳩原が向かい合って座っており、それ以外の面々は後ろから二人の様子を眺めていた。ちなみに隊長の二宮は非常に不服そうな表情をしている

 

 話は前日にさかのぼる

 

 鳩原を除いて作戦室に集まった5人は話をしていた。話題はもちろん鳩原のことだ

 

「鳩原さんと一対一で話をさせてください」

「いや、話はまず隊長の俺がする」

 

 昴と二宮、どちらが鳩原と先に一対一で話すか。そのことで少しもめていた

 

「二宮さん、鳩原さんのことおそらく原因は俺にあると思うんです」

「何故そう言い切れる?」

「初日以来俺は鳩原さんに避けられてる節がありました。それに」

「それになんだ?」

「俺のサイドエフェクトがそう言っているからです」

「「「「・・・・・」」」」

 

 作戦室を静寂が支配した。氷見に至っては頭を抱えていた

 

「バカにしてるのか?」

「まあ半分は冗談ですけど、半分は真剣です。はっきり言って単なる直感です」

 

 二宮は舌打ちをしながらもサイドエフェクトについてはそれ以上の追及はしなかった

 

「だが仮に避けられてるとするならば猶更お前より俺が話すべきだろう。」

「そうかもしれませんが、もう一つ理由がありまして」

「なんだ?」

「二宮さんだとまた鳩原さんビビらせちゃいそうなんで」

「「「・・・・・」」」「ブフォッ!?」

 

 唯一噴き出したのは犬飼だった。二宮は親の仇でも見たかのように昴と犬飼を交互ににらみつけていた。その光景がおかしくて気が付けば辻と氷見も肩を震わせていた

 

「お前ら後で覚えとけよ」

「「「・・・・・」」」

「だから二宮さん、どうかよろしくお願いします」

 

 周りで震えてる面々を放置して昴は二宮に頭を下げた

 

「…後ろで見てるぞ。いいな」

「話に入らないのであれば大丈夫です」

「…ちっ」

 

 こうして昴と鳩原の話し合いは決まったのだった

 

 

 

「それで話って何かな桐山君…まあ今話すことなんて一つしかないよね…」

「うんそうだね」

 

 昴は息を整えて話を続ける

 

「それで、何があったのか教えてほしいんだ鳩原さん」

 




少し短めですが今回はここまで


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昴と鳩原未来③

中々難産でした…
拙い部分も多いですがどうかよろしくお願いします


「それで、何があったのか教えてほしいんだ鳩原さん」

 

 鳩原さんの方を真っすぐに見つめ、俺はそう尋ねた。鳩原さんは俯きながらも言葉を発した

 

「ラウンド4のこと…だよね」

「うん、そうだよ」

「あのときはごめんね、みんなにも迷惑かけて本当にごめんなさい」

 

 鳩原さんは俺を含めた後ろのみんなに頭を下げた。後ろを振り向くと二宮さんと犬飼の表情は変わってなかったが辻ちゃんと氷見さんは複雑そうな表情をしながら鳩原さんを見ていた。

 頭を上げた鳩原さんは話を続けた

 

「あれは私の単なるミスだよ。点を取ったのにミスって言うのも変かもしれないけど、次からはもう失敗しないから心配しないで」

 

 鳩原さんは笑みを浮かべながらそう言った。ここで俺がわかったと言えば話はもう終わるだろう。…けどそうするわけにはいかない。鳩原さんのあの笑みはどう見ても作り笑いだ、おそらくまだ無理をしてるんだろう。そんな状態で話を終わらせるわけにはいかない。向き合うって決めたんだから

 

「東さんに話を聞きに行ったんだ」

「え?」

「鳩原さんの狙撃の腕はかなりのもので自分を超える日も近いって。だからランク戦でずっと外し続けてたのはおかしいって」

「それは…」

「それ以外でも最近、いや初めて会った日からどこか様子がおかしかった。鳩原さんにも事情はあるだろうと思ってたから踏み込まないようにしてたけど…やっぱりほっとけないよ」

 

 鳩原さんは完全に黙り込んでしまった

 

「触れてほしくないのかもしれないけど、それでも知りたいんだ。鳩原さん、何かあったの?」

 

 これが俺のまごうことなき今の本音だ。もう誤魔化すことはしない。

 俺の話を聞いた鳩原さんは俯いて震えていた。俺には何か言いたいが踏ん切りがつかないように見えた。2~3分経っただろうか、二宮さんが息を吐いて立ち上がった

 

「潮時だな、交代だ昴。次は俺が話をする」

「二宮さん…もう少し待ってくれませんか?そしたら鳩原さんも」

「昴」

 

 俺の言葉を遮って二宮さんが話を続けた

 

「鳩原を少し甘やかしすぎだ。いつまでも黙ってたら話が進まん」

「でも俺が原因だとしたら」

「仮にそうだとしてもお前がやれるだけ話せるだけのことをして、なお鳩原が話さないのならここからは隊長の俺のやることだ」

 

 わかったらもう下がれ、二宮さんはそう言った。悔しいけど二宮さんの言うことも正論だ。

 俺が席を離れようとしたとき

 

「待って…ください」

 

 鳩原さんが声を出した

 

「桐山君は…何も悪くないです。悪いのは私で…」

「鳩原さん、それはいったいどういうこと?」

 

 鳩原さんは俯きながら話を続けた

 

「私、あのとき桐山君と二宮さんの話聞いてたの…」

「あのとき?」

「私がみんなと初めて顔合わせした日」

「…!」

 

 俺は全てのピースが繋がった気がした。あのときというのは、俺が二宮さんに隊を抜けたいと言った時のことだろう。二宮さんも得心がいったようだ。二宮さんが前に出て鳩原さんに話を始めた

 

「あのとき作戦室にいたのは俺と昴の二人だったが?」

「その…あの日忘れ物をしまして、扉越しに…」

「…そうか」

 

 二宮さんはため息をつきながら話を続けた

 

「昴はお前のために隊を抜けるんじゃない。あいつの事情で抜けるんだ。あのときの話を聞いてたならわかることだろう」

「それはもちろんわかってます…それでも考えてしまうんです。私がここに来なかったら桐山君は二宮隊を抜けることもなかったんじゃないかって。そしたら集中もできなくなって、前の試合ではあんなことになってしまって…」

「ちっ…ほんとに話を聞いてたのか」

 

 二宮さんも少し苛立ちを見せ始めていた。すると今まで黙っていた犬飼が声をかけてきた

 

「あの~一ついいですか?」

「なんだ、話なら後にしろ」

「そうしたいのは山々なんですけど、そもそもあの顔合わせの日に何かあったんですか?」

 

 犬飼の疑問も尤もだ。見ると辻ちゃんと氷見さんも同様のようだ。こうなると俺も二宮さんも参ってしまう

 

「こんなことなら最初からちゃんと話しておけばよかったですかね」

「結果論だ。今更そこの話をしても仕方ないだろう」

 

 俺は全て話した。隊を抜ける本当の理由とそれを鳩原さんに聞かれてたことを

 話を終えると三人とも呆れた様子だった。あの辻ちゃんまで若干白い眼をしていた

 

「ほんとに最初から話しとけばここまでこじれることもなかっただろうね」

「いやでも新人が入った初日にこの話するのも、あなたが入るなら私は抜けますね、って感じで気まずくなりそうだったから…」

「結果的にそうなってますよね?しかも隠れて話をしてたせいで余計にこじれてますよね?」

「いやまあそれはそうなんだけど…」

「桐山先輩…」

 

 辻ちゃんの白い眼が一番つらかったかもしれない

 と、仲間からの白い眼はつらいが今はそうじゃない。

 

「二宮さん、事情はわかったんでまた俺が話をさせてもらってもいいですか?」

「…ああそうしろ」

 

 二宮さんのお許しも得て俺は改めて鳩原さんの方へ向き直る

 

「鳩原さん、まず謝らせてほしい。俺が変な気の遣いかたをしたせいで、鳩原さんを追い詰めてしまってほんとごめん」

 

俺は深く彼女に頭を下げた

 

「そんな、桐山君は悪くないよ…悪いのは私だから」

「いや、最初からちゃんと話さなかった俺が悪い」

「でも私が…」

「いや俺が…」

「おい」

 

 二宮さんが呆れたような怒ったような表情でこっちを見ていた

 

「話を進めろ」

「「はい…」」

 

 気を取り直して話を続ける

 

「それでなんだけど…まず俺が二宮隊を抜けることは気にしなくていいよ。俺元々二宮さんに半ば強引にチームに入れられてさ、いつでも抜けていいって条件で二宮隊にいるんだよ」

 

 鳩原さんは少し驚いたようだった。二宮さんの方をちらっと見て反応から嘘ではないと思ったようだ。

 

「で、抜けようと思ってた理由は…まああのとき話した通りいずれボーダーに入る妹とチームを組むため、そして遠征には行けないから」

 

 そう言うと鳩原さんはまた暗い表情を見せた。また自分のせいでって思ってるのかもしれない

 

「そんな顔しないで。仮に今チームを抜けなかったとしても、遅かれ早かれ俺は抜けることになってからさ。鳩原さんが気にすることじゃないんだよ」

 

 それでも鳩原さんの表情は晴れなかった

 

「でも…桐山君このチームは好きなんだろうし。私が来なければこのチームにまだいれたんだと思うんだ」

「確かにさっきはあんな言い方したけど俺はこのチームは大好きだよ。俺の力を貸して欲しいって言って俺をチームに入れてくれた二宮さんにも感謝してる」

 

 でもね、と俺は続けた

 

「鳩原さんは弟さんを探すためにボーダーに入ったんでしょ?だったら二宮隊に入れたのは大きなチャンスだと思うよ」

 

 鳩原さんの表情が少し変わった

 

「俺にも妹と弟がいるから鳩原さんが弟さんを大事に思う気持ちはよくわかる。大事な弟がいなくなった鳩原さんの悲しみは俺には想像できないくらい大きなものだったと思う。だから鳩原さんの話を聞いたときに思ったんだ。絶対に弟さんを見つけてほしいって」

「そうなんだ…」

「だから俺が抜けることは気に病まずに鳩原さんには前だけ向いて進んでほしいんだ。

…弟さんもきっと鳩原さんのことをずっと待ってると思うから」

「そう…か。そうだよね…」

 

 鳩原さんが嗚咽交じりに言葉を発する

 

「鳩原、昴はこう言ってるがお前はどうしたい?まだ遠征よりこいつの方が気になるのか?」

「私は…」

 

 話をずっと聞いていた二宮さんが俺の方を指さして尋ねた

 

「初めてお前と話したとき冴えない女だと思ったが遠征に対する熱意は本物だった。だがお前は今までそれをふいにしようとしていた。お前の遠征に対する思いは嘘だったのか?」

「私は…」

「俺たちは仲良しごっこをするためにチームを組んでるわけじゃない。お前は遠征よりもこいつと俺たちのわずかな時間の仲良しごっこの方が大事なのか?」

「私は…!」

 

 鳩原さんが涙を流しながら声を大にして言い放った

 

「私は遠征に行きたい!弟を、あの子を取り戻したい!私にはそれしかないから…!!」

 

 それは鳩原さんの本音の叫びだった

 

「だったら俺のことなんて気にせずに突き進んでいってくれ。このチームのみんなは強いから」

 

 そう言って後ろを見るとみんなは引き締まった表情でこちらを見ていた

 

「鳩原ちゃんの本音聞けて嬉しかったよ。こりゃもうやるしかないね」

「そうですね。先輩にここまで言わせてしまったんですから」

 

 犬飼と辻ちゃんは覚悟を決めたようにそう言った

 

「私はまだ二宮隊のメンバーじゃないけど…それでも二宮隊に入ってからの目標はできました」

 

 氷見さんも同様だった

 

「鳩原」

「はい、私はもう迷いません」

 

 涙を拭った鳩原さんは目を赤くしながら言った

 

「私は遠征に行きます。だから私に力を貸してください」

 

 そう言って鳩原さんは頭を下げた

 

「もちろんだよ鳩原ちゃん」

「がんばりましょう鳩原先輩」

「私も全力でサポートします」

 

 みんなもそれにこたえる

 

「言われるまでもない。勝って上にあがるのは俺たちだ」

 

 そう言って二宮さんは改めて宣言した

 

「これからうちは遠征を目指す。そのためにも今回のB級ランク戦、必ず勝利してA級に上がるぞ。いいな?」

「「「「了解」」」」

 

 俺たちもそれにこたえる。みんなの覚悟は決まった。

 俺も二宮隊として最後まで全力でサポートしよう。このチームを勝たせるために

 

「頑張ろうね鳩原さん」

 

 俺は改めて鳩原さんにそう告げた

 

「うん、ありがとう桐山君」

 

 鳩原さんは涙と笑みを浮かべながらそう言った。

 その笑みは俺が今まで見てきた鳩原さんの作り笑いとは違う。本物の笑顔だった




そろそろ二宮隊としての話も終わりですね


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昴と二宮隊⑤

お久しぶりです


「ふう…」

 

 自動販売機で購入したコーヒー片手に一息ついているのは風間だ。ランク戦を終え、チームでの反省会も済ませて解散し、ひと段落ついたところだ。

 

「おー風間、お疲れさん」

「お疲れ様です」

 

 そんな風間に同じくコーヒー片手に話しかけてきたのは東であった

 

「お互い二宮隊にやられたな」

「そうですね」

 

話の話題となったのはラウンド5、ラウンド6、共に破竹の勢いで勝ち進んでいる二宮隊のことであった。東隊はラウンド5で、風間隊は数時間前のラウンド6にて二宮隊に敗北したのだ。

 

「正直ラウンド4が終わった時は今シーズンの二宮隊にもう勝ちの目はないと思ってました。」

 

 ラウンド4にて部下の歌川を誤って狙撃したことで鳩原が調子を崩していたことを聞いていた風間はそう話す

 

「まさかこんなに早く調子を取り戻すとは…」

「そうだな」

 

 コーヒーを啜りながら東も話を続ける

 

「俺も二宮と桐山の二人に軽くアドバイスはしたが、鳩原が調子を取り戻すのは早くてもラウンド7か8くらいだと思ってたんだがなぁ」

 

 久々に読み外したよと苦笑しながら東はつぶやいた

 

「鳩原が想像より早く再起したのも驚きましたが、俺は鳩原の戦い方に驚かされました」

「ほう?」

 

 東は話を続けるよう促す

 

「人が撃てないから武器を撃つ。発想としては悪くないですが正直俺は実戦で使えるようなものではないと思ってました。」

 

 しかしと風間は続ける

 

「機能することであそこまで脅威となる。恐ろしいものです」

 

 そう話す風間の表情は非常に悔しげなものだった

 

「そうか…それで次に向けての対策は考えたか?」

 

 そんな風間に東はこう尋ねる

 

「ええいくつか既に考えました」

「ならいいじゃないか、次の試合では逆に目にもの見せてやれ」

「…ええもちろんそのつもりですよ」

 

 東の激励に風間も好戦的な笑みで返した。

 

「ただ、」

「ん?」

「おそらく今シーズンはもう二宮隊と当たることはないかと」

「ああ……そうだな」

 

 ラウンド6でぶつかってる以上、残り2試合で風間隊と二宮隊がぶつかる可能性は極めて低い。そのことに気づいた東は申し訳なさそうな神妙そうな何とも言えない表情を浮かべるしかなかった

 

 

 

 ところ変わってここは二宮隊の作戦室。ちょうどラウンド6の試合を終えたばかりだ

 

「皆さんお疲れ様です!本日も大勝利!」

 

 オペレーターの昴は勝利で試合を終えたチームメイトを称えながら迎え入れた

 

「あ、鳩原さん調子はどう?大丈夫…?」

「うん大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

 

 鳩原は軽い笑みを浮かべてそう返した。

 ラウンド5以降、二宮隊は絶好調だった。特に鳩原の活躍は凄まじいものだった。

武器を撃つスナイパーという今まで存在しなかったスナイパーの存在を前にB級上位のチームたちも苦戦を強いられ、武器が壊れたところを二宮、犬飼、辻の三人による攻撃の前になすすべなく負けていくのだった。

 

「あまり浮かれるなよお前たち」

 

 勝利を喜ぶチームメイトに二宮はそう釘を刺す

 

「そろそろほかのチームも鳩原に対する対策を講じてくるだろう。まだ2試合残っているんだ、はしゃぐにはまだ早い」

 

 そんな二宮にえ~と言いながら話したのは昴だ

 

「二宮さん、そうは言っても鳩原さんの頑張り見てましたよね。あれを見せられたら少しははしゃぎたくなりますって。なあ辻ちゃん」

 

 突然の呼びかけに思わず「俺?」という表情を見せつつも辻は返答する

 

「確かにそうですね。鳩原さんのおかげで俺たちも戦いやすくなりました」

「だね。ほんと助かるよ。ありがとね鳩原ちゃん」

 

 辻に続いて犬飼もまた言葉を続けた

 

「うん、役に立ててるならよかったよ」

 

 鳩原もはにかみつつ返答した

 

「ほら二宮さんも何か言ってくださいよ~」

「…ちっ」

 

 二宮の舌打ちを聞いて思わず昴は調子に乗りすぎたかと身構えるも

 

「おい鳩原」

「は、はい」

「よくやった。次も頼んだぞ」

 

 非常に短いながらも二宮もまた鳩原に対して賛辞の言葉を口にした

 

「はい、頑張ります」

 

 鳩原もまた簡潔ながらも満足げな表情でそう返すのだった。

 昴たちも思わず微笑ましい表情で二人の様子を眺めていると「あ、そうだ」と犬飼が話だした。

 

「桐くん、そんなに褒めてくれるなら何かおごってよ」

「へ?」

 

 犬飼はにやけ顔でそう口にする

 

「俺ぶどうジュースね」

「お前な…貧乏人にたかるな」

「じゃあ俺はコーンスープでお願いします」

「辻ちゃん?」

「えっと、シジミ汁で…」

「鳩原さん?」

「ジンジャーエール」

「二宮さん!?」

 

 ものの見事に全員にたかられた昴だった。

 

「とほほ…」

「ほら持ち運びくらいなら私も手伝いますから」

 

 結局おごることになった昴と手伝いについてきた氷見の二人が自動販売機を目指していた

 

「それにしても鳩原先輩が元気になって本当によかったです。」

「うん、それは本当に嬉しかったよ」

 

 氷見も安心した表情でそう告げた。チームでの話し合いが始まるまで鳩原のことを度々励ましに行ってた氷見からしても鳩原の活躍は嬉しいものだった。

 

「ところで氷見さん、次のラウンド7のこと覚えてる?」

「覚えてるにきまってるじゃないですか。はぁ…」

 

 氷見は途端に不安げな表情となって思わずため息をついてしまう。この少しおバカだけどオペレーターとしては頼りになる先輩から突き付けられた難題は最近の氷見の悩みの種だ

 

「やっぱり不安なのは収まらないか」

「当たり前ですよ…」

「まあそんなこともあろうかと」

 

 昴はそう言うと懐からとある紙包みを取り出して氷見に渡した。氷見は訝し気な表情をしながらもそれを受け取る

 

「…何ですかこれ?」

「まあお守りみたいなものだと思ってよ。本番中にどうしても不安になったらそれ開いてみて」

「はあ…わかりました。正直このお守り自体が不安ですけど」

「もう少しオブラートに包んでくれてもよくない?」

 

 そんな会話をダラダラ続けながら二人は自動販売機の前にたどり着くのだった

 

「あ、私は飲むヨーグルトでお願いします」

「氷見さん?」

 

 

 

 

 そして数日後、ラウンド7当日

 

「大丈夫…いつも通りやればいい。大丈夫…」

 

 本番を控えた氷見はモニターの前で苦悶していた

 

『ひゃみちゃん、そう気張らなくてもいいんだよ』

 

 それを察した犬飼はすぐさま無線でフォローを入れた

 

『仮に失敗しても桐くんだって怒らないし、俺たちだって……誰も怒らないよ』

 

 自身の隊長が思い浮かんだ犬飼は一瞬言葉を詰まらせたもののすぐさま励ましの言葉を加える。ちなみに当の隊長はどこ吹く風という様だ

 

「はい…ありがとうございます犬飼先輩」

 

 とはいえそう簡単に緊張が収まれば氷見も苦労はしない。どうしようかと思い悩んでると氷見はあるものが思い浮かんだ

 

(…!そうだ、あれがあった)

 

 氷見はポケットにしまっていた昴からのお守りを取り出した。何が入ってるのかは全く見当がつかないが緊張が紛れるならばなんでもいい。そう思って氷見は封を開けた。

 

「これは…」

 

 中に入っていたのは一枚の写真。その写真を見た氷見は呆けた表情をしてしまう

 

「…は?」

 

 それもそのはず。そこに写っていたのは二宮隊の隊服、つまりスーツを着た烏丸の姿であった

 

「え?は…え?」

『おいどうした氷見』

 

 動揺が止まらない氷見に二宮も思わず疑問を投げかけた

 

「い、いえ!何でもありませんので!!」

「…そうか」

 

 語気を強めて発言する氷見に二宮も黙り込むしかなかった

 

「あのアホめ…!!」

 

 昴からの思わぬ贈り物に顔を赤くしながら氷見はつぶやいた。そんな中ふと封の中を見るともう一枚の紙が入っていた

 

「こっちは…」

 

 そこには短めの文章が書かれていた

 

【この手紙を見てるってことは氷見さんが本番前でとても緊張してるってことだと思うので、気を紛らわすためにも京介のスーツ姿ブロマイドを入れときました!さらにもしこの試合でうまくオペをやり通せたらご褒美に俺が氷見さんと京介の食事会をセッティングしてあげます!あ、もしその食事会が緊張するようなら俺も同席するので。というわけで氷見さん、頑張ってください!俺も教えられることは全部教えたし、氷見さんもそれに全部応えてくれたから心配することは何もないよ!ファイト!!】

 

「……はぁ~~……」

 

 手紙を読み終えた氷見は思わず大きなため息を吐いてしまう

 

「あのアホ先輩は私を応援したいのか緊張させたいのかどっちなんです…」

 

 昴への文句を口にしながらも気が付けば氷見から緊張は消えていた

 

『ふふ…ひゃみちゃんもう大丈夫そうだね』

 

 無線越しでそれを聞いた鳩原はそう口にした

 

「あ、鳩原先輩。すいません…もう大丈夫です」

 

 氷見の言葉を聞いた二宮と犬飼も言葉を発した

 

「ならさっさと始めるぞ氷見」

「ええ、さくっと終わらせましょ」

 

 二人の言葉を受け氷見も気合を入れてモニターに向かい合った

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「「「了解」」」「りょ、了解っ!!」

 

「「「「……」」」」

 

「あー、まだ一人緊張してるのがいたね…」

「す、すいません!」

 

 初めての女性オペレーターとの試合を前に辻は上ずった声でそう謝罪したのだった

 

 

 とはいえ、いざ試合が始まると氷見の的確なオペレートとチームの巧みな連携により二宮隊はラウンド7でも無事勝利を収めたのだった。

 

 そして試合を観戦していた昴は拍手をしながら言葉を送るのだった

 

「うん全く問題なかったな。初勝利おめでとう氷見さん。」

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで頼むな京介」

「何がというわけでなんすか」

 

 そしてなんの話も通していなかった烏丸に対しても必死に説得するのだった

 

 

 

 

 

 

そしてさらに数日後、いよいよ昴の二宮隊としての最後の試合であるラウンド8当日

 

「いよいよこの日が来たか…」

 

 昴はモニターの前でそう呟く

 

「はは、感傷にでも浸ってるの?桐君」

「そりゃ少しは浸りたくもなるさ。何せ最後の試合なんだからさ」

 

 犬飼の軽いからかいに昴はそう返す。そんな昴に対して二宮はこう言った

 

「感傷に浸るのも、最後を悲しむのも全部後だ。今は目の前の試合のことだけ考えろ」

「二宮さんは最後まで手厳しいな…」

「当然だ。適当なオペをされても困る」

 

 二宮からの叱咤に昴は笑顔で言い放った

 

「そんなことするわけないですよ。A級がかかった最後の試合。俺も全力でオペレートしてチームを勝利に導きます!」

 

 昴の言葉にチームメイトも続いた

 

「頼りにしてるよ桐君」

「頼みます桐山先輩」

「最後の試合、よろしくね」

 

 そして二宮も続く

 

「わかってるならいい。時間だ、いくぞ」

 

 二宮の号令に犬飼、辻、鳩原、昴の四人は答える

 

「「「「「了解」」」」」

 

 二宮隊最後の試合が幕を開けた

 




おそらく次で二宮隊編は終わり。多分短めだと思う


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