こちら龍門近衛局! (ユイノ)
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ルブルム プロファイル(随時更新)

※現在、4話までの情報にプラスアルファの状態です。
こちらは本編の進行に合わせて随時更新する予定です。
更新した際は本編の後書きにて連絡させていただきます。


●注意事項

 以下のデータ、情報はオペレーター【ルブルム】さんの許可を得て弊社で管理・測定した物となります。龍門より派遣された方々のデータはやむを得ない場合を除いて本人の希望を優先してください。

――アーミヤ

 

●基礎情報

【コードネーム】ルブルム

【性別】男

【戦闘経験】三年

【出身地】龍門

【誕生日】12月22日

【種族】―――― 掠れて読めない

【身長】180cm

【鉱石病感染状況】非感染

 

●能力測定

【物理強度】優秀

【戦場機動】優秀

【生理的耐性】標準

【戦術立案】優秀

【戦闘技術】優秀

【アーツ適性】卓越

 

●個人履歴

 ルブルムことアル・ルブルムは龍門の上級警司。同じく上級警司であるチェンの補佐を務めている。

 

●健康診断

 造影検査の結果、臓器の輪郭は明瞭で異常陰影も認められない。循環器系源石顆粒検査においても同じく鉱石病の兆候は認められない。以上の結果から鉱石病未感染と判定。

【源石融合率】0%

【血液中源石密度】0.12u/L

 ロドスに来る以前は近衛局で、来てからはロドスの管理の下、徹底した対策をしている。彼は、危険な汚染地域であっても対策と管理が万全ならば積極的に出撃する。

 

●第一情報

 ルブルムは真面目で人当たりのよいオペレーターだ。相手が感染者かどうかも気にしない。態度こそ丁寧だが誰にも気さくに接する。気難しいスカジや要注意なラップランドでも同様だ。後者は元から気さくな面があるが、前者に関しては彼と世間話をしている場所が目撃されている。物好きなオペレーターがスカジに直接聞いた所、

「誰でも世間話ぐらいするでしょう?」

 と、一蹴された。なお、そのオペレーターの元に匿名希望の自称サメからは、

「シャチなりに友情はあるんじゃない? 女としての感情はドクターに向いてるみたいだけど。男の方も下心ある訳じゃないみたいね。あの不器用で気難しいシャチと仲良くなるなんて大したもんじゃないかしら」との情報が入ったらしい。

 

 ……なんだこの情報は。必要の無い事は書くべきでは無いだろう。ルブルム本人はどう言っていた? 面白いからいいんじゃないですか、だと。……本人がいいならばこれで構わないが、以後は慎むように。

――ケルシー

 

●第二情報

 彼は様々な役割を兼任する。デスクワークではチェンの代わりに判断する事もあるし、戦場では指揮を執る事もある。武器も剣を使っていたかと思えば槍を使っていたり、更には拳銃も使いこなす。その汎用性の高さからロドスでは特殊オペレーターと認定。

 

●第三情報

 彼の実姉と名乗った女が彼の本当の名前をニーロン・アスールと言ったらしい。

 筆者がその名前を彼に伝えたら一瞬だけ、ほんの僅かに驚いた表情を見せたが直ぐにいつも通りの笑顔で「そう名乗っていた時もありましたね」と言うだけでそれ以上は喋らなかった。どうして名前を変えたのかと問うと、アスール一家としての自分は死んだからだと言う。抽象的な言い回しをされてしまった印象を受ける。差し当たり、筆者は――――ここから先は乱雑に消されて読めない。

 

 担当者が誰かは分からないが、感心しないな。私の可愛い部下の過去を気にして何になる? 彼の名前がそんなに重要か? 君達は彼を信用に足らないとでも言うつもりか? 彼の働きを見て信用出来ないと? だとするとロドスの人々は私より石頭とお見受けする。彼は君達にとって、私より信用に値する人間だと思っていたが。

――チェン

 

 チェンさんのご指摘は尤もです。本当にすみません。担当の方も今後は余計な深入りを避けるようにお願い致します。誰にでも知られたくない過去はあるでしょうから。

 ただ、チェンさんも悲しい事を言わないでください、少なくとも私は信用できる人だと思って居ますから。

――アーミヤ



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第一話

 この世にはままならない事がある。例えばこうだ。

 自分の直属の上司が美人。その上、凄く優秀。生真面目な人だがオフではノリも良く気遣いのできる、優しい女性。どうだろう、羨ましいだろうか? なるほど、羨ましいか。多分僕もここ『だけ』を聞けば羨ましいと思う。しかし、現実はさほど甘くない。

「どうしたァ、ルブルムゥ! ちゃんと呑んでるかァ!」

 何故ならその美人上司は右隣の席で顔を真っ赤にしながら満面の笑みで自分に絡んで来るからだ。しかも暑いからか上着を脱いでるせいでより困る。色々と。

「チェン隊長、飲み過ぎです」

「お前が飲めば済む話だ!」

 普段から真面目な女性で酒を飲んで絡み酒をされる事は多々あるが今回は特に酷い。何故これほどテンションが高いのかと言うと隊長が連休だからである。左隣の女性に、声をかける。

「ホシグマさん何とかしてください。僕の手には負えません」

「ふっ。隊長はお前の事がお気に入りのようだからなっ……」

 そう言ってホシグマさんは顔を伏せた。言葉尻が妙に上がったと言う事は笑ったに違いない。

「嬉しいようで嬉しくないですよ。普段は無茶振りされるし、こうやって絡まれるし。おまけに職場では妙に尖ってるせいで僕までそんな風に見られる!」

 そう、僕は内向的で臆病なのだ。近衛局と言う仕事を選んだのも崇高な目的があった訳ではなく、単純に体を動かすのが得意だったからだ。レユニオンなんて連中のせいで僕みたいなビビりが前線に送られるのだ。左右の無茶苦茶な人達と一緒にな。

「しかし、よく噂されているぞ。チェンとルブルムは付き合っていてズブズブの関係だと。お前が真っ青な顔でチェンの部屋から出てきた所を見た者がいる」

「いつものことですからね。顔が真っ青なのも今僕に絡み付いてる人がよく寝ゲロしてくれるからです。いくら美人でもゲロぶっかけられて喜ぶ男居ると思います? 少なくとも僕は嬉しくない」

 ちなみに当の本人は酔いつぶれたのか、僕にしがみついたまんま寝ている。当たってんのよ、色々と。

「く……くっ……ふぅ……いや、すまん」

 目の前で爆笑しないで我慢してくれるのはこの人が優しい人だからだろう。パッと見怖そうに見えるが、その実後輩を気に掛けてくれる、物凄く優しい人なのだ。

「ところでだな、素晴らしいことに私も連休なんだ。そしてお前も連休だな?」

「えぇ、そうです。あ、もしかしてツーリング行くんですか?」

「泊まりがけのツーリングか。悪くはない。しかし、残念ながら先約がある」

 残念だ。ホシグマさんとツーリングに行けないと言うより、ホシグマさんがツーリング先で撮って来てくれる写真が凄く綺麗で好きだったからだ。

 ホシグマさんが二枚のチケットを渡してくる。どうやら旅行チケットでシエスタ行きらしい。以前、ロドスも交えて行った事があるが、色々あって遊ぶどころじゃなかった。

「お二人で行くんですか? いいですね」

 しかし、ホシグマさんは両手を上げて大袈裟に首を振る。

「先約は私の、じゃない」

「はい?」

「チケットの名前を見てくれ」

 言われてチケットを見る。行き先に目が行ってしまったから気づかなかった。えっと一枚目はチェン・フェイゼ。まあそうだろう。二枚目は……アル・ルブルム。アル・ルブルム?!

「そう言う事だ」

「……色々言いたい事はあるんですけど」

「なんだ?」

「こんなんされたらまた誤解を招きますよ! て言うか実質仕事みたいなもんでしょ、これ! 合コンでまた残念扱いされたくない!」

「さて、何のことやら。しかし、不思議な話だ。顔は……まあ悪くはない。年齢も若い。少なくとも老け込む年齢じゃない。仕事も有名な隊長と激務をこなす能力はある。出世も年齢を考えれば充分過ぎる。将来性もある。人格はそうだな。非感染者からは評判が良い。感染者からも近衛局にしては珍しく差別的な態度を取らないと聞くな。ふむ、顔立ちは悪くなく、稼ぎもあって人格も申し分も無いはずなのだがな?」

「……名前を出すと隊長と付き合ってるって向こうがビビるんですよ! ただの上司にそこまで親身にならないでしょってね!」

 実際はほぼ強制連行なだけと言うね。他の人を誘えばいいのに。え? 拒否すればいい? 長い物に巻かれて生きるのが公僕としての責務だろう。何より後が怖い。隊長自身は強制してるつもりは無いんだろうけど意思確認をされた事は多分無い。

「仕方ないさ。他の連中はチェンに怯えているみたいだしな」

 僕も年中ビビり散らかしてますけど?

「私の連休はたまたま同じになっただけ。これは本当だ。だがお前達二人の連休はチェンが仕組んだ」

「でしょうね。僕の記憶にない僕の有給申請が出てました」

「だろうなぁ。お前に事前に連絡しなかったのは驚かせたかったからだろう」

 ……いや、サプライズじゃねーよ。連休使って旅行に行くのに事前に連絡して貰わないと準備出来ないでしょ。

「いい話風に言ってますがやってる事が畜生過ぎて社会人のやる事じゃなくないですか?」

「お前にしては言葉が珍しくきついな。……しかし、確かにお前の優しさに甘え過ぎている」

 まあでもね、これで隊長が小汚いおじさんだったら間違いなくぶっ飛ばしてるから僕も似たようなモンなんだな、これが。美人って得しますね。

「……お前が嫌なら私の方から断っておくぞ?」

 優しい。優し過ぎるよ。でもね、断ると連休明けに絶対地獄みたいな空気になるの目に見えてるんです。

「……せっかくセッティングしてくれたんだから行きますよ」

「そしてお前もお前で他人に甘いな……」

 だって後が怖いし……。そりゃ隊長も大人なので表立って怒りはしないだろう。厳しい人だが理不尽な人じゃない。

「今、隊長って厳しい人だけど理不尽な人では無いよなって考えたんですが、本人の意図は兎も角、僕って隊長の所為で割と理不尽な目にあってません?」

「……さて、どうだろうな」

 ……やれやれだぜ。手渡されたチケットを改めて見ると、出発日は明日の夕方。いい加減に帰って準備をしなければ到底間に合わないだろう。

「そろそろ帰りますか」

「そうしよう、準備の時間も必要だしな。マスター、お勘定を」

「もう既にルブルム様から頂いております」

「ほう、中々スマートじゃないか。これはポイント高いぞ?」

「ま、一応僕も男なんでね。お世話になってる先輩の前では格好つけとかないと」

「ふ、若造が何を言うんだ」

 ホシグマさんと別れた後、隊長を隊長の家まで担いで行った。手渡されたチケットだけ置いてると本人には何があったか分からないので、持ち歩いてる手帳のページを破り、『シエスタへの旅行の件、ホシグマさんよりお聞きしました。僕で良ければ是非ご一緒させて下さい』と残しておく。

 まあ、隊長的には男の旅行なんて最悪身一つでもみたいな感じなんだろう。事実、女性に比べれば楽だろうし。色々と思う事はあるが、早く帰って寝て起きてから準備しよう。

 テーブルの下に物があるなぁと思って確認したら新品未使用の避妊具があった。……見なかった事にしておこう。

 本来ならば結局他に男いるんじゃねぇかと憤る所なのだが本能的な感覚からか分からないが、凄まじい寒気を感じた。貞操の危機なのでは?

 考えても仕方ないな。隊長に襲われるなら悪くない。なんだかんだで、身近な女性では一番好ましい人だし。当人は腹出して大口開けて鼾をかいて寝てるけど。今更ではあるが、女性の寝顔をずっと見るのも失礼だし帰ろう。

 

 

 ちょっと前の話だ。

 基本的に出動しない日は執務があるのだけど、何を思ったのか隊長が僕を補佐に任命したせいで隊長個人に充てがわれた執務室に詰め込まれて書類仕事をするけどこれがまた地獄なんだな。僕も隊長もそうだが、無口と言う訳じゃないけど、かと言ってベラベラと喋るタイプでもない。たまーにスワイヤーさんが顔を出して隊長と言い合いしてるのを見ると妙にホッとする。二人の言い合い? がひと段落して隊長が、

「すまない、見苦しい物を見せた」

 と、申し訳なさそうに謝って来た事がある。正直言って日常的な出来事で、なんなら僕はラジオ感覚で聞いていたので全く気にしていなかった。しかし、ここで気にしていませんと言うだけではいけない。上手くフォローする必要がある。大事なのは隊長だけでなく、スワイヤーさんもフォローしなくてはならない。

「いえ、気にしていませんよ。寧ろ、安心しました」

「……どう言う事だ?」

「隊長達も同じ人なのだな、と。普段隊長が*龍門スラング*なんて使うなんてイメージありませんでした。なんて言うんですかね、他の隊員も同じ事を言うと思いますが、雲の上みたいな人、って感じありましたから。褒められた事では無いんですが、そんな言葉も使うだなぁと」

「買い被り過ぎだ。自分を高める事に余念は無いつもりだが、日々の悩みは沢山ある。……例えばそうだな、口数の少ない補佐官とどう上手くコミュニケーションを取るかとかな」

「それよ、それ!」

「え?」

 スワイヤーさんがビシッと右手の人差し指を僕に向ける。

「あんた達、真面目だけど暗いのよ!

 この執務室は特別暗いわよ!」

「まあ……僕も隊長も口数多い方じゃないですからね。だからスワイヤーさんがたまに様子見に来てくれるんでしょう?」

「人はそれを余計なお世話だと言うのだがな」

「あんたは素直で可愛い部下を見習うべきね」

 いかん。このまんまじゃ収集が付かなくなる。爆破反応装甲みたいな人達だから気をつけないと僕が爆発で吹き飛ぶ。

「まあ……なんでしょうね。僕はなんだかんだで今の仕事は気に入っていますよ。ほら、だって美人な上司と二人きりで仕事出来る訳じゃないですか。男冥利に尽きますよ」

 嘘です。気に入って居ませんし、冥利に尽きると思った事もありません。無言で仕事してても刺す様な隊長の目が頻繁に感じて物凄く怖いです。唯一事実なのは隊長を美人と思ってる事ぐらいです。元のデスクに戻りたくて仕方ないよ。だって、僕は根本的に小心者ですもの。

「まあ、巻き込まれた君が気にしていないのならそれでいい。嫌と思ったら気軽に言ってくれ。スワイヤー嬢の口を封じよう。ふふ、私のことを美人と思ってるのか」

 最後の方は聞き取りづらくてわからなかったが、笑ってるし問題ないだろう。

「その上、違う部署の美人な先輩に気にかけて貰えてる訳ですしね」

 まあヘッドハントですけどね。あまり自覚は無いが僕は優秀らしいし。どの部署でも戦闘が避けれない以上は人手が必要になる。部署間での人のやり取りはそう珍しい話じゃない。

「ま、私もルブルムが気にしてないならそれでいいわ。可愛い後輩に免じて今日はチェンお嬢様の減らず口を見逃してあげる」

 そう言いながらスワイヤーさんは手をヒラヒラ振りながら執務室を出て行った。……悪い人じゃないんだけど、嵐みたいな人よな。もっと上手くフォロー出来たはずだよな、多分。

 

 

人物紹介①

→アル・ルブルム

 男性である事、家族が既に居ない事以外特に設定が決まって居ない。チェンさんより少しだけ若い。

 ホシグマさんやチェンさんと肩を並べて戦っても遜色無いので普通強い。しかし、本作はコメディ寄りなのでそれはあんまり関係ない。

 顔も悪く無く、住民や同僚からも信頼が厚く、物腰が柔らかく人当たりが良いが、チェンさんと付き合ってると言う誤解があるので、女性とは縁が無く、よしんば縁が続いても所謂良い人で終わる。残念ながら本作はチェンさんがメインヒロイン故に彼のハーレムは有り得ない。状況的にはハーレムと言えばハーレムだが。(周りの人が女性ばかり)

 ロドスにも頻繁に訪れており、ロドスの面々とも面識がある。

 基本的にロドス側からは龍門関係者の中では非常に接しやすいと言う認識で、両者の橋渡しとなる事も。

 

→チェン・フェイゼ

 ルブルムの直属の上司。そしてヒロイン。

 ルブルムに対しては元々異常なレベルで優秀な部下程度だったが、これまた異常なレベルで面倒見の良いルブルムに仕事でフォローされたり、呑みなどで介抱されてる内に自分の内面を見せてもよい相手だと理解してからは彼に強く惹かれる様になる。それからは仕事でもプライベートでも割と頼りにしており、公私共に結構な無茶振りも良くする。

 ルブルム本人に連絡無しで旅行に連れて行こうとする鬼畜ムーブを作品の初回から披露。その真意とは? なお、チェン本人はルブルムに断られると1ミリも思ってない。

 

→ホシグマ

 ルブルムの上司と言うより先輩。チェンどころか厳つい風貌の自分、そして何に対しても物怖じしないルブルムを気に入っており(実際にはチェンにビビり散らかしているし、戦闘でも内心はビビりまくっている。ホシグマだけ誤解は解けた)、後輩として可愛がっている。プライベートで食事に行ったり、ツーリングに行ったり仲がよい。が、お互いがお互いに異性としての恋愛感情は全く無い。

 二人のチケットを彼女が持っていたのはチェンが恥ずかしがって渡せるか不安だった為。酔い潰れてではあるが実際に渡せなかった。

 二人の関係性を一歩退いて見守っており、見ていて飽きないがどうにも煮え切らない二人の為にさり気なくフォローしている。

 

→スワイヤー

 割と超人に囲まれて仕事をしているルブルムを何かと気にかけている優しい人。彼の能力や人格を高く評価しており、ちょくちょく声をかけるが成果は出ていない。多分ルブルムを弟みたいな感じで見てる。

 ルブルムからはホシグマとは違うベクトルで面倒見のいい先輩として見られており、慕われている。

 流石にロドス程では無いが曲者が多い近衛局で素直な性格のルブルムは彼女にとって癒し系キャラである。

 

 

おまけ:チェンさんの無茶振り①

 

チェン「レユニオンのアホが暴れてるらしいわ、書類溜まってるし一人で始末しといてやで」

ルブルム「ん、おかのした」

――数時間後

ルブルム「全員始末したやで」

チェン「被害どうなん?」

ルブルム「ワイは擦り傷も無いし、周辺の住民は勿論、建物にも被害はないやで」

チェン「サンガッツ」

 

 と言う感じ。大規模作戦なら原作通り部隊規模で動くが、書類仕事が多いので人員の問題から暴動の鎮圧程度ならルブルム、チェン、ホシグマなら単独で問題無く済むので単独で出動する。事後処理すら自分で完結させている。そりゃ他の人には真似出来ない。ちなみに火の始末は流石に出来ないのでショウを呼ぶ。



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第二話

 

 旅行当日。

 龍門は移動都市ではあるが、当然シエスタに向かって舵を切っては居ない。幸い距離は想定していた程無いらしいので半日もヘリで飛べば問題無い様だ。

 ヘリボーンに用いるヘリでは無く、少々大型の輸送用ヘリなのだが、どうにも行き来用の燃料と交代のパイロットが搭乗するらしい。計四人とのこと。まあ半日を二人

のパイロットで回すのは酷だろうし、そんなもんなのかな。これをチャーターした隊長には頭が上がらない。

『ルブルム、二日酔いは大丈夫か?』

 機内チャンネルでは無く、僕達専用のチャンネルで隊長が声を掛けてくる。僕は気にしていなかったが、隊長がわざわざ用意した。隊長自体は真横に居るが、ヘリが爆音過ぎる故に無線で会話している。

『えぇ、問題ありませんよ。隊長こそどうなんです? 結構羽目を外してましたよね?』

『私が二日酔いで苦しんでるのを見た事あるか?』

『……無いですね』

『そう言う事だ。君が無ければ見た事がある者など存在しないだろう?』

 まあそうですね。散々連れ回されてる僕が見た事無いんだからそりゃそうだ。普通に二日酔いより酷い寝ゲロは何度かぶっかけられてるが、女性に言うモンじゃ無いだろう。不思議な事に、僕にしがみついてる時に吐くもんだから僕の服ばかり汚れて行く。隊長の服が汚れた事はあんまり無いと思う。

『それと、暫くはオフなのだから"隊長"は無しだ』

『了解です、チェンさん』

『お二人共、調子は大丈夫ですか?』

 次は機内用のチャンネルにパイロットからの声が掛かる。胸元の無線機を操作してチャンネルを変更し、応答する。

『僕は問題ありません』

『私もだ。……いや、謝罪をすべきなのは私だ。済まないな、私の都合で君達を巻き込んでしまって』

『気にせんでください。現地で自由行動の許可降りてますからね、会社の金で旅行に行くようなモンですんで』

『流石の私にもそこまで縛る権利は持ち合わせて居ないさ。それぐらいの考えで居てくれるなら私の気も幾分か楽になるよ』

『ただ、万が一の事があります。酒を飲むなとは言いませんが、緊急で戻る可能性も頭に入れて置いて下さい』

『了解しました』

 彼らもこの道で生きてきたプロだ。改めて僕が言う必要もなかったかな。

 

 

 乗り物酔いに苦しんで横になっていたら、思いのほか時間が経っていたらしく、パイロットから通信が入る。

『うん?……移動都市の反応を確認。ロドスです。シエスタで停車してるみたいです』

『なるほど……このチャンネルをロドスのチャンネルと繋げる事って出来ますか?』

『出来ますよ。今繋げます……オーケー、どうぞ』

『オープンチャンネルに突然失礼します。こちらは龍門近衛局督察隊隊長補佐、アル・ルブルムです。ロドスの方、応答願えますでしょうか』

『こちらロドスよりケルシー。どうぞ』

『ケルシー先生、お久しぶりです。いつもお世話になっております。間も無く一台の輸送ヘリが貴艦の上空を通過致します。当方に攻撃の意図がない事をお伝えしたく、連絡させて頂きました』

『了解した』

『貴艦もシエスタに停車しているものとお見受けします。不躾なお願いですが、お時間が合うようでしたら直接挨拶にお伺いしてよろしいでしょうか?』

『ロドス自体はもう暫く停車しているが、私の方が時間を確保出来るか怪しいので確約は出来ない。だが、君が来たらこちらのオペレーター達が喜ぶだろう。乗船手続きはこちらで済ませておく。私の名前を出せば問題無く乗船出来るはずだ』

『すみません、お手数をお掛けします』

『気にしなくていい。良い休日を』

 ケルシー先生は冷たい印象を受けやすい人だが、こう言う時は話が早くていい。

『ロドスよりチャンネルの切断を確認。機内チャンネルのみになりました』

『了解。ありがとうございます』

 ロドスか……前回もロドスの人達が居たが、何かと通ずる物があるのかも知れない。……無線機を操作し、チャンネルを変える。

『チェンさん、どう思います?』

『……彼らも休暇だと思う。ケルシー女史からはあまり緊迫した雰囲気は感じられなかった』

『ですよね、すみません。考え過ぎてしまうのは僕の悪い癖です』

『まあ、彼らも彼らでよくトラブルに巻き込まれているイメージがあるからな……今の私達はただの観光客だ、余程のことが無い限りは私達の時間を大事にしよう』

『折角ここまで来た訳ですしね。……ETA通りなら後十分ぐらいですね。深夜ですし、現地に着いたらさっさと寝ます?』

『そうだな。休日を最大限に楽しむコツは早寝早起きだ。睡眠時間を削り過ぎたり取り過ぎてもいけない。ひとまずは予約したホテルへ向かおう。ヘリポートに近いホテルを選んだからすぐに着く』

『分かりました。チェンさんが選んだなら期待出来そうだ』

 

 

「で、なんでこうなったんですか?」

 期待していた通り、ホテルの部屋は綺麗で装飾も派手すぎない。カーテンを開ければ見事なオーシャンビューを楽しめる。知識は無いが、上等なのは分かる。では何が問題なのかと言うと、部屋を一つしか予約していなかったのだ。

 窓辺に備え付けられたテーブルの席で、水を飲んでいた。チェンさんは僕の前の席に座り、紅茶を飲んでいる。

「何か問題あるか?」

「問題しかなく無いですか? 若い男女が同室と言うのは……」

「君が女性に粗相を働く人間ではないのは誰よりも理解しているが?」

 いやまあそうですけどね。そんな度胸がまずないし。

「……まあソファー有りますし、そっちで寝ます」

「駄目だ」

「……なんでです?」

「睡眠時間ももちろんだが、質も大事だからだ」

「あの、確認するのが怖いんですけど、同じベッドで寝ろなんて言いませんよね?」

「そのつもりだったが」

 澄ました顔で何言ってんだろう、この人。チェンさんの僕に対する信頼がデカ過ぎて怖いよ。言うて寝込み襲っても負ける自信しかないし、度胸もない。折角よくして貰ってるのに裏切る訳にも行かないし。

「いや、真面目な話をするとですね、僕も男な訳でして。貴女みたいな美人な女性が横で寝るとなったら落ち着かないですし、手を出さないって結構タフな事なんですよ」

 繰り返し言うが実際には何かする度胸は微塵も無い。だが、何かするかも知れないと思わせないとこの人は退かない。ただ、美女が横に居てグッスリ寝れる程図太く無いのは事実だ。

「……私は煮え切らない今を変える為に君とここに来た」

「話が見えません」

「ならば行動で示そう」

 手にしていたカップを置き、立ち上がる。何をするんだろう、と見ているとそのまま頭を掴まれた。

「目を閉じてくれ」

 素直に目を閉じて、ほんの数秒後には唇に柔らかい感触。驚いて目を開けると眼前には僕と同じく、目を閉じているチェンさんの顔があった。唇を奪われたまま硬直しているとやがて目を開いた彼女は不満そうに僕の唇から離れていった。

「目を閉じてくれ、と言ったはずなんだがな」

「いや、驚くでしょ普通に考えて……」

「どうやらまだ足りないようだ」

 頭を掴まれたままの僕は身動きが出来ない。今度を目を閉じる事なく、唇を奪われる。だが次は口内に舌が侵入して来てそれを止めようとした所為で舌と舌が絡み合うが、それに満足出来なかったのか、次々と彼女は口内を凌辱して行く。歯と言う歯を犯され、歯茎と言う歯茎さえも、全ては彼女に犯されて行った。

 こちらも仕返しだと言わんばかりに舌を突き出し、彼女の口内に侵入させ、同じ事をする。まるで味見の様に歯と歯茎に舌を這わせて行く。一通りそれが終わらせても満足出来ず、もう一度してやろうと少し舌を動かすと彼女の舌に阻まれる。そこからは駆け引きなんて上等な物は無く、互いが互いの欲望を満たす為にずっと舌を絡ませ合った。

 流石に息苦しくなったのか、チェンさんが離れて行った。そのまま着席し、改めて僕へ向き直り、僕の目を真っ直ぐに見てきてこう言った。

「私は君が好きだ。君が欲しい」

「痛い程伝わりましたよ。……男の趣味が悪いとか言われた事ありませんか?」

 予想外の反応だったのかして、驚いて目を見開いた後、可笑しそうに笑っていた。

「君で趣味が悪くなるなら世界中の他の男と付き合っても九割以上は趣味が悪い事になってしまうな? 心配しなくていい、君は君が思っているよりもずっといい男さ」

「なんかむず痒いですね……分かりました。この場ですぐ返事させて頂きます」

「……ありがとう。だが、その前に重要な事を話す必要がある」

「重要な事、ですか」

「ああ、君がどう返事するかはそれを聞いてからで構わない。いや、君にはそうする権利がある」

 随分と大袈裟な話になって来たな。実は男性でした、とか言われたらおったまげるけど、流石にそんな事は無いだろうし。

「分かりました。誰にも言わない事を誓います」

「助かる」

 チェンさんが数回深呼吸する。珍しく緊張しているのか、落ち着かない様子が簡単に見て取れた。

「これは私とウェイ・イェンウー氏しか知り得ない情報だ」

「え?」

 何それ、怖すぎない? 知ったら最後、気づいたら死んでた……みたいな話は流石に無いと信じたいな。国家機密レベルの話では?

「私は……私は感染者だ。政治的な都合で隠しているが、感染者なんだ……」

 見た事無い程の痛ましい表情だった。彼女は僕と違い重要なポジションを担っている。その重責と、仲間に事実を隠し続ける苦しさは僕には理解出来そうもなかった。

 何より、ウルサス程では無いが龍門も感染者に対して風当たりは悪く、近衛局のみならず、龍門と言う移動都市で重要な役割を担っていた人間が実は感染者でしたとなれば暴動が起きるだろう。それこそ国家転覆の危機になり得る。

「なるほど……びっくりしました、が素直な感想です。それでも、僕の貴女への気持ちは一切変わりませんよ」

「……だが、しかしな……」

 チェンさんは勇気を持って自分の気持ちを伝え、僕が目を逸らそうとしていた気持ちを暴いてくれたんだ。僕は、僕に無い強さと真っ直ぐさを持つチェンさんにどうしようも無く惹かれていた事を改めて自覚させてくれたんだ。――ここで行動しなければ男じゃない。

「僕は恋人や友人が感染者でも気にしません。気にした事もありません。ああ、そうだ。僕は誰かに対しては素直で居れたけど、自分の気持ちには蓋をして素直になれなかった。貴女が好きだ。どうしようも無いぐらいに。僕に無い、人としての強さを持っている貴女が好きなんだ――」

 今まで封じていた気持ちがとめどなく溢れ、彼女への気持ちを表した言葉がどんどん出てくる。だが顔を真っ赤にしたチェンさんに手で制される。

「分かった、分かったから落ち着いてくれ。……悩んでいた私が馬鹿じゃないか。はは、やっぱり君にはこう言う事では叶わないみたいだ」

 僕も一度深呼吸し、息を整えて気を落ち着かせる。

「そう言う事です。付き合ってください」

「ああ……いや、でも……」

 感染者。この世界でこの言葉の意味は想像以上に重い。

「まさか、気持ちを伝える為にキスして終わりじゃないでしょう。あそこまで火をつけて終わりだと?」

 それでも躊躇いがあるのだろう。煮え切らないと言った関係を変えたいと言った割には歯切れが悪い。きっと、荒療治が必要だ。

 席を立ってチェンさんの席へより、驚いた表情をしている彼女をそのまま正面から抱え上げる。僅かに抵抗されるが、それを気に留めず、ベッドまで運んでベッドに優しく投げる。起き上がろうとした所に間髪いれず、彼女に覆いかぶさり、押し倒したのと同じ体勢になった。

 乱暴に唇を重ねる。数秒後、名残惜しいが唇を離し彼女が着ているシャツのボタンを一つずつ外して行くと黒い下着に覆われた胸が露わになった。

「僕のしようとしてる事、分かりますよね? もちろん、貴女には拒否する権利がありますよ」

「珍しく強引じゃないか。君はどうしたいんだ?」

「貴女を抱きたい。貴女を滅茶苦茶に犯して僕の物だと刻み付けて分からせたい」

「全く、君は開き直るタイプだったんだな。いいさ、身を君に委ねよう。それが私の答えだ」

 

 

「君には恥ずかしい所を見られてしまったな」

「今更じゃないですか。僕はチェンさんのだらしないや恥ずかしい所、結構知ってますよ

「おい、今はそう言う正論で返す場面じゃないだろう、全く……しかし、私はあまり見せているつもりは無いんだがな」

「散々酔い潰れて僕に運ばれてるんだから結構なモンでしょう。それに『隊長』のデスクは酷いモンですし、チェンさんの部屋も中々ですよ」

「……整理整頓が苦手なのはだらしないのか?」

「しっかりしてるとはならないので、だらしないって事でしょうね」

「く……いや、今後は堂々と君に甘える理由が出来たんだ。甘えさせてもらう事にしよう」

「部屋はそれで構いませんけど、デスクは自分の力でやってくださいね。機密書類とか見たくないんで」

「別に周りに気を使う必要はないだろう。その為に君をあの部屋に連れ込んだんだ」

「え?」

「君の事が気になるようになってからは接するきっかけが欲しくてな。幸い君は何をやらせても問題無いのでな、補佐としてあの部屋に連れ込むのは大した理由は必要なかったよ」

「あ、そんな理由だったんですね。てっきりチェンさんの激務について行けないからやりたくない人ばっかなのかと……」

「それもある。後信頼して任せられそうなのがホシグマぐらいだが、彼女はあまりデスクワークが好きでは無いからな」

「確かに、デスクワークしてるイメージは全くありませんね」

「だが、君の言葉には驚かされたよ。てっきり女性に対する感情はホシグマに向いているのだと思っていた」

「まあ付き合っても無いのに一緒に泊まりで遊んでりゃそう思われても仕方ないでしょうね。多分、ホシグマさんも僕に異性としての感情は無いと思いますよ」

「……他ならない君が言うんなら大丈夫だろう。ふん、ホシグマやスワイヤーお嬢様に女としての幸せを先に入手した事を自慢してやろう」

「あ、やっぱり言うんですね……」

「スワイヤーお嬢様はともかく、ホシグマにはすぐにバレる。ならば、先手を打つに限る」

「気が重いな……ま、あの二人なら多分大丈夫でしょう。素直に祝福してくれると思います」

「……だといいが」

「二人共優しい方ですから。さて、流石にそろそろ寝ましょう。いくらでも話せそうですが、まだ時間はありますから」

「わかった。……手を繋ぎながらでもいいか?」

「ええ、喜んで」

「ありがとう。……おやすみ」

「おやすみなさい。良い夢を」

 

 

人物紹介②

→ケルシー

 ご存知ロドスの重鎮。ルブルムがチェンと一緒にロドスに派遣されていた時、彼のメディカルチェックも担当した。秘密主義を貫いたチェンに対し、自身の事は聞いたら何でも素直に話した彼には驚かされた。

 チェンに比べてロドスへ凄まじい速度で順応し、感染者か否かで態度を一切変えなかった彼を見て、幾分彼には気を許している。その為、チェンの部下だがチェンよりロドスで出入りできる場所が多い。

 彼がロドスのオペレーターと接する事で当事者間に起こる変化や刺激を好ましく捉えている。何故ならば、外部の人間と接する事でしか得られない物があると彼女は考えているだ。

 但し、ケルシーが保護しているレッドや幼い子供達に対しての接し方はあまり快く思っていない。勿論、ルブルムの接し方や態度に問題があったり、レッドと子供達が何かしてしまったと言う訳ではない。レッド達に限らず、ルブルムは歳下のオペレーターには甘く、過剰にお菓子を与えているからだ。子供達の笑顔が見れる事は素晴らしいが、医者であるケルシーが黙って見逃す訳にも行かない。結局、子供達に譲歩しているが。

 

→アル・ルブルム②

 チェンに対する感情は、恐怖や畏怖としてで、女性に対するそれでは無いと思い込む事で自分の気持ちをないがしろにしていた。チェンに煽られる形で暴走し、普段の彼からは想像出来ない言動を連発し、チェンをびっくりさせた。

 彼がチェンに抱いて居た感情は純粋な尊敬。内向的で臆病な彼は人と接する時、過剰なまでに良い人として接する。つまり、自分を出さない。

 誰にも媚びず、誰にも弱みを見せない。自分に自信があり、常に堂々としているチェンの姿は、ルブルムには何よりも眩しい物だった。

 だが同時にその強さは、諸刃である事も理解している。彼は何かと気の張った生活を送る彼女が少しでも羽休め出来ればと思い、なるべく寄り添っている。

 そうやって接する内に、チェンが自身と変わらない普通の人間だと理解し、そのギャップに愛おしさを感じるが自分みたいな人間が……とその感情を別の物へと変換する事で、関係性を壊さないようにしていた。

 

→チェン・フェイゼ

 勇気を出して自らの気持ちを伝え、そして他ならない彼に、彼だけには隠し事はしたくないと感染者である事を教えるが割とあっさり流される。

 彼女が彼に対して抱いた感情は憧れ。何かと尖りがちな自分と違い、誰に対しても優しく、笑顔で接する事が出来る彼の姿はやはり眩しかった。自身に対して怯えた雰囲気を持って接してくる人間が多い中、笑顔で接してくる彼は特別な存在になってしまった。

 ルブルムは自分を卑下するが、チェンは彼には誰も持ち合わせて居ない強さを持っている事を知っている。この非情溢れる世界で、狂気に染まらず笑って居られる強さ、何より徹底した利他的な考えは誰もが簡単に持ち得る物ではない。チェンは、自分の持つ強さは誰でも持てる物だと認識していて、ルブルムが持つ優しさと言う強さはごく僅かな人間が持つのみの物で、不器用な面が目立ってしまうチェンには憧れの存在として映った。

 やがてその憧れは、彼と共に過ごす内に愛おしさへと変化する。彼の強さを彼女で強さで守りたいと願う気持ちは、愛以外の何者でもないだろう。

 

 

おまけ:結局二人の感情ってどう言うコト? 長くてややこしくない?

 

ルブルム「チェン隊長怖いンゴ……でもワイと違って自信があって堂々としてる姿は正直カッコいいンゴね……せやけど、なんか危なっかしいねんな……せや! ならワイみたいな臆病なぐらいの人間が側におったらちょっとは楽になるんちゃうか! この気持ち、まさしく愛や!」

 

チェン「ルブルムとか言う奴、ワイみたいな尖った奴にも優しくて気になるンゴ……こんなイカれた世界であたおかにならんと笑ってられるのは半端ないで……あの強さは大切にせなあかんな! ワイが守ったる! この気持ち、愛そのものや!」

 

 要するに、チェンとルブルムはお互いに無いお互いの『強さ』に惹かれていると言う事。臆病なルブルムはチェンの真っ直ぐさに、堂々としているが不器用故に敵を内外に敵を作りやすいチェンはルブルムの優しさに。人と人が惹かれ合うのに難しい理由は要らない。



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第三話

遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。
上半期に本作を終わらせる事が出来たらと思います。


 

 結局、二人でハッスルし過ぎたせいで僕が目覚めたのは昼過ぎだった。上半身を起こして横を見るとチェンさんはまだ寝息を立てていた。いくら晴れて恋人となったとは言え、やはり寝顔をジロジロ見るもんじゃないな。

 歯を磨き、備え付けのコーヒーメーカーでささっとコーヒーを作り、昨日と同じ席に座る。少しだけカーテンを開けると想像通り、綺麗な風景が見れた。昼と言う事もあり、屋台が大量に並んでいて色んな人がバカンスを楽しんでいる。

 うん、最初のデートだから軽くプランを立てておこう。チェンさんにプランがあるならそっちでいいし、無いならより良いプランにすべく意見をくれるはずだ。だが僕にはシエスタと言う土地の知識が無い。前回来た時は遊ぶぞって言うタイミングでロドスから支援要請が入った為、遊んでいられる状況じゃなかった。

 ただ、まだ今日を入れても五泊ある。敢えて無駄を楽しむのも一興だろう。チェンさん、完璧に立てたプランも好きそうだし、ノープランで行くのも好きそうだし……真面目な人だけど、無駄な事を楽しめる人だと思うのでプランを立ててしまうと逆に興醒めだろう。

「考えても仕方ないか」

 ならもういっそ思考放棄だ。難しく考えても仕方ない。もしかしたらチェンさんは二人でプランを考えたかった可能性もある。

 まあでも美味しい店ぐらいは調べてもいいよね。荷物から携帯を取り出して画面をつけると結構な数の通知が来ているようで、それはメッセージアプリの通知だ。ざっと名前を見ると殆どロドスの人達だ。有り難い事に色んな方々からお誘いを頂いている。嬉しいのは間違いないのだが僕が優先すべきはチェンさん以外はあり得ない。なので全員に微妙に文章や言葉を変えて丁寧に断りの返事をしていく。明日以降はちょっと予定が分からないからなぁ。皆には悪いけど、チェンさんとの時間が最優先だ。

 その中でホシグマさんからもメッセージが来ているので開いた。

『昨日はお楽しみだったか? そちらは暖かいようだから気温差で体調を崩さないようにな。熱中症にも気をつけるように』

 下世話な話かなと思ったが凄く気を使ってくれている。保護者感が凄いな。お土産でも買って帰ろうか。

『ありがとうございます。充分に気をつけます。お土産を買って行こうと思うんですが何か希望あります?』

 お、直ぐに既読が付いた。珍しく携帯を触ってたんだろうか?

『では現地物の酒を頼む』

『了解です』

 メッセージアプリをタスクキルし、本来の目的を果たす為にブラウザを立ち上げる。検索サイトが開かれた瞬間、僕の手から携帯が取り上げられる。

「随分と忙しそうにしていたが、まさか早速浮気……ではないよな?」

 昨日、する事をしたまんま気付いたら寝てたので着の身着のままだったせいで、チェンさんは実に目に毒な格好をしていた。下は下着、上はシャツの前が開いていて下着すらない。あんまりジロジロ見るのも良くないよな。

「僕がそんな事出来るタイプに見えます?」

「君にその気は無くても周りが君の人の良さを楯に言いよる可能性はあるな。君はロドスの人達と仲が良かっただろう」

「そのロドスの人達に断りのメッセージを入れてただけですよ……」

「メッセージアプリを見てもいいか?」

「ええ、構いませんよ。マジでやましい事とかありませんし」

「……いや、すまない。見る気は無かった。流石に反対されるかと」

「見られて困る物とかありませんからね」

 メッセージアプリは見られて困る物は本当にない。見られて困る物と言えば男性ならば何かと必要になるアレぐらいだ。……が、多分そこまでは見ないだろう。直ぐに満足したのか、携帯を手渡された。

「君は確かコーヒーが好きだったな? 私が淹れ直そう。ふふん、私が淹れた方が美味いぞ。それで、随分と忙しなかったようだが」

「あぁ、折角初めてのデートですんで何かを調べようかなぁと」

「なるほど。プランを考えても時間が時間だからな……今日は昨日の移動の疲れを取る事を優先しよう。……明日のプランを考えないか?」

「そうしますか」

 チェンさんと明日のプランを固めていると、僕の携帯が鳴った。画面を見るとロドスの医療部だった。チェンさんを見ると頷いていたので出る。

「もしもし?」

『私だ。ケルシーだ。ルブルムの携帯であっているだろうか?』

「はい」

『今日の夜なら私の方も大丈夫そうだ』

「分かりました。僕の方がちょっと微妙なので……折り返し電話を返す形でよろしいでしょうか?」

『いや、それには及ばない。君は観光で来たのだろう? 自分の時間を優先して欲しい。もし来れる場合はそのまま来てくれて構わない』

「ありがとうございます。失礼します」

 やっぱりあの人はドクターに厳しいだけで優しい人だよなぁ。言葉と言うか言い方は冷たいと言うか、素っ気ないけど。シンプルに大人なんだろうか。

「ケルシー先生からのお電話でした」

「そう言えば、昨日挨拶に行きたいと言っていたな。うん、君一人で行って来るといい。私が行ってもあまり歓迎されないだろう」

「いいんですか? チェンさんを一人にしてしまうことになりますけど……」

「私も私で買いたい物があるから構わないさ。それに、会えない時間の寂しさは別の形で埋めてもらうさ」

「それは今日の夜のお誘いって事ですか?」

「さて、どうだろうな?」

 

 

 申し訳なさそうな表情を浮かべていたルブルムを笑顔で見送りした後、私は思考の海に居た。改めて、ルブルムと言う人間の事を振り返っていた。

 ルブルムは目立たない存在だった。近衛局の入社式でも浮き足立った人間が多い中、まるで普段の生活かの様に淡々と過ごして居た。容姿も悪い訳では無いが、目立つほど良い訳では無い。性格も極端に暗い訳では無いが自身から積極的に喋るほど陽気でも無い。穏やかでニコニコしているが、やはり目立つ事はない。悪く言ってしまえば、本当にどこにでも居る人だ。装備を外して歩いていたら誰も近衛局のエリートとは思わないだろう。

 彼は龍門で生まれ、龍門で育った。両親と姉と自分の四人家族。姉はトランスポーターとして活動しているので行方が知れない。ルブルム自身はもう死んだと判断しているようだ。両親は龍門で起きたテロリストの暴動に巻き込まれて亡くなった。勘違いされやすいが、ルブルムが近衛局に就職したのはテロリストへの復讐心ではなく、単純に体を動かすことが得意だったから、らしい。とは言え、真面目な性分なので勤務態度は問題無いし、同僚達とは上手くやっているようだ。合コンの話を聞く度に気が気でなかったが。

 毒気の無い、無害其の物にしか見えない好青年は真面目なだけでなく、デスクワークも実戦でも優秀だった。書類仕事は気を使う彼らしく優秀なのは理解出来たが、実戦に関しては悪い言い方だが掘り出し物と言わざるを得ないだろう。

 身のこなしは凄まじい。フェリーンの様な柔軟さ、クランタの様な素早さを持つ。普段からニコニコしている彼からは想像出来ないが、身体は引き締まっておりサルカズ達の様に強靭だ。

 そして彼を一人の兵士として評価するならば『敵に回したくない』が妥当だろう。恋人だから、上司だからと言う色眼鏡は一切無い。自分で言うと悲しくなるが、私と違って発想や考え方が柔軟で機転が利くので、戦闘中に於ける判断力は他に負ける事が無いだろう。どうにも解せないが、本人の優秀さの割には臆病さと言うか慎重さが過ぎる点は少々勿体ないとしか言えない。言い換えれば、その性格故に必ず勝つ手段を模索し、その最適解を見つけ出す能力に優れている。何より、訓練で用いる戦術シミュレーション……つまり、電子上ではあるが実際の戦闘、それもあらゆる部隊の規模を運用する事を想定した模擬訓練で彼に勝った者は居ない。私含めて、だ。

 文武共に優秀だが、彼を一番敵に回したくない理由、それはやはりアーツにある。単純だが強力なのだ。彼のアーツは、自身が触れた物や自身に触れた物の力の向きを変える事が出来る。もっと踏み込んで言うならば、あらゆる物理現象に関わるベクトル、それを自由に変える事が出来る。……映画やコミックスであれば最強と言われるような代物だろう。ただし、自身から触った場合だとほぼ無制限にベクトルを変更出来るが、敵からの攻撃だとせいぜい向きを変えて相殺が精々、らしい。とは言え、それで攻撃を無効化出来るならば充分過ぎるだろう。色々応用が利く様で高速で移動したり、自分で攻撃した時の威力を増したりと戦術の幅は広い様だ。

 ロドスが彼を熱心にスカウトするのも無理はない。指揮官としての適性もあり、本人の兵士としての素質も充分。ロドスが抱える複雑な事情を考えると喉から手が出るほど欲しいのも当然の答えと言える。尤も、近衛局が手放さないだろうし、私も困る。彼は優秀だからな。

 しかしまあ、なんだ。彼は意外に強引な所があるとは思わなかった。まさかそのまま肌を重ねる事になるとは。

 嫌だったとかそんな事は一切無かったのだが、彼らしくない強引な振る舞いは愛おしさしか感じなかったな。うむ、彼の新しい一面が見れて良かった。

 上司と部下と言うのは変わらないが、今後は恋人と言う関係性も追加される。恋人ならば、今まで見えなかった彼の新しい一面を見る事が出来るだろう。

 不安は無い。何故ならば、一番不安だった事を彼が気にしないと言ってくれたからだ。彼が受け入れてくれた以上は何か彼の悪い面が見えても受け入れるのが筋と言うものだろう。彼のそんな面など全く想像出来ないが。

 浮気……はするタイプじゃないと言うよりは出来ないタイプだろうな、彼は。浮気する事なんか有り得ないだろう。このテラからオリジニウムがもたらすあらゆる問題が無くなるぐらいには有り得ない。

 万が一浮気しても私がそれに気づいて怒るより罪悪感で本人が潰れるだろう。彼はそんな男だ。

 逆に私が浮気した場合を考えて見よう。……想像でも心が痛いな。私が浮気しても多分彼は自分を責めてしまうだろう。……想像だとしてもいたたまれない。元より浮気する気など毛頭無いが、より私が大事にしてやって彼にも大事にして貰う事にしよう。

 ……よし、少々考え事に時間を使い過ぎたな。買い物に行くとしよう。

 

 

 ケルシー先生に本日、お伺いしますと改めて連絡すると迎えを二人寄越すと言われたので、指定された場所でのんびりと待っていた。

 道路に面しているが、ちょうど日陰になる位置で日射病の心配もない。

 わざわざ来てもらう訳なので、せめてものお詫びと言う事でペットボトルの水を買っておいた。ジュースでも良かったのだろうが、人によって好みがあるから無難ではない。水も冷えたのと常温を買っておいた。これでいいだろう。

 人の行き来をのんびりと眺めていると、僕の目の前に一台の車が停まった。人員輸送は勿論、任務を遂行するの為に使う車種だ。ドアにはロドスを示す、ルークのマーク。運転手が操作したのか、助手席側の窓が音を立てて下がる。そこから見えたのは銀髪を結った、ヴイーヴルの女性だった。

「こんにちは、ルブルムさん」

「こんにちは。お久しぶりですね、リスカムさん」

 BSWの方々はまだロドスに居たのか。バタバタして忙しそうだ。普段と同じ服装なのでバカンスの最中と言う訳では無さそうだな。

「助手席に乗って貰っていいですか?」

「はい。失礼します」

 助手席に乗ると後ろからにゅっと人が乗り出して来る。リスカムさんが居るならこの人もセットだろう。

「あたしも居るわよ~真面目さん達」

「だと思いました。こんにちは、フランカさん」

「はいはい、こんにちは。それでその仰々しい袋は何?」

「差し入れの水です。良かったらどうぞ」

 フランカさんに紙袋を手渡す。彼女は一度座席に引っ込み、中を漁る。すぐにまた身を乗り出して二本のペットボトルを右手と左手で持っていた。

「助かるわ~。ここは暑いのなんの……リスカムは冷えたのと冷えてないのどっちがいい?」

「私は冷たいので。すみません、気を使わせてしまって。フランカ、出発するからきちんと座って」

「は~い。冷たいのあたし達が貰っちゃうけどいい?」

「はい。気にせずお二人でどうぞ」

 改めて席に座りなおし、シートベルトを着用する。フランカさんも後部座席に引っ込んでいく。それを確認したリスカムさんが車を発進させた。

「それでルブルムはなんでシエスタに?」

 ルームミラーを見るとフランカさんがニコニコと笑っていた。……まあ、話好きなフランカさんなら聞いてくるよな。

「休暇で旅行に来ました」

「まさか一人で?」

「いえ、連れ……と言うか、僕がその人に連れてこられた感じですね」

「まさか彼女さんと?」

「……ルブルムさん、面倒なら無視して結構ですよ。フランカ、一応仕事なの分かってる?」

「え~、だってルブルムの表情が前見た時より生き生きしてるんだもの。気になるじゃない?」

 まー、この二人と会う時は基本的に仕事の場だし、僕も僕で立場があるので仕事と言う仕事にケツがつかえてる状態が殆どなので、なるべくニコニコしようとしても表情が強張る事はどうしてもあるだろう。飄々としてるようで抜け目がないフランカさんにバレるのも無理はない。

「まあそうですね……バカンスに来てる訳ですから、表情も明るくはなるかも知れませんね」

「ですが、龍門は別のルートですよね?」

「はい。ヘリで来ました。その際にロドスをお見かけしたので機会があれば挨拶したいなと」

「あぁ……なるほど。ロドスの皆さん、喜ぶと思いますよ。ジェシカやバニラ達もそうだと思います」

「そう言って貰えると僕も嬉しいですね」

「こんな事を聞くのは……いえ、忘れてください」

「気にしないで結構ですよ?」

 こう言う所で真面目なのはリスカムさんらしいなぁ。むしろ聞かれない方がモヤッとするんだけどね。

「……私個人の疑問なので、答えたくないならそれで大丈夫です。私はBSWで仕事が出来る事を誇りに思っていますし、やり甲斐もあります。ですが、ロドスの方達とお仕事をさせて頂く機会が増えるに連れて、自分の在り方に疑問を感じました。ロドスの経験が悪い物だなんて決して思っていません。むしろ、世間知らずな私に見識を与えてくれました。BSWだって、このまま働いて身分を置くのも申し分ない組織です。ただ、ロドスに居るともっと何か……自由で居られる気がするんです。私みたいな真面目なだけが取り柄の女と違ってルブルムさんはロドスでの順応が早かったので、移籍は考えたりはしないのかと思ったんです」

「ああ……なるほど。お気持ちは分かりますよ。近衛局は仕事柄、それはそれはお堅い方が多いですからね。仕事である以上はそれで問題無いんですが、まぁ息が詰まる。僕もそうですが、リスカムさんも人間ですからね。むしろ真面目だった分、息が詰まってしまったからロドスの開放的な雰囲気に惹かれたのかも知れませんね」

 特にあの執務室は息が詰まる。チェンさん本人は間違いなくそんなつもりは無いだろうけどあのプレッシャーやばいもん。

「あー、それはあると思う。ロドスに来てからの方がリスカムもいい表情してる事多いし」

「実際、気が楽でしたし、色んな方と接する事が出来ますからね。ロドスでの勤務は楽しかった様に思います。移籍ですが……考えた事無かったですね。今のところ移籍は考えてませんね。近衛局をクビになったりとか、龍門から離れる必要が出たらそうしたいとは思いますが」

「ふふ、ルブルムさんならアーミヤさんもドクターも歓迎してくれると思いますよ」

「……で? 綺麗に話を終わらせようとしてるけどあたしの質問は?」

 ですよね。誤魔化せないですよね。

「あれ? フランカ何か聞いてたっけ」

「彼女さんと来たかそうじゃないか、よ」

「あぁ……仕事抜きで考えてもプライベートなんだから無理に聞かなくてもいいんじゃ……」

「それでどうなの?」

「私の話聞いてた?」

「え?」

「え?」

 ……いいコンビだなぁ。僕もこう言う相手が居ればいいんだけど、居ないんだよなぁ。

「隠す様な事でも無いんですが、その、恋人と来てますよ」

 正しくは現地で恋人になったんだけど黙っておこう。それを言うともっと色々聞かれて面倒くさくなるに違いない。

「へー! ですって、リスカム!」

「扱いに困ったからって私に振らないでくれる?」

 ……多分目的地に着くまで尋問される事になるな、これは。まあ、甘んじて受ける以外はないだろう。

 

 

人物紹介③

 

→アル・ルブルム③

 彼に関する情報がチェンのモノローグと言う形で語られた。本作の主人公なのにロクな設定が無いのは流石に可哀想なので雑に設定。オリキャラは雑に扱えていいですね。

 彼のアーツもサラッと公開。某特殊能力物のあれほど強くはなく、反射に関しても本人が攻撃を認識してないと駄目なので、最強と言うほどではない。と思われる。

 余談ですが、チェンによる携帯チェックの際にメッセージアプリを見られる事自体は一切問題を感じなかったが、男性なら必要なアレが見つからないかの方が心配だった。

 

→チェン・フェイゼ③

 冗談のつもりで携帯見るぞって言ったら素直に応じたので流石にビックリ。浮気自体は微塵も疑っていない。

 ルブルムが心配していた案件はそもそも発想すら無かった。ここら辺は男女の差。

 

→フランカ

 BSW勢でルブルムと一番最初に話した。彼との初任務は周囲の巡回。

 ドクターから「リスカムと同じように真面目な青年」とだけ聞いて居たので石頭が増えるのかと思ってウンザリ。

 ルブルムが訓練室で後輩を指導していた所とたまたま遭遇したので声を掛けて話してみたら意外と馬があった。それ以降はちょこちょこ彼を弄って楽しんでいる。

 

→リスカム

 ドクターにどう言う人か尋ねたら「フランカと同じ、気さくなタイプだよ」と言われ、頭をマドロックのハンマーで殴られた様な衝撃を受け絶望して居たが、当日会話したら普通に真面目な青年だったのでめちゃくちゃ安心した。自分と違い、下の世代のオペレーターと接するのが上手な彼を羨ましく思っている。




メインヒロインにチェンさんを据えておいてなんですが、僕が一番好きなオペレーターはリスカムさんだったりします。なので出しました。リスカムさんはヒロインでは無いのでルブルム君を異性として好きになる事はありません。(決定事項)
で、ここだけの話ですが、そのリスカムさんがメインヒロインの現パロ物もぼちぼち書いてますので、いつか皆さんに見てもらえる様に頑張ります。


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番外編① エセ質問コーナー

 エセ質問コーナー形式の番外編です。あんまり好きじゃないのですが、このコーナーは分かりやすさ重視で台本形式で進めて行きます。
 本編とはあまりにもノリが違いますので予めご了承ください。
 大した事も書いてないので、無理して読む必要がないチラシ裏程度の情報量です。


 

Q1 ルブルム君スペック高すぎ案件

 

チェン:

「これはそう思われるかも知れないな。確かに盛り過ぎ感は否めない気はするが……」

ルブルム:

「作者的には取りあえず優秀で強くしとけばいいやぐらいの感覚でやっているみたいですね。その方が何かと都合がいいようで……」

 

 この場で話題にしていいか微妙な話題で恐縮なのですが、二次創作の用語で『メアリー・スー』と言われる物があります。これを厳格に判断するのは少々難しいところですが、この言葉が指す意味としては二次創作物に於いて、優遇されたオリジナルキャラクターを指します。この言葉が持つ、広く知られた定義ではルブルム君はかなり該当しています。若いのに地位が有ったり、能力自体は優秀だったり。それに加えて取って付けた様なマイナス要素があったり……例えばルブルム君だと容姿に関してはそこら辺に居る兄ちゃんと大差ないレベルなので、笑えないぐらい定義に当てはまります。

 しかし残念ながら本作はコメディですし、そもそもキャラクターの設定をいくら盛ったところで作者の賢さ以上のことはさせてあげれないのであまり設定が意味を成しません。

 アークナイツ本編を追う(つまり、アークナイツ本編にルブルム君を追加する)作品ならば、メアリー・スーそのものになりかねませんが、バトルシーンは今後も一切無い作品なのでルブルム君のスペックをフルで活かす事は無く、つまるところは大人しくて優しい兄ちゃんでしかないのです。カタログスペックだけ無駄にたけーな、おい!みたいな感じに思って貰えれば大丈夫です。作者的には一応能力的にはチェンさんの横に並べても全然見劣りしないよ!みたいなイメージ。

 

Q2 時系列意味不明すぎ案件

 

チェン:

「こちらも難しい問題だな。原作の方を見てみると思ったより時間は経って居ない。そもそも開催されたシエスタイベントも原作の時系列的にはレユニオンのいざこざが終わった後なんじゃないかと言う見方もある。そうでなくても、原作の作中の過密スケジュールを考えると一週間単位の休暇なんて取れそうではないな」

ルブルム:

「原作でもイベント開催順=時系列順と言う訳でも無いみたいですからね。作者が見落としてるだけの可能性も充分ありますが、見ている限り本編でも無い限りは時系列が明確にされてない印象を受けます。少なくとも作者の脳みそでは全てを把握するのは不可能に近いので本作では、原作のストーリーの最中にシエスタに訪れた物としています。実際には違う確率の方が高いですし、あの過密さでシエスタ行く暇ないとは思いますが、本作ではとこうなっているとだけ理解して貰えたらなと思います」

 

 実際問題、原作でもドクター救出から8話終了まで1カ月経ってるか経ってないかぐらいなんでしたっけ?

 各イベントの時系列も軽く調べた限りでは恐らくこうだろうぐらいが精々でした。詳しい方居ましたら是非ご教授願います……。すみません。

 本作のフィナーレに関しては本作を執筆しだした段階で決まっていて、その話を書く為には時系列的にチェンさんがある行動を取る前では無くてはなりません。なのではっきりと把握している方にはヤキモキさせて申し訳ないのですが、こちらに都合のよい時間軸で書かせて貰っています。

 

Q3 まさかの特殊オペレーター

 

チェン:

「実際に頂いたコメントだな。前衛の私が戦う時も結構な割合で同じラインで戦って居るから忘れがちだが、君は拳銃も使えるんだったな。腕もかなりの物と聞いているが」

ルブルム:

「そうなんですよ。高い金出して買った割にはあんまり使ってないんですよね。同じような拳銃使ってる本職以上に命中させるの得意なのになぁ……」

 

 ただし、狙撃オペレーター達みたいにアーツを生かした銃撃は出来ない。弾丸自体が銃から発射される以上は彼のアーツは上手く適用出来ないし、弾丸そのものを素手で保持して飛ばすと言う某大佐みたいな事したら普通に腕が吹っ飛ぶのでやらない。

 とは言えども、生身の人間に正確に銃弾が飛んでくる時点で結構厄介であることは間違いないので脅威だと思われます。

 ゲーム的に言えば高台に配置すると狙撃みたいに銃で攻撃して、平地に配置すると武器とアーツで攻撃するみたいなイメージ。野球で言うところのスーパーサブ。

 だがこれらの設定はあんまり関係ない。くどいが何故なら本作はバトルシーンを書く予定が一切無いからである。

 

Q4 この作品を始めたきっかけ

 

 元々ゲームをなんとなく始めて、0章か1章でドクターの危機に颯爽と現れるニアールさんに心を乙女にされるも手に入らず、いつぞやのピックアップでリスカムを引いてからずっとリスカムにゾッコンでした。ちなみにうちのロドスにニアールさんが来たのはそれから一年以上経った後でした。(一周年記念の後だった記憶)

 一番好きなのはリスカムと言いつつも、アークナイツには魅力的なキャラクターが沢山居ます。ノーマークと思いきや自分の性癖にぶっ刺さりまくるとか意外とありがちです。チェンさんもノーマークだったんですが気付いたら性癖に刺さり空前のマイブームが訪れて居ました。なので自然と久しぶりに二次創作やるしかないなとなりました。

 仕事ではスマートでクールだけどちょっと石頭、プライベートは素直クールかクーデレなイメージがあります。素直クールもクーデレも死語な気します。

 

Q5 タイトルの割には近衛局が舞台でない、また関係者が少ない

 

 ……君のような勘のいいガキは嫌いだよ。

 と言う冗談は置いといて、某少年雑誌で連載されていた漫画みたいなノリの名前を付けたかっただけです。近衛局どころか龍門自体が遠くにありますので深く考えないのが吉です。

 



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第四話

 

 私とした事がビーチに来たのに水着を持って来るのを忘れてしまった。しかし、タイミングが良かった。ルブルムがちょうどロドスへ行く事になった。彼には悪いが幸運と言わざるを得ない。

 身支度を整えて、部屋を出る。このホテルの近くには大きなショッピングセンターがある。有名で、このシエスタに来たなら立ち寄る事が勧められる様な場所だ。

 ホテルから一歩出れば静けさは失せ、強い日ざしが私の体を容赦なく照りつけた。出店で懸命に呼び込みをする者、恋人同士で来たのか、腕を組みながら歩く者……騒がしいが、その光景に思わず頬が緩む。

 そのまま右に曲がって歩く事数分。ショッピングセンターに辿り着いた。うむ、大きい。全ての店を回るならばかなりの日数を取られるに違いない。散財するのも悪くないが、今の目的は水着だ。

 自動ドアを潜ると入り口の傍にはフードコートがあった。……闇雲に歩き回るのは時間の無駄だ。悔しいが、評判のよい店を調べよう。

 起きるのが遅かった上に考え事をして時間が経ったせいですっかり昼食の時間を過ぎているのは人数は疎らだ。何も買わない訳には行かないので適当な店でファーストフードを買い、空いている席に座る。あまり毎日食べる物ではないが、解放的な雰囲気に釣られてつい買ってしまった。

 調べ事をしようとポケットから携帯を取り出すと、前の席の椅子がギギギと耳障りな音を立てて引かれた。

「相席、よろしいかしら」

「……他にも席は空いていると思うが」

 背の丈は私より少し低いぐらいだろうか。体格は華奢だ。やせ細っていると言う訳ではないが、まあ少々痩せ気味だろう。女性ならば、悪い事ではないか。深々と被った帽子で顔はわからない。

「それとも貴女に用が有ると言えばいいかしら、フェイゼさん?」

 反射的に腰の剣に手を回す。

「ちょ、待ちなさいよ。別に取って食おうって訳じゃないんだから。座るわよ」

「要件は? 何者だ?」

「私はスィーニー・アスール。人探しをしているの」

 名乗った女は帽子を取った。顔立ちは目立つほどよくはない。たが化粧映えはするだろう。スワイヤー嬢が喜びそうな人間だ。だが、その顔立ちは私の恋人と似通っている部分が見受けられた。特に目元。

「悪いが、私はオフだ。人探しならば守衛にでも任せた方がいい」

 女は自分の携帯を取り出して数度画面を操作し、一枚の写真を私に見せて来た。その写真は宣材として撮影したルブルムの写真だった。私と違い、愛想のいい彼はメディア受けが良く、度々メディアへの露出があった。

「ニーロン・アスール。私の弟よ。知らないとは言わせないわよ」

「…………」

「沈黙は時として金にならないわよ」

「その男は知っているが、その名前は知らない」

「でしょうね。捨てた名前……いえ、捨てさせられた名前だもの」

 ご両親が亡くなった後、孤児院に入れられたと聞く。年齢的には高校生ぐらいだっただろうか。きっと苦労が絶えなかったはずだ。彼は新しいスタートを切るのに過去の名前を捨てたのか?

「まあいいわ。弟はどこ?」

「生憎不在だ。今日はもう時間が無いだろう。要件があるなら私が取り継ぐ」

「姉弟水入らずに邪魔をするの? 悪趣味ね」

「貴女方にどのような事情があるかは知らないが、彼にも選ぶ権利がある。そもそも、貴女が本物の姉と言う保証がない。それでも彼を私の元から彼を連れ出そうと言うなら、私に膝をつかせてみろ」

「は、はい? 貴女がなんでそこまで関与しようとするのよ」

「ルブルムは私の部下で恋人だからだ」

「……恋人ォ?! そんな情報聞いてないけど?!」

 まあつい先日の話だし、内密の話だからな。知っている方が怖い。

「"お前"がそれを信じるか信じないかは勝手だが、少なくともルブルムが今日取れる時間が無いのだけは変わらん。これに関しては私と彼だけの問題ではない。公僕となれば、色々とあるものだ」

 彼がどの様な選択をするかは分からないが、ワンクッションも挟まずいきなり会わせるのは良くないのだけは間違い無い。直感だ。

「……これ以上口を聞くつもりは無いと?」

「痛い目を見たいのであれば構わないが」

「一般市民に手を出すなんて随分と近衛局は野蛮ね?」

「先程も言ったが、私はオフだ。それはつまり、私がただのチェン・フェイゼと言う事だ。言いたい事は分かるだろう? だから、お互いここは妥協しようじゃないか」

「とんでもないアバズレね、あんた。まあいいわ……これが私の連絡先。伝えて欲しいのはまた家族皆で暮らしましょう、よ」

「確かに承った。それは一人の人間であるチェン・フェイゼの責任として必ず伝えよう」

 未だに納得のいかない表情のまま、スィーニーは立ち去った。

 しかし、気になるな。ルブルム自身は、両親は亡くなったと言っていたが。どうにも嫌な予感がする。せっかくのバカンスが台無しにならなければいいが……。

 ……まあ何か問題が起きても彼に寄り添うとしよう。ご家族の問題ならば口を挟むのは違うだろうし、この休暇で彼にとっての悩み……と言っていいか分からないが、彼の抱えている物がより良い方向へ向かうならばきっと素晴らしい事だ。

 予想していなかった来客でいらぬ時間を取られてしまったが本来の目的を果たすとしようか。それにせっかく買ったファーストフードも冷えてしまったな。

 

 

 結局ロドスに着くまでフランカさんに質問責めにされてしまった。隠すような事は無いので話したが聞いていて面白かったのかな。

 んー、でも考えて見ればBSWの方々は女性しか見た事ないし、フランカさん以外は真面目だからな……あ、決してフランカさんが仕事に対して不真面目と言う訳では無いと、言う事だけは言って置きたい。飄々とした態度や何かと軽口を叩く性格からは分かりにくいけど、彼女はあれで的を射た発言をする事が多い。それでいてクレバーなので侮れない。

 閑話休題。ケルシー先生の名前を出したらあっさり検閲が済み、自由の身となった。とは言え、こっから先生のいるところは遠いんだよなぁ。時間も少し余裕があると言えど迷ったら着かない自信がある。一時期こちらにお世話になって居たが、その時はアーミヤさんの案内があった。出撃の際はほぼヘリだから今の昇降口なんてほとんど使った事がない。とどのつまり、立ち往生である。どうしたもんかね。

 働いている人たちの邪魔にならないように端へ寄り、目を閉じて腕を組む。ここでまたケルシー先生の手間を掛けさせる訳にも行かない。

「あなたは……ルブルムか?」

 声を掛けられたので目を開けると、長い金髪を結った、クランタの女性が居た。いつもの黒いコートではなく、ロドスアイランドのロゴが入った黒いジャージを着ている。

「えぇ、そうです。こんにちは、ニアールさん」

「こんにちは。こんなところでどうしたんだ?」

「……今日はケルシー先生に挨拶に来たんですが、恥ずかしながら道が分からなくて困ってまして。迎えに来てくださったお二人は別の任務ですぐ行ってしまって」

「ふむ、なるほど。確かにこの辺りは複雑だからな……私で良ければ、案内してやれるが?」

「ニアールさんも休日なのでは?」

「確かにそうなんだが、久しぶりの休日に落ち着かなくてな。マリアやゾフィア達とシエスタに行こうかと思ったんだが彼女らは明日からが休日らしい。いい運動にもなるし、どの道宿舎に戻る場合も同じ方向だ。あなたさえ良ければ、ぜひ案内させて欲しい」

「すみません、それではお願いできますか?」

「あぁ、喜んで」

 ニアールさんがふっと微笑む。この人もパッと見誤解されやすい人なんだよな。流石にホシグマさんほどでは無いけど背はあるし、顔立ちも美人だけど凛々しい表情をしているのが殆どなので話しかけ難い雰囲気がある。敵こそ容赦無いが、仲間に厳しいと言う人でも無い。ニアールさんを一目見たら自他共に厳しいタイプの人と思う人の方が多いだろう。でも実際はめちゃくちゃ大らかな人だし、なんなら天然みたいな所がある。パッと見、妹さんのブレミシャインさん……マリアさんの方が天然っぽく見えるが。まあ抜けている訳ではないので……いや、変なところ抜けてるか。仕事でミスしたりとかではないけど。

「こっちだ。ここら辺は特に入り組んでいて迷いやすいから気をつけてくれ」

 搬入口なのも相まって大量に別れ道がある。一応アルファベットと数字で区画をわけてはいるみたいだけど、どこがどうか分からないと多分意味を成さないな、これ。殆どの人がヘリで出入りしてそうだしな……。考えてみれば、長年生まれ育った龍門でもこういう搬入口には来た事が無い気がする。この惑星テラでは移動都市から降りずに一生を終える人もきっと珍しくは無いのかも知れない。

「にしても失礼ですが、ニアールさんもそう言うジャージを着るんですね」

「うん? ああ、そうだな。勤務外の時は楽な格好をしている。洒落た格好はしないな……」

 まあ僕も洒落た格好してるかと言われたらしてないしな。そこら辺、チェンさんに見繕って貰おうかな。

「こう……お洒落って難しいですよね。仕事の時は決まった格好しますけど、それ以外はどうしても楽な格好になりますよね」

「私だけじゃなくて良かった……。私も一応女だし、気を使った方がいいんだろうが……私のセンスで選ぶと変になりそうで」

「センスの話をするなら僕も不安ですね……ロドスには若い方でお洒落な方やセンスが抜群な方も居ますし、聞いてみるのもアリかも知れませんね」

 僕みたいな大人しくて真面目なのが取り柄な人間が考えるよりいいのは間違いない。後は男性的な目線で言えば、女性の感性に頼った方が外れは少なそうな気はするかな。

「私達も老け込むような年齢では無いと思うが……確かに若い世代の感性は見習うべきだな……しかしなぁ」

「……何か問題が?」

「問題と言うほどでは無いのかも知れないが、自分より若い子と話をすると怖がられている気がするんだ」

 ……今の若い世代の方々はネットとズブズブだからなぁ。耀騎士マーガレット・ニアール。ネットをしていれば目に入る機会なんて幾らでもあるだろう。ニアールさん本人の飾りっ気なさで忘れがちだけど、元々有名な人だしね。

「若い方達にはニアールさんの存在が重いのかも知れませんね」

「メテオリーテにも近い事を言われたな。私はそこまで重くは無いと思うのだが」

「……メテオリーテさんも同じ事を言ったと思いますが、そう言う意味ではないですよ」

 なるほど、これは強敵だ。ニアールさんに連れられて進んで行く。やっぱり頼もしいな。

 そんなこんなで幾つかの角を曲がった頃には人通りが多くなった。正面から荷物を抱えた黒髪のループスが歩いて来た。見覚えのある人だな……確か、テキサスさんだったかな。

 目が合ったので軽く会釈しておこう。向こうは器用に片手で挨拶を返してくれたので、ここら辺は流石だなぁ。ここで会話しないのがプロの礼儀だ。その方が格好いいし。……忘れられてなくて良かった、と思いたいけど向こうは一応客商売だし挨拶されたら返すか。

 微妙になんとも言えない気持ちを抱えながら歩いていると加工済みの建材を台車で運ぶ、これまた黒髪の女性が、正面からやってきた。あの人は確かフェリーンだ。実を言うと誘いを断った一人だ。バレませんようにと願うが直ぐに目が合った。一緒で目を逸らすが、向こうの視線はグサグサと僕に刺さる。満面の笑みが逆に怖い。

「すみません、ニアールさん……用事を思い出しました」

「そうなのか? いや、待ってくれ。聞いたことがある。そうやって切り上げようとする場合は大体つまらないからだ、と。済まないが、今後の為にも私の至らなかった点を教えて貰えるか?」

「いや、むしろ貴重な機会で僕なりにワクワクしては居たのですが……」

 これは本当だ。作戦で何度か一緒になった事もあるし、世間話ぐらいした事あるが基本的にそういうのって複数人で、一対一で話した事は無い。

 悲しそうな表情をするニアールさんを相手に踵を返してどこかへ行く度胸は無く、満面の笑みを崩さないままこちらへやってきたフェリーンは僕の肩に腕を乗せて来て絶対逃がさないて言わんばかりにガッチリとホールドされる。

「人の顔見て逃げようってワケ? 近衛局のエリート様はなーんか感じ悪いねぇ?」

「いや、何のことかさっぱり分かりませんね、見知らぬ美人な方」

「私がそう言う安っぽ~い世事で誤魔化されるタイプだと思う?」

 全く思いませんね。このフェリーンの女性はブレイズさん。彼女自身もロドスのエリートオペレーターだ。

「私の誘いを断った割には"別の女"と楽しそうに歩いてるじゃない?」

 なんで別の女って部分を強調するんだ。怖いから辞めて欲しいんだけど。

「いや、ルブルムは楽しく無いらしい。私の至らなさで退屈させてしまった……」

 この人もどうしてそんな悲痛な面持ちになるんですかね?

「用事があったのは本当ですし、今日こちらに伺ったのはたまたまですよ。ケルシー先生に挨拶をしたら帰るつもりでしたから。ニアールさんには道案内をして頂いていました」

「そっちが本命って……コト?!」

「ブレイズさん……」

 この人腹いせにからかって遊ぶつもりだな。その手には乗らんぞ。この人が言う本命は多分、ケルシー先生目当てって意味合いだ。いや、先生目当てって間違えては居ないのだけど、意味が違う。下心はない。むしろあの人に手を出す男とかいるのか?

「ごめんごめん。君達ってば真面目だから揶揄うの楽しいんだもん。生きてればまた一緒に呑む機会なんてあるでしょ。だからお互い死なない様にしよう」

「そうだな。オペレーターたる者、身体が資本だ。ブレイズ、あなたも無理をするんじゃないぞ」

「私がしたくなくても仕事だからね~。アーミヤちゃんが『やれ』って言ったら私達は『はい』って言うしかないよ」

「ドクター以外にはそんなに厳しいイメージありませんがね……」

「あれはむしろアーミヤが期待したり頼ってるからこそ、だと思うが……」

「アーミヤちゃん、怒ると怖いんだよー……」

「アーミヤさんって怒るんですか?」

「私は彼女が怒っているのを見た事ないな……声を荒げるのも想像出来ない」

 真顔のイメージが強いけど普通に話したら笑うし、以前シエスタで会った時に水着姿を褒めたら恥ずかしそうに笑ってた記憶しかないから、穏やかなイメージしか無いぞ。

「うん? つまりブレイズさんはそのアーミヤさんを怒らせてるって事になりますよね?」

 僕に絡みついたままのブレイズさんは声を上げて笑いながら僕の背中をバシバシと叩く。結構と言うか凄く痛い。華奢な割に力が強い。あんな獲物振り回せるのも納得だ。

「勘が良すぎるのはお姉さん、感心しないなぁ。それは程々にしないと困った事になるよ。私がね!」

「困る……? ああ、ブレイズがアーミヤを怒らせてばかりなのが分かってしまうからか!」

 めっちゃ嬉しそうに笑いますね。ブレイズさんも困ってるし。笑顔が眩し過ぎる。

「……兎に角、ブレイズさんと呑むのが嫌だから断った訳じゃない事さえ伝わったならそれで大丈夫です。機会があれば是非……あぁ、いや、どうかな」

 他の女性と二人っきりで食事に行くのって浮気になるのか?

「なによ、随分と歯切れ悪いじゃない」

「いえ、同僚と言えど他の女の人とサシで呑みに行ったり、食事に行ったりするのって浮気になるのかなぁと……」

「うーん、確かにいい気はしないな……立場上仕方ない場合もあるだろうが、プライベートと言われると気になってしまうかも知れない」

「やっぱそうですよねぇ」

「下心の無い友人関係もあるだろうが……しかしなぁ、あんまり言うと男性側は面倒くさいだろうし……それにあまり我儘を言ってもう重い女扱いされたくない」

 だからそう言う意味じゃ無いんですって。そんなに気にしてたのか、それ。

「いやいやいや! そうじゃないでしょ! 浮気ってどう言う事さ?」

「言葉通りの意味ですが」

「恋人なんていたの?!」

「えぇ、まあ。ご縁がありまして」

「それってあのお堅い隊長さんでしょ? うん、あー言う人は君みたいなタイプがピッタリだと思うし、お似合いじゃん! えーもう水臭いなぁ。お祝いさせてよ!」

「お堅い……まぁそうですよね。オンオフの切り替えがはっきりしてる人なんでオンだけ見たらそういう印象を受けるかもですね。オフの時は普通の女性ですよ」

「ルブルムは一人でこちらに来ているが隊長……チェンさんだったか? 彼女はどうしたんだ?」

「あー、なんか買う物あるとかで今は別行動ですね。チェンさんが言うには自分が行っても歓迎はされないだろうと……」

「そんな事は無いと思うが……」

「まあロドスに居る人とはちょっと毛色違ったからねぇ。それにしても女性を一人にして大丈夫?」

「あの人に勝てる人がそこら辺に居ると思います? ナンパされても険しい表情で『失せろ』って言って逆にドン引きされそうじゃないですか?」

「あはは……想像出来てヤダなぁ……おっと、いい加減仕事に戻らないとアーミヤちゃんに怒られちゃう! まあ都合つきそうなら連絡ちょーだいな!」

 かくして、ブレイズさんは嵐のようにやってきて嵐のように去って行くのだった。

 

 

人物紹介④

 

→アル・ルブルム④

 自分の知らぬ所で本名をバラされた挙句、フランカには尋問レベルで質問責めされると言う不幸な目にしかあってない。哀れ。

 余談だが、アルもルブルムも赤色を指す言葉。対してニーロンとアスールは青色を指す。

 

→チェン・フェイゼ④

 買い物に行こうとしたら恋人の自称姉を名乗る不審者に絡まれる。ルブルムの過去を全て把握している訳ではない。勿論知りたくないと言えば嘘になるが無理して聞くほどではないかなと言った感じ。

 

→スィーニー・アスール

 ルブルムの自称姉。一応目元はルブルムに似ている。美人と言えばまぁ美人かなぁと言う顔立ち。痩せ気味なので多分貧乳。ちなみにスィーニーも青を指す。

 

→ニアール

 凛々しい顔立ちに反して実は割と天然気味と言うギャップ萌えの持ち主。ルブルムとは一緒に出撃する事が多かった。それ故に食事をルブルムと共にする機会が多く、(食事を取るタイミングが同じになりやすい)普通に仲がいい。ニアール自身は大らかだが周りが遠慮しがちで距離を自然と置かれてしまうので結構気にしている。騎士様はみんなと打ち解けたい。

 

→ブレイズ

 ニアールと同じく、ルブルムと共によく出撃する。サリア、ニアール、チェン、スカジ、グレースロート、スカベンジャー、テキサスと言う比較的に口数の少ない人達と組んで機内の空気が絶望的だったので一番絡みやすい雰囲気のルブルムと話し、地獄みたいな空気をやり過ごした。

 今ではすっかり酒を一緒に呑む友人。今後はそう言う機会があるのだろうか。




 プロファイルに第三情報を追加しました。あまり重要な情報はありませんが。
 明るい話を書きたいのにどんどん真面目な話ばっかになってて草生えますよ。コメディ(笑)状態。
 ただ割とぞっこんな様子のチェンさんは割とラブコメしている気もしなくもないですね。
 雑に用意したキャラクターであるルブルム君ですが、せっかくなので一つぐらい物語を用意しても罰は当たらないのかなと思いましたので、予定とは随分と変わりましたが何とかしてあげたい。
 チェンさんとイチャイチャしてんのが見てーんだよ! と言う方には本当に申し訳ないんですが、まずはルブルム君の過去を解決してあげたいので次回まで真面目な話が続きます事をお許しください。


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第五話

 

 文字通り色々有ったものの、ニアールさんの案内で無事に医療部へたどり着いた。たとえ着ている物が上下ジャージでも去り際の所作は騎士のそれでバッチリ決まっていた。ハッキリ言って抱かれたい。が、ニアールさんにもチェンさんにも失礼に当たるのでこの欲求は忘れる事にしよう。

 一つドアを潜れば消毒液の匂いが充満していた。近くに居るオペレーターに声をかけてケルシー先生の所まで案内して貰おう。

 文字通り割と何でもやっているのでロドスが製薬会社と言う事を忘れがちだ。製薬もこの部署でやっているそうだ。鉱石病の患者や任務で負傷した人、体調を崩した人達なんかもこちらに来るので内部はバタバタしているだろう。

 入ってすぐ正面に受付カウンターがある。今日の担当は見覚えがある。フォリニックさんだ。

「こんにちは、フォリニックさん。連絡が通っていると思いますが、ケルシー先生にご挨拶に来ました」

「こんにちは。伺っていますよ。担当の者に案内させますので、担当が来るまでお待ちください。……それで、後でお時間ありますか?」

「いえ、ご挨拶をしましたらすぐに帰る予定です。何かありました?」

「子供達が寂しがっているので会ってあげて欲しかったのですが……仕方ありませんね」

「すみませんね。一人なら全然良かったのですが、連れが居るのもので……」

「休暇でシエスタに来ているみたいですね。日焼けに注意してくださいね。男性だからと言って甘く見ると後で大変な目にあいますよ」

「言われてみればそこまで考えてなかったですね……おススメの日焼け止めクリームみたいなのってあります?」

 日焼け止めなんて人生で使った事あるだろうか。いや、無い。適当な物でも良いのだろうけど、こう言う場所ならば専門家の方々に聞くのが一番だ。

「宜しければこちらで処方致しますよ?」

「助かります。請求は近衛局に回して頂ければ」

「何を言ってるんですか、まだ貴方はロドスに籍がありますよ。つまり、次こちらに仕事でいらした時に頑張ってくだされば大丈夫です」

 使っていた宿舎もそのままですよ、と彼女は付け加えた。ロドス優し過ぎない? 近衛局辞めたらロドス来るしか無いなー。辞める日が来ないと思うけどさ。と言うかチェンさんが辞めさせてくれないに違いない。

「すみません、何から何まで……」

「お連れの方は男性ですか? 必要なら一緒に用意させて頂きますが……」

「女性ですね。申し訳ないですが、連れの分もお願いします」

「分かりました。ふふ、ルブルムさんも意外と隅に置けませんね」

「縁に恵まれましてね。大切にして行きたいと思います」

 この件で変に弄られなかったのは初めてじゃないか? なんか、大人って感じの話題だ……!

 その後も世間話をしているとヴァルポの女性がやって来た。見た事が無い人なので、会う機会が無かったかのかな。彼女が案内してくれるとの事なので、彼女の後について行く。

 カウンターを真ん中にして、その左右にはそれぞれ大きな通路があり、製薬と医療で別れているらしい。ケルシー先生は今日は医療側に居るとの事なので左側の医療部の方へ。

 そのまま少し歩くと左手に診察室があり、ここに先生が居ると案内人の彼女が言った。案内に礼を言って頭を下げてからスライド式のドアを数回叩いてノックする。

「どうぞ」

「失礼します」

 ドアを開けて中に入ると、ケルシー先生とススーロさんが居た。うーん、豪華なメンツだ。普通の診察室なので特筆する事はない。ススーロさんに着席を促され、先生の前の椅子に座る。

「君か。約束の時間には少々早いようだが」

「すみません、そういえばそうでした。夜って話でしたね」

「いや、君が問題無いならば構わない。今日予定していた患者はひと段落ついているし、ついでに健康診断でもして行くといい」

「有り難いですが、いいんですか?」

「もちろんだ。何故なら君自身もまだロドスの一員だからだ。健康と言う者は人々のみでなくこの世で生きる生物にとって重要な物だ。君は龍門のみならず、ロドスにおいても重要な役割を受け持つに値する人間であり、君の健康が害される事で龍門やロドスにより大きく多くの害を持たされる可能性がある。それを考慮すれば、汚染区域でも積極的に出撃する君は可能ならば定期的な検診の回数を増やすべきだと私は判断する。そうする事で君はより多くを救えて、君はそうする能力を持ち、そうする思考を持つ人間であると私は思っている」

 あー……要約すると、僕が健康である事がより多くの人を助ける事に繋がるって事ね。感染対策で終わらせないで検査もしろと。確かに、回数を重ねるにつれて多少雑になっていた感はある。慣れた時ほど怖いしね。

「そう言えば、君は恋人とこちらに来ているそうだな」

「はい、そうですが……」

「君なら差別しないから問題無いと思うが、その恋人が感染者であっても通常の性行為ならば粘膜接触しても感染はしない。安心したまえ」

「先生、もう少しデリケートな表現をですね……」

 通常じゃない性行為ってなんやねんと問い詰めたい。突然そんな事を言われて面を喰らってしまった。ススーロさんもびっくりしたのか目を丸くしている。

「だが妊娠のリスクには気をつけるように。まだ若いのだから遊びたいだろう」

 一体僕は何の辱めを受けさせられてるんだ。ここがプライベートな空間で良かった。これが別の場所なら公開処刑でしかない。良い歳して性教育を大衆の面前でやるとか死に等しい。

「……気をつけます。相手の方もまだ子供までは考えてないでしょうし」

「出産や妊娠などは男性である君だと知識に不安があるが……今回はそこは本題じゃないな。まあ、何か不安があれば連絡してくれ。では、本題に移ろう。最後の健康診断はいつだ?」

「近衛局で年一で受ける奴ですね。去年の夏前ぐらいかな……」

「今より少し後ぐらいか。龍門での健康診断は毎年同じ時期に?」

「はい。数日ズレはありますが大体同じですね」

「了解だ。その結果で何か気になる点はあったか?」

「いや、特には」

「ずっと健康そのもの、と……では、始めようか」

 

 

 場所は打って変わり、ロドスに居た時に使わせて貰っていた自分の宿舎。フォリニックさんの言う通り、当時出た時そのまんまだった。

 健康診断が終わって休んでいるが、なんだかんだであっちコッチ行ってバタバタしたので非常に疲れた、ベッドへ直行するぐらいには。結果は明日、端末に送って貰えるらしい。

 シエスタに戻る手段だが悩ましい。徒歩で帰るには結構な距離だし、ロドスから休暇を使ってシエスタに向かう人達はもう既に向かっているらしく、少なくとも今日はあちらに向かう人が居ないらしい。かと言ってまた準備して貰うのもな。だけど僕としては戻りたい。

 うんうんと頭を悩ませているとベッド脇のコンソールからブザーが鳴る。来客の報せだ。ボタンを押すとコンソールの小さな画面に、赤髪のサンクタの女性が映し出された。ペンギン急便のエクシアさんだ。鍵を開けるボタンを押してから通話ボタンを押す。

「鍵を開けましたので、どうぞ」

「ほーい、あんがと」

 ドアがスライドし、エクシアさんが入室してきたのでこちらも軽く会釈し、ベッドの脇に備え付けられた簡易テーブルとセットの椅子に着席を促すと彼女は礼を言いながら着席した。

「で、どうしました? こっちで面倒事起こされてもフォロー出来ませんよ?」

「まあ、うん。あたし達が悪いから言い返せないんだけど容赦ないね。テキサスから君が来てるって聞いてね。なんでも恋人とバカンスに来てるんだって?」

「誰から聞きました?」

 テキサスさんとは会話してないし、ベラベラ喋りそうなのはフェリーンのあの人ぐらいだけど。

「ブレイズから。それで今日はもうこっちからシエスタに向かう人居ないから足に困ってるんじゃないかなと」

「はい、まさに今悩んでましたね」

「あたしらまだ仕事あってもう一回往復するのにヘリ出すから乗って行く?」

「いいんですか?」

「龍門で散々世話になってるからねぇ。あたしはついでに乗せるぐらい別にいいと思うんだけど、ボスが少しでも借り作って恩を着せとけって煩くてねぇ〜」

「なるほどね。そのボスは、ご自身の部下が起こした問題の事務処理を誰がやってるかご存知ないようだ。……とエクシアさんに言っても仕方ないか」

「そ、だから恩なんて着せるつもり無いから気にしないで乗って行きなよ。仕事で向こうに行くにしても人が多い方が楽しいでしょ?」

「ですね。ではありがたくお言葉に甘えますね」

「うん! んじゃヘリまで案内するから着いて来て!」

 助かるなぁ。疲れ切った体に鞭を打ち、歩き出したエクシアさんの後を追うごと。

 トランスポーター全体で見てもペンギン急便の最大の特徴と売りはフットワークの軽さだろう。メインとなるスタッフは女性オンリーだけど荒事に慣れているから、地方への配達も問題ない。なんならボーナスボーナスと騒いで行くんじゃなかろうか。

 ペンギン急便は龍門を根城にしており、龍門で暮らす人々は多分何度もお世話になっているだろう。龍門のトランスポーター業で一番幅を利かせて居るのは彼女らだ。通販などを使えば結構な割合でペンギン急便が荷物を運んでくれる。

 荒事に慣れていると言えば聞こえはいいけど、現実はかなりのトラブルメーカーの気があり、多方面に恨みを買っていて、実際に金で雇われたマフィアに襲われる事が頻繁にあり、ペンギン急便サイドが戦う気が無くてもマフィアサイドは殺す気満々でアーツや火器を使うので被害が出るし、彼女らが応戦すれば更に被害が拡大する。

 何を隠そう、僕が近衛局で最初に教わった仕事はこう言うトラブルの事後処理だった。元々ホシグマさんが受け持っていた仕事なのだけど、件数が多すぎてホシグマさん一人ではどうにもならなくなってしまった。あの人がどれだけ優秀でも、体は一つだからね。今、ペンギン急便関連のトラブルは僕が受け持っているから幾分かマシになったが、受け持った連中が一番のトラブルメーカーと言うオチだ。

 さて、当然だが被害状況を知るには現場に行かなくてはならず、そして現場に行ったら仕事が終わるのかと言うとそんな事は無く、警察としての役割を持つ近衛局がすべき事が多い。それはどうしても現場へ行かなければ出来ない事がほとんどなので、余計に手間がかかる。

 ずっとトラブルを起こしがちなペンギン急便も頭痛の種だが、マフィアサイドも実に頭が痛くなる。何せ彼らを捕まえてもトカゲの尻尾みたいな連中が多く、次から次へと新しい人員が確保される。まるでゴキブリの如く現れる。

 彼らのいざこざはペンギン急便が割りのいい案件を独占した事が切っ掛けだ。それでもしっかり仕事を確保する手腕は本物なのだろうが、利益しか考えていないエンペラーのやり方はヘイトを買いやすい。そして今の龍門ではペンギン急便のトランスポーターが何かと戦っているのは誠に遺憾ながら日常となってしまった。

 体良く仕事を押し付けられた――もとい、担当する事になった……なってしまった僕は彼女達と顔を合わせる機会が多くなってしまった。

 ピンで見ればトラブルを基本的に起こさないのはソラさんだ。彼女は単独で戦う力を持たないと言うのもあるが、血の気が少ない。たまーに過激なファンに付き纏われるが、それを対処するのは僕ら近衛局の仕事だろう。次に少ないのはテキサスさんだ。クールビューティな彼女はそもそも面倒事を嫌うので積極的には戦いに行かない。獲物も剣と言う事もあり、彼女がアーツを使わない限りは被害が拡大する事はないし、それを理解しているからあまりアーツを使わない。ただそれでも止むを得ず応戦して被害が拡大した時、この二人は素直に謝る。自分のミスをしっかり受け止めてくれる。こちらとしては仕事がしやすい。ただ悲しいかな、ソラさんは僕の事を覚えてくれたがテキサスさんはあまり印象に残らないのかよく名前を間違えられる。

 次に問題を起こさないのはモスティマさんだろう。彼女は神出鬼没でアーツか本人の才能かは知らないが激戦区でも誰に発見されず、飄々と配達して見せる。配達員としては理想的だ。連絡が付かないらしいけど。彼女が問題を起こすと言うよりはトラブルになりそうな場所の情報をくれる、と言うのが正しい。掴み所は分からないが、ビジネスの関係としては非常にやりやすい。

 残る二人は問題児だ。今、僕の目の前を歩くエクシアさんはエンペラーから許可が降りれば所構わず銃をぶっ放し、被害を拡大させる。それでも誤射で怪我人を出した事が無いのは彼女の技術が凄まじいからなのだろうが、反面物への被害が酷くなる。まあ、銃弾の雨に晒されたらそりゃ蜂の巣にもなる訳だ。そしてクロワッサンさん……言いにくいのでワッサンでいいか。彼女は銃を使いはしないが、あの美少女らしい体躯からは想像出来ない膂力で敵を殴り飛ばす。敵もそんな人に殴られたらたまったものでは無いので上手く物を使ったりして避けるのだがそうすると身代わりにされた物は粉々に砕け散る。殴られた相手が吹き飛んだ先に物があればそれでも砕け散る。有り余るパワーは全てを破壊していく。この二人も一応謝りはするが、改善する気はあまり見受けられない。

 このバカンスが終われば、またおんなじ仕事に戻るのだと思うと頭が痛くなる気がした。頭痛が痛い。

 

 

 そんなこんなでペンギン急便のヘリで昨日のヘリポートに戻る事が出来た。時間はすっかり夕食どきの時間だった。

 チェンさんに連絡を入れて食事に行くのもいいな。そうしよう。普段なら乗り物酔いで苦しんでいるが、今日はペンギン急便の人達が酔い止めを用意してくれていた。まさにVIP待遇だ。

 携帯を取り出してチェンさんにコールすると、数度の呼び出し音の後に通話が繋がった。

「お疲れ様です。シエスタに戻って来ました。時間も時間ですし、良ければこれから食事でもどうですか?」

『お疲れ様。そうしよう、と言いたいんだが君に伝えたい事がある。直接会って話がしたいから戻って来て貰えるか?』

「了解です」

『済まないな。では、またホテルで』

 ぶつり、と通話が切れる。伝えたい事? 何かあったなら別行動する前に言うから、別行動してる時に何かあったって事だよな。……嫌な予感がする。僕の足取りは自然と早くなり、ホテルへと向かうのだった。

 

 

 そこはホテルの一室。二人の男女が窓辺の席で向かい合って座り、女が一枚の紙を取り出した。名刺だ。

「今日、君の姉を名乗る人物と出会った。名前はスィーニー。スィーニー・アスールと名乗った」

 女……チェンは名刺に書かれた名前のところを、整った指先で数度軽く叩く。そこには確かにチェンが言った名前が書かれていた。

「そして君の事をニーロンと言った。この二つの名前に聞き覚えは?」

 チェンの真剣な面持ちに男……ルブルムは困った顔で笑いながら、まるで尋問ですねと返した。

「すっ、すまない。そんなつもりは無かったんだ」

「いえ、気にはしてないので。スィーニーは僕の実姉の名前ですし、僕の以前の名前はニーロンですよ。今の名前はお世話になった孤児院で頂きました」

「……どうして名前を変えたのか聞いていいか?」

「はい。と言っても大した理由は無くて、孤児院に入った時は僕の人生の分岐点だったので新しいスタートと捉えようとして、だったら今までの名前は捨てようかなと思って孤児院の先生に相談したら今の名前を付けて貰いました。名前に関してはそれだけですね」

「なるほど。その、君にとって決していい事ではなかっただろう、思い出させてすまなかった」

「そんなに悪いことばかりじゃなかったですよ。スラムと普通のちょうど間みたいな場所でしたけど、色んな経験出来ましたから。以前、驚かれてましたが、リンさんとの関係はそこら辺からありますよ。スワイヤーさんと同じで、その時から弟分みたいな感じで可愛がってもらってました」

「あのネズミ……私より先に……ではなくて。以前君はお姉さんが亡くなったと言っていたよな?」

「状況的にそうなんだろうな、とは。でも生きていた、と」

「あぁ。目元は君に良く似ていたよ。姉弟と言われたら納得はできるが……」

「……生きてたんですね。なら良かった。恨み辛みが無い訳ではありませんが、生きてるに越した事はありませんからね」

「そして君に会いたいと。家族皆でまた暮らそうと言っていた。しかし――」

「僕の両親は既に死んだはず。実際に死亡届が出て、受理されている。しかし、実際には遺体は確認されなかった」

「当時の近衛局はさっさと事件を処理したかった。子供一人残るが対応さえ誤らなければ問題ないと判断したんだろう。死亡届も近衛局の自作自演だってありえる」

 大変嘆かわしい事だとチェンが吐き捨てる。

「裕福ではありませんでしたが不自由はしませんでしたからね。その一件で近衛局を恨んでたりとかはありませんね」

「なら良かった。私は君の気持ちが一番大事だと思っている。ご両親も生きているのかも知れない」

「だとすれば積もる話がありますね」

「スィーニーはまだシエスタに居るはずだ。彼女には私が仲介役をすると言ってある。必要ならば話し合いの席を設けて貰うが」

「気持ちは嬉しいのですが、せっかくのバカンスでチェンさんを巻き込んだり手を煩わせるのは……」

「何を言っている? 君の問題は私の問題でもある。上司だからではなく、恋人だからな。それで君の抱えている物が降ろせるならば、それこそこのバカンスに意味があると言うものじゃないか」

「ありがとうございます。チェンさんが居れば心強いです。では、姉に連絡をお願い出来ますか?」

「了解。大丈夫だ。今まで私達が組んでうまく行かなかった事なんか一度もなかっただろう?」

「……そうですね」

「よし、なら今日はさっさと寝て明日に備えるか。シャワー、先に使わせて貰うぞ」

「どうぞ」

 チェンはそのやる気を表すかのように少し大股歩きでシャワー室へと向かって行った。彼女が入って、数分もしない内にシャワーの音が聞こえて来る。それを確認したルブルムはいつもと違う表情でポツリと呟いた。

「でも、貴女の背負っている物は僕に背負わせてくれないんですね」

 その言葉は彼女に届くことは無く、彼の表情はただただ痛々しかった。

 

 

 次の日、チェンはスィーニーと会ったフードコートにルブルムを連れて行った。勿論、スィーニーも呼び出している。大事な話をするのにフードコートとルブルムは抵抗を感じたが相手の都合が良く無かったらしく、結局ここになってしまった。二人は四人用の席で並んで座っている。

「面接の時並に緊張してます」

「死んだと思っていた相手に会う訳だからな……緊張もするだろう。手でも繋いでやろうか?」

「流石にそこまで若く無いですよ……でも何年振りなんだろう……七年か八年振りぐらいなのかな」

「そうか……すまない、気の利いた言葉があればいいんだが、中々思い浮かばないな」

「行動で示すタイプですもんね」

「今言われると考え無しみたいに聞こえて複雑だな」

「そりゃチェンさんなりに考えはあるでしょうけど、あまり言語化するの得意じゃないでしょう?」

「まあ、君ほどではないな」

 ルブルムの緊張をほぐすためにチェンは敢えて軽口を叩く。彼もそれを理解しているので遠慮なく乗っかる。軽口を叩き合うこと数分間、ルブルムの表情はいつもと同じく柔和な表情に戻っていた。

「ごめんなさい、待たせたわね」

 ルブルム達の前に二人の女性が座る。ルブルムの前はスィーニーが、チェンの前には妙齢の女性がそれぞれ着席した。

「ニーロン、大きくなったわね」

「今の僕はニーロンではありません。アル・ルブルムです。アルともルブルムでも好きなように呼んでください」

「……分かったわ、アル。母さんもそれでいい?」

「えぇ」

 久しぶりに再会し嬉しそうなスィーニーに対して母と呼ばれた女性の表情は暗い。

「それでは単刀直入に伺いますが、僕に何の御用でしょうか? スィーニーさんは兎も角、そちらの女性は僕に何か言うべき事があるはずですが」

「ごめんなさいね……お母さんの口から言いたいんだけど、体調悪くてね……」

「……分かりました。では、スィーニーさんからお願い出来ますか?」

「ニー……アル、もうお姉ちゃんって呼んでくれないのね」

「今の僕にとって姉と呼べる人は孤児院時代にお世話になった人と職場の人先輩二人、計三人居ますが、逆に言えばその人達だけですね。今の貴女達は元が付く、それだけの人です」

「そう……そうね。アルの怒りは尤もよ」

 元母親が咳き込み、スィーニーがその背中を優しく摩る。

「アル。私達、やり直しましょう。父さんは亡くなったけれど、母さんは生きていたのよ」

「僕がその判断をするにはまだ大事な事を聞いていません。なぜ貴方達は僕を捨てる様な真似を?」

「……そうしなければ、家族みんなが行き倒れてしまうから……そうするしかなかった。複雑な事情があったのよ」

「だから僕に死ねと?」

「……そんな事ないわ」

「でも事実として死ぬ可能性があった。近衛局が勝手に処理して死亡届が受理されたから孤児院に入れたけれどされなかったら僕は死ぬか犯罪者になるしか無かった! 貴方達は自分達が助かる為に僕を犠牲にしたんだ!」

 ルブルムの言葉に二人の女性は黙り込む。スィーニーは言葉を紡ごうと口を開くが上手く言葉が出てこず、そのまま閉口してしまった。

「なあ! 違うなら僕の目を見て違うって言ってくれよ! 否定して見ろよ!」

 ルブルムの隣に座り、沈黙を貫いていたチェンは平静を装いつつも内心驚いていた。彼と共に過ごした期間は三年ほどだが、彼が言葉を荒げた事も無ければ敬語を崩した事も無かったからだ。

「落ち着け、ルブルム。近衛局の警官ともあろう男が市民を威圧してどうする」

「……ッ、確かに言葉が過ぎました。謝罪させて頂きます。申し訳ありません」

「フェイゼ、アルは私達を罵る権利があるわ。一番の被害者はこの子よ」

「だとしても、だ。お前は自分の彼氏がそこら辺の女に声を荒げて接しているのを見て何とも思わないのか? 少なくとも、私が好きなルブルムはそう言う人間であって欲しくない」

「チェンさんにそう言われると怒るに怒れないじゃないですか……」

「そう言うな。君の怒りは理解出来るが、話がややこしくなるだけだ」

 ルブルムは大袈裟に数回深呼吸をする。その後、自分の両頬を軽く両掌で叩いた。

「……すみません。貴女達を責めても仕方ないと分かっていたのに、怒鳴ってしまって。貴女達を恨んでいないのかと言うと正直難しいです。孤児院での暮らしは悪いものではありませんでした。しかし、それは運が良かっただけで、一歩間違えれば僕はどうなっていたか分からないのも事実です。ですから、どうしてそんな事をしたのかを詳しく説明して貰えますか?」

「……父さんがリストラされたのよ。小さなトランスポーターの会社に勤めてたけど、マフィアと揉めてね。その時、別の事がきっかけでスラム街の人達が暴徒になって暴動を起こして多数の死傷者が出たわ。そのタイミングで人が居なくなれば自然と暴動で死んだ事になる。そうすれば、簡単に身分を偽る事が出来る。私は別のトランスポーターの会社に勤めてたから人の異動も大した問題にならなかった」

「マフィアとのトラブルも自然と立ち消える事になって一石二鳥と。当時、僕は暴動が原因となり学校から出られませんでした。だからその瞬間に僕に連絡が取れなかった。そこまでは分かります。ですが、直接来れずとも手紙などは送れたはずでしょう」

 その言葉に、チェンが咄嗟に横槍を入れた。

「いや、それはどうかな。君は名前を変えただろう。その際にはどうしても法的な処理が必要になる。勿論、その記録は近衛局にも共有され、ニーロン・アスール宛に手紙を送れば近衛局経由で君に手紙が行く事になる。そうすれば中身は検閲されるし、当時ゴタついていた近衛局は自分達に不都合のある内容ならなかった事にする可能性もある」

「確かに、可能性はゼロとは言えませんね……」

「でも、リスクばかり考えてアルを長年蔑ろにしてしまったのは事実よ。まずそれを謝らせて」

「いえ、結構ですよ。僕にも色々あった様にそちらも色々あったはずです。移動都市から降りての生活は決して楽じゃなかったでしょう」

「それは……楽ではなかったけれど……」

「とにかく、僕が置いて行かれる事になってしまった理由も、連絡が出来なかった理由も分かりました。許すかと聞かれるとはい、とは言えませんが、もう責めるつもりももうありません。謝罪がしたいだけならば、以上で僕は大丈夫ですが……」

「さっきも言ったけど私も、母さんもまた貴方と一緒に暮らしたいのよ。虫のいい話なのはわかってる。でも、ようやく落ち着いたから……母さんの療養を兼ねて気晴らしにここへ来たけど、アルとフェイゼがホテルに入って行くのが見えたから、このタイミングしか無いと思って、ね」

「まあ、旅行に来れるぐらいですから落ち着いたのは事実なんでしょうけど……」

「ルブルム、今それを言うと皮肉でしかないぞ」

「す、すみません。そんなつもりはありませんよ。迎えに来てくれた事は複雑ですが、嬉しくはあります。ですが、申し訳ありませんが謹んでお断りします」

「どうして……?」

 スィーニーの顔が絶望に染まり、ルブルムが慌てて言葉を付け足す。

「あ、勘違いしないでくださいね。貴女達が嫌だから、と言う訳じゃなくて今の生活を気に入ってるからですよ。仕事は大変ですが、やり甲斐がありますし、可愛い後輩も居れば頼りになる先輩もいます。本当に色々ありましたが、今の生活が大好きなんです。龍門でも同じ生活を送れるなら龍門でなくてもいいんですが、龍門ならではの生活なので……」

「そっか……そうよね。わかったわ」

 スィーニーなりに納得したのだろう。表情こそ寂しげだったが、同時に満足そうでもあった。

「……これから先は、僕の我儘です。だから、気に入らないのであれば聞き流してください。確かに許せないけれど、だからと言って拒絶して終わりだと、僕達の溝は埋まらないし、何も変わらない。二人の気持ちが無かった事になってしまう。きっと僕も沢山の誤解をしていると思うんです。だから、僕は改めて二人と関係を構築したいんです。二人が、母と姉として。……チェンさん?」

「なんだ?」

「二人を僕の客として龍門に招聘出来ないでしょうか? 厳しいですかね?」

「いや、なんの問題もないだろう。お母様の方は既に書類上は別人だ。龍門に乗るのに手続きは必要あるだろうが、今の戸籍なら問題ないだろう。スィーニーの方は死亡届が出ていないが行方不明扱いだから多少面倒な手続きはあるかも知れないが、法的な問題は無い。二人の都合さえ付くなら大丈夫だ」

「ほ、本当ですか?」

 パァっとルブルムの表情が明るくなる。

「ただ、ある意味で言えばお母様は脱法行為と言えなくもないな。私が不正を見逃す訳には行かないだろう」

 チェンが両手を上げて首を横に振る。予想こそしていたものの、取り付く島も無い様子にルブルムは動揺を隠しきれなかった。

「そりゃそうですけど……」

「もういいわ。アルに迷惑かけてまで一緒に暮らしたいとは思わないもの。ね、母さん」

「そうだねぇ……。定期的に連絡を取るのも厳しいのかしら」

「電話ぐらいなら問題無い。手紙は厳しいだろうな。ルブルムは近衛局の人間だから検閲されてしまうはずだ」

「なら充分よ。お話する時間作ればいいんだから」

「まあ待て。君達はルブルムに贖罪をすべきだろう。それをするには彼の近くに居る必要があるはず。私の言いたい事、分かるな?」

「いいんですか?」

「良いも悪いも法的な問題は無い。所定の手続きが終わるまで不便はあるだろうが、龍門に住む事も出来なくは無い」

「チェンさん……ありがとうございます!」

「いいんだ。それに将来的な問題もある」

「将来的な問題?」

「あぁ。将来的には義理の家族になるだろう?」

 チェンの言葉に一同が固まる。先程までのシリアスな空気は一瞬にして消え去るほどの破壊力だったのは言うまでもない。

「あらあら……娘が増えるのは嬉しいわね」

 ずっと暗い表情をしていた母親が初めて表情を崩して笑顔を見せたが、

「マジで付き合ってたの……?」

 スィーニーは逆に怪訝な表情でチェンを睨んだ。

「嘘をついてどうする?」

「チェンさん、気が早すぎませんか」

「なんだ、君はいずれ別れるつもりで私と付き合っているのか?」

「そう言う事じゃなくてですね! あーもう、面倒くさいな!」

 ガシガシと頭をかき、ルブルムはどう言えばいいのか考えたが、よい言葉は出てこなかった。

「アル……ありがとう、ありがとね……」

「泣かないでください。僕の我儘ですから。つまる所、お二人の所には行けないけどお二人が来るなら問題ないって事なんですから」

「母さんは家で家事をしてくれてたし、今の私は自営業みたいな物だから大して問題ないと思う」

「……ありがとうございます」

「アルが寄り添おうとしてくれたから当然よ。それぐらいはさせて」

 そう言いながらスィーニーは目を伏せて目尻の涙を指で拭った。

「問題無いなら私達の帰りのヘリに乗るといい。今の家に一度帰りたいなら無理強いはしないが」

「父さんの墓参りに行きたいけど……」

「それは三人で行こうよ、母さん。父さんも喜ぶわ」

「そうねぇ……そうしましょう」

「問題無いと言う認識でいいんだな?」

「えぇ。有り難く乗らせて頂くわ」

「スィーニーさ……姉さん。今泊まってるホテルの住所を教えてもらっていいですか?」

「いいけれど……どうして?」

「母さん……母さんの容態が気になるんです。今、近くに停車している移動都市に僕が信頼できる医療関係の方々が居ます。そうすればきっと良くなるはずだから……」

 躊躇いがちに彼は二人の事を本当の関係で呼んだ。彼にとって、それは勇気の必要な第一歩だった。

「うん……わかった。フェイゼの方に送っておく」

「ありがとうございます。その恥ずかしながらこのバカンスだけはチェンさんを優先して良いですか?」

「そもそも恋人とバカンスに来てるんだから私達に干渉する権利は無いわね。私達なんかに気を使わないで。帰る時に連絡くれればいいから」

「私が妥協すると思うか? 私達が今後も付き合って行くなら二人との関係も深めて行くべきだ。そうだな、手っ取り早く食事を共にするのはどうだろうか」

「……でも、いいんですか?」

「構わないさ。今の君の嬉しそうな表情がずっと見られるんだろう? 二人きりの時間も確保すればいいさ」

「……はい!」

 時間にすればほんの数時間の事だったが、しかし、その数時間が今後に与える影響は決して小さくはない。人の人生とは意思の在り方で簡単に変わる物だからだ。

 

 

人物紹介⑤

 

→アル・ルブルム⑤

 今回はロドスに行ったかと思ったらシエスタに即座にトンボ返りしててバタバタ。精神的にも一山あってバタバタしたが自分なりに向き合って行く事を選んだ。

 

→チェン・フェイゼ⑤

 ルブルムが言葉を荒げてあらびっくり。ただ彼女が好きなルブルムはそんな人間であって欲しくないと自分の価値観を押し付けてしまった事を後悔している。

 

→スィーニー・アスール②

 色々事情があったとは言えどルブルムを長年放置したのは事実で、なんなら彼に殺されてもいいとまで思っていたが、彼の向き合って行こうと言う姿勢に思わず涙を流す。

 余談だが、チェンよりスィーニーの方が歳上(あくまで地球人換算)なのでチェン達が結婚したら義姉になる。

 

→エクシア

 ご存知ペンギン急便のトランスポーター。彼女の武器的に被害が大きくなりやすく、事後処理に向かうルブルムとは顔馴染み。

 言葉は丁寧だが余計な仕事を増やすなと言わんばかりの態度を取るホシグマ、言葉も態度も遠慮しないチェンは少し苦手。一応自分が悪い自覚はある。

 

→テキサス

 別にルブルムの事を覚えていない訳ではない。基本的に他人や物事に関心を示さないというだけで、自分の仕事での後処理をしてくれているルブルムには素直に感謝している。名前の件は彼女なりの弄り。関心が無い相手にはそんな事をするタイプではないが残念ながら伝わっていない。




 書きたい事をまとめて一つの話にしたいと思って書いたら約13000文字になってました。区切った方が良かったかも知れない。会話メインのシーンで第三者視点になって読みにくかったと思いますが、しばらくはルブルム君の視点のみになると思います。
 これで、ルブルム君のお話はひとまず終わりです。無駄に尺を取ってしまってすみませんでした。
 次回以降にようやくバカンスを楽しむカップルを書く事になりますので、気長にお待ちください。ちなみに遊龍チェンさんは無事出ました。


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番外編②

 

ロドスでの日常

 

 

 ロドスは広く、大きい。その中で暮らす人間が不自由なく暮らせるように、ロドス艦内という限られたスペースには効率良く配置されている。例えば、購買部とかは一つだけでは無くいくつかある。ただメインとなる店舗はやはりクロージャさんが管理している店舗だろう。

 で、そのクロージャさんの店舗がいつも以上に賑わって居て店から出てくる人は皆小さな袋を下げていた。少し飲み物を買って帰ろうかと思ったけど、混んでるなら別の店舗に行こうかな。でも面倒くさい。

「あれ? 珍しい人いんじゃん」

 振り返ると桃色の髪のサンクタの少女――アンブリエルさんが居た。彼女が声の主だろう。

「よっ。意外だなー、ルブルムもゲームやるんだね」

「ゲーム、ですか。昔はやってましたけど……」

「真面目君だから意外だわ。ゲームなんて無駄! とかまでは言わないんだろーけどさ」

「趣味は大事ですからねー。仕事に支障が無ければ楽しんだもん勝ちですよ」

 趣味が生きるモチベーションという人もいるだろうしね。ゲームはやらなくなったが、映画鑑賞や読書の趣味は続いているし。

「ま、ほどほどよね。んでルブルムは今日の新作買わないの?」

 あー、なるほどね。理解した。新作のゲーム出たからこんな人が集まっているのか。クロージャさん、ウハウハだろうなぁ。

「久しくやってないですから、面白そうではありますけど……どんなゲームが出たんですか?」

「マモカリ……魔物狩人の新作。やった事ない?」

 学生時代にバイトして本体とソフトを買った記憶がある。まだシリーズが続いてたのか、あれ。

「何作前か分かりませんけどやった事ありますよ。2G……セカジーって皆呼んでたなぁ」

「めっちゃ古い奴じゃん……。あ、そうだ。無理強いはしないけどさ、ルブルムもやらない?」

「あ~……どうしようかな。本体とソフト買う訳ですよね」

「あ、財布的に厳しいカンジ? あんまり遊んでるイメージないけど?」

 まあ実際にお金は結構溜まって居て、昔から光熱費以外ほとんど使わない。今はロドスにお世話になっているから光熱費も無いし……。映画鑑賞なんて昔は高いと言うか割高な感じはあったけど、今は月額で見放題だし、読書もそんな高いのは買わないから金が掛かると言う事も無い。

「金銭的な問題というか、在庫的な問題ですかね。僕の分だけ買うのもなんだし、どうせなら誘いたい人も居るので本体とソフトが二つずつ必要になるんですよね」

「購入制限の問題かー。ソフトは制限ありそうだねぇ。本体は多分買えるよ」

「ううむ……僕の分だけ買って帰るのもな……」

 そう、どうせならチェンさんに一式プレゼントして一緒に遊びたいのだ。カップルで協力プレイとか超楽しそうだし。でもソフト買えない可能性があるのか……。しかし、僕の前に立つアンブリエルさんは満面の笑みで親指を立てた。

「本体さえ買えれば平気っしょ。今のご時世、ダウンロード版あるかんね!」

 ……確かに! 僕の時代ではまだダウンロード版という物はこれの出始めで物好きが買うイメージだったけど、売り切れがないというメリットは大きいな。パッケージが欲しいとか別に無いし。僕がダウンロード版でチェンさんにソフトと本体を渡そう。

「なら買って帰るかな。いやー、耳寄りな情報ありがとうございます」

「ならさっさと買って帰ろうよ。一緒にやった方が楽しいし。普段仲よくしてくれてる人らが今日仕事だったから一人でやるんかなーと思ってたけど、声のかけて見るモンだね~」

 まだ僕もチェンさんも若いとは言え、ロドスの年齢層が広過ぎて僕らは少し上の年齢になる。なので、仕事を疎かにするほど夢中になる事は無いだろう。と言うかそうじゃないと示しが付かないからそうしないと。

「んで場所どうしよっかなー。そっちの部屋って大丈夫?」

「えぇ、大丈夫ですよ。じゃあついでにジュースとか買って帰って思い切り楽しみますか」

 なんだかんだで僕の部屋に居るチェンさんには連絡を入れておこう。浮気だーって思われる事は無いと思うけどオンオフ切り替えが激しいあの人が居るなら人を迎えていい格好をしていない可能性がある。

 ちなみに張り切りまくったクロージャさんのおかげで在庫があったのか普通に売って貰えました。

 

 

 久しぶりにビデオゲームを、しかも昔夢中になったシリーズを遊ぶのだと思うと結構ワクワクする。

 自分の部屋の入り口傍にあるパネルを見ると鍵が開いている。つまり、僕が出掛けた後にチェンさんは部屋から出ていない、と言う事だ。ボタンを押すとスライド式のドアが動く。

 チェンさんはソファーに座り、珍しくテレビを見ていたようであまり使わないテレビが久しぶりに役目を果たして居る。僕らが来た事に気付いたのだろう、チェンさんがテレビを切り、こちらに声をかけて来た。

「おかえり。随分な荷物だな。……そちらは確か……アンブリエル、だったか?」

「ちわーす。そっか、そういや二人付き合ってんだっけ? あたし邪魔しちゃっていいの?」

「……何の話だ?」

「それがですね、購買部で飲み物を買って帰るかなと思って行って見たら、凄く混んでてどうするか悩んでたんですが、アンブリエルさんが今日は新しいゲームが出るからって教えてくれまして。そのせいで混んでたらしいんですよ。そのゲームが昔やってたゲームの新しい物だから久しぶりにやろうと思いましてね」

「そゆコト。やるんなら一人より皆でやりたいじゃん?」

「あぁ、なるほど。私はそういう物に疎くてな……君がやるなら私も見てていいか?」

「何言ってんですか、チェンさんもやるんですよ」

 チェンさんにラッピングされた袋を手渡す。クロージャさんが気を利かせてやってくれたものだ。

「皆で……だからね。チェンさんが嫌じゃないなら一緒にやろーよ。絡んだ事ないから仲良くなるいい機会じゃん?」

 チェンさんがこれまた珍しく目を見開いてパチクリしている。以前より柔らかい雰囲気になったので変な誤解や対立を招く事は少なくなった。とは言え目立って、と言う意味であり、まだ厳しかったチェンさんのイメージが拭えず苦手意識のある人も割といる。それ故に変に口を挟まず見守るつもりだったのだろうなぁ。

「気持ちはありがたいが……私はこういうゲームをやった事がないぞ?」

「いいのいいの。うちらガチ勢じゃないんだからゆるーくやりゃいいんだよ」

「そうか。ありがとう。ルブルムもありがとう。安い買い物ではなかっただろうに」

「まあ、チェンさんとゲーム出来るなら安いモンですよ。プレゼントと言うと大袈裟ですが、気にせず受け取ってください」

「あぁ。その、恥ずかしい話だが私はこの手の機械は苦手なんだ。使い方を教えて貰っていいか?」

 まあ実はヘビーゲーマーでしたとかでない限りはそう言うもんよな。

「んじゃあたしが教えるよ。……にしてもチェンさんって意外とズボラ?」

「うん? あっ」

 ソファの前に置いてあるテーブルを見ると酎ハイの缶がいくつかあり、それらはどう見ても空き缶にしか見えず、その上酒のアテにしたと思わしき菓子類の袋が散乱していた。

「ルブルム……」

「……僕が片付けて置きますので、その間にアンブリエルさんに教えて貰って本体の準備しといてください」

「すまん……」

 

 

 ゲーム機の進歩とは凄い物で、今日買ってきたゲーム機はテレビに繋いでプレイする事も出来るし、携帯機にもなるらしい。

 キャラクタークリエイトもこう言うゲームの醍醐味だ。細かく調整する事で理想的なキャラクターを作り出す。と言うのは流石に面倒くさい。かと言ってデフォルトなのも味気ないなと思ったが現代のゲームらしく、内蔵されたカメラで自分を撮影する事で自分を再現する事が出来るのだ。なので僕とチェンさんはこの機能を使い、アンブリエルさんは今はサクっと作り後で調整するらしい。僕達はそのままだと面白くないと言う事でゲーム内ではお互いの髪色を交換した。つまり、ゲーム内のチェンさんは黒髪で、僕は青髪になる。ゲーム内の僕はいつも以上に弱そうに見える。

「なんだろう……僕、優男みたいじゃないですか?」

「黒髪でも君は充分に優男だろう。私なんかより堅物みたいになったぞ」

 チェンさんがずい、と僕に画面を見せてくる。ゲーム内で完璧に再現されたチェンさんは本人らしく仏頂面であり、髪の色を変えた直後でアップで寄りの映像になってたせいで、更に仏頂面が目立っていた。髪色が黒になったおかげでより威圧感が増しており、確かにこれは堅物だ。

「チェンさん一応堅物なのは自覚あったんですね」

「……君はたまに容赦ないな。私もロドスの一員として若い世代の手本になる必要がある。それに君の恋人として、恥ずかしくない人間になる為、色々模索中だ」

「ふーん。チェンさんって大人の女って感じだったから意外だわ」

「まあ大人と言えば大人だが、人生の長さを考えるとまだ小娘さ」

「あーね。でも、堅物って所は全然変わったと思うよ」

「そうか?」

「マジのマジでね。うーん、いい男選んだからじゃない? 表情、めちゃくちゃ柔らかくなったよ。前なんて触っただけで切れる刀みたいな雰囲気だったし」

 流石に言い過ぎじゃないだろうかと言いたいけど、フォロー出来ないのがなぁ。馴染みのない人ならそう感じるよね。チェンさん本人は多分極限まで集中してるだけだろうけど。精神的な余裕が出た、と言うのが一番の要因なんだろうな。

「ならまずはより良い方向へ変わって居ると言う事だな。……確かに、ルブルムと居ると頬が緩む事が多い気がするよ」

「チェンさん真面目だからねー。あたしみたいな性格の男だと合わないけど、ルブルムはそこら辺の匙加減が上手いよね、あたしみたいな人とも仲良くなってるし、チェンさんみたいな真面目な人とも仲良くなれてるし」

「そんな大層な事はしてないんですけどね」

 相手に合わせて居るだけだからだ。真面目な人とは真面目にやるし、気楽にやりたいと言う人はあまり強く言わずにやんわり言う。後は愛想良く接するのは大事だがニコニコし過ぎるのは良くない。ヘラヘラしてるように見える。

「あたしが一番驚いたのはあのスカジさんと普通に会話出来てた事かな」

「それこそ普通に接してただけですよ。あの人、堅物と言うよりは超が付くぐらい不器用なだけで悪い人じゃないですし」

「……しかし、君はそういうタイプとの人間と打ち解けるのが上手い様に見える。ニアールやサリア、シルバーアッシュ達と仲が良いと聞いたが」

 ニアールさんは堅物じゃないと思う。ただの天然さんだ。サリアさんは彼女なりにイフリータさんとの接し方に苦労しているみたいなので、子供や若い子達と接する機会が多い僕に相談してくれてるだけだ。シルバーアッシュさんに関しては何かのキッカケで気に入られたらしい。彼の話すビジネスの話は面白く為になる。オペレーターを引退しても資産運用で食って行けそうなレベルまで話してくれる。

「大物の人らと相性いいよね。あと、女性多め。チェンさん的には浮気しそうとかなんないの?」

「ルブルムが浮気できるような男だったら周りはもっと女性が多いに違いない」

「そうですかね、平々凡々な人間なつもりですが」

「若い世代は知らんが、少なくとも私は君の様な自然体で居てくれるタイプの方が好ましいよ」

「あー、分かる。うちらの世代の感覚だと優しい近所のお兄ちゃんみたいな感じ。たまーにガチ恋勢居るけど」

「ガチ恋勢?」

「要するに異性としてマジにルブルムの事が好きって事よ。思春期の女子からしたら歳上でニコニコしてる男は刺激が強すぎるんだわ」

 確かに接しやすい様に明るい表情で居ようとは努めては居たが。うーん、そんな気は無いからちょっと困るかも。

「確かに、ルブルムはジゴロの気があるな。こう、人の懐に入るのが上手いと言えばいいのか」

「気を付けないと刺されるよー。女子のパワーやばいから」

「とは言え、僕達は別に交際を隠してる訳じゃないんですけどね……」

「そう感じないもん。女っ気無いと言うかさ。外……えっとロドス艦内に一緒に居ても付き合ってる様には見えないよ。仲良いなーとは思うけど」

「交際してるとは言え、ロドス艦内は職務の為に行き来するオペレーターが多い。私達がこちらに来てそれなりの時間が経ったが、だとしても規律を乱していい理由にはならん」

 詰まるところ、ロドス艦内ではベタベタとくっついてたら印象が悪くなるって事だろう。僕ならこっちは仕事してんのによォってなる。

「まあ仕事してる人の前でベタベタしてるのはちょっと感じ悪いかもねー。ロドス、極端に社内恋愛少ないし……」

 近衛局も少なかったな。後輩に今時の子が居たが、モテそうな容姿なのに喋り方がチャラ男そのもので絶妙にうざかったなぁ。凄くいい子なんだけどね。チェンさんも職務に対して真面目な彼には怒るに怒れなかったし。ある意味でチェンさんに勝ったと言えなくは無いよな。元気なんだろうか、彼。

「禁止……なんて話は聞いた事ありませんが……皆さん、余裕が無いのかも知れませんね。色んな方々が色々な理由でここに来ますから」

 恋に恋するとは言うが、若い子は行動予備隊として訓練と座学で忙しく、実戦経験ありで入って来た人やこちらに来てからある程度経験を積んだ人達なんかは任務に赴く事になる。つまり、行動に対して責任が生じる様になるし、何よりある程度同じ隊の人間と作戦に当たる事はあれど、それぞれのオペレーターとしての専門性を考えれば常に同じ人間と任務に当たる事はどうしても少なくなる。これはロドスと言う組織が多数の人間を抱える故の問題だ。なんなら基本的に同じ人間と出撃している僕はレアケースで、ロドスがエリートオペレーターとそれに準ずるオペレーター達を作戦に赴かせると言うのはつまり、そう言う事だ。

「とりまチェンさんが恋人には甘えるタイプなのはわかったね」

「ほう?」

「いや、睨まれても。彼氏の部屋に入り浸って酒飲んで散らかすって結構な事してるし」

「あー、確かに。せっかく宿舎あるのに僕の部屋に居る時間の方が長いと言うかほぼずっと居ますよね」

「この部屋で寝泊まりしてんの?」

「はい。少なくともここ最近はずっとそうですね」

「……仕方ないだろう。休日は一緒に居る時間は作れるが、そうでも無い平日はこうでもしないと一緒に居る時間が作れないんだ。ルブルムも嫌じゃないだろ?」

「もちろん。ですが、片付けは出来る様になりましょうね。女性だから家事をしろと言う話ではなく、人間としての問題です。服は洗濯までしても畳まない、下着も洗濯したらその辺に放置……女性では無く、人しての慎みを持つべきです」

 思わぬ方向へ話が飛んだせいか、チェンさんが露骨に狼狽える。こればかりは同棲する以上は慣れて貰わねばならない。

「しかしだな、今更君に下着を見られてもと言う話もある」

 そりゃ肌を重ねる事も多々あるので今更と言えば今更かも知れないんだけど、人としてどうよ、それ。

「後はシャワーを浴びたらさっさと服を着てください。万が一来客があったら死にます。僕が社会的に」

「ルブルムって苦労してんだねー」

「アンブリエル、そう言う君はどうだ。彼ほどキッチリしているのか?」

「まあ服ぐらいは片してるかな。あたしは流石に他の人に下着見られたらはずいし」

「私が可笑しいのか?」

「あんたが可笑しいに決まってんでしょ。私の弟の手間を増やさないでくれる?」

「姉さん」

 何時の間にかやって来て部屋に入っていたスィーニーさん……僕の実姉が、部屋のドアにもたれながらチェンさんに容赦なく言葉を投げ掛けていた。

「お疲れさん。私の仕事が終わったから一緒に食事でも行こうと思ったけど、タイミング悪かったかしら」

「そうだな、非常にタイミングが悪かったな。私達はこれからゲームをするんだ」

「あんたねぇ、別に媚びろなんて言わないけどあんたらが結婚したら一応姉妹って事になるんだから、もうちょっと仲良くしてくれない?」

「まあ……そうだね。僕も姉さんとチェンさんが仲良くしてくれると嬉しいけど」

 と言うのは僕のワガママだ。当人同士の反りが合わないなら無理して合わせる必要も無いだろう。彼女らも大人なので割り切って接する事も出来るだろうし。

「ふーん、スィーニーさんだっけ。何回か荷物持って来てくれた人だよね」

「えぇ、こちらでもトランスポーターの仕事はしているけれど……でもごめんなさい。まだロドスの人の顔は覚えてなくて」

「そっか。あたしはアンブリエル。さっきもチェンさんが言ってたけどゲームするんだよね。スィーニーさんもどう?」

「ゲームなんて子供の頃以来だけど……えっと、本体とゲームを買えばいいの? と言うか混ぜて貰っていいのかしら」

「うん。仲良くなるキッカケになるんじゃないかなと思うし」

「そうね……うん。考えてみれば、アルと遊ぶって子供以来だし、その上で職場の人と交友を広められるなら素敵な事ね」

 良かった、姉さんは前向きらしい。チェンさんは……近衛局時代以上に難しい表情をしている。にしてもチェンさんはどうしてここまで姉さんに当たりがきついのだろう?

「ルブルムは私とスィーニーが仲良くしている方が好ましいのか?」

「はい。ですが、二人が合わないなら無理して合わせる必要も無いとは思いますが」

「いや……ここで我を通せば私の名前が廃ると言う物だ。いいだろう、お前と向き合ってやるとしようじゃないか、スィーニー」

「……と言う事で、とりあえず物は買ってくるわ。何を買ってくればいい?」

 この後、人混みに揉まれて疲労困憊の姉さんを労いつつみんなでゲームを楽しんだ。

 慣れないゲームで協力プレイをしているうちに二人の間で蟠りは無くなったらしい。

 

 

 皆でゲームに興じた夜、僕たち同じベッドで向かい合って横になって居た。

「その、この際なんで聞いておこうと思うんですが、うちの姉がチェンさんに何かしました……? 妙に当たりがきついのがリンさん……ユーシャさん以外には初めてな気がして」

「あぁ……いやぁ、なんだ。その、気を悪くしたなら済まないな。大した事じゃないんだが……君の事情を知っていたとしてもやっぱり君との時間を取られていると思ってしまって……」

 あぁ……なるほど。確かに僕と姉さんの間に確執があったのは確かだ。姉さんと母さんとの関係を修復する為にまずは改めて接して行く事を選択した。母さん自身は是非ともチェンさんを連れて来て欲しい、姉さんは来ても構わないけどと言うスタンスなのだったがチェンさんの態度がきつく、正直苦手だったらしい。当のチェンさんにも親子の邪魔をする気は無いと断られてしまっていた。

「すみません、僕の我儘で……」

「何を言っている、君はもう少し周りに我儘を言っていい。少なくとも、私にはな。私だって君に色んな事をして貰ったんだ。だからと理解していても、私は寂しく感じてしまう」

「チェンさんも来たらいいじゃないですか。姉さんとの蟠りも解けたみたいですし……それに、母さんがまた会いたいって言ってましたよ」

「そうなのか?」

「そりゃ自分の息子の彼女ですし、色々と便宜を図って貰いましたから。後は……」

 言っていいのかな、これ。悪い事じゃないんだけど、僕が言うと絶望的に気持ち悪い。

「なんだ、そこで言い淀むんじゃない」

「あー、いえ、母さんがですね、将来的に自分の娘になるかもって……だから仲良くなりたいと」

 チェンさんが驚いて目を見開いた後、可笑しそうに笑った。

「なるほど、君の母上は気が早いな……」

「いやねぇ、姉さんは彼氏居ませんからね。弟としてはそこまで悪くはないと思うんですがね」

「ふむ、素材は悪くないのは間違いないな。基本的に人当たりも悪くない。トランスポーターとしては優秀で、ロドスのオペレーターとして見ても優秀な方だろう。容姿も最低限の身嗜みを整えるぐらいだが化粧を覚えれば化けるぞ。……しかし、本当に君達姉弟はそっくりだな」

「そんなに僕達似てます?」

 髪の色も違うし、顔立ちも全然似ていない。……でも、たまーに目元が似てるって言われる事はあるかな。

「あぁ。容姿と言う意味では無く、人としてな。何をやらせてもソツなくこなす。君は周りに配慮するのが上手だし、スィーニーも人の要望を察して動くのが上手だった。客商売故の立ち回りだな」

 僕が物事をソツなくこなせるほど優秀かはさておき、確かに人当たりに何かするのが好きと言うのは確かだ。姉さんもそれが嫌なら客商売であるトランスポーターを選ばないだろう。勿論、姉さんのアーツ的に向いていたと言うのもあるかも知れないけど。

「だとすると彼氏が居ないの不思議じゃないですか?」

「そればっかりは私達と同じで縁と言うものがあるからな……が、男性オペレーターがスィーニーについて言及しているのを聞いた事がある」

「マジですか?」

「あぁ。『マジ』な話だ。面倒見がいいのはもう姉弟で同じなんだろうな、君と同じでミスしたり怪我したオペレーターのケアを良くしているからスィーニーみたいな彼女が居れば幸せだろうって話を耳にした」

 だとすると悪い印象はないって事だよな。うーん、でも僕と同じで弟や妹と接してる感覚なんだろうな、本人としては。要するに、姉さん自体がそう言った男性オペレーターを恋愛対象として見ていない。

「それを踏まえた上で原因を考慮するならば……君だな、ルブルム」

「えっ? 僕ですか? それは予想外だったな」

 思い当たる節が無い。別に男女間の感情は無いし、今は普通に仲良くしている姉弟だと思うんだけどな。年がら年中、ずっと一緒に居る訳でも無いし。姉さんは僕とチェンさんが交際しているのを知っているから気を使ってくれるし。

 考え込んだ所為で変な表情をしていたのか、チェンさんの右手が僕の左頬を優しく撫でた。

「はは、すまない。悪い意味じゃないんだ。私が言いたいのは君みたいに出来た弟が居るから男に対しての理想がどうしても高くなるって事を言いたいんだ。スィーニーの恋人になるなら、最低でも君と同じぐらいにはならなくてならない。だが、それを出来る人間はまずいない。君は自分に対しての評価が低いみたいだが、君は君が思ってる以上にいい男だよ。現にこの私を射止めたんだ」

「そうだといいんですが」

「私が君に嘘を付けるほど器用な人間だと思うか? しかしまあスィーニーを狙ってる男達は哀れだよ」

「哀れ、ですか」

「考えても見ろ、基準値が君なんだぞ。基準値が君ならそれを超える可能性がある男は……君しか考えられん」

 チェンさんなりに僕の事を評価してくれているのはわかった。この人、真っ直ぐ過ぎて他人を褒める言葉に恥ずかしさがない。聴いている僕が恥ずかしくなるぐらいだ。

 ……まあ姉さんはチェンさんほどオンオフが激しいとかではなく、あの人はある一定の生活基準を満たす能力はある。要するに一人でも大丈夫。チェンさんは……仕事は絶対に大丈夫だが私生活は不安過ぎてこっちが落ち着かない。夜だって寝れない。まあ私生活は僕と一緒に居るのが殆どだけど。

「後はあれだ、姉さんが彼氏を作る気あるか、ですよね」

「あぁ……確かに。実際問題、彼女なら良い男を捕まえるのも簡単な気はするが……恐らくはそれ以上に、君と姉弟として過ごしている方が幸せで楽しいんじゃないか? 色々あったからな」

「なるほど……」

 苛烈を極める環境でトランスポーターてして活動してきているんだから、悪い男に捕まらないかと変に僕が心配する事じゃないか。

「このままピロートークを楽しみたいが、明日もゲームの続きをやるんだろう?」

「そうですね。そろそろ寝ましょうか。おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

 今日は実に充実した一日だった。アンブリエルさんとも仲良くなれたし、姉さんとの仲も深まった気がする。何より、チェンさんと姉さんが仲良くなってくれたのが一番嬉しかった。心地よい疲労感に身を委ねると直ぐに眠気が襲って来た。ああ、明日もいい一日になるといいな。

 

 

人物紹介

 

→アル・ルブルム

 姉との関係は大幅に改善されており、今ではすっかり仲良しな姉弟に。チェンとの交際も順調。

 恋人もおり、家族との関係も良く、職場の人間関係も多岐に渡って良い物を築いているのでかなり充実している。

 

→チェン・フェイゼ

 もはや私生活がルブルム無しでは成り立たない程にはルブルムに甘えている。本人は申し訳ないと思いつつもあまり改善する気は無い。

 

→スィーニー・アスール

 ルブルムとの関係が改善されてからは何かとルブルムを気に掛けているがそれは罪悪感と言うより姉としての責任感だがルブルムも大人なので世話を焼く必要はあまり無い。彼の恋人であるチェンとも何とか関係を改善したかったが、当のチェンからの当たりがキツく苦手意識があったがすっかり改善された。

 

→アンブリエル

 ある意味今回の重要人物。ルブルムとは仲の良い同僚と言った感じで作中で言った通り、兄みたいな感覚で接している。緩い雰囲気だが仕事には真面目。ルブルムの悩みだったチェン達の関係をサクっと解決した。

 

●以下おまけの人物紹介

→サリア

 サイレンスからはイフリータとの接触を禁じられているが、なんとか合間を縫ってイフリータとの時間を作っている。

 人間関係と言う部分では不器用な方と本人も自覚があり、子供が相手では尚更それが顕著となり、頭を悩ませていた。

 そんな彼女がルブルムと接触すると決心したのはイフリータの口から良く彼の名前が出てくるからだった。気難しいイフリータがすっかり懐いている様子を見るに彼に相談する事を決意した。

 食事時、考え込むが故に険しい表情をしている彼女と真剣な表情のルブルムのペアは名物になりつつある。そして殆どの人がイフリータとの接し方に悩んでいる事を知っている。

 

→イフリータ

 やたら子供受けのいいルブルムにイフリータを任せたら問題無いだろうと言うケルシーにしては割と雑な考え方の元、ルブルムの元に預けられる。最初こそどうせ仕事なんだろと強い拒否感を示したものの、ルブルムのイフリータさんとお友達になりたいんですと言われてからは彼女なりに頑張って接して行く内に普通に仲良くなった。

 ロドス内では割と問題児として有名で、色んな大人が手を焼いていたがルブルムといる時は歳相応の少女であり、ルブルムとゲームに興じている時はまさに歳の離れた兄妹そのもの。




 チェンさんが取り上げた作品をいくつか拝見したんですがやっぱり皆さんチェンさんは「恋愛についてはクソザコナメクジ」みたいな印象があるのが共通していて普通に笑ってしまいました。
 個人的にはオンオフが凄く激しいイメージなので本作品ではそうしていますが、皆さん的にはどういう印象でしょうか?


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