終末が来たりし世に英傑の旗を掲げよ (謎の食通)
しおりを挟む

渡英編

新しい人生は順風満帆と言えていた。自身の知る時代の前の時代に生まれたことで未来と言う攻略本を持ちつつ、幸運にも恵まれたことで前世では手に入れることが出来なかった少なくない資本を手に入れた。転生者ゆえの疎外感も同じ境遇の妻と出会い解消された。妻と出会った時などお互いの容姿と名前が前世で有名だったキャラにそっくりだったので大いに盛り上がりもした。

まさに勝ち組に分類される幸せな人生を過ごしていた。

 

それに暗雲が掛かるのは妻があるスレを見つけたことから始まった。そこには自分たちと同じ境遇の人間がたくさん居て今度オフ会をするらしいと妻から聞いた。

最初の時は、今は忙しいから次のオフ会があるならその時に参加しようね、なんて思っていたが、妻から聞いた言葉で全てが吹き飛んだ。仕事の予定はすべてをキャンセルし、娘は親に預けて、妻と一緒に富士山へと飛んだのだった。

 

 

まさか、この世界が女神転生の世界だったなんて・・・!

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

富士山にあった星霊神社にて二度と思い出したくない苦行・・・もとい修行をなんとか達成した結果、覚醒者になることが出来た。その時、覚えたスキルはチートとも呼べるものだったが単体では宝の持ち腐れだったので(拷問ではない)修行をしつつも転生者自助組織『ガイア連合山梨支部』と言うメガテンファンからすればツッコミどころ満載な組織の運営に関わることとなった。

と言うかメシア教の存在自体は知っていたが女神転生シリーズのマジもので悪魔も実在するなんて思っても居なかったのである。そう、自分が転生者であるにも関わらずに、だ。

 

 覚醒してからはガイア連合の運営に参加しつつ、シキガミを購入してはレベリングに勤しんでいる妻と一緒にオカルト依頼に挑んだりしている。ちなみに実戦回数の差で妻にレベルで抜かれてしまった。

 

そんな日々を過ごしているある日、妻が不安そうな顔で僕に問いかけてきた。

 

「アナタ、本当にイギリスに行くのですか?ただでさえ何時終末が起きてもおかしくないですのに・・・」

 

銀髪の美しい女性、つまり僕の妻が心配そうな顔をして僕に尋ねてきた。僕はガイア連合の仕事でたびたび海外へ赴任しているが、『★海外オカルト雑談スレ その72+α』と言う転生者たちが住人のスレを見てから、どうやら妻は不安になったらしい。

 

「そうは言っても君の両親を見捨てるわけには行かないだろう?」

 

ちなみに僕や妻はイギリス人のハーフであり、はとこである。親戚同士の集まりで出会いだった。そして、妻の両親はイギリスに残っていた。

 

「それは、そうですが・・・本人たちも乗り気ですし・・・」

 

「だからこそさ。終末が始まってからでは遅い。今のうちに日本に連れてこなければ最悪命に係わる。それにガイア連合からも欧州における多神連合やメシア教の調査をお願いされているからね。」

 

「多神連合にメシア教って・・・それこそ大丈夫なのですか?」

 

妻の眉尻が更に下がった。どうやら余計に心配させてしまったようなのでフォローをすることにした。

 

「大丈夫さ。ガイア連合は多神連合とはある程度交流があるし、メシア教にもある程度は伝があるからね。」

 

「そう言えばそういうスレもありましたね。でも正直アナタやスレの皆さんから聞いたメシア教の印象を聞くとどうも・・・」

 

「メシア教は欧州よりもむしろアメリカの方が、影響力が強いよ。なんせバチカンが存在するし、近くにはメッカやエルサレムがあるからね。メシア教よりも純正の一神教の方が強いさ。・・・まあ、近年メシア教に浸食されつつあるのも事実だけどね」

 

「・・・なるほど、確かにそれなら今のうちになら連れてこれますが、時間が過ぎると危ないですね」

 

僕の言葉で何とか妻を納得させることが出来たようだ。

 

「とくにアメリカなんて酷いらしいよ?イギリスもそうならないうちに一刻も早く義父や義母を日本に連れてこなければ・・・」

 

「わかりました。それについては納得しましたが・・・」

 

妻は言いよどんだが、僕に問いかけを放ってきた。

 

「あの子はどうするのです?今回渡英するということで父も母もあの子自身も乗り気になっているのですよ?」

 

「連れていくしかないと思っている。と言うよりも、あの子、覚醒者になりつつある気がするからね。」

 

僕が言った言葉に妻は沈黙する。僕たち夫婦のシキガミに娘の子守を何度かお願いしたことがあるのだが、娘はシキガミ達が薄々人間でないことに気付いてるらしいのだった。

 

「あの子から目を離す方が問題ですか・・・」

 

「都内だから根願寺の影響で強い悪魔は出ないと思うけど、終末が近い今では楽観出来ないからね」

 

僕の自宅は、都内にある。ガイア連合の運営に参画できるだけの資本家でもあるので都内に家を持つことが出来たのである。首都圏は、根願寺の結界により悪魔の出現は抑えられている。だが、GPが上昇している昨今、弱体著しい根願寺でいつまで対処できるかの不安も拭い去れていない。この国を代表する霊的国防組織なのは確かだが、ガイア連合運営としては頼りないというか、もう少ししっかりしてとしか思えないのである。当代の葛葉キョウジの弱さには、メガテンファンとしてそれはもう非常に落胆したものである。

 

 

「わかりました。あの子には私から伝えておきます」

 

「頼むよ。モルガン」

 

そう言うと僕は妻を抱きしめ、その額にキスを落とした。

 

僕の名前はアーサー・エヴァンズ。僕たち夫婦の見た目は、TYPE―MOONのFateに登場するプーサーとモルガン其の物である。当然僕たちの遺伝子を受け継いだ娘の見た目は、まさにそのままと言えるのでアルトリアと名付けた。よくよく考えれば転生した世界でこの名前を付けるのは軽率だったかもしれない。例えこの世界が女神転生世界だと知る前だとしても。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

その後、モルガンがアルトリアにイギリス行きを伝えると、アルトリアは跳ねるように喜んでこけそうになったところを妻のシキガミのバーヴァンシーに体を支えられた。それをモルガンは、ほっこりとした顔で眺めていて。僕は、この宝物を何としても守ろうと決心を新たにしたのだった。

 

そして、行の飛行機は問題なくイギリスに到着した。だが、しばらくすると海を越えた先に邪神が降臨したのだった。

 




アーサー・エヴァンズ
覚醒者になるまでは勝ち組人生だったのでどこがフワフワしている感じだったが女神転生世界だと知り覚醒者になってからは、夢が覚めたかのように家族のために仕事も修行も邁進している。
ガイア連合の経営陣の末席で海外の販路拡大や多神連合やメシア教との対外交渉なども行っていた。
ガイア連合内の別名は「プーサーの皮を被ったブラッドレイ」である。
なお、覚醒した時の初期スキルはそれ単体では意味は殆ど無いが公式チートスキルである。
シキガミは獣型シキガミ(変身能力あり)である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

蠢動編

風光明媚な森林、家族でピクニックとして来れば、素晴らしいだろうロケーションの中で私、モルガン・エヴァンズはダナン神族の王ダグザとの会談をおこなっていた。

 

「それでは、大きな荷物が無い避難民は飛行機で、ある程度の家財を持っている者は今度のガイア連合の運搬船にて日本に送り届ける事になります」

 

「うむ。頼んだぞ。大事な俺の信者だ。くれぐれもよろしく頼むぞ」

 

ここはダナン神族が治める異界ティルナノーグだ。クトゥルーの顕現のせいでGPが上昇し、ついに最高神であるダグザ神すらも顕現することになった。その為、一応幹部級である私が臨時の渉外役としてガイア連合ヨーロッパ支部(規模的には日本の支部と比べると派出所レベル)の要請で会談することとなったのだ。

 

「お任せくださいダグザ神」

 

「そう言えば聞くところによると貴様はペンドラゴンの末裔のそうだな」

 

私は、顔を顰めそうになるのを堪えつつ、心の中で舌打ちした。こやつ、顕現してそれほどの時も立っていないのに情報収集はある程度していたようだ。やはり、あのダグザだ。油断も隙もない。

 

「・・・確かに我が一族にはそのような伝承が伝わっておりますが、一族の誰もが眉唾ものだと思っていることですよ」

 

「いや、貴様からは懐かしい匂いがする。間違いないだろう。」

 

これだから高位の悪魔は困る。と言うか実家の魔術書と言い本当のことだったのか。

 

「貴様の名前もモルガンなのだろう?どうだ、かつてのモルガンのようにこのブリテンの玉座を目指してみないか?」

 

「御戯れを。私はイギリス人とのハーフとはいえ、国籍や心は日本人ですよ」

 

なんでわざわざ朝食以外微妙なイギリスに住まないといけないのだ。娯楽も日本の娯楽とか入手しづらいのに。

しかし、この私を玉座に、か。いや、正確にはアーサー王の血族を欲しているようだな。

ダグザの傍に控えている現地の霊能力者であるドルイドたちも、随分とまあキラキラした目を私に向けてくるものだ。

 

「そうか、それは残念だ。ところで貴様の伴侶も同じ一族の出だそうだな?」

 

「確かに我が夫アーサーは、はとこですが何か?」

 

私を知っているのならあの人のことも当然知っているか。一応私たちは自衛隊ニキのように先祖の悪魔が覚醒した事はないが、この調子だと注意した方が良いな。

あの人と会ったのは一族で集まる事となったあの日が最初だったな。私は、父が日本からの婿入り、あの人は義母がイギリスから日本へ渡って生まれた人だ。出会った当初はお互いの見た目で盛り上がっていたが、その時の話題が時を超えて再び私たちの前に来るとは・・・。

 

「くくっアーサーか。いや、何でもない。今度来るときは出来れば貴様の夫も連れてくると良い」

 

ダグザのその言葉で今回の会談は締めくくられた。それと必要がなければお前に私の家族を会わせるなんてしないかな!

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

家に帰る帰路の最中、私のシキガミが今回の会談のことで不満を愚痴っていた。

 

「なんだ、あいつ。神様だからってお母さま(マスター)に向かって失礼な」

 

赤い髪の可愛い女の子のシキガミ、バーヴァンシー。アーサーやアルトリアに並んで大切な私の家族と言ってもよい娘。と言うか、もはやもう一人の娘である。

 

「落ち着きなさい、バーヴァンシー。ダグザ神はあれでもマシな状態です」

 

そう、本当にこれがマシなのである。

 

「我が夫から聞いた多神連合は私たち転生者にとってある意味メシア教並の偏見を持つ対象でした。」

 

「マジですか、それ?」

 

多神連合が出てきた作品で彼らがやろうとしたことは全人類の解脱、つまり大量虐殺である。やはり神々など理不尽の塊である。そういう意味では、救世主と覚者は凄かったんだなあと思う。

原作での彼らに比べれば、今のメシア教との覇権争いなどかわいいものである。

 

「そういう意味では良くも悪くもダグザは普通の神々と言ったところですね。おそらくアーサーや私を使ってブリテンや多神連合、そしてガイア連合に対する影響力を強めたいのでしょうね。アーサー王のネームバリューは、今の時代においても健在です。むしろ終末が近い故にアーサー王信仰とも呼べるものがイギリスでは増えてきていますね」

 

要するにアーサー王の威光で、かつて自身の氏子であるケルト人を追いやったサクソン人を取り込もうと考えているのだろう。終末の世で危機を迎えたイギリスに現れた復活する王アーサー・ペンドラゴン。これほどセンセーショナルなことも珍しいでしょうね。

 

「へえ~。まあ、私たちは次の船に乗って日本に帰るから関係ない話ですね」

 

「ボストンにクトゥルーも顕現しましたからね。いつ欧州に飛び火するのがわからない状態ですから、とっとと帰るのが吉ですね」

 

「バウ!」

 

夫のシキガミが吠えながら走ってきた。どうやら話しているうちに着いたらしい。

 

「おー、カヴァスただいま。お前のマスター(お父さま)も帰っているか?」

 

「ワン!」

 

バーヴァンシーが屈んでカヴァスを撫でている光景、真に尊いの一言・・・!と言うか後で私もモフモフしよう。

 

「お父様も帰っているそうです、お母様」

 

「そうですか」

 

バーヴァンシーはカヴァスの言葉を翻訳して私に伝えてきた。カヴァスと会話できるのは主である夫と同じシキガミであるバーヴァンシーのみだ。私の場合だとカヴァスに獣人形態に変身してもらわないと会話が出来ない。そんなことよりも犬と会話するバーヴァンシー可愛い・・・!

私が鉄面皮の裏側で萌えているとバーヴァンシーが私の手荷物を運んでくれた!

おっと、私もあの人のもとに行かねば。

 

「ただいま戻りました。アナタ」

 

「おかえり、モルガン」

 

我が夫アーサーは、自室のパソコンに向かい合っていた。どうやら転生者スレを見ていたのではなく、仕事関係の連絡を取り合っていたようだ。まあ、私がダナン神族との交渉に駆り出されるくらいだ。アーサーも欧州の友人紳士たちとの打ち合わせで大変なのでしょうね。

 

「父様や母様、それにアルトリアは?」

 

「みんなもう寝ちゃったよ。アルトリアを友達とライン通話してたけど、先ほど寝かせたよ」

 

アルトリアもイギリスでの友達が出来たようで何よりです。その分、日本に連れてくることが出来ないのは心残りですが・・・。

そんな私の心の中に気付いたのか、夫は苦笑している。

 

「アナタもおつかれのようですね」

 

「ダグザと面会する羽目になった君ほどじゃないさ。全く、クトゥルーのせいで終末時計が3秒ほどは進んだぞ、これ」

 

吐き捨てるように私に告げてくる。やはり、だいぶ疲れているようですね。もともと経済人として欧州の経済界に友人が多いのに、ガイア連合に所属してからは、ヨーロッパ方面の交渉担当として現地の霊的組織、メシア教の穏健派などの交流もしているのだ。海を越えた先にあの邪神には気が気でないのだろう。

 

「分霊とはいえ、本来顕現できないような最高神の高位分霊ですからね。聞くところによるとゼウスの存在も確認されたそうです」

 

「ゼウス、有名どころだね。女神転生的に考えるとシヴァやオーディンも居そうだな」

 

夫と違って女神転生ファンでは無く、型月ファンだった私としてはあまりのビッグネームに気が遠くなる。型月だとゼウスですらグランドサーヴァント案件だったのに、この世界もとい女神転生世界は最高神が気軽に出てきて困る。

とりあえず気分転換に話を変えるとしましょうか。

 

「ところで話は戻りますがアナタの仕事の方はどうでしたか」

 

「今のところ邪神の直接の影響は無いけど漁師が奇形の魚を釣り上げたそうだよ」

 

奇形の魚・・・どう考えてもクトゥルーに汚染されていますね、それ。それがイギリス近海で取れたということは・・・。

 

「・・・アメリカから海流で流れてきましたか」

 

「ディープワンが海流を利用して欧州に流れ着くのもそう遠い未来じゃないだろうね。おかげで欧州のガイア連合の資産はだいぶ整理しなくちゃいけなくなった」

 

そう言うと夫は椅子の背もたれに寄り掛かった。と言うか私も夫にしなだれたい気分だ。

 

「僕も一応幹部の末席だから現地にいるから仕事が回されてきたからなあ」

 

「それで私たちが乗る船は何時になりそうですか?」

 

まさに、こんな所に居られるか俺は部屋に帰るぞ、と言いたい状態である。私もアルトリアや父様や母様を連れて早く帰りたい。

 

「クトゥルーのいるアメリカから避難してくるメシア教のせいで少々時間がかかりそうだよ」

 

「なぜメシア教の避難に我らガイア連合が関係するのですか?」

 

確かにメシア教とはある程度の付き合いがありましたが・・・。

 

「どうやらメシア教も内部分裂をしているみたいでメシア教の穏健派を日本で受け入れることになったのさ。これがその資料ね」

 

「これは、また・・・」

 

夫に渡されて資料を見て、絶句した。特に、頭を抱えたのは転生者たちに待望され、私もその性質からあるプロジェクトへの利用を考えていた悪魔召喚プログラムの酷い有様だ。*1

 

「念願の悪魔召喚プログラムがこの様さ。」

 

夫も気落ちしたように呟く。メガテンファンである夫としては私よりも落胆は大きいのでしょうね。

 

「本来なら僕らだけが避難するなら今すぐにもできるけど、義父さん義母さんだけでなく一族の皆を避難させようとするとてもじゃないが席が無いからね」

 

「ガイア連合も転生者である私たちを優遇しても、その家族は自己責任と言うのが基本スタンスですからねえ」

 

父様や母様が日本に引っ越すついでに一族のみんなに日本で集まろうという形で避難させようと考えていたが、中々移動の便が確保できていない。

 

「そんな訳でイギリスに来てまで仕事をしながら本来研究畑の君を多神連合の交渉に担ぎ出すことにすらなっている訳さ」

 

「こんなことならもっと早くイギリスに来ればよかったですね」

 

はあ・・・。本当に私が早く賛成していれば、いやむしろ私の方から早く提案すべきでしたね、これは。ただ言わせてもらえばメシア教の本拠地ともいえるアメリカでクトゥルーが顕現するとか思いもよらなかったです。

 

「それについては僕も判断が甘かった。ごめん」

 

「済んだことは仕方がありません。今日はもう休んで、明日に備えましょう。」

そうだな、と呟く夫の手を引き寝室に向かう。はあ、今日は泥のように眠りたいですね・・・。

 

 

 

帰国するために私たちは、仕事を済ませるために積極的に動きました。

そしてアメリカメシアンの避難や多神連合の氏子たちの避難作業を粗方終えて、もうそろそろ帰国と言うときにアメリカから全世界に向けてICBMが撃ち込まれたのです。

 

*1
本編における★俺の天使が神ぴょいスレ 26羽目。悪魔召喚プログラムと言う名の天使召喚もしくは神話生物召喚プログラムである。




モルガン・エヴァンズ
 前世では女神転生は名前しか知らず、どっぷりと型月界隈の沼に沈んでいた。ちなみに前世も女性であるがお腐れ様では無い。純粋な型月ファンであった。
夫であるアーサーが転生者であったことから他にも同じ転生者が居ないかインターネットを探していたら、★転生者雑談スレを見つけた。ちなみに自分たちと同じような型月作品の見た目をした人が居ないか期待していた。

 覚醒者になった後はこの世界に本当にオカルトが存在している事から実家の倉庫にあった魔導書を引っ張り出して解読し、魔界魔法の他に魔女術を習得した。
ちなみに実家の魔導書を日本に持ってきていたのは厨二病的なサムシングであった。

 ガイア連合においての立場は技術部門に所属していて、スキルカードの作成などを行っている。なお、ガイア連合内の型月ファンと共謀してあるプロジェクトを進めようとしていたがある問題のせいで凍結されていた。
 なお初期スキルは『霊魔集中』である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

崩壊編

メシア教によって世界各地に核ミサイルが落とされた。僕が居るイギリスもその例外でなく、ロンドンに命中し、かつての世界の中心は地獄へと変貌した。

今、僕はガイア連合の仲間と共に現地の調査に来ていた。

 

「これは酷いものだな。さっきのアレ、確かムーンビーストじゃなかったか?」

 

デモニカを纏った転生者四条翔さんがロンドンの町中を見ながらぼやく。転生者でありながら現地人によるデモニカ部隊を創り上げ指揮している人物だ。放射能汚染に対する有用な部隊として僕に同行している。元自衛官からデビルバスターに転職した人物で五島陸将からも自衛隊に戻ってこないかと誘われているらしい。もっとも本人は断っていて自衛隊にはアドバイザーとして関わっている。

ちなみに僕はデモニカを着ていない。モルガンが作ったアクセサリーで毒耐性を備えることが出来たので放射能下でも問題なく活動できている。もっとも、このロンドンで一番の問題が放射能では無い事が、メシア教過激派の業の深さだろう。

 

「なるほどね。僕は女神転生の知識はあるけどクトゥルフ神話系は触りしか知らないので」

 

「そうなんですかい?オレは前世でよくクトゥルフ神話RPGをしてたんで、なんとなくわかるんですがねえ。」

 

四条さんと軽口を話しながら、探索しているが、いつ襲われても良いように気は抜いてはいない。それに生存者がいるかもしれないかなら、常に周囲に注意を払っている。

彼とは僕が海外に出張するとき結構な割合で同行していて、たまに酒を飲みに誘ったりする間柄である。

 

「しっかし、酷い有様だな。日本の方は迎撃できたそうだが、ロンドンがこの様とはなあ。アーサーさんは、そこんとこ知ってます?」

 

「まあ、普通は同じNATO陣営の、しかもアメリカが味方にICBMを打ち込むなんて想像もできなかっただろうからね。普通はロシアや中国の方から打たれると想定したはずだし」

 

ちなみに日本政府自体もまともに対応できておらず、もっぱらガイア連合と外様の神々、そして在日米軍や自衛隊のイージス艦のおかげである。そんな中で中国が最低限の国体を維持できているのはさすが4000年の歴史という事だろうか。

 

「ロシアや中国か。中国は辛うじて迎撃できたようだが。ウラル以西はダメだったと聞くな。しっかし、大丈夫かねえ、ロシアの連中。モスクワ近辺が崩壊したという事は中央からの支援が無くなるつーわけ事だろう?暖房用の石油の量すら不足すんじゃねえか?」

 

「しかも核ミサイルが命中したことにより世界は半終末状態に突入。日本以外の電子機器などに深刻なエラーが発生する始末さ」

 

「おおう、暖房器具も駄目だろうな、そりゃ。まさに末世だな、おい」

 

まさに終末と言って遜色ないが辛うじて終末にはなっていないらしい。まあ、今のところは悪魔が出現する地帯も限定的だし、奴らが地上に顕現し続けるにも条件が居る。将来的には、拠点を一歩出たら悪魔が出現してくるというRPGのような世界になるだろう。

 

「それだけでなく過激派がネットに悪魔召喚プログラムと言う名の罠を流したから、本来貴重な通信手段であるネットが繋がっているところは悲惨なことになっているよ」

 

「まあ、イギリスだとロンドンがミサイルの直撃で一番被害がでかいが、ミサイルが落ちていない他の地方でも天使やら触手やらが出現しているらしいからなあ」

 

「それでもアメリカよりマシさ。なんせあそこは過激派と邪神の本拠地だからね。ヨーロッパには、多神連合やメシア教以外の一神教さらに魔女結社などの現地の霊的組織も居るんだ。今の僕たちの課題はこれらの組織を調整して戦線を構築し、終末に対抗することさ」

 

経済人としては頭が痛い。もともと外資系だったか顔の知っている知人友人は死んでいるか破産しているだろうし、何よりも僕たちの海外資産自体も回収が難しくなっている。特に欧州からの撤収は、この前終えたばかり。日本に運び込めなかった資本もかなりの量だろう。

まあ、ジョースター卿よろしく逆に考えるとしよう。海外の借金が無くなって良かったんだ、と。

 

「なるほど、どれもアメリカでは、最早出来ないような仕事だな」

 

「バウ!」

 

僕のシキガミ、カヴァスが吠えてきた。ちなみに僕には『御注進!』と聞こえる。僕は魔法系スキルが不得手だからそれをサポートする編成にしている。その中にはエネミーサーチ系のスキルもある。

 

「ん?ワン公か。そういやアーサーさんのシキガミは犬ですけど、人型にはなれるんですかい?」

 

「変身スキルはもっているよ。けれど戦闘スタイルよりサポートスキルガン積みの今の状態が使い勝手が良いからあまり使わないですけどね」

 

人型になれば装備が使えたり戦闘スキルの制限も解除されるが、ぶっちゃけ僕が殴った方が早い。それよりバフや回復、デバフをまいてくれた方が助かる。この状態だと僕のスピードにも付いて来れるし。

 

「それアーサーさんのような幹部級だから言えるセリフだぜ」

 

まあ、確かに幹部級はユニークスキルが使える連中がそこそこ居るからなあ。それはさておき、カヴァスが僕に伝えてきた内容が問題だ。

 

「それよりも四条さん、生存者と悪魔の反応です。カヴァスが感知しました」

 

「りょ~かい。おい、野郎ども戦闘準備だ!足引っ張んじゃねえぞ!!」

 

生存者が悪魔と共に居る。悪魔召喚プログラムで呼び出された存在なら大丈夫だが、そうでないなら襲われている可能性がある。

 

「「「「イエッサー!」」」」

 

デモニカ部隊を引き連れて僕たちは駆け出す。しばらくすると戦闘音が聞こえてきた。四条さんが手を掲げるとデモニカ部隊は静止し、周囲の警戒を始める。僕と四条さんで建物の影を見ると天使達が人々に襲い掛かっていた。恐らくメシア教過激派所属の天使たちだろう。

 

「あれは、一体の天使が襲ってくる複数の天使から人間を守っているな」

 

金色の鎧を身に纏った女性型の天使が天使プリンシパリティをリーダとした天使エンジェルの集団から人々を守っていた。どうやら高位の天使らしいが多勢無勢反撃する暇を与えられずサンドバッグ状態で人間たちの盾となっている。この様子から間違いなくメシア教のマシな天使なのは間違いなさそうだ。

 

「あのスマホを持っている奴、おそらく穏健派のサマナーだな。よし、奴さんを救出するぞ!」

 

天使に守られている集団に修道士が一人居る。確かにサマナーのようだ。しかしテンプルナイトでは無いようだし、あの立派な服装、上位の人間だな。こんな現場にいて良い奴ではないぞ。

 

「なら僕は大物を狙おう」

 

「大物?あそこには雑魚天使どもしか居ないが?」

 

エンジェルやプリンシパリティぐらいならば精鋭デモニカ部隊でも問題なく対処できる。現地人で構成されている。だが、カヴァスがもっとレベルが高い悪魔の接近を知らせてきた。

 

「さっき見つけたムーンビーストと同じ気配が接近しているそうだ」

 

「なるほど、そんじゃ頼んますわ」

 

腰に差してある二つのサーベルを抜くと僕は駆け出した。行き掛けの駄賃として何体かの天使の首を取りながら、瓦礫を飛び越えて神話生物ムーンビーストの前に降り立つ。

ヌルヌルと黒い皮膚を揺すりながら、ムーンビーストは僕に触手だらけの顔を向けてきた。目の位置が分かりずらいな。とりあえず正面から斬殺するとしよう。

 

「デカいカエルのような図体に顔に生えた触手、気持ち悪いな。悪いが、一瞬でケリをつけさせてもらう」

 

「『会心の覇気』『ダークエナジー』そして我流剣術連撃斬!」

斬斬

斬斬斬

斬斬斬斬

斬!斬!!

 

双剣から放つ12連撃でムーンビーストを切り刻む。

僕の攻撃が終えた後、ムーンビーストの巨体はブロック状に分解された。

ムーンビーストは物理耐性を持っていると聞いていたが問題なく倒せてよかった。僕はチャージ系以外の魔法スキルは使えず、物理系スキルしか使えないが、この程度なら問題なく処理できる。

 

「さて、と。とりあえずフォルマは回収してするとして、あちらは・・・終わったようだな」

 

デモニカ部隊の方に視線を向けると、彼らも戦闘終了していた。さすがわざわざ海外に出てまで悪魔退治をしていたガンギマリ集団、良い腕をしている。たしか、彼らの装備しているアサルトライフルは八百万針玉と同じ追加効果を持っている高級モデルだったな。よくもまあ、いくら自分の仲間とはいえあれだけの数の現地人に装備させたものだ。

 

「四条さん」

 

「おお、アーサーさん。そちらも終わったのか。まあ、あんたなら余裕だろうな」

 

メシア教穏健派の修道士に握手されて困惑している四条さんの元に向かった。傍にいる天使は、これは大天使クラスだな。どう見ても穏健派の重鎮の一人としか思えないが・・・って、彼は知っている人物だった。

 

「アナタもガイア連合の方ですか・・・と言うかアーサーさんじゃないですか」

 

初老の男性が朗らかに笑いかけてくる。手を差し伸べて来たので僕も応じて握手することにする。貴方は、ここにいて良い人物ではないと思うのだが・・・。

 

「知っているのか、サマナーよ」

 

「はい、他の現地組織との交渉でいろいろと手伝ってくれた方です」

 

レド司教は、メシア教イギリス支部の支部長だった人間だ。イギリスは聖公会の影響が強い国だからな。メシア教も勢力の拡張が難しかったと聞いた事がある。

初めて会ったのはエジプトの亡命者受け入れ交渉の時だったか・・・。

 

「お久しぶりです、レド司教。彼らは?」

 

「私たちが探し出した市民たちです。放射能はポズムディで治療したのですが、過激派の天使たちに襲われまして・・・。私の守護天使様もさすがに多勢に無勢でして、本当に危ないところでした。ガイア連合の皆さんには感謝しても足りないぐらいですよ」

 

「私からも感謝する。ガイア連合の者よ。さすが神の教えを守る戦士たちだ。かのターミネーター共、忌まわしい不信心者達と違ってな」

 

傍にいた天使も僕たちに礼を言ってくる。確かに神の教えはマトモなことを言っているし、文明人としては(その内容は)守るのは当然のことだが・・・メシア教の天使に言われると・・・こう・・・もにょる。

 

「名乗り遅れたな。私の名は大天使アブディエル。メシア教イギリス支部長レドの守護天使である」

 

アブディエル・・・聞いた事があるな。

元々過激派よりの大天使だったがクローンや洗脳など神の教えを蔑ろにする過激派に愛想を尽かせて穏健派に合流した結果、左遷させられたと聞くが、そうか。レド司教の仲魔となっていたのか。

会話をしているうちに被災者の収容が終わったようだ。四条さんがデモニカ部隊から完了報告を受けている。

 

「とりあえず、この人数だ。俺たちが護衛しますよ。アーサーさんもそれでよいかい?」

 

「ああ、問題ないですよ」

 

ひとまず僕たちは彼ら被災者を拠点に案内することにした。すると僕が探していた建物が傍にあったから立ち止まる。だが、すぐに落胆する事となった。

 

「・・・どうやらイギリス政府や王室は駄目なようだな。これは忙しくなるな」

 

崩壊したバッキンガム宮殿を皆が僕はポツリと呟く。そして、頭を振るとみんなと合流して

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

ロンドンでの被災者を調査拠点に預けると僕はいったん家族のもとに戻ることにした。シェルターの無いあの村より拠点の方が設備も充実している。

 

「なんだ、あの人だかりは・・・。人間だけでない、悪魔も集まっている。」

 

あの悪魔は妖精のようだな。恐らくトゥアハー・デ・ダナンに属する者たちだろう。出なければ周りにいる人間が無事なのはおかしい。しかし、いったい何が起きたんだ?悪魔の出現による恐慌状態ではなく、彼らは歓声を挙げている。

 

「あっ!?お父さま、大変です!アルトリアが、アルトリアが!」

 

赤い長髪を揺らしながらバーヴァンシーが駆け寄ってきた。

 

 

「落ち着くんだバーヴァンシー。アルトリアがどうしたというだい?それにモルガンは?」

 

「ええっと、その・・・ついて来てください!」

 

バーヴァンシーに手を引かれて、群衆の中に入っていく。その中心部には輝く両手剣を抱いたアルトリアがオロオロとしている。それとちょうど近くにモルガンが居た。

 

 

「モルガン、これはいったい!?」

 

「アーサー・・・アーサー!!」

 

モルガンが僕に抱き着いてくる。いったい何が起きたんだ。とりあえず落ち着かせなければ・・・。

 

「落ち着いて、僕のモルガン、いったんどうしたんだい」

 

「・・・アルトリアが本当にアーサー王の転生者でした」

 

首を思いっきりアルトリアの方に向ける。・・・この感覚、同胞では無いな。むしろ悪魔に近い。

 

「それは・・・メガテン的な意味で?」

 

メガテン的な意味の転生者とは、魂が神や悪魔の転生体である存在の事を指す。ただし前世の記憶は曖昧で前世の力のごく一部を使うことのできる存在だ。

 

 

「はい、メガテン的な意味です。自衛隊ニキと同じようなものです。意識が乗っ取られるという事は無いようですが・・・」

 

モルガンに何が起きた聞くと、実家の方にも天使や神話生物が沸いたらしい。町のみんなが悪魔たちに襲われている中、アルトリアは友達を救うため家の中にあったモルガンが作った礼装の剣を持ち出して悪魔に立ち向かったらしい。

元々素養はあり半覚醒状態だったアルトリアは人を襲っている悪魔を後ろから切り殺すと完全に覚醒して、引きずっていた剣を余裕で振り回すようになり町中の悪魔をどんどん倒していったそうだ。

ただ、レベルの高い悪魔も居たらしく覚醒したばかりのアルトリアでは敵いそうに無かったが、妖精ヴィヴィアンが突如として現れ、その身のMAGを剣にすべて注ぐと剣はエクスカリバーへと変貌、アルトリアもアーサー王として覚醒してレベルアップ、見事悪魔を撃退したのが今の状態のようだ。

そしてどこからか沸いてきた妖精どもがしきりにアーサー王の復活を喧伝し、周りの人たちもその熱意に飲み込まれたようだ。

 

 

「よし、わかった。少し待っていてくれ」

 

人垣を掻き分けアルトリアの元に向かう。一般人が多いな。あまりしたくはないが威圧してどかすか。・・・よし、人垣が割れたな。僕たちの愛娘の元に行く。

 

「お、お父さん。わ、わたし・・・。」

 

体が震えている。いくらアーサー王として覚醒しても本人ではない。この調子だと記憶の一部が継承されただけで殆どは力の覚醒だけのようだ。

うん、彼女は僕の、僕たちの大切な娘のアルトリアだ。何としても守らなければ・・・!!

 

「大丈夫だよ、アルトリア。僕について来ておいで」

 

アルトリアに微笑む。彼女を安心したようにコクっと頷く。僕は群衆に方に振り向くと群衆に言い放つ。

 

「お集りの諸兄!僕の娘アルトリアは少し人の熱気に酔ったようです。ですので親として休ませたいのでこの場は失礼いたします」

 

僕は、僕たち家族は家に帰っていく。将来に一抹の不安を覚えながら・・・。

 




アーサーの使った我流剣術連撃斬とは、物理属性で大威力の攻撃を4~12回行うスキルである。
すなわち『血のアンダルシア』と同質のスキルなのである。
それをダークエナジーにより3倍にしてチャージ系スキルを上乗せして攻撃するのがアーサー・エヴァンズのバトルスタイルである。
一撃系スキルより多段系スキルを好んで使用するため『プーサーかと思ったらキリトだった』『プーサーの皮を被ったブラッドレイ』と呼ばれるようになったのだ。
なお、スキル構成はほぼほぼ完成だが、レベル自体は幹部級の中では中堅よりやや下である。





よもやま話
メガテン5をプレイして思ったのはロウ陣営のまともさだった。たしかに過激派なところもあるし頭の固いが、メシア教と比べると一神教に近い存在だった。
そんな作品に出てきたアブディエルだけど、神への忠誠は絶対だけど、他人の意見を受け入れることもできるし人を導くこともする。堕天したのもルシファーの言葉ではなく人間の言葉が原因だったし、その目的も神の秩序の為。
この人本当にメガテンの天使なんですかね?
しかも一般天使自体も人間の遭難者を安全なところまで避難させてるし。
今回の天使って傲慢なところもある、過激なところもある、ただメシア教よりは遥かに正義側だよなあ。
比較対象が悪いともいうが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決意編

家の中に入る。後ろにはモルガンたちもついて来ており、バーヴァンシーが扉を閉める。

 

「アルトリア、大丈夫ですか?怪我はしてないですか?」

 

モルガンがアルトリアに駆け寄る。彼女もアルトリアの状況に心を痛めていたのだろう。珍しく焦燥している。そういう僕も冷静でいられない。さて、この状況をどうやって脱するべきか・・・。

 

「うん、大丈夫だよ、お母さん」

 

アルトリアも落ち着いたのか、モルガンの答えにしっかりと答えている。

 

「アルトリア、大事な話がある。聞いてくれるかい?」

 

「はい、わかりました」

 

いずれ説明する必要があるとは思っていたが、このようなタイミングで覚醒することになるとは・・・しかもアーサー王とは。血の因果か、それとも外見に対する僕たち転生者により信仰か。

 

「自分がアーサー王の生まれ変わりだというのはわかるね?」

 

アルトリアは、コクと頷く。自身の過去世を理解する当たり、だいぶ因子が強いようだな。それとも周囲の妖精どもが騒いでいたから、わかったのか?

 

「実は僕たちも英雄の生まれ変わりではないけど特殊な力を持つもの、覚醒者なんだ。薄々アルトリアも気付いていたと思うけどね」

 

英雄ではないけど転生者はあるのだが、そこまで言う必要は無いか。今のアルトリアに話しても混乱するだけだろう。このことはもう少し落ち着いてからで良いだろう。

 

「あの、バーヴァンシーお姉ちゃんも?」

 

元々バーヴァンシーが普通に人間じゃないみたいに感じると言っていた子だ。やはり、そこは気になるか。

僕から答えても良いが、ここはモルガンが答えた方がいいだろう。モルガンにアイコンタクトで促す。

 

「バーヴァンシーは、違う。あの子は私のシキガミ。人間ではない。ガイア連合の覚醒者にとっての大切な相棒なのです」

 

モルガンがシキガミと言う存在について説明していく。悪魔の欠片を使い造りだされた使い魔だと言う事を。

だが、アルトリアそれについてただなるほどと言った感じで頷いているだけだ。その様子のアルトリアが気になったのかバーヴァンシーがアルトリアに話しかける。

 

「アルトリア、私の事が怖くないのか?」

 

「ううん。怖くないよ、それよりホッとしているんだ」

 

アルトリアは首を振る。その言葉を聞いたバーヴァンシーはキョトンとしている。しかし、ホッとするとは一体・・・。

 

「私だけが特別じゃないんだ、って」

 

そうだ。そうだった。自分が人とは違うというのは特別感や優越感が沸くのと同時に孤独をもたらす。僕もモルガンと出会うまでは前世の知識を利用して金を儲けることばかりに専念していた。モルガンと出会ってからすべてが変わったんだ。アルトリアが生まれて変われたんだ。ガイア連合の転生者仲間と出会えて孤独なんて消えてしまったんだ。

 

「話を戻すよ。君が覚醒者になるのは、この際問題ないんだ。いつか目覚めるだろうとは僕たちも思っていたからね」

 

感慨にふけってばかりでは居られない。ただでさえ状況が悪いのに我が家にとって更に悪化しているのだ。半終末状態だって大変なのに、そこに加えてアルトリアがアーサー王だって!出来れば僕が変わってやりたかった。この子に、こんな世の終わりにイギリスの命運を背負わすなんて冗談じゃない!

 

「外のみんなの様子を見てわかっていると思うけど、みんながアーサー王に期待している。・・・一人の女の子に押し付けてよい期待では到底ないけどね」

 

決めた。とりあえず僕が汚名を被ることにしよう。

 

「出来れば僕は君を連れて日本に連れて帰りたい。アルトリアにイギリスの希望で押しつぶさせる事なんてしたくないんだ」

 

この状況でアーサー王を連れだせば人々だけじゃなくダナン神族やメシア教穏健派も良い気分をしないだろう。ガイア連合に対しても不利益になるかもしれない。だが、娘を犠牲になどしたくない!

 

「あ、あのお父さん。ベティちゃんやカーク君はどうなるんですか?」

 

「アルトリアの友達か・・・。残念だけど、連れて行くのは難しいだろうね」

 

友達か・・・この流れは良くないな。だが、しかし・・・。

 

「そんな!」

 

「何らかの神々の氏子やメシア教穏健派に所属していたりするなら融通出来るけど、ただの一般人を受け入れるのは難しいんだ」

 

「お父さん、お母さん、私は残りたいです」

 

・・・友達の事を出された時点で薄々想像はついたが、やはりか。

 

「アルトリア、何を言っているのですか!」

 

「わかっているのか、アルトリア。その選択は君を燃えている玉座に括りつけるのと同じことだよ。君と言う存在を利用しようとするものはたくさん出ても、君自身の事を思いやってくれる人なんて居るかどうかすら怪しい。そういう立場になるという事なんだよ」

 

ダグザを始めとしたダナン神族にとってはブリテンに再び君臨するための権利書、メシア教にとっても一神教の守護者扱いされているアーサーは頼るべき道標、イギリスに住む者たちにとっては自分たちの救世主。こんな連中が群がってくるのだ。

アーサー王を必要として、アルトリア個人を必要とする奴なんて友人くらいしか・・・友人しか・・・。

 

「それでも!友達を見捨てて、逃げ出したくない!みんなを助けたい!!」

 

「「「「「・・・・・・・・・」」」」」

 

家族みんなが押し黙る。アルトリアは真剣な眼差しでこちらを見つめてくる。さっきまで震えていたというのに覚悟を決めると梃子でも動かないのは、変わらないな。親としては子供の安全を確保したい。だが子供が進むべき道を決めたというのなら・・・。

 

「わかったよ、アルトリア。」

 

応援するしかないよな。当然、本当に本気かどうか確かめるが、それに諦める可能性もあるかもしれないから確かめるけどな!

 

「ッ!?アナタ、何を!」

 

モルガンが僕を問い詰めるような目で見つめてくるが、僕が見つめ返すことで、僕の内心が想像ついたのか、それ以上問い詰めてはこなかった。すまないね、モルガン。

 

「僕が何とかしよう。絶対に君を国の奴隷なんかにはさせない」

 

僕がさせない。させるものか。いくら自分の進む道を決めたとはいえ、子供なんだ。ならアルトリアが大人になるま僕がなんとかしてみせる。

 

「それにここで逃げるとアルトリアに逃げ出したアーサー王と言うレッテルが張られる可能性もある。あくまで僕が勝手に連れ去ったという形にするつもりだったけど、こうなったらやれることをトコトンやってやる、やってみるさ」

 

とりあえずは本国のガイア連合に報告してからイギリスの友人知人を当たって、体制作りかな?

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

アルトリアを寝かしつけた後、アーサーはスマホ片手にパソコンに噛り付いた。本国のガイア連合や多神連合、メシア教穏健派、更にはイギリス残存勢力にまで連絡しようとしているらしい。私、モルガンは、私自身も独自の行動を起こそうと決意する。そして、私は実家に用意した私の研究所からあるものを引っ張り出す。アーサーだけに負担をかけさせてなるものですか。

 

「アルトリアもアーサーも覚悟を決めました。なら今度は私の番ですね」

 

いくつかのケースを取り出す。ええっと、コアパーツは・・・うん、これですね。

 

「お母さま、それは?」

 

私に付き添ってくれたバーヴァンシーが取り出した荷物について聞いてくる。ふむ、せっかくですし説明しておきますか。

 

「かつてFateプロジェクトと言うのがガイア連合にありました。英霊召喚のサーヴァントを再現しようというものでしたが、当時は悪魔召喚プログラムが存在せず、元となる英雄型の悪魔が調達出来なかった為凍結されました」

 

Fateファンが集まって、オカルト的な技術を手に入れたのなら英霊召喚を試さないはずがないですからね。結局シキガミをFateキャラの見た目にするだけになりましたが。

ただ、たまに同じサーヴァントがダブったり、私たち夫婦のガワと同じ奴の製造を依頼されたときは困りましたが。

私の見た目をしたシキガミはアーサーでは無い別の人物とイチャイチャした姿を見たくないのでバーサーカー・モルガンの製造に関しては徹底的に潰しましたが。アーサーの見た目をした奴が他の人といちゃつくのは悲しいですが我慢できます。だが、私自身だけは許容できない!

 

「ですが近年日本神の封印解除でFateプロジェクトは別の形で検討することとなりました」

 

「別の形ですか?」

 

「その名は霊的国防兵器製造計画。シキガミに神々を宿して創り上げる必殺兵器です」

 

メガテンファン的にはそこは外せないらしいです。アーサーも予算を出してくれましたし。

まあ、兵器としては制約が無い悪魔を信頼できないとも言えますが。

ちなみに兵器としての束縛力こそは無いが似たような形でICBMの防衛にシキガミ体の神々が参戦しているらしいです。おかげで日本は無事なんだそうです。いつか家族みんなで無事に家へ帰りたいものです。

迎撃に参加する神々はこちらから提供するMAGとシキガミの体でGPが低くても短時間とはいえ全盛期の力を発揮できるのは、理論的に確立していたのは知っていました。ただ、制御することを考えなければ悪魔召喚プログラムを利用した分霊の方が安上がりではありそうですが。

 

「シキガミを作るのにつかわれる素体は名もなきスライム。ならば単独では顕現できない英雄の幻霊が素体でも作れるはず。何せ神格化している英雄も居ますからね。」

 

それこそ英雄神と名を馳せた連中のスライムを利用して加工すれば、最悪本人である必要すらありません。ただ、英雄としての側面強化をするには英雄所以の品は必要ですが、まあ今回は私モルガンにアーサー、そしてアルトリアが居ますからね。

 

「そして、元が人間霊であることを考えれば、制御も容易い。英雄と言う面を強調すれば信仰の代わりに人を守るのでない。英雄として人を守るために戦う悪魔、いえ、必殺の霊的国防兵器となるのです」

 

いくら悪魔と親しくなっても悪魔の倫理観であるのは変わらないですからね*1。だからこそシキガミもガチガチの制限を加えられている。その点、元が人間なれば悪魔の要素が強い霊的国防兵器でも運用の不安が軽減されます。

 

「なるほど・・・。」

 

「まあ、要するに誤解を承知で言えば多少の制限を限定することでベースとなった悪魔に寄せたシキガミですね。ですが元が英雄です。成長するシキガミとは相性が良い、そして何よりも悪魔と違って多少の自由意識があっても安心できます。まあ、令呪のような安全装置は追加で作りますけどね」

 

ようするにレベルが上がることでFGOでいうところの霊基再臨おこなうサーヴァントのような存在を作り出すという事ですね。正直悪魔のクーフーリンなど当たりを従えることが出来るなら、ほぼ意味のない存在でもあります。

 

「それで、お母さまは今からそいつら作ろうとしている訳ですか?」

 

「念のためにシキガミ素体自身はイギリスに運び込んでいましたからね。神主さんが居なくても、何とかなりますよ。後はコアとなる英傑を悪魔召喚プログラムなどを利用して呼び出し、それに合わせてフィッティングすれば完成の筈です」

 

更に私はその地の所縁の英雄をベースに使うことで信仰や地脈などのバックアップを使えるような仕様を組み込むつもりです。

地脈制御に関しては、神主に教えてもらった事を参考に造りだした自慢の術式です。

 

「こいつをアルトリアの護衛として作ります。私たちのシキガミのように自由にカスタマイズされて居る訳ではありませんが、成長の方向性が決まっている分使いやすいはず。」

 

むしろオリジナルのシキガミの様な拡張性を持たせるとなると私ではすぐに用意できない。と言うか大勢の転生者にあの性能のシキガミを提供できる神主さんは可笑しい。出会った当初からあの幅広い技能と高いレベル・・・私だってモルゴース由来の魔術書を習得した筈なんですが・・・。

 

「親和性を考えれば円卓の騎士ベースが理想ですか。イギリスの地でアーサー王の継承者がマスター。成長率にも補正が入りそうですね。」

 

見た目のベースは、普通の円卓の騎士で良いでしょうね。妖精騎士タイプは私のシキガミ候補として使う予定ですので。造形用のデータもありますし、それを元に作りますか。あの霊視ニキさんのモードレッドもデザインデータは私が作ったものですし。と言うか私の見た目モルガンだから私自身が参考モデルですからね。

 

「バーヴァンシー、私はこれから製造に入ります。貴女にも手伝ってもらいます」

 

「はい!喜んでお手伝いいたします、お母さま!」

 

ああ、可愛い私のバーヴァンシー。もう一人の私の娘のために力を貸してくださいな。

 

*1
注:バーヴァンシーとカヴァスを除く。Byモルガン

と言うか転生者にとっては自身のシキガミを例外とするのは当然である




必殺の霊的国防兵器
真・女神転生4シリーズに登場した。元々は第二次世界大戦に国を霊的側面から守る為帝国陸軍が召喚した悪魔である。依り代を持ったものがどんな悪逆な存在であろうと絶対服従と言う、まさに兵器としての性質を持つ。
モルガンが作ろうとしているコンセプトはシンプルに言うと本体に近い分霊をシキガミ並みに自由に使えるようにすると言ったものである。
そこに色々とおまけ機能をつけようとしている、それが霊的国防兵器製造計画である。
ただ、本体に近い分霊のわりにこんなガチガチな制限を受ける奴自身が希少である。
だからこそ英傑系悪魔が狙い目であるとも言える。

ぶっちゃけ、レベルの高いデビルサマナーが悪魔を従えれば済む話である。
製造理由はただ一つ、覚醒したばかりのアルトリア・エヴァンズに高レベルの忠実な悪魔を護衛に就ける為だけである。



余談
アーサーは、埼玉に家を持っているらしい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

擁立編

そこはかつて人の住む町でした。今は、メシア教過激派との戦場です。空を見上げれば天使同士の戦闘が行われています。友軍識別のために穏健派は、竜と盾の紋章を付けています。同じ天使が相手故に属性魔法や物理スキルが空中を飛び交っています。

地上に目を向ければ過激派テンプルナイトと改造人間やクローン人間の兵隊が見えます。こちらの戦力は、穏健派側のテンプルナイト、ダナン神族から来た騎士団、悪魔召喚プログラムを持ったデビルサマナーたち、そして私たちガイア連合から提供されたデモニカ部隊です。

今、私たちはイギリス統一作戦の一環としてグレートブリテン島におけるメシア教過激派の教会を襲撃しています。

 

「戦況は順調なようですね」

 

十戒プログラムの制約がある穏健派デビルサマナーを狙って過激派の人間部隊が攻撃を集中しようとしています。ですがデモニカ部隊による横殴りで打撃を受けているところも見える。空中に関しては互角のようですが地上の方は、このまま押し切れそうですね。

 

「当然です、モルガン摂政殿下。今、このイングランドにて動員できる可能な限りの戦力がここに集結しています。戦う前から既に勝つ事は決まっています」

 

私の近くにいた従卒が返答してきた。確か元イギリス軍の将校だったはず、そんな彼をしり目に戦場のある地点を見ると火柱が上がった。ほほう、アギダイン級の火力は出せていますね。

 

「・・・ガウェインは問題なく稼働していますね」

 

私はガウェインがテンプルナイトの首をはねているのを見ながら性能を確認しています。

ワイルドハントの分霊から作り出したガウェイン。ワイルドハント自体がアーサー王を含めた様々な英雄が棟梁として語られている。そこをベースにダナン神族から提供されたクーフーリンの微小分霊、これらをベースにアレは完成した。ペルソナすなわち集合無意識から作り出された武器、ブリューナクとゲイボルグのデータから作り出されたガラティーンを持たせている。

オリジナルそのものとは言えないが、もはやガウェインそのものと呼んで差支えがないぐらいには完成度が高いはずだ。

今もまた、火炎魔法でテンプルナイトを天使ごと燃やし尽くしている。

これでアルトリアの護衛としては十分なことがわかりましたね。

 

「ん、あれは・・・」

 

ふと、空を見上げると天使エンジェルが数体こちらに向かってきている。識別用の紋章がないところを見ると過激派の天使のようですね。こちら側の天使が突破を許してしまったか。

 

「チッ!メシアン共め、制空権の維持すらも出来ないのか」

 

従卒が悪態をついている。本陣に控えている部隊が迎撃準備に入る。そうだ、あの白い鴉は私が相手をするとしましょう。

 

「下がりなさい」

 

戦場で我が夫も戦っています。ここで見ているだけだと気分的によろしく無いですからね。

 

「!?・・・ハッ!」

 

本陣の部隊は私の周囲で待機している。いざと言う時、私を守るためだろう。私は手に持った杖を空に掲げる。そして生体マグネタイトを練り上げ魔力とし、口の端から呪文を紡ぐ。

 

「『コンセントレイト』『霊魔集中』・・・墜ちなさい、痴れ者ども『マハジオダイン』」

 

杖の先から多数の雷撃が放たれる。雷撃は空にいる天使に吸い寄られるように当たる。回避しようとした奴も一回躱しても次の雷撃に被弾して黒焦げになっている。

あの程度の低レベル天使には過剰でしたね。白羽エンジェルが混じっているかと思いましたが結論としては杞憂ですか。

 

「ふん、本陣を叩こうというのは良いですが、戦力評価が甘いようですね」

 

鼻で笑う。過激派との戦線がユーラシア大陸にある以上、イギリスの飛び地などこの程度ですか。

 

「これが、ガイア連合・・・!魔女モルガンの継承者!!」

 

周囲の反応がうるさい。現地人どもめ・・・強い奴らが軒並み戦死しているからか、実際に滅びに向かっているからか、アーサー王伝説への執着が強すぎる。だが、これもアルトリアの為、あの子の為に足場を作っておかなければ・・・ん?

 

「あれは・・・」

 

敵の本拠地である教会の屋根の一部が吹き飛んだ。戦場の動きが鈍化しましたね。特に過激派当たりの動きが悪くなってますね。

過激派をどんどん追い詰めていきつつも時がしばらくたった時、教会の扉が吹き飛んだ。

そこから私が愛する人が剣を掲げながら出てきた。

 

「敵の切り札である大天使は討ち取った!総員、殲滅戦に移行せよ!!」

 

エース級戦力を集めた別働隊による首狩り戦法は成功したようだ。

ガイア連合から我が夫アーサー、メシア教穏健派からはアブディエル、ダナン神族からはクーフーリン。彼らを中心に錚々たるメンバーで構成されていた。

この戦いは勝ちましたね。これでイングランドにおける過激派の影響力は排除出来ましたね。これでスコットランドへの足掛かりが出来ます。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

イングランドからメシア教過激派の影響を排除した後、僕らはイギリスを統治する組織を作り出した。壊滅したロンドンに代わって、コーンウォール州のペンデニス城を使っている。旧世代の城は結界を張る上で効率が良いのでこの観光名所を改造したらしい。アーサー王伝説にちなむならティンタジェル城にしろとも思ったが、あそこはさすがに古すぎるか。

そして僕は今会議室に向かっている。今後のイギリスの方向を決めるためガイア連合代表として参加する為だ。

プーサー其の物の服装を着ながら廊下を歩いている。本当はスーツで済ませたかったが悪魔組がこの衣装にするべきだと周りがしつこく勧めるから来ている。コスプレみたいな感じだが、まあ商人的にはそれで好感度が買えるなら例え民族衣装でも着るけどね。

 

「アーサー大総統閣下、入室いたします!」

 

モルガンが摂政扱いなので自分はこの名称になったらしい。ちなみにちょび髭の悪夢から大を付けて別者扱いにしたらしい。と言うかこれって身内の犯行だろうなあ・・・。ちなみに実態はガイア連合イギリス支部の支部長である。

会議室の中に入ると大きな円卓が部屋の中央に置いてあった。前は普通の会議室だったんだが、いつの間にかこうなった。

僕が席に座ると会議が始まる。本当は前もって座って準備していたかったが、僕が座るのが会議の始まりの合図みたいになっているのだ。

正直、アルトリアじゃなくて僕の事をアーサー王と思っているんじゃないかと疑うほどのアーサー王伝説推しである。

 

「軍部から報告します。陸軍においては各師団の生き残りを統合してデモニカ兵団を編成しております。ですが、デモニカの絶対数が不足しています。コアパーツはモルガン技術顧問殿が作ってくれますが、スーツの方が日本からの輸入だよりです。」

 

と言うかモルガンが全員分作るように考えているようだが、他にもやることあるから無理だからな?

と言うか簡易版もある程度用意しているだろうが。そもそもある程度自作しているから安く済んでいるんだぞ。

今は中華戦線の方が忙しいからそっちの方が需要がある。本国のガイア連合にライセンス生産の申請をしているけど、まだ交渉段階だしね。

 

「海軍としては記念艦ベルファストを霊的国防兵器に改装することによりパナマまでのシーレーンを辛うじてですが繋げることが出来ました。ただ搭乗員が霊的素養の関係上訓練生で構成されているのが不安要素です」

 

まさか、デモニカ戦車の技術を利用して艦これ計画ならぬKANSEN計画が実行することになるとは・・・。昔、日本でヤマトをサルベージして計画実行しようとした奴らが居たんだけど、僕たち経営陣が予算の関係で潰した計画がイギリスで蘇るとは・・・。

霊的国防兵器もそうだけど、モルガンって技術部門の色々な計画に首を突っ込みすぎてないかな?

さて、次からが一番厄介な連中の報告だ。

 

「次はメシア教イギリス支部からですね。イングランドにおける過激派の影響はおおむね排除できたといってよいでしょう。各地のシェルター避難民もライフラインの確保は出来たとみています」

 

メシア教はシェルターの製造などで避難民を匿う場所を確保している。その発言権は無視する事はできない。いずれこいつらは解体したい。

 

「トゥアハ・デ・ダナーンから告げます。ダグザの大釜による食糧製造は問題ありません。アーサー王直属の妖精騎士団を始めとしてフィオナ騎士団、赤枝の騎士団によるシェルター同士の交通路連結も計画通りです」

 

ダナン神族の奴らに食料生産やインフラを握られているのが痛い。早く産業を復活させて依存度を下げなければ・・・。こいつらも神殿の奥底に押し込めたい。

それに食料の提供するときも問題が起きたからなあ・・・。メシア教が抱える難民にダナン神族からの食料提供、その話を調整するのにだいぶ苦労をした。

と言うか貴様ら、だれがアーサー王直属騎士団だ。お前らの自称だろうが。

ダナン神族はブリテンの英雄として取り込もうとしてくるし、メシア教はメシア教でアーサー王が持たれている十字教の守護者のイメージを足掛かりにしてくるし厄介極まりない。

人類陣営も旧アイルランド側はダナン神族のイギリスを取り込む方向に賛同を示しているからなあ。まあ、あの国はイギリスに思うところがあるしな。一方の旧イギリス側は、メシア教が接近しているようだが、裏では僕たちガイア連合側に接近している。まあ、坊主は政治に口を出すなとは至言だからね。そもそも分派したとはいえ、核を撃ったのはメシア教だ。居住地を握っていなかったら仲良くはしたくないだろうしな。イギリスは元々聖公会の影響が強いしな。

 

「僕の話を聞いてほしい」

 

さて、会議の締めとして改めて僕たちの方針を告げるとするか。

円卓に座っている参加者だけでなく壁際に立っている秘書たちも僕の方に注目している。

 

「僕らの方針は、シェルター同士を繋げて町へ、町を繋げて国とする。それが僕たちの目指す未来だ」

 

全てがバラバラになった今、全てを繋ぎ直す必要がある。何せ今のままでは無駄が多すぎる。

 

「殆どの国が滅んだ今、新たな時代の国を作る必要がある。これから世界はゲームのように町を繋ぐ道に悪魔が出現するだろう。物理法則の変化によって精密機器の大半は使用できなくなるだろう。そんな世界で一番最初に新たな体制を作り出すんだ」

 

言うなれば、この国を終末後の国家のモデルケースにするんだ。日本はまだ守られているが、いずれ現体制は崩壊するだろう。

その時にイギリスと言う例があるなら日本の立て直しも速やかに行える。

「町を作ることで避難民を労働者に、街道の警備にデビルハンターを、僕たちで未来を創ろう」

 

経済と言うのは回してなんぼなんだ。経済と産業革命は、確実に人間を悪魔からの束縛を解き放つ手段だ。デモニカもあれも今では十分に工業製品と呼べる代物だ。世界は神話の時代に逆行しつつある。だが、今まで人類が築いた叡智は人間そのものを神話とは別のステージに持っていくことが出来る。デモニカがあれば英雄の才能が無くても英雄になる可能性が生まれる。神々も人類が創り上げた娯楽に熱を上げる。彼らから齎されるマッカは経済を動かす動力源となる。なら、それがうまく機能する場を、ルールを作れるならば世界は終末になって終わらない。

そして、アルトリアに渡すなら良いモノを渡したいものだ。

 




英国式必殺の霊的国防兵器第壱号ガウェイン
モルガン・エヴァンズによって作り出されたシキガミ型悪魔兵器である。火炎系のスキルを持ち、力依存系のスキルで構成されている。更に日中のみにラスタキャンディオートが発動する。
イギリス国内限定だが地脈からMAGの供給を受けることが出来る。ただし、現世の楔としてマスターは必要であり、マスターへの命令は絶対である。ちなみにマスター権は触媒を持つ者なので、他者への譲渡も出来る。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

断章:お金の話

「金が足りない」

 

我が夫アーサーがいきなりそんなことを言い出した。アフタヌーンティーを楽しんでいた時にちょっとどうかと思うが、その表情から真剣なのはわかります。少し話を聞いてみますか。

 

「どうしたのですか、いきなり」

 

私はティーカップをテーブルに置くと問いかける。

 

「労働者に払う為の給料が足りないんだ」

 

「ガイアポイントでは駄目なのですか?」

 

今の世だとガイアポイントでDDS経由での買い物した方が良いと思うのですが、マッカで給料を支払おうとしているのでしょうか?

 

「確かにあれはマッカに続いて信用のある通貨だ。だが、無視できない欠点がある」

 

「欠点?在野のデジタルサマナーにもかなり活用されていると思いますが」

 

「問題はそこさ。今日本以外でガイアポイントを手にする事が出来るのはサマナーしか居ない」

 

「ん?・・・あっ!そういうことですか。スマホですね」

 

そう言えば、ガイアポイントは海外だとスマホだけが決済できますね。今の半終末状態でもまともに動く電子機器が少ないですからね。

 

「ガイアポイントは実質電子通貨みたいなものだから、インフラが無いと活用できないからね」

 

労働者がスマホを持てないならガイアポイントでの給料の支払いが出来ない。だからと言って配布にも問題がありますしね。

 

「スマホがあるなら労働者にではなく霊的才能のある人物に渡してサマナーにした方が良いですよね」

 

使えるスマホがあるなら悪魔召喚プログラムをインストールして才能があるものに持たせてデビルハンターにした方が効率良いですからね。あと、ついでに覚醒者じゃない労働者が作業している最中に悪魔召喚プログラムが誤作動して大惨事になる可能性も無きにしも非ずですね。

 

「そういうこと。なら、マッカはどうかと言うと、供給が悪魔便りだから必要量を集めるのが難しいし、何なら色々な事に使ったりするから、全然足りないのさ」

 

「確かに日本にいた時もマッカが不足して大変でしたからね。」

 

あの時はシキガミやアイテムの素材にマッカ必要なのに、ガイア連合の皆が支払いを現金で済ませるおかげでマッカの在庫量がいつも逼迫していましたからね。

 

「ああ、あのときは大変だった。マッカを素材にアイテムを作るのに皆が日本円での決済ばっかりしていたからなあ。おかげでマッカの供給量を少しでも増やすために後方勤務だった僕が異界に潜るようになったからなあ。本当に修羅場だった」

 

本当にあの時は大変でした。私自身もこの人には無理をさせちゃいましたね。まあ、それはさておき教えておくといたしますか。

 

「ちなみにそのマッカですが、作れますよ」

 

「・・・I beg your Pardon?」

 

アーサーがポカンとした顔をしていますね。いつもの凛々しい表情もよいですがこれはこれで・・・。おっと、説明してあげないといけませんね。

 

「まずマッカとはなんだと思いますか」

 

「ええと、地獄の宰相ルキフグスによって作られた魔界の金貨だろ?悪魔にとって人間のお金は信用が置けないから金貨が重宝されていたはずだね。更にいうと銀貨は銀自体が魔除けの意味合いを持つから敬遠されていたはず」

 

なるほど、技術者の私とは視点が違いますね。アーサーにとってあくまでメガテンに出てくる貨幣と言う認識が強いですか。

 

「マッカはある種のエネルギー通貨のようなものでもありますよ」

 

「エネルギー通貨、SFゲームとかで出てくる言葉だね?そう言われると確かにそういう性質もあるね」

 

「マッカを霊的リソースとしても使用が出来ます。つまり、逆に考えますとマグネタイトとある種のフォルマがあればマッカは作り出すことが可能です」

 

金を核としてマグネタイトをフォルマや権能を使用して加工すればマッカに近いものが作れました。その結果が・・・

 

「そうして出来たのがこれです」

 

たまたまポケットに入っていた人工マッカを取り出して見せる。まさか、遊び半分で作ったこれが役に立つ日が来るとは・・・。

 

「っ!?マジで作ったの!?」

 

椅子がガタッとなるほど勢いよく立ち上がり私の手の中のマッカを見つめてくる。

 

「まあ、マッカは散々素材にしましたからね」

 

(実はQPを作ってみようとしたら偶然出来ただけなんですけどね)

 

小さい声でボソッと呟く。仲間内での型月再現プロジェクトの一環で作っただけなんですが、まさか利用価値が出てくるとは・・・。

 

「最高だ!」

 

「キャッ!?」

 

あわわわ・・・!?アーサーが我が夫が私に抱き着いてきた。い、いきなりは心の準備が!

 

「これで色々と出来なかった事が出来る!本当に君は天才だ!」

 

嬉しそうな夫の顔を見ていると少し落ち着きました。悩みが解消できたようで良かったです。あと、少しはこの体勢のままで堪能しましょう・・・。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

僕はモルガンが作ってくれたマッカを手始めにダナン神族とメシア教に配ることとした、そして、今日は執務室にて財務担当員から人工マッカの評判の報告を受けることになっていた。

 

「それでモルガンが作ったマッカの評判は、どうだい?」

 

僕は目の前の元イギリス官僚のケリーに問いかける。本当にこういう組織を運営する人間が生き残っていて助かったよ。

 

「おおむね好意的には受け要られています」

 

「ふむふむ」

 

なるほど、おおきな反発は無いみたいだね。せっかくモルガンが発明してくれたんだケチを付けられたくは無かったからね。

 

「メシア教は悪魔の手が加わっていなくて素晴らしいと言っていましたし」

 

「まあ、うんメシアンなら言いそうだね。国教会に取り込まれればよいのに」

 

まさにメシアンらしい言い草だ。まあ、十戒プログラムを使えば他の悪魔を聖霊として認めたりしている派閥も居たりするから一概に全てが悪と言える訳ではないが・・・。

やはり少しずつ切り崩していかなくては。

 

「ダナン神族の方もガイアポイントと交換できるので不満は無いそうです」

 

「そこらへんは僕らイギリス支部の働き掛けで許可を得たからね」

 

本国の経営陣にその辺の根回しはした。なんせ通貨発行権を握れる絶好の機会だ。商売人も乗るしかない。マッカと品質の変わらない人工マッカが他の悪魔にも流通すれば、更に完璧だ。

 

「これでようやく経済を再び動かすことが出来そうだね」

 

「ええ。終末の到来によって止まった金の流れが再び動き出す。しかも、この世情に適応した流れが」

 

世界中の国々が崩壊した今、世界は金本位制ならぬマッカ本位制になった。ガイアポイントが基軸通貨に一時的になるかもしれないが、アルトリア以降の時代だとガイア連合がどうなるかわからないからね。マッカによる経済の流れを作っておかねばいけない。

実際、今の日本には不安が残る。終末で借金をチャラにしたいと言っているが、メシアンの終末に備えた準備にかなり不備が出ているのを知っているとガイア連合の方にも影響が出てきそうだからなあ。僕たちの備えはメシアンより充実しているがそれでも不安は残る。

 

「それじゃあ、さっそく動いてもらえるかな?」

 

「わかりました、大総統閣下」

 

ケリーが僕の執務室から退室する。さて、それでは僕の方も動くとするか。備え付けの電話を特別用意した回線に接続して日本につなげる。

 

「もしもし、アーサーです。いつもお世話になっております。どうです、人造マッカの件は?はい、はい・・・なるほど問題なさそうですね」

 

どうやら本国の方も例の件に賛同してくれたようだ。なら、進めるとしよう。

 

「では、早速生体エナジー協会の設立を始めましょうか。これで悪魔が信仰と言う名のMAGを手に入れているように僕たちもマッカと言う形で手に入れましょう」

 

生体エナジー協会を作ることでハンター以外からもマグネタイトを回収する。そして、集めたマグネタイトはハンターに売る。そして、余ったマグネタイトからマッカを作り出す。他にも活用方法は色々あるが基本はこんなところだ。将来的にデビルハンターと言う職業が一般的になるならMAGを取り扱う企業も必要だ。組織を作っておけば、本丸であるガイア連合にもしもの事があっても分離する事で難を逃れることが出来るかもしれない。

 

「ふふ、それ通貨発行権が悪魔に握られているなんて、それこそ悪夢ですからね。信頼も、量も。終末の世が完全に到来し、新時代を迎えた時の経済規模を考えると、もっと金は必要だからね」

 

メシア穏健派のシェルターのおかげで人口は維持できているが、設備の不調などで避難民の大半が働くことが出来ないでいる。彼らに仕事を出来るようにして給料を得て、それで買い物してもらわないと経済は動かない。マッカを渡して、シェルター同士で交易する。これが新時代の経済の一つだろう。

 

「それじゃあ、そちらの方もよろしくお願いします。こちらでも準備は進めるので、では失礼します」

 

僕は受話器を戻して、電話を切る。さて、あとは実際にこの制度を動かしてみて不具合が出たら修正しないとな。

 

「何としてでもアルトリアが大きくなる前に体制と資産を作らないと・・・。そのためにはいくらでも紳士的に行動してやる」

 

ガイア連合にとってアルトリアは僕の娘と言うだけだ。アーサー王の転生者と言うのは戦力評価にプラスになるかもしれないが、あの子は同胞では無い。もしもの為の備えはあくまで僕やモルガンで用意しなければならない。自分の助けたい者は自分で助ける、それがガイア連合のスタンスなのだから。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

私は自身の研究室で夫から頼まれたマッカ製造の依頼書を持ちながら机に乗っている書類の山を見つめていた。

 

「・・・マッカ製造用アガシオンを作りますか」

 

少し仕事を持ち過ぎましたね。

 




よもやま話
マッカの製造の話を書いててふと思ったんだが、電脳異界で御霊を養殖している訳だが、換金アイテムからマッカって作り出される可能性があること。
もし出来るならアーサー大慌てやろうなあ。それでも生体エナジー協会が出来ればある程度の利権は確保できるだろうけど。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

断章:お母さんのお仕事

私の名前はアルトリア・エヴァンズです。世界が大変なことになったとき私はアーサー王の力を手に入れてしまいました。それはイギリスの人々の希望に私がなってしまったことを意味します。実は少しだけこのまま日本に帰ろうかなとも思いもしました。けど、イギリスで出会った友達や親戚の皆、そして周りの人々を見捨てる事なんて私には出来ませんでした。

このまま帰れば十中八九死んでしまう。更にお父さんが言うには死ぬよりも酷いことになる可能性もあるそうです。触手の化け物とかが出てきた時から嫌な予感はしていましたが、それの裏付けが取れてしまいました。だから、みんなを助けるために私は現代のアーサー王になることを決めました。

その結果、お父さんやお母さんにお姉ちゃん達に迷惑をかけてしまったのは申し訳ないです。お父さんもお母さんも私の為に色々な仕事をしているそうです。だから、色々と知ろうと思いました。

 

「ねえ、お母さんのお仕事見学してもいい?」

 

久しぶりに家族が集まった食卓で私はお母さんにお願いしました。

 

「それは構いませんが、どうしてそう思ったのですか?」

 

「お父さんには戦い方とか経済学みたいなの教えてくれているけど、お母さんも色々やっているって聞いて気になったの」

 

お父さんは仕事の合間に私に組織の運営に教えてくれたり稽古を付けたりしてくれているけどお母さんからは、そういうのは無かった。まあ、お母さんは技術者だから私が勉強しなければいけない内容からはズレてるしね。

 

「なるほど、そういうことなら今度連れて行ってあげますね」

 

「それは良い。学べる内に学んだほうが良いからね。今のご時世いつどうなるかわからない。それに備えるのは大切だよ」

 

お父さんも右手にコーヒーカップを左手に書類を持ちながら賛成してくれた。

 

「はい!」

 

よし、がんばるぞ。とりあえず今は目の前のご飯を片付けよう。・・・偶にはお米も食べたいなあ。

 

 

 

 

 

 

見学当日、私はお母さんが運転する車に乗って目的地に向かっています。道路に放置されていた車も片付けられて、自衛能力があるなら車での移動も可能となっているみたい。お父さんがインフラを繋げなければ経済が動かないって言うので優先的に進められたらしい。ちなみにたまに出てくる悪魔はお母さんが車の中から魔法で吹き飛ばしている。

 

「ではまず陸軍工廠ですね」

 

結構大きな建物の前に車が止まった。ここが目的地なんだ。でも今お母さんが言った内容って・・・。

 

「おおう、だいぶ厳つい処から行くんだね」

 

まあ、このご時世なら必要なものはそういう暴力装置が優先なのは当たり前か。

 

「まあ、デビルハンターの数を揃えるにもここは重要な施設ですからね」

 

そういってお母さんが建物の中に入って行くのでそれに着いて行く。施設の奥に進むと大きな音が聞こえてきた。どうやら工業機械が動いている音かな?

 

「車が沢山・・・あれって動くの?」

 

目の前に車が沢山あった。ただ全てが完成品という訳では無く中古車だと思われるのもある。それらに作業員が何らかの作業をしているのが見て取れる。でも、終末が着た世界では機械類は殆ど動かないって聞いたんだけどなあ。

 

「あれは簡易デモニカ装甲車です。本国の奴と違って悪魔召喚プログラムを内蔵しただけで終末の世で動くだけで普通の乗用車と変わりがありません」

 

「えー・・・そんなもので大丈夫なの?」

 

それって装甲車って呼んでよいの?ただの車で悪魔が出てくる外を旅するってかなり危険だと思うんだけど・・・あっ、お母さんみたいに力がある人は大丈夫か。

 

「動くというのが大事なのですよ。デビルサマナーなりデモニカ兵なりを乗せておけば悪魔の対策にもなりますしね」

 

そういうことかー。確かにそれなら問題もなさそうだね。もしかしたら私がクエストやる時も車が使えるのかな?

 

「なるほど、これがお母さんの仕事なの?」

 

「いえ、これはアーサー、お父さんの仕事ですね。最初は関わっていましたが今ここで行っているのはデモニカ作成ですね」

 

まあ、悪魔召喚プログラムを入れるだけなら簡単だからかな。と言うかインフラ整備は、やっぱりお父さん肝いりの計画なんだ。これが各シェルターや人外ハンターに出回れば、きっと楽になるね。

 

「デモニカって対悪魔用のパワードスーツだっけ?オカルトなのに近未来的なんだね」

 

元々デモニカはお父さんとお母さんが所属しているガイアグループと言うところが作った兵器だ。これの凄い処は素養が無い人でも悪魔を見ることと倒すことが可能になるという事だ。一緒にクエストを受けたサマナーの人もデモニカが欲しいって言ってたなあ。

ちなみにお母さんが言うにスマホやら電子機器を回収して悪魔召喚?

 

「それでは次の工廠に行きましょう」

 

そう言うとお母さんは部屋を出て地下を目指していく。と言うか結構強行軍なんだね。まあ、今日しか時間が取れないから回れるところは回るっては聞いていたけど・・・なぜ地下に?

 

「お母さん、これは?」

 

地下のある一室に出ると変な空間に出た。部屋の真ん中にストーンヘンジみたいな石柱が立っている。なんか鳥居みたいだなあ。けど石柱にコードがたくさん付いているからオーパーツかなんかなのかな?

 

「ターミナル製造プロジェクトの一環で作り出した妖精の環と言う転移ゲートですよ」

 

「凄いSF!?」

 

ガイアグループってこんなものまでつくれるんだ!?でも、これだけ技術力があってもメシア教過激派に勝ちきれないなんて・・・

 

「ぶっちゃけ原理的にはマイクラのネザーですけどね」

 

「・・・なんかそう聞くと地味だね」

 

マイクラのネザーワープって・・・。ちなみにお母さんに詳しく聞くと妖精の異界を経由して道を縮めているらしい。取り替えっことか迷い込んだら全く別の場所に出てくる怪異などを参考に造りだしたらしい。ちなみに工廠と工房にしかつながっていないらしい。

 

「これでも画期的だと思うんですけどね。まあ、悪魔が普通に出現する世の中になったらターミナルも問題なく稼働できると思うので、そのうち不要になるとは自分でも思いますが」

 

・・・それってその内これの存在意味がなくなるって言っているような。私はトロッコに揺られながらそんなことを考える。こんなところもマイクラなのか・・・。

 

「次は、ここですね」

 

そう言うとお母さんはトロッコから降りてゲートを潜っていた。私もそれに続くと出た場所はさっきと同じように見える。けど、部屋の外を出るとさっきとは違う場所だというのが分かる。と言うかなんか匂いが・・・。

 

「潮の香り・・・もしかして海軍工廠?」

 

「その通りです。確か丁度整備の為に今日停泊しているはずですが・・・・あ、ありましたね」

 

お母さんが扉を開けた先には船があった。

 

「あれって、軍艦?しかも古いタイプじゃなかったっけ?」

 

これってイージス艦とかの現代の船じゃないよね。世界大戦の時とかのそういう船だ。そう言えば、お父さんが古い船はオカルトとの適合率が高いから実験艦を動かしているって言ってたけど、これのこと?

 

「巡洋艦ベルファスト、テムズ川に記念艦として停留していたのを回収してオカルト改修したのが、この船です」

 

記念艦なんだ。と言うかそういうのは戦艦とかじゃないのかな?しかも核が落ちたロンドンから持ってきたのか、これ。そう私が感嘆しているとこの場に似つかわしいメイド服を着た銀髪の女性が歩いてきた。・・・いや、あれをメイド服と言っていいんだろうか上半身がちょっと・・・胸の上側が丸見えだし・・・と言うか大きいなあ・・・。

 

「お久しぶりですわ、モルガン殿下」

 

メイドさんがスカートの裾を摘みながらお辞儀をしてくる。こういうのテレビでしか見たことがなったけど、これが本物かー。

 

「ああ、ベルファストですか。機能に不具合とかはありますか?」

 

船と同じ名前?偶然なのかな?

 

「今のところございません。艦長やクルーの皆様にも大切にしてくれています」

 

「それは良かったですね」

 

んん?艦長やクルー?もしかしてこの人の正体は・・・・

 

「お母さん、この人は?」

 

「彼女はベルファストの中枢ユニットであるシキガミです。艦体の機能を維持しつつもレベルを上げることによる戦闘能力向上を可能とすることを目指して造られました」

 

「そうなんだ、いろいろ複雑なんだね」

 

この人もシキガミなんだ。バーヴァンシーお姉ちゃんやガウェインみたいに人が作った悪魔兵器・・・本当に見た目は人間にしか見えないなあ。

 

「説明しようとすると時間が無くなるくらいにはね。ベルファスト、紹介しましょう。こちらが私の娘アルトリアです」

 

「お初お目にかかります陛下。巡洋艦ベルファストと申します。以後よろしくお願いしたします」

 

おおう、跪いてきた。こういう事にもなれないとなあー。人外ハンターの同僚も私を持ち上げてくるけど、こういうのに比べればまだ頼れる仲間って感じだったからなあ。こう、王様万歳って感じの対応されるとちょっと恥ずかしい・・・。あっ、返事をしてあげないと。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

ちょっと舌が回らなかったけど何とか挨拶する。こういう場合どういうのが正解なんだろう?

 

「それではベルファスト。私たちは他のところの視察がありますので、ここらで失礼しますよ。・・・アルトリアも」

 

お母さんが話を切り上げた。私に助け船を出してくれたのかな?・・・うん、もっとがんばらないと。

 

「あっ、はい!失礼しますね、艦長さんや皆さんにもよろしくお願いします」

 

そうして私は海軍工廠を後にしてまたトロッコに乗っています。

 

「凄いメイドさんだったね。あの人が軍艦ってイメージが合わないなあ」

 

「そのうち慣れますよ」

 

なんかお母さんが苦笑いをしている。なんでだろうと首をかしげていると現世に出るゲートが見えてきた。次はあそこかな?

 

「さて、他にも細かい仕事にも関わっては居ますがキリが無いので、最後は私の工房に行きます」

 

スマホの時計を見てみると結構いい時間なのがわかる。確かに回れて後一か所かな。そうしてゲートを潜るとここは今までの部屋とは雰囲気が違っていた。

 

「うわぁ・・・メルヘンみたいな感じかと思ったら意外とSFチックなんだね」

 

ゲートが出た先はアニメで出てくる秘密基地みたいな感じだ。魔法使いの工房と言う印象が殆ど無いんだけど。印象としてはさっきまでの施設よりは洗練されているように見えるなあ。これって工房と言っているけどお母さんの研究所みたいなものだから、そんな印象を感じるかな。

 

(カルデアやエルメロイ2世の部屋などを参考にしましたからね。)

 

ん?なんか言ったのかな。ちょっと声が小さくて聞き取れなかったな。んん?なんか、ここにあるのが似つかわしいような物体が・・・なぜにスロットマシンが?休憩室とかにあるならまだ理解できるけどガラス張りの部屋の真ん中にどんと置いてあるその姿は違和感しか感じないんだけど。

 

「お母さん、これは?」

 

「それはマッカ製造用のアガシオンです。スロットマシンみたいな見た目ですけどちゃんと使い魔として使えるんですよ」

 

使い魔・・・これが?なんかカードゲームのモンスターみたいだなあ。あ、コインを吐き出し始めた。あれは最近流通し始めたブリテンマッカだね。こうやって作っているのかあ。

おっ、あっちにもなんかある。なんだろう機関車に石炭を入れる場所みたいな感じだけど竈か何かなのかな?

 

「こっちは何?」

 

「それは霊装兵器を作るための道具ですよ。これで作られたアイテムはデビルサマナーや英傑種族の悪魔、さらにはシキガミが装備出来るんですよ」

 

これで武器を作っているのか。・・・けど近場に弓矢があるけどまさかこれもこの竈を利用して作ったの?さすがに矢じり部分だけだと思うけどオカルトの竈だからなあ。

 

「色々あるんだねえ」

 

「そりゃまあ、ガイア連合の技術力は世界屈指ですからね。私はそこの技術部門にいましたから、このイギリスでの開発の総責任者みたいなものです」

 

改めて聞くとお母さんもとんでもないなあ。なんかイギリスの人たちってアーサー王の転生者である私を持て囃しているけど今この国で一番尊敬されるべきはうちの両親では?

 

「今この国で使われているオカルトアイテムの大半に関わっていますよ」

 

「・・・お母さん、大丈夫?無理していない?」

 

いや、本当に体壊さないか心配なんだけど。しかもお父さんもお母さんもたまに戦場に出ているって聞くし。

 

「大丈夫ですよ、これくらい。日本では私以上のレベルで私やアーサー以上に働いている霊能力者が居ますから」

 

「お母さんとお父さんより?・・・大丈夫?その人生きてる?」

 

「生きてるんじゃねーかな。と言うか神主なら過労死してもリカームで生き返るだろ」

 

「お姉ちゃん!?どうして、ここに?」

 

そこにはバーヴァンシーお姉ちゃんが居た。いつもの綺麗な洋服じゃなくてローブに身を包んでいる。

 

「ん?そりゃ、私はお母さまのシキガミだからよ。色々アイテム制作の助手をしているのさ」

 

なるほど、お洒落さんなお姉ちゃんが汚れていたローブを着ているのはそんな理由だったのか。しかし、カヴァスといい、さっきのベルファストさんといい、ガウェインといいシキガミって色々な仕様があるんだなあ。

 

「バーヴァンシー、アレの準備は出来ていますか?」

 

「はい、保管庫から出して降臨台にセットしてあります」

 

「お母さん、あれって?」

 

あれって何だろう?ここに来るまで色々なモノが置いてあって想像がつかないや。

 

「英国霊的国防兵器参号の事ですよ」

 

「霊的国防兵器ってガウェインと同じ存在・・・」

 

私が人外ハンターとして働き始めたころにお母さんたちが私につけてくれた英国決戦兵器・・・そういえば、私がある程度レベルが上がった時、再調整を受けるって言っていたっけ。

 

「ガウェインも対軍用にしないと行けなくなりましたからね。ICBMもあの日以降は基本的に中国や日本だけに撃ち込まれていますが、ブリテンが復興したら再び目標に設定される可能性がありますので、迎撃用の霊的国防兵器が必要となった訳です」

 

・・・やっぱり世界は大変なことになってるんだね。私たちが居るイギリスもだいぶ落ち着いたけど、それでも終末前に比べれば修羅の国なのには違いが無いからなあ。日本もいつまでもつ事やら・・・。

 

「ちなみに、今作っている此奴は私の戦闘スタイル元にもなっている奴だから製造は比較的楽だぞ」

 

へえー・・・。お姉ちゃんの戦闘スタイル元ってクギとトンカチの丑の刻参りだったよね?そんなモチーフのイギリス英雄って居たっけ?

 

「所以と云われがある奴無いと難易度が跳ね上がりますからね。ちなみにメシアンから提供された灰からはジャンヌ・ダルクが製造可能だったりします。・・・遺灰は川に流されたと思っていたのですがね」

 

それってつまり遺灰をこっそり回収してたという事だよね?・・・メシア教って昔からアレなの?それとも別のところからメシア教が入手したのかな。まあ、今の世の中を見るとこっそり盗んだと言われても納得しかないけど。

 

「では、最後の調整に入るとしますか。アルトリアは、バーヴァンシーに私の工房を案内してもらいなさい」

 

「わかった。ところでどんなのを作っているの?」

 

ああ、やっぱり結構無理して私の時間を捻出してくれたんだ。私も頑張らないと!

 

「霊的国防兵器参号は、トリスタン。円卓の騎士ですよ。もっとも本来はアーラシュあたりを作りたかったのですが、ここはイギリスですからね」

 

「円卓の騎士トリスタン・・・」

 

・・・クギとハンマー要素どこ!?

 




モルガンはイギリスにおけるショタおじポジションになりつつありますね。世界最高峰クラスの技術力を持つ研究者の一人、海外に居るなら現地で酷使されるのも是非もナイヨネ!




ちなみに外伝をあと一話書いたら1~2話で完結予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

断章:騎士姫の武者修行

アルトリア・ペンドラゴンやアルトリア・キャスターを見てて幸せにしたいなと思っていたけど、そもそもキャラ的には曇らせた方が美味しいよなって言う話



ちなみにオリジナルスキルが出ます。


野原の上で私はお父さんと鍛錬をしている。大地を蹴り、両手に抱えた剣を振りぬく。

 

「はあぁ!」

 

「ほい、やっ、とっ」

 

剣先が逸らされた!わわ、重心が崩され・・・足払いだ!?転ばされそうになったところで自分で後ろに転がり込んでダメージを軽減する。

 

「く~・・・セイヤー!」

 

もう一度駈け出して切りかかる。今度こそ、腰にあるもう一本のサーベルを抜かせてみせる!

 

「はい、よっと。よしここまでにしよう」

 

また、逸らされた・・・って、もう!?お父さんは右手に持っていた剣をもう鞘に仕舞っちゃっている。

 

「む~、まだまだいけます!」

 

「そろそろ時間だよ、アルトリア。君もクエストがあるのだろう?」

 

えっ、時間?腕時計を見る。うん、そろそろ準備しないとやばい。

 

「あっ!そうだった!」

 

「ほらシャワーを浴びてご飯を食べたら出発しなさい」

 

「はーい」

 

 

「ちなみに今日の朝食は日本からお米が手に入ったから和食だよ」

 

久しぶりの和食!あっ、でも食べ過ぎないようにしないと。クエスト終わったら吐くかもしれないし。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

街道を馬と車が走行している。私は馬に、パーティーメンバーのベティちゃんは車に乗っている。ちなみに車の運転はお父さんのシキガミカヴァスが変化して運転している。なお、私が騎乗している馬はダナン神族からプレゼントされた悪魔である。お母さん曰くペンドラゴンと言う悪魔を白馬に変化させたものらしい。三蔵法師の馬も龍だった逸話があるから多神連合経由の術式で変化させたものだと思われると、私に教えてくれた。

 

「という事で今日の朝食は白米とみそ汁とシャケの定番メニューだったんだ」

 

「へえ、日本の朝食はヘルシーと聞くとけど本当にそうなのね」

 

車の窓を開けてひざ掛けながらベティちゃんは受け答えてくれた。しかし、ヘルシーなのかなあ?

 

「そうかな?・・・まあ、油を使う機会は少ないか。」

 

「それにしても食事事情もだいぶ改善したわね。一時なんて食事制限を掛けられてたわね。本当にダグザの大釜様々だわ」

 

食事の供給元であるメシアンシェルターの生産設備が機能不全で酷いときは一日一食のシェルターもあったそうだ。お父さんがインフラの復活を優先しなければどうなっていたことやら。今私たちが走っている道だって少し前までは放棄された車がたくさんあったのが今は綺麗になっている。各シェルターのサマナーがキャラバンみたいに物資を融通しあっているので生活水準も上がっている。

 

「まあ、リソース的に小麦粉優先だからお米は日本からの輸入品だよりなんだけどね」

 

けど、イギリスにとって米は主食じゃないからなあ。それより問題なのはリソース不足によるイギリス料理のメシマズ回帰だと思う。一度、訪れたあるシェルターのあれは、うん、雑だった。アレを食べて一刻も早く生活水準を少しでも改善すべきだと思ったものである。ちなみにその時同伴していたお母さんが少ない材料でも美味しいご飯を作ったら、そこに居る人たちは喜んでいたなあ。

 

「お嬢様、間もなくクエストの目的地です」

 

「あっ本当ですね。ありがとう、カヴァス」

 

目的の町が見えてきた。町の入り口には大きめの車両が数台と20人くらいの人影が見える。どうやら同じクエストを受けたサマナーたちだね。騎士団や軍人の姿は見えないか、普通なら何人か監督役として参加しているんだけど今回は不参加みたい。まあ、ドーバートンネル辺りが最近騒がしいと聞くし、その影響かな?

とりあえず、挨拶する為に私たちも近づこう。

 

「おっ、我らが王様、君も来たのか」

 

あっ、以前の別のクエストでご一緒したサマナーだ。この人が参加しているってことはイギリスデビルサマナーの上位陣が集まってるみたい。まあ、軍の支援なしで町の解放作戦なんてある程度レベルが無いと任せれないだろうし、当然か。

 

「はい、私たちもこのクエストを受注しました」

 

「しかし良いのか?また見たくないもの見てしまう事になりかねんぞ?」

 

あー・・・確かにそうですね。けど、それは覚悟しているし何よりも経験済みなのは、この人も知っているはず・・・。そっか、心配してくれているのか。アーサー王の再臨なんて言われても私が子供なのは変わらないものね。

 

「今この世界でそれが見る必要がないところがどこにありますか?日本を含めて」

 

メシア過激派の世界全土の悪魔召喚プログラム付ICBMで世界は冒涜と外道に包まれたと言っても良い。

 

「・・・そうだな。そうだよな。悪い、忘れてくれ。ただ、無理そうなら後退しても良いからな」

 

「お気持ちありがとうございます。でも、私も力を持つ者なら出来る事をします」

 

力を持っているなら戦わなければいけない。戦わない自由もあると言うけど、そうすれば人は死ぬ。たかだが私一人だけど、それでも目の前の危機を払うことが出来る。それを積み重ねて研鑽していければ更に救うことが出来る。そう、私ならそれが出来るのだ。逃げる訳にはいかないし、見捨てる事も出来ない。

私たちは自分たちの担当地区に向かった。そこは学校だ。今回のクエストは町に巣食う悪魔を駆逐することでシェルタータウンを形成することだ。

シェルタータウンとは町の中にあるシェルター同士で交流できるようにした街だ。この次の段階になると結界を張って、塀で町を囲み、地上の町を再形成していくことになる。これが出来ればシェルター同士での物資の融通や輸出入がぐんと楽になる。

 

「お嬢様、強い気配はありませんが、邪神系の穢れた匂いはかなりしますね。」

 

カヴァスのエネミーサーチが終わったみたい。そうか、邪神系か・・・タコやイカが本格的に苦手になりそうだ。

 

「うわー、それ学校のパソコンに罠の悪魔召喚プログラムがインストールされた奴じゃん」

 

ベティちゃんの意見に同意だよ、これは。この街にICBMは落ちていないから邪神の汚染経由なんてそれぐらいだよなあ。コーンウォールやグロスターシャーから離れているから、そこからの汚染じゃないだろうし。何よりもあそこらへんは既に浄化済みだ。

しかし邪神系なら一番重要なことがある。

 

「・・・人間の気配はどう?」

 

「まともな人間は居ませんな。残り香程度ならありますがほぼ手遅れと言っても良いでしょう」

 

生き残りは無し、か。メシア過激派の改造人間とかも相手をするのもきついけど、これはこれで来るな・・・。

 

「そっか。・・・聖剣、抜刀」

 

波立っていた心が落ち着いていく。私の抜いたソードは、その刀身を輝かせる。私の剣エクスカリバー、私の力にしてブリテンの王権、そして私の運命を決めたモノ。

 

「前から思っていたけど大丈夫なのか、それ?」

 

ベティちゃんが私に心配そうな顔を見せてくる。恐らく私の表情が曇っていたのが急に平静になった事を気にしているのだろう。

 

「お父さんが言うには精神異常耐性と言うスキルが備わるだけだと聞いています。お母さんもこのスキルが直接の原因で問題が発生する可能性は少ないと言っていました」

 

これのおかげで戦闘中はSANチェックが発生することは無い。まあ、聖剣をしまっちゃうと耐性は無くなるから、その間の事を思い出して気持ち悪くなるのも慣れたものだ。

 

「まあ、無理だけはしないでね。・・・そんじゃ頼むわよ、ジャック」

 

ベティちゃんは腕に付けた悪魔召喚プログラム付スマホを弄る。お母さん曰くアームターミナルと呼ぶ形式らしい。

 

SAMON DEVIL

 

電子音と共に空中に魔法陣が形成される。そこから赤い光の粒子が溢れ、集まり形を形成していく。そして悪魔が召喚された。

 

「ヒーホー!丸焼きにしてやるホー!」

 

ジャックランタンが元気よく宙を飛び回る。愛称ジャック君である。ベティちゃんの頼れる相棒だ。

 

「お嬢様、中の悪魔が近づいています。こちらの気付いたというよりは徘徊ルートが玄関近くにあったという様子ですが」

 

パーティ全員が入口の方に向かって身構える。耳を澄ますと僅かながらも足音がする。そうしてしばらくするとガラス扉の向こう側にはゾンビが居た。私たちはアイコンタクトを取るとドアを静かに上げて近寄る。む、私たちに気付いた。MAG感知タイプのようですね、ならば・・・。

私は急加速して、近寄る。ゾンビだからこそスピードが遅い。そして、手に持った剣でその首を切り落とした。

 

斬!

 

手に肉と骨を切った感触が感じながらゾンビが崩れ落ちるのを見届ける。どうやら不死性はそこまで強くないみたい。しかし、このゾンビは・・・。

 

「学生服・・・さながら学生ゾンビという訳ですか」

 

「死体が消えないと言うと元人間なんすかね?」

 

ベティちゃんがカヴァスに質問する。お父さんのシキガミだけあって色々知識も豊富だから、頼りになる我が家のペットだ。・・・いや、この人狼形態でペットと言うのもどうかと思うけど。

 

「ふむ、この場合は人間が素体となっているな。MAGだけで構成されているなら核となるフォルマのドロップぐらいだからな。もっとも人間の体が完全に食われた状態だと悪魔と変わらんから、そこは覚えておけ、小娘」

 

そうか、人間ですか・・・。このご時世では珍しくないとはいえ、酷いものです。せめて出来る限りは人間らしく弔ってやらないと。

 

「ベティ、亡骸を葬ってやってください」

 

「うし、ジャック頼むわ。・・・晩飯は魚にするか」

 

「ヒーホー、『アギ』だホー!」

 

ジャック君が遺体を火葬にする。本当は土葬にしてあげたかった。でも、そうしたらまた悪魔として復活する可能性がある、何せゾンビ化してしまった死体だ。これが今できる限界ですね。

 

「・・・前までなら天国に魂が行くことを祈るんですけどね」

 

天国に連れて行ってくれるはずの天使様、それに起こされた凶行を思えば、聖なる主には悪いですが天国に行って欲しいと願うことは出来ません。

 

「そうね、天国にいる天使たちが現世に降りてきたせいであたしらはこの様だからね」

 

「お嬢様それなら彼らの来世を祈りましょう」

 

「そうだね。ありがとう、カヴァス」

 

輪廻転生・・・それがありましたか。今度はこんな世界で生まれない事を祈りましょう。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

そうして、私たちは奥に進んでいく。道中何体か悪魔と遭遇した。数はそこそこ居たが問題なく排除できた。学校だからもう少し数が居ると思いましたが、結構な数が外に放流されて居そうですね。それらしき痕跡も残されていますし。

 

「しっかし、グールにゾンビ、それにスライム擬きまで世界の終末にバイオハザードまで同時に起こらなくても良いんだけど!」

 

ベティちゃんがグールを撃ち殺しながら喚いた。確かにゲームのバイオみたいなラインナップですね。コーンウォールのインスマスだったら魚人とかが居たから邪神系って納得感があったけどなあ。まあ、冒涜的なのはどっちもどっちか。

 

「小娘、スライム擬きではない。落し子だ、同一視して良い存在ではない」

 

カヴァスがベティちゃんに説明する。もう少し私に対する反応みたいにベティちゃんにも優しくしてくれればよいのに。

 

「確かにスライムと違って耐性が硬いですね。ところでこいつらはやはり・・・」

 

普通の外道スライムは耐性が貧弱だ。断じて、こいつらのようにガチガチでは無い。まあ、私の聖剣で耐性は貫通出来るんですけどね?

そして、落とし子、すなわちこいつらは此処で生まれたという事だ。それが意味するのは・・・。

 

「おそらく想像の通りかと」

 

その後も悪魔を借りつつカヴァスの嗅覚と悪魔召喚プログラムのアプリで悪魔の発生源に向かう。

 

「ここね、エネミーソナーの反応的にここが中枢ね」

 

ここはパソコン学習用の教室か。予想通りと言ったら予想通りか。しかし、謎の肉塊がはみ出している扉・・・やっぱり半分異界化しているようですね。ここの発生源を駆逐すれば私たちのクエストは達成ですが、色々と覚悟がいりますね。

 

「ベティ、いけますか?私に任せても良いのですよ?」

 

少なくとも精神耐性がある私なら問題なく対処できる筈です。ベティの顔もだいぶ青くなっているから無理はさせたくないのですが・・・。

 

「正直吐く自信しかないけどやるしかないでしょ。ここを放置していたら最悪異界が発生するわ。それに貴女だけにキツイ事を任せきりなんて出来ないわ」

 

・・・本当に私は周りの人たちに恵まれていますね。だからこそ、力在る者の責務を果たさなければ、救わないと、助けないと、私はその為にある。ああ・・・しんどいと感じる事が出来ない。聖剣は私に挫折を許さない。王の魂は私に逃避を許さない。

だけど友達や家族がいるなら私は私でいられる。

 

「ありがとう。では、3、2、1で行きます」

 

ジャック君の『アギラオ』とカヴァスの『ファイアブレス』で扉を吹き飛ばす。その後に私とベティちゃんが部屋に突入する。

そこは冒涜的な光景が広がっていた。

暗闇の中に輝くモニター、蠢く肉の床、そして中央に居座る触手の塊。触手の肉塊に人間の姿が見える。手と足は肉の塊に埋もれて見えない。もっとも手と足が残っているとは限らないが。

 

「触手の化け物ですか。カヴァス、アレに取り込まれている人たちは?」

 

「悪魔化しておりますな。もはや手遅れ、介錯してやるのが慈悲かと」

 

やはり、人間の見た目をしていても既に変異していますか。まあ、当然ですね。普通の人間のままなら栄養失調やら感染症で死んでしまいますからね。それでも生きているという事は既に人間の範疇をはみ出たという事、嫌な真実です。ベティちゃんも思わず口に左手を当てています。それでも抱えていた銃を取り落していない事から戦闘は問題なさそうですね。

 

「くぅー!口の中が酸っぱい!アル、来るわよ!」

 

触手が蠢き始めた。私たちを排除するか、いや取り込むつもりでしょうね。何せ私たちは覚醒者だ。奴にとってはとびっきりのご馳走でしょうね。

触手が私たちに向かって伸びてくる。

 

「邪魔です『ヒートウェイブ』!」

 

触手の群れを空中で切り落とす。だが、まだまだ数はありますね。悪魔も無事な触手を攻撃に用いようしているのが見て取れる。

 

「『ニードルショット』!ジャック、マハラギで焼き払いなさい!」

 

ベティちゃんとジャックちゃんも攻撃を開始する。近づいてきた触手をジャック君が焼き払って、ベティちゃんの射撃スキルが敵の体に命中する。

当然、その攻撃は人間っぽい見た目のパーツにも命中する。青ざめた肌から想像は付いたけど、もはや赤い血は流れていないか。そして、その口から轟く叫び声も人間と獣が合わさったような声だ。

ある程度ダメージを与えると人間パーツから落し子が召喚された。やはり、そうやって数を作っていたようですね。そして落し子がある程度成長するとグールやゾンビにハイレベルアップするという訳ですか。

 

「数は多いですが個々の性能は低いですな。軍勢タイプのエネミーと表現すべきでしょう」

 

「なら、範囲攻撃で一掃します。」

 

私は聖剣を胸の前に構える。エクスカリバーの周りに光の粒子が舞い、刀身が虹色に輝きつつある。松明100本分とも称されるその輝きは部屋の中の闇を拭い去る。光る聖剣を構える、そしてスキル名を詠唱し、悪魔に向かって剣を振りぬいた。

 

「『EX・キャリバー』!薙ぎはらえぇぇぇ!!」

 

刀剣から放たれた光は触手の悪魔を飲み込む。地脈から汲み出された力を聖剣に束ねて解き放つ、火氷雷衝撃の4つの属性を併せ持つ貫通攻撃、私のみが使える専用スキルだ。お父さん曰く脳筋属性アタッカースキルとすらよばれる攻撃は、悪魔を消し去った。ついでに部屋の壁もぶち破ったので外からの光が部屋を照らしていく、どうやら終わったようですね。

 

「ふぃー・・・口の中がイガイガする。これなら天使狩りのクエストの方が良かったかしら?」

 

「ベティちゃん、天使も天使で改造人間を相手にする可能性もありますよ?」

 

「同じ被害者でも敵意を飛ばしてくる分マシよマシ。ケイの奴が日本からHENTAIな本を取り寄せてたのをこっそり見た事あるけど、あれよりもリアルな分悍ましさが勝つわね。」

 

「そういうの過激なのは創作だから楽しめるんだと思うよ」

 

・・・この軽口も自己暗示や欺瞞の類でしょうね。まあ、そうやって誤魔化さないとこの冒涜的な戦場で立っていられませんからね。さて、私も剣を仕舞いますか・・・うぷっ。

 

「そうね。物語は本の中に引っ込んでいて欲しかったわ。・・・それよりアルも顔が青いわよ。剣を収めるのは早いんじゃない?」

 

「いえ、せめて冥福を祈ってあげたくって。これくらいなんともないですよ」

 

「そう・・・」

 

耐性スキルで平静なままだと何か本気で死者を悼んでる気がしないので、ちゃんと向き合うためには聖剣を仕舞わないと・・・。けど、思い出した感覚と記憶が私の心を苛んでいる、それもまた事実だ。だからこそ命と向き合っていると私は信じている。ただの自己満足にすぎないかもしれないけど。

 

「おっ、ご苦労さん。そっちはどうだった?」

 

ぶち破った壁の向こうから他の人外ハンターが声をかけてきた。まあ、建物をぶち破る攻撃をしたら様子を見に来ますか。

 

「悪魔の駆除は問題なく完了しました。発生源のPCも完全に破壊したので再発生することは無いと思います」

 

当たりを見渡しながら状況完了を告げる。画面を光らせていたパソコンも蠢いていた触手の肉塊も見当たらない。後は、テンプルナイトやドルイドが浄化すれば問題ないはず。

 

「さすがはアーサー王。頼もしいな、これでこの町も新たなシェルタータウンになる。ここのシェルターの代表がお前さんに会いたがっているが、どうする?」

 

「私程度で良いなら会います。案内してくれますか?」

 

こんな剣を振るうしか能の無い子供が彼らを元気づけることが出来るなら、それに越した事はない。それが私の選んだ道(Fate)なのだから。

 

 




アルトリア・エヴァンズ
アーサー王の転生者として覚醒した少女。父と母がハーフなので本人の血筋もハーフである為半分はイギリス人である。
ちなみにガイア連合に所属はしていない。要するに転生者謹製現地人URみたいな存在なのでガイア連合の転生者とはスタンスが違う。
転生者たちが日本への愛国心を少なからず持つように彼女は日本とイギリスの愛国心を持っている。要するに才能のあるガンギマリ現地人と言う表現が近いだろう。力はあるけど無理はしたくない多くのガイア連合転生者とは方向性が異なる。

父と母の血によって型月で言うところの起源に近い影響をアーサー王の魂から受けている。ブリテンが詰むその日まで、彼女は苦しんでいるブリテン島の人々を見捨てる事が出来ない。
もし、父と母が転生者などではなく普通の人だったら、ただの覚醒者の少女として日本に帰れたかもしれない。あくまで可能性ではあるが。


余談
カヴァスのバトルスタイルは、モルガンの要望でウッドワスに似せているらしい。






追伸:何でアルトリアがこんなお労しや枠になったのだろう?両親が守ってくれているからアルトリアリリィみたいな感じにしようと思ったらアルトリア・キャスターのように闇が濃くなっている・・・。
いやまあ、ブリテン各地でクエストを実行しているって設定を付けた時点で、メシアン過激派とクトゥルフ神話系のエネミーが主な相手になるのだから当然か。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

疫魔編

フォークストンの線路上に多くの車両と軍勢が陣地を形成していた。ドーバートンネルを通ってある強大な悪魔がブリテン島に上陸しようとしているという情報が伝わったからだ。そして、僕アーサー・エヴァンズも参加している。何せ相手が相手だ。雑兵やルーキーでは相手にならない。今使う事の出来る最大戦力を使うべきだと僕たちは判断した。

 

「閣下、6番から25番までの準備完了いたしました」

 

防護服を来た男が進捗状況を報告しに来た。

 

「町からの供給は?」

 

残りの霊的防衛兵器20体すべてをここに持ってきていた。本当はもっと精度を上げて、大陸側上陸作戦の時に使うために用意だけはしていたものだ。

 

「現在、各シェルタータウンに設立した合同神殿からのMAGの転送は75%の効率で送られてきています。起動と戦闘には問題ないと思われます」

 

合同神殿、それは町に結界を貼る起点である、ケルト神話や十字教の信仰を集める場所としても機能し、生体エナジー協会や人外ハンター組合を併せ持った町の中枢だ。もっとも一纏めにしないとリソースが足りないという理由もあったりする。

 

「しかし、それなら全力稼働は難しいか。やむを得ない、21番から25番までの供給はカットする。いや、12番などの大英雄級の消費はかなり重いはずだったな。13番からカットだ」

 

さすがに壱拾弐号を捨てるのは勿体無い。何せ、わざわざイタリアから調達して作り出したヘラクレスだ。今回用意した霊的防衛兵器の目玉だ。ちなみに正式名称は必殺霊的連合防衛兵器壱拾弐号アルケイデスである。

 

「そこまで切り捨ててもよろしいのですか?」

 

「今から来る奴に必要なのは数じゃない質だ。レベル差と言うものは大きいのさ」

 

MAG供給を絞って性能を下げた奴を20体使うよりは万全の状態の7体の方がマシだ。

 

「分かりました。それでは起動準備に移りたいと思います」

 

そういうと彼は配置に戻って行った。僕も視線をそちらに向けるとそこは20体のカプセルが並べられていた。町中から伸びてきたケーブルがトレーラーに接続され、そこから更にカプセルに接続されている。

 

「起動シークエンスを開始します」

 

カプセルの外についているランプが点灯する。トレーラーからもエンジン音に似た音が響いてきた。

 

「6番から12番ストレージにMAG注入開始します」

 

7台のカプセルのカバーが光りだす。カバーが透けて中の人影が確認できるな。

 

「各憑代にマスター登録実行中・・・完了しました」

 

カプセルの前に陣取っていたデビルサマナーたちのCOMPとカプセルに備え付けられていた赤い紋章との間にレイラインが構築されていた。

 

「各機、覚醒完了。霊的連合防衛兵器群、起動します」

 

カプセルが蒸気を吹き出しつつ開き始める。僕を含めた周囲の人間は固唾を呑みながら彼らがカプセルから出てくる姿を見ている。

・・・どうやらマスター登録は問題ないようだな。サマナーたちともコミュニケーションをとれているようだ。イギリスで呼び出したから暴走とか独自行動をするなどの想定もしていたけど、これなら大丈夫そうだ。やっぱり、人間ベースだと安心感が違うな。一部怪しいのも居るが。

 

「これほどの英傑悪魔が揃うとは壮観だな」

 

「ただ欠点もございます。モルガン殿下によりますと海外英傑は地脈からの供給が難しく、こちらがレイラインを繋げてMAGを注いでやらないと使い物になりません」

 

そこが問題なんだよなあ。霊的国防兵器は、ガイア連合にある防衛用シキガミみたいなものだ。国土を自身の守護地と設定されているからこそ、国の中ならどこでも供給を受けられるけど、外国産の英雄だと途端に効率が下がる。まだ、ヨーロッパだからマシだろうけど、

ヨシツネとかの東洋系の運用は不可能だった。技術的な蓄積がやっぱり足りないな。

 

「ある程度の高レベルデビルサマナーが居れば話は早いんだけど、そんなのが居るのは本国やメシア教ぐらいだからなあ」

 

神主のようなレベルの高いサマナーなら英傑クー・フーリンじゃなくて妖魔クー・フーリンを使えたりするんだろうがなあ。もしくは、イタリアの彼に悪魔召喚プログラムを持たせれば、ヘラクレスのMAGも維持出来るかな?

 

「メシア教の方々には天使に専念してもらわないといけないですからな。英雄たちはあくまで私たちの元で運用されなければ」

 

うむうむ、僕が裏で進めている人間主義の啓蒙は順調なようだ。まあ、古代の神や天使なんて信じるには不安要素しかないからね。救世主や覚者みたいな存在でもない限り僕も信仰することは無いからな。それにこの世界はメガテンだから、猶更だ。

もっとも、ここに人間主義者が多いのは単純に英傑計画にはその手の人間が多かったのとほかの連中はスコットランド方面に向かっているだけだけどね。

 

「そうだね。では、サマナーと英傑たちを集めてくれ」

 

僕の前に7人の英傑と7人のサマナーが集まった。しかし、こうしてみると丁度7騎なんだな。全てのクラスが揃っている訳でもないしエクストラクラス相当の奴も居る。それでも僕の前に7人の英雄と7人のマスターが居る。

 

「みんなよく集まってくれた。聞いての通り、現在スコットランドの過激派との一大決戦が行われている。だが、ドーバー海峡の向こう側、ドーバートンネルからも敵が来ている」

 

モルガンやアルトリアは、陸軍の大半と共にスコットランドへ遠征している。本来ならモルガンでは無く僕が行くつもりだった。大陸から敵が来なければの話だが。

 

「終末の四騎士、彼らはアフリカと欧州を幾度となく荒らしている。今回、その一体がトンネルに接近したからこそ厳戒態勢を敷いている」

 

終末の四騎士、それのどれもが高レベルだと思われる。おそらくメガテン4のように魔人同士のレベルもそこまで離れていないだろう。

 

「なお、これはメシア過激派の作戦だと思われる。ドーバートンネルに終末の騎士を誘引し、スコットランドで蜂起することで戦力を釘付けにする、そういう流れだろう」

 

まあ、ヨーロッパと言う十字教の本拠地とも呼べる場所を終末の騎士が縦断出来る方がおかしいから自明の理である。アフリカとは違うのだ。

 

「スコットランドは軍勢同士のぶつかり合いだ。だが、今ここの戦場で必要なのは一騎当千の英雄たちだ。そして君たちはそのマスターとしてこの戦場にいる。」

 

霊的防衛兵器のリミッターとしてマスターが居ないと活動出来ないように設定されている。もっともマスターだからMAGを供給する必要がある訳でもない、契約の要として必要なのだ。

ちなみにマスターが自力でMAGを供給できるなら東洋英雄だろうと問題なく英傑を活動させることが出来る。

 

「すでに詳細は事前のブリーフィングでも説明したとおりに事態は推移している。終末の騎士を誘引している過激派は僕らに擦り付けたらそのままブリテン本土の攪乱を行うことは目に見えている。」

 

ブリテン島の北部に戦力を集中させ、空家となった本拠地を攻撃する。しかも、厄介極まりない終末の騎士を押し付けてである。言ってみれば簡単な事だが、だからこそ有効的な手だ。しかも、これの厭らしい処は、どのみち遅かれ早かれスコットランドの失陥は戦力的に確実視されていたこと、仮に僕たちが勝っても終末の騎士の一角が僕たちに駆除されるという事だから過激派にとっても得だという事だ。

 

「それと英傑の起動が出来なかった担当サマナーは当初の予定通り防空戦の方に回ってほしい。天使をこのブリテンに上げてはいけない」

 

今回起動できた英傑は7体、つまり13人のサマナーが余ったという事だ。しかも英傑のマスターが出来るブリテン連合王国が誇る屈指のデビルサマナーだ。遊ばせておくにはもったいない。ドーバー海峡で制海している海軍と共に大陸側から上陸してくるだろう天使を迎撃してもらおう。

 

「それでは、各員の奮闘を期待する、以上」

 

雄叫びと共に彼らは駆け出した。さすが一線級のサマナーに英傑たち、ノリが良いね。士気と言う面では問題なさそうだ。

そして、みんなが敵に備えている内にとうとう招かれざる客のノックが聞こえてきた。

 

「閣下、カレー基地の観測員の収容を完了しました」

 

フランスにあるパ=ド=カレーにはドーバートンネルの大陸側の入り口がある。だからこそ、欧州側の拠点として確保していたが、今回の事態により人員は撤収させた。もとより最前線の観測所みたいなモノだ、最低限の備えしか置いていない。

 

「ご苦労。それで奴の予想到達時間は?」

 

「足止め用の仲魔がかなりのスピードで送還されています。更にトンネル内の封鎖ゲートも既にいくつか破られています」

 

「なるほどな。しかしネズミ型悪魔にペストを感染させると来るとはね」

 

奴の逸話的にペストに感染したネズミなんてどんぴしゃすぎる。しかも過激派に洗脳された悪魔だから病気でも平気にトンネルを超えてくる。さすがにネズミが通れる穴までは封鎖出来ないからね。

 

「この欧州で黒死病がいかに猛威を振るったか奴らも知って居る筈なのですがね」

 

遣る瀬無いという顔でリンド中佐はボヤク。今回の防衛線の前線指揮官だ。彼にとっては僕は後方にいてほしいだろうけど戦力的にいないと無理だから何とか飲み込んでもらおう。

 

「核を撃ったんだ、今さらだろうね。それにしても奴の誘引が出来るほどの効果が出るとは厄介極まりない。」

 

「それと、あまり気分のよろしくない追加情報が・・・」

 

知ってた(嘆息)

こういう時は予想していない不測の事態が起きるものだからね。

 

「・・・わかった、聞こう」

 

「誘引に使用されているのはネズミだけでなく人間も使用されているらしいそうで・・・例の脳管や人形みたいなモノを用意していたと報告が上がってきました」

 

「本当になんで堕天しないんだ、あいつら。文字通りの悪魔の所業じゃないか。いや、いつものペ天使か」

 

メガテンの天使と言えばこういうのだよなあ。真女神転生以前にはマシな奴もいたらしいがなあ。絶対、聖四文字に見捨てられているだろ、この様だと。どこに正しい信仰があるんだか。

 

「閣下、最終警戒網が突破されました!ご準備を!」

 

「わかった、すぐ向かう」

 

剣を抜刀する。他の英傑やサマナーたちも身構える。

鉄の大扉で封鎖されたトンネルを見続けると巨大な金属音と共に扉が歪んだ。どうやら無理やり扉を開けようとしているようだ。魔法ではなく力任せで開けてくるのか・・・。数回の轟音と共に扉が吹き飛んだ。

 

「隔壁が破られたぞー!総員、攻撃準備!」

 

空いたトンネルの出口から奴が出てくるのを待つ。出てきたらアナライズを行い、奴の弱点属性の魔法をぶつける手筈になっている。だが、なかなか姿を見せない?それに、扉が吹き飛んだ時に出た粉塵が未だに収まって・・・!?

 

「・・・・・・いけない!?このガスを吸い込むな!」

 

この空気に匂いのあるガス!?毒ガスだ!

 

「ぐぇほ、げほっ!」

 

「うぉぐああぁああ・・・・」

 

「これはパンデミアブームだけじゃない毒ガスまで・・・」

 

奴の特性から風邪の状態異常を付与してくるとは想定していたが、毒も同時に掛けてくるか!と言うか、やはりこの鬼畜仕様か。

 

「閣下、この毒ガスはただのスキルではありません!科学ガスも含まれています!」

 

と言うと、この干し草っぽい匂いはホスゲンか。何でこんなものまで!

 

「モルガンのアミュレットが無ければ危なかったな。使えるマスターは?」

 

「デモニカを装備していない兵は、後退させております。ですが、デモニカを着たものでも半数は・・・」

 

科学的な毒ガスと魔法的な毒ガスの両方の性質を持つとか最悪だぞ。ただの現地人だとデモニカかガスマスクを付けていないと防げないじゃないか。状態異常耐性についてもある程度は準備していたが、貫通もされてるようだ。僕もモルガン特性のアミュレットで何とかなってはいるが・・・。

 

「半数も持ったか。しかし、壱拾弐号は、ヘラクレスはダメか。」

 

まともに行動できる英傑は3体か。まあ、ヘラクレスは毒に弱いのは神話的に当然か。むしろ毒殺された英雄なんて結構居るからな。これは今後の課題だな。

 

「今、五号ジャンヌ・ダルクに回復をさせております」

 

「回復させしだい戦線に戻してくれ、いよいよお出ましのようだ」

 

ジャンヌが回復に回ると言うと、使えるのはジークフリートとアキレウスか。イギリス系の英傑である壱号から四号はスコットランド方面に回しているからな。

そして、蹄の音が耳に聞こえてくる。煙の中から現れるのは馬に乗った黒いローブの骸骨。手には鎌を持って、その姿は人々が想像する死神そのものだ。

 

「終末の四騎士の一人、ペイルライダー。黒死病だけでなく世界大戦の毒ガスすらも権能に取り入れたか」

 

「ふむ、疫病の気配に誘われてきてみれば、まだ私が来るには早い地のようだな」

 

「そういうならば、おとなしく帰ってほしいんだけどね?」

 

僕は剣を構えながら告げる。まあ、意味は無いが、精神状態をリセットするのは丁度良い。

 

「否、この身が訪れた以上、この地にも死を齎さなければならない」

 

「だろうね、ならばする事は一つだ」

 

「来るがよい人間たちよ。我らこそが試練だと知るがよい」

 

ペイルライダーが鎌を頭上で振り回す。

戦闘開始だ。皆がそう感じたんだろう。

 

「やれぇ!ジークフリートォ!」

 

金髪のふくよかなサマナーがジークフリートに指示を出した。

 

「『ベノンザッパー!』」

 

ジークフリートがその大剣で切りかかる。その衝撃でペイルライダーの周辺の地面は陥没し、クレーターのようなものが出来た。

 

「ふむ、悪くない。だが、『殺風激』」

 

だが、決定打にはならなかったようだ。ダメージは与えられているが、ぴんぴんしている。それどころか鎌を握っていない左手から風属性魔法をジークフリートにぶつけてきた。その衝撃でジークフリートはかなり吹き飛ばされた。おいおい、まさか迷子の状態にならないだろうな?

 

「受け止めて、アキレウス!」

 

それを見たアキレウスのマスターは吹き飛ばされたジークフリートをアキレウスに受け止めさせた。よし、いい判断だ。これ以上数を減らされるのはさすがに困る。

そして、英傑に遅れながら僕もペイルライダーに切りかかる。

 

「はあぁぁぁぁぁ!!」

 

手に持った双剣で何度も切りかかる。一撃系のスキルは相性的に得意じゃないが連撃系のスキルなら僕の独壇場だ。

 

「むぅ」

 

何度かペイルライダーもその鎌で僕の斬撃を跳ね除けようとしているが、僕はそれを受け流す。さながらゲームで敵をパリィしたりするように無効化する。

ペイルライダーは僕の攻撃に攻めかねている。つまり、僕に拘束されているということだ。それは隙となる!

 

「『ジャベリンレイ』!」

 

ジークフリートを回収したアキレウスがこちらに戻ってきて、槍で攻撃してくる。

 

「総員、射撃開始!閣下や勇士達を援護しろ!」

 

そして、周りに居た友軍も攻撃を開始する。僕がタゲを取り、後衛でダメージを稼ぐ。ゲームみたいだが、バカには出来ない。このまま、押し切る・・・!

 

「鬱陶しいな、周りにいる雑兵どもも煩わしい。ならば・・・」

 

この魔力の高まり・・・!そうだな、そうだったな!こいつレベルなら使えてもおかしくないか!

 

「ッ!?総員、防御態勢―!」

 

「『メギドラオン』である」

 

閃光と爆発が辺りを覆った。視界がホワイトアウトした。これがメギドラオン・・・!核爆発にも例えられる上級万能魔法!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戴冠編

「ぐう・・・ほかの皆は・・・!」

 

用意した陣地が殆ど吹き飛んでいる。呻き声が聞こえる事から何人かは生きているようだが・・・。

 

「マスター達は無事か!」

 

とりあえず安否確認をしなければ・・・!マスターと英傑たちは、結構無事だな。だが、軍の方は生きてはいるが戦闘不能だな。車両の殆どが破壊されているし、無事な車両も横転している。威力の高い火器も今のメギドラオンで壊れてしまっているようだ。

む、マスターや英傑たちの方から駆け寄ってくる奴が居るな。

 

「アーサー大総統、何とか皆さんは無事です」

 

「ジャンヌ・ダルクか」

 

よし、回復役は無事か。これならまだ巻き返せる。機能停止していない英傑や送還されていない悪魔を回復さえなければ・・・。

 

「ですが盾となったアルケイデスが・・・」

 

チラッと後ろの方に目を向けると巨漢の男が横たわっていた。おいおい、君にはモルガンや四条さんの代替え戦力として期待してたんだぞ。聖遺物を手に入れるのにゼウスやイタリアの皇帝相手にだいぶマッカを支払ったんだぞ。しかも、この戦いが終わった後イタリアに派遣する話も出ていたんだぞ!?

 

「最高戦力の復帰は難しいか。」

 

いかん、頭を切り替えていかないとな。天使やドルイドが居ないから蘇生持ちは少ない。なら、ジャンヌを酷使して態勢を立て直さなければ・・・。

 

「総統閣下!大丈夫かね!?」

 

ジークフリートのマスターとなったサマナーが駆け寄ってきた。名前やその見た目からマスターとして抜擢されたゴルドルフ氏だ。本当は英国無双の見た目の奴もいたが、彼はサマナーでは無かったからな。 

 

「ムジーク君、ジークフリートはどうか?」

 

ペイルライダー相手に攻撃をしているアキレウスを見ながら聞く。翻弄しているようにも見えるが手数で押さないと、すぐに奴に押されるのは見えている。

 

「あやつなら何とか・・・とりあえず私の方で回復させ次第戦線に戻させる」

 

ジークフリートの傍にゴルドルフの悪魔が寄り添っているのが見える。回復させているようだが、その悪魔がヴァルキリーなのには少し引っかかるが。

 

「頼んだ、期待している」

 

ペイルライダーの方を見ると、奴は口からガスを周囲に振りまいていた。いかんな、このままでは土壌どころか霊脈そのもの汚染されかねない。ドーバートンネルが封鎖されると大陸には海路でしかいけなくなる。

いや、こいつがこの場を移動してブリテンを徘徊しだしたら、もっと酷い事になるな。

 

「手数で押そうとしたら発狂モードに突入しそうだな。アンティクトンの5連発なんて、僕でも耐えられないぞ」

 

まったく耐性を完備しなければ問題ないなどゲーム脳に侵されすぎていたな。メガテン4の魔人の鬼畜さを想定したが足りないらしい。ならば、僕がやることは・・・

 

「足止めではない。速攻で倒すつもりでいく。それが答えと見た」

 

僕がヘイトを稼いでタンクをして、周りの奴らがダメージディーラーとなる、そんな戦術はもう駄目だ。

 

「ふんっ!」

 

前屈姿勢で駆け出す。両手に持った剣が地面に触れそうで触れないぐらいの高さまで近づく。周りに漂っている毒ガスを切り裂きながらペイルライダーに駆け寄る。そうするとペイルライダーも僕の接近に気づいて毒ガスの散布を止めた。僕を迎撃するようだな。

 

「向かってくるか、この私に向かって。ならば『マハブフダイン』である」

大量の氷の刃が吹雪と冷気を伴って辺り一面に解き放たれる。僕はそれをカスリながら前進する。どうしても防げないモノは剣で切り落としていく。この程度では僕の足を止めることは出来ない。ペイルライダー、お前を間合いに取ったぞ!

 

「そんなモノ、痛くも痒くもない!『連撃斬』!」

 

「うぉ!?」

 

最初の一撃で奴の持っている鎌を上に弾いて、がら空きになった胴体に連撃を叩き込む。「ダークエナジー」と「会心の覇気」の重ね掛け、両手の剣で切り捲る。

この攻撃に奴も怯みを見せる。メガテンで言うところのクリティカルによる行動回数増加みたいなモノだ。ならば、もう一度バフを乗せて・・・いけない!体勢を立て直した。ペイルライダーの仰け反っていた頭部がグンッと僕の方に向くしゃれこうべの闇が満たされた中身が赤く光る。この『眼光』は、ヤバい!

僕は後ろに大きく跳び、距離を離す。ペイルライダーは鎌を振りぬいた。

 

「む、ならば『ペストクロップ』」

 

ペイルライダーの振るった鎌から紫の毒々しい三本の爪痕が空間を切り裂いていく。かわし切れないか・・・!剣を十字に交差させて即興の盾とする。

 

「ぐぅ!」

 

当然、防ぎきれず僕の体は吹き飛ばされる。そして、遂にモルガンのアミュレットが壊れた。今まで状態異常を防いでくれていた礼装が今無くなった。だが、既に流れは動いている。

 

「しゃらくせぇ!『α・コスモス』!」

 

アキレウスは盾を構えながら突貫する。ガイア連合イギリス支部謹製の英傑武装、武器の伝承元となる英傑のデータを元に造りだされた、その武器は単体での性能もさることながら英傑が持つ事によってオリジナルスキルを発現させる。アルトリアがエクスカリバーを所持した時に得るスキルを参考にモルガンが完成させた技術だ。

さすがに蒼天囲みし小世界(アキレウス・コスモス)を完全に再現できる程ではないが、それでも一廉の威力だ。更に武装を持っているのはアキレウスだけでは無い。

 

「世界は今落陽に至る『バル・ムンク』!」

 

ジークフリートがペイルライダーにその両手剣を振り下ろす。バルムンクの柄についている宝玉から緑色の光が輝いているのが見える。

頭上から来るアキレウスの盾を防いでいるペイルライダーは、ジークフリートのバルムンクをもろに胴に受けた

 

「ぬおぉぉぉぉぉ!?ええい!かぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

ペイルライダーが、アキレウスを鎌で吹き飛ばしながらジークフリートに毒ガスブレスを吹きかける。

 

「なんだと!?」

 

後ろでマスター達が驚いている。先ほどの攻撃で大ダメージを受けたペイルライダーがまだ健在なのを驚いたようだ。さすがは魔人と言ったところだ。だが、僕に隙を晒したな?

 

「我流剣技『連撃斬・極』!」

 

斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬!

 

奴に16連撃の斬撃で切りかかる、これが僕が出せる最大の技だ!!

 

「ぐおおおぉぉぉぉぉ!まだ、だあぁあぁぁぁぁっぁ!!」

 

もはや身に纏ったローブもボロボロになりつつも鎌を振り上げるペイルライダー。

その姿を見た僕は背中に背負っていた剣を鞘から抜いた。

 

「いいや、終わりだ」

 

片手でその巨大な剣を振りぬく。その刃は馬ごとペイルライダーを切り裂いた。

 

「本来、ヘラクレスに持たせるつもりだったが、その逸話からアルトリア用にとっておいた『マルミアドワーズ』だ。我が家の蔵に眠っていた秘蔵の品だ」

 

アーサー王がエクスカリバーよりも愛したという名剣マルミアドワーズ。かつてマーリンに捨てられた剣が魔女モルゴースに回収され我がエヴァンズ一族が保存していたという謂れを持つエクスカリバーをも超えるヘラクレスの剣、魔人対策に持ち出した甲斐はあった。

 

「が・・・あ・・・・」

 

下半身が生き別れたペイルライダーは、腕で這いずりながら動いている。これを受けても、まだ生きているのか・・・。だが、生かして返すわけにはいかない。

 

「その首、落とさせてもらうよ」

 

その首に向けて剣を振り下ろす。しゃれこうべがカランコロンと転がっていく。マルミアドワーズを鞘に戻そうと腕を上げるか。腕が途中までしか上がらない。と言うかこれって・・・。

 

「うお、これは腕の骨が折れているな。アドレナリンで痛みが感じないうちに魔法で治してもらうか」

 

エクスカリバー以上の両手剣を片手で扱うのは無理過ぎたか。しかも単発系スキルはあまり得意じゃないからなあ。どうにも締まらない結末だ。

だが、僕たちは勝った。

 

「行動可能な者は負傷者を救助せよ!」

 

まだ動ける仲間が動けない部下を助けていく。さて、僕も動くとするか。

 

 

 

-----------------------------------

 

 

 

そこは、町の中央に建てられた複合神殿にある一室だ。カフェやバーのようにカウンターや椅子と机が並んでおり棚には飲み物などが陳列されている。壁には電光掲示板が付けられており、いくつかのクエスト情報が移っている。

ここは、全ての複合神殿に設営された人外ハンター支部の一つだ。隣にはガイア連合のショップや生体エナジー協会などが入っており、普段はハンターたちが集まっている場所だ。だが、今はハンターだけでなく一般人たちもこの部屋に詰め掛けている。いや、ここだけでは無い。今日と言う日はブリテン中の人間がモニターが存在しているところ集まっているだろう。

 

「おい、間もなく放送が始まるぞ」

 

誰かが漏らした言葉が聞こえた。画面が点灯する。白い部屋に青いカーテンなど清潔感と高級感が溢れる部屋が映された。そして、その真ん中にアイツは居た。俺たちの同僚で、我らの王、アルトリア・エヴァンズが。

 

《ブリテン島とアイルランド島に住む皆さんにお伝えしたいことがあります》

 

いつも聞く声とは違う声だ。凛としたカリスマを感じさせる声だ。父親のアーサー大総統もカリスマを感じさせたが、これが血筋と言うモノか。

 

《本日を持ってブリテン島の統一を完了、ブリテン連合王国の成立を正式に宣言します》

 

瞬間、周りが沸騰した。雄たけびや歓声が部屋を覆いつくす。いや、部屋の外でも叫んでいる奴がいるな。そういう俺も両手を天に突き出し叫んでいたが。そうか。ついにスコットランドを取り戻すことが出来たのか!

 

《まだ、世界は混迷に満ちています。私たちも再び災厄に襲われる可能性は0ではありません》

 

アルトリア嬢ちゃんの、いや、我らのアルトリア王が話を続ける。周りの声も徐々に小さくなり皆が画面に集中しだす。

 

《ですが、希望はあります。滅びた世界で再び国が生まれました。私たちの国です》

 

世界は終わってしまった。だが。そこから再び始める事が出来る。立ち上がる事が出来る。俺たちは未来を夢見る事が出来るんだ。

 

《私はアーサー王の継承者、騎士たちの王です。そして騎士とは終末に対して立ち向かっている皆さんに他ならないです》

 

俺たちが騎士様か。へへっ、悪くないな。ただ、一つ残念に思うのは・・・。

 

《騎士たちよ、この国を救いましょう。それが世界を救う一助となることを願って》

 

もう、アルトリア嬢ちゃんたちと一緒にこういうところで騒いだりすることが出来なんだろうなと、喜びと希望にあふれる人外ハンター支部を見ながら、俺は思ったのだった。

 

 

 

-----------------------------------

 

 

 

「お疲れ様です、陛下。見事な演説でした」

 

・・・疲れた。見事と言ってくれたがこんな演説で大丈夫だったろうか?お父さんの演説や臨時首相の演説の方が良かったんじゃないだろうか?いや、これもプロパガンダっていう奴だよね。きっと意味があるはず。

 

「ありがとうございます。ただ、まだまだ私は至らないと思います。でも、お世辞でも嬉しいですよ」

 

マントを傍に寄ってきたメイドに渡す。今のご時世でメイドっていうのはどうかと思うが、必要な処置らしい。ガイア連合で作られたロボットアニメのキャラがこれでは道化だよと言ってたけど、私の心境もまさにそれだ。

 

「さあ、アルトリア。新しい我が家に帰ろうか」

 

気付くとお父さんが私の手を取っていた。エスコートって言う奴かな?でも手をつなぐならこんなんじゃなくて、家族みんなで・・・。いや、そんな甘えは駄目だ。

そんなことを考えているに新しい我が家、いや王宮の部屋に来た。扉を開けるとバーヴァンシーお姉ちゃんがテーブルに料理を並べていた。お姉ちゃんが私に気付くと手を私たちに向かって手を振ってきた。

 

「あら、おかえり。アルトリア、ご飯はもう少しで出来るので待ってくださいね?」

 

お母さんがお鍋を持ちながら私に微笑みかけてきた。

 

「お母さん・・・いや、母上、仮にも王宮で料理してて良いのですか?」

 

いけない、私は王になったんだ。それ相応の態度をしないと・・・。

 

「別にプライベートスペースではお母さんで良いですよ。そもそも私は魔女ですから工房や厨房が無いと話になりませんから問題ありませんよ」

 

「ええー・・・」

 

それでイイの?いや、確かに魔女ならそういうの必要なんだろうけどさー。

 

「僕も民に手を振っているよりは銭を数えていた方が性に合うし、そんなもんさ」

 

お父さんまで・・・。

 

「だから、アルトリア。そんなに気負う事は無い僕たちがついているからね」

 

・・・!そっか、そうだね。ここぐらいなら、ちょっどだけ良いかな?

 

「お母様にお父様、そしてアルトリア。お話も良いけどご飯が冷めるぞ」

 

「アォン!」

 

バーヴァンシーお姉ちゃんとカヴァスが、催促してくる。カヴァスなんてエサ入れを咥えているし。

 

「あら、いけませんね。それでは席に着きましょう」

 

ブリテンの皆、ここだけはただのアルトリア・エヴァンズである事を許してください。いつの日か皆がこうやって幸せな食卓を囲めるようにしますので。

いまは、ただ。

 

「「「「いただきます」」」」

 

この幸せをごはんと一緒に噛み締めよう。

 




これにて完結でございます。今までありがとうございました。第二章を書くか、どうかは原作次第という事で今回はここで筆を置かせていただきます。
ここまで読んでいただき、重ね重ねありがとうございました。



マルミアドワーズ
エクスカリバーを超える威力を持つヘラクレスの大剣。エヴァンズ一族にモルゴースの魔術書と共に伝わっていた。
アーサーとモルガンは、この剣にある仕掛けを用意した。
マルミアドワーズは、アーサー王がエクスカリバーよりも気に入った剣だ。
そう王権とも言えるエクスカリバーをガウェインに貸し出すほどに。
この剣を持ち続ける事はアーサー王と言う霊基に歪みを与えるだろう。
そして、アーサー王自体がこの剣を求めるだろう。
それはアルトリア・エヴァンズと言う個を確立する為の隙へとなりえるかもしれない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間
こぼれ話 その一


英傑を語ろうと言った割には出番が少なかったので書きました。


かつてのイギリスの首都ロンドン。メシア教過激派による核攻撃で壊滅した都市の一つだ。ブリテン連合王国により再建が進んでいるが、かつての原爆より強力な核爆弾は石造りにも関わらず広島に比べて少しマシと言う状態だ。かのビッグベンもへし折れてしまった。現在は、人間悪魔総出修復作業を行っている。

なぜ修復しているかというとこういう歴史的建造物はMAGを収集したり加工したり、異界を展開するのに効率が良いからだ。ビッグベンもモルガン殿下主導の元、生体エナジー協会本部と魔導研究所として改装工事が行われているのだ。

そして、私ゴルドルフ・ムジークが所属している英傑サマナー本部であるグリニッジ天文台もその一つだ。

 

「ゴルドルフおじさん、ヘラクレスはやっぱり使えないのか?」」

 

私の執務室に一人の少年サマナーが陳情に来ていた。昔、私に仕えていたメイドの親戚で私も甥っ子の様に可愛がっていたジーク・オルランドだ。・・・しかし、本当にあのセメントメイド親族か疑わしくなるほど良い子なんだよなあ、こやつ。

 

「ジーク君、MAG消費量を考えたまえよ、君ィ。あれ一体で何体分の英傑を維持できると思っているのかね?しかもあれはイタリアとの外交的にも難しい立ち位置にあるんだぞ」

 

ヘラクレスもといアルケイデスは製造段階でイタリアもといギリシャ神話の協力があって製造できた代物。残念ながら魔人戦では活躍できなかったがその後の戦いではヘラクレスの名は伊達では無いとばかりに暴れまわった。だが、最近は休眠状態のままだ。元々ヘラクレスのマスターだった奴も今は別の英傑を割り振られている。

 

「やっぱり駄目なのか?」

 

しょげた顔をするな。そういう顔は男にじゃなくて意中の女性にしなさいよ、もう。

 

「ブリテンが統一された今、また外敵が来ない限りは使わないだろうな。それにイタリアに提供するという話も政府の中にはあるぐらいだ」

 

「そうか・・・」

 

よし、理解はしてくれたようだな。いや、魔人の事を考えると特級戦力は多く抱えておきたいのは理解できるが、無い袖は振れないからな。今期のMAG予算も潤沢とは言えないし。

 

「・・・ふむ、君がわざわざこのような事を言いに来たのは周りのお願いかね」

 

それよりもだ。ジークがこういう事を私に言いに来るのは誰かしらの差し金に違いない。特にトゥースには何度も何度も・・・!

 

「わかるのか、ゴルドルフおじさん。凄いなあ」

 

「ふふふ、伊達にここの所長はやっていないのだよ」

 

恐らくジークに根回ししたのは人間主義の連中だろうな。イギリス産の英傑はその性質上、ケルト神話系の影響が非常に強い。クーフーリンやフィンマックールなんぞは殆ど妖精騎士団の所属のようなものだ。ちなみにジャンヌ・ダルクはメシア教の紐付きだったりする。しかも、ジークと色々と接触しているという話も聞くから不安だ。

ジークの英傑であるアストルフォは頭が弱いから、どうも頼りにならん。だからと言って元々の仲魔が信用に値するかと言うと微妙だ。

 

「ふむ、そうだ。時間はあるかね?」

 

せっかくだし、あれにジークを参加させるとしようか。ほかの奴らへのけん制としてな。

 

「ん?大丈夫だ」

 

「実はこの度、英傑管理機構グリニッジにかつての英国退魔組織が傘下に加わる事になったのだ。その会合にお前を連れて行ってやろう」

 

ジークは私の庇護下にあると周囲に分からせないとな。こやつ、マスターやサマナーとしての才能は一級品だからなあ。特にジークフリートの適合率が高すぎて逆にマスターになれなかったぐらいだ。

 

「・・・なんでグリニッジなんだ?普通は国軍や人外ハンター協会、そして騎士団に加わるものだろう?ここはあくまで英傑の為の組織の筈じゃ・・・」

 

まあ、在野の連中はブリテン・ケルト・メシアで取り込んでいる最中だからな。英傑は色々な種類が居る為、一種の中立状態みたいになっているからな。普通に考えればここに編入しようとするのは、道理に合わないと思うだろう。だがな・・・。

 

「何難しい話じゃない。そいつらが抱えている戦力が英傑もどきだからだ」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

約束の時間になったのでジークを伴い、応接室に入る。そこには褐色の肌をした金色の長髪の女性がお茶を飲んでいた。隣の居るのは執事だろうが、そこそこレベルが高そうだ。

 

「お初にお目にかかるミスター・ムジーク。私はインテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシングだ。かつてヘルシング機関と呼ばれていた組織の長をしていた」

 

眼鏡でも隠せない眼光が私を貫く。話には聞いていたが、今代のヘルシング卿と会うことになるとは・・・。

 

「お会いできて光栄だ、ミス・ヘルシング。私は英傑管理機構グリニッジ所長ゴルドルフ・ムジークだ。こちらはジーク。グリニッジのマスターをしている」

 

「ジーク・オルランドです。よろしくお願いいたします。」

 

隣にいるジークがお辞儀する。・・・ちょっと、殿下に毒されてるぞ~。それは日本の挨拶でこういう時は握手をするもんだぞ。そう思いつつもジークに見せるためにも私が率先して握手する。そして、それに気付いたのか、ただ流れに乗っただけなのかはわからないがジークもヘルシング卿と握手をする。

 

「なるほど、その名前は聞いたことがあるイングランドの王子アストルフォのマスターとしてエース級の活躍をしているとな」

 

「まあ、私の甥っ子も当然のような奴だが優秀なマスターだ。期待は裏切らないと思う」

 

なんせ、陛下直属の騎士団への編入も話に出たくらいだからな。今のところ直参は円卓の騎士の英傑と昔の友人だった侍女くらいの筈だ。そこに人を送り込めるだけでどれだけの結果が得られることやら。

 

「なるほど。だが、問題は奴が気に入るかですな?」

 

「おお、そうだ。それで例の者は、どこに?COMPの中ですかな?」

 

おっと、難しい政治の話はあとに考えるとするか。今は、ヘルシング機関の切り札だな。

 

「それなら、棺桶ごとここのホールに置かせてもらっている。それと警備していた英傑にも話はしてあります」

 

おおう、棺桶ごと・・・さすがヘルシング機関。徹底しているな。

では、ホールへ移動するとしよう。あと、念のためにジークフリートに念話でもしもの時のために備えていて貰うか。

そういえば、今回の警備担当は・・・ベオウルフか。ドラゴンすらも打倒した英傑なら竜とも称された事のある悪魔も抑えきれるだろう。

そうして、ホールにたどり着くとそこにはど真ん中に棺桶が鎮座していた。ベオウルフは、扉の壁に背を預けながら棺桶から目を離していない。

思わず立ち尽くしていると、ヘルシング卿の執事が棺桶に開ける。そこには赤いコートを着た黒髪の男が横たわっていた。

 

「これがドラキュラか・・・!」

 

「吸血鬼アーカード、我々ヘルシング機関が運用する兵器、今風に言うと仲魔です」

 

なるほど、切り札と言うだけあってかなり高位の悪魔らしい。吸血鬼伝承は世界中に広まっているから、その大本とも呼べるこやつは、昔なら現世に顕現できる程度の神霊では相手になるまい。今の終末の世界だと、さすがにこやつよりも強いのは出現しているだろうが。

 

「ううむ。モルガン殿下がヴラド・ツェペシュの製造が失敗した原因がこやつか」

 

「あのモルガン殿下が失敗?」

 

「ああ、かつての人間の魂を核に信仰で肉付けされた悪魔が英傑だと定義されている。だが、その核となる魂が無ければ全くの別物の悪魔にしかならないらしい。」

 

理屈は聞いたがどうやってそういうのが作れるかは理解できないがな!なんだガイア連合の技術力は!こちとら根こそぎ刈り取られた日本と違って日夜研究を重ねていた英国国教会の魔術師だぞ!・・・天才とは居るところには居るもんだが、日本には居すぎでしょうが。

 

「なるほど・・・ん?架空の英雄の場合はどうなんだ?」

 

首を傾げるジーク。まあ、架空の人物の場合悪魔と殆ど変わらないが・・・。

 

「そういうのはモチーフ元や血縁関係にある悪魔が核に代用になるらしい。史実英雄だと本人の魂が無いと、いかんがな。それで今回の失敗はだね?ヴラド公の魂が私たちの目の前にあるからだ。」

 

実際に作られた奴は自我も無いスライムが憑依していて、普通のシキガミと変わらないらしい。しかも、シキガミ体がヴラド公用に調整されていたので性能が簡易シキガミレベル以下に下落したと聞く。

 

「かつてのワラキア公が悪魔に変異したもの、それがこのアーカードだ。おい、起きているのだろう」

 

ヘルシング卿の声に反応したのか、ドラキュラが目を見開き、棺桶から身を起こした。そして、血のように真っ赤な瞳で私たちを見つめてくる。思わず息を吞んだ。

 

「ふぅーー・・・」

 

吐息が白く見える。いや、実際に白く見えるってどういう息をしているんだ。部屋は寒くないんだぞ。

 

「ほう、ここがグリニッジか。ふん、これが英傑と言う者か・・・」

 

化け物はベオウルフに視線を向ける。ベオウルフもそれに呼応して組んでいた腕を解き、腕をだらんとさせた。構えを解いたように見えるがこれって、自然体になっていざという時に対応するやつじゃないかね?

 

「まあ、及第点と言うところだ。・・・で、貴様がマスターとやらか?」

 

そう言うと顔をずいっとこちらに近づけてきた。・・・怖いわ!でも、表情に出したら絶対にヤバい奴だよね、これ!?

 

「あ、ああ・・・。私と隣の少年がマスターだ」

 

しばらく無言で私たちの顔をジロジロと見てくるアーカード、早く終わってくれ・・・!

 

「ふん、なるほど。まあ、よかろう」

 

「お眼鏡には叶ったかな、アーカード?」

 

アナタは楽しそうですね、ヘルシング卿!いや、インテグラ女史!

 

「それはこれからという奴だ」

 

そう言うとアーカードは帽子を脱ぎ、お辞儀をしてくる。おっと、彼に応えねば。

 

「うむ、これから頼むぞヴラド公」

 

「・・・アーカードだ」

 

「ん?」

 

あ、あれ地雷踏んだ?ジークフリート、いざという時には、ジークを頼んだぞー!?

 

「私のことはアーカードと呼べ。人間で居る事が出来なかった情けない男(ヴラド)は居ないのだ。ここにいるのは弱い化け物だ」

 

「お、おう?・・・ちょっと、ミス・ヘルシング?」

 

よ、弱い化け物?何というか独特な価値観を持っているのだな・・・。と言うより鏡を見ろとツッコミたくなんだが。

 

「こいつは、こういう奴なので。ただ、戦闘能力は大したものですよ」

 

「なるほど・・・。それなら歓迎しよう、アーカード!ブリテン、いや人類守護の砦の一つ、グリニッジへ、ようこそ」

 

私は、建物の中を示すように腕を広げた。ちなみにジークフリートが念話で伝えてくれた内容によると今グリニッジに居る英傑とマスターがここに集まっているらしい。アーカードもそれに気付いているのか視点がキョロキョロと動いている。しかも、なんか楽しそうなんですけど?

 

「ああ、幻魔アーカード、コンゴトモヨロシクだ」

 

アーカードはその鋭利な牙が見えるくらい唇を歪めた笑顔で挨拶してきた。・・・さて、だれに押し付けるかね。

 




ジークがこんなキャラになったのは何故だろう?ハルヒが出てくるメガテンスレの影響だろうか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

こぼれ話 その二

今回はブリテンを統一し、英傑シキガミと言う存在で何を作れるかと言うお話。


かつて大英博物館と呼ばれた建物の中を歩いていく。今、この建物にはブリテン国立研究所が設営されている。ここにあった歴史的遺産の殆どは、その研究所に接収されたと聞く。

ちなみにイギリスの退魔組織は、ここには存在しなかったらしい。むしろ、ウェストミンスター宮殿の方に存在したと聞く。

要するにここを拠点にした人物は自分自身の手で時計塔を作ろうとしているとも言えるのだ。事前に聞いた話によるとヨーロッパ中から避難してきた魔術師を取り込んで急速に組織として形が作られている最中らしい。

そして、ここには今回の訪英目的がある。

その目的こそ目の前の人物が用意しているモノだ。

 

「お久しぶりですね、奥さん」

 

長い銀髪をポニーテールで結び、黒いリボンが揺れている。服装は白衣姿だが、体つきの良さは、見てわかる。ただ、一つ難点を上げるのなら、普通の服装だということだろう。

 

「こちらこそお久しぶりです本郷警視。いえ、出世なされたのでしたね」

 

かつて日本にてガイア連合の研究部門に所属していた才媛モルガン・エヴァンズだ。ちなみにFateのモルガンの衣装も持っているがあれは戦闘用の霊装だと聞いたことがある。まあ、普段着には使えないわな。

 

「何、所詮は窓際部署ですよ。だからこそ好き勝手出来ているのですがね」

 

本郷猛なんて名前と見た目を持っても所詮はただの警察官、デモニカを着る事はあってもシキガミパーツで自分を改造したりはしていないからなあ。

 

「窓際と言っても日本にも終末が来た場合、警察を掌握する役目も期待されているのではないですか?」

 

「まあ、政治家の俺たち、もとい同胞たちからそれとなく言い含められては居ますがね?」

 

まあ、そういう話も実際に言われたことがある。と言うか、警察上層部もさすがにヤバいと思ったのか霊能担当であるウチの部署にテコ入れしようとしている節がある。ちなみに追加人員の話も出たが、その時は同僚がキャリア組を異界に連れ込んでしまった。それ以来、追加人員の話は無くなったが、構成員を派閥への取り込み活動をしてきている。

ただ、俺たちの統一見解としては今更遅いの一言だがな。

 

「・・・いや、公僕が認めてよろしいので?」

 

「それを言うなら政府転覆を前提にしている時点でアウトだと思いますよ」

 

「確かに・・・」

 

ガイア連合も日本政府の残党を取り込むつもりはあっても、日本政府そのものを残すつもりがないからなあ。なんせそうしないと借金で死ぬ。

 

「それで後ろにあるのが例のモノでしょうか」

 

それよりもモルガン女史の後ろにある装備が気になる。おそらくデモニカなのだろうが、私の好みに合致するデザインだ。あのバケツスタイルも慣れれば悪くないのだが、やっぱり赤い複眼だよな!

 

「はい、これが英傑装甲服です。ちなみに見た目はあなた好みに合わせておきました」

 

「ふむ、なるほど・・・ペガサスフォームかな、これは」

 

緑色の装甲にGシリーズに近いアンテナ、装甲はデモニカより厚そうだがG3マイルドみたいな感じだな。

 

「いえ、強いて言うならロビンフォームです。ボウガン型霊装を主兵装にステルス迷彩、魔法もエストマやトラフーリ・小を備えております」

 

「うむ・・・いや、この性能って警察と言うよりは軍向けでは?」

 

しかも特殊部隊とかそういう風に使われる代物だと思うのだが・・・。万が一仮に流出した場合ヤバくね?

 

「ここはイギリスなので、ロビンフッドが量産しやすかったんですよ。現代戦にも相性が良いですし」

 

「警察としては市民の盾になれるような奴が良いんだが・・・」

 

警察としてはオカルト事件に巻き込まれた一般人の救助が第一で、悪魔を倒すのはそれこそ自衛隊にして貰いたいんだが・・・。あっ、そう意味ではエストマやトラフーリ・小は凄い助かる。あとは、マッパーとかエネミーサーチも欲しいなあ。いや、これはアプリで補えるのかな?

 

「量産性のある盾持ちが居なかったので。レオニダス辺りなら良さそうなんですが、実用に足る遺物が入手出来なかったんですよ」

 

「なるほど、それならありがたく頂戴しましょう。それとガイア連合向けの依頼ですが・・・」

 

とりあえず、ステルスだけはオミットしなければ。それと本命と呼べる仕事もしなければな。

 

「そちらのトランクにサンプルが用意してあります。」

 

部屋の壁側を見るとトランクケースが机の上に置いてあった。モルガン女史がカギを取り出しトランクを開ける。

 

「ほう、剣ですか」

 

装飾が付いた西洋剣が入っていた。ぱっと見だと装飾過多の儀礼剣だが覚醒者の視点で見ると、この剣がかなり強力な霊装だということがわかる。

 

「伝承兵装、伝説や神話に謳われる悪魔のデビルソースを元に再現された伝説の武器です。これで高レベル向けの装備が供給出来ますね」

 

英傑を作成するにあたって力の元になる悪魔の欠片とアインヘリアルやワイルドハントなどの悪魔から過去の英雄の魂を抽出、複写したデータを掛け合わせて作られたデビルソース、それが英傑式シキガミのコアとなっているパーツだ。

ちなみにこのデビルソースの利点は疑似的な悪魔全書機能を持たせることができると言う事だ。と言うかやっていることを考えれば疑似的な悪魔合体もしているような気がする。

英傑シキガミこそ情報密度が高くて複数顕現は難しいが、伝承兵装なら量産が可能なのだ。

実際にバルムンクの量産に成功したと言う報告があり、こうして私たちガイア連合中堅組が日本から遠いイギリスにまで渡航したのだ。

なお、例え英傑シキガミが倒されてもリソースさえあれば再生産可能というまさにサーヴァントみたいな事も可能である。

 

「ふむ、悪くないな」

 

 

試しに剣を振るってみたが、良いものだな。惜しむらくは私だとまだ宝の持ち腐れだと言う事だ。もっと力ステが高い幹部級の俺らに持たせた方が良いな。

 

「本国にも多神連合が居るからデビルソースの入手は難しくないでしょうが・・・」

 

「ただ、その場合だと連中に借りを作りかねませんな。ここイギリスだと英傑が多いのでガイア連合内で準備出来るのは強いですね」

 

確かにグングニルやケラウノスにミョルニルを使ってみたくはあるが、連中に貸しを作るのはなあ。

 

「ちなみにプロトタイプの方も見ますか?ワンオフですよ」

 

プロトタイプ?それは、英傑武装技術のプロトタイプと言う事か。しかも、ワンオフ・・・機動戦士を思い出しますな!

 

「それはそれは、ロマンですね」

 

「HERO型デモニカ、内蔵されているシキガミをスライムではなく英傑を採用し、伝承兵装を持たせることでユニークスキルすらも使用可能となります」

 

ほう、バケツヘルムなのは変わらないが全体的にマッシヴだな。印象的にはアイアンマンに似ている感じだ。しかも、ユニークスキルが使えるようになるのは素晴らしい。スキルカードである程度は覚えられるが、ユニークスキルは使えた事例は聞いたことはないな。

 

「なるほど、不採用なのはコストが原因ですか?」

 

ただ、やっぱりお高いんだろうなあ、こういうの。

 

「はい、それも理由の一つです。戦闘能力が高いけど霊的才能の無い現地人向けみたいな物の割にコストが高いですからねえ。ぶっちゃけ、普通にシキガミや英傑を使った方が私たちとっては使い勝手が良いです」

 

「まあ、そうだな。私たちにとっては所詮補助機みたいなものだからなあ」

 

デモニカで覚醒したのなら、普通にシキガミ使えば良い話だからなあ。ストレンジジャーニーのデモニカのような性能なら話は別なんだろうが。

 

「実はほかにもデメリットもありまして、ユニークスキルを使うにあたって中の悪魔と同調する必要性があるので最悪の場合悪魔化します。これはデータ参考元の事例から適合率などの安全基準を策定する必要があるのですが、量産する事がないのでその必要もありませんし・・・」

 

「参考元?人間が悪魔化した事例があったのか?」

 

悪魔かした人間が居るのか、やはりカオスヒーロー系の人間なのか?

 

「アメリカのデモニカユーザーがレベル上限を超える為に色んな悪魔のMAGや薬を使用した結果、人間のカテゴリーから外れたのが報告されています。ちなみにデモニカのハーモナイザ・システムでかろうじて人間であることを維持していたようです」

 

おおう、だいぶ無茶苦茶したのだな。いや、覚醒するために腕一本シキガミパーツと交換した現地人も居たけどさ。

 

「しかし、この改造デモニカのハーモナイザは英傑に人間側を同調させる必要があります。名もなきスライムなら悪魔側を多少なりと人間に近づける事も出来るのですが、これのコンセプトは人間に英傑の力を宿すことなんですよねえ。要するに楽して力を手に入れるのではなく地道にレベルを上げろと言う事ですね」

 

ううん、技術的な話はそこまでわからないがブレイドのアンデット融合係数みたいなものか。要するに本来なら疑似的に覚醒者するハーモナイザ・システムが英傑のスキルを使用するに英傑に近づきすぎてしまうという解釈で良いかな。剣崎君には、猶更渡せないなあ。

しかし話を聞くほど霊的才能がある俺たちにとってはユニークスキル以外メリットが無いな。

 

「つまり、英傑側にリミッターをかければイケるのでは?」

 

「それ、普通のデモニカで良くないですか?いや、成長後の仕様が決まっている方が自衛隊は嬉しいでしょうけど」

 

確かに彼らからも仕様の方向性が決まっている方が良いとは聞くし、なんなら私の部下からも同じ話を、聞かされたな。

 

「なら、強力なユニークスキル持ちなら試す価値はあるはずだ」

 

「そうなると結局はコストの問題に戻りますね」

 

そう言えば、高いんだった。

 

「・・・ううむ、ワンオフなら普通のデモニカで成長させた方が安上りか」

 

「しかも、強力なユニークスキル持ちほど求められるレベルが高そうですね」

 

ああ、安全を確保するなら、そういうデメリットも出るか。それなら普通のデモニカを複数用意して多くの人間のレベルを上げた方が、メリットがデカいなあ。

 

「それだと作る意味が無いな。しかも装着者は最終的に人間を止める可能性が高いと」

 

「そう言う事です。今は、伝承兵装とGデモニカのみが完成品ですね」

 

まあ、ユニークスキルが無くても最初からある程度の性能を発揮できる改良式デモニカで我慢するか。どのみち本命は高レベル向けの伝承兵装だし。

 

「クラスカードや疑似サーヴァントみたいな代物は、夢のまた夢と言ったところか」

 

「それで如何します、この鎧。正直、コンセプトが仮面ライダーもどきみたいになっちゃったので見せたんですけど」

 

こいつが仮面ライダー?どうみてもアイアンマンの親戚にしか見えないんだが。確かに力の代償に人間を止める可能性が高い代物だが・・・クロス・オブ・ファイアか。

 

「そういえば確かにライダーに近いな。・・・・・・・・・・・・・・一応貰いましょう」

 

「ええ、結構です。その代わり期待させて貰いますよ。ガイア連合産の輸送船の供与を」

 

「私が言うまでもなく増やしてくれると思いますよ。なんせ悪魔以外でマッカが入手できる重要な支部なので。今回の件で、高ティア武器の素材の供給元にもなりましたし」

 

少なくともガイア連合が抑えている海外資源地帯と同格以上の扱いにはなるだろうなあ。しかも、実質俺たちの国みたいな状態だし。まあ、内部に多勢力を抱えているのも日本と変わらないしな。

 

「ありがとうございます。これで夫にも良い報告が出来そうです」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

本郷さんにGデモニカと伝承兵装を引き渡した後、地下深くの研究室に来ていた。悪魔の力と異界化を利用して既にかなりの深度まで掘り進められている。ここは、その最深部だ。その内中層ぐらいにはなるでしょうが。

 

「これを本郷さんに、ガイア連合の仲間に伝えるべきだったでしょうか。いえ、あくまで紙の上の計画だけの存在、話す必要はありませんね」

 

バツ印の書かれた書類を持ちながら、ふと呟く。霊的国防兵器を作っている内に考案されたプランの一つだが、あまりにも非人道的な為凍結されたプランだ。

 

「亡くなった人たちの魂を集めて、強固な認識の力を持つ神殺しの兵器など・・・」

 

この研究所を作ってから出来た私の弟子が持ってきたある霊装によって考案された。魂を収集する墓守の霊装により、死んでいった億の魂を集め、一つの器に製錬し、魔界に居るであろう本体ごと悪魔を殺す為の兵器。Fateの聖杯やメガテンの宇宙卵やらに匹敵するとんでもない厄物になるのは間違いないでしょうね。

 

「私としてはゲーティアの宝具を想起しましたが、アーサーは別のモノを思い出していましたね」

 

魂を燃料とするだけではありません。人間が持つ認識の力は四文字すら零落させる事が可能らしいです。もし完成すれば情報生命体である悪魔にとって致命的な兵器となるでしょう。非道すぎますし、そもそも技術力的に制御するのも作るのも無理だと思う。

しかし、そんなとんでも兵器が登場する作品が存在するのですねえ。

 

「確か・・・事象兵器(アークエネミー)と言っていましたっけ」

 

 

 

 

 




モルガン魔導研究所
表向きは元ウェストミンスター宮殿に存在する事になっているが大英博物館の地下室を利用して作られた空間に存在している。欧州中の避難してきた魔術師や科学者を取り込み、ガイア連合の技術力で纏め上げている故、魔女術など欧州系技術力を一体系として形作られつつある。この組織により英傑シキガミや終末対応型兵装の開発の助けとなっているのだ。
現在は地下を拡張しつつ、一部を異界化し大英博物館の収蔵品を利用して英傑系の研究にとりかかっている。
なお、モルガン的にはせっかくだし時計塔作ってみようといっただけである。ちなみに組織の体系づくりは旦那の仕事である。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

こぼれ話 その三

今回は、モルガンが設立した魔術研究組織「時計塔」の説明会です。
これで現時点でエヴァンズ一家がイギリスでしている大きな動きは現時点では以上です。

次の動きは恐らく本編で語られて世界中での一斉反攻の時ぐらいかな。


「コノエ、そこの資料を取ってください」

 

ロンドンの地下の広大な空間に機械の音と魔法の音が響いている。大英図書館に存在した地下シェルターの増設作業は未だに終わらない。その作成には大工、科学者、悪魔、魔術師などの様々な分野の存在が関わっていた。

私の師匠であるモルガン摂政殿下、ここではモルガン院長の主導によって設立された魔術研究機関「時計塔」それがここの名前だ。

 

「はい、どうぞ。師匠」

 

私、コノエ・マールフィールドは降霊科で委員長の地位にある。階級の順番は各学科に学部長を上に置き教授、助教、委員長と続く。と言っても教授や助教の地位にある人間は殆どいない。それは時計塔の成り立ちが原因だ。

この組織の構成員は大陸側から追いやられた魔術師やメシア教に滅ぼされた魔術結社を糾合された者たちばかりだ。一族の秘伝や奥義が一つに纏まったと言えば聞こえは良いが、それを照らし合わせて一つにするのにかなりの時間が掛かっている。更に言うと魔術式のスリ合わせや一門同士の因縁など様々な問題が残っている。

それが仮にも一つに纏まっていているのは頂点に立つ師匠が優れた技術力を持ち、法政科と言う部門により派閥間の調整が行われているからだ。このままの体制が続くなら順当に時計塔は一つになるだろう。

 

「ふむ・・・バトルコンブやコンバックの術式構築は、難しいですね。似たような事は神主も出来ますが、それでも正規の悪魔合体の領域までいきませんからねえ」

 

ガイア連合の技術力と師匠の魔導の知識は、私たちの知識を纏まった体系に再編しつつある。おかげで私も魔女としての位階が上がったのを実感している。

ところで今師匠の発言に気になるところがあったんだけど。

 

「師匠、バトルコンブとは?海藻型のシキガミとかでは無いですよね?」

 

日本の方では様々な種類のシキガミが居るとは聞いているがさすがに海藻は無いわよね?モルガン師匠もそんなものを作るような人でも無いし。

 

「今、私たちで一番求められているといっても過言ではない悪魔合体、それを行うための魔法ですよ」

 

「悪魔合体・・・噂では存在していることは聞きましたが本当にあるんですか?」

 

悪魔同士を合体し位階の高い悪魔を作り出すという邪法、まさかそんなものまで研究していたなんて。

 

「まあ、あるんでしょうね。すでに限定的な結果は出てますし」

 

「さすがガイア連合・・・これも様々な部門の知識を糾合した結果なんですね」

 

ガイア連合は科学技術やオカルト技術を際限なく取り込み昇華していると聞く。それと同じやり方、ここブリテンでも効果は出ている。英傑の増産やオカルトインフラもその成果と言えるでしょうね。

 

(・・・そういえば今の私の立ち位置って英国版ショタおじでは?)

 

私の言葉を聞いたモルガン師匠が急に黙り込み、その後愕然とした表情をした・・・何事!?

 

「あ、あの師匠?どうしたのですか?」

 

「いえ、なんでもありません。ええ、なんでもありませんとも。それよりもそろそろ時間では無いですか?」

 

師匠が壁にかかっている時計を指さす。もうそんな時間か。

 

「あっ、本当ですね。それじゃあお先に失礼します」

 

「ええ、私はもう少し資料を読んでいますので。妹さんによろしくね」

 

そう言うと師匠は再び机に視線を向け、パソコンを操作し始めた。・・・こういうところは、ガイア連合らしさを感じるわね。

部屋を出て、視線を巡らすと踊り場のソファーに座っている少女を見つけた。その少女は私が部屋から出てきたことに気付くと立ち上がる。隣に座っていた男性と挨拶をして、こちらに向かって駆け寄ってきた。・・・後で、あの男について調査しなければ。

 

「おねえちゃーん!」

 

「レイ、走ったら危ないわよ」

 

栗色のポニーテールが揺れながら駆け寄ってくる。そして予定調和のように足元の小石に躓いて転んだ。もう!あんたは運動神経が良くないんだから。

 

「いたたた・・・」

 

「もう、だから言ったのに」

 

小言を言いながら妹に手を差し伸べて立ち上がらせてあげる。

 

「えへへへ」

 

笑ってもご任せれないわよ。と、そう言いつつもハンカチを出して顔についた埃を拭ってあげる私だったのだ。

 

「それじゃあ、行きましょうか」

 

「うん!」

 

地下であるにも関わらずちょっとした大通りのような廊下を妹と歩いていく。ふと、横を見ると、妖精たちがモノを部屋に運び込んでいる。確かあの部屋は異界化されていたわね。

 

この時計塔の地下は地下研究施設と言うよりももはや巨大な迷宮異界とも呼べる存在になりつつある。

おかげで時計塔内の異界で霊的資源の採掘が可能になっている。しかも、迷宮化した補正か下層では上質な資源が採掘されているとも聞いている。

元も大英博物館の表に出せないオカルト品が存在していた事も考えると世界で一番霊的資源が豊富と言ってもおかしくはないだろう。・・・噂に聞くガイア連合本部には多分負けるだろうけど。

 

「レイ、最近どうかしら?」

 

この子はMAG保有量こそ多いけど実家の術式と相性が悪かったのよねえ。この時計塔が出来なければ適当な家の嫁に出されていたかもしれないから、それだけでもこの時計塔は存在する価値はある(断言)

 

「うんとね。私に会う術式が見つかって今それを習っているところなの。あとはモルガン先生に異界に連れ出されて修行したりかな?」

 

「・・・なんで師匠は、位階が高いの魔女なのに、修行は脳筋路線なのかしら」

 

私も師匠にレベリングしますよと連れ出されたことがある。しかもそれで実際に位階が上がったし。私なんてDレベルが3も一気に上がった事がある。なお、総統はDレベルが苦手らしい。師匠に付き合って異界に来ていたのだが、随分と面白くなさそうな顔をしていた。そんな総統を慰めている師匠とのイチャイチャぶりにはブラックコーヒーが美味しく感じたものだ。

 

「まあまあ、バーヴァンシーさんや偶にアルちゃんも一緒に修行に参加しているし安全だよ」

 

「そのメンツは別の意味で不安なんだけど・・・」

 

と言うか、この前戴冠してたでしょうが、あの子は。

 

「ねえ、お姉ちゃんのほうはどうなの?」

 

「今降霊科ではマーニュプランの検討をしているわ」

 

私が所属している降霊科は悪魔召喚プログラムや英傑製造などの研究において中核である。この時計塔でもっともリソースがつぎ込まれていると言っても過言ではない。

まあ、魔術師本人を強化する術式研究に割くリソースが無いとも言えるが。

 

「マーニュ・・・もしかしてカール大帝の英傑?」

 

「その名の通りよ。あのヨーロッパ文明の礎を築き上げた偉大な英雄、その英傑悪魔の製造が検討されているわ」

 

「シャルルマーニュなら凄い強そうな英傑になりそうだね」

 

「それだけでは無いわ」

 

この形式の英傑は現在英傑が抱えている欠点を解消する能力を持っている。そのために研究されている英傑なのだ。

 

「円卓と言う概念はフランス英雄であるジャンヌ・ダルクをイギリスでの稼働を容易にしたわ。これは円卓にはフランス人も参加していたという伝承があるからよ」

 

「それって、カール大帝の場合だと・・・」

 

「そう、カール大帝の名の下でヨーロッパの英傑がヨーロッパでの活動制限が無くなると、想定されているわ。つまり、あの燃費極悪のヘラクレスの燃費をギリシャで活動させるとき並みに軽減出来るはずよ」

 

「あのヘラクレスが!?私も実物を見た事はあるよ。確かにすごく強かった。でも、そのあとで聞いたMAG消費量を聞くと唖然としたもん。それが節約できるのかあ~」

 

「ちなみにローマ皇帝でもあったから地中海世界全体に影響があるといっても過言では無いわ。」

 

本当にかつてのローマ帝国って偉大だわ。匹敵するのは、中国で言うと大秦帝国ぐらいかしらね?

後はアレキサンダーやフビライ・ハンとかが指揮官型英傑の候補に入るかしらね。

 

「つまり、北アフリカや中東も範囲に入るの?」

 

「あのアーラシュ・カマンガーも運用できるようになるかもね」

 

「ならいつの日か故郷に帰れるかもしれないね」

 

故郷、あそこから去る時の怨嗟の声が忘れられない。我が一族に伝わる冥蒲のランタンからも声が聞こえる。冥蒲のランタン、いつからか死者の魂が昇天せず現世に残留しつつある現状を危惧した先祖が創り上げた霊魂の揺り籠。このランタンにはグレートウォーの死者の魂も眠っている。だが、終末の世における悲劇は死者の数を上回ってしまった。このランタンにはメシア教への憎悪が渦巻いている。師匠はこのランタンを呪いの聖杯とも呼んでいる。総統はタルタロスマキナもしくはディスレヴと呼んでいたが。

 

「そうね。その日が来るといいわね」

 

私は彼らの無念を晴らすためにこの膨大な霊魂をリソースにした巨大シキガミや武装を提案したが技術的な問題から却下された。だが、総統曰く、もし仮説があっているならばまさしくアークエネミーとなるだろうと語っていた。だから、私は研究は続けている。故郷の仲間の為、死んでいったものの為、そして妹のレイが生きる未来のために。

 

「お姉ちゃん?顔が怖いよ?」

 

んん!?少し顔が険しくなっているわね。やれやれレイを怖がらせちゃったようね。

 

「あっ、ごめんなさい。少し考え事していたの」

 

 

 

------------------------------------------ーーー

 

 

 

「・・・行ったようですね。そろそろ行きますか」

 

私の弟子であるコノエが部屋を出たのを確認すると、この部屋に備え付けてある秘密のポータルを起動させた。

目的地はこの時計塔の地下数十キロの地点に設置された私の特別研究室だ。

 

「アクセスコード、ゾギングヂグリ、ザギヂンベヅシュグゾダダベギロンゼ、パセゾギザバゲ」

 

私が呪文を呟くと壁の本棚が開き、紫色の光が蠢くゲートが形成される。うん、ロマンが溢れる隠しゲートですね。我ながら惚れ惚れします。

 

「やあ、おつかれさま」

 

そこには見慣れたスーツ姿のアーサーが居た。うんうん、鎧姿もカッコ良いですがこっちの方が私の知るアーサーらしいですね。

 

「アーサーこそ、忙しいところすいませんね」

 

「なあに、これも公務みたいなモノさ」

 

アルトリアが戴冠したとは言え、官僚機構も一から作り出しているところだ。アーサーの負担は大きい。うん、やっぱりアーサーよりは忙しくない私*1はブリテンのショタおじでは無いですね!

 

「これがロンゴミニアドか」

 

アーサーが研究室の中央に開いている大穴を見て呟いた。その穴の中には蒼い炎が蠢いてる。かと思えば波にように揺らいだりもしている。その中央に私が設置した礼装が浮かんでいる。これこそが地脈接続式戦略撃神槍ロンゴミニアド砲の中心核だ。

 

「世界のテクスチャを縫い留めるのでは無く、魔術としてのロンゴミニアドですけどね」

 

「まあ、前者の機能を再現できれば、今のこの世界を元に戻すことも可能だろうけど。さすがに無理だろ、それ」

 

八百万の神々のせいで世界の壁が壊れて魔界と近くなった地上世界。その世界のテクスチャを縫い留めるロンゴミニアドは想像したこともありますが・・・。

 

「正直、どこから手を付けて良いのか私にもわかりません。本土の方にもメールで相談しましたが、宛は無いそうですし」

 

まあ、世界の壁を縫うって普通に考えたら意味不明ですからね。ペルソナのパレスとかを利用できればワンチャン?とかそんな感じですね。

 

「とりあえず、今必要なのは後者の機能だ。想定される性能はどうなんだい?」

 

「ヨーロッパ全域を射程範囲には納める事が出来るでしょう。ですが、アメリカには届きません。」

 

ヨーロッパ全域の地脈の把握が出来たのでそこは問題ありませんね。このロンゴミニアド砲は、地脈の流れを利用して充填、照準、発射を可能とします。アメリカの地脈を把握できれば、直接ぶち込んでやれたモノを・・・。

 

「少し期待はしていたが、無理か。これが出来れば核ミサイルは勿論の事メギドアークすらも撃墜出来る戦略兵器が完成すると思ったんだがなあ」

 

「ですが生半可な悪魔なら消し飛ばしますよ。例え主神クラスでも直撃すれば死にはしないでしょうが、大きなダメージを追うでしょう」

 

威力だけは想定道理です威力だけは。ちなみにシュバルツバースのプラズマ雲のデータも参照しているので分子レベルでの破壊も可能だ。

 

「地脈から組む出した力を束ねて放つんだ。出力が桁違いだろうね」

 

「まあ、制御系に問題があるので完成にはもっと時間がかかりますからね」

 

現状の技術力だと色々と足りなすぎます。極秘プロジェクトとして予算は流れてきますが、予算だけの問題でもありませんからね。そう、私がいうとアーサーは少し考えこんだ後私にとんでもない事を聞いてきた。

 

「・・・ちなみに未完成状態のままで使うとどうなる?」

 

「この時計塔自体が砲身になり地上のロンドンを吹き飛ばしますね」

 

それどころか月に大穴を開けかねませんね。

 

「まるでバベルハンマーやカ・ディンギィルだな」

 

「ん?聞いた事のない単語ですがどの作品です?この前のブレイブルーとかと言う奴と同じですか?」

 

コノエが発案した礼装を聞いて、事象兵器とか言っていたのを聞きましたが、今回もそれ関係でしょうか?

 

「違う作品さ。しかし、ロンドンにおびき出した悪魔を吹き飛ばすのには使えるな」

 

「ちょっと、アーサー。既に地上の再建は始まっていますし、何よりも私の時計塔もあるんですからね。そんなもの使ったら全てが吹き飛びますよ」

 

今の時計塔には貴重な資源だけじゃなく多くの人命も居るんですよ?

 

「なあに、最悪の事態やよっぽどの好機が来ない限りそんな自爆装置めいたものは使わないさ」

 

「当たり前です」

 

ただ、いざという時の備えだけはした方が良いのでしょうね。あるはずが無いと思っていてもアーサーが最悪の想定をしているのならそれに備えるのが私と言うモノ。そう、かつてスレからメガテンの存在を知り、星霊神社で覚醒しようと判断した時のように。

*1
モルガンも同じくらい忙しい




時計塔
モルガンのよって作られた魔術研究地下都市。廃墟となって殆ど人のいなくなったロンドンに残った最後の都市である。すでにロンドン中の地下シェルターを連結しつつあり、それ以外のロンドン市民の殆どを収容するまで規模を拡大している。

地下空間は多くの異界と現実の地下空間が結合し、迷宮を形成している。この時計塔異界のコアとなっているのは地下深くに造られてモルガンの研究室にある礼装だ。
ダグザの大釜を参考にして地面に埋め込まれ、精神感応作用をもつ金属で作られた巨大な窯。中央には槍上のクリスタルらしきものが浮遊している。

現在、時計塔で開発が進められているのは『地脈接続式戦略撃神槍ロンゴミニアド砲』と『欧州展開用指揮官型英傑』、そして『超力戦艦マクロス』である。
なおアークエネミーの研究も少しずつ進んではいる。もし鳳翼・烈天上を造り上げる事が叶うならば、世界は再び神代と決別するだろう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。