【カオ転三次】ゆかりさん奮闘記 (ぼてぼて)
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ガチャは悪い文明

人生で初投稿です。
勢いで書きたいことだけ書いたので、短くて台本ぽくても許せサスケ。


某国からミサイルがしょっちゅう飛んでこようと、日本人にはもう慣れっこ。

今日も今日とて世界は騒がしいようだが平和な日本。

そんな日本の片隅で、私、結月ゆかりは日課のデイリークエストをこなしている。

 

「ゆかりさんゆかりさん、ゆかりさんって確か他人のガチャ運強かったよな?」

 

「自慢じゃありませんが、今まで他人のガチャで狙った獲物を外したことはありませんね」

 

「自分のガチャは?」

 

「頭をぶつけた天井は数知れずです」

 

「難儀な運してるなぁ」

 

学校の昼休み、昼食を早々に食べ終えてソシャゲのスタミナ消費をしていると、その様子を見た琴葉姉妹の姉のほうが話しかけてきた。

 

「同情するなら石をくれ。茜さんならガイアギフト券くれたら自撮り写真送りますよ? 微エロまでならOKです」

 

「あげへんし、いらんわい。うちの事なんやと思てんねん。あ、でもゆかりさんの写真やったらエロ親父に売りつけて小遣い稼ぎできるか?」

 

「やっぱ無しで。後二度と私にカメラ向けないでください」

 

「なんでや!?」

 

「いや、当たり前やろお姉ちゃん……」

 

茜さんとコントをしていると、妹の葵さんほうまで寄ってきた。

 

「葵さんもこんにちは。で、茜さんはどうしたんです? 沼ってるガチャでもあるんですか? ガチャを回す時は物欲センサーが仕事をするので無欲で臨むのがコツですよ。私はこれで天井まで回しました」

 

「完敗してるやん。ていうかお姉ちゃん。ほんまにゆかりさんにガチャ回してもらうつもりなん?」

 

「せやで葵。天井まで回して貯めた徳を、他人の10連で使い切る女、結月ゆかりに回してもらえば大勝利間違いなしや!」

 

「喧嘩売ってます? 売ってますよね? 買うぞこら!」

 

やんややんやとじゃれ合う。

疲れたところで話を進める。

 

「で、どのガチャを回して欲しいんです? 見事敗北記録第1号にして差し上げますよ」

 

「ゆかりさん、フラグ建ってるで? 回してほしいんはこれや!」

 

ばっ、と差し出されたのは1台のスマホ。

ん、これは……?

 

「茜さん、スマホ買い替えたんですか? ガイア製の最新機種じゃないですか」

 

「2台持ちやで~。こっちはまぁ、このアプリ専用でな」

 

「ブルジョワ許すまじ。ソシャゲ専用に端末増やすとか頭おかしいでしょ……」

 

「でもゆかりさんが今までガチャに突っ込んだ課金分と比べれば……?」

 

「はいこの話題は早くも終了ですね、辞め辞め」

 

「お姉ちゃんも容赦ないな……。ていうか、ゆかりさん必死にバイトしてガチャに突っ込む生活、ええかげんにしといたほうがええんちゃう? バイト代だけで足りてるん? パパ活とかしてない?」

 

「してませんよ失礼な。ちょっと動画配信サイトでガチャ実況してるだけです。収益化ってやつですよ」

 

鳴かず飛ばずのガチャ配信の合間に始めたはずのSE◯IROのほうがバズって全クリするまで頑張った時のスパチャ貯金もある。

ガチャ動画のはずが、なぜかボスを倒したらガチャを回していい動画になっていたシリーズである。

解せぬ。

 

「え、動画とか配信してるんや? 今度配信する時教えてや。見に行くで~」

 

「動画を見て面白いと思った方は、高評価とチャンネル登録をお願いします。で、なんですかこのアプリ。見たことないガチャなんですけど」

 

画面に映るガチャは、『【ガイアポイント・限定】使い魔アガシオンガチャ!』。

ソシャゲ界隈には詳しい自信があるが、こんなガチャ画面見たこともない。

 

「ガイア系のソシャゲでこんなガチャのアプリありましたっけ?」

 

「まーまーまー! そこはええやん? それでゆかりさんのガチャ運を是非見せてもらいたいなーって」

 

「なんですかその怪しい流し方……排出率は……0.001%!? 天井打つほうが早いでしょ絶対!!」

 

「(天井は)ないです」

 

「消費者庁に訴えろ!」

 

「せやから言うてるやんお姉ちゃん。こんなん当たるわけないって。地道に頑張ろうや」

 

「せやかて葵、うちら大分出遅れてるんやで? ここらで一発逆転狙わな間に合わへんて」

 

「それで素寒貧になってもうたらどないすんねん」

 

「話を聞くに、葵さんもやってるんですか? このゲーム」

 

「え、ああ、ゲームっちゅうか、うん。このアプリは入れてるな」

 

といって葵さんもスマホを取り出す。

ってこれも最新型じゃん。

 

「葵さんまでソシャゲ専用機とか……許されざるよ」

 

「ちょうどええやん。うちと葵のガチャ10連ずつ回してもらおうや」

 

「えぇ……? 私のも回すん?」

 

「回せというなら回しますけど……有料ガチャみたいですが、カス引いてもガイアポイントは補填しませんからね?」

 

「かまへん! 女は度胸! なんでもやってみるもんや!」

 

「はぁ……ほんなら1回だけやで、これで外したらいさぎよー諦めるって約束してや?」

 

「わかったわかった! ほら、葵もガチャ画面出してスマホ並べて!」

 

「はいはい、ちょっと待ってや……」

 

そして私の目の前に並べられる2台のスマホ。

画面には10連タップボタン。

 

「では見事爆死して差し上げましょう。ポチッとな」

 

「軽いな!?」

 

両手の指で10連スタート。

画面で演出が始まる。

 

「……どうなんです?」

 

「ハズレ……ハズレ……ハズレ……ハズレ……」

 

「やっぱりなぁ。せめてレアの1個くらい当たらへんかなぁ」

 

「レアの確定枠すらないんですか……?」

 

無事9回連続ハズレを引く。

 

「ふっ、どうやら無事、他人ガチャ爆死1号と2号になってしまったようですね。まぁ、引けと言ったのはそちらなので恨みっこ無しで……」

 

「「おおっ!!?」」

 

「えっ」

 

2台のスマホの演出画面が非常に豪華なものに変わる。

 

「こ、これは……!」

 

「ま、まさか……!」

 

ドーンと画面全体が塗りつぶされるエフェクトに包まれ、光が収まった時そこには……。

 

『我……使い魔アガシオン……コンゴトモヨロシク……』

 

「「き、キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」」

 

「0.001%を2枚引き……コヒュッ(過呼吸)」

 

「ゆかりさん、ありがとう……! ほんまにありがとう……!! このお礼は必ず……ってあかーん! 息が! 葵、保健室ー!」

 

「わっわっわっ、ゆかりさん、死ぬなー!!」

 

 

……………

………

……

 

 

「……知らない天井です」

 

「んなわけあるかい、学校の天井やで」

 

気がついたら保健室のベッドで横になっていた。

何だかありえない低確率を(他人のガチャで)神引きしたような気がしたのだが、夢かなにかだろう。

 

「ゆかりさん、この恩はうちら一生忘れへんから……!」

 

夢じゃなかったよ畜生……!

 

「言ったなこの野郎。へっへっへ、まずは脱いでもらおうか」

 

「「…………」」

 

「こら、そこで年頃の乙女が思いつめた顔で『どうする?』『脱ぐ?』みたいな目配せしないでくださいよ。まぁ、ガチャ大勝利おめでとうございます。今度スイーツでもおごってくれれば結構ですので……」

 

「ゆかりさん、うちら、ゆかりさんが寝とる間に話おうたんやけどな……」

 

「友達相手にどうするかは、実はずっと悩んでたんやけどな……」

 

「はい?」

 

「「【悪魔召喚プログラム】って知ってる?」」

 

「はぁ?」

 

放課後、夕日の差し込む保健室。

思いつめた顔の友人達。

呆けた顔の私。

 

この日、私は崩壊しつつある世界の真実を知り、【悪魔召喚プログラム】を手に入れたのだった。

古くから地元に存在する、神社の双子の導きで。

 

……でもガチャのお礼ってなんだよ畜生!




ゆかりさんは現時点で当然非覚醒者です
DDS-NETとか見て世界の状況を知った感じです


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琴葉姉妹とゆかりさんが駄弁るだけ

本編みながら明示されてる設定に反してないかヒヤヒヤしてるので今回も初投稿です


「つまり、先日思わせぶりな言動をしておきながら、別に茜さんと葵さんは古くから日本を守ってきた霊能者一族というわけではない……?」

 

「まぁ身も蓋もない言い方やけど、そういうことになるな」

 

後日、琴葉神社にて。

茜さん、葵さん姉妹にご招待され、女子高生の集いらしくお菓子をつまみながらオカルト世界と琴葉姉妹二人について色々と説明を受ける。

 

「別にうちらのオトンもオカンも霊能者ってわけやなかったし。普通の神主とその奥さんやったで」

 

「日本の神社仏閣の全部が全部、そういう家系の血筋で管理されてるわけやないからなぁ。知っとる? 日本の神社と寺院って合計したら全国のコンビニの2倍以上あるんやで」

 

「そこに全部霊能力者なんかおったら隠しきれるわけないわなぁ」

 

「ではどういう経緯でオカルト蠢く裏側の世界にデビューを?」

 

「「オトンとオカンが【悪魔】に殺されて、霊能者の一族に保護されたから」」

 

「……なるほど、お二人のご両親のご冥福をお祈りします。ではお二人はオカルトの世界に関してその時に教えてもらったと」

 

「そうそう。ほんでな、うちらが保護された時って、日本中で霊能力者が本気で足りへんかった時期やねん」

 

「『古い神社の娘なら、もしかしてどこかの家の血が流れてないか?』って才能のチェックというか、検査されたんよ」

 

「結果、当たりやったらしくてなぁ。『後見して修行もつけるから霊能者を目指さないか』って話をされてな」

 

「助けてもろた恩もある。オトンとオカンの仇もある。何より知ってしもた以上【常人の目に見えない存在】である【悪魔】に怯えて生きたくなかったうちらは承諾したで」

 

「まぁその頃は、まさかガイア連合がここまで日本の状況を持ち直してくれるなんて誰も思ってなかったんやろなぁ」

 

「なるほど……ではお二人は修行は受けて無事霊能者になったけれども、状況的に不要になってポイされたんですか?」

 

「言い方ぁ!! ……むしろ逆やで。うちらは実家であるこの神社一帯の霊的防御を担えるようになる事を期待されとる」

 

「その心は?」

 

「【終末】や。国内はまだ平穏やけども、それでも徐々に終末へと近づいとる。海外みたいにあちこちに悪魔が出没して人の世の理が終わるんも時間の問題や」

 

「終末が来たら自分らが生き残れる保証はない。今地方の霊的組織は終末後の生き残りをどうするかでどこも駆けずり回っとるで」

 

「皆生まれ育った地元を捨てたいわけやない。けど全部を助けるのは、無理や。霊的組織同士の結びつきを強めていざという時の約束を交わしたり、装備を準備したり可能な限りの備えをするしかない状況や」

 

「それでうちらは『その時』が来たらここら一帯を守れへんかって。他の知り合いも別の場所に向かった。守りきれそうな場所は駄目そうな場所の人らを受け入れようって話やな」

 

「あの、なんか終末が来ることは前提として話が進んでるみたいなんですが、どうにからならないんですか? ガイアグループが実はガイア連合という霊的組織の表の顔で、実力者揃いの凄い所だって話してたじゃないですか」

 

「【終末が来る】その話の出どころはガイア連合や」

 

「わーお……」

 

つまり国内最大手かつ最強、世界でも屈指の霊的組織が、終末回避に関しては既に匙を投げているというわけだ。

そういえばガイアポイントカードのCMの謳い文句は『系列店では永久不滅、世界が滅んでも有効』でしたね……うん、絶望的ですね。

 

「終末が来たら、日本を含めた世界は今の海外の状況より酷くなるんですよね? 海外の状況って、お二人の端末で見せてもらったDDS-NETみる限り本気でダメそうなんですけど」

 

「今の海外の状況は半終末って所らしいで。今より酷なるんは間違いないやろうな」

 

「じゃあ、あの怪しい日本語でやたらこっちを構い倒してきた外人さん達はどうなるんです……?」

 

「謎の踊りしながら海外の曲を空耳カバーする動画は、一発取りなんもあってウケタなぁ……。まぁ、大半はどうにもならんかもしれん……」

 

「そんな……」

 

「まぁ、でも、わかるやろ? そんな半終末の世界で生き残ってる人らが頼みにしてるのが……」

 

「【悪魔召喚プログラム】……そして【デモニカ】ですか……」

 

「そういうことやな」

 

「なるほど、しかしこの悪魔召喚プログラムを起動して、悪魔と契約するには覚醒者とやらである必要があると」

 

「せやで、非覚醒者では悪魔を実体化させるためのMAGが足りへんし、そもそも悪魔が見えへんからなぁ」

 

「【デモニカ】があれば非覚醒者でも戦える……らしい。けど今は国内じゃほとんど一般に流通してないらしくてうちら程度では良くわからんのよ」

 

「どうしてです? メイド・イン・ガイアなんでしょう?」

 

「海外輸出に全振りされとるって話や。対メシアン過激派戦線はそりゃ欲しいやろな」

 

「修行して覚醒せんでも悪魔と戦えるようになるなんて夢の兵器やもんな……」

 

「一応ガイア連合の正規メンバーになれれば手に入るって噂やけど、もの凄い高いらしいしなぁ」

 

「コネと金が足りないということですか……」

 

「まぁ組織外の霊能者向けに一般販売されてるアガシオンすら金積んで買えへんうちらにとっては、指咥えて見てるしかない代物やな」

 

ちらっと右手の指輪を見る茜さんと葵さん。

なんでも先日ガチャで当てたアガシオンは、普段はその指輪の中に収納されているのだとか。

今私の手元にある【悪魔召喚プログラム入りガイア連合製スマートフォン】こと通称【COMP】はアガシオンを引き当てたお礼にと茜さんと葵さんが伝手を辿って取り寄せてくれたものだ。

結構良いお値段ではあるが、精々が高性能スマホ+α程度のお値段でアガシオン2体とは比べるまでもないとか。

しかもガチャ産アガシオン、一般販売されてるアガシオンより露骨に優秀なスキル持っていたりするらしく、本当に望外の大当たりだったらしい。

私はそれを聞いて、ガイア連合の運営がガチャを回したくなる人間の心理についてよく解ってる事だけは理解したのだ。

さすが系列の会社がソシャゲを複数大ヒットさせてるだけのことはある。

 

「ではこのCOMPは宝の持ち腐れでは……? 肝心の悪魔召喚プログラムは私には起動できないし、今悪魔との契約をしたら干からびて死んじゃうんですよね?」

 

起動はさせられないけど起動してある悪魔召喚プログラムのガチャを回せたの、ひょっとして開発の想定外の使い方では……?

バグとして報告しなくていいんでしょうか……?

いや、ひょっとしてあれは開発がわざと……!?

 

「そうやねん。ってわけでゆかりさん、覚醒修行してみぃへんか?」

 

ずいっと身を乗り出す茜さん。

スウェーで距離を保つ私。

 

「まぁこの話の流れでお断りする選択肢は無い気がするんですが、一応お聞きします。修行とはどのような?」

 

「覚醒に適した霊地で座禅したり、体を鍛えたり、滝に打たれたり……」

 

「座学や武芸の練習もあるで~」

 

「おおっ、わりと想像する修行そのまんまなんですね。漫画にでてくるような」

 

「そやな。まんまそんな感じやで」

 

「うちらゆかりさんが過呼吸で倒れてる時に話しとったんやけどな? ゆかりさんきっと才能あるんちゃうかと思うねん。なんせ霊能者が呪術使って不正するのをブロックしてあるガイア連合産のガチャで確率の壁をぶち抜いた女やからな」

 

「それに大体なんか変な尖り方してる人って霊能者の才能あるイメージあるんや。まぁこれは一緒に修行しとった連中のせいで偏見も入ってるかもしれへんけど」

 

「あ~やっぱり解る人には解っちゃいます? まぁゆかりさんは世界が羨む才知と美貌を兼ね備えた女ですから? 何をやってもこなせてしまうというか……漫画の修行編みたいな特訓なんてちょちょいとクリアして霊能者デビューしちゃうんじゃないですかね? いやぁ自分の才能が憎いですね。ところでお二人共、何か言いたそうにしてますが、遠慮せず褒めてくれていいんですよ?」

 

「……うん! 修行ではうちらも全力で手伝どたるさかい、頑張ろな!」

 

「……そうだねお姉ちゃん! ゆかりさんならきっと乗り越えて覚醒できるよね!」

 

「そうですね~。ではとりあえず学校が休みの土日から始めるということでお願いできますか?」

 

「おっしゃまかしとき! うちらが修行しとった場所使わせてもらうんに話つけるから正式に決まったら改めて連絡するな?」

 

「わかりました。それでお願いします。いやぁ楽しみですね!」

 

はっはっはと3人で朗らかに笑い、その場はお開きとなる。

いやぁ、世界がヤバイのはニュースでもやってましたが、まさかここまでヤバイとは思ってなかった。

ここはいっちょ将来の生き残り見据えて、魔法少女ゆかりさん、始めちゃいますか!!




琴葉姉妹の話してる情報は伝聞・推定が沢山混じっていて、正しい情報源があるわけではありません。
地方の駆け出し霊能者としては知人から話を仕入れたり、DDS-NETなどを通して情報収集したりと頑張ってるほうという設定。

悪魔召喚プログラムは本編によると覚醒者しか起動できないらしい。
しかし画面が非覚醒者には見えないとか起動済みの操作ができないとは明記されなかったからね、ゆかりさんもガチャくらい回せるね、きっと。

アガシオンは転生者なら無理なく買える程度にはお高いらしく、特殊なスキルを持った悪魔は外伝に登場しているのでガチャ産は一般販売よりきっとスキル面で恵まれているとかあるだろうなと思った。ショタおじを信じろ。


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ゆかりさん、霊地で修行する

書きたい内容はだいたい固まっていてもどう表現するか悩んだので初投稿です。
変に悩んで完成しないより、とりあえず投稿したほうがいいってね!

葵ちゃんの口調今まで間違えててすいません。
既存投稿分は今度直すので許せサスケ。
今話から修正済みのはずです。


茜さんと葵さんがかつて修行したという霊地。

案内がなければ結界で一般人が近寄れないようになっているという修行の場。

どんな野生の秘境かと思いきや、修行が行い易いようにきちんと砂利道や木造建築などが整備され、歴史を感じさせながらも人の手がしっかりと入った場所であった。

ただちょっと、明らかに『最近作られました』感丸出しの場違い極まりない、銭湯と自販機が並ぶ無人コンビニ(ガイア系列)とイートインが併設された小さなスパもどきには『オカルト世界もコンビニの便利さには勝てないのか』とがっくり来たものの。

実際にここで修行してみれば『この建物ができる前の人達は修行後どこでお風呂を? えっ、どうして笑顔で滝を指さすんです……?』という、人間そりゃあ便利さと温かいお風呂には勝てないよなぁという当たり前の事実を、毎回お世話になることで実感し。

そのイートインの野外席で、今日も修行後の一風呂を終えた私達は各自飲み物を片手に談笑していた。

 

 

「「「「お疲れー!」」」」

 

冷えたコーヒー牛乳を一気にあおる。

屋外の風と甘い飲み物が、風呂上がりの疲れた体に染み渡る。

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙~。染みるぅ~」

 

「ゆかりさん、おっさん臭いで」

 

「まぁまぁお姉ちゃん。ゆかりさんも随分慣れてきたんだから」

 

「私と出会った頃は修行が終わると同時にぶっ倒れて、毎回死にかけのゴキブリみたいに痙攣してましたからね」

 

テーブルを囲むのは私と、茜さん、葵さん、そしてこの霊地で知り合った、琴葉姉妹の以前からの知り合い。

最近仲良く一緒に修行してる新メンバー、東北きりたんである。

 

「まぁ、そうですね。最初の頃に比べれば随分慣れました。いやぁ思えば随分無茶したもんです」

 

この霊地に出入りするようになって早数ヶ月。

特に今は夏休みで学校が休みなので、毎日のように修行で入り浸ってる。

夏休みの宿題? ああ、あいつは家に置いてきた。

勉強はしたが、ハッキリいってこの修業にはついていけない……。

 

「いや、宿題はやらなあかんやろ。後、ゆかりさんの修行は無茶とかそういうあれを超えてると思うで」

 

「後で写させては聞かないのでそのつもりで~。後、ゆかりさんは覚醒する前に死なないようにほんとに気をつけよう?」

 

「心の声を読まないでくださいよ。それにゆかりさんは魔法少女になって大活躍するまで死ぬ予定はないのでご心配なく……。しかしあれですね。無茶と言えば一番は初日の山登りでしょうか?」

 

「どんな話です? その頃はまだ私と会ってませんよね?」

 

「「あれかぁ……」」

 

「ふむ、ではよろしい、お話しましょう。あれはそう、私が初めてこの霊地に修行に来た日の事です……」

 

 

…………

………

……

 

 

『はい、それではゆかりさんの【覚醒修行RTA】、はじまるよ~』

 

『何を言うてんねん、ゆかりさんは』

 

『えっ、【私が本当の覚醒修行を教えてやる】のほうが良かったですか?』

 

『あら素敵!』

 

『葵!?』

 

『冗談はさておき、今日は初日なわけですがどのような修行を? 動きやすい服装ということでジャージと運動靴で来ましたけど』

 

『あ、うん、まぁ初日やしな。無茶して体壊してもあかんし、無難に山登りの初心者コースがええと思う』

 

『荷物を背負って決められたコースを登り降りする体力作りの訓練だよ。修行をするにはまず体力! ここに来た子は皆通る道だね!』

 

『ふむり。事前に説明のあった内容ですね。奇をてらっても仕方ありません。修行とは一見地味で辛いものと相場が決まっています。まずはおすすめの山登りからやってみます』

 

『ええ心がけや! ほんなら今日山登りに行く人らと一緒に行ってきたらええで。道に迷ったら危ないし、ペースメーカーの引率もおるからな』

 

『おや、お二人は付き合ってはいただけないので?』

 

『山登り初心者コースは私達だと今更だからね。私達は術式訓練に参加してくる予定だよ』

 

『なるほど。では山登りコースに向かう人達が集まる場所だけ教えて下さい。お互い修行が終わったら合流しましょうか』

 

『ええで~。ほな今日はそれでいこか』

 

『ええ、では後ほど』

 

 

…………

………

……

 

 

「普通では?」

 

「慌てない慌てない。ここまでは前置きです」

 

「なんでちょっと楽しそうやねん……」

 

「ゆかりさん本当に反省してる???」

 

「やだなぁ、もちろんですよ」

 

「ちょっと、内輪で盛り上がらないで続けてくださいよ」

 

「ほなそこからはうちが語ろか……」

 

 

…………

………

……

 

 

『ふぅー……。やっぱり術式の訓練は堪えるな。葵、進んどるか?』

 

『あ、うん。せっかく霊地に来たんだから、しっかり術の訓練はしときたいしね』

 

『せやなぁ……。ただ今日はそろそろゆかりさんも帰ってくるやろし、ここらで切り上げへんか? ……うん? なんかあっちが騒がしいな』

 

『ほんとだ。どうしたんだろう?』

 

ざわざわ……ざわざわ……

 

『すんません、なんかあったんですか?』

 

『ん? ああ、どうも登山訓練の上級コースで事故があったみたいだ。一人崖から落ちたらしい』

 

『え、本当ですか? 上級コースは危険だから皆万全の準備で挑むはずなのに……ねえ、お姉ちゃん』

 

『皆までいうなや葵。救助はされたんですか? うちら【ディア】使える使い魔連れとるんですが……』

 

『何、本当か? 二人共若いのに随分……。いや、さっき医務室に運び込まれた所だ。【ディア】持ちなら歓迎されるだろう』

 

『ちょっと行ってきますわ』

 

『ああ、同じ霊地で修行する修行者の誼で助けてやってくれ』

 

『ふふ、アガシオンの初陣だね!』

 

『せやな、まぁ人助けが初の実戦とか、ええことやと思うで』

 

アガシオンを使役するMAGの消費は重いが、人命には変えられない。

幸いここは霊地、しばらく休めば多少は回復するだろう。

 

『すいません、怪我人が運び込まれたって聞いたんですけど……って』

 

『【ディア】で良ければ使えますよ! ……って』

 

『『ゆ、ゆかりさあああああああああん!!』』

 

 

…………

………

……

 

 

「よく崖から落ちて無事でしたね。いやホント生きててよかった。コース間違えたんですか? 途中で『おかしいな?』とか気づきそうなものですが……」

 

「いやそれがな……」

 

「私達もそう思って、初心者コースの集合場所までしっかり案内しなかった事を謝ったんだけどね……」

 

「いやぁ、初心者コースの集合場所のちょうど真横で、上級コースの人たちが集まってまして」

 

「まさか自分から行ったんですか!? 何故!? いや、修行初日とか明らかに雰囲気が初心者ですし、周りの人に何か言われなかったんですか?」

 

「いや、『ゆかりさんならひょっとして初日から上級コースでもいけるのでは?』と思いまして。後、他の方は『こっちが上級コースですか? よろしくお願いします!』って元気に挨拶して自信満々な顔でニコニコしてたら、何か言いたそうな顔はしてましたけど誰も何も言いませんでしたね」

 

「日本人の悪癖が!? 『なんか初心者っぽいけど、違ったら馬鹿にしたみたいで失礼だしどうしよう。誰も何も言わないし……』みたいな感じに!?」

 

「うん、そうみたいやね……。救助してきてくれた上級コースの人らに、知り合いやって解った後凄い謝られたし……」

 

「『明らかに上級コースに挑むには実力が足りてないけど、本人が大丈夫です! って必死についてくるから無理矢理返すタイミングを見誤った』ってもの凄い後悔した顔で……」

 

「下手に初日で誰も顔見たことなかったんも原因みたいやね。別の霊地から来たんかもと思われたみたいで……。上級コースに途中まで食らいついていった根性だけは凄いけどなぁ」

 

「三途の川が見えましたよ。お二人のアガシオンが居なければ危なかった……」

 

「「いや、笑えないから」」

 

「本気で周りの迷惑になるので、実力足りてないのに馬鹿な事するのは辞めましょう???」

 

「いや、流石のゆかりさんも反省しました。それからはちゃんと初心者コースで修行してましたよ」

 

「当然の事を自慢げに言わんでもろて??? ……他はあれやな。当霊地の名物修行、【蛮死異雀符】」

 

「あの件はまだ許してませんよ?」

 

「あ、うん。あれはゆかりさんは怒っていい。大問題になったし。ただあの修行を一回はやるのはここの伝統だから、そこは仕方ないね。古くはあの訓練で一発で覚醒した人もいる由緒正しい修行法なんだよ?」

 

「ああ……私もやられました。ですが、大問題? あれはここに居る人なら誰しも通る道では?」

 

「いや、それがな……」

 

 

…………

………

……

 

 

『どや! ええ眺めやろゆかりさん!』

 

『ええ、最近は山の雰囲気を楽しむ余裕も多少は出てきまして、空気も美味しいですし。こう、清浄な雰囲気というのでしょうか? そういうのも悪くないと思います。ところでこの場所、随分高いところにありますね?』

 

『ここまで登ってくるのもいい修行になったでしょ? ここから下の川まで二百メートル以上あるんだよ!』

 

『なるほど、下に見える川が修行場の滝に繋がってるんでしたっけ。日本の川にしては割と深いそうですね。ところで、【今日は特別な修行をするから】と言われてここに案内されましたが、何故私の目の前の部分だけ手すりが無いんでしょう。どうみても最初からこの部分だけ設置されてませんよね』

 

『今日の修行はこの霊地で修行する人らが全員一度は必ず経験する修行でな? うちらも経験したし、ゆかりさんもそろそろかなと思って予約しといたんや』

 

『そうですか、わざわざありがとうございます。お二人共今日は朝から随分機嫌が良さそうでしたものね。ところで今日の修行に必要だからと着せられたこのライフジャケットのような服なんですが、何のために着たのか説明していただいても?』

 

『あっ、ちゃんとこれを背中につけないとね。…………よし!』

 

『よしじゃないが? ……いや、フックだけ背中につけられも。紐すらついてないじゃないですか、まさか紐なしバンジーを飛べと?』

 

『『…………』』

 

『いやいやいやいやいや。笑顔でこっち見られても…………飛びませんよ?』

 

『大丈夫だよゆかりさん、安心して!』

 

『微塵も安心できないが? ……一応お聞きましょう。何を安心せよと?』

 

『ここの修行は飛ぶんとちゃうで! …………落ちるんや』

 

『は?』

 

瞬間、私の足元の床がガコンと音を立てて消失する。

 

『はっ? はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?? あああああああああああああああああああああああああああああ!!!』

 

『これぞ、当霊地名物修行【蛮死異雀符】! 安心してええでゆかりさん。ゆかりさんには見えてへんやろうけど、うちら覚醒者には見えてる霊糸がちゃ~んとさっきつないだフックと繋がっとるからな!』

 

『まぁ、落とされる人には見えないせいで一番下に落ちるまで気づけ無いから、本気で死を覚悟するんだけどね! 私達もやられたし! 伝統だから! 伝統だから!』

 

『おお~、ええ落ちっぷりや。……そろそろ一番下やな。葵~、巻き上げ準備~』

 

『はぁい。動きが静止したら教えてねお姉ちゃん』

 

『まかしとき~、ちゃんと見とるで。おっ、一回目跳ねたな。ここでパニクるんよなぁ~懐かし~』

 

『結構ぎりぎりまで落ちるからねー。ゆかりさん気絶してない? 大丈夫?』

 

『顔まで見えんなぁ。まぁ【乙女の尊厳】漏らしとっても大丈夫なように替えの下着は用意してあるし。いや~しかしやる方は楽しいなこ……!?』

 

『どうしたのおねえちゃ……!?』

 

一度目のバウンドから再度落下し、二度目の最終落下点。

もう一度くらい軽くバウンドするはずだった私は、しかし背中側からのブチンという感触と共に……。

川へと落っこちた。

……何を見てヨシ!って言ったんですか?

 

『『…………』』

 

『…………あ、あかん! 施設整備は何しとんねん! 葵、下に連絡や! 救助、救助~!!』

 

『ゆ、ゆかりさああああああん!!!』

 

 

…………

………

……

 

 

「えっ、それ洒落になってないやつでは? 助かったんですか?」

 

「あの、きりたん? 目の前で私が生きてるのが見えませんか? まぁ三途の川の向こう側で死んだはずのお祖父ちゃんとお婆ちゃんが手を振ってましたけど」

 

「川を流されてるところを総出で救助してなんとかな……」

 

「【ディア】がなければ危なかった……。ちょっとただの事故では済まされないからね、上まで話が行って大問題になったよ」

 

「流石のゆかりさんもこの件に関しては激怒しましたよ。だまし討ち修行に加えて設備不良ですからね。私からは回避のしようがないですし」

 

「一回目の落下で霊糸が切れてたら死んでたしな……。二回目の緩い落下で切れたあたり限界やったぽいし」

 

「施設整備は何をしてるんですか。怠慢すぎませんか?」

 

「どうも定期的なチェックはしてたみたいやけど、最近終末も近くなってあちこちで随分修行者増えたやろ? そのせいで想定より負荷がかかってたみたいでなぁ……」

 

「なんとまぁ……。いや、しかしこれどういう決着を?」

 

「先方としては信用問題だし平謝りで、ゆかりさんの希望もあってガイアポイントで賠償になったよ」

 

「まぁ、施設整備の人に腹を切らせても私何一つ得をしませんからね。ガイアポイントなら日常生活でも使えるし、終末の備えにもなりますから。後流石に現金大量に持って家に帰れませんし」

 

「まぁ、ガイアポイントは実質貨幣みたいなところありますし……金銭で解決したと思えば納得なんですかね……? しかしゆかりさん、二度も死にかけてよく修行続けてますね。いくら修行が時に命を落とす危険なものもあるとは言え、実際に死にかける人なんて滅多にいませんよ?」

 

「二度ちゃうで」

 

「えっ」

 

「三度なんだよなぁ……」

 

「えっ」

 

「滝行やってる時に、滝の上からカピバラが降ってきて頭を打ちまして……」

 

「カピバラっ!? 野生のカピバラがこの霊地に!? いや、無事だったんですか、それ!?」

 

「いえ、ですから、私目の前で生きてますよね??? あっ、カピバラは【ディア】で治療された後動物園に引き取られました。私も【ディア】で治療されてまぁ無事です。修行を通じて体が丈夫になってて助かりました。ちなみにこの時は賽の河原っぽい場所に出まして、鬼っぽい見た目の人にこいつまた来たよみたな顔されました」

 

「あの、それ幻覚とかではなく本気で三途の川渡りかけてませんか? 三度も霊地で臨死体験を? ……あの、実はゆかりさんってもう覚醒者だったりします?」

 

「いえ、それがなかなか覚醒に至らず……。こう、当初に比べてぐんっと体力とか霊感はついたと思うんですが、最後の一歩が踏み出せない感じがするんですよね」

 

「いわゆる半覚醒の状態なんかもしれへんなと思っとる。ちょっと三回も死にかけるんはうちらとしても予想外やったけど、修行の成果は出てるとは思うんよ」

 

「今なら山登り上級コースでも耐えられそうだもんね」

 

「嬉しいような、経緯を思うと嬉しくないような……。まぁ元々終末までに覚醒できればというつもりで修行してますから、日本的にはまだ小康状態がしばらく続きそうということですし、ここらで改めてじっくり腰を据えて修行に取り組みたいですね」

 

「ほんまそないして……このペースで死にかけられたらうちらの心臓のほうが持たへん……」

 

「ゆかりさん気付いてる? 最近ゆかりさんってここの有名人で、裏で【不死身の女】って呼ばれてるんだよ?」

 

「むっ、最近時々感じる視線は、三度死線を乗り越えた私に対する尊敬の念でしたか? ふふっ、皆遠慮せずに話しかけてくれてもいいのに」

 

「いや短期間に三回も死にかけては何事もなかったように修行してるキ◯ガイを見る目やで、あれ」

 

「さもあらん……ちょっとゆかりさんと一緒に修行するのやめようかな……巻き込まれたくないんですが……」

 

「そんな……。逃さん……お前だけは……」

 

「なんでですか!? 私に一体なんの恨みが!?」

 

「旅は道連れ、世は情け。一人で死出の旅には旅立ちませんよ?」

 

「私を道連れにする気満々すぎる!?」

 

「ゆかりさんが言うと洒落にならん。きりたん虐めるんはやめーや」

 

「はい、この話辞め辞め! きりたん、何か話題変えて話題!」

 

「えっ、そうですねぇ……あ、そうだ。ゆかりさん、ソシャゲやってるって言ってたじゃないですか。同じゲームを私もやってるんですけど……水着イベントのキャラ、引けました?」

 

「もちろんです。天井叩けば実質配布なんですよ」

 

「えっ、天井……? あの、ゆかりさんってお金持ちなんですか?」

 

「いえ、賠償で頂いたガイアポイントで課金を……」

 

「無駄遣いがすぎる!?」

 

「ていうかまた天井に頭打ったんだ……」

 

「相変わらず徳を貯める女やな……」

 

んん! ときりたんが話の流れを改める。

 

「えーっと、ゆかりさんは他人のガチャを引くのが得意だと聞いたので……」

 

スッと差し出されたスマホにはガチャ画面。

ふむ、石の数は丁度10連分ですか。

 

「爆死しまして、ログボ貯めた最後のチャンスなんですよ。よかったら回してほしいな~って」

 

「なるほど? よろしい。ではリアルに三度死にかけたこの霊地で、見事爆死してみせようじゃありませんか」

 

「またフラグ建っとるで? ちょうど良く徳も貯めてきたみたいやし」

 

「いやいや、よしんば徳を貯めたとしても臨死体験で使い果たしたでしょう。いい加減ここらで『他人のガチャだけは得意な女』という不名誉な称号を返上しておきませんと」

 

「どうせ死ぬなら命じゃなくてガチャにしておいてほしい。というわけで、爆死を見届けたら今日は帰ろっか」

 

「では私は死出の旅の道連れの代わりにガチャの爆死を差し出したということで。どうぞどうぞ、そういうことなら盛大に外してください」

 

「言ったな? 見てろよこの野郎。ポチッとな」

 

というわけで、四人でスマホの小さな画面を覗き込んだ。

 

 

…………

………

……

 

 

「幽霊かな。いや、違うな。幽霊はもっと、バァッて動くもんな……」

 

ああ、時が見える……。

 

「あかん、ゆかりさんが放心しとる」

 

「まさかのSSR三枚抜きよ……」

 

「しかもすり抜け無し、かぶり無し、新規実装水着全部抜いたとか……」

 

「自分は天井に頭をぶつけたのに……哀れな……」

 

「大丈夫? 【ディア】する?」

 

「なんだろう、ゆかりさんの運が本当にわからなくなってきました。一度ガイア連合に依頼してお祓いしてもらったほうがいいのでは……?」

 

「霊能者目指しとんのに、自分がお祓いしてもらうんかーい」

 

くそっ、人のガチャ運を肴に楽しそうにしやがって……。

ああ、茜さんと葵さんの肩の上に、小さくて可愛いゆるキャラみたいなぬいぐるみの幻覚まで見える……。

 

『なになに?』

 

『ワッ……!』

 

「ん? どないしたん?」

 

「あれ、おーい。ゆかりさーん」

 

といって葵さんが人差し指を立てると、ゆるキャラが示す方向へぷかぷかと動いていく。

ハイライトの消えた目線でそれを追う私……。

 

「どうしたんですか、三人共。ガチャは終わりましたし今日は帰りましょうよ」

 

いそいそと帰る準備をするきりたん。

ぷかぷかと動き回るゆるキャラ。

死んだ目で追いかける私。

 

「……ゆかりさん、ひょっとしてアガシオンが見えてへん?」

 

「ま、まさか。今のショックで覚醒した……!?」

 

「ちょっと待ってください。今は色々脱力してて面白い反応する余裕ないです。ほんと待って……」

 

「きりたーん! 帰るのストップ! ゆかりさんのチェックが先やー!!」

 

 

…………

………

……

 

 

「嘘だといってよバーニィー……」

 

まぁ、あのハイ。

無事? 覚醒してました。

スキルとかいうのも、はい。

 

「時が見えたと思ったらスキルが生えていた。何を言ってるかわからないかも知れないが、私も何を言ってるかわからない」

 

「微妙に改変してきたな……」

 

「ねぇ、そんな事よりどんなスキル覚えたのか興味あります!」

 

「ガチャを引いて覚醒とは……うごごごご」

 

三者三様の反応を示す中、『あれ、でも覚醒の修行に来てたんだから、賠償金のごく一部で覚醒出来たと思えば実質儲けでは?』という考えに思い至り、ようやく私は復活した。

 

「ふむ……では今日の帰宅前にスキルだけお披露目といきましょうか。もう暗いですし、これで本当に帰るということで」

 

「「「いえーい!」」」

 

パチパチパチと手を叩く三人と二匹(?)。

私は立ち上がって皆との距離を少し開け、息を整える。

 

「では行きます……はぁっ!!」

 

固唾を呑んで見守る三人。

しかし【何も起きなかった】。

 

「…………何か起きた?」

 

「いや、私には見えなかったけど……」

 

「あ、よかった。私だけ覚醒してないから見えなかったとかじゃないんですね」

 

「あれぇ~? おかしいですね……」

 

魔力? 霊力? がごっそり減る感じはあったんですが……。

 

「緊張して失敗したんちゃう? ほら、ゆかりさん、こういうのは技名叫ぶのが作法やで!」

 

「あ~、わかるわかる。自分の中のイメージを形にする感じで!」

 

「あっ、失敗だったんですか? ではもう一度行きましょう!」

 

「ふむり。そういうことなら……」

 

もう一回位ならいけるか?

 

「改めまして、行きますよ…………【カ ム カ ム ミ ラ ク ル】!!」

 

【DOWN!】

 

瞬間、全員が頭からずっこけた。

 

 

…………

………

……

 

 

結局、茜さんと葵さんも聞いたこともないスキルだということで、検証は後日にということに。

この日は全員が痛む後頭部を抑えつつ言葉少なに帰路についたのであった。

 

おかしい、こう、修行が成功した後ってパーッと祝うもののはずでは。

釈然とせぬ思いを抱えたまま、私は霊地を後にしたのであった……。




臨死体験でむしろ徳を積む女、結月ゆかり

P4Gより
【カムカムミラクル】:敵味方に様々な効果を及ぼす

※カムカムミラクルの効果
・味方全体or敵味方全体or敵全体のHPとSPを全回復する
・味方全体or敵味方全体or敵全体をダウン状態にする
・敵味方全体or敵全体を戦闘不能以外の状態異常にする
・何も起きない

修行編を長々描写してもあれなので一話でまとめたかった。
後悔はしていない。


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悪魔召喚プログラム、起動!

たしかクリスマスというのは鍋食って日本酒を飲む日だと聞きました
なぜか今日はケーキがどこも安かったので食べてます
ケーキが美味しいので初投稿です


霊地での覚醒修行を終え、私は無事駆け出しの覚醒者へとステージが上がったわけで。

数ヶ月お預けになっていたお楽しみにようやく手が出せるようになったわけでありまして。

本日は、ついに起動可能になった【悪魔召喚プログラム】について先達である琴葉姉妹に教えてもらうため、琴葉神社にお邪魔しています。

なお、修行中に色々お世話になったこともあり、お茶請けのおやつはゆかりさんの奢りですよ奢り。

 

「というわけで、覚醒によりゆかりさんの世界ランクが上がったことで、ようやくこの【悪魔召喚プログラム】を起動できるようになったわけですね。長かった」

 

「世界ランクやめーや。いや、数ヶ月の修行で済んだんやから十分早い方やと思うで」

 

「そうそう。それにゆかりさんが覚醒するまでに日本に終末は来なかったし。『日本に終末が訪れた後、覚醒に一縷の望みをかけてCOMPを持って逃げ惑う』なんてことにならなくてよかったじゃない」

 

「あっ、割とそういう状況も想定して手渡されてたんですね、これ。DDS-NETで『覚醒した仲間用の【悪魔召喚プログラム】をインストールできる生きた端末が手に入らない』ってボヤキいっぱい見ましたし、そう思えば少なくとも端末持ってるだけ恵まれてるんですよね、その状況……」

 

「まぁ、純粋にうちらにできる恩返しがそれくらいしか無かったっちゅーのに加えて、たまたまうちらが自分の端末手配した所にまだ在庫が残ってたからっていうのもあるんやけどな。次の入荷がいつになるかわからんとなったら、ゆかりさんが未覚醒者でも速攻抑えるしかないやん?」

 

「COMPも海外に輸出されてるらしくて、国内分が割りを食っちゃってるみたいなんだよね」

 

「ガイア連合産アイテム、世界中で人気すぎ問題。まぁ日本企業が稼ぎまくって日本の国家ランクが上がれば、自動的に私の世界ランクも上昇するのでガイア連合には稼いでもらいたいですね」

 

「一応世界滅びかかってるんやけど、何故それほど世界ランクに固執を……?」

 

「あ、そういえばもうゆかりさんは【悪魔召喚プログラム】は起動してみたの?」

 

「いえ、まだです。買った家電の取説は読まずに捨てるタイプのゆかりさんでも、流石にオカルト兵器を解説無しで起動させるのはちょっと」

 

「起動させるだけなら危ないことはないけどな。ほんならせっかくやし、うちらのアプリも見せながら説明しよか」

 

茜さんと葵さん曰く、私達のCOMPにインストールされている【悪魔召喚プログラム】にはガイア連合で開発された基本アプリがデフォルトで同梱されているらしい。

【ハンターランク】と呼ばれるそのアプリは、導入されていれば【マッカ・ガイアポイント預かりシステム】【デビオク】【ショップ】【クエスト】【DDS動画サイト】【掲示板】【ガチャ】などの特典が利用可能となるそうな。

DDS動画サイトや掲示板など、この数ヶ月二人のCOMPで見せてもらってお馴染みとなった機能もあるが、他の機能についても改めて説明してもらう。

私はこの数ヶ月二人から度々【悪魔召喚プログラム】絡みの話を漏れ聞く中で少し勘違いしていたのだが、【悪魔召喚プログラム】の【ハンターランク】と【アナライズ・アプリ】で計測される【レベル】は関係あっても基本別の物らしい。

てっきり言い回しが違うだけだと思っていた。

ハンターランクが上がればガイア連合の提供する特典が有利に使え、下がりすぎれば特典機能はロックされる。

犯罪行為をすればハンターランクは下がるというような話を聞いて、思わず手を打った。

 

「なるほど、馬鹿が馬鹿やらない為の仕組みですか。特典がえげつなさ過ぎて捨てるに捨てられませんもんね。頭いいなぁ。というか、よくそんなに色々特典提供できますね、ガイア連合」

 

「その辺はもう考えたら負けやと思うわ」

 

「特典抜きにしても【悪魔召喚プログラム】は凄いと思うけどね。強力な悪魔と誰でも契約できるようになるなんて、以前は考えられなかったんじゃないかな?」

 

「オカルト界の革命児というわけですか。覚醒さえすれば長く辛い修行なしに悪魔と契約できるのはありがたいことです。しかし、【デビオク】【ショップ】【クエスト】【ガチャ】……ソシャゲかな?」

 

「【ログインボーナス】もあるで?」

 

「もう言い訳できないレベルでソシャゲじゃん。はは~ん、さては運営は馬鹿だな? ……ちなみにログボの内容はどのような?」

 

「だいたいガイアポイントと時々MAG、後は週一の生存ボーナスでマッスルドリンコ!」

 

「事実上の現金じゃないですか! 毎日【悪魔召喚プログラム】起動するだけでお金が貰えるとか福祉じゃん、まじ助かる」

 

「海外の一部じゃ冗談抜きで生命線なんよなぁ……」

 

「DDSが無くなったら速やかに死ぬって公言してる海外ニキとか居るもんね……」

 

「はい、闇の深い話はそこまで、辞め辞め。ログボと聞いてゆかりさんのやる気が出ましたよ。問題ないなら電源入れますか」

 

電源ボタンを長押しして電源ON。

アプリを起動し、デビルサマナーデビューにちょっとワクワクしながら個人登録を済ませる。

ちゃんと個人登録したらログボのガイアポイントが貰えたよ、わぁい。

色々と端末を操作して、特典の状態などをチェックしていく。

 

「ふ~む、ハンターランクが初期ですから、使える特典に制限があるのが辛みですね。特に【デビオク】は見てみたかった。あ、【預かり所】は今でも使える。ガイアポイントカード情報入れれば残高は同期できるんですねこれ。登録しとこ……」

 

「基本ハンターランクが上がらんとしょっぱいんよね。【ガチャ】も【ショップ】もハンターランク上がったほうが内容がええの出るで。まぁ、つまりはハンターランク上げは頑張りましょうってことや」

 

「おっ、出ましたね【ガチャ】……なるほど、以前お二人の端末で回したアガシオンガチャもありますね。ところでこれ、肝心の召喚できる悪魔はどうやって手に入れるんです? 【デビオク】まだ使えないんですが」

 

「自力で探すんやで」

 

「えっ」

 

「【悪魔翻訳プログラム】があれば悪魔とお話できる! 悪魔と【悪魔交渉】して【仲魔】になって貰えば【悪魔召喚プログラム】で呼び出すことができるようになるよ!」

 

「集めた情報によると、だいたいマッカやMAGを要求されるみたいやね。後は、悪魔によるらしい。妖精ならミルクとチーズとか、フロストならアイスとか、中には人間を食わせろなんて悪魔もおるみたいやで」

 

「前の2つはともかく最後??? えぇ? ゆかりさんとしてはこう、マスコットキャラみたいな悪魔と契約したいところなんですが……」

 

「となると、妖精系かな? ソシャゲみたいにチュートリアルで仲魔になってくれる悪魔はおらんのよね……」

 

「なんでそんなところだけ現実的なんですか!? くださいよ……! 契約できる悪魔、紹介してくださいよ……! そういえば、お二人からアガシオン以外の仲魔の話を聞いたことがありませんが……もしや?」

 

「まぁ、私達はアガシオンを維持するだけでMAGが精一杯だったっていうのもありまして……」

 

「ゆかりさんの修行に付き合って、野良悪魔探しに行かんと新しい術の訓練してたのもあるけどな」

 

「ゆ、ゆかりさんのデビルサマナーデビューが……」

 

がっくりと机に突っ伏す。

悪魔なんか見たこと無いですよ。

いや、覚醒する前に出会ってたら見えずに死んでたわけですが。

なるほど、アガシオン引き当てて喜ばれるわけですよ。

 

「では、しばらくはログボ貰いながらハンターランク上げですか? デビオク使えないと、野良の契約できる悪魔の居場所なんてわかりませんし……」

 

「それもやらんとあかんのやけど、まず他にやることがあるな」

 

「他に?」

 

「そうだよ。えっとね……」

 

 

…………

………

……

 

 

説明を受けた私は、その足で茜さんと葵さんに連れられて、とある建物に足を運んでいた。

私は終末に備える為という理由でオカルトの世界に足を踏み入れ、また現役の学生なのであまり気にしていなかったのだが、霊能者も人間である。

つまり、お金を稼がなければ生きていけないのだ。

では霊能者はどうやって仕事を探すのか?

もちろんどこかの組織に所属していたり、個人的なコネで仕事を得ることもあるだろう。

だがそうでない、私達のような駆け出しや、組織の庇護や仕事の斡旋が期待できないフリーの霊能者が依頼を受ける場所というものが大体どこの地方にもあるらしい。

そういう場所にオカルト関係の依頼は集まるのだそうだ。

今私達がやってきたのはそのうちの一つ。

 

 

 

 

「すんませ~ん。ずんだ餅とお茶三つ!」

 

「は~い!」

 

『ずんだカフェ』である。

 

 

 

 

「あっ、美味しいですね、このずんだ餅」

 

「せやろ? ずん子さんのずんだ餅は美味しいからなぁ。いずれは東京にも出店したい言うてたで」

 

「ここに来たら毎回食べてるんだよね」

 

むしゃむしゃと三人でずんだ餅を食べる。

最後にお茶を飲んで一休み。

 

「それで、ただのカフェに見えますけど、ここで依頼が?」

 

「そうそう、ここは地元密着系の場所で近場のお仕事が集まるんだよ」

 

「先代のお婆さんがやってた頃は、もうちょっといかにもって雰囲気の場所やったらしいけどな。当代のイタコさんに変わってから表向きをカフェに変えはったらしわ」

 

 

 

「イタコ姉さんが継いでから、『最近はもっとカジュアルな感じの依頼所が流行ってるみたいだから、うちも時代の流れに取り残されないようにしましょう』って事になったんですよ。茜さん、葵さん、お久しぶりです」

 

「おお~、ずん子さん。お邪魔しとるで」

 

「お久しぶり~。相変わらずお餅美味しかったよ~」

 

「ありがとうございます。そちらの方が登録に来られた方ですか?」

 

「どうも、結月ゆかりです」

 

「はじめまして。東北ずん子と申します」

 

どうもどうも。いえいえどうもどうもと日本人らしく挨拶を交わす。

 

「ずん子さんはうちらと同い年で、うちらが修行しとる頃の同期でな。先に覚醒して卒業しはったんやけど、それからもちょいちょい連絡は取り合っててん」

 

「ゆかりさんの事も連絡しておいたんだよ」

 

「そうなんですね。ところであの、もし違ったらあれなんですが、ずん子さんって妹さんとかいらっしゃったり……?」

 

「きりたんならずん子さんの妹さんやで」

 

「ゆかりさんの事はきりたんからもお聞きしてますよ。何やらゲームで当たりを当ててもらったとか喜んでました。遊んで上げてもらってありがとうございます」

 

「で、今この依頼所を取り仕切ってるのがずん子さんのお姉さんのイタコさん。東北さん家は三人姉妹なんだよ」

 

「なぁるほどー? お二人がきりたんと仲良さげだったのはそういう理由でしたか」

 

「きりたんは今日も霊地に修行に行ってます。たまに店も手伝ってるのでまた遊びに来てあげてください。まぁ、これ以上カフェのほうでオカルトの話もなんですので、お二階へどうぞ」

 

「おっと、そうやね。ほんなら移動しよか」

 

三人で立ち上がり、案内に従って二階へと通される。

二階に上がると通路の先にやけに頑丈そうなドアが取り付けられており、その先へ通された。

中は一階とは違うが店舗のようになっており、壁際には何やら道具の類が陳列されている。

値札が貼ってあるところを見ると、オカルト用のアイテムなのだろうか?

部屋は中程でカウンターで仕切られており、その奥に一人若い女の人が座っていた。

どうやらこの人がイタコさんらしい。

 

「イタコ姉さん、登録希望の方をお連れしました」

 

「いらっしゃいませ。私はこの依頼所のオーナーの東北イタコですわ」

 

「結月ゆかりです」

 

「きりたんからお名前は伺ってますわ。今日はうちに登録されに来たと言うことでよろしいんですの?」

 

「はい、それでお願いします」

 

名前や写真、何が出来るのかなどを自己申告で登録してもらう。

なんでもこれ、偽名での登録もオッケーらしい。

なぜ偽名にする必要が? と思ったので、ゆかりさんは本名で登録。

というか、何が出来るのかというところも、てっきりスキルを申告するのかと思いきや、【除霊】や【結界】や【呪殺】なんかのものすごくぼんやりした内容だった。

これでいいのかオカルト業界。

 

「それは仕方ありませんわ。自分の手の内を丸裸にされて喜ぶ霊能者なんておりませんの。それに最近こそガイア連合のレベル測定器のおかげでおおよその力量が把握できるようになりましたが、それまでは定量的に実力を測る方法なんてなかったんですのよ? そんな中で過去実績や本人の申告から、適切な依頼を斡旋するのが依頼所の腕の見せ所でもありましたわ。今はレベル測定さえさせてもらえるなら割と誰でもできるようになりましたが……」

 

「あー、なるほど。レベル測定器、ただのRPG的要素と思ってたらそんな使い道が」

 

「御婆様なんかは『あんなものに頼り切りじゃいつか痛い目を見る』と否定的でしたが、私はむしろ実力分不相応の依頼を斡旋される霊能者が業界全体では減って、良いことのほうが多いだろうと思いますの」

 

「ただお婆ちゃんの言ってたことも一概には否定できなくて、レベル測定器のレベル表記はその人の総合力をレベルとして判断してるみたいなんだよね。それだと、一芸特化の人なんかは割を食っちゃうんだよ。個人にあった依頼を回してあげるのが依頼所の役目って考えのお婆ちゃんみたいな人からしたら、レベル至上主義みたいなのは役割の放棄みたいに見えるみたいだね」

 

「レベル表記は霊能者の実力を定量化してくれましたが、決して万能というわけではありませんの。だからまだ私達のような人が必要なのですわ。例えば、そうですね。ゆかりさんは日本の霊能者をレベル測定器で見て回った場合、一番人が多いレベル帯はどの辺りだと思われますか?」

 

「むっ、そうですね……」

 

悪魔召喚プログラムはどうみてもソシャゲなわけですし。

一番多いと言われるとなぁ。

 

「レベル50くらい?」

 

「レベル1~5ですわね」

 

「えぇ……?」

 

「そもそもレベルの上限30あたりと言われてますわ」

 

「あ、レベル上限が30でしたか。いやいや、それにしてもレベル5というのは低すぎませんか? それならレベル20より上の人とかってどんな人なんです?」

 

「霊能者として才能ある人物が、悪魔に魂を捧げて一生を戦いに費やしても届くかどうかわかりませんわよ、それ」

 

「えぇ……?」

 

人生かけた修羅がレベル20行けるかどうかわからないってどういうことなの……?

あ、いや待てよ、ひょっとして。

 

「もしやレベル測定器によるレベルの表記はTRPG形式……? ソシャゲっぽいのでコンシューマー形式かと思ってたんですが……」

 

「TRPG? コンシューマー?」

 

「あ、えーっと。よくある日本のゲームだと、レベルの上限って99か100なんですよ。これがコンシューマー。TRPGの方は"レベルが1上がれば明確に強くなる"というか……」

 

固定値が上がるんです。まぁシステムにもよりますが。

しかし待てよ、となるとレベル30って実質NPCやボス専用クラスでは……?

レベル20でその評価だとすると、実際のPCのレベル上限は15~20あたり?

 

「なるほど、そりゃレベル1~5に固まるわけです。技能的に横伸ばし必須でしょうし、縦一本伸ばしの人もいると思えばレベルだけで判断なんて難しいですよね」

 

「うーんと、ちょっとゲェムには疎いものでして、でも理解していただけたなら助かりますわ」

 

「完璧に理解しました」

 

ほんとほんと、ゆかりさん完璧に理解した。

 

「しかし、ゆかりさんは業界初心者だと伺いましたのに、今の説明だけで【デモニカ・スタンダード】の発想に至るんですのね」

 

「【デモニカ・スタンダード】?」

 

「レベル基準の一つとして最近広まっているものですわ」

 

曰く、レベル測定器で測れる上限であるレベル30をレベル100とし、もっと細かくレベル表記を刻んだものらしい。

基準として採用されているのは、デモニカに搭載されているアナライズ機能を利用したものだとか。

なるほど? 非電源ゲーム民ならTRPG表記でも理解に問題ありませんが、現代っ子だとコンシューマー表記のほうが直感的でしょうから、そういう要望もあるのでしょうね。

 

「ははーん、なるほどなるほど。まぁゆかりさんはどっちでもいいです。両方慣れっこなので」

 

「それは良かったですわ。うちには通常のレベル測定器ならあるんですけども、測って行かれますか?」

 

「私は覚醒したてなので測らなくてもレベル1だと思いますが……。茜さんと葵さんはどうします?」

 

「せやなぁ。せっかくやし測ってもらおかな?」

 

「ひょっとしたら上がってるかもしれないし!」

 

「うーん。私の理解だと、デモニカ・スタンダードだと上がってる可能性はありますが、通常方式だと上がってないと思いますね」

 

「その心は?」

 

「技能の横伸ばしです。修行内容的に縦にレベルが伸びる内容じゃなかったと思うんですよね」

 

「なんかゆかりさんが急にレベルに対して理解と推察を深めとる……。ほんならその推測が正しいか一回測ってみよか」

 

 

…………

………

……

 

 

その後、レベルを測ってみたらやっぱりまだ茜さんと葵さんのレベルは1のまま。

結局今後に備えていくつかのアイテムを購入して帰宅することになった。

覚悟はしてましたが、やはりオカルト装備はお高い……。

修行中に手に入れたガイアポイントがなければ、手が出なかった……。

 

 

 

あれ、結局私と契約してくれる悪魔の話は???




Q.悪魔召喚プログラムが手に入ったのに、最初の悪魔居ないんですか? バグでは?
A.ハンターランク上げたらデビオク使えますよ?(カオ転外伝) 野良覚醒者に変な武器もって暴れて欲しくないからチャイルドロック付きの玩具配ってるのに(本編)、どうして最初から悪魔を持たせる必要があるんですか? 時間稼ぎするに決まってるじゃないですか。レベル上げたりマッカを稼ぐ為の狩場? 自力で探してね^^(独自設定)

Q.国内の依頼所ってガイア連合で仕切ってないんですか?
A.ただでさえ忙しいのになんで既存の仕組みを流用して楽しないんですか? 大して儲からない上にしょっぱい依頼なんか下請けの現地霊能者にポイで。依頼所を事実上の下請けにしておけば十分でしょ。あ、こちらから回す依頼は事務手数料だけいただきますね^^(ここまで独自設定) ガイア連合から直接依頼を受けたい? では登録料をお願いします^^(カオ転外伝)

Q.ゆかりさんの語ってるレベル関係大体間違えてね?
A.せやで。
 レベルについてはゆかりさんは自信満々に色々言ってますが、大体間違えてます。まるっきり理解できてません。
 ガイア連合式をソード・ワールド、デモニカ・スタンダードをドラクエみたいな感じで理解してますが、正解は全部メガテンだよ! 絶望しろ!
 でもそんなことガイア連合しか知らないから、世間では色々デマや憶測が広まってるんだ……。
 しかしゆかりさんの推測した霊能者のレベル上限、この世界だと一部の天才以外案外間違ってなさそうなのがほんと絶望よね。


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ゆかりさん、霊能者として働く

新年なので初投稿です
年末年始なんだかんだやることあって投稿できなかったけど、許せサスケ
書きたい事はあるけど、書きたいように書くととっちらかるのをどうにかしたい


ずんだカフェで霊能者として登録して以来、私は琴葉姉妹の二人と定期的に依頼を受け本格的に霊能者業をスタートした。

今の所終末に備えるという目的はブレては居ないので、直近の目標は一人でもやっていけるよう仲魔を得ることだ。

そのために確実な方法はデビオク機能の開放であり、その為には連続ログイン、レベルアップ、クエスト達成などによるハンターランクの上昇が必要なわけで、霊能者業はその中でレベルアップの手段と言ったところか。

一応霊能者業の最中に契約できる野良悪魔との遭遇もちょっと期待している。

 

そんな話を、何度目かになる依頼結果の報告に三人で訪れた閉店後のずんだカフェで、特別に用意してもらったずんだ餅をお茶請けにきりたんと話していた。

 

「なるほど、ゆかりさん達は順調なようで何よりです。もう霊地での修行は完全に卒業ですか?」

 

「う~ん、今のところ除霊術や結界術なんかは茜さんや葵さん任せなんですよね。私もこう魔法少女的に興味あるんですが、そもそものオカルト知識が数ヶ月の修行中の座学だけでは流石に全く足りず。その辺は最近本当に基礎から履修中です」

 

「まずは貸した古事記と日本書紀を読破してもらうで。実技の方は、霊障が見える、触れるんやからうちらの手伝いをやって覚えていけばええかなって」

 

「とりあえずゆかりさんは基礎的な事を覚えよう! って言っても私達も駆け出しで大した事はできないけど!」

 

「なるほど、本当に業界素人ですもんね、ゆかりさん。霊障に遭って覚醒して誰かに拾われたとか、元々そういう家の出とかじゃなく、友人に誘われてこの業界に入ってくる人なんてかなり珍しいのでは? 覚醒できる保証もないですし」

 

「まぁ、政治家とかお金持ちとか、社会の上のほうの人は見えんでも悪魔の存在は知っとるらしいけどな」

 

「一般人はきっかけがないとねー」

 

「まぁ、そうでしょうね。私もネットでオカルトが盛り上がってるのは、最近の世情のせいだと思ってむしろ悪ノリしてたくらいですし。ただのネットミームやトレンドでなく本当に悪魔が海外で暴れまくってるとか、想像もしてませんでしたよ」

 

「国内でも暴れまくってますよ。地方じゃあちこちで悪魔被害が出続けてるんですから。おかげでちょっとした依頼は、駆け出しの皆さんにも回ってくるレベルで人手不足です」

 

と、一息入れて皆でずんだ餅をぱくり。

 

「それで、皆さんどんな依頼を今まで受けて来られたんです? ちょっと聞かせてくださいよ」

 

「ほう、お聞きになりますか……。美少女退魔師ゆかりさんの活躍の日々を……」

 

「う~ん、この隙あらば自分語り。ていうか、前から思ててんけど、自分で美少女っていうの恥ずかしない? いや、確かにゆかりさんの顔立ちは美人やとは思うねんで?」

 

「お姉ちゃん、顔の話は触れちゃ駄目! どうせ皆自分の顔が一番可愛いって思ってるんだから!」

 

「そうだよ」

 

「当たり前だよなぁ? はい、この話題は早くも終了ですね、辞め辞め。うちの店で戦争が起きそうな話題は謹んでください」

 

「すまんて。ていうか葵? うちら双子で同じ顔しとるんやけど……」

 

「では話題を変えまして、駆け出し美少女退魔チームの活躍の日々、お願いします」

 

「それでは僭越ながら私からお話しましょう。あれはそう、最初の依頼の事です……」

 

 

…………

………

……

 

 

『人類の三大欲求にも数えられる悪魔討伐欲、貴方もオカルトパワーを使ってデビルバスターデビューしたい。そうですよね?』

 

『うちらはもうデビューしとるけどな』

 

『ゆかりさんのデビュー戦だね~。ご安全に!』

 

『というわけで、本日の依頼をご紹介していきましょう。それでは解説の茜さん?』

 

『はいはーい、解説の琴葉茜です。今回の依頼はオーソドックスな除霊依頼やね。とある女子校で生徒が急に体調不良者が続出しとるそうです。不気味に思った学校側が近所のお寺さんに相談したところ霊障であることが発覚。手に負えずに霊能者に依頼が回されてきたって経緯らしい』

 

『ふむ、女子校。うら若き乙女の私達なら無理なく侵入できそうですね。他校の生徒なのがばれると面倒なので、現地の制服に着替えて行きたいところですが』

 

『こちら実況の琴葉葵です。そう言うだろうと思って、こちらに人数分の制服をお借りしておきました。今日はこれに着替えて現地へ行こうね~』

 

『準備がいいですね。他校生のコスプレいいぞ~これ。……あの、ところで女子校でオカルトって言われると、【水子】とか【虐めを苦に】とかがぱっと浮かんでくるんですけど、これ結構闇深案件の可能性……』

 

『あ、うん……ちょっと気合を入れていこか。悪魔案件に限らず、大抵のオカルト事件はR18G耐性必須や。今回は今んとこそこまで行ってないみたいやけどな』

 

『大丈夫だよゆかりさん。そのうちバラバラ殺人事件の現場写真見ながら焼き肉だって食べられるようになるから』

 

『(そもそもバラバラ殺人事件の現場写真を見たく)ないです。やはり後ろ暗い事情がオカルトには付いて回る物、悪魔も怖いんですが、いつだって一番怖いのは人間なんですね』

 

『女は度胸! なんでもやってみるもんや! 今のゆかりさんなら、その辺のしょっぱい幽霊ならワンパン除霊も夢ちゃうで!』

 

『ふむり。ゆかりさんの秘められていた才能についに脚光が当たる日が来たということですね。では、アイテムも持ったし、着替えを済ませて依頼のあった女子校へゆくぞー!』

 

『『おー!』』

 

 

…………

………

……

 

 

『はい、こちら無事目標の女子校への潜入に成功しました。本日は日曜日。また、体調不良者が多いという理由で部活動も休みとなっており、生徒は学校に来ないように言い渡されているそうです。もちろん除霊のお仕事が行われる為、生徒を近づかせない理由作りです。いやぁありがたいですね。では、早速除霊対象の索敵に入りたいと思います。索敵担当の茜さん?』

 

『は~い、索敵担当の琴葉茜です。本来ならここは学校内に結界を張った簡易拠点を構築、索敵術式を使って悪霊を探し、対象の除霊に入るんですね~。で・す・が~、今のうちらにはこれがあります! じゃじゃ~ん、ガイア連合製アガシオーン!』

 

『わー、ぱちぱちぱち……。これは、アガシオンが索敵してくれるということでしょうか?』

 

『アガシオンは優秀ですので、周囲の【探知】が可能なんですね。探知範囲にはもちろん限界がありますが、アガシオンを連れて校内を歩き回れば霊障の原因となっているスポットを特定できるはずです。なお、アガシオンは自律行動も可能なので術者からある程度離れて行動も可能なんですね~。索敵はうちのアガシオンを先行させて、術者の安全を確保した状態で行います』

 

『こちら周辺警戒担当の琴葉葵です。なお、私達のガードには私のアガシオンを手元に残します。私のアガシオンも【探知】持ちなので、万が一悪霊に襲われた際の奇襲対策兼盾として活用する予定です』

 

『なるほど、"見てこいカルロ"作戦ですね……。アガシオン、便利すぎませんか? これ一体でも今の私達三人がかりで負けますよね?』

 

『アガシオンに置いていかれへんように歩きながら話そか。【悪魔召喚プログラム】で悪魔と契約できれば、ゆかりさんも似たようなことできるようになるで~』

 

『周囲への警戒も怠らずにね。お金のある組織とかガイア連合に参加してる地方霊能組織だと、最近はアガシオン持ってたり、ガイア連合製の装備品を持ってたり、【悪魔召喚プログラム】で仲魔を連れてたり、下手すれば全部ってのがもう普通みたいなんだよね……』

 

『了解です。いつか私達も金満装備でがっぽり稼ぎたいですね。初期投資が凄まじそうですが……。あの、ところで私達みたいな金もコネもない一般霊能者は……?』

 

『お察しの通り、体力と霊力だけが資本の味噌っかすやで』

 

『ずんだカフェで聞いたんだけど、装備とか整ってる霊能者とは受けられる依頼のレベルが違いすぎるっぽいんだよね。仲魔や装備が整ってる優秀な霊能者の中には地方に沸いた異界の攻略に参加してる人とか居るらしいよ? 異界だとマッカやMAGが稼げてドロップアイテムはガイア連合が買取してくれるし、月の稼ぎも凄いんだって』

 

『霊能者の世界にも深刻な格差の波が……! この依頼だって無事やり遂げれば一人五万円ですよ? ゆかりさん、日給五万とか霊能者すげーって感動してたのに!』

 

『いや、霊能者の世界こそ生まれついての霊的素質が全てって感じのマジモンの格差社会やけどな。ちなみに、この依頼の報酬はしょっぱいで』

 

『ゆかりさんは結構あっさり覚醒したり、不思議な異能があったり、才能あるんじゃないかな? ちなみに、そんなしょっぱい依頼なので駆け出しの私達の実績積みに回してもらえました! 女子校って場所柄のせいもあります』

 

『ふふふ、まぁそれほどでもあるかもしれません、ゆかりさんですから。しかし私、何か異能とかありましたっけ? スキルのお話で? というか、これで報酬しょっぱいんですか……』

 

『何言うてんねん、徳を積んで他人のガチャを当てるやんか』

 

『ガチャの確率の偏りを異能扱いするのはヤメロ。しかし、お二人はアガシオンも居るわけですし、その、異界? を紹介してもらってがっぽり稼ぎに行かないんですか? いえ、新人なので付き合ってもらって助かるんですが』

 

『死にます』

 

『えっ』

 

『ゆかりさん……異界を舐めちゃ駄目だよ? 異界っていうのは要するに地上に出現した小さな魔界なんだから……。中には悪魔がわんさか居て、人間を見たら餌だと思って襲いかかってくるんだよ?』

 

『アガシオンがおったら、そらきっとある程度は戦えるで? 最下級の悪魔相手なら多少は無双も出来るかも知らん。でも、アガシオンの手がおっつかん数出てきたり万が一アガシオンがやられたらもうアウトや』

 

『結局私達が駆け出し霊能者なのは変わりないからね~。最下級悪魔だろうとタイマンとか無理です。けど終末に備えるっていうなら、どこかで異界に挑んでレベルを上げる必要があるんだよ。強くなければ生き残れない!』

 

『異界を探すか、中に入ってもええ異界を教えてもらう所からになるけどな……。正直、上手いこと異界で仲魔が作れて、上手いこと数で押してレベル上げできる異界があるならそれに越したことはないんやけど……』

 

『ゆかりさんが地方霊能組織に所属する人だとして、そんな場所他人に教える?』

 

『独占しますねぇ……手に負えないなら外に救援を頼みますが……』

 

『それで地方を救済して回ったのがガイア連合です』

 

『そして今やガイア連合の供給するあれやこれやで地方霊能組織は自前である程度の異界を解決!』

 

『私達の出る幕ないじゃん? つまり他所じゃ手に負えない仕事をガイア連合が解決して、地元でも解決できる仕事を地方霊能組織が解決して、私達に回ってくるお仕事は……』

 

『地元密着の地方霊能組織ですら"割りに合わない、手が足りない、ろくに今まで付き合いもない"って外に回した依頼やね』

 

『なん……だと……』

 

『そらこういう依頼ばっかり受けてても、ゆかりさんの言う通り表の仕事に比べたら不自由なく生活できる程度には稼げるんちゃうか? けど、終末君が【もうじき着くわw】って連絡入れてきてる状況やん?』

 

『異界に、異界に挑むのです。異界でレベル上げをしないとピンチなのです。外国って要するに今、国まるごと異界になってるようなものらしいからね。外人ニキ達が命がけで集めてくれた情報を信じろ』

 

『まぁ、外人ニキ達と掲示板で接してると本当にレベル上げないとやばいって危機感は感じます。むしろ安全な事と霊能組織の秘密主義が働いてて国内の情報のほうが集まりにくい点には首をかしげますが……。ところで話がループしてますよ。異界の場所はわからないし、異界に挑むのは危険だったんじゃないんですか?』

 

『これでもガイア連合が外部に知識公開してくれたおかげで、以前に比べたら霊能者の基礎知識レベルで雲泥の差らしいんやけどね。まぁ異界に関しては、そこで出てくるんがずんだカフェと【デビオク】や』

 

『依頼所の人と仲良くして新しい異界の情報が入ったらお金を払ってでも教えてもらおう! 【デビオク】があれば異界で危険な野良悪魔と交渉せずに仲魔が!』

 

『あー、なるほど。だから依頼所でしょっぱい依頼を回されても黙って働き、裏でハンターランク上げを頑張ると。【デビオク】で仲魔を増やして、私達三人で一緒に行けば異界でも手数で押せる?』

 

『それを期待してるんやで』

 

『ぶっちゃけアガシオンは維持するMAGが重たいけど、指輪にしまってる間はMAGをほとんど消費しない上に【悪魔召喚プログラム】の召喚枠とは別で使役できるので本当にありがたいのです』

 

『しかも二体とも貴重な回復魔法【ディア】持ち! ちなみに、うちのアガシオンは他に【突撃】と【アギ】を、葵のアガシオンは【突撃】と【ブフ】を覚えてるで。そんで後は【探知】や【念動力(弱)】みたいな汎用スキルと二属性耐性の二属性弱点持ちやな』

 

『今明かされるアガシオンのスキルの数々。警戒出来て物理攻撃・魔法攻撃・回復魔法が使えるつよつよ使い魔ですか。くっそ、私も欲しいぞアガシオン』

 

『ゆかりさんは、素直にお金溜めてどこかで買おう……?』

 

『どうして憐れむような目をした! 言え!』

 

『今まで打った天井の数を数えたことはあるか?』

 

『今まで食ったパンの枚数よりは少ないですよ』

 

『何の自慢にもなってないからね? その分お礼と言いますか、こうしてパーティー組んでやっていこうという話になってるわけで、そうしたらゆかりさんにも恩恵があるからね』

 

『正直助かりますね。ゆかりさん、何も知らずに【悪魔召喚プログラム】手に入れてたら覚醒したてで異界探して突っ込んでたと思います』

 

『ハンターランクも順調に上がってるし、クエストもこなして頑張ってデビオク開放しような』

 

『そして空いた時間で修行したり依頼をこなしてお金を稼いだりですね。がんばりましょう』

 

『……と、くっちゃべってる間にうちのアガシオンが見つけたで。どうも霊障の原因になってる場所は』

 

『場所は?』

 

『更衣室やな』

 

『『更衣室ぅ?』』

 

 

…………

………

……

 

 

というわけで、無事霊障の原因となっている場所を特定した私達は、問題の更衣室の前に陣取っていた。

 

『……中に悪魔が?』

 

『多分? アガシオンはここから気配がする言うてるし。ちなみに反応は一体だけやね』

 

『一般人に死人が出てないから、悪魔未満の悪霊もどきだと思うけど、注意してね』

 

『了解』

 

『……でてけぇへんな。うちらに気付いとらんのか? しゃーない、踏み込むで』

 

『更衣室、狭い閉所ですが大丈夫ですか?』

 

『アガシオンのサイズなら二体並んでも行けるはず』

 

『万が一アガシオンが抑えきれんようなら盾にしてダッシュで逃げるから、指示は聞き逃さんといてな』

 

『わかってます。取り敢えずお二人は私の後ろに。一番力があって足が早いのゆかりさんみたいなんで』

 

『ゆかりさんは力速型みたいやもんなぁ。うちら二人共魔速型やから……』

 

『危険な所で悪いんだけど、中衛はお願いね。前衛はアガシオンがやってくれるから』

 

『打ち合わせ通りですね。では開けますよ』

 

ガチャリと私がドアを開け放つと、間髪入れずにアガシオンが中に飛び込む。

刺股を持って真剣な顔で戦いに臨むアガシオンはファンシーな見た目のせいで滑稽に見えるが、これがとても頼りになる使い魔なのだから霊能者の世界とは不思議なものだ。

追いかけて中に踏み込み私はこう言った。

 

『霊能者です! 女子高生を狙う悪霊め! 神妙にお縄に付け!』

 

『ゆかりさーん! お縄ちゃう、除霊、除霊!』

 

『御用改である!』

 

『葵!?』

 

初仕事なんでテンパったんです。ほんとだよ?

そして更衣室の奥には、二体のアガシオンに刺股を突きつけられて震える幽霊が存在した。

 

『……これですか? 倒さないんですか?』

 

『……あわてんでもええ。このレベルの霊なら問題ないで。というか、アガシオンがなんか言うとるな。……えっ、この幽霊がなんか言ってる? ちょっと待って、【悪魔翻訳プログラム】出すわ』

 

以下、この幽霊から聞き出した(なんと本当に会話ができた)話をまとめると……。

 

『ふむ、つまりあなたは不慮の事故で亡くなった男子学生の幽霊で、ここにはお腹が減って気がついたら住み着いていたと……。ご飯を食べたいけれども今までのような食事ができなくて、お腹が減りすぎてたまに意識を失うことがある』

 

『で、気がついたら周りで学生が倒れとるんやな? MAGが欠乏して存在が消える前に本能で人間を襲って捕食しとるな。元人間の幽霊やから、途中で正気を取り戻してまだMAGを吸い尽くして殺すところまで行ってへんけど、このままじゃいずれ人を食い殺して本物の悪霊になるで』

 

『事故で幽霊になっちゃったのは可愛そうだけど……素直に成仏しよう? 下手に現世で罪を重ねると、閻魔様の裁きが怖いことになるよ?』

 

『力ずくで除霊する準備を中心にしてきましたが、穏便に成仏してもらう方法も用意してありますよ。どうです? ここは一つ、幽霊とは言え人間らしくいられる内に死後の世界へ行くというのは……』

 

悪魔らしい悪魔でなく、元人間の幽霊、それも事故被害者ということで自然私達の対応も同情的なものとなる。

人に被害が出ているということで戦闘を覚悟して準備してきていたが、地縛霊を鎮める為の用意なんかも持ってきてあるのだ。

送り出す儀式は琴葉姉妹にお任せすることになるが、彼も女子高生巫女さんに見送ってもらえれば本望だろう……。

と思いきや、幽霊が成仏を渋っている。

 

『何か未練が? ……ああ、ご家族やご友人への伝言くらいでしたら承りますよ。どの程度信じていただけるかわかりませんが……』

 

水を向けると、しばしじっと考える素振り。

これが最後になるのだからと、私達もゆっくり待つ。

ちなみに、仲魔に勧誘するのは諦めた。

流石に事故の被害者を死後現世に無理矢理留めてこき使うのは憚られるし、レベルも0ということで戦力として全く期待できないらしい。

やはり仲魔はデビオク待ちだろう。

 

しばらくすると、幽霊君は意を決したように何かを話し始めた。

茜さんが【悪魔翻訳プログラム】を見て真顔で固まっている……?

よほどのことなのだろうか。

そう思って葵さんと二人で端末を覗き込む。

 

【……せめて一回くらい 女 の 子 の お っ ぱ い 揉 み た か っ た !!】

 

全員で真顔になる。

童貞か? いや、童貞だな。

三人で心底呆れ果てた目で見つめると、恥ずかしいのか震える幽霊がそこにいた。

 

『……まぁ、更衣室での着替えなんてブラ取りませんよね。つけ忘れでもしてきてない限り』

 

『ていうか君、女子校の更衣室に居座ってるんってひょっとしてそういう……?』

 

『男の人っていつもそうですね…! 私たちのことなんだと思ってるんですか!?』

 

葵さんのネタが通じたのか一瞬顔を上げるが、私達の真顔を見てすぐに顔を伏せる。

 

『……茜さん、葵さん、ちょっとこちらへ』

 

というわけで相談タイム。

あ、君、逃げ出さないように。

お二人のアガシオンは今も君を狙ってますよ。

 

『……んん! まぁ、あれです。叶えてあげるかどうかって話なんですが』

 

『いや、普通に嫌やけど。ていうかそこまで体張る必要、ある?』

 

『でもお姉ちゃん。あの幽霊、未練から幽霊になったタイプじゃない?』

 

『そんなにおっぱい触りたかったのか……触るまであの世に行けないと幽霊になるくらい……』

 

『内容が内容だけに感心はできへんねんけど、正直見上げた、いや、見下げ果てたスケベ根性やな』

 

『まぁね、でもほら、彼があんな事言い出した事にちょっーと私達にもね、責任があるかもしれないなとゆかりさんは思うわけですよ』

 

『……その心は?』

 

『いや、だって考えてみてくださいよ。女子校なら女の子はいっぱいとは言えレベルは玉石混交。しかも見えない聞こえないで相手してもらえない。そこに自分を除霊にやってきた美少女退魔師三人組ですよ。うち二人は現役の女子高生巫女さんですよ? お話してコミュニケーションも取れる! これが最後と思えばカッコつけずカミングアウトした勇気は認めてあげてもいいかなって』

 

『……まぁうちらが美人やから? 最後に未練無く逝けそうで言い出したっていうんなら……』

 

『……未練ある? って私達が水を向けたのもあるよねぇ』

 

『正直幽霊で全体がぼやーっとしてて顔とかわからないから、生理的に無理って感じもしないんですよね……。いや、幽霊って意味では普通に腰が引けるんですが』

 

喧々諤々と話をし、まとまる。

未だに正座でうつむいたままの幽霊の前に腕を組んで立ち、神妙な顔で結論を告げる。

 

『えー、厳正にして公平な話し合いの結果、未練を叶えてあげようという話になりました』

 

がばっと顔を上げる幽霊。

いや、現金すぎる。

そういう所が死ぬまでに触らせてもらえる相手ができなかった原因だぞ。

 

『というわけでですね、誰か一人選んで良いので……』

 

という私の声にかぶせるように何事か言う幽霊。

茜さんを見る私達。

ハイライトの消えた目でスマホを見る茜さん。

スマホを覗き込む私達。

 

【ほんとですかやったー! あっ、Eカップ以上の巨乳で可愛い子が良いですw 紹介お願いしますw】

 

瞬間、体の奥底から力が湧き出る。

振り向きざま、腰を落とし回転を威力に変える。

左手の脇を締め、右手は肩と拳が直線になるように真っ直ぐに射抜く。

足の踏み込みと拳の衝突はほぼ同時、霊力の乗った一撃が完全に顔面を射抜いた。

 

『破ァッ!』

 

そして邪悪な霊は雲散霧消した。

アガシオンが一瞬ビクッとしたような気がするが、気の所為だろう。

 

私達は無言のままに残作業である現場のお祓いを終え、帰路に着いた。

 

 

…………

………

……

 

 

「以上が私の初仕事です」

 

「よくやった。褒めて使わす」

 

「ありがたき幸せ」

 

けっ! と四人でやさぐれる。

と、そこに話が一段落したのを察したのか、ずん子さんが厨房から現れる。

 

「あの~。食べ終えられたのでしたらお皿のほう片付けてしまってよろしいでしょうか?」

 

「ああ、ずん子さん。精算待ちとは言え、長居して申し訳ないです。ついついきりたんと話し込んでしまって」

 

「いえいえ、私達は修行こそしますが霊能者が務まる才はありませんから。良ければきりたんに色々聞かせてあげてください。これも経験ですので」

 

といってずん子さんがずんだ餅を食べ終えた皿を回収し、お茶のおかわりも出してくれる。

その間、私達四人の目線は自然、ずん子さんの胸元に……。

 

「あの……? 私がなにか?」

 

「いやいや、こっちの話やから」

 

「そうそう、ずん子さんはお気になさらず」

 

「はぁ……?」

 

ずん子さんが厨房に戻っていく。

話し込んで喉が乾いたので、気分を変える為にもお茶をすする。

 

「東北家の皆さんはあまり霊力は強くないんですか?」

 

「うちはそうですね。業界の人ではあっても専門の人ではないので。むかーしは縁のある霊能者の家でたまに生まれる霊力が低くて霊能者が務まらない人なんかを、お嫁さんとかお婿さんにもらったりしてたそうですよ。コネの大事な世界ですからね。なのでまぁ、霊能者として第一線でやっていこうって家ではないです。覚醒修行するのは、霊能者の皆さんとの縁繋ぎも含めてですね。それに悪魔が見えない仲介人から仕事、受けたいです?」

 

「なるほど、霊地に修行に行くのは覚醒の修行と家業の修行のダブルミーニングでしたか……」

 

「でも、イタコさんといいずん子さんといい、東北家は別の才能があるんちゃう?」

 

「主に胸部装甲に関する才能が……」

 

「言われてみれば……きりたんも将来有望なのでは……? 裏切ったか貴様」

 

「えっ、なんでガチトーン? いや、確かにその才能はあってほしいんですけどどうですかね……」

 

穏やかならぬ空気がテーブルに流れそうになったところで、今度はイタコさんが二階から現れた。

 

「皆さん、お待たせしました。こちらが報酬になりますの。ご確認くださいな」

 

「おっ、待ってました!」

 

「今回の依頼は大変だったもんね。無事報酬が貰えると感無量だよね~」

 

「今回はこちらとしても申し訳ない結果になってしまいましたわ。この補填はどこかで行わせていただきますわね?」

 

「おっ、本当ですか? ではありがたく期待しておきます」

 

いや、今回は本当に大変だったと三人で語り合う。

 

「そんなに大変だったんですか? 今回はどんな依頼だったんです?」

 

「いやぁ、全部話すと長くなるんですが……」

 

「最初は物探しの依頼だったんよ。大陸から日本に避難してきた霊能者が手違いで手放した品で、元々は魔術結社所有の本物やから一般人に間違って流れたら危ないんで、回収してくれって話でな」

 

「こっちのほうに手にした人が行ったのは解ってるから、居場所を探して教えてくれるだけでもいくらか報酬を出すって話で」

 

「ほーん。まぁ、ないことはないですね。そういう依頼も」

 

「まさか持ち主がその魔術結社から逃げ出したお嬢様だとは思いませんでしたね……魔術結社の幹部陣が疎開派と徹底抗戦派に分かれて内部抗争してたとは」

 

「えっ」

 

「徹底抗戦派のクーデターみたいなもんらしいからなぁ。で、疎開派が状況を収めるまでお嬢様は結社の切り札を抱えて逃亡と」

 

「中国戦線は地獄らしいからね……地元を守りたい人たちの意見も理解はできるなぁ。ただそれが女の子を脅かす理由にはならないけど」

 

「拳での語り合いで生まれる友情! ……からの、お嬢様から話聞いてる時に徹底抗戦派に襲われたんですよね……」

 

「ええっ?」

 

「アガシオンがなければ即死だったね……。というか大陸から来た人たちのレベルものすごく高くない?」

 

「あれでも中華戦線じゃざらにおるらしいで……やっぱり鍛えんとあかんわ」

 

「途中で助けに来てくれた疎開派の幹部のお兄さん、かっこよかったですよね」

 

「イケメンやったなぁ~」

 

「お嬢様のほうもね、あの様子は絶対恋だよ、恋!」

 

「ちょっと! 詳しく!」

 

「田舎だから騒ぎにならずに済みましたが、正直ハリウッドもかくやの逃亡劇でしたねぇ……。対人間なら、使い方次第で念動力があんなに活躍するとは」

 

「そこも、ほんと詳しく!」

 

「そこは頭の使いようってな? いうて地元や、正面からの殴り合いちゃうかったら簡単には負けへんで?」

 

「よっ! 名軍師!」

 

「よく知らない土地で地元民敵に回しちゃ駄目ですね……。工事現場でお嬢様引いてましたよあれ」

 

「何やったんですか!?」

 

「そんなに褒めても何にも出ぇへんで? まぁ今回は向こうも焦ってたからね。流石に肝が冷えたわ」

 

「結局、疎開派の重鎮が大勢連れてきて囲んで終わるまで逃げ回ってただけですからね……」

 

「でも、可愛そうだったね。徹底抗戦派の人も……。まさか助けたかった故郷に残してきた仲間からの最後の連絡があんな……」

 

「男の人が地に伏して、人目憚らず泣き崩れるのを見たんは初めてやな……最後はおとなしゅう言うこと聞いとったけど、後味の悪い仕事になってしもた。あんなん見せられたら恨まれへんやん……」

 

「待って……ねぇ待って……三人だけでしんみりしないでくださいよ……」

 

「最後にお嬢様にお礼言われたけど、うちら結局の所はなんもできへんかったからなぁ……」

 

「お嬢様も苦悩してたよね……。日本は安全で恵まれてるんだなって体感で理解したよ……」

 

「命がけで海を渡って密入国してきた人達でしたもんね。結局、世界がこんな風になったのも、あんな人達が出てしまったのも、メシア教過激派が悪いんでしょうね……」

 

「「間違いない」」

 

「おっと、報酬もいただいたことですし。遅くなりましたから今日はそろそろお暇しましょうか。遅くまで付き合わせてすみませんね、きりたん」

 

「ちょっと。本当にこの流れで帰るつもりですか? 私は夜ふかしして話を聞く準備はできてますよ」

 

「何言うてんねん。きりたん明日も修行やろ?」

 

「寝る子は育つっていうじゃない。夜ふかしは美容にも健康にも悪いよ?」

 

「まぁちょっとこの話をすると気分はヘビーになるので、聞きたいならまた日を改めてということで」

 

「絶対ですからね? 約束しましたからね!」

 

「わかりましたよもう……。ゆかりさんの大活躍がそんなに聞きたいんですか? まぁ聞きたいと言われれば吝かではないんですけどね? 仕方ないなぁ」

 

 

 

 

 

「セクハラ幽霊の話なんかより、格好いい霊能者の話が聞きたかったんですよ!!」

 

「「「すまんて」」」

 

そして、私達は各自報酬を手に帰路に着く。

あのお嬢様、どうやら迷惑をかけたと報酬に色をつけてくれたらしい。

自分たちも楽じゃないだろうに……。

今回の依頼を振り返ると、結局依頼としては騙された形になるので補填をしてもらうのは正しいのだろう。

しかし事の顛末を思うと彼らの気持ちも理解できて、なんだかちょっと申し訳ない気分になる。

 

しかし今回の依頼ではっきりしたことがある。

やはり終末を乗り越えるにはレベルを上げて強くなる必要がある。

日々の積み重ねの甲斐もあり、もうじき中位へと届くハンターランクを思いながら、初の異界デビュー目指して準備をする必要があると、私はそう思うのだった。




ゆかりさん達の大活躍回でしたね!
報酬も詫び賃込みでしっかり貰えましたよ!
ハンターランクも無事上昇中!
デビオク解禁も近い!

……え? セクハラ幽霊?
破ァッ! されました
破魔ではありません破ァッ!です


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