好吃!酢豚は恋の味。 (青メッシュ)
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第一章 你好!中国より来たるはオレ様医師?
开始(プロローグ) 传奇的开始(伝説の始まり)


インフィニット・ストラトスの小説でーす。尚、独自設定の元に話が展開していくので、原作との差異などもあるかもしれませんがご了承願います


「何故に拒む?君とて理解しているだろう、我々からの誘いの意味を。其れとも、君は其れすらも理解出来ない愚鈍なのかね?道頼苑」

 

中国政府、大使館の執務室。強面の男性が問いを投げかける

その目線の先には着崩した白衣がトレードマークの小柄な一人の少年

 

前髪の赤いメッシュが印象的な後ろで纏めたダークブラウンの長髪に紅い瞳、犬歯が特徴的な整った顔立ちの彼は其処に佇んでいた

 

「貴様等如きがオレ様を勧誘するなど、笑止千万。この世に於いて、オレ様を縛るというのは不可能だ。然し、愚鈍な貴様等如きでは、その答えを導き出す事等到底出来んだろう。故にその答えを教授してやろう、光栄に思え。其れは、オレ様こそが伝説であるからに他ならない」

 

「き、貴様!言わせておけば!反逆罪と見なし、軍法会議送りにするぞ‼」

 

「その言葉、本気ではないだろう?其れをすれば困るのは貴様等だ…不同的(違うか)?要人様方」

 

「くっ……!」

 

道頼苑(たおらいえん)。それが少年の名だ、かつて、中国で蔓延した病気があった。その病気は前例もなければ、治療法も知られていない未知の病原体。誰もが恐怖に震え、死を待つしかなかった

 

その折、医学界に彼は颯爽と現れた。僅か14歳という若さで医療系大学を卒業した彼は優れた頭脳と腕で病気の治療法を確立。その名は瞬く間に、中国全土、否、世界各国へと、轟いた

 

その腕と頭脳は、政府にとっても、重要な戦力であると同時に広告塔へと、成り得る。故に、政府側は、彼を軍医に迎え入れ、国側に抱き込もうとした。しかし、権力や権威を嫌う彼はフリーランスを貫き通すと語り、誘いをいとも簡単に蹴った。其れ即ち、彼を縛るモノは何人たりとも存在せぬもの也

 

好的(分かった)。それでは…中国代表候補生である凰鈴音嬢の専属医師という条件を提示しよう。彼女は君にとって生きる目的であり、この世で最も大切な女性と聞いている。その彼女の為に医学の腕を揮えるのなら、君も本望であろう」

 

「……原来如此啊(なるほど)。少しは調べたということか。良かろう、その申し出を受け入れよう……可担(ただし)、其れ相応の対価は払ってもらう。手始めにそのIS学園とやらにオレ様専用の設備と施設を用意させろ。その他にも条件はあるが現時点ではこのくらいにしておいてやる。光栄に思え」

 

「ぐっ……ガキが!調子に乗りおって!」

 

「良かろう、君の医療の腕は今や我が中国が世界に誇る…生きる伝説。期待しているよ、道頼苑」

 

「ふんっ……貴様等如きの期待などオレ様からすれば、単なる戯言に他ならん。何があろうとオレ様は己が掲げし信念の元に、物事を遂行するだけだ。其れ即ち我不迷(我レ迷ワズ)也」

 

そう告げ、執務室の扉を閉めた頼を待っていたのは茶色の髪をツインテールに結わえた八重歯が特徴的な可愛らしい美少女

 

「話は終わったの?ダーリン」

 

小鈴(シャオリン)?何故、ここに」

 

「あたしはダーリンの妻よ。夫が居る所に居るのは極々明显的、故に当然のことでしょ?違う?ダーリン」

 

「是失言。今のは、忘れてくれ。小鈴」

 

彼女の名は凰鈴音。頼がこの世界で最も愛する少女にして幼馴染である

 

伝説と呼ばれる彼にとって、唯一無二の何者にも変えられない大切な人、其れが鈴である

 

幼い頃から自分を信じ、寄り添ってくれた彼女は頼にとって、掛け替えのない女性

 

何年間か離れていたこともあるが、彼女は自分のために苦手な料理を克服し、変わってしまった自分を受け入れてくれた最高の恋人

 

其れこそが凰鈴音という少女である

 

「それで?ダーリン。どういう役職で日本へ行くの?やっぱり、医療関係?まあ、其れ意外は有り得ないわよね。だって、ダーリンは伝説の医師だもの」

 

「無論だ、オレ様に其れ以外の選択肢など存在せん。其れにだ…オレ様以外の愚鈍な輩が小鈴を診察する等、虫唾が走る。お前も同意见だろう?」

 

这是正确的(其れは正しいわ)。ダーリン以外に診察されるだなんて、以ての外よ。あたしに触れていいのは、この世でただ一人、ダーリンだけよ」

 

「当然だ、愛するお前に触れていいのは、このオレ様以外に存在していない。この意味わかるな?鈴音」

 

「ふぇ……あ、ありがと…。やっぱり……貴方は誰よりも………… 这很酷(カッコいい)。頼…」

 

不意を突かれ、鈴は顔を赤らめながら頼に抱き着く

側から見れば小柄な彼等だが年齢は15歳。もうすぐ、高校生となる年齢だ

 

そして、二人が通うことになる学園の名はIS学園

 

日本にある、インフィニット・ストラトス「通称:IS」専門の学園だ

 

「頼、我很喜歡你(貴方が大好きよ)♪この命ある限り、貴方の帰るべき場所は、あたしの隣、故に其即ち、貴方の居場所はあたしの隣也」

 

我也是(オレ様もだ)、小鈴。お前が居る場所はオレ様の隣、故にオレ様が帰るべき場所は、お前が待つ場所也」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中国の山奥。道一族が代々に渡り、所有するこの山に頼は居た

此処には漢方薬などに最適な薬草が豊富に点在し、頼の処方する漢方薬の材料は大半が此処で調達されている

 

そして、この山には道一族と僅かな者たちしか知り得ない秘密が存在する

 

『誰?この山は関係者以外は立ち入り禁止よ』

 

「揶揄っているのか?オレ様を忘れた訳ではあるまい」

 

『ウフフ、ごめんなさい。久しぶりね?頼……来る頃だと思っていたわ』

 

その声と共に金属の体を持つ紅い鳥が姿を見せる。その生命体は頼を見つめ、微笑む

 

「流石はライブメタルと言ったところか……力を貸せ、オレ様には貴様が必要だ。紅玉」

 

『承知致しました、ライブメタル紅玉は我が適合者の為にその力を振るうことを御約束致しましょう。それでは今一度、問います……貴方様が望む力とは?』

 

ライブメタル。其れは意志を持つ未知の金属で女尊男卑の世界に風穴を開ける男性とのみ適合する鎧である

存在は公になっておらず、知る者は極めて少ないが世界各国に適合者は必ず存在している。そして、頼もその中の一人であった

 

「言わずもがなだが、今一度だけ聞かせてやるから光栄に思え。オレ様が望む力は妻である鳳鈴音を守る為の力、其れ以外の力は欲することはしない。故に貴様の力をオレ様の為に奮うと約束しろ」

 

『頼は本当に鈴が大好きなのね。分かったわ、この紅玉がアナタに愛する人を守護する力を与える為にお供致します。死が全てを別つ時まで』

 

「この命ある限り、愛しき者を守り抜く。故に我不迷」



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第一集(第一話) 来访者(来訪者)

「ようやく、着いたわね。あたしの第二の故郷とも言える日本に。あっ、もちろんだけど一番の故郷はダーリンと過ごした中国よ?」

 

二対のツインテールを揺らし、八重歯を見せながら笑う鈴。そんな恋人に頼は軽く微笑み、頭を乱暴に撫でる

 

「当たり前だ、お前はオレ様の嫁。帰るところは中国と決まっている。だが正直に言えば、オレ様としては小鈴と居れるなら何処でも構わん」

 

「さすがはダーリンね。そうやって、いつでもあたしを第一に考えてくれるとこが大好きよ」

 

「それで?IS学園とか言うのは何処にある。この伝説たるオレ様が遥々、来てやったというのに迎えすら無いのはどういうことだ?日本人は礼儀も知らんのか」

 

「ダーリンってば、落ちついてよ。何事も焦りは禁物よ?其れにIS学園の場所なら、あたしに任せて。確か……ここら辺に…あった!ほら、地図よ」

 

鈴は肩から提げたボストンバッグの中にあった一枚の地図を取り出す

現在地である空港からIS学園までの道を示す地図。一見、簡素にも見えるが分かり易い地図とも言える

 

「待たせるのも、待つのも嫌いだ。行くぞ!小鈴!」

 

「あっ、待ってよ!ダーリン!」

 

そそくさと歩き出す頼の背を追い、鈴も駆け出す

二人で地図を確認しつつ、都内を歩き回ること1時間弱。漸く、目の前にIS学園と書かれたホログラムの看板が姿を見せる

 

「ここが…IS学園」

 

「ふむ…流石は各国の代表候補生が集まるだけのことはある。微力だが気配を感じる、強者の気配を」

 

「流石はダーリンね、その気配の正体は『ブリュンヒルデ』だと思うわ」

 

「ブリュンヒルデ……なるほどな、納得だ。あの人ならば、オレ様が教えを乞うに値する」

 

「なにせ、あのブリュンヒルデだものね。でも油断は禁物よ?ここにはあたしのセカンド幼馴染がだっているんだから」

 

「セカンド幼馴染!?オレ様の他にも幼馴染が居たというのか…」

 

「はっ……!」

 

セカンド幼馴染という聞き馴染みのない言葉を聞き、僅かに落ち込んだ様に呟く頼。愛しい恋人が何時になく意気消沈する姿に気付いた鈴は慌てたように彼へと駆け寄る

 

「幼馴染は幼馴染だけど、あくまで友達よ⁉︎あたしが酢豚を作ってあげたいのも、食べて欲しいのもダーリンだけなんだから!落ち込まないで!それにあたしを嫌いにならないで!」

 

「……くっ…ははははは!」

 

「ふぇ?」

 

唐突に笑い出した頼に鈴は疑問符を浮かべる。何かおかしいことを言っただろうか?自分は唯、頼の誤解を解きたくて釈明しただけの筈。しかし、当の本人である彼は大声で笑っている

 

何故だろうと思い、鈴は頼に問い掛けた

 

「ダーリン?あたし、何かおかしいこと言っちゃった?」

 

「ああ、言ったな」

 

「ふぇ…?な、なに⁉︎言い直すから、教えて!あたしのこときら----んっ…あっ…ら…い…」

 

再び、慌てふためく鈴だったがその口は直ぐに塞がれた

自分の唇と触れ合い、重なるのは大好きな恋人のモノ。思わず、彼の背中に手を回し、何度も何度も重ね合う

 

「「んっ……ちゅっ……んっ…」」

 

「ぷはぁ……ら、頼…。急にキスとか…ビックリしちゃうじゃない……」

 

「悪かった。だが、それがオレ様の答えだ。我不会恨你(オレ様がお前を嫌いになる筈等無い)、故にオレ様はお前を離さない、小鈴…お前は一生、オレ様の嫁だ」

 

「……はい!」

 

互いの手を重ね合わせ、歩幅を合わせるように歩き、目的であるIS学園へと最初の一歩を踏み出す。転入手続きを行う為に、職員室を目指す頼と鈴。すると保健室前で、誰かを取り囲むように騒ぐ女子生徒が視界に映る

 

「織斑くん!大丈夫⁉︎」

 

「はは…これくらい何ともないさ…いてて…」

 

「まぁ、大変ですわ。きっと骨が折れてるに違いありません。セオ?大至急、ドクターを呼びなさい」

 

「やだよ、めんどくせー。つーか怪我くらいで騒ぎ過ぎだろうが。んなもんツバでもつけときゃ治るだろ」

 

「一夏さんを貴方みたいなお猿さんと同じにしてはいけませんわ。全く品がないんですから…。申し訳ございません、一夏さん」

 

「いいって、セシリア。セオなりに俺を心配してくれてるんだろうから……でも、保健の先生が居ないのは厳しいなぁ…。来るのは明日からだって千冬姉が言ってたし…」

 

黒髪の青年がそう呟いた。明日来る保健の先生とは恐らく頼のことだろう

いきなり騒ぎを起こすのは吝かではないが医師として怪我人を見過ごす訳にはいかない。其れが医師としての頼の高いプライドであり築き上げた伝説の一端なのだ

 

そうこう思っている間に頼は人混みを掻き分け、気付くと黒髪の青年の前に立っていた

 

「出示」

 

「へ?」

 

「ふむ……中国語では聞き取れなかったか。見せろと言ったんだ、特別に診察してやる。光栄に思え」

 

「し、診察……?お前は誰なんだ?」

 

「一夏、その人は医者よ。それも中国で伝説とまで称された超凄腕のね」

 

「……鈴?鈴じゃないか!お前、どうしてこ----がっ…!」

 

「患者の分際で動くな。それから、オレ様の前で小鈴に気安く話し掛けることは許さん」

 

鈴と知り合いだったのか、一夏と呼ばれた青年が彼女に近付こうとするも頼が首筋のツボを押し、動きを封じる

 

「……安心しろ、骨折の類いではない。軽度の脱臼だ、故に二、三日もすれば、完治するだろう」

 

「あぁ……ありがとな。俺は織斑一夏、お前は?」

 

「………道頼苑。明日より、このIS学園に転入する保健医であり生徒でもある。ISは動かせないがある特別待遇の元に派遣された。故に貴様たちは此れより、オレ様以外を主治医とすることは不可能と思え」

 

「道頼苑…。よろしくな!」

 

「頼…と呼ぶことを許可してやる。光栄に思え、織斑一夏、篠ノ之箒、セシリア・オルコット、セオドア・フロックハート。ふっ…何やら、貴様等とは長い付き合いになりそうだ」

 

「再见、みんな。また明日〜」

 

意味深に笑い、白衣を翻しながら去って行く頼と彼の後を猫のように軽やかな足取りで追う鈴。その小柄な二つの背中を見て誰もが思った

 

((((体は小さいのに態度デカ過ぎだろ……))))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。一夏は改めて、頼に礼を述べようと2組を訪れた

そこにはクラスメイトに囲まれ、質問攻めに合う正に転校初日という言葉が相応しい頼と鈴の姿があった

 

「うわぁ……頼と鈴、二人ともすごい人気だなぁ…」

 

「はんっ、所詮は医者だろうが。俺には及ばねぇよ」

 

「おはよう、セオ。お前も頼に会いに来たのか?」

 

「んなわけねーだろ。この英国紳士の俺が他人に媚びを売るかってんだ」

 

この毛先の黒いメッシュが特徴的な金髪癖毛に碧眼を持つ、整った顔立ちの青年の名はセオドア・フロックハート

 

イギリス代表候補生 セシリア・オルコットの従者としてIS学園に籍を置くこと許された数少ない男子生徒だ

 

「だいたいよぉ…あの野郎、気に食わねぇんだよ。人を見下しやがって」

 

「まあ人それぞれだからなぁ…性格は」

 

「いいや、あいつはISを快く思ってねぇんだと思う。あれは女尊男卑の今を嫌う眼だ」

 

「それはセオもじゃないか?」

 

「まあな。それでもあいつは気に食わねぇ、自分のプライドを鼻にかけてやがる」

 

一夏はセオドアの言葉を聞き、改めて頼の方を見るが本当に彼がプライドを鼻にかけているのかは判別出来ない

その視線に気付いたのか頼は生徒達を掻き分け、一夏とセオの前まで歩いて来た

 

「昨日振りだな、織斑にフロックハート。オレ様に用でもあるのか?」

 

「ああ、いや。そうじゃないんだ。改めて昨日の御礼を言いたくてさ」

 

「ふむ、意外と律儀な所もあるようだ…なるほど、これが日本人なのか。その事なら、無問題だ。オレ様は医師であり貴様は患者。よって、これは当然の処置だ。しかし、貴様がどうしても感謝したいと言うのなら、特別に感謝されてやろう。光栄に思え」

 

「……そ、そうか」

 

「けっ…気に食わねーな。その上から目線、明らかに自分の弱さを棚に上げてる証拠じゃねぇかよ」

 

「………何?」

 

「ちょっとあんた!失礼じゃない!いい!?ダーリンは凄腕の医師であり生きる伝説なのよ!本来はあんたみたいなヤツが会話できるような人じゃないのよ!なのに!ダーリンに対して、弱いだなんて!今直ぐにあやま----ダーリン?」

 

セオドアの発言に対し、鈴が突っかかるが頼は彼女を制止した

どうしたのだろうかと思いつつ、彼を見ていると不敵に笑い、セオに向かってこう告げた

 

「弱さの中にも強さはある…故にオレ様は強い。敗者とは弱さ故に敗れた者を示すのではない、己が信念を貫き通せなかった者を示す。迷いが生む油断…これ即ち、敗北也」

 

「あぁ?何言ってんだ?おめぇ。訳の分からねぇ御託はいいからよ、喧嘩しようぜ」

 

会很好(良かろう)

 

挑発するセオドアに対し、頼が告げる。その発言が中国語であるが故に、理解出来ない一夏は、首を傾げているが、鈴は八重歯を出し、不敵に笑っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後。今朝の約束通り、模擬戦闘の許可を織斑千冬と山田真耶の両教師から得た頼とセオドアは闘技場で向かい合っていた

 

「ねぇ、セシリアだっけ?あんたの従者さんは武術とかやってる?」

 

「いいえ、何も。ですが……彼は一度も負けたことがありませんわ。生まれながらの勝者、それがセオドア・フロックハートですわ。いくらあなたの恋人さんが強くてもあの身長差では戦いも成立しませんし」

 

「さぁ〜て、それはどうかしら?身長差なんてのは二の次よ、全てに勝るのは己が貫く意志の強さよ。これ即ち、信念也」

 

「おっ、始まるぞ」

 

一夏の言葉で鈴、セシリア、箒の三人の視線が闘技場の方に向く

刹那、セオドアが一気に駆け出し、頼に迫っていく。距離を詰め、軽い身のこなしのフットワークで拳を繰り出す

 

「オラッ!オラオラッ!オラァッー‼︎」

 

「なるほど。我流にしては興味深い動きだ」

 

「どうした!手も足も出ねぇか?俺の拳はナパーム弾並みの威力だぜ、似非ドクターさんよォ!」

 

「ふっ…威勢だけは良いようだ。然し、オレ様に、その程度で傷を付けよう等と、笑止千万也」

 

その言葉と同時にセオドアの猛攻を避けているだけだった頼が動いた

攻撃を指一本のみで受け止め、セオドアの動きを封じたのだ

 

「なっ…!」

 

「所詮は生身、故に我に傷付けること敵わぬが如し。身の程を知るがいい、我が一撃を、その身で、しかと味わえ!火節脚(ファオジャンキャク)!!!」

 

刹那、高速の蹴撃がセオを襲った。その小柄な体格から放たれたとは思えぬ、一撃は深く叩き込まれた

 

「ぐっ……⁉︎な、なんだ……今の…!蹴りが重てぇ…」

 

一撃必殺、故にその蹴撃は是までに受けた如何なる技よりも遥かに常軌を逸していた

 

「どうなってますの……⁉︎あのセオが…こうも簡単に膝をつくなんてあり得ませんわ!」

 

その場に片膝をつきながら、肩で息するのが、やっとのセオドア。その状態の彼に対し、見守るセシリアが思わず、驚きの声を挙げた

 

「いや、そうでもない。あの頼という男の蹴りに籠っていたのは闘気。自らの体に高密度の闘気を纏わせ、フロックハートに一撃を放ったのだ」

 

「そうなのか?鈴」

 

「ええ、箒だった?その子の言う通りよ。体内で練り合わせた気を自らの体に纏い、戦うのが頼の使う武術の正体…。そんな事が出来るのは何故か分かる?そう、其れは頼が武術と気候術のスペシャリストであり天才的な医術を持つ生きる伝説だからよ!!」

 

ふふん、と誇らしげに慎ましやかな胸を張る鈴。何故に彼女が誇らしそうにしているかは不明だが頼の強さは其れが由縁らしく、その先を一夏は気になりながらも聞くことが出来なかった

 

「まだやるか?」

 

「……参った、降参だ」

 

「なっ⁉︎セオドア!貴方、それでも誇り高き英国の人間ですの⁉︎」

 

「無理を言うなよ、セシリア。こいつの実力は俺より上だ……認めたくねぇけどよ。多分、そこの鈴とか言う女もお前より、強いぞ」

 

「………それは本当ですの?鈴さん」

 

セシリアは横に佇み、頼に手を振る鈴に問い掛ける。すると、彼女は特徴的な八重歯を出し、不敵な笑みを浮かべ、口を開く

 

「日々精進した結果よ。アンタは先ず、心を磨くといいわ。この世は絶対、完璧、完全の三つが罷り通る世の中じゃないの」

 

「貴様たちが此れに懲りず、また挑戦するのであれば、何時如何なる時であっても、オレ様はその挑戦を受けると約束してやろう。我们走吧、小鈴」

 

「是。頼」

 

白衣に改造を施された上着を翻し、頼は鈴を連れ立って闘技場から去っていく

取り残された一夏、箒、セオドア、セシリアの4人は密かに思った

 

((((やっぱり小さいのに態度がデカい…))))




IS学園へと転入を果たした頼と鈴、彼等を待ち構えるはクラス対抗戦。そして、謎めいた敵との会合であった

「如何なる者が相手でも容赦はせん、故に我不迷」



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第二集(第二話) 掠夺者(襲撃者)

SAOがひと段落したので、更新を再開したいと思います。馬鹿な主人公も良いけど、オレ様系主人公も悪くない


「ねぇねぇ、ダーリン。あたし、クラス対抗戦?とか言うのに出なきゃいけないの。応援してくれるわよね?勿論」

 

IS学園の保健室。頼に与えられた学園での居場所であり仕事場である。医学書や薬品類等を中心に彼が医師たる所以を体現した部屋だ

そして、机に向かい、生徒の身体的特徴が記された書類と睨み合う頼を鈴が背後から抱きしめる様な体制を取り、彼に問いを投げ掛ける

 

难怪(当たり前だ)。お前が如何に精進しているかは、オレ様が一番理解している。故に、その成果を見届ける事はオレ様の伝説に刻むべき一頁、お前也の心火を燃やし、相手を叩き伏せろ。万が一の場合で、お前が怪我をする様な事があろうと、一定(必ず)、根治させてやる」

 

「流石はダーリン、そうやって上から目線に見えても実は思いやりがある所が大好きよ。我爱你(愛してる)

 

谢谢(感謝する)

 

高圧的ではあるが言葉の中に感じる彼なりの優しさを読み解いた鈴は満足感のある笑顔で頷き、愛の言葉を囁き掛ける。すると彼も僅かに口角を上げ、感謝の意を述べる

 

「相手は織斑だったか?初の専用機持ちである男性操縦者……興味深いな」

 

「えぇ、前に会った時はISはおろかライブメタルにも適合してなかったのに。不思議だわ」

 

「日本人のライブメタル適合者はオレ様が知る限りでも限られた一族のみしか確認されていない。そう、この学園にて爪を隠す未だ見ぬ強者がその適合者だとオレ様は睨んでいる」

 

ライブメタル適合者と成りうる者は、各国の政府からも一目を置かれる一族の者の中でも高い実力を有する者のみ、しかしながら、その存在を政府は公にすることは極めて稀である。その理由が女尊男卑の時代が提唱され続ける事だ。女より強い男は存在しない、男は女よりも弱いという概念が当たり前となっている時代、故に各国の政府は男性に適合するライブメタルの存在を公には出来ないのである

 

「ふぅん…あっ!そうだ!聞いてよ!ダーリン!一夏ってば、あたしを貧乳呼ばわりしたのよっ!?」

 

「なに…?少しだけ待っていろ、小鈴」

 

「どうしたの?ダーリン」

 

「今直ぐに織斑の関節全てを脱臼させてきてやろう」

 

「えっ!あたしの為にそこまでしてくれるのっ!?嬉しいわ!ダーリン!でも大丈夫よ!悪口の借りは試合で返すわ!」

 

「……你明白了吗(分かった)。お前が其れで構わないのなら、オレ様は手を出さん。可担(ただし)、無理だけはするな」

 

「無問題……と言いたいけど、我明白(分かったわ)。無理をしない程度で一夏に勝つわ」

 

「期待している」

 

頼からの激励を受け取り、特徴とも言える二対のツインテールを揺らし、八重歯を見せながら笑うと鈴は保健室を去る

 

『ふふっ、本当にアナタは鈴が大切なのね?頼』

 

「聞き耳を立てるとは随分と無粋な真似をしてくれるな?紅玉よ」

 

突如、聞こえた声に頼が皮肉を交えた様に呼び掛けると彼の左耳に身に付けた赤いピアスが発光し、ライブメタルの紅玉へと姿を変える

 

『ウフフ、ごめんなさい。ついつい聞き耳を立てちゃうのよ』

 

「貴様は変わらんな。今も昔も無粋な世話焼きだ」

 

『ふふっ、アナタは変わったわね。昔からは想像も付かない程のオレ様気質に。私や鈴は慣れているから構わないけど、他の人は良い気分しないのではないかしら?』

 

「ふんっ、オレ様は誰からの指図も受けん。その理由は貴様も理解しているだろう。其れは、オレ様こそが伝説であるからに他ならない」

 

『そうだったわね。是、失言』

 

「其れで、要件は何だ。態々、世間話をする為に出てきた訳ではあるまい」

 

妖艶な声色で笑う紅玉を相手に、顔色を変えない頼は僅かに両眼を険しく細め、問いを投げ掛ける

 

『この学園に邪悪な気が迫っているわ。其れが何かは解らないけど、もしかすると……アナタが探す“ヤツ”かもしれない』

 

「………原来如此啊(なるほど)、確かに邪悪な気を感じる……しかし、この気は“ヤツ”では無い」

 

『そう、其れは残念ね。其れで?頼。どうする?』

 

「決まっている……如何なる者が相手でも容赦はせん、故に我不迷」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、迎えた試合当日。闘技場では二組の代表である鈴と一組の代表である一夏が向かい合っていた

 

「逃げずに来た度胸だけは褒めてあげるわ。光栄に思いなさい!その度胸に免じて、日々精進し、今も尚、勇往邁進するあたしの本気を魅せてあげるわ!」

 

「出来れば…手を抜いてもらいたいとこだけど。俺も真剣勝負で手を抜くなんて真似は出来ない、全力でぶつかり合ってこその真剣勝負だ。胸を借りるぜ!鈴!」

 

「掛かって来なさい!死なない程度に殺してあげるわっ!」

 

『其れでは両者!試合開始!』

 

試合開始宣言と共に両者が地を蹴り、機動力の高い鈴が先制攻撃を仕掛けるも一夏は負け時と防御体制を取る

 

「おぉ!一夏のヤロー!アレをガードしやがったぜ!」

 

「浅はかだな、フロックハートよ。あの程度の初撃であれば、誰にでも躱せる。小鈴の本領発揮は此処からだ」

 

「ああ?どういう意味だ?そりゃ」

 

「な、なんだあれは…!?」

 

不敵に笑う頼の言葉に疑問符を浮かべるセオドアの隣に座っていた箒が叫んだ。その視線を追い、闘技場に視線を動かすと両膝をつく一夏の姿があった

 

「一体、何がどうしたってんだ!?ありゃあ!」

 

「恐らくは衝撃砲ですわ。空間全体に圧力をかけて砲身を生成余剰で生じる衝撃自体を砲弾化して撃ち出す。わたくしのブルー・ティアーズと同じ第三世代兵器ですわ」

 

「マジかよっ!?見えねぇ攻撃って事じゃねぇかよ!」

 

这是正确的(その通りだ)……と言いたい所ではあるが、衝撃砲「龍砲」は砲弾も砲身も視認出来ない事が特徴だ。其れを躱す事等、本来であれば、不可能。然し、ヤツは多少の危うさは見られるが、此れを躱すとは……やはり、あの男…織斑一夏という男は侮れんな」

 

鈴の放つ絶え間亡き砲撃の嵐、一夏は躱しながらも決定的な瞬間を狙っていた。持ち得る武器は「雪片弍型」と呼ばれる刀のみ、かつて、この刀を相棒にISの世界大会「モンド・グロッソ」で優勝を決めた最強のIS使いが存在した。その名は織斑千冬、「ブリュンヒルデ」と呼ばれた一夏の姉である

完璧な姉と不完な弟、世間は彼等をそう呼び、一夏を蔑んだ。しかし、彼は唯一無二の力を身に付け、時の人となった。だからこそ、負けたくない。負ける訳にいかない、湧き上がる闘志が彼の気を昂らせる

 

「鈴」

 

「何よ?」

 

「俺も本気で行くから、魅せてくれよ?お前が言う格の違いってヤツを!」

 

这是自然的(当たり前じゃない)!身の程を知りなさいっ!一夏っ!!!」

 

「うおおおおっ!」

 

鈴と一夏、二人の拳がぶつかり合い掛けた瞬間、闘技場内を突然の異変が襲った。耳を劈く様な轟音が響き、黒煙が立ち込める

 

「な……なんだ?何が起こって……」

 

「一夏!試合は中止よ!直ぐにピットに戻って!」

 

「鈴はどうするんだっ!?」

 

「あたしは時間を稼ぐわっ!」

 

「女を置いてそんなこと出来る訳ないだろっ!」

 

「馬鹿っ!今は女とか、男とか、そんな事言ってる場合じゃないのよっ!」

 

『所属不明のISと認識。ロックされています』

 

襲撃者である機体は所属不明であり、更に狙いを鈴と一夏に定めている。二人目掛け、高エネルギー反応を示す高出力ビームが放たれる

 

「あぶねぇっ!!」

 

「小鈴!織斑!後方に退避っ!!!」

 

瞬間的に放たれた的確な指示に従い、高出力ビームが直撃する寸前に鈴と一夏は後方に退避する。彼等と入れ替わる様に闘技場内に、その者は姿を現す

 

「闘いとは拳と拳をぶつけ合い、己と他者が繋がり合う神聖なる遊技。其れを穢そう等と……是即ち万死に値する。貴様に処方する薬は唯一つ、其れ即ち敗北也。その眼に焼き付けよ、我が圧倒的強さを」

 

特徴とも呼べる白衣を棚引かせ、襲撃者を冷たい視線で見上げる少年。彼の名は道頼苑、伝説と呼ばれし医師也

 

「我が身に宿る炎は、烈火の如く……紅玉招来!!!」

 

その言葉と共に左耳のピアスが光を放ち、赤い鳥へと姿を変化させ、頼の体を覆う様に装甲を展開させる

 

「この命ある限り、愛しき者を守り抜く。故に我不迷」

 




今、明かされる頼の本気。其れ即ち身を焦がすほどの炎の力也
果たして、闘いの果てにあるものは…?

「如何なる者が相手でも容赦はせん、故に我不迷」


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第三集(第三話) 传奇(伝説)

続きでーす、頼の真の強さは如何に!


「この命ある限り、愛しき者を守り抜く。故に我不迷」

 

全身を覆う赤き装甲、その握り締めた拳には闘志という力が炎が燃えている。まるで愛しき者が傷付いた事に怒る彼の怒りを体現した様に湧き上がる炎は、その赤さを見せつけるかの如く揺らめく

 

『頼。あの機体は全身装甲(フルスキン)みたいよ、更に生体エネルギーが感じられないわ』

 

「…原来如此啊(なるほど)、つまりは機体諸共破壊して構わないという見解で相違ないか?」

 

『是、その見解で間違いないわ』

 

很好(良かろう)能收到我燃烧的脚技头就好了(我が燃ゆる脚技を受けるが良い)。その一撃を、己の身で、しかと味わえ!烈火節脚(リーファオジャンキャク)!!!」

 

生身の状態とは異なる、その身にライブメタルを纏った全身装甲(フルスキン)状態で放たれた高速の蹴撃は烈火の如き炎を纏い、深い一撃、正に一撃必殺を体現した最強の脚技也

 

「な、何なんだっ!?頼のあの姿は…!アレが彼奴のISなのか!?」

 

「その答えは否よ、一夏。有れは特殊金属「ライブメタル」が齎す恩恵であり適合者と呼ばれる者達しか纏えぬ獣の鎧、その名を……

 

 

 

 

 

Beastmail!(ビーストメイル)又の呼び名をBMよ!

 

 

 

ふふん、と誇らしげに慎ましやかな胸を張る鈴。彼女が誇らしく思うのは無理もない、現に今の頼は誰よりも頼もしく、その小さな背中からは圧倒的な強さを感じさせている

 

「セシリア……久しぶりに暴れたい気分にならねぇか?」

 

「ええ…淑女としてはあるまじき行為ではありますが、今はその様な事を言っている場合ではありませんわね。織斑先生、わたくし、セシリア・オルコットと従者、セオドア・フロックハートに出撃許可を願います。己が役目を全うする事をオルコットの名に約束致しますわ」

 

「…………良いだろう。だが無理はするな、其れが条件だ」

 

「「はいっ!」」

 

セシリア、セオドアの両名は己の役目を果たす為に闘技場方面へと走り出す。その後ろ姿に箒は何も出来ない自分が歯痒く、拳を握りしめる

 

(私は……私は…どうして…あそこに…いられないんだ……)

 

その想いは彼女の中に迷いを生み、同時に悔しさを与える

 

「頼!何を手こずってやがるかはしらねぇが、俺も参加してやるぜっ!」

 

「貴様の手など借りる必要は無い。下がっていろ、フロックハート」

 

突然、姿を見せ、加勢を申し出るセオドアに対し、頼は全身装甲(フルスキン)の奥で、表情を歪ませる

 

「いいや、この喧嘩は俺たちにも参加する権利がある。揺らせ、唸れ、雄叫べ!我が剛腕は、大地を穿つ!come on!オブシディアン!!!」

 

その言葉と共に両手の手甲が光を放ち、黒い猿へと姿を変化させ、セオの体を覆う様に装甲を展開させる

 

「貴様も適合者だったとはな」

 

「どうだ!驚いただろっ!」

 

没有惊喜(何の驚きもない)。国家代表の従者である以上は其れ相応の力を持ち合わせている事は明白。故に貴様が適合者であっても微塵も不思議ではない」

 

「ちっ!やっぱりいけすかねぇぜ!オブシディアン!ぶちかますぞっ!」

 

『ヒャハハハハ!待ってたぜ!』

 

『随分と品の無いライブメタルね』

 

「貴様が言うか?下世話な獣め」

 

『ふふっ、過保護と言ってもらいたいわね』

 

「頼!セオ!鈴!俺に策がある!協力してくれっ!」

 

「「是」」

 

「おうよっ!」

 

一夏の言葉に頼と鈴が頷き、セオドアもサムズアップを決める。その策が何を意味するかは不明だが、強敵を前に彼等の心は一つ。故に一夏の提案を聞き入れたのである

 

「俺は……箒を、千冬姉を、関わる人全てを守りたい。その為には力が必要なんだ、だけど…その力は何も戦う力じゃない。頼が持つ頭脳、セオが持つ剛腕、鈴が持つ機動力、セシリアが持つ射撃力みたいな誰かを守る為の力だ。だから、力を貸して欲しい」

 

「随分と欲の深いヤツだ…然し、最喜欢的(気に入った)。光栄に思え、この伝説であるオレ様が貴様の欲に乗ってやろう」

 

「ありがとな……鈴!エネルギーを溜めたら、俺の背中ごと撃ってくれ!頼はその間、鈴を守るんだ!セオは俺の援護を頼む!」

 

「はぁ!?背中ごと撃ってくれだなんて、正気なの!?アンタ!怪我だけじゃすまないかもしれないわよ!!分かってんの!?」

 

「分かってる!其れでも構わない!最大威力で頼む!」

 

「小鈴、今は織斑の指示が最優先だ。案ずるな……この伝説であるオレ様に治せない怪我等存在せん」

 

「うっ……ダーリンがそう言うなら、仕方ないわね。でもっ!どうなっても知らないわよっ!」

 

「ああ!ありったけの力をぶっ放してくれ!」

 

鈴のIS《甲龍》が放つ衝撃砲の威力は正に一撃必殺。故にその破壊力は計り知れない、其れでも一夏には護りたい者の為に譲れぬ覚悟があった。自らのISが持つ瞬時加速(イグニッション・ブースト)に衝撃砲の威力を上乗せする事で、爆発的な速度を発揮した一夏は敵機体目掛け、雪片弍型を振り下ろす

 

「ぐっ…!」

 

「一夏っ!頼!一夏が!」

 

「狼狽えるな。織斑の狙いは敵に在らず……ヤツはオレ様達を逃す為に出口を作った、其れ即ち……」

 

「入り口もできたということですわ!」

 

「セシリア!?」

 

「やはりな」

 

狼狽える鈴とは裏腹に冷静な頼の言葉に続くようにISを展開させたセシリアが姿を見せる。その付近には彼女を守る様にセオドアが待機している

 

「目標までの距離、約1300。どうだ、狙いは定まってるか?セシリア」

 

「誰に物を言っていますの?セオドア。わたくしは英国が誇る狙撃手ですわ。当然、完璧に決まっています。リミッターカット、スターライトmkIII最大出力ですわ!」

 

高らかな宣言と共に放たれたレザーが敵機を撃ち抜く。正に狙撃手と呼ぶに相応しい彼女の姿は威風堂々としていた

 

「流石はセシリアだなっ!やるじゃねぇか!」

 

「これくらいの事は当然でしてよ。何せ、わたくしはセシリア・オルコット!イギリス代表候補生なのですから!オーッホホホホホ!」

 

「うわぁ……高笑いとかリアルにする人がいんのね…」

 

「下品な女だ…。其れに比べると小鈴は流石だ、お前は何時如何なる時も可憐で慎ましやかだからな」

 

谢谢(ありがとう)、ダーリンも素敵よ」

 

「誰が下品ですのっ!?セオ!貴方からも何か言ってやってくださいな!」

 

「任せろっ!良いか!セシリアは下品なんじゃなくて、エロいだけだ!メイドのチェルシーが言うには下着も----うぎっ!?」

 

「貴方は何を言っていますの!?この馬鹿猿!!!」

 

「落ち着けよ、みんな」

 

見つめ合う頼と鈴、主人を立てようともせずに良からぬ事を口走るセオドアに往復ビンタを繰り返すセシリア、其れを咎める一夏。その光景を見守る事しか出来ない誇らしくは人知れず涙を流す

 

(私は……何故、彼処にいられないんだ…)

 

刹那、瓦礫の中に異変が生じる。闘技場の面々は気付いていないが箒だけは気付いた

 

「一夏っ!後ろだっ!」

 

瞬間的に聞こえた箒の声に、一夏も瓦礫の方に視線を向けるが時既に遅く、衝撃砲が放たれた。爆風を受け飛ばされた一夏をセオが受け止め、頼が駆け出す

 

烈火洲示導弾脚(リーゾウジダオダキャク)!!!」

 

烈火を纏った回し蹴りが敵機に叩き込まれ、完全に機能を停止させた後、頼はBMを解き、後方に飛ばされた一夏に視線を向ける

 

「道。今直ぐに診察を頼む、曲がりなりにも私の弟だ」

 

「是、恐れながら、この道頼苑、如何なる事があろうとも貴方の弟、織斑一夏の命を繋ぎ止めると約束致します。我们走吧、小鈴」

 

「是。頼」

 

特徴の改造上着を翻し、頼は鈴を連れ立って闘技場から去っていく

取り残された箒、セオドア、セシリアの三人は密かに思った

 

(((やっぱり小さいのに態度がデカい…)))




傷付いた一夏が目を覚ますとベッドの上だった。其処には頼と鈴の姿があって……今明かされる鈴が一夏の前から去った理由とは!

「如何なる者が相手でも容赦はせん、故に我不迷」


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第四集(第四話) 动荡(波乱)

続きでーす。うーむ、何故に自分が書くとギャグテイストになるのか……今回は一夏の隠れた性癖が明らかに!はてさて、如何なる事やら……


「う…………う〜ん?」

 

空が黄昏色に染りかけた頃、麻酔の効果が切れた一夏は意識を覚醒させながら、ゆっくりと瞼を開き、知らない天井を見上げる

 

「気が付いたか?」

 

「千冬姉……」

 

聞き覚えのある声に視線を動かすと姉の千冬が佇んでいた。彼女也に弟である一夏を心配しているのか、何時もと変わらぬ威風堂々たる立ち姿からは想像が出来ない僅かな冷や汗が確認出来る

 

「道の診断によれば、致命的な外傷はないが全身に軽い打撲はある。数日は痛みと薬の副作用で地獄を味わう事になるが、慣れろとの事だ」

 

「慣れろ…か。頼らしい言い方だな」

 

「そう言ってやるな。衝撃砲の最大火力を背中から受けたお前に的確かつ迅速な治療を施し、命を救ってくれたんだ……感謝してやるのが筋だろう。まぁ……なんにせよ、無事で良かった。家族に死なれては寝覚が悪いからな」

 

「千冬姉」

 

姉弟水入らずの時のみ、見せる姉としての表情。その優しさが感じられる表情が一夏には一番の特効薬であり一番大好きな姉の姿だ

 

「どうした?言いたいことがあるなら、はっきりと言わんか」

 

「……心配かけてごめん」

 

「心配などしていないさ。お前は私の弟だ、そう簡単に死にはしない。其れにだ……如何なる怪我を負おうと、病気に感染しようと、我が学園には凄腕の医師が在中している」

 

「其れって……頼のこと?」

 

「ああ、そうだ。では私は後片付けがあるので仕事に戻るが、お前も道からの許可が降り次第、部屋に戻れよ」

 

千冬が保健室を後にするのと入れ替わりに今度は見覚えのあるポニーテールを揺らしながら、一人の少女が姿を見せる

 

「あー……ゴホン、ゴホン」

 

「よう、箒。どうしたんだ?見舞いに来てくれたのか?ありがとな」

 

少女、箒は軽く咳払いした後に呑気に礼を述べる幼馴染に近寄り、睨み付ける

 

「べ、別に見舞いに来た訳でないっ!お前の今日の行動を叱りに来ただけだっ!勝ったからいいようなものの……あのような事故は先生方に任せておけば良いのだ!」

 

「いやいや、頼や鈴、セオにセシリアも戦ったじゃないか。俺だけが逃げる訳にはいかないだろ」

 

「其れでお前が傷付いては意味がないだろうっ!?あんなものは勝利とは言わん!」

 

「箒………」

 

「な、なんだ…」

 

何時になく真剣な表情と冷静な声色で、自分の名を呼ぶ一夏に箒の頬が赤く染まっていく。彼が見詰める先には自分の姿しかない、故に今から紡がれる言葉は自分に向けられる事は明白だ

 

「ポニーテールとツンデレはマニア受けが高いぞ、どうだ?今後はツンデレキャラを極め---ごばっ!?」

 

「馬に蹴られて死んでしまえっ!馬鹿一夏!!!」

 

浪漫の欠片も無い言葉に箒の竹刀が一閃。彼女は延びている一夏を放置し、保健室を去っていく。しかしながら、彼女は内心では感謝の念を送られた事を嬉しく思ったのは別の話である

 

「………貴様はデリカシーという言葉を知らんのか。織斑」

 

保健室の隣にある薬品管理を行う為の準備室から姿を見せた頼が呆れた眼差しを向ける

 

「あれで良いんだよ…。俺は笑ってる箒が好きなんだ、怒ったり、泣いたりしてるアイツは見たくない」

 

「ふぅん?話には聞いていたけど、随分とあの箒って子に入れ込んでるのねぇ?アンタ」

 

一夏の箒に対する想いを聞き、頼の背後から、ひょっこりと顔を覗かせた鈴がジト目気味のにやけ笑いを浮かべる

 

「そりゃあな。大事な幼馴染で、俺が初めて千冬姉以外で好きになった人だからな」

 

「貴様、オレ様を相手に惚気話とは良い度胸だな」

 

「大丈夫よ、ダーリン。あたし達の絆に比べたら、一夏の気持ちなんてまだまだ序の口よ」

 

难怪(当たり前だ)

 

「鈴。色々と悪かったよ、人の身体的特徴を悪く言うなんて最低だって箒やセシリアにも怒られた……ごめんな」

 

「無問題、もう気にしてないわ」

 

謝罪の言葉をさらりと受け流すように受け止めた鈴は、特徴的な八重歯を見せながら笑顔を向ける

 

「こっちに戻って来たってことは、また店もやるのか?昔、大切な人に食べもらうからって酢豚の練習してたし、料理も上手くなったんだろ?」

 

「…………料理は日々精進した甲斐もあって、上達したわ。其れに食べてもらいたかった大切な人にも食べさせてあげられるようになったわ…………でもね、お店はもうしないの……というか、出来ないのよ」

 

「出来ない?どうしてだ?」

 

「うちの両親ね、離婚しちゃったの。本当はもう少しだけ日本に居る筈だったのに、急に国に帰る事になったのもその所為なの…」

 

「そうなのか…」

 

「其れでも……あたしは妈妈(母さん)爸爸(父さん)があたしを大切に思ってくれてるって理解してる。昔みたいに三人で一緒に暮らしたり、店をやったりは出来ないかもしれないけど、繋がりだけは変わってない。其れが家族なのよ」

 

辛く悲しい過去、其れは決して良いものではない。其れでも時には其れを受け入れられなければならない時は来る。鈴の明るい振る舞いの裏に隠された真意を一夏は見透かしていた

 

「強いな。鈴は」

 

难怪(当たり前よ)。あたしは伝説と呼ばれる医師、道頼苑の妻なのよ。故にあたしが強いのは当然の事よ」

 

「…………織斑。貴様に特別な治療薬を煎じてやった、今直ぐに呑め」

 

「おお、悪いな………ゔぇっ!?苦っ!なんだこれっ!?」

 

「オレ様秘伝の漢方だ。苦さを超えた先にある限界が貴様を強くする、呑め」

 

「断るっ!!!」

 

「そうか……ならば、塵芥と消えるがいい!」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!!」

 

漢方薬を拒否し、逃げ惑う一夏を頼が無表情で追う。その姿は正に小さき体に圧倒的な威圧感を放ち、今の彼を見ても伝説の医師とは誰も思うまい、其れ即ち、静かに揺らめく烈火の如く

その時、保健室の扉が開き、逃げ惑う一夏は何か柔らかい物体に衝突した

 

「きゃん……い、一夏さん?公衆の面前ですわよ?随分と大胆な事をなさりますのね……」

 

「セシリア………その…ご馳走様です」

 

「なぁ、頼。今コイツを追いかけてたよな?俺も参加して構わねぇか?」

 

难怪(当たり前だ)

 

「Thank you。そういう訳だ……一夏?喧嘩しようぜ」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!!増えたァァァァァァ!!!」

 

騒がしいIS学園の日常は今日も過ぎゆく。一夏の叫びが木霊し、其れを追う医師と猿の姿がこの学園の風物詩になる日も遠くはない。其れ即ち、ありふれた日常也

 

(ダーリンってば、焼き餅を妬いてくれたのね。そういう、実はちょっと可愛いとこも我爱你(愛してるわ)我的丈夫(あたしの旦那様)

 

(はて?一夏さんがわたくしの胸に触れたのを何故、セオが怒るのでしょう?不思議ですわ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お呼びですか?織斑先生、山田先生」

 

IS学園地下の研究施設で襲撃の戦犯である敵機を解析していた千冬、麻耶の背後に一人の青年が姿を見せる

 

「来たか、弥生。更識はどうした?」

 

「お嬢様は現在、生徒会の業務が御忙しい為に其方を優先するとの事です。故に今回の件は私に一任すると仰せつかっております。御了承くださいますか?」

 

「構わん。お前の耳に入るということは、必然的に更識の耳にも入るという事だからな」

 

「御配慮いただきありがとうございます。この弥生剣舞、必ずや、織斑先生の御言葉を一語一句聴き損じる事なく、我が主人、更識楯無に御伝えさせていただきます。其れが執事足る我が役目に御座いますので」

 

この青年の名は弥生(やよい)剣舞(けんぶ)。IS学園最強と謳われる生徒会長の右腕にして、身の回り全ての世話を熟す万能さと有能さを兼ね備えた完璧超人の呼び声が高い執事である

その実力は未知数とされ、在学生の誰もがその真価を知らない言わば影の生徒会長と呼ぶべき存在。更に言うとIS学園に於いて最初に在学を許された男子生徒である

 

「其れでは伝える。今回の件で織斑と凰を襲撃した機体は無人機だ」

 

「無人機……という事はコア登録もされていない事になりますね」

 

「その通りだ」

 

遠隔操作(リモート・コントロール)独立稼働(スタンド・アーロン)、何方かは判りませんがいずれも現時点では実現されていない技術(システム)です。織斑君達や最終的に道君が放った一撃で、機能中枢が焼き切れている為に修復は不可能かと…」

 

「織斑先生……何か心当たりでも?」

 

「いやない、今はまだな…。弥生、お前は早急にこの件を更識の耳に」

 

「畏まりました」

 

未だ掴めぬ敵の尾、其れを知る時は妖しい足音と共に静かに歩み寄っている事を誰も今は知らなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏、セオドア、セシリアが自室に戻り、静寂が支配する保健室では頼が二枚の診療録(カルテ)を手に机に向かっていた

 

「……シャルル・デュノアにシュヴァリエ・ランバージャック。ふむ、此奴等の検査を行えばいいのか…」

 

「でも珍しいわね。こんな時期に転校だなんて……まあ、あたし達も人の事を言えた義理ではないんだけど」

 

「是、確かにそうだが……オレ様が気になるのは其処ではない。このデュノアというヤツの事だ」

 

「どれどれ……はい?ちょっ!?ちょっと待って!你是什么意思(どういうことよ)这个(これ)!?」

 

診療録(カルテ)と転入手続きの書類を頼から受け取った鈴は驚愕し、両眼を見開いた

 

「この子……女孩(女の子)じゃない!?」

 

更なる凶兆、其れ即ち新たなる波乱を呼び寄せる前触れ也




学年別個人トーナメントが迫る中、ある噂が囁かれる。優勝者は織斑一夏と付き合える!?そして、その候補の中には頼とセオの名前も上がっていて……「あたしの頼と付き合おうなんて、笑止千万!」、と中華最大火力の猫娘が大奮起!更に更に現れた四人の転校生!

「問題!勝つのはボクか、其れとも君か。正解はこのボクです」


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第二章 Bonjour!サディスト家庭教師はパリジェンヌ?
第五集(第五話) 男孩遇见男孩(ボーイ・ミーツ・ボーイ)


いよいよ、奴等が参戦!果たしてこの恋のバトルロイヤルの行方は……え?台本が違う?ああ、バトルロイヤルじゃなくてコメディなの?いやぁ、間違えちゃったぜ


「もう、六月か。随分と早いな、季節の流れというのは」

 

学園襲撃から数週間、季節は梅雨。湿気が目立つ六月へと突入し、頼と鈴の転入時期より一ヵ月の時が流れた

 

「む…電話か」

 

治療薬の漢方を煎じていた頼は自分の携帯が鳴った事に気付き、携帯を手に取り、電話の主の名に軽いため息を吐いた後、応答する

 

「姉上。何の用ですか」

 

『あらら、昔みたいに蝶姐(チョウジエ)とは呼んでくれないのね。小頼(シャオライ)

 

電話の向こうから聞こえてくるのは、悪戯っ子のような口調で、自分を「小頼」と呼ぶ女性の声。この子を彼は知っている、否、知っていた

 

「要件が無いなら切りますよ。あと実家に大量の漢方薬を送り付けてやりましょうか?」

 

『わぁぁ!ごめん!ごめん!小頼!姉さんが悪かったわ!貴方が渡日してから、一ヵ月が経ったけど日本はどう?』

 

「驚かされる事ばかりです。特に小鈴が言っていた織斑一夏という男、ライブメタルではなくISを動かせる男…実に興味深い」

 

『織斑……ああ!千冬先輩の弟さんね!いやぁ、懐かしいわぁ…小さい頃に何度か見たけど、結構な美形よね。まぁ、私の可愛い可愛い小頼には敵わないけどっ!』

 

「姉上。国際通話は非常に料金が嵩む訳ですが……切っても構いませんか?」

 

『えっ!?お姉さんとの通話がそんなに嫌なのっ!?ちょっと待ってなさい!ほら、二人からもお願いして!』

 

「……二人?」

 

矢鱈と通話を切りたがる頼に対し、何かの策がある様で姉は誰かに通話に出るように促す。その言葉に「二人」という単語を聞き、携帯片手に頼は首を傾げる

 

哥哥(にーさん)明々(めいめい)だよー!』

 

芳々(ふぁんふぁん)なのですぅ。哥哥(にーさま)

 

「………明々に芳々か。如何した?」

 

姉と入れ替わる様に電話口から聞こえてきたのは、二人の幼い少女の声。其れは中国に暮らす頼の妹たちの声である

 

姐姐(ねーさん)とおはなししてあげてほしいのー』

 

姐姐(ねーさま)哥哥(にーさま)の事が心配なのですぅ』

 

『『だから、電話を切らないで。お願い、哥哥(にーさん/にーさま)』』

 

声を揃え、電話を切らない様に懇願する妹たち。姉は知っていた、この二人を出せば、頼が断らない、否、断れないという事を姉は知っていたのだ

 

『という訳でお姉さんと御話しましょう、我が愛弟』

 

「妹たちを使うとは卑怯ですよ…姉上…」

 

『知らないの?日本にはこういう諺があるのよ、出る杭は打たれるって言う諺が!』

 

「明らかに使う場所を間違えてます。姉上は阿保ですか?否、阿保でしたね」

 

『勝手に納得された…!!!こほん…其れで鈴音とは上手くやれてる?』

 

「是、言わずもがなです。我等の仲に亀裂が生じる事等有り得ません」

 

『是、失言。貴方が楽しい学園生活を遅れているのが分かっただけで充分な収穫よ』

 

「其れは何よりです。では二度と掛けてこないでください」

 

不喜欢(イヤよ)。出なかったら、貴方の幼少期の写真を政府経由で中国全土にばら撒くわ』

 

「鬼ですか?貴女は」

 

最後に傍迷惑な事を口走る姉に冷ややかな声色で突っ込みを放ち、通話を終了させ、椅子に凭れ掛かり、軽く息を吐く

 

「ふぅ…」

 

「ダーリン。今ちょっと良い?」

 

「小鈴か。どうした?」

 

保健室の扉が開き、二対のツインテールを揺らしながら、最悪の恋人である鈴が姿を見せる

 

「今日は食堂に行ってみない?ルームメイトのティナが教えてくれたんだけど、ラーメンが絶品らしいの」

 

会很好(良かろう)。偶には日本の文化に触れるのも悪くない、今日の夕飯はラーメンだ」

 

「流石は話の分かる人ねっ!ダーリン!そういうとこも很喜欢(大好きよ)♪」

 

頼の腕に抱き着き、甘える様に擦り寄る姿は正に猫を彷彿とさせ、彼女の慎ましくも小柄な体型と相まって愛くるしい雰囲気を醸し出している

 

「ねぇ、聞いた?」

 

「聞いた、聞いた」

 

「え?なんの話?」

 

「だからね、織斑くんとフロックハートくん、其れに道くんの話よ」

 

「実はね--」

 

鈴を連れ立って歩く頼は食堂で騒がしく話す女子生徒達の会話が耳に入る。一部を聞き逃したが如何やら、自分の名が上がっていた様だ

 

「ふむ……騒がしいな」

 

「ダーリンの分も貰ってきてあげるわね。だから、此処で待ってて」

 

「是、你明白了吗(分かった)

 

二対のツインテールを揺らし、食券売り場に駆けていく鈴を見送り、頼は座席に腰を下ろす

 

「よぉ、頼。お前が食堂に居るなんて珍しいな」

 

「確かに珍しいな。お前は食堂に来るタイプではないと思っていたのだが」

 

鈴を待つ間、座席で中国から取り寄せている愛読する新聞を読んでいた頼に一夏と箒が声を掛ける

 

「否、其れは误解(勘違いだ)。オレ様とて食堂の一つや二つくらい利用する。幼き頃は小鈴の実家で食卓を囲んだものだ」

 

「幼き頃って、お前は何時代の生まれだ」

 

「私も使うぞ?普通に」

 

「貴様、話せるな。篠ノ之」

 

「そうだろう、そうだろう」

 

「えっ?なに?俺だけ除け者ですか?このヤロー」

 

同じ感性を持つ者同士で盛り上がる頼と箒、一方で完全に蚊帳の外の一夏は不満そうに投げやりな感想を口に出す

 

「ちょっとアンタ!あたしが居ない間を見計らって、頼とよろしくやってんじゃないわよ!」

 

盆に乗せたラーメンを持ち、頼と箒が盛り上がる姿を見ていた鈴が毛を逆立てた猫のように、箒に噛みつく

 

「誤解を招く言い方をするな。私はただ世間話をしていたに過ぎん」

 

「むっ……ダーリン?本当の事を言って」

 

「篠ノ之の言った通りだ。オレ様が愛するのは、お前以外に存在せん。この意味理解出来るな?鈴音」

 

「ふぇ……そ、そうよね……あたしとした事が取り乱したわ、ごめんね?頼…。箒も言い過ぎたわ」

 

頼に諭された瞬間に、借りて来た猫の様に大人しくなり、素直に謝罪を述べる鈴。昔の彼女を知る一夏は「誰だ、コイツは」的な視線を向けているが其れは関係ない

 

「ああ、別に構わない。好きな人が他の異性と親しくしていたら、気分が悪くなるのは当然の反応だからな」

 

「なんだ、箒。好きな人が居たのか?」

 

「黙れ、馬に蹴られて死んでしまえ。このデリカシーゼロワンサマーめ」

 

「貴様は繊細という字をノートに千回ほど書き取れ」

 

「一夏。アンタね、そういう事ばっかり言ってると友達失くすわよ?ぼっちになるわよ」

 

「えっ!?なに?なんで怒ってるの!?というか辛辣過ぎやしませんっ!?」

 

「よっしゃあ!決着は喧嘩で付けようぜっ!」

 

「「どっから湧いた!!!馬鹿猿っ!!!」」

 

矢継ぎ早に放たれる悪口の嵐に一夏が理解出来ないと言わんばかりに驚いていると、騒ぎを聞き付けたセオドアが乱入し、四人全員から突っ込みを受ける

 

「セッシー?フロックンを止めないの〜?」

 

「ええ、あのような馬鹿猿に構うだけの時間が無駄---ほぶっ!?」

 

「わぁ〜、セッシーが頭から紅茶にダイブしちゃった〜」

 

「セ……オド〜〜〜ア!!!」

 

「あん?なんだよ、セシ---あだだだだだっ!ちょっ!顔が痛いっ!セシリアさんっ!顔が千切れるぅぅぅ!!!」

 

騒ぎに参加せずに傍観者に徹していたセシリアはとばっちりを受け、飲んでいた紅茶に頭からダイブする。紅茶で濡れた体からは雫がしたり落ち、彼女の怒りをより一層に演出している

真っ先に怒りの矛先を向けられたのは従者のセオドアであり彼の顔面にアイアンクローが決まる

 

「皆様……?淑女の嗜みであるティータイムを邪魔した罪は大きいですわよ、お覚悟はよろしくて?」

 

「「…………無問題!」」

 

「問答無用!」

 

ディナータイムに起きた惨劇、此れを見ていた他の生徒たちは後に語る。あれは学園史に刻まれる伝説的大事件「血のディナータイム」であったと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。頼は保健室である四人と対峙していた

 

「フランス代表候補生のシャルル・デュノアです。今日は身体検査を受けに来ました」

 

「ボクはデュノアの家庭教師をしていますシュヴァリエ・ランバージャックと申します。どうか、気軽にヴァリーと呼んでください」

 

「キミ、美しさとは何か分かるか?其れはこの私!マティアス・シュレンドルフに他ならない!私を愛称のマティと呼ぶ事を特別に許可してあげようじゃないか!歓喜したまえ!」

 

「口を開くな、鬱陶しい。あとそのナルシストをどうにかしろ。貴様と知り合いと思われたら、ドイツ軍人の恥だ」

 

身体検査をするに当たり、ヴァリーとマティアスは頼が担当になり、シャルルとラウラは鈴が担当となった。最初は男子である自分を女子の鈴が検査する事に意を唱えたシャルルであったが、本来の性別を知っている事を教えると渋々ながらも彼女の後に続いた

 

「其れにしても転校生の多い学校だな」

 

「ホントよね。うちのクラスはあたしとダーリンだけなのに」

 

「何とも不思議な学園だ」




新たな男性操縦者の登場に学園に波乱が訪れるが、彼は極度の勉強嫌いだった!しかしながら、家庭教師は其れを許さない!如何するの?逃げるんだよぉォォォ!

「文句があるなら、掛かってきやがれ!俺と喧嘩しようぜ!」


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第六集(第六話) 转学学生(転校生)

面白いサブタイトルを付けるつもりは無い、でも内容はギャグ仕様に仕上がっている。其れがこの作品である


「諸君おはよう。ホームルーム前ではあるが、転校生紹介の為に少しの間ではあるが、教室に御邪魔させて貰うことにした」

 

「千冬姉は何時からバイオテクノロジーで生み出された人造人間になったんだ?」

 

「そーいや、あの漫画が原作の最新作映画が公開されてるらしいぜ?どーよ、一夏。放課後に観に行かねぇか?」

 

「マジでっ!?よしっ!そうと決まれば、俺が推してるキャラのグッズを持って行くぜっ!」

 

「おめぇが推してるキャラ?誰だ?」

 

「決まってんだろ?戦闘力5のおっさんだ」

 

「そんなモブが出てくる訳ねぇだろ」

 

「んだとコラァ!戦闘力5のおっさんを舐めんなよっ!あの人は、サイヤ人にも立ち向かう勇気を持ち合わせて----おごっ!?」

 

「うぎっ!?」

 

千冬の話を他所に、有名漫画の映画化で盛り上がる一夏とセオドアの頭上に伝家の宝刀(出席簿)が振り下ろされる

 

「静かにしろ。次は出席簿の角ではなく、六法全書の角を喰らわすぞ」

 

「「ず……ずび……ば…ぜ…ん…」」

 

(阿保か、アイツは…)

 

(本当に英国生まれですか……あの馬鹿猿は…)

 

頭に瘤を作りながら、床に転がる其々の幼馴染を傍観していた箒も、セシリアも呆れた眼差しと共に重いため息を吐く

 

「山田先生。この馬鹿二人は無視して、転校生の紹介を頼む」

 

「は、はい。ええとですね、驚かないでくださいね?今日はなんと!」

 

「「ええっ!?」」

 

「まだ何も言ってませんっ!実はですね!」

 

「「ええっ!?」」

 

「やかましいっ!!!」

 

「「おごっ!?」」

 

転校生紹介をしようとする麻耶を遮る様に、驚きの声を挙げる一夏とセオドアの頭上に六法全書という名の更なる一撃が見舞われ、完全に無力化される

 

「こほん……転校生を紹介します!しかも四名です!」

 

「「ええええっ!?」」

 

四人の転校生という事実に生徒達が驚愕の声を挙げる。其れに導かれるように金髪の美少年、燻んだ金髪を肩の辺りで切り揃えた少年、一輪の薔薇を携えた左眼を隠すような前髪が特徴的な好青年、眼帯を身に付けた銀髪の少女が教室に姿を見せる

 

「「失礼します」」

 

Guten Morgen(おはよう)!諸君!この美しさの体現者である私のクラスメイトとなる喜びを噛み締めたまえ!」

 

「黙れ、ドイツ軍人の恥め」

 

「ふっ、嫉妬かい?いけないよ?いくら、私が美しすぎるからって」

 

((へ、変な人がいるっ!!!))

 

「ドイツ代表候補生のラウラ・ボーディッヒさんと目付け役のマティアス・シュレンドルフくん、フランス代表候補生のシャルル・デュノア“くん(・・)”と家庭教師のシュヴァリエ・ランバージャックくんです!」

 

((普通に続けたっ!!!麻耶ちゃんのメンタルすげぇ!!!))

 

此れ以上の遅れを取りたくない麻耶は生徒達の騒めきには目も暮れず、冷静に転校生達の紹介をする

 

「シャルル・デュノアです、フランスから来ました。此方に僕と同じ境遇の方がいると聞いて、転入してきました」

 

「同じく、フランスから来たシュヴァリエ・ランバージャックです。役職的にはデュノアの家庭教師を務めますが、皆様の勉学のサポートもさせていただきますので、分からない事は何でも聞いてください」

 

「男子!男子だわ!織斑くんみたいに典型なラノベ体質、フロックハートくんみたいな筋肉馬鹿、道くんみたいなオレ様系医師とは異なる守りたくなる美形だわ!」

 

「母性が騒ぐわっ!」

 

「しかもそれがうちのクラスだなんて!」

 

「男子だとっ!?くそっ!俺の唯一のアイデンティティである操縦者の立場が無くなるっ!」

 

「まあまあ、落ち着けよ。こういう時は喧嘩すりゃいい!」

 

「な、なるほ……って!意味わかんねぇよっ!?納得しかけたじゃねぇか!!!」

 

「困った時は喧嘩!これが俺が生きるに当たって、身に付けた術だぜっ!」

 

「どんな人生を送ったら、そんな脳筋思考になるんだっ!!!」

 

「騒ぐなっ!」

 

「「ごばっ!?」」

 

二人目の男性操縦者の出現に唯一の存在であった筈の自分の立場が危うくなると感じた一夏と彼に喧嘩の必要性を解くセオドアの頭上に三度、六法全書が振り下ろされる

 

「次は私か……私こそ!誇り高きドイツ軍が誇る聡明かつ美の化身であるマティアス・シュレンドルフだ!ああ…美しいとは罪だね、今この瞬間も私の美しさは揺らがないのだから」

 

「私はラウラ・ボーディッヒ。一つだけ、言っておくが国が同じでも、私とコイツは微塵の関わりもない赤の他人だ」

 

「何を言う、キミと私は互いのホクロの数を知り合うくらいの仲ではないか」

 

「誤解を招く言い方をするな。ブルストで殴るぞ」

 

「変な人だけど、あの人も美形だわ!」

 

「そうね!変な人だけど!」

 

「………貴様が」

 

マティアスの言動に女子達が盛り上がりを見せる中、一夏の存在に気付いたラウラが彼の方に歩み寄る

刹那、破裂音にも似た何かを叩く音が響き渡った

 

「いきなり何しやがる!」

 

「いきなり団子は美味え」

 

「セオ。貴方は黙ってなさいな」

 

「私は認めない、貴様があの人の弟であるなど……」

 

自分を叩いたラウラに異議を唱える一夏の隣で、熊本県名物いきなり団子を貪るセオドアの頭をセシリアが叩く。しかしながら、ラウラはその光景に目も暮れず、真っ直ぐと一夏を見据える

 

「認めるものか!!」

 

「なんだと!俺は正真正銘、千冬姉の身内だ!ほら見ろ!この住民票と戸籍謄本を!あと血液検査の診断書もある!なんなら、今から二組の道頼苑に検査をしてもらってもいい!だよな?頼」

 

『貴様には常識が無いのか?オレ様の貴重な時間を無駄にするな。貴様等、中華料理店の油まみれの床で転んでしまえ』

 

「ひぃぃぃぃ!怒ってらっしゃる!!!」

 

ラウラの発言に対し、千冬の身内である事を証明する為に一夏は持参した住民票と戸籍謄本、血液検査の診断書を見せ付け、更に二組の頼へと電話を掛ける。だが、授業を邪魔された彼は怒りを含んだ声色で物騒な事を口走り、一夏に恐怖を植え付けた

 

「待て!!」

 

「なにかな?Dame(お嬢さん)。この私を呼んだかい?」

 

「いや、呼んでない。私はボーディッヒを呼び止めたのだ」

 

「ふっ、照れているのか?仕方ない、何せ私は美しすぎるからね。ああ、やはり私の美しさは罪らしい」

 

薔薇を片手に美しさという名の自慢を振りまくマティアス。一方で箒は素早い動きで、自分に詰め寄り、腰からナイフを取り出すラウラの腕を掴み、投げ飛ばすが、負け時と見事な受身を取ったラウラは追随する

 

「「アイキ」か……面白い!」

 

「篠ノ之流だ!!来いっ!」

 

ぶつかり合う二人の少女、一触即発かと思われた瞬間。間に一輪の薔薇が飛来する

 

「武人ならば、決着は戦いで付けたまえ。其れにボーディッヒ少佐、キミは我が祖国の恥を晒すつもりかい?此方のDame(お嬢さん)が怒りを買う行動をしたのは、キミだろう。非礼を詫びたまえ」

 

「ふんっ、階級が上だからと上官面をしないでもらおう。私の上官は今も昔も、織斑千冬教官だけ」

 

「篠ノ之さんと言ったね?ボーディッヒの非礼を詫びさせてくれ、すまなかった」

 

「人の話を聞けっ!!!このナルシストっ!」

 

背後で騒ぐラウラを放置し、マティアスは箒に一連の騒動による非礼を詫びる。ラウラは千冬により、無力化され、シャルルの面倒を見るように促された一夏は彼に歩み寄る

 

「初めまして。俺は織斑一夏だ」

 

「よろしくね、織斑くん。色々と教えてね」

 

(………か、可愛い!なんだこの生物は!男なのに可愛いだと!?いや駄目だ!俺には箒が!)

 

笑いかけるシャルルの可愛さに何かに目覚めそうになる一夏であったが想いを寄せる幼馴染の事がよぎり、混乱状態に陥る

 

「織斑さん。少しの間、デュノアをお借りしても?」

 

「ん?構わないけど…、えっとランバージャックだったよな」

 

「はい、シュヴァリエ・ランバージャックです。長いので気軽にヴァリーと呼んでいただいて構いませんよ」

 

「分かった、改めてよろしくな、ヴァリー。其れで?デュノアに用事……あれ?デュノアは?」

 

和やかな雰囲気を見せるヴァリーと挨拶を交わす一夏はシャルルの姿が見えない事に気付く。刹那、ヴァリーの雰囲気が豹変する

 

「良い度胸ですね?シャル。僕から逃げようとは……今日の内容は問題集八冊とこの有名ファンタジー小説全七巻の読書感想文にします」

 

「ひぃぃぃぃ!君は悪魔だ!大魔王だ!」

 

「………あと日本での食事マナーレッスンも追加ですね」

 

「いやぁぁぁぁ!ごめんなさい!許してください!」

 

楽しそうな笑顔で課題を追加していくヴァリー、彼に縋り付くように涙目を浮かべるシャルル。一夏達を筆頭に誰もが思った

 

((シュヴァリエ・ランバージャック……恐ろしい子っ!!!))

 

「一夏のクラスは騒がしいわね」

 

「全くだ。我がクラスを見習うべきだ」

 

「流石はダーリン。良い事を言うわ、アンタたちもそう思わない?」

 

「「仰る通りです!鈴隊長!」」

 

道頼苑親衛隊と書かれた鉢巻を巻いた女子生徒が鈴の問い掛けに同意する

 

「小鈴よ、此奴らは何者だ?其れにお前は何時から、隊長になった?」

 

「無問題、ダーリン。この子達は皆、ダーリンと私の仲を応援してくれる味方よ。其れ即ち、親衛隊(ファン)也」

 

「ならば、会很好(良かろう)

 

((良くねぇよ!!というかいつから居たっ!!!あと小さいのに態度がデケェ!!!…)))))




新しいクラスメイトに浮き足立つ女子生徒。しかしながら、二組の道頼苑親衛隊はそれを黙って見過ごさない!まさかの推し戦争勃発?

「美しさが罪なのではない、美しすぎる私が罪なのだ」


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第七集(第七話) 秘密演习(暗躍)

更新頻度が少ないかもしれませんが、長くお付き合い願います。私も頑張って投稿しますから!


「……こちら、ランバージャック。デュノアは無事に対象との接触に成功し、対象との距離を縮めつつあります。進展があれば、また報告致します」

 

『頼んだぞ、ランバージャック。いざという時は第二段階に移行しろ、手段は問わない』

 

bien reçu(了解)……」

 

代表候補生を含めた級友が出払った教室内で、携帯を片手に全てに絶望したかのような眼差しで答えを返すヴァリー。その相手は、遠く離れた地で今か今かとシャルルの任務遂行を待ち侘びるデュノア社の幹部達である

現在、経営危機に瀕している企業建て直しの為にシャルルは任務を課せられ、その護衛に家庭教師を務めていたヴァリーが選ばれ、現在に至る

 

「…………聞き耳とは感心しませんね。M(メディシン)(タオ)

 

携帯を、パタンと閉じた後にヴァリーは背後に感じた気配に気付き、その主である頼に呼び掛ける

 

「不是。聞き耳等、人聞きが悪い……聞こえてしまっただけだ。其れとも、オレ様に聞かれて不都合があるのか?」

 

「いえ、特には。ですが……余り、ボクの邪魔をしないでいただきたい。君と敵対するのは、本国(フランス)にとってもmauvaise influence(デメリット)ですから」

 

「何が狙いかは皆目、見当は付かんが……小鈴に危害を加えるような事があれば………容赦はせんぞ。其処だけは肝に銘じておけ、ランバージャック」

 

最愛の人を守る気持ちは数あれど、頼はその中でも誰よりも強き想いを抱いていた。その理由は明白的にして至極当然、鳳鈴音という少女は彼にとっての太陽であり生きる意味、帰る場所、待つべき人、その全てが当てはまる最愛にして良き恋人。かつて、自分は弱く、脆く、誰の目にも映らぬ程に小さかった

 

『あのね、ぼくね…おっきくなったら、おいしゃさんになるの。だからね、そのときはね、ぼくとけっこんしてほしいの……だ、だめ?』

 

然し、彼女だけは彼を見捨てなかった。おどおどしながらも投げ掛けられた問いに彼女は今と変わらぬ八重歯を見せた笑顔で笑い掛けた

 

『うん!いいよ!らいなら、ぜったいにすご〜いおいしゃさんになれるよ!あたしがほしょうする!だから、かっこいいおいしゃさんになってね!』

 

その約束を守り、頼は只管に勉学に励み、医学界の神童と呼ばれるまでの存在に登り詰め、世界各国へと轟く名声を手に入れた。然しながら、彼にとってはその名声すらも微々たる通過点に他ならない。其れは何故か?その理由、明显的(明白)。彼にとっての全て、其れ即ち鈴の存在そのもの也

 

「其れはボクとて同じ。譲れない理由があります。その前に立ちはだかる者が誰であろうと、手を抜くつもりはありません。精々、背後には気を付けてください……M・道……いえ、道頼苑」

 

「貴様に寝首を掻かれるような、柔な鍛えた方はしていない。オレ様はオレ様の信念の元に戦い抜くだけだ、其れ即ち我不迷(我レ迷ワズ)也。貴様も食事には気を付けた方がいい……万が一という事も無くはないからな……ランバージャック……否、シュヴァリエ・ランバージャックよ」

 

白衣を翻し、颯爽と去りゆく小柄な背中。その背を見送る事しか出来ないヴァリーであったが、彼は理解していた。その内に秘めたる感情は異なるが、根は大事な者を思うが故なのだ

 

「………シャルロット(・・・・・・)。君はボクが守る……この命が燃え尽きようと…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「御苦労様。概ねの状況は把握しました、今後も調査を貴方に一任するわ」

 

IS学園生徒会室。窓の外に広がる景色を眺め、扇子を広げ、“暗躍”の文字を見せつける外はねした水色の髪型特徴的な少女。彼女の名は更識楯無、この学園最強の少女であり生徒会長の役職を持つ剣舞の主人である

 

「畏まりました、お嬢様……おっと…今は生徒会長でしたね」

 

「んもぅ!二人の時は名前で呼びなさいって言ってるでしょう?剣舞」

 

抜群のスタイルを活用し、剣舞の腕に纏わりつき、顎をさわさわと撫でるも、彼はその表情を崩そうとはしない

 

「御冗談を。私は執事、貴女は主人です。主従の垣根を超えるような真似は出来ません」

 

「相変わらず、堅いわねぇ……まあ、そこが貴方の魅力ではあるんだけど……。それはそうと、適合者達の方は如何なのかしら?」

 

揶揄っていたのも束の間、生徒会長の顔で楯無が問いを投げ掛ける。すると剣舞は執事服のような改造が施された制服の数あるポケットから、手帳を取り出す

 

「先ずはイギリス出身のセオドア・フロックハートですが、彼は素行に問題ありますが身分の高い産まれであるが故にその反面、座学にも秀でた頭脳を持っています」

 

「流石は名家と名高いフロックハート家の御子息、身に付けた教養は本物という訳ね」

 

「次に中国出身の道頼苑。彼は全ての教科に於いても常に完璧、並びに独学で学んだ医学の腕で一任されている保健医としての職務も的確であり完璧です」

 

「其れはそうよ、何せ彼は伝説と呼ばれる医師。其れにあれだけの設備を用意させたのだから、腕を存分に奮ってもらわなくては困るわ。まぁ……あの尊大な態度はいただけないけど……」

 

「マティアス・シュレンドルフ、シュヴァリエ・ランバージャックについては調査中ですが……何方も、油断のならない者たちです。特にランバージャックの方ですが……不穏な動きがあると、報告を受けています。何かを隠している可能性が高いかと」

 

「そう、なら先ずはランバージャックくんの調査を優先してもらえる?」

 

「畏まりました」

 

命令を受けた剣舞は生徒会室から、一瞬で姿を消す。残された楯無は眼下に広がる校庭を眺め、扇子をゆっくりと閉じる

 

「学園に振り返る火の粉は振り払う、其れが生徒会長である私の役目。受けて立ちましょう、デュノア社」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……課題が終わらないよぉ…」

 

放課後の食堂、ヴァリーに課せられた大量の課題を前に死んだ魚のような目をしたシャルル。その姿を見た一夏は彼に近づいていく

 

「大丈夫か?デュノア」

 

「あぁ!織斑くん!助けて!課題が終わらないんだ!」

 

一夏に声掛けられた彼は、まるで救世主を見つけたように彼の足にしがみつく

 

「課題?ああ、ヴァリーが出してたヤツか」

 

「そうなんだよ!これ見てよ!筆者の気持ちってなに!?意味がわからないよ!」

 

課題のプリントを指差し、問題を見せるシャルル。フランス語で書かれている為に一夏には読めないが、問題は国語に出てくる物と変わらないようだ

 

「これはな、段落から抜き出すんだ」

 

「だん……らく…?なにそれ?日本の食べ物的なヤツ?」

 

(…………もしかして、この子…すごいバカ?)

 

頭の上に大量の疑問符を浮かべ、きょとんした表情を見せるシャルル。その姿に一夏は彼の本質を見た気がしたのは言うまでもない

 

「分かった!私はその人じゃないので、分かりません……!」

 

「ふざけてるんですか?君は」

 

「ひぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

答えかどうかも疑わしい解答を書かかれた答案を見て、シャルルの前に仁王立ちしていたヴァリーの瞳が、ギロリと動く

 

「た、たすけて!織斑くん!」

 

「………さて、頼達と夕飯でも食いに行くか」

 

「薄情者ぉぉぉ!!」

 

その日、学園の寮の一室から叫び声と啜り泣きが聞こえ、其れが学園史に残る「真夜中の叫び」という新たな伝説を生んだのは言うまでもない




学園に暗躍する二つの金色、其れは敵か?味方か?そして、隠された秘密とは?

「問題!勝つのはボクか、其れとも君か。正解はこのボクです」


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第八集(第八話) 建议(忠告)

久方ぶりの更新!はてさて、今宵は如何なることやら……尚、この作品には一部、私の独自設定があります故に御了承ください


「えっ?デュノアと更衣室を分ける?どうしてだよ」

 

翌日。ISの実技訓練に向かおうとしていた一夏は、同じ男性操縦士のシャルルを誘おうとしていたが教育係のヴァリーからの意外な答えに疑問符を浮かべていた

 

「申し訳ない、彼は色々と準備に時間が掛かるものですから……。準備が終わり次第、連れて行きます」

 

「え……準備?」

 

「黙りなさい」

 

「ひぃぃぃぃ!」

 

機転を効かしたヴァリーの意志を汲み取れないシャルルが首を傾げた瞬間、その瞳が、ギロリと動く

 

「いきますよ」

 

「ふぁい……」

 

恐怖に震えるシャルルを連れ、ヴァリーは教室を後にする。取り残された一夏は、セオドアと共に更衣室へと向かう

 

「う〜む……ヴァリーに警戒されてるのかな?俺って」

 

「あん?なんだよ、唐突に」

 

「いやさ、ヴァリーのヤツ。飯に誘っても、デュノアにマナーを教えるとか言って、断られるんだ」

 

「はんっ、ほっとけよ。人付き合いが出来ねぇヤツなんだろうぜ?どっかの伝説気取りのチビ医者みてぇにな」

 

「ほう?伝説気取りのチビ医者か、存在するので在れば……我想见一次你的脸(一度、顔を見てみたいものだな)

 

「見るも何も、オメェのこと…………ぎゃぁぁぁぁ!!!」

 

けらけらと笑っていたセオドアであったが、背後から聞こえた声に振り返り、答えを返そうとした瞬間に叫び声を挙げた

 

「良き身分で何よりだ……なぁ?フロックハートよ」

 

「何時から、いやがったっ!?」

 

「何時から?無論、最初からだ。更衣室は限られている、故に同じ方向に向かうのは至極当然。貴様は阿呆か?」

 

「やっぱムカつくっ!!!コイツ!」

 

「ははっ…まさに火と油だな。それで……シュレンドルフ?お前は何をしてんだ?」

 

小柄な頼に突っ掛かるセオドアに苦笑していた一夏は、その背後で何かを見ているマティアスに視線を向ける

 

「何をしている?決まっているだろう……眺めているのだ」

 

「眺めてるって……何をだ?」

 

「私の美しさだ。Toll(素晴らしい)、流石は私だ」

 

「むっ……貴様、そばかすがあるな。漢方薬を処方してやろう。光栄に思え」

 

「そばかす……?なんてことだ…!私の美しい顔が!」

 

「一夏。アイツ、頭おかしいぜ」

 

「しっ…!目を合わせちゃダメだぞ、セオ。ああいうヤツはな、ほっておくのが一番だ」

 

「織斑。中々の気遣いだ、そう言った誠意は大事だ。貴様が日本人である事を漸く、理解出来た」

 

「まぁな、それ程でも----えっ?今更?」

 

騒ぐマティアスから、目を逸らす一夏の気遣いに納得の意を示す頼。然し、言葉の節々に有る辛辣さを聞き逃さなかった一夏は、目を点にしていた

 

「それと一つ、忠告をしておく。良いか?二度は言わん。その脳裏に焼き付けろ……デュノアには、決して気を許すな。知道了?(分かったな?)

 

「お、おう。よく分からんけど分かったぜ」

 

「……………フロックハート。貴様、これ程迄に阿保な奴と、良く付き合っていられるな」

 

「………ああ、俺も不思議だぜ」

 

「おいコラ、なんかすげぇ失礼なこと言われてんのは分かるぞ」

 

忠告の意味を理解していない一夏を見ながら、頼が同情するように呟くとセオドアも共感の意を示す。其れ即ち、二人の気があった記念すべき日である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ヴァリー……」

 

「如何しました?シャルロット」

 

此処はシャルルとヴァリーに充てがわれた更衣室。事前に事情を理解していた頼と鈴からの進言に寄り、彼等はこの部屋を更衣室に使用している

俯き、本来の姿で彼基彼女は自らの幼馴染の名を呼ぶ

 

「僕が役目を果たせば……本当に、あの人は……シャルル兄さん(・・・・・・・)を探してくれるんだよね……」

 

「あの人」、そう呼ばれた人物は定かではないが彼女にとっては名前も口にしたくない存在であることは明白。そして、偽名である名と同じ名の存在、彼女にとっては其方の方が重要のようだ

 

「当たり前です。約束とは破れぬ誓い、その約束を卑下する事は誇り高きフランス人に有るまじき行為です」

 

「そうだよね!よーし!頑張るよっ!僕!」

 

「ええ、期待してません。ああ……間違えました、期待してます」

 

「今、絶対にワザと間違えたよねっ!?」

 

真顔で彼女の成功を願う?ヴァリーの発言に、突っ込みを放つ。着替えを終え、グランドに到着すると待ち構えていたのは、ジャージ姿の千冬と既に着替えを終えた生徒たちが待ち構えていた

 

「わわっ!もう、集まってる!」

 

「貴様等で最後だ。さっさと並べ」

 

「出張保健室」と書かれたテント下に待機していた頼が、ジト目気味に睨みを効かせ、促すとシャルルは申し訳なさそうに列へと並ぶ

 

「其れで……貴様等、何故に此処に居る」

 

じろりと、視線を動かした先に居たのは頼以外の三名。其れ即ち、男性操縦士の一夏を除いた《IS》を動かせない男子生徒である

 

「私の美しい顔を砂埃で汚せというのか?君は」

 

「ああ?だってよ、一夏以外にIS持ってねぇじゃん」

 

「ボクはアウトドアNGですので」

 

「ダーリン、ダーリン」

 

「如何した?小鈴」

 

矢継ぎ早に放たれる見学理由に、呆れた眼差しを向ける頼。すると、列に並んでいた鈴が駆け寄り、彼を呼ぶ

 

「ごめん!授業の間だけ預かってもらえない?着いてきちゃったのよ……怪我しちゃうと可哀想だし。お願い出来る?ダーリン」

 

「仕方あるまい。其れに誰あろうお前からの頼みを、オレ様が断る理由等存在しない。(来い)、鈴々」

 

頼が名を呼ぶと、鈴の肩から一匹の生物が彼の肩に飛び移る。その生物は、誰もが知る生物であるが実に小柄で見た目は飼い主に似て愛らしい、其れ即ち熊猫(パンダ)である

 

「じゃあ、鈴々。妈妈はちょっと行かなきゃ行けないけど、爸爸の邪魔しちゃ駄目よ?しっかりとお手伝いしてあげるのよ」

 

《是。頑張って、妈妈》

 

幼子を言い聞かせる様に頭を小突くと、看板を取り出し、文字を書き、返事を返す鈴々に優しく笑い掛け、鈴は列に戻っていく

 

「毛むくじゃらだな、コイツ」

 

「美しくないね」

 

「食用でしょうか」

 

「「「いっ……ぎゃぁぁぁぁ!」」」

 

鈴々を取り囲み、各々の感想を述べるセオドアとマティアス、ヴァリーの手に鈴々が、がぶっと噛みつき、その痛みに三人が飛び上がる

 

「気を付けろ。鈴々はオレ様と小鈴以外の言うことは聞かん」

 

「「「早く言えよっ!!!」」」

 

一人、冷静な頼に三人からの突っ込みが飛ぶ。そして、一夏は……

 

「山田先生……ありがとう、そしてごちそうさまです」

 

「えっと……は、はい……お、お粗末さまです……」

 

IS用ウェアを着た麻耶の胸にダイブしていた。其れはもう盛大に、男ならば一度は埋もれたい場所ランキングで堂々と上位にランクインする場所に、彼は頭から突っ込んでいた

 

「んまぁ!なんてハレンチ!そこにお座りなさいな!一夏さん!良いですか?そもそも!」

 

「不潔ね。あたしはダーリンになら、触らせるけど……未婚の人にセクハラするなんて不潔よ」

 

「やはり認めない!私は認めんぞ!」

 

「織斑先生。アイツの頭に出席簿を」

 

「僕は六法全書?とか言うのを」

 

「篠ノ之、デュノア。お前たちは何を差し入れするつもりだ」

 

然しながら、女性陣からの視線は冷ややかである。其れ即ち軽蔑の眼差し也

 

「ぐすん………」

 

「みなさん!イジメは良くないですよ!さて、誰から相手をしますか?」

 

麻耶が笑うと、列から鈴が一歩進む。その瞳に宿るは闘志という名の焔。彼女は息を吸い、真っ直ぐと麻耶を見据える

 

「先生……あたしと戦って。あたしは強くなりたい。故に先生と戦う事も精進の一つ……其れ即ち、我不迷也」

 




鈴VS麻耶!彼女たちの戦いの先は……!そして、シャルルとヴァリーの秘密とは!

「如何なる者が相手でも容赦はせん、故に我不迷」


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第九集(第九話) 女孩真相(少女の真実)

今作の鈴ちゃんの強さは、楯無さんにも引けを取らない。其れ即ち、最強中華娘也


「先生……あたしと戦って。あたしは強くなりたい。故に先生と戦う事も精進の一つ……其れ即ち、我不迷也」

 

その身に龍の名を冠する甲龍を纏い、曇りなき眼で麻耶を見据える少女の名は凰鈴音。世界に名を轟かせる生きる伝説である少年が、この世でただ一人、心を捧げる存在にして、中国代表候補生也

 

「凰さんですか……い、行きますっ!」

 

「先生!其処は麻耶いきまーすっ!と言った方が---ぐおっ!?」

 

「道。この怪我人を引き取れ」

 

「是。来い、織斑」

 

飛び立つ麻耶に、有名アニメの主人公が実は一度しか言っていないという台詞を言わせようとする一夏の脳天に出席簿が振り下ろされ、頼が回収していく

 

「デュノア。山田先生の機体について、解説をしてみろ」

 

「はい。山田先生の使用されているISはデュノア社製《ラファール・リヴァイヴ》です。第二世代開発最後の機体ですが、そのスペックは初期第三世代にも劣らず、安定した性能と高い凡用性に加え、豊富な後付武装(イコライザ)が特徴の機体です」

 

普段からは想像の出来ない解説姿に衝撃が走る。其れもその筈、普段のシャルルは誰が見ても呆れるくらいに知能が低いのだ、しかしながら今の彼は明らかに其れとは正反対である

 

「……………なんだとっ!!デュノアがマトモなことをっ!?」

 

「ウソだろっ!?」

 

「能ある鷹は爪を隠すという日本の諺があるが……彼奴もその類か?ランバージャック」

 

「いえ、あの知識を教え込むのに二年は掛かりましたので、基本的にはアホの子ですよ」

 

「全部聞こえてるからねっ!ヴァリー!」

 

「聞こえるように言ってますからね」

 

解説しながらも、失礼な発言を聞き逃さないシャルルはヴァリーに反論するも、彼は悪びれる様子も無く、普通に返答を返す

 

「凰さん。私は射撃がメインの装備を使用していますが、近接格闘にも覚えがあるんですよ」

 

「是。理解してるわ、その機体は全タイプに切り替えが可能な多機能タイプ………但我不适合我的工作(でも、本職には敵わないわよ)

 

「………っ!?」

 

牽制していた鈴が一気に距離を詰め、射線上から姿を消す。その時間、僅かに0・1秒、周囲を見回し、気配を探る麻耶であったが気づいた時には既に遅い、否、遅かった

 

「穿て!甲龍!!」

 

「しまっ……きゃぁぁぁぁ!!」

 

放たれた衝撃砲が麻耶を撃ち抜き、ISのエネルギーが完全に無くなり、地に落ちる。その遥か頭上では、愛らしい特徴的な八重歯を覗かせ、にかっと笑う鈴の姿があった

 

「我不迷を貫き、伝説と共に歩む為、日々精進し、勇往邁進せし者也。再见」

 

「見事だ。流石はオレ様の小鈴だ」

 

《妈妈が一番》

 

谢谢(ありがとう)、ダーリン。其れに鈴々も」

 

甲龍を待機状態に戻した鈴は最愛の恋人と愛熊猫に駆け寄り、礼を述べる。鈴々は鈴の姿を確認すると即座に頼の肩から彼女の肩に飛び移る

 

「あら、鈴々。どうしたの?甘えん坊さんね」

 

《妈妈が大好き》

 

「もぉ〜、ホントに可愛いわねぇ〜!鈴々ってばぁ〜」

 

「ねぇ、道くん。凰さんが抱きしめてるのって……なに?」

 

「熊猫の鈴々、小鈴が幼い頃からの妹みたいな存在だ」

 

「パンダだと…!?牛ではないのかっ!!」

 

「当たり前だろう。貴様は何を言っている、ボーディッヒ」

 

「あの獣は美しないから苦手だ」

 

「指噛まれましたもんね」

 

「一夏も気を付けろよ」

 

「えっ?なにが?」

 

鈴々に噛み付かれた経験のあるマティアス、ヴァリー、セオドアの三人は一夏の方に視線を向けるが彼は何食わぬ顔で鈴々に野菜スティックを与えていた

 

「「「手懐けとるっ…….!!」」」

 

「久しぶりだな〜、鈴々」

 

《一夏。出色地(元気)?》

 

「おお、元気だぞ。そうだ鈴々にも紹介しないとな、このポニーテールが似合う立派な乳をした人が篠ノ之箒だ。見ろ、立派なち---ごあっ!?」

 

「不埒者がっ!」

 

「あたしの可愛い鈴々に変な事を教えないでくれる?撕掉(捥ぎ取るわよ)

 

「一夏さん。女性の体に興味があるのは解りますが、そういう反応はよろしくありまりせんわ」

 

「認めんからな!貴様などっ!」

 

「織斑くん。だ、段階を踏まないとダメだと思う……」

 

「ムッツリも大概にしなさい。シャル」

 

「あれぇ!?僕っ!?」

 

「ボーディッヒ。貴様、オレ様と口調が被っているな」

 

「なんだ、お前は!子どもは引っ込め!」

 

「……………我が身に宿る炎は、烈火の如く…」

 

「「「それだけはやめろォォォ!!!」」」

 

禁句を放たれ、静かに怒りを燃やす頼は紅玉を呼び出そうと言霊を紡ごうとするが一夏達が止めに入る。其れ即ち、血の雨が降る事を意味する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所以为什么(それで、何故)。此処にオレ様は呼ばれている」

 

放課後。頼はある人物に呼び出され、《生徒会室》を訪れていた

 

「詳しい話は我等の主人から……お願いします、会長」

 

「嫌です。ちゃんと名前で呼ばない人のお願いなんか聞いてあげません」

 

ある人物、剣舞は主人である楯無に説明を促すも彼女は不服な事があるらしく、ぷく〜っと頬を膨らませ、外方を向く

 

「虚さん。お茶を淹れて差し上げてください」

 

「分かりました、剣舞くん。会長?こちら、お茶です」

 

「あらぁ!ありがと〜………あら?ねぇ?何で赤いの?」

 

「紅茶だからですよ」

 

「紅茶にしては目と鼻に激痛が来るんだけど」

 

「紅茶です」

 

「そ、そうなの……ぶほぉっ!!!辛っ!?何これっ!?すっごい辛い!」

 

あくまでも紅茶と述べる剣舞と虚を信じ、ティーカップを口に運んだ楯無であったが衝撃的な辛さに盛大に咽せた

 

「やっぱりハバネロソース丸ごとはやり過ぎだったんじゃないですか?剣舞くん」

 

「此れもお嬢さまが立派になる為の試練です」

 

「そんな試練いらんわっ!!」

 

「帰らせてもらう」

 

「ああっ!待って!道くん!」

 

「………なんだ」

 

呼び出された理由も不明なままに続く理解不能なやり取りに痺れを切らし、帰ろうと身を翻した頼を楯無が呼び止める

振り返り、視線を彼女に向けると冷静な顔付きで口を開く

 

「デュノアくんの検査記録を此方側に提出してもらえるかしら?貴方を呼んだのはそれが理由よ」

 

驳回(断る)。医師として、患者の診療記録を見せる等、言語道断也」

 

「そう…残念ね。なら、貴方が持つ情報を開示してもらえる?」

 

「…………諦めの悪い女だ。教えられるのは一つだけだ、シャルル・デュノアという人物は確かに存在していた(・・・・)

 

「「「していた(・・・・)?」」」

 

含みのある言い回し、その言葉尻に違和感を感じた楯無は勿論ながら剣舞と虚は首を傾げた

 

「我々がシャルル・デュノアと呼ぶ人物はその妹であるシャルロット・デュノアだ。本物のシャルル・デュノアは…………」

 

言葉に詰まったのか、僅かに口を噤むが軽く息を吐き、呼吸を整えた後に髪を掻き上げる頼。三人は彼が口を開くのを待った。そして、その時は訪れた

 

五年前に死亡している(・・・・・・・・・・)




シャルロット・デュノアがシャルルに成り済まし、IS学園に来た理由とは……!?そして、本当に何者なんだ!ヴァリー!

「文句があるなら、掛かってきやがれ!俺と喧嘩しようぜ!」


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第十集(第十話) 神秘()

前回から二ヶ月。お待たせしました!最新話です!ちょっと別作品に移り気ですけど、忘れてる訳じゃありません!これからもよろしくです!


五年前に死亡(・・・・・・)!?どういうことっ!?」

 

突如、放たれた言葉に楯無は机を叩き、身を乗り出した。それもその筈、彼女が掴んでいる情報には一切存在しない記録、日本を裏から操る一族の現当主である彼女さえも知り得ない情報が飛び込んできた、其れ即ち、フランス政府が秘密を隠蔽している事である

 

「どういうことも何もない、言葉通りの意味だ。五年前にフランスで起きた飛行機事故は知っているな?」

 

驚く楯無に、頼は高圧的な態度を見せながらも、ある事件についての話題を彼女に振る

 

「ええ、知っているわ。機械の点検を怠ったが故に起きた乗員乗客を含む489名が巻き込まれた大事件だもの。生還した、489名を讃え、世界各国は其れを「489の奇跡」と呼んだ………確か、そう記憶しているわ」

 

「是、这是正确的(その通りだ)。然し、その情報には一点だけ誤りが存在する」

 

「誤り……?」

 

肯定からの否定、自らの情報に誤りが存在すると思いもしなかった楯無の瞳が鋭さを増し、頼を真っ直ぐと捉えた

 

「中国政府のエージェントの調べでは、実際の乗客は490名。だが生還した人数は489名と発表された、为什么(何故)?答えは明显的。その唯一の死傷者がフランス政府が死亡を認めたくない人物だったからだ」

 

「……………もしや、その死傷者がシャルル・デュノアという事ですか?道君」

 

「是。理解が早いな、弥生の十七代目」

 

「ですが死亡を認めたくないとは……どういう意味ですか?」

 

理解の早い剣舞に頼は、にやっと笑う。すると虚が問い掛けるように疑問を投げ掛けた

 

「適合者……」

 

「会長?今なんと?」

 

「適合者だったからじゃない?ライブメタルの。そのシャルル・デュノアが。だから、フランス政府は死亡を公にはせずに、デュノア社もその隠蔽に賛同し、影武者に妹のシャルロットさんを祀りあげた。でも、女性の彼女はライブメタルを扱えない。だから、二人目のIS操縦者という名目で学園に転入させたとは考えられない?」

 

「なるほど、筋は通りますね。五年前に亡くなっていた者の素性を調べようとする者は余程のもの好き又は会長の様な馬鹿者ではない限りは存在しませんからね」

 

「そう、私みたいな馬鹿者…………ん?ねぇ、今なんかサラッと失礼な事を言わなかった?」

 

「空耳です」

 

情報を纏める楯無に対し、その考えに納得しながらも彼女に失礼な発言を述べる剣舞。彼女が其れに気付けば、爽やかな笑顔で流す姿は常習犯の手口である

 

「要件は以上か?オレ様は此れから、行かなければならん所がある。故に失礼する」

 

白衣を翻しながら去って行く頼の小柄な背中を見て誰もが思った

 

(((体は小さいのに態度デカ過ぎだろ……)))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待たせたな」

 

生徒会室を後にした頼が足を運んだのは、一夏とセオドアの寮室。中に入ると、その場にいた全員が顔を上げた

 

「おっ!ナイスタイミングだなっ!頼!」

 

「待ちくたびれたわよ。ダーリン」

 

「へっ。生徒会に呼び出されたんだってな?何をやらかしたんだぁ?」

 

「セオ?頼さんは貴方みたいなお馬鹿さんとは違いますのよ、一緒にしてはいけませんわ」

 

「なんにせよだ、今日はランバージャックとデュノアの歓迎会だ。みんなで盛り上がろうではないか」

 

「ありがとう、今日は僕たちの為に」

 

「シャル。この後はしっかりと課題をしてくださいね」

 

「君は悪魔なのっ!?楽しい時間に水を刺さないでよっ!訴えるよ!そして勝つよ!」

 

「この唐揚げ美味しいですね」

 

「あれっ!?無視っ!?」

 

歓迎会という名目で集まった彼等は何時も通りに騒いでいる。ヴァリーに至っては歓迎されるつもりはあるのか?と言わんばかりの安定の家庭教師モードを見せるが、反論するシャルルを無視し、唐揚げに舌鼓を打ち始める

 

「小鈴の酢豚は何時食べても美味だな」

 

谢谢(ありがとう)、ダーリン。そう言ってもらえると作った甲斐があるわ」

 

「美味い!美味すぎる!こんなに美味え唐揚げを食ったのは初めてだ……!」

 

「そ、そうか!たまたま作り過ぎただけだったんだが、ま、また作ってきてやっても構わないぞ……」

 

「ええと………ヴァリーさん?どうして、僕のお皿に一つもおかずがないのかな……」

 

「おかずが欲しいんですか?なら、この問題を解いたらあげます」

 

「やっぱり!君は悪魔だ!大魔王だ!」

 

「語彙力が貧困ですね、明日からは国語を重点的にしたカリキュラムを組んでいきましょう」

 

「いやぁぁぁぁ!ごめんなさい!許してください!」

 

楽しそうな笑顔で課題を追加していくヴァリー、彼に縋り付くように涙目を浮かべるシャルル。その様子に誰もが思った

 

((シュヴァリエ・ランバージャック……恐ろしい子っ!!!))

 

その隣では、鍋に入った煮えたぎる何かを机に置くセシリアと、顔を引き攣らせるセオドアが居た

 

「………………セシリアさん?こいつはなんですかね?」

 

「何ってシチューですわ」

 

「シチュー!?見たことねぇ色してんぞっ!どうやったら紫になるんだよっ!?」

 

「…………この苦いのはなんだ……」

 

「薬膳料理だと思えば………食べれん事も………不是、不可能だ」

 

「た、大量のジャム………それに謎の粘り気……」

 

「セシリア………お米って炊かないと食べらんないのよ……」

 

「これがシチュー………」

 

「違いますよ」

 

シチューと呼ぶに値するかも不明な料理の中から次々に姿を見せる食材に誰もが涙を流し、楽しい筈の歓迎会が一気に盛り下がる

 

「認めるものか!!これが料理だと!?私のおでんに勝るモノなど存在せん!」

 

「私の美しいジャーマンポテトには敵わないだろう。何故かって?簡単だ、美しい私が作るのだから!」

 

「ボーディッヒ、シュレンドルフ。貴様等何時から居た」

 

「うん?なんだ、子どもか。早く寝ろ」

 

「全くだ、夜更かしは美容の大敵と言うだろう?少年」

 

「……………我が身に宿る炎は、烈火の如く…」

 

「「「それだけはやめろォォォ!!!」」」

 

禁句を放たれ、静かに怒りを燃やす頼は紅玉を呼び出そうと言霊を紡ごうとするが一夏達が止めに入る。其れ即ち、血の雨が降る事を意味する

 




遂に明かされるデュノア社の真相!ヴァリーの真の目的とは……!

「美しさが罪なのではない、美しすぎる私が罪なのだ」


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第十一集(第十一話) 身份(正体)

最近、寒いなーと思えば暑い!と思う謎の気温変動………服がよくわからねぇよ


「…………どういうことだ?」

 

IS学園屋上、天気は快晴。青く澄み渡った空の下で一人の少女が、じとーという効果音付きの白けた眼をしていた。少女の名は箒、その視線の先では、彼女の幼馴染である一夏、そして彼の友人達が鎮座していた

 

「天気が良かったからな、みんなもどうかな?と思ってさ」

 

「確かに天気は良いが……私が言いたかったのはだな……!」

 

「なんだ?箒。俺の顔になんか付いてるか?」

 

「知らん!この朴念仁っ!」

 

「何故にっ!?」

 

箒の秘めた想いを汲み取り切れず、彼女からの罵倒に驚く一夏。然し、彼の味方はこの場において誰一人として存在しなかった

 

「痴話喧嘩ならば、他所でやれ」

 

「ダーリン♪酢豚が出来たわよー」

 

「是。やはり、小鈴の酢豚が世界で一番だな」

 

谢谢(ありがとう)。今さっき、作ったばかりだから熱々よ」

 

「流石だ」

 

「こほんこほん……」

 

「「……………!?」」

 

鈴の差し出した酢豚に歓喜していたのも束の間、頼の背後から咳払いが聞こえ、誰もが体をビクッと震わせた

 

「みなさん、今日はわたくしもお弁当を作ってまいりましたの。よければおひとつどうぞ」

 

「……………オルコット。一つ聞く」

 

「なんでしょう?頼さん」

 

「味見はしたのか?」

 

((ナイス!頼!!!))

 

頼の放った一言、彼女の料理の味を知る者たちは心の中でサムズアップし、その一言を讃える

 

「失礼ですわね、しましたわよ。セオが」

 

第三者の名が出た瞬間、血の気が引いた様に全員の表情が青白くなり、表情を引き攣らせる

 

「…………フロックハートが?確かヤツは今日、体調不良で休みと聞いているが……」

 

「ええ、昨日までは元気でしたのに不思議ですわ」

 

「……………セシリアさん?まさか、昨日の夜にセオと会ったりとかは……」

 

「ええ、味見をしてもらおうと部屋に行きましたわ。ですが、料理を食べた途端に倒れてしまいまして……何故でしょうか?」

 

((既に被害者が……!!!))

 

逸早く、被害を受けていたセオドアに心の中で合掌する。当の本人は自分の料理に原因があるとは知らずに、綺麗な笑顔でバスケットを差し出している

 

「ダーリン……どうする?」

 

「…………フロックハートが心配だ。往診に行くぞ」

 

「そうね!其れが良いわ!」

 

「あっ!汚ねえ!」

 

「待てっ!貴様等!!」

 

「ポトフですか。45点ですね、煮込みが足りません」

 

「食べといて、酷評しないでくれるかなっ!?」

 

セシリアのお弁当を回避する為に、頼は鈴を連れ、療養中であるセオドアの元へ向かう為にその場を立ち去る。一夏と箒が気付いた時は既に遅く、その場にはシャルルのポトフを酷評しているヴァリーと突っ込みを放つシャルルだけしか居なかった

 

「あのお弁当…」

 

「えっと……俺、実は腹がいっぱいで……」

 

「わ、私もだ」

 

「いえ、お気になさらず……」

 

しゅん、と落ち込むセシリア。流石に手も付けずに遠慮するのは失礼だったか、と思い一夏が動こうとした時だった。セシリアの手からバスケットを誰かが奪い取った

 

「ったく……こんなモン作りやがって。食べる方の身にもなれよな」

 

「セオドアっ!?体調はよろしいんですの…っ!?」

 

その人物は倒れている筈のセオドア、彼はバスケットの中に敷き詰められたサンドイッチを口に運び、悪態を吐き捨てる

 

「あん?あんなんで倒れるかよ、この俺が。しっかし……安定の不味さだな。塩辛いし、油濃っいし、パンもパサパサじゃねぇか」

 

「文句を言うなら食べないで結構ですわっ!返してくださいましっ!」

 

「ヤダね。俺は食いたい時に食う」

 

(ず、ずるいですわ……セオのくせに……わたくしをときめかせるだなんて……)

 

セシリアが自らの秘めた想いを自覚するのは、今はまだ先の話であるがセオドアが三日三晩の間、生死を彷徨い、面会謝絶となったのは言うまでもない

 

「フロックハート。胃薬は常備しておけ」

 

「す、すまねぇ………」

 

「はて?セオはどうなさりましたの?」

 

「セシリア……今度、酢豚の作り方を教えてあげるわね…」

 

「まあ!では鈴さんにはわたくしのIS精進料理を教えて差し上げますわ!」

 

「間に合ってま………え?アンタ、ISで料理してんの?」

 

「はい♪」

 

(前言撤回………セシリアと料理………絶対に不平衡(不釣り合い)……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織斑くん。ISの知識を教えてもらいたいとのことですが、何処まで把握していますか?」

 

実習日、ISの専門知識が乏しい一夏はシャルルの勧めもあり、ヴァリーが行う特別授業を受講していた。頼、セオドア、マティアスは関係無いが知識がある事に越した事は無い為に、参加している

 

「えっと………う〜ん………どう言えばいいか……」

 

「まあ、最初はそうですよね。では君たちはどうです?」

 

「簡単だ、何事も感覚さえあれば上手く立ち回れる。不去想、去感受(考えるな、感じろ)とは我が国が誇る偉大な映画俳優の言葉だ」

 

「はんっ。いいか?感覚だけじゃなんともならねぇ。要は体の角度をどう活かすかだ、角度を完璧にしちまえば、何でも綺麗に回避出来ちまうんだよ」

 

「君たちは何も理解していない様だ。私が思うに織斑は自分の特性を理解し切れていないのでは?其処を把握すれば、君は誰よりも強く美しく立ち回れるだろう。まぁ!美しいのは私だがね!」

 

「…………頼。あのヤローは精密検査をするべきじゃねぇか?」

 

「不是。既に手遅れだ」

 

各々の意見を述べる適合者に、一夏は静かに頷き、理論値皆無な発言にヴァリーは肩を落とす

 

「仕方ありませんね。実戦で覚えていただきましょう」

 

「実戦?デュノアと模擬戦をするとかか?」

 

「いえ………相手はデュノアではありませんよ」

 

綺麗な横顔に笑みが浮かぶ。優しく爽やかな笑みでは無く、哀しくも妖しさを感じさせる笑みを浮かべた彼は右手の人差し指に嵌めた指輪に触れる

 

「鳴り響け、轟け!雷鳴高々に!s'il te plaît(お願いします)!トパーズ!!!」

 

その言葉と共に右人差し指の指輪が光を放ち、黄色のフェレットへと姿を変化させ、ヴァリーの体を覆う様に装甲を展開させる

 

「死んでもらいますよ………織斑一夏。全てはデュノア社の未来の為に……延いては、シャルロットの明るい未来を取り戻す為に」

 




突如、牙を向いたシュヴァリエ!一夏の運命は!

「問題!勝つのはボクか、其れとも君か。正解はこのボクです」


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第十二集(第十二話) 真相(真実)

遂に本性を見せたヴァリー!嘘だ!優しい君が!嘘だと言ってよ!ヴァリー!タイトルは試行錯誤の結果、好吃!酢豚は恋の味。になりました


「死んでもらいますよ………織斑一夏。全てはデュノア社の未来の為に……延いては、シャルロットの明るい未来を取り戻す為に」

 

全身を覆う黄昏の装甲。見据えるは、一人の少年。全身を駆け巡る雷鳴の如き躍動()は、その握り締めた拳に力を与える

 

『ねぇ〜ヴァリー?ホントのホントにやるの〜?』

 

「手段を選んではいられなくなりましたからね。織斑くん、君に恨みはありませんが死んでもらえますか?」

 

「其処で、おう!いいぜっ!って答えると思ってるのか?俺が」

 

装甲越しに放たれた、ヴァリーの問いに一夏が快く応じる筈等無く、真っ直ぐと彼を睨み付け、逆に問い直す

 

「君は少々抜けている部分があるので、気持ちの良い返事が聞けると思っていたのですが………交渉は決裂ですね」

 

「是。一定(確かに)、織斑は知識に乏しい一面が見受けられる。中学時代は補習の常連だったと小鈴から聞いている」

 

「一夏よォ、一般教養は身に付けといた方がいいぜ?社交界で恥を掻いてからじゃ遅ぇしな」

 

「美を極める為には内面も美しくてはならない……え?私はどうかだって?Natürlich(無論)!美しいに決まっているだろう?私だからね!」

 

「おぃぃぃぃ!何でお前等も其方側なんだよっ!?せめて、此方側だろうがぁぁぁぁ!!!」

 

日頃の行い、交流の仕方と呼ぶべきか一夏よりもヴァリーの意見に賛同する頼達。空かさず、薄情極まりない友人達に突っ込みが放たれ、その光景にヴァリーは拳をゆっくりと下ろした

 

「………………やはり、慣れないことは出来ませんね……ボクは自分が思うよりも君たちとの学園生活に充実感を得ていたようです………」

 

BMを解いた彼は、儚くも優しいぎこちない笑顔を見せた。その様子に何かを感じ取った頼が彼に歩み寄る

 

「……………ランバージャック。貴様の目的等に興味等無いし、知ろうとも思わん。(だが)、貴様が如何しても聞かせたいと言うのであれば、聞いてやらん事も無い」

 

((態度はデカいけど、聞こうとしてる………))

 

ヴァリーの内に秘めた真意を聞き出そうとする頼の態度は相も変わらず、尊大であるがその裏に隠された彼なりの優しさにに気付いた一夏達は口には出さないが、衝撃を受ける

 

「何処から話すべきか………事の始まりは、「489の奇跡」と呼ばれた飛行事故の日まで遡ります」

 

「「489の奇跡」………確か、フランスで起きた奇跡の生還があった事件だよな?五年くらい前だっけか」

 

「有名な話だよな。今でも偶に特番が組まれてくれぇだし」

 

「私の記憶が正しければ、機械設備の点検を怠ったが故に起きた乗員乗客を巻き込んだ大規模な事故だった。然し、其れと君にどういった関係があるんだい?」

 

「ありますよ………だって、その機械設備の点検を任されていた整備士は…」

 

言葉に詰まったのか、僅かに口を噤むヴァリー。誰もが息を呑み、彼が口を開くのを待ち、暫くの沈黙が流れた後に、その時は訪れた

 

父と母(・・・)なんですよ……周囲は両親を罵り、貶し、ある人には「人殺し」呼ばわりされたりしました。でもね、両親はその日、仕事に行っていないんですよ、きちんとしたアリバイがあるんです。高熱を出したボクの為に病院を回っていたという確かなアリバイがね……ですが、世間は両親を信じようとはしなかった……」

 

原来如此啊(なるほど)。その日、代わりに整備を担当した者が存在した……という事か」

 

「ええ。その整備士の名はシャルル・デュノア、デュノア社の長男です」

 

「「シャルルがっ!?」」

 

級友の名が出た瞬間、一夏とセオドアが声を揃え、両眼を見開く。其れに引き換え、事情を知る頼は耳を傾け、何かを考え込んでいたマティアスは口を開く

 

「………彼に感じていた違和感があった。私は昔から人よりも嗅覚には自信があるんだ、私たちがシャルル・デュノアと呼ぶ人物のDuft(香り)は男性よりも女性特有の色香を感じさせる………つまりだ、彼…いや彼女はシャルル・デュノアを名乗る別人なのではないかな?ランバージャック君。どうやら、Dr.道は知っていた様だけどね」

 

「是。守秘義務が有る以上、真実を語る事は出来んがランバージャックの行動には意味があった、愛しき者を守り抜く為には大きな犠牲を払わなければならない時もある。かく言う、オレ様も…………不是、今のは忘れてくれ」

 

何かを言い掛け、直ぐに我に返った頼は軽く咳払いをした後、話を逸らかす。一夏は疑問に思うがセオドア、マティアスは彼の言い淀んだ話と似た経験があるのか、何も言及しなかった

 

「君たちがシャルルと呼ぶ彼女の本来の名はシャルロット……日本風に発言するならば、妾?という存在の愛人との間にデュノア氏が設けた望まれない子どもでした。シャルルさんが姿を消すまでは…」

 

「その口振りだと生きているかの様に聞こえるが?」

 

「「489の奇跡」の唯一の犠牲者である490人目は生死は勿論ですが死体も見つかっていない、行方不明なんですよ。ですがフランス政府は貴重なライブメタルと適合者が消えた事実を認めようとはしなかった。だから同じ血を持つ彼女が、シャルロットが必要だったんです、彼女に行方不明の兄を探すと約束したフランス政府はデュノア社と結託し、経営危機を回避する為の広告塔に彼女を男装させ、二人目の男性操縦者シャルル・デュノアとする事で、織斑くんの専用機体と本人のデータを搾取しようと考えたんです。そして、彼女の教育係であり適合者であるボクも、両親の罪を隠蔽するという取り引きを持ちかけられ、この学園に来ることになったんです」

 

「そんな事情があったのか。でも、言ってもらえればデータくらい---いっ!何するんだよっ!?頼!」

 

「阿呆か?貴様は。男性操縦者とは各国が欲しがる人材だ。安易に情報を与えるのは関心出来ん」

 

「全くだぜ。女性権利団体が何処で聞き耳を立ててるかも分からねェからな」

 

「うっ………」

 

女性権利団体、其れは男尊女卑の反対である女尊男卑の世の中を風潮する団体の名称。適合者とは長い対立関係に在り、男性操縦者である一夏も彼女達にとっては目に余る存在、故に彼のデータを開示する事は余りにも無謀なのだ

 

「らいらい〜!たいへ〜ん!たいへ〜ん!」

 

真剣な話し合いの場に響き渡る能天気な声、其れは一夏のクラスメイトである布仏本音の声だ

 

「ん?のほほんさん?」

 

「布仏。どうした?怪我でもしたか?」

 

「わたしじゃないよぉ〜!りんりんとせっしーがたいへんなのぉ〜!」

 

恋人、幼馴染の名を聞いた瞬間に頼とセオドアが駆け出した。時間帯は放課後、二人は学内トーナメントに向けての個人特訓の為にアリーナに居る時間帯、胸に過ぎる一抹の不安に足を走らせる。近付く度に鳴り響く轟音、最悪の結末を予感しながらもアリーナに二人は飛び込んだ

 

「鈴音!!!」

 

「セシリア!!!」

 

名を呼び、地に落下する彼女達を受け止める。傷だらけの体に掠れる意識、ゆっくりと自分を見上げる彼女の頭に頼は優しく触れる

 

我让你久等了(待たせたな)、鈴音」

 

「ら………い…え…ん…」

 

「不是、今は喋るな。鈴々!」

 

交给我(任せて)

 

「セシリアも寝てろ。こっからは俺たちの喧嘩だ」

 

「セオドア………貴方に助けられるわたくしでは……きゃっ!?」

 

「一夏!セシリアを頼む」

 

遅れてアリーナに姿を見せた一夏と自分の肩に乗っていた鈴々に、彼女達の非難を頼むと遥か頭上に浮かぶシュヴァルツェア・レーゲン(黒い雨)を見上げる

 

「ボーディッヒ。貴様の仕業か」

 

「だとしたら、どうする?私に勝てるか?ISも持たない貴様が」

 

「不是。貴様と争う気など微塵も存在せん………然し、オレ様の愛しい者に傷を付けた事を許すつもりは無い。オレ様の気が変わらぬ間に立ち去れ」

 

「ふんっ……随分と甘いのだな?ならばこれではどうだっ!」

 

「しまった!!!頼!あのヤロー!狙いは一夏だっ!」

 

「図られたかっ!」

 

気付いた時既に遅く、ラウラの黒き拳が鈴とセシリアを保健室に運ぼうとしていた一夏に迫る。頼、セオドアの声で彼が振り返ろうとした時だった

 

「我が美しき誇りを糧に、verrückt werden(狂い咲け)……ダンビュライト!!!」

 

その言葉と共に左腕の腕輪が光を放ち、白銀の一角獣(ユニコーン)へと姿を変化させ、マティアスの体を覆う様に装甲を展開させる

 

「美しくないよ、今の君は」

 




圧倒的な力を見せるラウラを前に、一夏を救ったのはまさかのマティアス・シュレンドルフ!彼の実力は果たして!

「如何なる者が相手でも容赦はせん、故に我不迷」


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