鴉と煙のクリスマスナイト (野生のムジナは語彙力がない)
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鴉と煙

お帰りなさい! 指揮官様!

◯本作の楽しみ方
・あなたは『指揮官様』です。(←重要)
・指揮官様のセリフは( )で表記されています。
必ずしも( )内のセリフを言っている訳ではなく、( )内の言葉はあくまでも『このようなことを言っている』という意味であって、口調など変更したい点がありましたらセルフで変更しちゃって下さいませ。一人称を設定していないのもその為です。

・鴉と煙の可愛さを堪能して下さい。

それでは、どうぞ……


機動戦隊アイアンサーガ

非公式クリスマスイベント

『団欒のクリスマスナイト』

 

 

 

新暦██年

12月24日ークリスマス・イヴー

 

 

 

今日この日、指揮官の運営するエリア████ベース████では、指揮官が傭兵組織を結成してから今年で4回目となるクリスマス・イヴを迎えた。

 

今日という日を盛り上げるべく、指揮官は例によって基地運営の裏側で1人、こっそりとクリスマスの準備を進めようとした。だが、その様子に気づいたスタッフたちが1人、また1人と準備の手伝いを申し出てくるようになり、結局……みんなで協力してクリスマスの準備を進めることとなった。

 

慌ただしかった去年とは違い、基地全体が一丸となってクリスマスの準備をしたことで、指揮官的にも今年のクリスマス・イヴは非常にゆったりとした一日となるのだった。

 

 

 

寝起きから身柄を拘束されることもなく

スノーと龍馬と共に監禁されることもなく

睦月の尿瓶に怯えることもなく

そして、極寒の滑走路上で全裸になることもなく

……そのようなことは決してなかった。

 

 

 

そしてクリスマス・イヴ当日……

朝はスノーの提案で、龍馬と五十嵐命美と共に、4人でライン連邦の朝食を体験し

それから、ハヤと共にクリスマスケーキを焼き

ソフィアや年少組の面々と飾り付けを行い

やってきたスロカイ様の接待を行い

ヴァルハラ同盟の面々を出迎え

……そうして、普通にパーティの準備が整った。

 

 

みんなが揃ったところでクリスマス・パーティーが開幕。今年1年の出来事を振り返りながら皆で料理を食べ、さらにテイラー&ノイジーバットによるクリスマスライブのお陰もあって、パーティーは大いに盛り上がるのだった。

 

去年と同様、指揮官は睦月が大量に作った料理を食べる羽目になったり、シャロや曦夜などパーティーに協力してくれた仲間一人一人へ感謝の気持ちを伝え、トリスタが作ったビッグサプライズ(笑)を皆で微妙な顔をしながら食したり、テイラーの提案で(もはや恒例行事となった)指揮官による『かつての宝物』(アイサガ挿入歌)熱唱と色々あったのだが、重要性が低いため省略

 

意気投合し、いつのまにか本当の姉妹のように仲良くなったスロカイとセラスティアはパーティー会場の隅でお酒を酌み交わし、マティルダはそれを影から羨ましそうに見つめていた。

 

メルルと睦月は相変わらず指揮官を取り合って激戦を繰り広げ、そのうち決着をつけるという流れになり、滑走路へ飛び出して行った。

 

色々あって無事に和解する運びとなったレイアとリンダは、イビルングとティルヴィングの郷土料理を食しつつ談笑し、ヴァルハラ同盟の今後について語り合っていた。

 

 

 

さらに珍しいことに、今年は北境より『鴉』と『煙』がパーティーに参加した。両名共、見知らぬクリスマスという文化に当初は警戒と戸惑いを抱いてはいたものの、美味しい料理と和やかな雰囲気に心を解されたのか、最終的にイヴのひと時を心行くまで楽しんでいた。

 

 

 

パーティーが終わると参加者たちは滑走路上へと移動し、そこで例によって現れた小さな8体のサンタクロースを拍手で出迎え、参加者1人1人へプレゼントの受け渡しが行われ……特に何事もなく、平和的に基地のクリスマスパーティーは幕を閉じた。

 

 

 

参加者たちの表情から、みんながイヴの一日を存分に楽しんでくれたことを確信し、指揮官は非常に満ち足りた気分になった。だが何よりも嬉しかったのは、誰一人欠けることなく今日という日を迎えられたことだった。

 

それからべサニーとのやり取りを済ませ、スロカイら遠方からの参加者たちを宿泊用の部屋へと案内し、本物のサンタクロースの来訪に心を踊らせる年少組の子たちを寝かしつけ、そしてパーティーの後片付けを終えた時には、既に日を跨いだ後だった。

 

 

 

12月25日ークリスマスー

 

 

 

今日はよく眠れそうだ……

心地よい充足感に包まれながら、指揮官は床に着いた。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

(…………?)

 

異変が起きたのは、指揮官が眠りについてから1時間ほど経った時だった。自室の扉が開く音、そして何者かが密かに入室を果たした気配を感じ取り、指揮官はふと目を覚ました。

 

扉にかかった高レベルのセキュリティを突破できるのは、基地の中でも限られた者だけだ。もしやスロカイ様とセラスティアが去年の時のように、またイタズラでも仕掛けに来たのだろうか……?

 

ぼんやりとした思考で指揮官がうっすら目を開けると、そこには案の定2つの影。しかし、それは指揮官の想定していた2人ではなかった。

 

「ああ、すまない……起こしてしまったか」

 

(え……?)

 

いつのまにか寝室への侵入を果たしていた2人の内、1人が謝罪の言葉を口にした。彼女の落ち着いた声色と暗闇に包まれた独特なシルエットを見て、指揮官は思わず微睡みの中から覚醒した。

 

(鴉と、それに煙……?)

 

驚きのあまりベッドから飛び起きた指揮官は、思わず2人の姿を二度見した。そこにいたのは今年初めてクリスマスパーティーに参加した2人……北境出身の『鴉』と『煙』だった。

しかも、その姿は狩人である彼女たちが常時着用している漆黒のバトルドレス(仮称)ではなく、両名共にクリスマスにちなんだ服装をしていた。

 

鴉の方はトナカイの角を模したヘアバンド、肩紐のない赤色のハイレグ、鈴付き首輪、カフス、ハイヒール、そして網目状のストッキングとセクシーなコンパニオンを彷彿とさせる外見で、バニーガールのトナカイ版と言ったところだろうか、お尻の部分についたトナカイの尻尾がチャームポイントだった。

 

煙の方は同じくトナカイのヘアバンド、その上にはサンタクロースのキャップ、胸元と背中が大きく開いた赤色のセーター、雪の結晶が散りばめられた長いソックスと、鴉に負けず劣らずこれまたセクシーな出で立ちで、セーターは丈の短さも相まって彼女の白い太腿を色っぽくアピールしていた。

 

いつもと違い、刺々しく禍々しい戦闘服に身を包んでいない2人の姿は、そこにいるのが誰か分かってはいつつも、一瞬誰かと見間違ってしまうもので、指揮官の目にはとても新鮮なように映った。

 

(その格好は……?)

訳も分からず2人の姿を交互に見ていると、鴉の奥に控えていた煙とばっちり目が合ってしまった。煙は表情こそ無邪気な笑みを浮かべているように見えるも、しかし、その瞳は獲物を前にした時のように爛々と光り輝いていた。

 

「汝、どうした?」

 

(な、なんでここに……?)

 

「汝、吾らがここにいる理由、認識を望む?」

 

(えっと……煙、どうしたの?)

 

「吾、答えを持たぬ。詳しいこと、鴉が知る」

 

(そ、そう……?)

 

煙の言葉に、指揮官は改めて鴉のことを見つめた。窓から差し込む僅かな月明かりの下、鴉は腰に手を当て、不敵な微笑を浮かべて指揮官のことを見下ろしていた。

 

「休眠中のところ悪いが、汝、少しばかり吾の話を聞いては貰えぬだろうか? 無論、無理にとは言わぬが……」

 

(いいけど、どうしたの?)

 

指揮官が鴉に答えを求めると、彼女は表情を崩すことなく……しかし、少しだけ言いづらそうにしつつ、ゆっくりとその言葉を口にした。

 

「汝、私と家族になってはもらえぬだろうか」

 

(……はい?)

 

起床直後ということも相まって、指揮官は当初、鴉が何を言っているのかを理解することができなかった。だが、そんな気も知らずに鴉は言葉を続ける……

 

「汝は言った。1年に一度の神聖な祝日であるクリスマスには、人によって様々な過ごし方があれど、基本的には一家団欒が主流である……と」

 

(そ、そうだね……)

 

「クリスマスパーティーと呼ばれる場でも告げた通り、培養槽から生まれたる吾らは家族という概念と、それに付随する一家団欒というモノを知らぬ」

 

(うん、それで?)

 

「先程ははぐらかされてしまったが、吾は汝等の文明を理解し、記録したいのだ。しかし、言葉や文字情報だけでは吾は家族というものを理解することは出来ぬ。真の理解を得るためには、実際に汝の語る家族とやらを体験してみたいと思うのだ」

 

(だから……自分と家族になって欲しいと?)

 

「そういうことだ。理解が早くて助かる」

 

鴉は満足そうに口元を緩ませると、指揮官の前に勢いよく身を乗り出した。非常によく整った顔立ち、北境出身者特有の雪を思わせる白い肌、透き通った青空のような色の瞳、純真さに溢れた表情で真っ直ぐに見つめられ、指揮官は心臓の高鳴りを感じた。

 

「では、汝よ。さっそく家族になろう!」

 

(や、言うのは簡単だけどさ……)

 

ずいずいと迫ってくる鴉から軽く視線を逸らし、指揮官がどうしたものかと考えていると、鴉は指揮官の前に掌を出して制止を示した。

 

「いや、わざわざ言わなくても良い。家族になる為には、汝等の言葉で言うところの『愛』が必要なのだろう? 愛がなければ家族にはなれないということは吾も把握している。ちゃんと汝等の文献で調べたからな」

 

(それは……まあ、そうだけど)

 

鴉が語る家族というものの認識には、妙な偏りがありはしたものの、あながち間違ってはいない為、指揮官は一応肯定しておくことにした。

 

「確かに、造られた存在である吾らに『愛』という概念はない……今の所はな。しかしこれは深刻な問題だ。概念がない故に、汝との『愛』を育む術を吾は知らぬ。そのような状態では、吾と汝は家族になることは出来ない。しかし、しかしだ! 1つだけ言えることがある」

 

(えっと……何?)

 

「吾は、汝のことを好いている」

 

(え……)

 

肌の紅潮や震え声など、鴉の口からなんの前触れもなく突然放たれた告白に、指揮官は思考が追いつかなかった。

 

「汝は、文明の灯火を知らぬ無知な吾等のことを見下すことなく、常に丁重に扱ってくれた。そればかりではなく、汝との対話によって吾は様々な文明の事柄を知り、それらを記録することができた」

 

目を丸くする指揮官の前で、鴉は嬉々として言葉を続ける。

 

「吾は汝の心遣いに感銘を受けた。そしていつしかこう思うようになった……吾は汝と共に歩みたい、と。汝と共にさらに多くの文明を知り、この儚くも美しい世界を知り、汝と共にいずれ来る滅びの運命に抗い、汝の望みを叶えんと欲してしまっている。本来であれば、ただ1人の旧人に固執することのなかった吾が、ここまで汝に執着してしまうのは何故か…………永きに渡る自問自答の末、吾は、これが汝等の言う『好き』という感情であると理解した。故に、吾は汝のことを好いているというわけだ」

 

(それはちょっと違うような……)

 

鴉の飛躍した発想に、指揮官は苦笑いを浮かべた。人とはかけ離れた存在である彼女にとって、やはりこの手の話はまだ難解なようだった。

 

「吾は、汝らの文化で『好き』という感情を極限まで昇華させたものが『愛』というものなのだと認識している。それはつまり、吾と汝は家族になれる一歩手前まで来ているのだということを意味しているのではないだろうか?」

 

(へ、へー…………そうなんだ)

 

明らかに鴉は空回りしてしまっているのだが、なんか面白くなってきたので、指揮官は少しだけ彼女の話に乗ってみることにした。

 

「そうなのだ! だからこそ、吾の『好き』という言葉を『愛』へと発展させる為に、汝には協力して貰いたいのだ。このようなことは、汝にしか頼むことができないからな」

 

(えっと、それじゃあどうするの……?)

 

「ああ、それについては既に考えてある。というより、教えて貰ったという方が正しいのだがな」

 

(教えて貰った?)

 

鴉がこの手の話題に疎いのをいいことに、また誰かから良からぬ知識を得てしまったのではないか? 偏った知識が文化として理解されてしまわないか、指揮官は少しだけ心配になった。

 

「部屋に来る前、どうすれば汝と『愛』を育み、ゆくゆくは家族になれるのかを、汝の従者たちに聞いてみた。残念ながら、その殆どから有益な情報は得られなかったが、ただ1匹……大きな尻尾を持った人語を介する茶色の小動物から重要と思われる情報を聞き出すことができたのだ」

 

(小動物? なんだか凄く嫌な予感が……)

 

「まあ聞いてくれ。その小動物の話によると……汝に『抱いて』貰えれば、吾と汝の間に愛が生まれ、やがて吾と汝は立派な家族になれるとのことだ」

 

(ッ!?)

 

衝撃的なひとことに、指揮官は言葉を失った。

まさか真面目な鴉の口からそんな言葉が出るなんて、というか表情を一切変えることなくそういうことを言うのはどうなのだろうか?

 

「あの小動物はさらに『肌を重ねて一夜を共に過ごすことで愛は深まり、家族の絆はより強固なものになる』とも言っていた。汝……いや、指揮官よ。試してみては貰えないだろうか?」

 

鴉は興味津々といった様子で瞳を輝かせ、ベッドの上の指揮官と視線を合わせるように前のめりになった。指揮官の視線が、赤のハイレグに包まれた形の良い谷間に一瞬だけ吸い込まれてしまう。

(試すって……な、何を……?)

しどろもどろになりながら、思わず聞き返した。

 

「決まっているだろう? 吾のことを抱くのだ」

そう言って微笑む鴉に、指揮官は頰が熱くなるのを感じた。

 

「どうした、何を躊躇している? はっ! もしや……汝は、吾のことが嫌いなのか?」

 

(そ、そんなことはないよ……鴉のことは嫌いじゃなくて、その……正直言って、好き。でも好きっていう言葉にも色々あって、そもそもそういう間柄じゃないし、それにこれはとってもデリケートなことだから、そんなに簡単に進めていい話じゃなくて……)

 

「そうか! 汝も吾のことを好いているのか! ならば何も問題はあるまい、旧人達の言葉でこれを両思いというのだろう? 既に吾々は家族になる条件をクリアしている……あとは好きを昇華させ愛を育むだけというわけだ」

 

(は、話聞いて……)

 

鴉の瞳は本気だった。

最早、何を言っても彼女は止まることはないだろう。

 

(ねえ鴉? 一回落ち着こう?)

 

「吾は落ち着いているぞ? メンタル、バイタル共に正常だし、自己診断によれば体のどこかが故障しているということもない。まさに愛を育む絶好のコンディションというわけだ!」

 

(あのね……)

 

指揮官は小さく息を吐いた。

当初は機械的な感覚で文化を記録していきたいと語っていた彼女だったが、指揮官とのやり取りを重ねるに連れ、次第に感化されてしまったのか、ここ最近は非常に表情豊かになってきていた。

人ならざる存在であるとはいえ、文化を記録するというひたむきな姿勢はとても人間味に溢れて魅力的であり、指揮官としてもそんな彼女のことが好きになっていた。

 

そうでなくとも、鴉は美しかった。

彼女のように美しい女性から好きと言われ、愛の言葉を囁かれ、求められることは、1人の男としてこれ以上ない光栄ではあった。

 

しかし、これは違う。

今はそういう状況ではなかった。

 

なし崩し的な状態で流されて、彼女と関係を持ってしまうのは流石に良くない。言葉を待つ彼女の前で冷静さを取り戻した指揮官は、再び小さく息を吐き、 思い切って鴉を突き放そうとするも……

 

「鴉、対話、長い」

 

先程から黙って指揮官と鴉のやり取りを聞いていた煙が、小さく欠伸をすると共に、指揮官と鴉の間に割って入るようにしてそう告げた。

 

(け……煙?)

 

「吾は飽きた。これ以上待つ必要なし。ならば実力行使、あるのみ」

 

煙は不敵な笑みを浮かべた。邪なものが全くと言っていいほど含まれていないその表情に、怖くなった指揮官は少しだけ後ずさりした。

 

「吾、人狩也。獲物、逃がさない」

 

(……ッ!?)

 

その時だった。指揮官の目の前から煙の姿が幻影のようにかき消えたかと思うと、次の瞬間には煙の姿は指揮官の背後へと移動しており、指揮官の体を背後から羽交い締めにした。

子どものような、小柄な体躯のどこにそんな力があるというのだろうか? 拘束から逃れるべく指揮官がどれだけ力を込めようとも、組み付ついた煙の体は微動だにしなかった。

 

「抵抗、無駄。汝、弱い。吾、強い」

 

(……っ!)

 

指揮官の抵抗に合わせて、抑え込みの為に煙は体を密着させてきた。その為、童顔には不釣り合いなまでに実った双丘の柔らかな質感を背中に感じ、指揮官は慌てて抵抗を止めた。

 

「それでいい。汝、聡明也」

 

「煙よ、あまり手荒な真似はよせ。これでは愛を育むことはできないではないか」

 

「汝等の言葉、全く、複雑、疲れる、嫌。だから、手っ取り早く、行動、あるのみ。汝が抱かぬなら、こちらから抱くまで。さあ、鴉、愛を育め」

 

「承知した。それでは汝、抱かせてもらうぞ」

 

煙の言葉に頷きを返し、鴉は指揮官の元に寄り添った。鼻の先が触れてしまいそうなほどの至近距離でしばらく見つめあった後、鴉はフッと優しげな笑みを浮かべた。それから両手を広げて背中に腕を回すと、目を細め、指揮官のことを優しく抱きしめ……

 

その状態が、しばらく続いた。

目の前で鴉の白髪が僅かに揺れ動き、耳元に感じる彼女の息遣いが指揮官の心をくすぐった。形の良い谷間が潰れてしまうほど密着している為、早鐘を打つ心臓の鼓動は彼女にも伝わっていることだろう。

 

しかし、これはまだ序の口である。

ここから先の展開を予想し、不安な気持ちを抱きながらも、内心どこか期待してしまっているのは事実であり、指揮官が心拍数の上昇を体感していると……

 

「どうだ? 指揮官、愛は育まれているか?」

 

(え……?)

 

耳元で囁かれた鴉の言葉に、指揮官は疑問符を浮かべた。

 

「旧人たちは『好き』という感情を『愛』へと昇華させるには、こうして抱くといいのだろう?」

 

(あ……抱くってそういうこと!?)

 

それを聞いて、指揮官は心の底から安堵した。

鴉の言う『抱く』とは、よく使われるアレな方の意味ではなく……単純に『抱きしめる』という意味でのニュアンスだったのだ。

 

鴉の言い方が悪かったというのもあるが、自分が深読みし過ぎてしまったということもあり、指揮官はちょっぴり恥ずかしい気持ちになった。

 

「もしや……吾は何か間違っていたのか?」

 

(大丈夫、間違ってないよ)

 

「そうか。しかし、汝は何を笑っているのだ?」

 

(いや、何でもないよ)

 

指揮官は微笑ましく鴉のことを見つめた。

それは、子どもから「赤ちゃんはどこから来るの?」と問われた時、両親が「コウノトリが運んで来るんだよ」と教える時のような感覚にも似ていた。

 

「うむ……しかし、汝の体は温かいな。肌の重なりを通して伝わってくる汝の熱が、まるで吾の体の中に染み込んでいくようだ。そうか、これが肌を重ねるということで、この温かさの正体が、吾と汝の『愛』ということか」

 

「温かさ?」

 

鴉は『愛』というものを考察していく。

その一方で、煙は疑問符を浮かべた。

 

「確かに、吾も、体、熱い」

 

煙は指揮官のことを羽交い締めにする手を緩め、鴉に倣って優しく抱きしめるようにしてみせた。

 

「汝の熱、吾の体、入ってくる。吾、この感覚、知らない、初めて…………でも、心地よい。この温かさ、吾と汝の中で、愛が育まれている? それはつまり、吾も、汝のことが、好き、ということ?」

 

煙 の中でその答えに至った瞬間……

彼女はキラキラと瞳を輝かせ、無邪気な笑顔を浮かべると、少しだけ興奮した様子で指揮官のことを強く抱きしめた。

 

(ぐっ……け、煙!? 痛い痛い……)

 

「吾、汝のことが、好き!」

 

(え?)

 

「汝は、たくさんの美味い物、吾に食べさせてくれる! さっきも『ろーすとたーきー』たくさん食べさせてくれた! 吾、美味い物、好き! 美味い物たくさん食べさせる汝、もっと好き!」

 

(えぇ……?)

 

「吾、汝と家族、なる! 愛、いっぱい育む! これからも、美味い物、たくさん食べさせてもらう!」

 

まるで美味しい物のついでと言わんばかりの煙に、指揮官は思わず脱力した。その一方で煙は、まるで母親に甘える子どものように、指揮官の背中に頬ずりを始めた。

 

「そうか、煙も吾と同じ気持ちなのだな。確か一家団欒の『団欒』は、親しい者同士が集まって和やかに楽しく過ごすという意味らしい……ならば共に汝の家族となって、一家団欒というものを理解してみようではないか」

 

2人の抱きしめは、その後もしばらく続いた。

やがて鴉の提案で『一夜を共に過ごす』ことも経験したいという話になり、3人は小さなベッドの中で身を寄せ合って横になった。

 

セクシーな服装の美女2人が、自分の脇を枕にしているという最高のシチュエーション。指揮官は高鳴る心臓をなんとか言い聞かせつつ、2人が体を冷やしてしまわないよう両腕で鴉と煙の体を自分の方へと抱き寄せた。

 

すると2人は指揮官の体を愛おしげに撫で、さらに足と足を絡ませてきた。両足に触れるしなやかでスベスベとした感覚は、とても心地よいものだった。

 

(ところで、鴉と煙は人間の子どもがどこから来るか知ってる?)

 

「子供? ああ、汝等の幼体のことか。それなら知っている。愛が極限にまで深まった家族の元へ、コウノトリという存在が連れてきてくれるのだろう? なんとも不思議なものだな」

 

「吾、旧人の培養、理解不能」

 

思った通り、培養槽から生まれたと語る彼女たちにとって、人間が増える仕組みについては……生命の神秘については、なかなか理解が及ばないようだった。

 

「このまま愛を深めれ続ければ、吾と汝の間にも子供はやってくるのだろうか? 子供は、両親の愛の結晶とも呼ばれると聞いた。もし、吾と汝の間にもその日が訪れるのというのならば……吾は嬉しい、かな」

 

「吾も、指揮官との小童、育てる! 大切にする」

 

(ん……いつか、そうなったらいいね)

 

しかし、彼女たちは聡明だ。

いずれ真実に辿り着くことだろう。

 

その時、彼女たちはどういう反応を見せるのか?

どちらにせよ、賑やかなことになるのは間違いない。でも……その『もしも』があるとするのならば、家族となった3人と共に過ごす穏やかな未来を想像し、指揮官は微笑ましい気持ちのまま眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

クリスマスの今日この日

この星は有史以来何度目かの、争いのない瞬間を迎えた。




初見の指揮官様ははじめまして!
本作の作者、ムジナ(略)でございます。

今回は勝手ながら、非公式クリスマスイベントとして鴉と煙のお話を書かせて頂きました。アイサガがリリースされてからというもの、セリフでその存在が示唆されているはずなのにずっと衣装のなかった2人が、つい先日、揃ってクリスマス衣装を持って来ましたね。
これには、指揮官様も相当嬉しかったのではないかと存じます。

しかし、魅力的な衣装はあれどもそれを披露する機会がないのは非常に残念なこと。せっかくなら2人の可愛いところが見てみたい……そう思われるのは当然のこと。しかし、ダッチーはそんなものに全く興味がない様子。そこでムジナがダッチーに代わって、2人と指揮官様がイチャイチャする物語を書き起こしさせていただきました!

ムジナは本当はクリスマスイベントを書く予定はなかったのですが、ついに2人に衣装が追加されるということで頑張らせて頂きました。データ更新直後からストーリーを構想し、仕事場に向かって歩きながら執筆、仕事しながら子供たちのクリスマスプレゼントを作りながらアイデアをひねり出し、体調不良と止まらない咳に苦しみながら、3日かけて作らせて頂きました。
なんとか25日に間に合わせることができて本当によかったのです……

まあまあまあ、
拙い文書ではありますが、とにかく鴉と煙の可愛さが少しでも伝わっているのであれば幸いです。また、ムジナは本作以外にもいくつかアイサガの小説を書いているので、ご興味がありましたら、是非そちらの方も読んでくれると嬉しい限りです。

ご意見ご感想等、何かありましたらコメントをお願いします!
それでは、また……別の作品でお会いしましょう。


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