やはり姉さんの性格は終わっている (meigetu)
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第一話 兎登場
meigetuです。たのしんでくださると幸いです。
「う..うーん。」
と、スズメたちがちゅんちゅんと鳴いている音を聞きつつ、二日酔いからか痛む頭を押さえて平塚静は起き上がろうとする。
しかし、何かに抱き着かれているのか一向に体が持ち上がらない。
何事か、と思い目を開けるとそこはログハウスの中であった。
「確か...林間学校の千葉村に来ていたのだったか...」
と、寝起きの回らない頭で思考する。ふと、隣を見てみるとなぜか、特徴的な機械的なうさ耳がピコピコしている。
「......束...」
と、あきれたように声をかけると、垂れ下がっている耳の部分がピコんと持ち上がる。
「束...何しに来た?」
と、あきれつつ改めて声をかけると、顔をこちらに向けてきた。
その顔は軽く頬を染めており、特徴的な紫の長髪に特徴的な機械のうさ耳がのっかっていた。
「昨日、あんなに激しく、シてくれたのに、そんなに冷たい反応...ひどい。」
と、布団のタオルケットで半分顔を隠しながら、およおよと泣き出す。
私は、その態度に半分イラつきながら、
「君は、毎回それをしないと気が済まないのか?」
「いいじゃん。いいじゃん。でも最近、反応が詰まんない。初めてこれやった時、相当慌てていたのに...」
「それは、何回もやられればそうなるだろ。はあ。それで、何の用だ?」
このまま話を続けていても埒が明かないと感じ、話を切り替える。
束、いや雪ノ下束は、空気が変わったことを感じたのか、私が入っている布団を抜け出し、
「妹たちと、静ちゃんに会いに来たんだよ。ついでに、気晴らしに来たんだよー。」
と、一回転してから服についた、埃を手で払いつつ言う。
服は、いつも通り水色と白が混じったメイド服のような服を着ていた。
「妹...雪乃のことか。」
「そうそう、もうそろそろ高校二年目だしうまくやっているのかなと思ってねー。ついでに帰りに陽ちゃんとも会うつもりだしね。」
「そ、そうか...」
「そうだ、じゃあ朝食、食べに、いこっか
と、一目散に玄関に向かった。
私は、相変わらずのその身勝手さに頭を痛めてつつ、食事へ向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あ、雪乃ちゃんだ、だーれだ。」
「え、えぇぇ」
と、食堂で朝食を座って待っていると、唐突に目隠しをされた。隣から、由比ヶ浜さんの驚いた声が聞こえる。
このようなことを、それも人前でできる人はあの人しかいない。と確信をもって、
「姉さん...なぜここに...」
「姉さん? え、え?」
「いやー、ばれちゃうとは。さすがは、私の自慢の妹だね。」
と目隠しをしていた手をどけて首の後ろから抱き着かれる。と、同時に頬を後頭部に擦り付けられる。
「束姉さん、やめて。」
「そんなこと言っちゃって、本当はうれしいんでしょ。」
と、さらに強く抱き着かれる。
めんどくささから、半分無視をしていると、唐突に隣から、
「え、え、どうゆうこと?」
と、由比ヶ浜さんの困惑した声が聞こえる。
しかし、束姉さんは、何も聞いていないように話を始める。
「ねえねえ、それで、最近どう? 学校楽しい?まあ、
と、まくしたてる。
いつも通りの束姉さんだと思い、この状況に、半分あきらめていると、
「ゆきのん、どういうこと」
と、由衣さんは困惑したように再度聞いてくる。
あいも変わらず、束姉さんは相も変わらず、
「うーんと、まあいいや。それでねそれでね、新しいバージョンの宇宙服みたいなものを作ったんだよ。どうどう、近いうち私のラボに来ない?雪乃ちゃん。宇宙だって、簡単に飛び出せるんだし来るよね、ね、ね。」
などと、話を続ける。
と、同時にパーンという小気味がよい音が耳に入ってきた。
「いたーい。ひどいよ
そちらに視線を向けるとそこには丸めた新聞紙を持っている平塚先生がいた。
「はあ、陽乃しかり、生徒の前でその呼び方はやめてくれと何度言えばわかるんだ。」
と、頭痛が痛そうに頭をおさえる。
「まあいいじゃーん。
「はぁ。何度言えばいいんだ...まあいい、もう少しお前は他人に興味を持て。」
と、平塚先生は諦めたように言う。
「オッケー。最大限善処するよ静ちゃん。」
「善処って。やる気ないだろ。」
「てへっ。ばれちゃった?」
と、右手の拳の自身の頭にぶつけて愛想のよさそうに笑う。
平塚先生は、ジト目でいるのを見ながら苦笑いをこぼした。
「ゆきのん、ゆきのん。あの人だれ?」
と、由比ヶ浜さんが聞いてきた。
「あの人は、私の姉よ。」
「姉?」
「そう、雪ノ下束。私の七歳上の姉よ。」
と、言いながら、私の優しい姉は、あいも変わらず平塚先生にちょっかいをかけていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それと...最後に今日付けで、ボランティアサポーターになった人がいます。」
と、一通りの今日の行程の説明をした後、平塚先生は話を切り出した。
俺は、なんだと思い、視線を平塚先生の方向に向けると、平塚先生の近くのテーブルに二つのウサギのような耳がぴょこぴょこ動いていた。
「なんだあれ...」
と、独り言をこぼすとその正体は唐突に立ち上がった。
その正体は、兎耳を付け、水色と白が混じったメイド服を着ている紫の髪を持っている女性だった。
コスプレか何かか?と思い、視線をそちらに向けるそこでは、平塚先生と、うさ耳をつけた女性がじゃれていた。
周りを見渡してみると、おおよそはなんだこいつという苦笑いを浮かべているが、雪ノ下と、葉山は違った。
雪ノ下は何やらあきらめたような顔を、葉山はなぜかふだん見たこともないほど顔を青ざめさせていた。
観察を続けていると、
「ほら自己紹介しろ。」
「わかったよー
と、一回転して手を振っている。
と同時に周りが騒がしくなる。
「束って、あの束ですか?」
「たった、四回の講演で物理学を十年分進めたといわれている...」
どういうことだ?
全く話に追いつけないので近くにいた戸塚に聞いてみる。
「なあ戸塚。束って誰?」
「もしかして、八幡、束博士を知らない?」
「ああ、そうだ誰だそれ?」
「そう。本名は雪ノ下束、ここの高校の卒業生で四年前から年に一回うちの高校で物理学の公演をやってくれるんだよ。」
「雪ノ下?」
「詳しくは知らないけど...雪乃さんの姉なのかもしれないね。」
「そうか...」
と、戸塚と話していると、
「束は、私の昔の教え子で、総武高校卒の先輩だ。」
「うんうん、そうだよ~。私はみんなの大先輩にあたるわけです。あやめ奉り給え。」
と、束さんは、腰に手を当てて胸を張る。
「いい加減にしろ。束。」
「いいじゃーん。ここで序列付けしておかないと、後輩たちになめられちゃうからね。」
「はぁ~。」
という、平塚先生の深いため息が聞こえてきた
「埒が明かん。まあ以上だ。お化けの仮装セットはおいてあるそうだ。手分けしてやってくれ。」
「『はーい』」
という声と苦笑いとともに解散した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それで、
「静ちゃんいうな。」
と、朝食を取り終えた後、二人で並んで廊下を歩いていた。
「いいじゃんいいじゃん。現に陽乃ちゃんだって
と、言い、どこから取り出したのかスケートボードのようなもので平塚静の周りをぐるぐる回りながら言った。
「はぁ。相変わらずだな、お前は。」
「当たり前でしょ。私が変わることなんて、たとえ空が落ちてきてもあり得ないことだよ。」
と、スケートボードの上で逆立ちをしつつ答える。
「だろうな。24になってもこの調子じゃ自明の理だろう。」
と、あきらめたように言う。
「そうだよ~。それよりも...
「ウッ。それは...」
「大丈夫だよ。アラサーじゃなくなったら、私がもらってあげるからね~。あの時確約してくれたしね。」
と、いつもの束らしくないことを言う。
「勘弁してくれ。あの時は友達の結婚式に誘われていてやけ酒していた時なんだ。」
「え~。なんだったけ?むしろ、束がいい。できれば私をもらってくれ。だったっけ。」
と、雪ノ下束は、恥ずかしがってうつむいている平塚先生の顔をしたからのぞき込むように言う。
平塚先生は恥ずかしがるように顔を覆い隠す。
「やー。やっぱ
と、後ろから抱き着こうとするがアイアンクローで止められてしまう。
「痛い痛い。親指と小指でこめかみをぐりぐりしないで、頭、頭割れる。」
「聞き分けの悪い兎はこれぐらいに処しておいた方がいいだろ。」
と、平塚先生は顔を真っ赤にして雪ノ下束の頭をぐりぐりしていた。
「で、結局私は何やればいいのかな
「はぁ。夜から、肝試しをするから倉庫に向かいその準備をしておけ。」
「オッケー。了解ー。この大天才の束さんにまっかっせっなさい。」
と、指示がもらえてうれしいのか束は嬉しそうに兎の耳をひょこひょこさせて周りを飛び跳ねていた。
「束。森全体を霧の海にするみたいな変なことはするなよ。仮装道具を倉庫から持ってくるだけで...て、もういないし...」
私は、長年束と付き合ってきた経験から嫌な予感を感じ、くぎを刺そうとしたが、そこにいるであろう束はいなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「姉さん、何してるの?」
と、言う声で、私は作業を中断した。
この声は雪乃ちゃんだ。
「雪乃ちゃん、どうしてこんな倉庫に来ているの?」
「私は平塚先生から、肝試しの衣装を取りに倉庫まで来たのだけど...」
「そうなんだ!今ね、私も肝試しの準備をしていたんだよ。」
と、宙に浮かんだディスプレイを見せる。
「そ、そうなの。じゃあ、私はここで...」
と、コスプレ衣装が入った段ボールを二段重ねにして雪乃ちゃんは出ていこうとする。
今にも倒れそうで、非常に危なさそうだ。
「そういう時は手伝ってって言ってといったでしょ。雪乃ちゃん。」
と、雪乃ちゃんが両手で抱えていた二段重ねの段ボールをかっさらう。
「姉さんの手を煩わせるわけには...」
「問題ないよ~。それに私のお姉ちゃん道を守るためにも手伝うんだよー。」
と、片手で段ボールを持ちながら、胸を張る。
「そ、そう。」
と、困惑する雪乃ちゃんを横目に私は部屋の外へと飛び出した
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おー、雪乃ちゃんこの子が気になるの?」
私は
「やっぱ、雪乃ちゃんは、猫が好きだね。」
「...そんなわけないじゃない」
「そういわないでよ。それよりも化け猫のコスプレの子こっち来てよ。」
と、女の子に声をかける。
「は、はい。」
と、言いこちらに向かって来た。
「その中途半端な猫耳のカチューシャと、尻尾を外してこれと、これをつけてみてよ。」
と、私が開発した猫耳のカチューシャと尻尾を差し出す。
「は、はい。」
と、何やら警戒したようにその女の子は恐る恐るこれらを身に着けた。
私は一通りそれを確認した後、
「うーんとね、そうだなぁ...ちょっと怒ってみてよ。」
「急に怒れと言われましても...」
「なんでもいいよ。感情さえあれば問題ないから。」
「そういわれましても...」
と、困った顔をする。
耳はピンと張られており、尻尾はたらんと垂れていた。もし、できれば怒りの感情を持てば耳をぴんと張って尻尾を逆立てるはずなんだけど...。
と、原因を探っていると、
「すごいわ、姉さん。」
と、なぜか、雪乃ちゃんは目をキラキラさせて女の子のしっぽを触りに行った。
「ゆ、雪乃さん??」
と、女の子は何やら困惑をしている。
「ちょっと、失礼するわね。」
と、雪乃ちゃんはのどあたりを触った。
すると、女の子からコロコロという鳴き声が聞こえてきた。
おお、私の発明品は故障していなかったぽい。
「え、え??」
「すごいでしょ。これ。これはね、猫そっくりになれるものだよ。感情表現も猫そっくりになるし、仕草とかも猫そっくりになるものだよ。ついでに猫とも会話できるんだよ~。どうどう、すごいでしょ!!」
と、胸を張った。
「えーっと、どうやったら元に戻るんですか...」
と、隣の濁った眼をした少年が聞いてきた。
「尻尾とかを外すと、元に戻るよー。それよりも雪乃ちゃん、これつかう?」
と、服のポケットから猫じゃらしを取り出す。
軽く振り回してやると女の子が困惑してる声を止めて、猫じゃらしを目で追っている姿が目に入った。
「姉さんそれかして。」
と、ひったくるようにそれを奪われる。
雪乃ちゃんがそれを振るたびに、女の子の顔が動くのを見つついい仕事をしたな~と思い私は、別の仕事へと向かっていった。
評価や感想をくれると中の人が喜びます。よろしくお願いします。
誤字報告、ありがとうございます。
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第二話 肝試し
「ごめんなさいね...小町さん。」
「いえいえ、まさかこんなことになってしまうとは...」
雪ノ下束が退室した後、雪ノ下雪乃は比企谷小町に謝っていた。
「でもすごいですね、これ。」
「そうね...姉さんがいつもつけているうさ耳と同様のものだと思うのだけど改めてみるとすごいわね。」
と、取り外されたカチューシャ型の猫耳と尻尾に視線を向ける。
「あの人って、雪乃さんのお姉さんなのですか?」
「あら、気がつかなかったかしら。小町さん。雪ノ下の姓があるからすでに気が付いているものだと思っていたけど...束姉さんは私の七つ上の姉さんよ。」
「姉だったのか。意外だな。」
「そうね...正直、私もあの人の妹であるとは今でも信じられないわ。」
と、雪ノ下はうつむく。
「そういえば、もう一人姉がいなかったか?」
「ショッピングモールであった、陽乃姉さんのことかしら?」
「そうそう、陽乃さんしかり、お前の姉さんすごい人だらけだな。」
「そうね...束姉さんは私が数百人集まったところで追いつける気がしないもの。」
「そうじゃねーよ。」
と、同様の件になると思いつつ俺は口を開いた。
「何というか、あそこまで他人に無関心というのも珍しいなと思ってな。」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。でも私に猫のカチューシャをくれたよ。」
と、小町が口をはさむ。
「小町、束さんがお前の対応をしているときお前の要望に耳を傾けたことがあったか?」
「うん、まあ確かに。」
「そうだろ。だけどその反面、雪ノ下に対してはいろいろ手を貸したり話を聞いたりしている。だから今年で24、25だというのに、人に対してここまで露骨に興味がないという態度が取れることがすごいな、と思ってな。」
「そうね...」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「平塚先生、どうしたんですかこれ?」
と、肝試しの打ち合わせ後に、外に出てみると近くに平塚先生がそして隣に何やら縄でぐるぐる巻きにされた人がいた。
「おお、比企谷か。雪ノ下束だよ。束。あまりにも勝手に動きすぎるのでな...」
と、はぁと、平塚先生は疲れたように大きくため息をつく。
「何、やったんですか?」
「こいつは、肝試しを盛り上げるということで、ここら周辺を霧で覆わせたり強制的に月食を起こさせて月を赤くしたりいろいろなことをやっているからな。」
「え、冗談ですよね。」
と、自然と聞き返す。
平塚先生は、こういったくだらない噓はつかないはずである。現に軽く雲で覆われているが夕日が見える。
すると、平塚先生は、頭を押さえて、
「嘘だったらよかったのだがな...」
「
と、いつの間にか縄から抜け出していたのか雪ノ下束が平塚先生に後ろから抱き着いていた。
「束、どうやって抜け出した。」
と、とても驚いた顔をしている。
「そう私がぬけぬけと、縄にくるめられているわけないでしょ。ブイブイ」
と、両手をピースして平塚先生の周りをまわっている。
「
と、頭の上についているうさ耳を、シュンとさせた。
「んな、わけあるか。」
「苦労しているんですね先生は。」
「はぁ。本当にな。」
と、平塚先生は、遠くを見る。
「ねえねえ、
「仕方がない、この後小学生の指導をするから手伝え、決して私のそばを離れるんじゃないぞ。」
「幼稚園児の対応だな。」
「オッケー。まっかせて。じゃあ行ってく...」
と、束さんが走り出そうとする。
それを、平塚先生は首根っこを捕まえる。
「どこに行こうとしているんだね。」
「とりあえず研究所に戻って、小学生に言うことを聞かせるy...」
「もういい、とりあえず私の後についてこい。それだけでいいから。」
「必死だな。」
と、俺は苦笑いをこぼした。
「すまないが、肝試しのほうは手伝えそうにない。後は、任せたぞ。」
と、平塚先生に視線を送られた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
肝試しが終わり、怪しく輝く赤く染まった満月を片目にしつつ平塚静は、元凶である一匹の大きな兎を抱えながらログハウスに帰っていく。
「ところで、肝試しはどうだったの?雪乃ちゃん怖がっていた?」
「んな、わけあるか。雪乃はおどかす側だよ。」
「ちぇー。せっかく怖がるシーンが撮れると思ったのに残念。」
と、落ち込んだせいか、うさ耳が垂れ下がる。
「ところで、お前印の猫耳と尻尾を付けたやつがいたが問題ないのか?」
「猫耳と尻尾......ああ、あの子ね。全然問題ないよ。あんなもの。雪乃ちゃんも喜んでくれたみたいだしね。」
「そ、そうか」
「そうだ。
「いや、まったく。」
と、平塚静はしらを切った。
少しは興味はあったが、言葉にすると面倒なことになるとわかっていたからだ。
「ふーん。」
と、私の顔をしたからのぞき込む。
「なんだね。本当は、ほしいんじゃないかなーと思ってね。」
「そんなわけあるか。」
と、顔をそらす。
「ほらー、顔をそらしたー。
と、即見破られてしまった。
「さてさて、どうしよっかな。」
と、蟹股歩きで私の周りをまわりながら全身を嘗め回すように見られる。
「そうだねー。
「やめろ、気持ち悪い」
と、私の周りをまわっている束の頭をつかむ。
「まって、まって、3サイズはかっていたっだけだけだよ。ほお、お胸が1.2センチのびtt...痛い痛い痛い。」
と、こめかみをぐりぐりする。
そのようにじゃれていると、唐突に
ぴぴ、ぴぴ、でんわ、電話だよー。
と、可愛らしい声が聞こえてきた。
束は、一瞬で私の手から抜け出し、ポケットの中からピンクのスマートフォンを取り出し電話に出た。
「うん、どうしたの?」
「もう結果出ちゃったの?りょーかい。」
と、軽くやり取りをすると、こちらに帰ってきた。
「と、言うわけで研究所に帰るねー。狼耳と尻尾は期待していてねー。」
と、一言を残し、私とは逆方向に全速力で向かっていった。
「本当に、嵐みたいなやつだな。」
私は、独り言ちログハウスへと戻っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
サポートボランティアの役割を終えた私は、平塚先生が運転する車で総武高校の正門まで来ていた。
そこには、
「雪乃ちゃーん。昨日ぶりだね。」
と、自由気ままな姉がそこにはいた。
「束姉さん...帰ったはずじゃ。」
「雪乃ちゃんと、陽乃ちゃん、二人に会えるってわかったからね。待機してたんだよー。ほらあそこ。」
と、束姉さんは指をさす。
そこには、こちらに向かって走ってくる高級車が一台あった。
「え、?」
「お母さんの考えることも見え見えなんだよねー。単純すぎてバカに思えちゃうくらい。
と、呆けている私を放って平塚先生のほうに向かっていった。
「昨日、おとなしく帰ったと思ったらこれか。」
「そうだよ~。それでね、これ、つけてみてよ。」
と、狼の耳と尻尾を渡される。
普通に買ったものならまだしも、束印の製品だ。つけないにこした、ことはないだろう。
私は、なんとかつけるのを避けるために、
「ああ、ありがたく受け取っておくよ。」
と、返す。すると、そううまくことは運ぶことはなく、
「えー、せっかくだから装着してみてよ。」
「勘弁してくれ。」
「えーしょうがないなー。」
と、言うなり束は、雪ノ下のほうへと向かっていった。
「お、とまったじゃん。」
と、同時に陽乃ちゃんが、車から出てきた。
「はーい。雪乃ちゃん。」
と、いつも通りの姿の陽乃ちゃんが出てきた。
と、同時に、束は、
「は、る、のちゃーん会いたかったよー。」
と、宙に飛び上がり、陽乃の首に抱き着いた。
「え、束姉さん。いたの?」
「そうだよー。陽乃ちゃんに会いに来たんだよー。」
と、頬を摺り寄せる。
陽乃は、嫌な顔をせず、手慣れているように、束の頭をなでる。
「えへへへ。」
「それよりも、雪乃ちゃんに用があるんだけど。」
と、陽乃は一通り束を撫でまわした後、雪乃に向きいう。
雪乃は、肩をびくっとさせ、陽乃たちのほうに振り向いた。
「ね、姉さん」
「どうせ、母さんが、雪乃ちゃんに帰ってこいって言いたいだけでしょ。そんなことよりも、どう私の研究室に来ない?せっかく三人姉妹そろったんだし。」
と、戸惑う雪乃を物理的に担ぎ上げて束は、陽乃のところまでもっていく。
雪ノ下は、困惑を隠せない表情をしながら、
「ほら雪乃ちゃんもどう?」
「え、え?」
「即座に否定しないってことは問題なさそうだね。じゃあ行こうか。」
「束姉さんに言われたんならしょうがないわね。で、どうやっていくの?」
「そりゃあ、もちろん。大空を見よ。」
と、陽乃はあきれた声で言う。
束は、雪乃を、御姫様抱っこをしながら、空を指さす。
すると空より一つの金属箱が道路に落下してきた。
「それは、」
「じゃん、じゃじゃーん。」
と、束が言うと、金属箱の中身が現れた。
中には、真っ黒な車体をしたバイクと、それに付属するサイドカーがあった。
「これは...アストンマーチンの100台限定販売の新車か?」
「おー、流石
と、御姫様抱っこをしていた、雪乃を、サイドカーに乗っける。
「えっと...」
「ほら、陽乃ちゃんも早く後ろに乗って。そんなわけで、今度は私のバイクで、デートに行こうね
と、束は、二人を乗せて走って行ってしまった。
「行っちゃったね...」
「そうだね。なんか、すごい人だったね。」
「ああ、そうだな。あきれるほどすごいやつだよ束は。」
「.........。」
と、皆は取り残された運転手が困ったように通話しているのを片目に話していた。
評価や感想をくれると中の人が喜びます。よろしくお願いします。
誤字報告、ありがとうございます。
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三話 文化祭
投稿遅れてすみません。
お気に入り登録20↑ありがとうございます。
「うーんと、ここを、こうつなぎなおして...よし、これをここに持って行って...うんうん、やった束さん大天才。」
と、雪ノ下束は、空中に浮かんでいる半透明のキーボードに向かって高速でコードを撃ち込んでいた。
「もうすぐ、第四世代になるんだけど...一人でバージョンアップするのもなんかおかしくなってくるね。」
と、一人でわらっていると唐突に近くから
『ぴぴ、ぴぴ、でんわ、でんわ、
と、言う通知音が聞こえてきた。
「もすもすひねもす~。はぁ~い。みんなのアイドル雪ノ下束だよ~。」
「その挨拶、頭にくるからやめてくれないかな。」
「えー、ひっどーい。いいじゃんいいじゃん。」
と、駄々をこねる。
「はぁ。まあいいわ。それより今年の総部高校の文化祭に出てくれない?」
「もうそんな時期なんだー。早いねー。でもあんな小学生みたいな授業でいいの?」
「それぐらいでいいの。」
「そっかー。まあ
と、返す。
「それと、できれば有志の届け出を出すときに、仕事に追われていると思うから、雪乃ちゃんのことも助けてくれると嬉しいんだけど...」
「うん?本当にいいの?なんか
「.そんなわけないじゃん。」
「ほら、一瞬、間が空いた。ほら何やったの?言ってみい。」
「......姉さんにはかなわないわね。そうよ。総武祭の委員長を揶揄って遊んでいたら、そうなっていたの。」
と、
「うん? 雪乃ちゃん、委員長じゃないの?」
「そうよ。」
「へえ、意外。
「少しは自分で考えて行動するようになったのならばいいのだけど...」
「そっかー。この束さんにまっかせなっさい。」
と、話す。
「それよりも、
「はあ。まあいいわ。最近はね...」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
比企谷八幡は、雑務の仕事をたんたんとこなしていると、唐突に窓がバリンと、割れる音がした。
何かと思い、音がした方向に目を向けると、そこには夏合宿の時に見た、兎の耳を付け、青いドレスを身に着けた人がいた。
「なんだ...」
「よばれて、飛び出てじゃじゃじゃじゃーん。束さん大登場だよ。ブイブイ」
と、両手でピースを作りながら、飛び込んできたであろう窓を気にせずに入ってきた。
「束姉さん...」
「束さん。」
と、周りはそのような状況に慌てふためいている中城廻先輩と雪ノ下がそんなことをまったく気にしていないような反応を示す。
「ひゃっはろー。雪乃ちゃん。陽ちゃんの助手ちゃん。今日は、有志団体の届け出を出しに来たんだけど...」
「有志の届け出は左奥に出して。」
「オッケー。りょーかい。」
「束さん。
「えーいいじゃん。映画みたいでかっこよかったでしょ、助手さん。それよりも
「へ?結婚?」
と、そのような発言に割れた窓ガラスに夢中になっていた人たちが城廻先輩に視線を送る。
「そうだよー。普段あんなにも人間に興味を示さない
「私と、
「えー、それは残念。
「それに、私たち同性ですよ。」
「そんなの関係ないでしょ。私だって
「そんなわけないだろう。」
と、いつからいたのであろうか、平塚先生がドアから入ってきた。
「ほらー。ツンデレちゃって。
と、束さんは抱き着く。
「そんなわけないだろう。」
「えー。
「やめてくれ本当に。」
と、平塚先生ははずかしさから顔を真っ赤にさせて、束さんの口を抑えた。
「もごmごもご。」
「まあ、その話は、いい。それより何しに来た束。」
「もごもご。」
「平塚先生、その状態では話せないのかと。」
と、雪ノ下が指摘を入れた。
「そうだな。」
「それでね、それでね。私が養ってあげよっかって言った時、静ちゃんこういったの『頼む、私を住まわせてくれ』って。それって、一種の告白って、イっ」
「衝撃のファースト・ブリット」
と、言うなり、束さんの、おなかに平塚先生の、こぶしが吸い込まれる。
「ごはぁぁ。」
と、束さんは飛ばされ、壁にたたきつけられる。
そのまま、倒れ動かなくなってしまった。
「平塚先生、さすがにちょっとやりすぎじゃ...」
と、言う声がちらほら聞こえてくる。
「おい、束。起きろ。」
「まあ、そんな弱いパンチじゃ、効くわけないんだけどね。」
どすの利いた声で平塚先生が言うと、けろっとした顔で束は何事もなかったかのように、バク宙をして起き上がってきた。
「まあ、要は、毎年恒例の研究発表をすることを
「ああ、陽乃がか。」
「そうそう、たぶん雪ノ下家よりも上のところからも圧力がかけられてるんじゃないかな、よくあんな私が小学生のときに考えてた内容を聞いて喜ぶもんだよ。」
と、束は呆れたように肩をすくめる。
「あんな難しい内容理解できるわけ無いだろう。現に諸外国から大勢の有名な研究者たちが来るんだから。運営する先生の気持ちも考えてほしいな。」
「いいじゃんいいじゃん。そのおかげで給料少しは増えたでしょ、
「それもそうだが...」
「っと、言うわけで来たってわけ。」
と、雪ノ下雪乃のほうに振り向く。
「はぁ、とても回りくどいわね。」
「そう怒らないで、雪乃ちゃん。」
と、束は後ろから抱き着く。
「それに、委託されたんでしょ
「何で知っているのよ...はぁ。わかったわ。」
「やったー。ありがとー。雪乃ちゃん大好き。」
と、束は雪乃の頭に頬を擦り付ける。
「やめて、束姉さん。」
「いいじゃーん。久しぶりに抱き着いても逃げないんだし。」
「はぁ。」
「おい、束。委員会の仕事をしなければいけないから帰れ。」
と、平塚先生が言う。
「いいけどー。午後5時。実行委員会の真っただ中なはずなのにこんなに人間がいないんだね。」
と、束は両手を広げぐるりと回る。
「それは...」
「いいよー。お手伝いするよー。」
「そんな、束姉さんに、迷惑をかけられないわ。」
「うんうん、そういうことじゃないの。どうせ、雪乃ちゃん一人で仕事のほとんど把握して司令塔兼雑用として処理してるんでしょ。」
と、束は言う。
「そうだけれど。」
「それで、委員会全体をまとめることで、
「...そんなわけないじゃない。」
と、雪ノ下は顔を下げる。
束さんは、そんな雪ノ下の様子にもお構いなく話を続ける。
「ほらー、弱いところを突かれるとすぐ嘘をつく。まあ、それはいいとして私みたいな世紀の大天才ならまだしも、今の雪乃ちゃんじゃ破綻しちゃうよ。それ以上に、陽ちゃんと向かっている先が全然違うもん。」
と、束はうつむきがちになっている雪乃の顔を下から覗き込む。
「......」
「だから、今日、少し手伝うからそれまでに解決方法、要は雪乃ちゃんでも委員会を回せる方法を考えること。あとヒントになるけど...
と、人差し指を立てていう。
「それじゃあ、書類かしてねー。」
固まってしまった、雪乃を片目に、
雪乃の机の上に山積みにされた書類を手に取って自身のキーボードに打ち込み始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「本当に良かったのか?あんなことを言って?」
「うん?何のことかな。束さんわからない。」
と、平塚静は、束としゃべっていた。
「雪乃のことだよ。」
「ああ、雪乃ちゃんのこと。」
「私が言うのもあれだが、あそこまできつく言ってよかったのか?」
「本当のことを言っただけでしょ。」
「お前はいつもそれだな。何も恐れずそう言えるのはうらやましいよ。」
と、平塚先生は肩をすくめる。
「それよりも...どうだった今日のお店。」
「ああ、うまかったな。」
「そうでしょそうでしょ。軽く調べただけでも結構いい情報がばんばん入ってきたからおいしそううだなーと思ってきたわけ。」
「本当にうまかったな。特に、麺はこしががあって、そのうえにうまいこと汁が絡んでいる。それに、」
「
「当たり前だ。」
「そんな、
と、束は抱き着くこともなくまっすぐ視線を合わせて。いう。
その改まった態度に驚いて聞く。
「やめろ、恥ずかしい。というか、なんで私がここまで、他人に対して興味がないお前に気に入られているんだ。」
「そりゃあ、私にいろんなことを教えてくれたからでしょ。その当時、私が全く認識していなかったことを、いともたやすく教えてくれたんだから。」
「いろんなこと?」
「
「あの件か。私はあくまで、教師として教えただけに過ぎないんだが...」
と、平塚先生は肩をすくめる。
「そうだったとしても、私にもともと零だったものから一にしてくれたのは
と、いつも通り、抱きついてくる。
平塚先生は、それを華麗によけ、ものの見事に地面に頭をぶつけた束を見つつ。
「最後の最後で台無しだな。」
と、一つため息をつきつつ。
しかし、この関係も悪くはないなと思う平塚静であった。
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四話 文化祭二日目
やる気につながってますありがとうございます。
「物理演算から...通して...ここかな。」
と、雪ノ下束は、キーボードを打っていると通知音が聞こえてきた。
『ビー。今日は文化祭二日目だよー、だよー、だよー。』
「もう文化祭の日なんだ。早いねー。よしっと。」
と、作業椅子から立ち上がる。
「仕方がない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「なんか、すごい人だまりだな。」
比企谷八幡は実行委員会の広報の写真を撮りながら、外を見てみると大勢の人だまりがあった。
そこには、総部高校の文化祭に来ることがないであろうスーツを着た高齢の人や、白衣を着てきている人、奇抜な格好をしている外国人など、中学生が全くいない高校の文化祭ではありえない異様な風景が広がっていた。
「なんだあれは...」
「おお比企谷か。どうした。」
と、外を見て呆気にとられているのを気にしてか声をかけてきた。
後ろを振り向くとそこには平塚先生がいた。
「平塚先生ですか。外を見て言い方は悪いですけど文化祭らしくない人が大勢いると思って。」
と、外を指さす。
そこには、あいも変わらず大勢の人たちがいた。
「ああ、その件か。実行委員会で聞かなかったか?」
「全く存じてないんですけど...」
「まあ、それもそうか。比企谷だしな。」
「なんですかそれ。やめてくださいよ。それよりも、平塚先生はこんなところを歩いていていいんですか?」
と、言うと平塚先生は苦虫を嚙み潰したような顔をする。
「いいわけないだろう。だけどな、それ以上にやらなければならないことがあるんだよ。」
「なんですかそれ。」
「雪ノ下束の確保だよ。」
「雪ノ下束って、あのいつもうさ耳をつけて、青いドレスを着ている、ねじが数本飛んだあの人ですか?」
「君から、そんな風に言われるとはな...まあ数本じゃなくて数十本の間違いだな。」
「そこを直してどうするんですか。」
と、苦笑いを浮かべる。
「そんなことは、いいんだ。それで、現在の外の状態につながるのだが、外にいるのは有名な研究者たちだよ。」
「研究者?」
「そうだ、全員、束の研究発表を聞きに来ているんだよ。」
「何それ、何かの冗談ですよね。」
と、軽く返す。
すると、平塚先生は深いため息をつきながら
「冗談だったらどれほどよかったか。」
と、頭を抱えていう。
「詳しくはないですけど、そこまで研究者がいるなら学会とか行かないんですか? その束さんは?」
「行かないからこういう状態になっているんだろう。そもそも、大学も、推薦をもらっているのにめんどくさいから行かないような奴だぞ。だけど、その反面、頭だけは良すぎるからこんな状態になっているんだ。」
と、再度ため息をつく。
そのように会話をしていると、唐突にすごい勢いで廊下を走ってくる音が聞こえてきた。そちらを振り向くと青いドレスを身に着けたうさ耳の女性が走ってきた。
「し・ず・ちゃーん。」
と、俺の頭上を空中で、一回転バク宙したと思うと平塚先生の首に抱き着いた。
「束か。」
「そうだよー。数週間ぶり~。どうする、一緒に、おいしそうなラーメン屋さん見つけたから行かない?」
「研究発表をしろと、陽乃に言われなかったか?」
「えー、めんどくさいんだけど。」
「ほら行くぞ。」
「いやだぁぁぁ。」
と、平塚先生に子供のように強制的に手をつかまれ引きずられるように連れていかれた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
平塚先生の後を追っかけて体育館につくと中には文化祭とは関係なさそうな大人で、ごった返していた。
「あら比企谷君こんなところにいたのね。」
「雪ノ下か。」
すると近くにいた雪ノ下に声をかけられた。
「すごいな、こんなに人が来るなんて。」
「それはそうよ。束姉さんは、天才だもの。私や陽乃姉さんじゃあ、決して届くことのない場所にいるもの。」
「そうなのか?確かに来ている人数は多いと思うが...そこまでなのか?」
「そうよ。物理学界隈ではかなり有名よ。たった、3回の研究発表で、物理学を10年も進めたとは言われているわね。」
「マジか。」
「おおマジよ。」
と、雪ノ下は肩をすくめる。
「もしかして、その三回って...」
「多分、考えている通りだと思うわ。すべて毎年一回行われるこの総武高校文化祭の二日目に行わるものよ。」
「...だからか。」
と、この異様なほど文化祭とは関係のない人が集まっている点や、平塚先生がわざわざ文化祭の仕事があるのにもかかわらず外に出ていた理由が紐付けられた。と考えていると、
「それよりも始まるわよ。」
と、言う声が聞こえてきた。その声に舞台のほうに視線を向けるとそこにはいつもの格好をした束さんがいた。
舞台横には束さんが逃げ出さないようにするためか平塚先生と、陽乃さんがたっている。束さんはいつもの調子で研究発表を始めた。
『はーい、こんにちは! たーばねさんだよ~。』
と、言うと観客の人々が拍手を送る。
『じゃあね、今日はね、私が小学生の時に考えた物体の量子化、そしてそのデータについて話すよー。』
と、言うなり周りの雰囲気が一変し、真剣な雰囲気へと変わる。
『これを見てもらうのが早いかなー。はい、これ。見て見てー、これは本物の日本刀だよー。』
と、どこからか一本の長いさや付きの日本刀を取り出した。
『こんな感じでスパスパ切れるよー。』
と、またもやどこからか取り出したりんごを宙に飛ばし8等分に切った。
『今回は、この日本刀を量子情報に置き換えることで消すよ、3,2,1,ほら。』
と、一瞬でそこにあった日本刀は何事もなかったかのように消えた。
『今のは、ここにあった物体を量子情報に置き換えることで消したんだよー。じゃあ、その逆、量子情報から物体に置き換えることでだしてみよっか。ほら。』
と、いうとそこには再度日本刀が現れた。
『
と、
平塚先生も同様に日本刀を消し再度出現させた。と、同時にとても驚いた反応をしていた。
『と、言う感じだね。正確にはこの日本刀を量子化させた際にこの腕のブレスレットの部分にデータが保存されて再度呼び込むとそのデータから再構成されるってわけだね。今回はさっき言った通り物体の量子化、そしてそのデータについて話していくねー。じゃあ、量子化から...』
「手品ではないよな...あんな現象初めて見たぞ。」
「そんなわけ、束姉さんに限ってあるわけないじゃない。」
「そうだよな...すごいな...」
「ほんとね。あそこまでの天才となると、一周回ってあきれしか出てこないわ。」
下を見るとそこには血眼になってメモを取り録音をしている研究者が、頭のねじが数十本外れている天才科学者を囲むという、小説のような風景が広がっていた。
「やったー。終わったー。」
一時間ほどの発表を終え、束姉さんは舞台裏で私が卒業生でオーケストラの準備をするのを片目に、
「うーん、
「やめろ、嗅ぐな。」
「それと上を見ると、もみがいのあるお胸が二つ」
と、手をワキワキさせ、揉もうとする。
「揉もうとするな。もう膝枕しないぞ。」
「いたーい。わかったよー。」
「人が準備している横でイチャイチャしないでくれるかな。」
と、私の本番前だというのに、いちゃついている二人に文句をいれた。
「だってー、
「はぁ。そんなわけないだろう。」
「束姉さん、耳でも腐っているのかな?」
「だって。もし耳が腐っていたら
「はぁ。」
この姉さんは、文句を言ったところで治ることはないとわかっていながらも、あきらめからか、ため息が自然と出た。
軽く頭を押さえていると、
「まあ、いいや。それよりも頑張ってね、
と、姉さんに珍しく顔をあげ目を合わせて言われる。
束姉さんがこの反応をするときは真剣に私に伝えているときだ。
私は、それにこたえるように返す。
「もちろん。」
と、私は姉さんの瞳を合わせ、言った。姉さんはそのことに安心したのか軽く笑ってから
「なら大丈夫だ。
「何それ。」
と、軽く返す。
「じゃあ、私は、
「やめろ、引っ付くな。」
「うーん。最後の一言は必要なかったかな。」
私はいつも通りの姉さんに半分呆れながら演奏へと向かっていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「何?相模がいない?」
「はい携帯電話も通じません。」
「参ったわねこのままではエンディングセレモニーができない。」
「最悪、代役を...」
「ZZZzzzz…」
と、舞台裏で、俺は、平塚先生と、平塚先生に膝枕をされて寝ている束さん。城廻先輩そして、雪ノ下と話していた。
「最悪でっち上げればいい。」
「う、うーん...みんな、どうしたの?そんな危機迫った顔して?」
と、提案すると、膝枕をされていた束さんが目をこすりながら起き上がってきた。
「あ、
「束。起きたのか。」
「そーだよー。束さんだよ。助手ちゃんも、雪乃ちゃんもなんかあったの?」
寝ぼけ眼でいう。
「ひとまず、目を覚ませ。束。」
「いーじゃん。数週間ぶりに寝たんだから。多少寝ぼけていてもショーがない。」
「はぁ。またそんなに偏った生活をしているのか。仕方がない、ほら起きろ。」
平塚先生は、束さんの肩を強くもむ。
「いったーい。」
「起きたか?束。」
「毎回、この起こし方はやめてよね。本当に痛いんだから、
「束、相模の居場所はわかるか?」
「相模?誰それ?」
束さんは、本当に知らないのか、肩をすくめる。
「文化祭実行委員長の、相模さんよ。」
「へぇー。そんな名前だったんだ。じゃあ、その人間の、写真を頂戴。」
「城廻持っているか?」
「はい。この子ですね。」
と、城廻先輩が持っていた文化祭のパンフレッドから、写真を一枚指さす。
「うーんちょっと待っていてね...うん、覚えた。」
「頼めるか?」
「いいよー。その代わり今度一緒に遊びに行こ。
「はぁ。わかったよ。」
「私もか。」
陽乃さんはあきらめたように、平塚先生は驚いたようにこたえる。
「あったりまえじゃん。ほら、写真かして。」
と、平塚先生が軽く抗議する声を無視して、束さんは体を一回転させた後、どこからか、透明なディスプレイと、キーボードを出現させる。
「ひとまず学校の防犯カメラにハッキングを仕掛けて...うん、束さん大天才。ハッキングできた。」
「ハッキング?」
「本当にいいんですか?先生。」
「緊急事態だ仕方あるまい。」
「この赤髮の子でしょ。赤髪赤髪...あ、いた。こいつでしょ。」
束さんが、一分もかからずにディスプレイをこちら側に見せるとそこには、階段を上っていく相模の姿があった。
「うーんとね。この映像は1時間前に取られた奴で特別棟の階段の写真だよー。」
「それ以降のやつは?」
「ないよー。屋上とかにこもってるんじゃない。それよりも
「勘弁してくれ...あそこのジェットコースターだけは...」
「えー、しょうがないなー。じゃあ、
「わかった。泣いてでも、ジェットコースターに乗るから勘弁してくれ。」
「やったー。じゃあ、日曜日貸し切りで行こうねー。」
と、いうように、束さんはどうでもいいのか、平塚先生はと、茶番を繰り広げていた。
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五話 文化祭後
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「姉さん。最近は、どういう研究をしているの?」
と、総武高校文化祭が終わり二人で打ち上げのために向かっているとき私は姉さんに聞く。
「珍しいね、
「はぁ。そんなわけないじゃない。私はもう決めた道があるの。」
「えー残念。まあ、わかっていたんだけどね。」
と、私の周りをくるくる回りながら答える。
「でも、今はワープについての研究をしているよー。」
「ワープ?」
「そうそう、
と、姉さんは何事もないかのように言う。
「組み立てたってことは、できたの?」
「そうだよー。二週間ぐらい理論を立てるのに時間がっかっちゃたけどねー。」
姉さんは、私の周りを蟹股でぐるぐると回りながら言う。
驚きからか、能力が高すぎるゆえのあきれからか、姉さんを見る。
あいも変わらず、水色のドレスを身に着け、頭からはあいも変わらず機械的なうさ耳が生えている。
姉さんは、あいも変わらずのようだ、
「姉さんは、身なりや行動がしっかりしていれば、満点なのに...」
「えー、それじゃあ私じゃなくなっちゃうじゃん。」
「はぁ、わかっていたけどこれじゃあね...」
「それよりも、どう?最近?」
「どうとは?」
「あの人と、うまくやれてるかってこと。あの人めんどくささだけでいえばピカイチだからね。」
と、姉さんが聞いてくる。
姉さんが言う、あの人とは、母さんのことだ。
母さんとは、最近はうまくやれている気がする。
あいも変わらず、めんどくさいことには変わらないけど...
「まあ、一応は。」
「うん、大丈夫そうだね。あの人、言うことすべて聞かせようとする割には頭が足りない人だからね。」
「そういえるのは姉さんくらいよ...」
あきれからかため息が出た。
何度、あの人に振り回されたことか。そう思うと、私も姉さんによく振り回されているなとも感じる。
「それよりも、
と、唐突に話を振られた。
あいも変わらず、私の姉さんはマイペースらしい。
「どうやったら、そんな話の流れになるのよ。いないわよそんな人。」
「えー、助手ちゃんが
「助手ちゃんって、めぐりのこと?」
「そうそう、助手ちゃん。
「私は男に興味があるの。女に興味がある姉さんと一緒にしないで。」
と、軽く抗議をする。
めぐりとは、単純に先輩後輩の関係だ。
姉さんが言っているような恋人関係では決してない。
「そうかなー。私は、
と、姉さんは小馬鹿にしたように笑う。
「だから、女の子に興味がないって言っているでしょ。きいてた?」
「聞いてたよー。だから、事実を述べただけだよー。
「はぁ。ちゃんと聞いてた?」
と、何度言っても、女に興味がないと伝えても引かない姉さんに飽き飽きする。
これが、通常通りだから仕方がないのだが。
「うーん残念。まあいいや、そのうち気が付くでしょ。それよりもね、
と、また唐突に話を変えられる。
「最近も、婚活パーティーを追い出されたとは聞いたね。」
「そっかー。やっぱ、人間の男の人間て、見る目がないね。あんなにいい人なのに。」
「確かに、
それに関しては同感だ。
卒業した、私の面倒を見てくれるし。
適当に姉さんの話を頷きつつこれから会う母さんの対応を考えていると、
「そうそう、だからね。アラサー過ぎても結婚できないなら私がもらっちゃうって約束したの。」
と、言う姉さんの発言が耳の中に飛び込んできた。
姉さんと、
その驚きからか自然と、
「え? どういうこと?」
と、聞いた。
「だから、アラサーになっても結婚出来ていないなら私と、
と、聞き間違いではないことに私は固まってしまった。
「おーい、大丈夫?
と、姉さんが固まってしまった私の眼前で手を振っているのが目に入る。
「それって本当なの?」
「本当だよー。」
「そ、そうなんだ...」
「で、来年で
「それって本当なの?」
驚きからか二度聞く。
「本当だよ。何なら、
と、言われ、急いで陽乃は、携帯を取りだし、へと電話を掛けた。
『もしもし、陽乃か。ちょうどよかった。お前からかけてくるなんて珍しい。』
『
『ああ、そのことか。話していなかったか。』
『聞いたことないよ。』
正直、初めて聞いた。
『本当だよ。』
『え?』
と、軽く返されたことに陽乃から決して聞くことができないような素っ頓狂な声が出た。
『あれ、陽乃には、話していなかったか?』
『知らないよ、初めて聞いたよ。え?姉さんが
と、私でも驚くほどすごい勢いで聞く。
正直、姉さんが一方的に
『陽乃、少し落ち着け。一回深呼吸しろ。』
と、同時に落ち着きを取り戻し軽く怒りがわいてくる、
『じゃあ、どういうことかな
『まて、まて。そう怒るな。私だって初めは、同性愛なんてありえないと思っていたさ。今から、6年前ぐらいだったか束が総部高校を卒業するときにな、真剣に告白されたんだよ。その時の返答は、断ったんだが、その後も何度もアタックをされてな、その時にあきらめてもらうためにもアラサー過ぎても結婚できなかったら結婚するって伝えたんだ。』
『ふーん。じゃあ、
『そうだ。』
『じゃあ、どうなの?結婚できそうなの?』
と、問いただす。すると、クッ、といううめき声が聞こえ、
『そうなんだよ。先日また逃げられてしまってな。いいところまで行ったんだけどな、グイグイ行き過ぎてひかれてしまってな。』
と、言う
それよりも気になることを聞いた
『じゃあ、
『......その話はあとでしよう。その話が出てきたということは、どうせ近くに束がいるだろう。』
と、言われる。
逃がさないように私は追撃をかけようとするが、隣から
「いるよー。
と、姉さんは、この話が聞こえていたのか、私が話している電話に向かって話しかける。
『場をかき乱すことに関してはピカイチだな。束』
「いやあ、それほどでも...」
『ほめてない。はぁ。』
と、いつものようにあきれたように返す。
後で、絶対に聞き出すことを、私は心に決めつつ
『それよりも、これから打ち上げに行くんだが、できれば店をおさえていてくれないか。』
「いいよー。どうする、お昼言っていたラーメン屋さんに行く?」
『私は、陽乃に頼んでいるんだが...』
『それで、誰が来るの?』
と、いつもの仮面をかぶり、答える。
『私含めて、七人いる。』
『どういった、お店がいいの?』
『なんでもある店がで、特に穴場のお店にしてほしい。』
『なんでもあるお店?』
「要は、肉とか魚とか、野菜とかいろんなものをとりあつかっているお店でしょ?
『そうだ。さすが、束だな理解力だけに関してはピカイチだな。』
と、携帯越しで姉さんと、
『いろんなものを扱っている穴場のお店ねえ...』
『どこかありそうか?』
『そうだ、もんじゃ焼きっていうのはどうかな?』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふーん。こんなお店があったんだ。」
私たちは今、お好み焼きと、もんじゃ焼きの店に来ていた。
「そういえば、
「雪乃ちゃんのこと?」
「そうそう、どうどう、今の気持ちは?」
「特に何にも感じないわよ。」
と、言うと束姉さんは珍しく難しい顔をする。
「ありゃ、間違いだったか。
「何その感情推測。強いてそれを言うなら、雪乃ちゃんがようやく一人で歩けるようになった安心感が強いんだけど...」
「本当にわからない。物理のほうが数倍分かりやすいよ。式さえ書けば正解なんだから。あーもう嫌だ。」
と、姉さんは、案内された座敷に寝っ転がる。
そして、どこかからキーボードと、ディスプレイを出現させ、すごい勢いでタイピングしている。
「何やっているの?」
「気持ちの方程式の改変だよ。数か月かけて作って、正解だと思っていたのに間違えるなんて。」
「そんなもの作っていたの?」
「そうだよー。性格を数字で表して、そのうえでおこった現象を場合ごとに数字に細分化することで、計算できるようになっていたんだけど...」
と、姉さんは透明なディスプレイを回して式を見せてくる。
そこには、数十行にもなる式が書かれていた。
「もう間違っているけど、これが場合分け表ね。」
と、辞書のような数千ページにもわたる資料を渡される。
中には、時、場所、人数によって細分化された数値が設定されている。
「もしかして...姉さん。」
「どうしたのー。
「毎回計算を解いて、私たちの気持ちを、察していたの?」
「そうだよー。私には他人の気持ちがよくわからないからね。わかるようにはいろんな努力したんだけどね。無理だから計算で出せるようにしたんだよー。」
元から分かっていたけど...姉さんらしいとしか言えない。
「そ、そうなんだ。ちなみに私は今何を考えていると思う?」
と、質問を投げかける。
「式が間違っているから出せるわけないじゃん。まあ、それに代入するなら、驚きと、あきれだね。なぜかはわからないけど。」
「へ、へー。」
と、驚きと困惑からかかそんな言葉が口から洩れる。
「まあいいや、ちょっとこの後、用事ができたから先帰るね。式を改めて立て直さないといけないしね。
と、マイペースな姉さんはとっとと帰ってしまった。
評価や感想をくれると中の人が喜びます。よろしくお願いします。
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