変化の連鎖は、10年前のあの日から (七人の母)
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原作開始前
アルムとライザ


色々読んでたら触発されたので投稿してみました。
二次創作自体初なので色々拙いかもですが、読んでいただければ幸いです。

時系列は原作スタートの丁度1年前です。


「―さて、とりあえず親父に頼まれた分は終わったな」

 

ある晴れた日の朝、クーケン島にある島外れの農場で俺、アルムレウス・レーゼンは農作物を収穫する親父の手伝いをしていた。俺達が担当する区画の規模は、少なくとも午前中に1人でやれなんて言い出したら周りから総スカンを食らうであろうくらいには大きい。

元々家族の手伝いは日頃の感謝もかねてするべきものだと考えているのもあるが、40も半ばを過ぎてそろそろ腰の調子が怪しくなってきたらしい親父に、この規模の畑を1人で作業をさせる、というのはかなり不安だという事情もある。

 

「エル、そっちはどうだ?」

「こっちも終わったよー、アルム兄」

 

同じく収穫の手伝いをしていた妹、エルに声をかける。フルネームはエルマリア・レーゼン。濃い目の水色のショートヘアに大きめのぱっちりとした眼、11歳という年齢相応の幼い顔立ちと小柄さをしている。ちょっとお転婆なところもあるが家族想いで要領が良い。家の手伝いもお使いから農作業まで自主的にやるので、周りの大人からも評判がいい。そのおかげでお使いでもちょっとだけ値段をまけて貰えたり、余ったお釣りをちゃんと母さんに確認を取ったうえで自分の小遣いにしていたりする。まあ、自慢の妹である。ちなみに近所に住んでいるシュタウトさん家のミオおばさん曰く「うちの娘にももっと見習ってほしい」だそうだ。

…俺の名前について「物語の重要な敵役にいそう」なんて言い出されたときは、流石にちょっとだけムッときたが。溜めた小遣いで最近嵌っている騎士道物語系の本を買い集めているせいか、そういう考えが偶に浮かんでくるらしい。因みにその時何か言い返そうと思ったが、妹は敵どころかヒロインのような名前な気がしたのでやめた。

 

「そうか、なら…親父ー、そっちは大丈夫か―?」

「ああ、心配はいらん。終わってるぞ」

「なら良かった。最近母さんが心配してたからな。腰を庇うような動きが多くなってきたってな」

「気を付けてよお父さん。ぎっくり腰はシャレにならないっておじいちゃんたちみんな言ってたし」

「解っている。…いい腰巻とかあればいいんだが」

 

そしてこの全方位から腰の心配をされているのが俺達の親父、ウェイン・レーゼン。黒っぽい藍色のちょっとツンツン気味な短髪、少し皴があるものの精悍な顔つきに、190cm以上の長身を持つ。普段は穏やかで、子供たちには優しいおじさんとして人気があるが、農業には一家言あり、弟子が結構いる。…そこは普通先生と生徒とかじゃないのか?と思わなくもないが、指導するときは結構厳しかったらしく、師匠と弟子、といった方が表現としてしっくりくる状態だったそうだ。

因みに一番弟子とされているのがカールさん。ミオおばさんの旦那さんである。

 

「…よし、では帰るか」

「はーい」

「ああ。…ん?」

 

帰り際、ふと横を見てみると普段農場で見かけない人物がいた。さっき言ったカールさんと話している…ライザリン・シュタウト、愛称はライザ。白い帽子と黒いリボンを身に着けた、栗色の髪の少女。カールさんとミオおばさんの娘である。外の世界に大きな興味を持ち、面白いことを探して日々色々画策している、自称何の特徴も無い普通の女の子である。…エルはこの前、「あんなにばいーんとしてて特徴が無いとか…」と言っていたが、まあノーコメントで。

そもそも、個人的には見た目を抜きにしても特徴が無いとは言い難いと思っている。この島であれほど外に興味がある人間はほとんどいないし、屋根裏を部屋を改造して秘密基地なんて作るし、いきなり魔法を使いだすし。魔法に関しては、なんとなく思い付きでやった「炎出ろ」で本当に出した俺も人の事は言えないが。

…ついでに言うと、俺の初恋の相手でもある。理由は…まあ、笑顔が眩しかった、とだけ。

しかし、農業に興味が無く、何かと理由を付けて逃げていたライザがなぜここにいるのか?疑問に思った俺は話しかけてみることにした。

 

「おはようライザ。珍しいな、農場にいるなんて」

「え?あ、アルム。おはよー」

「おはようアルム君。そっちはもう終わったのかい?」

「ええ。…で、ライザが遂に農業にやる気を出したんですか?」

「…えーっと」

 

そう聞いたら、ライザは顔を少し赤くして目をそらした。…なにか恥ずかしい理由でもあるのか?だとしたら聞かない方が良かっただろうか。

 

「ああ、なんでもアルム君とエルちゃんが真面目に手伝っているのを見て、自分もそうした方がいいんじゃないかと思ったそうだよ」

「お父さん!?」

「嘘は言ってないだろう?」

「いや、うん、無いけど!」

 

…意外と普通の理由だった。まあ、確かに切っ掛けとなった本人に聞かれるのは少し恥ずかしい理由だろうが…今まであの手この手でサボってきたあのライザが、それだけでいきなり農業の手伝いをしようなんて思うか?というのが正直な感想である。俺は勿論、エルも手伝い始めたのは去年のちょうど今頃だし、それを今まで知らなかったということは無いだろう。何故、今更になって?

まあ、そこを突っ込んで急にへそを曲げられても困るので、追及はしないが。

 

「きっかけが何であれ、ライザが農業を手伝ってくれるのは凄く嬉しいよ。そしてここからどんどん農業を興味を持ち、自分が畑の一部に感覚を好きになってもらって、この農地を継いでくれれば…」

「いや、そこまでは流石にちょっと…」

「…カールさんって、農業のお話しするときなんか凄いよね」

「ああ…言いようのない圧が滲み出ているというか」

「…正直、ここまでになるとは思っていなかった」

 

カールさんの農業キ…じゃない、農業大好きっぷりは本当に凄まじい。元々好きではあったらしいが、親父の指導を受けてから土の声がどうとか畑の表情がどうとか言い出すレベルでのめりこむようになったそうだ。…どういう教え方をしたのか聞きたかったが、ここまでになっているのがカールさんくらいの為、たぶんこの人にそういう素質があっただけなんだろう。いやどういう素質だ。

というか、ライザが農業から逃げてた理由、この農業トークの圧力も何割かは占めていると思う。興味を持ってもらうなら初歩の初歩から一歩ずつの方がいいのに、カールさんはいきなりこれぞ真髄!ってレベルの感覚の話をしてくるのである。いきなり言われても訳が解らないだろうし、押しが強すぎて色々引けてしまうだろう。勿論、ライザ自身の性格とか感覚とか、そっちの割合の方が大きいだろうが。

 

「っと、これ以上仕事の邪魔するのも悪いですし、俺たちはこれで」

「うん。これからライザと仲良くしてくれると嬉しいよ」

「お父さん!…あーもう、またねアルム!エルちゃん!」

「うん!お昼過ぎたら一緒に遊ぼーね!」

「言われるまでもないだろうが、しっかりやれよ。カール」

 

そうして、ライザたちと別れ家に戻った。さて、昼からは何をするか。エルはライザと遊ぶつもりみたいだし…レントの奴の特訓にでも付き合うか?それともタオの本を読み解くための資料探し?いや、島の周りを改めて探索してみるのもいいだろうか。もしかしたら新たな発見とか変化があるかもしれないしな。

こういう島だからこそ、変化に出会うのが面白い。自分から見つけるのはなお面白い。それでも満足できなくなったら…島の外にでも、出てみようか。

 

 

 

 

「…ふー」

 

アルムたちと別れたあたしは、心を落ち着かせるように息を吐いた。…正直、周りからはバレバレな態度じゃなかったかな。もしそうだったらすごく恥ずかしい。特にアルムには今知られたくない。まだあたし覚悟できてない。

 

「どうしたんだい?既にかなり疲れてるみたいだけど」

「何割かはお父さんのせいだよ…いきなりバラさなくたっていいじゃん」

「ん、肝心なところは伏せたつもりだったけど…」

「そうだけどさー…」

 

肝心なところ、っていうのは…まあ、なんというか、うん。気が付いたら特定の異性…私の場合、男の子のことを考えるようになってたり、声が聞こえたり顔が見れるだけで嬉しくなったり、でも覚悟ができるまでは知られたくないってなるアレのこと。…要するに、恋である。

あたしは、あのアルムレウス・レーゼンという男の子に恋をしている。年はあたしの1つ上。後ろで束ねた藍色の長髪、レントのお父さんのザムエルさんと同じくらいの身長に、細く見えるけど結構鍛えられてる体。顔は…男前って言えばいいかな。鼻は少し高めで、眉毛は濃い目で目つきもちょっと鋭い。普段は落ち着いていて家族想いで、だけど時々あたしたちの想像を遥かに超えることをしてくる、彼に。

 

 

 

 

 

切っ掛けは10年近く前、私がレントとタオ、そして島の水源を押さえてるブルネン家の息子、ボオスの4人で水没区画を探検していた時に、あたしが足を滑らせて湖に落ちてしまった時の事だ。あたしは辛うじてレントに引っ掛かり、そのままレントがあたしを、タオがレントを引っ張って流されないように3人で踏ん張っていたんだけど、そこに偶々近くにいて、あたしが落ちる音を聞いたアルムが駆け付けた。アルムは自分が流れに飲まれないギリギリまで湖に近づいて、あたしの体を持ち上げるように引っ張り上げて助けてくれた。

…これだけなら、まだ惚れるところまではいかなかったと思う。助けてくれたっていうなら、レントとタオもいたし。肝心なのはここからだ。何とか救出されたあたしは、湖に落ちて体が冷えたことと、溺れそうになった恐怖で頭の中がぐちゃぐちゃになってた。多分、顔にもすごく出てたと思う。そんなあたしを、アルムは、ぎゅっと抱きしめた。そして、優しい声で言ってくれた。

 

『だいじょうぶ。もう、だいじょうぶだよ』

 

その言葉にあたしは安心しきって、緊張の糸が切れて、わんわん泣いた。怖かった、死んじゃうかと思ったって、全部吐き出した。その間も、アルムは私を抱きしめながら、優しく背中をトントン、と叩き続けてくれた。その時は、自覚は無かったけど。そこから、あの優しさと温かさから。あたしの恋は始まった。

…因みにこの後、アガーテ姉さんを呼んできてくれてたボオスに、逃げたと勘違いしてひどい言葉を投げかけそうになっちゃったけど、アルムが『ボオス?アガーテさんをよんできてくれてたの?ありがとう』って言って落ち着かせてくれたのでボオスにも素直にありがとうって言えた。多分アルムがいなかったら、あそこで「なんで逃げたの」とか言って、私たちの関係は凄く拗れてたと思う。そういう意味でも、助けて貰った。

 

 

 

 

 

そして、なんでその恋心が農業を手伝う理由になるのかというと…アルムとエルちゃんは、農業の手伝いをやるべきこととして捉えてる。で、あたしはそれを一切やってない。…つまり、あの2人からすると、あたしはやるべきこともせず好き勝手やってるだけの女の子に見えてしまうんじゃないかっていう危機感からだ。…見えてしまうっていうか、実際そうなんだけど。

そしてあたしは思った。そんなことで嫌われる可能性があるなら、大人しく農業手伝った方がいい、と。…まあ、あの2人がそれであたしを嫌うことは無いと思うけど、いきなり不安になっちゃったんだから仕方ない。絶対ヤダ。もし嫌われたら最悪引きこもるかもしれない。それくらいショック受ける、確実に。

…因みにこの理由、いきなり手伝う気になったことをお母さんに不審がられたのでアルムに惚れてるところから全部話した。感想は「前々から思ってたけど、やっぱりアンタにはあの子しかいないみたいだね」だった。…うぅ、お母さんにもバレてた。

 

「それじゃ、そろそろ始めようか」

「うん。…て、あ。鎌ってここにあるっけ?」

「あるよ。予備はやりすぎなくらい用意しておけ、っていつもウェインさんに言われているしね」

「…そうかもだけど、流石にそれは多すぎない?」

 

その心構え自体は農業以外にも役立ちそうだけど…一家で20本はいらないでしょ。やっぱりこう、農業の事になるとなんかタガが外れるなあ。

そこまでになるってことは、やり続けてると意外と楽しくなるのかな。アルムは「つまらないとは言わないが、カールさんは流石に何かが違う」なんて言ってたから、結局お父さんがちょっと特殊だってことで終わりそうだけど。

まあ、そんなわけで心機一転、家の手伝いもそこそこ頑張ってみることにしたわけだけど…

 

「さーて、じゃあ今までサボってた分張り切っていきますか!」

「そこまでやる気になってくれているなら、フルーツの品質の見極め方も教えようかな。今日は午後から遊ぶ約束をしたみたいだし、明日からになるけど」

「…うえ、そういうのはちょっと自信ないなあ」

 

っていうか流石に教えるにはまだ早くないかな、それ?あたしがやる気出したの、昨日の今日なんだけど。まあ何かの役に立ちそうだし、ちゃんと聞いておこう。

…後々、具体的には来年の夏ごろから、むしろ私の人生に一番重要なスキルになるなんて、この時の私には想像なんて欠片もつかなかったけど。

 

まあそんな感じで、変わり映えのしない島の日常で、ちょっとだけあたしが変わった。そんなお話だ。

…いつか、アルムとの関係も変えられるといいなあ。もっと良くて、深い関係に。




本文中で書けなかったあれこれについて

Q,何でアルムは偶々ライザを助けられるところにいたの?
A,アルムも1人で探検してました。この一件以前はそこまで関りも無かったので、一緒に探検するほど仲良くなかったです。

Q,何でアルムはライザを落ち着かせることができたの?
A,当時既にエルが産まれており、妹に何かあったときの為にあやし方の勉強をしていました。にしたって、当時7歳くらいの子供がそうそうできることじゃないでしょうが。

Q,ボオスとキロはどうなるのこれ?ライザたちと拗れてないとこの2人あのタイミングで出会わなくない?
A,そこまで書くかは決めてないです。ただ、原作にあったイベントでライザが男に惚れるタイミングってここぐらいしかなくね?ってなったので思いっきり改変しました。
3/19追記 どうにかしました。


読んでいただきありがとうございます。良ければ感想、指摘等お願いいたします。


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アルムとレント

気まぐれ更新(間が開くとは限らない)
二次創作2話目にしていきなり戦闘描写。短いけど。

ザムエル氏に対する扱い及びに、作中のキャラが実際にそうなるわけではないですがエグイ表現が出るので、念のためアンチ・ヘイトとRー15と残酷な表現のタグを足しておきます。後、描写してたらアルムこれ強いわってなったので主人公強キャラのタグも入れておきます。斬り方は調べました。
時系列は「アルムとライザ」よりは後で、でもそんなに経ってないくらい。

それと、直接飲酒はしないけど未成年がアルコールに酔ってる描写があるのでそこも注意です。


「…」

「…」

 

砂浜の上で、俺は一人の男と対峙している。レント・マルスリンク。オレンジ色の短髪と精悍な顔立ちを持つ、がっしりとした体つきの少年。俺の親友の一人だ。

レントは両手剣を正眼に構えている。俺は防刃仕様のブーツを履いた脚を開き、前に出している左脚に力を込める。決闘…とかではなく、俺が気が向いたときにやってる実戦形式の手合わせだ。普段はレントが素振りだけやっている。

…立会人はエルだ。物語の決闘の場面が好きとかで、どのポジションでもいいから真似事をしたくなったらしい。

 

「それでは…始め!」

 

エルのその言葉と同時に、俺とレントは前に駆け出した。まずはレントが体の捻りと梃子を利用したコンパクトな一文字斬りを放ち、俺がそれをしゃがんで回避。レントはすかさず左袈裟斬りを繰り出すも、それを跳んで躱しながら額に右膝を叩き込もうとする。しかし咄嗟の反応か読まれていたのか、頭を右に傾けるだけで躱された。そこから俺の脚を掴もうと腕を伸ばしてきたので、肩を足場にし蹴り気味に跳躍。レントの間合いのギリギリ1歩外に着地し、すかさず飛び蹴りで距離を詰めつつ攻撃。レントはギリギリで振り向くのが間に合い、腕でガードしながら剣を構え、真っ向斬りを放つ。

 

「もらったぁ!」

「ッ!」

 

俺はすぐさま着地し、右側に軽く跳んで回避。そしてその勢いのままに…

 

「シャラアッ!」

「がっ…!」

 

右足を軸にした回し蹴りを、背中に叩き込んだ。完璧と言っていいほどのクリーンヒットだった。そのまま体制を崩し、膝をつくレント。そして、そのまま、お手上げと言わんばかりに両手をあげ…

 

「…参った」

「勝者、アルム兄!」

 

降参を宣言した。最後のは少しヒヤッとしたが…上手くいったな。

 

 

「なんていうか…2人ともよくわかんない動きしてた」

「お互い手の内が大体解ってるからな。初見の相手にあんなことはできないよ」

「しっかし、お前どうやったらあんなに砂の上で動けるんだよ。特別な訓練でも受けてるとか言わねーよな?」

「小さいころから探検も兼ねて砂浜を結構走り回ったりしてたからな。慣れてる」

「いやでも最後の回し蹴りとかなんだよあれ。普通転ぶか威力出ないかのどっちかだろ。正直吐くかと思ったぞ?」

「流石にあれはちょっとした賭けだったな。失敗したら負けだったよ。威力に関してはすまん、手加減できなかった」

 

手合わせが終わってお互いに感想を言い合う俺とレント。ただぶつかり合うだけじゃなく、その後にこうやってお互いの意見を出し合う方が上達も早くなるからだ。

 

「こっちとしては、あの時突きが飛んできてたら崩されて、そのまま押し切られてたかもな。多分賭けに出ることすらできなかった」

「…あー、言われてみりゃそっちの方が速く撃てたな。くっそ、いざって時どうしても力技に頼っちまうな。これじゃ魔力有りのお前と戦うなんてまだまだ遠いぜ」

「…正直、そっちは手合わせではやりたくないんだがな」

「何でだ?」

「例えば最後の回し蹴り。あれに俺が魔力を込めてた場合…多分背骨が折れて脊髄が焼ける」

「いや怖えな!?その辺セーブするとかできねえのかよ!?」

「蹴りの威力は兎も角、魔力はまだちょっとな。少なくとも人間相手には駄目だ」

 

俺が扱えるのは炎と風の魔法。10歳の頃に炎を出してから全属性試してみたら風も出たが、体に纏わせることはできたが飛ばすのは何を試しても無理だった。なので、この2属性を脚に纏い動きを加速させつつ強化した蹴りと炎を同時に叩き込むのが俺の本気の戦い方だ。とはいっても、威力に関してはまだその辺に鎮座してた岩にしか試したことは無い。一撃で砕け散ったが。

因みに風が出せるようになったことをライザに教えたときは凄く目をキラキラさせてた。こっちとしては飛ばせるお前やタオの方が羨ましいんだがな…

 

「ところで気になったんだけどさアルム兄」

「何だ?」

「掛け声、ちょっと乱暴な感じだったね。しゃらーって」

「…あー。なんか、テンション上がってしまってな」

「お前、普段が普段だからギャップすげえんだよな。前はタオに立ち会い頼んだんだが、メチャクチャビックリしてたぞ」

「うん、わたしもびっくりした。アルム兄にこういうとこあるんだって」

 

普段は落ち着いてるとかよく言われる俺だが、こうしてレントとの立ち合いをすると急に気が昂って、ちょっと乱暴というか好戦的になってしまう。俺をよく知ってる人たちがこれを見た時はみんな驚いてたな。…ライザは考えるような仕草をして何か呟いてたが。何を言ってたんだろうか。

 

「ま、とりあえず改善点も色々見つかったし、ちょっと休んでから特訓の続きだな。付き合ってくれてありがとよ、二人とも」

「ああ。次も勝たせてもらうぞ」

「それとザムエルさんをやっつけられるように頑張れー!」

「おう!あの糞親父もいつかノしてやる!」

 

そんな感じで今日の特訓は終わり。まだ家に帰るには早いし、手合わせの振り返りを改めてしつつ、雑貨屋で面白そうな本が無いか見てみるか。

…しかし、エルにすらそういう人だって見られてるのか、ザムエルさん。否定できる要素が無いが。

 

 

 

 

「さて、と…」

 

近くの岩場に腰を下ろしながら、まずはさっきの手合わせの反省を改めてすることにした。っつっても、やっぱりあいつが言ってた通り最後の一撃くらいしか…いや、そもそもあいつも熱くなって真っ向勝負仕掛けに来たからああなっただけで、あそこで跳び蹴りで脚狙われてたらこっちが崩されて反撃もできず負けてたんじゃねえの俺?

そう考えるとあいつも意外と隙があったりするんだよな。逆に言えば、純粋な力ではまだ差が大きいってことなんだろうが。

 

「まだ遠いな。あいつも、親父も」

 

冒険者としてあの山の彼方の塔を攻略して、島の連中に目にもの見せるっていうのが俺の目標だ。その為には、アルムにも親父にも勝てるくらいの力を付けないといけねえ。特に親父は、昔は傭兵として旅してたらしいが今じゃ飲んだくれの家庭内暴力ヤロウだ。…最近なんか、ちょっと焦り出してるような感じがするが。まあ知ったことじゃねえな。

アルムの奴は、あいつも普段何かしら鍛えてるんだろうし、近いうちに間違いなく落ちぶれて鍛え直してもねえ親父より高い壁になる。あいつに勝てるようになるには…まあ、結局のところいつも以上に特訓するしかねえか。

 

「っし、やるか」

 

まだちょっと背中が痛むが…これはこれで、体に無理をさせない動きの特訓になる。力は大事だが、それだけであの塔に行けるとは思ってねえ。技も鍛えなきゃな。

 

 

で、日が暮れてきたからそろそろ切り上げて家に帰ろうとしてたら…その途中でライザとボオスに会った。その先には人だかりがある。…まさか、また親父か?

 

「ライザ、ボオス。なんだこれ?」

「あ、レント!」

「レントか。大体予想はついてるだろう?ザムエルだ」

「やっぱりか…また何かやらかしたのか?」

「あー、えっと」

「いや。今回は自業自得ではあるが、やられている方だ。…アルムに」

 

アルム?あいつが自分から騒ぎを?考えにくいな…

 

「アルムって、臭いだけで酔っちゃうくらいお酒に弱いよね?」

「おう」

「で、酔っぱらっちゃうと…いつもの落ち着いた感じが無くなって、ちょっと口調が乱暴になるよね?」

「…おう」

「…すっごい家族大好きで、ザムエルさんに良くない感情持ってるのは知ってるよね?」

「…」

 

なんだ、この物凄い嫌な予感は。あいつ今何してるんだ…?

 

「…いつも見たいにお酒売れって怒鳴ってたザムエルさんに、「昼間っからダラダラ酒飲んでんじゃねえよ。子供が見てんだろうがオイコラ」みたいなこといって、その…そのまま説教してる」

「説教!?」

 

うっかりノしちまったとかじゃなくてか!?予想外にもほどがあるだろ!っていうか酔ったアイツやっぱ口悪いな!

 

「ザムエルさんも最初は、怒鳴り返してたんだけど…」

「その生活態度のせいで妻に逃げられたことを指摘されたあたりから完全に冷静さを無くし、アルムが主導権を握り出したな。更に「レントがアンタのところから巣立った後、ここに戻ると考える可能性は低い。そうなったら本当に1人ぼっちだぞ」と追撃したら狼狽して後ずさった」

「…やっぱ気にしてたんじゃねえか」

 

ったく、だったら母ちゃんにはちょっとくらい優しくしときゃ良かったんだ。そしたら出て行かれることも無かっただろうによ。

まあ、今更それを知ったところで俺も目的を変える気はねえけどな。せめて、巣立つ俺の背中を見届けるくらいはしてくれよ?

 

「まあ、近くには護り手達もいるし、暴れ出しても大事には至らないだろうが…この事態を速く収める為に手を―」

「っレント!おい、お前のダチだろうがこいつは!なんとかしろ!」

 

貸してくれ。そう言おうとしたであろうタイミングで親父が俺に気づいた。だが、俺の返答は一つだ。

 

「できるわけねえだろ!酔っぱらったそいつマジで性質悪いんだよ!俺が口で勝てるわけねえだろうが!」

「っていうかそもそもレントはアンタみたいにとやかく言われるほど問題ある奴じゃねえし、むしろ母親に会えないわ、日頃酒臭さと暴力に見舞われてるわで完全に被害者なんだよ。アンタのせいでな。解ってんのか?」

「ぐっ…!」

 

アルムがそう言って親父が怯んだところに、エルが近づいて行った。…エルが!?いや危ねえから離れろ!アルムも流石に酔いが吹っ飛んだのか、慌ててエルを止めるようとするが…エルは左手を腰に当ててザムエルさんをビシッと指差した。

 

「いつもレントさんをいじめてるのに、自分がピンチになったら辛いことを押し付けようとするの…」

「な、何を…」

「みっともない!!」

「!!!」

 

その一言に…親父はもう、何も言えなくなっていた。流石に、あんな小さな子供に怒られるのは堪えたみたいだな。

 

「…ある意味最強かもね、エルちゃん」

「アルムの影響か、妙に利口で度胸があるからな。…どうする、レント」

「…俺じゃどうしようもねえよ、なんて言えばいいのか解らねえし」

「…あ、父さんと母さん」

 

カールさんとミオさん?2人も来てたのか。

 

「やあ、レント。いきなりだけど、ザムエルは私たちに任せてくれないか?」

「ようやくゆっくり話ができそうな状態になったからね。…あの子には感謝しかないよ」

「…わかりました、お願いします」

 

2人に親父を任せて、俺達はアルムとエルのところに向かった。

 

「ようアルム、さっきぶりだな」

「レントか。ライザとボオスも…変なとこ見せちまったな」

「あ、レントさん。ライザお姉ちゃん。ボオスさん」

 

口調からすると、まだアルムは酔いが抜けきってないみたいだな。少し顔も赤いし。

 

「すまんボオス。騒ぎになっちまった」

「お前が酒に極端に弱いのは知っている、気にするな。むしろよく暴力沙汰にせず収められたと思うくらいだ」

「そうか。それと…悪いな、レント」

「何がだ?こっちとしてはようやく親父が大人しくなりそうな切っ掛けを作ってくれたんだ。むしろ感謝してるよ」

「そうじゃなくてな…ザムエルさん」

「?」

「お前がやる前に、エルがやっつけちまった」

「すまん、わたしがやった。むん」

 

アルムの物言いと、胸を張ってどや顔をするエルに、その場にいた全員が噴出した。俺やライザは勿論、ボオスすらだ。反則だろそれは!?

 

「っはははははは!そうだな、言われてみりゃそうだ!親父はエルに負けたんだよな!はははははは!」

「正確には止めだけだが…くっ。エルにしか、刺せなかっただろう、止め、だな、くくっ」

「あははははは!もう、ホントにエルちゃん最強だよ!」

「むんっ」

「あははははは!それダメ!可愛くて面白くてダメ!あははははは!」

「今後エルの持ちネタになるな、これ」

「流石にそれは親父が不憫になるからやめてやれ!ははははは!」

 

つーか持ちネタってなんだ何を目指してんだ!気になってもっと笑えてくるんだが!?ライザとかもうツボに入ってるぞ!?

 

「さて、と。後はカールさん達が上手くやってくれれば万事収まるか」

「おじさんたちなら大丈夫だと思うよ?ザムエルさんの事一番気にしてたもん」

「そうだな。あの人たちなら心配いらないか…で、いつまで笑ってんだみんな?特にライザ」

 

マイペースだなお前ら!?この大惨事も収めてけよ!

 

「いや、だって、なんか、ツボに、入って、ちょっと、腹筋が」

「アルム兄」

「何だ?」

「なんかライザお姉ちゃんが辛そうだからぎゅってしてあげて?」

「えっ」

 

唐突にエルから飛び出す爆弾発言。いや、別の意味で収まんなくなるぞこれ?

 

「…人前でんなことできるか」

「むーん、そっかあ…いい方法だと思ったんだけどなー」

「え、えーっとエルちゃん?なんでいきなりそんなこと?」

「ひみつ」

 

そりゃバレてるからだろ、お前がアルムに惚れてんの。…つーかライザの知り合いはアルム以外、親父すら気づいてるし、なんならアルムも薄々感づいてんじゃねえの?

 

「だ、大丈夫だから!もう落ち着いたから!ね!?」

「そっかー」

「うん、そうなの!」

「…」

「えっと…」

「む」

「はいストップ」

 

アレ絶対また笑わそうとしてたよな…色々末恐ろしいぜホント。まだ11だろ?

 

「あー、なんだ。笑い疲れただろうし、今日はもう家で休んだらどうだ?」

「そ、そうだね!じゃあねみんなまた明日!」

「またねー!」

 

そうして逃げるように帰っていったライザを見送る俺達。…とりあえず、この別の意味で変な空気をどうにかしようとアルムに話しかけようとしたら…

 

「…人前じゃなきゃ、できるんだがな」

 

…物凄い小さな声だったが、なんかすげえ発言を聞いちまった気がする。え、お前も惚れてたの?言っちゃ悪いが、あいつ恋愛に関しては割とヘタレで、お前にアプローチらしいアプローチかけれてなかったよな?何が切っ掛けだ?

 

「…何でか知ってるか、ボオス?」

「…屈託のない笑顔にやられた、らしい」

「何で知ってんだ…」

「俺はお前たち程あいつとの距離が近くないから、かえって相談しやすかったそうだ」

「…そういうもんか」

 

…とりあえずこのことはまだ俺たちの胸の内にしまっておくか。バレバレのライザは兎も角、まだ表に出せないそれをバラすのは趣味悪いしな。

そしてこの場は、ボオスと当事者であるアルムが号令をかけて一件落着となった。

 

 

その夜、もう寝るかって時間に親父が家に帰ってきた。…あんな消沈した親父、初めて見るぜ。

 

「…レント」

「…何だよ」

「…」

 

…何も言わず部屋に入っちまった。何か言いたかったのかもしれねえけど…まあ、気にするだけ無駄か。殴られるよりはよっぽどいいぜ。

 

「…さーて」

 

明日からも特訓頑張るか。俺の夢の為に、そしてアルムに勝つために。

 




Q,これ戦闘時間どれくらい?
A,10秒無いくらいです。

Q,この手合わせ、アガーテさんは何も言わないの?
A,普段はまともなアルムは勿論、原作より3人の悪ガキ成分が薄れた結果、レントに関してもそこそこ信頼されてます。やりすぎないだろう、ということで。

Q,ライザは何を呟いてたの?
A,「これはこれでアリかも…」

Q,この幼女強くない?
A,非戦闘面では最強かもですね。

Q,ライザ→アルムと比べて、アルム→ライザがあっさりじゃない?
A,はっきり描写するとしたらアルム視点で素面の時になります。今回はレント視点で、しかも酔ってたので。

Q,ザムエルは何を言おうとしたの?
A,…原作のライザみたいに、自分が悪いと思っていても言いにくい事ってありますよね。そういうことです。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


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アルムとタオ

気まぐれ更新とか言いながら3日連続更新である。
ちょっと期間が開きだしたら「コイツネタ切れたな」くらいに思ってください。

最後の一文をしっくりくるものにするの、特に難しいなあと思ってます。

今回はアルム視点の方が後です。
時系列は「アルムとレント」から大分飛んでます。原作まで3か月無いんじゃないかくらい。

それと、シリアスな上にある意味ぶっ飛んだ話になります。ついでにライザ本編のド級のネタバレです。

4/3 噴水関連の台詞修正。


「…こっちはダメだった。タオ、そっちは?」

「ダメだったよ…一体、どうすればいいんだろう」

 

アルムの家にある大きめの机に、本と内容を書き写したメモを置いて、僕たちは悩んでいた。とある日、僕はアルムの提案で二人で島中に聞き込みをしていた。僕の目標である、家の地下にある書庫の本を読み解く為の情報収集だ。元々いくつかの文字列は書き写してたから、それについて見覚えが無いか手分けして聞いて回ってたんだけど…答えは全て「ノー」だった。

 

「この島にあるなんてことない家にわざわざ置いてあるんだから、同じところに手掛かりの1つや2つあってもおかしくないんだけど…なんでなんだろう」

「村長も見覚えが無いと言っていたし、ボオスはモリッツさんや一応ランバーにも聞いたそうだが…。普段島民が行かないような場所にあるのか、それとも…そもそも島の外にあるのか」

「島の外…かぁ」

 

確かにそれが一番あるかもしれない。村長やモリッツさんすら知らないのなら、少なくとも纏められた資料としては残ってないのかも。…単純にご先祖様が趣味として集めてたものかもしれないけど、その可能性は一旦排除してる。それだと本当にとっかかりが無いし。だから、クーケン島に残されていることと特殊な文字で書かれていることから「クーケン島にとって重大な且つ秘密にしておいた方がいい何かが書いてある貴重な資料である」という前提で僕たちは動いてる。

…なんで「重大」って仮定しているのかというと、エルちゃんが「よくわからないところに眠ってるよくわからない本なら、多分そういうのだと思う!」なんて言ったから、とりあえずそういうことにしとこうかってことになったからだ。本が好きなのは良い事だけど、影響され過ぎじゃないかなぁ。

 

「そうだったら島の中で手掛かりを探してもしょうがないよね…だとすると、残った手段は…」

「この島に交易に来る船の商人に、ついでで良いから頼んでもらう…か。もっと成長すれば、外に出て探しに行けるかもしれないが」

「…できるかなぁ」

 

前者のほうは、ボオスにお願いすれば頼んでくれるかもしれないけど、見つかるかどうか分からないし、後者は…そもそも、外に出て無事でいられるかどうかがわからない。レントの冒険についていけば大丈夫かもしれないけど、そこまで待ってくれるとも限らないし、僕の都合でレントの気勢を削ぎかねない真似はあまりしたくない。

…逆にライザはもうちょっとくらい気勢を削がれてもいいと思う。少しだけ大人しくも真面目にもなったけど、相変わらず色々振り回されてるし。…8割くらいレントが。っていうかその行動力アルムにも発揮しようよ。絶対アルムからも脈あるよ、「俺は呼ばれないんだよな…」なんてちょっと寂しそうに洩らしてたし。まあ、アルムのイメージに配慮してるのかもしれないけど…レントの体力にも配慮してあげよう?

 

「まあ、どっちにせよ今できることじゃないな。じゃあどうするか…」

「どんな本なのか、もっと考えてみるとか?」

「わ、エルちゃん」

 

唐突にぴょこっと顔を出してそんなことを言うエルちゃん。確かに、今この本についてできそうなことはそれくらいかも。

 

「もっと、か。何がどう重大なのかってことだよね」

「…あの枯れた噴水から、水が噴き出るようになる方法とかか?」

「生活とブルネン家のあれこれに直結しそうだね。…そもそもこの本、見たことない文字がすごく綺麗に揃って書かれてるんだよね。もしかしたら文字の書き方も特殊なのかも」

「文字だけでなく、筆記具もか…だとすると、何かしらの特異な技術についての本かもな」

「何かしらの技術書ってこと?…それ、クーケン島もその特異な技術に関わってるってことにならない?」

「前提からすべて想像でしかない、この説が正しければな」

 

…もし本当にそうなら、そんな本を地下に保管してた僕の一族って結構重大な役割があったりするんじゃ…だとしたら、尚更資料とかちゃんと残しておいてほしかったなぁ

 

「特異な技術って、良く解らないけど凄い技術ってこと?」

「うーん、まあそんな感じかな?」

「じゃあ1個思いついた!」

「なんだ?エル」

「実は、誰かがつくったものだった!」

「…何が、だ?」

「クーケン島!」

「…」

 

…子供の想像力って、いや僕も年齢的には子供なんだけど、時々とんでもないことを思いつくよね。つまりエルちゃんは、その特異な技術で何者かがこの島を「建造」したってことを言いたいみたい。今どんな本読んでるんだろう、この子。

でも、もしそうなら、この本は…

 

「…正直、荒唐無稽が過ぎると思うが」

「…うん」

「もし本当に、今のエルの思い付きが真実だとしたら…」

「…この本は、クーケン島の【歴史書】とか【取扱説明書】かもしれないってことになる、よね。で、歴史書なら別にみんな読める字で書けばいいから…」

「…説明書の方が可能性がある、か」

 

…なんかすごい話になってきた。しかもこれ、そう考えると辻褄が意外と合うんだ。

まず説明書だっていう仮定は、どれだけ凄くても人が作ったものなら、きちんと整備しないといけない。だったら、その方法を書面で残してある可能性は高いから。

特殊な文字は、悪用の防止目的で専門的な技術と知識を持った人間以外に読み解かせない為。単純に秘匿すべき技術だったからかもしれないけど。

そしてもし説明書なら…途中にあった図は、恐らく機能を制御するための作業手順。今思うと部品みたいなものも描いてあった。

それ以外の挿絵も、機能の説明というか、そんな感じの内容に思えてくる。

そして、そこまで考えが行きつくと…

 

「…ねえ、アルム。今最悪な想像しちゃったんだけど」

「…何だ」

「島の、涸れてる噴水さ」

「ああ」

「昔は湧いてた水って、あそこから出てたかもしれないよね。それが、今出てないってことは…」

「…おい、まさか」

 

「…クーケン島、壊れかけってことにならない?それか、燃料不足」

 

…そんな僕の言葉に、アルムどころかエルちゃんまで絶句していた。

 

 

 

 

「…」

 

タオの「最悪な想像」を聞いた後…俺は海岸に来ていた。少しでも、クーケン島に関する発見をする為だ。もしクーケン島が人工物なら、どこかにそれらしい痕跡があるはず。そして、それが今まで見つかっていないのなら…

 

(…湖面の、下)

 

そこにあるとしか、思えない。今まで何で見ようともしなかったのか不思議なくらい、発見がありそうなところだ。

 

(…風の魔法を頭に纏えば、海水が目に入るリスクは減らせる。服が濡れるのは、炎で乾かせばいい。流れが強くなっても、魔力での強化で乗り切れる)

 

湖に潜る際の懸念事項を、1つ1つ確認する。そして…

 

「…行くか」

 

意を決して、飛び込んだ。そして少し潜ると…

 

「…ッ!!!!」

 

目の前の光景に、驚愕した。

島の方を向いていたはずなのに、水中の光景が広がっていたからだ。上を見れば、勿論クーケン島がある。つまり…

 

(浮いて、いる…!この島は!クーケン島は!!湖の、上に!!)

 

そして、無人ならともかく…あれだけ人が住んでいて、あれだけの建物が建って、どことも繋がってない。そんな浮島が、沈んでいないし、そんな気配もない。自然の浮島で、そんなものができるのか?俺にはそうは思えなかった。ただの知識不足なのかもしれないが…

 

(だが、人工島だとしても…)

 

どういった技術があればこんなものができる?少なくとも1個人でこれをやろうとなればどれだけ時間がかかるか…想像もつかない。

 

(あの本、俺たちの想像以上にとんでもない技術が関わってるかもしれない)

 

これで、ただの良く解らん趣味の本だったら、ただの肩透かしで終わりだ。だが本当に、人工島の説明書なんてものだったら?そして、タオの最悪の想像が正解で、それを打開するために本に書いてある情報が必要だとしたら?…今の俺たちにどうこうできる程度の話じゃない。

なにせ、説明書を読み解くノウハウすら無い。なら、技術なんて以ての外だ。

 

(…友達の手伝いをしてただけ、のはずだったんだがな)

 

いくら何でも話が大きくなり過ぎだ。そう思いながら俺は湖から上がる。とりあえず、ボオスには商人への依頼を頼んでおくとして…

 

「…これ、タオに伝えるべきか?」

 

お前の最悪な想像が少し現実味を帯びてきたなんて、生来臆病なあいつにどう伝えればいいのか。服を乾かしながら、俺は頭を抱えた。




Q,こいつら察し良すぎじゃない?
A,アンペルさんが来ないと本が読めないから本の話できない→タオとの話も広げにくい から始まって
読めなくてもできる本の話ってないかな→内容についての妄想とか? ってなって
エルも出しつつ色々組み立てていったら、思い付きと推理だけでほぼ正解にたどり着いて、そしてダイビングで裏付け取れた。
…こうでもしなきゃ原作開始前のタオとの話が書けませんでした。ある意味ぶっ飛んだ話というのも、エルの思い付きとこの2人の推理力の話です。ご都合主義と言われても仕方ないかも…

Q,もう「ちょっとした」じゃすまなくない?
A,思いついたので変更しました。

Q,ライザ2的に、タオって色恋には鈍感なのでは?
A,ライザ→アルムに関してはレントが言いました。タオも「言われてみれば…」みたいに納得しました。とりあえず他人のは察せます。

Q,今エルは何を読んでるの?
A,人工島の上の決闘場、みたいなのが偶に出てくるシリーズものです。主の名誉のための決闘、みたいなのが時々描かれます。
よくわからないところに~という発想もこの本から来ました。

Q,「じゃあ今の水源って何?」みたいな疑問は出なかったの?
A,たどり着いた仮説があまりにも衝撃的過ぎて、そこまで思い至りませんでした。

Q,どうやって海水が目に入らないようにできるの?
A,風を纏わせて無理やりかきわけてます。要はフルフェイスのヘルメットを風で作ってます。

Q,前2話と比べて文字数少なくない?
A,後半が完全にアルム1人だし、ダラダラと推理してもアレなので。あと、シリアスに余計な話は差し込みにくかったです。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


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アルムと島の人達

そろそろ短編から連載に切り替えます。明日から仕事が始まるのでこれまでのペースでの投稿はまずできないと思います。

アルムの母親を出してなかったので、原作開始前の前振りと一緒に。
時間軸は原作まであと1~2週間くらい。

終始アルム視点。後半に行くにつれてシリアスになります。


「お早う、母さん」

「あら、お早うアルム!」

 

朝からこのハキハキした挨拶を返してくれるのは、俺の母親のルーテリア・レーゼン。水色の真っ直ぐな長髪に大きめのタレ目、周りの女性と比べても少し低い身長が特徴だ。いつも一家で一番早く起きて、俺たちの朝食を作っている。

 

「今日は早く起きれたし、手伝おうか?」

「本当?じゃあ、スープお願いしちゃおっかな」

「了解。…クーケンフルーツ余ってるな、これにするか」

 

まあ、俺も早めに起きるので、こうして朝手伝うこともよくあるのだが。因みに親父は俺より早く起きるが、厨房に立たせると碌なことにならないので居間に座っている。…母さんが真剣な顔で「ゴメン、こんなこと言いたくないけどアナタは一生料理しちゃダメ!」なんて言ったのは本当に衝撃的だった。多分今までで一番真剣な顔だった。今後更新されるかも怪しいくらいに。

まあ、実際そこまで言うレベルだったが。下手したら指どころか手首が飛ぶところだったからな。あのまま続けてたらエルのトラウマになってたな…

 

「ふぁ…おあよ…」

「エル、お早う」

「お早うエル!もうちょっとで出来るから待っててね?」

「うん…お顔洗ってくるね…」

 

エルも起きてきた。朝は少し弱いからまだ半分寝てるようなものだが、それでもあれくらいの年の子としては早い方だと思う。

 

「…よし、味はこれくらいでいいか」

「うん、こっちもいい感じ」

 

作り終わったので、2人で料理を居間に運ぶ。机に並べ終わったところで丁度エルが戻ってきたので、そのまま俺達も椅子に座り…

 

「いただきます!」

「「「頂きます」」」

 

全員そろって朝食を摂る。いつものこの家の朝だ。因みに、いただきますの号令はエルの1日の最初の仕事だ。

 

 

「…これなら、もうすぐ収穫できるだろう」

 

朝食を食べ終わった俺は親父と一緒に畑まで来ていた。収穫の手伝いは無いが、それならそれで色々勉強ができるいい機会だ。クーケンフルーツの「摂り頃」とかな。

 

「どこを見たら解りやすい?」

「まずヘタの際まで見ろ、そこまで赤く染まっていれば採り時だ。それか、ヘタから簡単に外れるものはまず完熟している。実の柔らかさで判断もできるが…それはまだお前には難しいだろう」

「なるほど」

 

言われてみると解りやすい特徴だ。一応後でどこかにメモしておくか…

 

「さて、他の奴らはしっかり様子を見に来ているだろうか…」

「ウェインさん、アルム君、お早うございます」

「カールか。ああ、お早う」

「お早うございますカールさん。…ところで、ライザは向こうで何を?」

 

いくつか並べられたクーケンフルーツの前でうんうん唸っているが…

 

「ああ、ちょっと品質の見極めのテストをね。自分からやってみたいって言いだして」

「…あいつが?」

 

…本当に、去年から思っていたがどういう心境の変化だ?別人じゃないかってレベルで農業に積極的だな。

 

(…どうやって乗せた)

(私は何も。ミオが「主婦の必須スキルみたいなものだよ」なんて言ったら物凄く乗り気になりました)

(扱いをよく解っていると言うべきか。で、実際はどうなんだ)

(近所の主婦が集まって真剣に情報共有するくらいには本気です)

(…そうなのか)

(最近エルちゃんが生徒として参加してるそうですよ、お使いの役に立つからって)

(…いらん知識を身につけさせたりしないだろうな、それ)

 

親父たちが何か話してるみたいだが…そっちはいいか。とりあえずライザの様子を見るか。

 

「…むむむむむむむむむむむ…」

 

ガ チ だ 。特に目が真剣通り越して鬼気迫っている。何がお前をそこまで駆り立てるんだ。

 

「…結婚…結婚した後、役に立つ…いやでも、お母さんいつもこんな苦労…?いや私が知らないだけで…?それとも一瞬で見分けられるようになってる…?むむむ…」

 

悩みながらそうブツブツと言っているが、とりあえずうちの母さんは苦労してる側だ、心配しなくてもいい。エルは何か直感が働くみたいで、良いのを掴んだうえで割とすぐ終わるみたいだが。

…しかし、結婚か。ライザだってそういうことは気にするよな、女の子だし。…どんな相手を、想定してるんだろうか。

 

「…よし、コレ、コレ、コレ、コレ、コレの順!お父さんに答え合わせを…ひあぃっ!?

「…あー、ずいぶん真剣だったな」

 

考えてる間にライザが答えを決めたらしく顔をあげたが、俺を見た瞬間奇声を上げて顔を赤くした。いや、そんなにビックリすることか…?

 

「ん、終わったのかいライザ?どれ…おお、完全正解だよ。しかも5分で。凄いじゃないか」

「品質を見極める才能があるのか。5個同時で順番も当たりならまぐれの線は薄いだろうな」

「え、あ、えっと、ふははー、これがライザちゃんの才能だー!」(聞かれてないよね聞かれてないよね!?頭の中でアルムとの「そういう」生活を妄想してたの気づかれてないよね!?声に出てないよね!?なかったよね!?)

 

腰に手を当ててどや顔をするライザ。どう見てもなんか無理してるようなリアクションだが、そこには突っ込まないでおこう。単純に気になったこともあるしな。

 

「ところで、どうやって品質を見極めたんだ?」

「えっ!?えっと、いろんな角度から隅々までみたり、実の柔らかさとか重さとか比べたり、後は…」

「後は?」

「…勘?」

「…勘」

「まあ、結局のところはそこだ。とはいっても、本来は長年の経験を積み重ねて少しづつ養うものなんだが」

 

まさか、ライザにそんな才能があるとは。何に役立つのか、と言われたら…まあ、料理人か、それこそ主婦かといったところだろうか。…ライザは料理に関してはどうにも苦手みたいだが。まあ、食えないレベルではないので練習次第で上達は十分見込めるだろう。

 

「…凄いな。俺にはそこまで早くはできそうに無い」

「そ、そうかな。えへへ…」

「っ…」

(…カール、場違いじゃないか私達は?)

(いえ、むしろ近くで見守る特権を得たと思いましょう)

 

俺に褒められて喜ぶライザ。ああもう、直視できないだろうがそんな可愛い表情されたら。

後その暖かいのかよく解らん視線、気づいてるぞ親父共。やめてくれ。

 

 

農場での用事も終わり、昼食も済ませ、昼。エルがお使いを済ませてからシュタウト家に突撃に行くそうなので俺はいつも通り島中を練り歩くことに。

因みに例のどや顔は未だにライザに有効らしい。最近はその後抱きしめという反撃を食らうそうだが。

 

「よう、アルム」

「レント。今日も特訓か?」

「ああ。お前もどうだ?」

「…そうしようか」

 

いきなりレントと遭遇したので特訓開始。実践形式の手合わせ無しなら大体これで2~3時間くらいは経つ。

 

「二人とも、偶には私もいいか?」

「アガーテさん。…どうだ、レント?」

「願ってもねえ!今の俺の明確な目標2人との訓練なんてよ!」

「ふふ、護り手として、お前達にも遅れは取りたくないからな」

 

そして近くで聞いていたアガーテさんも参加することに。アガーテさんにも魔力無しでようやく渡り合えるようになってきたが、まだ足りない。

…外であの本の手掛かりを掴むためにも、もっと強くならなければな。

 

「しかし、最近かなり乗り気だよなアルム。何か目的でもできたのかよ?」

「まあ、そんなところだ。」

「何だ、ライザ絡みか?」

「…違いますよアガーテさん。何でライザが出てくるんですか」

「相場が決まっているだろう?男が強くなろうとする理由は、愛かロマンか、とな」

「…」

 

…愛は愛でも故郷愛である。しかも、現状杞憂かもしれない可能性の方が高い危惧が理由とは言えない。

まあ、アガーテさんは「ライザへの」という意味で言っただろうが。

 

「…あまり表に出してる自覚無いんですけど。解りやすいですかね、俺」

「いや、そう露骨ではないな。ただ…」

「ただ?」

「どれだけお前たちの姉貴分をやっていると思っている?気づくさ」

「…敵わないな」

 

どれだけ力で上回っても、この人には敵わないんだろうな、俺たちは。

 

「というか思ったんだけどよ、アガーテ姉さんそういうの興味あるんだな。男がどうとかって」

「ああ、エルからおすすめされた本があってな。中々面白くてついまとめ買いしてしまった」

 

…島中で流行らせる気か、エル?この前ボオスも買ってるのを見たぞ。

というかレント。お前まるで驚いてないが、知ってたのか。いつからだ。

 

 

特訓が終わってもうすぐ日が暮れるといったタイミングで、タオとボオスと遭遇した。…この組み合わせは珍しいな。

 

「…少なくとも、現状繋ぎがとれる商人たちは全員外れだ。読めそうな人間に心当たりも無いそうだ」

「…そっか。うん、ありがとう」

 

あの文字についての話か。しかし、ブルネン家の伝手でも空振りか。となると、いよいよ…

 

「…島の外に出て、直接痕跡や人物を探すしかないな」

「あ、アルム」

「だが、それでも見つかるかどうかわからないぞ。当てもないんだろう」

 

確かにそうだ。だが、少しでも手を広げた方が見つけやすいだろう。そうなるとやはり、近いうちに外に探しに行くべきかもしれない。

 

「…いい加減聞かせてくれ。お前たちはあの本に何が書かれていると睨んでる?以前までは「読み解きたい」だったが…今のお前たちは「読み解かなければ」と考えているように見える」

「…正直、全部は言えないぞ。荒唐無稽すぎて混乱させかねない」

「ああ、今話せそうなところまででいい」

「…もしかしたら、今の僕たちが知らないクーケン島の秘密について書いてあるんじゃないかって思ってる」

「秘密?」

「例えば、枯れている噴水の事だ。あそこから水を出す方法があるんじゃないか、とかな」

 

そういうと、ボオスは少し考えるような仕草をした。

 

「…なぜ、秘密が書いてあると?」

「クーケン島に残されている解らない文字で書かれた本なんて代物、そういうことを書いてあるに決まっている。…と、エルが」

「…アイツか。どう考えても妄想や思い付きの類なのに、否定しきれないのがな」

「実際僕達も最初は「まさか」だったよ。…今は「多分そうだろうな」くらいまでは思ってる」

「それが何故か…は、言えなさそうだな」

「ああ。これ以上は、な」

 

俺達の推理の過程を少し話せば、多分ボオスならたどり着くだろう。俺達の抱いた最悪な懸念に。…碌な根拠も無しに「実はこの島は人工物で、故障してる疑惑がある」「そう遠くない未来、この島が沈むかもしれない」なんて、伝えられはしない。なんならタオにも、クーケン島が浮島であることは伏せたままだ。

 

「…もしあの本に書いてある内容が、この島にとってよほど重大な内容だったら。絶対に、包み隠さず、話してくれ。約束だ」

「…ああ」

「…分かったよ」

 

そういって俺達はボオスと別れた。…正直、俺達はなんとなく予感していた。その約束は、果たされることになるだろう、と。

 

 

もうすぐ日が落ちそうなくらいになって、俺は家に戻った。…よし、エルもちゃんと帰ってきているな。あいつ偶にシュタウト家に泊まりたがるからな。

 

「アルム」

「何だ、母さん?」

「悩んでるの?それとも、何かを決めたの?もしかして、両方?」

「…正解、だよ。完璧に」

 

…本当、鋭いな。

 

「相談できるようになってからでいいから、ちゃんと私達に話してね。家族なんだから」

「解った。有難う、母さん」

 

俺は本当に家族に恵まれた。友達にも。だから、そんなみんなとの日常があるこの島に、危機が迫ってるかもしれないというなら。

俺は、動く。




Q,クーケンフルーツの収穫時期の見分け方ってどこから来たやつ?
A,公式でトマトの一種らしいので、現実のトマトのものをそのまま。

Q,アルムってライザの手料理食べたことあるの?
A,レントとタオもいました。多分そうじゃないと恥ずかしがって無理です。因みに評価は「もっと頑張りましょう」で3人一致。

Q,アガーテさんってそういう本が好きとかって設定あるっけ?
A,確か無いです。つまりオリ設定。独自設定のタグも入れておこうかな…

Q,エルはシュタウト家が泊まろうとしてるのはなんで?
A,あの子的にライザは既に「姉」認定です。要するにもう家族で良いじゃん的な。あとライザのあのスタイルの秘密を探ろうとしてます。つまり大体ライザが理由。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。次からもう原作突入ですかね。


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原作開始
いつもの日常から、一歩踏み出す


評価バーに色が付きました。しかも赤。
お気に入り登録数も増えてきて、初の感想まで。嬉しい限りです。

キャラ改変と原作キャラ強化のタグを追加します。どんどん増えていくなあ…
そして小説のタイトルも変えます。ようやく思いついた。

今回ついに原作突入。対岸への上陸は次回ですが…
今回も終始アルム視点です。


「…そろそろ、か」

 

今日の分の手伝いを終わらせ、そう呟く。

 

(あいつ等に、島の外に出ることを提案する)

 

退屈な島から飛び出して冒険がしたいライザ。塔を制覇し名を上げたいレント。家の地下にあった謎の本を解読する手掛かりを見つけたいタオ。

三者三様、しかし共通して島の外に目的がある。話をすれば乗ってくれるだろう。そして、俺自身の目的。

 

(クーケン島が人工の浮島なのはほぼ確定とみて良いだろう。この前、島の下側を少し見てみたが…何かは解らなかったが、どう考えても自然にできるわけがない物質で出来ていた。

問題は、誰がどうやって作ったのか。気になって仕方がない)

 

元々、変化に出会うのは好きだった。正確には、変化したことにより生まれる未知との出会いが、だ。疑問と言い換えてもいいかもしれない。

「何で?」が「なるほど」に変わることほど、嬉しくて楽しいことも無い。そして…

 

(あの時俺達が抱いた危惧。それがもし当たっているとしたら…急がなければならない)

 

勿論、あんな最悪な想像は外れてくれた方がいい。だからこそ動く。杞憂なら、少しでも早く安心するため。危急なら、少しでも早く対処するために。

 

 

「父さん。母さん。エル」

 

まず話すべきは…やはり家族だろう。仲間を誘っておいて自分はダメでしたなんて冗談にもならない。

 

「俺は、島の外に出てみたいと思う」

「えっ?」

「…そうか」

「あら…」

 

驚いたエルと、どこか納得したような表情の父さんと母さん。

 

「出ると言っても、ずっとじゃない。少なくとも、暫くは余程の事が無い限りは一日で行って帰ってくるくらいのつもりだ。それがどれくらい続くかは解らないが」

「…もしかして、あの時の本のお話?外に読める人を探しに行くかも、って」

「ああ。あんな疑惑を持ってしまった以上、早く解消してしまった方がいいからな」

「…うん。エルも、もしもってちょっと不安だった」

「だから、決心がついた今行くんだ。お前の不安も、払ってやりたいからな」

「…わかった。大怪我だけはしちゃイヤだよ?」

「勿論」

 

エルも納得してくれたみたいだ。父さんと母さんは…

 

「…その内、外に出ていくだろうとは思っていた。予想より早かったが」

「どうにかなったら、またここに戻ってくると思う」

「まさか、1人で行くの?」

「ライザとレントとタオを誘うつもりでいる。あいつらも外に目的があるからな。…ライザだけ、親の許可が出るか心配だが」

 

最近はお使いとかも行ってるらしいとはいえ、ミオおばさんが厳しい人な為に許可をもらうのは困難だろう。ライザの事だから無理やりついてきそうだが…

 

「じゃあ、約束。無理はせず、みんな無事でいること。日が落ちるまでには帰ってくること。それが無理そうならできるだけ先に言うこと。良い?」

「ああ、解った」

「うん。じゃあ行ってきて宜しい!私達が許します!」

 

そうして、俺は外に出る許可をもらった。

 

 

次に、広場にいたレントとタオに話すことにしたが…

 

「いいぜ」

「いいよ」

 

話が早い。いや、助かるが。

 

「いきなり塔まで行けるわけねえからな。早めに外に出て冒険がてら修行して、少しずつ近づくのも悪かねえ」

「島の外は怖いけど…それよりも、本の手掛かりを掴めるかもしれないっていうワクワクの方が、今は大きいんだ」

「…レントは兎も角、タオは誰の影響何だか」

「アルムとライザだよ」

「むしろそれ以外誰がいるんだってレベルだな」

「それもそうか」

 

さて、後はライザか。本人は兎も角、ミオおばさんとカールさんだ首を縦に振るか…と、その前に。

 

「誘っておいてなんだが、タオと…一応レントも。このことは家族に話しておいた方がいいんじゃないか?」

「そうだね。うちは大丈夫だと思うけど…」

「…そうだな、あんなんでも親父だ」

「なら、終わってからまたここに集合だ」

 

 

少しして、タオとレントが戻ってきた。見た感じ大丈夫そうだが…

 

「どうだった?」

「アルムとレントが一緒だって言ったらいいってさ。あまり遅くはなるなとは言われたけど」

「レントは?」

「…どことも知れねえ場所でくたばったら、探してでも殴りに行く、だとよ」

「…らしいと言えばらしいな」

 

まあ、二人とも無事で許可を貰えたところで、いよいよ最後。ライザ…というかミオおばさんの説得をしなきゃならないわけだ。

どうすればいいか…と考えていたその時。

 

「アルム!と、レントとタオ?3人で何話してたの?」

「ライザか。まあ、丁度お前の話というか」

「あたしの?」

「ああ」

 

というわけで、ライザを外に誘いたいがミオおばさんをどう説得しようか考えていたことと、俺達3人は既に許可を貰っていることを話した。

 

「…うぐぐ、冒険は行きたい、凄く行きたい。でもお母さんが許してくれるか解らない。でもそれを無視してついていったらあたしだけやるべきことやってないみたいになる…」

「実際やってないしな」

「むしろ僕らがあっさり許可貰い過ぎな気もするけど」

 

まあ、タオの言う通り本来ならミオおばさんの方が普通だ。いきなり島の外に出ようなんてそうそう許可は出してもらえない。

 

「そういやタオは、俺とアルムの名前出したらOK貰えたんだよな?」

「うん」

「ライザもそうすればいいんじゃねえか?」

「それだ!」

「いや、それでも厳しいんじゃないか?」

「だとしてもやるだけやってみる!お父さーん!お母さーん!話があるのー!」

 

…本当に行けるのか?

 

 

「アルム、ライザをお願いね。無茶しようとしたら絶対止めておくれよ!」

「あ、はい」

「農業の手伝いも続けてくれるなら文句はないよ。でも、できるだけ早く帰ってくるんだよ?心配になるから」

「うん、わかった!」

 

…何か上手くいったようだ。何でも、最初は「いきなり何言ってんだい!」だったが、俺に誘われたと言ったあたりで流れが変わって、最終的にカールさんの「こうなったら意地でも聞かないだろうし、少しくらい自由にやらせてみよう。アルムもいるし大丈夫だよ」という言葉でミオおばさんが折れたらしい。

というか俺、この夫婦からの信頼度高すぎないか?低いよりはずっといいが…

 

「それで、冒険は何時から始まるの?」

「3日後。色々準備がしたいからな。傷薬とか、対岸の周辺の詳しい情報とか…」

「武器はどうするよ?俺とアルムは持ってるけどよ」

「えーっと、ちょっと考えてみる」

「ふっふっふ、こんなこともあろうかとコツコツ作ってたものがあるんだよね~」

「…武器の自作までしてたのか」

「元々あたしも言い出そうとしてたからね、冒険に出ようって。まあ、先を越されちゃったけど」

 

…本当、お前のどこが平凡だ?まあ準備してあるのなら問題は無い。後は…

 

「と、そうだ。アガーテさんにも話しておいた方がいいな。何かあったら真っ先に苦労を掛けるであろう人だし」

「うげ、そうだった。ある意味一番の強敵が残ってた」

「俺とレントは結構信頼されてるみたいだが、許してもらえるかどうか…」

 

で、話してみたら…

 

「上から押さえ続けるより、緩めた方がかえって安全だろう、お前たちの場合は。アルムとレントがいるなら、近場は問題ないだろうしな」

「…良いんですか?」

「どうせ何を言われても止めるつもりはないんだろう?ちゃんとした目的もあるみたいだしな。で、お前達、船はあるのか?」

「一応、七色葡萄の林の先の船着き場にあるけど…」

「アレか。相当古かったと思うが…」

「もし駄目そうなら、相談しても?」

「いいだろう。早めに言えよ」

「有難うございます」

 

さて、アガーテさんも大丈夫なら、最後に言うべき相手は…

 

「行くのか」

「ああ」

 

向こうから来た。無論ボオスだ。

 

「どれくらい掛かる?」

「解らんな。少なくとも、あの塔を制覇するまでは続くが」

「それまでに手掛かりが見つからなかったら?」

「探すに決まっている。俺達だけじゃない、エルも不安がっているしな」

「なら、早く終わらせてやれ」

「ああ」

 

それだけ話して、ボオスは去っていった。

 

「…えっと、エルちゃんが不安がってるって?」

「タオの本に関することで色々あった。とだけ」

「…いつかちゃんと話してよ?」

「勿論だ」

 

さて、言うべきは全部言った。3日後、いよいよか。

 

 

そして、その日が来た。各々武器等を準備し、流石に危険そうだったのでアガーテさんに相談して、用意してもらった船に乗り込む。漕ぐのは俺とレントだ。

 

「さあ、しゅっぱーつ!」

 

ライザの号令で俺達は船を漕ぎ始める。各々、目的を胸に抱き。

 

(待ってろ、大冒険!)

(あの塔のてっぺん、絶対にたどり着く!)

(本を解読する手がかりを見つけて、全て読み解いてみせる!)

(俺は、真実が知りたい。この冒険の中で…掴んで見せる)

 

いざ、冒険の始まりだ。




Q,みんな協力的というか、アルムの信頼度高すぎじゃない?
A,10年前のライザを助けた一件と、家族の手伝いを欠かさない家族大好き人間だということからアガーテさんとシュタウト夫妻からの信頼度が超高いです。その影響で周りの評価も大分高くなってます。
特にシュタウト夫妻は娘を助けてくれたことと、その娘が好意を抱いている相手だということから特に信頼しています。
因みにボオスに関しては信頼は信頼ですがちょっと毛色が違います。コイツは「やる」奴だ、みたいな。

Q,タオの両親って出てたっけ?
A,原作でも碌に情報がありません。ここでは、気弱な息子の何か決意したような顔に思うところがあったので許可を出した、くらいの認識でお願いします。

Q,ライザの武器って自作なの?
A,初期武器が名前からして「お手製の杖・改」です。アイテム図鑑の説明でも明言されています。本当にお前のどこが平凡だ?

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


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新たなる出会い、少女と戦士と錬金術士

冒険開始。この小説内でのアクティブスキルはフェイタルドライブを除き、オーダースキルとかそういう区別は一切無いことにします。なのでオーダースキルだけ単品で出したりします。

ゲームにいた場合のアルムの能力を大まかに言うと
・素のステータスは攻撃力は1位、素早さは2位、器用さは単独3位、HPと防御力は下から3番目。
・パッシブスキルは攻撃能力を高めるものが殆ど。防御面は回避上昇スキルのみ。逆に火力が上がるパッシブが7つもある。
・リラさんが「スキルに応じた精霊を付与して、全ての攻撃に永続で追加ダメージが付く」なら、アルムは「スキルそのものに無属性攻撃と別枠で属性ダメージがある。通常攻撃は無属性攻撃」
・通常攻撃のモーションがライザと同じくらい短い。
って感じです。

今回はライザ視点→とある少女視点。
今回、ライザたちは「漕ぎ手が二人いる」「強いのが二人いる」ということで、原作より到着も進軍もちょっと早いということにしています。


「とうちゃーく!」

「遂に来ちまったな、俺達」

「いよいよ、これからなんだね」

「ああ。俺達の冒険の、始まりだ」

 

ずっと憧れてた島の外。夢にまで見た大冒険。でも、今本当に、その第一歩を踏み出したんだ!

 

「今日は旅の商人が来ると聞いたから、もののついでに見られるかと思ったが…まだ来てないみたいだな」

「あー、確かにそれはちょっと残念かも。でも、これからの冒険のワクワクに比べたら…!」

「ウズウズしてんなあ。まあ、俺もだけどよ」

「じゃあ、まずはどこに行こう?僕とライザは訓練自体殆どしてないから、あまり強い魔物がいるところは…」

 

それもそうだ。まずあたし達は戦いに慣れなきゃいけない。このままじゃアルムとレントの足を引っ張っちゃう。

でも、街道を辿るっていうのもなー。アガーテ姉さん以外の護り手に見つかっちゃうとちょっと面倒だし。んー…

 

「じゃあ、小妖精の森に行ってみない?」

「…大丈夫かな、村の人たちが誰も近づこうとしないって話だけど」

「入口だけちょっと入ってみて、ヤバそうだったら即撤退でどうだ?」

「…そうだな、深入りし過ぎなければ、俺ならライザとタオを抱えて即座に脱出できるだろう」

「…レントは?」

「余程の魔物がいない限りは大丈夫だ。タフだからな、レントは」

「ああ、何かあっても、お前が戻ってくるくらいまでは持たせてやるぜ」

 

…うーん、凄い信頼関係。レントがちょっと、いやかなり羨ましい…

 

「さて、方針も決まったことだし、行こうか」

「うん!」「おう!」「うん」

 

というわけで、小妖精の森へ!よーし、行くぞー!

 

 

「ここが、小妖精の森…」

 

何ていうか、ぱっと見は普通の森って感じだなあ。名前に妖精って入ってるし、もうちょっと不思議な感じがするのかと思ってたけど。

…もしかして、あたしがそういうの解らないだけだったりする?

 

「見た感じはただの森…だな」

「今のところ、危ねえ感じは無えな」

「まあ、村の人達が勝手にそう呼んでるだけらしいし…」

 

良かった、みんな一緒だった。そんなことでほっとしていたら、物音がした。見てみると…

 

「ま、魔物だ!」

「コイツが…」

「確か青ぷに、だったか」

 

青いぷにぷにした魔物が来た。…名前もそのまま「青ぷに」なんだ。

魔物じゃなかったら可愛いと思うんだけどそうじゃないから、私たちにとっては危険な存在だってことになる。

 

「さて、やってみるか」

「え、えーと、気を付けてね!」

「ああ」

 

あたしたちは少し下がって、いつでも動けるよう準備をしつつアルムの戦いを見る。

 

「…」

 

その動きは…青ぷにが動くまで待って、攻撃してきたら避けて、それでできた隙をついて攻撃。その繰り返しだった。

いつもレントとの特訓でやってるような無茶苦茶な動きじゃない。あたし達でも解る、基本的って感じの動き。

なんていうか、素人の私達にも凄く参考になる動きだった。…あたし達に何度も動きを見せる為に、手加減されて蹴られ続けた青ぷににはちょっと同情したけど。

 

「こんな感じだな。まあ、遠距離攻撃ができる2人は少し距離を開けて先制攻撃をしてもいいかもしれないな。ただ、一撃では倒せないだろうから、近づかれたときの準備はするように」

「おっけー!さあ、近くに魔物は…いた!」

 

早速青ぷに発見!さあ、初戦闘、張り切っていくぞー!

 

 

「よーし、勝利!」

「なんとか行けたね…」

 

当然、問題なく勝利!あたしの「コーリングスター」とタオの「闇夜の帳」で同時に先制攻撃して、飛びかかってきたところを躱して攻撃。そこにタオがハンマーを振って飛ばした魔力が直撃して青ぷには倒れた。

うん、初めてにしては上出来なんじゃないかな!

 

「思ったよりは大丈夫そうだな。…よし、もう少し2人で戦ってみてくれ。危なくなったら俺とレントが助けに入る」

「やべえと思ったら遠慮なく言えよ?」

「了解!」

「わ、解ったよ」

 

そんな感じで魔物と戦闘しつつ奥に進んでいくあたしたち。青ぷに以外にも、オオイタチとか、花の精とかとも戦ったけど…今のところは、アルム達の助けが無くても大丈夫だった。これでちょっとずつ、アルムの隣に近づけてるかなあ?

そんなことを考えながら進んでいると、少し開けたところに出た。

 

「クリント王国の遺跡…だったか。村の中にもいくつかあるな」

「うん。…見張り小屋だったのかな、この小屋」

「こんなとこにもあるんだな、遺跡って」

 

遺跡かあ。冒険の中でこういうのを見つけるのも楽しみの一つだよね。もっと大きなものが見つかったら凄く楽しいだろうなあ。

 

「さて、まだ時間にも余裕はありそうだし、もう少し奥まで行ってみるか」

「うん。もしかしたら、もっと大きな発見があるかもしれないしね!」

 

さあ、どんどん行くぞー!

 

 

というわけで、さらに奥に進むあたし達。あたしもタオも大分戦闘に慣れてきて、先制攻撃無しでも余裕をもって勝てるようになってきた。

そうしているうちに、何か音が聞こえてきた。これは…笛?風の音とかではなさそう。

 

「…こっちからだな。行ってみるか?」

「誰かいるのかもしれねえな。…迷子とかじゃねえよな」

「迷ったから、笛で助けてくれる人を呼んでるってこと?」

 

こんなところで迷子になったら、普通そんな余裕ないと思うけどなあ。

…この前エルちゃんが読んでるお話にそんな感じの余裕を持ったおバカな人が出てきてたけど、流石にあれは物語の中だけだと思うし。

まあでも、本当に迷子だった時の為に探してみることにした。すると…

 

「…ん、そこの裏から聞こえてくるな」

「あそこ?丁度仕切りみたいになってるけど…」

「マジで迷子か…?」

「とにかく、行ってみようよ」

 

そうして、崩れた建物の裏をのぞき込んでみると…

 

…すごく綺麗な、女の子がいた。金髪の、身なりがいい…って言えばいいのかな。そんな感じの。

ここで、1人で楽器の練習をしてたみたい。フルート…だっけ。

あたしに、音楽の事はよく解らないけど…音も、綺麗だなって。そう思った。

 

「…」

 

アルム達も聞き入ってるのかな。何も言わず女の子のことを見てる。今ここは、ちょっとした演奏会の会場になってる。

そして、女の子の演奏が終わったと同時に。

 

「…凄い」

 

拍手をしながら、そう感想を呟いてた。

 

 

 

 

「…え?」

 

凄い。そう後ろから聞こえたから振り向いたら、女の子が拍手していて、隣にいた3人の男の子も少し遅れて拍手してた。…えっと、もしかして…

 

「聞いてた…の?」

「うん。すっごく、綺麗だった」

「今まで興味なんて無かったのに、音楽って凄えなって思っちまった」

「なんていうか、目が離せなかったよ」

「~~っ!」

 

は、恥ずかしい…!誰かに見られたくないからこんなところまで来て1人で練習してたのに…!しかも凄く褒められてる!余計に恥ずかしいよ…!

 

「ほら、アルムも何か感想言ってあげたら?」

「ん、ああ」

 

一際背の高い男の子が口を開こうとしてる。な、何を言われるんだろう…

 

「後でアンコールしていいか?」

「「「そこまで!?」」」

 

一番すごいこと言われた!?無理だよ、恥ずかしすぎるよ!

 

「いや、クーケン島ってこういうの本当足りないからな、色々新鮮だったからもう一度聞きたくなったというか…すまん」

「あ、うん、大丈夫…」

 

本当は全然大丈夫じゃないけど…

 

「えっと…それで、どうしてこんなところで練習してたの?近くに魔物もいて危ないのに」

「ええっと…」

「もしかして言いにくい事だった?じゃあ深くは聞かないけど…」

 

うん、言いにくい。お父さんは兎も角、他の人にも聞かれたくない理由が単に恥ずかしいからで、それで練習の為にこんなところまで来てるなんて。

 

「このままここにいるのも危ないから、一度あの広場に行ってから話をしようよ」

 

眼鏡をかけた小柄な男の子の提案で、私は4人に付いていくことにした。

 

 

「それで…まず自己紹介からだな。俺はアルムレウス・レーゼン。アルムで良い」

「あたしはライザリン・シュタウト。ライザでいいよ」

「レント・マルスリンクだ」

「タオ・モルガンテンだよ」

「えっと、私はクラウディア・バレンツです」

「…バレンツ?」

 

自己紹介したら、背の高い男の子…アルム君が私の名前に反応した。知ってるの?

 

「ボオスが言ってたな。今日クーケン島に来る旅の商人達が…確か、バレンツ商会」

「えっ!?」

「バレンツ…ってことは」

「えっ?」

 

クーケン島って、お父さんたちの次の行先で…ってことは、この人達はクーケン島の人達なの?

 

「…アルム、まさかとは思うけどさ」

「そこの商会長さんがどんな人かは知らないが…クラウディアは父親についてきているんだろう」

「…うん」

「今頃、娘がいなくなった!と心配してる可能性が高いな」

「じゃあ、早くクーケン島に戻ろう。クラウディアのお父さんを安心させてあげないと!」

 

…うん、そうだよね。いきなり娘がいなくなったら普通心配になるよね。

よくこっそり抜け出してるから最近は「またか…」みたいな反応だけど、それでもやっぱり心配させちゃってるのかも。

 

「さて、それじゃあ戻…ん」

「どうした、アルム…コイツは」

 

広場から出ようとしてたアルム君とレント君が立ち止まった。その先には…オオイタチ?ちょっと違うかも…

 

「…さっきまでの奴とは段違いに強いな」

「そうだな。ちょっと本気出すか…」

 

そういってアルム君は構えて、レント君も剣を抜いた。だけど…

 

「その必要は無いな」

 

そんな声が後ろから聞こえた。そこにいたのは、片眼鏡の細身の男の人と、髪どころか肌まで白っぽい色の女の人。

クーケン島に用事があるからついでに馬車に乗せてほしいって、お父さんにお願いしてた2人。確か…

 

「アンペル、あの2人なら、あれくらいは問題ないと思うが」

「何、手早く済ませるに越したことはないだろう、リラ。2人とも、少し離れろ。そして全員、目を瞑れ」

 

そういって、2人が魔物から距離を取った瞬間、アンペルさんから何かが飛んできた。あれは、小さな樽?そして、言われたとおりに目を瞑ると…

 

――ドォン!

 

そんな短い爆発音がした。そして、目を開けたら…あの魔物が、吹き飛んでいた。

 

「…爆弾、か?」

「魔物が、一瞬で…」

「…今のって、一体…」

 

私も含め、みんな呆然としている。そんな中で…

 

「…凄い」

 

ライザだけが、目を輝かせていた。

 

「今の、凄いっ…!何ですか、今の!?教えてください!!」

「ああ、あれは【錬金術】だ。簡単なものだがな」

「…錬金術…!」

 

…私は、ライザの事は何も知らないし、その錬金術っていうものの事も解らないけど…そんな私にも、ライザにとって今のこの瞬間は、凄い転機になったんだろうなって、そう解った。

 




クラウディア、気づかないうちに演奏会をしてしまう。これがやりたいがためにちょっと早く着いたことにしました。

Q,原作だと襲われてた時にはフルートをケースに仕舞ってなかった?
A,原作では練習を終えて「もう戻ろう」ってなったところで襲われた、ってことにすれば…ダメですかね?

ここまで読んでいただき、有難うございます。


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少年少女への承認、そして夢への次なる一歩

初めての冒険、終了。そしてライザが錬金術習得。ついでに恋愛タグも多分いるかなと思って追加。
この小説、ボオスとライザ達が仲違いしてないからランバーが死ぬほど出しにくいな…

今回はアルム視点→ライザ視点


(錬金術、か)

 

クラウディアを探しに来ていたらしい2人組…アンペルさんとリラさんと共に、俺達は船着き場に向かっていた。もう夕暮れ時で、クラウディアもクーケン島に送り届けなければいけない。となれば、ここで今日の冒険は終わりにして俺達も島に戻った方がいい。そう判断したからだ。

因みにそれを聞いたライザとクラウディアは、

 

「うーん、仕方ないか。もうちょっと続けたかったけどなー」

「ごめんね?せっかくの冒険だったのに、私のせいで…」

「あ、えっと、ごめん!そういうことを言ったんじゃないの!」

 

なんてやりとりをしていた。ライザが普段関わらないタイプだから、いつもの調子で発言したら軽い失言になってしまったようだ。レントみたいな強気なタイプでもなさそうだから、今後話しかける時は少し気を付けるか。…どう見ても恥ずかしがっていた彼女に、アンコールを要求した俺が言うことではないが。

 

まあ、クラウディアについては島の大人たちかボオスが対応してくれるだろう。それよりも、今の俺が強く興味を持った言葉がある。

…錬金術。あの強力な爆弾を作り出したらしい技術。どういったものか、詳しくは説明されていないが…

 

(気になって、仕方がない…!)

 

どうやって作った?どうすれば身に付く?爆弾以外には何が作れる?そんな錬金術への興味で、頭がいっぱいだった。

ライザも気になっているようだし、後日詳しく聞いてみようか。

 

 

暫くして船着き場に付いた。そこにいたのは、アガーテさんと…金髪の真面目そうな壮年くらいの男性。この人が、クラウディアの父親か?

 

「お前達か。ちょうどいい、聞きたいことが…ん、その子は…?」

「…クラウ」

「お父さん…」

 

当たりだったようだ。名前はルベルト・バレンツさん。名前からわかるとおり、今クーケン島に来ているバレンツ商会の会長さんだ。

 

「俺達4人で…まあ、冒険をしていたら偶然見かけましたので」

「そうか…うちの娘を有難う。アンペルさんとリラさんも、頼みを聞いていただいてありがとうございます。

こうみえてじゃじゃ馬で…時折、ふらりと商隊を抜け出すことがありましてね」

「ごめんなさい…」

「馬車に乗せてもらった礼だ。構いやしない」

「報酬もすでに別途受け取っているしな」

 

…以前から抜け出しているらしい。ああ見えて意外と行動的というか。

冒険と言ったら羨ましそうな顔をしていたし、今後仲良くなったら私も連れて行ってほしいとか言いそうだな。

 

「しかし、そのうち何かやるとは思っていたが、まさか初日からとはな」

「俺も驚いてます。今回は平和に終わりましたけど」

「そうだな。まあ…偶然とはいえ、お手柄だぞお前達。よくやった」

「…!」

 

アガーテさんに褒められたその瞬間、ライザは驚いた表情をした。

 

「どうした?」

「初めて、姉さんに褒められたかも」

「普段が普段だからな。…これからも、頑張れよ」

「~っ、うん!」

 

激励までされて感激しているな、ライザ。

 

「へへ、自分の行動が認められるのっていいもんだな」

「…うん。これからの冒険、やる気が出てきたよ」

 

隣を見ると、レントとタオも喜びを露わにしている。そして俺も、顔が綻んでいる自覚がある。

本来の目的とは違うが…冒険を始めて、本当に良かったよ。

 

 

さて、ルベルトさんにクラウディアと仲良くしてやってくれと頼まれ、島に戻る為に船に乗り、クーケン港に着いたわけだが…

 

「ようこそルベルトさん、ラーゼンボーデン村へ!私が村の世話役を務める、モリッツ・ブルネンです!」

 

声のトーンが大きい。いつもこんな感じだなこの人…

 

「…ライザ、この人が村長さん?」

「えーっと、村長じゃないけどこの村のいろんなところに顔を出してくる、モリッツっていうエラそーなおじさんだよ」

「偉そう?お金持ちなの?」

「そっちもだけど、水源を押さえてるほうが大きいかな。こういう島だと、水を持ってる人が一番偉いみたいなとこあるし」

「まあ偉そうではあるが、個人的にはそうしていいだけのことはしている人だと思うぞ。今回みたいに、島の外との繋がりを持とうとしてくれるしな。クーケン島だけだと本当に色々乏しいんだ…」

 

だからこそ変化を見つけるのが楽しいんだが…限度はあるからな。こうやって、外のものを取り入れてくれる人は本当にありがたい。

 

「そうなんだ…キレイで、いい島だと思うんだけどな」

「ありがとう。…俺もそう思ってはいるんだが、流石に何年もずっと同じところにいると、変化に飢えるというか…な」

「だから冒険に出ようってなったの、あたし達。そしたらクラウディアとも友達になれたし、やっぱり外に出て正解だったよ」

「…うん、私もライザ達と友達に慣れて嬉しい。これから、短い間になるかもしれないけど、宜しくね」

「ああ」「うん!」

 

そうして、クラウディア達と別れた俺は家に帰り、家族に今回の冒険の話をした。

母さんが怪我が無かったことを喜んでくれたり、エルが錬金術の話を聞いて目を輝かせたり、父さんが次が楽しみだと言ってくれたり。…ああ、本当に。冒険を始めて良かった。

 

 

 

 

クラウディアと友達になった次の日、あたし達4人は貯水池の近くに集まっていた。理由は勿論…

 

「よーし、アンペルさんのところにいって、錬金術を教えてもらうぞー!」

「それは良いけどよ、場所は知ってんのか?」

「それを今から調べるの!まずは…」

「ああ、さっきボオスから聞いてきたぞ」

「先に言ってよ!?でもありがとう!」

 

なんでもリラさんと2人で旧市街の民家を借りてるらしい。ついでに、ルベルトさん達が借りてるお屋敷も旧市街にあるみたい。よし、錬金術を教わったら早速遊びに行こう!

 

「で、ライザは錬金術として…レントとタオは何か用事があるのか?」

「僕は、もしかしたらこの本が読める人なんじゃないかなって。この島に来たのもクリント王国の遺跡調査が目的みたいだから、何か知ってるかも…」

「俺はあのリラさんって人に用がある。…一目見ただけで解ったぜ、あの人は俺やお前よりもっと強え。だから、鍛えてもらいたくてな」

「そうか。俺は…」

 

アルムが何か言いかけたところで、アンペルさん達が借りてる家の前に着いた。よ、よーし、緊張するけど、こういうのは最初が肝心!

 

「ごめんくださーい!アンペルさんは居ますかー!」

「ああ、開いているぞ。勝手に入ってこい」

「は、はい!」

 

うう、いざその時が来たと思うとさっきより緊張する…!で、でも、これも錬金術を教えてもらうため!

 

「ん、4人揃ってお出ましか。こっちは丁度最低限片づけを済ませたところだ。それで要件は何だ?」

「「「あ、あの…」」」

「リラさん!あんたは俺よりはるかに強い!お願いがある!俺を鍛えてくれ!」

「クリント王国の遺跡調査をしているアンペルさんなら、この本の読み方が解るんじゃないかと思って来ました!僕に読み解き方を教えてください!」

「あたしに、錬金術を教えてください!」

 

あたしたちは頭を下げてお願いした。ど、どうかな。聞いてくれるかな…

 

「…さて、どうするか。私たちはそこまで暇じゃ…っ!

「え、えっと…」

「お前さん…この本、どこで?」

「えっと、ずっと家に置いてありました」

「…成程、どうやら「当たり」のようだ」

 

…当たり?よく解らないけど…アンペルさんの目的に関係あるかもってこと?

 

「解った、教えよう」

「有難うございます!」

「…なら、そこのお前。名前は?」

「あ、えっと、レント・マルスリンクです!」

「そうか。レント、この近辺の案内をしてくれるなら、戦士の心得を教えよう。見たところ、まだ未熟だが見どころがあるからな」

「解りました!有難うございます!」

 

2人のお願いはトントン拍子に話が進んでく。えっと、あたしは…?

 

「で、そっちの嬢ちゃんだが…錬金術は教えてどうにかなるものじゃない」

「え…」

「…根本的に、特別な素質が必要ってことですか?」

「そういうことになるな。…ところで、お前さんは私達に何か用事はないのか?何も言わなかったが」

 

そういえばアルムだけ何も言ってない。アルムが錬金術みたいな新しくて凄いものに興味持たないはずないんだけどなあ。

 

「まあ、一番は錬金術ですが…正直な話、本の内容も気になってますし、訓練もお願いしたいです」

「要するに全部か」

「はい」

 

…アルム、意外と欲張りだ。

 

「まあ、まずは錬金術の話だな。さっきお前さんが言った通り、特別な素質が必要なものでな。努力してどうこうってものじゃないんだが、さてどうするか…」

 

つまり、できない人は一生できないってこと?もしあたしがそうだったら…イヤだなあ。

 

「それなら、色々言うより実際に調合をやらせるのが一番早いだろう。」

「そうだな、どのみち素質が解らんことには始まらんか。お前さんたち、名前は?」

「はい、ライザリン・シュタウト…ライザです」

「アルムレウス・レーゼン。アルムです」

「よし、ライザとアルム。「ナナシ草」を採ってくるんだ。船着き場の近くの森にあったはずだ」

 

ナナシ草…そんなのあったんだ。早速探してみよう!っと、その前に…

 

「アンペルさん」

「何だ?」

「できるだけいい奴を選んできた方がいいですか?」

「ん、判るのか?」

「えっと、なんとなくは」

 

お父さんに作物の品質チェックのテストを何回か出してもらって以来、それ以外のものに関してもなんとなく品質の良さにあたりが付くようになってきてる。ウェインさんが言うには「何か天性のものをこじ開けたんじゃないか、カールの奴」だって。

 

「まあ、今回は気にしなくていい。まず作れるか否かが大事だからな」

「解りました。じゃあ行こっか、アルム」

「ああ。…お前、いつの間にそこまで?」

「…いつの間にか?あたしもよく解んない」

 

まあそんなことよりも、今は錬金術の才能の方が大事!お願いだから才能あってよ、あたし!

 

 

ナナシ草はアッサリ見つかったので、さっそく採取採取っと。…できるだけいい奴がどうとかさっきは言ったけど、ここにあるのは全部似たり寄ったりの品質みたいだから必要な数だけテキトーに採っちゃおう。

 

「にしても、こうしてみると色々面白そうなものがあるんだなー。うにとか、何かに使えそうじゃない?」

「例えば?」

「アンペルさんがあの時使ってた爆弾みたいに、針がドーン!って飛んでったり」

「発想がエグいぞ…」

 

…ちょっと引かれた。悲しい。

まあそんな話もしながら、必要な分採り終えた。アンペルさんのところに戻ろう。

 

「さて、俺はどっちでもいいが…ライザには、錬金術の才能が有ってほしいな」

「え、っと…何で?」

「自分の事を「平凡」だとか、「なんてことない」とかよく言ってるだろう。俺はそんなこと思ったこと無いが、結局一番大事なのはお前自身の認識だからな。これを機に…何ていうか、自信を持ってほしい、とでも言うか」

「…そっか」

 

実際、今のあたしに自信は無い。あたしはアルムの隣に立ちたいけど、まだそれができるだけの何かが無いと思ってるし、錬金術がその何かになればいいな、とも思ってる。

あたしが錬金術を覚えたい理由は、興味だけじゃなく、願望も入ってる。

 

「…才能、あるといいなあ」

「ああ。…さて、着いたぞ」

「うん。アンペルさーん!ナナシ草採ってきましたー!」

「戻ったか。どうだった、初めての採取は?」

「はい、楽しかったです!今まで気づけなかっただけで、身の回りにこんな面白いものがたくさんあるんだなって!」

「…成程。品質の話もそうだが、その感覚が持てるなら、或いは…アルムは?」

「採取そのものは面白いと思いました。ただ、ライザ程の感覚は得られなかったというか…そんな感じですね」

「そうか。では、早速2人の資質を試してみよう」

 

そう言って、アンペルさんは部屋にある釜の前に立った。錬金術を使うための「錬金釜」っていうみたい。

それで、錬金術による調合の初歩の初歩、緑色の中和剤をあたし達に実際に作ってもらうそうだ。

レシピももらったけど、素材はナナシ草…というか、植物が3つあれば作れるみたい。あたしたちが採ったナナシ草は…うん、6つある。

 

「ならまずはアルム。やってみてくれ」

「解りました」

 

素材を入れて、レシピを思い浮かべ、釜をかき混ぜれば、才能が有ればモノができる。…不思議な技術だなぁ。

 

「…」

「どうだ?」

「…駄目ですね。見ての通り、ナナシ草のままです」

「そうか。では次、ライザ。やってみてくれ」

「あ、はい!」

 

アルムがさっきやったみたいに、あたしも釜をかき混ぜ始める。…なんだろう、釜の中で、何かが変わっていくのが感じ取れる。今入れたナナシ草が一つになっていく感覚がする。そして…

 

「…できた」

「これが中和剤、ですか?」

「ああ、そうだ」

 

できた。あたしに、できた。錬金術が…!

 

「「当たり」だな。こっちこそ、本当の。…合格だ。お前さんは今、【錬金術士】になった」

「~っ!やったあ!」

 

今、この瞬間。あたしは、何でもない平凡なライザから、錬金術士のライザリン・シュタウトになった。




Q,結構台詞削ったりしてる?
A,原作通りにしかならない台詞はできるだけ削ったり組み替えたりしてます。

Q,ライザのアルムに対する想いって、「隣に立ちたい」なんだ?
A,ライザが守られてるだけで満足する子に思えなかったので。詳しい内容は後々書くと思います。

ここまで読んでいただき、有難うございます。


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若い男女が二人きりで外出、これ即ち

日間ランキング入り&お気に入り200越え。本当に有り難いです。…前話投稿した直後のお気に入り、100行ってなかったと思うんですがね。ランキング入りって凄いな。

外での採取。そしてコアクリスタル入手。今回アルムの技が二つほど出ます。前言った通りオーダースキルとか関係なく出してますし、技名を叫んだりする奴じゃないので掛け声のみですが。
そしてアルムが大分攻めます。折角恋愛タグ入れたのでこういう話も試しにやってみようかと。まだまだくっつきませんが。

終始ライザ視点です。いつもより短めだけど、これ以上やると長くなりすぎる気がしたので。


「ようこそ、我がアトリエへ!」

「え?」

「は?」

 

錬金術士になって、アンペルさんに錬金術の入門書を貰ったあたしは、錬金術に必要な釜を一応お母さんに許可を取って部屋に運んだ。これであたしのアトリエが完成!これから錬金術で色々作りまくるぞー!って気合を入れた。因みに錬金術の説明もお父さんとお母さんにしたら「教えてくれた人に迷惑をかけないようにね」「変なことに使うんじゃないよ!」って言われた。当然気を付けるよ!

で、ついでにレントとタオを呼んで自慢してやろうと思った。ふっふっふ、どうだ!

 

「…でかい鍋が増えただけだよね?」

「アトリエって何なんだよ」

「錬金術の研究室よ!」

「ああ、つまり錬金術士っぽいこと始めたってことか」

「…ねえこれ、もしかして自慢の為に呼ばれたってこと?」

 

は、反応が鈍いどころか冷めてる…

 

「自慢してえ気持ちは解るけど、俺らも自分のやることができたからな」

「ちょっと反応割いてる余裕が無いっていうか、今アンペルさんに宿題を出されてるから。…えーと、あれはああであそこは…」

「…それでもさー、もうちょっとこうさー」

 

リアクションとるだけならタダなんだし、友達なんだから少しくらい何か言ってくれてもいいのに。

 

「ところでアルムはどこだよ?」

「えーっと、この後対岸に一緒に採取に行く予定だから、ちょっと準備してくれてるっていうか」

「へー」

「ふーん」

「…何よ」

「「いや何も」」

 

嘘つけ絶対何か変なこと考えてたでしょ今の!解るんだからね付き合い長いんだから!

 

「まあ、頑張れよ?色々」

「うん、頑張ってね?色々」

「色々って何よ!?」

 

あーもう、絶対凄いもの錬金してあっと言わせてやるんだからね!待ってなさいよ!

 

 

「さて、何が使えるか解らないし、手当たり次第に色々採取するか」

「うん。あ、この花良さそう…」

 

小妖精の森まで来たあたしたちは、大きめの鞄を背負って錬金術のための素材集めを始めた。なんかもう、あっちからこっちまで素材だらけ。ここから何が作れるのか、想像するだけでワクワクが止まらない!

 

「シッ!…ん、これもいけるんじゃないか?」

「いけると思うけど…なにそれ?玉?」

「青ぷにを倒したら出てきた。魔物を倒すことでも素材が手に入ると聞いたが、これの事だな」

「あー、じゃあオオイタチとか花の精もいくらか倒しとく?」

「そうするか」

 

生えてる素材や魔物を倒して手に入る素材、色々集めながら奥に進むと…

 

「…大きいね」

「…ああ」

 

大きい青ぷにがいた。えーっと、流石にあれはあたしには無理だよね。

 

「アイツは俺が倒す。少し待っててくれ」

 

そういって鞄を置き、大きいぷにに向かっていった。意表を付けたみたいで、ぷには反応できてない。

 

「オラァッ!」

 

目の前で思いっきり踏み込んで、炎を纏った蹴りを左右で一回ずつ叩き込んだ後、両足での飛び蹴り(ドロップキック)で吹っ飛ばした。その後、アルムに気づいたぷにが勢いよく転がって来たけど、それを思いっきり蹴りで打ち上げ、ジャンプして追いかけた。そして…

 

「落ちろ」

 

かかと落としで地面に叩き付け、ぷにの目の前に着地して。

 

「沈めェ!」

 

思いっきり踏みつけたと同時に火柱が上がる。それがとどめになったみたいで、ぷにが動かなくなった。そこから、アルムがさっきより大きい玉を取り出した。

 

「随分大きいな。体が大きい分だけ玉も大きくなってたか。ライザ、終わったぞ」

「…あ、うん!」

 

…多分初めて見る、魔力も使って本気で戦ってるアルム。レントとの手合わせの時よりも荒っぽくなってる気がする。

アルムの優しさから恋が始まったのに、荒っぽいアルムもそれはそれでいいって思っちゃうの、重症かなぁ。

 

「そろそろ鞄も限界だし、このあたりの素材を採ったら終わりにするか」

「おっけー!さーて、戻ったらバリバリ作るぞー!」

 

まずは緑色以外の中和剤、爆粉うに、グラスビーンズ、そしてあの時アンペルさんが使ってた爆弾【フラム】!どれだけいいものが出来上がるか、楽しみだなー!

…そんなことを考えてたら帰り道でエルちゃんと遭遇した。

 

「あ、アルム兄!と、こんにちはライザお姉ちゃん!」

「こんにちは、エルちゃん!」

「外に行ってたの?もしかしてデート?」

 

いきなりそんなことを言われてあたしは固まった。…錬金術の素材集めの為に2人きりで島の外まで出かけてって、言われてみたらそうじゃん、これデートみたいなものじゃん!?やってることに色気がまるでないけど!っていうかもしかしてレントとタオが言ってた色々頑張れってそういうこと!?余計なお世話よ!!

と、とりあえずアルムならこういう時いい感じに切り返してくれるはず…!

 

「…そうだな。ついでに言えば、誘ったのは俺だ」

「おー!」

 

…え、あの、なんか予想外の展開…

 

「周りにはまだ内緒で頼む」

「うん!…良かったね、お姉ちゃん」

「え、あ、うん…」

 

今の今までデートみたいなものだっていう意識すら無かったなんて言えない…

走り去るエルちゃんが見えなくなってから、アルムが口を開いた。

 

「…言われてみたら確かにデートだな、これ…」

「あれ!?」

 

アルムも気づいてなかったの!?さっき「最初からそのつもりでしたが?」みたいな感じで言ってたよね!?

 

「…その、なんだ」

「な、何…?」

「…また2人で行くか?」

「…は、はぃ…」

 

しかも今度は正真正銘のデートのお誘い!?いや、その、嬉しいけどそれ以上にちょっと恥ずかしいというか混乱するというか!

ああもう、こうなったら手当たり次第調合してこの恥ずかしさだけでも忘れよう!

 

 

「一通り作ってきましたぁ!」

 

とりあえずスッキリした!調合中ずっとアルムに隣で見られてて恥ずかしかったけど、やってるうちに調合に集中できるようになってきた。

…ある意味調合の訓練になった気がする。

 

「なんだ、妙に勢いが良いな。…ほう、入門書に書いてあるものは全部作れたようだな。関心関心。…そうだな、そろそろこれを渡しておこう」

 

そういってアンペルさんがくれたのは…なんだろう、宝石…じゃないよね?なにか変な模様みたいなのがあるけど…

 

「【コアクリスタル】と言う。戦いで使う物をクリスタルに組み込むと、その力だけを取り出し、使うことができる」

「…力だけ?組み込んだものは無くならない、ということですか?」

「何それ、まるで魔法みたいじゃん!」

「ああ。その魔法みたいな力がコアクリスタルという【古式秘具】の力だ」

「古式秘具…?」

「昔の凄い錬金術の道具の総称みたいなものだ」

「そんなものを俺達が貰っていいんですか?」

「余ったものを分けているだけだ、これは比較的よく見つかるからな。さて、ライザが作ってきた道具を早速組み込んでみると良い」

 

よーし、早速組み込んでみよう。1つ、2つ…3つ。うん、3つまでできるね。アルムは…同じ3つだ。

 

「錬金術で作った道具は冒険の助けになる。その力をより引き出す為にも、コアクリスタルを存分に活用するといい」

「「解りました!」」

 

ふふ、次に対岸に行くときに早速試してみなくちゃ!

 

 

…因みに、今日のアルムとのことをレントとタオに話してみたら。

 

「進展したのは良いけど、結局お前からは動けてねえんだな」

「っていうか大体エルちゃんのお陰だよねこれ」

 

そんなことを言われた。アンタらも恋してみたら踏み出せない気持ちが解るわよ!




エルが大分便利キャラになってる気がする今日この頃。

今回出たアルムの技
「紅蓮の槍」(でかぷにに先制攻撃をした時の技) 一瞬で距離を詰めて全力で踏み込み、右足でサイドキック→体を回して左足でサイドキック→ドロップキック
初期習得 アクションオーダー達成時に発動 無属性物理ダメージと炎属性魔法ダメージを与える ブレイク値が高い

「業火の槌」(突っ込んできたでかぷにを迎撃した技) 敵を蹴り上げ、ジャンプして追いかけ踵落としで叩き落す→直地後、踏み付けで追撃(TLv3以上で追加)
初期習得 AP消費3 無属性物理ダメージと炎属性魔法ダメージを与える TLv3でブレイク値上昇、TLv5で高確率で火傷付与


Q,錬金術を受け入れてもらうのも早いな?
A,少し真面目になってくれた娘の本気の顔だったので、信じてあげようとなりました。

Q,この序盤で炎属性の技2個だけででかぷに倒すとか火力高すぎない?コイツ炎耐性持ちだよ?
A,ゲーム的に言うと、割合的には7対3くらいで物理の方が割合が大きいのと、アルムのレベルが25くらいあるのと、ライザがいるので与えるダメージ上昇のパッシブ効果が発動してました。
要するに「強い奴が好きな子の前で張り切った」結果がこれ。意外とそういうとこ単純な奴です、アルムは。

Q,本当に大分攻めたなアルム?
A,「あまり踏み込まない俺に対する、エルからのアシストが入ったと思うことにした。流石にそこまで考えては無かったと思うが」

ここまで読んでいただき、有難うございました。


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それぞれの形で、それぞれの進歩

修行パート&初コアクリステル使用。そして大人組。

今回はレント視点→アンペル視点です。

3/19 アンペルの考察部分を加筆しました。


「「…」」

「アルム、レント。大丈夫?」

「…全く」

「見ての通りだよ…」

 

仰向けで大の字になっている俺と、座り込んでいるアルムに、ライザが声をかけてきた。

今日俺はリラさんに実戦形式で稽古をつけてもらっていた。アルムと時々やっている手合わせの事を話したら、なら私ともやってみるか、と。

リラさんが見ただけで強いのは解ったが、実際どれくらいかまでは読めてねえ。俺の師匠になってくれた人がどれだけ凄いのか体で理解するいい機会だ、と気合を入れて臨んだ。

結果は勿論、いいようにやられまくった。動きが速すぎて、頭で来ると解っても体が追いつかない。先を読もうにもそんな暇すらない。何もできなかったとしか言えなかった。

で、俺が疲労でぶっ倒れかけたタイミングで偶々近くにいたアルムが来て、

 

『ドライビスク』

 

コアクリスタルに組み込んだ道具で俺を回復してきた。有難えけど、先に言ってくれよ。微妙な味がするんだよそれ…

そこからはアルムも誘って、2人でリラさんに稽古をつけてもらってたんだが、まあボロボロになった。何度もドライビスクで体力を回復させて挑んだんだが、それでもリラさんには冷や汗1つかかせられなかった。強すぎんだろ…

で、限界にきたタイミングでライザが来た。何か青いものを脇に抱えてるけどなんだそれ?

 

「それは?」

「これ?ぷにまくら」

「…ぷにまくら?」

「アンペルさんに新しいレシピ貰って、レシピ変化っていうのも教わったんだけど、青ぷに玉から何か作れないかなーって考えてたらふとレシピが浮かんだの。ぷにぷにしたひんやり枕よ!」

 

なんか変なもん作ってんな…子供は好きそうだけどよ。

 

「で、これ今度クラウディアのところに遊びに行くときに持っておこうかなーって思ったから、先に寝心地だけ誰かに聞いてみようかなって。というわけでレント、感想お願い!」

「うおいきなり頭持ち上げんな!…やべぇ、メチャクチャ寝心地良いぞこれ。超落ち着く」

「ふふふ、あんたからそんな素直な感想が出るなら成功ね!」

 

これ結構売れるぞ。暑くなってる今の時期は特に。すげえもん作ったな…

 

「…俺には無いのか」

「あー、えっと、1つ分しか素材無かったから。…代わりって言ったら、なんだけど…」

 

そう言ってライザが、アルムの近くで正座した。そして自分の膝をしきりにポンポン叩き出した。…これアレだよな、膝枕だよな。

 

「…」

 

驚いてるアルムと、顔を赤くしながら笑顔で「ここだよ!ここだよ!」とでも言いたげに膝を叩き続けるライザ。いや、確かに進展させろとは言ったけどよ、少ないけど人いるぞここ?極端から極端に走ってないかお前?

 

「あー、なんだ。…失礼します」

「~っ!!」

 

観念したアルムと歓喜したライザ。…アルムも最近隠さなくなってきたっつーか。最近いろんな人から「アルムってライザの事好きなの?」みたいなこと聞かれるしよ。

 

「なんだ、あの二人は番か何かなのか」

「今は違うっすけど、将来的には多分」

 

つーか番って、リラさんも随分固い言い方するな。

 

「さて、このまま二人の戦い方について話すが…レントは肉体の頑強さに頼りすぎている節があるな。そして、反応は良いが動きが大きすぎる。先を読む力を養うことと、可能な限り小さく動くことで体への負荷を減らすことを重視しろ」

「うへ、あれでもまだ大きいのか…気を付けます」

「アルムは…恐らく、受ける事を一切考えていないだろう。相手の攻撃は回避して反撃するかそのまま迎撃するか。とにかく、攻撃することに全神経を注いでいる」

「…どちらかと言うと、気が昂りすぎて受けの意識がなくなるというか」

「受けを覚えるか今の戦い方を貫くか、どちらにしろ冷静さは必要だ。感情に振り回され過ぎるなよ」

「…頑張ります」

 

やっぱりリラさんから見るとアルムでもまだまだなんだな。本当に遠い背中だぜ。

 

「さて、今日はこれで終わりにしよう」

「分かりました!…で、ライザ、これどうするんだよ?」

「あ、それ?持って帰って良いわよ」

「おう。使わせてもらうわ」

 

コイツがあれば今夜からいつもよりぐっすり眠れそうだぜ。

 

「…俺達も帰るか」

「うん。…あ、えっと」

「何だ?」

「…どうだった、かな?あたしの膝枕」

「…黙秘する」

「えー」

 

…なあ、お前らそれで本当に付き合ってないのか?

 

 

次の日、過去最高に近いスッキリした朝を迎えた俺は、いつものメンバーを集め旅人の道に魔物を倒しに行く提案をした。リラさんの教えを形にする為と、4人での連携を覚えるためだ。

まず錬金術で作ったものは無しで、俺達自身の力だけでやってみたんだが…

 

「このっ!」

「おりゃっ!」

 

タオの衝撃波で怯んだ魔物を、ライザが杖で追撃。

 

「レント!」

「任せろ!タービュランス!」

 

アルムが蹴り飛ばしてきた魔物を、俺が止めを刺す。

 

「アクセルダイブッ!」

「黄昏の炎!」

 

俺が打ち上げた魔物をタオが炎で追撃、そして同時にとどめの一撃。

 

「新技!シャイニートレイル!」

「巻き込んでやる!」

 

ライザの範囲攻撃の中に魔物を蹴りこむアルム。

 

「縛術・影縫い!」

「おおおおおおおおッ!」

 

タオが動きを止めた魔物に、アルムが風を纏った百裂蹴りを放つ。

 

「コーリングスター!いっぱい持ってけ!」

「ソリッド…ブレイクッ!」

 

ライザが連続攻撃で相手をひるませ続け、そこに俺が大技を叩き込む。

 

 

「…うん」

「なんていうか…」

「…おう」

「ああ…」

「「「「連携、できてるな」」ね」」

 

実はお前ら打合せしてただろ?ってレベルで連携取れてたな。連携を意識したの、これが初めてなはずなんだがな。全員アイコンタクトでポジションを入れ替え、その場その場で技を組み合わせて確実に魔物を倒していく。10年来の幼馴染たちの絆はこんなところでも変わらないってか。

 

「これなら心配いらないわよね!じゃあ…」

「おう、コアクリスタルも使っていこうぜ」

「ライザがどれだけのものを作ったか、楽しみだ」

「向きとか間違えないようにしないとね…」

 

俺は一つしかセットできなかったからあまり活用はできないかもしれないけどな。ここはアルムとライザの独壇場だろうな。

 

「さーて、まず…うにっ!

 

近づいてきたミニワイバーンに爆粉うにの力を使う。すると、大量の針が凄い勢いで飛び出して、ワイバーンの胴体をハリネズミにし、翼膜をボロボロにした。…えげつねえ。

 

「…アルムが想像だけで引いちゃうわけだよ、こんなの」

「絵面的にはフラムの方が気が楽かもしれないな…」

 

そっちもそっちで魔物が吹っ飛ぶから、えげつなくないはずはないんだけどな。

 

「でも、爆粉うにでミニワイバーン相手にこれだから、もう少し強い魔物じゃないとフラムの効果がわかりづらいんじゃないかな?」

「それなら向こうに大きいオオイタチがいたぞ」

「なら、そいつに試してみようぜ」

 

というわけで見つけたデカいオオイタチ。オオイタチマザーって言うらしいな。

 

「よーし、じゃあ…フラムッ!

 

オオイタチマザーを爆発が襲う。相当堪えたみてえだが、まだ倒れなさそうだな。

 

「なら、もう一つ持って行け」

 

そこに間髪入れずアルムがフラムを使う。二発目なら流石に満身創痍、息も絶え絶えって感じだな。

 

「次で終わりだな」

「じゃあ、一緒にやろう!せーの、」

「フラム」「フラムッ!」

 

アルムとライザの同時フラムで、オオイタチマザーは完全に動かなくなった。

 

「ふふん、流石私!」

「かなりの威力だな。これで探索も大分楽になる。…まだ続けるか?ならコンバートしておくが」

「頼むぜ。さあ、今度は技も絡めながら行くぜ!」

「そろそろ本の解読を進められそうだから、程々で切り上げてよ?」

 

この後、クリスタルのエネルギーを使い切るまで続けた。タオからちょっとだけ文句を言われた。悪い悪い。

 

 

 

 

「…ふむ」

 

先日、アルムが私のところを訪ねてきた。内容は二つ。1つ目は「読めないなりに例の本の内容について推理したことがあるので、その内容を聞いてほしい」、2つ目は、「クーケン島についてとある秘密を知っている。もしかしたらアンペルさんの目的に関わりのあることかもしれない」。どんな内容なのかと期待して聞いてみたら…成程、かなり興味深い内容だった。

 

まず1つ目。「クーケン島に置いてある本だから、クーケン島に関する何かしらが書いてあるかもしれない」「読めない文字で書かれていることから、何かしら秘匿すべき知識ないしは技術に関する本かもしれない」「途中にある図は、何かしらの操作方法や部品のような物が描かれている」。そしてそこにアルムの妹のエルが思い付きで言った「クーケン島が人工のもの」と、「それなら管理が必要」という予想を組み合わせると「専門的な技術が必要な、クーケン島の説明書の可能性がある」というものだ。

正直、よくぞそこまで組み立てられるものだと思った。特にいきなり「人工島」という予想を出してきたエル。物語を読んでいて思いついた事らしいが…普通は結びつけないだろう。

因みにエルは少し前1人で私達を訪ねてきている。リラを羨まし気に見ていたが…まあ、そういう年頃か。因みに錬金術についても少し教えたが、残念ながら才能は無かった。もし才能が有ったら、その発想の結びつけの力は大いに生かせただろうに。

 

…まあ、これだけなら「やけに具体的だが、妄想レベルと本人たちも思っている突飛な推理」ですむ。問題は、2つ目。クーケン島の秘密だ。

それは、クーケン島が本当に人工の島で、しかも浮島であるということ。なんでも実際に潜って確かめたらしい。

そして、その話を聞いた途端私は確信した。――大当たりだ、と。

まず間違いなくこの島は錬金術で建造されている。そして、島に残されているクリント王国の遺跡の数々。つまりこの島は、「クリント王国の錬金術で建造された人工の浮島」の可能性が非常に高い…というか、もうそう断定していいだろう。

そして、この島には【枯れた噴水】がある。何故か形だけあり、水を吹き出さない噴水だ。それが本当は、噴水としての機能を持つものだったとしたら?そう問うと、その可能性にはアルムもたどり着いていたらしく、すぐにこう答えた。「この島が故障若しくは燃料不足による機能不全に陥っている可能性がある」。恐らく本来は、海水をくみ上げて濾過したものを噴水から出していたのだろう。ただのオブジェの可能性も否定はできないが、わざわざそんなものを作る必要もないだろう。

ならば、今の水源は?これはアルムも解らなかったようだが…アルムには話していないが、私には確信がある。それは恐らく、私たちの目的の一つ。

噴水が一つだけ機能しているなんてことはまずないだろう。ならば、外付けの水源が必要になる。それが可能なものは恐らく古式秘具、それもかなり高度なもの。島1つの水を賄える程の水量を産み出せる古式秘具。私が思いつく限り、それは、リラの…

 

「随分と考え込んでいるな」

「ああ、あまりにも興味深い話が聞けたからな。…もしかしたら、今回の調査でお前たちの悲願が成るかもしれん」

「!…そう、か」

 

私がそういうと、リラが目を瞑る。恐らく、故郷に想いを馳せているのだろう。…クリント王国の錬金術士により水を奪われ、そのせいで「奴ら」の侵攻を許し、荒廃してしまったという生まれ故郷に。

一錬金術士として、何度聞いても腹立たしい話だ。

 

「もう少しで、我らオーレン族の故郷に、水が…」

 

…叶えてやらねばな。普段つっけんどんなところがあるが、誰よりも戦い続け、故郷を想う、こいつの願いを。




今回のアルムの技
烈風の牙(タオが拘束した敵に叩き込んだ百裂蹴り) 右足で風を纏った百裂蹴り→左足で蹴り上げ、飛び回し蹴りで追撃(TLv2以上)→両脚で挟むように蹴る(TLv3以上)
初期習得 AP4 無属性物理ダメージと風属性魔法ダメージを与える TLv2以上で中確率で裂傷を与える TLv5でクリティカルダメージ上昇

アンペル視点でアルムがした話は「アルムとタオ」を参照してください。
アルムがアンペルさんに島の事を話したタイミングは、冒頭の訓練の直前です。話し終わって「さあ今日は後何するか」と考えていた時に訓練で倒れかけたレントを目撃、そのまま自分も参加した、という流れです。つまりあの場にいたのは一応本当に偶々。

Q,ぷにまくらって何?原作に無かったよね?
A,今作オリジナルアイテムです、一応。ぷにぷにな感触で安らかな眠りに誘う錬金術特有の一品です。

Q,膝枕って、ライザも攻めすぎじゃない?
A,「疲れ切ってる今が甘えてもらうチャンス!」みたいな心境でやってました。割と勢い任せ。

Q,で、膝枕の感想は?
A,「…あれは多分、麻薬に等しいと思う」

ここまで読んでいただき、有難うございます。


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少女は友を得て、そして勇気を得る

クラウディアのお宅訪問からのクラウディアのアトリエ訪問。短め。
今回はアルム視点→クラウディア視点です。


「クラウディア―!遊びに来たよー!」

「…声が大きい。それともう少し遠慮しろ」

 

俺達は今日、クラウディアの家の前に来ていた。以前ライザがした遊びに行く約束を果たすためだ。

ただ、クラウディア個人とは友人になったが、バレンツ商会の人達はクーケン島にとっては客人である。なので、あまり無礼なことをしてはいけない。慎重かつ丁寧に事情を説明してお邪魔させてもらおうと思っていたのだが…ライザがいきなり気安さしかない発言をした。しかも中々の大声で。…正直、少し頭を抱えた。

 

「まあ、ライザにマナーとかは期待してなかったけど…」

「予想はしてたが、マジでやるとはなー」

「ひどいわよアンタら!?」

「流石にこれは甘んじて受け入れてくれ」

「うー、アルムまで…」

 

その辺りはたとえお前相手でも甘くはしないぞ。ルベルトさんは俺達を娘の友人と見てくれているみたいだから、その辺り甘めに対応してもらえるかもしれないが…そういう人達ばかりではないからな。

 

「あ、みんな!来てくれたんだね!…ライザはなんで落ち込んでるの?」

「ああ、少し説教をな」

「お説教?…もしかしてさっきのこと?」

「ああ。幾ら友達相手とはいえ、流石に初めて訪ねる家にあれは少しな…」

「それは…そうだね」

「クラウディアまでぇ…」

 

流石に商人の娘だからか、その辺りの意識はしっかりしている。…そのせいでライザがさらに落ち込んだが。

 

「それじゃあ、こんなところで立ち話もなんだからみんな上がって?」

「「「お邪魔します」」」「お邪魔します…」

 

…流石に落ち込み過ぎじゃないか?

 

 

「えっと、それじゃあ…ライザ、何か持ってきてくれたみたいだけど、それは?」

「…え?ああ、これ?」

 

クラウディアに話を振られ、ライザが持ってきていた包みを解いた。中に入っていたのはぷにを象ったクッションのような物が2つ。ぷにまくらだ。

 

「錬金術で作ったの。ぷにぷにしてひんやりしてるから今の時期枕としていいんじゃないかなって思って。寝心地は保証するわよ!」

「おう、マジですげえぞそれ。もう他の枕使えなくなるレベルだ」

「そうなんだ…ありがとう。見た目も凄く可愛いね」

「2つ目の方はルベルトさんに渡してくれ。立場上気苦労とか多いだろうから、こういうもので少しでもストレスを軽減できればと思ってな」

「ルベルトさんみたいな人がこれ使ってるところ、ちょっと想像しづらいけどね」

「ふふっ、そうだね。でも、喜んでくれると思うよ」

「うんうん、それならあたしも作った甲斐があるってものよ」

 

とりあえずライザの機嫌は戻ったな、良し。

 

「ねえ、錬金術で他にどんなものを作ったの?」

「えーっと、塗り薬とか丸薬とか、あと爆弾とか?あの時アンペルさんが使ってたやつね」

「採取用の斧や鎌もだな」

「うにを爆発させて針を飛ばす奴も作ってたよな」

「ここまでいろいろ作れると、錬金術に作れないものなんてあるのかなって思うよ」

 

正直、生き物でなければ大抵のものは作れると思う。当然、錬金術士の腕次第だろうが。

 

「そうなんだ…えっと、錬金術の素材集めって、冒険しながら採ってるの?」

「え、聞きたい!?聞きたいの!?」

「うわ、ライザのテンションがいきなり上がった…」

「勢いあまって話盛ったりしねえだろうな…」

「…そうなったら俺が訂正する」

 

そもそもまだ始めたばかりだし、冒険とまで言えるほど遠出もしてないしな…

 

 

「――って感じで、あたしたちは順調に冒険を進めてるのよ!」

「ふふっ、そうなんだ」

 

特に変に話を盛ることもなく、始まったばかりの冒険譚を嬉しそうに話すライザ。それを聞いているクラウディアは嬉しそうなライザにつられて笑っている。

 

「…いいなぁ」

 

聞こえてるぞ、クラウディア。…やはり羨ましかったみたいだな。

 

「…あ、そろそろいい時間だね」

「え?…ホントだ。じゃあ、今日はここまでかな」

「うん。クラウディア、次はあたしのアトリエに来てみない?」

「いいの?じゃあ…明日早速お邪魔しよっかな」

「午前と午後のどっちだ?ついでだし俺の妹も呼びたいんだが」

「えっと、じゃあお昼食べてから行くね」

 

エルもクラウディアに会いたがっていたしな、いい機会だ。

 

 

 

 

「ふっふっふ、クラウディア君。我がアトリエにようこそ」

「ようこそ!」

「ご自慢のアトリエにお招きいただきありがとうございます。錬金術士ライザリン・シュタウト様」

 

お昼を食べてから、フルートのケースを持って早速約束通りライザのアトリエに向かった。といっても、ライザが改造した屋根裏部屋に錬金術のための釜を置いただけのものみたいだけど…いい反応を期待してくれてるみたいだし、応えなくっちゃね?

それと、隣で一緒にポーズしてるのがアルム君の妹?すっごく可愛い。

 

「そうそう、こういう反応が欲しかったのよあたしは!それに比べてレントとタオは…」

「逆に聞きてえんだけどよ、俺らのあんなかしこまった態度見たいかよ?」

「…違和感すっごいわ」

「っていうか、クラウディアも結構ノリ良いんだね」

「だって、楽しそうだったから」

「アルム兄も「楽しいのは良い事だ」ってよく言ってるよね」

「楽しさっていうのは要するにやり甲斐だからな。真面目なことにしろ、こういうノリにしろな」

 

楽しさはやり甲斐…うん、凄くわかる。私もフルートを吹いてるときは凄く楽しいから。…最近は、ちょっとだけ寂しさとかも混ざっちゃってるけど。

 

「…っと、エル。自己紹介だ」

「おっと。初めましてクラウディアさん、エルマリア・レーゼンです!エルって呼んでください!」

「うん、宜しくねエルちゃん」

 

すっごく元気でいい子。私もこんな妹欲しかったなあ。

 

「えっと、それでクラウディアさん、その箱は?」

「これ?ちょっと待ってね…」

 

そういって私はフルートを取り出す。…うぅ、知らないうちに演奏を聞かれてた時の恥ずかしさがよみがえってきたよ…

 

「笛!」

「うん、フルートっていうの」

「おー…」

 

…すっごく目をキラキラさせて見てる。これ絶対に聞かせてってお願いされるよね…

 

「一回聞いたことあるけど、すっごく綺麗だったわよー」

「ホント!?」

 

ライザ!?そういうこと言わないでよ、何かエルちゃんの目のキラキラがこっちに飛んできてるような感じがするし、聞いてみたいですオーラが溢れてるよ!?

…うう、こんな目で見られたら断れないよ…

 

「え、えっと…じゃあ、一曲…」

「おー!」

「お、またあれが聞けんのか」

「違う曲かもよ?どっちでも聞いてみたいけどさ」

「じゃあ皆早速椅子に座って聞こう!エルちゃんはあたしの膝の上ね?」

「…あー、なんかエルがすまん」

「だ、大丈夫。…すぅー…」

 

すっごく緊張するけど…うん、期待してくれてるみたいだし、頑張って演奏しよう。折角だし、前とは違う曲。――ちょっと人を寄せ付け難いところがあるけど、優しくて頼りになる「騎士」をイメージしたこの曲で。

 

「…では」

 

 

「…前のとは全然違う曲だった。こんなのも吹けるんだねクラウディア…凄い」

「なんつうのか、力強いっつうか…やる気が出てくる感じの曲だったな」

「うん。胸の内が熱くなるっていうか」

「キレイなのにカッコよかった!」

「その内、楽器の1つでも覚えてみたくなったな」

 

なんとか奏で切れた…上手く行って良かった。みんなからの絶賛も、前よりは素直に受け止められそう。…なんか、アルム君だけちょっと方向性が違うような気がするけど。

 

「もう一曲聞かせてもらってもいいですか!?」

「エル。…あー、すまんな」

 

アルム君がエルちゃんを止めようとするけど…なんだろう、みんなの前で2回も演奏したからかな。恥ずかしさより、演奏したい、期待に応えたいって気持ちの方が強くなってる。吹っ切れたっていうのが一番近いのかな。

 

「大丈夫だよ。…この前してくれたアンコールにも応えなくちゃだしね?」

「…あれは忘れてほしかったんだが」

「無理だよあんなの。それに、最初から聞いてたわけじゃないでしょ?」

「言われてみりゃ、あの時は途中からだったな」

「吹いてる人を探しながらだったから、最後の方以外はちゃんと聞けてないしね」

「うん。だから今度は最初から。聞いていってね?」

「うん、聞かせて!」

「聞かせて下さい!」

「ありがとう。では…」

 

友達の期待に応えるのが、友達に褒めてもらえるのが、こんなに嬉しい事なんて知らなかった。友達といる時間って、凄く楽しい。

この素敵な友達と、もっと一緒の時間が欲しい。だから…

 

 

「…すっげえ」

「なんか、ちょっと感動しちゃったよ」

「…言葉が出ないな」

「妖精さんみたいだった…」

「…もう、綺麗としか言えないよ、あたし」

「ありがとう。…ねえ、さっきの代わりってわけじゃないんだけど、ちょっとお願いしたいことがあるんだ」

「なに?」

 

「私も、冒険に連れて行ってほしいな」

 

一歩、踏み出そう。お父さんには、もっと心配をさせてしまうけど…みんなと一緒に行きたいって、そう思ったから。




Q,ライザ落ち込み過ぎじゃね?
A,好きな男の子と優しい系の友達に自分の行動を「それはちょっと…」なんて言われたらそりゃ落ち込みます。ちなみにクラウディアはこの時苦笑いしてました。

Q,ルベルトさん、ぷにまくら喜んだの?
A,最初は戸惑うけど、2日3日でぷにぷにの魔力に取りつかれます。もうこれ以外で寝れなくなりました。

Q,クラウディアが最初に演奏した曲って何?
A,「騎士様は無双」なんて呼ばれてるあの曲です。

Q,クラウディア、早期加入フラグ?
A,ノリと勢いに任せて書いた結果がこれだよ!

ここまで読んでいただき、有難うございます。


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新たな仲間、新たな真実

今回は終始オリ展開。この小説のオリ展開は「もういいや、やってしまえ!」の精神でお送りしています。サブタイで半分ネタバレしてるが気にするな。
今回はアルム視点→タオ視点です。


「失礼します、ルベルトさん」

「ようこそ。…早速だが、話をするとしよう」

 

俺達は今日、ルベルトさんからバレンツ邸に呼び出された。クラウディアが、俺達と一緒に冒険に行きたいと言いだした件についての話がしたいそうだ。…こちら側は何故か俺が代表としてテーブルについている。恐らく交渉事になるだろうからと任されたが、俺にそういうことが向いているとは思えないんだが…

 

「はい。まず、俺達の方ですが…ルベルトさんがNOと言わない限り、こちらにクラウディアの提案を断れる理由が無い、というのが結論です」

「ほう、具体的には?」

「「危ない」と言えば「それはライザ達も同じだったはず」と返され、「最低限護身はできるのか」と聞けば「魔力なら使えるし、戦い方も考えてる。足りなかったら教えてほしい」と言われました。ライザとタオにも「いざとなったら助けるから2人でまずやってみてくれ」といった感じでやったので…」

「成程」

「そして「俺達は一応親の許可を得ている」と言ったら「じゃあ私も許可を貰えれば大丈夫だよね?」と」

「…そうか」

 

ルベルトさんが目を伏せる。…何を考えているのだろうか。百戦錬磨の商人の内心なんて俺には読めるわけが無いが、気になるものは気になってしまう。

 

「では、こちらの結論を話そう」

「はい」

「クラウの提案を断れる理由が無い」

「…ん?」

 

…さっきも聞いた言葉だな、俺の口から。「断る」でも「断る理由が無い」でもなく、「断れる理由が無い」?どういうことだろうか。

 

「クラウがこうもはっきりと我儘を言うのは初めてといっていいくらいのことだ。だから少しくらいは聞いてやりたかったのだが…流石に内容が内容だ。正直、断るべきだと思った」

「…そう、でしょうね」

 

俺達のようにああもあっさり許可がもらえたのは、間違いなくレアケースだろう。

 

「だが娘の真剣な顔をみれば、生半可な思いでは無いことは解った。娘にそこまでの顔をさせる君たちはどんな人物なのか?それを詳しく知るべきだと思った。そこで私は、君たちの評判を島中に聞いて回った」

「…ご自分で、ですか」

「商人は自分の足で動いてこそだ。受け身では成らん」

 

…いろんな道に通じそうな言葉だな。覚えておこう。

 

「それで、聞いてみたが…まずはライザ君」

「あっ、はい」

「以前はとんでもないはねっ返りだったが、ここ最近は家の事を手伝うようになり、イタズラぶりも鳴りを潜めるようになったと」

「あー、えっと、そうですね。色々あって、ちょっと自分の行動を省みようかなと思って…」

「妙に主婦の皆様の評判が良かったが…」

「あたし、見ただけで物の品質がなんとなく解るんです。それをお使いの時とかに活かしてたら、コツを教えてほしいって…」

「ほう。興味深い才能だな」

 

商人としても役立つ才能だろうな。…ああそうだ、一応これも伝えておくか。

 

「クラウディアから聞いているかもしれませんが、ぷにまくらの制作者です。「友達のお父さんにも何か送った方がいいよね!」と言っていたので、俺がアレがいいだろうと提案しました」

「聞いているよ、錬金術というもので作ったということも。…素材が手に入るのなら、冬用もお願いしたいところだ」

「分かりました!」

 

気に入っていただけたようで、何よりです。

 

「次はレント君。以前は父親が原因で濡れ衣の悪評が広まっていたようだが…アガーテさんを始めとした護り手の方たちからの評価が高い。真っ直ぐな性格と、鍛錬を欠かさない真面目さが理由だそうだ」

「一日たりとも無駄にしたくなかっただけっすけどね。俺の目標はあの塔なんで」

「アガーテさんが言うには「私が追い抜かれる日もそう遠くはない」だそうだ」

「…言ってくれるぜ、姉さんも。そこまで言われちゃ、期待に応えなきゃな」

 

…レントが一番最初に目標にした人だからな、アガーテさんは。そう言われれば嬉しいのは当たり前か。

 

「タオ君は…主にライザ君たちのストッパーとして認識されていたな」

「止めることができてたとは言い難いですけどね…」

「そのようだ。だが、最近の何かに真剣に打ち込んでいる姿に好感を抱いている者もいたな。以前の気弱そうな姿とは別人のようだ、という声もあった」

「そ、そんなに表に出てたんだ…なんか恥ずかしいや…」

 

今はちゃんと俺達のストッパーだと思う。危険に対して敏感だからな。…しかし、本の解読の真剣さがそこまで滲み出てるのか。長年の目標だから解らないでもないが。

 

「そしてアルム君、君だが…幼少期から家族の手伝いを積極的に行っているそうだな。しかもそれを当たり前と認識しているとか」

「はい。俺にとって家族はそういうものです」

「そして戦いに関しても、アガーテさんが高く評価していたよ。魔物相手なら、護り手の誰も敵わないだろうと」

「…そうですね、魔物相手なら魔力を抑える必要もないので、火力で力押しが出来る俺の方が上になるかもしれません」

「更に友人たちも大切にしており、彼らの夢の手伝いもしているとか」

「ええ、親友ですから」

「…それと、あんないい子が懐いている兄が悪い奴が訳が無いだろうという声もあった」

「…それ、どちらかと言えばエルの評価では?」

「凡そ3割ほどの人が言っていたな」

「我が妹ながら凄いな…」

 

最後は何かが違うような気がしたが…俺に対しても概ね高評価の様だ。

 

「そういうわけで、周りからの君たちの評価を聞いたわけだが…好評はあったが、悪評らしい悪評は殆どなかったな。正確には過去のものになったというべきか」

「…それを知った、あなたの判断は?」

 

話の流れから、解り切ってはいるけどな。

 

「もう一度言うが、断れる理由が無い。力も心も申し分ないし、何よりクラウが心から信じているのだ。…クラウを守ってくれると、守り切れるだろうと思った」

「では…」

「――クラウ」

「うん」

「遅くなるなら、出かける前に先に言いなさい。…それと、怪我だけはしないように」

「~うん!」

 

…俺達の家族と、同じことを言っているな。どこの親も、子供を心配する気持ちは同じなんだろうな。

 

「なんとなく解っていると思うが、見かけの割にお転婆な子だ。無茶をしそうだったらすぐに止めてほしい」

「大丈夫っすよ。そんな感じの奴と10年くらいつるんできてるんで!」

「ちょっと、それあたしの事じゃないでしょうね?」

「自覚あるんじゃん」

「何よー!」

「もう、そんなこと言っちゃ駄目だよ二人とも」

 

急にいつもの調子で話し始める3人と、レントとタオを注意しながらも楽しそうな顔をしているクラウディア。馴染むのが早いな。

 

「…すいません、最後に騒がしくして」

「いや、子供たちはそれくらいの方が丁度いいだろう。…娘に、楽しい思い出を。頼んだよ」

「――はい」

 

こうして、俺達の冒険に新たな仲間が加わった。

 

 

「ふむ、笛の音に魔力を乗せて相手に送るのか…面白いな」

「今はまだ難しいだろうが、将来的には敵に囲まれても単独で対処出来得る力になるな」

 

冒険に連れていくならまず戦い方を覚えてもらおうってことで、僕たちはクラウディアを連れてアンペルさん達のところに来ている。それで、クラウディアの戦い方を見てもらうことにしたんだけど…結構高評価みたい。

 

「やり方次第では味方の強化も出来そうだな。攻撃と支援を同時に行える後衛…お前さんはそれを目指すべきだろうな」

「解りました!」

「よし、アルム、レント。訓練を手伝え。お前達の仲間だ、お前達が面倒を見ろ」

「はい」「解りました」

「あたしも手伝います!」

「あ、僕はちょっとアンペルさんと話がしたいから」

「ほう、私と?」

 

ちょっとずつだけど、この本の内容も解って来た。アンペルさんの目的に何か関係ありそうだったし…相談してみよう。

 

「よーし、じゃあクラウディアと一緒に冒険するために頑張るわよー!」

「ふふ、お願いね、みんな」

 

そう言ってライザ達は外に出て行った。…うん、何から話そうかな。

 

「えっと、それでこの本の内容なんですけど」

「どれくらい読み解けた?」

「…表紙と、ところどころに【クーケン】って読めるところがあったのと、何かの動かし方の説明をしているような箇所がいくつかありました。具体的にはまだ解ってないですけど…」

「…そうか」

「アルムから、僕たちの「推理」についてアンペルさんに話したって聞きました。…その内容が、本当に合っているんじゃないかって思い始めてます」

「だろうな。そこまで情報が揃っていて「クーケン島に何も関係のない何かの説明書です」などというのは考えにくいだろう」

 

だとしたら、あの時の僕の最悪の想像も、現実のものになっているかもしれないってことになる。何せ、人工物の説明書が読まれることもなく長い間地下で埃をかぶっていたんだ。整備なんてされてるわけがないし、燃料の補給も出来やしない。自動で補給できたとしても、その機能が壊れている可能性がある。

 

「…しかし、短期間でそこまで読み解けるようになってたか」

「はい。ずっと僕の目標だったので、達成にどんどん近づいていることがすごく嬉しいんです」

「そこまで喜んでもらえるなら、私も教えた甲斐があるってものだ」

 

ライザも言ってたけど、凄くいい人だよねアンペルさん。

 

「そうだな…なら、こちらも1つ教えておこう」

「何ですか?」

「クーケン島を作った技術は、錬金術である可能性が高い。いや、ほぼ確定だな」

「…え」

 

クーケン島が、錬金術で?

 

「クリント王国は、実は錬金術で繁栄していた国でな。そんな国の遺跡が大量にある人工島ともなれば…そういう結論にたどり着くだろう」

「…じゃあ、クーケン島はある意味、それそのものがクリント王国の遺跡ってことになるんでしょうか」

「確かにそう言えなくもないだろうな」

 

なんか、凄い話になってきちゃったなぁ。今まで錬金術の事を知らなかった僕たちが、実は錬金術のお陰で生活できてたなんて。この島そのものが、1つの遺跡みたいなものなんて。

…一冊の本を読み解けるようになってきただけで、こんなに凄いことが知れるなんて…!

 

「…みんなには、僕は先に帰ったって伝えて下さい」

「他の本も読み解きたくて、いてもいられなくなったか?」

「はい!」

「そうか。あいつ等にはちゃんと言っておくよ」

「有難うございます!」

 

楽しい。新しいことを知るのが、そこから新しい知識に繋がるのが、凄く楽しい!さあ、次はどの本にしようかな!




というわけで水没坑道突入前にクラウディア加入。メンバーの評判のところ、タオだけ難産でした。お前もうちょっと外出してくれ…

Q,ずいぶん早く認めてくれたね?
A,原作メンバーだけでも評判が原作より良い(特にレント)のにそこに強い上に妹のお陰で評価にブーストかかってるアルムがいるので、任せる気になってくれるんじゃないかと。4人の評判を聞く内にルベルトさんも「…大丈夫じゃないか?」ってなって、内心認めてしまっている以上口で何を言ってもクラウディアにその内押し切られると考え、それならハッキリ許可してしまった方がいいとなった一面もあります。
後、感想で「評判はアルム含めてまだまだ」と言いましたが、それについてはまだ子供だからという面が大きいです。

Q,タオの本の内容ってそんな感じなの?
A,クーケン島の操作の手引書なら、題名が「クーケン島の~」とかなっててもおかしくないと思ったので。

ここまで読んでいただき、有難うございました。


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場所も道具も、次のステージへ

水没坑道からの新武器。前回の後書きに書き忘れてましたが、この小説は基本的に成長の早い子供達と話が早い大人達でお送りします。
今回はレント視点→ライザ視点です。


「お前達には、この鉱石を採ってきてもらう」

 

俺達は今日、リラさんに呼び出されて集まってる。なんでも船着き場の近くに手ごろな場所を見つけたから、俺達の腕試しやクラウディアの実戦投入、2人の調査の手伝いができるかどうかのテストをそこでしたいらしい。名前は…水没坑道か。

そしてそのクリア条件として見せられたのが青い鉱石だ。…アマタイト鉱石とは違えな。

 

「今のお前たちの力、見せてもらうぞ」

 

そこまで言われてちゃやる気も出るってもんだ。絶対にクリアしてやるぜ!

 

「まず確認するべきは…クラウディア」

「うん。戦いになったら私は敵から距離をとってみんなの支援をすればいいんだよね?」

「ああ、それでいい。…ライザ」

「えっと…結構奥に行ったり…後、強い魔物と戦わないと採れないとかあるかも」

「そうだな、可能性はある。コアクリスタルは温存する方向で行こう。…タオ」

「そこって確か、魔石の鉱山跡なんだっけ?石の魔物とかいたりしないよね…」

「だとすると俺とレントの攻撃は通りにくいかもな…さっきはコアクリスタルは温存すると言ったが、俺とレントはむしろ積極的に使っていった方がいいかもな」

「…おう」

「…どうした、なんだその眼は」

 

いや、なんつうか…

 

「お前昨日、自分はリーダーとかそういうガラじゃないっつってなかったか」

「ああ」

「このメンツで1番リーダー向いてんの、間違いなくお前だよ…」

「そうか?」

 

他に向いてんのが精々ライザくらいってのもあるけど、今みたいな確認作業を率先してやれる奴がリーダー向いてねえわけねえだろ。ライザはとりあえず進む奴だし。

 

「ふふ、じゃあ宜しくね。リーダー」

「揶揄わないでくれ、クラウディア」

「とりあえず僕は魔物に近づかなくていいよねリーダー?」

「近づけと言われても拒否するだろうが、お前は」

「リーダー!うまく行ったら何かご褒美とかありますか!」

「試験官はリラさんだからそっちに言ってくれ。俺も審査される側だ」

「無い」

「だそうだ」

「えー」

「…レント、お前の一言のせいで、みんなが俺を一斉にいじり出したんだが」

 

ホント、どいつもこいつもノリがいいな。この流れ、俺も乗らなきゃ嘘だぜ。

 

「悪かったな、リーダー」

「蹴るぞ」

 

おい俺だけストレートに暴力が飛んでくるんだが!?女子2人は兎も角タオとの差は何だよ!?

 

「ふむ、チームワークは問題なさそうだな?」

「気が抜けすぎ…いや、こいつらはこれくらいが丁度いいのかもしれんな」

 

と、とりあえず蹴られる前にさっさと出発だ!

 

 

「キレイ…」

「船着き場の近くに、こんな場所があったんだ…」

 

水没坑道に着いたら、女子2人が中の光景に見とれていた。確かに綺麗だとは思うが…感動まではいかねえな。

 

「魔石の光か。とりあえず、明りの心配はしなくて良さそうだな」

「でも、どこかに暗いところもあるかも。そういうところに入り込まないよう、慎重に行こう」

 

こっち2人は状況確認。そうだな、光が無いところじゃ戦いも探し物も出来やしねえ。

 

「よし、新しい錬金術の素材集めと試験達成のために、行こうか」

「おー!」「うん!」「早く終わらせよう」「おうよ!」

 

やっぱお前、リーダーだって。

 

 

さて、そんな感じでクラウディアを連れた初めての冒険が始まったわけだが…

 

「あ、きのこ。採っていいかな?」

「ああ。気を付けろよ」

「うん。…きのこって、丸っこくてかわいいよね」

 

…なんか、いつも通りな感じだな。

 

「…緊張とかしてねえんだな?」

「え?うん。だって、みんな頼りになるって解ってるから」

「ふふふー、ありがとね」

 

信頼されてんなあ、俺達。いや、だとしてもここまで落ち着いてんのはすげえけどよ。結構冒険向けの性格してんだな…

 

「凄いなあ、クラウディアは。僕は今でも緊張してるよ…」

「お前はむしろそうしてくれ。誰か一人が危機感を持ってくれているだけで大分違うからな」

 

そういう意味じゃタオも大事な役割持ってんだよな。一番早い引き際の提案役っつーのか。

 

「さて、じゃああのゴーレム達相手に初戦闘と行くか?」

「おう。腕が鳴るぜ!」

「石のゴーレム…剣とか通りにくいかもしれないから、気を付けてよ?」

「じゃああたしとクラウディアは魔法で攻撃ね!」

「うん。みんなのサポートもするよ!」

 

じゃあ、戦闘開始だ!

 

 

「大分倒したな。目的の鉱石も手に入れた」

「大活躍だったわよ、クラウディア!」

「ライザも凄かったよ。魔法とフラムでいっぱい倒してたもの」

「俺はクラウディアの支援が無いとキツかったな…剣がダメになってねえといいけどな」

「無理やり倒してたもんね、レント…」

 

とりあえず見かけたゴーレムは粗方倒した。…とりあえず、クラウディアすげえってなったな。初めての戦闘だってのに、メチャクチャ落ち着いてた。俺達全員を魔力を乗せた音で強化しつつ、ついでみたいに魔物を攻撃してたし、常に魔物と一定の距離を保つことも出来てた。

いくら小さいころから商隊に付いて行ってるからって、こんな度胸付くもんか?それとも単に、元々そういう気質ってだけなのか?

 

「冒険って楽しいね。どんなところで、何があるのか、みんなと一緒に見つけられるんだもの」

「うんうん、やっぱりそこが一番大事なのよ」

「発見が更なる発見を呼ぶ。これ以上楽しいことは無いな」

「これで安全なら言うことないんだけどね…」

「そうも言ってられねえから、冒険者って奴はみんな強くなるんだよ」

 

それに、困難があった方が達成したときの喜びも大きいしな。ただ歩いて塔を目指すだけの旅をやったところで、誰も認めてくれやしねえし、何より俺がつまらねえ。

 

「さて、指定された素材は入手した。もう帰っても大丈夫だろうが…」

「当然、もうちょっと調査するわよ!」

「ああ。…いつものように、コアクリスタルのエネルギーが無くなるまでにしようか」

 

そうして、少し奥まで進むと…

 

「…大きいね」

「ああ、デカいな」

「青ぷにと言い、上位種はとりあえずそのまま大きくなるのが常なのか…?」

 

そこらにいるゴーレムより一際デカい奴がいた。…アルムがなんか触れちゃいけないところに触れてる気がするが、気にしないでおくか。

 

「…どうしよっか?」

「今はやめておいた方がいいだろう、無茶をして不合格、なんて情けないからな」

「うん。それに、ここでとれたもので新しいものが作れそうだし…挑むのは次にしよう」

 

そして、俺達は安全を取り、コアクリスタルのエネルギーがなくなるまで青いゴーレムを倒しまくって、リラさん達のところに戻った。当然、合格判定だったぜ。

 

 

 

 

リラさんが出した試験が終わって、早速あたしは錬金を始めた。まずあの大きいゴーレム。アイツを倒すためにはフラムだけじゃ足りないかもしれない。ってことで思いついたレシピ変化!爆紛うにから氷びしに変化、そして坑道で採れたアクア絋を入れて…

 

「できたっ!氷の爆弾、【レヘルン】よ!」

 

フラムとレヘルン、どっちもぶつけてみて有効そうな方で集中攻撃!どっちも駄目そうなら撤退!我ながらいいアイデアじゃないかな!

 

「錬金術って、本当に凄いね。素材を入れただけで全く違うものが出来ちゃうんだもの」

「ただの草から中和剤が出来たりするからな。何でもありだ」

 

ふふふー、その何でもありな錬金術を習得しているのが私なのです!まあまだまだその領域までは行ってないけどね。

因みに、いま私の錬金を見ているのはクラウディアとアルムだけ。レントは早速特訓してるし、タオは本の解読をしてる。

 

「さーて、それじゃあもう一つレシピ変化、試しちゃおっかな!」

 

インゴットからこれまた坑道で採れたコベリナイトを入れてブロンズアイゼンに変化!これでなんと、みんなの新しい武器を作ることができるのよ!

で、数的には全員分できるんだけど、ブロンズアイゼンをたくさんつぎ込んだ方がいい武器になる予感がしたから、まずここにいる3人の分から!レントとタオのはもう一度コベリナイトを集めてからしっかり作ってあげよう!

 

「できた!はい、クラウディア!名前は【クレプスクルン】よ!」

「わあ…凄い。有難うライザ」

「ふふーん、音は後で聞かせてね!次はー、あたしの杖!」

 

同じようにブロンズアイゼンを入れて…できた!名前は【ヘリオプロクス】にしよう!…光が収まってから、明らかに釜に納まってない杖が出てくるの、なんかシュールだなあ。

 

「さて、それじゃあ最後にアルムの武器だよ!」

「ああ、頼む」

 

さーて、張り切っていくぞー…どうだっ!

 

「できたよ、アルム!早速履いてみて!」

「…軽いな。かなり動きやすい」

 

普段からいろんなところを歩いてるから、それを邪魔しないようにできるだけ軽くしてみた一品。どんなところでも軽々歩ける便利なブーツ。名付けて…

 

【フリーウォーカー】。それがそのブーツの名前よ!」

「ああ、しっかり使わせてもらう。有難うな」

 

2人とも、あたしにありがとうって言ってくれた。そんなこと言われたら、もっと錬金術を頑張りたくなっちゃうな!さあ、待ってろ新しい素材とレシピ!この錬金術師、ライザリン・シュタウトが作り尽くしてやるぞー!…なんてね。

 




因みに、レントとタオの武器更新を遅らせた理由はメタ的にも一応あったり。

アルムの武器更新 防刃ブーツ→フリーウォーカー(自由な歩行者)スロットは変わらず3つ。

武器スキル 防刃ブーツ 頑丈な造り(受けるダメージ減少)
フリーウォーカー 自由な動き(スキルのWT減少)

Q,タオとレントの対応の違いは?
A,「この流れの発端になった発言をしておいてあんなことを言い出したからだ。後、レントは兎も角タオを蹴ったらアイツがへし折れる」

Q,クラウディア強くね?
A,レベルとか攻撃力が低いだけでやってることそのものは「行動一回で味方全体バフと敵全体攻撃」なので超ヤバいです。しかも将来的にはデバフも撒ける。多分ゲームでの性能との比較って意味だと一番強化されてます。

ここまで読んでいただき、有難うございます。


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笑顔は底抜けで良いが、床は勘弁

過去1ギャグっぽいサブタイ。冒頭の採集デート部分は前話と同じ日です。後はレントとタオの新武器&「アレ」について。
今回はアルム視点→クラウディア視点です。


「よーし、それじゃあコベリナイトとついでに色々集めよっか!」

「ついでに新武器とレヘルンも試すか。青い奴はフラムでよさそうだったから灰色の奴だな」

 

俺は今、ライザと2人で水没坑道に来ている。目的はレントとタオの武器用のコベリナイトの採取と新武器とレヘルンの試運転と…まあ、以前の約束の履行だな。

2人で行くと言ったら、クラウディアも付いて行きたがっていたが…「流石に初冒険で疲れが溜まってるだろう」で何とか納得してもらった。

 

「今回もあの大きい奴には手を出さない、で良いな?」

「うん。流石に全員そろってなきゃ危ないと思うし」

「だろうな。奴には近づかず、青い奴を優先的に狙うぞ」

「おっけー!いつでもフラム撃てるように準備しとくね!」

 

さて、行くか。

 

 

「――良いな。こいつら相手なら道具も必要ないくらいだ」

「うん、我ながらいい仕事ね!」

 

幾らか倒してみたが…新しい武器の性能が良すぎた。ここまで20体以上ゴーレムを倒してきたが、道具を使ったのが2、3回程度。魔力こそ使ったが、殆ど俺とライザの攻撃だけで楽に倒すことができた。武器が変わるだけでここまで変わるんだな…

まあ一応レヘルンも試せた。灰色の奴は一撃で倒せたから、性能的には十分だろう。あの大きい奴にも通用するといいが…

 

「さーて、素材も回収回収っと。…あ、これ他のより良さそう」

「…何というか、もうすっかり錬金術士だな。初めて一週間くらいしか経ってない筈なんだが」

「そりゃねー。こんなに楽しいこと、知っちゃったら夢中になっちゃうよ」

「ああ、それは見てれば分る。錬金術を始めてからのお前はずっと笑顔というか…本当に楽しそうで、嬉しそうだ」

「そ、そうかな…なんかちょっと恥ずかしいな」

 

今まで俺が知っているライザの笑顔は、ただただ純粋な屈託の無い笑顔だった。だが最近の笑顔は、そこに真剣さというか、本気さが混ざっているように見える。生きがいを見つけたというか、何かに全力で打ち込めることの嬉しさに満ちているというか…以前の笑顔よりも、さらに魅力的に見えた。

今は、錬金術に打ち込んでいるライザの姿が一番魅力的だと思ってる。活力にあふれている、とでも言うか。…正直、アンペルさんには感謝しかない。ライザがここまで本気になれる物…錬金術を教えてくれたのだから。

 

「…さて、後は何を採取する?」

「えーっと、ちょっとアンペルさんに聞いて、試したいことがあるんだけど」

「何だ?」

「…毒物の採集、保管方法」

「…間違えるなよ?特に保管方法」

「…後でちゃんとアンペルさんにチェックしてもらうね」

「そうしてくれ」

 

…錬金術に必要なんだろうとは思うが、流石に怖いな。しっかりやってくれよ?というかこんな綺麗な場所に男女2人で来て毒物採集とかこう、ムードもへったくれも無いな。元々そういう目的とは言え…

 

 

「で、朝早くからライザは俺達を呼んで、何がしたいんだ?」

「まともなことであってほしいなぁ」

「ライザって普段2人からどう思われてるの…?」

「以前から振り回されてるからな、その感覚が抜けきってないんだろう。2人とも、まともな内容なのは俺が保証する」

 

次の日の朝、ライザが俺達を呼び出した。新しく作ったレントとタオの武器を渡すためだろう。

 

「まあお前がそう言うなら大丈夫か。ライザー。来たぞー」

「上がって良いわよー!」

 

ライザがそういったので、俺達はアトリエまで上がる。

 

「ふっふっふ、待ってたわよ!」

「またそのノリか?」

「今回は違うわよ。2人とも絶対あたしに感謝したくなるわ!」

「ホントかなぁ…」

「今日は何と、2人の新しい武器を作ります!」

 

そういった瞬間、2人の顔が真剣なものになった。

 

「新しい武器?」

「そうよー。コベリナイトから作ったブロンズアイゼンで、今までよりずっと強い武器が作れちゃうんだから」

「まともどころか、最高の内容じゃねえか。早速頼むぜ」

「任せなさい!」

 

そう言って、錬金を開始するライザ。

 

「で、お前はもう先に貰ってんのか?」

「クラウディアもな。…お前達に渡す武器の性能を突き詰めようとした結果だ。怒るなよ」

「そういうことなら文句はねえよ」

「っていうか昨日の今日でよくそんなに素材集めれたね」

「あの後もう一度坑道に行ったからな」

「3人で?」

「俺とライザの2人でだ。クラウディアは流石に疲労とかあっただろうしな」

「…とか言いつつ、2人で行きたかっただけなんじゃないの。約束したって聞いたよ」

「え、アルム君とライザって、もしかして…」

「…今は違う、とだけ言っておく。後、クラウディアを心配したのも本心だ」

 

任されている以上、体が冒険に慣れてくるまでは無理はさせられないだろう。次の日に疲れを残し過ぎると、冒険どころじゃないからな。

 

「よし、できたわよ2人とも!…やっぱりシュールねこれ」

「おう、できたか。って…」

「…明らかに釜に納まってないよね、剣とハンマー」

「錬金術って、本当に不思議…」

「出来ることも面白いなら、見てるだけでも面白いとか、本当に凄いな錬金術」

 

個人的にこういうよく解らない光景は割と好きだ。疑問に思う要素しかないのに不快さが無いからな。不可解ではあるが。まあ今回に関しては、「錬金術だから」の一言で済まされてしまうがな。

 

「まあ出来たからいいのよ!レントの剣が【コロッサルエッジ】、タオのハンマーが【クレアエンパシー】よ!さあ、受け取りに来なさい!」

「おう。…コイツでまた、塔に一歩近づくわけだな」

「前のより扱いやすいといいなあ。アレ、手当たり次第に引っ張ってきただけの奴だし」

 

ライザが2人に武器を手渡す。…の前に、クレアエンパシーは兎も角コロッサルエッジはかなり重そうだ。俺が手渡そう。

 

「はい、タオ」

「うん。…前のより軽いね」

「アンタに合わせて調整したのよ。振りにくそうだったし」

「有難う、ライザ」

「レント」

「おう。…こっちはかなり重いな、今までとは段違いだ」

「幅と厚みが違うからな。いざというときは盾としても扱えそうだ」

「ああ。重いは重いが、今の俺にはちょうどいい重さだ。有り難く使わせてもらうぜ、ライザ」

 

新しい武器は、2人にも好評だったようだ。

 

「さーて、それじゃあ早速次の冒険に向かうわよ!」

「そうだな。3人とも早めに実戦で慣らした方が良い」

「うん。今までより魔力が込めやすい感じがするから、もっとサポートできるかも」

「コイツならあのゴーレムも叩っ切れるかもな」

「少しでも早く倒せるならそれに越したことはないよね。…上手く使いこなすぞ」

 

そう言いながら、アトリエから出ようとしたその時。

 

―ギッ…

 

「「「「「…」」」」」

 

…不吉な音がした。発生源は…レントの足元?

 

「…レント」

「…おう」

「足を上げて、もう一度床を踏んでくれ」

 

―ギッ…

 

「「「「「…」」」」」

 

「…これは、アレか。コロッサルエッジが重いからいつもより床に負担がかかって、限界がきて悲鳴を上げ始めたのか」

「あんまり、音は大きくないけど…」

「こういうの、あんまり長く続くと、いつかは…」

「…マジか、どうするんだよコレ」

「…今日の冒険が終わったら考えるわ」

 

…ちょっとした不安を胸に、俺達は水没坑道の探索をした。とは言っても、俺とライザの2人でああも楽だったんだから、フルメンバー且つ全員装備更新済みのこの状況では苦戦する要素など微塵も無く。あの大型のゴーレムもレヘルンの集中砲火で安全圏から封殺できた。…そのせいで、暴れてスッキリできなかったとでもいうか、終わった後も「どうしようアレ…」みたいな空気が漂う状況に陥ってしまったが。

 

 

 

 

「…うーん」

 

今日の冒険が終わってから、私はアトリエをどうしたらいいか考えていた。このままあそこで錬金を続けていたら、最悪床が抜けちゃうかもしれない。それなら他の場所に移せばいい…けど、どこにすればいいんだろう。

 

「どうかしたのか、クラウ」

 

悩んでいる私にお父さんが声をかけてきた。…そうだ、お父さんに相談してみよう。

 

「えっと、ライザのアトリエについてなんだけど…」

 

そうして、お父さんに相談したら…

 

「あの錬金術というものの力は凄まじいものがある。…もしかしたら、小屋の1つや2つくらいは容易に建てられるかもしれん」

「でも、ライザは錬金術を始めてそんなに経ってないし、流石にそこまでは難しいんじゃないかな」

「それなら、廃屋など何かしら元となるものを利用するのもいいかもしれんな。ある程度形が残っている必要があるが…」

「そんな都合の良いもの、島にあるかな…」

「ふむ…島の中に拘る必要は無いんじゃないか?」

「え?」

「お前達は島の外で冒険をしているんだろう。なら、そのための拠点としても利用できるように、アトリエも島の外に作る…というのも、選択肢として悪くはないと思うが」

 

島の、外。…ある。少し開けてて、使われてない小屋があって、船着き場まである場所…!

 

「…小妖精の森の、あの広場」

「心当たりがあるようだな。明日、教えてあげなさい」

「うん!有難う、お父さん!」

「彼女たちには、お前が世話になっているからな。知恵の1つや2つでその分が返せるなら、願っても無い事だ」

 

明日、みんなはなんて言ってくれるかな。凄く楽しみ!




ライザ二次を書き始めてからふと「こんなとこで錬金術やってたら最悪床抜けて家がヤバいことにならね?」なんて疑問が湧いたので、そのままアトリエ建設計画に繋げてみました。
因みにレントの足元から嫌な音がしたシーンですが、2番目に床に負担をかけてるのは素の体重が5人中1番重いアルムだったりします。アイツレントより10㎝以上背が高い上に格闘キャラなので…

Q,アルムってシュール系好きなの?
A,正確には、絵面に不快さが無ければ「何だコレ」系全般が好きです。

Q,アトリエの建設先、クラウディアが提案するの?
A,今作のライザはあんまりコソコソする必要が無いので、「人目につかない場所に移しちゃおう!」という発想が出ませんでした。ならどこから出る?って言われたら、旅先で拠点を作ったりしてそうなルベルトさん辺りかなと。

ここまで読んでいただき、有難うございました。


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築き始める、信頼とアトリエ

サブクエは基本ナレ解決していきます。そして無自覚に外堀埋めつつ即刻開門されたライザ。それとアトリエの素材集め完了まで。
今回は終始ライザ視点。


「ふーっ、疲れたー」

 

あたしは今日、島中を駆け回っていた。理由はまあ…気分転換と、ついでに人助けって言うか。クラウディアからアトリエ移設のアイデアを貰い、そのために必要なレシピをアンペルさんに相談してみたら、「家そのものを調合の結果として考えてみろ」って言われた。それでまあなんとなくは思いついたけど、もう少しアイデアを固めたかったから頭のリフレッシュも兼ねてちょっと散歩してた。

そしたら、便利屋のロルフさんが何か悩んでるみたいだったから話を聞いてみたんだけど、なんでも最近仕事が無くて困ってるらしくて、ちょっと評判とか依頼とか聞いてきてほしいって頼まれた。あたしも自分が頼られなかった時のことを想像してみたけど…もう本当に凄く嫌というか寂しかった。で、ロルフさんは今実際そういう思いをしてる。だからこう、ちょっとくらい力になれないかなと思って、頼みを聞いた。…結果は「良い人だけど頼みたいことは特に…」って感じだった。まあ、誰かに頼りたくなるような用事なんていきなり言われても無いよね…

まあ、とりあえず頼みを聞いてくれたからってことでお礼をくれた。その内容は…

 

「魚油リキッドは兎も角…固形燃料(ミックスオイル)のレシピなんて貰えちゃうんだもんなあ」

 

思わぬところで錬金の幅が広がってビックリした。お父さんが「誰かを助けた分、自分に返ってくる」ってこの前言ってた気がするけど、こういうことなのかな。

そして、あたしは思いついた。島中の困ってる人を助けたら、またレシピがもらえるかも!?って。…これ思い返すとロルフさんの仕事取っちゃってる気がする。

まあその時のあたしはそんなこと考えもしてなかったから、色々人助けの為に動き回った。お医者さんをしてるエドワードさん、行商人のロミィさん、他にもいろんな人たちの頼みを聞いて回って解決した。…旅好きのダニエルさんとはお話をしただけだし、ヨンナさんからはアルムとのことを羨ましがられたけど。…やっぱりそういう風に見えるのかな、あたし達。ちょっと嬉しい。

…ま、まあそれは置いといて、人助けの成果だけど。

 

普通の紙(ゼッテル)のレシピに…なんかアクセサリーまで貰っちゃった」

 

レシピも嬉しいけど、なんかこのアクセサリー、ちょっと不思議な力を感じるって言うか。冒険に何かしら役立ちそうな感じがする。錬金で同じの作れないかな?ちょっと試してみよう。

後は…あ、そうだ。あの軟膏、バーバラさんの足腰にも効いたみたいだし、ウェインさんにも作って渡してあげよう。後、錬金繊維とかクロースを活用すれば腰巻も作れそうかな?最近「そろそろ庇いきれなくなってきたかもしれん」って言ってたもんなぁ。…よし、レシピも思い浮かんだし早速錬金だ!

で、作って渡しに行ったんだけど…

 

「アルムに言っておくわね。ライザちゃんみたいないい子そうそういないから絶対に逃がすなって」

「うえっ!?いや、えっと、その」

「心配しなくてもこの子は逃げんだろう。ああ、これは大事に使わせてもらう。有難うな」

「え、あ、はい、ど、どういたしまして」

「ふっふっふ、本当にお姉ちゃんになる日が楽しみですなぁ」

「どこで教えてもらったのそんな喋り方…っていうか、あたしだけお姉ちゃんってつけてるの、そういう理由だったの!?」

 

え、これ外堀を埋めちゃったの?埋められたの?両方?多分明日ウェインさん経由でお父さんにも伝わりそうだし…うわあ凄く恥ずかしい思いしそう。久しぶりにサボろうかな、畑。

…まあ朝一で必ずアルムに会える時間だからサボれるわけなかったんだけど。案の定お父さんに伝わって、案の定褒めちぎられて、お母さんは感動までしてた。え、そこまで…?

 

「これから自分の親にももっと孝行してやれ」

「…うん」

 

多少は変わった気でいたんだけど、やっぱりお母さんの中ではまだまだ不良娘だったんだなぁあたし。否定できないけど…まあ、それならこれからどんどん良い事して、安心して見ていられるって言われるようにしなきゃね!

…まあ今日と明日はアトリエを作るんだけど。このままだと孝行どころかとんでもない迷惑をかけかねないし。

 

 

「というわけで、まずこれらを作ろうと思います!」

 

そういってみんなに渡したのは簡易建材、簡易石材、海草土のレシピ。これだけあればあの小屋を建て直して、あたしたちのアトリエにできる!…かもしれない!

 

「今ある素材じゃ足りないのか?」

「どうせだしちょっと厳選しようかなって。できるだけいいもの作りたいじゃない?」

「なるほど、それは確かに」

 

もしかしたら、長い間お世話になるかもしれないんだからね。

 

「どこで調合するんだ?ここじゃ床が危ないだろ」

「だからって屋外でやるのも集中しにくいのよね。…危ないところを避けて、バケツリレーみたいに運ぶ感じでお願いするわ」

「…落とさねえように気を付けねえとな」

 

ちょっと重いかもだけど…うん、アルムとレントなら大丈夫でしょ。

 

「建築関係の知識とか技術とか大丈夫なの?」

「…その辺りもレシピと一緒になんか浮かんできたのよね。こうすればいい感じになる、とか」

「どうなってるの錬金術って…いや、それが出来るから錬金術士になれるのかな」

 

物だけじゃなくて、知識もいきなり出てくる感じが偶にするのよね…錬金術、すごいわ。

 

「力仕事、私に手伝えるかな…」

「クラウディアはそこまで無理しなくていいわよ。代わりって言ったらなんだけど、明日のお昼の準備とかお願いして良い?」

「うん、わかった」

 

力仕事だけが仕事じゃないしね。なんならあたしもそのときは指示出しに専念するつもりだし。

 

「弁当の準備くらいなら俺とレントも出来るが…」

「アルム君とレント君ってお料理できるの?」

「俺は朝母さんを手伝うことがあるからな」

「俺のとこは母ちゃんが逃げたし、親父はやらねえっつーかできねえからな…」

「ご、ごめんねレント君…」

「そもそも2人は力仕事で頑張ってもらうんだから、そこはクラウディアに甘えときなさい」

 

最近気づいたけど、こういう時結構色々したがるのよね、アルムって。

 

「さーて、じゃあ素材を採りに行くわよみんな!」

「ああ」「おう!」「「うん!」」

 

さーて、今日一日でどれだけいい素材が集まるかな!

 

 

「えっと、この草で良いの?」

「そうよー。…あ、右の奴の方が良いからそっちもお願いね」

「僕に斧で木を斬り倒せるわけないだろ!?ライザ代わってよ!」

「何言ってんのよタオ!二人を見なさい!」

「変に力を入れ過ぎない方がいいぞ。こうやって…ふっ!」

「よっ!お、やってみると結構楽なもんだな」

「ね?コツがあるのよコツが」

「…解ったよぉ」

「後で私もやってみて良い?」

「いいけど、キツかったらすぐ言うのよ?」

 

 

「よいしょっ!」

「ふっ!」

「そらよっ!」

「おりゃっ!」

「…」

「待て待て待てフルートで何する気だ!?」

「そういう道具じゃないでしょそれ!いくらあたしが錬金したものだからって限度があるからね!?」

「だってみんな、自分の武器で採集できてるから…」

「魔力をぶつければいいんじゃないか?」

「…あっ」

「変なところで抜けてるよね、クラウディア」

「…みんなと同じように、やってみたかったの…」

「っていうかこっちは普通にやるのねタオ」

「こっちは叩けばいいだけだからね。伐採は力加減とか結構キツいし…」

 

 

「こういう砂とか水も、錬金術の素材になるんだな」

「何が使えないのかを探す方が早いかもしれないくらいだな。少なくとも虫や魚は使えるから、生物も大抵は対象内かもしれないな」

「二人とも、よくそんなに、余裕で、運べるね」

「す、砂とか水って、集まると、こんなに重い、んだね…」

「クラウディア、無理しない無理しない!手伝うわよ!」

「ライザも、大概、だね…」

「戦闘と採集を続けてると自然と力も体力もつくぞ」

「…女の子としてはちょっとどうかと思ってるけどね、最近」

「でも、そういうの、ちょっと、羨ましい、な。私も、ライザ、みたいに、頼もしい、女の子に、なってみたい」

「…それは構わないが、腹筋が割れたり力こぶが出来たりするところまではいかないでくれよ?」

「ルベルトさんがどんな顔するか分かんねーな、そうなったら…」

 

 

そんな感じで、みんなで1日中採集して回った。

 

「お疲れ様、大分集まったわ!」

「つ、疲れた…」

「帰ったら、すぐお風呂に入ろう…」

「俺達じゃ素材の厳選はできねえし、どうする?」

「ああ、俺は少し雑貨屋に寄る。お菓子作りの基礎、みたいな本を見かけてな。エルが挑戦したがっていたし、買っておこうかと」

「あ、それ後で借りていい?錬金術に活かせるかも」

 

アンペルさんも言ってたっけ、「錬金術は菓子も作れる」って。何か試してみよう。…そういえばあの時、アンペルさんがなんか色々話し始めて、リラさんが途中で止めてたけど、止めなかったらどうなってたんだろう。

 

「よし、それじゃあ明日、アトリエを建てに行くわよ!おーっ!」

「応!」「おうっ!」「おー…」「おー!」

 

いよいよ明日!ふふっ、どんなアトリエができるかな!すごく楽しみ!




次回、いよいよタイトルコール。

Q,前半部分、アルムは何してたの?
A,レントと共に広場に直接船で向かうルートの確認と、広場の下見を改めてやってました。

Q,ライザ超歓迎されてるね?
A,元々アルムと両片思いなのは知ってて、それで十分好意的ではありました。そこから錬金術なんてものを習得して、やることが人助けなんだからそりゃ歓迎もされますよね。

Q,知識がいきなり出てくる感じってそんなのあったっけ?
A,なかったと思いますが、そういうのが無いとまずレシピが思いつかないだろうと思ったので。

Q,レントって家事出来るの?
A,どこかで「あの親父が家事やるとも思えないし、もしかしてレントがやってるのか?」みたいな考察を見かけたので。因みに上手い順にレント(いつも全部やってる)→アルム(日頃から手伝ってる)→クラウディア(自分でちょいちょいやってそう)→ライザ(修行中)→タオ(やる気なし)って感じです。

Q,クラウディアは何をやろうとしてるの…
A,原作でもフルートブーメランで攻撃してるので…

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完成したアトリエ、出現した悪魔

ライザとタオとレントの漫才を書くのが楽しい。こういう時、アルムは大体意図せず話を振る役になります。

アトリエ完成回。そして遂に「奴ら」が出現。因みに基本皆クラウディアには甘い。
今回はライザ視点→アルム視点です。


「ふう、運び終わったな」

「お疲れ様!さーて、ちょっと休憩したら始めるわよ!」

 

小屋の修理用の素材を調合して、広場まで運び終わった。…アルムとレントが腰を結構気にしてた。床に気を使って落とさないようにゆっくり運んでたら痛くなってきたらしい。アルムの「親父は日頃こんな痛みと戦ってるんだな…」なんてつぶやきが印象的だった。…ごめんね?

それで、改めて今から建て直す小屋を確認。…うん、思った通り、これだけ素材があれば完璧に修理しきれそう。

 

「しかし、まさか家の建て直しなんて経験するとは思わなかったぜ」

「ホントだよね…肉体労働とか、僕には向いてないのに」

「あれだけ採集を手伝っておいて、それは今更だと思うがな」

「大丈夫だよタオ君、いざとなったら私も手伝うから!」

「…クラウディアにそんなこと言われたら頑張るしかないじゃん、はあ…」

 

…絶対あたしが同じこと言ってもそんな反応しないわよね。まああたしもクラウディアにそんなこと言われたら同じ反応すると思うけど。

 

「それで、ライザは全体の指示出しをするんだったか」

「そうよ。だって完成図はあたしの頭の中にしかないから、全体を見て指示を出せるのはあたしだけだもん」

「そうだな。…しかし、どうにも新鮮だな」

「何が?」

「お前の指示で動くことが。いつもは大体俺から言い出すか、偶に偶然足並みが揃うかだったしな」

「…そうね、アルムに指示出しとか、初めてするかも」

 

まあでも、レントとタオより素直に聞いてくれそうだから、大丈夫だと思うけど。

 

「俺達には大体指示出しまくりだけどな」

「振り回されまくりともいうよね」

「アンタ達はあたしにツッコミ入れなきゃ気が済まないの!?」

「「済まない」」

「ふふふっ」

 

あーもう、クラウディアに笑われちゃったじゃん!

 

「よし!もう休憩終わり!早く始めるわよ!」

「ああ」「へいへい」「う、藪蛇だったかな…」

「皆、お昼の用意はしておくね!」

 

さあ、アトリエ建築、始まりだ!

 

 

「さーて、まずは土台を補強するわよ」

「これを怠って作業中に崩れましたは笑えないからな」

「ある意味そこから始まったもんね、この計画」

「おー怖え…じゃあ、しっかり固めるとするか」

 

 

「壁に建材を貼り付けて固定して、海草土を塗るのか」

「コイツで丈夫な壁が出来上がるなんて、想像つかねえな」

「あ、塗るのは僕がやるよ。力とかあんまりいらなさそうだし」

「じゃあアルム、次はこっちの壁お願いね!」

 

 

「みんなー、お昼できたよー!」

「よし、休憩だ!」

「どれどれ…お、紅茶とサンドイッチか。いただきます」

「美味いな。…ん、バターが塗ってあるのか」

「な、なんか凝ってる感じがする…あたしももっと勉強しないと…」

 

 

「次は中か…こっちは結構綺麗に残ってるのが幸いだな」

「流石に一部張り替えた方が良いところはあるけどね」

「錬金釜はあそこに置くから、あの辺りは特に強くするわよ!」

「火も焚くしな。この周りは石材だけで作る方が良さそうか」

「火事になっちゃうといけないもんね」

 

 

「後は…屋根ね。アルム、お願い」

「ああ。…よっ、と。レント、材料をくれ」

「…ひとっ跳びで上に乗れるんだ」

「体は大きいのに身軽だね、アルム君…」

「こっからはアルム任せだな…」

 

 

「っと。これで終わり、か?」

 

屋根の作業を終わらせて降りてきたアルムがそう聞いてきた。…うん、これで完成!

 

「できたーっ!」

「ははっ、マジか!家一軒直しちまったぜ俺達!」

「なんていうか…想像と現実って、意外と近かったんだなって思ったよ。…本当に、できちゃったんだ…!」

「ああ。…本当に、錬金術は凄いな」

「うん。こんなことまで出来ちゃうんだね…!」

 

みんな、完成したアトリエを見て感動してる。目に見えてハッキリわかる、あたしたちの成果だもんね。

 

「あ、そうだ。名前ってあたしが決めていい?」

「いいぜ。お前の錬金術で直したようなもんだからな」

「それで、どんな名前にするんだ?…いや、もう解り切ってるか」

 

アルムはもう解ってるみたいだけど…勿論、言うのはあたしの口から!

 

 

「ここは…「ライザのアトリエ」だよ!」

 

 

 

 

 

「さて、折角アトリエを建てたから、それを記念して1つ誓いを立てたいと思います!」

 

完成したアトリエの中に入って、ライザがそんな事を言い出した。

 

「どんな内容だ?」

「勿論、錬金術士としてもっと上達することよ!誰にも負けないくらい凄い錬金術士になる!」

「…成程」

 

すごく「らしい」誓いだ。

 

「なら、俺も改めて…俺はあの塔を制覇して、冒険者として名を上げてやる!」

「僕は、家の書庫の本を全て読破したい。その知識に触れて、更に先へ行きたい!」

「私は、いつかお父さんの前でも、フルートを演奏する…!」

 

ライザが誓いを立てたのを皮切りに、他のみんなも各々の誓いを口にする。…次は俺か。そうだな、これくらいは明かしてもいいだろう。

 

「俺は…そうだな。方向性としてはタオと似ていると思う」

「タオと?」

「ああ。…クーケン島には、みんなが知らない大きな秘密がある」

「秘密?」

「俺がそれを知ったのは最近だし、切っ掛けも偶然みたいなものだ。…そして、その秘密は、俺が島の外に出ようと思った動機なんだ。まあ、いきなりアンペルさんに出会えたから、当初の目的はほぼ達成したようなものだが」

 

本当、あの人とここまで早く会えたのは幸運もいいところだと思う。

 

「ただ、それでも秘密が解明されたわけではないし、タオの本にその全てが載っているとも限らない。だから、この冒険の間になにか核心に迫れる情報を見つけたいと思っている」

「つまり、アルムの誓いは…」

「「クーケン島の秘密の全てを知る」ことだな。…そうだな、まず目指したいのはあの【流星の古城】だな。あれも確かクリント王国の遺跡だからな、何かしらの繋がりが見つかるかもしれない」

 

アンペルさんとタオとで共有している情報も、あくまで推測の域を出ないからな。ああいった大きな遺跡なら、何かしらの痕跡はありそうだ。

 

「それに…」

「それに?」

「単純に冒険とか、そういうのが好きなんだよ。自分が知らないものをこの目で、この脚で見つけられることがな」

 

この冒険が終わって、クーケン島の事も一段落ついて、その上でエルが大きくなったら…世界を色々見て回るのもいいかもな。できるなら、ライザも一緒に。

 

 

さて、アトリエも完成して、もう日も落ち始めた。そろそろ島に戻るべきだな。

 

「しかし…完成はしたが、まだ足りないものは色々あるな」

「ま、そういうのは思いついたら色々持ってくればいいでしょ」

「小物とかも色々持ってきて飾ってみるね」

「俺も何か持ち込んでみるか…ん?」

「どうしたのさ、レント?」

 

…何だ、この感じは?

 

「…アルム」

「ああ。…森の空気がざわついている」

 

今までとは何かが明らかに違う。…何か、不味い事が起こっているような…

 

「…どうする?」

「…放っておいたら不味い気がするな。見に行くぞ」

「だ、大丈夫なの?」

「それを確めに行くんだよ」

「…ついて行くわよ。戦力は多い方が良いでしょ」

「わ、私も!」

「駄目…と言っても聞かないだろうな。いざとなったら逃げる準備はしておいてくれ」

 

さて、この嫌な感じは…森の奥か。

 

 

物陰に隠れながら、前を慎重に確認して、ゆっくりと森の奥に進んでいく。…どんどん嫌な気配が濃くなっていくな。

 

「…あたしにも分かるようになってきたわ。なんか、澱んだ感じがする」

「うん…なんか、音が無くなっていく感じ…」

「…もう、すぐ近くにいるな」

「な、何があるんだよー…」

「リラさんとはまた違う、威圧感みてえのがあるな。…正体は何なんだ?」

 

…どこだ、どこにいる?目を凝らして注意深くあたりを見渡すが、まだ何も見えてこない。どこに…

 

「――っ!アレか…!?」

「見つけたのか!?」

 

森の奥、まだ小さいが、確かに見えた。間違いなく見たことのない、白い何か。…だが、遠すぎてよく解らない。どうする…

 

「…近づくぞ」

「…大丈夫か?」

「このままじゃ何を伝えればいいのかすら解らねえだろ。…いざとなりゃフラムかなんかで隙を作って逃げりゃいい」

「…みんな、コアクリスタルの準備をしておいてくれ。近づいてきたら集中砲火を仕掛ける」

 

出来るだけ音を立てず、ゆっくり近づいていく。…少しずつその威容が見えてきた。赤いラインが入った白い胴体に、背中と尾の先から宝石なようなものが生えている。頭部には角のような突起がある。

…間違いなく、強い。見ただけで解る。だが、それ以上に…

 

(…「おかしい」)

 

違和感、いや異物感というべきか。明らかにこの場に、下手したら世界そのものにそぐわないものを持っている「ナニカ」。…これは、魔物というよりは…

 

(【悪魔】…!)

 

そうとしか、思えなかった。

 

「…な…なんだよ、アレ…」

「…ふ、震えが、止まらない…!」

「…は…ぁっ…!」

 

…タオとライザが恐怖に震えている。クラウディアは呼吸すら詰まり出している。…外見的特徴は掴めた。もう退くべきだな。

 

「…動けるか、みんな?早く戻るぞ」

「ああ、アガーテ姉さんとアンペルさん達に早く伝えねえと」

「う、うん」

「ク、クラウディア、動ける?」

「っ…う、ん。なんと、か…」

 

頼むから、こっちに気づいてくれるなよ…?

 

 

「…追いかけてきてねえな?」

「…大丈夫そうだな。あの嫌な感じも薄れた」

「よ、良かった…」

 

正直、まだ手が震えている。もしあそこで気づかれたら…勝てたとして、俺たち全員無事では済まなかっただろう。…最悪、誰かの命が危なかったかもしれない。

 

「クラウディア、ゆっくり息をして。もう大丈夫だから」

「…すー、はー…」

 

ライザがクラウディアを落ち着かせている。…お前も怖かっただろうに。強いな、お前は。

 

「クラウディアが完全に落ち着き次第戻って、アガーテさんとアンペルさん達にアレの事を話そう。特にアンペルさん達は調査とかであそこに立ち入ることもあるだろうしな」

 

折角アトリエが完成した日だって言うのに…全く、それどころでは無くなってしまったな。

 




フィルフサとの戦闘は回避しました。見ただけでヤバいってわかるしね、アレは。

Q,本当にフィルフサには気づかれなかったの?
A,ギリギリ全身が見える距離までしか近づいてませんでした。なので気づかれる前に退避成功しました。

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浮上する脅威、沈みゆく危惧

こういうサブタイ、考えるの結構大変。思いつくと結構気持ちいいんですけどね。

フィルフサ遭遇の報告&原作での課題消化。既にクラウディアが加入しているので、単なる人助けになりました。
今回はレント視点→ライザ視点です。


「…そうか、「奴ら」を見たか」

 

あの化け物を発見し、すぐに島に戻ってアンペルさんにそのことを話したらリラさんがそんなことを言い出した。奴ら…もしかして、あんなのがたくさんいるってのか?考えたくねえ…

 

「知っているんですか?」

「ああ。…聞き込みで成果が無かったから無関係だと思っていたが、まさか現れるとはな」

 

聞き込み…?あいつらは、2人の目的に関係あるのか?

 

「奴…いや。奴らは一体、何なんですか?まるで、この世界のものとは思えなかった」

「詳しい事はまだ話せん、迂闊に明かせる情報では無くてな。…そうだな、今からアトリエまで案内してもらえるだろうか」

「今から?…日が落ちるまでに戻れるかな」

「ああ、それまでには戻れと言われているんだったな。…どうする」

「アトリエを建てて、奴らの気配に充てられて体に疲労もたまっている筈だ。調査は急ぎたいが、こいつらにあまり無理をさせるのもな」

「ふむ、なら明日の朝だな」

 

俺は野垂れ死にしてなきゃいいって感じだから門限みたいなのは無えも同然なんだが…どうせならライザも自分で成果を見せたいだろうからな。ここは黙っとくか。

 

「お前達、特にクラウディア。体をゆっくり休めろよ。それと…」

「それと…?」

「よくやった。奴らの存在を見つけ、その上で無理をせず無事に帰って来た…その事実はそれだけ大きい」

 

よくやった、か。へへっ、やっぱ認められるのは嬉しいもんだな。

 

「アトリエの案内ついでに、万が一逃げられない状況で奴らと遭遇した時の対処法も聞いておきたいのですが」

「当然だ。今回は慎重に立ち回れていたようだが、それがいつも通用するとは限らんからな」

 

またいつ出会うか分からねえからな。自力でどうにかできるようになるならそれに越したことはねえ。

 

「よし、なら今日は解散だな。…念のためだ、明日も冒険は休みにしよう」

「アトリエも、安全が確認できるまで使えないもんね。せっかく建てたのになー…」

「あいつ等に関する情報が載った本とか無いか、調べてみるよ」

「お父さんに心配とかされないかな…」

「ヘタに隠さない方が良いと思うぜ。隠される方がかえって心配になる…らしいからな」

 

俺には経験ねえから分からねえけどな。さて、もう帰って休むとするか。

 

 

「これが、あたしたちが作った【ライザのアトリエ】だよ!」

「ほう、良いものを作ったな。…さて」

 

自信満々にアトリエを紹介するライザと感心するアンペルさん。ちゃんと褒めるあたりやっぱ良い人だよなあ。

 

「どうだ?」

「この辺りに痕跡は無いな。…森の中の、詳しい再調査が必要だろう」

「そうか…ライザ」

「何?」

「私達をここに住まわせてくれないか?…無粋なのは解っているが、奴らの見張りがしたい」

「うん、むしろこっちからお願いしたいくらいだよ!」

「2人がいてくれるなら、ここも安心して使えるね」

 

いざって時は錬金術のアドバイスもくれそうだしな。つまり、どっちにも得しかねえわけだ。

 

「さて、それでは奴らの対処法についても聞きたいんですが」

「ああ。…といっても、中型の種は今のお前達でも対処はし得る。だから大型の種の対策を重点的に教えるぞ」

「よし、きっちり頭に叩き込んでやるぜ」

 

動きは重いがその分パワーがあるから正面からぶつかるのは拙くて、炎が有効…フラムがある内はいいが、切れたらアルムの負荷がデカくなりそうだな。見た目相応にタフらしいから、一瞬で片を付けることより守りを固めることを意識した方が良い…そこは俺の出番か?受け流す技術をもっと高めた方が良さそうか。

…アイツの動きを見たわけじゃねえから、まだまだ倒せるイメージは湧かねえな。今はとにかく単純な実力をつける方が良さそうだ。

 

 

 

「しかし、昨日はホント大変だったよね」

「うん。あんな魔物が出てくるなんて…」

 

案内が終わった後、あたしはクラウディアの家に遊びに行った。レントはいつも通りで特訓で、タオは血眼になってあいつ等に関する資料を探そうとしてて、アルムはそれの手伝いをしてる。何でも、普段の解読は任せきりだからこういうことくらいは手を貸したいって。タオは気にしてないと思うけどなー。

 

「アルムなんか大変だったらしいわよ?すごく心配されたらしくて」

「エルちゃんに心配されたら…すっごく心が痛くなりそうだね」

「泣きそうな顔をされたから、こっちまで泣きそうになったって。アルムってこういうの結構隠すの得意そうに見えたけど、駄目だったみたい」

 

エルちゃんが絡むとその辺りかなり脆くなるんだよね、アルム。因みにあたしは…多分誤魔化せてないだろうなあ。気づいて無い振りされてると思う。タオとクラウディアもすぐ寝て休むよう言われたみたいだし、やっぱり家族って解っちゃうのかな、そういうの。…レントからはそういう話全くないけど。ザムエルさんはこういう時何か言ったりしないのかなぁ。

 

「…よし!暗い話はやめてそろそろ楽しい話題にしよう!」

「言い出したのはライザだけどね…あ、じゃあ1つ聞きたいんだけど」

「え、何々?」

「アルム君を好きになったのって、何時から?」

「へっ!?」

 

こ、ここで恋バナ!?っていうかクラウディアの前でそんなあからさまな態度取ったっけあたし!?

 

「2人きりで素材集めの為に対岸に渡ってるって聞いたよ?一応デートって名目で」

「だ、誰から?」

「みんな。…あの時私を帰したのって、そういう理由もあったんだね?」

「し、心配したのも本当だからね!?」

「ふふ、大丈夫だよ。心配してくれてたのは分かるし、そういう理由なら仕方ないかなって思ってるから。…それで、何時から?」

 

これちゃんと言うまで引いてくれないやつだ…!恥ずかしいけど、言うしかないなぁ…

 

 

「――じゃあ、ライザの初恋は10年以上も続いてるんだね」

「そう言われると死ぬほど恥ずかしいなぁ…」

 

切っ掛けから最近のあれこれに至るまで、全部話すことになった。周りから指摘されるよりもっと恥ずかしいよ、コレ…

 

「でも、隣に立ちたいっていうのはちょっと意外だったかな。ライザって結構前に出るタイプだと思ってたから、アルム君の事も引っ張っていきたいって感じなのかなって」

「あー…なんていうか。アルムには基本助けられっぱなしだなって意識持ってたから、そういう考えが浮かばなくて」

「そうなの?」

「10年前に助けて貰った分も返せてないって思ってるからね。だから、錬金術でようやくその分返せそうかなって。実際結構頼ってくれることも増えたしね」

「そうなんだ…」

「まあ、それはそれとして今でも助けて貰ったりするのは嬉しいし、頼れる人でもあってほしいんだけどね」

 

だからまあ、お互い助け合って頼りあって。そういう「対等」が今1番欲しいアルムとの関係なんだ。

 

「…うん、私も、そう思えるような人を見つけられると良いな」

「ああ。どんな間柄であろうとも、持ちつ持たれつが最も長続きするからな」

「ルベルトさん?」

 

態々部屋に入ってきて、どうしたんだろう。

 

「話が一段落ついたと思ったから入ったが…違ったかな?」

「あ、大丈夫です」

「なら良かった。…それでライザ君、今アトリエは大丈夫かな?」

「大丈夫だと思いますけど…」

 

何か頼み事でもあるのかな?

 

「最近地震があっただろう?それ以降、地下で水漏れが起きていてね。知恵を借りれないかと」

「あー、それなら実際に見た方が解ると思います」

「頼めるかね?」

「勿論!クラウディアのお父さんの頼みですから!」

「私に手伝えることがあるなら言ってね?」

「うん。今回は力仕事も無いと思うしね」

 

というわけで、地下室を見に行ったけど…これ水漏れどころの騒ぎじゃないような。最早浸水っていうか。えーっと、漏れてるのはここからで、だとすると…うん、イメージできた。素材も足りてる。

 

「これならいけます!」

「そうか。頼む」

 

このあたしにお任せあれ、ってね!早速作りに行こう!

 

「よーし、じゃあアトリエに…って、誰に船漕いでもらおう」

「えっと」

「よし、どうにかしてアルムにお願いするわよ!」

 

今絶対「私が漕ぐ」って言おうとしたでしょ!あんな力仕事、クラウディアに頼むわけにはいかないわ!そんなことさせるくらいならあたしが漕ぐ!

…まあ今回はアルムを頼るんだけど。OKしてくれるかな…?

 

「えーと、今は多分アルムの家にいると思うから…」

「いや、ここにいるぞ」

「えっ!?」

 

あれ、何で!?しかもタオもいるし。資料探ししてたんじゃ…

 

「気晴らしも兼ねて散歩してたんだが、最近の地震で瓦礫とかが崩れてきていたらしくてな」

「折角立ち寄ったし処分するのを手伝おうかって話になって、さっき終わったんだよ。…でも、1か所に固めてフラムでドン、は流石に雑じゃないかな」

「だからって蹴りやハンマーで1つ1つ砕くのも手間だろう。あれが最適解だったと思うぞ」

 

なんかアルム達もアルム達で人助けしてたみたい。こんな偶然あるんだね…

 

「それで、アトリエに行くんだったか?手を貸すぞ。タオはどうする?」

「僕は解読を進めるよ。錬金術に関しては何も手伝えないし」

「分かった。じゃあ行くか、2人とも」

「う、うん。…相変わらずこう、話が早いなあ」

 

いやまあ、こういうところも頼りになるんだけどさ。

 

 

「…しかし、浸水か」

 

アトリエに行って、浸水を止める為の【軟式ゴム石】を調合してると、アルムがそんなことを呟いた。

 

「どうかしたの?」

「いや、ちょっとな…」

 

…むう、何か知ってそうな口ぶり。凄く気になる。でもあんまりしつこく追及すると嫌われたりしそうだなぁ…今は止めとこ。

 

「…よし、これならいけそうだよ!」

「これは…ゴムか?」

「うん。これを浸水したところに詰めると、ぴったり塞いだまま固まるの」

「そんなものまで作れちゃうんだ…」

「本当、想像力次第では何でも作れそうだな」

「そこまでできるかはあたし次第だけどね!さあ、早速壁を埋めに行こう!」

 

そうして、ルベルトさんの屋敷の浸水は止めることができた。「何かあったらまた頼らせてもらうかもしれない」って…うん、やっぱり頼ってもらえるって気分が良いな。次も期待に応えられるように、錬金術の腕をもっと磨かなくちゃ!

 

 

 

 

(長年かけて水没した住宅街に、今回の地下室の浸水。…今までなら「そういうこともある」で済ませていたかもしれないが…チッ、嫌な予感がしてきたな…!)




Q,ルベルトさんは入ってくるタイミングを見計らってたの?
A,1分程。ライザの話の最後の方は聞いてたかもですね。

Q,何でアルムは2人がアトリエに行くって解ったの?
A,「よーし、じゃあアトリエに…」の部分が結構大声でした。つまり聞こえてた。

Q,嫌な予感って?
A,原作でも提示された、とある最悪の可能性です。まあサブタイを見ればわかりますが。

ここまで読んでいただき、有難うございました。


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少女と少年の、大きな一歩

原作は遠慮なくブレイクするもの。まあ、この二次小説はそういうコンセプトなのでね。

不漁解決&リラとアンペルの珍道中暴露。ついでにアルムの…?
今回はアルム視点→リラ視点です。ようやく原作パーティメンバー全員視点キャラにできた。アンペルだけ短いけど…

4/23 3のストーリーを踏まえてリラ視点を少し修正。


「最近、魚が採れなくなっている?」

「ああ、そうなんだよ。こんなことは生まれて初めてだ」

 

昨日一昨日とゆっくり休んで、アンペルさん達からも「今のところ近くに奴らは居ない」とお墨付きをもらったので、さあそろそろ行動範囲を広げようかと思った矢先、アガーテさんから頼みごとをされたので港に向かった。何でも、この頃不漁が続いているらしく、このままでは漁師さん達が干上がってしまう、とのことだ。

 

「そういうわけで、ライザの錬金術を頼りたいんだが…いいか?」

「まっかせて姉さん!…って言っても、今あたしにできるのは強力な餌を用意することくらいだけど」

「何か原因があるなら、それを取り除く方法も考えなければいけないが…」

「ん-…錬金しに行くついでに、アンペルさんに知恵を借りに行く?心当たりがないか、って」

「そうするか。…しかし、本当に切羽詰まっているんですね、漁師さんたちは。まだライザの錬金術に対して、そこまで信用はしていないんでしょう?」

「ああ。溺れる者は…っていうけど、まさにそんな心境だよ」

 

まあ、そうだろう。島の人達からは、「少し大人しくなったとはいえ、島の悪ガキの筆頭格が怪しげな術を覚え始めた」とかそんな印象でしかないだろうし、実際不漁になってからライザを頼るまで数日かかっている。余程悩んだのだろう。…逆に言えば。

 

「つまりこの問題を解決できれば、あたし達は島の人達に認められるってことだよね?」

「そうだろうな。最近いろんな人達の悩みや頼みを聞いてるらしいし、ここで1つ大きな問題を解決すれば、信用は高まるだろうな」

「よーし、やってやるぞー!」

 

そういって気合を入れるライザ。やる気になるのはいいが、アンペルさんに話を聞くのを忘れるなよ?…いや、俺がやればいいのか、それは。

 

 

「出来たよ!」

「これは…撒き餌か?だが、エリプス湖は深いから効き目がな…」

「そう言うと思って、結構強力に作ったよ!」

 

アトリエに行ってすぐに漁師さんたちに渡す【おいしい練り餌】を調合。戻ってきて早速渡した。…この練り餌、素材にクミネの実という、強くはないとはいえ毒がある物を素材として使っていた。まあ、とりあえず大丈夫なのは俺達の方で検証したので問題は無いと思うが。因みにかなり美味かった。

後、アンペルさんから聞いた事も伝えておかないとな。

 

「それと、潮目が変わると外海の魔物がエリプス湖に入り込んでくる可能性があるそうです。このエサでも駄目だったり、暫くは良くても次にまた不漁になった場合はそちらの可能性も考えた方が良いと思います」

「そんなこともあるのか…わかった、覚えとくよ」

 

もし原因が入り込んだ魔物だとしたら…船の上から探して討伐、は現実的じゃない気がするな。…どうにかしておびき寄せるか?それこそ錬金術の出番になりそうだな。

 

「しかし、な」

「どうしたの姉さん?」

「少し感動していたところだ。島の悪ガキが、ずいぶんと成長したな、と」

「酷くない!?」

「錬金術という本気で打ち込めるものを見つけたんです。成長もしますよ」

「それだけじゃあないと思うがな?」

「…何故俺を見るんですか?」

「さあ、何故だろうな」

 

絶対今遠回しに揶揄ってきてたなこの人…そういうことをあなたにされると、何も言い返せない相手だから困るんですよ。はあ…

 

「まあ、兎に角…応援してるぞライザ。錬金術士としてのお前をな」

「…っ!うん!有難う、姉さん!」

 

やはりアガーテさんからの激励は格別なんだろうな、満面の笑みだ。

…さて、今日は後どうするかな。エサはまず上手く行くだろうし、新しい場所に行くなら出来るだけ時間を長くとりたいし…ふむ。

 

 

 

 

「それでね、アガーテ姉さんが「応援してる」って言ってくれて!」

「ふふ、良かったね、ライザ」

 

餌を調合し、漁師に渡しに行ったライザがアトリエに戻って来た。認められて随分とはしゃいでいるようだ。ふふ、これだから錬金術士という奴は…

 

「それはいいが、魔物が入り込んでいる可能性は伝えたか?」

「あ、それはアルムがやってくれてたよ」

「なら良いが、お前自身もそれを忘れるなよ」

 

浮かれる弟子を引き締めることを忘れない、か。最初は「先生などできない」などと言っていたが、今のお前は先生そのものだぞアンペル。「錬金術の」ではないがな。

 

「「――ライザ!」」

「タオ?レント?どうしたの?」

「喜べライザ。あのエサ、効果覿面だったってよ!」

「ホント!?」

「うん!みんな言ってたよ、もっと作ってほしいって!」

「~っ!」

「凄いよ、ライザ!」

「ふふ、大したもんじゃないか、錬金術士ライザリン・シュタウト?」

「ふふふ、そうでしょそうでしょ!」

 

弟子の成長が嬉しいアンペルと褒められて喜ぶライザ。…見ていると、思わず笑みがこぼれてしまうな。

 

「…くくっ」

「どうしたの、リラさん?」

「いや何、錬金術士というのは、どいつもこいつも可愛いものだな、とな」

「うん、私もそう思う」

「そ、そう言われると照れるなぁ…えへへ」

「…揶揄われているだけだ。真に受けるな」

 

お前のそれが照れ隠しであることくらいもう解るぞ?長い付き合いだからな。

 

「アンペルさん、照れてる?」

「違う」

「さっきリラさんが言った錬金術士って、アンペルさんの事も入ってるよね?」

「さて、どうだろうな」

 

態々言うことでも無いだろう。…しかし、意外と踏み込んでくるな、クラウディア。

 

「ん-…」

「何だ?」

「女の人が男の人に遠慮なく「可愛い」って言えるの、ちょっと珍しいかなって。凄く気安い関係なんだなって思って」

「…ほほーう」

 

…流れが怪しくなってきた気がするな。何を言い出すんだクラウディア、それは少し発想を飛躍させ過ぎではないか?…私個人としてはあながち間違いではないのだが。

後、ライザも無駄に目を輝かせるな、お前が期待しているような話はできんぞ。…今は。

 

「アンペルさん!」

「何だ」

「実際の所どうですか!?」

「何がだ」

「リラさんとの関係というか!」

「…あくまで私の調査の護衛だ。気安さも、単純な付き合いの長さからくるものだ。お前たちもその内わかる」

「それはもう解ってるよ。でもほら、あたしはアルムにああも簡単に可愛いなんて言えない訳でね?」

「それはお前さんが過剰に照れているだけだろう」

 

アンペル、付け入る隙を与えるなよ!こちらの世界のこの年頃の女子はこういう話になると無限に想像力を膨らませる…とアルムの妹から聞いたぞ!

 

「でも、実際仲は良いよね?長い付き合いって言えるくらい一緒にいるんだから」

「だとしてもお前たちが思っているような関係では無いし、なろうとは思わん。私はコイツの常識知らずの言動に苦労させられ続けているんだぞ」

「…なんだと?」

 

その言葉は聞き捨てならんな…

 

「心当たりが無いとは言わせんぞ。息が臭いというだけで酔っ払いと喧嘩したり、気に入った果樹園を占拠したり…そもそも、私と出会った時もいきなり襲い掛かって来ただろう」

「それを言うなら貴様もだ。お節介で騒ぎに首を突っ込み痛い目を見るわ、酷吏の金庫を爆破するわ…私が被った苦労も相当だぞ」

「…何か、似た者同士だな?つーか果樹園占拠って何やってんだリラさん…」

「喧嘩するほど仲がいい、って感じだよね」

「それだけ色々あってもまだ一緒にいるわけだしね」

 

く、しまった…!アンペルの一言に乗せられて余計なことを…!

 

「と、ところでアルムは?こっちにいると思ってたんだけど」

 

良いぞタオ、助かった!

 

「アルム?なんか地図を作りに行くとか言ってたけど」

「ああ、アレか。まあアルムならちゃんとしたものを作るだろうし大丈夫かな」

「なんだ、アイツにも上手くいったって教えたかったのによ」

「ライザなら上手くいくって確信してたみたいだよ?」

「…うぅ、そういうとこアルムはズルいよぉ…」

 

…とりあえず危機は去ったか?全く…

 

「それで、もう少し二人の話が聞きたいんだけど…」

「そ、そうだね、アルムが戻ってくるまでもうちょっと時間あると思うし」

 

去ってはいなかった。ぐう、ここからどうやって抜け出す…!?

 

「流石にそろそろ止めといた方が良いんじゃねえの?突きすぎると碌なことにならねえだろそういうの」

「だからあのタイミングで無理やり話を切ろうとしたのに…」

「いやまあそうなんだけど、その、後学の為に?」

「それに、単純に2人が今までどういう旅をしてきたのかも気になるから。…恋愛話も気になるけどね?」

「…旅の話だけならしてやろう」

 

全く、ようやく収まったか。…少なくとも、こいつの肩の荷が下りん内はその手の話を私からするつもりは無い。何時になるかは解らんが…こいつ等との出会いが、その切っ掛けになるだろうか。

まあ、今考えることではない。とりあえずはこいつらには旅の話で満足してもらうか…と考えていた、その時だった。

 

――ドゴォン…

 

「っ!?」

「リラさん?」

「…何か、音がしたような」

 

気づいたのはレントだけか。…もしアルムが万が一奴らと出会い、交戦しているのだとしたら…将軍級なら、今のアルムではまだ厳しい。もしもの時の為に、探しに行くか。

 

「私は音の方を見に行く。レント、お前はアトリエの護りだ」

「解ったぜ!」

 

確かこちらの方角だったな。杞憂であってくれよ…!

 

 

「…これは」

 

あの音の現場と思われる場所に着いた。…奴らの痕跡は見当たらない。その代わり…

 

「粉々に砕けた岩に…何だ、この大穴は?」

 

確かここには、道を塞いでいた岩があったはず。それが砕けている代わりに、謎の大穴が開いている。隕石でも落ちてきたのか?…いや、それでは焼けた跡は兎も角何かに斬られたような跡があるのは不自然だな。

…火と風の精霊が少し騒めいているのも気になる。火と風…まさか?そう思っていると…

 

「リラさん?どうしてここに?」

 

道の奥からアルムが歩いてきた。…少し服が汚れているな。

 

「アトリエに居たら、何かが激突したような音が聞こえてきたからな。奴らでも出てきたのかと思ったんだが…」

「ああ…多分俺のせいですね、その音は」

「…この大穴も、お前が開けたのか?」

「そのつもりはなかったんですけどね…」

 

…どういうことだ?

 

「ちょっと、新技を開発していたというか。あの時の白い奴みたいな大物を一撃で倒すための必殺技みたいなものを」

「…それを、ここにあった岩に試し打ちした、と」

「ええ。…ただ、予想より威力も速さも出てしまったので、思い切り地面に突っ込んでしまったんですよ。這い出てくるのに20秒くらいかかりました」

「…それはまた、随分深いな」

 

破壊力だけなら、私でも敵わんな…

 

「なのでまだ実戦投入は無理ですね。もう少し制御ができるようにならないと」

「ああ。敵を倒すための技で味方を巻き込むなどあってはならないからな。…さて、みんなが心配している。早く戻るぞ」

「そうですね、地図はもう作り終わったので…それと、驚きの事実も明らかになったので」

「驚きの事実?」

「それはアトリエに戻ってからで」

 

察するにあの道の先に関することだろうが…精々楽しみにしてやろう。

 

 

余談だが、先ほどアトリエでしていた話について聞かされたアルムは、私とアンペルの関係についてこう言い放った。

 

「破れ鍋に綴じ蓋」

 

…私とアンペル以外の全員が頷いていた。




ちょっと女子2人(特にクラウディア)をはっちゃけさせてしまったかな?と思ったけどまあいいかの精神で。オーレン族(異世界人)だと知られる前にトラブルエピソードを話したので、レントからの認識がちょっとだけアレになっちゃったリラでした。

Q,アルムはなんで漁師にさん付けしてるの?
A,「働いている大人は敬うものだろう」

Q,地図が出てきたけど、ショートカットはどうするの?
A,実際にあんなの出来るわけないので、完スルーで…

Q,開発していた新技って?
A,なんとなく解っていただけるかと。完成版のお披露目のタイミングも含めて。

ここまで読んでいただき、有難うございました。


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炎が吹き上がる山、不穏に包まれる平原

この話の投稿前に、錬金術「師」になっていたところを「士」に修正。あとちょいちょい加筆修正しました。

書いてると勝手にアルムがリーダーやってるこのパーティ。過去に向いてないとか言ったせいでみんなして受け入れつつイジります。

火山突入。奴はまだ出てきません。
今回はタオ視点→クラウディア視点です。


「――というわけで、俺はこの道が【流星の古城】に通じていることを知ったんだ」

 

アルムが戻ってきてすぐ、僕たちは驚くべきことを聞いた。まさか、小妖精の森から古城に通じる道があるなんて。確かに、言われてみれば立地的にはおかしな話じゃないけど…実際にこうして見せられるまでは信じられなかった。

 

「ここからならアトリエにも近い。調査がしやすいな」

「アレもクリント王国の遺跡の1つだ、何かしらの痕跡が残っているかもしれん。お手柄だぞ、アルム」

「有難うございます。…まあ、偶然なんですが」

 

アルムも予想外だよね、そりゃ。新技の試し撃ちしたらこんな道を見つけちゃったなんて。

 

「…ここから古城まで通じてる道があったってのも驚きだ。だけどな…」

「何だ?」

「お前、そんな必殺技を考えてたのかよ!しかも結構形になってるみたいじゃねーか!」

「え、そっちの方が重要なの?」

「当たり前だろ!必殺技だぞ!?」

 

イヤごめん、よくわかんない。いざというときの為の一発逆転の一手、って意味でなら確かに有用かもしれないけど…そこまで興奮するものかなあ。

 

「浪漫とかそういうものじゃないぞ。必要だと思ったから考えたんだ」

「だとしてもだ!あんな大穴開けるとんでもねえ技を作り出しちまうなんて…くっそ、どこまで俺より先を往くんだお前はよ!」

「まあ確かに、フラムがどれだけ強くなっても開けれそうにない穴だったけど…」

「あんまり広がらずに真っ直ぐ空いた感じだったよね。…どんな技か、解ったかも」

「まあ、小難しい事はしてないからな。…さて、それよりも冒険についてだな」

 

冒険について?…もしかして、明日から古城を探索しよう、とか?

 

「俺としては、古城よりも先に火山の探索がしたい」

「え、何で?」

「理由は2つ。1つ目は装備だな。火山なら何かしらの鉱石があるだろうから、装備の更新が出来そうだと思った。少し中を覗いてみたが、古城の魔物は恐らく街道や坑道の魔物とは段違いに強い。装備は整えてから行くべきだろう」

「武器とか道具の更新…うん、それは任せて!」

「2つ目は、そろそろルベルトさんからの頼みを果たしておこうと思ってな」

「お父さんからの?…あ、冬用ぷにまくら?」

「ああ。火山なら熱いぷにがいるだろうと思ってな」

「随分と人気だな、アレは。まあ、気持ちは分かるがな」

「無論私の分も作ってくれるんだろうな?質のいい睡眠は戦士には必須のものだ」

「もっちろん!期待して待っててよ!」

 

みんなすっかり気に入ってるよね、アレ。まあ僕らも愛用してるけど。

 

「というわけで、明日は街道を進んで火山まで行こうと思う」

「確か、ライム平原からは強さは兎も角数が多くなるんだったよね…不意を打たれないといいなあ」

「そんときゃ俺が守ってやるよ」

「うん、頼りにしてるねレント君」

「いざとなったらあたしがまとめて吹き飛ばすわよ!」

 

そういえばライザも最近新技作ってたっけ。ちゃんと周り見て撃ってよ?

 

「よし、じゃあ明日に備える為に、今日はここで解散だな」

「解ったよリーダー」

「明日も宜しくね、リーダー」

「頼りにしてるわよリーダー!」

「お前もしっかり休めよリーダー」

「…おい、タオ」

 

ゴメン、あまりにもリーダーみたいな発言だったから。偶には僕も揶揄う側に回ってみたくなるんだよ?

 

 

「あーもう、本当に数が多いなあ!」

 

次の日冒険に出た僕たちは、平原の魔物の多さに辟易していた。数だけならまだしも、翼竜が多いから本当に厄介だ。

 

「吹っ飛べ!ブラストノヴァ!」

「薙ぎ払う!」

 

でも、ライザとアルムのお陰でまとめて倒せてはいる。このまま何事もなく終わってほしいけど…

 

「っ!クラウディア!」

「きゃっ…!」

 

レントが次の敵の接近に気づいたみたいで、なんとかクラウディアを庇えた。アイツ…他の翼竜より大きい!

 

「あ、有難うレント君」

「気にすんな!」

「僕が動きを止める!」

 

縛術・影縫いでワイバーンの動きを止める…いや止めきれない。だけど…!

 

「ナイスだ、タオ!」

 

そういってアルムが飛び出した。相変わらず凄い速さだ。

 

「シッ!」

 

大型のワイバーンの側頭部を右足で蹴り、その勢いのまま後ろ向きに左足で顔面を突くように蹴り、踏み込んで宙返りしながらワイバーンを蹴り上げた。そして。

 

「アストラルスフィア!」

 

ライザからの追撃が入り、更にワイバーンの体が浮き上がる。

 

「レヘルン!」「凍れ!」

 

更に、2人同時にワイバーンにレヘルンを投げつける。翼が凍って飛べなくなったワイバーンは無防備に落ちてくるだけになった。そしてアルムは炎と風を同時に右脚に纏わせ…

 

「――砕け散れえッ!」

 

全力の一撃をワイバーンに叩き込んだ。凍って抵抗も出来なくなったワイバーンは、そのまま吹き飛ばされて息絶えた。…もう少しで、ワイバーンの胴体が千切れるところだったよねアレ。

 

「ふう…」

「よーし、上手くやれたわねアルム!」

「なんだ今の連携…えげつねえな」

「下手に追い詰めて反撃を許したら敵わないからな。…これで、このあたりの魔物は粗方倒したな」

 

僕には絶対真似できないな、アレ。まあ役割が違うから真似する必要は無いんだけど。

 

「次からは上にも気を向ける必要があるな。…火山に着くまではある程度強引に突っ切るか?」

「あんまりまともに相手し続けてると時間ばっかりかかるもんね…」

「よーし、火山まで一気に突っ走るわよ!」

「走るのは良いけどよ、タオとクラウディアに合わせろよ?」

「は、走るのはちょっと自信あるから私は大丈夫だよ!」

 

う、それなら置いて行かれないように僕が頑張らないと…!

 

「よし、なら…強行軍だ。行くぞ!」

 

アルムのその号令と同時に、僕たちは駆け出した。

 

 

 

 

「ここが【火山ヴァイスベルク】か…解ってはいたが、流石に暑いな」

 

分岐路を全力で走り抜けて、私たちは火山にたどり着いた。あれだけ走ってから火山に入るって、もう汗で凄いことになりそう…

 

「さーて、さっさと熱いぷにを探して、さっさといい鉱石を見つけて、さっさと錬金するわよ!」

「ホントライザは元気だなぁ…」

「やっぱり、凄いよライザ…」

「まあ、クタクタになられるよりはよっぽどマシだな」

「早く帰ろうとはしているようだが。ライザでもこの環境は堪えるみたいだな」

 

それなら、帰ったらライザと一緒にお風呂に入って汗を流したいな。お父さんも許してくれると思う。…アトリエに作ったりしないのかな?作れるなら、だけど…

 

「あまり長居したくない環境なのも事実だ。手早く行くぞ」

 

手伝えることは、全力で手伝うよ!

 

 

「いたぞ、赤いぷにだ」

「1体や2体じゃ足りないよね。目安は?」

「まず10体くらいかな」

「結構必要だね…あんまり時間は掛けていられないかな」

「じゃ、サクッとやっちまうか」

 

 

「ここの隙間、奥に何かありそうだな」

「横になれば通れそうだな。行くか」

「ハンマーがつっかえないかな…」

「アルムとレントが通れるなら行けるでしょ」

(ライザもつっかえるんじゃないかなって言いそうになっちゃった…その、アレが)

 

 

「あ、こっちに吊り橋があるよ」

「えっと、渡って大丈夫かな?」

「ん~…結構しっかりしてそうだから、行けると思う」

「念の為に俺は跳び越えていくが…レントは?」

「…お前みたいに出来ねえからな。ライザを信じるぜ」

 

 

「至る所にお湯が溜まっている所があるな。温泉、だったか?」

「確か、マグマで温まった水が温泉として湧き出てきたりすることがあるって聞いたことあるよ」

「大体は掘ると湧き出てくるんだったよね」

「…ふーん」

「おい、俺を見るな。アルムに頼め」

 

 

「ここ、家がいくつかある。人が住んでたのかも」

「そうだと思う。魔物がこんな家を建てるとは考えられないからね」

「どんな人達が住んでたんだろう?」

「わざわざ火山に住んでたってことは、鉱石に関係あんのか?」

「だとすると、鉱石を加工する職人達が住んでいたのかもな」

 

 

「良さげな鉱床発見!2人ともお願い!」

「おらよっ!お、見たことねえ鉱石だな」

「はっ!…こっちもだ。どんどん掘っていくぞ」

「…斧と蹴りで鉱床掘ってる」

「普通、ピッケルとかハンマーだよね…」

 

 

「…何だ、これは。金属か?」

「明らかに自然にできたものじゃ無えな」

「…ここ、なんか不思議な感じがする」

「うん。なんて言えばいいのかは分からないけど…」

「もしかしたら、ここで何かを祀っていたのかな」

 

 

そんな感じで火山を一通り探索して、日が暮れ始めたから島に戻ることになった。平原での戦闘が無かったら、古城への道も探索できたのにな。

 

「あの水路らしき道を突破できるようになれば、火山への近道にもなるが…」

「まずは装備だろ?焦ったって何も良い事ないからな」

「多分だけど、さっき採れた石で採取用のハンマーと新しい武器が作れると思う」

「なら、今日はもう遅くなりそうだし明日早速作ってみようよ」

「ふふ、楽しみだね」

 

そう言いながら分岐路までたどり着いた。ここからまた強行軍かなって思ったんだけど…

 

「…あれ?」

「…気づいたか、クラウディア」

「うん。音が、しない」

「魔物の気配がねえな。…何があった?」

 

さっき殆ど倒さずに来たのに…どこに行ったのかな?

 

「確かに変だけど、そんなの今考えても解らないでしょ。1つだけ言えるのは…」

「楽に帰れるってことだよ!さあ、何か起こる前に急いで帰ろう!」

 

…帰る時だけなら、タオ君が一番元気かも。

 

それからは何事もなく、私達は無事に帰ることができた。だけど、それは本当に運が良かっただけだったって知ったのは、ちょっとだけ先のお話。この平原に起きていた異変の原因に気づくことなく、私たちは次の冒険に想いを馳せていた。

 

 

因みに、ライザを家のお風呂に誘ってみて、OKが出たから一緒に入ったんだけど…

 

「ふう~、生き返るぅ…」

「…」

「どうしたの?」

「…浮くんだね、本当に」

「え?」

 

ライザ、これをあんまり自覚してないって本当なの…?




まだ出てきません。文章には。
因みにアルムの蹴り採取はライザの杖+最低限性能のハンマーと同等の採取効果があります。

今回出たアルムの技

旋風の扇(ブラストノヴァと一緒に出した技) 風を纏い、敵を薙ぎ払うように蹴る
Lv30で習得 アクションオーダー達成時に発動 敵全体に無属性物理と風属性魔法ダメージを与える 中確率で裂傷を与える

蹴撃→背脚→転撃(メガワイバーンに最初に食らわせた3連撃) ミドルキック→バックキック(TLv2以上)→サマーソルトキック(TLv3以上)の連撃(サマーソルトは2ヒット)
通常攻撃 敵単体に無属性物理ダメージを与える 当てるとAP回復

爆風の剛斧(メガワイバーンに止めを刺した技) 爆炎と烈風を脚に纏い、全力で蹴り抜く
エクストラオーダー達成時に発動 敵単体に無属性物理ダメージと火属性&風属性の魔法ダメージを与える 良性変化を多く受けているほど威力上昇

Q,最初にあけた大穴から温泉湧いてこないの?
A,偶々湧いてこないところだったということにしておいてください。おかしくてもスルーお願いします。

Q,ライザの「アレ」のネタについて
A,隙間に関してはプレイヤーの大半は一度は考えたと思います。風呂に関しては原作でその手の話が無かった(アトリエに湧いただけ)ので、まあ軽く。私はライザしかやったこと無いですが、今までのアトリエシリーズでは定番だったそうですね、お風呂というか温泉イベント。

Q,通常攻撃出てくるの遅くない?
A,タイミングが計れなくて。因みにこのモーションで以前書いた通りライザの通常攻撃とほぼ同等の速さです。忙しい動きしてるな。

Q,なんで平原から魔物が消えたの?
A,待て次回。

ここまで読んでいただき、有難うございました。


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轟く竜の咆哮、定まる対策の方針

火山探索ワンモアからの竜発見。以前のフィルフサ同様、今回も遭遇ではありません。
今回はアルム視点→レント視点です。

2/7 ラスト部分を追記修正及びそれに伴うQ&Aの内容変更。


「成程…それは、少し不味いかもしれん」

「不味い…ですか」

 

火山の探索をした次の日、アトリエでライザが調合をしている間に昨日の異変についてアンペルさんに相談した。すると、アンペルさんは少し険しい顔になってその事態を「不味い」と評した。…なんとなく不味いんじゃないかとは俺達も思ってはいたが、どう不味いのだろうか。

 

「島の漁師たちが最近不漁続きだと嘆いていただろう。あの時、私はその原因の予想としてどういった可能性を挙げた?」

「外海から魔物が…って話だったよな。…まさか、あの平原にヤバい魔物が出てきたってことか?」

「今日お父さんからも聞いたよ。旅商人が見慣れない大きな魔物を見たらしいから気を付けろって」

「でも、そんなの見かけなかったよ」

「偶々視界に入らなかったか、それともその場から去った直後だったかだろうな」

「…昨日の俺達は、運が良かったってことになるのか」

 

平原にとんでもない魔物が現れて、元からいた魔物がそいつに恐れをなしたから逃げたか一時的に隠れていた…というのが、アンペルさんの言いたい可能性らしい。

 

「その魔物が、アンペルさん達が言う【奴ら】である可能性は?」

「あり得なくはないだろうが…クラウディア、その見慣れない大きな魔物の特徴は聞いたか?」

「えっと…赤くて、翼があったって。あの魔物とは違うと思う」

「なんだそりゃ、まるで竜みてえだな。…ん、竜?」

「…村のわらべ歌にあったよね。「南に下る旅人は、決して街道を外れるな。西は悪魔の野が迫り、東の城には竜が住む」って」

「…東の城って、流星の古城の事だよね?」

 

…話が繋がってしまった気がするな。

 

「つまり、あの時平原には古城に住む竜がいたことになる…?」

「そのわらべ歌が、真実を歌っているとするならばな」

「…マジで遭遇しなくて良かったな。かなり疲労してたしよ、俺達」

「なんなら、あの時古城に踏み込んでたら、縄張りを荒らす侵入者とか思われて…」

「…本当に、運が良かったんだね、私達」

 

こういう危険も、冒険には付き物だとは分かっていたが…竜が唐突に現れるかもしれないというのは、流石に勘弁してほしいところだ。

 

「クラウディア、その旅商人に被害は?」

「えっと、特に無かったって」

「なら、とりあえずその魔物に関しては下手に刺激しないようにするべきだな。あの時みたいに、気づかれずに姿を確認できるなら最上だが」

 

これで人を襲いだしたら…討伐隊なんかが組まれるかもな。その場合、アガーテさん経由で俺達にも声がかかるかもしれない。

 

「で、万が一の時の為にあたしの錬金術があるのよ!」

 

そう言いながらライザがこっちに来た。調合が終わったようだ。

 

「随分と自信満々だな?」

「勿論よ、皆が信じてくれてるからね」

 

成程、確かにそれは自信に繋がるな。

 

「じゃあまずはコレ、【ノルデンブランド】!狙った敵を無数の氷の短剣で攻撃する道具よ!」

「竜相手なら、翼に当てれば飛行能力を封じられるか…?」

「何かえげつないこと言ってる…」

「実際それくらいやらなきゃ勝てねえだろ」

「じゃあ、アルム君が使った方が良いかもね。他のみんなじゃ近づくの難しそうだし」

 

あの技はまだ完成してないからな、もし使うなら相手の動きを封じてからにしたい。

 

「次にコレ、【プニゼリー】!おいしいだけじゃなくて色々と調子が良くなるわよ!」

「わ、可愛い!」

「わざわざぷにに似せなくても良かったんじゃねえか…?」

「調子が良くなる、か…よし、どうだタオ」

「何か力が湧いてくるような…って、何で僕で試すのさ」

 

お前が一番贔屓目無しの意見をくれそうだからだ。

 

「次はまとめて!【エナジーペンダント】、【グナーデリング】、【雷嵐の耳飾り】!不思議な力を持ったアクセサリーよ!」

「どれどれ…お、このペンダント、着けるだけで調子が良くなった気がするな」

「この指輪もだ。多分、実際に力が強くなっていると思う」

「この耳飾り、魔力を感じるわ。守ってくれるような…」

「自分の役割に合ったものを選ぼう。僕はペンダントと耳飾りかな?」

 

それなら、俺はペンダントとリングだろうか。

 

「更にこれ、採取用のハンマー!これで鉱石が採りやすくなるわ!」

「こ、これ僕が普段使ってるハンマーより重いよ」

「私じゃ、持ち上げるだけで精いっぱいだよ…」

「ライザは結構軽々と持ってきてたけどな…」

「…あの細腕のどこに、あんな力があるんだか」

 

杖で魔物を殴りに行っている時点で今更ではあるがな…

 

「で、後は武器!…と言いたいところなんだけど、全員分は流石に足りなかったわ。だから今日集めるわよ!」

「え、大丈夫なの?」

「隠れながら慎重に行くぞ。途中で見つけたら即撤退…アイツを見つけた時と同じ要領でいいだろう」

「…それでも見つかっちゃったら?」

「…俺とアルムで殿やりながら撤退するしかねえな」

 

そこまで近づかなくても、姿は確認できると思うが…いや、こっちの想定より視野が広いかもしれないしな。

 

「お前達ならそうそう判断を間違えることは無いと思うが、命を落とすような真似だけはするなよ。…お前達には、帰りを待っている者たちがいるんだからな」

 

…そう言うリラさんが、どこか悲しんでいるように見えた。…まさかリラさんには、もう…

 

「よーし、じゃあ火山まで慎重に、行くぞー!」

「慎重に行こうとしてる奴のテンションじゃねえよ…」

 

…行こうか。勝手を許してもらっている分だけ、心配させ過ぎないように、慎重に。

 

 

 

 

「さて、今日は必要な分だけ採取して引き上げるわよ」

 

昨日よりも魔物が少なく、旅商人が見たらしい魔物みたいな奴もいなかった平原を駆け抜けて火山にたどり着いたら、ライザがそんなことを言い出した。珍しいな、何時ものコイツなら時間かバッグがいっぱいになるまで探索しようとするのによ。

 

「さっきはああは言ったけど、とんでもない魔物がいるかもしれないって言うなら、やっぱり逃げられるだけの余力は残しといたほうが良いからね。せめて武器を新調するまではスルーよ」

「ああ、そうしよう」

「あ、それともう一個。タオ」

「何?」

「…悪いけど、あんたの武器だけもっと強化するための素材がまだ見つかってないって言うか、だから…」

「ああ、そういうことならいいよ。多分僕が一番武器の必要性低いだろうし」

「見つかり次第強化してあげるわよ。丁度リビルドって言う便利な技も教えてもらったからね」

 

余裕があればその素材も探しに行きたいとこだが…今は安全重視だからな。そこまでの余裕は無さそうだ。

 

「さてと、狙いは彗星岩よ!あの小屋があるところから降りたあたりの鉱床で採れるわ!」

「あそこか。採る役は誰がやる?」

「俺がやる。皆はその間の警戒頼むぜ」

 

さて、新武器の為に張り切っていくか!

 

 

「よーし、これで足りるわね!」

「お、マジか。どんな武器になるか楽しみだぜ」

 

よし、今日はこれで引き上げだな。戦闘もアクセサリーとノルデンブランドのお陰か昨日よりだいぶ楽だったし、日が上にある内に終わったぜ。2時くらいか?

…ただ戦闘中、結構衝撃的な出来事があったな。クラウディアがフルートをブーメランみたいに投げて魔物を攻撃するっていう、かなり自分の目を疑いたくなる光景だった。アルムすら「いや何やってんだお前」みたいな表情してたな…

それについてクラウディアは、「魔力でフルートを強化して、音に乗せた魔力を直接ぶつけるから結構強い技になったと思う」とか言ってたが、聞きたいことはそっちじゃねえよ。

 

「さて、後は例の魔物と遭遇するか否かだな」

「そうなんだよね…うう、何も起こらないでほしいなあ」

「その上で見つけるのが一番いいんだよね。…どこかに隠れて、来るのを待ったりできないかな」

「流石にそれは危ないんじゃねえか?その魔物だけが脅威ってわけじゃねえんだ」

 

隠れた魔物に後ろから襲われたりとかされかねねえからな。そういう危ない橋は渡らねえに限るぜ。

 

「だが、もし見かけたらその時は隠れてやり過ごした方がいいだろうな。下手に動く方が見つかる危険性は高い」

「それじゃ、コソコソと帰るわよ!」

 

だから今からコソコソするやつのテンションじゃねえって、それ。

 

 

「…それっぽいの、いる?」

「…今は居なさそうだ」

 

辺りに気を配りながら、小声で状況確認をしつつゆっくりとアトリエに戻る俺達。今のところヤバそうなのは居ないが…あの時と同じ、殆ど魔物を見かけない。何かありそうなもんだが…

 

「きゅ、急に上から来たりしないよね…」

「こ、怖いこと言わないで…」

「…居ねえから心配すんな」

 

翼があるって話だから、上の警戒も緩めちゃいけねえな。突然突っ込んでこられたら対処できるかどうか分からねえし。

 

「…あと半分だ。気を抜かずに行くぞ」

 

アルムがそう言った直後…

 

 

ガァァァァァァァァァァァァッ!!

 

 

「「「「「ッ!!?」」」」」

 

なんだこりゃ、雄たけびか!?いや、咆哮!?

 

「レント!」

「ああ!」

 

俺たち全員が隠れられそうなところを探す。…あそこか、ちょっと遠いな…なら!

 

「すまん、ライザ!」

「うえっ!?」

「クラウディア、タオ、悪い!」

「きゃっ!」「うわっ!」

 

アルムがライザを、俺がクラウディアとタオを抱えて物陰に急いで隠れる。…見つかってねえよな?っていうか、咆哮の主はどこにいる!?

 

「…アレだ」

 

アルムが指差したのは、廃墟みてえになってる遺跡の上。そこにいたのは…

 

「…オイオイ、本物の竜じゃねえか…!」

「ほ、本当にいたんだ…!」

 

翼を羽ばたかせ、我が物顔で空を飛ぶ、赤い竜だった。

 

「なんで、あんなところに?」

「解らねえよ。…原因を探ろうにも、今は近づけねえな」

「…何かを探しているようにも見えるな」

 

言われてみりゃ、周囲をキョロキョロと見渡してるようにも見えるな。…竜は暫くそれを続けてたが、突然高度を上げた。そして…

 

 

ガァァァァァァァァァァァァッ!!

 

 

もう一度咆哮し、東…古城の方まで飛び去って行った。…見つからずに済んだのか?

 

「…去ったみたいだな。どうする、奴が留まっていた場所の近くを見ていくか?」

「それくらいはした方が良さそうだな」

「…誰か、襲われてたりしないよね」

「う…もしそうだったら…」

 

それで誰かの命が奪われていたとしたら…最悪だな。

 

「今なら魔物もいない、急いで調査するぞ」

「う、うん」

「誰も襲われてませんように…」

「これ、お父さん達に言ったらなんて思われるだろう…」

「…流石に怒られはしねえと思うから、大丈夫だと思うぜ?まず信じてもらえるかだけどよ」

 

それならそれで、信じてもらうまで説明するだけなんだがな。

 

 

特に被害にあった人がいなかったことに安堵しながら、俺達はアトリエに戻って、錬金する前にアンペルさん達に事の顛末を話した。すると「早く島の大人たちに話すべきだろうな」と言われたから、急いで島に戻ってアガーテ姉さんを始めとした大人たちにこの事を話した。

流石に最初は疑われたが、俺達があまりに真剣な様子だったから信じてくれたみてえだ。で、当然この話はモリッツさんの耳にも届くんだが…

 

「街道にそんな魔物が出るとなると人の行き来に悪影響が出るな。…よし、早急に討伐隊を編成するぞ!」

 

判断が早えな。まあ、アガーテさんとルベルトさんがこの話を信じてるってのもあるだろうけどよ。が、そこに待ったをかけたのは村の古老だ。

 

「古城の竜は敬うべき島の守護獣じゃぞ!?それを討伐などと!」

 

…アイツ守護獣だったのか?初めて聞いたんだが。まあこのまま平行線で話が終わりそうだから、一旦アトリエに戻るか。…なんて思っていたんだが。

 

「人的被害が出る可能性を見過ごすつもりですかな?」

「おぬしが外から人を呼びこまなければいいだけじゃろう!そもそも、あの旅商人や錬金術士とやらのような怪しい輩がこの島をうろつくから、この頃村は災い続きなのじゃ!

 

…あっ。

 

「…」

「お、抑えろよアルム?ここでお前が切れても何にもなんねえぞ?」

「解ってる。…だがこの怒り、何にぶつけたらいいと思う?」

「いやんなこと言われても…って炎が漏れてるぞオイ!」

「今ならあの竜も一撃で打ち抜けそうだ…そうだ、ちょっと行ってくる

「ライザ早く来てくれぇぇぇぇッ!」

 

この後、駆け付けたライザが「わー!アルム止まって!ストップストップ!」って言いながら真正面から思いっきり抱き着いたらなんとか鎮静化した。身内を貶されたりすると沸点が超低くなるのは知ってたが、今回はマジでやばかったな…。因みに竜は、モリッツさんが討伐する方向で押し切った。

ところでライザは人前でアルムに抱き着いたことになるが、大丈夫なのかアイツ?

 

 

「――ってことがあってね。何とか止まってくれて助かったわ…」

「うん、それは良かったけど…」

「何、クラウディア?」

「…アルム君を止める為に抱き着いたんだよね?モリッツさん達が見てるところで」

「…あっ!?」

 

後日、そんな会話があったらしい。ライザは顔を真っ赤にして突っ伏したそうだ。やっぱ大丈夫じゃなかったな…




魔物がいなくなったのは、明らかな上位存在が出てきたのでみんなビビッて隠れたからでした。誰もいなかったのに竜が平原にいた理由は次話かその次辺りで明かします。独自解釈になりますが。

Q,アクセサリーの編成はどうなったの?
A,エナジーペンダントは全員選択しました。後は前衛組がリング、後衛組が耳飾りです。

Q,災い続きだっけ?
A,竜の件が無くても、地震とか結構あったみたいなので、このセリフは変えるところなさそうだな、と。

Q,真正面から思いっきり抱き着いたらアルムに色々当たったんでは?
A,勿論当たりました。鎮静化した理由の9割くらいがそれです。因みにレントはまさか抱き着くとは思ってなかった模様。

ここまで読んでいただき、有難うございました。


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大人達は危急を知り、少年少女は飛竜を目指す

原作で出てきた武器とか道具は全部一応既存品らしいので、アルムの武器もそういう扱いになります。武器の情報に関しては調べたら何か載ってた、くらいの感じで。
新武器→乾きの悪魔の話→古城突入直前。今回はライザ視点→アルム視点です。


「これが俺の新しい武器か。軽いを通り越して、気を張っていないと勝手に跳びそうな気さえするな」

「多分だけど、アルムの魔力で空を飛べると思うよ。あんまりやりすぎると調子悪くなっちゃうから、そんなに長くは飛べないと思うけど」

「…成程、やってみるか」

 

竜を見た次の日、あたしはみんなの新武器を作った。もしかしたら討伐隊に声がかかるかもってことで、早めに準備をしておきたかったから、畑仕事が終わってから皆を呼んで即アトリエに直行して調合。今はみんなに感触を確かめてもらってる。アルムに渡したのは、薄い水色でシャープなデザインのブーツだ。

 

「…一瞬の魔力の噴出による高速移動。飛行というより跳躍…いや、空を走る感覚だな」

「そうなんだ…【エアスプリンター】っていう名前の通りだね」

 

実際は「それくらい軽いブーツです!」くらいの意味合い何だろうけど、最初に名前つけた人もまさかこれを履いて本当に空を走る人が出てくるとは思わなかっただろうなあ。まあ、戦闘用にちょっとアレンジしてあるから厳密には同じものじゃないんだけど。金属仕込んでるし。

 

「コイツなら、空の敵も叩き落せそうだ。上手くやれば、竜の上も取れるかもな」

「よし、なら成功ってことで良いわね!」

 

そう言って、他のみんながどうなっているか見てみる。クラウディアは…うん、全く問題なさそう。【イノセントスノウ】は氷の力を持つ純白のフルートで、手袋を付けて演奏することを想定した物らしくて、キーが滑りにくい。戦ってる最中にフルートを落としたりって言う危険性が減るから、クラウディアも安心して吹けると思う。

レントは…何か前よりかなり剣の振りが早くなってる気がする。【イニシエーター】は戦場で先陣を切る兵士が好んで使ってた剣みたいで、出来るだけ軽くなるように作られてる。レントはもうちょっと重さがある方が好みそうかなーなんて思ってたけど、表情を見るかぎりでは気に入ってくれたみたい。

タオは…こっちも出来るだけ重さは削ったんだけど、まだちょっと重そう。【デストルクシオン】は破壊活動に向いてるハンマーで、要は直接殴る用のハンマーだ。一応、魔力を飛ばすタオの使い方でも以前より威力は出てるみたいだけど…うーん、要改良?まだ完成には素材が足りないからなぁ。

 

「それで、お前自身の武器はどうだ」

「うん、いい感じ。この杖、かなりの魔力を持ってるんだよ」

 

そしてあたしの武器【グリムクォーツ】。本当は一つ一つ手作りしなきゃいけないらしいんだけど…その辺は錬金術でちょっとズルしちゃった感じかな?持ってるだけで凄い魔力を感じる。あたしの魔法をもっと高めてくれる良い杖になったと思う。

 

「今日も精が出るな、お前さん達」

「新しい武器の慣らしを積極的にするのは良い事だ。いざというときに感覚がズレて上手く戦えないでは話にならないからな」

「2人とも、今日は島に行っていたんですか?」

「ああ、遺跡だらけ…どころか遺跡そのものと言ってもいいあの島は、いくらでも調査するところがある」

「普通に暮らしてるだけじゃピンとこないけど…やっぱり珍しいんだ?」

「ああ。大都市でもないこんな一地域にここまで密集しているのはな。まあ、あの島に関しては理由は大体解っているんだが」

「そうなの?」

「ああ。まだお前さんに教えるのは早いがな」

 

むー、そういうことを言われると余計に気になるなー。

 

「それより気になるのが…その遺跡に関する伝承などがほとんど残っていないことだ」

「その代わりにあるのが、あらゆる行動を制限する禁忌ばかりだ」

「あー…そうなんだよね。それだからあたし達窮屈で窮屈で」

「あの竜も定番の脅し文句だったしな」

「そーそー。まさか本当にいるなんて思ってもみなかったよ」

 

ってことは、あれはただの脅し文句じゃなくてちゃんとした警告だったのかも。例えば…

 

「この分だと、【乾きの悪魔】も本当にいるんじゃないかって思っちゃうよね」

「だな。もしかしたら、あの白い奴がそうだったりするかもしれん」

「あー、まさに悪魔って感じだったもんね、あれ」

「…【乾きの悪魔】?」

 

…?アンペルさん、何が引っ掛かったのかな?

 

「…お前さんたち、その乾きの悪魔はどういう存在なんだ?」

「え?えっと、乾期を呼ぶっていう、あたしたち農家の天敵だよ」

「奴らは湖を渡ってこれないから、島に入れば安全だ…なんて昔から言われているそうです」

「…湖を?」

「…それは、まさに…」

 

…え、え?何?

 

「…ライザ。確か、乾期がもう近いんだったな」

「う、うん。カラッカラな日が続いてモリッツさんがいつも以上に威張り出すちょっと勘弁してほしい時期だよ」

「…そうか。リラ」

「…ああ。調査を急がなければな」

 

…いつも以上に2人が真剣な感じになってる。もしかして、【乾きの悪魔】のこともアンペルさんの目的に関係あるの?

そうだとしたら、クーケン島に残ってる遺跡とか言い伝えとかって、私たちが想像もつかないくらい重大な何かがあるんじゃ…?

 

「…俺達が今考えるべきは、竜の事だ。2人の事はそこからでも遅くはないだろう」

「…うん。分かった」

 

優先順位は間違えちゃいけないよね。今は竜をどうするか、あたし達に出来ることはあるか、だ。

 

 

 

 

「…で、竜の討伐部隊の編成ができた。これはいい」

「ああ」

「その中にアガーテさんがいる。これも当然だろう」

「護り手で一番の使い手だからな」

「…なんでお前達が討伐部隊に入っている?ボオス、ランバー」

「俺は俺なりの考えがあるからだ。何の策も無しに竜を討伐できると思っているほど自惚れちゃいない」

「ボ、ボオスさんに付いて行くのが俺の役割だからだ!」

 

…島に戻ってすぐにボオスに話しかけられて、伝えられた内容に衝撃を受けていた。…いや、お前も護り手の中に混じっても遜色ないくらいに強いのは知っているが、それでもあの竜を倒せるかと言えば…竜が戦っている所は見ていないが、恐らく無理だろう。見ただけでとてつもなく強いと解るからな、アレは。

 

「アガーテは恐らく、お前達を頼れない」

「…理由は?」

「言わなくても解るだろう。お前達がいくら強いと言っても、本来ならばアイツにとってはお前達も守る対象だ」

「…だから、俺達に「戦力」を求めるのは躊躇うかもしれない、と」

「ああ。だから俺も志願した。…アイツがお前達に頼れないなら、俺が頼ればいい」

「…何?」

 

ボオスが俺達を頼る?…つまり、協力を要請する、ということか?

 

「志願したときに親父に言ったんだ、「どんな手を使っても竜を討つ」ってな。親父はそれに「その意気だ、それでこそブルネン家の男!」なんて返した。…言質は取れている、ということだ

 

不敵な笑みを浮かべ、そう言い放った。…責任者の許可は得ている、と言いたいのか?(わっる)い奴。人の上に立つのに、必要なことなんだろうけどな。

 

「で、どうだ?」

「一応、全員に確認はする」

 

間違いなく満場一致(OK)だろうがな。

 

 

「…流星の古城に行くんだろう?何で森を抜けていくんだ?」

「まあまあ、それは見てのお楽しみってヤツよ、姉さん」

 

竜の討伐部隊として古城に向かう俺達。とりあえず例の道にアガーテさん達を案内することにした。あっちからの方が間違いなく近いし楽だからな。

 

「ついでだし、俺達で建てたアトリエも見てもらおうぜ」

「寄り道はできないから、本当に見てもらうだけだけどね」

「建てた…?錬金術は建築もできるのか」

「正確には建て直したんだけど、それでもみんな頑張ったんだよ」

「し、信じらんねえ…」

 

だろうな。俺も予備知識無しなら信じられないだろう。

 

「というわけでまずこちら!あたし達で作った「ライザのアトリエ」だよ!」

「こんなものまで作ったのか…」

「…とんでもないな、錬金術ってのは」

「な…あ…」

「因みに2日でやった」

「「「2日!?」」」

 

大元が良い感じに残ってたからな。採集1日、調合午前中、立て直し午後、で2日だ。……それでもとんでもない早さだな。

 

「…何というか、色々置いて行かれる感じがするな」

「…そういえばお前達の武器も錬金術製なんだったか」

「な、何でもありじゃねーか…」

 

さて、そろそろアトリエ観賞は終わりにして進むとしよう。

 

「この先に、古城に直接繋がる道があります」

「…そうなのか。それなら確かに、火山を経由するより格段に早く着くな」

「道中の魔物もこっちの方が弱いからね。竜と戦う前の消耗は避けたいし」

「ただ、色々あってまだ俺達も入ったことはねえんだよな」

「うん。だからどんなところになってるのか、凄く楽しみ」

「…随分肝が据わってるな」

「多分僕よりはよっぽど度胸あるよ、クラウディアは」

「お、俺も負けてらんねえ…!」

 

さて、そろそろだな。

 

「ここを道沿いに行けば、古城の下層部分と思しき場所に出ます」

「そうか。…ところで、その大穴は?」

「ちょっと新技を試しまして…かなり深いので落ちないように気を付けて下さい」

「どんな技なんだ一体…」

 

もしかしたら、今回竜相手に使うことになるかもしれないな。まだ完成はしていないが…

 

「着きました。ここが流星の古城です」

「ここが…か」

 

さあ、始めるか…竜退治を。




恐らく原作キャラ強化のタグの影響を特に受けているであろう1人、ボオス・ブルネン。ランバーは…多分ちょっと割を食わせちゃうかも。

武器更新 フリーウォーカー→エアスプリンター(空中の疾走者)スロットは3つ。
武器スキル 空を駆ける(回避率上昇、翼竜及びワイバーンに与えるダメージ上昇)

今回は今のところQ&Aは無し。

ここまで読んでいただき、有難うございました。


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目の当たりにする、少年少女の成長と錬金術の産物、そして古城の飛竜

古城を進む。今回キャラ多いなあ…因みに原作パーティメンバーはこの時点で全員レベル25を超えてるイメージです。原作だとちょっと上げ過ぎ感がある数値な気がしますが。
今回はレント視点→タオ視点です。

2/20 後書きの独自解釈部分ちょっと追記。


「オラァッ!」

「はっ!」

 

古城の中に踏み入れた俺達は、早速魔物の歓迎を受けた。白いオオイタチみたいな奴と、黒いぷにだ。だがこの程度、武器も強くなった俺の敵じゃねえ。何の苦も無く蹴散らせるぜ。

アガーテ姉さんもこれくらいは訳無いみたいだな、アッサリ倒してた。流石だぜ。

 

「ふっ!」

「ととっ…!」

 

ボオスも今のところは問題ねえな。対人戦の剣しか振るったことないとか言いながら、良い感じに対応出来てやがる。

…ランバーはちょっと心配だな、なんかちょっと危なっかしい。大丈夫か?

 

「えいっ!」

「…クラウディア、その技気に入ってるの?」

「投げてからまた演奏に入るまでかなりスムーズだな。どれだけ練習したんだか…」

「自分も魔物を直接倒すことに貢献できることが嬉しいんだってさ。縦投げのパターンとか練習してたよ」

 

あっちではまたクラウディアがフルートを投げて、それにツッコミを入れながら3人が戦っている。タオも大分こなれてきたよなぁ。

 

「あいつらは、随分と、余裕だなっ!」

「それなりに冒険はしてきたからな。似たような奴と何度も戦ってるし、動きも大体解ってる。苦戦する要素すらねえよ」

「あれでまだかなり抑えているみたいだしな。…お前とアルムは兎も角、いつの間にここまで強くなっていたんだか」

 

そう言う姉さんは嬉しそうで、少し寂しそうだった。

 

「次の奴が来たな。…動く鎧か。森の奥にいた奴と似ているな」

「沢山いるし、大きいのもいるわね。…でも知ってるわよ、こいつらは!」

「魔法に弱いんだよね!やろう、ライザ!」

「アレをやるのか。タオ、俺達は時間を稼ぐぞ」

「解ったよ!」

 

ライザとクラウディアが魔力を溜める時間を、アルムとタオが稼ぐ。鎧の動きに付き合わず、尚且つ少し大きめに動いて注意を引いている。

 

「準備出来たわよ!」

「私も!」

「よし、頼んだ!」

「貫け、エクリプスジャベリン!」

「凍麗の舞…!」

 

ライザが作り出した魔力の槍で相手を押し込み、そこにクラウディアが氷の竜巻を起こす。そして今度は相手を包囲するように魔力の槍が展開され、それが敵に直撃すると同時に冷気の爆発が起こる。

これで雑魚は一掃できたが、大物は残ってる。だが…

 

「結索の楔!」

「穿ち…貫けぇッ!」

 

タオが大鎧を怯ませ、そこにアルムが旋風と炎を纏った飛び蹴りを食らわせる。大鎧は吹き飛ばされ、そのまま動かなくなった。

 

「…やっぱ魔法ってヤベーな、あんだけの数を一度に相手できるんだからよ」

「全くだ。…本当に、私の知らないところでとんでもなく成長してるな」

 

そう言って、姉さんは嬉しそうに微笑んだ。ある意味家族以上に俺達を近くで見てきたからな、姉さんは。

 

「ふーっ…あ、姉さん!こっちは終わったよ!」

「ああ、見てたぞ。…もう、アタシが守ってやる必要なんてないのかもしれんな、お前たちは」

「ふふふ、じゃあ今度はあたし達が姉さんを助ける番!…かもね?」

「ああ、その時が来たら頼りにさせてもらうよ」

「え…う、うん!」

「ふふっ。良かったね、ライザ」

 

冗談のつもりで言ったのに本気でとられたからか、戸惑いつつも嬉しそうだな。姉さんの事だから、解っててやっただろうな。

 

「そっちはどうだ?ボオス、ランバー」

「ああ、これくらいならまだ大丈夫だ」

「お、俺も、まだまだ!」

「無理はすんなよ?休める時には休むことも大事な戦士の務めなんだからな」

「リラさんの受け売りだよね、それ」

 

いいだろうが、実際大事なことなんだからよ。

 

「さて…向こうから来てくれたおかげで、この辺りの敵は粗方片付いたな。次に進もう」

「何だ、お前が仕切るのかアルム」

「…あ。いつもの癖で、つい」

「いや、構わないぞ。…そうか、癖になるくらいいつも仕切っているのか」

「だからみんな偶にリーダーって呼んでるけど、嫌がるんだよね」

「大方、俺には向いてないなどと言っているんだろう?むしろ、お前以外に誰がやるんだと言いたくなる位なんだがな」

「…アガーテさん、勘弁してください。本当に」

 

お、かなり照れてんな。レアなもん見たぜ。俺らが言うと割と言い返してくるんだけどな。やっぱ姉さんには強く出れないか。

 

「…早く行きましょう。さっさと済ませるに越したことはないですから」

「ふふ…ああ、そうだな。そうしようか、リーダー」

「…本当に、勘弁してください。本ッ当に」

 

姉さんも結構人を揶揄うの好きなのか?いや、普段あまり隙を見せないアルムだからやってみたくなっただけなのかもな。まあ気持ちは分かる。

 

「…照れてるアルム、可愛い」

 

…その気持ちは微妙に分かんねえわ、ライザ。

 

 

 

 

「ここが本来の入り口…正門か」

「当たり前だけど、クリント王国の建築様式で建てられてるね」

「争ったような跡がある…どこかの国と戦ってたのかな」

 

下層から上がってきて、僕達は一旦正門の前に進んだ。ところどころに焦げたような跡が見えるから、多分あの竜が炎とか吐いたんだと思うけど…

 

「そういう勇ましい伝承、ウチには全然ないのよね」

「この辺りは辺境だから、滅亡時の戦乱にも巻き込まれて無い筈だし…」

「成程、謎だな」

「…いつになく上機嫌だな」

「当たり前だろう。謎だぞ?」

「そういうの、アンペルさん達が調べたりするんじゃねえのか?」

「それはそれとして、自分でも調べてみたいだろう」

 

…目がキラーンってしてる。さっきの照れてるところといい、今日はアルムのレアな顔が見られるなあ。それで一番得してるのは間違いなくライザだけど。

まあでも、僕も確かに気になる。これだけ戦いの痕跡があって、竜が火を吐いたであろう痕跡もある。なら、竜も何かと戦っていたんじゃないか、なんて仮説が立てられるけど…

 

「…アルムの事は十何年も見てきたが、今のアイツが一番子供らしいな」

「ふふっ、やっぱりアルム君も男の子なんだね」

「誰かといるときは真面目な感じだけど、本質はああなんだよね、アルムって」

 

ライザの言う通り、僕達といるときは抑えてるけど、割と好奇心の塊っていうか。今僕達と冒険に出て無かったとしても、その内唐突に冒険を始めてたと思う。外っていう完全なる未知の世界を知るために。

 

「…まあそれはいい。それより、途中に上り階段があったぞ。あそこを進めば恐らく竜の住処に行けるんじゃないか?」

「よし、なら行くぞ」

 

せめて、いきなり出てくるのはやめてよ?…なんて、竜に祈っても通じないだろうけど。

 

 

「狭い…というか、区切られている感じだな」

「戦いにくいな。あまり力を出し過ぎると、色々崩れて面倒なことになりかねない」

 

階段を登った先は、細かくスペースが区切られてる感じの区画だった。どういう意図何だろう?

 

「っていうか、そもそもこの城が何なのかが解らないわよね」

「戦いの為のものと思ってたけど…違うのかな」

「多分それは合ってると思うのよね。…人じゃなくて、魔物相手とか?それこそ竜みたいな」

「それなら、守護獣なんて言われないと思うがな」

 

そうだよね。詳しい伝承は残ってないみたいだけど、村の古老はあの竜を守護獣なんて言ってた。クリント王国の城に攻めてきた魔物ならそんな扱いはされないんじゃないかな?

 

「…なんだこれは、石板か?」

「何か変な模様ですね、ボオスさん。なんなんでしょうね、これ?」

 

ボオスたちが何かを見つけたみたいだ。石板みたいだけど…え?

 

「…タオ。これは…」

「…うん。…古文献にあった、クリント王国の文字だ」

「な…!?」

 

何でこんなところに?なんか文字も光ってるし…ただの石板じゃないのは間違いなさそう。

 

「タオ、これ読めるの?」

「えっと…うん、大丈夫。まず【炎の翼】…あの竜かな。で、【召喚】…魔物を呼び出す魔術だっけ?で…なんだろうコレ?」

「読めない字なのか?」

「読めるけど意味が解らないんだ。そのまま発音すると【フィルフサ】ってなるんだけど」

「フィルフサ…聞いたことねえな」

 

多分、種族名とか何かなのかな?えーっと、後は…

 

「それで、最後に…【殺す】

「え…」

【炎の翼】【召喚】【フィルフサ】【殺す】この4つの単語が繰り返し書かれてるよ」

「つまりあの竜は、フィルフサとやらを倒すためにこの城に呼ばれた…ということになるのか」

「多分ね」

「あんな竜を呼んでもこんなことになっちゃうなんて、どんな恐ろしい敵だったんだろう…」

「ちょっと考えたくないわね…」

 

…僕の脳裏には、その恐ろしい敵の候補が1つ挙がっている。あの時森で見た白い魔物。アレがたくさん攻めてきてたら…竜がいても、こうなってしまう可能性は高いと思う。…本当に、考えたくないけど。

 

「しかし、この石板…あの竜がこれに呼び寄せられたということは、これは竜を操る程の力を持っていることになる。とんでもない代物だな」

「…どんな技術で作られた物なんだ、一体」

 

クリント王国は高度な錬金術で繁栄してたらしいから、多分これも錬金術で作ったものなんだろうな。

 

「フィルフサの方については、後でアンペルさんに聞いてみよう。今は竜が先だ」

「ああ、なんとなく解るぜ。もうすぐ近くだ」

「ま、マジか…!」

「…いよいよ、か」

「気を引き締めなくては、な」

 

そうだ、もう竜がすぐ近くにいるんだ。…怖いけど、今更逃げたってどうしようもない。どうにか、戦わなきゃ。

 

「竜退治、とびっきりの冒険譚ね…!」

「うん。街道を通る人たちの安全の為にも…何とかできるように頑張ろう」

「…よし」

 

勇気を出して。…行こう!

 

 

そして、一番奥まで進んだら…そこに、あの日見た竜がいた。僕たちは、構えつつ竜に向かって進んでいく。そして…

 

「…ついに、ここまで来ちまったな」

「うん。…今から、竜と戦うんだ」

「怖い…けど、みんなと一緒なら…!」

 

――グルルルル…

 

「無理はするなよ、2人とも」

「解ってるさ。だが、役立たずになるつもりもない…!」

「や、やってやるぞ…!」

 

――グオオオ…!

 

「よーし…行くわよ、みんな!」

「恨みがあるわけじゃないが…蹴り落とさせてもらうぞ!」

 

――ガァァァァァァァァァァァァッ!!

 

竜との戦いが、始まった。

 




今回召喚装置が出てきたので、何故ボオス達がいなかったのに竜が平原にいたのかの説明をここで。独自解釈満載。

まず今回出てきた石板=魔物を召喚する(近くにいる対象を呼び寄せる)装置、まあ誤解を恐れず言えば洗脳しているようなものですよね。
で、恐らく古城にあるこの装置はまだ生きていると思われます。後々生きてる同じ装置が出てくるので。
仮に今までスリープしてたとしても、おそらくフィルフサがこっちの世界に来たことに呼応して再起動。再び竜を操った、と考えています。それでも四六時中動き続けているわけではないですが。
…原作でのアンペルの推測とほぼ同じですが、それが正解であるとした上で+αした感じで。

で、ならフィルフサを探すために平原にいたのか…というとちょっと違います。
なら何なんだという話ですが…この二次創作では竜はある程度高い知能を持っているものとします。その為、自分が「クリント王国のニンゲンに何かしらの方法で操られた」ということを理解しているということにしています。そしてその事に憤慨しているとします。
そしてあの時竜が飛んでいたのは平原の遺跡の真上。ここで出る遺跡と言ったらクリント王国のもの。つまりあの遺跡を見て「あのニンゲン共の住処に似ている!近くに奴らがいるかもしれない!見つけたら殺す!」となった訳ですね。そして誰かが近くにいたらサーチ&デストロイ。もしボオス達がそこにいたら原作通り襲われてました。
因みに古城に関しては人間がいないともう解ってるので折角だし住処にするか、位の感じで居座っています。

今回出たアルムの技
「旋紅の一矢」(戦士の大鎧に止めを刺した技)旋風と炎を纏い、敵に全力の跳び蹴りを放つ
レベル25で習得 AP消費5 無属性物理ダメージと炎属性と風属性の魔法ダメージを与える 低確率で裂傷と火傷付与 ノックバックが大きい TLv3以上でさらにノックバック増大 TLv4で裂傷と火傷の付与確率上昇

Q,縦投げのパターン?
A,高さを稼ぎやすい、対翼竜用の投げ方です。因みにそれを聞いたライザは「まず投げる事前提なの…?」と困惑しました。

ここまで読んでいただき、有難うございました。次回、竜との戦い


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賢しき翼竜の戦、穿つ流星の一撃

VS古城の翼竜。原作だと実質3人で勝ててしまう相手ですが…
今回はアルム視点→ライザ視点→「彼」の視点です


「――来るぞ!」

 

咆哮した竜は、まず息を大きく吸った。今まで他の魔物で何度も見てきた、ブレス攻撃の予兆。だが、コイツのそれは恐らく他とは桁違いだ。タイミングを見計らって避けなければ、最悪この一発で終わる…!

 

――ガァァッ!

 

竜の口から、丁度俺達を中心を打ち抜くように火球が放たれた。俺達はそれを各々横に跳んで回避、丁度4対4で分かれた。こっちにいるのは…タオ、ボオス、ランバーか。

 

「さて、どっちを狙って…!」

 

考えている途中で、竜が翼を振り上げながらこっちに向かって来た。俺を爪で引き裂こうというのだろう。

 

「ハッ!」

 

俺は、振り下ろされた翼に対し蹴りを合わせた。っ、重いな…!だが、ほんの少しだけ隙が出来た!

 

「セイクリッドコード…!」

「闇夜の帳!」

「コーリングスターっ!」

 

3人の魔法攻撃が竜に直撃する。それでもほとんど堪えてないようだが…

 

「アクセルダイブッ!」

「はああっ!」

「おおおッ!」

「お。おりゃあああ!」

 

レント達の剣が竜の体に傷を付ける。傷がつくなら無敵じゃあない、つまり倒せる相手だということだ!

 

「無理はするなよ!一撃入れたら即退避、次に備えろ!」

「解ってるぜ姉さん!アイツがこっちに来たら、受けるのは俺がやるぜ!」

「頼りにしてるわよ、レント!」

「でも、無理はしないでね!」

 

レントがああ言った以上、向こうは心配しなくていいな。

 

「アルム、脚は大丈夫?」

「ああ。…とはいえ、あまり何回も続いてほしくは無いな。向こうの限界とどちらが先か…」

「そもそも、こっちに付き合わずにブレスだけしてくる可能性もあるな…」

「そ、そうなったらこっちが不利過ぎるんじゃ…!?」

 

俺ならいざとなったら飛びつく手段があるが…その隙にボオス達が狙われたら拙いな。やるなら、奴の狙いがレント達に向いたときか。さて、次の奴の行動は…?

 

――ゴォォ…

 

…?風の流れが…?ッ、竜巻か!?

 

――ガァッ!

 

俺達の中心に竜巻が発生した。こんなこともできるのか…!再び横に跳んで躱したが…

 

「…あっ!?」

「ちっ、ボオス!ランバー!」

 

回避行動を取った瞬間に、竜がボオスとランバーに突撃した。くそ、間に合うか!?

 

「…うっ、あ…!」

「…!」

「止まれぇ!レヘルンっ!」

「レヘルン!」

 

ライザとクラウディアのレヘルンが直撃するが、それでも竜は止まらない。ボオスは迎え撃とうとしているみたいだが、いくら何でも無茶…!ここから、届くか!?

 

「ノルデンブランドッ!」

 

竜目掛けて、数多の氷の短剣が飛んでいく。が…

 

――グオオッ!

「うわあああっ!」

「ぐあっ!」

 

ほんの少し間に合わず、ボオスとランバーは尻尾の一撃で吹き飛ばされた。幸い、下に落ちずに済んだみたいだが…!

 

「てめえッ!ブラッドスラスト!」

 

レントが怒りのままの一撃を振るうが、大きく振られた尻尾に弾かれ、まともに入らなかった。ノルデンブランドは刺さったから、翼膜へのダメージは入ったが…

 

「2人とも、無事か!」

「ぐ…何とかな…」

「ボ、ボオスさん、俺を庇って…」

「2人は少し離れたところで休むんだ!道中の魔物は一掃してある、襲われる心配はない!」

「…っ、解った…」

「ボオスさん、俺の肩を…」

 

そういってここから離れていくボオスとランバー。…さっきの動き、明らかに狙っていたな。コイツ、俺達を少しづつ切り取って確実に数を減らそうとしてきているのか?だとすると、かなり頭が回る奴だな…

 

「少し強引にでも、攻めた方が良いかもしれない」

「…方法があるのか?」

「一応は。…ただ、かなり危険ですが」

「なら、余程の状況にならない限りは駄目だ。こちらは6人いる、お前1人が無理をする必要はまだない筈だ」

「…解りました」

 

…ボオス達がやられて、少し焦ってしまっていたか。確かに、戦況は未だこちらが有利。確実に詰めていく方が良いな。

 

「さあ…来い!」

 

少しずつ、お前の力を削いで行く…!

 

 

 

 

「大分、効いてきてるんじゃねえか…?」

「うん。明らかにスピードも落ちてきてる」

 

ボオス達が竜に吹き飛ばされてから、竜は何度も同じパターンで攻撃してきた。火球や竜巻で分断して、爪や尻尾で追撃。それに対してあたし達は、こっちに来たらレントが受けて、向こうに行ったらアルムが迎撃。そこにみんなで一斉攻撃を仕掛ける。この繰り返しだ。竜の翼膜は良くそれで飛べるなって言うくらいボロボロだ。

このままこれで勝てればいいけど…この竜は頭が良いみたいだし、流石にそろそろパターン変えてきそうかな。とりあえず、レントは回復しとこう。

 

「レント、プニゼリーよ」

「私も回復するね」

「サンキュー。さあ、まだまだ受け止めてやるぜ!」

 

これでこっちは万全。アルムもタオからプニゼリーを貰って回復したみたい。さあ、竜は何をしてくるのかしら?

 

――ゴォォォォォォォォォ…!

 

…何か、今までより呼吸音が大きいような。しかも、なんか長くない?凄く嫌な予感が…

 

「――ッ!拙い、早く奴を止めるぞ!」

 

そう姉さんが叫ぶと同時に、あたし達は前に出た。多分、このまま放って置いたらとんでもない何かが起こる。どうにかして止めないと!

 

「ノルデンブランドっ!」

「レヘルン!」

「ソリッドブレイクッ!」

「槌術・岩穿ち!」

「砕けろォッ!」

「はぁぁぁぁっ!」

 

あたし達の全力の一斉攻撃。…だけど、止まらない…!?

 

「ならもう1回、ノルデンブランドッ!」

 

アルムもノルデンブランドを使ったけど…間に合わなかった。竜が、何かを吐き出した…!

 

「…!チッ!」

「ッ!?レント!?」

 

それを見た瞬間、レントがあたし達の前に立った。まさか、アレを受けるの!?

 

「レ…!」

 

無茶よ!…そういう間もなく、竜が吐き出した「何か」が炸裂した。

 

 

 

 

「…情けないな」

 

竜の一撃で吹き飛ばされた俺達は、安全なところで結果を待つしか無くなっていた。…役立たずにはならないと言っておきながら、この様か。

 

「…大丈夫なんですかね、アイツら」

「そうそうやられはしないとは思うが…クソッ」

 

何もできないことが、本当に歯痒い。あいつ等に、全部任せることになるなんてな…

 

「…もし、やられちまってたら…」

「…どうにかして引っ張っていくしかないな。アガーテは親父の、他の奴らは俺の無茶に付き合わされてるだけなんだからな」

「そんな、それこそ無茶ですよ!」

「それでもやるんだ!もし死なれでもしたら…」

 

そこまで言って…突如、途轍もない轟音が鳴り響き、熱風が吹き荒れた。

 

「…っ!今のは…!?」

 

さっきの火球や竜巻とは明らかに違う。これがあいつらの攻撃の余波ならいいが、もし竜の方だったら…!

 

「ちっ!」

「ボオスさん!?」

 

最悪な予感に、未だ痛む体が突き動かされる。あいつらは無事なんだろうな!?無事であってくれ!

 

「…これは…!」

 

そして、戦場に戻って来た俺が見たものは、何かによって大きく抉れた地面と、しゃがみ込むライザ、アガーテ、タオの3人。そして…

 

「…無事だな、レント!?」

「ああ、何とかな…助かったぜ、アルム」

 

レントの背中に手を当てているアルムと、ボロボロながらも剣を盾のようにして構え立って居るレントの姿だった。

 

「ぼ、僕達、生きてる?」

「あ、ああ。…レント、アルム、お前たちは大丈夫か!?」

「そうだよ!あんなのを正面から…!」

「いや、大丈夫だぜ。アルムの魔法のお陰でな」

「レントに炎と風を纏わせて防御したんです。ギリギリ間に合いました」

「そっか…ありがと、2人とも。って、竜は!?」

 

6人が無事だったことに安堵していたが、そうだ。竜は今どうなっている!?

 

――グゥゥゥゥッ…!

 

…俺達が離脱したときとは比べ物にならないくらい、羽ばたきが弱弱しくなっている。そして、どこか焦っているようにも、苛立っているようにも見える。さっきの轟音は恐らく、竜が何かしら奥の手と呼べる攻撃を使ったことによるものなんだろう。しかし、それを防がれた。今あの竜は恐らく考えている、どうすればこいつらを排除できるのかと。

 

「…パターンをいきなり崩してきて、こっちの不意を打つなんてな。だが、それも凌ぎ切った。そして、そろそろ奴も限界に近い筈」

「じゃあ、ここからはこっちから仕掛ける番ね!」

「うん、ここからなら押し込めそうだって、僕でも思うよ…!」

「レント君は大丈夫?苦しいならもう休んでても…」

「いや、やるぜ。もし俺が休んだせいで手が足りなくなったら笑えねえからな」

「…本当なら、止めなければいけないんだろうけどな。仕方がない、この戦いが終わったらしばらく大人しくしろよ」

 

しかし、ここからはアイツらの攻勢だ。竜に反撃の隙を与えずに一気に倒しきるつもりなんだろう。

 

「少し溜めがいるからなかなか切れなかったが、ようやく使えるな。…全力で、行くぞ!

「ラストスパートだ、気合い入れなおすぜ!――おおおおおおおおッ!

 

アルムが脚に炎を纏わせた。その形が、徐々に翼を思わせる形に変わっていく。レントが気合の雄たけびを上げる。竜のそれにも劣らないと思えるほどのものだ。

竜はその危険性を察知したのか、上に距離をとろうとする。しかし…

 

「逃がさない!縛術・影縫い!」

「ブラストノヴァ!」

「フラジオレット…!」

 

3人の魔法攻撃がそれを許さない。竜は退避できず、大きな隙を晒した。

 

「これで、終わらせる!」

「ドゥームインパルスッ!」

「沈…めぇッ!」

 

レントとアガーテの斬撃が竜の顔面を切り裂き、その上からあり得ない高さと速さで突っ込んできたアルムの蹴りが突き刺さる。

 

「まだだ!ノルデンブランド!」

 

そして、どこからともなく出現した氷の刃のような物が竜の体に傷を付けていく。翼膜もボロボロで、もうまともに飛べないだろう。

 

「そして…止めだ」

 

さらに、脚に纏わせていた炎をさらに燃え上がらせていく。これなら確かに止めを…

 

――ゴォォォォォォォォォ…!

「ッ!コイツ、まだ…!」

 

あの竜、何かを溜めている!?まさかあれが奴の奥の手か!?もしあのままアレが撃たれたらアルムが直撃を食らう。だが恐らくアルムはまだ溜めが終わってない…!

 

「…!止めなきゃ!チューニング!」

「クソ…!ソリッドブレイク!」

「操術・絡繰り!これで…!」

「ノルデンブランド!と、エクリプスジャベリンっ!」

「これで、止まれっ!」

 

5人の一斉攻撃が突き刺さるが、それでもまだ竜は止まらない。このままじゃ間に合わない、なら!

 

「おおおおおおおッ!」

「ボオス!?」

 

竜に向かって駆け、剣を抜いて、その勢いのまま投げた。狙うは、奴の口の中!間に合えッ!

 

――グァァァァァァァァッ!

 

竜の口内に剣が突き刺さり、中で炎が暴発した。よし、上手く行った!後は…!

 

「アルム、決めろッ!」

「…ああ、感謝するぞ、ボオス!」

 

その言葉と共に、アルムの溜めが終わった。普段赤い筈のアイツの炎が、青くなっていた。

 

「…行くぞ!」

 

その一言と共に…竜を全力で蹴り飛ばした。抵抗する力も残ってない竜は、成すすべなく吹き飛ばされる。そして、アルムはとんでもないスピードで上に「飛んだ」。そしてそこから、2回、3回と上に加速して高度を上げている。そして、今度は方向を変え、吹き飛ばした竜がいるところに向けて加速した。

 

「これで…!」

 

アルムは体を回し、右足を振り上げる。そして…

 

「堕ちろぉぉぉぉぉぉッ!」

 

竜の頭を全力で、踏みつけるように蹴った。それと同時に、脚から渦を巻いた青い炎が吹き上がり、竜の頭を文字通りに吹き飛ばした。頭を失った竜の体は、勢いよく古城の門の辺りまで墜落していった。

 

「やった…!」

 

これで、竜は討伐された。後は…

 

「アルムは竜の所に降りたみたい。急いで追いかけるよ!」

 

ああ、早く労ってやらなきゃな。

 

 

古城の門の近く、アルムは竜の死体の近くで腰を下ろしていた。手に持って居る球のようなものを眺めているようだが…

 

「来たか。…どうにか、やれたぞ」

「うん、見てた。凄かったよ」

「ああ。本当に、よくやってくれた」

「どういたしまして。…ところで、1つ頼みがある」

「何だ?」

「…肩を貸してくれ、右脚が限界だ」

「ああ、解った」

「レントだけじゃなく、お前もしばらく大人しくすることだな」

「ふふ、エルちゃんに怒られちゃうかもね。無茶し過ぎって」

「無茶しなきゃ勝てない相手だったけどね…」

「…」

 

兎に角、これで竜は討伐した。俺が貢献できたのは最後の最後位だが…少しは、胸を張って親父に報告できそうだ。

 

 

「そうだボオス、これを」

「なんだ、これは?」

「竜の眼」

「…眼!?」

「何よりの討伐の証拠だろう。ああ、モリッツさんに見せた後は返してくれ、錬金術に使えそうだしな」

「…いや、それはそうだが。そんなものをいきなりポイと渡すな」




3人目はボオス視点。ほぼ丸々一話戦闘。まあ拙いとは思いますが勘弁して下さい。
とりあえず前話で「竜は結構賢い」設定を出しましたが、そのお陰でそれなりに戦闘っぽくはなったと思います。ただ突っ込んでくるだけだとあっさり嵌められるので逆に描写に困りますし…

今回出たアルムの技
朱嵐の衣(レントに使った、竜の一撃を防ぐ補助をした技)対象に赤い竜巻を纏わせ、身を護る
初期習得 ノーマルオーダー達成時に使用 味方1人の被ダメージ減少、炎耐性と風耐性上昇

炎鳳の大翼(竜に反撃を開始したときに使った、脚に炎を纏わせる技)脚に翼を象った炎を纏わせる
レベル40で習得 AP消費10 一定時間アクティブスキルのWT減少、威力、クリティカル率、クリティカルダメージ上昇(全て別枠) TLv3で強化量上昇 TLv5で効果時間延長

青の流星(竜に止めを刺した技)炎と風の出力を最大にし、敵を全力で蹴り飛ばし、相手の上まで飛んでから急降下。全力で相手を蹴り落とすと同時に圧縮した炎と風が噴出し、攻撃した部位を文字通り吹き飛ばし、地面に叩き付ける
フェイタルドライブ 単体攻撃 無属性物理ダメージと炎属性と風属性の魔法ダメージを与える 良性変化を多く受けているほどダメージが上昇

因みにフェイタルドライブ発動直前、サイレントでプ二ゼリーをセルフで使ってます。この状況で「プ二ゼリー!」とか言うのもちょっとこう、緊張感がね?

Q,ところで、動力炉は?
A,頭からすっぽ抜けてました…後で拾いに行かせます。

ここまで読んでいただき、有難うございます。


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休息をとる少年、続々と来るお見舞い

皆が順番にアルムのお見舞い。因みに言っておきますと、アルムの脚の怪我の原因は技の反動が10割です。着地失敗とかはしてません。
今回は終始アルム視点です。
3/28 誤字報告があったので修正


「おうアルム、脚はどうだ?」

「まだかなり痛むし、力が入れにくいな。…そういうお前はどうなんだレント。平気な顔して出歩いているが、安静にしろと言われたのはお前もだろう」

 

竜を討伐して、島に戻った俺達がまずやったことはエドワードさんに診察してもらうことだった。その結果、レントは軽い火傷と全身打撲で1日、俺は右足の筋肉痛と捻挫で2,3日安静にした方が良い、とのことだった。骨折など、大事には至ってないのは良かったが…

今は居間で椅子に座っているが、ぷにまくらを置いた別の椅子を持ってきてそこに右脚を乗せている。

 

「駄目だよレントさん、じっとしててって言われたんでしょ?」

「そうなんだけどよ、正直動かない方が体に悪い気がしてくるっつーか」

「そうかもしれないがな…俺が我慢しているのに、同じく安静を命じられたお前が平気で出歩いてるところを見るのは少し腹が立つ」

「おいコラ言い方」

 

こっちは言われるまでもなく碌に動けないというのに…

 

「アルムー、脚は大丈夫ー?…って、レント!?アンタも安静にしろって言われてるんでしょ!なんで出歩いてるのよ!」

「うげ、こんな早く来るのかよ」

「ライザお姉ちゃんが叱る時って、ミオおばさんに似てる気がする」

「親子だからな、似るだろう。ついでに、熱中したら止まらないところはカールさん譲りだろうな」

「え、錬金術やってる時のあたし、あそこまで行ってる?」

「心底楽しそうに笑ってるからな」

「ああ、イタズラを計画してた時の何倍も良い笑顔だと思うぜ」

「…そうかな。そういうことなら嬉しいな」

 

退屈を紛らわす為のものと本気で打ち込めるものでは、感情のこもり方が違うだろうからな。後者の方がより良い表情をするのは当たり前か。…イタズラを計画している時の笑顔は、俺は見たことが無いんだが。

 

「それでお姉ちゃん、手に持ってるそれは何?」

「あ、これ?軟膏よ。これならアルムの脚にも効くってエドワードさんからのお墨付きも貰ったの」

「そうか。有難うな」

「どういたしまして。…それじゃアルム、脚出して」

「ああ…ん?

 

…脚出して?今?ちょっと待てそれはつまり…

 

「…自分で塗れるんだが」

「何言ってんのよ。できるだけ動かないに越したことはないでしょ?」

「いや、だがな」

「エルちゃんお願い」

「はい裾めくるよー」

「待て行動が早い」

 

そこでエルに頼むのは卑怯だろうライザ!力づくで止めることもやめろと強く言うこともできないだろうが!

 

「ありがとエルちゃん。さあ、早速塗っていくわよー」

「…ああもう、頼むからできるだけ早く終わらせてくれ」

 

抵抗しても無駄だな、これは…しかし、何かよく解らない恥ずかしさがあるぞこれ。

 

「アルム、脚はどうだ…って、何をやってるんだライザは」

「げ」

「…レント?お前も安静にしろと言われている筈だろう?」

「ほら、また怒られてる」

「…解ったよ、こっからは家で大人しくしとく」

「最初からそうしろ。…全く、こういうところはまだ変わらんな」

 

アガーテさんも見舞いに来てくれたようだ。そして怒られてレントは帰った。…この状況をこの人に見られるの、かなり恥ずかしいんだが。

 

「で、この状況は?」

「ライザお姉ちゃんがアルム兄の脚にお薬塗ってるの」

「ほう、随分と甲斐甲斐しいじゃないか」

「か…!もう、揶揄わないでよ姉さん!」

「ふふ、顔が赤いぞ?」

「…こっちも恥ずかしいので、止めていただけると有難いんですが」

「すまんすまん。お前達を見ているとつい、な」

 

ああもう、早く終わってくれライザ…

 

「…ん、良し!これで終わり!じゃあ、レントみたいに出歩かずじっとしてなさいよ!」

「ああ、そうするよ。どの道、この脚じゃ碌に出歩けないがな」

「いや、アルムなら夜こっそりケンケンしてでも散歩しそうだなって」

「…俺にどんなイメージを持ってるんだ?」

「あー」

「エル?」

 

何だその「アルム兄ならやりかねない」みたいな顔は。やらないぞ?いや、発想としてなかったわけじゃないが。

 

「ただいまー。あら、ライザちゃんとアガーテちゃん!アルムのお見舞いに来てくれたの?」

「ええ。ライザは薬まで塗りに来たそうで」

「あら、そうなの?ありがとうねライザちゃん!」

「い、いえいえ、それほどでも」

 

買い物から母さんが返って来た。…俺の脚の事を聞いたときは「頑張ったのね。でもやっぱり無茶はしてほしくなかったわ」と言われた。ああするのが一番確実だったとはいえ…流石に堪えるな、これは。因みにエルには「明日と明後日はわたしがアルム兄を見張る!」と言われ、父さんと母さんがエルに小遣いアップを約束していた。…大人しくせざるを得ないだろう、それは。

 

「アルム、本当にこんないい子逃しちゃ駄目よ?」

「ルーテリアさん!?」

「ライザがいるところで言うことじゃないだろ…!」

「もどかしいからな、お前らは」

「むーん、どうしたらもっと2人とも素直になるかな」

 

揃いも揃って余計なお世話だ、全く…!

 

「じゃ、じゃあまた午後にも来るから!またねアルム!」

「…ああ、またな」

 

ライザは慌てて逃げるように帰っていった。…ああもう、安静にしている筈なのに疲れた。

 

「どうした?疲れているみたいだが」

「アガーテさん、解ってて言ってるでしょう…」

「さあ、何の事やら。…アルムの脚の無事も確認できたし、アタシも帰るとするよ」

「また来てね、アガーテちゃん」

「今度一緒に遊んでねー!」

 

アガーテさんも帰っていった。…ちょっと揶揄いに来ただけじゃないか、あの人…

 

 

「ふむ、思ったより元気そうだな。なによりだ」

「ええ。皆が見舞いに来てくれるので、退屈もしていません」

 

午後になってから、アンペルさんとリラさんが見舞いに来てくれた。…しかし、アンペルさん。

 

「…その妙にたくさんある菓子類は一体?」

「見舞いの品だが?」

「こうは言っているが、7割ほどは自分用だぞ」

 

…有難いことは有難いから、素直に受け取るが。その量から7割ってかなり多いぞ。

 

「…何日分ですか?」

「そうだな…3日分といったところか」

「今の俺が言うのもなんですけど、かなり体に悪いのでは…」

「何度も言っているんだがな、改める気配がまるで無い」

「大変だね、リラさん…」

 

アンペルさんも、天然の気があるリラさんに苦労させられている側ではあるが。

 

「お邪魔します。…って、アンペルさんとリラさん?」

「邪魔するぞ。…何だこの菓子の量は」

 

続いて、タオとボオスが来た。2人同時は予想外だったな。偶然か、それとも何かのついでだろうか?

 

「お前にこいつを返すのを忘れていたからな。見舞いついでに持ってきたぞ」

「それは…竜眼か。また珍しいものを手に入れたな」

「竜の頭は吹き飛んだのに、これは残ったんだよね」

「一説によると、全てを見通す神秘の力を持っているとされる代物だ」

「そんなに凄いものなんだ…」

 

とんでもないものを手に入れてしまっていたみたいだな。まあ、後々ライザの錬金術の素材として活用することになるだろうが。

 

「ところでアルム、1つ相談したいことがあるんだが」

「何だ?」

「…親父がいつもの3割増しくらいで煩いんだが、どうすればいいと思う」

「…恐らく親バカを発揮しているやつだな、それは。慣れるしかないと思うぞ」

 

竜を討伐して以来…と言っても昨日の話だが。モリッツさんが今まで以上にボオスを自慢するようになったらしく、結果ボオスがそれに辟易しているという事態になっているそうだ。

因みにボオスが言質を取って俺達に協力を要請した件については「全くの予想外だったが、ボオスがそう判断したのならそれが正解だったのだろう」とのこと。やっぱり偉そうすぎるだけでそれなりに柔軟だよなあの人。

 

「アルムー、また来たわよー」

「アルム君、お見舞いに来たよ」

 

午前中の約束通りライザが来た。クラウディアも一緒のようだ。

 

「ちょっとは痛みは引いた?」

「少しはな。だがこの分だと、言われた通り後2日ほどは大人しくしていた方が良さそうだ」

「そうしときなさい。無茶して怪我が悪化しました、なんて誰も望んでないからね」

 

レントみたいに、お前やアガーテさんに追加で怒られたくないしな。

 

「それで、クラウディア。人が多いけど…大丈夫?」

「うん。少しでも早く治ってくれる方が嬉しいから」

「…成程、そういうことか。しかし、こういう怪我にも効くのか?」

「問題は無いだろう。あれは癒しの魔力だ、怪我や負荷の類には余程の物でなければ効果は出る」

「この冒険が終わるころには、僕たち全員クラウディアに頭が上がらなくなってそうだね…」

「クラウディアさんって、そんなに凄いんだ」

「ああ、少し同行しただけの俺でも解るぞ。攻撃しながら全体のサポートをするなんて、尋常じゃない」

「ここまでの逸材だというのは正直予想外だったな。いるかいないかで旅の快適さが大きく変わるレベルだ」

 

…褒めちぎられて恥ずかしいのか、クラウディアは顔を真っ赤にしている。だがまあ、妥当な評価なんだよな、これは。最初からサポートだけでも有難かったのに、最近はそれをしながら攻撃にも本格的に参加できるようになったからな。

 

「え、えっと、それじゃあ、吹くね?」

「思いっきりやっちゃいなさい!…一緒に軟膏塗ったら効果上がったりしないかな」

「もう一回?」

「何も言われない内から捲るなエル。…というか、そんなに頻繁に塗って良いものなのか?」

「臭いくらいしか問題は無いぞ」

「じゃあ良いわね!」

「うわ生き生きとしてる」

「一体何を見せられてるんだ俺達は…」

「新手のイチャイチャ?」

 

何処でそんな言葉覚えたエル。というか、またあんな恥ずかしい思いしなきゃいけないのか…とりあえず、どうにかしてクラウディアの演奏に集中しよう…

 

 

「凄く賑やかだったみたいね、アルム」

「大分恥ずかしい思いもしたけどな…」

 

夕方になって皆帰ってから、井戸端会議兼買い物から母さんが帰って来た。…結局、クラウディアの演奏には集中しきれなかった。痛みがそれなりに引いたので、効果はあったが。

 

「それだけお前は周りから大事に思われているということだ。それを裏切るような真似はするなよ」

「解ってるよ。…とりあえず、もう少し負荷を減らせるように技を改良しないとな」

「お姉ちゃんに頼めないかな、それ?あの靴も錬金術で作ってるんでしょ?」

「負荷を減らせる造りにしてもらう、か?1つの手ではあるが、そこまで頼りすぎるのもな…」

「あの子なら寧ろ、喜んでやると思うが」

「そうよ。遠慮せず頼っちゃいなさい?」

 

遠慮、か。最近はあまりしているつもりは無かったんだが…そうだな。結局、俺の方で改良案が思いつかない可能性もある。なら、ライザを頼る方が確実か。

 

「…明日、そうしてみるよ」

「ふふ、じゃあ話が纏まったところで、今から晩御飯の準備をするわよ」

「今日はわたしが手伝う!」

「あらエル、有難う」

「エルの料理か。どれほど上達したか、楽しみだ」

「…いつもなら俺も手伝えるのに、少し歯痒いな」

 

とりあえず今日の所はしっかり食べてしっかり休んで早く脚を治そう。またみんなで冒険に行くために、それと家の手伝いをする為に。

 

 

 

おまけ 午前中、軟膏を塗っている時のライザの内心

(よーし、塗るぞー。ただでさえ痛んでるところだから、力を入れずに優しくね。…あたしもこうやって、アルムに何かしてあげられるようになったんだなぁ)

(…こうしてみると思ってたより太くないって言うか。いや十分太いし逞しいんだけど、あんな凄い蹴りを打てるほどには見えないって言うか。…あ、でもやっぱり触ってみるとがっしりしてる)

(…なんかドキドキ言ってる。もしかしてちょっと恥ずかしがってる?男の子でもこういうのやっぱり恥ずかしいんだ)

(もし逆の立場だったら…駄目だ想像しちゃダメだ。アルムに脚触られるとかもうそれだけで沸騰しそう)

(うー、薬塗ってるだけなのにあたしまで恥ずかしくなってきた…早く終わらせよう)

――この辺で甲斐甲斐しいと言われる

(姉さん!そういうこと言うのやめて!余計意識しちゃうから!お嫁さんどころかまだ恋人同士ですらないから!)

(うー、もー!また何か言われる前にさっさと塗り終わっちゃおう!)




また自分から外堀を埋めに来たライザであった。まあ既に堀どころか開門しているも同然ですが。

Q,ライザってアルムにそんなイメージ持ってたの?
A,少なくとも家族とクラウディア以外の友人は全員このイメージで一致します。クラウディアはまだ関わり始めて短いので仕方ないです。そして、それはそれとして普段は真面目な奴とも認識されてます。

ここまで読んでいただき、有難うございました。


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立ち行かなくなる漁師、香り立つ楓の森

とりあえず動力炉をサラッと拾わせておきました。調合&メイプルデルタ探索。
今回はライザ視点→レント視点です。


「さーて、明日にはアルムも復帰するから、冒険の準備をしておかないと」

 

そう言って、あたしは錬金釜をかき混ぜていた。昨日にはレントが復帰したから、試しにってことで古城をちょっと探索してたんだけど…単純にあたし達が強くなったからか、竜の事を気にしなくても良くなったからは解らないけどかなり楽に動けた。

特にレントがなんか凄まじかった。1日まともに動けなかっただけで結構ストレスだったみたいで、動きの1つ1つになんかこう…喜びを隠せない感じが出てた。復活してた大鎧を1人で圧倒してたし。まあ、多分あたしも似たようなことになるだろうから、気持ちは解らないでもないけど。…そうなると、3日も動けなかったアルムが復帰したら凄い動きしそう。エルちゃんも「そろそろアルム兄が限界」って言ってたしね。

 

「…よし、こんなもんかな」

 

まずはフラムやレヘルンとか、今まで作った道具をより良いものに更新。ノルデンブランドは強いけどクリスタルのエネルギーも結構使うし、ちょっと威力が過剰かなって思うこともあるから、こういう比較的軽い物もちゃんと用意しておかないとね。

そしてアンペルさんから新しく貰ったレシピから作った道具。電気の爆弾のプラジグと、風の爆弾のルフト。これで攻撃の幅が広がったね。もう一つ、せせらぎの薫風っていう癒し効果のある粉もあるんだけど、そっちは材料不足で作れない。どこにあるかは分かるけど、採り方が解らないんだよね…

 

「明日になったら何するかなー。まずはアルムとタオの武器の改良ができる素材が何処にあるか探さなきゃかな」

 

古城を探索してた時に見つけた動力炉で武器の強化自体はできるけど…もっと根本的なものっていうか。特にアルムの場合、多分今の武器をどれだけリビルドしても負荷の軽減はできないと思う。多分次の段階の武器を作れるようになってからの話かな。それまではあの技はアルム自身が改良できるまで封印してもらうことになりそう。

 

「あー、あとそうだ。アンペルさん達にフィルフサって何なのかについても聞かなきゃね」

 

古城…クリント王国の遺跡の中に遺されていたものに書かれていた言葉だから、それについて調べてるアンペルさん達なら何か知ってるかもしれないしね。…まあ、なんとなくアレじゃないかって予想はついてるんだけど。

 

「後考えることは…うーん」

 

今のところは…無いかなぁ。じゃあ、島の人たちの話でも聞きに行こうかな。お願いを聞いたり悩みを解決してたりしたら、レシピ以外にも隠されたお宝の情報を貰ったりもしてるから、探索の幅も広がるんだよね。こんなリターンもあるなんて…やっぱりするべきだね、人助け。

 

 

「でっかいの!でっかいのが水の中にいたんだ!」

「でっかいの?どうでっかかったのか、教えてくれないか?」

「体と口!」

 

島を回っていろんな人達の話を聞いてたら、男の子とアルムの声が聞こえてきた。近くにリラさんもいる。体と口が大きい?水の中?…まさか、前にアンペルさんが言ってた外海の魔物?

 

「そうか。他に何か特徴みたいなのはあったか?」

「えっと、魚みたいなヒレがあった!」

「…古城に似たような奴がいたな」

「外海の魔物と特徴も合致するな。恐らく湖の魚を食いつくして浮上したのだろう。早急に退治するべきだな」

「ですね。…有難うな、教えてくれて」

「うん!じゃあね、お姉ちゃん、アルム兄ちゃん!」

 

男の子が走り去っていった。湖の魔物退治かあ…どうするんだろう。ちょっとあたしも話に混ざろう。

 

「アルム、今の話って…」

「ライザか。何でも漁師さん達が、また魚が採れなくなってきたらしくてな」

「波の向きも変わっていたから、今度こそ外海の魔物の仕業かもしれないと考えてな、情報収集をしていた。そしたら、先ほどの子供が見たというから話を聞いていたんだ」

「これで原因がほぼ確定したから、まず漁師さん達に注意喚起をしようと思う。…証言をしたのが子供だから、信じてもらえない可能性があるが」

 

そこだよね…島の大人達って、やたら頭が固い人が多くて話が通じにくいって言うかさ。

 

「なら、早く退治して「この魔物が原因でした!」ってみんなに見せるのが一番良いのかな」

「そうだな。だが水中の魔物だから、おびき寄せる方法を考えないといけないな」

「それなら恐らくアンペルが知っているだろう。アイツも島の大人たちに恩を売りたいと思っていたようだし、丁度いい」

「恩を?」

「ドレッペの高台の調査がしたいと頼んだそうだが、突っぱねられたらしくてな」

「ああ、それなら今度は見返りとして調査させろと要求しよう、と」

「そういうことだ」

「…それはまた、何というか」

 

…なんか、ちょっと汚い大人の話を聞いちゃった気がする。

 

「まあ、今日は注意喚起とおびき寄せる方法を聞いて、そこからは明日ですね」

「ああ。お前は早く戻って足を休ませておけ。散歩くらいは許されているとはいえ、一応の療養期間は今日までだろう」

「そうですね、解りました」

「おびき寄せる方法かあ…アンペルさんが知ってるって言うなら錬金術で作る何かかな。今ある物で作れればいいけど」

 

漁師達の生活に直結する問題だから、出来るだけ早くどうにかしてあげたいしね。

 

 

 

 

「さて、ようやく自由に動けるな…!」

「喜んでるところ悪いけどよ、今日のところは採取に専念して戦闘は控えた方が良いんじゃねえのか?治りたてなんだしよ」

「エドワードさんから問題は無いと言われている。というか、お前も復帰したてで大暴れしたと聞いたが」

「お前ほど面倒な怪我じゃ無かったからな」

 

ようやくアルムが戦線復帰して、今向かっているのは【メイプルデルタ】っつう森だ。何でも、全体が強い香りに包まれているそうだ。昨日アンペルさんに湖にいるらしい魔物をおびき寄せる方法を聞いたら、その為の臭いを出す香料があるらしい。で、現状ある素材でも作れるが、そこにある素材を使えばより効果が高まり、成功率が上がるかもしれないって話だ。

 

「それで、ここが入り口みたいだけど…岩に塞がれてるね」

「何でこんなところに…」

「言っても仕方ないでしょ。ほら、レント」

「へいへい…」

 

ったく、この岩多分お前でも砕けるぞ?それ言ったら、あんたの方が体力あるとか何とか言って何が何でも俺にやらせようとしてくるだろうから、面倒くさいことにならないようにさっさとやるけどよ。

 

「オラァ!…よし、砕けたぜ」

「助かる。さて行こうか」

「待って待って、早い!いつもより何か倍くらい早い!楽しみなのは分かるけど落ち着いて!」

「そんなに楽しみだったんだ、アルム君…」

「どっちかって言うと、3日間大人しくしてた反動かなぁ…」

 

お前は止まったら死ぬ病気か何かにでも罹ってんのか…?

 

 

「…おぉぉぉー、辺り一面赤い…」

「驚きすぎて面白い顔になってるぞ?」

「随分と甘い匂いが漂っているな…」

「この辺りの木から出てくる樹液の影響らしいよ」

「あ、虫がたくさん寄ってきてる。この匂いにつられてきたのかな」

 

初めて入ったメイプルデルタに、驚きを隠さないライザ。確かにまだ夏だってのに、秋みたいな辺り一面真っ赤なこの光景は驚くだろうけどよ、そんな顔をするほどか?

それよりアルムも言ってるこの甘い匂いが気になるな。甘い匂いそのものが嫌いってわけじゃねえんだが、流石にずっと嗅ぎ続けるのはちょっとな…

 

「よーし、じゃあ探索するわよ!」

「とりあえず一通り回っていくか。そこまで広くはなさそうだし、魔物もそこまで強くはなさそうだ。余裕はあるだろう」

「準備運動が念入りだね…」

「これ、この辺りの魔物全部倒すつもりだと思うよ…」

「割とすぐ復活するとはいえ、流石にちょっと同情するぜ…」

 

…結論から言うと、道中の魔物は殆どアルムが飛んで跳ねて薙ぎ倒した。俺の動きも明らかに喜んでいるとかライザが言ってたが、そんなレベルじゃなかったな…

 

 

「何かを誘うような匂い…やっぱりこの木だよね」

「木の皮だけでも何かに使えそうだな。…ん、料理にもいけそうか?」

「この木なら…うん、虫取り網が作れるわよ!」

「え、虫!?ぼ、僕にはやらせないでよ!?」

「俺もパス。多分潰しちまうからな…」

 

 

「…焚火か?」

「誰か居たのかな…」

「魔物もいるこんなところで、よくこんなことできるね…」

「骨と皮が残ってるな。魔物を焼いて食ってたみたいだな」

「ん-…錬金術に使えるし、それは貰っておこうかな」

 

 

「この宝石みたいなのはなんだ?」

「えっと、琥珀だと思う」

「あ、これよ!タオの武器の強化に必要な素材!」

「やっと見つかったんだ…帰ったら早速お願い、ライザ」

「出来るなら塊を一つ持ち帰ってみたいところだな。こういうの、エルが好きそうだからな」

 

 

「…よし、釣れた!」

「うん、これだけあればいいわね。ありがと、タオ」

「タオ君って、釣り上手なんだ」

「集中力なら一番あるからな。本の解読に夢中になりすぎて、いつの間にか朝から夕方まで経っていたことがあるくらいだ」

「逆に俺はできそうに無いな、これ…見てるだけでじれったいぜ」

 

 

「さーて、色々集まったわね!」

「まず魔物寄せの香料、次にタオの武器、そして虫取り網。後は…出来る物から順番にだな」

 

今日も限界まで採集してアトリエで調合。いつものパターンだな。とりあえず、そろそろ甘い匂いがきつくなってきたから有難いぜ。

 

「あと、フィルフサって言葉についてもアンペルさんに聞いておきたいよね」

「クリント王国が竜を呼んでまで倒したかった敵か…どんな奴なんだろうな」

「2人が知っててくれればいいけど…」

 

2人が知らねえなら、それはそれでアルムの言う「知る楽しみ」って奴があるけどな。…いや、これに関してはそうも言ってられねえか?竜を呼ぶほど国が恐れたバケモノ達なんだろうしよ。

 

「その辺りをハッキリさせるためにも、アトリエに戻るぞ。今は湖にいるであろう魔物退治が最優先だしな」

「うん。あたしは調合するから、その間にちゃんと聞いておいてね」

 

さて、やっておきたいことは結構あるが…一つ一つ確実に済ませていくか。




話の順番もちょっと組み替えてます。タオが釣り得意なのは完全独自設定。

Q,樹皮が料理に使えそうって、どうやって判断したの?
A,齧りました。

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大人達は事情を語り、子供達は偶然を演じる

フィルフサ説明会&外海の魔物討伐。村会はそもそもフラグが立ってない。
今回はアンペル視点→アルム視点です。


「…成程、古城に住み着いた竜は、奴ら…フィルフサを倒すためにクリント王国が召喚したものだったのか」

「そうみたいです。…やはりフィルフサはあの白い奴の事だったんですね」

 

ライザに湖の魔物をおびき寄せる香料の調合を任せている間、アルム達が聞いてほしい話があると言って来たので聞いてみたが…まさか、【フィルフサ】の名を知っていたとはな。古城にあった石板に書いてあったそうだが、それが状況や内容からしてクリント王国製の召喚機であることはほぼ確定。同時に…

 

「あの古城は対フィルフサ用の城塞だった、ということだろうな。…リラ」

「ああ、アルムとレントだけでなく、全員がもう一人前以上の戦士だ。真実を話して協力を仰いだ方が良いだろう」

「真実…?」

「ああ。全てではないが…フィルフサとクリント王国について、な」

 

そこから私は、アルム達にフィルフサとクリント王国の関係について話した。クリント王国が滅んだ原因は、フィルフサとの戦いによる消耗によるものだということ。フィルフサは元々異界と呼ばれる場所に生息している生物だということ。クリント王国は錬金術で作った門でこの世界と別の世界を繋ぎ、そこから資源を持ち帰り繁栄したこと。その繁栄を支える為に色々な世界に門を繋げたが、その内の1つからフィルフサまで呼び込んでしまったこと。そこからあらゆるものを食い荒らされ、鎮圧こそできたものの国力を使い果たし、衰退するしか道が無くなってしまったこと。それがたったの一季節の間に起きたこと。そして…

 

「嘗てフィルフサ…と、クリント王国に、とある――」

「アンペル」

「…すまん、流石にこれはまだ言うには早いな」

 

フィルフサと、錬金術を悪用したクリント王国のせいで、異界…リラの故郷が荒廃しきってしまっていることなんて、な。まだ、こいつらには少し重すぎる。

 

「…そんな魔物の話、クリント王国の昔話に出てきてねえよな?」

「そんなのあったら、誰でも覚えてる筈だしね」

「門とフィルフサの事は、滅亡の寸前まで機密として隠されていたそうだ。そして、それらの情報は一切の記録を許されず、殆ど抹消されている」

「…国民にとっては、はた迷惑な話だな」

「うん…生まれた国も、住んでた家も、全部壊されて。それが全部、上の人達の国を栄えさせる行動のせいだったなんて…」

 

何かしたわけじゃなく、ただ上の巻き添えを食った市民たちの怒りや絶望はどれほどのものか…想像を絶するな。

 

「そして、その門を早急に封印し、二度とこちらにフィルフサが来れないようにすること。そして、二度と門を使わせないこと。それが私達の旅の目的だ。この森にフィルフサが出た以上、近くに必ず門がある。奴らを通せるほどに機能を保った門がな」

「…具体的には、どれくらい急ぐ必要がありますか?」

「乾季が訪れるまでに、だな」

「…乾、季?」

「奴らは極端に水気を嫌うからな。逆に言えば、それが無いなら我が物顔で世界を食い荒らす。森に出た個体は、何時からなら侵攻できるかを探るための斥候だろう」

「水気を、嫌う…も、もしかして」

 

錬金釜をかき混ぜていたライザが急に手を止め、何かに気づいたように声を挙げた。…ああ、クーケン島にはそんな話があったな。

 

「村に伝わってる【乾きの悪魔】って…フィルフサ?」

「恐らくな。少なくとも特徴は合致する」

「あ、あんなのが乾季になったら沢山出てくるなんて…みんなに話して、門を探す手伝いをしてもらった方が良いんじゃ」

「いや、駄目だ」

「え…」

 

気持ちは解らないでもないし、普通なら提案としては悪くは無い。が、これに関しては流石にな。

 

「言っただろう、二度と門を使わせないことが目的だと。アレの存在が広まるようなことがあれば、絶対に利用しようとする者が現れる。可能な限り、知る者は少ない方が良い」

「そうですか…ボオスとアガーテさんには、話したほうがいいんじゃないかと思ったんですが」

「…あの2人か」

 

確かに、人格的には問題は無いだろう。が、それでも「起きてしまったこと」の大きさを考えると…

 

「いや、やはりやめておいてくれ」

「解りました。…ただ、もしどちらかが本格的にフィルフサ絡みの何かに巻き込まれた場合は、流石に話さざるを得なくなると思います」

「…だろうな。そうなったなら仕方がない」

 

そうそう起きないだろうし、起きてほしくも無いがな。

 

「さて、これで今話せることは大方話したが…後は何か聞きたいことは?」

「それなら…ふと思ったんですが、森に出てきたあのフィルフサ。アイツはあの時以来姿を見せていませんが…」

「恐らく例の竜が倒したんだろう。元々奴はその目的で召喚されたものなんだからな」

「…成程、言われてみれば確かに」

 

他には…もう無さそうだな。さて、これで話は終わりだ。次にするべきは…

 

「ライザ、手が止まっているが例の香料は?」

「あ、それはもうできてるよ。序にタオの武器のリビルドも。今作ってたのは虫取り網」

「随分早いな。話もちゃんと聞いていたんだろう?」

「うん。でもこう、なんか意外と同時進行で出来るようになっちゃったって言うか」

「…そうか」

 

…本当に、とんでもない才能に出会ったものだ。

 

 

 

 

「それで、どうするんだっけ?」

「今日、正午過ぎ辺りに仕掛けるそうだ。魔物が港の外れにある海岸に「偶然」上陸したところを俺達が「錬金術を用いて」討伐する…という手筈になっている」

「…改めて聞くとこう、大人の悪いところを知っちゃった気がするなあ」

「…言うな」

 

畑作業を終えて、ライザの家の屋根裏部屋に居る俺とライザは、湖に入り込んだ魔物の討伐手順を確認して同時にため息を吐いた。成功すればアンペルさんの目的も果たせるだろうし、こっちもより周りをはばからず動くことができるようになる。…が、島にとっての脅威だとより思わせる為に上陸させるというのは中々に賭けというか。

因みに各々がどう動くかも事前に打ち合わせ済み。…クラウディアの「なんかすごく悪い事してる気分…」という言葉が大人2人以外に地味に突き刺さった。

 

「バレたらマズいんじゃないかな、これって」

「だとしても、押し通せる可能性は無くも無いが。アンペルさんが「魔物がいたという証拠をその魔物の討伐という形で一刻も早く提示して、島民を安心させたかった」とか「竜を討伐した実績がある彼らになら任せられると判断した」とか言えばな」

「…なんか、アルムもちょっと染まってる?」

「…理解が出来るだけだ」

 

アンペルさんなら多分こういうことを言う。思っていてもいなくても。…良い人なのにどうにも胡散臭い言動が似合ってしまうのが、なんだかな。

 

「まあ、準備はちゃんとしてあるし、後は時間が来るのを待つだけだね」

「そうだな。…折角だ、この時間に解読を進めよう」

「あれ、それってタオがアンペルさんに貰った本?」

「ああ。あいつ、大体もう読み方を覚えたらしいからな。一応アンペルさんに確認を取って借りている」

 

こういうのが後々何かに活きるかもしれないし、そうでなくとも新しい事を知れるからな。損は無い。

 

「まだ読み始めたばかりだから、碌に内容は解らないんだがな」

「ふーん…」

 

そう言いつつ、ライザが俺の隣に移動してきた。

 

「…読みたいのか?」

「ん-ん?」

 

なら何故わざわざ隣に…まあ別に構わないんだが。

 

「…」

「…」

「…ライザ?」

「なに?」

「…視線を感じるんだが?」

「そりゃそーよ、見てるもん」

 

前言撤回、少し構う。なんで本を読んでいる俺の横顔なんてわざわざ見てるんだ、なんか恥ずかしいんだが?

 

「…楽しいか?」

「うーん、楽しいって言うより飽きないって感じ?アルムの真剣な表情って結構新鮮だしね」

「…そうか」

 

確かに、戦っていない時に気を張ることは殆ど無いが…

 

「…」

「…」

「…集中しづらいんだが」

「頑張れ♪」

 

…何を言われても止める気が無さそうだと確信したので、時間が来るまで解読を進めることにした。全く、何だそのやたら良い笑顔は…

 

 

「お前達、良い所に!」

「姉さん?どうしたの?」

 

昼食をとってから、事前の打ち合わせ通りに噴水の近くをライザと2人で歩いていると、アガーテさんが慌てた様子で走って来た。…来たか?

 

「港の近くに見たことのない魔物が現れた!恐らく、お前達が以前言っていた外海からの魔物だ!」

「…!」

 

やはりか。出来るだけ自然に振る舞い、尚且つ迅速に行動する。…騙しているようで、というか実際騙しているから少し心が痛いが…

 

「アガーテさん、避難誘導は!?それと、港に上がってきそうですか!?」

「誘導は偶々いたリラさんが手伝ってくれている!港に上がってくるかは解らん!」

「なら、港に向かいます!行くぞライザ!」

「うん!」

 

実際は外れの海岸に向かうだろうが…いきなりそこに行くのは不自然だしな。

 

「アルム、ライザ!何があったの!?」

「タオ!出たわよ、外海の魔物が!」

「えっ…!」

「武器を今すぐ取ってきて、出来たらレントも呼んできてくれ!」

「わ、解ったよ!」

 

タオとレントはこういう演技に自信が無いらしいので、呼んでくる役と呼ばれてくる役として後で合流する。アガーテさん達との会話で出来るだけボロを出さないようにするためだ。

 

「お前達、来たか!」

「リラさん、魔物は!?」

「ああ、アンペルの予想通りのヤツ…いや、それよりも大きい!」

「え…!」

 

それでも竜より強いということは無いだろうが…速攻で沈められるか?大きい奴は大抵タフだからな。

 

「魔物は港に向かっていますか!?」

「まだ見える範囲に出てきただけだ、判断が出来ん!だが、奴がどう動いても対処できるように心の準備をしておけ!」

「「はい!」」

 

…結構演技上手いな、リラさん。

 

「みんな!」

「クラウディア!」

「お前も来たか」

「うん、港に大きな魔物が出たって…」

「港に上がってくるかもしれないから、いつでも行けるように準備お願いね!」

「うん、解った!」

 

そうして港にたどり着き、外海の魔物の姿を確認した。…確かにかなり大きいな。竜ほどではないが…

 

「あれが…」

「ええ、漁師達を干上がらせてた原因の魔物よ!」

「来るか…?」

「…いや、脇に逸れていくな。あっちには…」

「確か、小さな海岸が…拙い、そこから上陸してくるか!?」

「直ぐにそっちに向かいます!」

 

図らずもアガーテさんのお陰で、自然と外れの海岸に向かう理由が出来た。本来ならそのままリラさんが続ける予定だったが…これでより怪しまれなくなるな。

 

「来たぞ、アルム!」

「タオ、レント!奴は外れの海岸に向かった、行くぞ!」

「おう!」「うん!」

 

これで全員が揃った、後は魔物を倒すだけだ。

 

 

「コイツか…確かにデケえな」

 

海岸に上陸(正確には砂の中だが)していた魔物を見て、レントがそう言う。確かに大きい、が…

 

「だけど、あの時の竜みたいな怖さは無いかな」

 

そう言うことだ。油断をするつもりは勿論ないが…あの竜と比べたら、こいつが脅威とは思えない。

 

「僕はいつどんな魔物でも怖いけどね…でも、やるしかないよね」

「さーて、折角上陸してもらったところ悪いけど…」

「さっさと終わらせるとするか」

 

先手必勝。最初から大盤振る舞いだ…!

 

「ルフトッ!」

「「フラム!」」

 

まず俺がルフトを、タオとクラウディアがフラムを放ち、砂ごと魔物を吹き飛ばす。

 

「おら、よぉッ!」

 

そこにレントが飛び込み、魔物を剣で全力で斬り上げる。

 

「あたしからも、ルフトっ!」

 

魔物は空中でルフトを食らい、更に体が少し浮き上がった。そこに…

 

「浮かされたところ悪いが…今度は、思い切り、落ちろッ!

 

俺が跳びあがって、踵落としで叩き落す。そしてそのまま、追撃を仕掛ける。

 

「ノルデンブランドッ!」

「エクリプスジャベリン!」

 

四方八方から氷の刃と魔力の槍が突き刺さり、悲鳴を上げる魔物。だが、まだ終わらない!

 

「最後の一本!」

 

俺の真下に一際大きな槍が出現する。穂先は勿論魔物に向いている。

 

「これで、止めだッ!」

 

俺が魔力の槍を、炎と風を纏わせた蹴りで魔物に飛ばす。それは一直線に魔物の頭に突き刺さり、それが止めとなったのか完全に動かなくなった。…討伐、完了だ。

 

「よーっし、何もさせず倒せたわね!」

「なんつうか、あっけなかったな」

「そりゃ、竜と比べたらそうなるよ」

「私達も、ちゃんと強くなってるんだね」

「そうだな。さて、とりあえずどう報告しようか…」

「お前達!」

 

アガーテさんが走って来た。加勢しに来てくれたのだろうか?だが…

 

「…もう、倒したのか」

「おうよ、竜と比べたらなんてことなかったぜ」

「これが錬金術の力よ!…なーんてね」

「…はは、改めて思うよ。本当に凄いな、錬金術というのは」

「俺達もそう思ってますよ、常日頃から」

 

少し前までの俺達なら、竜はおろかこいつでも、今とは逆の結果しか生み出せなかっただろう相手だからな。本当に凄まじいものだ。

 

「後は、この魔物が不漁の原因でしたって証明できればいいんだけど…」

「そうだな…腹の中に食いたての魚が残ってないか見てみようか」

「う…その中身、想像するだけでキツそうだよ…」

「腹の中でドロドロに溶かすんだったか。確かにあまり見たくはねえな…」

「私も…ちょっと目を逸らしておくね」

「俺は少し興味があるな。アガーテさん、お願いします」

 

そうして切り開かれた魔物の腹から、溶け始めていた魚の死骸が大量に出てきた。…成程、食べた物は腹の中でこうなるのか。確かに理由が無かったらあまり見たいものでは無いな。

兎に角これで、コイツ不漁の原因であるという証拠は出てきた。漁師さん達も納得してくれるだろう。

 

「これで何度目か分からないが…お手柄だな。お前達」

 

…普段なら素直に喜べるところなんだが、今回は事情が事情だけに本当に少し心が痛い。しかも、この後いろんな人たちから色々言われるだろうからな…今だけは、褒め言葉が少し憂鬱だ。




多分ボロを出してはいない、はず。

Q,森に出てきたフィルフサって竜が倒したの?
A,原作では特に何も言われていない筈ですが、状況的に急にいなくなる理由ってこれしかなくないか?と思いました。

ここまで読んでいただき、有難うございました。

9/26 アンペルたちの事情説明部分に加筆修正


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疲れた少年、前向きな少女達、焦る少年

3/4 サブタイ変更。改めて見ると流石になんだこれってなったので…
ここのクラウディアのフルートの腕前は初登場時点でプロ級だったり。支援能力と言い、なんかやたら才能を盛ってしまった気がする…

所謂次章への繋ぎの回みたいな奴。虫取りする2人とついでみたいに掘られるアレ、そして最後に…
今回はクラウディア視点→ライザ視点→????視点です。


「ふー…此処(アトリエ)が一番落ち着くな…」

「アルム君、なんだか疲れてるね」

「ああ…こう、周りからの視線というか、印象というか、そういうのが一気に変わったからな」

 

湖に入って来てた魔物を退治した私達は、島の人達からの評判が一気に良くなった。ライザとかは有名ないたずらっ子だったって聞くし、アルム君も評判はそれなりに良かったけど、それでもまだ子供だからってことで、そこまで大きなことができるとは思われてなかったみたい。

だけど、ライザが島の人助けを始めたり、皆で竜退治をしたりしてその評価が変わり始めて、あの外海からの魔物を倒したことで完全にいい方向に傾き切った。特に外海の魔物は島のいろんな人たちの生活に直結してた問題だし、そう言う意味では島の人達を救ったって言っても過言じゃないもんね。

そういうわけで、今ではみんな島の有名人で人気者…って感じになったんだけど、そう言う空気がアルム君にはなんていうか…むず痒いというか、肌に合わない感じみたい。

 

「…何というか、クーケン島じゃない別の場所にいるような気分になって来てな」

「そういうの結構敏感っていうか、繊細なんだね」

「正確には、変に持ち上げられたくないんだよ。自分に自信が無いとは言わないが、下手したら英雄視されているんじゃないかと思える今の感じはな…正直、少し気恥ずかしさと息苦しさがある」

「リーダーって呼んでほしくないのもそういうこと?」

「…そっちはただ単に恥ずかしいだけだ。からかい混じりだと解っているからな」

 

持ち上げられると恥ずかしいのは、私もそうだから解るな。確かにフルートの練習も冒険のサポートもしっかりやってるつもりだけど、「クラウディアより上手い人がいるとか想像つかない」とか「いるのといないのとじゃ天と地の差がある」とか、嬉しくない訳じゃないけどいくら何でも言い過ぎだよ…

 

「後、アガーテさんを騙しているようでちょっと申し訳ないって言ってなかったっけ」

「それも理由として無くは無いが…俺達にとっても島にとってもアレが多分最速で最善だっただろうからな。そっちは何とか割り切ることにする」

 

確かに、島で討伐したから直ぐに証拠としてあの魔物を見せることができたし、それで漁師さん達も直ぐに漁を再開できたからね。まあ、魔物を倒して直ぐだったからあんまり捕れなかったみたいだけど、今日の朝ライザがもっと強い匂いの餌を渡してたし、今日はちゃんと捕れるんじゃないかな。

 

「アルム居るー?」

「…ああ。どうかしたか、ライザ?」

「ん-…朝から思ってたけど、やっぱりちょっと元気ないね。…よし」

 

そう言って、ライザが何かを取り出した。…虫取り網?

 

「えっと、ライザ、その虫取り網は?」

「これを持ってやることなんて1つでしょ?アルム、気分転換に虫取りに行こう!」

「…虫取り?」

 

…偏見かもしれないけど、なんだか男の子みたいだよ、ライザ。

 

「ジッとしてるより動いた方が気も晴れるよ。少なくともアルムはそうでしょ?」

「…そうだな。それに、虫も錬金術にも使えそうだしな」

「そうそう。あ、クラウディアも一緒に来る?」

「うーん…お邪魔になっちゃうといけないから、止めておこうかな?」

「そ、そういう気は遣わなくていいの!」

「お前な…」

 

ごめんね?でも、こういうことで揶揄われると慌てるライザと、ちょっと照れるアルム君がなんだか可愛くて、ついこういう言い方しちゃうんだ。

 

「それに、ちょっと1人でやりたいこともあるし。遠慮なく2人で楽しんできてね」

「…そういうことなら行こうか、ライザ」

「あ、う、うん。じゃあクラウディア、行ってくるね!」

「行ってらっしゃい、2人とも」

 

こういう時、ライザは結構照れちゃうから押しが弱くて、アルム君が少し照れるけど結構積極的なんだよね。…レント君曰く、ライザはアルム君に膝枕したことがあるらしいけど。それができるなら大抵のことはできると思うな…

 

「…それじゃあ、新しい曲の練習でもしようかな」

 

皆に私の演奏を聞いてもらえるのは嬉しいし、褒めてもらえるのも恥ずかしいけどそれ以上にすごく嬉しい。だからもっと楽しんでもらえるように、もっと上手に、もっといろんな曲を吹けるようにならなきゃ。

 

 

 

 

「ん、コイツは確か島にもいるな。日が当たる葉の上でジッとしてる奴だ」

「あ、このアリも見たことあるかも。お尻だけやたら大きいの何でだろう?」

「ああ、そこに蜜を溜めてるんだ。食べるとちゃんと甘いぞ」

「…食べたの?」

「…小さいころに図鑑で見たら、本当か気になってつい」

 

虫取り網を片手に小妖精の森で虫取りを始めたあたし達。とりあえず手あたり次第に色々取ってみることにしてみたけど、意外と島でも見る虫もいた。まあ、場所が近いからいても不思議じゃないんだけど。アルムは背中に七つの星模様がある虫を2~3匹手に乗せて眺めてる。虫、結構好きなのかな?

…流石にアリを食べたことがあるっていうのはちょっとビックリした。子供の頃で、甘いって図鑑に載ってたからって普通食べるかな?…今は兎も角、子供の頃のアルムならやるか。

 

「因みにこのアリ、最近開発したらしいプティング…だったか?アレに使ったりとかできるのか?」

「その発想はいらなかったよ…多分駄目じゃないかな、なんかしっくりこない」

 

多分アレに使う調味料は、ハチミツが最適だと思う。そうじゃないならメイプルデルタの木の樹皮かな。このアリを調味料として使うとしたら…うーん、浮かんでこない。根本的にレシピというか、発想が足りてない感じがする。

 

「で、コイツは島にはいないな。…コイツも尾がやたら大きいな」

「ん-…なんかちょっと不思議な感じがする。魔石とちょっと似てるような、むしろ真逆なような」

「神秘の力を秘めているということか。だが同じ使い方はまずできない、と」

「そんな感じかな。…その大きな尾は何なんだろうね。調べたら解るかな?」

 

図鑑とか見て、無かったらアンペルさんに聞こう。

 

「それで…コイツだな」

「念のため多めに虫かご持って来といてよかったね…絶対危ないよ」

「他の虫を捕食していたからな、肉食なのは間違いない」

 

そして、捕まえて即座に虫かごに入れた赤い蜂。凶暴な性格みたいで、ここから出せと言わんばかりにブンブン羽音を鳴らしてる。蜂だから毒とかあるかもしれないよね…錬金術の素材としては有用かもしれないけど、それ以外では絶対に近づきたくないなぁ。

 

「で、虫じゃないけど…これだね」

「…まさか泡を捕まえて持って帰る日が来るとは」

 

そして最後、シャボン草が吐き出してた泡。本体は採ったことあるけど、今回は浮いてる泡も別に採取した。虫取り網のサイズと硬さが丁度良いんだよね。意外と割れないし。

 

「この前貰ったレシピの中で唯一作れなかった【せせらぎの薫風】っていうのがあるんだけど、これが必要な素材だったんだよね。採れてよかったよ」

「この泡からどうやったら薬品が生みだせるんだか…」

「それが錬金術だって、もう解ってるでしょ?」

「…それもそうか、深く考えるのは駄目だな」

「奥は物凄く深いのにね」

 

いつも新しい体験をあたし達にくれる錬金術。これからその奥の奥まで知ることが出来たらいいな。

 

「さて、粗方採集は終わったし、戻るか」

「うん。戻ったら何しよっか」

「…温泉でも掘ってみるか?この前試してみたいと言ってただろう」

「あ、じゃあレントも呼ぶ?」

「いや、俺一人でいい。良い方法を思いついたし、アイツは何か目標があるみたいだからな。リラさんとの修行に集中させてやろう」

 

良い方法?ショベルで掘る以外の方法あるのかな…?

 

「ん-、そこまで言うならお願いしよっかな」

「ああ。上手く行けばすぐに終わる」

 

温泉、湧いてきたらいいな。

 

 

「…よし、上手く行ったな」

「…うん、湧いたよ?湧いたけどさ…」

「何だ?」

「やり方が無茶苦茶過ぎない…?今の、竜を倒した時の技だよね…?」

「うまく調整できるようになった気がしてな。ついでに試してみた」

「それはいいけど…アトリエにいるクラウディア、凄くビックリしたんじゃないかな。凄い音したし…」

「…それは考えてなかったな。後で謝っておくか」

 

…相変わらず、時々あたしが想像すらできないことをサラッとやるなあ、アルムは。

因みにクラウディアはやっぱり凄くビックリしてたらしくて、アルムに「そういうことはやるならやるって先に言って!」って怒ってた。うん、これはあたしでも怒るよ、アルム。

 

 

 

 

「…ほ、本当に来ちまった…」

 

…島のほとんどの人が寝静まった夜、俺は小舟を無断で使って対岸に来ていた。理由は…強くなるためだ。

あいつ等は竜退治と湖の魔物退治で一躍時の人。…それは、認めるしかない。妬んだりとかそんなレベルを超えてるくらい凄いことやってるのは、俺にも解る。

アガーテ姉さんは外で訓練を積んで、護り手として島に戻ってきた人だ。竜相手にも一歩も引かないくらい力も心も強い。そんなことは前から知ってる。

そして、ボオスさん。外に出て冒険してるあいつ等とか、本格的な訓練をしてきた姉さんに比べれば流石に一歩譲るけど、それでも強い人だ。特に竜との戦いで、勝利の最後の一押しになったのはボオスさんの行動だ。それは、あの場にいた全員が解ってる。

…じゃあ、俺は?少なくとも、あの場では何もできなかった。ボオスさんの側近を名乗っておいて、そのボオスさんにむしろ庇われて、最後まで何もできなかった。…自分が情けなくて、悔しかった。

 

「…強く、なるんだ。素振りとか、手合わせだけじゃ足りない」

 

だから、俺も魔物と戦って強くなる。元々強かったアルムとレントは兎も角、ライザとタオも魔物と戦いだしてから強くなったんだろ?だったら、俺も同じように強くなれるはずだ…!

 

「…やってやる。今度こそ、胸を張って、俺はボオスさんの側近だって、名乗れるようになってやる…!」

 

魔物への恐怖を押し殺すように己を奮い立たせ、俺は前に進んだ。…この行動が、後にあんな結果を招くなんて…この時の俺は、想像もしてなかった。

 




ライザ二次でこんな使われ方するオリ主のフェイタルドライブ、これくらいだろうな。(そもそも絶対数が少ないとか言うのは禁句)
そして今回の視点三人目は…まあ一応名前は伏せますけどモロバレですよね。

Q,タオは?
A,アンペルさんの調査に同行してます。

ここまで読んでいただき、有難うございました。


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力を望んだ少年の、最も望まぬ結果

先に謝っておきます。ランバー、話の都合上割を食わせてすまん。一応原作よりは大分強くなってるから許してくれ。
ボオスの相談からランバーの特訓。今回はボオス視点→ランバー視点→ちょっとだけアルム視点です。


「昨日からランバーの様子がおかしいんだが…何か心当たりはないか?」

「ランバーの様子…?」

 

俺は今、アルムの所にランバーの事について相談に来ている。…昨日から、アイツの様子が少しおかしい。明らかにいつもより目を擦るわ、欠伸をするわ、脚が少しふら付くわ…どう考えても寝不足の人間のそれだ。大丈夫かと聞いても、少し焦った様子で心配いらないと言うだけ。夜中に睡眠時間を削って何かをしてましたと言わんばかりだ。

例えばこう…今目の前にいるコイツの進展してるんだかしてないんだかよく解らん人間関係みたいなプライベートな事情なら構わない。一言言えとは思うが。だが…人に言えないようなことをしているんだとしたら…かなり心配だ。

 

「…いや、解らない。お前とは兎も角、アイツとはあまり仲が良くない…というか、碌に関りが無いからな。俺がお前と話している時も、近くにいないか黙ってるかのどっちかだろう?」

「…そうか」

 

アルムに聞いても収穫なしか…だからと言ってランバーにもう一度聞いてもはぐらかされるだろう。人に言えることなら、そもそも隠れてやる必要が無いからな。

 

「そもそも本当に何かしているのかも分からないんだろう?それなら、ただ単に夢見が悪くて寝不足になっている可能性もある」

「そうかもしれないが…そういうことなら、アイツは別に隠したりはしないぞ」

「そうか…」

 

それならそれで、何かしら悩みを抱えていることになりそうだが。

 

「それなら…行動じゃなく動機から考えてみるか?」

「…動機か」

 

成程、それが解ればアイツがしそうな行動も自ずと絞れるな。

 

「まず考えられるのは…竜退治か?最初にお前と一緒に吹き飛ばされて終わりだっただろう」

「確かに、最初に戦線離脱してそれ以降は参加できなかったが…それは俺もほとんど同じだ」

「だが最後には戻ってきて、決定的な一撃を奴に与えた。…アイツにはそれが出来なかった。その事を気にするくらいはおかしくないだろう」

 

自分だけ何もできなかったことを悔いて、か?確かにあり得なくはないだろうが、そこからどう夜更かしに繋がる?

 

「…実はアイツ、人目につかないところでこっそり剣の特訓しているんだよ」

「そうなのか?」

「ああ。去年偶然見かけてな。その時は昼頃だったが…もしかしたら、夜にも始めたのかもしれない」

 

成程、確かにそれならおかしくは無いな。だが…

 

「それで睡眠時間を削って、日常生活に支障をきたすのは拙いだろうが…」

「まだ想像の域を出ないが…もしこれが正解なら、とりあえずアガーテさんに説教でもしてもらうか」

「ああ。アガーテの説教なら、アイツには覿面に聞く」

「ついでにリラさんも呼んでみっちり扱いてもらうか。あの人の訓練、最初は俺とレントが碌に動けなくなる位キツいからな」

「…流石にそれは勘弁してやってくれ」

 

お前らでそうなる訓練を、ランバーに施していいわけがないだろうが。色々折れるぞ、絶対に。

 

「さて、多分これが一番太い線だろうが…他に候補はありそうか?」

「…惚れた女に既に男が出来ていた?」

「おい、何でそれを俺の目を見て言った。嫌な想像をしてしまうだろうが…!」

「すまん、お前の顔を見たら思いついた。まあお前に関してはその心配は微塵も無いから安心しろ」

 

そもそも、あれだけあからさまな態度で、お前が薄々でも気づいて無いとは思えないがな。まあ、根っこは真面目なアルムの事だ、告白は身の回りの事が一段落ついてからにする気なんだろう。恐らく、あの錬金術士の目的絡みで何かあるんだろうしな。

…その辺りをほとんど話してくれないことには、思うところがあるが。話せない何かがあるんだろうか。

 

「とりあえず、今日から夜のランバーの動きを探ってみる。何時アイツが動くかは解らないから、すぐに解決できるかは怪しいが…」

「今のところはアガーテさんにも気づかれてないくらいだ。動くとしたら、まず誰も起きてないくらいの時間だろうな」

「だろうな。…まず、そんな時間に俺が起きていられるかどうかだが」

「…ライザに頼んで、とんでもなく苦いグラスビーンズでも作ってもらうか?」

「…口直しの何かも一緒に頼む」

 

…後でライザから手渡されたグラスビーンズは、途轍もなく苦かった。確かに眠気は吹き飛ぶが、一緒に渡されたラーゼンプティングが口直しとして機能しないくらいに。

 

 

 

 

「はっ…はっ…ふう。なんだ、俺も結構やれるじゃんか」

 

外での特訓を始めて3日目。俺は元々魔石の採掘場だったらしい洞窟で魔物を倒してた。ゴーレムみたいな剣が通りにくい魔物もいたから、そういうのは流石に避けたけど。刃こぼれでバレかねないし…

魔物の格としては、多分古城のよりは弱い。じゃなきゃここまで倒せてないしな。

 

「…まだ、行けるよな」

 

今でも十分特訓にはなってる。けど、やっぱり少しでも早く上を目指したい。だから、洞窟の奥に進んでいった。時間的にはまだ大丈夫だろうし、無理そうなら直ぐに引き返せばいいしな。

 

「よし、やるぞ…もっとやれるんだ、俺だって…!」

 

気合を入れなおして、俺は足を前に進めた。

 

 

「ここは…?」

 

洞窟を奥に進んで抜けた先には、不思議な雰囲気の入り江があった。そして、少し奥に進むと…

 

「これ、遺跡か?」

 

どう見ても遺跡、この辺にあるから多分クリント王国絡みの奴も見つけた。こんなにデカい遺跡が、古城以外にもあったなんて…タオとかアルムが知ったら喜びそうだな、あいつ等、こういうの好きらしいし。

…って、そんなこと考えてる場合じゃない。

 

「…少しだけ、少しだけだ」

 

どういう遺跡なのか、気になるけど…流石に魔物と戦いながら調べるのはキツいから、こっそり近づいてちょっと見て帰ろう。まだ暗いけど、あんまり長居すると時間ギリギリになりそうだし…。

 

「…こういう時に、堂々と正面突破できるくらい強ければなぁ」

 

あいつ等ならやれるんだろうな…やっぱり羨ましいな、あいつ等の強さが。

 

 

「…すげえ」

 

隠れながら近づいて、奥にある遺跡が良く見えるところまで来た。…こんなデカい遺跡が、湖の上に建ってる。こういうのって確か、建てる為に基礎っていう土台を作らなきゃいけないって聞いたことあるけど、どうやったんだ?

…あのアンペルっていう人なら知ってるかもしれない。けど、そこからいろんな人に勝手に島の外でこんなことしてるのバレそうだよなぁ…

 

「…どうしようか」

「まず島に戻るのが一番に決まっているだろう」

「そうですよね…え?

 

…誰の声よりも聴きなれた声が聞こえてきて、思わず返事をして、そして驚いた。

 

「ボ、ボオスさん…!?な、何で…」

「ここ2日、お前の様子がおかしかったからな。…まさか、島の外に出ているとは思わなかったぞ。一発で突き止められたのは嬉しい誤算だったな」

 

や、やっぱり怪しまれてた…!いやでも、だからって1人でここまで…いや、それよりも…!

 

「あの、ボオスさん、俺…!」

「竜退治の時、何もできなかったから…か?」

「え…」

「こんなことをしている理由だ。…その顔からするに当たりの様だな。全く、俺もまだまだだな…側近の悩みに自分で気づけないなんてな」

「い、いや、ボオスさんが悪い事なんて、何も…」

 

全部俺が一人で悩んで、勝手にやったことなのに…

 

「まあ、詳しい話は戻ってからだ。ここだと何時魔物が来るか解らないからな。…ついでに、アルム達にこの遺跡の事も伝えるか」

「あ、えっと…」

「心配しなくても、黙っておいてもらうように頼んでおく。…というか、深夜に無断で外に出ているのは俺も同じだからな。バレてアガーテからの説教を食らうのは御免だ」

「すいませんでした、本当に…」

「そう思うなら、次からはちゃんと相談してくれ。一人で悩むより、そっちの方が解決しやすいだろう」

「解りました…」

 

…帰ったら、姉さんに相談してみよう。

 

「さて、帰るぞ…っ!?

「え、何が…」

 

島に戻ろうと来た道を振り返ったら…よく解らない、デカいネズミのような魔物がたくさん出てきていた。俺がさっき見た時はあんなにいなかったのに、一体どこから…!?

 

「くっ…!」

「ボオスさん!っと、うわっ!」

 

驚いている俺達にお構いなしに、一斉に襲い掛かってくる謎の魔物。一体一体はそこまで強くないけど、数が多い!

そうして次々と襲ってくる魔物のせいで、俺達は離れ離れになってしまった。俺は洞窟側に行ってるけど、ボオスさんが遺跡の方に追い詰められてる…!

 

「ボオスさん!今すぐ――」

「来るな!それよりも、早く助けを呼びに行け!」

「え!?」

 

無茶だ!いくらボオスさんでも、この状況を1人でなんて!

 

「その方が確実だ!最悪この魔物の情報だけでも伝えないとマズい!」

「だけど!」

「俺の事を気遣うなら、尚更早く助けを呼びに行ってくれ!頼む!」

「…っ!」

 

悔しさをどうにかして抑え込み、俺は急いで島に引き返した。…畜生、俺が弱かったから、こんなことに…!

 

 

 

 

「…何だかな」

 

いつもよりやけに早く起きてしまった俺は、外に出て湖を眺めていた。…何故だか解らないが、どうにも嫌な予感がする。

 

「気のせいであってほしいが…ん、アレは?」

 

湖の上で何かが動いている…いや、こちらに近づいているのが見えた。まさか、また魔物じゃないだろうな?

そう思って目を凝らすと…もっと予想外のものが見えた。勢いよく漕がれている小舟、そこに乗っていたのは…

 

「…ランバー!?」

 

アイツ、島の外に出ていたのか!?いや、だとすると、まさか…!

 

「…ボオス…!」

 

この嫌な予感は、外れていてくれ…!




恐らく、作中一番アルムが焦るシーン。

Q,ランバーはどうやって対岸に渡ったの?
A,原作でライザが使ってた小舟で。今作ではもうちょっと大きくていい舟を貸してもらえてるので、使われず横にずっと置いてありました。因みにボオスは港にあった小舟で渡ってます。

Q,実際、アルムは気づいてるの?
A,「…あの時の膝枕あたりから、薄々とは。軽々しくあんなことする奴では無いだろうしな」

ここまで読んでいただき、有難うございました。


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友を救うため、門の先へ

先に言っておくと、ボオスはあくまでクソ苦グラスビーンズで眠気を無理矢理誤魔化していただけです。
坑道から入り江に、そして異界突入。今回はアンペル視点→リラ視点です。


「何、あの坑道の先に遺跡が?」

「は、はい…」

 

アルムがいつもの面子とランバーを連れて、朝早くからアトリエに駆け込んできた。何事かと話を聞いてみたら、無断で外に出たランバーをボオスが連れ戻そうとしたところを魔物に襲われて、離れ離れになってしまったらしい。

しかもその場所は、水没坑道の先にある遺跡だという。あそこに奥に繋がる道は無かったはずだが…いや。

 

「確か、一か所あったな。道のようになっていたが、水没して通れなかった場所が」

「あそこか。だが、潮の干満程度で引くようなものでは無かったと思うが…」

「実際に道があった訳ですから、そこの考察は後で良いでしょう。それより、ボオスは魔物に襲われてどうした?」

「…遺跡の方に逃げて行った。あそこに、逃げ場とか隠れる場所とかがあればいいけど、もし無かったら…!」

 

…急がなければならんな。こんなに早く、こんな形での友との別離など…こいつらには知ってほしくは無い。

 

「アルムに叩き起こされて何事だと思ったが…眠いとか言ってらんねえな、こりゃ」

「早く助けに行こう。いくらボオスでも、1人で魔物に追われ続けるのは怖い筈だし」

「うん。それに、みんなの友達だもんね」

「よし、眠気を吹っ飛ばしてから気合い入れて行くわよみんな!」

「ああ。…っと、その前にランバー。お前達を襲った魔物はどんな奴だった?」

「えっと、嫌な雰囲気のした、白くてデカいネズミみたいな奴だった」

「それは…!」

「ああ、フィルフサだ。そして、それが遺跡の近くに現れたということは…」

 

恐らく、その遺跡に【門】がある。…まさか、こんなタイミングで見つけてしまうとはな。

 

「急ぐぞ、お前達。ボオスの事もそうだが、その魔物の事もさっさとどうにかしないと拙い」

「ああ。坊主、お前はアガーテ女史に事情を説明しに行け。そして、危険だから後を追うなとも伝えろ」

「…はい」

 

説教は散々食らうだろうが…事が事だ、仕方がないだろう。

 

「よし、準備ができ次第すぐに遺跡に向かうぞ」

「ああ。…お前達の成長も、直に見させてもらう」

「元からそのつもりは無かったとはいえ…気を抜けない理由が増えたな」

「おう。ボオスを助けて、全員無事でここに帰ってこようぜ!」

 

さあ、調査開始だ。

 

 

「…ここだな。確かに以前、水没していた場所だ」

 

坑道を進むと、水が引いて新たな道が出来ている場所があった。…フィルフサは水が苦手だから、この辺りに奴らに関係ある物は無いと無意識下に決めつけてしまっていたんだな。全く、とんだ見落としだ。

 

「結構広いね。あの斥候も、ここを通って来たのかな」

「そうだろうな。奴の図体でも、十分に通れる場所だ」

「じゃあ、この先にまたあのフィルフサがいるかもしれないんだよね…大丈夫かな、ボオス」

「今なら私達でも戦えるんじゃないかな。アガーテさん達もいたとは言え、竜だって倒せたんだから」

 

確かに、今のこいつらにリラもいるなら将軍クラスでも1~2体くらいは行けるだろうな。

 

「最初は潜って先に何があるか見てみようかと思っていたが…やらなくて正解だったな。かなり先が長い」

「普通はまずその発想が浮かばねえよ…」

「今後も絶対に実行はするなよ。大抵の場合自殺行為だからな」

 

…好奇心が強いのも考え物だな。いや、私が言えたことじゃないが。

 

「さて、ここにも魔物はいるが…ランバーがある程度倒したらしいから、数は少ないな」

「アイツも結構やるようになってんだな…」

「もう少し減らしても良いんじゃない?帰りはボオスも一緒なんだし」

「間に合うこと前提なんだね…僕もそうであってほしいけどさ」

「なら、駆け抜けつつ可能な限り殲滅するぞ。素材は今回は無視だ」

「は、走りながらの演奏、出来るかな…」

 

素材は勿体ないが、今回は致し方ないな。私は戦闘にも参加できん、我儘は言えない。

…後、それは流石に無茶だろう、クラウディア。

 

 

「ちっ、滑りやすいな…!皆、足元には気を付けろ!」

「解ってる!リラさんもいるんだ、コケるなんてダサい真似できねえよ!」

「こ、この速さで走り続けるだけでキツいのに、足元に気を付けながら戦闘までするなんて…!」

「みんな戦ってる…!うん、よし…!」

「クラウディア!?本当に走りながら演奏する気!?」

「全く、顔に似合わず無茶をするな…」

「無理はするな!私達に任せておけ!」

 

 

「ここが、遺跡があったっていう入り江か。…奥に見えるアレがそうか?」

「島からそう遠くは無いよね。何で今まで見つからなかったんだろう…」

 

坑道を全速力で駆け抜け、ランバーから聞いた遺跡のある入り江にたどり着いた。途中何かの祭壇らしきものがあったが…それは後だ。流石に人命より優先するべきものじゃない。

 

「潮の潮流が入り江の手前で巻くせいで、船が近寄れないんだろう。…しかし」

「ああ。まさかと思ったが…大当たりだ。ここの遺跡に【門】がある」

 

まさか、このタイミングで見つけちまうとはな…

 

「門って…この世界と、フィルフサがいる異界を繋いでるんだっけ?」

「…まさかと思うが、その門の中に入っていないだろうな、ボオス」

「それなら急がなきゃ。あんな魔物が沢山いるところなんて、危ないじゃすまないよ」

 

…そうだな。その時は早く助けてやらなきゃならん。その危なく「なってしまった」世界からな。

 

「なら、引き続き駆け抜けるぞ。…今回はそれなりに魔物も多い、戦闘も多くなるだろうな」

「ああ。近づいてくる奴は片っ端から薙ぎ倒してやるぜ!」

「皆が早く進めるように、走りながらでもちゃんとサポートするよ!」

「途中でボオスが見つかればそれで終わりなんだけど…」

「ランバーが言うには、遺跡の奥に行ったらしいからな。それは無いだろう」

「それなら、本当に門の中まで行ってるかもしれないってことね」

「…無事でいろよ、ボオス」

 

そうして、遺跡の中を進んでいく私達。すると、途中で珍しい物を見つけた。

 

「これは…」

 

採取地を自ら作り出せる、【採取地調合器】とでも言うべき古式秘具。こんなところにあるとはな…

 

「コイツの事は、後で話してやるか」

 

今はボオスの事が優先だからな。そっちが済んでからでもいいだろう。

 

「アンペルさん、早くー!」

「ああ、すまん」

 

さて、そろそろ奥に着く頃だな…どうなっていることやら。

 

 

「これが、異界に繋がる【門】…!」

「…なんてこった」

 

遺跡の最奥にたどり着き、そこにある門を確認したが…封印として働くはずの聖堂が、湖の浸食による崩落で機能を失い、門が起動しちまってる。

 

「大きな何かが彼を追った痕跡が、微かに残っているな」

「…つまり、この門の先にボオスがいるんだろうな。…皆」

「行くに決まってるわよ。ねえ?」

「うん。じゃなきゃこんなところまで来てないよ」

「今更だよね、止めろとか帰れとか言うには。ね?」

「ああ。…クラウディアもすっかり度胸がついたな。タオ以上なんじゃねえか?」

「…否定できない自分がちょっと悔しい」

 

こいつらなりに、覚悟を決めてるみたいだが…

 

「冷や水を浴びせるようなこと言って悪いが…さっきも言ったように、異界にはフィルフサがうろついてる」

「私はアンペルの護衛に専念するから、お前達の手助けはできないぞ」

「うん。自分の事は自分で、でしょ」

「こんなことに関わるなんて、ちょっと前までは考えもしてなかったよ」

「うん、私も。勿論、後悔なんて全然してないけどね」

「ふふっ…」

 

そう笑って、ライザが門を真っ直ぐ見据える。…まさか。

 

「させる暇なんて、あるわけないでしょ!」

「あ、おいっ!?」

 

いの一番に飛び込みやがった!それに続き…

 

「全く。お前らしい物言いだな、ライザ!」

「誰にも言わず、真っ先に飛び込むところもな!おいしいとこ持っていきやがって!」

「早く行って、早く助けて来よう!」

「うん!皆と一緒なら、怖くないよ!」

 

他の面子も次々に門の中に。ったく、あいつ等…!

 

「手本を見せる暇くらい、作ってくれてもいいだろうが!」

「ふふっ…では、行くか!」

 

リラ、その微笑ましいものを見るような笑いを止めろ!

 

 

 

 

「ここが、異界…」

「凄く不気味だね。あのフィルフサの本拠地に相応しいって言うか」

 

門を通った先には…こいつらにとっては初めてだが、私にとっては忘れられない光景が広がっていた。…朱く、仄暗く、澱み、乾いた…そんな光景だ。

 

「タオ、あまり人の故郷を悪く言うもんじゃないぞ」

「故郷?え、誰の…」

「いや、いい。私も、同じ立場ならそんな感想を漏らしていただろう」

「…まさか、ここがリラさんの?」

「ああ。…ここは、この森には、もっと違う眺めと名があった。心を温める、美しい眺めと名が…」

 

…取り戻せるのなら、取り戻したい。どれだけの時間がかかろうとも。

 

「ごめんなさい…」

「お前は悪くない、気にするな。悪いのは…」

「フィルフサ…と、クリント王国ですか?以前、そんな話をしていたような」

「確かにこの世界の現状はフィルフサの特性によるものだが…奴らは元々遠くの地に住んでいた。クリント王国が何もしなければ、今でもお互い干渉なく過ごしていただろう」

「…ってことは、殆どクリント王国のせいなんじゃねえか」

「多数の避難民を出して、自国を滅ぼしたどころか…異世界にまでこんな被害を出していたのか」

 

改めて列挙されると、奴らの仕出かしたことの大きさが解るな。…本当に、腹立たしいにも程がある。

 

「そして、リラたちの一族…オーレン族は、フィルフサとクリント王国に追われ散り散りになった。そして、リラは門を通りこっちの世界に逃れてきた」

「そして、私はアンペルと出会い、各地の門を閉じる為の旅をしている」

「そうだったんだ…あれ、ちょっと待って?」

「ライザ、どうかしたの?」

「いや、なんか…リラさんさ。昔の異界の事とか、実際に見てきたみたいな言い方してた気がして…」

「ああ、実際に見てきたし、フィルフサとクリント王国の侵攻も体験している」

「…え、じゃあリラさんって今一体いくつなんですか?」

「タオ、女性に年齢を聞くのは失礼だぞ。オーレン族は私達より長生きなだけだ」

 

…私にはそこまで気を遣わなくてもいいんだが。ライザとクラウディアが「うんうん」といった感じで頷いているし、あの世界だとそれが普通の事なんだろう。…というか。

 

「それを言ったらアンペル。お前もあの世界の基準では相当な若作りだろう」

「え、そうなの!?」

「男にも年を聞くな。無粋だろう」

「…えっと、後で秘訣とか聞いてもいいですか?」

「無いぞ」

 

折角聞かれているんだから答えてやっても…と言いたいところだが、コイツは多分その辺りあまり気を使いそうにないからな。実際無いんだろう。

 

「…長生き、か」

「どうしたの、アルム?」

「いや、もし自分の故郷…クーケン島がこうなってしまったらというのを、少し考えていた」

「…想像だけでも辛いだろう、それは」

「ええ、そして思ったんです。…リラさんは、想像とは比べ物にならない「実際に喪った悲しみ」を、ずっと背負い続けているんだな、と」

「…そうだな。なんなら、その原因も、オーレン族からしたらかなり理不尽なものだ」

「…もし、昔のこの世界を取り戻せる手段があるなら、俺達も手伝います。お世話になりましたから」

「おう、リラさんには色々教えて貰ったからな。その分の恩はちゃんと返さなきゃな」

「僕とライザはどっちかって言うとアンペルさんだけど…同じことだよね」

「そーよ。アンペルさんも、出来るならどうにかしてやりたいって思ってるだろうしね。手伝う一択よ」

「…お前達」

 

全く。お人好しだな、お前達は…

 

「リラさん、アンペルさん。私ね、クーケン島に来て、ライザ達と出会って、友達になれて…本当に良かったって思ってる。アンペルさん達は?」

「…わざわざ聞くまでも無いだろう?クラウディア」

「これまでの旅で間違いなく、最高の出会いだよ」

 

この出会いは、未来永劫忘れることは無いだろう。そう確信させられるくらいにはな。

 

「…さあ、話はここまでだ。そろそろ追跡再開とするか」

「うろついているフィルフサとの戦闘は最小限に抑えろ。基本はボオスを探すこと優先だ。行くぞ」

 

さあ、こいつらの為にも急ぐとしようか。

 

 

「…ん、あそこ、少し明るい…?」

「ホントだ。なんだろう…?」

 

可能な限りフィルフサを無視し、将軍級もやり過ごしながら進んでいくと、アルムが何かを見つけたようだ。確かに少し明るいな。それに近づくと、木が燃えているような臭いがする。…つまり。

 

「…焚火、か?」

「ってことは、誰かいるのか?」

「も、もしかしてボオス!?」

「解らないけど…もし違ったとしても、話が聞けるかも」

「…この異界に、私達とボオス以外に誰かいるとしたら…」

 

オーレン族の同志…生き残りかもしれないな。もしそうなら、ぜひとも言葉を交わしたいところだ。

 

「…俺が見てきます」

「ああ、任せたぞ」

 

いざというときには、一撃の威力があるアルムの方が良いだろう。不意の一撃で勝負を決められる可能性が一番高いからな。

 

「…さて、ボオスは居るか…?」

 

そう言って、謎の光源がある場所をのぞき込むアルム。少しして…

 

「…みんな、ボオスがいたぞ」

「いたの!?あいつ、大丈夫だった!?」

「…まだ判らないが、恐らく寝ている」

 

寝ている?この世界で?いくらなんでも、そこまで剛毅ないしは馬鹿な人間には見えなかったが。

 

「何で寝てるって思ったの?」

「…なんというか」

 

少し言いよどんだ後、戸惑いを隠せない声色でこう言い放った。

 

「…フードを被った、恐らくオーレン族の女性が…ボオスに膝枕をしていた」

「「「「「「…は?」」」」」」

 

…予想できるか、そんなもの。




膝 枕 再 び 。今作のボオスは寝不足でここに来たので、救助された後色々限界が来て寝てしまいました。
何で彼女が膝枕をチョイスしたかは次回言います。

今回のQ&Aは今のところ無し。

ここまで読んでいただき、有難うございました。


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王国の罪と、それがもたらしたものは

今回アンチ・ヘイトタグが仕事します。主にクリント王国に対する発言。
クリント王国とオーレン族の真実を知る話。今回は終始アルム視点です。


「…あー、何だ。無事で良かったよ、ボオス」

「…ああ。…ランバーは無事だったか?」

「特に怪我は無かった。今は…さっきまでのお前みたいに限界が来て寝ているか、そうでなければ説教でも食らっているだろうな」

 

オーレン族の女性に膝枕されているボオスを発見し、その無事を確認した俺達は、まずボオスを助けてくれたらしい女性から話を聞くことにした。彼女の名はキロ・シャイナス。オーレン族の霊祈氏族の生まれなのだそうだ。なんでも彼女は、ずっとここに残ってフィルフサと戦い続けているらしい。曰く「自分が信じるものの為に、自分の命をかけるだけ」とのこと。リラさんもその言葉に同意している辺り、オーレン族というのは全体的に戦士というか、誇り高いというか、そういう気質を持っているようだ。

今日もいつものようにここに拠点を置きつつフィルフサと戦っていたら、ボオスがフィルフサに追われて門を通ってきたので救出。事情を聴くためにいくらか話をした後にボオスが疲労と眠気の限界に来てしまったので、とりあえず膝を貸すことにしたそうだ。…この時、ボオスの意識は朦朧としていたらしく、自分がどういう状況になっているか解っていなかったようで、しばらくして来た俺達がボオスの友人だと名乗ったので、キロさんがボオスを起こしたのだが…起きたボオスは、自分がキロさんに膝枕をされていたことを認識した瞬間、顔を赤くして狼狽していた。…気持ちは解る。覚悟を決めても恥ずかしいからな、それは。そんなボオスに俺が出来たことは、ありきたりな無事を喜ぶ言葉をかけることだけだった。

…キロさんの起こし方が「ボオス、起きて」と言いながらボオスの頬をぺちぺちと叩く、というものだったことはボオスには伏せておこう。正直、物語の中で見た距離感が近すぎる幼馴染のそれとしか思えなかった。実際は出会って3時間経っているか否か位の筈だが。

 

「それで、その…キロ、何故俺に膝枕を…」

「友の為に危険の中に飛び込んだ勇士に、岩や丸太を枕にして寝ろなんて扱いは私にはできない。それらよりはましな選択だと思ったから膝を貸した」

「…こんな状況で言うことじゃねえけどよ。全く色気ねえ理由だな」

「一応我らの間でも、普通は仲睦まじい間柄でしかやらない行為だという認識ではあるぞ」

「…だから、一瞬迷った。見られたのは少し恥ずかしい」

 

その辺りは俺達もオーレン族も変わらないらしい。まあ、異性と体を触れ合わせる行為である以上、そういう認識にもなるだろう。

 

「しかし、まさか同胞の生き残りにここで会えるとはな。私は白牙氏族のリラ・ディザイアスだ」

「あの白牙氏族の…私も、会えて嬉しい。ボオスの友人達、君達の名前も聞かせて」

 

名前を聞かれたので、俺達も名乗ることに。…ライザとアンペルさんは錬金術士であることも明かしていたが、特にこれと言って反応は無かった。この惨状が根本的にはクリント王国のせいだというなら、その王国が用いていた錬金術にも良くない感情を抱いてもおかしくは無い筈だが…まあ、そこは後で良いか。

 

「ところでリラ、ここは何処だ?今までの門から入ったところとは明らかに違うが」

「ここは我らの聖域、森を潤す水源地だ。…まさか、ここにこんなにも近い門があったとはな」

「え、ここが水源?」

「むしろ、カラッカラに干上がっているように見えますけど…」

 

こうなった原因は、フィルフサ…ではないよな。ここが水源だったというなら奴らは絶対にここには近づけない筈だし、近づけないなら何もできない筈だ。だとすると…

 

「…まさか、クリント王国が何か?」

「察しが良いな。…今から、長くて酷い話をしよう」

 

そこから始まった話は、本当に酷い話だった。今から数百年前、クリント王国の人間が門を開いて現れ、この世界に攻めてきた。理由は勿論、自国の繁栄のために資源を持ち帰る為。幾つか門を開き、有用な資源がある世界を探していたところ、この世界が選ばれてしまった。その資源とは、魔石とは比較にならない程の純度を持った砂粒程の結晶らしい。

しかし、この世界でそれを採掘をしようとしても、そもそも数が少ない上に、掘れば掘る程出てくるのは水ばかり。それでは折角の資源が採れない…ということで、クリント王国はとんでもない手段に出る。それは…資源の採掘をしやすくするために、この地の水を全て奪ってしまう、というものだった。

そしてその結果、水が無くなったこの地にフィルフサが侵攻。そしてついでと言わんばかりに門の先にあったクリント王国にも侵攻。その後は一度聞いた通り、この地は荒廃し、オーレン族は散り散りに。リラさんも重傷を負って、門を通った先にアンペルさんがいて、以後2人で門を封じる旅に。クリント王国はフィルフサの対処に国力を使い果たし衰退…という結末を迎えた。

…その話を聞いた俺がまず口にしたのは、クリント王国の所業に対する率直な感想だった。

 

「…イカれてるのか、その発想は」

「同感だ。フィルフサの存在を知らなかったことを考慮しても一切擁護できない、自国さえよければ他はどうでもいいと言わんばかりの最低最悪な所業だ」

「…うん。水が無くなった世界がどうなるかなんて、あたしたちでも簡単に解ることなのに」

 

クーケン島で水源を押さえているブルネン家の発言力が強いのも、それだけ人間にとって水が大切なものだからだ。それを完全に枯らしてしまうのは…やはり、イカれてるとしか思えない。

 

「でも、1つの地域の水を完全に奪うなんて、どうやったんだろう」

「私は見てないけど、【渦巻く白と輝く青】に全ての水を吸い込んでしまったと聞いてる」

「渦巻く白と、輝く青…?…まさか」

「ボオス、どうした?」

「…いや、そうだ。間違いない」

 

ボオスの様子がおかしいな。…まさか【渦巻く白と輝く青】について、何か知っているのか?

 

「その青と白ってのは…高度な錬金術で作られた古式秘具か何かだろうな」

「恐らくそうだ。…あんなもの、今思えば錬金術で作ったものとしか思えない…!」

「ボ、ボオス?どうしたの?」

「俺は、その【渦巻く白と輝く青】を、家の離れで見たことがある…!」

「え…?」

「どういう、こと?」

 

…俺達全員が同じ、呆けた表情をした。何故、それがボオスの家の離れに?というか、ちょっと待て…!

 

「おい、ボオス。まさかと思うが、クーケン島の水源は、その…」

「ああ。【渦巻く白と輝く青】だ。…あれからは、どこからともなく常に水が噴き出していた。あの水は…元々、この世界のものだったんだ。この世界から、奪ったものだったんだ…!

 

…それは、つまり。

 

「この森に、水を返そうとするなら…」

「クーケン島の次の水源を、どうにかして探すしかないってこと…?」

「…そういうことになるな」

「…話がデカすぎて、頭が付いて行かねえよ…」

 

次の…いや、「本来の」水源が何なのかは分かる。だが、どうすればそれを直せるのか。どこに行けば答えがあるのか。現状その取っ掛かりが無い。島のどこかか、クリント王国の遺跡のどこかにあってほしいが…

 

「キロ、俺は…」

「ボオス、気にしすぎないで。君達が悪いわけじゃない」

「…すまない」

 

「この地に水を取り戻す為にするべきことは解った。…リラ、お前の悲願が叶う日が漸く見えてきたぞ」

「ああ。…だが、気負い過ぎるなアンペル。お前1人で背負う必要は無いんだ」

 

「異界、フィルフサ、クリント王国、オーレン族。そして島の水源は古式秘具、かあ…なんか、冒険を始めたころからは考えられないくらい凄い話になって来てるよね…」

「ああ…確かに俺達全員個人的な目的はあったけどよ、いつの間にか国だの異世界だのって話に関わってるからな…」

 

…どこもかしこも、重い空気になり始めたな。

 

「…しょうがないけど、みんな凄く考え込んでるね…」

「うん…あたしも、みんなも、自分たちが大きな何かに触れてるような気がして、ちょっと怖くなってるんだと思う」

「こんなに近くで、こんなことが起きているなんて考えもしなかったからな」

「そうだよね…よし」

 

クラウディアが何かを決心したようにフルートを取り出し、演奏を始めた。…綺麗で、穏やかな曲だな。

 

「綺麗な音…こんなの、初めて聞いた」

「ああ。…いい曲だ」

「アンペル、お前も心をくつろげて聞いてみたらどうだ?」

「そこまでガチガチになっていたつもりは無いが…いや、そうだな。ゆっくり堪能するとしよう」

「クラウディアのフルートってさ、聞いてると穏やかな気持ちになるよね」

「ああ。それに、いつでも俺達を助けてくれる、強くて優しい音だ」

 

クラウディアのおかげで、重苦しい空気もかなり和らいだ。同時に、焦りが消えて落ち着いて考えられるようになったが…今は曲に集中しなければ、演奏しているクラウディアに失礼だな。

 

「…凄いなあ、クラウディアは。こういう時、一番に自分から動けるんだもん」

「みんなの手助けがしたい、と常に言っているからな。これもその範疇なんだろう」

「そうかもね。…あ、リラさんとキロさんが立ち上がって…」

「歌い始めたな。…初めて聞くはずなのに、よく合わせられるな」

「もー、そういう野暮は言いっこなしだよ」

「…それもそうだな」

 

そうして、少しの間俺達は穏やかな時間を過ごした。…もし次の機会があれば、元に戻ったこの森の中で聞いてみたいところだ。

 

 

「…心地よい時を過ごさせてくれてありがとう。お礼に、せめて門まで送っていく」

「はい、お願いします」

「ついでだ。この辺りにある素材、持てるだけ持ち帰るぞ。何かの役に立つだろう」

「えっと…いいの?」

「構わない。私では使い道がないし…多分君は、間違えない」

 

キロさんからのお墨付きも貰ったところで、門に向かいながら採取。見たことのないものがいくつかあったな、これで錬金に幅が出るだろう。

 

「採取ついでに…キロ・シャイナス。君自身の事も含め、もう少しこの地の話を聞かせてもらっていいか?」

「いいけど…語ることは、それほど多くない」

 

キロさんとリラさんが言うには…フィルフサの頂点である蝕みの女王は、クリント王国に荒らされてなお精気に満ちたこの地を本拠と定め侵攻。それにより徐々に森が歪み空が澱み、今の「異界」が出来上がった。生きるための水を奪われたオーレン族は必死に戦ったが、敗北して散り散りに。この辺りにはキロさん以外のオーレン族はもういないそうだ。

 

「だから、誰かと会うのは本当に久しぶりで、本当に嬉しかった」

「…リラさんのような、別の世界に逃れて生きているオーレン族の人がいればいいですね。生きてさえいれば、いずれ会うこともあるでしょうから」

「うん。そうなら、もっと嬉しい」

 

そんな感じで話しながら採取もして、そうして門の前にたどり着いた。

 

「ボオス。今度は、体調を万全に整えてからでないと来ては駄目」

「ああ、解ってる」

「それと、手を」

 

そう言ってボオスが手渡されたものは…宝石?若しくは、何かの紋章か?

 

「フィルフサを数多く倒したものが稀に得る、戦士の証。生き抜く強さを、心にくれる」

「…キロ、助けて貰った恩は必ず返す。水をきっとここに戻すから、待っていてくれ」

「うん。君がそう言うなら、信じる」

 

それは…俺達も気張らなければな。ボオスを嘘つきにしないためにも。

 

「キロ・シャイナス。心苦しいが、この地で1人勇敢に抗戦を続けるお前に手を貸すことはできない。だからせめて、調査を急ぐつもりだ」

「謝らなくていい。あなたのそれも、オーレン族の戦いだから。それに、近くのフィルフサは片づけたから、女王の城から次の群れが来るまで、私は休むつもり」

「女王の、城?」

「クリント王国が本営を置いていた城が北方にある。今はそこが蝕みの女王の巣になってる」

 

成程。しかし、何故この世界に城を?…まさかと思うが。

 

「クリント王国は、ここを自分たちの統治下に置こうとしてたんじゃないだろうな」

「今までの話からすると、普通にやりそうだね…」

「間違いない。資源だけでは足りないと言わんばかりに土地も奪おうとする姿は容易に想像がつく」

「ホント碌でもねえな…」

「…錬金術士として、たっぷり反面教師にさせてもらうわ。色々と」

「うん。商人の娘としても、色々とね」

 

話が進むたびに評価が下がるなクリント王国。まあ自業自得だし、それ故に滅んだわけだが。

 

「しかし、本拠地が解るならそこを攻めれば…いや、戦力が足りないな」

「焦るなよ。まず先にやることがあるだろう」

「ああ。ボオス少年が証言したものが真にクリント王国の古式秘具なのか、見極めねばな」

「任せてくれ。近いうちに機会を作る」

 

さて、それじゃあ一旦お別れだな。

 

「キロ。またな」

「うん。君達に、日の加護と月の導きが有らんことを」

 

そうして、俺達は門を通り、元の世界に戻って来た。

 

 

「暑い、眩しい…けど、これだよね。あたし達の空って!」

「ああ。ほんのちょっと出かけただけなのに、帰って来たって感じがするな」

「やはり、空は青くあるべきだな。…何時か、向こうの世界の本当の空も見てみたいところだ」

 

大体今は昼くらいか。俺以外は本来まだ寝ている時間に起こされたわけだから、緊張が解けたらどっと眠気が来そうだが…戻るころには、昼寝をするには遅い時間になっていそうだな。

 

「えっと、フィルフサはこっちに入り込んできてないよね?」

「見渡す限りは大丈夫のようだな」

「この遺跡の調査は…また後日、じっくりとやらせてもらうか」

「それじゃあ早く島に戻って…ランバー君とモリッツさんを安心させてあげなきゃね」

「…そうだな。急ぐとしようか」

 

モリッツさんの狂乱ぶりも、目に浮かぶことだしな。

 

「それにしても…大冒険だったね」

「俺にそのつもりは無かったがな。…改めて、ランバーには今後悩みはちゃんと相談するように言っておくか」

「そうしておけ。今回は大事無く済んだが、次もこうなるとは限らないからな」

「確か、力が無い事を悔やんで焦っちゃったんだよね、ランバー君」

「だったら俺達で鍛えてやるか?アガーテ姉さんとリラさんにも協力してもらってよ」

「流石にリラさんは止めとこう?」

「何だ、私では拙い事があるのか?」

「お前は実戦形式だとスパルタが過ぎるだろう。いきなり負荷をかけ過ぎるのも良くないぞ」

 

…とりあえず、今後の特訓でランバーが死なないことを祈るか。

 

「それと…例の離れだが。俺でも簡単には近づけさせてもらえないから、直ぐ鍵を開けるのは難しい。三日程くれればどうにかできると思うが…」

「三日か…解った。覚えておく」

「それじゃ、話もまとまったところで…島に戻って、畑サボってごめんなさいって謝りに行こう!

「…そういえばそうだった」

 

置き手紙くらいは、残しておくべきだったな…




ボオスが片意地になってない分、原作程ボオスのキロに対する感情は大きくないかも。まあ小さくも無いですが。

Q,オーレン族に膝枕の概念ってあるの?
A,ここではあることにします。っていうか過去にアルムに膝枕してるライザを見たリラに「あの二人は番か?」なんて言わせてるので、オーレン族的にも「そういう」行為だということにしました。

ここまで読んでいただき、有難うございました。


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心配されるのは、子供も大人も同じ

異界から島へ帰還。そしてその翌日、アトリエにて。
今回はライザ視点→リラ視点です。


「ボオス!よくぞ戻って来たぁぁぁぁぁ!」

「…父さん。気持ちは嬉しいが、流石にみっともないぞ」

 

ボオスを連れて戻ってきたあたし達を真っ先に迎えてくれたのは、モリッツさんの大声だった。…うー、仕方ないとはいえ、結構眠くなってるところにこの大声は凄く響くなぁ…。他の皆もなんかのけぞったようなリアクションしてるし、アルムなんか耳を塞いでる。

 

「それで、ランバーは?」

「お前が戻って来たのを見たら倒れてしまいおった。安心して緊張の糸が切れたんだろう」

「物凄く気に病んでいたからな、説教なんてとても出来る状態じゃなかったぞ。こうしてお前が帰って来たから、心置きなく説教できるが」

「…その時は、あいつのフォロー役として同席させてくれ」

 

…姉さんの本気説教は本当に凄い。あたしもされたことあるけど、それはもう本当に。なんならアルムが「小さいころに一回だけ見たことがあるが、こっちも怒られてる気分になった」なんて言い出すくらいだからね。…アルムが人前だと結構真面目なのって、これも理由だったりするのかな?

 

「それで、お前達。揃って急にいなくなるから皆心配してたぞ?まあ今回は事情が事情だから弁護はしてやるが」

「有難うございます。…俺はエルから、ライザはミオおばさんからの説教が飛んでくるかもしれませんね」

「そうだよね…せめて置手紙の1つでもしておけばって思ってるよ」

「それが解ってるなら、次からはちゃんとしておくれよ?」

「そうだよ。お母さんが泣きそうな顔してたよ?アルム兄」

 

…あ、凄く聞き覚えしかない声が2つ。…うん、よし、やることは1つ。覚悟は決まった、今ここで謝ろう!

 

「えっと…ごめんなさい母さん!」

「すまん、エル!」

「あー…今回は流石に急を要する事態だったから、大目に見てやってください」

「それは解ってるから怒らないわよ。ただやっぱり…ねぇ」

「それでもいきなり居なくなっちゃったらびっくりするし、心配もするよ。ね、ルベルトさん?」

「そうだな。ある程度慣れている私でも驚きはしたし、当然心配にもなった」

「お、お父さん…」

 

…この2人がいたんだし、当然いるよね、ルベルトさん。

 

「他の皆も一緒にいなくなっていると聞いたときは、一体何があったのかと思ったが…まさかボオス君がな」

「その…ごめんなさい、お父さん」

「すみません、あんな時間にクラウディアを連れ出して…」

「いや、君たちの事は信頼しているし、クラウなら連れ出さない方が「仲間外れにされた」などと言って落ち込むだろうから、そこは構わない。リラさん達も一緒にいたようだからな」

「あー…確かにクラウディアならそうなるかも」

「むしろ後からでも追いかけてきそうだよな」

「そ、そこまでは……しないよ!」

「随分と間があったな」

「否定したいなら即答するべきだ、クラウディア」

 

…クラウディアには悪いけど、あたしも凄く想像つくなあ。1人で対岸に渡ろうとして皆に止められるの。

 

「ただ…そもそも何故、そんなに遅い…いや、早すぎる時間に起きて外にいたのかというのは気になるが」

「え、えっと、それは…」

「それは?」

「夜の砂浜で、1人でちょっと踊ってみたくなったの…」

「…そうか」

 

…まあ、間違ってはいないよね。フルートを小さい音で吹きながら踊ってたから。多分今までも偶にこうやって練習してたんだろうなぁ。

ただルベルトさんのあの感じ、誤魔化してるってなんとなく気づいてる気がする。…追及とかしてこないよね?

 

「あれ、クラウディアさんは偶々外にいたから連れて行けたんだよね?ライザお姉ちゃん達もそうだったの?」

 

そんなことを気にしてると、エルちゃんが疑問を投げかけてきた。…あー、言われてみたら確かにそこに気になるよね。

 

「いや、寝ていたな。だからライザとタオは屋根の上に登って窓をノックして起こした」

「…なんか危ないことやってない?アルム兄」

「窓を見てみたら逆さまになったアルムがいたから、何事かと思ったよ…」

「あたしは心臓が止まるかと思ったなぁ…」

 

ベッドのすぐ横に窓があるから、起きて横向いたら逆さまのアルムの顔が近くにあったんだよね…叫ばなかったのが奇跡だよ、アレ。

 

「レントさんは?」

「…コイツの家、ザムエルさんが酔った拍子にカギを何回か壊しててな。その内直さなくなったんだよ」

「どうせ誰も来ねえし、この島に夜にわざわざなんかしに来る奴なんざいねえしな」

「…後で錬金術で直しに行くわ。今のザムエルさんならもうそんなことしないだろうし」

 

…そうだった、最近はちょっと改善されてるから失念してたけど、元々レントのとこって大分マズイ家庭環境だった。どうせまた壊すからで家の鍵開けっ放しは流石にマズいわよ…

 

「さて、話はそこまででいいだろう?事情はどうあれ家族を心配させたのは事実だ。早く顔を見せて安心させてやれ」

「ああ、お前達は兎も角、家族はもしもを考えたかもしれないからな」

「そうですね…親父と母さんになんて謝ろうか」

「ウチのお父さんは全く怒らなさそうで逆に申し訳なくなりそう…」

「今正直、竜退治の時より緊張してるよ…何言われるかなぁ…」

 

それは言い過ぎじゃ…無いかな。あたしもここに母さんがいなかったら同じ気持ちになってたと思うし。

 

「…そういや親父、飯大丈夫か?あいつ料理欠片も出来ねえどころか、包丁とかぶっ壊しかねないんだよな…」

「ああ、そっちは私達でなんとかしといたわ。それと、「流石に今回は一発ぶん殴る」って言ってたわよ」

「…むーん、今回はちょっと止めにくいかも」

「確かに気持ちは解らんでもないが…確か彼は元傭兵で、腕力の強さは健在だと聞いているぞ」

「えっと…手加減してあげるように言っておいた方がいいんじゃないかな」

 

今のレントなら大丈夫だと思うけど…まあ、それが原因で特訓とか冒険に支障が出たら困るからね。

 

「では、今日はこれで解散だ。眠たいだろうが、昼寝はほどほどにな」

 

…なんか先生みたいだよ、アンペルさん。いや、あたしとタオにとっては先生みたいなものだけどさ。

 

 

「ふぁ…」

「っ…」

 

あたしとアルムとエルちゃんの3人で家に戻る途中、あたしは欠伸をして、アルムは頭がカクンってなった。そろそろ我慢の限界だなぁ…

因みに母さんは、ザムエルさんがやりすぎないように見張っておくって言ってた。…ザムエルさん、なんかうちの父さんと母さんに弱いんだよね。

 

「むーん…よし、3人でお昼寝しよう!

「うえっ!?」

 

エルちゃん!?いきなり何を言い出すの!?

 

「…俺が混ざって良いのか、色々な意味で」

「むしろ来なさい!」

「何処目線の発言だ?…というかライザ、色々ヤバそうだが大丈夫か」

「い、いや、だって、その…」

 

寝顔見られるのは、流石に恥ずかしすぎて無理…

 

「朝2人が急にいなくなって寂しかったし、心配もしたんだから、その埋め合わせ位してほしいなー?」

「う、それを言われると…」

「…こうなったら、もう選択肢は無いも同然だな」

「ふふふ、そーいうことだよ。…ホントに、心配したんだからね?」

「…悪かった」

「…ごめんね」

 

…姉さんとは別の意味で、この子にも敵わないなぁ。

 

 

この後、あたしは父さんには怒られるどころか労われた。…やっぱり、ちょっとくらい怒ってくれた方が気が楽だなぁ。アルムの方は、ウェインさんはちょっと叱りつつも無事を喜んでたけど、ルーテリアさんが安心して泣いちゃって、アルムが罪悪感で頭抱えてた。うん、次からは緊急事態でもどうにか行先とか伝えられるようにしよう。

タオは家族に抱きしめられるくらい凄く心配されてて、クラウディアは商会の人達に「友達と一緒に無茶できるのは子供の特権だから今のうちにやっとけ」みたいなことを言われてルベルトさんに渋い顔をされてたらしい。

レントは…なんか、ザムエルさんが最近ちょっと鍛え直してたらしくて。「今までで一番強烈なのを貰った」って言ってた。眠気も吹っ飛んだみたい。

…因みに、寝顔はアルムにしっかり見られた。アルム、何でそんなに起きるの早いの…

 

 

 

 

「戻ったぞ。…ん、アルムとライザは?」

「ああ、採取地調合器の中だ。入ったばかりだから出てくるまでまだ少し時間があるな」

 

【門】を見つけた翌日、ランバーの訓練の相談を受けていた私は、一通り訓練を見てから提案とアドバイスをした。それが終わったのでアトリエに戻ってきたが…採取地調合器か。もしかしたら【アレ】が見つかるかもしれないな。

 

「それで、ランバー少年の訓練は?一応動きだけ見るとは言ってただろう」

「知っているだろう?私は手加減が好きでは無くてな。今の彼では、私が施すそれは逆効果だろう」

 

あの後、アガーテからこっ酷く説教を食らったらしいランバーは、訓練と仕置きを兼ねて思いっきり扱かれることになった。それに関してはランバーも望むところだったからか、素直に受け入れていたが…私が見に行ったころには汗だくでうつ伏せに倒れていた。内容を聞く限りでは、確かに厳しいものではあるが、私があの2人に施しているそれ程ではない。

アルムとレントなら、やる気以上に体力と実力もあるからこそ疲弊しながらも食らいつき、実りのある特訓になっているが…ランバーは体力がまだ不足している。大した効果も出ずに、疲弊するだけになるだろう。

 

「それに、レントの父親が何処から聞きつけたか訓練に付き合いだしてな。アガーテもいたし、人数的にも私は現状不要だろう」

「ん、そうなのか?レントから聞いた話では、奴の父親は人格面で少々難があると聞いたが」

「レントに感化されたのか、少し鍛え直しているらしい。今回のそれも、その一環だろう」

 

前評判からは信じられんくらいの良い表情をしていたな。居合わせたレントが、「最初からそうしとけってんだ、たく」なんて言ってたが…少し口角が上がっていたのを、私は見逃さんぞ?

 

「ところで、タオとクラウディアは何をしているんだ?何やら土を耕していたようだが」

「ああ、錬金術用の畑を作っているらしい。種も錬金術で作れば、普通ではありえないものが採れるだろうな。例えば、鉱石とかな」

「…畑から鉱石?想像がつかんな」

 

…やはり錬金術はよく解らないな。だからこそ、アンペルやライザのように深みに嵌る物が出てくるのだろうが。

 

「それで、アルムとライザに用があるのか?」

「いや、ここにいると思っていたが見当たらなかったからな。聞いただけだ」

「そうか。まあ、そろそろ出てくると――」

「よーし、探索終わり!」

「これで折角の畑も活かせるな」

 

二人が調合器から出て来た。目的は果たせたらしい。

 

「どうだった、2人とも」

「なんか…凄かった。本当の世界と空気がほとんど変わらなかったって言うか」

「錬金術のとんでもなさを改めて知れましたね…小さいとはいえ、世界すら作れるとは」

「そうか…ん、アルム。その手に持っている物は?」

 

アルムの手を見てみると、宝玉のようなものが握られていた。…それは、まさか。

 

「何か力がありそうだったので、拾っておきました。何に使えるかは解りませんが」

「うーん、何かの部品かなぁ。これだけで何かできる感じじゃなさそう」

「…そうか。まあ、そう言う物ほど何か重要な役割を持っていたりするものだ。大事に取っておけ」

「うん、そうする。さて、じゃあとりあえずみんなの新しい装備と畑に撒く種を調合して、それから…」

「俺は畑を手伝って来よう」

 

そう言って二人は各々動き出した。…アルムが拾って来たアレがあれば、このレシピに記されている物が作れる。それを使えば、アンペルの腕がもう一度動くようになる。だが…

 

「ん、どうした?リラ」

「…いや、何でもない」

 

これはクリント王国の技術だ。奴らの所業に心底怒り、心を痛めているこいつが…これを使いたがるか?…使いたがらないだろうな。そもそも、私が独断で写しを取っておいているだけで、コイツ自身はこのレシピを見つけた瞬間焼き払った。恐らく、見たくもないと思っているだろう。仮に今、私がライザに調合を依頼したとして…完成したそれを持ち出して、私が口で言うだけではコイツは動かない。

 

(カギを握るのは、やはり…)

 

錬金術士として成長を続けるライザ。こいつの真っ直ぐさと快活さなら、アンペルの心を動かせるかもしれない。その時が、このレシピをライザに託す時だ。

 

(…お前に賭けさせてくれ、ライザ)

 

何処までも楽しそうに調合を続けるライザの姿に、私は期待していた。アンペルが背負っている物を、こいつが下ろさせてくれることを。




ノリでザムエルを随分丸くしてしまった。地味に暗レント回避フラグ?まあ2編やるかどうかは決めてないんですが…
当然ながらレントの家の鍵関連は独自設定。酔っ払い&馬鹿力が明言されてる人だし、一回くらいはやってそうですよね。

Q,ライザの寝顔を見たアルムの感想は?
A,「可愛いと思うと同時に、穏やかな気持ちになった」

ここまで読んでいただき、有難うございました。


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少年と少女の、それぞれの「想い」

今更ですが「台詞多め」のタグを追加しようと思います。

【渦巻く白と輝く青】の確認と、色々やるアルム。
今回はタオ視点→アルム視点です。


「ここだ。ブルネン家で【水生みの離れ】と呼んでいるこの小屋に、昔俺が見た【渦巻く白と輝く青】がある」

「ここか。モリッツ氏が唯一「ここだけはどうしても調査の許可は出せない」と言っていたな」

 

今朝、ボオスから「ようやく離れの小屋の鍵を開けることができた」って言われたから、ボオスが見たものが本当にオーレン族の故郷から水を奪った古式秘具なのかみんなで確かめに来てる。…あれから3日経ったけど、やっぱりまだちょっと飲み込み切れないなあ。島の水源が、ある意味曰く付きと言っていい代物だなんて。

 

「水…生み?」

「見れば解る。…あの球だ」

「球?…あっ」

 

ボオスにそう言われて見てみると…そこには、水が尽きることなく湧き出てる、光る球があった。…これが、【渦巻く白と輝く青】…

 

「清水を溢れさせる【渦巻く白と輝く青】…クリント王国の古式秘具か…!」

「モリッツ氏がこの小屋の調査の許可を出せなかった理由だな。これが、あの森から奪われた水なんだ」

「これが、俺達が今まで使って来た水源だったってのか?信じらんねえな…」

 

僕も信じられないけど…でも、これが真実なんだよね。僕たちの生活は、どこまでも錬金術に支えられていたんだ。

 

「そもそも、こんなものどこから持ってきたんだろうな」

「え、元々この島にあった訳じゃないの?」

「ああ、コイツがこの離れに据え付けられたのはもっと最近だ。それまでに、島の水源は涸れていた」

「確か、水が不足してた頃は水路のあちこちを塞いで溜めた水でなんとか凌いでたんだっけ」

「島のすぐ下が岩盤で、碌に井戸も掘れねえしな。ずっと昔には普通に湧いてたらしいが」

「お父さんも言ってたよ。麦が採れるようになったのはほんの何代か前で、それまでは乾きに強くて地面から水を集めるクーケンフルーツばかり育ててたって」

「俺もそれは親父から聞いたな。…で、元から島にあったならそんな苦労をする必要はない。なら元々はここではないどこかにあったと考える方が自然だ。そして…」

「成程。その場所に何かあるかもしれない、と?」

「ええ。こんなもの、「偶々そこにあっただけ」は無理がありますから」

 

…確かに、こんな古式秘具をそんな雑な扱いはしないよね、普通は。内容は兎も角、国を挙げての計画の屋台骨みたいな代物だったなら、管理とか保管とかしっかりやってなきゃおかしいし。

 

「…うん、あたしもそう思う。ボオス、これが何処にあったかとかは知らない?」

「いや、数代前のブルネン家がどこかから持ち帰って来たということだけしか聞いていない。…だが、何か手掛かりが残っているかもしれないな。後で調べておく」

「ありがと。…アルムの言う通り、多分その情報が、いろんなことを解決できるようになる手掛かりになると思う」

「物事の繋がりを感じる、か?」

「うん。上手く説明はできないけど」

「そうか。ボオス、出来るだけ早く頼むぞ」

「ああ。早くキロ達オーレン族に、水を返さなきゃならないからな。…これは彼女たちの大切なものだ。ブルネン家が権勢を得るための道具であり続けていていいわけがない」

 

何か随分張り切ってるなあ、ボオス。…もしかすると、そういうことなのかなぁ?よく解らないけど…

 

「急いでくれるのは有り難いが、性急に事を運びすぎるのも悪手だ」

「ああ。1つずつ確実に片づけていくぞ」

「うん。クリント王国の錬金術がやったことだし、同じ錬金術士として放っておけないよね!

「!!…ああ。そう、だな…」

「…」

 

今のライザの言葉に、アンペルさんが面食らってて、リラさんが考え込んでる。それだけ予想外な台詞だったのかな?僕達からしたら凄く「らしい」と思う言葉だけどな。

 

「さて…今の俺達にできることは、どこに行くとしても問題無いように準備しておくことくらいだな」

「うん。ライザが作ってくれた新しい道具も試したいしね」

「じゃあどこでやる?あんまり魔物が弱いところでやっても実感わきにくいし」

「だからって強い魔物がいるところでやるのも危ないよ。あくまで慣らしなんだからさ」

「そろそろ塔の方角に進もうと思ってたんだが…まあ、焦ることもねえか」

 

塔、かあ。…正直、この辺りの地理からして、何かあるとしたらもうあそこしか残ってないよね。それが無くても、レントの冒険の目標だから行くことにはなるけど。…とんでもない魔物と遭遇しないと良いなあ。でもしそうだなぁ…

 

「…タオ」

「何?」

 

今から塔への旅路に不安を募らせてたら、アルムが小声で話しかけてきた。何だろう?

 

「あの球が置いてあった場所が判明したら、あの本と島の事をみんなに話そうと思う」

「…大丈夫?色々とんでもない内容だから、受け止められるか解らないよ?」

「その辺りはどうにかする。それと…」

「それと?」

「受け止められるかどうかの心配は、お前もしておいた方が良い。まだお前にも明かしてないことがあるからな」

「…あれ以上、まだ何かあるの?」

 

もうそれだけで受け止め難いよアルム…

 

 

 

「さて、一旦アトリエに戻るか。…しかし、まさかこんなものが見つかるとはな」

 

タオに借りた本の解読も一段落ついたので、以前旅好きのダニエルさんから貰った宝の手掛かりを頼りに近場を探索していた。そしたら地図の断片のようなものが見つかったので、それを拾い集めていくと、宝の在りかが記されていた地図だと判明。その場所にあった宝箱を開けると…予想だにしないものが収められていた。

 

「コアクリスタル…しかも、今使っている物より高性能だ」

 

試してみたが…容量が大きい、とでも言えばいいか。エネルギー切れまでが遅くなっている。勿論一度のコンバートで最大まで回復するので、以前より少し道具を使いやすくなった。これは良いものを見つけたな。丁度人数分あるし、早速みんなに渡すか。

 

「時間があれば、他の手掛かりも辿ってみようか。良いものが見つかるかもしれない」

 

道具にしろ、レシピにしろ、あって損は無いからな。ボオスの方の結果が出るまで時間があるかもしれないし、みんなに相談してみるか。

そんなことを考えながらアトリエに戻ってきたら…

 

「ただいま」

「あ、アルム!ねえ聞いてよ、今アンペルさんがあたしのこと凄く成長していってるって!」

 

物凄く上機嫌なライザが出迎えてくれた。…お前の成長、か。

 

「知ってる。ずっと見てるからな」

「…ふ、ふふふ、そーよね、一番近くで見ててくれてるもんね、アルムは!…何でそんなにサラッとそういうことが言えるかなぁ…

 

お前相手に言葉を取り繕うことも無いからな。言えることははっきり言わせてもらうぞ。

 

「良いタイミングだ、アルム。このままではアンペルの愚痴にライザが毒されて、暗くなってしまうところだったぞ」

「せめてそこは嘆きと言ってくれ」

「同じだろう。全くみっともない」

「あはは…相変わらずアンペルさんには容赦ないなぁ、リラさん」

「…」

 

一瞬「夫婦か?」なんて言葉が口から出かけた。そうでなければ…何だろうか、お互いが自分が上だと思っているきょうだい?

 

「ところでアルム、それ何?」

「ああ、今までのものより高性能なコアクリスタルだ。古城に安置されていた」

「ほう…そんなものが。どうやら、あそこもまだ調査する必要がありそうだな」

「別の【門】の手掛かりでも見つかれば僥倖だな。まあ、流石に高望みだろうが」

「その時は、あたしたちも手伝っていいかな?」

「ああ、むしろこっちから頼みたいくらいだ」

「また別の古式秘具が出るかもしれませんね。…召喚機のような物騒なものは、流石に勘弁してほしいですが」

「そういうことを言うと、得てして真実になるぞ」

 

やめて下さい、縁起でもない…

 

 

「しかし、これも結構集まって来たな」

「何が?…あ、ゴールドコインね」

「ああ。だが、あったところで何に使えばいいのか解らなくてな」

 

少しアトリエで休憩していると、ふとゴールドコインの事が気になったから机に並べてみた。ザムエルさん曰く珍しいものであるらしいが…どういうわけか強い魔物を倒すと良く持っていたりするので、結構まとまった枚数手元にある。しかし、現状使い道が浮かばない。珍しいなら、誰かとの取引に…ん、取引?

 

「…待てよ、ルベルトさんならいい案をくれるんじゃないか?」

「そっか、商会のリーダーやってる商人さんだもんね。早速話してみよう!…あ、交渉とかあったら全部任せて良いかな」

「…解ったよ。多分そこまで難しい話にはならないだろうしな」

 

というわけで、バレンツ邸に行って話をしてみたところ…

 

「私も商人の端くれ、価値のある物は手に入れたい」

「はい」

「そして、錬金術にはレシピと呼ばれるものが必要だと聞いた」

「…つまり?」

「ここにそのレシピと思しき物がある。…そのゴールドコインと交換しようじゃないか」

「是非お願いします」

 

交渉成立、今ある分は全部貰っておいた。

 

「因みに、レシピ以外にも珍しいものがあるが…どうかな?」

「素材として使えそうですね…ただ、こちらに関してはライザの意見を聞きたいので、後にしても?」

「ああ、構わないよ」

 

今は確かクラウディアと雑談でもしているだろうな…盗み聞きにならないようにさっさと呼ぶか。

 

「ライザ、少しいいか」

「アルム、どうしたの?」

「ルベルトさんとの取引で少し相談をな。…どうした、クラウディア?」

「…その、お父さんとのお話が終わったら、私から話したいことがあるの。いいかな…?」

「ああ、いいぞ」「うん、いいわよ」

「ありがとう…」

 

そして、ライザが「これは!」と思ったものを譲ってもらってから、改めてクラウディアの話を聞きに行った。

 

「それで、話って言うのは?」

「うん…私のフルートの事なんだけど…」

 

そこで聞いたのは…クラウディアが隠れて演奏しているのはあくまで自発的なもので、ルベルトさんに反対されているわけでは無いということ。

最初は隠れずに吹いていたが、その内ルベルトさんが悲しい顔をしているのに気が付いたこと。

その理由が恐らく、病弱故に置いて行かざるを得なかった母を想って寂しがっているとクラウディアが考えていること。

そして、それがクラウディアがルベルトさんの前でフルートを吹けなくなった理由だということだった。

 

「…クラウディア」

「…確かにそれは、演奏もしたくなくなるだろうな」

「だけど、ここに来て、みんなと出会って、演奏もたくさん褒めてもらって…そして、あの異界で、私の演奏が誰かの心を慰めることができるって解ったの。…だから、何時かお父さんにも私の音を届けて、悲しさを晴らしてあげたい。ううん、晴らして見せる」

「…うん、クラウディアならできるよ、絶対に」

「それができたら…また演奏会をしよう、なんて提案してみるのもいいかもな」

「うん。また3人で一緒に、楽しく演奏会をしたいな」

 

そう言って笑顔を浮かべるクラウディア。…やはり、家族を想う気持ちは良いものだな。




一応、「きょうだい」はわざと平仮名にしてあります。

今回のQ&Aは無し。

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錬金術士の誓い、少年戦士の目標

今更ですが、当作のボオスはライザ達と拗れて無いので、口から皮肉や嫌味の類は飛んでこなくなってます。つまりそこそこ素直化してる。
アンペル説得&塔に行く前段階の話。今回はアンペル視点→レント視点です。


「どうだアルム、本の解読は?」

「…半分くらいです。流石にタオほど早くはできませんね」

「いや、十分早いぞ。タオが早すぎるだけだ」

 

ボオス少年に古式秘具の出所を調べてもらっている間、私は調査の準備をしつつアルムの本の解読の様子を見ていた。タオとアルムの学習意欲と習得の速さは目を見張るものがあるな。この短期間でここまでとは…

リラはライザを表に呼び出し、何かの相談をしているようだ。何かしらの調合の依頼か?

 

「そういえば、宝の手掛かりとやらはどうなんだ?」

「クーケン島のものは終わらせました。他は、レント達が後で来るそうなのでその時に」

「出来るだけ早くした方が良いだろうな。このコアクリスタルのように、有用なものが手に入るかもしれん」

 

更に上位のコアクリスタルかもしれんし、それ以外の何かしらの道具かもしれん。もしかしたら、レシピの類もあるかもしれんな。

 

「しかし、リラはライザと何を話しているんだろうな」

「確かに珍しい組み合わせではありますが…女性同士の会話の内容を男の俺達が気にするのは不躾な気がします。聞かれたくないから態々表に出たのでしょうし」

「確かにそうだな。あまり気にしないでおくか」

 

まあ、リラが主導の様だから色気づいた話ではないだろうが。

そんなことを考えていると、2人が戻って来た。

 

「アルム、調合器でアルムが拾って来たあの球、調合に使っていい?」

「ああ、元々調合に使えそうだから拾って来たものだしな」

「ありがと。よーし、頑張るぞー」

 

…あの球を何に使うつもりだ?私が知る限りアレの使い道は…いや、だがあのレシピは見つけたその時に燃やしたはず。…まさか、リラ。

 

「…アンペルさん、どうかしましたか?」

「…いや、何でもない」

 

…いかんな、顔に出ていたか。あまり心配をさせる訳にもいかん、別の事を考えるか。

 

「アルム、潮流の変化により結果的に門の封印が弱まり、フィルフサがこちらに来るようになった、という話はしたな?」

「…?はい」

「ライザはこの潮流の変化も何かの一部だと感じたようだが…お前はどうだ?」

「…それについては、もう少し後でみんなの前で言うつもりです。が、今一言で言うなら…以前話した俺とタオの考察の中に答えがあると見ています」

「成程、現状それが一番可能性が高いな。…ボオス少年には、出来るだけ急いでほしいところだな」

 

クーケン島が浮島であること、その島で起きている地震や浸水、涸れた噴水…そして潮流の変化。これらすべてを繋ぐ結論があるとしたら…

 

「よし、出来たよリラさん!」

「そうか。…確かに、見事な出来だ」

 

考えている内にライザの調合が終わったらしい、完成した品を持ってこちらに来た。…その器具は!

 

「えっと、アンペルさん。これ…」

「…これは、何かに取り付ける物か?」

「うん。クリント王国の技術で作られた義手なんだって」

「…リラ、私はあの場でレシピを燃やしたはずだ」

「写しを用意しておいたんだ。いつか、こういった日が来ると思ってな」

 

…余計な真似を。

 

「これを見事に調合してみせたライザの腕前は認める。だが、私はこんなもの使わんぞ」

「…アンペルさん、どうしてそこまでクリント王国の錬金術を嫌うの?確かに、大昔に錬金術で酷い事をしたけど、だからって…」

「アンペルは数十年前まで、この国…ロデスヴァッサの王宮に仕える高名な錬金術士だった」

「っ!リラ!!」

 

声を荒げてでも、余計なことまで話し出したリラを止めようとするが…コイツにそんなもの通用しない。私に一瞥をくれてから、続きを話し出した。

 

「しかし、王宮の意向に沿わなかったことを理由に不興を買い、策謀によって腕に再起不能の傷を負わされた。その際、その傷の原因である爆薬を仕込んだのは、アンペルが友と信じた同僚の錬金術士だった」

「…!」

「そんな…」

「…私の、この体の秘術にたかられた、昔の話だ」

 

今更、蒸し返すようなことでもない。だというのに、何故リラは…。

 

「そうして王宮を追われたアンペルは、失意のうちに放浪し、やがて【門】から迷い込んできた私と出会った。…なあ、アンペル」

「…何だ」

「錬金術士はいつまでも同じことをやっているな」…私からクリント王国の罪業を聞かされたお前が言った言葉だ」

「…ああ」

「それに対し、私が何と返したか覚えているか?」

「…」

「忘れた…などとは言わせんぞ」

「お前自身はどうなんだ、錬金術士」…だったな」

「そうだ。そして、その言葉を聞いたときお前は誓ったはずだ。「命ある限り、錬金術士の犯す罪に抗う」と」

 

…漸くお前の真意が理解できたよ、リラ。つまり…

 

「そんな誓いを立てたのだから、傍観などせずに自分の手でやれ、と。そう言いたいわけだな」

「ああ。それに、その器具はお前が忌み嫌う薄暗い罪の産物などではない。お前の誓いを明るく照らす、新たな錬金術士がお前に差し伸べた…新たな手だ」

「…そうだな。ライザの作った物が、奴らの欲望のような汚れたものであるはずがなかったな」

 

全く、目も頭も曇り切ってしまっていたな…技術はあくまで技術でしかない、好悪はそれを扱う者次第だということを失念してしまっていたよ。

 

「気が変わった。有難く使わせてもらうぞ、ライザ」

「…!うん!」

 

器具を腕に取り付け、動きを確認する。…問題なく動かせる。いや、それどころか…

 

「嘗ての腕よりも動きが軽いようにすら思えてくる。…本当に、とんでもないな」

 

ライザの才能に感嘆しながら動きを確認していると、ライザが義手を取り付けた右腕に手を添えてきた。

 

「これでやっと、恩返し出来たかな」

「恩返し?」

「アンペルさんが、錬金術って言う素敵な力を教えてくれたから。その分、何か返せないかなってずっと思ってたの」

「…そうか」

 

本当に真っすぐで、優しい娘だな…

 

「有難う、ライザ。こうして錬金術士と手を取り合う日が来るなんて、考えてもいなかったよ。しかも、そうさせる腕を錬金術で作ってしまった。本当に、大した奴だ」

「お礼を言うのはあたし達の方だよ。二人がここまで旅をしてきてくれて、あたし達と出会ってくれたから、今のあたし達があるんだから」

「ははっ。すね者のようにさすらって来た私の旅にも、それなりの意味はあった訳か」

 

この旅でライザ達に出会えたのは、今までの人生の中で何よりの幸運だろうな。

 

「…ふふ」

「笑っているのか、アルム。珍しいな」

「あの光景は、ライザの錬金術の1つの集大成みたいなものですから」

「成程、確かにそれは嬉しくもなるな」

「リラさんも、嬉しそうですね」

「ああ、ようやくアンペルがうじうじすることを止めたからな」

 

…全く、本当にお前はいつだって厳しいな。

 

「そこは「ようやく肩の荷を下ろす気になってくれたから」じゃないの、リラさん?「重荷を背負ってる彼を助けてあげなきゃ」ってさっき言ってたじゃん」

「記憶を改竄するな!そんな軟弱な物言いはしていない!」

「ははっ…有難うな、リラ、ライザ。やってみよう、お前達が取り戻してくれた…この手で」

 

まずは任せきりになっていた魔物との戦闘だな。これからは、存分に暴れてやろうじゃないか。

この後宝の手掛かりを辿るようだし、その時に慣らしも兼ねて手伝ってやるとしよう。

 

 

 

 

「はー、久しぶりにギリギリまで冒険したぜ」

「手当たり次第に手掛かりを辿ってみたが…見つかったのはレシピが二つ、か」

「時間が無くて回り切れなかったとこもあるからねー。次は辿り着くわよ!」

 

今日の冒険は宝の手掛かりの捜索っつー、正に冒険!って感じの奴だった。俺やライザ、クラウディアは勿論、タオも結構乗り気だったな。アイツの場合、宝そのものよりそれが何故ここにあるのか、とかの方が興味あったみたいだけどな。

手に入ったレシピは…【フェザードラフト】っつう中で羽が舞ってるよく解んねえ水晶と、【マスターレザー】っつう特殊な革のものらしい。マスターレザーはこれで特別な服でも作るのかと思うけどよ、フェザードラフトはそもそもが何なのかよく解んねえから用途も想像つかねえ。ライザ曰く、コレ単品でどうこうって代物じゃないらしいが。

 

「アンペルさんも手伝ってくれたけど…とんでもなく強かったよね」

「動きに淀みも迷いも無さすぎるっていうか…本当にブランクがあるのかなって思っちゃったよ」

 

体中どこにでも目がついてんじゃねえかってくらい的確な行動、無駄を限りなく省いた魔力操作、有効なアイテムを素早く選べる判断の速さ。全部がすげえと思った。術師だからリラさん程直接教わることは多くないだろうが…この人にも戦いを教えてもらいてえって思えたぜ。背後から飛んできたワイバーンをチラ見もせず一撃で撃ち落としたりもしてたしよ。

しかも一通り戦闘を済ませた後の言葉が「ふう、年甲斐もなくはしゃぎ過ぎてしまったかな」だったから、多分まだ余裕あるんだよな。

 

「で、今日は後どうするよ?俺はもう家まで戻るけどよ」

「雑貨屋に寄ってくわ。もしかしたらレシピに使えそうなものが売ってるかもしれないし」

「特にすることも無いから、ライザの付き添いでもしておく」

「僕ももうこのまま帰るよ」

「私も帰ろうかな。早く汗を流したいし」

「そうか、じゃあ今日はここで…」

「ここにいたか」

 

解散、と言おうとしたところでボオスが話しかけてきた。…まさか。

 

「【渦巻く白と輝く青】の出所が解ったぞ」

「マジか!これでようやく前に進めるぜ!」

「詳しい話は…明日の方が良いか?あの2人も呼んだ方が良いだろ」

「ああ、そうしてくれ」

「それじゃあ、明日はちゃっちゃと畑仕事終わらせないとね」

 

ライザのその言葉に、ボオスが少し面食らったような顔をした。

 

「…お前が畑仕事に積極的なの、未だに慣れねえな」

「サボるの止めてからもう一年くらい経ってるんだけど!?」

「そういうイメージって中々払拭できないよね」

「ふふっ、これからももっと頑張らないとね、ライザ?」

 

正直言うと、俺も未だに慣れてねえんだよな。理由は知らねえが、あのライザがなぁ…

 

「まあその話は良い。明日、あの2人も呼んで家の門前に来てくれ」

「ああ。有難うな、ボオス」

「ランバーの件の借りもあるし、俺にとっても必要なことだからな。これくらいはさせてくれ」

「ふふ、キロさんの為だもんね」

「…アレはあの世界から水を奪った、いわば盗品だ。そんなもので権威を得続けるなんて我慢ならない。だから、早く在るべきところに還したい。それだけだ」

 

素直じゃねえな、コイツ。それも本音ではあるんだろうが、クラウディアの言うことも的外れじゃないだろうによ。

 

「じゃあ、また明日だな、ボオス」

「ああ。すぐ向かうつもりならしっかり休んでおけよ。険しい道になるだろうからな」

 

険しい道、ね。一体どこから持ってきたんだか。

 

 

「来たか。早速だがこれを見てくれ。倉庫の奥に隠されていたものだ」

 

次の日、全員で集まってボオスの話を聞きに行った。なんか紙みてえなものを渡されたが…ん?

 

「…これは、まさか」

「これ、手描きの地図?って、これに描かれてるのって…」

「街道の西側の「悪魔の野」じゃねえか!」

「ど、どういうこと!?」

 

マジか、コイツのご先祖様はそんなとこまで行ってたのか!

 

「地図というより…旅程を記している物と言った方が良いな。測量もしっかりしている、やるじゃないか」

「確か、村では街道の西側に行くのは禁止されてるんだったよね?」

「うん、小さいころからずっとそうやって言い聞かされてるんだよ。だけど…」

「それを踏み越えて冒険に出た者が、何世代も前にいたのだな」

「ああ。そして、その先であの球を見つけ、それを離れに据え付け、水不足で困っていたこの島で権威を振るいだした、というわけだ」

 

一体なんで禁足地ってことになってるとこまで踏み込んだんだろうな?水が無さすぎて、どうしてもそれを解消できる何かを見つけたかったか、そもそもその時は禁足地じゃなかったとかか?

…そっちは考えても仕方ねえか。それで、目的地は…!

 

「この位置、この記号…あの塔か」

「ああ。あの球は、あの塔から発見した物らしい」

「塔って…晴れた日に、北の空に見えてるあの塔?」

「そんなとこまで冒険してたのね、ボオスのご先祖様は…」

「後何かありそうな場所って言ったらあそこくらいしかなかったけど…本当に塔にあったなんて」

 

まさか、昔とは言え、島で既に塔までたどり着いてる人がいたとはな…!

 

「ボオス、俺は今、お前のご先祖様に嫉妬しちまってるぜ…!」

「ああ、だろうな」

「目的地が解ったなら、出立の準備をしなければな。同じ旅程を辿るとなると…彼の言う通り、道なき道を行く険しいルートになるな」

「ただの調査で行くには危険だろうし、島の禁忌を犯すことになるが…」

「そんなの今更よ。ねえ、レント?」

「ああ、とうとう挑む時が来たんだ。あの塔に…俺の冒険の、目標に」

 

待ってろよ、塔の天辺!絶対にたどり着いてやる!

 

 

「さて…みんな、塔に向かう前に聞いてほしい事がある」

 

塔に行く準備の為にアトリエに集まっている俺達に、アルムがそんなことを言い出した。…随分と真剣な顔してんな。

 

「話すのか、アルム」

「はい。塔に何かしらの情報が残されているのなら、何を調べるべきかをあらかじめ共有しておいた方が良いと思ったので」

「本については僕から言うよ」

「…えっと、あたし達は今から何を聞かされるの?」

 

俺達を代表してライザがそんな質問をした。それに対して、アルムは…

 

「下手をすればずっと、水不足どころの騒ぎではなかったのかもしれない。そんな「危機」の可能性の話だ」

 

そんな、とんでもないことを言い出した。…まさか、クーケン島の事か?一体、何が起こってるって言うんだよ…




アンペルの説得シーンについては、「説得にアルムも参加させるのはなんか違う気がしたけど、話の内容的にアルムは聞いといた方が良い」って感じで、別件でその場に居合わせてもらいました。
ちょいちょい台詞を組み替えてますがその辺はご容赦を。
因みにマスターレザーのレシピが出てきてますが、防具については今後も描写しません。

Q,アンペルも超強いの?
A,視野が異様に広く、対応力がずば抜けてるってことにしました。これくらいじゃなきゃいくらリラが強くても1人で守り切れるか怪しいと思ったので。治る前はフラムとかうにくらいしか攻撃手段無かったでしょうし。

ここまで読んでいただき、有難うございました。


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推理と危機感の共有、そしてまさかの遭遇×2

気まぐれ更新だと言っているとはいえ、2か月は期間開けすぎである。次は流石にもうちょっと早くできるようにしよう…

アルム達の推理の内容の共有→リーゼ峡谷へ→竜遭遇再び。ライザ視点→リラ視点です。


「――これが、タオの本の内容と、クーケン島の真実及び現状についての予想だ」

「…ゴメン、ちょっと整理させて」

 

「本当なら水不足どころの騒ぎではなかったのかもしれない」…そんな前置きから始まったアルムとタオの話は、普通なら信じられないものだった。

 

「えーっと、まずクーケン島はクリント王国の錬金術で造られた人工の島で、湖の上に浮いてるんだよね」

「で、タオの本の内容は島の操作方法とかそういうのが書いてある説明書みたいなもんなんだよな」

「それで、うちの地下室が浸水してたり最近地震が増えてたりするのは、島そのものが拙い事になってる可能性があるってことで良いんだよね?」

「ああ。まだ殆どが予想でしかないが、可能性は高いと俺は思っている」

 

こんな話、少なくとも錬金術を知る前のあたし達だったら「何言ってんの」で済ませてたかもしれない。…でも、アルムが凄く真剣な顔してるんだよね。だから、本気でマズいと思ってるのは伝わってくる。

 

「…ダメだ、最近デカい話ばっかだったから耐性付いたかと思ってたが、今までで一番飲み込み難いぞコレ…」

「レント君達にとっては、生活に直結する話だもんね…」

「もしかして、これがアルムが冒険に出ようと思った本当の理由だったりする?」

「ああ。予想が当たっているか確かめたかったのと、当たっていた時の対処法を探したかったからな。だから、いきなりアンペルさん達に出会えたのは幸運も幸運だった」

 

実は、アンペルさん達と出会えて一番喜んだのはアルムだったりするのかな?

 

「…とりあえず聞きたいんだけどよ、この話を今したのは何でだ?」

「今まで話さなかった理由という意味でなら、かなり突拍子の無い話だから信じてもらえ無さそうだったのと、対処法を探すための取っ掛かりすら無かったからだ。

で、今話した理由は、小さいながら兆候が出たことと、塔が対処法…もっと言えば「希望」の取っ掛かりになりそうだと思ったからだな」

「…うん、あたしもなんとなくそう思う。塔にどうにかするための鍵があるんじゃないかなって」

「見つかってほしいな…綺麗な島だし、みんないい人達だったから」

 

もし塔に無いなら、どうにかして色々駆けまわって探すしかないけど…出来るだけ早くどうにかしたいし、あってほしいなあ。

 

「それと、ボオスには話さないの?」

「まだ確定情報ではないし、対処法も見つかっていないからな。流石に、誰が見てもマズい兆候が見え始めたら未確定でも話さざるを得ないだろうが…そこまでいったらもう手遅れになっている可能性もある」

「今のところ、大きな兆しは潮の流れの変化くらいみたいだけど…もっと大きなことが急に起きる可能性もあるもんね」

「ふむ、ならできるだけ早く行動しようか。塔まですぐにたどり着けるとも限らないからな」

「ああ。だからタオ、そうしている時間も惜しいから早く立ち直れ」

 

あ、そういえばさっきからタオが全然喋ってない。どうしたんだろう?

 

「…うわぁぁぁぁぁ…」

 

…頭を抱えて物凄く悩んでた。え、大丈夫…?

 

「あの、えっと、タオ君?」

「…あ、ゴメン…今までは壊れて水源が機能してないだけだとか、それくらいの予想しかしてなかったんだけど…浮島だって聞いた途端今までのあれこれがイヤな繋がり方したから…」

「あー、だからそこはタオにも黙ってたのね、アルムは」

 

タオはそういうの絶対すぐ顔に出るだろうから皆に怪しまれそうだし、最悪気にし過ぎで体調崩したりしそうだしね…

 

「…とにかく、今俺達がやることは一つだ。一日でも早くあの塔にたどり着いて、さっさと手掛かりを見つけようぜ!」

「ああ。今日の内に準備を済ませて、明日から向かうぞ」

「それならリハビリも兼ねて、私も調合を手伝おう。ライザ1人では負担が大きいからな」

「え、いいの!?じゃあついでに色々教えてほしいな!」

「ふふっ。ライザ、すごく嬉しそうだね。…私達は、何をすればいいかな?」

「連携の確認をするぞ。どんな障害が発生するか解らん以上、連携を密にしておくに越したことはない」

「はい。…何が出てきても、怖がってなんかいられなさそうだなぁ。…よし」

 

…明日から遂に塔に向かうんだ、あたし達。なんていうか、最初に思ってたより凄く早かったなぁ。それも、こんな大事な目的で。こんなに話が大きくなるなんてなー。

っとと、今はそんなこと考えてる時間も惜しいや。バリバリ調合しつつ、アンペルさんの技とか知識を出来るだけ教えてもらおう!

 

 

「…ところで、今思ったんだが」

「え、何?」

 

大方の準備が終わって、アルムとタオの3人で家に帰る途中でアルムが急に口を開いた。…もしかして、またとんでもない事を言い出すんじゃ…

 

「少し違ったとはいえフィルフサの情報が言い伝えで残されていて、それに対抗する手段として呼び寄せられた竜の事も語られていた。それも、守護獣として。フィルフサはそもそも情報が碌にないだろうし、竜に関しても対フィルフサ用に錬金術で呼び寄せられたと知っていなければ、守護獣なんて思われないだろう」

「…?それが、どうしたの?」

「これらの情報を遺した人達は、当然だがそれを知れる立場及び状況だったことになる。そしてその情報が残されているこの島は、クリント王国の錬金術で造られている可能性が極めて高い」

「それって…」

 

…なんとなく、アルムの言いたいことが解っちゃった。つまり…

 

「その情報を知ってた人達は、何らかの理由でこの島に住むことになった…いや、住まざるを得なかった」

「フィルフサって脅威から逃げなきゃいけなかったから。ここなら、フィルフサが絶対に追ってこれないから。…ってことだよね」

「ああ。…そこまで分かったなら、俺が言いたいことも解るな」

「うん。あたし達のご先祖様は…」

「フィルフサから逃げてきた、クリント王国の生き残り」

「その可能性が極めて高い、ということだ」

 

なんか、昼とは違うベクトルですごい話だなぁ。

 

「…それが事実なら、他にも考察できることがあるよ。なんでそんなに都合よく、フィルフサが入ってこれない島を造ってたのか、とか。…ただ、さ」

「なんだ?」

「なんでこんな時間にそんな推理を披露しちゃったのさ。気になって眠れなくなりそうなんだけど?」

「…すまん、つい。明日にすればよかったな」

「…お願いだから我慢してちゃんと寝てよ?タオ」

 

翌日、タオが起きてきたのは集合時間ギリギリだった。…遅刻してないからセーフだけど、髪も服もあんまり整ってないあたり、やっぱり我慢できなかったのね。

 

 

 

 

「この遺跡、変わった形だね。なんだろう…」

「何かの祭壇のように見えるな。今となっては用途は解らないが」

 

準備を終え、塔へ向かう道を行く私達は、途中で遺跡のような建物を見つけた。アンペルの言う通り、確かに祭壇のような形をしている。一体此処で何を祀り上げていたのやら。

 

「この辺はかなりボロボロになってるな。しかも、壊されたような跡まである。ってことは…」

「ああ。フィルフサはここにも攻め込んできていたのだろうな」

「ってことは、この先にある塔も攻め込まれてるかもしれないよね…」

「…大丈夫かな。手掛かりになる物とか、壊されたりしてなければいいけど…」

「何にせよ早く辿り着いた方が良い、道を探すぞ。魔物は…これくらいなら、わざわざ倒していく必要も無さそうだ」

 

下手に魔物を刺激して時間を取られるのは良くないからな。なるべく近づかずに行くか。

 

「…周りはかなり壊されてるけど、この祭壇みたいな建物はほとんど無傷だね」

「奴らはこういったものには微塵も興味を示さない。あるのは他の生命を侵す本能だけだ」

「資料などが失われている心配は少ないが…その分、あまり見たくないものを見てしまうかもな」

「っ…。そうだよね、フィルフサと戦って、ここまで荒らされちゃってるってことは…」

「…鎧とかそう言う物には、近づかない方が良さそうだな。何が残ってるかわからねえし」

 

何百年と時間が経っているから、殆ど風化しているだろうが…なんだかんだ言ってまだ子供だ。多少でも形が残っている物が見つかれば、こいつらでもショックは受けてしまうだろうな。

 

「じゃあ、そう言うところにも気を付けるとして…この遺跡の中通ったら、魔物に見つからず行けそうじゃない?」

「どうだろうな、まだ中央が見えていないから、何かがいる可能性が――」

 

アルムがそう言いかけた時、重たい足音のような音が聞こえた。…建物の中心からだな。一体何が出てくる…?

 

「ぷに」

 

…現れたのは、金色の大型のぷに…確か、シャイニングぷにだったか。それが、同族同様の気が抜けるような笑顔を浮かべながらこちらを窺っていた。

 

「ぷに?」

「…えっと、どうしたの?」

「ぷに~」

「…どうしよう、何言ってるのか全然分かんないよ」

「だろうな、そりゃ」

「襲い掛かってはこないみたいだが…」

 

…魔物にしては好戦性が無いな。この状況では有り難いが。

 

「…とりあえずハニーアントと甘露の実でも渡しておくか」

「…それで食いつくかなぁ?って言うかなんで持ってるのそれ」

「ぷに~!」

「多分、喜んでる?」

「だと思うよ。凄く夢中になって食いついてるし…」

「じゃあ何かされる前にさっさと行こうぜ」

「戦闘になれば奴は相応に手強いからな。それが賢明だ」

「では行こうか。なるべく振り向かずに、急いでな」

 

そうして、私たちは足早にその場を後にした。…後ろから奴の嬉しそうな鳴き声が聞こえてきた気がした。まさかと思うが、懐かれていないだろうな…?

 

 

「ここが『リーゼ峡谷』…あの塔に続く道なんだね」

「奥に塔も見えるな。…ここをまっすぐ行けば辿り着けるってことだ。ようやく、ここまで来れたぜ」

「道が狭いし、見るからに足場が悪い。多分落石の危険もあるな。出来る限り真ん中を通りたい…んだが」

「岩で塞がれちゃってるね。左にある道を通っていくしかなさそうかな?」

 

禁足地とされていた場所と、遺跡のあった丘を抜けた先にあったのは、ボオスの言う通り道無き道というに相応しい場所だった。フィルフサとの戦闘の後に何百年も放置されれば、こうもなるだろうな。

 

「魔物との戦闘も、恐らく避けられないだろうな。今まで以上に地形が我々の敵になりやすい、油断するなよ」

「そうね、タオとクラウディア、それとアンペルさんは特に気を付けてよ?」

「ん、私もか?」

「その服装でこんな道を歩いて行くんだよ?危ないに決まってるじゃん」

「ああ、そういうことか。心配しなくともこの服で悪路を歩き回るのは慣れているさ」

「お前が思っているよりは身軽だぞ、アンペルは」

 

だからこそ、下手な子供以上に目が離せない時があったりするがな。

 

「むしろ一番気を付けるべきなのはお前だ、ライザ」

「え、あたし?」

「そうだよ。ライザが一番薄着なんだから、転んじゃって怪我したら大変だよ?傷跡とか残っちゃうかも…」

「う…確かにそれは嫌だ…」

「後、珍しい素材を見つたらすぐさま飛びつきそうだしな」

「お、怒りたいのに否定できない…!」

「でもそういうことなら、アルムが近くで見ておけばいいんじゃないかな。ストッパーとして」

「…まあ、そうなるか」

「えーっと、じゃあアルム」

「ああ」

「…あたし多分自分じゃ止まれないから、危ないって思ったらちゃんと止めてね?」

「…勿論そのつもりだが、自制する気は無いのか?」

「錬金術士というのはそういうものだ、善悪問わずな」

「…コメントは控えさせてもらおう」

 

奴らと違い、お前やライザのそれは微笑ましさすらあるがな。

 

 

「しかし、なんつうかここの遺跡…谷の壁にへばりついてるみたいな形だな」

 

崖際の道を進んでいく途中、レントがそんなことを呟いた。ふむ…

 

「恐らく、地形を利用して造られた城塞の類だと思うが…どう思う、アンペル」

「それで正しいだろうな。襲ってくる大軍を、この狭い谷にまとめて迎え撃ったんだろう」

「つまりこの辺りに散らばってる残骸は、クリント王国の軍隊の物…ということですね」

「これだけのものを造れるくらい凄かったのに、フィルフサの大侵攻でボロボロにされちゃったんだね…」

「ああ、奴らは雑兵でも馬鹿にならない力を持っている上に兎に角数が多い。頭を潰さない限りは物量で磨り潰されるだろうな」

 

逆に言えば、奴らの頭を潰すことさえできれば食い止められるということだが…迎え撃つという対応をした時点で、限りなく無理に近かっただろうな。

 

「朝聞いた話だと、クーケン島の人達がフィルフサから逃げきれた生き残りかもって話だったけど…またこっちに渡ってきて、この近くに隠れ里みたいなのを作って暮らしてた人達とかっていたりするのかな?」

「流石にいないんじゃないかな。フィルフサがいなくなるタイミングが解らないし、いなくなってもまた来るかもしれないからね。しかも近くにドラゴンもいて、そっちに襲われる可能性まである。じゃあ島に籠ってた方がよっぽどいいやってなってもおかしくないと思うよ」

「事情を知れば知る程、勝手に外に出ることが禁忌だと言われていた理由がよく解るな。正確に内容が伝わっていたなら、外に出る許可を得ることは難しかっただろうな」

「それでも我慢できずに出て行きそうだけどな、お前とライザは」

 

…確かにその2人はそうだろうな。だが…

 

「それはアンタもでしょ、レント」「それをお前が言うか、レント」「2人の事言えないでしょ、レント」

「3人同時にツッコむことねえだろ!?」

「うーん、私も3人に同意するかなぁ」

「お前もそっち側かクラウディア!」

「で、否定できるのか?」

「…いや、無理です、ハイ」

「棚上げはあまり関心しないな、レント」

 

お前が言うか、アンペル?…と言おうと思ったが「お前よりはましだ」等と返されそうだから止めておくか。私も思わず言い返したくなるから、余計な時間を食う羽目になる。

 

「まあ、その話はいいとして…何にせよ、この先の塔で何かが得られる気はして来たな」

「その何かが良いものだったらいいんだけどね…」

「…信じるしかないだろうな」

 

さて、そろそろ本格的に魔物とも遭遇するだろう。気を引き締め直して行くか。

 

 

「くっそ、ゴーレムが多いな…相変わらず剣で倒すのは骨が折れるぜ」

「魔法とかアイテムならちょっとは楽だけど、アンタどっちも苦手だもんね」

 

魔物を倒しながら、塔への道を進んでいたが…確かにここはゴーレム種が多い。私なら精霊の力を借りれば、幾分かは楽に倒せるだろうが…それでも少々手間取ってしまうな。

だがまあ、それならそれでやりようはある。

 

「アルム、合わせろ!ぶつけるぞ!」

「…成程!」

 

アルムと私で2体のゴーレムを挟むように動き…

 

「はあっ!」

「オ…ラァッ!」

 

真っ直ぐに蹴り飛ばして、ゴーレム同士をぶつけた。これなら奴らの硬さを利用し、その身を砕くことも可能だ。そして…

 

「そこだな」

 

アンペルが魔力のレーザーを打ち込み、2体のゴーレムは同時に動かなくなった。全く、こういう時はやたらと気が利く。

 

「とまあ、やり方次第である程度はカバー可能だ。お前なら剣の腹で叩けば似たようなことはできるだろう」

「わ、解りました。…今の、打ち合わせとかしてないんだよな?」

「ああ。…これはいろんな相手に有効だな。色々試してみるか」

「蹴った魔物をぶつけて、そこにアイテムでドーン、とか?」

「発想がえげつないなぁ…」

「えげつない発想ということは、大抵の場合効果的であるということだ。余程の手段でない限りは積極的に用いるべきだろうよ」

 

まあ、コイツ等がその余程の手段を用いる可能性は皆無に等しいだろうがな。

 

「ところでアルム、脚は大丈夫?さっきから結構ゴーレム蹴ってるけど」

「ああ、特に痛みとかは無いな。お前が作ってくれたコイツ…「エタニティダンサー」のおかげだ」

「そっか、良かった。…えへへ」

 

「エタニティダンサー」は、素材と構造の両面で足への負荷を極限まで減らすブーツで、以前アルムが技の反動で足を挫いたことへの対策として作られた物だ。私もアルム程ではないが蹴りを多用するから、出来るなら欲しい代物だな。後で頼んでみるか。

 

「とりあえず、これでこの辺りの魔物は倒したね。先に…あれ?」

「どうした、クラウディア?」

「向こうに見えるあの石板みたいなの、どこかで見たような…」

 

向こうの石板…あれは、まさか。

 

「まさかアレ、古城にあった召喚機じゃねえだろうな?」

「確かになんか似てる気はするけど…」

「ここでフィルフサとの戦闘があったなら、同じものが設置されていてもおかしくはないだろうな」

「ってことは、また竜が出るの?」

「アレが本当に召喚機で、起動もしていて、近くに竜がいればな」

「近くにいれば?」

「ああ、特定の魔物を呼び寄せる波長を放出しているんだ。だから、近くに対象となる魔物がいないならアレは無意味なオブジェだ」

 

ああ、何もいなければそうだな。…何も、いなければ。

 

「じゃ、じゃあ、大丈夫だよね?古城にもいたんだし、島の近くのこんな狭い範囲に2頭目の竜なんて普通いないと思うし…」

「…俺も、そう思いたかったがな。アレを見ろ」

 

そういってアルムが指差した先には…青い鱗で身を包んだ竜がいた。なんとなく、気配は察知していたが…やはり竜のものだったか。

 

「竜が住み着いた古城、フィルフサが這い出てくる異界の門ときて、遂には2頭目の竜か」

「…そう聞くととんだ魔境だな、この辺り」

「…戦うしかないのかな」

「そうしないと塔まで行けないでしょ。それに、あの時と違ってアガーテ姉さんたちは居ないけど、代わりにいるのがアンペルさんとリラさんだし、前より楽に戦えると思うわよ」

「いやでも、あの竜が古城にいた竜より強いって可能性もあるよ?」

「その可能性を挙げるとキリが無いが…さて、どう戦うか」

「ふむ…どう戦う、か。いや…」

 

…?アンペルは何を考えているんだ?

 

「1ついい案がある。上手く行けば楽勝、失敗してもまあ普通に戦えばいいだけ。…そんな案だが、どうだ?」

 

そう言いつつにやりと笑うアンペル。…コイツがこんな笑い方をするときは、大抵敵対者が碌な目に合わない時だ。一体どんな案を出してくるのやら…。




シャイニングぷには 少し アルムに懐いた!
あそこに鎮座してるあいつをどうしてもネタにしてみたかった。初めて見た時「何かいる!?」ってなりましたし、戦うと妙に強いし…

武器更新 エアスプリンター→エタニティダンサー(永遠の舞踏者)スロットは4つ。
武器スキル 永遠の舞(アクティブスキルとクイックアクションのAP消費を1減らす、行動後、確率でAPを1上昇させる)

Q.なんでハニーアントとか甘露の実とか持ってたの?
A.「暇を見てつまもうかと思ってな。まあ、予想外の役の立ち方をしたが」

Q.碌な目に合わなかった敵対者って誰?
A.原作でも語られる「金庫を爆破された酷吏」です。この作品では、爆破する直前それはもういい笑顔をしていたことにします。

ここまで読んでいただき、有難うございました。


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彼らと遭遇した竜は、どうも碌な目に合わない

前話でどんだけ詰まってたんだって話である。

アンペルは技名言わない勢。この二次だと他にアルムとリラ(アインツェルカンプ除く)が該当します。

竜討伐。今回はアンペル視点→アルム視点です。
3/29 誤字報告があったので修正。


(さて、全員配置についたか)

 

召喚機に誘われて飛来した青い竜。それを討伐するための策を成すために私はタイミングを見計らっていた。…策と言っても、二重三重の罠を張るだとか、策だけでどう転んでも確定勝利だとか、そんな大層なものではないがな。

私は召喚機の西側にある程度形が残っている建物があったので、その中で待機している。折角こんな都合の良い位置に残っているんだ、有り難く使わせてもらおう。…途中の道が崩れていたので、流石にリラに運んでもらうことにはなったが。

同様に、ライザ達にも召喚機の南側に残っている建物を利用させている。そっちは中には入らず、陰に隠れているだけだが。

 

(普通に戦ったところで負けることは無さそうだが…消耗は減らすに限るからな)

 

戦闘に於いて特に消耗するのは、相手の攻撃に対応するときだ。避けるにしろ受けるにしろ、攻める時以上に一度の失敗が致命傷になりかねないからだ。だからより神経を尖らせる必要があり、結果的に肉体、精神両面で大きく疲労が溜まる。

そしてそれは、我々人間だけでなく、奴ら竜にとっても同じことだろう。そこを衝く。

 

(それでも不確定要素は少なくは無いが…まあ、そうなったら一番危険なのは奴に真っ先に仕掛ける私だ)

 

私が魔法で奴に攻撃する。それが作戦開始の合図だ。その時、少しの間奴の注目は私に向けられることになる。というより、こちらに注目するまで攻撃を続けると言った方が正しいな。

 

(…さて、奴が高度を下げた。そろそろ仕掛けるか)

 

この辺りに奴を脅かすような魔物は居ない。だから、奴はほぼ無警戒で休憩の為に地上に降りてくる。…だが、それが命取りだ。行くぞ!

 

時よ、巻き戻れ(クロノリバース)!」

 

まずは奴の時に干渉し、その力を削ぐ。…恐らく殆どダメージは入っていないだろう。竜がこちらを睨みつけてきたが、「何かしたか?」とでも言いたげな表情だった。なら…

 

「もう少し何かさせてもらおうじゃないか。…少し止まっていろ(バインドシュート)!」

 

先ほど施した時への干渉を長続きさせる為に追撃を行う。…少し表情が変わったな。己の異変に気付いたか?

 

――ガァァァァァァァァァァァァッ!!

 

私に向かって竜が咆哮する。狙い通り、私に意識を集中させることができたな。

 

(さて、ライザ達は…良し、出てきたな)

 

このまま待ってもいいが、私の安全確保とライザ達がより接近できるようにするためにもう一手打たせてもらう。

 

「雷を食らえ!」

 

コアにセットしたアイテム「雷の呼び鈴」の力で呼び寄せられた雷が竜に直撃する。これは流石に効いたようで、苦しそうな呻き声をあげた。そして…

 

「よーし、射程圏内!行くわよ二人とも、せーのっ!」

「「「ローゼフラム!」」」

 

立て続けにライザ、クラウディア、タオの3人が同時にフラムの強化版である「ローゼフラム」を叩き込む。

 

「まだまだ、畳み掛けるわよ!」

「「うん!」」

 

そして間髪入れずに3人が魔力で弾幕を張る。ローゼフラムなどと比べれば威力は無いだろうが、消耗した奴にとっては鬱陶しいことこの上ないだろうな。今すぐこの場を離脱したいだろうが…

 

「させんよ。もう一度止まっていてもらおうか(バインドシュート)!」

 

再び干渉を延長させ、奴の動きをより鈍らせる。奴は時への干渉とダメージによる疲労で中々飛び立てずにいる。

 

「うおおおおおおっ!」

 

そこに、弾幕の中を駆け抜けたレントが肉薄。大剣の一撃で右の脇腹の辺りに傷を負わせた。…ここまでは完璧だ。次は…?

 

――グ、オオオオオオオオオオッ!

 

竜は無理矢理捻り出したような咆哮と共に、強引に飛び立った。そしてある程度高度を稼ぐと、翼を大きく広げ、大きく息を吸うような体制をとった。

 

「あれは、古城の竜と同じ…!」

「大技の準備体勢だ!」

「…成程、アレがか」

 

大方、まともな攻撃が届かない高度まで上がり、広範囲の一撃で全員纏めて吹き飛ばすつもりなんだろう。たが、竜よ。

 

「我々は、5人でここまで来たわけではないぞ?」

 

そう私が言うと同時に、崖から竜の上目掛けて黒い人影…リラが飛び出し、竜がそれに気づく。咄嗟に標的を飛び出したリラに変えようと体制を少し変えたが…次の瞬間。

 

――ドゴォォン!

――ガァァァァァァッ!?

 

轟音と共に、先ほどレントが傷を付けた竜の脇腹に巨大な青い矢――アルムの蹴りが突き刺さり、竜は悲鳴を上げる。

 

「その二人に気づけなかったのは、不運だったな」

 

私は勝利を確信しながら、そう口にした。

 

 

 

 

 

『竜の完全封殺…ですか』

『ああ。それも、消耗を可能な限り少なくして、だ』

 

アンペルさんから提案された策、それは「不意打ちから相手の動きをコントロールし、何もさせないまま殺しきる」というものだった。…このメンバーとはいえ、竜相手にそれができるだろうか?

 

『まず私が仕掛けて注意を引き付け、そこにライザ達が間髪入れず追撃し、更にレントが一撃。恐らくここまででは倒しきれないだろうから、飛びたそうならわざと飛ばせる。そうでないなら、まあそのままでいい。

もし飛んだなら、単に逃げるか、それともお前達が言っていた大技が飛んでくるか、どちらかだろう。そして恐らく、大技を撃ってくる可能性の方が高い。古城の竜の物と似たようなものであるならば、だがな。

そして、そんな大技の準備となれば、大抵は隙だらけなものだ。…そんな時に全力なら竜の頭すら吹き飛ばす男の一撃が不意に入れば、奴とてひとたまりもないだろう』

 

…要するに、アンペルさんが言いたいことは。

 

『俺はこの崖を登って、竜が大技を出してくるのを待て…ということですか』

『ああ。…ところで、我々人間と比べた時に竜が持つ最大の強みは何だと思う?』

 

竜が持つ最大の強み…恐らくは。

 

『空を飛べること…ですか?』

『ああ、空を飛ばれれば普通は我々には成す術がない。だがお前はある程度空戦に対応できるだろう。だから大技の隙を突いた後、奴の翼をへし折って地面に叩き落してほしい。ただ、一人ではアルムでも厳しいだろうから…』

『私も崖上に行け、ということか』

『ああ。お前の爪で事前に傷でもつけて、尚且つ片翼はお前が担当すればより確実だろう。お前なら、あの崖から跳べば届くだろうからな。それと、先にお前が跳んで竜の意識を向けさせることが出来たなら、それだけアルムの不意打ちが決まりやすくなるな』

 

…本当にえげつないというか、殺意しかないというか。

 

『傷か…そう言うことなら、俺の一撃はアルムが突っ込むところに入れといた方が良いんじゃねえか?』

『そうだな、その方がより効くだろう』

『あたし達の追撃って、まずどうすればいいかな』

『ローゼフラムで良いんじゃない?アレ、威力凄いし』

『その後はレント君が前に出やすいような形で追い打ち…かな?』

『ああ。それで私達が奴を空から引きずり落としたら一斉攻撃で止めだ』

『ふむ、それなんだが。止めはレントに任せてみようと思う』

『俺に?』

 

レントが止め役…ああ、成程。

 

『確かお前、ようやく必殺技の案がまとまったと言っていただろう?ついでだ、ここで形にしてみるといい』

『ぶっつけ本番でか…いやまあ、確かにそこで俺がミスったところで勝ち負けは変わらねえけどよ』

『まあ、お前なら上手く行くだろう。むしろ、俺がミスをしてレントの邪魔をしてしまうことを気を付けた方が良いくらいだ』

『…お前にそこまで言われちゃ、絶対やるしかねえじゃねえか。やってやるぜ…!』

 

後気にすることは…ああ、これは聞いておかなければな。

 

『もし、そもそも飛ばなかった場合は?』

『それはそれでお前達が上から奇襲できるだろう。狙いは少し付けにくいだろうが』

 

考えてみれば、飛んでいない時点で相手は最大の有利を自分で潰していることになるから、それはそれでいいのか。

 

『さて、他に質問は?…無いようだな。では、各々持ち場についてくれ』

 

さて、俺の役目が恐らく一番重要だ。気合を入れて行くか。

 

『ああリラ、私の持ち場だけ途中の道が崩れているから運んでくれ。流石にあれは通れん』

『…仕方のない奴だ』

 

そう言いつつ、リラさんがアンペルさんを持ち上げた。…俗にお姫様抱っこと呼ばれるやり方で。

 

『…なあ、アレ…』

『凄く自然にやってたね…』

『絵面のシュールさが酷いよ…』

『アンペルさんは何とも思わないのかな、あれ…』

『…あの2人の距離感がよく解らん』

 

何というか、微妙に締らないな…

 

 

(ここまで、上手く行くとはな…!)

 

竜の脇腹に蹴りを叩き込みながら、俺は内心驚いていた。ここまでは、完璧にアンペルさんが書いた筋書き通りだ。

 

(どこまで読み切っているんだ、あの人は)

 

あの人が良い錬金術士で本当に良かった。もし悪党の類だったら…想像もしたくないな、二つの意味で。

 

「ハァッ!」

 

そんなことを考えている内に、リラさんが竜の背に乗り翼への傷付けを終えたようだ。俺は軽く魔力を噴射して上昇し、竜の翼膜を掴んで背中に乗る。

 

「来たか。やるぞ!」

「はい!」

 

竜は傷の痛みと疲労で碌に動けないようだ。これなら、思い切りやれる。俺とリラさんは同時に軽く跳躍し…

 

「「堕ちろッ!!」」

 

翼の付け根に、全力の踵落としを叩き込む。…感触で分かる、確実に竜の翼は折れた。これならもうこいつは飛べない。

 

――グァァァァァァァァァァァァッ!!

 

悲鳴を上げながら竜が墜落する。ここまで行けばもう負ける要素はないだろうな。

 

「リラさん、着地は?」

「精霊の力を借りる、心配はいらん」

「解りました。なら後は…」

 

レントがしっかり、この作戦の〆をやってくれる。それを見ていればいい。

 

「…決めてやるぜ!」

 

レントは剣を真っ直ぐに構え、気合いと集中力を極限まで高めている。そのせいか、体から赤いオーラのようなものが噴き出ている。…間違いない、今からとんでもない「一撃」が放たれる!

 

「――うおおおおおおおおおおおおっ!」

 

雄たけびを上げながら、剣を思い切り振り上げる。タイミングも完璧。なら後は!

 

「「決めろ、レントッ!!」」

 

(親友)リラさん(師匠)が外から気合を入れてやれば、アイツは応えてくれる!

 

 

 

 

「おおおおおりゃあああああああっ!!!」

 

 

 

 

そうして放たれた、レントの必殺技は…

 

「…竜が」

「真っ二つに…」

 

傷ついてなお屈強な竜の体を、頭から尾にかけて両断していた。更に…

 

「それどころか、届いていない筈の地面まで斬れているな。竜を叩き斬って尚これほどの余波が発生したのか」

「凄い…」

「ふ、流石私の弟子だ」

「我が親友ながら、とんでもないな」

 

止めを刺せると信じてはいたが、予想をはるかに超えられてしまったな。…流石だよ、親友。

 

「えっと…それで、レント君は…」

「ぜひー…ぜひー…」

「…満身創痍だね」

「ホントに全部注ぎ込んだのね…まあ、あれだけすごい一撃ならそうなっちゃうか」

「…一旦休憩にするか。時間的にもそろそろ昼飯時だしな」

 

魔物もちらほらいるが…竜を倒した相手にわざわざ近づくこともしないだろうな。

 

 

「しかし…こう言っては何だが、お前達と戦う竜は碌な死に方をしないな」

「ああ、今回は頭から尾まで真っ二つで、古城の竜は頭部が消し飛んだんだったな」

「…これぐらいやらないと不味い相手ですしね」

 

真っ二つになった竜から素材を拝借している間、アンペルさんとリラさんからそんなことを言われた。…だったら、次また竜にあったら今度はどんなことになるやら。

 

「それで、あっちは大丈夫なのか?」

「…そうですね」

 

 

「疲れすぎて、飯が碌に喉を通らねえ…」

「だったらまずこれ飲む?」

「え、何その…どどめ色って言うの?なんか凄い色した液体…」

「錬金術で作った薬をさらに色々混ぜてみたわ!」

「だ、大丈夫なの?聞くだけで色々凄そうだけど…」

「…アルムが言うには「気絶できるならその方が幸せ」だそうよ」

「これ飲んだのアルム!?」

「私は一口にした方が良いって言ったんだけどね。こう、グイっと…」

「…アルム君って、時々よく解らないわ…」

「…それは俺達もよく思ってる。本当に時々変なことするんだよアイツ…」

「まあでも効果は確かみたいだから、疲れも吹っ飛ぶわよ!さあ、アルムみたいに思いっきりグイっと!」

「イヤちょっと待て!今の話聞いてそんな思い切り行けるわけねえだろ!」

「えー…じゃあクラウディア、これ持って!」

「え、私?」

「何させるつもりだよ…」

「クラウディアみたいな可愛い子がちょっとずつ飲ませてくれるなら少しはマシになるでしょ!」

「そういう問題じゃないと思うよこれ」

「そうだよ!私よりライザの方が可愛いよ!」

「反論するとこズレてるぞクラウディア!?」

「絶対にクラウディアの方が可愛いわよ!ねえ、そう思うでしょタオ!」

「僕にそういう話振らないでよ!何の参考にもならないよ!?」

「くっそこれ収集つかねえぞ!早く来てくれアルム!」

 

 

「呼ばれたので、そちらはお任せします」

「ああ。行ってこい」

 

とりあえず、薬はさっさとレントの口に突っ込んで、「個人的にはライザが一番可愛い」と言っておいた。レントは5分程気絶して、ライザは10分程真っ赤になっていた。…言う方もそれなりに恥ずかしいな、これ。




レントのフェイタルドライブが原作から変わります。…いいよね?一応名前は決まってます。
そして今作随一の不憫キャラとなってしまった天統べる覇竜。マジで何もさせてもらってない。しかも倒された話の締めが関係ない話な上にユルい。
それと最後の会話ばかりのところは、こうしたほうがほっとくと収集着かない感が出るかな、と思ったので。何も考えずに会話させると延々と脱線するなあこいつら…

Q,何でそんな見るからに不味そうなものをアルムは飲んだの?
A,「これでもし美味かったら面白いよな…」みたいなノリで。その後「やっぱり駄目だったか…」ってなりました。

ここまで読んでいただき、有難うございます。


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新たなる道具と友?を得て、夢と希望の聖塔へ

会話の真面目成分が増えると表現に悩む(言い訳)

レントが無双した後アイツが再び登場。そして塔に到着。コイツ等もう道中の雑魚敵に苦戦する様子が想像つかないな…
今回はタオ視点→クラウディア視点です。
3/29 誤字報告があったので修正。


「うおおおおおおおああああああああ!」

 

「…レント君、凄いね」

「凄い事になってる理由は凄くアレだけどね…」

 

休憩を済ませて改めて塔に向かっている途中、僕たちは道中の魔物の対処を…してない。レントが1人で暴れまわって、それでどうにかなっちゃってるからだ。

さっきまで竜がいたから、まだ大人しくしてる魔物もいるのもあるだろうけど…にしたって凄い暴れっぷりだよ。

 

「…薬の後味が悪すぎて口の中が気持ち悪いのに、それに反して体の調子は凄く良いから、違和感が凄くてイライラしてるんだっけ」

「暴れて吹っ飛ぶようなタイプのイライラじゃないと思うけどなぁ。口の中に残ってるし」

「猛烈に甘い菓子の1つでもつまんだ方がまだ効果的だな。言えば少しくらいは融通してやったのだが」

「途轍もない甘味狂いであるお前から、融通してもらえるとは思わなかったんじゃないか?」

 

…レントには悪いけど、多分その発想が無かっただけだと思うなぁ。

 

「…流石に無理矢理飲ませるのは良くなかったな」

「それもだけど、まず味をどうにかしないとねー。何か案ある?」

「ハチミツでも混ぜてみるか?昔母さんがエルに薬を飲ませる時にやってた覚えがある」

「じゃあそれで」

「…その話し合い、もっと早くやっておくべきだったんじゃないかな」

「まさか使うことになるとは思わなくてな」

「その内レシピ変化とかでもっといいのが浮かぶだろうし良いかなって」

「変なところで見通しが雑だよ…っていうか使わずに済んでたらどうするつもりだったのさ」

「飲んでたな」

「サラッと言うことじゃないよね?」

 

いや、確かにその辺に捨てたら何が起こるか解らないからそうした方が安全なんだろうけどさぁ…自分で言ってたじゃん、気絶した方がマシな味って。

 

「アンペル、良いレシピの1つや2つくらい教えてやっても良いんじゃないか?」

「それを自分で閃いたり探したりするのが一流の錬金術士というものだ。今回は特に火急の用でもなかったようだし、わざわざ教える必要はなかっただろう」

「そういうものか」

「ああ。…まあ、私が知るレシピではそもそも素材が足りないからあったところで作れんがな」

「…つまり、レントはどの道アルムにアレを飲まされる運命だったってことになるんじゃ…」

「…そういうことだな」

 

…多分今までで一番レントに同情してるよ僕。今後誰かにこれ以上同情することなんて、そうそうないんじゃないかなってくらいには。

 

「あ˝ー…」

「あ、戻って来た。…ホントに1人で粗方片付けちゃったんだ」

「お疲れ様、レント君。…どう?」

「ちょっとはスッキリしたけど後味が全然消えねえ…いつまで続くんだコレ」

「最低でも4~5時間程だな」

「うっげ…どうすりゃいいんだよ」

「やはり上書きした方が早そうだな。ほら、ドーナツを分けてやる」

「あざっす。…死ぬほど甘ったるいのに、今はこれが丁度いいと思えてくるぜ…」

「そこまで言われてると、逆に気になってきちゃうな…」

「「飲むなよ。絶対に飲むなよ」」

「少なくとも味の改善ができるまでは絶対にダメだからね!」

「う、うん、解った」

 

うん、クラウディアが飲むとか言い出したら僕も全力で止めるよ。

 

「ああ、それとちょっとアンペルさんに見て欲しいものがあるんだけどよ」

「ん、私に?」

「あっちに釜みたいなのが転がってたんだよ。ただの釜がこんなとこにあるとは思えなくてな」

「ふむ、釜のような物か…それならば「アレ」の可能性があるな」

「アレ、って?」

「便利な代物だ。レント、案内してくれ」

 

アンペルさんには心当たりがあるみたいだ。ってなると多分古式秘具か何かだと思うけど…なんだろう?

 

「えーっと、この辺りに…お、これだ」

「何これ?錬金釜のような、そうでないような…」

「『複製釜』だ。調合品に限って複製して量産ができる古式秘具でな、錬金術士なら1つは持っておきたい代物だ。コアクリスタル同様、割とあちこちで見つかっているぞ」

「調合品の複製…つまり、限界まで品質を高めたものを一つでも作っておけば…」

「最高品質のものを大量に増やすことができる、ということだ」

 

…異界と繋がる門とか召喚機みたいなのがあるからちょっと麻痺しかかってたけど、十分とんでもない道具だよねコレ。しかも量産されてたって、一体どうやったらこんなものが造れるんだろう…

 

「…コレの存在をモリッツさんとルベルトさんと、後ロミィさんが知ったら何と言うだろうな」

「…ライザ、これで増やしたものを無暗に流通させたら駄目だよ」

「え?うん、錬金術で使う分だけにするつもりだけど…」

「あんまり派手にやりすぎると物の価値が滅茶苦茶になって、商人と職人が商売あがったりになりかねないな」

「要するにルベルトさんとロミィさんにすげえ迷惑をかけるってことか」

「流石に無いと思うけど、モリッツさんが変なこと言ってきてもしっかり断らないと駄目だね…」

 

まあ、そもそも存在をバラさなければいいんだけど。…それにしても、使い方次第で経済もどうにかしてしまいかねないなんて、古式秘具って本当にとんでもないなぁ。

 

「それで、どうするんだ?担いだまま塔の探索をするわけにもいかないし、だからと言って今からアトリエまで戻るのも手間だぞ」

「そうですね…見た目からしてそう軽いものではないでしょうし、もう暫くここに置いておいて帰りに持ち帰るしかないでしょうね」

「まあ何百年も野ざらしにされてたみたいだし、後数時間そのままでも変わんないでしょ」

「忘れちゃわないようにだけしなきゃね。どこか見えやすい所に置いておく?」

「そうだな…ん?何だ?」

「…足音?」

 

複製釜をどうするか考えてると、何か重たそうな足音のような音が聞こえてきた。…アレ、ついさっきもこんなことがあったような…?

 

「…なあ、嫌な予感がするんだけどよ」

「…まさか、だよな?」

 

うん、いや、まさか、無いよね?あの時のアイツがまさか追いかけてきてるなんて――

 

「ぷに」

「「「「「「「…」」」」」」」

 

追 い か け て き て た 。え、何で!?まさかと思うけどアルムに懐いた!?虫と木の実で!?

 

「ぷに!」

「あー、ああ。さっきぶり、だな」

「ぷに…」

「え、何かあたし達をジロジロ見てる?」

「…ぷに~!」

「笑ってる…よく解らないけど、安心してるのかな?」

 

安心してる?つまり僕達を心配してたってこと?何で…あ、もしかして。

 

「…レントの必殺技?」

「は、俺!?」

「いや、アレ凄い音したでしょ?あの時の音、多分このぷににも聞こえてたんだと思う。で、僕らがその音がする方向に向かってるところは見てたはずだから…」

「ご飯くれた良い人…アルムが心配だから様子を見に来た?」

「ぷに!」

「合ってるみたいだよ」

「…何と言うか、な」

 

あ、珍しくアルムが本気で困惑してる。まあ、こんなことになったら大抵の人はそうなるだろうけどさ。

 

「あ、そうだ。この子に頼めばいいんじゃない?」

「まさか、複製釜の見張りをか?」

「うん。アルムが心配でここまで来てくれるくらいには良い子みたいだし、アルムが頼めばやってくれそうじゃないかな?リラさんが強いって言うくらいだから、何かあっても守れそうだしね」

「どうする、アルム?」

「…頼んでみます。…あー、俺達が戻ってくるまでそいつを守ってくれないか?今そいつを持ち運ぶのはちょっと無理があってな…」

「ぷにっ!」

「任せろ!って言ってるのかな?」

「っていうか、ホントにあれで懐いたんだね…」

「いいじゃねえか、結果的にそれで助かってるんだからよ」

 

赤ぷにとかは寒い所に行く旅人とかが持っていくって話は聞いたことがあるし、もしかしたら種族全体がある程度人に慣れてるところがあるのかもしれないけど…にしたってこれは流石にレアケースだろうなぁ。

 

「さて、懸念事項も解決した。後は塔まで向かうだけだな」

「おう。これまで色々あったが、ようやくだぜ…!」

「ここで絶対、手掛かりを見つけなきゃ…!」

「…そうだったな、何時までも戸惑っている場合じゃない。行こう、皆」

 

…いよいよ塔かあ。冒険に出るまで、いや出てからも暫くはここまで来るとは思ってもみなかったなあ。一体どんな新しい知識が眠っているんだろう…!

 

 

 

 

「…やっと!遂に!俺はやったぞおおおおおっ!」

 

「レント君、すごく嬉しそうだね」

「アイツの長年の夢だったからな、ああなるのも当然だ」

「ずーっと言ってたからね、俺は絶対に塔までたどり着くんだーって」

「これで、レントは夢を一つ叶えたんだよね。…僕も、あと少しだ」

 

複製釜をシャイニングぷにちゃんに任せて、私たちは峡谷を進んだ。その先に待っていたのは…島からも見えてた、あの塔。みんなが目指してたところに、やっとたどり着いた。

凄く喜んでるレント君を見て、他の皆も嬉しそうにしてるし、私も嬉しい。だって、友達の夢を手伝うことができたんだもん。

 

「気持ちは解るが、程々にな。…地形からして、ここが最後の砦のようだな」

「峡谷を突破され、ここまで追い込まれた訳か。…この荒れ具合、撃退できたようには思えんな」

「それじゃあ、ここにいた人たちは…」

「それは中に入って詳しく調べなければ解らんな。…想像通りだろうが、な」

「ですね…ん、タオ?なんだそれは?」

「ちょっと碑文のようなものを見つけたんだ。えーっと…『聖なる塔ピオニール、暴虐の魔物フィルフサを、誘いて滅ぼすべし』かな」

「『ピオニール聖塔』か。随分と背負った名前だが…誘いて、とはどういうことだろうな」

 

うーん、やり方は竜みたいに召喚機とかを使ったんだと思うけど、わざわざこんなところにフィルフサをおびき寄せる必要があったのかってことだよね…

 

「他の所に行って欲しくなかったんじゃない?そうじゃなきゃ誘導なんてする必要ないし、やるにしてもこっちに来させないでしょ」

「だったらまず考えられるのが…滅ぼすべしなんて書いてるし、ここでならフィルフサを倒しきれる自信があったのかな」

「どうだろうな。少なくとも、ここが防衛に向いた地形であることは確かではあるが」

「それ以外に理由があるとしたら…避難民を逃がす為でしょうか?」

「あり得るな。此処に奴らを集中させればそれだけ他が安全になる」

 

自分達の国の施設に誘導して、国民たちは逃がした。本当にそれが目的なら…

 

「王国の偉い人達は、自分達のしたことに責任を感じて、出来るだけ他に迷惑が掛からないように対処しようとしたのかな…」

「だろうな。まあ、だからと言って奴らの行いは到底許される物ではない。大人が自分の行動の責任を取るのは当然の事だ」

「それに、末端の兵士などはギリギリまで事情を知らされていなかっただろうからな。クリント王国だけで見ても責任が無い者を巻き込んでいないわけでは無い」

「そして、巻き込まれた結果がこれだけの惨状を作り出した戦いに参加する羽目に…ですか。考えなしに動くと周りに迷惑がかかるものですが、これはその最たる例ですね」

 

…私も、気を付けないと。そういうの、自分でも気づかないうちにやっちゃってることってあるかもしれないし。

 

「…で、この惨状を作り出したフィルフサが、もうすぐ門から来るのよね」

「ああ。早急に門を閉じなければ、ここら一体が荒らしに荒らされる」

「閉じるんじゃなくて、壊すのは駄目なのかな?フィルフサは出てこれなくなるだろうし、万が一再利用されるのも防げると思うんだけど」

「それが出来れば一番良いのだが…異なる世界を繋ぎ留めるためには莫大な力が要る。そこに下手に大きな衝撃を加えてしまうと…その力が解放されてえらいことになる」

「だからと言ってそのまま放置してしまえば、フィルフサの大侵攻が始まり…島だけ無事で、それ以外のここら一帯は荒らしつくされる、か」

「で、だからって異界に水だけでも返そうとして球を壊しちまうと島の水が無くなる…今んとこは八方塞がりだな」

「…どうすれば、みんな無事で済ませられるのかな」

 

リラさんとキロさんの世界に水を戻してあげたいし、本当にクーケン島が危ないのならそれもどうにかしたい。そして、皆で冒険してきた場所…思い出をフィルフサに荒らされたくない。でも、どうすればいいのか解らない。どうすれば…

 

「その方法を見つける為に、皆でここまで来たんだよ。あたしはそう思ってる」

「ああ。どれだけ時間がかかっても、見つかるまで探し続けるだけだ」

「…そっか。うん、そうだよね」

 

目の前に可能性があるなら、悩むより先に動いた方が良いに決まってるよね。「どうしよう」なんて言うのは、何も見つからなかった時だけでいいんだよね。

 

「資料を読み取れるのは私とタオだけだ。何か見つけたらどちらかに報告してくれ」

「責任重大だなぁ…でも、だからこそかな。凄くやる気が出てくるよ」

「俺は邪魔が入らないように、周りの警戒とかしてる方が良さそうだな。そういうの探すの苦手だしよ」

「ああ、だが手が空いたら私達も手伝うぞ。人手が多いに越したことはないからな」

「後は、余裕があったら塔の周りの探索と…あ、塔の下の方にも入口がありそうじゃない?」

「なら、先にそっちを見た方が良さそうだな。…さて、行こうか。『答え合わせ』をするために」

「うん。皆、頑張ろう!」

 

どうかここで、全て上手く行く方法が見つかりますように。




前半後半ともにレントの叫びで始まる回でした。片や八つ当たり、片や歓喜の雄叫びですが。
複製釜については、見つけて即アトリエに直帰するなら兎も角そのまま塔に行く場合どうするんだろうと考えてたらなんか思いついたのでやりました。今後このぷにがどうなるかは…まあサブタイの通りということで。
経済については、ライザがやるかどうかは別としてやりすぎるとそうなりかねないよねと思ったので。まあ、本当に余程やりすぎない限りはそこまでにはならないと思いますが…

Q,このシャイニングぷにいくら何でも友好的過ぎない?
A,タオにも言わせてますが、公式で赤ぷにが旅人が寒冷地に行くときに持っていくという記述がある&DLCのぷにといっしょがあるので、ぷには人に慣れてるor慣れやすい性質があると思いました。
で、あんなところにいるぷに系最上位の奴なんでなんか色々盛りたくなってその結果がコレです。

ここまで読んでいただき、有難うございました。


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王国の絶望、覚悟、後悔、未練、そして最期の成果を知る

遂にライザ3が発表されましたね。来年2月22日か…流石にそこまでには本編終了まで行けてるよな…?

塔の中で見つかる手記とか陣中日記とかは全部そのままです。改変し得る要素が何処にも無いので。
塔を調査。今回はレント視点→アルム視点です。


「これ、貯水池かな?もうすっかり涸れちゃってるけど」

「こんな山奥で軍隊規模の人間が活動するんだからな。常に大量の水が必要だっただろう」

 

塔に着いた俺達は、まず橋の下にある方の入り口の所から探索することにした。…あの位置から見えるような入り口じゃなかったように思えるんだが、ライザ曰く「見た感じなんかあるような気がした」らしい。錬金術士ってのはそこまで勘が鋭くなるもんなのか?

で、入ってみたら貯水池みたいな溝があった。どっからどう見ても完全に涸れてるが…

 

「大量の水が常に必要、だがどこかから水を引いていたような痕跡も無い。それに…」

「うん。この台座…あの離れにあったのとそっくりだ」

「ってことは、あの球はここに置いてあったってことか?」

「そうなるな。…つまりあの古式秘具は、籠城戦の為にここに持ち込まれたことになるな」

 

…リラさん、怒ってねえだろうな?

 

「成程、我らの聖地から奪った水をどこまでも利用しつくしていたというわけか。…ああ、心底見上げた心がけだな、本当に…!

「ちょ、怒るのは解るけど落ち着いてくれリラさん!」

「私は、冷静だ…!!」

「はい!分かりました!」

 

めっちゃ怖え…どっからどう見てもキレてるぞリラさん…!

 

「…戦いから数百年経った後にボオス君のご先祖様が此処にたどり着いて、あの球を見つけたんだね」

「そういうことだね。…当時の人達には、凄いお宝に見えただろうな」

「実際それで助かった訳だしな。だからってそれを利用して威張り出したのは頂けねえけどよ」

「個人として悪い印象は特に無いが、モリッツさんにはそろそろ別の事で威張れるようになってもらわないとな」

「なんだかんだ上手くやりそうだけどね、モリッツさんだし」

 

だからまあ、水源の問題さえ解決したら遠慮なく異界に水を返せるわけだ。モリッツさん以外誰も困らねーし。

 

「なんにせよ、これであの古式秘具の出処も確定したな。ここにはもうめぼしいものは無さそうだし、次は上を見に行くぞ」

「はい。…さて、何が見つかるかな。楽しみだ」

 

…俺が知る限りで今までで一番いい笑顔してんな、アルム。

 

 

「何だ、このでけえ骨は…竜か?」

「大きさは確かに同じくらいだね。…でもどうやってここに入れたんだろう、ここの入り口は流石にちょっと狭い気がするし」

「確かにさっき楽しみとは言ったが、入っていきなりこれか。色々期待できそうだな」

 

塔の調査をしつつ天辺を目指す為に扉を開けた俺達の前に最初に現れたのは、かなりデカい…多分竜か何かの骨だった。塔の周りとかなら兎も角、どうやってここまで運んだんだろうな?タオが言うように、どっかから入れれそうな感じもねえしよ。

 

「『門』の技術を応用すれば、入れるだけなら不可能ではないだろうな」

「別の世界と繋げられるなら同じ世界でも行けるでしょって事?…それはそうかも」

「そう聞くと本当に凄いね、クリント王国の錬金術って」

「それならそれで、何故態々中に入れたのかという話になるがな。防衛が目的なら、動きが制限される塔の中より思い切り暴れさせられる外に配置した方が間違いなく良い」

 

ってことは防衛目的じゃなさそうか?でも、他にこんなことする理由も無いよな…

 

「まあ、今考えて答えが出ないなら先に進んだ方がいいな。新しい情報があればそれだけ考察も捗る」

「そうですね、行きましょう。…しかし、予想はしてましたが酷い荒れ具合ですね」

「ホントだよ、階段もちょっと崩れてるし。…崩れないよね?」

「流石に心配性が過ぎるわよ、タオ。むしろフィルフサとの戦いでこれくらいしか崩れてないんだから、それだけ丈夫だってことになるんじゃない?」

「でも、何百年も前の建物なんだよね、ここって。…私もちょっと不安になってきちゃったかな」

「もしそうなったら、上に行けるのリラさんとアルムしかいなくなるよな…」

「心配する気持ちも解るが、奴らの技術力本物だ。暴れ過ぎなければ滅多なことは起きないだろう」

 

…思いっきり剣を振り下ろすのは止めた方が良いな。つーか今思いっきり「は」を強調してたなリラさん。

 

「えーっと、この部屋には…巨大なボウガン?」

「えっと、確かバリスタって言うんだよね、これ。ここからフィルフサを撃ってたのかな」

「防衛用の設備か。…威力はありそうだが、奴らの数の前には焼け石に水だな」

「あの時異界で見たのとは比べ物にならねえくらいうじゃうじゃいたんだよな…あんまり想像したくねえな」

 

1体だけでも、見た目と雰囲気だけで何か嫌な感じがしちまうしな、アイツら。

 

「ん?この紙は…」

「何か見つけたのか、アルム」

「ええ。…此処で戦ってた兵士の手記みたいですけど、俺では解読しきれませんね。タオ、頼む」

「うん。えっと…」

 

――「もう時間が無い。あの恐ろしい魔物との戦いは、あっという間に始まり、終わろうとしている」――

――「俺は街道を警備する一兵卒でしかない。なのに混乱の中、戦えるからと駆り出されてしまった」――

――「何処の悪党がどんな大罪を犯せば、あんな光景を引き起こせるんだ。全てが奴らに踏みにじられた」――

――「黄金の麦畑も、緑の丘も、白い石畳も、全て。その踏みにじる足が今、この塔に届きつつある」――

――「神よ、せめて避難の為別れた妻と娘に、ご加護を」――

 

「…ここで、終わってる」

「…聞いてるだけで、キツくなってくるな」

「予想はしていたが…本当に絶望的な戦いだったみたいだな」

「そして、少なくともこの兵士は事の真相を知らなかったようだな。確かに、告げてしまえば逃げられてもおかしくない内容ではあるが」

「…この人も、多分ここで最期まで戦って…」

「…だろうな。内容からして、自身の生存を諦めている」

「…せめて、奥さんと子供はちゃんと逃げ延びれたと思いたいわね」

 

そうじゃねえと、本当に救いがねえからな…

 

「他にも、こういった内容の手記があるかもしれんな。何か重要なことが書かれているかもしれん、探してみるぞ」

 

似たような内容のものがまだあるかもしれないってのか。もう気が滅入って来たぜ…

 

 

「さて…ここまでで見つかったのは、それなりに高位の騎士と貴族の陣中日記だな」

 

塔を登りつつ調査をしていたら、二つの手記が見つかった。片方は先が破られてて、もう片方は書いてる途中で力尽きちまったみたいだから、本当はまだ続きがあったかもしれねえが…気にしても仕方ねえな。

で、その内容は…

 

――「遂に、リーゼ峡谷の関門が破られてしまった。我々に残されたのは、このピオニール聖塔のみ」――

――「もう竜は来ない。東の城で戦力を浪費し過ぎた。撤退に次ぐ撤退の末、ここに追い詰められたが」――

――「逆転は可能だ。我々が戦っているのは『女王』率いる敵の主力だ。頭さえ潰せば群れは瓦解する」――

――「それに、敵主力をこの塔に引き付けることで領民の避難する時間と隙を作ることができる」――

――「これぞ騎士の本懐、剣の献身だ。この上は、一匹でも多く敵を倒して見せよう」――

 

――「異界で息子が、腕の中で妻が、そして今、私も。我が由緒ある家系が途絶えるは、無念……いや」――

――「領地が街が領民が、魔物に踏みにじられるのを眺めただけの無能な領主には似合いの最期か」――

――「王家の命とはいえ、奇怪な「門」を領内に建造し一時の繁栄におぼれた挙げ句、全てを失いながら」――

――「救いの手立てを、また錬金術に頼るしかないとは。なんと、惨めで滑稽な」――

 

「この先に何が書いてあったか、書こうとしていたかは想像もつかんが…」

「…この高さまで来て、この内容の手記があるってことは、撃退はできなかったってことだよね」

「じゃあ、ここで戦ってた人達は…」

 

…本当、キツいぜ。こんなことが大昔とは言え本当に起きてたのかよ…

 

「…この人達は、最期に錬金術をどう思ったのかな」

「…解らないな。だが、どう思っていたとしても、悪いのはその力の使い方を誤ったクリント王国の王家だ。錬金術そのものは何も悪くない」

「…うん、そうだね」

 

力の使い方か…規模とか事情は兎も角、親父も間違えた結果がああだからな。俺も同じにならねえように気を付けねえとな。

 

「さて…後はこの上か。恐らくここが一番重要な情報が遺されている可能性が高い」

「うん。みんな、行こう!」

 

塔の天辺。俺がガキの頃からずっと目指してた場所。…一体、どうなってるんだろうな。

 

 

 

 

「この巨大な結晶は…魔石か?」

「そうだな。恐らくこの魔石の力で召喚などを行い、フィルフサに対抗していたんだろう」

「村から時折キラキラ光って見えてたけど…これが理由だったんだね」

 

遂に塔の頂上にたどり着いた俺達を出迎えたのは、あまりに巨大な結晶だった。恐らく、何かしらの用途で運び込まれた魔石だと思うが…どうやってここまで運んだんだろうか。

それと時折光っていたのは、単に光の反射によるものか、若しくは何らかの力を発揮した時に光ったのか…ここの構造的に前者では無さそうか?調査すれば解るだろうか。

 

「レント、頂上までたどり着いたけど…感慨深い?」

「ん…まあ、そう言う気持ちもあるにはあるけどよ」

「何だ?子供の頃からの夢だったんだろう、さっきのようにはしゃいだところで私達は咎めんぞ」

「あー、なんていうか…ここから見下ろした先が全部フィルフサの大群だったって風景、ここで戦ってた人達は見たんだよな」

「…ああ、だろうな」

「その時の絶望って、どれだけ大きかったんだろうな…って考えちまったんだ。そして、俺達が間に合わなかったら、それがもう一度起きるんだよな」

 

…確かにそれは、はしゃぐ気分にはなれないな。だが…

 

「だからこそ、是が非でも間に合わせる。その為の調査だ」

「そんなこと、絶対に繰り返させない。まずそれを心に決めて、全力で頑張ろう!」

「…そう、だな。よし、まずは張り切って調査と行くぞ!」

 

さあ、一体何が見つかる…?

 

 

「何だ、この鳥の像?」

「ふむ、何か書いてあるな…賢者像、か。恐らく、クリント王国における賢者の象徴がこの鳥なのだろう」

「実際には、賢者と程遠い事をしてくれたわけだがな」

 

「凄い形の木…それに、枝の所に何かはまってる?」

「これは…トラベルボトルのようだな。恐らくここで採取をし、研究や調合を行っていたんだろう」

「つまり、ここは本来錬金術の研究所だったのか?となると、下のあの骨も研究対象として運び込まれたのか?」

「どうやったら木をこんな形にできるのかも気になるけどね。…あ、こっちにもトラベルボトルがあった。貰っていこっと」

 

「凄い…こんな大きな本があるんだ!」

「ここまで大きくする意味はよく解んねーけどな…」

「内容は…ふむ、興味深いが、今は関係なさそうな内容だな。後にした方が良さそうだ」

 

「なんだろう、この輪っかみたいな道具…かな?宙に浮いてる…」

「これは浮遊天球と呼ばれる物だな。錬金術において重要な要素の一つである星の運行を調べる為にある」

「星の…言われてみたら確かに星に見えるかも」

「…誰もいなくなったこんなところで、何百年も経って、まだ回り続けているのか」

 

 

「…この辺りも、フィルフサに踏み荒らされたみたいだね。跡が残ってる」

「じゃあやっぱり、ここにいた人たちは…」

「ああ、全滅…だろうな」

「陥落した城塞跡、それも相手がフィルフサならば当たり前のことだ」

 

一通り見て回ったが…興味を惹かれるものはいくつもあったが、今欲しいものじゃなかったな。直接的な手掛かりか、そうでなくとも何かしらの『鍵』があればいいんだが…

 

「…ん?」

「どうした、ライザ?」

「瓦礫の下にこんなものがあったんだけど…」

 

そう言ってライザが見せてきたのは…宝石のようなものが付いた3つの輪っかが1つになっている、不思議な物だった。恐らくこれも何かしらの道具だろうが…

 

「これは…鍵だな。クリント王国の遺跡で稀に使われる形式のものだ。ライザ、解るか?」

「うん、高度な錬金術で作られてるのが解るよ。凄い力を感じる…!」

「鍵って…この形でか?」

「うん。「中に入る仕掛け」って刻んであるし、僕らが知ってる鍵と違って、どこかにはめ込む物だと思うよ」

 

…まさか鍵そのものが見つかるとはな。だが…

 

「随分ボロボロだな。このままだと使えない可能性があるぞ」

「修理しなきゃいけないかもってこと?…うーん、確かにそんな感じがする」

「何処で使うのかも調べなきゃいけないしね。…ここまでの流れだと、クーケン島のどこかっぽい感じはするけど」

 

言われてみれば、そんな挿絵があの本にあった気がするな。最初の方だったか…?

 

「ん、もう一つ何かあるぞ…封書か。…む、この紋章は…!」

「紋章がどうかしたの?アンペルさん」

「ああ、こいつはクリント王国の高位錬金術士だけが用いるものだ」

「じゃあ、その封書には…」

「ああ。これまでで一番重要なことが書かれているかもしれん。…署名は「南フルークスター管区長」の役職名だけか。ここら一帯を取り仕切ってた錬金術士のようだな」

「文書の内容は?」

「そう急くな、今から読む。どれ…

 

 ――「本書は、未練の遺言なり」――!」

 

「「「「!!」」」」

「…遺言…!」

「…」

 

未練、か。一体、何が語られるんだ…

 

「――「胡散臭い呪いと侮られた我らが錬金術は、長き時をかけ、王国の中心となる地位を得た」――

 ――「我らは王国の力となり、光となり、糧となった。王国の誇りに、叡智に、剣に、鎧に、そして」――

 ――「死を呼ぶ病となった」――」

 

「……っ」

 

錬金術への認識を良くしたまでは、良かったのにな…

 

「――「我らは、異界より資源を得、各地に「門」を築き、王国に大いなる繁栄をもたらした」――

 ――「我らはその為に、自らの良心を眠らせた。友人らの森から水を奪い、軍勢を引き入れた」――」

 

「………っ!」

 

オーレン族を友人と呼べる程度に友好的な関係ではあったのか?…だとしたら、尚更許されることじゃないな。

 

「――「彼らの聖地から資源を奪い続けた我らに、やがて天罰が下った。一面の涸れた地平から」――

 ――「『蝕みの女王』がフィルフサを引き連れ、来た。我らはたちまち異界を追われ国を食い荒らされた」――

 ――「我らにできたのは、研究施設だった塔を用い、フィルフサを誘き寄せる波長を放射することで」――

 ――「領民が避難する時間を稼ぐ、ただそれだけ。この一地域だけの抗いが、せいぜいの力」――」

 

確かに、この錬金術士達に対しては天罰というのがふさわしいだろうが…それに巻き込まれた領民は、本当に気の毒でしかない。

 

「――「あれほどに満ちていた力も、光も、糧も、全て消え失せた。誇りも剣も鎧も叡智も、いつしか」――

 ――「王国と民衆、そして我ら自身に降りかかる死の病となり果てた。全ては、我らの罪」――」

 

「…っ!何を、何を勝手なことをっ…!!」

「リラさん…」

 

…因果応報、自業自得。そうとしか思えないな。自分達の行いがどういうものなのか、気付くのが余りにも遅すぎるだろうが…

 

「――「この遺言を読む誰かに、せめて未練を託したい。我らの、せめてもの抗いが成就したかどうかを」――」

 

…そうだ、これは「未練の遺言」だったな。一体どんな未練が――

 

「――「この地より南方の汽水湖上に、我らの建造した人工島がある。偶然、緊急避難の役に立った」――」

 

「あ…」

「ここから、南方の汽水湖…」

「そこにある、人工島…ってことは、さ」

「もう、答えは1つしかないな」

 

「――「その名を『クーケン』という」――」

 

…これで、推理の答え合わせが1つできた訳か。

 

「――「どうか、ここを訪れて欲しい。未だここに住まう人があれば、訪ねて欲しい。息災か、と」――」

 

「…せめて、最後に命を懸けた分だけでも救えたか…」

「それがこの錬金術士の未練、ってことね…」

「…何つーか、遣る瀬無えな」

 

最期の最期に、この錬金術士は逃げずに自分の命を懸けた。なら…

 

「…「息災か」、か。そうだな」

「アルム?」

「――言われるまでもなく息災だよ、大昔の錬金術士。特に俺達4人は、あんた達の過ちを何百年越しに清算してやろうとするくらいにな」

 

その分くらいは、応えておいてやるか。又聞きでなく、島民本人の言葉でな。




本当はもう少し書きたいこともあったんだけど、文字数多過ぎ&キリが悪くなりそうだったので次話に持ち越し。
この話を書くにあたって改めて塔を見て回ったけど、結構ここ突っ込めそうだなと思うオブジェクトがあるんですよね。

後ちょっと3の話。ボオス参戦確定&公式サイトのシルエット的にアンペルとリラもほぼ確定。このメンツとの掛け合いも面白そうですね。…ウチのボオス、あんまり憎まれ口叩かないからもし3の話を書くとしたら大分会話変わりそうだな。
そして舞台が「突如エリプス湖の湾口に現れた群島」だそうで。というかまたクーケン島がピンチになるのか…

今回はQ&Aは無し。

ここまで読んで頂き、有難うございました。


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真実への扉が、遂に開く

まーた二ヶ月かかってるよ…。次に何か書くとしたら真面目成分が少ない系の話にするかも。その方が色々悩まずに済みそうだし。

話し合い&鍵改良。島の地下に行く直前まで行きます。今回はライザ視点→アンペル視点。ちょっとしたおまけアリ。


「さて、とりあえずここまでの情報をまとめてみるぞ」

 

塔の調査を終えてアトリエに戻ってきたあたし達は、ここまでの情報を一旦まとめて改めて見てみようってことになった。そうしたほうが次どうすればいいか決めやすいし(まあ一択だとは思うけど)、事前に予想として聞かされてたとはいえ、とんでもない話なことに変わりはないから、混乱しないように落ち着いて現状を見れるように頭も気持ちも整理した方がいいしね。

 

「まず、クーケン島はクリント王国が造った人造の浮島で、住人はクリント王国からの避難民の子孫だということは確定したな」

「逆にまだ解ってないのは、造られた理由と、どうすれば古式秘具に頼らず水源を確保できるか、だね。…造られた理由は、今は別にいいかな」

「クリント王国が滅んだのは、リラさんの故郷から水を奪ったせいでフィルフサが自由に動けるようになって、『門』を越えて国を侵攻されたからで…」

「そのフィルフサへの対処法は今のところ、「蝕みの女王」っていうのを倒すこと以外無い、んだよね」

「…改めてこう聞くとまだまだ糸口は見えてこないわねー。『鍵』で入った先でもうちょっと何か解ればいいんだけど」

 

その為にも、まずこのボロボロの『鍵』が使えるかどうか調べないとだしね。先に入口を見つけてからの方がどう修理すればいいか解りやすいし。

 

「しっかし、俺達の先祖がクリント王国の人間ってのはな…オーレン族の人達にしたことを考えると、どうもな」

「気にするな、お前達には何の罪もない。むしろ、その事情を知る前から私達に協力してくれているだろう?そのことに感謝したいくらいだ」

「そうだな、私も同意見だ。…しかし、住んでいる島にあれだけクリント王国の遺跡があるのに、今までその可能性に至った者はいなかったのか?何かしらの関連性くらいは見出しそうなものだが」

「うーん…確かに不思議だなとは思ってたけど、そこで止まっちゃってたかなぁ。大昔の話だし、クリント王国の事は何も知らなかったし」

「その手の資料も全くありませんでしたからね。それこそ、タオの本と例の古式秘具くらいしか手掛かりになりそうなものは無かったと思います」

「ふむ…成程な。確かにそれでは繋がりを見出すことはできんか。…いや、成程」

 

え、何か気付いたの?

 

「クーケン島は、恐れる物や決まり事ばかり多いのに、具体的な伝承がほぼ無いだろう。そのことをずっと奇妙に思っていたんだが…」

「理由が分かったの?」

「あくまで推測だがな。…クリント王国は滅亡の瞬間まで「門」や「大侵攻」に関する情報を抹消して回っていた、という話はしたな」

「あー、そういえば。…そういう秘密を消した後に、巻き返す日でも夢見てたのかね。往生際の悪い」

「…そうか。情報を消しても襲われた恐怖は残る。逆に、襲われた恐怖は残ってもそれに対する具体的な情報が残らない」

「それがいつしか実体のない恐怖になって残り続けた結果が、何が何でも外に出るなっていう決まり事なんだね」

「そういうことだろうな」

「…そこまで言われると、ようやく今と繋がる実感が湧いてきたかな。正直、ちょっと嫌な気分だけど」

 

レントも言ってたけど、やったことがやったことだしね…あたし達のご先祖様が何の関わりも無かったとしても、それはそれで国に巻き込まれた被害者ってことだし。

 

「まあ、クーケン島を造っていた分だけでも感謝していいんじゃないか?それが無ければご先祖様は助からなかった可能性があるわけだからな」

「それだって、自業自得の自作自演だと思うけどねー。そもそもご先祖様が避難しなきゃならなくなった理由が理由だし…」

「なんなら最後の最後に情報を消したせいで、子孫たちに窮屈な思いさせてるしな」

「確かに情報が残ってたら、どう危ないのかも解ってたから今より決まりごとは緩かったかもね」

 

まあ、それでも理由も無く外に出るのは駄目ってなってただろうけど…姉さんとかに頼めば、もうちょっと早くに外を見れたりしてたかな?

 

「えーっと、ライザ。次はあの鍵を使える場所を調べるんだよね?」

「そうだけど…もしかして、心当たりがあるの?」

「うん。あの本にそれらしい絵が描いてあったのを思い出したんだ。今直ぐにでも調べられると思うよ」

「なら、今日はそこまでやっておいた方が良さそうだな。修理の必要があるかもしれないなら、早めに確かめた方が良い」

「じゃあ、お願いねタオ」

 

素材の為に、ちょっと遠くまで行かなきゃいけないかもしれないしね。今日の内にできることはやっちゃおう。

 

「さて、では後は…奴か」

 

そう言ってアンペルさんがアトリエの入り口に目を向けた。…あー、うん…

 

「ぷに!」

 

…あたし達に懐いちゃったシャイニングぷに。塔の調査中複製釜を見張っててくれてたのまではいいんだけど、あたし達に釜を渡した後にしれっと付いて来てて…今アトリエの中まで入って来てる。

なんかもう、敵意が無いどころか完全に友達とか仲間として認識されてるよね、これ。

 

「…どうするよ、実際?」

「どうする、って言われても…」

「私達と仲良くなりたがってるんじゃないかな、とは思うけど…」

「ならそうした方が良いだろうな。下手に機嫌を損ねて暴れられでもしたら、アトリエが無事では済まない」

「ですね。…まさか魔物と友達になるとは、今まで考えもしてなかったな」

「じゃあ、これからよろしくね」

「ぷに!」

 

こうしてあたし達のアトリエに、不思議な友達兼居候が来た。…おやつとか、作ってあげた方が良いよね?

 

 

 

 

 

「ここだよ。本には、ここが鍵を使う場所って書いてあったんだ」

「こいつは…記念碑か?思った以上に大きいな」

「中に入るための目印って事なら、こんなに大きなものを建てるのも納得出来るね」

 

島に戻ってすぐに、タオが本から鍵の使い道を調べ上げ、今全員でその場所に集まっている。トレッペの高台にある、古式秘具が安置されている離れから更に奥に行ったところにある記念碑…ここに、鍵をはめ込むための窪みがあるらしい。

何やら文字も書いてあるが…何てことはない、土地の安寧と豊穣を祈るお定まりの銘文だな。まあ、こうも目立つように秘密の入り口ですなんて書くほど馬鹿では無かっただろうし、当たり前か。

 

「それでタオ、鍵はどう使うんだ?」

「えーっと…あった。ここの窪みにはめ込むんだよ」

「ここ?…確かに大きさも形もそれっぽいわね。じゃあ…」

 

ライザが窪みに鍵をはめ込んでみるが…何も起こらない。本にわざわざ間違ったことを書くとは思えんし、はめ方が間違っているようにも見えん。となれば…

 

「うーん、やっぱり鍵が壊れてるのかなぁ」

「鍵穴の方の問題かもしれないな。何百年も手が加わっていないだろうし、形が合わなくなっていたりするかもしれない」

「マジか、どうすんだよ?」

 

今のライザでも、この鍵穴の方をどうこう出来はしないだろう。となれば、やはり鍵の方に集中するしかないが…

 

「壊れてるのなら、直すしかないよね」

「確かにそれが道理だが…クリント王国の錬金術でも最高レベルの道具だ。修復出来るのか?」

「ん-…修復っていうより、改良?力は残ってるみたいだし、それを石碑に伝えられるようにするの」

「成程、良い発想だ」

 

それなら、新品同様に作り直すよりは難易度も低いだろう。もし力も残っていないのなら、流石に厳しかっただろうが…

 

「それなら、明日はその為の採集からするの?」

「えーっと……うん、そうだね」

「何が必要で、それが何処にあるかは解るか?」

「塔の周りにある樹の葉っぱ…かな。さっきは調査優先で殆ど採取しなかったから」

「また塔まで行かなきゃいけないんだ…ついでに何か採っておけば良かったかな」

「まあ、竜もいねえし道も覚えたから今日よりはずっと楽だろ。ついでに何か良いもの見つかるかもしれねえしな」

 

元々研究施設だった塔の中なら、何かしらの残骸や放置されている容器などから色々採れるだろうからな。所有権が云々など考える必要も無い、有り難く頂戴しようか。

 

「あ、後ついでに枝も欲しいかな。新しい採取道具が欲しいし」

「え、まだ何かあるの?もう粗方作り終わったと思ってたんだけど」

「フラムロッドと言う、火の力で採取する道具があるな」

「火の…発破でもするんですか?」

「ああ。岩を砕いて鉱石を取り出したり、木を焼いて木炭にしたりするぞ。一応魔物に向けて攻撃も出来るが、爆発までに少し時間があるから少し扱いづらいな。あと、反動が少々大きいからあまり多用はしない方が良いな」

 

王国に仕えていた時に使ったことがあるが…採集に熱中し過ぎて肩を痛めたことがある。まあ、その後威力をそのままに反動を抑えた改良版を開発したがな。

 

「…これで今話すべきことは話したか、今日はこれで解散だな。明日に備えて、早めに休もう」

「うん!さーて、明日も忙しくなるぞー」

「塔まで行ったって言ったら、親父もちょっとは驚くだろうな」

「…もうすぐで、本に書いてあったことが全部解るんだね」

「全部解決できるように、最後まで頑張らなきゃ!」

 

さて、私達も早めに戻って休息をとるとしよう。流石に少々疲れたしな。

 

 

「――いよいよ、だね」

「ああ。これでようやく、答え合わせが終わる」

 

翌日、鍵の改良を終えた私達は再び記念碑の前に来ていた。…正直、年甲斐も無く気が昂っている。理由は二つ。

一つ目は、クリント王国の錬金術の粋を集めた代物であろうこの島の内部に入れること。この大きさの島を造り、湖に浮かべ、それを何百年と保たせる島を造った技術。こんなもの、一錬金術士として興奮しない筈もない。

そして二つ目は、ライザの成長速度だ。鍵の改良に使った代物…聖なる雫。神に祝福された聖なる水と呼ばれる代物だが、普通ならたった一夏でたどり着けるような代物ではない。まず年単位はかかるだろうな。

 

(ハッキリ言って、純粋な技術のみなら既に追いつかれているのかもしれん。ともすれば…)

 

近い内に、『賢者の石』にすら手が届くかもしれんな。

 

「じゃあ…行くよ?」

 

そう言ってライザが窪みに鍵をはめ込むと…

 

「…光った!反応したのか!?」

「ととっ、これ離れた方が良いよね!?」

 

そう言ってライザが離れた直後に、記念碑が動き出した。そこにあったのは…階段。この島の内部に続く道だ。

 

「これ、地下に続く階段…だよね」

「うん。これが、人工島『クーケン』の入り口だよ!」

「この下にあるんだな。俺達が住んでる島の本当の姿って奴が」

「ああ。…さて、俺達はこのまま下に行くが。どうする?」

 

アルムが振り返りながら、誰かに語り掛けるように話す。私達も同じように振り向くと…

 

「…記念碑が、動いた?」

「こんな何もないところで何をするのかと後をつけてみたら…とんでもねえことになってるな」

「…すっごい」

 

アガーテとボオス…それに、エルか。

 

「2人は気配で解っていたが、エルまでいたか。…大丈夫なのか、アルム?」

「正直、悩みますが…「お前にまだ話せないから帰れ」なんて言われて引き下がるような性格をしていないんですよね」

「というか、僕らの考察を一番最初に聞いたのはエルちゃんだから…ある意味一番話さなきゃいけない相手なんじゃないかなって」

 

まあ、それはそうかもしれんが…

 

「で、どうするんだ。話すのか、話さないのか」

「…エル、今から俺達が言うことと知ることは、あの時の本の内容についての事だ」

「…うん」

「正直、かなり信じ難い内容になると思うが…それでも、知りたいか?」

「…うん。みんなが今何をしてるのか、あの時の2人の推理が当たってるのか、今すぐ知りたい」

「…そうか。そう言うと思ったよ」

 

…やれやれ、仕方がないか。

 

「で、俺達には当然話してくれるんだろうな?」

「ああ、お前とは元々そういう約束だったし、姉さんにも話しておいた方が良いと思っていたからな」

「アタシにもか?」

「まあ、色々と理由がね。もしかしたらちょっと頼ることになるかもしれないし」

「…今から何を聞かされて、後々何を頼まれるのか想像もつかないな」

 

だろうな。…さて、話はまとまったな。では…

 

「行こう、みんな!」

「『真実』を、知りに行くぞ」

 

何が見られるのか、楽しみで仕方ないな…!

 

 

 

 

おまけ 採取中の一幕~嵌り過ぎにはご用心~

 

「あ、綺麗なちょうちょ…」

「ん、そいつは…ラピス・パピヨンか」

「ホントに綺麗だね、宝石みたいだよ」

「実際、羽根の青い部分にはガラスや宝石のような成分が含まれているな」

「あー、だから何か飛び方がぎこちなかったのか」

「え、何々?何見つけたの…あ、ちょうちょ!」

「うん、すごく綺麗だよね!」

「うんうん、すっごく綺麗!あ、ところでアンペルさん」

「ん、何だ?」

「この子はどういう調合で使うの?」

「え?」

「え?」

「「…」」

「…後でまた、こっそり聞きに来るように」

「え、あ、うん」

「…ライザ」

「あ、えと、何かゴメン…」

 

「…錬金術に嵌り過ぎるあまり、思考がかなり染まっているな。今後またこういうことが起こるかもしれん。その時はお前がフォローしてやれ、アルム」

「解りました。…元々宝石の類にはあまり価値を見出してなかったとは言え、これは流石にな…」




シャイニングぷに、普段は自給自足で生活します。それはそれとしておやつは偶に欲しがりに来るけど。
エルにこのタイミングで事情を話すのはちょっと悩みましたが、まあ話すことにした理由は本文中に全部書いてあります。
おまけは…まあ、錬金術士の思考に染まってたらこういうこともあるよねってことで。

Q、ザムエルは驚いた?
A、無言で目を見開いて、その後嬉しそうに笑みを浮かべました。

ここまで読んで頂き、有難うございました。


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やるべきことが解ったのなら、後は

3まで後1ヶ月ちょいですね。…このペースじゃそれまでに終わらないな。
因みに3はやりますが、そこで出てきた設定がこの小説と大きく食い違っていた場合は修正するつもりでいます。独自設定で済まされるレベルならそのままにしますが。

説明&真相判明。今回はボオス視点のみです。

3/29 誤字報告があったので修正。


「…これは」

「なに、これ…」

「こいつは…」

 

記念碑が動いたことで出てきた階段。そいつを降りた先に広がっていた空間は…今までの俺達の常識からはあり得ない物だった。床、柱、橋、何もかもが一目見ただけで人工物だと解る。しかも照明まで設置されているから、地下にもかかわらずそれなりに明るい。

…確かにさっきクーケン島が人工島だの何だの言っていたのが聞こえたが…これを見たら疑う余地なんざ微塵も無いな。

 

「これが、あたし達がなんてことなく過ごしてたクーケン島の本当の姿…」

「俺でも解るぜ、こんなのが自然にできるわけねえってな。…本当に、人工島だったんだな」

「す…凄い、凄いよ!これが全部、人工物だなんて!」

「こんな大きなもの、本当に人の手で…?」

「ああ、出来たんだ。クリント王国時代の錬金術ならな」

「え…?」

「「は…?」」

 

…待て、クリント王国だと?

 

「…その辺りの説明は後で1度にしましょう。歩きながらでいきなり聞けるような話ではありませんし」

「そうだよ!それに奥にもっと凄いものがあるかもしれないし、早く進んでみよう!」

「タオさん、すっごい元気だね」

「ああ、間違いなく今までで一番テンション高いぜ」

「ある意味ここも遺跡だからな。それも、何気なく過ごしていたところの地下にこんな規模のものがあったんだ。興奮くらいするだろう」

「そういうお前はどうなんだ?こういうの、お前も好きだろう」

「…この一件が一段落ついたら、隅々までじっくり見て回ってやりますよ、ええ」

 

…よく見ると口角が僅かに吊り上がってるな。本当、ぱっと見じゃ感情が解りにくい奴だ。

 

「ああ、それと…エル」

「なに?」

「さっき本の内容について話すと言ったが…その過程で、お前にはまだ話せないような内容のものが出てくる可能性がある」

 

…オーレン族と異界周りの話か、確かにエルにはまだ話せねえな。コイツの歳であの話は重すぎる。

 

「だからその話題が出そうになった時は…全力で話を暈す」

「…絶対に言わない、とかじゃないんだ?」

「それくらいはしないと説明できないこともあるしな…」

「んー…解った。でも、いつかはちゃんと教えてね?」

 

本当、まだ12とは思えねえくらい物分かりが良い奴だな。

 

「さて、ではタオが大分先に進んでしまっているし、私達も行くか」

「そうですね。…タオ―、落ち着け―。遺跡は逃げないぞー」

 

…タオがこういうポジションなのはかなり珍しいな。いつもはむしろライザとレントに言う側だろうに。

 

 

「この部屋は…確か、本に」

「うん!「中核」「重要」「制御」そう書かれてた部屋だよ!」

「そうか。それが本当なら、これがクーケン島の機能を制御する中枢だな」

 

先行したタオの後を追って進んだ先にあったのは…宙に浮いている赤い球体と、そいつを中心に回っている輪だった。…一目見ただけじゃ、何がなんだか解らねえな。

 

「…これも、錬金術で…?」

「どうやって浮かせてるのかな…錬金術って不思議だなー」

 

不思議、で済ませて良いレベルじゃねえ気もするが…まあいい。

 

「ええっと、開け、見せろ、次、見せろ…」

「…タオがこっちに集中し出したし、今の内に姉さん達に大方説明しちゃう?」

「そうするか。少し長くなりそうだしな」

「…いよいよか」

「理解できる話か心配だな…」

「…よし、気合い入れて聞こう。むんっ」

 

お前らが抱えてる事情、たっぷり聞かせてもらおうか。

 

 

「…クーケン島を造ったのは、クリント王国で?」

「この島の住人は、クリント王国の末裔で?」

「クーケン島は、湖に浮いてる?…え?」

「…そういう反応になるだろうな。無理もない」

「あたし達も最初に聞いたときは混乱したしね…」

 

…予想以上にとんでもねえ話だった。大昔に滅んだ国が、島1つ造れるだけの力を持ってたこと。その国の住人が、俺達の先祖だということ。そして、クーケン島がエリプス湖に「浮かんでいる」島だということ。

歴史的にはとんでもねえ大発見だろこれは。…どうも、そんなこと言ってる場合じゃねえ事態みてえだが。

 

「湖に浮いてるってのは、本当なのか?」

「ああ、この目で見たからな」

「わざわざ潜ったのかお前…」

「何か見つかるかと思ってな。…初めて見た時は、俺も目を疑ったよ」

 

だろうな。…しかし、確かにここに作るなら浮島になるだろうな。エリプス湖の深さを考えると、いくら錬金術がとんでもない代物だとしても、こんなところに普通の島を造ろうなんて考えたら想像もつかないくらい金も時間もかかるだろう。

それはそれで、どうやってこんなものを湖に浮かべているのか、という疑問は残るが…こんなものを造れるんだ、少なくとも今の俺の理解の範疇の外にある話だろうな。

 

「…こんなこと、どこで調べたんだ?」

「塔に色々残されてたから、そこで。あの塔は元々クリント王国の錬金術の研究所だったんだってさ」

「あれもクリント王国に関係してたのか…」

「この辺りのあの手の建物は、大抵クリント王国が関わっているんじゃないかな」

 

少なくとも、古城とあの門があった神殿のような建物はクリント王国が造ったものだからな。その可能性はあるだろう。

 

「…こんなに凄い事が出来たのに、どうしてクリント王国は無くなっちゃったのかな」

「…何て言えばいいか。物語とか読んでると偶に出てくるだろう?欲をかきすぎて自滅する権力者とか」

「うん。…クリント王国もそうなっちゃったってことなの?」

「ああ、そんなところだ。そしてその結果他所からの攻撃を受け、国は壊滅。その際にこの島に避難してきた人達が俺達のご先祖様だ」

 

…嘘はついてねえな、嘘は。その手の物語だと、恨みを買い過ぎたりデカい不正の証拠を掴まれたりで周辺国から袋叩きにされるとかが理由になるが…実際は、な。

 

「えーっと、因みにクーケン島が造られた理由は残ってなかったね。本当は別の目的で造られてたらしいけど、偶々避難の役に立っただけみたい」

「まあ、こんなもんすぐ造れって言われて造れるようなもんでもねえだろうからな。そこは驚かねえ」

「むーん、だったら何で造ったんだろ…」

「それはこの件が無事に済んでからゆっくり調べるつもりだ。…なんなら今予想してみるか?当たってるかもしれないぞ」

「え?えーっと、じゃあ…クーケン島は湖に浮かんでるんだよね?」

「ああ」

「…本当はお空に浮かべたかった、とか?」

 

…空に島を?

 

「…流石にそれは、錬金術でも出来ないんじゃねえか?」

「ライザ、どう思う?」

「うーん、出来ないとははっきり言えないけど…今のあたしにはちょっと想像つかないかな」

「えっと…リラさん達はそういうの見たこと無いですか?」

「いや、痕跡すら見た覚えは無いな。存在していたなら、アンペルが知っている可能性は否定できんが」

「むーん、じゃあ違うかなぁ」

「少なくとも今は資料も何もないから何とも言えないな。…とはいえ、お前はクーケン島が浮島だと偶然言い当てたからな」

「一体どこからそんな発想が出たんだ…」

 

まさかと思うが、エルが頻りに勧めてくるあの小説か?本に影響を受けすぎるのも良くねえと思うんだが。

 

「そっちの話は終わったか」

「あ、うん。事情は大体説明したよ」

「そうか。こっちも終わった…というか、ようやく事態の全貌が判明した」

 

遂に、か。正直嫌な予感しかしねえが…

 

「…どうだったんだ、タオ?」

「…この前、僕たちが予想した通りの事になってた」

「あ…」

「…クソ、やっぱりか」

 

…顔を見ただけで解る、よっぽどマズい状況らしいな。

 

「…どんな状況なんだ?アタシ達はその予想とやらは聞いてないんだが」

「…簡単に言うと、クーケン島は今ほんの少しずつ流されながら沈み始めています」

「「…はあ!?」」

 

流され…いや、それどころか沈む、だと!?

 

「あそこにある核がこの島を浮かせるための動力になってたんだけど…そのエネルギーが足りなくなってるんだよ」

「地震が増えていたり突然不漁になったりしたのは、島が流されていたのが原因です」

「…確かに今まで無かったことだから不思議に思ってたが。そんな理由が…」

「ついでに言うと、淡水化装置も壊れているな。そこに有る3つの大きな装置だ」

「淡水化装置…まさか、湖の海水を、か?」

「そうだ。これが、本来の島の水源だ」

「なら噴水から水が出なくなったのは、装置が壊れたからだと?」

「ああ、経年劣化でな」

 

…なんだそれは、どうして今の今までそんな状態で放置されていた!?何故クリント王国の人間はそういう情報伝達、共有をしていなかった!?…ちょっと待て、なら…!

 

「…アルム、お前達さっき記念碑に何かをはめ込んでいたな?」

「ああ、ここに入る為の鍵だ」

「鍵…ならタオ、その鍵と似たような物を島で一度でも見たことがあるか?」

「え…無いけど…」

「…そうか。…ってことは、だ」

「何が言いたいのよ、ボオス?」

「ここの操作をするための手引書があるのに肝心の鍵が島に無え。そしてそもそも手引書の読み方を誰も知らねえし残ってねえ。更にはこの島が人工島だって事すら塔に行かなきゃ解らねえ。

…つまり、この島はちゃんとした管理が必要なもんだってのに、そのことを誰も知らねえまま何百年もほったらかしだったってことになる」

「…もっと早くにこうなっていても不思議じゃなかった、か」

 

クリント王国の錬金術がどれほどかは知らねえが…今こうなってる以上、完全なもんじゃねえ。それこそ俺達が生まれる前に限界が来てもおかしくなかったはずだ。

…そう考えると、兆候が出だしたタイミングであの2人が此処に来たのはとんでもなく運が良かったんだな。

 

「そう言われてみると、何やってんだクリント王国って改めて思うぜ…」

「今こうやって手遅れになる前に知れたのも、偶然に偶然が重なったからだしね。…そういうの、あたし達はちゃんと残しておかなくちゃ」

「そうだね…あ、ライザ。今の内に装置と核を見ておいて欲しいんだ」

「そうね、まずそれを見なきゃ修理も何も無いものね。任せなさい!」

「事情が事情だ、今回は私も全面的に口を出すぞ」

「うん、お願いねアンペルさん!」

 

事前に知ってたとは言え、意外と冷静っつうか…前向きだな。

 

「俺達はどうするよ、アルム?」

「そうだな…とりあえず、淡水化装置はあの3人ならどうとでもなるだろうな。仮に部品の1つや2つで済むなら、明後日までには直るだろう」

「…そこまでできるようになってるのか、ライザとタオは。全く、アタシが想像つかないくらい成長してるんだな」

「ふふっ、はい。凄いですよ、みんな」

 

正直そこは俺も驚いている。あのイタズラ三昧で真面目さの欠片も見えなかったライザがそこまでできるようになってるなんてな。本気になれるものがあれば、誰しも成長できるってわけか。

…そうなると、農作業をサボらなくなった理由も何かありそうだな?あいつが錬金術以外に本気になるもの…ああ、成程な。

 

「単純で解りやすい奴だってことは、変わって無さそうだけどな」

「正直で真っ直ぐだと言ってやれ。というか、聞こえてたら後でどやされるぞ」

「ああ、悪い悪い」

 

おっと、つい口から出ちまってたか。

 

「それで、たんすいかそーち?っていうのは大丈夫みたいだけど、あの赤いのはどうするの?あれが一番大事なんでしょ?」

「そうだな…島1つ浮かせ続けられるエネルギーを産み出すものだからな。まず素材が見つかるかどうかの話になる」

「心当たりは無いのか?」

「…今のところは」

 

エネルギーを産み出す核を作るためのもの、か。

 

「竜眼じゃダメなのか?アレも持っただけでかなりの力を感じる代物だったが」

「…足りないだろうな、恐らく。出来たとしても一時しのぎくらいだろう」

「えっと、それってお見舞いの時に持ってきてた玉の事?」

「ああ。あれは古城にいたドラゴンの目玉だ」

「…凄いの取ってきてたんだね」

 

あんなことが無かったら、一生お目にかかれなかった代物だろうな。

 

「むーん、ドラゴンでも足りないってことは、もっと凄い魔物から取れる物じゃないと駄目って事?」

「ま、魔物に限定しなくてもいいんじゃないかな…」

「まあ、そうだったとしても倒しに行くだけなんだけどよ…そこまでやらなくていいならそれに越したことはねえよな」

 

まあ、危険はできるだけ排除した方がいいからな。そもそも、アレより上の魔物なんざそうそう見つからねえだろうし…いや、待てよ?

 

(キロが言っていた『蝕みの女王』…そいつはどうなんだ?)

 

少なくとも国を一つ滅ぼすところまで持っていく奴らの頭だ、そいつ自身も相当な力を持っているだろう。…だが。

 

(…蝕みの女王までたどり着くのにあのフィルフサの群れを突破しなきゃならねえだろうし、できたとしても消耗した状態でそんなバケモノと戦わなきゃいけない)

 

…少なくとも、今の俺の感覚じゃ死にに行くのと何も変わらねえ。そんな提案をこいつらにするのは…流石に無理だな。

 

「終わったよー!」

「そうか。で、どうだ?」

「淡水化装置は今すぐにでもどうにかできるよ、素材も多分揃ってるし。で、核は…」

「方法は無い事も無い。…続きはアトリエでだな」

 

もう終わったのか。というか本当に装置の方はすぐどうにかできるのか。まあ、あの世界に早く水を返せるのならそれに越したことはないんだが。

…核の方は、此処で出来ない話なのか。つまり、異界絡み…そういうことか。

 

(クリント王国みてえに無理やり搾取しようってわけじゃねえから、事情を話せばコイツ等には快く渡してくれるだろうが…)

 

遣る瀬ねえっちゃ、遣る瀬ねえな…。

 

「エル、今日の話は他の人達にはしないでくれ。親父と母さんにもな」

「ん、解った。…どうにかできるんだよね?」

「…やるさ。絶対にな」

「うん。絶対に、あたし達で島を救ってみせるよ」

 

…本当なら俺も何か出来るならそうしたいが、こういうことはコイツ等に任せっきりになっちまうのは歯痒いな。

 

「…ああ、ボオス。後でアガーテさんに異界絡みの事情説明だけ頼んでいいか?」

「いいが…さっきも思ったが、本当に必要なのか?」

「かもしれない、とだけ言っておく」

 

…まあ、それくらいなら頼まれてやるが。

 

 

「――結論から言うと、俺達は『蝕みの女王』を倒しに行くことになった」

「「…はあ!!?」」

 

翌日、アルムが俺とアガーテにこんなことを言いに来た。…いやちょっと待て、話が急すぎるだろ!?




アルム「最短最速で突き進む…!」
ボオス「だとしてももうちょっと心の準備ってやつをだな…」

とりあえずエルには「一番ヤバい異界関連は話さず、王国絡みも要点が解る程度に暈す」くらいにして、「俺達を信じろ」してもらいました。それでもウェインとルーテリアは感づきそうなところはありますが。
後色々考えたら、本編前に島が沈んでる可能性も普通にありましたよねコレ。水源自体はライザ達が生まれるずっと前から止まってたそうですし。

Q.異界の話をされたアガーテはどんな反応した?
A.第一声が「…その、なんだ。よく無事だったな、本当に」でした。

ここまで読んで頂き、有難うございました。


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理由は有る、決意もした、準備はこれから

3発売日が3/23に延期になりましたね。無論予約はしました。

アトリエでの話し合い→ボオス達への説明。いつものことながら、色々原作より話が早いです。
今回はクラウディア視点→アルム視点です。


「さて、まず淡水化装置についてだが…これはもう必要な物は解っている。そうだな、タオ?」

「うん。えーっと…あったあった。この「超鋼ギア」っていうのを3つ揃えれば直せるよ」

「ん-…うん、思った通りの素材で作れそう。数も三つ分あったはずだし、これで淡水化装置の方はOKね」

 

クーケン島の地下を調査してすぐに、私達はアトリエで現状の確認をした。まず島の水源の淡水化装置は今からでも直せるみたいだから、そこは一安心だね。

…というかタオ君、もしかして本の内容全部記憶してるの?そうじゃなかったらそんなすぐにこれが必要って解らないと思うけど…なんていうか、凄くない人が一人もいないなあ、私の友達。

 

「で、次は核の方だが…リラ」

「構わん、こいつ等の為だ。それに、私達が何も言わなくともそこにたどり着いていただろうからな」

「…だろうな」

 

えっと、核の為に必要な物を教えるのに何でリラさんに…あっ。

 

「お前達、覚えているな?何のためにクリント王国がいくつもの『門』を開いたのか」

「…錬金術の為の、資源が欲しかったから」

 

確かに、クリント王国があんなことをしてまで欲しがったものなら核を造れるかもしれないけど、でも…

 

「でも、それだとクリント王国の奴らと同じことをすることになるじゃねえか!」

「お前達の故郷を救うためだ。そこに拘っている場合ではない」

 

…強いなあ、リラさん。強くて優しい、凄い人。

 

「でも、それならそれでフィルフサが周りに居る状況で探さなきゃいけないんだよね…あの時みたいに、フィルフサだけをおびき寄せる道具とか作れたりしないかな」

「…解らんな、私も奴らの全てを知っているわけでは無い。ただ、そう言った臭いに釣られるような話は聞いたことは無いな」

「うーん、ダメかぁ。それなら…」

「もっと直接的に、フィルフサを黙らせるしかないな」

 

…アルム君?えっと、直接的ってことは…

 

「…『蝕みの女王』を倒す、と言うことか?」

「ええ。それをすればフィルフサの侵攻を止められますし、資源も余裕をもって探せます」

「確かにそうだが…」

 

オーレン族の人達もクリント王国もほとんど壊滅させたフィルフサの、一番強い個体が『蝕みの女王』なんだよね?戦って、勝てるかなぁ…

 

「それと、もう一つ理由が。侵攻が始まるのは乾季に入ってかららしいが…それがタイミング的にかなりマズくてな」

「どうマズいの?」

「…クラウディア、この辺りが乾季に入るまであと1~2週間程なんだが、その頃には何がある?」

「え?えっと…」

 

私に聞くってことは、私に関することなんだよね?その頃には確か…あ!

 

「…そうだ、このままじゃ…!」

「ちょ、ちょっとちょっと。何か凄く焦ってるけど、一体何があるのよ?」

「…お父さんが中央に販路の申請を出してて、それが通るかもしれないって言うのが丁度1~2週間後くらいらしいの」

「…えーっと、つまり…どういうこと?」

「…バレンツ商会は、乾季に入る頃に中央に商売しに行くってことだよ」

「うん…だから、皆ともう少しでお別れしなきゃいけないの」

「そう、なんだ」

「いけない、んだけど…」

 

ライザ、凄く寂しそうな顔してる。レント君もタオ君も、アルム君も。…私も、今から寂しくなっちゃうな。

でも、今アルム君が言おうとしてることはそれどころじゃないって話。だって…

 

「…って、ちょっと待って!?じゃあこのままフィルフサを放っておくと…」

「ああ。…フィルフサの侵攻と、バレンツ商会が島を発つタイミングが被りかねない」

「…なんだそりゃ、最悪じゃねーか…!」

「商会にも護衛の人達は居るだろうけど、流石に対処はできなさそうだよね…」

 

確かにタオ君の言う通り腕のいい護衛の人を雇ってはいるけど…フィルフサの大群に襲われたらどうしようもないよ。

 

「…確かに、それは寂しがっている場合では無いな」

「私達も、彼らにはこの島に来る上で世話になった。奴らに蹂躙されかねないのを見過ごす訳にはいかん」

「ええ。それに、あまりボオスやキロさんを待たせるのも申し訳ないですから」

 

…うん、蝕みの女王を倒したい理由、倒さなきゃいけない理由は沢山ある。じゃあ、何としてでもやるしかない…よね。

 

「よっし…じゃあ、色々準備しないとね。まず最初に装置の部品は作っておくとして、武器とか道具はもっと強くしたいけど…」

「道具なら、レシピに使えそうなものをルベルトさんから貰っておいた。『月の魔力』(ルナーランプ)『大地の怒り』(エターンセルフィア)だな」

「どれどれ…これは、凄いものを手に入れたな。クラウディア、彼は一体どこでこんなものを?」

「えっと…いろんなところに伝手があるのは間違いないんですけど、ちょっと解らないです…」

 

アンペルさんが唸るくらい凄いものが載ってたの…?本当にどんなルートでお父さんの所に渡って来たのかな…

 

「そういやまだ見つけてねえお宝があったよな…また何かのレシピがあったりしねえか?」

「どうせなら道具そのものにあってほしいけどね、もっと良いコアクリスタルとかさ」

「ふむ、ならばそちらの調査もするぞ。今までの傾向を見るに、損はしなさそうだからな」

 

…そうやって、皆と冒険できるのもあと少しなんだね。うん、だったら最後まで楽しまなきゃ。楽しんで、頑張って、勝って…

 

「よーっし!じゃあ、島の為と、クラウディア達が安全に旅立てるように!」

「『蝕みの女王』討伐の為に、全力を尽くそう」

「おう!」「「うん!」」「「ああ」」

 

「またね」って言って、笑顔でお別れしたいな。

 

 

 

 

「――そういう理由があって、俺達は蝕みの女王の討伐を決めた」

「…成程、話は理解した。確かにそれはさっさとどうにかしねえと不味いな」

「乾季が近いからまさかと思ってたが…本当、偶然にしてもひどいタイミングだな」

 

いきなりの報告に面食らっていた2人に、俺は昨日の話し合いの内容を話した。とりあえず、事の深刻さを伝えることはできたみたいだから何よりだ。

 

「で、勝つ算段はあるのか?」

「その為の準備をこれからする。道具に武器に作戦に…それら全てをギリギリまで詰める」

「…行けるのか?正直、そこまで時間は無いだろ」

 

…そうだ。確かに、国1つ落としかねない怪物共を7人で相手にするなんて、普通は無茶もいいところだ。だが…

 

「やらなければこの辺りの土地は何もかも破壊し尽くされる。それに、被害がそれだけで済むという保証も無い」

「…そうか。クリント王国は一応追い返しはしたが、そういう抵抗が無ければ奴らはこの世界に留まるかもしれないのか」

「そしてここから地続きの土地をどんどん侵攻していって…か。仮にどこかで止められたとしても、被害は出るだろうな」

 

フィルフサ達にはこっちの世界の環境が合わないから時期が来たら帰る…なんて可能性もあるだろうが、そんなものに賭けられるほど呑気な話じゃない。

 

「本当なら死ぬほど止めたいんだが…言っても聞かないよな。それで、確かアタシに何か頼むかもしれないって言ってたな?」

「ええ。蝕みの女王を倒しても雑兵がこっちに漏れ出てこないとは限らないので、その辺りの確認が取れるまで島の人達が外に出ようとしないか見張っていて欲しいんですが…」

「ああ、任せろ。…止められないなら、せめて直接手を貸したいんだがな」

「…特に何も無い筈なのにアガーテさんを島の中で見かけないなんて気づかれたら、何かあると思われてしまいかねないですから。あくまで俺達の冒険の延長の出来事として、誰にも何も知られず済ませたいんです」

 

極力話を広めて欲しくないというアンペルさん達との約束もあるが…俺自身、この島の日常にこんな話は必要ないと思ってる。皆の中では、「乾きの悪魔」は言い伝えだけの存在。万が一にも、実在することを知ってほしくは無い。

…それに、知られたうえで上手く行ったら「島を救った」なんて周りから囃されかねないしな。そういうのは、別に要らない。窮屈になるだけだ。

 

「…こういう時、待つ事しかできねえのは歯痒いな」

「お前にはその後に任せることがあるからな。…さて、淡水化装置の方は上手く行ったみたいだな」

 

話が大方終わったタイミングでライザ達が地下から上がって来た。…特に何事も無さそうだな。これでまず一つクリアだ。

 

「こっちは上手く行ったよ。で、そっちは話し終わった?」

「ああ、丁度な」

「では、早速蝕みの女王討伐の準備に移ろうか。時間は有限だ、可能な限り効率良くやるぞ」

「ならまずチーム分けした方が良いか?探索と調合のよ」

「調合はライザとアンペルさんだけでいいんじゃ?」

「いや、錬金術士2人は調合に集中させた方が良いだろう。大掛かりな調合は大きく体力を消耗するからな」

「じゃあ、そっちはアルム君に居てもらった方がいいかな?2人以外なら一番道具を使うのが上手だし」

「…俺か」

 

俺も探索側に回りたかったが…まあ、そういう理由があるなら仕方が無いな。

 

「それにほら、ライザってこういう時無茶しそうだから、いざって時のストッパーが出来そうなのは誰かなって思ったら…」

「ああ、それはアルムしかいねえ」

「僕らだと押し切られるかもしれないからね。ちょっと情けない話になるけど…」

「いや、あたしだってそれくらいは自分で」

「いつもより目を光らせておく」

「アルム!?」

「ふむ、まあ私が何か言うよりは手っ取り早そうだな」

「お前も熱中し過ぎて倒れるなよ、アンペル。今のお前はそうなりそうな雰囲気がある」

 

そもそも錬金術そのものに熱中している所に「頑張らなければいけない理由」がつけ足されるわけだからな…今のライザなら本当に倒れるまで無茶をしかねない。

しかもアンペルさんも割とそのクチらしい。…ライザは兎も角、俺にアンペルさんまで止められるか…?

 

「アルム、もし無理そうだと感じたなら遠慮なく蹴り飛ばせ。私が許可する」

「おいやめろ。アルムの遠慮ない蹴りなぞ食らえば即座に地獄が見えるぞ」

「…やりませんから安心してください」

 

余程の事が無い限り人に向けたら拙い威力してる自覚はあるんですよ、これでも。レントは…まあ蹴るとしたら模擬戦だしセーフで良いか。人並外れて頑丈だしな。

 

「…こんな時でもいつも通りか。全くお前らは…」

「もはや安心感すら覚えるよ、本当に」

 

褒められたのか呆れられたのか…まあ、前者だろうな。

 

「さて…じゃあ、準備に取り掛かるか」

「まず新しい道具の調合と、次に今使ってる道具の改良と…」

「その前に素材の確認だな。畑で採れる分と(ぷに)が持ち込んでくる分もあるから、色々試せるぞ」

「んじゃ、こっちはまず宝の地図の確認だな」

「えっと…今残ってるのはあと2つだっけ?」

「何か役に立つものが見つかれば良いけど…」

「そっちに気を取られ過ぎて採取を怠る真似はするなよ。どれだけ優れた錬金術士も、素材が無いのでは何もできんからな」

 

そうやって全員で話し合いながらこの場を後にしようとすると…

 

「…お前等」

「どうした?ボオス」

 

ボオスが声をかけてきた。何か言いたいことがあるのか?

 

「…絶対に、帰ってこい。全員無事で、だ」

 

…ああ、確かに。何を言っても、結局それが一番大事なことだな。

 

「ああ。当然だ」

 

絶対に蝕みの女王を倒し、またここに帰って来よう。絶対にな。

 




考えれば考えるほど、アンペルとリラがこのタイミングで島に来てなかったら始まる前からゲームオーバーなレベルで色々タイミングが悪かったな…
ライザ達とバレンツ商会はどうなっていたやら…想像したくは無いですね。

Q.なんでアルムがこのタイミングで中央への申請云々を知ってるの?
A.アルムがいつものメンバーのリーダーだと思われてるのと、ゴールドコイン限定とはいえ取引相手みたいなものだからです。「大体このタイミングで居なくなるからそれまでに粗方この取引終わらせようね」「おk」みたいな感じで。
なお聞いて直ぐに最悪なタイミング被りに気づいたので、顔色がちょっと悪くなったのを少し不審に思われた模様。スルーしてくれましたが。

ここまで読んで頂き、有難うございました。


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お互いに準備完了、決戦の時は近い

3発売…どころか無印アニメ化。アトリエシリーズアニメ化は2作目だそうで。しかも放送開始が夏だそうなのでリアル「ひと夏の冒険」にする気満々ですね。
とりあえず3はこの話を投稿してからガッツリ進めるとして…アニメは視るとしたら円盤待ちかなあ。

対フィルフサの準備。そしていよいよ…
今回はアンペル視点→タオ視点です。

4/23 3のストーリーを踏まえてアンペル視点を少し修正。


「さて、では始めていくか」

「うん。えーっと必要な物はこれと、これと、これと…」

「なんだ、事前に作ってあったのか」

「錬金術が楽しくて、思いついたのは片っ端から色々作ってたの。あ、ついでにアレも作れるかな…」

 

蝕みの女王を討つため、早速私達は調合を始めることにした。今回アルムが譲ってもらったレシピ…ルナーランプとエターンセルフィアの作成を最優先に行う。

ただ、その際別の調合品が必要になるのだが…そっちは既にライザが作っていた。これらも相応に難易度の高い調合の筈なのだが…好きこそものの、とは良く言ったものだな。

 

「ところでアルムは?」

「あたし達のおやつ作ってる」

「ほう」

 

料理ができるのは知っているが…成程、楽しみだ。

 

「あ、「アンペルさんは今後あまり無理をし過ぎたらお預け」だってさ」

「…気を付けよう」

 

…私の事もよく理解している。自己管理を怠り、倒れるような真似だけは避けねばな。

しかし、その口ぶりだとライザは無条件で菓子にありつけるのではないか?好意を抱いている相手とは言え少々贔屓が過ぎるぞ、アルムよ。

 

「じゃあ、どっちから始める?」

「ルナーランプからで行こうか、こちらの方が難易度はまだマシレベルだが低い。…万が一の時の被害もこちらの方が小さいしな」

「怖いこと言わないでよ!?いや、確かにそれくらい凄いもの作らなきゃ勝てないかもしれないけど!」

「ランプならまだ私達2人が長めに苦しむだけで済むが…セルフィアの場合、下手すれば一撃で私達諸共アトリエが何もかも吹っ飛ぶ」

「と、とんでもないねそれ…」

「そういう事だから、急ぎつつ無理せずやるぞ、と言う話だ」

「う、うん。…なんか凄いところまで辿り着いちゃった感じがするなぁ。まだ錬金術始めて2か月経ってるか怪しいくらいなのに」

 

私が錬金術を始めて2ヶ月くらいの頃は…どうだっただろうか。少なくとも、ライザ程純粋に錬金術を楽しむことはできていなかったような気もするが…

…やはりあまり年は取りたくないな、細かいことを思い出せなくなる。

 

「では、調合を始めるぞ」

「うん!さーて、良いの出来るかな?」

 

お前と私なら、これ以上無いものが作れるさ。

 

 

「ふーっ、これでようやく1個…じゃなくて、3つだね」

「…なんとも、まあ」

 

調合開始から1時間、漸くルナーランプが完成した。…いや、漸くと言うのは誤りか。これほどのものの調合は本来2時間ほどかかる筈なのだが。しかも調合に使ったものの中に質の良いものが混じっていたらしく、一度に3つも調合できた。しかもその口ぶりだと、最初から3つ出来ると確信していたようにも聞こえる。

全く…どこまで私を驚かせてくれるんだ、お前の才能は?

 

「…流石にいつもより時間がかかっていたな。一旦休憩したほうがいいんじゃないか?」

「あ、アルム。…もしかして、ずっとそこに?」

「ああ。おやつの方は冷やす時間が必要だし、本の解読もまだ終わってなかったからな」

「ふむ、食べる前に冷やすもの…?」

「もう十分冷えていると思いますし、休憩ついでに今食べますか?」

「では頂こうか」

「うわ即答。まああたしも食べたいけどさ」

 

さあ、どんなものが出てくるんだ?

 

「じゃあ…ラーゼンプティングです」

「ほう…」

「わ、アルムこれ作れるんだ!」

 

出てきたのは以前ライザが島の住人の依頼で開発した菓子、ラーゼンプティングだ。あの食感、香り、甘味…自他ともに認めるスイーツ好きである私を唸らせる逸品。

しかし錬金術なら兎も角、手作りとなるとそれはそれで手間がかかる代物だと思うが…

 

「以前エルに『アルム兄の手作りで食べてみたい』とせがまれたことがあってな。練習していた」

「エルちゃんそういうのアルムに頼むよね。ルーテリアさんじゃなくて」

「まあ、母さんは普段から家事で忙しいからな。俺の方が頼みやすいんだろう」

「子供なのだから、もう少し遠慮なく甘えてもいいと思うが」

「…そこは多分、俺の影響かと。結構早いうちから親の手伝いを始めてましたから」

「あー…そういえばルーテリアさん言ってたかも。「アルムはあんまり甘えてくれないからちょっと寂しい」って」

「ああ、良い子過ぎて逆に心配という奴か」

 

…親からの心配、か。私は、どうだっただろうか。

 

「っと、そろそろ頂こうか。こうも芳醇な香りを嗅がされ続けては、もう我慢の限界だ」

「そうだね。じゃあ、頂きまーす」

 

スプーンで一口分掬い、口に運ぶ。…ああ、舌の上に乗せているだけで溶けてしまうんじゃないかと思う程の柔らかい食感、ミルクとハチミツがベースの濃厚だがしつこすぎない甘味に卵のコクと風味、そしてそこにカラメルの苦みがアクセントとなって…至福としか言いようが無い。よくもまあこれほどのものを…

 

「…クラウディアには内緒にしておいた方がいいかな。いやでも、あたしだけがこれを味わうのもちょっと…」

「どうせ近い内に食べさせるつもりだから構わないぞ。…しかし、好評なようで何よりだ。素材も良いものを使ったから当然と言えば当然だが」

「ふむ、何を使ったんだ?」

「ライザが調合したハチミツとかエルツ糖とか、あとぷにが拾って来た卵とヤギミルクですかね」

「あー、あの子が拾ってくるものって妙に品質良いんだよね」

 

奴にもそういう嗅覚が備わっているのか、それとも偶然か…いずれにせよ奴も、ライザの錬金術士としての人生の助けになってくれそうだな。

 

「さて…じゃあ、そのルナーランプを試してみたいんですが」

「ん、そうだな。それなら良いものを用意してある。これだ」

「え、何これ。オオイタチ?」

「ラムローストくん2号だ」

「…ラム、ロースト?」

「…何処がラム(羊肉)で、どうロースト(蒸し焼き)してあって、何故くん付け?しかも2号?」

「私も知らん」

 

命名者があまりにも独特なセンスの持ち主だった…としか言いようが無い。私も最初に聞いたときは困惑したものだ。

 

「まあ、名前と性能は関係ない。そいつはお前の全力でも壊れないくらいには頑丈だからな、遠慮なくぶつけると良い」

「解りました。…アトリエの近くでやるのは危ないな、開けたところまで持っていくか」

「あまり離れすぎるなよ。そいつは使うと体力を持っていかれるからな」

「気を付けます」

 

まあ、効果範囲を狭めればその心配も必要無いが…相手にするのが蝕みの女王だけとは限らない以上、できるだけ広い範囲に対処できるようにしておいた方が良いからな。

 

「さーて、じゃあ今の内に次の準備しよっか」

「ああ。エターンセルフィアは上手く行けば女王相手にも切り札に成り得る程に強力な代物だ。確実にやるぞ」

 

私でも、数えるほどしか作ったことのない代物だが…さて、どこまで質を高められるか。

 

 

 

 

「いやー、良い物見つけたな」

「そうだね。…冗談のつもりだったのにまさか本当に見つかるなんて」

 

地図に残されていた手掛かりを辿ってお宝を見つけ、採取も一通り済ませた僕たちはアトリエに戻って来た。今回見つけたものは、今までの中でも特に有用な物だった。何せ…

 

「今までのものより更に質のいいコアクリスタルだ。これでより道具を使いやすくなる」

「ふふっ、ライザ達が見たらすごく喜びそうですね」

 

更に容量の増えたコアクリスタル。ライザ達が強力な道具を作っている時にこれが見つかったのは運がいいよね。

 

「そっちもそうだけどよ、俺にとってはこっちの方が重要だぜ」

「『ゴルドテリオン』に『エルドロコード』…なんか、凄いものが出来そうだよね」

 

『錬金術の神髄』なんて大仰な名前がついてるレシピだしね。…今より凄い武器かあ、アルムやレントがそんなの身に着けたらどうなっちゃうんだろう。

 

「さて、アイツらは無理せずやっていただろうか」

「そうですね、倒れてないと良いけど…みんな、ただいま」

 

クラウディアが扉を開けて中に入ると…

 

「すー…すー…」

 

ベッドの上でぷにまくらを抱きながら寝息を立てているライザ。まあこれは良いや。

 

「ん、ああ。戻ったか」

 

ドーナツを食べながらコーヒーブレイクしているアンペルさん。うん、これも別に良い。問題は…

 

「……」

 

やたら大きいぷにまくら(っていうかクッション…?)の上で無言でぐったりしているアルム。…えっと…

 

「…何でお前が一番疲れてんだよアルム!?」

 

うん、正にそれ。

 

「そうだな、まずどこから説明するか…まあ元々予定していたものと、追加で1つ作れるものがあったからそれを調合したんだが、その辺りでアルムが『そろそろ休め。火にかけた釜を立ちっぱなしで何時間もかき混ぜてて疲れない筈が無いだろう』とライザに言ってな」

「あー、言われて見りゃ結構大変な事してたんだな錬金術って…」

「ライザとアンペルさんは2人でやってたからまだしも、1人だと相当キツイよね」

「ぷにまくらを押し付けてから横抱きでベッドまで持って行って無理矢理寝かしつけた」

「…横抱きって何だ?」

「えっと、ライザにするのなら所謂お姫様抱っこだね…」

「絶対顔真っ赤だったよねライザ…」

「フレスベリーもビックリの赤さだったな。まあ今は御覧の通りだが」

 

…ホント、ちょっと前までは全く表に出して無かったのに今じゃもう本人にも全然隠す気無いよね。

 

「で、アルムの奴はなんでああなってる?」

「…私とライザが作った道具が、余りにも効果が強すぎたというか」

「な。何を作ったんですか…?」

「これだ」

 

そう言って出てきたものは…時計?

 

「『時空の天文時計』だ。星の動きを見て時の流れを置き換える力を持つ」

「と、時の流れを置き換える?」

「簡単に言えば高速移動が可能になる。まるで1人だけ時が速く流れているように、だ」

「め、メチャクチャだよ…」

 

もうここまでくると下手な魔法とは比べ物にならないことしてるよ、錬金術…

 

「えっと…でも、それとアルム君がぐったりしてることと何の関係が…?」

「一言で言うと、酔ったんだ」

「酔った?」

「ライザが寝た後にアルムがこれを試したんだが…自分だけ加速した状態から急にいつもの速さに戻ったから、その反動が来てああなった。しかもライザが張り切りに張り切ったおかげで、効果がかなり強くなってな」

「成程。元が速い上に加速幅も大きいから、その分反動も大きくなったのか」

「曰く『脳がひきつけを起こしたような感じ』だそうだ。慣れればこんなことは無くなるだろうが」

「体験したくねえ…」

 

…うん、強いは強いけど、相応のリスクがあるってことだね。

 

「因みにこのルナーランプとエターンセルフィアも試してもらった。ランプの方は『簡単に言うとものすごく強い目潰し。強いのは間違いないが使うだけでどっと疲れる』だそうだ」

「セルフィアは?」

「『これは絶対その辺の魔物に向けてはいけない。下手したら地形が変わる。蝕みの女王を倒したら封印した方が良いかもしれない』と言っていたな」

「どんだけヤバいんだそれ…」

「本当に、どうやってそんなもののレシピ手に入れたのお父さん…」

「まあ、そこまでの代物になったのはライザの努力と才能の賜物だが」

 

聞いてたら絶対「ふふん、どうよ」って感じで誇らしげにしてきそうだなぁ…

 

「…えへへ~♪」

 

と思ったらライザから嬉しそうな寝言が。…実は起きてたりしない?それとも偶然似たようなこと言われた夢でも見てる?

 

「さて、休憩のつもりだったが…2人がこんな状態だ、今日はもうお開きにした方が良いと思うが、どうだ?」

「そうだな、特にアルムは早めに休ませた方が良いだろう」

「その前にアイツ動けるのか…?おーい、アルム―」

「…歩く程度なら、何とか…」

「相当弱ってんな…お前酒に限らず『酔う』のに死ぬほど弱いんだな」

「…アレとは、また、別だ…」

「…今日は僕がオール漕ぐよ。アルムはゆっくりしてて」

 

流石に、こんなことになってるアルムに力仕事させちゃダメだよね。まあ僕は僕でほとんど漕いだことないからちゃんとできるか不安なんだけど…。

 

「えっと、ライザはどうしよう?」

「…クラウディア」

「え、何?アルム君」

「…出来るだけ、低い声で、『ライザ、早く起きな』と、怒鳴るように、言うと、多分起きる」

「ミオさんの真似じゃねーか」

「まあこの上なく効くよね、それは」

「え、えっと、じゃあ、やってみるね。…んんっ」

 

クラウディアが軽く咳払いをして…

 

「ライザ、早く起きな!!」

「ひゃあっ!?」

 

叫んだら、跳びあがるようにライザが起きた。…あんな声出せるんだね、クラウディア。

 

「え、ちょ、え、お母さん!?なんでここに…あれ?」

「えっと、ごめんねライザ。今の私なんだ」

「…へ?クラウディア?」

「すげー迫力だったな、今の」

「普段見せない姿だったからな。ギャップも大きいだろうよ」

「あ、あはは…人前で大声出すのって、結構恥ずかしいね…」

 

うん、僕もあんまり人前で大声は出したくないかな。そもそもそんなに声出ないけど…

 

「あー、ビックリしたぁ…ってあれ、アルム!?大丈夫!?」

「…時間差に、酔っただけだ」

「ちょっと天文時計を試したらこうなってな。明日には大方和らいでいると思うぞ」

「そ、そうなんだ…ゴメンね?」

「…気にするな」

 

…アルムがこうなるってホント相当だよね。高速移動はちょっとしてみたいけど、こうなるって知っちゃうとなぁ…

 

「さて、先ほども言ったが今日のところはこれでお開きだ。しっかり休めよ、特にアルム」

「はい…」

 

ぐったりしたアルムを抱えながら、僕達は島に戻った。…アルムを心配するエルちゃんを宥めるのがちょっと大変だった。

そんな感じで、僕達は準備を進めていった。

 

 

「ゴルドテリオン…これ、凄いよ…!今までで一番すごい武器作れるかも!」

「おう、頼むぜ。道具も良いけどよ、やっぱり俺は剣で戦いてえしな」

「これでフルートも凄くなるって不思議だよね…」

「まあ錬金術だしな。…ところでライザ、俺の武器に関しては一つ注文がある」

「え、なになに?」

「性能の方向性についてなんだが…」

 

 

「ふむ、やはり基本的に足を止めて戦うのなら反動も然程ないな」

「その代わり、珍しくリラさんがグロッキーになってるけど…」

「…これは、アルムがああもなるわけだ」

「リラさんでもそうなるのか…俺はそこまで速くねえから大丈夫そうだけどよ」

「以前、毒キノコをどうにかして食えないかと苦心した時に、空腹に限界が来てそのまま食ってしまった時以来の苦しみだ…」

「いや何やってんすか!?」

「そういうところ変に思い切りが良いって言うか、なんて言うか…」

 

 

「あ、そうそうアルム!実はあたしとクラウディアも必殺技的なの考えてみたの!」

「2人がか?」

「うん。やっぱりいざっていう時の奥の手はあった方が良いよね思ったから」

「ただ、どっちも女王だけに向けるってなるとねー。群れとかに撃つならいいんだけど」

「いや…女王の近くに多くのフィルフサが控えている可能性もあるからな、そういう時の対抗策があるのは有り難い」

「じゃあ、どうしてもフィルフサが沢山いるところを通らなきゃいけない時に使えばいいの?」

「ああ。勿論、温存できるなら女王に使ってほしいが」

 

 

「ライザ達も必殺技を考えたのなら、僕もやった方がいいのかな」

「ふむ、どういう技をイメージしているんだ?」

「うーん、こう…一撃必殺!みたいな」

「モロにアルムとレントの影響を受けているな」

「ん-、なら丁度いいイメージがあるだろ。見た目だけならそれっぽいのが」

「え?…あ、ハンマー?」

「ふむ…それなら魔力で巨大なハンマーを作ってそのままズドンになるな」

「成程、シンプルゆえに強力なものになりそうだな」

「あー、そんな単純でいいんだ…ありがと、何とか形にしてみるよ」

「おう。…でよ、ちょっと3人に相談があるんだが」

「ん、何だ?」

「…実は、俺の必殺技、まだ名前が決まってねえんだ」

「…それこそシンプルでいいんじゃないかな?」

「存外技名は大事だぞ。どう使うのかを解りやすくできるからな」

「何にせよ早く決めろよ。そんな事で悩んでいたら不意を打たれて…など笑えもしない」

「…うす、早く決めます」

 

 

そして…

 

「…よし、新武器の慣らしも大体できたな。後は…」

「――お前達!来たぞ!『空読み』だ!」

「…!遂に来たわね!」

 

『門』からフィルフサが出てきた。以前アンペルさんから聞いたけど、まず偵察として『空読み』が来て、乾季が近いと確認出来たらいよいよ侵攻が始まるらしい。つまり…

 

「もうすぐ決戦の時、ってことだな!」

「ああ。まずは前哨戦、景気よく勝って次に繋げるぞ」

「うん。皆との思い出の場所、絶対に壊させない…!」

「僕も、覚悟を決めなきゃ…!」

 

まだまだ、この世界には知りたいことが沢山ある。ここで終わってしまわないためにも…頑張ろう!




天文時計は独自設定で「速く動いている時に加速が解除されると慣れないうちはめっちゃ酔う」ことにしました。まあほぼフレーバー的なデメリットですが…
因みにアルムの料理上手の方向性は「レパートリーが豊富」です。ついでに本作独自設定で料理が上手いことになってるレントは「その辺の残り物とか有り合わせのものをそれっぽく仕上げてくるし、それがやたらと旨い」感じ。
後、調合の時間はゲームだと何でもかんでも一律2時間ですが、今作では簡単な(レベルが低い)ものはすぐ出来て、難しかったり強力だったりする(レベルが高い)物は時間がかかることにしています。そして才能や腕次第で短縮可能。

Q,何でクラウディアにミオの物まねさせたの?
A,「乗ってくれたら面白いだろうなとは思ったが、まさか本当にやってくれるとは…」
 「アルム君!?」

ここまで読んで頂き、有難うございました。


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決戦前日、思い思いに過ごす戦士たち

遅くなりました。そして長くなりました。間違いなく二つの意味で過去最長です。
決戦前の島での日常。今回はリラ視点→アンペル視点です。前半にリラ→アンペル要素が含まれてます。


「…もうすぐ、あの島にも別れを告げる時か」

「勝つにせよ、負けるにせよな」

「縁起でもないことを言うな」

 

そう話しながら、私達は小舟を漕いでクーケン島に向かっている。先日、門から「空読み」が這い出てきたことで決戦の時が近いと悟った私達は最後にやるべきことを子供等に告げた。

それは、奴らが守りたい「なんてことない日常」を見直すこと。要は、今日1日は冒険のことは一旦横に置いておいて島で過ごせということだ。

 

「だが、何かあればこの身を投げ出すくらいはしなければならないだろうな。奴ら自身もあの島の「なんて事の無い日常」の一部なのだからな」

「それはそうだが、恐らく奴らの中では私達すらその一部だと思うぞ?」

「…そうだな、奴らならば迷いなくそう言うだろう」

「無論、私はどうにかして全員生き延びる為に努力するぞ。…奴らに、永遠の別離はまだ早い」

「…ああ」

 

あいつ等には、失ってほしく無い。私達の悲願に手を貸してくれるあの優しい子等に、あんな想いをしてほしくはない。

 

「…ふふ、まさかここまであいつ等に入れ込むことになるとはな」

 

こんなことはアンペル以来だが…ああ、やはり悪くない気分だ。

 

「む、私はどうなんだ?」

「今更言う必要は無いだろう?」

「…そうか」

 

…本当に解っているのか?

 

「さて、もうすぐ港に着くな」

「あそこからなら…ボオスかクラウディアの所が近いな。さて、私達の言いつけ通りにしているか、見てやろうじゃないか」

 

全く、親のような物言いだな。気持ちは解るが、な。

 

 

「おや、今日も夫婦で来てくれたのかい?」

「「夫婦じゃない」」

 

港に舟を泊め上陸すると、近くにいた老婆が声をかけてきた。…2人で上陸するたびに言われているが、その度にこう、気が気じゃないとでも言うか、何と言うか…

 

「いやぁ、でも二人があいつ等を見る目がなんか親っぽい感じがするからなぁ。そういうふうに見えても不思議じゃねえよ」

「あくまで弟子とかそういうののつもりなんだがな」

「…」

「リラ?」

「…ん、ああ、すまん」

 

…いかん、あらぬ想像をしてしまった。全く、余計なことを言ってくれるな、若い漁師よ。

 

「で、誰に用があるんだい?アルムならここでちょっと待てば来るけどよ」

「そうなのか?」

「おう。畑仕事が終わると大抵いの一番にここに来て魚を買いに来るんだよ」

「そうか、なら好都合だ。ついでに少しの間物色でもするか」

「甘味は買い過ぎるなよ?」

「言われなくても解っている」

「そういうとこが夫婦っぽいんだぜ、お二人さんよ」

 

これくらいのやり取りは今まで訪れたところでもしていたんだが…まさか、その度にそう思われていたのか私達は?いかん、急に恥ずかしくなってきたぞ…

 

 

「すいません、今日も魚を…ん、リラさんとアンペルさん?」

「あれ、アトリエでゆっくりしてるんじゃなかったの?」

「ああ。ちょっと様子を見に来たぞ」

 

暫くすると、ライザと共に本当にアルムが来た。二人共買い物かご…にしては少々大きいというか、機械じみているというか…どうみても錬金術製の箱を持っていた。

 

「ん、冷蔵籠か。何かの役に立つと思いライザにレシピを教えたが、早速活用してくれているようだな」

「デザートの保存にも使えるから便利ですね。臭いもライザが改良して付かないようにしてくれていますし」

「成程、臭い消しか。確かにそれは魚を多く食す環境なら確かに必要だろうな」

「後、冷凍保存も出来るようにしたよ。2人の分も作ってあるから、後であげるね」

「ああ、旅先で使わせてもらおう」

 

魚の保存ができるようになるのか。今までは獲ったらすぐ焼いて食うか、せいぜい干物にするか位だったからな。かなり有り難いぞ。

 

「それで、今日はどういう用事で?」

「ああ、ちゃんと言いつけを守れているかどうかを見にな。まあ、お前達は大丈夫そうだな」

「心配しなくても、皆大丈夫だと思いますよ。因みに俺は買い物が終わったら週に3回くらいはご飯時以外は島中を見て回っています」

「ん、自主的なパトロールか?必要なさそうだが」

「いえ、人間観察です」

 

…何というか、予想外の言葉が出てきたな。

 

「ふむ、何故そんなことを?」

「…現状のこの島で一番「変化」に期待できるのは、人間関係とかそういうのなので。あいつとあいつが最近いい雰囲気だ、とか」

「何だ、お前もそういう話が好きなのか?」

「嫌いでは無いですよ。まあ、知りたくはあっても、軽々しく首を突っ込む気までは無いですが」

 

そうだな、余程親しくない限りはその方がいい。しかし…

 

「それは、1人でやっているのか?」

「以前はそうでしたが、最近はライザと一緒にやってますね」

「錬金術の気分転換と人助けも兼ねてね。なんて言うか、いつも通り過ごしてるだけに見えても、みんな結構色々悩みとか抱えてるんだなーって解ったよ」

「そういう気付きは大事だな。…しかし、定期的に2人でいると、もうそういう関係だと島中で噂されていそうだな?」

「ちょ、アンペルさん!あんまりそういうこと言わないでよ!」

「ええ、もう慣れました」

「そうか」

「アルム!?」

 

この2人でそう言われるなら、各地を2人で回っている私とアンペルも…いや、あの老婆と漁師の反応が答えか。

 

「え、ちょっと待って、そんなに島中で言われてるの!?」

「狭いからな、この島。そういう話が広まるのは早いぞ」

「いやそれは知ってるけど!え、っていうか、その」

「何だ?」

「…アルムはその話について、どう思ってるの?」

 

…随分踏み込んだことを聞くな。さて、アルムはどう返す?

 

「…そうだな」

 

そう言ってライザの耳に口を近づけ…

 

「嬉しいに決まってるだろ」

「~~~っ!」

 

小声でそう言った。…ライザの頭でフラムにも劣らない爆発が起きたな。

 

「何を言ったのかは聞き取れなかったが、なんとも解りやすい反応だな」

「あまり弄ってやるなよ」

「流石にそんな大人げない真似をするつもりは無いぞ。それで、2人はこの後どうする?」

「日課のついで程度にですが、俺達も皆を見に行こうかと」

「そうか。…とりあえずその前に、ライザをどうにかしてやった方が良いぞ」

「…ぁぅぅ…」

「…正直に言い過ぎたか」

 

だろうな。…しかし、常日頃から思うが、本当に意中の異性からああ言われただけでああもなってしまうものなんだろうか。流石にライザが弱すぎるだけか?ふむ…

 

『ん、お前と夫婦扱いされて嬉しいか、だと?今更何を聞くかと思えば…当たり前だろう』

(…………いや、無いな)

 

こいつはそんなこと絶対に言わん。

 

 

「――よし、こういうときはクラウディアの演奏を聴いて落ち着くに限る!」

 

買い物を終え、家に戻る過程で多少落ち着きを取り戻したライザは、バレンツ邸の前で拳を上に挙げてそう叫んだ。まあ、確かにそういう曲をリクエストすれば落ち着けはするだろう。が…

 

「事情を知れば、むしろ揶揄ってくると思うが」

「以前私達もやられたな、そういえば」

「間違いなく俺達の中で一番そういう話に興味ありますよね、クラウディア」

「…あれ、もしかして一番危ないとこ選んじゃった?」

 

漸く気付いたか。まあ、どうせ全部見て回る予定だったから、順番が違うだけなのだが。

 

「というか、そもそも吹いてくれるのか?まだ父親の前で吹けるかどうか解らないだろう」

「…あ、そっか」

「ゆっくりしている所を無理に連れ出すわけにもいかないしな。まあ、聞ければ御の字くらいの気持ちで言った方が良さそうだ」

 

少なくとも、勇気や度胸の類はもう十二分に備わってはいる筈だから、後はどう話を切り出すかだけだろうがな。

 

「さて、では…」

「あれ、みんな?」

 

いざバレンツ邸に入ろうとしたその瞬間、フルートのケースを抱えたクラウディアが出てきた。

 

「あ、クラウディア!今から練習?」

「えっと、今日はお願いしたいことがあって…」

「え、なになに?あたしにできることなら何でも聞くよ!」

「ありがとう。実はね…」

 

クラウディアの「お願い」の内容を聞いた私達は、それを直ぐに了承し、早速実行に移した。

実のところ、詳しい事情は知らないが…クラウディアが父親に向かって一歩踏み出す勇気を出したことは十分に伝わってきた。私達の存在がその助けとなるなら、顔くらいはいくらでも貸してやろうじゃないか。

 

 

「ふむ、アルム君とライザ君は兎も角、お二人が来るのは少々珍しいな」

「今回は偶々居合わせてな。まあ、付き添いみたいなものだ」

 

早速私達はクラウディアの父親を呼び出した。次の販路の許可の返事待ちをしている段階だからか時間があったのだろう、直ぐに応じてくれた。

 

「実際には、ルベルトさんに用事があるのはクラウディアですね」

「クラウが私に?…それは、フルートか?」

「…今まで、隠しててごめんなさい。私ね、これを練習する為に今まで何度も商隊を抜け出してたの」

「何…?しかし、初めの頃は…」

「私がお父さんの前でフルートを吹く度に、とても悲しい顔をしてたから、それが辛くて…」

「私が、そんな顔を…」

 

クラウディアがいつから商隊について来ているのかは知らないが、優しい娘だからな。自分のしたことで父親が悲しんでいると知ればそうもなるか。

 

「でも、練習を続けてもっと上手くなればいつか喜んでもらえるんじゃないかって思って、それでずっと隠れて練習してて…」

「…今まで商隊を抜け出していたのは、そのフルートで私を悲しませない為だったのか」

「うん。…でも、結局また悲しませるんじゃないかって思って、中々お父さんの前で吹く勇気が出なかったの。でも…」

「…彼ら、か」

「うん。ライザやアルム君達と出会って、私の演奏を褒めてくれて、これが人の心を慰められるものだって知って…それで漸く、お父さんにこれを聞いてもらう勇気が出たの」

「アルムなんか、初めて聴いたときにアンコールしてたくらいですから。ね?」

「…ええ、まあ」

「…それはまた、クラウが恥ずかしがっただろうな」

「あはは…うん、凄く恥ずかしかった」

 

そんなことをしていたのか、アルム。まあ気持ちは解るが…割と思い付きと衝動で動くことが多いな、アルムは。

 

「でも、今は違うよ。私はもう、これでお父さんを笑顔にできるかもしれないって、そう感じることが出来たの。だから…」

「…ああ、分かった。クラウ、お前の演奏…聞かせてくれ」

 

クラウディアが目を閉じ、大きく息を吸い、フルートを吹き始めた――

 

 

 

「…フルートの演奏会は、数年おきに旅に出る私と、母さんとクラウの、とても楽しい思い出だった」

 

父親の前で行われたクラウディアのフルートの演奏は、今までで一番と言っていいものだった。恐らく、クラウディアの中から迷いが無くなったからだろう。淀みなく、美しく、力強かった。

そしてそれが終わった時、クラウディアの父親がぽつりぽつりと言葉を紡ぎ始めた。

 

「だから、母さんのそばを離れ、私と旅に出たお前がフルートを吹く姿に…私は、この子は母さんの元に帰りたがっているのではないかと、思ってしまったのだろう」

 

…成程、確かにそれは悲しい表情の1つも浮かべてしまうだろうな。こちらの子供は、父親より母親に懐く傾向が多いそうだしな。

 

「確かに、その気持ちが全然無かったわけじゃないけど…でも、私は父さんの娘だよ?

旅は私にいろんなものをくれた。綺麗な景色、いろんな食べ物、知識、経験…それに、大切な友達。

だから私、旅は好きだよ。すっごく、大好き」

「…そう、か」

 

クラウディアは今回の旅で、かけがえのない友との出会いと、己を肯定する切っ掛けを得た。これは、更に旅を好きになるだろうな。

 

「…一度、母さんの下に帰ろうか。お前の素晴らしい上達ぶり…三人の演奏会で聞かせてあげよう」

「…うん!」

「アルム君、ライザ君。君達がクラウの友達になってくれたこと…本当に感謝している」

「いえいえ、こちらこそ!クラウディアには助けられることも多いので!」

「持ちつ持たれつ、というやつです」

「そうか。…ふふ、君達との出会いは、私達にとって実に大きな幸運となったな」

 

その意見には、全面的に同意だな。

 

 

 

 

「あれ、タオとボオス?珍しい組み合わせじゃん」

「あ、ライザ。…とアルムと、アンペルさん達?」

「2人もこっちに来てたのか。こいつらの様子でも見に来たのか?」

 

噴水広場に来た私達は、タオとボオスが話している所に遭遇した。よく見るとボオスが紙を持っているが、メモ書きか何かか?

 

「そんなところだな。それで、2人は何をしている?」

「ええっと、もしもの時の為の準備っていうか…」

「こいつは、クーケン島の制御装置の動かし方が書かれたメモだ」

「…そういうことか」

 

確かに、最悪の時の為の備えは必要だったな。私達が帰ってこれなかったら、誰もあの本を読めなくなり、この島の調整を行える者がいなくなる。

 

「正直ビックリしたぞ?タオが真剣な顔でいきなりこんなものを寄越してきたんだ」

「…国を滅ぼすような化け物の親玉を倒しに行くわけだしさ。事情を知ってて、こっちに残る誰かにこの情報は渡しておかないとって思ったんだ」

「確かにそれならボオスが適任だな。エルには異界の事は話していないし、それ以前に『俺達は死ぬかもしれない』なんて言えない。アガーテさんは…多分こういうのは苦手だろうしな」

「あー、確かに。絶対途中でわけわかんなくなってタオに助けを求めてそう」

「…うん、僕もその光景が凄く目に浮かんだ」

「聞かれていたら怒られるぞ?正直俺もそう思うが」

 

…姉弟分達にそんなイメージを持たれているアガーテに少し同情した。まあ確かに不器用そうではあるが…

 

「とは言え、こっちとしちゃお前らが帰ってくる可能性以外考えたくないがな。友人に死んでほしくないのは当然として、それを抜きにしてもまず島民達に事情の説明をしなきゃならんし、島をどうにかできるレベルの錬金術士を探さなきゃならんし、見つかったところでそいつの性根が良いとも限らない」

「うわ、考えただけで立ち眩みするレベルで大変そう…」

「なんなら、俺はもう既に胃が痛い」

「…今丁度コアクリスタルにエリキシル剤を入れてるが、使うか?」

「贅沢な使い方だなぁ…」

 

性根だけならともかく、才能もとなると…島どころか、ボオスの寿命が尽きるまでに見つかるかどうかだろうな。このレベルの錬金術を単独で扱える者は希少だ。

 

「まあ、そのことに関しては信じてくれとしか言いようが無いな。出来る限りの準備はしたつもりだ」

「…本当だな?」

「乱発すると地形を変えかねない爆弾のような物とか、自分の周りだけ時空を捻じ曲げる時計とかな」

「おい何だその聞くだけでヤバそうな道具は。別の意味で不安になるぞ」

「うん、あたしもそう思う。自分で作っといてなんだけど」

 

なんならリビルドまでやって出来る限り性能を高めたからな。アルムが言っていたように、余程の事が無い限り封印推奨な代物だろう。

 

「まあ、そこまでやってるんなら俺からは何も言えねえな。…勝てよ」

「「「ああ」」」「「うん」」

 

この約束を違えさせないよう、私も死力を尽くすか。

 

 

「さて、後はレントか」

「この時間なら、いつもなら家の前で日課の素振りをしていると思いますが…」

 

レントの様子を見に行くために、私達はレントの家まで向かう。

 

「ん-…素人考えだけど、あれだけ強いと今更素振りって意味あるのかなって思っちゃうんだけどどうなの?」

「その発言は錬金術士で言うと「今更中和剤なんて作らなくていいんじゃないか?」とほぼ同義だ」

「成程、すっごい大事だわ素振り」

 

我が弟子ながら、錬金術で例えると即座に理解してくれるのは有り難い。基礎は何より大切だぞ、ライザ?

 

「まあ、素振り中ならそれで構わん。あくまで様子を見に来ただけだからな」

「それなら、態々素振りが終わるまで待つ事も無いですね。少しだけ様子を見て――ん?」

「アルム、どうしたの?」

「…金属がぶつかり合う音だ」

 

私にはよく聞こえなかったが…金属がぶつかり合う音だと?

 

「え、もしかしてザムエルさん…?」

「状況的にほぼ確定だろうな。…ということは、剣を持ち出しているのか?」

「関係は徐々に修復されていると聞いたが…」

「…今更滅多なことにはならないと思うが、一応急ぐぞ」

 

流石にこんなところで血生臭い事になるとは思えんが…やはり弟子が心配なのだろう、真っ先にリラが駆け出した。

 

「…言い争うような声も聞こえてきたな」

「え、それホントに大丈夫なの…!」

「いざとなったら無理矢理止めるぞ」

「ああ。…着いたぞ。レント、大丈夫――」

 

レントの家にたどり着いたとき、目に入ったのは――

 

「あ˝あ˝クッソ!!ホントに最近までブランクあった元飲んだくれかよ!?馬鹿力は健在どころか磨きがかかってんじゃねーか!!」

「はっ、何ヶ月もかけてじっくり錆を落としゃあこんなもんよ!!それと技でも負けるつもりはねぇぞ!!」

「もっと早くそんな感じでマトモになってりゃ母ちゃんも逃げたりしなかっただろうによ!!」

「それについては返す言葉もねえ!!」

「つーかエルにあそこまで言われて何も言い返せなくなってんの今思うとホント情けねえな!!」

「マジでそれは言うな!!今でも会うとなんか気ぃ遣われるんだぞ!?挫折した息子を心配する母ちゃんか何かかアイツは!!あの年で!!」

「いいじゃねえか!!最近島の子供から怖がられることも無くなってきてんだろ!?」

「大半が山登りの山扱いしてくるがな!!アルムのが背高えんだからそっちに頼みゃいいのによあいつ等!!」

「親父のがゴツいから登りがいがあるんだとよ!!」

「ガキどもの癖に変なこだわり持ってんなオイ!!」

 

…何と言うか、親子の口喧嘩と高度な戦士の戦いを両立していた光景だった。しかし、少し前まで島でも有名な酒に溺れた乱暴者だったらしい大男を遊具にするとは、この島の子供はどうも肝が据わっているようだ。

 

「――だ、な」

「えーっと、何あれ。ケンカ?」

「というより、じゃれあいと言ってもそう的外れではなさそうだな」

「それでいて打ち合い自体は結構高度と言うか…お、そのタイミングで蹴りを入れられるのか。こういうところは流石だなザムエルさん」

「なんかアルムが観戦モード入ってる…」

「…今のは無理に打ち合わずに受け流して拳で一撃入れるべきだったな。まだまだ相手の動きを読む技術が甘いぞ、レント」

「…リラも師匠モードだな。やれやれ、2人が止まるまで待つとしようか」

 

この喧嘩のような、じゃれあいのような、決闘のような打ち合いは30分程続いた。勝者は…

 

「ハッ、ハッ、っしゃああああっ!!」

「くっそ、スタミナまでは、誤魔化せねえか…!」

「そりゃ、こっちは、親父が、飲んだくれてる、間も、特訓、してた、からな!!」

 

レントだった。体を鍛え、かつ冒険に出て魔物を相手にしているレントと最近まで酒に溺れていた父親ではスタミナに差がついて当然。とはいえ、その前に力で押し切られる可能性もあったように思えるな。正直、私の目には互角に見えた。

 

「で、どうだよ?親父」

「ハッ、ここまで、やれるんなら、心配は、いらねえな。…行ってこいよ、お前も、外の――」

「レント、ザムエルさん」

「アルム?お前、見てたのか」

「ああ。…いい勝負だったな」

「…だろ?」

「で、それはそれとして…リラさんがなんと言うかな」

「全くだ」

「…げ」

 

リラは軽く怒っているな。…そんなバツの悪そうな顔をしても、リラは許してくれないぞ?

 

「お前にとってはいつか必要なことだったのだろうが…そこまで体力を使い果たすとはな。明日に響いたらどうする」

「…すんませんでした」

「とりあえずエリキシル剤を使って…今日はもう大人しくしておけ。こっちはお前に倒れられるとかなり困るからな」

「おう、ありがとよ」

「何だ、明日大事な要件でもあんのか」

「まあ、そんな感じかな。ところでザムエルさん、なんでまた急にこんなことを?」

 

ふむ、確かにそこは気になるな。事情を知らないこちらからしたらいささか唐突にも思える行動だからな。

 

「あー…おいレント、これはお前が言う事だろ」

「解ってるよ。…実はよ、近い内に島を出て行こうと思ってんだよ、俺」

「…えっ」

「…そうか」

「塔の天辺に行くって夢は叶えた。だから、次は武者修行をしながらいろんな世界を見て回りてえって、そう思ったんだよ」

「だからまあ、俺がやったのは腕試しみてえなもんだ。最近まで飲んだくれてた俺に勝てねえようじゃやっていけねえぞってな」

「それはちょっとハードル高くないかな…?今見てても凄く強かったけど」

「お前等最近竜と戦っただろ?ああいうのが本当に突然来ることも偶にあんだよ。つっても気を付けててもどうしようもねえときは本当にどうしようもねえ。だからせめて真っ向勝負くらいはしっかりやってくれねえとな」

 

ほう、要するにこれはつまり…

 

「ザムエルさんなりの親心…というやつですか?」

「…あー、まあ、そんなんだな」

「荒っぽいって言うか、不器用だなぁ…」

「ホントだよ全く…ま、有り難く受け取っとくぜ」

「お前も微妙に素直じゃないな、レント」

 

…親心、か。私は母の最期の願いを、蔑ろにせずにやっていけているだろうか。

 

「さて、全員見て回ったことだし、私達はアトリエに戻るか」

「あたしたちはどうしよっか、アルム」

「とりあえず、そろそろ昼食だから一旦家に戻ろうか」

「ああ、だったらアルム。ついでにこいつをカールのとこに返しといてくれねえか。流石に少し休みてえし、どうせお前アイツの家に寄るだろ」

「え、ザムエルさんの剣?なんでお父さんに?」

「…万が一の時の為に、こいつで暴れまわったりしねえように預かって貰ってたんだよ」

「今はもう心配いらないと思いますが…」

「言っただろうが、万が一があるってよ。…ああ、ライザ」

「え、何?」

「ミオが『アルムがいるから大丈夫だとは思うけど、どこで何してるのか解らないのは正直不安だから、錬金術とやらであの子を直ぐに呼び出せる呼び鈴が欲しい』っつって愚痴ってたぞ」

「…今日はちょっと家で大人しくしといた方が良いかも」

「そうしとけ、ああ見えて心配性だからなアイツ」

 

…母親とは、どんなに強く見えても案外そんなものなのかもしれないな。

 

「じゃあレント、アンペルさん、リラさん、また明日」

「ああ。そっちもしっかり体を休めろよ」

「おう。きっちり万全にしておくぜ」

 

…いよいよ明日か。さあ、勝ちに行くか。




見てわかる通り3で出た要素をちょいちょい出してます。
そしてザムエルが最早別人ですねコレ。マイルド化させた時点でこの場面はこう書くと決めてましたが、なんとか辿り着けて良かったです。

オリ要素
冷蔵籠…要するにクーラーボックス。多分作れるし需要めっちゃあるだろと思って出しました。

Q,ところで、これもう告白したも同然では?
A,「はっきり好きと言うのは、蝕みの女王とクーケン島の諸々が一段落ついてからだ。まあ、だからといってそれまでそういう気持ちを全く伝えないのもどうかと思うから、あれくらいは言ってもいいか、と」

ここまで読んで頂き、有難うございました。


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戻りたい空を眼に、戻したい空を心に

アニメ版は視てませんが、なんか5分に1回くらいライザの太ももがアップになってるらしいですね。
アルムが視たら「そこよりもっと笑顔映せ」って言いそう。

異界突入。今回はレント視点→クラウディア視点です。


「――さて、遂にこの日が来たな」

 

『蝕みの女王』討伐決行の日、俺達はアトリエで最後の作戦会議をしている。ここでやることは突入後の動きの最終確認、それが終わったら後は目的達成まで全力で進むだけ。

…まあ、動きそのものは言うだけなら簡単な物なんだけどよ。

 

「基本的には雑魚は相手にせず、女王一点狙いで行くぞ」

「どうしても邪魔なら、セルフィアで無理矢理吹っ飛ばしちゃっていいんだよね?」

「数が多いならな。少ないなら俺達前衛組がどうにかする」

「アイテム無しで少数の雑魚に手こずるようじゃ、女王は倒せねえだろうしな」

「私とライザの必殺技も基本的に温存、でいいんだよね?」

「女王と戦ってる時に雑兵が湧いて出てこないとも限らないからね…」

 

…流石にそれはぞっとするな。後衛組がいるとこにそいつらがなだれ込んだらそのまま前衛の俺達まで巻き込まれて全員お陀仏だ。だからその場でも対応できるようにするか、乱入されねえように対策するかしなきゃマズいな。

 

「で、後は…あのぷににも何かやらせるのか?」

「坑道の入り口付近に陣取って貰います。万が一にも坑道に入ろうとするとする旅人への威圧と、女王と戦っている間に門を潜ったフィルフサがいた時の対処を頼もうかと」

「…何というか、奴の事も自然と戦力に数えてしまっているな」

「凄く強いもんねー、あの子。仲良くなれて良かったよ」

「模擬戦とかしてても、リラさんの動きに対応出来てたりアルム君の蹴りが押し負けそうになったりしてたもんね」

「体当たりでレントが吹き飛ばされたときは何事かと思ったよ…ぷにってあそこまで強くなれるんだね」

「あんときは油断しちまってたからなあ…アイツ、下手したら古城の竜より強いかもしれねえぞ」

 

あの時偶然餌付けしたアルムには感謝しかねえな、ホント。なんか貴重な素材も持ってきてくれてるみたいだしよ。

 

「まあ、アイツの話はここまでにして…後気を付けることは?」

「侵攻が始まる直前だからな、向こうもこちらに渡ろうとしてくる。つまり、門を通ったすぐ目の前にフィルフサがいる可能性があるぞ」

「最悪なドッキリだ…」

 

門を潜るのは剣を構えながらにした方が良いな…

 

「それと、キロさんの様子も見に行った方が良いかな?」

「そうだな、奴なら問題ないだろうが…どの道アイツが野営している所を通ることにはなるからな」

「そこで一旦一息ついてから、一気に女王のところまでって感じだな」

「後は…もう無いかな?」

「…いや、1つだけ」

 

そう言ってアルムが手を挙げた。…何かまだあったか?

 

「ライザ、複製釜で道具を増やすのに時間はかからないよな?」

「え?うん。物と数にもよるけど、5分もあれば」

「なら、一番いいローゼフラムを10個程増やしてほしい」

「何に使うつもりだ?それだけ作ってもコアクリスタルには入らないぞ」

「ああ、これは直接投げます。出来るだけクリスタルのエネルギーは蝕みの女王に回したいですし、ちょっと思いついたことがあるので」

「ん-…まあアルムの頼みならしょうがない、ちゃっちゃと増やしてくるね」

「ああ、頼んだ」

 

ローゼフラムを10個、ねえ。コイツの事だから無駄なことはそうそうしねえだろうが…何をする気なんだか。

 

「さて、ではローゼフラムの複製が終わったらいよいよ突入だ。武器と心の準備を最後まで怠るなよ」

 

さーて、いよいよ師匠に恩返しするときだ。死ぬ気で気合入れてくか。

 

 

「…ん-」

「どうした、ライザ」

「いやー、ちょっと空を見てたっていうか」

 

門の前まで来ていざ突入って時に、ライザがそんなことを言い出した。空、ねえ。見上げたところでいつもの青空が広がってるだけだと思うが。…いや、今から向かう異界の空はそうじゃないんだよな。

 

「正直、さ。今まではこの乾期の空…特に太陽が凄く鬱陶しくてさ。いいからさっさと曇れーとか思ってたりしたこともよくあったんだよね」

「そうそう。家の中でゆっくり本を読んでても暑くて暑くて集中できなかったことあるし」

「ほっとくと剣が熱くなって素振りどころじゃなくなったりな」

「その辺り、俺は風の魔力で誤魔化しているけどな。風を軽く纏うだけで体感の温度はかなり変わってくる」

「それホントズルいわよねー、やり方聞いたけど真似できなかったし」

 

そもそも出来たとしても、日中ずっとなんて普通魔力が続かないだろうけどな。

 

「まあとにかく、そんな鬱陶しかった空だけど…そんなこの青空が、あたし達の世界の空。あたし達が帰ってくるべき場所の空なんだ」

「…うん、そうだね。だからちゃんと戻ってきて、皆でもう一度この空を見上げよう」

「ああ。そして、叶うならいつか、異界の元の空も眺めたいところだ」

「あそこまで荒れた自然が元に戻るのって凄く時間がかかりそうだから…生きてるかなぁ、僕達」

「こっちから手伝えることがあればいいんだけどな…どこもあんな感じになってるなら、水だけ戻してほっとくだけでなんとかなるとは思えないしよ」

 

方法が思いつくわけじゃねえから、頼まれても何もできねえけどな…旅先で良さそうな何かが見つかれば良いんだけどな。

 

「気持ちは有り難いが、そういう話は蝕みの女王を倒してからだ。まずそれをしないことには何も始まらん」

「ああ、今は奴に集中するぞ。我々がやられてしまえばフィルフサ以外の誰にとっても悪い結末にしかならんからな」

 

っと、それもそうだな。先の事を考えすぎて目の前の敵を疎かにして、それで負けて死にましたなんて笑い話にもならねえ。

 

「じゃあ…行こう、みんな」

「全員で勝って、生きてここに帰るぞ」

 

ライザとアルムの言葉に全員が頷いて、異界への門に突入した。さあ、いよいよ決戦だぜフィルフサ。

 

 

 

 

「っ、と……やはりいたか!」

「よっ…と、マジでいやがるとはな!!」

「とっ…ッ!!」

 

門を潜って異界に来た私達の目の前に、いきなりフィルフサがいた。「空読み」と一緒のサソリ型と坑道にもいたネズミ型、そして将軍級って言われてる大型の3種類。だけど、前衛の3人がすぐに対応してくれた。

 

「はぁっ!!」

 

リラさんは一瞬でネズミ型との距離を詰めて、首のあたりを引き裂いた。ネズミ型は何もできずにその場に倒れた。

 

「とっ…おらあぁっ!!」

 

レント君はサソリ型の尻尾の攻撃を弾いて、そのまま剣を振り下ろした。サソリ型の胴体が真っ二つになった。

 

「沈めっ!」

 

アルム君は将軍級が動く前に頭を思い切り踏みつけた。将軍級の頭が本当に地面に沈んで、角みたいな部分が砕けて、前半分くらいの外殻が罅割れた。

 

「…はっや」

「やれやれ、揃いも揃って頼もしいな」

「驚く暇も無かったよ…」

 

うん、私もタオ君と同じ気持ちだよ。いるって気が付いたときにはもう倒されてたから。

 

「…おいアルム、何だその威力」

「ああ、こいつのおかげだな。ライザが新しい武器を作る時に「フィルフサの外殻を砕きやすくするために、可能な限り重く硬くしてくれ」と頼んだんだよ」

「本当にそれだけか?流石にこれは尋常ではないぞ」

「…可能な限り重くしたうえで魔力が伝わる効率を極限まで高めようとして、畑で採れた火と風のエレメントコアをいくつか組み込んだらしいんですよ。お陰で出力が尋常じゃないことになりまして」

「…本当なら多分メチャクチャ贅沢な使い方してるよな、それ」

「力の結晶だから武具に使うのは間違っていないが…そもそも畑から取れるものではないからな」

「マジで何なんですかね、あの畑」

「鉱石も、俺が見てすぐに解るくらいには良い物が栽培されるからな…」

 

あれは種が特殊なんだと思うけど…というか、リラさんから見ても今のアルム君の攻撃って凄いんだ。一瞬で急所を突いたリラさんも、一撃で真っ二つにしちゃったレント君も凄いと思うけど。

 

「私とライザが全力で調合した種だ、それくらいやってもらわねば困る」

「「それくらい」のハードルが高すぎますよアンペルさん…」

「まーまー。今こうして役に立ってるんだし、細かい事は言いっこなしよ」

 

畑から木材どころか鉱石とか炭とか砂が採れたりするのを細かいで済ませるのは…もしかして、それが出来ないと錬金術士として大成できないのかな…?

 

「まあ、この一瞬でこれだけの威力が出せるなら蝕みの女王にも有効そうだな」

「「ディザスターブレイカー(災厄の破壊者)」だったっけか。最初に意味聞いたときは流石にと思ったけどよ、破壊力は全然名前負けしてねえな」

「その分重量が嵩み過ぎて、アルム以外まともに使える代物では無さそうだが」

「ライザは「あたしは歩くのも無理!」と言っていたな。俺でも、魔力による補助がないとただ走るのも一苦労なくらいには重い」

「しかもそれをやろうとしたらしたで、調整ミスするとあらぬ方向に吹っ飛んでいきかねないじゃじゃ馬なのよね」

「何でそんなもの履いて平気で戦えるのさ…」

「吹っ飛ばない調整の仕方さえわかれば、後はもう『大体これくらい』で良い感じにやれる」

「そういうとこホント雑だなお前…」

 

…アルム君が強い理由って、意外とこういうアバウトなところにあったりして?

 

「しかし、この一瞬で将軍を討伐できたのは大きいな。これでこいつを核とした一群の集結を妨害できる」

「単なる上位種の通称とかじゃなくて、本当に将軍みたいな役割がある奴なんすね」

「成程。…用意したローゼフラムも、思っていたより有効に働きそうだ」

 

アルム君はローゼフラムをどうやって使うつもりなんだろう?敵の集団に投げ込むってところまでは想像がつくけど…

 

「さて、話はそこまでにしてキロ・シャイナスと合流するぞ」

「うん。無事かどうか確認したいし、今の状況も聞きたいしね」

「こっちからも話したいことは色々あるしね、古式秘具の事とか」

「後、蝕みの女王を倒しに来た…ってことも、だね」

 

流石に驚くだろうなあ、キロさん。

 

 

「えーっと、確かこの辺…あ、キロさん!!」

「大侵攻の予兆があったから、きっと様子を見に来ると思ってた。…君達と再会できて、嬉しい」

「私達も、キロさんが無事で嬉しいです」

 

聖地にいるキロさんを探そうとしたら、直ぐに見つかってくれた。良かった、無事みたい。

 

「この感じ…どうやら聖地は襲われていないようだな」

「奴らは門を真っ直ぐに目指すから、そこから外れている聖地には目もくれない。寧ろ、周りの群れが駆り出されているせいで静かなくらい」

「それってつまり、女王の城の周りにはうじゃうじゃ居るって事だよね」

「うわぁ、想像したくない…」

「余計な壁が増えたとみるか、纏めて吹き飛ばす好機とみるか…」

「以前から思っていたが、魔物相手だと随分荒っぽくて物騒だなアルム」

「手加減も容赦も必要無いので。特にフィルフサはこっちの生活もかかってますし」

「…纏めて吹き飛ばす?」

「あーっと、じゃあまず情報交換しましょうか」

 

 

~斯く斯く然然~

 

 

「…そう。古式秘具は、やはりそちらに。ボオスは気に病んでいた?」

「だろうな。ぱっと見は落ち着いてたが…多分内心切れてたと思うぜ」

「恐らく、今すぐにでもあの球を壊したくてたまらないでしょうね。知らなかったこととはいえ、自分の家が盗品を勝手に使って権勢を揮っている状態な訳ですから」

「その様子は目に浮かぶ、ボオスは真面目で気位が高いから。…古式秘具のありかが解ったのなら、その事で彼が怒ってくれているというのなら、まずはそれでいい」

 

改めて聞くと凄い状態で維持されてるんだよね、クーケン島の生活って…

 

「そしてそっちは…本当にやるの?蝕みの女王を倒して大侵攻を止めるなんて」

「色々考えた結果、これしかないという結論になりました」

「心情的にもタイミング的にも、止めないとマズいんです」

「一応、出来得る限りの準備はしてきたが…なるべく消耗を抑えたい。女王の城に至るまでの情報が欲しいのだが」

「やっぱり、本気なんだ…解った、君たちの勇気と闘争心に応える。私の助力は?」

「聖地を守るお前を、私たちの戦いに巻き込むわけにはいかない。お前はここでお前の戦いの為に残っていてくれ」

「分かった。…こちらは故郷を荒らされ、そちらは尻拭い。お互い、クリント王国のせいで苦労をさせられるな」

「…ああ、本当にな」

 

…あんまりこういうことは言いたくないけど、今回塔で発覚したこと以外にもまだ何かしてそうって思っちゃうなあ。

 

「女王の城は、奥の封鎖してある道の先にあるはず。君達の無事を祈る」

「有難うございます、キロさん」

 

絶対にみんなで、無事に帰ってきます。

 

 

 

おまけ キロ「いくら何でもその出処はおかしい」アルム「ですよね」

 

「ところでアルム、君の履物だけど」

「ん、何か気になるところが?」

「途轍もなく強い力を感じる。もしかして、エレメントコアが組み込まれてる?」

「ええ。よく解りましたね」

「エレメントコアは大精霊様が持つ力の結晶だから、精霊の力を借りる私達には解りやすい。もしかして、大精霊様に会った?」

「いえ、特には」

「なら、どうやって?偶然で手に入るものではないはずだけど」

「…農作物です」

「…???」

「錬金術で作った種を畑に植えたら、なんかこう、鎮座していまして」

「……??????」

「…大丈夫ですか?」

「…数百年単位で信じてきた自分の常識を、粉微塵に破壊された気分といえば伝わる?」

「…何か、すいません」




ライザの畑の収穫物の中でも、一番何で採れるのか解らない代物だと思う。

武器更新 エタニティダンサー→ディザスターブレイカー(災厄の破壊者)スロットは4つ
武器スキル 災い砕き(アクティブスキルの消費APが増える代わりに、攻撃力とブレイク値が大きく増加する。一段階ごとに消費AP+1、攻撃力とブレイク値+25%)
なお攻撃力そのものが上がるので通常攻撃とオーダースキル、フェイタルドライブはノーデメリット。

Q,ただ走るのすら魔力使わないと一苦労ってそれ魔力保つの?
A,アルムがやってる動きの補助は、魔力による身体能力のブーストではなく風と炎の魔力で推進力を生み出し、それでブーツを浮かせて重量を軽減することで行っています。
ディザスターブレイカーは魔力の効率が異常に良いから量はほとんど必要ないですが、効率が良すぎるせいで制御が手間です。ちょっとでもうっかり流し過ぎるとフローリングの上でバナナの皮を踏んだ時のような動きになります。

ここまで読んで頂き、有難うございました。


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侵略者に侵掠すること、爆炎の如し

この話含めて1の時系列の本編はあと多分4話くらい。
女王の元まで進軍。今回はレント視点→???視点です。


「この石碑は…?」

「共生…記念…で、合ってるか、タオ」

「うん。…友好の証、とかそんなことが書いてあるね」

「おこがましいっつーかなんつーか…」

「最初は本当に、そのつもりだったのかもしれないけど…」

 

キロさんが道を塞ぐために置いた岩を砕いて異界を進んでいた俺達は、ぽつんと置かれた石碑を見つけた。そいつはどうもクリント王国とオーレン族の友好を記念して造られたモンらしい。

…例の手記に友人とか書かれてたから、クラウディアの言う通り最初は本当に友好関係を続ける気でいたのかもしれねえが…結局あんな事してんだから擁護はできねえな。

 

「…ハッキリ言って、余裕があるならついでに壊していきたい代物だ」

「それができるならキロが既にやっていそうだが…この材質と造りでは、恐らくお前やアルムが全力をぶつけても破壊はできんだろう」

 

リラさんやアルムの全力で壊せねえとかとんでもねえ硬さだな…俺の必殺技でもぶった斬れねえどころか逆に腕が折れるかもな。

 

「ならそれについては考えないことにして…どっちに進みますか?」

「どっち、だと?道は左側にしかないが」

「いえ、ここから降りれば近道になるんじゃないかと。フィルフサも小型が数匹いるだけですし」

 

そう言ってアルムが指差した先を見ると、真ん中に結晶が生えてる広場があった。…イヤ結構高いぞコレ。

 

「ふむ、良い案だ。では行くぞアルム、アレくらいなら私とお前ですぐに片付く」

「了解です」

 

そう言って2人は躊躇いなく降りた。多分30秒もかからねえだろうから早く降りれそうなとこ見つけねえと…

 

「全く、ショートカットは良いがまさか2人で往復して私達を下に降ろすつもりなのか?」

「流石にそれは大変ですよね…いざって時の為にあんまりあの2人に疲れは溜めて欲しくないですし」

「レント君、どうにかできないかな?」

「今それを探して…お」

 

丁度右側に良い段差があったぜ、あそこからなら俺ならタオ1人くらいはおぶって降りられるな。

 

「よし、俺はあっちから降りる。タオ、おぶってやるから一緒に来い」

「え、僕?…あんまり揺らさないでよ?」

「心配すんな、やたら飛んだり跳ねたりするあの2人よりは怖くねえはずだ」

「比較対象がさぁ…」

 

言うなよ、言ってて自分でも苦しいって解ってんだから。

 

「ふむ、私達はどうする?」

「アレくらいなら1人で降りられると思うから、あたしはあっちから行くね」

「じゃあ、私はリラさん、アンペルさんはアルム君にお願いすればいいかな」

「…安全運転を注文しておこうか」

 

で、俺達が下りたのと入れ替わりでアルムとリラさんが2人を下ろすために上に戻ったが…降りてきた時、クラウディアはお姫様抱っこだったが、アンペルさんは俵担ぎだった。いやまあ確かにそれ持ちやすいし動きやすいけどよ、アンペルさんが大分息荒くしてたぞ、アルム。

後クラウディア、「空を飛んでるみたいで楽しかった」って…今更だけどお前肝据わりすぎだろ。

 

 

「さて、次は…なんだありゃ」

「うっわ、将軍級が固まってるじゃん」

 

少し進んで門を潜った先に居たのは、4体で固まってる将軍級のフィルフサ。1体ずつならもうそう苦労はしねえけど、あれだけ一気にってなると流石にキツイな…どうするか。

 

「あそこ抜けないといけないの?他に道は…」

「無いな、ここ以外に道と言えるようなものは無い」

「アレを抜けるか、道なき道を抜けるか…か」

 

正直どっちも勘弁だが…できるだけ早く大侵攻を止めたいからな、あそこを抜けるしかなさそうだ。

 

「…あ、そうだ。アルム君、ローゼフラム」

「そうだな、ここが使い時だ」

 

…ローゼフラム?いや、それでどうにかなるかアレ?

 

「確かに10個もあれば突破はできるだろうが…」

「いえ、ちょっと一手間を加えれば…よし、良い感じに固まってるな」

 

そう言いつつローゼフラムを1つ取り出して…顔の近くまで持ってきて見つめ始めた。意識を集中させてるっつうか、何かを込めてるのか?

 

「…よし、これでいいな」

「アルム、何したの?」

「コイツに俺の魔力を込めた。炎で威力を高め風で圧縮するようにな」

「威力はともかく…圧縮?」

「熱とか爆風が広がりすぎるとこっちにも被害が出るかもしれないからな。ついでに局所的な破壊力も高まってる筈だ」

「爆弾に炎の魔力なんて込めて危なくねえのかよ?」

「着火するならそうだが、これは言ってしまえば爆薬を外付けで追加しているだけだからな。問題ない」

 

…まあ実際大丈夫みたいだし納得しとくか。つまりそのローゼフラムはアルム特性の爆弾になってるわけだな。

 

「さて、まだ固まってくれている内にさっさと投げ込むか。…食らえ」

 

アルムがフィルフサの集団に向かって投げたローゼフラムは、綺麗にその真ん中に飛んで行き…

 

 

ボガァァァァンッ!!

 

 

長めの爆音を出しながら炸裂した。あんま強烈な音じゃなかったから、ホントに威力が出たのかちょっと心配になったが…

 

「…よし、成功だな」

「…全員ひっくり返って、動かなくなっちまってるな」

「うーわ、音の割にえげつない威力…」

「…あのフィルフサ、頭吹き飛んでない?」

「ほ、ほんとだ…」

 

寧ろやり過ぎなくらいの威力だった。大型のフィルフサ4体を一撃って尋常じゃねえぞ…

 

「なんというか、今朝思いついたばかりの策にしては破格の成果だな」

「お前達が錬金術を悪用する人間じゃないことに、心底安心しているよ」

 

完全に同感っす…

 

「…ところでアルム君、ローゼフラムって10個持ってきてるんだよね?」

「ああ」

「じゃあ、こんなに凄い爆弾が後9回使えるって事?」

「そうなるな」

「…どうしよう、フィルフサにちょっとだけ同情しちゃった」

「向こうからしたら、これと言って因縁も無い相手からこんな破壊兵器が飛んでくるわけだからね…」

「私が真似できたら、蝕みの女王に嬉々として放り投げてやるのだが」

「まあそれはアルムが代わりにやってくれるだろう。…ところでアルム、ローゼフラムを1つ私にくれ。私の魔力なら面白いことが出来そうだ」

「解りました」

 

アンペルさんが考えるフィルフサ相手の面白い事…えげつねえことになる気がするぜ。

 

「それにしても、なんだか異界っぽくない建物が増えてきたわね」

「それだけ女王に近づいている証拠だ、より一層気を引き締めろよ」

「爆弾で崩れたりするかもしれませんが、構いませんよね?」

「ああ、むしろ思い切りやれ。あんなもの、いずれ全て解体してやらねばならんからな」

「クリント王国の建築様式を知る上での貴重な資料ではあるが…オーレン族の感情より優先されるものではないしな」

「了解です。…今の内に2,3個準備しておくか。速攻で将軍相手に投げ込めば、群れを瓦解させられるかもしれない」

「そこを突っ切って一気に女王のところまで、だな」

 

そうすりゃ、後は全員全力でぶつかるだけだ。

 

「では、全員…覚悟を決めろよ」

「何が何でも、勝って帰るぞ」

「「「「「はいッ!!!」」」」」

 

ぶっ倒してやるぜ、蝕みの女王。

 

 

 

 

――…

 

『略奪者の大石塔』…そう呼ばれる場所で、フィルフサの頭である蝕みの女王は今か今かと待ちわびていた。

嘗てこの地から、自分達が何より嫌う水が消え去り、その瞬間これ幸いと侵攻し己が物とし、更には謎の穴の先の世界にまでその手を広げ、しかし食い止められ穴は閉じた。

 

――…フタタビ…

 

その穴が最近になって再び開いた。つまり、女王にとってはチャンスである。純粋なフィルフサとしての本能を満たすと同時に、進行を阻止されたことに対するリベンジを果たす為の。

 

――…コンドコソ…

 

あの世界も我らの物にしてやる。そう思い、自分自身も侵攻の準備を始めようとしたその時…

 

…ドォン

――…?

 

遠くから聞こえた音。少なくとも、女王には聞き覚えの無いものだった。それ故に、何が起きているのか見当もつかない。

一瞬だけ気にしたものの、大したことではないだろうと結論付けて意識の外に追いやろうとした。が…

 

ドォン

――…!?

 

同じ音。短い間隔で、しかしかなり近づいている。流石に異変を感じ取り、警戒態勢に入る。

 

――…ナニガ…?

 

考えども考えども、女王の中で結論は出ない。そして…

 

ドォン!

――…!!

 

3度目。かなり近い。恐らく、音の発生源はもうすぐそばに来ている。女王の警戒心がさらに高まる。

 

――…クルカ…!

 

そうして、両腕を構え臨戦体勢に入る。そして次の瞬間…

 

――……!!?

 

女王の目の前に、4つの赤いナニカが飛来した。女王が反応できない程の速さで。

 

ドドドガァァァン!!!

――……ッ!!!!

 

あまりに強い衝撃を受けた女王は大きくのけぞり、甲殻にもヒビを入れられる。そして凄まじい熱量によりジリジリと体力を削られる。

 

――……!!

 

続いて飛んできたのは、魔力による攻撃。複数の魔力球に魔力の刃、そしてレーザー。1つ1つの威力は大きくは無いが、無視できるほどでもない。そして…

 

「オラァッ!!」

 

弾幕に紛れて迫って来た「赤」に、頭部の甲殻を斬りつけられる。女王は己に肉薄してきた「赤」を両腕の鎌で切り裂こうとするが…

 

ドゴォンッ!!!

――……ッ!!!??

 

振りかぶった瞬間、腹部に「青」が突き刺さる。先ほどの爆発にも劣らない衝撃が女王を襲い、大きく後ずさった。

 

「蝕みの女王ッ!!」

 

そして「黒」…且つてフィルフサによってこの世界から追われた戦士が一瞬で距離を詰め、その女王の首を挟み込むように切り裂きながら宣言する。

 

「我らの世界を取り戻す為に、お前は私達がここで始末する。…覚悟しろ」

 

怒りと使命感から成る、排除意思を。

 

 

 

 

オマケ アルム「因みにこの抱え方を『お米様抱っこ』と呼ぶ人達もいるとか」アンペル「無駄に上手いのが腹立たしいな…」

 

「こちらは終わったぞ」

「そうか、では頼むぞ」

「私はリラさんにお願いしていいですか?アルム君が私を運ぶのはライザにちょっと悪いと思いますから…」

「そうだな、クラウディアは私が運ぼう。ではアルム、アンペルは任せたぞ」

「はい。…よっと」

「おいアルム、何だこの抱え方は」

「俵担ぎですが」

「それは知っている。そうではなくてだな」

「ダメですよアンペルさん!アルム君はライザ以外をお姫様抱っこしちゃダメなんですから!」

「いやそれを要求するつもりも無いが、だとしてももう少しだな」

「これが安定性と絵面的に一番マシなもので」

「おい安定性は兎も角絵面的にとはどういうことだアルム」

「いいじゃないか、安定性があるのなら。…くくっ」

「おい戦場で笑うなリラ、戦士だろう」

「お前のそんな姿を見ることになるとは思わなかったからな。それに今は周りに敵の気配はないから問題は無い」

「さて、じゃあそろそろ降りましょう」

「ああ。クラウディア、しっかり捕まっていろよ」

「はい!」

「動かないでくださいね、アンペルさん」

「おい、頼むから安全運転で頼むぞ?この体制では普段のそれより頭が地面が近くなる分落下に対する危機感がだな――」

「行くぞアルム、1,2の」

「「ハッ!!」」

「…っ!!」「うおおおおおお!?」

 

 

「2人ともお疲れ様ー。大丈夫だった、クラウディア?」

「空を飛んでるみたいで楽しかったよ。私も飛べるようにならないかなぁ」

「ホント、肝が据わってるよなお前…」

「飛ぶのは難しいが、風の魔力が使えるなら滞空時間を少し延ばすくらいはできるぞ」

「えっと、それでアンペルさんは大丈夫ですか…?」

「…これが終わったら、時間操作の応用で自力でゆっくり降りる為の魔法を作る」

「そうか。…お前を抱えていくのは、嫌いではないのだが」




爆炎の如しというかそのものである。

後半、まさかの「蝕みの女王寄りの3人称視点」。アルムが大型を吹っ飛ばしてみんなが残りを処理するっていうのを3回くらい繰り返す展開よりこっちの方がそれっぽく書ける気がしたので。公式で女王って知能が高いらしいですしこれくらいの思考能力はありそう。
後アルムの特性ローゼフラムは風で爆風を圧縮してるので音が外に漏れにくくなってます。これがなかったら遠くてもメチャクチャうるさいせいで他のフィルフサが寄ってくるので道中ちょっとだけ面倒になってました。
オマケは…まあ、アンペルは「(ゲームでは通れないけど)ここ飛び降りればショートカットできるんじゃね?」なんて思いついた作者を恨めとだけ。

Q,女王って爆弾解らないの?
A,以前の侵攻では誰も女王の元にたどり着けなかったので、フラムなどの攻撃手段を知られることなく終わったことにしています。

ここまで読んで頂き、有難うございました。


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常闇の崩御

漸くできた…ちゃんとした戦闘がすぐ書ける人って本当凄いなと思いました。

蝕みの女王討伐。今回はアルム視点→リラ視点です。


「アンペル!ライザ!」

「任せろ。行け、ルナ―ランプ!」

「最初から全開で行くよ!エターンセルフィア!」

 

女王からリラさんが飛び退くと同時に、アンペルさんとライザが道具を使用する。ルナ―ランプで視界を完全に潰しつつエターンセルフィアで足場も潰してその体を焼き焦がす。

これだけでも奴の体に大きな負荷がかかっていることだろう。だが…

 

「ついでにこれも食らっていけ。私特性の爆弾だ」

 

先程俺が渡したローゼフラムが女王の頭部で爆ぜた。アンペルさんはアレに何か仕込んだらしいが…?

 

「私の魔力を込めたローゼフラムなら熱と痛みが引くのが遅くなるし、頭に叩き込まれれば脳の動きが鈍る」

 

…時間操作の魔法を爆風と一緒に叩き込んだのか。相手が相手だから仕方ないが、本当にえげつない。

 

「さあ、今の内だ。あの時同様、何もさせずに仕留めきるぞ」

 

そう、今回も俺達はあの青い竜と同じように、蝕みの女王に何もさせず殺しきるプランを取っている。理由は簡単、リラさんが「奴にまともに動かれたらまず死人が出るだろう」と言ったため、じゃあ何もさせない以外選択肢が無いなと全会一致で決まったからだ。

ここなら女王は数の利を活かせず、逆にこちらがそれを活かし7対1で挑める上に錬金術で作った強力な道具がある。十分に可能性はある筈だ。

 

(まずは…アレを狙う!)

 

視界を奪った相手に対して警戒するべきは、ヤケクソの攻撃が意識外からクリーンヒットしてしまうこと。だからまずその可能性を減らすためにあの大鎌のような腕を落とす。

奴はセルフィアの破壊力とアンペルさんのフラムのお陰で完全に怯んでいる、俺の速さと力ならその間に行ける!

 

「千切…」

 

女王の腕の付け根の位置まで移動し、足を振り上げ…

 

「れろッ!!!」

 

つま先から魔力を吹き出して加速した踵落としを叩き込む。メキメキ、と女王の腕が軋み、そして耐えきれなくなって千切れた。流石に腕が千切れれば激痛が走るらしい、悲鳴のような絶叫を上げ苦しんでいる。

 

「レント、ここだ!」

「おらぁぁっ!!」

 

2人も同じことを考えていたらしい、反対側の腕をやってくれていた。リラさんの爪で抉った所にレントが一撃が叩き込み、断ち切った。

ここまで一気にダメージを受けたせいか、蝕みの女王は息も絶え絶えと言った様子だ。

 

「…ほう、これならば…ライザ、ここで一気に決めるぞ」

「うん!…お願い、天文時計!

 

ライザが時空の天文時計の力を解放、対象はアンペルさんと…タオだ。

 

「やるぞ、タオ」

「はい!」

 

2人が精神を集中させている。…念のためだ、俺達も合わせるか。

 

「レント、準備しておくぞ」

「そうだな、徹底的にやっとくに越したことはねえ!!」

 

こちらも時計の力を解放、必殺技の準備に入る。

 

「…!女王が動くぞ!」

「私が止めます!クライトレヘルン、からの凍冷の舞…!」

 

あれだけのダメージを一気に受けてなお動こうとするのか…流石にタフだな。

だが控えていたクラウディアが身体を凍らせて動きを鈍らせた、これならアンペルさんが間に合う。

 

「念のためだ…沈め!」

 

そしてリラさんが頭に全力の踵落としを叩き込む。女王はなんとか堪えたようだが…

 

「では、私の全力を見せてやろう」

 

アンペルさんが魔力を一気に解放。すると女王が縮み、箱のような物に閉じ込められる。時間を操るとは、それと密接に関係する空間も操ることが出来る…と言う事だそうだが、つまり女王を空間ごと圧縮したのか。

 

「閉じ込めてやろう…遡る時の流れの中にな(リワインドフロー)!!」

 

リワインドフロー…アンペルさんの必殺技。時の逆流の中に対象を閉じ込める技らしい。具体的には、魔力の爆発での攻撃と同時に一時的に相手の脳を機能不全に陥れ、何もできない状態にするそうだ。

実際、箱が割れて出てきた女王は何か動きそうな気配が無い。つまり…

 

「2人とも、徹底的に叩くよ!」

「ああ!」「おうっ!」

 

俺達3人の必殺技を、反撃を気にせず叩き込めるということだ!

 

「これだけ大きければ…女王でも!」

 

タオが作り出した魔法陣から巨大なハンマーが出てくる。これを叩き付ければ、女王だろうと一溜りも無い筈だ!

 

「思いっきり!潰れろぉーっ!!!」

 

バギャァッ!ビキビキビキビキ…

 

無防備なところに特大の一撃を叩き込まれた女王は、全身に大きなヒビが入り、そしてまだ動けない。次は…俺だ!

 

「風穴を開けてやる…!!」

 

全力で飛んで真上に加速し、そして急降下。ありったけの魔力と脚力を込めた一撃を、流星のように!!

 

「でえぇぇぇぇいやぁッ!!!」

 

ズドオォォォォォォォォンッ!!!

 

女王の胴体に大きな穴が開いた。だがまだだ、俺達にとっては未知のバケモノ、これでもまだ生きている可能性がある。だから…

 

「最後は…俺だッ!」

 

徹底的に止めを刺す。此処から更に、レントが真っ二つにする!

 

「おおおおおおおおおッ!食らえぇッ!!」

 

裂帛の気合と共に放つ、『大敵を断ち切る』為の大上段からの一撃…それがあいつの必殺技!

 

「タイラント!ディバイダァ―ッ!!!」

 

ガァァンッ!!

 

…女王の顔面に真っ直ぐ入ったその一撃は、ボロボロになっていたあの巨体を完全に両断していた。

 

「…」

「どう、だ?」

 

…動かない、か?一応、まだライザ達が控えているから動かれても対処はできるだろうが…これで動いたら、生き物かどうかすら怪しくなってくるぞ…

 

「…!待て、今何か動いた!」

「ええ!?これだけやったのに!?」

「…あ、あそこ!体の左側だよ!」

 

左側…何だ?何が潜んでいる?そう思って注目していると、そこから…

 

ズチュッ…

 

ナニカが、這い出てきた。

 

 

 

 

「…なんだ、こいつは」

「人型の、フィルフサ?」

 

レントが両断した女王の半身から這い出てきた謎の人型は、フィルフサらしさを残しつつ、両刃の剣を携えた全身鎧の騎士のようにも見える姿をしていた。…まさか、女王の本体なのか?

右腕が無く、それ以外も全身ところどころ欠けているようだが…

 

「…ちっ、折角みんなの必殺技を全力で叩き込んだってのに…!」

「いや…無駄にはなっていない筈だ。少なくともあの腕はお前の一撃によるものだろう」

 

男連中の全力の連撃はあの巨体の中にあった人型にも多大なダメージを負わせていたようだな。切断された右腕からは血のような液体が流れているし、体も何もしていないのに少しずつ崩れている。それに、よく見ると足がふらついている。余裕が無いどころか、限界が近いようにすら見える。

 

(それでも…あの女王の、恐らく隠し玉だ。油断すれば、あそこからでも1人の命くらいは持っていきかねない)

 

私自身を含め、誰一人として欠けさせるわけにはいかん。改めて意識を奴に集中させ、構える。すると、それに呼応するかのように女王は左手の両刃の剣を構えた。そして…

 

ドッ

 

一瞬で私との距離を詰め、斬りかかって来た。

 

(速い…ッ!)

 

この状態からまだそこまで動けるか、やはり埒外だな。事前にここまで弱らせていなければ危なかったぞ…!

 

(だが、予想より遥かに軽い…!)

 

片腕に加え、見た目だけでなく中身もボロボロなのだろう。圧力が無いし、踏ん張りもきいていない。それでも相応の重さはあるが…これくらいならば!

 

「弾き返すのは、そう苦ではない!」

 

剣を上に弾いて体勢を崩し、腹に蹴りをお見舞いする。見かけに反して随分と重い感触がしたが…女王は堪えきれずに吹き飛んだ。その衝撃で更に体が崩れる。

 

「…やはり、もう限界の様だな」

 

生命体としてはもはやほとんど死んでいるも同然の状態だろう。それでも立ち上がりこちらに刃を向けんとするのは…フィルフサとしての本能か。

再びこちらに向かってくるが、先ほどよりも速さも重さも落ちた一撃だ。これならば受けるより…

 

ガガッ!

「捕まえたぞ。今だ!アルム、レント!」

 

鉤爪を左腕と右肩に突き刺して拘束し、その間に2人に攻撃させた方が良い!

 

「レント、脚だ!」

「解ってる!オラァッ!」

 

アルムの蹴りとレントの大剣が女王の脚を膝の裏から破壊する。これでもうまともに動けまい。

 

「止めを刺してやろう、女王!」

 

そう宣言し爪を引き抜いた瞬間、武器をその場に落として私の肩を掴み、腕の力だけで私達の後ろに無理矢理跳んだ。あれだけの傷で、まだそんなことが…!

 

「ちっ、逃がさん!」

 

奴が飛んだ先…階段の下を見ると、そこには…ッ!

 

「な、なにさこのフィルフサの数!?」

「一体何時こんなに集まってやがった!?」

 

そこらの大地を埋め尽くさんばかりのフィルフサの群れがいた。戦闘音か、先ほどの女王の悲鳴に呼び寄せられたか!?

女王は…ちっ、将軍の背に乗っている。このままこいつらを捨て駒に離脱を図るつもりか!

 

「アンペルさん、女王だけ狙い撃つことは!?」

「届きはするが、止めを刺せるかどうか…!」

「…強引に突っ込んででも、仕留めるしかないか…!」

 

女王を仕留めなければここまで来た意味が無い、無茶をしてでも止めを刺しに行かなければ…!

 

「…やーっと、見せ場が来たわねクラウディア」

「うん、私達の必殺技でまとめて倒そう!」

 

そう言いながらライザとクラウディアが前に出る。お前達の必殺技…そうか、それならば!

 

「…後は、女性陣に任せるとしようか」

「ええ。…3人共、これで」

 

そう言ってアルムが時計を使う。対象はライザ、クラウディア、そして私。

 

「よーし、パワー全開!一気に行くわよ!」

「うん!…私が奏でる一番強い旋律(おと)…今、ここに!」

「魔法陣展開!中心は勿論女王!」

 

2人から膨大な魔力があふれ出る。これなら、厄介な取り巻きを全て吹き飛ばせる!

 

「あの世界は、私達の世界…!私達が今まで奏でてきた、思い出の音…!何一つ、貴方達に壊させたりしない!!」

「あたしが思いつくありったけ!全部アンタたちの真上から降り注がせてやるんだから!」

 

クラウディアの魔力は青い鳳を象り、フィルフサの群れ目掛けて突撃する。ライザの作り出した魔法陣からは、おもちゃやぬいぐるみ…を象った魔力の爆弾がフィルフサに降り注ぐ。

 

「これが、貴方達が最後に聞く音…ソングオブフィナーレ!」

「最後に一発でっかいの!落ちてこい、ヘブンズクエーサーっ!」

 

ズッ……ドオォォォォォォォォン!!

 

鳳と隕石が女王がいた場所に落ち、魔力の大爆発が発生する。…土煙が大量に上がり、その跡がどうなっているかは見えない。だが、解るぞ。お前はまだ息があるだろう、蝕みの女王よ!

 

「これで…止めを刺す!」

 

体に宿していた精霊の力を全て解放する。これで一時的に身体能力を爆発的に強化できる。この土煙の中にいる女王も、ここから補足できる。

 

「ハァッ!!」

 

一瞬で女王の元まで辿り着き、駆け抜けながら全身を切り刻む。

 

「まだだ、まだ終わらん!」

 

女王を空中に蹴り飛ばし、更に全方位から切り刻む。もはや悲鳴を上げる事すらままならないだろう。だが、完全に貴様の息の根を止めるまで、私も止まらんぞ!

 

「お前達フィルフサに討たれた我らが同胞の無念…今こそ晴らす!!」

 

女王の真上に跳び、最後の一撃を叩き込む!これが、我ら白牙氏族に伝わる秘儀…

 

「アインツェルカンプッ!!!!」

 

これで…止めだ!!!

 

 

「…」

 

最後の一撃は、完璧に女王の頭に入った。虫は頭を潰しても動くことがある、フィルフサも女王ともなればそういう事もあるかもしれないと警戒するが…

 

「…動かない、か」

 

頭部が完全に消し飛び、全身から体液が流れ出している。…フィルフサも生命体だ、生きているのならば精霊を通して私にも感知できる。どうだ…

 

「…死んで、いる。仕留めた」

 

蝕みの女王は、ここで完全に死を迎えた。

 

「ああ、漸くだ」

 

クリント王国の侵略から、どれほど経ったか。

 

「永かった」

 

皆がフィルフサに蹂躙されてから、どれだけの時を重ねたか。

 

「随分と、待たせてしまったな」

 

その時間を、漸く清算できた。

 

 

 

「…終わったぞ、みんな」

 

…久しぶりに、泣けた気がするな。




実際に改めて1をプレイして影の女王のモーションを確めた結果、「これまともに動かしたら絶対誰か死ぬな、完全に物理攻撃だし」となったのでだったら1から10まで何もさせねえ!という方針で行きました。これまで数で蹂躙してきたやつを数で蹂躙する展開に。まあ原作でもやろうと思えば女王瞬殺とかできなくは無いので…
女王の第2形態もあの方式なら多分オーバーキルボーナス的なの狙えるんじゃね?と思い出てきた瞬間からボロボロになってもらいました。
あと女王なんだし周りのフィルフサを招集する力くらいありそうだったのでライザとクラウディアの出番の為に使わせました。アルムに腕へし折られてあげた悲鳴が合図です。
まあそもそもコミカライズだと割とアッサリ倒してたりしてますが…

あと止めをリラに刺させるのはずっと前から決めてました。

タイラントディバイダ―…本作におけるレントのフェイタルドライブ。全力の気合と共に大上段からの一撃を叩き込み、あらゆる敵を両断する技。アルムのフェイタルドライブに影響されて原作とは違うこの形になった。
因みに命名者はアルム。意味は「大敵を断ち切る者」

Q,3のレントの最強武器と名前被ってない?
A,「リーゼ」がドイツ語で「巨人」を意味するものならモロ被りです。出すのがこれだけ遅かったのでアレですが、3発売前から決めてた名前なので偶然の一致です、一応。

ここまで読んで頂き、有難うございました。


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短編とか番外編とか色々
オリキャラ紹介


アルムのアクティブスキルが全部出たので、一先ず纏めておきます。箇条書きです。
アルムのパッシブスキルに関しては、本編中に描写するのもちょっと難しいというか面倒なのでここで全部明かします。

2022 11/25 アルムが樽を調べた時の台詞を追加。誰得だ。
2023 2/4 アルムとエルのイメージ絵を挿入。


アルムレウス・レーゼン

イメージ絵

【挿絵表示】

 

年齢 17歳(「アルムとレント」まで)→18歳(「アルムとタオ」以降)

身長 184cm(「アルムとライザ」時点)→188cm(原作開始時)

好き ライザ 家族 友人 親しい人間の手伝い 謎を知ること 何でも良いから動くこと

嫌い 閉塞感 身内を馬鹿にされること 酒の匂い

一人称 俺

愛称 アルム

 

・今作主人公。ラーゼンボーデン村に住む農家、レーゼン家の長男。後ろで纏めた青く真っ直ぐな長髪と長身が特徴。感情は人並みに動くが、基本的に無表情。

・ライザ、タオの家はかなり近所。徒歩30秒もかからない。

・普段は真面目な部類だが、時々自覚した上で変なことをする。単純で子供っぽい一面も。

・ライザ程じゃないが結構器用。防刃ブーツを戦闘用にちょっと改造してたりする。

・「何かに対する付与」限定で炎と風の魔法を使える。出力そのものは非常に高い。

・ライザに対して異性としての好意を持っている。切っ掛けは至近距離で何回も笑顔の直撃を食らったから。

・酒に死ぬほど弱い。酒そのものどころか、酔っ払いの匂いだけで酔う。もし飲んだとしたら、少し呷っただけで足元が覚束なくなる位。口調も乱暴なものになる。

・戦闘になると気が昂り、叫ぶようになる。コアクリスタル無しだと蹴りのみで戦う。戦い方は結構荒っぽく、殆ど防御を考えない。

・ライザ達にいたずらに誘われなかったことをちょっと寂しがっている。

 

 

武器一覧

防刃ブーツ 農作業用のブーツにアルムが独自に手を加えたもの。アルムの動きとの相性は実はあまり良くない。

頑丈な造り…受けるダメージが減少する

 

フリーウォーカー 軽く動きやすいため、どんなところでも歩けると言われるブーツ。冒険家たちの間で評判が良い。

自由な動き…WTが減少する

 

エアスプリンター その履き心地と走り心地から、まるで空を走っているようだと評された一品。あまりに走り心地が良い為、辞め時が見つかりにくいのが欠点とすら言われることも。

空を駆ける…回避率が上昇する 翼竜及びワイバーンに与えるダメージが上昇する

 

エタニティダンサー 衝撃を吸収する素材と分散させる構造で、極限まで足にかかる負荷を抑えることに成功したブーツ。医療用ギプスとしての機能を持つブーツを元に開発された。

永遠の舞…アクティブスキルとクイックアクションのAP消費を1減らす、行動後、確率でAPを1上昇させる

 

ディザスターブレイカー その昔、怪力無双の闘士が愛用した超重の戦靴。数多の魔物を打ち倒し多くの人々を救ったことからその名が付けられた。

災い砕き…アクティブスキルの消費APが増える代わりに、攻撃力とブレイク値が大きく増加する。一段階ごとに消費AP+1、攻撃力とブレイク値+25%

 

アクティブスキル一覧

蹴撃→背脚→転撃 ミドルキック→バックキック(TLv2以上)→サマーソルトキック(TLv3以上)の連撃(サマーソルトは2ヒット)

通常攻撃 敵単体に無属性物理ダメージを与える 当てるとAP回復

 

業火の槌 敵を蹴り上げ、ジャンプして追いかけ踵落としで叩き落す→直地後、踏み付けで追撃(TLv3以上)

初期習得 AP消費3 無属性物理ダメージと炎属性魔法ダメージを与える TLv3以上でブレイク値上昇、TLv5で高確率で火傷付与

 

烈風の牙 右足で風を纏った百裂蹴り→左足で蹴り上げ、飛び回し蹴りで追撃(TLv2以上)→両脚で挟むように蹴る(TLv3以上)

初期習得 AP4 無属性物理ダメージと風属性魔法ダメージを与える TLv2以上で中確率で裂傷付与 TLv5でクリティカルダメージ上昇

 

旋紅の一矢 旋風と炎を纏い、敵に全力の跳び蹴りを放つ

レベル25で習得 AP消費5 無属性物理ダメージと炎属性と風属性の魔法ダメージを与える 低確率で裂傷と火傷付与 ノックバックが大きい TLv3以上でさらにノックバック増大 TLv4で裂傷と火傷の付与確率上昇

 

炎鳳の大翼 脚に翼を象った炎を纏わせる

レベル40で習得 AP消費10 一定時間アクティブスキルのWT減少、威力、クリティカル率、クリティカルダメージ上昇(全て別枠) TLv3以上で強化量上昇 TLv5で効果時間延長

 

紅蓮の槍 一瞬で距離を詰めて全力で踏み込み、右足でサイドキック→体を回して左足でサイドキック→ドロップキック

初期習得 アクションオーダー達成時に発動 無属性物理ダメージと炎属性魔法ダメージを与える ブレイク値が高い

 

旋風の扇 風を纏い、敵を薙ぎ払うように蹴る

Lv30で習得 アクションオーダー達成時に発動 敵全体に無属性物理と風属性魔法ダメージを与える 中確率で裂傷付与

 

爆風の剛斧 爆炎と烈風を脚に纏い、全力で蹴り抜く

エクストラオーダー達成時に発動 敵単体に無属性物理ダメージと火属性&風属性の魔法ダメージを与える 良性変化を多く受けているほど威力上昇

 

青の流星 炎と風の出力を最大にし、敵を全力で蹴り飛ばし、相手の上まで飛んでから急降下。全力で相手を蹴り落とすと同時に圧縮した炎と風が噴出し、攻撃した部位を文字通り吹き飛ばし、地面に叩き付ける

フェイタルドライブ 単体攻撃 無属性物理ダメージと炎属性と風属性の魔法ダメージを与える 良性変化を多く受けているほどダメージが上昇

 

朱嵐の衣 対象に赤い竜巻を纏わせ、身を護る

初期習得 ノーマルオーダー達成時に使用 味方1人の被ダメージ減少、炎耐性と風耐性上昇

 

 

パッシブスキル一覧

強靭 攻撃力が上昇する(Lv3まで) 

虎視 クリティカル率が上昇する(Lv2まで)

疾風 素早さが上昇する(Lv2まで)

共に隣に ライザがPTにいると、お互いの与えるダメージが上昇

比翼の友 レントがPTにいると、お互いの与えるダメージが上昇

真実の追及、知識の探求 タオがPTにいると、お互いのWTを短縮

フリーハンド アクティブスキルの次にコアアイテムを使用するとき、またはコアアイテムの次にアクティブスキルを使用するとき、WTがかなり減少する

超速攻 戦闘開始時、即座に行動できる

ヒートアップ 戦闘時間が長いほど、攻撃力が上昇

単純明快な戦法 TLv3以上で、与えるダメージが上昇

キラーステップ TLv5で、アクティブスキルのクリティカルダメージと回避率が上昇

徹底追い打ち ブレイク中の敵に対して、与えるダメージが上昇

オーダードライブ オーダースキルを発動するごとに攻撃力上昇

 

樽を調べた時の台詞

「樽か」

「樽だな」

「小さい頃は、かくれんぼで良く世話になったな」

「たーる。…似合わんな」

 

 

エルマリア・レーゼン

イメージ絵

【挿絵表示】

 

年齢 11歳(「アルムとレント」まで)→12歳(「アルムとタオ」以降)

身長 138cm(「アルムとライザ」時点)→142cm(原作開始時)

好き 家族 友達(特にライザ) 物語系の本 甘いもの

嫌い 怪我(自他問わず) サボり ムカデ

一人称 わたし

愛称 エル

 

・アルムの妹。濃い目の水色のショートヘアで、同年代の子と比べても小柄。

・ちょっとお転婆だが天真爛漫で、家の手伝いを積極的にしようとしたりする良い子。

・人見知りを全くしない上に行動力もある。1人でアンペルの所を訪ねたことも。

・他人は基本さん付で呼ぶが、ライザのみお姉ちゃんと呼ぶ。理由は本当にそうなってほしいから。

・最近「むーん」が口癖になって来た。

・ムカデは駄目だが虫は平気。Gも平気。蛇とかミミズも平気。本当にムカデだけが駄目。

 

 

 

ウェイン・レーゼン

年齢 46歳(「アルムとレント」時点)→47歳(「アルムとタオ」以降)

身長 192cm

好き 家族 農業 酒 子供の成長を見ること

嫌い 雑な仕事 腰の痛み

一人称 私

 

・アルムの父親。アルムを超える長身とツンツンした黒っぽい藍色の髪が特徴。

・農業の先生というか、師匠みたいな扱いを受けている。一番弟子(ということになっている)はライザの父カール。

・本人的にはそのつもりは無いが、農場の事実上のリーダーみたいになっている。

・家事能力は壊滅的。手伝わないことが一番の手伝いなレベル。

・腰を少し悪くしている。

 

 

 

ルーテリア・レーゼン

年齢 41歳(「アルムとレント」時点)→42歳(「アルムとタオ」以降)

身長 149cm

好き 家族 料理 甘いもの 恋愛話

嫌い 虫(特にG) ジメジメした空気

一人称 私

 

・アルムの母親。水色の真っ直ぐな長髪と垂れ目、そして小柄な体格が特徴。

・明るく優しい性格で、いつも笑顔。その上で母性も持ち合わせている。

・ライザがアルムに惚れてるといち早く気づいた人。なんならライザ本人が自覚するより早かった。

・虫は嫌いだが、怖がるのではなく積極的に追い出そうとする方。数少ない彼女が笑顔じゃなくなる場面。




性能的には「さっさと蹴り倒せばええねん」というド脳筋なアルム。実際にこんな性能のキャラは間違いなく出ないですね。
武器の更新など、必要そうな内容があったらその都度書き足します。


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旅立ちよりも前の時期の、ちょっとしたお話

ふと思い至ったので書いてみた短いお話3本。

1/31 「遊びの記憶」におけるアルムの立ち方の描写、というか立ち方そのものを修正しました。ついでにQ&Aも追加しました。


1、遊びの記憶(レント視点)

 

「だーるーまーさーんーがーこーろーんーだ!」

 

ある日、俺は島のチビ達がだるまさんが転んだで遊んでいるのを見かけた。

 

(俺達もああやって遊んでたな、そういや)

 

 

 

 

 

アルムと仲良くなって半年くらいの時だったか。大分お互いのことが解ってきたあたりだった気がする。その時、最初に鬼をやったのは俺だった。

 

『だるまさんが…転んだ!』

 

そういって振り返った俺が見たのは…真剣な表情で、半身の状態で右脚の膝を前に向けるように曲げて片足立ち、右手を真っ直ぐこっちに突き出し、左腕を少し曲げながら上に挙げる、そんなポーズをとっていたアルムだった。今思うと何かの武術の構えみたいだったな…

っていうかあの時片足立ちしてたのに体に一切ブレが無かったな。何なんだアイツ。

 

『!』

 

そしてそれを後ろで見ていたライザが「思いついた!」と言わんばかりの表情をしてた。タオとボオスはただビックリしてたな。

で、もう一度『だるまさんが転んだ』して振り返ったんだが…

 

『…』

『ふんすっ』

 

さっきと左右逆のポーズをとったアルムの左で、ライザが腕を組み足を広げ自信満々の表情で立っていた。タオとボオスはもっとビックリしていた。

 

 

 

 

 

「…いや既に相性良かったなアイツら!?」

 

当時は「何やってんだコイツら…」なんて思ってたが、何か今思うと両想いになるの必然だったんじゃねえか?鬼ごっこの時も、2人揃って木に登ってたりしたしよ。

 

(他にはなんかあったっけか?)

 

ちょっとタオとボオスにも聞いてみるか。

 

 

「確か、かくれんぼの時に2人とも樽に隠れてたことあったよね」

「高鬼の時に、2人とも灯台の上に登ろうとしてたな」

「あー、あったな」

 

意外とあいつら、思考回路似てんのか?

 

「まあ…」

「だが…」

「何だよ?」

「あの2人がこういう事するのって、決まってレントが鬼の時だった気がする」

「確かに、他が鬼の時はこういう事はしなかったな」

「…」

 

…俺、ライザは兎も角アルムにそういう事して良い奴だって認識されてたのか?それも半年で?…なんか腹立ってきた。次の手合わせはぜってえ勝ってやる…!

 

 

2、ランバーの秘密の特訓(アルム視点)

 

「ふっ!ふっ!」

 

七色葡萄の林の辺りを散歩をしていたら、剣が風を切る音と掛け声が聞こえた。気になって覗いてみたが…

 

(ランバーか)

 

こんなところで1人で特訓してたのか。…相手がいる方が効果があるだろうし、ボオスなら付き合いそうなものなんだがな。

 

(…少し見ていくか)

 

ついでだし俺も鍛えておこう。…よし、そこの崖で懸垂でもやるか。蹴りは下半身だけで打つものじゃないからな。っと、その前に水分補給の用意をするか。

 

 

「ふぅ…」

 

結構長くやってたな。2時間くらいか?…間に碌な休憩もはさんでいなかったな。ちょっと不味いんじゃないか、それは。

 

「よし、じゃあ帰るか…ってうわぁ!?」

「ん、気づかれたか」

 

まあ、別に見つかったところで何の問題も無いんだが。

 

「な、な、何で!?い、いつから!?」

「2時間くらい前に偶然見つけたから、触発されてちょっと懸垂を」

「懸垂!?崖で!?」

 

自分でも変な行動だとは思うが、思い立ったのだから仕方がない。

 

「とりあえず、特訓をするなら濡れタオルと水分を用意して、時々休憩を挟む方がいいぞ」

「うぐ…」

 

言われて不味いと気づいたらしい。…理由は解らないが、ちょっと焦ってたんじゃないのか?

 

「な、何かお前ボオスさんに一目置かれてるみたいだけど!絶対負けないからな!」

 

そういって走り去っていった。…アイツに一目置かれていたのか、俺?初耳なんだが。というかそうだとしても俺とお前じゃ求められている物が違うと思うんだが。

さて、思いがけず時間を潰せたが、まだ帰るには早いな。どうするか…

 

「…この木の上を跳び移り続けてみるか」

 

いざというときに逃げる訓練だ。やっておいて損はないだろう。

 

 

ちなみに後日、ボオスが俺に一目置いてるらしいという話について本人に聞いてみたら…

 

「10年前のあの事故で、あの年齢であの対応ができる男を一目置かない訳がないだろ」

 

と言われた。…ごもっともで。

 

 

3、仲直りの切っ掛け?(エル視点)

 

「~♪」

 

何時ものようにお使いして、何時ものようにまけてもらっちゃって、何時ものようにそれをお小遣いにして、普段のお小遣いと合わせて新刊の分がようやく貯まった!よーし、早速買ってさっそく読むぞー!

ってうきうき気分で歩いてたら、向こうから誰か来た。…あ、ザムエルさんだ。今日はあんまりお酒臭くない。

 

「ザムエルさん、こんにちはー!」

「う、お、おう」

 

むーん、あの日以来、ちょっと避けられてる気がする。

 

「もうレントさんいじめてない?」

「いや、まあ、ああ」

「なら良かった!あ、でも全くお話ししないのも駄目だって聞いたことあるよ?なんでもいいから話しかけたりしてる?」

「…今更、何話せってんだ」

「だから、なんでもいいんだよー。今日は早く起きれた!とか、そういうこと小っちゃな事でも誰かに話すのって楽しいしね!」

 

但し嬉しいことに限る!だけどね。

 

「そうかよ。…エル」

「何ー?」

「…ありがとよ」

「どーいたしまして!」

 

これから、ちょっとずつでも仲直りできると良いな!

 

 

「ところでエル、今日レントがザムエルさんに怒鳴ってたぞ」

「え、何で!?」

「家事が出来ないのにやろうとしてやらかしかけたらしい。…レントを手伝おうとしたみたいだが、逆効果になってしまったみたいだな」

「…むーん」

 

仲直りって、難しいね…

 

「…因みに内容は「お前それ最悪指が飛ぶとこだったぞ!?」だったな」

「家のお父さんみたいなこと言われてる…」

 

レントさんとの仲直りの前に、お父さんと仲良くなったりして…




真面目な目的が無いと結構はっちゃける男、アルムレウス・レーゼン。

1は、何か頭に「チャイナ立ち(中国拳法っぽいポーズ)とガイナ立ち」なんて下らないダジャレが浮かんだのでちょっと出力したくなりました。ライザにガイナ立ちは似合うと思う。
2は、今までランバーの出番が全くなかったけど、どこに差し込もうかってなると思いつかなかったのでここで。この中で唯一本編にちょっと関係あるかもな話。
3は、エルをメインにしつつザムエルがちょっとまともな人になってるよって話。家事を手伝おうとした理由は、一番負担をかけてるのはそこだと思ったからです。

Q,アルムはなんでこんな立ち方をしたの?
A,「だるまさんが転んだで片足立ちをしようと思ったけど、ただやるんじゃつまらなかったから、何かポーズをとってみようと思った」

Q,当時のアルムの行動の理由は?
A,ライザ→女の子相手に変なことするのもなあ。(この時点ではまだ惚れてないしライザも自覚無い)
タオ→ちょっと年下だし、優しくしよう。(3歳年下なので、当時タオは5~6歳)
ボオス→真面目そうだし怒ると怖そうだからコイツ相手に変なことするのやめとこ…(当たり)
レント→ついてこれるだろ親友!(同い年、気さくでいい奴、話も結構合う。そりゃ親友認定食らう)
…要するに、この時点でレントに対する好感度と信頼度が超高かったです。最初にアルムを遊びに誘ったのもレントだったりします。信頼度高すぎて、今でも稀に扱いが雑になります。
因みにライザは無自覚とはいえ惚れてたので無意識にアルムの真似してました。

Q,で、手合わせは勝ったの?
A,負けましたが、アルムが「いつもと気迫が違った。今までで一番手強かったかもしれない」とコメントしました。

Q,ランバーってこういうことする奴だっけ?
A,ボオスへの忠誠は本物なので、彼を補佐する立場に居続ける為には頑張れる奴なんじゃないかと思ってます。それと、ボオスと仲が良く彼が一目置いてるアルムを「自分以外にボオスの補佐役になるかもしれない男」としてライバル視しており、それが理由でこんな特訓してました。なおボオスはアルムを下につける気はないし、アルムもボオスの下に付く気は無い模様。

Q,この後ザムエルは家事はどうしてるの?
A,全く才能が無い事が発覚しました。因みにそれが理由でアルムの親父とはちょっと仲良くなった模様。

ここまで読んでいただき、有難うございました。


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これと言って取り留めのない、アトリエでの話

番外編その2、今回は2本。まあタイトルの通りというか、シリアスなんて欠片も無い話です。


1、髪に触れる(ライザ視点)

 

「ねえレント、ちょっと髪の毛触らせて?」

「何でだよ?」

「いいから、ちょっとだけ」

「…解ったよ」

 

皆でアトリエに集まってたある日、あたしはふと気になったことがあってちょっとみんなの髪の毛を触らせてもらうことにした。…レントは、うん。

 

「思った通りちょっと硬いっていうか、ゴワゴワしてる」

「そりゃ元々こんな髪質だし、そんなに気を遣ってるわけじゃねえしな」

「じゃあ、次はタオ、良い?」

「良いけど、僕もそこまで気にしてるわけじゃないから、手触りはあんまりよくないと思うよ?」

「それを確めたいの。…うん、可もなく不可もなくって感じだわ」

「…一番返答に困るコメントだなぁ」

 

やっぱり、普通はこんなもんなのよね、普通は。

 

「えっと、私のも触る?」

「うん、触る触る。…わぁ、凄くサラサラしてる」

「ありがとう。…なんか、ちょっと恥ずかしいな」

 

うんうん、やっぱり裕福なところのお嬢様だからすごく手入れされてるのが解るなぁ。あたしも一応気を遣ってるつもりだけど、ここまでじゃないもん。…で。

 

「…えっと、アルム」

「俺のもか?別にいいが」

「うん。…やっぱり」

「どうした?」

 

…見た目で、なんとなく解ってたけど。

 

「…クラウディアのと同じくらい、サラッサラ」

「そうなのか?確かに、最低限気を遣っていたつもりではあるが」

「いや、これはちょっと最低限じゃすまないと思う…」

 

アルムの場合、髪が荒れそうな行動をよくしてるから手入れはむしろ大変な気がするけど…

 

「最低限って…どうやってるの?」

「髪を洗った後、早く乾かさないと痛むらしいからな。髪の毛を洗った後に、炎と風を付与して即水気を飛ばしてる」

「…そんなことできるんだ」

「俺以外にやると、即髪が燃えるだろうがな」

 

えっと、つまり…

 

「炎と風で水気とか汚れが飛んで行くから、髪が痛まないってこと?」

「だろうな。…母さんも髪が綺麗だから、それが遺伝した可能性もあるが」

「あー、それもありそう」

 

ルーテリアさんもエルちゃんも真っすぐで綺麗な髪だもんね。

 

「で、どうしたいきなり?」

「あー、えっと。アルムの髪って妙に綺麗に見えたからちょっと確かめてみたくて、できればコツとか聞いてみたいなって。ついでに、他の皆の髪もちょっと比べてみようかなって」

「…クラウディアに聞けばいいんじゃないか、そこは」

「それは勿論聞くけど、出来るだけ多くの意見が欲しいって言うか」

「そういうものか」

 

色々聞いた方が参考になるし、そこからあたしに合った方法が見つかるかもしれないしね。

 

「…」

「えっと、アルム?」

 

アルムがこっちに手を伸ばして…あたしの髪を撫でた。…え、あれ、えっと?

 

「あの、えっと、アル、ム?」

「…柔らかいな」

「え、あ、そ、そうかな」

「それに…今のままでも、十分綺麗だと思うぞ」

「ふぇ」

 

え、あ、きれっ…!?

 

「どうした、ライザ」

「…そ、その…流石に、恥ずかしくなってきたから…」

「ん、そうか。悪かった」

 

…ダメだ、これ。今日一日は恥ずかしすぎて何もできそうに無いよ。髪の話だって解ってても、いきなり綺麗だなんて言われたら、うぅ…

 

「…アイツ、俺達が見てるとこでなにやってんだ」

「なんか感覚狂いそうだよね、あの2人を見てると」

「…その、本で読んだことあるんだけど、男性が撫でるように女性の髪に触れるのは、好意を持っている証なんだって」

「今更だな、そりゃ」

「それで、触られた女性が元々その男性に好意を持ってたら、もっと好きになるんだって」

「うん、まさに実例を今目にしてるね、僕達」

 

3人が何か話してるみたいだけど、全然頭に入ってこない。…そうだよ今のアレみんな見てたんじゃん。う~、アルムのバカぁ…

 

 

2、睨みあい(レント視点)

 

「…」

「…」

 

ある晴れた昼下がり、俺とタオは1つの戦いを見守っていた。相対しているのはライザとクラウディア。お互い本気で睨みあっている。

この戦い、敗者である俺達には介入する権利なんて有りはしない。ただ、勝敗が決まるのを待つだけだ。

 

「…っ!」

「…っ!」

 

両者一歩も譲らない、実力伯仲と言ってもいい状態。このまま膠着状態が続きそうだ。裏返せば、切っ掛け1つでどっちに転んでもおかしくないということ。

固唾をのんで俺達は見守っていた。勝利の女神は、果たしてどちらに微笑むのか。

 

「~!」

「~!」

 

しかし、例えどちらに軍配が上がろうとも、俺達は勝者と敗者を区別せず讃えよう。それが真剣勝負を戦い抜いた二人への――」

 

「「ぷはぁっ!」」

 

お、同時に息を吐いたか。引き分けだな。

 

「はぁ…はぁ…レント、アンタねぇ…」

「どうだ、中々いい語りだったろ?」

「たかがにらめっこに仰々しいのよ!笑う笑わないより恥ずかしくなってくるわよあんなの!」

「ズルいよ、レント君…」

「何かアルムの影響受けてない?レント」

「いや、あいつはこういうの普通に見守ると思うぜ?」

 

影響が無いっつったら嘘になるけどな。

 

「しかし、結構長えな。そろそろ来てもおかしくないんだが…」

「すまん、遅くなった。ちょっとランバーの特訓に熱が入りすぎてな」

「全員で外に出ていたのか。特訓をしていたわけでは無さそうだが…」

「その割には、ライザとクラウディアが疲れているな」

 

お、丁度いいタイミングできたな。

 

「えーっと、今みんなでにらめっこしてたんだよ」

「…にらめっことは何だ?」

「子供の遊びだな。自分の表情を崩しながら相手と睨みあい、笑わせるか目を逸らさせるかしたら勝ちというルールだ」

「クラウディアが、こういう遊びができる相手が今までいなかったからやってみたかったんだって」

「成程。そういうことなら俺も参加した方が良さそうだな」

 

コイツ強いんだよなぁ、変顔じゃ碌に笑わねえし。

 

「私は止めておこう。表情を崩すと言われても、どうやればいいのか解らん」

「私も遠慮しておこうか。子供の遊びに混ざれるほど若くは無いからな」

「じじむさいぞ、アンペル」

「わきまえていると言ってくれ」

 

相変わらず、仲のよろしい事で。

 

「ところで、今までどういう組み合わせでやっていたんだ?」

「えっと、僕とライザでやってライザが勝った」

「で、俺とクラウディアでクラウディアが勝ったな」

「決まり手は?」

「渾身の変顔。多分僕らの前じゃないと絶対に出せないレベルだよアレ」

「…普通に負けた。あれはちょっと勝てねえ」

 

思いっきり頬を膨らましたクラウディアにこっちをじっと見られたら、そりゃ負けるだろ…アレはなんか無理だ。

ライザの変顔は…まあ、女がしちゃいけない顔とか言われそうな、言われなさそうな、何かギリギリのレベルの奴だったな。

 

「なら、俺はライザとクラウディアとやればいいのか」

「えっと、じゃあ私からでいいかな?」

 

お、まずはクラウディアか。さあ、どっちが勝つ?

 

「じゃあ行くよ…あっぷっぷ!」

 

その瞬間、アルムが口と目を思いっきりすぼめた。メチャクチャ酸っぱい顔って感じの表情だ。

遠くで見てた俺達ですら笑いを抑えきれないくらいの表情。なら、間近で見てるクラウディアは…

 

「~~~~っ!」

 

顔を真っ赤にしてメチャクチャ震えながら堪えてるが…もう長くねえな。

 

「…ああいう表情もできるんだな、アルムは」

「遊びにも全力で、ということだろうな。にしても、普段との差があまりにも大きいが」

「しかし、これは一種の忍耐の訓練になるかもしれん。いつか取り入れてみるか?」

「誰とやるつもりかはわからんが、付き合わされる側の身にもなるべきだな」

 

…リラさんの変顔とか死んでも見たくねえ。なんか、あまりにもイメージとかけ離れてるっつうか…

 

「…んふっ、も、もう無理…!」

「アルムの勝ち!…いや、アレはちょっと反則じゃないかな」

「あと「釣り針が引っ掛かった顔」とか「突風に晒され続けてる顔」とかがあるが」

「態々バリエーション考えてんのかよ」

 

全力すぎんだろ、にらめっこに。

 

「さて、次はライザか」

「えっ、あ、あたしともやるの!?」

「そりゃ、後残ってんのお前だけだしな」

「ライザ、頑張って!」

「いやその、流石にちょっと自信無いって言うか」

 

いやまあそうだろうけどよ、だからって不戦敗はちょっと、なあ?

 

「まあ、それならそれであっさり笑って終わりで良いんじゃないかな」

「えっと、そういうことじゃなくて、その」

「じゃあ、どういうことなの?」

「…うー。解った、やるだけやってみるわよ」

「それじゃあ…あっぷっぷ!」

 

ライザは普通に頬を膨らませるだけで、アルムは…ほぼ真顔だけど目力すげえな。

 

「…」

「…」

「…やっぱ無理…」

 

あ、アイツ照れて目逸らしやがった。

 

「アルムの勝ち!…ってライザ、アルム特に変な顔してなかったけど」

「…だって、真正面からアルムにジッと見られてるってだけでもう凄く恥ずかしくて…」

「お前、アルムが絡むとホント弱くなるな…」

 

惚れた弱み…ってのとはまた違うか?

 

「アルム君は恥ずかしくないの?」

「いや、むしろずっと見ていられるが」

「成程、つまりライザは負けるべくして負けたというわけだ」

「そういうものか。…しかし、やはり忍耐というか、羞恥心に耐える訓練として有効そうだな」

 

…明日から、マジで取り入れてきたりしないだろうな、リラさん。




どっちもアルムとライザがイチャついて終わってるよね?って思う方もいるかもですが、その通りです。
まあイチャつきなんて言う割には、一方的にアルムが攻めてますが。

1はまあ、ライザも年頃の女の子だし気にするよねって話。自分の容姿に自覚はあまり無いけど、美容そのものは意識してるイメージ。そして実は結構美髪なアルム。因みに母親からの遺伝が理由の8割くらいです。
2は、クラウディアってこういう遊び経験無さそうだなと思ったので。子供組はクラウディアがやりたいって言い出したらみんな断らないと思う。「断れない」じゃなくて。ちなみに「あっぷっぷ」言ってるのは二回ともタオです。レントの妙なナレーションは…何かこうノリで。アルムなら、タオVSレントとかなら間違いなくやります。

Q,ライザはタオとのにらめっこで、どんな表情をしてたの?
A,「「苦虫を10匹くらい同時に噛み潰した顔」みたいな、そんな感じかな…うん、アルムの前じゃ流石にやれない顔だと思うよ」

ここまで読んでいただき、有難うございました。


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