廃墟に響く残響 (ブルーな雛菊)
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day0・不思議の国にはどうやって行くの?

絵師さんからのイラスト!
エマ&シエラ
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*グロテスクな表現、暴力描写、誤字脱字等々含まれています。
大丈夫!という方は楽しんでいただけたら幸いです(*´ω`*)


まるで砂嵐の中に居るかのようなノイズの中、イヤホンからわずかに聞こえる人物の声。

 

「…ている・・・・を…」

 

通信状態が悪いのか無線越しの人物が()()訴えかけているのかは判断できない。

しかし、会話の裏で断続的に聞こえる発砲音、薬莢が床に落下して転がる音が無線の先では激しい戦闘が行われているのを雄弁に物語っている。

 

「・・・・此方チャーリー!現在攻撃を受けている。shit!!待伏せだ!!」

 

次第に鮮明になっていく無線。

絶え間なく響く銃撃音。

無線越しに響く切迫した叫び声に近い状況報告。

 

「状況は劣勢‥包囲されている。至急、増援を「shit!shit! ケベックがやられた。」

 

救援要請、そして別の隊員からの被害報告。

 

「救援はまだか!?」

 

一際何所か幼い印象を与える声が無線から響く。思い返すと他の隊員達も同じであった…

成人男性の声としては高く、女性としては低い・・まるで声変わりのしてない子供のように…

 

「此方チャーリー、被害は甚大。このままでは全滅します。「カバー!!」

 

隊員同士の援護要請に応えるように無線に響く発砲音。

 

「此方司令部、救援部隊が2分で到着する。持ちこたえろ。」

 

先ほどまでの声とは一変して成人した男性と思われる低い声が隊員達に応答した。

気がかりに思うのは・・・まるで機械のように声の抑揚が無く極めて冷静であるという事だろうか。

 

「聞こえるか!?救援だ!助かるぞ!!」

 

無線越しにかすかに聞こえるジェットエンジンの音

 

「違う・・・・」

「・・・・どうやら私達は…使い捨てにされたようですね…」

 

響く爆発音。そして音声ファイルはここで終了した。

 

 

・・・・・・・・・・

 

day0 8:10

合衆国 コロラド州 ウィラメッテ Middle school

 

「おっはよ~!何見てるの?戦争映画??しかも音声だけ?」

 

「おはよ~・・・まぁ‥似たようなもの・・かな?」

 

イヤホンで音声ファイルを視聴してたところ

背後から忍び寄ってきたシエラにイヤホンを奪われて許可なく視聴される少女。

思いのほか学校に早く到着してしまい、暇つぶしにとネットで見つけたファイルを開いたところであった。

 

「中々渋い趣味をしてますね~()()()()?うちとしてはアダルトサイトを開いてて赤面しながらごまかそうとしているエマちゃんの顔が見たかったのだけど~」

 

「学校で堂々とアダルト動画を視聴するほど私には度胸はないわ!!というか…どうやって私の居場所がわかるの!毎回毎回!!?」

 

日本と違いこの国では、生徒の為の()()()()()()というものが存在しない。

生徒は自身の取った教科に合わせて、先生の待つ教室に移動することになっている。

したがって、始業時間よりも少し早く学校についたから誰も居ない空いてる教室に忍び込んで時間をつぶそうとしている私を見つけ出すのはシエラにとっては骨のかかる作業のはずだった。

 

「うちを誰やと思ってるんや~?うちは探偵の娘やで?」

 

「はいはい~」

 

少なくても個人が特定の場所に居ないということは探し出すのは大変だ・・・と思う。

エマの居る場所は分かって当然とばかりにドヤ顔になっているシエラ(友人)に半ば諦めじみた感想を抱く。

 

「この規格外残念少女め!」

 

「そこは規格外美少女に訂正しといてな~!そういうエマちゃんも規格外ってこともちゃんと自覚してはります?」

 

「?」

 

いまいち理解が出来ないというエマの表情に気づいたのか溜息がてらにシエラが話し始める

 

「ウィラメッテ。人口53,594人、特産物無し。目立つものは最近できた大きなショッピングモールのみ!掛値なしのしけた町やで!その中で大学生や専門学校とかの連中が参加するような情報処理・プログラムの試験や大会に個人で参加して優勝をかっぱらってくるのは後にも先にもあんさんだけや!教師達にも特例でPCの持ち込みを許可されている。それだけでも十分普通とは言えれんのにその上、美少女ときた!天は二物を与えないとか言いつつ不公平や!このチート系美少女め!」

 

賞賛してるのか貶されているのか判断がつかなくなってくる・・

そう言ったシエラも何処かの高校生探偵の様に射撃経験あり、船舶運転経験あり、カート大会入賞、運動系はサッカーはもとより格闘術すら「乙女の嗜み」とか軽口をたたく余裕すら見せるハイスパックさだ。チートという言葉はそのまま返した方が良いだろう。

 

予鈴が鳴る

 

「そろそろ移動しましょうか?」

 

「あ~時間たつの早いわ~このまま授業もさっさと終わってくれればな~」

 

いつも通りの日常。平穏な日々。

今日も何事もなく終わりを迎えると思っていた・・・

凄惨な銃撃事件が増え、対策で校舎の入り口に設置された金属探知機のブザーが授業中に鳴り響くまでは…

 

 

・・・・・・

day0 10:30

合衆国 コロラド州 ウィラメッテ メインストリート

 

[いやー。この事件もようやく終わりをむかえますね…犠牲になった方々には追悼の意をささげます。]

[今回の一件はどのように捉えますか?]

[この犯行は非常に残忍で短絡的と言っても過言ではないでしょう・・・・]

 

のどかな街中を疾走するSUV。

ラジオからは最近この国を騒がせた連続殺人犯のニュースが流れていた。

 

[この被告人は無力な少年・少女をターゲットに犯行を行ってきました。しかも、子供達の目の前で両親を拷問し恐怖を与えた後に徐々に嬲り殺すという卑劣極まりない残虐な方法をとってです!この手の犯罪者は犯罪を通して、自身の名前が歴史に残るという誇大妄想染みた思考をしていることが大半です。我々は外道の名前を一切出すべきではないと考えます。歴史に埋もれ、消えてなくなるという事を世に示さなくてはなりません!]

 

「クズが消えるんだ。喜ばしいことではないか。」

 

閑散とした住宅街。通勤ラッシュの時間帯は過ぎ去り今となっては対向車もまばらとなっている。

正に田舎町といった景色が車の窓越しに広がっている。

 

[しかし容疑者は裁判の最後に気になることを言ってましたね。たしか、「私にとって殺人は芸術だ。私は一流のエンターテイナーだ。だが上には上が

 

駐車場にSUVを停車させエンジンを停止する。ラジオから流れるニュースは途中で切れその先を聞くことはないだろう。

目の前にはスーパーマーケット。最近完成したショッピングモールではなく以前から利用しているなじみ深い店だった。

男は眠気が取れず欠伸をしながら店へと足を向けた。店の中は休日に比べ客もまばら、最近ではショッピングモールに客を奪われて閉店するのではないかと心配される声まで上がっている。

カートを押しながら食料品を物色している最中だった。

突然入口のレジ付近でまるで商品棚を薙ぎ倒したような大きな音が響く。

 

 

「誰か!コイツを引き離してくれ!」

 

 

 

男性の助けを呼ぶ声、悲鳴、罵声が店内に響く。

 

 

 

「誰か!保安官を呼べ!」

 

 

 

(強盗?)

 

非常に残念だがスーパーの入り口は1か所しかない。叫び声が響くレジを通過しないと外には出ることが出来ない。

男はそれしか方法はないと思いレジへと駆ける。好奇心は猫を殺すとはよく言ったものだ。

 

 

 

「保安官はまだか!?」

 

 

 

「駄目だ!通話中で繋がらない!」

 

 

 

店員が男に組み付かれ押し倒されている光景が目に入った。

 

2人がかりで男を引き剥がそうと奮闘している、予想以上に掴む力が強いようで押し倒した店員から離れる気配がない。

 

 

 

「コイツ!噛みやがった!」

 

 

 

店員の白い制服の肩口には、まるでリンゴをかじった後の様に歯形の様な赤い染みが付いており、どんどん広がっていく。

 

 

 

「おい、あんた!見てないで手伝ってくれ!」

 

 

周りを見るが離れた位置で傍観する者。青くなりながらも写真を撮る者ばかりで一向に誰も動こうとしない。何組みもの客がこの場に立ち会わせているのにだ。

 

 

 

「クソッ!」

 

 

 

 

 

負傷している店員に更に追い討ちをしようとしている異常者。余裕なんて既にない。

 

 

 

「其処を退け!」

 

 

 

近くにあったショッピングカートを手繰り寄せてそのまま異常者へ向かって突っ込んだ。

 

 

 

精算前の商品が大量に載っているカートだった。

出だしこそ重量があるためゆっくりと動き出したが、成人男性の全力の脚力でカートは加速される。

勢いがついてしまったら最後、今度は自力で止めるのも困難な程の速度に達していた。

ガラガラというカートの音は加速と共に次第に騒音に変わり始める。安定せず蛇行し始めそうになるカートを腕力で無理やり進路を修正する。

振動でカート一杯に詰められた商品が少しずつ床へ零れ落ちているが、気にしてはいられない。

 

そして、派手な音が鳴り響きカートに載っていた商品が床に散らばり、カートの籠は捻じ曲がる。

弾き飛ばされた異常者はまるで映画かコントの様に宙を舞う。自身の血か・・それとも嚙みついた時に咬み切った店員の肉かもよくわからない赤い物体を自身の口からまき散らしながら‥

床材の上に叩きつけられる異常者。手ごたえはあった・・・その反面、男は違和感を感じる。(まるでマネキンを弾き飛ばしたかのようだったと)

 

 

 

「大丈夫か?」

 

 

 

「ああ、そっちは?」

 

 

 

「おかげさまで無事だ。」

 

 

 

「ヤツは?」

 

 

 

店員達の手を借りて立ち上がり異常者の方へ目を向けると

 

丁度何事もなかった様に立ち上がる姿が目に入ってきた。

 

 

 

「嘘だろ……まだ此方に向かってくるのかよ!」

 

 

 

異常者は武器を持っていない。

 

異常者はフラフラとした足取りで今にも倒れそうな雰囲気だ。

 

大勢の目撃者、そして今しがた手痛い反撃をくらって普通ならば逃走を考える状況だ。

 

それでもまるで『何も感じていない』様に此方へとフラフラと近付いてくるのだ。

 

 

 

言葉に表すなら…不気味

 

その一言につきる。

 

ソレに関わってはならない、逃げろと本能が強く訴えている。

 

 

 

「普通じゃないから異常者なんだろう……」

 

「武器になるような物はないのか?」

 

 

 

玩具コーナーからバットを持ってくる店員

 

散らばったカートの中から清算前の包丁を拾い上げて身構える客。

 

 

よろよろと足を引きずりながら近寄ってくる不審者。

その後に()()()()()()かは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 




前日章 平和な日常

現在の人物

エイシー・ウィルソン:12歳少女。略称エイシー、愛称でエマと友人から呼ばれている。本名はまだ秘密!PCを使った情報処理やプログラムに長けていて暇つぶしに機密機関のデータサーバーに痕跡を残さずアクセスするなど色々とヤンチャしている。運動能力は高くない。自前のノートPCは部品を特注して自作した高性能端末。茶髪ストレート。PCを触っているときは「話しかけるな」オーラが出ているため友人以外は近寄れない

シエラ・ハドソン:エセ関西弁みたいな口調で話す少女。エマの親友。エマとは正反対で運動系で万能。どっかのメインキャラを思い出す?「ほんまか?工藤!!」

SUVの男:MOB枠 名前考えるの面倒ですの!!どうせ皆死ぬの!!

特殊部隊
チャーリー:無線で救援要請をしていた本人 声変わりのしてない子供のような声。生死は不明

???:一際幼い印象を受ける声の主(少女)。生死は不明。混乱の中でもパニックに陥らずに冷静、どこか諦めた音色を無線に響かせていた

司令官:とりあえず此奴が全部悪いんじゃない?

ブルーな雛菊:駄作を作っては逃走している作者 今回は完走させなきゃ!
書き馴れていないので誤字多め!


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day0・この辺りの人達は皆気違いさ


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イ!ラ!ス!ト!感謝!(*´ω`*)


day0 11:10

合衆国 コロラド州 ウィラメッテ ス―パーマーケット

 

まるで時間が止まったかの様に静けさで満ちた店内。

誰も動かない、誰も話さない。

ある者は目の前で行われた犯行を現実と受け止めきれずに呆然とし、ある者は血に染まった自身の手を眺めて神に赦しを乞う。

 

一分・二分と時が過ぎ、やがて十分が過ぎようとした時、運悪く店に居合わせた女性客が呟いた。

 

「死んだの?」

 

静かな一人言の様な呟きだった…しかし、その小さな呟きは静まり返った店内でよく響いた。

 

「わからない」

 

動かなくなった襲撃者の体を遠くで眺めながら店員は返答する。

力なく横たわる体、多すぎる出血量、異様にへこんだ後頭部。

生憎ここは平和な田舎町。銃なんて気の利いたものを携帯している者はなく、店内にある包丁やビール瓶、酷いものはフライパンや鍋など武器になりそうな物を手に取った。

店員の一人が襲撃者の背後から頭部をバットで殴打したのを皮切りに、店員や客がそれぞれの武器を襲撃者に振り下ろす。

殴打されながらも立ち上がろうとする襲撃者が動かなくなるまで何度も何度も・・・・

肉に刃物を突き立てる感触、手に伝う生暖かい液体、真っ赤に染まった自身の手を照明にかざし呆然と眺めていた。

 

襲撃者が床にうつ伏せで倒れた時のは幸いだろう。

白い床材に飛び散る血痕と人の歯。顔面が酷く損壊した襲撃者の死に顔を拝まずにすんでいる。

 

「殺したの?」

 

「何もそこまでする必要はなかったんじゃ……」

 

傍観に徹したいただけの客の呟きは、やがて周りの客へと伝染し次第に戦った者達への非難に変わっていく。

 

(最善を選んだつもりだった・・・)

 

出来る限りの事をした。何度も警告し、拘束しようとしては振りほどかれた。

バットを叩きつけた際も保安官が来るまで立ち上がる素振りを見せるなと再三警告をしている。

 

(だが、この現場を見た警察はどう判断するだろうか?)

 

丸腰の襲撃者1人に対して複数人。体に何重にもわたる刺し傷と殴打の跡。飛び散った血痕は戦闘行為の激しさを物語っている。

過剰防衛で済めばいい。だが、この惨状は一方的な()()と捉えられても不思議ではない。

 

「人殺し!」

 

そして、禁句(トリガー)が発せられる。 

 

「…………………」

 

この一言が傍観者と戦った者達の温度差が決定的になった瞬間だった。

今も尚、非難する傍観者達を横目に言葉を発する事無くアイコンタクトし頷き合う者達。

 

「まもなく保安官が到着します。お客様はそのままでお待ちください」

 

血に染まったバットを持った店員が営業スマイルとも薄ら笑いともとれる笑顔を客に振りまく。

 

手にしたフライパンを握りしめ、男は静かに後退りをして物陰(商品棚)に身を隠す。背後から聞こえるシャッターを下ろす音と施錠する音が男の予想を確信へと変える。

共に命を奪ってしまったからこそ次に何をするか想像ができてしまう。否、()()()()()()()()()()

彼らは目撃者を()()()()()。丸腰の相手に複数人で袋叩きにしたのなら過剰防衛は免れない。しかし、もし襲撃者が既に複数人殺害した後なら?

凶悪犯に複数人で対抗して無力化するのは過剰防衛になるのだろうか?

 

男は自身の力量をちゃんと把握していた。

 

(俺はヒーローになんかなれやしない)

 

他の客を助け出すために6人の凶器を持ったサイコパスに立ち向かうなんて出来やしない。そして、自身が傍観者達を()()()()()度胸もないってことも。

入口付近には店員達が陣取っており、其処を通らなければ外へ出ることは叶わない。ならば(バックヤード)から脱出して自身の(SUV)に向かうのが最善だ。

今すぐにでも走り出したい気持ちを抑え足音を殺すようにゆっくりとトイレ(restroom)へと歩き出す。幸いにも何年も通っているスーパーマーケット、トイレ(restroom)に換気の為に窓があり外へ出られることを把握していた。

 

 

 

 

トイレの扉を押し開けて中へ駆け込みむと同時に勢いよく窓を開け放つ。外への窓には簡易的な鉄格子。こじ開けようと力を込めるがびくともしない。

 

直後店内から悲鳴。

反射的に体をびくついてしまう…奥歯が高速でガチガチと鳴る。

 

(店内の客が片付けば次は自分だ)

最初の襲撃者を撃退する際に手伝った事で目立ってしまった……必ず追ってくる。

それはただの根拠のない直感のようなもの。しかし、進む未来には必ずそれ()が待ち構えていると確信している。

パニックになっているにも関わらず研ぎ澄まされていく直感。

 

役に立つ物を探す。

トイレ掃除用ロッカーにはバケツとデッキブラシ。強度に頼りないが迷っている暇などない。

格子にブラシを差し込み左右に抉じ開けるように捩じ込み、広げる。

アルミ製の格子が変形、隙間が出来るがブラシの先端が耐えきれずに破壊。

まるで割り箸をへし折ったような音だった。それの3倍くらいの音量で鳴り響いた破壊音。

 

「音がしなかったか!?」

「人数が足りないぞ!カートの男は何所だ!」

 

男を探す声が遠くから近づいてくる。

格子の隙間は男には狭く脱出には叶わない。

 

 ・

 ・

 ・

「あいつは居たか!?」

「窓が壊されている!外を探せ!」

 

付近の問いかけに応えるようにドア一枚隔てて怒鳴る声が聞こえる。

追手がトイレで見たものは開け放たれた窓。へし折れたデッキブラシとこじ開けられた格子。

状況から既に外へ脱出したと思ったのだろう。遠ざかっていく足音を聞きトイレの頼りないドアの裏で安堵の息を漏らす。

 

便座の蓋の上に乗せた震える足を地面へと降し鍵を静かに解除した。

 

 

 

「いらっしゃいませ!お客様・・・探しましたよ?」

 

個室から出て最初に目にしたものは、最後に目にした時よりもさらに返り血を浴びて赤く染まった店員だった。

直後振りかざされる包丁。男は手にしたフライパンを盾の様に構え凶刃を受け止めた。そのままフライパンの角度を変えて包丁を受け流す。

無意識の動作、次に同じ事を行えるか?と問われれば答えは否だろう。

 

態勢を崩した店員にこれ幸いとフライパンの側面を顔面に叩き込む。

痛みで後ずさる店員にさらに追い打ちをかける男。この店員が店内で本当に客を殺していたのか?なんて疑問など等になかった。己に刃物を振りかざした時点で男の中で何かが吹っ切れてしまった。

 

鼻を押さえる店員の首を鷲掴みして、そのまま後頭部を洗面台に叩きつける。

一撃、二撃と叩きつけるたびに白い洗面台に赤い模様が増えていく・・・抵抗の弱くなっていく店員を担ぎ上げ助走をつけて窓の格子に叩きつける。

破壊音と共に外れる格子、勢いあまって外へと落下する2人。既に動かなくなった()()()一瞥をくれることなく男は自身のSUVへと走り出す。

 

店内からは怒声が響いている。

 

一気にSUVへと駆け寄り()でドアを開けた。

 

 

 

 

 

『BI-BI-BI-BI-BI』

 

 

 

「おいおいおい!マジかよおい!」

 

けたたましく鳴り響く盗難アラームに彼の心臓が縮み上がる。

焦っていたがために起こった凡ミス。キーレスで遠隔ロックした車両をキーを使って直接解錠したのが原因だ。車両が特殊なツールで無理やり解錠されたと認識して盗難アラームが作動したのだ。

 

「糞!糞!」

 

 

解除するには車のエンジンを作動させればよい……たったそれだけの簡単な動作でさえパニックになった彼にはとても困難な事であった。

 

「鍵が刺さらない!」

 

必死で家の鍵を車に差し込もうとしていることに気付き、ハンドルに八つ当たりでドツく。『プッ』と短くクラクションが鳴るが知ったことではない。

 

 

「かかれ!かかれってんだよ!」

 

ようやく本来の鍵を差し込みエンジンを始動した。

 

ふと、店の様子を見ようと目を上げると其処には……

 

 

 

包丁を持ち、制服を真っ赤に染めた・・・()()()()店員が笑顔で正面に立っていた

 

「お客様~~困ります……まだ当店のサービスは終了しておりませんよ?」

 

頭部からの出血、鼻は折れ、血走っている目からは血の涙を流してるように見えた。とても正気とは思えない。全力で正面から駆け寄ってくる店員。

恐怖に耐えながら車のギアを入れて()()()()()全力でアクセルを踏み込んだ。

 

ドン!と重い衝撃。クモの巣の様に放射状に罅の入ったフロントガラス、彼がギアをR(後進)ではなくD(前進)に入れていたと気付いたのは店員を撥ね飛ばした後だった。

 

 

 

車の勢いは止まらない。極度の恐怖でアクセルから足が離れていない事に彼は気付いていない。

迫り来る店の入口。パニックになった頭が()()()()を踏めと囁くが、彼はそのまま()()()()を踏み込んだ。

 

店の入口吹き飛ばし、店員を撥ね飛ばし、客の死体の上を滑走し、商品棚をなぎ倒す。

運が良いのか悪いのか…盗難アラームに気付いた店員が入口に集まっていたのが決め手となり突撃で一網打尽となっていた。

規則正しく響くエンジンのアイドリングの音だけが木霊する再び静かになった店内。2、3分ハンドルを持ったまま放心している彼を咎める者は、店内には誰も居なかった。

 

・・・・

day0 11:37

合衆国 コロラド州 ウィラメッテ Middle school

 

変わり映えのない平凡な日常・・・そのはずだった。

(外がやけに騒がしい?)

 

少女が初めに感じた違和感はその程度の物だった。学校付近を緊急車両が通過する事は別段珍しい事ではない。ただ・・・この日に関してはその回数が異常だった。

近くから、遠くからも絶え間なくサイレンが鳴り響いてる様に感じる。救急車、消防車、警察車両。様々な車両の奏でる騒音を窓越しに感じながら漠然としない胸騒ぎをエマは感じていた。

 

「ちょっと!気が散る!!」

「悪い悪い!虫に刺された箇所が気になって」

 

授業時間、教室端の男子生徒が腕を掻く動作。力加減を間違ったのか幾多もの赤い線が浮かび上がった腕。先ほどの女子生徒が小さな悲鳴を上げているのを視界の端で確認した。

 

「騒がしい!今日は一体どうしたというのだね?」

 

ざわつく教室の生徒に教師が声を上げた。外からはサイレンの音が鳴り響き他の生徒達も落ち着かない雰囲気だった。集中力など等に切れている。

 

「隣の人が怪我をしています!」

「あ~・・・これは酷い。自分でやったのかね?」

 

「保健室に連れて行くので私が戻るまで自習するように!」

 

他の生徒を残し教室を出る教師と生徒。怪我している生徒はこの短時間で体調が悪化しているようで足元がおぼつかない。

あと20分も経たないうちに休憩となるのだが、外の騒動が気になりPCを開くエマ。シエラがそれに気づいたのか堂々と教師の居なくなった教室を歩いてくる・・・

警察の設置した町の防犯用監視カメラにアクセス(不正)しようとした時だった・・・突然鳴り響く金属探知機の警報音に教室内は騒然となる。

 

窓越しに入り口に駆けていく教師達が見える。

 

「なんだと思う?」

「この時間に校舎内に来る人なんて居ないはずやで!」

 

「どうする?乱射事件とかだったら早く逃げた方が良いいいと思うのだけど‥」

「まだや、教師たちが急いで状況を確認しに行ったのを見とったやろ?すぐに館内放送で説明があるから待つんや」

 

普段なら気にもない異常。財布や時計を外し忘れて探知機を鳴動させる生徒も多い。だが町から聞こえてくる騒音、そして授業中に鳴り響いた探知機が不吉な事が起こる前の予兆の様に思えて仕方なかった。

 

「安心せえ・・エマちゃん。銃声も聞こえんやろ?時期に誤動作だって放送があるはずや。・・・ほら、放送やで!」

 

館内放送のマイクをONにした時のノイズが流れる。荒い呼吸音、その背後では扉を叩いてるような打撃音をスピーカー越しに耳にする。

 

『現在、校内に不審者が侵入しました。生徒は教師の指示に従って避難を開始してください。これは訓練ではありません。繰り返します、これは訓練ではありません』

 

 

 

 

一気に教室のドアを開け走り出す生徒達。

 

「まだや!まだ行っちゃアカン!!うちを信じてここで落ち着くまで、この教室を出ちゃいかん!」

 

席を立ったエマを押しとどめるように服の袖を掴むシエラ、エマは一瞬迷ったように目を泳がせた後、ため息と共に元の席に座りなおす。

 

「あなたの言うとおりね・・・ありがとう」

「当たり前や!うちを誰だと思ってるん?うちは消防士の娘やで?」

 

こんな状況でも胆の座ってるシエラに思わず笑みがこぼれる。廊下では生徒達が押し合い我先にと逃げ出そうとしている。

知識では知っていた・・・パニックになった群衆に混ざると高い確率で死亡する。人の流れが止まれば後続の人々に体を圧迫され呼吸困難に陥り、一度転べば立ち上がる事など出来るはずもなく何百の群衆の足が脱落者を襲う。ショッピングモールのシャッターを容易に破壊できるほどの威力を持つ群衆の波をその身に受ければどうなるかは火を見るよりも明らかだった。

 

(知識ではあったんだけどね‥冷静な判断が出来るかは別の話よね・・)

 

廊下で繰り広げられる徒競走。悲鳴、怒声、嗚咽・・・様々な感情の混ざるBGMを聞き流しながら友人に問う。

 

「それで・・これからどうするの?」

「せやな・・ひとまずこの教室に身を隠して襲撃者をやり過ごそうか?」

 

自身の存在を示す音を()()()()()()発する人達を放置して、誰も居ない教室内をクリアリングしていく襲撃者はごく少数であろう。

 

「それで‥逃走手段は?」

「勇敢な教師が一人くらいはスクールバスを確保するやろうな~」

 

「当然それには乗らない・・・と?」

「せやで~不確定要素に命かけるほどうちは馬鹿やない」

 

「心配はしてないけども…貴方運転できるの?」

「当たり前や!うちを誰やと思ってるんや!うちはレーサーの娘やで!」

 

「あなたも好きね~そのネタ」

 

合衆国の運転免許は16歳から、つまり運転したことがある、運転できること自体法を侵してるのだが今となってはその程度の事は些細な事の様に感じてしまう。

 

「それじゃ、私が校内の防犯カメラの映像をジャックして移動の支援をするわ」

「頼りにしてるで!相棒。」

 

年齢に対して似つかわしくない能力と判断力を持った少女達は脱出に向けて行動を開始する。

 

 

 

 

 




エマ&シエラのペアはパニックになった生徒達が自身達の話を聞くとは思っていない為、最初から別行動を取ろうとしています。

学校の防犯設備
近年乱射事件があった為、田舎町であるウィラメッテにも設備が導入されている。
ゲートには金属探知機、廊下には監視カメラ。

大都市や治安の悪い町程ではないが、ウィラメッテ町内にも警察によりカメラが多数設置されている。


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day0.5・事なかれの大衆心理

SEPTEMBER18 15:45 (day0

合衆国 コロラド州 ウィラメッテ メインストリート

 

 

通り過ぎる建物から響く、助けを求める館内放送。誰かが警鐘がわりに作動させたのか、火災報知器が火の手のない店舗から曇天に響いている。まるでゾンビのような異常者は徐々に数が増えており、その魔の手から逃げ延びようと歩道、車道、お構いなしに叫び声を上げながら逃げ回る人々。町を出ようとする者、強固な建物へ立て籠もろうとする者、様々な意思が絡みつきより一層道路の混沌を加速させていった。

 

「どこも・・・同じね。町全体が地獄になったみたい。これからどうする・・?」

 

町に設置された監視カメラの映像をPCで見ながら現状の感想をこぼす。車の外で行われてる命を懸けた徒競走、恐慌状態に陥った人々を横目に今後の行動を運転席に居るシエラへと問うエマ。安全とは言えないものの、ドア一枚隔てていることで何とか冷静さを失っていないようだった。

 

「せやな‥‥この町から脱出することが先決やな。」

 

人々を避けるようにハンドルを切りながら答えるシエラ。

学校で拝借した教員の車、ダッジ・チャレンジャー SRT392・・・有名なマッスルカ―、ヘルキャットの素体となった車だ。V8、6400cc。485hpを生み出すエンジンは0-100km/hまでをわずか4.4秒で到達する。

最も、この町の混雑した状況ではその性能を存分に発揮することは出来ずにいるが。

車は衝突した際に変形して衝撃を吸収し、乗員を守るように設計されているのが大半だ。人を撥ねればバンパーは外れ、フロントガラスは砕け散り、運が悪ければ冷却器を破壊しエンジン部分に突き刺さる。何人も跳ね飛ばしながら進めるようなタフネスさはこの車には持ち合わせていなかった。

 

うんざりしたように何度も人々を避けて、車へのダメージを減らすシエラ。

 

「貴方の家族は?」

 

自身の家族が持つ携帯のGPSが町から離れて行ってるのを確認しながら友人に問う。

 

「うちの家族は大丈夫や・・・この程度ではくたばりはしない。」

 

苦笑いと共に答える友人。

エマは現状を確認するためにも車内のオーディオを操作しラジオに設定するが、普段通りの天気予報、連続殺人犯の裁判の様子。今しがた車の外で行われている、この地獄めいた暴動の事を上げる局は存在してなかった。そのことがより一層不安を駆り立てる。

 

「妙やな・・・地方のラジオ局まで・・」

 

無音のラジオならまだよかった。この町のラジオ番組からは司会がいつもと同じようにゲストと談笑してる会話が聞こえてくる。この騒動に気づいていない?それはあり得ない。ではどうして・・?

 

お願い!車を止めて!!助けて!!

 

女性が車に並走しながら窓を叩く音で思考は中断された。

音と共に増えていく窓に付く赤い手形、息を切らしながら必死な表情で助けを求める女性と()()()()()()()()()

 

「ねぇ・・シエラ「ダメや!()()()()()地獄みたいな状況になってるか分からん。こんな時にリスクは犯せれん!」」

「・・・・分かった。」

 

女性の瞳に宿る絶望、恐怖、そして微かな希望を置き去りにして車は進む。

シエラの言うことは正論だった。空気感染や食物関連で人々がゾンビの様になっていってるのだったら自分達は手遅れ。しかし今も体に異常がないところを見ると原因はその他にある。例えば感染者との接触、体液を介しての感染。これでは本当にゾンビ映画のようだ。だが、可能性がある以上リスクを増やすわけにはいかない。

自身の身も危うい状況で他者に救いの手を差し伸べる事が出来るほどの力を持ち合わせていない事は理解はしている。()()()()()()()()()。まるでこの町の新しいルールとでもいうように逃げ惑う人々は他者を見捨てていった。

 

「止まって!!」

 

車内にエマの声が響く。

丁度、車が交差点に差し掛かろうとしていた時だった。停止したエマ達を乗せた車、追い越すSUVが一瞬にも関わらず、まるでスローモーションの様に鮮明にその姿が見えた。車体全体に激しい凹凸。フロントガラスは割れて、ボンネットからは冷却水が漏れて蒸発してるかの様に白煙が上がってる。シエラが丁寧に人を跳ねないようにハンドルを切らなければ自身達の車も同じようになっていただろう、そう思える光景だった。そして、もしもエマの制止を聞かずに交差点に侵入していたならば……

 

激しい衝突音。SUVが見覚えのある黄色の塗装をしてあるバスに側面から突っ込まれ横転した。鳴り響くクラクション、スクールバスの窓には血痕が付いており、中の運転手も無事ではないと用意に想像が出来た。

 

「何が正しいのか……もう分からない。」

 

まるで、自身達の行動の答え合わせ。何が正しいのかは蓋を開けてみないと分からないギャンブルの様なもの。今もなお鳴り響く警笛に引き寄せられるように周囲のゾンビはバスとSUVへと集まって行く。助ける?否。自身の車も取り囲まれて詰むのが目に見える。仮に救出したとしても数時間前にパニックに陥り同級生を殺しあった者達と行動を共にするのは抵抗があった。

 

「結局、選べる道は複数あっても全てが望んだ未来に繋がってるとは限らないものやな……」

 

一歩間違えれば自身が歩んだ道。感情も感傷も込められていない呟きは町の喧騒の中に消えていった。

 

 

day0 16:00

合衆国 コロラド州 ウィラメッテ 郊外

 

町から離れ、ゾンビや逃げ惑う人々は疎らになり徐々に静寂が訪れようとしていた。ラジオからは相変わらず同じ様な内容の普段通りのニュースが流れている。時折聞こえる爆発音。それが、先程の地獄が決して夢ではないと少女達に告げているようだった。

 

「おかしい……」

 

シエラの顔が爆発音が鳴る度に険しくなっていく。

隣の席で高速で叩かれるキーボードの音が車内に響く。

 

[いやー。この事件もようやく終わりをむかえますね…犠牲になった方々には追悼の意をささげます。]

 

[今回の一件はどのように捉えますか?]

 

[この犯行は非常に残忍で短絡的と言っても過言ではないでしょう・・・・]

 

今日、何度目になるか分からない司会とゲストのやり取り……町を抜ける際には外の状況が悪く、聞き入れる余裕は無かったが、思い返すとどうだろうか?一言一句間違わず同じコメントを言っていなかっただろうか?

 

再び響く爆発音。前方からは黒煙が上がってるように見えた。

 

「アカン………どうして……いくらなんでも早すぎる!」

「ちょっと!?シエラ?」

 

急ブレーキ。車の荷重が前方へ傾いた状態でハンドルを切り、即座にアクセルを踏む。有り余るトルクは後輪を空転させ、路面に4つの線と白煙を残す。

 

「この先に家族が居るの……」

「あんたも気付いてるんやろ…この先にはいけん。」

 

ノートPcのモニターに示される、30分前から移動しなくなったGPS。ラジオは切り取り、繰り返し流している様に感じる。電話回線はパンク状態。PCの電波も著しく悪い。まるで、何者かが外部への情報流出を阻止してるように。ここまでしておいて、町から脱出しようとする住民をそのまま素通りさせてくれるのか?その答えは前方の黒煙が物語っている。

 

「手遅れや………すまん…」

 

自身の目で確認したわけではないが、この先に待ち構えているものは想像がつく。展開の早さから先遣隊として航空勢力が投入されたのだろう。例えば攻撃ヘリ、アパッチロングボウ。例えば近接航空支援機、サンダーボルト2。例えば無人攻撃機、リーパー。どれも対地攻撃に特化した機体だ。車で逃げ切れるものではない。

 

「……いいえ……大丈夫。私こそ、ごめんなさい」

 

再びpcへ目を落とすエマ。

 

「まだ回線が生きてるうちに町の情報を外へ流す。」

「…わかった。うちらは救助が来るまで立て籠るとするか…ショッピングモールに行くで。」

 

 

日が傾き沈み始める。

辺りは次第に、闇へと変化を遂げていく。先程まで騒音を発していた町中も周囲の暗闇に同化するように、次第に静けさを取り戻しつつあるようだった。外部の2つの宛先に、惨劇のあった店舗の動画を転送し終えた時だった。完全に沈黙した回線。町中にも関わらず圏外を示すアンテナの表記を確認し、時間切れを悟った。

 

(やれることはした……後は、選んだ道が何処へ続くのか見届けるだけ。)

 

窓越しに見える燃える車。ゆらゆらと暗闇をてらす炎を眺めつつエマは静かに瞳を閉じる。

 

 

SEPTEMBER19 11:27 (day1

合衆国 コロラド州 ウィラメッテ 上空

 

朝方まで続いていた雨は上がり、空には青空が顔を出していた。

チャーターヘリから町へと続く景色を見下ろす。

 

(山、木、山、畑、家、畑…遠くには町へと続く道路…)

 

ここまでくると一々言葉にする必要性すら感じない。人が住んでるかも景色。特に撮影する必要すら感じないが、とりあえず撮っておくのが紳士(ジャーナリスト)の嗜みであろう。

 

「お客さん。取材だって言ってたな。」

 

高速で進むヘリ。開け放たれたドアからは強風が機内に入り込んでいる。そして大気を裂くローターとターボシャフトエンジンの奏でる騒音。本来なら聞き取ることも困難な会話はヘッドセットの力で容易に行える。

 

「ああ 何か起きているらしいって話なんでね。」

 

一眼レフを握りしめ、写真を撮りながらパイロットへと返答する男。

 

「あんなしけた町でねえ・・・テレビでは何も言ってなかったけど?」

「俺みたいなフリーランスにはフリーなりの情報網ってのがあるのさ」

 

自身の情報網とドヤ顔で返答しているが‥真っ赤な嘘である。昨日、奇妙なメールが届いた。送り主のアドレスが記載されていない、本来届くことのないメール。そのメールには、ウィラメッテとこの町の名前だけが記されていた。そして、添付された動画には、スーパーマーケットと思われる場所で次々と市民を虐殺する店員の姿。

知り合いでもない、普段利用している情報屋でもない。見るからに怪しいメールに自称:戦場ジャーナリスト、フランク・ウエストはこれ幸い!と飛びついたのである。

 

「見えたぜ」

全く開発のされていない山々を抜けて町並みが前方に姿を現す。パイロットが親切にもウィラメッテの紹介をしてくれているがフランクは別の物から目が離せなかった。郊外、町と山々を切り離すように流れる川。2つの境界線をつなげるように架けられた橋と、それをバリケードを設置して封鎖している兵士達。

 

APC(装甲兵員輸送車)と兵士8人・・・)

 

「なんだありゃ、軍隊か?」

「ああ、ヘリで来て正解だったな、この分だと道路は閉鎖されている。・・・封鎖が進む前に町の全景を取っておきたい。大通りに沿って飛んでくれ。」

 

進むヘリ。眼下には乗り捨てられた車たち。人気(ひとけ)はなく閑散とした道路が広がっている。

 

「何だこれは、暴動か?」

 

前方に見える景色を操縦士が先に見つけて様だ。

横転したSUVとスクールバス。SUVから這い出した男がバットで近寄る市民を殴りながらより高いところへ逃げるように、自身の横転した車によじ登ろうとしているところをカメラのレンズ越しにフランクは見た。1人の男に10人の集団が取り囲むようにゆっくりと接近している。力任せに振るわれるバットは市民の頭部に命中し、派手な血飛沫を上げる。倒れこむ市民、しかし再び立ち上がる。

 

バランスの悪い横転した車の上、血濡れたバットを持つ男は手を振り助けを求めてるようであった。

 

(今しがた凶器を使って殺人未遂を行った男が被害者に見えてくる。)

 

市民の伸ばした手が男の足首を掴み、路面へと引きずりおろした。その後の事は車の影で行われており確認できていないが想像は付く。スクールバスに張り付く20人くらいの暴徒?に向けて何の感傷もなく、淡々とシャッターをきった。

 

「あんた、これを取りに来たのか?」

「ああ」

 

ありのままを伝える、たった一枚の写真が多くの心を動かし何百人の命を救う。そう信じて来たからこそ今、彼はここに居る。()()()()()ここに居るのだ。

 

「いったい何が起こってるんだ」

「判らん、ただ・・・こいつはちょっと普通じゃないな。この先のショッピングモールのヘリポートに降ろしてくれ」

「冗談だろ!?イカレテルゼ」

 

前方に見える目的地。近づくにつれて徐々に鮮明になっていくモールの全景。まるでこの町の住人の7割が、モールを包囲しているようにも感じる地獄のような光景が目の前に広がっている・自身の持ち物を確認し着陸の準備に入るフランク。持ち込んだアタッシュケースには広角レンズ、望遠レンズなどの機材のほかに護身用にリボルバー(タウルスレイジングブル)が入っている。

 

「頼むから迎えを忘れないでくれよ!」

「生きてればな・・フレッド「フランクだ、フランク・ウエスト3日後に有名になる名前だ」」

 

帰りの便の約束をした間際だった。突如現れた軍のヘリ。民間ヘリの操縦士は軍のへりに追い回されながらも何とかフランクをモールに降り立てた。

 

 

SEPTEMBER19 12:00 (day1

合衆国 コロラド州 ウィラメッテ ショッピングモール

 

「よお、報道の人だな?」

「ああ。ところでここで何が起こっている?」

 

降り立ったフランクの背後に佇む男。情報を求めるフランク。

 

「ヘリで来たんだろう?どう見えた?」

「暴動にしては封鎖が厳重だ。情報統制も普通ではない。そして、暴動にしては静かすぎる。「まるで死人の群れみたいに?」」

 

思い返すと引っ掛かる事が多数ある。暴動にも関わらず、警棒、催涙ガス、ゴム弾で武装した治安部隊ではなく、小銃と手榴弾、装甲車まで配備した軍が町を封鎖していること。これだけの事をしているにも関わらず町の外には一部を除き一切情報が漏れていない事、不満や自身の理想を掲げる暴徒はこの町には存在せず、警官隊達と衝突した際の戦闘音も聞こえてこない。政治家がターゲットという事でもなく、市民同士が殺し合ってる。何より・・何故、市役所や警察署ではなく()()()()()()()()()を暴徒が包囲しているのか・・・

 

思えば目の前の男も奇妙に感じる。フランクが到着した際に、目の前をヘリが飛行したにも関わらず助けを求めたり取り乱したりはしていなかった・・モールに到着するまでに出会った()()()町の住人が()()()()助けを求めてたにも関わらずにだ。

 

 

「…そろそろ教えてくれないか?」

「自分の目で確かめるんだな。ここは地獄だ。」

 

これ以上情報は引き出せないと判断し、フランクは屋上をあとにする。

 

(どのみちすぐに分かる事だ。それに、戦場が地獄以外であった試しがない。)

 

 




~屋上にて~

男は声を殺して笑う
「自分の『カシャ!』目で確かめ『カシャ!カシャ!』るんだな『カシャ!』」

「20pp 20pp 20pp……』

「なぁ!あんた!?「やっぱり被写体が悪いのか……」おい!!!」

人がいたら取り敢えず撮ってみる……ジャーナリストの習性であった………


人物紹介、捕捉

SUVの男:ここでも登場。スーパーから脱出後、ゾンビ達を撥ね飛ばしながら最短ルートで郊外を目指すが、交差点で側面からバスに突っ込まれ横転、翌日まで気を失っていた。ヘリの音に目覚め助けを求めようと外に出るが補食される。

バスの乗員:学校の生徒と教員。襲撃のパニックで我先にと押し合い、文字通り屍を踏み越えて行った結果、たったバス一台に乗らないぐらいにしか生存者が生き残らなかった。(途中で追い付かれた、逃げた先に感染者に包囲されていたなど)地震の避難の時などリアルでも同じことが起こっているので皆さんもお気をつけて!

SRT392:ワイルドスピードでお馴染みのマッスルカー!デーモンやヘルキャットではないので筋肉成分は控え目、とはいっても十分化物スペック!作者が一度は乗ってみたい車!

アパッチロングボウ:シエラが予想した航空部隊。丸腰で出会いたくない兵器その1。30mm機関砲や対地ミサイル、ロケットなどとても充実。映画で対物ライフル使って落とす描写あったりしますがあれって本当?23mmが直撃しても数時間飛行可能とのことです。

サンダーボルト2:シエラの予想、その2。皆大好き空飛ぶ戦車。此方も対地攻撃特化。大好きな『ブーーーー』って音が届く前に相手は死ぬ!

リーパー:シエラの予想、その3。無人機は使い捨てるという印象が先行しがちだが、この機体は軍の要望を詰め込んでいった結果高コスト、ハイパフォーマンスの機体が完成してしまった。(使い捨てには高すぎるため目的の用途には不向き)航続距離や航続時間が群を抜いており、高高度偵察が出来る程レーダーやセンサーは高性能。ヘルファイヤーミサイルを搭載して上空を旋回する様は、まさに死神そのもの。シエラの判断は正しい!

エマの家族:連絡の取れない娘を心配しながら一足先に脱出しようとしていた。「親方!空から女の子(ミサイル)が!!」

フランク:エマのメールに釣られてきた戦闘カメラマン。原作の主人公。回復アイテムで噛みきられた肉体が回復するわけではないので持ち込んだリボルバーは調整ということで!(ぶっちゃけ銃は要らないかもしれないw)強い!とにかく強い!対ゾンビ用人型戦術決戦兵器の異名を発揮してくるのは後々!

屋上の男:質問を質問で返すのはやめよう!

ヘリの操縦士:名前は忘れた!軍のヘリ、3機を振り切るって凄くない!?この機体がカプコン製でないことを祈りましょう!

作者:書きたい話と繋ぎの話では凄く差が出てくるへっぽこ。「飛ばしたいけど重要なとこだし……でもゲームやってる人はフランクの所は知ってるから短縮するか!」
やっと1日目!次回から本作の主人公が登場します!




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day1 自身の事は説明できない。何故なら私は自分自身ではないのでね

「」実際に言葉にしたもの
()心の中の呟き
『』オペレートシステムの警告や看板案内などの補足


■■■■■  16:21

■■■■■■■■■   ■■■■■

「気が付いた?体調は大丈夫?」

「里親が見つかるまで君を保護することになった。短い間だがよろしく頼む。」

「君の新しい家族が決まった。ここからは離れることになるが君の事は忘れない。胸を張って生きなさい。」

 

病院のような白い部屋で看護婦が話しかける。子供達が集められた施設で院長と思われる人物が微笑みかける。そして景色は変わっていく。まるで走馬灯、とりとめのない夢の様にも感じる。

 

「よう、お前が新入りか?」

 

無機質な鉄の扉の向こうには、自身よりも少し背が高いくらいの、そばかすのある男の子が立っていた。その背後には、ベットに腰掛ける年下に見える少女が一人、銃を分解清掃している青年が一人。2段ベットが両サイドに1つづつ、奥にシンプルな机が1つあるだけの殺風景な部屋だった。

 

「・・・・・」

 

病院で目覚め、孤児院。そして、気づいたらこの場所に私は居る。

 

「よう、新入り。戸惑うことも多いだろうが時期に慣れる。」

 

差し出される手を取り、握手を交わす。人差し指や親指の腹が堅くゴツゴツしていると少女はぼんやりと思う。

 

「俺はチャーリー、ベットに座ってるのがリマ、奥に居るのがビクターだ。よろしくな、エコー」

 

自身に向けてエコーと呼んだ少年を不審に思う。

 

「エコー?私の名前は「あんたの名前や生い立ちは興味はない。ここに来た時点で今までの記録は全て抹消されてるんだ。あんたの名前、あんたの家族構成、好きな食べ物、初恋の相手・・・全て抹消されてる!お前はゴーストなんだ。」」

 

「自分を憐れむのはやめろ。ここに居る皆が同じようなもんさ。親に捨てられた者。テロに巻き込まれ両親も失ったもの。何も知らず粉を運ばされ口封じの為に刈り取らる運命だった者。理由はそれぞれだが、訓練が終了すれば少なくてもマシな生活が保障されている。」

 

「ただ、それまで間お互い名無しじゃ困るだろう?だからメンバーはファネティックコードで呼び合うようにしてるんだ。・・・悪い事だけじゃないさ。ここの奴らはルームメイトであり戦友だ。いざとなったら俺がお前を守ってやるよ!」

 

 

…夢を見ていた。懐かしく、切ない()()()()()()()()()()()()この夢が何を意味してるのかは分からない。

ただ、思い出さないといけない。でなければ…私は、私自身では無いままなのだから。

 

 

 

SEPTEMBER19 10:00 (day1

合衆国 コロラド州 ウィラメッテ上空

 

【挿絵表示】

 

 

『こちらHQ(司令部)残り5分で降下地点に侵入する。』

 

機内の両サイドに備え付けられた、パイプフレームと布張りの簡易的な椅子。その一つに座り、瞳を閉じ無線を清聴する少女が一人。時刻は午前10時。太陽はとっくに天に上がり、数少ない窓から薄暗い機内を照らしている。椅子の座り心地は論外。両サイドのエンジンからの騒音は、会話を聞き取るにも困難になる程のもの。床にはパレット搬入用のローラーやレールが設置されており、気づかず踏んでしまえば転倒は避けられない。人員の運送など二の次に設計された軍用輸送機、快適さなど一欠けらも存在していなかった。本部からの無線を皮切りに、少女は装備の最終確認を行い始める。

 

「情報を更新した。衛星写真から現在、該当区域には合衆国の特殊作戦部隊が展開している事が確認されている。部隊の詳細は現時点では不明。」

 

(現地の展開している部隊との連携は難しいか・・・)

 

互いに同じ国に所属する特殊部隊であるのは確かだとは思うが、少女が所属する機関はさらに特殊なものだった。Strategic Homeland Division。通称SHD、又はデヴィジョンと呼ばれる組織。…創設者が未来に起こるりえるウイルス兵器の被害を懸念し、作り上げた秘密機関である。政府も、その存在を認識しておらず、あらかじめ用意したシナリオ()を使って現地に紛れ込むという手段を使っているが、今回は使えそうもないという事だ。

 

(非認識組織・・・当たり前だ。でなければ私達がここに居るわけがない。)

 

ウイルスが蔓延してインフラどころかライフラインすら崩壊した世界、警察や軍すらも完全に沈黙した状況になって初めて予備軍として治安回復の為に活動を開始する組織。考えられる敵勢力は、暴徒、反政府組織、そして国力が低下したことを良い事に進行する他国軍。()()()()少数でも対抗できるように作り上げられた部隊。最新鋭の武装を使いこなし、どこの組織にも属さない、そして()()()()()()()()()()()終焉(カタストロフィー)に対応できるような精鋭の中の精鋭。

元々は、軍部や執行機関に所属していない民間人を徹底して鍛え上げ、エージェントにすることを目標にしていた。だが、都合よくそれらに該当するような人物がいるわけもなく、機関は方針を変更せざるおえなかった。自らの組織が兵士を作り上げることに・・訓練を重ねても老いからは逃げられない、より兵士としての寿命が長い人物を・・・つまり、才能のある子供達を対象に部隊を編成したのだ。とても正気の沙汰とは思えない。

 

「作戦区の回線や通信基地は破壊されている。強力なジャミングもされており現地での本部との通信は出来ない。当然だが、アイザック(人工知能)による支援は出来ないと思え。」

「詳細は不明だが、昨日からウィラメッテで暴動が起こっていると情報が入っている。君の任務は、単独で町に侵入し暴動首謀者、又は不正を働いた政府関係者を捕捉し速やかに暴動を鎮圧することだ。敵対勢力との交戦判断は各自の判断に委ねる。この()()はSHDのシステムがダウンし、敵勢力に主導権を奪われたという最悪の状況を仮定した貴重なデータとなる。」

 

ブザーと共に機体後部のドロップゲートが解放され、冷たい空気が流れ込む。

 

「情報提供者に接触し現在の状況を確認しろ。・・・エコー聞こえているのか?」

「・・・・此方エコー。確認した。」

 

「復帰直後だ。軽い任務だが気を抜かず速やかに遂行せよ。」

「了解。out(通信終了)        

 

目が覚めたら病室、以前の記憶はなく、思い出せるのは断片的なものばかり。それでも、戦闘や任務関連の技術は体が覚えてる。

 

(そして私は駆り出される・・)

 

スマートウォッチで時刻を確認する。既にジャミング区域に入ったようで、文字盤下のバックライトが通常時のオレンジ色からオフライン起動状態を示す赤色に切り替わっていた。時刻は10:05。装備を装着し、高度一万メートルを飛行する輸送機から少女は飛び立つ。侵入を悟られない為の高高度降下。息を吐くたびに、酸素マスクのスクリーンを一瞬曇らせる。氷点下40度。時速300kmメートルでのヘイロー降下。過酷な条件下ではそこに居るだけでも体力を消耗する。眼前には博物館にある、町のジオラマのようなミニチュアの世界・・・その実、とても広大な大地が広がっていた。そして、高度が下がる度に徐々に拡大されていくジオラマ。 

 

(暴徒の鎮圧に軍が動いているのも変な話。流石に対空砲までは用意はしていないでしょ・・・)

 

疑問はある。手始めに通信手段を断ち外部から隔離する。部隊を展開し町を包囲。暴徒の鎮圧としては手段がおかしい。敵勢力の支配地域への侵攻作戦と言った方がまだ納得できる。そしてSHDの司令部も、まるで特殊作戦の様な物物しさでヘイロー降下を潜入手段として選択した。

 

(何にせよ、すぐに分かる事か・・・)

 

ベリーフライ(俯せの体勢)で降下速度を落とし落下傘を展開する。強烈な減速。閑散とした街中へ降り立った。

地に足がつくと同時に小走り、落下傘を解除して暴徒や執行部隊に目撃される前に建物の影に身を潜める。

 

「此方、エコー。作戦区域に侵入した。これより記録を開始する。」

 

任務完了後、本部がエージェントの行動を確認するための記録を開始すると共に、あらかじめ携帯端末に保存していたこの町の地図を、コンタクトレンズ型のディスプレイに同期させ、反映させる。

 

(エージェントが支援を断たれた際の最大負荷試験。まったく、面倒な役回りを任されたものだわ。それとも・・・)

 

防寒着を脱ぎ捨てながら心の中で悪態をつく。勿論、既に記録を始めているので決して口には出さない。

 

『インテリジェントシステム・コンピュータ―始動。・・・ネットワークに接続不可。機能が限定されます。』

 

無機質な電子音。SHDのトレードマークとも言える、オレンジのバックライトが目立つスマートウォッチと端末。現在通信が制限されている為、エージェントの使用できる機能の大半が失われている状態だ。AIの行動予測やルート自動設定、電子ロック解析解除などは使用不可。通信が回復しなければこの町からの脱出手段も自力で用意しなければならない。

 

『指定の場所に隠れ、装備を確認してください。』

 

緊急時のオフライン起動。オンライン時に調整したデータが、携帯する端末にバックアップが出来ていない為、再度調整が必要だった。ため息と共に指示に従う。

 

『武器のテスト開始。指定した目標を狙撃してください。メインウェポン「スキップ!」受け付けました。サブウェポンのテストを行います。指定した目標を狙撃してください。』

 

取り出したグロックG19X。初弾を薬室に装填し、コンタクトレンズ(モニター)に標的が表示された瞬間、ほぼノールックで9mm弾を叩き込む。約2kgのトリガーブル、そして反動。排莢された薬莢が壁に当たり、軽い金属音を奏でながら地面へと落下する。

 

 

【挿絵表示】

 

 

『サブウェポン、異常ありません。音響センサーアクティブ。地図の同期完了。初期設定を終了します。』

 

(セットアップが必要とはいえ・・・敵地の真ん中で貴重な弾薬を使用しないといけないって・・・)

 

銃に装填されてる弾が16発、17発の弾倉が3つ。メイン武器となる筈の小銃も持ち込みは却下された。

 

(最大負荷試験ね・・・訓練は実戦の様に、実戦は訓練の様にとは言うけども、ほぼ丸腰で戦地に送り込むなんてね・・上層部は私を殺したいのかしら?)

 

銃声を響かせてしまった為、すぐにその場を移動する。途中で乗り捨てられた放置された警察車両が目に入った。

 

(中には誰も居ない。トランクが空いてたから武器を取り出した後、現地に向かった?暴動よね?暴徒どころか人気すらない。)

 

誰も居ない車両。足元には12ゲージと思われるショットシェルの残骸、そして水溜まりには・・・

 

(アセロラジュース!・・・なわけはないか・・・)

「戦闘の痕跡を発見。ECHO(立体映像記録)は周囲の電子機器が不足している為再生不可。引き続き探索を行う。」

 

エージェントは災害が起こった後に急行する。その際に、現場で何があったかを把握するのに使用するのがECHOだ。周囲に電子機器が多い場所で、それぞれの機器が記録した情報をかき集め、統合し、立体映像として再生を行う技術だ。ドライブレコーダー、スマートフォン、PCやオーディオ機器。電子機器が増える近代では最適な追尾手段になるであろう最新技術だった。

 

(もっとも、こんな田舎町じゃ使える場所は限られてそうだけど・・・)

 

逃亡者が痕跡を消そうとしても、周囲の機器に記録されるために完全に抹消するのは困難なのだが、そもそも周りに電子機器が存在しないのであれば論外なのである。血の色のついた水溜まりから視点を戻す。光沢のある車の車体には自身の姿が映っている。カーキ色のジーンズに黒のシャツ、首元にはネックレスの様に下げた金の鈴。戦闘着というよりは普段着に近いスタイルだ。これにチェストリグやタクティカルベストを着こめばPMC(民間軍事企業)の出来上がり。

 

(無いものねだりね。)

 

さらに視点を上げると、黒髪ロングのガラス玉の様な澄んだ目をした少女が映っている。見慣れているはずの自身の顔。しかし、どこか自身の姿とは思えない不思議な心境になる。

 

『付近に動体を検知』

 

音響センサーが周辺状況を探知、モニターに反映されたことで彼女の思考は中断された。センサーを頼りに音源へ向かう。たどり着いたのは路地裏から出た先のコンビニエンスストア。耳をすませば確かに物音が聞こえてくる。

 

hello(よう、間抜け)?誰かいる?」

 

いきなり随分な暴言だが、仕方のないことだ。散乱した店内、雑貨を陳列している棚はなぎ倒され、ワインは棚から落ちて床をぬらしている。例えるなら震災後の店の様な状態。こんな状況で店員でもない人間が床に座り込んで、()()()食べているとしたら、それは暴動に紛れ無関係な人間から物資を略奪する暴徒でしかない。

 

(どうせ正義を語り、自身のストレスのはけ口を探しているのでしょ?反吐が出る)

(いいえ、まだ確認したわけではないから決めつけは良くないわね。丁寧に聞いて可能ならば暴徒に紛れ込みましょう・・)

 

座り込む2人の男に声をかけ慎重に距離を詰めるエコー。

 

聞こえてる?(よく聞け、糞共)私、この町に来たばかりで・・・さっさと首謀者の場所を教えろ、蛆虫(皆の所に案内してもらいたいの)

 

声に反応して立ち上がる市民。振り向き、ヨロヨロとエコーに近づいてくる。腕から出血した跡。口はだらしなく下がり、歯茎から出血してるのか白い歯が赤く染まっているようにも見える。

 

(おまけに白目向いてない!?薬物でもやってるの?)

「あ~~・・・落ち着いて!さっきの事は私が悪かったわ!ごめんなさい!話し合いましょ!?話せばわかるって!!」

 

素早い掌返し。しかし、エコーの願いを却下するように歩みを止めない男達。

 

「やめて!近寄らないで!私に酷いことするんでしょ!!エロ同人の様に!エロ同人の様に!!」

 

後ずさる少女、遂には肩を掴まれる。服越しに力が加わり、少女の顔が苦痛に歪む。

 

(丸腰の相手・・・銃を出せば逆に刺激してしまうかもしれない。店の外にも暴徒が居るとしたら銃声が響くのは得策とは言えない。)

 

人間、相手の脅威度で対応が変わってくる。例えば傘を振り回している少年なら微笑みと共に放置するだろう、しかし包丁を振り回す男が相手なら?もし自分が銃で相手を無力化(殺害)したのを目撃されたら話し合いなど出来るわけがなく、姿を見つけ次第、暴徒全員で殺しにかかってくる未来が予想できた。かと言っても、このままなされるがままっていうのも不味いことになる。

 

少女の目がスゥっと細められる。

足元に転がる330mlの小ぶりなビール瓶を蹴り上げる。大口を開いてエコーを引き寄せようとする男。空中で回転する瓶をキャッチして、男の口の中へと叩き込む。衝撃で拘束が緩まった一瞬、すかさず身を低くし振りほどく。そのまま回転し、バックスピンキックを相手の顎に見舞う。瓶が割れ、赤の混じった内容物が宙を舞う。追撃で胴体に一撃。後ろに控えてた男ごと吹き飛ばす。

 

(まるでボーリングのピンね。そもそも、その場で耐えようとした感じではなかったけど。)

 

例えるなら脱力。まるでマネキンを殴り飛ばしたような感覚に疑問を覚える。

 

(さて、挨拶は済ませた。力量差は明確。普通なら逃げるけど・・・そうはならないでしょ?)

 

一瞬の間に行われた蹂躙ともいえる暴力。まるで舞うように繰り出された2連撃は、周囲の物体を利用したことで殺傷力が高められていた。エコーの確信を裏付けるようにうめき声と共に立ち上がろうとする男達。先ほどの先頭の男の顔を確認して行動の方針を変える事を決めた。

 

(顎は砕け、歯は吹き飛んでいる。口の中は瓶の破片で血だらけ。正気なら痛みでのたうち回り、取り巻きも戦意喪失するには十分な恐怖を与えた。それでも向かってくるって事は、薬物で痛覚を抑えてるのか・・・そんな状態では正常な判断は出来ないのは致し方ないか。)

 

このまま暴徒を放置するのも危険、無力化するしかないと判断する。

再び歩み寄る2人の男に対して、少女の方からも歩みを進める。まるで散歩に行くかのような自然体で・・・・

 

商品棚が仕切りがわりになっている、お世辞にも広いとは言えない通路。顎が砕けた男とその後ろには同じように白目をむいて向かってくる暴徒。相手との距離が2mを切ったところでエコーは立ち止まり、商品棚からワインのボトルを手に取る。片足を引き、体を横向きに、ブレードスタンス(半身)を取り戦闘に備える。

先ほどと同じように手を伸ばす男。機関の教導陣の様に、隙が無く鋭い動きとは対極の鈍く緩慢な動き。迫る魔の手を当たり前のように払いのけ、トンとその場でステップ。至近距離での左右へのフェイントを入れた回り込み。男が背後に佇む少女の存在に気付く前に、ワインボトルが後頭部に振り落とされる。映画や演劇で使用される小道具の瓶とは違い、派手に割れることなく鈍い音と肉を潰す手ごたえが瓶を持つ手に伝わる。そのまま振り向き、背後の男に瓶を投げつける。転倒する音を背中で聞き届け、再び先頭の男に向き直る。後頭部を打撃したにも関わらず既に体勢を整えた姿が目に入り思わず舌打ち。

3()()()となる同じ攻撃。伸ばされる手。避けれる攻撃だが、少女からは完全に戦う気力がなくなってる様に感じられた。捉えられるエコー腕。そのまま引き寄せるような力が加わった。

 

「引き寄せてどうするの?顎が動かないくせに噛みつくつもり?」

 

再び商品棚に手を伸ばし、掴み取ったボールペン。袋に入ったままのそれ(ペン)をそのまま男の掴む腕に突き立てる。腕の中心から顔を出す血の付いたオブジェ(ペン)、そのまま外側に捻じりこみ、物理的に拘束を解除する。握力が強い?痛みを感じない?なにそれ、おいしいの?ゾンビ映画に真っ向から喧嘩を売るような暴挙を少女は涼しい顔で行っている。人の動作は骨を支柱にして筋肉が伸縮することで行われている。では、動作に必要な筋肉が切断されたら?(支柱)が折れた状態で掴むという動作が出来るとでも?当たり前の事、当たり前の結果。

拘束が外れた少女は男の足を払う。脱力してるせいか簡単に宙を舞う男、肩を掴み地面に叩きつけた。尚もうつ伏せでもがく男に足を乗せ立ち上がれないように押さえつけ、ナイフを抜き放つ。バタつく男のベルトを切断し、それを抜き取り首を締め上げる。いくら薬物をキメてようが、防弾チョッキを着こんでようが関係ない。脳に酸素が届かなければ意識を失い死亡する。首の角度を調整し頸動脈と椎骨動脈を締め上げ酸素の供給を断つ。10秒程度のわずかな抵抗、暴徒の片割れが立ち上がり歩み寄ってくるが、その間に決着はつく。力の入っていた腕が脱力したようにパタリと床に落ちる。同時に汚物の香りが意識を失った男の下半身から漂い始める。

 

エコーが締め落としてる間にも接近していた暴徒の片割れ、距離は1.3m。少女はマウントポジションで締め上げてた状態。つまり、立ち上がってもいない不利な状況。しかし、エコーの顔に焦りはない。前転からの倒立すると共に暴徒の首を両足で挟み込む。そのままコークスクリューをするように体を素早く捻じり、回転。男の頭を両足で固定したまま床に叩きつける。当然この程度では意識が落ちない事も把握済み。少女は暴徒の襟を掴み、そのままコンビニの冷蔵庫へと引きずっていく・・・

冷気が逃げないように閉ざされたガラスの扉を開ける。中には飲料水などが陳列されているが、構うことなく男の頭部を叩きつけ、力任せに扉を閉める。

 

一度、二度・・・「まだ足りない?」三度・・・「御代わりは?」四度・・・「例は要らない!」五度・・・

 

動いてない事を確認してエコーはコンビニから立ち去った。入り口でふと振り返る。入店した時よりも散乱した店内。なぎ倒された棚。まるでゴリラとボクシングでもしたのか?と思えるようなダメージを受けた(かろうじて)息のある男が2人。

 

「こんな事になるなら・・・銃を使っても大して変わらなかったかもね。」

持ち帰った行動記録から、この惨状をどうにかカットできないか悩む少女であった。




登場人物
エコー:実名不明、黒髪ロング、青い澄んだ瞳をしている少女。年齢は12歳程度に見える。SHD訓練生であり優れた戦闘力を持つ。任務中に負傷しており、病院で目覚める前の記憶が喪失している。と属性過多(笑)チート覚醒イベント?元々チート枠です!

SHD指揮官;戦闘地帯にハンドガンだけ持たせて兵士を投入する鬼

SHD;Strategic Homeland Division。壊滅的な打撃を受けた合衆国を立て直すために結成された組織。政府や民間企業からも認知されていない、完全に秘密結社の様な機関。資金源は不明だが、コンタクトレンズ型のモニターや自己修復防弾チョッキ、自立AI搭載のガンタレットや攻撃ドローン。アイザックと呼ばれる戦術行動支援AIなどリアルの世界でも実現できていないのではないか?と思われる最新兵器のの実用化に成功している。
基礎訓練に合わせて特殊装備、車両、航空機の操縦など教え込んでたらエージェントが完成する頃にはその者は定年退職することになるだろう、という理由で現在は素質のある子供達を引き取り徹底して鍛え上げてる。原作と違ってブラック企業!

アイザック;戦術行動支援AI。本体のスーパーコンピューターは司令部の地下で稼働している。電子キーの開錠、建物の設計図をデータバンクからロードして空気ダクト等普通は見落とすようなルート案内も可能、周囲の監視カメラにアクセスして敵の接近を感知するなど非常に優秀。オフラインではecho解析とマッピング機能くらいしか使えない。

暴徒その1;見せしめがてらに痛めつけられた可哀そうな人「くっ!(いっその事)殺せ!!」

暴徒その2;「銃にする?それとも、わ・た・し?」で少女を選んでしまった?可哀そうな犠牲者。その1を無力化する際にエコーは興冷めしており、おかげで比較的軽症ですんだ。

その2に使った技;ヘッドシザースホイップ=コルバタと呼ばれる投げ技?見た目が結構派手!

その1に使った締めおとし:脳へ流れる動脈を絞めて脳への酸素を物理的に断つ。2本ある動脈のうち1本は奥にあるため、ぶっちゃけベルトでは厳しいけどもフィクションということで!


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day1 返事はなかった。おかしなことではない。

一応、MAP入れときます?

【挿絵表示】



SEPTEMBER19 12:15 (day1

合衆国 コロラド州 ウィラメッテ ショッピングモール前 (エコー

 

「状況報告。町の住人に接触。しかし重度の薬物使用と思われる状態で、会話は不可能。非常に攻撃的な反応を示しており、放置はその他の市民への被害を拡大させると判断し、無力化を行った。動きは緩慢だが、痛覚は遮断されているようで異常な耐久力があるように感じられる。問題なのは・・・」

 

眼前に広がる巨大なショッピングモールと駐車場。埋めつくすような市民の群れを、モール近くのビルの屋上から見下ろしながらため息と共に報告を続ける。

 

「街の住人の過半数が同じような症状を示している。引き続き情報提供者の捜索を行う。」

 

老若男女問わず同じような症状を発症している以上、ただの暴動や薬物依存者による破壊行為とは思えない。原因は不明だが未知のウイルスの空気感染、汚染された食物摂取などの脅威があると考えて行動した方がよさそうだ。軽いバックパックから簡易的なマスクを取り出し装着する。

 

(無いよりかましか‥すでに手遅れかもしれないけど。)

 

更に軽くなったバック。中には開錠用のTEC Torch(テックトーチ)とそのカートリッジが2つだけ。

 

(町の住人全員と敵対するような状況でハンドガン67発とナイフ1本でどうしろっていうんですか!?)

 

泣き言を漏らしても始まらない・・・正常な市民が籠城している可能性の高いモールへと重い腰を持ち上げるのであった。

 

 

SEPTEMBER19 12:05 (day1

ウィラメッテ ショッピングモール 守衛室 (フランク

 

屋上の扉を開け、階段を下りる。目の前には待合室に置いてあるような簡易的な長椅子、モールで使用する備品が保管されている棚、階段を挟むようにある4つの部屋。迷子の子供を一時的に預かるには丁度いい大きさだが驚くほど殺風景。奥には装置室と、モール内の監視カメラの映像が見れるモニター室。

 

「ここはエントランスプラザの守衛室か・・・」

 

掲示板に張り付けられたモールの地図を確認し、現在地を把握。

勿論、写真を撮っておくのも忘れない。ショッピングが目的ではないが、建物の構造を把握しておくのは重要な事だと戦場でフランクは学んでいた。

守衛室からエントランスへの長い廊下。普段、客の目に入るところではない為か、飾り気のないコンクリートの続く様は無機質に感じられる。自身の足音だけが反響している。

まるで自分しかいないようにも感じられる静寂。耐えきれずにフランクは座り込み、手にしていたアタッシュケースの中から無骨な鉄の塊(リボルバー)を取り出す。ハンドガンとしては大型。重い、故に常に携帯するには向かない。丈夫、故に強力な弾薬が使用できる。構造が単純、故にトラブルが少なく命を預けられる。長年愛用してきた相棒に44口径弾を込める。たったそれだけのことで前に進む勇気を貰える。廊下の終点、重々しい鉄の扉。この先にはエントランスが広がっているはずだ。

 

(かすかに人の声が聞こえる・・・果たして、鬼が出るか蛇が出るか・・・)

 

相棒を握りしめフランクは扉を開けた。

 

「おい!そいつをこっちに持ってきてくれ!」

 

地図を見て把握していたが、扉の向こうは2階の廊下。中央部分は吹き抜けになっていて1階の様子が伺える。近くには1階への階段。店舗にはシャッターが下ろされており中に入ることは出来そうにもない。下の階から聞こえる人の声。目を向けると、入り口にベンチ椅子、植木鉢を集めて簡易的なバリケードを作ってる市民達の姿が目に入った。

階段を下りながら周囲に目を向ける。バリケードを設置してる男達。警備員の制服を着た者も混じっており、守衛室に誰も居ない理由を今となって知る。一階の奥には女性や負傷した者。嗚咽と神に祈る声。

 

(戦場とかわりないな・・・)

 

手に持った銃を収めて、代わりに人々にカメラのシャッターを切っていく。

 

「おい!ウロウロするな。」

「私のワンちゃん知りません?マドンナちゃんの居ない生活なんて私耐えられないわ!マドンナちゃん!どこ行ったの!?」

 

(本当に・・・どこも変わらない。)

 

家族()を探そうと手当たり次第に尋ねる老婆。邪魔だと弾き飛ばす中年男性。

その中で他とは違う雰囲気の女性が目に映った。冷静、そして()()()()()()()()()()()静観。たったそれだけだが長年の感が何かあるとフランクに訴えかけていた。

 

「おい!女ばっかり眺めている場合か!そんなにゾンビに食われたいか?」

 

先ほどの中年が視界を遮った。

 

「ゾンビだって?」

「見りゃわかるだろう。あんたら報道者や政府関係者は頑なに()()()なんて口にしないだろうがな!」

 

「流石に映画じゃあるまいs「あんたらの都合なんて知ったこっちゃないんだよ!正式名称が決定するのはいつだ?俺達が全員死に絶えた後か?それまで『あれ』とか『奴ら』とか呼ぶのか?いいか、必要なのは何が(脅威)どれ程存在しているかなんだ。分かりやすい例えがあるのになぜ使わない!?いいか、あれはゾンビだ!」」

 

「・・・・何が起こっている?」

「判らんよ。昨日から増え続けている・・・」

 

ガラス製の2重扉。その先には鉄製のシャッターが下ろされているが、残念ながら既に最後の扉までゾンビに侵入されている状態だった。

 

「もう外はゾンビだらけさ。心配するな!ゾンビ共は馬鹿でトロくさい。ここなら安全だ。さあ、あんたも手伝うんだ!バリケードになりそうなものを持ってきてくれ!」

「あそこにマドンナちゃんが居るの!!」

 

突然バリケードを崩し始める老婆。

フランクの目に扉の()()()()居るプードルの姿が見えた。事の重大さに気づき入り口に走り出す中年。

 

「誰か!その婆さんを止めろ!!」

 

老婆とは思えない力で警備員は弾かれた。倒れる警備員に躓き、倒れる中年。

 

(っ!!間に合わない)

フランクはカメラから手を放し、かわりに銃を抜き撃鉄を起こす。銃口の先には老婆。シングルアクションではトリガーが軽い、かつ15mくらいの近距離、外す事はない。

 

(・・・・・・)

しかし、フランクの銃が音を奏でることはなかった・・

 

扉のロックが解除され、なだれ込むゾンビ。倒れた中年達に群がり、彼らの姿を隠す。断末魔、生きながら貪り食われる恐怖と痛みから、この世の物とは思えない声が中年の口からもれている。

 

「奥に!!奥に走るんだ!!」

 

誰かが叫んだ。その場の全員が必至て入り口から遠ざかる。

装置の作動。走るフランクの目に廊下のシャッターが下りていくのが映った。

 

「開けろ!糞ジジイ!今すぐ開けろ!!」

「どけ!道を開けろ!」

 

シャッターの前にたどり着いたフランク。周りには同じように締め出された生存者達の姿が見える。そして、降ろされた鉄格子の向こうには。

 

「誰が開けるものか!お前らと居るよりはよっぽどマシだ!」

 

老いた男性が操作盤の前で喚く姿が目に映る。

 

「爺さん、時間が無い。今すぐここで選べ!格子を上げるか。俺に撃たれるか。」

「・・・いいや。お前には撃てないね。儂を撃ったとしてもこの格子は開かない!」

 

銃を構えるフランクをあざ笑うように老人の姿が遠ざかっていく・・・

 

「イヤ・・・生きながら食われるなんて嫌!!誰か!誰か助けて!!」

パニックになった市民の声がゾンビを引き寄せる悪循環

 

負傷して逃げ遅れた市民の断末魔がフランクの背中に伝わる。振り返らなくても分かる。

(徐々に近づいてきている・・・銃の弾は18発。到底ホールに入ったゾンビを殲滅するなんて不可能だ)

 

あくまで護身用。威力がある分、過剰な弾薬は必要ないと高を括ったのが裏目に出た。

フランクとしては取材のつもりが、自ら戦闘に加わらなければ生き残れない状況に歯噛みする。

 

「何してる!2階だ!こっちにこい!」

 

黒人の呼ぶ声に市民達は上を見上げる。守衛室の扉は鉄製。立て籠もるには頼もしい限りだが・・

 

「冗談だろ?この中を突っ切れってか?」

 

2階への階段は入り口付近にある。つまり、ゾンビ達の群れをかき分けて階段までたどり着かなきゃいけないという事だ。

 

「選択肢はない・・・動ける者は手を貸せ!ここで死ぬか。それとも、戦うかだ!武器になるものを取れ!」

 

辺りにあるもの?モールに訪れた客の休憩用の木製ベンチ、ゴミ箱、観葉植物の入った植木鉢、店舗の前に設置された宣伝用の黒板。とても()()とは言えない物ばかり。

 

「こんな物で一体何ができるって言うのよ!?」

「だったらお前に何ができる?素手で戦うか?それともゾンビの餌になって時間を稼ぐか?どちらでも構わないぞ?」

 

黒板を持ち上げ、床に叩きつけ、破壊する。

 

「それが嫌なら()()しかないんだ。全員は助からない・・・だが、一人でも生き延びれれば、助からなかった命にも初めて()()が与えられるんだ。俺だって犬死は嫌だぜ?だから・・・()()()()()()()()

 

先ほどまで泣き叫んでいた女性に手渡される()()。看板を解体した産物、武器と言うには心もとないただの木片。だが、ロビーに居る者たちの心を動かすには十分だった。何も言わずに身近な武器を手に取っていく・・・

 

「なあ、あんたは報道者か?」

「ああ、フリーランスってやつだ。」

「いい写真を撮ってくれよ?」

 

先ほど女性を怒鳴りつけた男性が泣きながら笑う。

 

「俺の名はトッドだ。勇敢に戦ったと載せてくれ。」

トッドは近くにあった木製のベンチを抱え上げる。意図を察した男性が1人、ベンチに手を添える。

「・・・・アランだ。妻の名はキャシー・・・」

激しい憎しみの籠った目をした男性・・・そう、フランクの目には写った・・・

 

「ブライアンだ。銃で正面の数を減らす。弾は装填されてる分しかない、あとは神に祈ろう。」

「マーク・・・側面を守る。」

 

片手にバット、片手にゴミ箱の蓋を盾がわりに持ったマークと名乗る青年。

フランクは彼等の姿をレンズに納め、震える手でカメラのシャッターをきった。

 

「さあ、逝こうか。立ち止まるな。」

 

ブライアンの散弾銃が火を噴き市民達の突撃が始まる。時間にして5分もなかったかもしれない。だが、フランクにとってはとても長く感じられた。

銃弾を頭部に受け、血飛沫をあげて倒れこむゾンビ。ベンチを破城槌の様に携え、ゾンビの群れの中に飛び込むトッドとアラン。そして、無防備になった彼らの側面をカバーするように、迫りくるゾンビにバットを振りかざすマーク。完全にゾンビを殺す必要はない。ただ、生存者が通り抜ける時間さえ稼げればいいのだ。

ゾンビを跳ね飛ばしながら進む破城槌(ベンチ)。彼らを守る為にフランクもリボルバーの引き金を引く。

 

散弾銃の奏でる銃声にリボルバーの演奏が混じる。ホールに響く反響音。

至近距離での銃撃。1人目の眉間に銃弾が突き刺さり、後頭部に大穴を開けるだけではとどまらず、2人目に着弾する。

 

(1発・・・)

 

跳ね上がる様な反動を肘を支点に吸収し、再度標準を合わせる。

 

「こっちは弾切れだ!」

(2発・・・)

 

散弾銃の弾切れを知らせるブライアン、彼が担当していた正面をカバーするように銃撃を開始する。

 

「構うな!進め!」

「ブライアン!トッドの代わりにベンチに付け!!!」

 

()()()()()()()ゾンビ。だが、彼らは決して()()()わけではない。ベンチを持つ2人がゾンビの頭上を通過する瞬間に運悪く覚醒し、トッドの足首を食いちぎる。マークが駆け寄ろうとするが、それを静止するトッド。彼はもう、走ることは出来ない。彼を助けるための弾丸を消費すれば、その間に今も尚、接近しているゾンビ達に最前線で停止しているベンチ組が襲われ、ラインが崩壊する。

 

(3、4、5)

ブライアンがベンチに回り込むのを援護するためにゾンビの頭を吹き飛ばす。

ベンチに手をかけ持ち上げるブライアンとアラン。

 

「・・・・・・」

 

「俺を無駄死にさせる気か!進めえええええ!!」

生きたまま(はらわた)を貪られるトッドを置き去りに、ベンチが再び動き始める。

 

(6・・・・)

「リロード!!」

 

シリンダーとヨークアーム部分にある2つのラッチを押し込み、シリンダーをスイングアウト。銃を上に向け、エジェクターロッドを押し込み、薬室に熱膨張で張り付いた薬莢を強制的に排莢。すぐさま下に向け、装填しやすい位置へと銃を誘導する。床にばら撒かれる薬莢の音。フランクはポケットに手を突っ込みスピードストリップ(リボルバー用クリップ)を取り出し装填を開始する。縦に保持された弾丸をシリンダーに2発ずつ装填、スピードローダーの様に6発いっぺんに装填することは出来ないが、1発づつ方向を合わせて装填していくよりも圧倒的に早い上に場所を取らない。

 

リロードは無防備になる。その為、当然フランクも安全を確認して装填していた。

(ベンチは今も尚、突き進んでいる・・・もうすぐホールか)

 

先行している者達は、数刻もしないうちに今まで進んでいた通路から入り口のホールに到着する。当然、開けた場所では回り込まれる可能性が増え、マークだけでは対処できなくなるのは明確だった。装填を終わらせシリンダーを定位置に戻す。前線へと復帰しようとした瞬間、フランクの耳に植物の葉が擦れる音を拾う。

通路を隔てるように中央に設置された観葉植物と広告板。その死角からゾンビが飛び出してきたと気づくのは、フランクが地面へ押し倒された後だった。手から滑り落ち、廊下を伝い壁へと当たる銃の音。目の前には圧し掛かるゾンビ。まるで長時間、氷点下の屋外に裸で放り出された者様に、ガチガチと目の前で嚙み合わされる歯。

 

(助けは・・・無理だな。)

 

生き残った数少ない市民は前衛に遅れないように、必死にその後を付いていった。遅れた者の命の保証などない。

 

(当然だな。俺がトッドを見殺しにしたように・・・)

 

前衛が弾いた敵、再び立ち上がるゾンビ達をその命をもってその場に留めるのだ。

 

(自分でなくてもいい・・・全滅でなければ、俺の死は無駄にはならない。)

 

 

「諦めるのは早いんじゃない?戦って!()()()()()

「何で戻ってきた・・・ありがとう。」

 

前衛に付いていった筈の女性がフランクの元に駆けつけて来た。その手には、まるで何かの物を解体した残骸の様な見覚えのある血の付いた()()

 

「ダナよ。ダナ・シムス。貴方の力が必要よ!」

 

かつてトッドが怒鳴った女性。彼女は自らの意志で戦うことを選んだのだろう。床に倒れたままのフランクに差し出される手。

 

 

 

だが、その手を取る機会は永久に失われた。彼女を攫うように横から現れたゾンビ。タナを押し倒しそのまま首筋を引き千切る。自身の隣で血だまりが広がる。フランクに向けられた彼女の瞳。瞳孔が広がっていく・・・・

 

「・・・・・・・」

「巫山戯るな!巫山戯るな!巫山戯るな!巫山戯るな!!!

 

リボルバーを拾い上げ、何度も何度も引き金を引く。銃声が鳴りやんだ後も、何度も撃鉄が撃針を叩く音が響く。

 

「フランク!!!」

 

前線のメンバーの声で我に返る。

ベンチは階段()()まで到達していた。

何度も何度も破城槌(ベンチ)の担い手を変えながら・・・

走り寄ったフランクの目に、まるでクッキーに集まるアリの様に少ない生存者に群がるゾンビ達の姿が写る。

 

「もう一つの階段から2階に上がれ」

 

入り口付近、両サイドにある2つの2階への階段。生存者に群がった結果、人気のないもう一つの階段が出来上がったのだ。

 

「マッド・・・あんたはどうするんだ?()()()()()()

 

フランクは、階段の踊り場からゾンビの群れ越しに、最後の1人となった生存者に問う。

 

「違うね。()()()()()。」

彼は穏やかな顔でそう答えた。

 

 

 

 

SEPTEMBER19 12:12(day1

ウィラメッテ ショッピングモール 守衛室 (フランク

 

「他の奴らは?」

「…………ホールに居た者は全滅した。」

「そうか……」

 

先程、2階に居た黒人の問いかけに答える。

守衛室には黒人、老いた警備員、スーツを着た女性

 

「侵入してきた以上、こうするしかあるまい……」

 

警備員が鉄の扉を溶接して物理的にふさいでいく様をぼんやりと眺めるしかなかった。

 

 

 

「あんた!モールに戻るのか?自殺行為だ!」

「まだ、やるべきことが残ってる」

 

装置室の空調ダクト付近で声が聞こえる。

 

「運命から逃げるな!戦え!」

「進め!!」

「俺達の勝ちだ。」

 

(まだ、俺にもやり残したことがある・・・)

 

装置室に入ると既に警備員の姿しかなく、話していた黒人は地獄(モール)へ戻ったようだった。

 

「あんたもかい、ご察しの通り。このダクトを通ればパラダイスプラザの屋上に出る事が出来る。だが、おすすめはしないね。」

「承知の上だ。」

「あんた報道者だろ?そんなにスクープが欲しいのか?」

 

「・・・・この写真をどう思う?」

 

カメラの液晶にフランクが撮影した写真が写る。バリケードを作る男達、シャッターを下ろし自身だけ助かった老人、ゴミ箱の蓋やベンチ、角材で武装して笑う市民達。

 

「いい写真ね。」

話し声に気づいたのか、警備室にいた金髪スーツの女性が写真をのぞき込んでいた。

 

「いい写真?いい写真だと?」

(あんたらには悲鳴は聞こえない。決死の覚悟で血路を開いた者達の意思など分かりはしないだろう?)

「写真は有りのままを記す。だが、俺の望んだ結果とは限らない。」

 

(理解してもらう必要などない)

「俺は逃げない。ただ、それだけだ。望んだ未来を撮りに行くのさ。」

 

 

 

 

SEPTEMBER19 12:40 (day1

ウィラメッテ ショッピングモール 地下駐車場入り口 

 

『付近に再生可能なECHOを検知・・・・解析中・・・・解析完了。再生を実行します。』

 

 

 

「あかんな・・・・モールへの入り口は全部塞がれているみたいや。」

「でも、それはモール内が安全だって事よね。」

「せやな。」

 

ショッピングモールの入り口を一通り車で周回し、モール内部に入れないか視察し終えたところだった。結果はお手上げ。すべての入り口にゾンビ達が群がっており、たとえバリケードがなくとも突破するのは困難と思える。

 

「物理的にバリケードを作られてると、流石に無理に突破するわけにもいかないよね・・・」

 

車で突っ込めば話は早いのだが、せっかくの安全地帯を自身の手で壊すのは愚の骨頂だと思えた。

 

「ならば、電子キーでロックされてる扉はどうや?エマちゃん?」

 

シエラが良いもの見つけたと言わんばかりの笑顔でさした先には、モールへの地下駐車場の入り口が見える。降ろされたシャッターは丈夫そうで乗用車の突撃程度ではびくともしないように思えたが、壁際にはカードキーを認証するための端末が用意されていた。

 

「解除することは可能。だけど、シャッターを上げて再び降ろすまでゾンビ達を入れないようにするするのは無理そう。」

「うんうん。流石エマちゃんやで~!それだけ出来れば十分や!」

 

車を入り口から少し離れたところに停めてエンジンを切るシエラ。

 

「そんじゃ、エマちゃんはここに隠れてて。うちがウスノロ達を引き付けるさかい。居なくなったら先にモールに入るんやで~」

「それじゃ貴方はどうするのよ!?私は一人じゃ行かないからね!!」

「こんな時にわがまま言う子は”め!”やで~心配しなさんな。うちだけなら別のルートからモールに入れる。」

 

シエラの顔からは確かな自信が伺えた。先ほどモールの周辺を車で回った時に何か所か目ぼしい侵入ルートを見つけたようだった。

 

「お荷物で悪かったわね!」

「はいはい。クレームはモール内に入ってからゆっくり聞くわ~もうすぐ日が暮れる。その前に安全を確保しときたいやろ?」

「・・・・私には貴女しかいない・・・必ず!必ず来るのよ!!」

 

本当は離れたくない。だけど、これしか方法は残されていなかった。

 

「エマちゃん、エマちゃん~うちを誰だと思ってるんや~?」

 

いつも通りの姿の友人。いつも通りの言葉。

 

「うちは軍人の孫やで?必ず戻ってくる!モールで会おうな!」

「・・・・ええ。モール内で。」

 

エマが物陰に隠れたのを見届け車のエンジンをかけるシエラ。そして、けたたましく鳴り響くクラクション。

音に吸い寄せられるように車に吸い寄せられていくゾンビ達を置き去りに発進する車。

 

「ありがとう・・・・」

 

PCを入り口の端末に繋ぎアクセスを開始する。回転灯と金属音が鳴り響きシャッターは上昇し始める。エマは隙間に体をすり込ませ、再びシャッターを下ろすように入力しなおす。

うめき声が近づく。完全に再び封鎖できたのを確認したエマは、地下のスロープを下りきった場所で身を隠し息を潜めた。

 

日が落ちて辺りは闇。駐車場の蛍光灯は薄暗く、閉鎖的な地下に流れる空気は心なしか重く感じられた。

昼間の曇天は遂には雨となり、大地に降り注ぐ。スロープを伝って流れてくる赤黒い川・・・・

 

いつもの友人の姿、いつも通りの言葉。なのに、何故だろう・・・涙が止まらない。

 

 

『再生を終了します。』

 

電子キー端末や、付近の車。そして少女の持つ高性能端末の残した残滓からECHOを復元した。

浮かび上がる立体映像は、友人の為に命を懸けた友人の姿と一人ですすり泣く少女の姿が映しだされていた。

 

(だけど、これではシャッターが破壊されている説明にはならない。)

 

現在のエコーの前には破壊されたシャッター。そしてモール内から外へと突き刺さるトラックが鎮座している。少女達の努力も虚しくゾンビ達を()()()侵入させたようにも思えた。

 

「生存者と思われる者のECHOを検知、モール内の探索を行う。・・・何者かがこの暴動を拡大させている可能性有り。現時点では特定は出来ない。」

 

ゾンビ達の巣窟とも思える地下。エコーは音もなく進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




マドンナちゃん:犬

マドンナちゃん大好きお婆ちゃん;「貴方は犬の為に命を懸けれますか?」(→YES or はい)

頭の薄い中年;みんなのリーダー。

エントランスに居る市民:棒立ちで殺されるよりも一生懸命頑張ってみました!

シャッター爺さん:原作とは違うけど、多分この爺さんならやる!

フランクリボルバー:残り6発

ゾンビ:この回からはエコー以外の生存者はゾンビと言うようになります。

黒人;みんな大好きブラッドさん!自己紹介までは黒人呼びだけど少々我慢して!

スーツ女;ジェシー。その胸部は豊満だった・・・

生き残った警備員;いつもの無線のあの人。プレイ中に何回コイツニ殺されそうになったか・・・

地下駐車場:一日目、現在の時点で入り口が破壊されてゾンビ達が侵入してきてる!マドンナちゃんが居なくても侵入を防ぐことは出来なかった。

エコー:本部との無線は使えない状況。一人言を言ってるのは現在の行動記録を録画中の為。口には出さないけど悪態つきまくってる!



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day1 良い・・・センス・・(言いたかっただけ

世に平穏のあらん事を・・・

知り合いの絵師さんからエマ&シエラのイラストが届きました~感謝!
1話目、【不思議の国にはどうやって行くの】に追加します!(*´ω`*)


――戦争は変わった―――

 

「戦場において一番の脅威は地雷だ。」

 

とあるジャーナリストが口にした言葉だ。

踏み込んだ者を老若男女問わず、無差別に殺傷する兵器……

かつて、敵の侵入を防ぐために設置されたソレは終戦後も顕在し、自国の護るべき者達の命を刈り取る。

負の遺産。

故に彼は脅威とよんだ……。

事実、その言葉は各国に知れ渡り戦争の傷痕を考えさせてくれる機会になった。

 

……遠い遠い昔の話である。

 

時代は変わった……。

 

正規軍同士が塹壕を作り、正面から殴り会う時代は過ぎ去った。

 

戦争は変わった……。

 

歩兵携帯式多目的ミサイルの発達と共にゲリラ戦が主流となり、標的となる者も時代と共に変わっていく……

敵の兵士だけではなく政治家、救命士、民間人……より簡単に、相手に打撃を与える事の出来る者へ。

勿論、その中に報道陣も含まれている。

 

かつて地雷が脅威と溢した人物は、人が人を殺し会う状況下でも、まだ恵まれていたのだとフランクは自嘲の笑みを溢す。

 

(今となっては何でもアリだ。)

 

死は万人に対して平等に訪れる。

その言葉を体現するような現代の戦争、そしてこの街の現状をフランクはこう述べる。

 

「ここは地獄だ。」

 

自身に言い聞かせる様な独り言。しかし、その言葉は妙に腑に落ちた。

 

 

 

SEPTEMBER19 15:30(day1

パラダイスプラザ フランク

 

 

 

「ちょっと、ちょっと!其所のアンタ!邪魔なんだよね ソコ!」

「見て分かんないかなー写真撮ってるんだよ。こっちはね!」

「御大層なカメラぶら下げてるのにそんなことも分からねえんだからな。」

 

通りかかった店内からフランクに掛けられる声。

もっとも、苦情と言うよりは、ただの言い掛かりの様なものなのだが……

 

「ふーん オタクもプロってわけね。はいはい、そーなんだー」

「あのさ、プロって意味分かってる?実力ないと名乗っちゃいけないんだぜ?」

 

「俺はフランクだ、撮影の邪魔をして悪かったな。もう行くよ。「ヘイヘイ!待ちなよ!」」

 

「折角だ。俺がプロの仕事ってヤツを見せてやるよ。そうだ!それが良い!我ながらナイスアイデアだ!」

 

 

一方的な会話から始まった講習会。

40分前の事である。今も尚、貴重な時間を消費して講習は続いているのだが。

 

改めてプロを名乗る男性を観察してみる……

年齢は20歳半ば。中肉中背。

半袖、半ズボン。動きやすさを重視した服装の上に、赤色の目立つ色のベスト。背中には三脚を装着したカメラを背負い、胸元には主に移動しながらの撮影で使用するメインカメラがぶら下がっている。

腕にはジャーナリストを現す色の付いた腕章、ベストには[ケント]と刻まれているネームプレート。

 

絵に描いたようなカメラ小僧。

 

「素早く場所を確保して。フォーカス、絞りを調整!こうだ!」

 

フラッシュの光で一瞬、ゾンビ達の顔が照らされる。

 

「ほう・・・」

 

自身をプロと豪語するだけあってカメラマンとしては優秀な技量はある様だった。

ただ・・・あくまで平時に限っての話だ。

 

カメラのファインダーを覗けば当然、視界は制限され死角がうまれる。

長々と同じ場所に留まれば、ゾンビによる包囲網は次第に狭くなっていく・・・彼らの動きは緩慢だが、単体で()()をしているわけではないのだから。

背後を守ってくれる護衛もいない。長時間、緊張状態(戦闘態勢)を維持することは難しく、当然ふとした瞬間に()は生まれる。

 

ケントの講義を聞き流し傍観に徹していたが、2階で人影(気配)を感じそちらを注視する。

適切な距離を保っての撮影。だが、そのバランスが崩れれば当然、それは致命的なものにるだろう。

 

2階から1階に設けられた見せかけの水路に落下するゾンビ。盛大な水飛沫と音を立てる()()()ケントの注意を逸らすのには十分すぎた。

その間に包囲網は縮まり、遂には最前列のゾンビの手がケントへと届く。

 

「たしか、実力が無ければプロを名乗るな。じゃなかったか?」

 

一階のベンチ横、誰かが飲み残し放置されたコーラの瓶を掴み取り暴投。

直撃し、弾かれるゾンビ。

死が間近にあると時の流れが遅くなると聞くがきっと彼の目にはこの瞬間がスローモーションに見えてる事だろう。

 

「どうした?セーフティー(心構え)かかっている(出来ていない)ルーキー(ド素人)

 

何が起こっているか分からず呆然としているケントを突き飛ばしゾンビから距離をとる。何も無力化しないと生き残れない状況ではない。

弾薬も限られた状況ならばこそ無駄な戦闘は行わない。

 

倒れこみフランクを見上げるケントに告げる。

 

「背中に背負った三脚。手振れを排除し夜間撮影をするには必須となる事だろう。」

「己の身分を示す腕章。これも必要となる時もある・・・・だが、この町において()()()()なんのタクティカルアドバンテージも持ち合わせていない。」

 

使わない機材を持ち歩くのは体力を消耗し、自身の行動を阻害する。

報道者を示す腕章。民間人への攻撃は陸戦協定でも禁止されているが、あくまでただのルールブックの様なもので強制力なんてものはありはしない。

情報を持ち帰られれば不利益になる者も存在し、当然誤射を偽り排除する者もいる。

 

身を守る為の物が自身の安全を脅かす物になる事があるのだ。

護衛を雇う?防弾ベストを着用する?そんな物、自身が【鴨がネギを背負ってきた】と相手に言ってるようなものだ。

危害を加えようとする者にとって、軍事施設を攻撃するよりも容易なターゲットでしかない。

 

「どこから聞いたか分からないが、実態とかけ離れたあり方、武勇伝を参考にして行動するのはやめろ。」

「いいか、目的を忘れるな。大事なのはスクープを撮る事ではない。生きて帰る事だ。」

 

戦争は変わった。仲間以外に配慮する時代ではなくなった。

国民を守る筈の兵士が市民に紛れ(を盾に)敵兵士に攻撃を行う。

敵兵士は自軍の損失を避ける為に()()()()()()を無差別に攻撃対象と設定する。

正義なんてものはなく、守るべきルールなんてものもとっくの昔に張りぼてと化している。

 

「泥に塗れ(まみれ)・・・灰をかぶる・・・場所に応じた服装、振舞いを心掛けろ。」

 

周囲の環境に溶け込み、背景と化す。その点に関してケントの服装は全てにおいて適していないと思えた。

何せ、相手となる者は()()()なのだから。

 

「だが、見事な撮影だった・・・いいセンスだ。」

 

彼の撮った写真を確認しなくてもわかる。構図、ピント、ブレもなくいい写真が撮れていることなのだろう。

 

 

「良い・・・・センス・・・。なぁ、フランキー!もう一度だ!もう一度俺の写真を見てくれ。3日後の12:00にここで待ち合わせだ!」

 

「・・・・ああ」

 

「フランキー。絶対だぞ!・・・また会おう!」

 

「ああ、生きていればな。」

 

 

 

ーーー16:40(day1ーーー エコー

 

巨大なショッピングモールの地下駐車場。

その構造は客の駐車場というよりは業者が各店舗へ物品を搬入するための造りに近いと感じる。

転々と地下倉庫が存在し、大型貨物用のエレベーターが存在する。車両用の通路は長細く倉庫近くに駐車スペースがある程度。

照明はあるものの薄暗く心もとない。

 

そこに大量の感染者と思われる人々が侵入し始めているのだ。今でこそすり抜ける事が出来るが、時間が経過するごとに状況は悪化するのは目に見えている。

じきに地下は感染者で溢れかえり、施錠されていない扉からモール内に侵入していく事だろう。

 

(地上への扉を全部施錠して回るのは現実的ではないし・・・)

 

既に侵入を許してしまった以上、この場を死守するよりも一区画、安全地帯を確保して生存者を保護して回るのが無難かもしれない。

地下から地上へ。階段を上り薄暗い廊下を進む。

モールへと続くであろう扉のノブに手をかけてた時に違和感に気づく。

 

(誰かが応戦してる・・・?)

扉を隔てた先で響く銃声。生存者。

 

銃を構え、開いたドアからホールの様子を伺う。

一瞬だけ身を出し死角に脅威が存在しないことを確認し突入を開始する。

これが部隊だったのならどんなに楽な事なのだろう。

突入するにあたって脅威を見逃せば、すなわち死を意味する。

互いの索敵範囲をカバー出来る味方がいない以上、全てのクリアリングを一人で行わなければならない。

 

(感染者の姿は見えない…ならば、交戦しているのは生存者同士ということなの?)

 

地下と一変して人気(ひとけ)のないホール。

テーブルと椅子、積み上げられたワイン樽。飲食店が並ぶ景色からここがフードコートだと理解する。

 

銃撃戦が行われていると分かった上で、中央通路を堂々と通過するなんて愚行を行うつもりはない。

壁沿いのレストランに静かに忍び込み、周囲の様子を伺う。

 

エコーの潜むレストラン。中央の通路がその先のフードコートを分断するような配置だ。フードコートは木製の合板で作られたウェスタン風のセット、中央のテーブルと椅子が並ぶコーナーを囲うように壁沿いに飲食店が設置されている。

 

見たところ人影は見当たらないが、弾倉を入れ直す金属音がまだ戦闘が終わっていないことを物語っている。

 

壁を背に身を屈め、自身の存在感を消し、息を潜める。

背中に感じるコンクリートの感触。

(通路を挟んでフードコート側と隣のレストランで撃ち合っているようね。)

 

相手の場所に予想をつける。

問題はどちらが、何の理由で撃ち合ってるかのなのだが……

 

正面のフードコートから再び響く銃声。

応戦するかのように隣の店舗からも銃声が響く。

タイミング悪く中庭のドアが開く。

乱入者は銃撃戦の真っただ中という現状に慌てた声を出して隣のレストランへ逃げ込んでいった。

 

 

(場所は予想通り。正面、武装はsmg……いや、PDW?)

 

「アンタの相棒に頼まれて来たんだ」

「ジェシーか!?」

「のんびり話し合ってる時間はない、銃は使えるか?」

「ああ、人を撃ったことはないがね。」

 

隣の店舗から聞こえる声。

先程の銃撃の際に逃げ込んだ人。

どうやら運悪く居合わせた民間人ではなく、応戦している人物の仲間という事なのだろう。

 

「俺が援護するから出来るだけ相手に近づいてくれ「近づいた後はどうするんだ?」」

「奴を撃つのが一番いい。だが、無理なら奴に撃たせないように弾をばら撒いてくれ。」

 

フードコートから隣の店舗に撃ち込まれる弾丸。

ウエスタンセットの2階の窓から覗く相手の姿を補足する。

 

「銃声が止んだら俺が援護する。カウント後にあそこまで走れ。」

「3」

「2」

「1!今だ!」

 

銃声の合間を縫って黒人が銃をぶっぱなし、カメラとハンドガンを手にした勇敢な白人がフードコートに突撃。

 

 

「・・・・で?私はどちらを味方しましょうか?」

 

断片的な情報で判断するのは危険だが、方やPDW(個人防衛火器)と防弾ベストで武装したヒスパニック系の男。

方やハンドガン一つ片手に応戦する2人組。

当然、戦力の低い方を応援をしたくなるものだ。

 

(問題はPDWね・・・)

 

突入し回り込む・・・そこまでは悪くない。

その後が問題なのだ。

相手が手にした武器はPDWと呼ばれる銃。アサルトライフルとSMG(短機関銃)の両方の性質を目指し開発されたそれは、コンパクトな銃身で取り回しが良く片手でも扱えるような低反動。

何よりボディーアーマーを抜く程の貫通力を有している。

 

そもそも、一般的な9mmでさえ木製の角材を数枚貫通し、鉄製のフライパンでさえ抜く事が出来るのだ。

そこらのテーブルを盾にしようとしても貫通性を重視したPDWの弾丸は簡単に貫くだろう。

 

P90(PDW)・・・発射速度は毎分900発、総弾数50発、5.7×28mm弾を使用・・・)

 

小口径だから非力、相手を負傷させて救護に人数割かせるのが目的と解釈する人もいるがそれは仕留め損ねた結果だけ見て言ったのだろう。

5.7×28mm弾は剛体に対してライフル並の貫通力がある上、人体に着弾した場合は体内で弾頭が乱回転しダメージを与える。

負傷させるのが目的どころか従来の弾薬よりも殺意が高い。

 

(私が傍観すれば間違いなく彼はハチの巣ね・・・)

 

(手伝わなければの話しですがね)と、グロックを構えフードコートの襲撃者に狙いを定め、トリガーを引き絞る。

 

(どちらが原因かなんてわからないけど、そもそも胡散臭すぎるんですよ。)

(突然起こった暴動で、まるでコレが起こるのがわかってる様に・・・一般では手に入れることが難しいPDWを持ち出していること自体!)

 

 

ハリボテ(ウエスタンセット)を遮蔽物として身を潜めていた男の防弾ベストに、グロックから放たれた弾丸が突き刺さる。

銃の威力や貫通力は想像よりも高い、盾代わりに出来る遮蔽物が無いのは襲撃者にも同様なのだ。

 

襲撃者が負けじと制圧射撃を()()()()()()()に行う。

 

(あちらはちゃんと隠れてるから大丈夫でしょ)

 

的外れな場所(黒人の潜むレストラン)気を取られている(制圧射撃)間にエコーは防御に適したコンクリート製の柱まで走り、身を潜め様子を伺う。

 

「ブラット!ギブミークリップ(弾をよこせ)!!」

「フランク!受けとれ!」

 

2人組みが連携して掩護射撃を行い徐々に追い込んでいく。

 

(一回の射撃。指切りの間隔が長くなっていってるわね。)

 

狙いを定めてくる黒人(ブラット)、背後に回り込もうとする白人(フランク)。何処からともなく飛来する弾丸。

防弾ベストに伝わる衝撃、弾丸の風切り音、そして顔を掠めて横の柱が弾け飛ぶ。

例え防弾ベストを着ていても、命の危機を感じるには十分な状況だ。

襲撃者の一回の制圧射撃に使用する弾数が多くなっている事に気付いているのは何人いるのだろう?

恐らく、エコーを除いてこの場に居る者全てが気づいちゃいない。・・・引き金を引いている当の本人でさえも。

 

「訓練は実戦のように……実戦は訓練の様に……。此処に来るには貴方は少し、早すぎたようね。」

 

クスリと笑う少女。

 

人は戦闘に入ると心拍数は上昇、血管は収縮、瞳孔は拡大、興奮状態となる。つまり、身体もその状況(戦闘状態)に対応出来るように最適化していく……だが、ストレスにより心拍数が上がりすぎてしまった場合、良いこと尽くめとはならず弊害も発生する事もある。

 

聴覚抑制、近視野喪失、手の震え、認知処理能力低下などだ。

 

(射撃訓練と実戦は別物よ。ゲームとは違う。)

 

過度なストレス、心拍数の異常な上昇により銃声は聞こえず、防弾ベストに伝わる衝撃で攻撃された事を知る。

まるでトイレットペーパーの芯を覗き込んだ位の視野で、懸命に相手の動きを把握しようとするが見失い、震える手で、リロードしにくい銃の弾倉を入れ換える。それが今の彼の現状だろう。

 

「ほら・・・私が視界に入っているのにその姿にも気づきはしない。」

 

認知処理能力の低下、トンネルビィジョン。2人と戦っている・・・その思い込みはここでは致命的なミスとなる。

目に映るものでさえ見落としてしまう。

 

半ばパニックに陥っているであろう襲撃者とは対照的に余裕すら見せているエコー。

まるで消化試合をするように襲撃者が要るであろう場所に素早く2回、淡々とトリガーを引く。

姿を見たわけでもないのに放たれた弾丸は壁を抜け、正確に彼の胸に突き刺さる。

 

襲撃者の取り落とした銃が落下し床を叩く。

エコー視界のすみにフードコートの屋根の上を走り去る男の姿が見えた。

 

「それで、さっきの彼は知り合い?」

「君は……?」

 

「貴方達が撃ち合ってたから…隠れていた、ただの通りすがりです。……で、どういう状況なんですか?巻き込まれたのですから、少しぐらい説明してもらいたいところなのですが。」

 

「何で撃ってきたかは俺にも分からんよ。」

「ヤツは?」

「逃げたようだ。」

 

黒人(ブラット)が天井を見上げる。

ホールの天井に設けられた点検口。巻き上げられたロープの端が目にはいった。

 

(脱出用のロープを用意しているなんてね。さっきの男性は尋問対象にリスト入りだわ)

 

「自己紹介がまだだったな。ブラットだ。」

「俺はフランク。ジャーナリストだ。」

「エコーよ。気がついたらこの状況で何があったのか知りたいのだけど。」

 

「悪いが何も言えない。………フランク、お前もだ。ジェシーが何と言ったか知らないが、これ以上協力してもらう必要はない。スクープはゾンビだけにしておけ。」

 

「そうか、お宅の相棒はこの写真の爺さんが気になってた様だけど?」

 

カメラの液晶に写っている写真を覗き込むエコー。

何の変哲のない頑固そうな高齢の男性が写っているだけだった。

この場面で交渉材料に持ち出すと言うことはつまり……

 

「この写真は何処で!?」

 

食いつくブラットに(お前から情報を提示しろ)と顎でさすフランク。

 

「わかったよ!お前はクソったれでイヤらしい、やり手の覗き見パパラッチだ。俺とジェシーはDHSのエージェントだ。確かにその爺さんを探している。」

 

「国家安全保証省!?つまりテロ絡みか!」

 

(もしテロリストが絡んでいるのなら十中八九、さっきのヤツでしょうね。少なくてもこの町の現状に関する情報は持ってそう。)

 

「お前の番だフランク、爺さんは何処だ?」

「エントランスプラザ。正面玄関の近くだ。」

 

「なぁ、同行取材は許可して貰えるのか?」

「勝手にしろ。」

 

「それじゃ、行きましょうか。」

「アンタもついてくるのか!?お嬢さんにはちょっと刺激が強すぎると思うぞ?」

 

 

「此処で放置する方が人としてどうかと思うわよ?大丈夫、足は引っ張らない。」

 

先程の襲撃者が落としたP90を拾い上げて残弾を確認。

 

(……残り12発。撃ちすぎよど素人。バースト機能でもつけて貰った方がいいんじゃない?)

 

黙々と声を出さずにフランク達の後ろをついていく少女。

時刻は17時。日は傾き始めていた。

 

 




フランクさん・・・原作ではゾンビが居ようがお構いなしにカーニバルする感じのイメージですが、今作では体験した戦場+序章の惨劇の影響でクールな歴戦の兵士(戦場カメラマン)みたいな感じに!?

ブラットさん・・・みんな大好きスキンヘッドのおじさん!ジャーナリストが苦手(今現在


エコー・・・身分を明かすのが面倒ですので迷い込んだ少女に擬態。銃撃戦では完全に気配を消しているのでエコーの支援があった時も
・・・ブラット(フランク・・案外役に立つな)
・・・フランク(ナイス援護だ!ブラット)とかお互いに思っている。(気づいていない
此処まで余裕のある戦いをしているが「私が強いんではない、お前達が弱いのだ」と言える。

P90・・・PDW。コンパクトと言ったがあれは嘘だ。小銃よりも若干短いくらい。バレル長がある為命中率は良好とのこと。弾倉交換が従来の物とは異なるので慣れが必要とのこと。つまり・・・攻めすぎた設計の為売れなかった不遇の銃(笑

貫通性能・・・意外かもしれないけども大半抜けるよ!隠れる場所は気を付けよう!車の扉を盾に??それ死んじゃうよ!

今回の戦場・・・前回のMAPを参照 フードコート F102(エコー) F103(ブラット+フランク) F101(襲撃者)となっています。 

バースト機能…一回トリガーを引くと連続で決められた弾数が発射される仕組み。撃ってる最中でも再度トリガーを引けばカウントがリセットされるためマシンガンの様に連射することも可能。元々、パニックになった新兵が弾倉が空になるまで撃ち続けるのを防ぐためのもの。



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day1「ふぉろーみー!」「ごう!」

過去の回想 薄文字
現在進行形 通常色

「エコー会話など」
「その他の人々」

『無線機越しの会話』や『看板表記』など


この小説特有のルールを作ってしまって申し訳(;'∀')
2話目「この辺りの人々~」で素敵なイラストを頂きました!いつも協力してくれてる絵師さんに足向けて寝れないw(*'ω'*)


 

()()内容を確認する。」

 

瞳を閉じた時・・・鏡をのぞき込んだ時。輸送機の揺れに身を任せた時。

ふとした瞬間に脳裏に蘇る記憶の断片。

 

「我々の目的は云わば、合衆国特殊作戦群の露払いだ。」

 

見覚えのない天井。何も覚えていない私に対し医師は「一時的なものだ。時期に記憶は回復する」と告げた。

 

「つまり・・・敵勢力圏に一小隊だけで侵入し、後にやってくる正規軍の為に綺麗にゴミ掃除をしておけと?我々はいつからボランティア団体になったのですか?」

 

灼熱の太陽。舗装されていない砂と土の大地。

光学照準器(スコープ)から覗く先にはスラム街とも言える町並。そして武装テクニカルや民兵の姿が多数見受けられた。

特殊部隊の突入はSHDの作戦(周囲脅威排除)が完了した後。敵勢力の人数は不明。それに対しエージェントは4人。

 

「流石に自殺行為なのでは・・・」

「文句なら上層部に言え。訓練は実戦の様に、実戦は訓練の様に。()()()()()()、時間だ。始めるぞ!」

 

記憶の中の私達は進んでいく。

 

特殊兵装(パルス)から発せられるアクティブソナーが障害物越しの生体反応を探知し、部隊のメンバーへとデータが共有される。

コンタクトレンズ型のディスプレイに表示された敵影を、壁越しに射殺する。

決められた陣形、フォーメーションなんてものはない。各人が状況に応じた最適な行動を行い、その上で必要なら連携を行い圧倒的な速度で周囲一帯を()()していく。

 

足音もなく、部隊内での指示すら必要としない。

サプレッサーを装着した銃で脅威を排除しながら迅速に進む様は、対峙した者からすると悪夢そのものだろう。

 

「状況を報告しろ。」

「ケベック。制圧完了」

「リマ。制圧完了」

 

「・・・エコー。状況報告しろ。・・・エコー!応答しろ。」

 

 

・・・人は産まれるてすぐに、愛情と()()を与えられるものなのだろう・・。

ならば、自身の名前すらも思い出せない私は()()だというのであろうか?

 

自身の歩んだ道のりには数多もの屍。泣きじゃくる少年、そして横たわる少年の父親(民兵)らしき屍。

 

(拾うな・・・)

床に転がる父親の形見となった銃。それに手を伸ばす少年に対してエコーは願った。

 

自身の経験、そして感情から人格が形成されるのだとしたら・・・なにも思い出せない今の私は、本当に()だと言えるのだろうか?

 

「拾うな!!」

・・・故に、私は思い出さなければならない・・()()()どんなものであっても、私が()()()()()()()

 

・・・・そして私は引き金を引く。

 

 

 

 

SEPTEMBER19 18:20(day1

エントランスプラザ

 

フードコートを抜けアルフレスカプラザへ、そしてフランクにとっては始まりの場所であるエントランスプラザへと。入り口入ってすぐにシャッターが下ろされており3人の行く手を阻んでいた。

 

「博士とは俺が交渉するし、このシャッターも俺が解除する。あんた達はお願いだから何もしないでくれ!」

 

・・・酷い言われようである。

「まぁ、気持ちもわからない事もないですがね・・」

 

方やパパラッチ、方や民間市民。DHS(国家安全保障省)のエージェントであるブラットの立場からすると、この二人はお荷物でしかない上に、ジャーナリストであるフランクに必要以上の情報を嗅ぎまわられるのは後々の厄介事の種にしかならない。

 

「かと言って、悠長に時間をかけるのは得策とは思えませんよ?」

 

レンガで整地された路面、ヨーロッパ調の建物が立ち並ぶアルフレスカプラザ。露店になっており、空には沈みかけの太陽。

エコーはエントランスプラザと隣接するアルフレスカプラザを隔てるガラス戸の様子を見ながら客観的な意見を述べた。

 

3人が通過した直後に施錠した扉にはぎっしりと感染者が張り付いており、ガラスを叩く音、錠が当たりガチャ付く音が鳴り響いている。

 

「今まで割れてなかったんだ。大丈夫だろう…?」

 

「状況は変わりますよ・・・。このエリアに隠れる生存者(食料)に感染者が気づいていないからこそ侵入されていなかっただけでしょう?ガラス越しに間抜けな3人組()が並んでいたら、挙って(こぞって)歓迎してくれるでしょうね。」

 

数が増えれば、それだけ負荷がかかる。

強化ガラスとはいえ心もとない。

 

「それに視界が悪くなった状況では突発的な戦闘が起こる可能性が増します。」

 

室内の照明がガラス戸に反射し3人の姿を映している。

(もうすぐ日が暮れる・・・)

 

時間を持て余したエコーはハンドガンの弾倉を抜き装弾数を確認、再び挿入する。

 

(ポケットから取り出すたびに増えて行けばいいのに・・)

 

フル装填の弾倉3本、銃に装填している弾倉に4発。新しい弾倉に取り換え、万全な状態を保ちたいところではあるが3本しかない弾倉でタクティカルリロードを行えば使いかけの弾倉が何個も出来上がってしまう。

 

「・・・・私が開けましょうか?」

「大丈夫だ。問題ない」

 

半ば痺れを切らし始めたエコーに対して平常運転のブラット。

 

「・・・際ですか。」

 

制御盤の操作を終え、開錠されたシャッターが天井へと収納される。目的の人物を発見して駆け寄っていくブラット。そして関係者(エージェント)と言わんばかりの態度で堂々とブラットを追うフランク。

 

 

「博士。貴方の協力が必要なのです。」

「脱出手段が確保できるまでわしはここを動かん!!」

店舗に立て籠もる老人の説得を試みているようだ。

 

 

「このゲートを開けてください。ここは危険です。「得体のしれないお前たちと居るより、ここが一番安全なのだ!」」

 

「帰ってくれ「あ~バナービー博士!」帰れ!」

 

「で。どうなったんだ?爺さんを捕まえないのか?」

「保護を申し出たんだが、確実な脱出手段がないと協力してくれないそうだ」

 

(難儀な事ね)

離れた位置で待機しているエコーにも事の顛末が聞こえてくる。

 

(でも、アウトブレイクが発生しているかもしれないこの状況で協力を拒むという意味・・それがどういう事を意味しているのかこの人達は理解しているのだろうか?)

 

「ジェシーが本部への直通回線を持っている、まずはそれで応援を要請してからだな。」

 

(既に通信妨害で外部との連絡は取れない。)

 

話ながらこちらに向かってくる2人に笑顔を向けるエコー。

状況が悪化しているのを知っていても迂闊に口に出すことはしない。DHSのブラットがフランクに情報を出し惜しみするように、エコーにとっても知る筈のない情報を出すわけにはいかない。勿論、扉の開錠についても同様だ。その気になれば電子ロックの開錠など1分もかからない。

 

「話はまとまりました?」

だが、それを口にすることはない。

 

「付き合わせて悪かったな。今からフランクがセーフルームに案内するから付いてきてくれ。フランク、この子を頼めるか?」

 

「・・・問題ない((こいつ押し付けやがった))あんたはどうするんだ?」

 

「少し寄りたい場所がある。先に行くぞ。」

 

 

 

 

18:59(day1

アルフレスカプラザ

 

ショッピングモール、中庭に設置された時計台から19:00を知らせる鍾が鳴る。

既に傾いた太陽は地平線の先に沈み、残り火の様な薄暗さがあたりを支配していた。

当たり前のように日は上り、当たり前のように日は沈む。この町の惨劇の中でも当たり前のようにルーティンする自然の景色。

しかし、エントランスプラザからこのエリアに侵入した瞬間、周囲の雰囲気にエコーは違和感を感じ取っていた。

 

(何かがおかしい・・・)

 

そう、()()()おかしい。

日没と共に視界が悪くなるのは当たり前のことだ。

ブラットとフランクが無力化した感染者の死体も、最後に見届けた場所に横たわったまま。再び起き上がるなんて事にはなっていない。

周囲の感染者は私達を襲おうと近づいてくる・・・これも見慣れた光景。

 

(ならば、この胸騒ぎは?)

 

何かが違う。何かがおかしい。

そう、エコーの直感が警鐘を鳴らしていた。

 

先行するフランクの背後から襲いかかろうとする感染者の膝を、テロリスト(カリート)から奪い取ったP90で撃ち抜く。

まるで喉の奥に刺さった小骨の様な違和感。答えが出かかってるのにたどり着けないむず痒さ。

転倒する感染者を横目にエコーの疑念は晴れないままだ。

 

 

フランクのジャケットの中から声が響く。

 

『聞こえるかフランク。今いるエリアがアルフレスカプラザだ。』

『おい、無視するなよフランク。聞こえてるんだろ?』

 

「後にしろ!」

 

うっとうしそうに無線機を取り出し応答するフランク。

心なしか感染者の数が増えている。一々無線機で雑談まがいの会話をする余裕などない。

無線機を左手に、右手にはスポーツ店で拝借した木製バット。

本来、両手で扱う筈のそれ(バット)を軽々と片手で振りかぶり、迫り来る感染者の頭部に打ち付ける。

そして、強引に推定体重80kgオーバーの鍛え抜かれた武器(肉体)を感染者の波に強引にねじ込み前進していく。

 

真っ当な精神状態の人間では到底行えない判断。そして、この現状での最適解。

彼の後ろ姿を眺めながら感嘆した。

 

『あ~。取り込み中すまなかった。そのまま聞いてくれ。』

『そのエリア、奥の宝石店に女性が立て籠もってる。周囲にはゾンビが居るがあんたなら大丈夫だろう?』

『監視カメラで様子を見る限り、嘆いてる様にも見えるが・・・錯乱してるかもしれない、様子を見に行ってくれ。』

 

無線の内容を理解するや否かフランクの姿がゾンビの群れの上空を舞う。

「フランク!?」

 

接近したゾンビ、その肩を踏み台に更に跳躍。十分な高度を得たフランクはゾンビの(群れ)を飛び越え散在な対岸へと舞い降りる。そのままエコーを残し件の宝石店へと姿を消した。

 

(うんうん、何言ってるか分からない?残念だが私にも何が起こったのかわからない)

一般市民(報道者)と思ってれば突然プロレスラーの様に感染者相手に筋肉(肉体)だけで立ち向かうし、今度はスーパーマン?

というか!私も一般市民って言わなかったっけ?なんで見捨てられてるの!?「お前なら感染者の群れが居ても大丈夫」って思われたの??

 

「フラーーーンク?」

 

目の前には30体以上の感染者。

(弾が一瞬でなくなってしまう・・)

 

この町に来た当初に無力化した2体ですら時間がかかったのに()()()()この人数を相手にするのは無謀だ。

私には彼の様に感染者もろとも吹き飛ばせる筋力は持ち合わせていない。

 

「おい!大丈夫か?」

「グレース!グレース!!私の赤ちゃんを返して!」

「子供とはぐれたのか!?俺が探し出してやるから・・・まずは、あんたを安全なところに。」

 

・・・()()()声がする。フランクは無事にたどり着いたようだ・・私を()()()()

フランクと同じように飛び越える?7割成功したとして残りの3割を引き当てたら(失敗したら)立て直しは出来ない。

 

じりじりと狭まる包囲網に合わせて後退するエコー。

 

(エージェントご自慢のセンサーもこの状況じゃガラクタね・・)

 

先程から()()()、敵性を示す赤色のグリッド()でレーダーが埋めつくされている。

そして、

 

 

ーーーー頭上からガラスの割れる音がしたーーー

 

 

感じたのは強い衝撃。

力の奔流に抗うこともできずにそのままうつ伏せの状態で地面へと押し倒された。

その後は・・・半ば反射的に防御行動を行った。

 

状況など把握できていない。背中に感じる気配に応えるように体を捻じり肘を相手に打ち付ける。

店舗の2階の窓が割れている・・・そんな情報は今必要な事ではない。

 

「フランク!!」

 

感染者に馬乗りにされている。噛みつかれまいと感染者の首元を片手で締め上げるが筋力は相手が上だ、効果など時間稼ぎ程度しかない。

(P90)は手から離れ、サブ(グロック)は体を捻じってるせいで空いてる手では引き抜けれない。

徐々に狭まる距離。

 

感染者の顔がよく見える・・・

目は真っ赤に充血し、息遣いも昼間の無気力な呻き声ではなく寧ろ、獰猛な獣を連想させるような・・そんな低い声だった。

 

(せめて・・武器になるようなものを)

 

ガラス片でもフォークでもレンガでもなんでもいい。押し倒された状態、手で探せる範囲を文字通り手探りで探す。

キスが出来そうな距離。荒い息が顔にかかる。

 

 

「・・・エコー。制圧完了。」

 

きっと私は数秒もしないうちに死ぬことになる。

だから、例えこれが走馬灯なのだとしても納得してしまうだろう。

 

 

 

「・・・・大丈夫か?」

 

「・・・市民(少年)を・・・射殺しました」

 

「・・・・・」

 

 

「グレースは!私の赤ちゃんは!!目の前で奴らに喰われたのよ!!」

 

 

「・・・エージェントの交戦規定は各人で判断する。それがどういう意味なのか、理解しろ。」

「味方を犠牲にし、敵を殺し守るべき民をも殺し・・・私達に一体何が残るというのですかッ!」

 

指先金属の感触が伝う。

私はそれを引き寄せて逆手で握りしめる。

 

「引き金を引かなければ相手は助かる。その代わりお前は死ぬ事になる。そして、義務を果たさなかったゆえにほかの仲間も死ぬ事になる。」

「話し合いで済むのならそれが一番いい。だが、我々が駆り出された時点ですでに手遅れなんだ。」

 

「俺なら迷わず引き金を引く・・・どうせ誰か死ぬんだ。相手を殺す・・・そっちの方がよっぽどいい。」

 

 

 

首筋に歯を突き立てようとする感染者の頭部に掴み取った()()()を押し当ててレバーを押し込む。

バックパックから転がり出た筒。TECトーチと呼ばれる()()は本来、特殊部隊が突入の際に金属製の錠などを焼き切るために使われる物だった。

燃焼物質から生成された摂氏2200℃の高温の炎の刃は簡単に感染者の頭部を溶断し周囲に肉の焦げる匂いを漂わせた。

 

(返り血はない・・当たり前ね、焼き切ったから。)

 

取り落としたP90を拾い上げゆっくり立ち上がる。

燃焼の終わったトーチのカートリッジには残り火。ロックを解除しカートリッジを捨て本体をポーチへとしまう。

薄暗い路面にチロチロと火を残しながら転がっていくカートリッジ。

 

(興奮状態では本来のパフォーマンスは生み出せない・・)

 

瞳を閉じて深呼吸。

一見無防備な状態だが感染者に組みつかれるまでに数秒余裕がある。

 

(彼らは暴徒?)

(彼らは守るべき市民?)

瞳をあける。

街頭の光が横の店舗のガラス戸に反射して鏡の様にエコーの姿を映していた。

 

 

----鏡よ鏡。私はだぁれ?-----

 

馬鹿げた感傷が脳裏をよぎる。

返答はない。当たり前のことだ。

()()()()()()()()姿()を確認し安堵する。

 

 

「私の名前はエコー・・・SHDのエージェント・・」

・・・私はまだ、()()()

 

 

 

最前列の感染者の頭部をP90で吹き飛ばす。

生きる屍から本当の死体となった()()を引き寄せて、まるで盾の様に使()()()感染者とエコーの距離を保つ。

そして、既に風穴の空いた頭部にP90の銃口をねじ込みそのまま他の感染者の頭部を射抜いていく。

 

幸いなことにSHDエージェントが使用する装備にもライオットシールドと呼ばれる盾がある。その為、エコーにとっても()()出来るものがあるのならば、それを使用した戦闘も十分可能だったのだ。

 

P90のボルトがオープンし全弾撃ち尽くした事を撃ち手に知らせる。

即座にP90を手放し、グロックを引き抜く。

盾の代用と使用していた()()を前方に蹴り飛ばし、その開いたスペースにその身を滑り込ませる。

 

かつてフランクがバットで実践したように・・・

感染者の群れの中に自ら飛び込んでいくような行為。既に全方位、取り囲まれ腕を突き出して銃を構えることも出来やしない。

ならば腕を突き出さなければいいじゃない!と言わんばかりに半身になり胸の前で、両手で銃を保持し固定する。

 

・・・もしも、胸の前に抱いたものがクマのぬいぐるみならばエコーの幼い容姿と相まって、とても可愛らしく周囲の目に映った事であろう。

だが、現実は違う。その手に持つものは銃。

数多もの戦闘データから近距離戦闘に特化した構えとして考案されたC・A・Rシステムには可愛らしさなど微塵も存在しない。

 

至近距離、狙いをつける必要もない。独特な構えは銃の感動を完全に制御し、照準(アイアンサイト)を使用していないにもかかわらず驚異的な命中率で感染者を無力化していく。

 

薬室に1発だけ残し、素早く弾倉を交換。

感染者の手を左手(サポートハンド)で捌き、射撃を再開する。

 

全員相手にしていたら弾がいくらあっても足りない。自身の周囲、進行方向だけ障害を排除する。

いくら相手が多くても懐に飛び込んでしまえば、数の多さが仇となり攻撃を受ける方向を限定できる。

結局、選べる手段など残されていないのだ。

 

 

 

「家族を食った奴らの仲間になりたいのか?来い!俺はあんたを死なせない!」

 

フランクの必死の説得が聞こえる。

離れて数分しか経っていないにも関わらず、随分と長く感じた。

 

 

「説得は終わりましたか?」

 

「ああ。今からあんたを迎えに行こうかと・・・怪我したのか?「返り血よ」

「そうか…囲まれる前に移動しよう。」

 

SEPTEMBER19 19:25(day1

フードコート

 

「なぁ……さっきは…その、すまなかった。」

「大丈夫、気にしなくていい。」

 

「怒ってるのか?」

「………」

 

私は怒っているの?

何に対して?

切迫した状況下で生存者()を置いて行動したこと?

あの時、私でない他の生存者だったならば……きっとこの場に立っては居ないと断言できる。

だが、それを私が彼を責める理由になるかと問われればそれは違うと言える。

その責は本来、エージェントである私が背負うものだった筈。

私と彼では歩んできた道のり(経験)が違う。

彼は彼なりに最善を尽くしている。例えその結果が実を結ばなかったとしても、私にそれを責める権利などないのだ。

 

(ああ……そういう事か……)

私は、突き進む彼の能力を見て勝手に期待した。

そして、私の予想に反する行動を見て()()()幻滅しただけなのだ。

 

(おかげさまで目が醒めた……)

SHDエージェントとは何なのかと。

 

『フランク、聞こえるか?中庭で車を乗り回してる奴等が居る。何かを追い回してるようにも見えるが……注意してくれ。』

 

「先に行くぞ!」

 

無線を聞くや否や駆け出すフランク。

 

(ほらね…やっぱり変わらない)

ため息を漏らすエコー。同時に羨ましくも思う。

 

リリースボタンを押し込み空になった弾倉を捨て、最後の弾倉を叩き込む。残り17発。

 

 

SEPTEMBER19 19:30(day1

中庭

 

エコーが中庭に辿り着いた時には既にフランクの姿は無かった。

代わりに先ほどまでフランクが背負っていた女性が入り口付近に佇んでいる。

中庭中央では先程の無線の連絡の通り、何かを追い回すように孤を描く車のヘッドライト。

そして、転々と感染者の()()()()()()遺体。

 

「ねえ!貴女!助けて!彼の身が危険なの!!」

「………状況は?」

 

「女性を追い回す囚人服を来た3人組に車で追い回されている女性を助ける為に彼が一人で・・・」

「………そう。どうして・・・人はタガが外れると揃いも揃って性欲に走るのかしら?」

 

車のエンジン音。叫び声。そして笑い声が雄弁に語っている。

 

「まぁ、そっちの方が私としてもやりやすいけど。」

 

 

SEPTEMBER19 19:30(day1

中庭 sideフランク

 

倒れこんだ瞬間、頭上を通過する金属バット。

 

「ハッズレーーww」

「下手くそがwあと一回で交代な!」

 

運転手、助手席のバット男、銃座・・・車に乗った3人組に弄ばれている。

追い回されていた女性と合流し、手をつないで逃げ回る。

圧倒的な戦力差、フランクがこの状況で生きているのは単に3人組が遊んでるからに過ぎない。

その気になれば一瞬でハチの巣になることぐらい理解はしていた。

息も絶え絶え走り回る最中、無線が鳴った。

 

『ハロー?生きてる?』

「見ての通りだよ!糞ったれ!」

 

『元気そうで何より。ところで、先程助けた女性が入り口に放置されていたけど離れてる間、襲われるとか考えなかったわけ?』

クスクスと笑い声が聞こえた気がした。

 

『ああ。心配しなくても大丈夫よ?そちらの3馬鹿が周囲の感染者で射的をやったみたいね?動いてるものは今のところないわ。』

「一体何が言いたいんだ!?」

 

余裕なんて一切ない。声を荒げる程の体力も気力も無かったが、叫ばずにはいられなかった。

 

『ブローニングM2重機関銃。50口径(12.7mm)、毎分400~600発、少しの改造(セミオート化)とサイトを付ければ2km先の狙撃もできる優れもの。遮蔽物に隠れても遮蔽物ごとひき肉に。それで?貴方は女性と合流した後どうするつもりだったの?』

 

「しるかよ!あいつ等に聞け!当たらなきゃいいんだよ!」

「この暗闇の中、銃口から弾道を予測する?多分ですがアレには親切に曳光弾は装填されていないと思いますよ?銃声を聞いてから回避行動をとる?音が届くころには貴方はひき肉ですね。」

 

「笑うなら好きなだけ笑え!余裕があるなら手を貸してくれてもいいんだぞ?」

お前に出来るならなと言葉に含ませる。売り言葉に買い言葉ってやつだ。

 

背後から突っ込んでくる車から逃れるように女性を突き飛ばす。

突き放した反動さえも利用して互いに弾かれるように車の軌道からその身を外す。

 

『彼女は女性です。すぐには殺されない。言ってる意味わかりますか?』

「お前こそ自分の言ってる事を理解してるのか!」

 

『見捨てるという意味ではなく単に銃座から降りた頃合いで強襲を仕掛ければよかったんです。』

最も、貴方が馬鹿正直に正面から行く前でしたらね・・・と無線の先の少女は続ける。

 

「今ので良くわかった。あんたは笑いものにして助ける気なんて『池の近くの木が見えますか?』

『車が近くを通過するように誘導してください。木の密集地帯でないので警戒はしないはずです。』

 

「…ありがとう。」

『今夜は月が綺麗ですね。』

 

()()()と自ら名乗った胡散臭い少女の言葉。

だが、後のない切迫した状況では何故か頼もしいと感じてしまった。

 

SEPTEMBER19 19:40(day1

中庭 side囚人

 

「お前わざと外してるだろ!」

「一発で仕留めちゃ面白みが薄れるだろ?」

「なぁ、そろそろ撃たせてくれよ~」

 

屋根の無い軍用車。夜風が気持ちい。

疾走する軍用車の助手席でバットを持った男は笑う。

淀んだ空気の漂う刑務所から自由の国へ。

銃も食料も女でさえ対価を払わずに手に入る本物の自由に男は満足をしていた。

 

「運転を代われ!俺の番だ!」

「お前、刑務所での借りを忘れたのか?」

 

こう言葉にすればコイツは口を閉ざす。

糞は糞なりに通すべき義があると思い込んでる時代遅れの産物を小馬鹿にした顔で笑い飛ばす。

外の世界ではそれなりに名前の通ったゴロツキだったと本人が誇らしげに語るが、俺にとっては可愛い犬っころだ。

 

「撃たせてくれよ?いいだろ?1発だけ1っ発だけで良いから!!」

「ああ分かったよ!女は撃つなよ!男だけだ。」

 

「ありがとうアニキーー!!愛してるぜ!!」

 

女と手を繋いで走る男を不憫に思った。

「まぁ、どうでも良いけどな!!汚物は消毒だ!(リア充爆発しろ)

汚物は消毒だ!(リア充爆発しろ)

そして撃鉄は落とされる

 

 

ーーー池の付近を通った瞬間『ドン』と振動と音が鳴ったーーー

 

不思議な事ではない。

中庭に居る邪魔者(感染者)トリガーハッピー(銃座の男)の発散で居なくなってしまった。

その残骸を引いて車が跳ねるのはここ1時間の間に何度も経験したことだ。

不思議なのは発砲大好き人間が数発の銃撃で満足しているという事だ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

生温かい液体が頬に付いたのはそんなことを呑気に思ってるときだった。

 

「うわ!コイツ興奮して漏らしやがった!!」

「まじかよ!?最低な糞野郎だな!」

 

笑いながら運転席の男と共に後部座席、銃座を見るとそこには

首を押さえる男。両手からは大量の血が流れだしており無事とは思えない。

視線を上げると長髪を夜風に靡かせた、幼く見える少女が重機関銃を運転席に向けて笑っていた。

 

「今晩は。それでは、御機嫌よう。」

 

「「へ?」」

 

至近距離での銃声。

ソレは爆発の様だった・・・

連続で放たれる一方的な暴虐。

周囲に内容物をぶちまけるだけには留まらず、ハンドルを、メーターを、防弾のボンネットに内包されたエンジンすらも貫いて。

先程まで笑いあっていた相棒(犬っころ)を一瞬でひき肉へと変貌させた。

 

ハンドルを保持していた腕が崩れ落ち、白煙を出しながらスピンする車。

遠心力で投げ出されてすぐ、男は立ち上がり、なりふり構わず走り出す。

 

fire(撃て)

少女の透き通った声が響く。決して叫んでいるわけではない。

 

fire(撃て)

ただ、己に言い聞かせるかのように呟く声。

決して逃しはしないという意思表明。そして呪いの言葉の様に男は感じた。

 

fire(撃て)

 

・・・・世界が回転した。

 

SEPTEMBER19 19:37(day1

中庭

 

「無事か?仲間が何とかしてくれたみたいだ。」

「おい、あんた・・・あああ!」

 

フランクの声。ショッピングモールと中庭の外灯、そして月明りだけの静かな夜。

照らし出されたシルエット。2()()()には些か()()()感じた。

 

「また・・・また、俺は間違ってしまったのかッ!」

 

 

・・・・・呻き声が聞こえた。先程、私が撃った少年。殺し損ねてしまった民兵。

 

エコーは銃座から離れ、足を押さえのた打ち回る囚人へと歩み寄る。

 

私は銃口を向けながら少年へ歩み寄る。

 

「助けてくれ!足が!足が!!」

 

グロックをホルスターから引き抜き男の頭部へと狙いをつける。

 

「撃っちゃダメ!」

これから行う凶行を咎めるかのように立ちはだかる女性。

 

 

「・・・足を捻挫していたと把握していますが、ここまで自力で歩いてきたのですか・・・私には貴女の言うことが理解できませんが?」

 

「撃っちゃダメ!人が人を裁くなんて間違っている!!」

「撃だな”い”でぐれ”ーー!なんでもする!命だけは!」

「・・・・。」

 

 

「私には貴女の言っている意味が分かりません。貴方を駆り立てるのは正義?それとも行き場を失った母性?」

「貴方!「今の言葉、フランクが()()()()()彼女の目を見て言ってみてごらんなさいな?彼女の表情から何が見える?もう一度犠牲者の前で同じことを言ってみろ!」

 

半分になった彼女を顎でさしエコーは続ける。

 

「……彼を生かしたとしてどうするつもりですか?貴方が面倒見ます?限りある食料を分け与えます?いつ、脱走するか・・・他の生存者を引き込み、裏切らせて内部から破壊させかねない不穏分子をセーフルームに連れ込もうというのですか?それとも手当てして野放しにする?」

 

「人は自由に生きることが許されています。自由に生き、自由に死ぬ。好きなように生きればいい。だけど・・・自由に生きた過程で生まれた対価、その結末からは何人たりとも逃げることは許されない!」

 

「彼には選ぶ事が出来た。刑務所に入る前。脱獄し自由になった瞬間。だが、彼は選択した。その対価を()支払うだけよ。」

 

これ以上、偽善者と話し合う気にはなれなかった。

エコーは反論する女性を突き飛ばし囚人へ銃を向ける。

 

 

 

 

友の死に、怒り、悲しみ、敵を殺し喜び、笑う。殺し殺されの繰り返し

私は英雄ではない。私の死も、この少年の死も歴史に名を刻むどころか存在すらも無き者にされてしまう事だろう。

ならば!せめて(奪う者)くらいは彼らの事を背負う(覚えておく)べきではないか?そう感じてしまった。

 

「貴方の名前は何ですか?」

「貴方の名前は何ですか?」

 

 

「糞ったれ!」

「死にたくない!」

 

既に焦点の合わない目。懸命にしかし、憎々しげに私を睨もうとする少年を、静かに瞳に焼き付ける

涙が浮かぶ目。必死に懇願する男の姿を、静かに瞳に焼き付ける

 

 

 

―――そして、私は引き金を引いた―――

 




ということで!今回はプレイヤーがやるであろう、
生存者を置き去りからの「ふぉろーみー(ついてこい)」と
ゾンビ大群を指定して「GO!(逝け!)」を生存者視点から見た回ですw

咬まれればアウトの状況で自身と生存者を無傷で生還させるって超ハードモードだと思います(笑

この世界における人物及び兵器解説~

P90・・・PDW。貫通力良し、ストッピングパワー良し、総弾数良し、コンパクトという良いとこどりの武器。・・・・の筈だがP90に関しては言う程コンパクトでもない(笑)。操作性も従来の物と違うため扱い切るには訓練が必要と理由で不遇な銃にナッタヨウデ・・・本作ではカリートが乱射したせいでエコーが手に入れる時には総弾数が既に少ない状態。

グロック・・エコーが持ち込んだハンドガン。命中精度や信頼性はすこぶる高いけど銃の価格は高いもよう。17発のマガジンを4本持ち込んだけど今回で大半を使用。

TECトーチ・・・特殊部隊などが突入の際に使用する鍵を焼き切るアレ! それの携帯版!見た目はライトセイバーの柄。トリガーを引くと柄のノズルから高熱の炎が噴出される。ガスマスクと一緒に使用してみたい一品!(暗黒卿

M2重機関銃・・・対物ライフルの威力は結構有名かと思いますが・・・この銃、同じ弾薬使用してます!相手は死ぬ。

曳光弾・・・トレーサー。対空砲の弾道観測や 航空機同士での威嚇(領空侵犯時の警告射撃)などで使われている。逆に通常弾は目視なんて出来ないんじゃないかな?

C・A・Rシステム・・・近距離特化の銃技。相手に銃を奪われない、安定した射撃、その他諸々(忘れた)を実現するために生み出された技術。距離に応じて複数ある構えを移行していく姿は映える!

バリスティックシールド・・SHDエージェントが使用する携帯型盾。軽量コンパクト、折り畳み可能な上に対物ライフルの銃弾まで耐えてしまう(現実に存在したら)チート兵器
今回の任務ではエコーは持ち合わせていないが、当然訓練は行っているので代用できるものがあれば遠慮なく使用しようとする。

パルス・・・SHDエージェントが使用するアクティブソナーの様なもの。範囲内の脅威を検出し、各エージェントのレーダー及びモニターに表示する。遮蔽物越しの壁抜きなど平然と行ってくる。



感染者、囚人、テロリスト、少年兵・・・吾輩はMOBである。名前はまだない(今後も‥

フランク・・原作主人公 人外染みた能力を発揮し始めてる(LVUPしたのかな?)過去のトラウマから出来る限り生存者を救出しようと奮闘する一方、無鉄砲な一面も

エコー・・・記憶喪失のSHDエージェント 時折フラッシュバックする記憶に翻弄している
特殊訓練を受けているので強いが、プロレスの様な投げ合いや殴り合いは筋力差がある為避けている節がある。フランクの行動に振り回されたせいでピンチになった。中庭での皮肉は彼女なりの忠告

ケベック・・・回想で登場 青年、エコーと同じ部隊。面倒見がいい
リマ・・・回想で登場 少女 エコーと同じ部隊。癒し枠だが任務中は冷淡
チャーリー・・回想で登場 少年にしてチームリーダー 飴と鞭の鞭役

ブラット・・DHSエージェント 政府の機関だがSHDが更に秘匿された機関の為その存在すら把握していない。エコーの事は不気味と思っている程度。

宝石店の女・・錯乱していた。本作では平和主義の聖人に。エコーと意見の相違が生じた

中庭で追い回されていた女・・彼氏?を3馬鹿に殺された後逃げ回っていたところをフランクに救出されたが・・・・・最後の最後で50口径が着弾して胴体が生き別れした

SHD・・・国が滅びてしまった後に再建の為に設立された組織。今は非公式だがのちに正式に政府の傘下に入る手筈を整えている。秩序が崩壊した世界、エージェントは自身で判断して引き金を引く事を求められている。想定される敵性は暴徒、離反した軍や警察、他国から侵略する正規兵。数名で立ち向かえるように世に知られていない最新鋭の装備を使用するが・・・扱える優秀な兵士がいなかった為養殖する方向に舵を切った 



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day1 とりあえずハワイで親父に習ったと言えばなんとかなる!

とある城とよんでも遜色のない雄大な屋敷の一画で少女と夫人がお茶を交わしながら雑談をしていた。

「どんなことにも教訓はあります。問題は、貴女がそれを見つけられるかどうかなのです。」

夫人の言葉にうーん……と唸る少女。

「私の話から何か教訓を得られましたか?」
教訓好きな夫人は少女に問う。

「えーと……表面上の言葉に惑わさせず本質を見抜く事が重要……かな?」
自信無さげに返答する少女に満足そうに頷く夫人。

「同じ出来事、経験でも何を得られるかはその人次第です。人それぞれに答えがあり、その答えに間違いなんてものはありません。貴女は見て、聞いて、体験して答えにたどり着いた。それは貴重な財産です。ですので他者の悪意ある表面上の嘘、偽りに惑わされないように。」

「はい……もしかして、これも嘘偽りだったりします?」

少女の問いに夫人は答える

「始めにいったでしょう?これは単なる物語だから信じちゃいけないって……例えそれが真実でもね。」

満面の笑みを浮かべながら



「神は人々に必ず一つは恩恵を授ける。それに気付き磨き上げる事で誰しもが芸術家(一流)になれるんだ。」

「自身の武器(特技)を見つけろ。そして、磨け!」

 

 

 

 

難民キャンプというにもお粗末で、たった今組み立てましたと言わんばかりの簡易テントの本部。土と砂の国。

戦争とは、戦いが終わればすぐに平和な生活が訪れるわけではない。

破壊され機能していない町のインフラ(ライフライン)の確保、復旧。無法地帯となったこの地で治安維持を行い住民の安全を確保する。

破壊するのは一瞬だが再建するのは莫大な時間が必要となる。それら(復旧作業)を仕切るのもSHDエージェントに必要なスキルなのだと言える。

自国ではないが度重なる紛争で疲弊したこの国は、エージェントにとっては訓練に適した地といえるのだろう。

 

「食料を配布します。順番に並ばれてください。」

国際ボランティア学生協会という建前(隠れ蓑)で復旧作業を行うメンバーを横目に、土嚢に腰を掛けて足をブラブラと暇そうに遊ばせるエコー。

 

(自身の武器(特技)を見つけろ。そして、磨け!・・・・ね。)

 

住民に食料を配るケベック。負傷者の救護を行うリマ。住民に指示を飛ばしているチャーリー。そして、暇を持て余してる私。

 

(その言葉を言われた後に一人だけ待機を言い渡せれると・・・・ね?)

 

思わずため息が漏れる。

出来る事なら安全な場所で惰眠を貪りたいし、命を削り合う戦闘なんてしたくもない。

しかし、自分だけ待機を命じられると復旧作業では『戦力外』と言い渡されているようで何とも言えない気分になっている。

 

 

まるで甘いお菓子に群がる蟻のように食料配布所へと続く長蛇の列。

誰もが自身の為に食料を奪い合う風景。当たり前となった日常の景色を他人事のようにぼんやりと眺める。

 

(与える者が居れば奪う者もいる。)

 

エコーの瞳にバックを持った男の姿が写った。

鞄の持ち手の張り具合から重量物が入っている事が伺える。

 

(施す者・・・そして、それを良しとしない者も。)

 

長蛇の列を無視し、配給所に向かう男を追うようにエコーは重い腰を上げる。

 

 

ふと、エコーの脳裏にチャーリーの言葉が思い浮かんだ。

 

(特技を見つけろ・・・ね・・・。)

 

きっとこれがチャーリーが私に待機を命じた理由。

私の特技・・・・

 

(私の思い描いたものとは全然違うのですけどね・・・)

自嘲の笑みが零れた。

 

 

SEPTEMBER19 20:40(day1

守衛室

 

 

「おい・・・・アンタ。」

(・・・・?)

 

 

声を掛けられたにも関わらず相手から返答はない。

見回すと、モール内への唯一の出入り口となった大きな空調ダクトの前に椅子を設け、瞑想しているかのように瞳を閉じている老いた警備員。ブラットは合流したジェシーという名の女性のエージェントと共にPCのモニターを眺めている様だ。

室内には忙しく『カタカタ』とPCのキーを叩く音。そして、心配げに此方の様子を伺うフランクの姿が目に入った。

 

「私ですか?」

「ああ・・大丈夫か?鏡を見た後から心ここに在らずって雰囲気だったが。」

 

「ええ・・・少し昔の事を思い出していただけです。問題はないです。」

生ける屍。暴走する市民。状況は特殊だが、エコーにとってはこれまで体験してきた戦場、悲劇たちと比べると然して(さして)思いに残る出来事ではないと言い切れる自信があった。

 

(私は大丈夫・・・・寧ろ、心配なのは・・・)

フランクに近寄り、その瞳をのぞき込んだ。

「寧ろ、貴方の方が大丈夫?」

 

フランクの方が身長が高い為、見上げる形となる。

エコーからは威圧感などは感じない。

見つめ合う2人。

しかし、先に目をそらしたのはフランクの方だった。

 

【挿絵表示】

 

 

(いくら戦場を見て来たとはいえ、目の前で助けようと手を差し伸べた者が()()()()()なんて体験したことはないでしょうし・・・)

知識として知っていると、実際に体験したでは重みが異なる。例え平然を装っていても、ふとした瞬間に最悪な記憶が蘇り、生き残った者を長く苦しめる。

 

「大丈夫だ・・・・「忘れろ、仕方がないとは言わない。それはあなた自身が折り合いをつけなければならないモノですから・・・」

「・・・・・・・」

「ただ、貴方がしよう(助けよう)としたことは間違ってはいない。誇りなさい。それが彼女に対するせめてもの手向けよ。」

「君は強いんだな・・・」

 

フランクの言葉を流し、タイプ音のが鳴りやんでいるジェシーへと目を向けた。

 

 

「状況は?」

「駄目ね、一般帯域は規制中。本部への直通回線も通じないわ。博士は?」

 

「抜け目のないジジイだ、応援を要請してから来いとさ。つまり、博士の保護どころか自分たちの安全すらあやしいワケか・・・。」

 

軍による情報遮断。ネット回線は切断され、電話で使用する中継基地も押さえられている状況。現在、使用できるのは本機同士で直接やり取りの出来る短距離無線程度なのだが…

(暗号化されていない一般通信など・・・当然傍受されているでしょうし。私達のやり取りを遮断しないのは内部の情報を知るためかしら?)

 

モール内の無線を傍受する事で生存者が何人いるのか、負傷者は、武装は、感染者の変化やテロリストの状況など様々な情報を入手していることだろう。

(その為に、敢えて使える帯域を残し泳がせている・・・・そうとしか考えれない。)

 

情報は時として命よりも重い。

仮にも軍事大国と言われている合衆国だ。その程度の事など平然とやってのけるだろう。

だからこそ・・・

 

「これだけの事態なんだ。当局のボンクラだって何か手は打つさ。」

と、口にしたブラットが事態を楽観視してる様にしか見えなかった。

 

「・・・・ヘリが来るぜ。3日後の正午、俺を迎えにね。」

「アテにできるのか?「勿論、俺はそれに乗って帰るつもりだ。」」

 

「・・・・いいだろう。必要経費は撃ちが持つ、博士を乗せてもらえるな?」

「ああ、ちゃんと話を聞かせてくれるならな。」

 

腐ってもジャーナリスト、ブレないフランク。普段なら適当にあしらうブラットだが今回の提示は魅力的過ぎた。

 

「後でゆっくり話してやる。だがその前に、先にかたづける仕事がある。少なくても3日間、ここで待つ必要がある。水、食料、・・・・毛布もいるな。博士を連れてくるのは明日の朝だ。引き続きモニターを頼む。」

 

退出するブラットを追うフランク

 

「貴方は何所に行くの?」

スクープ(生存者)を探しに行くのさ。」

 

勿論、ヘリを当てにしているフランクも・・・

(軍は甘くはない。私達は泳がされているだけに過ぎない。)

状況から察するに、無事にこの町を出れる可能性は限りなく低い。

 

(食料を取りに行ったブラット。生存者を探しに行ったフランク。ならば、私の役割は・・・)

 

再びモールへと戻る為に出口(空調ダクト)に足を掛ける。

 

 

 

 

 

掌に伝わる金属のひんやりとした感触。大きなダクトだが人が通るには狭く、小柄な体躯でも前屈みならざるおえない。反響する音。息の詰まりそうな圧迫感。長く感じる唯一の出入り口。

 

「こんな状況でなければこんな場所ごめんだわ。」

 

感染した者の知能は低く、ダクトを伝って安全地帯に侵入される心配は無いとみていい。しかし、物資の運搬や生存者のエスコートで何回もここを行き来することになると思うと気が滅入るというのが本音だ。

 

開け放たれた点検口の隙間から差し込む月明り。ダクトの終着地点。差し出された手を取り外の世界へ。

 

「わざわざ待ってくれたのですか・・・ブラットさん?」

「ああ、君に聞いておきたいことがあってね。」

 

月明りのテラス屋上。落下防止のフェンスの先。眼下には外灯の並ぶ巨大な駐車場。薄明りの中で蠢く何かがこれまでの惨劇が夢でないと告げているようだった。

「時間は有限です。どうせ目的地は一緒なのでしょう?移動しながら話しましょうか?」

「それで構わない。」

 

屋上からモール内、バックヤードの倉庫へとつながるエレベーターへのボタンを押しながら応答する。

「単刀直入に聞こう。君は何者なんだ?」

「見ての通り。女子中学生です?」

 

エレベーターの到着音。

開くドアと共に溢れ出る感染者。不意を突かれた至近距離での遭遇戦、反応が遅れるブラットとは対照的にまるで弾けるように迅速に行動を開始するエコー。

銃口を感染者の鼻先に向けて鋭い打突、そして密着した状態で引き金を引く。エレベーターの白い壁に赤い華を咲かせる。一人目の犠牲者が倒れこむよりも早くナイフをシース()から抜き放つ。次々と伸ばされる手の筋肉を片っ端から切断。心臓に刃を突き立て、背後の感染者の頭を肩越しにノールックで射抜く。先に脱落した感染者の死体に躓き転倒する者の頸椎を金属で補強された金属ブーツで踏み砕く。

 

「ええ、ただの一般市民です。」

「ただの一般市民は瞬時に6人を射殺しない!」

 

流石に無理があります?ペイントされたエレベーターの中の惨状を見ながら苦笑が零れる。

 

「ほら、これだけ密集してれば適当に撃てば当たりません?」

「そもそも!その銃は何所で手に入れた?合衆国では未成年へ銃を販売するのは禁止されているはずだ!」

 

確かに銃器国家とはいえども未成年への販売は禁止されている。州によって制度は異なるが免許保有者のみに販売、銃器1つ1つを登録、バックグラウンドを調査し反政府組織とつながっていないか等、犯罪に使用されない又は使用された銃器が特定出来るように法整備がなされている。それを当てはめるのなら当然のように銃を携帯しているエコーは不自然という事になる。

 

「アウトブレイクの起きてる状況でそれ言います?」

緊急時の自衛の為といえばそれまでなのだが、その理由では引き下がらないぞという意思がブラットの目からひしひしと伝わってくる。

(納得のいく答えを用意しろとね・・・他のメンバーならスマートに解決できるのでしょうけどね・・)

少なくてもエコーよりも社交性のあるメンバーの顔が脳裏をよぎる。

 

「これは私の物ではなくてパパの物です!緊急事態なので拝借してきたのです!」

「では、何故撃ち方を知っている?随分手慣れた感じだったが?」

「未成年の所持は認められていませんし使用も然り。ただ、保護者同伴やインストラクターと一緒なら問題はないでしょ?ハワイで親父に習ったのさ。」

 

「M2重機関銃の撃ち方もか?」

「・・・・・ハワイで親父に習ったのさ。」

 

ムスっとした表情のブラット。寡黙なイメージだったが案外表情は饒舌なのねと思ってるうちに自然と口角が上がってたようだ。

更に不機嫌なオーラを放つブラットを無視して先へと進む。

 

(残り11発・・・)

明日、博士を迎えに行くにしても安全を確保するために武器が必要になる。フランク達みたいに身近な物を武器に出来るのなら話は別なのだが・・・

少なくても私には銃器、弾薬が無いとこの先、生き残るのは難しい。そして、モール内に逃げ延びた他の生存者も同じ結論に行きつくだろうことも。

消費される物資、弾薬。確保するなら今しかないない。

 

 

 

 

SEPTEMBER19 21:50(day1

ノースプラザ N127 Huntin' Shark前

 

オープンしたばかりのショッピングモール。

テナント募集の空きスペースや改装中の店舗が多く立ち並ぶノースプラザ。その影響か、他の区画と大きく異なり通路にも作業用の足場や工具、木材等が多く放棄されたままだ。

本来ならば安全上の理由で乱雑に置かれたそれらは咎められるべきの物だ。だが、今回の状況においてはそれらを活用することができる。

 

「奴らには足場へと昇る知能はない。有難く使わせてもらうぞ。」

先に3m近く高さのある足場によじ登ったブラットが身を乗り出してエコーを引き上げる。

 

「目的地までどのくらいだ?」

「N127ですよね・・・先の通路を右に曲がって突き当りですね。もうすぐです。」

 

目的地はN125 Huntin' Shark 

MAPで店舗名と位置を確認しただけなので実際にどんな店舗かは分からない。

 

「銃器店だと思います?」

「・・・でなければハンティングシャークなんて大層な名前は付けないだろう。」

 

それもそうねと返すエコー。先に店舗の扉を開け、侵入するブラットを追い店内に足を踏み入れる。

カウンターには散弾銃を構える店主と思わしき男。そして、何やら店主と揉めている一般市民の姿が合った。

 

「先客?」

「そのようだ・・・」

 

ゾンビの徘徊するこの状況。

優先順位の高い物は水、食糧、安全な場所。そして脅威を排除するために必要な()()

生き残った生存者が武器を求めて銃器店に来るのは当然だと思える。

 

「ゾンビと闘うには銃が必要なんだ!」

生存者の訴えへの返答は銃声だった。天井に向け放たれた銃弾。内装を破壊しパラパラと残骸が降り注ぐ。

 

「来るな!ゾンビなんかよりも生きてる人間の方が信用ならんのだ!」

「話し合おう!」

 

店主は此方に散弾銃を向けたまま。居合わせた男性の説得に応じようとしない。

 

「タイミングの悪い所に居合わせたようですね……戻りましょうか、ブラッドさん?」

「おい!?銃は……?」

 

制止を無視して一人店内から出るエコー。いまだに硬直状態の店主と男性の顔を見渡す…

目の前には銃と弾薬、言い争っている2人の男性、店の外には大量のゾンビ。そして、正体をあかさないが見た目だけなら中学生くらいの少女。

少女を一人、ゾンビを群れの中へ向かうのを見届けるのか?

目の前の(武器)と良心を天秤にかけ……やがて諦めた様にブラッドはエコーを追って外へ出る。

 

「何故?」

勝手に去ったことを咎めるブラッド。気持ちは分かる。

 

「ブラッドさん……貴方にとって()()()()()()とはどの様な人々をさします?」

 

「軍服を着、銃で武装した人を一般市民とは呼べない。では、私服を着た人々は無力な市民と言えるのでしょうか?」

 

「例えば火炎瓶を持った市民を射殺したとして、報道陣は()()()()()()()()()()()と報じるでしょうか?」

 

銃を持った戦闘員だけが敵勢力とは限らない。

投石でも人を殺す事は可能だ。そして、部隊の所在地等の情報を敵勢力にリークされたら壊滅的な打撃を受けることになる。

何処までが敵で、何処までが無視しても問題ない存在なのか、近年になり識別が困難になりつつある。ならば先ほどの店主は?

 

「今回の店主はどう見えました?彼の立場からは、私達の方がアウトブレイクに託つけて商品を強奪しようとしている暴徒と見えたのではないでしょうか?」

 

「緊急事態ならば何をしても赦される訳ではない。それに彼はまだ()()を越えていない守るべき市民なんですよ?あの場に残って一体何をしようとしてたのですか?」

 

振り返る少女。

その顔には何の感情も込められていない。

ただ、その瞳だけは淡々とブラッドが()()()()()()()()()()()()()()()()どの様な手段をとっていたのか……それを咎めている様に感じた。

 

「厳しい闘いになるぞ?」

非協力的な市民、消費されていく弾薬、調達の目処はない。

 

プロ(エージェント)なのでしょう?ブラッドさん……最善を尽くしましょう……」

 

再び前を向き歩きだす二人。

 

(状況は悪化する一方。だけど、まだ()()ではない……。だから……今はプロらしく立ち振舞いましょう……()()…………ね。)

 

 

 

 

 

 




ブラッド……(名前ブラットだっけ?)エコーの事をめっちゃ怪しんでる!他国、又は反政府組織により特殊訓練を受けた少年兵と予想

エコー……正体隠すのが面倒に思えてきてる。ぶっちゃけ正体を明かすしても良いけどチグハグな設定でブラット達をおちょくるのが楽しく思ってる。

店主……市民「銃をよこせ!金は払わん!」 店主「だが、断る!」

銃器店の市民…一人置き去りに。その後お察し。


というわけで!ほのぼのストーリー、準備回!サイコパス戦はもう少し先の予定かな……フランクさん視点とかやりながら進めていきます!(エコー強くしすぎてゾンビが空気になりつつあるw)

前作のですが誤字報告ありがとうございます。自分では中々気づきにくい……今作も多分…一杯あるんだろうな……( ;´・ω・`)
チラシの裏から通常投稿に移動……好みにささる人居ればいいな~


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day1 ざらついた共感覚

『ブラット!聞こえる!?』

突然鳴り響く無線、ジェシーの声からは焦りと苛立ちが感じ取れた。先程、銃器店での銃声を聞き付けたのか徐々に細い通路に侵入しつつある感染者。無駄な戦闘を避けるように改装中の店舗へ2人は入った。

 

「トラブルか。何があった?」

 

商品の陳列どころか内装すら施されていない、がらんどうな店舗の中を通り感染者を避けて大通りへ。立ち止まることなくブラッドが何事かと無線機へ状況を確認する。

 

『オティスさんから聞いたの「誰だそいつ?」あー……守衛室の警備員の方!……とにかく!このモールの照明は22時に自動的に消灯するように設定されてるの!』

 

ブラッド、そして無線のやり取りを隣で聞いていたエコーは同時に自身の腕時計を見る。

 

「後、2分しかないじゃないか!!どうして重要な事を今になって言うんだ!!」

 

『私だってさっき聞いたばかりよ!照明の設定の操作は此方ではおこなえないみたい……』

 

19時を越えた辺りから感染者の動作は、より狂暴に、より俊敏になってるように感じられる。最も元々が緩慢な動きの為、誤差範囲でしか感じ取れないのだが……。だか、その状況で視界が制限されればどうなるのか?

 

「………ああ、此方は此方で何とかする。ありがとう」

 

無線に返答しエコーへ振り返るブラッドに状況は把握したと頷き返すエコー。

 

「聞いての通りだ、もうすぐモール内は闇に包まれる。この状況で行動するのは危険だ。君は安全な店舗に立て込もって、朝になるまで待て。」

 

危険をおかしてまで活動する必要はない。時には待つことも重要なのだとブラッドは少女に言い聞かせる。

 

「その言い方だと…貴方は一緒に行動するつもりはないのですね?」

 

「ああ、銃器店の店主の件もある。出来るだけ早いうちに物資を確保しておきたい。」

 

仮に生存者が居たとして、全ての人々が助け合えるとは限らない。中には貴重な弾薬や食糧を独占しようとする者も必ず出てくる。ならば、そういったもの達が占領する前に必要な物資を集めておきたいとブラッドは説明した。

 

「それなら私も手伝った方が良いのでは?」

 

「気持ちは有り難いが……はっきり言って足手まといだ。これから先は命の保証は出来ない。ここは大人に任せて子供は寝る時間だ。」

 

朝が来れば迎えに来るとエコーに告げるブラッド。

 

「貴方みたいな大人がこの世界に多ければ……もっと世界は綺麗だったのでしょうね…」

 

ブラッドには聞き取れない声量で呟くエコー。

それは、子供達を訓練と称し実弾飛び交う戦場へ送り込んだもの達への苦言でもあった。

 

「本部の糞共も彼の爪の垢を煎じて飲んで欲しいわ。」

 

エコーの行動は現在記録中。勿論、この愚痴もしっかり記録されているのだが……こんな町に私を送り込んだのだ、この程度の愚痴くらいは溢す権利があるとエコーは開き直っていた。

 

 

「分かった。気をつけて。」

 

「君も。この辺は改装中の店が多い。バリケードを作りやすいと思うが一人で大丈夫か?」

 

心配そうに少女に問うブラッドに表情筋があまり機能してないが精一杯の笑顔で問題ないと返すエコー。

そして2人が互いに背を向けた瞬間、モールは闇に包まれた。

 

 

SEPTEMBER19 22:45(day1

ノースプラザ連絡通路

 

絶食した際の人の活動時間はどのくらいなのだろう?

食料を摂取せずに餓死するまでの時間は一週間程度と言われている。

水分を補給しなかった場合の生存可能時間はさらに短く、およそ3日。

 

(既にこの町でアウトブレイクが発生して2日目が終わろうとしている・・・・このまま時が過ぎれば自体は収束へと向かう?)

 

未だに原因の分かっていない感染者達。現時点で分かっている事と言えば、痛覚が鈍く異常な打たれ強さがある事、店内の食料に関心を示さずに人肉を求めさ迷っている事、感染経路は血液・唾液などの体液を通じた接触感染であること。

 

(いいえ・・・状況を楽観視しない方が良いわね・・・)

 

ただでさえ異常な事態、何が起こるか分からない。

 

(だからこそ、武器が必要になる。)

 

持ち込んだ弾薬は残り僅か。中庭で鹵獲したM2重機関銃は携帯するには重すぎる為、弾薬を抜いて無力化するしか方法はない。となれば、最終的には現地の武器になりそうな資材を使用して戦うしか手段がなくなってくるのだが・・・

 

『バキッ』という破壊音と共にロッカーの扉をこじ開ける。

ここは巨大なショッピングモールだ。買い込んだ商品の入ったカートをゴロゴロと押してモール内を歩き回るには不便すぎる。その為このモールには、駅前に設置されているような荷物を仮置きするためのコインロッカーかサービスカウンターが存在している。()()()片っ端からバールでこじ開けていく。

 

それなりに音は鳴るが問題はない。消灯時刻を過ぎ、常備灯の薄明りしかない静まり返った店内。客引きの為のBGMもない静かな空間だが、先ほどから隣のエリアからライドマシン(室内ジェットコースター)が猛スピードで行き来しているのでその騒音に導かれるかのように感染者が隣のエリアへと集まっているようだった。

 

(理由はなんであれ私にとっては都合がいい。)

 

感染者が連絡路を渡り、隣のエリア(ワンダーランドプラザ)へと赴こうとしている様をエコーは横目で捉えた。

(あ・・・・これ、私の真後ろ通過するじゃナイデスカ・・・・)

 

現時点で感染者について分かっている事がいくつかある。

ロッカーにバールを差し込んだままの態勢で動作を停止する。

(彼らは音と視覚で捕食対象を認識している。)

 

ゆっくりと近づいてくる感染者。

(そして、嗅覚は大して役目をはたしていない。)

 

既にモール内では死肉のような腐敗臭、汚物や胃酸などを混ぜ合わせたような強力な刺激臭が立ち込めている。嗅覚が優れていればいる程この匂いは致命的なものとなる筈だ。

 

(多分・・・多分!!)

 

エコーの後ろで感染者が立ち止まる。

無意識にバールの持つ手に力がこもる・・・

脳裏には(まさか、蛇の様にピット器官(赤外線感知器官)があるのではないか?)と浮かぶが、そもそも人間に備わっていない機能が感染することで追加されるはずがないと否定する。

 

(音で集まり目視で捕食対象を判別する。ならば、そのどちらも発さずに徹底的に人としての気配を外部へと漏らさなければ、感染者にとって()()()ゴミ箱や観葉植物などの障害物としか認識しないという事・・・・)

と願いながら感染者が通過するのをひたすら待つ。

周囲を見渡し・・・・再び隣のエリアに足を進める感染者を視界の隅に捉え、エコーはゆっくりと息を吐きだした。

 

(息を殺すどころか呼吸するのも忘れてましたよ!・・・と!)

 

十分に感染者が離れた事を確認し、破壊音と共に扉をこじ開ける。そして中身を確認し、ビンゴとばかりに少女は口元を緩めた。

この国では銃の販売が許可されている一方、犯罪に使用された銃は持ち主が特定できるようにな仕組みになっている。ならば、何故銃を使用した犯罪は減らないのか?

 

仮に銃を購入した本人が事故や病気などで死亡したとする。そして10年間ほど登録者の居なくなったまま放置された銃は書類上所有者無しの存在しない銃となるのだ。

更に、バレルなどの部品を入手して交換した場合も同様に、施条痕が登録情報と異なる為に捜査の手が当人まで行きつきにくくなるという背景がある。

 

「そして、個人間の銃の売買は合法ってね。」

 

それらの銃には一定数の需要があるものだ。そして、買手や売り手にもお互いに接触したくないという心理がある。

そこで使用されるのが金額を受けっとった後に銃の保管場所(ゴミ箱)を教えるや、()()()()のカギを渡すなどだろう。

 

中に保管されてたM1911ガバメントのコピー品を取り出し、まるで息をするかのような自然体で遊底の嚙み合わせ、チェンバーチェック、引き金を引き一連の動作確認を行う。

この銃の使用目的は予想通り使い捨て。トリガーは堅く、遊底にはカタつきがある。命中精度には期待は出来ないといったところが正直な感想。

 

(あるだけマシですけどね。)

(50発入り1箱、空の7発装填弾倉が2つ、そして本体)

 

シングルカラムマガジン(単列弾倉)の為、握りやすい。総弾数が複列の物に比べて著しく少ないのは致し方ないと思いましょう。

素早く弾を弾倉に詰め込んで、初弾を薬室に送らずにそのままポーチの中にしまう。

 

 

『フランク、聞こえるか?ワンダーランドのライドマシンが暴走している様だ。手が空いてるなら様子を見てきてくれないか?』

『すまない。今生存者と共にセイフルームを目指しているところだ。送り届けた後に向かう。ブラット、先に行けそうか?』

『ああ、聞こえてる。こちらも物資を積み込んだカートで手一杯だ。そちらには迎えない。』

無線のやり取りがイヤホン越しに聞こえる。

 

『それと、同じくワンダーランドプラザだ。男女2人組がシューズ店に逃げ込んだのを監視カメラで捉えた。男の方は酷いけがをしている様だ。手を貸してやってくれ。』

『ああ、後でな。』

 

圧倒的な人手不足、そして民間人の保護が私達の主要任務ではない。

(ワンダーランドプラザならこの近くか・・・)

 

かと言って見捨てる道理もないか・・・

依然として感染者の注意を集めている暴走するライドマシンの方へエコーは足を向けた。

 

 

SEPTEMBER19 23:10(day1

ワンダーランドプラザ (フランク

生存者を守りながらゾンビ達をかき分けてセーフルームを目指し、休憩もろくに取らずに再びモール(地獄)の中へと舞い戻る。

足を止めればゾンビ達が群がり、バットを振る手を止めれば組みつかれる。バリケードを作り立て籠もる生存者を嘲笑うかの様に群がり破壊して生存者を捕食するゾンビ。

時間、そして人手が足りなかった。

 

「あんた!戦えるよな?一緒に生存者の救出を手伝ってくれ。」

「あんた正気か!?あんな地獄に戻るなんてまっぴらごめんだよ!」

 

命の保証などない。故に、ごく自然の反応だった。

誰しもがせっかく助かった命を他人の為に消費しようとは思わないものだ。

 

「あ~あんた。頑張れよ!世の中、良い奴ほど先に死んでいくからな。」

 

テロの標的になりやすい医療機関の者達・・・良い奴だろう。国民を守る為に戦う兵士達もまたいい奴だと言える。

先に死んでいく?当たり前だ。他者を守る為に矢面に立てばそれだけ自身に降りかかるリスクも増える。

 

「なあ、お前さん。それで引き篭もって生きながらえたあんた等は・・・いや、何でもない。」

救う価値のあった人間だったのか?自らが安全地帯に辿り着いた事を良いことに、まるで他人事の様に協力を拒む住人達にフランクは心の中で問う。

 

(関係ない、救出は俺の矜持の様なものだ。)

セーフルームでのやり取りを思い出しながら連絡のあった靴屋へと踏み入れた。

(ここには男女2人か・・・)

 

「やめて!撃たないで!!」

微かに聞こえる声。天井付近まである靴の入った箱が並べられた巨大な棚に遮られ声の主の姿は見えない。そして直後に銃声。

 

ーー穏やかじゃないーー

つい数時間前に遭遇した囚人達、自身に向けられた銃口の忌まわしい記憶が嫌でも脳裏をよぎった。

片手に持ったリボルバーの撃鉄を上げる。棚と棚、一列ずつ素人ながらも警戒しながらクリアリング(索敵)を行い生存者を探す。

 

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"」

 

「何があった!?」

店舗の最奥、フランクは人影を捉えた。声の方に駆け寄るとそこには泣き喚く女性、横たわる男性の死体。そして、見知った少女の姿だった。

 

 

「おい!何があったんだ!?」

 

「ぞい"づが!!わ"だじの"がれ"を"ゔっだ!!」

「彼は自身の意思で幕を引いた。」

「ぢがう!あんたが銃を彼に渡さなければ彼が死ぬ事は無かった!!」

 

一方は殺人と言い、一方は自殺と説明する。

2人の女性の訴えには相違があった。

こと切れた男性の骸の手には銃が握られておりエコーの言う通り()()と見受けられる。

 

「・・・・はぁ。」

 

「ええ、まだ()()でしたね。数刻前までは。」

「あんたが殺した!あんたが!あんたさえ居なければ!!」

一向に収拾のつかない状態。エコーからため息が漏れたのをフランクは見逃さなかった。

 

「それで、フランクさん。物騒な()を降ろしてくれませんか?」

「そいつを殺して!!」

 

銃を構えたままという事に気がつき、言われるがまま銃口を下げる。

 

「何があったんだ?」

「何もありませんよ・・・感染者が死亡した。それだけです。」

「その人殺しを撃って!!」

 

「・・・・彼女はこう言っているが?」

「・・・・・」

「彼自身が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言ったのは貴女も聞いていたでしょう?」

心底うんざりした様な表情で少女は続ける。

「彼自身が望んだことです。」

「余計なお世話よ!」

「私は彼に食べられても良かった!彼と共に死ねるのならそれでも良かった!それなのに私の大切な人を奪っておいて助けてやったみたいな感じで言うな!」

 

返答する事無く男性の遺体に近づき、その手の中にある銃を拾い上げるエコー。

弾丸が薬室に装填されてる事を確認し、喚く女性に問う。

 

「面倒くさいのですよね・・・・なら、貴方もここで死ぬ?」

 

「待て!」

再び持ち上げられる銃、銃口は女性に向けられていた。

 

「ここは自由の国です。貴方の意思を尊重しますよ?」

「見た!?これがこの女の本性よ!薄汚い糞女!」

「落ち着け!!」

「いいから!銃を下ろすんだ!彼女は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

彼女はゾンビではない。ましては囚人達のように危害を加える様な人間でもない。善良な()()を殺していい筈がない!

全く背景の見えない少女。

その立ち振る舞いは銃を向けられ取り乱す女性とは対照的。

向けた銃口は全くブレることはない。ここでフランクが説得を誤ると何の躊躇もなく引き金が引かれる光景が容易に想像が出来た。

 

 

「彼女は暴徒でも、テロリストでもない?」

「そうだ!彼女は善良な市民だ!ゾンビのように簡単に殺していい存在じゃない!」

 

()()()・・・の間違いじゃない?」

「恋人が目の前で死んだんだ暴言は見逃してやってくれ。「なんでその女を撃たないのよ」あんたは黙ってろ!このヴぁか女!」

 

エコーは少し考えた後に銃を下ろしポーチにしまいながらフランクに問う。

心なしか口角が上がっていくように感じる。

 

 

 

「ところで・・・()()()()()()()()()()()()()()()?」

「ああ!その通りだ!俺達が無事に脱出するためにはお互いの協力が必要だ、それはエコー・・君も分かるだろう?」

 

「・・・・・・」

 

少女は両手を口元の前で合わせる。

手で隠れた口元、その端がまるで三日月のように上がってるのが見える。

 

「私はずっと疑問に思っていました。貴方のおかげで答えに辿り着けそうです。」

「?」

 

「戦えば傷つき、傷口からは血が溢れる。」

「呼吸し、心臓は動いてる。そして、救いを求めてる。」

 

「ああ、俺達は生きている。「それって、貴方達の言うゾンビと何所に違いがあるのです?」

その声には皮肉でもなく嘲る音色は含まれていない。唯々、答えを知らない子供のようにとても澄んだ目で少女は問う。

 

「貴方達が躊躇いなく()()しているゾンビですが・・・・なんで、その血はこんなに温かいのでしょうね?」

「彼らも生きている。そして自らの衝動を抑えることもできずに町をさ迷い、今も助けを待っている。私は善良な市民だった者達を()()()()()。それでは、もしも・・・特効薬が開発されて元の人間らしさを取り戻すことが出来るとするならば・・・完全に彼らの命を刈り取ってる私達はどうなるのです?人殺し?殺人鬼?それとも、英雄(殺戮者)?」

 

・・・それは、考えないように思考の片隅に追いやっていた事。ゾンビ・・・既に人間ではなくなってしまった者、殺すしか手段がないと自らに言い聞かせる為に無意識のうちに人という認識から除外していた心情を指摘され言葉に詰まる。

 

「・・・ほかに方法は無かった。」

 

助ける方法は現時点ではない、自身を守ってくれるのは力だけ。殺人はいけない事だ、だからと言って無抵抗のまま食い殺されていい筈がない。

 

「でしょうね。身近にあった法律や道徳は無用の産物と化し、私達は自身の判断で引き金を引くしかこの町で生きる術を知らない。だからこそ貴方に聞きたい。死にたいと願う者に私達が血を流して救う意味はあるのかと。」

 

少女は先ほどまで言い争っていた女性に目を移す。

 

 

「彼女は「大丈夫ですよ、今更彼女をどうこうしようととは思ってません。」

「ですが、よく考えてください。今は自身達にとって不利益になるか否かで善悪を決めてる状況です。彼女のとった行動は果たして如何なものなのでしょう?」

 

先程死にたいと豪語していた女性は、自身に銃口を向けられたことに青褪め「死にたくない」とうわ言の様に呟くだけ。

言い換えるなら悲劇のヒロインの様に振舞い、同情を買い、フランクを煽ることで自身の手を汚さずに相手を害しようとした・・・と少女は語り掛けるようだった。

--それでも俺は生存者を助ける--

 

そうですか、と告げ先に店を退出する少女の背中を見送った。

 

ーー俺も答えが知りたいよ。狂ってるのはこの街なのか、それとも俺達なのか?ーー

 

 

 

 




ブラット・・物資集め担当「一番気に入ってるのは・・・・値段だ。(強奪)」

ジェシー・・居眠り警備員から消灯時間を聞き慌ててブラットに連絡(原作では警告すらなかったw)戦闘中に連絡入れてくる警備員の代わりに今作ではジェシーさんの出番を増やしたい!

靴屋のカップル
男・・・原作では女性を庇って怪我をしたとあるですが今作では庇って咬まれたとなってます。時間が残されていない事、セーフルームに辿り着いたところで助からない事を踏まえてエコーの説得を拒否し、最終的には自殺。(原作では会話しておけば助かる人、銃を渡すと死亡するので注意!)

女・・・自身のせいで怪我を負ったという罪悪感を上書きするかのように執拗にエコーを責めるようにな行動をとる。一種の防衛反応ともいえる。

フランク・・・片っ端から生存者を集めようとしたため統率が撮れておらず協力を拒否されている状況。ゲームではセーフルームに辿り付けれればクリアだが今作ではその後の人間関係に苦労している。

ゾンビ・・・ゲームで鉄パイプを刺した際に大量の出血をして死亡するように、バイオハザードの様に完全な死体が歩くとは別の状態。生きている人間が自我を失い暴走している様なもの。認知能力の低下、嗅覚、味覚はほとんど機能しているとは考えられにくい。
視覚、聴覚で対象を捕捉しているが、そもそも認知能力が低いのでポンコツ

エコー・・とある特殊部隊隊員。首元に鈴をつけているが戦闘行動中も鈴の音が鳴らないくらいの身のこなし、隠密行動に長けている。ゾンビの行動を観察し、周囲に同化することで無用な戦闘を回避している。(ゲームでフランクさんがゾンビに成りすます回避スキルに似たようなもの)

ライドマシン・・・次話!

作者・・・生存者は経験値!他に理由があるのかね?というクズムーブ。良心の欠片もない一番のサイコパスはこちらになります!(ドヤ
久々に原作を購入&プレイしましたが楽しいです★

絵師様・・・友人にして作者の無茶振りに応えてくれる神!足向けて寝れないね!
原作を参考資料としてプレゼント!ゾンビパラダイスに招待しました(;'∀')

とりあえず投稿!誤字見つけ次第修正していきます!


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ECHO

1日目最後!


「いらっしゃいませ!お客様。本日はご来店いただき誠にありがとうございます!」

 

ニコニコと店舗に足を踏み入れた客に、愛想よく挨拶をする店員。

鏡の様に磨き上げられた床、透き通るようなガラス戸

半ば暴動の最中の様に荒らされた外の店舗とは打って変わって、ここ(Seon's)は整然としていた。

 

「ですが・・・大変申し訳ございませんが当店の営業は22時を持ちまして終了しております。」

 

あたりを見回すと店員の言葉通り、大半の照明は消灯されていた。

誘導灯と飲料水や冷凍食品の入ったガラス張りの冷蔵庫の明かりしかない薄暗い店内。

 

「またのご来店をお待ちしてます・・・」

 

モップを片手に眉を下げながら頭を下げる店員・・・

普段通りの対応・・・

まるで店舗の外で起こっている惨状が全く目に入っていないかのような対応に一種の不気味さを感じる。

 

「えっ・・・・非常事態?合衆国政府のエージェント・・・!?」

 

状況が呑み込めていない店員に簡潔に身分を明かす。

 

「私に協力してほしい・・・デスカ・・分かりました!本日は何をお求めで?」

 

店員は暫く考えこんだ後、切り替えたように笑顔を振りまく。

 

「ふむ・・・食料品・・・調理の必要のないものですか。当店は食料品は勿論!洗剤や雑貨などの日常品も幅広く取り揃えておりますよ~!保存食もございます。」

 

籠を2つ入れた大型のカートを押しながら、案内する店員の後を追う。

 

「保存食と言えば軍人の方が思い浮かぶのはコンバットレーション・・・つまりMREかと思います。レーションは合衆国で生まれました、日本の発明品ではありません。暫し遅れをとりましたが今は巻き返しの時です。」

「おや。レーションがお好き?結構!では、ますます好きになりますよ~」

「ささ!持ってみてください。」

 

手渡された缶詰を眺める・・・・

 

「レーションと言えば保存性を最優先に作ってしまった結果、それ以外のものが欠如してしまったという事が多々あります。ええ、仰る通り塩辛いや薬草の味が強いって感じですね。また、大戦時には食糧難から小麦とオガクズを混ぜたパンを作ったを支給するなどもあったと聞きます。マカノッチー?お客さんよくご存じですね・・・確かに、殺人級にマズイと評判のものも存在しましたね・・・」

 

「ですが時代は進歩しました。お客さんが持っているのは缶パンです。美味しそうでしょう?」

「ああ、仰らないで。乾パンを思い浮かべたと思いますが食べれば口の中はパサつくわ味は単調だわ碌なことはない。1つ開けてみてください、いい匂いでしょう?余裕の味だ。品質が違います!缶詰に密閉されている割にはしっとり、ふわふわ。これさえあれば1日3食で2週間以上常食は控えるべきと言われたMREともおさらばです。」

 

「随分商品に詳しいですって?ありがとうございます。ええ、勿論です。プロですから。」

 

ーーーーーー

 

カートに大量の水と保存食を入れた客、そして店員。

 

「お買い物は以上でしょうか?では、6番レジへどうぞ。」

 

ふと立ち止まる客

「?」

首をかしげる店員

「・・・・・・一番気に入ってるのは・・・・」

「なんです?」

 

「値段だ」

突如、出口の方へカートを押し、走り出す客に店員は慌てて後を追う。

 

「ああ、何を!?会計を終わらせないと駄目ですよ!待って!止まれ―――!!」

 

盗難防止のゲートをカートが通過し、防犯ブザーが店内に木霊する。

出入り口には、まるで盗人の逃走を援護するかのようにゾンビ達が群がり、道をふさぐ。

店内になだれ込むゾンビ。

 

「マイ・・・・・ストア・・・・」

 

倒される商品、荒らされる店内。

 

「マイ・・・・・・・」

長い間、夢だった。

自身の店舗を持つこと・・・他店に潰されないように仕入れる商品に気を使い、職員にも接客のあり方を教え込んだ。

モールのテナントの権利を勝ち取り軌道に乗ったと思った矢先だった。

盗人、暴徒・・・営業妨害。

こんな事があって許されるのか?

否。断じて否。

オーナーである私がこの店を守らなければ一体誰が店を守る?

「ストア!!!」

 

ーーーーーーー

 

 

「落ち着いたか?」

「ええ・・・・一通り泣いたから。」

「彼は勇敢に戦った、アンタを守る為にな。そのアンタが自ら死を望むことは彼の想いを踏みにじる行為だと考える。アンタは生きてこの町を出なきゃいけない・・・そうだろう?」

 

フランクは最後に物言わぬ亡骸を一瞥、立ち上がり店舗の入り口へと歩き始めた。

 

「ええ・・・そうね。」

「トーニャよ」

「俺はフランクだ。」

 

「守衛室に生存者を集めている。今からあんたを案内するが、その前にやっておかないといけない事があってな。少し付き合ってくれ。」

先ほどの靴屋から暴走するライドマシンの乗り場まで、そう遠くはない。先ほどの銃声に釣られたゾンビを警戒しながら通路の様子を伺うが不気味と思えるくらい周囲には感染者の姿は無かった。

・・・・何かがおかしい。

ライドマシンが暴走することも、音に呼び寄せられるはずのゾンビが周囲一帯に居ない事も。2階通路の端に転がっていた血の付いた人形が不気味さを際立てる。

フランクは近くの服屋(Kokonutz Sports Town)にトーニャを待機させて、一人ライドマシンの制御盤へと向かう。

 

カラカラと音を残し猛スピードで乗り場を通過していくライドマシン。

かなりの騒音を出しているにも関わらず。

 

「誰も居ない・・・か。」

 

制御盤の正面に立ちライドマシンを停止させようと手を伸ばした矢先、背後から笑い声が聞こえフランクの動作は硬直した。

甲高い笑い声。エンジン音。振り返ると()()はいた。

 

「駄目だよオジサン。」

 

回転する2つの小型のチェーンソーをまるでお手玉をするようにジャグリングしながら音の主はフランクに近づいてくる・・・

赤毛、アフロのカツラ、ちょこんと乗ったシルクハット。緑と黄色の独特な形状をした服。そしてペイントの施された顔に、中央の目立つ赤い鼻。

 

「みんなが僕で楽しんで・・・・僕も皆を楽しませたのに・・・なのに皆は・・」

くぐもる笑い声。泣きながら笑うピエロ。

「ゾンビが皆を食べちゃった!」

 

徐々にフランクに近寄り・・・通り過ぎた。

制御盤を背後にピエロは笑う。

 

「だけど皆は幸せさ。マシンに乗ってチョーご機嫌!」

 

猛スピードで通過するマシンに自然と目がいった。

胸元に大きな穴が開き、物言わぬ人形になった物が2つ・・・マシンの席にあった。

 

「だからマシンは止めさせない!」

「止めたらゾンビがすぐにでも皆に追いついちゃうからね!」

 

話し合いなどする段階はとうに過ぎていた。

小太りな体型からは予想できないようなフットワークでフランクの元に飛び込むピエロ。それに応じるかの様に踏み込むフランク。

振り下ろされる凶器よりも早くフランクの拳はピエロの腹部へと刺さる。

 

パンッ!という破裂音と共に空を舞うピエロ。

 

(やったか!?)

その問いの答えはフランク自身が分かっていた。

重力を感じさせないような滞空時間、ピエロはくるりと空中で回転し、危なげなく地面へと降り立った。

 

(先程のは中の詰め物が弾けた音か)

小太りの様に見せかけていたそれは今は無くなり、ダボダボな服だけが際立っていた。

 

(それに・・・あの感触は・・・)

詰め物の後ろにあったのは鋼の様な筋肉。

フランクの額からツゥーっと冷たい汗が流れ落ちる。

まともに相手にしたらいくら命があっても足りはしない。そう、フランクに感じさせるには十分な初手であった。

 

暴走するマシンを挟んで睨み合う人。

堪らず44口径リボルバーに手を伸ばすフランク、それと同時に走り始めるピエロ。

 

わずかな助走でコースターのレールを跳躍するピエロ/リボルバーのグリップに手を伸ばし引き抜くフランク

 

着地と共に前転し衝撃を逃がす/銃のサイトがポケットに引っ掛かかった感触に苦虫を嚙み潰した表情になる

 

前転の勢いをそのままに、チェーンソーをクロスさせフランクに目掛け切り込んだ。

 

 

己の不利を悟ったフランクは銃から手を放し、脚力任せのローリング(前転)で迫る鋸を回避する。

一瞬の攻防。逃げ遅れた靴底を舐めるように回転する鋸の歯が通過する。

 

フランクはすぐさま体制を立て直し隙を見せまいとピエロに向き直る。

(足に違和感はない、銃は何所に行った!?)

 

幸いフランクの靴を掠めるだけにとどまった事の安堵。

そしてポケットの中にあった筈の感触が喪失してるしている事に気づく。

 

(奴は接近()さえ気を付ければ問題ない)

致命的なのはチェーンソーによる斬撃、そして鍛え抜かれた体による体術。

裏を返せば強力な遠距離攻撃手段は無いと言える。切り札(44口径)は此方にある。

銃が人間にとって必殺であるように、このピエロも放たれた銃弾を避けることは出来はしない。

着弾したら最後、熊をも倒す事が出来る威力だ。いくら鍛えていようが関係ない。

 

相手の動きに気を付けながら銃を探す。

視線をピエロから外そうとした矢先に視界の片隅にナイフを取り出すピエロの姿が写った。

 

舌打ちをしながら再び飛び込み前転をせざるおえないフランク。

投げナイフから逃れるように近くの店舗に飛び込んだ。

 

「何なのよアイツ!」

「いい質問だ、トーニャ。あれは未来から来た殺人ロボットさ!違うのはシュワルツェネッガーが主演じゃない事くらいさ。」

「面白くもねぇし、笑えねぇ。勝算はあるの?」

 

フランクが元居た場所には深々とナイフが刺さっていた。()()()()()・・・

まるで回避するフランクの後を追うように1本、2本。もし3本目が放たれた先に店舗のショーウインドウが無ければフランクは今頃、痛みでのたうち回っていたところだろう。

硝子に深々と刺さったナイフを引き抜き、己の武器にする。

 

「2階の通路のどこかに銃が落ちてる筈だ!時間を稼ぐから見つけてきてくれ!」

 

店舗から飛び出しピエロに相対する。

的確かつ強力な遠距離の攻撃手段があると分かった以上トーニャが切り札を探す間、自身が安全を確保してやらなければならない。

隙を与えないように接近戦。手元にナイフがあるだけ先程よりは状況がマシになったと言えるだろう。

 

接近の際に投げナイフの狙いをつけさせない様にジグザグに・・・かつ速度を落とさないように最速で詰め寄るフランクに鋸を振り下ろすタイミングを合わせるピエロ。

至近距離で飛び散る火花。防御に使ったナイフは回転する刃に弾かれてフランクの手から離れた。

 

だがそれで十分だ、懐に入ってしまえば切り込む事は元より、殴る事すらままならない。

それは自身にも言えることなのだが・・・突撃する側には大きな手段が残されていた。

全身の重量、脚力を使ったタックル。そのエネルギーを肘を突き出すことで一点に集中させて相手の鳩尾に見舞う。

肘に伝わる衝撃、それだけでは足りないと更に踏み込み突き飛ばす。

 

床の上を転がるピエロを追うように再び助走をつけるフランク。口から血を零しながら鋸を体の前で交差させ防御態勢を整えるピエロ。

全体重をかけた飛び蹴り。

 

もしこの場にエコーが居合わせたのなら・・・

武器を持った相手に対して素手で挑むのは愚策と言っただろう。

それが()()()()()()()と・・・

 

ーーーーー

 

鋸を持ったピエロ…アダムは迷っていた。

戦闘が長引くほど頭の中がクリアになっていく感覚。これまでなら安直に飛び蹴りを鋸で防御し切り飛ばしていたであろう。

だが、自分の中で「気をつけろ。()()()()()()」と言っている冷静な自分が居るように感じた。

確かに防御は出来る、だが成人男性の質量を両手だけで吸収できるのか?と。

もし勢いに負けてしまった場合・・・回転する刃は相手を切り裂くだけにはとどまらず、そのまま自身に叩き込まれることになる。まさに、自爆覚悟の捨て身の特攻。

アダムは笑う。

(こいつも()()()()())のだと

 

当然、回避を選ぶアダム。自身はピエロであって騎士ではない。わざわざ正面から受けて立つ必要性など感じなかった。

身を翻すアダムの横をフランクの巨体が通過していく。

態勢を立て直せば武器を持つ自身が有利になると理解していた。

 

『ダン』と背後から衝撃音

続けて背中に痛みが走る。

転がり受け身を取る中でアダムは必死に状況を理解しようとした。

 

タックル紛いの全身全霊の攻撃。すれ違い、再び切り返すには()()()()

(ああ……背後の壁を使って無理矢理攻撃の方向を変えたのか……)

再び追撃するフランクに反撃を試みる。ただ、振りかぶるには間に合わない。故にアダムは回転鋸の先端を床に打ち付けた。

 

堅い床に食い込む刃。床に食い込んだ刃は抜けることはなく、代わりに本体を回転させるような挙動をとる。

毎秒10mの速度で回る刃。それに加速され跳ね上がる本体。キックバックと呼ばれる現象を利用してアダムは鋸を最速の速さで横凪にした。

ヒュツと男の息をのむ音を耳に残しながらアダムは2階から1階へと飛び降りる。

 

ーーーーー

 

キックバックにより加速され迫る鋸の刃。喉の奥からヒュッっと息を吸い損ねたような音が漏れる。

勢いの付いた体を静止させるのはもはや不可能、ならばと膝を曲げ体を無理やり捻じる。

フランクの耳のすぐ横をエンジン音と耳障りな金属音が通過した。

 

「嘘だろ!?」

 

戦いの主導権を奪われたと判断したのかピエロは2階の通路から姿を消していた。

通常飛び降りた際に、3~4階を境目に一気に死亡率が跳ね上がる。大きなショッピングモールの2階。

通常の建物よりも大きく作られたそれはビルの3階に匹敵する高さがあった。

それを躊躇なく飛び降りる。

状況を見極める判断力、それを実行する身体能力、激しい行動でも回転鋸で自身を傷つけないような注意力。

フランクは全てにおいて上方修正せざるおえなかった。

 

おおよそ人とは思えない速度で一階のゾンビの間を縫うように走るピエロ。

一瞬、振り返った姿を見て、慌てて通路の柱に身を隠す。同時に壁に突き刺さるナイフ。

 

殺人ロボットと茶化したがありがち間違いではないと笑いが零れた。

再び一階を覗くが既に姿は無い。

 

「フランク!銃よ!」

 

トーニャの声と真下(一階)からダンッっと激しい音が聞こえたのは同時だった。

階段も梯子もない宙にソレ(ピエロ)は居た。脚力だけで一階を飛び、壁を蹴り、再び宙を舞い2階へ。

意表を突かれながらもバックステップで距離を取るフランク、2階の手すりに着地したピエロはまるで猛獣が獲物へと飛び掛かるような緩慢な動きで身を屈めた。

 

「受け取って!」

 

宙を舞い投げ渡される無骨な鉄の塊のようなリボルバー、弾丸の様な速度で打ち出されるピエロ。

銃が手元に届くころにはフランクは細切れになっている・・・ならばと近くにあった物をピエロめがけて蹴り飛ばした。

鋸で切り飛ばすピエロ。再度振り抜いた鋸は堅い鉄の塊に拒まれる。

 

火花を散らす鍔迫り合い。刃を弾き、構え、撃つ暇はなく再び鋸の刃を銃身で防御する。

切られれば終わり。撃たれれば終わり。

互いに一撃必殺の応酬。

 

繰り返される攻防、命のやり取りのプレッシャーも相あまり両者ともに息が上がっていく。

 

銃口がピエロを捉え。逃げ切らないと悟ったピエロは鋸を盾にするようにその陰に身を隠すが・・・

 

「それを待っていたんだ!」

 

放たれる銃弾はチェーンソーのガイドバーを貫通し、アダムの肩へと突き刺さる。

取り落とされる凶器(回転鋸)。再び銃声が響き、反対の肩の骨を砕く。

 

「あんたは強かったよ・・・Hasta la vista, Baby!(地獄で会おうぜ)

 

胸を貫く弾丸。力なく己の凶器の上に倒れこみ刻まれるピエロ。

その命が消える瞬間まで笑いながら・・・・手を伸ばした先には先程切り飛ばしたモノ(血で汚れた人形)があった。

 

「あんたに守りたい物があったように・・・俺にも譲れない理由がある。だから・・・立ち止まる訳にはいかないんだよ」

 

全ての人と協力できるわけではない。話し合いで済むならそれが一番良い。だが、()()()()()()()()()

ゾンビとは違う。生きてる人間を殺した。

(結局・・あの子の言った通りだな・・・)

 

もう、後戻りはできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

ECHOを検知。解析中・・・・・・

統合を完了しました。 再生を開始します

 

『あんた!写真の子を見なかったか?このモールに来てる筈なんだ!』

『この子は・・・・シエラ!?』

『知っているのか!?俺はクリフ・ハドソンこの子の義祖父だ。家族は無事なのか!?知ってる事があれば教えてほしい・・』

『・・このモールの近くまでシエラと2人で来ました。私をモールに入れるために自ら囮になって・・・その後は・・・分かりません。ごめんなさい、私のせいで・・・』

『なるほど、あの子らしいな。大丈夫だ、あの子には教えれることは全て教えた。あの子が大丈夫と言ったのなら問題はないだろう。近くに居ることが確認できただけで十分だ。』

『信頼…でしょうか?』

『ああ。家族が信じないでどうする。』

『そうですね…ありがとうございます。少し気が楽になりました。』

『それは何より、それよりも心配なのは幼い方の孫娘の方でね・・ここに来ると言ったきり連絡が取れない。』

『それなら一緒に探すのを手伝いますよ。』

『ああ、助かる。』

 

「ターゲットを確認、追跡を開始します。」

 

 

『あれはいったい何なんだ!』

『神は我々に怒りを抱いています。我々が過ごすにはあまりにも罪人が多すぎた。地獄は死者で溢れかえり・・・それでも収まり切れなかった為に、地上へと這い出してきたのです。悔い改めなさい。祈りましょう。さすれば汝は救われます。』

『神父さん・・神父さん!あんたの御託はうんざりだ!神が何だっていうのだ!これが神の意志とでも?ふざけるな!』

『迷える子羊よ・・・その腕を下ろしなさい。これ以上罪を重ねてはいけません。』

『もしアンタの言葉が本当ならアンタは俺が殴り殺す前に救いの手が差し伸べられるだろうよ!このペテン師が!』

 

目的の情報を辿る最中にも再生される人々の当時の記録に目をつむる。

 

電子機器に残った当時の記憶の断片。それらをかき集め、統合し、立体映像として再生する技術。ECHO・・・残響とはよく言ったものだ。

条件は携帯、PC.レコーダー、マイク、カメラなど電子機器が周囲にある事。

これらを全て排除することは時代が進むにつれて困難になってくる為、有効な追跡手段と言えよう。

 

半ば私刑(集団暴行)とも言える映像を通り過ぎて別の痕跡を探す。

「やり場のない怒りは何所で発散する?」

答えは簡単、己を正義として殴っても問題ない者を探すだ。ありえない事?世界中で起きてる事、知らないのならそれは目に入らないように背けているだけ。

こういう状況だからこそ内面が出てくる。誰かが責任を取らなければならない・・誰が?こいつが適任だろう。そういった具合にね。

 

「本当に薄汚い」

 

よくある景色。ゾンビがいようが居まいが末期にはこういう状況が起こることがある。

 

『ゾンビだ!!ゾンビが入って来たぞ!!』

『子供達を!子供達を守らないと!!なんで・・・子供達を見捨てるのか!?大人だろう!戦え!』

 

ピエロが子供達を守るようにゾンビの前に陣取っていた。

取り囲まれ端の方の子供達がどんどん犠牲になっていく。

 

『なんで・・・どうして・・・』

子供の手を引きゾンビの中をかき分けて進むピエロ。

『ここまでくれば大丈夫・・もう安全s・・・』

 

人形の握られた幼い手。()()しか残っていない子供の姿を見たピエロは嗤い始める。

 

 

『取り囲まれる!』

『俺が時間を稼ぐから扉の施錠を開けろ!』

『それじゃ貴方が!!『いいからやれ!!』』

 

先程会った靴屋のカップルの映像を通り過ぎた。

 

『この声は・・・何という事だ』

『クリフさん・・』

『おお・・神よ・・何故この子を見捨てたのです。この子に罪は無かったはずです!なぜこんな仕打ちを・・』

『クリフさん!!』

 

自身の服が汚れるにも関わらず幼い子供の亡骸を抱きしめる大男。

『これは・・夢だ・・まだ戦場は終わっていない。何も、終わってなどいない!』

『クリフ・・・さん・・?』

『お前は捕虜だ。一緒に来てもらうぞ。』

 

少女を引きずるように中庭の方へ向かう大男の映像を最後にECHOの記録は途切れている。

電子機材を媒体に記録を再生する為、それらが無い屋外などはどうしてもECHOのデーターが断片的になってしまう。

 

「対象、ロスト。引き続き痕跡を探す。」

 

ふぅと一息。時刻は2時を回っていた。

(これ以上の追跡は困難・・一旦休むべきか。)

 

不眠不休で起こる症状。幻覚、幻聴。そして瞬断とも呼ばれる突発的な眠り。

街を包囲する軍の動きが未知数である以上、休める時に休むべきだと感じた。

 

再度、ECHOの記録に目を向ける。大男、攫われる少女。

 

(彼女に執着するのは何故?)

自分の胸に問いかける。

確かに彼女がこの町の情報を自身の組織に送ったのかもしれない、だが全貌を知っているという点ではブラット、フランクと共に昼間に会った科学者の老人の方が把握しているはずだ。

(それでも彼女を追いかけているのは・・・)

 

言葉にしなくても分かっている。

情報提供者、保護対象とすることで自身が守るべき対象としたい為。

彼女には助かってほしい、そして己が命を懸けて戦う理由が欲しい。

(本部からの連絡が無いからとはいえ、随分無理やりな理由付けね・・)

 

だが、今はそれでいい・・・

(ええ、それでいい・・・私だって犬死には嫌だもの)

 

 

 

 

 

 




・・・というわけで皆のトラウマ!アダム戦!速度感を出そうと思って両者の行動を/をつかって表現してみました。
そしてゾンビの侵入時の状況をECHOを通じて確認する回!(サイコ達の全ての始まりw

MRE・・・アメリカの誇る戦闘食。その味は本文にあるように日本人向けではないらしい!発熱剤が装備されていて水を入れることで温かい食事が出来る等。開発当時に比べると改良が施されているとのこと。

乾パン・・THE非常食。本文でパサつくとか言っちゃってるけど普通に美味しいよ!ジャムとか用意すると尚良し!

缶パン・・・震災の時に試食させてもらいました。パサつきなくふわふわモチモチ!普通に美味しいです!賞味期限(消費期限)は3年、5年としっかり保存食になってます!

保存食・・・日本人なら米!色々缶詰あるようですよ!

店長・・・6番レジへどうぞ!!! まだ正気、今回の100%オフセールのせいで人間不信に

客…スーパーの商品を堂々と強奪した張本人。たしか、物資調達担当ってブラッ・・おっと、これ以上はいけない

トーニャ…前話で彼氏を殺された女性。ヘイトは全部エコーが持って行った為、フランクの説得に応じて行動するようになった。

アダム(ピエロ)・・・フランクのトラウマ。ゲームでの最初の壁といってもいい存在!かな?wこの小説では更に強化!小太りと見せかけて中身は筋肉モリモリマッチョマンの変態です。玉乗りやジャグリングなどで鍛えられた感覚も抜群!

神父・・・のちのあの人。「ああ・・・救済を信じぬ者よ」因みに本作で言ってることは全て出鱈目!(サイコが言いそうなことを適当に作っていますw)

クリフ・・・シエラの義祖父。シエラに色々と教え込んでいるもよう。その為かシエラを除く家族の心配ばかりしていた。

クリフの娘、孫娘…悲鳴を聞いてクリフが駆け付けた時には既に・・・

エマ・・・クリフと共に家族を探していたがクリフが発狂。戦時中、敵国の民間人と間違われ捕虜としてドナドナされている。

エコー…ちょっと皮肉が多い?でもこんな状況になったら愚痴の1つや2つ言いたくなるですよ~きっと!


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