【東方二次創作】風と共に幻想へ (きりつゆ)
しおりを挟む

【東方二次創作】風と共に幻想へ

小さなころから私の前には2人の『神様』がいた。

 

両親は笑いながら「神様は早苗をいつも見てくれているんだな。」と頷いてくれた。

 

でもそれは小さな頃だけで、10歳にもなれば「そんなものはいない」、「いい加減現実を見なさい」などと言われた。

 

だが確かにそこに立っているのだ。

 

2人の『神様』が。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

気が付けばもう高校生になっていた。

 

通学路を何気ない気持ちで歩く。

 

ふと、昔仲良くしていた子が見えた。

 

「おはよう。」

 

そう声をかけても返ってくることはない。

 

気味が悪いのだろう。高校生にもなってまだ神様がいると思っているのだから。

 

2人の『神様』は今も私の前に現れる。

 

不安そうに、私の顔を覗き込んでくる。

 

学校の中にも、教室にでもついてくる。

 

私だけ。それが嫌だった。

 

頭の中では今日はどうしたら嫌われないのか、友達ができるのかを考え続ける。

 

結局まとまることなく学校に着く。

 

「おはよう。」

 

私はそう口に出すも、誰も反応しない。

 

むしろ、教室に入ると静寂に包まれる。

 

そして耳に入るのはいつも陰口。

 

「あの年になってもまだ妖怪が見えてるんだって。」などとささやかれる。

 

だから私は学校が嫌いだった。

 

暴力などは振るわれたことはない。

 

ただその陰口が辛かった。

 

今すぐにでもいなくなりたかった。

 

仲が良かった旧友も今は声すらかけてくれない。

 

申し訳なさそうにしているのは伝わってくるも、

 

そちらに目を向けるとサッと逃げ隠れるように目線を逸らされていた。

 

「あの人間め…」

 

「こらこら。早苗が困っているだろう?」

 

神様のやり取りだけが私の心を安らげてくれた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

家は神社だった。帰ったらすぐに境内の掃除だ。

 

秋ということもあり、落ち葉が多い。

 

大変だったが、それが日課だった。

 

それが終わり、夕飯を食べた後はすぐに『風祝の儀』の練習だ。

 

すぐに巫女の服を着て外に出る。

 

これはこの地に眠る八坂の神様に祈りを捧げることで豊作を約束する儀式だ。

 

「いい?我が東風谷の一族は代々奇跡の力を使えるの。

 神に祈るのよ。」

 

服に付いた埃を払いながら言う。

 

「でも…前に神様はいないって…」

 

そう尋ねると、母はキョロキョロと見渡し、誰もいないことを確認すると耳元で囁いた。

 

「あなたは選ばれた子なのかもしれない。

 お父さんの言う事はあまり深く考えないで。

 あなたは、見えているその神様にしっかりとお祈りするのよ。」

 

母は微笑むと、巫女の服のリボンをぎゅっと縛った後に立ち上がり、深々と礼をした。

 

「建御名方神よ。今後とも我が娘をよろしくお願いいたします。」

 

そう言い残すと、母は家に戻る。

 

「早苗。」

 

戻る直前、母は私に声をかける。

 

「…何?」

 

「あなたの思う通りにやりなさい。

 あなたの進む道はあなたが決めるの。

 時には大切なものを失ってしまう選択も必要になるかもしれないけど、

 そうなっても決して後悔しないようにね。」

 

ドクン、と心が揺らいだような気がした。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

高校生になってから1年が経ったある秋の日。

 

その日は大雨が降っていた。

 

「ジメジメして嫌な天気ねぇ。」

 

「まるであいつみたい。」

 

女子のグループからはそんな声が聞こえてくる。

 

あいつとはどうせ私のことなのだろう。

 

「あいつって確か神が見えるらしいね。」

 

「痛いやつじゃ~ん。」

 

「でさ、あいつの家の神社が何なのか調べたんだけどさ…」

 

私は拳にぐっと力を込める。

 

あんな人たちの言葉で怒っちゃだめだ。そう言い聞かせる。

 

「あいつ台風とかこういう雨とかを止める力があるのにね。」

 

「止まっていないってことは…ただの無能じゃん。」

 

明らかにこちらを向いて笑った。

 

しかも、しっかりと聞こえるように。はっきりと。ゆっくりと。

 

クラス全員が笑う。雨にかき消されるが、雰囲気は感じ取れる。

 

「巫女としても無能、人としても無能じゃあねぇ。

 ね?早苗ちゃん!」

 

ついに声をかけられた。

 

何も言い返せないことに悔しさを覚えるとともに心にぽっかりと穴が開いたような感覚に襲われる。

 

「っ!!」

 

私はその女子を突き倒すと、教室を急ぎ足で出て、そのまま走って家まで帰った。

 

「もう!何なのよ!もう嫌!神様なんて!」

 

涙なのか雨なのかわからない。

 

ただ私は叫びながら走る。

 

「早苗!?」

 

家に帰った私を見て母は驚愕した。

 

当然だろう。鞄も無しに泣いて帰ってきたのだから。

 

「もう嫌……」

 

うずくまってシクシクと泣く私の頭を優しく撫でる。

 

冷え切った頭に温もりを感じた。

 

「…」

 

母は何も言わずに部屋から出る。

 

私は布団に入ることなく縁側に立ち寄り、そこでボーッと空を見上げていた。

 

「…」

 

虚ろな目にはもう何も映らない。

 

私の心はぽっかりと穴が開いてもう何も考えたくなかった。

 

その時、肩に温もりを感じた。

 

振り返ると、そこには2人の『神様』が……

 

私だけの神様がそこにいた。

 

「神奈子様…?諏訪子様…?」

 

「大丈夫。お前を1人にはさせないよ。」

 

神奈子がそう言うと、諏訪子も頷き、

 

「1人で抱え込まない!じゃないと皆アンハッピーだよ?」

 

そういって慰めてくれる。

 

「う…うわあぁぁん!」

 

私はしばらく2人を抱きしめて泣いた。

 

「…なあ早苗。」

 

神奈子が声をかける。

 

「…?」

 

「私たちとともに来ないか?」

 

「…え?」

 

最初は何を言っているのか全く理解できなかった。

 

「ここではもう神社は機能しない。私たちの力は廃れる一方だ。

 そこで、私たちは『幻想郷』と呼ばれる世界に移住しようかと考えているんだ。」

 

私は俯く。

 

もし、ここで頷いてしまえば二度と戻ってくることはできないのだろう。

 

おそらく母とも二度と会えない。

 

「私たちは強制はしない。だがもし――

 もしもついていきたいというのならそこの引き出しにある巫女装束を取り出すんだ。」

 

ここでは何も楽しいことはなかった。

 

そしてこの2人の神様にはずっと支えてきてもらった。

 

でなければここまでもたなかったのかもしれない。

 

私は立ち上がると、引き出しを開けて巫女装束を取り出す。

 

その中に入っていたお祓い棒も一緒に握る。

 

なんとなく懐かしい気持ちになった。

 

確か、小さい頃は母が着ていたんだっけ。

 

空いた心がぬくもりで満たされる。

 

神様は2人とも微笑む。

 

「じゃあ、行こうか。」

 

「…はい!」

 

こうして、私は風に流れされるように幻想に姿を消した。

 

 

「…早苗?」

 

誰もいなくなった部屋に母が入る。

 

引き出しが開いている。

 

「この段は確か…」

 

巫女装束が入っていたところ…そう思いながら目を向ければそこには1枚の紙が入っていた。

 

「これは…手紙?」

 

手紙に書かれた文章、それは早苗が残した最後の手紙であった。

 

「…早苗…!神様…!ごめんなさい…ごめんなさい…!私の力不足だったために…!」

 

手紙を握り、母はその日、ずっとそこで座っていた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ここが…ここが…幻想郷!?」

 

山の頂上から見た景色はまさに絶景。

 

程よく紅葉した森。その奥に見える小さな里。

 

滝も見える。雲の上には逆さまのお城のような物すら見えた。

 

「凄い…!」

 

私は心の底から来てよかったと思った。

 

「ここが私たちの、私たちだけの守矢神社だ。」

 

神社もまるで新しい。

 

期待は高まるばかりだった。

 

だが日が経つごとにこの山の実情が見えてきた。

 

なんと神社の下の森には妖怪が住んでいるのだ。

 

見たこともないし、信じてもいなかったが、よくよく考えてみれば神様がいるのだ。

 

妖怪がいたって不思議でもない。

 

そんなある日。

 

とうとう来たのだ。幻想郷の秩序を守る、『博麗の巫女』が。

 

はじめはこんな巫女に負けるはずがないと思った。

 

なぜなら博麗の神社は対して信仰されていなかったからだ。

 

対する私たちはすでに一部の妖怪や人間から信仰されている。

 

さらに私は小さい頃から努力してきたのだ。

 

奇跡を操る…その力を。

 

すべて、ぶつけた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

私は部屋でうずくまっていた。

 

全力を出し切って負けてしまったのだ。

 

結局、私は幻想郷(ここ)でも負け犬なのだ。

 

その時、肩にぬくもりを感じた。

 

前を向くと、そこには神奈子様と諏訪子様が笑っていた。

 

「もう落ち込むな。安心しろ。幻想郷は私たちを迎えてくれたんだ。」

 

「ここではもう誰もお前を嗤う奴なんていない。

 いたら私たちがぶっ飛ばしてあげるからね。」

 

神奈子様も諏訪子様もあの巫女にやられたのだろう、少し土がついていた。

 

私は微笑む。

 

「お二人ともあの巫女…霊夢さんに負けてるじゃないですか。」

 

そういうと諏訪子様も神奈子様も笑った。

 

「あ、そうそう。はいこれ。」

 

諏訪子様から1枚の手紙を手渡される。

 

中を取り出し、文章を読む。

 

それは、母親から送られた別れの手紙だった。

 

「…う…お母さん……!」

 

私は笑った。とにかく笑った。

 

それでも、涙は止まらなかった。

 

しだいに口角は下がっていき、ついには泣き崩れてしまう。

 

そんな私を2人は優しく見守っていてくれた。

 

……お母さん。お元気ですか。

 

――私は、最高に元気です!



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。