世界樹の使徒とツンデレ神獣の話 (日之谷)
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世界樹の使徒とツンデレ神獣の話

年の明けた浮遊城、皆がお祝いムードの中、豊穣神の使徒バリ、そして神獣メイリルもそこにいた。

 

「ふぅ…寒いですねメイリル」

 

バリは白息を吐きながらメイリルに言う。

 

そんなバリを見たメイリルはピョンピョンと飛び、何か言いたそうにしていた。

 

「メイリル、どうしましたか?…しゃがんでほしい?」

 

メイリルの言う通りにバリはしゃがむと、メイリルはジャンプしてバリの腕の中に収まる。

 

メイリルのもこもこした体がじんわりとバリの体を温めていく。

 

「ありがとうメイリル、これなら寒くありません」

 

バリはメイリルにお礼を言う、抱き抱えられているメイリルも満更ではないご様子。

 

メイリルを抱き抱え再び歩き始めるバリ。庭園へ向かうと何やら人だかりが出来ている。何事かと見ているとこちらに気づいたのか晴れ着姿のちび姫といつもの甲冑姿の女騎士が近づいてきた。

 

「バリお姉ちゃんだ、こんにちは!」

 

「姫様と騎士様、こんにちは」

 

2人に挨拶をするバリ、一方のメイリル2人を一瞥すると興味の無い表情をしていた。

 

「バリお姉ちゃんもビンゴ大会に参加しにきたの?」

 

「ビンゴですか?」

 

「うん、あれ見て!」

 

ちび姫に指差された方を見ると「参加無料!新春ビンゴ大会」と書かれた幟と景品が書かれたボードがあった。

 

「1等は最高級温泉宿2泊3日ペア御招待券ですか」

 

「みんな1等が欲しいんだって、バリお姉ちゃんも欲しい?」

 

「いえ私は特に」

 

そんな2人の会話の中、メイリルに考えがよぎる。

 

(バリと温泉旅館!?しかもペアって事は2人きりだから…)

 

温泉に浸かり、豪華な食事を食べて、一緒に寝る。

ペアという事はこれが誰にも邪魔されずにずっと自分とバリの2人だけという事だ。

 

(絶対欲しい!)

 

メイリルはバリの腕から飛び降りるとボンッ!と音と共にたちまち人間の姿になる。

 

「メイリル、急にどうしました?」

 

「…する」

 

「?」

 

「ビンゴする!あたしも参加したい…」

 

段々と語尾が弱くなっていくメイリル、そんなメイリルを見たバリは何やら嬉しそうだ。

 

「メイリルが自分で何かをしたいと言うなんて久しぶりです!メイリルもやるなら私も参加しましょう」

 

ちび姫と女騎士の案内で会場の係から1人1枚ずつビンゴカードを貰ったバリとメイリル。

暫く会場で待っていると司会者の格好をした人物が出てきた。

 

「みんなー!温泉行きたいかー!?」

 

『オオォーーー!』

 

入浴(ニューヨーク)行きたいかー!?」

 

『オオォーーー!』

 

「何このノリ、気持ち悪いんだけど」

 

会場の人間達を呆れたような目で見るメイリル。

 

「ルールは簡単!このマシーンから出てきた番号が当たった人は手持ちのカードに穴を開けて、見事ビンゴになれば豪華賞品が当たるチャンスを与えられます!」

 

「チャンス?どういう事でしょうか」

 

バリが司会者の言葉に疑問を覚える。

 

「揃えた方にはこちらのガシャポンを回してもらい、出てきた目録の賞品を差し上げます!」

 

「なるほど…こうすれば早い者勝ちではなく当たれば誰にでも機会があるという事ですか」

 

バリはルールを理解して納得する。

 

「何であろうと絶対あたしが当てるんだから!」

 

メイリルはかなりやる気だ。

 

「始まったみたいだよ!」

 

ちび姫がマシーンを指差す。

 

それから間もなく司会者の後方にあるかなり大きいビンゴマシーンが動き始めた。

 

(バリと一緒に温泉…2人きりで温泉…絶対に手に入れるんだから!)

 

 

 

 

 

 

帰り道、バリとその腕の中にアルパカに戻ったメイリル、ちび姫と女騎士の4人が旅館に向かって歩いている。

 

女騎士は3人の後ろを旅館から借りてきたリヤカーを引きながら歩いていた。

 

荷台には木箱が2つと等身大パンダ人形が乗っていた。

人形はちび姫の景品で木箱はバリの景品でドリンクセットである。

残念ながら女騎士とメイリルはビンゴ出来なかった。

 

「やりましたねメイリル、当たりましたよ!後で一緒に飲みましょう」

 

「…」

 

上機嫌なバリに対してメイリルはいつも以上に口をへの字にして不機嫌そうにしていた。

 

(温泉がよかった、バリと2人で温泉がよかった…)

 

旅館に着いた全員、女騎士は木箱を2人の部屋に運んでいく。

ちび姫の当てたパンダ人形はエヴァ団長が運んでくれた。

 

「ありがとうございます、わざわざ部屋にまで運んでいただいて」

 

気にしないでと女騎士はバリに言い、ちび姫の様子を見にいくと告げ、部屋を出ていった。

 

女騎士を見送ったバリはベッドのシーツに包まっているメイリルに話しかける。

 

「メイリル?」

 

「…」

 

メイリルからは返事は無い。

 

「眠ってしまったのかしら…あら?」

 

バリが床を見るとハンカチが1枚落ちていた。

拾ってみると端にカンタベリーの刺繍がされていたので恐らくは女騎士が落としていったのだろう。

 

「すぐに届けないと、それとちゃんとしたお礼もまだでした」

 

バリは木箱の蓋を開けると瓶を1本取り出してメイリルを起こさないように静かに部屋を出ていった。

 

バリが出ていった部屋、1人になったメイリルはベッドから飛び降りる、眠っていたわけではなくただ不貞腐れていたのだ。

 

(バリは悪くないのに…ただあたしが当てられなかっただけ、しかもバリは喜んでたのにあたしは自分の欲しいのが手に入らないだけでずっと不機嫌で…)

 

暗い部屋に1人でいるもあるのか考えれば考える程落ち込んでくる。

ひょっとしたらバリは怒っててこのまま帰って来ないのではと思ってしまう。

モヤモヤした感情がメイリルを支配する。

 

 

 

 

 

 

 

-数十分後-

(つい話し込んでしまいました、メイリルはまだ寝てますよね)

 

出ていく時と同様に静かにドアを開けるバリ。

部屋入るとメイリルが起きていた、人間の姿で。

 

「メイリル、起きてたんですね」

 

しかしメイリルから返答はない。

 

「メイリル?」

 

バリが近づくと急にメイリルが飛びついてきた。

 

「きゃっ!?」

 

突然の事に驚くがそこまでの勢いでは無かったので倒れずにすんだ。

 

「バ〜リ〜やっと帰ってきた〜」

 

メイリルがバリの腰あたりにしがみつきながら言う。

 

「ず〜と戻って来ないからあたしの事嫌いになっちゃったかと思って〜」

 

「メ…メイリル?」

 

明らかにいつもとは違う様子のメイリルにバリは困惑してしまう。

 

「と…とりあえずメイリル、離れましょう?」

 

「やっ!!」

 

メイリルはぎゅっとしがみついたまま離れない。

ふとメイリルの後ろを見ると空の瓶が転がっている事に気づく。

バリはメイリルがしがみ付いたまま部屋を歩き、瓶を拾う。

瓶からは果物の香りとほんの少しのアルコールの匂いがした。

 

「これはお酒ですか…メイリル、確かに後で飲みましょうとは言いましたが勝手に飲んでは駄目ですよ」

 

バリはメイリルに諭すように言う。

 

「うっ…うわぁぁぁん!バリが怒ったぁぁ!」

 

急に大粒の涙を流しながら泣くメイリル。

それでもバリから離れようとしない。

 

「メ…メイリル!?いえ、怒ってません!ただ少し注意をしようとしただけで」

 

泣かれると思ってなかったのでバリも大慌てである。

 

「うわぁぁぁん!!」

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

「メイリル、落ち着きましたか?」

 

「うん…」

 

あの後しばらくバリに宥められながらわんわん泣いたメイリルはようやくバリから離れ、今は2人ともベッドに座っていた。

最もメイリルはバリの膝枕で横になっているが。

 

「それでメイリル、どうして急にお酒なんて?」

 

「中身がお酒なんて知らなかった…ただ嫌な事があって気づいたら飲んじゃってた」

 

「嫌な事ですか?」

 

「うん…バリと温泉行きたかったのに当てられなかった事、それで不機嫌になっちゃってあの後、部屋でバリの事無視しちゃった事…そんな自分が嫌になっちゃった…ごめんなさい」

 

「もう…仕方ないですね」 

 

そう言いながらメイリルの頭を撫でるバリ。

 

「ねえバリ…お願いがあるの」

 

「お願いですか?」

 

「今日はあたしが寝るまでずっとこうしてて、どこにも行かないで」

 

メイリルのお願いに優しく微笑むバリであった。

 

 

 

 

 

 

翌朝、メイリルは目を覚ますと目の前にはすやすやと眠っているバリがいた。

 

「あれ?何でバリが同じベッドに…」

 

考えようとしたが頭痛に襲われる

 

「んー頭が痛い…何で?」

 

しばらく頭を押さえているとバリが目を覚ます。

 

「メイリル、おはようございます」

 

「お…おはよ」

 

照れながら挨拶をするメイリルを見てバリは微笑む。

 

「ふふ、昨日のメイリルも可愛かったですが、やっぱり普段のメイリルが1番ですね」

 

「昨日の?」

 

バリの言葉に痛む頭を我慢しながら思い出す。

確かに昨日はバリと出かけて、ビンゴ大会に出て、部屋に戻ってそれから…それから…

 

「あっ!あぁぁ!」

 

思い出したのかメイリルは声を上げる。

1人で拗ねて、お酒飲んでそのまま酔っ払い、バリに抱きつくわ泣き喚くわ、添い寝を要求するわ。

耳がピンと立ち、顔も赤くなる。頭痛も吹き飛んだ。

 

「バババババリ!き…昨日は」

 

「はい」

 

「わ!忘れて!今すぐに忘れて!」

 

「?メイリルはいつも記憶を大切にと…」

 

「今はそうじゃないから!忘れてってばー!」

 

メイリルはアルパカ姿になるとそのままシーツにくるまってしまう。

バリはメイリルが何故、包まっているのか分かっていないようだった。



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