時空を超えた英雄 (深紅の瞳)
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第1話 灰髪の美女

 先に言っておきます。この作品は原作18巻の予想ではありません。
 時系列的には18巻辺りの内容ですが、「こんな展開もアリだな」と僕が思ったことを文章化しただけです。
 是非楽しんでいって下さい。


 ベルは【ヘスティア・ファミリア】の本拠の自室にいた。

 いま僕は装備の確認をしている。主な装備は、武器は『ヘスティア・ナイフ』『白幻』そして『白銀色の大剣(▪▪▪▪▪▪)』だ。この大剣は対【猛者】用の第一等級の武器で、名前はヴェルフがまだ決めきれていないそうだ。この武器はヘファイストス様との合作らしく、名前は格好良いのを付けたいらしい。名前はもう少し待って欲しいとのことだ。防具は今までと同じように軽装だが、第一等級武装という点で違う。そして、ゴライアスのマフラー。今の僕なら、これを使った中距離の『間接攻撃』も問題なく使えるだろう。

 なぜ、装備の点検をしているのかというと、【フレイヤ・ファミリア】との戦争遊戯を三日後に控えているからだ。

 今日まで僕は【ロキ・ファミリア】の幹部の皆さんに鍛えてもらった。

 訓練は、僕が【フレイヤ・ファミリア】で受けた洗礼をそのまま彼らにもしてもらい、その際の治療はアミッドさんがした。

 Lv.6複数人による波状攻撃。皮肉にもその理不尽さに慣れていたとはいえ、フレイヤ・ファミリアから解放された日にLv.5にランクアップした僕でもキツかった。それでも諦めずにやり遂げた。

 またLv.5になった時に、神様にスキル『憧憬一途』の存在を教えてもらった。その時は驚きもしたし、同時に嬉しくもなった。自分のアイズさんへの想いがスキルになって発現していたからだ。

 その事もあって、今まで以上に『憧憬一途』の効果が向上し、戦争遊戯前に僕の能力値はこうなった。

 

 

 ベル・クラネル

 

 Lv.5

 

 力:SSS1256

 

 耐久:SSS1364

 

 器用:SSS1201

 

 敏捷:SSS1324

 

 魔力:SSS1279

 

 幸運:E

 

 耐異常:F

 

 逃走:H

 

 超克:I

 

《魔法》

 

【ファイアボルト】

・速攻魔法

 

【ケラウノス】

・付与魔法

・雷属性

 

 

《スキル》

 

【憧憬一途】

・早熟する

・懸想が続く限り効果持続

・懸想の丈により効果向上

 

【英雄願望】

・能動的行動に対するチャージ実行権

 

【闘牛本能】

・猛牛系との戦闘時における、全能力の超高補正

 

【逆境超克】

・戦闘続行時、発展アビリティ『治力』の一時発現。

・戦闘続行時、発展アビリティ『精癒』の一時発現。

・戦闘続行時、発展アビリティ『魔導』の一時発現。 

・戦闘続行時、発展アビリティ『魔防』の一時発現。

・補正効果はLvに依存。

 

 

 

 このように全て能力値が1000を優に越えている。

 また、魔法も発現した。というよりも、強制的に発現させたと言った方が正しいだろう。

 魔導書を使ったからだ。これはフェルズさんにもらった物を使った。僕がフレイヤ・ファミリアに捕えられていた時に何もしてやれなかった御詫びらしい。断ろうと思ったが、今はとにかく力が欲しかったから、遠慮せずに使わせてもらった。

 発現した魔法は付与魔法だ。なんと効果はアイズさんの魔法を越える物らしい。

 確かに使うと全能力値がすごい上がって、僕もビックリしたほどだ。

 これは切り札だから、使い所を間違えないようにする。

 絶対に勝ってみせる。シルさんの『本当』を教えてもらうためにも。

 そう想いを新たにしていると、ヘルメス様が部屋にやって来た。何でも話があるらしい。

 

 

 

 

 

 

───────数十分後。

 

 ヘルメス様から教えてもらった。僕の出生のことを。

 僕を育ててくれた祖父は、名をゼウス。かつての世界最強のファミリアの主神だそうだ。

 そして僕の父親は祖父の眷族で、母親は同じくかつて世界最強だったヘラ・ファミリアの眷族らしい。

 そこまでは驚きはしたけど、まだ良かった。

 お爺ちゃんはやけに英雄譚に詳しくて、まるで自分が見てきたものを語るように僕に英雄譚を読んでいたからだ。むしろ、納得できた。いや、僕に死んだふりをして、オラリオに行かせたことは納得出来てないけど。

 でもそれ以降の話を僕は認めたくなかった。

 7年前にゼウスとヘラの眷族が一人ずつオラリオに降臨し、大殺戮を行ったこと。

 ヘラの眷族は僕の母親の双子の姉、つまり肉親だということ。

 オラリオに試練を与えたのは、僕が戦わなくてもすむように、というのも理由の一つらしい。

 特に唯一の肉親を失ったという事実が僕に衝撃を与えた。

 ヘルメス様がなぜこの話を今したのかというと、ゼウスとヘラの千年の壁を一人で乗り越えた【猛者】と戦うのならば、ゼウスとヘラの眷族の間に生まれた僕にもこの事実を伝えなければならないと思ったから、だそうだ。後、オッタルさんと僕で一騎討ちをして、『真の最強』にどちらがなるのかを見たいとも言っていた。

 今頃知ったこの重大な事実にどう向き合えば良いのか、僕には分からない。

 とここで、手に持っている時計のような魔導具をふと目にする。

 これは先ほどヘルメス様が僕に手渡した物だ。何なんだろう、これ?ヘルメス様は詳しく教えてくれなかったけど。

 しばらくこの魔導具を眺めていると、突然この魔導具が光り、そして砕けた。そして、光る無数の小さな粒子が僕の足元に散らばり、僕を中心に約半径1.5Mの魔法円が形成された。僕が驚いている間に、魔法円はその範囲内にいる僕と僕の装備一式をその場から消した。

 

 

 

 

 

 

 

 まどろみに抱かれていた。

 澄みきった風のような香りと、温かなお日様のような温もり。

 肌を通じて感じる全ての気配が穏やかだった。

 眠い。

 ずっとこの居心地に抱かれていたい。

 

(……?)

 

 そっと、髪を撫でられた。額に触れた細い指がくすぐったい。

 優しい指使いだった。安心する。

 閉じている瞼をおずおずと開けた。

 

「……おかあさん?」

 

 顔も知らない、会ったこともない人の名前を唇で転がす。

 瞳にぼんやりと映る輪郭の動きが、ぴたりと止まった。

 

「……おかあさん、か。普通なら知らない子供にそんなことを言われれば、手刀を繰り出す衝動にかられるだろうが、お前に言われると悪くない気分になる。どうしてだろうな。お前が私の妹を彷彿とさせる髪をしているからなのか?」

 

「……え?」

 

 その人は透き通った声で僕にそう聞いてきた。

 霞む目を見開く。

 次第にハッキリとしてくる線の形。

 最初に像を結んだのは灰色の髪で、次は綺麗に整った顔立ち。

 最後は左右色の違う、いわゆるオッドアイ。

 

「……」

 

「……起きたようだな」

 

 目は覚めた。

 しかし、僕は、僕を見下ろしているこの人の顔にただ見入っていた。オラリオに来て美女美少女に慣れてきた僕だか、この人はオラリオで出会ってきた美女達よりも一際綺麗な人だった。

 そしてもう一つ、頭の後ろが柔らかい。温かい。

 何をされているのかは分かった。憧憬に何度もされてきた僕だからこそ断言出来る。

 『膝枕』だ。

 女の人の指が、また僕の髪をすいた。

 触れられた瞼が、熱い。

 

「……」

 

 のろのろと上半身を起こした。

 頭の後ろから遠のく温もりがすごくもったいない気がしたけど、起きる。

 一度彼女が視界から消える。代わりに僕の目に映ったのは、懐かしい部屋だった。

 ここはまだ僕が駆け出しの冒険者だった頃、神様と一緒に暮らしていた廃教会の地下にある部屋だ。

 そして、僕が寝ていたのはベッドの上。つまり、ベッドの上で僕の横にいる彼女に膝枕されていたということになる。

 そこまで考えて僕は思い出す。

 確か、ここはアポロン・ファミリアに潰されたはずだ。

 しかし、この部屋でそんなことが起きたとは思えない。まるでそんな事実は今まで無かったと思えるくらいに。

 立て直したとも考えられない。今の本拠に住むようになってからも時々この廃教会は訪れていたからだ。

 

(どういうことだ?)

 

「どうした?何かに驚いているように見えるが。……まぁ良い。私から一つ質問させろ。お前は何者だ?」

 

 僕が混乱していると、目の前の美女がそう聞いてきた。

 

 




 原作の17巻までの内容をもとにしてるので、ステイタスはほとんど弄ってません。魔法とスキルを一つ増やして能力値を引き上げたくらいです。新しい発展アビリティは『超克』。数々の不条理を乗り越えてきたベルにお似合いの言葉かなと思ってこれにしました。スキルはどこかの猪人さんのものに似てますが、ベルと彼は境遇が似てるのでそれでいいでしょ。


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第2話 状況確認

 ベルにヘスティアが抱きついている所を、もしアルフィアが見たら、問答無用で幼女神に【福音】すると思います。
 神話では、ヘスティアはゼウスの姉なので、姉弟そろって魔法の餌食にされてるシーンを想像してしまう。


「どうした?何かに驚いているように見えるが。……まぁ良い。私から一つ質問させろ。お前は何者だ?」

 

「……えっ?」

 

 僕が混乱していると、目の前の美女が聞いてきた。

 

「何者ってどういうことですか?僕も今の状況が全く理解出来ていなくて……」

 

「……嘘を言って誤魔化しているようには見えないな。私が知っていることを教えてやる。お前は突然この部屋に現れた」

 

「えっ?ど、どういうことなんですか?」

 

 彼女の言っている意味が分からないので僕は聞く。

 

「私は自分の妹が愛したこの部屋の上にある教会に来ていた。するといきなり地下から何かの気配を感じてな。すぐにこの部屋まで来てみると、魔法円(マジックサークル)が展開されていた。直後、そこからお前とそこにある装備が現れた」

 

 と、彼女は床に置かれた僕の装備一式を指差しながら告げる。

 

 そこで、思い出す。

 

 僕がヘルメス様にもらった魔導具によって発生した魔法円によって自身を包まれたことを。

 

「僕は本拠に居た筈……なのにここにいる……もしかして僕、転移したの?」

 

「転移?そんな魔法は私でも知らないな」

 

 僕の考察に目の前の女性も少し驚いている様子だ。

 ところで、さっきから気になっていることがある。

 

「……あの~、どうして瞼をずっと閉じているんですか?」

 

「気にするな。開けるのですら億劫なだけだ」

 

 「面倒なだけなの !?」と内心驚いていると、彼女は「しかし、」と言って瞳を開ける。

 

「懐かしいと感じることができるお前の髪を見るためならば、瞳を開けるのも悪くはないな。……ただ一つ、その紅い瞳だけは無性にくり抜きたくなる」

 

「ひえっ !?」

 

 いきなり不穏な空気を醸し出した彼女に僕は怯える。

 

「私の愛する妹を孕ませたあの男の瞳にそっくりなのが悪い」

 

「……」

 

 結構理不尽なことを言ってくる彼女を見て、このままだとヤバいと思い、僕は話を戻すことにした。

 

「あの、僕が転移してここに来たとしたらおかしいんですよ」

 

「何がだ?」

 

「数ヶ月前に、教会ごとこの部屋も【アポロン・ファミリア】に破壊されたんですよね」

 

「何!?」

 

「ヒッ!?」

 

 僕の発言に、目の前の彼女は額に青筋を走らせた上にヤバい魔力を立ち昇らせる。

 

「私の妹が愛した教会を破壊だと……いや、待て……なら何故今ここは無事なんだ?」

 

「そ、そうなんですよ!僕もそこが疑問なんです!ここが破壊された後も定期的に様子は見に来てたんですけど、改築なんてしてませんでしたし」

 

 これ以上怒らせると不味いので、彼女の疑問に便乗して今度は『教会の破壊』という内容から話をずらす。

 

「私はここを一度とて破壊されたとは思えない。8年前と何も変わっていないからな。しかし、お前は破壊されたと言う。何かがおかしい、いや、ずれていると言った方が正しいかもな……………………まさか!」

 

「な、何か分かったんですか?」

 

 彼女の表情からして何かに気付いた様子だったので、僕は聞いてみた。

 

「お前。今、ゼウスとヘラの眷族が『黒竜』に敗れて何年経つ?」

 

「えっと、15年ですけど」

 

「……やはりか」

 

 僕の答えにより、彼女は何か確信したようだ。

 

「ど、どういうことですか?」

 

「聞いて驚くなよ。ここは、いや、今はゼウスとヘラが『黒竜』に敗れて8年経った時代だ」

 

「……………………えっ」

 

 彼女か言った衝撃的な事実に僕は思考が停止した。

 

「しかし、15年ということはつまりお前は今から7年後の時代からやって来たということになるな」

 

「……は、はい」

 

 彼女の見解に、思考停止していた僕はなんとか頷く。

 

「こうなった原因に心当たりは?」

 

「多分、ヘルメス様かと」

 

 僕は彼女にここに飛ばされるまでの経緯を話す。

 

「あの神ならば確かに納得出来るな。遺跡調査などもしているから、大方そこでその魔導具を見つけたのだろう」

 

 と彼女は言う。

 こうして僕は、自分がヘルメス様によって7年前のオラリオに飛ばされたことを自覚した。

 

 




 アルフィアとアストレア・ファミリアのメンバーは、マジで死ぬべきではなかったと思います。


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第3話 真の邂逅

───アルフィア視点───

 

 目の前の少年はまだ現状を受け入れきれていないみたいだ。

 無理もない。私自身、さっきは未知のことで少し戸惑ってしまった。だが、今はそうでもない。すぐに既知にしたからだ。

 冒険者ならば未知をすぐに既知に変えなければならない。

 それが出来なければあっさり死ぬからだ。

 冒険者をしていた頃の習慣はまだ身に付いているようだ。

 少しすると、少年も何とか会話出来るようになった。

 

「どんな呼び方をしたら良いか分からないので名前を教えてくれませんか?。僕の名前はベル、ベル・クラネルです」

 

「…………アルフィアだ」

 

 何故か目の前の少年を「お前」と呼ぶことは憚られていたからちょうど良い。

 未来の人間ということは私の名前を知っているかもしれないが、その時はその時だ。

 

「ベルがいた時代、つまり私から考えて7年後の時代のオラリオはどうなっている?」

 

 自己紹介も済ませた所で、私が一番気になっていることを聞く。

 私とザルドの洗礼を受け、オラリオがどのようになっているのかを知りたいからだ。

 こちらは洗礼に命を賭けているのだから、それがどのように未来へと繋がったのか、知りたくなって当然だ。

 しかし、ベル……か。実際に呼んでみると何か不思議な感覚だ。

 本当に何故だ。

 何故彼と一緒に居るとこんなにも暖かい気持ちになるのだ?

 そんな疑問を抱きつつ、私はベルの話を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひっ!?」

 

 ベルが怯えている。

 どうやら私はイライラして、無意識にまた『魔力』を立ち昇らせていたようだ。

 だが、しょうがないだろう?

 色ボケの所の猪と道化の所の勇者ども、あいつら私達の洗礼を受けて以降、7年もあるのに一度もランクアップしてない。

 これでどうやって『黒き終末』を乗り越えられる?

 ゼウスとヘラ(わたしたち)はLv.8やLv.9が居たにも関わらず、あのモンスターには手も足も出なかったのだ。

 こうなることが分かっていたならば、私は妹の子と余生を暮らしていたのに。

 

「あ、あの!どうかしたんですか?」

 

 どうやらベルを差し置いて一人で考え事をしていたようだ。悪いことをしたな。

 

「ああ、オラリオの冒険者に『失望』していただけだ」

 

「『失望』……ですか?」

 

 ベルに思っていたことを言うが、彼はあまり分かっていないようだ。

 

「つまり……」

 

 ベルに分かるようにさっき考えていたことを話す。

 

「Lv.8や9が居たのに、勝てなかったんですか?」

 

「ああ、完敗だ。アレには何も通用しなかった。だからこそ、彼等を越える『英雄』が必要なんだ。にもかかわらず、Lv.6,7程度で留まっているなんて何を考えているんだ、あいつらは」

 

 ベルの疑問に答え、私の考えを言う。

 

「Lv.6やLv.7も十分凄いと思うんですけど……。じゃあ、【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】でも『黒竜』を倒せないんですか?」

 

「ああ、今のままでは確実にな」

 

「……」

 

 ベルは猪や勇者達でさえ『黒竜』を倒せないという事実にショックを受けているようだ。

 ここでふと思う。

 目の前にいるベルもかなりの実力者だ。少なくとも第一級冒険者の実力はあるとみて良いだろう。

 しかも年はまだ15にも満たないくらいだ。

 だから興味本意でベルに尋ねてみる。

 

「ベル、お前は今、レベルは幾つだ?」

 

「えっと、Lv.5です」

 

「年は?」

 

「14です」

 

「ランクアップの速度は?」

 

「速度?」

 

「言い方が悪かったな。今までランクアップするまでにどれくらいの時間を擁した?」

 

「えっと、恩恵授かってLv.2になるまでに1ヶ月半」

 

「んっ?」

 

「次にLv.3になるまでに1ヶ月」

 

「んんんっ?」

 

「Lv.4になるまでに2ヶ月」

 

「……」

 

「Lv.5になるまでに2ヶ月です」

 

「……」

 

 アルフィアは普段閉じている瞼を開けて驚く。

 ランクアップの速度が異常だ。

 目の前の少年が嘘を言っているようには思えないから、本当のことなのだろう。

 16歳の頃にはLv.7に至っていた自分よりも圧倒的に速い速度でランクアップしている。

 この異常さはなんだ。

 このような人材、ゼウスとヘラの眷族にも……………待て、まさか!妹の持っていた白髪。あの憎い男の紅い瞳。そして年齢が14、つまりこの時代の妹の子と同年齢。そしてゼウスやヘラの眷族達を越える素質の持ち主。…………まさかこの少年は…………。

 アルフィアは意を決してある質問をする。

 

「……ベル、お前の親はどんなヤツなんだ?」

 

「……両親は居ません。でも祖父が居ました。そうですねー、お爺ちゃんは愉快な人でした。例えば……」

 

 語られるのは、思い出したくもないあの好々爺と悉く一致する特徴。

 

「へっ?」

 

 アルフィアは気付いた時には目の前の少年を抱き締めていた。

 ベルは突然のことに変な声を出して戸惑う。

 しかしここで、アルフィアが涙も嗚咽も漏らしていないのに泣いているように、ベルは感じた。

 だから自分の腕を彼女の背中に回し、抱擁を返す。

 すると、

 

「ベル、私はお前の母親の姉だ」

 

「えっ?」

 

「私にはお前と会う資格は無かった。だがこうして立派になっているお前と出会えて、心の底から嬉しい」

 

 そう言って彼女はベルをさらに強く抱き締めた。

 突然の告白に驚いていたベルは彼女から懐かしい香りを感じた。

 そしてベルは、いつの間にか自分が泣いていることに気付く。

 何故泣いているのかも理解出来ていないまま、ベルは彼女を抱き締め返した。

 

 

 

 

 こうして、本来出会う筈が無かった2人が本当の意味で邂逅を果たした。

 

 




 本当の意味で邂逅っていうのは、お互い自分たちの関係を知った上で出会ったという意味です。1話と2話はまだお互いの関係を知らないので、まだ真の邂逅とは言えませんよね?ってことです。


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第4話 親子の会話

 なでなで。

 

「……」

 

 なでなで。

 

「……」

 

 今、僕はまたアルフィアさんに膝枕をされている。

 どうしてこうなったのかというと、それはお互いに抱き締め合った後に

 

「ベル、膝枕をさせろ」

 

 とアルフィアさんが言ったからだ。

 やんわりと断りたかったが、僕の中では既に『アルフィアさんの言うことに逆らってはいけない』という暗黙のルールが出来ていたので、何も言わずにアルフィアさんの腿の上に自分の頭を乗せた。

 アルフィアさんは僕のお母さんの姉らしい。つまりヘルメス様が言っていた、七年前にオラリオで大量虐殺をした一人でもあり、僕の唯一の肉親だ。

 話したいことは沢山ある。なのでまず最初にアルフィアさんの呼び方について尋ねることにした。

 

「えっと……僕のお母さんのお姉さんなので……おばさ」

 

 ドゴッッ!!

 

 と言葉を言い切る前にベルの頭からヤバイ音がなった。

 

「殴るぞ?」

 

「……もう殴ってますよ!!」

 

 僕は目尻に涙を溜めて悶絶しながら言い返す。

 そんな抗議を無視して、アルフィアさんは未だ膝枕した体勢のまま僕を見下ろして言う。

 

「私を呼ぶ時は『お義母さん』だ。分かったな?」

 

「はい。……お義母さん」

 

「それで良い」

 

 気恥ずかしく思いながらも僕は『お義母さん』と言う。

 アルフィアお義母さんも満足そうだ。気分が良くなったのか、また僕の頭を撫で始めた。

 

(良かった……機嫌が良くなったみたいで)

 

 と安堵しているのも束の間、お義母さんは何かに気付いたのか、僕に尋ねてきた。

 

「ベル、お前、膝枕されるのがやけに様になっている気がするのだが、もしかしてよく誰かにしてもらっているのか?」

 

「うえっ!?」

 

 お義母さんの唐突な、そして鋭い問いかけに僕は目に見えて動揺する。

 

「そ、そそそそんなことないですよ!!」

 

「その反応は肯定と判断して良さそうだな」

 

「うっ、……はい」

 

 僕は否定するが、逆にその反応で確信させてしまったらしい。僕はあきらめて白状する。

 

「何処の女だ?」

 

「へ?」

 

「相手は誰だと聞いている!」

 

「いや、それは!……どうしてそんなことを?」

 

 お義母さんが不機嫌な様子で、僕に膝枕をしてくれる相手を聞いてくる。なので僕はその理由を聞いてみた。

 

「簡単だ。お前にふさわしいかどうかを私が判断する」

 

「なんで!?」

 

「変な女じゃないか確認しないとな。お前は優しすぎるが故に女に騙されたこともあるだろう?」

 

「うっ!?」

 

 図星を突かれて僕は言葉を詰まらせる。リリのことだ。確かに最初はナイフを盗んだり、十階層でオークの群れに僕を襲わせたりしたけど、今はちゃんとした仲間だし。

 

「その反応はやはり心当たりがあるんだな。私の魔法の餌食にしてくれる!」

 

「ちょっ、それは止めて!?今はちゃんとした仲間だから!!」

 

 お義母さんの恐ろしい発言に流石に僕は反対する。

 じゃないとリリが死んじゃう。

 

「まぁ良い。膝枕の相手といい、聞きたいことは沢山ある。ベルも私に聞きたいことがあるんだろう?」

 

「はい」

 

「それなら、ベルがオラリオに来て冒険者になってから今に至るまでの話を聞かせろ」

 

「分かりました」

 

 お義母さんの提案を受け入れ、僕は冒険者になってからこれまで自分がやってきたことを話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は話した。

 アイズさんに一目惚れして、彼女の横に立てるように強くなろうと決めたこと。

 アイズさんとの訓練の中で彼女に膝枕されるようになったこと。

 レベル1の時にミノタウロスを倒してレベル2になったこと。

 レベル2の時は【アポロン・ファミリア】と戦争遊戯をして、最後にはレベル3のヒュアキンスさんを一対一で戦って倒し、レベル3になったこと。

 レベル3の時は異端児のことで色々悩んだりしたけど、最後には偽善者になる覚悟を決めたこと。

 レベル1の時に倒したミノタウロスが生まれ変わってきて僕に再戦を求めてきたので戦ったけど、最後には負けてしまったこと。

 レベル4の時は遠征の中でイレギュラーの中のイレギュラーのモンスターである『ジャガーノート』と戦ったこと。

 深層で4日間、装備などがほとんど無い状態で生き延び、最後には『ジャガーノート』も倒すことが出来たこと。

 【フレイヤ・ファミリア】の第一級冒険者達による、これまでにない洗礼を受けたこと。

 他にも色々と話した。

 お義母さんは最後まで何も言わずに僕の話を聞いてくれた。

 

「……そうか、ベルがオラリオに来て、後進達(あいつら)の洗礼も浴びて、強くなってくれているようで何よりだ」

 

「ハハハ、僕オラリオに来て何度もボコボコにされてますからね」

 

「【アポロン・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】は今すぐにでも潰しに行くか」

 

「この時代の彼らには何も罪は無いですからね!本当に潰しに行かないでくださいよ!」

 

 やはりというか、お義母さんは【アポロン・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】に対して怒っているようだ。

 

「分かっている。私が七年後の時代に行けたらすぐにでもやるが、この時代の奴等は関係無いからな」

 

「よ、良かった~」

 

 お義母さんも分かってくれているようで僕は安心する。

 

「ベルの話を聞いて色々言いたいことはある。だが、ここで言った所で何も変わらんからな。今はお前がどんな『冒険』をしてきたのかを知れただけでも十分だ。ベルは私に何か聞きたいことがあるんだろう?今度は私が話す番だ。何でも聞いてみろ?」

 

「えっと、お義母さん達がオラリオで沢山の人達を殺したとヘルメス様が言ってました。本当にそんなことをするんですか?」

 

 僕は単刀直入にお義母さんに尋ねる。

 

「ああ、するぞ。」

 

「どうしてですか!?オラリオの冒険者達に『洗礼』を与える為だと聞きました。でも、何故そんな『手段』を取るんですか!?」

 

「時間が無いからだ」

 

「えっ?」

 

「私達『最強の眷族』と呼ばれた者達は私とザルドを除いて皆死んだ。その上、『約束の刻』は結ばれた誓約を待たずして訪れる」

 

「『約束の刻』?ど、どういうことですか?」

 

「もうダンジョンは限界(▪▪)だということだ。つまりダンジョンの最下層を早く攻略しなければ、下界は滅ぶ。それを阻止するためには強引な手段だとしても猪たち(あいつら)に『洗礼』を与え、『超克』して強くなってもらわなければならない」

 

「……」

 

 お義母さんの言葉に僕は何も言えなくなった。

 ダンジョンが限界だという意味はなんとなく理解出来た。僕のいた時代でも「最近ダンジョンは異常な点が多い」と神様達が言っていたからだ。恐らく何かが起こる前兆なのかもしれない。そしてそれを回避するためにダンジョンの攻略が必要だということだろう。

 

「ベル、お前はこの話を聞いてどうしたいと思った?」

 

「えっ?」

 

「ダンジョンの攻略、そして黒竜の討伐。この二つは時間の問題だ。勇者や猪達のように長い時間をかけてランクアップしているようでは遅い。その間に下界は滅ぶぞ」

 

「僕は……」

 

「私は七年後の未来の話を聞いて失望した。猪達が私達の洗礼の後にランクアップを一度もしていなかったからだ。私達が命を賭けてあいつらの壁になったとしても、結局下界は滅ぶのだろうと思った。しかし、同時に希望も得た」

 

「希望?」

 

「お前だ、ベル。」

 

「僕?」

 

「そうだ、お前は短期間に何度も壁にぶつかり、その度に己を賭して『冒険』をし、強くなった。『憧憬一途(スキル)』の恩恵も大きいだろうがな。お前は下界を救える可能性を持っている」

 

「僕が下界を?」

 

「ああ、黒竜を倒し、そしてダンジョンの最下層の攻略もやれるだろう」

 

 僕が下界を救う?黒竜を倒す?

 

「無理ですよ!アイズさん達ならともかく僕なんて!」

 

 そんなの想像出来ない。だから僕は無理だと言った。

 

「………………………そうか、ベルの考えはそうなんだな。ならば仕方がない」

 

「えっ?どうしたんですか、いきなり」

 

 僕の返答を聞いてお義母さんの纏う雰囲気が一気に剣呑なものに変わる。

 

「表に出ろ、ベル」

 

「え?」

 

「早くしろ!」

 

「は、はいぃぃ!」

 

 こうして僕とお義母さんは教会を出た。

 

 




 良い感じで終わらせたいんですけどね。ベルにアルフィアとザルドの洗礼を浴びせることがこの作品の目的なので、ご了承してください。


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第5話 【福音(ゴスペル)

 
 今回は戦闘シーンが少しあります。初めて書くので、出来が悪くても文句は言わないで戴けると……( ´△`)。


 僕とお義母さんは教会を出て少し歩いた場所にいた。

 周りに建物が見えるが、その中で誰かが暮らしているわけではなさそうだ。全て廃墟になっている。

 今歩いている場所もだけど、あの教会周辺は人が誰も住んでいないのはこの時代も同じらしい。

 そんなことを考えながら歩いていると、僕の前を歩いていたお義母さんが立ち止まった。

 

「あの~、ここに何しにきたんですか?」

 

「お前と別れるためだ、ベル」

 

「えっ?」

 

「そのままの意味だ。私はここでお前と別れ、闇派閥(イヴィルス)の拠点に戻る」

 

 僕の疑問にお義母さんは淡々と答える。

 

「ど、どうして!?」

 

「冒険者達に『洗礼』を与えるためだ。ベル、お前は黒竜を倒すのは無理だと言ったな?あのモンスターを倒せる『可能性』を持つお前が黒竜を倒すことを拒んだんだ。ならば他の奴があの『怪物』を倒せるように、私はそいつらの『壁』にならねばなるまい」

 

「……」

 

 お義母さんの言葉に僕は言い返せない。

 僕の発言が原因でこのような結果になったからだ。

 お義母さんは僕に背を向け歩いていく。

 このままでは僕の居た時代と同じ様に彼女を『大罪人』にしてしまう。

 そんなの、嫌だ!

 そんな『未来』を知っているのに、みすみす行かせるのは嫌だ!

 何より、『持病』で死期が迫っているとはいえ、彼女の寿命を縮めて早死にさせたくない!

 ギリギリまでちゃんと生きてほしい!

 両親が居ないこの時代の僕と最期まで一緒に暮らしてほしい!

 そんな想いを糧に僕は足を前へ踏み出し、お義母さんを止めようとする。

 

「待ってください!」

 

「そういえば、ここまでわざわざ出てきてお前に別れを告げた理由を言ってなかったな」

 

「へ?」

 

「それは、引き留めようとするであろうお前を叩き潰す際に妹の愛した教会まで破壊してしまわないためだ────────【福音(ゴスペル)】。」

 

「ッッ!!」

 

 最後に彼女が発した『詠唱』を耳にした瞬間、僕は自身が立っている位置から急いで飛び退いた。

 理由は無い。ただ感覚的に、ここ居てはまずい、と思ったからだ。

 結果、その判断は正しかった。

 証拠に僕がさっきまで立っていた場所は、いや、そこを含むお義母さんの周り(・・・・・・・・)は地面が抉れている。

 もしあのまま立っていたら、僕は魔法を受けていただろう。

 僕が冒険者生活で身に付けた危機察知能力は伊達ではなかったようだ。

 しかし気になることがある。

 

(魔法の行使速度が僕とほぼ同じ!)

 

 やりにくい……。

 実際に速攻魔法を受ける側に立ち、身を持って自身の魔法の厄介さを実感する。

 その上彼女の魔法は不可視だ。

 僕の魔法は速度重視なので、ベクトルは違えど厄介さという点ではここでも一緒だ。

 こんな状況でなければ喜べたんだろうけど。少し複雑な気分だ。

 

「驚いたな。私の魔法を初見で避けられる奴はそうそう居ないぞ」

 

「……嫌な予感がしたので何となくで避けただけです。別に凄くはありません。運が良かっただけで」

 

 お義母さんは驚いているようだが、僕は謙遜して答える。

 実際にあんなの毎回やられたら避けられるわけがない。

 

「そんなに自分を卑下しなくても良いだろうに。十分凄いぞ。しかし、これなら少しは楽しめそうだな。少しギアを上げるぞ……フッ!」

 

「──っ!!」

 

 お義母さんが高速で近づき手刀を放ってくる。

 僕は何とか避け、そして反撃しようと今唯一装備している《神様のナイフ》を腰から抜こうとして止まった。

 お義母さん、肉親に刃を向けるのをためらったからだ。

 

「甘いな、お前は」

 

「──ぐほぉ!」

 

 お義母さんは当然そんな僕を待つわけがなく、腹に蹴りを入れてきた。

 

「お前の考えていることは手に取るように分かるぞ、ベル。大方、肉親(わたし)には刃を向けられない、とでも思っているのだろう?それが私に対する一番の侮辱だとも知らずに」

 

「っっ!?」

 

「お前は未だに自分の気持ち(・・・・・・)にすら気付けていないようだな。何故お前がこの時代に来たのか、考えてみろ」

 

「……何を、言って?」

 

「私はこれ以上何も言わん。自分で考えろ。それと軟弱なお前にはもう手加減はしない。」

 

「ッ!!」

 

 そう言った瞬間、彼女から僕の方に『風』が流れてくる。

 そして同時に彼女の周りの『魔力』が増幅した。

 今までの魔法は本気ではなかった(・・・・・・・・)のか……!?

 

「一つ忠告しておく。……死ぬなよ?」

 

「まずい!!」

 

「遅い。【福音(ゴスペル)】────────【サタナス・ヴェーリオン】」

 

「ぐぅううううううう!?」

 

 回避が遅れたベルはアルフィアの本気の魔法をもろに食らった。

 今ベルはまともな装備をしていない。この時代に転送された装備は教会の地下室に置いてきたからだ。ゆえに普段街中を歩く際に着る服しか身に付けていない。唯一《ヘスティア・ナイフ》があるが、これではアルフィアの魔法は防げない。

 よって、魔法の攻撃が止んだ時にはベルはボロボロになっていた。

 服は破れ、頬、肩、脇腹などの様々な箇所には酷い裂傷が出来ていた。

 しかし、それだけだった(・・・・・・・)

 普通は対アルフィアの魔法専用の魔道具や防護の魔法無しの生身でアルフィアの魔法をもろに食らうとLv.5でも重傷どころではすまない。最悪死ぬ。

 しかし、ベルはその場で倒れるわけでもなく、踏みとどまっていた。それだけではなく、これくらいの傷は全く問題ないとばかりにアルフィアの方へと足を進めている。

 これはベルのLvに不相応な尋常ではない『耐久』の能力値(アビリティ)の恩恵でもあるが、少し違う。今のベルの傷を負えば、普通は誰でもその場で倒れ戦闘不能に陥る。【ロキ・ファミリア】のガレスでさえ例には漏れず、そうなるだろう。

 だが、ベルはこれまでこれくらいの重傷を負いながらも何度も格上相手に挑み、その上打破している。

 その経験がベルに膝をつくことを決して許さない。

 他ならないベル自身もこれくらいで倒れることを許さない。

 

「……お前は私をどこまで驚かせる。Lv.5でありながらここまで耐えるとはな。もう立つことすら難しいだろうに」

 

「はは、これくらいの傷、僕にとっては大したことないですよ」

 

 アルフィアも今まで以上に驚嘆している。

 そんな彼女にベルが自慢気に答えた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

「────あー、俺も流石に驚いたぜ。まさかアルフィアの本気の魔法を浴びて、Lv.5でありながらここまで耐えるとはな」

 

 と、目元に傷を負った全身鎧の大男がベルに向かって楽しそうに声をかけてきたのは。

 

 




 アルフィアの本気の魔法を食らった時のベルの状態はあれであながち間違ってないと思います。
 ベルはLv.1の時から(精神的にも肉体的にも)ボコボコにされたあとで、最終的にはその理不尽すぎる『壁』を乗り越えてきましたからね。Lv.4の時は【フレイヤ・ファミリア】のあの洗礼ですよ。皆さんも17巻読んで知ってると思いますけど、あんな極限状態に落とされて最後まで屈しないって結構凄いんですよね。
 だからこそ、それを乗り越えたベル君ならアルフィアの本気の魔法を食らって重傷負っても、決して倒れることはないと思いました。流石に何度も食らったら無理だと思いますけど、一発程度では絶対倒れないと思います。
 ガレスでもベルと同じ傷を負ったら倒れるとした理由は簡単です。ダンメモ三周年の一章のアルフィアvsガレス&リヴェリアで、威力を押さえたアルフィアの魔法を前にあっさり破れたからです。条件はベルと一緒で、アルフィアの魔法の対策無しの生身で受けて、ですよ。
 僕が思うに、ガレスは『打たれ強さ』はちゃんと人一倍あるんですよ。ドワーフですし。でも、ベルやオッタルのように、理不尽をたった1人で乗り越えるって経験が少ないから、『理不尽』を前には弱いんだと思います。これはほとんどのダンまちキャラに言えるんですけどね。ダンまちの世界では、レベルは絶対で、自分を越えるレベルの相手を倒すときって共闘することが当たり前ですから。ベルやオッタルさんが少し異常なだけで。あとは彼等ほどではないけど、アイズとか【フレイヤ・ファミリア】の幹部も含まれるのかな?まあ、そんな所です。
 最後に補足ですが、ダンメモ三周年の三章の最後の方、ホントに終盤の方で対アルフィアの魔法専用の魔道具とかリヴェリアの防護魔法も全て無くなったあとに、アルフィアの本気の魔法をリューさん達が受ける シーンがあるのに、リューさん達が大丈夫だったのは、単純にアルフィアの方に限界が来ていて魔法の威力が著しく落ちていたからです。もし序盤から受けてたらリューさん達は即死してました。


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第6話 強制戦闘

 更新までに時間かかってすいません。
 あまりの行動力の欠如に、自分で自分が嫌になるくらいです。
 今後も、更新速度は期待しなくても良いので、内容は期待してくれると幸いです。


 僕の背後に彼は立っていた。

 漆黒の全身鎧を装着する(いわお)のような巨躯(きょく)。二M(メドル)を越える身の丈。朱殷(しゅあん)色の短髪に同色のマント。

 周りに傷跡が残っている灰色の双眼が、僕の顔を真っ直ぐ見据えている。

 いきなり自分に話しかけてきたこの人物に僕は動揺を隠せない。

 いつからここにいた?

 さっきまでここら一帯には僕とお義母さんしか居なかった筈だ。

 第一級冒険者になった自分に認識出来ないように接近していた人物に、ベルは戦慄する。

 

「……それで、Lv.5ということは美神(フレイヤ)の猪の後進か?道化の眷族のLv.5は俺の知っている連中しか居ないと聞いているからな」

 

「……ち、違います」

 

 混乱が抜けきれていない僕に彼は尋ねてくる。

 しかし自分は【フレイヤ・ファミリア】ではないので、当然僕は彼の問いかけに対して否定する。

 

「そうなのか?闇派閥(あいつら)から聞いたオラリオの戦力の中に、あの2つの派閥以外にLv.5は居なかった筈だが」

 

「……」

 

「……まあ良い。そんなことよりお前は見所がありそうだな。ゼウスとヘラ(俺たち)が居ない間に良い後進が育っ………………この『匂い(かおり)』…………何故だ?何故お前から『あの馬鹿』とアルフィア……いや『アルフィアの妹』の『状態(あじ)』がする?……まさか!?」

 

「『悪食』を極めたせいで『五感』が敏感になっているお前ならすぐに気付いたようだな、ザルド」

 

『何か』に気付いた様子の彼に、今まで口を閉じていたお義母さんが言う。

 

「……アルフィア。だが、あいつらの『子供』はまだ七歳くらいの筈だぞ」

 

「その『子供』が七年後の未来からやって来た、ということだ。私も最初は耳を疑ったが、本当にそうらしい」

 

「確かに信じられないことだが、お前が言うのならばそうなんだろうな。……それはそうと、俺はさっき来たばかりで知らんが、何故戦っていたんだ?」

 

 状況を把握した彼が尤もな質問をお義母さんにする。

 

「あまりにも『軟弱』な考えをしていたからな。『洗礼』を与えていた、それだけだ」

 

「……そうか。それは確かに許容出来んな。最強の派閥(俺たち)の間に生まれたのならば尚更な」

 

「丁度良い。ザルド、お前がベルに『洗礼』を与えてやれ。お前も満更ではないだろ?」

 

「はははははっ、まあな。俺も『あの馬鹿』の息子に会いたいと思っていたし、出来ることなら強くするために『洗礼』を与えたいとも思っていたからな、良い機会だ。……ベル、だったか?」

 

「は、はい!」

 

「そういうことだ。俺と戦い(やり)合うぞ」

 

 そう言って目の前の武人は、肩に担いでいた自身の身の丈程もある大剣の切っ先を僕に向けてきた。

 

「くっ!?」

 

 いきなりの展開にベルは動けない。

 さっきのお義母さんとこの人の会話から、彼はお義母さんと同じくオラリオに混沌をもたらすためにやってきた最強の眷族の一人、『暴喰』。

 つまりこの人も僕の家族も同然の人だ。

 どうして、どうしてせっかく会えたのに彼等と戦わないといけないんだ!?

 両親が居なかった故に家族を大切にしたいと人一倍思っているベルは、目の前の武人(かぞく)と戦うことを拒絶してしまう。

 

「……はぁ。アルフィアがお前に怒っている理由が少し分かったぞ。まぁそちらから来ないのならば俺から行くだけだ」

 

「ッッ!!」

 

 ザルドはそう言ってベルに攻撃を仕掛ける。

 ベルに一瞬で近づき放たれる、大剣での剛撃。

 ベルは反射的に腰から《ヘスティア・ナイフ》を抜き大剣の腹を叩くことでその攻撃を凌いだ。

 

「~~~~~~~~~~!?」

 

 骨の髄まで響いてくる程の痛撃。

 

(本気だ!今のを防がなかったら僕は死んでいた!?)

 

 本気で殺しにきた目の前の武人にベルは戦慄する。

 

「ほう、防いだか。だが、今ので驚くようではまだまだだぞ」

 

 そう言って再びザルドは剛撃を放ってくる。

 甚だしい威力と速度。そしてナイフでは到底受け流しきれない程の破壊力。

 剣撃(けんげき)を交わすことたった五合、それだけでベルの体勢が崩れた。

 

「温い」

 

「ぐはぁっ!?」

 

 その隙を逃すことなく繰り出される回し蹴り。

 脇腹を強打されだベルの体は風を切る矢と化し、近くにある廃墟を貫通、それを何度も繰り返しながら飛ばされた。

 

「がっ、ぐぅ……!?」

 

 何度も壁にぶつかることでようやく止まれたベルは、全身を焼く痛みに(うめ)く。

 そもそもベルはアルフィアの魔法によって体をぼろぼろにされていたのだ。それに加えて今の一撃。ベルの体は限界に近づいていた。

 ベルはふらつく体を押して立ち上がる。

 

「その程度か?」

 

「!」

 

 いつの間にか背後に回っていたザルドの言葉に、はっとしてベルは顔を振り返った。

 

「ぬん!」

 

「ぐっ!?」

 

 直後、ザルドが大剣を振り下ろす。

 ベルはナイフで受け止めるが、その反動で後方に飛ばされる。

 

(ナイフじゃ駄目だ!せめて同じ大剣じゃないと!?)

 

 ベルは自分の今の武器では圧倒的に不利だと実感する。

 しかし大剣はここには無い。教会の地下室に置いてきたからだ。

 そして、このまま受け身になっていては本当に死ぬ。

 

「──ちくしょう!!」

 

 これらの状況から、ベルは強制的に(・・・・)戦闘を強いられることになった。

 

 




 今更ですが1話の補足をします。
 1話でベルはLv.5になったときにヘスティアから『憧憬一途』のことを教えられるという設定にしていました。これは多分18巻でもあると思ったからです。
 そもそもヘスティアがベルにスキルの存在を教えていなかった理由は「誰かにスキルを聞かれた際に、嘘をつけないベルは話してしまうから」というのが建前で、9割方アイズへの嫉妬心でした。スキルのことを教えたら、ヘスティアは完全にベルに入れ込む余地がなくなりますからね。
 しかし17巻での騒動により、そうはしていられないでしょう。フレイヤがオラリオにいる全員を『魅了』したからです。神々はベルに『魅了』が効かないからフレイヤが今回の騒動を起こしたと気づくと思うし、それをオラリオ中の人々もその内知ることになるでしょう。
 それだけならまだ黙秘を決めることは出来ます。しかし戦争遊戯までの間、ベルはほぼ確実に【ロキ・ファミリア】の幹部達に訓練をしてもらいます。その条件の1つとして、ロキやフィンがベルのスキルの開示を求めるのは想像に難くありません。まあ、【ロキ・ファミリア】の古参のフィン、リヴェリア、ガレスと主神のロキには教えても他の者達(特にアイズ)には教えないようにヘスティアもすると思いますが。ここでヘスティアがベルに教えるか、ですよね。ベルも自分に『魅了』が効かなかった理由を聞くので多分教えると思いますが、頑なに教えない可能性もありそうですね。そうしたら流石にヘスティアはヒロインとしてだけではなく人(神)としてどうかと思いますが。そんなにベルがアイズを好きなことが嫌なのかと。恋敵を何が何でも突き落とすのが女なのかもしれませんが(僕の偏見です)。
 そもそもスキルの存在を黙っていてよかったのはLv.2時くらいだったんですよ。その頃はまだベルのスキルを聞こうとする神々がいたので。でもLv.3になってからはそう言う人も居なくなったのでその頃には教えてよかったんです。しかもベルがスキルのことを知っていれば、フレイヤにその事を問い詰めることも出来た(フレイヤもステイタス更新時に『憧憬一途』を書かなかったので)と思います。


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