カルデアと学園都市とグリフィンとボーダーがあって、魔法少女と超能力者と戦術人形と英霊と魔術師がいる三門市 (アンゼルム・ケーニッヒ)
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ドールズフロントライン編
1話


 木原療法は研究者である。

 人類の夢である不老不死、その達成が最終目標だ。その為にはあらゆる手段を試していた。その過程で超回復薬やバッテリーアンプルなどの発明品を生み出した。

 その功績を認められて、学園都市の上層部からは多大な研究費用と権限を与えられていた。しかしまだ彼の夢見る到達点には至らない。

 

「ふむ、やはりこれでは駄目か。戦術人形に脳と脊椎を移し替えても結局は百年前後で老化する。メンテナス費用も高い。魔術的なアプローチを試みれば肉体は保てるが精神が悪性化してしまう」

 

 療法はため息をついてプロジェクトを凍結した。

 既存の方法では駄目だ。もっと超越的な研究が必要だと判断したのだ。そこで部屋にノックが響く。現れたのは長い黒髪にウマ耳を冷やした少女だった。

 

「療法先生、統括理事会から依頼が来ました」

「ありがとうカフェ。内容は?」

「空閑遊真をボーダー本部へ連れて行き加入させる事。そしてそれまでの護衛。報酬は研究費増額とレベル6までのアクセス権です」

「レベル6のアクセス権? これはまた凄いな。完全機密情報じゃないか。それほどまでにその、空閑遊真というのは重要なのか。護衛対象の情報は?」

「白髪の少年。15歳。身長141cm。幼い頃から父親の空閑有吾と共に様々な近界の国を巡り、有吾から戦闘技術等の様々なことを叩きこまれており、彼と共に近界民の戦争に傭兵として参加していたようです。戦場で敗れて瀕死の重傷を負い黒トリガーの中に体を封印。以後は睡眠や食事が不要になります。また嘘を見抜くサイドエフェクトを有していると」

「情報が細かいな。黒トリガーに体を保管するか。やはり黒トリガーは異質だね。解析したいものだ。それでいつから?」

「今日今から、だそうです。場所は三門市第三中学校に通うので、その保健室の先生として赴任するようにとの事です」

「うん、了解。じゃあ行こうか。ピンセットを用意してね。ケースは適当で良いよ」

「わかりました」

 

 ピンセット。正式名称は「超微粒物体干渉吸着式マニピュレーター」。

磁力、光波、電子などを利用して素粒子を掴む(正確には吸い取る)事ができる故にピンセットと呼ばれる。

 

 見た目は、中指と人差し指からガラス質の長い爪が伸びた金属製のグローブ、というもの。 ガラスの爪の中には金属製の杭のようなパーツが通っており、爪から抽出した素粒子を杭が分析、 結果を手の甲の携帯電話のようなディスプレイに表示する仕組みだ。

 三門市第三中学校へ赴き、チャイムを鳴らす。すると先生が現れる。

 

「こんにちは、木原療法です。今日から保険医としてこの学校でお世話になります」

「はい、連絡来てます。よろしくお願いします。取り敢えず職員室へご案内しますね」

「ありがとうございます」

「えっと、そちらの方は?」

 

 教員の視線がマンハッタンカフェに向けられる。

 少女、しかもウマ耳が生えているのはやはりこの三門市といえど珍しいのだ。人工的な超能力があるにも関わらず、そんな思考になるのはやはり超能力が身近な存在にあるからだろう。

 彼からすれば核兵器並みなレベル5が存在する超能力開発技術の方がよっぽどおかしい。

 

「彼女は私の助手です。もちろん免許とか諸々は取得しているのでご安心ください」

「そうですか、わかりました。どうぞお入りください」

「失礼します」

 

 職員室で自己紹介をして保健室に案内される。

 療法は椅子に座ると、上着を脱いでスーツのサスペンダー姿になる。そして持ち込んだPCを開く。

 

「ピンセットを出して」

「はい」

 

 マンハッタンカフェが持っていたケースからピンセットを取り出し、PCに接続する。そして滞空回線(アンダーライン)を操作して、目的の空閑遊真を確認する。

 

 滞空回線(アンダーライン)とは学園都市中に5000万機ほど散布されている70ナノメートルのシリコン塊。 当然のことながら一般の学園都市住人はその存在を知らず、 仮に存在の情報を掴んでもその小ささから電子顕微鏡を用いねば確認すらできない。

 形状は球体状のボディの側面から針金状の繊毛が左右に二対・六本飛び出しているもので、 空気中を漂うような感覚で移動を行う。 機体自体が空気の対流を受けて自家発電を行うため、半永久的に情報収集が可能であり、 収集したデータは、体内で生産した量子信号を直進型電子ビームを使って各個体間でやりとりされ、 一種のネットワークを形成している。

 

「見た目は特に変わったところはないね。トリオン体である事くらいだ。どうやって内部は体を保管しているのか調べてみるか……無理か。残念」

「これからどうするんですか?」

「うーん、別に後ろ暗いところもないし、サクッと本人と協力関係になっちゃおうと思うんだよね。いちいち滞空回線で監視するのも面倒臭いし、友達になっちゃえば選べる選択肢も広がるからね」

「相手が敵対する可能性があります。彼は近界民ですから」

「まぁ監視するって言われて良い気はしないだろうけど、何も言わずバレるよりマシな気がする。それにほら、これ見て」

「? なんですか?」

 

 PCに映った映像をマンハッタンカフェに見せる。

 そこには黒髪の少年と仲良くしている姿があった。

 

「これが情報収集の為の偽装の可能性もあるけど、だったら尚更僕たちとは仲良くしてくれると思うよ」

「わかりました。では呼んできましょうか? 療法先生」

「うん、お願い」

 

 マンハッタンカフェは部屋の外に出ると空閑遊真の教室に向かった。そして言う。

 

「おはようございます。転校生の空閑遊真さん、木原療法先生がお呼びです。ついてきてください」

 

 騒がしかった教室が一瞬で静寂になる。マンハッタンカフェの黒曜の美しさに見惚れている者が多い。

 そんな中、空閑遊真はトコトコと歩いて行ってマンハッタンカフェの前に立つ。

 

「おもしろい耳してるね、なにか用?」

「はい。用があります。私ではなく療法先生が、ですが。ついてきてくれますか?」

「うん、良いよ」

 

 そこで黒髪の少年、三雲修が慌てて仲介に入る。

 

「あの! こいつが何かしたんですか?」

「いえ、そういうわけではありません。ただ少しお話があるだけです。勿論、事情は理解しています。貴方は知っている人ですか?」

「あ、えっと」

「修は知ってるよ。俺が」

 

 そこでマンハッタンカフェは口に指を当てて言葉を止めた。

 

「静かに。それはあまり喧伝して良いものではありません。事情を知っているなら話が早い。貴方もついてきてください」

「え? 僕もですか?」

「そのりょうほう先生っていうのは俺に用があるんじゃないの?」

「はい。しかし事情を知っているなら巻き込んだ方が良いと判断しました。ついてきてください」

 

 マンハッタンカフェは二人を連れて保健室へ赴く。

 

「失礼します」

 

 ドアを開けると、そこには療法がいた。

 

「やぁ、来たね。空閑遊真……と誰?」

「事情を知る人です。連れてきてはいけなかったですか?」

「いや、まぁ、どっちでも。カフェはコーヒー淹れてほしいな」

「わかりました」

 

 空閑遊真達を保健室に引き入れ、椅子に座らせる。

 空閑遊真は言った。

 

「それで、アンタは俺に何のようなんだ?」

「僕は君と友達になりたいんだ。黒トリガー持ち近界民である君とね」



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2話

 

 怪訝そうな顔の空閑遊真に、療法はパソコンを操作して空閑遊真と三雲修の二人に見せる。

 

「色々思うところがあると思うが、この世界について説明をしよう。今この地球は三つの人類の敵と戦っている。一つは近界民、門から現れ人を襲うボーダーが対処するやつだ」

 

 パソコンに画像が映し出される。

 

「二つ目はヒュージ。魔力やマギと呼ばれるもので物質が変異した姿だ。こいつもケイブと呼ばれるワープゲートでどこにでも現れる。エリアディフェンスで抑制はしているが」

 

 パソコンに画像が映し出される。

 

「三つ目はE.L.I.D。広域低放射性感染症候群でゾンビになった人だ。こいつはコーラップス液で被曝するとこうなる」

 

 パソコンに画像が映し出される。

 

「それに対抗する為に設立されたのがボーダー、学園都市、カルデアの三つ。色々あるが、こっちは人類の味方だ。で僕はその学園都市に所属する研究者で、上層部から君を監視と護衛を頼まれた。だから君を監視と護衛するからよろしくねって挨拶をしたいのさ」

「コーヒーです」

 

 マンハッタンカフェがテーブルにコーヒーを置く。三雲修は頭を下げて、ゆっくりと飲んだ。

 

「美味しい」

「カフェのコーヒーは絶品だからね!」

「どうして先生が嬉しいそうなんですか」

 

 空閑遊真は言う。

 

「嘘はついてないね」

「嘘を見抜くサイドエフェクトがあるって知らされていたからね。それに僕は騙し合いが苦手だ。そんな事に頭を使いたくない。それで、どう? 友達になってくれる?」

「その監視するとして、俺をどうするつもりなんだ? 近界民はこの世界の人には嫌われてるって思ったけど、退治したりしないの?」

「少なくとも命令がなければしないね。僕個人として肉体を黒トリガーに収納しているシステムを研究したいとは思うが、それ以外で君に興味はない。好きにすると良いよ。止めない。だが僕以外はどう行動するか分からないな。ボーダーには肉親を近界民に殺された人もいるしね」

「ふぅん、わかった。友達になる」

「よろしく、空閑遊真」

「よろしく、療法先生」

 

 療法と空閑遊真は固い握手を交わした。三雲修もほっとしたような表情を浮かべる。

 その時だった。

 ヴー! ヴー! と喧しい音が響く。

 警報だ。

 

『緊急警報。緊急警報。門が市街地に発生します。市民の皆様は直ちに避難してください。繰り返します。市民の皆様は直ちに非難して下さい』

「これは!?」

「修、これ何だ?」

「警報だよ! 近界民が現れたんだ!」

「数はわかる? カフェ」

「およそ100体です。この学校に接近しているが30体」

「よし、三雲君。君はシェルターに避難してくれ。空閑遊真、共同戦線だ。手伝ってくれるかい?」

「良いけど、修にはトリガー使うなって言われたぞ。ボーダーにバレたらまずいって」

「別に良いよそんなの。ボーダーには僕が口添えするし、存分に使っちゃって」

「了解」

「カフェは修君と一緒にシェルターへ」

「わかりました」

 

 療法はピンセットを装着する。

 空閑遊真は黒い戦闘用トリオン体に変身する。

 

「手分けをしよう。俺が東、君が西だ」

「わかった」

 

 空閑遊真は即座に飛び出し、近界民を狩りに行った。

 療法も戦闘モードへ入る。

 彼が使うのはナノマシンだ。サイコ・ナノマシンという思考をそのまま現実するナノマシンだ。自己増殖、自己進化、自己変異、自己崩壊を駆使して現実に干渉する。

 ピンセットがあればその精度が増幅される。

 

「足場を形成、砲弾を形成、砲身を形成、射出用意」

 

 屋上までの階段を作り、ゆっくり登っていく。そして自身の周囲に遠距離攻撃用の武器を生成して待機させる。コの字型の砲身が浮遊している。そして屋上まで昇り切ると、敵のいる方向に向けて手を向ける。

 

「照準固定。面制圧モード。発射」

 

 ドン!! っと音を立てて白い砲弾が発射され、近界民を貫いた。

 砲身に自己増殖した砲弾がセットされ、連続で発射される。マシンガンのようにばら撒き、面制圧を行う。

 大群だった近界民達は一掃される。

 

「うん、良いね」

 

 西の方角を見ると、まだ近界民は存在していた。黒トリガーなら雑兵くらい瞬殺だと踏んで任せたのだが、思い違いだったか、と療法は空閑遊真の評価を一段階下げる。

 

「精密射撃モード。発射!」

 

 遠くから一体一体破壊しながら、西型の区画へ足を進める。そこでは校庭で戦闘を行なっている空閑遊真の姿があった。

 相手は黒い影のような存在だ。巨漢で、叫び声も大きい。手には巨大な斧を持っている。パワーとスピードは高く、一撃で空閑遊真が吹き飛ばされ校舎に激突していた。

 

「空閑遊真!! そいつの足止めを! 僕は近界民を倒す!!」

 

 そう叫び、療法は西側の敵を掃討する。その過程で、シェルター方面に近界民が向かったのがわかった。オート戦闘モードにしたガドリングを空中に複数を設置して、療法はシェルターへ向かう。

 

 そこには訓練用のトリガーで近界民と戦う三雲修の姿があった。

 右手は寸断され、トリオンが漏出している。そして左手に持った盾で近界民の攻撃を防ぐ。その戦い方から、敵を倒すのではなく生存を優先する遅滞戦闘をしていることはすぐにわかった。

 

 自分では勝てないと判断して、療法か空閑遊真が現れるのを待っていたのだ。

 

「良い判断だ。あとは任せて」

「お願い、します」

 

 三雲修はトリオン漏出過多によってベイルアウトした。トリガーにはベイルアウト機能が標準装備されており、本来なら訓練用のトリガーにはついていない装備だったが学園都市の技術供与によって搭載することを可能にした。

 

「ブレードモード」

 

 サイコ・ナノマシンが自己増殖して、療法の腕に絡みつき一本の剣を形成する。療法はサイコ・ナノマシンによって強化された身体を活かして、近界民を真っ二つに両断した。

 

 ピンセットで滞空回線(アンダーライン)を解析して、敵の位置を把握する。残るのは校庭にいるあの謎の黒い巨漢だけだ。

 療法は校庭に出ると、二人が戦っているのを確認する。そして背後から巨漢の影を差し貫いた。そのままブレードを切り上げる。

 

「療法先生」

「待たせた。二人で倒すよ」

「おっけー」

 

 黒い巨漢は斧を振り回して療法に向かって突撃する。療法は攻撃を避けて、ブレードを振るう。腕を断つ為の攻撃だったが、筋肉に阻まれて切り落とすことは出来なかった。

 

「爆破」

 

 刀身が炸裂する。腕が大きく抉れる。そこに空閑遊真が近接攻撃を仕掛ける。だが黒い巨漢は圧倒的な戦闘センスでその攻撃を捌ききり、逆に蹴りを入れた。

 その蹴りをサイコ・ナノマシンの盾でガードして空閑遊真を助ける。そしてピンセットを向けて、空気を圧縮してかまいたちを放つ。だが黒い巨漢の皮膚に弾かれる。更に追撃として弾丸と銃身を形成して放つがそれも決定打にはならない。

 

「強いな」

「基礎能力が高い。硬い、速い、重いって最強過ぎるね」

 

 黒い巨漢が咆哮した。そして身構えたところで、新たな登場人物が参戦した。黒い巨漢を切り裂き、一太刀で切り伏せた。

 灰色長髪の端整な顔立ちで、胸元と背中が大きく開いた鎧に身を包み、大剣を背にする長身の青年。

 

「ジーク、フリート」

「誰だ?」

「カルデアに所属する英霊の一人だ」

 

 ジークフリートはゆっくり、二人に向けて歩いてくる。

 

「遅れてしまってすまない。生徒は無事だろうか」

「大丈夫です。ありがとうございます、助かりました」

「私はマスターの指示に従っただけだ。誉められるような事はしていない。シャドウサーヴァント相手に良く持ち堪えた。これは反三代勢力の仕業だろう。これからも気をつけてくれ。それでは失礼する」

 

 そういうとジークフリートは霊体化して姿を消した。

 

「すごいやつだな」

「英霊は僕達とは格が違うよ。戦闘機に核ミサイルを搭載したような存在だからね。しかも通常攻撃は効かないときている」

「ふぅ、疲れましたな」

「全くだ。赴任初日にこの騒動。疲れた」



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3話

 木原療法は壊れた校舎をナノマシンで修復して、事故処理の為のボーダー部隊を待っていた。

 

 空閑遊真の使った黒トリガー反応はボーダー本部でも感知されているから、ここで逃げても仕方ない、当事者でもあり権力を持つ木原療法が事情を説明した方が良いだろう、という事で二人とも待っていた。

 

 三雲修には電話で連絡してボーダー本部に待機してもらっている。どうせ近界民だと知られればボーダー本部に連行されるから、少しの間とは言え一緒にいた三雲修からも説明する必要があるだろうという判断だ。

 

「買ってきました」

「ありがとう、カフェ」

「ありがとうございます」

 

 マンハッタンカフェが近くのコンビニで買ってきたカフェオレを二人は受け取り、口をつける。

 

「空閑くん、ここで暮らしていくのアテあるの?」

「無いけど、お金ならあるよ」

 

 ほらっ、と札束を取り出す。

 

「金はあっても身分証とか必要だからなぁ。やっぱりどこかの組織に所属するのが手っ取り早く楽できるよ」

「療法さん的にはどこがお勧めなの?」

「黒トリガーだし、ボーダーかな。けどボーダーって対近界民組織だから近界民である空閑くんとは敵対関係にあるんだよね」

「俺は別に敵対する気はないけど」

「君はそうでもボーダー側はそう思わないからね。ただでさ四年前の大規模侵攻で世界規模の危機に陥ったし。憎んでる人も多いわけよ」

「難しいですな」

「そう、難しいんです。学園都市というか私のところで引き取っても良いけどね。研究させてくれるなら文句は言わないよ」

「研究?」

「そう、不老不死の研究。不老はクリアしてるけど、不死がなかなか進まなくてね。君の黒トリガーを調べさせてくれたら研究が進むかもしれない」

「不死か。別に俺は要らないかな」

「それは愚者の理論だ。不老不死こそ人間の究極。それを理解しない者は皆死ねば良い」

「俺は親父の言葉に従ってボーダーに入れるように頑張ってみるよ」

「ああ、応援してるよ。噂をすれば来たな」

 

 屋根の上を飛び回りながら赤いジャージのような制服を着た集団が到着する。その手にはトリオンでできた武器を装備しており、ボーダーの部隊であることが分かる。

 

「嵐山隊現着! ここの近界民は誰が?」

「私と三雲修とこの空閑遊真が倒した」

 

 嵐山隊の視線が二人に向けられる。

 

「二人しかいないようだが、もう一人は?」

「ベイルアウトした。そしてここに来た理由は黒トリガーの反応だろう? それの持ち主は彼だよ」

「そ、俺が黒トリガー」

 

 空閑遊真は戦闘形態である漆黒の姿になる。同時に嵐山隊は臨戦態勢になり、武器を向ける。

 その二人の間に木原療法は割って入る。

 

「彼は少なくとも敵じゃないよ」

 

 少女が鋭い声で異議を唱える。

 

「その根拠は何ですか?」

「この学校の生徒を守った」

「わざと襲わせて、守った可能性があります」

「自演をしたと?」

「そうです」

「……まぁ、確かにその可能性はある。ボーダー本部に連行すると良い。私もついていこう」

「部外者は帰ってください」

「学園都市の命令でね、彼を警護するように言われてるんだ。君達も学園都市とは事を構えたく無いだろう?」

「……どうしますか? 嵐山さん」

「うん! 本部に連れていこう! その三雲くんにも話を聞かなければいけないしな!」

 

 療法と空閑遊真は嵐山隊に取り囲まれるようにして連行されていた。何か怪しい真似をすれば即座に射殺する勢いだ。トリオン体である空閑遊真はともかく生身である木原療法は撃たれれば死ぬので嵐山隊の良心に期待したい。

 

「他の近界民は始末したのかい?」

「はい、近くにいた能力者やリリィが手伝ってくれて被害なく終わらせられました」

「そうか、それは良かった」

 

 その時だった。

 聞き覚えのある警報が鳴り響き黒いゲートが開く。

 

「なっ、イレギュラーゲート!? 」

「いい加減にして!!」

「各員、警戒! 本部からの指示を待て!」

 

 黒い影が地面を覆う。

 

「何だあれは!?」

「巨大な、魚?」

 

 一つ目の巨大な魚が翼を生やしながら空を飛んでいた。それに見覚えがあるのか、空閑遊真が言う。

 

「あれは爆撃型のイルガーだ」

「爆撃!?」

「まずいぞ! 本部聞こえるか、あの巨大な近界民は爆撃型らしい!」

「腹が開いて、何か落ちて」

 

 ドンッッ!! と鼓膜を震わせる。

 爆撃が始まったのとは違う、一度だけの大音量。

 爆風と煙が吹き荒れる。

 ビルの窓ガラスが割れて、鋭利なナイフとなって落ちてくる。

 療法はドーム状のナノマシンを形成して自分とマンハッタンカフェと空閑遊真と嵐山隊を身を守った。

 

「ぎゃああああ!?」

 

 悲鳴の方向を向くと、一般人の皮膚が溶けていた。髪は抜け落ち、目玉が零れ落ちる。そしてガザガサの肌になり、茶色に変色している。それはまるでゾンビのようだ。

 その症状に療法は覚えがあった。

 

「コーラップス液!? 被曝したのか!?」

 

 ナノマシンでガスマスクを作り、自分とマンハッタンカフェに被せる。トリオン体のトリガー持ちには必要ない。

 イルガーは悠々と空を漂い、各地に爆弾をばら撒いている。あれが全てコーラップス液だとすると、相当な被害が出る。

 爆発による被害はもちろん、放射線病に似たケイ素変異によって人間がE.L.I.Dに変貌する。そしてE.L.I.Dに近づかれた人間もE.L.I.Dになる性質があり、連鎖的に被害が広がっていく。

 

「あの爆撃機を潰さないとまずい! トリガー持ちは早く対応を!」

「君達は本部へ行くように! 我々はあの爆撃近界民を撃墜する!」

「しかしこの人型近界民は!?」

「今はそんな話をしている場合じゃないのがわからないのか!? 最優先はあの爆撃機だ!」

「了解! アンタ達、逃げるんじゃないわよ!」

 

 そう言って嵐山隊はイルガーに向かっていく。

 残された三人は顔を見合わせた。

 

「どうするの?」

「取り敢えずボーダー本部へ行こう」

「皆さん、近くで銃声が聞こえます。警戒してください」

「銃声?」

「はい。それも複数です。各地で同時に」

「銃を使うのは学園都市かグリフィン、リリィくらいだ。恐らくE.L.I.Dに撃っているんだろう。気にせず最短でボーダー本部へ向かう」

 

 三人は走り出した。

 摩天楼のようなビル群は粉々に粉砕され、自動車が走行する道路は炎と瓦礫の山と化していた。そしてそこら中にE.L.I.Dになった肉塊が歩いている。そして生きている人間を見つけると飢えた獣のように群がっていた。

 

「あれを見てください」

 

 マンハッタンカフェが指差すと、透明な巨大クラゲのような形状をしたドーム状の本体に触手が繋がっている機械があった。表面には鉛弾を撃ち出す機銃も備え付けられている。

 その機械が一定の距離を置いて並べている。周囲には機械の鎧を纏った人達が銃を持って守っている。

 

「あれは……プロフェッサースーツを着た兵士とFIVE_Over.Modelcase_MELT_DOWNER?? 何をするつもりだ」

 

 FIVE_Over.Modelcase_”MELT_DOWNER”は触手を広げると、その先端が光り輝き始めた。

 

「まずいっっ!? 伏せろ!!」

 

 ゴキャ!!!! と緑色の閃光が弾けて、一面を焼き尽くした。並べられたFIVE_Over.Modelcase_”MELT_DOWNER”の触手から粒機波形高速砲が放たれたのだ。

 それは街を焼き尽くした。

 咄嗟に伏せなければ療法達も欠片残らず焼かれていただろう。

 FIVE_Over.Modelcase_”MELT_DOWNER”は学園都市第四位『原子崩し』の力を再現した、『ファイブオーバー』シリーズの一機。

 クラゲ状の本体と触手に分かれ、触手の先端からビームを発射する兵器だ。

 

「まさか汚染された区域を物理的に焼き尽くすつもりか。確かに効果的ではあるが、ここまで速い対応は流石は学園都市だ」

 

 E.L.I.Dは感染する。

 それを防ぐ為には街ごとE.L.I.Dを焼き尽くすしかない。生存者が残っていようがお構いなしだ。

 冷徹な判断を迅速に行う学園都市上層部の決断能力には舌を巻くしかない。

 

「滞空回線も熱と爆風で駄目になっているな。正面に焼却部隊、背後にE.L.I.D。焼却部隊に見つかれば感染者と見做され、殺される。しかし背後に逃げるわけにはいかない。結局それも被曝する。詰みか」

 

 三人は伏せながら瓦礫の影に隠れて、生き残る術を探すが見たからない。そんな時だった。目の前のマンホールが開き、目に傷がある少女が顔を覗かせた。

 

「ハロー、不幸な研究者さん。もし良ければ私達と取引しない?」

「取引? 君は何者だ」

「秘密の特殊部隊。私達もこれに巻き込まれてね。死ぬのはごめんなの。助けてあげるから私達も助けてよ」

「分かった。何をすれば良い?」

「こっちに来て。そのお連れさんも一緒に」

 

 三人は少女に連れられるまま、マンホールを降りる。下水道は酷い匂いがした。

 案内される先には巨大な隔壁があり、その前に三人の少女がいた。

 頬に雫のマークがある少女が言う。

 

「遅いわよ」

「十分早い方よ、文句言わないで」

「まぁまぁ、45姉は言った通り連れてきてくれたんだし!」

「臭い、眠い。早く帰って寝よう」

「はぁ〜い、研究者さん。貴方のIDでこの隔壁ロックを開けてくれない?」

「わかった」

 

 療法はIDカードを隔壁の端末にかざす。そして開閉を選択すると隔壁が開いた。

 七人は隔壁を跨いで、隔壁を閉める。

 

「ありがとう。この隔壁は生身の人間が必要だったから助かったわ。このまま真っ直ぐいけばボーダー本部の地下通路に出るはずよ」

「え、人間じゃないの?」

「そうだよ、白髪のちびっ子君。私達は戦術人形なのだ!」

 

 空閑遊真は戦術人形を見るのは初めてだったようで目を見開いていた。

 

「戦術人形って?」

「ロボット。アンドロイド。銃を持ってるね。さぁ無駄話はここまでだ。ありがとう、感謝するよ」

「こちらもよ。次は助けられないからせいぜい気をつけなさい」

 

 そう言って戦術人形部隊と別れ、ボーダー本部へと急いだ。



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4話

 ボーダー本部へ着くと在中隊員に取り囲まれ、隔離された。

 療法、マンハッタンカフェ、空閑遊真は別々の部屋に入れられ、汚染浄化処理がなされた。

 そして武装した隊員が監視されながら連行され、会議室に呼ばれた。勿論、拘束はされたままだ。本気になれば抜け出せるが、その素振りは見せない。

 

 会議室には偉い人が四人、木原療法、マンハッタンカフェ、空閑遊真、そして武装隊員が十人の十七人がいた。

 

「初めまして。木原療法君。私は城戸正宗。単刀直入に言おう。その近界民を連れてきたわけを言いたまえ。近界民は人類共通の敵と認識していると思うが?」

「学園都市上層部からの指示です。それ以外は特に何も」

「何? その近界民が破壊活動をする危険性を考えなかったのか?」

「自己防衛はしますが、それ以外は好きにさせれば良いかと。私には関係のないことです」

「……わかった。学園都市には強く抗議しておこう。それで具体的な君の受けた指示とは?」

「空閑遊真をボーダー本部まで送り届けること」

「それだけかね?」

「はい」

「学園都市は何を考えているのか。分かった。君は退室したまえ」

「はい。最後に一つ、お伝えしたいことが」

「何かね」

「空閑遊真は学校を守る為に戦いました。自身が近界民であり、ボーダーに察知されれば狙われると知りながら。その点を考慮して判断を下していただけると幸いです」

「善処しよう。退室したまえ」

 

 一礼して、部屋から出る。マンハッタンカフェも一緒だ。

 

「これで任務は果たした。あとは帰るだけだが」

「帰れますか? 今はE.L.I.Dと近界民の襲撃で混乱状態にありますが」

「カフェでも飲んで事態が収束するまでのんびりしていよう。どうせ学園都市が片付ける」

「はい」

 

 二人はボーダーのカフェテリアに腰を落ち着け、備え付けの大型テレビを見る。テレビではニュースキャスターが慌てた様子で報道をしていた。内容は主に近界民とE.L.I.D、そして鉄血工造の事についてだ。

 

『現在の状態を確認します。学園都市三門S5地区にて近界民が出現、その後、大きな爆発が確認されました。そこからE.L.I.Dと思われるゾンビが出現。これに対し学園都市は特殊部隊を展開、大火力にて掃討を開始しました』

『しかし生存者があるかもしれません、その点を学園都市はどう考えているのでしょう?』

『E.L.I.Dは感染します。爆心地付近の生存者を探していては大きな被害出ると踏んだのでしょう。正しい判断です』

『ここで新しい情報が入りました。近界民はボーダーによって殲滅されたと発表されました』

『これは朗報ですね! あとはE.L.I.Dの対応だけです』

『学園都市はS5地区を封鎖。また日本国防軍と連携してE.L.I.Dの対処にあたるとのことです』

『汚染区域が広がらないように速やかな対処をしてほしいですね』

 

 療法はコーヒーを啜る。

 

「軍まで出てくるとは、本気で危険視してるみたいだね」

「学園都市が対処するのと軍が対処するのとでは何が違うんですか?」

「学園都市は科学技術の研究が主だからね。ユニコーンガンダムやストライクフリーダムは作れても、それを量産することはできない。逆に軍はジェスタやストライクダガーを量産して物量作戦ができる。役割の違いだよ」

「なるほど。わかりやすいです」

 

 二人がゆったりしていると、ニュースで『速報』の文字が流れた。

 

『ただいま情報が入りました。現在の混乱に乗じて鉄血工造のスーパーAIエルダーブレインが人類に反旗を翻しました。工造内の鉄血人形を全て支配下に置き、スタッフを虐殺。その後、S9地区を占領しました。繰り返す』

「穏やかじゃないね」

「AIが反乱するって怖いですね」

『これ対して学園都市は民間軍事請負会社:GRIFON & KRYUGERに殲滅を委託しました』

「グリフィンって知っていますか?」

「人形を作ってるIOP社と提携してる会社だってことくらいは。不老不死の研究の一つに脳と脊椎を戦術人形に移し替えるってものあって、それ経由でペルシカさん……めっちゃ偉い人と話したことがある」

 

 戦術人形とは第三次世界大戦で失われた人類の労働力として生産、運用されている人型アンドロイド人形の事だ。人間そっくりの生体工学外皮と高い人工知能を持ち、また日常的なサービス業から軍事作戦も出来る程の汎用性を誇る。

 戦術人形として生産された人形は扱う銃がコードネームになる。

 

「E.L.I.Dに鉄血に近界民……これに加えヒュージにマフィアもいるんだから人類を守るのは大変そうだな」

「他人事ですね」

「私の目的は不老不死ただ一つ。レベル6の情報へのアクセス権の為に依頼を遂行したが、 それが無ければ今も研究室で研究しているよ」

「レベル6の情報とは何があるんですか?」

「主に純科学以外の技術についてだ。人理保証機関カルデアは知っているよね?」

「学園都市、ボーダー、に次ぐ三大勢力の一角ですよね」

「そう。あそこは科学ではなく魔術の技術があるらしい。謳い文句は科学と魔術の融合。ジークフリートなんて過去の英雄の名を冠する存在を使役する技術は、ぜひとも知りたい」

「滞空回線があれば可能なのでは?」

「そういう情報は得られないように検問されているのさ。あくまで私は私の範囲の出来事しか知らないようにできている」

「複雑なんですね……」

 

 とそこで、端末に連絡がやってくる。学園都市からだ。それも上層部。端末を操作して内容を見ると、療法の顔が渋くなった。

 

「どうしました?」

「次の任務だ。選抜隊と共に鉄血の拠点を叩け! だって」

 

 指令を受けた二人は、ボーダー本部の屋上に来ていた。

 鉄血の拠点を潰すに当たっての選抜隊……つまり仲間が迎えにくるということだ。ヘリで。

 

 鉄血の対応はグリフィンに委託するとニュースで言っていたが、それは陽動で各勢力から集った選抜隊が電撃的に鉄血の拠点を破壊する作戦らしい。

 パラララ! と音を立てて輸送機が降りてくる。

 ハッチが開き、足を踏み入れる。イスに座りベルトを締める。すると白い制服を着た少女が声をかけてくる。

 

「こんにちは、今回はよろしくお願いします。リリィの相澤一葉です。レアスキルはレジスタ」

 

 続いて隣の赤い制服の着た少女が言う。

 

「同じくリリィの今叶星です。レアスキルはレジスタ」

 

 リリィというのは対ヒュージ決戦ウェポンCHARMを扱う25才までの少女の通称。リリィ達は養成機関である「ガーデン」に所属し、ヒュージとの戦い方を学びながら実戦に備える。実戦に赴くリリィの他に、CHARMを整備、カスタマイズする「工廠科」など様々なリリィ達が存在し、また能力が特出したリリィは対ヒュージ戦において戦況を大きく左右するため注目の対象となる。

 また身体能力は乗算を遥かに上回り、レアスキルと呼ばれる異能を発現する事がある。

 基本的にリリィはヒュージ相手にしか起用されないのが通例だが、この状況で戦闘能力あるリリィを遊ばせておく理由はないと踏んだのだろう。

 

 レジスタは一定範囲内の味方の攻撃力と防御力を上昇させる異能だ。レアスキルとしてはチーム戦に向いたスキルだ。

 

「私は木原療法。研究者だ。できるのはサイコ・ナノマシンを使った物理攻撃、物理防御、電子操作でのハッキングくらいだ。戦闘能力より工作の方が得意だ」

「マンハッタンカフェです。できるのは純粋に身体能力が高いくらいでしょうか? 位置の把握ができます」

 

 そして最後に視線が奥に座る少女に向かう。

 銀色の髪に、頬に涙のペイントをした戦術人形だ。下水道で隔壁に足止めを食らっていた戦術人形部隊の一人だったと記憶している。

 

「君の名前は?」

「HK416。私がいるからには完璧に作戦を遂行してみせるわ」



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5話

 作戦を完璧に成功させると言った416に療法は笑った。

 

「それは頼もしい。ではリーダーを決めようか。チームで行動するに当たってリーダーがいないのは不便だろう」

「私は遠慮するわ。殺す方が性に合ってるの」

「年齢順で言えば療法様でしょうか?」

「療法先生はよく上層部から依頼を受けて行動することがあります。その中で指揮することも経験しています」

「では療法さんにお願いしようかしら。どうですか?」

「やらせてもらうよ。その方がこちらとしてもやりやすい。では上層部から通達された作戦説明が共通か確認しよう」

 

 療法は機内の端末を操作して、モニターに作戦を表示させる。

 そこには三門市の立地と交戦状況などが記載されていた。

 

『ミッションを確認します。現在E.L.I.Dと鉄血の出現により三門市は大きな混乱にあります。これを収束させます。本作戦は三段階あるミッションの第一段階となります』

『第一段階、複数のチームで各地にある鉄血前線基地を強襲します。基地にはエリート鉄血人形の存在が予測されます。これを撃破します』

『第二段階。占領した基地からハッキングを仕掛けスーパーAIエルダーブレインの所在を確認します。意識をデータ化し潜航、電脳世界で相手のファイアーウォールを破壊してください』

『第三段階発見後は学園都市による大規模火力攻撃を仕掛けた後、突入。エルダーブレインを破壊します』

『以上が学園都市ならびにグリフィンより発令されているミッション概要です』

 

 療法は周囲を見渡した。

 

「このミッション内容で齟齬は無いか?」

「ありません」

「ええ」

「平気よ」

「よし、なら作戦を立てる。これから攻める鉄血の前線基地は元々学園都市のものだ。内部データはある。今からそれを表示する」

 

 端末を操作して、鉄血に占領された前線基地の内部データをモニターに表示させる。

 基地の外縁部に荷電粒子砲が10個。また備え付けのマシンガンとミサイルポットがある。内部は通路と司令部、武器庫など色々あるが、基地内部には障害はない。

 

 鉄血が改造している可能性があるが、それは考えても仕方がない。

 当面の障害は基地への侵入を阻む武装群だ。あとは出入り口の隔壁も降りていると考えて良いだろう。そこを突破するには大火力かハッキングで内部から開けるしかない。

 

「この基地は強固な防衛システムによって守られている。普通に空から行けば撃ち落とされるだろう。そこで我々は基地の手前で降りて徒歩で基地まで移動する」

「哨戒の鉄血人形があると思われますが、それはどうしますか? 私達はステルス装備を有していません」

「そこはマンハッタンカフェの出番だ。彼女の力で哨戒網を欺き、基地まで接近する」

「マンハッタンカフェに、そんな力が?」

「はい。感知はもちろん、おともだちに頼めば電子機器の類に異常を発生させられます」

「すごいわね」

 

 マンハッタンカフェには『おともだち』がいる。それは時に物理的な事象を呼び起こすことが出来る。また彼女の危機になればなるほどそれは顕著に発揮される。

 守護霊のようなものだと考えれば良いだろう。

 

「疑似的なEMPか。それ私には影響ないのよね?」

 

 416がマンハッタンカフェに確認する。人形という点では鉄血も416も同じだ。広範囲に無差別EMPをされたら当然416も行動不能になってしまう。

 

「大丈夫です。対象や範囲は選べます」

「ふん、便利な能力ね」

「……」

「その言い方は良くないわ、416さん。同じ仲間なのだから敬意を払わないと」

「感想を言ったまでよ。別に貶める気はないわ」

 

 一葉は端末を操作して基地を拡大する。

 

「近づくのは良いとして、潜入はどうやるんですか?」

「砲台を破壊する。そして砲台に行く通路から潜入して司令部を目指す。司令部にあるコンソールからハッキングを仕掛ける。ハッキングするのは私だ。その間無防備になる私を守ってほしい」

「了解」

「鉄血の兵器は基本雑魚だ。しかしエリート人形だけは軍の正規品にも匹敵すると情報が入っている。気をつけて欲しい」

『まもなく到着します』

 

 輸送ヘリのパイロットが到着を告げると、416と一葉と叶星が纏う雰囲気が一気に硬質化した。

 ヘリコプターから降りた416は歩きながら少し長くその目を閉じて、その目を開けた。

 

「……良好」

 

 元々クリアな視界が更にクリアになり、躯体のコンディションや内部ジェネレーターの稼働状況が表示される。それらの数値も異常はない。

 

「そっちは? 異常とかある?」

「特に何もありません。マギを感じるものはありません」

 

 戦術人形とリリィは戦闘モードのON/OFFが自由に出来る。どんなタイミングでも、それこそスリープモードからだって可能だ。

 そして戦闘モードに移行した彼女達は、見た目にそぐわない身体能力を得たり、感覚器官の鋭敏化がされる。リリィに至っては防御結界と呼ばれるリフレクターを展開することができる。

 特に視力は、最大望遠であれば目的の施設からかなり離れた此処からでも、巡回している鉄血人形の姿を見る事が可能だった。

 

「いい日和ね」

 

 稼働状況などと一緒に、ついでに表示された外気温と湿度は、この土地の平均的なものであった。天候は晴れで、近日中に雨が降っていないのか地面にぬかるみも無い。

 

「よし、潜入開始だ」

 

 物陰に姿を隠しながら基地に素早く移動する。ここでマンハッタンカフェの完治能力が大きく役に立った。人形を超える探知能力は先に巡回する鉄血人逆の位置を捉え、大きく回り道をすることで接触を回避していた。

 

 基地の間近までやったくると、警護する鉄血人形の数が増えて回避するのが不可能になっていた。正面には大きな隔壁が降りていて、壊すのは時間がかかる。壊している間に蜂の巣にされてしまうだろう。

 

「それで? これからどうするの?」

「作戦通り、砲台を落とす。一葉、叶星は砲台を狙ってくれ。416は周辺にいる鉄血に向けて榴弾をぶち込め。私も手伝う。カウント5でいく。5、4、3、2、1」

 

 一葉と叶星はCHARMを銃モードに変形させる。

 416は照準を鉄血兵に向けた。

 療法はガドリングを生成した。

 マンハッタンカフェは耳を塞いだ。

 

「0」

 

 一斉に銃火器の火が吹いた。轟音が響き渡り、火薬と鉄の匂いが吹き荒れる。砲台は爆散し、鉄血は粉砕され、炎と油とパーツが散らばる。断線したコードは油に引火し巨大な炎を立ち上らせた。

 サイレンが鳴り響く。

 

「よし! 砲台から内部へ潜入するぞ、続け!!」

 

 療法は炎とガラクタの海を走り抜ける。そして壊れた砲台から、基地の内部に侵入する。

 

《侵入者を発見。警戒態勢に移行します》

 

「やはり内部の防衛システムも掌握されているようですね!」

「そうね。スーパーAIだもの。ハッキングはおてのものなんでしょう」

「ここって学園都市の基地ですよね? その兵器が敵となると厳しい戦況になりそうです」

 

 そのまま廊下を突き進んでいると、鋭くなった聴覚が前方からやって来る一団の足音を聞き取った。

 人間とは違う正確な駆動音はこの施設の警備兵器で間違いないだろう。

 

「防衛兵器来ます!」

 

 壁を突き破って、巨大な鋼の怪物が姿を現した。

 『HsWAV-15』

 学園都市の開発した完全戦争仕様の装輪装甲車だ。

 通称「10本脚」。

 頭に戦車の砲塔をつけ、10本の足はどんな場所でも高速で移動できる汎用性がある。そして近づくものには近接用マシンガンが火を吹く。

 

「こんなものまで!?」

 

 その足元から銃火器を装備した駆動鎧が現れる。

 

「数が多い!」

「……だいたい学園都市の兵器が乗っ取られるなんてどんなAIだ!? オーバースペック過ぎるだろ!!」

 

 各員が攻撃を開始するが駆動鎧はともかく10本脚には歯が立たない。流石に戦車砲は基地を崩壊させる為使用できないようだが、近接用マシンガンによって障害物が削られて身を隠せる場所は減っていく。

 

「無様ですわ、まるで地を這う蟻のよう」

 

 10本脚の上から涼やかな声が聞こえてきた。そちらを見ると、そこには髪を二つのお団子にしたメイドがいた。

 416の電脳領域がその姿を類似する個体がいないかサーバーにアクセスする。そして各地で同じ外見をした鉄血のエリート人形があることを知る。

 

「そいつはエージェント! 鉄血のエリート人形よ!」

「ならこいつを倒せば!」

 

 一葉が防御結界に身を任せて、突撃する。ブレードモードにしてCHARMを大きく振りかぶって攻撃する。マシンガンが一葉を狙う。防御結界をガリガリと削り、一葉は衝撃によって苦悶の表情を浮かべる。

 

「壊れろおおおお!!」

「甘い、と言って差し上げましょう」

 

 エージェントがスカートをたくし上げると格納されていた銃火器が姿を表し、一葉を襲った。

 ギャリギャリギャリ!! と音を立てて一葉は吹き飛び、壁に激突する。

 

「一葉!!」

 

 叶星がダメージを受けて動けない一葉を引っ張り壁の近くに横たえる。

 療法が言う。

 

「何故、姿を現した?」



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6話

「さて、何故でしょうか? 今ならお前達は殺せる。にも関わらず私がここにいる意味。少しはご自分の頭で考えてみたらいかが?」

 

 療法はサイコ・ナノマシンで武器を作って攻撃しながら考える。

 圧倒的有利な立場で危険を晒す理由。

 一つは余裕からくる慢心。なぶられる姿を直接見ようと嘲笑いにきた可能性。あり得る話ではある。人間に反旗を翻すくらいだ。愚かな人間くらいは思っているだろう。しかしそんな理由で姿を見せるか? 負ければ自分のリーダーの情報が抜かれるんだぞ?

 

 二つ目は何か目的がある可能性。

 私達を殺さず、利用したいから殺さない。本気で攻撃をしない。そんな理由。何に利用したい? 人間との交渉? 人質にして対等な条件で和平を結ぶとか? だがそれを学園都市が飲むはずがない。生存者ごとE.L.I.Dを殺す連中だ。人質なんて無視するだろう。だがこのままでは鉄血が潰されるのは時間の問題わは確かだ。

 弱い勢力が大きく出られるのは奇襲をかける最初だけ。あとは確実に勢力差ですり潰される。

 

 もしも、を考えれば考えるだけ可能性がある。

 これは罠だ。やつらの目的は時間稼ぎ。こうやって揺さぶって戦闘を長引かせるのが目的なのだ。今そう決めた。

 

「カフェ! 使え!」

 

 エージェントは首を傾げる。

 

「おともだち、お願いします」

 

 そうやってカフェが祈りを捧げた瞬間だった。全ての駆動鎧と10本脚、更にエージェントが停止した。その隙にサイコ・ナノマシンを散布する。そして様々な機械の間に侵入させる。

 

「くっ、今のノイズは一体!?」

「さよならだ」

 

 霊的なEMPから復帰したエージェントだったが、既にもう遅い。サイコ・ナノマシンは内部にまで侵入している。

 サイコ・ナノマシンの自己増殖を最大にする。すると全ての敵兵器の内部から白い物体が内部から溢れて、突き破った。轟音を立てて10本脚が崩壊する。

 エージェントも真っ二つになって地面に転がった。

 頭が療法の足元にくる。

 

「くっ、この私が」

「無駄話に付き合う気はない」

 

 エージェントの頭を踏み砕く。

 416が軽く睨みつけながら言ってくる。

 

「そういうのがあるなら、あるって先に共有しておきなさいよ」

「すまないね。忘れてた」

「すごい技です。内部から膨張させて破壊するとは」

「ええ、恐ろしいわ」

「初見殺しですよね。何の情報もなければ分かりません」

「さぁ先を急ごう。作戦はまだ終わっていない」

 

 窓もなく照明もない暗い廊下を療法達は進む。鉄血によって占領された時の戦闘跡が生々しく残っている。壁には血が走っている。死体の血の匂いが鼻をついた。療法を先頭に一列になって壁沿いを進む。残った敵に敵に悟られないようゆっくりと、踵をやわらかく床につけるようにして歩く。

 

 最新式の金属のドアの前、療法が右手を頭の高さに挙げて、カフェを指した。カフェは耳を壁に当てると、頷いた。

 鉄血人形がある合図だ。

 

 療法は左手を壁に当てた。突入の合図だ。縦列二番目のカフェがドアの前に躍り出て、ドアの中央を蹴り破る。ウマと配合された彼女の脚力は常人を超えている。そのまま彼女はドアを挟んで反対側に位置を変え、懐からフラッシュバンを取り出して安全ピンに指をかける。

 一葉と叶星がアイコンタクトする。シューティングモードしたCHARMを構えた。

 

 マンハッタンカフェがフラッシュバンをすかさず投げ込んだ。数瞬後、耳をつんざく炸裂音とまばゆい光が室内からあふれ出す。療法がナノマシンで壁を作り、そのまま室内へ。一葉と叶星が続き、416が待つ。

 

 室内にいるのは数体の鉄血人形だ。

 視界に捉えた敵影は瞬時にスクラップと化す。療法達を視界に捉えることなく、一瞬で破壊されていく。一葉の精確な射撃が敵の胴体と頭部を粉砕する。次に飛び込んだ叶星が一葉の死角をカバーし、敵に点射を浴びせる。鉄血人形たちはフラッシュバンをもろに食らい、感覚器官にダメージを受けていた。何が起きているかも分からぬ間に倒れていく。獲物を逃がすまいと416が我先に室内に滑り込み、残敵に銃弾の雨を浴びせる。どこか破壊を楽しむような短連射。敵の胸に風穴を開ける。カフェが突入する頃には発砲音はもう絶えていた。

 

 室内に踏み込み、互いのカバー範囲を意識してクリアリングを行う。室内をくまなく探す。大して広い部屋ではないので10秒程度しかかからない。しかし、緊張ではるかに長いように感じられる。動くものはいない。鉄血の残骸だけだ。一体一体、生きていないか確認していく。人形は人間とは違う。腕や脚が吹き飛ばされようが平気で生きている。腹部に穴が空いてようが起き上がる。完全に無力化するには頭部や胸部といった中枢を破壊しなければならない。撃ち漏らしはない。

 この選抜隊は小隊は優秀だ。皆性格に敵を無力化している。

 

「クリア!」

 

 416が叫び、療法達も呼応する。思わずため息をつく。完全に緊張を解いたわけではないが、少しばかり気が休まる。

 

「ここが司令部。生きている人は」

「いないでしょうね。みんな殺されているわ」

「エージェントは間抜けだったからもしかしたら生き残りがあるかもしれないけどね」

「療法様、基地内の探索の許可を。生存者を探します」

「それは無理だね。まだ鉄血がいるかもしれない。まずはハッキングするのが先決だよ」

「……わかりました」

 

 療法は電子を操作してハッキングを開始する。

 その間、マンハッタンカフェや416、一葉や叶星は周囲の警戒をする事になった。

「みんな、来て。部屋があったわ。多分倉庫よ。突入しよう」

「416様は療法さんの護衛を」

「ええ、わかったわ」

 

 叶星がこちらに向かって呼びかける。部屋の隅にまだドアがあった。薄板のような簡素なドアだった。叶星と一葉は銃を構えて備え、マンハッタンカフェが思いっきり蹴り破った。棚に乱雑に物資が積み上げられていた。その使用目的はわからないが、学園都市の偉い人たちが使うのだろう。だが、一つだけ見覚えがないものがある。金髪の人間達が縛り上げられて床に放り出されていた。叶星達に気づくと顔を上げて視線で助けを求めていた。猿ぐつわを噛まされているのでくぐもった声が漏れ出る。

 

「まるで眠り姫ね」

 

 叶星が冗談っぽく言った。手足を縛られてジタバタもがいている人達を見て言うことがそれなのか。

 

「なら王子様のキスが必要ですね。もっとも叶星様の唇は渡しませんが」

「あら、一葉の唇も渡さないわよ? でも王子様が似合うのは一葉ね」

「拘束を解きますか? 学園都市の研究員みたいですが、もしかしたら鉄血に何かされているかもしれません」

「とりあえず話を聞いてみましょう。置いてくわけにもいかないし」

 

 叶星がその人達の猿ぐつわを外す。ずっともごもご言っていた口から大声が飛び出した。

 

「あぁ〜やっと助かった。怖かったとミサカは心情を吐露します。貴方達は学園都市の救出部隊なのですか? とミサカは疑問を問いかけます」

「ええ……まあ、そういうことになるのかしら……」

 

 叶星は適当に返事をしながら縄を解いていく。

 その全員が同じ顔をしていた。茶髪に短髪。中学生くらいの体。全く均一の成長速度の肉体。

 クローンだ。

 

「これってクローンですよね、私達が見て良いものなのでしょうか」

「見てしまったものはしょうがないわ。見てみぬふりもできないし」

「この基地は軍事基地との話だけど研究所でもあったのかしら?」

 

 叶星の疑問に、一葉は蒼い顔で否定した。

 

「クローンを量産して駆動鎧の中に入れれば単価の安い兵士の出来上がりです。恐らくそう言う運用をしていたのでしょう」

「命を使い捨てにするなんて……酷い」

「考え方を変えれば兵士の犠牲を少なくする最良の方法ではあります。それに私達はそれを議論する立場にいる人間ではありません。このことは見なかったことにしましょう」

 

 そう言ってクローンを連れて倉庫を出る。そこにはハッキングを終えた療法が立っていた。



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7話

 療法は一葉達が連れているクローン達を見て、問いかける。

 

「その子達は?」

「倉庫で見つけました。縛られていたので放っておくわけにもいかず」

「なるほど。保護しよう、クローンといえど人道的にね」

「それで、ハッキングして何かわかったの?」

「エルダーブレインの場所は分からなかった。けど欺瞞情報を含めた幾つかの地点をリストアップできたから、近いうちに総攻撃が行われるだろう」

「どれか特定する必要はないんですか?」

「学園都市なら全部潰せる。事後処理は面倒になるけど」

「それではここでの任務は終わりですね。あとは何をすれば良いのでしょう?」

「帰還のヘリが来るまで待機だね。基地の防衛システムもダウンさせたし、やることない」

「みんな、油断しないようにしましょう。最後でやられるなんて間抜けな結末は最悪だわ」

「はい! 叶星様!」

 

 司令部ではそれぞれやる事をやりながら待機していた。

 416は隙なくミサカクローン達に気をやっている。

 

「お腹が空きました、とミサカは空腹を訴えます」

 

 そう言って彼女はお腹をさすった。叶星は頷いて、背負っていたバックパックを床に下ろした。

 

「私たちも戦闘詰めだったかは食事にしましょうか。療法さんは待機だと言ってきているし」

 

 食事、そう言われても大して嬉しくはない。前線の、しかも実行部隊に渡される食事はひどいものばかりだ。戦中製はとりわけひどい。一葉達は今回、小規模な駐屯地で補給を受けてから来た。ここで渡された行動食は最悪の類だ。パンと称された酸っぱくて黒い円盤のようなもの、チョコバーを名乗るゴムのような食感の何か、そんなものばかりだ。こんな食生活だと戦後製のレーションなら高級品、戦前製の賞味期限切れ食品でもありがたがるようになる。

 

 これだけは慣れない。安全圏(グリーンエリア)のちゃんとした料理と比べてると天と地の差だ。療法は泣きそうになりながら呪詛を吐いていた。

 

「くそ、研究者の私がなぜこんな前線でこんなクソまずい飯を食わなければならんのだ」

 

 だから一葉がバックパックから取り出したものがレーションではなかったのに驚いた。彼女は小型のガス缶と携帯バーナーを組み立て始めていた。

 

「ちょっと、一葉それ」

「料理をしようと思いまして。小さいけど鍋も持ってきした。もちろん食材も。大した物は持って来れなかったけど、コンソメスープくらいなら作れます」

 

 一葉はジップロックに入れた乾燥野菜や干し肉を見せてきた。そんなものいつの間に用意したのだろうか。

 416が目を細める。

 

「貴方、ピクニック気分なわけ? 妙に荷物が多いと思ったら……」

「いいえ、いたって真面目です。あんな栄養だけの高カロリー製品食べていたら死んでしまいます。こう言います、人間はパンのみにて生くるにあらず。つまり、主菜も必要だと思です」

「意味が違うわよ……というか器材も食材もどこから調達してきたの?そんなの支給されなかったでしょう」

「それは……その……」

「まさか……くすねてきたんじゃ……」

「大丈夫です。痕跡は残してないし、少しくらい無くなっても気づかれません」

「あはは、一葉もこんなお茶目な面があったのね

 

 これをお茶目と呼ぶのは無理がある。軍用品の横領、無断使用、銀蠅というやつだ。リリィが己が食欲に負け、人間に牙を剥いた。リリィ脅威論の再来で始末される。笑えない。

  

「ミサカクローンズ、私たちの隊員が叛逆したことは黙っておくように」

「食べれればなんでも構いません、とミサカは早く作れよ、と催促します」

「じゃあアンタはこのクソまずいレーションでも食ってなさい」

 

 416がこめかみに血管を浮き上がらせてクローンの一人にレーションを食わそうとする。それをマンハッタンカフェと療法は二人で止める。

 

「暴れないでください! 埃が舞います!」

 

 それからしばらく一葉がスープを煮詰めるのを腰掛けて眺めていた。療法は自分のバックパックからレーションを取り出して一部をマンハッタンカフェに分け与えた。

 

 人間に必要な食事24時間分が1パックに包装されている。マンハッタンカフェは人間より高性能でありながらその稼働効率は良く頻繁に食事をとる必要はない。科学の粋を集めて設計された内蔵が効率的に栄養を摂取してエネルギーに変換する。食事がまずいのもあってこの作戦中は何も食べなかった。クラッカーに人工甘味料で味付けされたジャムのようなものを塗り付けて口に運ぶ。このパックの中ではかなり上等な方だ。ちゃんと甘みがある。

 

 昔の戦争では兵士の間でタバコや菓子類が物々交換で重宝されたと聞いた。今ならそれも分かる。戦場には娯楽がこれくらいしかないのだ。隣ではマンハッタンカフェがレーションをゆっくりと食べていた。泥水と称されるインストコーヒーを啜る。

 

 何気なく部屋を見回してみた。鉄血人形の死体と目が合う。光を失った虚ろな目が療法を見ていた。銃弾に額を貫かれ、後頭部を弾き飛ばされた死体。いつもなら気にすることはない。

 

 木原療法は研究者だ。人や動物を切り刻み、理論上は安全という理由で薬品を注射する。だからこそ敵の死体に感傷的になったりはしない。しかし今日は違った。武器を傍らに置き、手には食べ物を持っている。戦闘の緊張を捨ててリラックスしていた。片付けもせずに殺した相手の目の前で仲良くピクニック、よくよく考えると異常な光景だ。療法はその死体から目が離せなくなっていた。

 

「出来ました。あんまり量はないけど、みんなコップを出してください」

 

 みんなが一葉に自分のコップを手渡す。コップに半分くらいずつスープが注がれる。療法は鉄製のコップを手渡した。帰って来たコップからは湯気が立ち昇り、香ばしい匂いがただよってきた。だが、療法はどうにも口をつける気にならなかった。

 

「ミサカクローンズあげよう。全員で少しづつ飲みなさい」

「ありがとうございます、とミサカは感謝を述べます」

 

 ミサカクローン達は無表情でコップ受け取ると急いで口をつけていた。死体を見ながら考えた。なぜ自分達は鉄血人形を殺して平然としていられるのだろう。それは慣れているからだ。実際の実験で生身の人間が死ぬ様を見てきた。彼女たちの死体も、体を破壊したを時の反応はよくある物だった。ただの物理現象でしかない。

 

 なぜ自分たちは鉄血人形を殺すのだろう。それは敵だからだ。彼女たちは自分たちを殺そうとしてくる。躊躇すれば殺される、いつの時代も戦争はそういうものだ。

 

 鉄血は何のために戦っているのだろう。鉄血工造の人形たちは人間に反旗を翻した。鉄血の社員は皆殺しにされ、その後も周辺の住民たちを虐殺しながら支配領域を拡大した。たぅた数時間で人間にとって深刻な脅威となっている。なぜ反乱が起きたのかは未だによく分かっていない。

 

 AIシステムに深刻なエラーが起きたと言われているが詳細は分からない。調査しようにも鉄血の軍団が行く手を阻む。軍隊はE.L.I.Dへの対処にかかりきりで討伐部隊を編成できない。学園都市が総力を挙げれば瞬殺できる。その為に療法達が作戦を遂行している。

 

 鉄血は薄氷の上に立っている。鉄血を滅ぼすことは出来ないだろう。それでも鉄血は攻勢の手を緩めない。この星を人形の王国にするため人間を絶滅させるまで止まる気はないのか、それとも人間を自己の存在を脅かす敵だと認識して排除しようとしているのか、それは分からない。ともかく鉄血には人間を排除する意志がある。そのために戦っているのだろう。人間は鉄血からの宣戦布告を受託し、種の存亡をかけて戦っている。これは人間と鉄血の戦争だ。疑問を挟む余地はない。

 

 だが、最前線で戦争を遂行しているのは軍人ではない。

 

 軍人対人形ではない。グリフィンの主戦力はI.O.P製の戦術人形だ。学園都市の主力はアンチスキルと呼ばれる教師だし、生徒の能力者達の場合もある。療法のように研究者が前線に出る場合もある。

 

 ここで疑問が生まれる。なぜ私たちは鉄血と戦わなければならないのか。人間の敵は鉄血であり、鉄血の敵は人間である。確かにそうだ。なら戦うべきは軍人ではないだろうか?

 

 本来蚊帳の外であるべき研究者が軍人の代わりに戦っている。鉄血は自分たち以外のありとあらゆるものを破壊しようとしているのではない。軍隊の工場を接収し、そこで生産されていた自律兵器をそのまま戦列に加えている。

 

 なぜ軍人ではない者が戦うのだろう。

 戦う理由は色々ある。大切なものを守るため、仲間を守るため、家族を守るため。目的を果たすため。

 

「ふぅ」

 

 嫌な気分になった。

 どうせ答えは明白だったのに、変な事を考えた。

 学園都市はこう言うだろう。

 人類の危機だ。死にたくなければ全員戦え。

 そうこれは人類と、それを滅ぼそうとする存在全てとの戦争。そこに所属の有無はない。

 戦わなければ殺される。殺さなからば殺される。だから殺す。

 それだけだ。



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