パン屋の娘とリベンジ少年 (-つくし-)
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番外編 キャラ設定 今まで出てきたバスケ用語について

オリキャラ、バスケ用語についてまとめたものです
随時更新します


 ~オリキャラ~

 

 石田明優(いしだあゆ)

 年齢17歳

 身長178cm 体重61kg 誕生日 7月13日

 性格 穏やか 人見知り

 好きな物

 クリームパン バスケ

 嫌いな物 ホラー系 現代文(テスト)

 特徴: 髪型はわりと短め。高校での出来事のせいで以前よりも静かになってしまった。打ち解けた人にはうるさく接する。女の子と話すと緊張で手汗が止まらなくなる。慣れればそれなりに話せる。人見知りとバレないように頑張って会話している。 バスケではデフェンスが持ち味。始めた頃からオフェンスよりデフェンスの方が好きだった。3ポイントも中々決めれる。正直弱点が全くなく攻守において隙がないが、本人はデフェンスに専念したいため、【攻めろ】と言われるまであんまり攻めない。

 

 須高夢生(すこういぶき)

 年齢17歳

 身長184cm 体重72kg 誕生日 6月1日

 性格 陽気 コミュ力高め

 好きな物 メロンソーダ

 嫌いな物 勉強

 特徴:髪型は短め。右利き。誰とでも接することができるコミュ力おばけ。ただ時より見せる真面目な一面でギャップ萌え。意外と情に熱く仲間思い。 バスケではオフェンスが持ち味、ドライブも鋭くアウトサイドも得意。どこででも点が取れる。ディフェンスに難あり。

 

 桐間心穏(きりましおん)

 年齢17歳

 身長192cm 体重85kg 誕生日 5月25日

 性格 超穏やか マイペース

 好きな物 動物 小説

 嫌いな物 ピーマン ナスビ

 特徴:髪型ちょい重めの長身。右利き。夢生ほどではないが誰とでも接する。超がつくほど穏やか。身長の高さと性格のギャップでクラスで人気者。 バスケではなんでもできる万能プレイヤー。花咲川の守護神。 試合中は熱くなるため語尾が伸びなくなる。

 

 糸井純也(いといじゅんや)

 年齢17歳 身長187cm 体重80kg 誕生日 4月4日

 特徴:明優のいじめの主犯。明優とは同じくSG(シューティングガード)でポジションが被っていた。オフェンス面は十分だったためディフェンスを補強するべく明優の方がスタメンで使われていたためそれに嫉妬しいじめをした。都内でも指折りのプレイヤー。性格の悪さで有名。先輩に好かれるが上手い。

 

 

 

 ~バスケ用語~

 

 プルアップジャンパー……ドライブ中のジャンプシュートのこと

 

 3&D……スリーポイントとディフェンスに優れている選手のこと

 

 ピック&ロール……ボールマンのディフェンダーに対してスクリーンをしかけ、それを利用した後に空いたスペースに飛び込み、2対1を効率的に作る動きのこと

 

 ビハインドパス……背中を通して出すパスのこと

 

 ケミストリー…… チームワークや信頼関係などによって生じるチームの結束力のこと

 

 リムプロテクター……主にゴール付近でディフェンスを頑張るビックマンのこと

 

 ストレッチ5……アウトサイドでも高いレベルでプレイができるビックマンのこと

 

 PG……ポイントガード SG……シューティングガード SF……スモールフォワード PF……パワーフォワード C……センター

 

 ステップバック……ディフェンスを押し込んでから後方へステップしシュートを放つこと

 

 バンプ……体を当ててスペースを作ること

 

 アイソレーション…… チームの中で特に得点能力の高いプレイヤーを、意図的に コート上の広い場所で1人にし、ボールを持たせて1on1を仕掛けさせるフォーメーションのこと

 

 ミート……自信にパスされたボールに向かってキャッチしにいく動き

 

 ジャブステップ……フリーフットを小さく動かして相手の動きの癖を見る手段

 

 ダブルクラッチ……1度シュートモーションに入った手を下げ、逆の手に持ち替えてシュートをすること

 

 



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第1話 少年、パンの匂いに誘われて

皆様初めまして!つくしと申す者です!
ハーメルンでバンドリの作品を見て自分も書きたいなあと思い書いてみました!処女作品です!
素人なのでところどころ変なところがあると思いますがよければ見ていってください!それでは本編です!


「明優《あゆ》、そろそろ起きなさーい!」

 

 母の元気の良いモーニングコールのもと、俺は目覚めた。

 俺の名前は石田明優《いしだあゆ》、一見女子っぽい名前をしているが一応思春期真っ只中の男の子だ。年齢的には高校二年生だが、色々な理由があり高校を中退した。

 

「パパ、ママおはよう」

 

「「おはよー」」

 

 なんでいい歳した男の子がパパママ呼びなのかだって? 小さい頃の癖が抜けきれてないからだ。まあ可愛げがあっていいじゃないか。人と喋る時にはちゃんと父母呼びだから安心してくれ。俺の家族は俺、父、母の三人家族だ。妹が欲しかったなぁ。

 

「あんた今日も朝早くからバスケしに行くのかい?」

 

「もちろん、あ、でも今日はNBAの試合見るために11時くらいには帰ってくるかな〜」

 

 俺の日課は毎朝6時に公園にバスケをしに行くことだ。高校を中退してからは雨が降っていない限りは毎日やっている。休憩を挟みながらだがお昼頃まではずっとやっている。小中高とバスケ漬けの生活をしていたからやらなかったらうずうずしてしまう。そしてその後はバスケ観戦だ。今日の試合は面白くなるぞ〜。ちなみに好きなチームはミルウォーキーにあるあのチームだ。

 

「そう、じゃあ私達は買い物行ってくるから帰ってきたら適当に何か食べといて〜」

 

「うん、わかったよ。いってきまーす」

 

 俺は家を出た。せっかくだし俺の今までのバスケキャリアについて語っておこう。俺は小二からバスケを始めた。理由は友達に誘われたからだ。最初は面白味も何も感じていなかったがシュートが入るようになってからか、それからはどっぷりバスケにハマってしまった。毎日時間があれば近くの公園で練習に没頭していた。おかげ全中では2位まで上り詰めることができた。高校では強豪校に進学にすぐにスタメン入りを果たしたものの.部員の卑劣ないじめにあいやめてしまった。

 

 振り返っているうちに公園についた。

 

 まずストレッチから始める。体を入念に暖めなければバスケットキャリアを終わらせかねない怪我をする恐れがあるからだ。その後にハンドリング、ツーボールドリブルといった感じで基礎をこなしていく。あくまで俺のプレースタイルは"基礎に忠実に"だ。

 

 それからはフリースロー、ミドルレンジからのシュート、3ポイントシュートをそれぞれ100本ずつ打っていく。

 

「今日は86本成功か〜」

 

 今日のフリースローは86本だった。中学の頃フリースローが入らなさすぎて危ない展開になった試合があったため毎日欠かさずに打ち込んでいる。

 

 ミドルレンジからのシュートは50本は好きな角度からのシュート、残りの50本はプルアップジャンパー(ドライブ中のジャンプシュートのこと)で実践を想定した形で打っている。

 

 3ポイントシュートは左0度、左45度、右45度、右0度をそれぞれ25本ずつ打っている。3&D(スリーポイントとディフェンスに優れている選手のこと)で名を馳せていた俺だ。大体毎日85本以上は決まる。フリーで打てばほぼほぼ決まるだろう。

 

 そこからはフリーだ。とにかく一心不乱に打ちまくる。

 

 趣味でやるくらいなら最初からフリーでいい。だが俺はまだ選手としてバスケをしたい。そしてをあいつら見返してやりたい.圧倒的なプレーで、何も言い返せなくなるようなパフォーマンスで、デフェンスでも相手がもっと嫌がる存在に。

 

 とにかく俺はあいつらに"復讐"をするというのをモチベーションに日々バスケットをやっている。

 

 今は時期的には夏休み真っ只中だ。ウィンターカップの予選が始まる前には違う学校に編入したいと考えている。

 

 でも今はまだ心の整理がついていない。また違う学校であんなことがあったら、俺はもうバスケをやりたくないと思うだろう。そう考えると今すぐにでも編入します、という気にはなれなかった。今はただひたすらにひたむきに打ち続ける。

 

「.あのーすみません。もしよければ1on1してくれませんか?」

 

 この公園でバスケをしていると結構ある。1on1の招待だ。ただ俺は学生相手ならほぼほぼ負けたことがない。多分顔つき的には中学生だろうか。度胸あるなァ。俺だったら絶対にそんなことできないよ。絶対にコート使われてる帰ろ〜ってなるよ。

 

「いいよ。11点先取、スリーポイントは2点、それ以外は1点でいい?」

 

「はい! 大丈夫です!」

 

「じゃあ先行後攻どっちがいい?」

 

「先行でお願いします!」

 

「じゃあ.やろうか」

 

 結果からいうと11-2で俺の圧勝だった。ただ男の子が弱かったわけではない、むしろキレの良いドライブ、綺麗なシュートフォーム、どっしりとしたデフェンス、どれも仕上がっていた。中学生とはとても思えなかった。

 

 が俺のデフェンスはそんな簡単に抜けない。ただプレッシャーを与えるだけじゃない。隙があればスティールを狙う、ドライブをしてくればコースに入ってがっちりとめる、男の子のフィジカルでは俺の肉体はビクともしない。デフェンスに関しては相当自信がある、高校ではNo.1だと自負できるくらいに。

 

「君いいドライブするね。楽しかったよ。中学生かい?」

 

「対戦ありがとうございました! 全然歯がたちませんでした.はい! 中学3年生です!」

 

 やっぱり中学生か、相当仕上がってるな。高校でもうまくやって行ければ良い選手になれる

 

「高校はどこにいくとかは決まってるの?」

 

「はい! 大禪高校《だいぜんこうこう》です!」

 

「...大禪高校か...」

 

「どうかしましたか?」

 

「いや、なんでもないよ。君ならいい選手になれるよ。信じてる。これからも頑張って、いつでも勝負するよ」

 

「はい! ありがとうございました!」

 

 大禪高校.俺が前までいた高校だ。あんなことが起こらないことを願うばかりだ。

 

「腹が減ったな〜そろそろ帰るかな〜。久しぶりに商店街でも行くかな」

 

 時刻は11時を回った。かれこれ5時間くらいバスケをしていた。

 

 ~商店街~

 

「ん? なんだかものすごいい匂いがする."山吹ベーカリー"か。

 もう我慢できない! ここでパンを買っていこう!」

 

 そして俺はパンの匂いに誘われるがまま、店に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




自分も中学生の頃バスケをやっていたのでバスケ要素を入れてみました!
わかりやすく解説を入れていくつもりです
次回はいよいよヒロインの登場です!
ではまた!


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第2話 少年、パン屋の娘に出会う

最近は寒くなってお布団から出たくないつくしです!
皆様も体調には十分気をつけてください!

第2話です!それではどうぞ!


~やまぶきベーカリー~

 

「いらっしゃいませー!こんにちは〜」

 

「こんにちは。」

 

やばいやばい。女の子だ。俺は女の子と話すことに慣れていない。なぜなら緊張してしまうからだ。男子とならゲームの話や最近のテレビの話、少しの下ネタで盛り上がることができる。ただ女子となるとどんな話をしていいかわからない。

 

「あれ?もしかしてあなたって…。」

 

「え?ど、どうかしましたか?」

 

やばくね?俺もしかして目付けられてた?

 

「毎朝そこの近くの公園でバスケしてたりしますか?」

 

「あ、はい。」

 

「あ!やっぱり!バスケットボール持ってたのでもしかしたらって思いました!」

 

あ〜〜よかった〜別になんにもなかった〜。一安心一安心。

ていうか意外と見られてるんだな俺って。ひょっとするとここら辺では割と有名だったり?

 

「そうですよ!ここの商店街では結構有名です!」

 

…え?初対面で心の中読んできたんだけど!流石に怖いわ!!

ドリブルの音がうるさかったりそういうマイナスな面で有名じゃないだろうか。聞いてみるか。

 

「もしかして毎朝ドリブルの音とかシュートの音がうるさかったりますか?それだったらすみません!少しやる時間を遅らせます!」

 

「あはは、別にそういうことで有名ってわけじゃないですよ〜。しかもここの商店街とそこの公園意外と離れてるので全然聞こえませんよ。」

 

良かった。とりあえず良かった。もしかして心配しすぎたか?まあ念の為確認できたってことで良しとしよう。

 

「バスケ、とっても上手で見入っちゃうですよね〜。あんなにシュート入る人見たことありません!これからも頑張ってください!」

 

「いや〜すみません〜。ありがとうございます、頑張ります」

 

とりあえず会話が一段落した。めちゃめちゃ緊張した。手汗でぐっしょり、服もずっと掴んでいたせいでその部分だけがしわくちゃだ。耐性をつけなきゃ今後困りそうだな…。

 

~石田家~

 

結局俺はクリームパンを3つ買って店を出た。親のぶんも買っていこうと思ったが金銭的に自分の分で限界だった。

 

「あの子めっちゃ可愛かったな〜」

 

店番をしていた彼女はとても大人びていた。学生とは思えないくらいしっかりしている。俺と会話を終えた後お客さんがぞろぞろ入ってきたが、慌てる様子もなくテキパキと仕事をこなしていた。常連さんとの世間話にも花を咲かせていた。だが途中で見せるとても可愛らしい笑顔は年相応の女の子だった。彼女は絶対下に弟か妹がいる、きっとそうだ。

 

 

「このクリームパンうまっ!!!なんで今まであの店に気づかなかったんだ…俺?早く見つけとくべきだろ!」

 

クリームパンもとても美味しい。そこら辺にあるスーパーやコンビニの比にならない。もうこれから一生通い続けます。はい。

 

夜に夜食として食べようとしていたクリームパンも全て食べてしまった。

 

「5つくらい思い切って買えばよかったな…」

 

そう思えるくらい美味しかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「いやいけっ!!そこでスリーポイントだ!!いやなんで打たないんだよ〜今のは勝負どころだろ!おっ!ピック&ロール(ボールマンのディフェンダーに対してスクリーンをしかけ、それを利用した後に空いたスペースに飛び込み、2対1を作る動き)から!あ、そこ空いてるよ!そこに出せ!うおーっっっ!!!ビハインドパス(背中を通して出すパスのこと。決まったらかっこいい。)!!くぅ〜!やっぱりこうでなくっちゃ!!」

 

俺は今NBA観戦の真っ最中だ。普段は静かに見ているが今日は親がいない。人間時には大声ではしゃぐことも必要だ。

 

「いや〜意外と接戦だったな〜でも最後に10点差まで開くところ流石だわ〜」

 

俺の応援してるチームは123対113で勝利を収めた。こんな観客が熱狂してる中、プレーをしてみたいものである。

 

「「ただいま〜」」

 

「おかえり」

 

「あんた、外まで声聞こえてたわよ。程々にしなさいね〜。」

 

笑われながらそう言われた。今まで静かな息子として生きてきたのに!バレてしまった...。そして外まで漏れてると思うともっと恥ずかしい。

今度からは少しボリュームを落とそう。

 

「そうそう、明優、今日夕飯の時大事な話するから」

 

いつものほほんとしてる母さんもこの時ばかりは真剣な顔をしていた。

 

「…わかったよ」

 

これから何を伝えられるのだろうか。朗報か、凶報か。そんなことは俺だって全くわからなかった。

 

 




すみません!以前投稿した際、オリキャラの設定を書き忘れてました。
ここに書かせていただきます。
それではまた次回!

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石田明優《いしだあゆ》

年齢17歳 身長178cm 体重61kg

誕生日 7月13日

性格 穏やか 人見知り

好きな物 クリームパン バスケ

嫌いな物 ホラー系 現代文(テスト)

特徴: 髪型はわりと短め。高校での出来事のせいで以前よりも静かになってしまった。打ち解けた人にはうるさく接する。女の子と話すと緊張で手汗が止まらなくなる。慣れればそれなりに話せる。人見知りとバレないように頑張って会話している。
バスケではデフェンスが持ち味。始めた頃からオフェンスよりデフェンスの方が好きだった。3ポイントも中々決めれる。正直弱点が全くなく攻守において隙がないが、本人はデフェンスに専念したいため、【攻めろ】と言われるまであんまり攻めない。



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第3話 少年、転機訪れる

第3話です!
総UA回数が500回を突破しました!ありがとうございます!!
これからも精進していきます!
それではどうぞ!


 ~石田家~

 

 待ちに待った夕食の時間がやってきた。俺は内心かなり焦りを感じていた。母さんはああいうことをよく言うが毎回顔がふにゃ〜ってなっているか笑いを堪えきれずにいる。内容も『明優の部屋、勝手に漁ってみました〜』や『明優の持ってるエロ本見ちゃったよ』などとてもふざけたものだ。しかも俺はエロ本など買っていない。後にわかったのはそれが父さんのであることだ。

 

 そんな母さんは今回ばかりはとても真面目な顔だった。

 

「まず話を聞いて欲しいんだけど……」

 

 リビングに緊張が走る。

 

「この夏休み心期間が終わったら、花咲川女子学園に言ってもらうから。

 もうそろそろ心づもりもできたんじゃないかって」

 

 ……え? そんな重たくない話に胸を撫で下ろした。だが驚かざるおえなかった。なんでかっていうと

 

「ちょっと待ってよママ! 俺そんな話聞いてないし! しかも女学園ってどういうことだよ! 俺のバスケは! 復讐はどうなるんだよ!」

 

 ということだ。俺はこの話になんの関与してないしまして女学園だって? 冗談はよしてくれよ……。それに俺の野望は母さんが1番わかってるじゃないか。

 

「確かに何も言ってなかったことは謝るわ……。だけどいきなりそうやって決めちゃった方がもう覚悟を決めるしかないじゃない。明優だってわかってるでしょ? そういうことを決めさせたら長い時間がかかるじゃない」

 

 母は苦笑いしながらそう言った。

 

 確かにそうだ。俺は高校を決めれずにいた。だからこれはありがたい話だ。だけでも少しくらい言ってくれてもいいじゃないか……。

 

「そしてバスケなんだけど安心して。女学園っていってるけど数年前に花咲川は共学になってるの。だから安心してバスケをすることができるわ。

 バスケの成績もいいみたいだし、チャンスはあるんじゃないかしら?」

 

 ああ。とりあえず安心した。バスケができるのならそれでいい。

 

「でもそういえばあんた大禪高校にいる時に1回くらい対戦したなかった? なんで覚えてないよ! 私でも覚えてるっていうのに.」

 

「え? 戦ったことあったっけ.? あ!」

 

 しっかり戦ったことありました。すみませんお母様許してくださいなんでもしますから。(何でもするとは言ってない)

 確か86対72でわりといい戦いじゃなかったっけ。なんで試合結果覚えてんのに共学っていうのを覚えてないんだよ俺.

 

「それに明優はウィンターカップ予選前でいいって言ってたけど、チームに馴染んだり学校に慣れるためにも早め決めちゃった方がいいって思ったの。

 ウィンターカップ予選前じゃチームのケミストリー(チームワークや信頼関係などによって生じる結束力のこと)の構築ができないし、システム慣れする時間もないでしょう?」

 

 確かにそうだ。俺は大禪高校のヤツらを叩きのめすことしか頭になかった。チームに馴染むのには俺の性格上時間がかかる。

 

「そうだね……。ありがとうママ! 俺花咲川で頑張るよ!」

 

 俺は覚悟を決めた。もううじうじしている時間がない。やると決めたらやらないと体が動かなくなってしまう。

 

「じゃあ決定ね。でも明優、ひとつ聞いてほしいの。私は明優に楽しくバスケをやって欲しいわ。確かにリベンジも明優にとって大切かもしれないわ。だけど私は自分の息子には笑顔でいて欲しいわ。大禪高校にいた時はもう毎日死んだような目をしてて、私は見てられなかったわ……」

 

「それはごめんなさい……」

 

「いいえ、謝るようなことじゃないわ。だからこそ花咲川では笑顔でプレーして欲しいの。小中学校にいた頃のように楽しくバスケをして欲しいの。そしてたくさん青春してきなさい! 私、明優の恋なら喜んで応援するわ!」

 

 とても優しい笑顔だった。母さんの温もりを感じた。

 

「恋できるかは知らないけど.(苦笑い)。わかった。楽しくプレーできるように頑張るよ」

 

「そしてしっかり大禪高校もぶちのめしてきなさい!!」

 

 といい母さんはウィンクしてきた。そんなことできたっけ? 

 

「そうそう。突然で申し訳ないけど、明日早速花咲川に行ってもらうから。バスケ部の監督が1回練習を見に来て欲しいんだとか」

 

「は? まじで急すぎない? 俺がヤダって言ったらどうするつもりだったんの」

 

「断ると思ってなかったわ。明優ならいいっていうと思ったからよ。断れない性格っていうのは自分が1番わかってるでしょ?」

 

 見抜かれていた。流石母だ。

 

「わかったよ。行く準備はちゃんとしておくよ。それで時間は何時?」

 

「午後1時よ」

 

「了解」

 

「じゃあ母さんお風呂入ってくるから〜」

 

 そう言って母さんは風呂場へと姿を消した。

 

 

 

 

 ~明優の部屋~

 

 布団に潜りながら花咲川について思い出していた。

 

「キレの鋭いドライブをするやつがいたよな確か。俺でも止めるのに少し手こずったくらいだ。センターも190近いやつがいたな。いいリムプロテクター(主にゴール付近でデフェンスを頑張るビックマンのこと)だったよな。インサイドでも点取れるし何よりスリーポイントも打てて現代バスケにしっかり順応してるいいストレッチ5(アウトサイドでも高いレベルでプレイ出来るセンターのこと)だった気がする」

 

 期待に胸を膨らませていた。意外とタレントが揃っている。もしかしたらいけるかもしれない、そう思うとワクワクしてきた。

 

 期待を胸に俺は明日に向けていつもより早く寝た。

 




すみません。バンドリ小説なのに全くバンドリ要素がない!ほんとにすみません。
次回の話をさせてもらうと主人公は花咲川バスケをします。
なのでバンドリのキャラが出始めるのは5話を予定してます。
本当に申し訳ありませんm(*_ _)m

それではまた次回!


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第4話 少年、楽しむ

1回執筆中の小説をしてしまいガン萎えしてた人つくしです(´・_・`)
第4話です!
今回は試しに台本形式で書いてみました。
それではどうぞ!


 俺はいつも通り目を覚ましていつも通り公園に行った。

 学校に行くか行かないかなんて関係ない。バスケは【ハビットスポーツ】、いわば【習慣のスポーツ】だ。そう言われるくらい日頃から習慣付けすることが大切なスポーツだ。1日サボるだけでもかなり感覚がくるってしまう。

 

 今日は幸い、午後からの練習に参加だったので朝練をすることができた。

 

「今日はもう上がっとこうかな」

 

 時刻にして午前10時いつもより早い帰宅ではあるが、午後からの練習に備えるためだ。今ここでハッスルしすぎて練習についていけませんってことになったら見くびられてしまう。ファーストコンタクトを大事にしていきたい。

 

 

 ~石田家~

 

 俺は帰ってからすぐ昼ごはんを食べた。練習直前に食ったおかげでお腹が痛くなり痛い目をみたからだ。横っ腹が走ってる時に痛くなるあれだ。

 あの痛みは意外としんどい。

 

 そうこう準備している間に家を出る時間になった。

 

「明優、久々の学校だけど大丈夫? まあ学校っていっても部活だけど。女の子に会っても緊張しない?」

 

 と母さんが冗談混じりに言ってきた。おそらく俺の緊張をほぐすためだろう。

 

「うーん。緊張してないって言ったら嘘になるかな。女の子とは極力会わないように気をつけるよ。部活だけなら会うこともあんまりなさそうだし」

 

「そう。じゃあ今日は久しぶりの学校祝いってことで何か明優の好きな物買ってきてあげる!」

 

「まじ! って言われても何にするべか」

 

 っと北海道に住んでた頃の名残が出てしまった。やっぱり訛りが少し抜けきれていない。大膳高校に通うためにこっちまで家族総出で引っ越してきたのだ。

 

 そんなことよりも好きなものだ。だが答えはすぐ決まった。俺はあの味が忘れられなかった。

 

「商店街にやまぶきベーカリーってところがあるんだよね。前行った時クリームパン買ってさ。それがめっちゃ美味しくて! それが食べたいかな」

 

「わかったわ。私も気になってたのよね、あそこのパン屋。いい機会だし買ってくるわ」

 

「うん! ありがとう。それじゃあ行ってきます」

 

「行ってらっしゃい〜」

 

 手を振って別れを告げた。

 

 

 

 

 

 ~花咲川女子学園~

 

 意外と家の近くにあった。徒歩で大体10分くらしかかからなかった。

 

「ん? あの先生は誰だ?」

 

 俺を見る度こっちに近づいてきた。おそらく監督なのだろう。

 

「君が、石田明優君だね。こんにちは」

 

「こんにちは」

 

 監督思われる人は身長大体180cmくらい、さっぱりとしているとてもイケメンの若い先生だった。強豪といえる部類に入る花咲川高校、厳つい監督と思ってたけど全く違かった。

 

「僕がバスケ部の監督だ。今日はよろしくね」

 

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

 

「じゃあ体育館に案内するね。君のお母様が久しぶりの学校で緊張してると思うんだけどって言ってたけど、緊張してる?」

 

 何言ってんだこのくそバb……お母さん! 俺は平然を装いたかったのにコンチクショー。嘘はつけない。正直に答えてしまおう。

 

「はい……。結構緊張してますね」

 

 苦笑いしながら答えた。

 

「へー緊張するんだねー。君が大禪高校でプレイしてる時は1年生とは思えない落ち着きっぷりだったよ。意外と緊張するんだね」

 

 ……へー俺って意外と見られてるもんなんだな。縁の下の力持ち的な存在として、地味なことを率先してやっていて華がないと思ってたから、見られていると思っていなかった。バスケはオフェンスや派手なプレーばかりに目が行きがちだがそうじゃないと思う。デフェンスや泥臭い仕事を淡々とこなす人を俺は尊敬してきた。何よりそのデフェンス俺をこのバスケの世界に引き込んでくれた。

 

「君のデフェンスは僕たちにとってとても苦しいものだったよ。エースもほぼ完封されるし、デフェンスに全くと言っていいほど隙がない。君みたいなディフェンダーはとても魅力的な選手だよ」

 

「ありがとうございます。光栄です」

 

 素直に嬉しかった。自分のプレースタイルに改めて自信を持つことができた。

 

 そうこう話している間に体育館につきそうだ。

 

 

 

 

 ~体育館~

 

 俺と監督が入った瞬間、

 

『『集合!!』』 『『おう!!』』

 

 勢いよく集合してきた。かなりの部員数がいると思っていたが実際はそうじゃなかった。全員がベンチ入りできるくらいの部員数だ。全国を目指せるくらいの高校は3年間ベンチに入れない選手もいるくらい層が厚かったり、部員数もかなりいる。少数精鋭で大禪高校とせれたのはすごいと思う。

 

 監督「この子が前々から話をしていた、大禪高校出身、石田明優君だ」

 

 明優「石田明優です。今日はよろしくお願いします」

 

 監督「石田君はみんな知っての通りディフェンスに長けている選手だ。うちのチームにそんなディフェンスができる人はいない。今日はとてもいい機会だ。高校屈指のディフェンシブプレイヤーにどこまで自分のオフェンスが通用するかを試して欲しい」

 

『『おう!』』

 

 監督プレッシャーかけすぎでしょ……。これで俺意外と大したことないやつだったらどうなるのさ。まあでも監督の期待に答えられるように頑張ろう。

 

 ?? 「先生! まず俺から1on1いかせてもらってもいいですか?」

 

 監督「おい、まだ石田君はアップすらしてないんだぞ。ごめん石田君、こいつは須高夢生《すこういぶき》、うちのSF(スモールフォワード)だ。練習したらこいつと1on1してくれないかい?」

 

 こいつがあのキレのいいドライブをするやつか。

 

 明優「もちろんいいですよ」

 

 俺は快く引き受けた。

 

 俺は早速練習を始めた。まずはシューティングからだった。みんなかなりの確率でミドルレンジもスリーポイントも沈めている。俺がこれから対戦する予定の須高は俺が見る限りは1度も外していなかった。楽しい勝負になりそうだ。

 

 それから俺らはハンドリング、ディフェンス、スリーメンなど淡々と練習をこなしていった。

 

 俺はこの高校で練習をしてわかったことがある。みんな楽しそうにバスケをしていることだ。ただふざけて練習をしているわけではないので、真剣だ。みんながお互いを認めあってプレーしている。良いプレーがあればそれを褒め、ダメなところ、気になったところがあればアドバイスし合う。俺も負けてられない、そういった雰囲気がチームをより高めへと連れていってくれる。それがこのチームだ。俺はこんな環境でバスケをすることを望んでいた。楽しくバスケをしながらバスケを目指す。ピッタリだ。

 

 監督「じゃあ石田君、夢生と1on1してくれるかい?」

 

 明優「任せてください」

 

 夢生「そうこなくっちゃな〜石田君。はっきりいって負ける気がしないけど」

 

 いきなり挑発か? まあそんなものに乗るほど俺はバカじゃない。

 

 明優「その威勢、プレーで見せることだな」

 

 トラッシュトーク(試合中に汚い言葉や挑発で相手選手の心理面を揺さぶる行為のこと)はバスケの醍醐味の1つだ、立派な戦術のうちに1つだと思う。プレーではないが相手を混乱させ調子を乱すことができる。俺も中学の頃はよくしかけていた。相手が調子を乱してシュートがことごとく外れていく様、ディフェンスをしていてこれ程嬉しいことはない。

 

 俺は須高にボールをパスした。須高はボールを手にすると、ドリブルで俺の左側を抜こうとした。だが俺はコースに素早く入り、それを阻止した。

 

 明優「どうした? そんなもんだっけか。見当違いだったか」

 

 夢生「まあこれは挨拶だ。こんなのに抜かれてちゃお話にならないぜ」

 

 そう言い須高はクロスオーバーで俺を揺さぶり、今度は右側へドライブしてきた。トラッシュトークに夢中になり油断していたところを抜かれてしまった。

 

 夢生「おいおい。集中するところがちげーんじゃねーの? 勝負にならんぞ」

 

 明優「挨拶には挨拶で返したいだろ? 俺からの挨拶はその1点だ」

 

 ……この感じゾクゾクする。この緊張感、このバチバチした雰囲気。サイコーだこいつ。こんなやつと一緒のチームか。退屈しなさそうだ。

 

 俺は須高にパスをした。もう抜かれる気は無い。須高は右に左にとあらゆるテクニックを駆使して俺をかわそうとしたが逆にリング外に追いやられる体たらくだった。結局タフショットになってしまい、そのシュートは無情にもリングに弾かれてしまった。

 

 夢生「くそっ……! こいつ……!」

 

 俺のオフェンスだ。俺は須高からパスを受け取ると間髪入れ入れずドライブで須高を抜き去った。

 

 5on5をしている時か。こいつの弱点はデフェンスだとわかった。それを補うためにチームではゾーンディフェンス(それぞれの選手が自分の担当しているゾーンに入ってきた選手を守るディフェンス)を敷いていた。それは須高のディフェンスをチーム全体でカバーするためだとわかった。

 

 それからは一方的に進んでいった。結局対戦は11対5で俺の勝利だ。ただ5点も献上してしまった。須高は俺にベッタリつかれながらもステップバック(ディフェンスを押し込んでから後方へステップしシュートを放つこと)やバンプ(体を当ててスペースをつくること)を駆使し上手くスペースを使ってシュートを決めてきた。

 

 夢生「無礼な態度をとって悪かった。つい熱くなっちまって。やっぱり石田は大した選手だ。俺らのチームにいたらめちゃめちゃ頼もしいぜ!」

 

 明優「こっちこそ熱くなって悪かった。入部はまだ正式に決まってないけど入ったらよろしくね」

 

 夢生「おう! よろしくな!」

 

 ?? 「いや〜熱い戦いだったよ〜。見ててキラキラドキドキした〜」

 

 夢生「なんでそこで戸山さんのセリフが出てくるんだよ! 笑笑 おい! 心穏! お前1on1してみろよ!」

 

 誰だ? 戸山さんって。まあいいや。こいつは桐間心穏《きりましおん》ビックマンだ。花咲川の守護神、前に語っていた通りなんでもできる超万能プレイヤーだ。ただ巨体のわりには穏やかな人だ。ギャップ萌えってこのことかな。

 

 心穏「いや〜僕はいいよ〜。スピードのミスマッチで負けるのは目に見えてるしね〜」

 

 心穏「今日はもう帰るだよね〜。お疲れ様〜、僕もいつでも待ってるから自分のペースで進んでこうぜ〜」

 

 良い奴過ぎんか!? 絶対モテるやろ! 高身長、性格もいいときた。非の打ち所がないじゃないか……。

 

 明優「うん、お疲れ様ー」

 

 笑顔で手を振り、体育館を後にした。

 

 監督「どうだった? うちのチームは?」

 

 明優「初日ですけどすごい居心地が良かったです。みんな楽しそうに練習しているのが印象的でした」

 

 監督「そうか〜。大禪高校はスパルタで有名だもんね。まあ入部するかしないかはゆっくり考えて、いつでも待ってるから」

 

 明優「はい。今日はありがとうございました! 」

 

 そう言い俺は学校を去った。これからが楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回はちゃんとバンドリのキャラを出す予定です。
やっぱり台本形式は少し違和感を感じたので次回からは戻します。
試行錯誤しながらこれからも頑張っていくのでよろしくお願いします*_ _)
最後に今回でた2人のオリキャラの詳細を書いてお別れです。
それではまた次回!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

須高夢生《すこういぶき》

年齢17歳 身長184cm 体重72kg

誕生日 6月1日

性格 陽気 コミュ力高め

好きな物 メロンソーダ

嫌いな物 勉強

特徴:髪型は短め。右利き。誰とでも接することができるコミュ力おばけ。ただ時より見せる真面目な一面でギャップ萌え。意外と情に熱く仲間思い。
バスケではオフェンスが持ち味、ドライブも鋭くアウトサイドも得意。どこででも点が取れる。ディフェンスに難あり。



桐間心穏《きりましおん》

年齢17歳 身長192cm 体重85kg

誕生日 5月25日

性格 超穏やか マイペース

好きな物 動物 小説

嫌いな物 ピーマン ナスビ

特徴:髪型ちょい重めの長身。右利き。夢生ほどではないが誰とでも接する。超がつくほど穏やか。身長の高さと性格のギャップでクラスで人気者。
バスケではなんでもできる万能プレイヤー。花咲川の守護神。
試合中は熱くなるため語尾が伸びなくなる。





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第5話 少年、再び出会う

台本形式ではなく普通の形式に戻しました。

いよいよ明優が転校します!
それでは第5話です!
どうぞ!


練習に行った後からの日々はとても短く感じた。

 

練習の後俺は夢生と心穏とMAINを交換した。

 

夏休み中は夢生と心穏と一緒に公園でバスケをしたり、出かけに行ったりした。今ではこの通り、下の名前で呼ぶくらい親しくなった。

 

そんなこんなで楽しく過ごしていたら登校日は遂に明日になった。

 

~公園~

 

「俺ら、どっちともB組なんよ。だからお前もB組だったらまじ神だな!」

 

「まあそんな上手くはいかないと思うけどね〜。でももし明優がB組だったら僕も嬉しいな〜。」

 

「まあそれは明日にならないととわからないよ、まあ2人とも祈りを捧げといてくれ。」

 

「「おう!」」

 

そういうと2人は両手を合わせて空に向かって祈り始めた。

 

「おいおい2人ともやりすぎだ…。傍から見たら変人だぞ。」

 

「「明優が祈れって言ったんだろ!(じゃないか)」」

 

「まあそりゃそうだけど…。まあいいか。」

 

自然と笑みがこぼれてしまう。こんな会話、前の高校では味わえなかった。

 

「ねえ〜前から気になってたんだけど〜、なんで明優は花咲川にきたの?大禪にいた時も1年の頃からスタメンだったみたいだし、充実してたと思うけどな〜。」

 

と心穏が言ってきた。いつかは聞かれると思っていたことだ。2人には話してしまおうか。

 

「もし良かったら教えてくれないかな〜。ダメだったらまた今度でもいいし、心の整理がついてからでもいいからさ〜。」

 

この2人なら前のようにはならないだろう。だから俺は全てを話した。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「お前よくそれで1年間も耐えたな!俺は信じられないぜ!」

 

話し終わった後真っ先に口を開いたのは夢生だった。

 

「絶対に許せね〜。そっか…。そんなことがあったのか…。でお前は大禪のヤツらをぶちのめしてやりたいってわけだ?」

 

「うん…。大禪高校ならウィンターカップ予選で絶対当たると思うから復讐するならそこでって考えてる。だからある程度実力が備わっているこの高校に来たんだ。少数精鋭だけどタレント揃いだしもしかしたら勝てるかもって思って。」

 

「そうかもな…。前戦った時は向こうに明優がいたけど次はこっちサイドだ。勝機は全然ある。ただ大禪高校もステップアップしてるはずだ。一筋縄ではいかないぞ。」

 

「…それは僕も許せませんな〜。これからの練習もますますハードにいきますか〜。」

 

語尾がいつも通り伸びているが、心穏も表情から怒りをあらわにしていた。

 

「まあ安心しろ!俺らは絶対にそんなことしねーから!先輩も優しいし!

怖がることはない!一緒に頑張ってこうぜ!」

 

「辛くなったらいつでも僕たちを頼ってね〜。」

 

「2人ともありがとう!一緒に頑張ろうぜ!」

 

「「おう!」」

 

いつもよりキラキラ輝いている夕焼けが俺たちのことを照らしていた。

 

 

 

 

~石田家~

 

「明優、準備はできたの?」

 

「バッチリだよママ。」

 

サムズアップして準備がバッチリなことを伝えた。

 

「前に練習に行った時からもう友達ができたみたいだから、私は全然心配してないわ。久しぶりの学校、緊張してると思うけど楽しくすごしてきなさい。」

 

「わかったよ。いってきまーす。」

 

この日も笑顔で手を振って母さんと別れた。

 

 

 

~花咲川~

 

学校へついたらすぐ、先生に連れていかれ、校長室へと向かった。

軽い挨拶を済ませた後俺は先生に連れられ自分のクラスへと向かった。

 

「君のクラスはB組よ。あなたと同じ、バスケをしている子が2人いるわ。

そして担任が私よ!」

 

担任の先生は女の先生で身長は150cmくらいで代黒髪ロングだ。俺の身長も相まってとても小さく見えた。

 

「はいよろしくお願いします。」

 

B組!?よっしゃラッキー!あいつらいるじゃんか!これで困らなくて済むぞ〜。俺は先生に見えないところで軽くガッツポーズをした。

 

俺と先生はクラスへ入っていった。

 

「みんなー静かにー。この子が今日から転校してきた石田君よ!あとは自己紹介よろしく!」

 

まじか…俺に全振りか…。クラスメイトも驚いている。名前的に女子だと思ったのだろう。だがやつらは平然としていた。そう、夢生と心穏だ。

なんであいつらは俺は知ってたぜ。みたいな感じでドヤってるんだ!?

 

「初めまして。大禪高校から転校してきました石田明優です。これからどうぞよろしくお願いします。」

 

拍手が送られてきた。まあここまでは普通だろう。問題は俺がこれからどこへ座るかだ。あいつらの近くがいいな〜。

 

「じゃあ石田君はね〜丁度山吹さんの隣が相手いるからそこに座ってもらうかな。」

 

くそっ!流石にそこまで奇跡は起きないか。真逆の方向だった。

 

…ん?ちょっと待てよ。山吹さん?なんかそんなパン屋さんがあったような…。あ!やまぶきべーカリーだ!もしかしてだけど前店番していたあの子だろうか。

 

ビンゴである。間違いない。前店番していたあの子だった。そうわかった瞬間胸が高まった。

 

「石田君がまさか君だとは思わなかったよ。私は山吹沙綾これからよろしくね!」

 

と山吹さんは俺に笑顔で喋りかけてきた。可愛い…。

 

「よ、よろしく…。」

 

緊張してしまいぎこちない感じになってしまった。

 

「それじゃあこの時間はもうやることないわ!みんな石田君をよろしくね!各自自由にすごしていいわよ〜日直号令!」

 

号令が終わった後、夢生と心穏こっちに近づいてきた。

 

「いや〜。まさかな〜明優っていうもんだからてっきり女子なのかと思ったわ〜。」

 

「ほんとだね〜。」

 

と冗談を言ってきた。おい夢生、お前に至っては笑いが隠しきれてないぞ。

 

「お前ら…。」

 

「まあともかく一緒のクラスで良かったな!」

 

「祈りが通じたみたいだね〜。神様ありがとうございます。」

 

そうすると心穏が空に向かって手を合わせ始めた。クラスメイトのみんなも何やってんだ。みたいな感じでこちらを見ている。

 

「バカ!恥ずかしいからやめろ。」

 

すぐには俺はやめさせた。

 

「あれ?石田君って須高君と桐間君と知り合いだったの?」

 

と山吹さんが話しかけてきた。

 

「うん。実は夏休み中に1回だけ花咲川で練習に参加したんだ。その時に仲良くなったんだ。」

 

俺はことの経緯を説明した。

 

「なるほどね〜。だって、りみりん!」

 

「え!?ちょっと待ってよ沙綾ちゃん〜。私は何も言ってないよ〜。」

 

この子いつの間にいた!?全然見えてなかった…。

 

「え、えっと…。私は牛込りみっていいます。これからよろしくね!石田君!」

 

「うん、よろしく!」

 

よし、今度はスマートに返せたぞ〜。順調順調。

 

そんなやり取りがあったあとで俺たちは5人で話していた。山吹さんも牛込さんも面白い人だな〜。

 

「なあ明優!昼は中庭で食おうぜ!」

 

と夢生が言ってきた。

 

「うん。いいよ。中庭か〜楽しみだな〜。」

 

「ねえ、私たちも一緒に食べても良い?香澄たちもいるんだけどこの機会に紹介したいし。」

 

「もちろんいいぜ!沢山いた方が楽しいしな!」

 

なんと山吹さん達とも一緒に食べることになった。緊張してしまう。

 

そうこうしている間にチャイムが鳴り響いた。

 

「よしじゃあ中庭行こうぜ!」

 

「私とりみりんは香澄たち呼びに行ってくるから先に行ってて!」

 

「了解〜。」

 

俺らは先に中庭へ向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

-沙綾side

石田君が花咲川に来た時、驚いてしまった。まさか毎朝バスケをしている人がこの人だとは思わなかったからだ。

 

私は密かに石田君のことが気になっていた。朝、蔵へ練習しに行く時に偶然石田君を見た時からだ。一目惚れだ。彼のプレーはとてもかっこよかった。派手ではないが一つ一つの動きが丁寧で、スマートで。見入ってしまった。思わず

 

「かっこいい…。」

 

と口に出してしまうくらいだった。

 

恋なんてしたことはなかったが。彼のことをチラッと見に行く度に胸がドキドキする。その時初めてこれが恋か…!ってわかった。

 

そんな彼が前うちの店に来てくれた。

 

「いらっしゃいませー!こんにちは〜。」

 

最初見た時はドキリとしたけど、私は平然を装った。

 

「こんにちは。」

 

彼の声はやや低めでかっこいい声をしていた。

 

こんなチャンスあまり無いかもしれない!そう思った私はなんとか話そうと

 

「あれ?もしかしてあなたって…。毎朝そこの公園でバスケしたりしてますか?」

 

もうわかりきっていることなのに聞いてみた。バスケットボールを持っている時点で確信はもてていたが念の為にだ。

 

「あ、はい。」

 

彼は不安そうな顔でそう答えた。

 

その後彼は商店街に音が響いてるかもって思って謝ってきたっけ?あれは可愛いかったな〜。思わず笑ってしまったっけ。

 

もっと話をしていたかったが常連さんがぞろぞろとやってきてしまったため話に話せなかった。少し話せただけでも嬉しかった。

 

彼はクリームパンを買って帰っていった。

 

「(もう1回来てくれたらいいなぁ。)」

 

私はそう思っていた。

 

その彼が今、この学校そして私の隣にいる。隣に来た時は本当にドキドキした。平然を保てるかどうかは不安だったが。彼もぎこちなく、安心してドキドキなんかどこかへ吹っ飛んでいった。

 

須高君が

 

「なあ明優!昼は中庭で食おうぜ!」

 

と言った時私は咄嗟に

 

私たちも食べたいんだけどいい?って聞いてしまった。ポピパのみんなを巻き込んでしまったのは申し訳ないが、紹介したいっていうていで一緒に昼ご飯を食べることになった。

 

もっと距離が縮まるといいな。

 

 

 

 

 




いや〜5話目にしてようやくバンドリキャラをまともに出すことが出来ました〜。そしてUA総数は1000回を超えました!ありがとうございます<(_ _)>
それではまた次回!


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第6話 少年、輪を広げる

皆様バンドリの年末年始ガチャはいかがだったでしょうか。
私は星4の大和麻弥ちゃん2人、マスキング先輩1人、こころんが1人当たりました!沙綾ちゃんが当たらなかったのがショックでしたけど・・・。
第6話です!それではどうぞ!



 ~中庭~

 

 俺らは中庭へと向かっていた。

 

「いやーそれにしても山吹さん達とご飯食うの久しぶりだな。なあ、心穏」

 

「うん。そうだね〜」

 

 いくら2人のコミュ力が高いといっても、女子とご飯を食べることはあんまりないようだ。安心安心。

 

「にしても中庭広いな〜。今日は暑いからあそこの日陰にいこうぜ」

 

 俺は指を指して場所を示した。今日も暑い。溶けてしまいそうだ。北海道とは気温が全然違くて最初は少し体調を崩したっけ。1年経ってようやく体が追いついてきたのだ。

 

 しばらくすると山吹さんたちが遅れてやってきた。牛込さんに加えて髪型がなんか猫? ぽい人、金髪ツインテールの子、身長が女子にしては高く黒髪ロングクールビューティーな子も一緒に来た。

 ていうか金髪ツインテールの色々でかくね? どことは言わないけど……。

 

「おまたせ〜」

 

 と足早に山吹さん達がこちらへ来た。

 

「君が明優君? 初めまして! 戸山香澄だよ! これからよろしくね!!」

 

 猫みたいな髪型をしている人は戸山香澄さんというらしい。天真爛漫そうだ。この中で多分いちばん元気が言い。

 

「私は花園たえ。君の髪の毛みたいにオッちゃんみたいにフワフワだね〜。ずっともふもふできるよ〜」

 

 といきなり髪の毛をもふもふしてきた。急すぎて飛び跳ねてしまった。

 

「ちょっといきなりどうしたの!? そしておっちゃんってどういうこと!? 俺もしかして中年のおじさんに見えた!?」

 

 しかもいきなりおっちゃんと言われる始末だ。

 

「あはは、君面白いね。オッちゃんは私が飼ってるうさぎだよ。オッちゃんも合わせて20羽くらい飼ってるんだ〜」

 

 20羽! なんだそれはたまげたなぁ……(驚愕)。

 花園さんは見かけによらず意外と不思議ちゃんなのかもな。

 

「石田君ご機嫌よう」

 

「ごきげんよう…………?」

 

 えー花園さんが反応すんの。どういう状況よこれ。

 

「お前じゃねーっ!! 、ってハッ!!」

 

「有咲いきなりどうしたの? 体調でも悪いの?」

 

 戸山さんが首を傾げながら聞いた。

 

「あーもうお前ら〜!!」

 

「市ヶ谷さん〜もうここまできたらいつも通り喋ってもいいんじゃないかな〜」

 

 心穏が苦笑いしながら市ヶ谷さんに言った。

 

「それもそうだな……。改めてよろしくな」

 

 最初ごきげんようなんて言われたち時は高貴な生まれなお方なのかと思ったけどそんなことはなかった。むしろ安心した。っていうかやっぱりでかいな〜。

 

「おい、明優視線怪しいぞ」

 

 夢生が静かに伝えてくれた。やべーやべー。第一印象最悪になっちゃう。気をつけないと。いやでもこれは市ヶ谷さんも悪いだろ! いやでも目がいっちゃうだろこれは! 

 

 そんなこんなで自己紹介が済んだ。それからはみんなで楽しく話しながらご飯を食べた。

 

「ねえ有咲。そのハンバーグ美味しそうだね。このレタスと交換してよ」

 

「ハンバーグとレタス!? 正気か!?」

 

 市ヶ谷さんのツッコミはキレがあって面白い。しかもハンバーグにレタスって……。思わず笑ってしまう。

 

「ねえ夢生君! 今度私達のバンド見にこない?」

 

「最近行ってなかったしな。練習が空いてたら見に行くかな。ちょっと確認してみるわ」

 

 へ〜戸山さんってバンドやってるんだ〜。ていうか女の子からそういうの誘ってもらえんの羨ましいな。

 

「牛込さんはいつも美味しそうにチョココロネ食べてるよね〜。僕も今度買ってみようかな〜」

 

「うぅ〜……なんだか恥ずかしいな……。桐間君も今度食べてみてよ」

 

 心穏と牛込さんはなんかとても心が穏やかになるくらいまったりと会話していた。思わず微笑んでしまう。

 

 で俺はというと……

 

「ねえ石田君。うちのパンどうだった?」

 

 山吹さんと話していた。山吹さんと話す時だけ異様に緊張するんだよな〜。これはどういうことだろうか。謎である。

 

「そりゃもうすごい美味しかったよ! もうコンビニとかスーパーに売ってるパンなんて比較にならないよ! もう毎日食べたいくらい美味しかったよ!」

 

 本心である。全くもって盛っていない。ありのままを山吹さんに伝えた。

 

「良かった〜。そう言ってもらえると嬉しいな」

 

 山吹さんの笑顔はとても可愛らしかった。思わずドキッとしてしまう。

 

「少し気になったことがあるんだ。戸山さんってバンドやってるの?」

 

「うんそうだよ〜。香澄だけじゃなくて私達でバンドをしてるの。Poppin’Party。略してポピパだよ。私はドラム担当なんだ〜」

 

 あ、戸山さんだけじゃなくてみんなやってるんだ。なるほど今日いる女性陣はバンドのメンバーってことか。納得納得。

 山吹さんにドラムは似合っている気がする。ドラムってみんなのことを後ろから見ることもできるし、リズムキープをしたり、バンドの大黒柱としてリズムを支える役割を担うって聞いたことがある。何となくお姉さん感がある山吹さんにはピッタリだと思う。

 

「へ〜すごいね〜バンドなんて。俺はバスケしかやってこなかったからそういうことやったことないよ」

 

「今度ドラム叩いてみる?」

 

「叩いてみたいかも」

 

 山吹さんに教えてもらえるのかな。

 

「おい! 明優! 心穏! テスト明けたら戸山さん達のバンド見に行かないか?」

 

 は? テスト? おいおいまじかよそんなの聞いてねーぞ。でもバンドは気になるな。ものすごく見てみたい。

 

「ねえ石田君……。もし良かったら来て欲しいな」

 

 山吹さんが上目遣いで言ってきた。破壊力強すぎないか!? そんなのことわれるわけねーだろ。

 

「も、もちろんいいよ。心穏は?」

 

「僕もいいよ〜。でも練習と被ってたりしないの?」

 

「大丈夫。奇跡的に被ってなかったぜ」

 

「じゃあ3人には後でチケット渡すね!」

 

「おう! 忘れんなよ戸山さん!」

 

「じゃあ今日はもうチャイムなりそうだし解散だな」

 

 市ヶ谷さんの号令で解散となり各々の教室へと戻っていった。

 

 

 

 ~教室~

 

 5時間目は今後についての説明だった。テストが開けた後に文化祭があるようだ。体育祭は夏休み前に行ってしまったらしい。

 

 話を聞いている最中山吹さんさんの方を向いてみた。横顔もとても可愛い、見惚れてしまった。

 

「石田君、私の顔になにかついてる?」

 

 ドキリとした。そんないや山吹さんが可愛かったから、なんて恥ずかしいこと言えるわけがない。絞りだせ。絞り出すんだ。最前の言い訳を。あっこれだ!! 

 

「いや寝てる人もいるから山吹さんも寝てないかなって思って、夢生とか寝てるし」

 

「私はあんまり寝ないかな〜。譜面の読み込みとかしてて夜更かしした時はたまに寝ちゃうけど……」

 

 やっぱり山吹さんはしっかりしている。努力家なんだろう。パン屋を手伝いながらバンドの練習って相当ハードだと思う。それをやってのけるのは尊敬してしまう。

 

 5時間目が終わりホームルーム後山吹さんが

 

「ねえ石田君、その良かったらなんだけど。連絡先交換しない?」

 

 まじかよ。山吹さんの連絡先貰えちゃうの。俺から聞こうか迷ってたけどこんなことがあるんだな。

 

「いいよ。MINEで良い?」

 

「もちろん」

 

 そうして俺は帰る前に山吹さんのMINEを入手することができた。

 

 今日は部活がないので寄り道せず家に帰った。

 

 暇だった俺は山吹さんにMINEを送ってみることにした。

 

「えーと『今日はありがとう! 昼休みとても楽しかったよ。これからもよろしくね』と」

 

 返信は直ぐに返ってきた。

 

『こちらこそありがとう! これからよろしくね。バンド楽しみにしてて!』

 とのことだった。バンド楽しみだなぁ。

 

 俺は期待に胸を膨らませ、緊張のせいか眠気が急に襲ってっきたためそって瞼を閉じた。

 

 

 

 

 




りみちゃん書くの難しいな〜
上手く表現出来るように頑張ります!
それではまた次回!


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第7話 少年、少女と練習する

また執筆中に謝ったデータを削除してしまいました(´△`)
第7話です!どうぞ!


目が覚めると時刻は午後8時を回っていた。

久しぶりに昼寝だったのにも関わらず3時間近くも寝てしまっていた。

 

俺は夕飯を食べる前に今日聞けなかったことをMINEで聞こうとした。何を血迷ったのか知らないが、夢生でも心穏でもなく山吹さんに聞いてしまった。

 

『ごめん山吹さん、突然なんだけど気になることがあって…』

 

既読は5分くらいでついた。

 

『なになにー?』

 

そこから俺は今日気になったことを質問していった。

 

Q.戸山さんの髪型は猫がモチーフなんですか?

 

A.あれは星らしいよ。香澄、キラキラドキドキするものが好きだから。でもよく猫と間違われてるよ。

 

Q.山吹さんは須高達と前々から仲は良かったんですか?

 

A.私が野球とかスポーツ観戦するのが好きだから、ポピパのみんなを引連れてよく試合を見に行ってたんだよね。後1年生の時からクラスが一緒だったりで何かと接点があったから仲は良いよー。

 

Q.市ヶ谷さん、キレッキレですね。

 

A.うちの有咲はいつもキレッキレだよ。会話の盛り上げ方が丁寧なんだ。

 

といったような感じだ。最後に至っては質問ですらないが。

 

最後に『くだらないことばっか聞いてごめんね。おやすみ〜』

と早めのおやすみを山吹さんからの返信を確認しあたあとグットリアクションを押し、スマホの電源を落とした。

 

 

 

~石田家リビング~

 

「明優、今日の学校どうだったの?友達できた?」

 

「うん。まあ一応色んな人と喋ったよ」

 

俺はポピパのみんな以外にも色んな人から話をかけられていた。

でも何故花咲川へ来たのか、とは誰にも聞かれなかった。気を使っているのだろう。

 

「ああそう、良かったわね。ところでいい感じの女の子はいたの?」

 

「ブフォッ!!!」

 

俺は思わずお茶を吹き出してしまった。

 

「あらあら。そうなのね〜。まさか明優が転校そうそう恋しちゃうなんて!ママ感心しちゃったわ〜」

 

「ちょっとママそんなんじゃないから…。いきなりすぎて驚いただけだって…」

 

そう、ただ驚いただけだ…。

 

「ママ、明けの恋なら喜んで応援するわ!いつでも連れてきてらっしゃい!」

 

「違うって言っとるべや!」

 

耐えきれなくなった俺はおもわず北海道弁が出てしまった。未だにこんな時、どのようにリアクションをとったらいいかがわからない。

 

「明日も学校でしょ?早く風呂入って早く寝ちゃいなさい」

 

俺は今しかない!と思い一目散に風呂場へと逃げ、上がったあとすぐさま2度目の就寝を試みた。

 

 

 

~公園~

 

いくら学校が始まろうと朝の習慣は崩したくなかったのでいつも通り朝練を始める。

 

シュートを打っていると見覚えのある彼女がこちらへ向かってきた。

 

山吹さんだ。朝早くから会えるとは全く思ってなかったためドキッとしまう。

 

「石田君おはよー。今日も頑張ってるねー」

 

「山吹さんもおはよう。店の手伝いとかってあったりしないの?」

 

「うん。いつもはあるんだけど今日はいいって言われたの。でも早く起きて暇だったから散歩してたんだー」

 

やっぱり飲食店って朝の仕込みがあったりするんだ。大変そうだ。

 

「良かったら私がボール拾う?」

 

え、まじで。ありがたいけど・・・

 

「俺シュート外しちゃうし。弾かれたボールって結構飛ぶんだよ?」

 

スリーポイントを打っているとわかるが、弾かれたボールはかなり飛んでいってしまう。ボールの落下地点を見極めるのも最初は慣れないものだ。

山吹さんに負担はかけさせたくない。断ろうとしたその時、

 

「石田君外さないしょ?レディーのこと、走らせないって信じてるから!」

 

そう言い彼女はゴール下まで行ってしまった。意外と山吹さんって茶目っ気があるんだなと思った。だけどそこがまた可愛らしく思えた。覚悟を決めるしかない。

 

俺はシュートを打ち始めた。

 

 

 

~沙綾side~

 

シュートを打っている石田君の姿はとても凛々しかった。前は須高君と桐間君と一緒にいたから本来なら大きいはずの彼も可愛らしく見えた。だけど私と並ぶとやっぱり男の子なんだなって。私とは20cm近く離れてるのかな?

 

一定のリズムで放たれるシュート、ブレることのない綺麗なシュートフォーム。まるで精密機械のようだった。

石田君に迷惑はかけたくない。女子のボールより少し重たいボールを彼の構えているところに正確にパスを出すことを心がけた。

 

彼はとても集中している。私も彼のことを真剣に見守っていた。

 

バスケをしている時の彼は楽しそうに見えた。毎日練習がしてるから相当バスケのことが好きなんだなって。私の付け入る隙なんてないのかも・・・。

 

そんなことを考えているうちも、彼は黙々とシュートを打っている。彼のシュートは落ちることを知らないんじゃないかってくらいリングへ吸い込まれていった。

 

その時、彼が口を開いた。

 

「ねえ山吹さん、バンド楽しい?」

 

「うん、楽しいよ!ポピパのみんなといられるのがすっごく幸せなんだ〜」

 

「そうなんだ。いいな〜バンド。憧れるよ。ザ・青春みたいな感じで!俺のバスケやってなかったらバンドマンになるのもありだったかも」

 

「あはは、そうかもね。でも石田君にはバスケもすごい似合ってるよ」

 

「そうかな?そう言ってもらえると嬉しいな」

 

「俺、見てたらわかると思うけど、派手なプレーはあんまりしないんだ。ずっとディフェンスしたりしてチームのみんなに目立ってほしくて。俺縁の下の力持ち的存在になりたかったんだ。だってみんながあんまりやらなさそうなことを淡々とやる人ってかっこいいと思わない?」

 

彼のプレースタイルは確かに堅実そうだ。

 

「そうだね。ドラムもそんな感じだよ。縁の下の力持ち的な存在だよ」

 

彼と私はもしかしたら似ているのかもしれない。

 

ここでひとつ提案してみた。

 

「ねえ石田君、その良かったらなんだけど・・・。週何回かでいいから私も石田君と一緒にバスケしていいかな、できるにはパス出しくらいだけど・・・」

 

思い切って言ってみた。迷惑かもしれないけどこれがチャンスだと思ったから勢いでもう言ってしまおうと思った。

 

「え?パス出しだけって暇じゃないの?結構退屈だと思うんだけど」

 

「ほ、ほら!いい運動になるじゃん!私も体動かさないとな〜って思って。それに石田君話してくれるでしょ?あんまり退屈じゃないよ」

 

「わかった。それならいいよ。でも家で仕事がある時はそっちを優先してね。もしかしたら俺山吹さんのお母さんに怒られちゃうかもしれないから」

 

石田君は嫌な顔ひとつせずにオーケーしてくれた。仕事があったら仕事を優先するっていう条件付きで。

 

「大丈夫だよ。母さんにはちゃんと説明するからさ」

 

「じゃあ今日は区切りがいいしやめよう。お疲れ様山吹さん!また学校で!」

 

「うん。お疲れ様〜」

 

今日は解散した。これから毎朝が楽しみになった。

 




沙綾ちゃんには一途であってほしいですね〜。
そういえば皆様、つぐみちゃんのバースデーガチャ引きましたか(-ω-?)
自分は引こうかどうか迷ってます(;´・ω・)
これから人の健闘を祈ります(*-人-)

それではまた次回!


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第8話 少年達、テスト勉強に勤しむ

前書きのネタが尽きてきました何か案ください(泣)

第8話です!それではどうぞ!


~花咲川~

 

俺は山吹さんと別れた後、学校へ行く準備をして学校へ向かった。今日からは普通の授業がある。学校へ行ってない時期も暇な時間歯遅れを取らないために自主勉強に取り組んでいた。だからおそらく大丈夫であろう。

 

教室に行く前に自販機でお茶とスポーツドリンクを買った。スポーツドリンクは自分用、お茶は今日手伝ってくれた山吹さんへのお礼の気持ちだ。

 

教室へ行くと登校時間まで20分くらい余っていたがかなり人がいた。俺はクラスメートに軽い挨拶を済ませた後自分の席へと向かい、既にいる山吹さんの机にお茶を置いた。

 

山吹さんはキョトンとした顔をしていた。

 

「石田君、これ何?」

 

アニメだったら疑問符が出ているであろう顔をしていた。

 

「今日のお礼だよ。助かったよ」

 

「いいえ、こちらこそいい運動になったよ!これからもよろしくね〜」

 

あ、そうか今日だけじゃないのか。毎日お礼をあげるべきなのか・・・、悩ましいところだ。

 

「お礼は毎日じゃなくていいよ。その代わりやまぶきベーカリーをこれからもよろしく、なんて」

 

そう言い彼女はクスッと笑った。山吹さんも仕事人に血が受け継がれてるのかな。

 

そんなやりとりがあった後俺は普通に授業を受け、昼ごはんを前のメンツで食べていた。

 

「そういえば昨日先生がテスト近いって言ってたけど本当にそうなの?」

 

俺はとまだ転校したてであまりわかっていなかった。

「おう!テスト5日前になったら部活もテスト勉強期間になってなくなるから勉強するならその期間だな」

 

と夢生が言った。

 

「で、テストはいつ?」

 

「らいひゅうのへつようひだよー」

 

「おいおたえ!口に物入れたまま話すな!行儀悪いぞ」

 

よく聞こえなかったが間違えがなければ来週の月曜日のようだ。そして市ヶ谷さんはキレッキレである。ん?来週の月曜ってことは・・・

 

「もう1週間切ってるじゃん!」

 

今日は火曜日、テスト6日前だ。もっと早く知ってたかったわばかやろう。まあ毎回あんまり勉強しないけど。だいたい90点以上は取れるから大丈夫だ。ただ現国だけが毎回やばい、赤点ギリギリだ。なぜ現国だけなのかがわからない。

 

「じゃあさ!今週の土曜日みんなで勉強しようよ!」

 

と戸山さんが言った。

 

「いいね〜でも場所はどうしようか〜」

 

心穏はどうやら賛成のようだ。

 

「ん〜。つぐみのところできるか聞いてみる?」

 

「おう、お願い!」

 

山吹さんにはつてがあるようだ。ていうかつぐみさんって誰だべか。この学校の人なのだろうか。

 

「つぐみちゃんは『羽沢珈琲店』っていうお店を家族で経営してるんだ〜」

 

牛込さんがすかさずフォローをいれてくれた。

 

「有咲も来るよね!?」

 

と戸山さん。こういうのにあんまり乗らないタイプなのだろうか・

 

「まあ行ってやってもいいかな。それで、時間は何時にするんだ?」

 

「おーいつもより素直ー」

 

「うるせぇー!!なんだっていいだろ!」

 

ある意味1番楽しみにしているのかもしれない。市ヶ谷さんは話を振られた時喜びが隠しきれていなかった。それくらいポピパのみんなが好きなのであろう。

 

「うち、午前は家族と出かけるんだ〜。だから午後からでもいいかな?」

 

全員牛込さんに合わせ、勉強会は午後からとなった。

 

後日、羽沢珈琲店で勉強するというこちが正式に決まった。みんなは場所を知っているそうだが、俺は知らなかったためだけに1度山吹さんのところへ合流することにした。

 

 

 

そして勉強会当日になった。俺は私服が全くといっていいほどないので普段バスケで着ているTシャツにスパッツの下にバスパンといったようなものになってしまった。オシャレに疎いには反省しなければならない。

 

そして山吹さんのところへ向かった。

 

今日もいい匂いがする、今すぐにでも買って食べていきたいくらいだ。

 

扉を開けると山吹さんのお母さんらしき人が立っていた。

 

「いらっしゃいませー」

 

「こんにちは、あの山吹さんっていますか」

 

「あら、紗綾なら今準備してるわ。あともうちょっとで来るから待ってもらっててもいい?」

 

「はい」

 

優しそうなお母さんだ。雰囲気がなんとなくだけど山吹さんに似ている。

 

「もしかしてこれから朝沙綾と一緒にバスケする、石田君?」

 

「はい、そうです。すみません迷惑でしたか?」

 

「いいえ、そんなことないわ。もしかして沙綾からお願いしてきた?」

 

「はい、山吹さんがやりたいって言うのでせっかくだしお願いしました」

 

「やっぱりそうなのね。このことを言ってた時、沙綾は顔を赤くしてたわ。あっちからお願いしてきたって言ってたけどお母さんにはバレバレだったわ」

 

そう言い山吹さんのお母さんは微笑む。顔を赤くしてたってことはどういう意味なのだろうか。

 

「これからも沙綾のことをよろしくね。いつでもお嫁に貰ってちょうだい」

 

「お嫁って店。先が早いですよ。山吹さんにはもっといい人がいると思いますし・・・」

 

そんな会話をしていたら山吹さんがきた。グットタイミングだ。これ以上は会話が苦しくなるところだった。

山吹さんの服装は黒のTシャツに白のフレアスカートというものだった。言うまでもなく似合っていた。

 

「服・・・どうかな?」

 

「うん、バッチリ似合ってるよ」

 

「あらあら2人とも〜」

 

しまった。山吹さんのお母さんがいることをすっかり忘れていた。その瞬間2人して顔を赤くした。

 

俺たちは逃げるように羽沢珈琲店へと向かった。

 

 

 

~羽沢珈琲店~

 

店に着くともうみんなは勢ぞろいしていた。

 

「いらっしゃいませー、あ!沙綾ちゃん!みんなあっちの席にいるよ」

 

「うん、ありがとうつぐみ」

 

この人がつぐみさんか、なんていうんだろう、普通っていう言葉が似合う気がする。

 

「この子がつぐみだよ、石田君。つぐみも私達と同じ『Afterglow』っていうバンドで活動してるんだー」

 

「石田君初めまして!羽沢つぐみです、よろしくね!」

 

「よろしくー、羽沢さんって花咲川の生徒なの?」

 

挨拶をして早々、疑問に思ってたことを聞いてみた。

 

「ううん、違うよ。私は羽丘だよ」

 

あ、そうなんだ。なんか他校の人と繋がりができちゃった。まあ悪いことではない。

 

俺と山吹さんはみんなのところへ行った。

 

「さーや!待ってたよ〜」

 

真っ先に反応したのは戸山さんだった。

 

「よお明優、まあまず席座れよ」

 

席配置は

 

俺 山吹さん 牛込さん 心穏

 

机机机机机机机机机机机机机

 

花園さん 夢生 戸山さん 市ヶ谷さん

 

といった感じだ。おい夢生、お前ハーレムじゃないか。

 

 

俺らは各々注文を済ませた後早速勉強を始めた。俺はコーヒーを頼んだ。うん、おいしい! 開始早々戸山さんは市ヶ谷さんにみっちりしごかれていた。市ヶ谷さんって勉強できるんだなぁ。戸山さんは時々夢生に助けを求めていたが、夢生はそれを面白がって見ていた。面白がって見ているものの、夢生の手が全く動いてないことを俺は知っている。お前も市ヶ谷さんにしごかれてしまえ。牛込さんと心穏は互いに教えあっていた。目の前の光景とは真反対に平和である。いい雰囲気ですなぁ。花園さんは何やら絵を描いていた。それは何かと聞くと

 

「花園ランドの設計図」

 

とドヤ顔で言ってきた。花園ランドってなんぞや。謎多き人だ・・・。

 

俺はというと山吹さんに現国を教えてもらっていた。山吹さんに現国が壊滅的だという話をしたら快く教えてくれた。とても丁寧な教え方だった。国語嫌いな俺でもスルスルと入っていくようだった。

 

「ありがとう!山吹さん!めっちゃ助かったよ」

 

「どういたしましてー」

 

山吹さんのおかげでなんとか赤点は回避できそうだ。

 

「じゃあ今日はここまでにするかー」

 

と市ヶ谷さんが言った。隣の戸山さんと夢生は机に死んだように突っ伏している。市ヶ谷さんの迫力は凄かった。夢生は全然進んでいないのが市ヶ谷さんにバレ、戸山さんと一緒にみっちりしごかれていた。ざまあ。

 

「みんな捗った?」

 

「うちは桐間君のおかげでなんとかなりそうかなー」

 

牛込さんと心穏は終始甘い雰囲気が漂っていた。羨ましい限りである。

 

「俺は山吹さんのおかげで現国、なんとかなりそうだよ」

 

「香澄と須高はギリギリってところだなー。お前ら赤点は絶対とるなよ!」

 

戸山さんと夢生は市ヶ谷さんに釘を刺された。

 

それからは各々帰っていった。俺は途中まで山吹さんと牛込さんと帰った。理由はクリームパンを買うためである。牛込さんはチョココロネ目的だ。

 

「はい、2人とも、帰りに買って帰るかと思って残しておいたよ」

 

やまぶきベーカリーのパンは人気ですぐ売り切れてしまう、と牛込さんが言っていた。

俺は料金を支払った後、2人に別れを告げて帰った。

 

帰った後に食べたクリームパンは前に食べた時と味が違かった。なんだか優しい味がした。

 

 

 




8話目にしてようやく他バンドのキャラを出せました。まだ出てないキャラを今後どうやって出すか、まだ全然決まってません。

それではまた次回!


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第9話 少年、ライブへ行く

対バンイベントに苦戦中の作者です。ピュアのカード全然持ってなくて捗りません( ・᷄д・᷅ )
第9話です!それではどうぞ!


 俺らは無事テストを終えることができた。課題となっていた国語も山吹さんのおかげで60点もとることが出来た(100点満点中)。ほかの教科は90点以上をとることができた。

 

「石田君勉強すごいんだね〜。なんで現国だけできないかが不思議だよ」

 

 それは俺自身が1番不思議に思ってるよ山吹さん。

 

「で、赤点回避出来たんか? 夢生は」

 

「おう……。結構ギリギリだけどな」

 

 これも市ヶ谷さんのおかげらしい。いつもよりも断然良いって心穏が言っていた。ちなみに戸山さんも無事だったらしい。

 

「テストが終わったってことは部活だな。今日からまたがんばろーぜ!」

 

 省いてしまったが俺は転校してすぐ部活へ入ることが正式に決まった。

 大禪高校との対戦に向けて準備を進めなければ。花咲川のシステムにアジャスト《適応、順応》出来なければただの地雷だ。バスケはチームスポーツ。1人がサボればチーム全体に支障が出る。一人一人の心がけが大切だ

 。

 

 

 ~体育館~

 

 俺らは体育館にて練習をしていた。今はチームディフェンスの確認中。

 普段はゾーンディフェンス敷いている花咲川だが、俺の加入によりあるディフェンスを試している。

 

 ボックスワン《1人がエースをマンツーマンで抑え、残りの4人でゾーンディフェンスを敷くこと》ディフェンスだ。

 

 漫画『SL〇M D〇NK』で湘〇高校が海〇高校のエースとシューターを止めるために敷いていたディフェンスだ。大禪高校には絶対的なエースがいる。ウィンターカップを目指すなら避けて通れない相手だ。そのためにもこのディフェンスを習得せざるおえなかった。

 

 ただ元のディフェンスがゾーンディフェンスだったため、チーム全体で習得するにはあまり時間がかからなかった。俺がエースとマッチアップする前提で練習していたため、基本俺はゾーンを展開する側に回ることはなかった。

 

 1on1の練習になった。前は夢生としかできなかったがココ最近で大体の人と1戦を交えることができた。個人の力は可もなく不可もなくと言った感じだ。チームオフェンスに特化しているチームだと思った。その分、個人で打開できる選手が少ない。夢生と心穏はそれが可能だった。

 

 この高校は練習後の片付けは先輩後輩問わずみんなでやっている。大禪高校では後輩がやるのが普通だったから新鮮だった。

 

 キャプテンいわく『みんなでやった方が早く終わるしみんなで練習してんだから後輩だけに押し付けることはできないよ』とのことだった。良いキャプテンである。

 

 練習が終わった後、俺らは駄弁っていた。

 

「そういえば今週の土曜日ポピパのライブだな」

 

 ポピパのライブが迫ってきていた。俺としては非常に楽しみである。

 

「いや〜久しぶりにライブ行くね〜」

 

「だな」

 

 最近行けていなかったみたいだ。

 

「明優は多分ライブする場所知らないと思うからとりあえず明優の家の近くで集合してみんなで行こうぜ」

 

「さんせ〜」

 

「2人ともありがとね」

 

「練習お疲れ様〜僕は帰るね〜」

 

 心穏が帰るのと同時に俺と夢生も帰った。

 

 

 そしてライブ当日となった。俺の服装は今日も今日とてTシャツバスパンだ! だってライブハウス熱気凄そうだし……。そんなことを思いながら自分の服装を肯定化していた。

 

 ちなみに夢生と心穏はバッチリオシャレをしていた。

 

「お前、バスケやる気満々か? オシャレしているところも見てみたいもんだぜ」

 

「服、買わなきゃだね〜」

 

 いつでもバスケできるって考えたらこの服装でもいいじゃないか!! 動きやすいし、全然いいと思うんだけどな。

 

 俺らはお店で差し入れを買ったあと、ライブハウスへと向かった。

 

 

 ~CIRCLE~

 

 ライブハウスは『CIRCLE』という名前だった。

 

 受付の人に言えば差し入れを渡せるそうなので俺らは受付へ行き差し入れを渡そうとした。

 

「すみません、ポピパの人に差し入れを渡したいんですけどー」

 

「はいはいー、あ! 君は確か〜須高君だっけ? また来てくれたんだね〜。

 ちょっと待ってね〜楽屋通してあげるから!」

 

 そう言われ俺らは楽屋の前まで来た。

 

「おい明優、開けてみろよ」

 

「いやだよ、みんな着替え中とかだったらどうするんだよ、気まずい雰囲気どころか犯罪になるわ」

 

「今受付の人が話通してたから〜大丈夫じゃないかな〜」

 

 確かにそうだった。いやそんなやましいことを想像してたわけじゃない。あくまでも最悪なリスクを想定して開けたくなかっただけだ。

 

 ノックをして心穏を先頭に俺らは楽屋へと入った。

 

「失礼しま〜す。みんな今日頑張ってね〜。これ僕達からの差し入れ〜」

 

「わあ! 桐間君ありがとう!」

 

 差し入れに真っ先に飛びついたのは戸山さんだ。ライブ前なのに緊張とかしてないのだろうか。

 

「サンキューな」

 

 と市ヶ谷さん、口調がクールだ。

 

「じゃあ俺らは邪魔したら悪いからこれで失礼するよ、みんな頑張ってね」

 

「はーい」

 

 山吹さんが反応し、俺らは楽屋を出た。楽屋は女の子の甘い香りで充満していた。あのままずっといたら理性が保たれなくなりそうだった。

 

 そして俺らは会場に着いた。今日の出演するバンドは、『Aftergrow』、

『Poppin’Party』、『Roselia』、ポピパ2番目か、Aftergrowって確か羽沢さんがいたよな。この機会で聞けて丁度良かった。Roseliaは知っていた。わりと巷でも実力派バンドとして有名だ。ポピパは『STAR BEAT! 〜ホシノコドウ〜』、と『夢を撃ち抜く瞬間に!』という曲を演奏するようだ。

 

 演奏が始まった。まず最初のAftergrowは前髪に赤いメッシュを入れた子がギター兼ボーカルで羽沢さんはキーボードだった。ドラムの子は一瞬男子かと勘違いしてしまった。なんだろう白っぽい髪のギターの子は心穏のような雰囲気を感じる、語尾が伸びてそうだ。ピンク色の髪をしたベースの子は市ヶ谷さんに負けず劣らずでかかった。どことは言わないが。

 力強い演奏で観客を魅了していた。

 

 そしてポピパの番になった。戸山さんがギター兼ボーカル、牛込さんがベース、花園さんがギター、市ヶ谷さんがキーボードで山吹さんさんがドラムだった。演奏しているみんなはとてもキラキラ輝いていて、そしてみんな楽しそうだった。

 

『STAR BEAT! 〜ホシノコドウ〜』はアップテンポなのに切ない旋律を奏でていた。2曲目の『夢を撃ち抜く瞬間に!』は仲間を思った曲、そんな風に感じた。何かグッとくるものがあった。

 

 俺はポピパのみんなが演奏中、山吹さんにしか目がいかなかった。

 他のポピパのみんなも良かった。だけど俺は山吹さんにしか目がいかなかった。ドラムを叩いている時の山吹さんはとても力強くて楽しそうで、みんなと話している時とはまた違った笑顔で、本当にバンドが好きなんだな、そう思った。

 

 そしてトリを飾るのはRoseliaだ。ボーカルの人、よくあんな高音出せるなぁ。ん? ギターの人って風紀委員の人じゃなかったっけ。バンドやってるなんて意外だなぁって思ってたら生徒会長もキーボードだ! 大人しい人だなって思ってたけどこれもまた意外だ。ドラムの子もよく頑張っている。

 おそらく今日1番の歓声を貰っていたのはRoseliaだった。やっぱり人気は高いのだろう。

 

「いやーどこも演奏凄かったな〜。明優、どうだった?」

 

「めちゃめちゃ凄かったよ! もうファンになっちゃいそうだ」

 

「みんなすごいよね〜」

 

「そういえば明優、ずっと山吹さんのこと見てたよね〜」

 

 え? バレてた? これやばい? 

 

「え、え? 俺はちゃんとみんなのこと見てたよ〜」

 

 しらばっくれといた。これから先もいじられるんだろうか。最悪だ。

 

 そんな会話をしているとポピパのみんながやってきた。

 

「みんなお疲れ様〜最高だったよ〜」

 

「ありがとう〜! 桐間君!」

 

 おいおいこんなところでイチャつくな、牛込さんと心穏よ。甘すぎて胃もたれしそうだ。なんでこれで付き合ってないんだろうか。

 

「ねえ石田君、どうだった?」

 

 そう聞いてきたのは山吹さんだ。

 

「最高だったよ! 山吹さんのドラム力強くて、なにより楽しそうで! バンド大好きなんだなぁって思ったよ」

 

「そう? ありがとう!」

 

 と言った瞬間山吹さんは顔を赤くした。

 

「山吹さん大丈夫? ライブで疲れたの? 顔がなんだか赤いよ」

 

「ううん、な、なんでもないよ!」

 

 とは言っているものの心配だ。会場の熱気にやられてなければいいが。

 

「じゃあここら辺にして、楽屋戻って反省会するぞ〜」

 

 市ヶ谷さんの点呼でポピパのみんなは楽屋へと戻って行った。

 そして俺らもCIRCLEを後にした。

 

 帰り道俺は山吹さんのドラムを叩いてる姿が目に焼き付いて離れなかった。山吹さんのことを考えていると頭がぼーっとする。なんでだろう。

 

 

 ~やまぶきベーカリー~

 

 俺はクリームパンが恋しくなり、やまぶきベーカリーに立ち寄った。

 奇跡的にクリームパンは余っていた。今は山吹さんのお母さんが店番をしていた。

 

「あら石田君、いらっしゃい。沙綾達のライブどうだった?」

 

「はい、最高でしたよ。俺もいい刺激をもらいました」

 

「あら〜そう。そういえば前買ったクリームパン味、いつもと違うって思わなかった?」

 

「確かに少し感じましたね。焼き方とか変えたんですか?」

 

「いいえ、違うわ。あのパンは実は紗綾が作ったの」

 

 山吹さんが作った!? そうなんだぁ。

 

「あの時は『私が作る』って言って言うことを聞かなかったわ。理由は話してくれなかったけどお母さんは何となくわかっていたわ」

 

 これは何を意味するのだろうか。山吹さんが俺のために手作りしてくれたのか。じゃあ牛込さんのチョココロネはどうなんだろうか。あれも手作りなのか。

 

「石田君、これからも沙綾のこと、よろしくね」

 

 そして俺はクリームパンを買い、店を出た。

 

 山吹さんが俺のためにクリームパンを作った。その事が頭から離れない。

 彼女のことを自然と目で追ってしまう。彼女と話していると変に意識してしまう。

 俺は彼女に惚れているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ポピパのセトリは自分の趣味です!1期の沙綾加入会は本当に感動しました(T_T)

最後に、星9の評価をしてくれた【脇腹にダメージ】さん、ありがとうございます!

そしてお気に入り登録者数が15人を突破しました!ありがとうございます<(_ _)>とても励みになります!これからも頑張っていくのでよろしくお願いします。

それではまた次回!


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第10話 少年、後悔する

ついに10話目です!

それではどうぞ!


「ねえ石田君、これ着てみてよ」

 

俺は今山吹さんとショッピングモールに来ている。しかも二人きりで。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

~石田家~

 

『石田君、良かったらなんだけど今週の日曜日お出かけに付き合ってくれないかな』

 

家でNBAの試合見ていると山吹さんからMINEがきた。しかもお出かけの誘い!?どういう風の吹き回しだろうか。

 

『その日は部活休みだからいいけど、俺なんかでいいの?』

 

『うん、実はとある理由があって石田君じゃないとダメなんです』

 

え?俺じゃなきゃダメなの?俺なんかしたか?落ち着け、もちつけ私。冷静に返信するんだ。俺ならいける。あくまで平然を装うんだ。

 

『なんで俺じゃないとダメなの?』

 

『それは当日にならないと教えられないかな〜』

 

と俺の懸命なアタックもいなされてしまった。理由を知っとけば安心できると思った俺の魂胆は儚く散ってしまった。

 

『じゃあ午前の11時に公園に集合ね!』

 

そこでMINEが終わった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

~ショッピングモール~

 

そんなことがあって今ここにいる。なんで俺じゃなきゃいけなかったのか。それは意外にもすぐにわかった。

 

そう俺の服を買いにくるためだった。なぜ山吹さんなのかというと夢生が山吹さんに俺の服がバスケのやつしかないから良かったら見てあげてほしいと一任したのだ。山吹さんは二つ返事でオーケーしたらしい。しまいには

 

『お前と山吹さんのために最高の場を俺からプレゼントした。せいぜい頑張ってくれたまえよ』

 

とMINEがきた。あいつガチで殺す。まあ服買う機会を与えてくれたのは素直に嬉しいし、女の子の視点から見た方がより良いものが買えるだろう、そう思った。だが俺はあることを知ることになる。

 

女性の買い物は長いということだ。俺もかれこれ1時間半くらい着せ替え人形として服を着続けている。今ならポ〇モンの主人公がプレイヤーによって何度も着せ替えをされている気持ちが分かるかもしれない。だいぶ辛くなってきたが、俺のためにやってくれてると思うともういいよ、とは言えなかった。

 

結局俺はジーンズと紺色のチノパンツ、パーカーを2着ほど購入した。

 

「山吹さんありがとう、助かったよ」

 

「どういたしまして〜もうお昼だしここで食べちゃう?」

 

山吹さんの誘いで俺らはハンバーグ屋さんに足を運んだ。

 

2人ともほとんど同じものを頼んでいたのには笑ってしまった。

 

「ねえあのピンク色の髪の人ってもしかしてPastel*Paletteのボーカルの人?」

 

「うん、そうだよ」

 

へ〜こんなところでテレビに出てるようアイドルがバイトしてるんだ。

 

そんな他愛のない話をしながら食べ、そしてハンバーガー屋さんを去った。

 

「俺ジュース欲しいから自販機で山吹さんの分も買ってくるよ」

 

「いや、大丈夫だよ」

 

「いいっていいって、今日のお礼ってことで受け取って欲しいな。じゃあここに座って待っててよ」

 

そう言い、俺は彼女の元を離れた。その行動が後に最悪な出会いを産んでしまうことを、俺は知る由もなかった。

 

 

~沙綾side~

 

石田君が自販機へ行ってしまった。石田君の着せ替え、楽しかったな。こんな機会を作ってくれた須高君には感謝しないとね。2人きり、所謂デートっていうやつだと考えると体が熱くなってきた。せっかく2人きりのチャンス!逃したくない!その一心だった。

 

ここに来るまでは手を繋いできた。彼は顔を赤くしてたが多分私も同じだろう。彼の手の温もりは忘れられない。

 

「ねえそこのお嬢さん、俺たちと遊ばない?」

 

その言葉が私にかけられているのに気づくのには時間がかかった。男は3人いる。

 

「今友達を待ってるので結構です」

 

私は丁重にお断りした。邪魔されてたまるもんか。

 

「まあまあそういわずに、行くぞっ!!」

 

男は強引に手を引っ張ってきた。助けて・・・、石田君・・・!

 

 

~明優side~

 

山吹さんの元に行こうとすると何やら3人組の男に絡まれていた。やらかしてしまったと思った。ん?あいつらどこかで見覚えが・・・。そんなことはどうでもいい、今は山吹さんのところへ行かなければ。

 

「お前は石田じゃねーか!!」

 

俺はやつの姿を見た瞬間息を飲んだ。

 

「・・・!糸井ぃ!!」

 

糸井純也(いといじゅんや)、こいつは大禪高校のバスケ部、そして俺へのいじめの主犯だ。

 

「なあんだ、高校を中退したと思ったら今度は彼女を作ってバスケから逃げたか。残念な男だ。負け犬がよ」

 

「山吹さんは俺の彼女じゃない!!バスケからも逃げてねぇよ。極悪卑劣なやり方でしか俺に太刀打ちできなかったくせによ、負け犬の意味、辞書で調べ直すんだな」

 

「へ〜威勢がいいね〜。前の大人しい感じはどこへいったのかな。彼女の前では強気でいたいのかな」

 

いちいち癪に障る野郎だ。ふざけやがって。

 

「まあいいさ、今のうちにいくらでも言っとけ。俺はお前に『バスケ』で勝つ。くだらない争いはする気はねーぞ」

 

「ほお〜随分自信があるみたいだね〜。その膝でどこまでもつかな」

 

膝はお前らのせいだろ、ふざけやがって

 

「まあ今日はこのくらいにしておいてやるよ。喜びの再開もできたことだし、行くぞお前ら」

 

そういうと糸井は仲間を引連れてどこかへ行った。

 

今この場には不穏な空気が流れている。

 

「ねえ石田君教えてよ・・・!私に花咲川に来た理由を教えてよ!石田君のこと、私に助けさせてよ!」

 

今までもポピパのみんなに聞かれてきたが話したくないので一蹴していた。

 

「・・・今日は親がどっちもいないんだ。ここまできたら話すよ。家まできてくれる?」

 

山吹さんになら話してもいい。絶対的に信頼している彼女にならない話してもいいと思った。

 

雲行きが怪しい。俺らは足早に家へと向かった。

 




最後に、今回出てきたオリキャラについて書いてお別れです!
それではまだ次回!



糸井純也《いといじゅんや》

年齢17歳 身長187cm 体重80kg

誕生日 4月4日

特徴:明優のいじめの主犯。明優とは同じくSG(シューティングガード)でポジションが被っていた。オフェンス面は十分だったためディフェンスを補強するべく明優の方がスタメンで使われていたためそれに嫉妬しいじめをした。都内でも指折りのプレイヤー。性格の悪さで有名。先輩に好かれるが上手い。


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第11話 少年、語る

いやー大雪でずっと雪かきしてました 

第11話です!それではどうぞ!


~石田家~

 

俺と山吹さんはショッピングモールで糸井にあった後、俺の家に向かった。理由としては山吹さんに俺の大禪高校時代のこと、そしてなぜ花咲川へ来たのかを話すためだった。

 

「とりあえずここに座ってよ山吹さん、俺お茶かなんか持ってくるからさ」

 

ソファーに山吹さんを座らせた。

 

「それじゃあ話すね」

 

俺は重い口を開いた。

 

 

 

 

~明優回想~

 

俺は中学校までは北海道にいたんだ。そこでもバスケをしてたし全中でだっていい結果を残せた。それで俺の素質に目をつけてくれた大禪高校の監督が俺のことをスカウトしてくれたんだ。

 

それは素直に嬉しかった。自分の実力が全国に名を轟かせるような強豪校に認められたことに。その時は手放しで喜んだよ。

 

俺はスカウトがきてすぐ大禪高校への進学を決めたんだ。同級生のヤツらと別れるのは寂しかったけど、中学の頃果たせなかった全国優勝を成し遂げるために大禪高校への進学を決心したんだ。家族も一緒についてきてくれた。

 

大禪高校に来てからは環境がガラッと変わったんだ。周りには知らない人ばかり、右も左も分からない状態でいきなり田舎者が都会に出たんだ。最初はてんてこ舞いだったよ。

 

大禪高校バスケ部は俺が全中に行った時に見たことがある人たちもポツポツいたんだ。そう思うと少し気が楽になった。

 

俺を含め新入部員は30人程度いた気がする。それも中学校を代表する猛者ぞろいだった。俺の身長はその頃から180cm近くで、中学校でセンターをやろうと思えばできるようなしんちょうだったけど、高校ではどちらかというと低い方だった。

 

スタメンの座を1年生の頃から目指していた。大禪高校のシステムに上手くアジャストできる自信があったからだ。そのため周りよりも人一倍努力した。

 

その結果俺は入部して最初の練習試合にベンチ出場ながらも試合に出ることができた。

俺はこのチャンスを逃さず、監督にアピールし、見事インターハイ予選前にはスタメンに座を獲得した。1年生でスタメンっていうのはこの学校では珍しかったみたいだ。

 

スタメンになってからも努力を惜しまなかった。朝一番に来て練習し、練習後も人がいなくなるまでひたすら練習した。

 

風邪をひいてフラフラになっている時でも練習に参加した。その結果風邪は悪化、家に着いた瞬間おれは倒れてしまった。

 

次の日の練習を休まざるおえなかった。初めて練習を休んだのがこの日だ。一刻も早く風邪を治すべく、俺は一日中安静にしていた。

 

そして風邪が回復して学校へ通い始めた頃に事件は起こったんだ。

 

ロッカーを開けると夥しい数のエッチな本が入っていた。俺はそれに唖然としてしまい、空いた口が塞がらなかった。

 

翌日には大量の紙切れが入っていた。その中には『なんでお前なんかがスタメンなんだよ』や『早く死ね』などの罵詈雑言が書かれていた。

 

俺の困っている表情を見て、同級生が笑いを噛み殺していた。あいつらの目は異常に荒んでいた。

 

その瞬間俺はイタズラではないいじめだとわかった。

 

俺のシューズに画鋲が入れられていたり、二軍で燻っている雑魚どもが俺に聞こえるような声で露骨に

 

「なんで俺より下手なのにスタメンなんだよ」

 

と罵られたりした。

 

中学の頃のように近隣にいる人達が集まって形成される部活じゃない、だから俺はそんなことをしてくる奴らの意図がわからなかった。それで監督や両親にも相談するのを躊躇ってしまった。

 

そんな中俺に救いの手を差し伸べてくれたのはキャプテンだった。いじめられている俺をいつも庇ってくれたし前向きな言葉で常に俺のことを鼓舞してくれた。俺はキャプテンのことを心から尊敬していた。俺も苦しんでいる人に手をさしのべられる、そんな人になりたいって思ったんだ。

 

その分キャプテンの引退は俺の心の傷を大きく広げた。ウィンターカップまで一緒にできるって勝手に思っていたがキャプテンは進学するためにインターハイで引退することを決めていたとのことだ。キャプテンとできるだけ長くバスケをするために俺は奮闘、チームもインターハイ決勝までいった。結果は負けてしまい準優勝という形でキャプテンのバスケ生活は幕を下ろした。

 

最後俺が最後シュートを外していなければ優勝していた。その分責任感を感じてしまった。それでも最後キャプテンは

 

「気にするな。後輩にラストショットを託した俺ら先輩にも非がある。お前は最後までプレッシャーに耐え続けながらプレーしてくれた。ありがとう、俺らの忘れ物を次は必ず持って帰ってきてくれ」

 

最後の最後まで優しいキャプテンに俺は涙をこらえることが出来なかった。キャプテンの思いに答えるために俺はいじめになんか負けない、そう誓った。

 

だがキャプテンが変わってからガラッと変わってしまった。俺の唯一の頼みの綱がいなくなってしまった今、俺は不安と絶望しか無かった。

 

それからのいじめはあまりにも酷いものだった。ラフプレーは日常茶飯時、監督の見えないところで暴行を加えられたりもした。俺が文句無しに大人しくしているのをいいことに、いじめはエスカレートしていった。

 

そのいじめの中心にいたのが糸井だ。やつは俺がいなければスタメンになれるような男だった。その分俺は嫉妬されいじめの対象になってしまった。糸井は人から好かれるのが上手く、上級生も日頃仲良くしてくれた友達も、新キャプテンをも巻き込んで一緒になって面白がり、笑いあっていた。

 

日に日に増えていく痣、痛々しい傷、そんなもの親に心配されないなんてことがなかった。だけど俺は問題を起こしたくなかったから。最近ボディーコンタクトに力をいれてるんだよねと苦しい言い訳でその場を乗り切っていた。

 

そんなある日、プレー中に事件は起きた。俺は糸井とリバウンドでせっていた。俺の着地と同時に糸井は俺に足を絡めてきた。あの時は死んだかと思うような激痛が走り、俺は倒れ込んだ。糸井からは微かな笑い声が聞こえた。

 

俺はその時あいつはわざとやったということに確信を持てた。プレー中なら不慮の事故だしバレないだろうとでも思ったのだろう。

 

俺はその後自力で保健室までいき、容態を伝えたあとで気絶してしまった。診断結果は右膝前十字靭帯の断裂。全治まで10ヶ月くらいかかる大怪我をおってしまった。

 

俺は終わったと思った。怪我っていうのもあるしアイツらとプレーするのはもう無理だと思った。バスケできる1番大事なのは信頼関係だと心に留めてやってきた。5人が5人、自分勝手なプレーをしたらそれはただの球技大会である。それはバスケットの名を借りた単なる遊びだ。

 

俺へのいじめで一致団結するような部活、こっちから願い下げだった。

 

そして俺は学校を中退。それは大問題となり、学校側は俺を引き留めようとしたがそんな簡単にあいつらを許すことは出来なかった。

 

お母さんにこっぴどく怒られてしまった。中退したことに対してでは無くなんで相談しなかったのかって。お母さんの目に涙が溜まっていた。俺はその時無念の涙が溢れ出てきた。

 

 

 

もうバスケットが嫌いになった。でもやられっぱなしではいられなかった。プレーで見返してやりたかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「そして俺はこの学校に来たんだ。あいつらに復讐するためにやられっぱなしは嫌だ。俺は絶対に負けたくない、負けたままで終わりたくない。だから、この道を選んだんだ」

 

山吹さんは唖然としていた。ぽっかり空いた口が塞がっていなかった。

 

「ここ学校に来てから毎日が楽しくて…。学校に毎日でも行きたいって思って、いつでもそばにいてくれる夢生と心穏、いつも笑いかけてくれるポピパのみんな、俺にはそれがかけがえのないもので…」

 

何故か涙が出てきた。

 

そして俺は温もりを感じた。一瞬俺はなんのことだからわからなかったが、山吹さんが俺に抱きついていることはすぐにわかった。

 

「石田君…、辛かったね。私も人の痛みに気づけない人…許せないよ。

だから私達を頼ってよ!!いつでも協力する!裏切るなんてことは絶対にしない!絶対に見返してやろうよ!」

 

山吹さんの言葉一つ一つに熱が籠っていた。こんな良い人に巡り会えたことが何よりも嬉しかった。

 

「今は…泣いていいよ。我慢しないで」

 

俺はこの言葉を引き金に今まで溜まっていたものが全て出てきた。

 

「…!山吹さんっ!、、、、俺、、、あの時はほんとうに辛くて、、!死のうかと思って、、、!うっ、、、でも俺みんなに逢えて!、、、よかった、、、」

 

「よしよし」

 

山吹さんは赤ん坊のように泣きじゃくる俺のことを優しい手つきで撫でてくれた。それが心地よくて、暖かくて、涙が止まらなかった。

 

 

 

 

~沙綾side~

 

彼は泣き疲れたのか私の腕の中ですやすやと眠っていた。彼の過去の話を聞いた後、支えずにはいられなかった。もう彼にはあんな思い二度として欲しくない。

 

抱きついてしまった時は緊張したが隠すことが出来た。彼の寝顔はとても可愛かった。でも体つきは立派な男の子なんだなって。鍛え上げられた体、筋肉でゴツゴツとしている腕、彼は細身だから筋肉質には見えないがスポーツマンなのだからだろうか、体はガッチリとしていた。

 

彼の話を思い出すだけで辛くなってくる。私だったらこんなにも耐えれないだろう。彼はすごい、1人でこんなに抱えて。でもこれはからはその重みを私も一緒に背負っていけたら、とそう思った。

 

 




沙綾ちゃんってお姉ちゃん特有の暖かさがありそうですよね。面倒見の良さに引かれちゃいます!(*♡_♡)

それではまた次回!


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第12話 少年、気づく

バンドリの映画見に行きたいんですけど、田舎に住んでいて近くの映画館では上映されてません(´・ω・`)

第12話です!それではどうぞ!


「ん……。(なんかパンの匂いと優しくて甘い香りがする……。頭にもこれは枕じゃないな。でも柔らかいものがある)」

 

 俺はそんなことを考えながら目を覚ました。その視線の先には山吹さんがいた。

 

「山吹さんっ!? ご、ごめんね!」

 

 俺は寝起きにも関わらず勢いよく飛び起きた。

 

「石田君おはよう。石田君、私に泣きじゃくったままそのまま寝ちゃったんだよ」

 

 苦笑いしながら山吹さんそう話した。ああそうか、俺はあのまま寝ちゃったのか、山吹さんの温もりに包まれながら。しかも俺が起きた時には膝枕をしていた。どおりで気持ちよかったわけだ。

 

 

「ごめん……。さっきは取り乱しちゃって。しかもそのまま寝ちゃって……」

 

 俺は体を90度曲げ山吹さんに謝罪をした。

 

「いや全然いいよ、石田君の寝顔可愛かったし、いいもの見れたな〜」

 

 山吹さんはにししと笑いながらそう言った。俺が寝たことに関しては満更でもなさそうだ。

 

「それは恥ずかしいな……。写真撮ったりしてないよね!?」

 

「流石にそこまではしないよ」

 

 よかった。山吹さんとでもあろう人がそんなことをするはずないよな……って、えぇ!? 山吹さんは俺の前に俺の寝顔の写真を見せてきた。いやバリバリとっとるやないかい!! 

 

「撮ってるじゃん! 山吹さん!! 消してよ〜!」

 

「それはちょっと出来ないかな〜」

 

 山吹さんはスマホを腕で隠し、消すつもりがないことをアピールしてきた。女の子から強引にスマホを奪うことをできない俺は消してもらうことを諦めざるおえなかった。

 

「みんなには送らないでね」

 

 それだけはやめて欲しかったので伝えておいた。

 

「それで石田君、実は大問題があって……。外を見ていただけるとわかるのですが……」

 

 山吹さんはそういうと外を指さした。その瞬間落雷が窓の外で一際激しく轟いた。しかもぶちまけるような勢いで雨が降っているし、俺の家がギシギシと音を立てるほどの激しい強風も吹いてた。俺は台風が来ているとすぐにわかった。

 

 俺はすぐさまテレビをつけニュースを見た。ビンゴだ。こっちの方は今まさに台風が来ているとのことだ。

 

「……困ったなぁ」

 

 この猛り狂う雨風の中、山吹さんのことを返すことはできない。台風が通り過ぎるのを待ていいだけの話だがここを通過するのは夜の遅い時間だそうだ。

 

「俺お母さんに連絡するからさ、山吹さん今日はうちに泊まりなよ」

 

「えぇ!? お泊まり!? いいの?」

 

 山吹さんは驚きを隠せない状態だった。

 

「こんな状況だもん、しょうがないよ。今日幸いにも両親は出掛けてていないし、明日は祝日だから」

 

 そう、こんな状況だからだ。やましいきもちなんて一切ない。俺は潔白だ。

 

「じゃあ遠慮なく泊まっていくよ」

 

 山吹さんはそういうとスマホを取り出しお母さんに確認をとった。

 

「もしもしお母さん、今台風すごくて家から出られないから石田君の家に泊まっていくことにしたんだけどいいかな……? えぇ!? ちょっと何言ってるの!? や、やめてよ〜」

 

 山吹さんにしては珍しく取り乱していて顔も酷く紅潮させていた。

 

「山吹さんどうかしたの? もしかして無理にでも帰ってこいって?」

 

「い、いや! お母さんは大丈夫だって、だから今日は泊まっていくよ」

 

 山吹さんのお母さんだ。そんなこと言うわけがないだろう。

 

 山吹さんの確認が終わったから次は俺の確認だ。俺はケータイを取り出しお母さんに電話をした。

 

「もしもしマm……お母さん、今こっちの方台風が酷いんだよね。それで今山吹さんが家にいて……この中帰させる訳にもいかないから山吹さんに泊まってもらってもいいかな?」

 

 山吹さんのことはたまにお母さんにも話している。パンを買いに行った時に会ったことがあるらしく良い子だね〜と言っていた。

 

『あら、山吹ちゃんが家にいるの? あんたヤラシイことしてるんじゃないでしょうね!』

 

「ちょっと何言ってんの!? そんなことするわけないでしょ! ただ今日は2人で遊んでて雲行きが怪しくなったから俺の家に来たんだ」

 

『あらあら〜お母さん山吹ちゃんと2人で遊ぶなんて聞いてないわよ。言ってくれればアドバイスでもなんでもしたのに……』

 

 しまった! お母さんにはこのことを言ってないのを忘れてた。過去のことを話した、とは言いにくかったから雲行きが怪しいというのを理由にした。

 

『もちろん泊まってもOKよ、でも避妊はちゃんとしなさいね?」

 

「は!? ちょっと待ってそんなことはしな……切れた……」

 

 お母さんのばかやろう。何を言っているのやら。流石に動揺を隠しきれず声をあげてしまった。

 

「……石田君大丈夫だった?」

 

 山吹さんが心配そうな顔で尋ねてきた。

 

「ああ、うん。大丈夫だって。あ、それじゃあ俺は風呂沸かしてくるから〜」

 

 俺はそういいスタコラサッサと風呂場へ行った。正直に言うとものすごい緊張している。今までお泊まりは疎かしかも女の子となれば緊張しないことなんてないだろう。しかも2人きりだ。大勢で泊まるなら何とかなるかもしれないが、2人きりだとなんの話をすればいいかわからないし不安だ。

 

 俺は今後の展開に憂鬱になりながらもリビングへと戻ってきた。

 

「山吹さん沸いたら最初に入っていいよ。俺はシャワーで済ませるから」

 

「え、そんないいよ。泊まらせてもらってる側だし石田君が遠慮なく入ってよ」

 

「俺実はシャワーの方が慣れてるんだ。山吹さんはお風呂入ってゆっくりしたいしょ? だから遠慮せずに入ってよ」

 

「う〜、わかったよ」

 

 譲り合いの末、結局は山吹さんが風呂に入るということにまとまった。

 

「もうこんな時間だし、夜ご飯作っちゃう?」

 

 時刻は午後6時を回っていた。そろそろお腹も減る頃である。

 

「そうだね。何作ろっか」

 

 俺は冷蔵庫を漁ってみた。えーと、人参、じゃがいも、玉ねぎ、肉ねぇ……これってお泊まり会定番のカレーを作れということかな。

 

「いい感じに具があるからカレーを作ろう、それでもいい?」

 

「さんせー」

 

 今思えば肉じゃがっていう選択肢もあったがそれはおいておこう。そんなわけで俺らはカレーを作ることにした。

 

 山吹さんが具材を切って俺が炒めたりした。普段親がこうして家を開けている時が多いから料理は人並みにできるようにしていた。こんな時に恥をかかなくて済むし料理系男子ってかっこよくない? 

 

 山吹さんの手際はとても良かった。等間隔にリズム良く具材を切っていく。その音がとても心地よかった。料理しながらリズムキープできるんじゃないだろうか。

 

 あとは煮込んでカレールーを入れて完成だ。あぁ、お腹が減ってきた、早く食べたい。

 

 山吹さんが丁寧に盛り付けそれを俺が運んで食事にありつける状態になった。

 

「「いただきます」」

 

 今日二回目の2人きりで食べる食事だ。昼は緊張したが今は安心感さえ覚えるようになった。

 

「美味しいね」

 

 山吹さんが満面の笑みでそういった。そんな笑顔されたらこっちまで笑顔になってしまう。

 

「友達と作るカレーは格別だね、やっぱり山吹さんは手際いいね〜、将来良いお嫁さんになれると思うよ」

 

「お嫁さん!? そ、そんな……」

 

 山吹さんは両手で顔を隠して恥ずかしそうにしていた。俺はそれを見て笑った。山吹さんと話していると笑顔が絶えない。俺はこの瞬間が最高に幸せだった。

 

 俺と山吹さんは2人で食器を洗い、その後はテレビを見てくつろいでいた。くつろいでいたって言っても、俺は興奮していたが。

 

「この選手すごいディフェンスが上手いんだ。俺の憧れだよ」

 

 俺と山吹さんはNBAの試合を見ていた今日の試合どうしても見たかったので山吹さんの了承をえて見ることに決めたのだ。

 

「すごいね〜NBAって、シュートがポンポンポンポン決まって、見ていて気持ちいいよ」

 

「でしょ! こんだけ決まったら気持ちいいだろうな〜」

 

 熱く語る俺を一切嫌な顔せず山吹さんは受け答えしてくれる。それでこっちもどんどんどん熱くなってしまう。

 

「やった〜勝った〜! 逆転勝利ナイスすぎる!! あのブザービーターはやばいでしょ!?」

 

 俺は興奮気味に山吹さんに話しかけた。それもそのはず最後のポゼッション、負けていたチームが完璧にデザインされたセットフェンスの中見事逆転スリーポイントを決めきったのだ。あれを見て興奮しないバスケファンはいないだろう。

 

「私はびっくりしたな〜。あの限られた時間の中で決めちゃうなんて」

 

 確かに俺も最初はびっくりした。あの短い時間の中で決めきることに。ただコートにたってみてわかったのは1秒1秒の重みがとんでもないことだ。たかが5秒がものすごく長く感じることだってある。プレッシャーがかかる場面っていうのはそれだけ緊張するということだ。

 

「山吹さんそろそろお風呂入る?」

 

「そうするかな、あ! 着替えって……どうすれば……?」

 

「忘れてた! えーっと……とりあえずズボンはお母さんの貸すね。上は俺のTシャツ後で置いとくからそれを着てもらう感じでいい?」

 

「うん、わかった」

 

 そういって山吹さんは風呂場へと姿を消した。

 

 そして俺は山吹さんがお風呂へ入ったのを確認した後そっと服を置いた。

 

 

「いや〜さっぱりしたよ〜」

 

 山吹さんはどうやら上がったみたいだ。

 

「石田君……その、似合ってる、かな?」

 

「……!! う、うん似合ってるよ」

 

 思わず胸が高鳴ってしまった。サイズの合っていない俺のTシャツを着ている山吹さんは見えた。しかも自分の気になっている人が自分のTシャツを着ていることに少しばかりドキッとしてしまう。破壊力が半端じゃない。

 

「じゃあ俺もシャワー入ってくるから! ごゆっくり!」

 

 俺は足早に風呂場へと逃げた。

 

 ~風呂~

 

 風呂場は少しばかり山吹さんの匂いが充満していた。山吹さんの甘くて優しい匂い、抱きついた時にわかったが俺はその匂いがとても好みだった。

 

 ~リビング~

 

 このままでは変態になってしまうと思った俺は急いで風呂から出た。

 時刻は11時を過ぎていた。

 

「石田君おかえり〜」

 

「ただいま戻って参りました」

 

「ちょっとなんでそんな言い方なの」

 

 そうそろそろ深夜テンションに入る頃だ。俺も変なテンションになりつつある。山吹さんも些細なことで笑ってしまうようだ。

 

「ふぁぁ〜……、今日はもう寝ようか」

 

「うん、そうだね」

 

 そう言って俺らは部屋へ行った。

 

 ~部屋~

 

「俺は床で寝るから山吹さんはベットで寝ていいよ」

 

「ええ!! 石田君がベットで寝ていいよ! お風呂譲ってもらったし」

 

「いいのいいの、女の子のことは床では寝させてあげれないよ」

 

「そ、それじゃあさ……2人で一緒に寝ない?」

 

「……え?」

 

 思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。山吹さんは今上目遣いで俺に訴えかけてきてる。前はそれが可愛らしく見えたが今はこの状況のせいか、とても色っぽく見えた。

 

「い、いいよ……」

 

 俺と山吹さんは背中合わせでベットに入った

 

 流石に恥ずかしい、いつもは広いベットも2人だと狭く感じる。早く寝てしまおうか、そんなことを思っていたら

 

「あのね石田君、その今日は買い物の時助けてくれてありがとう。あの時すごく怖かったんだ。それで過去のことも話してくれて……。私には辛すぎて途中から聞いていられなかったけど……。石田君は強いよ、絶対にリベンジできる、負けて欲しくないな。私も応援するしいつでも助けになるから、辛くなったら私を頼ってね」

 

 と山吹さんは優しい声で俺に言った。

 

「山吹さんありがとう。俺山吹さんの期待に答えられるように頑張るから。そしてリベンジを果たせるように頑張るから。俺この学校に来て、山吹さん見たいな優しい人に会えて幸せだよ」

 

 俺はそう話した。

 

「ふふ、そんなこと言われると照れちゃうな……///」

 

 今までみたいに友達の関係でもいいと思った。だけど俺は山吹さんともっと親密な関係を築きたいと思った。山吹さんのことにもっと触れたい、山吹さんともっと一緒にいたい、山吹さんと楽しくで笑い合いたいそんな感情が湧き上がってきた。

 

 山吹さんといると安心する。あの胸の高鳴りは緊張なんかじゃなくて『好き』なんだって、そう過去の話をした時に、彼女の腕の中に包まれた時に気づいた。

 

「山吹さん、俺……」

 

 心臓が高鳴る。柄にもないことを言おうとしてるんだ、しょうがない。

 

「俺、山吹さんの事が好……」

 

「すうすう……」

 

 どうやら山吹さんは寝てしまったようだ。今思うとなんだか恥ずかしくなってくる。もう寝てしまおう。

 

 でもいつかは面と向かってこの想いを伝えられるように、そう思って瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 




自分も女の子とお泊まり会してみたかったな〜

それではまた次回!


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第13話 少年、文化祭準備に勤しむ

第13話です!それではどうぞ!


 朝5時、俺はいつも通り起床した。隣にいる山吹さんはまだ気持ちよさそうに寝ている。俺も寝顔を撮られたんだ、仕返しに撮っといてやろう。

 

 俺は山吹さんのことを起こさないようにそ〜っとベットから出て1階へと降りた。

 

 カーテンの隙間から入り込んでくる日差しが眩しい。台風が過ぎ去り、今日は雲一つない快晴だ。自分の心も自然と清々しくなる。

 

 今日の朝食はご飯と目玉焼き、サラダといういかにも朝食というものににした。シンプルイズザベストだ。

 

 俺が朝食を食べていると山吹さんが起きてきた。

 

「お、おはよう山吹さん……」

 

 昨日のことを思い出してしまい上手く声が出なかった。もしかしたら寝ているふりをしていただけかもしれないと考えてしまったからだ。

 

「おはよう〜」

 

 彼女に視線を移す。その瞬間俺は山吹さんのある部分に釘付けになってしまった。

 

「山吹さん!? ちょっと、その〜……」

 

「石田君どうかした〜」

 

 山吹さん本人は気づいてないみたいだ。寝起きでぼ〜っとしている。

 

「ふ、服!! 服がはだけてる!!」

 

 俺はそう言って彼女から視線を逸らした。山吹さんの服は寝起きだからかはだけていた。肩丸出し、白い下着も見えてしまっていた。男子ならわかると思うがこういう時、目を逸らさなきゃってわかっていても釘付けになってしまう。

 

「……! み……見た?」

 

 山吹さんは顔を朝食にあるトマトのように赤くしてすぐさま身だしなみを整えた。

 

「見、見てないから! 神に誓う!」

 

 本当はガッツリ見てしまっている。はっきり見たよ、なんて言ったら今後そんなことが待ち受けているかがわからない。取り乱しながらも平然を装うように努めた。

 

「朝ごはんは用意できてるから」

 

「おいしそうだね! いただきます」

 

「どうぞ〜」

 

「うん! おいしい、やっぱり石田君料理系男子だね」

 

「料理はできて損ないからね」

 

「そういえば今日朝練するの?」

 

「いいや、今日はしないかな昨日の雨だったら地面がぐちゃぐちゃで練習にならないと思うから」

 

「りょーかい」

 

 その後俺と山吹さんは少しまったりした。そろそろ弟達が心配するから帰るねと山吹さんが言った。山吹さんは身支度を整えて

 

「石田君ありがとう、お泊まり会楽しかったよ!」

 

「うん、じゃあね」

 

 そう言って山吹さんと別れた。別れの瞬間は少し寂しかった。

 

 山吹さんが帰った後俺はNBAを見ながら昨日の余韻に浸っていた。昨日の告白が聞こえていたらどうなったのだろうか。想いがちゃんと伝わっていたら……そんなことを考えているとNBAの試合に全く集中することが出来なかった。

 

 山吹さんと一緒に寝たんだ。俺は恥ずかしさに思わず身悶えしてしまう。山吹さんの匂いが俺の理性を刺激したっけ。正直にあの時は気がきがじゃなかった。いつ理性が宇宙へぶっ飛んで行ってもおかしくなかった。

 

 もっと一緒にいたかった。出来ればまだ帰って欲しくなかった。学校で会えるのを楽しみにして俺はもう一眠りした。

 

 

 

 

 

 ~学校~

 

 今俺らは3週間後に迫っている文化祭についての話し合いをしていた。

 俺らのクラスはどうやら執事&メイド喫茶をやるようだ。山吹さんは以前やまぶきべーカリーを花咲川支店として出店したそうだ。それに近い感じになるんじゃないかと山吹さんが言っていた。

 

「じゃあ文化祭の実行委員やってくれる人いませんか〜」

 

 心穏がみんなに投げかけた。

 

「私去年もやってるし、やるよ」

 

 1人は去年やった経験があるという山吹さんに決まった。

 

「じゃああと1人はせっかくだし転校してきた石田君にしちゃおっかな〜」

 

「は!? 俺?」

 

 心穏はニヤニヤにしながらこっちを見てきた。それに合わせてクラスメイト全員が俺に集中した。

 

「わ、わかった。やるよ……」

 

「じゃあ実行委員は山吹さんと石田君で決定でーす」

 

 という感じで実行委員になってしまった。心穏のやつ絶対に覚えてろ。

 

 そして今回の文化祭は『羽丘学園』と合同でやるらしい。羽丘学園も花咲川と同様以前は女子学園だったそうだが、少子高齢化もあり共同にすることを余儀なくされてしまったらしい。

 

 文化祭の内容としては、1日目に部活動対抗スポーツ大会、2日目に縁日やバンドなどの発表となっている。

 

 スポーツ大会は両校のサッカー部、野球部、バレー部、バスケ部が試合形式でガチバトルするものだ。

 

 羽丘のバスケは速攻が主体のアップテンポのバスケだ。オフェンスに定評があるがディフェンスに少し難のあるRUN&GUN(速攻でシュートを決める攻撃を得意とするチームスタイル)が持ち味のチームだ。

 

 

 

 今日は早速その部活動対抗戦の順番を決めるために羽丘まで行かなければならない。何故かは知らないが俺がバスケ部の代表として羽丘へ出向くこととなった。山吹さんと市ヶ谷さんもバンドの発表順を決めるということで一緒に行っている。

 

 羽丘に来ることがあまりなかったから緊張している。だが山吹さんと市ヶ谷さんは慣れた様子で羽丘の校門をくぐり抜けた。俺らは待ち合わせ場所に指定されている生徒会室まで向かう。

 

 ~羽丘~

 

「やっほー! みんな! あれ君は?」

 

「僕は花咲川のバスケ部代表、石田明優です」

 

「明優君か〜るんっ♪ ってくる名前だね! 私は氷川日菜だよーよろしくね!」

 

 生徒会室を開けると水色の髪色が特徴の元気いっぱいな子が飛び出てきた。あれ? 氷川ってもしかして

 

「もしかして氷川紗夜先輩と姉妹だったりしますか?」

 

「うん、そうだよ! 私達双子なんだ〜」

 

 髪色が似ているからもしかしてと思ったらビンゴだった。双子でこんなに性格が違うものなのだろうか。

 

「それでそれで〜今から君たちにはくじを引いてもらいますっ!」

 

 そう言って日菜先輩は箱を取り出した。余談だが氷川先輩って呼ぶと紗夜先輩と区別がつかなくなるから日菜先輩って呼ぶことにした。

 

 くじの結果は4番、部活動対抗戦のトリを飾るのはバスケとなった。

 ポピパのみんなは3番だった。

 

「3番か〜。まあ普通だな」

 

「日菜先輩、パスパレもバンドの発表出るんですか?」

 

「うん、出る予定だよ! あとはね〜ロゼリアとかアフターグロウとかハロハピも出るよ!」

 

「勢揃いですね」

 

 ロゼリアとアフターグロウは以前聞いたことあるし、パスパレもメディア露出で知っている。ハロハピはクラスに弦巻さんがいるから知っている。

 

「ちなみに私達は1番最初! 次にアフターグロウで、4番目にハロハピ、最後はロゼリアだよ!」

 

「最後はロゼリアか〜」

 

 なんかロゼリアは最後が似合ってる気がする。なんとなくだが。

 

「日菜先輩〜ってみんな来たんだ!」

 

 そんな会話をしていると羽沢さん達が生徒会室に入ってきた。

 

「ああ、羽沢さん」

 

「石田君もいるんだね、バスケ部代表なの?」

 

「そうなんだ、なんでかはよく分からないけど」

 

 羽沢珈琲店には勉強会のあとも度々訪れている、あの落ち着いた雰囲気がとても好きだからだ。おかげで読書も勉強も捗る。そして羽沢さんとの関係も良好だ。

 

「お〜さーやに有咲、そしてあーくんもいる〜」

 

 今喋ったのが青葉さん、羽沢さんの店にいる時に何度かアフターグロウのみんなとも話していて面識があった。

 

「石田君! 久しぶりだね!」

 

 この人が上原さん、スイーツが大好きなんだとか。

 

 そして後ろには宇田川さんと美竹さんがいた。

 

「バスケ部は何番になったんだ?」

 

 宇田川さんが興味津々に聞いてくる。

 

「4番目、最後だよ」

 

「最後か〜石田君のプレー、楽しみにしてるね!」

 

 と羽沢さんにの期待の眼差しを浴びた。

 

「じゃあ私達は失礼するかな、それじゃあまた」

 

 そうして俺らは羽丘学園から出た。

 

 

 

 

 

 それから文化祭の準備を着々と進めていった。今日はメイド&執事喫茶の衣装合わせ。男子はスーツを、女子はメイド服を借りる。

 

「石田君似合ってるね〜、スタイル抜群で羨ましいよ」

 

 クラスの衣装担当の子に言われた。

 

「ありがとう、でもなんか恥ずかしいな」

 

 似合っていると言われると照れてしまう。褒められればなんだって嬉しいものだ。

 

「夢生と心穏も似合ってるぞ」

 

 夢生と心穏も言わずもがな似合っていた。初見の人だったら惚れてしまいそうなくらいに。

 

「心穏君め〜っちゃ似合ってるよ!」

 

「ありがとね〜りみちゃん、りみちゃんも似合ってるよ〜」

 

 そう言われた牛込さんは顔を真っ赤に染めた。

 

「おいちょっと待て心穏」

 

 イチャついてるところ悪いが、俺は窓際へ心穏を連れて行った。

 

「いつから牛込さんと名前で呼びあってた?」

 

「さあ〜いつからだろうね〜」

 

 答えを言わずにみんなの方へ戻って行った。いつの間にあんなに親密に、付き合ってるんじゃねーかあれは。牛込さんも心穏もとても幸せそうな顔をしていた。

 

「沙綾の着付け終わったよ〜」

 

 山吹さんはヴィクトリアンタイプのメイド服を完璧に着こなしていた。普通に豪邸とかでメイドやっていそうな雰囲気さえ出ていた。

 

「石田君似合ってるかな?」

 

「バッチリだよ」

 

「石田君も着こなせてるよ」

 

「ありがとう」

 

 あの後も俺と山吹さんの関係は非常に良好だった。でもあのお泊まりを機に山吹さんの距離がだんだんと近くなっている気がする。ボディータッチの回数はそれを物語っている。

 

 俺はこの服が動きにくかったのですぐに脱いだ。その後も着々と準備が進んで行った。

 

 俺は実行委員の仕事を全うするべく調理班の元へ向かった。出すものはやまぶきベーカリーのパンはもちろん、パンに合うであろうパスタやスクランブルエッグを出す予定だ。

 

「みんな大丈夫そう?」

 

「全然大丈夫! パスタ作ってみたから味見してみてよ!」

 

「うん、めちゃめちゃおいしい! バッチリだよ! 後はパンだけだね」

 

 パスタはめっちゃ美味しかった。このクラスは文化祭ガチ勢か? タレント揃いじゃないか。あの後スクランブルエッグも食べたがとても美味しかった。

 

「じゃあ明日はお店の装飾、明日も気合いを入れて頑張ろう!」

 

『おー!!』

 

 俺の号令に合わせてみんなも元気よくのってくれた。このクラスのみんなはとても優しい。一人一人の距離が近くて孤立を生んでいない。男子と女子の壁も全くなく和気あいあいとしている。とても居心地が良い。

 

 

 そして一夜明けた後装飾へと取り掛かった。思っていたよりもスムーズに進んだ。内装は派手な感じではなく落ち着いた雰囲気を醸し出されるような、そんな内装にしてくれた。

 

 その後も各々が準備をしていき、遂に万全な状態になった。

 

「みんなお疲れ様! 明日からいよいよ文化祭、楽しんでいこう!」

 

『おー!!』

 

 そういって解散となった。そしてその後俺は山吹さんと教室に残っていた。

 

「山吹さんお疲れ様、実行委員大変だったね」

 

「石田君もお疲れ様、でも石田君クラスのみんなと仲良くなれたんじゃない?」

 

「そうだねやって良かったと思ってるよ」

 

 心穏のあの発言があったおかげで俺はクラスのみんなと仲良くなることが出来た。最初は嫌だったが今は感謝をすることしかできない。

 

「最初はてんてこ舞いだったけどね。このままだったらやばいと思ったよ」

 

 あの時を思い出して思わず苦笑してしまう。クラスのみんなと接するだけでテンパってしまった俺。うまくみんなのことまわすのに手間取ってしまったけど山吹さんはがサポートしてくれた。

 

「山吹さんがいて頼もしかったよ。ありがとう」

 

「こちらこそ」

 

 2人で笑い合う。山吹さんの笑顔がいつもより輝いているように見えた。

 

 ここ教室には今、俺と山吹さんしかいない。……これはいくしかないんじゃないか。俺は決意を固めてあの夜、伝えそびれたことを伝えようとする。

 

「あの、山吹さん。明日の部活動対抗戦……」

 

 緊張で手が震える。

 

「もし羽丘に勝てたらさ……」

 

 もうここまで言ったんだ。もうひと踏ん張りだ! 俺! 

 

「俺と付k「明優ー練習行くぞー!」

 

 俺の決死の告白(2回目)が夢生の声によって遮られた。山吹さんはキョトンとしている。

 

「あ、あ〜俺練習行かなくちゃ! 明日頑張るから応援してて! それじゃ!」

 

 俺は逃げるようにして部活へと行った。俺のこの想い、届くことはあるんだろうか……。

 

 

 ~体育館~

 

「おい明優ヘルプ!」

 

「おう! 心穏リバウンド!」

 

「はいよ〜」

 

 俺らは絶賛明日に向けて調整中だ。文化祭の催し物だといっても負けるつもりは無い。そして俺にとってこの学校に来て初めての試合だ。自然と気が引き締まる。

 

 夢生と心穏も気合十分のようだ。いつもより熱の篭ったプレーが見える。

 

「集合!」

 

『おう!』

 

「セットの確認はここまでだ、ここからは各自フリーシュートを打って調整してくれ」

 

 監督の合図で俺たちは散り、各々フリーシュートを打ち始めた。

 俺は夢生のドライブからのキックアウト(ゴールにアタックしたプレーの後にインサイドからアウトサイドへ出すパス)の流れが多くなると思い、スリーポイントを主体にシュートを打った。シュートタッチは実に良い。外れる気が全くしなかった。

 

 そして練習が終わった。練習後、夢生と心穏にあることを聞かれた。

 

「なあ明優、山吹さんのこと好きなのか?」

 

「うぇ!? 何言ってんの?!」

 

 そう山吹さんのことだ。バスケのことだと思ってた分余計に焦ってしまう。もう正直に言ってしまおうか。

 

 そして俺はこれまであったことを夢生と心穏に洗いざらい話した。

 

「そうか、もう2回も告ろうとしたのに全部失敗したのか。マジでごめん!」

 

 ごめんと言いつつもその顔は笑っていた。

 

「それで〜試合に勝ったら告るの〜?」

 

「そのつもりでいる」

 

 俺はこの機会を逃したら当分言えないような気がして、やっぱり試合に勝ったら言うことに決めた。

 

「それじゃあ明日は絶対に勝とうぜ!」

 

「「おう!」」

 

 ~石田家~

 

 明日は俺にとってのデビュー戦の日でもある。その緊張と山吹さんへの緊張。それも相まって全然寝ることができない。いやむりにでも寝よう。夜更かしはパフォーマンスの低下にも繋がる。俺は明日のことは楽しみにしつつも無理矢理眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




文化祭準備編をたったの1話で書いてしまいました。もっと引き延ばそうとも考えたんですけどネタが))))

そして心穏とりみちゃんの関係はどうなんですかね〜( ¯▽¯ )

それではまた次回!


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第14話 少年、想いを伝える

第14話です!それではどうぞ!


「ただいまより第1回合同文化祭を開催します!」

 

 日菜先輩の号令により合同文化祭が始まった。一日目は部活動対抗戦だ。

 

「いやーついに始まったなあ文化祭、席取りに行こうぜ!」

 

「うん〜」

 

「最初は野球部だっけ?」

 

「そうだぞ」

 

 最初は野球部からだ。俺らはグラウンドへと移動した。

 

 野球部対決は花咲川が勝利をもぎ取った。9回までどちらも勝利を譲らず0対0だったが、9回裏2アウトの場面で花咲川の4番がホームランを放ち勝利を収めた。

 

 だが次のサッカー部対決は3対0と負けてしまった。どうやら花咲川と羽丘は相性が悪いみたいで、花咲川は防戦一方だった。

 

 バレーとバスケは午後に行われる。

 

 俺はお昼ご飯を食べた。ポピパのみんなとも一緒に。

 

「お前ら、絶対勝てよ!!」

 

 市ヶ谷さんが意外にも1番熱くなるタイプなのかもしれない。

 

「みんな、頑張ってね!!」

 

 と戸山さん、

 

「応援してるよ」

 

 と花園さんが言ってくれた。

 

 ちなみに牛込さんは心穏といちゃついている。見せつけてくれるなぁ。

 

「石田君、頑張ってね。これ差し入れだよ」

 

 そういうと山吹さんはバックからクリームパンを取りだした。

 

「え、本当にいいの! いっただっきまーす」

 

 俺は山吹さんからクリームパンを受け取るとすぐに食べ始めた。

 

「やっぱりやまぶきベーカリーのクリームパンは絶品だぁ。いくらでも食べれるよ」

 

「次、試合だから程々にね」

 

 と山吹さんが微笑んだ。

 

 

 

 そして午後の部が始まった。バレー部は結果からいうと負けてしまった。最後のセットはせっていたが羽丘がそれを制した。

 

 いよいよバスケだ。俺らはミーティングのために集まっていた。

 

「俺らは絶対に負けないぞ。なにせ秘密兵器が来たからな」

 

 そう言ってキャプテンは俺の肩を組んでニヤッとしてきた。

 

「期待に答えられるように頑張ります」

 

「よしじゃあ行くぞ!!」

 

『おう!』

 

 俺らは勢いよく体育館へと飛び出た。

 

 部活動対抗戦、1勝2敗で迎えた最後の戦いが今幕を開けようとしている。

 勝てば同点、負ければ羽丘の勝利になってしまう。最初で最後かもしれない合同文化祭。それを負けで終わらせたくない一心だ。

 

 バスケは体育館のハーフコートを使って行う。体育館の半面、2階のギャラリーは羽岡生と花咲川生でいっぱいだ。

 

 久しぶりの試合に胸が高まる。緊張なんかしていない。今は俺の体が早く試合がしたいと叫んでいるようだった。

 

 アップの時間は残り3分、フリーシュートに入った。

 

「なあ明優、勝てるのと思うか?」

 

「勝つに決まってるだろ。心配だったら今はひたすらシュートを打つことだな」

 

 夢生は柄にもなく緊張している様子だった。それもそのはずこんな大勢に見守られながら、しかも負けてはいけないというプレッシャーが夢生には降り掛かってきたのだろう。

 

 アップの時間が終わり、残り2分間はベンチで準備をする。

 

「いいか。これは文化祭の催し物のひとつだけど、僕達は全力で取り組もう。今までの成果を存分の見せてやれ!」

 

『おう!』

 

 監督の激励に俺らは勢いよく答えた。

 

「相手のシューティングガードに注目だ。あいつを抑えられなきゃ始まらない」

 

「ディフェンスはマンツーマンでいくぞ。正面からバチバチ当たっていけ」

 

 花咲川は俺の加入後密かにマンツーマンディフェンスの練習をしていた。夢生のディフェンス力が懸念されていて採用することができなかったが、俺が付き合っきりで夢生にディフェンスを教えた結果チームの4、5番手くらいは抑えられるようなディフェンス力まで成長した。

 

「明優、お前はあのシューティングガードにがっちりマークしろ。ボールを停滞させる時があるからよく狙ってスティールしていけ」

 

 監督からの指示を胸に留めておいた。

 

 いよいよ戦いの火蓋が切られようとしている。もちろん俺はスターターとして起用された。シューティングガードに位置する。ほかの4人は夢生がスモールフォワード、心穏がセンター、キャプテンがパワーフォワードで先輩がポイントガードだ。

 

 そして俺はTシャツを脱ぎ捨て真新しいユニフォームをまとい、コートへ足を踏み入れた。背番号は14番。NBAの歴史の中でもこの背番号を着用している人は多く見受けられる。有名どころでいえばボブ・クージーやオスカー・ロバートソン、ジョン・ストックトンいったところだ。

 

 名だたるレジェンドがつけている14番(この番号)、今では6人もの選手がこの背番号で永久欠番入りを果たしている。

 

 そしてなんて言ったって俺の名字は石田、14田(いしだ)、と言った感じで置き換えることができる。なんか面白いからいいじゃないか。

 

「石田君頑張って!!」

 

 山吹さんがギャラリーから声援を送ってくれた。両校の応援が凄まじくよくは聞こえなかったが、いつも聞いている心地の良いあの声を聞き落とす訳がなかった。俺は腕を掲げてそれに答えた。

 

 両校のスターティングラインナップが出揃い、今第1クォーターが始まった。

 

 ジャンプボールに競り勝ち、最初の攻撃権の握ったのは羽丘。相手のセンターは心穏よりも少し高いくらいの身長だが俺にとっては巨人のようだった。

 

 まずエースで流れを掴もうと羽丘はシューティングガードのやつにパスを回した。アイソレーションの形を(チームの中で特に得点能力の高いプレーヤーを、意図的にコート上の広い場所で1人にし、ボールを持たせてい1対1を仕掛けさせるフォーメーション)取ってきた。

 

 俺も腰をグッと下ろして臨戦態勢に入る。ここで勝てなければ羽丘はますます勢いにのるだろう。負ける訳にはいかない。オーディエンスは指笛や太鼓などを使って試合を盛り上げていた。

 

 相手のシューティングガードはレッグスルーやクロスオーバーなどを駆使し俺の体制を崩しにかかった。

 

 正直このタイプの方が仕留めるのが楽な気がする。1発で抜きにかかってくるタイプの方が反応しずらく、ファールになってしまうことがある。

 

 この状況からのスティールは安易だった。相手のエースがクロスオーバーをした瞬間、俺は手をつき伸ばし相手のボールをかっさらった。

 

 俺は無人のゴールへと突き進んでいく。ワンマン速攻のこの場面、俺はドリブルをしながら空中へと跳んだ。まるで翼でも生えたかのように。

 

 俺は大きく胸を張り、ボールを左手で掴んだまま、リングへと向かった。

 

 ガシャン

 

 俺はダンクをお見舞した。1メートル以上はジャンプしていたに違いない。俺の高くもなく低くもないこの身長でダンクするには類まれなるジャンプ力が必要だ。

 

 2連敗で意気消沈している花咲川生を再び活気付けるため、勢いづいている羽丘生の度肝を抜くためにはこれしかないと思った。

 

 俺のプレーに花咲川サイドはお祭り騒ぎだったこの歓声を再び浴びれるなんて、考えてもみなかった。

 

 羽丘サイドはどよめきが起こっていた。

 

 ディフェンスは心穏のディフェンスでしめ、2度目にオフェンスへと移った。

 

 先輩が夢生にボールを集める。夢生はミート(自身にパスされたボールに向かってレシーブする動き、プレー)した勢いのまま羽丘のディフェンスを切り裂いた。

 

 夢生のことをヘルプが止めようとしたが、逆サイドでフリーになっている俺のことを見逃さず、夢生は俺にパスを出した。

 

 あの程度なら自分でジャンプシュートで決めきることができただろうに。俺のことをお膳立てるつもりなのか。

 

 俺はその思いに答えるべくスリーポイントを放った。

 

 このシュートタッチ、あの綺麗なアーチ、ボールのスピン、ドンピシャだ。

 

 シュパン

 

 俺のシュートはリングに一切触れることなく綺麗に入った。

 

 そしてその後も俺は見逃さなかった。敵がエンドラインから容易なパスを出したのをカットし2点を再び追加した。

 

 羽丘は堪らずタイムアウトを取った。

 

 花咲川生の拍手、歓声を浴びながら俺らはベンチへと戻っていった。

 

「明優、粋なことするじゃねーか。ダンク出来んなら最初からすれば良かったのに」

 

 夢生が驚いたような顔をして言ってきた。

 

「練習中はあんまりしないって決めてるんだ。1回1回フルパワーでジャンプしないと届かないから足に負担がすごくて」

 

 実を言うと糸井にやられた膝の怪我はまだ完治していない。今日もテーピングを巻き、サポーターをしての出場だ。

 

「良い立ち上がりだ。でも羽丘はこんなものじゃない。2連勝で浮き足が立ってたんだろう。油断するなよ」

 

 監督の激励に押され、俺ら花咲川ファイブはコートへ戻った。

 

 その後の試合は拮抗を保っていた。夢生が敵をかいくぐってシュートを決めると負けじと敵の方もシュートを決めてきた。

 

 心穏がインサイドで敵を押し込んで豪快にシュートを決めると、敵も力ではなく技で対抗、綺麗なフックシュートをお見舞した。

 

 羽丘自慢の速攻も決まっていた。しかしその後の緩みを俺らは見逃さず逆速攻を繰り出したりした。

 

 一進一退の攻防が続く中、夢生のミドルレンジからのブザービーターが決まり、前半戦を締めくくった。

 

 今のところのスコアは41-37、4点差で俺らが勝っている。

 

「残りは後半戦だ、今は休憩しよう」

 

 ハーフタイムは10分ある。俺はスポーツドリンクを飲み、少し休憩した後シュートを打ち始めた。

 

 10分も休憩なんていらなかった。俺は早く試合がしたくてうずうずしてた。この感じがとても懐かしくていてもたってもいれなかった。

 

「さあ後半戦だ、絶対勝つぞ!」

 

『おう!』

 

 運命の後半戦が始まった。

 

 俺らの攻撃からのスタート俺は先輩へパスを出して定位置に着く。

 

 俺は左45度でボールをもらい、敵のエース相手に1on1をしかけた。

 

 ハーフタイムの時監督にこう言われた。

 

『明優、次の入り、1on1をしかけてくれ。エースの動きをここで完全に止めてしまおう』

 

 とのことだった。ディフェンスによる負担を増やして、精神的に疲れさせるのが狙いのようだ。

 

 俺は1回2回とジャブステップ(フリーフットを小さく動かして相手の動きの癖を見る手段)を踏んだ後、右ドライブを仕掛け相手を抜いた。

 

 相手も完全には抜かされまいと付いてくる。俺はステップバックを選んだ。俺の左手から放たれたシュートは綺麗にリングへと吸い込まれて行った。

 

 後半の立ち上がりに花咲川サイドはどんちゃん騒ぎだ。手を叩いたり足踏みをしたりして体全体を使って喜んだ。

 

 俺はその後もひたすらに1on1を仕掛けた。フェイダウェイ、フローター、ユーロステップなどありとあらゆる技術を駆使し、羽丘を翻弄した。

 

 羽丘はエースが失態を引きづり続けていた。2人のシューティングガードの気持ちがその後の戦いに大きく影響し、花咲川が大きなリードを奪って第3クォーターが終了した。

 

「手を緩めるつもりはない、最後の最後まで全力でいけ!」

 

『おう!』

 

 途中で先輩が少し代わったりはしたが俺と夢生と心穏はフル出場だった。でも俺らの顔に疲れなんてものはなかった。

 

 第4クォーター始め、羽丘はいきなり前から仕掛けてきた。でも先輩はものともせずに相手を抜き去り、先輩がシュート打つタイミングでブロックに飛んだセンターを嘲笑うかのように心穏にシュートを出し、心穏は豪快なダンクを決めた。

 

 ポイントガードの先輩はボールさばきに非凡な才能がある。ボールハンドリングもあってTheポイントガードみたいな感じで安定感がある。

 

 キャプテンも負けじと相手のディフェンスをかいくぐりダブルクラッチ(一度シュートモーションに入った手を下げ、逆の手に持ち替えてシュートをすること)からシュートを決めた。

 

 キャプテンは体が強靭で敵と当たってもビクともしない、ディフェンスもオフェンスも安定してこなせるオールラウンダーな人だ。

 

 俺らは綺麗なパス回しから淡々とシュートを決め続けた。5人全員が満遍なく得点を重ねた。

 

 相手が放ったラストシュートは無情にもリングに弾かれ、俺らは勝利した。

 

 体育館全体に割れんばかりの歓声と拍手が鳴り響いた。

 

 俺は山吹さんのいる方向を向いた。山吹さんは笑顔でガッツポーズしてくれた。俺もガッツポーズをしてそれに答えた。

 

 結果は93-75、この試合のリーディングスコアラーは意外にも俺で個人スタッツは7本のスリーポイントを含む29得点 4リバウンド 7アシスト 5スティール、夢生は25得点、心穏は17得点 23リバウンドだった。

 

 この場に戻ってこれて良かったと思う。再出発としては順調なスタートだ。今はこの喜びを噛み締めよう。

 

「いやー勝ったな。明優も試合の感覚を取り戻せたみたいで何よりだ」

 

「今日はスリー決まりまくりだね〜」

 

「心穏のリバウンドも凄かったぞ」

 

 俺らは互いに褒めあった。そんなことをしていると閉会式が始まるようなので俺らは着替えて整列した。

 

「じゃあ閉会式を始めるよー! 結果は2対2の引き分けだね! まずは拍手!」

 

 日菜先輩の元気な号令の元閉会式は始まった。

 

「じゃあ今回も部活動対抗戦のMVPを発表します!」

 

 MVPなんて決めるのか、そんなこと聞かされてたっけか。

 

「MVPは……花咲川高校2年B組 石田明優君です!! 、石田君はステージに上がってきてね〜」

 

 それと同時に拍手が鳴り響いた。俺はまさか俺だとは思ってなかっため驚いていた。

 

 俺はステージに上がった。

 

「明優君、一言どうぞ!」

 

 一言って言われてもなぁ。いきなりすぎて何も考えてねーよ。

 

「えーとMVPに選ばれて光栄です。僕は夏休みが明けてからこの高校に転校してきました。不安もあったんですけどクラスのみんなや部活動の仲間達が僕を優しく迎え入れてくれて嬉しかったです。これからもこの学校で沢山の思い出を残していきたいです」

 

「明優君ありがとー! 戻っていいよー!」

 

 拍手が鳴り響いた。突然転校してきた俺を毛嫌いすることなく受け入れてくれたクラスのみんなやバスケ部のみんなには本当に感謝している。あの場を借りて言えたのは本当に良かった。

 

「じゃあ閉会式、終わるよー! 明日も楽しんでいこう!」

 

 そうして閉会式が終わった。

 

 

 俺はこれからやらなくちゃいけないことがあった。

 

「山吹さん、その……屋上に来てくれないかな?」

 

「え? うん、いいよー」

 

 俺はこれに勝てたら山吹さんに想いを伝えることに決めていた。正直言うと試合よりも緊張している。

 

 そして俺と山吹さんは屋上へと着いた。意外にもそこには誰もいなかった。

 

「石田君、バスケ凄かったね〜! 最初のダンク見ててびっくりしたよ!」

 

「ありがとう、普段はあんまりしないんだけどね、この機会だししてみようかなって」

 

 少し雑談をした後俺は本題に入った。

 

「あの……山吹さん、伝えたいことがあって。最初やまぶきベーカリー出会った時、とても優しそうな人に見えたんだ」

 

 俺は話し始めた。やばい、緊張で声が震える。

 

「そして転校したら山吹さんがいて、あの時は驚いたよ」

 

「私も」

 

 そう言って2人で笑いあった。

 

「一緒に弁当食べたりさ、勉強したりもして、ライブ見に行った時は楽しかったよ。ドラムを叩いてる時の山吹さんの笑顔が頭から離れなくて」

 

 そうあの時から惹かれ始めてたんだ。

 

「2人で服買いに行った後、過去のこと話したじゃん? 山吹さんになら話しても良いって思ったんだ。山吹さんなら信用できるって思って」

 

「あの話をした後俺、泣き崩れちゃって……。でも山吹さんは俺のことを慰めてくれて」

 

 あの時の山吹さんの温もりは忘れることはない。

 

「山吹さんといると安心できたんだ。でもその度に胸がドキドキして、最初は何なのか気が付かなかったんだ」

 

「お泊まり会で一緒に寝た時はめちゃめちゃ緊張してたよ。もう早く寝てしまおうかと思ったくらいに」

 

 俺ははにかんだ。

 

「でもその時に気づいたんだ。緊張している時のドキドキじゃない、俺はいつの間にか山吹さんのことが好きなんだって。あの胸の鼓動は緊張なんかじゃないって」

 

「だから……俺は山吹さんのことが好きです。俺と……付き合ってください!」

 

 俺は手を出した。顔を上げてみると山吹さんの目から涙が流れていた!? 

 

「山吹さん!? ごめんね、嫌だった……?」

 

「ううん、違うの。私も石田君のことが好き、いいや大好き! 初めて君を公園で見た時から、! だから……嬉しくて、嬉しくて、!」

 

 ああ俺らは両想いをだったんだ。

 

「私で良かったら、お願いします、!」

 

 その瞬間俺は山吹さんを抱きしめた。山吹さんも抱き返してくれた。この匂い、この温もり、とても安心出来る。

 

「……そういえば俺汗臭くない?」

 

「ううん、全然。石田君はいつも通りのいい匂いだよ」

 

「そっか」

 

 何気ない会話に自然と笑みが零れてしまう。

 

 5分くらい抱き合った後、山吹さんが

 

「石田君、その〜名前で呼んでくれないかな? 付き合ってるんだし……」

 

「う、うん」

 

「試しに呼んでみてよ」

 

「え〜……さ、沙綾さん? 沙綾ちゃん?」

 

「あはは、ほんと面白いよね! いいよ紗綾で」

 

「もー笑わないでよ〜。それじゃあ俺のことも名前で呼んでよ」

 

「いいよ……明優君」

 

 女の子から名前で呼ばれるのはこんなにドキリとするものなのか。そして山吹さんは夕焼けのせいか顔がものすごく赤くなっていた。

 

 そんなやりとりをしていたら屋上の扉が勢いよく開いた。

 

「おい香澄! 押しすぎた!」

 

「ごめーん有咲ー!」

 

 中からはポピパのみんなと夢生と心穏が出てきた。

 

「明優よくやったな!! かっこよかったぜ!」

 

「おめでとう〜」

 

 あの会話を聞かれてたと思うと恥ずかしくなってくる俺と沙綾は2人して顔を真っ赤にした。

 

 

 

 帰り道、俺と沙綾は手を繋いで帰っていた。

 

「明優君、明日も楽しもうね!」

 

「うん、沙綾のドラム、楽しみにしてるよ!」

 

「うん! 私頑張るね! それじゃあ」

 

 そう言って沙綾と別れた。

 

 付き合っていることが未だに現実じゃないんじゃないかと思っている。両想いだったことが信じられなかった。これから沙綾と沢山遊んだり出来たらなと思う。

 

 

 

 

 

 

 




どうだったでしょうか。実はこの回、7000字を超えているんです。
めちゃくちゃ時間かかりました(--;)

それではまた次回!


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第15話 少年、絶望

第15話です!ちなみに新作についてのお話なのですが、まだ書く予定はありませんしこの作品はまだ続きます。復讐編が終わったらそのままこの物語をシャットダウンするか3年生編として続編を出すかなどの検討をしている途中です。

それではどうぞ!


今日は文化祭2日目、俺は家族と朝ご飯を食べていた。

 

ちなみに言うと俺が沙綾と付き合ったことは早々にお母さんにバレてしまった。夢生の野郎が俺のお母さんに伝えたらしい。昨日のお母さんはそんな夢生よりもうざかった。

 

質問の嵐、隙あらばからかってきて。俺は恥ずかしさに耐えきれなくなり部屋に籠った。

 

「今日も沙綾ちゃんとイチャつくのかな?」

 

「今日は忙しいからそんなことできないよ」

 

「お父さんと一緒にあなたたちの店行くからね!」

 

「来なくていいって…」

 

家族総出で今日の縁日に来るらしい。恥ずかしい限りだ。

 

「じゃあ俺行くから!」

 

俺は朝食を急いで食べ、その場から逃げるようにして外へ出た。

 

前を見るとそこには沙綾がいた。

 

「…おはよう沙綾?どうしたの?」

 

「おはよう明優君、その〜一緒に学校行きたいなぁ〜って…」

 

沙綾は手遊びをしながら俯いて答えた。

 

「俺も行きたいって思ってたんだけど…迷惑かなって思って…」

 

「いいや!そんなことないよ、これからも一緒に行かない?」

 

「いいよー」

 

「じゃあ、はい!」

 

そうすると沙綾は手を差し伸べてきた。俺は意図がわからずペットのようにお手をして見せた。

 

「あはは!面白いねやっぱり!私がして欲しかったのは…"手繋ぎ"だよ?」

 

にししっと笑いながら彼女はそう言った。

 

「もう!早くいくよ!」

 

恥ずかしくて沙綾の手を取ってすぐ歩き始めた。この何気ないやり取りがたまらなく幸せだった。

 

 

~花咲川~

 

学校に着くや否や俺と沙綾は手を離した。とても名残惜しかったが今も尚沙綾の手の温もりが残っている。

 

「おお!明優に山吹さん!おっす!」

 

教室の扉を開けると夢生が元気よく出てきた。

 

「もうみんな準備始めてるぜ!どっちとも午前だよな?着付けしようぜ〜」

 

先に来ていた人達である程度準備を進めていたようだ。頼もしい限りだ。

 

着付けを済ませた後俺とその他何人かでやまぶきベーカリーのパンを運んだ。香ばしい匂いが俺の食欲を刺激する。今にでも食べてしまいたいくらいだ。

 

いよいよ開店準備整った。

 

「よし!みんな準備お疲れ様!今日は頑張っていこー!」

 

『おー!』

 

「っとその前に、みんなに聞いて欲しいことがあるんだ!」

 

と夢生が言った。

 

「実は、この度実行委員会の2人、山吹さんと明優がなんと付き合うことになりましたー!!」

 

『おおー!』

 

突然の発表に教室中が沸いた。

 

「「え?」」

 

俺と沙綾は2人揃って素っ頓狂な声を上げた。

 

「いや〜2人とも実行委員にしてよかったよ〜みんなの協力のおかげだね〜」

 

「どういうこと?」

 

「それはね〜」

 

実行委員を決める時俺と沙綾以外のみんなで俺らのことを実行委員にしようとしていたらしい。最初は沙綾を推薦して流れで俺を指名する予定だったのだが、沙綾が自分から手を挙げたため、良さげな理由を心穏が即興で言ったとのことだ。

 

「石田君達、ずっと良い雰囲気でさ〜クラス中が早くくっつかないかな〜って思ってたよ!」

 

「ほんと、毎日見せつけてくれちゃって、羨ましい限りだよ」

 

「ちょっと、みんな〜」

 

クラス中で笑いが起こる。俺らのことを思っての行動だったため怒ることは出来なかったしむしろ後押ししてくれてありがたいと思った。

 

「報告は以上だ。それじゃあ、明優任せたぞ」

 

「…それじゃあ、2-Bカフェ開店です!」

 

俺の号令で2-Bカフェはオープンとなった。

 

俺は午前中の当番に当たっている。午前は客に入りが凄かった。

 

俺は接客だったため店の中にずっといたが俺が見ている限りではほとんど空席はできてなかった。

 

昨日部活動対抗戦で注目を浴びたのか、俺は

 

『写真一緒に撮ってください!』

 

 

『握手してください!』

 

などのサービスも行わなければならなかった。花咲川、羽丘生問わず人気が出ててしまったことに驚きを隠せなかった。夢生も心穏も女子生徒に人気があった。

 

でもなんでだろう。女子と話しているとやたらと沙綾の視線を感じる。俺に対して嫉妬してくれてるのだろうか。

 

そうすると沙綾が俺の裾を掴んで

 

「…あんまり他の女子と話さないで欲しいな…」

 

と俯きながら言ってきた。その姿に俺はドキリとしてしまった。努力するよ、とだけ答えて俺は戻って行った。

 

クラスの女子達が

 

「石田君達のおかげで繁盛してるね!」

 

と言ってきた。それに対して俺は

 

「みんなの料理とパンが美味しいからだよ。俺はただ接客してるだけだって」

 

と謙虚な姿勢を示した。

 

するとお母さんとお父さんがやってきた。

 

「ああマm…お母さん、お父さんいらっしゃい。今席片付けるからちょっと待ってて」

 

俺は急いで片付けて、2人を案内した。

 

「注文は何にしますか?」

 

「じゃあこのパスタ2つ!!後〜沙綾ちゃん呼んでもらえますか??」

 

この野郎、ニヤニヤしやがって。でも今は立場上お母さんではない、お客さんだ。ご要望に答えるのが店員のすべきことだ」

 

「かしこまりましたー」

 

俺はオーダーを調理班に言った後に沙綾を連れて再び2人の元へ戻った。

 

「沙綾ちゃんこんにちは!明優のこと、これからもよろしくね!もう沙綾ちゃんがお嫁さんなら困らないわ〜」

 

「ちょっと!お母さん…それはちょっと…照れちゃいます」

 

そう言うと沙綾は手に持っているお盆で顔を隠した。その姿を見て俺ら家族は笑った。

 

店も繁盛していて忙しいので話はすぐに切り上げて再び仕事へと戻って行った。

 

 

午前の部は無事に終了し、午後の部の人にバトンタッチをした。

 

午後からは自由である。俺は沙綾と一緒に回ることを約束していたため、すぐに沙綾の元へ向かった。

 

「いやー繁盛したね〜、流石やまぶきベーカリーだよ」

 

「明優君すごい人気だったね!もう一躍有名人って感じ」

 

「目立つの慣れてないから恥ずかしくて仕方がないよ」

 

そんなことを話しながら俺らは回っていった。

 

途中羽丘の店でお昼ご飯を取ろうとして店に入るや否や、

 

「石田さん!私昨日の見てファンになりました!サインください!」

 

と言われてしまった。断るに断れない性格のため俺は

 

「書いたことないから変なのになっちゃうけどごめんね」

 

とだけ言って書いてあげた。

 

「ありがとうございます!彼女とお幸せに! 2名様ご来店でーす」

 

このやりとりは店中に響いていたらしく俺と沙綾は店中の視線を集めることとなった。

 

「沙綾、さすがにやばいよ。これは」

 

「そうだね、でも照れてる明優君新鮮で面白いよ!」

 

フォローになってないよ沙綾。

 

俺らは急いで食事を済ませた。

 

その後も俺らは射的だったりクレープだったり、お化け屋敷に行ったりして楽しんだ。

 

恥ずかしくて言えないが俺は大のお化け屋敷嫌いで紗綾に抱きつきながら叫びに叫びまくった。おかげで喉はカラカラだ。

 

「いやーまさか明優、お化け嫌いだとはね〜」

 

にやにやしながら俺の横っ腹をつついてきた。

 

「人には誰だって得意不得意あるからしょうがないでしょ!」

 

俺はこう答えるのが精一杯だった。

 

その後俺らはポピパのみんなの元へ向かった。バンドによるライブは後夜祭のイベントとして行われる。どうやらその打ち合わせらしい。

 

心無しか、天気が曇ってきているようだった。

 

「みんなおまたせ〜」

 

「さーや!待ってたよー」

 

出会い頭に戸山さんは沙綾に抱きついた。俺もこれくらい積極的だったらな〜。

 

「じゃあ打ち合わせ始めっか〜」

 

ポピパのみんなは黙々と打ち合わせを始めた。その横で俺はライブの仕事を確認していた。実行委員だったためこの仕事を任されることになった。でも仕事は簡単でマイクを手渡したり貰ったりするだけである。

 

「っと〜今確認するのはこれくらいか。じゃあ本番頑張ろうな!」

 

やっぱりこういう時は市ヶ谷さんが1番張り切るのだろうか。ツンデレ属性持ちは大歓迎だ。

 

と言ってこの時は解散となった。沙綾もトイレに行くから待っててのことだった。

 

今ここにいるのは俺と市ヶ谷さんのみである。

 

「なあ石田。昨日のMINE見たよな?」

 

「うん」

 

「じゃあ今更言う必要はないよな。今日のライブ楽しみにしてろよ」

 

と勢いよく指を指されて言われた。

 

「もちろん」

 

「そしてこれから沙綾のこと色々よろしくな。沙綾はいつも私達をまとめあげてくれるお姉ちゃん的存在だ。それで自分のやりたいことを我慢することがよくあったんだ。だから私達じゃ聞ききれないわがままを聞いてやって欲しいんだ」

 

「わかった。努力するよ」

 

「任せたぞ」

 

俺は沙綾の元へ戻って行った。

 

 

俺は今舞台袖にいる。いよいよ後夜祭のライブが始まろうとしている。

先陣を切るのはパスパレだ。

 

パスパレはステージへ出ていった。MCが入る。今日は噛まなかったみたいだ。練習では何回か噛んでいることがあったが本番には上手く合わせれたようだ。

 

パスパレの次はアフグロ、なんか久しぶりに聞く気がするな。少し演奏上手くなったんじゃないかな。音の響きとか力強さが前よりも格段にアップしている気がする。

 

そしていよいよポピパの番が近づいてきた。沙綾は心無しか緊張しているように見えた。

 

「頑張れ沙綾。俺も昨日頑張ったんだし沙綾達の演奏、誰よりも楽しみにしてるからさ」

 

と余裕そうにはにかんでみせた。

 

「うん、ありがとう明優君。頑張ってくるね!」

 

彼女のとびっきりの笑顔はまるで大輪の花のようだった。

 

ピピピピッ

 

ん?誰のスマホの着信だ?と思ったらその犯人はどうやら俺のようだった。しかも見知らぬ番号、いたずらかなぁと思いつつも急用だったら困るので出ることにした。

 

「もしもし石田です」

 

『石田さんですか!?今大変なんです!!あなたのご両親が交通事故に遭って!今すぐ花咲川病院まで来てください!!』

 

「…ぇ?」

 

何を言ってるかさっぱり理解ができない。交通事故?お母さんとお父さんの安否は???重傷度合いは?

 

「明優君どうしたの?」

 

沙綾が俺のことを心配そうな目で見つめる。

 

「父と母は大丈夫なんですか!?」

 

俺は舞台袖にも関わらず大きな声を出してしまった。周りにいた人たちにも緊張が走る。

 

『今ご両親はどちらも生死をさまよっています!!早く来てください!!』

 

………意味がわからない。何を言ってるんだ。悪戯であると言って欲しい。今日はエイプリルフールなんじゃないのか?現実を見ないように勤めていたが看護師さんと思われる女性の必死さからして悪戯なんてことはなかった。

 

「明優君!!行って!」

 

真っ先に声をあげたのは沙綾だった。

 

「でも……俺は…。この後も仕事が…」

 

予想外の事態に足が竦む。気が気じゃない、今にも倒れそうなくらいめまいがする。

 

「明優君の仕事は私が代わりにやるから!今は家族のことを優先してっ!」

 

そして沙綾は瞼に涙をいっぱいに貯めて

 

「…私たちの演奏はいくらでも聴けるんだからさ、、、」

 

昨日MINEでこんなことが送られてきていた。

 

市ヶ谷さんが『紗綾がお前に聞かせるためにめっちゃ練習張り切ってたんだよな。だから明日はちゃんと聴いてやってくれよな。明日の曲に''夢を撃ち抜く瞬間に!''が入ってるだろ?あれは沙綾の案なんだ。とある人の夢、野望を後押ししてあげたいって言って。もしかしたらお前のことなんじゃねーかと思ってよ』

 

沙綾が俺のために、俺にポピパの音楽を届けるために必死に練習しているとのことだった。''夢を撃ち抜く瞬間に!''俺は前にこの曲を聞いたことがある。なんだか心に染みる曲だった。沙綾が俺のために捧げてくれる曲。昨日の夜はそのせいで全く寝れなかった。

 

でも蓋を開けてみるとこの絶望的状況、家族の命が危ない。俺は苦渋の決断を強いられている。

 

「…ごめん沙綾。俺行ってくる」

 

走り始めた瞬間、ドラムスティックの落ちる音が聞こえたような気がした。

 

 

病院までの道のりは全く覚えていない。俺は無我夢中に走り始めた。土砂降りの雨の中だろうと今着ている服が制服だろうと。病院までは3km、

このくらいのランなら普段からしているが今日はこの距離がやけに長く感じた。

 

雨の勢いが強くなる。まるで俺の不幸を嘲笑うかのように。

 

~病院~

 

俺は病院の前に着いた。途中滑って転んだりして体はボロボロ、服はベチャベチャだ。そんなことはどうだっていい、俺は病院の中へ急いで入った。

 

「石田君!?こっちに来て!!」

 

看護師さんに連れられ俺はとある場所に来た。

 

集中治療室だ。

 

無論こんな汚い体で入ることは出来ない。だから俺はベンチに座り説明を聞いた。

 

「さっきなったことなんだけど、落ち着いて聞いてね…。今はあなたのお母さんは生死をさまよっているわ」

 

…え?お父さんは?…なんでお父さんについては触れないんだよ。

 

「父は!?父はどうなんですか!?」

 

「…。」

 

俺は固唾を飲んだ。今はこの沈黙がとても苦しかった。

 

「あなたのお父さんは…轢かれた時にもう…息を引き取ったわ」

 

「………。」

 

人は本当に驚いた時声が出なくなると言う。今まさに俺はその状態だった。冷や汗が止まらない、雨のせいか体がかじかむ。状況が理解できない。俺は腰を抜かしてしまった。

 

「あなたのお父さんは轢かれた時頭を潰されたわ。現場には血液だけじゃなくて脳「もういい!!もういいですから……」

 

言葉にならない。俺は看護師さんの話を遮った。聞くに耐えなかった。

 

憂鬱で絶望的な気分が胃のそこまで広がる。今にも吐き出してしまいそうだった。

 

唖然としていると緊急治療室の扉が開いた。

 

「お母さん!お母さん!」

 

担当医の人が出てきた。

 

「今は一命を取り留めました。ですが安心は出来ません。いつ息を引き取るかは分からない状態です」

 

そう言われた。出てきたお母さんの姿は見るに堪えないものだった。体はボロボロ、多量出血のせいか体が白い。いつも元気なお母さんとは考えられない姿だった。

 

~病室~

 

あの後お母さんは個室に移された。俺はただ無数のチューブで繋がれたお母さんを見ることしか出来なかった。

 

「明、、、優…来てくれたの?」

 

お母さんが呼吸機を外していきなり話しかけてきた。今の今まで意識がなかったはずなのに。

 

「ママ!なにやってるの!?早くこれ付けてよ!死んじゃうって!!!」

 

お母さんの予想外の行動にてんやわんやしていた。

 

「わた…しはもう…長くないわ…だから、、、最後に…」

 

「何言ってるの!?そんなことない!まだママは生きていける!だから!!」

 

お母さんは首を振った。

 

「あな…たは、、目的を果たしなさい…、きっと…できるから…お父さんも…お母さんも…あっちで、、応援してるから、、、それと沙綾ちゃんのこと…大切にしなさい…」

 

「おい!ママ、、何言って…!」

 

ピッー

 

心電図の値がゼロになる。それと同時に掴まれていた両手は崩れ落ちた。

 

「…っっ!!」

 

俺は静かに、ただ呆然と立ち尽くして泣くことしか出来なかった。この1時間にも満たない時間で俺の幸せだった生活は一気に絶望の淵に落とされた。

 

さっきまで笑いあって話していた人達が…ほんの数時間でいなくなってしまった。つまり俺は独り身だ。

 

不安と恐怖と絶望で首まで心臓が心臓が飛び上がったように苦しい。

 

先のない暗い身の上のことが今日の暗雲のように頭上に覆いかぶさってくる。

 

「…俺は一体、、、どうやって生きていけばいいんだよ、、、、、」

 

こんな空虚な穴を抱えたまま生きることなんてできやしない…。

 

いつまでもこんな幸せな生活が続くんじゃないかと勘違いしていた。絶望していた時に親身に寄り添ってくれた両親はもう…この世にはいない。あの頃を忘れて今の生活に甘んじていたのかもしれない。

 

俺は…俺は…

 

俺は呼び出しボタンを押し、崩れ落ちるようにそのまま気絶してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 




展開が急すぎましたね…。

感想やお気に入り登録等してくれたら幸いです。


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第16話 少年、決意する

いつも以上に拙い文章です


 知らない白い天井、白い壁、そして特有の強い消毒液の匂い。ここが病室であることが安易にわかった。

 

 カーテンの隙間から朝日が射し込む。どうやらもう朝みたいだ。

 

 足元に何かを感じる、視線を移すとそこには私服姿の沙綾がいた。

 

 起こさないようにそっと立ち上がった。頭がクラクラするしめまいもする。そもそもなんで俺はここにいるんだっけ……。

 

 少しの毛布の擦れる音で沙綾は起きてしまった。

 

「……おはよう」

 

 なんだか力が出ない、それ以上の言葉は思いつかなかった。

 

「ねえ、沙綾はなんで俺はここにいるんだろう」

 

「そ、それは明優君が!k「そうか!俺は悪夢を見ていたのか。ねえ沙綾、昨日親がどっちとも死ぬっていう夢を見ちゃってさ〜ほんとに最悪だったよー」

 

「明優君……」

 

「縁起悪いよな本当に、文化祭の後にこんな夢、思い出すだけで……」

 

 本当はわかっていた。昨日の出来事が夢じゃないなんてことくらい。でもこうしないと自分を保つことが出来なくて、

 

「…………」

 

 今目覚めて確信した。昨日のは夢じゃないんだって。きっと心のそこで俺は夢であって欲しいって思って眠りについたんだって。

 

「沙綾……つねってくれない?」

 

「え?でもっ……「いいからっ!!」

 

 語気が自然と強くなる。人に八つ当たりしちゃいけないことくらいわかっているのに。でも俺は最後の希望を捨てに捨てきれなくて。

 

 沙綾は俺の頬をつねる。

 

「…………やっぱり、夢なんかじゃないんだ、」

 

 その事実は俺の希望を完璧にぶち壊すには十分すぎるものだった。

 

 怒りや悲しみ、なんにもできなかったことに対してなのか涙が止まらない。

 

 あの時、呼吸機を無理やりにでも付けさせていたら……。結果は変わっていたかもしれない。過去のことを悔やんでると涙がまた溢れ出てくる。

 

 静かな病室に俺の泣き声と鼻をすする音が響く。

 

「もう、帰ってくれ…………」

 

「え……?」

 

「帰ってくれっていってんだろ!!!…………1人に、させてくれよ、」

 

 今の俺に沙綾のことを思いやることなんか到底無理なことだった。とにかく今は1人になりたかった。

 

 沙綾は何も言わずに帰って行った。帰り際に見せた一筋の涙が俺の頭から離れなかった。

 

 

 

 ただぼーっとする。現実なんて見れたもんじゃない。でもその度に思い出される昨日の出来事。頭がガンガンする。

 

 悔やんでも、叫んでも、願っても、目を背けても、もう会えない。

 

 会うことなんて叶わない。

 

 日常は帰ってこない。

 

 俺の手元にあるのは家族が死んだ。その事実ただ一つだけだった。

 

 

 その後俺は医者から説明を受けた。どうやら俺は3日間、意識を失っていたらしい。轢いたやつは飲酒運転で終わらず、居眠り運転、そして無免許だという。怒りよりも先に呆れが来た。

 

 判決は無期懲役らしい。

 

 なんで更正の余地なんて与えるんだろうか。なんで平等に命を奪わせてくれないんだろうか。もう死んでしまった人にチャンスはない。でもなんで、あんな運転をする無責任なやつには生きるチャンスが与えられるんだ。

 

 それが何よりも悔しかった。顔も名前も知らないただの他人が憎くて憎くてしょうがなかった。

 

 

 意識が朦朧とする。医者からは雨に打たれた時に風邪を引いたのと精神的ストレスの影響らしい。

 

 もう何もする気にはなれなかった。

 

 

 

 ~沙綾side~

 

『帰ってくれって言ってるだろ!!!』

 

 彼の声が木霊する。何も出来なかった自分を責めることしかできない。

 

 私が彼の気持ちに寄り添ってあげれれば、彼は……。

 

 

 私達は発表が終わった後急いで明優君の所へ向かった。

 

 病室に行った時は明優君お母さんはもう……そして明優君は倒れていたりで大パニックだった。

 

 その後彼は入院した。いつ意識が戻るか分からないから私達ポピパやアフグロ、ロゼリア、パスパレ、ハロハピのみんなで交代で看病した。もちろん須高君と桐間君も参加してくれた。

 

 あまり面識のない人達もいたけど、バスケのおかげか明優君の人気は凄まじく二つ返事でOKしてくれた。

 

 私はパン屋さんの手伝いの時以外はずっと明優君の看病に回っていた。

 心配で心配でしょうがなかったから。

 

 彼は入院3日目の朝に目を覚ました。でも彼はもう心も体もボロボロで見ていられなかった。言葉の1つさえかけてあげれなかった。

 

 私は病室から出て泣き崩れた。何も出来なかった自分が悔しくて。

 

 

 

 家に帰っている途中に有咲に出会った。

 

「おい!沙綾どうしたんだ!?目の周り真っ赤に腫らして」

 

「ううん、何でもない、何でもないの……」

 

「そんなわけあるか。1回蔵来い、話聞かせてもらうぞ」

 

 私達は蔵に移動して私は有咲に今朝あったことを話した。

 

「……病院に行ってくる」

 

「え?でも明優君は1人にしてくれって……」

 

「行かなきゃならない。話をしてくる。沙綾は家帰ってていいぞ、ここ最近ろくに寝れてないだろ?それとみんなに石田が目を覚ましたって送っといてくれ」

 

「え?うん、わかった……」

 

 そう言って有咲は蔵から出ていった。

 

 

 

 ~明優side~

 

 心にぽっかり穴が空いてしまっているような気がする。スマホを触る気にもなれない。たくさんのMINE、返さないと行けないとはわかっているのに。

 

 白い天井とにらめっこを続けて2時間が経過しようとしていた。

 

 誰かが入ってくるような音が聞こえた。看護師さんだろうか。

 

 その予想は大きく外れた。俺の目の前に立っているのは金髪ツインテールが特徴のあの子だった。

 

 バチンッ

 

 出会い頭、俺は市ヶ谷さんに叩かれた。いきなりの出来事に呆然とすることしか出来なかった。

 

「お前沙綾がどんな気持ちで!!お前のこと待ってたかわかってんのか!?沙綾はお前が眠ってた3日間、時間さえあればお前のところに行って、ずっとお前のそばにいて!!そして沙綾はお前がもしかしたらショックで目が覚めないかもって思って心配してたんだぞ!?」

 

 市ヶ谷さんの勢いは止まらない。

 

「文化祭の時もな、お前が行ったあと沙綾は泣いてて、よっぽどお前に聞いて欲しかったみたいだぞ」

 

 罪悪感が芽生える。

 

「それなのにお前は!!沙綾の気持ちを踏みにじって!追い返しやがって!!何が任せろ、だ!ふざけんな!」

 

 ……何もわかってなかった。俺はただ自分の気持ちを優先していた。沙綾はどれだけ辛い思いをしてたんだろうか。

 

「……私には家族がいなくなる気持ちなんてわからない。でもお前のお父さんもお母さんもいつまでもうじうじすることなんて願ってないと思うぞ」

 

「最後、お母さんとは話せたのか?」

 

 俺は頷く。

 

「……その時なんて言われた?」

 

 俺はその瞬間ハッとなる。俺が言われたのは……

 

「目的を果たせ……沙綾のことを幸、せに……」

 

 俺は最低なことをした。自分の彼女を傷つけた挙句母さんとの約束すら果たせないなんて。

 

「……お母さんとの約束果たせよ。ほらシャキッとしろ!シャキッと!」

 

 俺を元気づけるかのように背中をひっぱたいてきた。

 

「市ヶ谷さん、ありがとう……」

 

「おう、でももう1人お礼を言うべき相手がいるはずだ。おーい!沙綾」

 

 というと扉から沙綾がひょこっと顔を出した。

 

 俺は真っ先に

 

「ごめん……沙綾。何も考えてなくて」

 

「ううん、いいの。私こそ何も出来なくて」

 

「これからはしっかり現実を受け止めるよ。ちゃんと約束も果たす。でも最後に1個お願いがあるだ」

 

「なに?」

 

 そう言うと俺は沙綾に抱きついた。

 

「俺、やっぱり辛くて、家族がいきなりいなくなるなんて思ってなくてっ!!」

 

「あーあー、よしよし」

 

 俺は沙綾に抱きつきながら赤ん坊のように泣きじゃくった。泣きに泣きまくった。体中の水という水を出し尽くす勢いで。彼女の温もりが、彼女の匂いがたまらなく愛おしかった。

 

 ひとしきり泣いた後俺は沙綾から離れた。

 

「2人ともありがとう、おかげで心の整理が出来たよ」

 

「どういたしまして。あ!そういえばお腹減ってたりしない?パンいる?」

 

「欲しい!」

 

 正直に言うとお腹がめっちゃ減っていた。3日間、何も食べてなかったから尚更だ。

 

 もちろんもらったのはクリームパンだ。

 

「明優ちゃ──ん!!心配したよ〜!」

 

 こんなやつ知らないぞ、と思ったら夢生だった。心穏もセットでいる。

 

「……お前もう大丈夫なのか?」

 

「うん、心の整理がついたよ」

 

「そうか、バスケは?しばらく休むか?」

 

「いいや、退院したらすぐやる。俺は母さんとの約束を果たすんだ。絶対にリベンジする、だから休んでる暇なんてない」

 

「……待ってるぜ」

 

 そんなやり取りをした後2人は帰っていった。

 

 沙綾がすうすうと寝息を立てて寝ている。

 

「沙綾寝てるな。実はお前のせいで全然眠れてないんだぞ」

 

「まじ?それは本当に申し訳ないな……」

 

 確かによく見ると隈が出来ている。

 

 ……本当にずっと看病してくれたんだな。

 

「市ヶ谷さん、ちょっとあっち向いてて」

 

「え?お、おう」

 

 市ヶ谷さんは困惑しながらも指示に従ってくれた。

 

 俺は沙綾の元へ近づき、沙綾のほっぺにキスをした。

 

 いつかは面と向かってするから。それまでは待っててほしい。

 

 

 

 

 ──────────────────────ー

 

 

 

 

 その後俺は無事退院した。

 

 家に帰るとそこには誰もいない。やっぱり本当だったんだって。でも今の俺はそれを受け止められる。もう覚悟を決めたんだ、約束を果たすって。

 

 3人で暮らしていた時は若干狭く感じたが、1人になると広く感じた。楽しく3人で食卓を囲むことは今後一切ない。あの平和な日々はいくら願っても戻ってくることは無い。俺はただ思い出に浸ることしか出来なかった。

 

 俺の家には多額の遺産や損害賠償金が入ってきた。生活費のためにバイトをしなくては、と考えていたが杞憂に終わった。少なくとも俺が高校生活を不便無く送れるくらいのお金は余裕である。

 

 忌引休暇の中で俺は葬式をした。もう2人とも俺の知っている姿ではなくなっていた。

 

 でも俺は現実から目を背けないって決めた。確かに見るのは辛かったけどこれも現実として受け止めた。

 

 葬儀を終え、家に帰ってきた。もちろん誰もいない。

 

 俺は仏壇に手を合わせる。

 

 ママ、パパ、俺頑張るから。天国でも見ていて欲しい。俺の勇姿、生き様を。絶対に約束を果たしてみせるから。俺をそばで見守ってて。

 

(頑張るのよ)

 

 お母さんの声が聞こえた気がした。家中を探し回ったがいるはずがなかった。でも確かに聞こたんだ。だから俺は

 

「ありがとう」

 

 と伝えた。

 

 うじうじしていられない。俺は何かに取り憑かれたかのように公園へバスケをしに行った。

 

 

 

 

 



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第17話 少年、噛み締める

両親がこの世からいなくなってもう何度目かの朝だった。

 

母さんの元気の良いモーニングコールがここにきて恋しくなった。

 

でも同時にわかったことがある。俺はあれがなくてもちゃんと時間通りに起きれるということだ。ただお母さんの気遣いに甘んじていたんだ。

 

いつも通りリビングへ降りる。そこは朝からいつも俺に騒がしさを伝えてくれる。

 

がらんどうとしているリビング。俺はポツンと1人、ここにいる。

 

沈黙を破るかのようにカーテンを開け、テレビをつけニュースを見る。

今日は清々しい程の小春日和だ。

 

暖かい服が恋しい季節、俺はTシャツにバスパンといういかにも夏、というような服装を卒業。ウィンドブレーカーに身を包み外へ出た。

 

「いってきます」

 

誰もいないことは重々承知している。あくまでこれは習慣、そして仏壇にいる両親への挨拶だ。

 

晩秋にしては暖かく感じた。ウィンドブレーカーのおかげだろうか。

 

普段通っているこの道も今は赤や黄色、茶色で彩られている。

 

落ち葉がひらりひらりと俺の頭に落ちてくる。真っ赤な椛、俺には情熱なんて言葉はミスマッチだと思う。

 

両親がいなくなっても生活のリズムを変えなかった。見守ってくれてるって信じてるから。サボることなんて出来ない。

 

公園も全く変わっていない。変わったのは俺の日常だけ。でもできるだけ日常に近づけれるようにまた今日もシュートを打つ。

 

両親がいなくなって一日目のバスケ、それはもう酷い有様だった。俺が俺じゃない感じがした。

 

言葉では大丈夫、絶対に俯かないと宣言したものの心も体もついてきていなかった。

 

思った以上にズタボロだった俺の心、シュートタッチにもそれは影響しことごとくシュートを外し続けた。

 

ぽっかり空いてしまった俺の心を真っ先に愛情で埋めてくれた人はもうこの世にはいない。

 

でも今はいるんだ。沙綾が。

 

沙綾がみんなが俺の心に寄り添ってくれた。俺は認識がなかったけどガールズバンドの人達も俺のことを慰めてくれた。

 

もちろん夢生と心穏だって大切な友達だ。あいつらが俺をここまで導いてくれたんだ。俺にバスケをやる活力を見出してくれたのは紛れもなくあいつらだ。

 

俺の学校生活をそして高校生としての青春を彩ってくれているのは沙綾だと思う。

 

日頃から市ヶ谷さんとか羽沢さんとかにはお世話になっている。

 

市ヶ谷さんは怖いが俺の良き理解者だ。精神的に崩壊してきた俺を連れ戻してくれたのは、ビンタで俺の目を覚ましてくれたのは市ヶ谷さんだ。

 

俺はコーヒーが好きだ。沙綾達と行ったあの日から羽沢珈琲店の常連となった。

 

そんな羽沢さんに俺はよく相談を持ちかけていた。告白する時も実は相談しに行っていた。

 

あの時の羽沢は頬を赤らめいかにも女の子といった素振りをしていた。大いなる普通と言われている彼女も言葉を選びながら俺にアドバイスをしてくれた。

 

お世話になった人を挙げて行ったらキリがない。たくさんの人に支えられてるんだって実感できた。

 

そんな中でも沙綾はずっと一緒にいてくれた。

 

文化祭の日勇気を出して告白した。彼女と両想いって知った時には嬉しさで舞い上がりそうだった。

 

それも束の間悲劇が起きた。

 

俺の意識がない時も彼女は俺のそばにずっとい続けてくれたらしい。そんな彼女を俺は追い払ってしまった。

 

彼女の一筋の涙は今でも尚、鮮明に俺の脳裏に焼き付いている。

 

情けないと思った。お礼の1つも言えない俺を。轢き殺した犯人を凌駕する勢いで憎たらしく思う。

 

そんな彼女は全く怒っていなかった。むしろ自分を責め続けていた。なんにも声をかけてあげれなかったって。

 

俺にとっては衝撃だった。何もかも終わったと思っていたが彼女は俺を見捨てていなかった。

 

抱きついて泣きじゃくる俺を彼女は優しく慰めてくれた。まるで赤ん坊をあやすお母さんのように。

 

彼女の匂いが、温もりが俺にとってはお母さんのようで、離れたらどっかに行ってしまいそうで。

 

付き合う前から彼女とは一緒にいた。

 

みんなで勉強会をしたりライブを見に行ったり、はたまたショッピングからのお泊まり会だったり。彼女とは何かと一緒にいる機会が多かったと思う。

 

過去の話をした時は感極まって泣いてしまったっけ。その時も彼女は寄り添ってくれて。そこから俺は彼女を好きになった気がした。

 

ドラムを引いている彼女が印象的だ。俺といる時とは違う笑顔を見せてくれる。

 

本当にバンドが好きなんだなって思って。

 

実は退院後市ヶ谷さんの蔵でライブをした。通称クライブと言うらしい。

 

文化祭で披露した曲を俺に見せてくれた。沙綾が見せたいって言って。我儘を貫き通したらしい。

 

俺は感動した。涙も出そうになったが我慢した。夢を撃ち抜いて欲しい、コドウを感じ取って欲しいって。

 

沙綾も以前似たような出来事があったとのことだ。

 

ポピパを組む前に"CHISPA"というバンドを組んでいたらしく、お祭りでライブする予定だったがお母さんが倒れて沙綾だけが出られなかったらしい。

 

そんな自分を責め続けた結果、彼女はやめた。バンドは嫌いじゃないけどみんなに迷惑はかけられない。私だけが楽しんじゃいけないって思って。

 

でもバンドへの思いが途切れることはなくポピパのみんなからの熱い希望により入ることに決めたということだ。

 

彼女はポピパを自分が我儘になれる場所、と言っている。俺にもいつかその言葉を言って欲しい。

 

俺の白と黒の2色しかなかった学校生活を彩ってくれたのは沙綾だ。感謝でいっぱいだ。

 

そんなことを考えているとミルクピンク色の髪色が特徴的の彼女がやってきた。

 

普段はポニーテールだが今日は下ろしている。

 

そんな彼女が色っぽく見えた。

 

「おはよう」

 

「おはようー」

 

いつも通り挨拶を交わす。こんな瞬間でもたまらなく愛おしい。

 

彼女は今日も今日とてパス出しに専念している。ちなみに俺は純君と紗南ちゃんと遊ぶ時もバスケをする。

 

彼女に見守られながらシュートを淡々と打つ。今の俺の姿は彼女にはどのようにして写っているのだろう。

 

彼女からもらったものはとんでもなく多い。一生をかけて返せたらいいなと俺は思う。

 

 

 

 

俺は何食わぬ顔で校門をくぐる。もちろん俺の隣には沙綾がいる。最初こそドギマギした感じだったが今ではすっかり安心感を覚えている。

 

教室に入るとすでに奴らはいる。初めは毎度いじってきていたが今はネタが無くなったのか、そんなことはなくなってしまった。

 

文化祭以来、俺はクラスの中心になったみたいだ。おかげで毎日男子からも女子からも引っ張り回されている。

 

そんな俺を沙綾はいつも見守っている。

 

でも2人きりになるとそれの埋め合わせかのように甘えてくる。どうやら嫉妬しているようだ。

 

そんな彼女は可愛らしい。

 

いつもはお姉さん的存在として振舞っているが、俺に見せるこの1面、みんなにも知ってもらいたいものだ。

 

最初こそクラスのみんなに心配された。突然の俺の離脱に打ち上げどころではなかったようだ。打ち上げは俺が元気になってから行われた。

 

俺のことを思ってくれての行動がたまらなく嬉しかった。

 

1年前は青春とは程遠い存在だと思ってた。だけど今は沙綾がきっかけで俺の目の前にそれが来ている。

 

これが高校生活なんだって。

 

今までいじめられて荒んだ高校生活を送っていたのが嘘なんじゃないかって思うくらいに充実している。勉強もプライベートも友人関係も。

 

 

 

 

部活にもあれ以来熱が入り続けている。

 

入部してだいぶ時間がたった。遠慮なんていらない。俺は自分の持ち味を磨き続ける。

 

仲間と切磋琢磨し合えることに喜びを覚える。

 

あんな荒んだ部活とはもう無縁だ。

 

ウィンターカップ予選、つまりアイツらとの再戦も目の前に迫ってきている。チームとしても緊張感が走る。

 

東京からは3校出られることになっている。1つは大禪高校だ。もう2つを巡って争う。

 

ウィンターカップ出場も大事だが俺にとってはリベンジの方が大事だ。

 

俺の全てをかけた戦い。両親の思いを背負って挑まなければならない。

 

ここまでサポートしてくれた両親への約束を果たすために俺はバスケをし続ける。たとえ足が折られようと、腕がもげようと。

 

 

家に帰ると明かりが付いていた。

 

「おかえり明優君」

 

「ただいまー」

 

台所には沙綾がいる。退院後私が面倒を見るって言って聞かなくて、合鍵を渡した。

 

最初こそ抵抗はあったが彼女はそれを悪用することはなかった。

 

週に2、3回ペースで家に来ている。今日は金曜日のため泊まるようだ。

 

 

 

「お風呂にする?ご飯にする?それとも…わ・t「お風呂にします」

 

こんなやりとりもすでに数え切れないほどやっている。

 

その度に彼女は笑う。

 

沙綾にするって言ったこともあったが彼女は俺が言うとは思っておらず顔を薔薇のように紅潮させてたっけ。

 

湯船に浸かりながら今日の出来事を振り返る。特にこれといって変わったことはなかった。

 

風呂から上がるとご飯は出来上がっていた。

 

今日の夕飯はご飯にお味噌汁、生姜焼きにサラダといったものだった。

 

彼女の作るものは全て美味しい。俺の好みにバッチリアジャストしている。

 

自分で飯が作れないわけじゃない。むしろ作れる方である。

 

だけど人の作る飯がたまらなく恋しくなる時がある。

 

お母さんの作る卵焼きをもう一度食べてみたいものだ。

 

「うん!美味しいよ!」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

そう言い彼女は微笑む。そんな笑顔がとても眩しかった。

 

「ねえ沙綾、忙しかったら無理して来なくていいからね?俺も自分でするからさ」

 

「ううん、いいの。私が好きでやってることだし。姉としての気持ちが出ちゃうんだよね〜、ほおっておけないっていうか」

 

彼女はニカッと笑う。

 

「でもいつもありがとう。…今日も一緒に寝よ?」

 

「もちろんそのつもりだよ〜」

 

彼女が泊まりに来た時は毎回一緒に寝ている。俺はいつも緊張するのだが彼女はもう慣れてしまったらしい。

 

 

夕飯を終えた俺たちは今日のNBAの試合を見て、歯磨きをし、布団へと潜り込む。

 

「…沙綾、暖かいね」

 

「ふふっ、明優君も暖かいよ」

 

背中合わせに寝ていたお泊まり会の頃とは違う。今は抱き合って寝ている。彼女の大きくもなく小さくもない2つの膨らみが俺に当たる。

 

その度にドキッとしてしまう。この時に俺は意外とあるんだなって思った。

 

「明優君、おやすみ」

 

「うん、おやすみ」

 

そう言って瞼を閉じた。

 

予選まで後10日。

 

俺の全てを賭けた戦いがもう目の前に迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第18話 そうだ、旅行に行こう

私事ですがTwitterを始めました。
https://mobile.twitter.com/tuku_bou リンクになります。
多くのバンドリーマーの皆様と繋がれたらなと思います


 ウィンターカップ予選ももうすぐ目の前に来ていて、内心ピリピリしていた。

 

 それなのに今日の練習は休みだ。ちなみに明日も。

 

 俺はいてもたってもいられず家から飛び出てバスケをする。

 

 1本1本に熱がこもる。勝負どころを常に想定し実践に向けて動作を交えながら。

 

 ただそれはあくまでイメージであって実際とは程遠い。ディフェンスの圧は実際に受けてみないとわからない。

 

 かといって今目の前にいる沙綾にディフェンスをしろなんてことは言えない。

 

 夢生と心穏を呼ぶことも考えたが生憎、どちらも家庭の事情で今日は忙しいらしい。

 

 1人でできる練習には限りがある。シュートを打つか、ドリブルをするか、フットワークを鍛えるか。

 

 次は何をしようかとスポーツドリンクを飲みながら考えていた。

 

「ねえ明優君、いいこと思いついたんだけどさ」

 

 何やら沙綾にはいい案があるようだ。気になって俺は身を乗り出して耳を傾けた。

 

「今からどこか旅行に行かない?」

 

「……はい?」

 

 予想もしてなかった答えに思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

「旅行って……。今どんな時期だか沙綾にもわかるでしょ」

 

 もうウィンターカップは目前なんだ。そんなことはできないと一蹴しても良かったがそれは気が引けたので沙綾にもう一度考え直すように促した。

 

「いや、ちゃんとした考えがあるの。むしろこんな時期だからこそ、だよ」

 

「こんな時期だからこそ?」

 

「そう!明優君は文化祭終わった後から毎日バスケに明け暮れてるじゃない?暇さえあればバスケで。確かに練習は大切だけど、時には体を休めることも必要だと思うんだよね」

 

「確かにそれは一理あるね。でも……」

 

 確かに沙綾の言っていることは間違っていない。体を休ませることはとても大切だ。それを怠っている俺を思っての行動だろう。だけどバスケから離れるのが怖かった。

 

「そして明優君、自分で気づいてるかわからないけど足、ガクガク震えてるよ。ちゃんとケアしたりしてる?」

 

 言われてみれば俺の足は現在進行形で震えている。最近は面倒くささもあってストレッチをサボり気味だった。そレも相まって俺の体は悲鳴をあげる寸前のように感じた。

 

「対戦前に体を壊しちゃ元も子もないでしょ?だから今日と明日は休養に当てるのはどうかと思って」

 

 ここで怪我したら全てが終わる。何を糧に頑張ってきたんだってことになる。だから俺は沙綾の案に乗ることにした。

 

 体の休養だけじゃない。最近沙綾は俺が公園でバスケするってなったら毎回のように一緒に来てくれる。そんな沙綾にも休んで欲しいと思って旅行に行くと踏み切ることにした。

 

「わかった、行こう。心配させてごめんね」

 

「ううん、いいよ。それで実は行く前提でもう行き先は決めてあったんです!」

 

 と言って沙綾はポケットからスマホを取り出して俺に見せてきた。

 

「え、意外と近い……」

 

 行き先はもう既にいるここ東京だ。

 

 沙綾曰く、あんまり遠出しすぎてもトラブルに巻き込まれたどうなるかわからないから、とのことだ。

 

「わかったよ。それでそのプランだと日帰りではないよね?ホテルかどっかに泊まるの?」

 

「もちろん、奮発して良さそうなところ予約しといたから」

 

 俺が行かないって駄々を捏ねたらどうするつもりだったのだろうか。予約までして、用意周到だ。

 

 

 その後俺らは一時解散。そしてやまぶきベーカリー前に集合した。

 

 俺はお金やら服やら下着やらをバックに詰め込んで来ただけだ。

 

 沙綾もそこまで荷物は多くなさそうだ。

 

 沙綾のお母さんに挨拶をして俺らはやまぶきべーカリーを出た。沙綾のお母さんのニヤニヤした顔が忘れられなかった。

 

 沙綾のプランには一つだけ明確な行き先があった。滝野川八幡神社だ。

 

 滝野川八幡神社は800年以上の歴史があるという古社のうちの一つだ。

 

 祭神は品陀和氣命(ほんだわけのみこと)。受験や就活中の学生だけでなく、多くの人が必勝祈願に訪れているパワースポットのようだ。

 

 滝野川八幡神社を訪れるのは毎月1日、15日がおすすめなんだとか。

 その日限定で授かれる"金の御朱印"に勝負運アップの効果があるらしい。

 

 しかも今日は15日、行くなら今日しかない。絶好の参拝日和だと。

 

 そう、沙綾が力説していた。ふふん、と誇らしげな顔が可愛らしかった。

 

 沙綾は俺のことを思ってこの行先にしてくれた。感謝でいっぱいだ。

 

 電車で40分程度なので比較的早くついた。好意を抱いている人といる時間は長いようであっという間だ。

 

「う──ん、着いたねー」

 

 沙綾は伸びをしながら俺に話しかけてきた。その後見せた沙綾の欠伸は新鮮さを感じた。

 

 俺は着いてすぐに本殿に向かって参拝する。絶対勝てますように。ただそれだけを願った。それさえかなってくれれば十分だったから。

 

 そして俺らは金の御朱印と勝利を引き寄せるという"V勝守"も買った。

 

 金の御朱印には勝利のVサインとピースサインをイメージしたデザインの金のステッカーもついてきた。この御朱印には勝利と平和への思いが込められているんだとか。

 

 やるべきことを済ませて俺らは神社から出た。

 

「で、これからどうするの?」

 

「実は言ってなかったけど、今から京都まで行きます」

 

「はい?」

 

 突然すぎて目が飛び出でるかと思った。

 

 ちなみに言うと京都には行ったことがない。その上俺は北海道と東京意外の地に足を踏み入れたことがない。

 

 このままだと京都が3つめの地となりそうだ。

 

 俺はその後、沙綾に引っ張られ駅まで行き、そこで駅弁を買って新幹線へと乗った。

 

 普段新幹線など乗る機会がないからてんやわんやすると思っていたが、沙綾がチケットを慣れた手つきで買ってくれたためそんなことにはならなかった。

 

 流れゆく景色を窓際の席で眺めながら2人で食べる駅弁は格別だった。

 

 俺と沙綾は今現在進行形で炊き込みご飯にがっついてる。

 

 まあがっついてるのは俺だけで、沙綾はさぞ上品に召し上がっていた。

 

「ねえ沙綾、この後の予定は?」

 

 俺はまだ何も聞かされていない。しかし沙綾なら割と綿密な計画をしているだろう。でも俺の予想は期待外れに終わる。

 

 沙綾は何も考えていないと言った。時間はたっぷりあるから今から考えるということだ。「ぶらり旅って憧れない?」と言った彼女の目は冒険にワクワクする少年のようにキラキラしていた。

 

 そして俺と沙綾は情報誌や文明の利器を駆使し行き先を決めた。ホテル周辺に限定しなるべく足を酷使しないような、そんなプランを立てた。

 

 俺らの泊まるホテルの近くには清水寺があったためそこに行こうという話になった。1日に2つの神社に参拝しに行くことなんて今後ないだろうと思う。

 

 その後沙綾は寝てしまった。俺の肩にもたれ掛かる形で寝ているため不用意には動けなかった。

 

 沙綾は目的の駅に到着するまで起きることは無かった。俺はそんな沙綾を横目に見ながら電車からの景色をただぼ〜っと眺めていた。

 

 花をつまんでみたり、ほっぺたをつねってみたりしても起きなかったので耳に息を吹きかける。そうすると沙綾は「ひゃあ!!//」と声を上げながら飛び起きた。そんな沙綾がとても可愛らしくて思わず笑みが零れてしまう。

 

 幸い新幹線はここが終点だったので、俺らは荷物を持ち悠々と下車することを許された。

 

「うわぁ、初上陸だー!」

 

 思ってもみなかった初上陸に自然と胸が高まる。それはどうやら沙綾も同じだったらしく2人して同じような反応をした。

 

 チェックインは後で、と言うので早速俺らは電車に乗り清水寺まで向かった。

 

 春は桜で満開、秋は紅葉が美しい清水寺も今はすっかり落ち葉まみれだ。

 

 本堂に本日2度目のお参りを済ませた後俺は音羽の滝を見に行った。

 

 音羽の滝はお寺の名前の由来ともなった清らかな水が流れ落ちる滝だ。約4メートルの高さから落ちてくる水を長い柄杓で汲み、願い事をしながらひとくちいただけば、願いが叶うとされている。

 

 滝の水は観音様の功徳水とも呼ばれ・健康・長寿・学業上達そして良縁のご利益があるという。

 

 俺と沙綾はその水をいただき願い事をした。

 

(沙綾とこれからずっと一緒にいられますように)

 

 ゆっくり参拝したあとは清水寺周辺で食べ歩きをした。

 

 そこはいかにも京都らしい街並みにお店が広がっていた。

 

 抹茶のクリームがいっぱいに詰まったシュークリームや八つ橋を食べたりした。

 

 特に八つ橋は注文を受けてからその場で作ってくれたため、出来たてホヤホヤで味は言うまでもなく絶品だった。

 

 他にも抹茶ソフトやおまんじゅうを食べた。正直もう夕飯なんていらないくらいだった。

 

 すぐそこにあった野点傘の下でまったりお茶と団子を頂いていると後ろからシャッター音が聞こえた。

 

「すみません、あまりにも綺麗だったもので。嫌だったら消します」

 

「いえいえ全然大丈夫です。良ければその写真見せてくれませんか?」

 

「もちろんですよ。ついでに現像してお2人にお渡ししますね」

 

 渡された写真には俺と沙綾の後ろ姿が映し出されている。お互い顔を見合っていて笑っている。手を重ね合っていていかにもカップルと言った感じだった。

 

「これからもお2人でかけがえのない愛を育んでください」

 

 そう言って名も知らぬカメラマンはどこかへ行ってしまった。

 

 もう一度見る。夕焼けに照らされた俺らはどことなく幸せなオーラを出していた。それにほっこりとしてしまう。

 

 夕焼けに照らせられている彼女の横顔は美しい。普段は可愛いと思うが今日は何故か凛々しく見える。

 

 俺らはみんなへのお土産を買って清水寺から去った。

 

 そしてその後俺らはホテル?というよりは旅館に到着した。

 

 沙綾は旅費の削減のため!とか言って2人部屋にした。

 

 一緒に寝るような仲だけども何故か緊張してしまう。

 

 部屋は2人で泊まるにしては十分くらい広すぎた。京都の街並みも窓から一望できる。大当たりだ。

 

「とりあえずここの旅館、温泉あるみたいだから入りに行かない?」

 

「そうだね。露天風呂らしいよー」

 

 俺らは各々着替えを準備して更衣室目の前で立ち竦んでいた。

 

 何故かって?それはここの温泉、どうやら混浴らしいからだ。

 

 更衣室こそ別れているその先は一緒って……

 

 一緒に寝たことは沢山あるがお風呂までご一緒したことなんて1度もない。

 

「沙綾先入ってきていいよ。俺は後で入るから」

 

「いや!明優君も一緒に入ろ?」

 

 沙綾の上目遣いからのお願いに拒否することは出来ず俺は泣く泣く温泉に入ることになった。

 

 いざ露天風呂に行くと人影が1つも見えなかった。沙綾は疎かほかのお客さんすらいないようだった。実質貸切と言ったところか。

 

 先に湯船に浸かって待つ。ここの温泉の効能は疲労回復や美肌効果があるようだ。

 

 ガラガラガラと立て付けの悪い扉が空いた音がする。そこには沙綾が立っていた。

 

 思わず目を背ける。体こそタオルで隠されているがそれによりボディーラインが強調されていて彼女の綺麗な体がくっきりと俺の目に写ったからだ。

 

「……明優君、先にいたんだね」

 

 そう言って沙綾は体を流した後湯船に浸かった。

 

 背中合わせに浸かる。正面なんて向いたら俺の理性は崩壊する、今でさえ襲いたいと思っているのに。

 

 正直気持ちよかったとかなんてことは覚えていない。あの後俺は耐えきれなくなり急いで風呂から上がった。

 

 長い時間入っているわけじゃないのに頭がくらくらしてのぼせたような感覚だった。

 

 俺はベンチに座っていると後を追うように沙綾も更衣室から出てきた。

 

 浴衣に身を包んだ沙綾はなんか新鮮だった。

 

 2人で部屋に戻ると懐石料理が並んでいた。

 

「うわぁ、すごいね!」

 

 沙綾が感嘆な声を上げる。

 

「こんな豪勢なの見たことない」

 

 それに合わせて俺も声を上げる。

 

「「いただきます!!」」

 

 手を合わせて温かいうちに頂く。

 

「「おいしい!!」」

 

 声を揃えて料理の美味しさを互いに伝えあった。

 

「今日の旅行、楽しかった?」

 

「うん!めっちゃ楽しかったよ!」

 

 俺は元気よく答える。

 

「良かった〜。でも結構歩いたからそんなに疲れとれてない?」

 

「いいや、そんなことないよ。露天風呂気持ちよかったし」

 

 疲れが取れたのを露天風呂のおかげにしておこう。沙綾といれたから疲れなんて吹っ飛んだよ、なんてキザなこと俺は言えないから。

 

「俺のためにこんなにしてくれてありがとう。めっちゃ嬉しいよ」

 

「どういたしまして」

 

 彼女は笑顔で答える。どういたしまして、という言葉がなんか沙綾には似合っている気がする。面倒みの良さからだろうか。

 

「……明優には頑張って欲しいんだ。だから私は私ができることをするだけだよ」

 

「君」を外して言われたのは初めてでくすぐったかった。もう沙綾からは沢山もらってるのにこんなことまでされちゃったら返しきれない。

 

 その呼び方は俺のお母さんのように優しくて、愛が籠っているかのように感じた。

 

「うん、応援してくれてる人の想い、沙綾の想い、そしてお母さんとお父さんの想いを乗せてリベンジするんだ」

 

 俺は決意の眼差しを沙綾に向けた。俺から見た沙綾はまるでお母さんかのように微笑んでいて、どことなく雰囲気が似ていて思わずハッとする。

 

 お母さんに重ねてしまうくらいに今の沙綾は包容力溢れる人に見える。

 甘えたくなる衝動を抑える。

 

 そんな会話をしていても俺たちの手は止まらず、気がついたら全部食べ終わっていた。

 

 いつもより少し大きくなったお腹をさする。満腹感に包れていた。

 

 その後俺と沙綾は布団に潜り込んだ。朝早くからバスケをし動き回っていたら疲れはくる。

 

 俺は布団に入ってすぐ沙綾のことを抱き寄せた。沙綾がいると快眠できる。俺にとっては抱き枕みたいな感じだ。

 

 沙綾も嫌がっていないらしく、いつも俺の胸に顔をうずくめている。

 

 俺のコドウは沙綾に届いているだろうか。

 

 また明日、沙綾。ゆっくりおやすみ

 

 

 

 

 

 目が覚めるとまだ5時だった。夕食を食べ終わったのは大体10時30分、7時間も寝れれば俺的には十分だった。

 

 沙綾を起こさないようにして布団から出る。沙綾の浴衣は初めてお泊まり会をした時のように乱れていて色気を出している。

 

 俺はそんな耐性はなく、急いで布団で隠し見えないようにしてあげた。

 

 露天風呂は24時間やっているとのことで俺は沙綾をおいて1人で向かった。

 

 朝ということもあってかまたしても人っ子一人いなかった。

 

 体を洗い、身を清めてから湯船に浸かる。気持ちよさのあまりおじさんのような声が出てしまう。

 

 朝から温泉に入れるなんて、なんて幸せなんだろう。ずっと浸かってても良いくらいだ。

 

 20分くらいしてからだろうか、沙綾がやってきた。

 

 寝起きで俺もぼーっとしているのだろう。昨日みたいにテンパることはなく、ゆっくり浸かることが出来た。

 

「気持ちいいね」

 

「そうだねー」

 

 昨日は会話のひとつもなかったが今日は何気なく喋ることが出来た。

 

 風呂を上がって帰り支度を始める。朝ごはんはやまぶきベーカリーのパンで済ませた。

 

 明日からはいつも通り学校が始まる。

 

 まだ沙綾と旅行がしたかった。この時間がとても名残惜しかった。

 

 チェックアウトを済ませて俺らは駅へと向かう。その前に俺と沙綾は2人で写真を撮った。

 

 泊まった旅館を背にしたツーショット。写真を取られるのが嫌いな俺も思い出として残すことを選んだ。

 

 大切な人はいついなくなるかわからないから。

 

 日常が崩れることなんて今日、明日、いつ起こってもおかしくないから。

 

 大切な人とはなんかの形で思い出として残していければなと思う。

 

 電車の中では2人とも寝足りなかったのか、方を寄せあって終点までぐっすり寝た。

 

 旅行はもう終わる。このまま歩いて家に帰ってしまえばもう明日からは普通の生活。

 

 まだ時間はお昼を回ったくらいだ。

 

「明優、バスケしようよ」

 

 沙綾の俺の呼び方はすっかり『明優』で定着したようだ。

 

 やっぱりお母さんに呼ばれているみたいでその度に懐かしく思う。

 

「うん、やろう!」

 

 1泊2日、休養を取るって言ったのに結局2日目は公園に帰ってバスケをした。

 

 俺と沙綾、2人ともへとへとになるまで。

 

 沙綾とやるバスケは1人で孤独にやるのよりも断然楽しく、笑顔が絶えない。身近な幸せのうちの一つだ。

 

 その後は俺らは各自家へと帰る。さっきまで隣に沙綾はいたが今はもういない。空いたスペースが寂しかった。

 

 家に帰るとやっぱり誰もいない。物音1つたたない家。

 

 帰ってすぐお母さんとお父さんに手を合わせる。

 

 京都で買ったお土産を添えて目をつぶり手を合わせる。

 

 

 ママパパへ

 

 昨日今日は京都にいました。沙綾と一緒に。神社に俺が勝てるように祈ってきた。2つも行ったんだし文句ないよね。やっぱり味方は多い方がいいじゃん。お土産ここに置いておくからね、いつでもどうぞ。

 

 大会ももうすぐです。俺をずっとそばで見守っててください。

 

 

 

 

 

 

 




この物語、そろそろ終わりに近づいています。
2章としてこのまま続けるか、次回作へ移るかはまだ検討中です。

最後になんですが今週を終えたら急激に私生活の方が忙しくなるので投稿頻度はしばらくの間落ちます。


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第19話 予選

時間を見つけては少しずつ書いていました。
まだ忙しいですが来週にはピークは終わりそうです。


 気がついたら大会前日を迎えていた。

 

 旅行から帰ってきた後の日々は一瞬だった。

 

 只管にバスケに打ち込む日々、それは普段の生活となんの変わりもないが今までにないくらい集中して取り組んだ。

 

 約1週間の状態は常にゾーン(極限まで集中力が上がった状態)に入っているかのようだった。

 

 プレー中は周りの音は全然聞こえず、自分の感覚だけが研ぎ澄まされた。

 

 シュートタッチは俄然良好、ディフェンスも疲れることなく足は常に動き続けている。

 

 ただここにきて不安になってきたのが膝の状態だ。

 

 最近のハードワークのせいで予想以上に膝に負担がかかっている。プレー中はアドレナリンのおかげで痛みを感じることはないが、終わった後に少し痛みが来てしまう。

 

 でも今ここで怪我することなんて許されない。やっと掴んだチャンスを取り逃したくないから。

 

 膝に細心の注意を払いながらも常に全力プレーで味方を引っ張る。それが今の俺にできる最大限の仕事だと思う。

 

 泥仕事でもなんでもする。ディフェンスのハードワークだって厭わない。

 まあディフェンスが1番の持ち味だが。

 

 オフェンスだって行けって言われたらどんどん行くつもりだ。

 

 勝つためなら自分の犠牲を払ってでも。

 

 正直に言うと大禪と花咲川では戦力の差はある。

 

 ベンチ層が厚いのは大禪だ。

 

 そして花咲川はというと、控えの選手が出てからガクっと戦力ダウンしてしまう。

 

 花咲川バスケットボール部は創部3年目ととても若い。3年目にしてここまで揃ったのが奇跡みたいなものだ。

 

 大禪はというと創部は俺らの10倍以上にも上る超有名高校だ。全国のキャプテンクラスのやつらが優勝を求めてやってくる。

 

 その分ベンチ層も厚い。俺らでは太刀打ちできやしない。

 

 スタメンの誰かを掻いてしまったら一方的な展開にだって十分なりうる。

 

 それでも負けるとは思っていない。明確な戦力差はあるものの若いチームらしくがむしゃらに戦う。

 

 従来のやり方に囚われない俺らのバスケットはまさに外のシュートを中心とした現代的なバスケットスタイルだ。

 

 スタメンでだったら互角以上に渡り合える自信がある。

 

 ディフェンスに難があるものの、オフェンスの爆発力は高校屈指のスコアラー、夢生

 

 普段は温厚だけどハッスルプレーで味方を盛り上げ、俺たちのゴール下を守る花咲川の守護神、心穏

 

 ハンドリング、ボール裁きに定評のある先輩

 

 The・縁の下の力持ちキャプテン

 

 そして俺、錚々たるメンツは揃っていると思う。

 

 大惨事さえ起こらなければ絶対に勝てると信じている。

 

 今日の部活はセットオフェンスの確認と最後のゲームをやった。

 

 セットオフェンスは俺を起点としたものも追加された。

 

 監督曰く「ディフェンスだけじゃなくてオフェンスの爆発力も申し分ないから生かさない手はない」だそうだ。

 

 正直ディフェンス徹しさせて欲しい気持ちもないことにはないが、シュートが入ればメンタル的にも安定するためこれはこれでありだと思った。

 

 ゲームはスタメン 対 控え でやった。普段は戦力差を無くすために均等に分けるのだが最後の調整のためそんなことはしなかった。

 

 控え組を存分にボコして俺らはフリーシュートにはいった。前日っていうのも相まって今までの和気藹々とした雰囲気でなく全員が虎視眈々とシュートを打ち始めた。

 

 初戦は余裕で勝てるだろう。俺らの見据えているところは決勝リーグだった。

 

 東京のウィンターカップ予選はすでに決まっている8校でトーナメントをし勝った4校が決勝リーグ、負けた4校が5~8位リーグへと進出する。

 

 俺らの初戦の相手はその8校の中だったら比較的弱めのJ高校だった。

 

 名門だが最近は補強に失敗して良い選手が取れずにいるらしい。

 

 決勝リーグも難なく2勝はできる。大禪高校は……。

 

 そんなことを考えているうちにフリーシュートは終わり荷物、身支度を整えストレッチをしミーティングへと移った。

 

「明日落としたらもうウィンターカップへは行けない。まずは初戦をしっかり突破しよう」

 

 監督は若干緊張しているのか体の揺さぶりが止まっていなかった。

 

 

 

 

 その後疲れを取るためにすぐに解散、各自家へ帰って行った。

 

 俺はというと今公園にいる。

 

 今まで落ち着いた調子で語っていたが実際のところガチガチに緊張している。それを紛らわすためにシュートを打とうってなったのだ。

 

 陽も落ちかけだが全然できる範囲内だったから問題なかった。

 

「冷たっ!!」

 

 頬に何か冷たい感触を感じた。明らかに風ではないし頬には水滴がついている。振り向いてみるとそこにいたのは

 

「あははっ!」

 

 アクエリアスを持った沙綾だった。どうやらバンドの練習の後偶然見かけたらしい。

 

 沙綾合流後も只管シュートを打った。沙綾が来たおかげで効率よく励むことができた。

 

「明日は勝てそうなの?」

 

「ヘマさえしなければ余裕かな。相手には悪いけど」

 

「明日見に行ってもいい?」

 

「もちろん、ポピパのみんなも連れてきていいし」

 

「りょうかいー」

 

 沙綾と話していると自然と気が楽になる。緊張もだんだんとほぐれていくようだった。

 

「明日は行けないけど、決勝リーグは絶対見に行くね」

 

 明日の予選は平日に行われる。そのため沙綾たちは普段と変わらず授業がある。

 

「うん、待ってるよ」

 

「ねえ、明優。……良かったらダンク見せてくれない?」

 

 意外な要望がきた。未だかつてこんなこと言われたことなかった。

 

「いいよ。じゃあそこに立ってボールをこんな風に真上に高く上げて」

 

 俺は指を指してゴール下付近に立ってもらうように促した。

 

「こ、こんな感じ?」

 

「うん、それでいいよ。俺が上げてって言ったらボールを上げて。そして上げた後は急いでゴール下から離れてね」

 

「うん」

 

 そう言って俺は沙綾から離れた。

 

 助走をつける。秋風がとても冷たい。最高速までく来た。この位置なら

 

「上げてっ!!」

 

 沙綾はボールを真上に上げた。経験者かと思うくらい絶妙な高さ、タイミングだった。

 

 ガシャン

 

 俺は沙綾との連携でアリウープ(高く投げられたボールをジャンプして受け、着地せずにそのままゴールにぶち込む)を決めた。

 

 今俺は沙綾のことをゴールから見下ろしている。沙綾は俺の方を見て口をあんぐりとさせていた。

 

「これでいい?」

 

「うん!すごかったよ」

 

「沙綾のパスが良かったからね。パスが良くなきゃできてないよ……ッ!!」

 

 俺はその場でしゃがんでしまった。膝の痛みが突然来たのだ。テーピングとサポーターをもう外してしまったからだろうか。

 

「大丈夫!?」

 

「……うん、ッ!いや歩くのかなりしんどいかも」

 

 跛を引きづりながらじゃないと歩けなかった。

 

「でも沙綾のせいじゃないから。元々膝が悪いって言ってたしょ?最近熱入りすぎてちょっとね」

 

「……でもっ!」

 

「じゃあ、肩貸してくれない?もう家に帰るよ」

 

 俺は沙綾に支えられながら家に帰った。家に着く頃には痛みは引き、俺一人でも歩けるくらいには回復した。

 

 帰り道、沙綾は何度も謝ってきた。沙綾のせいじゃない俺の管理が甘かったから気にしないで、と何度も言ったが1歩も引かなかった。でも責任は感じて欲しくないので無理矢理俺のせいにしておいた。

 

「ありがとう沙綾。もう大丈夫だから」

 

「ううん、無理はしないでね」

 

 と釘を刺された。でも無理しないと勝てない相手だ。

 

「明優は風呂入ってきていいよ、今ちょうど沸いたみたいだから。私ご飯作るね」

 

「じゃあ、ありがたくそうさせてもらおうかな」

 

 俺は沙綾のご厚意に甘えてお風呂に入ることにした。公園に行く前に沸かしておいて正解だった。

 

 お風呂に入って体を入念に解した。足も腕もガチガチだった。

 

 お風呂から上がるとすでにご飯が出来上がっていた。

 

「わぁ!!」

 

 今日は俺の好きな物だらけだった。味噌汁に焼き魚、サラダにご飯。俺は焼き魚も野菜も大好きなのでとても嬉しかった。

 

「いただきます!」

 

 俺はそれを見た途端に食べ始めた。

 

 横では沙綾が笑顔で見つめている。

 

 この感じ、なんか夫婦みたいでくすぐったい。

 

 いつかはこれが毎日のように……。

 

「ごちそうさまでした!!」

 

「お粗末さまでした〜」

 

 俺はものの10分でそれを平らげてしまった。最近忙しさでまともな食事が取れてなかった分、余計に美味しく感じた。

 

 

 

 

「洗い物は俺が自分でやっとくからもう家に帰っていいよ、もう暗いし良ければ送っていく?」

 

「そうさせてもらうかな。でも膝が心配だから明優は家にいていいよ」

 

 心配させちゃいけないから今回は家で待機することにした。

 

「でも……帰る前にその」

 

 沙綾はなんだか何か言いたそうだった。

 

「なに?」

 

「抱きしめてくれませんか?」

 

 沙綾にしては珍しい抱擁の要求。むしろこんなにお願いされたのはあんまりないんじゃないか。

 

「わかったよ」

 

 俺はすぐ沙綾を抱きしめた。この瞬間俺と沙綾は互いにコドウを感じ合った。

 

 沙綾のコドウはトクントクンと優しいものだった。戸山さんからので慣れているのだろうか。

 

 一方俺はバクバクだ。未だに慣れずにいる。抱きつくまでは平然を装えるが抱きついた後に恥ずかしさが来てしまい、胸の高鳴りが止まらなくなる。

 

「明優、暖かいね。香澄とは違う感じで、なんだか安心する」

 

「……俺もだよ」

 

 沙綾と温もりを共有している、この時間が限りなく愛おしかった。

 

 

 その後、沙綾を見送ってから早めに寝た。

 

 明日のためとあの温もりを忘れたくないから。

 

 

 

 

 予選リーグは難なく突破した。

 

 試合に描写はないのかって?この試合は1クォーターだけしか出番がなかった。

 

 俺らスタメン組は1Qで28-7と大量リードを奪い次のクォーターはベンチメンバーで乗りきったのだ。

 

 結果的に81対67と少々冷や冷やする時もあったが無事に決勝リーグへと駒を進めることができた。

 

 これは創部以来初の快挙らしい。まあ3年しか経ってないしね。

 

 決勝リーグは今週の土日、そして来週の土曜日の計3日間で行われる。

 

 もちろん大禪高校も圧倒的な力を見せつけて決勝へと進んできた。

 

 おそらく主力は出ていない。糸井はベンチで談笑していた。

 

 アイツらと当たるのは最終日になるだろう。最終日にトップ同士が争うからだ。

 

 俺らの試合には花咲川の全校生徒が駆けつけるようだ。初のウィンターカップがかかっていて全校生徒の期待も高まっていたようだ。

 

 幸い都内でもかなり大きい体育館で試合をすることになったから観客は余裕で入れるだろう。

 

 今日は決勝リーグ第1戦目、K高との対戦だ。

 

 今日も今日とでテーピングでガチガチで固定しサポーターも履いて準備万端だ。

 

 K高とは楽な試合運びで勝利することが出来た。

 

 心穏のリバウンドからの速攻をきっかけに相手が俺らのペースについていけず面白いくらいに点が決まった。

 

 そしてなんと言ってもキャプテンがこの大1番の試合で爆発。

 

 普段はあまり打たないスリーポイントもこの日は合計6本も決め、1人で37得点。86点のうちの大体3分の1を占めた。

 

 夢生と心穏もそれなりに点数を稼いでいた。

 

 一方俺はというと点数はあまり取りに行かなかった。その代わりにディフェンスで大きく貢献、得点はたったの7得点に終わってしまったがスティールは8とNBAでも稀に見るような数字を出した。

 

 ブロックもこの日は3とディフェンスが冴え渡っている日だった。

 

 オフェンスに関してはまだ也を潜めている。オフェンスまでしたら膝が悲鳴を上げてしまうだろうから。

 

 

 2日目は少々苦戦を強いられてしまった。相手は210cmの留学生を擁するR高。その高さに苦戦しながらも何とか勝利を収めることができた。

 

 いくらディフェンスが上手い心穏でも20cm差もある相手を抑えるのは困難で前半戦は大量に失点してしまった。

 

 後半はディフェンスをマンツーからゾーンにし中央を固めることによって簡単にはパスを出させないようにした。

 

 留学生以外は大したことなく後半は一方的な展開が続き、蓋を開けてみれば78対65で勝利していた。

 

 この日のリーディングスコアラーはポイントガードの先輩。スクリーンを巧みに使いゴール下に積極的にアタックして行ったけっか23得点を挙げていた。

 

 他のメンバーもバランスよく点を取ることができ、理想的なスコアリングだった。

 

 ちなみにこの日、大禪高校はK高に30点差を取って快勝。前日のR高戦も20点差以上をつけて勝っている。

 

 やっぱり自力が違いすぎる、試合を見てそう思った。

 

 ベンチから登場してくるメンバーも粒揃い。いくらファールトラブルで控えを出そうと隙が全くなかった。

 

 膝はまだ大丈夫なはずだ。もう少しもっててほしい。次の試合までは絶対に。

 

 

 

 




皆様コロナにお気を付けて


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第20話 絶対に出るんだ」

投稿が遅くなってしまって大変申し訳ございません。

そして総UA回数が5000回を突破致しました。ありがとうございます( . .


 待っていた。この時を。

 

 待ち望んでいた。この瞬間を。

 

 今までどんなことがあったのだろうか、ここに来るまで。

 

 自分の元いた高校と対決する日がくるなんて夢にも思っていなかった。

 

 自分から大禪高校(あそこ)を出ていくとは思ってなかった。順風満帆なバスケット生活を送れると信じきっていた。

 

 でも現実は違った。入部してまもなくいじめの標的となり暴行を加えられる毎日だった。

 

 あの時俺は自分が下した決断を恨んだ。強さだけ見ていた自分を蔑んだ。

 

 ケミストリーやチームカルチャーなどの内面的な部分の評価を怠っていた。

 

 はたから見たら都内屈指の強豪校、だけどその高校は強さ上荒んでいて部内での争いも激しいということを後々知った。

 

 俺自身もいじめに合う可能性は十分あったということだ。そして見事被害にあった。

 

 学校側もバスケ部のおかげで生徒を増やすことができているためいじめを黙認しているとのことだ。

 

 荒れ果てた俺の心を癒してくれたのは花咲川高校のみんなだと思う。

 

 お母さんから入学を持ちかけられた時、少し躊躇った。

 

 またあのような惨状に会いたくなかったから。

 

 でも俺は最終的に入学を決めた。恐怖で竦んでいる自分の体に鞭を打って決断した。

 

 このままじゃいけない。このままだと何も変わらない。

 

 俺のお父さんは"やられっぱなしでいられない"ということをよく言っていた。

 

 この気持ちを倍返ししてやりたい。そう思った。

 

 入学してからの日々は楽しいものだった。

 

 クラスのみんなとも馴染め、バスケ部ではチームの中心に立つことができた。

 

 前の高校のクラスのやつらは俺のいじめのために一致団結するようなクラスだった。

 

 普段はたいして仲良くないくせに俺をいじめる時だけ手を取り合う。はっきり言って最悪なクラスだと思う。

 

 今のクラスはそんなことない。みんながみんな仲が良くて行事にも積極的で誰一人としてクラスの輪から外そうとしなかった。

 

 比較してみるとどれだけ酷かったかが目に見えてわかる。耐えていた自分を褒め讃えたいものだ。

 

 バスケもただ勝ちを求めるだけじゃなく自然と楽しみながらできるようなものになっていた。

 

 プレー外では部員全員ではっちゃけ、いざという時は集中する。部活も俺にとってかけがえのない居場所になった。

 

 

 

 

 今思えば運命的な出会いだと思う。

 

 出会いは至って普通で美味しい香りに誘われ着いた先に彼女はいた。

 

 そんな彼女を人目見た時から気にかけていた。優しく微笑む彼女にいつの間にか惹かれていた。

 

 転校先に彼女はいた。一瞬夢かと思った。気にしすぎるあまり夢に出てきたんじゃないかと思った。

 

 でも実際には本当で自分の体を叩いたりつねったりしてもぼやけて消えていくことは無かった。

 

 ショッピングモールへ行ったあの日俺は彼女に今までのことを打ち明けた。

 

 感極まって泣いてしまった俺のことを静かに抱きしめてくれた。微かに香るパンの香りと彼女自身の匂いが俺の心をくすぐった。

 

 あの後膝枕してたんだっけな。柔らかくてもちもちだった。してくれって言ったらいつでもしてくれそうだがとっておきの時のために我慢している。

 

 文化祭の日に告白した。その時は幸せに包まれていた。

 

 それも束の間気がついたらもう俺の両親は雲の上まで昇って行ってしまった。

 

 あの時はもう何がなんだかわからなかった。すぐに泣くものだと思っていたが衝撃の方が強く、声が出なかったことを今でも覚えている。

 

 

 

 ここに来るまで波乱万丈の日々だった。自分の復讐は今手を伸ばせば掴めるところまで来ている。

 

 あの頃の日々を払拭するために俺は戦う。

 

 花咲川バスケ部のみんなと来たところは都内でも1番大きいと言われる体育館だ。

 

 今年の決勝は注目度が高いらしく、バスケット好きとも思われる人達が長蛇の列となって受付の開始を今か今かと待っていた。

 

 この試合も花咲川の生徒総出で見に来るらしい。もうその状態で2試合もしているから自然と慣れてしまっている自分がいた。

 

 向こうから背の高い集団が歩いて来るのが見える。大禪高校の奴らだ。

 白いウィンドブレーカーに包まれたあいつらはまさに強豪校といったような雰囲気を醸し出していた。

 

 今まさに接触しそうなくらい近づいて来ている。

 

「へえ、お前もここまできたんだな。まあ俺らにはコテンパンにやられるんだろうけどよ」

 

 と奴らは大笑いして俺らを挑発してきた。

 

「無駄口はよした方がいいんじゃないか。お前一人じゃ対した実力もないくせによ。俺にスタメンの座を奪われた非力なアホはどこだっけかね」

 

 自分でも種を巻いておいた。こうしておけばいやでも後に引けない。つまり背水の陣でここ戦いに臨むのだ。

 

「逃げたやつが調子乗るんじゃねーぞ」

 

 糸井が睨みつけるのを背に俺らはロッカールームへと向かった。

 

 

 

 ロッカールームでは依然緊張した雰囲気が漂っていた。

 

 それもそのはずここの学校にきている人達はみな揃って全中など経験していない。全国への切符がかかっている以上緊張するのも当然のように思える。

 

 俺は違う意味で緊張していた。自分だけが全国経験者であるが故その分プレッシャーを感じていたが何よりも敵と渡り合えるかどうかに頭を抱えていた。

 

「いいか、まずは先制攻撃だ。格上相手に受け身じゃ呑まれる一方だぞ。1発かまして流れを一気にこっちまで持ってこよう!!」

 

『おう!!』

 

 監督も緊張しているみんなを気遣ってか複雑な指示は出さなかった。

 

「じゃあ少し試合でも見てくるか」

 

「先生、ちょっと用事があるので1回外に出ますね」

 

 先生が頷くのを確認して俺はロッカールームを後にした。今体育館では3位決定戦が行われている。俺の予想では僅差でJ高が勝利を収めるだろう。

 

 

 

 

「ごめん!待ったかな?」

 

「ううん!むしろこんな時に呼び出しちゃったごめんね!」

 

 俺が向かった先は沙綾の元だった。

 

「脚の調子はどうかな?」

 

「今のところはいい感じだよ」

 

 俺の足はそろそろ限界を迎えようとしている。だが沙綾の献身的なサポートの甲斐あってギリギリのところでふみとどまっている状態だ。

 

「じゃあテーピングするから。ほら!足出して」

 

 沙綾のお母さんの話によると沙綾は店を手伝っている時でもテーピングについて調べていたらしい。ポピパのみんなとも協力してテーピングの練習をしているとのことだった。

 

 それを聞いた俺は感動してしまった。自分のためにここまでしてくれる彼女が愛おしくて。そんな期待を裏切る訳にはいかないと思うと余計緊張してきた。

 

「どうかな?緩かったりしないかな」

 

「ううん、大丈夫!いつもありがとう」

 

 相変わらずグルグル巻になっている脚を見て思わず苦笑してしまう。でもこれがないとプレーに支障を出してしまうからしょうがない。テーピングはあまり好きじゃない。脚に違和感を覚えるからだ。ベタベタする感触があまり好きではなかった。

 

 傍からは見えないように上からサポーターをつけて準備万端だ。最後にお別れのハグをして

 

「じゃあ、行ってくるから!応援よろしく!」

 

「うん!」

 

 俺は沙綾の元を後にした。

 

 

 

「いよいよだ。気合入れていこう」

 

 俺らは再びロッカールームに戻ってきてセットオフェンスの確認や相手のスカウティングをした。技術で劣ってる以上、他の面でカバーする他ない。

 

 俺らはロッカールームから飛び出し体育館へと足を踏み入れた。

 

 そこにいたのは無数の人達だった。観客席は埋め尽くされ空席が1つも見当たらなかった。

 

 俺たちの入場だけで観客が湧き上がった。思わず気持ちが昂ってしまう。

 

 都大会のレベルじゃないと感じつつも平然を装いアップを始めた。

 

 それと同時に大禪高校の奴らもコートインした。

 

 奴らは風格が今までのヤツらと段違いだった。コートから溢れんばかりの存在感。ぼーっとしてれば吹き飛ばされてしまいそうだった。

 

 極力気にせず自分のことに集中する。今俺にできるのはプレーで見返す、ただそれだけ。

 

 アップ終了のブザーがなり、両校ともベンチへと下がっていく。

 

「さあいよいよ勝負の時だ。マークマンはさっき言った通りだ。気負いせずに楽しんでいけ!!」

 

 相変わらず監督の指示は簡素なもの。でも今はそれがありがたかった。

 

 横にいるキャプテンは緊張で震えているし、先輩はアップだけで汗だらけだった。

 

「ボール、回すからな。今日は攻めてもらうぞ」

 

 キャプテンの声掛けに無言で頷く。先輩に対して無礼なこととは承知の上だ。でも今は緊張したかった。

 

 俺ら花咲川ファイブは部員と肩を組んで円陣を組んだ後コートへと散っていった。それと同時に花咲川の生徒が沸いた。

 

 そしてすぐ大禪のやつらも姿を表す。体格的に俺が1番背が低かった。俺の身長も決して低い訳では無いと思う。ただこのコート上では1番のチビだ。

 

 両校ラインに整列し適当な挨拶を交わして中央のサークルへと群がる。

 

 その瞬間会場全体にはとてつもない緊張感が走った。そのせいか今まで雑踏でうるさかった会場内も音ひとつも立たず静まり返った。聞こえるのは俺らのバスケシューズの擦れる音。

 

 俺は観客席を見据えた。沙綾のことを見つけることができた。そして沙綾に抱えられているものは俺の両親の遺影だ。どうしても見て欲しいから沙綾に持ってきてもらったのだ。

 

 そして心穏と相手の背番号6番センターのジャンプボールでゲームが始まった。

 

 心穏は精一杯ジャンプし、6番は軽くジャンプをした。相手の6番は身長が2mと超えている。そのためいとも容易くジャンプボールを制した。

 

 糸井がボールを握る。そして俺はすかさず糸井へと密着マークをした。

 

 糸井はフォワードへとコンバートされているはずだ。それも相まってガードの4番にパスを裁きゲームメイクを託したようだった。

 

 4番がハーフラインを超え糸井にパスを裁こうとした瞬間俺はボールをカットした。無人のゴールへと突き進んで行った。

 

 後ろから4番が追いかけてきていることを確認しわざとスピードを落とした。そして過度なリアクション、所謂フロッピングをしやや強引に4番に体を当てつつボールをゴールへとぶち込んだ。

 

 笛が鳴って3点プレーが成立した。出だしは上場といったところだろう。

 

 俺は冷静にフリースローを決めた。阻止てエンドラインからの相手の軽率なパスを見逃さずすかさずかった。コーナーで待機している夢生にボールを回しワイドオープン(シュートブロックに間に合わないほどの大きなズレ)のスリーを決めた。

 

 開始30秒程度で6点差を付けれたのはとても大きい。相手は気にしていない様子でオフェンスをシュートを放ったがまさかのエアボール。どうやら動揺を隠し切れていないようだった。

 

 心穏がリバウンドを制し前にいる俺にパスが繋がって速攻が展開された。キャプテンと俺によるツーメンゲーム。相手の5番を翻弄し極めつけは俺からの高めのロブパスからキャプテンがアリウープを沈めた。

 

 これには花咲川の生徒も観客も大騒ぎだった。会場のどよめきが止まらなかった。

 

 相手はすかさずタイムアウト、そしてベンチからは監督の怒号が聞こえてきた。なんて滑稽。

 

 俺らは給水をしディフェンスをもう一度確認して再びコートへと戻って行った。

 

 それからは一進一退の攻防が続いた。

 

 糸井のオフェンス力は半端ないものだった。元々のキレの良いドライブとガード時代の時の視野の広さを活かしてオープンを見逃さなかった。

 

 でも俺も負けていない。完璧に抜かれきったのは1回だけ、自由にさせている時はだいたいセンターとのピックアンドロールからスイッチを余儀なくされた時のみだった。

 

 それに苛立ったのか俺のことを肘で押してオフェンスファール。俺は観客を巻き込んで糸井を煽った。

 

「くそっ!!お前……!!」

 

 糸井とは明らかに怒っていた。俺はそんな安い挑発には乗らず無言を貫き通した。

 

 結果的に第1Qは18対11とリードすることに成功した。

 

 第2Qも俺らの勢いは止まらない。俺のカットから45度でオープンになった心穏を見逃さずパスを送り、ワイドオープンのスリーを沈めた。

 

 次は先輩達のピックアンドロールからイージーなレイアップを成功。

 

 ディフェンスでは身長差のある中、心穏が豪快なブロックを披露。間髪入れず先輩が夢生にパスを送りまたしてもイージーなレイアップを成功した。

 

 花咲川サイドはお祭り騒ぎだった。手や足持てるもの全てを使って喜びを表現していた。

 

 第2Q、5分を残して27対13と大量リードを奪うことに成功した。

 

 でも俺は油断していた。

 

「お前、その様子じゃ脚はまだ治っていないようだな」

 

 と糸井がこの点差の中煽ってきた。こいつは計算ができないんじゃないか。

 

「……」

 

 俺はこいつと会話しないと決めていた。あいつの口車にだけは乗りたくなかったからだ。

 

 そして敵のシュートが外れた丁度俺のところに落ちてきそうだったから、糸井をスクリーンアウトして完璧な位置へと着いた。

 

 ボールへと飛んだ。糸井もそれに合わせて飛ぶ。

 

「……ッッ!!クッ……!!」

 

 

 着地したその刹那、俺の足に電流が走った。

 

 痛みに耐えられず俺はその場に倒れた。そして痛みのあまりボールを離してしまいテキに2点を献上してしまった。

 

 糸井が不敵な笑みを浮かべている。着地した際に足を捻った。着地した時の感触。おそらくだがあいつは足を俺の着地点に入れてきた。

 

 すかさずレフェリータイムが入る。

 

「てめぇ!!わざとやったな!!」

 

 夢生が糸井の胸ぐらを掴む。

 

「俺は見てたぞ。お前の飛ぶタイミング、明らかに不自然だった!お前……よくも!!」

 

「わざとだなんて、人聞きの悪い。バスケは接触が伴うスポーツだ。こういう怪我もよくあるよなぁ?」

 

 と俺のことを睨みつけてきた。だが俺は痛みを堪えるのに精一杯だった。

 

 おれは夢生と先輩に肩を貸してもらってベンチへと下がった。

 

「見てろよ。明優。絶対に守りきって見せるからな」

 

 と言ってベンチから離れていった。

 

 だが無情にも点差は縮まっていくばかり。控えで出てきた部員には糸井のワンマークはキツすぎて急遽ゾーンへと変えたが糸井の侵入を何度も許していた。

 

 そして点差が1点になった時に決意した。

 

「……先生。ロッカールームへ下がります。時間をください」

 

「危険だ!いまその状態で出るのは!今後の選手生命にも関わるぞ!!」

 

「……わかってます。でも我儘を言わせてください。3Qから出ます、それまで時間をください。もし出さなかったら、一生恨みますから」

 

 そう言って俺はマネージャーに肩を貸して貰いながらコートを後にした。

 

 

「先輩危険です!!」

 

「いいんだ。俺の今後は。今この勝負だけは捨てたくない。やっと掴んだこのチャンス、逃したら一生後悔する。もう二度と訪れないかもしれないんだ!!」

 

「……テーピングをしてくれ。お願いだ」

 

 俺の足首はふぐのように腫れ上がっていた。自力で立つことすらままならないこの状態。すぐさま病院送りだろうが俺は我儘を貫き通した。

 

「負けたくない!!何があっても!!たとえ今後バスケが出来なくなったとしても!!だから──────

 

 

 

 



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