転生特典が強すぎなのでひっそり生き…たかった… (恋狸)
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1話

1月1日 雨

 

 今日から日記を書こうと思う。

 そうでもしないと俺の気が狂いそうなんだよ。現時点でかなり吐きそう。

 

 よし、何らかの要因で記憶失った時に備えて自己紹介をしておこう。

 

 俺の名前は石楠花(しゃくなげ)伊織(いおり)。三歳だ。

 は? 三歳がこんな知能を有するわけねぇだろ? って?

 

 いやはや。まあ、テンプレというか転生したんだよね。トラックに轢かれたわけでも、軽自動車に轢かれたわけでも自殺でもない。

 ヤンデレストーカーに刺し殺されただけ。

 

 あの女まじで許さねぇ……。先輩と一緒に帰ってただけなのに……。

 

 まあ、それはともかく気づいたら真っ白な世界にいて、神様らしき存在がいたんだよ。いやいや、テンプレ過ぎて呆れしかねぇわ。

 なんか知らねぇけど刺し殺された事を同情された。

 

『若い身空で愛を履き違えたやべぇやつに殺されて可哀想だ』

 って言われた。

 

 んで、転生させてやる、って言われてダーツを4本渡されて『転生先』と『転生特典』3つを決めることになった。

 

 

 転生先→呪術廻戦

 

 この時点で泣きそうになった。

 誰が好き好んでダーク現代ファンタジーの世界に行きたいと思うんだよ。ばっさばっさ一般人が呪霊なんて化物に殺される世界線だぜ? 死ぬわ。

 

 

 ならばと転生特典に期待した。

 俺は出来るだけ目立ちたくないのだ。

 だから、自衛できる程度の特典があればそれで満足なのだ。

 

 転生特典→『天与呪縛S』『天与呪縛の打ち消しS+』『呪力操作S+』

 

 

 俺(白目)

 

 皆さんご存じ天与呪縛について説明しよう。さくっと簡単に。

 

 何らかの縛りを受ける→その代わりになんか強くなる……とは限らないかもしれない。

 

 

 ごめん、適当すぎた。後はググって。

 その天与呪縛だが、厄介っちゃ厄介だ。

 

 例えば、呪力の100%を犠牲にフィジカル面で化物性能になる。まあ、伏黒パパとかね。

 後はメカ丸ちゃんの身体犠牲に術式範囲と呪力量の増加だったり。

 生きていく上でかなりの制限が為される可能性があるのだ。

 

 

 まあ、俺もにわかなんであまり知らないけど。

 

 

 んでもって、神の説明曰く『天与呪縛S』で何が縛りを受けるか分からないが『天与呪縛の打ち消しS+』のせいで超絶強化されるとか言われた。

 なるほど? 打ち消しが『S+』だから力が与えられると。

 

 ……いらねぇよ!! 自衛っつったじゃん!!!!

 

 身に余る力得ても不自由しかしねぇんだよ!!!

 

 

 と嘆いても仕方ない。

 やれることはやらねば。

 それに何が起こるか分からねぇし鍛えておいて損はないだろ。

 

 作者が腰ヤってる間に転生したし死滅回遊は分からん。

 しかも寝ながら読んだからあんまり内容も覚えてないんだよな……。

 

 ま、まあ良いや。

 

 んなわけで、いきなり赤ちゃんは嫌でしょってことで三歳からスタートした。

 

 ちなみに孤児院。

 これが転生初日だけど果たして俺はどうなるんだろうね。

 

 

 

1月2日 曇り

 

 

 とりま検証だ。

 何が出来て何が出来ないのか。

 それと、俺の術式の把握だ。

 

 無下限術式とか格好良いと思うけどそんなチートいらん。

 

 

 とりあえず自分の呪力を知覚してみた。

 

 ……化物だった。呪力量の底が知れねぇ……。しまった、天与呪縛のせいか。

 

 

 ちな術式っつーのは、呪力を発揮する型で、呪力を電気とすると術式は家電になる。

 その人それぞれが持つ特殊能力みたいなもんだな。

 

 例えば釘崎の芻霊呪法とか。読み方格好良くね?

 

 んで、発動してみた。

 あ、帳降ろしてだよ? じゃなきゃバレる。

 

 ふっ、中二病の怖さなど克服したさ。

 

 例え『闇より出でて闇より黒くその穢れを禊ぎ祓え』なんて鳥肌まっしぐらなことを言わなきゃいけなくてもな……。え、あれ結界術だし、何でいきなり会得してんのって? ……いや、なんか。やったらできたし……

 

 

 

「『天線刻術(てんせんこくじゅつ)』【一刻】」

 

 しーん。

 頑張って羞恥堪えて叫んだのに何も起こらなかった。くそ腹立つ。

 

 そんなバナナ。

 あれか。呪霊とか人体にしか影響受けないって感じ?

 

 あ、じゃあ、虫相手にやってみるか。

 

 そんなわけで森に移動。

 丁度良いダンゴムシを発見したからやってみる。

 

 

 

 

 結果から言おう。

 大爆発して森が消し飛んだせいで施設を追放された。というか、そうなるように仕向けた。

 

 あかん、我の呪術強力すぎて人のいる場所で使えねぇ……。

 

 幾らかの金は貰ったから、その金でキャンプセット買って野宿した。

 

 

 頑張って加減を覚えよ。

 

 

 

1月3日 雨

 

 雨、やべぇ

 

 

1月4日

 

 

 ・ 

 ・

 ・

 ・

 

 

1月20日 晴れ

 

 久しぶりに日記を書いた。

 あれだな。物事に夢中になるとどうしてもすべきことを忘れてしまう。

 

 それはともかく、ようやく自分の術式について把握することができた。

 

 

 えー、そうだな。完全中二ワードで出来た『天線刻術』だけど、今使えるのは【一刻】【二刻】【三刻】まで。

 

 順に紹介しようか。

 

 

【一刻】……指定した対象に赤色に輝く【刻】を刻むことができる。

 術式範囲は1.10m。術式効果は、対象に眠るエネルギーを操ること。

 これは呪力とは別のエネルギーっぽい。最初に爆発したのは、操作に不慣れだったから。

 呪霊見つけた時にやってみたけど、小爆発で済んだ。俺が倒した奴は4級呪霊だったけど、多分今の実力じゃ二級までしか効かない気がする。あれだ、レジストされる感じ。

 

 後は、他人に施すことで回復できる。反転術式かよって思った。やったぜ、家入ちゃんの仲間入りできる。

 

 まー、俺の場合は操作ミスると爆発しちゃうけどね!あはは!!

 ちな、自分に施すのは息を吐くようにできるけど、自分以外にやるのはくそムズい。……ふふ、練習じゃあ、いったい何体の呪霊が犠牲になったことやら。

 

 はい次!!

 

 

【二刻】……指定した対象に緑色に輝く【刻】を刻むことができる。

 術式範囲は2.20m。術式効果は、対象の魂を削ること。

 あ、あのですね。えげつないんですよ。

 魂削るって、死なない代わりに感じたことない痛みを相手に与えるようで、どんな化物でもしばらく動き止まる。しかも、術式を介さないし防御不可だから、多分五条悟にも効く。や、まあ、2.20mまで近づかせて貰えないと思うけど。

 ちなみに今は『削る』ことしかできないから、消滅させることができたら、真人倒せそう。

 

 はい、次ィ!

 

【三刻】……指定した対象に青色に輝く【刻】を刻むことができる。

 術式範囲は3.30m。術式効果は、対象の術式を3.30秒だけ停止させる。五条悟の術式もね☆

 いや、ピーキーすぎないかね、うちの術式たち。

 

 反転術式覚えたらどうなるんだろ。

 多分呪力操作S+だし覚えられると思うんだけど、今は絶対無理。

 

 え? 領域展開? 

 はっ、呪術覚えて20日のやつができるわけねぇだろ。頭狂ってんのか。

 

 

 ……とりあえず、呪力操作の訓練してたら術式増えそうだしやっていこう。前世ではサバイバルが趣味だったから生きることはどうとでもなるし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




作者はにわかなんで許して……
何か間違いとかあったら【優しく】←ここ重要。指摘してくぁさい……


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2話

1月30日 曇り

 

 なんか、孤児院に入って1日で追い出されたボンクラがいるそうなんだけど……あっは、俺じゃんwww

 さて、草を生やしたけども、何か今更になって俺を探してるんだって。

 

 今更気づいてももう遅い!!

 と昨今のなろうタイトルはともかく……え、流行り過ぎた? マジで?

 

 ごほん。まあこんな危ねぇ界隈に身を置いてるわけだし戻るという選択肢は無い。悪いな院長さんよ。

 

 あ、もう一個術覚えたんだよ。【四刻】ね。

 詳細は面倒だから何時かね。簡単に言うと索敵。それで、森の外の情報を手に入れたってわけ。

 

 さすがに森ガールならぬ森ボーイで数年過ごすのはつらたん。

 だから一先ず情報収集に努めたわけだ。

 

 今の1991年。どうりで古いと思ったわけだよ。キャンプセットも旧型だしさ。

 てか、1990年代で五条悟と年齢近いな。これはあれか? 生意気五条が見れるパターン!? いやぁ、五条になら『ザッコwww』って言われても我慢できるわ。いや、ごめん、殴る。

 

 

 ふむふむ、まあ五条よりは強くなれないだろうし、そこそこの強さを目指すか。

 【四刻】取得後は成長に陰りが見えたし、ここからは長期戦になりそう。

 

 どうやら俺の成長率は凡人だったようで。

 呪力操作だけは気持ち悪いくらい上手くなっていくけど。

 

 黒閃? アホか、まだできるわけねぇだろが。

 

 

 

 

 

1992年 1月1日 雪

 

 

 一年近く日記書かないとか日記の意味ねぇじゃん。

 まあ、気が向いた時に書こう。

 

 現状報告するなら【六刻】までは使えるようになった。そして、一級呪霊を楽々討伐できました! やったね! 勿論【一刻】で爆散させてやったけど? 黒閃使えるけど一回が限界だし、んな危ない橋は渡らんよ。 

 なんだっけ、黒閃って通常威力の2.5乗だっけ? これを術式に組み込んだら強そうだけど、まだ無理だっつーの。

 まだって言った通り頑張ればいけそうなんだよなあ……

 

 

 

1月10日 晴れ

 

 ふむ。【刻】の術式に関しては一から六までの術式を鍛える方向性で良さそうだな。変に技が増えても扱えないと意味ないし。

 てか、どこぞの五条さんが呪術の八割が才能とか言ってたけど果たして俺に才能あんのかな。

 未だに天与呪縛のバフ効果も分からないし。

 

 莫大な呪力オンリーだったら、それはそれで困るよね。

 

 

 

1月14日 曇り

 

 

 できるだけこまめに日記を書くことにしよう。と思っても二、三日は空いちゃう。

 

 最近は生得領域を展開して、そこの中で暮らしてる。

 確か呪力消費がぴえんって聞いてたけど、俺の呪力だと問題ない。領域維持の特訓にもなるし一石二鳥だぜ。

 

 ちなみに生得領域ってのは、自分の心の中のことで、それを呪力で外に構築したものが生得領域。

 

 領域展開とは違って、術式の必中効果もないし、閉じ込める力が弱い。

 

 例えるなら、生得領域はガッチガチに固められた南京錠付きのドアが内側にあって、領域展開はそもそもドアがない。外側からは入れるけど、そもそも入るメリットがない感じ。

 

 ただし術者の領域によってはかなり便利空間になる。

 ほら、外道……じゃなくて夏油のお仲間が作る南国ビーチとかね。あれ最初に読んだ時、どこでもドアかと思ったわ。物理法則って何ですか(白目)

 

 さと、俺の生得領域を紹介しよう。

 

 なんかね、四畳半くらいの部屋に時計が一個だけあんの。クッッッソ不気味。

 でも、中の温度は適温だし自分の領域内だからか過ごしやすい。

 

 そんなわけで修行がてらダラダラ過ごしてる。

 ぶっちゃけエアコン代わりだよ。適温って素晴らしい。え、呪術? それって生活の知恵ですよね(すっとぼけ)

 

 

 

 

1994年 3月4日 雨

 

 おっ、おっ、おっ、おっ(オットセイ)

 

 

 

3月5日 雨

 

 やっべ、興奮しすぎて変なこと日記に書いてるし。

 

 いや、勿論性的興奮ちゃうで。

 だいぶ時間が経ったけど、日記って毎日続けなきゃ忘れるよねぇ。

 え、進歩? 生得領域の内部幅が七畳になったよ。え、そうじゃない?

 

 あー、黒閃2連発できて【八刻】まで使えるようになったくらい?

 伊達に呪力操作S+じゃないね。

 反転術式は使える気がしない。家入ちゃん……たちゅけて。

 だって、考えてみろよ。五条だって死にかけるまで使えなかったんだぜ?? 俺も死にかけてみろって? 嫌だよ【一刻】でぶっ殺したろかてめぇ。

 あ、特級呪霊倒せた(黒目&真顔)

 や、特級って言ったってピンキリやん。何故か森に発生するんだよね、特級。

 

 特別だから特級なんだろ? そんなにホイホイ来んなよ。

 

 

 

1996年 9月20日 晴れ

 

 忙しかった。許して。特に書くことなかったし。

 

 そうだなぁ。近況報告として、住みかを移した。でも、そこ樹海だったから即刻やめた。あれはマジ魔境。別に生きていけないわけじゃないけど四六時中戦い漬けになるわ。結界術も長く持たん。

 いや、樹海の呪霊強力杉ィ。吹き溜まりの次元超えてもう、呪力の海だわ。さすが自殺の名所。

 

 呪力の源って負のエネルギーだからな……。逆使うのが反転術式なんだろ? ……全然分からねぇ……。

 

 あ、昨日【九刻】使えるようになった。

 何刻まであるのかは薄々予想してるけど。

 

 我、今八歳なんだけど、そういえば小学校通ってねぇや。 

 

 義務教育忘れてたァァァァァァァァ!!!!!

 

 

 ちょっと今から参考書買ってくる!!!

 高認試験受けねえと!!!!

 

 あ? 高専? 行く気ねぇわ。

 

 

 

 

 




いやぁ、あの弁護士はちょっと例外にしましょうよ。
作者も死滅回遊はガチでにわかなので……


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3話

9月21日 晴れ

 

 金が無いから参考書買えないじゃん……。

 ぶっちゃけ前世頭良かったし何とかなるような気もするけどさ。

 

 もう良いや。金策に関しては後で考えるとして、これからは反転術式の取得を目的にするか。

 単純に手数の多い【天線刻術】が反転したらどうなるか気になる。

 

 取り敢えず寝る。

 

 

9月22日 曇り

 

 反転術式のおさらいをしよう。

 えーと、確か本来マイナスである呪力をプラスのエネルギーに変えるやつで。

 呪力(-)×呪力(-)=呪力(+)にするんでしょ?

 

 何とか試行錯誤しても分からん。俺のエネルギーが負よりなのか……。

 

 

 あ、でも正しい反転術式じゃないかもしれないけど、似たようなことならできるかもしれん。

 

 ほら、【一刻】で操作するエネルギー。あれを呪力と掛け合わせれば何か別のエネルギーできそう!!!

 

 

 

 

9月23日 晴れ

 

 

 

 死にかけた。

 身体中爆散して四肢もげた。ガチで死ぬかと思った……。

 気絶する前に【一刻】で何とか治したけど、血不足でダルい。

 

 あれか、混ぜたら危険ってやつか。

 

 

 何で自分の身体で試すかなぁ……。

 

 

 

9月30日 雨

 

 

 呪力(-)×謎のエネルギー=新エネルギー。

 

 ということが分かった。

 どうやら呪力とは根本的に違うエネルギーらしいな。

 

 呪力操作S+の力をふんだんに使って、その新エネルギーの操作を頑張った結果、面白い効果があることが分かった。

 

 身体能力強化。

 新エネルギーを身体中に張り巡らせることで、五感も含めた全ての能力が爆上がりする。

 最初の方は操作ミスって何回か爆発したけど……うん、結果オーライだぜ!!

 失敗は成功のもとってことよ。……考え無しに試してたじゃねぇかお前、とか言わんといて。

 

 

 てか、呪力操作S+なのに、呪力以外の操作が上手くいくの何で?

 

 

 

10月6日 晴れ

 

 

 身体能力強化積んで、黒閃で呪霊ぶち抜く遊び楽しい。その代わりに余波で辺り吹き飛ぶけどね!

 完全に森ボーイになっちまった俺だぜ……。人のいる場所で修行できねぇ……。

 術式を試す時は生得領域内でやってるから被害は無いんだけど、如何せん呪霊倒す時はそうもいかない。

 

 あんな凶悪な特級呪霊放っておくなよ……。身体能力強化したのに、悉く全部避けられて泣きそうになったわ。最終的には新エネルギーぶちこんで爆発させたけど。

 それでも原型留めてた。ウケる。

 

 

 

 

 

 

 

1998年 2月6日 曇り

 

 

 書くことなかったんだよ。  

 我も10歳。遂に二桁に到達したぜ。

 誕生日は知らねぇから、とりあえず1月1日にした。転生日だし。

 

 二年経ったけど、え、反転術式? 無理だろ。誰だよ、呪力コントロールさえ出来たら後天的に取得可能だ、とか言ったやつ。……俺か!

 ここまで修行したら普通できる気がするんだけどなぁぁ。

 

 術式に関しては【十一刻】まで出来るようになった。これが最近の嬉しさかもしれん。

 

 

 

 

1999年 1月1日 晴れ

 

 

 

 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 反転術式!!! 取得! 完了!!!!

 

 【十二刻】使えるようになった瞬間に同じく使えるようになった!!!

 まさかの条件付きスキルだったのか!? 

 確かに……十二は特別っちゃ特別な数字か。

 

 ということは……?

 見えた……! 隙の糸……! ごめんなさい冗談です。

 

 多分領域展開まではこの【十二刻】と反転術式をマスターした先にあることがわかった。

 

 でも、使えないわけじゃない!!!!

 

 それが分かっただけで充分だぜ!!!!

 

 

 

 

 

というわけで、以下(↓)に刻術の能力と反転した時の効果を示す。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

【一刻】→『術式反転【二四刻】』……指定した対象に無色の【刻】を刻む。

 術式範囲は10.1m。術式効果は、対象の持つ呪力を散らすこと。

 

 上手く呪力が練れませんよー、ってやつだな。単純だけど強い。

 

 

【二刻】→『術式反転【二三刻】』……指定した対象に無色の【刻】を刻む。

 術式範囲は20.2m。術式効果は、対象の魂を修復させること。

 

 今一ピンと来ないんだけど、完全に対真人専用じゃね? ……もしくは呪われた人を治せるとか? おっと、これは津美紀ちゃん完治フラグか!?

 

 まあ良いや、次ぃ!

 

 

【三刻】→『術式反転【二二刻】』……指定した対象に無色の【刻】を刻む。

 術式範囲は 30.3m。術式効果は、対象の術式を30.3秒暴走させる。

 

 暴走ってのが今一分からないから呪霊相手に使ってみたら自爆してた。草生える。

 

 

【四刻】……指定した先に紫色に輝く【刻】を刻む。

 術式範囲は4400m。術式効果は、指定先の五感情報を拾うことができる。

→『術式反転【二一刻】』……指定した先に無色の【刻】を刻む。

 術式範囲は40.04m。術式効果は、指定先、40.04mの五感情報を消失させる。

 

 

 これ、えげつないっすよね。集団テロできるぜこんちくしょう。

 ちゃんと術式範囲から出たら元に戻るけど、人によってはトラウマになると思う。

 まあ、敵に容赦はしねーけど!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後の術式は順次開示予定

ほら、お気に入りと高評価してくれてもええんやで……



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4話 どんな女が好みかな?

感想で募集するのアウトらしいですね……すみません…


 

2000年 2月2日 雪

 

 かなり強くなった自負がある。

 まだまだだけどさ。五条悟に勝ちたいなぁ。関わりたくないから会わないけどネ!

 生意気五条なら勝てるかもしれないけど、覚醒五条くんにはまだ勝てないっしょ、さすがに。

 

 てなことを考えながら、暇だったから木に登って高笑いしてたら人に見つかった。

 

 

 っておまぇぇ!!??

 

 ガチビビったわ。知り合い。それも俺が一方的に知ってる人だった。

 

 高身長、モデル体型の明るい髪色をしたロングヘアーの女性。

 

 

 

「どんな女が好み(タイプ)かな?」

 

 と現時点12歳の俺に訊いてきたのは、

 

 

 

 特級術師九十九(つくも)由基(ゆき)

 

 

 あれだ。任務も受けずにあっちふらふらこっちふらふらしてる変な人だよ。

 呪霊のいない世界を目指してて、間接的に夏油を闇堕ちさせた張本人。

 

 あそこで「ありだ」って言うのはナシでしょ~、って思ってる。

 

 まあ、呪霊無くすには非術師を皆殺しにする方が簡単なのは事実なんだけど。

 

 

 

 まあ、とにかく。バチバチに術式使ってる所見られたからめっちゃ焦ったんだけど、何とか交渉(嘘)して事なきを得た。

 あとは、体術教えて貰うことにした。

 

 いや、いくら身体能力強化でごり押ししたって技術ないとダメじゃん……って言われたし。ぐうの音もでねぇぜ。

 

 おっら!!パンチ!!キック!!!飛び膝蹴りぃぃ!!

 

 

 ふぅ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無理。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2月3日 俺の心は雨模様

 

 

 

 お前、体術の才能ゼロなのウケる、的なニュアンスのことを言われた。

 

 

 俺は激怒した──必ず邪智暴虐な特級術師を懲らしめなければならぬと決意したのだ!!

 いや、あの方強すぎませんか。伊達に特級じゃないね。ごめんね、サボり癖のある放浪人とか思っちゃって。

 

 それはともかく、才能は無いけど、ある程度の技術は身に付けられるだろう、ってことで、一通り教えて貰った。

 長年の森ボーイのお陰で筋力量については問題なかったし、どうせ呪力で強化するならそれに合わせた体術を教えよう、って言われたぜ。まあ、呪力で強化してるわけじゃないんですけどね……。言ったらややこしくなるんで言わなーい!

 

 どうやら、俺の術式は身体能力強化と思われてるらしい。これは地味に好都合。

 

 げへへ! 精一杯技術を盗みとってやるよぉぉ!!

 

 

 

 

2001年 2月3日

 

 

 

 一年が経過し、俺はようやく九十九先生から認めて貰えた。

 完璧とは言い難いけど、形にはなった。

 実戦でも有効活用できるし、これで俺の戦力も増えたもんだ。

 

 ちなみに俺は弟子ではなく生徒らしい。

 

 曰く、『女のタイプが相容れないから弟子にはしない』らしい。ひでぇ。

 

 そんな特殊な性癖持ってないから。

 あれか? 俺もケツとタッパのでかい女って言えば良かったわけ? 俺、二番煎じって嫌いなんだよね(怒)

 人のセリフパクるとか【一刻】で爆裂四散させてやろうかと毎回思う。

 

 

 だって、な?

 

 

 

 生き様で後悔したくないでしょ?

 

 

 

 【一刻】ッッ!!!!! グハッ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 特級術師、九十九由基はある日呪霊が多数出現しては消える、と噂の森に調査をしに来た。

 普段任務は受けずに研究をするため放浪する九十九だが、その時は何の気まぐれか二つ返事でオーケーを出した。

 

 これには腐った蜜柑こと上層部も困惑である。

 何か裏があるのでは? その森にもしや何らかの特級呪物が隠されているのか!? などと、九十九本人が聞けば『ムカつくから皆でボコろう』とでも言うだろう。

 

 

「はぁ……何で任務受けたんだ……」

 

 九十九は頭を掻きながらゲンナリした様子で森を歩く。絶賛後悔中である。自分でも何故受けたのか分からない、といった様子である。

 

 

「まあ、呪霊の消失。研究にはちょうど良いか」

 

 受けたものは仕方ない。放り出すにもいかないため、九十九は任務を研究と称したことで、精神を安定させる。

 

 呪力からの脱却。

 呪霊のいない世界を作ることを目的としている九十九だ。必然的に、呪霊の研究も必要になる。

 

 有力な情報は見込めないだろう。どうせ特級が呪霊を食っているのだろうと予測しつつ、気を引き締めた。

 

 

 

「……ん? ……人間の子ども……? 呪力は感じるし、術式? というか何で高笑いしてるのあの子」

 

 そこで彼女は木の上で高笑いをする少年を発見する。

 奇しくも第一印象はやべぇやつだったそう。

 

 

 九十九は、恐らく最近の現象の原因はこの少年にあると見て、少年のいる木に向かっていった。

 

 

「げっ」

 

 九十九を見た少年は、苦々しく顔を歪めた。まるでイタズラが見つかった子どものようである。

 九十九は初対面で「げっ」と言われたことに少々傷つきつつも、少年が木から降りてくるや否や、キザに笑ってお決まりなセリフを口にする。

 

 

「やあ少年。どんな女が好み(タイプ)かな?

 

「うーん、スレンダーな長身美女ですかねぇ」

 

「なるほどね」

 

 九十九は驚きもせずに即刻好みを口にした少年に笑みが深まる。しかし、同時にこの子とは相容れないな、と感じた。なぜかは知らない。

 

 

「少年よ、君は一体何者かな? 内に秘める莫大な呪力に身のこなし。まだ呪霊だって言った方が信じられるね」

 

「む、失礼な。れっきとした人間ですが? それに、何者かって言われたところで、孤児院から追い出されてある日突然変なものが見えるようになって、変な力に目覚めただけですよ」

 

「それは、だけとは言わない」

 

 九十九は苦笑する。

 少年から感じられる莫大な呪力だが、制御できているし本人の性格も特段可笑しいわけではない。

 この年齢にしては些か賢いと思ったが、まあ早熟なのだろうと九十九は判断した。

 

(ふむ。すでに特級を屠れるだけの実力は付いてると見て間違いなさそうだね。しかし、勿体無い。あれが身体能力強化系の術式だとしたら、ただ力でごり押しするのは限界が来る)

 

 九十九は判断した。間違いなく特級術師としての才がある少年を潰させはしないと。

 呪術師としての教育を受ければきっと少年は化ける。

 

(高専嫌いだし頼りたくないけど……)

 

 

「そうも言ってられないか。

 

 ……少年、ここを出て「あ、遠慮させていただきます」まだ全部言ってないんだけど」

 

 一瞬で拒否されたことに、九十九は眉を潜める。

 

 機嫌が悪くなったことを敏感に察知した少年は、ぶんぶん手を振って慌てるように言った。

 

 

「いや、あの、ここから出るつもりは無いんですよ。いずれは出ますけど、今は森暮らしで満足してますし、怪我するのは嫌なので

 

 その言葉で、九十九は少年が呪術師になることを望まないと判断した。

 しかし、莫大な呪力は呪霊たちの餌となるだろう。単なる身体能力強化では限界が来ると九十九は判断し、一息嘆息するなり言う。

 

 

「少年。私が体術を教えよう。少年の術式は純粋な身体強化と見た。ごり押しはいずれ限界が来るよ?」

 

「へっ? 良いんですか?」

 

「うん、子どもを放っておくわけにはいかないしね」

 

 いずれ社会に出た時に、森暮らしとのギャップで過ごせなくなるに違いない。そうなれば、私が高専へスカウトしよう。

 という悪どい打算もあって、九十九は貴重な時間を少年のために使うことを決意した。

 

 

「私の名前は九十九由基。少年、君の名前は何かな?」

 

「俺の名前は石楠花伊織です。よろしくお願いします」

 

 

 これが九十九由基と少年──石楠花伊織との出会いだった。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 一年後。

 

 

「よし、これで伊織に教えるべきことは教えた。後は好きに過ごしていいよ」

 

「ありがとうございます、九十九先生!」

 

 九十九はにこりと笑う。

 

(さすがに体術の才能がゼロだった時は思わず爆笑しちゃったけど。案外何とかなるものだね)

 

 九十九が弟子と呼ばないのは、単に価値観の相違である。それと、特級である九十九が弟子認定をしてしまうと、伊織を完全に呪術の世界に引き入れることになる。それを危惧してのことだった。

 

 

(道草食いすぎたなー。そろそろ研究に戻らないと)

 

 

「伊織、私はもう行くよ。何かあったらここに連絡するといい」

 

 九十九は、自身の電話番号の書いた紙を渡す。

 そして、最後にふとこんなことを訊いた。

 

 

「伊織はその身に余る強大な力を何に使うのかな?」

 

「え、自衛ですけど」

 

「過剰だよ」

 

 

 呆れ半分、納得半分で、九十九は今度こそ伊織の前から姿を消した。

 

 その場に残された少年はというと、じっとその場で考え込む。

 それは、さも九十九の問いかけについて思案に耽──

 

 

(あれ、九十九由基って、シリアスなところは真面目なおねーさんで、ギャグパートの時は絡みやすいバカっぽい人じゃなかったけ?)

 

 ──ていなかった。何の関係もないことだった。

 

 

 ちなみに、ずっと九十九が真面目だったのは、子どもの前でいい格好をしたいお姉さん心である。

 

 

 

 

 

 







九十九由基の口調が分からねぇ……


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5話

2月5日 晴れ

 

 1日サボれば、取り戻すのに3日かかると言う。

 

 だから、俺は九十九先生に教わった体術を反復する毎日を行っていた。

 勿論、術式の研究も同時並行でね。

 そういえば、ななみんの黒閃連続記録って確か4回でしょ?

 俺もちょっとやってみた。

 

 

 4回だった。

 

 あ、一応、黒閃について説明しておくと(未来の記憶喪失の俺に向けて!)、打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる空間の歪み。

 威力は平均の2.5乗(?)。黒閃を狙って出せる術師は存在しないらしいね。

 

 この説明が合ってるかはさておき、クソムズイってことは分かってくれ。

 俺が未熟なのが原因なんだろうけど、チート貰っても4回って……。虎杖以下だよぉぉ。

 

 ただ、格好良いから連続して使いたい。

 

 あと、【唯一黒閃を狙って出せる最強の術師】とか言われたい。妄想だけど。

 術師になる気はゼロだけどネ! 痛いのイヤだ!!

 

 誰が好き好んで痛い目に遭わんといけないんじゃ!! ここに住んでる時点でやってること術師っていうのは言わないで!! 自覚してるから!!

 早いところ自衛を完璧にして、人間として過ごしたいでありんす。

 

 あとは、単純に今の時代、古すぎるから最低スマホ欲しいよね。

 金稼ぐだけならスポーツ選手にでもなればいいし。

 

 え、呪力ってドーピングですか。地力で挑め? 

 

 

 

 無理。

 

 

 

 

2月14日 虚しい雨

 

 

 ふざけんなよォ、バレンタインよォ。

 

 いちゃつくなよォ、リア充がよォ。特級呪霊けしかけてやろうか?

 

 

3月14日 激情

 

 

 だからいちゃつくんじゃねぇぞ、ごらァァ!!

 

 誰か俺にヒロインくれない?

 

 

 

 

 

4月2日 信じられないくらい豪雨

 

 

 

 うーむ、【八刻】までしか実用段階に至っていない……。

 距離的問題もそうだし、使える場面が限られてるんだよなぁ……なんか未来を想定してるみたいだけど、さすがに気のせいだよな(笑)

 

 

 

【十二刻】……指定した対象に虹色に輝く【刻】を刻む。

 術式範囲は12.12m。術式効果は、対象の天与呪縛の無効化。時間制限あり。

『術式反転【十三刻】』……指定した対象に無色の【刻】を刻む。

 術式範囲は21.21m。術式効果は、対象に天与呪縛を付与する。時間制限あり。呪縛効果は完全ランダム。

 

 

 いやいや、使いどころよ。

 術式反転は……ギリギリ使えるか使えないか……。これ、使い用によっては敵にとって都合良くね? ……まあ、これは封印にしておくか。

 

 

 

5月18日 曇り

 

 

 人恋しさとか感じないんだけど、これ完全に森暮らしに染まってね? 悪い兆候……だよね? ボッチとか嫌なんだけどぉぉ!? やばい、やばい、このままだと青春が消し飛ぶ。

 

 でも、もし呪霊来たらあれじゃん!!

 今だったらある程度の特級はぶち殺せるよ!?

 

 でも、漏瑚には負けるぞ!? あれ、宿儺の指9本分くらいでしょ?

 いやぁ、死ぬわ。

 だ、だから……俺は中学までは棒に振ろう。その代わりに高校からだ! 高校からやってやるよ!!

 

 ゴミ漁ったり、本屋で立ち読みすることで中学、高校の勉強は終わらせた。ハイスペック最高。

 

 つまり、いつでも入試を受けることができるのだ。

 

 

 ふっふっふ、あと三年だ……っ! 待ってろよぉぉぉ!!!

 

 

 

 

7月20日 困惑(最早天気じゃない)

 

 

 なんか呪霊に襲われてる同い年くらいの女の子助けたんだけど。

 

 あっれぇ? おかしいなぁ。

 

 なんか家入硝子って自己紹介聞こえたんだけど。

 

 嘘だぁ……嘘だよね?

 

 

 

 

 嘘だと言ってくれよォォォォォォォォォ!!!!!!

 

 

 

 

 原作キャラとは関わりたくない!!!

 

 即刻逃げまーす。

 

 

 

8月20日 曇り

 

 

 なんで君、1ヶ月間隔で襲われてんの?

 もう助けないよ? きっと近くにいる術師が助けてくれるんでしょ? そうでしょ!?

 

 

 …………ちょっ、ちょっ、おい、誰も助けないんかーい!!!!!

 

 家入ちゃん、君一人でも何とかなるんじゃないの!?

 

 あ、そっか、ヒーラーだもんね! じゃねぇよ、関わりたくないよ。

 え、俺の名前ですか? 

 

 ふっ、名乗る程の者ではありませんよ(キリッ

 

 って格好付けて立ち去ろうとしたら思いっきり服引っ張られた。おい、これ手縫いだから破けやすいんだよ、勘弁してくれ。

 

 とりあえず、適当に撒いた。

 もう襲われんなよ。

 

 

 

9月20日 雨

 

 

 

 おいこら。

 

 

 

 

10月10日 晴れ

 

 

 

 (怒)

 

 

 

11月1日 怒ったカンナ

 

 

 腹立ったから付近の呪霊全部消し飛ばしてやった。

 後悔は無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

12月24日

 

 やせいの夜蛾正道があらわれた!!!

 

 だよね、そりゃそうだよね。一部地帯の呪霊がいきなり消失したらそりゃ来るよね。

 ここ1ヶ月逃げ続けてたけどさすがに見つかっちゃった☆

 

 まったく、最悪のクリスマスプレゼントだぜ。

 

 

 

 

 

 

 てなわけで、逃げます!!!!!!!

 

 

 

 あっ、待って! やけにふわふわするお手々で掴まないで!! ちょ、ヘンナトコロ触んなごら!!

 

 

 アーーーーーッッッッ!!!!!!!

 

 

 

 




あの方っていつから高専の理事長やってんの?


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6話 強面サングラスがあらわれた!

 強面サングラスの夜蛾正道は、上層部からの指示により突如発生した大規模呪霊消失事件の現場へと赴いていた。

 

「やはり残穢が残っている。これ程までの強力な術式……いったい誰が……」

 

(考えられるのはふらふらと放浪している特級術師『九十九由基』。だが、『あれ』が意味もなく広範囲に渡り呪霊を祓うことは無いだろう。だとすれば、呪詛師によるテロ、及び陽動。もしくは、登録されていない未確認の特級か)

 

 いずれにせよ由々しき事態だと夜蛾は気を引き締める。

 

 

(私の任務は調査だ。一先ず情報を集める必要があるだろう)

 

「今回の任務。一筋縄ではいかないな」

 

 

 まず、夜蛾は情報を集めようとした。

 しかし、夜蛾は聞き取り調査に絶望的に向いていない。

 

 何故か。

 

 

 顔が怖いのである。

 

 

 

 

 聞き取り。

 

 それに応じてくれるかは、第一印象で全てが決まる。

 無害そう、だとかイケメン、美女。

 容姿が優れていれば、対異性特効的に効果を及ぼす。

 

 しかし、夜蛾の顔はお世辞にも無害そうには……とても見えなく、イケメン……と言われれば首をかしげる。一部層に人気がありそうな強面顔だ。

 とてもじゃないが堅気には見えない。『ヤ』から始まるその筋の人と見られるのが関の山である。

 

 それを把握しているからこそ、夜蛾はその一歩先を行く。

 

 

 

 夜蛾の術式は【傀儡操術】。

 無生物に自身の呪力を込めることで『呪骸』を作り出す術式である。

 夜蛾の『呪骸』はファンシーなぬいぐるみである。

 あら、これには敵である呪霊もほっこり……とまあ冗談はさておき、この『呪骸』に盗聴器を埋め込み、ありとあらゆる場所に潜入させる。索敵と情報集めである。

 無作為に抽出した情報の中から、有用な情報を取り出す。案外あちらこちらにヒントは眠っているのだ。

 

 そして、夜蛾は残穢や呪力を探ることで、呪術的な方面をカバーする。

 ちなみに残穢とは呪力や術式の痕跡のことである。地面などに薄ぼんやりと光るのが特徴。経験ある術師は無意識に残穢に気づくことができる。夜蛾もその一人だ。

 

 

 

 

 

 3日程経った。

 夜蛾は有力な情報をようやく発見することができた。

 

 

「なるほど。最近近くの森で怪しい動きがある、と。爆発音や不気味な声……。調査する情報として充分だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「いえーい!! 伊織ちゃんのぉぉ、三分クッキング! この兎肉をぉ……串でぶっ刺す! そして焼く! 以上! なんと……三分以下で済んだ! あら、奥様、時短ですわよ、うふふ」

 

 

「…………」

 

 

 奇しくも九十九と同じ第一印象を抱いた夜蛾。

 

 

 

 こいつはやべぇ、と。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 森の住民に出会った夜蛾は、見た光景が信じられなく2、3分ほど固まっていた。

 

(中学生……? この子から莫大な呪力を感じる。というか漏れ出ている。呪霊を呼んでいるのと同等の行為だぞ……?)

 

 夜蛾は、この呪力のまま現時点まで生き残っていると仮定した場合、かなりの術師であると判断した。

 粗末な一張羅に顔立ちの整った優しげな雰囲気を感じさせる少年。

 しかし、行動と言動から大幅にマイナス点が加点されるであろう。

 

 

 

(一先ず、話を聞く必要がある。呪霊消失事件とも関わりがあるに違いない)

 

 だが相手は子どもだ、と警戒されぬように呪力を消して近付いていく。

 幾ら自分が強面でも初見で逃げられることはないだろうと。

 

 

 しかし、それは大きな誤算だった。

 確かに『初見』ではある。実際に見たのは初めてなのだから。

 

 しかし、伊織は『夜蛾正道』という存在は既知であったのだ。

 

 

 

(げぇ!? 夜蛾正道!? 学長じゃん、何でここにいんの!? あ、そっか、周辺の呪霊消し飛ばしたからか。あっははー☆ 

 

 よし、逃げよう)

 

 そこからの行動は速かった。

 

「天線刻術【一刻】」

 

「なっ!?」

 

 伊織が術式を行使するや否や、莫大な呪力が伊織から吹き出る。──否、呪力ではないエネルギーなのだが、夜蛾は分からない。よって、呪力と認識した。

 突如事を起こそうとした伊織に夜蛾は驚愕する……がしかし、それも一瞬。

 呪術師としての長年の経験が効いた。 

 瞬時に戦闘態勢へと持ち込む。

 

 

(ただの子どもと侮ってはいけない。ここは全力で捕えさせてもらおう!!)

 

 

 

 だがしかし、夜蛾の長年の経験は無駄だった。

 

「アデュー!!」

 

「……!?」

 

 

 伊織はくるりと方向転換し、途轍もない速度で逃げに転じたのだ。

 これには、さすがの夜蛾も困惑。

 呆気なく逃がしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

(消息が掴めん……っ!!)

 

 夜蛾は一向に少年に対する足掛かりが掴めずに、歯痒い思いをしていた。

 そもそも、初対面であるはずなのに逃げ出したことが困惑の一途を辿る原因となっている。

 

「ここまで手掛かりが無いとは」

 

 『呪骸』による捜索を行ったが、音沙汰が無いのである。

 それもそのはず。伊織は【四刻】を常時発動させながら生得領域に籠っているのだ。見つけるのは至難の技であるし、仮に見つけても4.4kmの索敵範囲を持つ伊織だ。夜蛾がたどり着く頃にはすでにいないだろう。

 えげつない性能を持った一方的な鬼ごっこである。

 

 

 

 しかし、ここで夜蛾は思いもよらぬ幸運を掴むことになる。

 

 

 

「……!? この呪力は特級呪霊か!?」

 

 夜蛾は、肌がひりつく程悪意を持った呪力を感知した。

 かなり近い。特級呪霊の可能性が高いと判断した夜蛾は、すぐさま現場へと向かう。

 

 そこでまたも度肝を抜かれる光景を目にするのだ。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ふっはっは!! 遅い、遅いぞ特級呪霊君! てか、お前特別だから特級なんだろが、一月に二回くらいは襲われてんだけど? なあ、教えてくれよ、俺はいつになったら平穏な生活を送れるんだよッッッ!!」

 

 ズパンッッッ!! と空気が揺れる音が辺りを包む。

 伊織が視認できぬスピードで振るった拳の衝撃波だ。

 

(なんてことだ)

 

 夜蛾は少年が特級相手に舐めプをしながら一方的になぶる姿を見る。

 夜蛾とて一級術師。特級呪霊との戦闘経験はある。

 

 しかし、ここまで容赦なく余裕を持って特級呪霊と戦うことができるだろうか。

 

 否である。

 それは最早特級術師としての領域だからだ。

 

 

 

「いいぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛くくくく゛なぁぁ゛ぁぁぁ゛」

 

「あぁ? 行くなって? じゃあ、お前が逝けよ」

 

 特級呪霊は果敢に攻め入るものの、伊織は全てを紙一重で避ける。恐らくわざとであろう。

 そして、呪霊がギリギリ耐えられる威力のパンチを繰り出し続けている。

 

 普段の伊織であれば、こんなことはせずに一瞬で屠るだろう。

 しかし、最近の逃亡生活により彼の気は立っていた。

 

 つまり、ストレスが爆発している状態である。

 

 

 伊織は呪霊相手にニヤリと笑うなり、人差し指と小指を合わせる。

 

 

「そうだ、折角だから見せてやるよ。つい最近ようやく取得できた必殺技をなぁ」

 

 伊織を中心に莫大な呪力が渦となり、何らかの形を形成し始める。

 

 

(まさか……!? 使えるというのか! 呪術の最高到達点! 目指すべき最強の御技を!)

 

 

「領域……(あ、やべ、夜蛾いるじゃん!?)て、展延!」

 

 莫大な呪力が伊織を包み込み、鎧となる。自身の領域を纏わせる技である。

 

 

(……さすがに無理か)

 

 

 夜蛾はホッとした。決して自分の先を行っている存在への嫉妬ではない。

 普通に住宅街の近くであることを懸念しただけである。

 

 

(もう、普通に倒そう)

 

「おらっ!! 黒閃!!」

 

 

 呪霊に向けて放った拳に纏っていた呪力が黒く染まる。

 その拳は呆気なく呪霊を影も形もなく消滅させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

12月31日 曇り

 

 

 高専に入学しろ。オマエに拒否権は無いと言われました。

 

 

 

 さよなら俺の平穏。

 

 

 またな、皆。

 

 

 俺たちの戦いはこれからだぜ!(いや、本当にな。しかも不本意だし)

 

 

 

 

 

 



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7話

独自設定注意


2002年 1月1日 晴れ

 

 語弊を招いた。というか学長(未来)の言い方が悪いんだよ。その強面顔で迫るな。大概ビビって会話にならん。

 ホントに何なんだよ。漫画見た時から思ってたけどさ。

 

 ギャップにしても程度があるだろ……!

 

 正直、ヤクザがぬいぐるみ持ってても萌えないねん!

 ただ、『ぬいぐるみの綿の代わりにお前の肉塊を突っ込む』と暗示されてる感じがして非常に怖いです。

 

 おっと、本題に戻ろう。

 

 

 夜蛾さん曰くですね、お前はやりすきだと。

 

 呪霊を消した範囲が多すぎたと。

 残穢として残った呪力を求めて、周辺の呪霊が集まり出すと。

 

 呪霊と和を持って共存している訳ではないが、やり過ぎ注意らしい。

 何それ、そんな設定初めて聞いたんだけど。

 

 まあ、てなわけで、上層部から目をつけられた上に危険人物扱いされて、保護観察処分的な? いや、勝手に決めんなよ腐った蜜柑が。って思ったけどネ。

 

 さすがに夜蛾さんも悪いと思っているらしく、卒業した後は自由に過ごして貰っても構わないって言ってた。さす夜蛾! 強面ヤクザとか言ってごめんね!

 

 今でも思ってるけど!! お前にファンシーなぬいぐるみは似合わん!(最低)

 

 

 まあ、高専入学は一年後だし、それまでは適当に過ごすか。

 夜蛾さんがうちに来るか? って言ってくれたけど、長らく森暮らしに慣れたせいか、今すぐ離れるのは何だか寂しい。てか、うちに来るか? って俺は捨て犬かよ。

 

 

 

 

2月1日 雨

 

 

 【四刻】を常時発動してるからか、危険に敏感になってきた今日この頃。

 夜蛾さんから教えてもらった驚愕の新事実。

 

 呪力垂れ流し事件を解決したお陰で、俺は呪霊に襲われる頻度が少なくなっていた。

 

 

 聞いて? ()()()()()()()()。←ここ重要。

 

 

 俺の呪力って多すぎるみたいでな。あんまりコントロール効かないみたいなんだわ。呪力操作S+はどこへいった。詐欺か? 詐欺なのか? あぁん!?

 しかも年々増えるせいで、最近集まってきた呪霊に襲われる日々を過ごしている。

 

 まあ、俺が祓わないと周辺住民に影響出るししゃーないけど。

 

 あれ? 自業自得? な、なーんのことかなぁ……? ぼくちゅーがくせいだから分かんない(てへぺろ☆) 

 

 

 

3月1日 曇り

 

 

 そういえば、野生児だとか森の住民とか謂れの無い悪意にまみれた言葉を投げ掛けられてる気がするんだけど、最近は快適な生得領域に引きこもってるし、前世での無人島経験(パワーワード)で何とかなってるだけだからな?

 真似すんなよ? 多分2日で諦めるぞ。

 

 まァ、前世でも録な親じゃなかったし、現代社会でサバイバルしてたようなもんだけどな。しかも、今世では親すらいないという。

 俺の前世ハードモードすぎませんか。

 

 多分今世はルナティックモードじゃないかと俺は疑ってる。

 

 

 

4月1日 晴れ

 

 たまーに訪ねてくる夜蛾さんに、俺の同級生って……いる? って訊いてみた。

 

 

『いない』

 

 

 さよなら俺の青春。

 

 

 

5月1日 晴れ

 

 

 

 俺はもう失くしてしまった夢の隙間を埋めるかのように修行に打ち込んだ。

 甘酸っぱい青春を夢見た俺は、今泥水を啜っております。しょっぱいよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

6月1日 雨

 

 

 梅雨だ。俺の悲しみも一緒に洗い流してくれればいいのに。

 

 

 

 

 

7月1日 晴れ

 

 

 吹っ切れた。

 俺はオフィスラブを目指すことにする。

 あ? 二級術師からのスタート? だからどうした。俺は卒業してさっさと外資系の大企業に勤めて、気になるあの子のハートをゲットするんだ……!!

 

 あー、でも、術師って金貰えるし、そう考えたら身寄りの無い俺の選択肢としては正しいかもしれんな。

 経験積ますために二級スタートだし、そこそこ力をセーブして『俺は無害ですよぉ~』ってアピールするか。

 

 

 

8月1日 曇り

 

 

 

 伊地知さんって、五条の後輩なん?

 あの人も苦労人だよなぁ~。

 

 

 何で急にこんな話しをしたかっていうと、なに、家入と同じパターンだ。察してくれ。

 どうして原作キャラと関わりを持たせようとしてくるんだよ。

 

 

 もし俺がオリ主なら、オリヒロをください。

 全肯定甘々尽くす系ヒロインでおなしゃす。

 

 

 

 

9月1日 雨

 

 

 

 如何せん、比べる対象がいないから強いかどうか分からない。

 大体俺は強さの度合いで特級呪霊か否か見極めることできるけど、特級もピンキリだし。

 

 だって、少年院のあの特級が1だとしたら、漏瑚とかどうなるんだよ。少なく見積もっても500はあるんじゃね? 知らんけど。

 今の俺が勝てるのかね。いや、多分九割勝てると思う。

 

 

 あ? 両面宿儺?

 

 

 二秒で終わるさ。

 俺がな。

 

 

 

 

10月1日 曇り

 

 

 久しぶりに家入ちゃんに出会った。

 

 しつこく名前訊かれたから『範馬勇次郎』です。って言ったらマジで信じてたんだけど。

 さすがに可哀想だから訂正したらむくれてた。あらまあ、可愛い。

 高専時代の家入ちゃんはよく覚えてないけど、五条と夏油のことを『クズども』とか言ってなかった? いや、胆力ぅー。

 俺も言われるんかな。

 年訊いたら俺の2個下だった。だよね、俺の同級生いないらしいし。

 

 いや、ワンチャン呪術師候補が見つかればあるかもしれないけど。

 

 

 

 

11月1日 晴れ

 

 

 術式多くね。

 正直、これどこで使うん? ってのが一杯ある。

 やっぱり、誰かと戦わせようとしてる大いなる意思を感じる。

 真人と戦ったら最悪無為転変でコズミックホラーにジャンルが変わっちゃうから絶対嫌なんだが。

 

 もし出会ったら【二刻】ぶっぱして速攻逃げるわ。

 

 

 

12月1日 曇り

 

 同級生いないけど、先輩に歌姫ちゃんと冥冥様がいることを思い出した。

 

 でも、あの人と青春とか……いや、どう考えても無理だろ……。

 

 男勝りに金大好き女とか。

 先輩としては敬っておくけど、余計な火種生みたくないからそっとしておこう。

 

 基本的に俺は、高専でも誰とも関わらず平穏に生きていくのだ。

 

 きっと俺ならできる。   

   

 

 

 だって、俺だもの。みつを。

 

 

 

 

1月1日 雪

 

 華の15歳だぜ。同時に地獄への切符を手にした瞬間でもあるんだぜ。

 

 

 夜蛾さん。誕プレにぬいぐるみは正直いらない。盗聴器入ってないよね? 

 

 

2月1日 曇り

 

 

 恵方巻き食いてぇ。

 

 

3月1日 晴れ

 

 

 高専入学に向けて最終確認を終えた。

 粗方術式についても使えるようになってるし、黒閃の連続記録も遂に二桁の大台に乗った。

 集中次第ではもっと行きそうだから期待したい……って、どうして戦いに思考がシフトしてるんだ、俺は。

 

 

 でも、自衛のためだし、シミュレーションするのは悪いことじゃないよね。

 自分の防衛だぜ? 力があって損はねぇだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4月1日 晴れ

 

 

 くっそ、めっちゃ晴れだし。

 

 わざわざ迎えに来なくてもちゃんと行くっつーの……。

 

 

 

 

 

 

 ……帰りたい。森に。

 

 

 




総合日間1位……?
ちょっと冬休みの宿題やってる間に何が起きたんだよ……


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8話

遅れてすみまてん。


2003年 4月2日 曇り

 

 森の野生児かもしれない。自然がなきゃ落ち着かねーもん。

 一応高専は森に囲まれてるけど寮生活だし。

 清潔に安心な人間として正しい生活。

 

 それって果たして幸せなのか。

 

 やっぱり森が恋しいです。生存権なんていらない。

 

 

 

 

4月4日 晴れ

 

 パイセンに挨拶したかったけど生憎任務でいないらしい。

 こうなったら原作キャラと関わらないことは不可能だし、誰にも目を付けられないようにコッソリと生きようと決心した。

 力を見せず。菩薩のような笑みで適度な距離感を計り。平穏無事に卒業する。

 

 夏油のことがある限り無理だと思うんだけど、あれを闇墜ちさせないのは無理でしょ。

 例えフラグを全部バキバキにへし折ったところで必ず人間の醜さを目にしてバッドエンドだ。

 

 星漿体事件がなァ……。

 個人的に天内さんの顔が好みだから助けたいけど伏黒パッパに勝てるか分からないから嫌だ。

 

 クズだと罵ってくれても良いんだぜ。

 自分のことで一杯一杯なんだよ。

 

 

 

 

4月10日 晴れ

 

 

 毎日の授業は退屈だ。

 呪術については『あぁー、なるほどねぇ』と復習になるけど、勉強については履修済みだし、体術についても九十九先生から教わってる。

 でも、目立つのは嫌だから手加減してるけど妙に夜蛾さんの視線が痛い。

 

 もしかして俺の実力バレてます?

 

 

 

4月14日 晴れ、

 

 

 ようやく歌姫パイセンに会えた。

 呪術ミーハーな俺だし、原作女性キャラと会えたのが嬉しい。(家入ちゃんと九十九先生は別)

 いいよね、パワフルな性格の女子って。

 

『まともだ……』と驚かれたのは非常に解せない。

 

 

 

4月20日 雨

 

 

 冥冥パイセンとも会えた。

 なんつーか、うん。後輩にたかるのはよくないと思うんだ。

 

『私の名前は知りたかったら金払え』的なニュアンスで言われた。

 

 そりゃ歌姫パイセンが俺を見てまとも、って言うのも納得ですわ。キャラが濃すぎる。

 

 

 

 

5月2日 雨

 

 

 適度に呪霊払ってお金稼いでいるせいか、生活にもだいぶん余裕ができた。

 聞いて驚け。

 

 服を十着も持ってるんだぜ? すごくない?

 

 

 

 

6月3日 曇り

 

 

 特級呪霊に襲われた。

 手加減しながらはさすがにキツかったからワンパンでぶち殺したら一級術士に推薦された。夜蛾ェ……。

 あれは一級よりの特級だったのでギリギリ倒せましたと言い張ってるけど効果は薄い。

 

 とりあえず、一級の査定のために来る監督者には絶対に実力を見せないようにしなければ。

 

 もう永遠に準一級術士で良いんだけど。

 

 

 

 

7月7日 晴れ

 

 天ノ川ちょー綺麗ー。

 歌姫パイセンと星を見た。

 

 口調は乱雑だけど普通に優しいんだよな、この人。

 当たり障りのない会話をしてたら『後輩に追い抜かれてつらたん』的なことを言われたから慰めたら抱き着かれた。やったぜ、役得。

 

 

 

 

 

8月8日 曇り

 

 

 生得領域に籠りながら修行は続けている。

 体術は成長しなさそう。もう伸び代を感じない。才能無いらしいししゃーないだろ。

 術式の方は、幾つかの【刻】を組み合わせたりしてる。

 

 てか、勝手に頭の中で【刻】って概念を理解してたけどよく考えてみれば不思議な術式だなと思った。

 

 観察したり実験してみたら、術式の対象者に数字が刻まれてることが分かった。

 

 【一刻】を自分に使った時に右腕に数字が描かれてるのを見て妙に感動したもんだよ。

 

 

 

 

9月30日 晴れ

 

 結構時が経つのは早い。

 結局、査定は落ちて準一級のままだった。俺の計画通り。

 来年には五条悟が入学してくるし、準一級の俺のことをバカにしてくるに違いない。非常に楽しみである。あ、ドMちゃうで。

 

 

 

10月20日 雨

 

 

 俺と絶望的に相性の悪い呪霊に殺されかけた。

 自分の術式で四肢を爆散して以来の死を間近に感じた経験だ。

 一回目に関しては自業自得の間抜けだったから良いけど、呪霊との戦いで死にかけたのは初めてだぜ。

 

 正直見下してたのもあったし、慢心が生んだ当然の報いかな。ぴえん。   

 

 

(字は震え気味)

 

 

 

 

12月25日 晴れ

 

 

 クリスマスとかどうでも良いんです。とか言ってるやつの気持ちはよく分かる。

 負から生まれる呪霊だけど、この日に一番多く生まれるんじゃねぇかと俺は疑ってる。

 

 この前殺されかけた呪霊が、もしクリスマスの醜い男子の嫉妬から生まれたとかだったら、軽く1ヶ月は引きこもれるわ。

 

 

 

 

2004年 4月1日 晴れ

 

 馬鹿な……五条の入学が来年だと……?

 

 歌姫パイセンが二年生だったから何かおかしいと思ってたんだよ。

 

 

 

 

 え、三年からのスタートなのか。マジかよ。

 

 

 

 

 

(省略)

 

 

 

 

 

 

2005年 4月1日 曇り

 

 

 

 

 うわ、サングラスルックの生意気五条キタコレ

 

 

 

 

 

 

 

 

 




チラシ裏ってなに…?


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9話 なぜこんなことに……

テスト終わったのでやっと投稿できます…


2005年 4月2日 涙ァ

 

 ふふふ、ふざけるなあぁぁ!!!

 五条悟と対面する前に長期任務入りやがった。露骨だろ。露骨だろ貴様。

 言ったよなぁ? 新入生来るの楽しみだなぁって。聞いたよなぁ? 夜蛾ェ……。

 

 近場なら即刻祓ったものの……。

 なんで鹿児島まで行かなきゃならん。飛行機じゃなくて新幹線とかふざけるな。

 明らかに俺と五条悟を遠ざけようとしてる気がするのだが。

 

 

 くそ、この恨みは祓う呪霊をボコすことで発散しよう。

 

 

4月4日 晴れ

 

 死にかけてから油断することはなくなったが、ただの二級呪霊だったのでワンパンで爆散。

 この程度なら現地の術師で絶対大丈夫だろが。

 ストレス発散すらも出来ないくらい弱かったし。

 

 くっそ、もう鹿児島の呪霊全部祓ってやろうか。

 いや、ダメだ、確実に拳骨落とされる。

 

4月5日 雨ェ

 

 連絡が入った。

 大阪の一級呪霊を祓えとのこと。

 帰りの新幹線でそれ言う? おい、こら『窓』くらいは付けろやぁ!!!!

 

 

4月6日 曇り

 

 生得領域に籠ってた呪霊をワンパンで倒した。

 うん、まあ特級寄りの一級だったな。防御に優れてるせいで黒閃一発じゃ仕留めきれなかった。  

 ……てか、俺術式使って祓う方が得意なのに何でわざわざ拳で殴ってるんだ……。

 体術に関しては才能ない、とのお墨付きを貰ってるし。俺の場合はね、脳筋ゴリラのごり押しだから。

 

 俺より遅いのが悪い。

 

4月7日 晴れ

 

 富士の樹海の遭難者を救え、だとよ。

 

 ……ぶち殺したろか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 準一級術師の石楠花(しゃくなげ)伊織(いおり)は、薄暗い森の中を苛立ち気味に歩いていた。

 時折足元の枝を憎々しげに踏み潰すことから、その苛立ちは相当なものだと窺い知れるだろう。

 

 その通り、伊織はまず寝ていない。三日ほど。

 もし、この任務がとある呪霊を倒せ、等であった場合伊織は生得領域でしっかり睡眠を取ってから行くに違いない。

 だが、この任務は救出任務である。ゆえに寝る暇もなく探しているわけだ。

 

「くっそ、腐った蜜柑の身内だか何だか知らねぇけど、こんな危険地域に準一級を遣わすことが間違ってる!!」

 

 青木ヶ原樹海。またの名を富士の樹海。

 鬱蒼と生い茂る木々が広がるが、広がっているのは何も木だけではない。

 呪霊が広範囲に渡って存在しているのだ。しかも、その多くは二級呪霊以上で、単身で行くのはまず自殺行為だ。

 しかし、何気に目をつけられている伊織は、上層部からの直接使命により今回の任務を請け負うことになった。

 

「あぁぁぁ!! もう広い! 広すぎる!! 術式が意味を為さん!!」

 

 伊織の広範囲索敵術式の【四刻】の効果範囲は4400m。

 

 樹海の広さは35平方キロメートル。

 ゆえに一々場所を移動しながら術式を発動させねばならないし、【四刻】はあくまで五感情報を拾うだけであって、個人の判別はつかない。

 面白半分で樹海に行く奴、自殺志願者、遭難者。わりと生体反応は多いのだ。

 聴覚を拾うことで、その判別がついているが、未だに目的の救助者に出会うことはなかった。

 

 遭難してから4日。そろそろピンチである。

 

 ただ歩き回るだけならこんなにも時間はかからない。

 

 問題は、

 

「あぁ、くそ邪魔ァ!!」

 

 伊織が拳を異形の呪霊に叩き込む。

 呪力の纏った拳は容易に呪霊の体を突き抜け消滅させた。

 

「呪霊多すぎィィ!」

 

 目につく呪霊をぶん殴ってるせいで、救助は遅々として進まない。

 俺を視認した呪霊は確実に襲ってくるせいで捜査に時間を費やせないのだ。

 文句を呟きながら、伊織は再度術式を発動させた。

 

「ん? おお、生体反応確認。どれどれ……」 

 

 続いて伊織は聴覚を拾う。

 

『……うぅ、お腹空いたし呪力空だし呪霊多いし、もうやだぁぁぁ』

 

 男の泣き叫ぶ声だ。

 呟かれた言葉から探し人で間違いないだろう。

 

 死んだ目をしていた伊織の瞳は輝く。

 

「やっと帰れる!!」

 

 【一刻】を発動し、エネルギーを纏った伊織は音速を越える。そのせいで周りの木や呪霊は軒並み吹っ飛ぶか消滅するが、寝不足の伊織はそんな判断すらつかない。

 いかにチートを貰おうと三大欲求には逆らえないのである。性欲もね。

 

 

「おっと、あぶね。救助者吹き飛ばすとこだった」

 

 音速の効果範囲に救助者が被ったところで、ようやく速度を落とした伊織は駆け足で向かう。

 

 すると、そこにはスーツ姿の青年が目に隈を浮かべてぶつぶつ呟いていた。

 

 

「へい、青年。もう大丈夫! 私が来たあぁ!!」

 

「ひっ、なにそのテンション!? ……って人!? 呪術師!? いえええええええええええぇぇぇぇ!!!!!」 

   

「うわ、なにこいつ怖っっ」

 

 いきなり叫びだした青年に、伊織は率直な感想を口にする。しかし、怖いのはいきなり某漫画の真似をした伊織の方である。

 青年の反応は至って普通だ。何せ4日間の呪霊との鬼ごっこに勝利したのだ。命が助かったのだから叫ぶの仕方ない話である。

 

 

「へい、そんでさっさとこっから離れたい。3分で安全地帯に避難できるコースと、6時間かけて避難するコース。どっちがいい?」

 

「え、そりゃあ、三分の方がいいけど……」

 

 伊織はその答えを聞いてニヤリと笑う。

 青年にも負けない深夜テンションの伊織は、人への配慮がゼロである。

 伊織は青年を背負う。

 

「え、何するの。ちょっとばかり嫌な予感がするなぁって」

 

「音速コースにご案内あああぁぁぁいいいぃぃぃ!!」

 

 瞬間、青年の視界が歪み始める。

 もちろん、脳はシェイク、シェイク、シェイク状態だ。

 

「あんぎゃああああああぁぁぁいいいぃぃぃ!!」

 

 伊織は青年を呪力で強化させているが、目まぐるしく動く景色と、呪力ではカバーできない衝撃が青年を襲い、あらんばかりの声で叫ぶ。

 

 

 伊織はその声にうるせぇなぁ、と思いつつ音速で呪霊をぶっ飛ばす。

  

 そのまま宣言通り三分で樹海を出ることができた。 

 

 

 伊織の背を降りた青年は、息も絶え絶えと言った様子で、顔を青く、吐いていないのは最早意地。気を失っていないのは大人としてのプライドである。そんなもの捨てちまえ。

 

「はひぃ……っ、はひぃ! はっはっ、はっ」

 

 床に這いつくばる青年を冷たい瞳で見た伊織は、電話をかけて青年の回収を頼む。

 

 寝ぼけ眼を擦りながら、伊織は『窓』が来るまで眠気を我慢し続けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

4月12日 晴れ

 

 やっべ、五条悟ぶん殴っちゃった。

 

 

 

 

 



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ぶん殴ってしまったものは仕方ないのだ

お久しぶりでふ


 俺は自分が最強だって疑うことを知らなかった。

 誰彼もが俺を持ち上げる。六眼と無下限呪術の抱き合わせ。相伝の術式を完璧に引き継いだ五条家の天才。

 

 しょーじき、そんなクソどうでもいい奴らのおべっか貰っても嬉しかねーけど。くだらねぇ人間に従う気もおきねーし。

 

 だから呪術高専に入ったところでクソつまんねぇ日々が待ってるんだろうな、とやる気もなんにもおきなかったけど。

 

 ──傑と出会った。

 

 俺一人で最強じゃない。俺たち二人なら最強なんだと初めて仲間に。親友に出会った。

 ……ま、俺たちをクズ呼ばわりする変な女もいるけど。

 

 

 そんな折に、変な女こと硝子から聞き捨てならねぇ言葉を聞いた。

 

 

 

「もうすぐ先輩が帰ってくるんだよね」

 

 

「先輩ぃ? 歌姫と冥さん以外に誰かいたっけ? ねー、傑知ってる?」

 

 

「あぁ、悟はもう少し人のことを覚えようね。ええと、石楠花先輩だったけな。一級に落ちた準一級術師だよ」

 

 

「ブハッ、一級に落ちるとか雑魚じゃん! そんな雑魚、覚える価値ねーだろ」

 

 なんだ木っ端術師かよ、つまんねー。

 つか、どうやったら一級落ちんの? あー、それは歌姫もだったわ。ごめんごめん。

 

 

「やめよう悟。後輩に立つ瀬を奪われた先輩が可哀想じゃないか」

 

「それもそうだな」

 

 そうして二人で笑っていた俺たちは、浮かび上がる程の怒気を携えた硝子に気が付かなかった。

 

 

 

「言っておくけど、あんたらみたいなクズどもより先輩の方が強いから」

 

 

 

 

 

「「は?」」

 

 

 帰ってきたらボコボコにしてやろうと俺と傑は決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 疲れた。まじもう無理ぃ……。

 

 呪霊の巣窟、富士の樹海から帰還した俺は、ヘロヘロのまま高専への戻ってきた。

 ようやくだ。ようやく戻ってきた……。

 

 

 やっと五条悟に会えると楽しみにしていた時に立て続けに入った任務。恨むぜ夜蛾の野郎。

 

 任務、任務と俺は社畜じゃねーんだよ。どっちかというと、文明に触れている今より森暮らしの方が楽しかったまである。

 森暮らしのイオリってぃ、とか呼んでクレメンス。

 

 そんなくだらないことを考えながら寮までの道を歩いていると、待ち望んだ白髪の頭が見えた。

 

 まさか……悟ちゃん!?

 

 すぐ後ろには、闇堕ちした外道こと夏油傑と家入ちゃんの姿が。おー、やっぱり君らも入学してたのね。やっぱり家入ちゃんはマジで美少女だわ。大人ルックの隈ありもなかなかに乙なモノだけど、高専の時の硝子ちゃんが一番かも。

 

 

 すると、あちらも俺のことに気づいたようで、約2名(五条と夏油)がニヤけた笑みで近づいてきた。

 

 

「あっれぇー? 一級落ちた雑魚先輩じゃーん! 調子どぉ? 雑魚任務にクタクタになってるようだけど」

 

「初めまして石楠花先輩。私は夏油傑です。こちらは五条悟。何かと()()()()()()()()()()お忙しいと思いますがどうぞお見知り置きを」

 

 両者ともに味の出た罵倒だな。

 漫画で慣れすぎててダメージゼロですわ。

 

 

「おー、君らが期待の一年生か。雑魚だけどよろしく」

 

「ちっ……」

 

 俺の返答に苛立ったように五条は舌打ちをした。

 夏油は何も口にしていないが、静かにキレている雰囲気がある。君らさ、少しは隠そうとしなよ。底の浅さがバレるぞ。

 

「おいーっす。ども、お久しぶりです、センパイ」

 

「よっ、家入ちゃん。元気か? 動物のお世話で大変だろ?」

 

「……ブハッ! はははっ!! ……やー、大変ですね。大きなお猿さんのお世話は」

 

 皮肉を込めたメッセージに一瞬、虚を突かれた家入ちゃんだったが、俺の意図に気付き、爆笑しながら乗ってくれた。

 

 五条と夏油はキョトンとしていたが、徐々に意味を理解していったのか、般若のような表情で俺を睨んだ。

 

「「殺すッッ!!」」

 

 やっべ、ちょっとからかったつもりだったのに思ったより沸点低かった。

 

 あれだなー、ここはわざとヤラれて雑魚アピールでもしておこうかなー。

 

 でもなー、家入ちゃんに無様な姿見せるの嫌だしなー、

 

 

 うしっ、どうせ五条は無下限で効かないし殴ったフリでもしとおくか!!

 

 

 馬鹿二人がいよいよもって殴り掛かりそうな雰囲気だったので、俺は先んじて攻撃を仕掛けた。

 

 

「【一刻】」

 

 どうせ止めるだろうからと、5割ほどの力で強化した。

 足先に呪力を込めて飛び出すように五条に接近する。

 

 あれ、もう殴るモーションに入ってるよ?

 

 気づけよ? ……気づくよな? 君まだ術式の自動対象選択できないでしょ??

 

 当たるよ? 当たっちゃうよ?

 

 

 あっ!! 止まらねえええええええええええ!!!!

 

 

 ああああァァァ!!!!!!!!

 

 

 

「グボァッ!!」

 

 五条は俺のパンチを受けて、錐揉み回転して吹っ飛んでいった。

 

 

 

 

 ふぅ、いい拳だった。

 

 

 ……現実逃避とか言わんといて。

 

 

 

 

 

 

  あの、家入ちゃん、爆笑しすぎ。

 

 

 

 

 

 

 



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10話 

4月13日 雨

 

 最近、俺の心と天気が同期してね? って思うのよ。

 

 泣きたいです。

 

 五条悟ぶん殴っちゃった。

 戦闘時だったら、間違いなく無下限で防御できてただろうに油断しすぎた結果殴り飛ばされるとか……。君、よくそれで最強名乗れたよね。

 自動選択できるようになってからは、本当に最強なんだろうけど。学生時代だし? まあ、イキるのもしゃーねーとは思うけど。

 

 結局、気絶した五条悟を『覚えておいてください』と殺しそうな目付きで睨んだ夏油が運んでいった。  

 

 ワイは家入ちゃんに五条治すように言ったんだけど『良いバツでしょ』と断られた。確かに。

 

 この後、夜蛾にバレて殴られたのはマジで許さん。チクったの誰だ?

 

 

 はぁー? 冥冥さん? 夜蛾に金渡されて警備担当ぉ?

 

 まー、あんたの術式ならバレるよね、クソが。

 

 

 

 

 

4月14日 晴れ

 

 

 寝たらどうでもよくなった。

 最初に喧嘩売ったあいつらが悪い。……いや、待てよ。煽ったの俺じゃね? ……気のせいだろ、うん。目立ちたくないとか騒いでるのに目立ちまくってるのもきっと気のせいなのよ。

 あのね? 言い訳させてくれん? 

 

 目立ちたくないのは事実なんだけど、そのためなら何でも犠牲にして良いっていう心積もりではないし、なけなしの呪術師のプライドが人を救えと煩いわけだし。

 

 まあ、どうせ高専卒業したら就職するんだし学生の時くらいは、そこそこ暴れてもいいかなと。

 実力は隠すけどね。特級にされて逃げ場消えるから。

 

 

 そんな暗い話は置いておいて、今日は久しぶりに任務が入ってないから家入ちゃんに誘われて一緒にお昼ごはん食べてるナウ。

 土曜なのにわざわざ寮から出たくなかったけど、可愛い後輩の頼みなら聞くのも吝かではないのだ。決して可愛さにやられたわけじゃない。そ、そんな軽くないもん!

 

  

「センパイって、なんで呪術師やってるんです?」

 

 って唐突に聞かれたんだけど、正直成り行きとしか言えない。

 

 

 だから見栄張って、大切な人を守るためさ!キリッ!

 

 って言ったら速攻バレて爆笑された。

 

 そんなタマじゃないでしょ、って失礼すぎね?

 

 ちなみに口調が迷子になってたから五条とかに話す感じでええで、って言ったら嬉しそうにしてた。

 

 

 うーむ、呪術師をやる理由なぁ……。

 その気になれば姿を消せるのも事実だけど、何だかんだ夜蛾センセーには世話になってるし、俺の戸籍とか事情を汲んで色々手続きしてくれた恩もある。だから嫌嫌言いながら続けてるフシはある。

 

「ツンデレじゃん」だと?

 

 は? ちゃうわ。

 笑うな……笑うなああぁぁ!!!

 

 

 

4月15日 曇り

 

 何と面倒なことに五条と夏油と家入ちゃん。さしす組と合同任務になった。

 曰く、もうすでにあいつら強いけど先輩なんだし面倒見てやれや、ということらしい。

 

 これ、建前ね。

 

 本音は、建物壊すなクソが、お前ちゃんと見て注意しろクソボケが、ってことらしい。

 

 原作通り好き勝手してるね、君ら。

 派手好きなんだよな。忍ぶとか知らなそう。知っててもやらないだけか。

 基本自分の力を誇示してるわけだから、そりゃまあ派手にもなるよな。

 夏油は私知りませんって訳知らぬ顔でため息吐いてるけど、何だかんだ五条を調子に乗らせてるの君だからね?

 

 わりと常識人な家入ちゃんは面白がって止めようとしないし。

 

 

 

 そんなわけで任務です。

 

 

 東京の離れにある廃校となった小学校に現れた呪霊。  

 

 事の発端は一週間前、中堅大学の心霊研究サークルが件の廃校にフィールドワークとして侵入した時だ。

 男子4人、女子3人の7人で意気揚々と進んでいたが、入って5分ほどで男子一人が行方不明になる。

 どうせ驚かすためにどこかに隠れたのだろうと楽観的に考えた彼らは、気にしないことにして先に進んだ。消えた男子がお調子者だったことも、違和感を消し去った。

 しかし、再び5分経つと今度は女子一人が忽然と姿を消した。

 

 また悪戯かと思う彼らだが、段々と薄寒さを感じたようで誰かの帰ろう、という一言を皮切りに全力疾走で廃校から出る。

 

 しかし、その廃校から出ることができたのは7人のうち一人だけだった。

 

 

 という謎の心霊テレビみたいな案件っすわ。

  

 夜蛾から6人は確実に死亡しているだろうとのこと。

 恐らく自分の生得領域に引きずり込み襲うタイプだと。その悪質さと被害の大きさから、呪霊を一級、又は特級指定し俺たちに依頼したそうだ。

 

 ……正直何件か人の死に触れる機会あったし、言い様のない気持ち悪さを感じた記憶もある。時には無力感に苛まれることも。

 だが、この調子ではとても呪術師をやっていけないから、段々と感覚が麻痺していく。……ナナミンの気持ちが分かったなぁ。

 

 ま! そんなシリアスは俺に似合わん。起きたことより、これから先の被害を失くすために呪術師をやっているのだ。

 

 

 

 そんでもって、高専前に集合なんだけど、まあ案の定険悪だよね。

 

 五条と夏油は絶えず俺を睨んでいる。

 家入ちゃんは俺の隣に立って飄々としているし。

 

「なんだよ、硝子はパイセン側につくわけ?」

 

 とか火種注がないでもらえる?

 まあ、無難な回答をするだろうと思ったけど、それを望むのは酷だったわ。

 

「はぁ? 最初からあんたらについてないんだけど?」

 

 ……はい解散ッッ!!

 

 ほらほら、落ち着けクソども。

 

 何とか宥めて廃校に到着したんだけど、お前らさ。

 

 何が先に呪霊倒したヤツの勝利! だよ。

 

 遊びじゃねーんだよ。人の気持ちとかないんか? ッベー、デジャヴ。

 

 

 とりまさっさとどうぞ、と譲ったけど散々煽ってきやがるなこいつら。

 反転術式使える家入ちゃんが前線にいる時点で、その任務の難易度と優先事項を理解してないのか……? いや、多分してるけど高を括ってるんだろうな。自分なら大丈夫だと。

 

 ばっからしー。

 俺は家入ちゃんを守るためにその場に残って二人行動することになった。

 

 

 どうせ俺の方が先に見つけれるしな。

 

 

 

 

 

 

 

 術式使って生得領域に侵入したぜ。

 原作の橋の下のやつみてぇに特殊条件下にいないと入れないみたいだった。

 

 やっぱり特級だったからすぐに倒そうと思ったけど、家入ちゃん狙い出しやがったから形振り構ってられなくなっちまった。

 

 

 

 ……ナイショだぜ家入ちゃん。

 

 

 俺の領域展開については。

 

 

 

 

 

 




次回硝子ちゃん視点。
やはり口調がクソムズい。

ちなみに私の原作知識は単行本で止まってます。本誌は見てません。九十九さんの術式開示早よ、ってずっと言ってます。


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11話 針山小学校簒奪呪霊事件

今回めちゃ長いです。

文章力の無さをボロクソに言われているので、三人称に力を入れたら筆が止まらなくなりました(上達したとは言ってない)


 反転術式を他人に施すことができる貴重な人物。

 それが家入硝子である。

 

 反転術式とは、基本負(マイナス)のエネルギーにより発生する呪力をマイナス同士で掛け合わせることにより正(プラス)のエネルギーに変換することで可能とする技である。

 ここで注目すべきは、反転術式と術式反転。一件似てるようにも見えるこれらだが、実際は別物である。

 反転術式はあくまで呪力操作の技術であり、術式反転はその技術を応用した中に存在する。

 

 呪術師は才能の世界と言うように、反転術式を扱える貴重な才を持つ存在の絶対数は少ない。そして、それを他人に施すことのできる人物はさらに少なくなるだろう。

 

 つまり家入硝子は、呪術界にとって貴重な人材であり呪詛師からはその命や能力を狙われる率が高いのだ。

 

 本人の気質がダウナーゆえに世を儚むだとか、そんな面倒な考えはないから危機感の欠如が窺える。

 

 そんな硝子は、高専に入学する前はパンピーであった。その才を見出されるまで、自分にしか見えぬ異形の生物に戦々恐々とした気持ちで逃げ惑っていたのだ。

 右も左も分からない硝子は、4級程度の蠅頭ならまだしも、3級以上の人に害を出す呪霊を祓うことなどできやしなかった。

 

 本人も漠然と『あぁ、これは死ぬな』と表情には出していなかったが内心思っていた。予感でもなく、ただ事実としてこのまま狙われ続けるならば死ぬに違いないと達観した感情で思っていた。

 

 アンニュイな感情を携えていた硝子の人生を変えることになったのは、小学生の時に出会った一人の少年である。

 

 

 彼は呪霊から逃げる硝子を見るや否や、颯爽と駆け寄ってきた。

 

 硝子は彼も()()()()なのだと理解したが、巻き込むわけにはいかないと、彼からも逃げた。

 

 しかし、彼は人智を超えた速度で硝子に追いつき、あっという間に呪霊を祓った。決め手は腰の入った良いパンチだった。

 

 礼を言いたい硝子を置いて、彼は何かに気づくと走り去っていった。目を丸くして戸惑う硝子だったが、まあラッキー程度に納得しておくことにした。

 

 そんな硝子は毎年のように呪霊に襲われては、彼に助けられる日々を送っていた。なぜ危険を犯してまで自分を助けてくれるのか、損得勘定と楽しさで動く硝子には全く理解できなかった。

 なにせ、彼が性善説で生きているような人間であったならばまだ納得できたのだ。しかし、硝子のプロファイリングでは、むしろ面倒なことはしない、もしくはしたくない。目立ちたくない。

 

 人を無償で助けることと合っていない。

 

 結局、硝子が出した決断は、過度なお人好し。どんな力を使ってでも人は助けるが目立ちたくない。どこかちぐはぐさが窺えた。

 

 それでも命の恩人であり、助けを求めた自分を救ってくれたのだ。

 硝子は少年に感謝とそれ以外の微かな感情を胸に秘めていた。

 

 

 そして硝子は高専で彼と再会することになるのだ。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

(って言ったって、まさかあの五条悟に殴りかかるとは思ってなかったけどね)

 

 あの瞬間は、硝子の脳内フォルダーに殿堂入りすることになった。人を舐め腐った態度を取る生意気なやつが鼻血を出して吹っ飛ぶというのは、硝子にとって爽快以外の何物でもなかったのだ。

 あれを平気で実行する伊織も伊織だが、どこか拍子抜けしたように拳を『あれ?』と見つめていたことから、殴ったのは……いや、当たったのは本意ではないのだと硝子は察していた。

 

 

(センパイには久しぶりに会ったけど、ぶっ飛び具合は変わってないみたいだなー。ま、再会してからすぐに任務で一緒になるとは思ってなかったけどさ)

 

 本来硝子は呪霊を祓う任務に就くことは非常に少ない。それは、前述の通り反転術式を扱える者の貴重さゆえである。

 そんな硝子が駆り出されるということは、危険度は高い──治療が必要になる──と判断された場合なのだ。

 

 五条と夏油のコンビにそれを当て嵌めて良いものかは、上層部も懐疑を持っているようだが、硝子が前線に出ていることは大きな意味を持つ。

 そしてその監督役の石楠花伊織もまた、実力を隠した賢さポンコツの癖者である。

 

 硝子は伊織を煽るだけ煽って意気揚々と散策に乗り出した五条と夏油に冷めた視線を送り、伊織に問いかける。

 

「センパイ、どうします? あいつら行っちゃったけど」

 

 五条や夏油と接するような口調で、と伊織に言われた硝子だが、恩人に接する分態度は若干柔らく敬語も解けない。珍しい硝子の純粋な笑みには、さしもの五条も目を剥いて驚くであろう。

 

「うーん、あの馬鹿どもは放って警戒しながら進もうぜ。こういう現場を見ることも家入ちゃんの勉強になるでしょ」

 

 あぁ、なんてまともな先輩なのだろうと硝子は比較対象であるクズ二人の好感度を更に落とした。

 

 しかし忘れてはいけない。

 

 この石楠花伊織という生物も、森の中では大熱唱しながら裸で踊ったり、木の上で叫んだりと数々(二人)の人物を引かせてきたイカれた野郎なのだ。

 伊織は高専に入学しマシになったわけではない。

 

 

 皮を被っているだけである。

 

 

 取り繕おうと努力しているだけ成長している、と捉えることもできるが、些かそれはポジティブすぎるであろう。人の本質はそう変わるものではないのだ。

 

 

 

 そんなキャラの濃い二人は、呪力渦巻く廃校となった──針山小学校に足を踏み入れた。

 

 

「なんか、こういう本物の呪霊被害に遭った現場とかに向かうと、ホラー映画がバカらしく思えません?」

 

「現実とフィクションを同じにするなってことなんだろうな。偽物と分かって見るならそれなりに楽しいぞ」

 

「え〜、夢がない〜」

 

「そんなもんだろ。血生臭い呪術師にキラキラした夢を見てもな」

 

「それはそうですけど」 

 

 先輩、後輩というよりは友だちのようなノリで会話しながら先に進む。ちなみに二人に油断は全くなく、硝子は周囲の警戒、伊織は術式による呪力感知を張り巡らせていた。

 

 

「呪力感知に反応がない。多分、未完成の領域内に籠もってやがるな」

 

「ということは最低でも一級は確定ですか」

 

「どうだろうな……。ここまで巧妙に自分の呪力を隠す奴だとしたら特級もあり得る」

 

 硝子はあからさまに顔を強張らせた。

 伊織が強いことは知っている。だが、特級を祓えることができるほどの実力を持っていることは知らないのだ。ここはあのクズどもに頼ったほうが良いのではないか。硝子はそう思ったが、祓う気満々の力強い視線に頭を振って諦めた。

 こういうところで意思が強いことは、短い付き合いの硝子でも察することができた。

 

 

「あー……何となくどこに領域があるのか分かるわ」

 

「え、マジですか」

 

「マジマジ。あと、その場所がちょっと面白い」

 

 もう領域を感知したのかと硝子は驚く。

 そのまま伊織についていき、二人は寂れた教室に辿り着いた。

 

「お、やっぱりあったか」

 

 伊織は画面の割れたテレビを指さした。

 

「まさか……貞子みたいなあれが呪術的に意味を持つんです!? くーる、きっとくるー、ですよね!?」

 

 伊織は苦笑しながら頷いた。

 これには伊織も驚いた。自分の領域内に籠もる呪霊は一定数いるが、どれもが森や湖など自然に特化した場所で領域を作成していたからである。もしくは、病院などを丸々乗っ取って領域を作ることもあった。

 だが、今回はどれにも満たない極めて特殊条件下にある。

 

「多分、貞子が放映されたせいで、想像する人が増えたんだろうな。その恐怖の呪力が実体化した可能性がある」

 

「それは……厄介というか」

 

 両者苦笑いだ。

 貞子でなくとも、昔からホラー映画でテレビ画面から霊が出てくるのは鉄板であったが、二人ともホラー映画をあまり見ない弊害が出た。……特に害はないのだが。

 

「入るか。本当は家入ちゃんを置いておきたいんだけど、校内にも干渉できる呪霊だったら面倒だから俺の側にいた方が守れる。……ちっ、こういう時のための人数だろ、あの馬鹿ども……」

 

 今から二人を呼び出したところで伊織の言うことを素直に聞くとは思えないし、あの二人だけで呪霊を対峙させるのは先輩として不安があった。ゆえに、絶対とは言えないが安心である自分の側に硝子を置くことにした。

 

 硝子は硝子で伊織の守る発言に軽く照れたりはしたもの、危険度は高いのですぐに表情を引き締めた。

 

「入るぞ……」

 

「はい」

 

 伊織がゆっくりテレビの液晶部分に触れると、吸い込まれるように体全体が引き寄せられた。

 硝子も慌てて液晶に触れ、その場から影も形もなく消えた。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 領域内は悪趣味なことに、人の体の破片が至るところに浮いていた。これが死んだ者の末路だと言わんばかりの冒涜具合に、硝子は気分を悪くし、伊織は怒る。

 

「クソだな、呪霊は。本当に害悪」

 

 この世に存在していけないものなんて無いのだと、とある漫画のキャラクターは言った。

 しかし呪霊は、呪霊だけはこの世に存在してはいけないのだと伊織は憤った。

 

 すると、そんな伊織たちを煽るように高い笑い声が辺りに響く。

 

 

ヒャヒャヒャヒャ、アヒャ、イヒヒヒヒヒ!!!!!!!!!!!!!

 

 不気味で気持ち悪い笑みに、伊織は不快げに眉を寄せ、硝子は領域内の呪力の濃さに顔を青くした。

 一定量の呪力が無ければ恐怖と圧迫感に気絶してしまうのだ。この領域の不完全な術式付与が却って気持ち悪さを助長していた。

 

 

「家入ちゃん、俺の側から離れるな。……天線刻術【五刻】【六刻】」

 

 刹那、伊織と硝子を囲むように青色の円が現れ、その範囲以外で無差別的な呪力の爆発が起きた。

 

(そんなに威力強いわけじゃないからあんまり使いたくないんだけどな……。今のところ呪霊を炙り出す程度にしか使えないの草生える)

 

 五刻は物理を除く呪力への干渉を防ぐ結界である。つまり、遠距離術式のためだけに存在する結界。耐久度はゴミである。

 六刻は特殊範囲内で呪力を膨張させて爆発させる。威力は人に当たれば痛い、程度で済む最早爆発でなく爆竹である。

 

 しかし、伊織の炙り出すという目的は達せられた。

 

 爆発に驚いた呪霊が姿を表したのだ。

 

 

「なにあれ……。きっしょ」

 

 硝子が吐き捨てるように言った。

 伊織もそれに同意する。

 

 その呪霊は肉片を切って無理やり貼り付けた人間大のボールのような歪で怖気のする姿をしていた。

 まるで新作の服を自慢するかのように笑う呪霊に、伊織の負の感情はマックスメーターを更新し続けていた。

 

 

 先手を取ったのは呪霊だった。

 こちらを舐めているのか、ただの呪力で作った紫色の塊を飛ばしたのだ。

 

「センパイっ」

 

「大丈夫」

 

 硝子の切羽詰まった悲鳴に、伊織は呪力の玉を片腕で弾き飛ばすことで答える。

 

 伊織は硝子がいるためにその場から動けない状態になっている。圧倒的に不利だ。

 

(まじかー。五刻で作った結界が一撃で壊れたぞ、おい。耐久ゴミにも程があるだろ)

 

 咄嗟に呪力強化で凌ぐことができたが、伊織はヒヤヒヤしている。思ったより使えない術式だったのだ。

 

「センパイ、私も術師です。自分の身くらいは自分で守れます。私に構わないで戦ってください」

 

「やだ」

 

「え!?」

 

 すぐに即答されるとは思っていなかったのか、硝子は目を剥いて驚く。なにも伊織は硝子の力を信用していないわけではないのだ。

 

 

「多分、この呪霊は遠距離型の術式を持ってる。一撃必殺の可能性がある以上離れるのはお互いに不利益だ」

 

「それでも動けないんじゃどうしようもないんじゃ……。って、やばっ!?」

 

「なっ!?」

 

 ふいに硝子がその場に蹲った。なんらかの攻撃を受けたことは明白である。

 

 伊織は警戒していた。しかし、呪霊の術式は視界に映らないタイプだったようだ。

 

「ヒヒヒヒヒヒ、アヒャアヒャ!!!!」

 

 呪霊が嬉しそうに飛び跳ねる。ぐちゃぐちゃとした肉片が辺りに飛び散るが、気にした様子はない。追撃を仕掛けない辺り舐めているのは間違いないようだった。

 

「家入ちゃん! 大丈夫か!?」

 

「だい、じょうぶです。右足が全く動かないです。恐らく相手の術式は体の自由を奪う、もしくは神経系統に干渉する術式でしょう」

 

 攻撃を食らったというのに冷静に話す硝子に伊織は面を食らう。そして伊織は彼女の心の強さを感じた。

 

 同時に、守ると言ったくせに攻撃されてしまった自分への怒り、硝子を傷つけられた怒りに、実力を解放することにした。

 

 

「家入ちゃん。今からの光景はナイショで頼む」

 

「え……」

 

 硝子が見たのは、謎の印を両手で結ぶ伊織の姿だった。

 

 

 

【領域展開】──

 

 

 

──回刻輪廻・断截(かいこくりんね・だんさい)

 

 

 

 視界が塗り潰される。

 気色の悪い肉片だらけだった領域はあっという間に、伊織の領域に押しつぶされていった。

 

 白一色だった。

 そしてその空間に浮く大時計が一つ。針はどこにも無かった。

 

 

「センパイ、それって……」

 

「そ、領域展開」

 

 硝子は伊織が、噂に聞いていた呪術の極地に到達していたことを知り驚く……とともに興奮した。その極地は未だ五条と夏油ともに到達していない領域。つまり、この瞬間五条悟を上回ったことがわかったのだ。敬愛するセンパイが一番だと知った硝子は嬉しいのだ。

 実際の実力差はどうなってると言えば、術式無しならば伊織のボロ負け。術式有りならば伊織は余裕を持って勝てる。()()()()()()

 

 

 

「あれ、センパイ。あの呪霊は……」

 

 硝子が辺りを見渡すと、呪霊は未だ健在のようだった。傷一つついていない体に硝子は歯噛みし、焦ったように伊織を見た。

 

「あー、大丈夫。俺のこの術式って必中であっても必殺じゃないから」

 

「どういうことですか?」

 

「んだね、この時計を見てくれれば分かると思うけど、俺の術式の核心は時間にある。常に時間は回っている。途切れることなく人間の定めた二四時間を繰り返し回っている。【回刻輪廻・断截】は、その時間の流れを断ち切る技なんだよ。簡単に言うなら時を止める」

 

 術式の開示だ。念には念を入れて伊織は領域の注ぐ呪力を縛りによって増やす。

 明かされた情報に硝子は口をパクパクと開く。

 

「そ、それ最強すぎません?」

 

「いや、全然。一定の呪力量……まあ、五条には跳ね返される。しかも領域に引きずり込んでから時を止めるまでラグがあるから、本当に強い術師はその間に簡易領域なり、なんなり対策される。だから、対呪霊専用の術式なんだよな。つっかえねー」

 

 そうは言っても充分に最強ですけど、という言葉を硝子は飲み込んだ。それと同時に伊織はまだ実力を完全には解放していないような予感を覚えた。

 

 しかし、それにツッコむことなく硝子は助かったから良いや、と楽観的に考え、自分の実力不足も足を引っ張ると反省した。

 

 

「それじゃ──よし。片付いたし帰るか」

 

 伊織が微動だにしない呪霊をタコ殴りにして祓うと、領域が解除され、いつの間にかテレビの前まで戻っていた。

 

 疲れた様子を見せない伊織に硝子は頼もしさと不甲斐なさを感じて、頷いた。

 

 

 これにて針山小学校簒奪呪霊事件は終息した。

 

 

 この結果に猛烈にキレた二人は無視することにする。

 

 

 

 

 

 

 




ネーミングセンスについてはノーコメントでお願いします。

本作、軽微な鬱表現はありますが、基本ハッピーラッキー主義なのでエグいやつは無いです。……多分。


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12話 後輩3人に絡まれ続ける

4月17日 晴れ

 

 昨日は死にかけてたわ。

 ワイの領域展開って、かなり反動が辛いんよ。時を止めるってかなり呪力食うけど、まあ俺のチートにかかればそんなに問題はないんだけども。

 

 問題は呪力以外の反動。

 具体的に言えば、止めた時間の秒数だけ死に値する苦痛を受けるって、よく分からねぇ反動。そのせいで帰った後に激痛で苦しんで気絶するし。

 

 あの時は家入ちゃんの危機だから使ったけど、余程のこと無いと使わん。

 まじで夜蛾がいた時に使おうとしなくてよかった。あの時は初めて領域展開できるって興奮してたせいで、事前の実験とかまるで頭に無かった。

 

 

 俺の賢さが低すぎる件。

 

 

 

4月18日 くもり

 

 

 また通りすがり、五条に因縁つけられた。

 あんなに沸点低かったか、あいつ。

 多分、降って現れた自分よりも強い存在に苛ついてんだろうな。夏油はあくまで対等。同い年だからって理由もあると思うけどね。

 

 だからって俺に構わないで欲しいんだけどさ。 

 夏油は夏油で、あからさまに俺を敵対視してくるし。

 まともに接してくれるのは、高専の中だと家入ちゃんと歌姫パイセンくらいだわ。

 

 あらやだ! 男子勢全滅ですわ!!

 

 後々入ってくるナナミンと灰原くんにご期待ですわ!!!

 

 伊地知は知らん。

 

 

 

4月19日 晴れ

 

 

 今日は任務が無かったから家入ちゃんとゲームしてた。

 ファから始まってンで終わる機械ね。

 

 なんかサラッと俺の部屋に入ってきたからクソビビったんだが、もう少し警戒心持とうぜ?

 ちなみに『どーせ、センパイが私に何かしようと思ったら抗えないですし?』とか言ってきやがったから、歌姫パイセンに情操教育頼んだ。

 

 

 

4月20日 晴れ

 

 あのね、情操教育って人の家に勝手に上がり込むことについて、じゃないから。

 

 おーい、パイセン? あんたポンコツ?

 

 

 歌姫パイセンを問い詰めたら『あんたそんな度胸も甲斐性もないでしょ』って一刀両断された。全くもってその通りなんだけど、なんで俺のヘタレを知ってんだよ。

 

 

 

4月21日 曇り

 

 

 体術の授業で五条にボコボコにされた。

 

 煽られたから思わず術式マックスで五条を殴ったら、余波でグラウンドに大穴空いた。

 

 夜蛾に二人纏めて怒られた。

 

 なんか少し絆が深まった気がするぜ。

 

 

 

4月22日 雨

 

 任務ですッ!

 廃病院にいる呪霊をぶち殺せってことらしい。

 ちな準一級呪霊らしい。

 

 その等級になってくると、平気で即死術式を打ち込んでくるから辛い。簡単に倒せるには倒せるけど、こういう建物の中だったら使える技も限られるから頭を使う必要がある。

 

 そう──頭突き。

 

 

 頭に呪力集めて黒閃打つ。

 

 

 

4月30日 晴れ

 

 うーむ、俺が頭突きで呪霊祓ったって知られてから妙に後輩二人の態度が軟化した気がする。なんで??

 

 まあ、皆仲良いに越したことはないから歓迎するけども。

 

 でも、五条と夏油は先輩に対する態度を見直そ??

 勝手に合鍵作んな、メンヘラ彼女かよてめぇら。

 

 

 

5月11日 曇り

 

 

 自炊面倒って呟いたら、家入ちゃんが毎日弁当作ってくれるようになった。

 一人作るのも二人作るのも一緒って言われたけど、労力はそれなりに掛かると思う。

 

 というか家入ちゃんに生活力があったのが驚きだわ。くそ美味い。

 

 

『愛妻弁当だぁー!』って囃すクズ二人をしばき倒した。

 

 今日も平和だなぁ。

 

 

 

 

5月23日 曇り

 

 任務中、滅茶苦茶久しぶりに九十九センセーに会った。

 

 ホントに神出鬼没だな、この人。

 性格も変わってないみたいで安心。少し実験の()()()()をして会話をした。

 

 結局高専入ったかー……とどこか苦い顔で言うもんで、あっ、そういえばこの人高専嫌いだったな、と思い出した。まあ、上層部の腐り具合が間近で分かるからねぇ……。

 

 俺もたまに呼ばれるけど、本当に虫酸が走る。

 

 あんなやつがいるから、夏油も色々膿むんだよ。一新できね? 御三家全部ぶっ潰したら意見聞いてくれないかな。

 するつもりないけど。

 

 正直、羂索を潰しておきたい気持ちはあるけど、誰を乗っ取ってるかも分からないうちに闇雲に探しても無駄。逆に警戒されて雲隠れされちまう。

 

 というか勝てるビジョンがまだ見えない。

 

 体術はお排泄物。術式はそれなり。領域展開はデメリットあり。呪力量と呪力操作はチート。

 

 これが俺の現状の力を客観的に表したものだ。

 まー、乙骨以下伏黒パパ=って感じかねぇ。あのフィジカルゴリラはギリギリ勝てると思う。

 

 呪力量に物を言わせて圧力攻撃と嵌め手を使えば……。うーん、いや待て。伏黒パパにも勝てる気がしねぇ……。

 

 ()()を使えれば……。開発途中の技を使おうとはしたくねぇな。

 

 

 

 

 

7月20日 晴れ

 

 

 普通過ぎる日々を送ってる。

 

 

 バカ二人と美少女。美人先輩に強面教師。

 

 あー、なんか青春送ってる気がするぅー。って感じ。

 来年から殺伐するの考えたくない。星漿体事件どうしよ。俺が護衛に選ばれる可能性も無くはない。

 

 そうなれば俺はわりかしピンチに陥るのよ。

 

 遠距離攻撃手段が無い!!(切実)

 

 

 あのゴリラに勝つには必須ではある。

 近距離で挑めばフルボッコにされるのは間違いない。術式を突破してくる天逆鉾もあるし並の攻撃じゃ却って隙を生む。

 

 

 

 修行するか!!(唐突)

 

 

 

 五条の覚醒に置いてかれる俺じゃねーんだよ。

 

 

 

 

 

 あれ、目的がすり替わってるような……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12月31日

 

 

 覚醒完了。……多分。

 

 




次回はさしす組との日常をお送りいたします。


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13話 日常

エタらねぇぞ……!!
拙僧、書く暇が無い故に期間は空きますが許してくだされ


 なんか最近、センパイの様子がおかしい。

 焦燥に駆られたようにただ一心に修行を積む。

 

 元々努力家であることは知ってるけど、最近の修行に対する熱量は度を超えているような気がする。

 

 疲労は反転術式で治せるとかほざいてるし。

 精神的疲労は術式じゃ治せないでしょ。

 

「ねー、センパイ。なんでこんなクソ暑い日に修行してるんです?」

 

 夏休みのため授業は無い。

 とは言え、余程のことがないと実戦に駆り出されることがない私は、やることもないしクズどもとは話したくない。

 必然的にセンパイに絡むことになるけど、相も変わらずグラウンドでぶつぶつ呟きながら試行錯誤を繰り広げている。

 

「んあ? あー、家入ちゃんか。ちょっとなぁ……先輩としての立つ瀬を取り戻すためかなぁ」

 

「それってあいつらのことです?」

 

「まぁ、それもある。基本的に物騒だろ、この世界。サボって誰かを失って後悔するとか勘弁だからな」

 

 死亡フラグ乱立しすぎぃ、と苦笑しつつ語るセンパイの表情に悲壮感はそこまでない。どっちかと言うと失う痛みを知りたくないと目を背けている。そんな感じがする。

 家族を殺され呪術界に進む者は多い。だけど、センパイは孤児院育ちだし、呪霊という存在の悪辣さに怒れど何もかもを恨んでいるわけでもない。

 

 やっぱりチグハグだなー、この人。

 

 そんな感想を懐きながら、私は術式の試行で傷ついたセンパイを治す。

 

「……修行する時は私も呼んでくださいよ。反転術式も結構呪力喰らいますし、それくらいのサポートはしますから」 

 

 あの五条の目をしても底無しと言わせた呪力量を誇るセンパイ。だけど、無限なんてあり得ないし、現にセンパイはそこそこ消耗している。

 

 そのためのサポートは惜しまない。

 無理をしてセンパイが倒れるのは嫌だ。後悔をしたくない、と言えば案外私とセンパイは似たもの同士かも……なんちって。

 

「……サンキュ。そうだな。大体こういう修行モノって一人じゃ強くなれないしね。友情と青春で五条を置き去りにしますかぁ!」

 

「メタ発言しますねー、ウケる」

 

 センパイの瞳に力が宿った。

 回復しか能がない私とでもセンパイの役に立てる。

 柄でもないけど、私はそれが嬉しかった。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 最近家入ちゃんの様子がおかしい気がする。

 

 いやー、気の所為だと思うんだけど、どうも距離が近い。というか、世話焼きになった。

 キャラじゃねぇと思いつつ、性格的には肝っ玉母さんでもやっていけるか、と納得した。

 その過保護っぷりには思わず姐御と呼びそうになった。

 

 包容力が無い代わりに世話焼きには磨きがかかっている。

 

 毎日夏休みにも関わらず弁当を用意してくれ、修行中に傷つけば即座に反転術式が飛んでくる。何も言わずにジッと見守ってくれることは、俺のモチベが上がる要因にもなっている。

 

 こんな慕ってくれる後輩にかっこ悪いとこは見せられないだろ!

 

 そんな精神で励む俺たちのもとにクソ野郎がやってきた。

 

 

「エ、マジで修行してんじゃん。へぇ〜、俺に追いつくために汗水垂らして頑張ってるね〜」

 

「黙れ烏の糞。同じ後輩でも雲泥の差だな、お前」

 

「はぁ〜? 誰が烏の糞だ!」

 

「お前のその髪色がアスファルトの上にベチャって落ちた烏の糞にそっくりなんだよ」

 

「素直に白って言えよ!」

 

 沸点が低い白髪チートがツッコミに回る様子は見てて面白い。

 それなりに話すようになった仲ではあるが、俺を馬鹿にしてくるのはずっと変わらない。夏油の方が全然マシ。力の差を理解して素直にアドバイスを求めてくることもあるし、生意気なところはあるが立派に後輩してる。

 変わらねぇのはこのアホだけ。

 

「……随分仲良くなってんじゃん」

 

 ボソッと呟いた家入ちゃんの言葉に目敏く反応した五条が、お気にのサングラスをクイッと上げて唇が弧を描く。

 

「あっれれぇ〜? 嫉妬してんのぉ〜? あー、ごめんね。硝子の大好きな先輩取っちゃってさぁ〜」

 

 気まずくなる冗談やめろよ。

 軽くキレた俺だが、それ以上に青筋をピキらせた家入ちゃんが中指を立てながら煽り返す。

 

「黙れよ烏の糞。未だに反転術式もできないくせに。センパイもできるのにね」

 

「いや、その煽りは大人気ないだろ……」

 

 一年後にはできるようになってるけど、さすがに今の五条にそれを煽るのは酷だろうよ……。

 

「は???? 今はできなくてもすぐに使えるし。第一そんなもんなくても俺って最強だからさァ?」

 

「センパイに負けてんじゃん。てか、最強サンが反転術式もできずにイキって良いのー? それって負け犬だよね、ウケる」

 

 やーいやーい、自称最強の負け犬さーん、とぷるぷる震える五条の周りを走りながら煽る家入ちゃん。俺に感化されたのか煽りスキルが高度になってる……。

 まー、今の五条は最強じゃないからな……。やる気を出させるのは良いことだ。

 

 星漿体事件までに反転極めればパパ黒にも勝てるし。

 ……死にかけないと掴めないだろうし、多分無理だけど。

 

「一ヶ月だ。……一ヶ月でものにしてやる」

 

 怒りを堪えながら五条はそんな言葉を吐いて踵を返した。

 

「めっずらし〜。あれだけやる気出したのセンパイが初じゃないですか?」

 

「いや、家入ちゃんの煽りが原因でしょ。思いの外自分にできないことを突きつけられんのはキツイんだぞ」

 

「まあ、良いんじゃないですか? あいつらが強くなったら必然的に死亡率減りますし」

 

「俺が追いつけなくなるんだけど????」

 

 なんのために修行をしてたんだよ、おい。

 しかし、家入ちゃんは悪戯な笑みで悪魔な発言をした。

 

「完全体五条を打ち負かしてこそ、修行の成果じゃないです……?」

 

「……家入ちゃん、マジで小悪魔」

 

 そんなことを耳元で囁かれたらやる気でないわけないじゃねぇの。

 

 

 

 

 

 

 

 



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14話 銭ゲバパイセンと合同任務①

 こと強くなるにはどうすれば良いか、という問に対する答えは古今東西あるが、呪術師はめっぽう才能が物を言う世界だ。

 才能に関しては自画自賛になるが申し分ない。これは異世界特典のチートがあるから当たり前なんだけど。

 

「まぁ、公式チートさんに勝とうと思ったら、それ相応の努力が必要なわけで」

 

 今の俺って、有り余る呪力量に身を任せてぶん殴ってるだけだからな。それだけで特級倒せるんだから呪力量ってマジ大事。それを扱える技量が無いと無駄遣いしてしまうけど、俺は呪力操作もチートだから問題無し。

 

 ならば目下、俺が強くなるために必要なこと。

 

 それは──術式の強化である。

 

 

「使い物にならない技が多すぎる。でも、それに意味があるはず」

 

 時計型の領域展開。一刻から十二刻までの術式順転に、十三刻から二十四刻までの術式反転。

 強力で使い勝手の良い技もあれば、封印確定のエグい技。使い物にならない弱い技。

 

 きっと何かヒントがある。

 術式の幅広さで言えば俺に分がある。だけど、一つ一つの操作がお粗末では利点を全く活かすことができずに終わってしまう。

 

「やはり実戦しかないな」

 

 幸い、呪術師は万年人手不足。任務なら腐るほどある。

 

 ただし今回の任務は面倒なことに合同なのだ。

 

 

 しかも──

 

 

「やあ、久しぶりだね。君に会うのは」

 

「げっ、冥冥パイセン……」

 

「随分と酷い反応じゃないか。何か君に嫌われるようなことはしたかい?」

 

 水色がかった白髪ポニーテールの先輩。

 最早存在を忘れかけていた一級術師の冥冥パイセンだ。

 

「自己紹介の時に金を請求してきたのは忘れてませんよ……」

 

「いや、なに。やけに私に食いつく君が悪いね。興味を持った対象からは金を絞り尽くす。世の中コレだからね」

 

 笑いながら親指と親指をすり合わせるポーズを取る。

 金って言いたいんだろう。

 

「銭ゲバ……」

 

「失礼だね。私はあくまで正規の手段で収入を得てるんだ。非合法に手に入れた黒い金でなく、安心安全、クリーンで真っ白な金だよ」

 

「呪術師自体が非合法みたいなもんでしょうに良く言いますね……」

 

 原作キャラであるものの、実際に接した冥冥という人物は結構苦手な部類にあった。

 買う物があんまりねぇ、と任務で得たお金を貯蓄している俺だが、どこからそれを嗅ぎつけたかところ構わず毟りとろうとしてくる。

 最近は任務と自己鍛錬で忙しいようで、しばらく会わなかったがまさか任務で一緒になるとは……。

 

「フフフ……まあ、一級同士仲良くしようじゃないか」

 

「俺は準一級ですけどね。パイセン、純粋な一級じゃないですか。敬いますよ」

 

「一目見て分かる嘘をつかなくても良いよ。……力を隠してるくせによく言うよ……」

 

「? 何か言いました?」

 

「何も。さあ、行こうか」

 

 ボソッと呟くパイセンを訝りながら、俺は任務先の地へと足を進めた。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

「やれやれ。実入りが良いから受けたけど、そうでもないとこんな任務は受けたくないね」

 

「地道な捜索任務からスタートですしね。だからこそパイセンに白羽の矢が立ったんじゃないですか?」

 

 冥冥パイセンの術式【黒烏操術】はバードストライクとかいう頭おかしい発想が無ければ、単体の戦闘力は皆無に等しい。

 その分発想も何かもおかしいパイセンが鍛えて生身でも強くなったんだがな。

 

 それも加味しての一級術師であるが、パイセンの術式は捜索任務に紛れもなく適している。

 手がかりが無くとも、烏を使った人海ならぬ烏海戦術で広範囲を少ない時間で探索することができるのだ。

 

「視界共有もそこそこ疲れるけどね……。それに今回の任務は何やらきな臭い。単なる呪具の捜索じゃ終わらないよ」

 

「元々特級任務ですけどね。五条と夏油、何してんすか」

 

「五条君は関西の特級任務。夏油君は別任務で外しているよ。手頃にこの任務を任せられるのが私達以外いなかった、というのが寸法かな?」

 

「うへぇ」

 

 かなり長時間任務になりそうな予感がする。

 

 今回の任務の概要だが、祀られている神具の回収となっているが、その理由として、近年その近くで強力な呪霊が発生していることから、神具が呪具と化して呪霊を引き寄せている可能性がある、とのこと。

 調べもついているから、呪具になってるのは間違いない。

 

 ただそれが特級呪具の可能性も高いそう。

 

「……烏に探させているけど反応はないようだよ。石楠花君の方からも探してみてくれないかな? なにやら広範囲の探知術式があるらしいじゃないか」

 

 【四刻】のことか……。

 なんで知ってんの、って思ったけど夜蛾先生に言ったなそういえば。

 そこ経由でバレたか。

 

「一応使ってみますけど、範囲内の五感情報を拾うだけで呪力探知はできませんよ? あれ、対人間捜索用なんで」

 

「それでも、視覚で呪具を発見することはできるんじゃないかな?」

 

「まあ、確かに。……やってみます。【四刻】」

 

 今回は集中するため、視覚以外の五感情報は切る。

 術式に呪力を流し込むと、脳内で一気に視覚情報が舞い込んでくる。

 

「ここじゃない……ここでもない……んー、コレっぽい?」

 

 色々漁っていると、生い茂る木々の隙間に小さな祠を発見した。

 

「パイセン、呪具の形ってなんでしたっけ?」

 

「剣だよ。祠に守られているらしい」

 

「あー、じゃあ発見しました」

 

 術式を切ってパイセンに伝えると、少し驚いた表情の後、フッと自嘲げに笑う。

 

「立つ瀬が無くなるとはこういうことだね」

 

「いや、あんた最早術式を自爆特攻技としてしか活用してないじゃないですか。立つ瀬とかパイセンの発想のエグさに敵うやついませんからね??」

 

「おや、慰めてくれるのかい?」

 

「言っておきますけど褒めてないっす」

 

「フフフ……家入君とは違って塩対応だねぇ」

 

「貢献度ってやつですよ。あと性格」

 

 容赦なく貶したつもりだったが、パイセンは楽しそうに笑うだけだった。

 

 

 なんか人生楽しそうだな、この人。

 金に糸目をつけないことを除けば好ましい人なんだけど、パイセンから金を取ったら残るものなんてダークマターだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




②に続く……


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15話 銭ゲバパイセンと合同任務②

明けましておめでとうございます(遅刻)
今年は20話以上書き……たい……願望…は…一応…あります。


 俺は探索の仕事を取られてしょんぼり(嘘)している冥冥パイセンと、見つけた祠の場所に出向いていた。

 

 正直、祠に納められている呪具って時点で嫌な予感しかしない。

 イメージでしかないけど怨念とか溜まってそう……というか、似たような事例で何度も任務してきてる。

 長年放置されてきた道具には、その土地の呪力が宿り呪いと化す。最もその大半は持ち主の体力を少しずつ削る、みたいな取るに足らない呪いなんだが。

 

 だが、稀に元から強力な力を宿している道具……例えば今回のような神具とか神々にまつわる物。

 それらは様々な人や()()()の想いを宿しているがために、正式に保管せずに祀っていた場合に強大な呪いを宿す。

 

「こういう無知が招く任務って、やっぱり不毛じゃないですか?」

 

「ふむ? 無知とはどういうことかな?」

 

 立ち止まって問うと、パイセンは俺と向き合って首を傾げる。

 

「神具なんて放置してたら呪いになるのは当たり前じゃないですか。それで無駄な犠牲者が出るのが不毛というか……やり切れないというか」

 

「なるほどね。まあ、気持ちはわからないでもないよ。神社や寺の関係者に呪術を知っている者は多いが、田舎になるとやはり手が届かないからね。何も知らずに神具を間違って取り扱うことも多い。……かと言って事情を話せば混乱を招いてしまうことは目に見えているし、一部の者はそれを悪用しようとするだろう。……難しい問題だけれど石楠花君が気を病む必要はないさ」

 

 俺はパイセンの言葉に重々しく頷いた。

 分かっていることではあった。その問いは無駄な問答を招いただけだ。

 けれどやり切れない思いが俺にはあった。

 勿論、呪術関係を公表しようなんて微塵も思わない。それは一種のテロ行為だ。

 知らないことは知らないままの方が良い、なんて言うけど……知ってる側からするとそうも楽観的になれないんだよなぁ。

 

「変なこと聞いてすみません。あと、珍しく優しいっすね」

 

「アッハッハッ、この任務が終われば1億だよ。1億。機嫌も良くなるに決っているじゃないか」

 

「ブレないなこの先輩」

 

 やはり金だった。

 非道なことでなければ金で解決できる女。それが冥冥パイセンだ。

 読者だった時は『エロいことは。エロいことはどうなんですか!』って思ってたけど、会った今なら分かる。

 

 むり。

 

 何億積まされるか分からねぇ。

 

 そもそも頼んだ瞬間に各所にバラされるし、更に金を積まなきゃ守秘義務なんてあったものじゃない。

 

 

 俺がパイセンに呆れつつも歩を進ませる。

 それほど離れていないことも分かっていたため、会話を打ち切ってものの数分で目的地に着くことができた。

 

「ここ……ですね」

 

「……まったく、やはり呪霊が住み着いていたか」

 

 祠を目の前にした俺たちは口々に愚痴を吐いてため息をつく。

 

 祠から感じる大きな呪力。

 入口はポッカリと黒道が空いている。

 

 領域と化してるうえに呪具に受肉してやがる。

 

「呪具に受肉って結構レアケースじゃありません?」

 

「特級以上なのは確定だね。私の手には余るよ」

 

 ……原作開始前のパイセンだから未だ能力的には完成していないのかもしれない。

 難しい問題だ。俺は確かにある程度強いけど、特級の……それもかなり上位の呪霊に一人で挑むのは色々と拙い。

 

 術式での攻撃手段がカスだからな。

 呪力に任せた近接戦闘で黒閃なら……まあ倒せる。

 それでも、呪霊の術式が接触型だった場合は結構キツイし、遠距離手段………

 

 ん、待てよ?

 

 これ行けるかもしれない。

 

「パイセン、策があるんですけど」

 

 

 俺はパイセンにとある策を伝え始めた。

 

「──ぶっつけ本番になってしまうけど、それならいけるね。リスクヘッジは徹底したいがそうも言ってられないか。石楠花くんを信じることにするよ」

 

「信用するのは金だけじゃないんですかー?」

 

「私の貰える報酬金のために信用するのさ」

 

「やっぱ金かよ」

 

 

 

☆☆☆

 

『???』

 

 その呪霊は長き時を経て強力無比へと成った。

 

 呪霊は『受肉術式』と呼ばれる、人や物、呪霊に限らず乗っ取り自分の糧とする術式を持っていた。

 最初の頃は有象無象の二級呪霊だったが、乗っ取りを繰り返すことによって一級の上位まで成長することができたのだ。

 

 ──足りない。もっと力を。

 

 数多を嬲り尽くしても消えぬ強さへの執着。

 200年を生きた呪霊の意思は、遂に叶うこととなった。

 

 

 偶然見かけた祠。

 中には一振りの刀が納められていた。

 

 それも特級相当の呪いに成りかけている呪具だ。

 呪霊は『これだ』と思った。最強になり得る唯一の道だと刀を見て本能に訴えかけられた。

 

 

『ギゲガコグあ゛あ゛あ゛あ゛』

 

 受肉し生まれ変わった呪霊は、誕生と同時に歓喜の叫びをあげる。

 先程までとは比にならないほどに満ちた呪力と新たな力。

 

 それは他人の力を吸収するという反転術式だった。

 

 これでもう敵はいない。

 宿儺に代わり、呪いの王となってやる。

 

 

 ──手始めに無謀にも領域に侵入してきた人間を食ってやる。

 

 

 そう、思っていたのに。

 

 

天線刻術(てんせんこくじゅつ)【一刻】集団付与だぜぇ!」

 

 

 ──叫びをあげる青年が謎の術式を唱えると同時に襲ってくるごく普通の烏が十羽。

 

 取るに足らない敵だ。

 この烏も鬱陶しいだけ──

 

「【神風(バードストライク)】」

 

 

 隣に立っていた女が唱えた瞬間、膨大な呪力が烏に宿り──

 

 

 

 ──からだ

 

 

    が、 吹き飛ば

   

           されて

 

 

 

 

 そうして長年生きた呪霊はあっさりと討伐された。

 

 そのタイムなんと二人が領域に侵入して18秒。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

「まさか石楠花君の強化術式を烏に作用させるとはね」

 

()()()()強化したんですよ。まあ、力を暴走させたって解釈で良いと思います」

 

 思い出したのは転生して最初期の頃。

 

 あの時に虫に【一刻】をぷっぱなしたら爆発したことを想い出したのだ。

 あれは力の制御をミスったことで起こった現象だ。

 

 呪力とは別の強化方式だからこそ、パイセンの【神風】と併用して強大な爆発を引き起こすことが可能になった。

 

 原作の渋谷事変では、パイセンは特級相手に【神風】でワンパンしていたが今の時点のパイセンにはその力がなかった。

 

「フフ……特級があんなに呆気なく……くくく、面白いね」

 

「何がツボにハマったか知りませんけど、まあ、協力プレイの勝利ってことで」

 

「よく言うよ。一人で倒せたんだろう? 実力を出し渋っていたら死ぬよ、ということでも伝えようとしていたが、私の予想すらも凌駕するとはね。杞憂だったか」

 

 ……バレテーラ。

 自分、もしくは誰かが危ない時は容赦なく全力を出すけど、そうじゃないならば実力は隠しておきたい。

 

 俺の平穏な生活は……ちょっと諦めかけてるけど昇進はしたくない。

 

 どのみち特級は初見殺しの術式が多いし一人で戦いたくないのは本当。

 五条みたいに遠距離近距離の両方に適性があるわけでもないし。

 本当に術式がピーキーすぎる。

 

「なんのことでしょうね」

 

 とりあえず俺はバカみたいに呆けておく。

 

 パイセンは察してそれ以上をツッコむことはなかったが、細い目を僅かに開いてニヤリと意味深に笑われた。

 

 いや、怖い。

 

 

「……石楠花君とならもっと稼げそうだ。例え報酬を二分にしたとて今の稼ぎを……フフフフ……どうだい、石楠花君。私と組む気はないかい?」

 

 

 いや、怖い。

 

 

「パイセンと一緒にいたら色々と危険なので丁重に遠慮しときます。あなたが金の味方なら、俺は自分の味方なので。わざわざ危ない橋と分かってて渡るバカはいないでしょうし」

 

「酷い断り文句だねぇ。私だって傷つくんだよ?」

 

「平然と烏を爆発させる人に説得力があるわけないです」

 

 工夫の末に編み出した必殺技ってのは分かるけど、ああいうの見るとやっぱり呪術師って狂ってるんだなぁ、と分かる。

 

 将来、用益潜在力そのものが命、って言う人と深く関わりたいと??

 

 嫌だよ。

 

 

「何はともあれ戻ろうか。……あぁ、誘ったのは決して冗談じゃないよ。気が変わったらいつでも連絡するといい」

 

 パイセンは胸付近(決して煩悩でなく位置がまさに胸)から名刺を取り出して俺に渡す。

 そこには電話番号が記載されていた。

 なんかその信用が逆に怖いです。

 

 

「はぁ……」

 

 つかれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ぶっちゃけ冥冥の術式って努力の末のチートですよね。
生き様は真似したくないけど努力の姿勢だけ参考にしたい……


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