疼らく境界 (熾烈)
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空の境界
歪む境界


 

 

 

 夜道に咲いた赤い花。硬く冷たいアスファルトに熱を奪われていく。

 

 横たわっているそれは、ただ静かに、安らかに、時が止まったかのように、ひっそりと寝ている。

 

 降ってきた雪が赤く滲み、染まっていく。

 

 

 車の走る音、人々の話す声。街の喧騒が遥か遠くに聞こえていた。

 

 

 「聞いたか、殺人だってよ」

 教室で男子生徒が友人と話している。冬休み中にあった殺人事件についてだ。

 「この近くだってよ」

 

 殺人という言葉をよく耳にしても、テレビや新聞、携帯を通した向こう側の話し。現実味がなくて、違う世界の出来事。

 

 「怖いねー」

 全く恐怖が感じられない声音で話す女子生徒達。

 

 「下校時刻は三時半までになって、部活動と委員会は出来ないので気をつけて帰るように」

 担任のホームルームが終わり、周りは浮き立った雰囲気で帰る支度をし始める。

 

 私は教室を出た。校門を出ると一台の車が目の前に止まった。迷い無く扉を開き中に入り込むと発進し三十分程走ると厳かな門が見えて来た。武家屋敷だ。

 

 

 柊始紀(ひいらぎしき)私の名前だ。「しき」なんて珍しい名前だと思う。家も武家屋敷で道場を開いていたりする。 

地主で任侠系の家だと認識されていたりする。それだけの、ちょっとお金持ちで、今時珍しい家柄の少女だった。

 そう。過去形だ。

 

 

 

 

 

二年前 十二月  

 

 

 「お嬢、持って来ました」

 襖を開けて着物を持って来た奴は黒崎。常に黒いスーツを着ている私の養育係。

 

 「そこに置いて」

 そう言って指を指した。彼は私が夜中に何をしているか聞かないし、大体察していてくれて何も言わないでいてくれる。良い奴だ。時々口煩いが。

 

 

 なぜか夜風に当たろうと出歩いてしまう。

 黒崎が出て行くと、持って来て貰った着物を着て短刀を帯に挟み家を出た。

 

 時計を見ると時刻は既に0時をすぎている。下駄を小気味良く鳴らしながら街中を歩いていくが、ふと立ち止まって目線を横にずらした。

 

 そこには路地裏に入る道があった。

 何かを考える隙もなく、ふらっと道を逸れて入ってしまう。

 

 だんだん街の光が薄れ暗くなって、音が聞こえなくなって、人々の熱気が冷えていく。仄暗い入り組んだ細道を進むと、入り口は遥か遠くにありもう見えない。まるで違う世界に来たみたい。

 

 

 –––––さらに進む。

 

 角を曲がったところで足を止めた。目の前には男が三人、恐らく手に持っているお金を見るに何かしらの取引だろう。おおよそ麻薬の類か。まだこんな事をしている人がいることに驚きつつも、さして気にせず通り過ぎようとした。

 

 「おい、待て」

 一人が手を伸ばしてくる。それを片手で弾き返すと、そいつは私を掴めるとでも思ってたのか、宙を掴んだ自分の手を見て惚けた。

 立ち去ろうとするが、前に残り二人が立ち塞がっていて通れない。

 

 「邪魔、退いて。」

 それでも彼等は動く様子も無い。少し目を三人で合わせた後、覚悟を決めた様子でナイフを取り出し一斉に襲って来た。

 

「––––フッ」

 ナイフを避けた後、踏み込んで腰に構えた拳を突いた。   踏み込みと同時に放たれた突きは、その男を吹き飛ばした。すぐさま振り向き、ナイフを振って伸ばされた腕の内側に自分の腕を添え、そのまま踏み込み、添えた腕を曲げて顔を守りつつ、もう一方の腕で腹部を打ち突く。最後の一人は顎を殴って気絶させた。 

 

 

 足下に倒れた奴等を見下ろして、何も思わなかった。沸いてくる感情は無い。憐れみ? 恐怖? そんなものはない。ただ身体は簡単に動いて制圧した。

 

 さらに奥へ足を進める。もう光は無い。目的もなく、何かに誘われるように歩いた。

 

 

 ひとつだけ、私には秘密がある。自分は転生した人間だということ。それでいて、この世界を知っている。型月、Fate作品であるのだと。気付いたのは後になってからだが、街の名前を見てすぐに気付いた。観布子市や、三咲町、冬木。そんな中、私は聞いたことも無い家に生まれた。しかしそれでも不自由の無い生活を送っていた。

 

 それが、こんな形で消え失せてゆくなんて。

 

 むわっと充満する生臭い匂い。飛び散った血がビチャビチャと歩くた度に音を立てる。

 この惨状を作った者がいた。気力も生気も感じられない、ただの物に成り果てた人だった存在。屍鬼。

 

 まさか、こんな所で遭遇するとは思いもしなかった。

段々と、神経が研ぎ澄まされていく。本能が告げる「殺せ」と。

 

 恐ろしくて忌まわしくて呪わしくて穢れていて狂おしくて痛々しくて吐き出しそうで葬られていなくて惨たらしくて埋葬されるべきで滅ぼされるべきで…

 

 殺せ、アレは存在してはいけない。殺せ、アレは人間では ない。お前が滅ぼすべきはアレだ。殺せ、滅ぼせ。殺せ、滅ぼせ。殺せ、殺セ、殺セ、殺セ!

 

「ーーその通り」

 

 小さく呟いた。本能のままに。いつの間にか手にしていた短刀を握り締める。

 スリットを空け膝を曲げる。

 そして、消えた。

 

 同時に屍鬼から血が噴き出した。首、脇下、股関節。

筋を裂かれ、もう動くことは出来ない。ただ唸る肉塊。

「うるさい」

 

 喉をかっ斬ると、途端に静かになった。

 

 

 

 

 

 

 私は、何をしたのだろう? 自分の手に握っているナイフを見て、着物の裾が赤く染まっているのを見て、足下に転がっているモノを見て………

 

 

 私は、何をしたのだろう? 殺すことしか頭になくて………

 

 

 ……殺す? そう、殺したのだ。

 

 「はは、はははは、」

 気付くと、乾いた笑いが出ていた。

 

 

 

 雪が降り出した。

 

 そこからは、あまり覚えていない。

 ただ、目の前に家の門が見えていた。

 

 何処か、心ここに有らずの状態。

 だから、気付かなかった。

 

 光はそこまで迫っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈍い音は、私の視界をぐるりと回す。

 

 背中から地面に打ち付けた。

 頭の後ろが湿って温かい。頭を打って切れたのだろう。

 

 軽く積もった雪に、血が拡がっていく。

 

 

 最後のに見たのは、私に降り注ぐ白い雪。

 

 「……罰、かな…」

 

 

 そして、堕ちてゆく。

 

 

 

 




 評価が怖い。が、やってみるだけ。


 本編主人公

 氏名 柊始紀 (ひいらぎしき)

 概要 中性的な顔立ち。肩口で切った髪の毛。両儀式と似ている。

 以上


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二話

 面白い文章って何。


 

 死とは、根源とは? いくら知識で、前世の知識で知っているとしても、想像出来ないだろう。とはいえ死は一度経験したが。それでも、この世界での死は初めてだ。

 

 両儀式と違って、両儀という一つの器に式と識がいない自分はどうなるのか。

 

 不安で不安で、怖くて恐くて、どうにかなってしまう。

 

 

 ここは死の中。モノの終着点。暗くて、底がない。堕ちていく感覚。でも堕ちている訳ではない。 光が無い。何も無い。意味も無い。

 

 無という言葉でさえ、おそらくはありえまい。

 

 形容なんて出来ない「  」の中で沈んでいく。

 

 

 ずっと遠くを見つめても、何も見えない。

 それでも、とても穏やかで、満ち足りている。

 意味がなく、ただ完璧に「ある」だけなんだ。

 

 ここは死の中。

 

 死者しか到達できない場所。生者では観測できない世界。

 

 なのに、私()()だけが生きてるなんて────

 

 

 

 気が、狂いそうだ。

 

 

 

 

 

 二年昏睡

 

 深い眠りから覚めるような感覚だった。ゆっくりと意識が明瞭になって行き、重い瞼を揚げる。

 

 そこに広がるのは凶々しくも清麗な線。

 ひび割れたこの世界は、あまりに脆く儚い。この世界にいることが不思議なぐらい。

 

 

 目が覚めたことで、看護師が来てさらに医者が来た。診察、精密検査やらやっていく。話なんて聞き流していた。

 

 

 結局、異常無しとなった。ただ肉体に、髪が伸びる以外の変化が無かった事は医者もお手上げのようだったが。

 

 

 家族は変に気を使って接することはなく、普通にいる。居づらくなること無い家だった。それでも、私はそれを押し切って一人暮らしをすると言った。

 

 

 はぁ、と引っ越した部屋でため息をついた。

 

 知っているとは言え、「 」に触れて、死が視えてしまった自分は今、生きている実感が無い。

 

 こんな感覚、耐えられそうにない。そこに本能の様なものが「殺せ」と囁く。気を抜くと壊れてしまいそう。

 

 ならば、両儀式と同じく殺すことで生の実感を得れば、両方を満たせるはずだと思った。

 

 でも、殺人なんてそうそう出来る訳ないし、そんな環境や、場面に出くわすことなど少ないだろう。今後の事を考えても、蒼崎橙子に会えたなら、非常識に身を落とすのには最適ではありそうだ。

 

 人殺しが出来そうだし。

 

 

 ここで問題がある。

 どうやって彼女たちを探すかだ。

 

 しかしこれといって良い案が今日は見つからなくて、諦めて寝ることにした。

 

 「……はぁ」

 また、ため息を一つして今日は終わった。

 

 

 

 夢を見た。

 

 いつか視た場所に似た空間を、墜ちている。

 

 落ちる先には糸のようなものがあって、その糸に沿って墜ちていく。

 

 沢山の糸があった。

 

 

 いくつもの糸が、墜ちて行く度に合わさり、一本に纏まって行く。

 

 全ての糸が一つになったらどうなるのだろうか?

 

 先へ、先へ、と行きたくなる。

 

 

 

 でも、それは果てしなく、遥か遠くにあった。

 

 




 導入は詰まらないでしょう。


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三話 邂逅

 Fgoやってるんですが、事件簿イベントやっと終わりました。


 取り敢えず復学したが、年明けに少し行った程度で退学した。馴染む事が出来なかったからだ。

 

 それはともかく。

 

 今は六月。梅雨のじめっとした空気の中お散歩をしている。向かっている先は、観布病院。

 そう、何を隠そうあの女。両儀式が目を覚ます時期なのだ。

 

 

 

 病院に着いた。

 受付に行き、面会をしたいと告げる。

 

 「両儀式の病室はどこですか?」

 「ちょっと待って下さい。 

  ーーーすみません。今面会が出来なくて。」

 

 

 「……え」

 

 まさかの面会謝絶。聞くと家族も面会が難しいらしい。警備もがちがちに硬いとか。

 

 

 

 

 じめじめした空気の中、気分もどんよりして、キノコが生えてきそうだ。

 その時、意気消沈している私に幸運がが舞い降りた。

 

 

 

 視界の端にちらついた燻んだ赤色の髪。私の脇を通り過ぎて病院内に入っていく。

 それを見て沈んでいた気分は一気に回復した。ルンルンで彼女を尾行して行く。気配を消すのは得意だ。何故か家の道場で武術から剣術、暗殺術まで叩き込まれたから。

 

 燻んだ赤色の女性はエレベーターに乗り上へ行く。そして、廊下をしばらく歩き、ひとつの部屋に入っていった。名札は両儀式。

 

 

 しばらくして先程の女性が出てきた。帰って行くのを見た後、その病室に入った。

 

 

 「なんだ、忘れ物か?」

  彼女、両儀式が聞いてくる。さっきの女性と間違えたのだろう。

 

 「いいや、残念だけど違う。貴女の顔を見にきたの」

 「…今度は誰だよ」

 

 うんざりした様子で聞いてくる。

 

 

 「そうだな、わたしは貴女に近しい何か。わたしでもよくわからない。でも、貴女とわたしは初対面ではないはず。あの場所で会っているから」

 「……は? 」

 

 よく理解出来ないという顔。

 

 「覚えてないの? あの意味が意味を為さない世界、気が狂いそうな世界、死の中で」

 「……お前も、視えているのか?」

 

 「ええ、視えているわ」

 

 それきり会話は途切れて、しんと静寂が部屋を支配した。

 

 

 

 「今日は会えてよかったわ。

 目を潰そうとか、自殺とか考えないでね。………彼の、織の願いでもあるんだから」

 「……さっきの奴と同じこと言うんだな」

 

 

 顔を少ししかめながら式が言った。

 

 

 「これ、わたしの連絡先。気が向いたら電話して」

 そう言って側の机に置いた。

 そして、わたしはさようならと言い、踵を返してこの部屋を去った。

 

 

 

 

 

 

 

Side shiki

 

 

 

 魔術師を名乗る変な奴が出て行ったと思ったら、また扉が開いた。忘れ物をしたのだろうか。

 

 

 

 「なんだ、忘れ物か?」

 「いいや、残念だけど違う。貴女の顔を見にきたの」

 

 その声は先程の女と違う声だった。幼さの少し残る自分と同じぐらいの女。

 

 「いいや、残念だけど違う。貴女の顔を見にきたの]

 「…今度は誰だよ」

 

 さっきの来客といい少し疲れている。いま、自分はかなり不機嫌だ。しかし次の言葉でそんなのも吹き飛んだ・

 

 「そうだな、わたしは貴女に近しい何か。わたしでもよくわからない。でも、貴女とわたしは初対面ではないはず。あの場所で会っているから」

 「……は? 」

 

 一瞬、意味が解らなかった。そいつは話を進めていく。

 

 「覚えてないの? あの意味が意味を為さない世界、気が狂いそうな世界、死の中で」

 

 死の中。…思い出すだけで気分が悪くなる。あそこに繋がっているこの目も、耐えられない。

 どのくらいたっただろう。気づけば口がうごいていた。

 

 「……お前も、視えているのか?」

 「ええ、視えているわ」

 

 そいつは見えていると言う。そのくせそんなにも平気でいられている。怒りか、妬みか、呆れか分からなくて、ぐちゃぐちゃになった。

 

 「今日は会えてよかったわ。

 目を潰そうとか、自殺とか考えないでね。………彼の、識の願いでもあるんだから」

 話す事がなくなったのか、そいつは帰るらしい。そして憎たらしくも、さっき来た魔術師と同じことを言う。

 「……さっきの奴と同じこと言うんだな」

 

 そいつは自分が空っぽになる前、ここに入っていた識のことを知っているらしい。多分、あの場所で合っていたのは本当。

 

 「これ、わたしの連絡先。気が向いたら電話して」

 部屋を出る前、そいつは丁寧に連絡先まで置いていった。

 

 

 静かになったら病室。式は同じ目を持つ彼女のことを思い出していた。

 

 「そういえば名前、聞かなかったな」

 

 

 

 

Side Unknown

 

 「ああ、もしもし? 私だ。ちょと調べて欲しいのがあるんだ。

 なに、式の事は任せておけ。その間お前に仕事をしてもらうだけだ。休日出勤だあ? ともかく、明日事務所に来てくれ。そこで伝える。じゃあな」

 

 




 今後とも宜しくお願いします。

 ふと、疑問に思ったのですが、空の境界ssって今流行ってるんですか?


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四話

 ピリリリ

 電話の着信音が目覚まし代わりになった。

 

 「はい柊です。……アーネンエルベね、分かった」

 

 七月に入った。寝ていたら電話が来たのだ。初夏の日差しを受けながら、あの喫茶店に向かう。

 電車に乗り数駅、アンティーク調のお店の前に来た。看板にはアーネンエルベ。ドイツ語で

 

 「遺産か」

 

 扉を開けるとドアベルの音が鳴り、来店を知らせる。

 店内を見渡し目的の人の元へ行く。椅子を引き、その人の対面に座った。

 

 「お待たせ。…嬉しいよ、貴女から連絡してくれるなんて」

 「………お前、いや何でもない」

 彼女の目が青白く輝いてる。自分の目も死を見そうになった。

 

 「オレのことは式って呼べ。それと、お前の名前をまだ聞いていない」

 

 これは、心を少し開いてくれているのだろうか。

 

 「ああ、名前まだ言ってなかったね。改めて、私は柊始紀よ」

 

 

 「は? 柊始紀? 最近はシキって名前が流行ってるいるのか?」

 蒼崎橙子は社員の報告に戸惑っていた。

 

 「知りませんよそんなこと。それで、彼女は昔から続く良家のお嬢様のようです。あと、」

 そこで報告をしていた黒桐幹也は言い淀んだ。

 

 「あと何だ?」

 橙子が急かす。

 「いえ、彼女は二年前に入院したんですよ」

 「たかが入院がどうした」

 「そのたかが入院の原因が、昏睡なんです」

 「………」

 

 橙子の顔から表情が抜け落ちた。そして、おもむろに眼鏡を外した。雰囲気がガラリと変わり、深い息を吐く。

 「……どうしたものか」

 

 

「お前もシキって名前なのか」

 

やや不思議そうな顔で聞いてくる。

 

 「そう、始まりを紀すって書いて始紀」

 「ふーん」

 

 区切りがついたのでブルーベリーパイを頼む。

 

 「それで、名前を聞く為だけに呼んだの?」

「ああ、名前もそうだけどお前に興味が湧いた」

 

 驚いた。人間嫌いの彼女が興味を持つなんて。

 「何か聞きたいことがあるのかしら?」

 「いや、べつに有るわけじゃない。ただお前という人間に興味が湧いたんだ」

 

 本質を見ている様な目で見てくる。しかし、それ以上に気になったことがある。

 

 「む、式もわたしのこと始紀って呼んで。お前じゃない」

 

 

 色々話して、ブルーベリーパイに舌鼓を打った後、喫茶店を出た。

 

 「式はこの後用事ある?」

 「いや、無い。強いて言えば橙子の所に行く」

 「橙子って誰?」

 「……よくわかんない奴だ」

 式はこれから伽藍の堂に行くらしい。これはチャンスとばかりに言う。

 

 「わたしもついて行って良いかな?」

 「いいぞ。多分お前なら橙子も許してくれるだろ」

 

 よかった。これで伽藍の堂に行ける。怪しがれないよう、その喜びを隠して平静を装った。

 

 「……お前じゃなくて始紀だよ」

虚しくも、彼女がわたしを名前で呼んでくれるのは先のことになりそうだ。

 

 

 

 

「橙子ー客人だ]

 

扉を開けて事務所に入る。コンクリートが打ちっ放しで、鍼が見えていたり未完成なまま放置された建物なのがわかる。

 

「あ、式おかえり」

上も下も真っ黒な服の人、黒桐幹也だ。

 

「明日は雪でも降るんじゃ無いのか?」

デスクに座っている女性、蒼崎橙子が驚愕の表情で言った。

 

「はじめまして、お久しぶりです。知ってるとは思いますけど、両儀式の友達の柊始紀です」

 

ガシャン

 

何かと思ったらコーヒーを淹れて持ってきた幹也がコップを落とした音だった。

 

「……嬉しいよ式に友達がいたなんて。教えてくれても良いじゃないか」

「おい、友達なんてオレは言って無いぞ」

 

式が抗議してくるが無視する。

「式なんで連れて来た? わたしはあまり此処を知られたく無いのだが」

 

一転変わって橙子が厳しい顔で聞いてくる。

 

「仕方がないだろ、始紀もこっち側の人なんだから」

「まて、名前がシキだとしても、二年昏睡したとしてもそれはないだろ。何故そうなる」

 

流石、もう調べていたか。わたしの情報を知っている。

 

「それはわたしから。

元々柊家は退魔の一族だったの。まあ退魔四家ほど有名じゃないけどね。今は退魔だったことも忘れられているわ。わたしは先祖返りしたようなもの。目は淨眼だから色々視えるの。」

 

そう説明すると式も知らなかったのか、軽く驚いてる。橙子も同様だ。

 

「はーー

その眼、ただの淨眼じゃないだろう」

 

橙子はうんざりした様に言った。別に隠すものでもないので正直に言う。

 

「まあね。式から聞いたけど直死の魔眼って言うらしいのね」

そう言ったら、橙子は頭を抱えてしまった。

 

 

注意していなければ気付かなかった。気配を完全に近く消して、わたしを尾けてくる。病室まで来た。病室の住人と話しをして部屋を出ると気配は無くなっていた。外に出て使い魔に確認させれば両儀式の病室で話をしている少女がいるではないか。

 

その少女は着物の似合う麗人だった。あまり長くない髪の毛を軽く後ろで結っている。整った顔は男にも女にも見えた。人形のようでもある。

一応社員の黒桐に、無理矢理休日に呼び出して調べさせた。もしかしたら刺客かもしれない。だが、結果は白。魔術のマの字さえなかった。しかし、なかなか古くからある家で両儀家と付き合いのある家である可能性も捨て切れない。

 

結果として自身に害の無いと分かった。同時に興味も失せた。それよりも両儀式に興味があったからだ。

すっかり記憶から消えかけていた頃そいつは式が連れてきた。それよりも式が人を連れてきた事自体とても驚いたがな。

 

しかし式と並んで見ると、雰囲気というか気配が似ている気がする。二人揃って着物美人、顔も体形もそっくりとは言わないが似ている。なんか姉妹だな。

そしてまた驚くべき事実。なんと彼女退魔の一族だとか。しかも直死の魔眼持ち。

 

何故だ。どうして虹の魔眼使いがもう一人出てくる。と頭を抱えて、答えの無い疑問が脳内でぐるぐるした。

 

 

とりあえず、保留。疲れた。わたしは寝たい。

 

 

 



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五話 閑

 ふうぅ、ぎりぎり間に合った。


 

 「成る程な。柊、古来より魔除けに使う植物。それが苗字なら頷ける。シキってどう書くんだ?」

 

 橙子が聞く。

「調べたんじゃないのかしら? でも良いわよ。始まりを紀(しる)すと書いてシキ」

 言った後、本日二回目の説明かしら? と小さくぼやいた。

 

 「……はぁ、全くなんでそんな意味深かげな名前なんだ。」

 

 一人で疲れて、わたしに話しを続けるよう促す。

 

 「―――就職したいんです。ここに」

 皆、何故という顔でこちらを見ている。

 

 「死を知ってしまったわたしは正気じゃいられない。生きている心地がしないの」

 

 「つまり、なんだ。人を殺したいのか?」

 「人にこだわるつもりは無いわ。生きてるって実感が有ればいい。」

 

 「何故ここだ、ここに就職したい?」

 「わたしは普通じゃない。普通の中で非常識は生きずらい。それだけ」

 

 「……ふん。良いだろう。ただ式と殺し会うなよ」

 

 そして無事、就職が決まった。

 

 

 

 

 

 これはとある日常の一幕。伽藍の堂にて。

 

 「おい、その刃物はどうした?」

 帯に差していたナイフを橙子は見つけたようだ。

 

 「家にあったナイフだよ。蔵の中から引っ張り出してきたの」

 ナイフを取り出して見せる。そして鞘から刃を抜こうとした。

 

 「おい、待て。待て待て」

急な静止がかかる。

 

 「……何よ」

 「ここでそれを抜くな。事務所の結界が切れたらどうしてくれるんだ」

 

 橙子曰く、歴史を積み重ねた武器はそれだけで魔術に対抗する神秘になるのだとか。

 

 それにわたしは、クククと笑ってしまった。

 「何がおかしい?」

 不機嫌になった橙子が言う。

 

 「だってこのナイフ、歴史なんか十年も経ってないわよ」

 

 「え?」

 

 可愛らしい声だった。聞くことなど今後一切無さそうな声。これが橙子のだなんて考えられない程の。

 

「………蔵から出して来たと言っただろう。」

「そうよ。これはね裳着のときに親から貰ったものなの。だからこのナイフに力はないわ。でも御守りくらいにはなるけどね。それで使わなかったから、そのまま御蔵入りってわけ。ああ、親が注文して新しく作らせた物だからね」

 

 そう言ったら橙子は安心したようだった。

 ほら、と彼女に渡す。橙子刃刃を出して慎重に見て行く。十分見た後返してくれた。

 

 

 ぬぅっと手が伸びてきた。

 

 

 

 ぺしっ。

 「…………………………………………………………………………………………………………………」

 

 手の主を見る。……両儀式。真意を探るよう式を、瞳をじっと見つめる。

 

 ぺしっ。

 

 また手が伸びてきた。

 

 

「…………………………………………………………………………………………………………………」

 

 ぺしっ。

 ぺしっ。

 ぺしっ。

 べしっ。

 ぺしっ。

 べしっ。

 ぺしっ。

 

 伸びてくる手を叩き落とす。

 猛攻のスピードは徐々に上がっていく。

 「って、何なのよ!」

 「お前こそ何なんだ」

 

 式が言い返しながら赤くなった手を見せてくる。

 

 「ぷっ。くくくく、っはははは」

 橙子が笑ってる。

 

 わたしは橙子にジト目を向ける。

 

 「おい。そのナイフ、オレにも見せろよ」

 拗ねた感じの式が言ってくる。正直、拗ねた式も可愛いおもう。

 

 「だーめ」

 と言うと。

 「………」

 僅かに頬を膨らまして拗ねる。そんなやり取りを見て、橙子は更に爆笑していた。

 

 「いや、なんかお前達のそれがな、可愛い姉妹喧嘩に見えてしまってな。くくく」

 まだ笑ってる。

 

 

 

 結局、わたしが根負けして式に自分のナイフを見せたのだった。

 

 「今度、式のも見せるなら良いわ」

 と条件付きで。

 

 

 



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六話 痛覚残留/編


 間に合ったぁぁ。


 

 

 わたし、柊始紀は転生者だ。男性だった覚えがある。しかしこの世界に順応して、女に生まれた自分は女性としての意識、言葉遣い、振る舞いをする。それは自然なのだ。たとえ自身が男だと思っても、やはり女であると認識する。ここまで時が経つと自分は女性だと考えるのも仕方がない。

 つまり、何が言いたいのかというと、知らずうちに陰陽を補完してしまっているということ。いや、どこか意識の片隅で理解はしている。

 

 

 

 ある日伽藍の堂に来ると、橙子以外誰も居なかった。おはようと挨拶した。

 ほったらかしの封筒から少しだけ写真が見えている。抜き取った。

 

 「浅上藤乃………」

 「ああ、それは依頼なんだがな、一昨日の晩の事件の犯人を殺して欲しいんだと」

 気づいた橙子が説明する。

 

 「ふーん」

 知っているわたしは、この結末がどうなるか分かっている。さして興味無さそうな返事をした。

 

 「反応が薄いな。式の方は食らいついたがどうした?」

 橙子が質問した。それに沈黙で返す。

 

 「………式の手伝いぐらいはやってあげる」

 とりあえず、そう言って事務所を出たのだった。

 

 「似ているかと思えば違ったり、逆だったりするものなんだな」

 一人残った橙子はそう考えた。

 

 

 

 あてもなく伽藍の堂を出たわたしは、炎天下の中歩いている。日は真上に達し、そろそろお昼なのだろう。

 

 最近よく通う喫茶店アーネンエルベに足を運ぶ。店内は涼しく、また寒過ぎない丁度良い温度に保たれている。仄暗く光量の少ない造りは落ち着きがあった。

 

 

 

 「式、あんたの仕業ね……!」

 たいして大きくない声でも良く聞こえて来た。

 

 奥のテーブルに目を向けると、見知った着物の女がいた。そして席に座っている女性が二人。

 彼女達に近付いて呼びかけた。

 

 「奇遇ね式。」

 式は目を向けただけだった。一方式と話していた女子生徒は。

 

 「な、な、な……し、式が二人!」

まさに驚愕。この世の絶望のような表情だった。

 

 「まぁ、シキが二人というのはあながち間違いではないわね」

 名前は同じなんだから。

 

 「あんた、双子だったの…?」

 

 面白くて肩を震わせた。

 式は面倒くさそうに否定した。

 「違う。こいつとは血も繋がってない。」

 

 「遂に本性を見せたわね式! 自分の姉妹を家族じゃないなんて!!」

 

 なにか勘違いして想像を膨らませたその少女は式を糾弾する。

 だめだ、笑いを抑えきれない。深呼吸をする。

 「そうですよ。わたしは柊始紀という名前があるのです。」

 と、左手の人差し指を立てて諭すよう言う。

 

 「────っ…………!」

 私の言葉をだんだん理解すると、彼女は己の勘違いと妄想に顔を真っ赤にして恥ずかしんだ。

 不機嫌だった式も肩が小さく震えていた。

 

 「こほん。───と、ともかく私は黒桐鮮花よ! ………今日の用件はあんただものね、藤乃。兄さんが来れなくてごめんなさい」

 彼女、鮮花が隣の藤乃という少女に謝る。

 

 

 「おまえ─────痛くないのか」

 式が藤乃に言った。

 「……いや、おまえじゃない」

 

 それから式は鮮花に声をかける。

 「用件はそれだけ。何かあいつに伝言はあるか」

 「それでは一つだけ伝えてください。兄さん、早くこんな女と手を切ってください。と」

 

 鮮花は本気の目をしていた。

 

 

 

 

 

 

 Side Azaka.

 

 式が出ていくのを確認した。そして目線を戻すと、何気なく私たちのテーブルに座った()()()()がいた。

 「なんでここに座っているのよっ!」

 

 「あら、ごめんなさいね。これも何かの縁だと思って頂戴」

 そいつは悪びれもなくニコニコしながら謝る。

 イライラしてると藤乃が小声で窘める。

 

 「黒桐さん、その、皆さんが驚いてます」

 藤乃に怒られてしまった。

 

 

 

 

 そいつはいきなり式の隣に来て、奇遇ね。なんて挨拶をした。正直あたまの中が真っ白になった。式と瓜二つ、ではないけど少し似ている。雰囲気とかも似ていた。髪は式より長くて後ろに軽く結ってある。どこか女性のような空気を纏っている。

 

 妹。脳に浮かんだ言葉はそれだった。

 はっ! まさか二人とも兄さんを狙っている?!

 明後日の方向に思考が行ったが、それはないと否定する。そして、思ったことが口に出ていた。

 

 「あんた、双子だったの?」

 しかし、式の返答は否である。

 納得できなかった。絶対姉妹なのだと。

 

 「遂に本性を見せたわね式! 自分の姉妹を家族じゃないなんて!!」

 

 変な言葉を口走った。そうしたらその式モドキが目の高さを椅子に座っている私に近づけて、左人差し指を立てて言ってきた。

 

 「そうですよ。わたしは柊始紀という名前があるのです。」

 凜とした声。思わず惚けてしまったけど、だんだん言葉を呑み込んで他人だと理解した。

 

 顔が暑くなってくる。

 

 

 とても、とても、とっても恥ずかしかった。あの式の前で赤っ恥をかいたのが、とっても悔しくて恥ずかしかった。

 

 

 

 

 隣の式モドキ。柊始紀は軽い昼食をとっている。

 式とどういう関係なのか聞いても、のらりくらりとはぐらかしたり、意味あり気に微笑んだりしてイラつく。

 

 結局、収穫無し。でも、その内教えるし知ることになる。と言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 教訓。シキの名前は、関わるとロクなことがない。

 

 

 





 ピンポンパンポーン


 お知らせですよー。

 諸事情によりこれから三週間お休みします。と、報告します。
 ちなみに諸事情は試験であるとも報告します。



 読者の皆様、これからも宜しくお願いします。


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七話 痛覚残留/2

 大変長らくお待たせしました。かれこれ4周間ってとこですかね。


 不定期ではあるが、ちゃんと橙子から仕事を貰っている。調査などの方が多く、殺人欲求が溢れてきそうだった。

 しかし、上手く抑えることが出来ている今、其れに溺れることはない。

 その分、解放した時の反動は大きい。

 

 

 自分で制御できている。

 

 

 

 コントロールできる。

 

 

 

 

 

 彼女、浅上藤乃を見たとき久々の、あの感覚がした。

 思わず手が出そうになった。

 

 しかし、それは直ぐに収まった。理由はわからない。いきなり萎んだような、消えてしまったような。

 取り敢えず、昼食を取り二人と別れた。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 橙子の事務所に戻った。ソファーには一人の少年が横たわっている。

 

 「……そいつ何?」

 いつになく、ぶっきらぼうな私だった。

 式は仏頂面で機嫌が悪い。

 

 「湊啓太。運良く逃げてきた奴だよ」

 橙子の説明が入る。

 

 

 「それで、浅上藤乃をどうするつもりなんですか、橙子さん」

 

 話しの途中だったらしい。

 

 「場合によっては戦闘もやむをえまい。なにしろ依頼主からしてそれを望んでいる。娘が殺人鬼として報道されるのは避けたいそうだ。せめて表沙汰になる前に殺してくれとさ」 

 「そんな、浅上藤乃は無差別な殺人を起こしてるわけじゃないでしょう······! 話し合いは可能だと思います」

 

 「ああ、そりゃ無理だ。黒桐、おまえは大事な事実を聞き逃している。浅上藤乃が彼らのグループを皆殺しにした時の決定打を知らない。先ほど湊啓太を眠らせる時に白状させた。彼らのリーダーはね、最後の夜に刃物で藤乃に襲いかかったそうだ。その時、どうも藤乃は刺されてしまったらしい。 復讐の引き金はそれなんだ」

 

 「問題はここからでね。腹部を刃物で刺されたのが二十日の夜。式が出会ったのがその二日後だ。その時、浅上藤乃に傷はなかった。完治していたというんだ」

 「お腹に刺し傷……….」

 

 「啓太少年曰く、藤乃は電話越しに傷が痛みだすから忘れられない、と繰り返し言うんだとさ。

 完治したはずの傷が痛みだす。おそらく過去の凌辱の記憶が脳裏をかすめるたびに、腹部を刺された時の痛みが蘇るんだ。忌まわしい記憶が、忌まわしい傷を呼び起こす。痛みは錯覚なんだろうが、彼女にとっては本物なのだろう。これでは発作と変わらん。浅上藤乃はありもしない痛みを思い出すたびに、突発的に殺人を犯している。 話し合いの最中にそれが起きないと誰が言い切れる?」

 

 「でも、それは逆に傷さえ痛まなければ話し合いができるって事じゃないか」

 僕がそれを口にしようとするより早く、沈黙していた式が声をあげた。

 

 「違うぜ、トウコ。あいつには本当に痛みがある。浅上藤乃の痛みは体内にまだ残ってるよ」

 

 「そんな筈はない。では式、傷が完治しているというのはおまえの誤診か?」

 

 「刺された傷なら完治してる。中に金属片とかも残ってない。本当にあいつの痛みは消えたり出てきたりしてたぜ。痛んでいる時の浅上藤乃は手遅れだ。逆に普通の浅上藤乃はつまらない。殺す価値もないんで帰ってきたって言っただろ」

 

 「そもそも内部に金属片なんぞ残っていたら一日で死んでいるがね。へえ、完治しているのに痛む傷、か」

 

 

 「あ」

 「なんだ黒桐 五十音発音による健康法か?」

 ...そんな物あったって誰もやらないと思う。

 

 「違います。浅上藤乃がヘンだったって話ですよ」

 

 うん? と橙子さんは片眉をあげる。

 「啓太からの話の中であったんですけど、浅上藤乃は何をされても動じなかったそうなんです。初めは気丈な子だな、と思ったんですけど、そうじゃない。あの子はそう強い子じゃなかった」

 

 「知ってるような口振りだな、幹也」

 なぜか式が鋭い視線を向けてきた。

 

 「もしかすると..… 自分はよく知らないんですけど、彼女は無痛症ってヤツなんじゃ ないかなって」

 

 無痛症とは、文字通り痛みを感じられない特殊な症状の事だ。希有な症例なので滅多に見られないけれど、もしそうなら彼女の不可思議な痛覚もありうるのではないか。

 

 「......そうか。それなら少しは説明できるが・・・・・それにしたって原因があるはずだ。腹部をナイフで刺されたとしても、無痛症なら痛みは初めから無かった筈だからな。浅上藤乃は生まれ持っての無痛症なのかの確認も必要だし、その感覚麻痺が解離症かそうでないかも判らないのでは話にならない。まあ仮に彼女が無痛症だったとしてもだ。 何かしら彼女に変化を与える要因はなかったのか? 背中を強打したとか、首筋に大量の副腎皮質ホルモンを射ち込んだとか」

 

 「程度は知りませんが、背中をバットで殴られた事があるそうです」

 

 感情を抑えた僕の言葉を、橙子さんはおかしそうに笑った。

 

「ははあ、連中の事だ。 フルスイングしたろうな、それは。なら背骨は折れたか。 そして折った後も浅上藤乃はその感覚がなんであるか判らないまま、彼らに犯されたってワケだ。まったく、初めて感じた痛みがそれか。 彼女はその苛立ちがなんであるかも判らなかったろうに。

 いやあたいしたもんだ。 黒桐、おまえよく湊啓太を保護する気になったな」

 

 橙子さんは口元を吊り上げながら言う。この人は気が向いたのなら、誰であろうと言葉で追い詰めるという悪癖を持っている。ひとを理性で苛めることが好きなのだ。

 

 ▽▽▽

 

 わたしのの前で、話しが繰り広げられている。式も疲れた様子だ。

 わたしの感情をすっ飛ばして、付け入る隙間もない。

 

 「じゃあ、ナイフで刺された話しはどう説明するのかしら。完治してるんでしょ?」

 「そこばかりは、無痛症と結びつかないな」

 呆気なく橙子は手をあげる。

 

 「………もう少し考えて欲しかったわ。まぁ、外からの痛みでは無いなら、内側なのかもしれないね」

 

 それとなくヒントを流した。

 橙子はほんの少し考える素振りを見せたが、振り払い次の話しにもどったのだった。

 

 

 

 「少し遠出します。今日明日と戻れないかもしれません。ああ、それと橙子さん。超能力って本当にあるんでしょうか」

 

 「黒桐は湊啓太の話を信じてないのか。浅上藤乃は間違いなくその手の類の能力者だよ。超能力なんて大雑把な言い方は的確ではないが、詳しく知りたいのなら専門家を紹介しよう」

 言って、橙子さんは自分の名刺の裏にさらさらと専門家とやらの住所を書いてい幹也に渡す。

 

 彼が出ていくと、残った女三人衆。

 

 

 「浅上………………浅神の所縁(ゆかり)の者だったか」

 と、ポツリ。わたしは呟いた。地味に部屋に響いた声は、ちゃんと二人に聞こえている。

 

 「なに!?」

 「それは本当か!?」

 

 ぐるんと頭が回り、四つの(まなこ)がこちらを見つめる。

 

 「多分ね、」

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 外は生暖かい強風が吹いていた。

 

 ーーー嵐がやって来る。

 

 

 

 




 多分、この話はあまり面白くなかったかもしれません。

 次回も宜しくお願いします。


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八話 痛覚残留/3

 ふぅ。意外と大変な虹創作。二次か、、、


 

 7月24日。

 雲一つない蒼天が、分厚い鉛のような雲に覆われる様子を眺めていた。

 

 「ええ、そうです。その事故の事なんです。······ああ、やっぱり接触事故を起こす前に死亡していた、と。死因は絞殺ですか?違うことはないでしょう。 首がねじ切られているのなら、それは絞殺ですわ。強さの加減はまた別の問題です。 そちらの見解はどうなってます?やはり接触事故扱いですか。そうでしょうね、車の中には被害者しかいなかった。 走る密室なんて、どんな名探偵でも解決できませんもの。いえ、これだけ教えていただければ十分です。

 どうもすみません。 このお礼は必ずいたしますわ、秋巳刑事」

 

 とっても優しい橙子の声を片耳に、窓辺でわたしはうつらうつらしている。対称に式は怒りを顕にしている。

 

 「ほらみろ、今度こそ無関係の殺しだろ」

 怒気が滲み出る声で言う。

 

 「………彼女は橋にいるわ。雨に洗われたいのでしょうね。橙子、あの建設中の大きな橋、浅上グループのものよ。何か持ってない?」

 浅上藤乃の居場所を伝える。

 

 「はぁ、何も言わん。

 ほら、持って行け」

 

 橙子は机から数枚のカードを取り出し、式に放り投げた。

 「・・・・・・なんだこれ。 浅上グループの身分証明書? この荒耶宗蓮って」

 

 三枚のカードは、全て浅上建設が関わっている工事中の施設への入場許可証だ。電磁ロックになっているのか、カードの端には磁気判別のストライプがある。

 

 「その名は私の知人だ。 適当な名前が思いつかなくてね、依頼人に身分証明書を作らせる時に使ったんだ。ま、そんな事はどうでもいい。面倒だから黒桐が帰ってくる前にやってしまえ」

 

 式は橙子を睨む。普段うつろな式の目は、こうなるとナイフのように鋭い。

  式は何も言わずに踵を返した。 式は別段急ぐ風でもなく、いつも通りの流麗な足取りで事務所から消えていった。

 

 ふたりになって橙子は窓の外へと視線を移す。

 「黒桐は間に合わなかったか。さて。嵐が来るのが先か、嵐が起こるのが先か。

 ひとりでは返り討ちにあうかもしれないぞ、両儀」

 

 誰にでもなく、魔術師は呟いた。

 

 

◇◇◇

 

 

 「ところで始紀。お前はいいのか?」

 「………正直、身体が疼いて仕方ないわ。でも、これは彼女の問題だから。

 そうね、聖堂教会にでも入ろうかしら。代行者もいいわね」

 これは両儀式の物語。彼女のレールが敷かれている。荒耶宗蓮は彼女の糧となる。別にわたしが介入しても良いが、式の成長の障害になりうる可能性は否定出来ない。

 だが今、そんな事はどうでもいい。時の流れるままにする。

 

 「それは冗談でも止めて欲しいのだが………」

 「ふふ、貴女を一生追いかけて捕まえるわぁ」

 「…………きみは、もしかして、そっちの気があるのか?」

 

 冷や汗を流しながら橙子は、冗談で話しを変えようとした。

 「・・・・・・」

 対する答えは沈黙。やはり根本的なところは男なのだから。

 「……さあね。でも根源に繋がる可能性がある身体、陰陽を、両儀を満たしているはずなのだからね」

 

 「なるほどね。しかしそうであれば始紀、お前は男ではないのか?」

 「……………わからない。わからないのよ。

 ………………………そのうち知ることが出来るかもしれない。

 もしかしたら、根源は、わたしに陽を、式に陰を与えようとしたのか、考えてもしょうがないわね」

 

 

 

 時は経ち、いつの間に降っていた雨は、バケツをひっくり返したかのように降り注ぐ大雨に変わっていた。窓に叩き付ける雨風の音が鬱陶しい。

 

 「そういえば始紀、前に言ったよな。外からの痛みでは無いなら、内側なのかもしれないと」

 「確かに言ったわ」

 「その事なんだか、どうやらお前が正しかったようだ」

 

 橙子が口を開きかけたとき、扉が開いた。

 

 

 「早いな。まだ一日しか経っていないぞ」

 

「台風が来るっていうんで、交通機関が麻痺する前に帰ってきたんです」

 入ってきたのは幹也だ。

 

 そうか、と難しい顔をして頷く。

 「橙子さん 浅上藤乃についてですけど、 彼女は後天的な無痛症です。 四歳までは普通の体質だった」

 「そうか、知っていたぞ」

 橙子の無慈悲な宣告。

 「え……」

 

 かわいそうな幹也。犯人はわたしだが。

 

 気を取り直して彼は説明を続けるのだった。

 

 

 

 「そろそろ、かな。お迎えに行こうかしら?」

 と、席を立つと幹也が、馬鹿野郎と滅多に口にしない暴言を吐いて、飛び出していった。

 橙子はやれやれと(かぶり)を振った。

 

 

 

 雨は大分収まったが、なお降り続く。

 

 

 




 なんか、更新がまばらになっいる気がする。
 今後もよろしくお願いします。


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九話 柊始紀/

 なにか、オリジナルのストーリーを考えなければ。
 ただ物語をなぞっても面白くならないしね。


 

 紀行を始めに向かって遡る。

 

 夢はいつも、途中で終わってしまう。遡っても、遡っても、何かに繋がれているように、現在に引っ張られて、連れ戻されてしまう。

 

 あと少し先、遥か先まで行けたのに・・・・・・

 

 

 

 

 目を開けると、わたしの顔があった。

 

 否、私の顔ではなく両儀式の顔だった。

 「起きたのか。………こいつはいつまで寝ている気だ?」

 

 いつの間にか、伽藍の堂で寝てしまったようだ。日付は寝た日から2週が経とうとしている。

 

 隣のソファーでは幹也が寝ている。彼はわたしが寝た時には既に眠っていた。

 

 式は彼が起きなくてイライラしているようだ。

 

 

 「・・・・・始紀、何処へ行っていた?」

 橙子が聞いてきた。彼と同じ状態だと思ったらしい。

 

 

 「・・・・・・・・・遠く、遠く、遥か向こうへ行こうとした。遡って、遡って、遡る途中まで行った。でも、先に行けなかった」

 寝起きで、霞む思考の中答える。

 

 

 「・・・・・・」

 橙子が黙り考え始める。その間、始紀は欠伸をしてソファーから立ち上がる。

 

 

 

 そうか、もうこんな時期だったか。カレンダーを見れば既に8月下旬。

 

 「じゃあわたしは帰るわね」

 と言い残し、ここを出た。

 

 

 

 涼しい風が襲ってくる。霞んでいた思考はそれでも晴れない。

 足を動かす。帰路につかず、その足は何処へ行くのか。

 

 

 気付けばとある路地にいた。見覚えがある。

 

 あの冬の夜、偶然出会った屍鬼。灰になって消えたのだろうか、そこには何もなかった。

 

 

 そして、気が付けばそこはわたしが倒れた場所だ。

 

 事故注意の看板が置いてある。わたしの家の目の前の道。

 空を仰ぎ見ると、真っ青な蒼穹が広がっている。吸い込まれそうな程透き通っていて、目がおかしくなりそう。

 

 「痛い」

 首が疲れてしまったので、目線を戻す。

 

 

 

 「おい」

 後ろから声をかけられた。

 「・・・・・・橙子、どうしたの?」

 そこにいたのは橙子だった。

 

 「いやなに、心ここに在らずな様だったのでな、車に引かれてないか心配になった訳だ」

 「驚いた、貴女が心配した? ・・・・・・・そんなこともあるのね」

 

 橙子はムッとして

 「私でも従業員の面倒ぐらいみるさ」

 

 「給料は?」

 「うっ・・・・・」

 

 痛い所を突かれた彼女は苦い顔をする。

 

 「とにかくだな、黒桐の奴なら寝ている理由は解るが、お前の方だ。お前は2週間も眠っていたわけだ。気にはなるだろう」

 「そんな話をするまで、ここにやって来たの?」

 

 事務所でそういう話しはして欲しかった。

 

 「そんな嫌そうにするな。その話しがしたい訳ではない。・・・・・いや、聞きたいことはあるが、最初に言った通り、少し心配になっただけだ。気にするな」

 

 と、少々早口でまくし立てた。橙子も自分の柄でもないことを言っている自覚があるのだろう。

 

 わたしは、彼女をポカンと見つめた。

 

 「・・・・・・・・・貴女、本当に蒼崎橙子なの?」

 

 「失礼だな、おい」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 柊始紀はどうして死んだのだろう? わたしの身代わりにまでなって。

 

 わたしは彼女に出来たもう一つの人格。主人格は彼女であったのに、副人格のわたしに鉢がまわってきたのか。

 

 

 カワラナイ、カワラナイことだらけ。

 

 

 彼女は何お思っていたのだろうか?

 

 

 

 

 

 「どうしてお前は死んだんだ?」

 

 口から出た呟きは、誰かに届くこともなく宙に溶けていった。

 

 

 

 

 




 読者の皆様、今後も宜しくお願いします。

 絶賛迷子中です。ストーリーのアイディアが思い浮かびません。
 なにか、「こういうのが良い」などリクエストがありましたらお教え下さい。


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十話 柊始紀/2 俯瞰風景

 

 今日は橙子とあの病院へやって来ていた。

 いつの間にか幹也は目覚めていて、ことは解決していた。

 

 関わろうと思っていても、既に終わった後なのだからやりきれない。

 

 そして、この病室には今にも消えてしまいそうな少女がいる。

 

 「失礼。巫条 霧絵というのは君か」

 彼女と橙子の会話を隅のほうで聞いていた。

 

 

 しばらくして。

 「邪魔をした。これが最後になるが、君はこの後どうする? 式にやられた傷なら私が治療してもいい」

 

 彼女は首を横に振る。

 

 

 わたしは何もしなくて良いのだろうか。わたしがこの世界にいる理由は? ただ静観するだけの存在か? それは違うはずだ。生まれたのなら、意味があるはずた。

 

 

 

 橙子は少しだけ眉をひそめたようだ。

 

 「......そうか。逃走には二種類ある。目的のない逃走と、目的のある逃走だ。一般に前者を浮遊と呼び、後者を飛行と呼ぶ。

 君の俯瞰風景がどちらであるかは、君自身が決める事だ。だがもし君が罪の意識でどちらかを選ぶのなら、それは間違いだぞ。我々は背負った罪によって道を選ぶので

はなく、選んだ道で罪を背負うべきだからだ」

 

 

 わたしは、死を通して生の喜びを感じなければならない。だけど、死………いや、あんなところへなんて行きたくない。絶対に。死なんて一回きり、その背筋を凍らす怖れはとてつもなく絶大だろう。…………でも、それだけだ。

 

 日常的にこの眼は死を見せつけてくる。目を潰したくなる程、自殺したくなる程、狂おしいぐらいに。

 

 だから、だから『死』なんて大嫌いだ。

 

 

 

 「おい、どうした。帰るz「橙子、こいつを治療しろ」

 

 「は?」

 橙子は訳が分からない。何を言ってる? という顔をした。

 「橙子、私は死が嫌いなんだよ。自分で死んで楽になろうだなんて烏滸がましい」

 苛立っているのか、口調が荒れている。

 「お前……………………………………………………………良いだろう」

 

 今、己の眼は爛々と蒼白く輝いていることだろう。

 そんな始紀を橙子は見て、危ないな。と判断した。

 

 

 「あ、あの。そんなこと、していただかなくともいいです!」

 巫条 霧絵は治療をしたくないと言う。

 「お前は負けたんだよ。一度死んだんだ。そんなお前の意思なんて知らん。勝った方の言うことを聞け!」

 怒りを滲ませながら言う。命令する。

 

 「死ぬな! 生きろ! そして死を渇望しろ!!」

 

 

 「おおぉ」

 橙子はそんな光景を見て感嘆を漏らしていた。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「慣れない事はするものじゃ無いわね……」

 帰り道、わたしは疲れていた。恥ずかしんでもいた。

 

 「はははは」

 橙子は笑っている。

 「それにしても始紀。お前の口からそんな言葉が出るなんて、明日は槍でも降りそうだな。式なら無関心だろう」

 

 伽藍堂に着けば橙子は準備にかかるだろう。これから忙しくなる。

 

 彼女、柊始紀の足取りは、ほんのちょっと軽かった。

 

 

 

 

 これで良かったのだろうか? 荒耶宗蓮の計画の一端を潰してしまったような。

 

 案外、原作というモノに捕らわれないのが良いのかもしれない。今や、この世界に生きる、一つの命なのだから。

 



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十一話 閑

 

 結果として巫条 霧絵は生きながらえた。

 わたしによって。

 

 身体の機能が治った今、リハビリをしている。

 

 

 「橙子、彼女をここの……」

 「駄目だ」

 「最後まで聞いてからにしなさいよ」

 「身寄りの無い彼女をここの従業員にして住まわせるつもりだろ。駄目だ」

 なんと無情。

 「最後まで面倒を見ないの?」

 「彼女を治せと言ったのは君ではなかったかな?」

 

 「わかったよ、わたしの負けだ」

 結果、わたしが折れたのだった。

 

 そして悩んだ末、家で雇うことにした。住み込みで働いて貰うので衣食住は安心できる。お給金もあるので嗜好品も買える。とてもホワイトな職場であると言えよう。

 

 

 その旨を病院で伝える。

 

 「…………そう」

 静かに彼女は返事した。

 

 巫条 霧絵を救った。と言うわけではないが、生きながらえさせた。しかし、たったそれだけ。

 彼女が堕落から逃れた。その後は? ない。

 

 自己満足だ。元より理解していた。でも、わたしが存在していることを、わたしはここにいたと、世界に知らせたかった。爪痕を残したかった。

 

 目の前にいる巫条 霧絵を眺めながらそんなことを思っていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 ある日、ここ伽藍の堂で。

 

 「へえ、綺麗な回路ね。質はEXってところか。ただ量は少ない」

 そう、魔術回路を調べていた。

 事の発端はわたしの

 「わたしにも魔術は使えるかしら?」

 と、素朴な疑問からだった。

 そして、橙子が調べてみようと言い、今に至る。

 

 「魔術は使える。質だけは時計塔のロードにも優るぐらいだな。うん、十分だ。ただ量は少ないから大きな魔術の試行は出来ない。ここだけ気を付けろ。まあ、質で補えそうだがな」

 と言われた。

 

 「でも橙子。あまり実感が無いのだけど……」

 「そこは安心しろ。一から教えてやる」

 「今から?」

 「そうだな………そろそろ来る頃だろう」

 はて? と思った時、ガチャリ。扉が開いた。

 

 「橙子師、今日は何の用ですか。話があるって?」

 姿を現したのは黒桐鮮花だった。

 

 「おお来たな。お前はこれからこいつと授業を一緒に行う」

 「一緒にって………ああぁ! この前の式擬っ!」

 「ほら、言ったでしょ。そのうち会えると」

 

 

 「面識があるなら早い、早速始めるぞ」

 橙子の号令と共に講義が開かれた。

 

 

 

 起源とは、魔術師に限らず、あらゆる存在が持つ、原初の始まりの際に与えられた方向付けられた物事の本質。

 それは知ろうが知るまいがこの方向性に従って人格を形成し、存在意義を持つ。

 稀ではあるが、起源を複数持つ、或いは後天的に変化することもある。本当に稀だがな。

 

 そして魔術との関係だ。

 魔術属性が魔術の根幹を成すならば、起源は存在の根幹を成すといえ、起源が強く表に出るとそのまま魔術属性になる場合がある。

 起源そのものを魔術属性としている魔術師は、通常の属性を用いての魔術とは相性が悪く、汎用性がない。その代わり、一芸に特化した専門家にはなりやすい。

 

 鮮花は起源に関係なく、一芸特化型だがな。それでも神秘を扱う者が減ってきている現在、就職は引く手あまただ。

 

 

 …………………………………………………… ……… …… …… …

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「わたし起源って、なんだろう?」 

 

 

 

 

 

 

 

 



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十二話 

 

 サッ。

 

 

 

 音もなく、一つを二つに別たれた。

 

 

 スッ。

 

 

 音もなく、人形の糸は切られた。

 

 

 

 「…………アンサズ」

 宙で文字を(えが)き、呟く。すると炎が上がる。

 残ったものは灰のみ。跡形も無く消し去った。

 

 魔術を使えるようになった今、元々人外じみた身体能力は異常をきたしていた。

 

 

 その場から離れようとした時。

 

 「動くな」

 わたしの首に剣が迫ってきた。

 誰かがいることは気付いていたが、横槍を入れないだろうと思い無視していた。思惑は外れたわけだが。

 そしてこの細い剣。十中八九、聖堂教会の代行者が所有する黒鍵だろう。

 

 ナイフで黒鍵を弾き、飛ばしてきた相手と対峙する。すると、今度は3本飛んできた。やはりナイフで弾き、避ける。

 「ほう。あれを避けるとは良くやるな」

 

 「動くな、と言うまえに黒鍵を飛ばしていたでしょ」

 「これは失敬。だが問題はなかろう?」

 「はぁ。…………………何の要件かしら、代行者」

 「なんてことはない。依頼が重なっただけよ。それにお前が討伐対象の可能性もあり得る」

 そう言い、カソックの男が構える。

 この神父、目が死んでる。ハイライトが一切無い。

 

 「少女よ、名はなんという?」

 「柊始紀。手合わせ願おうかしら?」

 「ふっ」

 嘲笑し、ダンッと脚を踏み込む。間合いは一瞬で詰められた。

 

 『活歩』

 

 目の前に現れた神父は拳を突きだしてくる。

 

 『金剛八式(こんごうはちしき)━━━━衝捶(しょうすい)

 

 殺人的、いや、破壊的威力の突きが迫ってくる。食らえば肋骨は粉砕され、内臓は破裂までいかなくとも傷つく。

 まさに、マジカル★八極拳。だが、わたしも武術を嗜むもの。(達人レベル)

 

 『化勁(かけい)

 

 相手の攻撃力を吸収、または受け流す。

 一瞬動きが止まった神父。見逃すはずもなく、わたしは追撃する。

 左手で受け流した後、右腕を神父の伸びきった腕の脇下から顔のほうに上げる。彼はバランスを崩し床に打ち付けられた。

 

 「……ふぅ━━━━━」

 

 当然反撃してくる。やられっぱなしの相手ではない。

 受け身をとって、直ぐ様起き上がる。足を掬う低い回し蹴りを貰い、体が宙に浮く。身体をひねり、着地をした。

 隙が出来たところを、相手はしっかり攻撃してきた。

 

 攻撃されては、それをいなす。両者、共に決定打に欠ける攻防だった。

 

 

 

 

 

 

 泥仕合の末。

 

 お互い距離をとって対峙している。

 「私は聖堂教会第八秘蹟会所属、代行者の言峰綺礼」

 いきなり名乗り出し、構えを解いた。

 

 「済まなかったな。元より貴女が討伐対象で無いことは分かっていた。………そうだな、何かあったら此処に来ると良い。冬木の冬木教会に」

 などと抜かす。

 

 「気が向いたらね」

 素っ気ない返事だ。

 

 

 お互いに背を向けて帰るべき場所に向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 「はぁ、代行者と殺りあったぁ?」

 「依頼が被ったのよ」

 

 橙子には大層驚かれ、ここに関することを喋ってないかと聞かれた。勿論一言たりとも口にしていない。

 

 黒鍵が欲しくなったことを言ったら、無理だと即却下。冬木教会へ訪れる理由が出来た。黒鍵は是非とも欲しい。

 

   




 
 ワタシ外道マーボー今後トモヨロシク






 次回、柊始紀の言峰綺礼による傷の切開。


 
 のようなもの。多分。次回でなくとも、その下りをいつか入れる。


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十三話 柊始紀/3 矛盾螺旋

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 両儀式と柊始紀は似ている。

 

 死に寄り添って、それに抗うことでしか生を感じられない破綻者。

 

 

 

 また、巫条霧絵も似ていた。しかして非なる属性だった。

 

 死に寄り添って、死を通してしか生きてる実感がなく、死ぬことでしか生を感じられなかった。

 

 

 

 また、浅上藤乃も似ていた。これもまた非なる属性だった。

 

 死に触れる事でしか快楽を得られない。人を殺し、その痛がる過程と優越感でしか生きていることを感じられなかった。

 

 

 

 柊始紀と両儀式は似ている。

 

 二つの心に一つの肉体を持った能力者。そして、同じ起源を持つ者。

 

 

 

 

 

 始紀と言う存在は、柊始紀と言う肉体に、「 」から与えられた人格に過ぎない。故に、その魂は「 」である。

 

 根源を通り、生まれ落ちたもう一つの'いのち'。それは、柊始紀の死をもって産声をあげた。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わたしは転生し、この世界に落ちた者。

 

 ストーリー原作を曲げるつもりは無い。しかしこの言い方は正しくないだろう。既に死ぬべきひとりの女性は生きている。ストーリーに関わるつもりはなかった。

 

 

 

 わたしが生きるため、わたしが壊れないため、それだけにわたしはストーリーに関わる事になってしまった。

 

 だが、それは必然だったのかもしれない。もしくは宿命なのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレは両儀式の模倣か? 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寒くなった夜、いつものように人気のない路地を歩いていた。

 

 「…………は?」

 

 何かに拘束された様に体が動かない。

 

 

 

 「━━━━貴様は何者だ?」

 

 重い、声がした。

 

 すぅと幽霊のように現れた黒いコートの男。

 

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━わたしはこの男を()っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「━━━━その両儀式と似ている身体カタチ。その在り方、性質。まるで、ただ写した人形のようだ。

 

 柊始紀のことは調べた。二年前、柊始紀は死に至る重傷を負った。生き残る、生き帰る確率は零にも等しいながらも今、ここに立っている。…………………だがそれは違う。柊始紀は死んだ。あれは死んだも同然だった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━荒耶宗蓮(あらやそうれん)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………………………………………………」

 

 痛い所を突いてくる。

 

 

 

 「━━━━柊始紀は死んだ。では、お前は何だ?」

 

 

 

 煩い。

 

 

 

 「…………………………………黙っていればベラベラと煩いわねぇ。

 

 ねわたしが何者か? …………………………………………わたしは、わたしが解らない。

 

 だけど、わたしは、今の自分を柊始紀(わたし)としか表せない。

 

 これで満足?」 

 

 

 

 「、答えになっていない」

 

 「答えるつもりなんてない」

 

 

 

 しばらく無言のにらみ合いがあった。

 

 「……そうか、駒にするか迷ったが不確定過ぎる、ならば不穏分子は消すべきか」

 

 魔術師は呟いた。

 

 「━━━━柊始紀、お前には死んで貰う」

 

 

 

 動けないでいたわたしの身体は反応できなかった。

 

 

 

 「うぐっ!」

 

 首を捕まれ、易々片手で持ち上げられた。

 

 呼吸が出来ない。首が締まり、命が薄れていくのを感じる。

 

 抵抗しても万力のような手から逃れられない。

 

 「はな………し………….て」

 

 視界から色が消えてゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドスッ! ガンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 緩んだ手を振り切り間合い、結界の範囲から離れる

 

 「っげっほげっほ。はぁ━━」

 

 

 

 

 

 魔術師の腕には細い、一メートル弱の剣が刺さっていた。また、足はその剣で貫かれていた。

 

 

 

 「━━━━黒鍵、だと?」

 

 

 

 黒鍵。それは死徒の体に無理やり人間の頃の自然法則を叩き込んで上書きすることで、元の肉体に洗礼し直して浄化して塵に還す「摂理の鍵」。

 

 

 

 だが、目の前の魔術師は死徒ではない。それでも、二百年を生きる人間など存在しない。つまり有効な攻撃なりうるのだ。

 

 死の線が視えない相手に効果覿面となる。

 

 

 

 

 

 何故黒鍵なぞ持っているか? それはこの前の事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日前 某日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電車を乗り継ぎ数時間かかるここ冬木市。に、車で来ていた。

 

 大火災の名残が未だ伺える。

 

 坂を登り丘の上の教会を挑む。

 

 教会の扉は開いていた。

 

 

 

 「ようこそ冬木の教会へ」

 

 胡散臭い神父、言峰綺礼が中で待ち構えていた。

 

 

 

 「あの日以来ですね」

 

 「それで、 この前の借りを返してもらいに来たのか?」

 

 「ええ。単刀直入に言うわ。黒鍵を譲って貰えないかしら? ついでに扱い方も教えて欲しい」

 

 

 

 「━━━━━━━━ふむ。良いだろう」

 

 彼は少し考える素振りを見せた後に了承した。

 

 

 

 

 

 「これだ。魔力は扱えるな?」

 

 普段身に付けている黒鍵の柄を取り出した。そして、しゅっと刀身部分が現れた。

 

 

 

 柄を手に取り魔力を流す。刀身をイメージしながら魔力を編み上げてゆく。

 

 柄から刀身が現れた。

 

 

 

 「この技術は一朝一夕で習得できるものでは無いのだがな…………」

 

 微妙な表情の神父はポツリと漏らした。

 

 「では、扱い方だが…………………………………………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ・

 

    ・

 

    ・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「綺礼よ、今日は面白い娘を連れ込んでいたな」

 

 

 

 誰もいない所から声がした。

 

 それはゆっくりと姿を現わした。金色の髪の毛、恐ろしく美しい造形。赤い目はこちらを見透かしているかのよう。

 

 

 

 「ギルガメッシュ……………あの少女に見るべき所があったのか?」

 

 疑問を呈する。

 

 「お前が見逃すとは珍しい。あれも己の在り方と存在に懊悩する愉快な奴よ」

 

 

 

 一見、普通の少女に見える………魔術なぞに関わっている時点で普通ではないが、危うさや、重い詰めているようには見えなかった。

 

 

 

 「そうか……………………………そうか。

 

 もし、またこの神の御家を訪れることがあったら、その時は━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━彼女の傷を切開しよう」

 

 

 

 

 



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十四話 矛盾螺旋

 

 

 

 「…………………………」

 「…………………………」

 無言で睨み合うこと数秒。

 

 「少々分が悪いか。

 これ以上関わること無いことを祈る。次に合間見えるとき、邪魔をするというのなら、━━━━貴様は必ず消す」

 

 黒鍵を引き抜きながら言った。

 

 魔術師は基本的に戦いをしない。するとしても魔術工房という自分のテリトリーの中や、必ず勝ちを得られるよう下準備をした上で挑む。

 

 荒耶宗蓮の工房は小川マンション。なるほど、あそこならわたしは負けるだろう。

 

  

 

 「………………………」

 闇に溶けるように消えた魔術師。それを確認した瞬間、弾けるようにその場から離れる。

 

 そして帰路についた。

 

 

 

 

 

 気が付けば雨が降っていた。

 

 雨に打たれながら、これからの不安を流してくれることを期待した。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 「どうした、こんな時間に?」

 逃げるように転がり込んだ伽藍の堂。出迎えた橙子はわたしから焦りを感じ取ったのだろう、多少驚いていた。

 

 「橙子、今日、ここに泊まらせて……」

 

 「は?」

 更に驚く橙子。情報を処理しきれなかったらしい。

 

 「すまない。もう一度言ってくれ」

 「だから、一晩泊まらせて。って言ったのよ」

 

 「そうか。いや、お前が誰かに一晩泊まらせろと頼むのが珍しくてな。良いぞ、空いてるところを使え」

 

 

 

 快く了承してくれたので、空いている簡易ベットに潜り込む。

 結構神経がすり減っていたようで、泥沼に沈むように眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side Touko

 

 さて、橙子は考えていた。始紀が堪えるほどの事は何なのか。

 

 最近は式のまわりが騒がしい。それ関連だと予測をつける。

 正解である。橙子はそれが正解だと知るよしもなかっったが。

 

 「ふぅ━━━━━━━」

 

 煙草の煙をゆっくり吐いた。

 

 

 

 

 

 

 「………不味い」

 

 

 この煙草は不味かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 プロフィール

 

 

 

 真名 : 柊始紀 ひいらぎしき

 

 性別 : 女性

 身長/体重 : 160cm・47kg

 出典 : 空の境界

 地域 : 日本

 属性 : 中立・中庸

 

 

 クラス ■■■■

 

 筋力 : E   耐久 : D-

 敏捷 : A-  魔力 : A

 幸運 : B   宝具 : B+ (EX)

 

  

 クラス別能力

 

 

 根源接続 : B

 直死の魔眼 : A++

 

 

 

 

 

 

 

 

 プロフィール2

 

 転生した者。自身の存在が本来なら無い世界、その中で己は何なのかという疑問に懊悩している。

 己が生きていることに疑問はない。それが全て(事実)だからだ。が、もうひとつの人格である柊始紀が何故死を選んだかを気にしていたりする。

 

 

 

 交通事故で昏睡する重傷を負う。その後、奇跡的に目を覚ました。

 その眼は直死の魔眼に変化していた。

 直死の魔眼の代償、殺人衝動を抱えており衝動を堪えている。 死を通して生を実感する破綻者。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 FGOぽっくステータスを作って見ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次週休載


 読者の皆様、今後とも宜しくお願いします。


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十五話 とある少女の独白

 題名から(仮題)を外してみました。無難な題名になりました。「~の境界」の形にはめただけです。


 

 

 私の最後は飛行からの堕落が良いと思った。

 

 

 

 羨ましかった。

 

 

 ずっと高い所からの眺め。俯瞰は私の意識を上へ、蒼空(そら)へ上げさせた。

 

 

 

 寂しかった。

 

 

 一緒に飛んでくれる人を探した。肉体は地に墜ち、魂は飛行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━やはり、私の最期は飛行からの墜落が良いと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果、私は飛べなかった。

 

 

 

 私は突き落とされた。それは、おそらく絶望というなにか。

 残された道は閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生き残った私は、身体を直して貰い動ける身になった。

 

 

 久しぶりに地上を歩いた時、世界は変わった。それは暴力的な変化。上の方にあった意識を無理やり落としにくる。

 立ち眩みのような感覚に陥り、よろめいてしまう。

 

 うつむき目眩に耐える。そして自分の足が地についているのを確認した。

 

 二本の足で身体を支え、しっかり踏みしめている。

 

 

 

 今、感じているのは一体なんなのか? 嬉しい? 寂しい? それとも怒り? 

 

 

 

 だけど、ぐちゃぐちゃなこの感情に不快感はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は身寄りの無い私を引き取った。大きな家だった。沢山部屋があって迷子になりかけた。

 

 居候として私はこの家に住むことになる。衣食住を保証して貰う代わり家の手伝いをする。初め、こんな広いお屋敷の掃除なんて! と思ったが、いざ仕事内容を聞けば大したことないものばかりで安心したのは記憶に新しい。

 

 

 

 たまに帰ってくる彼女。そんな日の夜、どうすればいいか分からない私は、気付くと彼女の隣に寝ていた。

 

 

 綺麗な寝顔。人形のよう。死んだように見えるけど、ひっそり呼吸をしている。かすかな吐息が私の耳をくすぐった。

 

 食い入るように顔を見る。━━━━ゆっくりと、じわじわと、顔と顔の距離が縮まってゆく。

 

 整った鼻筋、瑞々しい唇。

 暗闇の中でも決め細やかな肌が見えるくらい近付いたところで、私は布団に潜る。

 

 何故か顔が熱い。異様に熱い。それに、心臓の音が五月蝿く一向に眠れなかった。

 

 

 

 

 朝、隣の人を起こさないよう部屋を出て行く。そして、自分に宛がわれた部屋で昼間で寝てしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………生き残ってしまった私の責任、ちゃんと取って下さいね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たまにあのビルの近くを通ることがある。上を見上げれば彼女達は見えなかった。

 

 

 

 

 彼女等はちゃんと飛べたのだろうか…………………………

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 不思議な人だった。凛々しく美しい(ひと)だった。

 

 私を見透かしているようなあの眼。正直怖かった。その

眼から逃れたくて、すぐにうつ向いてしまった。

 

 痛い、痛い、イタイ。

 

 あの痛みが生きていると実感できる。

 もう痛まない。恐ろしい(ひと)に殺されてしまったから。

 

 

 

 

 

 

 

 でも、時たま、傷が疼く。赤と緑の螺旋が見えてしまう。

 

 

 

 

 

 私の友達の鮮花からよく話を聞く。

 

 意地悪された。からかわれた。気にくわない。でも憎めない。優しい一面もある………………………色々聞いた。大半が愚痴だけども悪い人じゃないのは分かる。

 

 あまり関わったことのないけど、その人とお話してみたくなった。

 




 巫条の分家の生き残りの姉妹はたしか遠野家で働いていたはず。


 巫条霧絵√ ?


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十六話 矛盾螺旋

 お久しぶりになります。一応生きていますが、死にかけました。
 

 FGO7周年。なんとアルクェイドのPU!! 更に、何年ぶりかの両儀式もPU!!!! 感無量ですっ。

 

 P.S. アルクェイドを得ることが出来ました。


 

 雨に打たれ冷えきった身体を布団にくるまって暖めた。それでも、カラダの芯は冷えたまま。

 

 きっとこれは恐怖なのだろう。

 

 

 いつしか微睡みに身を委ね寝てしまった。

 

 目を覚ませば、冷えたままのカラダの奥底は更に冷え、熱さと錯覚するぐらい冷たかった。ただ、恐怖はそこにない。あるのは純粋な殺意。

 恐怖を味わい、生を実感した。どうしようもなく冴え渡る感覚。だから、殺したい。

 

 それに、アレは化け物だ。ならば惑うことはない。わたしは殺すのみ。

 

 だが、アレは式によって殺される定め。わたしが付け入る隙がない。

 

 もどかしい、この向かうところを失った殺意。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 「……………………」

 「……………………」

 「……………………」

 「──────」

 

 伽藍の堂はギスギスしていた。理由は至極簡単、始紀が殺気立っているせいだ。殺気立つ始紀にイライラする式。よく分からないが、空気を読んで黙っている幹也。工房の安全を気にしていたりする橙子。

 

 

 「おい。その殺気をどうにかしろ」

 

 式が言った。

 その言葉に顔を上げ、彼女を見た。

 

 「?!」

 

 思わず式はナイフの柄に手をつけてしまった。 

 爛々と輝く其の眼。死を色濃く表したそれは式を奮い起たせるには十分だった。

 

 睨み合いは一瞬で終わった。わたしが何もしなかったからだろう。もし、わたしもナイフに手を付けていたら、殺し合いに発展した。

 

 

 「チッ。こいつは危ないな」

 そんな言葉を式は言った。が、始紀には届いてなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寡黙に、殺意を滾らせ、動かない。

 

 

 あれから、どれくらい経ったのだろうか。一週? 一月? 二月? わからないが、外は季節が変わっていた。

 

 鮮花がやって来たことがあった。最近は古刀を手にし、嬉しいそうにしていた式がいた。

 

 

 

 ただ、一つ言えることは……………わたしは、そろそろ壊れそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 両儀式が連れ去られた。

 

 その一報は赤いコートに身を包んだ痛い魔術師、たしか名前はコルネリウス・アルバによって伝えられた。

 

 

 やっと、この時が来た。待ちわびた。最終には式によってアレが倒されようと、一矢報わなければわたしの心が休まらない。本格的に壊れてしまう前にぶつけないと。

 

 珍しく幹也が怒っていた。

 

 

 

 「橙子、わたしも行く」

 

 茶色のコートを着た彼女に言う。

 橙子は、ずっと防ぎこんでいたわたしが、いつになくヤル気であることに若干嬉しそうに、しかし推し測るような目をした。

 

 「一応聞こう。柊始紀、御前の敵は何だ?」

 

 「………荒耶、宗蓮。それがわたしの敵だ」

 

 

 これには驚いたのだろう。

 「そうか、そうか。難しい、相手だな………」

 

 橙子は若干言葉を失っている。

 

 

 

 車に乗り込むと、実家に寄って欲しいむねを伝える。

 

 「何故だ?」

 

 「無手で乗り込むなんて正気じゃないでしょ」

 

 

 

 



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十七話 矛盾螺旋

 

 

 久々の実家はひっそりとしていた。

 

 真っ暗な自分の部屋に静かに入る。

 ぽつんと置いてある刀を手に取った。鉄の重みが伝わってくる。しかしそれだけだ。歴史の重みなどない。

 

 魔術的な強さとは、神秘の大きさ、濃さなどで決まる。そして、古ければ古いほどそれは強大になるのだ。なのでこの刀はなんの力も持たない。あるのは殺す為の道具。

 

 

 部屋を出た瞬間、柄にもない悲鳴をあげそうになった。というのも襖を開けた目の前に女がいたからだ。

 夕陽の逆光を浴び、長い鴉濡れ羽のごとく髪の毛が艶やかにあった。

 巫条霧絵。

 

 「………どこか、行かれるのですか?」

 かすれ気味の声は寂寥(せきりょう)を滲ませている。その目はどうにも淀んでいて危ない。

 

 「ええ」

 ただ短く肯定した。

 

 影が動いた。 

 

 

 

 

 

 

 は?

 

 

 

 

 

 

 

 唐突過ぎて理解が追い付かない。

 胸に重みを感じ、後ろに倒れそうになった。

 自分がよく使うシャンプーの匂いが微かにする。

 

 「どこにも、行かないで……」 

 耳を(くすぐ)る懇願。

 

 抱きついてきた彼女。腰に回された腕に力が籠る。

 

 

 混乱する思考、感情、思いの中、返事をした。

 「…………………………わかった」

 わたしも彼女の背中に手を回し、優しくさすったのだった。

 

 わたしの着物は肩辺りが濡れていた。

 

 

 

 暫くして腕の中から規則正しい呼吸音が聞こえてきた。

 寝てしまった彼女を自分の蒲団に横たわらせる。

 

 ゆっくり上下する胸を見下ろして考える。いつの間にかに情が沸いてしまったのだろうか、と。いや、これは情なのか? 

 外側から観てた時、ただ可哀想な(ひと)だと思った。だけどこっちに来て、考えや感受性が変化して、可哀想だからという理由で生き残そうなど欠片も思わなかった。怒りに委せた結果だ。

 

 彼女の身体が冷えないように肩の上まで掛け布団をかけてあげると、そっとその場をわたしは後にした。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 「遅かったじゃないか」

 車に戻ると橙子が煙草を吸っていた。

 巫条霧絵を寝かせてから来たので、大体20分ぐらい過ぎたらしい。日がさらに傾いている。

 

 「ごめんなさい橙子。ちょっと手間取っちゃって」

 それだけで橙子は察したよう。

 煙草の火を消し、車が発進する。

 

 「わかっているとは思うが、巫条霧絵はそう長くないぞ」

 橙子が前を見ながら言ってきた。

 「前から知ってたわよ」

 「……そうだな、彼女はぼろぼろだ…………身体は万全だ。私が作ったのだから。だが、気力だったり精神もしくは魂とかは別だ。そこまで彼女は強くない。私の見立てでは冬までだった。

 ただまあ、様子を見るに暫くは大丈夫そうだな。他人に生の実感を求める辺りはましだろうから」

 「そう、ね」

 

 

 しばし沈黙があった。

 エンジンの音が響く。

 

 「その刀は何か銘はあるのか?」

 少し重たい空気を振り払うよう、橙子が話題をふった。

 「銘はない、無銘のただの現代刀ね。まえに聞いたけど、良く切れるらしい。作者は、ただ斬れろ。と思いを籠めて造ったのかもね」

 「成る程…………概念霊装と言うには弱すぎるが、期待は出来そうだ。

 ━━━━━さあ、着いたぞ」

 

 

 

 

 車から出ると、特徴的な円柱の建物小川マンションが見える。

 

 「さて、入りましょうか」

 

 橙子は大きな旅行鞄を片手に、わたしは刀を持ちナイフを帯に差して準備満タン。

 

 さあ、この殺人衝動をぶちまけましょう。

 

 



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十八話 矛盾螺旋

 明けましておめでとうございます


 

 

 矛盾螺旋、相剋した螺旋、生と死の螺旋。

 人間のDNAのように美しい二重螺旋構造。しかし、その塩基配列が変化することがある。

 生と死が繰り返される中、産まれるズレ。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 「おい、ちょっと待て。その手に持っている物はなんだ?」

 橙子が聞いてきた。

 

 「何って、ほら」

 手に持っている、正確には指と指の間に挟んでいるものを橙子に見せた。

 

 「はぁ、何故そんなものを持っているんだ……」

 そう、黒鍵だ。

 「縁が出来てしまったから、貰ったのよ」

 呆れた彼女は溜め息だけ残した。

 

 

 

 わたし達は自動ドアを潜る。

 

 「気持ち悪い」

 思わず口に出した。

 

 

 橙子の後についてロビーに向かう。

 

 「驚いたな。急性なんだねぇ、キミは」

 男性にしては高い声が響く。

 

 吹き抜け構造の長方形の広いロビー。

 二階に繋がっている階段の途中に真っ赤なコートを着た男が立っていた。

 「だが、それは喜ばしい事でもある。ようこそ私のヘゲナに。歓迎するよ、最高位の人形使い」

 

 魔術師コルネリウス・アルバは芝居がかった仕草で一礼した。

 

 「ところで弟子を二人もとっているなんてどうしたんだい?」

 「はぁ、二人? それは一体誰の事だ?」

 呆れたように橙子は言う。

 

 「ほら、あの黒いメガネの子と、キミの隣にいる子…………は!? リョウギシキだと!?」

 

 どうやら、わたしを両儀式と勘違いしたらしい。

 「くっ、残念ながらこいつは両儀式じゃないぞ。そして、そのメガネの方はただの従業員だ。魔術師の魔の字もない。そして正真正銘の弟子は、隣のこいつだ」

 勘違いにツボったようで嗤う橙子。

 

 

 

 「それで、地獄(ヘゲナ)?」

 「ああ、そうとも。ここはヒンノムの谷にあった火の祭壇の再現だ・・・・・・・・・」

 

 

 

 

  ・ ・ ・

 

 

 

 

 ずらずらと得意気に魔術について話す魔術師。嫌気が差してきて、小声で橙子に問うた。

 

 「ねぇ、殺っちゃってもいい?」

 「まあ待て。私がやる」

 わたしに苦笑しながらトランクを足の爪先でつついた。

 

 「━━━━━━━出ろ」

 その言葉と共に開くトランク。

 何も無い、伽藍の鞄。だが、その口が開いた途端わたしは怖気(おぞけ)がした。

 ぶわっと何かが溢れ出し、一瞬にしてロビーを走り回る。

 建物の壁や床、天井から溢れ出たスライムを消した。

 

 

 

 アルバは喚くが、その雑音は始紀には届かない。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ふと、何故こんなにもアレ(荒耶宗蓮)を殺したいと思っているのか疑問が浮き出た。もっとも、その疑念は直ぐに解消されたが。『その存在が赦されない。不快である』と。

 本能的な拒絶反応、()()()()()()()()()()()から涌き出るようなそれは、己を動かすには十分なものだった。

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 「………………はっ」

 気が付けば、胸をぶち抜かれ鮮血を撒き散らした橙子が横たわっていた。ついでに頭もなかった。

 

 

 「いつまでそうしているつもりだ、柊始紀」

 深い、声だ。

 「━━━━━荒耶、宗蓮」

 目の前に立っている黒い魔術師。

 

 「……………………………」

 「……………………………」

 無言で向かい合う。

 手に持った刀を鞘から抜く。

 

 「一つ問おう。━━━━━何故、ここに立っている?」

 「……なんでだろうね。本当に」

 「また答えをはぐらかすつもりか」

 苛つきが感じられる。

 

 「殺したくて殺したくて、うずうずしてるんだけどね、でもやっぱり無理だって、お前と今会ったら思った。わたしの役ではない」

 

 

 

 

 

 わたしは知っている、識っている。

 『現在(いま)』を。

 『過去(まえ)』を。

 『未来(さき)』を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……………貴様は一体何を知っている? 

 書物を読んでいるかのような俯瞰した在り方。

 何を見ている、何が視えている!? 答えろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全て(物語)を。

 

 全て(人生)が。

 

 全て(ぜんぶ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「わたしは要らないのよ。いなくとも変わらない」

 荒耶宗蓮を無視し、話は続く。

 

 「あぁ、でも少しは愉しまなくちゃね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俯いていた顔を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「無為識(むいしき) 空の境界。

 

 ━━━━━━━これは永遠のような夢。        

           されど終わりはある」

 

 

 

 

 

 

 

 




 無為識はただの造語です。
 
 主人公の活躍が少ないのが気掛かりでしたが、やっとです。


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十九話 閑

2023.2/17 Happy birthday.


 

 「式、誕生日おめでとう」

 

 残念ながら、祝いの詞に見合う歓迎ではなかった。

 

 キィン

 

 式が取り出したナイフが柳刃包丁を弾いた。

 笑顔で切りかかってくる柊始紀。とても尋常ではない。

 

 「おい、」

 どういうつもりだ? と聞く式。

 「いやねぇ、お祝いしているのよ」

 こんな祝い方があってたまるか。

 言葉を交わしてる間にも戦いは繰り広げられている。

 

 

 「ぁ…」

 

 式の手からナイフが落ちた。

 「ふふん、これでわたしの一勝」

 得意気な始紀。式とは定期的の気が向いたら勝負し合うのだ。これで始紀は十七勝、十六敗、引き分けはない。

 「………………」

 無言で悔しそうに見つめてくる彼女。思わずゾクゾクしてしまう。

 

 

 

 ここ蒼崎橙子の事務所、伽藍堂はいつもと違って活気がある。

 部屋のテーブルにはパティシエも顔負けのケーキと軽食が置かれている。

 「おお、これは凄いな」

 橙子もこれには感心した。

 「…………ふん、」

 静かにしていた式がまたもや拗ねた。確かに彼女もこの位の料理は出来るだろう。

 

 「改めて、誕生日おめでとう」

 黒桐兄妹と橙子そしてわたしがそれぞれ言う。

 「……………………ああ」

 ほんのり頬を紅く染めて、ぼっそっと呟いた。

 その(かお)の破壊力ときたら、彼女を気に入らない鮮花でさえ「うっ」と胸を押さえていた。

 

 

 誕生日といったら、一番の醍醐味はそう、誕生日プレゼント。

 「はい、式。プレゼントよ」

 

 渡したのは15、6cmほどの(つか)

 「なんだこれ? 刃がないぞ」

 彼女はこれが柄だとちゃんと理解した。

 「いいえ、刃はあるわ」

 

 シュッ

 柄から刀身が出てきた。それは諸刃(もろは)で、若干彼女が使っているものより細身で薄い。

 

 「おおー」

 この感嘆は橙子だ。大方、ギミックの方に感心してるのだろう。対して式はまじまじと短刀を見つめている。

 ちなみに柄には『両儀』と彫ってある。

 

 「おーい、式?」

 「━━━━━━━━━━━━━」

 

 声が聞こえていない。だめだ、刃物に魅入られている。

 

 「式、返事して」

 「…………………ちょっと、試し切りしてくる」

 私に反応したかと思ったら、そう告げて伽藍の堂から出ていってしまった。

 その足取りは弾んでいたと記しておこう。

 

 「あ、行ってしまった……」

 伸ばした手は虚しく空気をつかんだ。

 

 「僕、追いかけますね」

 黒桐幹也は式を追いかけて出ていった。

 

 残ったのは橙子と鮮花とわたし。そして豪華な食事とケーキ。

 

 「取り敢えず、勿体ないから食べるか」

 橙子が言い出し、皿に料理を盛る。それに習い、わたし達も食事を始めたのだった。

 

 

 「ん━━━美味しい! 橙子さん、これお勧めですよ」

 「そうか、どれ食べてみようか」

 と、この調子で二人は結構な量を食べた。

 

 「橙子さん、戻りました………って、もうほとんど残ってないじゃないですか!」

 食い荒らされたテーブルを見て愕然とする幹也。その後ろにいた式は、だんだんと表情が雲って行く。

 

 「こうなると思って、ちゃんと残してあるわよ」

 そう言って、厨房を指差す。

 「ほんとだ、ありがとう柊さん」

 途端に式の貌が輝やく。よく見ていないと分からない位の変化だ。

  

 

◇◇◇

 

 

 つつがなく誕生日会は終わり、片付けをしていると。

 

 「そういえば橙子さん、先月の給料まだですか?」

 「…………………………………………………あはは、」

 




短刀:モデルは七夜の短刀。リメイクver.


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二十話 矛盾螺旋/終

 

「無為識 空の境界。

 

 

 

  ━━━━━━━これは永遠のような夢。        

 

 

 

           だけど終わりはある」

 

 

 

 

 

 

 

 眼を開く。そこに広がるのは終わりの世界。

 

 

 

 

 黒鍵を投げ、刀を両手で構え、切っ先をアレに向け狙いを定める。

 

 

 

 黒鍵は透明な壁にぶつかるような挙動をして落ちた。結界だ。

 

 

 

 

 

 荒耶宗蓮は腕を突きだし拳を握り込む。

 

 「、粛!」

 

 連動するようにわたしがいる空間が潰れる。そして、刀

 

を振るった。

 

 

 

 

 

 何も起こらなかった。

 

 「何をした?」

 

 

 

 「殺しただけよ」

 

 

 

 そう、わたしは潰れ始めた空間そのものを殺したのだ。どこかの、真祖を十七分割した魔眼使いのように。

 

 「殺した、殺しただと!? まさか、お前…………その眼、直死の魔眼か?」

 

 失念していたと呟く宗蓮に接近し、体の周りを覆う結界を切りつける。

 

 よく視える死の線をなぞり、刃は彼の肉体に届いた。

 

 

 

 「戯けっ!」

 

 ガツッ

 

 殴られる。刀は腕に食い込み止まっており、その隙に、空いた手で反撃された。

 

 斬って、避けて、そしてまた斬る。

 

 

 

 

 

 

 

 「━━━━    

 

 ……………………………………………………これで、終わりよ」

 

 

 

 残念だけど、わたしは十七つに分割なんて甘くないの。みじん切りにしてあげる。

 

 

 

 「はっぁああっ!!!」

 

 スパッ、スパッと肉が切れる音と感触がわたしに伝わってくる。

 

 「━━━━━━━━━━━━━」

 

 そして、最期の言葉を吐くことなく、それは肉塊となった。

 

 

 

 

 

  

 

 ◇◇◇

 

 

 「はぁ━━━━━━」

 帰ろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後? 全てが元ある形に収まったわ。

 

 荒耶宗蓮は死に、黒桐幹也の足が無くなり………

 

 

 荒耶の残した土産を除いて、全てが終わった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 直死の魔眼を使うにあたって、死を視るという行為は負荷がかかることを留意しなければなならない。遠野志貴は根源と繋がっていないので、魔眼殺しを着けていないと頭痛に悩まされる。両儀式の場合、根源と繋がっている身体を持つので負荷がかからないようになっている。それは、わたしも同様だ。

 

 

 

 物語は終わりがある。たとえどんなに面白いものでも、美しいものでも、それが夢のようなものでも。目が覚めたら、綺麗さっぱり無くなる。

 

 だからこれはわたしのケジメ。「空の境界」の物語が本ではなく現実であると。ペラリと(ページ)を捲って戻ることは出来ない。

 

 

 


 

 

 「あら橙子、ぴんぴんしてるわね」

 復活した彼女に言った。

 「まさか弟子が師を見殺しにするとは思わなかったぞ」

 開口一番、嫌味が飛んでくる始末。今度、何かご馳走させてあげましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後に、約束を果たさなければ。

 

 

 ただいま。

 

 家の門を潜って静かな邸宅に入る。

 目当ての人は寝ていた。そのことにほっとしながら、彼女の隣に横になる。

 いつしか睡魔がやって来て、意識は途絶えた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 夢を見た。

 幸せな、何か。

 

 

 

 なんだったのだろうか? 

 

 

 おそらく、それはわたしではない柊始紀が見たもの。

 

 

 

 

 




書くことがなくて、短くりました。そして、訳の分からない駄文を少々。将来読み直したら黒歴史、トラウマ確定だす。

次は忘却録音。


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