グラブル短編集 (ベルゼバビデブ)
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イルザ「グランくん、私の花婿になってほしい。」

今回のゲストは"組織"の方々


 ひょんなことからゼタさん、バザラガさん、ユーステスさん、ベアトリクス、イルザさん達と知り合い、グランサイファーは時たま彼ら"組織"の移動拠点とも言える立場になることもあった。

 オシャレで世話焼きななゼタはルリアとイオに懐かれたし、戦闘力の高いバザラガはカタリナと稽古に明け暮れていたし、銃の話から話が弾み、夜間の警戒にもついてくれるユーステスはラカムとオイゲンに重宝されているし、イルザさんもロゼッタさんとお茶会とかガールズトークをしてるらしく、僕を含めた皆んなが彼らを受け入れていた。

 ベアトリクスは…

「グラーン!聞いてくれよ!」

 ドタドタと廊下を走る音が聞こえ、ノックもなしにドアを開けるのはベアトリクス。

「どうしたのさベアトリクス。」

「ビィの奴がさぁ…!」

 反応が面白いという理由でビィの悪戯の被害にベアトリクスは遭い続けていた。一度、服を全部隠されて下着で走り回っていた時は流石にビィを叱ったが、どうやら今回は食べ物関係らしい。ベアトリクスの反応を表情に出さないようにして楽しみながら宥めつつ、備蓄のお菓子をくれてやるとすっかり機嫌を直し部屋から出ていった。

『あぁっ!?ビィ!!見つけたぞ待てこのー!!』

『やべっ!見つかっちまったぜぃ!』

 ドタドタと廊下を走る音は遠くなっていく。ビィの健闘を祈ろう。

 

 親友の無事を祈りつつ、剣の手入れをしていると、扉をノックする音が鳴る。

『イルザだ。グランくん、入っても良いだろうか?』

「大丈夫ですよ」

 入ってくるのはエルーンの女性、イルザさんだ。ベアトリクスからは恐れられているが、ルリアや僕には優しく、話を聞けば死んで欲しくないが故の厳しい指導なのだそうだ。

「武器の手入れ中に済まない。次の任務の関係で君に協力して欲しいことがあってね」

 僕らに協力を求めるということは星晶獣絡みだろうか?

 

-僕に出来ることがあればなんでも言ってください!-

-報酬次第かな-

 

「…報酬次第かな」

「報酬か…ははは、そうだな。親しき中と言えど仕事ならば当然だろう。安心して欲しい、額は保証するよ。」

 怒られるかと思ったが快諾してくれたようだ。少し意地汚い発言だったかもしれないと少し反省をする。

「肝心の依頼内容なんだがな…」

「そう言えば聞いてませんでしたね。どんな星晶獣なんです?」

 星晶獣という言葉を出した途端、イルザさんの動きが止まる。

「…いや、今回は星晶獣絡みではないんだ…」

「あれ?そうなんですか?」

 珍しいこともあるもんだと、イルザさんの次の言葉を待つ。イルザさんは何故か姿勢を正し、覚悟を決めたような顔で僕を見つめてくる。反射的にこちらを姿勢を正してしまう。

 

「グラン君、私の花婿になって欲しい。」

 

 何秒間止まっていたのだろう。いきなりの求婚に思考は止まっていた。暫くして思考が動き出したが、やはり意味がわからない。

 

-どういうこと?-

-幸せにしてみせる!-

 

「…幸せにしてみせる!」

「!?あ、いや…すまない、言葉が足りなかったな…本当に結婚するわけではないんだ、うん…」

 僕としては覚悟を決め、拳を握り締めてキメ顔で返したのだが、どうも違ったらしい。何故か急にもじもじとし始めたイルザさんの話をまとめると、組織に裏切りを疑われる者が出た。イルザとその人物は友好的関係が深く、イルザの結婚式を偽装して呼び出し、その場で裏切りか否かを見極めるとの事だった。

「どうしてよりによって僕なんです?ユーステスさんとか、もっと適任者が居たんじゃないですか?」

「ユーステスは裏切り者だと判断された時の為の狙撃手だ。花婿役は出来ない。」

 なるほど、それならばユーステスさんには花婿役はできないな。

「それならラカムとかは?年齢的にはそっちの方が良いんじゃない?」

「ラカム殿は相手が騎空艇等で逃走した際にゼタとベアトリクスを乗せて追う必要があるので花婿役はできない。オイゲン殿も同様だ。」

 なるほど、それならばラカムとオイゲンには花婿役はできないな。

 

-じゃあバザラガさんは?-

-わかった。任せて!-

 

「…わかった。任せて!」

「引き受けてくれるか、ありがとう。」

 バザラガさんの名前を挙げなかったのは…そう、きっとベアトリクスやユーステスさんみたいに他の役目があるのだろう。でなければ僕に頼むはずがない。そうだ、そうに違いがない。

 任務は引き受けたが、僕の独断とはいかない。ルリア達に話をしなければならないだろうとイルザさんに話し、みんなを食堂に集めて以来の話をした。

「グランとイルザさんが結婚…うぅっ羨ましいですぅ…」

「ルリアちゃん、今回はそういう設定ってだけだから…」

 白いワンピースの裾を握りしめ俯くルリアをゼタさんが慰めてくれている。次に口を開いたのはイオだった。

「仕事でウェディングドレスを着ると婚期が遅くなるって本当なのかしら?」

 場が、凍りついた。

 

「…ところでグラン、お前は花婿役に相応しい服は持っているのか?」

 凍りついた場を切り開いたのはバザラガ。流石特別性の身体は違うぜ!…服?服ね…そりゃもちろん服の一着や二着…

 

-持ってません!-

-漢は黙って褌一丁!-

 

「…漢は黙って褌一丁!」

 服が無いならそもそも着なけりゃ良いじゃ無い!腕を組み、気合を入れてそう返事をすると、オイゲンが豪快に笑った。

「はははははっ!おいおいグラン!流石にそれはねぇだろ!俺だって結婚式くらいはちゃんとめかし込んだんだぜ!まぁ、お前さんがどうしてもって言うなら俺は止めねぇがな!」

 女性陣は全員揃った動きで首を横に振り、続けて ないない と口を揃えて言う。しかしながら無いものはないのだ。

「それよりよぉ相棒、お前褌だって持ってねぇじゃねぇか」

 ビィの言う通り、実は褌だって持っていない。このままでは全裸で出席することになってしまう。

「グラン、無いものは買えば良いだろう。」

 そう言ったのはカタリナだ。

「え?褌をか?」

「はぁ…ベアトリクス、そんなわけが無いだろう。お前は黙っていろ…」

 ユーステスさんはやれやれと言ったように首を振り、ベアトリクスはぐぬぬと吠えている。

「…ふ、褌は兎も角、今後式典やパーティーに出るような依頼もあるだろう。今後も使えそうなものを万屋殿に見繕って貰うのはどうだろうか」

「そうだね、じゃあ付近の島に向かうようにラカムに伝えてくるよ。」

 

 近くの島に騎空艇を泊め、近くの係員にシェロカルテさんの店の有無を確かめる。

「シェロカルテさんですか、残念ながらこの島には店は出されていませんね…」

「そうですか、ありがとうございます。」

 それならば居そうな島へ行くか、手紙を出すかしなければならないだろう。みんなのところへ戻ろうとした時、後ろから不意に声が掛けられた。

「おやおや、シェロちゃんどうかしましたか〜?」

「シェロカルテさん!?」

 店は無いと聞いていたのにどう言う事だろう。とはいえこの場にいるのなら話が早かった。事情を説明し、服を売って欲しいと頼み込む。

「なるほど〜、残念ながらシェロちゃんはご覧の通り品数が少ない状態でして〜。服の類は現在取り扱って無いんですよ〜」

「まぁ、ですよね…」

 そんな気はしていたが、現在のシェロカルテさんは背負い荷物のみ、当然の答えであった。

「そうですね〜。商品は販売出来ませんが、腕利きの職人を紹介しようかい?な〜んて、うぷぷぷぷ〜♪」

「…職人さんの紹介、お願いします!」

 

 シェロカルテさんからこの島の腕利きの職人、コルワさんを紹介してもらい話をしたところ…

『その花嫁さんも連れて来なさい!』

 と一蹴されてしまった。曰く、夫婦でデザインの統一等をしたいらしい。とてもじゃないが、普段使いだとかそんなことは言い出せる雰囲気ではなかった。

「うう、今更ですけど予算足りるかな…」

 よくよく考えれば腕利きの職人の作る服だ。正直僕の財布の中身では心許ないと言える。

「…いざとなれば私からも出そう、それと今回のはその、経費だ。最終的にこちらで全額負担させてもらうよ」

 イルザさんと二人でコルワさんのところへ向かう道中の会話はそんな感じの、なんというか金がどうだと言うなんとも色気のない話であった。

 コルワさんがイルザさんを見て最初に放った言葉は「羨ましい」だった。

「えっ…!?アナタがお嫁さん…!?この子の!?嘘…え、羨ましい…」

「あ、いや、その…これには事情が」

 しかしながらイルザさんの声はコルワさんには届かない。ブツブツと謎の呪文を唱えながら筆を走らせ始め、ああでもないこうでもないと描いてはその紙をちぎっては投げちぎっては投げ、その背中はまさに修羅のようであった。ゴクリ…ここが彼女の戦場か…。振り向いたその顔は鬼である。普段は絶対しないであろう、ズガズガという擬音が相応しい足取りでこちらに歩いてくると

「ダメ!インスピレーションが出過ぎて逆にまとまらないわ!いくつか質問をさせて!」

 コルワさんはグイッと顔を近づけそう言った、顔が近すぎる。

「す、済まないがコルワ殿、些か彼に顔が近すぎるようだが…」

「あら、ごめんなさい…私ったら…」

 ようやく冷静になったのか、鬼の顔から元の美しい顔に戻り、近くにあった椅子に座る。

「それじゃ質問するわね」

 

-どんとこい!-

-好みのタイプは背が高くて仕事熱心ででも可愛いところのある大人のエルーンの女性です!-

 

「好みのタイプは背が高くて仕事熱心ででも可愛いところのある大人のエルーンの女性です!」

「何を言っているんだ君は!?」

 キメ顔で答える僕にイルザさんが困惑しているようだ。

「くっ…!もう少し早く出会っていれば…!」

「コルワ殿も何を言ってるんだ!?」

 そんなイルザさんに反応もせず、コルワさんは僕を見つめて質問を開始した。

「ご職業は?」

「騎空団の団長をしてます。みんなこんな未熟な僕に文句も言わずついて来てくれて…本当に助かってます。」

「へぇ…若いのに団長…しかも人望もある…有望株ね」

 素早くメモを取るコルワさん。

「ご趣味は?」

「武器の整理と手入れ、あとは鍛錬です。ジョブⅡは全部納めたのでそろそろジョブⅢを習得したいと思ってます。」

「資格多し…うーん、益々有望株ね、趣味聞く限り浮気もしなさそう。」

 さらに素早くメモを取るコルワさん

「お二人の出会いは?」

「騎空団の依頼で偶々イルザさんの職場の人と出会いまして、そこから紹介で知り合いました。」

「なるほどなるほど…くっ…ますますもっと早く会いたかったわ…!」

 それからいくつか質問を受け、淡々と答えていく。

「いいわ、私が完璧な服を仕立ててあげる!悔しいけれど、私が手がける以上ハッピーエンドにしてあげるわ!…あとグランくん知り合いの騎空団とかにいい男の人いない?」

 暫くして出来上がった服は素人目でも見事な一言に尽きた。イルザさんの服は今は見せてはもらえないらしい。コルワさん曰くこう言うものは結婚式までお預けだそうだ。

 

 式場の下見と、当日の動きを綿密に打ち合わせ、とうとう結婚式の前日になっていた。準備等があると言う事で、組織のみんなは既に艇を降りていた。

 逞しい腕で肩組みをし、絡んでくるのはオイゲンだ。その様子だと既に相当酔っているようだ。

「いよいよ明日がお前さんの結婚式かぁ、全く、自分の娘より先にグランの結婚式を見ることになるたぁな!思いもしなかったぜ」

「おいおいオイゲン…ちょっと飲み過ぎだぜアンタ…」

 ラカムが宥めてくれるが、今のオイゲンには無意味だろう。

「んだとラカム!明日はめでたい結婚式だぞ!飲まずにいられるか!ほら、お前も飲め!」

「だから!明日の結婚式は依頼で受けた演出だろ!実際には結婚しないんだからめでたいもクソもねぇだろ!」

 オイゲンの絡み酒は僕からラカムにターゲットを移したようで、ラカムを追い回している。心の中でラカムに合掌し、自室は逃亡する。

「おう相棒、オイゲンからは上手く逃げられたみてぇだなぁ」

「ビィもカタリナさんから上手く逃げられたみたいだね」

 団の約束事として、緊急事態以外は他の人の部屋は不可侵なのである。自室に居れば襲われることはない。

「しかしよぉ、最初は驚いたぜ!お前が結婚だなんてよ!」

「僕も驚いたよ。イルザさんに花婿になってくれって言われてさ」

 ビィはお腹を抱え笑っているようだ。

「でも聞いたぜ?案外満更でもなかったみてぇじゃねぇか」

「混乱してただけだよ」

 実際、何かの間違いだと思って聞き返そうとも思ったのだ。

「ま、明日はうまくいくといいな!」

「そうだね、依頼だからしっかりやらないと」

 その後、眠りについた。

 

 結果から言えば作戦はうまくいった。というか、上手くいきすぎて結婚式が始まる前に裏切りが露呈、ユーステスさんの狙撃を受け、式場を逃走。小型騎空艇で逃げるもグランサイファーに進路を塞がれゼタさんとベアトリクスによって拘束されたらしい。慣れないウェディングドレスに四苦八苦しながら近づいて来たイルザさんは申し訳なさそうな顔をしていた。

「済まないグランくん。こんなことなら花婿役は必要なかったな」

「まぁ、良いじゃないですか。作戦はうまくいったんですし」

 こちらの被害はかなり小さく依頼は達成された。どちらかと言うと喜ぶべきことである。

「…これもそうか。私もこんなドレスを着せられて…ふふ、動きにくくて仕方がない。」

 

-似合ってますよ-

 

「似合ってますよ」

「…!そ、そうか。そう言ってもらえると嬉しいよ。」

 イルザさんとそんな話をしていると、視界の端に大柄の何かが映った。何事かとそちらを向くと、顔面のほとんどを髭と髪で覆い隠したドラフの神父が立っていた。

「…俺だ。グラン」

「バザラガさん!?」

 そう言えば今回の作戦で役目を聞いていなかったと思ったが、どうやら神父に扮していたようだ。恐らく動きにくいイルザさんや僕の盾になる為の配役なのだろう。…しかしながらいささかその風貌は無理がある。

「グラン。お前はイルザに愛を誓うか?」

「おい鎧チキン!貴様いきなり何を言ってる!」

 怒鳴るイルザさんだったが、ウェディングドレスのせいかうまく動かないようだ。バザラガさんに軽くあしらわれている。

「グラン。もう一度聞くお前はイルザに愛を誓うか?」

「僕は…」

 

-誓います-

-誓いません…-

 

終わり

 

 




【捏造設定】
●敬称関係…グラブルのファイトとかVSとかで学べば良いんでしょうけど、割と適当です。

●コルワとシェロカルテの関係性…多分コルワの仕事してる島にもシェロカルテは店出してる気がする。でもまぁ話の展開としてはどっちでもおんなじだし描き直すつもりはなし。

●コルワの仕事風景…フェイト見る限りもっとおとなしい。

●結婚関係…結婚式の知識ないので適当。

●オイゲンの絡み酒…捏造です。


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もしもアグロヴァルが政治や戦争、戦闘面以外はポンコツだったら

光ジークフリート実装記念


<ポンコツアグロヴァルその1>

 

 なんやかんやあってウェールズに身を置く事になったラモラックと現在その監視役になっているパーシヴァルの2人は彼らの兄であり、国の王であるアグロヴァルによって呼び出しを受けていた。

「なんで呼び出されたか心当たりある?」

「いえ。…俺の監視ではやはり不安という事でしょうか」

 二人が部屋に入ると…

 

「よくきたなラモラック、パーシヴァル。良い服を仕入れたのでお前達も着るが良い。」

 

 パーシヴァルは絶句した。アグロヴァルが着ていたのは黒文字で「長男」と書かれた青いTシャツだったからだ。そしてそのアグロヴァルの右手には「次男」と書かれた緑のTシャツ、左手には「三男」と書かれた赤のTシャツが掲げられていた。

「ダッサ!!」

 思わずストレートに本音を溢したラモラックだったが、パーシヴァルは必死に無反応を貫いた。

「何か言ったかラモラック?」

「いえ。何も」

 幸いアグロヴァルには聞こえておらずその場は何事もなかった。しかし、同時に何も起こらなかったと言うことはパーシヴァルのピンチはいまだに継続中ということである。

(兄上…また商人に騙されてヘンテコな服を購入したのですか…!)

 アグロヴァルは名君である。戦争や政治、剣や魔法に礼儀作法、いずれも完璧な人物であり、鎧や式典用の衣服を身に纏えばその美しい金髪も相まって実に映える容姿をしていた。

 

 だが、私服のセンスがダサかったのだ。

 

「申し訳ありませんパーシヴァル様、私も止めたのですが聞き入れてもらえず…」

 パーシヴァルに小声で話しかけたのは最近アグロヴァルに仕えることになった元商人のトー。トーの目から見ても(使われている素材以外)アグロヴァルに相応しく無いと感じていたのだ。

「通気性に優れ肌触りも良い。お前も身につければ気に入るだろう」

 いつものように微笑むアグロヴァルに対してパーシヴァルの表情は険しい物であった。

(申し訳ありません兄上…!まず身に付けたくありません…!その、ダサい…ダサすぎるのです…!俺にはとてもではありませんが着る勇気が出ません…!!)

 どうやってこの場を切り抜けようか必死に考えるパーシヴァルだったが、アグロヴァルが直々に呼び出した上に着ろと言われれば断りようが無い。そしてパーシヴァルはそこであることに気がついた。

「ラモラック兄上!?どこです!」

 そう、あまりの服のダサさからラモラックは思わず逃走したのだ。

 

「ふぅ、またウェールズを飛び出してきちゃったなぁ」

 ダサい次男Tシャツを着せられまいとラモラックは思わず結社のアジトに逃げ込んでいた。

「やぁ、マーリンいるかい?」

 ラモラックがアジトを訪問すると、マーリンがいつもとは異なる服装であることに気がついた。白いTシャツ姿である。

「ラモラックか、丁度いい所に来たな」

「まさか…」

 

 振り向いたマーリンは白いTシャツには黒字で「結社」と書かれていた…。

 

〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜

 

<ポンコツアグロヴァルその2>

 

「トーよ。」

「はっ!アグロヴァル様、お呼びでしょうか」

「うむ。今年のバレンタインだが…団長には我自らが手作りのチョコレートをプレゼントしてやろうと思う。その手伝いをせよ」

 トーはアグロヴァルの発言に耳を疑った。政治や戦争、剣に魔法に礼儀作法、そして人を見る目などと言った王に必要な才覚こそ完璧なアグロヴァルであったが、それ以外は驚く程にポンコツであったのだ。つい先日もあまりにダサい私服を購入し、次男ラモラックが再度ウェールズから離反する原因を作ったばかりである。

「お菓子作り、ですか…」

「そうだ。エプロンも用意したぞ」

 高らかに掲げる青いエプロンには黒字で「名君」と書かれている。トーはその糸目を見開いた。

「アグロヴァル様…そのエプロンは一体…!?」

「あぁ、お前にもこの良さが分かるか?」

(いえ、全くわかりません)

 トーは大方この前の商人から追加で売りつけられたのだと察した。

「では早速チョコレートを作るぞ!共をせよ、トー!」

「は、はい…」

 トーは不安を感じずにはいられなかった。しかし、城の厨房に立ち、ウキウキでチョコレート作りの準備を進める自らの主君には何も言えなかったのである。

「まずはチョコレートを湯煎だな」

 早速チョコをお湯にブチこもうとしているアグロヴァルをトーは必死に止めた。

「アグロヴァル様!違います!湯煎とはお湯の熱でチョコを溶かすのであってチョコとお湯を混ぜることではないのです!!」

「何、そうなのか。はっはっは!それは知らなかったな」

(ならなんでそんな自信満々に迷いなく作業できるんですか…)

 だが、手作りチョコとは言っても湯煎で溶かしたチョコをアグロヴァルが己の剣技で削り出した特製の型…形はヴェールズの紋章…に流し込み冷やして固めるだけである。湯煎さえミスをしなければあとはいかにポンコツなアグロヴァルであっても失敗などない。

 

 そう、その油断が悲劇を生んだ。

 

「ではアグロヴァル様、この型に流し込まれたチョコを固めましょう。」

「トーよ。流石にそれくらい我でも分かる。冷やせば良いのだろう?」

 自信満々に微笑むアグロヴァルにトーは一瞬反応が遅れた。そう、いつのまにか持ち出したその剣をトーが見た時には全てが遅かった。

 

「ジルベーネ・ヴェルト!!」

 

 まさかの奥義である。確かにチョコは冷えた。トーの肝も冷えた。チョコを冷やすのに奥義をブチかます奴がどこにいる。ここに居た。チョコは出来上がったが厨房は大破した。

 

 だが、アグロヴァルが予算を注ぎ込み高性能なキッチンになったらしくシェフが喜び結果としてアグロヴァル様万歳の流れになったのでアグロヴァルの覇道は止まらない。




このアグロヴァルからチョコを貰うジータはたぶん黒字で「団長」と書かれた桃色のTシャツ着てる。


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