ハイスクールⅮ×D 永久の龍神 (ひよっこ召喚士)
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1刻

「ねぇ、イッセー君一つお願いがあるんだけど・・・」

 

 そう言うとさっきまでと違い冷たい目つきでこっちを見ながら「死んでくれないかな?」と言いながら光でできた槍のようなものを出してそのままこっちに突き込んできた。

 

「遅いよ、夕麻ちゃん」

 

 俺は何の驚きもなく攻撃を避けて見せる。彼女は背中から黒い翼を生やして空を飛んでいるのだが俺は両腕に赤い籠手を身につけ、ドラゴンの翼を展開して背後を取っている。俺に直ぐに気づけなかった彼女は驚愕の表情で距離を取って見せた。

 

「な!?あなたのそれは、既に神器を使いこなしていたなんて……」

 

 それにしても空が紺色を基調にしたマーブル模様になっている。結界が張られているのか、意外と手際が良いようで、こっちとしても一般人に見られるのは問題があるので丁度良かった。

 

「いえ、関係無いわ。驚いたけどたかが人間が堕天使に勝てる訳が無いのよ。この最高の堕天使であるレイナーレが人間なんかに負けるわけにはいかないのよ」

 

 そう言うと彼女(レイナーレ)は先ほどと同じ光の槍を生み出し、次々にこちらに向けて飛ばしてくる。一応狙った位置は自分の急所を捉えているが、狙う位置に工夫が無いので追いつめられる事は無い。そもそも当たったとしても傷はつかないだろうけど。

 

「なんで当たらないのよ。下等な人間がぁ!!」

 

「はあぁ、そりゃ狙った場所に飛ばすだけの攻撃なんて裏の人間ならだれでも避けれるぜ」

 

 軽く呆れながらそう答えると発狂したかのように同じ攻撃を続けてくる。元から気配を消すのも下手で、用意した個人情報も適当だった。実力不足もあるが詰めが甘い部分も多い。これはもう終わらせるべきだろう、そう思って攻撃の姿勢に入ると、彼女はびくりと震えて身構えるが防御なんて意味は無い。

 

「Explosion、赤龍帝の息吹(ドライグ・ブラスター)

 

 魔力を神器に宿るドライグを通す事で龍の力に変えて高めて一気に放とうと右手を堕天使の方へ向けた瞬間に、結界が破れ、知っている気配が近づいてきた。結界が不安定な状態でこれを放てば衝撃が周囲に伝わると考え、収束していたエネルギーを霧散させる。

 

「なぜ堕天使が私の町にいるのかは知らないけど、悪魔の治める街に侵入したからには覚悟は出来ているのでしょうね?そしてそっちにいるのは、神器を展開しているけどウチの生徒の……確か2年の兵藤(ひょうどう)一誠(いっせい)君だったわね?」

 

 ()()()ねぇ、任されている立場の割には管理が杜撰すぎるとも思うが、まあ貴族とは言えまだ悪魔としても若手だと聞く、問題が起きるまでは多少は目を瞑っても問題は無いとでも彼女の上も思っているのだろう。

 

「……ええ、3年のリアス・グレモリー先輩ですね。あの『紅髪の滅殺姫(べにがみのルイン・プリンセス)』に名前を憶えて頂いているとは光栄です」

 

 邪魔をされたとも少し思ったが、敵ではないし、立場のある相手と敵対するわけにはいかない。それに先輩は少し問題はあるが容姿がとても整っている。それだけでも尊重して接するだけの価値はある。

 

「知ってるって事は裏の関係者ね。話は後で聞くとして、まずはそっちの堕天使は何の目的でこの町に来たのかしら?」

 

「バアル家の滅びの力を持つ、現魔王の妹でグレモリー家の娘!?」

 

 キッと睨みながらも分が悪い事を理解しているのでレイナーレは踵を返して一気に逃げ出した。追い打ちをかける事も可能ではあったが、何も言わずにこの場を離れた場合にグレモリー先輩からの印象が悪くなりそうだ。それに先輩が堕天使を見かけた時点で彼女は先輩の管轄に移ったと考えて良い、横やりを入れるべきではない。

 

「逃げられたわね。結界があって踏み込んでみれば学園でも有名人が堕天使を圧倒していて驚いたわ……それで色々と事情があるようだけど話してくれる?」

 

「分かりました。しかし、もう時間も遅いので明日学園で話す形でよろしいでしょうか?」

 

「ええそうね。日もそろそろ完全に落ちるしね。明日あなたのクラスに使いを向かわせるわ」

 

 そう言うとグレモリー先輩は帰って行った。先輩と別れてから色々と考えなおすと、もう少しやりようもあったかもしれないと思わなくもない。罠と分かっていてデート(笑)に付き合うのも良くなかったか?過去を考えてもどうしようも無いが、遂に問題に巻き込まれてしまったという事で師匠に怒られるのは確定か。連絡は早い方が良いだろうと携帯を取り出して一つの番号を選択する。

 

『一誠、どうしました?堕天使の件で進展でも?』

「デートの終わりに襲われて、結界が張られたので丁度良いと撃退しようとしたところにグレモリー先輩が現れ色々と見られました。肝心の堕天使はグレモリー先輩の前で倒すわけにもいかないので放って置いたらそのまま逃げました」

『はぁ、だから駒王(くおう)学園以外にした方が良いと伝えたんですよ。まったく、それで対応は?』

「明日、グレモリー先輩の所に顔を出す事に成りました。たぶんオカルト研究部でしょう」

『私もついでに向かいましょう。朝にそちらの家の前に向かいます』

「ごめん。そして本当にありがとう()()()

 

 謝罪と感謝を告げて電話を切る。いずれ何かが起きると考えてはいたが、これからを考えると憂鬱よりもどこか楽しいと思ってる自分がいる。やはり自分も(ドラゴン)なんだと実感する。

 

「楽しく行こうぜ。ドライグ」

〈ふっ、付き合うとしよう。相棒〉

 



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2刻

 意外と几帳面な彼にしては朝の時間に遅れるとは珍しい。そんなことを考えながら()()()は1年後輩の青年が家から出てくるのを待っていると、ようやく扉が開いた。

 

「遅くなりました。師匠」

「先輩ですよ。学校で間違えて呼ばない様に注意しなさい。一誠(いっせい)

〈ハハ、相棒は天然な所があるからな。やりかねんな〉

「おいおい、俺だってそこいら辺はしっかりしてるぜ」

 

 兵藤(ひょうどう)一誠(いっせい)、近所に住む男の子で神器(セイクリッド・ギア)の中でも取り分け強力な神滅具(ロンギヌス)の一つ、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の所有者です。

 

 世界は力に引き寄せられるように問題が舞い込んでくるようになっている。特に神滅具の所持者ともなれば世界の注目度も違ってくる。そのため、自分と周りを守るための力と知識、最低限の後ろ盾は小学生から中学生までで身に付けさせた。

 

 しかしまあ、紳士的だし理性的だが根が少しHなのはどうにかならなかったのか、きちんと説明したのに悪魔の運営する駒王学園(くおうがくえん)に入学すると決めた時の事を思い出すと未だに頭が痛くなる。それに合わせるためにわざわざ一個上の学年に編入した私も私だがな

 

 あの時の説得は確か「自分と言う力に問題が引き寄せられるという運命にあるのであれば、この街、駒王町(くおうちょう)の管理者であるグレモリー家の令嬢がいる学園に入るというのは間違いでは無いと考えます。事前にあの方を通じて理事長である魔王様に報告することで義理を果たせば、元より駒王町に住まう存在としてやましい事のない証明になります」だったか。その力説がやましいのではと思ったけどね。

 

「それで今日は私も顔を出しますからね」

「遣いが来るとのことなんで、その際に」

 

 そこまで話すとお互いに頷き、ただの学生としての姿へと合わせる。先ほどまでの空気感が霧散して、そこにいるのはただの高校生の二人組(先輩後輩)だ。

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 ざわざわとした空気、周囲が注目しているのはたまに一緒に登校してくる一組の男女だ。3年の女生徒2年の男子生徒、二人は家が近く幼馴染と言う関係であり、纏う雰囲気は男女のそれではなく姉弟の関係に近い。

 

「三大お姉さまの1人、トワ様がイッセー君と登校してるわ」

「うそ、だいぶ久しぶりじゃない。レア中のレアよ」

「野獣王子のイッセー様、お姉さまと並んでいる姿が良い」

「お姉様と王子様の間に挟まれたい」

「あの二人はカップリングとかじゃなくて清いからこそ尊さよ」

「王子様に押し倒されたい」

「私はお姉さまが良いなぁ」

 

 一方は成績優秀で運動の際には力ではなく正確で綺麗な動きを見せる、誰に対しても接し方を変えることの無い優しさと細身にシルクの様な透き通った長髪が特徴で、学園の男女問わず魅了してお姉さまの名を付けられているトワ・ターナル。

 

 もう一方はこちらも成績優秀で、運動神経も万能で女性に対して紳士的であるが、男の友人と話すときの砕けた感じのギャップと周りに気づかい表に出す事は無いがむっつりな一面から野獣王子などと呼ばれて後輩からは勿論のこと、先輩からも好かれている兵藤一誠。野性的、ワイルドな感じを表しているのは分かるが一部の女子からホモ的な感じで使用されているのに関してはため息を吐いていた。

 

「それじゃ、また放課後に集合だな」

「ええ、またあとでね」

 

 女性に対しては基本的に丁寧な口調で話す一誠が姉の様に慕っていると明言しているトワに対してのみ砕けた口調で話している姿がこれまた良いシーンだという事で二人に憧れている女生徒の視線と耳をそこに釘づけにしていた。

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

「失礼、兵藤一誠くんだね?」

 

 堕天使に襲撃され、リアス・グレモリーと初めて接触した翌日の放課後。一人の男子生徒が声を掛けてきた。その人物のことは知っている。木場(きば)祐斗(ゆうと)、同学年にして俺と同じく学園のイケメンと噂されている男で爽やか王子だの俺の対比で草食王子だのと呼ばれている。

 

「そうだけど、要件は?」

 

 木場がなぜ訪ねてきたのか理解していながら、俺は敢えて尋ねてみた。

 

「リアス先輩の使いって言えばわかるかな?」

「わかった。行こうぜ」

「うん。ついてきて」

 

 教室や廊下にいた女子たちが一気に騒めきだした。野獣×草食の王道コンビが実現、2年の王子様二人が並んでいる姿が見られるなんて等々、まあ実害が無いので好きにさせているが、女子たちの声を聞いて首を傾けているだけなので、純粋なんだろうなと認識しておく。

 

「その前に寄り道しても良いか?」

「別にいいけど……どうしてかい?」

「もう一人関係者が居るんでね。一緒に紹介した方がいいだろ」

 

 そう言うと3年生のクラスまで行くと、俺が来るのを待っていた先輩(師匠)の姿が見えた。こちらの姿に気付くと使いと言うのが木場なのだと理解して、席を立って目の前まで近づいてきた。

 

「それじゃ、行きましょうか。二人の王子様にエスコートして貰えるなんて嬉しいわね」

「はは、お望み通り手を取り腕でも組もうか?」

「まさか関係者と言うのが三大お姉さまと呼ばれているトワ先輩だったとは驚きましたが……僕の手で良ければ好きに使ってください」

 

 お遊びに乗っかった俺と天然なのか俺と同じように腕を先輩に伸ばす木場の姿に先ほどまでの騒めきが可愛く聞こえる位の悲鳴が周囲を包み込んだ。

 

「どういう事ですか!?トワ姉様、弟王子様だけならまだしも、もう一人の王子まで!?」

 

 目の前の光景に震えると共に驚きも一層だったのか我慢できないという勢いで一人の女生徒が質問をしてきた。ふふふと笑いながらトワ姉さんが口を開いた。

 

「オカルト研究部に少々御呼ばれしまして、他のお姉さま(二人)と一誠と木場君でこれからお茶会なのよ。今のやり取りは私の冗談に二人が乗ってくれただけよ」

「三大お姉様と二大王子のお茶会!?」

「それでは、待たせすぎても悪いので失礼しますね。行きましょうか」

「爆弾放り投げて放置ですか?」

「はは、トワ先輩は面白い人だね。一誠君」

 

 騒ぎを背にして三人で並んで歩いて行く俺達、その姿を見た事情を聴いてなかった人たちの視線も集めて、注目されていたが、近寄りがたいオーラでも出てるのか、移動中に話しかけられる事は無かった。

 

 そんなこんなでようやく目的地までたどり着いたようで旧校舎の中の一室の前で木場は止まった。その部屋の扉の上のプレートには『オカルト研究部』と書かれている。

 

「部長連れてきました」

「入って頂戴」

 

 木場が扉越しに報告をし、中からはグレモリー先輩の声が聞こえてきた。木場が戸を開けて、俺達もそれに続いて部屋に入る。部屋の中はまさにオカルト研究部って感じがした。天井や壁、床に至るまでなんか形容し難い面妖な文字が書かれているし、奇妙な置物とかが置いてある。悪く言えばあやしい部屋だ。

 

 ふと、部屋に備え付けられたソファに目を向けると、そこに一人の少女が座っていた。この少女のことは知っている。一年の搭城(とうじょう)小猫(こねこ)だ。高校生とは思えない程に小柄で可愛らしいその容姿からマスコット的な人気を誇っている・・・・・・グレモリー先輩の配下の悪魔だ。

 

「小猫ちゃん。こちら二年の兵藤一誠くんと三年のトワ・ターナルさん」

「・・・・どうも」

「よろしく、小猫ちゃん」

「よろしくね子猫ちゃん」

 

 無表情だが、それがデフォルトのようで特別機嫌が悪いという訳では無いようだ。初対面なのでいきなり話が弾むわけもなく、紹介だけで話は途切れた。

 

 部屋の中を見渡すが、グレモリー先輩の姿は見当たらなかった。ただ、部屋の奥・・・・カーテンを隔てた向こう側からシャワーの音が聞こえてきて、カーテン越しの女性のものであろう陰影が写っている。周囲にグレモリー先輩の姿がないということは……

 

「一誠、視線が釘付けですよ」

「先輩、変態なんですか」

「いや、悪い。他に女性がいる場でそう言った事を考えるべきでは無いな」

 

 謝って視線を別の場所に移す、カーテンの裏をどうしても想像してしまうが、良識的に考えて俺の今の行動は明け透け過ぎていけない。反省しなくてはと思いつつも、反射的に反応してしまった自分をどうにか出来る気はしない。

 

「……噂通り紳士的ではあるようなので良しとします」

「許されたようで本当に良かったよ。ああ、そうだ。今も羊羹食べてるみたいだけど甘い物好きならこれ手土産として持ってきたケーキがあるんですけど食べますか?」

「食べる」

 

 本当は一度この場のトップであるグレモリー先輩に渡すべきなのだろうが、まあしっかりと人数分あるし、先に1人分渡すだけならそこまで目くじらを立てられる事は無いだろう。木場にも食べるかと訊いたが、後で頂くよと言われた。

 

「美味しいです」

「なら良かった。作り慣れてるから大丈夫とは思ったけど心配だったんだ」

「先輩の手作りですか!?」

「へぇ、凄いんだね一誠君は」

「一誠は料理やお菓子作りもそれなりの腕を持ってますよ」

「ついでとばかりに仕込まれましたからね」

 

「意外な特技があったのね」

「あらリアス、今時男性でも料理やお菓子作りする人も少なくないのよ」

 

 先ほどまで見かけなかった姿が二人部室にやってきていた。もちろん気配で気付いてはいたが、準備が出来たようなのでそちらに向き直る。そこにいるのはトワ姉と同じ三大お姉さまと呼ばれるリアス・グレモリー先輩と姫島(ひめじま)朱乃(あけの)先輩だ。

 

「あなたが兵藤一誠くんね。姫島朱乃と申します。どうぞお見知りおきを」

「いえ、こちらこそ」

 

 黒髪の女性、姫島先輩が丁寧に挨拶してきたので、俺も短く返事を返す。リアス・グレモリー、姫島朱乃、木場祐斗、搭城小猫・・・・・これでオカルト研究部の悪魔全員がここに揃った。

 

「それにしても、トワさんが此処にいらっしゃるのはそう言う事でいいのかしら?」

「ああ、この人は俺の師匠に当たる人です」

「リアスさんに朱乃さんもきちんと顔を合わせるのは久しぶりね。今日はよろしくお願いしますね」

 

 トワ姉さんが学生としての姿で挨拶をするが、まさか関係者だと思っていなかった二人のお姉様は内心驚いているのではないだろうか、それ以前に3大お姉様と2大王子が全員裏の関係者と言う事の方が中々に面白いかもしれない。

 

「全員揃ったことだし、話を始めましょう。二人とも座って」

「「はい」」

 

 グレモリー先輩に促され、備え付けられたソファーに俺達は座った。

 

「一誠、私たちオカルト研究部はあなたを歓迎するわ。私達の正体については・・・・・話すまでもないわね?」

「はい。俺達を除いて此処に居るのは全員悪魔。そして姫島先輩、木場、搭城はあなたの配下ですね」

「それじゃ、余計な話は省いて早速あなた達がどういった立場で昨日は何故あの場にいたのか、訊かせてくれるかしら?」

 

 部長がそう言うと全員の視線が俺達に向けられた。みんな興味津々のようだが、グレモリー先輩は堕天使と戦っている姿を目撃している分、少し警戒しているようだ。

 

「先にこれを見て貰った方が説明が早いでしょう。」

 

 俺は皆が見やすいように左腕を突き出し、意識を集中させて神器(セイクリッド・ギア)を出現させる。俺の左手を甲の部分に宝玉が嵌められた赤い籠手が覆う。

 

「これって・・・・まさか!?」

 

俺の神器を目にして目を丸くする部長。どうやら部長はこれがなんなのか知っているようだ。

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)・・・・・これが俺の神器。俺は赤い龍の力を宿した今代の赤龍帝です」

 

 俺の言葉に、その場にいた全員の表情が驚愕に染まった。

 



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3刻

 一誠の言葉に驚き、本当かどうか神滅具に視線が注がれる。感じ取れる力もその場にあるだけでも感じ取れるオーラで本物と判断したようだ。

 

「なるほど、それなら堕天使を圧倒した姿にも納得ね。それで続きの説明をお願い出来るかしら?」

「ここから先は私が話そう」

 

 そう言って一誠に下がるように目線で合図すると、一誠が席に座った。神滅具を見せるために立っていただけなので代わりに私が立つということはしない。

 

「私は元々、一誠と知り合う前から裏に精通してした。近所付き合いで一誠と知り合って直ぐに一誠に眠っている力に気付いた。それが一誠が3歳の時だな。大きな力、特にドラゴンはそれに見合ったトラブルも呼び寄せる。そう考えて、見捨てるのも夢見が悪いので自衛が出来るように鍛えることにしたんだ。実際に事情を伝えて鍛えだしたのは5つになってからだな」

 

 私の話に納得し、頷く者が多い中でリアスさんと朱乃さんは何か疑問を感じたようですね。頭はそこそこに働くようで安心した。

 

「話を聞く限り、話とトワさんの年齢があっていない様に感じるのだけど」

「話をそのままに聞くとトワさんは5歳の時に裏の世界に精通していると言えるほどの立場だったことになってしまいますね」

 

 二人の言葉を聞いてようやく気づいたのか、木場くんと小猫ちゃんも確かにと疑問を抱いてこちらを見てきた。

 

「裏の人間ですからね。戸籍や経歴くらいは簡単に偽れますからね。私は見た目より大人なであるという事ですよ。ちなみに理事長はこちらの事情を知っていますよ」

「お兄様が!?」

「流石に私も一誠も裏では知られていますので、敵対関係にならないよう伝えるべき方には連絡を入れていますよ」

 

 それを聞いて、管理者なのに私には伝えられてないと少し騒ぎ立てるリアスさん。まあ、学校生活の邪魔にならないようにと言うお兄様の配慮ですよと伝えてようやく落ち着いた。

 

「まあ、お兄様には後で確認を取るとして、貴方達はどこかに所属はしているの?」

「所属はしていませんが、懇意にさせて頂いている組織なら一つ」

「一応フリーなのね。それでその組織っていうのは」

「メフィスト・フェレス様の灰色の魔術師ですね」

 

 それを聞いて更に驚いている。まあ、番外の悪魔の中でも伝説と言われている有名人、いや有名悪魔だからね。

 

「なるほど、それが本当ならお兄様と連絡を取れるのも納得ね。それであなた達については分かったわ。そのうえでお願い、と言うより提案があるのだけど」

「部に入れと言うのでしたら了承しますが、眷属へのお誘いでしたらお断りさせて頂きます……まあ、元より無理でしょうけど」

 

 リアスさんの言葉を先読みして伝えると一誠も同じ意見だと言うように頷いた。それが納得いかないのか、リアスさんの機嫌がまた悪くなっている。

 

「どうしてよ!?」

 

 さて、その説明をどうしたものか。そして、したところで納得してもらえるか。そんなことを考えながら私はゆっくり口を開いた。

 

「聖書陣営の中で一番信用してませんので」

 

 そう言い切った私を見て、何で?!と言った表情で固まった。

 



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4刻

 師匠であるトワ姉の言葉に理解が出来てないのかグレモリー先輩はかなりの剣幕である。メフィスト様と知り合いでもあるのに、悪魔を信用してないと言われるとは思わなかったのだろう。

 

「悪魔だからと括るわけでは無く、ちゃんと交友関係では個人を見るようにしている。だが、悪魔には契約も蔑ろにしてる老害やそれのおこぼれで潤ってる連中が多いし、眷属になれば否応なしに巻き込まれるからが一番だね。まあ、都合の良い事を並べる天使と教会もあまり近寄りたくはないね。後は堕天使だけど、個人で動く馬鹿は多いけど陣営としてはまともな方ですね」

 

 悪魔と天使はどっこいどっこいで、どちらも堕天使に劣ると言っている様なものだ。中々にきついことを思い切り叩きつけるあたり、本当に容赦がない。

 

「そんなこと無いわよ!!悪魔は契約を絶対として、契約者と誠実に対応してるわ。」

「そう、思うならこれ見てみる?」

 

 あ、トワ姉が何か書類を取り出してる。チラッと見るとどこか見覚えがある。って、それを今出すのはまずいのでは!?俺は慌ててトワ姉の手からそれを奪う。

 

「これは正式にはまだ調査中ですよね?!サーゼクス様が直ぐに確認するから待つようにって言ってたましたよね?!」

「私は別に了承してないし、見せるのは妹に関係者とその仲間、問題はないでしょう」

 

 それを判断するのはサーゼクス様だと思うんだけど、トワ姉が悪魔を毛嫌いしているのは分かるけど、もう少し対応してあげても良いと思うんだけどな。

 

「これは……本当なの!?」

「契約違反の断定も時間の問題ですね。それに今ある情報だけでも濡れ衣を着せられている事は確定ですよ」

「…小猫、貴方も見なさい」

 

 そうして資料は関係者の手に渡った。小猫ちゃんは資料に目を通していくごとに身体を震わせている。今にも倒れそうだが、それもしょうがないだろう。なにせ、彼女の姉であるS級はぐれ悪魔黒歌に関する調査資料なのだから。

 

「これは…「確かなものですよ」なぜ?!」

「そんな表情をしてたら言いたいことぐらい分かりますよ」

 

 信じられないと思いつつも、姉である黒歌の事が頭の中をぐるぐる回り、理解してからはなんでどうしてと自分を責めているのだろう。

 

「まあ、彼女の件は結構特殊ですが、同じように契約を破る悪魔なんて掃いて捨てるほど居ますよ。教会の醜悪さは木場くんがよく知ってるでしょう?」

「ッ!?……」

「木場の事まで!?」

 

 グレモリー先輩の眷属には色々と事情のある者が多い、その中でも二人の件は俺としても苛立ちを覚える。

 

「まあ、詳しくは貴方のお兄様に聞いてください。眷属化の適当な理由もそうだけど、リアスさんの残りの駒を一誠に入れてみて」

 

 グレモリー先輩はトワ姉の言う事を何も言わずに実行するが、俺の体に駒が入ることはなかった。

 

「そもそも実力不足ですね。一誠が無理なら私も無理ですよ。なので部への所属()()なら出来ますよ?」

「分かりました。部活への参加だけこれからよろしくお願いします」

 

 こうして微妙な感じになってしまったが顔合わせと事情の説明は終わった。トワ姉が顔を出すかは微妙だが俺は暇なら参加してあげることにした。



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5刻

 オカルト研究部に所属してから特に何かが変わったという事はない。俺は元から裏の事は知ってたし、部活に顔を出す事も苦ではない。それに悪魔とか関係なく先輩たちは美人だし、後輩の小猫ちゃんは可愛いし、まぁ木場の奴も良い奴だしな。

 

 みんなの部活での活動を見させてもらう事もあった。悪魔として契約を取ったりとか色々と大変なんだなという事しか俺には分からないけどね。転生したばかりの悪魔はチラシ配りから始めると聞いた時には目を丸くしたけどな。

 

 今日は表も裏も完全に休みの日だ。修行も大事ではあるが息抜きも大事だとトワ姉に指定された日はのんびりと過ごす事になっている。と言っても最近で言えば夕麻ちゃん、もといレイナーレさんとのデートぐらいしか入って無かった俺のスケジュールだと本当に街をふらつくだけとかになる事が多いんだけどな。こういう時間こそ大切だというが無駄に思えてしまうのは修行に染まり過ぎてるのかな。

 

「あう!いたたー!何で私は何も無い所で転んでしまうんでしょうか?」

 

 たまには街をふらつくというのも良い物だな。どういう場所で新しい出会いが待ってるか分からないのだから外に出るというのも悪くはない。引きこもりなどではないが厳格な目的が無ければ外に出ないというのも堅苦しいだろ。なぁ、ドライグ?

 

『15秒ほど前の思考を思い出してみろ相棒』

 

 そんなことは知るか、今、目の前に、素晴らしく、可憐な、美少女、しかも、金髪の、シスター、が居るんだぞ!!昔の俺の考えなんて吹いて飛ぶには十分な理由だ。

 

『片言になるほどなのか……はぁ』

 

「大丈夫ですか、お嬢さん?」

 

 トワ姉に世界中を連れ回された経験のある俺には言語の壁なんてものは存在しない。ああ、あの勉学の日々もこういった出会いの為であったのか。起き上がらせる際にすべすべな手を握る事が出来た。その際に風が強く吹いてベールが飛ばされそうになったが、これくらい見なくてもキャッチできる。

 

「はい、どうぞ」

 

「あ、有難うございますぅ」

 

 ベールの下はブロンドとエメラルドグリーンの綺麗な瞳、優しさの感じられるオーラと緊張からか少しおどおどとしている感じが庇護欲をそそられる。それにしても凄い荷物だな……神器の気配があるし、堕ちた雰囲気が無いので教会所属だと思われるが、この街に教会は潰れてるし、レイナーレさん達の拠点になってるはずだ。

 

「かなりの荷物だけどお引越し?」

 

「はい、実は私今日この街の教会に赴任してきまして、ただ道に迷ってしまい道を聞こうにもまだ日本語に不慣れなもので……こうしてちゃんと会話が出来る方がいて少しホッとしました」

 

「そりゃよかった。こんな可愛い女性の心を暖められたのならイタリア語を覚えた甲斐があったってもんさ」

 

「そ、そんな、可愛いだなんて……」

 

 恥じらってる姿からして十分可愛いよ。もじもじする仕草なんて小動物みたいだし、恥ずかしがりながらも話をする際は目を合わそうとしているのかこちらの顔を見て、また逸らしちゃってを繰り返すところなんてもう、もう!!

 

『落ち着け、相棒』

 

「良かったら俺が教会まで案内しようか?今日は休みの日でね。ふらっと街を歩くばかりだったから、君の助けになれるならこっちとしても有意義な時間が過ごせる」

 

「本当ですか?ああ!こうして優しい方にお会いできたのも主の導きなんですね」

 

 そう言って祈りを捧げる彼女はとても様になっている。教会でこんなに可愛い女性が祈りを捧げている姿ならきっと聖女として有名、な、はず……聖女?そう言えば最近教会で異端認定された神器持ちの聖女が居たって情報があったっけか?

 

 うーん、神器直接を見れば確信できるだろうけど、師匠と違って詳しい性質までは読み取れないからな。とは言ってもこんな街中で神器を出すような機会はないだろう。そう思っていたら教会に向かう道すがらで転んでひざを擦りむいて泣いている男の子が見えた。

 

 するとシスターさんがその子のもとに駆け寄って行った。優しい彼女の事だから聖水でも使って消毒して、十字でも切ってあげるのかと思っていたらまさかの事態が起こった。

 

「大丈夫ですか?男の子がこれくらいで泣いてはいけませんよ?」

 

 そう言いながら傷口に手を向けると彼女の優しさがそのまま形になったかのような緑の光が発し、怪我を包み込むとみるみるうちに怪我が治ってしまった。聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)……数少ない治療系の神器で件の聖女が持っていたとされる神器だ。

 

『当たりだな』

 

 いやな当たりもあったもんだ。あれほど真摯に神に祈ってる少女が報われないなんて、トワ姉が教会の事をぼろくそに言っているのが分かる。少しやるせない気持ちになったが二人だけでは言葉が伝わらないだろうと思い、俺も近づく。

 

「そっちのお姉さんがさっき言ってたのは大丈夫かってのと男の子がこれくらいで泣いちゃダメだよだってさ。傷はもう平気か?」

 

「うん、お姉さん凄いんだね。ゲームの魔法使いみたい。もう全然痛くないよ、綺麗なお姉さんありがとう」

 

 そう言うととても良い笑顔を浮かべ、元気にてを振りながら走り去っていった。通訳しようと思ったら『ありがとう』は聞き取れたのか、それとも子供の表情から察したのか彼女も手を振り返している。

 

「凄いね、魔法みたい、痛くない、綺麗なお姉さんありがとうだってさ」

 

「まぁ、ふふふ。日本の男性は子供でもお世辞を言うんですね」

 

「お世辞じゃなく綺麗だと思うけどね」

 

 顔だけじゃなく在り方もね。神器の使い方からして裏の事をある程度は知ってる人間のはずだ。それなのに人目も気にせずに子供の治療を優先したのだから。俺の軽口に笑みを浮かべながら公園を後にして再び教会に向けて歩き始めた。

 

「やっぱり、驚きましたよね?」

 

 さて、どうしたものかな。何も知らないふりをしたって良い。知っている事を伝えて彼女を肯定しても良い。またそれらの逆も然りだだ、それ以上にこの場で追及するという選択肢だって存在する。なぁ、どうするべきかねドライグ?

 

『それは相棒が決める事だ。俺が口出しすることではない』

 

 やっぱりそうだよなぁ。彼女がどういうつもりで此処に来たのかは分からないけど、教会を追放された彼女が堕天使の根城に向かうって事は彼女はあれでも堕ちた身、はぐれ聖女とでも言うべき存在だという事だ。いや、教会風に言うのであれば魔女だろうか、くだらない。

 

「確かに驚いたけど、とても優しい力だなって思ったよ」

 

「はい、神様が下さった素晴らしい力なんです」

 

「その力で異端認定をされてもかい?元聖女、アーシア・アルジェント」

 

 俺が予想した彼女の名前を言うと彼女はとても驚いた表情に変わり、そして神様の名前を出した瞬間よりもいっそう悲しそうな表情を浮かべた。

 

「俺も神器持ちでね。裏でけっこう活動してるからあちこちの勢力の情報は気にしててね。教会でもかなり有名だった聖女様が異端認定されたってのは驚きだったから覚えてたんだ。気付いたのはさっきの治療を見てからだけどね」

 

「そうだったんですね。私なんかの情報が知れ渡るだなんて変な気分です。それと先ほどのお話ですが、これは私が授かった力です。神様からの(贈り物)だと思ってこれまで生きてきました。その結果がこれならこれも神様からの試練だと思うんです。だから、私はこの力を信じてます」

 

 教会の信者特有の盲信だ。だけど神様が全ての基準になっている信者たちの中で神様の力を自分の意思で使っている彼女はしっかりと強い。だけどそれ以上に彼女は優しすぎる。それこそ今となって彼女を見つめると脆く壊れてしまいそうなガラス細工の様に思える。しかし、固まっている彼女を曲げることは出来ないのだろう。

 

「そうか、この先の教会に堕天使が居るのは知ってて来てるんだよね?」

 

「はい、私はレイナーレ様に呼ばれてこの地に来ました。これからこの場所で何が出来るかは分かりませんが必要としてくれる方が居る限り応えていきたいと思ってます」

 

「直接手助けは出来ないけど応援はしてる。頑張ってねアーシアちゃん。っと着いたねあそこに見えるのがこの街の教会だよ」

 

「わぁ、ありがとうございます。良かったですぅ。本当に助かりました。あの、宜しければお礼がしたいたので一緒に教会に来ていただけませんか?と言ってもお茶くらいしか出せませんが……」

 

 この娘は……普通ならあんな意地の悪い問いかけをした俺なんかにお礼なんてしたがらないもんだろう。俺が悪い悪魔だったら彼女はいとも簡単に足元をすくわれているだろう。まぁ、その気持ちは嬉しいがレイナーレさんとのこともそうだが、ここ最近は部活に顔を出してる所為もあってはぐれエクソシストに悪魔との関わりを感づかれて襲われるだろう。問題を起こして部長に怒られるのもなんだしな。

 

「ちょっと会いにくい人が居てね。教会には入れないんだ。せっかくの申し出なのに本当にごめん」

 

「いえ、事情があるのでしたら仕方がないです。お礼はまた今度会った時にしますね。それと…」

 

「ん、なにかな?」

 

「お名前を訊いてもよろしいですか、私だけお名前で呼べないのも寂しいので、それと呼び捨てで結構です。年が近い人からチャン付けで呼ばれるのはこそばゆいので」

 

「そう言えば自己紹介がまだだったね。俺は兵藤一誠、親しい人からはイッセーって呼ばれてる。それじゃあ、またねアーシア」

 

「はい、イッセーさん!またお会いしましょう!」

 

 どこまでも優しい女性だなアーシアは。別れの挨拶をしてから俺の姿が見えなくなるまでずっと手を振り続えけていた。さて、部活に所属していながら教会に近づいたことをどう言い訳した物か……堕天使の活動を調べるのにちょう良かったとか言えば誤魔化せるかな。

 

 


 

 何をしていたのか聴かれる前に自分から言った方が良いだろうと思って部長ではなく、トワ姉に確認する形報告し、それを一緒に聞いて貰った。

 

「堕天使がねぇ。誰かを呼んでるってのは掴んでたけどあの聖女アーシアだったのね。良い情報を手に入れたわね一誠」

「ありがとうございます」

 

「ちょっと待ってくれるかしら?この部活に所属して置きながら教会に近づいたのもそうだし、教会が潰れてて堕天使の根城になってるってのもそうだし、その聖女アーシアって何の話かしら?」

 

 どうやら我らが部長はまあり情報通とは言えない様だ。意図して普段から探ってないと手に入りにくいものだけど普段から街の管理を任されてるのにコレは少し評価が下がりそうだ。

 

「教会が潰れたのって結構前ですよ。俺は幼馴染の家が教会所属で、親父さんがエクソシストだったから教会が無くなるってのを早めにしったけど、管理者が居なくなったことは街の人であればだれでもわかる情報なんですが」

 

「一誠、悪魔の性質の中には楽観的という物もあります。長く生きる種族の割にはその場その場で生きている者も多いです。活動をばれない様に部活に当てはめてるのは良い手ですが、管理の仕事まで部活気分では一住人としては困りものですね」

 

「うっ、うぅ」

 

 何も言えなくなっている部長、遊び気分ではなくちゃんと仕事をしているつもりだったんだろうけど証拠付きで言及されてしまえばどうしようもないみたいだ。まぁ、取り組む姿勢の問題と言うよりは経験不足なだけって感じがするけどね。厳しめで有無を言わせない目でトワ姉に見つめられた部長は泣きそうになっている。というより薄っすらとだが泣いている。

 

「別に泣かせる気は無かったんですけど。大丈夫ですかリアス?」

 

「良いから、結局堕天使はどうなったの!!」

 

「最近街で見かける4人の堕天使は『神の子を見張る者(グリゴリ)』とは無関係という事が分かりました。建物の方も教会の持ち物でも神の子を見張る者の持ち物でもないみたいです。サーゼクス様経由で連絡をいれれば叩き潰しても問題ないでしょう」

 

「そう、なら私からお兄様に連絡は入れておくわ。もしかしたら堕天使との交渉に使えるかもしれないし、向こうの要望を聞いてから動きましょう」

 

 ふむ、部長も駆け引きなどをしらない訳ではない様だ。とは言っても返事を待ってる間に問題が起きればそんなことは言ってられなくなるだろうけどね。まぁ、これで報告は済んだし、後はいつも通りの部活の時間を過ごす事になるだろう。

 

 部活に所属しているとはいえ悪魔ではない俺とトワ姉はそこいら辺に関わる事はしないし、出来ないので活動中は自分たちの修行か、メフィスト様から廻される仕事とかの確認とかが主になっていた。しかし、今日はそこに別の活動が増えた。

 

「部長。大公からの討伐の命令がきましたわ」

 

 ここで少し悪魔の世界ではそこそこありふれていて、情報だけはだれでも知ってる様なある道具について話して置こう。その名は『悪魔の駒(イーヴィルピース)』、まぁ俺に浸かって効果が無かったチェスの駒を模した道具の事だ。

 

 悪魔はその昔、天使とのいざこざで純粋な悪魔の同胞を失いその数は激減した。ただでさえ出生率が低い悪魔はこの事態にさっき挙げた悪魔の駒を使い僕のような神器を宿した人間を悪魔に転生させてその数を増やそうとしている。さらに上級悪魔が下僕を持ちお互いの駒を戦わせるというレーティングゲームというものが流行っている。

 

 それで転生させた悪魔の元から逃げだすはぐれ悪魔と言う物がある。中にはこの前にトワ姉が部長につきつけたように主が側が規則を破って逃げ出した下僕や酷いものでは要らなくなったから新しい眷属を迎えるために放逐してはぐれとして手配することもある。

 

「いい匂いがするぞ?不味そうな匂いもするぞ」

 

 廃屋の中に入ると声が聞こえ、ジッと目を凝らすと向こうのほうに物凄い恰好の女性が立っていた。その格好は上半身は裸の女性で下半身は四本の脚がうねうねしている足だった。

 

「はぐれ悪魔バイザー!主の元を離れ己の欲求を満たすために動く悪魔は万死に値するわ!グレモリー侯爵の名においてあなたを消し飛ばしてあげる!」

 

 不憫だが自棄になって暴れまわり、これだけの被害を出しているとなると流石に庇い立てすることは出来そうにないな。主が悪だとしても壊れてしまった者は助ける事は出来ないので俺もトワ姉も何も言う事はないだろう。下手に口に出せばこれから先の部長たちの活動の邪魔にしかならない

 

「駒については知ってるみたいだから、私の眷属の力だけを魅せるわ。祐斗!」

「はい!」

 

 部長に名前を呼ばれた木場は持っている剣を構えて、バイザーに向かっていき素早く腕を切り裂いて見せた。バイザーが痛みに苦しんでいる間、そのまま追い打ちをかける様に続けて切り刻んでいく。常人からしたら早いが余裕で目で追う事が出来る。見てから避けれる攻撃だ。

 

「次は小猫ね」

 

 小猫ちゃんはスタスタとバイザーに近づいて行く、バイザーは小さい小猫ちゃんを見て侮ったのか力任せに足を振り下ろして潰そうとしたが小猫ちゃんは片手で受け止めている。バイザーを掴むと振り回し、勢いのままに床に叩きつけた。倍加してない力では敵わないだろうが少し倍加したら越せるし、技を使えば倍加せずとも押さえつけるくらいは出来るだろう。

 

「最後は朱乃ね」

「はい、部長。あらあらどうしましょう」

 

 姫島先輩は上品な笑顔を浮かべながらバイザーに近づいて行く、あの笑顔は知っている小さい頃に追加で厳しい修行を持ってきた時にトワ姉の笑みとそっくりだ。あれは容赦のない、恐ろしい女性の顔だ。

 

 予想通り、朱乃先輩はバイザーに身動き一つ許すことなく、連続で雷の攻撃をぶつけ続けていた。泣こうが叫ぼうが構うことなく、むしろ楽しそうな表情を浮かべていた。

 

 絶対に避けれるし、何なら喰らってもそこまでダメージは無いだろうに背筋が凍るような思いがするのはなんでなんだろうなドライグ?

 

『オスがメスに敵う通りは無いという事だ。相棒』

 

「最後にいう事は?」

「殺せ」

「そう、さよなら」

 

 そう言ってバイザーは部長の持つバアル家の滅びの魔力を受けて跡形もなく消えた。魔力の量と質によって消せるように限界はある様だから魔力などを纏えば簡単に防げそうだな。

 

「私達の力はどうだったかしら?」

 

「え、あ、そのぉ」

 

「一誠、こういう時に下手に取り繕う方が問題になりますよ。リアスも分かった上で聞いてるんです」

 

 悪魔の駒が反応しなかった時点で部長よりも俺が強いのは当たり前な事実なのだ。それなのに下手に持ち上げるのは優しさにはならない。

 

「……正直、弱いです。木場の動きは集中しなくても追えます。小猫ちゃんの力には少し倍加すれば追いつけますし、倍加せずとも技を掛ければ封じれます。朱乃さんの攻撃はガードすれば無傷で受けきれる。部長も消耗は大きくなるでしょうが同じです」

 

「やっぱり、それぐらい離れてるのね。分かってたけどショックね。悪魔と言う種族のアドヴァンテージがあって、これなんだから。まぁ、良いわ。出て来る前にお兄様に堕天使については伝えたからそのうち動く事になるわ。その時は念のため力をかしてちょうだい?」

 

「あら、これは悪魔の仕事、管理者の仕事だからなどと言った事はおっしゃらないんですね」

 

「そんなつまらないプライドは貴女が部活に来たその日に砕け散ったわよ。使えるものは何でも使って、出来る限りの結果を出すわよ」

 

「あらあら、ふふふふ」

 

 俺が知らない所で3年生の駒王学園のお姉様方はこれまでとは違った関係を結べているようだ。まぁ、俺も部活に参加している日常は悪くないけどな。それにしても堕天使を相手にねぇ……レイナーレさんの事も多少は気になるが、アーシアは大丈夫なのかね。そんなことを考えながら俺も置いて行かれない様にゆっくりと歩き出した。

 

 



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