【ヒト息子ソウル】原作・競馬ミリしらなので安価で進むしかないウマ娘生【転生】 (やはりウマ娘二次創作界隈は魔境)
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1スレ目

 よろしくお願いします。


1:名無しの転生者

 転生したんだけど、ウマ娘だった

 ちなみに前世は男

 

2:名無しの転生者

 あーあ、またヒト息子ソウルが入ったウマ娘が誕生してしまった

 

3:名無しの転生者

 >>2

 いつも思うがキメラ過ぎる。存在が冒涜の塊

 

4:名無しの転生者

 最近そういうの流行ってるよね

 

5:名無しの転生者

 転生神界隈でも流行るウマ娘の影響力

 

6:名無しの転生者

 なんでも良いが、イッチはコテハン付けて、詳細を貼れ

 

7:名無しのウマ娘

 名前・ミタマガシャドクロ

 種族・ウマ娘

 年齢・15

 スピードまあまあ出る、スタミナ結構ある、パワーまあまあ、根性無い、賢さ多分普通

 

8:名無しの転生者

 名前やば過ぎて草

 

9:名無しの転生者

 それはそうと、期待、しても良いんですか?

 

10:名無しのウマ娘

 安心しろ。ワタシ、嘘つかない

 ということで安価

 上から順に大目標、直近の目標、戦法

 >>30

 >>45

 >>60

 

11:名無しの転生者

 遠いな

 

12:名無しの転生者

 ksk

 

13:名無しの転生者

 取り敢えずksk

 

14:名無しの転生者

 そもそもイッチはそんな大切な物を安価に、しかも転生者掲示板なんかに入り浸ってるようなワイらに任せて良いんか?

 

15:名無しのウマ娘

 一向に構わん!

 マジレスするとウマ娘、名前は知ってるけど詳細はマジで分かんないからお手上げ

 アプリのチュートリアルやった覚えはあるから、ステータスに何の項目があるのかくらいは分かるが

 

16:名無しの転生者

 致命的で草

 

17:名無しのウマ娘

 なのでおまいらが頼りなり

 

18:名無しの転生者

 任せとけ

 

19:名無しの転生者

 良い子を曇らせることに関しては右に出る者がいないって評判なんでね

 

20:名無しのウマ娘

 何も信用出来ねえ()

 

21:名無しの転生者

 転生者掲示板常駐の転生者なんてそんなもんだ

 

22:名無しの転生者

 >>21

 それはそう

 

23:名無しの転生者

 ぬわー、遠い! ksk!

 

24:名無しの転生者

 そろそろか

 

25:名無しの転生者

 無敗三冠!

 

26:名無しの転生者

 無敗三冠

 

27:名無しの転生者

 無敗三冠&トリプルティアラ!

 

28:名無しの転生者

 ここは無難に春秋天皇賞二連覇

 

29:名無しの転生者

 無敗三冠&有馬記念三連覇

 

30:名無しの転生者

 無敗三冠&ジャパンカップ二連覇

 

31:名無しの転生者

 こいつら無敗三冠推し過ぎだろ

 

32:名無しの転生者

 現実見ろ

 

33:名無しの転生者

 三冠は分け合うもの、オーケー?

 

34:名無しの転生者

 というか、さらっととんでもねえのいるし

 

35:名無しのウマ娘

 無敗三冠とジャパンカップ二連覇ね、おk

 達成できなかったら焼身自殺するわ

 

36:名無しの転生者

 ペナルティが妙に具体的でマジなのかネタなのか分からん

 

37:名無しのウマ娘

 実際難しいんか?

 

38:名無しの転生者

 難しいなんてもんじゃないな

 世代分からんけど、ジャパンカップは外国馬に荒らされるもの

 

39:名無しの転生者

 まあ、過密スケジュールってわけでもないし、まだマシやろ

 

40:名無しの転生者

 皐月と優駿の感覚狭スギィ!

 

41:名無しの転生者

 取り敢えず直近の目標とやらはジュニア級の大目標と見たので、ホープフル

 

42:名無しの転生者

 朝日杯フューチュリティステークスとホープフル

 

43:名無しの転生者

 朝日杯

 

44:名無しの転生者

 ホープフル

 

45:名無しの転生者

 ホープフル

 

46:名無しの転生者

 だから、過密スケジュールを狙うな

 イッチが死んだら黒髪赤眼恵体TSウマ娘イッチ(願望)の自撮りが拝めなくなるんやぞ

 

47:名無しの転生者

 朝日杯からのホープフルは地獄のローテ

 

48:名無しのウマ娘

 直近の目標はホープフルな

 

 >>46

 自撮りは送らん

 

49:名無しの転生者

 まあそもそも脚質や適性距離的に無理ってこともあるんですけど……

 

50:名無しの転生者

 戦法は何があるんです?

 

51:名無しの転生者

 大逃げ、逃げ、先行、差し、追込み、自在先行、自在差し、後は逃げて差す?

 

52:名無しのウマ娘

 はえー、そんなにあるんか

 

53:名無しの転生者

 イッチ、マジでなんも知らない奴じゃん()

 

54:名無しの転生者

 逃げて差すのは普通出来ないから……

 

55:名無しの転生者

 >>54

 でも、浪漫、感じるんですよね?

 

56:名無しの転生者

 >>55

 それはそう

 

57:名無しの転生者

 逃げて差す

 

58:名無しの転生者

 逃げて差せ!

 

59:名無しの転生者

 逃げて差すだろjk

 

60:名無しの転生者

 追込み

 

61:名無しの転生者

 大逃げ

 

62:名無しの転生者

 まだセーフ

 

63:名無しの転生者

 おまえら夢見過ぎでは?

 

64:名無しの転生者

 まあ、逃げて差す馬なんて浪漫しか無いし……

 

65:名無しの転生者

 ホープフルからの無敗三冠とジャパンカップ二連覇を達成する純和名追い込みウマ娘も十分浪漫

 

66:名無しの転生者

 間違いない

 

67:名無しのウマ娘

 じゃあその追い込みとやらで頑張るわ

 

68:名無しの転生者

 どれだけ難しいか知らないからなんだろうけど、イッチの反応が軽いんだよなぁ

 

69:名無しの転生者

 まあイッチの実力が本物ならホープフルくらいは勝ってくれるだろう

 

70:名無しの転生者

 そう言えばイッチ、特典は?

 

71:名無しのウマ娘

 なんか、妖刀みたいな力

 

72:名無しの転生者

 ふわっふわしてんな

 

73:名無しのウマ娘

 そんな力、生まれてこの方影も形も見たこと無いから正直詐欺だと思ってる

 

74:名無しの転生者

 どのような形にしろ願いは叶えられてるはずだから、気が付いてないだけでどっかに何かあるだろ(適当)

 

75:名無しのウマ娘

 あれ、ていうか、選抜レースってのに出れば良いのよね?

 

76:名無しの転生者

 うむ

 

77:名無しの転生者

 選抜レースに出て良い結果出して、とにかくトレーナーが付かないことには話ならぬ

 

78:名無しの転生者

 そもそもウマ娘ミリしらなイッチはどうして中央トレセンに? いや、というよりちゃんと中央トレセンにいる?

 

79:名無しのウマ娘

 おるで

 なんか適当な中学にそのまま進学しようとしたら、今世のマミーに勝手に出願されてて受験にも受かってた

 

80:名無しの転生者

 マミーェ……

 

81:名無しの転生者

 ウマ娘世界、中央トレセンですらトレーナーの奪い合い状態だから、マジでちゃんと走ってトレーナーを囲っとかないと一勝すら無理なレベルやで

 

82:名無しのウマ娘

 え、マジで?

 

83:名無しの転生者

 マジ

 

84:名無しの転生者

 頑張れイッチ

 

85:名無しのウマ娘

 ちょっとお腹痛くなってきたなぁ…

 

86:名無しの転生者

 狼狽えるなッ!

 

87:名無しの転生者

 >>86

 一般通過マリアさんは帰ってもろて……

 

88:名無しの転生者

 まあ、他の板でもウマ娘転生は阿鼻叫喚らしいから、ワイらもそんなには期待しとらん。気楽にやりたまへ

 

89:名無しの転生者

 転生者でも一勝すら出来ないとかザラにあるの、ウマ娘世界ってやっぱシビアなんやなって

 

90:名無しの転生者

 ウマ娘じゃなくて馬に転生した友人は馬刺しになってから、ウマ娘に再転生したやで

 

91:名無しの転生者

 ひえっ

 

92:名無しの転生者

 >>90

 申し訳ないが、そのレベルのブラックジョークはNG

 

93:名無しの転生者

 馬刺しソウル入りウマ娘……

 

94:名無しのウマ娘

 と、取り敢えず選抜レースがすぐあるから頑張ってみるわ……

 音沙汰なかったら死んだってことで

 

95:名無しの転生者

 がんばえー

 

96:名無しの転生者

 できる、お前ならできる!

 

97:名無しの転生者

 墓標にはなんて刻んで欲しい?

 

98:名無しの転生者

 >>97

 死ぬの前提で草

 

99:名無しのウマ娘

 死にたくなぁい!!!

 

 




 感想とかアドバイスとかあると喜びますよ! 作者が!


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2スレ目

 感想、お気に入り登録、評価共にありがたや……。


11:名無しのウマ娘

 あれ、いつの間に2スレ目に?

 

12:名無しの転生者

 すまん

 

13:名無しの転生者

 三冠馬最強談義で盛り上がり過ぎてしまってな

 

14:名無しのウマ娘

 あ(察)

 三冠馬1人も知らないけど最強談義は……

 

15:名無しの転生者

 それで、どうしたんや。選抜レースボロ負けしたか?

 

16:名無しの転生者

 選抜レースに負けたくらいじゃ馬刺しにはならんから安心しろ

 

17:名無しのウマ娘

 >>15

 いや、選抜レースには勝てた

 

18:名無しの転生者

 じゃあなんだ、トレーナーが釣れなかったとか?

 

19:名無しのウマ娘

 ……(目逸らし)

 

20:名無しの転生者

 あーはい、理解した(理解した)

 

21:名無しの転生者

 ま、まあ、選抜レースに勝てるだけの素質はあるって分かっただけ良かったやろ。まだチャンスはあるから……

 

22:名無しのウマ娘

 ワイ、コミュ障なんでな……

 

23:名無しの転生者

 でも、誰も来なかったわけじゃないんやろ?

 

24:名無しのウマ娘

 トレーナーらしき人はたくさん集まりはしたんだけど、無敗三冠取らせてくれる人お願いしますって言ったらみんな消えていった……

 

25:名無しの転生者

 それはコミュ障以前にイッチが悪いよぉ……

 

26:名無しの転生者

 初対面で結婚を前提にお付き合いしてくださいって言うようなモノ

 

27:名無しの転生者

 まあ、ウマ娘本人に余程の才能を見出せなければ無敗三冠を約束できるトレーナーなんておらんわな

 その余程の才能があっても、怖気付くトレーナーがほとんどだと思うが

 

28:名無しの転生者

 そもそも、イッチの転生先はアニメ時空なんか? それともゲーム時空? ゲーム時空にしたってメインストーリーか育成ストーリーかでいろいろ違うだろうけど

 

29:名無しのウマ娘

 アニメ見てないから分からぬ

 

30:名無しの転生者

 じゃあ、スピカトレーナーとか、おハナさんとか、キタハラジョーンズとか、チームシリウスとか、なんでも良いから聞き覚えない?

 

31:名無しのウマ娘

 ううん……分からん

 話すような友達居らんし

 

32:名無しの転生者

 これは紛うことなきボッチ

 

33:名無しの転生者

 ていうか無能()

 

34:名無しのウマ娘

 流石にここまで分からない尽くしは自分でも無能だと思う

 

 >>33

 それはそれとしてキレた

 

35:名無しの転生者

 無能な上に沸点も低くて本当に無敗三冠なんて取れるんですか?(煽り)

 

36:名無しのウマ娘

 >>35

 ムキー! 覚えてらっしゃい!

 

37:名無しの転生者

 煽るな煽るな

 俺だって、原作知らないから転生特典に原作知識頼んだら数千年前の過去編に飛ばされたんだからな(真顔)

 原作知識が役に立たない場合もある

 

38:名無しの転生者

 数 千 年 前 の 過 去 編 ()

 

39:名無しの転生者

 マジで転生神、何も考えてないのか、性格悪いのか分からん

 

40:名無しの転生者

 ほんとにな。そのまんま与えられても使えませんって場合もあれば、曲解し過ぎてる場合もあるし

 

41:名無しの転生者

 本当の無能は神だった?

 

42:名無しの転生者

 >>41

 やめとけやめとけ、アイツらここ見てるから

 

43:名無しのウマ娘

 やっぱり人は転生しても神の掌の上からは逃れられないんやなって

 

44:名無しのウマ娘

 あ

 

45:名無しの転生者

 い

 

46:名無しの転生者

 う

 

47:名無しの転生者

 え?

 

48:名無しの転生者

 どした?

 

49:名無しのウマ娘

 安価

 実はトレーナーだった顔見知りの女の人に『貴女に三冠をあげる』ってスカウトされたんだが、どう答える?

 

 >>55

 

50:名無しの転生者

 馬鹿野郎、唐突過ぎる!

 

51:名無しの転生者

 『末永くよろしくお願いします』

 

52:名無しの転生者

 『ワタシの足を舐めなさい』

 

53:名無しの転生者

 『おっぱい何カップ?』

 

54:名無しの転生者

 『君可愛いね。いくつ? どこ住み? 彼氏いる? てかLINEやってる?』

 

55:名無しの転生者

 『もしも取れなかったら、一緒に焼身自殺してくださいね?』

 

56:名無しの転生者

 『お尻のサイズ測っても良い?』

 

57:名無しの転生者

 ろくなのなくて草

 

58:名無しの転生者

 唯一マシな二つだって激重認定されそうなやつしかねえw

 

59:名無しの転生者

 これは地雷系ウマ娘

 

60:名無しの転生者

 いや、変な方向に吹っ切れたグラスちゃんかもしれん

 

61:名無しのウマ娘

 え、マジでコレ言うの?

 

62:名無しの転生者

 安価は絶対

 

63:名無しの転生者

 命よりも重いもの

 

64:名無しの転生者

 堕ちるところまで堕ちてもらうで(餓鬼道)

 

65:名無しのウマ娘

 ひえっ

 

66:名無しの転生者

 覚悟決めろよ、元ヒト息子ォ!

 

67:名無しのウマ娘

 く、クソぉぉぉぉぉお!!

 

68:名無しの転生者

 ……逝ったか

 

69:名無しの転生者

 イッチのことは来週くらいまでは忘れないぞ

 

70:名無しの転生者

 はい、解散!

 

71:名無しの転生者

 ド畜生で草

 

 

 

 

151:名無しの転生者

 >>149

 そもそもウマ娘って馬ソウルの存在が前提なのに、中にヒト息子ソウル入ってたらどうなるんやろな?

 

152:名無しのウマ娘

 生きてる^~!(ry

 

153:名無しの転生者

 ……ちっ

 

154:名無しの転生者

 生還しやがったか

 

155:名無しのウマ娘

 君達は誰の味方なの……

 

156:名無しの転生者

 安価に従う限りはイッチの味方やで

 それはそれとして面白くなかったら一転してアンチになるが

 

157:名無しのウマ娘

 マジで畜生

 

158:名無しの転生者

 で、そんなことより行けたん?

 

159:名無しのウマ娘

 それはもうバッチリ!

 

160:名無しの転生者

 良かったやん

 

161:名無しの転生者

 これで体の良い奴隷が手に入ったな!

 

162:名無しの転生者

 基本ウマ娘第一思考でパシリな上に、実験用のモルモットにもなるし、飛び蹴り用のサンドバッグにもなる

 トレーナーとは、斯くも扱いやすいものか……

 

163:名無しの転生者

 >>162

 そこだけ聞くとマジでそうだから反応に困る

 

164:名無しのウマ娘

 わ、ワイだけの奴隷……うへへ

 

165:名無しの転生者

 正体現したね

 

166:名無しの転生者

 まあ、元ヒト息子ならしゃあない

 

167:名無しの転生者

 奴隷売買は童貞コミュ障転生者が最も女の子とお近づきになりやすい手段のひとつやからな(童貞並感)

 

168:名無しの転生者

 チクチク言葉反対!

 

169:名無しのウマ娘

 チクチクどころかでっかい杭でもぶっ刺されたような気分だわ

 

170:名無しの転生者

 どうせ奴隷買っても手を出せるような度胸なんて無いのがオチ

 

171:名無しの転生者

 俺氏、無事死亡

 

172:名無しの転生者

 >>170

 このパターンの転生者、結構いるよな

 ワイもやけど

 

173:名無しの転生者

 なにしろ、前世はコミュ障の童貞なもんで

 

174:名無しのウマ娘

 お前ら、ワイの掲示板でそんな悲しい話をするな! ワイまで悲しくなってくる……

 

175:名無しの転生者

 そら(イッチも同じ穴の貉なんだから)そう(やって図星さされて悲しくもなる)よ

 

176:名無しの転生者

 イッチ、ワイら、今を生きるコミュ障童貞、ヒト息子ソウル入りウマ娘、TS娘

 結局のところ全員童貞では?

 

177:名無しのウマ娘

 >>176

 なんだァ?てめェ……

 

178:名無しの転生者

 イッチ、キレた!!

 

 



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ミタマガシャドクロ:ウマ娘ストーリー1〜4

 トレーナー視点です。
 ちなみに、時々トレーナーが幻視しているのは、アプリ版ウマ娘における固有スキル演出とかで出てくるような感じの何かです。一緒に走っている他のウマ娘達は、より鮮明にそれを感じてます。
 それと、感想、お気に入り登録、評価、ありがとうございます!


 1 『深更の 君へみちびく 月の色』

 

 私が中央トレセン学園のトレーナーになってから早数日が経った。

 環境の変化にも慣れてきて、ウマ娘達との交流はもちろん、先輩や同期のトレーナー達との交流もそれなりに増えてきた頃。

 

 私は真夜中に一人、トレセン学園から少し離れた所にある廃れた神社に来ていた。

 

「雰囲気あるなぁ……」

 

 本当に雰囲気がある。それを助長するように、ざわざわと葉擦れの音が響いた。

 調べたところによると、ここは霊験あらたかな由緒正しき神社の成れの果てであると同時に、心霊スポットとしても有名な場所であるらしい。

 そのことを思い出したら心做しか寒気を感じ始めたが、気のせいであると努めて無視して奥へと歩みを進める。

 

 なんでこんなところに来たのか。

 正直自分でも分かっていない。

 

 ただ、ウマ娘が日常の中で運命を感じることがあるように、私もまた運命のようなモノに引き寄せられたのかもしれない。

 そうでなければ、このようなところには来ないだろう。絶対に。

 何にせよ、私にそういうホラーへの耐性があるのはとても幸いなことだった。なかったら叫び出していたかもしれない。

 

 それくらい、ここは何か()()()()()()()が出そうな雰囲気を漂わせていた。

 

「なんなの」

 

 分からない。

 分からないけれど、このまま帰ったら後悔する。

 そんな強迫観念に背を押されて、奥へ奥へ。

 

 数日後、私がトレーナーに就職してから初めてとなる選抜レースが執り行われる。

 私は新人として先ず担当ウマ娘を見付けなければならない身だ。

 ウマ娘にもトレーナーにも厳しい面があるトレセン学園には、担当を得る能力を持たないようなトレーナーを置いておくような籍はない。

 早く出走する未デビュー、未契約のウマ娘達の情報をまとめなければならない。

 こんなところで遊んでいる暇は無いのだが、しかし、これまでもこの直感に助けられてきたところはある。だから、私はひとまず歩みを進めるしかなかった。

 

「うわ」

 

 それなりに長い階段を昇っていけば、最後の段を踏んで思わず声が出た。

 色褪せて、苔むした鳥居の成れの果て。片側の支柱が折れていてかつての荘厳さは影も形もない。木々の間から漏れた月明かりに照らされて、その不気味さがより鮮明になっている。

 暫く手付かずで放置されているとはいわれていたが、まさかこれ程までとは。

 

 だが、この奥だ。そこまで行けば、きっと何かがある。

 恐る恐る鳥居を潜って参道を歩く。

 

「凄いわね」

 

 目も当てられないくらいにボロボロ。

 ここが神聖な場所であったなんて言われても、すぐには信じられないような荒廃具合。

 

 しかし、そんな中でも三女神像だけが不自然なくらい立派な姿を保っていた。

 無論、所々欠けがあったりはするものの、それでも綺麗に磨かれていて、しっかりと手入れをされた形跡が見て取れる。

 恐らくは、誰かがこの三女神像の手入れをしているのだろう。

 私をここに呼ぶ誰かが。

 

「……」

 

 それが誰なのか。

 いや、何者なのか。私は薄々気が付いていた。

 

 そして、その予想は当たっていた。

 

「っ」

 

 思わず息を呑んだ。

 まるで呑み込まれるかのような感覚。

 ぐるぐると、違う世界に吸い込まれるような。

 踏み出せば戻って来れなくなるような。

 

 丑三つ時は怪異の時間と言われるが、私はその時、目の前の存在を怪異と同じかそれ以上に恐ろしい何かだと感じていた。

 

 朽ち果てた本殿の前、階段に座り込む人影。

 そこに居たのは、トレセン学園の制服に袖を通した一人のウマ娘だった。

 何やら物思いに耽るように宵の空を眺めている姿は、まるで一枚の絵画の様に見える。妖しさと清廉さを兼ね備えた雰囲気は、触れ得ない美しさを私に魅せていた。

 

 漆のように黒い長髪に、柘榴石のように紅い眼。右耳には割れた髑髏を模した耳飾り。

 スカートの下から覗くスラリと伸びた脚は一種の芸術品と言って良いだろう。

 ウマ娘らしい整った容姿に、神秘的な雰囲気を纏った少女がそこに居た。

 

「あ、貴女、学園の生徒よね」

「……何方ですか?」

 

 声を掛けてはいけないような、そんな感覚を覚えるも、こんな時間にこんな場所にいるウマ娘を放っておくことはできない。

 立ち上がって問い掛ける彼女に、私は胸元のバッジを指し示して見せる。

 

「私はこういう者よ」

「……“とれーなー”さん、ですか」

「ええ」

「そうですか……」

 

 おっとりとした様子、というよりは超然的でありながらどこか朧気で霞のような佇まい。

 ふと何かを考え込むように、もしくは下界への関心全てを放り出したかのようにぼうっとする彼女。

 心配になった私は彼女の前まで歩み寄って、ひらひらと手を振る。

 

「お、おーい」

「……ああ、ごめんなさい。少し、意識を潜らせていました」

「そ、そう」

「……それで、何か御用ですか?」

 

 変わった子だなと思ったが、ウマ娘の中には彼女よりも変わった子だっていくらでもいるだろう。

 ウマ娘達は基本的には良い子達だが、時には会話が通じていなかったり、通じているのに敢えて無茶苦茶をするような子も居たりするのでこれくらいなら特に気にはならなかった。

 

「ええ。こんな時間にどうしたの? もう門限は過ぎているはずよ?」

「……いえ。少し……夜風に当たりたかったもので」

「そうなの」

「はい」

 

 ううむ、難しい子だな。

 根は悪い子じゃないと思うのだが、それはそれとして会話を続けようという意思が感じられない。

 本当に淡々と、話し掛けられているから応答しているだけ。

 あ、そう言えば。

 

「貴女、名前は?」

「……名前、ですか」

「そう、名前」

「……ミタマ、ミタマガシャドクロです」

 

 ミタマガシャドクロ……長いからミタマね。

 そう呼んでも良いかと聞けば、彼女はゆっくりと頷いた。

 次いでに私は気になっていたことを聞くことにした。

 

「聞きたいんだけど、あの女神像はミタマが磨いたの?」

「……はい。本殿を綺麗にすることは叶いませんでしたが、せめてあの像だけはと思いまして」

「そうなのね」

 

 理由は聞かなかったが、凡そ分かる。

 彼女は良い子なのだろう。

 そういうところはやはりウマ娘なのだなと感心する。

 

「それじゃあ、ミタマ、帰りましょう?」

「……分かりました」

 

 内心ほっと一息。スムーズに帰る流れに持っていけて一安心だ。

 彼女の手を取って、歩き始める。

 その手は、びっくりするほどに冷たかった。

 

 

 2 『この逢瀬 さだめと思へば 心浮く』

 

 

 私と彼女、ミタマとの間には不思議と縁があった。

 

「ミタマ」

「……貴女は、昨日の」

「うん、昨日ぶりだね」

 

 翌日、商店街で買い物をしていると制服姿の彼女を見掛けた。

 呼びかければ、昨日の今日では流石に覚えていてくれたらしく、ぺこりとお辞儀を返された。

 彼女はとても礼儀正しい娘のようだ。

 

「……」

「ミタマ?」

 

 またこれだ。

 彼女は時折、こうしてフリーズする。

 彼女曰くは()()()()()()()とのことだが、こればかりはよく分からない。

 

「今日はお買い物?」

「……いえ、意味はありません。……ただ、歩いているだけです」

 

 そう言う彼女は本当に手ぶらのようで、何かを買いに来たというわけではないらしい。

 無言の時間が流れる。

 話し掛けたのは私なのだから、何かを話さなければと頭を回す。

 だが、彼女は話が終わったと思ったのか、踵を返して歩き出した。

 

「あ」

 

 そのまま別れれば良いものを、どうしてか私は急いで彼女の背を追い掛けてしまった。

 

「……何か御用ですか?」

「ううん、特に用は無いんだけど……強いて言えば、貴女のことが気になるの」

「……はぁ」

 

 本当に顔に出ない子だ。

 しかし、ウマ娘の耳と尻尾はこういったタイプのウマ娘とコミュニケーションを取る上ではこれ以上ないくらいにヒントになる。もはや耳と尻尾と会話しているようなものとは先輩の談。

 先輩のアドバイスを信じて耳と尻尾を見遣り、私は驚愕した。

 

「……どうかしましたか?」

「い、いえ、なんでもないわ」

 

 全然分からない。

 耳はピクリとも動かなければ、尻尾はほとんど揺れもしない。本当に微動だにもしないのだ。

 これでは何か読み取れるはずもなし。

 

「ねえ、ミタマ」

「……はい?」

「趣味は?」

 

 いや、これはナンパだろう。

 私は自分の言葉選びに失望した。

 

「……特にはありません」

「そうなの?」

「……はい」

 

 ぶつん。

 彼女は応答してくれるが、会話をぶつ切りにする天才だった。

 

「じゃ、じゃあ好きな食べ物は?」

「……ありません」

「好きな教科は?」

「……ありません」

「走るのは好き?」

「……それなりには」

「憧れのウマ娘とか」

「……いません」

 

 無敵か? バリアーか?

 駄目だ。彼女とパーフェクトコミュニケーションを取れる自信が無い。

 この日、私は幾度となく話しかけるも、彼女とグッドコミュニケーションの一つすら取ることができずに別れたのであった。

 

 

 翌日。

 夜のトレーニングコースで、私は走る彼女を見掛けた。

 

「はっ、はっ、はっ」

 

 ……スピードもスタミナもある。パワーも。

 ただ、フォームが甘い。

 気になった私は、彼女が休憩の為に止まったのを見計らって声を掛けた。

 

「ミタマ!」

「……こんばんは、“とれーなー”さん」

「トレーニングかしら」

「……はい」

 

 汗をタオルで拭きながら、ミタマは赤い視線を此方に寄越した。

 

「少し、話しても良いかしら」

「……構いませんが」

 

 ミタマをベンチに座らせて、私は彼女にフォームについての簡単な説明を行う。

 

「……なるほど」

「少し走ってみてくれる?」

「……分かりました」

 

 彼女に教えた通りに走るよう指示すると、彼女は寸分違わず教えた通りのフォームでコースを走り始めた。

 当然、スピードもさっきより出ている。

 やはりというか、彼女は才能のあるウマ娘だ。

 少なくとも、トレーナーになってから見てきた未デビューの子達の中では飛び抜けている、気がする。

 

「……御指導、ありがとうございます」

「え、ええ」

「……それでは」

 

 去って行く彼女を見て、私はこれが運命なのかもしれないと思い始めていた。

 

 

 3 『駆けぬなら 命燃やせど 生きるを得ず』

 

 

 それから数日。選抜レースの日。

 当然各日各レースを観戦するつもりであった私は朝早くからコースに足を運んでいた。

 周りには同じように初スカウトを狙う同僚や、将来有望なウマ娘を見極めようとする先輩達の姿。

 

 手元の資料を確認しながら第一レースの出走を待っていると、ふと、見覚えのある後ろ姿を認める。

 

「ミタマ」

「……またお会いしましたね」

 

 制服と体操服という差異はあれど、数日前、初めて出会ったあの日と変わらず。

 ミタマガシャドクロは、下界と隔絶したような超然的な雰囲気を纏って佇んでいた。

 それでもあの時のように呑み込まれそうな錯覚は覚えなかった。

 きっと、アレは気のせいだったのだろう。時間に関するアレコレと緊張が故の。

 

 一言断って資料を確認すると、第二レース2000メートルの出走名簿にミタマガシャドクロの名前があった。どうやら、彼女も選抜レースに出場するらしい。まあ、新入生なのだから当たり前と言えばそうだが。

 

「レース、頑張ってね」

「……はい」

 

 一年生ゆえに、今回が初めての選抜レース出場である彼女の実力は未だ未知数。先日フォームを教えた時に見せてもらった限りでは、才能があるということは分かっても、同期の中ではどれほどのものかまでは分からない。

 それは他の出走メンバーを見ても言えることだが、どうせなら顔見知りである彼女には頑張って欲しいものだ。

 何を隠そう、私は彼女のレース次第ではスカウトするつもりでいる。運命かもしれないと、そう思ったから。

 

 この時の私は、呑気にもそんなことを考えていた。

 

『第二レースに出走する選手は、所定の位置にお集まりください』

 

 第一レースを終えて、すぐのアナウンス。

 私はリザルトの分析もそこそこに意識を切り替えた。

 

 これと言って何を感じるでもなかった第一レースは、本日前評判一位の子が2バ身差で勝利を攫って行った。その子は前評判に恥じぬ才覚を持っていた。

 当然、同期や先輩方は一目散にスカウトに向かったし、私もあわよくばと見に行ってはみたが人波に弾かれて声を掛けれず終い。誰がスカウトに成功したのか、結果は後で聞くつもりだ。

 

 その走りを見せる前から、評判の良いウマ娘というのは存在する。

 それは所謂良い所の出であったり、学園に入学する前の時点で塾における評判が良かったりと、なんにせよ伝聞と偏見でしかない。とはいえ前評判は前評判。同期の中で頭一つ抜けていれば凄いという程度だ。

 少なくとも、私はそれだけでその子の将来を判断できると思えるほど楽観的になれる自信は無い。

 自分の目でレースを見て、しっかりとウマ娘を見る。これだけは譲らない。

 新人というなりふり構っていられない立場だとしても、それくらいは許されるはずだ。

 

 集まったウマ娘達がゲートに向い、並ぶ。

 その中には一際目立つ黒髪のウマ娘、ミタマガシャドクロの姿もあった。八人立ての本レースで彼女は三番人気らしい。

 緊張はしていなさそうだ。精神面のアドバンテージあり、と。そもそも表情が変わったところを見た事ないけど。

 

 周りを見遣ると、期待値最高のウマ娘のスカウトに失敗したらしいトレーナー達が、どこか落ち込み気味に観戦席に集まって来ていた。先のような意欲は感じられない。

 私はそれが少し気に食わなかった。

 

『位置について』

 

 ……周りのことは気にするだけ無駄だ。何より、これから走るウマ娘たちに失礼だ。

 私は再びコースに意識を向ける。

 

 そしてそれぞれが構えて。

 

「っ!」

 

 息が詰まる。

 呼吸の仕方を忘れてしまったのか、そんな風に思える苦しさ。

 

 私は、あの時と同じ感覚を味わった。

 まるで違う世界に誘われるような、この世ならざる者と関わってしまったような、そんな感覚だ。

 

『スタートしました!』

 

 当然、そんな感覚を味わったのは私一人。

 周りは平然としてレースを見ている。

 レースが始まれば、ふっと息苦しさは消え去っていた。

 それでも、もう私はあの感覚が気のせいだとは思えなくなっていた。

 

『先頭から殿までおよそ十バ身、先頭は二番スターフロスト、最後方には四番ミタマガシャドクロです』

 

 その下手人と思しきウマ娘は一人最後方を走っている。

 他のウマ娘は先頭から彼女の一つ前まで十から三バ身程度の差。彼女は追い込みが得意のようだ。

 

『1200メートルを通過、よどみのない展開です。後ろの子達はいつ仕掛けるか!』

 

 第二コーナー、1200メートルを過ぎてもレースに動きは無い。当然、ミタマガシャドクロも動かない。

 しかし前の方の子達の中ではペース配分を誤ったか、緊張で本来の力を出し切れていないのか、何人かが減速し始めているのが分かった。

 

『残り600メートル、第三コーナーに差し掛かります!』

「うーん、あんまり良さそうな子は居ないなぁ」

 

 トレーナーであろう誰かがそう言った。

 事実、今のところは誰も光るものを見せられていない。そう思うのは致し方ないことだろう。

 レースを俯瞰していた彼らからすれば、代わり映えのしない新入生による初々しいレースに映っているに違いない。

 

 だが、最初からミタマガシャドクロだけを注視していた私には分かった。

 

 ────彼女の背で嗤う、おどろおどろしいナニカの存在が。

 

『おっと! ここで四番ミタマガシャドクロが仕掛ける!』

 

 残り400メートル、直線に入るところで、いつの間にか五番手にまで浮上していたミタマガシャドクロが一気に加速する。

 

『凄い、ごぼう抜きだ! 他の子達も追い縋るが、その指はかすりもしない!』

 

 次々に他の子達を抜かし、残り200時点でトップに躍り出る。

 なおも足を残していた彼女はさらに加速して、二番手との差を広げて行った。

 どうしてか恐怖を顔に浮かべ、それでも追いすがろうとする後ろの子達は、ここで最高速に入っているはずの差しの子ですら全く加速できず。

 苦しそうに、から回る様な走りを見せる。

 まるで意図せぬ何かに誑かされたように、自身の身に起きたことを理解出来ず、無情にも開き続ける差を突きつけられるばかり。

 

 それでもレースは終わる。始まったものには必ず終わりがあるのだから。

 

 

『ゴール!! 一着は、ミタマガシャドクロ! 後続との差は実に七バ身! 凄まじい力だ!』

 

 

 ミタマガシャドクロは、当然のように、または何も感じていないように先着した。

 実況は彼女の自力と言うが、私の見解は違う。

 あのレースを走った誰もが彼女に掛からされていた。彼女は一切本気を出してはおらず、ただ単に周りの子達が勝手に沈んで行ったのだ。

 

 誰もが言葉を忘れていた。

 誰もが彼女という存在に度肝を抜かれた。

 私は、運命だと思った。

 目に焼き付いた彼女の凄まじい走りが、私を焦がす。

 

 気が付けば、私は駆け出していた。

 

「ミタマガシャドクロ! 貴女なら必ずG2、いいえ、G1を勝利できる! 私が保証するわ!」

「……そうですか」

「ええ! だから、私と契約しましょう!」

 

 彼女の元に辿り着いた時、先にベテランの先輩トレーナーがスカウトしていたのを見て、私はしまったと思わずにはいられなかった。

 彼女はG1勝利経験のあるウマ娘を有する優秀なチームのトレーナーだ。私のような新人では勝負にならない。

 同じように駆け出していたトレーナー達も、これは彼女が取ったなと落胆を見せる。

 私はそれ以上。絶望していた。

 

 ああ、私の運命が潰える。悲嘆する。

 この出会いを超える出会いは、もう二度と訪れないかもしれない。

 これを絶望せずして何を絶望するのか。

 

 だがそんな私の絶望を他所に、ミタマガシャドクロは思いがけないようなことを宣った。

 

「……貴女は、ワタシに無敗の三冠を抱かせてくれますか?」

「え?」

「貴女は、ワタシを無敗の三冠ウマ娘にしてくれますか?」

 

 惚けるベテラン女トレーナーに、彼女は何度も確認する。

 その問い掛けに誰もが絶句した。

 

 無敗の三冠ウマ娘というのは、彼の皇帝シンボリルドルフ以来誰も成し遂げていない伝説の所業だ。

 皇帝の如く、七度のG1勝利を成し遂げられるだけの才覚があって初めてそれを野望と出来る。

 それだけ、難しく、スケールの大きいことなのだ。

 無論、それは我々トレーナーにとっても。

 

「そ、それは約束できないわ」

「……そうですか」

「で、でも必ずG1に「……それなら良いです。お引き取りください」っ」

 

 振られた。

 私なんかより余程実績も能力もあるベテランが。

 チャンスが巡ってきたと考えるような者は、この場にはいなかった。

 誰もがバツが悪そうに顔を背けるばかり。私も俯くだけ。

 

「……貴女は、どうですか?」

「え」

 

 いきなり声を掛けられて顔を上げれば、そこには均整な顔立ちのウマ娘の中でも飛び抜けて端正な作りの顏。

 強く厳かな覚悟を秘めたその顔は、しかし、どこか不安を覚えているようにも見えて。

 

 これだけ超然的で不気味なのに、そんな顔もするのだと。

 私は逸れた思考で意味も無く驚いた。

 

「わ、私は……」

「……そうですか」

 

 彼女は私の答えを待つことなく立ち去った。

 待って。ただ一言、そう声を掛けることは終ぞできなかった。

 

「……あの子は、駄目ね」

 

 絞り出すようにそう言ったベテラントレーナー。

 私は、それに同意することは出来なかった。

 口々に彼女へのダメ出しを始めるトレーナー達を見て、悔しさに歯噛みする。

 

 何故なら私は、恐らくこの場において私だけが、ミタマガシャドクロというウマ娘が無敗の三冠を手にする姿を思い描けていたから。

 私だけが彼女の夢を共有できたから。

 

 私は、彼女の背に声を掛けられなかった自分が、酷く情けなく、下らない存在に思えた。

 

 

 4 『嗚呼 夜に君想へば 運命に死せる』

 

 

 今日の分の仕事を終えて、荷物を纏める。

 いや、正確には仕事が捗っていない私を見兼ねた先輩トレーナーの一人が、事務を引き継いでくれたのだ。

 

 トレーナー寮への帰り道。

 思い出すのは彼女のこと。

 

「……はぁ」

 

 なんで私は声を掛けられなかったんだろう。

 自信が無かった? 彼女の覚悟に気圧された? 私の思いは嘘だった?

 正しい理由なんて分からない。

 だけど、私は彼女を裏切ってしまった。彼女の凄まじい走りを見て、嘘をついた。それだけは事実だ。

 

「あ」

 

 ずうっと、頭の中をぐるぐるぐるぐる。私の悪い癖だが、未だ直すことはできそうにない。

 

 気が付けば、私は数日前と同じ神社の前に居た。

 

 どうして、なんてしょうもないことは思わない。

 でも、その理由が分かっていたところで、自分の下らなさが浮き立つばかりだ。

 

 私は彼女を裏切ってしまった。

 私だけが、私だけが彼女を信じられる立場にいたのに。

 私はトレーナー失格だ。

 私がどうしてウマ娘のトレーナーを名乗れようか。

 本当に嫌になる。

 

 きっと彼女はここにいる。

 だけど、合わせる顔がない。彼女に裏切られたという意識は無いかもしれないけれど、私は彼女を裏切ってしまった。

 しかし、踵を返そうとしても、私の足は前に進むばかりだった。

 

 一つ一つ階段を上る度に、死刑台へと歩を進めているような感覚。

 けれどこの時、自暴自棄になっていた私は死んでも良いとすら思っていたかもしれない。

 憧れの職業であったトレーナーになって、これからウマ娘達を導いて行こうと思っていた矢先。自分にはトレーナーなど向いていないのだと突きつけられるような出来事。

 足元が瓦解するような感覚を味わった。

 

「……今日はよくお会いしますね」

 

 そして、熱心に女神像を磨く少女の赫眼と目が合った。

 

「ミタマガシャドクロ」

「……なんでしょうか?」

 

 もう、彼女をミタマとなんて軽々しくは呼べない。

 呼ぶ資格なんてない。

 

 ふと、気になっていた問いが私の口を突いて出た。

 

「貴女は、どうしてそこまで無敗の三冠を求めるの?」

「……それが、ワタシの存在意義だからです」

 

 間髪を容れずの答えは、己が存在意義。

 レースで勝利できるウマ娘すら稀だというのに、無敗の三冠が己の存在意義と宣うとは大言壮語どころの話ではない。

 たとえ彼女が並大抵のウマ娘を凌駕する存在であったとしても、だ。

 

「貴女は強いのよ? 無敗の三冠なんて取れなくても、G1の一つや二つ勝てるって私は確信してる。それで良いじゃない?」

 

 これは本心だが、半分くらいは違う。

 私はそれでも彼女が無敗の三冠を成し遂げるだろうと未練がましくも確信を抱いている。

 

 だが、現実的な話をするのであれば、これが凡人の私が約束できる最大限だ。

 これだけは何がなんでも叶える、それくらいの気持ちだった。

 

「……だから何だと言うのですか?」

「へ?」

 

 その言葉に、私は横から殴られたかのような衝撃を覚えた。

 G1レースに出られるだけでも名誉なことであり、勝利などすればそれは正しく伝説である。

 だというのに、彼女はそれがどうしたのだと事も無げに切って捨てた。

 

「……無敗の三冠を取れなければ、ワタシは自害します。使命を果たせなくば、この命に意味はありません」

「っ」

 

 私を見詰めるその瞳に、嘘は無かった。

 本気で彼女はそう考えていた。

 

 どうして。

 どうしてそうやって、本気で死ねるなんて言うのか。言えてしまうのか。

 私は彼女が壊れてしまっているのだと思いたかった。きっとそうなのだと思い込みたかった。

 だけど、その眼は確かに、無敗の三冠を完遂するのだという揺るぎない覚悟を秘めていて。

 

 ……私は、どうだっただろうか。

 

「……はぁ」

 

 いつも思うけど。

 私はバ鹿だ。

 大バ鹿である。

 

「……分かった。分かったわよ」

「?」

 

 最初から答えは出ていたのだ。

 彼女が正しくて、彼女の走りに魅せられた私の直感こそが答えだった。

 全てを擲つ覚悟すら無いままにトレーナーになった私こそが変なのだ。

 憧れだけでやっていけるほど、夢は優しくない。そんなこと、知ってるはずだったのに。

 

 可愛らしく小首を傾げるミタマに、私は毅然と告げる。

 

「ミタマガシャドクロ、私に貴女をスカウトさせてちょうだい」

「……」

 

 無表情でも、彼女が私を疑っているということくらい分かる。

 私は彼女を裏切ったのだ。その疑いも甘んじて受けよう。

 

「……貴女は、無敗の三冠をワタシに取らせてくれますか?」

「もちろん」

「……」

 

 今度は私が即答する番だ。

 今度こそ彼女の夢を肯定する番だ。

 私とて、ただイエスと返答したわけではない。

 

 

 ()()()()()()()()()()

 これは、その上での肯定だ。

 

 

「……分かりました」

 

 私の覚悟を理解したのか、それとも一先ずは信じることに決めたのか。

 彼女は俯いて一度目を瞑ると、顔を上げて瞼を開く。

 その紅い瞳で私を見据えた。

 

 

『──── 勝 利 ヲ 寄 越 セ』

 

 

「っ」

 

 その瞬間、私は()()()()()()()()()

 何か、この世ならざる者に見初められたような。心臓を鷲掴みにされたような怖気。

 声でもなく、言葉でもない。どす黒い感情が、ただ勝利のみを希求する飢餓が幾重にも折り重なり、絡まり合ったような感情の塊が囁いた。

 

 だが、彼女を導かんとする者の矜恃として、私はその恐怖をねじ伏せた。

 

「は、はは、凄いもの飼ってるのね」

「……? 何を言っているのか、分かりませんが……貴女の気持ちは、分かりました」

 

 笑うことしかできない。

 私はオカルトなんて信じていない。そんな私からすれば実際にはいるはずのないソレが、しかし私の前で確と姿を現している。

 

 レースの時、そして今、彼女のその背にまとわりついているソレは()()()()()

 

 怨念と切望の化身。悍ましい気配を放つ、幻の餓者。

 

 そんな化け物を背に控え、彼女もまた同じ気配を纏いながら口を開いた。

 決定的な問いを私に投げかけた。

 

 

「────もしも取れなければ、私と一緒に焼身自殺、してくださいね?

 

「ええ、喜んで」

 

 

 焼身自殺? はっ。なんだって構わない。半分焼けたらもう半分も差し出してやる。

 私は死なないし、彼女も死なせやしない。

 

 

 何故ならば、私は、彼女を無敗の三冠ウマ娘にしてみせるのだから。

 

 

「……それでは、末永くよろしくお願いします」

「よろしくね、ミタマ」

 

 こうして、後に伝説の一幕に名を飾るウマ娘ミタマガシャドクロと、単なる新人トレーナーの私は正式に契約を結んだのであった。




 女神像を磨いていた理由:掲示板やる為に廃神社に来たけどマジで何か出そうで怖かったから、間借りするお礼に。ちなみに掲示板をやると意識が飛ぶので、部屋でやると同部屋相手に気味悪がられる。

 ミタマガシャドクロがフリーズする理由:同上。掲示板は数倍時間だが、まだ慣れていないので掲示板に潜る時は意識が飛ぶ。

 ミタマガシャドクロのステ:スピード、スタミナ◎。パワー、賢さ〇。根性×。固有は全距離高倍率スピード・スタミナグリード、スキルはデバフ極振り、回復スキル少々。独占力・各種駆け引き焦りけん制ためらい・まなざし。

 巨大な骸骨:名前の元ネタ的に。複雑だけど単純な存在。基本一緒に走るウマ娘と、後は霊感のある人、マンハッタンカフェくらいにしか感じられない。周囲からは『お友達』を自白しないマンハッタンカフェと思われる可能性もある。

 使命を果たせなくば、この命に意味はありません:安価は絶対。


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3スレ目

 安価で勝負服決め、これだけはやりたかった。

 いつも感想、お気に入り登録、評価、誤字報告ありがとうございます!


252:名無しのウマ娘天下泰平教教祖

 全世界がウマ娘シーズン2最終回を見て涙したのは記憶に新しい

 ウマ娘はいつか世界平和を齎すだろう

 

253:名無しのウマ娘

 しばらく放置してたらやばいの湧いてて草

 

254:名無しの転生者

 おお、イッチ! 其方はイッチではないか!?

 

255:名無しの転生者

 何ヶ月ぶりよ

 

256:名無しのウマ娘

 いや、言っても一ヶ月二ヶ月ぶりだと思うが

 

257:名無しの転生者

 数倍時間だから長いんだよな

 そんなに盛り上がってたわけじゃないんだが、それでもスレッド更新されてるし

 

258:名無しのウマ娘

 すまんすまん

 今日はお前らに朗報や

 

259:名無しの転生者

 朗報は良いけど先に近況報告したまえ

 

260:名無しのウマ娘

 >>259

 近況報告するようなことなくない?

 ていうか、朗報も近況報告兼ねてんだけど

 

261:名無しの転生者

 まあまあ、近況報告は大事やで

 

262:名無しの転生者

 イッチが黙ると、ワイらは情報全く入ってこんからな

 

263:名無しのウマ娘

 あーまあ、それもそうか

 

 とりあえず、だいたいこんな感じやで

 1・トレーナーを得た

 2・トゥインクルシリーズ?に向けて特訓開始

 3・メイクデビュー戦

 

264:名無しの転生者

 ふむ

 この流れで朗報と言うともしや

 

265:名無しのウマ娘

 >>264

 ご察しの通り……

 

 

 

 

 祝・勝負服申請!

 

 

 

 ホープフル出たいって言ったら早めに申請出しとこうってなったので、お陰で安価のネタができたよ!

 

266:名無しの転生者

 メイクデビューの話じゃないのか…(困惑)

 

267:名無しの転生者

 勝負服申請=メイクデビュー成功と取って相違ないから問題無し

 そもそもそこで負けたら無敗の三冠なんて達成出来ないからな

 

268:名無しのウマ娘

 >>267

 な、なんですって……!? え、メイクデビューって勝たないと不味いレースなんか? 選抜レースの延長線かなんかだと思っとったわ

 ワイ、なんも考えずに普通に最後方走って勝っただけなんだが

 

269:名無しの転生者

 無敗なんだから当然なんだよなぁ

 てか、普通はその程度の賢さじゃ追い込みウマ娘は勝てん()

 

270:名無しの転生者

 あ、そう言えば、トレーナーとはどんな感じ?

 

271:名無しの転生者

 それはワイも気になっていた

 

272:名無しのウマ娘

 >>269

 さりげなぁくディスられてて泣いた

 

 >>270

 んー、普通?

 トレーニング以外は基本トレーナー室で仕事するトレーナーの横で、ソファに座ってぼうっとするか掲示板覗くかしてる

 今もそんな感じ

 

273:名無しの転生者

 えぇ……

 

274:名無しのウマ娘

 仕方ないだろコミュ障なんだから

 話題なんて出て来んし

 

275:名無しの転生者

 イッチがコミュ障なのは仕方ないからよしとして、そもそもイッチのトレーナーは優秀な類なんか?

 イッチの焼身自殺快諾したヤバいやつっていう印象しかないんだが

 

276:名無しの転生者

 それ

 

277:名無しのウマ娘

 >>275

 言わせたのおまいらやろ……

 

 トレーナーは優秀だと思うで。指導受け始めてからスピードとかスタミナとかステータス全般上がった気するし

 ただし根性は上がった気がせん

 

278:名無しの転生者

 この根性無しが

 

279:名無しの転生者

 てか、そんなんどうでも良いからはよ安価しろ安価

 

280:名無しのウマ娘

 おまえら……

 

 勝負服の基調は?

 >>310

 勝負服の色は? 二色まで

 >>330

 勝負服のアクセントは?

 >>350

 勝負服に託す想いは?

 >>370

 

281:名無しの転生者

 切り替え早いのと、毎回間隔長いんよ

 

282:名無しの転生者

 勝負服を安価に託すな()

 

283:名無しの転生者

 ワイ、ウマ娘ミリしらなんだが、勝負服って何?

 

284:名無しのウマ娘

 ワイも知りたい

 

285:名無しの転生者

 >>283はともかくとして、イッチェ……

 

286:名無しのウマ娘

 仕方ないじゃん、知らないんだもの!

 

287:名無しの転生者

 開き直るのか(困惑)

 

288:名無しのウマ娘

 でも真面目に分からんから教えてくれ

 ホープフル出たいって言っただけなのにいきなり、「じゃあ、早いけど勝負服を決めましょうか」って言われたら混乱するやろ

 今も手元に申請用紙置いて虚空眺めるムーブしてるんやぞ

 

289:名無しの転生者

 こやつ……

 

290:名無しの転生者

 埒が明かないから教えてやろう

 勝負服とはG1レースに出場する際にウマ娘が体操服の代わりに着る衣装である! 以上!

 

291:名無しの転生者

 これは完璧な答え

 

292:名無しのウマ娘

 なるほど分からん

 

293:名無しの転生者

 要は大一番で履く勝負下着みたいなんや

 

294:名無しの転生者

 >>293

 はいアウトー

 

295:名無しの転生者

 ウマ娘警察が来ても知らんぞー!

 

296:名無しの転生者

 ここにはまだいないけど、アイツら他所の板で凄いからな

 

297:名無しのウマ娘

 >>293

 あー、アレね。だいたい理解した

 

298:名無しの転生者

 もうイッチが分からないよ……

 

299:名無しの転生者

 まあ、分かったならヨシ!

 

300:名無しの転生者

 ksk

 

301:名無しの転生者

 基調ってなんでもええんか?

 

302:名無しのウマ娘

 裸とかじゃなきゃええんでない?

 正直着れればなんでも良い

 

303:名無しの転生者

 言質取ったで

 

304:名無しの転生者

 思いっきりエッチなのにしてあげるから安心したまえ

 

305:名無しの転生者

 >>304

 イッチとはいえウマ娘をそういう目で見るな!

 

 ミニスカゴスメイド!

 

306:名無しの転生者

 >>305

 口と脳みそ繋がってないんか?

 

 絶対領域とミニスカ軍服!

 

307:名無しの転生者

 ここは全身マミースタイルに下乳添えだろjk

 

308:名無しの転生者

 名前的に、和服は確定やな

 谷間解放パンチラ着物

 

309:名無しの転生者

 ハミパン幼稚園スモッグ

 

310:名無しの転生者

 谷間全開絶対領域着物

 

311:名無しの転生者

 ノースリーブミニスカセーラー!

 

312:名無しの転生者

 これまた屈折した童貞がわんさかと

 

313:名無しの転生者

 >>312

 お、やるか?

 

314:名無しの転生者

 >>310の案からは、絶対にこれを着せてみせるという圧を感じる……

 

315:名無しのウマ娘

 じゃあ、谷間が全開で絶対領域確保してる着物の絵を描いとくわ

 

316:名無しの転生者

 イッチが絵を描けることに驚きだわ

 

317:名無しの転生者

 そもそもイッチって谷間あるの?

 

318:名無しの転生者

 おっと?

 

319:名無しのウマ娘

 まあ、あると言えばある。まあまあある。いや、無いかもしれない

 

320:名無しの転生者

 これは巧妙なはぐらかし技術

 まあ、もし仮にイッチがきょぬーグラマラスウマ娘でも、ひんぬーロリロリウマ娘でもワイらはイけるで

 

321:名無しのウマ娘

 鳥肌立ったわ

 

322:名無しの転生者

 それはそうと、色も特に指定は無いやろ?

 

323:名無しのウマ娘

 >>322

 特には。ただ、あくまで下地となる色だからそこは覚えといて

 

324:名無しの転生者

 まあ、色だし変なのは来ないやろ(フラグ)

 

 虹色と黒

 

325:名無しの転生者

 ピンク!

 

326:名無しの転生者

 赤と青

 

327:名無しの転生者

 白と黒で

 

328:名無しの転生者

 黒

 

329:名無しの転生者

 黄色と黒

 

330:名無しの転生者

 黒と赤

 

331:名無しの転生者

 紫

 

332:名無しの転生者

 黒

 

333:名無しの転生者

 誰ですかねぇ虹色と黒とか提案してるの

 

334:名無しの転生者

 目に悪過ぎる()

 

335:名無しの転生者

 あー、ピンクのど淫乱和服着てうまぴょい踊るTSダウナーウマ娘イッチが見たかったなぁ……

 

336:名無しの転生者

 >>335

 天才か

 

337:名無しの転生者

 いや、イッチの世代次第では無敗三冠で最優秀ウマ娘に選出される可能性も……

 

338:名無しの転生者

 >>337

 選出されるとどうなるんです?

 

339:名無しの転生者

 知らんのか?

 

 勝負服が増える

 

340:名無しの転生者

 ……っ!?

 つまり、まだハミパン幼稚園スモッグの可能性はある……!?

 

341:名無しのウマ娘

 じゃあ、黒と赤ね

 

 >>340

 やめてくれ(切実)

 

342:名無しの転生者

 安価は絶対やぞ

 

343:名無しのウマ娘

 ひえっ

 

344:名無しの転生者

 ところでアクセントって何?

 

345:名無しのウマ娘

 なんか、勝負服のワンポイントみたいな?

 ちなみに、耳飾りは髑髏だから参考にでも

 

346:名無しの転生者

 お米の短剣とか、フクキタルの招き猫みたいなもんやろ

 にしても、髑髏とはなかなか安牌な耳飾りやな

 

 てことで、内装のファンが起動することで風が吹きパンツが丸見えになる

 

347:名無しの転生者

 腰のスラスターが展開する!

 

348:名無しの転生者

 着物の袖に焔の刺繍

 

349:名無しの転生者

 鞘入り短刀

 

350:名無しの転生者

 所々に甲冑のパーツ

 

351:名無しの転生者

 口元に竹

 

352:名無しの転生者

 腰 の ス ラ ス タ ー ()

 

353:名無しの転生者

 無から生えた腰のスラスターに無限に笑ってる

 

354:名無しの転生者

 黒系統の着物着て口元に竹は版権的にアウト

 

355:名無しのウマ娘

 所々に甲冑っぽいパーツね

 

 【画像】

 

 描いてみたけど、予想以上にソシャゲのキャラだこれ

 

356:名無しの転生者

 思ったよりイッチの絵が上手くて笑った

 

357:名無しの転生者

 なんだろ、いろいろ見覚えあるけど有りすぎて何が何だか分からん()

 

358:名無しの転生者

 一先ず勝負服のデザインはだいたい決まったな。めちゃくちゃ安牌だけど

 

359:名無しの転生者

 後なんだっけ、志望動機?

 

360:名無しの転生者

 >>359

 勝負服に託す想いな

 

361:名無しの転生者

 勝負服に安価を託すウマ娘とは……

 

362:名無しの転生者

 まあ、中身ヒト息子だし、それくらいがちょうど良いのかも

 

363:名無しの転生者

 一理ある

 

364:名無しのウマ娘

 そういうことや。なんでもええで

 

365:名無しの転生者

 『故郷の家族への想い』

 

366:名無しの転生者

 『今は亡き友の切望』

 

367:名無しの転生者

 『童貞捨てたいワイらの醜望』

 

368:名無しの転生者

 『死んだ弟の応援』

 

369:名無しの転生者

 『転生神ファック』

 

370:名無しの転生者

 『志半ばで散っていったウマ娘達の勝利への渇望』

 

371:名無しの転生者

 『トレーナーへの愛憎』

 

372:名無しの転生者

 うーん、重い!

 

373:名無しの転生者

 ちょこちょこワイらの気持ち混ざってて草

 どうやって説明するねん

 

374:名無しの転生者

 分からんけど安価は絶対

 

375:名無しの転生者

 うーんこの

 

376:名無しのウマ娘

 志半ばで散っていったウマ娘達の勝利への渇望、と

 提出したわ

 

377:名無しの転生者

 これを臆面なく提出するイッチも大概やばい

 

378:名無しのウマ娘

 トレーナーに凄い顔された

 

379:名無しの転生者

 まあ、普通の感性してたらこれは無い

 

380:名無しの転生者

 イッチのトレーナーは絶賛普通じゃない疑惑掛けられてるんですけど

 

381:名無しのウマ娘

 あ、ごめん

 露出減らされるかも

 

382:名無しの転生者

 は?

 

383:名無しの転生者

 は?

 

384:名無しの転生者

 は?

 

 



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4スレ目

 感想とお気に入りと評価か凄いことに……(呆然)
 ありがとうございます!
 これからも応援よろしくお願いします!

 ですが今回はそんなに動きません()


1:名無しのウマ娘

 私がウマ娘として無敗三冠、ジャパンカップ二連覇を成し遂げるまで続くスレッドです。基本自由。

 

 ・注意

 〇荒しはスルー

 〇安価>命=外聞

 〇過去のスレッド一覧はこちら

  →TSウマ娘御魂餓者髑髏寄行文まとめ

 

2:名無しのウマ娘

 新鮮なスレだ!

 

3:名無しの転生者

 珍しくイッチが立てている

 

4:名無しの転生者

 ほんとだ

 

5:名無しの転生者

 今北産業

 

6:名無しの転生者

 >>5

 ・イッチことTSウマ娘ミタマガシャドクロ、安価で大目標無敗三冠&ジャパンカップ二連覇に決定

 ・トレーナーを獲得し、一先ずの小目標ホープフルステークスに向けてトレーニング開始

 ・メイクデビュー、京都2歳Sに勝利←イマココ

 

7:名無しのウマ娘

 >>6

 ワイの代わりに説明感謝

 

 ちなみに今は、同室であり一つ上の先輩であるヤエノムテキさんと、その友人に誘われてショッピングに来てる

 

8:名無しの転生者

 え、なにそれ初耳

 

9:名無しのウマ娘

 待ち合わせ中にスレ立ててたからな。今のが初出

 

10:名無しの転生者

 いや、そっちじゃなくて同室だの先輩だのの方

 

11:名無しの転生者

 あー、と

 

12:名無しのウマ娘

 え、なになに

 

13:名無しの転生者

 いや、ワンチャンだけどイッチの無敗三冠が現実味を帯びてきたかもしれん

 

14:名無しのウマ娘

 まじ?

 

15:名無しの転生者

 マジ

 

16:名無しのウマ娘

 いや、マジって言われても何が何だか分からん

 誰か教えてくれ

 

17:名無しの転生者

 今まで世代が不明だったから誰とぶつかるのか分からなかったのよ。最悪カイチョーとかとぶつかったら先ず無理。1990以降の世代にしてもかなり望み薄

 でも、一個上の先輩がヤエノムテキってことは、もしかするともしかするかもしれない

 

18:名無しの転生者

 つまり、イッチはウマ娘空白の世代……1989世代に生まれた可能性がある、ということだな

 

19:名無しのウマ娘

 く、空白の世代…………って何?

 

20:名無しの転生者

 こいつほんま……

 

21:名無しの転生者

 まあ、イッチをぬか喜びさせる必要も無いだろ

 ウマ娘だから世代もバラバラな可能性だって全然あるし。そもそも、1989世代だって比較するとアレなだけで別に弱いわけじゃないから、イッチがボロ負けすることも有り得る

 後、古馬戦線は地獄だし()

 

22:名無しの転生者

 無敗三冠の方はワンチャンどうにかなるかもだけど、ジャパンカップの方がなぁ……

 

23:名無しのウマ娘

 え、じゃあワイは喜んで良いの? ダメなの?

 

24:名無しの転生者

 黙ってトレーニングしてろ

 

25:名無しの転生者

 トレーニングは嘘をつかん

 

26:名無しの転生者

 根性鍛え直せ

 後、勝負服の露出増やせ!

 

27:名無しのウマ娘

 辛辣で泣いた

 

 >>26

 増やしたらトレーナーに怒られるから嫌

 

28:名無しの転生者

 で、ヤエノムテキちゃんの友達と言うが、具体的には誰?

 

29:名無しの転生者

 そういや、今一緒にショッピングしてるんだっけ?

 うらやまけしからん

 

30:名無しのウマ娘

 >>28

 えっと、ヤエノムテキさんの他にはオグリキャップさん、メジロアルダンさんと一緒やな

 

31:名無しの転生者

 うわ

 

32:名無しの転生者

 イッチ、その子達、君にとっての推定ラスボスやで

 

33:名無しのウマ娘

 ……え、マ?

 

34:名無しの転生者

 マジマジ

 

35:名無しの転生者

 1989、1990の古馬戦線は1988世代と1987世代がヤバいからな

 

36:名無しの転生者

 シングレ勢あまりにも強過ぎる

 正直、イッチの未来は途絶えたとしか思えん

 

37:名無しの転生者

 イッチが負け確なのでイッチのファン辞めます

 

38:名無しの転生者

 頑張れイッチ、負けたら馬刺しやぞ!

 

39:名無しのウマ娘

 おまいらの言いたいことはよーく分かった

 ……安価したる

 

 

 解散の時に切る啖呵は?

 

 >>70

 

 

40:名無しの転生者

 お?

 

41:名無しの転生者

 やるやん⤴︎

 

42:名無しの転生者

 珍しくイッチが男気見せようとしてる

 

43:名無しの転生者

 イッチのファン辞めるの止めます

 

44:名無しの転生者

 ただし相手は1988世代である

 

45:名無しの転生者

 やっぱりイッチのファン辞めます

 

46:名無しの転生者

 フォロワーの増減が激しいウマ娘イッチ

 

47:名無しのウマ娘

 まあ、先輩方も大目標にはほぼ関係無いっぽいしええやろ

 

48:名無しの転生者

 古馬戦線総ナメにするこの子達に勝てないと、この子達に勝つ海外馬に勝てんで

 

49:名無しの転生者

 その上、啖呵切ったら切ったで出なきゃいけないレース増えるしな

 

50:名無しのウマ娘

 え゛

 これ以上レース増えるのはキツイから、やっぱやめ

 

51:名無しの転生者

 許さん

 

52:名無しの転生者

 安価出したのに取り下げるなんて、これは馬刺し案件だねえ

 

53:名無しのウマ娘

 ひえっ

 

54:名無しの転生者

 真面目な話、彼女達に啖呵切るってなったら彼女達とぶつかるであろう宝塚とか天皇賞にも出ないとアカンな

 

55:名無しのウマ娘

 ま、まあここまでくればG1の一つ二つ誤差よ誤差

 

56:名無しの転生者

 >>55

 競馬エアプか?

 

57:名無しの転生者

 エアプも何も知識ゼロだがな

 

58:名無しの転生者

 地獄を見るイッチが楽しみだ

 

59:名無しのウマ娘

 トレーナーと先輩しか優しくしてくれない……

 

60:名無しの転生者

 おん? 喧嘩売ってりゅ?

 

61:名無しの転生者

 そこに優しくしてもらえてるだけ十分勝ち組なんだよなちくせう

 

62:名無しの転生者

 よーし、イッチにとんでもないこと言わせてやるぞー

 

63:名無しのウマ娘

 今更なんだけどこの安価やばない?

 

64:名無しの転生者

 セリフ安価はやばいに決まっとるやろ、もっとやれ

 

65:名無しの転生者

 『安価は命より重い……!』

 

66:名無しの転生者

 『おまえ、もしかしてまだ、自分が負けないとでも思ってるんじゃないかね?』

 

67:名無しの転生者

 『君可愛いね。いくつ? どこ住み? 彼氏いる? てかLINEやってる?』

 

68:名無しの転生者

 『必ず踏み砕いてみせます。お覚悟』

 

69:名無しの転生者

 『三冠は無敗で取る。先輩も倒す。両方やらなくっちゃあならないってのが後輩馬の辛いところだな。覚悟はいいか? オレはできてる』

 

70:名無しの転生者

 『強き者よ、散り候え』

 

71:名無しの転生者

 『レンジでチンして……オシマイだ!!』

 

72:名無しの転生者

 >>69

 馬チャラティ……

 

73:名無しの転生者

 やばいのがゴロゴロと……後、利根川さんと戸愚呂弟は帰ってもろて……

 

74:名無しの転生者

 出会い系おじさんどこにでも湧くじゃん

 

75:名無しの転生者

 まあ、今回はそこそこの重さだな

 

76:名無しのウマ娘

 え、いや、え……?

 マジで先輩にコレ言うんですか???

 てか、全部やばいの何なの()

 

77:名無しの転生者

 言え

 

78:名無しの転生者

 何のための安価だと思ってるんだ!

 お前のウマ娘生を決めてるんやぞ!

 

79:名無しのウマ娘

 もう少し健全な感じのさぁ、ライバルっぽいのとかさぁ、あるじゃん……ねぇ?

 ワイのキャラクター性がどんどん変な方向に……(白目)

 

80:名無しの転生者

 安価は命より重いから仕方ないね

 というか、トレーナーにあんなこと言ったんだからそれこそ今更

 

81:名無しのウマ娘

 くそっ、ワイは先輩方と遊んでくる!

 おまいら童貞スレ民は寂しく雑談してろ!

 

82:名無しの転生者

 お?

 

83:名無しの転生者

 怒らせちゃったねぇ?(憤怒)

 

 

 

 

192:名無しの転生者

 てことでハミパン幼稚園ピンクスモッグで理事長代理とバッティングセンター! これで決まり!

 

193:名無しの転生者

 いやいやいや、ここはピッチリ全身タイツで理事長代理と鬼ごっこ(イッチが鬼)やろ

 

194:名無しのウマ娘

 た、ただいま……

 ワイが悪かったからそれだけは勘弁……(土下座)

 

195:名無しの転生者

 ちゃんと謝れて偉いぞイッチ

 

 だが許さん

 

196:名無しの転生者

 まあやり過ぎると三女神の干渉力でウマ娘は保護されるみたいやし、ワイらも煽られ慣れてるからそこまで本気にはしとらん

 

 が、それはそれとして許さん

 

197:名無しのウマ娘

 ひぇぇー

 

198:名無しの転生者

 それで進捗は?

 

199:名無しのウマ娘

 言ったけど、凄い笑みを返されたわ

 獣に睨まれたお肉の気分

 

200:名無しの転生者

 まあ、この程度の殺伐さなら慣れてるって事なのかもね

 後、ウマ娘って基本的には良い子ばっかだし、本能にスポーツマンシップが刻み込まれてるような節あるから良い風に受け取ってくれたんでしょ(適当)

 

201:名無しの転生者

 かー、つまらん

 

202:名無しの転生者

 まあ、イッチにそこそこ重めの矢印(対抗心)が向いたと思えば……

 

203:名無しのウマ娘

 やめてくれ(切実)

 あ、後、今日はもうひとつ安価があるんや

 

 来年からトレセン学園に入学するらしいボクっ子ウマ娘に、今日の夕方から公園で競走挑まれたんだけどどうする?

 >>220

 

204:名無しの転生者

 こういうので良いんだよ、こういうので

 

205:名無しの転生者

 ……ん? ボクっ子……?

 

206:名無しの転生者

 ちょっと待って、イッチ、その子の名前は?

 

207:名無しのウマ娘

 へ? えーと、なんたらテイオーだったかな……?

 昨日神社向かう途中にいきなり話し掛けられてビックリした

 

208:名無しの転生者

 イッチさぁ……

 

209:名無しの転生者

 キミはギャルゲの主人公か何かなのかね???

 

210:名無しの転生者

 このエンカ率の高さは実はイッチが強いウマ娘の可能性も出てくるな

 

211:名無しのウマ娘

 え、もしかしてこの子ネームド?

 

212:名無しの転生者

 少なくともモブではないねえ

 ていうかアニメ二期の主人公だねえ

 

213:名無しのウマ娘

 >>212

 ()

 

 切実にッ! 帰りたいッ!

 

214:名無しの転生者

 帰るな!

 

215:名無しの転生者

 こんな面白そうなのもちろん行くでしょ

 

216:名無しの転生者

 先ず走ります

 

217:名無しの転生者

 そしたらテイオーに楽しく走らせてあげます

 

218:名無しの転生者

 しばらく走り続けます

 

219:名無しの転生者

 ゆっくりスピードを上げていきます

 

220:名無しの転生者

 そんでもって大差で勝ちます

 

221:名無しの転生者

 最後に全裸になります

 

222:名無しの転生者

 タチ悪いし、最後関係無くて草

 

223:名無しの転生者

 一般通過TSウマ娘のイッチが奇跡の帝王に勝てるわけないだろいい加減にしろ!

 

224:名無しの転生者

 真面目な話、本格化が始まっているであろうイッチと、世代が一つ下のトウカイテイオーならワンチャンあるかもしれんが……

 

225:名無しの転生者

 そもそもなしてイッチはトウカイテイオーに目を付けられたん?

 

226:名無しのウマ娘

 

 ……分からん!

 

227:名無しの転生者

 こいつほんま定期

 

 

 

 




 次回は今回の表やるか、ホープフル行きます


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サイドストーリー:1

 レースしてる時のBGMは仁王2の牛若丸戦の時に流れてるやつか、SEKIROの破戒僧戦の時のやつで……(思い上がり)

 カイチョーはともかくテイオーはここのオリ主相手じゃ曇らないでしょ多分(解釈違い)
 
 追記
 いつも感想、お気に入り登録、評価、誤字脱字報告ありがとうございます。
 本日の感想返しはゆっくりやらせてもらいます。
 


 ・帝王と餓者

 

「来たね」

「……はい」

 

 夕暮れ。

 市内の大きな公園の一角で、二人のウマ娘が対峙していた。

 片やメイクデビュー、京都ジュニアステークスとどちらも大差で勝利した今トゥインクルシリーズ期待のウマ娘ミタマガシャドクロ。

 そしてもう一人は、明るく快活な雰囲気を纏った鹿毛のウマ娘。いまだ幼い風貌ではあるが、それでも見る者が見れば並外れた才気に目を見張ることだろう。少なくとも、既にジュニアクラスも終わりに近付き本格化が始まっているミタマガシャドクロが同じ年の頃と比べれば、彼女は何倍も強かった。

 

 彼女の名前はトウカイテイオー。

 あの皇帝以来、誰も成し遂げていない三冠、それも無敗の三冠を夢見る少女だ。

 

 二人は場所を変えるために歩き出す。目指すはランニングコースだ。

 この時代、ウマ娘専用のランニングコースが付いた公園など珍しくもない。幼いウマ娘は勿論、現役のウマ娘や一線を遠のきながらも走ることを忘れられないウマ娘なども足を運ぶ場所だ。

 だが、時刻は既に日没。

 昼間とは一転してコースには誰もいない。街灯もあるにはあるが、それでも暗い中を走るのは、時速六十から七十キロメートルで走るウマ娘にとってあまり好ましいことではない。必然、夕方からは人も少なくなる。

 トウカイテイオーは、誰も走っていないコースを独り占めできるこの時間が好きだった。

 

「……っ」

 

 ぶるり、少女はスタート地点に立って身震いする。

 今日はいつもと様子が違った。

 彼女にとってそこそこ馴染み深いはずの公園が、いつもとは違う雰囲気に感じられた。

 

 ちらりと隣のミタマガシャドクロを見遣る。

 彼女は平然とコースの先を見据えている。

 

「……本当に、2000メートルで構いませんか?」

「え、あ、うん。いいよ! ボクが誘ったんだし、キミの得意な距離でやってあげる!」

 

 2000メートル、それはミタマガシャドクロが得意な最低距離だ。

 未だG1の一つも勝利していないのだから当然かもしれないが、極端にメディアへの露出が少ない彼女について、トウカイテイオーが知っている数少ない情報の一つである。

 だからトウカイテイオーは彼女の土俵での勝負を望んだ。

 

「ねえ、キミは、本当に無敗の三冠を取れるって思ってる?」

「……獲りますので」

「……ふーん」

 

 そもそもどうして、彼女がミタマガシャドクロに目を付けていたのか。

 それは一部例外はあるものの、メイクデビューを果たしたウマ娘がほとんど必ず受けるインタビューでのこと。

 

『────……ワタシは、無敗の三冠を獲ります』

 

 同期達の中でただ一人、そう宣言した彼女の記事を見た。

 そして先日、彼女が走った京都ジュニアステークスをたまたまテレビで観戦して。

 何より、大好きな皇帝へのインタビュー記事にクラシック有力候補の一人として彼女の名前を見付けてから。

 

 それ以来、トウカイテイオーはどうしてか彼女から目を離せなくなった。

 本当に無敗の三冠を成し遂げてしまうのではないか。テレビ越しに伝わる気迫に、トウカイテイオーはたじろいだ。

 

「ボクは、キミに勝つよ」

「……そうですか」

 

 自分を鼓舞するように宣って、鹿毛の少女はポケットからコインを取り出す。

 

 結局、無敗の三冠の為に彼女と競うことがあるわけじゃない。

 極論、彼女が無敗で三冠を獲得したとしてもトウカイテイオーには関係の無いことだ。

 一番強くて、一番速くて、一番すごい皇帝の背に追いつくためにも余計なことに割く時間も無い。

 

「(……ボクの方がすごい……!)」

 

 だが、だからこそ彼女はミタマガシャドクロに負けたくはなかった。

 皇帝の次に三冠を成し遂げるのは、この帝王だ。彼女にはそんな強い自負があった。

 それが叶わないとあれば、己より先に成し遂げるかもしれない存在に勝つ。それで一先ず溜飲は下がる。

 そこまで明確に考えていたわけではなかったが、凡そ彼女の考えはそうだった。

 

「地面に落ちたらスタートだからね!」

「……わかりました」

 

 きんっと弾かれるコイン。

 それが地面に落ちた瞬間。

 

 トウカイテイオーは駆け出した。

 

「(ミタマガシャドクロがステイヤー向きの追い込みウマ娘っていうことは知ってる。だから、追い付かれないくらい前を走る!)」

 

 世代が上の相手でも、ステイヤーの追い込みウマ娘が相手なら2000メートルくらい前を走り切れる。

 トウカイテイオーにとって世代が上であることなど怯む理由にはならなかった。それくらい、自分の才能を理解していた。

 だから逃げが苦手であっても、走る。バ身はみるみる開いていった。

 

「(やっぱりね。このまま勝って、ボクの方が無敗の三冠ウマ娘に相応しいって見せてやる!)」

 

 恐らく、トウカイテイオーは掛かっていたのだろう。

 それは今回の作戦においても、またその前、ミタマガシャドクロのことを意識し始めてからも。

 それに気が付くことなく、トウカイテイオーは夜のコースを駆け抜ける。

 

「(なんだろ……変だな)」

 

 ふと、1400メートル辺りを通過して残り600メートル。

 トウカイテイオーはなんとも拍子抜けした心持ちになって後ろのミタマガシャドクロに目を遣った。

 そして瞠目した。

 

「っ!?」

 

 まず感じたのは息苦しさ。そして倦怠感。

 

 彼女の後ろから迫り来るのはウマ娘でもなければ、生ける者でもない。

 怨念が突き動かしているかのような白骨の巨人。

 

 有り得ないと、そうは思わなかった。

 トウカイテイオーには、この現象に思い当たる節がある。

 皇帝シンボリルドルフの栄光を見たあの日、彼女が見せた玉座と稲光の幻想。皇帝の意思、レースへの想い。

 きっとこれは、その類だ。

 

 でも、だとしたら、

 

 

「(これが、ミタマガシャドクロのレースへの想い……?)」

 

 

 それを考えた時。

 トウカイテイオーはどうしてか、胸が締め付けられるような思いに駆られた。

 理由は分からない。それでも、その在り方は嫌だと思った。

 

 その一瞬、スピードが緩まったその時。

 

「ぁ」

 

 

 髑髏の巨掌が前を往くトウカイテイオーを()()()()()

 

 

 

 その後のことを、トウカイテイオーはほとんど覚えていない。

 結果は八バ身差の完敗。気が付けば勝負は終わっていた。

 ただただ、切なさと苦しさに胸中を焦がされていた。

 

「……それでは、これで」

「……」

 

 去り行く背中。

 脳裏にフラッシュバックするミタマガシャドクロの想いの具象。

 考えるより先に、彼女は声を上げていた。

 

「ねえ!」

「……どうかしましたか?」

 

 振り向いたその深紅の眼に貫かれて、言葉に詰まる。

 それでもトウカイテイオーは必死に言葉を紡いだ。

 

「キミは、レースをしてて楽しいの……?」

「……楽しい、ですか……どうでしょう」

 

 その答えは何よりも彼女の心中を物語っていた。

 だからこそ、トウカイテイオーにはそれが何よりも許せなかった。悔しかった。

 けれども、それ以上に高揚した。

 

「……来年、ボクはトレセン学園に入学する」

「……仰っていましたね」

 

 何の感慨も抱いていない応答。

 今しがた走った仲だとしても、彼女には関係の無いことらしい。

 誰も眼中に無い。

 

 故に、それは僥倖とトウカイテイオーは笑みを浮かべる。

 

 

 

「────首を洗って待っててよ、ミタマ。ボクが、キミのレースを楽しくしてあげるから」

 

 

 

 その宣言にキョトンとして首を傾げたミタマに踵を向けて、トウカイテイオーは歩き出した。

 

 未だその憧れは遠き皇帝の背中。無敗の三冠ウマ娘。

 

 だが、今日。

 それとは別に、帝王の胸に新たな目標が刻まれた。

 ミタマガシャドクロにリベンジして、彼女をレースで楽しませてみせると。

 

「次は絶対に負けないからねー!」

 

 トウカイテイオーは初めての敗北に燃えた。

 

 

 

 ・ヤエノムテキの見たホープフルステークス

 

「散り候え、ですか」

 

 栗毛の生真面目そうなウマ娘が神妙な面持ちで呟いた。

 彼女ヤエノムテキは、トゥインクルシリーズ年末最後の大一番、希望に満ち溢れたウマ娘達が集うG1レース・ホープフルステークスに盛り上がる中山の観客席でふと思いを馳せる。

 少し前、同じ場所で同期のオグリキャップと先輩のタマモクロスが鎬を削ったばかり。

 再び己を見つめ直すために出走回避を決断したヤエノムテキにとっては複雑な場所だ。

 

 思い返すのは数週間前。

 無事にメイクデビューを終え、続く京都ジュニアステークスも難なく勝利した同室の後輩ミタマガシャドクロ。彼女への祝いを兼ねたウマ娘らしい休日の一幕で、当のミタマガシャドクロが解散際に宣った一言。

 

 入学当時から不思議な子だと思ってはいたが、しかし根はウマ娘。競うことを是とする種族なのだから、当然と言えば当然の宣言であった。

 何より、ライバルであるオグリキャップと己を同列に見て、己にも宣戦布告をしてきたことが嬉しかった。

 

 そして今日、その後輩がG1レースに出走する。

 ヤエノムテキにとって可愛い後輩であり、同時に将来のライバルである彼女の応援をすることに否はなかった。

 

 聞けば彼女の目標は無敗の三冠。

 言い方は悪いがこの程度のレースで躓くようでは、無敗以前に三冠すら怪しいだろう。

 

 紹介が終わり、ファンファーレ。

 続々とゲートインしていくウマ娘達の中に、漆黒の勝負服に身を包んだ後輩の姿を認めた。

 赤と黒の不吉さを感じさせる色合いに、左前の着付け。

 まるで悪霊のようで不謹慎だと思いながらも、なるほど、ヤエノムテキは納得もしていた。

 これが、これこそが彼女の覚悟なのだろう。

 

『各ウマ娘、ゲートインが完了』

『どの子も気合十分といった感じですね』

 

 緊張はしていないらしい。いや、そもそもしていたとしても一切合切顔には出ないだろうが。

 一年は短くもそれなりに長い付き合いだ。彼女がよくぼうっとしていることも、生活能力が壊滅的なことも、その割りには所作が洗練されていてしっかりとした教育を受けているのだろうこともヤエノムテキは知っている。

 

 そして、彼女が強いということも。

 

『ホープフルステークス、スタートしました!』

 

 ゲートが開き、ウマ娘達が一斉にターフへと足を踏み出す。

 それぞれウマ娘には得意な戦法があるわけだが、ミタマガシャドクロは追い込み以外の走りをしない。

 今回はほとんどのウマ娘が前寄りの戦法を取った為、固まったバ群と一人離されたミタマガシャドクロという構図が出来上がっていた。

 

『おっと、八番ミタマガシャドクロ、バ群から離れたところに一人。追い付くでしょうか!』

 

 今回、ミタマガシャドクロは三番人気だ。

 いつも人気は高くないと本人も言っていたが、恐らくそれは彼女の独特な勝ち方によるものだろう。

 事実、ヤエノムテキも初めて彼女と併走した時は己の感覚を疑った。

 そして負けた。

 連敗こそ阻止したものの、気構えていても掻き消すことの叶わないあの感覚は慣れる気がしなかった。

 

 時にG1に勝利するような強いウマ娘は、共に走るウマ娘や、観戦している感覚の鋭いウマ娘、トレーナーにはっきりと知覚させる幻想を生み出す。

 それは個々のウマ娘の力の具象であり、ウマ娘達の想いの具現なのだと言うが、もしもそうなのだとしたら彼女は……。

 

「……」

 

 脳裏に過ぎった嫌な予想を振り払い、ヤエノムテキは意識をレースに向け直した。

 

 第二コーナーを曲がって向こう正面。

 恐らく、ミタマガシャドクロの前を走る彼女達も段々とあの寒気が走る感覚を味わい始めていることだろう。

 

「っ」

 

 第三コーナーに差し掛かり段々と距離を詰め始めた、否、()()()()()()()()()()()()()ミタマガシャドクロを見て、ヤエノムテキはぞくりとした怖気を覚えた。

 

 これだ。

 この感覚。

 実態の無い息苦しさと、得も言われぬ恐怖。

 悠々と走る彼女の背に浮かぶ悪霊のような何か。

 幻想の骨腕を伸ばし、骨掌で前を往くウマ娘たちを握り潰さんとする餓者の髑髏。

 無論、あれは実体が無ければ実像も無い。あくまで私達が彼女によって見させられている幻想に過ぎない。

 それでも、アレは存在するのだ。

 

『おっと、七番ゴールドクレート、失速! ペース配分を誤ったか!』

 

 アレに握り潰されると、不思議と力が抜ける。

 いや、奇妙な話だが()()()()()()()()()のだ。それも負けている時、苦しくても勝利に餓えている時ほど強烈に。

 それは、まるであの怨霊が私達の勝利への渇望を引き継いで大きくなるかのようだった。

 

『おおっと、ミタマガシャドクロだ! ここでミタマガシャドクロが来た! 怒涛の追い上げに他のウマ娘は為す術ない! 先頭に立った!』

 

 違う。いや、間違いではないが、正しくもない。

 ミタマガシャドクロもまた加速しているが、それ以上に他のウマ娘達が失速しているのだ。

 ミタマガシャドクロのスピードはこの時期のウマ娘にしては随分と速い方ではあるが、決して大差勝ちできるほど他のウマ娘との間に能力の差があるわけではない。

 

『一着はミタマガシャドクロ! 大差で今、ゴール板を駆け抜けた! これは凄まじいホープの誕生だ!』

 

 その証拠に、掲示板に表示されたタイムは大差とは思えないほどに凡庸なもの。

 あれが分からない観客達は大盛り上がり。今までの戦法で今まで通りに勝ったのだから、まぐれや相手に恵まれただけというわけではなかったのだと。やれミスターシービーの再来だの、ルドルフ以来の無敗三冠だのとはしゃぎ立てる。

 

 ミタマガシャドクロ本人の申し分無い能力、天才的な駆け引きのセンス、そして例のあの現象が噛み合わさって彼女の出たレースは常に大差から数バ身差の圧勝に終わる。

 トゥインクルシリーズという興行に魅せられる者達は派手さや話題性、純粋な強さを重視する傾向にあるのだから、後方からのごぼう抜きを見せる彼女の姿に盛り上がるのも当然だろう。

 

 勿論、これはあくまでもミタマガシャドクロ本人のスペックに拠るところがほとんど。何も反則は無い。

 聞けば、彼の皇帝も周囲に荘厳な玉座と稲光、そして皇帝の風格を幻視させ、最終直線において驚異的な加速を見せるという。

 そしてライバルであるオグリキャップもまたそうだった。

 あれらは全てひと握りのウマ娘達が放つ強過ぎる煌めきに過ぎない。

 ミタマガシャドクロのアレを煌めきと言うには少々おどろおどろしい気もするが、それはそれとして。

 

 後輩のウイニングライブを待つ間、ヤエノムテキが考えることは一つ。

 今ならばまだ抗えるが、彼女が成長して自身の前に立ち塞がった時。それに加えてもしも同期達に負けていた時、自分がアレに抗えるか分からない。

 もしもそうなったら、同期のライバル達だけでなく、己を倒すと宣言した彼女に申し訳が立たない。何より祖父母に合わせる顔が無い。

 それでも今の己に、アレに抗えるだけの自信も無かった。

 

 ぐるぐると回る思考で導き出した結論は────

 

「……もっと強くならなくては」

 

 良くも悪くも、ヤエノムテキは強く純粋なウマ娘であった。

 

 それはそうと、ヤエノムテキは立ち尽くすミタマガシャドクロに視線を向ける。

 今日は後輩の大一番を見届ける為に来たのだ。ならば見事勝利した彼女に贈る言葉がある。

 

「……おめでとうございます、ミタマさん」

 

 ヤエノムテキは、慈しむような顔で後輩を祝福した。

 



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ホープフルSの後に・『夢の跡 踏み往き語る 希望かな』

 あ〜、ボーナスタイム〜(
 アンチヘイトの意図は欠けらも無いのでタグは付けません。


 ホープフルステークスの後、私は控え室にて今日の主役を待っていた。

 

「あ、ミタマ、お疲れ様!」

「……“とれーなー”さん」

 

 がちゃりと音を立てて入ってきたのは私の担当ウマ娘。いつも通りの様子なミタマの姿に内心ほっとする。

 

 今日、このホープフルステークスが彼女にとって初めてのG1だ。

 G1どころか重賞でもほとんどのウマ娘は重圧を覚えることだろう。緊張に潰されてしまう子だって相応にいる。それくらい、ウマ娘にとってトゥインクルシリーズの重賞レースは重要な物だ。

 故にあれだけ超然的な彼女も例に漏れず緊張しているかもしれないと思ったが、その心配は杞憂であったらしい。

 ミタマは平素と変わらず物静かで朧気な佇まいを崩さなかった。

 レース前だから無理をしているのかと思えばそのようなことも無く、自分の実力を十分発揮して勝利を獲得してきてくれた。

 きっと彼女には良い意味で緊張感が無い。

 ただ走り、斯く在り続ける。彼女はそれを体現している。

 これから最低でも三回はG1に出る。彼女のそういった性質はきっと有利に働くことだろう。

 

 いや、それはそれとして今はそんなことよりも大切なことがある。

 

「おめでとう!」

「……おめでとう、ですか……?」

 

 キョトンとして首を傾げるミタマに頷いて、私はペットボトルを差し出した。

 

「ええ、貴女は今日、無敗でG1ウマ娘になった。無敗の三冠を成し遂げる為のスタート地点に立ったんだよ」

「……なるほど」

 

 実感が湧いていないのかもしれないが、それも無理は無い。

 私は初めての担当が無敗のままG1レースを勝利したことに、彼女の夢である無敗の三冠に確実な一歩を進めたことに大いに喜び、捲し立てるように言葉を紡いだ。

 

「来年からクラシック、勝負の年。弥生賞から始動するつもりなんだけど、それでも良い? 何かあったら聞くよ?」

「……」

「ミタマ?」

 

 ぼうっとした様子のミタマに声を掛けると、彼女はその深紅の眼を此方に向けて口を開いた。

 

「……希望とは、如何なるものでしょうか」

「え」

「……今日、共に走った方々にも夢があった。ワタシには使命があった。ワタシはその夢を踏み潰しました」

「ミタマ……それは……」

 

 私は何も言えなかった。

 何かを言うという発想すら出てこないほど、彼女の言に不意を突かれた。

 

「……いえ、これはきっと、無用な感傷なのでしょうね。気にしないでください」

 

 ミタマには何か思うところがあるのだろう。その言い草は、どこか納得していないように見えて。

 私はこれまでの半年と少し、ミタマを無敗の三冠ウマ娘にするために無我夢中でやってきた。新人なりにやれる限りのことはできたはずだ。

 だが、ホープフルステークスを終えた今、ふと思う。

 

 果たして、私は彼女の何を知っているのだろうかと。

 

 

「……では、“とれーなー”さん。ワタシは“ういにんぐらいぶ”の打ち合わせに行って参ります」

「え、う、うん。頑張ってきてね」

 

 G1を勝利して彼女は嬉しくないのか。そんなはずはない。そう断言することは出来なかった。

 私は彼女を笑顔で送り出せなかった。

 彼女が部屋を出て行ってから、私は椅子に座ったままぼうっと天井の照明を眺めていた。

 

 コンコン。

 控えめなノックの音。

 

「あ、どうぞー」

 

 私は慌てて居住まいを正すと入室を促す。

 そして入ってきた存在に目を剥いた。

 

「やあ、いきなりすまないね」

「え、あ、え……もしかしてシンボリルドルフさんですか?」

「ああ、如何にも。そういう君はミタマガシャドクロのトレーナーくんかな?」

「は、はい! 私がミタマの、ミタマガシャドクロのトレーナーです!」

「そんなに畏まらないでくれ」

 

 そこにいたのは、あの皇帝()()()()()()()()

 無敗三冠に留まらず、計七つの冠を戴いたレジェンド的ウマ娘の一人だ。

 まさかのビッグネームの登場に、私は挙動不審になってしまった。

 いや、仕方ないじゃないか。シンボリルドルフは私の大好きなウマ娘の一人なのだから。もちろん一位はミタマ、と言い張りたいところだが、そう言い張れるだけの資格があるかは正直自分では分からない。

 

 と、それより今は目の前の皇帝だ。

 

「あ、あの、どうかしたんですか?」

「いやなに、ミタマガシャドクロにおめでとうの一言でもと思ったんだが……少し遅かったみたいだね」

「はい、ついさっき打ち合わせに行ってしまって……」

「ああ、気にしないでくれ。私の決断が遅かったのが悪い」

 

 決断?

 いったい、何の決断だろうか。

 疑問を覚えてシンボリルドルフへと目を向ければ、彼女はいつにも増して真剣な顔をして口を開いた。

 

「トレーナーくん。君は、彼女のことをどう思う?」

「どう、とは」

「彼女は、少し違う。何かを抱えている、そう思うんだ」

 

 ……彼女の言いたいことに思い当たる節はあった。

 恐らくシンボリルドルフは、彼女の勝負服申請書に目を通したのだろう。

 トレセン学園の生徒会長である彼女には目を通す義務があるし、それだけの権限がある。

 だからこそ、彼女の勝負服に託す想いを知っているのだ。

 

「志半ばで散っていったウマ娘達の勝利への渇望」

「……はい」

「きっと彼女は大きな物を、それも一人では背負い切れないような物を背負っている」

 

 何を背負っているのか、それまでは分からない。

 分かるかもしれない私が、怖くて彼女に聞けずにいるから。

 

「トレーナーくん、君もアレを見たんだろう?」

「……あの、骨の」

「そうだ。きっと、アレに何かしら答えがある」

 

 レースの時、彼女の背で嗤う大きな怪物の幻想。

 歴戦のウマ娘や、才気溢れるウマ娘がレースの時に見せる現象に似ているが、あれは良くないモノだ。その確信がある。

 もしもあれが彼女の走る理由、アイデンティティなのだとしたら、私はトレーナーとして彼女を助けなければならない。

 触れてはならないものだとしても関係は無い。

 

「……時折、思うんだ」

「?」

「私は全てのウマ娘の幸福を願い、これまでを、今を、そしてこれからも走り続ける」

 

 シンボリルドルフの願い、それは全てのウマ娘の幸福。

 彼女はその為に労を惜しまない。

 私はそんな彼女の高潔な願いに、強い姿に魅せられたのだ。

 

「ウマ娘の根源には走ることへの憧憬がある。そして、勝つことへの執念もまた同様に私達の中に刻まれている」

 

 どこかやつれた様子のシンボリルドルフは、噛み締めるように言葉を紡ぐ。

 そこには、私が知り得ない様々な想いが宿っていた。

 

「私はこれまで、全てのウマ娘の幸福を願いながらも、立ちはだかるウマ娘達の願いを、夢を、想いを、その尽くを踏み砕いてきた」

「でも、それは競走だからで」

「だがな、私は走っている時、自分の本能を何よりも慈しんでいる。勝ちたいという渇望を抑えた試しがない」

「……けど」

「分かっているとも。分かっている。それでも、思うんだ」

 

 競走だから仕方が無い。

 勝者がいれば敗者がいる。勝負とはそういうものだ。

 闘争を望むウマ娘という種族であるのだからなおさらに。

 

 けれど、彼女は優し過ぎる。

 彼女の願いは大きくて、それでいて無垢に過ぎた。

 

「私は、指導者ではあるかもしれないが断じて救済者では無いのだ」

 

 全てのウマ娘の幸福を願うことは、全てのウマ娘にとっての救済者となることではない。そして指導者になるということは、より良い未来を得る為に決断をするということだ。それは時に切り捨てる決断も。

 もし仮に切り捨てたならば、自身を救済者と名乗るのは烏滸がましいにも程がある。

 全てのウマ娘の幸福の為に身を粉にして夢に殉じるということは、全てのウマ娘の為のことではあっても、全てのウマ娘の為になることではないのだ。

 その為にウマ娘の夢を踏み砕くなら尚のこと。

 

「だから彼女が、ミタマガシャドクロがいるんじゃないか、とね」

「え」

「彼女という存在が、私という存在を、私のような勝つ者を恨む全てのウマ娘の総意なのかもしれない」

 

 彼女が何を言いたいのか、私には分かってしまった。

 だからこそ、私は我慢ならなかった。

 

「っ、ミタマはッ! 貴女に罰を与えるために走ってるんじゃない!!」

「っ」

「ミタマは、何考えてるか分かんない時もあるけど、それでも走ってるんだ! 彼女なりに想いを抱いて、ターフに蹄跡を残してる! そんな下らない理由で走ってるわけない!」

 

 気が付けば、私は俯く彼女に声を荒げていた。

 

 確かに私は知らない。

 私はシンボリルドルフが何を思い、何を抱えてきたのかを何一つ知らない。彼女がどれだけ苦悩しているのかなんて、図り知ることすらできない。

 それどころか、情けなくも私は担当であるミタマのことだってほとんど知らないけれど。

 

 だけど、彼女の夢は嘘じゃない。

 

 彼女があの時見せた悲しそうな顔は嘘じゃない。

 

 あの夜の、私と彼女の約束は嘘じゃない。

 

 

「……すまない、こんなことを口にするつもりじゃなかったんだ」

「あ、いえ、私こそ、こんな……」

 

 熱が急激に冷めていくのを感じる。

 私はなんてことを、とは思わなかったけれど、それでも一時の激情に身を任せてしまったことは一人の大人として恥じるべきことだ。

 

「彼女に伝えておいてくれ。ホープフルステークス、優勝おめでとう、と」

「……自分で伝えてください。私の分はもう伝え終わりましたから」

 

 去り際、そんなことを言う彼女に、私は驚くほど冷たい声音で突っぱねた。

 閉じる扉。その隙間から見えた彼女の、切なそうな表情がやけに頭に残っていた。

 

「あー、なんか、複雑」

 

 まるで、理想郷の真実を知ってしまったような気分だった。




 希望とは、如何なるものでしょうか:ホープフルステークスってなんでホープフルなんですかね? ていうか、名前の割りに希望とか夢って感じしないですよねーw

 彼女なりに想いを抱いて〜:えー、ほんとにござ(


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5スレ目

 性癖がバレるるる〜〜()


463:名無しのウマ娘

 弥生賞勝ちました

 

464:名無しの転生者

 は?(困惑)

 

465:名無しの転生者

 は?(唖然)

 

466:名無しの転生者

 は?(威圧)

 

467:名無しの転生者

 は?(歯)

 

468:名無しの転生者

 >>467

 は?()

 

469:名無しの転生者

 ……実はイッチって強い?

 

470:名無しの転生者

 そんな馬鹿な

 ワイらのイッチは根性無しのくそざこウマ娘じゃなかったのか……

 

471:名無しの転生者

 認めん、認めんぞ……!

 

472:名無しの転生者

 責任取って誠意とおパンツ見せい

 

473:名無しの転生者

 面倒なファン多くて草

 

474:名無しのウマ娘

 >>469

 かもしれん

 

 >>472

 見せん()

 

 それはそうと、このまま皐月賞に進む感じなんだが……ワイは思った。

 

 ……最近安価なくない?

 

475:名無しの転生者

 たし蟹

 

476:名無しの転生者

 これは何らかの処罰も検討せねばなりませんね……?

 

477:名無しのウマ娘

 処罰は嫌だが安価が無さ過ぎて困るのも本当

 て事で、安価の案くれ

 

 >>500

 >>520

 

478:名無しの転生者

 まあ、アリな安価ではある

 

479:名無しの転生者

 とはいえ、ワイらはイッチが今どんな状況かいまいち掴めておらぬ

 

480:名無しの転生者

 前回ホープフルに勝ったって言ってから音信不通やったからな

 エターかと心配したで

 

481:名無しのウマ娘

 すまんな、ウイニングライブのダメージがデカすぎたんよ

 

 一応こんな感じや

 ・ホープフルステークス優勝

 ・年越しで初詣

 ・弥生賞優勝

 ・皐月賞に向けてトレーニング←イマココ

 

482:名無しの転生者

 あー

 

483:名無しの転生者

 見る分には良いけど、確かにアレを、元男のコミュ障童貞ウマ娘が踊るってなるとなぁ

 

484:名無しの転生者

 あら不思議、中身は元男のコミュ障童貞なのに外面がウマ娘って思うとヴォエってならない

 

485:名無しの転生者

 ヴォエ(遅れリバース)

 

486:名無しのウマ娘

 ヴォエってなってるじゃん……

 

487:名無しの転生者

 まあ、ホープフルに勝てた時点でワイらはイッチがそこそこ強い外面和風清楚美少女ウマ娘ってことは理解したで

 未だにイッチの外見知らんけど

 

488:名無しの転生者

 ワイは送ってもらったで?

 

489:名無しの転生者

 は?

 

490:名無しの転生者

 は?

 

491:名無しのウマ娘

 >>488

 送ってないです

 

492:名無しの転生者

 ほっ、ワイらのイッチが寝取られたかと思ったで……

 

493:名無しのウマ娘

 ただでさえ、要素属性過多なのに寝取られヒロイン属性まで引っ付けるのはやめてくれ……

 

494:名無しの転生者

 しかし、安価の案か(激ウマギャグ)

 

 ……あれ、そう言えばあれ決めてなくない? ポーズ

 

495:名無しの転生者

 あ

 

496:名無しの転生者

 このワイらが、そんな一番大切なことを……忘れていただと……

 

497:名無しの転生者

 G1勝利した時のポーズ

 

498:名無しの転生者

 G1勝利した時のポーズ

 

499:名無しの転生者

 G1勝利した時のポーズ

 

500:名無しの転生者

 G1勝利した時のポーズ

 

501:名無しの転生者

 G1勝利した時のポーズ

 

502:名無しのウマ娘

 ポーズって何ぞ?

 

503:名無しの転生者

 え、ほら、レース勝った時にさ、やらない?

 

504:名無しのウマ娘

 ? 何を?

 

505:名無しの転生者

 ……もしかしてイッチ、レースに勝った後、すぐに帰ってる?

 

506:名無しのウマ娘

 え、他にすることなくない?

 

507:名無しの転生者

 ()

 

508:名無しの転生者

 こいつほんま定期

 

509:名無しの転生者

 まあ、イッチがこういうヤツってことは知ってました

 そんなんだから友達できんのやぞ←友達0人

 

510:名無しのウマ娘

 チクチク言葉いくない(白目)

 なんかポーズしなきゃいかんのか、真面目に頭に無かったわ

 

511:名無しの転生者

 これからはなるべくやるんやぞ

 

512:名無しの転生者

 しかし、G1レースに勝利した時のポーズって言っても、三冠達成するまで恐らく他のG1には出ないだろうし、しばらくはお披露目できないな

 

513:名無しの転生者

 まあそこは仕方ない

 

514:名無しの転生者

 あ、そうじゃん、そっちも決めてなかったわ

 

515:名無しの転生者

 あー、ね

 

516:名無しの転生者

 皐月賞、日本ダービー、菊花賞勝利時のポーズ

 

517:名無しの転生者

 重要

 

518:名無しの転生者

 三冠時のポーズ

 

519:名無しの転生者

 三冠時のポーズ

 

520:名無しの転生者

 三冠時のポーズ

 

521:名無しの転生者

 まあ残当

 

522:名無しのウマ娘

 三冠の時には固有モーションがあるんか

 

523:名無しの転生者

 まあ、似たようなもの

 

524:名無しの転生者

 カイチョーとかテイオー様は冠の時に指立てる

 皐月で一冠目だから人差し指立てて1、二冠目の日本ダービーで人差し指と中指の2、最後の菊花賞で三冠目の人差し指、中指、薬指の三本指で3って感じ

 

525:名無しの転生者

 その流れで行くと指立てる感じになるか

 

526:名無しの転生者

 まあそれでも良いけど……普通過ぎるな

 

527:名無しの転生者

 普通とは……()

 

528:名無しの転生者

 無敗どころか三冠獲るだけでも普通じゃないんだよなあ

 

529:名無しの転生者

 今回イッチが他の板のウマ娘転生者と違って才能アリアリっぽいから三冠どうのこうので盛り上がっているのであって、普通は転生者ですら獲れないのが三冠なんやで

 

530:名無しのウマ娘

 それを聞くと三冠やばいな。ワイに獲れるんか……

 

531:名無しの転生者

 獲れなかったらトレーナーと一緒にファイアーやで

 

532:名無しのウマ娘

 うぅ、やるしかないのか……

 

 G1勝利した時のポーズ

 >>550

 三冠時のポーズ

 >>560

 >>570

 >>580

 

533:名無しの転生者

 ちゃんと分けるの偉い

 

534:名無しの転生者

 そもそもイッチにはどんなポーズが似合うのか

 

535:名無しの転生者

 似合わないポーズをさせるのもアリ

 

536:名無しの転生者

 ダブルピースとか?

 

537:名無しの転生者

 ドロップキックとか?

 

538:名無しの転生者

 腕ぐるぐるとか?

 

539:名無しの転生者

 例のバグかな?

 

540:名無しの転生者

 ヌッ!

 

541:名無しの転生者

 ガタッ!

 

542:名無しの転生者

 黒髪赤目無表情ウマ娘イッチにどんなポーズでもさせて良いと聞いて

 

543:名無しの転生者

 これは激戦の予感

 

544:名無しの転生者

 エヘ顔ダブルピース

 

545:名無しの転生者

 胸の前でハート作って満面の笑み

 

546:名無しの転生者

 くるっと回って上目遣いで覗き込む!

 

547:名無しの転生者

 雌豹

 

548:名無しの転生者

 指と指合わせてから流し目でクスリ

 

549:名無しの転生者

 兎さん

 

550:名無しの転生者

 指笑顔

 

551:名無しの転生者

 はいあざと可愛い

 

552:名無しの転生者

 イッチがガチで無表情ウマ娘なら最適解来たのでは???

 

553:名無しのウマ娘

 指笑顔ってなんぞ?

 

554:名無しの転生者

 両の人差し指で口角持ち上げて作る笑顔

 

555:名無しのウマ娘

 >>554

 あー、あれね。完全に理解した←した

 

556:名無しの転生者

 不安な返しが来たが、なんやかんややり遂げるイッチではあるので信頼しておこう……

 

557:名無しの転生者

 で、ほとんど尺無いが三冠の方はどうする

 

558:名無しの転生者

 まあ、最悪無難なやつで良い感じはある

 

559:名無しの転生者

 客席に向けて指一本

 

560:名無しの転生者

 客席に向けてお辞儀してから指一本

 

561:名無しの転生者

 客席に向けて指一本

 

562:名無しの転生者

 おっと

 

563:名無しの転生者

 まあ、多少はアレンジあった方が良いかもな

 

564:名無しの転生者

 むしろここまで来ると流れに任せるか

 

565:名無しの転生者

 仕方ない。イッチに似合いそうなやつにしてやるか

 

566:名無しの転生者

 てことで、客席に向けてお辞儀してから指二本

 

567:名無しの転生者

 客席に向けてお辞儀してから指二本

 

568:名無しの転生者

 客席に向けてお辞儀してから指二本

 

569:名無しの転生者

 ワイは流れ壊すのを諦めんで!

 腕ぐるぐるしてから指二本!

 

570:名無しの転生者

 客席に向けてお辞儀してから指二本

 

571:名無しの転生者

 珍しいな

 

572:名無しの転生者

 何が?

 

573:名無しの転生者

 珍しくワイらがイッチに変なことさせようとしとらん

 

574:名無しのウマ娘

 いつもワイに変なことさせようとするのに、今日はなんか優しい……(感激)

 

575:名無しの転生者

 嵐の前の静けさなのか……

 

576:名無しの転生者

 客席に向けてお辞儀してから指三本

 

577:名無しの転生者

 客席に向けてお辞儀してから指三本

 

578:名無しの転生者

 客席に向けてお辞儀してから指三本

 

579:名無しの転生者

 客席に向けてお辞儀してから指三本

 

580:名無しの転生者

 何もせず帰る

 

581:名無しの転生者

 あ

 

582:名無しの転生者

 あ

 

583:名無しの転生者

 やっちゃったねぇ〜

 

584:名無しの転生者

 やってやったぜ(恍惚)

 

585:名無しの転生者

 無敗で三冠達成したのに最後何もせず帰るのやば過ぎ()

 

586:名無しのウマ娘

 ……()

 

587:名無しの転生者

 あ

 

588:名無しの転生者

 イッチが息してない! メディック! メディーック!

 

589:名無しの転生者

 コミュ障童貞根性無しチキンウマ娘には荷が重かったか

 

590:名無しの転生者

 思ったんだが、イッチ、割と根性ある方では?

 

591:名無しの転生者

 根性ある(安価に限り)

 

592:名無しの転生者

 ヤケになってるだけでしょ(名推理)

 

593:名無しの転生者

 知ってた()

 

 

 

 



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サイドストーリー:2

 だーかーらー! カイチョーアンチじゃねえって!(白目)
 主人公のコンセプトがこんなんだからカイチョー特攻付いてるだけで、別にカイチョーは何も悪くないんです。私は初めて担当したウマ娘であるカイチョーを信じていますよ!

 そして、ミタマガシャドクロのファンアートをいただいてしまいました! あらすじに載っけてあります! 是非ご覧くださいませ。ありがてえ……。

 PS.感想返しが追い付かない……こんなにたくさんの感想、ありがてえ。


 ・朝のひととき

 

 ヤエノムテキの朝は早い。

 早くに起きて日課である鍛錬をこなした後は、シャワーで汗を流して支度を始める。

 その際、朝に酷く弱いためなかなか起きない同室の後輩ウマ娘、ミタマガシャドクロを起こすことを忘れない。

 

 ボサボサになっていながらも艶やかで綺麗な長髪を気にもせず布団の上でぼうっとするミタマガシャドクロは、基本的にヤエノムテキが何もしなければ本当にそのまま制服に着替えて登校する。実際そうして登校してきた時には流石に彼女の正気を疑った。

 この一件以来、ミタマガシャドクロの生活態度を見兼ねたらしい寮長からそれとなく彼女に目をかけてやって欲しいと言われて。ヤエノムテキは先輩としての義務感とひと仕事任された責任感、そして生来の人の好さからミタマガシャドクロの世話をすることになった。

 

 昔は少しばかり粗暴であったヤエノムテキもまた大好きな祖母から身嗜みについて口うるさく言われた経験があるため、ある程度女子の支度には理解があったし、ミタマガシャドクロの世話はどこか犬の世話をするような感じがして、ヤエノムテキは割と今の生活を気に入っていた。

 

「できましたよ、ミタマさん」

「……ありがとう、ございます」

 

 綺麗な黒鹿毛を櫛で梳かしてやれば、ミタマガシャドクロは無表情ながらもぺこりと頭を下げた。

 その礼節を弁えた様は、祖父母から躾られた自分からしても見惚れるほどに丁寧で洗練された所作だ。そういうところはしっかりしているのに、こと生活に関してはだらしがないのは如何なものかと思いもするが、それはそれとする。

 

「来週ですね」

「……はい。この時を、待っていましたので」

 

 来週にはミタマガシャドクロが皐月賞に出走する。

 去年、自身も立ったクラシックの舞台。三冠の一つ目。そして、現状唯一であるヤエノムテキのG1勝ち星。

 同室であり、特に目をかけている後輩でもあるミタマガシャドクロは無事に弥生賞を八バ身差で突破し、今回圧倒的人気一位で挑むことになる。

 巷では彼女の無敗三冠を期待する声、そして自分達去年のクラシック世代と比べては些か見劣りするという心無い声が聞こえる。

 ヤエノムテキ自身、思うところはあった。

 しかし、当の本人が気にしていなさそうである為、特に何を言うことも無い。

 

「ミタマさん、調子はどうですか?」

「……調子、ですか?」

「はい。心体共に万全でなければクラシック三冠の道のりは険しいものとなるはずです」

 

 それはそれとして、後輩の一生に一度の晴れ舞台だ。様子が気になるのも当然というものであり。

 ミタマガシャドクロ自身、全く顔に出ないタイプなのもあって、ヤエノムテキはそれなりに彼女のことが心配なのであった。

 

「……良い、と思います。“とれーなー”さんがよく気にかけてくださっていますので。それに……」

「それに?」

 

 一度言葉を切ると、ミタマガシャドクロはヤエノムテキの瞳を見詰めて小さな口から言葉を紡いだ。

 

「……ヤエノさんが、いつもワタシを気にかけてくださいますから。きっと、大丈夫でしょう……ええ、抜かりなく、澱みなく」

「そうですか。それなら良かったです」

「……はい」

「当日は皆さんと応援に行きますから」

「……ありがとうございます。そう、お伝えください」

 

 彼女はこういうウマ娘だ。

 きっと大丈夫だろう。大丈夫のはずだ。

 ヤエノムテキは、それでも不安を覚えずにいられない自分に言い聞かせるように心の中で呟いた。

 

 

 ・皐月賞

 

 中山レース場はいつにも増して盛り上がりを見せていた。

 何を隠そう、ここまで常に後続に八バ身以上の差をつけて勝利を重ねてきた無敗のG1ウマ娘ミタマガシャドクロが出走するのだ。

 彼の皇帝シンボリルドルフ以来となる無敗の三冠、それを最初に成し遂げるのは彼女かもしれない。そんな期待から中山は例年の皐月賞とは少し違う、異様な熱気に包まれている。

 

 地下バ道。

 そこに本日の主役と言っても良いウマ娘、ミタマガシャドクロはいた。

 地下バ道を通り、出走するウマ娘達の幾人かに険しい顔をされながらも彼女は無表情で佇む。

 少しして、一人のウマ娘が現れた。

 

「待たせてすまないね、ミタマガシャドクロ」

「……」

 

 ミタマガシャドクロは表情ひとつ変えずにそのウマ娘と相対する。

 しかし、この場に彼女のトレーナーがいたのなら、きっと彼女の様子に驚いたことだろう。

 

「……シンボリ、ルドルフ……さん……」

「……今日はキミを激励しに来たんだ。あまり身構えないでくれ」

 

 結局のところ、ミタマガシャドクロにとってのシンボリルドルフは遥か頂上に君臨する存在でしかない。いや、ほとんどのウマ娘にとってそれは普遍の事実である。

 畏怖と敬意と憧憬と、それらの複雑極まりない感情の奔流を一身に集めて尚、皇帝シンボリルドルフはそれら全てを愛おしく思い受け止めることだろう。

 だが、ミタマガシャドクロの視線に含まれるソレは毛色が違う。

 

『────コウ、テイ……コウテイ……皇帝……!』

 

 そこに、否、その背後のソレがシンボリルドルフに向けるのは怨みだ。

 ターフを離れてもなお抑えきれず、たった一人のウマ娘の少女を媒体にしてこの世界に顕現する怨霊の憎悪だけが、今、シンボリルドルフに向けられていた。

 

『敗レロ、地ニ這イ蹲レ、夢ノ骸ヲ晒セ……!!』

「っ」

 

 こんなものが、目の前の少女のウマ娘としての生き甲斐を呪いに変えてしまっているのだとすれば。

 シンボリルドルフは堪えようのない憤りを覚えると同時、もしも彼女もまた己を恨んでいるならば、と考えずにはいられない。

 ただこの怨霊がシンボリルドルフに怨嗟の念を向けるならば構わない。それは、シンボリルドルフの罪だ。背負うべき十字架だ。

 

 だがもし、当人であるミタマガシャドクロがシンボリルドルフを恨んでいるとすれば?

 それは正に地獄だ。地獄と言う以外に何ら形容できる言葉の無い、シンボリルドルフというウマ娘の夢の跡である。

 全てのウマ娘の幸福を願い、ターフを走っておきながら、自分に恨みを抱く次世代のウマ娘が生まれているのだとすれば。

 

 乃ち、それは皇帝シンボリルドルフの道程の全否定に他ならないのだから。

 

「キミは、私を恨んでいるのか……!?」

「……」

 

 シンボリルドルフはそう問わずにはいられなかった。

 答えを聞かなければ、おかしくなってしまいそうで。見ないふりをしてきた後悔と焦燥、そして疑念という己の夢への侮辱がその身を焼き付くしてしまいそうで。

 

「答えてくれ、ミタマガシャドクロ!」

 

 声を荒げて問うシンボリルドルフに、ミタマガシャドクロは何も言わない。

 何を言う必要も無い。言葉にする意味が無い。それこそが答えなのだ。

 

「お願いだ……答えてくれ……」

 

 崩れ落ちそうなシンボリルドルフを見兼ねてか。

 ミタマガシャドクロは静かに口を開いた。

 

「……強いウマ娘は、己の夢にこそ真摯であろうとする。夢という甘い理想にのみ誠実で在らんと想う」

「っ」

「……その努力、研鑽、そして死闘と蹂躙をこそ理想を果たす為に何より正しいものであると肯定する」

「そ、そんなことは……」

 

 ことここに及んでは何を言うこともできはしないのだ。ただ、彼女の紡ぐ言の葉を受け取るしかない。

 それが鋭く研ぎ澄まされた刃であることを知りながら。

 

「……だから、ワタシ達がいる。怨恨に満ちた“たーふ”を駆け、その想いを受け継いで、強き者に引導を渡さんと刃を秘めるワタシ達が」

「キ、キミは、それで良いのか……!?」

「……はい、それで構いません。ワタシは、その為に走っているのですから」

 

 これ以上言うことはない。

 ミタマガシャドクロは背を向けてレース場へと歩み出す。

 

「……これから、“れーす”ですので。失礼致します」

「ぁ……」

 

 去り行く背中にかける言葉は見つからず。

 その背の夢の骸に手向ける花を、シンボリルドルフは持たなかった。




 皇帝の心に負荷掛け過ぎじゃない?:それはそう。でも仕方ない。きっと息子が光を見せてくれる。

 後半の語り:……?



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6スレ目

 答え合わせをしよう。
 ミタマガシャドクロの要素:餓者髑髏、純和風、ダウナー、黒髪、ティルフィング、cv.能登麻〇子さん、赤い彗星の再来、マティリアル
 カンの良い読者様ばかりで参っちゃいますね(白目)

 かげ様から二つ目のFAをいただいてしまいました! 尊さでデジたんになるるる〜^
 あらすじの方に載せさせていただきましたので、ご確認くださいませ!

 PS.
 要素云々はあくまで要素ですからね! 必ずしもそうとは限りませんからね!(念押し)


51:名無しのウマ娘

 ちょっと

 

52:名無しの転生者

 どした?

 

53:名無しの転生者

 まだダービーじゃないやろ

 

54:名無しの転生者

 いやー、前回のセリフ安価は会心の出来でしたね(恍惚)

 

55:名無しの転生者

 イッチがマジで無敗三冠獲れそうやからって、最近はこの板も賑やかになったな。そのせいで変なのもちょくちょく入ってきたが……

 

56:名無しのウマ娘

 インタビュー来た! どうしよう! 何も話せん!

 

 >>54

 ゆ゛る゛さ゛ん゛!

 

57:名無しの転生者

 ペロ……これは、安価……!

 

58:名無しの転生者

 コナンくんは転生者掲示板なんて覗かないから(過激派)

 

59:名無しのウマ娘

 いや、そんなネタやってる暇無いんだって……!

 マジで何も話せないんだが。お助け

 

60:名無しの転生者

 いつになくイッチが切羽詰まってるな

 

61:名無しの転生者

 まあ、たとえ無敗で皐月賞勝ったウマ娘だからって、中身は童貞コミュ障根性無しと三拍子揃ったダメ転生者だから仕方ない

 

62:名無しの転生者

 >>61

 チクチク言葉反対!

 

63:名無しの転生者

 >>61

 やめろ、それは皆に効く……

 

64:名無しの転生者

 ワイらいっつも効いてるな……

 

65:名無しのウマ娘

 そんなことより安価

 何言おう?

 

 ・三冠路線の手応え

 >>100

 ・今後の展望

 >>120

 ・ファンに向けての一言

 >>140

 

66:名無しの転生者

 相変わらず間隔が長すぎる……ッ!!

 

67:名無しの転生者

 まじでなw

 

68:名無しの転生者

 まあ、その分煮詰められるからありがたいと言えばありがたい

 

69:名無しの転生者

 というか、ホープフル勝ってるならクラシック本命のはずだし、余裕で年明けインタビュー祭りだと思うんだが

 

70:名無しの転生者

 そうじゃん。もしやイッチ、ワイらが知らんところでなんかやらかしたか?

 

71:名無しのウマ娘

 な、何もやらかしてない……はず

 

72:名無しの転生者

 >>71

 ええー? ほんとにござ(

 

73:名無しの転生者

 怪し過ぎる()

 

74:名無しのウマ娘

 ワイの信頼度妙に低いのなんなん?

 

75:名無しのウマ娘

 あ

 

76:名無しの転生者

 い

 

77:名無しの転生者

 うえお

 いきなり、どした?

 

78:名無しのウマ娘

 今聞いてみたんだけど、なんか、トレーナー様がめっちゃ頑張ってインタビューを断りまくってくれてたっぽい

 ワイがインタビューなんて受けたらあることないこと好き放題書かれるに決まってるからって

 

79:名無しの転生者

 これは有能

 

80:名無しの転生者

 まじでイッチのトレーナー有能では?

 

81:名無しの転生者

 恐らく、理事長とかそこら辺から一回くらいインタビュー受けさせろって圧掛けられたんやな……

 

82:名無しの転生者

 まあ、観念して受けろってことやな

 

83:名無しのウマ娘

 どうして負けてしまうんだ、トレーナー様……

 

84:名無しの転生者

 で、一つ目はクラシック路線の手応えだっけ?

 

85:名無しの転生者

 手応えって言っても、ワイら別に走ってないからなぁ

 

86:名無しの転生者

 雑魚過ぎて相手になりませんね、とかでええんとちゃう?

 

87:名無しの転生者

 >>86

 これは紛うことなきメスガキイッチ……

 

88:名無しの転生者

 分からせなきゃ(使命感)

 

89:名無しのウマ娘

 ひええ……

 

90:名無しの転生者

 イッチ的にはどう?

 

91:名無しのウマ娘

 >>90

 んー、なんかみんな勝手に沈んでいくからあんまり本気出してない感じ?

 

92:名無しの転生者

 うーわ、出たよナチュラルボーン強者

 

93:名無しの転生者

 知ってるか? こいつ、こんななのにカイチョーにあんな啖呵切ったんだぜ?

 

94:名無しの転生者

 その説は大変美味しくいただきました(恍惚)

 

95:名無しのウマ娘

 >>94

 こいつ……!

 

96:名無しの転生者

 『この後も全部大差で勝ちます』

 

97:名無しの転生者

 『やれるだけやりたいと思います』

 

98:名無しの転生者

 『雑魚ばっかでお話にもなりませんわね』

 

99:名無しの転生者

 『ワタシ以外は止まって見える』

 

100:名無しの転生者

 無言

 

101:名無しの転生者

 『勝利はあげません!』

 

102:名無しのウマ娘

 無難なの来た! やった!

 

103:名無しの転生者

 無難……か……?

 

104:名無しの転生者

 少なくとも初インタビュー、質問一つ目から無言なのは問題しかない

 

105:名無しのウマ娘

 >>104

 それもそうじゃん……!

 

106:名無しの転生者

 最近台詞安価がアレ過ぎて、イッチの感覚がおかしくなってるの笑うわ

 

107:名無しの転生者

 おいたわしやイッチ上……それはそうと俺の安価は美味かったかい?

 

108:名無しのウマ娘

 救いは……無いんですか?

 

109:名無しの転生者

 >>108

 無い

 

110:名無しの転生者

 まあ、何も言わないっていうのが他より少しマシなのは本当だから、そう思っておけばダメージも少ないよ、うん

 

111:名無しのウマ娘

 >>110

 もうどっちにしろヤバいって気が付いちゃってるんですけどそれは……

 

112:名無しの転生者

 イッチのことは置いといて、次だ次ィ!(無慈悲)

 今後の展望はジャパンカップ連覇とかか?

 

113:名無しの転生者

 どういった走りをしたい、とか、どういった相手と戦いたい、みたいなのでも良さそうだが

 

114:名無しのウマ娘

 どっちでもええで。……できれば無難な目標レースがありがたいかも……?

 

115:名無しの転生者

 目標レースだと面白み無くて微妙だし、後者の方が良さそうではある

 

116:名無しの転生者

 それもそうね。てことで、

 『先輩みんなパクパクですわ!』

 

117:名無しの転生者

 無慈悲過ぎて笑った

 『シニア戦線は総ナメします』

 

118:名無しの転生者

 『トレーナーも舐め舐めします』

 

119:名無しの転生者

 『三冠獲ったら次いでにトレセンの頂上も貰います』

 

120:名無しの転生者

 『オデ、先輩、みんな食う』

 

121:名無しの転生者

 あーあ

 

122:名無しの転生者

 誰かがやるとは思ってました(小並感)

 

123:名無しの転生者

 やっちゃったねぇ!(白目)

 

124:名無しのウマ娘

 ()

 

125:名無しの転生者

 イッチもようタヒぬ

 

126:名無しの転生者

 まあ、これぞ安価の醍醐味なので仕方無し! 次だ次!(take2)

 

127:名無しの転生者

 ファンに向けての一言ねぇ

 

128:名無しの転生者

 そもそもイッチにファンなんておるんか?

 

129:名無しの転生者

 それはワイも思った

 

130:名無しの転生者

 逆にコアなファンは比じゃなさそうだが

 

131:名無しの転生者

 史上二人目の無敗三冠ウマ娘候補ってだけでもファンは相当数いそうだけどな

 ジャポンなら尚更

 

132:名無しの転生者

 それはそう

 

133:名無しの転生者

 ちぇっ、モテモテイッチかよ(僻み)

 

134:名無しの転生者

 気になったんだけど、モテモテってもう死語なん?

 

135:名無しの転生者

 >>134

 知るか() 激マブに聞け!

 

136:名無しの転生者

 『愛してるよ、ポニーちゃん』

 

137:名無しの転生者

 トレーナーの住所暴露

 

138:名無しの転生者

 『君可愛いね。いくつ? どこ住み? 彼氏いる? てかLINEやってる?』

 

139:名無しの転生者

 唐突に地面を踏み砕く

 

140:名無しの転生者

 『ワタシは自身を器と規定しています。ターフに散っていったウマ娘達の宿願を受け止める器です。彼女達がそう望むのでしたら、ワタシは無敗の三冠を獲りましょう。この身は、その為のモノです』

 

141:名無しの転生者

 『三冠は無敗で取る。先輩も倒す。両方やらなくっちゃあならないってのが後輩馬の辛いところだな。覚悟はいいか? オレはできてる』

 

142:名無しの転生者

 ウマ・フロンタルと馬チャラティの熾烈な争い……

 

143:名無しの転生者

 ウマ・フロンタルVS馬チャラティVSダークライ

 

144:名無しの転生者

 まーたダークライが戦わせられてるよ()

 

145:名無しの転生者

 >>138

 隙あらば出会い厨になるじゃんw

 

146:名無しの転生者

 さらっと流されてるけど、住所バラされそうになってるトレーナーェ……

 

147:名無しの転生者

 >>140

 ファンじゃなくて亡霊に向けてて草

 

148:名無しのウマ娘

 ……まあ、普通、かな?

 

149:名無しの転生者

 普通とは???

 

150:名無しの転生者

 無難じゃないから、イッチ的にはヤバいけど普通な台詞ってことでしょ

 

151:名無しの転生者

 修羅の心持ち……

 

152:名無しの転生者

 実質ワイらの安価の器ではあるからモーマンタイ

 

153:名無しの転生者

 ヌッ

 

154:名無しの転生者

 >>153

 いま、ヌッてなる要素ありました……?

 

155:名無しの転生者

 >>153の性癖おかしいよ……

 

156:名無しの転生者

 転生者掲示板のスレ民の情緒と性癖がおかしいのはいつものことぞ

 

157:名無しのウマ娘

 と、取り敢えず、ワイはインタビュー逝ってくるわ(白目)

 

158:名無しの転生者

 イッチの風評被害が、加速する……ッ!!

 

159:名無しの転生者

 実際インタビューでこれは、ねぇ?

 

 

 

 



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サイドストーリー:3

 おや、骨の様子が……?

 そしてかげ様からファンアートがたくさん……ありがてぇ……。あらすじに載せさせていただきましたので、是非ご確認くださいませ。パンクミタマすこ。ネイル含めて多分シチー先輩のコーデだと思うんですけど(名推理)


 ・インタビュー

 

 無敗三冠。

 当事者たるトゥインクルシリーズ・クラシッククラスで走るウマ娘だけでなく、ウマ娘の走りに夢を見て、その走りに夢を託す大勢にとって、それは正しく夢そのものだ。

 強いウマ娘だけが成し遂げられる三冠の、更にその上。本当に強いウマ娘だけにしか成し遂げられない領域の走り。

 三冠は分け合うものという認識も少なくはないほどに、そこに集う者達の実力が伯仲しているのがクラシッククラスであり、一冠を取れるだけでもこの上ない栄誉。三冠の時点で夢物語のように感じている者もいるだろう。そこまで無敗で駆け抜けると言うなら尚更に。

 

 だが、今、そんな無敗の三冠に手を掛けるウマ娘がいた。

 

「と、ミタマガシャドクロさんには大いに期待が寄せられていることと思います」

「……」

 

 無言で己を見詰めるウマ娘、ミタマガシャドクロ。

 勝負服姿で姿勢良く座る姿は良家の令嬢を思わせる。しかし、その左前の死装束じみた着付けからは不吉なものを感じざるを得なかった。まるで空虚で人形のような応対からは尚のこと。

 

 想定通りに過ぎる彼女の反応に内心で苦笑を零しながら、今回運良くインタビューの席を勝ち取った記者の男は兼ねてより予定していた質問に入る。

 

「三冠路線における手応えは如何でしょうか?」

「……」

 

 なんとも無難な質問ではあるが、こういったオーソドックスな質問は必須だ。

 ファンも、そうでない者達もその答えを欲している。

 

「……」

「あの……」

 

 しかし、尚も無言を貫く彼女に記者は面食らう。

 長い沈黙を破って解禁された、今をときめく三冠候補ウマ娘のインタビュー。

 これまで一度たりともインタビューに応じない姿勢から界隈では様々な憶測が飛び交う中、最も有力であったのは彼女がインタビューを苦手とする説だ。そんな中での待望のインタビュー解禁ともなれば、予想される質問に対しての回答を幾つか用意してきているだろうというのは当然の見立て。

 それでも無言でいるということには意味があるのだろう。

 記者の男がそう判断するのは極々自然なことで。

 

「それなら、質問を変えましょう」

「……」

「三冠に懸ける想いは?」

 

 男はベテランで、優秀な記者であった。

 ゆえに求められているものを理解していて、その為ならば予定に無い質問を繰り出すことも厭わない。

 

 だからこそ、記者の男はそこに()()を見た。

 

 

 

『────勝利ヲ、タダ勝利ノミヲ……!』

 

 

「っ!?」

 

 息が詰まる。

 なんだこれは。

 そこに何が居る。

 何が話し掛けてきているのだ。

 視界には映らず、存在感すら曖昧なのに、確かにナニカがそこに居る。そのナニカが彼女の代わりに想いを答えた。

 

『ウマ娘デ在ルカラニハ、負ケラレナイ想イガ、踏ミ躙ラレタ願イガ有ル。ソレヲ叶エタイノ』

 

 そこに在るナニカは一転して流暢に言葉を連ねる。それは男が望んでいた答えであり、予期しない答えだった。

 その時、ゆっくりとミタマガシャドクロが口を開く。

 

「……ワタシは、三冠を獲れなければ、死んでも構いません」

「っ」

 

 確かに死んでも構わない程の熱意を三冠に向けるウマ娘は多い。誰も、獲れたら獲るなどといった考えでは臨まないだろう。

 でも、これは書けない。こんなものを記事にするなど正気の沙汰じゃない。

 

「……あの……」

「あ、え、あ……す、すみません。次の質問に行きましょう」

 

 この子は危うい。

 

 絶対に良くない存在であるこのナニカがこの子を、ミタマガシャドクロという一人のウマ娘を狂わせている。そう思えてならない。

 それでもまだ、まだ戻れるはずだ。きっと。誰かがこの子を引き戻してやらなければならない。

 そして、それはライバルのウマ娘や彼女のトレーナーだけにしかできないことだ。自分のような記者の役目じゃない。

 だからこそ、望みを託せるウマ娘を知らなければ。

 男は一縷の望みを懸けて次の質問へと移る。

 

「それでは、少し気は早いかもしれませんが、今後の展望は?」

 

 誰だ。オグリキャップか、ヤエノムテキか。タマモクロスやイナリワンでも良い。

 誰か────。

 

 

『オデ、先輩、ミンナ喰ウ』

 

 

 総身が泡立つような感覚に襲われた。

 今、何と言った?

 ミタマガシャドクロが言ったのではないことくらい分かる。今、この場で会話の主導権を握っているのはオカルトチックなナニカである。

 問題は、その答えだ。

 

 この化け物は、全てを喰らうと宣った。

 

「……」

 

 男はどうすれば良いのか分からなくなった。

 この化け物からすれば、名だたる先達も全て等しく喰らう餌でしかないと言うのか。

 

 長年の経験から、ウマ娘は闘争心だと、勝利への飽くなき希求を秘めた者達だと男は理解していた。

 なるほど確かに彼女は勝利のみを求めているのだろう。

 

 だが、空虚に過ぎる。闘争心がまるで無い。

 望まれたから、背を押されたからそこに立っているかのような、そんな在り方。

 

 男は記者ではあるが、世の中に一定数が蔓延る悪質な者ではない。むしろその逆で、URAやトレセン学園の運営側から大きな信頼を得ている所謂善良な記者だ。

 穿ち過ぎた見方のスキャンダルではなく、ありのままの真実を。飯のタネではなく、あくまでもウマ娘達の在り方を遵守するウマ娘のファンだ。

 

「……ありがとうございます。では、三つ目の質問に移ってもよろしいですか?」

「……」

 

 もしかしたら、もう既にこの子に自我と呼べるものはないのかもしれない。そんな有り得ない考えが浮かぶ。

 意気消沈と次の質問へ移る記者の男に、ミタマガシャドクロはこくりと頷く。

 きっと、この質問にも、彼女は答えてはくれない。

 

「ファンの方に向けて、何か一言お願いします」

 

 少女は俯く。

 先までと違う反応に、男は未練がましくも期待した。

 

「……ワタシは自身を器と規定しています」

「器?」

 

 ぽつりぽつり、少女は語り始める。

 そこに確かに少女の意思が感じられて。記者の男は、嫌な予感を覚えながらも一言一句聞き逃すまいと耳を傾ける。

 

「……ターフに散っていったウマ娘達の宿願を受け止める器です」

 

 なんだ、その在り方は。

 それがウマ娘だと言うのか。そんな想いでターフを走っているのか。

 それではまるで、彼女は彼女自身の意思ではなく、その他者の宿願に走らされているみたいではないか。

 ウマ娘がそんなモノに走らされていて良いわけがない。それがたとえ自分の理想の押し付けであっても、男は、少女をそんな風にした環境に、そしてそれを甘受する少女自身に憤りを覚えずにはいられない。

 

「ほ、本当にそんなモノの為に走っているのか……!? 無敗の三冠は、君が望んだことじゃないのか!?」

 

 気が付けば、あまりにも悲し過ぎるその在り方に、男は声を荒らげていた。

 自分の中にあるウマ娘への夢が、ミタマガシャドクロという、たった一人のウマ娘の存在によって壊されようとしていたから。

 やめてくれ。その先の答えを言わないでくれ。男は無責任にも願った。

 

「……彼女達がそう望むのでしたら、ワタシは無敗の三冠を獲りましょう」

 

 嗚呼。

 少女の背後で赤い眼が爛々と光る。怨霊が、髑髏の姿となって少女を骨腕にて抱き締める。

 

 

「────この身は、その為のモノです」

 

 

 男は目の前が真っ暗になった。

 

 後日、彼は己の記事に当たり障りの無い答えを書き、長年親しんできた記者の職を辞した。

 

 

 

 ・トウカイテイオー

 

「先輩方を全員倒したい、ねぇ」

 

 ミタマが本当にそんなことを言ったのか。私はなんとなく違和感を感じながら、ミニトマトを口に運びつつ雑誌のページを捲る。

 それは己の担当するウマ娘、ミタマガシャドクロの記事を眺めながら、食堂で少し遅めの昼食を摂っていた昼下がりのこと。

 

「ねぇねぇ、キミ!」

「?」

 

 ふと、快活な声に呼ばれて私は振り返る。

 そこにいたのは、明るい鹿毛のウマ娘。たしか、名前はトウカイテイオーだ。

 今年入学してきたウマ娘の一人で、今年度首席のメジロマックイーンに次いで優れた素質を持つウマ娘。トレーナー室でもまだまだデビューは先だと言うのに話題になっていた。

 

「トウカイテイオーよね? どうかしたの?」

「キミってさ、ミタマガシャドクロのトレーナーだよね?」

「? ええ、そうだけど」

 

 今一要領が掴めない。私がミタマガシャドクロのトレーナーだとして、それがどういう用件に繋がるのか。

 そんな私の内面を直感したのか、トウカイテイオーは悪戯っぽく笑うと直球に用件を告げた。

 

「じゃあさ、ボクも担当してよ」

「え?」

 

 固まった。フリーズ。

 いや、固まるしかないでしょ、こんなの。

 

「だーかーらー、ボクの担当になってって言ってるの」

「……参考程度に聞かせて。なんで私なの?」

 

 そうだ。どうして私なのか。

 私でなくとも、トレーナーは沢山いる。優れたトレーナーを探しているなら、新人の域を出ない私などより適したトレーナーはここにはわんさか居るだろう。

 私の疑念に答えるように、トウカイテイオーは口を開いた。

 

「だって、キミはミタマのトレーナーでしょ? それなら、ミタマについて沢山知ってるはずだし、トレーナーとしての能力もちゃんとあるはず。だから、ね?」

 

 いや、えぇ……。

 全く分からない。つまり彼女はミタマを倒したい、ということなのだろうか? それならやっぱり私よりも他のトレーナーの所に行った方が良いに決まっている。

 

「ほら、キミって流され易そうだし。それに、ボクはミタマに勝ちたいけど、ライバルとして勝ちたいわけじゃない」

「?」

「ボクはね、カイチョーみたいになりたいんだ。カイチョーみたいに強いウマ娘になりたい。でも、きっと強いだけじゃなれない」

 

 その言葉には万感の念が込められているように思えた。

 会長、シンボリルドルフみたいになりたい、その言葉に嘘偽りは無く。それでもどこか違う意味合いが、彼女自身も知らない内に含まれているように感じられた。

 

 

「ボクはカイチョーを超えて、カイチョーでも無理だったことを成し遂げる。

 ボクがミタマを幸せにしたら、それはカイチョーよりも凄いってことでしょ?」

 

 

 私は、彼女の言葉に何一つ返すことができなかった。

 その真っ直ぐで力強い面持ちに、私はミタマと出会った時のような、何か運命のようなものを感じていたのだろう。

 

 だから、きっと、彼女が私の二人目の担当ウマ娘になったことは、必然だったのかもしれなかった。

 




 PS.
 トウカイテイオーいつ入学したの?
 トウカイテイオー初遭遇(ミタマジュニア期)→トウカイテイオーとミタマ初レース(ミタマジュニア期末)→トウカイテイオー入学(ミタマクラシック期、四月)


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7スレ目

 物語進めようと思ったけど、最近テンポ良過ぎる気がするからちょっと停滞。
 ちなみに全て安価は達成します。


620:名無しのウマ娘

 ダービーーーーー!!!!

 

621:名無しの転生者

 お、おう…(ドン引き)

 

622:名無しの転生者

 マジでえ?

 

623:名無しのウマ娘

 勝った! 二冠! あと一個!

 

624:名無しの転生者

 これは……来るな?

 

625:名無しの転生者

 うそだ! イッチが無敗の三冠ウマ娘になるなんて嘘だぁぁあ!!

 

626:名無しのウマ娘

 獲っちゃう(かもしれない)んだなぁ、これが!

 

627:名無しの転生者

 強化人間は帰ってもろて……。

 

628:名無しの転生者

 でもここまで来ると、後は本当にイッチの適正距離次第やな。

 

629:名無しの転生者

 イッチ的にはどうなん? 本格化してきてるだろうからもう何となく分かると思うんだけど、3000メートルは行けそう?

 

630:名無しのウマ娘

 うーん、むしろ長い方が良いかもって感じ

 

631:名無しの転生者

 なら問題無さそうやな

 でも獲ったら獲ったで最後は無言で帰ることになるし、獲れなかったら焼肉だけど

 

632:名無しのウマ娘

 救いは、無いんですか……?

 

633:名無しの転生者

 無い

 

634:名無しの転生者

 これが安価よ

 

635:名無しの転生者

 ナムサン!

 

636:名無しの転生者

 それなら、ここから夏の合宿に入るわけやな

 

637:名無しの転生者

 >>636

 そう言えばそんな時期か

 

638:名無しのウマ娘

 な、夏の合宿……っ!? ……て何?

 

639:名無しの転生者

 こいつほんま定期

 

640:名無しの転生者

 え、あれ、夏の合宿って去年の夏場にやらなかった?

 

641:名無しのウマ娘

 去年の夏は実家でトレーニングしてたけど

 

642:名無しの転生者

 実家……

 

643:名無しの転生者

 イッチの実家謎過ぎる

 

644:名無しのウマ娘

 すごい古風で、私服は着物しか着せてくれないけど多分普通の家

 

645:名無しの転生者

 普通とは

 

646:名無しの転生者

 分からない…イッチの普通が分からないよ…

 

647:名無しのウマ娘

 で、そんなことより夏の合宿って何ぞ?

 

648:名無しの転生者

 そんなことではないが……まあ、イッチの実家は凄い気になるけど今はどうでも良いか!(思考放棄)

 

649:名無しの転生者

 説明しよう! 夏の合宿とは、夏の合宿である!

 

650:名無しの転生者

 ナレーターまで思考放棄してるじゃん……

 

651:名無しの転生者

 夏に合宿はそのまんま。七月と八月の二ヶ月間、海辺で練習したりお祭り行ったりするイベントやで

 

652:名無しのウマ娘

 >>651

 なるほど

 安価する余地は?

 

653:名無しの転生者

 まあまああるねえ!

 

654:名無しのウマ娘

 ならこのスレの本分は果たせるな(安心)

 

655:名無しの転生者

 イッチは今年は実家に帰らないんか?

 

656:名無しのウマ娘

 ママ上に三冠獲るまで帰ってくるなと言われました…

 

657:名無しの転生者

 ママ上ェ……

 

658:名無しの転生者

 これは実質勘当……?

 

659:名無しの転生者

 イッチが三冠獲れば問題無いからヨシ!

 

660:名無しの転生者

 でも、合宿中の予定が分からんと安価のしようが無いな

 

661:名無しのウマ娘

 >>660

 ふっふっふ。こんなこともあろうかと、事前に寝落ちしたトレーナーのパソコンからスケジュールは確認済みよ!

 

662:名無しの転生者

 >>661

 これは有能(トレーナーが)

 

663:名無しの転生者

 イッチには勿体ないくらいのトレーナーやな

 

664:名無しの転生者

 雑魚イッチに付き合わされるトレーナー可哀想

 

665:名無しの転生者

 イッチぼろくそに言われてて草

 

666:名無しのウマ娘

 泣いたわ

 もうおまいらには教えてやらん

 

667:名無しの転生者

 あーあ、くそ雑魚メンタルイッチが拗ねちゃった

 

668:名無しの転生者

 機嫌直しておくれよイッチ……君が娯楽を提供してくれなきゃ、僕達死んじゃうよ

 

669:名無しのウマ娘

 >>668

 そのままタヒね(辛辣)

 

 まあ、私は優しいのでスケジュールは教えてやろう。感謝したまへ!

 

670:名無しの転生者

 ありがたや

 

671:名無しの転生者

 頑張ってクソ安価沢山作るからね(恍惚)

 

672:名無しの転生者

 流石は黒髪和風清楚風外面激重考え無しウマ娘イッチ、心が広い

 

673:名無しのウマ娘

 >>672

 褒めてるのか蔑んでるのか分からないのやめろ()

 

 取り敢えずこれが予定(原文ほぼママ)

 七月前半

 トレーニング

 七月後半

 トウカイテイオーとの併走トレーニング

 八月前半

 連続した休みを入れつつトレーニング、休み期間は二人のやりたいことをやる

 八月後半

 トウカイテイオーと併走トレーニング、チームシリウスと交流トレーニング

 

674:名無しの転生者

 ……ん?

 

675:名無しの転生者

 なんか変じゃない?

 

676:名無しのウマ娘

 なん?

 

677:名無しの転生者

 いや、あれ……トウカイテイオーどっから生えた?

 

678:名無しのウマ娘

 >>677

 あー、言ってなかった

 

 祝! 後輩できたよ!

 

679:名無しの転生者

 いや、え

 

680:名無しの転生者

 後輩できたよっていうのは知ってるんだけど、なんで一緒にトレーニング???

 

681:名無しのウマ娘

 え、皐月賞終わった後くらいにマイトレーナーの担当になったからだけど

 

682:名無しの転生者

 >>681

 それを早く言え!!!

 

683:名無しの転生者

 この重要なことを言わないイッチ、どうしてくれようか……

 

684:名無しの転生者

 これは馬刺し?

 

685:名無しのウマ娘

 ヒェッ

 

686:名無しの転生者

 というか、そう考えると現在進行形で無敗三冠に限りなく近いイッチと、将来の無敗二冠ウマ娘を担当している新人トレーナーやばいな

 

687:名無しの転生者

 厨パか?

 

688:名無しの転生者

 でも、チームシリウスと交流トレーニングってことは、イッチのトレーナーはチームシリウスのサブトレーナーじゃないって確定したな

 

689:名無しの転生者

 >>688

 あー、そっか。そうなるんか

 

690:名無しの転生者

 でもってイッチの世界線におけるアプリ版新人Tの可能性が高い。普通にイッチに三冠獲らせられるくらいの実力はあるっぽいし、トウカイテイオーの担当になってるのも納得と言えば納得

 

690:名無しのウマ娘

 サブトレーナー……? アプリ版新人T……?

 誰か教えてクレメンス

 

691:名無しの転生者

 サブトレーナー

 チームシリウスでサブトレーナーとして下積みを経て、本編でチームシリウスを率いることになる有能トレーナー

 新人トレーナー

 新人だし担当ウマ娘の能力ありきなところもあるけどそれでも埒外の天才。ただの有能トレーナー。ストーカーっぽい(小声)

 

 取り敢えずどっちかと契約出来たら成功は約束されたようなものやで

 

692:名無しの転生者

 その説明だけ見るとマジモンのヤバいやつらでしかない

 

693:名無しの転生者

 転生ウマ娘とはいえ現に無敗三冠獲れそうなイッチと初っ端から契約してる辺り、やっぱり新人トレーナーの運命力は異常

 

694:名無しの転生者

 まあ負けたら焼肉なんですけどね(白目)

 

695:名無しの転生者

 てか話戻すけど、安価どうするよ

 

696:名無しの転生者

 八月前半にお祭りとかレクリエーションとかの予定が入ったら安価ってことになるのか? 後は適宜イッチが緊急安価するくらいしかないと思うが

 

697:名無しの転生者

 そう言えば今イッチはどこにいんの?

 

698:名無しのウマ娘

 え? 今は病院やで

 

699:名無しの転生者

 !?

 

700:名無しの転生者

 !?

 

701:名無しの転生者

 も、もしや怪我……?

 

702:名無しのウマ娘

 >>701

 なんか気になったらしいトレーナーにごり押されて病院来たんだけど、精密検査しても何も無かったからこれから帰る感じ

 

703:名無しの転生者

 ほっ

 

704:名無しの転生者

 まあその話は気になるっちゃ気になるけど、精密検査しても何も無いなら大丈夫やな

 

705:名無しの転生者

 焦らせやがって……

 

706:名無しの転生者

 そんなことより、夏合宿中はそこそこな頻度で情報提供頼むでイッチ

 

707:名無しのウマ娘

 任された

 

 

 :

 :

 :

 :

 :

 

 

852:名無しの転生者

 じゃあ、転生神は格落ちさせられたんか

 

853:名無しの転生者

 ぽいで。まあ、流石に特典の要望曲解し過ぎたな。詐欺って言われてもしゃあない

 

854:名無しのウマ娘

 なんか面白そうな話してるけどたでーま

 

855:名無しの転生者

 お、どうやった?

 

856:名無しのウマ娘

 本当はスケジュール知ってるけど知らん顔するのはちょっとアレやな

 

 取り敢えず、最初に一回テイオーとワイの実力測ってから、ワイの実力の底上げと、時々テイオーと併走してワイとテイオーの成長率を確認するっぽい。で、トレーニングメニューに修正加えてくって

 

857:名無しの転生者

 まあイッチとテイオーだと才能やスタイルも全然違うやろし、トレーナーとしては大変やろな

 

858:名無しの転生者

 で、本命の夏祭りとかレクリエーションとかの話は?

 

859:名無しのウマ娘

 レクリエーションするにはちょっとメンツが足らんから三人で夏祭り行くことになったやで

 

860:名無しの転生者

 でもイッチ一人いるだけで地獄みたいな空気になりそうやな……()

 

861:名無しの転生者

 可哀想なテイオーとトレーナー……

 

862:名無しのウマ娘

 君たちが基本ワイの味方してくれないのは知っとるけど、流石に疫病神扱いは泣くで……

 

863:名無しの転生者

 だって君、どう見ても厄ネタの塊じゃん

 

864:名無しのウマ娘

 ()

 

865:名無しの転生者

 涙拭けよ

 

866:名無しの転生者

 まあ、たとえ疫病神でも純和風似非清楚ウマ娘ってだけでほんの少しは需要あるから元気出せって

 

867:名無しのウマ娘

 君達全然優しくないね、ボクは悲しいよ……!

 

868:名無しの転生者

 テイオーの真似だったら似てないから止めた方が良いよ

 

869:名無しの転生者

 辛辣過ぎて笑った

 

870:名無しのウマ娘

 >>867

 テイオーの真似じゃないですぅー、紐神様ですぅー。

 

 うーん、でも、まだまだ時間あるし夏祭りの安価でもするか

 

 夏祭りの行動の方向性

 >>885

 >>890

 

871:名無しの転生者

 新鮮な安価だ!

 

872:名無しの転生者

 行動の方向性ってなんでも良いんか?

 

873:名無しのウマ娘

 >>872

 地域に迷惑掛けなきゃなんでも

 

874:名無しの転生者

 つまりトレーナーやURAになら迷惑を掛けても良いと

 

875:名無しの転生者

 なるほど

 

876:名無しのウマ娘

 お、お手柔らかに……

 

877:名無しの転生者

 ヴァカめ、今更遅いわぁ!!

 

878:名無しの転生者

 流石に死にはせんやろ、多分(焼身自殺から目を逸らしながら)

 

879:名無しの転生者

 しかし、方向性って言われてもあんまり浮かばんな。フワフワしてるのも考えもの

 

880:名無しの転生者

 できればテイオーも巻き込みたいが……

 

881:名無しの転生者

 トレーナーもそこそこ良い反応返してくれるし、トレーナー1人だけでも良い気もする

 

882:名無しの転生者

 邪悪な計画が進んでいる……

 

883:名無しの転生者

 トレーナーの情緒を破壊する

 

884:名無しの転生者

 射的の銃で狩猟

 

885:名無しの転生者

 トレーナーに日頃の感謝を伝える

 

886:名無しの転生者

 おっと?

 

887:名無しの転生者

 流れ変わったな……?

 

888:名無しの転生者

 ヒトはウマ娘に勝てないことをトレーナーに教えてあげる

 

889:名無しの転生者

 テイオーと一緒にトレーナーにラブコール

 

890:名無しの転生者

 トレーナーにちょっと思わせぶりな行動をする

 

891:名無しの転生者

 トレーナーに良いところ見せる

 

892:名無しの転生者

 いや、>>888から流れ変わり過ぎだから()

 

893:名無しの転生者

 トレーナーに堕ちつつある振りをする……ってコト!?

 

894:名無しのウマ娘

 トレーナーに日頃の感謝と、トレーナーに思わせぶりな行動……二個目はともかく、これは良引きでは?

 

895:名無しの転生者

 チッ

 

896:名無しの転生者

 チッ

 

897:名無しのウマ娘

 わはは、ワイの勝ちぞ! スレ民敗北者!

 

898:名無しの転生者

 おっと、フラグ立ったかな?

 

899:名無しのウマ娘

 >>898

 ……そ、そんなわけ……

 

900:名無しの転生者

 まま、残りは実際に夏合宿始まってからやな

 

901:名無しの転生者

 覚悟しとけ、イッチィ……!

 

902:名無しの転生者

 あーあ、せっかく良引きしたのに、イッチが煽るから火が着いちゃった

 

903:名無しのウマ娘

 ふ、ふふふ、やれるものならやってみろ!(白目)

 

904:名無しの転生者

 恐ろしく速い墓穴掘り、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね

 

 

 :

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夏合宿1/2

 送れましたが夏合宿の1/2です。

 そしてかげ様からの素晴らしいFAが疾う疾う五件目に……ありがてえ……ありがてえ。


・帰省

 

 

「あー、身体が……」

 

 バスから降りてひと伸び。ばきぼきと歓喜の叫び、長旅で固まった身体が凄絶な音を立てた。

 青々とした空の下、ざわざわと清涼な風が吹く。周りには点々と家や田んぼが在るだけで、視界のほとんどが草原と森の緑。トレーナーという仕事の都合上、それなりに都心を離れることはあるが、ここまでの僻地にはそうそうお目にかかれない。

 

 夏合宿を翌週に控えた六月のある日。

 私は電車を何度か乗り継いで、更にローカルバスを二回乗り換えるという長旅の末に、ミタマの実家にやって来ていた。

 切っ掛けはミタマのお母さんから送られてきた、今どき珍しい達筆な筆字の手紙だ。

 曰く、無敗の三冠に手を掛けた今、トレーナーである私に一言礼を言いたいとのこと。あまりそういうのは得意ではないのだが、思えば未だに一度も顔を見たこともなく、せっかくの誘いを無下にするのもまた気が引けて、結局私は頷いてしまったのであった。

 それに、もうひとつ、聞いておきたいこともあったし。

 

 打ち合わせ通りバス停で待っていると、予定の時刻より十分早く彼女は現れた。

 

「……こんにちは、“とれーなー”さん」

「こんにちは、ミタマ」

 

 薄らと赤みを帯びた黒の紬。そういうのに疎い私から見ても仕立ての良さが伺えるそれは、一着でも私の一月の給料くらいは軽くしそうに見えた。それでも着られているという感じはどこにもなくて、まるで在るべき姿とでも言うかのように着こなしているのは流石と言うべきか。普段の無表情も相俟って、どこか作り物めいて和風人形のようにも見えてしまう。

 私を迎えに来たのは他でもない、昨日一足先に実家へと帰っていたミタマだ。

 

「もしかして、それが私服なの?」

「……はい。何か、違和感でもありますか?」

 

 道すがら気になったので聞いてみると、彼女はこくりと頷いた。

 古風な家であるとは聞いていたけど、まさか子供の私服まで着物とは。今更ながら、そう言えばこれから訪ねるのはミタマの家なんだなと気を引き締める。

 

「ううん。むしろ似合い過ぎって感じなんだけど、学園では何を着てるの? 流石に着物は着ないでしょう?」

「……ヤエノさん達に見繕ってもらったものが、二着ほど」

「他は?」

「……制服です」

「……帰ったら、私服を買いに行きましょ」

「……分かりました」

 

 流石にそれは無いわ。

 

 

 

 石畳で舗装された道を歩くこと十数分。

 特にこれといった会話も無く、私達はそこにたどり着いた。

 

「……着きました」

「うわぁ、すご」

 

 私はただ感嘆の声を零すことしかできなかった。

 目の前には重厚な漆塗りの門構え。奥には大きな屋敷が見える。正に武家屋敷か、恐ろしく立派な家がそこにあった。

 

 この屋敷が実家であることに加え、節々から窺える洗練された所作と言い、お母さんに負けず劣らずの達筆と言い、やはりミタマは良い所の出であったらしい。

 

 気圧されている私を他所に、引き戸を開いて中に入っていったミタマに慌てて続く。

 

「……ただいま戻りました」

「お帰りなさい、ミタマさん」

 

 私達を出迎えたのは、誰に言われなくてもミタマの家族だと分かるような容姿の美人なウマ娘の女性だった。ミタマに姉妹はいないと聞いているから、この人がミタマのお母さんに違いない。

 見れば見るほどミタマそっくりだ。というか、若過ぎる。私より優に十歳以上歳上だろうに、なんなら私よりも若く見えるとはどういうことか。母親ではなく姉にしか見えない。

 ウマ娘の不思議な生態に驚愕していると、ふとミタマのお母さんと目が合う。

 

「ようこそ、おいでくださいました。ミタマさんの“とれーなー”さん」

「……あ、あの、頭を上げてください」

「いいえ。感謝を、伝えさせてください」

 

 そして唐突に正座のまま深々と頭を下げ、綺麗な最敬礼をしたではないか。

 何に対する感謝なのかは言われなくても分かる。これまで一年ほどミタマと共に居たからこそ、彼女を育てた環境、その中心であったミタマのお母さんのトゥインクル・シリーズへの並々ならぬ想いは薄々理解していた。

 あたふたしていると、思わぬ所から助け舟。

 

「……まだです、お母様。まだ、最後の一冠が残っています」

「分かっています。この方に、最後まで導いてもらいなさい」

 

 違った。確かに少し話が進んだけれど、助け舟じゃなかった。

 この母にして、この娘だな。なんて思いながら、私はおずおずと口を開いた。

 

「あの、ミタマのお母さん「ただ、お母さんとお呼びになってください」……それで、お母さん。少し、お話ししたいことがあるのですが」

「そうですか。ミタマさん、席を外しなさい」

「……分かりました」

 

 奥に見える居間の方へと歩いて行ったミタマの背が見えなくなって、外に出たミタマのお母さんに続き私も外に出た。

 

「……あの子の脚のことですか?」

「はい」

 

 やはり私よりもミタマと付き合いが長いだけある。

 私は真剣な面持ちで続ける。

 

「昔、ミタマは何か怪我をしたことはありますか?」

「いいえ。……ですが、あの子の脚は生まれつき脆いのです。いえ、代々脚の弱さに脅かされてきた家系なのです」

 

 つまり遺伝か。

 去年のジュニア・クラスでの一年間、そして先日の日本ダービーまで、私はミタマのことだけを見てきた。だからこそ、日本ダービーを終えてから、彼女の実体を現さない異変にすぐさま気が付くことができた。

 結局、これも私の直感に過ぎないのだが、それでも恐ろしい程に、寒気を感じるくらいにそれは訴えかけてきた。

 

 

 これ以上は危険だ、と。

 

 

「あの子を“じゃぱんかっぷ”に連れていった時のことです。その時があの子にとって初めての“れーす”場でした」

「……その時からですか?」

「はい。それ以来、あの子は走れるようになった」

 

 そのレースになんらかの原因がある。だが、その原因は分からない。

 ……いや、なんとも非現実的な事だが、目星は付いていた。もし本当にそうだとしたら、やるせない気持ちでいっぱいになるというだけで。

 

「お願いします。あの子はきっと、最期まで走れます」

「……ですが」

「あの子には、それしか無いのです。お願いします……」

 

 再び深深と下げられる頭。

 返答に窮する。

 確かに危険だと直感が働いているというだけで、精密検査でも何も異常は無かった。あくまでも私がこれまで信じてきたものが、今度も私を正しく導こうとしているだけだ。

 でも、それは私にとって正しいというだけのこと。ミタマや、ミタマのお母さんにとって、それが必ずしも正しいとは限らない。

 

 返事に悩んだ末に、私は───。

 

「……分かりました。菊花賞には出走させる予定で行きます」

「ありがとう、ございます……何とお礼を言えば良いのか……」

「ですが、難しいと判断したら躊躇なく回避しますのでそのおつもりで」

「分かっています。あの子が選んだ“とれーなー”さんを信じます」

 

 

 私は、初めて自分の道標を裏切ったのであった。

 

 

 

・夏合宿(2年目)スタート!

 

 

「海だぁーっ!」

「あ、ちょっとテイオー……!」

 

 制服から学園指定の水着に着替えたテイオーが、一目散に砂浜へと駆け出してゆく。

 力には自信があるので荷物運びくらい私一人でやれるが、それはそれとして手伝って欲しいなーなんて思ったり。まあ、せっかくの海ではしゃぎたい気持ちも分かるので水を差すつもりは無いけれど。

 

「……“とれーなー”さん、この箱はどちらへ?」

「待ってね。今傘立てるから、クーラーボックスはその下にお願い」

「……分かりました」

 

 ミタマはその点、とても落ち着いている。

 去年は夏合宿には行かずに実家に帰省していたらしいので今回が初めてのはずなのだが、特に浮ついた雰囲気は感じられない。まあ、そもそも尻尾や耳が動くこと自体稀な子なのだが。

 

 パラソルの用意をしながら、ぼうっとテイオーを眺めるミタマをちらりと見遣る。

 テイオーが私の契約ウマ娘になってから、ミタマは時折テイオーを眺めることが増えたように思う。

 彼女なりに何か思うところがあるのか。

 例えば、同じように無敗の三冠獲得を掲げるテイオーへの対抗心とか、後輩ウマ娘に対する慈愛のようなものとか。仮にそういうものが芽生えたのだとしたら、きっと良い兆候なのではないかと思うのだ。

 

「……どうか、されましたか? “とれーなー”さん」

「いいえ、大丈夫よ。ほら、そこにクーラーボックス置いたら、テイオーを連れてきてくれる?」

「……はい」

 

 海に飛び込んだテイオーを呼びにぺたぺたと砂浜を歩き出したミタマを見送って、私は準備を再開した。

 

 

 

「さてと。じゃあ、ミタマは菊花賞に向けて砂浜走り込み、テイオーはまだデビューまでかなり時間があるから着実に基礎から作っていきましょう」

「はーい」

「……分かりました」

 

 前走の日本ダービーから菊花賞まではかなり間が空く。空いた分の感覚を取り戻し調子を整える意味でも、ミタマには菊花賞トライアルである二つの重賞、セントライト記念か神戸新聞杯のどちらかに出走させたかった。

 

 しかし、日本ダービーを終えてから続くあの嫌な直感が七月に入っても未だに私の中で燻っていた。

 

 ウマ娘にとって脚の不調は常に付き纏い、ほんの少しの兆候でも見逃せば致命的となる。トレーナーとしての勉強を始めてから、一番最初に覚えさせられるのはウマ娘の脚に纏わる病気や怪我などの知識だ。

 医者にもかかり、精密検査も行った。それも合宿前にもう一度、合計二回も。

 だが結果は異変のひとつもなし。健康そのもの。

 杞憂であればと思うのだが、どうしても嫌な予感は拭えていない。

 

 思い出すのは、先日ミタマの実家にお呼ばれした時のこと。

 

『あの子の脚は生まれつき脆いのです。いえ、代々脚の弱さに脅かされてきた家系なのです』

 

 ミタマのお母さんはそう断言した。

 つまり彼女の脚にはまず間違いなく問題がある。それがいつ爆発するのか、どうすればしないのか、被害を最低限に抑えられるのか。

 

 ミタマと私の目標である無敗の三冠は必ず成し遂げてみせる。その想いはずっと変わらない。

 だが、その先を私は見ていたい。私は今までも、これからもミタマに夢を見続けているから。

 

「“とれーなー”さん?」

「どうしたの、トレーナー?」

 

 それに、今はミタマだけじゃない。愛バがもう一人増えたのだ。それも同じように無敗の三冠を望む強いウマ娘が。

 まだまだ新米の私には荷が重いような気もするけれど、それでもやると決めたからにはやる。

 それがトレーナー(彼女達に夢を見る者)だから。

 

「ううん、何でもないわ。さ、始めましょう」

 

 一先ずの目標はミタマのスキルアップとテイオーの基礎作り。

 そして、この夏合宿の間にあの嫌な予感を消し去ること。

 

 私は決意を新たに彼女達に練習メニューを告げる。

 運命の夏合宿が始まった。

 



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夏合宿2/2

 待たせたなッ!(五体投地)
 学生身分なのでこの時期書く時間がですね……お待たせして申し訳ねえ……。
 本当はサブストーリーを入れたかったんですけど、その前にこっちの筆が進むという事故……。

 PS
 またまたかげ様よりFAをいただいてしまいました……!
 遂にミタマちゃんもパカプチに……!それはそれとして、どう見ても呪いのアイテム。


・命さえ 僅かばかりの 光かな

 

 

「“とれーなー”さん……あーん、です」

「え、ちょ、ミタマ……!?」

 

 夏祭りの喧騒をビージーエムに、差し出されるプラスチックのスプーンに載ったかき氷。

 私は慌てふためきながら、ミタマを見遣る。

 

「……駄目、でしょうか」

「そ、そんなことないわよ! はむっ!」

 

 流石に可愛い担当の上目遣いには勝てなかった……。

 口の中に広がる抹茶味を感じながら、私は地獄のように甘いこの時間の発端を思い返した。

 

 

 □

 

 

「テイオー、下がってきてるわよー! ミタマ! ラスト、ペース上げて!」

 

 七月の後半、そろそろ合宿も折り返し地点という頃。

 ミタマとテイオーに指示を出しながら、私は手元の資料とにらめっこしていた。

 いくつもの項目には問題無しの羅列。

 

 未だ、ミタマの脚の脆さに対する打開策は考え付いていない。

 焦ってはいないはずだ。まだ。それでも、夏合宿の間にどうにかしなくてはいけないというのに、もう半分ほどの時間を無為に過ごしてしまった。

 八方塞がり。照り付ける太陽のせいではない嫌な汗が流れる。

 

「おうおう、やってるなぁ」

「あ、シリウスのトレーナーさん」

 

 ふと、背後から掛けられた声に私は慌てて振り向いた。

 ハンチング帽子を被った壮年の男性は不敵な笑みを浮かべながら、遠くの二人を見遣って目を細める。

 彼はあのオグリキャップが所属する大手チーム〈シリウス〉のチーフトレーナー。今回、彼とたづなさんに無理を言って彼のチームと同じ場所で合宿をさせてもらうことになったのだ。

 

「どうだ、お前さんの担当は」

「まだ、駄目ですね」

「検査じゃ異常はなかったんだろ?」

「はい。でも、彼女の親御さんの言う脚の脆さっていうのは、やっぱり無視しちゃいけないと思うんです」

 

 私の直感が、とは言うべきではないし、言わない。実際問題、精密検査で異常は無いというのは本当のことであり、私なんかよりも医師の方がよほど正確なのだから。

 

 それに、菊花賞は純粋に未知数の距離だ。

 これまで中距離からクラシックディスタンスで走ってきたミタマでも、三千メートルという完全にステイヤーの領域の距離は走ったことがない。もしかするとこの距離だからこそ、私の危機感が働いているという可能性だってある。

 

 それに、そんなことは彼女の夢、無敗の三冠を応援しない理由となるはずもないのだが。

 

「まあ、良いさ。今回の合同練習、お前さんなりに考えがあるんだろ?」

「……はい。よろしくお願いします」

「おう。オグリも感化されてるみたいだしな、こっちとしてもありがたい」

 

 オグリキャップ。

 地方から中央へと戦いを挑んだ異端の挑戦者。

 芦毛の怪物。

 そんな彼女にすらマークされていると思うと、改めて、私の担当の凄さを実感する。

 

 だが、それも考えてみれば当然だろう。

 彼女は強い。

 たとえ、心無き人々から不作の一強などと呼ばれていても、彼女の無敗三冠に懸ける想いは本物で、その為の努力を彼女は惜しまなかった。

 私は胸を張って、彼女こそ無敗の三冠に相応しいのだと言える。

 

「にしても、お前さん、よくもまああれだけ強いウマ娘を勧誘出来るよなぁ。しかも二人も」

「まあ、そうですね……ミタマもテイオーも、二人とも妙な縁があって担当になれたって感じもしますけど……」

「そういうのが大切なんだよ。どんな出会いでも、どんな経緯でも、構わない。俺たちがやるべきことは、そうやって担当になった彼女達を全力で導いてやることだけなんだからな」

 

 ……やっぱりこの人は凄い。

 そう思わされる。

 なら、私も。ミタマとテイオーに恥じないようなトレーナーにならなければ。

 

「ありがとうございます、シリウスのトレーナーさん。後、合同トレーニング、よろしくお願いします」

「おう。それに、俺のオグリはもっと強くなる。他の奴らだってそうだ。このトレーニングで貰えるもんは全部貰うぜ」

 

 そう言って、シリウスのトレーナーさんは獰猛に笑った。

 

「あ、それとな。来週から休みだろ? うちも休みにしてるんだが、トウカイテイオー、借りても良いか?」

「え? 別に大丈夫ですけど」

「うちのマックイーンがな、テイオーを意識してるみたいでよ。くっ付けたら良さそうな気がしてな」

「な、なるほど……」

 

 しかし、ライバルというのはウマ娘にとって無くてはならないものだ。

 そして得難いものでもある。

 特にミタマのような強いウマ娘にとっては。無敗で三冠を獲る、というのはすなわちそういうことでもあるのだ。

 

 テイオーもまたそういった強いウマ娘の一人だが、まだデビューもしていないこの時期から共に切磋琢磨できるようなライバルがいてくれれば彼女はもっと先に進めるかもしれない。

 

「分かりました。テイオーをよろしくお願いします」

「ありがとよ。お前さんも、担当と二人で満喫してこい」

「そうですね、そうします」

 

 私の返事に満足したように快活な笑みを浮かべた彼は、「長話し過ぎたな」と一言詫びて踵を返して来た道を戻って行った。

 

 多分、ミタマのことで思い悩む私に気を使ってくれた面もあるのだ。それくらい分かる。

 彼にはお世話になりっぱなしだ。本当に、頭が上がらない。

 

 ならば、お言葉に甘えて一緒にお祭りにでも行こうか。

 私は予定を考えながら、再び手元のボードに視線を落とした。

 

 

 □

 

 

 そして、合宿場の近場でお祭りが開かれる当日。

 私はミタマと共に、こうしてそのお祭りに足を運んでいるわけである。

 

「……“とれーなー”さん、次はあちらのお店に行ってみませんか?」

「あれは、射的ね。良いわよ、行きましょうか」

 

 確かに生殺しのような責め苦を味わってはいるが、それでも担当のいつもより楽しそうな雰囲気は何よりも嬉しかった。

 ゆっくりとした足取りでお店を回る彼女の足に合わせて、こんな風にお祭りを回るのも悪くないなと思う。

 ミタマの担当になってから、良いことも悪いことも、気が付かされるばかりだ。

 

「あ……あの」

「……どうか、されましたか?」

 

 そんな折り、駆け寄ってきたウマ娘の少女がミタマに声を掛けた。

 どこか不思議な雰囲気の、青鹿毛のウマ娘だった。その超然的な雰囲気は、ミタマに似ていたかもしれない。

 少女はミタマを見上げ、じっと眼を見詰める。そして一言、消え入るような声で問い掛けた。

 

「見え、ますか?」

 

 その一言が、何を意味するのか。私には分からなかった。

 しかし、ミタマにははっきりと分かったらしい。

 

「……はい、見えていますよ。とても、優しい方なのですね」

「っ」

「きっと、貴女にとって、よいお友達なのでしょう。その縁を、大切にしてあげてください」

 

 まるでここに私達以外の第三者がいるかのような口ぶり。

 いつもよりも、饒舌に、柔らかく、優しげに物語るミタマと、その言葉を涙ぐみながら聞く少女。

 そこには、私には計り知れないものがあった。

 

 少女はありがとうございますと言って、足早に去って行く。

 その会話の真相を、私はとても聞く気にはなれなかった。

 

「……ごめんなさい、“とれーなー”さん。お待たせしました」

「ううん、気にしないで」

 

 私はミタマのことを知らないのだ。

 根本的に、彼女のことを私は理解できていない。無敗三冠を切望する理由も知らない。

 だけど、これから知っていけば良い。まだ時間はあるのだから。

 そのためにも最後の一冠、菊花賞を無事に勝ち抜く必要がある。

 

 改めて決意を固めた私は、ふと腕時計を見やって程良い時間であることを認める。

 

「そろそろ、花火ね」

「……はい」

 

 花火の見えやすい場所については、あらかじめリサーチ済みだ。

 まるで彼女と夏祭りデートをする彼氏のようなムーブではあるが、シリウスのトレーナーさんも担当が沢山食べられる場所を往く先々でリサーチしているらしいのでこんなものだろう。

 

 ミタマを伴って旅館の人にオススメされた人気の薄い高台に辿り着くと、手頃な場所にあるベンチに腰を下ろす。

 隣に座ったミタマに、手持ち無沙汰になった私は気を紛らわせるように問い掛ける。

 

「ミタマは花火とか好き?」

「……花火、ですか。そうですね。好き、だと思います」

 

 夏祭りという熱気から離れた静けさと、落ち着き。

 やっぱり、ミタマはこういう場所に在る時にこそある種の絵画のような雰囲気を持つ。侵しがたい、神聖さにも似た雰囲気を。

 

 ……私、愛バにベタ惚れだな。仕方ないことだけど。

 

 その透き通るような声に聞き惚れていると、ふとミタマが肩に寄りかかってくるのが分かった。

 

「……ワタシには、誰かと深く関わるという経験が、乏しいです」

 

 ゆっくりと、吐露するような。必死に紡がれたような印象の言の葉。

 掛ける言葉は無い。今は、彼女の言葉に耳を傾けるだけだ。

 

「全て、全て初めてのことなのです」

 

「ヤエノさんやオグリさん達先輩方、テイオーさん……そして“とれーなー”さん」

 

「連綿と紡がれる縁、息をすることの積み重ね、誰かに託されること。あの子とお友達のように、結ばれた絆。単なる器だったワタシでも、分かります」

 

「多分、これが人生というものなのでしょう」

 

「ワタシは、今、生きている。そう思うと、空っぽで無意味だったこれまでから、意味のある一人になれたように思える」

 

「全部、全部。“とれーなー”さんが、私の手を引いてくださったから。そう思うのです」

 

 知り得なかったミタマの感情。

 考えと想い、これまでにないほど熱の篭った言葉。

 圧倒されるような感情の波。

 それを初めてこうして打ち明けてもらうことが出来て、嬉しいことのはずだ。はずなのだ。

 ……その、はずなのに。

 

 

 それはまるで、蝋燭が灯滅する前の一瞬の強い光明にも見えて。

 

 

 

「……“とれーなー”さん、これまで────」

 

 

 

 

 ────その最後の言葉は、打ち上げられた花火に掻き消された。

 

 

 



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8スレ目

 最短で明日の19時に「菊花賞の後に」を投稿します。


518:名無しのウマ娘

 ええ、はい。菊花賞が、ですね、はい。やってきた、はい、わけなんですけど……スゥー

 

519:名無しの転生者

 なんや、観客ゼロ人か?

 

520:名無しの転生者

 無敗二冠ウマ娘出走する菊花賞に観客ゼロ人は草

 

521:名無しの転生者

 そもそも我らがイッチは菊花賞、3000mを一着で走り切れるのか?

 

522:名無しの転生者

 まあ、トレーナーにあれだけ媚び売れる外面和風清楚美少女イッチならなんやかんやでやってくれるやろ

 

523:名無しの転生者

 思えばここまで長かった……

 

524:名無しのウマ娘

 >>519

 流石に観客ゼロ人なんてことはないんだが、というかめちゃくちゃいるのよ

 

 問題は、ワタシがそれにビビっちまってるってことだ……

 

525:名無しの転生者

 あーね、分かる(分からない)

 

526:名無しの転生者

 そんな状況を味わったことないわ

 

527:名無しの転生者

 ほら、ここに集まってるヤツらなんて人前に出られないような日陰者ばっかだからさ……

 

528:名無しの転生者

 >>527

 やめろ、それは俺に刺さる……

 

529:名無しのウマ娘

 で、話は戻るんだけど、これに勝ったらどうすれば良い?

 

530:名無しの転生者

 そら、順当にジャパンカップじゃないか? その調整やろ

 

531:名無しの転生者

 むしろ、無敗三冠ウマ娘がジャパンカップに出ないなんて許されるはずもなし

 

532:名無しの転生者

 とはいえ、もう安価もしてるし、今回は静観だな

 

533:名無しのウマ娘

 >>532

 そう言われるとなんか物足りないな

 

534:名無しの転生者

 中毒になってて草

 

535:名無しの転生者

 イッチはワイらが育てた

 

536:名無しの転生者

 >>535

 イッチはウチの子だが?

 

537:名無しの転生者

 和風清楚系ダウナー美少女はワイの嫁やで

 

538:名無しの転生者

 >>535 >>536 >>537

 でも、イッチの中身は……

 

539:名無しの転生者

 ヴォえっ

 

540:名無しの転生者

 絶望しました。イッチのファンやめます

 

541:名無しのウマ娘

 お前ら……

 

542:名無しの転生者

 まあ、真面目な話をすると今回ばかりはな、うん

 

543:名無しの転生者

 努力は努力。イッチの頑張り自体はね、悔しいけどワイらも認めなきゃいかんと思うんですよ

 

544:名無しの転生者

 菊花賞、頑張れよ!

 

545:名無しのウマ娘

 え、気持ち悪

 急にどうした

 

546:名無しの転生者

 >>545

 こいつ、人が優しくしてやったらつけ上がりやがって……!

 

547:名無しの転生者

 だから言ったやろ、イッチに優しいサプライズする必要は無いって

 

548:名無しの転生者

 イッチに少しでも頑張る美少女感を幻視した俺が馬鹿だった……

 

549:名無しのウマ娘

 こいつら、好き勝手言いおる……!!

 

550:名無しの転生者

 イッチには「おいたわしや…」ってなんねえからなぁ、それが悪い。つまりイッチが悪い

 

551:名無しの転生者

 というか、イッチはスレなんかで油売っててええんか?

 

552:名無しのウマ娘

 あ、そろそろか。やべ

 

553:名無しの転生者

 人生の大一番直前までスレッドに入り浸るウマ娘……嫌過ぎる

 

554:名無しの転生者

 これがワイらの信じたイッチの成れの果てだって言うんですか……!

 

555:名無しのウマ娘

 >>553>>554

 お前らの顔は覚えた。マジで許さねえからな?

 

 時間無いからもう行くで。結果はダイジェストでお届けしよう! サラダバー!

 

556:名無しの転生者

 いってら

 

557:名無しの転生者

 どうであれ、待ってるでー! wktk

 

558:名無しの転生者

 どうであれも何も、負けたら焼肉なんだよなぁ……(焼身)

 

 

 :

 :

 :

 :

 :

 

 

781:名無しの転生者

 絶対イッチのマミーのパンツはふんどしだから! 譲らん!

 

782:名無しの転生者

 はぁ? そんなわけあるか、着物の下はノーパンやろが!!

 

783:名無しの転生者

 そう言えばそろそろか

 

784:名無しの転生者

 果たしてこのスレッドは存続するのでしょうか……?

 

785:名無しの転生者

 >>784

 上を見る限りでは、存続しない方が間違いなく世のためになる(確信)

 

786:名無しの転生者

 それはそう

 

787:名無しの転生者

 なんだよ、たまにはまともな事言うじゃねえか……

 

788:名無しの転生者

 何はともあれ、我々は座して待つだけしかない。後、マミーのパンツはふんどし派です(小声)

 

789:名無しの転生者

 >>788

 その話題は危う過ぎるのでストップ

 

790:名無しのウマ娘

 皆さま、ありがとうございました

 

791:名無しの転生者

 ! きちゃ!

 

792:名無しの転生者

 あれ? イッチ、コテハン変じゃない?

 

793:名無しのウマ娘

 彼女を導いて、ワタシ達の無念を晴らしてくださったこと、本当に感謝の言葉もありません

 

794:名無しの転生者

 ?????

 

795:名無しの転生者

 え、え? どゆこと???

 

796:名無しのウマ娘

 もう会うことはないと思うけど、彼女のことは忘れないであげて

 

797:名無しの転生者

 ど、怒涛の展開におじさんついて行けません……!

 

798:名無しのウマ娘

 さようなら、虚ろの人々

 

799:名無しの霆「逕者

 いやいや、縺。繧?▲縺ィ待って

 

800:蜷咲┌縺の転生者

 >>799

 お前、文字化け縺励※繧んの!

 

801:蜷咲┌縺励?霆「逕溯?

 >>800

 縺雁燕もな

 

802:蜷咲┌縺励?霆「逕溯?

 てか、縺。繧?▲縺ィ蠕?▲縺ヲ。繝槭ず縺ァやばくないか?

 

803:蜷咲┌縺励?霆「逕溯?

 繧、繝?メ縺ッ螟ァ荳亥、ォ縺具シ

 

 

 

〈このスレッドは致命的なエラーが検知された為、封鎖されました〉

 

 

 

 



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菊花賞の後に・『大輪の 咲き誇れども 嘆きのみ』

 “とれーなー”さん、今日のワタシを目に焼き付けてください。


 

 その日、京都レース場はここ数年で稀に見る活気を見せていた。

 

 ここまで無敗の二冠ウマ娘、ミタマガシャドクロ。

 先日のインタビューでの、既に同期に敵は居らず、ただ強き先達の世代打倒だけを見据える旨の発言。

 それをどのように受け取ったか。それはまた受け取り手次第ではあるが、概ね今日この日ここに集った彼ら彼女らは、ミタマガシャドクロの走りに彼女の雄足るか否かのその全てを委ねた。

 

「今日の主役と言っても過言ではないウマ娘ミタマガシャドクロだが、彼女にとって菊花賞、最強を証明する3000メートルという距離は全くもって未知だ」

「どうした急に」

「クラシックディスタンスと呼ばれる皐月賞、日本ダービーの距離で活躍できたとしても、ステイヤーの領域であるこのレースでは涙を飲んだウマ娘も少なくない」

「確かにな。速さの皐月賞、運の日本ダービーに続く三冠目、世代最強を決める菊花賞は何よりも適性距離が絡んでくる。これまで無敗のミタマガシャドクロを凌ぐ伏兵がここに来て現れないとも限らない」

 

 眼鏡を掛けた男は、続々とコースに足を踏み入れるウマ娘達一人一人を注視しながら話す。隣のパーカーを着た男はそれを深く肯定した。

 その言葉の応酬は、ここにいる観客ほとんど全員の懸念であった。

 

「だが、俺はやってくれるんじゃないかと思っている」

「……そうだな。俺も、そう思うよ」

 

 その時、一際大きい歓声と、そしてそれ以上の驚愕がレース場に伝播した。

 緊張など欠片も見せず、黒衣に身を包んだ少女がレース場へと現れる。

 

 

 ────その背後に、おどろおどろしい異形を従えて。

 

 

「……ミタマガシャドクロ、そこまで君は……」

 

 それを上から見下ろす皇帝は顔を歪ませる。

 

「ミタマさん……!」

 

 烈火の少女は善くない予感に後輩を憂い。

 

「……本気、なんだね……ミタマ」

 

 同じく無敗の三冠を志す未来の帝王は修羅を垣間見る。

 

 そして。

 

「ミタマ……!」

 

『菊花賞、スタートしました!!』

 

 

 何を憚ることもなく、誰の想いを汲むこともなく。

 これを遮るものは何も無し。

 

 

 ()()は、滞りなく走り出した。

 

 

『本日の圧倒的一番人気、ミタマガシャドクロはいつも通り最後方からの出だしですね』

『そうですね。しかし、追い込みこそが彼女の常套戦術にして真骨頂。後はいつものように走り抜けられるかどうかですが……』

『その辺り、どの陣営も光明にしているようですね。これは荒れるかもしれません!』

 

 実況の言葉の通り、この菊花賞にミタマガシャドクロの三冠阻止を掲げる全ての陣営が、彼女の適性距離の不透明さを最大の糸口としていた。

 なにせ、それ以上の光明が見えなかったのだ。それでも、それこそが唯一にして最大と言える根拠が確かにあった。

 

 ミタマガシャドクロは他の世代と比べても強くない。

 三冠に手を掛けながら同期の中でも見劣りするという認識もあり、裏では不作の一強、運だけのフロックとまで言われる彼女。

 事実として、皐月賞、日本ダービーにおける凡庸な勝利タイムはそれを裏付けている。

 全てのウマ娘が、私の方が強いのだと強く思っていた。

 

『各ウマ娘、最初のホームストレッチに入ります!』

『各陣営、ミタマガシャドクロをかなり警戒しているようですね。ここまで競り合いなく、どの子も余裕が伺えます』

 

 実況の言うように、どのウマ娘たちも余裕を持ってこの大一番に臨めていた。

 絶対にミタマガシャドクロに勝つという気概を胸に、この時ばかりは誰も彼もが知らぬ内に一致団結していたのだ。

 

 それが、最大の愚行であるとも知らずに。

 

 

「……ミタマ、そんな……!」

 

 

 誰よりも彼女の近くに居続けたトレーナーには、それがすぐに分かった。分かってしまった。

 

 地面から這いずるように現れる幾つもの骨腕。

 淀んだ地面からくるくるくるくる。

 宿業の坩堝。禍々しくも、荘厳で、美しさすら伴って。

 ターフの緑は暗黒のように染まり、まるで異界のようになる。

 まさにその瞬間は強きウマ娘達の心象の具現そのもの。

 

『これから最終コーナーに入ります! ここまで動き無し! どうなってしまうのか!?』

『これは、ますます読めなくなってきましたね』

 

 

【挿絵表示】

 

 

 咲きたい。もう一度、今度こそ、咲きたい。

 まだ、まだ。足りない。乾く。欲しい。勝利が。

 未だ満ちぬ華は養分を求める。綺麗に咲くために、命を欲する。

 最後尾から御魂を宿した餓者髑髏は滲み、溶けゆくようにレース場を侵食する。黒く、黑く、紅く、赫く。

 それは顕現する為に。

 踏み砕かれた夢を、骸となっても叶えたいから。

 

 

「ぁ」

 

 それは、誰の声だっただろうか。

 微かな声は消え行く。

 

 

 

 ────そして、真っ赤に華が、()()()

 

 

 

『おおっとぉ!? どうしたことでしょうか!? 快走していたウマ娘達が続々と沈んでいく!?』

『これは……』

 

 彼岸の花の大輪が、ターフに赫赫と咲き誇る。

 美しく、危うい華が叶えたい夢のためにその身を咲かせる。

 

 そのレース場で一番最初に異変に気がついたのは彼女のトレーナーであっただろうが、最もそれを実感したのは共に走るウマ娘達であった。

 

 目に見える程に濃密な気配、骨の掌が掴む。握り潰す。どろどろに溶かして、全てを勝手に持って行く。勝ちたい気持ちも、情熱も、何もかも。

 もう走らなくても良いんだ。全部、全部。あの子が連れていってくれる。あの子が私たちの夢を背負って、叶えてくれる。

 

 一度思ってしまったなら、もう無理だった。

 一人、また一人とウマ娘達が沈み、最後尾から死装束を纏った黒鹿毛の少女が一転して先頭に躍り出んと迫る。

 

 最後の一人、意地でもこの想いは渡さないと涙を堪えて走るウマ娘がいた。

 走る。走る。走る。心臓が破れそうだ。でも走らなくちゃ。走らないと、自分でいられなくなる。

 苦しいけど、この舞台に立てたんだ。絶対に抜かされるもんか。トレーナーのために、応援してくれたみんなのために勝つんだ。

 絶対に、勝ちたい。

 

 

「────お覚悟」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 その背に、鋭く燃ゆる()()が深々と突き立てられた。そんな幻覚。強いイメージの押し付け。

 しかし、たったそれだけで先頭の少女は全てを奪われた。

 下手人の少女は何事も無かったように走り続ける。それが自分の使命なのだと、そのための命なのだと確信しているから。

 

 ワタシは、導きに祝福されている。ワタシだけがそうあれと導かれている。

 

『ミ、ミタマガシャドクロ先頭! ミタマガシャドクロ、先頭です!? これまでからは信じられないような凄まじい加速!?』

『……まさか、これほどまでとは……こればかりは誰も予想できなかったでしょうね』

 

 観客を呆然とさせるほどの走りを見せながら、少女はなおも加速する。

 既に後ろとの差は六バ身。それが、さらに七、八と開いて行く。

 

『ま、待ってください……!? これ、もしかして……!』

『はい、もしかするかもしれませんよ。これは、とてつもない走りですね』

 

 実況すら息を飲むその理由は残り四ハロン時点でのタイム。

 既にレコードより0.4秒速く、しかし少女は止まることを知らない。

 

 この一瞬で、全てを燃やし尽くすように。

 

『他の子達も頑張りますが、これは厳しいか!?』

『団子状態で余裕は既に皆無ですね』

 

 追い縋ろうと、必死に脚を回そうにも少女達は自分の体力が既に尽きかけていることを畏怖の中で理解した。

 ここにおいてはもう、ミタマガシャドクロを拒む者はいない。

 

『止まらない! 止まりません! ミタマガシャドクロ! 先頭! 先頭!』

 

 実況は類を見ないその走りに、熱に浮かされたように叫ぶ。

 観客達は無敗の三冠、その瞬間を今か今かと待ち侘びる。

 

「ミタマ……! もう、やめて……それ以上は……!」

 

 それでも、彼女のトレーナーだけは悲愴で悲痛な面持ちのまま、その名を呼んだ。彼女に制止を求めた。そうせざるを得なかった。

 このままではダメだ。あれは絶対に止めないと。間違いなく限界を超えている。

 出逢い、誓い、日々、夏祭り。これまで共に過ごしてきた想い出が、走馬灯のように巡る。

 

 

 それでも、走り出したのならば必ずその瞬間は訪れる。

 

 

『今、ミタマガシャドクロ! 先頭でゴール! 私たちは今、歴史的瞬間に立ち会っています!!』

『史上五人目の三冠ウマ娘、それも二人目の無敗三冠ウマ娘の誕生です……!』

『しかも、上がり三ハロンはレコードを二秒半更新! 誰も予想だにしなかった快挙です!』

 

 レース場が沸く。立ち尽くす黒鹿毛の偉業に祝福が降り注ぐ。

 フロックではない。不作の一強などではなく、彼女は最強なのだ。

 彼女こそが無敗の三冠に相応しいのだと、新たな王者に歓迎の声を贈る。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 その時だった。

 ふらりと、王者の華奢な身体が揺れる。

 とさり。少女がターフに転がった。

 

「ミタマ!?」

『おっと!? どうしたことでしょうか!? ミタマガシャドクロ、ターフに倒れてしまいました! 一体何が!?』

『心配ですね……』

 

 誰よりも早く、彼女のトレーナーがターフに飛び出て駆け寄った。

 熱く、燃えるような身体を抱きかかえて、トレーナーは愛バに呼び掛ける。

 確信にも似た絶望を覚えながら。

 

「ミタマ! しっかりして!」

「“とれーなー”、さん……?」

「そうよ! 貴女のトレーナーよ!」

 

 弱々しく、掠れた声。震える身体。青ざめた顔。

 尋常ではない様子に、トレーナーは焦る気持ちを抑えられない。

 

「あの、脚、が……」

「っ、脚がどうしたの!? 痛むの!?」

「……動かない、です……どうして、でしょう?」

 

 その言葉に、トレーナーははっと息を呑んだ。

 見ただけでは分からない。だが、ウマ娘の脚は何よりもデリケートだ。

 軽く触れれば、脚は酷く発熱していた。

 

「あ、の、“とれーなー”さん」

「ミタマ、喋らないで! すぐに病院に連れて行ってあげるから!」

「ワタシ、ワタシ……勝てました……よ?」

 

 弱い声音は、怯えているようにも思えてトレーナーの胸を締め付ける。

 微かに微笑んで、ミタマガシャドクロはトレーナーの頬に震える手を添えた。

 冷たくて、とても無敗の三冠を成し遂げたウマ娘のものとは思えないような弱々しい掌。

 

「あの日の、約束……果たせ、ました。“とれーなー”さん」

「ええ、ええ! 見てたわ、凄いわよ! 貴女が、私の愛バが一番強かったの! だから今は休んで!」

「ふふ。変な、“とれーなー”さんですね。ワタシ、まだ、まだ、走れます」

「ええ、そうよ! 貴女はもっと走れる! 私は貴女の走りがもっと見たい! お願いだから!」

 

 それは心からの願いだった。

 自分の愛バにどうしようもなく魅せられてしまったから。目が焼けて、他のものが見られない。

 あの危うさを孕んだ走りの中に、何よりも美しさを覚えてしまったのだ。

 

「“とれーなー”さん、ワタシ、なんだか眠たいです……おかしいですね……」

「っ!? ミタマ! しっかりして! ダメよ! そんなのダメ!」

「起きたら、また、走ります。きっと、何度でも。ワタシは“とれーなー”さんの愛バですから……」

 

 必死の呼び掛けも甲斐は無く。

 ミタマガシャドクロは、ゆっくりと眠るように目を閉じて力を失った。

 安らかな、満ち足りたような顔で。

 

 

「ミタマ……!? ダメだってば、ミタマ! ミタマぁ!!!」

 

 

 それは絶望に拠る慟哭のように。

 もっと、より良い未来を掴み損ねた懺悔にも似て。

 非情な現実を報せるように、京都レース場に響き渡った。

 

 

 




 


 以下、作者の妄想。



[宿業坩堝]ミタマガシャドクロ
★★★☆☆
芝:A ダート:E
短距離:G マイル:C 中距離:A 長距離:A
逃げ:C 先行:C 差し:B 追込:A
スピード:+10% スタミナ:+20% パワー:+10% 根性:-10% 賢さ:±0%
固有スキル:『抜刀禍津御魂・大輪』
最終コーナーまで後方にいた場合、自分より前のウマ娘全員からスタミナとパワーを奪い、器から溢れ出した想いで速度が上がる。
『スタミナイーター(全距離)』
『スピードグリード(全距離)』
『曲線のソムリエ』


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見えない。

 年相応なミタマちゃんが見れるのは今だけ!!!(
 そして、かげ様からありがた過ぎる漫画?挿絵?風FAまでいただいてしまいました……!ありがた過ぎる……ありがた過ぎるよ……。


「酷なことを、お伝えしなければなりません」

「……覚悟は出来てます」

 

 沈痛な面持ちで医師は口火を切る。

 覚悟ができているなんて、嘘だ。でも、トレーナーとして聞かなければならない。

 

 一人、私はかかりつけの医師からミタマの容態を聞いていた。

 菊花賞から二日、未だにミタマは目を覚まさない。

 その理由も、ミタマのこれからも。

 

「これが前回、九月の診察結果、そしてこちらが今回のです」

「っ、これって……!」

「はい。両足ともに……」

 

 提示されたレントゲン写真には、目を背けたくなるような惨状。

 たとえ完治したところで、選手生命継続は難しいと言われても納得してしまうような、そんな有り様。

 確かに、予想はできていた。それでも受け入れ難いのは事実だった。

 

「どうして走れていたのか、不思議なくらいです。この脚のダメージは菊花賞の一走だけが原因とは思えない」

「でも、異常は無かったって……!」

「ありませんでした。確かに、なんの前兆も無かった。それでも、これは……あまりにも……。覚醒も、いつになるか……無念です」

 

 医師の顔には、自責の念がありありと浮かんでいた。よく見れば目の下には隈も。

 私は到底彼を責める気にはなれなかった。

 

 だが一つ、なによりも聞いておかなければならないことがある。

 からりと酷く乾いた喉で、声を絞り出すようにして問い掛けた。

 

「ミタマは……また、走れますか……?」

「それは……今はなんとも言えません。ですが、最善を尽くします」

 

 彼の悲痛な面持ちと、不自然なまでの間が何よりの証拠であった。

 これ以上、何も、何一つ、私は言葉を発することができなかった。

 

 

 □

 

 

 重く、重い心と身体を引きずるようにして、気が付けば私はミタマの病室へと訪れていた。

 するとガラリと目の前で扉が開いて、中から見知った顔が出てくる。

 

「あ、ヤエノムテキ……」

「……こんにちは、ミタマさんのトレーナーさん」

「えぇ、こんにちは。お見舞い?」

「はい」

 

 どこか寂しそうな顔で出てきたのは、ミタマと同室のヤエノムテキ。あまり、というかほとんど同年代の知り合いがいないミタマに、彼女やオグリキャップといったひとつ上の世代の子達はとてもよくしてくれている。

 彼女はあの日、トウカイテイオーと共にすぐさま駆け付けて意識を失ったミタマを医務室にまで運んでくれた。

 その上、こうして病室に見舞いにまで来てくれて、本当に頭が上がらない。

 

「ありがとうね、ヤエノムテキ」

「いえ、自分は何も」

 

 良い子だ。とても。

 ミタマには、たくさんの味方がいる。

 それに比べて、私は。トレーナー失格だ。私なんか……。

 そんなふうに考えてしまうことが増えた。

 

「大丈夫ですか? 顔色が悪いですが」

「え、あ、ううん。大丈夫よ。引き留めて悪かったわね」

「……いえ、問題ありません。トレーナーさんこそ、ご自愛ください」

 

 ヤエノムテキはそれだけ言うと、律儀に一礼してから踵を返して去っていった。

 年下の、本来なら私たちが心配する側であるべきウマ娘の少女に心配させてしまった。情けない限りだ。

 

 ……はぁ。駄目だな。しっかりしないと。

 私は沈んだ気持ちを切り替えるためにぱしんと両頬を叩いて、病室への扉を開いた。

 

 病室には他の患者さんは居らず、ミタマの為だけの個室が宛てがわれている。

 設備も最新鋭でかなり大きな病院だというのにこの対応、流石は無敗三冠を成し遂げた私の愛バだななんて感心してしまった。

 そんな資格はないというのに。

 

「……ごめんね」

 

 身動ぎ一つせず、死んだような風に目を瞑って眠るミタマを前にして、ふと漏れ出た言葉。

 反吐が出る。謝れば良いなんて、そんなことあるはずも無い。これは、ただの責任逃れだ。

 私はミタマをこんな状態にしてしまった張本人だ。

 私がもっと、もっとしっかりしていれば。過ぎ去った日々の中で、打開策を見つけ出せていたのなら。こうはならなかったかもしれない。

 私は逃げた。彼女のトレーナーという使命から、逃げたのだ。

 

 

 私は、トレーナー失格で、それどころか大人として最低だ。

 

 

「あまり、自分を責めるものではありませんよ」

「っ、あ、こ、こんにちは。ミタマのお母さん」

「はい、こんにちは、“とれーなー”さん」

 

 唐突にかけられた声に、若干上擦って返答してしまう。

 振り向けば、そこにあったのはミタマと瓜二つの顔。ミタマのお母さんだ。

 気が付かなかった。

 

「この子は、果たせました」

「……?」

「無敗の三冠、私達の悲願を」

 

 彼女はゆっくりと、どこか恍惚として語った。

 

 ああ、確かに見た目も話し方も雰囲気だって似てはいるが、これは違う。これはミタマガシャドクロとは別物だ。

 そして、ミタマが到り得る可能性だ。素直にそう思わされた。

 

「それもこれも、全ては“とれーなー”さん。貴女のおかげです」

「っ! 私は、ミタマをこんな風にしてしまった……それなのに、私には、そんな……」

()()()()()()()()()()

「え?」

 

 その言葉が分からなかった。

 彼女が何を言っているのか、私には分からない。

 分かりたくもない。

 

「ミタマさんは、こうなるべきだった。そして、正しくそうなった」

「な、何を……」

「無敗の三冠を獲り、私達の悲願を叶えて、そして儚くも潔く終わる。これが私達の願いの結晶。血の集大成」

 

 分からない。分からない。

 この人は、何を言っている? 実の娘に何を言っているんだ?

 ミタマのトレーナーとして、何かを言わなければ気がすまなかった。

 

「そんな、まるで道具みたいな……!」

()()()()()()()()()()。この子は血の為の道具に過ぎない。それはワタシも例外ではなく、ウマ娘は流れる血のためだけに生きるモノです」

「っ!! 貴女は、それでもっ!!」

 

 私は、自分を抑えきれなかった。

 血が滲まんばかりに固く握り締めた拳が、怒りと共に放たれようとした。

 

 その時であった。

 

「“とれーなー”さん……? お母様……?」

「ミタマ……っ!?」

 

 真っ赤な瞳が、不安げに私達を見つめていた。

 その左右の耳は、珍しいことにくるりとそれぞれ違う向きに回っていた。

 

 私の知らない反応。あの日、菊花賞で見せた微笑みと同じ、私が見たことのないミタマの表情。

 

「……また来ます。ミタマさん、養生するように」

「……はい、お母様」

「“とれーなー”さんも、ミタマさんを最後までよろしくお願いします」

「言われなくてもそのつもりです」

 

 ミタマのお母さんは、一言声を掛けると病室を出ていってしまう。

 私は、このやるせない思いを努めて抑え込み、恐らく混乱しているであろうミタマに状況を説明しようと口を開いた。

 

 そして、私は再び困惑することとなる。

 

「ミタマ、あのね「と、“とれーなー”さん……」っ、どうしたの?」

「っ、あ、あの、その……っ」

 

 取り乱した顔、声音。

 いつも落ち着き払ったミタマらしくない、慌て、怯えた年相応にも見える表情。

 尋常ではない様子に、思わず息を飲む。

 

 

「導きが……、っ、導きが見えなくなって、しまいました……」

「み、導き?」

「ぁ……ぁぁ、……ワタシは、どうすれば……?」

「落ち着いて、ミタマ!」

「っ、“とれーなー”さん……?」

 

 

 ミタマは、涙を流していた。身体を掻き抱いて。

 迷子になって戸惑う幼子のように、ミタマは涙を流していた。

 その絶望にも似た感情に染まった昏い瞳が、私を捉える。

 

「ミタマ、大丈夫?」

「ぁ……っ、ワタシは……ぅ」

「ミタマ? ねえ、ミタマ! どうしたの? 気分が悪いの?」

「……」

 

 つー、と頬に涙が伝う。

 そして、それきりミタマは俯いて何も反応を返さなくなってしまった。

 

 どうしようもなく、壊れてしまった。その姿からは、そんな風に思えてしまう。

 今日はこれ以上、彼女に触れるべきではないのかもしれない。

 もう、信用すらされていないのかも。

 ……それは嫌だ。でも、仕方が無い。私が無力だったから。そのせいでミタマは……。

 

「……また、来るわね」

 

 返事は無い。彼女は俯いて、震えていた。

 私には何も出来ない。無力な私には何も。

 

 

 私はどうすれば良かったのだろう?

 どうすれば何もかもが上手く行っていたのだろうか?

 

 

 この問いに、答えは出ない気がした。

 

 

 




 
 
 
 
 しばらく続くんじゃ……。


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君を待ってる。

 

 遅れましたがやっとこさ最新話です……。

 


 

「ミタマさん、こんにちは」

「ぁ……ヤエノさん、こんにちは」

 

 ぼうっと、開け放たれた窓の先を、どこか遠くを眺めていた。

 まるで全てを失った抜け殻のように。

 

 ヤエノムテキは、相部屋の後輩にして己のライバルであると心の底から認めていた少女の弱々しい姿に胸が苦しくなった。

 どう声をかけたものかと悩む彼女。その後ろから、数人の少女が現れる。

 

「ミタマちゃん、お見舞いに来ましたよ〜」

「ミタマさん、こんにちは!」

「こんにちは、ミタマ」

「……皆さんも、こんにちは」

 

 その顔ぶれはいずれもトゥインクルシリーズにおける、今を駆ける綺羅星達。ファンならば卒倒するような面々だ。

 スーパークリーク。おっとりしているが菊花賞、天皇賞・秋を勝った猛者だ。

 サクラチヨノオー。ヤエノムテキ達としのぎを削りダービーウマ娘となった世代の頂点のひとり。

 

 そして、オグリキャップ。

 怪物とすら形容される実力を持った世代最強と目されることもある名ウマ娘。

 

 そこに皐月賞ウマ娘ヤエノムテキを加えた面々を前に、しかし、ミタマガシャドクロは小さく会釈をするだけでやはり大した反応を示さない。

 精根尽き果てたとはまた違う。本当に何もかもを失ったような雰囲気。

 

「ミタマさん、無敗の三冠おめでとうございます」

「……ありがとうございます」

 

 スーパークリークとサクラチヨノオーが病室に飾る用の花を取り替える音だけが響く中、ヤエノムテキは意を決めて口を開く。

 これはこの場にいる全員が兼ねてからミタマガシャドクロに言おうと思っていたことだ。

 自らの実績を賞賛されて、少なくとも悪く思うウマ娘はいないだろう。喜びの感情は抱くはずだ。

 

 だが、ミタマガシャドクロはその賞賛にも細い声で一言礼を述べるだけ。まるでその実績をどうとも思っていないように。

 

 きっと実感が湧いていないのか、それ以上に足へのダメージと今後の選手生命が気になるのか。そのどちらかだろう。そうであってほしい。

 彼女達の間に困惑が生まれ、ほとんど会話は続くことなく時間だけが過ぎていく。

 

「……そろそろ、行きますね。このあとアルダンさんのお見舞いにも行く約束をしているので」

「また来ますからねー。はやく、良くなるように祈ってますから!」

「ミタマさん、お大事に!」

「……はい。わざわざ御足労いただき、ありがとうございました」

 

 後ろ髪を引かれるような思いを三者共に抱きながら病室を後にしようとする。

 その時であった。

 

 今まで黙りを決めて座っていたオグリキャップが、ミタマガシャドクロを見つめて口を開いたのは。

 

「少し、二人で話をできないか」

 

 そう尋ねるオグリキャップに、ミタマはちいさくこくりと頷いた。

 その様子にただならぬものを感じたか。三人はオグリキャップに首肯を返すと病室から退出していく。

 

「……それで、お話とは?」

「あー。そんなに難しい話ではないんだ。上手く伝えられるか分からないんだが」

 

 言い淀むオグリキャップに、ミタマガシャドクロは無表情に少しばかり困惑を滲ませた。

 ほんの少しの静寂が過ぎて、オグリキャップはミタマガシャドクロを見つめてようやく口を開いた。

 

「あの日、君が言ってくれた言葉を覚えているか?」

「……強き者よ、散り候え」

「ああ。それだ」

 

 思い返すのは、まだミタマガシャドクロがジュニアクラスであった頃。ヤエノムテキとメジロアルダン、そしてオグリキャップとミタマガシャドクロの四人で休日を過ごした日のこと。

 去り際、その目に昏くも猛々しく燃え盛る火を宿してミタマガシャドクロが宣言した言葉だ。

 

 それが何だと言うのか。もう既に己の脚は限界だ。オグリキャップ達先輩には悪いが、この宣言を実として果たすことはもう不可能なのだ。

 少しだけ自棄になりながら、ミタマガシャドクロはオグリキャップに返す。

 

「……私は、もうきっと走ることは叶わないでしょう。もう、無理なのです。あのような啖呵を切った手前お恥ずかしいことですが……貴女達と同じ舞台に立つことは不可能となりました」

「そんなことはない」

「……分かるのです。私は走れない。既に導きすらない。何もかも失ってしまった」

 

 それは後悔を孕み、どこか懺悔にも似た響きを伴って。

 そして、それが何によるものなのか。オグリキャップには確かな根拠こそ無かったが、なんとなく、そうなんとなくその理由が分かっていた。

 

「悔いているんだな」

「……そう、なのかもしれませんね」

 

 ぎゅうっと服の袖を握りしめながら、ミタマガシャドクロは肯定する。

 

「……もう走れない、そして走る理由すら無いのです……。……使命と誓いのために必死に走ってきました。だからこそ、今私は私が分からない……」

 

 ミタマガシャドクロから漏れ出る感情を静かに受け止めて、オグリキャップは言葉を紡ぐ。

 

「私は思うんだ。いつも、誰かに導かれてここまで来た。誰かに背を押されてここまで来た」

「……」

「でも、私は結局私のために走ってきたんだ。私を応援してくれる人達に応えたい私のためでもあり、私を超えたい私のためだけに走ってきた」

「っ」

 

 オグリキャップのその言葉に、今日はじめて大きな反応を返したミタマガシャドクロ。

 だが、それも当然だろう。

 

 オグリキャップの直感は、当たっていた。

 

 

 

「君は、君のために走ってきたか? 君を支える誰かのために走ったことはあるか?」

 

 

 

 その言葉こそが、オグリキャップがミタマガシャドクロに突き付ける全てだった。

 

 何も返すことはできない。返せるはずもない。

 ミタマガシャドクロは、いついかなる時も自分のためはおろか、今自分を応援してくれる誰かのためにも走ったことなどなかったから。

 それは、慕うトレーナーのためですらなく。ただ、使命を盲信してきたのだ。

 

 項垂れるミタマガシャドクロから目を逸らさず、オグリキャップは続ける。

 

「あの時の君の言葉。私はすごく、そう惹かれたんだ。救われたって言っても良い」

 

「有マ記念を前にして、少しだけ不安定だった。タマがいなくなるって、私はこのまま宿敵(ライバル)に勝てないままなんじゃないかって。苦しかった」

 

「その時、君の言葉はどうしてか私の心を惹き付けた。多分、私とタマとの間にあった関係が、私と君にもあると思ったから」

 

「私が抱いたタマへの思いが、ミタマガシャドクロ、君の中にもあるのだと知れた。私はまだ走るんだ、諦めるのは無理な事なんだって思ったんだ。それが、たまらなく嬉しかった」

 

 そこで一度言葉を切って。

 思った以上に熱の入ってしまった言葉に気恥ずかしさを覚える。

 でも、まだいちばん伝えたいことを伝えていない。

 

 

 オグリキャップは、俯くミタマガシャドクロの双肩を固く掴んだ。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()。自分の走る本当の理由を探していい。そして、その理由の中に私がいたらそれは嬉しい。言いたいのはそれだけなんだ」

「オグリキャップ、さん……」

「口下手だからな。伝わっていてくれたら幸いなんだが」

「……」

 

 呆気に取られるように、無表情ながらぽかんとした雰囲気を晒すミタマガシャドクロにオグリキャップは思わずふふっと笑みを零す。

 

 これ以上は自分で気が付いて欲しい。気が付くべきだ。

 

「さてと、そろそろ私も行くとしよう。……ミタマ」

「……?」

 

 椅子から立ち上がったオグリキャップは、扉の前で立ち止まるとミタマガシャドクロの方へとちらりと振り返る。

 

 そして、微笑んでから告げるのであった。

 

 

 

 

 

「────私は、君を待ってる。来てくれ

 

 

 

 

 



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