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旧版 無限航路
【旧バージョン】何時の間にか無限航路 序章+第一章


※注意

 この先の話はほぼ直していないので、そういうの嫌な方は何も言わず、改訂後の何時の間にか無限航路へどうぞ。


何時の間にか無限航路 序章+第一章

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、何がどうして俺は平原に突っ立っているのだろうか?」

 

≪むにぃ≫

 

「痛みは………あるな」

 

 

ほっぺをつねったらイタイ…つまり夢じゃなかった!―――どうなってやがる?

ホントにどうなってやがる?大事な事なので二度言ってみた。

おし、ちょいと状況を整理してみようじゃまいか…良い感じに混乱してっけど…。

 

さて…

 

俺の名前は―――――――――――大和田 明夫

職業は―――――――――――――大学生

趣味は―――――――――――――ゲーム&読書(マンガ比率高し)

直前までは何をしていたか――――部屋で無限航路してた。

 

 

アカン、全然役に立つ情報があらへん…。

というか、着ている服がいつものと全然違うぞ?

普段着は基本ジャージなのに何なんだこの服?ジャンパーとGパン?

 

 

「……てか俺背縮んでんじゃねッ!?」

 

ふと気付くと視点が低い…まて…待て待て待て!!俺の身長は一応190cmはあったんだぞ?!

それがいきなり165cmくらいに縮むかぁ?!数字がやけに具体的なのは只の勘!!

変なオクスリのまされて頭脳は大人身体は子供になったんかい!?

 

 

 

「いや、てことは――My sunはッ?!」

 

 

 

ガバッ!と、大急ぎでズボンの中をのぞき見た。

 

 

 

俺の、俺の息子は―――――

 

 

 

「はは…もう、おしまいやぁ…」

 

 

 

―――縮んでしまった我が息子を見て膝をついた。

 

 

 

 

 

―――俺は、チ○○のサイズでコレが現実だと思い知った。オウノウ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひっひっふー、ひっひっふー……はふー」

 

 

とりあえずラマーズ法で自分自身を落ちつかせる。ラマーズ法は偉大だ。

何かあったらラマーズ法を行えば大抵どうにかなる。

それはさておいて少しでも情報が欲しい。一体ここはどこなのかっと…。

 

うん、自分の服といって良いかわからんが、今着てる服のポケットをまさぐり持ち物を探ってみたらなんか出て来た。

えーと、なんか変な四角い物体、何かのカード入りの財布…財布ってことは名刺とか住所とか書いてあるカードとかないか?。

 

 

えーと、財布には―――――うひん!?

 

 

「名前は、ユーリ…………まじで?」

 

 

財布には、さっきまで俺がやっていたゲーム、無限航路の主人公の名前が書かれていた。

ちなみに地球の言語ではない。見た事もない文字……でも読めちゃう、不思議。

しかも持っていた四角い物体は良く見れば物語のキーアイテムのエピタフじゃないすか。

 

そう言えば…ふと思い出せば今着ている服は主人公が一番最初に着ていた服ですねー。

おまけに頭髪が真っ白だと?ふむ、若白髪って訳でもなさそうだな。

 

 

「おいおい、オイオイオイ、マジですかなコリャ…」

 

 

どうやら俺は、無限航路の主人公くんに憑依しちまったという状態な訳か……。

うん、もう色んな事があり過ぎて無理、もう理性の限界―――――

 

 

「死亡フラグ満載な世界なんてイヤじゃーッ!!!!!!」

 

 

なんでかワカンネェけど俺は憑依したらしい……夜の草原に叫ぶ声だけが響いた。

 

 

* * *

 

 

「さてさて、これからどうするよ俺」

 

 

はーい、何故か無限航路の世界に来てしまった大和田ことユーリで~す。

とりあえず落ちついたので、今後の対策を考えることにしました。

ぶっちゃけいろいろ考えるのもアレなんで状況に任せてみる事にしたんだなコレが。

 

冷静に考えれば名前が一緒でも主人公とは限らないしなとか思ったんだが…。

エピタフつー本編ゲームのキーアイテム持ってるから、憑依したのはほぼ確定事項……どう考えても良く似た他人はムリぽ。

 

 

ソイツはさて置き、さっきから俺が連呼しているゲームタイトルの無限航路とは何か?

概要を簡単に説明させていただくと、“宇宙船の艦長をやる少年の成長物語”を題材とした宇宙船のRPGである。

 

戦闘用宇宙船を使って宇宙に張り巡らされた航路を巡り海賊ぶっ殺して金稼ぎ&冒険。

金がたまったら船を改造、更なる高みへ上り、強者との戦いへ挑むって感じのゲームだ。

おまけにこのゲーム白兵戦ありだから、死ぬ可能性がかなり高いのも特徴である。

ヤベェ、すでに詰みそう。

 

 

「んで多分、目覚めたここは冒頭の惑星だから……ト、ト?…あーおっぱいが大きい姉ちゃんが落ちてくる場所だ」

 

 

それっぽい草原ってか荒れ地?まぁとにかくここで待ってれば来てくれるだろう。

誰が来るか?それは、俺を宇宙に連れて行ってくれる人さ(キリッ)

………言いたいことは判る。カリスマぶっても似合わねぇってな。

 

まぁとにかく俺の憑依先である主人公くんは、独裁的領主が宇宙に出る事を規制したこの星系に住んでいる、という事になっている。

でもソラを夢見た少年はルールは破るもんだぜヒャッハー!と……違う違う。

あながち間違いじゃないけど違う。

今のは半分近く正解だが、正確には序盤は打ち上げ屋という職業の方に頼んで宇宙に行くって話だった筈。

ココだけは何度もやっててDSのOPアニメにも入ってたからよーくおぼえちょる。

 

とはいえ、ある意味開拓者のような生活になるので、この旅には命の危険が付く。

死 亡 フ ラ グ なんて道端に転がってますレベルに死と隣合わせであると言える。

なんせ宇宙船の壁一枚向こうが真空なのだ。

壁に穴でもあいたらダイソンも真っ青な勢いで吸引されて空気ゼロの窒息死まっしぐらだぜ。

 

ぶっちゃけ船を作らないとか乗らないって手もある。

だが俺はそれを選択しない。なぜか?

 

だって宇宙船だぜ?!宇宙船!!スペースシップッ!!

光速の10倍の速度が出る宇宙船を作れるし実際に乗れるんだぜ?!

元いた世界でも月に逝けるか行けないかで騒いでいたのに普通に宇宙船に乗れるんだぜ?!

これに燃えない男がいるだろうか?恐らくいないだろうッ!異論は認めるっ!

 

しかもこのゲーム、最終的に全長3000mのフネも作れるのだ!

キロに言い直したら全長3km…都市一つ飛ばしてるようなモンである。

そんな宇宙船の艦長をやれるかもしれない。そう考えたらオレァ燃えてくるぜぇぇッ!!

 

――てな訳で俺は0Gドック、この世界における宇宙航海者になる方面でいくことにした。

 

この世界では主人公のユーリくんはかなり危険な位置に居る。

海賊に殺されかけたり星間戦争に巻き込まれる事もある。

死ぬかも知れない危険な宇宙の旅……だけど俺はそんな事露ほどにも考えていない。

死亡フラグ?そんなモンこの世界に居たら、しょっちゅう起こりうる些細な問題なのだ。

 

 

どうせ死にかけるのだったら、好きな様に生きてやるっていう方が良いに決まってるだろう?

それにある意味、俺は男共通の夢である宇宙の旅に出られるという好奇心の方が強かった。

死亡フラグくらい、根性で何とかしてやるぜ!――って心意気で行く事にしたぜッ!本音は怖いけどな!

 

 

「さぁ早く来いでっかいおっぱいの姉さん!!そして俺に自由の翼をプリーず!!」

 

 

 満点の星空へと俺はやややけくそ気味にそう叫んでいた。

是非とも戦艦の艦長になって故郷の星に戻ってきた時に、某偉大な老艦長に肖って『ロウズか…何もかもが懐かしい…』とかやってみたいものだ!

 

あ、ちなみにロウズっていうのは俺が今いる惑星な?

とっても静かで自然豊かで良い星だけど、そんなのは老後の楽しみにとっとけってなッ!

ワクワクとドキドキと周りが夜なのでお化けでないかドキドキとか考えながら、夜空を見上げていた。

 

 

「しっかし、宇宙に出られるっていうのに惑星に引きこもるなんてバカだよなぁ…」

 

 

夜空を染める星々を眺めて何か見えないか目を凝らしていた時、ふとこんなことを思って口に出していた。

この惑星の…というかこの星を含めて近隣星系は領主であるデ、デ…デラなんちゃらによって支配されている。

このデラなんちゃらは市民が宇宙に昇る事を禁じている。

コイツがこの星系において自由に宇宙の航海に出られない元凶である。

理由としては“自分が老いたから、若い0Gドックが生まれるのがイヤ”という些細な事だ。

 

 

「俺なら航宙禁止法なんて作らないで、むしろ応援しちゃうけどなぁ」

 

 

 宇宙資源とか一杯手に入れた方が領土が発展するだろうに。

そこら辺は老人のプライドって奴だろう。犬も食いそうにないけどさ。

 犬と言えばサモエドかわいいよサモエド。

是非あの毛皮でモフモフしたい―――

 

 

≪………ドドドドド―――!!!≫

 

「ん?何ぞ?このドドドドって音は?」

 

 

暇なので思考がずれていたらしい。

突然上の方から大気を揺らす様な大きな音が聞こえてきた。

なんだろうと空を見上げれば、全長100mは有りそうな発光する飛翔体が何個か飛んでおり、一個の飛翔体を複数の飛翔体がおっかけてジグザグ飛行しているのが目に入る。

 

 UFO!?……な訳ないか。ありゃ多分宇宙船かな?

詳しくは判らないが一番先頭にいる発光する宇宙船が後に続く宇宙船達から逃げているように見え…あ、逃げる方に目掛けて光線が…別のフネから攻撃されているのか。

 

うーん遠くて詳しくは判らないなぁ。夜だからあたりも暗いし。

まぁ上の方は光線が飛び交って、ちょっとした宇宙戦争みたく発光してるから、何処を飛んでるのかはすぐわかるんだけど。

 

……おろ?なんか追われてるフネから火花が……ッ!?

 

「うえっ!?コッチに飛んでいや墜ちて来たぁぁぁ!!!???」

 

あれれー?逃げている方のフネから火の手が上がったかと思ったら突然大きくカーブして落下してくるよ?

しかも俺のいる位置目掛けて……これ思いっきり衝突コースじゃねぇかっ!!いきなり死亡フラグの到来?!

 

「ギイーヤーッ!!まだフネ作ってなぁい!!モジュール組み立てやってなぁいッ!!」

 

迫る爆音が大きくなり、俺は踵を返してこの場から離れようと爆音を背に走った。

もうとにかく必死で近くの森の中に飛び込んだ。

 

「デカパイ姉さんのバカ野郎ぉぉぉッ!!!」

 

思わずそう叫びながら足を取られてゴロゴロと木々の間にダイブするように転がり込む。

そしてゴロゴロ転がっていたら少し窪んだ場所に落っこちた直後なんかすごい熱量が頭上を通過していくのを感じる。

だけどもっけの幸い。たまたま転んではまった窪地のおかげで、俺の首が吹っ飛ぶのは免れたらしい。

 

 

「……うん?なんか焦げ臭――ってアッツーッ!!!!!!!」

 

 

だけど火花が背中に当たって少し燃えた。慌てて大地に五体投地しゴロゴロと消火作業にいそしんだお陰で火はすぐに消えた。あー熱かった。それ以上に吃驚したべ。くそ、何だか前途多難だけど………大丈夫かな俺?

 

 

 

■ロウズ編第一章■

 

 

―――モソモソ、木のウロからソロリと顔を出す。

 

どうやら墜落してきたあの飛行物体はちゃんと不時着したようである。

あやうく不運(ハードラック)と事故(ダンス)っちまうとこだったZE。

べ、別に怖く何か無かったんだからネ!漏らしてもいないんだからネッ!

 

……精いっぱいの虚勢を張ってみたがこれは普通にキモいな。

 

とにかく、いきなり死にかけたけどこれはほぼ原作通り。

“打ち上げ屋”であるデカパイ姉さんが落ちて来たという事であろう。

とにかく、宇宙に出るには彼女と接触しなければ!!そう思い藪をかき分けて進む。

 

 

 

 

―――そして、居た。

 

 

 

パチパチと爆ぜる様に燃える焚火に照らされて座っている女性。

その後ろに鎮座しているのは彼女の宇宙船である魔改造輸送船デイジーリップ号。

うん、明らかに壊れてるね、バチバチショートしてる音がココまで聞こえるわ。

 

 

「そこのぼうず、なに見てるんだい?私は見世物じゃないよ」

 

 

おお、なんという姉御声だ。

それ以上にさりげなく手に握られている銃が超怖…じゃなくて。

 勇気を出せ俺、ここで言葉を出さねば一生修理工暮らしだぞ

 

「あ、あの打ち上げ屋さんですか?」

「そうだけど、あんたは?」

「良かった。依頼した大……ユーリです。俺をゲートの向こうに連れて行って下せぇ!!」

 

あ、あぶねぇ…つい憑依前の自分の名前言っちまうとこだったぜ。

多分ユーリは自分の名で連絡入れてるだろうから下手な事言えネェわ。

でもアレだなトスカさんは姐さんオーラでも出しているんだろうか?

なんか俺の喋り方が妙に舎弟っぽくなるんだが?

 

 俺の戸惑いとは無縁とばかりに下から上に舐める様に見やるトスカ姐さん。

 ―――イヤンっ。そんな熱い目で見ちゃらめ…

 

「金は?」

「ええと、コレッス」

 

 一瞬すごく冷たい眼をしていた様な…気の所為かしらん?

それはそうと金だ。恐らくはそうであろうカードを財布から取り出し姐さんに渡す。

というか唯一の所持品である財布の中にはコレしかなかったから、このカードじゃなかったら俺ァ泣くぞ?

彼女はカードを受け取ると、懐から出した携帯端末の様なものにカードを差し込んだ。

ミーっと何かを読みこんでいるかの様な電子音が静かに響く。

 

「うん、1000ちょうどだね。よし良いだろう。

あたしがあんたをゲートの向こうまで連れてってやるよ……と、いっても肝心の船がこれじゃなぁ」

 

そう言って自分の船を見上げる姐さん。

確かにまだバチバチショートしてて壊れてまーす全開だよなぁ。

しかも主翼みたいな部分の根元が45度位上向きに曲がってしまっている。

アレは知識がない素人目で見てもドッグ入りなのは間違いないだ。

…ってちょい待ち!この船が使えないじゃ宇宙に出られネェぞ?

 

おい、なんとかならねぇのか?!デカぱい姐さんっ!

 

「あ゛あん?」

 

とても綺麗なお姉さま、どうにかならないでしょうか?

スゲェ睨まれたので今の俺は蛇に睨まれた蛙状態である。

あれだね。人間って睨まれるだけでも多分死ねるね。

そんくらい怖いって事さ。というか心でも読めるんですか貴女は…。

 

ともかく原作だったらユーリがその場でチョチョイと直してたデイジーリップ号であるが……

流石にココまで破壊されてたらこの場で直すのはちょいとムリだ。

それに俺は本来のユーリと違って直し方判らん。

くそぉ、宇宙に出てみたいだけなのに、いきなり最初から頓挫しやがった。コンチキショーめ!

 

俺は考える…こういう時、大抵憑依先に何かしらの知識が残されている筈だ。

そう思い考えを巡らせたところ――――あった。ご都合主義万歳。

脳内のデータバンクによると、この近くに廃棄された施設があるそうな。

それも開拓時代の一通り設備がそろっているってヤツが。こうしちゃいらんねぇ。善は急げだ。

 

「えーと、打ち上げ屋のお姉さん?」

「トスカだ、トスカ・ジッタリンダ」

「トスカさん、この近くに廃棄された大規模入植時代のコロニーがあります。

廃棄されて長いですが一応まだ中の機構は生きてるらしいです。

だからソコのドックで修理した方が良いんじゃないッスか?」

 

 

ユーリ本人が持っていた知識である。

どうやらコイツ事前にかなり予備学習されていたらしい。

さりげなく脳内を探ってみれば出るわ出るわ。

最低限の操船知識から子宇宙技術にEVA技能、それに船の整備に至るまでかなりの知識を持ってやがった。

 

おまけに思考も早い。

俺という外部要因がいるので頭が良いかは主観となるが多分頭も良い。

さすがはこの世界の主人公は色々チートやね。顔も良くて頭の方もとかどんだけやねん。リア充爆発しろ!

……ってそのリア充は今俺だから爆発はやっぱり無しで。

 

 宇宙船を間近で見て少しばかり興奮し変な妄想をしている俺を横目に、トスカ姐さんは俺からの情報を吟味しているようで考える仕草のまま動かなかった。

後で聞いた話じゃ雇い主を観察していたらしいが、その時の俺は只の馬鹿に見えていたんだってさ。ヒデェ。

 

「成程ねぇ。まっ、確かに一利あるね。良し案内しな“子坊”」

「あ、俺の事は親しみを込めてユーリって呼んでくださいッス!」

「初対面なのに結構図太い子だねぇ…ま、子坊がもっといい男に成ったらそう呼んでやってもいいさ」

 

そう言うと彼女は流し眼でウィンクをしながらこちらを見た後歩き出した。

やべぇ、カッコ良いッス!惚れてまうやろぉぉぉ!!マジ惚れそうッス姐さん!!姐さんになら掘られても(ry

 

「なにボーっと突っ立ってんだい?さっさと行くよ?」

「ヘイッ!姐さん!」

「あ、姐さん?!よしてくれよ、トスカでいい。」

「解りましたトスカさん!こっちッス!」

「………はぁ、なーんか調子狂うね、ホント」

 

 

 

* * *

 

 

 

さて、憑依先の知識だったので無事に目的地にたどり着けるかどうか結構心配だったのだが、

殆ど人が来ないからか荒れ放題の獣道のような場所を進み藪を抜けたところ、大きなドーム状の建物を発見した。

どうやらコレがユーリの記憶にある施設の様だった。

 

俺にしてみれば近未来建築って感じで思わず目をきらきらさせてしまった。

何か建物を見てデジャブを感じたが、それもその筈……ぶっちゃけて言うとゲームのOPアニメで見たことがある建造物そのものだったからである。

てな訳で道中何かある訳でもなく普通に辿り着く事が出来た。

 

「入口は…まぁ締まってるよねぇ」

「まぁ普通はそうッスね。あ、こっちッス。ひび割れから入れるッス」

「……表は硬くても横は脆かったね。放置されりゃこんなもんか」

 

ドームの入口は厳重に封印されていたけど、場所が曰く付き名場所なので長い事放置されて整備が一切無しの状態だった所為で、

そこら辺じゅうの壁にツタが吹き出て亀裂が走っている。

そのお陰で実質侵入し放題だった。封印した意味がまるでないし。ザマァ。

 

んで、比較的大きい大人一人が通れそうなひび割れから施設内に侵入したけど、どうやら中の方は比較的無事らしい。

非常用電源や情報端末とかも普通にまだ生きていた。

開拓時代のって言うくらいだから丈夫に出来ているのかもしれない。

 

「お、この端末まだ電気が通ってるみたいっスね」

「使えそうかい?」

「少々おまちを…えーと(ユーリの知識さんカモ~ン……おk、パネル外して配線いじればすぐだ…)」

 

とりあえず施設備え付けのまだ生きている端末をチェックする。

配線いじって起動とか車かとか思ったがそういうもんだと納得しておく。

とにかく情報端末から得た情報によるとこの施設内の整備ドックのある区画は中心部に近い位置にあるらしい。

外周部に近い端末がちゃんと動くので、恐らくは使える状態であると判断する事にした。

 

ちなみにココが廃棄された原因もユーリの知識の中にあった。

実はつい最近まで使用されていたが、なんでもバイオハザードが起きたんだとか…ゾンビはでねぇぞ?伝染病ってだけ。

まぁつい最近と言っても、それからすでに20年も経過しているので安全だから関係ないけどね。

 

とりあえず造船所に赴き、自分の目で施設が動くか確認した後、俺達は応急修理に必要なモノをそろえて、デイジーリップの所に一度戻った。

歪んでしまった船体はともかくとして、最低限フネに搭載された反重力ユニットさえ修理出来れば、とりあえずココまで引っ張ってこれるからである。

 

「ジェネレーターからコネクタつなぎます……どうッスか?」

「O,K、動き出したよ」

 

一応フネに関する知識は一通り記憶としてあったので俺も修理をお手伝いした。

トスカ姐さんは遠慮したけど、これから世話になるんだからと押し通した。

だってこれから乗せてもらうのに横でただ見てるだけとか…中の人は日本人なオイラにはムリである。

 

もっとも手伝いはしたが…役に立っていたかは微妙だ。やっぱり難しかった。

なにせ憑依先の知識を引き出しながらの修理である。

少しずつ修理の手伝いをしていると最初の内は記憶から引っ張り出すという作業を挟むことが必要な為、ちょっと仕事が遅かったのだ。

 

だが作業している内に無意識に知識を“思い出せる”ようになっている事に気が付いた。

どうやら徐々にユーリのもっていた知識が俺の意識と融合を始めたらしい。

ご都合主義バンザイだがコレがないとこの先ヤバいので歓迎すべき事だろう。

これでいろいろと不自由しない程度に色々できるように…っと話がズレた。

 

「うぉ、浮いてるぜ…スゴ」

 

そんなことを考えている内にデイジーリップ号はふわりと浮かびあがり宙へ浮いていた。

小さいと言っても100mもあるフネが音もなく空中で静止しているのは、なんというか…スゲェ。

でも思わず声に出したらトスカ姐さんに怪訝な目でみられた。

 

「いまどき反重力なんて車にも使われてるだろうに、変なヤツ」

「あ、いえ…その、こういった大きなフネで使われてるのを見るんは初めてでして…」

「あん?この程度大きいに入らないよ。アンタは知らないだろうけど宇宙にはもっと大きなフネなんてゴロゴロしてるんだからね」

「へ、へぇー!それは見るのが楽しみッス!」

 

 

 

ちょっと棒読みに近かったが、トスカ姐さんはそこら辺には気付かず俺の返事に気をよくして作業に戻った。

恐らくこの時の俺は、頭から冷や汗ダラダラだった事だろう。

だって21世紀在住だった俺が反重力車なんて知る訳ないじゃない。

ありがたい事にトスカ姐さんはあまり追及しないでくれけど、この後はドッグにつくまで終始無言だったのが辛かったな!!

 

 

 

 

 

 

さて廃棄されたドームのドッグに到着すると、まずは船体の固定作業を行った。

作業は半ばオートメーション化されている為、こっちはコンソールに指示を飛ばすだけなんだけどね。

ぶっちゃけデイジーリップに関しては、アレはトスカ姐さんのカスタム船らしいので、俺は本格的な修理作業は手伝う事が出来ないのである。

 

仕方ないので、何か使える物資は無いかと色々と散策して廻る事にした。

フネ用のドックが付いていた程の規模がある施設だ。

しかも突然のバイオハザードで取る物とらずに廃棄されたからいろいろ有る筈。

 

そう考えた俺は色んな場所を見て回り、結果としてデータとしてだがモジュールと呼ばれるフネ用内装品の設計図を幾つか入手。

ソレと真空パック状態の物資コンテナを幾つか発見した。

幸先がいい。俺って結構運が良いねぇ。

 

「う~ん、流石にコレ以上はないかぁ」

 

モジュールデータを発見した部屋で、端末を弄くっていた俺はそう呟いた。

まぁ幾ら突然廃棄されたとはいえ引き上げる時には重要データだとか大事なデータは消すか何かしているだろうしな。

第一20年前に廃棄されたコロニードームで、そんないいモノが残っている訳もないか。

 

「俺だったらHDDの中身を消去してから逃げるしな……HDDの、中身?」

 

 

 

 いま、俺はとても重要な案件に気が付いた。

 

 

 

 俺、前の世界の、HDDの中身、消去して無い……。

 

 

 

 ――めのまえが まっくらに なった――

 

 

 

「――残念、ユーリの冒険はココで終わってしまった…って流石にソレはメンタル弱すぎるわい」

 

 戻れるかわからんけど多分戻れないから別に大丈夫だし――ホントだぜ?

目から熱い水が流れて止まらないけど大丈夫なんだぜ?

……ああどうかあちらの世界に居らっしゃる方々。

どうかPCの中は見ずに何も言わずにHDDを破棄してくだしゃぁ。

 

「――ん?何ぞコレ?」

 

 陰鬱な影を背にもう一度だけ端末の中を洗っていたら、なんか変なファイルを発見した。

いやまぁ、社会的に重要そうな機密ファイルとかは全部消去済みだったんだけど、そのファイルは個人のフォルダの中に入っていて自動消去システムから免れたデータっぽかった。

 

―――勿論個人ファイルだからパスワードを入力しないと開けない。

 

「ん~、どうしよっかな~」

 

端末を開いて整備ドックにアクセスしてみる。

デイジーリップ号の損傷度合いが大きい上、設備が古いので今しばらく修理に時間がかかりそうだ。

その間が暇すぎるなと判断した俺はヒマつぶしにこのファイルを開いて見る事にした。

 

 そん時は、只のあそびのつもりやったんや。

まさかあんなモンが入ってるなんてわかるかーい。

 

……………………

………………

…………

 

 

 

「こ、これは?!」

 

俺の持てる全スキルを持って解読にあたり何とか4時間くらいでロックを解除出来た。

ニョホホ!俺の事は今度からスゴ腕ハッカーと呼んでくれ!………いや、冗談なので本当には呼ばないでね?ただの軽いジョークさ。

 

本当の事をいうと実は全く解けなかったんだ。

だって俺ハッカーとかじゃないし、プログラム引き出して解析とかなんてムリ。

だから正攻法で頭に思いつくパスワードをつらつら撃ち込んだダケである。

そこら辺の知識も入れといてくれよ憑依先さん…。

 

んで思いつく単語や数字の組み合わせとか、この世界、無限航路に出てきそうな単語は思いつく限り殆ど入力したけど全然ファイルは開かなかった。

そりゃまぁ、それで開いたら苦労はないだろうね。

俺が持ってたPCみたく適当に決めた英数字の組み合わせとかだったら俺にはお手上げじゃ。

 

あまりにもロックが解けないのでイライラしてた俺は、ケッと言いながら机に足を乗せようとして―――

 

「うら~↑!?」

≪ビターン≫

 

―――勢い余ってイスから墜ちた。痛かった。痛かったぞー!

 

 頭は打たなかったけど、イライラが溜まっていた事もあり怒りは加速する。

 

「お、おのれ…俺は怒ったぞォ!!」

【ア タ マ ニ キ タ】

 

―――カタカタと冗談半分で打ち込んだ。すると突然端末から電子音が響いた。

 

 最初はエラー音か何かだと思っていたんだけど、よく画面を見てみると偶然にもロックが外れていた。

 

マジかよ…と茫然とした。まさかのパスワードがドンピシャリだった訳だ。

そして一応開けた訳だし、そのファイルの中を確認した俺は、この時点では有り得ないモノを発見した。

調べてみた隠しファイルの中には、恐らく設計図と思わしき大量のデータが存在していたのだ。

 

「ネビュラス級戦艦にバゼルナイツ級戦艦、マハムント級巡洋艦にバゥズ級巡洋艦にバクゥ級巡洋艦、駆逐艦はバーゼル級だなんて……どうやって手に入れたんだ?」

 

今の俺がわかるだけでこれだけの設計図である。

どれもこれもこんなマゼラン星雲の辺境星系で手に入るシロモノではない。

造船ドックに持っていけば“船体くらい”は作れる程のデータ量だ。

まさかこんなところで大マゼラン方面にある軍事国家、ロンディバルドとアイルラーゼンの戦艦が拝めるとは思わなかったぜ。

 

しかし、良くもまぁこれだけのデータを集められたモンだ。

きっとこのデータを集めた人物は、大マゼランと小マゼランを繋ぐマゼラニックストリームをも超えた猛者だったんだろう。

ファイルに残された文章によれば、どうやらファイルの制作者はオリジナルのフネを作る為にわざわざ参考用にこういったフネの設計図を集めていたらしい。

 

 

ソレを見て俺は思わずニヤけてしまって緩む顔を揉みほぐしていた。

まさかこんな序盤で強力なフネの設計図が手に入ったと思ったからだ。

ご都合主義と笑いたきゃわらえ!これぞご都合主義よ!

バンザイご都合主義!大事な事なので二回言いましたっ!

 

何せ原作では第二ステージにあたる大マゼラン製はかなり強力なフネが多い。

エルメッツァという大きな国家が纏めている小マゼランと違い、大マゼランはそのエルメッツァを凌ぐ星系国家が乱立しているからな。

所謂群雄割拠の戦国時代みたいな場所なので、兵器関連の技術の向上が目覚ましいのもそこら辺に要因があるんだろう。

 

それはともかくとして、この設計図のフネを造船出来れば、例え星間戦争に巻き込まれても死ぬ確率がぐっと減る。

おまけに夢にまでみた大型戦艦の艦長となれるのだ。興奮を覚える。

その興奮冷めやらぬ中、俺はさらに設計図を調べた。

これさえ造れるなら、最早敵なし。強くてnewゲーム状態である。

原作でも2周目プレイはあったけど所持金ステータス持ち越ししかなかったので、こういう序盤で強いフネの設計図というのはある意味夢だった。

 

だけど―――

 

「……あー、だめだこりゃ」

 

流石に天下のご都合主義もそこまで甘くは無いらしい。

設計図全体のデータは割かしちゃんとしていたが問題は全体設計よりずっと細かい部分。

主に兵装や内装関係のデータの殆どが欠損しており、このままでは使い物になりそうもなかった。

 

 ゲームの宇宙船はモジュール機構を採用しており、キャパが許す限り内装をいじれるのであるが、欠損していたデータはモジュールでは無く船体本体の内装系。

すなわちモジュールを接続すべき基礎と呼べる部分が無いのだからどうしようもない。

流石にトイレとかキッチンとかが付いて無い宇宙船に乗りこむ気はない。

 

それ以前に電灯が点かないかもしれないフネになんて乗りたくない。宇宙暗いし。

つーか、兵装は後付け出来るとして、データ不足で装甲穴だらけでライフラインがごっそり消えるバグった設計データってどうなんよ!?

 

いやもしかしたら意図的に削除してあったのかもしれない。

 恐らく既存のデータに何らかの改造を加える際のシミュレートとして、部分的に装置を入れ替えたらどうなるかの研究図案だった可能性がある。

 

「ん~」

 

 まぁ本当のところは当時の人に聞かないとわからないけど…。

だから思わず前の世界で結構有名だった道化師さんのように唸っちゃうんだ。

そりゃね、ココは廃棄された施設だからさ。

放置されて整備もされなかったコンピュータのデータが全部無事とは思わなかったけどさ。

 

唯一使えそうなデータがバゼルナイツ級戦艦だけだなんてひどい。

 今は金がないのだし、できるなら駆逐艦から巡洋艦へアップデートするように造れれば最高だったのに…。

あれだな、なんか隠しショップ見つけたけど、値段がべらぼうに高くて買えないっていうあの感じだ。

 

でもコレはコレでラッキーではある。

バゼルナイツ級はこの世界の通貨で32400程度で造れるし、性能もこの時期に入手できる艦船に比べれば高い。

コイツを序盤の内に作れれば、この先しばらくの間はかなり優位に展開出来る筈だ。

 問題はそこまで金を稼げるか……まぁ、敵が弱いのは今の内なのだし、頑張ってみるしかないだろう。

 

「――とりあえず、一生借りておく事にするッス」

 

戦艦を作るには大量の金が必要だ。

一応目安としては序盤で買わされる事になるであろう駆逐艦のおよそ5倍の金がいる。

 

死なない為に俺達は金稼ぎを強いられているんだ――!

 

―――という羽目になるという事に、この時の俺はまだ気が付いていなかった。

 

***

 

「おそかったね子坊、どこに行ってたんだい?」

「とりあえず使えるものが無いか探してました」

 

色々やっている内にディジーリップの修理が終わっていた様だ。

ま、今すべき事はフネ云々の前にこの星を離脱するって事だしな。

宇宙に行けなければどちらにしてもこのデータは尻拭く紙以下の価値もない。

 

「フネはもう大丈夫なんスか?」

「まぁ、設備は古かったけど一応規格が同じだからなんとかなったよ」

 

と言ってもココの設備と物資だと、応急修理で精いっぱい。

なんとか動かせるモノの、ちゃんとしたドックでオーバーホールが必要だそうだ。

となりの惑星にある空間通称管理局とかいう組織の運営する軌道ステーションに行けば、すぐに修理出来るんだそうで。

 

「そっちは散歩の収穫はあったのかい?」

「真空パックされた生活物資が少し、あとはモジュールのデータくらいッス」

「そうかい、それじゃ乗りこんでくれ。すぐに出発する」

「アイコピーッス」

「ところで家族とのお別れはちゃんとすましたのかい?一度宇宙に出たらそう簡単には戻れないよ?とくにロウズじゃお尋ねモノ扱いになるしね」

「ええと、大丈夫っス。(家族いねぇし)」

 

俺の家族は異世界に居るしねぇ。

憑依先のユーリくんに家族は居たんだっけ?

 

「それじゃ乗り込みな。ようこそディジーリップへ」

「はい!お世話になります!」

 

そして俺は彼女のフネに乗った。まだ見ぬ星の海を目指して―――

 

 

 

 

 

 

 

――――ガントリーに引っ張られたディジーリップ号がレールカタパルトへ乗る。

 

「反重力ユニットコネクト、離陸モードでロック」

「――えーと…レールカタパルト遠隔操作、システム問題無しッス。出力最大で設定、カタパルトエネルギーチャージ完了まで20秒」

「OK,隔壁解放っと――進路オールグリーン、いい子だ」

 

 本当は自力で大気圏脱出が可能なのだが落っこちた衝撃で若干出力が低下して初速が安定しないらしい。

なので施設のレールカタパルトを動かすハメとなった。

ちなみに何故かサブパイロット席に座らされた俺もコンソールに表示される計器を読み上げる役をやらされている。

 

いやまぁ、タダで乗せてもらえるとは思ってませんので良いんだけどね。

未来の言語が読めてマジで助かった瞬間である。

そしてドックの隔壁が開きゆっくりと前進するデイジーリップ号。

射出位置に着くとレールカタパルトのトンネル内に照明が点き、オレンジ色の光に包まれたデイジーリップが重力制御装置により固定された。

 

「ほんじゃま、いきますか―――星の海へね!」

 

 そうトスカ姐さんが呟くのと同時に俺がカタパルトを起動させる。

するとガクンという衝撃と共にデイジーリップ号がするすると動きだした。

反重力により空間に浮いているから動きだした衝撃以外に特に振動は感じない。

おお流石は未来技術だ。

 

俺が未来の技術に再び感動しているのを横目に、トスカ姐さんが操縦席の真横にあるスロットルレバーのようなモノを思いっきり下げた。

途端大音響と共に宇宙に飛び出したデイジーリップ号。

その中で俺は……大気圏脱出のGで気絶した。

星の海すらまともに見てねぇやん。ダメじゃん。

 

…………………

 

………………

 

……………

 

―――気絶から覚めるとソコはすでに惑星軌道上だった。

 

後ろには青い惑星……地球は青かった……ってあそこは地球じゃなくてロウズか。

 

「おお、星の海だ」

 

窓…というか液晶パネルだが、外の映像は入ってくる。

良くテレビでやっていた、国際宇宙ステーションの船外作業の映像に似てるかも知んない。

うおん、ここはまるでプラネタリウムか。

思わずジーっとショーウィンドウを眺める子供のように外の映像を見ていると、声をかけられた。

 

「おや子坊。目が覚めたかい?」

「うぃ、気絶してた事に今気付いたとこッス」

 

操縦席から離れたトスカ姐さんが目が覚めた俺に気が付いて声をかけてきた。

操縦しなくていいのかって感じもするけど、考えてみたら俺の時代よか何千世代も後な訳だし自動操縦くらいあるわな。

ちなみに無限航路は現代の時間軸から見てスゲェ未来の宇宙。

マゼラン銀河圏が舞台でゴンス。超未来でSF…胸が熱くなるな。

 

「さて、どうだい?初めて星から出た感想は?」

「すごく…大きいです…」

「はぁ?なにが?」

 

ちぇっ、アヴェさんネタは通じないか。

 

「いや自分の居た星って結構大きいなって…」

「そうかい。つーか全く言いたい事はちゃんと声にだしな」

「フヒヒwwwサーセンwwww」

「………なんかムカつくねぇ、なんだいその言葉は?ロウズじゃ良くある相槌かい?」

「あ、いやホントスゲェって思ってて正直テンパってますハイ!!」

 

ぐぅ、2chネタとか通じねぇよ。詰まらん。

 

「まぁそれはさて置き、これからどうする?」

「ええと、そうですね…≪ヴィー!ヴィー!≫っ!なんだ?!」

「チッ!もう来たのかい!!子坊、死にたくなければ手伝いな!!」

 

艦内に鳴り響いた警報、ソレはロウズ警備隊が接近してくる警報だった。

すぐさまトスカ姐さんはコンソールに手を置いて機器を操作し敵艦を映し出した。

液晶パネルに映し出されたのは、2隻のレベッカ級と呼ばれる三角形に近いシンプルな形状をした警備艇である。

おお、小さいながらもちゃんと武装してやがる。

 

―――とか考えていたら俺もあてがわれた席に座らされた。

 

「操船はあたしがやる!子坊は砲手をやってくれ!このまま突っ切るよ!!」

「わ、解ったッス!」

 

ちょっと慌てているトスカ姐さんの剣幕に、俺もつられてコンソールを操作して火器管制を開いていた。

これもまた知識があってよかった瞬間だ。

無かったら一から操作を聞かなけりゃならんもんね。

 

「えーと…GCSリンク、回路コネクトでっと…大砲にエネルギーを回してくださいっス」

「ジェネレーターからは50%以上回せないからエネルギーの残量に注意しな!」

「アイコピー!」

 

ジェネレーターから出力が来たので、俺は憑依先のユーリの記憶に従い、火器管制を待機モードから戦闘モードに移行させる。

ジェネレーターからエネルギーを得られた事で火器管制のコンソールが開いたので、

そのままデイジーリップ号に備え付けられている小型レーザー砲とミサイルのファイアロックを解除した。

 

そういえばロウズで胴体着陸してたんだよなこのフネ…。

主翼も曲がる程の衝撃を受けていたんだし、主武装はなんと主翼部分にあるのだ。

……念の為に手動で砲塔を少し動かしとこう。

 

コンソールで手動モードを開き、少しテストしてみる。

このデイジーリップ号の小型レーザー砲は乗る前に聞いた話じゃ元はデブリ破砕用らしい。

だが結構砲塔周りが改造してあるらしく、素早い警備艇を問題無く追尾出来るようだ。

 

まぁこれがメインの武装なのだから動かなきゃ話にならん。

確認がてらコンソールのパネルを操作し、小型ミサイルのレーダーとの同期回路を接続。

レーザー砲も同じ様にレーダーと同期できるようにコンピューター制御の自動追尾回路を開いた。

 

手動でも動かせるがいきなり実戦で動かしてる俺が手動照準でやっても、レーダー上で見てやっても素早い警備艇に当てるのは難しいだろう。

初戦で手動攻撃命中はヤマトに肖って実にロマンだが、命と等価交換出来ないならしない方がいい。

 

てな訳で、未来のオートメイションに期待しよう。ローク、機械を使え。

データさえあれば後はフネのコンピューターがはじき出した相手の予想マニューバを元に照準する。

そうすれば砲門は自動的に敵が来ると予想される位置へと向けられるのである。

 

あとはトリガーを引くだけで良い。オートメーション化がかなり進んでますよコレ。

簡単な操作さえ教われば、多分小さな子供でも扱えるんじゃないかな。

まぁ、細かい制御なんかはやっぱり人の手じゃ無いとダメみたいだけど……。

 

「まだかいっ!」

「――攻撃準備完了ッス!」

「よぉし!子坊ベルト締めな!一気に行くよっ!!」

≪ドォウンッ!!≫

 

小型船故の爆発的な加速力。腰に響くGのショック。

若干船体強度に不安があるけどココで撃墜されるよりかは遥かにマシだろう。

一方の敵さんは突然加速したこちらの動きに何故か慌てている。

なかなか撃ってこない。こいつはチャ~ンス!

 

「射程距離まで、あと500!」

「砲門開口!ミサイルセット!」

 

 

目標は!―――――相手の機関部!

 

 

「今だッ!」

「撃つッス!!」

 

コンソールパネルに表示された攻撃のスイッチをポチっとなする。

すると艦内に砲身冷却とミサイルが射出された振動が響き渡った。(レーザーは音がでません)

 

そして小型砲塔から放たれたレーザーブレットが相手の艦の装甲板に突き刺さった。

だがエネルギー兵器に対する処理が進んでいるらしく、レーザーは貫通せずに船体表面を滑るようにして拡散した。

フネの船体に何かしらの防御処置かシールドがあるようだ。

その所為で先のレーザーは拡散されて弱まり、一瞬の隙と敵の装甲を薄く削っただけに留まった。

 

しかしそれだけで十分。

元より違法改造した程度のデブリ粉砕用小型レーザーで、戦闘が想定された敵警備艇を破壊できるとは思ってない。

 

「ミサイル、命中まで3秒ッス!」

 

本命は、時間差で発射しておいたランチャーの対艦ミサイルなのだ。

レーザーが当たった事で動きが一瞬鈍ったレベッカ級に、優秀なコンピュータがはじき出した照準により理想的なタイミングで発射されている。

そして時間差で小型対艦ミサイルが装甲板に突き刺さり警備艇を食い破る。

 

―――直後、船体内部から爆散!レベッカは火球となる。

 

「やった!敵2番艦、命中、爆散したッス!」

「次を撃ちなッ!もたもたしてるとこっちが食われるよッ!!」

 

俺が初めての火器管制で敵を倒した余韻に浸る暇もなくトスカ姐さんから叱責が飛ぶ。

見ればレーダーにもう一隻が背後に回りこもうとしているのが映っていた。

トスカ姐さんの声に反応した俺は、すぐさま照準を敵1番艦へと向けた。

流石に敵さんも先ほどとは違い、攻撃準備が整ったので、慌てふためく様な事はしていない。

 

『レーダーロック・アラート』

「攻撃が来るよ……今!」

≪ズシュウウッ!≫

 

アラートが鳴り響くと同時にトスカ姐さんが船体を思いっきり傾ける。

慣性制御装置が相殺しても感じるほどの急激な横G。

それに耐えている俺の目に敵の攻撃が船体を掠り防御のシールドを揺らすのをモニターで見た。

一応まだ大丈夫みたいだけど、今のボロボロな状態のデイジーリップ号じゃあ何度も直撃受けたら危険だっ!

俺は早く敵を落とさなきゃとコンソールにしがみ付いた。もう必死である。

 

「敵標準固定!発射準備完了ッス!」

「よしっ!ぶっ放しなッ!!」

「ホレ来たポチっとな!」

 

発射されたレーザーは敵艦のブリッジ部分に命中する。

出力が弱いからかブリッジを貫通こそしなかったが、エネルギーの直撃で電装系をやられたらしく迷走するレベッカ。

そこへ発射した止めのミサイルでレベッカ級は哀れ吹き飛ばされ火球となった。

俺は砲手用の三次元レーダーを見つつ、報告を続ける。

 

「敵1番艦の沈黙を確認、インフラトン反応拡散、勝ったッス!」

「よぉーし、敵さんから使える物取ったらすぐに撤退するよ!」

「了解!」

 

こうして俺の初めての艦隊戦はつつがなく終了した。

くぅッ!やっぱ良いねぇこういった雰囲気!コレコレ、こういうの結構大好きだよ俺!

絶対この後フネをもったら“砲雷撃戦用意!”とか“第一級戦闘配備”とか言ってやるぜ!

 

そんな事考えつつ、トスカ姐さんに船外作業用のアームの操作を教えてもらい、俺は敵さんの船から売れそうなモノを剥ぎ取った。

接触が悪かったのかアームで船体をちょいぶつけちゃったのは秘密である。

 

 

 

 

――――そして取るモノとって、俺達はその場をすぐさま後にした。

 

 

 

 

* * *

 

 

売れる物を回収し、すぐさま一番近い星バッジョへと降り立った。

降り立ったと言っても原則として緊急時でも無い限り、フネは軌道上のステーションに停泊させるのがルールだとトスカ姐さんは言っていた。

その為、今居るのは軌道エレベーターがあるステーションの中である。

 

俺にとっては初めての宇宙港なので他にもフネが居るかなぁとワクワクしていたのだが…初めての宇宙港は伽藍として閑散としているという印象しかなかった。

数百mもある大きなゲートなのに、見えるのは小さなタグボート位…さみしいな。

 

 

とりあえず、軌道ステーションには降り立てた。

これからどうするのかトスカ姐さんに尋ねたところ、先の戦闘で拾ったジャンクを、ステーションのローカルエージェントに売り払い金にするという。

 

基本ジャンク品だけど、100%リサイクルが可能な世界なので結構お金になるらしい。

こういったジャンクだけを集める連中の事を、別称でジャンク屋と呼んだりするらしい。

そういう人たちも、みんな0Gドッグだから案外同じ穴のむじなだけどね。

ゲームで戦闘後に何でお金が手に入るのか解らなかったけど、こうやって金にしてたのかぁ、と一人納得。

 

あ、そうそう、さっきこぼしたローカルエージェントってのはさ?

空間通商管理局って組織が各宇宙港に配置しているアンドロイド達の事だ。

俺達宇宙航海者…通称0Gドッグのサポートの為に、空間通商管理局のステーションには必ず彼等がいる。

 

彼等はフネの整備、消耗品の補充、欠けた人材の補充までやってくれるスーパー便利屋さん何だそうだ。

しかも、人間相手のお仕事な為、アンドロイドだと言ってもかなり表情豊かである。

20世紀人間にとっては、もう驚きで開いた口がふさがらんかと思ったですよ。

 

 

ああちなみに0Gドッグというのは簡単に言うと冒険者みたいなもんだ。

自前のフネを持って無法者の討伐やデブリとかが少ない航路の発見、宇宙資源が埋蔵されている小惑星や惑星の発見等々、様々な仕事がある職業である。

一応誰でもなれるが原則として宇宙船の乗組員である事が最低条件だ。

 

んで俺もローカルエージェントに頼んで0Gドッグとして登録した。

これで空間通商管理局所有の施設ならほぼ無料で利用可能となるってトスカ姐さんが言ってた。ありがてぇありがてぇ。

 

「0Gのランキングは…まぁ当然最下位だね。若いんだしこれから頑張りな子坊」

「ランキング?」

 

続いてトスカ姐さんが指さしたパネルには、ズラリと沢山の人の名前が表示されており、それ全てが0Gドッグであるという。

どうやらこの名簿が原作ゲームにあった0Gドッグの名声値ランキングというものらしい。

原作ゲームではこの名声値を溜めると、フネの性能を上げる設備の設計図がアンロックされたり、普通は売ってもらえないフネの設計図を融通してもらえたりという特典があった。

 

この世界ではどうなのかわからないが、恐らく同じようなものなのだろう。

ちなみにランキングで登録されているランキングは4000まであり、欄外の俺が上位に食い込むには、最低でも4000人は蹴落とさないといけないんだろうね。

 

ま、名声値はどういう仕組みか知らないが敵対した勢力を倒せば倒す程あがる。

例えそれが同じ0Gドッグでも、航路上で戦ったなら問題なく名声値が加算される。

港じゃともかく一歩外洋に出れば敵でありライバル。うーんアウトローだねぇ。

 

 

「――――さて、フネの修理はすぐに終わるらしい。あたしは一度下に降りるが、あんたはどうする?」

 

「行くとこ無いんで、どっこまっでも着いてきまーす」

 

「まぁ下に降りたとしても、0Gドッグが行く場所なんて一つしかないけどね」

 

「えう?……どこに行くんスか?」

 

 

俺がそう訪ねるとエレベーターに向かう通路を歩きながら彼女は答えた。

 

 

「酒場さ」

 

「酒場…ですか?」

 

「そう、酒場。だけど只の酒場じゃ無い。

情報を聞く場所でもあるし0Gドッグへの仕事の斡旋もしているのさ」

 

「へぇーハローワークみたい」

 

「あん?…ハローワークってな何だい?」

 

「あ、いえコッチの話です」

 

 

なんと、この時代にはハローワークは存在しないのか?!

世の自宅警備員の方々はどうすれば……あ、でもネットとかより進化してて案外大丈夫なのかも……。

 

 

「時たま変な事口に出すね子坊は?ロウズのことわざみたいなものなのかい?」

 

「イヤァー俺が勝手に言っているだけでスよ」

 

「……へんなヤツだねぇあんたは」

 

「ぐはッ!何気ない一言が刃物のように俺のハートに突き刺さる!」

 

「置いてくよー」

 

「リアクションスルーっスか?!」

 

 

な、なんという高等テクを…トスカ姐さん、かなり強いッスね。

その後もこんな感じで雑談をしながら、地上へと降りて言った。

 

 

***

 

 

酒場の中はなんて言うか……西部?アウトローが集いますって感じ?

な、なんでココまで来る時は普通の合金の床だったのに、ココに来た途端木製になるの?

 

 

「ねぇトスカさん?何でこの酒場って、こんな…レトロな感じ何スか?」

 

「ん?さぁねぇ、酒場は私が0Gドックになる前からあったし、

ココは空間通商管理局がスポンサーを兼ねてるから、案外上からの指示かも知れないねぇ」

 

 

へぇそうなん?

 

 

「いや、コレはきっと上からの指示に見せかけた孔明の罠だ。

きっとこの酒場のマスターの趣味に違いない」

 

「子坊、あんた人の話聞いて無いね?」

 

「いや聞いてましたよ?只なんとなくやりたかっただけッス、後悔はしていない」

 

 

でも何気に孔明の罠のくだりから、酒場のマスターがピクンって動いたから、

あながち間違いではないと思うんだ、ウン。

ところで孔明の罠って言葉まだ有るんだろうか?

 

 

「とりあえず何か飲むかい?」

 

「あ、はい飲みます」

 

 

ま、一息入れてから考えますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく酒場の片隅で美女とふたり向かい合う形で飲んでいた。

言葉だけ聞くとロマンチックな匂いが漂いそうだが、俺はこの時代の酒の銘柄がわかんないから普通にソフトドリンクなため締まらないことこの上ない。

お互い口を閉じちびちび黙って飲んでいると、ふとトスカ姐さんが口を開く。

 

「そういえば子坊、あんたなんで0Gドックになりたかったんだい?」

 

「えと、それは……」

 

 

はて?ユーリ君はなんて思ってたんでしたっけ?

 

 

「それは…きっと…どうしても宇宙に出たかったからッス」

 

 

妙に漠然としているがコレしかない。というかコレは俺の当面の目的でもある。

せっかく来た未来の世界なんだ。もっと色々見て見たいんだよね。

まぁ死亡フラグ乱立で超怖いけど。

 

 

「だけど、この宙域の外に出る為のボイドゲートは、すでに押さえられてるはずさ」

 

「そう言えばトスカさんはロウズ宙域にどうやって来たんスか?」

 

 

原作でもソレが気になっていたんだよね。

だってボイドゲート封鎖してるなら入ってこれないじゃん。

 

あ、ボイドゲートっていうのは、宙域と宙域とを結ぶ橋の様なものだ。

長距離をタイムロス無しで移動できるから転移門みたいなモノだと思う。

宇宙を旅する連中はたいていこのゲートを活用している。

スゴイ距離を移動できる上に利用料タダだしね。

エネルギーと物資節約の為にも、ボイドゲートは今や欠かせない施設なのだ。

 

またこのゲートは空間通商管理局が管理している施設である。

基本的にゲートに対しての攻撃とかの手出しは許されないし禁じられている。

その昔ゲートを巡って戦争が起きたので、なんだかんだあって航宙法が制定され、それによりボイドゲートはどの勢力相手でも中立、すなわち公海という位置となった。

 

では何故ここの領主はゲートを封鎖出来るのか?

まぁ何事にも抜け道はあり、ゲート自体は手出しできないが、ゲートから少し離れた宙域は封鎖出来るって訳で。

出たり入ったりするヤツを待ち構えて監視すれば良いから楽なモンだな。

 

―――っと、話を元に戻そう。

 

 

「ああ、あたしのフネは元が貨物船だろ?偽造した通行証で貨物を運んでる運送屋に仕立てたのさ」

 

「……で、ロウズに降りようとしたら、警備隊に見つかったってとこッスか?」

 

「まぁそんなもんだ。すでにあたしのフネは連中に見られて手配されているだろう。

あたしのフネじゃ流石に連中全員とやり合うのは無理だ」

 

「確かに、あのフネの装備だと集中砲火でも喰らったら最後ッポイッスね?」

 

「ちがいない…で、子坊、あんたはそれでも飛び立ちたいのかい?」

 

 

そりゃ勿論ッス!そうじゃ無けりゃトスカ姐さんの前に出てこないッス!!

 

 

「どうしてもゲートの向こうに行きたいです!」

 

「じゃあ、作るしかないねぇ?あんたのフネをさ?」

 

「俺のフネ…ッスか?」

 

「そうI3(アイキューブ)・エクシードエンジン、

ブリッジ・エフェクトの効果により光速の200倍程度の速力を誇る…フネさ」

 

 

ええと解らん人の為に解説入れとくけど―――

 

アイキューブ・エクシード航法っていうのは、I3(インフラトン・インデュース・インヴァイター)を主機として巡航時に用いられる推進手段の事で、我々が住む宇宙に下位従属する子宇宙を形成し、そこを通り抜けることで相対論的時間(ウラシマ効果)のギャップを調整する事が出来るそうな。

 

これは複数の子宇宙を縦断する「アインシュタイン・ローゼンの橋」を架け、その上を通り抜けるという意味で「架橋効果」、または「ブリッジ・エフェクト」と呼ばれている。この時代における宇宙船の大半はこの推進機関が備えられており、コレにより宇宙が狭くなったと言っても良い……だそうです。

 

―――正直俺にも訳わかんないので飛ばしても結構。要はメッチャ早いってことだ。

 

 

「まぁ、かなりお金が居るけどね」

 

「はぁ金かぁ…」

 

 

地獄の沙汰も金次第。人の世は何処に行くにも金が憑き纏うってか。

…………そう言えばエピタフって高く売れるんだっけ?

 

 

「ねぇトスカさん、俺こんなの持ってんですけど?」

 

 

俺は懐から一応ユーリの親父の形見とかいう設定のエピタフを取り出して見せた。

原作だとコレを質に入れて10000Gにして駆逐艦を手に入れた。

質に入れてそれなら売ったらもっと良い金になる。

 

 

そう思って見せたんだが、思えばエピタフの価値を考えておけばよかった。

 

 

「エ、エピタフぅぅ~~?!」

 

「ちょっ!トスカさん声デカイッス!!」

 

 

 見せた途端叫ぶように大声を上げたトスカ姐さんにこっちも慌ててしまう。

周りを見れば、エピタフの言葉に反応した人たちがこちらをジロジロと…。

 

 

「あぁ…あはは何でもないですよぉ~!コイツ、エピタフが欲しいなって…」

 

「……無理やりッスね≪ゴチンッ!≫――イッテェッ!!!」

 

 

慌てて取り繕ったので まわりの連中は興味が失せた様だ。

大方酒に酔っておおごとな話をしていたと思われたのだろう。不本意だけど。

周りからの視線が弱まったあたりでトスカ姐さんになんか殴られた。

叫んだのは彼女だというのに理不尽である。

 

 

「うっさい……大体何でそんなモン子坊が持ってるんだい?ありえないだろ」

 

「いや、コレ一応親父の形見なんスよ。(設定上は)」

 

 

まぁ、この身体の持ち主であるユーリくんにはもうチョイ複雑な理由がある。

ちなみにこのエピタフっていう手のひらサイズの真四角の箱は、各宇宙島に点在する古代異星人の物と思われる遺跡から出土するモノである。

 

正直エピタフ自体が何の為の物だかイマイチよくわからない。

だからかエピタフは色んな憶測を呼んだらしく、一生分の富を得られるだとか、力を解放すれば宇宙の支配者になれるとかいう噂がある。

一時期熱心なコレクターや冒険家が血眼になって収集していた上、現在でも噂があるからか売買価格は結構高い。

 

要するにかなり高く売れる…でも只の四角い箱にしか見えないお…。

 

さて、話を戻す。

俺はトスカ姐さんにエピタフを見せて、コイツを売って金にしてくれと言おうとしたんだが。

 

 

「はは~ん、つまり宇宙に出たいのは、それの秘密を探りたいからかい?」

 

「いやまぁ…」

 

 

俺とエピタフを見比べてどこか納得したような顔をしたかと思えば、姐さんは自己完結してくださった。

ええと、なんと答えるべきかねココは?一応コレは物語の核心に迫るアーティファクトだしなぁ。

 

でもコレ紆余曲折あって結局に手元には戻って来ない…筈。

よろしい、ならば売却だ。コレは後腐れもなく売ってしまおう。

あくまで俺の目的は宇宙戦艦を作る事なんだからな!

そういう訳で俺が“コレ売ってフネ作りたい”と応えようとしたその時。

 

 

「本物のエピタフか…おい兄ちゃん、怪我したくなかったらソレこっちに寄越しな?」

 

 

そんな事いうデブが、後ろに立っていた。

えーと、どなたさまでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第二章

 

「誰がモヤシだってっ?誰がッ!?」

「スイマセンでした!マジで生意気言ってゴメンなさい!!」

「いいや許さん!殴るね!」

「おぐぅ!?それ足!踏みつけっ?!」

 

足元には強制土下座をしているぽっちゃり系太めの男子がいる。その太めな彼の名前はトーロという。なんで俺が名前知ってるかっていうと、それはコイツがゲーム序盤で数少ない仲間(強制)になる野郎だからだ。ちなみに何でこうなったのかを少し時間を遡って見てみよう。

 

 

 

 

■およそ10分前■

 

「本物のエピタフか…おい兄ちゃん、怪我したくなかったらソレこっちに寄越しな?」

 

目の前に微妙に錆びたナイフをちらつかせるピザ体型な不良君。でも俺は彼の名前を知っていた。コイツの名前はトーロ・アダ。序盤で仲間になり実質終盤まで居続けるクルーの一人である。ちょっと唐突だったが、これは二番目の原作キャラとの遭遇である。

 

その為、俺の心の中は――――

 

「(トーロ来たぁーーーー!!)」

 

―――って感じだった。舞い上がってた。

 

「―――っおい!聞いてんのかよ!」

 

んで思わずぼけーっと眺めていたらしびれを切らしたのか怒鳴るトーロ。

 

「……あーはいはい、何スか?」

「だから、そのエピタフよこせって言ってるんだ!」

「え?これはエピタフじゃないですよ?」

 

一応とぼけてみた。酒の席での話をうのみにするのはいただけないという感じで。だがそんな俺の態度を見て逆にトーロはカチンと来てしまったらしい。

 

「はぁ?ふざけんじゃねぇ!さっき自分で言ってたじゃねぇか!」

「俺自身は一言も言ってねぇよ?言ったのはトスカさん」

「お、ケンカかい?良いぞやっちまいな子坊」

「自分は高みの見物ッスか?……まぁいいけどさ」

 

チラッと視線をトスカ姐さんに向けるが…我、関せずと普通に酒飲んでら。どうでも良いけど、俺ケンカとかした事あんまりないんだけどなぁ。前の世界の友人曰く酒に酔った時に一度だけ不良とケンカしたことあるらしい。だけど俺にその時の記憶はない。結構呑んでたからなぁ。さてこの状況、どうすればいいだろう?

 

「テメェコラ俺様を無視してんじゃねぇッ!!渡すのか渡さねぇのかハッキリしやがれッ!!!」

 

ダンッ!と近くのテーブルを殴るトーロ、おお怖ッ。

 

「いや、すこし冷静に行こうよ?大体、もしこれが本物だったら素直に渡すと思う?」

「そりゃ渡さねぇだろう……つまりはそういう事か?」

「HAHAHA!アンタが5万程用意してくれるってんなら話は別だが…用意出来るとは思えないしねぇ」

 

第一コレを渡したらフネが建造出来ないじゃなイカ。金で買ってくれる線はまずあり得ないだろうしね。身なり結構汚いし、第一買うならケンカ腰じゃこない。

 

「別に金なんて必要ないぜ?――――力づくで奪えばいいんだからなぁ?」

 

 ほれきた。ニンマリという感じに口角を歪めてらっしゃる。

 

「うわぁ何というヤクザ…暴力反対~!!第一疲れるから嫌――」

「うるせぇッ!ケンカする度胸もねぇモヤシ野郎がッ!!」

「……あ、トスカさん、コレ持っててください」

「え?あ、ああ」

 

―――だれにだっていっていいこととわるいことがある(キリッ)

 

向こうが言い放った俺にとって聞き逃せない台詞を吐いた。途端頭に血が上った俺は隠すように持っていたエピタフをトスカ姐さんに向け投げ渡していた。ちなみに後で聞いた話だと、この時の俺はかなりヤバい笑みをしていたらしい。あまりの豹変ぶりに若干ビビったとトスカ姐さんから聞きました。

 

いや実はね?俺は小学生の頃、背は高いが痩せていた所為で、周りからモヤシと言われ、苛められた経験があるんだ。一応大学生になるまでに必死にジムに通い身体を鍛えたが、筋肉が付きづらい体質だったらしく か な り 苦労した。

 

今でこそある程度筋肉が付いてくれたので、まわりからモヤシとか言われる事は無くなったが、いたいけな小学生のころに受けた傷は根深い。その所為か俺をモヤシと呼ぶ奴に対しては攻撃のスイッチが入ってしまうのだ。

 

 

「…………」

「なに睨んでんだモヤ「その口を閉じろ豚が…」なッ!?」

「さぁ教育してやろう。豚の様な悲鳴を上げろ…」

「お、おい!イスを振り回すんじゃねぇ!!ってギャァァァ……―――」

 

俺は近くにあった酒場のイスを手にトーロに殴りかかる。とりあえず不埒な野郎はこうして肉体言語で判らせるのである。一度キレてしまうと、人間タガが外れちゃうんだよねぇ~。ナイフ?んなもんイスのリーチに比べれば只の金属片ですよ。

怒りで我を忘れ戦闘色に塗れた俺に、怖いものなどあんまりないっ!相手をビビらせる時にあの旦那を肖ればこういう時役に立つぜ。俺のあまりの豹変ぶりに戸惑う相手を尻目に言葉を続けた。

 

「君が!泣くまで!殴るのを!止めない!」(#^ω^)ピキピキ

「ゴメンなさい!マジすいませんでした!!」

「はぁ?何、聞こえないよ?もっと大きな声で…さぁハリー…ハリーハリーハリー!!」

「ヤベェよマジでやるつもりだよこの人」

「……んで誰がもやしだって?誰がッ」

「スイマセンでした!マジ生言ってゴメンなさい!!」

 

 

そして相手が必死になって謝ったので寛大な俺は許してあげた。

何か粛清中に若干違う人物も混じってた気がするが気にするな。

 

 

 

 

――――こうして冒頭部分に戻るのだ。

 

 

 

 

「さて、これに懲りたら人に対して嫌な事を言わない様に気を付けるッス」

「へ?許してくれるのか?」

「ううん、許さないッスよ?でも、謝ってくれたから俺は気にしない事にするッス」

 

とりあえず今位で勘弁してやる事にした、周りの野次馬の目もある。これにて一件落着。これ以上さわぎを大きくし過ぎると警察とか来ちゃう。そそくさと立ち去るトーロの背中を見送りつつ、俺はトスカ姐さんの元に戻った。

 

「戻りました、預けたモノ返してッス」

「はいよ……しっかしあんた随分と強かったんだねぇ?」

「いんやぁ、無我夢中だっただけッスよ」

「そうかい?随分と余裕だったじゃないか?刃物を前にして良く怯まなかったしね。案外修羅場を潜った事が――ってどうした?」

「刃物?………………おうはあッ」

「子坊!?」

 

冷静に考えが及んだとたん青ざめる俺、怒ってた所為で全然怖くなかった。トーロ、ナイフ持ってたんだっけ…危なかったのね俺。腰が抜けそうになるのを何とか食い止めたモノの小刻みに手が震えている。あひゃひゃ…これからもっと凄い事をしなきゃならねぇのに情けねぇな。

 

「あんたは……しっかりしてるのか抜けてるのかわかんない奴だねぇ」

「面目無いッス」

 

これは仕方がないことだろう。俺はこれまでステゴロのケンカはやった事あっても刃物はナッシングだった。NGワードでキレて理性を飛ばしていたお陰でさっきまでは大丈夫だったけど思いだしたら…やっぱり怖いもんは怖いわ!

 

「ふぅ、仕方ない。上に戻るよ?あんたに渡すもんがある」

「え?ちょっ!トスカさん置いてかないで!!」

 

いきなりそんな事を言って酒場を後にするトスカさん。渡すモノって何だろうか?―――そう思いつつ、彼女の後を追い軌道エレベーターに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

―――――フネを停泊してあるドックに着いた。

 

停泊していたデイジーリップもすでに外装の修理は終わっており内装も新品同様に直され、あとは乗組員によるチェックを行う必要こそあるが、それでもすぐに飛びたてる状態である。

言われるがままホイホイとトスカ姐さんについてきた俺は、彼女の私室の前で待たされる事になった。別に入ってもいいとは言われたが、そこは紳士の対応である。待っている間閉じられたドアの向こうからガシャンやらドシャンやらあるぇ~とか聞こえたが、大丈夫だ、問題無い。

 

「ほいコレ、あたしのお古だけどその服よりかはましだろう」

「これは確か…空間服ってヤツッスか?」

 

すこしして部屋から出てきたトスカ姐さん…背後の光景はちょっと妙齢の女性の部屋とは思えない惨劇となっていたが…彼女から手渡されたのは原作で主人公が着ていたピッチピチの空間服であった。

この空間服というのは、言わば宇宙開拓者の作業着のようなモノであり、丈夫で耐衝撃や耐熱など色んな機能がある服である。何でこんなん渡すんだって顔してる俺を見たトスカ姐さんは説明する。

 

「空間服は耐衝撃性に優れているだけじゃなくて対弾性や耐刃性もあるんだよ」

「つまりは防弾チョッキの代わりになるって事ッスね?」

「そういうこった、丈夫だしあんたみたいに猪突猛進型にはお誂え向きだろう?それと―――」

 

彼女は更に何か棒の様なものを投げて来た。おっとっとと危なげもなくキャッチした俺はその棒を観察してみる。見た目は赤い手紐が付いた黒く艶のない鞘に入った刀に見えるソレ。どうやらこの棒は鞘に入っている刀剣の類らしいね。でもここは無限航路の世界だし只の刀剣な訳がない。

 

てことは、コイツは――――

 

「スークリフブレードだ。刃物相手の自衛にはもってこいだろう?」

「うわぁスゲェ、マジもんの剣なんて始めて見た」

 

スークリフブレード!コレがそうなのか!主人公が持ってた日本刀みたいな剣!スークリフブレードとは、簡単に言うと0Gドックが持つ白兵戦用の武器である。なんかすごい処理をして皮膜を刀身に張り、どんな物でも融断してしまうらしい。

要するに人間版ヒートソードって訳だ。ザコとは違うのだよ、ザコとは。

 

「ありがとうございますトスカさん!大事にしますね!」

「うむ、ぜひそうしてくれ……で、これからどうする子坊。私としてはアンタを宇宙に連れていくのが契約だから、その為の手助けも料金の内なんだが」

 

貰った剣を物珍しそうに眺めていると、トスカ姐さんが今後の方針を聞いてきた。彼女は打ち上げ屋として金を貰った手前、俺を宇宙に連れて行く義務がある。既にロウズからは脱したが、ここはまだ領主デラコンダの支配する星系。本当の意味での宇宙では無い。

だからこそ彼女はこう聞いてきたのだろう。一見軽い人に見えるけど、実は芯が一本ある凄い人なんだ。でないとこんな事言わないよね。てな訳で俺も考える事にしよう。

 

………とりあえず金を稼ぎ、フネを強化したりした方が良いかな?

 

「そうッスね。とりあえずはお金を貯めたいです」

「金を?」

「この星系出るにしても今のままじゃムリですし、フネの強化は必須です」

「うーん、別に大部隊で無ければデイジーリップでも出しぬけるとは思うが…理解してるのかい?ココに留まる時間が長いほど危険だよ?」

 

危険かぁ…でも早く金集めないとデラコンダ何すっかわかんねぇしなぁ…ゲームの中じゃ確かユーリの身内のチェルシーが人質に取られちまうだよなぁ確か?それまでに拾ったバゼルナイツの設計図を使って戦艦を作れたらいいんだけど。

幸い造船ドックの規格はどこも同じらしいから、造船ドックはこの惑星のお隣のトトラスに行けば問題無い筈だ。でもまずは先立つモノが無いとね。

 

「危険がない程度に金になりそうな話って何か無いッスか?トスカさん」

「そうだねぇ、てっとり早いのは航路上のフネを襲って金にする方法。勿論危険は大きいけど金にはなる…が、初めの内はリスクが高いしね。簡単に稼ぎたいならそこらにあるデブリを回収したり資源小惑星を発見したり、あとは別の星に貨物を運ぶだけでも金にはなるさ」

 

ふむ、確かにそれならデイジーリップ号でもいけるか…もともと貨物船なんだし、ペイロードはそれなりにあるらしいし。

 

「じゃあ俺のフネを作る為にお手伝いお願いします。トスカさん!」

「あいよ、コレも打ち上げ屋の仕事さ、きっちりボイドゲートを越えるまで手伝ってやるよ」

 

 

―――こうして、俺はバッジョを後にし、金稼ぎの為に宇宙に飛びだした。

 

 

「あ、とりあえずあんたのフネ作るから、あのエピタフかしてくれないかい?」

「エピタフをですか?良いですよ」

 

エピタフを渡した俺、きっとコレで駆逐艦クラスなら買える金になるんだろうなぁ。

なるほどデイジーリップは使わないで、あくまでも俺のフネを作って仕事するのね。

 

まぁ彼女にとって最後の砦である自分のフネをブッ壊されたくはないか。

とにかく、死なない程度に頑張りましょうかね。

 

 

* * *

 

 

さて、バッジョを飛び出してから一週間ちかくが経過した―――

 

何か時間が凄く飛んだ気がするが気にするな、俺は気にしない。とにかく現在順調に金を稼ぎ、何とか3万Gに届く程に貯まっている。意外と貯まっているだろう?これもエピタフを質屋に入れた金を元手にアルク級駆逐艦というフネを建造したからである。

一応設定上はおやじの形見なのにトスカ姐さんったら躊躇なく金に換えたのよね。

ああん、ひどぅい。でも目的の為だから仕方ないね。

 

さて冗談は置いておき、このアルク級は序盤のロウズで買える唯一の艦船設計図の一つである。実は買える設計図はもう一つあるんだが、もう片方はジュノー級といい民間の輸送船を改造したものだった。

単純に金を稼ぐという意味でなら、ジュノー級の方が最初は楽だった。何故なら船体後部がメインノズルを除き分離式の大型コンテナとなっていたからである。駆逐艦というよりかは輸送船を過剰武装したような感じだろう。

 

当然安全な輸送で金稼ぎを考えるならペイロード的にジュノー級の方が上である。トスカ姐さん曰く貨物を多く載せられる分稼げると言っていた。だが幾ら改造してあってもジュノー級の設計は低スペックな輸送船準拠な為、その耐久度は如何ともし難く水雷艇を持つ警備隊と戦闘になる事を考えるとコイツはパスである。

 

消去法的に残った方のがアルク級である。こっちもまたジュノー級と同じ輸送艦の設計図をイジった物だが、ジュノー級と比べればより戦闘向きにカスタマイズが加えられ戦闘能力が高かった。

運動性や機動性等の性能はジュノー級とどっこいどっこいなのだが、ジュノー級を更に改造して後部コンテナブロックを完全撤去。弱点だった耐久性を補う為に船体にモノコック構造を取り入れる事で耐久性の低さをクリアーしているのである。

 

おまけに武装もロウズ領の隣国エルメッツァの宇宙軍標準装備を採用している。つまり正規軍も使用している駆逐艦レベルの性能を持つのがアルク級なのだ。戦闘を考慮した場合、民間と軍用なら軍用の方が扱いやすいだろう。

 

まぁここまでやってようやく軍用の駆逐艦の最低基準を満たしたに過ぎない上、両者の性能はやっぱり雀の涙程しかないんだが、その差が命運を分けるかも知れないと考えると馬鹿には出来ない。この世界では初心者なので初心者は初心者らしくちゃんと装備は固めた方がいいのである。

 

―――そういう訳で俺はアルク級を買う事にした。

積載量的にはジュノー級には若干劣るけど、元が輸送船だったからかエンジンパワーも含めて余力がそれなりにある。それでも輸送量は最低レベルなんだけど……改造された小型輸送船がベースのディジーリップ号よりかは多いヨ。

こんな感じで金をある程度集めてから、さらにそれを元手にクルーを雇った。それまでは俺とトスカ姐さんだけだったが、やはりそれなりに大きな駆逐艦ともなると二人だけじゃ手が足りない。

 

こうして集まったクルーは選考基準として第一に宇宙に出たがる人間を採用した。同じ志があれば纏まりやすいし、お互い気を煩わされる事もない。航宙禁止の所為で鬱憤が溜まっていた宇宙開拓者の0Gドック達は、快く俺に協力してくれた。

そして彼らの協力を得た俺達の当面の目標はロウズのボイドゲートを突破する事とした。ボイドゲートさえ超えてしまえば隣国となるので、如何に領主デラコンダであっても手出しは出来ないからである。

 

でもまだゲートの警備を突破できるようなレベルは民間の俺達には無い。だからそこらを警備の名目で遊覧している警備艇を相手に金銭稼ぎがてら何度も戦闘を挑み、事実上の訓練を沢山やった。

最近の主な稼ぎはもっぱらその戦闘訓練の標的となって撃沈したデラコンダ配下の警備艇のジャンク品である。このジャンクを金に変え、装備を整えるというサイクルを繰り返していた。やってる事がまるで海賊だな…とか思ったり思わなかったりしたが反省はしていないぜ。

 

でも不思議な事に結構警備艇を食ったのに俺達は手配されなかった。その理由は実は結構単純で、ここの警備の連中は閉ざされた領主領の中だけで飼殺されており、錬度が恐ろしいほど低下していた。要するにサボって報告とかせずに自由に動き回る連中が多かったんだなぁ。

幾らなんでも無能、あまりにも無能過ぎる。警備隊ェ。

 

 

 

―――しかし、それはさて置いて何で未だにロウズ自治領に留まっているのか?

 

 

 

第一の理由にはまだ錬度やら諸々が足りないという事。幾ら相手があまり組織的に機能していないといえど警備隊は警備隊である。一応の戦闘訓練を受けた人間である事だし、第一数は向こうの方が多いからな。対してこちらは一隻…流石に単艦で突っ込むのは、ねぇ?

 

第二にちょっとした原作イベントというのがある。原作には俺の憑依先であるユーリに妹が居るという設定があるのだ。ある程度ロウズ星系で戦っているとその妹さんが敵に捕まってしまう原作イベントが発生する。というかゲームではこのイベントが起きないと先に進めないのだ。

 

ゲームとは違い俺にとって現実なのだしスルー推奨しても問題無いとも思えるが、敵さんにしてみれば俺の家族を人質に取ったと思っている訳で、それを見捨てて逃げるような真似をすれば妹さんがどんな目にあわされることか…。

流石にそうなると見越しているのに知らん顔で見捨てるのもどうかとも思うし、とりあえず助けられるなら助けて安全な星系にでも送っておこうと思い、そう言う通信が来るのを待っていたのである。

 

しかしながら、今だチェルシーが捕まったという通信は来る気配はない。どうやら領主のデラコンダに見つかっていないらしく、此方の意図とは別にして時間稼ぎになってしまっている。考えてみれば今ロウズ宙域で暴れ回っている俺達は顔とかは見られていないのだし、領民データから洗いあげるのに時間がかかっていたのかも知れない。

 

まぁこれもある意味でちょうど良いことだ。戦力が小さい内は幾らでも時間は欲しい。これ幸いにと俺はこの有限な時間を利用してさらに金を稼ぐ事にした。金は天下の回りもの、あるとないではあるの方がいいのだぁ。

しかし原作ゲームだと最短で20分も経たない内に捕まってた彼女だけど、実際はかなり時間掛かっていたのねぇ。そのお陰で俺は戦艦を作る為の金稼ぎが出来るからある意味とってもありがたいんだよなぁ。

 

そういう訳で今日も今日とて俺は艦長として色々やらねばならない仕事を部屋で黙々と処理していた。艦長職も楽な仕事じゃない…最初のころはそれこそ初めての体験で興奮したがのど元過ぎればなんとやら、童貞卒業したらこんなもんかみたいな感覚だ。何せやっている事が運営委員や管理職に近いのだからそう言う感じにもなる。

とてもじゃないが本来の艦長職は人生経験が無い小僧に務まるような仕事じゃないのだろう。俺の場合は打ち上げ屋として全面的に支援をしてくれるトスカ姐さんがブレーンを買って出てくれたお陰でなんとかやっていられるのである。彼女には感謝しきれない。いやホントありがてぇ、ありがてぇ。

さて、コンソールの前で恩人を拝んでいると、突然ブリッジから通信が入った。

 

『艦長、敵艦隊を発見しました。規模はレベッカ級が2隻、哨戒部隊だと思われます。ブリッジにおこしください』

「解った、今行く」

 

オペレーターのミドリさんから通信が入る。敵が来て戦闘指揮を取らないといけないからブリッジへ~ってな。とりあえずブリッジに急ごう。

 

あ、関係ない話であるが何故金がある癖にエピタフを買い戻さないのかと言うと、前回言った通り質屋に入れた次の日に泥棒に襲われて全部奪われちまったそうな。何でも小型の輸送船で倉庫ごと運んでいったらしい。豪快なモンだ。

その時はなんかあまりに唐突過ぎてちょっと呆然としてたんだだけど、ソレを見たトスカさんが俺がショックを受けていると勘違いして、俺のフネのクルーになってくれる事になったのは良かったけどね。

 

………………

 

……………

 

…………

 

 

さて、さらに一週間ほど経過した。俺のフネのメンツも結構強くなってきたので最近は危なげなく戦闘は終わる。一応慣熟訓練って形でやってる事だから、これくらい成長してくれなきゃ泣くぞ。

そして現在トトラスのステーションに来て、敵さんの残骸を金に変えて貰っているところだ。

 

 

「――えーと、今回はかなり船体が残っているのが2隻で、残りはジャンクですね」

「はい、そうです」

「それじゃあ、清算しますので、しばらくお待ちください」

 

ローカルエージェントに曳航してきた敵艦を買い取って貰う。原作ゲームじゃ自分で建造した艦以外の買い取りはなかったから新鮮な驚きだった。

やっぱりジャンクよりかは捕獲したフネの方が高く売れる。中古なら傷が少ない方がよく売れるのと同じ原理だ。

 

「ユーリさま、大体これぐらいのお値段になりますがよろしいですか?」

「たのんます、あとこの中から消耗品の幾つかの代金、引いといて下さいな」

「解りました。ではお金の方は口座にいれておきますね」

「りょーかい」

 

ではではと言ってローカルエージェントは去って行った。しかしなぁ、消耗品が結構高いなぁ…まさかココまでかかるなんてなぁ。食料品とかの生きるのに必要な消耗品は、タダで補充して貰える。

だけど、所謂嗜好品だとか化粧品とかいうような個人の消耗品はお金を出さないと補給して貰えないんだよな。ソレがまた結構な額で、これさえ無かったら3日で戦艦買えたくらいだ。

 

でもコレが無いと船員の士気は駄々下がるし、下手したら反乱おこされちゃう。なお嗜好品購入費用の中で割かし上位に食い込んでいるのはトスカ姐さんの酒代だ。どんだけ酒好きなんだよ!大体この星系で手に入りにくい酒を飲みたいからの一存でダース購入するかなぁ!?

 

でも他のクルー巻き込んでるから文句も言えない、ビクンビクン。

 

ホント、福祉厚生の待遇はフネの生命線だわ、全く。―――閑話休題。

 

 

 

 

 

「さてと、今回でどれくらい貯まったのかなぁ~と?」

 

携帯端末から自分の口座にアクセス。

ぴっぽっぱっ、預金残高を見て見ると―――

 

「えーと前回のも合わせて……42900G」

 

真面目に働けば?こんくらい貯まるもんである。いやまぁ、警備艇という警備艇を襲って鹵獲して売りさばいたヤツがいう事じゃないけど、金は金だ。

やったねユーリ!戦艦が増えるよ!オイバカやめr―――

 

「結構貯まったモンだねぇ?」

「ウオッ!?ト、トスカさん!?何時の間に来たんスか?!」

「んー?ローカルエージェントと交渉してるあたりから」

「結構最初からいたんスね。いたなら声かけてくださいよ」

「だって預金残高を見ながらニヤニヤしてるヤツに話しかけたくないだろう?」

「ですよねー」

「というか慣熟訓練だったのに、何時の間にかコレだけ稼ぐなんて……子坊は運もあるんかねぇ?」

「トスカさん、いい加減“子坊”は勘弁してくれッス…」

 

結構その呼び名は恥ずかしいんですよ。この間もオペレーターの人達に聞かれて笑われちゃったしさ。きっと“子坊?あの歳で?”とか内心笑われたんだきっと……オペレーターが男なら許さないとこだったな。オペレーターが女性ってのは俺のジャスティス。

 

「まぁ良いじゃないか、あたしとあんたの仲なんだしさ」

「別に良いッスけどね。嫌じゃないし…ところで何か用があったのでは?」

「特に無いけどそろそろ昼飯時だからさ。一緒にどうかと思ってね」

「おお、美女からのお誘いだなんて光栄ッス!ぜひご一緒するッス!」

「あんたの奢りで」

「あ、やっぱり?」

 

何だか俺財布扱いされてねぇ?まぁ美人と食事出来る事は賛成だけどね。

 

「じゃあ俺もう少ししたら上がるんで、ちょっと待ってて欲しいッス」

「あいよ、酒場で待ってるさ」

 

彼女の後ろ姿を眺めつつ、俺は造船所の方に連絡を入れた。

 

 

* * *

 

 

―――トスカ姐さんに散々いじられ酒に絡まれ奢らされた後、彼女と別れた。

 

気が付けばすでに深夜0時を過ぎており、本来なら自分のフネに戻って明日の船出の準備をするべき何だろうが、俺には今からやるべき事がある。俺は帰りのその足でステーションに設けられた造船区画に赴いていた。俺にしてみれば夜時間にあたるが、ステーション自体は24時間稼働なので喧騒具合は昼間とあまり変わらない。

 

とりあえず受付で0GドッグのIDとかを提示して造船ドックの使用許可をもらった後、俺は10番造船ドックのコントロールルームにむかった。何しに来たかというと、お金が貯まったのでフネを造りに来たのである。

造船なんて大仕事を一人で出来るのかとか聞かれそうだがそこら辺はぬかりない。何故ならこの時代では一般的に造船で人間の手は使われないのだ。以前デイジーリップを修理した時のように、全ての工程がオートメーション化されているからである。

 

「さぁて、まずはデータチップを入れてデータを反映させて」

 

コンソールに記憶媒体を差し込み比較的データが無事な設計図をインストール。そのデータを元にして完成予想図を画面に映し出すように操作する。すると画面上で粒子のような点が渦巻き、瞬時にCGによる完成予想図が構築された。

画面に現れたのはあの廃棄された施設で手に入れたバゼルナイツ級戦艦である。手に入れた設計図の中で唯一使えるのがこれしか無かったので、この戦艦を造船する事を目安にこれまで頑張ってきたが、本当に時間がかかったもんだ。

 ゲームと違いここら辺で大金を得るには、一度近隣のステーションに行ってジャンクを売るか鹵獲したフネを売りさばくしか方法が無いんだからしょうがないんだけど、なんだかなぁ…。

 

ともかく今回造らせていただくバゼルナイツ級は、今いるロウズ宙域から眼ん玉飛び出るくらい遠くにあるお隣の大マゼラン銀河にある国家、アイルラーゼンという国で設計された戦艦なのだが、その国が長い間主力艦として採用し続けている戦艦である。

バトルプルーフを繰り返したことで、能力的には特記すべきところの無い汎用戦艦だが、逆に言えば全てが高い標準で纏められているフネである。この戦艦は各ブロックが独立して機能する為、火力と耐久力に優れており沈みにくいし、何より長年主力艦として君臨していたという事もあり、その設計の信頼性はかなり高いといえよう。

 

また小マゼランでは珍しい事に、このバゼルナイツ級戦艦には固定兵装が装備されている。その名もリフレクションレーザーカノン、反射ビットを用いた収束レーザーで

機関直結の固定兵装なために換装が効かないのが欠点だが命中率が高いのが特徴だ。

 パッとしない性能の中で唯一の個性と言っていい艤装であろう。それでも性能は凡庸だけど……まぁ小マゼランなら全体的に高レベルチートなので問題無い。どれくらいチートかというとFF序盤でディフェンダー装備?…スマン、俺にもどう言えばいいかわからん。

 

「ではでは、さっそくモジュールデータを組み立てに反映」

 

話を戻そう。今度は戦艦内部に導入すべきモジュール…拡張区画を設定する。無限航路に出てくるモジュールは艦橋、火器管制、レーダー、機関、格納庫、倉庫、居住、医療、会議、訓練、研究、管理、娯楽、特殊という14種類に分けられるが実は艦橋と居住と機関のモジュールさえ入れれば最低限フネは動く。

アビオニクスが発達しており、実質艦橋があれば全ての区画に指示を飛ばし最悪一人で運行出来る程の物が組み込まれているからだ。この三つのモジュール以外は言わば航海生活を楽しくする為の装飾と考えてくれればいい。

 

ちなみに規模や機能こそ違うが、このモジュール設置の際にコンソール上で表示されるモジュール設置MAP画面が原作ゲームの時のとほぼ同じような配置画面になるから驚きだ。ただしこっちはス○ホのようなタッチパネル方式、直観的な操作感がグッドです。 

まぁモジュールは後から改装できるが、事前に入力する事で手間を省くのだ。もっとも今のところ戦艦造船が精いっぱいで資金が足り無い為、とりあえずブリッジ周りと機関部と居住分だけを揃えて、後は徐々に入れて行く事にする。

 

でも貨物室はいれる。これさえあれば惑星間を往復しただけで金になるからな。積載量の関係で微々たる物だが……塵も積もれば山となるの精神でいこう。

 

「えーとブリッジの大きさから考えると…4×4のSサイズ貨物室だから…よしこれで良い。とりあえずシンプルでいこう。複雑にすると迷うだろうし…」

 

モジュールを設置しながら、最初の頃フネの中で道に迷った事を思い出す。いやね?色々資金が増えて、少しだけモジュールを組み換えたりしたら、船内の通路という通路が今までと違ったんだ。携帯端末のマップで何とかなったけど、船内で遭難するかと思って冷や汗かいた。

あれ以来、俺はあまりフネのモジュールはいじらない事にしている。艦長が自分のフネで迷うなんて何か恥ずかしいからな。それにマジで迷って怖かった。自分のフネなのに自分のフネじゃない様な感じがして…モジュール組み立ては便利だけど、こういうデメリットもあるってのも大いに思い知った。

 

≪―――造船を開始します。設定はコレで良いですか―――≫

 

おっとと、気が付けば設定が済んでいたか…思い出に浸るのもほどほどに、俺は軽やかにコンソールを操作して作業を終え、出来あがった設計図の出来栄えを見る。

 

「んー☆」

 

外装は素晴らしいな外装は…中は見事にスッカスカである。スッカスカなのは入れるべきモジュールが無いからなのだし仕方がない。俺は悪くねぇ…全部モジュールの種類が無い序盤が悪いのだ。組み立てようにもこの辺境で手に入るモジュールが無いのが悪いのだ。

 

「おk、ポチっとな」

 

設定が完了したのでタッチパネルにGoサインを出す。

するとドックの方からゴウンという音が響いてきた。工作機械が動き始めたのだ。さて造船の様子はというと、それはそれは実に未来的というべきだった。

 

先ずドック内の空間に重力制御されたエネルギーキューブという特殊な力場が形成される。この四角い力場内にフネの骨格となる部分が形成されるのだが、その形成の仕方が実に凄いのだ。

四方八方の工作機械からレーザーのような光を力場内に向けて照射される。すると照射された部分にまるで創造されたかの様にフネの骨格が出来あがっているのだ。その昔、前の世界で見た番組で溶液に目掛けてレーザーを交差させると、溶液が熱で固まって物体が形作られるのを見た事がある。

この光景はそれを更に壮大にした様な光景だ。一応、ユーリの知識によると、造船ドック内を重力井戸により空間固定された重粒子を充満させ、重粒子同士に外部から負荷エネルギーを加えることで励起させ結合させるとか何とか……とっても難しい現象がそこでは起こっている。

 

だが正直な話、俺にはちんぷんかんぷんである…あるが、こまけぇこたぁいいんだよ。ココまで頑張ってきた苦労を思えば、その感慨だけで細かい事なんぞ吹き飛ぶ。とくに福祉厚生…嗜好品の値段の高さ…トスカ姐さんの酒代、クルーも便乗した所為で地味にキツカッタデス。

さて、こうしてフネの背骨となる部分が出来あがると各モジュールが運び込まれる。骨格といってもがっしりとした竜骨とかではなく、その間隔にはかなり隙間があるので普通にモジュールは入るのだ。

なにせ基本的にこの世界の宇宙船の造船はブロック工法で行われる。中心となる背骨部分を先に作り、そこに出来あがった部品を肉付けするって感じだ。耐久性は昆虫と同じく外骨格、すなわち装甲部分で支える方式らしい。

 

だから余程規格外の宇宙線でなければ、最短2時間弱で造船が完了してしまう事もあるんだそうだ。今回は頑張って資金を貯めて造り上げる全長1300mクラスの大型戦艦。実際にかかる時間は夜中一杯だろうが、それでも前の世界の造船に比べれば格段に速い。

ジェバンニが一晩でやってくれました…とか、そういうレベル超えてるぜ。

 

≪内骨格形成、モジュール装丁、完了――兵装スロット装丁開始≫

 

しっかし無重力ドックでの造船は何度見ても飽きないモノがあるねぇ。何かこう大規模工作にかける男のロマンがうずくって言うのかな?宇宙戦艦こそ少年のころから…いやさ、大人になっても男の浪漫だろう。それこそ、わくわくがとまらない!ドキがムネムネェ~って感じだぞ!

 

「何か科学者が『こんなこともあろうかと!』をやりたい気持ちが解った気がする」

 

ふんふんと鼻歌交じりにポッピポッピポと指を滑らす。ウーフフ、これは機械いじりが好きなら癖になりそうですなぁ…『こんなこともあろうかと』って言うの。さてさて、装甲形成の最終工程が完了するまでは暇なので俺も部屋に戻る事にした。

 

明日、この艦を見たクルーの連中の驚く顔が目に浮かぶぜ…くくく。

 

 

* * *

 

 

―――そして夜が開け翌日の朝(の時間帯)。

 

「艦長~いきなり造船所のドックに来いってどういう事~?」

「しかもクルー全員じゃないですか、一体なにがあったんですか?」

「つーか何でドックを見る為のシールドが閉じてるんだ?」

「……ねむい」

 

俺は集合令を出し、造船ドックへ駆逐艦の乗組員たちを全員集合させていた。久しぶりの陸を満喫しようとした初日に呼び寄せられた彼らは、何故集められたのかを教えられていない。

口ぐちに眠たいだの用事があったのにだの文句を垂れている。だが俺は皆を驚かせたかったので、今だ本当の事は言っていなかった。やがてクルー全員がドック横の部屋に集まったのを見て、俺はマイクを手に取った。

 

 

『さて、久しぶりの陸でリフレッシュしようとしていたところ悪いんスが、今日集まって貰ったのはクルーである君達に驚き(サプライズ)をプレゼントしたいからなんス』

 

 

ざわめきが起こる、サプライズとは一体何なのか?

クルー達の反応に満足しつつ手元のコンソールに手を向け―――

 

『ソレはこれだぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!』

 

―――腰に手を当て、まるでダンサーのように指を天に掲げた後、スイッチオン。

 

背後のシールドが解放されドック内の全貌が明らかとなる。そこにあったのは……まぁ言わなくてもわかるだろう。俺が一晩で作っちゃったバゼルナイツ級大型戦艦が鎮座していらっしゃった。

 

 

当然クルーの皆さまは突然の事態に唖然とし静寂がこの部屋に降りる。

 

 

『我々はこれまで駆逐艦一隻でロウズ警備艦隊に挑み、苦渋を舐めてきた。だがそれも今日で終わりだ。このフネが、このフネこそが我々が待ち望んでいたヤマt…いや大型戦艦だ』

 

微妙に某艦長の台詞が混じったが気にしない。別に苦渋も苦労もそれ程無かったけどユーリは言いたかっただけなのだぁ。

 

『まぁそれはとにかく、いままでキミたちは駆逐艦の乗組員だったが、今日からは戦艦に乗り込んでもらうという訳だ。どうだー?驚いたッスかー?』

 

……………。

 

問いかけに対し返事が返って来ない。思ってたよりも反応が薄いヨー。ウワァァァン (ノД`)

 

顔には出さなかったが俺は心の中でさめざめと泣いていた。だがしばらくすると少しずつざわめきが広がり始める。それこそ波紋のようにクルー達に伝達した驚愕の波紋が、大音響の声となって俺の鼓膜を殴りつけた。

うぉっ!声でかッ!と思わず耳を塞いでしまった。そして怒涛の質問の嵐である、おいおい俺は聖徳太子じゃないんだぜ。

 

『あー、スペック云々は後で各自確認して貰うけど、とりあえず今はこの船の概要だけ言うから静かにしろーッス!』

 

俺一応雇い主、皆クルーとしての意識があるので徐々に静かになっていく。最終的に針が落ちた音が聞こえるくらい静かになったのを見計らって口を開いた。

 

『よし、静かになったッスね?まぁこの船を見た事ある奴は、このメンツの中では少ないと思う』

 

だって一晩で作ったし(キリッ)

ソレはともかくコンソールを操作し、フネの概略図を空間パネルに投影させた。

 

『コイツは見ての通りロウズ自治領であつかっているフネじゃない。勿論小マゼランで使われているフネとも違う。この艦はアイルラーゼン…大マゼラン製の戦艦ッス。どこで手に入れたかは質問されても困るのでそれ以外なら質問を受け付けよう』

 

またもやざわめきが起こる。まぁそれもしょうがない。ここに居るクルー達は全員がこのロウズで集めた地元の船乗りたちなのだ。大マゼランに行った事があるヤツなんて恐らく殆どいないだろう。

今まで小さな駆逐艦の乗組員だったのがいきなり新品の戦艦の乗組員。しかも技術が発展している大マゼラン製戦艦が乗艦となると突然言われれば混乱も起こるのだ。その所為か ざわめきはあるが皆フネに関する質問をしてこない。

むぅ、折角朝までかかってプレゼンの準備もしたのに…(つまりは徹夜)こうも反応が薄いと何か泣けてくる。

 

 

『おいおい、何固まってんスか?皆、嬉しくないの?こんなスゴイ船のクルーになれるんスよ?俺達はなんでココに居る?金を得る為?名誉を得る為?違うだろ?』

 

 

だからだろう。

徹夜明けのテンションも手伝って、俺はマイクを握っていた声をあげていた。

 

 

『もっと単純に俺達は宇宙に出たくてフネに乗った!新しい世界を見たい!空に羽ばたきたいと願った!違うのか?! この艦を見て驚いただろう?だけど…心の中で乗りたいと思わなかったか? これに乗って航海に出えたいと思わなかったかっ? 』

 

 

段々ヒートアップしてきた俺の言葉を、クルー達は黙って聞いている。普段使っている~ッスという特徴的な言葉遣いも興奮のあまり吹き飛んでしまった。俺はそのままのテンションで言葉を続けた。

 

『俺はこの狭い宙域から飛び立つ!このフネに乗って、小マゼランを巡る航海に出るつもりだ!その為にもお前たちのようなクルーが必要だッ! 領主法に真っ向からケンカを売れるようなガッツのある連中がっ! 諦めんなよ!宇宙を飛び回る事を諦めんなよっ!頑張れ頑張れ出来る出来る絶対出来る!もっとやれるって気持ちの問題だ!』

 

だけど興奮のあまり、ちょっと熱血妖精さんが混ざった。その所為で皆ポカンとしてたが俺は気にしない。熱意が伝わればそれでよい。

 

『と、とにかく全員が生き残れるように、俺はこのフネを建造した。絶対に後悔はさせないぜ!!』

 

 ここまで言いきったあたりでようやくクルー達が現実へ戻ってきた。俺の背後に何もなければ彼らもトチ狂った俺のホラであると考え勝手に解散と決め込んだ事だろう。だが俺の背後にはまごうことなき戦艦の雄姿がそこにあった。

―――つまり、艦長はホラ吹きじゃない。真実は何時も一つ!

 

「解ったよー艦長!俺は乗るぜー!!」

 

 誰が言ったのだろう。大勢いるクルー達からそんな声があがる。

 

「俺もだ!」「僕も!」「私も!」「面白そうだぜ艦長―!!」

「「「むしろ早く乗せてくれぇぇ!!中見たいんだぁぁ!!」」」

 

 そしてそれが伝染し、乗せろ乗せろの大合唱が俺へと向けられた。良くも悪くも俺が用意したこのフネは辺境星系のロウズでは生涯てんでお目にかかれないようなシロモノだ。また0Gである彼らは総じて好奇心も強い。それが大合唱が起こった理由である。

 

『おまえら……よぉしっ!中はまだシートのビニールすら破って無い新品だ!艦長から通達!全員乗りこめぇぇぇぇ!!』

 

そして俺は皆の声にありたっけの声を出して乗船許可を出す。

俺のその言葉にみんな子供みたいに顔をキラキラさせながら部屋を出ていった。ここにいる全員が船乗りだ。大きくて力強いフネに憧れを抱かない筈がない。

そうして我先にとフネに入る為の連絡橋を走っていった。恐らく内部を見学しにいくという事だろう…しかし、あれほど混雑してる癖にドミノ倒しとか怪我人の一人も出ないのは逆にすごいよな。

 

「お疲れさん子坊」

「あ、トスカさん…あれ?見に行かないんスか?」

「慌てなくても存分に見れるからね、急がなくてもいいのさ…というかがめつい位に金を貯めてたのはこの為だったんだね?」

 

どたばたとクルーが過ぎ去って閑散とした部屋。

そこに残ったトスカ姐さんが俺に声をかけて来た。

 

「そうッスね、戦艦の艦長をやるっていうのも夢の一つでしたから……ってがめついって酷いッス!商才豊かとか言って欲しいッス!」

「本当に商才豊かなら、博打の0Gなんかしないよ」

「うぐ、じゃあ強運な男と…」

「自分で言うかこのこの」

「ぐりぐりしちゃらめぇ~!いたいーッスー!」

 

頭をぐりぐりとされ、恥ずかしいやら痛いやら。おまけに皆いなくなって興奮が冷めたお陰か、言葉使いまでも普段通りの~ッスに戻っている。どうもこういう喋り方が滲みついちゃったみたいで中々治らない。

以前はもっと普通に喋っていたのだけれど、これも環境が変わったからかな。とくに姐御オーラ全開なこの方の前だとその傾向が顕著だ。あれか?本能的にこの人には勝てない的な何かを感じ取っているとかそういうオチか?

 

「しっかし随分前からこそこそと隠しているとは思ってたが、まさか1000mはある戦艦を用意するなんてねぇ。流石のトスカさんもびっくりだよ」

「スンごいサプライズでしょう?俺もあれの設計図を見つけた時は驚いたもんス」

「まぁアンタはエピタフなんて珍奇なモン持ってたんだから、あの設計図もそういう類のシロモノなんだろうねぇ。でも興味本位で聞くけど、あんなもん何処で手に入れたんだい?マゼラン銀河辺境のロウズで買うのはまず不可能…何かしらの手段で買えば相当な値段だと思うんだけど」

「あーはは…アレ見つけたの実はロウズの封鎖されたあのコロニーなんスよ。アソコのデータ端末の中で、ロックされていたファイルがあって運よくロック解除が出来たんです」

「ロウズのコロニーって…アソコかい!?」

 

流石のトスカ姐さんも驚いたようだ。そりゃまぁ、あんな廃墟にこんなお宝があれば誰だって驚くよな。技術的にレベルが低い小マゼランでは、例え穴開き設計図データでもお宝です。

 

「ウス、どうもあのコロニーには大マゼランまで渡った人間が居たらしいんス。んで偶然ファイルを開いてデータを手に入れられたって訳なんスよ。他にも色んなフネの設計図があったんスが、ああ、このフネの設計図もそこから拝借したッス。まぁ実際は殆どのデータが壊れててコイツしか作れなかったんスが…」

「それが本当だとしたらアンタはおっそろしく強運の持ち主だね。普通はあり得ない事だよ。偶々修理で立ち寄った廃棄施設から資材を手に入れるのは良くある事だけど、こんな辺境でお宝を見つけるのはエピタフを手に入れるくらい大変な事だ」

「俺もそう思うッス。でも小さな領主領とはいえボイドゲート警備隊を突破するにはそんな些細な事は気にしないッス」

 

そう、この宙域で一番敵戦力が集結しているであろうゲート付近で戦うためには、駆逐艦一隻では戦力的にも心もとない。かと言って金を貯めて駆逐艦を増やし数をそろえようにも、只でさえ辺境のロウズで領主法に逆らってまで宇宙に出たがるガッツのある人材はほとんど残っていないのが現状だ。

普通はそんな法律が出た段階で伝手でも使って違う星系に逃げるもんな。

 

 

「今は前だけ向いて突っ走る事しか出来ないし、利用できるもんは何でも使って状況を打破するのは至極当然ッスよね――でも、ご都合主義バンザイ(ボソッ)」

「…ん?なんか言ったかい?」

「いいえ何も」

「ふーん、それじゃあこれまで懸命に金を集めてたのは、もしかして」

「大艦巨砲は男の浪漫ッスよ!」

「あきれた…普通そこは艦隊を造ろうとか考えるだろう?」

「根本的にまだ複数のフネに指示を飛ばせる程、熟達してないッス」

「根本的にフネが大きくなると、その分飛ばす指示の量も増えると思うんだが?」

「…………………あっ、そうだったぁぁぁぁ!!!」

 

浪漫を断言した事でトスカ姐さんは呆れたように米神に手をやっていた。男の子は何時までも男の子ぉ!浪漫なくして宇宙を渡れるかってんだ!…だけど確かに手間も増えるね。やったねユーリ、仕事が増えるよ!オイバカやめろ。それはさて置き俺の中では駆逐艦より戦艦強しがジャスティス。そこだけは後悔していない、

 

「あ、あはは……まぁ本当のところはロウズから出るのが精いっぱいで、こんなの作るのはもっと大分先の事だと思ってたんスけどね。ところで――――」

 

俺は悪戯っ子の様な笑みを浮かべトスカ姐さんに問う。

 

「―――驚きました?」

「驚き過ぎて心臓が止まるかと思っちまったよ」

「ソレは大変だ、是非とも医務室に行かなければならないですねぇ?トスカさん」

「ああ、そうだね。それじゃ医務室に行くとするかね?あのフネのね」

 

そう言ってニヤリと笑うと、彼女は案内たのんだよ『ユーリ』と言って部屋から出ていった。そん時の俺は唐突に名前を呼ばれた事に一瞬驚愕したが、どうやら子坊から名前で読んでもらえる程度には認めて貰えたらしい。

同じ釜の飯を食い苦楽を共にすれば仲間意識くらい芽生えるものだが、それ以上にトスカ姐さんは良くも悪くも義理堅くて情に深く、それでいて面倒見のいい良い女なのだ。

 

それでもこれまで名前では呼んで貰えなかったのに名前を呼んで貰えた。嬉しくない訳がない。いい女に名前で呼んで貰える事に喜びを感じないのは男じゃねぇ。俺は顔を綻ばしながら彼女の後を追った。

 

 

「案内頼むって俺より先に行ったら案内出来ないッスー!まぁいいや、ぜひ行きましょう。俺達のフネ、アバリスに」

 

うん、フネの名前は最初から決めてあったんだ。昨夜造船所を出た後、名前を考えるのに時間かけたから少し寝不足になっちまったけどいい名前だと俺は思っている。

 

―――かくして俺達の新しい家、アバリス号がここに誕生したのであった。

 

 

* * *

 

 

さて、アレから丸一日経った…――――

 

戦艦アバリス、その速力、運動性、装甲、火力…今までと比べ全てが最高だ。俺はまだ尻になじんでいない艦長席のシートの上で身をよじりながら、ブリッジの中を見渡した。

 

 

 

「……と言っても、まだ発進してすらいないんだけどね」

 

 

 

そう、この宙域では信じられない高性能を誇るバゼルナイツ級戦艦アバリスは、いまだもやいを解かれずに10番ドックに繋留されていた。何故か?理由はごくごく単純。必要物資の積み込み作業と駆逐艦からの引っ越しが終わって無いからである。

いやー戦艦作ったのは良かったんだけど、それに浮かれちゃって物資補充すんの忘れてたんだわ。ユーリくんったら超うっかり。そのこと話したら、クルーの連中に呆れられちったい。ああ俺艦長なのに、その俺を呆れた目で見やがって、悔しい!でも感じち(ry

 

ちなみに先程の速力やら火力うんぬんは全部脳内シュミレーションに基づくものであり、実際の物とは差異があります。要するに暇なので妄想してました。いいよネ妄想!みんなもレッツ妄想!……俺は一体だれに言っているんだ?

 

「――……アコーさん、作業の進行状況はどう?」

 

でも流石に何時までも妄想してたら部下に変な眼で見られそうなので、そろそろ仕事することにした。艦長席のコンソールは便利なもので、これ一つでフネを動かす事が一応可能である。もっとも選択肢はあっても人間は指10本と腕2つしかないのであくまで動かせるの範疇でしかないが。

そんな訳で万能コンソールを使い、俺は物資を搬入している貨物室へと連絡を取った。呼び出し画面がしばらく続き、少しして画面に作業着を纏ったワインレッド色という以前の地球で見たら絶対染めてるやろーと叫びたくなるような髪色をした女性が投影された。

 

彼女はアコー、このロウズで姉妹ともども雇った乗組員の一人であり、今では生活班の班長を任せている女性である。ウチの募集に来た人間は元船乗りが多いのだが、彼女はそうではなく元は一般の会社の人間だったらしい。

だが上司のセクハラを受けその上司を殴りクビになり、ロウズの経済事情に再就職も難しくたまたま見つけた俺のクルー募集に来たのだそうな。元が一般の会社の人間という事で船乗りの技能はほぼ0に等しいが、それ以外で活躍できる人間も欲しかったので生活班という日常を支える仕事に就いて貰っている。

……ちなみにこの人も酒好きでうわばみでトスカ姐さんと同類。後は判るな?

 

『ん?ああ、艦長かい?見てのとおりさ、とりあえず物資コンテナの搬入は終わったよ。後は人間が乗るだけさ』

「ん、ご苦労さん――おっ、予定より15%も早いッスね。これは後で給料に色付けとくッスよ」

『そいつはありがたいね――コラそこぉっ!ガントリーレーンを使えってさっき言っただろうがー!――おっとごめんよ。こっちも飾り付け作業もあるし忙しいから作業に戻るよ』

「はいはい、そんじゃねー」

 

さて、生活班のチーフとの通信を終え、発進前のチェック項目に物資搬入に終了マークを入れる。クルーと馴れ馴れしいのではないかと言われそうだが良いんだ。別にウチは軍隊じゃない。艦長とクルーという最低限のラインは守ってくれるし、戦闘時にはこちらの指示は聞いてれるから問題無しだよ、うん。

 

 

 

――――さて、そうこうしている内に準備が整いつつあるようだ。

 

 

 

『こちら機関室のトクガワ、準備完了じゃ』

『こちら生活班室のアコー、全ての物資搬入および人員の確認は終了した、いつでもいけるよ。後、格納庫の飾り付けも終わったよ~』

『こちらレーダー班室のエコー、艦長ーこの艦のレーダー凄くレンジ幅広いですね~。

使うのが楽しみです~』

『こちら砲雷班室のストール、問題ねぇ』

『こちら厨房のタムラ、艦長!処女航海用のシャンパン冷やしてますよ!』

『こちら医務室のサド、怪我人も病人も今日は来とらんよ』

『こちら重力井戸制御室のミューズ…臨界まで動かしたけど…問題無い』

『こちら整備班室のケセイヤ、第一装甲板から第4まで全く異常は無いぜ?隔壁のロックも確認した』

 

次々と寄せられる、各部署チーフ達からの報告、まぁ出来たての艦なのに問題あったら困るわ。というかその場合、空間通商管理局に文句つけちゃう。まぁ設計図が悪いとか言われたら尻すぼみになるけど…。

ちなみに本当は発進の準備はブリッジで全部操作出来る。だけど、みんな気分出したいらしくて、わざわざ自分の担当する部署に行っているんだよね。俺も相当浪漫大好きな男だけど、クルー達はクルー達で大概だZE☆

 

「艦長、全区画オールグリーン、管制から発進許可出ました。準備完了です」

「うむ!全艦出力最大!戦艦アバリス発進するッス!」

「おし、機関出力臨界にまで上げろ!戦艦アバリス、これより処女航海に出るよ!」

「「「アイアイサー!」」」

 

機関に火が灯り、船体を固定していたアームのロックが解除され、アームが収納される。そしてドックの隔壁が開き、誘導灯が点灯した。

 

「インフラトン機関、主機・補機共に出力臨界へ到達」

「補機稼働開始、微速前進」

「微速前進、ヨーソロ」

 

アバリスはその船体を揺らしながら、誘導灯に導かれゆっくりとドックからその姿をあらわにした。この宙域には無い1000m級戦艦はその巨体を、ステーションの発進口に向けている。

 

「管制からGOサインです。ソレと通信で“貴艦の安全を祈る”だそうです」

「AIの癖に洒落てるよなぁ、管理局って…」

 

ブリッジの誰かがそんな事を言った。うん、ホントそう思うわ。あいつ等普段は全然感情無いくせに、時折こうやって感情っぽい事するからおもろい。

 

「艦長、重力カタパルトに乗りました。ご命令を」

「よし、飛べ」

 

即座に命令さ!仕事も飯も早い方が良いからな!!

―――そして戦艦アバリスは、トトラスのステーションを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「無事航路に乗った。自動操縦に切り替えるぜ」

 

 発進の際に滑らせるような操艦を見せてくれた操舵席にすわる男、航海班のリーフが操縦桿から手を放しながら自動操縦へと切り替えたのを皮切りに、ブリッジの空気が少し弛んだ。乗り物というのは大抵そうだが、発進と停止の時が一番神経を使う。

 

「駆逐艦クルクスは自動操縦にて本艦後方、距離1200の位置で固定します」

「……あっちは完全に航法ドロイド任せッスけど、大丈夫ッスかね?」

「人間が乗って無いって意味でかい?それなら大丈夫だ。戦闘以外の航法術なら下手な人間よりもドロイドの方が上だしねぇ」

「そんなもんスか」

 

 未来技術ってのはやっぱすごいのねぇ~。

 

「レーダー班室から艦長に通信です。艦長席へ転送します」

『艦長、こちらエコーです~。ねぇねぇ艦長、レーダーの早期警戒レベルはどうしますか~?』

 

 随分と間延びした女性の声が通信に入る。彼女はエコー、レーダー班の班長をしている女性で、生活班班長アコーとは姉妹にあたる。姉が会社をクビになった時に一緒になってアコーの後をついてきた健気な人だ。

 ソレはさて置き、レーダーの早期警戒をどうするかだったな。うーん。

 

「このフネならローズ自治領の警備艇程度が何隻来ても平気だろうけど、一応半舷休息入れつつレベル2にシフトしといてくれっス。あとで交代要員よこすからさ」

『わかった~』

「アイサー艦長、交代要員にはそう伝えておきます」

 

このフネに搭載されている対エネルギー兵器用のAPFシールド(Anti-energy Proactive Force Shield)の出力なら、警備艇クラスの光学兵器程度屁でも無い。質量兵器用の重力防御装置のデフレクター無いから、対艦ミサイルならヤバいかも知んないけど、今んとこの警備艇にミサイル搭載艦はいないから大丈夫だろう。

 

オペ子のミドリさんに指示を頼んだ後、トスカ姐さんとジャンケンして勝ち悔しがる姐さんにこの場を任せて、俺も処女航海のパーティーの為に倉庫へ向かった。何で倉庫なのかというと、大勢のクルーを一挙に入れられるスペースがある場所は今のところそこしかないからである。

本当は大食堂のモジュールでも欲しかったんだけど、そのモジュールが手に入らなかったんだよね。お陰でクルーが入れる場所が格納庫しかなかった。まぁ飾り付けとかは、生活班と整備班が頑張ってくれるそうだから、あんまし心配していない。駆逐艦に居た時ですら、ウチのイベントスタッフ連中、スゲェいい仕事してたからなぁ。

何であんな優秀な人達が、ロウズなんて辺境に取り残されてたんやろうかと不思議に思うばかりである。恐らくは唐突に領星間の行き来が官民問わず規制された為に領内に取り残されてしまった人達が多かったんかねぇ。

 

 

 

* * *

 

≪ヴィーヴィーッ!≫

『敵艦接近を確認、総員戦闘配備、艦長はブリッジへ』

 

「おろ?敵さんッスか?」

「なんだよ折角飲み始めたところなのに」

「空気読めよなぁ」

「これだから禿領主の部下はKYなんだよ」

「んなことよりもっと呑もうぜぇ~ひっく」

「……俺はブリッジ行くけど、後任せたッス」

「「「「いってら~、がんばってこいや~」」」」

 

 くそ、酔っ払いどもめ。俺だって飲みたいのに。

 パーティー会場となった倉庫に到着早々鳴り響く警報と御指名により、俺を含め素面の戦闘班所属の人間は皆持ち場にゆかねばならなくなった。飾り付けやらをしていた生活班などの人達は先にはじめていたらしく赤ら顔で出来あがっている人間も多いのでこの場で待機である。

 さすがに酔っ払ったヤツが戦闘を行える訳は……なんか居なくも無さそうだがない。ま、生活班の方々は戦闘中は特にやる事はない。精々食堂勤務の人達が戦闘が長引きそうな時に出前の炊き出し弁当を作る為にテンヤワンヤする程度である。彼らには存分に酔っ払っておいて貰って、とっととこっちも宴会に参加しないとな。

 

 

「――状況は?」

 

急いでブリッジまで戻ってきた俺は入るやいなやOP席に座るオペ子のミドリさんに声をかける。

 

「こちらのレーダー範囲が大きかったので先に発見できました。敵はまだこちらに気付いてません」

 

 さすがは正規軍御用達の戦艦だけはあり、その策敵範囲はすこぶる広いらしい。

性能チェックは実戦で行う事になったが、まぁそれは問題無いだろう。

 

「どうするユーリ?逃げるかい?戦うかい?」

 

気が付けば俺の背後に佇んでいるトスカ姐さん。現在副長役をやってくれている彼女からそう言われ俺は少し考える。敵さんは水雷艇のレベッカ級2隻、まだ敵には見つかっていない。この艦になって初めての戦闘である事だし、相手としてはちょうど良いかな?むしろモノ足りないかもしれないな。

 

「戦いましょう、ちょうど良い機会ッスからね」

「そうかい、それじゃ―――総員戦闘準備!ブリッジクルーもいそいで呼び戻せ!各砲門ファイアロック解除!策敵と射撃諸元のデータリンク急げ!」

「アイアイサー、総員第1級戦闘配備です。ブリッジクルーの皆さんはさっさと自分の席に戻ってください。戦闘班は戦闘配置で待機してください」

 

 戦闘配備が出されたアバリスは途端あわただしくなる。戦闘に必要な主なブリッジクルーがブリッジに到達してからは、非常通路以外の隔壁が降ろされて通路を閉鎖し、インフラトン機関を戦闘出力まで上げる。その間にジェネレーターと各砲の連動機能を確認していく。

 各システムの戦闘モードでの立ちあげが手動で行われ、各項目のチェックも余念がない。新造艦になってからいきなりの実戦なので詰まらないミスで危機を招くのは御免なのだ。そして俺はその様子を横目に、この艦になってから初めて使える機能を使う様に指示を飛ばした。

 

「妨害電波はどうなってる?もう使えるッス?」

「当艦に搭載されたEA(Electronic Attack)およびEP(ElectronicProtection )両システムは正常に作動中です」

「それじゃあ妨害電波発信。おぼれさせちゃいなッス」

「アイサー」

 

 オペ子のミドリさんがコンソールを操作する。途端モニターしていた敵艦が急に停止した。

 

「敵さん通信不能で慌てています」

「さっすが大マゼランの軍用艦。駆逐艦とは比べ物いならない程強力ッスね」

「まぁ、大本の機関出力からして違うんだし、これくらいは出来るだろう」

 

 トスカ姐さんの言う通り、このフネになってからエネルギーに余裕が生まれた事で各部署でもシステムが強化されている。その余剰エネルギーで通信システムの妨害や観測用レーダーの妨害も以前の艦に比べて雲泥の差が生まれた。つまりは力任せだけど電子戦も出来る様になったという訳だ。素晴らしい。

 

 

「よし、先制攻撃を仕掛ける、リフレクションレーザーカノンにエネルギー廻せ!」

 

この艦の艤装の中で命中率が高めでおまけに射程が結構長いリフレクションレーザーカノン。威力は並だが射程が広く、アウトレンジからの先制攻撃で使うにはちょうどいい兵装だと言える。

 

「攻撃を仕掛ける、砲雷班!前方敵前衛艦に対し、攻撃開始!」

「了解、各砲インターバル2で連射用意良し、全砲発射」

 

号令により、発射されたエネルギー弾が、警備艇に向かい突き進む。一応火器管制って俺のところからでも操作出来るんだけど、ソレすると著しく命中率が下がる上おもしろくない。

それはさて置き思考を巡らせている間にも状況は変化し、リフレクションビットにより収束加速された光弾が敵艦に突き刺さっていた。距離がある為ココからでは、センサーによってでしか確認が取れないが、シールドを張っていなかったみたいだし多分撃沈であろう。

 

「敵2番艦、インフラトン反応拡散中、撃沈です!」

「続けて第二射、敵僚艦目がけて発射しろ!油断なく撃破するッス」

「アイサー!ポチっとな!」

 

第二射も敵1番艦の推進機を上手く貫き機能停止させる事に成功する。射程も照準性能も前の駆逐艦に比べ、当社比1,5倍ってところか。ロウズで買った駆逐艦の火器管制じゃこうも見事に無力化は出来ない。

改めて自分が幸運にも手に入れてしまった兵器に惚れなおした。戦艦アバリスは素晴らしいフネだ。例えご都合主義のように手に入った戦艦であっても、これを手放そうとは思わない。

 

「敵艦、インフラトン機関完全に沈黙、エネルギーレベル低下」

「……生きてるみたいなら降伏勧告を出してやってくれッス」

「いいのかい?あとで面倒臭いよ?」

「トスカさん、俺達は海賊じゃないッス。だから無用な殺生はしないんス」

「いや、それはいいんだけどさ。捕虜人数の把握とか必要な食糧の割り当てとか事務処理的な仕事が増えるよ?」

「………性急に、事務方がほしいです」

「募集に来る事を待つんだね」

 

ただウチのフネの唯一の弱点は、事務処理が出来る人間が少ない事か。もう動かなくなった敵艦を眺めつつ、俺はジャンク品回収の為に近づく様指示を出した。

 

 

…………………

 

………………

 

……………

 

『こちらEVA班長のルーイン、艦長~使えそうなジャンク及び部品の回収、終わったぜ?』

「了解ッス、艦外作業はもう良いので、上がってくれッス」

『アイサー艦長、テメェ等!作業終了だってよぉ!…――――』

 

EVA(船外活動)の人達と、ジャンク及びパーツ、予備部品を収納する。この奪った品が、ウチのフネの活動資金に化けるのだ。何か海賊行為みたいだけど、宇宙は無法の地だから許してね?それに狙っているのは同宙域に偶に出る海賊か打倒すべきデラコンダの配下だから、この世界的にはセーフなのだ。

流石に民間の輸送船とか狙っちゃうと、小マゼラン政府から指名手配されちゃうからやんないけど。とりあえずこの宙域から離脱し、アバリスの最大レーダーレンジに何も映らないような安全圏に到達するまで警戒を続ける。慎重はやり過ぎる事は無いのだ。

 

「周囲に敵艦及び脅威存在を認めず~、安全圏にまで来れたみたいだよ~?」

「了解エコーさん、とりあえず適当に切り上げてくれて良いッスよ」

「了解~艦長~」

 

ふぅ、どうやら大丈夫みたいだな。以前もたもたしてたら、敵に囲まれた事があったからなぁ。このアバリスの性能なら多分囲まれても大丈夫だろうけど、慎重に慎重を期すのは悪い事じゃないわな。

 

「ミドリさん、各艦に警戒態勢の解除を通達してくれッス。隔壁も解放、通常運航に戻してもいいッスよ」

「アイサー艦長」

 

とりあえず艦内の警戒レベルを下げ、戦闘巡航から通常巡航に移行させた。何時までも気を張っていたら苦しいし、敵がいないならリラックスしないと病気になっちまう。しばらくして、艦内にようやくホッとした空気が流れ始めたのを感じた俺は、自分の席を立った。

 

「さ~て、パーティーの続きでもするッスかね」

「良いですねぇ~安全圏には到達したから、自動航行にしてもいいですか?」

「うむ、許可する!お祝いは皆で騒ぐから楽しいッス!」

 

やりー!とわき立つブリッジクルー達。自動航行と、もしもの為のオート・ディフェンスのシステムを立ちあげて、いざ行かん!大騒ぎ確定な処女航海記念パーティーへッ!!

 

「ん?全周波チャンネルで通信?」

「どうしたッスか?」

 

―――――そして、こういう時に限って、ものがたりは進むんだよなぁ…。

 

インフラトン星系間通信システムにより俺の(自称)妹チェルシーが、デラコンダに捕まったという通信が、ロウズ自治領に全域に流れていた。

 

 

* * *

 

 

■その日の艦内時間の夜■

 

「で、どうするんだい?ユーリ」

「んー、本当なら助けに行きたいとこッスねぇ」

 

今、俺がいるのは艦長室の代わりに使っている部屋である。その部屋にはもう一人いて、今日の通信の件で副官役のトスカ姐さんに相談する為に来てもらっていた。いや、本当は艦長室欲しかったんだけど、そのモジュールまだ手に入らなくて…話がそれた。

 

「でもあんた、ソラに上がる時、家族はいないって言ってなかったかい?」

「(ボソ)そうなんだよなぁ……」

「えっ?何だって?」

「うん?イヤ何でもないッス。彼女はチェルシー、俺の妹で唯一の家族ッスよ」

 

一応ユーリの記憶では、そうなってたから、トスカ姐さんにそう伝える事にした俺。でも確か彼女と俺って血は繋がって無かった?原作だとどうだったかなぁ?なんかこっちに来て色々あったから段々忘れている気がする。

 

「ふ~ん、でもなんでまた彼女を置いてソラに上がったんだい?」

「意見の相違ってヤツッス。彼女は地上で静かに暮らしたい、俺は宇宙に出たい…つまりはそういう事ッス」

「ああ、ケンカしちまったって訳だ?」

「まぁ…そんなとこッス」

 

まぁ、女の子と男の子じゃ感じるロマンに少しばかり差異があるから?仕方ない事だよなぁとトスカ姐さんは納得してくれた。正直嘘をついた事に対する罪悪感はあったが、なるべく表情に出さないように努力する。

だが何故かここで話が脱線し、トスカ姐さんにチェルシーの事を色々と尋ねられた。とりあえず、俺の中に残っているユーリ君の記憶から、彼女に関する記憶を引っ張り出す俺。なんか、色々と恥ずかしい記憶を話した気がしたけど…キニシナイコトニシタ。

 

「――――……で、結局どうすんだい?艦長さん」

「放っておくのも可哀そうだし、どうも俺の所為で捕まったみたいだし、助けに行きたいッスね。せめて安全な星系にでも送り届けないと、男じゃないッス」

「だけど、それはこれまで集めたクルーやフネを危険にさらすことになるよ?普段の警備隊がああだからそうはみえないけど、領主直属の艦隊は手ごわい筈さ。――覚悟はあるのかい?」

 

 クルーを失ってしまう可能性、それを考えた上でもやる価値はあるのかと、トスカ姐さんは言外にそう問うた。たしかに200名ちかい人員と大金をかけて制作した戦艦が損害をこうむるのと、たった一人の少女の命を天秤にかけるのは難しいだろう。

 だが、逆にそのかけるべき天秤はどこにある。彼女の命運を分けるのは俺の考え一つなのだ。そして俺は彼女を助ける事を望んでいる。ならば答えは一つだ。

 

「………そりゃ、今のフネのクルー達と身内とはいえ一人の少女だと釣り合わないッス」

「なら見捨てるのかい?」

「皆の命を考えればそれが良いのかもしれないッス。だけど、それをしたら男じゃないッス。プライドに拘るつもりは毛頭ないッスがたかが少女一人助けられない男が宇宙を巡るなんて言葉を吐いたって、少年が見る夢物語もいいところじゃないッスか。俺は本気でもっと先を目指したい……だから――覚悟くらいドーンとしてやりますよ」

 

 内心はもし死人出たらゴメンなさいゴメンなさいだけどな!覚悟はしても出来ればそういうのはない方がいいに決まってる。もう宇宙葬やるのは気が滅入るから嫌ですたい…。

 

「ま、本音は見捨てたら夢見が悪すぎるって事なんスが……ダメっすかね?」

「………はぁ、ある意味アンタらしいよ。いいだろう、艦長はあんただ。あたしはそれに従うさ。それじゃあたしはその事を他のクルーに話してくるよ」

「お願いしますトスカさん」

 

彼女は手をひらひらと揺らし、そのまま部屋を出ていった。多分親類が人質に取られた俺に気を利かしてくれたんだと思う……もっとも俺的には全然平気だったりする。だって俺、チェルシーと面識ないもん、記憶はあるけどさ。

この記憶は、言わば憑依先にくっついていた記録のようなもの。特に我が妹とされる女性が風が吹き抜ける草原でどこか寂しそうに空を見上げているセピア色の光景には、どこか哀愁漂う何かがある。だが、言ってしまえばソレだけである。

 

これがユーリの記憶というにはあまりにもハッキリしすぎているし、それ以前にもっと根本的にこの記憶はおかしいのだ。なにせこの映像は空を見上げている女性を“上”から見下ろしているような光景である。アングルがどう考えてもおかしい。あれか?ユーリ君は舞空術でも使えたとでも?

この微妙な違和感は俺がユーリ本人ではないから来る物なのだろう。何せ“言ったら恥ずかしい記憶”もデジタルリマスターよろしく脳内再生出来るんだもん。でもきっと本来の主人公くんは疑問にすら思わなかった筈だ。だってそう言うモノだって刷り込みがされているからな。

というかこの記憶、ホント鮮明すぎて怖いわ。コレだと後から植え付けた記憶だなんてすぐに解っちまうけど…まぁやった奴ら人間じゃないから仕方がない。

 

「しっかし、今更って感じもするッスねぇ~」

 

とりあえず、彼女の救出だけはしておこう。中身が代わったユーリに対して彼女が何か言ってきたら、その時は即効このフネから降りてもらう方向でね。ま、見捨てるのが夢見が悪すぎるから助けるだけだし心配はいらんだろう、多分。

 

――とりあえず今日のところは床につこう。一日色々あって疲れた俺は床に入ってすぐに眠りに付いのだった。

 

 

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第三章+第四章

 

とりあえずチェルシーを助ける為に、罠だとは知りつつも戦艦アバリスの進路を一時惑星ロウズに向けた。ある意味で俺のプライベートな事態と言える事件だが、この事をウチのクルー達に話したら普通に救出に賛同して協力してくれるという。

これまで一星系に閉じ込められてきた鬱憤と、妹さんを助けるという人助けの大義名分でデラコンダ相手に大立ち回りが出来るとくれば、協力しない手はないそうな。もうちょっと反対意見の一つでも出るかと思っていたんだがこれは予想外。

 

流石のトスカ姐さんもこの事態は予期して無かったらしく、俺の顔見ながら、あんたの仁徳のなせるワザかねぇ~と呟いていらっしゃったけど…俺って仁徳あるのかな。正直、自分のまわりさえ楽しければ、後はどうなっても良いっていう快楽主義者なんだぜ。

でも、その事をトスカ姐さんに言ったら何故か溜息をつかれた。自分を卑下しすぎだってさ。う~ん、そんなつもりはなかったんだがな。実際好き勝手やってるんだし、嘘ではないのだ。クルー達も巻き込んでるしね。

 

「――艦長、そろそろ惑星ロウズの宙域に入ります」

「ん、了解…あ、そろそろ警戒レベルあげといてくれるッスか」

「アイサー」

 

今回はきっと大規模戦闘になるだろう。戦死者出ちゃうかも知れないなぁ…。

 

「どうしたんだ。艦長が戦闘前に溜息なんて吐くんじゃないよ」

「トスカさん…」

「仮にも艦長なんて重たい看板背負ってんだ。そんなヤツが不安そうにしてたら士気が下がるだろう?前にも言ったじゃないか」

「こういう時は不敵にしてろって事ッスね。いや、俺が溜息ついたのはソレだけじゃないんスよ。圧倒的に人員不足だなぁと」

「仕方ないだろう。慣らし運転もそこそこにここまで来たんだ。途中でステーションによる暇なんて無かったよ」

「お陰で乗員の殆どがドロイド……」

「ま、自律行動が殆ど取れないドロイドだけど、命令さえ下しとけば殆ど間違いなく実行してくれるよ。まだ慣れてない内はむしろそっちの方がいいんじゃないかい?それに最終的な判断はユーリ、アンタが下すんだ。生きるも死ぬもアンタの判断の速さにかかってるって事、忘れんじゃないよ」

 

そう、アバリスは性能こそピカイチだが、その実クルーの大半は航法ドロイドだったりする。いや本当は人間を雇いたかったけど、やはりロウズ自治領じゃデラコンダの信者が多くて、駆逐艦を動かせる程度の人数を集めるので精いっぱいだったんだよねコレが。

それでもまだ募集とかかけてみたけど、基本的に公に出来ない募集なので集まりが悪い。幾らアビオニクスが発展していても人が動かすフネなので200数余名では運行に支障が出てしまうのもしょうがない事なのだ。だから、アバリスに旗艦を変えた時に増えた運用最低人数の補充分は全部ロボット…航法ドロイドなのである。

 

一応は通商空間管理局が提供してくれるサービスで借りられる高性能AIドロイドなので実質フネの運行自体で問題はそうは無い。けれど、やっぱり人間の方が臨機応変に自体に対処できる上に成長というファクターが加わる分、そっちの方が断然良いのである。

ちなみにAIドロイドはこれまた原作OPムービーでフネの操艦を担当していたあの黒いド○ネーターみたいな無機質なロボ。俺んとこだとブリッジには居ないんだけど、機関室とかそういった重要だけど危険な所に集中して配備してある。何でかって言うと、あいつ等の声って機械音すぎて俺には聞き取れないんだわ。

 

「艦長レーダーになんか沢山の浮遊物の影があるわ~、多分領主側の探査衛星~」

「ジャミングは?」

「数が多すぎて、正直のぞみ薄~」

 

 どうやら領主デラコンダは思っていたよりも慎重な人の様だ。手元のコンソールに送ってもらったレーダーには、探査衛星のモノと思われるグリッドがウジャウジャ…さすがの軍用EA装置でも単艦のではこれだけの数を誤魔化すのは無理ぽ。

 

「エネルギーの無駄だし、ジャミングは切っといてくれッス」

「了~解~」

「艦長、デラコンダからの長距離通信が来ていますが…」

「うん?解った、別のモニターに出してくれッス」

「アイサー、3Dホログラムモニターに投影します」

 

ふむ、まだレーダー範囲に入ったばっかりなのにすぐに通信か。普通ならすぐにでも攻撃してくるのがセオリーなのによっぽど自信があるんだな。普通自分の領内で警備隊相手に大立ち回りした俺達なんて海賊と同レベルに思うだろうにわざわざ通信を入れてくるんだからな。

すこししてブリッジの真ん前にある長距離通信用ホログラムモニターが光りを放ち、ブリッジ内部にて一つの形となる。それは人の形をしており、それによって映し出されたのは……メタボでアブラギッシュな…スキンヘッドのジジイ…。

うわぁ写真で見たヤツよりも実物キモイ…広報の写真って加工してあったのかよっ。

 

『貴様がユーリとかいう、我が領内法を破り我が物顔で我が領内を混乱させた0Gドッグか…まだ青臭い小僧ではないか』

 

 当然といえば当然なのだが、通信の相手は友好的という感じではない。あっちにしてみれば俺はテロリストとかに見えているんだろう。

だが、自治領を持っている領主は領内のゴタゴタは自力で解決すべしという法律がある。そのお陰で俺は例えここであの領主を消滅させても、領主の力不足という事でロウズ星系以外では罪に問われない。覚悟は決めた。ならソレを押し通すのみ。

 

『だがお陰で末端の警備がサボっているという事実も判った。ついでに貴様らが無用な殺戮をする様な輩でも無い甘ちゃんだという事もな。巨大なフネまで造りあげたようだがそんな暴挙もここまでだ……領主デラコンダが命じる。武装を解除し、投降せよ。さすれば命だけは助けてやろう』

「命だけはッスか…だが罪には問われると?」

『むろん。我が領内の平穏を脅かしたのだ。そうだな、今ならロウズ星系のスワンプ星でのレアアース採掘10年間でいいだろう。稼いだ分は税金で差し引いた分以外貴様らにくれてやる。悪い話ではあるまい?ん?』

 

 スワンプ星って言ったら沼地だらけっていうか沼地しかない湿度100%の湿地惑星で、通常の航路図にすら載ってないような辺境中の辺境だろ?確かにレアアース採掘はそれなりに良い稼ぎらしいけど、こういう場合そういうのは体のいい島流しって言うんだよおっさん。

 

「そいつはどうも。だけど俺達はそんなカビ臭いところに移住する気は毛頭ないッス」

『それは残念だ。優秀ならば部下にと思ったのだが』

「冗談、辺境に幽閉されて一生終わるのがオチッス。第一0Gドッグは自由の宇宙航海者ッス。そんな事も忘れちまったッスか?苔生したお地蔵さん」

『…………どうやらダークマターになりたいようだな。若き者よ?』

 

 ミシリと、ホログラムに映るデラコンダの額に太い血管が浮かぶ。こ、怖い。

 

「あ、いや…手加減して欲しいなぁなんて…ダメッスか?」

『フッ、0Gドッグを名乗るもの、これくらいで怖じ気づいてどうする?だがまぁ、最後の警告だ。黙って戻るなら今の内―――』

「だが断る!」

 

ズギャーン、命令すれば思い通りになると思っているヤツにNOと言ってやる!―――いや一度言ってみたかったんだよねコレ。兎に角、どうせ俺達は領主法から真っ向に否定する主張を曲げないんだから、堂々と戦おうぜデラコンダ……チートな戦艦もってるヤツの言う言葉じゃねぇけどさ。

 だが俺のモノ言いが癪に障ったのか、さらに頭部の血管が太くなるデラコンダ。あーうん、俺が言うべき事じゃないけど、血管切れない?それ。

 

『ふ、ふざけおって!絶対に沈めてくれるわ!全艦体攻撃準備!』

「あ!その前に妹の……チェルシーは無事なんスか?!」

『チェルシー?……ああ貴様の身内だったか。ふん、ワシとて元は0Gドック、地上の者に危害を加える事は無い。ちゃんと空間通商管理局に監禁してあ――』

「でも誘拐して監禁した時点で危害加えてるんじゃないッスか?そこんとこ道なんスか?」

『………………≪ブツ≫』

「――通信、一方的に切られました」

 

((((逃げたなアレは…))))

 

 

図らずとも俺とブリッジクルー全員の心がシンクロした瞬間だった。

 

* * *

 

「ロウズ軌道上に敵艦~!数は……4、6…計8艦隊~!」

「解析中――周囲4艦隊は水雷艇クラス、直掩艦隊は巡洋艦クラスのグロリアス級、艦隊の中央に一際大きなインフラトン反応を確認、エネルギー総量から考えて敵旗艦グロリアス・デラコンダ級の様です。モニターに投影します」

 

惑星ロウズを背景に上下ひし形布陣で展開しているデラコンダ艦隊。巡洋艦クラスの大きさがあるデラコンダ艦が艦隊中央に布陣し、他の艦は当然ながら中央の旗艦を守る布陣である。前から見ればひし形だが上や真横では三角に見えるあたり立体的な布陣であると言える。

コンソールでデータを手元のサブモニターに呼び出す。

この敵の旗艦、グロリアス・デラコンダ級は元0Gドッグで現エルメッツァ辺境宙区領主デラコンダ・パラコンダが独自に設計し建造した軽巡洋艦であり、そのもっとも大きな特徴は左舷に取り付けられた本体の倍の大きさはあろうかという巨大レーザー砲である。

右舷側にはカウンターウェイトを兼ねた三本の大型エネルギータンクが束ねられており、それを中央船体のウィングブロックで固定している。その上には主機関部と艦橋が置かれ、船体最下部には標準的なインフラトン機関が補機で備えられている。ある意味で三段空母ならぬ三段軽巡洋大砲艦という見た目であった。艦種混ぜ過ぎだろう…。

 

もっとも、左舷側の大型レーザー砲以外に兵装は見当たらず、どれだけその大型砲に自信を持っているかが窺える。恐らく生半可な威力ではなく並の船なら掠っただけでも一撃必殺の威力があるであろう。そうでなければ直接通信できる距離までこちらを近づけさせなかった事だろう。

アレだけの大砲だ。射程もきっと長いに違いない…俺ならアウトレンジからどーんするけどね。対するこちらも大型砲はあるにはあるが、連射性を考えてなのか威力はほどほど…お陰で策もほぼ無しに敵陣深く突っ込まないといけない。数が違うのだから電撃戦をしかけないとジリ貧となるからだ。

 

「敵艦距離そのまま。本艦の有効射程まであと6000」

「戦速そのまま!全艦砲撃戦用意!全砲門開口!照準、敵前衛艦隊!アバリスのマニューバと発射のタイミングを合わせろっス!中央突破して電撃戦で旗艦を落とす!」

「すでにこっちは相手に見つかってんだ!堂々と正面からくらいくよ!弾の出し惜しみするんじゃないよ!相手をタンホイザーに叩きこんでやれッ!」

「「「「了解!」」」」

 

今回作戦はただ一つ、正面から押し切る、コレに尽きる。

 

もうチョイ他にフネがあれば前衛後衛なり艦隊を組めばよかったんだけど、瞬間速度はともかく巡航速度で劣るアルク級じゃアバリスについていけないから後方に下げてしまっている。元より敵の数が予想していたよりずっと多いから通常駆逐艦と変わらないアルク級のクルクスでは役者不足だ。

硬い装甲がある訳じゃないし、露払い出来る程の数もいない駆逐艦を前に出したところで意味なんて無い。エネルギーと物資の無駄になるし、あれでもほんの少し前に建造した一番最初の乗艦なのだからブッ壊すのも忍びないというのもある。まぁ要するに勿体無いの精神が働いたという訳だ。

 

一応、敵艦隊の前衛は今まで戦って来た警備艦隊が使っている水雷艇と種類が変わらないからなんとかなるだろう。計算上では連中のレーザー砲は此方のAPFシールドを貫ける程の出力は出せない踏んだ上での作戦とも呼べないお粗末な作戦…参謀か軍師が欲しいなぁ。

まぁそれに考え無しで突っ込む訳ではない。グロリアス・デラコンダ艦が持つ巨大レーザー砲が直撃すればいかな大マゼラン製の戦艦でも損害は免れない事だろう。だが科学班のサナダ班長の解析報告によると、あの大砲は次弾までのチャージにかなり時間が掛かるそうだ。

当然こちらだってロックオンされているのだし回避は難しい。だが発射しようとすればエネルギーの集中を探知できる筈。それを元に各部核パルスモーターを使用したT(タクティカル).A(アドバンスト).C(コンバット)マニューバを全開にした回避運動を取れば、発射されてもギリギリで回避可能だ。

 

―――あとは、ウチの操縦士の腕を信じる他ない。ちなみに俺は信じている。

 

「第一、第二各砲塔照準完了、発射準備完了だ!」

「敵レベッカ級加速開始、急速接近中です~。でも何か艦の挙動がおかしいわ~」

「あれま…なんか戸惑ってるって感じッスね」

「まぁレーダーで見るのと実物を近くで見るのじゃ違いもあるもんだよ。ユーリ」

 

やっぱ驚いてるんだろうなぁ。何せこの間まではウチは只の駆逐艦一隻だった。デラコンダもだからこそ俺達を放置していたんだろう。主力を出せばすぐに捻りつぶせると思っていたから。なのに戦力揃えて迎えてみれば来たのはこんな辺境に現れるとは思えないような大型戦艦だったんだからね。

大きさで判るかと思っていたが、そう言えば小マゼランにはビヤット級という全長1200mはある大型の輸送船があるから、もしかしたらアバリスをその輸送船を改造したか何かの張りぼてだと考えたのかもしれない。だがふたを開けてみれば現れたのはこの近辺じゃお目にかかれない戦艦、それなんて無理ゲー?

デラコンダ本人は虚勢なのか、それとも本当に大丈夫だと思っているのか、さっきの通信であまり動揺はしていなかったけど、末端の兵士までは動揺を抑えられないみたいだ。コイツはチャンスだぜ。前の駆逐艦だったらあの戦力相手にも苦戦しただろうけど、この船なら…。

 

「艦長、敵艦から一応降伏勧告来てますけど、どうします?」

 

敵の部下さんも大変だ。命令された以上命令を実行しなきゃならない。

まぁココはあの方を肖り、あの有名なセリフを言ってやることにするかね。

 

「バカめ…と返信してやれ」

「アイサー。――こちら戦艦アバリス“バカめ”以上――」

 

よし、艦長になったら言ってみたい台詞を一応言えたぞ!

全然シチュエーションは違うが関係ない!言えたんだから満足じゃ!

でも敵さんのエネルギーレベルが上昇っと…やっぱり屈辱なのかね?

 

あ、そうだ老婆心だけどコイツも言っておこう―――

 

「あ、ミドリさん。進路妨害しなければ見逃すってついでに言っておいてくれッス」

「アイサー、そのままの言葉を通信で送ります」

 

―――こうして、デラコンダ艦隊との戦闘が始まった、ロウズ上空戦である。

 

 

……………………………………

 

…………………………

 

………………

 

「さて…砲雷班長ストール!」

「はいよ艦長ユーリ!」

「砲撃開始ッス!敵を蹂躙せよッス!」

「はいさー!ポチっとな!」

 

打てば鳴る様な掛け合いで命令を下す。それに合わせ砲雷班の班長ストールが、自分の席のコンソールの発射スイッチを押した。強制冷却機の音が艦内に響き、上甲板の一番とニ番砲塔から、本船から見てやや右舷側上角の敵艦へとレーザーが発射される。

 

「艦首軸線大型レーザーとリフレクションレーザーは前方を塞ぐ艦を狙え!――良し撃ぇ!」

「はいよ……照準よろし、ポチっとな」

 

ちなみに何故ストールがポチっとなと言ったかというと、俺が良くポチっとなと言ってスイッチ押していたのを聞いて、何と無くフレーズを気にいってしまい使う様になったらしい。いやまぁ、イイ感じに緊張がほぐれて良いんだけど…なんかしまらないなぁ。

 

「第一射、敵第一防衛ライン前衛艦を撃沈。軸線砲およびRレーザー砲、障害となる艦に命中、敵艦中破。敵の後続艦に離脱艦が出た模様、混乱してます」

「よし、続けて第二射――「直庵艦隊とデラコンダ艦のインフラトン反応が急速に増大中、発射の予行かと」ちぃッ!回避運動っ!!」

 

第二射を発射しようとすると、ミドリさんが後方にいるデラコンダ艦隊の砲撃準備を感知したと冷静に報告した。航海班のリーフが舵を切りTACM回避運動をアバリスに行わせた直後、かなりの出力のレーザーの群がすぐ脇を通り抜けた。

 回避運動が間に合い直撃どころか運よく掠りもしなかったが、通り過ぎた瞬間に1000mあるフネがかなり揺れた。そして艦橋のモニターが一瞬であるが焼き付きを起す程のパワー…凄まじいの一言だった。

 

「エネルギー量を計測………概算だが直撃を3発受ければヤバいな」

 

とはいえ科学班の班長サナダさんが先程の攻撃を観測し、機器をから目を逸らさずに報告してくる。ちなみにこの場合の直撃っていうのはAPFシールドが防ぎきれなかった余剰エネルギーが装甲にまで達する事、ゲームにおけるクリティカルヒットの事を指す。そりゃあゴンブトレーザーが直撃したら流石にヤバい。

 直後、別の衝撃がフネを揺らす。

 敵の前衛水雷艇はまだ残っている。その攻撃がアバリスを揺らした。だが揺らしただけで目立った被害はない。しかしそれでも相手の方が数が多い事に変わりはない。囲まれて集中砲火、もしくは水雷艇の運動性に翻弄されたりすれば、デラコンダ砲の餌食となる…向こうもそれを望んでいるだろうが、叶えてやる義理はないね。

 

「次弾が来る前に―――両舷全速ッス!!」

「アイサー艦長!――トクガワさん!」

「了解した。機関出力全開、出力を回す」

 

機関長のトクガワさんの操作により、大型戦艦用の大出力インフラトンエンジンが唸りを上げアバリスは粒子の雲を吐き出して一気に加速する。流石は戦艦クラス、この力強さは凄く頼もしく感じる。これならすぐにデラコンダの懐に飛び込める!

 

駄菓子菓子…では無く、だがしかし――――――

 

「敵艦、針路上に侵入~!本艦の進路と交差してます~ッ!」

「ちょっ!?敵さん何考えてんスか!?」

「完全に衝突コースです。激突まで約20秒」

 

―――飛び出すな、戦艦急には止まれない。

 

 その昔どっかで聞いた標語のようなモノが頭に浮かんだ。驚いた事にアバリスの進路とかち合うようにして敵艦の何隻かが飛びこんできたのだ。逃げだす奴もいたが忠誠心を持つ人間もいたという事だろう。戦艦はデカイ分、急停止とかが出来ないという弱点を利用するとは…それ以上にまさか身を呈して守ろうとするとは…護衛艦の鏡だ!

 だけど敵を称賛する前にはやく指示して避けないとヤベェって!!

 

「リーフ!回避してくれッス!!」

「車じゃねぇんだ無茶言うな!どのみちムリ!もう衝突コースに入ってるんだぞッ!」

 

 加速し過ぎた!?相対速度が速すぎて回避できない!?うそん!?

 

「ストール!」

「ムリだ!別のフネ狙ってたから旋回させて照準とか間に合わん!」

 

――ええい、だったら!!

 

「総員耐ショックっス!」

「しょうがないね全く――ミューズ!」

「……了解、重力一時解放、慣性制御を最大に……」

「シ、シートベルト!シートベルトは何処だ!?」

「ああ?!ねぇよンなもん!頭でも押さえてろ!」

 

 もう諦めて衝撃に備えるしかないだろう。ほぼ真っ直ぐ突っ込んでくる敵艦に対し一応迎撃を試みるが相対速度が速すぎて当たらない。しかし火器管制が優秀だったお陰か激突ギリギリで迎撃に成功する。しかしそれは安全距離を大幅にオーバーしている事により大量のデブリ片がアバリスに襲い掛かる事となった。

 APFシールド装置は機関出力さえあれば、大抵の高出力指向性ビームの固有周波数に干渉し減衰及び無効化が可能となる反面、実弾などの物理的な攻撃に対する防御力はない。物理攻撃防御用のシールドも存在するが、基本装備のAPFSと違いモジュールを導入しなければならず、当然本艦には搭載されていなかった。

 

――そして至近距離で爆散した敵艦は、それこそ大型の機雷よりも性質が悪いモノだった。

 

 恐らく、コレが本来の目的。攻撃手段がほぼ前方に装備されている事を考えての攻撃。

爆散して火球と化した敵艦の破片は高速のデブリとなり、周囲へと満遍なく振り撒かれる。そのデブリの雨の中へアバリスは突っ込んだ。旗艦爆発で拡散したインフラトン粒子を纏った青いデブリの群は恐ろしく綺麗で、それでいて規則性の無い砲弾と同じである。アバリスは敵艦を破壊した衝撃波に続く第二の衝撃に襲われた。

 

「うおっと!?――損傷確認急げっ!ダメコンもッス!」

「艦体起こせ!進路がずれてるよ!」

 

 あまりの衝撃にたたらを踏んだがすぐに復帰して矢継ぎ早に指示を飛ばす。

伊達にこれまで実戦で訓練していた訳じゃない。こういうのにも慣れている。

 

「艦首大型対艦レーザー及び第一砲塔が破損、使用不能です。船首部分は第二装甲板まで貫通、一部剥離しています。アポジモータースラスターも一部が損壊、運動性能が14%低下――」

「あわわ、レーダーにノイズが~」

「――運悪くレーダーマストに破片が直撃しています。サブに切り変えさせます」

 

 幸い戦闘系のシステムは殆ど無事で第二主砲も多少デブリを浴びたモノの、ダメージ許容範囲内に収まっているので使用可能ではあった。だが運悪く破片の一つがレーダーやセンサーが集中している場所を貫いていた所為で策敵性能が大幅ダウンしてしまったのが痛い。

 ………この欠片が後数十メートルも横にずれていたら艦橋に直撃だったと思うと、股間が縮みあがりそうだ。もっともマストと艦橋じゃ装甲厚や防御力が違い過ぎるので、多分大丈夫なんだろう。それでも至近距離に着弾し、損害が出ているのは怖い事に変わりはないのである。

 

「こちらトクガワ。機関室に損害無し、航行には支障はないと思われる」

『ブリッジ!こちらダメコン室のケセイヤだ!デブリ片が装甲の薄い粒子ダクトを貫いたみたいだぜ!内側からブッ壊れてインフラトン粒子と空気漏れの警報が止まらねぇ!一応前部ブロックの隔壁は全部降ろしたがまだ警報が止まらんから直接見に行ってくる!』

 

そしてエア漏れである。宇宙における空気の重要性は今更言わなくても良いだろう。幾ら装甲厚がある戦艦でも部分的に弱い個所は幾らでも存在する。装甲があるからと言って、それがイコール壊れないという事にはならないのだ。さっきみたいに大量のデブリ片が当たると、当りどころによっては貫通してしまう。

だから通常は遠距離で破壊するんだよね、至近距離でデブリ食らうよかマシだから。それはともかくとしてケセイヤさん雨の日に『田んぼ見てくる』みたいなノリで身に行ったら死亡フラグが……いや、今はエア漏れをなんとかしないとな。

 

「任せたッス。それと戦闘中だから応急修理を急いでくれッス」

『任された!ちょっ早でやって来るわ!』

「艦長、敵第二防衛ラインのグロリアス級と旗艦グロリアス・デラコンダ級からインフラトン反応の増大を確認。敵特装砲の次弾発射まであと180秒です」

 

 再び敵艦に動きあり、やばい。

 

「トスカさん、今艦首には誰かいるんスか?」

「うんにゃ。元々艦首ブロックの制御はドロイドまかせだから誰もいないよ。応急班もまだ隔壁の向こうで立ち往生だ。一部システムが落ちて隔壁が開かないらしい」

 

 だれもいない、そしてこのフネの頑丈さは折り紙つき……よし!

 

「ならば応急修理は後回しッ!アバリスはこのまま直進!進路上の直掩艦は無視する!どうせ艦首は壊れてるから、とことん使ってやるッス!ジェネレーター出力をシールドと重力制御に回すッス!」

 

ころころ指揮が変わって悪いが、こっちの方がデケェんだ!体当たりで粉砕してくれるわッ!

 

「ちょっあんた…正気かい?」

「正気も正気ッス、大丈夫ッスよトスカさん、この船はそう簡単には壊れないッス」

 

姐さんが心配そうにこっちを見ている。だけど大丈夫だ。何せ大マゼラン製の戦艦だからな!頑丈さなら折り紙つき、小マゼラン製品よりもずっと上なのだ!なんせさっき敵艦を引き殺したってのに小破しただけだからな!さすがはアバリス、何ともないぜ!

 

「敵艦、再度本艦の針路上に展開します」

「トクガワさん機関出力一杯ッス。リーフ!遠慮しないで思いっきり突っ込め!」

「了解ですじゃ。機関出力、最大から一杯へ」

「へいへい、とんでもねぇ艦長の下についちまったぜ。まぁ!楽しそうだからいいけどなぁ!」

 

 そしてアバリスは加速する。1000m級を俊敏に動かせる大エンジンは伊達では無い。通常空間での戦闘の為、自動的に亜光速までしか出せないが、これ程の巨体が恐ろしい速度で突っ込んでくるのは脅威に映る筈だ。後で突撃バカとか言われそうだが、今のところそれくらいしか戦術が無いのだから、シカタナイネ。

 進路上で行く手を阻むかのように展開した直掩のグロリアス級は、デラコンダ艦程ではないが大型の2連装レーザー砲を左舷に装備している。それを連射して阻もうとしている様だが、生憎シールド強度はこちらが上だ。だが4艦隊も残っている現状、全部相手取るのは危険過ぎる。という訳で、沈んでくれ。

 

―――そして、撃震が走る…という程でもなく振動が走る。

 

「うぉっち?!――損害は?!」

「船首軸線砲完全に大破、ですが敵は真っ二つです。縦に。後は食堂で仕込み中だったスープ鍋が転倒したとか」

「なんで戦闘中に飯作ってんスか…」

「ごはん食べなきゃ戦は出来ません。お陰で夕飯は2時間ほど時間がずれるそうです」

 

 ミドリさん、正確な情報ありがと…でも最後のは余計だよ。

さて、最早戦法でも戦術でもないタダの体当たりを食らったグロリアス級は押し切られるようにして中央の船体部分を潰され、ウィングブロックがその衝撃に耐えきれずにねじ切れた事で、左舷の大型2連装レーザーと右舷のエネルギータンクがある部分が哀れ中央船体から泣き別れとなっていた。

やはり大マゼラン製のフネの頑丈さや堅牢さは小マゼランのフネの比ではない。カタログスペックをそのまま信じていた訳じゃないけど、体当たりしてもこっちは少々揺れるだけである。慣性制御用の重力設備が通常よりも遥かに強力である事が証明された訳だ。

 

「しかし激突させて真っ二つとか意外とエグイ戦法だよな。悪魔だ悪魔」

「ウチの艦長、やる事が時々酷いしな。無茶振りにも慣れたけど。ありゃ外道だ外道」

「あ、敵艦爆散した~、脱出する暇も与えないとか~、そこにしびれる~あこがれる~」

「重力制御が効いてるね………だけど、なんどもやったらこっちが危ないよ」

「ま、これで良いんスよ、一罰百戒っていうの?そんな感じ」

 

 コンソールに目をやれば一目瞭然。たった一隻を破壊しただけで敵の直掩艦隊の艦隊機動が浮足立ったかのように鈍くなっている。ラム攻撃、いやこの場合体当たりによる敵艦の撃破なんてのは、光学兵器による砲撃戦が主体となったこの世界では事故でなければあり得ないような光景だからだろう。

 

 だが、その動揺こそこっちが欲しかった物――!

 

「トクガワっ!」

「主機関出力、推進装置共に問題無しですじゃ副長」

「ユーリ!今なら敵の旗艦の懐に突っ込めるよ!」

 

 なにせ、直掩艦隊の防衛ラインを突破すれば、あとは遮るモノ等ないのだから。

 

「本艦はこれより近接砲撃戦を行う!砲雷班は第二主砲をぶっ放せるように準備!照準、敵旗艦ッス!」

「おうよ!了解っ!」

「デラコンダ艦、レーザー砲のエネルギーチャージが完了した模様です。発射まで後5秒」

「面舵一杯、敵弾回避しつつ、両舷リフレクションカノンで反撃ッス!」

 

アバリスの船体が大きく揺れ、進路方向を面舵(進行方向の右側)にきった瞬間、グロリアス・デラコンダ級の持つ大型レーザーがインフラトンの光を放ちながら発射された。凝縮されたエネルギーを帯びた光弾は最早質量を持っているに等しく、ギュゴゴゴと衝撃波を伴いながらアバリスの左舷を掠めていった。

正直さっき体当たりした時よりもフネが揺れた。それにより咄嗟にコンソールにしがみ付いていた俺は揺れが収まると同時に損害報告を促した。あの攻撃で左舷側の第一装甲板は殆ど剥離…もっとも第二は耐えきったあたりシールドが効いている。機関室は無事だし、上甲板の第二主砲にも被害はないと言ってもいい。だけど――

 

「左舷リフレクションビット大破。リフレクションカノンも損傷」

「構わないッス!右舷側だけでも撃つッス!!砲へのリミッター解除も許可するッス!残ったエネルギーを詰めてやれ!」

「なっ!そんな事したらすぐにぶっ壊れるよ!船体にも被害が出る!」

「どうせ片側ぶっ壊れてるんス!もう片方ぶっ壊れたって同じッス!――ストール!やれっ!!」

「あいよっ!――砲へのリミッターを解除、エネルギー100%から120%へ!リフレクションカノンッ!発射ぁぁ!!!」

 

―――軽い振動、そして眩い光。

 

 右舷のリフレクションビットを犠牲にして収束・加速されたエネルギーは、先程のデラコンダ艦の砲撃と同じくらいの大きさの光弾となり、デラコンダ艦の左舷大型レーザー砲を撃ちすえた。いや撃ち抜いたと言ってもいい。何故なら光弾はデラコンダ砲の砲身の中へ吸い込まれる様に直撃したからだ。

 驚いて照準を行った砲雷班長ストールの方を見やると、何時の間に出したのだろう、直接照準用の照準器…電影クロスゲージって感じの奴をコンソールに接続してあった。つまりさっきの砲撃は艦橋からの直接照準による砲撃だったのだ。なんという神技。思わずあんぐりと口を開けるとなんかサムズアップを返された。

 なんだろう、すっごく殴りたい…。

 

「――敵旗艦、左舷大型砲をパージ、誘爆を回避するためと思われます」

「ふっ、勝ったな…これで相手は戦えまい」

「装甲板が剥離――いえ、パージしました。中から対艦装備と思わしき兵装が」

「へ?……なにそれズっこいッス!!」

 

 原作じゃ大型レーザー以外装備無かったくせに!!

 

「諦めな。あっちは最後までやる気なんだろう」

「う~う~」

「そのうーうー言うのを止めな。と言ってもあっちは主砲をパージしたみたいだから大きさは半減してるね」

 

 グロリアス・デラコンダ級は500m強の大きさがあるが、それは殆どが左舷の大出力レーザー、デラコンダ砲の大きさだ。そいつをパージした事で全長は一気に半分の250mほどにまで縮んでしまった。小型の駆逐艦とほぼ同程度の大きさである。これにより一撃必殺は無くなったと見ていいだろう。

 

「こっちの残っている兵装は?」

「ほぼ無改造だからね。もう上甲板の主砲くらいしか残ってないよ。後は体当たりくらいじゃないかい?」

「……片や主兵装無し、片や満身創痍って感じッスかね」

「流石に敵の大型レーザーは効いたからねぇ。ロールアウト直後の無改造じゃ仕方ないさ。むしろ戦艦に乗り変えたからここまで8艦隊相手にド派手な電撃でキメられたんだ。たいしたもんだよ」

 

 まぁ、駆逐艦なら相手にならないしねこのフネ。

 

「敵艦にエネルギー反応、本艦をロックオンしています」

「うーんと、エネルギー量ってドンくらいスか?」

「おおよそ駆逐艦クラスです。メイン動力を殆ど大型砲に費やしていたからと思われます」

「ウチのシールドは?」

「若干出力低下していますが健在です」

 

 だとすると、勝負にすらならないか……いや最悪を考えろユーリ。

相手がバンザイアタックでも決めてきたら流石に被害が大きいぞ。

 

「砲雷班長、撃て」

「いいんですかい?」

「決着は早めにつけた方が良いんスよ」

 

 追い越した直掩艦隊もそろそろ正気に戻って引き返してくるだろう。そうなると前後…いやデラコンダ艦はもう悪あがきの段階だからほぼ除外して、背後をとられるのはちょいと不味いな。このアバリスもそうなんだが艦隊同士での撃ちあいを想定しているからか、この世界のフネって後方に砲が設置されて無いのが多い。

 敵前で回頭とかある種の浪漫だけど、実際にやったらフルボッコ確実なのでやらない。やらないったらやらないよ?……押すな!絶対押すなよ?!の精神じゃないからな!?

 

「第二主砲、直接照準よろし」

「撃ぇい!」

「恨むなよ。恨むなら艦長を、だ…ポチっとな」

 

 オイコラ、聞こえてッぞ。流石に数百人分の怨念は荷が重いから塩撒くかね。

 ともかく、そうして発射された主砲はデラコンダ艦を貫いた。攻撃に全てを回し、他は艦隊を組む事で補っていたであろうグロリアス・デラコンダ艦の装甲は、原作で駆逐艦相手に撃沈されてしまう程に紙だ。ましてや出力からして段違いな戦艦クラスの主砲の直撃を受けて耐えきれるようなものじゃない。

 

「敵旗艦、内部で連鎖的に爆発が起こっている模様」

 

たったの一斉射、それだけで致命的なダメージを受けたデラコンダ艦は各所から火を吹いていた。むしろすぐに爆散しないのが不思議であった程だ。内部隔壁の機能は通常のフネよりも高性能だったのだろうか?しばしその光景を茫然と見やる。

 

「艦長、敵艦から通信です」

「……繋いでやれッス」

 

 そうしていたらデラコンダからの通信が来た。既に爆散一歩手前の状態で通信が来るとは思わなかった。だが最後の通信となるだろうし、俺はそれに応じた。武士の情けってヤツである。

 

『小憎らしい小僧め、よくもまぁやってくれたな。これでロウズ辺境領は平安から動乱に成るやもしれぬのに、お主らはそういう事など露ほども気にせずロウズから飛び立つだろう』

 

 忌々しい事にな。そう呟きながらホログラム通信に投影されたデラコンダの姿はボロボロで額から血を流していた。コンソールのフィードバックか衝撃で何処かにぶつけたのだろう。ギンと睨まれたが、それでいて何故か口調とは裏腹に彼は何処か清々しそうだった。

 

「ま、俺達は0Gドッグだから仕方ないッス。決着は宇宙で付けるモノで地上のそれは正直管轄外ッス」

『言ってくれる。これだから若者は始末に悪い……しかし、若者の好奇心とやらを侮っておったという事だろうな。だが、わしが敗れたのは貴様の戦術ではない。そのフネの性能だという事を夢夢忘れん事だ……完敗だ。若き者よ』

 

 うぐ、確かに最初からあり得ないような戦力で攻めたし何か罪悪感がある。でも俺は謝らない。俺の矜持はレベルを上げて物理で殴るだからだ!…いや少しはあるけどね。つーか何か某青い巨星さんと台詞被ってッぞ?!

 

『よく覚えておけ小僧。地に根を坐した0Gドッグの末路というモノを。地上では死にきれず、さりとて自害すらも出来ぬ臆病者の姿をよく見ておけ……そして、わしの様になるなよ』

 

 俺がバカな事を考えている内に向こうは言いたい事を言い切り、通信が切られた。最後に言っていた言葉はよく聞きとれなかったが、言いたいことは何と無く判った。0Gを名乗るなら0Gとして死ね。そう言いたかったんじゃねぇかな。生憎俺は最後は布団の上で死にたい…腹上死じゃねぇぞ?それはそれでありだけど。

 

 ―――思考が逸れたが、デラコンダのフネはそのまま爆散した。

 

「敵旗艦…沈黙、インフラトン反応拡散…撃沈です」

「……案外、あっけないもんスね」

 

 領主法で俺達をこの星系に縛り付けた領主の最後に、俺は小さくそう呟いていた。時代を作るのは老人ではないと赤い人は言っていた気がするが、領主となった彼がこの星系を支えたのも事実。ま、道を踏み外した人間ってのは悲惨何だなと思った。

 

『こちらダメコン室、さっきの砲撃でリフレクションカノンが吹っ飛んだぜ艦長』

 

さて、敗者に対し軽く黙とうしていると、艦のダメージコントロールを請け負っている整備班のダメコンルームから通信が入る。そこの班長ケセイヤからものっそジト眼で睨まれている。ああん、そんな目で見られたら感じry――すっごい冷めた目ですね判ります。

ま、まぁさっきの攻撃はリミッター解除してジェネレーターのエネルギーを過剰流入させたしな。リフレクションレーザーカノン自体が吹き飛んでもおかしく無い。とりあえず外部モニターで確認したところ、そりゃもう盛大に装甲板がまるで花弁を開いたかのように内側から拉げて吹き飛んでいた。

 人員が元より少ないのでドロイドしか回していなかった事が幸いし人的被害はない。でもこれは修理させた後に改造させてもう少し耐久度を上げた方が良いだろう。

 

 もっとも、今はそれよりも――

 

「とりあえず応急修理を急いでしてくれッス。後まだ戦闘は継続中ッスから気を付けて」

『言われるまでもねぇや』

 

渋い顔をしながら通信が切られる。応急とはいえ百数mもぶっ壊れてるから修理するのが大変だと思っているんだろうなぁ。整備班にしてみれば大規模土木工事みたいなもんだしな。フネの応急修理を最優先、特に武装が壊れたままじゃ怖い。

 

「艦長、残存艦隊が撤退――いえ、何隻かが反転、こちらに向かってきます」

 

 タイミング良いなオイ。

 

「トスカさん、残りの兵装は?」

「現状、残りの兵装は中型レーザー砲が一門と小型のが一門だけ。応急修理ですぐ復活するらしい」

「…………いけると思います?」

「さて、まぁ大丈夫だろうさ。幸いAPFシールドはまだ展開してるからねぇ。レーザー程度ならバイタルエリアに損害はでないだろう。こっちが体当りを連発さえしなければ大丈夫じゃないかい?」

 

あ、あれ?トスカ姐さん、なんか言い方にすこし刺があるなぁ。

そう言えば敵艦に衝突する瞬間、何かをぶつけた様な音があった様な…………ま、まさか。

 

「若干、痛かったねぇ…」

 

 頭を摩っているトスカ姐さん、あー…どっかに打ってたのね。

 

「……あとで特別手当出すッス」

「ふふ、解ってるねぇユーリ」

「ああ!!副長だけずるいぜっ!」

「仲間はずれは…いけねぇ。いけねぇよな艦長?」

『「「「そうだそうだ~!」」」』

 

どうやら、特別手当の事をブリッジの面々に聞かれていたらしい。序でにミドリさんが手を回したのだろう。他の部署の連中も続々と手当出せコールが………ちぇッしかたないなぁ。

 

「解ったッス、今回のこれに特別手当と地上での宴会費用を経費で落せるようにするッス」

『「「「流石は俺達の艦長だー!!!」」」』

 

湧きたつ艦内…というかまだ戦闘中じゃ――――

 

「敵全艦轟沈ッと、おわったぜ艦長」

「え、あれ?俺なんも指示して無いよね?」

「まぁ手っ取り早く終わらせておいた、早いとこ宴会したいからな!」

 

まぁ手際が良い事で…。

 

「と、とりあえずロウズの空間通商管理局のステーションに向かうッス!」

『お、ついに愛しの彼女とご対面か?艦長』

 

何時の間にかダメコン室のケセイヤさんから通信が…ってちょい待てって!!

 

「ち、ちがッ!つーか誰が彼女とかデマ教えたんスかっ!?」

『ま、怖がらせちまったんだし?男として責任とれよ艦長~?』

「まって~聞いて~ケセイヤさーんっ!彼女は俺の妹ッスよ?大体なんでそんな話になってんスか?」

『いや、この艦の連中の殆どがそう言ってるぜ?ちなみに情報元は副長だ』

「あ、ケセイヤのバカ!ユーリには教えんなってアレ程!」

 

へぇ、トスカ姐さん…そんな事してたんだ……人の不幸は蜜の味ってか?

 

「ユ、ユーリ?別に悪気があった訳じゃなくてねぇ?」

「…………上司侮辱した罪で強制EVA(船外活動)3時間をペナルティで入れようかなぁ~……デブリってこわいッスよね?クケケケケ―――」

「あたしが悪かった!謝るからそれだけは勘弁してくれ!あとその笑いを止めとくれ!めっちゃ怖い」

 

 

―――まぁ良いけどねぇ…クケケケケケ

 

 

***

 

 

ステーションに着いたアバリスはすぐさまドック入りとあいなった。完成したばっかだったというのに、穴開きチーズも吃驚な穴開き具合で中破に近い損壊具合である。整備を一手に仕切るケセイヤさんが、港で改めてフネの全体を見た時に『俺のアバリスちゃんがキズものに~!!』とか喚いてたな。

だが敢えて言おう。

なにが俺のアバリスだッ!大体アバリスの所有者は俺じゃい!!――まぁそれは良いとして次の航海もある事だし、アバリスには隅々まで修理して貰う事にしよう。

 

 

さて、今回の目的である我が妹様である件のチェルシーだが、調べたところ空間通商管理局の軌道ステーションにある生活区画、デラコンダが借りたという一室に監禁されていた。監禁はしたが別に手錠をかけたりとかはせず、牢屋じゃない場所に人質を置いておいたあたり、デラコンダも流石に少女に手を出すような外道ではなかったらしい。

トスカ姐さんやクルー達に肉親が迎えに行かないでどうすんだと背中を押され、直接俺も出向いたのだが、入口にはデラコンダが雇ったと思われるSPらしき人間が入口を守っていた。こりゃデラコンダの部下とひと悶着あるかなって思ったが……結局、とくに何も起きる事はなかった。

こんな事もあろうかと、戦闘があるかと思って完全武装したフネの連中を背後に待機させて、敵意を感じさせない様にニコニコ笑いながらどいてくれと頼んだだけなんだが……完全におびえた目でヒッと悲鳴に近い声を上げながら、顔をひきつらせてどうぞどうぞと叫んで逃げる様に消えていったのは、うむむ解せぬ。

 

「ここに…チェルシーがいるのか――ふむ…(しまった。何て声をかけるか考えてねぇ…)」

「カッコつけてるとこ申し訳ないけど、早く出してあげたらどうだい?」

「……………トスカさんのイジワル(ええい!ままよ!男ならドーンと逝けドーンと!)」

 

俺はデラコンダの部下から一生借りた(奪ったとも言う)ドアの電子キーを使いロックを外した。プシューという何とも未来的な音を立ててロックが解除され、扉が目の前で開いていく。俺は戦々恐々としながらもスッと一歩を踏み出した。

 

「ユ、ユーリ…なの?」

「こんにち…は――あれ?考えたら今って朝昼夜のどれ何スかね?」

 

 そんなアホな事を考えちゃうのがユーリクオリティ。

 目を皿のように見開いて如何にも驚いていますという表情で出迎えてくれた翠の髪をした少女。この世界の遺伝子は多様性に溢れているから色んな髪色があるのは知っていたが、ヒスイの様に鮮やかな翠色をした髪と瞳というのは実際に見ると凄いって感想しか出ないな……だが綺麗だ。似合っている。うん。

とりあえず脳内データベースと照合したところ、憑依先の写真のように正確な記憶と一致する容姿であることから、彼女が間違いなく我が妹チェルシーである事は判った……しかし、どうでもいいが兄妹設定にしては容姿似てねぇな俺ら。俺は白髪だし、彼女は見事な翠髪……遺伝子の多様性ってスゲェな。

 

「ゆーりぃッ!」

「オワッ!ど、どうしたんスか?!チェルシー」

「ゆーりぃッ!ゆーりぃ!!わーん!」

 

いきなり抱きつかれた?!俺の心臓バックバク?!というかチェルシー泣きだしてしまった。そんなに怖かったんだろうか?………怖いわなぁ、いきなり訳もわからず捕まったんだし――というか後ろのギャラリー!微笑ましそうにニヤニヤ見てんじゃねぇ!仕事しろ仕事!!俺は野次馬連中にシッシとジェスチャーを送り、下がらせた。

気が付けばチェルシーはそのまま気絶している。第一印象として結構繊細に見えた彼女の事だ。これまで無意識であるが張っていた緊張の糸が、助けられた事で切れてしまったのだろう。流石にこんな所に寝かせておくという訳にもいかないので、とりあえずアバリスに連れて行く事にした。

 

 もちろん、万が一に備えて用意した医療班の担架に乗せてな。お姫様だっこなんてしない。疲れるし。

 

………………

 

……………

 

…………

 

 チェルシーを回収した俺達はすぐには出立せずに、そのままステーションのドックに係留していた。エア漏れが起きた程の損傷具合からしてすぐに出港するのは流石に無理があったし、装甲板の張り変えをするなら設備があるドックの方が楽だったからだ。

 そう言った訳で破損部分の修理と並行して、各種補給や整備班とその他の部署の人間も総動員し、自分たちの部署の修理や点検にあたらせている。俺は俺で、ステーションでの手続きや各種消耗品などの書類の整理、各部署からあがってくる報告を処理する為に艦橋に籠りっぱなしとなっていた。

 

『――――……てな訳で、アバリスの修理は明朝に終わるらしい』

「そうスか、報告御苦労さまッス」

『でもよう艦長、幾ら戦闘が激しいとはいえ次からはもうちょい優しく扱ってくれや?キールに歪みが出ちまったら幾らステーションのドックでも直せネェんだぜ?』

「うっ…善処するッス」

『そうしてくれ。フネも人間も健康が一番ってな。それじゃ仕事に戻る』

 

整備班を統括するケセイヤ整備班長からの報告は以上か……送られてきた報告データを見るに、デラコンダ砲が掠った左舷側の装甲板やアポジモーターにセンサー、それに武装系は総取っ換えとなりそうだ。科学班から破損部位も含めて装甲材質を研究し、より強固な構造に変えられないかと試行錯誤している様だが、まだ時間がかかりそうだ。

俺は各部署から上がってくる報告に目を通して処理しながら軽く溜息を吐く。艦長の仕事って航海している時よりも港に居る時の方が忙しい。一度フネだしたら後は事務的なチェックオンリーで基本戦闘があるまで暇だしさ。ツラツラと浮かぶそんな考えを頭を振って追い払いながら仕事してたら医務室からコールが来た。なんだろうか?

 

『艦長、医務室です。例の娘さんが眼をさましました』

 

どうやら気を失った妹君が目を覚ましたらしい。流石に顔を出して色々と話をしないと不味いだろう。そう考えた俺はすぐ行くと返事を返し、手元のチェックボードの電源を切ってブリッジを後にした。やれやれ、忙しいったらありゃしない。

 

 

●戦艦アバリス・医務室●

 

フネにモジュールを組み込むというのは、無限航路の世界の艦船における醍醐味であると言える。完璧にブロック化された各種モジュールユニット、それらを搭載出来る構造の宇宙線、全て同じ規格で成り立っているからこそ出来る芸当だ。この方法考えたヤツって天才だなホント。

 ちなみにモジュールシステムは内装の組み換えという側面もあるが、元よりある設備の強化という側面もある。どんなフネもモジュールを乗せ無くても最低限の医療設備は装備されており、モジュールはソレらの機能増幅を行う装飾のような役割を担う事になる。まぁ流石に宇宙に出るフネに医療設備が標準でないのは無理ゲーだしな。

そんな訳で、空間通商管理局の共通規格のドックで製造されたこの艦にも医務室は常備されている。医務室のモジュールを導入していないので、必要最低限の機能を備えたものでしか無い。設備の都合上、何時間もかかる様な大手術なんぞ出来ないし、出来る事と言えば薬を出すかリジェネレーションポッドによる軽傷の処置程度の物である。   

だが、それでもあるのと無いのでは雲泥の差があると言える。特に軽い怪我ならさほど時間をかけずに再生治療してしまうリジェネレーションポッドは応急処置を行うのに、随分と助かるという事が解った。もっとも元々軍用に設計された艦なので、標準で小マゼラン製とはry―――ともかく強力なのがあるという事だ。

 

さて、とりあえず話を進めるか――俺は今、件の医務室に訪問していた。

 

あの少女チェルシーは憑依先の妹さんであり、そして俺とデラコンダとの戦いに巻き込まれた……いや、俺がこの星系に居座り続けた事で巻き込んだ被害者な訳だし、色々と心配だったのだ。ちなみにその事をブリッジの面々に話したら、色々からかうような事言ってきたので、黒ユーリを降臨させようか悩んだのだが……。

医務室の扉を潜ると、中の空気は通路側と比べると幾分か清浄な空気の様に感じられる。まぁ医務室だけあって空調が少し特別だからだろう。宇宙船での病気ってのは下手すると全滅フラグである。とりあえず先の戦闘での負傷者はもう全員退院しているので、ココに居るのは俺とチェルシーと医療スタッフだけだ。

 

「ちわっす!ウチの妹の見舞いに来ました!」

「艦長、ココは医務室じゃから静かにな?」

「さーせん」

 

ああ、お静かにというのが暗黙の了解の医務室に大声あげて入った馬鹿を医療スタッフが冷めた目で見てくる、悔しい!でも感じ(ry――ってアホやってる場合じゃ無かった。俺はカーテンで区切られたベットに足を向ける。

 

「……………あう」

 

 カーテンに手を伸ばしたが何と無く手が止まる。なんだろう、この全身を締め付けられるような感覚は?まさか、これが恋?………いや一度言ってみたかっただけ。こりゃ多分緊張だな。なにせ、妹なんて画面の向こうにしか………なんだろう、次元を越えて冷たい目が向けられている気がする。ビクンビクン。

 

≪――シャッ≫

 

 ま、そんなのは気にせず開けるのがユーリクオリティ。

 

「ちわーす、三河屋で―ス」

「え?」

 

 目標沈黙、天使が通るよ。はい、仕切り直しですね。判りry

 

「やぁチェルシー、起きてるッスか?」

「あ……ユーリ」

 

ふと思ったんだが、俺なんとなく普通にチェルシーの事を呼び捨てにしたけど、コレって問題ないんだろうか?俺の中の人は、彼女の知っているユーリとは別物な訳だしさ?……………まぁいっか別に、ユーリ君は俺と融合している訳だし、何より今は俺がユーリだからな。

 

「デラコンダに捕まってたんだろ?酷い事はされなかったかい?」

「うん、大丈夫だったわ、ただ閉じ込められていただけだもの…」

 

まぁそこら辺は、彼女が気絶していた間に調査済みではある。女性の医療スタッフが、暴行とか所謂18歳未満お断りな精神破壊プラスアルファな行為とかされなかったかを、隅々までスキャンして調べあげたが結果はシロ。五体満足で本当に何にもされてなかったらしい、アア見えてあのハゲは紳士だったって事か。

 

「……………(じ~~~)」

「……………」

「……………(じ~~~~~)」

「……………はう」

 

ところで何この可愛い生き物?じっと見てたらシーツで顔隠してるんですけど?

さて萌えるのは後にしてだ、俺は彼女に聞かなければならない。今後、俺と共に来るのか、それともフネから降りて普通の生活に戻るのか…出来れば後者が良いなぁ。彼女がこのフネに居ると、俺クルー達に色々とからかわれそうだしさ?

 勿論、助けた事に後悔はしていない。

 どっちかって言うとアフターフォローの観点だ。たとえばの話、俺がこの先有名になるとする。そうすると今回のような事件がまた起こり得る訳で、そして今回の様に敵が紳士的とは限らないって訳で……さすがにこの人畜無害そうな少女が汚されるとかは精神的にムリ。紳士としては放っておけないだろう。

 

 だが逆に連れて行くというのも問題がある。0Gをやって改めて認識した事だがこの稼業は本当にポンポン人が死ぬ。さっきの戦闘だって相手のフネに何百人乗っていて、撃破した時に脱出する事かなわず一緒にダークマターと化した人が沢山いた事だろう。そうなる様に指揮した俺はまさに大量虐殺者って事になる訳だ。

 そんな風に簡単に死に至るかもしれない世界。そんなクソったれだけど魅力的過ぎる世界にカタギの少女として生きられる彼女を巻き込んでいいものか悩む。彼女にもこの憑依先と同じ秘密がある事を俺は知っている。でもだからこそ、彼女には彼女の生き方をしてほしいと思うのは悪い事だろうか? 

 

「なぁ、チェルシー」

「なに?ユーリ」

 

―――だからこそ、俺は心を鬼にするのだ。鬼だ。鬼になるのだぁ。

 

「まず最初に言っておくけど、俺はもうロウズには戻らないと思う」

「え…?」

 

心底驚いたという表情をする彼女、俺はそれを無視し更に言葉を紡ぐ。

 

「……君には選ぶ権利が与えられている。一つはこのフネに居座る…いや乗組員となるかだ。0Gドッグとなる以上、命をかける程危険でスリルいっぱいの生活が待っている。退屈とは無縁の世界に成る事は請け合いッス」

「ちょ、ちょっと待ってユーリ、そんないきなり言われても、私…」

「もう一つは、ここで俺から離れてロウズに残り、平穏な日々を享受する事。メリットは言った通り平穏な世界。命の危険もなく、平和に暮らせるッス」

「………えぅぅ――」

 

 俺と別れる。その話しを出した途端唐突に感情に不安の色が増し涙目となる少女。罪悪感を刺激されて、こっちの精神がびんびん削られているが、これはとっても大切なことなのだ。今の彼女は多少ユーリという存在に依存しているが、恐らくそれ程酷い訳ではない事は会って感じた。

だからこそ、この質問は俺の艦隊がボイドゲートを通る前に決めなければならない。俺やチェルシーには主人公補正というか邪気眼設定のような精神に作用する影響力がプラスされており、それはボイドゲートと呼ばれる空間通商管理局所有の星系間を結ぶゲートを通る事でより強固なモノとなってしまう。

 要するに彼女はゲートを通ると俺についてくるという事しか頭で考えられなくなる。それは精神に作用、いやプログラムを変更するようにして書き換えられてしまうから洗脳よりも性質が悪い。でもゲートを通過する前の今の彼女ならば、ある程度は考えられるとは思う。

 もっとも、知識はともかく彼女の精神は生れたての雛鳥のようなもんであり、こういうロジックな思考は苦手かもしれないがゲートを通る前ならまだマシなのだ。勝手だとは思うが彼女に決めて貰う、それしか俺は思いつかなかった。実のところ、俺もゲートを通過するとどうなるか判らないけど、彼女よりはマシ。

 

「まぁいきなりなのは理解してるッス。だから考える時間はあげるッスよ。このフネは一度、次の宇宙島へ向かう為の物資補給の為に惑星トトラスに向かうんス。んでチェルシー、君にはそれまでにこれからどうするかを決めて置いて欲しい。こればっかりは強要する訳にはいかないッス。俺達は皆、自分の意思で宇宙に出たんだから……おk?」

「…………でも、私はユーリと居たいよ。平和に、過ごしたい」

「ま、それも魅力的なんスが、生憎もう俺は宇宙に魅せられちまってるんでムリッスね。でもだからこそチェルシーは自分で考えなきゃならないよ?俺と居たいからじゃない。自分でどうしたいかを決める。これがチェルシーくんへの宿題」

「宿題って…」

「だって、これでちゃんと答えを出せないようなら、問答無用で置いて行くから」

「え……そんなっ!?」

「だから、ちゃんと考えるッスよ~」

 

バイならと席を立つ俺を見上げながら彼女は眼を見開いていた。なんか捨てられた子犬のビジョンが浮かびそうなほどしょんぼりしちゃってまぁ……可愛い子ねぇ~。もっとも俺の食指は動かんけどな!俺はもっと明るい娘の方が好きぬぁのだぁ~!

 

「とりあえず、俺仕事あるから、ゆっくり休んで頂戴よ」

 

 まだまだ仕事は山積みなのだ。疲労度がMAXとなりそうだが人員不足な内は仕方ないのだ。こうして話をするのも貴重な時間を削っているのだ。だから早く戻って仕事しないとケツかっちんなのだ。泣きそう。もうユーリは泣きそうよぉ。心の汗を胸の内に留め、俺は医務室を後にしようとした。

 

「ま、まってユーリ」

「なんスか?あ、トイレなら出て左にすぐッス」

「……そんな事聞いてないよ」

「売店は右のエレベーターで降りれば良いッスよ」

「ちがうの。そうじゃなくて――」

「あー、残念ながらお風呂は部屋備え付けのシャワーしか今は無くて、何時かテルマエをいれちゃろうかな?どう思う?」

「えっと、良いんじゃないかな……もう、真面目に聞いてよ。それと、ありがとう助けてくれて」

 

 あひょひょ、サーセン。つい反応がおもろうてやっちまった。後悔はしていない。

 

 

 

 

■ロウズ編・第四章■

 

デラコンダを倒した事で政権に少なからず混乱が出たらしいが、宇宙は相変わらず静かに凪いでいた、とかいうとすごくかっこいい気がする今日この頃。領主との戦闘で新造艦にムリさせた事や新造艦の船体の研究に時間をとりたいという思惑も絡んで、ロウズ港を出てからの速度は控えめにしてゆっくりと航路を進んだ。

原作でも寄港せずに一定距離進むと、次に停泊した際に研究が進んだという形で、フネの策敵や機動性や装甲などなど色んなところにポイントを振り分けて強化するシステムがあったが、これもまた似たような形である。別に寄港しなくてもリアルタイムで研究が勝手に進むのが違うところと言えば違うところだろうか。

ともかくロウズを出立してから、船内時間で二日かけて隣星のトトラスへと戻ってきていた。その間も稀に遭遇する元デラコンダの配下の警備部隊はジャンクパーツ的な意味で美味しく頂いた。敵さんらも大将を失い、上層部が混乱しているからか惰性で仕事をこなしていたので真面目に職務をしている人は少なく、脅したらすぐに降参してくれた。お互いに被害もなく、俺に良しお前に良しだった。

 

「もっとも、俺は暇だった訳だが…」

 

 前回の戦闘が大規模でその後処理の仕事は面倒ではあったが、まだ艦隊も組んではいない現状ではそれ程大変という訳ではない。精々消費した物資の補給目録を作成する程度なので1日もあれば終わる。ただそうなると艦長職は基本暇なのである。たびたび起こる戦闘でも俺が指示を出したのは大抵一言で「ぶっぱなせ」だの「撃ち落とせ」程度である。

 あとは船内の散策と航海日誌をつける位しかする事がない。勿論散策には船内で乗組員同士のイザコザが起こっていないかとか、使い勝手はどうか聞いて回ったりとか、次にモジュールを組むなら何を入れようとか考えるという目的もある。まぁ俺の場合は新しくなったから今後も迷わないように地図を片手に道を覚えるというのもあるが。

 

「………んで、何なんスかね?この状況」

 

んで、もうすぐトトラスにつくという頃合い。昼飯を食べに来た筈の俺は何だか良くわからないまま食堂の片隅にある椅子に座らされた。何時もは食堂のど真ん中で乗組員たちと談笑しながら同じ釜の飯を食うという行為を実践して連帯感を育んだり、不満がないかを調べたりするのだが、今日はちょっと違うようだった。

しかし、なんで突然食堂の片隅に追いやられるんだろう?もしかして艦長のような役職の人間が隣にいたら安心して飯が食えないからハブられたとか?泣いちゃうよ?ユーリ君泣いちゃうよ?うさぎは寂しくなると死んじゃうんだよ?そして化けて枕元に出てやるんだ。うらめしやぁ~。

 

…………いや、ウチの乗組員たちは艦長とかを気にかけるとかいうような殊勝な連中じゃない。むしろ誰かれ構わず飲み会に誘い込み、酔い潰れるまで痛飲する先輩のような迷惑な連中ばかりで、俺が来た程度でひるむようなタマは乗っていないから、これには何か理由があるのだろう、多分、きっと、めいびー。

 

と、とりあえず、そうあたりをつけた俺は、しばらく黙ってお冷を睨みつけていた。

 

≪コト≫

「ん?なんだ、料理?」

 

しばらく無言でお冷とにらめっこしていた俺の目の前に配膳される料理の数々、どれもこれもうまそうに湯気を立てていると、書いておけばいいか?まぁ実際ウマそうであるのだが…残念ながら過去から飛んできた俺にしてみれば、目の前に並べられた料理は見た事ある様で見た事がない物ばかりが沢山きたという感じだった。

 いや匂いとかもこれまで嗅いだ事がないエキゾチックな感じがして食欲はそそられますよ?ただ何時も食っている飯は過去の地球でも食べたようなサンドイッチ(パン以外中身は見知らぬ食材)や丼もの(何であるかは不明)だったから、ある意味で未来料理を突然並べられた俺は茫然としていた。そして何よりも―――

 

「チェルシー、これは?」

「ええと、ユーリ食事まだだったよね?」

 

―――それを配膳しているのが我が妹君と来れば、なおさらであろう。何してんのチミィ?

 

「料理長さんに頼んで、厨房を貸して貰ったの。あったかい内に食べて」

「ううん?んー、まぁそこまで言うならいただきます」

 

 厨房は本来厨房関係者しか入れないよー、とか、関係者以前に君はアバリスの乗組員ですらないよー、とかいう言葉は無意味な気がした。何せ食堂の他の席からこっちを窺っている視線を感じる……というか堂々と覗き見をしてらっしゃるブリッジクルーの面々が居るとくれば、一体だれがこんな事を考えて実行したのかは予想がつく。

 しかし、だ。確かにチェルシーの言う通り、目の前で湯気を上げている料理を無視してしまうのも勿体無い気がする。温かい内に食べてという事は、やはりあったかい間が一番うまい料理なのだろう。仕方がない。俺は溜息を内心こぼしながら手元に置かれた食器に手を伸ばした。

 

 

「ねぇユーリ、美味しい?」

「うん、うまい。こらぁウマい」

 

食い始めて十数分、妹君に言われて口から飛び出したのは素直な感想だった。いやマジでウマい。見た事も食べた事もない食べ物だったが妙に舌になじむ味なのだ。それもそのはずで、この料理は憑依先の好物として彼女が良く作っていたと記憶している。身体がウマいと感じているのだから、その中にいる俺もウマいと感じるって訳だ。

そんな訳でがつがつとそれなりに量があった料理を平らげていく、その様子を何処か嬉しそうに見つめるチェルシーは時折口直しに飲むドリンクを継ぎ足したりと俺が言うのもアレだが甲斐甲斐しく傍で色々としてくれている。その姿が健気過ぎて涙が出そうだぜ。そしてそれを遠くから生温かい眼で見守るクルーの姿の所為で色々と台無しだけどな!

まったく、何時の間にクルーを仲間にしてるんだか…チェルシー恐ろしい子。白目を出して戦慄してたりするが、実際はなんて事はなく純粋な彼女はただ素直に色々周囲に聞いて回っており、それが兄の傍に居たいけど兄の気持ちも判りどうすべきか悩むという健気さに見えただけなのだ。そんな事は露ほども判らない俺はただ黙々と料理を平らげた。

 

「はぁ、もう食えねえッス、ごっそさん」

「お粗末さまです」

「……さて、本題に移ろうっか?チェルシー」

「……うん」

 

食事を終えてまったりとしたい気分だったが、はっきりさせねばならない事だろうと思い俺は若干の威圧感を持ってチェルシーの方を向く。なんとなくだがこれは彼女が考えた俺に対してこの間の答えを打ち明ける為の場だと何と無く気が付いていた。最近なったばかりとはいえコレでもフネの頭張ってる艦長だ。それくらいは判る。

みょうに回りくどい気もしないわけでもなかったが、まぁ彼女はどちらかと言えば内気な性格をしているので、自分から打ち明けるには舞台設定も必要だったのかも。それに関しては別に言うべき事はない。彼女の真意も知りたいしね。

 

「お願いです。私をこのフネ。ユーリのフネに乗せてください」

「理由を聞いても良いッスか?」

 

やや事務的な感じもするが重要な事だ。何せこのフネに乗るって事は必然的に0Gドッグになるという事であり、最悪戦闘で死ぬ事もあるのだ。一応この世界の元がゲームなので目の前の彼女が結構最後の方まで居る事は知っている。だが正直なところゲームの話し通り進むか微妙だ。既に逸脱してるし下手したらどっかで沈むかも知んない。

そんなフネに彼女を乗せてもいいのだろうか俺には解らんのだ。ま、どっちにしても乗るだろうけどね。彼女はそういう風に“創られて”いるんだから。まぁそれは置いておこう。チェルシーは俺からの問いに目を逸らさずにきちんと覚悟を決めたようだ。

そして話し始める、己が選んだであろう道を…とか言ってみたり。

 

「私は最初、ユーリには地上で静かに暮らしてほしいって思ってたの」

 

 曰く、安全な地上で安穏と暮らしましょう。

 宇宙は0Gドッグとか海賊などのアウトローの所為で命の危険が伴うような自由世界だが、一転して地上すなわち惑星の方は比較的平和であったりする。ちゃんと政府が管理しているというのもあるし、0Gドッグも海賊も地上の民は狙わないのが暗黙のルールとして存在しているからである。

 カタギに手を出すのは素人のするこっちゃいという事だろう…何処のヤクザ者だ?ともあれ、その暗黙のルール、アンリトゥンルールのお陰で宇宙から地上を攻撃するようなヤツは宇宙航海者にはあまりない。そういった地上を火の海にしちゃうような行為自体が唾棄すべきモノだとされているからだ。

第一惑星を攻めるなら海上封鎖ならぬ宙域封鎖しちゃった方が安上がりで安全なのである。惑星の開拓度合いにもよるらしいが、航路さえ押さえれば人口が多い星ほど干上がるのが早いんだそうな。コレ艦長になってからやっている通信講座で覚えた内容ね?―――さて、そろそろ話しを戻そうか。

 

「――最初フネに乗って驚いたわ。初めて乗る宇宙船で私はただ一人の部外者、それなのに妙に気さくに接してくる人達ばっかりで戸惑う事が多かったわ。だけどこのフネに乗っていて解ったの。皆が笑ってたの。楽しそうに前を見ているのが」

 

バカ騒ぎは大好きな連中だからねぇ~。お陰で酒代が馬鹿にならねぇ…鬱だ。

 

「私もその輪の中に加わりたいって思えたんだ。ユーリの近くにいたいって思えたの。勝手なことかもしれない、だけど私はユーリの隣に居たいの……臆病な私だけどお願いします。私を、このフネに乗せてください!」

 

 そう言ってガクンって音が出そうなほど素早く頭を下げたチェルシーに俺は慌てた。今居る場所は食堂であり、当然一般クルーの眼があって、俺の前では少女が頭を下げていて……クソっ、やられた!ここで断ったら俺がわるもんじゃねぇか!?

 

「そこいらでいいだろう?ユーリ」

「トスカさん…何時の間に来てたんスか?」

「ついさっきさ。いたいけな少女を公共の場で辱めている鬼畜な艦長さん」

「ちょっ!人聞き悪いッス!俺はただ彼女に答えを出してくれと――」

「それなら、別に問題無いねぇ。この娘はちゃ~んと自分で乗りたいって言ったんだ。第一アンタが自分で決めろってこの娘に言ったんだろう?なら男ならそれを守らなくてどうすんだい?」

 

 うぐ…、そりゃまぁ確かに…。

 

「お願いします!」

 

 思わぬトスカ姐さんの乱入に腰が引けた俺。さらにチェルシーはたたみかける様にお願い攻撃を繰り出してくる。やめて!俺の(公共の視線に対する)MPはもうゼロよ!

 

「ああもう!判ったッス!判ったから顔をあげるッス!チェルシー」

「ユーリ、了解してくれるの?」

「俺は最初に言ったッス、このフネに乗るか乗らないか決めるのはチェルシーだって。だから俺は、チェルシーが自分で決めたっていうなら文句は言わないッスよ」

 

 まったく、こんな人眼がある場所でお願いするとか彼女の人見知り的設定は何処に行った?お陰で一般クルーの好奇の目にさらされて俺の精神がマッハでピンチッスよ。多分ないと思うけど、もしこれを意図的にやったんだとしたら……チェルシー、恐ろしい子!

 

「アンタ、なに白目剥いてんだい?」

「月○先生リスペクトッス」

「「………(だれ?それ?)」」

 あ、姐さんも妹君も疑問符浮かべてら、この世界の人は知らんわな。こりゃ失敬。

 

「はぁ…ま、人手不足だしだけどその代わり、きちんと働いてもらうよ?とりあえずは厨房で手伝いをして貰う事にしようかな?」

「あ、ありが…」

「礼は言わない、このフネに乗ると決めたのはチェルシー自身なんスからね。俺ァ来る者拒まずが基本だから、使える人材をフネに雇い入れるのは当然ッス。ま、とにかくだ―――」

 

 改めて居住まいを正し、チェルシーの方を向いて真面目な顔を作る俺。ちゃんと言った通り自分で考えて出した答えだ。俺もちゃんと対応しなければなるまいて。

 

「―――ちゃんとついて来いよ?じゃないと置いていくからね?」

「大丈夫、ちゃんとユーリについて行く」

 

 そして、あとで寝る時に思い出してぎっぷりゃと言いたくなる台詞を吐いたのだった。

ああ、周囲の目がなんか奇怪な物を見る眼だったのも地味に胸が痛いなぁ。

 

―――こうして、生活力高めの主要クルー、チェルシーを仲間にしたのであった。

 

「あ、ちゃんとお給料も出すッスよ」

「え、別に私ここにいられるなら無給でもいいよ?」

「阿呆。雇う以上お金を払うのは普通なの!……大体女の子なんスから色々といるっしょ」

「そういうものなんですか?」

「まぁそう言うもんだねぇ。ようこそチェルシー、改めて歓迎するよ(これで賭けはアタシの総取りだねぇ、くふふテコ入れした甲斐があるってもんさ)」

 

でも何でだろう?トスカ姐さんが悪い顔しているような気がするお( ^ω^)

 

***

 

さて、チェルシーが正式に仲間になったとかのイベント以外は特に何事もなく、無事にトトラスで物資を補充できた俺達は、そのままアバリスの針路をボイドゲートへと向ける前に、ちょいと一週間ほど寄り道をすることにした。目的は何と言ってもお金である。なに簡単な話、ゲートをくぐる前にお金をためるただそれだけ。

 

つまり、しぶとく領内を徘徊しているであろうデラコンダの部下のフネを拿捕するのである。先のデラコンダ戦に置いてアバリスが結構無茶が効く事が解ったのと、連中の装備品ではこの艦のAFPS(えーぴーえふ・しーるど)は貫けない。なら精密射撃で武器だけ破壊し、降伏を呼び掛けてやれば、フネだけが手に入ると言う訳だ。

 

ちなみにジャンクとしてフネを売るのと中古として下取りするのとでは後者の方が高く買い取ってもらえる。今は領主が居なくなって混乱しているから、そいつらを狩ればお金はたまる一方な上、倒した事になるので名声値も上がると一石二鳥で美味しいことだらけである。コレを逃す手は無い。

 え?鬼?鬼畜?悪魔?なんのことだか ゆーりわかんない、てへぺろ

 

「艦長~、新しい敵の団体さんの影を捕えたよ~、どうする?」

「敵さんの艦種は?」

「全てレベッカ級です。どうしますか?」

「それなら答えは決まってるッス、鹵獲するッスよ。儲け儲け」

 

またカモを見つけたぜ!こうなれば稼げるだけ稼ごうでは無いか!ヒャッハー! 

目標はランキング100位に入るくらいまで!!

 

「さっすがはユーリ。戸惑わないね。そこにしびれないしあこがれないが…」

「トスカさん、あの艦隊が何に見えるッス?」

「札束だね」

「問題無いッスね?」

「ああ、問題無いね」

「ほいじゃ、ミドリさん」

「ハイ艦長、戦闘態勢に移行ですね?」

「艦内放送頼むッス」

「アイサー」

 

お仕事お仕事ってな。

こうして俺達は、残党狩りを行う事で資金をドンドン増やしていった。

なるべく抵抗しなければ破壊はしなかった。買い取りの値段が安くなっちゃうので。

 

 

―――そして戦闘シーンカット!カットカットカットォ!…どうせ作業ゲーだし。

 

 

『こちらEVA班、敵さんのフネをトラクタービームで固定しておきました』

「御苦労さまッス。戻ってもらっても良いッスよ?」

『ありがてぇ、そろそろ肺一杯に空気を吸いたかったところだ。それじゃあ一度戻ります』

 

 一見すると宇宙服を着こんだ中間管理職にしか見えないおっさんが通信を切る。彼の名はルーインさんと言い我が艦における貴重な船外活動員である。EVAとはextra-vehicular activityの頭文字をとった言葉で意味はまんま宇宙遊泳とか船外活動というもの。EVA班はフネの外に出て真空の宇宙で作業をする人達の事だ。

 シールドや装甲で守られている宇宙船内部とは異なり、特殊素材製の宇宙服だけしか身を守る物がない場所なので、ある意味EVA班は凄い猛者達である。なにせ鹵獲したフネの牽引とか大型or超小型のデブリ回収には彼らが居ないとなんも出来ないからな。ある意味生活基盤の大黒柱と言ってもいいかもしれない。

 

「警備班室、そっちは?」

『捕虜の方は駆逐艦クルクスの方に詰め終わりました』

「まぁ恐らく奪取される事は無いと思うッスけど…気を付けて戻って来てくれ」

『了解』

 

本日の戦果は水雷艇レベッカ級3隻がまるまるもりもりと、降伏しなかったので止むを得ず破壊したフネのジャンクパーツが幾つかである。それと敵さんが積んでいた食料品もそのままこちらの倉庫行きとなった。宇宙では使えるモノは全て回収するのである。特に宇宙船は豚さんの様に無駄になる部位が無いのだ。

あと、丸ごと捕まえたはいいが当然捕虜がでる訳で、彼らはとりあえずアバリスの後を自動追尾するよう設定したアルク級駆逐艦クルクスに詰め込んだ。多少手狭だろうが倉庫部分を改装して、敵の捕虜を詰め込めるスペースを作っただけなので、捕虜たちの疲労は溜まるだろうが別に住む訳じゃないしそれで良いだろう。

 

むしろ海賊みたいにいらない人間を外に放り出さないだけ優しい方である。外って宇宙空間の事ね?生身で放りだしたら凍るか焦げるか…とにかく碌な死に方じゃないだろうな。尚、内部は隔壁で閉められているから重要区画には入れないし、何より操舵はAIドロイドだ。武装も機関も最低限だし、例え乗っ取られても相手は何もできないだろう。

一応レーションのコンテナを置いてあるから餓死する事もないだろうし、水も節度を持って使えば制限無しだしな。元が日本人なので敵とはいえ捕虜相手にあまり非人道的な事はしないのだ(キリッ……いやまあ、捕虜にしてる時点でダメなんだろうけど、コレがこの世界の流儀と言いましょうか。

あー、うん。とりあえずその話しはもういいから、鹵獲船を次の寄港地である惑星べゼルのステーションで売り払おう。しっかし、随分倒したなぁ~コレで累計何隻目だっけ?ふと気になったから、トスカ姐さんに聞いてみよう。

 

「トスカさん、今回ので累計何隻目でしたっけ?」

「ん?ちょい待ちな―――おおよそ200隻ってとこだね。ちなみに破壊したのを除いて殆どが鹵獲済みだ」

「結構捕まえましたねぇ。でも確かエルメッツァ・ロウズの戦力って数百隻も無かったなッスよね?」

「ああ、おおよそ200隻だね」

 

 んで、さっき累計200隻突破……あれ?

 

「つまり敵はもう出ない?」

「あたし等が捕まえた人数だけで、エルメッツァの戦力を大半捕獲したって事になるねぇ」

「うっわ、領地丸裸じゃん。少々やり過ぎた?」

 

うむむ、ゲームだと無限に敵が湧いて出て来てたけどやっぱりこっちじゃ有限だよな。それに俺らの場合は敵を倒したら残骸はジャンクに、無抵抗なら鹵獲して売り払ったから放置後味方が回収の修理された敵がまた参戦のループが無かったのだ。運が良かったのか稼げない意味で不幸なのか判らんがしばらくこの宙域では敵は出ないだろう。

 

 …………海賊は除いて。

 

「うっわうっわ、この領主星系海賊に荒らされてアボンッスか?」

「アボン?いや大丈夫だと思うよ。基本海賊は航している船舶しか襲わない。第一宇宙に出ている人間の9割かたは0Gドッグなんだ。民間施設がある惑星に地上攻撃なんぞしたらすぐに噂が広まるよ。そしたらソイツは宇宙に居られなくなるだろうね」

「ならいいんスけどねぇ」

「心配しなくても領主が死んだんだ。後継者がいないんだし近い内に隣国に吸収合併でもされるだろう。ま、あたしらにゃ関係ない事だけどね」

 

ま、そりゃ確かに。

後々の事を考えてここの敵からは搾り取れるだけ搾り取ったし、あとの始末はここに引っ込んで住み続けるであろうデラコンダの家臣団に任せる事にしよう。領主を倒したらそこは俺達の物という戦略ゲー的な要素が無いのが悔やまれる。まあ戦艦一隻で領主星系をどうするのかと問われれば、ノープランという他ないので諦めもつく。

しっかしそれなりに敵となった連中を狩り続けた訳だが、0Gドッグのランキングは水雷艇200隻程度じゃ雀の涙ほどしか名声が入らないのでまだまだランク外だ。早くランクを上げたいもんだね。今後の命綱的な意味で。

 

「ふむ、それじゃあ…ボイドゲートを越えますかね。お金も随分貯まったみたいッスから」

「いいんじゃないかい?ちなみに私らの所持金は30万Gに達してるよ」

「随分貯まったッスねー」

「こりゃ宴会開き放題だね」

「まてうわばみ姐さん、それ以上はいけないッス」

 

貴女が飲むとかなりのペースで金が消えるので自重してください。いやホントマジで。

まあ、そんな感じで補給の為に立ち寄った惑星で部下の疲労度を下げる名目でお疲れさん会という名の宴会を毎回開いたりしてるから、それなりに散財してる。レベッカ級は元から結構安い値段だしなぁ、おまけに古いから下取りの値段も安いしな。

 それでもここまで貯められたのは、俺や一部真面目な方々の頑張りによるところが大きい。頑張った。オレ超頑張った。癖とアクが強い部下を叱咤してここまで良くやれたと思う。

 

「じゃあ針路はべゼル。今回の鹵獲船を売り払ったらその足でボイドゲートを越えるッス」

「アイサー」

 

さてさて、今度こそ新世界へってね。

 

***

 

さて、現在我がフネは航路上、惑星べゼルとボイドゲートとの中間地点を通過中である。

なにか忘れている気もするんだが、何だったか思い出せないので、仕事してたんだけど…。

 

『艦長、不審船が接近中です、此方に対してコンタクトを取ろうとしてますが…』

「ん?解ったブリッジに行く」

 

はて?こんなイベントあったかねぇ?

 

「ミドリさん、状況は?」

「現在我が艦の後方400の位置に不審船が一隻、艦種はボイエン級です」

 

ボイエン級ってのは、確かカラバイアってとこの技術を使用したやや小さめの輸送船だったな。

それなりに積載量が優秀だから、各国に輸入されている輸送屋やるヤツにはなじみのあるフネだ。

 

「輸送船じゃないか…で、相手は何だって?」

「それが先程から『俺だ、トーロだ、乗せてくれ』と言ってきています。艦長、トーロって人物に知り合いでも?」

 

あーなりほど、思い出した。トーロの奴か…。

あったねぇ原作でもこんなの。

 

「どうする艦長、撃沈しちゃう?」

「ストール、過激過ぎッス」

 

 そこぉ、キラキラした目で撃つ?撃つ?って顔しない。トリガーハッピーかお前わ。

 

「あとミドリさん、俺が話すから回線つないでくれ」

「はいはい……いいですよ艦長」

 

よし、久しぶりに艦長らしくやりますかね。俺は顔を引き締め、出来るだけ真面目なイメージを、己に反映させる。そして、息を吐き…普段の抜けた声とは違う余所行き様の威厳のある声を出した。

俺だってやろうと思えばこれくらい出来るのだ。普段疲れるからしないが。

 

「こちら戦艦アバリス、当艦に接近中の不審船、何か用か?」

『……こちらトーロ、よう久しぶりだな?ユーリよ。さっきから通信で呼びかけてるのに出てくれないとは随分と―――』

「久しぶりと言われても困る、ソレと貴様に呼び捨てにされる様な関係では無い筈だが?」

『堅ぇ事言うなって!俺とお前の仲だろう?』

 

………どんな仲だよ?お前との関係なんて酒場でのケンカ相手じゃないか。

 

「とにかく要件を言え、一応警告するがこちらに危害を加える場合は撃沈する。進路を妨害しても同様だ。返答は如何?」

『だ か ら !さっきから通信入れてるだろう?俺をそっちのフネに乗せてくれってよ!』

「………ご自分のフネをお持ちのようだが?」

『コレはダチのフネに乗せてもらってるだけだ』

「なら俺の所に来る必要はないだろう。そこが君の出立点だ。精々頑張りたまえ」

『この仕事止めたからもう行き場所がねぇんだ!このフネに乗ってるのも今までの温情みたいなもんなんだ!なぁ頼む後悔させネェから乗せてくれ!この通りだ!』

 

画面の向こうで頭を下げるトーロ、ちょい図々しいな。

しかし、今はこんなヤツだけど原作キャラだし…鍛えれば形になる…かな?

 

「一応聞くが、航海の最中に死ぬ程度の覚悟はあるんだよな?」

『え?…あ、ああ勿論!』

「それなら問題無いな、ウチのフネも人員不足だったからちょうど良いし…」

『マジか?よしゃぁぁッ!』

「とりあえず接舷してやるから乗って来い、以上だ」

 

そう言って通信と切った。

ふと艦橋内を見ると、みんな固まっている…なんだ?

 

「どうしたんスか皆?」

「あ、良かった~。いつもの艦長だ~」

「いつものぼけーっとしたアホな印象とは全然雰囲気違うから誰かと思ったぜ」

「俺なんてびっくりして思わず主砲撃っちまうとこだった」

「………ぼそぼそ」

「ミューズ、言いたいことがあるならちゃんと声に出しましょう。まぁ私もその意見には同意ですが」

「ユーリは時々、こっちが吃驚するほど性格が変わるからねぇ。トトラスでもそうだったし、アンタ実は2重人格とかじゃないのかい?」

「………なんか皆の俺に対する認識が解る言葉ッスね」

 

そりゃ普段抜けた様な感じ出してるけどさぁ…その方が楽だし。

某有名な宇宙海賊の船長も言っている“フネは我が家だ、自分家の中で緊張するバカがどこに居る?”ってな。

 

「でも艦長、勝手に乗せちゃっていいんですか?」

「まぁ、町のチンピラしてたヤツだったから、暴れても鎮圧出来るだろうけどねぇ」

 

腰に吊り下げたメーザーブラスターをさりげなく撫でるトスカ姐さん。

ト、トスカ姐さん怖いッスよ…まぁ良いけど。

 

***

 

意気揚々とブリッジに入って来たトーロ。これがただの船員採用だったならば、艦長の所にわざわざ来る必要はない。こっちがコンソールで辞令出してあとは丸投げである。ただ今回は押しかけというか飛び込み参加という異例のケースだ。その為、面倒臭いが直に挨拶に来させたと言う訳だ。

 

「アバリスにようこそトーロ・アダ…歓迎しよう」

 

俺はワザと重圧感のある雰囲気を漂わせトーロに接した。

何の為?―――ただの悪戯である。

見ろ、トーロがまるで子豚の様に震えておるわい。

 

「よ、よろしく頼む!」

 

歓迎とは言ったがあくまで社交辞令。そんな事に露ほども気が付かず、微妙に緊張しているトーロはなんかシャチほこばった返事を返してきた。彼と最初に出会った時、俺はただのヒョロイ坊主でした。それが今では戦艦の艦長、トーロに見せつけるのは勿論艦長としての威厳(笑)。何故なら彼も特別な存在だからです。

意味が判らない冗句はさて置き、実際俺とトーロではこの短い期間の間で経験した場数が違う。トーロが雲泥のような運輸業に浸っていた頃、こっちは駆逐艦一隻で水雷艇艦隊と渡り合い、ついには戦艦を建造して領主にまで盾突いた人間だ。そんな人間にコンタクトを取ろうとする人間を少しは疑っても普通だよな?

 

「――――……まぁ、堅いのはココまでッスね」

「へ?」

 

纏っている威厳(笑)な雰囲気を解除。再び激変した雰囲気に戸惑うトーロ。面白れぇ

 

「それでお前さんクルーとして何が出来るッス?生活か?医療か?整備か?機関士?それとも警備?まさか戦闘系は……ムリだよな。どう考えてもチンピラだし」

「え?ブリッジクルーじゃねぇのか?」

「はぁ?言ってるッスか?いきなりブリッジクルーになれる訳無いっスよ?」

 

ブリッジクルーってのは各部署の総括、簡単に言えば幹部である。そこに新参の小僧をいきなり入れられる訳無いだろうが!人間関係の摩擦は勘弁じゃ!それ以前に―――

 

「まだトーロの適正がわかんないッス」

「適正?俺が前の職場で何してたか経歴送ったじゃねぇか」

「いや、それでいいんならそれで良いんスがね?一応ウチ独特の決まりというか」

 

 なんと説明したものやら困っているとトスカ姐さんが助け舟を出した。

 

「ウチでは新参は様々な部署に一度は付いて貰う。もしかしたら埋もれた才能があるかもしれないし、前の職場と違う新しい何かを得られる機会でもある」

「だから適当にフネの中うろついてみて、気になった部署で自分が出来そうな仕事をすればいいッス。そこから正式に部署を決める…まぁ様子見の期間ッスね」

「ま、要するに新人研修みたいなもんさ。小僧も頑張りなよ」

 

各部署にはすでにそう通達してあるッスと彼に告げておいた。チェルシーの場合は、もともと生活力高めで彼女自信人に食わせられる程度の料理が出来たから、すぐに厨房の方に入って貰ったけどね。

実際トーロは最初の頃はレベルが低いから、どこに入れても変わんないと思うし…。

 

「ちぇっ、砲雷班か戦闘機科が良かったなぁ」

 

 とはいえ、少し不満だったのか、ぼやくトーロ。

 

「今のところ砲雷班は、そこに居るストールがやってるッスよ?やりたいなら彼を蹴落とさないとね。ソレと戦闘機科は、現在戦闘機を搭載していない本艦には無いッスから」

 

ソレを聞いたトーロはガックシと肩を落としていた。

まぁ君の適正が解るまでの辛抱だ、我慢してくれい。

 

「とりあえずトーロはそこら辺をうろついて、いや徘徊して回るッス」

「いや何で言い直したし?つーか、徘徊とかうろつくって…まぁいいか」

 

トーロはなんか釈然としないぜと言わんばかりに腕を組みながらそう言うと、ブリッジを後にした。

 

 

***

 

 

「さてミドリさん、ボイドゲートまでどん位ッスか?」

「ハイ、艦長。まもなく有視界でも確認できる距離に入ります。パネルに投影します」

 

ミドリさんがコンソールを操作すると、メインモニターに拡大画像が表示される。

そこには、エネルギーの膜のようなモノが巨大な円になった“門”が映っていた。

 

「コレがボイドゲート」

「あたしは何度も通ってるけどねぇ~」

「トスカさん、人がせっかく驚いてるのに落さないでくださいよ…」

「そうだぜ副長、俺達だって見るの初めてなのにさぁ」

「ごめんごめん」

 

なんか緊張感の無い会話している俺達。

まぁ俺も含めて、この宙域から他の宇宙島がある宙域に行った事が無いんだよなぁ。

ある程度興奮もするわな。

 

《―――警告する。領主法により許可証が無い艦船の航行は禁じられている。また現在中央政府の混乱によりゲート周辺の空間は封鎖中である。接近中の艦はただちに武装を解除し、ゲート警備隊の誘導に従いつつ所定の位置にて待機せよ。繰り返す》

 

「艦長、警備艦隊から全周波数帯で警告が来てます」

 

さてと、とうとう違う星系への第一歩か。

 

「トスカさん、準備は?」

「エネルギーは満タン。修理は万全。フネの研究も進んで少しだけ改造も進んだ。デラコンダの時より調子がいいんじゃないかい?」

「なら、面倒臭いから警備艦隊は無視して強行突破するッスよ、全艦対艦戦用意!」

「おいさー!全砲塔、出力臨界までジェネレーター回路解放」

「インフラトン機関、臨界可動開始、出力上昇中……90、100%まで行けますじゃ」

 

艦内の照明が通常巡航から、戦闘巡航の時の非常灯に切り替わる。 

EAやEPを作動させる必要はネェな、もう光学機器に捉えられる範囲内だろうし。

 

「敵艦隊、威嚇砲撃を開始、本艦の右舷を通過します」

 

青色のエネルギーの塊が数本、アバリスの横を駆け抜け虚空へと霧散した。

こういった時は問答無用で撃沈しないとダメだろ…警告無視してるんだし。

 

「―――どうもこの宙域は真空じゃなくガスがあるみたいだな。ふむ、ガスの影響で光学兵器の射線がズレたようだ。お陰でコッチは射撃諸元のデータが取れた。ストール、役立ててくれ」

「ほいよサナダさん、射撃諸元を微変更っと、ピッポッパ……はい完了」

 

科学班のサナダさんの弁、なんだワザとじゃ無くて訓練不足かよ。

 

「こっちも撃ち返すかい?ユーリ」

「先は譲ってやったんだ。もちのロンッス――砲雷班、効力射を狙うぞ!全砲撃ち方始め!」

「はいよ!ポチっとな!」

 

お返しとばかりにこっちも砲撃を開始する。

両舷のリフレクションレーザーカノン、艦首軸線大型レーザー、そして甲板の上の主砲が青い火線を吐き出した。

こちらはガスの対流データは入力済みな為、凝集光の射線が狂う事は無く標的に命中する。

 

「警備艇3隻に命中、大破1、残りは航行不能の模様」

「気にせず突破するッス!ボイドフィールドに入ったら向こうも手が出せないだろうし」

「了解、気にせず突破します」

 

そして俺のフネであるバゼルナイツ級戦艦アバリスは、そのまま警備艇の間を通り過ぎた。恐らく敵さんも止める気力が無かったんだろう。ある一定距離を進んだところでレーザーの一つも撃ってこなくなり、そのまま進路を明け渡したのだ。ありがたいと俺達は隣星系、エルメッツァ・ラッツィオに向けてボイドゲートへと突入した。

 速度を緩めずにボイドゲートの空間転移境界面まで来たアバリスは、まるで豆腐に釘を打ち込むが如く、なんの抵抗も無く鏡面の様に空間が歪み蒼白く光る臨界面へ突入した。その瞬間俺は胸が躍った。新しい世界に飛び込んだという実感を得たのだから。

 

―――さてさて、これからどうなるんだろうねぇ

 

 

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第五章+第六章

■ラッツィオ編・第五章■

 

 ついに念願かなって辺境宙域から飛び立つぞー!

 

 ころしてでも つれもどす (某禿

 

 げー、でらこんだ!?

 

―――以上、前回のあらすじを三行でお送りしました。

 

 

 無限航路の世界に来て主人公に憑依してしまった俺は、実際の宇宙を見て回りたくてフネを建造し、戦艦まで作って領主をフルボッコにした後、ボイドゲートと呼ばれる十数kmはありそうな空間直結門を使った人生初のワープを体験した。SFと言えばワープ、ワープと言えばSFである。

 

んで、原作ゲームでは詳しい描写がなかった為、某宇宙戦艦みたく女性スケスケワープになるかも、とワクテカな思いでトスカ姐さんの方を見ていたのだが―――

 

「ボイドゲート抜けました。エルメッツァ・ラッツィオに入ります」

 

―――ゲート通過時間…体感だと一秒にも満たないなんて…ショックorz

 

「ユーリ、なに打ちひしがれてんだい?」

 

 そりゃトスカ姐さん。女性の裸云々は冗談だったとしても、こっちにしてみりゃ初めてのワープみたいなもんだったのに、実感がわかないほど短いとくれば泣きたくもなりまさぁ。

まぁ何時までも落ち込んでるとうざい事この上ないので、泣きたい心を隠しながらも何でもありませんと普通の顔をする。ユーリくんのポーカーフェイスだぜ。

うう、でも心の中では浪漫何処へ行ったぁ!と叫ぶぜ。ちくしょうめー。

 

「なんでもないッス。それよりも各班異常は無いスか?」

「全部署、異常はありません」

 

ふむふむ、全部署異常無しとは重畳よ。

ま、ゲートに限って言えばここ数百年事故は発生していないらしいから別に気にする必要はない……ないんだが、こちとら貧乏性なので、ついつい心配しちゃうのがユーリクオリティである。

とにかくココから一番近い星に向かって情報収集をして金稼ぎと洒落こむ事にしよう。もうそろそろ今の単艦特攻(ぶっこみ使用、四炉死苦みたいな?)状態を解除して、僚艦二隻を加えた艦隊を組みたい。

前衛中衛後衛、それが無理でもせめて前衛と後衛に分けて役割分担出来れば不用意に突っ込む必要は無くなる筈。まぁ、その前に進路を決めなきゃな。

 

「えーと、この近辺で一番近い星は何処っスかね?」

「そうだねぇ、順当な航路で行けば二つ。ラッツィオかポポスだね。近さでいくならポポスが一番近いかな?」

「そこはなにか珍しいモンあるッスか?」

「ないね。しいて言うならモジュール設計会社が置かれてる位か」

 

 それ以外はロウズとどっこいどっこいなド田舎とはトスカさんの談。でもゲートからの距離を考えるならばポポスが一番近いそうな。

よしポポスに行こう。京都に行こう的なノリで。こっから宙図上だと結構近いし…そう思い指示を出そうとした矢先、俺の視界を内線の空間モニターが遮った。

 

『こちら厨房!大変です艦長!チェルシーさんが倒れました!』

 

モニターに大画面で映る厨房責任者のタムラさんがひどく慌てた様子で連絡を入れてきた。チェルシーがいきなり倒れた?新しい宙域に来た矢先に?え?なにそれ怖い。

 

 

 

***

 

 

「艦長、目的地はどうしますか?」

「う~ん、そうッスねぇ…」

 

 現在、惑星ポポスから少し離れた位置にある航路上に俺達は来ていた。補給も終えて情報も仕入れたので、今は交易品をコンテナに積み込んでどの星に行こうかとブリッジのメインモニターに航路図を映して、それを見ながら相談の真っ最中である。いやーホント宇宙は広いね。片道何日掛かることやら…。

ん?チェルシーはどうしたって?いや別に身体には何ともなかったみたいよ?今は医務室で精神的な過労と診断されてそのまま眠っていらっしゃいまする。どうも原作関連の設定の所為でボイドゲートを通過する際に彼女の精神への負荷が増大するらしく、その影響で倒れちゃったようなのだ。

なんですぐに駆け付けないか?俺に医療の心得は無いんですよ。

 

それはともかく、本当なら俺にも多少なりともゲート通過時に影響が出る筈なんだが、憑依の影響なのかなんも感じなかった。そんな訳で元気な俺はもちろん彼女の見舞いにも行きました……けど、やっぱりと言うべきか、彼女の俺に対する依存度がハネ上がっていたのには辟易した。

可愛い子に懐かれるのは悪い気はしないけど、精神操作されてヤンデレ度合いが上がったのはいただけない。しょうがないのでしばらく直接会うのを控えたいと思っている。時間が解決してくれるのを祈るしかない。

まぁ彼女がいる部署はどうやっても他人と接しなければならない場所だからな。頑なに依存があっても他者とのふれあいがあれば良くも悪くも変わるもんだ。おまけに厨房は日常生活の中で一番忙しい部署でもある。数百名の胃袋を預かる場所だから、俺に依存しようにも忙しさで次第に忘れるだろう。

多分、きっと……めいびー。

 

 それはともかくとして、この妹君が倒れた事件以外は特に問題も起きず、アバリスは無事に惑星ポポスに入港した。人口77億人程の中堅規模を誇る惑星のポポスはトスカ姐さんの言った通りモジュール設計社以外にこれといった特徴はなかった。しかし77億とか…前の世界での総人口と変わんねぇじゃん。宇宙規模ってマジパネエ。

んで、とりあえずポポスにも通商管理局が運営する0Gドッグ御用達の酒場が設置されているので、そこに寄って情報を仕入れられたのは重畳だった。やっぱりね、ごり押しだけじゃ限界があるからね。時代は情報戦ですよ………ごり押ししてこっち来た人間の言う事じゃねぇな。あはは。

 

まぁとにかく仕入れた情報の中で目に着いたのは、この宙域の海賊被害の多さだった。辺境ロウズと違いこの宙域、エルメッツァ・ラッツィオはゲート一つ越えたところに中央政府のあるエルメッツァ中央がある中央と各辺境宙域を繋ぐ中継点のような位置にある。それらを狙う海賊もまた多く出没するのだろう。

富があれば群がろうとするのは盗賊の理なりとは誰が言ったか。そういった事からポポスの宇宙港では海賊被害の注意が促されており、警備も結構きつめになっていた。それだけ海賊被害が大きいという事なんだろう。

そして二日後、大体の周辺情報を仕入れ終わり、俺達は再び星の海を渡る為に航路へと復帰すると、お次はどの星に行こうか相談していた。

 

≪ズズーンッ!!≫

「な?!ウアッ!≪ゴンッ≫ぐえッ!」

 

―――そんな矢先、いきなり衝撃がフネを襲った。

 

驚くべき事に慣性制御がきっちりされているブリッジが揺れる程の衝撃である。不幸な事に、その時の俺は航路図をよく見ようと身を乗り出し中腰の体勢だったので、その衝撃で頭を艦長席のコンソールに打ちつけていた。超いてぇ。

 

「くっ…攻撃?―――ミドリ!損害報告をっ!それからレーダー!エコー!アンタなにを見てたんだい!?」

「右舷側に被弾、損傷軽微なれど損害不明。APFが減衰していない事からミサイルか実体弾と思われます」

『こちら整備班室!どうしたブリッジ!何があった!』

 

 整備班を筆頭に、各部署から先程の振動はなんなのかの問い合わせがブリッジに殺到する。混乱が混乱を呼び、このままじゃ指揮ができねぇ。こうなりゃ仕方がねぇ。

 

「ちょっ!艦長怪我してるぞ!?」

「なにぃ!?ユーリ!」

「……スゥゥゥぅ――」

 

何か周りが心配そうにしていたが、俺はそんな事気にせずに痛む頭を押さえながら息を思いっきり吸い込んでいた。吸った後は、解放するのみ。

 

「――全員、落ち付けええええっ!!」

「「「…ッ!?」」」

 

 そして思いっきり息を吐き出して大声を上げ、周囲を黙らせる。

なにこれ気持ちいぃ!ってふざけてる場合じゃなかった。

 

「ミドリさんはちゃんとした損害を調べいッ!ケセイヤさんはその情報を元にダメコン班を!エコーさんは目を皿にして策敵!急がないと次が来るッス!全艦戦闘配備だっ!」

 

 ブリッジクルーが沈黙して混乱が止まっている間に矢継ぎ早に指示を下した。腐っても船乗りなクルー達は混乱こそしていたが、俺の下した指示に了解を返すと各々自分の仕事を開始する。ふひー、こういうのはまだ慣れてないからこっちも冷や汗もんだ。大声あげたら逆に混乱が加速したら、寿命がマッハでピンチだぜ。

 

「サナダ!外板センサーのログを洗え!命中した時の角度でどこから攻撃されたかを調べるんだ!」

「了解した。副長」

 

 一方のトスカ姐さんも混乱から復帰すると、すぐに俺の指示の後に続いてフォローをいれてくれた。確かに攻撃された時の角度が判れば撃ってきたヤツの大体の位置は特定出来る。大体の目星が付いたらそのあたりをレーダーとセンサーで徹底的にスキャンすれば隠れていてもすぐに発見できる。

そうなりゃ、火力チートなこっちが勝つる!よっしゃ、早く解析をお願いします!

 

「アンノウン、攻撃第二波が接近~!」

「飛来数6、形状からしてミサイルと思われます。到達まであと60秒」

「急速降下しつつ面舵一杯!ミサイルに対しEA(電子攻撃)出力最大ッス!」

「バウスラスター出力一杯!噴射10秒!おちるぞー!!」

 

 と思ったが、再び迫る攻撃に指示を変更する。指示により回避運動に入ったアバリスは、艦首部に搭載された140ものアポジモーターが生み出す強大なキック力により、1000mクラスの巨体を瞬時に降下させつつ、バウスラスターによって右に舵を取る。

重力井戸のお陰で乗ってる俺達がGで潰れる事はないが、それでも身体にかかる力を感じる為、思わずイスの肘掛を掴んで踏ん張った。このハイ・マニューバと強力な軍用ジャミングにより、命中コースだったミサイルの誘導性が低下し、4発の回避に成功した。戦艦の癖に素早いヤツである。

 

「おくれて2発、命中コース、避け切れません」

「総員耐ショック。衝撃に備えろッス」

≪―――ドドーン!!≫

 

だが遅れて残り2発が船体中央部胴体に命中した。命中した本数が初撃よりすくないからか若干軽いが、それでも身体の芯に重く響くような衝撃がブリッジまで届く。謎の敵さん、どうやらミサイルに結構強力な弾頭を積んでいるらしい。

 

「右舷胴体部、第一装甲板に着弾、装甲に亀裂発生。航行に支障はありません」

「サナダさん!」

「……ふむ、先程と今の攻撃が命中した角度から考えると……あのデブリの密集した辺りからだ。機関を最低限にまで絞っているから普通のセンサーじゃ気付けないのも無理はない」

「そうか!だから発見が遅れたのか!」

「デブリに隠れていたならレーダーじゃわかんないッス!」

 

 宇宙のゴミ、デブリ。何処からか流されてきた宇宙船や人工衛星の残骸、岩質の小天体等が集まったそこは雑多過ぎてレーダーやセンサーが効き辛い。ならば、と俺は砲雷班長に顔を向けた。

 

「ぶっ放せストール!デブリに隠れるバカを引き摺り出せッス!」

「合点だっ!第一、第二主砲照準!てーぃ!」

≪―――ギュイン、バシュゥゥ!!≫

 

俺の指示にアバリス上甲板のレーザー砲が起動し、グルンとフレキシブルに稼働すると、その砲門をデブリ帯に向けてレーザーを照射した。そして照射されるレーザーが岩塊をものともせず突き進み、そのままデブリを吹き飛ばしていく。

 

「レーザー連続発射!邪魔なデブリを吹き飛ばせッス!」

 

連射、連射、連射。凝集光の嵐が邪魔なゴミを吹き飛ばしていく。強力な出力を持つアバリスの砲撃を前にデブリが耐えられる訳も無く、物の数秒でデブリが砲撃で消えさった。

 

「敵影を感知ー!数は4隻!水雷艇の他駆逐艦が一隻ーっ!」

「艦首識別は…ガラーナ級駆逐艦1、ジャンゴ級2、フランコ級1…データ照合、スカーバレル海賊団です」

 

 そして、開けた空間に現れたのは小規模な艦隊だった。ロウズ警備艦隊でおなじみの水雷艇レベッカ級の同型艦で、ミサイル装備に換装してあるフランコ級。その改良艦で少し口径がUPした軸線対艦レーザー砲をニ門装備しているジャンゴ級。そしてその水雷艇達の倍の大きさを誇る、今回初めて遭遇する駆逐艦のガラーナ級であった。

 ガラーナ級はラッツィオ方面で活動する海賊団、ポポスで警告が出ていたスカーバレル海賊団が独自に改造を加えたカスタム駆逐艦で、武装は小型連装レーザー砲をニ基上甲板に装備し、艦首部にミサイル及びレーザー砲を搭載出来るフネらしい。すでに何度も民間のフネを襲撃しているらしく、貰ったデータには結構詳細が記録されていたので間違いないだろう。

 敵は、海賊だ。

 

「総員対艦隊戦用意っ!リーフッ!艦首を敵に向けるッス!」

「アイサー、ピッチ角度修正、30度回頭、艦を敵艦隊に向けるぜ!」

 

敵艦を発見した俺はすぐに艦首を敵の方向へと向けさせた。アバリスの兵装は主砲である稼働式の小型・中型レーザー砲を除くと、基本的には前方にしか攻撃出来ないからである。アバリスの兵装であるリフレクションレーザーカノンと軸線大型レーザー砲を最大限に生かすには、敵の方へ正面を向けなければならない。

 

「砲身冷却完了、次弾いけます」

「全砲門、敵前衛艦に照準ッ!発射ッス!」

「はいさ、ぽちってな!」

 

 再び敵艦に照準し、レーザーを発射する。だが相手はデブリの様に動かないモノではなく、こちらと同じく艦隊機動すなわちTACマニューバを使える宇宙船である。一斉射しただけの弾幕では命中せず、レーザーはむなしく霧散した。だがこれで良い。

 

「エネルギーブレッド消滅、敵マニューバパターンのデータ集積中」

「データは常時解析、それを元に各砲自由斉射っス」

 

 もとより一撃で命中とか贅沢は言わない。だって当たんないし。

 特に回避運動をお互いに取るから長丁場になるのは良くある事。それでも火器管制が凄く優秀(俺の時代に比べれば)だから、当てられなくはない。

 

「エネルギーブレッド敵前衛艦に命中。ジャンゴ級とフランゴ級、各一隻ずつ大破。残り2隻です」

「ガラーナ級ー、艦隊を引き連れて離脱を計っているみたいー」

「逃がすな!あたし達に攻撃を仕掛けた事を思い知らせてやれッ!」

「あのトスカさん…それ俺の台詞…」

「良しっポチっとな!」

「ちょっ!ストール?!」

 

逃げる敵艦に艦首が向けられる。艦首にあるのは勿論大型軸線砲……ニ度ネタは禁止だよな?まぁとにかく全ての兵装が発射され、ガラーナ級駆逐艦も轟沈したのだった。

 

「インフラトン反応、感知出来ず、辺りに敵反応無し」

「レーダーにも~反応無しだよ~」

「ふぅ、やれやれだ」

 

いやはや最初はびっくりしたが、返り打ちにしてやった。

流石はアバリス、何ともないぜ!あとは散らばった残骸を集めて売りに行くべ。

 

「ところでユーリ、あんた医務室行ってきな?」

「へ?何でッスか?」

「額から血がダラダラだよ。一度止血して洗った方が良い」

「え?……うわ、ホントだ。頭血がすげぇ」

「そういうところは見た目よりも派手に吹き出るからねぇ。ま、いない間は任せときな」

「うう、了解ッス。んじゃ任せたッスよ。トスカさん」

 

 

若干出過ぎの血に、貧血を起こしかけながら俺は医務室に行った。

つーかこんだけダラダラ流しながら指揮してたのかよ。そりゃ周りの人間も驚くわ。

とりあえず包帯巻かれる程度で済んだけど、怪我はイヤねぇ~ホント。

 

 

 

***

 

 

 

サド先生に額の傷を治療してもらい、ブリッジに戻る為に通路を歩いていた。

しっかし、アノ先生も豪快な治療するよなぁ…まさか酒をぶっかけられるとは思わなかった。

文句言ったらタダのアルコール消毒だから大丈夫って…。

まぁ腕は確かだからいいんだけどさ。

 

で、ブリッジに戻る為に通路を歩いていたんだけど―――

 

「おろ?トーロ?」

「ん?ユーリか…ってその頭どうしたんだ?」

「いや、さっきの戦闘でちょっと…というかトーロもなにしてんスか?」

 

医務室から帰る途中~、トーロ君に~出会った~…とまぁ、ネタに走るには程々にして。

 ブリッジに向かう途中でスタスタと歩いてくるトーロと遭遇した。どうやらウチのやり方に習い様々な部署を点々としているようだが、どうにも所在無さげといった感じをうける。というか元気が無いと言うべきか。

 はて?アバリスに乗り込んできた時の気迫はどうしたんだ?

 

「見てわかんねぇか?やることなくてブラブラしてたんだよ」

「おいおい、部署を色々回ったんじゃないッスか?なんか一つくらい――」

「それがなぁ、どうにもしっくりこなくてなぁ…このままじゃ前の職場と同じく倉庫で荷降ろしの作業員とかになりそうだぜ。折角の機会なのにそれじゃあなあ」

「ああ、確かに、ソイツはもったいない気もするッスね」

「だろう!やっぱりユーリは判ってくれるか!」

「まぁ、クルーの悩み聞くのも仕事の内――」

「こころのともよー!」

「くんなよるな近づくな抱きつこうとするな阿呆!」

 

テメェは某ガキ大将か!

それはさて置き、そう言えばこっち来てから色々あって、トーロの所属の事はすっかり忘れていた。だってむさい男より、可愛い妹君の方が大事だったし……、そうだ。折角ここでばったり出会ったのも何かの縁。どれ、一つ艦長さまが話を聞いてやろうじゃないか。

 

「……だからって背負い投げするのはどうかと思うぜ」

「ゼェ…ゼェ…、だったら少しは真面目にやれ。それはいいとしてお前最初は戦闘系を志望してたんじゃ無かったッスか?」

「うーん、いやそこも見学したんだけど、なんかちげぇんだよ。大砲で撃ちあうよりも、もっとこう直接というかな」

「ぶん殴り系?」

「そうそれ!俺は腕っ節程度しか自信ないしな!」

「えばれる事じゃないッス……でも、そう言えばそうッスね」

 

そう言えば、最初に出会った時は街の酒場でチンピラまがいだっけ。てことはやっぱりトーロはそれなりに腕っ節が強い?うーん、腕っ節が強いヤツが活躍できそうな部署なんて保安部くらいしかねぇな。でも保安部はまだ編成して無いんだよね。うーん。

 

「じゃあ、トーロ。保安部の部長でもやるッスか?」

「え?!いいのか?」

「冗談は言って無いッスよ、ただ…」

 

人員がまだ居ないッス。と言おうとしたんだが…

 

「よっしゃ!俺もようやく認められたって事だな!」

「あ~まぁ、そう考えても良いッス…(説明すんのもメンドイし)」

「じゃ俺頑張るぜ!ソレで俺はどこに行けばいい?」

「あ、まだ警備室のモジュール積んで無いんで、適当にしておいてくれッス」

「ええ~期待させといて、なんだよそりゃ」

「まぁまぁ、次の寄港地でドックがあったら積んでやるから気を落とさんとね」

 

その時に人員の編成もしとけばいいよな。うん。

 

「じゃ、俺はブリッジに行くッス」

「仕方ねぇ、自主鍛錬でもしてるかなぁ」

「空いてる部屋の重力調整を、重力井戸担当のミューズさんに頼めば通常の何倍かの重力で鍛えられるッスよ?」

「お、鍛錬らしくていいな。じゃさっそく頼んでみるぜ」

 

普通は重力井戸を使って鍛錬するなんて制御が難しいからしないんだけど、ミューズさんは何故か出来るからなぁ。ちなみに“とりあえず5倍の重力でいくか”とか言っていたトーロの言葉を俺は聞かなかったことにした。

 

 そして、余談であるが誰かが骨を折って医務室に運ばれたらしい。くわばらくわばら。

 

 

***

 

 

さて、その後はロウズでもやった様に敵の艦隊を狩ることに専念した一週間であった。別に奇襲で怪我をさせられた事を恨んだ訳じゃない。違うったら違うんだからネ?ボクは怒っていませんヨ?

とにかく、クルーが海賊の相手に慣れるくらいまでやったところ、海賊被害の規模が大きかったからか名声値が大いに上がり、現在の0Gランキングがそれなりに上昇。現在やっとこさ60位って所である。ランキングが上がると、それなりに便利なモジュールが貰えるのが地味に嬉しい。

ちなみにランキング60位までに貰えた艦船モジュールは、司令艦橋や航海艦橋や保安局、医務室にレーダー哨戒室に機関室に整備室にショップなど使える物から使わない物まで多岐にわたるので詳細は省く事にする。というか余程の事が無い限りモジュールを組み換えたくなかった。船内ルートが変わって迷うんだもん。

 

それはともかく、やっぱり戦艦は強いと感じる日々を送っている。特にここら辺の敵には苦労しないのが良いね!今日辺り頑張れば恐らくランキング50位に入れると思う。そういう訳で今日も宇宙のお掃除を兼ねた海賊狩りの真っ最中だったりする。

 

「敵、インフラトン反応拡散中、撃沈です」

「コレで通算、約800隻って所かい?」

 

ちなみに今回は捕獲を目的としていないので、結構敵さんが修理されて戻ってくる。

何か復讐に燃える海賊とか出てきそうだが、敵の乗組員を皆殺しにして全滅させたら名声が手に入らんから今はコレで良いのだ。有名になればなるほど強い装備を得られるが、その分敵も増えますよっと。世知辛いねぇ。

 

「アバリスをモジュールで強化したから、かなり強くはなってるッスね」

「設置費用が高額だったけど、その分性能は折り紙つきか」

『お~い艦長』

「あれ?アコーさん、どうしたッスか?」

『いやね、そろそろ物資の補充の為に寄港した方が良いと思ってね?』

「ありゃ、もうッスか?」

 

まぁそろそろ長旅が限界なのは解ってたけどね。

長く航海すれば疲労度も貯まるし、いい加減近場の星に寄港してクルー達に休暇とらせた方がいいと思ってたところだ。

 

『平常運航なら水も食糧も数日は持つが、ウチは…ほら宴会好きが多いからすぐに色々と足ん無くなるんだよね。いっぱい乗ってるしね』

「解ったッス。てな訳でミドリさん?」

「はい艦長。この宙域から一番近いのは、惑星ラッツィオです」

「そう言えばまだ行った事が無い惑星ッスね?トスカさん」

「ああ、今まではポポス周辺を巡ってたからね。ここら辺は初めてだ」

「じゃあちょうど良いッス。休暇も兼ねてラッツィオに寄港する事にするッス」

「了解ユーリ。―――リーフっ!」

「聞こえてぜ。もう航路の割り出しは終わったよ」

 

航海長であるリーフはそう言うとメインパネルに航路を表示する。

仕事速いねぇリーフさんは。

 

「それじゃ、アコーさん。そういう事何で…」

『了解だ艦長。それじゃあな』

「はいはい」

 

アコーさんとの通信を終えた後、それぞれの部署に半舷休息を言い渡した後。アバリスは一路惑星ラッツィオに進路を向けた。道中は稀に海賊が出るくらいで、事故などの突発的な問題が起こる等といった事無く進み、その日の内に惑星ラッツィオの軌道上に到達したのであった。

惑星ラッツィオに着いた僕たちは休暇を兼ねて惑星に降りて行く。久々の陸ということもあり、上陸希望者が大量に出たがその全てに上陸を許可した。アバリスの方は空間通商管理局のAIドロイド達に任せておける為、無人にしても大丈夫だからである。それに多分しばらく航海には出られないと思うしな…。

 

一週間近くも海賊との遭遇戦を繰り返していたアバリスの本格的整備を上陸ついでに行う話が整備班からあがり、それを許可したからだ。上陸希望者とは別の居残り組の多くがケセイヤさんを筆頭とする整備班達であり、機械に対する愛情は凄まじいモノがある。その彼らが居残るついでに整備も全て監督するらしい。

だから俺がアバリスを離れてすぐに、アバリスはC整備を兼ねて分解されちゃっていると思う。しかも連中、何やら秘密裏にごそごそと敵艦を破壊した時に出た廃材を利用して色々と趣味で機械類を造っているらしく、もしかしたら分解整備がてらアバリスに変な改造とか施しちゃうかも知れない。

 

でもまぁ、アバリスさえ壊さなきゃ俺は気にしない。むしろ性能が上がるならドンドンやってくれって感じである。というかケセイヤさんにはすでにそう伝えてあるので、整備班は遠慮しないだろう。好きな事が出来るならバン万歳な連中だからなぁ……帰ってきたらアバリスの面影が無くなってたら、ケセイヤさんはシバいておくかな。

それにしても1000m級でも分解整備が出来るドックってスゲェよな?

 

とにかくそういう訳で、俺はブリッジクルーとチェルシー、それにトーロを連れて惑星ラッツィオに降りたった。トーロは最近入れたモジュールのスポーツドームに入り浸っていた…と言うか引きこもってやがったが、そのまんまだと整備の時に邪魔になるから連れ出してくれと言われ引きづり出して連れて来た。

 まったく、まだ人員が居なくて役職だけの部署なのに張りきっちゃってまぁ。取らぬ狸の皮算用にならなきゃ良いんだがねぇ…。あ、部署をつくるの俺か。

 

 

―――それは置いておいて、とりあえず足を向けたのは0Gドック御用達の酒場であった。

 

基本的な岩石質の1G下の惑星はガス系惑星に比べれば小さいが、それでも地球と同じくらいの大きさはある。とうぜんそれだけ大きければ色んなショップやレジャー施設などが多々あるのであるが、実のところ私物の買い物とかでも無い限り、惑星で屯っていられるのは酒場だけだ。

いやね?下界のレジャーランドだと宇宙で働いている俺らにゃ緩すぎる訳で。でもって温泉やら女性クルーの味方のエステ何かは全部軌道エレベーターのタワーの中に収まっちまってて、余程の事がないかぎりお外に出る必要性を感じないのだ。例外は女性クルーの殆どにとって必須な化粧品などは置いて無いのですぐに町に消えて行ったけどね。

まぁ結局のところ、暇な連中は結局酒場に来るって訳なんさ。

 

「女将さん!とりあえずおすすめを頼むッス!あ、こっちの子にはジュースで」

「あいよ」

 

仲間引き連れ酒場に行く。ロープレだと仲間集めのチャンスだよな。そんな事考えつつ適当に注文を入れて空いている席に……ん?俺が頼んだのは勿論酒ですけど何か?法律が違うからお酒は二十歳になってからが無いから良いんだよ。それで体調崩してもあくまでも自己管理能力が無かったっていうシビアな世界だしな。

 だが妹君にはまだ飲ませない。いや正確には彼女が酒を飲みたがらないだけだが……味覚的に苦手なんだとさ。アルコール。美味しいのに…。

 

「ティータや、この皿を八番テーブルにはこんどくれ」

「はい、お母さん」

 

適当に酒を傾けながらくつろいでいると、視界の端に俺達と同年代の女の子が手伝っているのが見えた。どうやらここを切り盛りしている女将さんの娘らしく、この酒場は母親と娘の二人で運営しているらしい。

ふーむ、それは良いとして…はて?彼女を見た時に脳裏に何かを思い出しそうな…何だったけかな?

 

「―――ティータ?もしかして隣に住んでいた、ティータ・アグリノスか?」

「え、何であなた私の名前知ってるの?」

「おいおい俺の事忘れたのか?トーロだよトーロ。良く一緒に遊んだじゃねぇか!」

「あ、ああーっ!アンタはトーロっ!?」

 

そんな中、何やら店娘を凝視していたトーロが声をかけた。どうやら彼女とトーロと知り合いだったらしい。昔話に花を咲かせたいだろうから、しばらくそうっとしといてやるかな。

 

「おい、見ろよ…トーロの奴あんなカワイイコちゃんを引っかけやがった」

「何だって?―――まじ…かよ…。クッ!トーロの癖に!」

「あの野郎、アレはアレか?見せつけてやがんのか?」

「――〆サバ丸はどこにしまったっけ?」

 

でも、とりあえず物騒な目をしているクルー連中は連れていかないといけないな。

コレ艦長の業務ちゃうんやけど…まぁサービスだ。昔の友達との時間を楽しみたまえトーロ君。

 

 

***

 

 

■その後のユーリin0Gドッグ酒場(隅っこ)■

 

「艦長どいて……アイツ殺せない」

「そういう訳にもいかないなぁ……てか人の頭をかち割れそうなほど大きなそのジョッキを置けッス」

「〆サバ丸……ククク」

「刃物は洒落にならんからやめい!」

「退いてくれ艦長、俺達は殺んなきゃなんねぇ…俺達と同じ彼女無し達(ミナシゴ)の為にッ!」

「だから、昔馴染みに会ってるだけじゃないスか、そんなに目くじら立てんでも」

「艦長には彼女が居るからわからねぇんだ!俺達みたいに出会いが少ないチョンガーの悲しみが!俺達の心が解るかッ!!」

「「「そうだそうだ」」チェルシーさんをよこせー!」

「でもねぇ?―――というか彼女って誰の事ッスか?あとチェルシーは大事な妹やぞ!よこせとか言わんと自力でアタックせんか!」

「あ!トーロの奴おなごを連れてどっか行くぞ!?」

「なぬッ!?艦長ソコどけい!こんの“モヤシ”やろう」

「「「アッ!?」」」

「―――…………ククククッ」

「あ…ああ…ヤベ」

「あーそうかそうか………」

「バカ!お前なに禁句言ってんだ?!」

「貴様らは死んだ方がマシな口かな?かな?」

「おいオメェ!早く艦長に謝るんだッ!」

「か、艦長ごめ「小便は済ませたか?神さまへのお祈りは?部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをする準備はOK?」――まいがっ!ちきしょー!」

「「「「俺らまで巻き込――ぎゃーー!!!」」」」

 

 

――――この後、数名がフネの医務室送りとなった。

 

 何かお酒が入ってたからついやっちゃったんだ。てへ。

 

***

 

 

酒場から引き揚げてエレベーターにて一泊し、アバリスの置いてあるドックに戻ってくると、既に整備も終わり補給物資の搬入も終えており、発進を待つばかりとなっていた。後は地上に降りた連中が帰ってくれば、そのまま発進可能な状態である。しかし一晩で整備を終えるとはジェバンニも吃驚な未来チートだぜ。それは良いとして、俺も発進準備の為に艦長席で色々とチェック項目を消化していた。

 

『おーい!ユーリ!居るか?』

「ん?どうかしたんスか?トーロ」

 

そんな時、トーロが携帯端末を使って、俺に直接通信をつないできた。

 

『えっとよ。酒場に女の子居ただろ?』

「ああ、トーロと話していた看板娘さんの事ッスか?」

『えっ見てたのか?』

「そりゃまぁ。あんなに堂々とナンパしてればねぇ?」

 

にやにやと笑みを浮かべながらそう言うと、困惑した顔で頬を掻くトーロ。まぁお前さんらのお陰で、俺はお邪魔虫たちの排除をしなけりゃならんかったんだがな。

 

『ナンパじゃねぇけど…そうか、じゃあ話は早ぇ、その娘フネに乗せるぜ?いいよな』

「え?ちょっとトーロッ!?―≪ブツッ≫―通信切りやがった…」

 

用件だけ言ってこっちの言い分を聞く前に通信を切るとか……あの野郎、いきなりなんだってんだ?絶対アイツ学校の通信簿に【人の話は良く聞きましょう】とか書かれるタイプだろ。つーか、あの娘の乗船許可、俺まだ出して無いんだけど……まぁ良いか、ちょうど生活班の方で人手が足り無かったしな。

クルーが足りないフネに貸し出されるAIドロイドもそこそこ性能は良いんだけど、やっぱ人間の方が受けが良いしね。しかしトーロとティータ。何処かで引っ掛かっていたが彼女も確か原作でクルーになる娘だった事を今思いだした。ヤバいな、ここ最近の濃い日常の所為かゲームに関する記憶が薄れるテンプレが起こってるぜ。

 

大筋はまだ大丈夫みたいだけど、この先どんどん忘れていきそうだ。そうなる前に外部記憶端末にでも記録しておくか?………いや、やっぱりいいや。誰かに見られたら困るし、忘れるならそれはそれで先の楽しみが増えるだろうしな。大体あのゲーム確かに沢山やったけど、詳細なイベントまで全部覚えてられっかてんだ。

それはともかくとして、女連れ込む新人クルーか……こりゃ小競り合い起こりそうだなぁ……なんか胃が痛くなりそ――いや既に痛い気がする。ううう。ストレスに備え、胃薬と頭痛薬を今度多めに買っておこうと決心した俺であった。

 

 

 

 

―――んで、一人黙々と仕事をしながら待つ事40分。しばらくして彼らはやって来た。

 

「オス、艦長。彼女がティータだ」

「よ、よろしくお願いします」

 

ティータを連れて来た彼は、俺に彼女を紹介して来た。

長身でスレンダーな身体付き、霞んだ桜色に近い髪色をしたロングヘアをたなびかせ、ブルーの瞳が困惑の光を宿しながらも俺を見据えている……でっていう。いや何と無く目の前に居るティータ嬢の姿を言語で表現してみたら自分のポエム力の無さに絶望した。

 

それはともかく、昨日酒場で見かけた時に見た、腰に巻くエプロンとキャミソールとロングパンツ姿から察するに、どうやら仕事中にトーロに連れて来られたっぽいね。だけどトーロよ。それは下手すると誘拐になってしまうぞ?

まぁそれはあとで酒場の女将さんに連絡を入れれば別にいい。

でもさ―――――

 

「トーロよ。出来ればこっちに連れてくる前に、一言でいいからクルーにするかどうかの判断ってヤツを俺に仰いでおいてほしかったんスけど?」

「硬い事言うなって、俺とお前の仲じゃん?それに俺も保安部部長になるしさ」

「………あくまで保安部は設立予定であって決定じゃないから、まだトーロは保安部部長(自称)だって事、忘れた訳じゃないッスよね?ね?」

「そーなのかー!?」

「え、え!?トーロ、アンタ話が全然違うじゃない!俺が一言いえば大丈夫とか言ってたのに!」

「いやね?ティータさんとやら。「ティータでいいです」……ティータよ。こっちもトーロがちゃんと連絡入れてくれればね?こんなに文句言わないんスよ。だけどそこの阿呆は酒場の看板娘連れてくるとしか言って無いんスよね。女連れ込みたかったのかどういうことなのかこっちも判断がつかなかったというか……」

「トーロのバカー!!」

「まて!ラリアットはやめグボッ!?」

 

 おおう、首元を狙い澄ました見事なラリアットがトーロに決まった。

 酒場の看板娘って見た目よりもカイリキー。

 

「うぐぐ、何故だユーリよ。俺は仲間じゃないのか?」

「仲間云々の前に、俺としては艦長の言う事を聞かないクルーの方が問題有るんだけど?」

「え、えっと!ゴメンナサイ艦長さん!このバカの所為で迷惑かけますっ」

 

ラリアットのダメージから数秒で回復したトーロは何故か堂々と……むしろ開き直って胸を張っている。そんなバカとは対照的に非常に申し訳なさそうに、そいで緊張気味のティータ嬢を見て俺は苦笑する。と言うかトーロが厚かまし過ぎるだけなのだ。彼女が気にする事じゃ無い。

 

「まぁ、なに、連れて来てしまった以上、今更帰れとは言わないッスよ」

 

頭を下げているティータに俺は手を振って止める様に言うと、彼らの顔に安堵の表情が浮かんだ。

 

「一応聞くんスけど、航路では海賊とか出るし普通に死ねる可能性があるんスけど大丈夫ッスか?」

「荒くれ者相手なら酒場で慣れてます。それにどうしても宇宙に出たいんです!」

「………判った。嘘はないみたいだし、とりあえずティータは生活班の方に廻ってくれッス」

「え、そんな簡単に部署まで決めても良いんですか?」

「いや、ウチは最近ロウズから出てきたばっかりで人員が足りないんスよ。一応ウチでは自分の適性が判るまで部署を転々として貰うのがルールなんスが、それよりもティータくんはアウトローな連中が集う酒場で切り盛りしてたんスよね?なら、生活班の方が都合がいいでしょ?」

「は、はい!よろしくお願いします!!」

「あと、この携帯端末を渡しておくッス。これがこのフネに乗る際の身分証代わりッスから」

 

俺は彼らが来る前に用意しておいた携帯通信機をティータに渡す。コレは通信やその他機能を備え、おまけにメールやらメモ帳やらゲームまで出来、財布にもなる。しかも、耐衝撃で宇宙空間でも完璧に動くし、この通信機に個人のデータを入力する事で、このフネの乗組員の証明となる。

しかも脳波コントロールできる……は鉄仮面の方じゃないので置いておいて、この通信機のいいところは、自分の艦の見取り図も入っているという親切設計なのだ……これを作ったヤツは儲かった事だろうなぁ、メッチャ便利だし。

 

彼女は俺から通信機を受け取ると、再度頭を下げた後、ブリッジから退出した。んで彼女に着いて行こうとするトーロを俺は呼びとめた。待て待て、まだ俺のバトルフェイズ…もとい、お前さんとの話は終わって無いぞ?

 

「さてトーロ君、お前さん報告義務を怠ったから――便所掃除一週間ッ!!!」

「えー!なんだよそりゃ!?」

「文句言うなッス!お前の所為で俺がどんだけ苦労する羽目になる事かッ!」

 

色々と他部署の折り合い付けるの大変なんだぞこの野郎ッ!今回だってティータがこっち来るまでにどこの部署が一番手が欲しいか調べたんだぞ!だれか人事部を作ってください!人事裁量権があるとはいえ色々と大変で切実デス!

俺の処罰に対しブー垂れるバカを視界から外すように努めつつ、俺は頭痛を感じる眉間を抑えて艦長席に深く座りなおした。

 

「はぁ、まったく。イベント盛りだくさんだなこの野郎……」

【お疲れ様です艦長】

「おお、誰だか知らないけど労いの言葉ありがとさんッス」

【いえいえ】

 

ん?ちょっと待て―――

 

「おいトーロさんや。お前さん今なんか言ったスか?」

「あーん?うんにゃ?と言うかお前誰に向かって返事返したんだ?」

「誰って……」

 

ちなみに、現在ブリッジには俺とトーロしかいません。

新しく整備と改造を加えたアバリスの各部署に皆顔を出しているからだ。

てことはですね。俺は一体“誰に”話しかけたんでせうか?

 

【あのう】≪ヴォン≫

「「わひゃっ!?」」

 

再び得体のしれない声がブリッジに響く。これは、まさか心霊現象!?

SF真っ盛りな世界でオカルトとかマジ勘弁ッスよ。ヤダー!

 

とにかく、いきなり知らない声が聞えたかと思うと、俺の背後に内線用の空間ウィンドウが展開された。どうやらそこから声がしていた様だ。びびび、ビビってたわけじゃないんだからネ!これでも艦長なんだから山のように動かないんだから勘違いしないでよね!

 

あれ?でも一体どこの誰だ?と言うか、このウィンドウ…何故にサウンドオンリー表示なの?

 微妙に怖いんだけど……。

 

「ええと、どなたさんッスか?」

【え、そんな……艦長が私をアバリスに乗せてくれたのに……】

 

Q,あなたは誰ですか?A,私のこと知らないんですか?

 どうしよう、問答が成立してないよ。というかトーロ、仲間を見る様な眼でこっちみんな!俺は少なくともお前みたいに行き成りクルーを連れてフネに乗せるような事はしとらんちゅーに。

 

「いや、と言うかこんな声の方に心当たりないんスけど?ちなみに何時頃乗船したんスか?」

【ええと、ついさっきです。いえ、正確には6時間程前には乗せられて、つい先ほど目が覚めたと言いますか……ハイ、そんな感じです】

「ちょっ、ちょっと待った!6時間前って言ったら、ちょうど整備班がフネの分解整備が終わって、ついでにモジュールの組み替えをしていた時間ッスよ?」

【ええ、ですからその時に乗りました】

「あーうー?余計に訳が解らんス!とりあえず顔を見て話したいから、サウンドオンリー表示をやめるッス!」

【いえ、あのう…お恥ずかしい事に、私には顔が無いもので】

 

は?顔が無い?おいおい、そんな筈……あ、まさか。

 

「もしかして何スけど、あなたは人間じゃ無い?」

【ええ、その通りです艦長】

「幽霊!?マジで!?」

「トーロうっさい!……アンタ、多分スけどドロイドかロボットか何かッスか?」

【厳密には違いますけど、広義的には合っているかと思います】

「なぁ、ユーリ、結局誰なんだコイツ?不審者だったっていうなら俺がつまみだして…」

「ああ、大丈夫っス。もうおおよそ見当がついたから」

 

俺が指示したモジュール入れ替え中に入り、つい先ほど目覚め、しかも人間じゃない。

ふふふ、ココまでヒントが出てきたんだから、もう解ったよ。ワトソンくん。

 

「ねぇ?アバリス」

【はい、艦長】

「え?アバリスって、このフネとおんなじ名前じゃねえか」

「同じ名前って言うか“そのもの”なんスけどね」

【その通りです。流石は艦長です】

 

 そう!この声の主はアバリスだったんだよ! ΩΩ Ω<ナ、ナンダッテー!!

 

「う~ん?そのものってなどういう事だ?俺には良くわかんねぇんだが?」

「何、簡単な答えッス。この声の主はアバリスに取り付けた新しいモジュールのコントロールユニット何スよ、トーロ君」

 

この声の正体は俺がモジュールを組みかえた際に新しく組み入れた新規モジュール。各所自動化を行い乗組員の人員削減…もとい必要数を減らせる便利システム。コントロールユニット、通称CUのAIであった。

そういえばモジュール設置の操作をした時、コンソールに『自律回路のON/OFF』って表示が現れたんだっけ。その時はなんの事なのか全然意味が解らなかったから、とりあえず何かの機能だろうと思ってONにしたけど、こういう意味だったのか。

しっかしまぁ、以前ロウズの軌道ステーションで初めてローカルエージェント見た時も流暢に受け答えするスゴイAI積んでた事に驚いたけど、まさか戦艦の管理AIにまで人工知能と人格を搭載できるなんて流石は未来だ。

しかもこれってある意味でオモ○カネじゃねぇか…胸が熱くなるな。

 

「ま、とにかくさっきから話しかけてきたのはコントロールユニットくんなんスよね?」

【はい艦長、私は確かにCUに搭載されている管理AIのインターフェイスです】

「あー、道理でこのフネそのモノって訳なのか」

「やっと気付いたッスかトーロ?ま、人件費が掛からない優秀なクルーが増えたと思えばいいッスよ」

「……そうだな、それじゃあこれからよろしくだぜ?アバリスさんよ」

【はいトーロ、よろしくお願いします】

 

ピョコンとウィンドウをトーロの前に出現させてそう答えるAIアバリス。しかし完璧な受け答えが出来るAIだね。インターフェイスが別格なんだろうか?まぁ人間サイズのアンドロイドですら結構個性豊かだったから、戦艦に乗せられるAIともなれば、それこそかなり高性能なんだろうな。きっと。

とりあえず、一人と一機の仲間が増えたし、これからも増えてくだろうなぁ。なんせ現状アバリスを動かしてるのって、人間クルーを除けば半分近くがレンタルした通商管理局謹製のAIドロイドだもん。CU入れたから、AIドロイドの数を減らせるだろうけど、それでもまだまだ足りない。

 

AIドロイドはメリットとして皆能力が一定で混乱とかしない完璧な水夫だけど、あくまでフネの運行に支障が無い程度の機能しかない。うーん簡単に言うと専門技能を持たない一般会社員みたいな?そうなると人間みたいに成長出来ない分、デメリットの方が目立つんだよねぇ。俺にはあいつ等の言語自体聞きとれないしな。

 

まぁ、まだ先は長いから?幾らでも人員を増やせばいいさ。

その内にな。

 

「それじゃアバリス、出港までにシステムのチェックと各部システムとの連動走査、それと……まぁ出来そうなことやっておいてくれッス」

【解りました艦長】

「うわぁ、もう使う気満々だよ。AI使いの荒い奴だな」

「トーロ無駄口叩いて無いでスポーツドームで訓練でもしてたらどうッスか?」

「へいへい。それじゃあなユーリ、アバリス」

 

そう言って、手をひらひらさせてトーロはブリッジを後にした。

 

「はぁ」

【お疲れ様です】

「うん、ありがとよアバリス」

【艦長のサポートも仕事です】

 

うう、AIに慰められる俺って一体?

そんな事考えつつも、出港の為の仕事に戻る俺であった。

 

 

 

■ラッツィオ編・第六章■

 

 

 

 

トーロがブリッジを去って、しばらくするとブリッジメンバーが帰ってきたので、新たな仲間のコントロールユニットの管制AIであるアバリスを紹介する事にした。俺がAIアバリスを呼びだして自己紹介を促し、とりあえずブリッジクルー全員にお目通しさせた。

当然、皆唖然しつつ困惑と懐疑の目を俺に向けた。どうも俺が皆を謀っていると思われてしまったらしい。俺はネタに走るけど皆をだましたりはしないのにと内心で少し落ち込んだが、いつもの事なのでユーリさんはクールにしておくぜ。目から流れ落ちるのは心の汗なのぜ。

 

それはともかく、コントロールユニットに人工知能が搭載されていると言う話は、どうやら殆どメンバーの認知外の事だったようで、かなり驚いた顔をされた。流石のトスカさんとかも知らなかったらしい。唯一の例外は、機械いじりが趣味でソレ方面の知識に明るい整備班ケセイヤさんと科学班のブレーンであるサナダさんは流石に知っていた。

でも、普通は人工知能の機能ってオミットするんだって。なんでかって言うと、人工知能には機能の高効率化を図る為に、学習機能が付いてるらしいんだけど、育て方を間違うと変な癖や性格になってしまうんだそうだ。有名な話では、0Gドックで商業もやっているヘイロ・アルタン氏のデルカント号がそうらしい。

サナダさんが語ってくれたそのデルカント号は、シャンクヤード級と呼ばれる巡洋艦クラスを改装した戦闘貨物船であった。そのデルカント号の人件費を安く使用と考えたアルタン氏はフネに件の人工知能搭載型CUを搭載したらしい。だが気が付けばAIの口調がべランめぇ調に変ってしまい、勝手に義理人情に目覚めたんだとか。

なんでもAIを任されたオペレーターが、大昔の映画を集めるのが趣味だったらしく、個人のフォルダに収まりきらなかった貴重な映像データを有ろうことかフネの共有データバンクの中に保管していたんだそうだ。ソレをAI が見て学習してしまい、世にも珍しいべランめぇ口調のAIがいるフネが出来あがったらしい。

 

それ以上に、このサイバネティクス極限期を終えた時代に、太古の映画が残っていると事にビックリだ。前世の皆さん、遠い未来の宇宙でも日本の文化は現存している様です。どんな時代に置いても娯楽とメディアってのは廃れる事が無いし、20世紀あたりなら記録媒体も沢山あるから残ってたんだろうなぁ。流石は文化大国日本(別名・オタクの国)ってか?

 

尚、余談であるがそのフネデルカント号のAIは、何と自分の気にいらない仕事を絶対にやらない上、実に喧嘩っ早いらしい。貨物を狙って襲って来た海賊船相手に操縦士のコントロールを勝手に奪って敵に体当りを仕掛けたのだそうだ。突然の事で慣性制御が追い付かなかったものだから、中の人間はたまったモンじゃ無い。

そう考えるとAI搭載型のC(コントロール)U(ユニット)も問題有りそうだな。育て方を誤ると、クルーの事を考えない実に恐ろしい人格が出来そうなので通常のコントロールユニットAIに人格搭載型は殆どいないってのもうなずける。間違えてドS仕様なAIに仕上がってしまったら……大抵の奴は胃袋が持たないだろう。

 

ちなみにうちのオペレーターのミドリさんはというと誰に対しても礼儀正しく、常に冷静を心がけるオペレーターの鏡みたいなクールビューティーである。彼女が特殊な趣味をもっているとかいう話は聞かないから、デラカント号みたいにはならないとは思う……多分ね。

 

***

 

 さぁ新たなる仲間を得た俺達が何をするか。それは―――

 

「―――敵前衛艦2隻大破、後衛艦は航行不能に陥った模様」

「EVA要員は、ジャンクの回収に当たるッス。アバリス、アームのサポートお願い」

【了解しましたです艦長】

 

―――今日もいつものように宇宙ゴミ清掃、海賊退治と来たもんだ。

 

コレが結構ボロイ商売になるんだから止められませんがな。

敵を倒してジャンク品を回収、それを仕分けして倉庫にしまっちゃおうねー。

 

「おつかれユーリ、なんか飲むかい?」

「あ、トスカさんおつかれッス、じゃあ水を頼むッス」

「あいよ…しかしあんたも頑張るねぇ」

 

渡されたボトルのキャップをひねり、中の水に口を付けた時、トスカ姐さんがそう呟いたのを聞いた俺は何がと疑問符を浮かべた。

 

「いやさ?普通の0Gドックだったら、自分のフネを持っただけで満足しちまうのが多いんだ。アンタみたいに0Gになってからでもがむしゃらに頑張るってのは何かよっぽどの目的があるのかと思っちまうよ」

【艦長みたいに頑張る人は珍しいのですか?】

「まぁ端的に言えばそうだね。それも若さかねぇ」

「トスカさん……それ、おばはんみた――すいません。口が過ぎましたお許しください美しいお姉さま」

「一度死ねばいいと思うよ?」

「あおん」

 

ギロヌ、美女の視線が突き刺さる。あいては死ぬ。

 

「スタンダップ!」

「いえっさー!」

 

 そして二秒後に復活する。目線の被害は主に俺です。

 

【あのう、何をしてらっしゃるんですか?】

「ん?タダのスキンシップだよ。なぁユーリ」

「え、ええ……(あの眼、マジで殺られるかと思ったZE)」

 

 女性に年齢関係の話題はタブーなのは未来も変わらないようである。

 

「それにしても、よもやあの時の青白い坊やが戦艦の艦長になるなんてねぇ」

「あー、それは自分でもビックリしてるッス」

「長い事打ち上げ屋をしてたが、アンタみたいなケースは…まぁ見たことないね。でも大抵は打ち上げの仕事を終えたらすぐに別れるから、そいつらの行く末を見た訳じゃないけど」

「あれ?そうなんスか?てっきりそれなりに長く居るものかと」

「そりも合わなきゃ好き勝手させてくれないヤツと仕事以外で長く居たいと思わないさ。中には少し優しくしてやったら勘違いしたバカが襲い掛かってくる事もあったしね」

「うわぁ、そいつらの末路が絵を見るように明らかっス」

「とうぜん。身ぐるみ剥いでドッカの星に放置してやったよ」

「身ぐるみとか、丸儲けッスね」

「全裸で何処まで生きられるかな」

「……怖ッ」

 

まったく、0Gドッグの女性は逞しいったらありゃしない。

でも、もしあの時トスカ姐さんのフネであるデイジーリップ号が、それ程酷く壊れていなかったら…ましてや応急修理もいらなくて資材を漁りに行かなかったら…俺は多分、バゼルナイツ級戦艦であるアバリスの設計図に出会うことはなかっただろう。

妹君のチェルシーも助けられず、駆逐艦一隻で精一杯の艦隊を組んでデラコンダと玉砕し、まだ見ぬ宇宙を夢想しながら、崩壊するブリッジの中で炎に包まれて己の無力を嘆いていたかもしれない…やだ、ちょっとカッコいいじゃない。

まぁ死にたくはないから実施はしないけど、とにかく全ては運とアバリス性能のお陰かな?ああ、あと個性的で愛すべきクルー達とのね。閉鎖されたロウズという環境に囚われ、その優秀な技能を埋没させていくしかなかった彼らと、ただ一隻で領主軍とやり合おうとした俺。命知らずここに極まれりって感じだな。

だが俺と彼らの望みは一つ、宇宙に出たいという事だった。同じ望みがあるからそこに仲間意識が芽生えたんだ。もう手放せないし手放す気もないぜ。

 

「これからも変わらずに仲良くしてきましょう」

「ああ、そうだね」

 

 てな訳で、ホイ握手っと。

 そしてそれを見ていたクルー達が急にヒソヒソとし始める。

 

「おいおい、艦長…まさか副長にまで手を伸ばす気か?」

「妹だけじゃ飽き足らない。そこには痺れも無いし、あこがれも無い…かな」

「若いのう」

「なんとも、見ていて飽きないものだ」

「でもでも~、アレは無いと思う~」

「……それには同意しますね。別に誰と付き合おうが関係は有りませんが、場所を考えて欲しいものです」

【うーん、人間って複雑ですね。あ、ジャンク回収が終了したのでEVA班を収容しました】

 

何とも辛口コメントのようです。友情の確認にそこまで言われなアカンのやろうか。

 

「し、仕事に戻るッス!」

「そ、そうだな」

 

なんとなくこっ恥ずかしくなったから、とりあえず仕事に逃げよう。こういったのは下手にうろたえると格好の標的にされる。Bekoolだ…あれ?BeCoolだっけ?ま、どっちでもいいぜ。トスカ姐さんもそう思ったらしく、そそくさと副長席で外のEVA班と連絡を取り合っている。うーん、なんか可愛いぞ。

でもそれを口に出したら、きっとさっきみたいに人が殺せそうな程睨まれそうだから言わない。宇宙を生き延びるには先の先を読む事が必要なのだ!……とにかく俺も仕事しよう。さぼっちゃいけないよ。うん。

 

「ん?艦長、レーダーに感あり~」

 

で、俺もコンソールを動かそうとしたその時であった。レーダーに反応があった。宇宙空間では隕石というか漂流する岩石とかデブリってのは珍しくはない。ないのであるが。

 

「ふむ………リーフ、ちょい針路変更、取舵30度ッス」

「アイアイサー」

 

 ちょいと動きを見れば、まぁ大体判る。操舵手のリーフに指示を送り、アバリスの進行方向を少しだけ変えて相手の軌道が変化するかを観察した。ただの漂流物なら特に変化は見られない筈であるが…。

 

「―――アンノウンも進行方向が変わります。人為的な物体の移動及び人工物の可能性あり」

「反応あり、スか……エコーさん、向かってくるヤツの大きさは?」

「レーダー最大レンジで測定ー、一番小さいのが120m~、最大450m~」

「センサーがインフラトン機関の反応を探知した。向かって来てるのはフネだぞ艦長」

「航宙識別シグナルは?」

「反応ありません。切っていると思われます」

「航路上での航宙識別を切る…完全な敵対行為…――トスカさん」

「ああ――全艦第ニ級戦闘配備!命令が出るまで自分の部署で待機してな!」

 

 敵かは不明…いや十中八九敵だろうけど…アンノウンの接近にあわただしくなるブリッジ。トスカ姐さんの方を向くと俺の意図を理解した彼女が即座に艦内に戦闘配備を敷いてくれた。機関出力が上がり、センサーの出力がさらに上がる中、戦闘システムの立ち上げがAIアバリスの補助を受けて数秒で完了する。

 航法システム・全周囲監視システム・インフラトン機関出力・火器管制・重力慣性制御・APFS、すべてオールグリーン。思わず花まるが空間ウィンドウに表示されるほどにパーフェクト――まさかの花の戦艦ネタをヤルとは、ハラショーだAIアバリスよ。

 

「機関出力上昇、エネルギー充填率100%」

「距離を一定に保つッス。両舷全速。それと主砲への回路を開け、砲雷撃戦用意!」

「主砲全自動射撃準備用意良し!軸線砲への閉鎖弁オープン!」

【各砲、各センサーと連動、修正誤差入力開始します】

「敵艦のインフラトン反応増大、高エネルギー探知」

【オートディフェンス作動、APFシールド出力アップ】

 

 そしてこちらが機関出力を上げた途端、アンノウンから凝集光のビームが発射された。

 

≪―――ズズーンッ≫

「「「ぐわっ!」」」

「「きゃっ!」」

【後部第3スラスター近辺、装甲板にレーザー砲撃が命中しました】

「APFシールドが正常作動したので損害は有りません…ですが、先ほどの揺れで、食器が割れたと、タムラさんから苦情が来てます」

 

ソレはどうでも良いッス。

 

「敵艦の位置は変わらず~!本艦より後方の~500の辺りにいます~!」

「敵艦を光学映像で捕えました。モニターに投影します」

「コイツは…」

 

モニターに映し出されたのは、今までの艦船に比べたら100mは大きなフネ。エネルギー量から考えて巡洋艦クラスのフネであった。そのフネは艦首に片刃の剣のような形をしたセンサーブレードを装備し、海上船のような中央船体からまるで蛇が鎌首をもたげているように設置された艦橋をそなえていた。

そして、その中央船体をサンドイッチするかのように、両舷に六角形の盾の様な形状をしたバルジがせり出しており、その楯状のバルジには前方に向けられた対艦砲と思わしき注射器のような形状をした軸線砲が装備されていた。楯状構造物は船体を挟んでいるので合わせて一対の大砲というかんじである。

 射程から考えると、どうやらこの巡洋艦がこちらを狙って攻撃してきたと見ていいだろう。

 

「艦種識別中………出ました。エルメッツァを中心に活動しているスカーバレル海賊団専用巡洋艦、オル・ドーネ級巡洋艦です」

「たしかオル・ドーネ級の基本設計はエルメッツァ政府軍から流出したサウザーン級巡洋艦からの流用だ。装甲と機動力に優れており接舷しての白兵戦が得意な戦法らしいよ」

「マジっすかトスカさん……なるほど設計思想が海賊船ってワケだ」

「ま、接舷して制圧した方が無傷でフネを奪える可能性が高いからね」

【敵艦の速力上昇、接近してきます】

「ふむ…艦長、どうやら敵艦は幾らか改造をしてあるようだ」

「そうなんスか?サナダさん」

「ああ、と言っても機動力と通信機能の強化を施してある程度みたいだがな。それでもここいらのレベルで考えれば大分早いフネのようだ」

 

そう…なのか?手元のサブモニターに映っている原型と殆ど変らないんだけど?つーか、なんで見ただけで解るんだろう?マッドの血筋?そんな事を考えながらも速度を上げて迫るオル・ドーネ級を前に、俺は各部署に迎撃指示を下そうとした。

 

「――……艦長、敵艦が交信を求めています」

「え?それって目の前のアレからッスか?」

「はい、敵艦からのコールです。どうしますか?」

 

 だがその時、何故か敵から通信が来た……あれ?デジャブを覚えるお(^ω^;)

 

「……解った。回線つないでくれッス」

「解りました。回線をつなぎます。――アバリス、信号出力の調整お願い」

【了解です】

 

ぶっ放して来ておいて、一体なんの為に通信を入れてきたのか理由を知りたかった俺は、恐らくスカーバレル海賊団のフネからと思われる通信を受ける事にした。少しだけジャミング出力がされていたので、回線をつなぐ時にしばらくモニターにはノイズが映っていたが、ジャミングを止めた事で徐々に映像が形になっていく。

映ったのは、大体50歳くらいの男性だった……何だ男か。

 

『よう、俺はスカーバレル海賊団のディゴだ。さいしょは大型輸送船(カモ)かと思ったんだが、手前ェあれか?ココ最近ウチの部下を沈めて回ってるっていう噂の大型戦艦か?』

「噂?」

『海賊と見るやいなや見境なしに襲い掛かって尻の毛まで引っこ抜いて行く大型戦艦を持った連中がいるっていう噂だ』

「あー、なんか身に覚えがあり過ぎるというか…」

『噂は本当だったか…ならば部下の敵討ちを兼ねて今度はお前が身ぐるみ剥がされる番だ!≪ブツ≫』

「通信、一方的に切られました」

 

なんか取りつく島も無く通信切られたな。

というか……

 

「身ぐるみ剥ぐね…海賊は海賊って事か…つーか通信入れて置いて、こっちの話聞かないのはどう何スかね」

「ユーリ、向こうと戦闘に入るよ」

「わかってるッス…これより戦闘に入る!」

「聞いたねお前ら?艦首を敵艦に向けろ!」

「アイサー、方位転換、艦首を敵艦に向けます」

「EA・EP作動開始、レーダー撹乱波発信!」

 

フネの両舷に設置されたスラスターが稼働してフネの針路を変更する。

敵さんの居る方向に向きを合わせてフネを停止させた。

 

「微速前進ッス」

「微速前進、ヨーソロ」

「敵、出力上昇を確認。コレは……全砲一斉射です」

「回避っス!」

 

敵艦隊からの全砲射撃を前に、アバリスは1300mの巨体が軋むのを無視して、限界機動で攻撃を回避した。回避運動を取るごとに発生する強烈なGを、重力井戸(グラビティ・ウェル)のAIアバリスのサポートによる調整を使い中和する事で、船内の人間がギリギリ耐えきれるくらいのGにまで落している。

 尚、もしも重力井戸の恩恵が無ければ潰れたトマトより酷い事になっていただろう。……想像したら気持ち悪くなった、オエ。

 

≪ズシューン…≫

「回避成功、次の攻撃までの予測インターバル、約120秒」

【前面装甲板に被弾、APFS作動により損害無し。APFS減衰率12%。センサーに問題無し】

「こちらも反撃するッス!」

「ポチっとな!」

 

艦首大型軸線レーザー砲、及び上部甲板の旋廻式小型レーザー砲と中型レーザー砲がグリンと稼働すると、ロックオンした標的に向けて放たれた。反撃の光弾は宙域を横断して敵艦隊に迫り―――

 

「エネルギーブレッド、大型と中型は回避されました」

 

―――まだ距離があったからなのか、命中弾はなかった。

 

「射撃諸元を再入力ッス。次は当てる」

「艦長~!大変っ!」

「どうしたッス?!」

「本艦の右舷と左舷方向から~敵艦が急速接近~!!数はジャンゴ4、ゼラーナ2!」

「挟撃されましたね」

 

どうやら、目の前の巡洋艦は囮だったらしい。このフネの兵装だと構造的に中型レーザーしか、横の敵に攻撃が出来ない。最大限の弾幕を張るにはどっちかに回頭するしかないが、片方に向いている間にもう片方が襲い掛かってくることは明白じゃねぇか!

 

―――クソ!艦隊を組んでおけばこんなことには!

 

【敵、戦闘出力を出しています】

「敵艦発砲」

「耐ショック用意!」

≪ゴガガガン!!≫

「「「ぐわっ!」」」

「「ッ」」

「左舷第2空間ソナー、及び右舷第5シールドジェネレーターに被害発生、ダメコン班を向かわせました」

【APFSにより攻撃は減衰、シールド出力70%にまで低下】

 

 バカスカと数に物を言わせ攻撃される。こちとら戦艦なので耐久力に定評があるが、攻撃されればされるほど壊れて修理に手間を食う事になる。

クソ、とにかく反撃しなければ!

 

≪ズズーンッ!≫

「うわったっ!?損害報告!」

【上甲板第一第二主砲塔損傷、ターレットをやられて動きません!】

 

 だがその時、連続した敵の攻撃によりAPFSが減衰したその一瞬を突いて、運悪く飛びこんだレーザーがAPFSを貫通して小型中型レーザー主砲塔に損害を出した。レーザー砲自体は無事であったが、基部のターレット部分に高エネルギーが当たった事で電子制御的な問題が発生し、ブリッジからの操作を受け付けない状態になった。

 

「全速後退ッス!リーフさん!艦内の事は気にしなくて良いから思いっきり動かして回避して!」

「ちょっ艦長!そんなことすれば!」

「Gで怪我するのと!砲撃で消し炭にされるのとどっちが良いッスか!?…大丈夫、」

「ぐ、了解!」

 

マズイマズイぞ!こん畜生!このままじゃマジでヤバいぜ!

ああ、もう!デフレクターとかも積んどけば良かった!ないよりマシになるんだもん!

 

「アバリス!敵の射線を予想できるッスか?」

【ちょっとお待ちを……出来ます!レーダー上に表示します】

「リーフさん!その射線にかぶらない様にフネを動かしてくれッス!」

「わかったやってみる!」

 

コレで少しは時間が稼げるはずだ!

 

「ストールさんは中型レーザーで反撃!沈めなくて良いッス!相手に撃たせない様にするッス!」

「アイサー艦長!だが倒してしまっても構わんのだろう?」

 

ちょっ!おま!何処でそのネタ仕入れた?!

 

「構わん!出来るならやっちまえ!ッス!」

「了解した、艦長…ん?」

「ストール、どうかしたか?」

「いや、火器管制に割り込みが…?」

 

おいおい、そんな訳…ってホントだ。

こっち(艦長席)からでも確認できる。

 

「アバリス、どうなってるッス?」

【ちょっとお待ちを……解析完了。火器管制の一部に謎のバイパスが出来てる】

【しかもごく最近作られたものです。バイパス先は…】

 

その時だった。いきなりガコンという音が、艦何に響いたのは。

 

「い、今の音は?」

「か、艦長!あれッ!」

「何ス…なんだぁ?!」

 

俺が見たのは、上部甲板の大エアロックが開き、

中から何かがせりあがって来たところだった。

 

【……バイパス先は、第一倉庫】

 

そうアバリスが小さく言った事に気が付かなかった。

と言うか、誰だ戦闘中に?

 

『ふっふっふ…』

【戦闘中です。通信は後にしてくださいケセイヤさん】

『あっ!こら人がせっかく演出してるって言うのに!』

「何やってるケセイヤ!今は戦闘中なんだよ!?」

「と言うか、セイヤさん。ダメコン室は?」

 

班長が戦闘中に抜け出たらアカンやろ?

 

『ああ、副班長に巻かせてあるから大丈夫だ。それよりも…』

 

通信のパネルに映ったケセイヤさんは、宇宙服を着ている。

どうやら、艦内だけど空気が無い所に居るらしい。

ま、まさか――――

 

『こんな事もあろうかとぉッ!今まで倒した敵船から拝借した兵器で、旋廻式砲を作って置いたぜ!!』

 

や、やっぱりッ!!

 

「くッ!その台詞は私のだ…」

 

いやいやサナダさん、何対抗意識燃やしてるんだよ。

てか、もしかして――――

 

「あの配線がむき出しの、どこかガトリング砲みたいなアレがッスか?」

『おう!合間に作ってたから、外装まで手が回らんかったが、ちゃんと使えるぞ?』

「艦長~、敵艦接近してくる~!」

「ッ!追及は後にするッス。本当に使えるッスか?」

『おうよ!』

 

ケセイヤさんは、そう言うと凄く良い笑みを浮かべ、サムズアップした。

それは何かをやり遂げた漢の顔であった。

 

「解ったッス。それなら、ストール!アバリス!」

「ああ、火器管制に本リンクさせてる!」

【サポート既にしてます!使用可能まで、後20秒】

 

流石にバイパス回路だけじゃ、高速で動く敵さんにあてるのは難しい。

そして話を聞いていた彼らは、既にセッティングを開始していた。

 

「よしッ!コレで使える!」

「直ちに発射ッ!目標右舷、敵前衛一番艦!!」

「了解!発射!」

 

≪ドドドドシューンッ!!≫

 

甲板からブリッジまでは大分距離があると言うのに、艦内に冷却機の音が響き渡る。

未完成故に消音機が設置されていない所為だろうが、むしろこの音が頼もしく感じられる。

だが、正規の装備じゃないソレが敵に効くのか?という一瞬感じた疑問は、次の瞬間晴れていた。

 

配線丸出しの、無骨で未完成な砲から放たれたのは、まさに弾幕。

さながらガトリングキャノンとでも言えばいいのだろうか?

未完成故に、貫通性を持たせるより、面での制圧力を強化したって所か。

 

撃つたびに銃身がブレ、射線がずれるのだが、むしろそれが面制圧力を高める結果を出している。

放たれた弾幕は、敵前衛一番艦のみならず、横に居た前衛ニ番艦にも掃射される。

 

大小様々なレーザー砲を寄せ集めて作ったガトリングキャノン(仮)は、

レーザーの波長に合わせて防御するAPFシールドに揺らぎを起して減退させ、

ジェネレーターに過剰な負荷を引き起し、オーバーロードさせてしまうのだろう。

 

前衛にいた2隻は、弾幕の嵐によって、シールドの限界値を越えてしまいそのまま爆散。

辺りに残骸が散らばって行った。

 

「す、すげぇ」

 

誰かがそうつぶやくのが聞こえた。

俺もそう思う。敵さんも驚いている様だ。

良し!この隙に!

 

「う、右舷の敵2隻の撃沈を確認」

「とりあえず全速後退!エネルギーをチャージするッス!」

「ア、アイサー!全速後退!」

【エネルギーコンデンサーにチャージ開始、甲板臨時旋廻砲、再度使用可能まで後120秒】

 

後退し、エネルギーが貯まり次第、このまま一気に突破しようと考えていた。

だが――――――

 

「こ、後方より接近する艦影多数~!艦隊です~!」

「海賊か?」

「わ、解りません~!スキャン結果からすると、海賊では無いみたいですけど~」

 

どこの艦隊だ?こんな戦闘宙域に来るなんて……まさか。

 

「アバリス!背後の艦隊はデーターベースに該当するのは無いッスか?!」

【しばしお待ちください………該当あり、ラッツィオ軍基地所属のオムス艦隊です】

「ラッツィオ軍基地?まさか後ろの艦隊はエルメッツァ中央政府軍かい?!」

「知ってるスか?トスカさん」

 

俺が聞こうとした瞬間。

 

【後方の正体不明艦隊より、インフラトン反応の増大を確認】

「なッ!?まさかあいつ等俺達ごと巻きこんで撃つ気か?!」

「エネルギー尚も増大!砲門開口、発射されます!」

「か、回避をッ!」

「だ、ダメだ!もう間に合わねぇ!」

 

なんてことだ…まさか、俺はこんな所で終わるのか?

俺達は背後の艦隊から放たれるであろう、レーザーにより粒子に還るのか?

 

 

そう誰もが絶望する中――――――

 

 

空間モニターに映る背後の艦隊から―――――

 

 

画面が白くなるほどのレーザーが発射された―――――

 

 

 

「…エネルギーブレット、本艦到達まで……あと10秒」

 

 

 

オペ子のミドリさんの呟きが聞こえる…どう見ても避けられない。

幾らこのフネのAPFシールドの強度が高くても、背後の艦隊はかなりの規模だ。

しかも、大半が恐らく軍用の駆逐艦クラスか巡洋艦クラス。

 

ロウズ警備隊連中のレーザー砲とは訳が違う、高出力のレーザーを装備しているだろう。

喰らえば、さっき敵に起こった様にジェネレーターがオーバーロードを起して、此方がボン。

そして着弾の直前、覚悟を決めた俺は思わず目を瞑ってしまった。

 

 

………

 

 

…………

 

 

……………

 

 

………………

 

 

…………………?

 

 

「あ、あれ?衝撃が来ない??」

「エ、エネルギーブレット、本艦を通過しました」

「な、何だって?!」

 

どうなってるんだ?一体?

 

「エネルギーブレッド、本艦を通過して海賊たちに向かいます!」

「これは…助けられたって事…なのか?」

 

それにしては、やり方が強引な気もしないでも無いんだが…。

通過したエネルギーブレッドは、前方のオル・ドーネ級以外を薙ぎ払ってしまった。

目の前の巡洋艦は、ちょうど此方の陰になっていたらしく、レーザーの直撃を免れたのだ。

 

「前方の海賊船!撤退を開始しました!」

「流石に不利だと考えたか…海賊にしちゃ冷静な指揮官だねぇ」

「そうッスね…機関出力上げ!此方も撤退する!!」

 

全速を出して逃げて行く海賊船を見ながらも、俺は後ろの艦隊から逃げる算段を考えていた。

一応海賊を蹴散らしてくれたものの、何の警告も無くこちらゴト撃ったんだ。

最悪の事態まで、警戒しておくに越したことは無い。

 

「艦長!後方のオムス艦隊から通信が来ました!」

「…………とりあえず機関出力は維持、兵装へのエネルギーはカットするッス」

「逃げる準備を怠らないように各部署に通達しておきな」

「アイサー」

 

こうしてアバリスは、エルメッツァ中央政府軍との初めてのコンタクトを取ることになる。

あ~、もうめんどくさそうな感じがするぜ。軍人とかの相手はめんどくさそうだよなぁ。

大事なことなので二度言ったぜ。

 

【通信を繋げます。戦闘の影響で、映像が少しばかり歪みます】

「メインパネルに投影」

 

パネルに映し出されたのは……………なんかピカソの絵みたいになった映像。

 

「…プッ(ちょっと、流石にコレは無いんじゃないスか?)」

「(ノイズキャンセラーを最大にしてコレなんです。もっと近づかないとコレ以上は無理です)」

『こちらはエルメッツァ政府軍所属、オムス・ウェル中佐だ』

 

おっと、音声はきちんと入るのか。

こっちもきちんと返さないと……。

 

「こちらは0Gドックのユーリです。先ほどは危ない所をどうも…」

 

一応、結果的に助けられたんだし、お礼の一言は言っておかないとまずいだろう。

……あんな助けられ方は二度とゴメンだけどな。

 

『いや、こちらもたまたま近くを通りかかっただけだ。

我々の仕事は本来海賊等の脅威から航路を守ることにある。君たちが気にする必要はない』

「そうですか。ですがそれでも、其方の行動によって助けられたことは事実。感謝を…」

『うむ、気持ちは受け取っておこう。ところで、何故君たちは海賊に襲われたのかね?』

「お恥ずかしながら、最近我々は海賊のフネばかりを狩っておりまして」

『ふむ、罠にはめれらたと?』

「その通りです」

 

ケッ!面倒臭い。何でこんな話し方せにゃアカンのや?

早い所終わらせて、普段の喋り方に戻したいぜ。

 

「まぁ、こちらも無事でしたので、我々はこれにて…」

『いや、少しばかり事情を聞きたい』

「…は?」

『私はしばらくラッツィオ軍基地に居る。二日後に来てくれ。以上だ』

「え?ちょっ!」

「通信切られました」

 

おいおい、こっちは行くとも何とも言ってねぇぞ?

なんつーか、失礼つーか、傍若無人つーか…。

 

「オムス艦隊、この宙域を離脱していきます」

「………一度ラッツィオにもどるッス。コンディションはイエローを維持」

「アイサー」

 

とりあえず寄港の指示を出した俺は、後ろに控えるトスカ姐さんに振りかえった。

 

「はぁ、どうしましょうトスカさん?」

「まぁ、軍の連中との中が悪くなるのは避けたいねぇ」

 

てことは…やっぱいかなアカンか?

 

「面倒クセぇ…」

「しかたないさ、コレも艦長のお仕事お仕事…ってね」

「………交代しないッスか?トスカさん」

「今更遅いわ。覚悟決めて会いに行くんだよ」

「へ~い」

 

ああもう、一応連中はここら辺の、複数の宇宙島を牛耳っている政府の人間だ。

下手に関係をこじらせたら、一介の0Gドックでしかない俺が勝てるわきゃねぇだろ。

 

「一応今後の予定、ラッツィオで補給したら、そのままラッツィオ軍基地に向かうッス」

 

一応誤解が無いように言っておくけど、ラッツィオ軍基地は惑星ラッツィオのお隣の星だ。

名前もそのまんまラッツィオ軍基地って名前である…………軍人しかおらんのやろうか?

とりあえず、アバリスは一路、惑星ラッツィオに舵を切った。

 

***

 

「――――それで、あんなに揺れてたんだ?」

「そうなんだよチェルシー」

 

俺は昼飯を食べに、食堂に赴いていた。

何故かちょうど休憩に入ったと言うチェルシーも隣に座っている。

 

「…………」

「?どうしたのユーリ」

「……うんにゃ、何でもない」

 

もっとも、此方の様子をカウンターからニヤニヤ覗いているタムラさんを見れば、

なぜチェルシーが休憩時間なのかが、すぐに理解できた。

まぁ言わぬが花ってヤツだから何にも言わんが…。

 

「全く、何故にあいつらんとこ出頭せなアカンねん…俺善良な一般0Gドックだぜ?」

「んー、海賊さん達を狩っている時点で、一般とは程遠いんじゃないかな?」

「そうかな?」

「うん」

 

まぁね、普通の0G達は主に輸送業中心だもんね。

 

「ねぇユーリ、無茶しないでね?」

「だいじょーぶ、むちゅ……」

 

噛んだ。

 

「む、無茶はしない。うん」

「フフ、なら良し、だよ」

 

わ、笑われた…恥ずかしいな、おい。

しかし、彼女も良く笑顔を見せる様になって来たなぁ。俺的良い女ポイント10点upだわ。

頑張って、彼女と良く会話して、仲間に溶け込めるよう配慮した甲斐があるわ

ま、ウチのクルー連中に、嫌なヤツは居ないとだろうけどさ。

 

俺自身、良くクルーと一緒に、他愛ないお喋りをする。

そうやって、艦長自ら話しかけて、艦長とクルーっていう垣根を作らないようにしてるんだ。

 

「なにか飲む?」

「ああ、頼むよ」

 

 

――――――とりあえず、まだ休み中なので、兄妹水入らずでのほほんとしていた。

 

 

若干、厨房の方から、俺も若いころはだとか、青春ねとか言う声が聞こえたけど、気にしない。

気にしたら最後、ネタにされることが解っているからな。

でもなぁ、一応兄妹だって言って有るのになぁ、そこら辺倫理観どうなってんだこのフネ?

 

「なぁチェルシー」

「なに?」

「平和って…いいよなぁ」

「そうね」

 

そしてお茶をズズッと啜る俺。

まぁお茶って言っても紅茶みたいな奴だけどね。味も似てるし。

 

「ところで、ズズ…、どうよ?いい加減生活には慣れたかい?」

「うん、仕事は解りやすいし、何より皆優しいの。良い人たちばかりね」

「はは(半分は僕と君をくっ付け隊の人達だけどね)」

 

何気に会員が増えたらしい。清純派な恋が皆お好みなんだそうで…。

え?どうやって調べた?ウチにはアバリス君という優秀なAI君が味方なモンでね。うん。

プライバシーの侵害?そこはホラ、艦長権限ってヤツだからいいの。

 

「何よりあたたかいわ。このフネは」

「そうなるように、苦労した甲斐があったッスねぇ」

 

まぁ乗組員の人間が、まさかあそこまでキャラが濃い連中とは思わなかったけど…。

この俺ですら把握しきれない連中だもんなぁ。

 

「あ!そうそう、私また料理教えてもらったんだよ?」

「タムラさんに?じゃ、またいつか食べさせてもらいたいモンだねぇ、うん」

「ユーリが言ってくれれば、いつでも良いよ?」

「はは、俺の業務も忙しいからな。でも、ちゃんと食わせてくれよ?」

「うん、約束だよ」

 

ちゃっちゃらー、チェルシーはB級グルメを覚えた・・・ってな。まぁウソだが。

 

「さてと、このあったかいフネを守る為に、お兄ちゃんまた頑張ろうかね」

「うん、無茶しない様に頑張ってね?」

「これはまた難しい注文だ…だが、やる価値はある。それじゃまたな」

「うん、またね」

 

エセ紳士風を気取った俺は、そのまま食堂を後にした。

そして戦艦アバリスはラッツィオでの補給を終え、ラッツィオ軍基地へと向かった。

 

 

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第七章+第八章+番外編1+第九章

 

 

 

―――重力井戸制御室―――

 

「ミューズ、トーロどこに行ったか知らないッスか?」

「彼ならトレーニングルームにいるわ…」

「そうか、失礼したッス」

「あ、艦長・・・行っちゃった。今ソコには入らない方が良いのに・・・」

 

***

 

「おーい、トーロは居るッス…ぬがッ!?」

「ん?ユーリじゃねぇか。って、どうした?床に張りついちまってよ?」

 

トレーニングルームに入った途端、曙に乗られたような感覚に襲われた。

 

「・・・・保安部長と連絡が取れねぇって聞いて。たまたま近くを通りかかったから」

「それは解ったけどよ?何で立ち上がらねぇんだ?」

「・・・立てねぇんだよ!!重力もうチョイ落とせこのバカ!!」

 

そろそろラッツィオ軍基地に着くって時に、何で内線が無いとこに居るんだよ。

しかも、重力を調整しやがったな。立てやねぇ上に骨折れそうなんだが?

 

「わりぃわりぃ、鍛錬してる時は誰も来ないからよ?」

「とりあえず早いとこ通常重力に戻してくれ・・・・ミが出そうなんだ」

「げ、解ったちょい待ってろ・・・・よし、解除した」

 

ゲホゲホ、いたたたた。身体中が痛ぇ。

後少し遅かったら、さっき食ったモノと、奇妙な再開をするところだったぜ。

もしくは部屋で溺れ死にってとこか・・・・最悪な死に方だな、おい。

 

「全く、確かに鍛えろって言ったけど、限度ってものがあるッス」

「自分でも何でココまで耐えられるか不思議でならねぇけどな」

「・・・・・まぁ良いッス」

 

呆れてものが言えん。

 

「とりあえず、もうすぐラッツィオ軍基地に着くッスよ?お仕事してくれッス」

「了解艦長」

「全く・・・アイタタ・・・」

 

何で自分のフネん中で怪我してるんだ俺?

とりあえず、大したことは無かったので、ブリッジに向かった。

――――のだが・・・・・。

 

≪ガガガガ・・・ギュィーン・・・ギッコンバッコン!ニュイ~ンモッハジ!!≫

「なんだ?この音」

 

何故か奇妙な音が通路から響いて来た・・・てか、最後の音は何だ?

ん~、別に損傷とかしてないから、フネの修理をしているとかは無いだろうし…はて?

気になった俺は、音のする方へと足を向けることにした。

 

…………………

 

……………

 

………

 

音の元凶は、どうやら倉庫から聞こえてくるらしい。

 

「あれ?確かココは・・・」

 

その倉庫は、ケセイヤさんが“こんな事もあろうかと”と言って作り上げた、

色んなヤバいモノの保管庫だった筈。ちなみにこの間の大砲もココにある。

 

「ま、まさか・・・またなのか?」

 

俺はそう思い、倉庫の扉を手動でそっと少しだけ開けて、中をのぞいてみる事にした。

 

 

「――――――はんちょ~、このシャフトどうするんスか?」

「お?そいつはレールガンのレール部分に代用が効くヤツだな。はの6番に保管しとけ」

「班長、一応デバイスの調整が終わりましたけど、流石に陽電子砲はまずいんじゃ・・・」

「別にタキオン粒子使う大砲作れって言うんじゃねぇんだ。ソレ位大丈夫だって」

「でも基本、廃品ですよ?破壊した船舶から集めたヤツだし」

「ちゃんとスキャンして、強度の方は問題無いって出てるだろうが!」

「この廃品のコンデンサーが、コレだけの大出力に耐えきれますかね?」

「そこら辺は大丈夫だ。コイツはフネの心臓部たるエンジン部分に使われていたヤツだからな」

「しかし・・・何だかなぁ~」

「何ぶつくさ言ってんだ?このキャミーちゃん3世が信用できんとでも?」

「・・・・陽電子砲に、変な名前付けないでください」

 

カラカラ笑うケセイヤさんと、ソレを見てもはや諦めの境地にたどりついた副班長。

どうやらケセイヤさんとその他整備員達が、倉庫の整理と何かの開発をしてたらしい。

 

海賊船を破壊した際に出た廃品の幾つかを、俺に黙って拝借していた様だ。

広いフネだから、俺も全部把握してる訳じゃないけど、こんなことしてたとはね。

 

「いいかお前ら~!後一時間で作業終わらせッぞ!!俺達の合言葉は?」

「「「「こんな事もあろうかと!!」」」」

「良し!作業再開!!」

 

・・・・・・・・・まぁ、少しくらいは目を瞑っておいてやるか。

別に部品の一つや二つで、経営不振に陥る程、生活に困ってないしね。

 

それに皆ちゃんと、ノルマをこなしてからやっているから、レクリエーションみたいなもんだ。

俺がとやかく言う事じゃないかな。うん。

とりあえず邪魔をしない様に、俺はこの場を離れた。

 

「そういや班長?」

「なんだ?」

「このついつい調子に乗って作ってしまった人型機動兵器、どうします?」

「まぁ半分冗談で作ったヤツだからなぁ・・・とりあえず、隅っこに置いていてくれ」

「了~解~」

 

***

 

「データの編集終わりっと…手伝いありがとね?アバリス」

【いいえ、ミドリ。これも私の仕事の内です】

「ふふ、イイ子ですねアバリスは」

【……照れますね】

 

ああ、もう面倒臭いなぁ。

でも艦長の仕事だし・・・難儀やなぁ。

 

「ちわ~ッス」

「あ、艦長」

【艦長、ブリッジイン】

「あ、ミドリさんとアバリスッスか?お仕事ご苦労さんッス」

 

俺は何やら作業をしていたミドリさんを見つつ、自分の席。

まぁ、様は艦長席へ座った。

 

「さてと、もうそろそろラッツィオ軍基地に着くッスね」

「え?あ、はい。そうですね」

【あと艦内時間で、1時間と45分程で到着する予定です】

「ほいじゃ、そろそろクルーに寄港準備を進めるように指示をだしてくれッス」

「了解です。序でに基地司令部に行く人員の選別もしておきます」

「頼むッス。はぁ~だけど、本当は行きたくないッス~」

「クス、頑張ってください。艦長?」

「あ~う~」

【?艦長は行きたくないのに、何故行くのですか?】

「ふっ、男には逃げる事が許されない時があるのさ」

 

ニヒルな笑みを浮かべ、アバリスの問いにそう答える。

オトナのせかいはたいへんなのです。…なんてな。

 

***

 

ラッツィオ軍基地司令部の門兵に話しかけると、すぐさま司令部へと通された。

とりあえずだ、ここら辺は原作通りだったと言っておこう。

若干違ったのは依頼の報酬が、フネの設計図からお金に変化した位である。

 

まぁ簡単に言えばだ、惑星ルード行ってスパイの男から情報貰って来いってお達しである。

惑星ルードに居る男に合言葉言ってデータチップを貰ってくればいいっていう簡単な依頼だ。

そして、軍に睨まれたくないから断れない。なんて、厄介なんだろうか?

 

とりあえず、嫌がらせの仕返しとして、エピタフの情報でも集めてくれと依頼した。

そうそう簡単集まるもんじゃないし、見つかったら見つかったで高く売れるからな。

まぁ期待せずに待とうじゃないか。

 

「あーもう、とりあえずルードに行くッス!」

「まぁ、めんどくさいだろうけど、やるしかないだろうねぇ」

 

ま、そういう訳で、現在惑星ルードに向かっている。

 

「……インフラトン粒子濃度は正常値、機関出力も正常っと」

「しっかし、艦長。何で俺達が軍の使いっ走り何ぞしないとダメなんだ?」

 

航路チャートを確認しながら、リーフがそんな事を口にした。

 

「リーフ、お前海賊で食っていく自身あるッスか?」

「へ?そりゃ必要ならソレ位しますがね」

「俺にはそんな自身無いッスよ。これでも俺はアバリスに乗りこんでる全員の命預かってるッス。とてもじゃないけど、政府に逆らって、狙われながら生きて行く事なんて出来ないッス」

 

毎日警備艇や警備艦隊に追っかけられるような、神経が擦り切れる生活なんて送りたくねェ。

というか、そんな事する為に宇宙に出た訳じゃねぇからな。

 

「そんなもんか?」

「もちろん、こっちにとって不利益にしかならない不条理な命令だったら、絶対に言う事なんて聞く訳無いッス。それどころかそんな命令したヤツをダークマターにでも変えてやるッス。だけど、今回はまだ良心的な依頼ッスからね。出来るだけ政府の人間には協力の姿勢を見せといた方が、後々厄介事が起こらないモノッスよ」

「はは成程、尻尾振っているフリをするって訳だ」

「わんわんって感じッスかね?」

「艦長~犬のモノマネ上手~。かくし芸~?」

「いや、かくし芸じゃ無いッスけど…」

 

エコーさんのどこかズレた発言に、ブリッジの空気がのんびりとしたものに変った。

こういう雰囲気変え方が凄く上手いんだよなぁ、しかも天然でやっているから…。

エコー…恐ろしい子…!!(月○先生っぽく)

 

そんなバカな事考えていると、トスカ姐さんがどこかいつもと違う表情をしている。

どうしたのだろうか?具合でも悪いのかな?まさか生理……。

 

「何か変な事考えなかったかい?ユーリ」

「イイエ、ナンニモ考エテマセンヨ?」

 

あぶねぇ、墓穴掘るとこだったぜ。

 

「・・・・まぁ、あんたの事だから?そうそう利用されるなんて事は無さそうだね?」

「軍相手の事ッスか?はは、利用してくるならコッチも利用してやれば問題ないッスよ」

「ちゃっかりしていると言うか、しっかりしていると言うか」

「いやぁ照れるッス」

「褒めてないよ」

 

さいで。

 

「ん?もうすぐ到着みたいだな」

「早いなぁ、ラッツィオ軍基地出てまだ1時間も経って無いのに」

「一応軍用だからな。EP(Electronic Protection )最大レベルにして、機関出力いっぱいにすれば、一般の船籍なんてめじゃねぇさ」

 

流石軍用、戦闘無しで最大戦速だと、ものすごく速い。

そのまま一気に惑星ルードのステーションにある宇宙港へ入港した。

 

ステーションから惑星に降りて、向かったのは0Gドック御用達の酒場。

というか、指定された受け渡し場所がそこだったと言うだけの話だ。

 

酒場の中は閑散としていた、海賊団が横行しているこの宙域で活動している0Gは少ない。

だから自然と人も少なくなるんだろう。でも目的の人間は人が多かろうが関係なさそうだ。

 

「(普通に軍服着てらぁ)」

 

何せ目的の人物は、普通に政府軍の軍服を身につけている。

一応この近辺は海賊の縄張りなんだから、形だけでも偽装すればいいのに。

 

「ひそひそ(トスカさん、もしかして・・・)」

「ひそひそ(ああ、どう見てもアイツがそうだねぇ)」

「ひそひそ(でもここら辺、海賊の活動圏なのに、偽装しなくても良いんスかね?)」

「ひそひそ(いや、あいつは多分仲介みたいなもんだろう。スパイは別にいるんだよ)」

「ひそひそ(そうなんすか、じゃあとりあえず接触してみますか?)」

「ひそひそ(その方が無難だろうねぇ)」

 

とりあえず、接触してみますか。俺は軍服の男の元へと進んで行き隣に座った。

 

「すみません“ボトル三本奢ります”」

「・・・・・・・スッ」

 

ん、なんぞ?

 

「・・・・マイクロチップ?」

「・・・・・」

 

コイツは・・・届けろって事かい?

俺はそう視線を送る。

 

「・・・コク」

「・・・OK、任せな」

 

どうやら口を聞く気は無いらしい。

それならそれで良い、面倒臭い事になりにくいからな。

 

 

「さて、これでもうココに用は「兄・・・さん?」・・・は?」

 

 

おや?ティータも来ていたのか、というか今兄お兄さんって・・・。

おいおい、もしかして?

 

「このヒト、ティータのお兄さん何スか?」

「ねぇ兄さんなんでしょ?どうして今まで連絡の一つもくれなかったの!?」

「・・・・・」

 

ティータの兄(仮)は一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに無表情に戻った。

しかし、その反応だけで彼らが赤の他人でない事は周囲にはバレバレである。

というか俺、この二人に華麗にスルーされてちょっと涙目。

 

「どうして黙っているの兄さん!ねぇ何か言ってよ!!」

「・・・・・・」

 

この空気に居たたまれなくなったのか、彼は足早に酒場を後にした。

残ったのは、実の兄に拒絶された事にショックを受けている少女だけ。

こういう時に効く薬は・・・・

 

「トーロ、出番ッス」

「幼馴染なんだろう?相談くらい聞いてやんな?」

 

トスカ姐さんと一緒に、トーロの背中を押してやる。

こんな時は最終兵器(リーサルウェポン)、最上の薬『幼馴染』を投入するに限る。

 

最もこの場合は、ていの良い生贄という側面も含んでるんだけどな。

そして、そこら辺は嫉妬深いクルーも理解しているらしい。

 

トーロがティータを慰めに行く際、彼に対しちょっかいを出そうとするヤツはいなかった。

と言うよりかは、頑張ってこいという感じの視線の方が多い。

皆女の子スキー!だけど、厄介事はイヤン!って感じらしい。

 

全く普段の馬鹿騒ぎ好きで、お調子者のコイツらはどこに行ったんだか・・・。

まぁ、そんなこと言いつつもトーロを見送った俺が言う事じゃないけどな!

俺も苦手なんだよ。女の子の泣き顔とか苦しんでるとこって・・・。

 

 

 

「世も末だなぁ」

 

 

 

酒場から出る時、あの兄妹を見てそう呟いたのは、俺だけの秘密。

 

***

 

「ああ艦長、ちょっといいか?」

「ん?何スかサナダさん」

 

フネに乗り込んでラッツィオ軍基地へ向かおうとした矢先。

科学班のサナダさんに、話しかけられた。

 

「この間海賊に襲われただろう?そこでだ、空間ソナーを少し改良して、連中のフネのエンジンが出す特定のインフラトンエネルギーパターンを感知出来る様にしておいた」

「って事は連中から奇襲を受けることは、ほぼなくなったって事ッスか?」

「あの海賊たちがインフラトン機関の出力設定を、ほぼ全く同じにしていたのが幸いだったよ。恐らく同じ整備士たちが調整していたんだろう」

 

成程、それなら確かに探知できる。

 

「わかったッス。それじゃ」

「ああ、ソレと中型レーザーの方も、“我々”科学班が改造を施しておいた。出力は前と比にならないくらい強力なモノとなったぞ?」

 

なんか若干“我々”が強調されているんだが、

サナダさん、ケセイヤさんに【こんな事もあろうかと】を取られたのが、そんなに悔しかったのか?

 

「他にもフネの方の強化もやっておいた。多少費用はかかったが、問題は無いだろう」

「・・・ちなみに、お幾らぐらい?」

「3000Gくらいだ」

 

艦長に相談せずにか・・・ま、いいか。

 

「今回は良いッスけど、次からは報告してくださいよ?」

「ああ、解っている。ケセイヤなどに負けてられんからな」

 

会話がかみ合っていない気もするが、まぁこの人ならそれ程無茶はしないだろう。

もともと3000Gは、科学班全体に回してた予算だし、足りない分は追加を入れれば良いからな。

この程度の出費で、フネの力が上がるなら安いモンだ。

 

「ま、頑張ってくださいッス」

「ああ、解った。任せてくれ」

 

真顔でそう言うサナダさんに、俺はちょっとだけ悪戯をしたくなった。

なので――――

 

「あ、もしかしたら近い内に、新しいフネに変わるかも知んないッスけどね」

「今なんて・・・艦長!?」

 

はっは!さらばだアケチ君!

 

呆けた様な顔をしたサナダさんを見た俺は満足する。

そして、その場にサナダさんを放置して、彼の前から走って消えた。

 

……………………

 

………………

 

…………

 

艦長の仕事を終えた俺。(最近はアバリスが手伝ってくれるので終わるのが速い)

航路に乗ったので、レーダーでの監視レベルを上げて置く事を指示し、ブリッジを後にした。

 

特にやる事が無くても、ぶらぶらと散歩してクルーの様子を見るのも艦長のお仕事である!

・・・と言う風に、理論武装を施し、只単に遊んでいたりする。

 

ちなみに、俺のフネは1000m以上ある戦艦である。

その為、艦内では通路の殆どが稼働式の動く歩道みたくなっていたりする。

未来少年コ○ン(古いなオイ)のイン○ストリアにある動く歩道と同じようなモンだ。

 

もしくは宇宙戦艦○マトの通路かな?

この動く歩道、フネを隅々まで見て回る時に、結構便利である。

やっぱね・・自分の足で歩くとなると、総踏破距離がトンでも無い事になるんだわ。

 

 

「ふ~む、今日はどこに行こうかな?」

 

 

また食堂にでも行ってチェルシーをお喋りでもするか?

でもあんまし彼女のとこに入り浸ると、周囲の誤解がまたものすごい事になりそうだしなぁ。

かと言って、放置するわけにもいかないしなぁ。あの子一応妹だしさ。

 

「おや艦長、道の真ん中で立ち止まってどうしましたかな?」

 

俺がこれからの行動に頭を抱えていると、誰からか声をかけられた。

 

「ム?このどこか人を安心させる御老体の声は・・・機関長ッス!」

「はは、安心させる声ですかな?まぁ長年に生きた年の功と言うヤツですわい」

 

見れば機関長のトクガワさんが、長距離移動用カートに乗ったまま、俺を見上げている。

このトクガワさんは、ロウズで乗り込んだクルーの一人で、ブリッジクルー最年長である。

ロウズでは生き字引と呼ばれ、凄いベテラン機関長で通っていた人だ。

 

何気にこのヒトには逸話が多く、曰く戦艦に乗っていたとか、

星間戦争で英雄の乗るフネの機関長であったとか言う噂もある。

 

何でそんなすごい人が、ウチのフネに乗っているか?

まぁデラコンダの所為で、フネに乗れなくなったって言う簡単な理由だ。

だが何よりも、このヒトの話は為になる事が多いので、他の人からも信頼されている人である。

 

「しかし本当に艦長は何故ここに?この先には機関室しかありませんぞ?」

「いや、やる事が無いのでフラフラしていただけッスよ」

 

機械技術の進歩の盲点ってヤツだ。

艦長がちょーヒマになる。

 

「まぁ、艦長がヒマなのはいい事ですわい」

「そうスかねぇ?」

「そうですとも、艦長がヒマと言う事は、艦内に異常が無いって事ですからな」

 

なるほど、一理ある。艦長の仕事は戦闘指揮もあるからな。

あと船内におけるゴタゴタの解決だとか、裁判官の真似ごとだとか色々と・・・。

 

「ヒマでしたら、機関室でもご覧になりますかな?」

「(そう言えば機関室はまだ自分の目では見て無いッスね・・・)見学しても良いんスか?」

「構いませんとも、艦長はこのフネの責任者ですぞ?何を遠慮なさる事があるんですかな?」

 

そりゃそうだ。

 

「それじゃ、見学させてもらうッス!」

「わかりました。それでは参りましょうか?カートに乗って下さい」

 

俺はトクガワさんの隣に乗り、機関室に案内して貰う事にした。

 

……………………

 

………………

 

…………

 

「ココがフネの心臓部である機関室です」

「ココが・・・ッスか?」

 

カートに揺られ、しばらくして機関室にやって来た。

目の前に広がるのは、オレンジ色の室内灯に照らされた強大なエンジン・・・・。

 

 

 

等では無く―――――

 

 

 

「案外あっさりしたインテリア何スね?」

「艦長がどういったのを想像したかは解らんですが、大体機関室はこざっぱりしとるんですわ」

 

普通にモニターが置いてある部屋だった。

配管とか配線がある訳でもなく、オレンジ色の明かりがある訳でも無い。

言われなければ、ココが機関室とは解らない様な部屋だった。

 

「もうちょっとこう、“フライホイール”的なモノを想像してたんスけどね」

「はっは、そういった部品をむき出しにしていたのは、30世代は前ですわい」

 

げ、そんなに前なのか?

 

「現在の機関は殆どがモジュール化しておりますからな。無駄なスペースが殆ど省かれた所為で、そういったのは全部壁の向こう側ですわい」

 

そう言って、コンコンと壁を叩いて見せるトクガワ機関長。

 

「故障した場合はどうするんスか?」

「機関室専用のマイクロドロイドがおります。ソレらが機関室の整備点検、修理を行っとるんです。実質この部屋は、ソレらドロイドの監視や監督を行う部屋でもあります。もっとも、ブリッジの機関長席で操作可能ですがな」

 

ほへぇー、自動化の波がこんな所にまで・・・。

まぁそりゃそうだよな、現実世界のロケットだって、機関部には入れない訳だし。

 

「しかし、最新型のインフラトン・インヴァーダーは凄いですな」

「そうなんスか?」

 

機関長は、壁のメンテナンスパネルを外して、中を見ながらそう漏らす。

確かランキングが上がったから、ラッツィオで新しい機関部と変えたんだっけ?

 

「それはもう・・この規模で同サイズのエンジンより、40%ほど出力が向上しとります」

「・・・それはスゲェッスね」

 

わぁお、あのエンジンそんなに出力があったんだ。

入れ替える時全然説明見てなかったぞ。

 

「でも、そんな最新鋭のエンジンですら、己の手足のように扱えるトクガワさんは凄いッスね」

「はは、長い事機関長を務めた年長者の勘ってヤツですわい。他の人間でも、頑張れば出来るでしょうよ」

 

いやいや、ご謙遜を・・・。

 

「それでも、そのレベルに到達するのが、凄いんスよ。大抵はそこそこで満足しちゃうッスから」

「はは、そこまで褒められるのは、なんとも恥ずかしいものですなぁ」

「正当な評価を正当に褒めるのは、悪い事じゃ無いッス」

「ふむ、一理ありますな」

 

コロコロとした笑みを湛えつつ、髭を撫でるトクガワさん。

ああ、いいなぁ。コレだよコレ。長い年月を生きた人間だけが出せる悟りオーラ。

こういうオーラ出せる人って、集団の中だと本当に貴重だわ。

 

なんて言うかドシンとした安定感?ついつい喋りたくなっちゃう感じ。

お父さんというかおじいちゃんってゆうタイプかなぁ・・・。

 

「どうかされましたかな?艦長」

「ほへ?・・・あ、いや何でもないッス」

 

あぶねぇ、少しばかりトリップしちまってたぜい☆

 

「そう言えば機関長は、何で機関室に来たんスか?

確かブリッジの機関長席でも、ココの操作って出来るッスよね?」

 

俺がそう聞くと、やわらかい笑みを浮かべながら、トクガワさんはコンソールに詰め寄った。

でも、なんかその笑みは、少しだけ後悔の念が混じっているように見える。

 

「確かに、機関長席でも操作は可能ですじゃ。しかし、機関の調子を知る為には、偶にこうして、機関室に赴き、エンジンの音や振動に異常が無いか調べる必要もあるんですな。機械だよりだと思わぬ事態を招く事もあり得ますからな」

「・・・」

「ワシはとあるフネの機関長をしておりました。当時のワシは、機関の調子を見るというのは、全部機械に任せておった」

 

トクガワ機関長は、此方に背を向けながら昔話を語り始めた。

やべぇ、ものすごく絵になってやがる・・・とか考えつつ、俺は話を黙って聞く事にする。

 

「当時のワシは機械を信用しておったのです。そして信用するあまり慢心を招いたのか、自ら見て回る事を怠った。その結果、ある日フネのエンジンが止まってしまう事件が起きました」

「・・え?」

 

おいおい、ソレは怖いぞ?エンジンが止まるって事は宇宙を漂流するって事じゃないか。

 

「ワシは驚いた。自分が信用している機械が何故突然止まったのかと言う事に・・・。そして機関長席から自分が信用している機械達に指示を飛ばし、原因を突き止めようと頑張った。だが結局、原因が付きとめる事が出来ない。その内にフネの予備電源も落ち、完璧に漂流する事になった。その後は本当に地獄じゃった。薄くなる酸素、水も使えない。艦内の移動も満足に出来ない。最終的には、電源が完璧に落ちる前に発信しておいた救難信号を受けて来た救助艇のお陰で、全員助かったモノの、救助が来る2時間。ワシらは地獄を見た」

 

予備電源が落ちたら、オキシジェン・ジェネレーター(酸素生成機)が使えなくなる。

そうなったら最後、待っている結末は窒息死だ。・・・・うわぁ怖。

 

「それからですな。機械の調子を自分の目で見る様になったのは・・・信用するのも信頼するのも結構、だが忘れてはならんのは、己が確かめてもいないのを信頼信用する事は、愚か者のする事という事・・・ただそれだけの話ですわい」

「怖いッスね。漆黒の宇宙で、エンジン停止だなんて・・・」

「大丈夫じゃ艦長。ワシが生きておる間、フネの機関が止まる事なんぞ無い。させませんとも・・」

「機関長・・・」

 

なんか・・・教訓になる話を聞いたような気がするぜ。

 

「・・・ほっほ、少しばかりしんみりしてしまいましたな?」

「いいや、教訓になったスよ。己から確かめるって事は大切なこと何スね?」

「はてさて・・それは艦長次第ですかな」

 

ヤベぇ、ヤベぇよトクガワさん。あんたマジでなんか悟ってるんじゃね?

 

「そう言えばさっきの話で、エンジンが止まった原因って、結局何だったんスか?」

「なに、非常に些細な事でしてな?そこにある配電盤と同じモノがショートしただけで、自分で見に来ればすぐに解った故障だったんですな。コレが」

「・・・やっぱり点検って大事ッスね」

「全く持ってその通りですわい」

 

日ごろお世話になっているフネの点検は、キチンと行うという教訓でした。

 

「さて、異常も無いのでワシはそろそろ戻りますかな。艦長はこの後どうなさる?」

「う~ん、そうッスねぇ~?チェルシーのところにでも行ってるッス」

「はは、仲が良いのは良き事ですな?」

「そりゃ自分は彼女の兄ッスから、仲いいのは当然ッス!」

「・・・・まぁ、馬には蹴られたくは無いので、なんにも言いませんわい」

 

おい、ソレはどういう意味ッスか?小一時間ほど問い詰め(ry

 

「それでは、失礼します」

「あ、ちょっ!トクガワ機関長!?」

 

ほっほと笑いながら機関室を出て行ってしまった。

ああ、またあらぬ誤解が発生しているのね。オイラ涙目・・・。

 

 

***

 

 

「どうスか?エコーさん・・・」

「・・・・・大丈夫~。空間ソナーにもレーダーにも反応はないわ~。」

 

ふぅ、どうやら無事に抜けられたみたいだな。

 

「しっかしよく気が付いたッスねぇ?エコーさん」

「えへへ、私だってぇー偶には凄いのだ~!」

 

何があったか?どうやら敵さん航路にて待ち伏せをまたしてくれようとしてたらしい。

だけど今回は先にこっちが気が付いたので、迂回路を通る事が出来たってわけさ。

 

「そうッスねぇ。正確にはセンサー類を強化してくれたサナダさんのお陰ッスけど」

「・・・あがー」

 

褒めて落す!コレ艦長の特権也!・・・なんちゃって。

 

「じゃれあいも良いがユーリ、もうすぐラッツィオ軍基地に付くぞ?」

「・・・・はぁ、またあの中佐とご対面ッスか?」

「仕事だと割り切りな。あんたは艦長なんだからね」

「何か前にも似た様な事聞いたからデジャブ~ッス」

「だから、コンソールの上で垂れるな!」

 

ダリの絵みたくとろけて見た。キモイ!

 

***

 

―――現在位置・ラッツィオ軍基地士官宿舎

 

「待っていたよユーリ君」

「どうも、ご無沙汰です中佐・・・さっそくですけどコレどうぞ」

 

俺はデータチップをオムス中佐に手渡した。

どうでもいいが、とっととおさらばしたいぜ。

場所が場所だから、 0Gの俺は目立つんだよなぁ。

 

「ふむ、確かに受け取った。約束の金はコレだ」

「はぁ、どうも・・・」

 

マネーカードを受け取り、士官宿舎から出ようと踵を返した途端。

 

「ああ、待ちたまえ。実はまた仕事を頼みたいのだが?」

「・・・・・何でしょうか?中佐殿」

 

どうやら俺達をとことん使おうというハラらしい。

 

「実はな?この付近を縄張りにしている海賊団の討伐に、君達も参加してほしいのだ」

「・・・・我々を危険な場所に送り込む気ですか?」

「いや、そう言う訳ではない。ただ単に戦力が不足しているだけだ」

 

そう言うと、中佐は空間パネルを開いて見せる。

そこにはなんかのグラフやら数字が・・・・。

 

「・・・・これは?」

「簡単に言うと、今まで観測された海賊団と我々との単純な戦力比というヤツだ」

「僅差ですけど、海賊団の方が高いですね?・・・・つまりはそう言う事ですか」

 

性能は高めだが数が少ない中央派遣軍。性能は全体的に低めだが、数が多い海賊団。

様は少しでもこっちで頭数をそろえたいというところだろう。

 

「頼めるか?」

「・・・・仲間と相談してから決めたいので、少し時間をください」

「ああ、構わない。どちらにしろデータチップの解析が終わってからでないと出撃できん」

「わかりました。・・・それでは」

 

 

俺はこの場を後にした。

 

 

***

 

外に出て、待たされていた皆と合流。

とりあえずオムスの話が話しな為、ブリッジクルー+αを呼んで、会議と相成った。

 

「会議場所は、0Gドック御用達の酒場です」

「どうしたのユーリ?」

「ああいや、なんかこうしないとダメって言う電波が・・・・」

「そんなことより、オムスに何言われたのかさっさと話しな」

 

話の続きを促すトスカ姐さん。

とりあえず、中佐と話した内容をココでばらした。

カクカクシカジカ四角いなんちゃらってな感じ。

 

以下、各々の反応―――――

 

副長 トスカ   「これまた面倒臭い事になりそうだねぇ」

オペ子ミドリ   「艦長の判断に任せます・・・・」

操舵班リーフ   「俺は金と飯と寝る場所さえあれば何にも言わん」

機関室トクガワ  「ココは慎重に考えた方がいいじゃろう」

生活班アコー   「軍に使われてるねぇ」

レーダー班エコー 「アコー姉ぇの~言う事に賛成~」

砲雷班ストール  「海賊相手なら撃ち損じることはねぇな」

科学班サナダ   「性能差ではこちらが勝ってはいるが、数の暴力と言うものは侮れん」

保安部トーロ   「・・・・よくわからん」

チェルシー    「出来れば荒事はやめた方が・・・」

 

――――だそうで、もろ手を挙げて反対もいなければ賛成もいない。

いやどちらかと言えば反対よりなのかな?あんまりいい顔は皆してないしね。

 

この後およそ3時間、酒場に居座って協議を取り行った。

34時間営業(この星の一日の自転周期は34時間)の酒場とはいえ、流石に従業員にジト目で見られた。

く、悔しい・・でも感じちゃう・・訳が無い。

 

 

「・・・・と言うか、何故こんなことで悩んでるッス?」

 

 

考えて見れば、こちとら状況がヤバくなったらすぐさま逃げられる立場なのだ。

しかも行き先は海賊の本拠地、お宝の一つや二つ位有るだろう。

そう考えたら、上手くすれば儲かるし、例え逃げる事になっても前金とか逃げても金は貰えるとかにしておけば・・・・。

 

「―――――と言うのはどうだろう?」

「「「「「「意義な~し」」」」」」

「うんうん、最初の子坊の時に比べたら随分たくましくなったねぇ。コレもアタシの教育の成果か」

「・・・・時折腹黒いよな、ユーリって」

「ユーリ、変わったね。色んな意味で・・・・」

 

若干名、酷い事言われた気がするが、とりあえず条件付きでの海賊討伐に参加と相成った。

オムス中佐とその他にこの事を話すと少しばかり苦い顔をされたが、了承はして貰えた。よし!

 

 

―――――そう言う訳で、海賊討伐及び海賊島制圧作戦が始動する運びとなった。

 

 

準備に時間が掛かる為、我々もその間に装備を整えるという名目で、武器を購入したりした。

そして俺は、一応の保険の為に造船ドックに赴いて、“アレ”の作成を開始していた。

 

出来る事ならば、使わずに済めば一番なんだけどねぇ。

コレ皆には秘密裏にやっているからな。次は俺が“こんな事もあろうかとぉ!”を言うのだぁ!

お金だけは妙に集まったから、お金のある内に作っちまおうというのもあるんだけどね。

 

***

 

 

一週間後――――――。

 

 

準備は終わり、いよいよ海賊討伐作戦が開始された。

エルメッツァ中央政府軍は菱形陣形をとり、俺達はソレの横にポツンと居たりする。

 

事前に決定されたのは、我々は数が少ない為、敵が待ち構えている防衛線を迂回し、

敵の背後から急襲を仕掛けるアンブレラルートを通る事だった。

 

単艦でしかも高性能艦故の策だと言える。

最悪逃げても良いし、俺達は気楽な雰囲気で臨むことにした。

 

 

 

・・・・・筈だったんだけど。

 

 

 

「エコーさん、マジッスか?」

「うん~マジ~。この先の小惑星帯の中に多数のインフラトン機関の反応を検知したわ~」

「恐らくこちらの情報が漏れてたんだろうねぇ。軍の中に海賊のスパイでもいたんじゃないか?」

 

どうやらこのルートを通ることは予めバレていたらしい。

こちらとしても回避したいのだが、今から迂回しようとしても意味が無い。

どう動かそうが減速が足りず、針路上小惑星帯を突っ切る形になってしまうからである。

 

「ココは下手に回避するよりも、全速で突っ切ってしまった方が被害が少ないだろう」

「・・・・全く、逃げられない上にアンラッキーッスね」

「大丈夫だ。このフネの装備はこの間一新させてもらったから、そう簡単には落ちないさ」

「科学班の腕、信頼してるッス」

 

面倒臭い事になりそうだなぁ。

・・・・出来ればまだお披露目はしたくなかったけど。

 

「アバリス」

【はい、艦長】

「コード881でエルメッツァ軍基地ステーションに送信しといてくれッス」

【了解しました】

 

コレで最悪撃沈は回避できるだろう。

 

「何を企んでるんだい?」

「なに、ちょっとした援軍を頼んだんですよ」

 

問題はアレが到着するまで、持ちこたえられればだけど・・・・。

 

……………………

 

………………

 

…………

 

 

「各区画、エアロック閉鎖!」

「散布界パターン入力主砲及び副砲、1番から4番まで全力斉射開始!」 

 

射程が長いこちらから、先に砲撃を行う。

小惑星帯にある隕石をものともせずに、高出力レーザーと陽電子砲が貫いていった。

ちなみに陽電子砲は整備班の連中が勝手に挿げ替えたものである。

 

「インフラトン反応の拡散を感知」

【計測中・・・・敵巡洋艦1隻、駆逐艦3隻を撃沈】

 

驚いた敵は、まるでネズミのようにワラワラと小惑星帯から飛び出してくる。

おお、スゲェ数。流石海賊の本拠地だわ。こりゃ突っ切るのはムズかしいぞ?

とりあえず、砲撃で数をヘラさねェとな。

 

【敵艦、対艦ミサイル発射、弾数30、着弾まで約50秒】

「緊急回避実行!デフレクター出力最大ッス!」

「アイサー、コンデンサーからエネルギーを回します」

 

敵からのミサイル攻撃に回避機動を取るモノの、こちとら1000m級戦艦。

連中の巡洋艦や駆逐艦からしてみれば、相当当てやすい目標であろう。

鈍亀じゃないが、それでもこれ程の大きなフネを動かすのは容易では無い。

 

「ミサイル、扇形に発射されました!必中弾は16!急速接近!」

「アバリスはミサイルの予想進路を!リーフはそれを見ながら回避運動ッス!」

【了解】「アイサー!」

 

ミサイルはレーザー等のエネルギー系兵装より遅いので、回避する事は出来る。

だが、当たってしまえばその威力はかなり大きい。場合によっては反物質弾もあるくらいだ。

通常はそれに対する防御は、自艦の装甲板が頼りとなってしまうのである。

 

しかもミサイルにはAPFシールドが通用しない。

アレはエネルギー系の波長に合わせた防御フィールドを幾重にも張ることで防御する装置。

したがって物理的な手段には対応できないので、大抵は回避が優先になる。

 

「デフレクター、出力最大!」

 

だがそれを回避する手段はある。それはデフレクター、空間を強力な重力場によって歪ませ、

ある種の壁を形成する事により、あらゆる物理的な手段を軽減させる事が出来る。

重力井戸の技術から派生した防御システムである。

 

【ミサイル、デフレクターの効果範囲まであと20秒】

『総員、耐ショック防御、何かにつかまって下さい』

 

オペレーターがアナウンスを艦内に流す。

戦術モニターには、ミサイルを表すグリッドが、アバリス目がけて殺到していくのが見て取れた。

 

「ゴク」

 

思わず生唾を飲み込んだ次の瞬間!

≪バガァァァァーーーンッッッ!!≫

 

大きな爆発。すぐにフネを揺らす程の衝撃波が、アバリス全体に襲い掛かった。

たまらずにコンソールにしがみついちまうくらいの衝撃だ!

 

「ぐぅ・・・報告!」

「デフレクター出力、80%まで低下」

『こちらダメコン室、艦内は異常無しだ!』

【装甲板にも傷ひとつありません】

「約4名、頭を打って医務室に運ばれました」

 

こちらの損害は軽微、だが衝撃波だけでも中の人間にとっては致命的になる事もある。

 

「アバリス!艦内の余剰区画閉鎖!その分のエネルギーを兵装に回すッス!」

【了解】

「ストール!回したエネルギーで、各砲迎撃!ガトリングキャノンも使用を許可するッス!」

「アイサー!腕が鳴るぜい!ポチっとな!!」

 

大中小の各種高出力レーザー砲、両舷のリフレクションレーザーカノン、

そして何時の間にか外装が付いてしまったガトリングキャノンが散布界広めで発射される。

単艦だが強力な火力、それによる弾幕は艦隊相手に引けを取らない。

 

「エネルギーブレット、敵1番から5番艦に命中、全大破!」

「次弾チャージが終わるまで、回避機動を崩すな!止まれば穴だらけだぞ!」

「敵残存艦、ミサイルを発射・・・!?敵増援を確認!数は10!!」

「クソ、キリが無さそうッスね!敵がこちらを射程に収める前に沈めるッス!」

「アイサー、両舷リフレクションカノンの照準は増援に向ける」

 

なんか馬鹿に敵艦が多いような気がする。

もしかして俺達がこっちに廻る事もばれていた?

だとしたら・・・・一杯来るわなぁ・・・恨まれてそうだモン。

 

「ガトリングキャノンのエネルギーがチャージし終わるまで、各砲独自に応戦せよ!」

「砲雷班アイサー!」

 

こちらの性能は高いが、数の暴力相手は酷いと思う。

この後も迎撃を続けるがあまりに数が多過ぎて、決定打にかけてしまう。

 

 

 

 

――――そして戦闘開始から3時間あまりが過ぎ、クルー達に若干の疲れが見え始めていた。

 

 

 

 

 

『各クルーは第3班と交代してください。繰り返します――――』

 

次の敵の増援が来るまでは約1時間程だろう。

子の時間を利用して艦内アナウンスで今まで戦闘をしていたクルー達を交代させる。

 

マンパワーが低下すれば、その分戦力も落ちてしまう。

彼らにはしばらくタンクベッドに入って休憩しておいて貰おう。

まだまだ戦闘は長引きそうである。

 

「ユーリ、敵が来るまで少しある。今の内に休んでおきな」

「・・・・了解、ココは任せるッス」

「ああ、まかされたよ」

 

とか言う俺も、トスカさんに指揮を任せて少しばかり休ませてもらう。

まさかこれほどまで長丁場になるとは予想だにせんかった。

中央政府軍の奴ら、海賊の戦力を侮っていたのかな?

 

「ミドリさん、政府軍の戦況は?」

「少し待ってください・・・・どうやらこう着状態みたいですね」

「ふむ、こちらとおんなじッスか」

 

どうやら予想外に海賊たちは奮戦しているようだ。

政府軍と互角に戦っている。こうなると不利なのは――――

 

「数が少ない分、政府軍の連中の方が不利だねぇ」

「やっぱりトスカさんもそう思うッスか?」

「ああ、全体的に戦力が同じなら、数が少ない方が持久力が無いのは明白だからね」

 

こちらも後一隻分の戦艦があれば、子のこう着状態を打破できる。

だが、そんなフネを持っているヤツはウチを除いてはこの宙域には存在しないだろう。

・・・・・大海賊ヴァランタインなら知らんけどね。まぁ助けにはこないだろう。

 

「――――じゃ、長丁場になりそうッスから、俺すこし休むッス」

「ああ、よ~く寝な。その間に終わらせちまうからさ」

「いいッスねぇ、それじゃトスカさんお願いします」

「ああ任せな」

 

俺はフラフラしながら艦長席を立つ。

トスカさんからの軽いジョークに返事をしてブリッジを出ようとしたその瞬間―――――

 

「敵増援、第4波確認!」

「・・・・どうやら、おちおちと寝かせてもらえない見たいッスね」

 

ゲームよか多過ぎでしょう?何この叩いても叩いても湧いてくる感じ?

雲蚊の如く大軍って事ですかい?

 

「・・・・アバリス」

【はい、艦長】

「アレは・・・・まだ?」

【もうこの宙域に入りましたので、後少しで到着するかと】

 

よし、それなら勝てる。

 

俺はある事をアバリスに確認し、コンソールのある艦長席に舞い戻る。

ガトリングキャノンは現在冷却中だから、元の兵装達で勝負するしかないな。

 

「各砲門開け!迎撃準備!リフレクションレーザー発射・・・・」

「後方よりアンノウン反応~!1000m級です~!!」

 

エコーの焦った声がブリッジ内に木霊する。

突如現れた1000m級、周り中敵だらけの今の状況だ。

敵であってもおかしくは無い。

 

「くっ!海賊どもがそんな艦を持っているなんて聞いて無い!」

「政府の奴ら・・・・まさか情報を小出しに?」

 

途端ブリッジクルーの間に動揺が走る。コレはまずい。

 

「落ち着くッス!ブリッジはフネの頭、ここが動揺したらフネが機能しないッス!」

「だ、だがよぅ!」

「アンノウン、インフラトン反応上昇中!砲撃を行うようです!!」

「「「な、なんだってー!!」」」

 

余計に混乱するクルー達、あーもう。

 

「アンノウンからエネルギーブレッドがは発射されました!!」

「い、いかん!デフレクター嫌さAPFSを!!」

「それよりもかいひ~!!」

「だいこんらんです!だいこんらんです!」

「リ、リーフが壊れたぁぁ!!」

 

うわ、もう目も当てらんない位のカオスっぷりだわさ。

 

「な、何でユーリはそんなに落ち着いているんだい?」

 

トスカ姐さんも若干混乱しているようだ。

いや、だってねぇ?

 

「だってアレ、敵じゃないし」

「「「「・・・・はぁ!?」」」」

 

 

 

ざ・わーるど☆そして時は動き出す!

 

 

 

【エネルギーブレッド、本艦右舷を通過して敵艦隊に向かいます】

「え?本当に敵じゃ無い?え?え?」

「どうなってんの?馬鹿なの?死ぬの?」

「艦長・・・・説明をお願いしてもらってもいいか?」

「・・・・やぁバーボンハウスにようこそ、このテキーラはサービスだから落ちついて欲しい」

 

 

つまりはそう――――またなんだ。

 

 

「ユーリ!また秘密裏に戦艦作ったね?!」

「いえすおふこーす。こんな事もあろうかと、増援作っておきました!」

 

言ってやった。こんな事もあろうかとを!

いや、艦長が言うべきセリフでは無いのは解りますから、そんな冷たい目で見んといて・・・。

 

「ま、とりあえず状況を打破する為にやっちゃおう?ね、ね?」

「・・・・ユーリ、後で折檻な?」

 

なして!?とか思いつつも、俺は指示を下す。

 

「アバリス!ズィガーゴ級新造艦ユピテルと共に挟撃を開始!操作は任せる」

【了解しました】

 

こうして、俺達は新造艦との共闘で戦闘を有利に進め、防衛線を突破する事が出来た。

ちなみに新造艦だけど秘密裏に作ってたので、乗組員は乗っておらず現在ユピテルは無人艦。

操作は全部アバリスに頼んでいたのでした。

 

ご都合主義?上等じゃねぇか。

こんくらいしねぇと相手が多すぎたんだよ!!

とりあえず、一気に戦力が上がったので、俺は休憩させてもらう事にした。

 

 

***

 

目が覚めたら本拠地でした。え?何コレ?

 

「お、目が覚めたのかい?」

「というか、何故にもう最終局面?」

 

どうやら予想外に俺が秘密裏に作ったフネは強かったらしい。

無人艦だからってデフレクターとAPFSに頼って吶喊させたら敵総崩れ。

残敵わずか、撃ち放題でウマウマだったんだそうな。

 

まぁ0Gドックランキング10位に入ってるヤツだからソレもそうか。

で、同じ様にして、政府軍の連中とやり合ってたやつらを背後から強襲。

同じくウマウマな状況になり、現在に至るっと。

 

「なんというゴリ押し。だがそれが良い」

「なんか言ったかいユーリ?まぁいいけどとりあえずスークリフブレード装備しな」

「え、なして?」

 

あれ?そう言えばあの剣どこに置いといたっけ?

 

「なしてって、あんたも下に降りて白兵戦するんだよ」

「げぇマジッスか?」

「そう言うこった。さぁとっとと準備しな!」

 

艦長だけに俺が行くことは確定しているようである。

うわぁ、めんどくさい~とか考えつつも自室に向かった。

 

 

 

***

 

 

軌道ステーションの敵は、お世辞にも強いとはいえなかった。

一斉射撃の後、保安員達の突撃によりガタガタにされ、すぐに殲滅されてしまった。

もっともトーロの動きが一番凄かったりする。重力5倍で鍛えたのは伊達じゃ無かったらしい。

何気に銃撃とか避けてたし、お前はどこの侍マスターだ?流星の剣でも持ってるんかい?

 

「バズーカ!バズーカ!グレネードも持ってけ!!」

「「「うわぁぁぁぁぁ!!」」」

 

俺は俺で武器庫から適当に持ちだし撃ちまくっている。

ちなみに弾頭はトリ餅弾、スプラッタは嫌ズラ。

 

ブラスターもパラライズモードとかいう非殺傷モードがあるんだけど・・・。

俺はロマンを優先したぜ!バズーカは漢のロマンです。

 

「ふははは!この世の春が来たぁぁぁ!!」

 

そんな訳で、海賊をある時は吹き飛ばし、ある時は地面に貼り付けて奥へ奥へと向かっていく。

当然忘れてはならない事を、俺は別動隊に指示しておいた。それは――――

 

『艦長!ありましたぜ!お宝の山だ!』

「デカしたッス!ルーイン!!」

 

海賊の本拠地にあるお宝の奪取、戦利品扱いだから文句は言わせません。

AIドロイドも総動員して、人海戦術で運ばせておくよう指示を出した。

 

ちなみにお宝と言っても金銀財宝などでは無く、大抵がレアメタルなどの鉱石だ。

報告の中には、軍の試作パーツとかも含まれてるっぽいから、サナダさん辺りが狂喜乱舞だろう。

おそらくケセイヤさんも一緒になって騒ぐに違いない。

 

そんである程度占領出来たんだけど、敵さんの武器庫近辺で反撃が強いらしい。

敵の司令官がいる所は恐らく武器庫を越えた先にあるから、どうしてもここを通過せにゃならん。

何かブチ壊しに良いのねぇかなぁ?と探していると俺はとてもいいモノを見つけてしまった。

 

「ウホ、いい軽装甲車♪」

 

どうやら海賊たちの戦利品として倉庫区画にあったヤツらしい。

ちなみに倉庫区画は武器庫のすぐ隣だ。

 

「爆弾しかけてアクセル全力全開!!」

 

いやぁオートクルーズは便利です。

そう言う訳で、軽装甲車を武器庫目指して走らせた。

 

軽装甲車は敵に撃たれて炎を拭きながらも前進していく。

敵さんも慌てて武器庫から対戦車装備を持ちだしたが、時既に遅く武器庫の中に突入!

 

そして乗せといた爆弾が爆発し武器庫ごと吹き飛ばしてしまったのであった。

海賊が何人か巻き込まれて吹き飛ばされてたけど、気が付かない事にした。

 

「よくやった、軽装甲車。お前の事は3秒は忘れない・・・」

「バカやってないでいくよユーリ」

「・・・・最近突っ込みが来なくなった。俺は寂しいッス」

「ふっ、一々突っ込み入れたら疲れるからねぇ。放っておくのが一番さ」

「対処法を学習された!?」

 

どうやらトスカ姐さんは俺の想像以上に成長を遂げた様です。

俺を置いて先に行ってしまった。アグレッシブな人だねホント。

こんな感じで重要そうな所は爆破し、貴重品は猫ババして、俺達は奥に向かっていた。

 

尚、中央政府軍の連中は連中で敵の動力部の制圧に向かっていた。

何気にこの本拠地は人工衛星というかコロニーみたいなもんだ。

追い詰めた海賊が自棄になって自爆とかされたらかなわないからね。

 

そんな訳で、戦闘はウチのフネの連中に任せて、俺は遊撃って事で結構好き勝手やっていた。

ここの海賊団何気に趣味が良いらしく、強奪品の中にビンテージのお酒とかが入ってた。

当然頂く、戦利品♪戦利品♪お前の物は俺の物、俺の物は俺の物。ジャイアニズム万歳。

 

『ユーリ!こちらトーロ!敵の親玉を発見したぜ!』

 

――――っと、どうやら敵の親玉の位置を特定出来たようだ。

戦利品集めを一度中断させないといけないらしい。

俺はトーロに了解と言って、敵の親玉の元に向かった。

 

………………

 

…………

 

……

 

他の皆と合流した俺は、海賊団の親玉の居る部屋の前に来ていた。

なんかみんなで入り込もうとしてるけど、俺はそれに待ったをかける。

入った途端撃たれたらかなわんし、ココはセオリーに従って無力化してからにしないかと。

 

どうやら戦闘で気が高ぶっていた様で、少し落ち着いたみんなは了承してくれた。

そんな訳で俺はケセイヤさん特製、閃光音響手擢弾(非殺傷はーと)を取り出し、

ちょっとだけ開けたドアの隙間から10個程投げ入れた。

 

そして扉を閉める!俺は耳を塞ぎ口を開けた。その途端大きな破裂音が鳴り響く。

爆発した10発の大音響が消えた所を見計らい、俺はそうっと扉を開けて見た。

閃光音響手擢弾の所為で、若干煙が出て見にくいが、どうやら無力化に成功したようだ。

 

ボスの居たココは、それ程広い部屋では無かったらしい。

逃げ場も殆ど無く、そんなところに音響弾・・・・うわぁ死ねるわ。

まぁそんな訳で、気絶した馬鹿をこちらは無傷で捕獲出来た。

 

・・・・序でにルードで出会った軍人さんも回収しておいた。何でこんなとこにおるんやろ?

なんかイベントを一つクラッシャーしちゃった様な気もするけど、まぁ良いか。

ローリスクハイリターンが一番いいよね!こっちは戦利品でウマウマだし!

 

 

そんな訳で後処理は政府軍に任せて、俺達は戦利品と共に海賊の本拠地を後にした。

 

 

***

 

今回の闘いでは、戦利品だけでもウマウマだが、軍からの報酬も頂かんといけない。

新造艦ユピテルを導入したは良いけど、お陰で戦利品の利益入れてもプラマイ0なんだよね。

なの、一応頑張った手前、貰える物は頂いておかないと勿体無いってワケ。

 

 

そんな訳でラッツィオ軍基地に来たんだが―――――

 

「はぁ?報酬は払えない?」

「ソレは正確では無いな。君たちに見合う報酬がココでは用意できないのだ」

 

まぁ、ココは辺境の基地みたいなもんですから、あんまりいいモノは無いでしょうな。

 

「そう言う訳で、一度エルメッツァ中央にあるツィーズロンドに来てほしい。そこで報酬を渡そう」

「はぁ、了解です」

 

どうやらお隣の宇宙島へいかなければならない様だ。

まぁ次の目的地はエルメッツァ中央だったから、丁度良いっちゃ丁度良い。

どちらにしろ、しばらくこの宇宙島で狩りは出来なさそうだしな。

 

「まぁ後、私個人から頑張ってくれた君へと報酬を渡しておこう」

「いや、頑張ったのはクルーです・・・・何故近寄って来るんです?」

「ふむ、確かに優秀なクルー達のお陰でもある。だがそれを指揮した君も素晴らしい」

 

な、なぜゆっくり近づいてくる!!ま、まさか!!

 

「い、いや報酬は後でツィーズロンドで・・・!」

「遠慮する必要はない!さぁ受け取りたまえ」

 

 

 

そしてオムス中佐の大きな手が・・・・俺を・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・データチップ?」

 

別に何かされた訳では無く、彼の手から渡されたのは、ちいさなデータチップであった。何ぞコレ?

 

「君は若い、そして可能性がある。その可能性を引き出してもらいたいと私は思ったのでね。そのデータチップの中には艦隊指揮に付いての指南書みたいなモノが入っている」

 

・・・・・ようは、もっと勉強しろって事ッスかい?だんな。

 

「ま、まぁ良いでしょう。ありがたく受け取っておきます」

 

俺はデータチップを懐に納める。

いやはや、一瞬ナニされるかと思ったぜい。

考え違いでよかったぁ。

 

「それじゃ、次会う時はツィーズロンドで」

「ああ、また会おう」

 

こうして俺は隊舎を後にした。

 

***

 

軍基地から戻った後、俺は艦隊を編成し直すとして、旗艦をユピテルへと変更する事にした。

より強力なフネへと乗り換えるのは、当然と言える。というかそれが醍醐味だしね。

 

尚、アバリスの方は随伴艦として、ユピテルの前衛を務める事になった。

コレに戦闘には参加しないが、駆逐艦クルクスが工作艦として追随する形となった。

 

――――これに伴い、それなりに色々とやることがあった。

 

まずクルーの移動、やっぱり人手不足な我が艦隊、今回も人員の補給が間に合わなかった。

仕方が無く、アバリスは改装してCUと直結刺した無人艦として機能する運びとなった。

人間が載っていないので、運転はAIドロイド任せとなるが、しばらくはしょうがないだろう。

 

他にはAIアバリスを基盤ごとユピテルに移動させた。

コイツも今では立派なクルーの一員だし、アバリスの持つマトリクスは、

もはやコピー出来ないくらい成長を遂げていたので、基盤ごとのお引っ越しとなったのである。

 

ちなみに随伴艦となるアバリスとの混同を防ぐ為、新しい名前を艦内で募集する運びとなり、

現在審査中である。結果は後々伝えることにする。

ソレと、収容した軍人さんの引き渡し。

なんとあの基地に居たのはティータの兄のザッカスさんだったのである。

 

どうやら情報はこのヒトから漏れていたらしく。

医務室のサド先生の診察では、強力な麻薬とナノマシンで操られていたとの事。

このフネでは治療は出来ないので、軍の方で治療して貰う為引き渡したのであった。

 

そんな訳で、現在我がユピテルはステーションで足止め中。

しかも本拠地で手に入れた軍の試作パーツの所為で、ウチのマッド2名が燃え上がっており、

フネの改造を行っちゃってくれているので、出港には更に時間がかかると思われる。

 

一体どんな風に改造するんだろうか?

・・・・まさか、某異星人の技術を利用したフネみたく、ロボットに変形とかは無いよな?

いや、アレもロマンですけど、今のフネだとちょっとキツイからなぁ。

 

まぁそんなこんなで、みんなが頑張る中、書類の決算以外やることが無い俺。

なので今日もまた、新しくなった旗艦の中を散歩しているのであった。

 

 

 

――――別に新しくなったから迷った訳ではないと述べておく。艦長の威厳の為に

 

 

***

 

スカーバレル海賊団を倒し、アバリスからユピテルという新造艦に乗り換えた俺達。

フネの改装も兼ねて、しばらくこの宙域に留まることとなった。

 

さて、突然だがアバリスは元々大マゼラン製の大型戦艦に分類されている。

バゼルナイツという艦種で、以前からロンディバルドの主力艦を張っている優秀艦でもある。

簡単に言えばどんな状況にも対応できる優秀な器用貧乏って訳だ。

 

そして、今回手に入れたユピテルは、元々大マゼランの海賊団が保有している艦と同型艦である。

拡張性も高く、対艦戦闘も対空戦闘もこなせる大型戦闘空母なのである。

 

 

―――さて、お気づきになった人もいると思うが、ユピテルは戦闘空母・・・本来空母なのである。

 

 

俺としては戦闘空母と聞くと、某蒼い顔をしたデスラ○総統を思い浮かべるんだが・・・。

まぁそれは置いておくとしてだ。何が言いたいのかと言うと。

ユピテルは航空母艦でもあると言う事である。まぁそんな訳で――――

 

 

「航空母艦なんだから、艦載機の一つでも欲しいよねぇ」

 

 

――――と、この間ついブリッジで漏らしたのがいけなかった。

 

***

 

「で、こうなる訳か・・・」

「ん?どうしたのユーリ?」

「ううん、何でも無いよチェルシー」

 

俺は目の前で繰り広げられ様としているイベント見る。

 

『第一回ユピテル搭載機のトライアルを開催します!』

 

――――つまりはそう言う事だ。

 

今日はフネに乗せる艦載機、ソレのトライアルが行われるのである。

場所はステーション近くの宙域で、そこの映像をステーションのホールに映して貰っている。

ステーションには事前に許可を得ているので問題は無い。

 

『今日は何と科学班班長のサナダさんが解説に来てくださっております』

『よろしく頼む』

 

・・・・何してんだあんたは。

 

『さぁ今回のトライアルでは、整備班の人達がそれぞれチームで機体を製作したらしいです』

『必要とされているのは、機能は勿論、整備性やコスト、耐久性も考慮されるだろう』

『ではそろそろ、各グループの機体の紹介をさせていただきます』

 

進行役がそう言うと、大型スクリーンに映像が映る。

・・・なんかすごく見た事ある形。

 

『幾つになっても男は子供!?夢とロマンを忘れない!最初の機体は何と人型です!!』

『人型タイプには、人間と似たような動作をさせられると言う利点がある。フネの作業機械の代わりも出来るだろう』

『そう言う訳でエントリー№1!帆歪徒・具凛兎です!』

 

スクリーンに投影されたのは、白い色が美しい上に兵器としての質感を失っていないフォルム。

―――ってAC4のホワイト・グリントまんまじゃねぇか!なんでヤンキー風!?

 

『何でも艦載機としては異例のデフレクターとAPFSを搭載した機体だとか』

『それだけでは無く、脳と機体の統合制御体と直結させる事で、恐ろしいほどの性能を得たらしい』

 

ほっ、流石にコジマ粒子は搭載していないか。

つーか、そんなんついてたら、危なっかしくてフネに乗せられんわい。

 

『―――っと、ココで新たな情報が!棄権するそうです』

 

え、なんで?本物と同性能だとするとホワイト・グリント、凄く良い機体じゃん!?

 

『どうやら神経に直接つなぐという行為が出来るパイロットがいないらしい』

『機体はあっても動かせる人間がいなければ話になりませんねぇ』

 

そういえば、そう言った事が出来る人間って大マゼランのジーマの人間くらいだっけ?

それじゃあ小マゼランのこっちで運転できる人間なんていないじゃん。

・・・というかそんな欠点、設計の段階で気付けよ!

うわぁ~意味ねぇ~・・・・おいおい待て待て、ならどうやってアソコに運んだ?

 

『では、気を取り直して!艦載機?それはやっぱりこの形!飛行機型の登場だ!』

 

どうやら帆歪徒・具凛兎は流されたらしい。

続いてスクリーンに映ったのは、オーソドックスな戦闘機の形。

どこかF/A-18ホーネットにシルエットが似ている気がする。

 

『全てにおいてオーソドックス!宇宙の虎!エントリー№2!コスモタイガーⅡの登場だ!』

『ちなみに原型はエルメッツァ中央軍が売りだしている戦闘機のビトンだ』

 

ああ、確かにカタログ上の姿と大分近い・・・か?

もはや別物というか、マジで別物の気がするんだが・・・。

と言うか、Ⅱ?ⅠはどこにいったⅠは?

 

『続いては、人型?戦闘機?ゴメンどっちも欲しかった!一機で二機分美味しい!』

 

お次は同じく飛行機型、かと思いきや・・・。

 

「あ、変形してくよユーリ!人型になっちゃった」

「う、うん。そだね」

『エントリー№3、ヴァリアブルファイター0“フェッニックス”の登場だ!』

 

ってVF-0フェニックスかよ!マクロス0の機体じゃん!!

ていうかアレ大気圏専用機だったじゃん!何で宇宙飛べるの!?

・・・まぁ原作でもエンジンさえ変えれば宇宙を飛べたらしいけど。

 

『原型はビトンのアーパーバージョンのフィオリアだ』

 

いやどう見ても、もはや別物でしょ?あれは。

 

『そしてお次はいよいよ最後のエントリーだ!』

 

たったの3機か・・・まぁそれでも良くココまで思いついたもんだ。

しかし何でもありだな。この際ガンダム出てももう驚かんぞ?

 

『小さなボディは機能美あふれる人型!エンジンが無い!?エネルギーは母艦から送信!』

 

・・・・・・・滅茶苦茶、嫌な予感。

 

『エントリー№4!お花の名前を貰いプロト・エステバリスの登場だぁぁぁ!』

『エンジンを外すと言う大胆な発想によって、コストとダウンサイズを計ったか。やるな』

 

見れば他の機体よか半分程度の大きさのロボット・・・エステバリスがそこに映っていた。

・・・・いや、コンセプトは良いけど、アレ母艦防衛にしか使えないじゃん。

 

宇宙みたいに広大な空間の中で、紐付きの護衛何ぞ意味が無いぞ?

おまけに重要なエネルギー供給の手段は?重力波のアレなんて作ったのか?

 

え、マジで作った?デフレクターの応用?マジ?

偶にスゲェな整備班。趣味もココまで行けば立派な技術だわ。

・・・・それなら重力波砲作ってほしかった。もしくは相転移砲。

 

ちなみにI(イメージ)F(フィードバック)S(システム)は付いていないそうです。

付いているのは、脳波スキャニングを利用した簡易シンクロシステムだけ・・・。

 

―――ってソレも十分に凄いんですけど!?

・・・ホワイト・グリントの連中にも貸してやればよかったのに。

 

***

 

しばらくしてトライアルが始まった。まずは戦闘機において重要な運動性のテスト。

試す方法は簡単、障害物のあるコースをレースして貰うだけだ。

ときたまアクシデントとして、隕石接近を模したカラーボールや模擬弾の銃撃が行われる。

 

パイロットの腕もいるが、何より機体の性能が試されるてるとでもある。

アホなパイロットが扱っても生還出来るのは、かなり高性能であると言う事だ。

 

『各機体位置について・・・よぉいドン!っと言ったら始めてくださいね?』

『何機かフライングしたな』

 

 

・・・・それにしても司会進行役とサナダさんの二人、ノリノリである。

 

 

『では、改めまして・・・ようい』

 

 

各機、一斉にエンジンをふかし、スタートに備えた。

 

 

『ドンッ!!』

 

 

その言葉と共に、一斉にスタート地点から飛びだして行く機体達。

行く先にあるのはデブリ帯を模した、カラーボールの浮かぶ空間。

浮いているカラーボールを浴びずに、どれだけ上手い事動けるかが勝負だ。

 

『さぁ各機一斉にスタートいたしました。この先には魔のカラーボール地帯があるわけですが、解説のサナダさん。どう見ますか?』

『スピードという点からすれば、コスモタイガーⅡが一番だろう。だが回避性能と言う意味では、他の二機に利点があると言える。機動性が問われるところだな』

 

既にコスモタイガーⅡとファイターモードのフェニックスの二機がプロト・エステを追い抜き、

カラーボールが漂う地帯へと、入り込もうとしていた。

 

『おおっと、流石に全速はキツイと判断したか?二機ともスピードを落としています』

『どちらもそれなりに大きい。あの大きさで突っ込むのは無理だろうな』

 

そうこうしている内に追い付いたプロト・エステバリスは、減速した二機を追い抜いた。

そしてそのまま加速し、カラーボール帯の中に突っ込んでいく。

 

『どうしたのかプロト・エステ!いきなり暴走か!?』

 

 

プロト・エステはそのままカラーボールに当たる・・・事は無かった。

身体をひねったり、腕を動かしたりして、アクロバティックな動きで避けている。

 

 

『能動的質量移動姿勢制御だな』

『な、なんです?その舌噛みそうな名前?』

『言葉通りの意味だ。手足を動かす事で質量を操作し、姿勢制御をおこなう』

『はぁ、それが何か意味あるんですか?』

『姿勢制御用の燃料がそれ程要らない。人間型の利点と言うヤツだ』

 

 

あれ?アンバックシステムはガンダムじゃ・・・・まぁ良いか。

そうこうしている内に、今度はフェニックスが変形を始めた。

てっきり人型になるのかと思いきや・・・。

 

『うわぁ、何と言っていいやら、飛行機と人型の中間?・・・と、資料が届きました』

『ふむ、アレは中間形態の“ガウォーク”だ』

『サナダさんに先にいわれてしまいましたが、その通りです。これにより能動的…えーと』

『能動的質量移動姿勢制御・・・言い辛かったら略称のアンバックと言えばいい』

『捕捉ありがとうございます。これによりフェニックスはアンバックも扱えるようになりました』

 

どうやら、三段変形もしっかり作られているらしい。

・・・まさか整備班の中に俺と同類なんていないだろうな?

オリジナル機体が出てこないんですけど?ある意味オリジナルだが・・・。

 

そうこうしている内に、折り返し地点に近づいていく3機。

カラーボール地帯で他の2機を引き離したプロト・エステだったが、

持久力の無さで追い付かれてしまった。

 

しかもエネルギー供給の重力波がカラーボールにさえぎられて上手い事供給出来ないらしい。

ふむ、既にこの段階で、どれを落すのか決定してしまったな。

動けない兵器に意味は無いんだから、その分自立でエネルギーを持っている2機はマシだろう。

 

『おーと!折り返し地点にてエステが止まりました!これはトラブルか!?』

『いや、機能停止している所を見ると、内蔵バッテリーが切れた様だ』

 

そして折り返し、内蔵バッテリーが切れてしまったプロト・エステはココでリタイアだ。

他の二機は別のルートでスタート地点へと向かっている。

同じ戦闘機タイプでも、直線ではコスモタイガーⅡの方が早い様だ。

 

 

『さぁココでアクシデントその一!隕石の来週だぁぁぁ!』

『来週では無く、来秋だ』

 

――――いいえ、正確には来襲です。

 

まぁそんな言葉遊びはともかくとして、隕石を模したカラーボールが次々と発射される。

かなりの数の隕石カラーボールが二機に迫るが・・・。

 

『あやや、存外簡単に避けられてしまいました』

『まぁ宇宙では隕石なんて日常茶飯事、アレくらい避けられなくては意味が無い』

『しかし、それではお茶の間の皆さんが面白く無いですよ?』

 

それにしてもこの司会(ry

ソレはさて置き、更にスピードを上げる2機、まさにデットヒートと言ったところだ。

 

『では、気を取り直してアクシデント第二弾!銃撃戦をかいくぐれスタート!!』

 

今度はミサイルやレーザー、模擬弾が2機に襲い掛かる!

だが2機の性能はかなりいいのか、コスモタイガーⅡは舞い落ちる葉っぱの如くにかわして行く。

一方のフェニックスの方は、変形機構を余すことなく使い、やや強引ながら確実に避けている。

 

そして、疑似的な戦場をかいくぐった2機は、そのままスタート地点へと滑りこむ!

結果は―――

 

『結果は―――同着!同着です!何と言う事でしょう!』

『コレでトトカルチョは親の総取りと言ったところか』

 

いや、賭けゴトしてたんかい。(ズビシッ)

 

結果、この二機が最有力候補となった。どちらも一長一短あり、素晴らしい性能である。

現状で手に入る既製品(レディメイド)の機体よりかはずっと性能が上であろう。

おまけにフネにはマッドが何人もいるみたいだから、どんなことになるか・・・。

 

『さぁ早いようですが、次のトライアルへと進みます』

『と言っても、次が最後だ。やる事はとても簡単、模擬戦をして貰う』

『両機とも、基本の装備のみでの闘いです』

 

確かコスモタイガーⅡはパルスレーザーとミサイル。

VF-0フェニックスはバルカンポットとマイクロミサイルと頭部レーザー機銃だったな。

コレはフェニックスの方が有利か?

 

『両機が指定されたエリアに入り次第、模擬戦は始まります』

『特殊装備はどちらも積んでいない。装備も総合的には似たり寄ったりだ』

『はたしてどちらが模擬戦の勝者となるのでしょうか?ソレではレディー、ゴー!!』

 

両機がエリアに入った途端、切って落とされる火ぶた。

一気にトップスピードまで加速した飛翔体が、宇宙空間を翔けて行く。

 

『どちらも早いですが、若干コスモタイガーの方が早いみたいですね』

『速さは機動戦ではかなりの武器となる。好きなポジションに移動しやすいからだ』

 

最初にバックをとったのは、コスモタイガーⅡ。

振り切ろうとするフェニックスを、己の持つ高速を生かして振り切らせようとしない。

右に逃げれば右に、左に逃げれば左にと、まるで影の如く追いすがる。

 

『おおっと!さっそくフェニックスが背後を取られたァァァ!!』

『ミサイルは対空ミサイルだから、避ける事は困難だろう』

 

≪バシュ、バシュ≫

 

そして翼下のパイロンに付けられたミサイルを発射する。

時間差を置いて2発発射されたミサイルは、獲物を狩る猟犬の如くフェニックスに迫った。

回避しても回避しても、ミサイルのセンサーが優秀なのか振り切れない。

 

『おおっと、フェニックスが避けない!コレはどうした事かぁ!?』

『トラブル・・・と言う訳でもなさそうだ』

 

するとフェニックスは諦めたかのように、ひたすら直線に加速していった。

普通なら回避行動に移るはずである。しかし、フェニックスは避けない。

燃料切れでも待っているのだろうか?

 

しかしミサイルは徐々にフェニックスに追い付いていく。

このままでは燃料切れを起す前に、ミサイルが当たってしまう事であろう。

だがフェニックスはそのまま直線を取り続けていた。

 

何が目的なのかは不明。しかし、その理由はすぐに明らかになった。

ミサイルがギリギリまで近づいた途端、いきなり急旋回を行ったのだ。

 

重力バランサーがギリギリ中和出来るくらいの急旋回。

大きな機体は悲鳴を上げつつも、まるで鷹のように旋廻を終えた。

その次の瞬間――――

 

≪バーン!≫

 

ミサイルが旋廻しようとした途端、突如としてミサイルが爆発してしまった。

爆発したミサイルのすぐ後ろにあったミサイルも、爆発に巻き込まれて破壊される。

 

『こ、コレは一体何故ミサイルが破壊されたのでしょうか?解説のサナダさん』

『恐らく遠心力を利用したのだろう。対空ミサイルは長く飛べる様に細長くなっているから、急旋回に発生する横へのGに、ミサイルの本体が耐えきれなかったのだ』

『おお!あの直線的な回避行動は戦術的な判断だったと言う訳ですか!っと!今度はフェニックスがコスモタイガーⅡの背後を取った!コレは面白くなってきたぁぁぁ!』

 

見れば画面には、振り切ろうとするコスモタイガーⅡを追いかけるフェニックスの姿が。

直線ではコスモタイガーの方が早いようだが、旋廻能力ではフェニックスが上の様である。

そして、フェニックスも翼下に付けられたミサイルポッドから、マイクロミサイルを全弾発射した。

 

『フェニックス、ミサイル発射!まるで弾幕の様だ!』

『片方5発で全弾発射したから、計10発のミサイルだな』

 

小周りの効く小型ミサイルが計10発、コスモタイガーⅡの背後を蛇の如く迫る。

 

「うわっスゴイッスね(まるで坂野サーカスだ)」

「どうしたのユーリ」

「ん?何でも無い」

 

ミサイルというミサイルを、高速のバレルロールで紙一重でかわしている。

幾えものミサイルの軌跡が空間に白い帯を残し、どれだけミサイルがあるかがすぐに解った。

しかし一発も被弾しないとは、どれだけ高性能なのだろうか?

 

「なんだか後ろを取ったり取られたりで忙しそう」

「ああいうのをドッグファイトって言うんだよチェルシー」

「ドッグ?なんで犬なの?」

「ああやってグルグルとお互いの周りを回るのが、犬のケンカみたいだろ?」

 

今も両機とも、お互いを撃墜しようとグルグル回り続けている。

喉笛を噛み切ろうとしている犬のようとはまたしかり。

 

フェニックスはコスモタイガーのレーザーをロールしながらかわし、

タイガーは宙返りの頂点で背面姿勢から横転しインメルマンターンを決める。

フェニックスはそれを追いかける様に、スプリット・Sで追撃する。

 

今度はフェニックスが背後を取られるが、フェニックスは可変機能を用いた強引なベクタード・スラストで機銃の射線から逃れた。そしてそのままタイガーを追いかけ、バルカンポッドを掃射する。

タイガーは進行方向を変えずに機首を上げ、コブラを行う事で出来たラグを利用し射線を回避した。だが執拗に続く銃撃にコブラからそのまま後方に機首を変えるクルビットに移行する。

 

『ハイレベルのマニューバが繰り広げられており!司会が出来ない状況が続いております!』

 

再びクルビットを行い背後を取ったタイガー、そのまま機銃を掃射した。

フェニックスはロールとピッチアップを同時に行うバレルロールで、射線をかわしていく。

しかし全弾かわしきれず、翼に数発喰らってしまっていた。

 

『おーっと!ここでフェニックス被弾!』

『だが有効弾じゃない。まだ飛べる』

 

フェニックスはまだ飛び続けている。バレルロールを止めて今度は垂直に上昇。

持ち前の可変機能を駆使し、真横に反転する無理やりのストールターンを行う。

そしてタイガーとすれ違う瞬間に、フェニックスは勝負に出た!

 

『フェニックス!ここで人型に変わったァァァ!そのままタイガーに掴みかかるッ!』

 

掴みかかった衝撃でバルカンポッドが飛ばされたが、そんなの関係無しに頭部レーザー機銃で攻撃。

そして手足というアドバンテージを生かし、タイガーを掴みながらパンチを入れた。

掴まれているという事により、パンチの威力がダイレクトにタイガーに伝わっていく。

 

『そこまで!コスモタイガーⅡはもう戦闘不能と判断!勝ったのはVF-0フェニックスです!』

 

タイガーの左の主翼がちぎれたところで、フェニックスの勝利宣言が出された。

両者ともボロボロだったが、運がフェニックスに味方したようだ。

コレでこのままドッグファイトを続けていたら、どっちが勝ったかは解らなかった事だろう。

 

 

――――そして、このトライアルの模擬戦の勝者は、フェニックスとなった。

 

 

いやぁー凄かった。久々に燃える戦いを見れたね。本当に凄かったわ。

 

「ユピもお疲れッス。あの機動戦、マジで凄かったッス!」

【おほめにあずかり至極光栄です。艦長】

 

そう、実はあの二機を操作していたのは、AIのユピテルだったのである。

まだパイロットの育成が終わっていないので、機体の性能を見るだけと言う事もあり、

ユピテルがトライアルにおいて、機体操作を担当したのである。

 

「いったい何処であんなハイマニューバを覚えたんスか?」

【色々な資料を集めまして、基本的戦闘機動から曲芸まで幅広く入れました】

 

どうやら最近自分でネットするのが、趣味になっているらしい。

最初に比べたら随分成長したなぁ。俺は嬉しいぜ。

 

「ふぅ、私はよくわからなかったけど、凄かったと思う」

「しかし、コレでケセイヤさんの機体が採用ッスね」

「え?あの戦闘機ケセイヤさん達が作ってたの?」

「なんでもフェニックスは、大分前に作った機体らしくて、ソレを人型に改造しようとして三段変形機構付きのあの機体になったらしッスよ?」

 

ちょっとお値段が張るけど、それでも市販の部品の大部分を流用できるから問題ない。

しかし、戦闘空母に乗せる初めての戦闘機が、まさかVF-0フェニックスとはね。

 

すさまじくロマンだぜ!どうせだから俺専用機作って貰おうっと!

勿論、劇中にあった特攻仕様、別名ぶっこみ仕様でな!

 

戦闘シミュレーター位、ウチの連中なら普通に作れそうだな。

ソフトはサナダ、ハードはケセイヤだったらすさまじくリアルなヤツが出来そうだ。

 

【艦長、次は新兵器のお披露目らしいです。ブリッジへとおこしください】

「了解ッス。チェルシーはどうする?」

「今の内に日用品を買いに言って来るわ。また航海に出るんでしょう?買いだめしとかないと」

「はは、頑張ってくれッス。それじゃあね」

「ええ、また後で」

 

ステーションでチェルシーと別れ、俺はユピテルへと足を運ぶ。

お次は新造兵器のテストを兼ねたお披露目式らしい。

 

一体どんなのを作ったのだろうか、既に俺はワクテカなんだが・・・。

そんな事を思いつつ、ユピテルのブリッジへと急ぐ俺だった。

 

 

***

 

 

「自動標準システム、オールリンク」

【システム、オールグリーン、エラーは認められず】

 

ブリッジ内に緊張した空気が漂い始める。

 

「重力制御装置・・・出力50%で安定・・・重力レンズ形成開始」

「チャンバー内圧力上昇、コンデンサーからエネルギー出力」

 

新システムが起動し、それにかかわっているミューズさんがシステムチェックを行って行く。

次々現れる項目を手動にてチェック、失敗が無いよう細心の注意を払った。

 

「ハード上に問題は見られず、目標前方岩塊群、発射準備よろし」

【全システム問題無し、発射10秒前、カウント開始します】

 

そしてついにカウントダウン、俺はそれを艦長席にて静かに聞く。

となりでは副官のトスカ姐さんが、同じく緊張した顔で、事の顛末を見守っていた。

 

【10、9、8、7、6、5、4】

 

【3】

 

【2】

 

【1】

 

「ホーミングレーザー・シェキナ・・・発射!」

≪バシューッ!!≫

 

冷却機の音が船内に木霊する。

船体側面に取り付けられた発振機から、いくつものレーザーが虚空へと放たれた。

レーザーはそのまま直進するかと思いきや、すぐに射線を曲げて前方へと向かって行く。

そしてそのまま、仮想敵と設定した岩塊へと、弾幕を降らせるのであった。

 

「岩塊の消滅を確認、連続テスト、模擬戦用ドローン射出します」

 

オペレーターのミドリさんの声と共に、無人機達が次々と射出されていく。

ある程度の距離を取りつつ、システムを起動したドローンは、編隊を組んでいった。

ソレらはユピテルを目標に定め、編隊で攻撃機動を取り始める。

 

「システム、高速戦闘にシフト・・・重力レンズ形成完了、拡散タイプ設定」

「出力問題無し、蓄熱量冷却許容限界内で安定、再発射準備よし」

「インターバル1で斉射開始」

 

上下左右斜め、様々な方向から接近する模擬戦用ドローンの編隊。

ソレらを先ほどよりかは細いレーザーが、幾つも照射されていく。

 

全方位に向けて発射される弾幕。

しかも追尾機能付きの前に、ドローンはあっけなく破壊された。

 

「全標的の撃破を確認」

【FCSエラー、認められず。システムオールグリーン】

「発振体の故障も認められず、耐久性もクリア」

「命中率69%、拡散分を差し引けば76%、誘導なら90%」

「APFS及びデフレクター問題無し、波長干渉値も許容範囲内」

「艦長、新装備のテスト完了です」

「・・・・ふっ、勝ったな。コレは」

 

思わず某新世紀の髭司令の真似して腕組んでこう言ってしまった。

既製品じゃないから壊れた時が心配だが、そこら辺は根性で直せそうだな。

 

「射程も重力レンズの形成次第ではかなり遠くまで飛ばせそうです」

「・・・・これ商品登録したら儲かりそうだよな?」

 

商品化してくれれば、部品も生産されるから整備が楽になるだろうな。

 

「無理だな」

「え?何でッスかサナダさん」

「このホーミングレーザーシステムを扱うには、高性能デフレクターが複数必要だ。またソレを搭載できる規模の拡張性、火器管制、それと演算機能が高いスパコン、それだけのシステムを賄えるエネルギーを得られる高出力機関も当然必要になる。商品化しても大型艦専用装備になるだろうから一般には売れん。売れるとしたら軍関係になるだろうな。パテントは持っていかれそうだ」

 

・・・・・納得。しかしスゲェなぁ。

 

SFで夢見たホーミングレーザー砲が作れたなんてな。

まぁホーミングと言っても、ミサイルの如く追いすがるんじゃなくて射線を変える程度だけど。

それでもかなり凄い技術と言わざるを得ない。

 

「ケセイヤさん、おめでとう、この装備頂きッス」

「ヨッシャッ!ソレでこそ作った甲斐があるってモンだぜ!」

 

テストの為、ブリッジに詰めていたケセイヤさんを含めた整備班の連中は歓声を上げた。

その姿は、まるで良い事があった子供の姿そのモノ。

ブリッジクルー達も、どこか微笑ましい目で彼らを見ている。

 

「しかし、随分と改造されたッスね」

「外見も若干変化したからな、元がズィガ-コ級だと解らんだろう」

 

もともとズィガ-コ級戦闘空母は、正面から見ると骸骨みたいな面構えだったんだけど、

ウチのマッド連中の素敵改造によって大部分が改装されてしまった。

 

顔の様な無駄な穴や切れ目は塞がれ、全体的にもシャープなスタイルとなった。

両舷にデフレクターとホーミングレーザー兼用のブレードも設置されセンサー類も増設。

それに伴い防御や通信機能、管制機能も向上している。

 

・・・・なんだろう?この最強のフネを作ろう的な感じは?

既に小マゼランじゃ暴力でしか無いだろうこのフネ。

 

「お陰で溜めこんでたお金は殆どパーッスけどね」

「嫌まさかここまで改造する事になろうとは、自分が時たま恐ろしくなる」

「ホントっすよ。湯水の如く開発費を請求された時にゃどうしようかと・・・」

 

もう決算の書類に埋もれるのは勘弁じゃい。

そう言う訳で、現在所持金の備蓄が殆ど無い為、いい加減お仕事したいです。

 

「帰ったら、アバリスは貨物船化処理しておこう・・移動するだけで金になるわい」

「運送もやるのか?ならばより高速化させる案が・・・」

「しばらくは改造禁止ッス!お金が貯まるまで我慢してくれッス!」

「(・ω・`)」

 

そ、そんな顔でショボーンってすんなよ・・・。

 

「それじゃ、一度ステーションに戻るッス。トスカさん、後頼むッス」

「あいよ」

 

こうしてユピテルの改造は終わった。

ステーションで降りていたクルー達を回収したら、補給した後新たな航海に出る。

次はたしかエルメッツァ中央か・・・あれ?なんか事件があったっけ?

 

なんか忘れている様な気がするが、まぁいいか。

こうして馬鹿みたいに強くなった艦隊はステーションへと針路を取った。

そして俺はこう思う・・・・マッドってスゲェな。

 

***

さて、エルメッツァ中央に行くには、惑星ベルンの航路を経由して、ボイドゲートに入らなくてはならない。一応“この宙域”のスカーバレル海賊団は蹴散らした為、活動は沈静化している。

しかしソレでは、金に出来ない為ラッツィオ軍基地を出た俺達は、早い所次の宙域に進み金を稼ぎたい所である。そうこうしている内に、気が付けばボイドゲート前に来ていた。

 

「ボイドゲートが見えて来ました艦長」

「いよいよこの宙域ともおさらばッスね」

「しかし、次の宙域の方が大変かも知れないね」

 

ボイドゲートを前にして、トスカ姐さんはそんな事を言った。

 

「なんでッスか?」

「次の宙域にもスカーバレル海賊団が居るのさ。恐らく弔い合戦で襲われるだろうさ」

「成程・・・エコーさん聞いてた?」

「はいはい~、警戒レベル上げておくのねー?」

「たのんだッスよ」

 

まぁそんな会話しつつ、俺達は二隻の船を率いてボイドゲートに入って行った。

 

…………………

 

……………

 

…………

 

ボイドゲートを抜けて、エルメッツァ中央にたどりついた。

フネはそのまま航路上一番近い惑星であるパルネラに寄港する。

補給と言うよりかは、情報集めの方が主な目的だ。

 

「そして来たのは例によって酒場だったり」

「マスター!ボンベイサファイアをロックで・・」

 

0Gドッグ御用達酒場は今日もほどほどに繁盛って感じだった。

とりあえず情報が欲しい俺は酒場のマスターに話しかける。

 

「ふむ、情報ですか・・・ネロにメディックという医療団体の本拠地があるのはご存じで?」

「メディック・・・ッスか?」

「ええ、メディックは医療ボランティア団体で紛争地帯で苦しんでいる怪我人を救って回ってるんですよ」

 

ふ~ん、俺の時代で言う所の国境なき医師団みたいなもんか?

とりあえず覚えておこう、まぁ医者はいるから特に重要な問題ではないな。

 

「ああ、それと現在紛争問題でこの宙域は荒れているので気をつけた方が良いですよ」

「ん、情報どうもッス。ホイ、チップ」

 

情報には対価を、ソレはどこの時代にもおんなじだったり。

その後も適当に金を握らせ、噂話も集めて行く。

火が無い所に煙は立たずとは良く言ったモンだ。

 

キナ臭い話がこんな辺境入口近くの田舎惑星にまで届いてやがる。

どうも紛争が始まるというのは決定っぽいな。

しかもこんな時季にツィーズロンドに行く事になっている俺ら。

 

・・・・どう考えても、今度は紛争に参加な予感。

というか参加だろうなぁ。まぁ戦争は稼ぎにはなるか。

なんじゃかんじゃで報酬は支払われるだろうしな。

 

「―――でも俺あの中佐に会いたくない」

 

なんか野心がビンビンって感じでなぁ。

その為に利用されそうで、というか利用されてるんだけどね。

まぁ怖くなったら逃げよう。うん。クルー達の為にもな。

 

 

―――――こうして情報を集めたあと、一日を経たずにすぐにこの惑星を立つ。

 

 

この星には設計図データを売っている会社も何もないからな。

長居してもしょうがないのだ。

 

順調に航路に乗った為、俺はまたやる事が無くなり艦内の散歩へと向かう。

そう言えば、ケセイヤさんに頼んだアレ、出来ているだろうか?

ふとそう思いたった俺は、フネの格納庫兼男共の夢の部屋へと向かった。

 

…………………

 

……………

 

………

 

「イィィィィヤァッホォォォォッ!!」

『どうだい艦長?専用のVF-0Sw/Ghostの乗り心地は?』

「最高ッス!」

 

え?今何しているかって?

ちょうど出来あがった俺専用機に乗って飛びまわってます!

 

当然アレです。劇中最終話登場のゴーストパック装着型です。

Ghostは無人攻撃偵察機じゃなくて、専用パックって事になってるけど・・気にしない!

 

「行くぜ三段変形!!」

 

ファイターからガウォークに変形!そのままバトロイド形態にシフト!

くぅ~ロマンだぜ!最高だぜ!小型船舶運転免許持ってたユーリに感謝!

 

【艦長、フネから離れすぎます。反転してください】

「・・・・了解」

 

細かいサポートはユピテルに頼んであるんだけどな。

ファイターやガウォークはともかく、バトロイド形態はユピのサポートが無いと無理。

FとGがマニュアル運転ならBはオートマって感じ?

 

「早い所、B形態も自分で運転出来る様になりたッスね」

【そしたら私はお役御免で寂しいです・・・】

「いやいや、ユピにはフネの管理っていう仕事が―――」

【艦長のサポートがしたいんです】

「・・・・うれしいこと、言ってくれるじゃないの」

 

グス、本当に成長したなぁユピは。

段々感情って言うのも覚え始めたんじゃないだろうか?

AIに寂しいって言われるとは思わなんだよ?

 

「・・・・それなら、いっその事後席は任せようか?」

【本当ですか!】

「どうせしばらくはパイロットの補充目当てが無いッスからね。その点ユピなら信頼出来る優秀なクルーッスよ?俺の後ろを預けても良い女房役にはちょうどいいッス」

 

ユピはかなり高性能なAIだからな。

航路やレーダーのオペレートはミドリさん譲りでウマいだろう。

 

「そう言う訳でケセイヤさん?聞いてた?」

『おう艦長、面白そうだから任せとけ!通信機能の向上とか“色々”やってやるよ』

【お、お願いいたします!ケセイヤさん!】

『任せとけ!この俺を誰だと思ってやがる!』

「【マッドな整備班長ケセイヤさん!】」

 

俺とユピが口をそろえてそう言うと、ケセイヤさんはサムズアップした。

どうやらマッドは褒め言葉らしい。

 

『そう言う事だ。まぁとりあえず艦長、その機体無事に戻しておいてくれよ?』

「了解ッス。ユピ、帰還誘導頼むッス」

【アイサー艦長♪】

 

あとは帰るだけなんだけど・・・ソレだと面白くないなぁ。

 

「ユピ、ココから全速出すと大体どのくらいかかる?」

【そうですね・・・50分と言ったところでしょうか?】

「ブースター使った状態なら?」

【キャンセラーでもキャンセルしきれないGが発生するのであまりお勧めできません】

 

いやまぁ、そうなんですがね?

どうせ俺専用機なんだから、限界性能を試してみたいじゃないか。

そう言った事を話してみると――――

 

【解りました。サポートします。でも限界だと感じたら私が操縦しますよ?】

「構わないッス。ゴーストパック仕様のコイツの力がみたいんスから」

 

とりあえずB形態からF形態へと戻してっと。

 

「それじゃ行くッスよ!ブースター・イグニッション!!」

 

俺はコンソールに着いた黄色と黒のシマシマのボタンをグイと押す。

 

≪ギュゥゥゥゥン・・・・ドウンッ!≫

「ぐがっ!負けるかぁぁ!」

 

かなり強烈な加速、だけど俺だって負けてやらん。

デイジーリップでも気絶するなんて恥ずかしかったからアレから鍛えたんだ!

トーロと一緒に偶に重力が何倍かの部屋にいるんだから、それなりに耐えられる筈!

 

 

 

―――と思ったんだけど・・・・・。

 

 

 

「ぐががが・・・・やっぱりまだ無理ッス!」

 

まだ無理でした。ブラックアウト寸前にまで我慢したけどコレ以上は無理。

仕方ないので再度スイッチを押しブースターを止めて通常航行に戻す。

ちぇっ、まだ早すぎたか・・・ケセイヤさんに頼んで対G訓練室作ってもらおう。

 

「はぁ、もっと鍛えよう」

【大丈夫ですか艦長?】

「ん?平気ッスよ。ただ自分の脆弱さを自覚しただけッス」

 

とりあえず戻ったらトーロとの訓練追加しておこうかな。

そう思いつつシートに背を持たれる俺だった。

 

 

***

 

 

さて、専用機が出来たには良いが、練習するヒマもそこそこに、

気が付けばフネは目的地、惑星ツィーズロンドに到着した。

ユピテルはステーションに停泊し、クルー達には休息、そして俺は――――

 

「やってまいりましたが軍司令部ってな」

 

俺以下数名を引き連れて政府軍司令部にやってきています。

ココでくれるって言う報酬の為に俺は来たのである。

 

「流石軍本部、ドデカイ建物ッスね」

「そうかい?これでもこじんまりしている方だと思うが」

「コレでッスか?・・・はぁ宇宙は広い」

 

大きさだけなら東京都庁を軽く超えているんだけどなぁ。

まぁこの世界だと1000mクラスの高層ビルは結構当たり前だからこじんまりしてるのか。

 

「とりあえず守衛さんに話しかければ良いんスかね?」

「まぁ、それが良いだろうね」

「・・・俺が言うんスか?」

「ユーリがあたし達の代表だろう?しゃきっとしな!」

「はぁぁ、またスイッチ切り変えなくちゃ・・・メンドクセェ」

 

俺は深いため息を吐きつつ、司令部の入口に立っている守衛に話しかける。

どうやら既に話は通っているらしく、そのままある一室へと通された。

 

「おお、待っていたぞユーリ君」

「お久しぶりです中佐」

「とうとうロウズからココまでやって来たのだな」

「ええ、トスカさんを含め優秀な部下達に助けられました」

「ふむ、船乗りはそうして航海をするモノだ。仲間の助力を恥じる必要は無いぞ」

「そうですね」

 

とりあえず、挨拶を交わしておく。

ああ、なんでこのヒトの目に止まっちまったんだろうなぁ。

アレか?世界の修正力ってヤツですか?

 

「さて、さっそくだが君に幾つか話がある。まずは頼まれていたエピタフなのだが」

 

そう言うと恐らく何かの宙図らしい画面が浮かび上がる。

すげぇ何も言って無いのに画面を出してる。良い部下がいるんだなオムス中佐。

 

「航宙データの洗いだしに手間取っている状況だ。すまない」

「そうですか」

 

まぁ幾ら軍組織の情報網でも、広大な宇宙でアレを探すのは無理だろう。

出来たとしてもかなり時間が掛かるだろうなぁ、ケケ。

 

「それと一応この宙域にはスカーバレル海賊団がまだ存在している」

 

また画面が変わり、今度はこの周辺の宙域図が投影された。

なんかある惑星がピックアップされてら、何々ファズ・マティ?

 

「かなりの海賊船がファズ・マティに集結中とのことだ」

「ファズ・マティ?」

 

はて?原作にあったような無かったような?

 

「スカーバレル幹部、アルゴン・ナラバスタの本拠地である辺境の人工惑星だ」

「人工惑星ですか。豪勢な事で・・・」

「ラッツィオ方面の海賊の残存戦力が合流するつもりなのだろう」

「・・・・また襲われますなコレわ」

「君たちは大分彼らに恨みを買っている様だから確実だろうな」

 

うわ、面倒臭い。この宙域回るにはその海賊団ボコるしかないじゃん。

 

「まぁそう言う訳で海賊の掃討にも力を貸してほしい」

「報酬は出ますか?」

「おおよそ3000用意してある」

「税込ですか?」

「ああ、税込みでだ」

 

それならば良し。

 

「あと、君たちはディゴという男を知っているか?」

「はぁ?ディゴさんですか?」

 

んー?そんな知り合いはいたかな?

何時も物資を頼んでる業者さんとは違うだろうし・・・。

 

「知りませんね」

「ふむ、実はこの男はスパイでな?」

「スパイ?ザッカスさんじゃなくて?」

 

どうやらスパイは一人では無かったようである。

まぁザッカスさんは隠れる気は毛頭無さそうだったけど。

 

「我々が最初に遭遇した時、君たちに襲い掛かっていたのはこの男だ」

「!―――まさかあの戦闘って仕組まれた・・・」

「いまは紛争地帯に行って貰っている」

 

あ、流しやがったコイツ。

 

「紛争ですか?そう言えば辺境の惑星で噂を聞きました」

「この宙域にある資源惑星帯を巡って紛争が起きているのだ」

 

オムス中佐がそう言うと、宙域図に小さな艦隊達が現れ、ボカスカやり始めた。

うわ、芸が細かいぞ。スゲェなオムス中佐の部下。

 

「そこでの諜報任務について貰っているのだが、大分梃子摺っているようでね」

「要は自分たちの力を貸せと?」

「そうだ、出来れば君たちの力を貸してほしい」

 

おいおい、なんかいきなり言外に力貸せって言われてるぞ?

俺がどうしようか答えをこまねいていた。

すると、今まで黙っていたトスカ姐さんが口を出してきた。

 

「それって、報酬給与の条件に追加した事かい?」

「いや、そう言うつもりは無い。コレは私からの素直な頼みだと思って欲しい」

「ふぅん・・・」

「(げぇ、“素直な頼み”・・・ね?)」

 

けっ、ココで断るのは得策じゃねぇな?

 

「ココで断ると、流星群が来るんでしょうなぁ?」

「ふむ、宇宙では流星群は珍しくないが・・・おそらくな」

 

・・・・やっぱりな。

 

「はぁ、解りました。出来るだけやってみましょう」

「な、ユーリ、いいのかい?」

「下手に放置しても紛争と海賊は来そうですからね」

 

損得勘定から言うと、この宙域に居る以上そっちの方が良いだろうなぁ。

魔改造したフネだから、下手に壊れると修復するのに手間取りそうだし。

 

「こちらに火の子が降りかかる前に消す。俺たちならソレ位出来るでしょう?」

「・・・・」

「感謝する。ディゴ中尉はネロと言う惑星で活動している筈だ」

 

はいはい、接触しろって事ですね?解ります。

 

「了解しました」

「これで私の話は以上だ。ソレと約束の報酬分のマネーカードだ」

「はい、確かに」

 

とりあえず報酬は手に入れたので、俺達は黙って部屋から退室する。

玄関に向かう途中でトスカ姐さんが口を開いた。

 

「ふぅ・・・報酬を貰いに来ただけが、色々頼まれちまったね」

「致し方無いでしょう?ココで断ったら暗殺ですよ」

「やっぱりユーリも気がついていたか」

「ええ、あの中佐はかなりの野心家です。下手に断るのは得策じゃ無い」

「そうだね・・・ところでその喋り方止めな。背筋が痒くなる!」

「あ、酷いッス!俺だって真面目な時は真面目ッス!」

 

そんな事をギャーギャー言い合ってたら、守衛のおじさんに注意されちったい。

 

***

 

「―――――ま、そう言う訳だから、とりあえずネロに向かうッスよ」

「「「「りょうか~い」」」」

「あと恐らく海賊連中が来るけど―――おいしくいただきましょうッス!」

「「「「了解!!」」」」

 

糞面倒臭いがやらない訳にはいかない。

まぁこの程度で軍に狙われるのは前にも行ったがバカらしい。

別に期限指定はされて無いから、道中片手間で問題無いだろう。

 

「さてと、ケセイヤさん?」

『・・・・おう!艦長、なんか用か?』

「フェニックスの電子機器強化タイプは完成してるッスか?」

『おーRVF-0の事だな?出来ているがさっそく使うのか?』

「一応早期警戒機って事で使いたいんスけど?」

『了解だ。すぐにレドームの設定をそれ用に直してやる』

「頼むッスよ?それじゃ」

『ああ』

 

せっかく作った戦闘機達、使わないのはもったいない。

あ、そうだ。忘れちゃだめだった―――

 

「エコーさん、もうすぐ電子偵察機出すんで、其方の方でデータリンクさせといて欲しいッス」

「了解艦長~、此方でもリアルタイムにモニター出来るようにすればいいのねー?」

「専門的な所は任せるッス。ケセイヤさんとも相談してくれッス」

「わかったわ~」

 

コレで奇襲とかそう言った類の攻撃はぐんと減る事だろう。

 

「各部、半舷休息に移行、適当に休息を取りながら過ごしてほしいッス」

「半舷休息了解、アナウンスしておきます」

「うん、トスカさん」

「あいよブリッジは任せておきな」

 

さて、俺はアレの練習でもしてよ。

せっかく作った劇場版特攻仕様機、使わないのはもったいない。

 

……………………

 

………………

 

…………

 

「・・・・ぐあぁぁっ!疲れたッスーー!!」

「お疲れさまユーリ、何してたの?」

 

戦闘シミュレーターが完成したらしいので、其方に行ってました。

しかもサナダさん特製の慣性制御装置によって疑似Gを体感できる本格仕様。

ゲロ吐かずに良くココまで持ったモンだと自分で自分をほめたい。

 

「痛い!筋肉が痛い!乳酸が痛い!」

「それなら新鮮なグレープフルーツジュースが良いね。作ってくる」

「い、いつの間にそんな豆知識を・・・」

 

アスリートは結構飲んでいるらしい。

というかグレープフルーツあったんだこのフネ。

 

「アレ?ユーリ知らないの?フルーツとか船内ショップで買えるんだよ?」

「ふぇ?船内ショップだと・・・・あ!?」

 

そうだ!この間モジュール突っ込んだった!

一々生活班の倉庫に取りに行くのが面倒臭いっていうクルーの要望に応えて!

 

「まってチェルシー、俺も行くッス!つーかまだ俺行った事無い!」

「うん、じゃあいっしょに行きま・・・一緒?・・これってデート・・・ゴニョゴニョ」

「何してるッスチェルシー!早く来ないとおいてくッスよー!」

「へ?ま、待ってユーリ!置いてかないで!」

 

全く、フネがでかすぎるのも問題があるよなぁ。

艦長の俺ですら把握しきれないぜ!

 

そう言う訳で、艦内ショップに足を向けた俺達。

位置的には居住区画、船体のやや後で中心に近い位置にあるらしい。

すぐ隣が生活班の倉庫なので、在庫切れで無い限り品数は途切れないのが自慢だそうだ。

 

「へぇ、ここが艦内ショップッスか?」

「うん、それなりに大きいでしょ?」

 

うん、大きいね。

だけど俺はものすご~く見た事があるんだなコレが。

 

「・・・・これなんていうジャ○コ?」

「ん?何か言ったユーリ?」

「いえいえ、何にも言って無いですよ?」

 

スゲェなイオ○グループ・・・この時代にも残ってやがった。

売っている品物も、多少パッケージが違う程度で変わらな・・・・。

 

「・・・・・何コレ」

「ブルゴ産のグレープフルーツよ」

「・・・・・グレープフルーツってこんなんだっけ?」

「ええ、美味しいよ?」

 

グレープフルーツがブドウのように房についてます。

一体どんな品種改良がおこなわれたんだオイ。

名を体で表したんかい。

 

「・・・いろいろなモノが売ってるッスね」

 

とりあえず流すことにした。

 

「うん、雑貨や食料品、衣服に薬や化粧品、それに武器も売ってるよ」

「・・・・・武器まであるんスか?」

 

マジかよ。ショップ入れた張本人だけど全然知らなかったぞ?

何でもありか?と言うか艦内で武器売ってどうするんだよ?

 

「とりあえずグレープフルーツとか買って帰るッスか」

「うん、解った。じゃあちょっと買って来る」

 

彼女はそう言うと、あの房付きグレープフルーツを持ってレジに向かう。

ちなみにレジはセルフで、商品タグをセンサーにかざした後マネーカードで購入する。

使った分は給料から天引きされるシステムだ。

 

「しかしまぁ、次はどんなモジュール入れるッスかね?」

 

自然公園のモジュールでも購入するかね?

そう思っていると――――

 

「ん?携帯端末が・・・もしもし?」

『あ、艦長、エコーが海賊の艦隊を発見したそうです』

「わかった、すぐに行くッス」

『お待ちしてます』

 

あらら、どうやら敵さんのご登場だ。

全く、航路の安全くらい守ってほしいよな。

政府軍の税金喰いめ!税金は払ってねぇけどな!

 

「チェルシー、ちょっとブリッジにいって来るッス」

「ん、わかった」

「ソレは後で貰うんで頼むッスよ?」

「うん、それじゃあね」

 

俺はショップで彼女と別れ、ブリッジへと向かった。

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第十章+第十一章+第十二章

 

【艦長、ブリッジイン】

「状況は?」

 

俺はブリッジに入るとすぐに状況を尋ねる。

どうするべきか判断する為だ。

 

「オル・ドーネ級巡洋艦1、ガラーナ級、ゼラーナ級駆逐艦が各一隻ずつです」

「観測データから察すると、ラッツィオ方面より改造が施されているらしい」

「既にAP・EPは展開、奴さん達は目が見えなくて焦っているぞ」

「ホーミングレーザー・シェキナの射程圏内だから既にロックしてある」

「―――で艦長、どうするんだい?」

 

あらまぁ、俺が来るまでも無かったな。

すでに準備は万端じゃねぇか。

 

「おし、そのままシェキナ発射ッス。敵の武器をなるべく潰すようにするッス」

「原型はとどめるんだな?」

「でないと高く売れないッスからね。エンジン部もなるべく残すッス」

【アバリスは使いますか?】

「いや、必要ないッス。シェキナだけで十分ッス。と言う訳でストールさん」

「おし!任せろ、ポチっとな!」

 

船体各所からレーザーが照射され、重力レンズにより偏向。

ストールの勘とユピによる演算により、的確に敵艦へと向かって行く。

 

「全艦、兵装に着弾、戦闘不能の様です」

「噴射口も潰すッス」

「了解!」

 

更にレーザーを照射、噴射口に当てて敵を逃げられなくする。

というか段々神掛かって来たなストールさん。

 

「ミドリさん、降伏勧告を打電、無理なら沈めて構わないッス」

「了解」

 

ミドリさんが降伏勧告を行うと、敵さんは降伏。

フネを捨てて脱出艇に乗り込み逃げて行った。

 

「なんとまぁ、歯ごたえの無い敵だったな」

「まぁ敵は逃がしたから、また襲い掛かってくるでしょうな」

「カモがネギしょって帰って来るッスね」

「実に効率的なやり方だ。さすがはユーリってとこかねぇ?」

 

褒めるなよ。照れるぜ。効率よくやらねぇとフネが立ち行かないだろう?

さて、この後は拿捕したフネごとトラクタービームで牽引する。

 

「惑星ネロまで後少しッスね」

「案外海賊たちは出て来なかったな」

「まぁ紛争が起こってるからそっちに行ってるんだろうね」

 

紛争中って言うのはゴタゴタしてるから、政府軍の監視も緩い。

だから商船とか襲い放題だし、軍の輸送船を襲っても良い。

敵方に偽装していればそれだけ稼げると言う訳である。

 

「稼ぎ方間違えてるよな」

「まぁ効率はいっスけど。まさに外道ッスね」

「まぁ外道だから海賊張ってるんだろうけどな」

「「ちげぇねぇ」ッス」

 

こんな会話をしながら、三隻ほどの収穫と共に、ネロへとたどり着いた。

 

***

 

ステーションにフネを預け、指定された場所に向かう。

と言っても、行くところはやはり酒場だったりする。

 

「しかし、毎回思うんスけど」

「ん?どうしたユーリ」

「なんで会合場所は酒場ばっかなんでしょうね?」

 

結構疑問に思っていたのだ。どうせなら人気の無い所で話すんじゃねぇの?

酒場なんて不特定多数の人間が沢山いるのにどうしてなんだ?

 

「それは・・・」

「逆に酒場のほうが目立ちにくいんだよ」

「「誰だ!」」

 

いきなり会話に入りこまれたので声のした方を向く。

そこにいたのは50代くらいで髪の毛をオールバックにした男だった。

 

「よぉ、中佐から連絡は受けてるぜ?」

「あんたがディゴか?」

「つれないな。一度顔は見ている筈だぞ?」

 

そう言えば、確かにそうだな。

あの時通信の画面に出てた巡洋艦クラスの艦長じゃないか。

 

「というか、海賊の時のまんま何スね」

「あんたまだそんな格好してるの?」

「いやなに、此方の方が動きやすくてな?意外と良い服だろ?」

 

さぁ?俺はこの時代のファッションには疎いもんで・・・。

 

「良いんスか?アレ」

「まぁ普通な方じゃないか?」

「良いんだよ。目立たずに済むと言う意味じゃとても良い服だ」

「確かにそこら辺のおっさんと大差ないッスね」

「はは、ありがとよ」

 

スパイだけに目立つのはダメなんだろうなぁ。

片手に酒瓶持ってるから仕事帰りに飲んでたおっさんに見えなくもない。

 

「ああ、そうそう、一人仲間にしてほしいヤツが居るんで紹介してもいいか?」

「仲間?」

「ああ、ゴッゾの生まれでここらの宙域に詳しいんでな?役立つとは思うぜ」

 

そう言うと彼の背後から、一人の少年が姿を現した。

白い髪の毛で線が細く、眼鏡でインテリっぽい。

 

「・・・イネス・フィン。よろしく」

「ん、俺は艦長やってるユーリッス」

「あたしは副長のトスカだ」

「艦長・・・?君が・・・?」

「なにか?」

「・・・まぁいい、一応協力させてもらうよ」

「・・・・・・一応?」

「君見たいな子供が艦長とは思えないもんでね。認めたら艦長と呼んでやるよ」

 

何コイツ?偉そうなこと言いやがって・・・。

 

「ディゴさん、やはりこの話は無かった事にしてくれッス」

「え!?な!」

「こちとら協力してやる立場なんだ。失礼なヤツを乗せるほどの余裕は無い」

 

どう見ても対人関係に疎そうだ。

なんとなくだが他のクルーといざこざを起しそうな気がする。

 

第一目が気に食わねぇ。なんだ人を見た瞬間見下しやがって・・。

俺はそんなに背が低いかこのヤロウ!

 

「だが、ここらの宙域の案内に・・・」

「別に?急ぎじゃないですし、知らないなら見て回れば良いだけの事ッス」

「嫌しかし・・・」

「それに初対面でいきなり人の姿を見て見下すようなヤツを、俺はフネに入れたくない」

「・・・・艦長がそういうなら、副長の私はなにも言えないねぇ」

 

そう良い放つと何とも言えない沈黙が流れる。

だが、その沈黙を破り、イネスが口を出した。

 

「どうやら見誤っていたみたいだな。君は確かに艦長だ」

「どうした急に?」

 

野郎に褒められても嬉しく無いんだが?

・・・・というかディゴさん、なんで驚愕してるんスか?

 

「あ、あのイネスが・・・俺の事はこき下ろす事しかしなかったイネスがほめた!?」

「失礼な人ですね。この育毛ヤロウ」

「ズラじゃ無い!この眼鏡が!」

「育毛って言ったんだ。あと眼鏡は名前じゃ無い。イネスだ」

 

あーもしかして・・・。

 

「コイツの見下すかのような目は・・・」

「生まれつきだ。あとコイツじゃ無い。イネスだ」

「OKイネス。見た目で判断したのは俺も同じだったみたいだ。そこは謝るッス」

「いいさ、そう言ったのには慣れている」

 

確かに誤解を頻繁に招きそうだなぁ。

喋り方が妙に冷静なのも、そう言った所から来るのかもしれない。

 

「何故いきなり褒めた?褒めたところでフネには乗せないぞ?」

「別に?素直にそう思ったから褒めた。ただそれだけさ。そこに他意は無い」

 

成程なるほど、コイツもそれなりにプライドでもあるのかと思っていたが。

どうやら、キチンと相手を見定める事が出来る人間だったか。

 

「で、どうする?乗せるのか乗せないのか?」

「実質何が出来る?」

「まぁ色々と・・・科学と指揮と管制なら出来るかな?」

「ふむ・・・」

 

実質空きが無いな。まぁ軍からの紹介だし、話を本気で蹴るのは不味いな。

とりあえず乗せる事にしとくか。有能ならくみこんじまおう。

 

「まぁいい、この宙域の案内出来るんスね?」

「そこら辺は任せろ。この宙域は庭みたいなもんだ」

「そうか、それなら航路アドバイザーって事でどうだ?」

「構わない。最初からそのつもりだし、既にディゴ中尉には前金も貰っている」

「了解した。ようこそイネス」

「こちらこそ」

 

ビジネスな関係も良いな。

 

「はぁ、結局乗せるんなら今までの会話は何だったんだ・・・」

「ディゴさん、一々気にしてたら身が持ちませんよ?ストレスで・・・」

「おい、今どこを見た?」

「いえ、別に?」

 

アデランスってこの時代にもあるんだろうか?

 

「まぁそんな事は置いておいて、紛争の話何スけど」

「・・・じゃ本題に入っか」

 

流石にふざける雰囲気じゃ無いのは解るんだろう。

ディゴさんの顔が真剣なモノへと変わる。

 

「直接的な原因はベクサ星系だ」

「ベクサ星系?」

「資源衛星や惑星に恵まれた宙域でな?紛争している2国のちょうど中間にある」

「成程、あ、どうぞ続けてください」

「でだ、ベクサ星系の分割を巡って一度は両国間で分割協定が結ばれたんだが――」

「片方が境界線を越えたと?」

「ああ、分割線を越えて片方が資源採掘を始めちまった」

 

おー成程、俺の時代で言うところの領海における資源採掘の問題みたいなもんだな?

お互いが決めた領海を越えて採掘したら、そら戦争になるわ。

 

「最初はいざこざ程度だったんだが、今じゃ艦隊をだして睨みあいってわけさ」

「中央政府軍は動かせないんスか?」

「一応自治権を持つ星だからな。強引な介入をしたら避難を喰らうのは中央政府だ」

「・・・・コレだから政治は面倒臭いんスよね」

「ああ、全くだ」

 

情報部も大変だな。そんな事態だから休みも取れないだろう。

まぁ同情はしないけどな。

 

「小マゼラン随一の集積国家エルメッツァ、号して3万隻つー艦船も張り子のトラみたいなもんだ」

「で、俺達は何をすればいいんスか?」

「直接何かしてくれって言う気は今の所ねぇさ」

「今の所、ね?」

 

てことは時期が来たらやらせる気満々かい。

・・・・やっぱ逃げようかなぁ?

 

「まぁとりあえずある人物を探して来て欲しい」

「ある人物?」

「ルスファン・アルファロエン、かつて政府軍にいた伝説の戦略家だ」

「伝説ってつくと、なんか胡散臭いッスね」

「まぁ今の人間は殆ど知らんだろう。だが彼なら良い解決方法を思い付くだろうってのがオムス中佐の意見だ」

 

う~ん、確か原作でこんな展開があった様な気がしないでも?

・・・・・ああ!ルースーファか!あの爺さん!・・・何処に居たっけ?

 

「ふーん、でどんな人なんだい?」

「引退してからは身を隠し、放浪生活だそうだ。今じゃ70を超えた老人だろう」

「70で放浪?!元気な人ッスね?」

 

まぁ俺の前の世界のじっ様は、齢80にして登山とかしてるけどな。

 

「情報が足りないねぇ。それだけじゃ雲をつかむような話だ」

「ラッツィオ宙域の辺境で見たって人間がいるらしい」

「辺境っていうと・・・」

「ボイドゲートを越えたアッチの方だろう。また戻るのか・・」

「面倒臭いッスね」

「頼むぜ、こっちも問題だらけで首も回せないくらいなんだ。マジで頼む」

 

そう言われてもなぁ。

とりあえず辺境周辺をかたっぱしから調べるしか無いな。

 

俺達はディゴさんと別れ、そのままフネ戻り翌日になって出港した。

ああ、逆戻りかよ面倒臭いなぁ。

 

 

 

 

 

 

じっ様さがしてエーンやコーラと言う感じで戻ってまいりましたラッツィオ方面。

「ラッツィオよ、私は返ってきた」とかネタをやったら周りから変な目で見られた。

く、くやしい、でも感じ(ry

 

まぁそんなバカな事は置いておいて、辺境とはいえ惑星の数はそれなりに多い。

この中からジジイを一人探し出せと来たもんだ。

と言うか軍の情報網使えよ!個人で探すよか簡単だろうが!

 

まぁ愚痴っても仕方が無い。幸い記憶をなんとか掘り起こして思い出した。

おおよそ何処にいるのかは見当はついている。

もっとも、気まぐれを起してくれていなければ良いのだが・・・。

 

「はぁ、面倒臭いッス」

「まぁ輸送品で懐が潤うからそれの序でだと思えばいいじゃないか」

 

そうエルメッツァ中央から、価値が出そうな品物を幾つかコンテナで持って来てある。

ソレは精密機械だったり希少鉱石だったりと様々だ。

だがコッチみたいな辺境だと、確実に金になるモノでもある。

 

「そうッスね。お金はいくらあっても良い」

「そうそう」

「特にウチの場合、開発費関係無しに作る技術陣がいるから・・・」

「たしかにね・・・」

 

思わずため息をつきたくはなる。

あいつ等稀に報告出す前に開発してたりする事があるのだ。

勿論その際に発生する金は後で決算する訳だが、報告が着て無いので事務作業が大変で。

 

「まぁお陰で普通のフネとは比べ物にならないくらい強力になってるスけどね」

「確かにね。まさか対光学兵器用の熱処理装甲とか着けるとは思わなかったよ」

 

熱処理装甲ってのは所謂種にでてきたラミネート装甲の事である。

光学兵器が当たった部分が融解を起す前に熱を別の場所に分散させる事が出来るのだ。

お陰で排熱機構さえきっちりしていれば、光学兵器に幾ら晒されても平気なのである。

 

これとAPFSを合わせ使用すると、光学兵器がまず効かない。

ハイストリームブラスターみたいな大出力砲でも無い限りは大丈夫なのだ。

偶々レアメタルを入手したから、ソレを装甲に塗装し排熱機構を組み込むことで出来たらしい。

 

なんというチート、お金があるからこそ出来る芸当だよね!

ホント、ゲームでも資金調達で苦労したっけ・・・。

 

こっちに戻るまでの間に、VF-0もだいぶ改造されバリエーションが増えてるしな。

数百席規模の艦隊相手は難しいが、数十隻規模の艦隊なら相手出来るくらいにはなったと思う。

 

「しかしアバリスも随分魔改造が・・・」

「アンタが見て無かったから、連中が好き勝手してもはや別のフネだね」

 

最初は我が艦隊の旗艦だったアバリスは、ウチのマッド共の所為で大きくその姿を変えた。

人が乗らないのを良い事に完璧に居住区画等を一掃、そのスペースに生産機械をブチ込んだ。

小さなカタパルトからは工作艇が発進可能であり、大きなアームもついている。

 

「完璧工作母艦と化してるッスね」

「どちらかと言えばファクトリーベースだろうね。フェニックスもアソコで組み立てているし」

 

工作母艦の癖に、ガトリングキャノンがあるから単艦の戦力でもこちらと同程度。

おまけに人が居ないから試作品を使い放題らしく、試作品の塊らしい。

というかマッド共、少しは自重しろよ。前の旗艦だったんだぞアレでも。

 

「しかし、何でこんなに優秀な人達がこんな辺境に埋もれてたんでしょうね?」

「埋もれてたんじゃ無くて、単に活躍できる場所が無かったのさ」

「まぁウチでなら余程の事が無い限り、開発費をケチらないッスからね」

 

お陰でウチのフネは部分的に現在の科学力を凌駕している。

どこの未来からきたフネだよオイ。

この分ならヤッハバッハ連中とは互角に戦える・・・かもしれない。

 

【艦長、そろそろ訓練に行かれる時間では?】

「あ、そう言えばそうッスね。教えてくれて感謝ッス!ユピ」

「それじゃいつも通りに私が指揮を引き継ぐよ?」

「頼むッスよ」

 

俺は最近日課になったフェニックスの訓練に行く事にした。

 

***

 

「ちょっと良いかい?二人で話がしたいんだ」

 

俺が戦闘シミュレーターへと向かっていると、イネスが声をかけてきた。

 

「ん、なんだ?」

「いや、今まで君の艦長ぶりを見させてもらってたんだが・・・」

「ふむ」

「君は、本当に自分が艦長にふさわしいと思っているのか?」

「いや何なんスかいきなり」

 

あまりに唐突過ぎて、正直なんて答えてやるか悩むぜ。

しかし何なんだろうかね?

 

「早く応えてくれ、どっちなんだ?」

「う~ん、確かに色々俺には足りないッスけど、ふさわしく有ろうとはしてるッスよ?」

 

まぁふさわしく有ろうとして好き勝手してるけどな。

だって楽しく無かったら意味がねぇんだもん。

 

「僕の考えは違う」

「何がッスか?」

「僕はいつか自分のフネを持とうと学んでいるんだ。その目から言わせてもらえば―――」

「トスカさん辺りが艦長にふさわしいと言いたいんスね?」

 

俺が先に答えを言ってしまったのか、言おうとしていた言葉を飲み込むイネス。

まぁあの人は俺よりも有能だしな。俺よか何年も前から0Gしてる訳だし。

 

「なに、自分でも解ってるッス。こんな俺が艦長でいいのかとかね」

「・・・・」

「だけど、トスカさんもクルーの皆も、俺が艦長でいいって言ってくれたッス。なら男ならその期待に応えなくちゃと思うのは不自然な事ッスか?」

「ふむ、たしかに・・・」

「それに元々このフネを最初に組織したのは俺ッス。俺が立てた旗のもとに、みんな集まってくれたッス。皆信念の様なものを持ってるッスけど、ソレと俺の立てた旗の下が偶々皆にとって居心地がよかっただけ何スよ」

 

旗の下云々は、某有名な宇宙海賊様から貸していただきました。

 

「その旗って言うのはなんだい?」

「なに簡単な事ッス。皆で宇宙を回ろう。ただそれだけッス」

「・・・・そうか。すまないな艦長、時間を取ってしまって」

「うんにゃ、貴重な意見が聞けたから良いッスよ。もっと精進しなきゃならんすね」

 

俺はそう笑いつつもイネスから離れた。

しかし、俺ってそんなにたよりないかね?・・・かもしれないorz

 

「よし!シミュレーターがんばるぞー!」

 

コレは早く強くならなくてはと思いシミュレーターへと急ぐ。

尚、艦長として強いのと、戦闘機に乗って強いのとでは違う事に気付いたのはずっと後だった。

その時はマジで俺ってバカだと思って、リアルで自室でorzしてました。

 

……………………

 

………………

 

………… 

 

――惑星レーン―――

 

小マゼランにおいて中期位にテラフォーミングされ、人が住めるようになった星。大きさは基本的なガイア級であり、人類居住可能の標準クラスである。元々は大気の無い惑星であったのだが、人工的に大気を作りだすことによって20年位でテラフォーミングが完了した。特産品は特には無い。現在の人口はおよそ814500万人、もうチョイ解りやすく書くと81億4千5百万人ということになる。

 

―――と、手元の資料を調べたらこんなのが出て来た。

 

現在我々は辺境惑星レーンに赴いていた。

とりあえず星図上の端から攻めて行こうぜ!って俺が決めたからだ。

まぁ正確にはこの星に目的の人物が居るはずなのである。

 

そういう事で何時ものようにステーションにユピテルを停泊させた。

今回はすぐに出港する事になるかも知れないので、人員は最低限しか降り無い。

俺とトスカ姐さんと護衛役でトーロだけを連れて、下界へと降りて行った。

 

―――と言っても行く場所は決まっている。酒場しか無い。

 

適当にVF-0で見て回っても良いんだが、許可を取るのが面倒臭い。

ココ以上に情報が詰まる場所は無いので、とりあえずココから調べるのがセオリーなのだ。

そういう訳で、俺達は酒場に来ている訳なんだが・・・。

 

「なぁ、爺さんが一人いる気がするんだが?」

「トスカさんもッスか?俺もそう思ってたッス」

「というか、明らかにアレじゃねぇか?」

「だけどトーロ、人違いの可能性も・・・」

「いや、こういった酒場を利用できるのは0Gくらいだから案外当たりかも知れない」

 

・・・・原作通りこの酒場にルーはいた。

まぁ他の星系を回らなくて済んだから行幸かもしれない。

フネとて使えば少なからず消耗するのである。

 

「で、誰が行くッスか?」

「決まってんだろう?」

「いう必要もないだろう?」

「・・・・やっぱり俺ッスか」

 

どうせ何言っても行かされそうなので、何も言わず席を立つ。

そして老人が座っている席へと向かった。

 

「あのう、もしかして貴方はルスファン・アルファロエンさんでは?」

「ほう、まさしくその通りじゃが、お前さん何処でその名を?」

「実は――――」

 

色々とてんやわんやしている軍から頼まれて、貴方を探していた事。

紛争解決の為に力貸してくれないかと言う事を説明した。

老体は髭を撫でながらこちらの話を聞き思考の海に入る。

 

「ふむ・・・ベクサ星系はいつかそうなると思っておったが・・・政府軍も動きが取れず、苦しいところじゃな・・・」

「なんとかなりませんかね?」

「しかし、何故この老骨に?ワシは軍を引退した身じゃぞ?」

「軍が無能・・・いえ、安全に宇宙を航海するには貴方の力が必要なんです。戦略を見る力が」

 

というか、人手不足なんで猫の手も借りたいとかは言わない方が良いだろうな。

 

「ふむ、若者にそこまで言われたなら、老人が腰を上げない訳にもいくまい」

「なら」

「お前さんがたに同行する事にしよう」

 

ふー、良かった。コレでワシは関係ないとか言われなくて。

ジーさん一匹確保だぜ。

 

「あー後ワシの事はルー・スー・ファーで通しておるから、エルメッツァ軍人との接触はお断りじゃぞ?」

「了解、紛争さえ解決してくれるんなら此方は問題無いッス」

「うむそれじゃお前さんのフネに行くことにしよう。行くぞウォル」

「は、はい」

 

爺さんと今まで影が薄過ぎて全然気がつかなかった少年を連れて酒場を出た。

しかしこの爺さん、どうやって紛争を解決するつもりなのだろうか?

結構デリケートな問題何だと思うんだが・・・。

 

ソレはさて置き軌道エレベーターに乗り込みステーションへと向かう。

んでルーのじっ様とお供の少年を連れてステーションの停泊ドッグへと帰ってきた。

 

「さて、どれがお前さんのフネかな?アソコにあるガラーナ級かの?」

「いいえ、あんな大きさじゃ無いッスよ」

 

アレでココまで来るとなると結構勇気が居ると思うんだが?

 

「では、そこにあるフランコ級かの?」

「いいえ違うッス」

「まさかそこのボイエン級?」

「それこそまさかッスよ」

 

幾らなんでも海賊が出るこの宙域で輸送船で来るバカはいないだろう。

いたら自殺志願者だと思死な。

 

「ではオル・ドーネ級かの?」

「アレは航続距離が短いッスからね。俺は要らないッス」

「では一体どれがお前さんのフネなんじゃい?もう他にフネは無いじゃろう?」

 

そうルーのじっ様は言いなすった。そりゃこのドックには無いさ。

 

「俺らのフネはこのドックの先ッス」

「しかしココから先は大型船クラスのドックじゃろう?」

「ええ、そうスけど」

「こっちのドックが一杯じゃったから使わせてもらったのかの?」

 

??一体何を言ってるんだこのじっ様は?

 

「いやコッチのドックじゃ入らないし」

「なんと!と言う事はお前さんは戦艦級のフネを持っているって事か!」

 

まぁユピテルは戦闘空母だけど戦闘力なら戦艦と言えなくもないしアバリスもあるな。

 

「まぁそうッスね」

「なるほど、その年でグロスター級を買えるとは、なかなか凄いのじゃな」

「いや、グロスター級でも無いんスけど・・・」

「・・・なに?グロスター級じゃない?」

 

なんか見てもらった方が早い様な気がする。

 

「はぁ、まぁとりあえずフネはコッチッス」

「まてまて、お前さんのフネは戦艦じゃろう?」

「そううッスよ」

「生れはロウズでつい最近出て来たんじゃろう?」

「そうッスよ」

「エルメッツァで買える戦艦はグロスター級だけじゃろうが」

 

そう言えばそうだっけ?

 

「まぁ見てもらった方が早いッス。コッチッス」

 

何だか口で説明しても信じてもらえなさそうなので、このまま弩級艦ドックへと連れて行った。

 

***

 

――――弩級艦用・大型ドック――――

 

「コレがウチのフネ、戦闘空母ユピテルです」

「・・・な、何なんじゃこのフネは・・・こんなフネみた事が無い」

 

フネの全体が見える展望室で、ルーのじっ様はそう漏らした。

お供のウォル少年も口を半開きにしたまま一歩も動かない。

 

「まぁ元のフネから大分改造が加えられて、もはや原型が残って無いッス」

「と言う事はカスタム艦ということじゃろうか?」

「いや、もう別のフネと言った方が正しいかもしれないッス」

 

一応共通規格で部品は揃うんだけどね。

もうズィガ-コ級じゃなくてユピテル級って事で新造艦登録した方が良いかも知んない。

手続きが面倒臭いんでする気は無いけどね。

 

「まぁこんなとこで突っ立てても意味が無いので、とりあえず我がフネへ」

「あ、ああ・・・お前さん見かけによらず、恐ろしく凄いヤツじゃったんじゃのう」

「俺じゃなくて、俺のクルー達が凄いんスよ」

 

俺はフネの中を案内しながらそうルーのじっ様に語る。

ウチのマッド連中はスゲェぞと、部分的に大マゼランすら超えるぞと。

ソレを聞いていたじっ様はニコニコしており、ウォル少年はひいていた。

 

まぁ普通なら厄介者扱いされるマッドみたいな連中を立てるヤツはそうはいないだろう。

マッドは周りが見えなくなるから集団生活が必要なフネにはちょっと合わない事がある。

ウチの場合、ウマい事なじんで・・・というかなじみ過ぎてるから問題無いんだけどな。

 

「・・・で、ここがフネの頭、ユピテルのブリッジッス」

「おお、この機器配置の感じはアイルラーゼン式の艦橋ですかな?」

「あ、解るッスか?ランキングボーナスで貰ったヤツ何スよ」

 

まぁそれにサナダさんが異常に手を加えているから、元の艦橋の性能じゃないけどね。

 

「見ておきなさいウォル、コレが大マゼラン製のフネに良くある艦橋だ」

「・・・・ほぁ」

「はは、見るだけならタダッスから、幾らでも見れば良いッスよ?」

「・・・・ブンブン」

 

ふむ、ウォル少年は恥ずかしがり屋らしい。

少年と言っているが実際は俺とほぼ同い年の青年だったりするけど・・。

童顔だから少年でいいよな!むしろ美系で童顔ってどうなんよ?

 

「ま、ブリッジに入るのは自由ッス」

「ソレはありがたいの」

「と言うかお二方は一応客分ッスけど、フネの中に行けない場所は無いッスから」

「む?艦長、ワシは部外者だからいうのも何だが、いささか不用心では?」

 

じっ様は俺のあまりにフランクな対応に、少しばかり疑問を感じたようだ。

まぁ普通部外者にフネの中を自由にしていいとかいうヤツは少ないしな。

 

「大丈夫ッスよ。お二方は既にフネに乗れた段階で問題は無いッス」

「何故そこまで信用が・・・」

「ウチのフネは生きているもんで、ユピ!」

【お呼びですか艦長】

 

何処からともなく聞こえる声に驚くじっ様と少年。

そして俺のすぐ横に現れた空間ウィンドウに気がついた。

 

「紹介するッス。ウチのフネの警備の一旦を担っている」

【統合統括AIのユピテルです。どうぞよしなに、それとようこそ我がフネへ】

「ほう、珍しい。AI搭載艦何ぞもう姿を消したと思っていたが」

「ウチは人員不足ッスからね。ユピの助けのお陰で随分楽何スよ」

【私はこのフネそのモノです。何か不都合があれば呼んでくださればサポートいたします】

「これはこれは、ご丁寧にどうも」

 

驚きを隠せないウォル少年はともかく、じっ様の方はどうやらAI搭載艦をご存じの様だな。

 

「まぁ挨拶もほどほどに、とりあえずこのフネはすぐにでも出港するッスが、何かやり残した事はありますか?」

「いや、放浪の旅の途中じゃったから、あの星に未練はない」

「わかったッス。どうするッス?出港する所をブリッジで見るッスか?」

「いや、色々とあって老骨には応えた。休める場所を貸してほしい」

「それならお二人の部屋に案内させるッス。ユピ」

【はい、艦長】

「この二人を客分の部屋に案内してあげてくれッス」

【了解しました】

 

とりあえずアバリスに二人を部屋に案内させる事にして出港する事にした。

はぁとりあえずエルメッツァ中央に戻るかな。話しはソレからだ。

 

「出港準備!エルメッツァ中央に戻るっスよ!」

「「「アイサー艦長」」」

 

こうしてユピテルは必要な人物を確保し、ステーションを後にした。

 

***

 

ルーのじっ様を我が艦に招いてからほぼ一日経過した。

EP(ElectronicProtection )を出力最大にしているから、敵との交戦も無い。

ちょうどボイドゲートを越えてエルメッツァ中央に戻ってきた所だ。

 

俺はボイドゲートを無事に越えたので、そろそろ休憩を入れようと席を立とうとした。

するとブリッジにルーのじっ様が入ってきたのが見えた。

 

「ちょっといいかの?」

「あ、ルーさん、どうしたんスか?」

 

じっ様から話しかけられた。まぁ時間的に見たら――――

 

「うむ、策がまとまったのでな。ワシらをドゥンガへと送ってほしいのじゃ」

「了解、ドゥンガッスね?そこに送るだけでいいんスか?」

「ああ、ワシらだけでいい。策を為すには相手にしられない事も重要じゃからな」

「まぁ大人数で押しかけたらバレるッスね」

 

策を思い付いたってところだよな。

 

「そういう訳じゃ、頼むぞ?」

「アイアイ、それじゃドゥンガ到着まで休んでいてくださいッス」

「お言葉に甘えさせて貰うわい」

 

じっ様はそう言いつつ、ブリッジをあとにした。

さて―――

 

「ユピ、聞いてたッスね?」

【すでにトスカさんとイネスさん、ブリッジメンバーに召集をかけました】

 

流石は我がフネのAI、手際がいい。

 

「それじゃ、いつものように皆が集まったら、一応ブリッジを遮蔽しておいてくれッス」

【了解です艦長】

 

 

 

 

 

 

 

しばらくしてブリッジクルー+αが集まった。

 

 

「皆聞いてくれッス。ルーさんの策が決まったので、ドゥンガへと針路を取ることになったッス。何か質問があるヤツは居るッスか?」

 

「「「・・・・」」」

 

「よろしい、では航路についてなんだけど」

 

「僕がリーフと一緒に考えれば良いんだね?」

 

「頼むッス。なるべく早くつける様に考えて航路を設定してくれッス」

 

「任せてくれ、最短ルートを選択してやるよ」

 

「俺はどのくらいの速力で運航すればいいか計算すればいいんだな?任せてくれ」

 

 

そう言うとさっそく作業に取り掛かる二人。

俺達は話を続けていく。

 

 

「さて、これからの事何スが・・・一応紛争状態の地域に行くわけッスから警戒を強化すべきと思うッス」

 

「確かに様々な艦船が集結中らしいからねぇ」

 

「噂では海賊連中も参加するらしい。何でも報奨金がでるだとか」

 

「こ、これは責任重大ね~!頑張るのー!」

 

「ウス、頼むッスよエコーさん。ウチの目と耳はエコーさん何スから」

 

「うん、新しく出来たRVF-0(P)との監視網も利用してみる~」

 

 

ちなみにRVF-0(P)の(P)はPhantom(ファントム)のPである。

武装を全撤去した完全偵察型で、ステルス機能を大幅に引き上げたバリエーション機だ。

追加増槽を付けているので、他のよりも航宙能力が高いのも特徴である。

 

 

「あとはそうスッね・・・なにかこの場で言いたいヤツはいるッスか?」

 

「艦長、科学班からの報告だが、新しく重力井戸を強化出来たから、同じくデフレクターも強化完了だ。それに伴いホーミングレーザーの重力レンズ生成機構もグレードアップされた事を報告しておく」

 

「わかったッスサナダさん」

 

「あ、艦長、さっきサナダさんがいったホーミングレーザーに合わせてFCSも改良されたぜ。俺とユピとでやっておいた」

 

「わかったッスよ。ストールさん。他はなにかあるッスか?」

 

 

見渡すが全員口を閉じたままである。

沈黙は肯定と受け取ることにした。

 

「よし、なら今日はコレで解散ッスね」

「艦長はいつも通りシミュレーターか?」

「いんや、今日は重力調整した訓練室で軽く汗かいたあと妹との触れ合いでも楽しもうかと」

「ふれあいー?・・・・・ブーッ!」

 

突然エコーさんが顔を真っ赤にして鼻血を吹いた!

な、なにがどうしたんだ?

 

「はいエコー、ティッシュよ?それとトントン」

「あうあうー」

 

ミドリさんにティッシュを渡され、首の後ろをトントンされているエコーさん。

あれ?首の後ろを叩くのは民間療法で効果が無いんじゃなかったか?

というか―――

 

「だ、大丈夫ッスかエコーさん」

「大丈夫よー」

「くくく、エコーは何を想像したんだか・・・」

「きっと・・・いけない方面・・・ね」

「うう~、副長もミューズもそういう事いわないでよー」

 

なんか手慣れてるなぁ、俺は知らなかったけど良くある事なのだろうか?

でも何か聞くのが憚られるというかなんて言うか・・・まぁいいか。

 

「エコーさん大丈夫ッポイんで俺は上がるッスね」

「あいよ、指揮を受け継いだ」

「それじゃお疲れッス~!」

 

――――俺が出て行ったあと。

 

「全く、アンタは何鼻血出してんだい」

「なんか想像したら予想外に凄くて~」

「まぁ艦長は何気に美系ですからね。あの情けなささえなければ」

「確かにねぇ、時折見せる真剣な所はいいんだが・・・」

「普段が普段だから、どうにも・・・」

「でも・・・ふれあい・・・ブッ!」

「はい、ティッシュ。それとトントン」

 

ブリッジでは女性陣のこんな話しがあったらしいが俺は知らなかった。

 

***

 

これまた数日が経過しフネは惑星バルネラ、ジェロン、ネロを経由しドゥンガへと向かった。

道中に出て来た海賊連中は適当に追い払うか、追剥するかして対応した。

そして、特に何か起きる訳でも無かったのですこし省略し無事にドゥンガに到達しますた。

 

とりあえずじっ様とウォル少年をドゥンガに降ろし、しばらくしたら迎えに来る事になった。

様は適当に過ごせとのお達しだ。なので、俺達はまたもや海賊狩りをおこなう事にした。

そろそろ資金が足りなくなりそうなのだ。見境なく開発する連中が居るんでな。

世の中やっぱ銭ズラ。

 

「艦長、前方からスカーバレルの艦船が接近中―」

「駆逐艦一隻じゃたいした稼ぎにもならんな」

「いやまって、様子がおかしいです・・・コレは通信?」

 

何故か戦闘出力を出そうとしない海賊船。

こちらとしては海賊船なら無条件で襲っても良いんだが・・・。

 

「なんて言ってるッスか?」

「ええと、“そこの戦闘艦聞こえるか?当艦に攻撃の意志は無し”だそうです」

「どういう事だろうねぇ?海賊船が交戦の意思なしだなんて」

「わからないッスね。ミドリさん通信回線を開いてくれッス。交信してみるッス」

「アイサー」

 

すこしして回線がつながったと言われたので、俺は通信を送る。

 

「こちらユピテルの艦長ユーリ、なぜスカーバレルが交戦を避ける?」

『やはりユピテルか。ここらじゃみた事が無いフネだからすぐに分かったぜ』

「質問しているのはこちらだ。返答次第では破壊も辞さない」

 

若干高圧的に通信を送る。大人げないかもしれないけど、舐められたら終わりだ。

しかし、俺達って名前が知られているんだろうか?

・・・まぁ結構海賊船は沈めたからなぁ。連中の中で噂になっててもおかしく無い。

 

『す、すまねぇ!理由何だが、俺達はコレからルッキオ軍に参加するつもりなんだ』

「ルッキオ軍に?」

 

ルッキオって言ったら、ちょうど今紛争している2国の片割れじゃないか。

つまりコイツらは義勇軍に参加って訳なのね。

 

『そういう事、もう海賊業とはおさらばって訳だ』

「なるほど、納得した。こちらも海賊で無いフネを襲うつもりは無い」

『へへ、ありがてぇ。それよりあんたもルッキオに行く気はないか?』

「紛争中のとこにか?」

『ああ、今あそこじゃ艦を持っているやつがエントリーするとかなりの額の手当がもらえるらしいぜ?俺達海賊船を何隻も沈めたあんたがこっちに付けば千人力だ』

「・・・考えておくさ。貴艦の航海に幸あらんことを」

『ああ、それじゃあな』

 

海賊船、いや元海賊船との通信が切れる。

ふむ、義勇軍を随分集めてるんだな。

 

「どうやらルッキオ側は派手に戦力の増強をしている様だね」

「みたいッスね。バランスが崩れた途端戦争になるッスね」

 

まぁこう派手にしているって事は電撃戦が狙いかな?

タダでさえ金が無いのに、そんなに沢山兵隊募っても長くは養えんだろう。

 

「戦争なんてくだらねぇッス。皆もっと遊んだ方がおもしろいと思うッス」

「確かにねぇ、だが人間の欲望に際限はないんだよ」

「くだらな過ぎて泣けてくるッスね」

 

そうだねぇと頷くトスカ姐さん。

早いとこ次の宙域にいってみたいから、こんなとこで足止めは御免だ。

紛争と海賊を根絶やしにしてしまえばいいんだろうけど。

 

「ああ、面倒臭い」

 

――――俺は艦長席に深く腰掛けて、そう呟くのだった。

 

 

漆黒の宇宙の中を綺麗な放物線を描いて飛翔する光が進んでいた。

その光は上と下に放たれており、まるで鏡写しの様に動き有る一点を目指している。

そしてその一点にて交差する光とともに、宇宙に小さな閃光がきらめいた。

 

「エネルギーブレット、敵艦に着弾」

【敵艦への損害、各武装部分大破、噴射口大破】

「本艦へのダメージは0%」 

 

ブリッジ内に報告の声が響き、緊張の空気が徐々にほぐれて行く。

 

「今回も百発百中だなストール!やるじゃねぇか」

「へっ!長年の勘とユピのお陰よ!」

「戦闘状態解除、EVA要員は各員配置についてください。繰り返します―――」

 

今日も今日とていつも通り海賊のお相手だ。

最近有名になってきたのか、此方に挑む海賊は少なくなった。

 

だがごく稀にこうやって仕掛けてくる命知らずが居る。

こういった存在は普通は拒否したいものだがウチはちがう。

こういう輩をむしろ歓迎している節がある。何故なら――――

 

『艦長!コリャスゲェ!新型の反陽子魚雷だ!発射管が無いのに何で持ってんだろうな?』

『こっちには軍の試作レーザー砲のスペア、一体どういうルートで手に入れたんだが』

 

――――とまぁ、こういった具合に、俺達を倒す為にどうやって手に入れたのかは知らないが、中々いい装備をそろえている事があるのだ。

 

「ルーインさん、適当にあさったらいつも通りに頼むッス!」

『おう、トラクタービームで牽引作業だな?任せとけ』

『敵さんの生き残りはどうします?』

「何時も見たく収容艦クルクスに閉じ込めておくッス」

『了解』

 

ふぅ、しかし発射管無いのに反陽子魚雷積んでるとか・・・最終的に自爆するつもりだったのか?

でもコレでまたマッド共のおもちゃが増えてしまったな。

今度の奴はフネに搭載するヤツとはいえ、大きさはかなり小さいし・・・。

 

「反応弾装備みたいな事になったりして・・・」

「ん?ユーリ、どうかしたかい?」

「うんにゃ、何でも無いッスよトスカさん」

 

一瞬反陽子魚雷を搭載したVF-0フェニックスが浮かんだ。

・・・・どうしよう連中なら片手間で作れちまうよ。

まぁ宇宙空間じゃ反陽子魚雷なんて大きな花火程度でしかないけどね。

 

「さて、あの爺さんとわかれて既に一週間が経過したわけだが」

「今だ連絡なしッスね。どんだけ待てばいいんだか」

「ま、お陰で総資産は増えてるけどね」

 

そう、紛争地帯になるって訳で集まってくる海賊連中は皆総じて装備が良い。

しかもウチのクルーには、敵さんのフネを武器だけ壊して無力化出来るヤツがいる。

普通は出来る芸当じゃないけど、ソレの陰でほぼ丸々敵の装備を売れるのだ。

 

それがどれだけのもうけになるかと言うと・・・原作の10倍くらい軽くいく。

ジャンク品では無くて買い取りという形になる事もあるからだ。

まぁソレもマッド共に食いつくされそうになる時があるけど些細な事だ。

 

「うしし、銭ズラ、世の中銭ズラ」

「気持ち悪い事してないでとっとと仕事する!」

「ぶ~!だって俺すること無いッス!」

「だったら仕事をあげようか?EVAの手伝いでもしてきな!生身で!」

「いや、それ死ぬッス」

 

幾ら俺でも生身で宇宙に出たら「URYYYYYYYYっ!」ってなっちまうよ。

具体的に言うとかなり気持ち悪から抽象的にしておく。

 

「ならVFの訓練で回収作業手伝ってみたらどうですか?」

「その手があったか!」

「やめときな、あと360時間以上のシミュレーター訓練を積まないと、周りが危険だよ」

「むー!」

「なんだい?ふくれっ面になったってダメだからね!・・・・おお、伸びる」

「みょーん!」

 

 トスカ姐さんにほっぺたを引っ張られてる。ちょ、痛いんスけど?

 

「ええどれどれー?うわぁーのびるー!」

「これまた随分とモチ肌というか・・・・」

「おお、マジで柔らケェ」

「ふむ、艦長の細胞はかなり若いのだろうな」

「意外とプ二プ二ですな。孫を思い出しますわい」

「なんでみんなして伸ばすんスかぁ!仕事に戻るッスッ!」

「「「「了解!」」」」

 

 うう、おもちゃにされちゃった。もうお嫁に行けない・・・って俺は男じゃん。

 しかしまだ連絡来ないのか?いい加減待つのも面倒臭いんだが。

 

「はぁ、本当にさっさと連絡くればいいのに・・・」

 

 俺がそうぼやいた所、神さまに願いが届いたらしい。

 

「艦長、ルーさんから連絡がありました。至急迎えに来てほしそうです」

「よし!聞いたな?善は急げ、時は金なり!すぐに迎えに行くッスよ!」

「「「「了解!」」」」

 

 

 ルーのじっ様から連絡が来た!コレで勝つる!

そう言う訳で、俺達は一路惑星ドゥンガへと向かった。

 

 

***

 

――――ドゥンガ・酒場――――

 

「おお、ココじゃココじゃ」

 

 酒場に入ると、ルーのじっ様がカウンターの片隅で酒を飲んで待っていた。

 

「ココじゃじゃねぇよ爺さん。のんきに酒なんか飲みやがってよ。両国ともドンドン戦力が増してるってのに・・・」

 

 あまりにのんきな態度に見えたのかトーロが文句を言う。まぁココだけ見ると仕事をしてた様には見えんわなぁ。

 

「うむ、ソレでいいんじゃよ。器に過ぎた料理を乗せれば、その器は砕け散る物」

「はぁ?」

「つまりだトーロ、もうすぐルッキオは自壊するって事ッス」

「ど、どういう事だよ?なんでルッキオが?」

「ワシとウォルは、今まであらゆる手を用い・・・」

 

―――とりあえず長かったのでようやくさせてもらうぜ。

 

 簡単に言えば、じっ様たちはあらゆるコネを使い、ルッキオ側が兵を募っていると、この宙域各所にばらしたらしいのだ。当然、報奨金目当ての海賊やらゴロツキが集まって行く。一見すると戦力が増加した様に見えるだろう。

 

 だがその実、軍は集まったゴロツキ達への対処に困っている。あまりに集まり過ぎて今では暴動や略奪が軍内部で起こってしまうくらいなんだそうな。ゴロツキには軍機なんて関係無いから好き勝手やってたら怒られて腹いせにと言うところだろう。

もはや紛争をする前に自国の問題を解決しなければ、自治領として機能する事すら難しくなってきているんだそうだ。

 

「奴らは自国内のゴロツキの問題に苦労しているからの。そいつらを制圧するという名分があれば」

「中央政府軍も動かすことが出来るってワケッスね?」

「そのとおりじゃ艦長」

 

 しかし考えて見ると内戦おこしてつぶし合いさせた所を横からかっさらう訳か。戦略とはいえエゲツねぇなオイ?

 

「そしてこれはワシの考えた策では無く、ウォルが考えたものなのじゃ」

「ウォル少年が?・・・・ってアレ?ウォルくんは何処に?」

「・・・(もじもじ)」

 

 見れば柱の陰に隠れているウォル少年、恥ずかしいのか?

 

「こ奴はこの年でワシの教えを見事に自分の物としておる。やがては銀河を指呼の間に納める軍師になる事じゃろうて」

「へぇ、この子がねぇ?」

「成程、敵に“コレはウォルの罠だ!”とか言わせるワケッスね?わかります」

「・・・(もじもじ)」

 

 しかし、今のこの状態だとただの童顔軍師だろうなぁ。

 

「さて、ではそろそろ行こうか」

「ん?何処にッスか?」

「ルッキオのゴロツキ退治じゃ、民間人のお前さん等が戦ったという既成事実が必要じゃからの。その連絡を受けて、中央政府軍が動き出すと言う訳じゃ」

「成程・・・まぁ軽く粉砕しますかね」

 

 とりあえずとっとと殺っちまおう。

 

「良いか?ルッキオ軍の中のゴロツキ共のフネだけを狙うのじゃ。正規軍のフネを沈めてはならんぞ、よいな?」

「あいあい、ルーさん。任してくれッス」

 

こうして、ルーのじっ様たちと合流した俺達は、ゴロツキ退治へと出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ベクサ星系~ルッキオ間・航路中央部―――

 

「艦長ー、ルッキオ軍を発見しました~」

「艦種識別、一番艦は正規軍のテフィアン級駆逐艦です」

【あとはスカーバレルのジャンゴ級2隻です】

 

 さて、航路に来た訳だが、さっそく此方へと迫る艦隊を見つけ出した俺ら。可哀そうだが紛争解決の生贄だ。さっさと落ちてくれや?

 

「対艦戦闘用意!敵から攻撃を受けた後反撃する!専守防衛ってヤツだ」

「アイアイ、第一級戦闘配備、コンディションレッド発令します」

「シェキナ準備完了、照準はどうします?」

「一番艦以外を粉砕してやれッス」

 

 さて、コレで敵さんが仕掛けてくれば、紛争に介入と思ったのだが・・・。

 

「・・・・ねぇトスカさん、気の所為じゃなかったら何スけど」

「奇遇だね。私もちょっと驚いている」

【敵2番艦、3番艦、戦線を離脱、一番艦のみ突っ込んできます】

 

 どうにもこの宙域で暴れ過ぎたようだ。海賊連中が尻尾巻いて逃げて行くのがレーダーマップのモニターにて確認出来る。まぁデカイし特徴的なフネだから噂も広まるわな。

 

「―――どうするよ艦長?まだシェキナの射程範囲内だけど?」

 

そうストールが言ってきた。どうするもこうするも、紛争の解決のためだし・・・・。

 

「目標に変更無し、各砲発射」

「アイサー」

「エネルギーブレット、2~3番艦へと直進」

【2番艦、命中、インフラトン反応拡散、撃沈です。3番艦はブリッジが大破、あ、今轟沈】

「よし、当て逃げみたいだけど次の標的を探すッス!」

 

 正規軍の一番艦であるテフィアン級が突っ込んでくるが、ソレを無視して逃亡する。この宙域は中央政府軍が遠距離監視網を引いている筈だから、数時間もすれば軍が派遣される事だろう。

 こちらの識別は0Gドックのまま、つまりは民間人だからな。どんな形であれ紛争に巻き込まれた民間人が、敵さんから攻撃を受けたという形になる訳だ。

 

「またまた敵さんはっけ~ん!」

「流石に紛争をしているだけの事はある。遭遇率が高いな」

「今度は全艦向かって来るようです。艦長」

「指示は変わらず、敵に与するゴロツキ共のフネを狙えッス!遠慮はいらないッス!」

 

こうして紛争地域に入ってから数時間後、中央政府軍がようやく重い腰を上げ、かなりの大艦隊を率いて、ルッキオとアルデスタとの紛争へ介入をし始めた。

 

大義名分は紛争地域に現れる不穏分子達の殲滅、外交的な見地から両国はこの大艦隊を、中央政府からの圧力と認識、そしてこの時を上手く狙って提示された調停を両国が受諾。

 

ベクサ星系における紛争はめぼしい被害(海賊たちの略奪は除く)を出すことなく、紛争を終結させる事が出来たのであった。

 

 

 

――――ちなみに、両国で紛争の調停が結ばれている頃、俺達はと言うと・・・。

 

 

 

『おーし!レアメタル30トン!採掘完了だ!』

『リチウム、ベリリウム、タングステン、チタン、マンガン、バナジウム、ストロンチウム、セレン、ニッケル、コバルト、パラジウム、モリブデン、インジウム、テルル、ハシニウムの15種類を確保、現在パッケージ作業中』

『こっちはレアアースだな、プロメチウムとルテチウムが殆どだ!コイツは高く売れるぜ!』

『量としては、10トン程度、こちらもパッケージ作業中』

『パトロール隊が巡回するまで後20時間、それまでに後10トン程貰っちゃいましょう!』

『『『おー!』』』

 

 どさくさにまぎれて、人がいない無人採掘場を勝手に使って、レアメタルとレアアースを確保していた。売り払って金にしても良いし、そのまま修繕素材にしても良し。猫ババは最高だね!良い子は真似すんなよ?

 

 

 

 

「・・・ふぅ、後少しで作業完了か」

「おつかれさん、しかしなんとかなったみたいで良かったね」

「うむ、良くやったの艦長、しかし抜け目がないと言うか何と言うか」

「へへ、照れるッス」

「「いや褒めてないから」」

 

 いやね?どうせこの星系まで出張って来たんだから、少しくらい貰ったって問題無いだろう?どうせいずれは採掘されちまう鉱石達だ。遅いか早いかの違いでしかねぇんだもん。

 

「しかし、艦長はようやった。・・・そうじゃな、艦隊戦におけるちょっとした技を進呈しようかの」

「技ッスか?」

「うむ、一時的にフネのリミッターを全て外す裏ワザ、その名も『最後の咆哮』じゃ」

 

 最後の咆哮って、全力攻撃する特殊技能だったっけ?

 

「・・・・・何かすこぶる縁起が悪い名称ッスね?」

「いうな、その代わり効果は確かじゃ。まぁコレを使うとしばらくエネルギーが低下するから、文字通り最後にしか使えんじゃろう」

「まぁ一応貰っておくッス。何かの役には立つかも知れないッスから」

「うむ、それじゃユピくん、このデータをインストールしておいてくれ」

【了解しましたルーさん】

 

 しかし使えるのか使えないのか解らん技だなオイ。さてとこれからどうするべ?

 

「とりあえず次は海賊の本拠地でも叩くんだろ?」

「・・・・ファズ・マティの位置判明してるなら、巨大な小惑星ぶつけるのダメッスかね?」

「う~ん、そうしたいのは山々だけど、この宙域じゃそいつは無理だろう」

 

 ああ、そう言えばちょうどファズ・マティはメテオストリームの向う側だったな。メテオストリームって言うのは、この周辺の重力場によって引き起こされている小惑星帯の大規模な河の事で、何の準備も無しに突っ込むのは非常に危険な場所でもある。

 

そう言った意味ではファズ・マティは天然のバリアーに守られた要塞と呼べなくは無い。遠距離からのミサイルによる攻撃は、メテオストリームが全て破壊されてしまうからである。

 

俺が今言った小惑星を用いた遠距離攻撃も同じ、メテオストリームにさえぎられて途中で軌道が狂ってしまうから当たる事なんてない。幾らなんでも重力偏差で小惑星が渦巻くあの嵐の中を通る小惑星の軌道計算なんて出来るわけがねぇ。

 

「なら、直接乗り込むしかないんスかね?」

「そうだね。とりあえず縄張り直前にあるゴッゾに向かってみたらどうだい?」

 

 トスカ姐さんはそう言うと、宙域図に示されたメテオストリームのギリギリにある小さな星を指さした。ふむ、人は住んでいるみたいだから情報くらいあるだろうな。

 

「よし、決定。次の目的地はゴッゾ」

「了解だユーリ、みんなに伝えておくよ」

 

 こうして、ベクサで猫ババを完遂した俺達は、その足でゴッゾに向かったのであった。

 

***

 

――――惑星ゴッゾ軌道上・通商管理局、軌道エレベーターステーション。

 

 

「ですから、コレ以上は高く買い取りは出来ませんってば!」

「そこをもう一声!大丈夫、いけるっス!ローカルエージェントさん!」

「私にそんな機能ありません。レートでしか売れないのです」

「頑張れ頑張れ!頑張れば何とかなる!いけるいける!」

「いけません!」

 

 く!頭が固いな!ならば!

 

「・・・・(ボソ)天然オイル」

「む」≪ぴく≫

「・・・・(ボソ)最高級の研磨剤」

「むむ!」≪ぴくぴく≫

「(よし、もう一声)最新のドロイド用冷却装置、新品」

「・・・ゴク、20%でどうです?」

「40%」

「28、コレ以上は」

「35、コレ以上は下げねぇッス」

「なら30%でお願いします!」

「・・・・OKだ。物はアンタあてのコンテナに包んで置くぜ」

「感謝します。ソレではあちらのコンテナを全て買い取りますので、ソレでは失礼」

 

 

 

――――ローカルエージェントは、良い笑顔で戻って行った。

 

 

 

 フィー、熱い舌戦だったぜ!ん、何してたかって?そんなの決まってんだろ?値段交渉だよ値段交渉!ベクサで掘った希少鉱石を売る値段をアップさせてもらったのだ。

 

いやー、ローカルエージェントはインターフェイスが充実してるから、こういった時便利だわ。何せ賄賂が効くロボットとか普通は有り得ねぇもんな。

 

「・・・・このフネの生活班を受け持つ様になって随分経ったけど、まさかローカルエージェント相手にと交渉する人間を見るなんて思わなかった」

「おろ?アコーさん、どうしたッスか?なんか疲れた顔してるッスよ?」

 

 後ろを見れば、我がフネの生活系統を一手に引き受ける生活班の長が立っていた。何故か額に手を当てて、疲れた顔をしてこちらを見ている。頭痛かしらん?

 

「・・・・いや、自分とこの艦長がすさまじく常識から逸脱してたのを確認しただけさね」

「????」

「でもま、艦長のお陰で商談が捗ったから良いとするか」

 

 なにか良くわからんが、褒められたのか・・・?まぁいい。

 

「そう言えば皆は何処に行ったッス?」

「とっくに酒場の方に行ってるよ。副長曰く海賊退治の前の酒宴だとさ」

「あの人はま~た勝手に・・・」

「経費で落させるとか言ってたよ?」

「・・・・まぁ良いッス。みんなには無茶聞いてもらってるんだからこれくらいはね」

 

 幸いなことに経った今希少金属とかが高く売れたからな。今の所懐には若干の余裕がある。全クルーが5回くらい宴会しても余るくらいだ。

 

「それじゃ、自分は皆のとこにでも行くッスかね。アコーさんもある程度までやったら切り上げてくるッスよ?」

「了解、心配しなくてもタダ酒を逃す手はないさ」

「なら安心。それでは」

 

 とりあえず、俺はステーションの軌道エレベーターに向かった。

 

…………………

 

……………

 

………

 

 酒場に来ると既に酒宴が始まっており、いたるところでクルー達の楽しげな声が響き渡っていた。ウチのクルー達はやることなす事無茶が多いが、何故か酒癖はそれほど悪いヤツは少ない。

 

「あら、いらっしゃい。こんな辺境にようこそ。私はミィヤ・サキ、これからひいきにしてね?」

 

 俺が中に入ると、恐らく看板娘さんだろう。あずき色の髪の少女が話しかけてきた。

 

「・・・・・ドリル」

「?どうかしたの」

「うんにゃ、何でもないッス。所で俺はアソコで騒いでる連中の連れッスから案内は良いッスよ」

「ん、わかったわ」

 

 店の奥に帰って行く少女を見送る。しかし見事な巻き髪具合だ。

あれこそまさにドリルの名がふさわしいだろう。

 

「さてと、トスカさんたち・・・は・・・?」

「さぁさぁ、この寮の酒をトーロが一気できるか勝負だ!」

「トーロお願い!もうやめて!」

「ティータ、すまねぇ・・・姐さんには逆らえねぇんだ」

「お願いトスカ副長!トーロのHPはもう0よ!」

「さぁさぁ賭けた賭けた!」

「・・・・うわぁッス」

 

 コレはしばらく離れている方が賢明だな。俺は巻き込まれたくは無かったので、トーロを見なかった事にし、カウンターの方に移動した。

 

「・・・ンぐンぐんぐ・・・・ぶはー!」

「「「くそぉ!呑み切りやがった!」」」

「おおえぇぇぇ!!」

「「「吐いた!?こうなるとどうなる!?」」」

「ドローだから親の総取りさね」

「「「ちきしょうー!」」」

 

―――――他人のフリしてよ。他人のフリ。

 

 そう、ウチのクルー達に酒癖が悪い人間はそうはいないが、唯一の例外がトスカ姐さんなのである。彼女は優秀で人望が厚く、俺よりもずっと指揮官向きな人なんだけど、酒が入るとソレを某幻想殺しの如くに破壊してくれるのだ。

 

 今もトーロをダシにトトカルチョの真っ最中、頬が薄く紅い所を見れば少しばかり酔っているのがよく解る。これさえなければ本当に完璧姉御何だけどなぁ・・・・実におしい。

 

ぶっ倒れたトーロをティータが介抱しているのを横目に、新たなエモノを探しているようなので顔をそむけた。今眼が合うと俺が標的にされてしまう。

 

「ねぇ、あなた達、海賊退治に行くの?」

 

トスカさんが怖いので、俺は一人被害に遭わない様に地味にカウンターで酒を飲んでいると、先ほど話したミィヤが俺に声をかけてきた。

 

「・・・ん?まぁそうだが?」

「凄いじゃない!この辺の男は、みんなアルゴンを怖がって近づかないのに・・・」

 

 ミィヤの話によると、ここいらの男共は最初こそ抵抗の意思を見せたが、すぐに反抗しなくなったらしい。ソレ以来町には活気が無く、どこか沈んだムードが蔓延しているんだとか。だがソレはある意味正しい行為だろう。危険に手を出さないのは賢いやり方だ。

 

俺達みたく、戦いながら宇宙を駆け巡る馬鹿野郎達はともかく、この星の人間はいうなれば一般人なのだ。宇宙に出られる人間も、宇宙のならず者相手に戦えるような力をもった人間などでは無く、空間技師や空間鉱員、もしくはコロニー建設関係者などが殆どだと思う。

 

 確かに反逆や抵抗を見せることは時として必要である。だが時と場合を考えた場合、ソレは必ずしもプラスに働く訳ではない。下手したら海賊たちに事故に見せかけられて殺されるとか家族を人質に取られる可能性だってある。

 

 そう考えた場合、この星の人間達のとった行動は正しいのだ。自分に力の無いモノが抵抗しようとするだけ無駄な事である。力の無い正義に意味は無いとは良く行ったもんだろう。まぁ既に政府軍の方には被害通達がいっていた事だし、戦う気が無いわけではないのが救いだ。

 

「スゴかねぇッス。俺達はあくまで自分たちの利益の為に動くッス。セイギノミカタじゃないッスからね」

「それでも、勇気があるとおもうわ」

 

 うぐ、そんな戦隊ヒーローを見るこどもの様な純粋な目で見られると、何だが自分のしてきた悪事が・・・ね、猫ババくらいはいいじゃないかぁ!

 

「そんな勇気がある人、私憧れちゃうなぁ・・・」

「・・・・ふふ、そう言われると嬉しいッスが、後ろからすさまじい殺気を感じるから止めておくッスよ。看板娘を奪ったらもうこの星に降りれないだろうしね」

「あら、お上手」

 

 いや、現に冷や汗が流れるくらいの殺気を感じるんスよ?主に私しめの妹様の方から・・・。

 

「ソレは良いけど、あなた達のフネは大丈夫?この先メテオストームが発生してるけど・・・」

「ふむ、ソレは宇宙海流とでも呼べばいいモノのことだな」

「うわっビックリした!いきなり湧くなイネス!」

「湧くとは失礼な。仕方ないだろう?僕もトスカさんから逃げてきたんだから」

「・・・なら仕方ないッスね」

「さて、話を戻すがこの先にある小惑星帯は、二つの惑星に挟まれた事による強力な引力によって潮の満ち引きの如く流動している。その中を通るって事は何も対処していないと甚大な被害をこうむるってわけさ」

 

 ココまで一息に説明するイネス、コイツの肺活量は一体どうなってやがるんだ?

 

「尚、何で潮の満ち引きの如く流動が起きるのかはよくわかっていないらしく、一説では――――」

 

 このあとイネスは自分の世界に入り、クドクドねちねちと解説をしてくれた。正直すでに予備知識と言う事で知っているけど、空気を呼んで俺は何も言わない。気持ちよく説明したがっているんだからさせておけばいいじゃないか。

 

「――――まぁそう言う訳で、メテオストリームを通過する際はデフレクターユニットが必要と言う訳なのさ。デフレクターなら、質量物の衝突から船体を守ることが出来る」

「うす、解説ご苦労さんッス。勉強になったッス」

「ホント、アナタ博識ねぇ」

 

 あ、イネスの奴ミィヤに言われたら少し照れてやがる。顔は必死にポーカーフェイスを装って隠してるけど、耳の紅さまではごまかせませんぜ?

 

「おお!美少年諸君!こんな所に居たぁぁぁ!」

「まず!酔ったトスカさんだ!逃げろ!」

「ちょっとまってくれ!うわっ!」

「ぬふふ、おひとりさま確~保!さぁて、なにしてやろうかなぁ?」

 

 古来より酔った人間ほど始末が悪い物は無い。俺は鍛えているお陰で逃げられたが、イネスがトスカ姐さんに捕まってしまった。しかし助けることは出来ない。もし助けようとすれば、ミイラ取りがミイラになってしまう。

 

「か、艦長助け―――」

「・・・捕まってしまった自分を恨みたまえ」

「う、うらぎったなぁぁ!艦長ぅぅぅ!!」

「どうとでも取りたまえ、俺は自分の精神の貞操の方が大事ッス」

 

 そう言うと、イネスの顔は絶望の表情に包まれた。

 

「さぁて、イネスは素材が良いから、アレしかないねぇ。ちょいと奥を借りるよ?」

 

そう言うと店主がまだなにも行っていないのに、有無を言わさず店の奥にイネスを引きづり込むトスカ姐さん、そして奥の方から何か叫び声が聞こえ始めた。

 

 

「ちょ!何服を脱がそうと!止めイヤ!」

「ほれほれ、抵抗しないでおいちゃんにまかせておきな。ゲへへ」

「止めろぉぉぉぉぉ!!!止めてくれぇぇぇぇ!!」

「えーがな、えーがな」

「よくないぃぃぃぃ!!!」

 

 

 こうしてイネスと言う生贄君のお陰で、クルー達は安堵して酒を飲んでいた。すまんなイネス、お前さんの身体能力の低さが悪いのだよ?酔ってフラフラなトスカ姐さんに捕まるなんてお前くらいのもんだしな。

 

 

 

 

 さて、こうしてトスカ姐さんが奥に引っ込んだ為、しばらく平和な一時だったのだが―――

 

 

 

 

「ねぇチェルシー、アソコにいる“モノ”はなんだろうね?」

「そうねユーリ、私には“メイド”さんに見えるわ」

「・・・・時たま凄いよね。トスカさん」

「ええ、本当に・・・女の子にしか見えない」

 

――――しばらくして、イネス♂はイネス♀となって戻ってきた。しかもメイド姿で・・。

 

「「「メ、メイドさんきたぁぁぁぁぁ!!これで・・・これで勝つる!」」」

「ケセイヤ班長!これカメラッス!」

「ぬおお!よくやった班員A!俺様が激写してくれるわぁぁぁ!」

「「「後で焼き増しお願いします!」」」

 

 そして毎度おなじみ、整備班の男共の暴走。さらには――――

 

「「「かわいいー!!」」」

「イネス君わー、身体が細くて肌の色が白いからー、とっても可愛いわぁー」

「エコー、鼻から愛が漏れてる。いい加減拭け」

「だってー凄く可愛いんですものー」

「エコーの言う事もわかります。アレはもはや兵器です」

「・・・・ミドリ、お前もか」

 

―――――とまぁ、女性陣も黄色い叫びを上げ―――――

 

「「「アレは男アレは男アレは男アレは男―――――」」」」

「「「ちがうちがうちがうちがう―――」」」

「・・・・俺は真実の愛に目覚め≪ガンッ!≫はうっ!」

「あぶねぇ、危なく約一名がバラに目覚めるとこだった・・・」

 

――――――更に男性陣の一部には危険な兆候が見られるほどだった。

 

「イネス、おまえ・・・」

「は、はは・・・いいから笑えよ艦長。なんかもうどうでも良い」

「・・・いや、お前さんは良くやったさ」

「イネ子~!そんなとこに居ないでお酌しなぁ!」

「わわ!ちょっと~!こ、こんな事して・・・こんなの僕の役目じゃ・・・」

 

 トスカ姐さんに無理やり引っ張られてイスに座らされたイネスが、涙目でそう言った。ちなみにトスカ姐さんの方が背が高い訳で、必然的に上目使いとなる訳だが―――

 

「「「ぶはっ!」」」

 

 まぁ当然こうなる訳で・・・今のイネスを見た連中(男女半々)が鼻血を吹きだした。かくいう俺も危なかったが、鋼鉄の精神と後ろに居らっしゃる妹夜叉様の気配のお陰でたえることが出来た。というか妹様がこえぇぇぇ。

 

 こうして、とても騒がしい宴会は明け方まで続き、色々と騒ぎを起してマスターに謝ったりした後、俺は突撃してきたトスカ姐さんに酒びんを口に放り込まれ一気飲み、その所為で途中で眠ってしまったのであった。

 

 

***

 

 

「―――きて―――おきて」

「・・・・う~ん、あたまいたいー」

「きて―――さい!起きてください!皆さん!」

「――――やかましい!」

「ぐあ!な、何を?」

「いいか店主さん、俺は今モーレツに二日酔いだ。頭いてぇんだわかるだろ?」

 

 二日酔いで痛む頭をさすりながら、のそのそと起き上がる俺達。どうやら全員で明け方ちかくまで騒いでそのまま轟沈してしまったようだ。

 

「どうしたってんだい、そんなにあわてて?」

 

 他の連中も多かれ少なかれ昨日の酒の影響を受けているのに、トスカ姐さんは平然としていた。このヒトはバケモンかよ・・・。

 

「そ、それが先ほど海賊らしき男たちがやって来てミィヤさんとイネスさんをさらって行ってしまったんです」

「「「「「「な、なんだって(ですってー!)!」」」」」」

「うわ・・・声が頭に響く・・・」

 

 店主の話を聞いていた周りのクルーの大半が跳ね起きて叫んでいた。

 

「こうしちゃいられんぞ艦長!俺達の女神さまがさらわれた!」

「すぐに助けに向かうぞ!さぁ起きろ速くしろ艦長!」

「お前ら先行ってエンジンかけてろ」

「「「イェッサー!」」」

 

 すさまじく迅速な行動で、酒場から出て行くクルー連中。

 

「いや女神って・・・アレは男」

「男でも可愛ければ正義!」

「「「その通り!」」」

「・・・解った。さっさと救出に向かうッス」

 

 とりあえずサド先生に、アルコール分解剤をもらって二日酔いをなんとかしねぇと・・・。そう思い俺たちは酒場を後にした。ちなみにキチンと宴会の後を片づけてから出て行ったことを述べて置く。俺達はそこら辺はきっちりしているのだ。

 

 

――――そして以上に熱気が入っている部下を引き連れて、俺はさらわれたイネス達を追いかける為にユピテルとアバリスを今まで発進準備時間の短縮記録を大きく塗り替えて発進、ゴッゾのステーションを後にした。

 

 

***

 

 

(′・∀・)つSide三人称

 

*海賊船倉庫

 

 

「・・・・ううん、こ、ここは?」

 

 

 イネスが気がついたのは小汚い倉庫の中だった。辺りを見回すとかなり前からあるのだろうか?埃をかぶった酒瓶ケースやらパッケージやらが散乱している。壁の感じからすると、どうやらフネの中の様である。

おかしい、自分はトスカさんに無理やり酒を飲まされてそのままダウンした筈だから、まだ酒場に居た筈だ。そう思ったモノの、無理やり飲まされた酒の所為か頭が回らない。

 

≪プシュー≫

 

 その時、この部屋のエアロックが外れる音が響き、扉が開いていく。出てきたのはこの小汚い部屋と同じくらい小汚い男が2人。どう見ても堅気には見えない。

 その二人はイネスを見据えると、その身体を舐めまわすかのように見降ろし、下品な笑みを浮かべている。ま、まさか・・・とイネスの脳裏には考えたくもない想像が浮かんだ。

 

 

「へっへっへ、アルゴン様に差し上げる前に、ちょっと楽しませて貰おうか?」

 

 そしてその想像は当ってしまったらしい。海賊の片割れがそう言ったのを聞き、イネスは身体が恐怖で硬直するのを感じた。

 

「おう。早いとこ済ませちまうだ」

 

 もう一人の海賊・・・仮にBとしておこう。そのBがカチャカチャとベルトを外し始めるのを見て慌てるイネス。このままではアッ――――な事をされてしまう!

 

「わ、わっ・・・ちょ、ちょっと待てって――――」

「いんやまたねぇ」

「こ、こんなベッピン、逃がす手はないだ」

 

 じりじりと近寄ってくる男共にいっそうの恐怖を感じつつもイネスは彼らから逃れようと部屋の奥へと後ずさって行く。しかし狭い部屋の為すぐに壁に当たり下がれなくなってしまった。

 

イネスの顔が恐怖に歪み、怯えた眼で海賊を睨むのを見て、それが海賊A,Bの被虐心をそそるのか更に笑みを深める男たち。ゆっくりとまるで焦らすかのように迫る所がいやらしい。

 

 この時そう言えば自分はまだ女装していた事を思い出し、きっとこの海賊たちは自分のことを女だと勘違いしていると考えたイネスは力の限りに叫んだ。

 

「だから待てって!僕は男だぞ!」

「なにぃ?」

「男ぉ~?」

 

 流石に男には手を出さないだろう・・・だがその認識は甘かった。彼らの家業は海賊、当然女性と知り合いになれる接点などは無く、独身が多いのである。

 女海賊はいるにはいるが、こんな下っ端のフネに居る訳もなく、独身の男やもめがぎゅうぎゅうの空間でもあるのだ。そんな訳で――――

 

「まぁ・・・」

「それはそれで。」

「ええ!?」

 

―――とこうなる訳だ。男は時に性欲に忠実なのである。

 

「オラ嬢ちゃん!・・・いやこの場合は坊主か?」

「んなことどうでも良いって、速いとこ犯っちまうだ!」

「う、うわぁ!や、止めてぇ!」

 

 男である自分が男に襲われるという恐怖に、腕を振り回してなんとか逃げようとするイネス。しかし腰が抜けてしまい、逃げる事が出来ない!

 

「おら!手間かけさせんじゃねぇ!」

≪バチン≫

「ひぐぅ!」

 

 そんなイネスの抵抗をモノともせず、海賊Aのゴツイ手から繰り出された平手打ちによって、イネスは床に倒れ伏してしまった。当然男たちはその隙を見逃すことは無い。

 

「おい!お前そっちもて!縄で縛ってやるんだ!」

「よくみりゃ顔も可愛いだぁ・・・グヒヒ」

「や、やえて、止めてくれぇ・・・」

 

 手を何処から出したのか知らないが縄で縛られ、衣服が裂かれていく。下着が半脱ぎの状態にまできた時、イネスの頭はこの服借りものなのに・・と現実逃避を起していた。

 

「それじゃ、いただきま~す!」

「い、いやだぁ」

 

 

 

 イネス危うし!・・・・と、海賊Aがイネスに覆いかぶさった瞬間!

 

 

 

≪ゴガガガガガーーンッ!!!≫

「「な、なんだぁ!?」」

 

艦内を揺さぶる程の大きな揺れが彼らを襲った。

 

『“白鯨”だ!あのデカブツが出やがった!テメェ等!死にたくなかったら応戦――な、何だ?!ロボッ――!ガガー・・・!』

「お、おい!どうしたブリッジ!ブリッジーっ!」

 

 いきなり途絶えた放送に、海賊Aが倉庫の端末から通信を入れているがブリッジは沈黙したままで返信が帰ってこない。何かが起きてブリッジは既に落ちたと見て良いだろう。

 そして艦内の灯りが非常灯に切り替わった所を見た彼らはことさら慌てていた。

 

「おいこうしちゃいられネェべ!早いとこ逃げねぇと!」

「逃げるって何処にだよ!とりあえずお楽しみはあとだ!部署に向かうぞ!」

 

 と、海賊Aが海賊Bを鼓舞し、イネスを放置したまま部屋を出ようとしたその時。

 

≪ドコンッ!ズガガガン!≫

「「うわぁぁぁぁ!」」

「・・・何が、起きて?」

 

 更なる振動、だが砲撃を喰らった様な感じでは無い。

どちらかと言えば何かがぶつかった様な音に聞こえた。

 

≪――――ガギギギギ・・・・≫

 

そして艦内に響き渡る金属がひしゃげる時の不快な音。

何なのかは解らなかったが海賊AとBはイネスを放り出してそのまま部屋を出て行った。

 

「・・・いつつ、何が起きたんだ」

 

イネスは縄で縛られたまま起き上がる。先ほど海賊Aが使用していた端末に向かったイネスは、顎と舌で器用に端末を操作して船内の状況を調べて見た。

どうやらどこかのフネと交戦中であり、小型艇がこのフネに突入し、艦内に相手が侵入したらしく、銃撃戦が艦内各所で起きていると言う事がわかった。

 

 残念ながら艦外カメラは壊れており、一体誰と戦っているのかは不明である。この端末からでは船内映像も見れない為、侵入してきた人間が誰なのかも解らない。

 

「く、僕は・・・ココで終わるのか・・・」

 

 そしてイネスはその事に絶望した。恐らくこれは別の海賊か何かに襲われたのだろう。徐々に近づいてくる銃撃の音を聞きながらも、例え助けられても相手が海賊だったら自分はどちらにしても生きてはいられない。もしくはそれに準ずる事をされてしまうだろう。

 

「僕のフネ・・・持ってみたかったなぁ。そう言った意味じゃ羨ましいよユーリ艦長」

 

 そして浮かんだのは自分と同年代の若き艦長の顔だった。皮肉なことに彼にとってもっとも友人と呼べる関係だったのはユーリだった。ユピテルの乗船してから知らず知らずのうちに、彼は自分の居場所を作っていたのだから。

 

≪ガガガガガガっ!ボヒュッ!ドコーンッ!≫

【ぐわぁぁぁぁ!】

 

 どうやら大分戦闘区域が近づいてきたらしい。エアロックの向う側からバズーカで吹き飛ばされたかのような音が響き渡ったのがわかった。

 

≪カンカンカンカン―――≫

 

 ブーツで床を走る音も近付くのが解る。

そしてその音は自分の居る倉庫のすぐ近くで止まった。

 

(これまでか・・・)

 

 もしかしたら相手が入って来て自分を撃ち殺すかもしれない。

そう思うと彼は自然と涙を流していた。死ぬことへの恐怖では無くコレで果ててしまう悔しさに涙したのだ。

 

≪プシューーー≫

 

 そしてエアロックが開いていく、イネスは諦めたかのようにその場にうずくまった。だが、彼の予想はまたしても外れることとなる。

 

「お!イネス発見ッス!おーいみんな~!見つけたッスよ~!」

「え?艦・・・長?」

 

 そこに現れたのは彼が想像していた様な海賊の姿では無く、ここしばらくの間に良く見なれた人間の姿、自分と同じくらいの年齢でどこか抜けた顔をした男がそこにいた。

 

「おう!イネス!助けにきたぜってうえっ!」

「「「イネス~~~(ちゃ~ん)!!!」」」

 

 そしてその男は、突然後ろから来た団体に押しつぶされるかの様にして倒れ込む。

 

「ぶはぁぁぁ!なんて刺激的!さすがは我らが女神さまぁぁぁぁ!!」

「俺もう死んでいい。むしろこの光景を忘れない様に誰か殺して!」

「トーロ!見ちゃダメぇぇ!!」≪ズブン!≫

「ぐあぁぁぁぁ目がぁぁ!目がァァァッ!」

「イネスー大丈夫だったー?」

「とりあえず服を着替えさせた方が良いだろう」

「ではこれをどうぞ」

「まってミドリ、ソレは女性モノだよ?」

「・・・・チッ」

「ミドリさんや、女性が舌うちするモノではありませんぞ?」

「ようイネス、無事でなによりだね?」

 

 そして相変わらずの煩さが、この場に広がった。なんとココにはユピテルのブリッジクルー+αが全員集まっているのだ。しかも扉の向こうにはその他のクルー達の姿まで見える。フネの方はどうした?

 

「重いッスー!皆退いてくれッスー!」

「「「ああ、ゴメン艦長」」」

 

 いまだ皆に潰されていたユーリが手足をばたばたさせて存在をアピールする。

 慌ててみんなどいた訳だが、若干泣き顔なのは御愛嬌。

 

「しくしく、みんなで俺をいじめるッス」

【ご愁傷さまです艦長】

「うう、ユピだけが俺のこと心配してくれるッス」

「私もいるよユーリ」

「じゃ訂正、ユピとチェルシーだけッス」

 

 まだ少し涙目な艦長、と言うか潰された癖に結構元気なやつである。

 

「所で周辺に敵は?」

【策敵しましたが今のところ反応は――――】

 

 どうやらユピテルが制御しているようだ。しかしたった一人の人間の為に皆で来たと言うのか?だとしたらなんて馬鹿な・・・そうイネスが思った時。

 

「まぁソレはさて置き、無事でよかったッスね?イネス」

「え・・あ」

 

 艦長に頭を撫でられていた。自分と同じ年齢である筈の艦長なのに、自分を撫でるその手はとても温かく感じられる。まるで父親のようで安心できる雰囲気を感じた。

 

「さぁ、とにかく帰ろうッス」

「・・・・うん」

 

 彼の言葉に思わず胸がぎゅっとしたのはイネスの秘密である。

 

Sideout

 

***

 

Sideユーリ

 

 

 ふぅ、なんとかイネスを奪還する事に成功したぜ。様子から察すると後少しで掘られる寸前だったみたいだな。ホント二重の意味で間に会ってよかったよウン。仲間がコレを気におホモだちになっちゃったら目も当てられない。

 

 ちなみにどうやって助けたのかというと、まずユピテルの長距離レーダーで海賊船を探し出す。その際複数の艦船を見つけたが、その中でイネスに持たせておいた携帯端末からのビーコンを探り出した。

 

 該当するフネを見つけたら、ようやく編隊行動がサマになってきたVF-0達を導入、俺達が囮となって海賊たちをひきつけている間にアクティブステルスで隠れながら先行したVF-0達によってブリッジを破壊させた。

 

 そしてVF-0に守られた兵員輸送用ランチが、VF-0が開けた穴から海賊船の中に突入し、更なる混乱を招かせ、その間に砲塔をVF-0 達が破壊、そしてそのままユピテルを接舷させたのだ。

 

 そして俺達はブリッジをユピに任せ、そのまま突入しイネスを見つけ出したと言う訳なのである。とにかく色々とあったものの、イネスが無事でよかったぜ。

 

 

 

 そして今ユピテルのブリッジに戻る最中なのであるが―――

 

「・・・」

「あっはっは。よかったよかった。無事でなによりだねぇ」

「・・・何言ってるんですか?貴女がこんな変な服を着せたからでしょう?」

「なーに言ってんだい?私らの迅速な対応が無かったら、アンタ貞操の危機だったんでしょ?」

 

 あー、トスカ姐さんが誰も触れない様にしてた爆弾を・・・というか。

 

「そ、その事には感謝してますけど!だからってどうして僕の服はメイド服のままなんですか!」

「たまたまアンタの服は全部洗われている最中でねぇ?」

 

 いまだにイネスの服はあの破けたメイド服のままである。

 どうやらどこぞの馬鹿な連中がイネスの服を全て洗いに出したらしい。

 しかも、全部all丸洗いで戻ってくるのに2週間はかかると言うおまけ付き。

 まぁ犯人はすぐ近くでニヤニヤしているミドリさんだろうが・・・。

 

「それに陣頭指揮をとったのはユーリだ。まずはユーリに礼を言わなきゃいけないんじゃないかい?」

「うぐ・・・・そうですね」

 

 イネスはそう言うと俺の方に向き直った。

 

「まぁええと・・・そう言う訳で、あの・・・ありがとう」

「・・・・・」

 

 ええと、とりあえず状況だけ述べて置くぜ?

 どう見ても女の子にしか見えない眼鏡メイドさん(服が破けて肌露出)が、目の前で恥ずかしそうに頬を少し染めて、若干視線を外してチラチラと俺を見ながらお礼を述べてくれてます。

 

「お、おい、艦長。どうした?」

「・・・・・大丈夫、いまちょっとだけときめいた自分を殺したくなっただけだから」

「はっ?」

 

 唖然としてるイネス、仕方ねぇだろうが、お前さんのその姿は男には毒にしかならねぇ。

 

「何でもねぇ、だからしばらく来るな。その姿はやばいから。誰か女性、イネスに付き添って部屋におくってやってくれッス。このままだと普通にクルーに襲われるだろうから女性の警備員も手配しておいた方が良いッス。そして何でもいいから着替えさせてやってくれッス」

「「「了解しました~!」」」

「ええ!?ちょ!離せ!離してくれ!!」

 

 そしてイネスは女性陣に引きずられて連れていかれてしまった。ドップラー効果と共に・・。

 

「・・・・さて、とりあえず本題に入っるッス」

 

 とりあえず気を取り直して、いま残っているメンバーだけでブリッジに向かいブリーフィングを行う。ちなみに残ってんのは男性陣と俺とトスカさんだけだ。女性陣はイネスを神輿担ぎにしてでていったからな。

 

「あのフネをくまなく探ったが、何処にも一緒にさらわれた筈のミィヤの姿はなかった」

【フネのコンピュータのログによると、どうやら別のフネに乗せられたようです】

「つまり、一足早く彼女はファズ・マティへと移送されてしまったと言う事か?」

 

 ストールの質問に、俺は頷く事で答えた。

 

「となると、メテオストリームを抜ける為にデフレクターの調整が必要と言う訳だな?」

「サナダさん、お願い出来るッスか?」

「ああ、問題無い。急いで作業にかかる」

「残りの全員は恐らく行われるだろう戦闘の準備を急いでくれッス!」

「「「了解!」」」

 

 今度はあの隕石の河を越えた先か、面倒臭いけど女の子放っておくのは男がすたるってモンだぜ。

 それに本拠地と有れば・・・・ぐふふ。

 

「ほんじゃま、海賊退治としゃれこみますか」

 

 

 そして俺達はそのまま海賊の本拠地ファズ・マティへの針路をとった。

 

 

***

 

 さて、惑星ゴッゾと人工惑星ファズ・マティとの間にはメテオストームが流れている。

 俺達はファズ・マティへ向かう途中、そのメテオストームの手前まで来ていた。

 

「おお、コレがメテオストーム」

「すさまじくダイナミックだなオイ」

「こりゃ確かにデフレクター無しで突っ込むのは自殺行為だな」

 

 視界いっぱいのガスとデブリと隕石が、惑星の重力に引かれて荒川の如く目の前を通過していくのが、ココからでも確認出来た。重力偏重の所為か、かなり河が広がっており、ユピテルの全速でも迂回ルートを通れば数週間はかかってしまう事であろう。

 つーか、マジスゲェ!宇宙の自然ってのはマジでダイナミックだなオイ!

 

「ミューズさん、サナダさん」

「このフネ・・・すでに準備は・・・出来てるわ」

「墓の艦も出力を臨界で長時間作動させても大丈夫だ」

 

 おし!なら、行きますか!!

 

「デフレクター出力最大!メテオストームを突破するッス!総員警戒態勢!」

「「「アイサー」」」

『総員警戒態勢が発動されました、繰り返します。総員警戒態勢―――』

 

 重力偏重の河を越えると言う事で、艦内があわただしくなる。まぁ海賊たちが突破しているんだからウチのクルーに出来ない訳が無い・・・筈だ。

 

「メテオストームの影響圏内まで、あと20宇宙キロ」

「各艦デフレクター最大出力、臨界作動開始!」

 

 デフレクターが作動した。近くに居る工作艦アバリスを見ると、フネを全て囲む程の楕円球型シールドが発生しているのが見て取れた。

 

【間もなく、河に突入します】

「総員、耐ショック防御!」

 

 そしてフネが河へと突入する。途端―――

 

≪ゾゴゴゴゴォォォォッッッンッ!!!!!≫

 

―――かなりの振動が襲い掛かる!隕石、隕鉄等のデブリがデフレクターと接触したのだ。

 

「ぐわっ!スゲェ揺れ!」

「はっは、バラバラになりそうな勢いだね」

「不吉な事言わんといてください!トスカさん!」

「おっと、これはすまないね」

 

 入った途端、デフレクターに激突するデブリの衝撃波がフネを揺さぶるように振動させている。コリャ本当に普通のフネならひとたまりもない。

 

【デフレクター出力、4000±100で安定、船体の振動はグリーンエリア内】

「ふむ、外は重力の嵐だな。デフレクター付き観測機があれば調査が出来るのだが・・」

「そんな高価なモン買わないッスよ?」

 

 しかしゲームだとほんの十数秒的な扱いだったけど、なんか実際体験するとかなり長く感じる。まだ突入してから艦内時間では3分も経って無いのに、手に汗が噴き出してくるぜ。

 

「あと少しでメテオストームを越え」

【警告!小惑星クラスの隕石、接近中!スクリーンに投影!】

 

 ユピが警告を発し、空間スクリーンに投影されたのは、大きさが3kmはありそうな大きな氷の塊だった。

 

 

「な!転舵!おも舵50!上下角45!急げッス!」

 

 俺の指示でユピテルは慌てて舵を切るが、重力偏重の所為で上手く動かせない。しかし隕石はドンドン近づいてくる!どうする?!どうすんの俺!

 

「つ、続きはウェブで!」

「なにワケの解らん事言ってんだい!しゃんとしな!」

 

 おおっとあぶねぇ、混乱してワケの解らん事言っちまったぜ。あのクラスだとデフレクターじゃ防ぎきれない。しかも此方も回避が間に合わない。・・・・ならすることは一つ!

 

「火器管制開け!シェキナ発射用意!」

「まて艦長!今ホーミングレーザーを放つとエネルギー不足でデフレクターの出力が!」

「押しつぶされるよりかはマシッス!」

 

 防げないし回避できないなら破壊するしかない!

 

「く、仕方ない。・・ケセイヤ聞こえるか?火器管制室に行ってリミッターを外してくれ!」

『サナダがそこまであせるとはよっぽどだな。待ってろすぐに外してやる』

「シェキナ発振体部分開口、発射用意良し!」

 

 エネルギーの充填レベルがコンソールに表示された。まだだ、まだ低い。

 

「もうちょっと上がらないんスか!?」

『こちらケセイヤ!リミッター解除完了!』

 

 ケセイヤさんの報告が来ると同時に、エネルギー量がメーターを振り切った。

 

「撃て!艦長っ!」

「シェキナ発射!総員耐ショック防御!」

「ぽちっとな!」

 

 デフレクター自体を重力レンズとした収束砲撃が、迫る隕氷へ放たれた。

 収束したエネルギー弾が氷の一点にブチ当たり、溶解させながら水蒸気爆発を引き起こす。

 

「隕氷破壊成功!ですが破片が!」

【エネルギー不足でデフレクター出力が50%まで低下!】

「アバリスのガトリングキャノンで対応してくれッス!」

 

 アバリスからの砲撃で此方への破片の直撃は防ぐ事が出来た。

だがまだ災難は終わって無かったようで――――

 

「あぁッ!」

「どうしたミドリ!驚くんじゃ無くて報告しな!」

「す、すみません。殿にいたクルクスが大破、恐らく撃ち漏らしの破片を浴びたのだと思われます」

【映像出します】

 

 ココに来て殿につけていたクルクスが破片をもろに喰らったらしい。映し出された映像には、今にもデフレクターが消えてしまいそうなクルクスが、所々火を噴き出して爆散する姿だった。

 

「一歩間違えば・・・俺達も」

 

誰かが呟いた言葉にブリッジ内にそんな空気が流れ始める。

 

「ああなりたくなかったら!すぐにこの場を離脱するッス!」

「「「アイサー!」」」

【デフレクター出力更に低下、あ、穴が開いた】

「「「「なにー!」」」」

 

 見れば小さいながらもデフレクターに穴が・・・ま、不味すぎる!

 

「河の出口まで後少し!エンジン全開ッス!」

「エンジンが焼けてしまうぞ艦長!」

「後で修理すれば良いッス!とにかく急ぐッス!」

 

 全く、あの隕石に出会わなければ普通に突破出来たってのに!ああもう!

 

「影響圏離脱まであと5秒」

【・・・3,2,1、離脱完了】

「「「た、たすかったぁー」」」

「な、なんとかなったッスね・・・」

「ああ、危なかったけどね」

 

 とりあえず修理をしなければなるまい。この付近には流れからはずれたデブリが集まる小惑星帯があった為、一先ずその中に入り、ユピテルは修理を行う事となった。

 

 

***

 

 

 小惑星帯で修理を行うが、その結果はあまり芳しくない。

整備班から寄せられる報告はそんな感じだった。

 

『ダメだ艦長、シェキナの発振体は全損、エネルギー回路が殆ど逝っちまってる。一応取っ換えたがこんな簡易修理じゃ艦隊戦やるほどの出力は望み薄だぜ』

「ふーむ、ソレは参ったッスね」

 

修理はしたが結果は思わしくない。リミッターを外して撃った為、ホーミングレーザー用の発振体は壊れ、エネルギー回路は焼けてしまったのである。

 

一応壊れた発振体は全て取り換えはしたが、肝心のエネルギー回路の方はちゃんとしたドッグで分解修理が必要な状態何だそうな。

 

『ソレとデフレクターに空いた穴から入った細かなデブリで、左舷側は総取っ換えだな』

「むぅ、作業時間はどれだけかかりそうッスか?」

『ざっと見積もって1時間はかかりそうだぜ?』

 

 また装甲板にもある程度被害が出ている。第一装甲板だけで防げたのは僥倖と言えるだろう。

 

「出来ればその半分で出来ないッスか?」

『そうだなぁ、穴をパテで埋めるだけなら動きながらでも出来るぜ?その代わり熱処理装甲が使えなくなるから、耐エネルギー防御がかなり下がるけどな。』

「そこら辺はAPFSがあるから多分大丈夫ッス」

『ならすぐに取りかかるぜ』

 

 既に海賊には俺達が来ている事は知られているだろう。

敵さんが艦隊を展開する前に突入した方が良い。

 

『後さいわいエンジンは何ともないみたいだから、すぐに発進出来ると思うぜ?』

「了解したッス、ケセイヤさん。とりあえず直せる所は直しておいてくれッス」

『言われるまでもねぇ。通信終わり』

 

 う~ん、だがまずいな。このままだと火力はアバリスだけになってしまう。

ただでさえクルクスを失ってしまったって言うのに、どうしてくれようか?

 

「・・・・・ユピ」

【はい艦長、何でしょうか?】

「フェニックスの誘導操作はどこまで伸ばせる?」

【そうですね。正確な誘導でしたら通常レーダーの範囲内でしょう】

 

 ふむだとするとかなり敵に近づかないと不味いな。

しかし艦載機で敵を叩くのはかなり時間掛かるしなぁ。

どうしてくれよう?

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

【艦長?】

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うがー!考えても解んないッス!」

【お疲れなのでしたら、少し休憩なさいますか?後は私と副長でやっておきますから】

「そう・・・ッスね。じゃちょっと休憩させてもらうッス」

 

 無理に考えた所でいい案は浮かばない。

それにどちらにしろ敵との接近遭遇までは早くても後2時間はかかる。

 だったら無理に考えたりしないで1時間程時間を開けて考えた方が良い。

 

≪ぐぐぅ~・・・≫

 

・・・・・・とりあえず食堂いってこよ。イネス救出で朝から何にも食べて無いからな。

 そう言う訳でブリッジを出た俺は一路食堂へと足を向けた。

 

………………………

 

…………………

 

……………

 

「定食Aが50!BとCが20のオーダーが入りました!」

 

「あいよ!すぐに作る!特製は出来てるから出前にいってくれ!」

 

「「「行ってきます!」」」

 

「どいたどいた!鍋が通るよ!」

 

「誰だ!調味料出しっぱなしにした奴は!」

 

「皿洗いは後で良いから材料切れ!あ?機械を使えばだ?桂剥きする機械なんてあるかよ!」

 

「ふぉあちゃぁぁぁぁぁ!!」

 

「あ、あれはタムラさんの奥義対流圏!」

 

「知っているのか?!」

 

「ああ、鍋を振って材料をドーム状にすることで熱の対流を作りだし、材料全体に均等に熱を伝わらせて旨味を閉じ込める方法だ。俺初めて見た!」

 

「お前ら手を止めてんじゃねぇッ!!早く出前行って来い!」

 

「「わ!すいませ~んっ!!」」

 

 

――――――とりあえず食堂来たんだけど、なんか戦場だった。

 

 

「こ、これオーダーしても良いんだろうか?」

「ん?あ、艦長どうしました?チェルシーさんなら出前に出ていませんよ?」

 

 注文しようとカウンターに来たんだが、あまりの厨房のすさまじさに絶句してた俺。

 偶々近くにいた普段はウエイターしてる人に話しかけられる。

 

「いや、飯食おうかなって思って・・・しかし凄いッスね?まるで戦場ッス」

「ええ、なんせEVA(船外作業)の真っ最中ですからね。出前のオーダーが大量に来てるんですよ。所でご注文は?」

「じゃ、無難に定食Zで頼むッス」

「あいよ!オーダー定食Z一つ入りました!」

「すぐ作るからまってろぉぉぉぉぉ!!」

「うお!?料理長顔が変わってる!?」

「本気出してますからね」

「ほい!お待ち!」

「って早!?速いッス!」

「まぁ兎に角持ってけよ艦長」

「あ、ああ」

 

 なんか本当に火が通ってるのか心配だなオイ。

とりあえず食堂の空いているテーブル(と言っても外が忙しいので誰もいない)に座る。

 

 

「あ、普通に火が通ってる・・・タムラさんパネェ」

 

 

食べて見るとあらビックリ、あれだけの短時間で作ったモンだと言うのに普通に食える。

 むしろウマいくらいだ。ちなみにメニュー的にはとんかつ的な何かだけどな。

 

「うんウマい。こりゃ美味い。美味し。相変わらずタムラさんはすごい。うん」

 

 あんなにウマい飯を作れる人が、粗末な飯屋しかやって無かったなんてウソみてぇ。

 まぁ原価ギリギリの赤字運営してたらしいから?しかたなかったからなのかもな。

 

んで、俺は食堂でタムラさんの料理を食べていると、ようやく一区切りついたらしく、出前に出ていた人も戻って来ていた。その中には当然チェルシーも居る。

 

「あ、ユーリ?ご飯食べに来たの?」

「そうッスよチェルシー。そっちはもう終わりッスか?」

「ううん、今から食事休憩なの」

「じゃ、一緒に食べるッスか?」

「うん!じゃご飯取ってくるから待ってて!」

 

 そう言うと厨房に駆けて行く彼女。そして手にお盆持って戻ってきた。

 

「ほんじゃま、食べますか」

「うん!」

 

 お互い向かい合わせになって食事を取る。

どうだい?兄妹の仲睦まじいスキンシップの時間さ。

 うらやますぃだろう?

 

「そう言えば作業状況はどうなの?」

「ん?ああ、まぁなんとかね。ただ対艦能力が低下しちゃったんだよなぁ」

 

現在の近況をチェルシーに話す。 

まぁ彼女は難しい事は解んないけどそれでも聞いてくれるので、ちょうどいいストレス発散になるのだ。で、色々と話していたら―――

 

「戦闘機は使えないの?このフネは確か空母なんでしょ?」

 

―――と言われたので「ウチの艦載機だと艦隊相手には火力不足だ」と返した。

 

「じゃあ、何か火力を上げる為の武装をすればいいんじゃない?」

「うんにゃ、一応ファストパック開発でアーマードの開発はしてるッスけど、今回の戦闘には間に合わないッスからね。それでも火力的には足りないッス」

「じゃ、ロボットになれるんだから、戦艦の大砲をもたせちゃうとか?」

「なははははは!そんなこと出来ないッスよ。戦艦クラスの大砲を動かすエネルギーが無いッスからね」

 

 ソレさえ解決できればいけるんだけど・・・・ん?

 

「いや待てよ?VFに強力な火力を持たせる・・・あ!?」

「どうしたの?」

「よし!いける!コレで勝つる!さっそくケセイヤさんに連絡しなきゃ!」

 

 俺は急いで定食をかっこみ、食器を片づけて食堂を後にする。

出る直前にチェルシーお前最高だわ!と叫んだんだが、何かが倒れる音が聞こえたのは何でだろう?

 

 

だが、今はそんなことは関係ない!急いで準備しなければ!

俺は端末でケセイヤさんを呼び出しながら、倉庫へと走って行った。

 

 

 

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第十三章+番外編2+第十四章

Side三人称

 

 スカーバレル海賊団本拠地、ファズ・マティから距離にして5000宇宙マイル以上離れた空間に、1000mクラスと2000mクラスの巨大なフネが2隻、突如として現れた。

 

 監視衛星を破壊しながら迫る1000m級のフネは、大マゼランのバゼルナイツ級戦艦。

そして正面からゆっくりと白く美しい船体を隠しもせず迫るそのフネは、データには無いフネであり、そしてまた海賊たちの中でうわさとして囁かれているフネだった。

 

 

―――曰く“白鯨”―――白色に輝く船体から付いた名前である。

 

 

 黒い宇宙空間を悠々と航行するその姿は、まさに白鯨の名にふさわしい。

 だが問題はそこでは無い。海賊たちで流れる噂とは“白鯨に出会ったモノは逃れられない”と言うモノ。

 

 かのフネに勇猛に立ち向かった血気盛んな者たちは、ことごとくデブリに変えられ、抵抗しなかったモノは、根こそぎ奪われて近くの星に降ろされる。

 海賊よりも恐ろしい追剥集団・・・と自分たちの事を棚に上げて恐れているほどなのだ。

 

 そして、その白鯨が現れた事で、ファズ・マティの周辺を監視していた海賊たちが、大慌てで自分たちの首領(ドン)であるアルゴンへと伝えに走ったのだった。

 

「ホーホーイ!来おった来おった!何をしとる、艦隊を出して数で踏みつぶしてしまえ」

 

「へ、ヘイ!」

 

 アルゴンは自分の眼鏡を拭きながら、配下の報告を聞き、艦隊に発進命令を下す。

 首領(ドン)の指示により、ファズ・マティに係留している海賊船の艦隊が、次々とファズ・マティを発進し白鯨へと進行を開始した。

 相手は海賊たちが恐れる白鯨、だが前衛艦隊は25隻の駆逐艦、15隻の巡洋艦、5隻のミサイル巡洋艦5隻の大艦隊である。

 

 50対2の戦力差、幾ら巨大で強力なフネでもこの差は覆せまい。

 また、この後ろには更なる防衛線が引かれているのだ。

それに相手は巨大だから撃てば当たる。海賊たちは自信をもっていた。

 

 

「まもなく敵艦と接敵!交戦宙域に入りますぜ!」

 

「交戦準備!各艦、シールド展開!エネルギーの残量に注意しろ!」

 

「交戦準備アイアイサー!」

 

 

 距離は離れているモノの、相手は幾たの海賊船を沈めて来た“白鯨”。油断は出来ない。

 前衛艦隊を預かる幹部は、すぐさま交戦準備を行うよう各艦に通達した。

 そしてすぐに海賊船達はAPFSを張り始める。

 

 

「敵1番艦!エネルギー量が増大!」

 

「ふん、この距離で当たる訳がない。ただのブラフだ」

 

「お頭!なんか変なのが敵の甲板に出てきてますぜ?」

 

 

 だが海賊たちのフネがシールドを張ると同時に、まるでそれに呼応するかの如く、前衛を務めるバゼルナイツ級の甲板上に、拡散速射レーザー砲・ガトリングキャノンがせり出してきた。

 

「なんじゃありゃ?大砲か?」

 

「なんか寄せ集めみてぇだな」

 

「見た事もない兵器だな」

 

 大小様々な砲身が束ねられたその砲は、真っ直ぐと前衛艦隊へと照準を合わせていた。

砲にエネルギーが回され、余剰分が光を放ち、その内に臨界に達したのだろう。

そこから大小様々なレーザーが海賊艦隊にむけて放たれた。

 

 

≪ズズーン!≫

 

「うわぁ!」

 

「当たったぁぁ!しずむぅぅ!」

 

「騒ぐな!この距離じゃレーザーは減衰してシールドを突破何ぞ出来ん!それよりも各艦分散隊形を急がせろ!」

 

 

 艦隊を任された海賊幹部は、艦隊に指示を出し各艦の距離を取らせる。

 拡散型である為、かなりの弾幕だが、密集していなければ落される事は無い。

むしろ減衰しているので装甲板にかすり傷程度しか付いていなかった。

 

「こちらも撃て!反撃だ!」

 

 そして海賊艦隊も砲撃を開始する。

 駆逐艦や巡洋艦が一定のインターバルを置きながら砲撃を行い、辺りの空間には交差する光で明るくなっていた。

 

そして放たれたレーザーの幾つかは、白鯨の前衛艦に当たっているようで、シールドが光を放っているのが見て取れる。

 撃ちあいを行っていると、突然二隻が後退を始め、海賊いたちから距離を取り始めた。 

 

 

「後退していきますぜ!」

 

「へ、へへ!流石にこの数にはかなわねぇってかぁ?」

 

「よし!追い詰めてやるぞお前ら!全艦全速前進!」

 

「「「よっしゃぁぁぁ!」」」

 

 

 その姿を見て、海賊たちの士気が上昇する。

 自分たちが圧倒的有利であり、あの恐怖の白鯨を追い詰めているのだ。

 士気が自然と上昇するのも頷ける。

 

 

「・・・・だが、白鯨は今の所沈黙、むしろ何もして無い方が怖いな」

 

「そこ!無駄口叩いてる暇あったら手を動かせ!ミサイル発射よぉいっ!」

 

 

 駆逐艦達を盾にして、後続艦であるゲル・ドーネ級ミサイル巡洋艦が対艦ミサイルの発射準備を整えていく。

ガトリングキャノンは強力だが、あれだけ連射していればすぐにエネルギーが付いて、再チャージまで時間が掛かる事であろう。

 

「弾幕が尽きた時、それがお前らの最後だ。たったの2隻で俺達を相手にしたことを後悔させてやる」

 

 艦隊指揮を執っている幹部はそう言って唇を歪ませた。

ミサイルによる飽和攻撃、幾ら強力なフネでも、そのダメージは防ぎきることはできまい。

 

 

「お頭、発射準備完了しました」

 

「おし!後は弾幕が尽きるのを待つだけだ」

 

 

 すでに最初よりも弾幕が薄くなってきている。エネルギーが切れかけている証拠だ。

 そして幹部の予想どおり、ガトリングキャノンはエネルギーを使いきったのか、弾幕を張るのを停止し、強制冷却をおこなっている。

 

 

「今だ!全艦ミサイル発射!」

 

≪ドシュシュシュシュシュッ!!!≫

 

 

自艦も含め数百に及ぶミサイル達が、目の前の二隻の艦隊に向けて放たれる。

視界を埋め尽くすかのようなミサイル達の群、弾幕が途絶えた暗い空間に白い尾を靡かせながら、

ミサイル達は付き進んでいく。

 

 

「ミサイル、目標に到達まで、後90秒」

 

「ふん、あれだけのミサイルを防ぐ手段何ぞない。祈る時間くらいはある見たいだがな」

 

「ちげぇねぇッス!流石はお頭!頭良いッス」

 

 

 ガハハハと笑う幹部、そして勝利を確信している海賊たち。

 だが、結果は彼らの予想を越えて、違う展開を見せた――――

 

 

「お、お頭!ミサイルがっ!」

 

「な、なんだとぉっ!」

 

 

見れば、あれだけあったミサイルが、次々撃ち落ちされている映像が、戦術スクリーンに映し出されていた。

 

「バ、バケモンだ・・・アレだけのミサイルを落すなんて・・・」

 

 得体が知れないモノに対する恐怖が、海賊たちのフネに伝染していく。

 放たれたミサイル達は、白鯨が放つ光によってすべて影響圏に到達する前に撃ち落とされていたのだ。

 

 恐らく光学兵器だと思われるが、その光はまるで生き物のように何も無い空間で曲がってから目標に向かう。その姿がどこか古の怪物の蛇の髪を思い起こさせ、海賊たちは更に恐怖した。

 

「ひ、ひるむなぁ!たかが第一弾のミサイルが落されただけだ!第二弾よう――――」

 

海賊幹部は部下たちを鼓舞し、もう一度攻撃命令を出そうとする。

だがその命令は届く事は無かった。

 

 

≪―――――キュゴォォォォォンッ!!!!!!≫

 

 

何故なら、艦隊の上空や下方から未確認の黒い戦闘機達が、突如として出現したからだ。

その中でも、守られるかのように編隊の中心にいた人型の一機が、2発の反陽子魚雷を艦隊目がけて発射した。

それによって、スカーバレル前衛艦隊を指揮艦ごと滅却してしまったのだ。

艦隊の中心部に放たれた反陽子魚雷は、艦隊の殆どを巻き込んで焼きつくし、全てをデブリに変えてしまった。

 

運よく影響圏から外れていたお陰で生き残った海賊たちもいたが、あれだけいた艦隊が焼きつくされたことに驚いている内に、黒い戦闘機達の対艦ミサイルによって、反陽子魚雷をくらった者たちと同じ運命をたどることになる。

 

 こうして、白鯨は何事も無かったのように、海賊たちの残骸を蹴散らして、真っ直ぐとファズ・マティの最終防衛ラインへと接近していったのであった。

 

Sideout

 

***

 

 

「敵前衛艦隊突破!ファズ・マティ最終防衛ラインまで後50分!」

【VF-0Aw/Ghost編隊、撃墜機0。全機、弾薬補給の為、一時帰還します】

『こちら整備班、補給作業の為、飛行甲板にて待機する』

 

 ふぃー、何とか前衛艦隊を突破出来たぜ。

 やった事は超簡単、俺達を囮にして艦隊を引きつけて後退、待ち伏せのVF達に襲わせただけさ。

 まぁ、もっとも―――――

 

『反陽子魚雷の換装作業いそげー!』

 

――――-強力な花火を持たせたヤツを、一機紛れ込ませておいたんだがね。

 

まぁアレですよ?VFは人型に変形可能だからさ?ある程度換装には自由度がある訳なんだ。

ちょーっと大きいからパイロンに取り付けられない武装でも、ちょこっと改造して手に持たせれば発射可能だったりするのである。

しかし、まさか既にそういった時用の、手持ち式パイロン作ってあったとは・・・ゲに恐ろしきは技術者の血よのぉ。

 

 

「さて、最終防衛ラインも突破しましょうかね。所で反陽子魚雷の残弾は?」

 

「えーとリストにあるのは・・・オリジナルが後一つにケセイヤ手製のコピーが20発ほどかね」

 

「・・・・・あの人、また人に断りもなく」

 

「もう病気の段階だから、気にしたら負けさ。ちなみにさっきの反陽子魚雷、コピーのほうだよ?」

 

「マジッスか?おいおい・・・」

 

 

 そう言えばオリジナルは一本しか無かったのに、何で複数あるのか不思議だったんだよな。

 俺が頼みに行った時も、突然「こんな事もあろうかとぉっ!」とか叫んでたのはその所為か?

 なんか心配なので、格納庫の様子見てみっか・・・。

 

 

『班長ー、次はどれにします?』

 

『おっし!多弾頭を試そうぜ!ギリギリ積めるだろう』

 

『でっけぇ花火を上げてやりますよ!』

 

『ソレと艦長の行ってた“トイボックス”の準備できてるお!もっと面白いことができるお!』

 

『ヨッシャ!とっとと射出スンぞー!』

 

『『『おー!』』』

 

「・・・・・」≪ピッ≫

 

 

 俺は無言でコンソールを操作して、画面を消した。え?僕はなにも見ていませんよ?

 しばらく目頭を押さえたのは、別にあいつ等の無茶ぶりを見て、俺の心がもう諦めの境地に入ったからじゃないさ・・・きっとな。

 

さて、前衛艦隊との接触から20分程度経過した。既にVF達は発進させてある。

更にケセイヤさん謹製の素敵な“トイボックス”も用意させてもらったぜ。

 ソレを開けることになる海賊連中には同情すら覚えるな。

 

 さて、ココからは敵と接触するまでまだ少し時間がある。

 半舷休息が取れる程では無いモノの、ぶっちゃけるとヒマだ。

 

「しっかし、今回は派手に撃てネェからイライラするぜ」

 

 んで、あまりにヒマだったので、俺は艦長席からブリッジの様子を見ていたら、ストールがそうこぼしたのを聞いた。それを隣にいたリーフが律儀に突っ込みを入れている。

 

「おいおいストール、トリガーハッピーの禁断症状か?」

 

「人聞きの悪ぃこと言うなリーフ。俺はバーンと派手に出来ないのが嫌なだけだ」

 

「良く言うぜ、休暇中は殆ど射撃訓練室にこもってるくせによ」

 

 そういやこの間シップショップ“いおん”で随分と型の古い銃を予約してたな。

 何でもマゼラン銀河文明発足よりも前の時代の復興モデルだとかなんとか。

 カタログ見たら、普通にM24 シリーズのレミントンライフルそっくしだったけどな。

 

 しかし火薬式のボルトライフルなんてまだ有ったんだなぁ。

 宇宙空間じゃ改造しないと使えないから、持っているのは一部の愛好家くらいらしいし。

 ・・・・ストールって、ガンマニア?

 

「ユピー、最終防衛ラインまでまだッスか?」

 

【概算で後27分34秒01です。艦長】

 

「・・・・的確な時間ありがとよユピ」

 

休憩には長く、かと言って持ち場を離れられるほどの長さじゃ無い。

 とりあえず喉が渇いたので、コンソールを操作し近くの自販機から飲み物を取り出した。

 

 コレはケセイヤさんが設置した自販機で、ブリッジクルーが好きな時好きなモノを飲めるようにしてあるのだ。

 おまけに戦闘の事も考えて、吸わないと中身が出てこないストロー付きのボトルが出てくる超高性能自販機という素敵な便利アイテムである。

 

 コレのお陰で当直の時でも飲み物が飲める上、サンドウィッチとかのような簡単な軽食も出てくるのだ。食堂行くのが面倒臭い時に結構使わせてもらっている。

 

「・・・お、見えて来た、見えて来た」

 

 適当に選んだ飲み物を飲んでたら、光学映像に敵さんの艦隊がようやく見えて来た。

 惑星ファズマティを後方に、およそ20以上の艦隊が星を守る布陣をしているようだ。

 流石に前衛艦隊とは規模が違う、駐留していた艦隊を全て防衛に回したと見て良いだろう。

 

「ユピ、“トイボックス”はどこらへんッスかね?」

 

【そうですね。もうそろそろ“開く”ころでは?】

 

「“トイボックス”ねぇ?結局は只の爆弾みたいなもんだろ?」

 

 隣の副長席に座っていたトスカ姐さんが、俺とユピとの会話に割り込んできた。

 そんな!ただの爆弾だなんて身も蓋もない!華もロマンも薄らいでしまうではないか!

 

「ふぅ、トスカさんダメっすよ~。せっかくカッコよくコードネームで呼んでるのに」

 

【そうですよ】

 

 やれやれだゼって感じで肩をすくめる俺。それを見たトスカ姐さんからピキって音が・・・。

 あれれれれ?額に青い筋が見えますよートスカさん?怒るとストレスがたまりますよ?ストレスはお肌の大敵です。

 ・・・・・そして何故俺の頬に手を伸ばしてるんですか?

 

「生意気を言うのはこの口かぁぁぁ!!」

 

「いひゃい!いひゃいッスゥッ!!」

 

【ああ!艦長!今度はチーズ張りに頬が伸びてます!!】

 

 みょーんと伸びる俺のモチ肌・・・。

 

「艦長、副長。もうそろそろ戦闘空域に入るんですけど・・・」

 

「さて、各艦戦闘準備!直衛機発進!」

 

「“トイボックス”が“開いた”時、アバリスのガトリングキャノンの一斉射を行う!エネルギーをチャージしておきな!」

 

 んで、そんな事やっている俺らを白い目で見ながら、ミドリさんが事態の収拾の為に動く。

 俺達は直ちにパッと元の位置にもどり、各部署へと指示を飛ばしていた。

 

「・・・・変わり身早」

 

 そしてミドリさんのつぶやきは聞えなかった。

 ええ、聞えませんでしたとも、ぜんぜん聞えなかったさ。

 まぁこんなコントはいつもの事なので気にしない、気にしないったら気にしない。

 

【まもなく“トイボックス”が“開きます”】

 

「予想爆破時間まで、あと10秒」

 

「さぁ、アレが見つからずに壊されて無ければ良いんだが・・・」

 

 そこら辺は運に任せるしかないな。

一応偽装してあるからそう簡単には見破られないだろうが・・・。

 

―――――と、その時。

 

【“トイボックス”起動しました!】

 

艦隊の前方空間から、何乗ものミサイルが虚空より出現し敵の直前で分裂する。多弾頭ミサイルだ。何百にも分かれたミサイル達は、海賊たちが対処する間もなく着弾、起爆する。

 

≪ゴゴゴゴゴ――――≫

 

 そして前方に蒼い光を放つ太陽の様な火球が幾つもあがる。

 その火球は他の海賊船達をも飲み込み、更なる爆発の連鎖を起し、宇宙に華を咲かせていた。

 

「やぁ、見事に引っかかったな。たーまやーってとこか」

 

 思わずそう漏らす俺、しかし随分と上手くいったなぁ。

 やったことは超簡単、さっき交戦した敵の半壊して機能停止した駆逐艦の中に、いくつものミサイルポッドを忍ばせておく、弾頭は多弾頭ミサイルだ。

 

 そしてソレをファズ・マティ方面に向けて流しただけ、後はタイマーによってポッドが起動し、周辺の情報から海賊船がいたらミサイルが全弾発射されるってワケ。ね?簡単でしょう?

 

「VF隊、敵残存艦隊と接触、交戦に入ります」

 

【残存艦隊からミサイルが射出されました】

 

「ストール」

 

「任せろ、全部撃ち落としてやるぜ」

 

 前方では多弾頭ミサイルで艦隊に開けられた穴にVF達が入り込み、接近戦を開始していた。

 駆逐艦は対空装備が無い為、あっけなく沈められてしまい。対空戦闘能力が高い巡洋艦の近辺で密集隊形を取っていた。だが、ソレはブービーだ。

 

「VF、反陽子魚雷を発射」

 

【対光ブラインド降ろします】

 

≪―――――カッ―――――!!!≫

 

密集した艦隊へと、一発の反陽子魚雷が撃ちこまれる。

 当然密集していた訳だから、大半の艦艇が巻き込まれて火球と化してしまった。

 ソレを見た海賊たちに動揺が走っているのが見て取れる。

 

「機関出力最大!今の内に突破する!」

 

 そしてこの隙に、俺達は最終防衛ラインを突破。

 アバリスが突破するドサクサにガトリングキャノンを撃ちまくって、更に敵を混乱させた後、ファズ・マティの軌道エレベーターにある宇宙港へと向けて、俺達は飛びこんだ。

 

 

***

 

 

 基本的にこの宇宙で航海する者たちは、バイオハザードの様な、余程特別な理由がない限り宇宙港を攻撃する様な事は基本的には絶対有り得ない。何故なら宇宙港は惑星に降りる為の唯一の出入り口な訳で、そこを使いモノにならなくしたら、自分たちは惑星に降りる事もままならないからだ。

 

 そしてこの時代、フネの整備や補給を引き受けてくれている絶対中立の空間通商管理局に、宇宙航海者の大半は依存している為、その空間通商管理局が管理運営している宇宙港がある軌道上のステーションを攻撃しないのだ。

 

 故に、一度軌道ステーションの中に入りこめば、そこでの艦隊戦はほぼできなくなる。

 此方からはつるべ撃ちで撃ち放題何だけどな!アバリスを港のすぐ近くに置き、ガトリングキャノンで射程内に入り込む敵だけ、弾幕を浴びせかける。

こうして事が終わるまで、敵を近づけさせない様にするのだ。邪魔されるのは嫌だからな。

 

「保安員!軌道エレベーターから降下し周辺施設を制圧しろ!トーロ!頼むぞ!」

 

「任せときな!」

 

 そしてトーロ率いる保安員達が次々軌道エレベーターに乗り込み、地上へと降下していく。

 俺は俺で違うルートから侵入する為、格納庫へと向かっていた。

 

「ケセイヤさん!準備で来てるッスか?」

 

「おう来たか艦長!艦長専用VF-0Sw/Ghost、通称ぶっこみ使用なら準備で来てるぜ」

 

 ぶっこみって・・・まぁ良いか。俺はすでにアイドリング状態になっている愛機を眺める。

 流石はケセイヤさんの整備だ、今日も愛機は絶好調だぜ。

 

「そいやケセイヤさん、アレの開発はどうなってるッスか?」

 

「ん?白兵戦用強化装甲宇宙服と強襲艦の事か?強襲艦は目途は立ったぞ」

 

「装甲宇宙服は難しいッスか?」

 

「一応メーザーブラスターに耐えられる装甲を開発はしたが、重たすぎて動かせやしねぇ。今はどれだけ強度を落さずに軽量化出来るかと、快適性の両立、序でに電子機能の搭載を目安に開発続行中だ。現在の完成度はおよそ76%ってとこだな。少し見て見るか?」

 

 そう言うとケセイヤさんは近くの端末を操作して、画像を見せてくれた。

 そこに映し出されたのはズングリとした形状の、カメラアイのついた宇宙服・・・つーか。

 

「・・・・脚が付いて無いな」

 

「脚なんて飾りです。偉い人にはそれが解らんのです。実際は別所で開発中なだけだがな」

 

 どこかで聞いたことがあるような台詞を流しつつ、俺は自分の愛機に乗り込んだ。

 機器を操作し、機能を確認、システムに問題無いかを調べて問題が無いと感じた俺は、パイロットスーツのヘルメットをかぶった。

 

「そいじゃ、ちょっくら行って来るッス」

 

「おう、気をつけてな。俺の大事な機体を壊すんじゃねぇぞ?」

 

「あいあい、壊さないよう努力するッス。そいじゃ」

 

 キャノピーが降り、コックピットが閉鎖される。

気密を確認しカタパルトに機体が乗るのを待った。

 

「ユピ、サポートとフネの防衛、任せても良いッスか?」

【お任せください】

『カタパルト準備よし、針路クリア、準備はいいか?』

 

 無線にそう聞こえて来たので、俺は問題無いと返事を返す。

 

『よし、暴れて来いよ!』

 

≪ドン≫

 

 重力調整されていても感じるくらいのGを身体に受けつつ、俺はカタパルトから宇宙に飛び出した。そのままユピテルの前を大きく円を描きながら飛行し、僚機(ウィングマン)である無人機が来るのを待つ。

 

「お、来た来た。ん?なんだあの機体?」

 

 しばらくして僚機が来た訳だが、その後方の編隊の中に見たことがない機体が紛れ込んでいる。

その機体の背中には巨大なレドームを積まれバリエーション機のRVF-0(P)と酷似していた。

 

だがRVF-0(P)は違い、武装が施されている所を見ると、強行偵察機と言ったところだろうか?良く見ればブースターも増設されている。

 

「ケセイヤさん、あの機体は何なんスか?」

 

『おう!よく聞いてくれた!あれこそ無線誘導のVF達と遠くでも動かせる打開策よ』

 

【あの機体が中継ブースターになって、更に広範囲に誘導信号を送れるようになります。一応30%程の通信範囲の向上が見られました】

 

 つまりは、アレが幾つかあれば、人手不足でも戦闘機隊の運用が可能って訳だ。

 だがそれよりも――――

 

「ところでケセイヤさん、アレいつ作ったの?」

 

『あ?つい一昨日だが?』

 

「ほう、一応現在戦闘機関連についての開発はストップをかけておいたと思うんスけど?」

 

『ギク』

 

 ほう、ギクとな?この間から戦闘機の開発費がドンドン膨らむから、少しストップしておけと命令を下して置いた筈なんだが?

 

「・・・・・給料から引いておきますね?」

 

『お、おい艦長!そんな殺生な・・・』

 

「良いですね?」

 

『・・・・はい』

 

 おや?何をガクガク震えているんだろう?別に僕は哂っているだけなのになぁ。

 

「はぁ、ユピ、進入ルートをナビしてくれッス」

 

【了解、艦長】

 

 通信画面の向こうで若干灰になっているケセイヤさんを放置し、俺はアフターバーナーを点火、無人機隊を引き連れて人工惑星ファズ・マティへと突入した。

 

 

 

「く!給料減らされた程度じゃ俺はくじけんぞぉぉぉぉ!!」

 

 

 

――――なんか変な声が聞こえた気がするが、気のせいだろう。

 

 

 

 

 

 

さて、海賊の本拠地であるファズ・マティだったが、思っていたよりも対空火器は少ない。

 むしろ見つける方が一苦労なのだから、ここでの対空火器がどれほど少ないのかが解るだろう。

 

「此方フェニックスゴースト。戦闘空域に到達した」

 

『お!ユーリじゃねぇか!ついに戦闘機に乗れるようになったか?』

 

「おいおい、俺は最初から乗れてたッスよ?最近ようやくコイツのGになれたけど」

 

 この機体の加速度は殺人レベルまで出せるもんなぁ。

 空いた時間は訓練に当てたけど、それでも全速出したら数分持てばいい方だ。

 

「で?対空支援は必要ッスか?」

 

『おう、ちょうどいい――≪ドゴーンッ!!≫「「ぎゃぁぁぁ!」」――あっ!このヤロウッ!≪バシュバシュ!!≫――おいユーリ!何処でも良いから俺達の目の前に陣取っている連中をなんとかしてくれ!バリケード組まれて突破できん!』

 

「あいよ、少し待ってな。Fox1」

 

 ユピの情報サポートによりHUDに表示されたマーカーに合わせて、積んできた対地上用ミサイルを出し惜しみすることなく発射する。

 どうせこんな海賊の本拠地でも無い限り、地上での戦闘なんて無いんだから、出し惜しみした所で倉庫でほこり被るからな。

 それなら派手にぶっ放しちまった方が良いだろう。

 

≪バシューー…―――――ドドドドドォン!!≫

 

「効果確認、全弾着弾!どうだ特殊弾のお味は?」

 

 そしてここでも、俺はまたネタ兵器を使う。

 バリケードを組んでいた連中は、何か白い粘々に巻きつかれ、最初はうごめいていたが徐々に固まって動かなくなった。ナニ撃ってんだって?いいえケフィアです。

 

「おお、流石は戦車のキャタピラすら固めちまう接着剤。張りついたらそう簡単に取れないな」

 

 まぁ撃ちこんだのは超強力瞬間接着剤を弾頭に込めた無力化兵器なんだがな。

 空中で溶液がばらまかれ、効果範囲に居る連中は瞬時に接着されて動けなくなる。

 稀に窒息するヤツもいるが、俺ぁそこまで責任取れねぇだ。

 

「ちゃんと付いて来てるか?ブービー?」

 

『・・・・・・』

 

「・・・・まぁ無人機が返事出来る訳無いか」

 

 うう、速いとこ人間のパイロットでも雇おう。

 コレが終わったら、俺ギルドに行って人身売買・・・もとい人材確保するんだ。

 うわ、死亡フラグっぽい。

 

「でもそしたら俺が戦闘機で出れる機会がぐっと減るなぁ」

 

『こちらトーロ、軌道エレベーター周辺は制圧、後は海賊の親玉の所に行くだけだがどうするよ?』

 

「あん?なら親玉のとこ行く班と、お宝探す連中を護衛する班に分けて探索を開始してくれッス」

 

『了解艦長、もう対空支援いらねぇから降りてきたらどうだ?』

 

「あーあ、出た意味が無かったッスねぇ」

 

 地上に降りてガウォークにして、戦車みたいな事でもさせようかな?

 

『ん、なんだ?・・・・おいユーリ、捕まえた海賊からの情報だが、ミィヤ・サキが本拠地の方に捕まっているらしいぜ?しかもまだ“手”は出されていないそうだ』

 

「間一髪ってとこだった。かな?」

 

『そうらしい。で、どうするよ?』

 

 んなこたぁ言わんでも解るだろ?当然助けるに決まってるでしょうが。

 可愛い女の子は助ける。コレ男の子の義務ってヤツね。

 

「艦長命令だ。助けろッス。やる気出させる為に適当に“吊り橋効果”の噂でも流しておけッス」

 

『おう、わかった。まぁ助けたからと言って惚れられるとは限らねぇとは思うが』

 

「そこら辺は運ッスからねぇ~。ま、頑張り次第じゃ無い?」

 

『ちげぇねぇ。それじゃミィヤさん救出に人員を割くぜ?』

 

 コレでウチのクルー達は士気が異常に増すことだろう。

 勿論暴走したとしても女性に対して乱暴する様なバカはいない。

 みんな変態と言う名の紳士たちだからな!・・・・バカしかいねぇ。

 

 

【艦長、この星のコンピュータにアクセスして、海賊の長アルゴンの居場所を突き止めました】

 

「お、流石はユピ、お手柄お手柄!」

 

【HUDにマーカーとして居場所を表示しておきますね?】

 

「あいあい、すぐ向かうッスよ。さて、行くぞ無人機達!」

 

『・・・・・・・』

 

「・・・・返事してほしいなぁ」

 

 なんだか少し落ち込んだら、ユピがおーっと掛け声を出してくれた。

 ほんと良い子に育っちゃって・・・ミドリさんの教育に感謝だなぁ。

 

 

 

***

 

 

 

 さて、VFでアルゴンがいる建物周辺を制圧し、トーロやトスカ姉さん達と合流後、建物内に入ったのだが、中に居た海賊たちと現在戦闘中だ。やっぱ本拠地だけあって、ワラワラと大軍で湧いてくるぜ。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」

 

「ガトチュ!エロスタイル!」

 

「フタエノキワミ!アッー!」

 

 もっとも俺達の方が数が多い上、士気が異常に高くて色々と濃い連中ばかりだ。

 なので現れる海賊たちは為すすべもなく制圧されていく。

 なんか若干変な掛け声が混じっていた様な気がするが、きっと時代を越えて愛されている戦い方なんだろう。

 

 

「コレが俺の全力全開!トリ餅バスタァァァ!!!」

≪ブッチャァァンッ!!!≫

 

 

 俺もまた不屈の精神を持つ相棒(バズーカの事)を肩に担いで、狭い室内でトリ餅弾を撃ちまくる。

 おかげで壁に白い滲みが沢山・・・・ええ、ケフィアです。いやトリ餅です。

 

「一階は制圧が完了したよ?ユーリ」

 

「奥の方には上行きのエレベーターがあった。ミィヤさんについては発見出来ていない」

 

「なら上に行くしかないッスね。トスカさんとイネスは付いて来てくれッス。トーロは殿を頼むッスよ?」

 

 こうして本拠地の一階を制圧したんだが、2階には誰もおらず、3階では道なりに進んでたらマネーカード手に入れて、中に300G程度入っていたくらいだった。

 

 

 ――――んでエレベーターにのって4階に到達した訳だが・・・。

 

 

「おーい、そこのしょうね~ん!」

 

「ん?だれだ?」

 

 これまた踏ん張っていた海賊たちを蹴散らして進んでいると、何処からともなく声が聞こえたのだ。どうやら女性の声らしいが、ミィヤではない。もっと年上の女性の声である。

 

「そこの君、そうきょろきょろとしている少年、君の事だよ。ひょろひょろとしたもや―――」

 

「・・・あ゛あ゛!?」

 

「・・・・すまない訂正だ。線が細い美少年よ。私を助けてはくれないか?」

 

 NGワードを言われかけて少しキレかけたが、ソレを抑える。

 というか一体どこから声が聞こえてくるんだか正直解らんのだが?

 

「・・・・助けたいのは山々何スが、何処に居るッスか?」

 

「ここだ少年、君の上だ。天井の板をはずしてくれないか?」

 

「上?しかも天井の板って、うわぁっ!?」

 

 あ、ありのままに起こったことを(ry

 

 ちょっち混乱しちまったが、とにかく言いたいことはだな?

一体何がどうなればこうなるのかは解らないんだが、天井の中を走るケーブルとかの配線の束が、天井を開けると入っている訳なんだが、そこに白衣を来た女性が絡まっているというある意味ホラー映画みたいな光景が見えたんだ。

 ホントに、何がどうしたらこうなるんだ・・・・。

 

「あー、その・・・・」

 

「ふっ、笑ってくれても良いぞ少年」

 

「いや、笑う前に怖いの感情の方が強いッス」

 

 というか何でコッチ見てないのに、俺の事解るんだよ?

 あれか?エスパー何ですか?

 

「私はナージャ、ナージャ・ミユという。アルデスタの大学に勤めている研究者なのだが、偶々大学に帰る際に乗っていたフネが海賊に捕まってしまったのだ。科学者なんだから違法なドラッグの生成に手を貸せとか言われたのは良いが、私の専門はレアメタルでな?何もできないとバレと殺されると思い、適当に研究に手を貸すフリをしていた。そして先ほど君達が戦闘を開始したので、私はチャンスだと思い逃げだした訳だ。どうだ?解ったか?」

 

「スゲェ肺活量だって事は解りました」

 

 あと説明乙。ふーん、ナージャ・ミユさんねぇ?どっかで聞いたことがあるような無い様な・・・・・う~ん?思い出せんわい。無限航路は結構やったけど、そんなサブキャラを全部覚えている訳じゃないからなぁ。

 でもこの出で立ちは、やっぱり研究者であっていると見て良いだろうな。白衣だし。なんか研究者っぽいし、でもそれより気になるのは・・・・・。

 

「ところで何で天井の配線に絡まってるんスか?」

 

「ふむ、それには海よりも深く、空よりも高い理由があってだな?」

 

「大方通風口かと思って入ったら、配線の点検ハッチで、辺りに海賊が来たからソコから出られなくなって、それでも無理に移動しようとしたらそうなったってとこッスかねぇ?」

 

「ほう、良く解ったな少年」

 

「マジッスか。マジなんスか」

 

 おk、実は結構ドジっ子だったという事実。見た目しっかりした人っぽいのに、なんか可愛えなオイ。とりあえず海賊の仲間という可能性は低そうだな。と言うか海賊だったらこんな堂々とした登場?をしないで、普通に銃撃してくるだろうし。

 

 んで俺の脳内会議の結果、俺一人では救出出来ないと思ったので、他のクルーを何人か連れて来て助け出すことに成功した。ケーブルに電気配線が混じってたのか、助ける時に配線を切った所為で停電して、4階は現在非常用電源になっているのは気にしない。

 

「ふむ、少年よ助かった」

 

「ソレは良かったッスね。それじゃやることがあるんで俺はコレで」

 

「ああ、後で会おう」

 

 そう言うと彼女はつかつかと廊下を歩き消えて行った。一体彼女は何だったのだろうか?良く解らないな。そんな事よりも先を急ぐことにした。

 

***

 

 

 5階行きのエレベーターを発見し、それに乗りこむ俺ら。 

 ふと思ったんだが、なんでエレベーター止めてないんだろうな?

 普通なら侵入者対策の為に、エレベーター何ぞ止めるもんだと俺は思うんだが・・・。

 

「そこんとこどう思います?トスカさん」

 

「しらん」

 

 トスカ姐さんに聞いたら、一言で返された。

 いや、まぁ解らないだろうけどさ。もうちょっと考える仕草くらいしてよ。

 コレじゃつまらんのでイネスに振ってみた。

 

「で、どう思うッス?」

 

「ええと、多分・・・ゴメン僕にもわかんない」

 

 どうやらイネスにも解らないらしい。

 なんだよ使えねぇなみたいな目で見てたら、何故か視線を逸らされた。

 はて?俺コイツに怒らせるような何かしたこと有ったかな?

 

≪ぽーん≫

 

 とか何とかしている内に5階に到着した。敵さんが待ち構えていたが、バズの一撃で沈黙したので、とりあえずまだ下に居る連中をエレベーターでピストン輸送して戦力を整えた。

 そして各部屋を制圧しながら、どう考えてもボスの部屋ッポイ扉の前に到着した。

 

「さてと、それじゃドカンと一発!」

 

 そしてそのまま俺は入口を蹴り破り、なかにトリ餅弾頭のバズを連射しました。

 アルゴンと恐らく待ち伏せさせていた海賊たちを、全部もろとも壁に張り付けてやった。

 そして俺は、腰に付けたスークリフブレードを抜き、アルゴンの首に当てた。

 

「ホヒィ-!ま、参った!降参だよー!い、いや停戦だ!もうお互いてをださないことにしようじゃない」

 

「おいおい、何言ってるッスか?」

 

「ほひ?」

 

 俺はアルゴンの言葉を途中で遮った。

そしてとてもいい笑顔をむけながら、こう言ってやった。

 

「俺達に負けた金ヅルが、対等な立場だと本気で考えてるんスか?」

 

「ホ、ホヒィィィィ!!??そ、そんな!余生はのんびりと静かに――」

 

「あきらめな。ココまで暴れておまけにウチのクルーを誘拐したんだ」

 

「クルーは仲間であり、家族。それに手を出したお前らを、俺は許すことなんてしないッスよ・・・・さぁ祈れ、今お前に出来ることはそれだけだ」

 

「そ、そんな!し、知らなかった!部下たちが勝手に――」

 

「下の不始末は上がつける。当たり前のことだろう?」

 

「ど、土下座でも何でもするっ!どうか命だけは!!」

 

 トリ餅に捕まって動けないのに、何とかして逃れようと身体をよじるアルゴン。

 その姿はあまりにも滑稽で、また情けなさすぎる。コレで本当に海賊の長かよ。

 

「・・・・それじゃ、ある質問に答えてくれたら、考えてやるッス」

 

「な、何でもする!早く質問を!!」

 

「あんたはそうやって命乞いをした相手を、許したことはあるんスか?」

 

「ホァッ!?」

 

「ちなみに答える時は、このケセイヤさん特製のウソ発見機つけるッスよ~。ウソついたら・・・クスクスクス」

 

「ホヒィィィィィ!!・・・ブクブクブク」

 

 あ、コイツ白目向けて気絶しやがった。ご丁寧に泡まで吹いてやがる。

 おかしいなぁ、ただ目元が見えない様にしてチラ見しながら笑っただけなんだがなぁ、耳元で。

 

「「「「・・・・・艦長、やり過ぎ」」」」

 

 というかクルーの連中の目が痛い!

なにそのご愁傷さまな目をアルゴンに向けてるんスか!? 俺に味方はいないのかー!

 まぁとりあえずアルゴンは捕まえた。しかしミィヤはどこに居るんだっけ?うーむ、思い出せん。

 

「おい、起きろッス」

 

「ほひぃ、もう食えな―――」

 

≪バコン!≫

 

 とりあえず気絶していたアルゴンを起すことにする。 

 と言うか気絶した分際でそのまま眠るとか、コイツ結構大物なのか?

 それにしては随分と小者臭が漂っていた気がしないでもないんだが?

 

「ホヒィッ!?なんじゃ?なにが!?」

 

「良いから質問に答えろッス。じゃないと男のシンボルをバズで撃ち抜くッスよ?」

 

≪ガチャ≫

 

 俺はアルゴンの股に、ゼロ距離でバズの砲口を向けながらそう迫る。後ろで何人かの着崩れ音がした所を見ると、どうやら何人かが前かがみになったっぽい。

 つか、「絶対艦長ならやるよな」とか聞こえてるんだけど?

 

「ゴッゾでイネスと一緒に捕まえた女はどこに収監したッスか?」

 

「ゴッゾ?・・・・ああ、それならこの上の階―――」

 

「はい情報御苦労さん、もう一回気絶してて」

 

≪ゴイン!≫

 

 俺はバズの砲身でアルゴンをぶんなぐり気絶させた。 

 今度は白目向いて舌までだして痙攣している。だけどギャグキャラっぽいから死なんだろう。

 

「ふぅ、良い仕事したッスー!」

 

 コレで大将倒したから、後はこのファズ・マティに居る海賊連中に降伏勧告でもすれば良いだろう。ああ、疲れた。

 

「・・・・ユーリ、アンタ相変わらず酷いねぇ」

 

「僕は君の身内で良かったと心底思うよ」

 

「俺もだぜ、絶対的対したくないなオイ」

 

 うるせぇ!悪人には人権無しなんだよ!つーか女性ならともかく、こんな小者臭漂うヤロウ、しかも爺ぃ相手に情けなんて駆けねぇゼ!まさに外道?上等じゃい!

 

「さてと、取りえず撤収!降伏した海賊たちは分散して拘束しておくッス。後は恒例のお宝探しでもしに行くッスよー!早い者勝ちじゃー!」

 

「「「「あ!艦長ズリィー!」」」」

 

 そして俺はこの星にあるお宝を探しにエレベーターへと駆けて行く。

 コレだけの人工惑星何だから、なにか面白いモノの一つや二つあるかもね!

 後ろから聞こえるずるいだの待ちやがれ等の声をBGMに、俺はお宝探しへと向かったのであった。

 

 

「・・・で、コイツはどうするんだろうね?」

 

 

 ちなみにアルゴンはトリ餅の中で気絶したまますっかり忘れられていた。

 そしてその事にユーリが気がついたのは、数日後だった為、栄養不足とショックで認知症を発症し、そのまま近くのボイドゲートにいたメディックのフネに引き渡されたのであった。

 

***

 

 

さて、ファズ・マティでの戦闘から、3週間の歳月が流れた。

 現在俺達がどこにいるかと言うと――――

 

「15番艦、竣工完了したぜ!」

「流石海賊の本拠地、材料だけは腐るほどあるぜ!」

 

――――今だファズ・マティに駐留して居たりする。

 

流石ここら一体に縄張りはってた海賊団だけあるってことだ。

 いやー、お宝があるとは思ってたけど、まさかこれほど大量にあるとはね。

 金目の物を売り払っても、俺達0Gドックにとってはまだまだお宝と呼べるものたちが残されていたくらいだ。

 

 簡単に言えば、造船を行うのに十分な量な資材と設計図達である。

アレだけの規模の艦隊があった訳だし、メンテナンス用の資材とかあるだろうと思ってたら、本当に大量に溜めこんでいた。

 巡洋艦クラスでも、軽く30隻近く造れそうなくらいの量が倉庫に保管されていたのである。

 

 当然のことながら、それに狂喜乱舞した連中がいる。

そう、ウチの愛すべきマッドな科学班と整備班たちで、彼らは倉庫に保管されていた資材を見てすぐに俺に企画書を立案したのだ。

 

 それこそ“空母を中心とした機動艦隊運用立案”である、簡単に言えば今のユピを帰艦にして艦隊を作り、他にもアバリスとかを中心とした工作艦隊、駆逐艦のみで編成された突撃艦隊などの男のロマンを作ろうというある意味無茶である意味壮大な計画だ。

 

 ちなみにウチの連中は紳士なので、ちゃんと女性にも配慮して自然公園モジュールやショップモジュールなどの娯楽系も充実させていくのは余談である。だがそれよりもだ―――

 

「さて、少年新しく造る艦隊へ使う装甲の改良案なのだが―――」

「・・・・とりあえず、突っ込んでも良いッスか?」

「何かな少年、こう見えて私はそれなりに忙しい」

「なんでミユさんファズ・マティに居るんスか?捕まってた民間人たちはとっくの昔に近くの惑星に介抱した筈何スけど?」

 

俺は今現在、俺のすぐ横でプレゼンをしている女性、ナージャ・ミユさんを見てそう言った。と言うかアンタ学者だろ?こんなとこ良いのかよ。大学止めさせられるぞ?

 

「なんだそんな事か。それなら心配は無い。何故なら既に私は少年の軍門に下っている。だから問題無い」

「ああ、そうなんすかーはははー!」

「その通りさ。ソレはさて置き「って!俺そんな報告受けてねぇ!」っ・・少しは静かに出来ないのかね?少年」

 

 あれ?なんで俺の方が怒られてるんですか?

 ミユさんはやれやれと言った感じで肩をすくめていらっしゃるし、え?何?俺が悪いの?

と言うかココ最近見たことが無い連中が増えていた様な気がするけど・・・・。

 

「ト、トスカさん!?ちょっとっ!?」

『あー?なんだよ?今ちょうどイネスを♀化させる算段をだな―――』

「ソレは大いにやってかまわんスけど、なんか知らん間に人員が増えてるんスけどどういう事ッスか!?」

 

 俺は慌てて手元の端末からトスカ姐さんに連絡を取る。

 なんか女性陣で集まっての会合みたいで、ものすごく重要な事を言っていた様な気がするけど、僕はそれを聞き流して本題を繰り出した!

 

『人員が増えてるぅ?そらアンタ、ウチは万年人手不足だから、毎回港に寄った時は人員募集してたじゃないか?もっともある程度マナーを守れる良識があって、どんなことでも動じない柔軟な意識の持ち主って採用基準だから、恐ろしく集まらないけどさ』

 

 艦長である俺が知らなかった衝撃の事実。

 道理でこの間から操艦とか発進とかがスムーズだと思ったよ!

 知らぬ間に人員が増えてりゃ楽にもならーな!

 

『え?まさかアンタ・・・知らなかった?』

 

 ええ、そりゃもう・・・今初めて知りました。

 

『おかしいねぇ?私はちゃんと許可とったよ?』

「そりゃ何時の話ッスか?」

『んー?確かルーのじっさまが乗った後で、策略してたあの時だったかな?』

 

 それは確か、ルーのじっさまが策謀を巡らしている間、俺達が海賊狩りとかして時間つぶしてた時か?

 でもあの時そんな許可を・・・・あ。

 

「もしかして、宴会開いたときじゃないッスか?」

『ああ、確かその時だね』

 

 そう言えば丸ごと海賊船を拿捕して金が出来たから、クルー全員で大宴会を開いたっけな。

 飲めや歌えのどんちゃん騒ぎなんか目じゃなくて、飲めや歌えや脱げやブチ殺すぞヒューマンなくらいの騒ぎだったなぁ。

 ケセイヤさんが持ち込んだアルコール度数が96度もあるお酒が何故か引火して、火を噴いたのに全員無事だったのはいい思い出だ。

 

「・・・・覚えてねぇワケッスよ。俺そん時トスカさんに付きあって潰されたじゃないッスか?」

『あり?そうだったかね?まぁそん時に許可は貰ったよ?』

 

 酔ってる時に出した許可なんて覚えてない。

 でも今更不許可とかなんて効かないし、大体既に乗っちまったクルーになんて説明すりゃいい?

 とりあえず手元のコンソールから、ココ最近に入ったクルーの名簿を見てみる。

 幸い判断基準が高いお陰か、全員が全員それなりの技能を有しているようだ。

 もっともこのフネのどんちゃん騒ぎに順応できる程柔軟な思考回路の持ち主たちだから、全員一癖も二癖もありそうだ。

 今現在俺の目の前に居らっしゃる彼女も・・・・。

 

「どうした少年?まだ話はつかんのか?」

「・・・・もう少し待ってくれッス、まだ混乱中で」

「いいぞ、大いに悩みたまえ。悩むのは若いモノの特権だ」

「・・・・ミユさんも若いじゃないッスか?」

 

 手元の資料には26歳ってあるが、それよりももっと若く見えるんだけど?

 だが俺がそう言うと彼女はいきなりにやりと艶やかな笑みを浮かべ俺の方を向き。

 

「おや?少年はまた随分と誑しこむのが好きなのだな?まぁ私は構わない。何なら相手をしてあげようか?」

 

 ――――とまぁ、トンでも無いことをおっしゃられました。

 

「え、えんりょしとくッス」

「そうか?残念」

 

 そういうとすぐに普段の雰囲気に戻られるミユさん。

 どうやら俺は遊ばれただけらしい。

ですよねー。俺みたいなガキに美人さんがそんな事仰る筈ないもんねー。

 ・・・・・自分でおもって悲しくなった。鬱だ死のう。

 

「ま、ソレはさて置き、装甲に使うレアメタル等を入手したいのだが?」

「もう適当にやってくれッス。財源内だったら何してももう良いッス」

「了解した。ではな少年、たまには相手してやるぞ?」

「・・・・・頼むッスから俺で遊ばないでくれッス」

「ふふ、それじゃあな」

 

 彼女は最後までごーいんぐまいうぇいだった。

 とりあえずその日は寝た、不貞寝ってヤツだ。

 ストレスを感じたら眠るに限るわい。

 

***

 

 さて、それから数日が経過し、そろそろファズ・マティから出港する事になった。

 別に急ぎの仕事とかはないんだけど、もうファズ・マティに物資無いんだよね。

 まぁアレだけ湯水のごとく使えばそうなるよなぁ。

 ベクサ星系で手にれたレアメタル達もとっくの昔に使われちゃったらしいし。

 

「しっかし、これまた壮観だね」

「・・・・戦艦持つのは夢だったッスけど、まさかこれ程の船団になるとは」

 

 さて、とりあえずだ。

 いまブリッジのスクリーンには、俺の艦隊達が映し出されている。

 そう“艦隊”だ。船団とも言っていい。

 ファズ・マティにある資材を殆ど余すことなく使い造られた艦隊である。

 もっとも相変わらずの人手不足の為、ユピをコピーしユピ´を搭載した半無人艦仕様だ。

 ちなみに造ったのはどれかと言うと―――

 

・ガラーナK級 防衛駆逐艦10隻

・ゼラーナS級 航空駆逐艦10隻

 

―――ってとこ。巡洋艦はあえて造らなかった。必要ないし。

 

 なおガラーナK級とかのKとはケセイヤさんのK、ゼラーナのSはサナダさんのSである。

 つまりあのフネ達はマッドどもが改修を加えた外見同じ中身別物のフネなのである。

ガラーナはアバリスについて前衛を担い、ゼラーナはユピテルの近接防御を行って貰うという設計な為、中身の方がだいぶことなるのだ。

 

 K級の方は前衛艦として、機動力と防御力の上昇、武装の前部集中、デフレクターの同調展開などの機能を有している。

 デフレクターの同調展開とは、読んで字のごとく、複数のデフレクターを同調させる事で、防御力を上げるというシステムだ。

 

 複数の艦艇を前に出させる為、防御力を上げるという発想が出たが駆逐艦では限界があった。

 その為デフレクターを搭載させたがいかんせん出力が低い。

 そこで考えられたのがこの方法であり、複数の駆逐艦が集結する事で、大型艦クラスに負けない程の防御を可能としたのである。

 このバカみたいにな防御力を盾に、前衛艦隊旗艦たるアバリスを守るのだ。

 勿論アバリスやユピテルとも同調可能な為、全部で防御に徹するとどうなる事か・・・。

 

 そしてサナダさんが手がけたS級は、近接の防衛を担うフネであり、なんと駆逐艦の癖に艦載機を乗せられるという不思議なフネなのである。んで、その艦載機に選ばれたのは、なんと以前トライアルで落ちた人型機動兵器エステバリスだった。

 

アレは紐付きというヤツさえなければ、恐ろしく汎用性の高い機動兵器である。

 アサルトピットと機体を入れ替えるだけで、どんな戦況にも対応可能なのが売りなのだ。

 こと近距離における対空防衛においてはかなりの力を発揮できるだろう。

 おまけに脳波スキャニングシンクロシステムによる制御方法。

 どんなバカでも考えただけで運転できるのが凄い。 

 反射神経に優れたヤツを乗せたなら、それだけで迎撃能力が上昇する事間違い無しである。

 

またS級本体にはエステバリスへのエネルギー供給の為の重力波照射ユニットを搭載。

 武装面は対空火器しかないが、基本近接対空をする艦なので必要がない。

低かったペイロードは若干胴長にする事で艦載機の搭載数は倍の6機、それよりも小さいエステバリスは10機搭載出来たらしい。

 

 そしてこの駆逐艦達には、ナージャ・ミユというレアメタル研究の大一人者が加わり、装甲板の強度も元のソレと比べ物にならない程の軽さと強度と柔軟性を与えられているという。

 被弾した際も、普通なら真っ二つに折れて爆沈してしまう様な攻撃を受けても、中破で済むそうな・・・・どれだけ改造したのかは、あまりに専門的すぎて俺には解らん。

 

 まぁそう言う訳で、現在我々は総数22隻からなる艦隊な訳だ。

 凄くおかみに目をつけられそうだが、おかみの目がある所で犯罪はしてないから大丈夫。

 それに犯罪も精々盗掘した程度だしね。

 

「それじゃ、出港しますかね」

「あいよ“提督”さん」

「・・・・何スかそれ?」

「艦隊規模の頂点に居るんだろう?アバリスの艦長はトーロがする訳だし、もう艦長じゃないさ。位的にはそれがだとうだと私は思うが?」

 

 いやまぁ、そうなんですが、俺はユピテルの艦長な訳でして、そんな提督とかの様な大層な名前で呼ばれる様な男じゃないですよ?

 

「・・・・はぁ、自分を卑下してたのしいかい?」

「・・・・いいえ、全然。だけど自分は艦長がにあってるッス」

「はぁ~、じゃそれでいいんじゃないかい?艦長兼提督って役職になるだろうけどさ」

 

 まぁそれでもいいか。

 俺達はファズ・マティの宇宙港を発進し、俺達は一路ツィーズロンドへと針路を取った。

 とりあえずコレだけの艦隊になってしまったんだ。

 政府からの許可とか色々と貰わんと活動に支障が出る。

 ・・・・あーでもまた厄介な仕事回されそうな予感がぷんぷんするぜ。

 

「はぁ」

【艦長、どう為されました?】

「いや、人生ままならねぇなって思って・・・」

【世界は何時だってこんな事じゃ無い事ばかりです】

 

 おま、何処でそんな言葉覚えた?作品ちげぇ?だろ。

 そして大きくなった俺の艦隊は宇宙を進んでいった。

 

***

 

さて、ファズ・マティのある宙域からツィーズロンドまでは、どんな最短ルートでも1週間はかかる。

途中にあるメテオストームはまだ沈静化していない為、そこを迂回せなならんからだ。

といっても沈静化するのは何十年という周期だから待つつもりもない。

 

「ふん♪フン♪ふふ~ん♪」

 

 まぁ当然のことながら、この周辺の最大勢力であったスカーバレル海賊団を駆逐した我らは、敵に襲われる事なく悠々と静かな宇宙を航行している訳だ。

 そしてコレも何度目だか解らんがぶっちゃけ俺暇である。

 いや、実際は暇では無く、色々とすることはあるんだが、そんなのずーっとやってたら死んでしまうので息抜きに遊びに出ているって訳なのだ。

 

≪ズズーン≫

「ん?」

【振動を感知、場所はマッドの巣です】

「まーたあいつ等なんかしたな?」

【一応人的被害は出ていませんが・・・】

「放っておけ、どうせ止めても聞かないんだからさ・・・でも修理費給料から引いておいて」

【了解です艦長】

 

相変わらずマッド達は得体のしれない研究にいそしんでいるので、連中は楽しそうだが下手に近づくと何されるかわからんので近寄らない。

 君子危うしに近づからずってヤツである・・・・字、合ってるよな?

 

「ハァ!ハァ!ハァ!――――か、艦長!た、たすけて」

 

 ん?なんだ?この苦しそうな息使い。

 声からするとイネスだな。なん・・・だ?ゲッ!?

 俺は後ろを向いて硬直した。

 

「お、お願いだ!た、助けてくれ!なんかトスカさんたちが僕を・・・ぼくをぉ!」

 

 そこには、どこぞの瀟洒なメイドの様な姿をさせられたイネスの姿が・・・。

 どうやらまたもやトスカ姐さんのおもちゃにされたようである。

 原因については、この間つい適当にかまわんとか言っちゃった記憶が無きにしも非ず。

勿論彼女のバックには、ユピテルの女性陣達の筆頭が居るから俺ではどうしようもない。

 

 問題はだ。おいおい、銀髪の髪質にエクステンションとPADか?

コレは冗談抜きに某瀟洒なメイドに異常に似ているぞオイ。

 おk、落ちつけ俺、コイツは男だから、問題無い、だから高なるな心臓!

 というか何故コイツはココまで女装が似合うんだよ!

 

「頼む艦長!かくまってくれ!ぼくは、ぼくは・・・」

「た、頼むから涙目でこっち来るなッス!」

「な、なんでさ艦長!僕を助けるとおもって!」

「だから!抱きつくなッス!やめろぉ!」

「いやだ!離さない!絶対に!」

 

 あろうことかこのバカは、公共の場で俺に抱きついてきた。

 第三者の目線から見れば、俺は今現在可愛いメイドに抱きつかれているリア充に見える事だろう。

 コレが女性だったなら、俺はもう狂喜乱舞したが、残念ながら男なのだコイツは。

 

「わ、わかった!かくまうから!だから離れろ!」

「ほ、本当だな!?助けてくれるんだな!?」

「・・・・・あ、トスカさん」

「え!?ってあ!艦長!」

 

 俺がフッと漏らした一言で後方に飛び退くバカ一人。

 その隙に俺は自分の部屋へと駆けだした。

 とりあえず俺の部屋には、艦長権限でしか開けられない様にセキュリティが強化されている。

 だからそこに逃げ込めば、コイツから振り切ることも可能って訳だ!

 

「つきあってられっかよ!俺は男に興味は無い!」

「何訳解らない事叫んでるんだ!ええい!」

「な!おま!こっちくんな!」

「いやだよ!艦長じゃないとアノ人達を止められないだろう!?」

「どう考えても団結した女性陣をとどめるのは俺には無理ッスー!!だからこっちくんな!!」

 

 ギャース!とケンカしながら通路をひた走る俺達。

 そして曲がり角を同時に曲がろうとして、ソレは起きた。

 

「あ、ユーリ・・・へ!?」

「チェルシーどいてー!!」

「うわっ!ぶつかる!」

 

 こんな漫画みたいな事が起こるだなんて誰が想像できようか?

 

 ・チェルシーが曲がり角から現れる。

 ・僕等はほぼ並行して走っていた。

 ・走っている人間は急に止まれない。

 

――――さて、この要素が重なるとどうなるかは想像が付くだろう。

 

「あいたた、ユーリ、イネス、大丈・・・夫?」

≪ずきゅぅぅぅん!≫

「「!!??」」

 

 この時の前後は全く覚えていない。

 ただ、絶対に思い出してはいけないと本能が警鐘を鳴らしまくっている。

只一つ覚えているのは、膨大な量の瘴気に包まれたこと。

それとチェルシーは絶対に怒らせてはいけないという記憶くらいだった。

 

 

***

 

 

 さーて、今日はどこに行こうかな?

 え?イネス?チェルシー?何のことですか?

 ぼ く は な に も お ぼ え て い ま せ ん よ?

 

「そう言えば、人工自然公園みたいなモジュール積んであったっけ?」

 

 気を取り直して、今日は新しく入れた福祉厚生モジュールの自然公園に向かう事にした。

 人間と言うのは、大地とは切っても切れない関係であると言っていい。

 フネに重力を発生させ、昼と夜の時間帯を設けるのもそれだ。 

そして自然公園モジュールは、地上にある自然をパッキングして宇宙に運びだした様なモノである。

 

「ユピ、自然公園モジュールってどこにあるッスか?」

【艦長・・・先ほどのは―――】

「ユピ、自然公園モジュールってどこにあるッスか?」

【いえあの・・・】

「・・・・ユピ、俺の中でその話題については思い出してはいけないと警鐘が鳴っている。だから話題にするな。いやしないでくださいお願いします」

【・・・・・この先のマッドの巣の先です】

「おお!了解、それじゃいくかね」

 

 さてと、とっとと行きますかねぇ。

 

(イネス!何処に逃げた!・・・って案外すぐに見つかったねぇ?)

(げ!トスカさん!?それとそのほか大勢で・・・)

(さぁイネスちゃん?もっと可愛らしくしましょうか?)

(ひぃぃぃぃ!や、止めろぉぉぉぉ!!)

(所でなんでチェルシーさんがココで気絶してるのかしら?)

 

 なんか後ろの曲がり角の向こうから変な会話が聞こえたけど。

俺は関係ないな・・・・うん。

 

 

……………………

 

………………

 

…………

 

 

 さて、先ほど話題に上げたマッドの巣とは何か? 

 なぁに、どうってことは無い。簡単に言えば通称みたいなモノだ。

 整備班、技術班、科学班、その他開発関係を全部ひとまとめにして、一ブロックに押し込んだだけって事。

 

「っておいおい、どうなってるんスか?」

【今朝の爆発の名残でしょう】

 

 さて、俺はここに到達するまで、そう言えばマッドの巣でなんか爆発みたいなことが起こっていたと言う事をてんで忘れていた。

 目の前には所々に黒煤が付着し、亀裂の走った壁が目立つ空間が広がっている。

 下手すると幽霊船みたいな感じに見えなくもない。

 と言うか何をどうすればココまでの被害を起せるのだろうか?

 しかもこれ程すさまじい爆発があったのに人的損失がゼロとか、世界にケンカ売ってるとしか思えん。

 

 とりあえずこの区画を抜けないと目的の場所には辿りつけない為、俺は区画の中に入った。

 既にこう言った事態にはなれたのか、整備班と整備ドロイド達が頑張って修復している。

 俺はすれ違う時には挨拶を交わし、奥へと進んでいたのだが・・・。

 

「ケセイヤさん、どうしたんスか?その真っ白に燃え尽きたボクサーみたいに白くなっちゃって」

「・・・・・・」

 

 何故か通路の隅にうずくまり、もうほんと灰になっちゃったんじゃないかって言うくらいに落ち込んでいるケセイヤさんとその他マッドの方々と遭遇した。

 とりあえずマッド二号のサナダさんに、何があったのか訪ねてみた。

 

「なに、簡単なことだ。ケセイヤが落ち込んでいるのは」

「先の爆発で、試作パーツが全部オシャカになったからさ。少年」

「あ、マッド三号」

「だれがマッド三号だ。誰が・・・まぁいい。とにかく落ち込んでいるからそっとしといてやれ」

 

 そうミユさんに言われた。

 お世話になっている人物を放置するのも、心苦しいものがあると言えばあるのだが。

 ・・・・しかたないか、当分こっちに戻って来そうに無いしな。

 

「しかしこの惨状、何が起こったんスか?」

「なんでも完全に人間に近い人型アンドロイドの製作に失敗したんだそうな」

「人型アンドロイド?そんなの通商管理局が使ってるじゃないッスか」

「違う違う、もっと複雑で色々と高性能なヤツを作ろうとしたらしい」

「で、エネルギー源になるレアメタルについては私が助言したのだが・・・」

「我々が居る時に起動実験をすると言うのをすっぽかし、勝手に起動させてこの体たらくだ」

「あー、自業自得か・・・でもなんで又アンドロイド?」

「なんかロマンだって言ってたぞ?宇宙船には人型アンドロイドが付きモノである!だそうだ」

 

 ・・・・・本当にマッドのすることは、時々理解できないぜ。

 

「コレでまた修繕費はケセイヤさんからさっ引くとして・・・」

【これで修繕費累計額がタダ働きで20年働いてもらわないと返せない額になりました】

「・・・・修繕費の方が、収入を上回るのは何時頃かなぁ」

 

 とりあえず何度目かになるかは解らないため息を吐き、俺はこの場を後にした。

 流石は俺のフネ、毎日色んな事が起こりやがる。

 

【・・・・・】

「ん?どうしたユピ?急に黙って?」

【いえ、なんでも・・・身体か】

「???」

 

 なんかぼそりって言った様な気がするけど、気のせいかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお、すげぇ。池まである」

 

 自然公園モジュール、広さはおおよそ300m四方に広がるドームだ。

その中に入ったんだが、これは確かに凄いと言わざるを得なかった。

 まず入口から入った途端空気が違った。

 艦内の空気と違い、ちゃんとした植物が造り出す空気って感じ。

 木林浴に丁度良いかもしれない。

 

 人工的に造られたとはいえ、緑が見えると言うのは人を安心させてくれる。

 長い航海においてこのモジュールは、結構貴重な癒し空間になる事だろうな。

 こりゃ、酒でも持ってくるんだった。

 

「まいっかぁ・・・」

 

 とりあえず池の周辺を歩いてみる。

 池の中には生物が放たれてある種の生態系を再現していると言う。

 感じ的には俺の世界で昔流行ったビオトープに近いのかもしれない。

 ビオトープ+屋内庭園+果樹園・・・・ってアレ?

 

「アレは・・・リンゴの木か?」

 

 ふと目に写る赤い実のなる木。

 良く見ればそんな感じの木や、どう見ても畑って感じの個所がいくつか見える。

 近づいて良く見てみたが、どう見てもリンゴです。本当に(ry

 

「・・・・自然公園ってよりかは畑だな」

 

 自給自足の生活でもしようってのか?それにしては数が空くない。

 ・・・・・って事は誰かの趣味か何かか。

 しかし、このリンゴ、上手そうに実ってるなぁ。

 

「一個くらい、食べちゃダメかなぁ?」

「食べても良いですよ「おわっ」どうしました艦長?」

「ふえ?タ、タムラさん!?」

「はい、料理長のタムラですよ」

 

 お、驚いたじゃねぇか!いきなり話しかけんなよ!

 話を聞くと、どうやらこの畑は、タムラ料理長が作った畑だったらしい。

 忙しい料理長だが、普段はドロイドを数体借りて畑を耕し、たまの休みにこうやって訪れているらしい。

てことは、もしかしてこのモジュール内にある畑って・・・。

 

「ええ、私が造りました。もともとは部屋でプランターを使ってた趣味でしたがね」

「・・・・俺何も言ってないッスけど、顔に出てました?」

 

 思いっきり頷かれた。俺は顔に出やすいらしい。

 でもプランターで育ててたにしては、随分と大きな実がなっているのもあるぞ?

 それとこのモジュールが組まれたのは3週間くらい前だった筈だ。

 それにしては、随分と成長していると言うか量が多い様な・・・。

 

「元々空き部屋で育てていた野菜たちですが、自然公園モジュールが入ってくれて本当によかった」

 

 あーそう言えば、まだまだ人手不足で空き部屋はあるもんな。

 でもリンゴの木なんてどうやって育ててたんだ?・・・・わからん。

 しかし空き部屋を使って育ててたのかー。・・・・・俺に断りなく。

 

「・・・・・はぁ、まぁ良いッス。一個貰うッスよ」

「どうぞどうぞ」

 

 なんかもう皆結構好き勝手してるなぁと思いつつ。 

 鍛え上げた身体能力でリンゴの木からリンゴをもぎ取ってみた。

 紅玉見たいな種類なのか、ホントルビーみたいに赤い。

 ほのかに漂うリンゴの甘い香りが食欲を誘う。

 

「・・・・んが」

≪しゃり≫

 

 俺は大口あけて、リンゴにかぶりついてみた。

 良く熟したリンゴで、口いっぱいに甘さと程良い酸味、そして芳醇な香りが広がって行く。

 かなり美味しいリンゴで、あっという間に一個食べ終えてしまった。

 俺のいた世界でもこんな上手いリンゴはそうそう食べないな。 

 スーパーで通常の三倍の値段がしそうな感じだった。

・・・なんだかもう一個食べたくなるような味だった。

 

「上手いッスね。このリンゴ」

「はは、品種はテレンス産のリンゴと同じ品種ですからな」

 

 テレンス産とは聞いたことがないが、恐らくリンゴの名産地なのだろう。

 だが確かにコレは美味いな・・・これでパイとか食べてみたい。

 

「しかしちゃんと育って良かった。科学班の薬のお陰ですなぁ」

 

 しかし、その考えはタムラ料理長の漏らした一言で霧散した。

 おい!まさかここにある植物の成長が早いのって!!??

 

「あの薬をまいたら2倍は成長が早い。美味しさもそのままだから料理に使えますな」

「・・・・・あー、一応しばらく様子見てからの方が良いと思うよぉ?」

 

 なんか薬を使って成長を早めたとか・・・・ヤバそうな感じがするぜ。

 だけど楽しそうに収穫しているタムラさんを見て俺は何も言う事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 その日以来、稀にタムラさん特製、自家製野菜のサラダやらスープやらデザートがメニューに上がるようになった。

 

 もっとも今の所身体に変調は来ていない所を見ると、特に問題のある薬では無かったらしい。

 なので時折、自家製野菜のデザートを注文するようになったのは余談である。

 

 

***

 

 

 はい、今我々は調査船が消えたという宙域にきて――え?なに?唐突過ぎ?

 あ、ゴメン、時間間違えてた。詳しくはこちらからどうぞ。

 

 

 

 

 

 相変わらず(俺からすれば)ご立派なに見える軍施設。

 とりあえず紛争及び海賊退治を終えたことを報告する為、俺はトスカさん達を連れてアポをとり、あの野心あふれる中佐どのと面会しに来たのである。

 

「・・・・・」

「ユーリ、アンタまだあの中佐が苦手なのかい?」

「・・・・・いや、まぁいい加減諦めたッスけどね」

 

 どうもあのねっちょり感って言うの?

 纏わりつくかの様な視線と雰囲気が嫌なんだよね。

 今回はさらにこちらからある事を承認して貰いに行くから余計に・・・はぁ。

 

「艦長、そんな事よりも早く建物の中に入ろう?」

「イネス・・・何でそんなに興奮してるんスか?」

「別に艦長が尻込みしようがどうでも良いんだが「酷ッ!」ココは玄関だから目立つんだ!」

 

 そういや殺気からもといさっきから、ニコニコとした守衛さんに青筋が出てるね。

 うん、ここで騒いでたら怒るよね?・・・・俺達は急いで受付に歩いていく。

 別に守衛さんが怖かった訳じゃないぞ?ほんとうだぞ?!

 

「・・・すみません。アポをとってあるユーリです」

「あ、はい。話しは通ってます。ただ、中佐は現在こちらでは無く士官宿舎にいらっしゃるので、其方に向かった方が早いかと思います」

「そうですか。情報感謝です」

 

 さて、何回も来てたからいい加減顔見知りになった受付の人にお礼を言いつつ、俺らは士官宿舎へと足を向けた。

 

 

 

 

 士官宿舎へ着き、受付さんに知らされていた部屋番のインターフォンを鳴らす。

 部屋の奥にでもいたのか、少し待たされてからやっとインターフォンがつながった。

 

≪おお、ユーリ君来たかね?ロックは解除したから入っても大丈夫だ≫

 

 適当にへーイと返事を返し、オムス中佐の部屋へと向かった。

 流石に佐官だけあり、宿舎はかなり豪華な部屋なんだよなぁ。

 俺の世界で言う所の六本木ヒルズ?的な位かね?

 んで、現在オムス中佐の部屋へとやってきたのである。

 

「君の活躍は聞いている。大分頑張ったそうではないか?海賊の被害も一気に減った」

「はは、それ程じゃないですよ。皆が頑張ったから出来た事ッス」

「それでも、彼らは君の元に集まった者たちだ。それを率いている君も誇っても良いだろう」

 

 ――――とまぁ、こんな感じで社交辞令のあいさつを行って行く。

 

 正直俺はこういう真面目なのは苦手である。

 うぅ~肩が、肩が五十肩みたいに凝って来たでヤンス。

 

「・・・・さて、挨拶はその辺にして、何か私に用があって来たのだろう?」

 

 オムス中佐はそう言うと、真面目な表情でこちらを見る。

 というか、用が無い限りこんなとこ来ねぇよ。

 

「ええ、ウチの艦隊も大きくなりましたので、一応しかるべき所に報告に来ました」

「やはりか、今ステーションに居るあの≪白船艦隊≫には君達の持つIFF信号が出ていたから、もしやと思ってはいた。しかしまた随分と勢力が増えたな」

「海賊退治の為に頑張りましたので」

 

 性格にはマッド達が趣味と実益の為に頑張ったのだが、別に言わなくても良いだろう。

 

「でまぁ、お上との誤解とかを避ける為に、エルメッツァから公認して欲しいんですよ」

「ふむ成程、そう言えば君達の目的は宇宙を巡る事だったな。確かに誤解を避ける為に国家の様な公式な船団として認めてもらいさえすれば、犯罪を起さない限りは色々と便利だろう。名声という意味でもな」

「解っていただけたようで何よりです」

「君達は非公式ながら紛争解決に尽力し、更にはこの宇宙島にはびこる海賊も一掃してくれたから、その貢献度ですぐに君たちは公認されることだろう。とりあえず何と言う団体名にするかね?一応呼び名を決められるのだが」

 

 呼び名ねぇ?

 

「決めないとどうなるんですか?」

「認識番号で呼ばれるだろう。今なら第8千番艦隊か船団という事になる」

 

 ふむ、ソレは味気ない。

 せっかくの船団なのに、呼び名が第8千番艦隊とか・・・なんかカッコ悪い。

 とりあえず後ろにいるイネスとトスカさんに聞いてみた。

 

「ねぇ、どんな名前が良いと思う?」

「そうだねぇ・・・・ユーリがきめな」

「僕もそう思う。この船団を率いるのはユーリだからね」

「・・・・じつは考えるのがメンドイとかじゃ?」

「「ギク」」

 

 ギクってあーた・・・まぁ良いけど。

 

「ほいだば、俺が勝手に決めるッスね」

 

 そういや、俺達海賊たちから何かスゲェあだ名で呼ばれてたっけ。

 確か―――お、カッコいいじゃないか・・・良し。

 

「決めたかね?」

「はい中佐、≪白鯨艦隊≫でお願いします」

 

 ウチの旗艦ユピテルは白い船体だし、それに合わせた護衛駆逐艦艦隊も全部白い。

 漆黒の宇宙でも目立つであろうその姿は、確かに白鯨と銘打つにふさわしいと思った。

 ようはユピテルが美人さんなのである。なんちゃって。

 

「成程、白色の艦で構成されているからか・・・なかなかしゃれている」

「それはどうも」

「ではとりあえずソレで登録しておこう。空間通商管理局にも手続きをしておくぞ?」

「お願いします」

 

 はぁ、これで国家から認められた0Gか・・・。

国家の犬とか言われそうだけど、自由に好き勝手するから犬ではないぞ。

 

「まぁ手続き云々は、そちらからのアドバイザーと共に私がしておくとしてだ。ちょっと以前の君からの報酬として、エピタフについての情報をくれと言った事があったな?」

「?・・・・・え、ええ確かに―――」

 

 やべ、すっかり忘れてた。元々嫌がらせ用に言った報酬だったんだけど何かあった?

 もしかして、エピタフが見つかったとか?うわいらね―――

 

「調査に出ていた調査船がとある宙域で行方不明になってしまった」

 

 ・・・・神さま、また面倒臭い事に巻き込まれそうです。

 

***

 

―――――まぁそう言った訳で、冒頭に戻るって訳だ。

 

 調査船が行方不明になったのは、辺境惑星ボラーレ近辺らしい。

 とりあえず広域探査を行う為、個々はレーダー班のエコーさんにお仕事して貰おう。

 そう思いつつ、俺はコンソールを見ながらエコーさんに声をかけた。

 

「エコーさん、調査船の軌跡とか見つからないッスか?」

「・・・・・・」

 

 だが返事が返って来ない。あれ?イジメか?

 

「あれ、エコーさん?おーい!っと、通信パネルのスイッチが切れてたッス」

 

 俺は手元のコンソールから、直接エコーさんの居るレーダー席に通信を繋げてみた。

 

「あらー?艦長、なんか用ー?」

「うん、調査船の軌跡って調べられるッスか?」

「ちょっとまってー・・・・うん、大丈夫、できるよー」

「それじゃ、ちょっと探し物して貰っても良いッスか?」

「まかせてー、久々の出番だからもえるわ~」

 

 なんかメタな発現だった気がするが、俺はそれを華麗にスルーし通信パネルを閉じる。

 ふぅ、大型艦になってブリッジがでかくなった事の弊害ってやつだな。

 駆逐艦だと離れても凡そ3m程度なんだけど、このフネクラスになると、艦長席から下の席まで6mはある上、一番離れた席だと20mを越えてたりする。

 

 だから普段だと、座席の通信パネルのスイッチをオンにしているんだけど、偶に一人で考えたい時などに切ってしまったりするとこうなる訳だ。このフネになってからは、常時携帯端末とかが手放せないと言う訳である。

 

 フネもデカイから、マジで携帯端末が無いと、一々デパートの迷子センターみたいにアナウンスしないといけない。それはある意味非常に恥ずかしいのである。

 俺も何度か呼び出しを喰らった時は恥ずかしかったのなんの・・・話がそれたな。

 

「正直、エピタフ何ぞどうでも良いスけどねぇ~」

【そうなのですか?艦長】

「あや?ユピいたッスか?」

【私はこのフネそのモノですから】

 

 そういやそうだった。

 

「あー、まぁとりあえず今のはオフレコで頼むッスよ」

【何故ですか?】

「バレるとメンドイから」

 

 俺が悪戯っぽくそう言うと【はぁ、そう、ですか・・・】と、微妙に納得してなさげではあったが、一応理解はしてくれたようだ。

 正直エピタフ関連はあっても良いけど無くても良いのが内心なんだよね。

 手に入るなら有っても良いし、無いなら別に無理して欲しいとは思わない。

 

 だってエピタフ関連って明らかに鬼門じゃん?

 下手に手を出して、ウチのクルーが欠ける様なことになったら耐えられんよ。

 なんじゃかんじゃいっても愛着湧いてるしな。

 

 でも探さない訳にもいかないから、現在惑星オズロンドを経由して、惑星ボラーレへと向かっているって訳なのだ。さてさて、適当に探して次の宇宙島にでも――――

 

「艦長ーあのねー、なんか資源探査装置がオズロンドの近くで資源衛星帯をみつけちゃったー。どうするー?」

「行くに決まってるじゃないッスか?イネス、航路変更、リーフはそれに合わせて針路変更ッス」

「ま、何をするにもお金は居るもんな」

「針路変更アイサー」

 

 

――――とりあえず小遣い位稼いでも、怒られはしないだろう。

 

 

***

 

 

 さて、適当に掘り終えて、おおよそ300G程度の資源を手に入れた。その後、目的地である惑星ボラーレへと針路を向けた我ら白鯨艦隊であったが――――

 

「先行して前方を警戒していた無人のK級前衛艦が、この先で航海灯を切っている艦船を複数確認しました。現在照会中・・・出ました。エルメッツァ地方軍の艦艇の様です」

 

 ―――と、オペ子ミドリさんからの報告が入った。

 それを聞いたトスカ姐さんが考え込むように顎に手を当てて考えている。

 

「地方軍・・・それにしちゃ、妙なとこをうろついてるねぇ」

「そう何スか?トスカさん」

「ああ、いくら地方軍でもこんな辺境までは普通は来ない筈だからねぇ――」

 

 そこまでトスカ姐さんが説明してくれたその時。

 

≪ドドーン!≫

【前方地方軍艦、砲撃を開始しました。速射した砲撃な為、我が艦隊にダメージ無し】

 

 いきなり砲撃を仕掛けて来た。K級のデフレクターにミサイルが辺り花火が上がっている。

 もっとも、全然ダメージになっておらず、レーザーも艦隊AIがユピ´の所為か当たる気配が無い。まぁ戦闘機動にはリーフのヤツを模したヤツが入ってるからな。当てる方が難しいだろう。

 

「敵艦隊、さらに砲撃を開始」

【デフレクターの出力が3%程低下、正常値内】

「・・・・何がしたいんだろうか?」

 

というか、連中は戦力差を見ていないのだろうか?

 明らかに勝てる訳無いと言うのに・・・。

 

「海賊避けに現在ユピテルはEP全開にしてるから、こちらの方は見えてないのかもね」

「・・・哀れだな。敵の事を良く知らず仕掛けるとは、指揮官が無能なのか?」

 

 サナダさんが呟いた言葉に、ブリッジ全員が内心同じ思いだった。

 恐らく無人艦の影がレーダーに映った途端、攻撃命令を下したのだろう。

 

「とりあえず降伏勧告くらいしてやりますか・・・ユピ」

【了解、敵旗艦への回線開きます】

 

んで、とりあえず敵旗艦へと回線を開いてもらった。

 通信にでたのは、エルメッツァでの将官の服装をしているおっさん。

 ・・・・?あれ?どこかで見たことがある様な・・・はて?

 

「ふははは。待っていたぞユーリ君!」

「あれ?お会いした事あったッスか?」

 

 なぜか高らかに笑う男に俺がそう返すと、画面の向こうでズッコケた。

 というか本当にだれだっけ?

 

「貴様!私を覚えていないだと!?」

「いや、マジで誰何スか?」

 

 ウェーブした髪を七三分けにしたおっさんなんて、別にどこにでもいるしなぁ。

 

「ラッツィオ軍基地の司令だったテラー・ムンスだ!忘れたとは言わさ――」

「忘れたも何も全然覚えて無かったッス。ねぇトスカさん」

「ああ、そういや中佐の後ろに何人か立っていたウチの一人だっけね?」

「・・・・そこまで忘れられる私って一体」

 

 なんか画面の向こうでリアルにorzしてるんですけど?

 部下も慰めるべきかほっとくべきか悩んでる姿がリアルタイムで写ってるし。

 いや、そこは慰めておこうぜ?こういうタイプって面倒臭いだろうから。

 

「・・・ええい!とにかく貴様らわ忘れても!私はわすれん!」

「いやだから忘れるとかの問題じゃなくて、覚えてないんだってば」

「黙れ黙れ!貴様等のお陰で私は職を追われ、軍から逃げ回るはめになったのだからな!」

「いや、そんな事言われても・・・俺達アンタに何かした記憶は無いんスが?」

 

 今の此方の心情を表すならまさに???の状態が当てはまる事だろう。

 だって全然こちらとしては身に覚えがないんだもん。

 

「なら一言で応えてやろう!私は海賊とつるんでいた!」

「自業自得じゃないッスか!」

「煩い!だまれ!しゃべるな!行くぞ!」

 

 そしてまたもや一方的に切られる通信。

 つまり今起きようとしている戦闘は、このおっさんのヤツ当たりな訳だ。

 

「・・・・はぁ、とりあえずEP解除、あとK級駆逐艦を前衛に」

「あいよ」

 

 とりあえず戦闘指示、恐らくユピテルが前に出なくても問題無いだろう。

 そして、駆逐艦隊10隻VS元地方軍艦隊が激突した。

 尚、地方軍の艦隊は全部で五隻、巡洋艦が一隻いるとはいえ。

魔改造駆逐艦10隻の相手は、奴さんらには少々煮が重かった様である。

 

【敵艦に反射収束光線砲、挟撃開始】

「リフレクションレーザーカノン直撃、敵駆逐艦インフラトン反応消失、撃沈です」

 

 開始からわずか数分もしない内に、敵の前衛駆逐艦が撃沈される。

 一気に戦力の半分を持って行かれたのに、敵は逃げようとしない。

 というか、逃げようとしているんだが、慌ててしまって余計に動けない様だ。

 

【ユピ´に砲撃要請、小型レーザー、インターバル1で速射射撃開始】

「弾幕の形成を確認、敵艦に全弾命中、巡洋艦も大破」

 

 んで、少しは奮戦するのかと思いきや、あっさりとこっちが勝った。

 それもまぁ当然である、だってEP解除した途端一気に艦隊挙動が乱れていたからな。

 レーダーに映っていなかった所に、いきなり超大型艦が出現したらそうなるわ。

 しかも動揺している内に艦隊全滅とか、どんだけ可哀相なんだろうな。

 

「撃ち方止め、一応生存者を救出するッス!EVA要員はスタンバイ」

「了解、生存者の探索を行います」

「・・・あの様子じゃ生き残りはおらんかもしれんのぅ」

「仕方ねぇよトクガワのじっちゃん、宇宙に出てるんだから死ぬ覚悟位あんだろ」

「とは言うモノの、俺達は全然戦ってないな・・・腕が鈍っちまう」

「俺もだぜストール、このリーフ様の華麗な戦闘機動も拝めないとは、連中も哀れだぜ」

「そこ!話してないで仕事する!」

「「アイマム姐さん!」」

 

 まぁリーフとストールの言い分も解らんでもないなぁ。

 とりあえず生存者を捜す為に、ユピテルは元地方軍艦隊の残がいへと近寄っていった。

 

………………………

 

…………………

 

……………

 

さて、戦闘終了後に一応生存者を捜して残がいの整理をしていた処。

 

『こちらEVA班長のルーイン。巡洋艦の残がいを調べていたら、なんとか生きてる区画があって生存者がいるみたいなんだが?』

「あいあい、なら救出お願いするッス」

 

まぁ敵対したからって、無暗やたらに殺す必要はないからな。

俺はルーインのおっさんに、生存者の救出をお願いした。

アバリスから小型のランチが発進し、生存者を回収しに、巡洋艦の残がいへと近寄って行く。

 

そして、生き残りたちを収容したとの報告が入った。

これがテレビなら、某丸見え系で放送が可能な位の事になるんだろう。

かなりの弾幕を受けて、運良く生き残れたのだから、かなりの幸運と言える。

もっとも、その弾幕を張ったのは俺達だけど、まぁ気にしない方向でお願いします。

 

 

 

 

しかし、残念なことにその生存者というのが―――

 

「・・・・こういう時悪人って生き残るんスよね」

「い、いたた、そう手荒にしないでくれたまえ」

 

―――何故かテラー・ムンスその人だった。

 

既に敵陣の中に居ると言うのに実に偉そうなのは、大物なのか愚かなのか・・・後者だろうな。

 だって大物だったら、俺達の艦隊の全貌が見えたら絶対逃げる筈だし・・・。

 

「贅沢言いなさんな。なんなら今すぐタンホイザに叩きこんでもいいんだよ?」

「う・・・」

「はぁ、とりあえずアンタの身柄はツィーズロンドのオムス中佐に引き渡すッス。まぁそれまで大人しくしてるッスね。ちなみに我がフネの中では常にAIが監視してるッスから、何か起そうとしても無駄ッスよ?」

【なにかしようとしたら、備え付けの電気銃(テイザー)で焼き殺しますね♪】

 

 さらりと怖い事を言うユピが、常にコイツを監視するだろうから、テロを起そうとしても何もできんだろ。まぁ、たった一人で何かする訳は無いだろうとは思うけど・・・。

 んで、そのままとりあえずの監禁部屋に連れて行かれるのかと思いきや―――

 

「そういやアンタ、エピタフの調査船に手をかけたかい?」

 

――――そうトスカ姐さんがテラーに聞いていた。

 

「な、なんのことだ?私は軍の目を隠れてここに隠れていただけだが・・」

「・・・ふぅん、ウソついてる訳でもなさそうだね」

「ま、知らんなら知らんで良いッス。とりあえず部屋にでも入ってろッス」

 

 そのまま保安要員に連れられて、テラーは監禁室へと向かった。

 さてと、とんだ一騒ぎだったけど、まぁ此方への損害が無くて良かったな。

 

「そいじゃ、当初の予定通りに惑星ボラーレへと針路を取るッス」

「「「アイアイサー」」」

 

 そして、俺達は惑星ボラーレへと針路を取った。

 どうでも良いが、あのおっさん何時頃軍に引き渡せばいいだろうか?

 

***

 

 数日後、惑星ボラーレの小さなステーションへと到着した、我が白鯨艦隊。

 艦船ドックの一区画を占領しつつ、ステーションへと停泊した。

 とりあえず、この近くの宙域で沈んだ事だし、もしかしたら生き残りが救出されているかもしれないと踏んで、この星へと寄港したのである。

 

「んじゃ、毎度おなじみの通り、ここには3日ほど停泊するッス」

「まさか忘れるとは思わないが、全員もしこの惑星へ降りる時は携帯端末を所持する事。予定が変更になって、この星から離れるって時に連絡が付かないのは困るからね」

「とりあえずブリッジ要員とそのた班長さんは、この事を各班に通達しておいてくれッス。耳にタコでも重要事項だからちゃんとやるッスよー」

「「「「アイサー艦長!」」」」

「それじゃ、自由時間開始」

 

 まぁ特に何かある惑星では無いから、適当に3日程いると目星をつけての・・・まぁ休暇だな。

 幾ら小さい惑星とは言っても惑星は惑星である。

温泉の様なレジャー施設の一つや二つくらいあるのだ。

 

「んじゃ、俺達もとりあえず酒場へと行きますかね」

「行くのは私とチェルシーとミユ、それとトーロと・・・あとはイネスとかだね」

「あれ?ルーのじっさまは?あとウォル少年」

「じっさまは適当に惑星を見て回るらしい。少年はその御供だ」

「あー、成程。趣味の散歩ッスか」

「ま、そんなとこだろうね」

 

 何気にあの爺さんアグレッシブだからなぁ。

 御供のウォル少年も大変だこりゃ。

 

「それじゃユピ、留守番頼むッスよ」

【・・・いいなぁ、皆さん惑星に降りられるなんて】

「はは、ユピは身体が大きすぎるッスからね。その身体じゃ降りれないッスよ」

 

 ユピも色んな感情を覚え始めたな。

 今度は羨ましいという感情か・・・スゲェなこの時代のAIって。

 

「ま、携帯端末から行動を見てもらうしかないッスよ」

【・・・はーい、“今は”ソレで我慢します。行ってらっしゃいませ皆さん】

 

 こうして俺達はユピに留守番を頼むと、惑星ボラーレへと降りて行った。

 

【ええ、そうですとも、今はね・・・ケセイヤさんの研究費水増ししておこうかな?】

 

 まぁユピがそんな事考えてる事は、この時の俺は知らなかったりする。

 これがまさかあんな事になろうとは、神さまでも予測付かなかったんじゃねぇかな?

 

***

 

とりあえず酒場についた俺達は、各個に分かれて情報を集める事にした。

俺の場合は適当に飲み物を頼みつつ、マスターに話しかけてみた。

 

「ここいらはエルメッツァの辺境ですからね。政府の干渉も無く、静かなもんですよ」

「へぇ、静かなとこか」

「ええ、偶に冒険者が来る程度で、フネの行き来も殆ど無いです」

「・・・・そか、情報あんがと」

 

 今ので解るが、静かなもん。つまりこの近辺では何も起こっていない。

 調査船が沈没したのは確かだが、この周辺には来ていないと言う事なのだろう。

 

「こりゃ無駄足だったかな?」

「かも知れないねぇ。まぁ静かなところだし、休暇だと思えば良いじゃないさ」

「そッスね。ところでチェルシーは?」

「ん?なんかミユに手を掴まれて買い物に付き合わされてるみたいだったよ」

 

 ミユさんか・・・あの人結構強引だからなぁ。

 まぁ悪い人じゃないし、問題は無いかな。

 

「一応念のためにトーロとかを護衛に付けて置いたけど」

「GJだトスカさん」

 

 既にトーロも魔改造済みだからなぁ。重力制御室での訓練はバカにできない。

 単騎での身体能力は、俺よか上である。俺も鍛えてはいるが、あそこまで出来ん。

つーか1G下で普通に10mもジャンプ出来る人間ってどうなのよ?

 流石は未来で別の星系、人間も進化してらっしゃる。

 

「んじゃ、のんびりとするッスかね。なんか飲み物でも飲むッスか?」

「んー、そうだね・・・ん?」

「どうしたんスか?トスカさん」

 

 なんかトスカ姐さんが、俺の背後に目を向けている。

 俺も其方に目を向けてみたところ、ナイスミドルという言葉が似合いそうな男が座っていた。

 トスカ姐さんは、立ちあがるとその男の方へと近寄って行く。

 

「アンタ・・・もしかしてシュベインじゃないか?」

「ん?・・・おお!コレはトスカ様!お久しゅうございます!」

 

 ん?シュベイン?・・・ああ、なんかそんなキャラも居たなぁ。

 それなりに能力も高くて癖が無くて使いやすいキャラだった様な気がする。

 

「トスカさん、このヒトと知り合いッスか?」

「ん?あ、ああ・・・まぁ昔からのなじみでね」

 

 ・・・・トスカ姐さんの歯切れが悪い。

 成程、ヤッハバッハ関連の人だっけなこのヒト。

 原作ゲームじゃそこら辺の説明が無かったから、ある意味謎なんだよね。

 それにしても、記憶が結構ヤバいなぁ・・・まぁなんとか成るか。

 

「シュベイン・アルセゲイナ、所謂何でもやでございます。以後お見知り置きを」

「俺はユーリッス。ある艦隊の頭はらせてもらってるッス。よろしく」

「ユーリ様ですね?よろしくお願いいたします」

 

 どこかセールストークだが、多分これ自前だな。あまりにも自然過ぎて演技だとは思えない。

 もっとも演技の可能性もあるが、人間初対面になら演技位するわな。

 一流はまずは相手を疑ってかかるモノなのである。

 

 さて、この後は再開した事を喜ぶ会的な感じで、一緒に呑む事にした俺達。

 適当にその昔、トスカ姐さんが駆けだしだった頃の話で盛り上がったところで、トスカさんが本題に入る事にした。

 

「ところで、アンタなんだってこんな所に居るんだい?」

「その事でございますが。私もちょうどトスカ様にお会いせねばと思っていたところでございます」

「あん?」

 

 シュベインのその言葉に怪訝そうに眉を狭めるトスカ姐さん。

 彼は一杯酒を飲んで喉を潤した後、口を開いた。

 

「実は・・・アルゼナイア宙域につながるボイドゲートの復活を確認いたしまして―――」

「何だって!?」

 

 トスカ姐さんはいきなり大声を出すと、イスがひっくり返った事んい気が付かずにそのまま立ちあがった。彼女の声は酒場のけん騒に混じって消えたが、いきなりの事なので俺は驚いていた。

 

「そんな・・・一体なんでそんなこと・・・」

「トスカさん・・・」

 

 とりあえずショックを受けている様だったので、俺は黙ってイスを直して置いた。

 まぁ大体原因は解っているけどね。それを言わないのがK(空気)Y(読める)男なのだ。

 ・・・・・あれ?イニシャルKYじゃね?

 

「アレは・・・デッドゲートだった筈だろう!?」

 

 それはさて置き、先程ではないものの、テーブルをドンと叩きながらそう言うトスカ姐さん。

 うう、なんかマスターからの視線が痛い・・・。

 

「その通り。しかし復活し、機能を取り戻したのも厳然たる事実でございます」

 

 シュベインのその言葉に、彼女は苦虫をかみつぶしたような顔をした。

 

「く、それで連中は―――」

「その確認の為、私もゲート付近まで行ってまいりましたが・・・」

「どうだった!?」

「・・・すでに侵入が始まっておりました」

「ッ!なんてこった!―――シュベイン」

「ええ、解っております。その為に少しばかりお時間を頂きたいのですが・・・」

 

 その時、シュベインが俺の方をちらりと見た。

 ああ、成程。俺にはまだ聞かれたくない話なのねー。

 

「あーユーリ?悪いんだけど・・・」

「解ってるッスよトスカさん。俺は席を外すッス」

「すまない」

「構わんスよ。俺とトスカさんの仲じゃないッスか?・・・ま、ちと寂しいけど我慢するッス」

「ごめん・・・んじゃ、ちょっとの間頼むわ」

 

 俺は席から離れながら、了解~と手を振りつつ席を去ろうとした。

 ―――っと、忘れてた。

 

「そうだったトスカさん、内緒話ししたいなら、端末の電源をOFFにしとかないとユピに筒抜けになるッスよ?」

「え?あ!そうか!・・・済まないユーリ」

「いえいえ、それじゃまた後で。シュベインさんもまたッスね」

「ユーリ様、心遣い感謝します」

 

 何故かおじぎされたが、俺はそれに手を振ってこたえる程度にして、その場から離れるのであった。やれやれ、もうそんな時期だったかね?面倒臭い事になりそうだなぁ。

 まぁユピとか居るから、死ぬ可能性は低いだろうけどね。

 

「とりあえず、イネスとか探してみんなと合流するッスかね」

 

 俺はそう呟くとユピを呼び出し、みんなの居場所を教えて貰って、酒場を後にした。

 

 

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第十五章+第十六章+第十七章

 

「はて?ユピのナビだとここら辺に居る筈なんだけど?」

【間違いなくココからビーコンは出ています】

 

 とりあえず秘密の話しあいの途中のトスカ姐さんが、話し合いを終えるまで遊ぶ事にした俺。

 やってきたのは、ボラーレに広がる森林地帯だ。

 ちなみに仲間のビーコンもここから出ているのを探知している。

 

「しっかし、良い森だなぁ」

【針葉樹と広葉樹がバランスよく生息しています。テラホーミングがキチンと行われた証しでしょう】

「そうだね。ふぁあぁぁ~」

 

 あまりの良い空気に思わず伸びをしてしまう。

 腐葉土の香りがまた何とも気分をリフレッシュさせてくれるのだ。

 森林浴にはかなり効果的かもしれないねぇ。

 

「気持ち良いッスねぇ~」

【ふむ、でしたら自然公園の森林部分は、ここを参照にしてみましょう】

「へぇ、そんな事出来るんスか?」

【しばらく歩きまわって貰えばデータを集められると思います】

 

 そりゃ良いね。ちょうどお仲間探してる最中だからちょうど良いしな。

 俺はとりあえず仲間を探しつつ、森の中を散歩する事にした。

 考えてみれば、この数カ月ずっと宇宙に居たんだよなぁ。

 こう言った自然と触れ合う機会も殆ど無かったぜ。

 

「お、この特徴的な葉っぱの形は、カエデの木ッスかね?」

【ボラーレカエデです。メイプルシロップの原料ですね】

「・・・・この場合、ネーミングセンスが安直だと行った方が良いんスかね?」

【さぁ?ところで、この先にチェルシーさん来てますよ?】

「あ?ホント?」

【はい、ビーコンの識別からすると、ミユさんとも一緒です】

 

 そーいや、買い物に引きづられてったんだっけ?てことはトーロも一緒か。

 とりあえず近づくと、休憩所みたいに成っている場所に、みんなが休んでいた。

 よくよく見るとイネスも一緒である・・・・何故かやつれてるが、気にしない。

 

「うーす、みんな」

「お、ユーリ・・・?なんだ、トスカさんとは一緒じゃねぇのか?」

 

 俺の後ろを見ながら、トーロがそう質問してきた。

 まぁプライベート以外は大抵一緒に行動してたからな。

 そう思う気持ちも解らんではない。

 

「いやさ、なんか昔のなじみとあったらしいッスから、KYな俺はその場から離れたんスよ」

「??ユーリ、KYってなぁに??」

「それはだねチェルシーさん。この場合のKYとは空気を読めるという意味だろう」

「いやイネス少年、まずはKYの意味を教えてやらんと、解らんみたいだぞ」

「???」

 

 KYの意味が解らず、首をかしげているチェルシーは、どこか子犬を彷彿とさせる。

 う、なんか可愛いじゃねぇか。

 

「それはさて置き、なんか色々と買ったッスね~」

 

 見れば休憩所のすぐ脇に、大きな荷物の山が出来ている。

 おおよそ人間が持てる量ではないが、大方トーロが持ったんだろうな。

 ああ、イネスが疲れてるのは、これを運ぶの手伝った所為かな?

 

「ふむ、殆どが女性の必需品だ。化粧品は勿論のこと、生r「いやソコは言わんくても解るッス」む?そうかね。あとはまぁその他いろいろだ。イネス少年の女装用具とか」

「へぇ、って!ぇえええぇぇぇーー!!?」

「ち、ちがう艦長!ボクのじゃない!ソレは勝手にミユさんが―――」

「おや?違うのかね?良く艦内で女装していたから、てっきりそうかと思い買ったのだが?」

「い、要らないお世話ですッ!大体アレもトスカさんの陰謀なんですから!」

 

 うん、そうだよな?イネスがまさかそんな趣味持ってる訳無いよな?

 

「って艦長とトーロも何でボクから離れるのさ!」

「いやなぁ?」

「まぁ、なんとなくっスかね?」

 

 特に意味は無いよ?別に特に意味はさ?大事なことなので二回言った。

 趣味は人それぞれだからさ?気にする必要なんてないさ。

 

「な、なんだその生温かい目は!本当にボクは違うんだぁぁ!!」

「ハハハ、まぁ人それぞれッス」

「だな。大丈夫、俺はお前がどんな趣味してても友達だからな。なぁユーリ?」

「勿論スよー」

「・・・・・だったら何でまた距離をとるのさ」

 

 いや、特に意味は(ry

 

「イネスくんの女装?あ、あれ?なんか・・・アタマイタイ」

 

 って今度はチェルシーが頭を抱えて!?ま、不味い!

 

「てゐッ!」≪タン!≫

「ハウっ!?」

「よーし、気絶したッスね?」

 

 ふぅ危ない危ない。忌まわしき記憶は思いださない事に限るぜ。

 ・・・・・黒チェルシー様は恐ろし過ぎるのだ。

 

「お、おいユーリ、チェルシーに何してんだよ?」

「何スかトーロ、チェルシーは貧血で倒れただけッスよ?」

「いや、今確かにお前が―――」

 

 ええい、まだ言うか?それ以上追及しようものなら、宇宙に放り出すぞ?

 ・・・・・生身でな?

 

「ふむ、T少年。私の経験上、コレ以上の追及は色んな意味で不味いと思うぞ?」

「いやミユさん・・・つーかT少年って、俺はトーロだぜ?トーロ・アダ」

「この際そう言ったのはどうでも良い。問題は艦長の目だ」

「目?」

 

 そして俺の目を見てくるトーロとミユさん。

 なんやコラ?

 

「良く観察してみろ、すわってるぞ?」

「ゲ・・・すまねぇユーリ」

「・・・・・解れば良い。ところでイネスは何してるッスか?」

 

 ふと、さっきから静かなヤツの方を見てみたのだが・・・。

 

「アレは事故アレは事故アレは事故アレは事故アレは事故アレは事故――――」

「イネス少年はトリップ中だな。しばらく放置するしかあるまい」

 

 見れば光が反射しない濁った眼でうつむいたままブツブツとつぶやいている。

 アレは俺もトラウマだからな。その気持ちは解らんでもない

 しかし、なんていうか―――

 

「・・・・・何々スかね?このカオス」

「少なくとも、少年が来てからこうなったのは確実だ」

「返す言葉もねえッス」

 

 この後はイネスとチェルシーが気が付くまで、ここで森林浴をしていた俺達だった。

 イネスとチェルシーが復活する頃には、色々な疲れも取れた。主にストレス関係。

 流石は大自然の不思議ぱわ~、森林浴は偉大である。

 

「さぁて、行きますかいね?」

「「「りょうか~い」」」

 

 んで、飯でも食いに行こうってな話になり、休憩所から出ようとした途端。

 

 

 

「ふせろぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 

 という大声が響き―――

 

 

 

≪ひゅるるるる―――ちゅどぉぉぉぉんっ!!≫

 

 

 

 今の今まで居た休憩所が、いきなり爆破されました。

 俺はチェルシーとイネスを、トーロがミユさんをかばったので全員怪我はなし。

 ところで何?この急展開?なんか俺フラグ立ててたっけ?とか思った俺だった。

 

 

***

 

 

「なぁユーリ」

「何だいトーロくん」

 

 

                          【撃てッ!撃ちまくれ!】

≪カチャカチャ≫                  ≪バシュンバシュン!≫

                          【グレネードどこいった?!】

 

 

「俺達ってさ?この星に休養に来た様なもんだよな?」

「まぁオフレコだとそうなるッスね」

 

                          【アパム!弾持ってこい!】

≪カチャカチャカチャ≫               【マガジンはコレで最後です!】

                          【ええい!くそ!】

 

「なぁユーリ」

「何だいトーロくん」

 

                          【クソ!俺はまだ死にたくねぇ!】

≪カチャカチャ―――カキン≫            【酒場のお嬢さんに花を―――】

                          【バカ!ソレは死亡フラグだ!】

 

 

「何で俺達の背後では、戦争が起こってるんだろうな?」

「さぁ、アソコで戦っている連中に聞いてくれッス」

 

 

             「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」

              ≪ババッバババババババッババ!!≫

    

 

 さて、そろそろ解説とでも洒落込みますかね。いや洒落込むっていう表現はおかしいな。

 とりあえず、簡単に一言で説明するとしたら、現在俺達の背後では銃撃戦が起こっているのだ。

 その為、危なくて動けないので、俺達は破壊された休憩所の瓦礫の陰に身を潜めていた。

 

「ふーむ、困った。幾らか買った物に傷が付いてしまったぞ」

「いやミユさん何をのんきな」

「そうは言うが、稼いだ金で買った物が傷つくのはあまり良い気分では無いぞ?」

 

 まぁ、ソレはそうッスね。よし、後はコレをはめ込んで・・・。

 

「おし、完成」

「さっきから何組み立ててるんだい?艦長」

「ん?ハンディ・メーザーバズ」

 

 ケセイヤさん特製のエネルギー式バズーカだ。

 どういう原理か知らないけど、発射した弾は何故か炸裂するようになっている。

 ちなみにパラライズモードも可。何と言う不思議仕様。

 

「あ、結局バズーカなんだ」

「コレが一番扱い慣れてるッスからねー」

 

 そりゃね、俺も少しばかり頭に来てますからね。

 一応増援は呼んであるけど、その前に一発ブチかましたい気分だ。

 まぁ、迂闊にはやらないけど・・・あくまで護身用って事でよろ。

 

「それにしてもあいつ等何者だ?」

「軍・・・って訳じゃ無さそうッスね」

「でも海賊って訳でも無さそうね。服をちゃんと綺麗にしてあるみたいだし・・・」

 

 軍隊にしては統制が悪い。指揮官と思われる人間が出している指示もアバウトだ。

 どちらかと言えば体育会系の組織と言った方が無難だろう。

 しっかし、敵なのか味方なのかはっきりしてほしいぜ。

 

「うん?あの格好・・・艦長、手前の連中は傭兵だ」

「傭兵?知ってるスかイネス?」

「確かにな。しかも手前の連中は、エルメッツァを中心に活動している傭兵の中でも結構名が売れているトランプ隊の連中だ」

 

 ふーん?傭兵ね?でもなんで又傭兵がこんな辺境に来てんだ?

 つか、戦ってる相手は・・・海賊か。

 

「ふむ、大方ケンカから発展した戦闘と言ったところだろう。傭兵と海賊は仲が悪いからな」

 

 ミユさんがそう呟いた。

 有り得ない話じゃ無いから、この世界って怖いねぇ。

 さてさて、とりあえず見つかってはいないらしい。

なので、連中が撤退するまで隠れていようという事になったのだが―――

 

「あ!あの人狙われてる!」

「え?チェルシーどこッスか?」

「ほらアソコ!木の上から狙ってる!」

 

見れば、海賊の一人が木に登っている。

そして傭兵のリーダーッポイ感じのロン毛のおっさんを狙っていた。

 しかもその事にリーダー格のおっさんは気が付いて無い!不味い!

 

「頭下げろォォォッ!」

「!!」

 

 俺は咄嗟にそう叫んで、気が付けば引き金を引いていた。

 

 

≪ちゅどーん!≫

「あ、やり過ぎ?」

 

 

 バズーカの引き金を・・・。

 バズの弾は、リーダー格を狙っていた海賊が居た木を根元から折ってしまっていた。

 そして落下した海賊は、哀れ傭兵達の銃の餌食となってハチの巣にされていた。

 ちなみにその時の光景があまりにグロかったので、俺はチェルシーの目を慌てて塞いでいた。

 

「援護感謝する!」

「どうでも良いからとっとと戦闘を終わらせてくれッス!」

「まかせな!すぐに終わらせてやるよ!」

 

 俺が叫ぶと、リーダー格の隣にいた恐らく副長と思われる女性がそう叫び返した。

 そして、俺が頼んだフネからの援軍が来る頃には、本当に戦闘は終わっていたのであった。

 

***

 

「いやはや、助かりましたよ」

「いや、こっちも巻き込まれてただけッスからね」

 

 さて、戦闘も終わり、目の前には先程のリーダー格の男、名をププロネンというらしい。

 その人物が、俺に対し感謝の言葉を述べていた。

 正直こちらとしては巻き込まれた側だから、文句の一つでも言いたいところだ。

 だが俺はエアリード位は出来る男である。だからあえて特には言わなかった。

 

「いや、しかし君が撃たなければ、私は撃たれていただろう」

「そう言うこった、アタシからもリーダーを助けてくれたことに礼を言うよ」

「・・・・まぁそこまで言われたなら、素直に受け取っておくッス」

 

 ププロネンさんの隣に立っていた、サブリーダーであるガザンさんからも礼を言われた。 

 しかし、女性で傭兵やってるとはねぇ~。成程確かに姉御肌って感じがするぜ。

 

「しかし、何でまたこんなとこで戦闘をしたんスか?下手したら市民巻き添えだったッスよ?」

 

 俺はすこし咎めるような視線を送りながらそう聞いた。

 巻き込まれた側としても、ちゃんとした理由を聞きたかったのだ。

 俺にそう問われた二人は、特に言い淀むことなく、キチンと説明してくれた。

 

 なんでも、トランプ隊を率いている彼らは久々に休暇を作ることが出来たらしい。

傭兵という稼業上、その仕事は重労働な為、いい加減隊員に限界が来ていたからだそうだ。 

 そして、休暇先として選んだのが、この辺境惑星だったのだ。

 

 仕事柄、常に緊張とスリルを味わう事になる為、こう言った平穏な時間が欲しかったらしい。 

 そして、この惑星に着き休暇を満喫していると、海賊と目があった。

 その後はミユさんの指摘が当たっていたと言う事である。

 

「しっかしケンカからマジ戦闘に勃発とか・・・」

「最初は酒場で殴りあいだったんだがね?マスターに追い出されちまってさ」

「0Gドック御用達の酒場だけある。マスターの腕っ節も強かった」

「んで、そのままだと市街戦をやっちまいそうだったからね。流石に一般人に被害を出すのは不味い」

 

 成程、それで普段人が少ない森林の所に来たって訳なのか。

 お陰で俺らが巻き込まれたけど、それでも彼らなりに考えての行動だったんだな。

 

「ま、ウチとしては傷ついて壊れたモンを弁償さえしてもらえれば、文句は無いッスよ」

「そう言ってもらえると助かる。まさか君達がここに居るとはこちらも予想外だったのだ」

「傭兵稼業は信用が第一。キチンと弁償させてもらうよ」

 

 ふむ、キチンと話せる人達みたいでよかったぜ。

 確かに傭兵は信用第一な家業だモンな。コレで弁償しなかったらネットで( ry

 まぁ、ソレ以前にこの世界には惑星単位でしかネット無いけどね。

 

……………………

 

………………

 

…………

 

 さて、この後弁償して貰う物の値段をミユさんと相談し、彼らに伝えに行った。

 やはり女性用品はどの時代でもややお値段が張る。

 男の俺には理解できないであろう量分だが、ないがしろには出来ないからな。

 

 んで、値段交渉をしようとしていた矢先―――

 

≪ギュゥゥンッ!≫

「な!飛行機?!」

「あ、アレウチの装甲兵員輸送艇ッスね」

「何?あの飛行機が君の?」

「さっきの戦闘の時、ウチの母艦に援助要請出してたんスよ」

 

―――今更だが、援軍がご到着してしまった。

 

 助けに来てくれた保安員達は全員、鎧みたいなモノを装着している。

アレはケセイヤさんに頼んで、白兵戦用に開発した装甲宇宙服だ。

 フネを拿捕する際着る物であるが、今回の為に着て来たのだろう。

 

「おー、みんなご苦労さん、そしてすまねぇ」

 

 一応保安部署トップのトーロが、保安員達と話をつけに行く。

 ああ見えてアイツは保安員達と仲が良いからな。

 俺が行ってもいいけど、トランプ隊を放っておく訳にもいくまい。

 なにせ傭兵達には、あの装甲服姿の保安員達は敵なのか味方なのか不明なのだ。

 俺という保険がそばに居る事で安心させてやるのである。

 

「―――とまぁそう言う訳だ。ご足労だったけど、もう帰っても良いぜ」

 

 特に混乱が起きると言う事もなく、トーロが上手く纏めてくれたらしい。

 一言二言話した程度で、全員大人しく輸送艇に戻って行った。 

 そして、トーロが俺の所に寄ってくる。うん?なんだろうか?

 

「ユーリよぉ、一応もう大丈夫になったから帰るよう言ったけど・・・・どうするよ?」

「うーん・・・後で酒奢るとでも伝えておいてくれッス」

「わかった。皆にはそう伝えとくぜ」

 

 フネに残っていた保安員達も、急いで駆け付けてくれたのだ。

 その労をねぎらわないのは艦長失格ってヤツである。

 ・・・・まぁその酒代は俺のポケットマネーって事になっちゃうんだろうけど。

 

「はぁ、艦長職も楽じゃないッスねぇー」

「お取り込み中の所すまないがユーリ君。先程の彼らは?」

「ん?ああ、放っておいてすまねぇッス。彼らはウチんとこの保安クルー、警備から白兵戦までこなす、ウチの戦闘部隊ッス」

 

 ウチの中でも保安部員はそれなりに人気が高い。

海賊船にいち早く乗り込み、敵と戦う花形職だからだ。

 

そして数こそ増えたが、そのほとんどがラッツィオの頃から鍛え続けた連中である。

 全員幾多もの海賊船の制圧と、海賊本拠地での戦闘経験を積んだ猛者達だ。

軍隊程厳密な規律とかそう言ったのは無いけど、必ず集団戦闘を行う様に訓練してある。

 

それにトーロと共に、重力が調整されてGが数倍のトレーニングルームで訓練を受けている。

 その一人ひとりの実力は、恐らく軍のそれよりも上であると思う。

 

 ちなみに彼らの仲間意識は高く、俺も時々訓練に参加している為に慕われているらしい。

 微妙にノリがレンジャー部隊ッポイところがある連中であるが、みんな良い連中だ。

 

「保安クルー、それにしては動きに無駄が無いですね」

「ああ見えてあいつ等は戦闘機の操縦から、白兵戦、殲滅戦まで戦闘に関する事は殆どこなせる連中ッスからね。そこいらの兵隊にゃ負けない自信はあるッスよ」

 

 単騎での戦闘能力は、トーロに次いで高い。

 艦長職の所為で訓練さぼり気味の俺よか高い事だろう。

 

「そう言えば、君は艦長とか言っていましたね?彼らの上官にあたると?」

「大きな視野でみるなら、一応は俺の指揮下ッス。だけど指揮系統の混乱を避ける為、実質現場での判断にゆだねてるッスね。そう言う訳で大まかな指示は出すけど、それ以外の判断はアソコに居るトーロってヤツにゆだねてあるッス。」

 

 俺が悪乗りして、ブートキャンプ風の訓練とか入れたしなぁ。

 しかも重力数倍の部屋とかで・・・・皆よくできるよな?

 

「なるほど、いや中々君は良い視野を持っていますね」

「そうスかね?案外普通のことだと思うッスけど?」

「普通、ですか?」

 

 ププロネンさんは、すこし不思議そうに俺を見た。

 まぁ、0Gドックでそう言う事してる人間は、あまり聞いたこと無いよな。

 

「要は適材適所ッス。俺は艦長ではあるけれど、白兵戦での戦闘指揮が上手いって訳じゃないッス。俺の役職は艦長、様々な部署を統括し、大まかな指示を与えてフネがキチンと運用されるように頑張る仕事ッス。時たま艦隊戦とかの指揮はするッスけど、まぁ普段はクルー達の問題や相談を聞く便利屋ってとこっスかね~」

「成程、貴方は自分のすべきこと、しなければならない事も明確に解っているのですね?」

「そうしなきゃ、とっくにロウズの方で沈んでるッスよ」

 

 俺だってそれなりに艦長をやっている。勉強も少しくらいした。

 艦長がすべきことは沢山あるが、基本的には色んな部署を見て回り、クルーの話を聞く。

 そうする事で、しなければならない事が見えてくるのである。

 

「ふむ、引きとめて申し訳ない」

「いんやー、別に良いッスよ」

「・・・・何時か貴方の様な人間の下で働いてみたいモノだ」

 

 ププロネンさんは、急に真面目な表情をするとそう呟いた。 

 

「はっは、そう言ってもらえると、悪い気分じゃないッスね。それではさようなら」

「さようなら、“またいずれ”――あ、そうでした。貴方はどれくらいまでこの星に?」

「ん?そうスッね。今日をいれて3日程ッスかね」

「そうですか。まぁまた町とかで会いましたらよろしくです」

「ん、こちらこそ、それじゃ今度こそさいなら」

 

 ププロネンさんは俺の答えを聞くと、ガザンさんのところへと足を向けて歩いていく。

 俺達もとりあえず無事な荷物をもって、一度フネに戻る事にしたのであった。

 

 

 

 

「ふむ、ガザン」

「どうしたリーダー」

「久々に、面白い人材を見つけた」

「おやおや、アンタがそこまで嬉しそうにするなんてね?で、どうだった?」

「まだまだ甘いところがあるが、実に面白そうだ」

「なるほど・・・じゃ、とりあえず準備はしておくよ」

「ああ、そうしておいてくれ」

 

 

***

 

 

 さて、とりあえず色々とあったものの、荷物をユピテルの運びこんだ俺達。

 まっさか、あんなところで戦闘に巻き込まれるとは思わなかったぜ。

 とりあえず荷物を置いたあと、俺は格納庫へと来ていた。

 

「さってと、この後はどうするかな」

 

 結局飯を食う話は、先の戦闘の所為でお流れになってしまった。

 つか、もう時間的にはおやつの時間だしな。

 適当に何かつまめるもんを買って、部屋で楽しむかなぁ。

 俺は先の戦闘で、保安員達を運んだ装甲兵員輸送艇を眺めつつ、この後の予定を考えていた。

 

「あ、ユーリ。ここに居たの?探しちゃった」

「チェルシー、どうしたんスか?」

 

 ふと気が付くと、チェルシーが俺のすぐ近くに来ていた。

 彼女は彼女で自分の荷物を部屋に運び入れてたもんな。

 俺は俺で勝手に動いてたし、探して回ってたのか。

 

「最近ユーリと会話して無いから・・・」

「おう、そいつはすまなんだ。悪い兄貴を許してくれッス」

「ううん、許さないよ?」

「えー!どうすれば許してくれるッスか!?」

 

 あうち、最近人間と触れ合う様になった所為か、性格変わってませんか貴女?

 俺が少し慌てて言うと、彼女はすこし恥ずかしそうに、此方をチラチラと伺っている。

 そして、勇気を出すかのように小さくガッツポーズを決めると、俺に振りむいた。

 

「だから、あのね?・・・・一緒に二人で出掛けない?」

「ん?なんだお安い御用ッスよ。まだボラーレで見て無いとこもあるからね」

「やった!それじゃ行こうよユーリ!」

 

 彼女は途端笑顔になり、俺の腕を掴むとぐいぐいと引っ張った。

 おいおい、子供みたいだねぇ。

 

「引っ張らなくてもちゃんと行くッスよチェルシー」

「あ、ごめんね・・・迷惑だった?」

 

 ぐ、う、上目使いの破壊力か・・・。

 

「うんにゃ、久々のスキンシップッス。迷惑じゃないッスよ」

「そっか、よかった」

 

 

俺は内心の動揺を顔に出さず、彼女と手を組んで格納庫から出て行った。

 

 

ちなみに――――

 

「よし、腕を組みました。計画通りです!」

「はぁはぁ、若い二人はー・・・・きゃー!」

「エコーさん、鼻血出てますって。ミドリさんティッシュもってない?」

「あ、どうぞトーロくん、しかし相変わらずねエコー?」

「だってー、こう言うのっておもしろいですからね~。キャ~♪」

「ウチの妹は、全く・・・」

「とか言いつつもアコーさんも好きですねぇ?」

「煩いぞトーロ。プロテインの割引止めるぞ?」

「あ、すんません」

「・・・・」

「ん?イネスどうしたんだ?」

「・・・いや、なんでもない(なんでムカムカするんだろう?)」

 

――――五人ほどストーカーが着いて来ていたことは、俺は全然知らなかった。

 

 ちなみにすべてを見ていたユピはというと・・・・

 

【・・・・艦長のばか】

 

・・・・雰囲気的に出て来れなくて、相手にして貰えなかったので少し拗ねていた。

 だから、この後ろの連中の事も、俺には教えなかったのであった。

 

***

 

 さて、やってきたのはパンモロと呼ばれる動物の放牧地である。

 俺達の世界で言うところの牛やヤギに相当し、肉と乳と毛皮が取れる生き物だ。

 観光地用なのかパンモロを放し飼いにした、牧歌的な風景が広がっている。

 

「平和だねぇ~」

「ほんと、気持ち良い天気」

 

 平和な風景というのは心癒されるもんだわ。

 んで、柵の向こう側からゆっくりと放牧地を歩いていた俺達。

すると、酪農作業をしていた農民の一人に声を掛けられた。

 

「よぉ、あんたら観光かい?」

「はは、似たようなもんスね。平和で良いとこッス」

「だろう?何にもないとこだが、平和な事だけが取り柄ってね。そうだ、お近づきのしるしに、一杯どうだい?」

 

 農夫さんはそう言うと、しぼりたてのパンモロの乳をコップに注いで渡してくれた。

 

「良いですか?」

「ありがとう。おじさん」

 

 機前のいい人だなぁと思いつつ、渡されたコップに口をつけてみる。

 しぼりたてで、まだ暖かい乳を口の中で転がすと、甘酸っぱいような濃厚な味わいが楽しめた。

 製品と違って味の調整が為されていないが、それこそ天然モノの味わいである。

 こう言うのこそ、最高のぜいたくというんだろうなぁ。

 

「ふぅ、なんかほっとするッスねぇ」

「そうね。航海も長かったから、なんかほっとするわ。・・・・ねぇユーリ」

「ん?どうしたんスか?」

「私、ユーリとこういう場所で暮らしたい」

 

 その言葉に一瞬固まる俺。

 

「お、いきなり告白かい?若いっていいねぇ~。邪魔なおじさんはアッチ行ってるわ」

 

 まだ目の前にいた農夫のおじさんは、にやにやと笑いながらその場を去った。

 そして流れる沈黙・・・。

 

「え?あ!ち、ちがうの!だってここロウズの故郷に似てるんだもの!」

「あ、なんだそう言う事ッスか」

 

少しして、自分の言った言葉の意味に気がついたチェルシーは顔を赤くして慌てていた。

う、なんで可愛らしい仕草を覚えてんだよ・・・キュンって来たじゃねぇか。

 でも―――

 

「チェルシーは航海に出たのは嫌だったスか?」

「ううん、そうじゃないわ。宇宙は怖いところだったけど、最近はそうでもないの」

「そう何スか?」

「うん、だって色んな人と出会えたし、なによりユーリがいるもの」

 

 最後の方は少し頬を染めて、恥ずかしそうに言って来る彼女。

 ・・・・・グハ、俺の精神防壁に楔が打ち込まれた。

 まてまて落ちつけ、俺に義妹属性はないから、だから落ちつけ。

 

「はは、妹も成長してるとはね。兄としてはありがたい限りッス」

「・・・・妹か、いまはそれでもいいかな」

「ん?なんか言ったッスか」

「ううん、なんでもないわ。お兄ちゃん♪」

 

 チェルシーはそう言うとニッコリを笑みを作り、俺にすり寄ってきた。

 なんだか甘えん坊な子犬を拾った気分である。

 尚、既に精神防壁の展開は完了したので、なんとも俺は思わなかった。

 ・・・・なんとも思って無い、大丈夫だってば。

 

***

 

Side三人称

 

―――すぐ近くの茂み―――

 

「おお!すり寄ったぜ!面白くなってきた」

「やるわねチェルシーさん、天然だけど妹という立場を最大限に利用してますね」

「ふわーふわーフはッ!」

「・・・・はいティッシュだよエコー」

「ありがとー、ねーさん」

「・・・・でも艦長とチェルシーさんって兄妹なんだろ?」

「ありゃイネス知らなかったのか?あいつ等血のつながりは無いんだぜ?」

「そうなのか?でも何でトーロはそんな事知ってるんだ?」

「サド先生から聞いた。検査した時DNAを調べたんだと。でもユーリはその事しらねぇ」

「え?なんでさ?」

「だって、その方がおもしろいじゃねぇか」

「・・・・そう、かなぁ」

「ほら、そこ!静かにしてください!艦長達に気付かれちゃいます」

「「了k・・・あ」」

 

 固まるトーロとイネス、その視線の先には・・・・夜叉がいた。

 

「「「え?」」」

「ほう、君たちはそないなばしょでなんばしよっとるのかなぁ」

「ユ、ユーリ!これには深い訳が!というか後半なんて言ったんだ!?」

「最近おとなしいかと思えば・・・全く」

「ち、ちなみに、艦長は何時からそこに?」

「ん?ミドリさんが大声で気付かれちゃいますと言った辺りッスね。さて、減俸とお仕置きされるのと・・・ドッチガイイ?」

「「「「「減俸でお願いします!!!!」」」」」

 

 

 そしてその5名は、しばらくの間給料半分で過ごしましたとさ。

 

 

さて、バカどもに制裁と加えた後、俺はチェルシーと別れてトスカ姐さんを迎えに行った。

酒場に入ると、どうやら話は終わっていたらしく、くつろいだ様子だったので声を掛けた。

 

「ああ、ユーリ、ちょうど話が終わったとこだよ。それと、ほら」

「何スか?このプレート」

 

 トスカ姐さんは、俺の手に小さな薄いプレートを渡してきた。

 なんかどっかで見たことがある様な?

 

「それはさ。エピタフ捜査船のね」

「げ?!」

 

 おいおい、そんなものがあるって事は―――

 

「アゼルナイア宙域側のボイドゲート付近で発見した残がいから、私がサルベージしたものです」

 

―――ああ、やっぱりね。沈められてましたか。

 

「残念ながら、調査船が発見したエピタフは既に連中に奪われてましたが」

「連中・・・(ああ、ヤッハバッハか)」

 

 そういやそろそろだったよなぁとか思った俺。

 連中と戦り合うのは、骨が折れそうだなぁ。

 

「ま、とりあえずコレはオムスんとこに渡しとかないとダメっすね」

「ああ。調査船が沈んだって言う報告だね」

「面倒臭いスッけど、報告しない訳にもいかないッスからね」

「まぁ、そうだね」

「それじゃ私はここで失礼します。トスカ様、ユーリ様」

 

 そう言って席を立ったシュベインを見送った俺達。

 とりあえずユピテルに戻り二日ほど休憩した後、ツィーズロンドへと向かった。

 その間、若干トスカ姐さんの態度がおかしかった。

 やはり動揺してるんだろうなぁ。相手が相手だしな。

 ・・・・・準備を怠らない様にしないとな。

 

***

 

「各部署発進準備」

「各セクションは、発進手順に従い、プロセスを消化してください」

『各艦、隔壁及び気密、自動診断では問題無し。目視でも異常は見受けられない』

『補給貨物は搭載及び固定終了』

「機関出力臨界へ、システムオールグリーン」

「航法プログラム及び、航法システムも異常無し」

「レーダーシステムもー、正常に稼働中ー」

 

 各部署からの報告が寄せられる。

 整備を終えているユピテルに、特に異常は見られない。

 駆逐艦隊は既に発進を完了しているので、後は俺達だけだ。

 

「管制からの発進許可降りました。メインゲート解放されていきます」

「メインエンジン始動」

「微速前進ッス」

「微速前進ヨーソロ」

 

 正面の全長数キロはある巨大ゲートに張られたデブリ用シールドが解除された。

 シールドの全面開放を確認し、ゆっくりとユピテルが動き出して行く。

 

【管制より電文“貴艦ノ旅ノ安全ヲ、祈ル”以上です】

「各シークエンス消化完了、艦長」

 

 ステーションから出た後、ミドリさんが俺の方をジッと見た。

 準備が完了したことを感知し、俺は艦長席から指示を出す。

 

「白鯨艦隊、発進する」

「陣形は来た時と変わらず、防衛駆逐艦艦隊を前面に出します」

【ユピ´達に指示を飛ばしておきます】

 

 すでにステーションの外に並ぶ駆逐艦艦隊が、ユピテルからの指令信号を受信。

 旗艦ユピテルの前方に展開し、先に先行した。

 

「・・・・各艦発進、遅延艦は存在せず」

【対海賊用EPを通常出力で展開開始】

「針路上にー障害物は感知できません」

「早期警戒無人RVF-0発艦、航路に展開します」

「全行程完了だ。おつかれさん」

 

 そうトスカ姐さんの声が聞こえたので、俺は力を抜いた。

 なんじゃかんじゃでフネの発進と寄港の時が一番危ないからな。

 神経を結構使うんだよなぁ。

 

「ま、それなりに休暇が楽しめて良かったッスね」

「だね。この先忙しく成りそうだしな」

「ああ、“連中”の事ッスね・・・ま、ウチの艦隊なら逃げ回るくらいは出来るッスよ」

「はは、そうだろうね。何せ乗ってるヤツが奴だからな」

 

 どういう意味じゃい。

 

「・・・・」

「ま、多分大丈夫ッスよ。ウチの連中はすさまじくタフッスからね」

「ああ、そうだね」

 

 トスカ姐さんはそう返すと、外を映す映像パネルの方に目線を向けた。

 やっぱりどこか心配そうである。

 俺はそんな彼女をみて、出港前に彼女と話した内容について思い出していた。

 

 

***

 

 

「ヤッハバッハ?それが調査船を墜とした連中の名前ッスか?」

「ああ、その通りだ」

 

 出港直前になって俺の部屋にやってきたトスカ姐さんは、突然俺にそう述べた。

 シュベインとの話し合いで、話していた内容。

 

“ヤッハバッハがマゼランへの侵攻を開始した”

 

 だが俺としては突然の事に、内心ハトがミサイル喰らった様な感じだった。

 だってそうである。原作ではこの時期にはヤッハバッハの話は出て来ない筈なのだ。

 それなのに、彼女は俺にヤッハバッハのことを喋った。寝耳に水とはこの事である。

 

「アゼルナイア宙域にある国家ッスかね?」

「ああ、その通りさ。ここら辺からだと、ゲート無しだと5年はかかる距離にある」

「5年・・・違う銀河系ッスか?」

「そう、そして私の故郷でもあるのさ」

 

 インフラトン機関は光のを軽く超える早さで移動可能である。

 それですら5年もかかる距離にある宙域なのだ。

 どれほど離れているか、簡単に想像がつくだろう。

 

「ふーん、てことはトスカさんはヤッハバッハ出身何スね?」

「・・・ああ、そう言う事になるね」

「でも何でいきなり俺にその事を?」

 

 正直ありえない。一体何故彼女は俺にその事を話す?幾らなんでも早すぎるだろ。

 彼女は俺にそう問われると、目線を泳がせた。

何と言って説明すればいいのか解らないと言った感じだ。

 

「ユーリには・・・・話して置いた方が良いとおもってさ」

「・・・なんとも言えないッスね。しかし、侵略ねぇ?」

「連中にかかれば、この銀河はすぐに征服されるだろうさ」

「でしょうね。この銀河を巡ったトスカさんがそう言うなら」

 

 さてさて、どうしようかね?

 相手は自力で5年以上航海出来る航続距離を誇る艦船ばかり。

 一方こちらは、ウチのフネは別にして、恒星間クラス程度と言ったところ。

 うわぁ、既にフネの性能差で負けているじゃん。

 

「んで、俺にどうしろと?」

「・・・・正直、解らない」

 

 でしょうな。ま、答えは後になってから出してくれれば良いさ。

 一応逃げるの最優先だけどね。それよりも―――

 

「ウチのフネで勝てる相手ですか?」

「解らない。タイマンなら圧倒出来るだろうけど・・・」

「数ですか?」

「ああ、此方とは次元が違うフネが数万隻以上だ。勝てる訳が無い」

「普通一度にそれだけ相手すれば、余程のフネでないと勝てませんよ」

 

 数の暴力というのは恐ろしいモノだ。

 実質ウチのフネはマッド達曰く、小マゼランを蹂躙出来る程の性能があるらしい

 だが、ソレはあくまで乗っている人間のことを考慮に入れなかった場合である。

 

 実際は長時間の戦闘によるマンパワーの低下、それによるマシンパワーの低下が起こる。

 そうなったら後はフルボッコだ。動けないフネは的でしか無いんだからな。

まぁウチの場合AIが動かしてる所もあるから一外にそうとも言えないだろうけどね。

 

 しっかしそうかぁ、かなり強いフネを作ったつもりだったけど、それでも足りないか。

 ・・・・・金溜めてアーマズィウス級量産したろっかな?エリエロンド級でも可。

 乗る人間がいないから無理かなぁ、AIにだって限界はあるだろうし・・・。

 

「・・・とりあえず、それだけは知っておいてほしかった。ただそれだけさ」

「なはは、随分信用されたもんスね?俺も」

「ああ、そうだね。最初の頃はただのバカな子坊だと思ってたからね」

「何かヒデェっス」

「まぁそう怒るな。しかし短期間でこんな大きな艦隊を作り上げるとは思わなかったよ」

 

 考えてみれば、まだロウズをたって数カ月程度しか経って無いんだよな。

 どんだけハイスピードで、勢力を伸ばしてんだか・・・皆のお陰だけどさ。

 

「クルー全員のお陰ッスよ。仲間が頑張るからここまでこれた。青臭いけど、そう言うもんス」

「・・・・ああ、そうなんだろうね」

「その仲間にトスカさんも含まれてるんスからね?お忘れなく」

「!・・・あ、ああ!そうだった。私も仲間、なんだよな」

 

 何故か問いかけるかの様な声のトーンを出すトスカ姐さん。

 俺はその事に一瞬ため息を着き、何をいまさらという感じで肩を上げた。

 

「当たり前ッス。トスカさんは俺の副艦長。その部署だけは他の人間には渡さないッス」

「ふふ―――ありがとう“ユーリ艦長”」

 

 そういうと、彼女は笑顔で艦長室から出て行った。

 

***

 

 

――――とまぁ、そう言った事があった訳でして。

 

とりあえず、ヤッハバッハのことはしばらくは口外しないという話になった。

 下手に他の星で話して回っても、余計な混乱を招くだけであるし、国家に目をつけられる。

ならば、ひそかに準備を進めるしかあるまい。生き残る為の準備ってヤツをね。

 

幸いなこととに、ウチにはマッド達がいるから、技術的には勝っている。

 それこそ、小マゼランの中でも匹敵する相手がほぼいないくらいである。

とりあえず、兵器開発部門の予算を少し上げておかないとな。

 

「そう言えば艦長、ちょっといいか?」

「ん?サナダさん、どうしたッスか?」

 

 空間パネルが開き、サナダさんが俺に話しかけて来た。

 

「実は試験的にアバリスとユピテルに、EPを強化したステルスモードを搭載してみた」

「ステルスモードッスか?ソレはあれッスか?光学迷彩とか」

 

 ははは、まさかそんなフネを覆える光学迷彩とかありえ―――

 

「む?誰か漏らしたのか?せっかく驚かせようと思って、極秘に開発を進めていたのだが」

「え?マジ?」

 

―――神さま、マッド達が力を合わせると、貴方の元にまで飛翔できそうです。

 

「まぁ従来のEPに合わせ、周囲の背景に溶け込ませる為の光学迷彩を搭載した。まぁ予算の都合上、アバリスとユピテルだけにしか搭載出来なかったがな」

「ソレ以前に俺全然そんな報告なかったんスけど?」

「言っただろ?驚かせてやろうと?そしてこんな事もあろうかとの為だ」

 

 あー、すべてはソコにつながるんですね?解ります。

 あれ?でもこれって・・・。

 

「サナダさん、サナダさん。コレってユピテルとアバリスにだけ搭載してるんスよね?」

「ああ、そうだ」

「てことは、駆逐艦隊は丸見えって事ッスから、海賊ホイホイなんじゃ・・・」

 

 例えば巡洋艦クラスのフネを持っている海賊がいる。

 そこに20隻とはいえ、駆逐艦だけで構成された艦隊が通ったとする。

 ゼラーナやガラーナはバランスは良いが、そのままでは基本性能は並みだ。

 ウチの場合、改造が重ねられて見た目以外はもう面影は残っていない。

 海賊の巡洋艦が数隻でもいたら、普通に襲い掛かってくるかと思うんだが?

 

「・・・・いいじゃないか、鴨が寄って来る」

「いや、そもそも隠れる為のステルスモードじゃ・・・」

「い、いずれすべての艦に搭載させた時が真価を発揮できるだろう」

「おーい、目をコッチ向けて喋ってくれッスー」

 

 にゃろう、ステルスモードは便利そうだけど、今のままじゃ頭隠して尻隠さずじゃねぇか。

 でも、海賊ホイホイとしては使えるかなぁ?多分鴨だって思って寄ってくるだろうし。

 自分達が鴨とは知らず、哀れな事に・・・有りだな。

 

「ま、いいか。いずれ全艦配備してくれるッスよね?」

「ああ、ソコは大丈夫だ。なに、軽く2万G行く程度だ」

 

 2万とか・・・初期の旗艦の値段より高いじゃねぇか。

 まぁウチの艦隊の規模から考えたら、すさまじく安いということなのか?

 

「・・・・海賊船拿捕5回ってとこッスね」

「まぁ新装備には金が掛かると思ってくれ艦長」

「OK,なら金は作るから全艦配備よろしくッス。期待してまっせ?」

「了解した」

 

 とりあえずOKは出した。だって光学迷彩なんてロマンだろ?

 敵からの砲撃を浴びせられる駆逐艦隊、そこにうっすらと宇宙から滲み出る様に現れるユピテルとアバリス・・・・かっこいいじゃん!

 

「むふふ、これで色んな戦法が・・・」

「相変わらず常識外れだね。ウチの開発部署」

「トスカさん、あいつ等に似合うのは常識じゃなくて非常識ッスよ」

「・・・・なんだか自分が悩んでたことが、とてもバカらしくなってきたよ」

「いいんじゃないッスか?ソレはソレで」

 

 ウチの連中に常識を求めたらダメだろう。

 この間なんか、強襲揚陸艦を開発してくれって言ったら、

何故かケーニッヒ・モンスター作った連中だしな。

 

VB-6ケーニッヒモンスター、マクロスシリーズに登場する機体の一つだ。

原作ではデストロイドモンスターと呼ばれた2足歩行機動兵器が元になり、

それに自立で飛行・展開可能という機能を付け加えた可変爆撃機である。

 

最大の特徴はVF-0と同じく可変機能と、大口径4連装レールガンを搭載している事だ。

機動力はVF-0に劣るのだが、その分防御力と攻撃力はかなり高い。

 

 ウチでの開発経緯は、元は機動力はあるが貧弱であったVFを、

違うアプローチから攻撃力を強化しようという運びで作られたらしい。

 でもVFは後に色んな武装を装備できるという事が発覚。

 更にはアーマードやスーパーパックという追加兵装が登場したことににより、

ケーニッヒ・モンスターの設計図はそのままお蔵入りになってしまった。

 

 だが、そこで俺が強襲揚陸艦の設計をしてくれと言ったのである。

コレなら使えんじゃねぇかって事で、日の目を見ることとなったらしい。

 

んで、倉庫から引っ張り出された設計図は、ある程度の改修を加えられ。

そのまま実機を建造されると言う運びとなったのである。

なおVB-6を初めて見た時、強襲揚陸艦じゃなくて強襲砲撃艇じゃんと俺は思った。

 

 まぁ改装して爆撃機能を排除し、兵員輸送艇に造り変えたヤツもキチンと作ってある。

 この間トランプ隊が起した戦闘に巻き込まれた時に、保安クルーを運んだのもソレだ。

 大型機なので、デフレクターや熱処理装甲も、かなりレベルが高いのを搭載出来たのである。

 勿論配備しましたよ?だってカッコいいから。大型機動兵器は漢の浪漫です!

 

「確かに連中に似合うのは非常識か」

「しまいにゃ、自力でボイドゲート作り上げたりして」

「・・・・金さえあればやりそうだな。言わなきゃ歯止めが効かないし」

「逆を言えば金が無ければ作れないって事ッスけどね」

 

 まぁ、やり過ぎでフネが吹き飛ぶ様な事故とかは起してほしくは無いけどな。

 その辺りは、一応アバリスに監視させている。

危険な実験はすぐに報告するようにというふうにしておいたのだ。

 

 一応俺がオーナーみたいなもんだから、ちゃんと言う事は聞いてくれるのがありがたい。

 もっとも、稀に暴走するが・・・メリットを考えたら可愛いもんだろう。

 今日もまた開発にいそしんでんだろうなぁ。

 

「とりあえず、ステルスモードを起動させて様子を見てみるッスか」

「了解艦長、すぐ準備する」

 

 サナダさんはそう言うと、準備を行う為に通信を切った。

 ま、それなりに鴨が来てくれればいいかな。

 俺はそう思いつつ、艦長席に深く腰掛けたのだった。

 

………………………

 

…………………

 

……………

 

「艦長、航海灯を灯していない未確認艦を探知しました」

「未確認艦?識別は?」

 

 ミドリさんから未確認艦の発見情報が入った。

 航路上で航海灯を灯さないのは、海賊か敵意のある0Gドック位のモノである。

 ウチはいまステルス起動中だから、どちらにしろ駆逐艦隊しかついて無いけどね。

 

「海賊では無いようですが・・・単艦で針路上に停止しています」

【艦種は大きさからして恐らく、ポイエン級です。ただ、所々カスタムが施されています】

「拡大画像をスクリーンに投影してくれッス」

「了解、スクリーンに投影します」

 

 スクリーンに映し出された輸送艦であるポイエン級。

 しかし輸送艦の特徴であるコンテナ部分は撤去されており、代わりに別の物が付いていた。

 どうやら何かをぶら下げて置く為のクレーンの様な物がある。

 

「ん?ユピ、すこしあの部分を拡大してくれ」

【了解サナダさん】

 

 サナダさんの指示で、クレーン部分がアップされる。

 そこに映し出されていたのは―――

 

「アレは、ビトン?何でまた戦闘機が?」

「いや、アレはフィオリアだ。ビトンのアッパーバージョンに相当する」

 

 そういや良く見ると羽根の形が違う。

 ビトンは宙戦機なのに、空力学を考えたかのような形状なのに対し、

 フィオリアは武装面を強化して空力特性を無視した形状になっている。

 まぁ宇宙は空気何ぞ無いから、空力学考えても意味はないからな。

 

「艦長ー、どうするよ?撃つ?撃っちゃう?」

「ばーろーストール、いきなり撃ちこんでどうすんだよ」

「でもようリーフ、敵かも知れねぇじゃん?」

「もしかしたら、何かしらのトラブルかもしれませんぞ?」

「トクガワさんの言う通りッス。今のところ駆逐艦隊に敵意は向けて無いみたいだから様子見ッス」

 

 コレが海賊だったら、インフラトン・エネルギー量で戦闘する気があるのか解るんだがな。

 お互いが光学映像で感知出来る距離に近づくまで戦闘出力を上げないのは、

襲う気があるのならおかしいしな。

 

「!!――フィオリアに動きあり!!」

「アレは、どうやら輸送艦を改修した改造空母らしいですな」

【フィオリア、編隊を組んで駆逐艦艦隊の前面に展開中】

 

 動いた。なんだ攻撃の意思有りかよ?面倒臭いなぁ。

でもあれ?編隊を組んだのに一定以上近づかないぞ?

 ・・・なにかあるんだろうか?

 

「格納庫に通達、いつでもVF隊発進可能な様に準備!VB-6も念の為に砲戦仕様で待機」

「アイサー艦長」

「それとミドリさん、駆逐艦隊の一艦を経由して、向うのフネに通信を、何が目的なのか知りたいッス」

「アイサー、駆逐艦を経由して、通信回線を開きます」

 

 ユピテルは現在ステルス起動中、わざわざ位置を教えてやる必要は無い。

 今のところ目の前の不明艦の目に写っているのは駆逐艦隊だけだろうからな。

 そこに旗艦がいるかの様に仕向けるのだ。

 

「艦長、準備出来ました」

「うす、こちら白鯨艦隊のユピテル、正体不明艦、何故艦載機を展開したか理由を述べよ。場合によっては当方には応戦する用意がある」

 

 ポイエン級は輸送艦だ。なので売っても金にならないので、戦いたくないのである。

 ・・・・すさまじく本音出てるよなぁ。

 

「敵不明艦より通信回線つながります」

 

 問いかけに応じるつもりなのだろうか?通信回線がオンラインと成る。

 ザーとしている通信ウィンドウに映し出されたのは・・・。

 

「え?ププロネンさんスか!?」

『やぁユーリ君、待っていたよ』

 

 傭兵部隊トランプ隊リーダー、ププロネンがパイロットスーツ姿で写っていた。

 しかも良く見ると、フネのブリッジでは無く、どうやら何かのコックピットかららしい。

 恐らくあの編隊のどれかにいて、ポイエン級に中継させてるんだと思う。

 

「なんだぁ、ププロネンさんのトランプ隊だったスかぁ。道理で展開が早いと思ったッス」

『はは、驚かせて申し訳ないね。こちらにも色々と訳があってね』

 

 訳ねぇ?海賊狩りでもしてるんじゃろうか?

 まぁ航路で張ってれば、海賊の一隻や二隻出てくるけどさ。

 

「ま、再開を喜びたいところッスけど、俺達も急ぐんで航路開けて貰えないッスかね?」

『・・・ユーリ君。君は自分が心から命を掛けられる相手というのは居るかね?』

「?・・・しいて言うならウチのクルー全部がそうッスけど、ソレが何か?」

『私は傭兵稼業をしていますが、実はある目的を持って行動しています』

 

 あ、あれ?なんか表情が険しく成って無いすかププロネンさん?

 なんだかかなり嫌な予感がするッスけど?

 

『その目的の一つに、“自分の命を預けられる艦長”を探すと言うのがありまして』

「・・・・・すさまじく嫌な予感がするんですが?」

『ええ、恐らく貴方が考えている通りです』

 

 うぇ、マジかよ・・・うわーん、ボラーレで何かフラグ立ててたか俺?

 そんなこと考えてたら、脇に控えてたトスカ姐さんが小声で話しかけて来た。

 

「(ちょいとユーリ!あんたらだけで納得して無いで、解るように説明しな)」

「(・・・簡単に言えば、自分にふさわしいか試してやるって事ッスよ)」

「(ちょ、またなんて面倒臭いというか古風なヤツに目をつけられたねアンタ)」

「(いや、特に何かした記憶は無いんスがね?)」

 

 いやホント、何かした記憶なんて無いぜ?

 しいて言うならププロネンさんへの狙撃を阻止して、迅速に部隊の展開を指揮した程度で。

 ・・・・・・・・。

 

「(ま、まずい。結構色々してたかも)」

「(こんのバカユーリ!面倒臭い事持ち込むんじゃないよ!)」

「(ンな事言われても困るッスよ!まさかこんなことされるとか思わないじゃないッスか!)」

 

 小声でトスカ姐さんと小声でやいのやいのと口論中。

 だが放っておかれていい加減待ちくたびれたのか、ププロネンさんが口を開いた。

 

『まぁ、そう言う訳ですので、我々の出す試練に打ち勝ってくださいね?』

「あのう、ソレって拒否権は?」

『拒否してもかまいませんが、その場合かなりの被害が出るかと思いますよ?既にこちらの部隊は展開を終えていますからね』

「・・・・・・拒否権なしかよ。ちなみに試練って言うのは何するんスか?」

 

 俺がそう問うと、ププロネンさんが口を歪ませて笑みを作る。

 そして目がドンドン鋭くなり、良く言われる鷹の目というものに変化した。

 そして彼は実に楽しそうに、口を開いて言葉を吐き出した。

 

『勿論、我々との模擬戦ですよ。我々の攻撃を貴方が防げれば貴方の勝ちです』

 

 そう一方的に述べてくれたププロネンさん、此方のブリッジクルー達も呆然として彼を見る。

 おいおい、模擬戦って・・・・。

 

「防衛って事は、模擬戦用の疑似ビームで其方の艦載機を落せばいいんスか?」

『ソレもありです。実弾を用いても別にかまいません。我々が嫌ならそのまま撃ち落としてくださっても結構です。ただあのフネだけは攻撃しないでください。アレはギルドからの借りものですから』

 

 そう笑って行ってくれやがりましたこの男。

 やろう、自分の命まで賭け金に乗せやがった。

 ・・・・だけど、おもしれぇじゃねぇか。

 

「ほう、我が白鯨艦隊に艦載機だけで挑む・・・と?正気ですか?」

『我々は最後の一人まで死力を尽くして戦うだけの傭兵です。元から正気ですよ』

「・・・・ならいい、試させてもらうッスよ。あんたの本気ってヤツをね」

『ありがたいです。ソレでは・・・』

 

 そう言うと彼は通信を切った。

 ソレと同時に俺はブリッジの回線をフルオープンにして指示を飛ばす。

 

「各艦模擬戦闘準備!ユピテル、ステルスモード解除!」

「おいおい艦長、マジでやるんですかい?」

「連中は本気みたいッスからね。ああいったバカはちゃんと正面からやらないと、何回でも来そうな気がしたッス」

「しかしユーリ、あいつ等は実弾使う気マンマンみたいだ。それでもやるのかい?」

 

 トスカ姐さんもそう聞いてきた。

 見ればパイロンにぶら下げられているのは、宇宙用の対艦ミサイルだ。

 ソレと対艦兵装なのだろう、羽根には巨大な大砲が二門備え付けられている。

 手元のフィオリアのデータから考えるに、恐らく対艦レールガンである。

 至近距離で喰らえばタダでは済まない事だろう・・・だが。

 

「勿論スよ。アレは俺たちへの挑戦とみたッス。なら俺達はそれに応えてやらねぇとダメっス」

「・・・・はぁ、これだから男ってのはねぇ。まぁ良いさ、ユーリの好きにしな」

 

 トスカ姐さんはやれやれと肩を落としつつ、副長席へと戻って行った。

 ストールも納得はしてないが理解はしてくれたようだ。

 一応彼も砲撃のプロ、私情で砲撃を外すなんて真似はまずしないだろう。

 

「ステルスモード全解除、ソレと同時にハッチ解放、無人VF隊全機発進」

【VB-6も砲戦仕様でアバリスの甲板上に待機させます】

「護衛駆逐艦隊からも無人エステバリス隊発進しました。本艦の直衛に回します」

 

 さて、こちらも展開を終えた。

 正直多勢に無勢であるが、こちらの全兵力を見せたのに怯みもしない。

 まさかコレだけの艦隊に、戦闘機隊だけで突っ込んでくる猛者が居たなんてな。

 

「それじゃ、始まるッスかね。各艦対空戦闘準備!絶対防衛ラインを突破させるなよ!」

「「「「了解!」」」」

 

 例え勝ち目が無い戦いだろうと、突っ込んでくるバカには教育が必要だ。

 あっちが実弾使うのも、ソレはソレでハンデである。

 これは模擬戦だからまだいいけど、実戦だったら容赦はしねぇ。

 

 VF隊がユピの誘導に従い、規則正しい編隊を作って飛翔する。

そしてトランプ隊を取り囲むように展開していった。

 もう何だか弱い者いじめみたく見えてしまう為、あまり良い気分ではなかった。

 

 だが、その考えも覆される―――

 

【トランプ隊と交戦・・・?!もう10機落された!?】

 

 見ればVF隊の機体が紅いペンキで真っ赤になっている。

 どうやら奴さん達も模擬弾を使用していた様だ。

 しかし、驚くところはそこでは無い。

 

「おいおい・・・」

「アレマジか?すれ違いざまに10機も落してたぞ?」

 

 その技量が半端では無かったのである。

 数こそ少ないが、人手不足で無人機で構成されているVFに対しトランプ隊は有人。

 しかし、その技量は一騎当千とまででは無いモノの、恐らくエース級と呼ばれる腕前ばかりだ。

 

 

「まさか立った20機で、これだけの規模の部隊を相手にするとはのぅ」

「・・・・コレは、気を引き締めてかからんと、コッチの方がヤバいッスね」

 

 まさかまさかの大予測がえし、戦力的にはこちらが上。

だが、マンパワーというのも侮りがたいものなのだと改めて認識した瞬間だ。

 彼らは電撃戦を仕掛けるつもりなのか、真っ直ぐこちらの防衛ラインを目指している。

 

「油断大敵、こりゃ面白くなりそうだ」

 

―――俺はそう呟きつつ、彼らの奮戦を拝ませてもらう事にしたのだった。

 

 

「第一防衛ライン突破されました!な!内2機が突出、早い。もう第二防衛ラインにまで」

【予測ではこのままいくと、大三防衛ライン突破まで後20秒】

 

 トランプ隊との模擬戦闘が始まった訳だが、いやはや信じられネェぜ。

 すでに模擬弾で真っ赤VF達の撃墜判定が累計30機を越えた。

 真っ赤になったヤツは下がらせているし、まだまだ数はある。

 

だけど、もし実戦ならここ一番の被害だろう。

 何せなぁ、ゲームの時と違って艦載機にも、整備的な意味で金がかかるし・・・。

 本当の敵はゲームでもこっちでも金策か・・・嫌な世界だぜ。

 

「第二まで来たら、模擬戦用ホーミングを使うッス!ソレとVB隊には長距離砲撃を準備!弾は模擬弾に換装しておけッス!第二が突破されたら弾幕張って近寄らせない様に!アバリスは本艦の前方へ!盾にするッス!」

「アイサー!指示を出します!」

 

 アバリスは無人艦だし、ユピテルはホーミングレーザーだから、どの隊列からでも発射出来る。

 ホント便利だよな、ホーミングレーザー砲。

 

「ソレとS級駆逐艦隊を下がらせるッス!奴らは中央突破してくるみたいだから、弾幕の密度を上げるッス!K級はユピテル両舷に展開!特殊兵装を使うッス!」

「了解、シェキナのシステムとリンクさせます」

 

 K級駆逐艦には一門だけだけど、ユピテルと同タイプのホーミングレーザー発振体が特殊兵装として搭載されている。ホーミングは出来ないが、本艦と一緒に使用する事でホーミング可能となるのだ。

 

――――さぁ、この弾幕をどう抜ける?ププロネンさん。

 

 

Side三人称

 

一方、こちらはトランプ隊。第二防衛ラインに近づいているププロネン達である。

 彼らは少ないという利点を生かして、無人機には到底取ることが出来ない有機的な動き。

 簡単に言えば、機械には非常に捉えにくいランダムな機動で、無人機達を翻弄していた。

 

『ヒャッホー!真っ赤にしてやったぜ!』

『コレで4killっと』

 

 部隊共通の通信帯から、敵機を撃墜したという報告が入る。

 どちらかと言えば、ただ落して歓声を上げたに近いが、撃墜は撃墜だ。

 

「各員、まだ気を引き締めて!各員エレメントを崩さないよう気をつけてください!」

『『『『『了解!』』』』』

「あの白鯨に、我々の力を見せつけてやりましょう」

 

 現在突出して道を開いている2機の内の一機から、全隊員に向けての通信だ。

 当然、この2機に乗っているのはププロネンとガザンである。

 

「ガザン、私が針路を見つけますので――」

『あいよ。撃つのは任せな!』

「撃つのは最低限、解ってますね?」

『弾代もバカになんないしねぇ、それにコレだけの数、撃てば当たるなんて楽なモンだ』

「それだけでは無く、弾切れになったら困りますから」

 

 突出している2機のフィオリア。

他のフィオリアと違い、この2機は少しだけ改修を受けたカスタム機なのだ。

 追加ブースターにより、速度UPは2機とも共通である。

 

 だが、ププロネンの方は、武装はそのままで通信関連を強化した指揮官仕様。

 対してガザンは武装面を強化した重装備型に改修されている。

 

ちなみに強化した武装は、ミサイルのパイロンを外した代わりに背面に回転式銃座を搭載。

余裕が出来たペイロードを用い、レールガンを2基から倍に増やしたというもの。

更には胴体部分のパイロンに特殊ミサイルを搭載可能で、普段なら10連発量子魚雷発射筒なのだが、今回はソレを模したロケットランチャーを搭載している。

 

これら武装を強化ブースターで強引に牽引しているのだ。

 ちなみにレールガンは対艦仕様で、速射性は廃し速度と威力を優先させている。

 

「ん?各機、もうすぐ敵の第4波が来ます。総員警戒」 

 

 通信機能やレーダーが強化されているププロネンが、トランプ隊に警告を発する。

 迫ってきたのはVF-0(A)ノーマルタイプ、基本的な武装が付いている標準機だ。

 その数は15機、戦闘機型のファイター形態から、マイクロミサイルポッドを起動させ、

かなりの数の模擬戦用ミサイルがフィオリア達に迫る。

 

『かなりの量だね。湯水のようにミサイルとか、なかなか羽振りが良い』

「ええ、ですが勿体無いですね」

 

 だが、マイクロミサイルは小型故にロックオンしてからの追尾性がやや悪い。

 その為、ギリギリまで引きつけた後、瞬間的にピッチを調整して回避される。

 この技は一見簡単そうに見えるが、十分引きつけないとミサイルが命中してしまうので、

かなりの度胸と精神力が試される筈なのだが、今のミサイルでもトランプ隊から脱落者は出ない。

 

『ぃいやっほぉぉ!!』

『やかましいぞトランプ8』

『このスリル感がたまんねぇんだよ!』

 

 ソレどころか、彼らはそのスリル感を楽しんでいた。

 模擬弾とはいえ、フィオリアの様なティアドロップ型のキャノピーを持つ戦闘機は、

 当たり所によっては、例え模擬弾であろうとも死ぬ可能性もある。

 だが、幾多の修羅場を抜けた彼らに取っては、模擬弾のミサイル等、只のおもちゃなのだろう。

 

『ほうら!おっ返しー!トランプ10!エンゲージ!fox2!』

『トランプ9、エンゲージ、fox2』

『トランプ8!fox2ぅぅ!!』

 

 お返しとばかりに、ミサイルを発射する。

 VFはソレを感知し、可変機構でガウォークという飛行機から手足が生えたような形状へと変わり、急激なロールとバック転の様な宙返りですべてかわしてしまう。

 しかし、彼らにとっては空が狙い目、避けたVFの内3機が一瞬で真っ赤に変わる。

 塗料の当たった方向は下、そこに居たのはガザンの重装型である。

 

 何と彼女は対艦用のレールガンで、一度に3機のVFを落したのだ。

 連射の効かない兵装で、機動兵器に当てることはかなりの腕が居る。

 それだけでも、彼女の腕がすさまじいモノであることが解るであろう。

 

 そして、模擬戦によって撃墜判定を喰らったVFが、ユピからの停止信号により動きを止める。

 ソレを横目にトランプ隊は第二防衛ラインへと近付いて行った。

 

「高エネルギー反応?・・・そう言えば彼の艦は、レーザー砲が主体でしたね」

 

 指揮官機だけあり、ププロネンの機体は情報処理に長けている。

 その為まだ距離はあるが、ユピテルとアバリスの砲撃の予兆を掴んだ。

 

「各機散開、敵のレーザーは先の攻撃から見て恐らく模擬戦用レーザーですが、油断しない様に」

『『『『了解!!』』』』

 

 彼の指示の元、今までついて来ていた機体達は編隊を止め、各機散開する。

 ププロネンはふと思い立った様にコックピットから宇宙を眺めた。

 先程まで扇状に展開していた筈の駆逐艦が下がり、旗艦の近くに寄っているのが見える。

 これは何かあると、彼の長年の勘が告げていた。

 

「これは、一筋縄ではいけそうもありませんね」

『かもしれないねぇ。で、どうするよリーダー?白旗でも上げるかい?』

 

 何時の間にか後方についていたガザンから通信が入る。

 勝てないと判断した時に降伏するのも、戦いの一つのやり方だろう。

 だが、ププロネンはそうは思わなかった。

 

「まさか、そんなことをしたら貴女が私を撃つでしょう?」

『さて、そこはリーダー次第だよ?』

 

 一体この二人の関係はなんなのだろうか?只の上司と部下という訳でもない。

 だが、かと言って男女の仲という訳でも無い。

 しいて言うなら、ライバルと言った感じなのだろうか?

 

「はは、怖い怖い。ですがそんな貴女だからこそ、背中を預けられますね」

『あいよ。いつも通りトランプ2はトランプ1の2番機に入るよ』

 

 ガザン機がププロネン機を援護出来る位置に移動した。

 ソレと同時にユピテルがシェキナを起動、幾光もの光線がトランプ隊へと迫る。

 

『来たよ!全員シートベルト絞めな!頼んだよ“アルゴスの目”』

「了解です」

 

 そしてププロネンは、器用な事にコンソールを操作しながら、機体を操っていた。

 アルゴスとは全身に百の目を持ち眠らない巨人、それ故空間的にも時間的にも死角がない。

 その名を冠しているということ、それはつまり―――

 

「レーダー解析出た!各機我に続け!」

 

 ―――レーダー等を見る能力が、非常に高いと言う事なのである。

 

 シェキナのH(ホーミング)L(レーザー)と、駆逐艦から放たれたHLが雪崩の様に押し寄せる。

 ププロネンは慌てることなく、自身の機体をレーザーが重ならなかった僅かな隙間に押し込んだ。

 非常に細かな作業、一つ間違えばレーザーに焼かれる事になる。

 

 模擬戦用とはいえ、戦艦からのレーザービームだ。

 直撃されれば、爆散までは行かなくても電子機器が焼き切れる程度の力はある。

 そうなれば宇宙で棺桶状態で棺桶状態である。幾ら模擬戦とはいえソレは嫌だろう。

 

 そしてトランプ隊はまるでソレが当たり前のように、

ププロネンの機体が通った軌跡を寸分たがわぬ動きで、隙間を通り抜ける。

 まるで蛇の様に、戦闘機が一列に並んで飛ぶと言うのは、傍から見れば異様であった。

 

トランプ隊はププロネンが率いているチームであり、傭兵を一緒にやる戦友達でもある。

 お互いに信頼が置け、尚且つ仲間意識が高い連中が生き残り、トランプ隊をやっているのだ。

 だって協力出来ない人間は、みんな戦死してしまうのだから当然である。

 

『凄い、光の洞窟みたいだ』

『私語は慎め、トランプ13。集中が途切れるぞ?』

『あ、先輩、すみません。あ、抜けた!』

 

 そしてすぐにレーザーの弾幕を抜けた。

 だが、その先には甲板上に6機のVB-6を乗せたアバリスが砲門をこちらに向けていた。

 

「各機ブレイク!急いで!」

『ブレイク!ブレイク!』

『ひょぇー!デッカイ大砲だぜ!』

 

 VB-6の砲門に電荷が走り、蒼白い光が砲身内部に渦巻いているのが遠くからでも解る。

 あの四門の大砲は、全てレールキャノンであると言う事も見れば理解出来た。

 全長30m近い二足歩行兵器が背中に担いだ4連装レールキャノンと、腕に取り付けられている重ミサイルランチャー此方へと向ける。

 

≪キュィィィィン―――パウッ!≫

 

 そして発砲、24発の砲弾と36発の重ミサイルがトランプ隊へと放たれた。

 そのあまりのパワーにVB-6は反動を抑えきれずに甲板を滑る。

 放たれた砲弾は、トランプ隊のいる空間の近くで炸裂し、ペイント弾をまき散らした。

 

『ガッ!トランプ11被弾!離脱する』

『はは、間抜け≪バンッ!≫あ!クソ!トランプ8被弾!離脱するぜチキショー!』

 

 そしてこの攻撃により、トランプ隊から6機脱落した。残り14機。

 

「ガザン!」

『ああ!解ってる!3~6番機はあたしに続け!デカイ大砲を潰すよ!』

「残りは私に続いてください!敵中を突破します!」

 

VB-6 はアバリスの甲板上に、まだ体勢を崩したままの状態で姿勢制御に必死である。

ガザン達は4機の味方を引き連れて、射線に入らない様にしながら、ソレらを破壊しに向かった。

 

 

 

 

『ん?リーダー!2時の方向から敵機接近!』

「アレは・・・見た事がない機体です。全員注意してください」

 

 ガザン達とは別口から進行しているププロネン達にも敵機が迫っていた。

 だがソレらは、先に戦ったVF達では無い。

 

『――うわっ!クソ!人型の癖に速い!取りつかれて逃げられない!誰か助けてくれ!』

『待ってろトランプ9!今助け≪ドン!≫ぐわ!俺の後ろにも居たのか!』

『トランプ9、10共に撃墜判定だ!っと、こっちにも来たぜ!』

 

 その未確認の人型、近衛機動兵器エステバリスがトランプ隊を追い回す。

 かつてVFとのトライアルでは一度落ちてはいるが、機動性はVFと互角だったエステバリス達。

 そして、今のエステバリスはプロトを更に改良したタイプである。最も、改良したのはソフト面であるが、格闘戦も視野に入れられているだけあり、近距離でのドックファイトでは戦闘機にとっては分が悪すぎる。

 

「あの機体は見た目よりも速い・・・。各機ドッグファイトは禁ずる!後ろに付かれたら全速で離脱を!」

 

 各機にそう指示を送りつつもププロネンはそのまま第3防衛線を突破する。

 ここから先には近衛駆逐艦隊と先のエステバリスが陣を張っている。

 そこを突破出来なければ、この戦いに意味は無い。

 そしてレーダーを見つめながら、彼は最短ルートを選んでいく。

 

 

***

 

 

「模擬戦用反陽子弾頭炸裂!1、4・・・計6機の撃墜判定を確認!」

【残機14機、近衛エステを左舷に展開】

 

 おいおい、マンパワーってココまで凄いもんなのか?

 HLによる連続発射の弾幕を目隠しにして広範囲爆撃をやったんだぞ?

 ソレでなんで6機しか落せんのよ?もう少し落ちてもさぁ・・・。

 

【敵機の内5機が別れました。アバリスへの侵攻ルートです】

「当たるかは不明ッスが、ガトリングキャノン斉射、VB-6も装弾完了次第第2射発射!」

【了解】

 

 ココでまさかの編隊を分けるという戦いに撃って出た。

 えー!?なんで?普通ココは戦力集中させるんじゃないの!?

 アレか?アレなのか!?カミカゼでも狙ってんのか!?

 

「敵、第3防衛ラインに接触!」

「対空拡散HL準備!他のフネに当たらない様に上下から攻撃ッス!」

「了解!ミューズさん!デフレクターの調整頼むぜ!」

「解ったわ・・・ストール」

 

 すぐさまHLを発射する。お次は拡散タイプの模擬レーザーだ。

 かなりの効果範囲を持ち、戦闘出力ならば弱いフネならコレだけでも落せる。

 筈なのだが――――

 

「第3防衛ライン突破されました!」

「な、なにー!?」

【敵撃墜数更に4、残り10機。――あ、アバリスに撃沈判定】

「うそん?」

 

 コンソールからサブウィンドウを表示させて、アバリスを見ると確かに撃沈されていた。

 おいおい、至近距離からの機関部へのレールガンの斉射とかマジかよ?

 あーでも、考えてみたらVB-6もアバリスも近距離対空には対応して無かったか。

 

護衛に付けておいたVF達は味方が近すぎて攻撃出来なかったみたいだ。

 無人機だしなぁ。まだ経験値も浅いから有機的な攻撃ってのには反応しずらいんだろう。

 これは盲点だったな。ま、気が付けただけでもめっけもんか。

 

「敵編隊が第3防衛ライン突破したら「ああ!!」どうしたッスか!?」

「敵機第3防衛ライン突破!」

「そんなバカな!は、速すぎるだろう!?レーダーは正常なのかい?エコー!」

「こちらでも確認しましたー!一機だけ弾幕を突破!本艦に突っ込んできますー!」

【光学映像、捕らえましたので投影します】

 

 映し出された映像には、フィオリアに追加ブースターをつけて、機首が少し長めの機体。

 どうやら隊長機とか指揮官機とか呼べるカスタム仕様の様である。

 つーか、多分アレがププロネンさんです。本当に(ry

 

「ええい!とにかく撃ち落とせッス!」

「アイサー!」

 

 って、おい!今のセリフって死亡フラグっぽくね?

 なんかこう悪役が追い詰められて言う様な・・・あ、悪役とちゃうもん!

 

【もう1機、第3防衛ライン突破しました】

「恐らく武装面が強化された機体だと思われます」

 

 映像にはフィオリアの主翼部分に更に2本レールガンがプラスされた機体が写っている。

 見た目は重そうなのに、追加ブースターのお陰か普通の機体と変わらん動きだった。

 カスタム機を使える人間なんて限られるから、サブリーダーのガザンさんの機体かな?

 

「あ、紅いフィオリアだと!?」

「知ってるスか?!イネス!?」

 

 航路担当官として操舵主のリーフの隣に座っていたイネスが驚いたように声を出した。

 しかし、紅いフィオリアとか・・・まさか通常の3倍とかか?

 

「アレは、あのフィオリアは真紅の稲妻!」

「ってそっちッスか!」

 

 つーか普通の奴には解んねぇよ!通常の3倍でも知らん奴は知らんけどね。

 

「たったの一機で5隻ものフネを沈めたって言うので有名だ」

 

 ・・・・・もうどこに突っ込んでいいか解んないや。とにかく!

 

「ストール!ユピ!敵のマニューバを予測終わり次第全砲発射!各艦密集隊形!弾幕を張って、敵を近寄らせるなッス!」

【「了解!」】

 

 さて、とにかく近寄らせない事が第一だ。

 戦艦って言うのは得てして懐に入られると非常にもろい。

 ココまで近寄られたら、後は密集して弾幕を張るくらいしか対処のしようがないのである。

 

「全く、模擬戦用反陽子弾頭で沈んでくれていたら楽だったのに・・・」

「伊達に名が売れてる訳じゃないって事だね。流石はトランプ隊と言ったところか」

「・・・・そうッスね。そこら辺は流石ッスね」

「何だい?随分と元気がないねぇ?最初の威勢の良さはどうしたんだい?怖気づいたとかいうんじゃないだろう?」

 

 はぁ、それだけならなんぼかマシだったんスがね。

 

「いや、ついさっき気が付いたんスけど・・・あの模擬弾って特注だったなぁって」

「そういや、一応演習用にケセイヤが作ったヤツで、効果範囲が本物と大差ないとか言ってたね」

「その分、かなりコレが掛かるヤツだったんスよ・・・ああ、また海賊狩りしなきゃ」

 

 俺が手にお金マークを作ると、呆れた様な視線が突き刺さった。

 いや、最初はなんか盛り上がってたから、後になって気が付いたんスよ?

 だからそんな目で・・・ハイ、そう言うのが嫌だったら最初から受けなきゃ良いんですよね。

 

「こりゃ、是非とも認めてもらって、連中を仲間内に入れなきゃ元が取れないッスね」

「思ったんだが、連中を仲間に入れたかったら、一度ギルドに行って傭兵として雇い入れてやれば良かったんじゃないかい?」

 

 そうすれば艦長の人柄を掴む機会とか得られただろうに―――とトスカ姐さんの言。

 ・・・・・・・・・。

 

「・・・・ストール!とっとと落せッス!」

「や、やってるって!」

【現在残り3機まで落しまし――あ、いま残り2機です】

 

 そして最後に残るのは、やはりガザン&ププロネンのコンビ。

 駆逐艦達と近衛エステ達が放つ弾幕を、神業の様にくぐり抜けた挙句。

 こちらのHLまで、まるで踊っているかの様な華麗な機動で避けられる。

 

「・・・・天使とダンスか?」

「どうした?ユーリ?」

「いや、何でも無いッス」

 

 アレだけの弾幕を前にしり込みしないとか、どんだけーって感じなんだけどな。

 人間って訓練するとあそこまで逝っちゃうもんなんだろうか?(もう誤字にあらず)

 そして、更に10分経過した時――――

 

「駆逐艦隊突破されました!トランプ隊2機が本艦目がけて突っ込んできます!」

【最終防衛ライン突破、全砲強制冷却装置可動、速射体勢に移行します】

 

 なんて連中だろうか?針路上の駆逐艦隊には一発も撃たないで、本丸だけ狙ってきやがった。

 ジグザグと蛇行とバレルロールを繰り返しながら、此方へと迫ってくるエレメント。

 全く持って常識外れだ。一体どれだけの修羅場を抜ければ、ここまでに成るのだろう?

 

「敵機左舷に廻りました!」

「対空拡散HL照射――ッ!なんて奴らだ。アレを避けやがった!」

「落ちつけストール。今ので進入ルートは外れた」

【敵2番機に被弾判定、小破、右翼レールガン使用不能判定】

 

 至近距離だったから、重装備型のガザンさんは流石にかわせなかった様だ。

 そしてそのまま距離を取るかの如く離れて行く。

 さて、そっちはたったの一機、どうするんだ?

 

「ププロネン機、ピッチ角90度、本艦の真上に出ます!」

「普通のフネなら、艦橋の真上とかは小さいけど穴が出来るだろう。だけど―――」

「重力レンズ角度調整、HL照準」

「―――ウチのフネには、死角は無いッスよ?」

 

 そして放たれる計80門の大型レーザー砲。

 拡散モードで照射されたソレは、もはや壁の様に上空から近づいたププロネン機に迫る。

 そして――――

 

【ププロネン機、撃墜判定】

「流石に避け切れなかった様ッスね?」

「ああ、まぁアレだけの数で良くココまで戦えたね」

 

 うーん、やっぱり人手不足は深刻だな。

 小マゼランの艦船なら、今のユピテルでも十分だけど、トランプ隊みたいに腕が立つ相手。

 しかも熟練した人間相手だと、今のユピの経験値じゃ対応しきれないみたいだ。

 もっと経験を上げてやらんと、この先辛いな・・・とか思っていると。

 

【右舷デフレクター発振ブレード、及び後部噴射口に被弾判定、武装データー受信、中破判定】

「「「「はぁ!?」」」」

 

 最後にかましてやったとばかりに、攻撃判定がユピから来た。

 見れば先に離脱したのかと思っていたガザン機が、すたこらサッサと逃げて行く姿。

 どうやら、あの時距離を取ったのは、離脱する為じゃなくて攻撃ポジションとタイミングを取る為だったらしいな。

 

「・・・・はは、これは凄いッス!あっはははは!!」

「ユ、ユーリ!?壊れたいのは解るけど壊れるな!」

「違うッスよ!俺は今猛烈に感激してるッスよ!」

 

 武装、戦力、装備、全部こっちが上。

 負けた訳では無い、むしろ艦隊自体は健在だし、中破と言っても無人区画である。

 正直多少航行に支障が出るだけで、戦闘だけはまだ行える。

 

 だが、連中はたったの20機、しかも戦闘機だけで俺達をココまで相手にしやがった。

 こっちが慢心していた訳じゃないが、純粋な技量だけでこうも渡りあえるとは思わなかった。

 コレだから、宇宙は広くて面白いぜ!

 

「ミドリさん、彼らに通信回線を開いてくれッス。是非とも迎え入れたいとね」

「了解です」

 

 やれやれ、トランプ隊中々強かったじゃないか。

 流石は個人が強い無限航路世界、軍隊よりも強い連中が居るのは知っていたが、やっぱスゲェ。

 

 そして、俺達白鯨艦隊は恐ろしい程の技量を持つ戦闘集団トランプ隊を仲間に加えた。

 コレで更に戦闘機部隊の戦力が上がる事であろう。元々人手不足だったしな。

 

 中でもリーダーとサブリーダーのププロネン&ガザンを手に入れられたのは大きい。

 このフネになじむまでは、ほんの少し時間がかかるかも知れないが、フネの連中の殆どはあいつ等の技量に既に惚れこんでいるから大丈夫だろう。

 とりあえず連中とする事は――――

 

「こっちの模擬弾の支払いは、連中の給料から差っぴいておくッス♪」

 

 迷惑料ってヤツだ。ソレ位しても良いだろう。

 契約書にはソレを返し終えるまでは、俺ら専属で傭兵をやって貰うって事にしたもんな!

 わははは!ユーリはタダではおきんのよ!

 

 

 ―――こうしてボラーレ・オズロンド間、機動兵器模擬海戦は終わったのであった。

 

 

***

 

――――ツィーズロンド士官宿舎・オムスの部屋――――

 

 

「これは調査船が沈没したと言う事か」

「まぁ詳しくは知りませんが、ある人物が残がいを回収したそうです」

 

 さてさて、またもやこのヒトの所に報告に来ている俺達。

 面倒臭いが、これも一応報告しておかないと、色々と問題が生じるからな。

 

 オムス中佐の部屋に来て、俺はすぐさまシュベインが回収したと言う残がい。

 航海記録装置(ヴォヤージ・メモライザー)を中佐に渡した。

 

一応俺は中身については知ってはいる。

だが、俺らが知らせたところでココに居る彼らは信じようとはしないだろう。

紛争は起こっても侵略戦争なんて起きたことは無かったんだから。

 

「ふむ、解った。コレを解析すれば沈没した際の状況も解る筈だ。あずからせてもらう」

「あ、それとテラーとかいう元軍人も捕まえたので、そちらで引き取って下さい」

 

 俺がそう言うと、驚いた顔をするオムス中佐。

 

「テラー?まさかテラー・ムンスまで捕まえたのか?」

「ボラーレ近辺に潜伏していた様で、序ででしたけど」

 

 結局アイツずっと部屋に閉じ込めっぱなしだったんだよなぁ。

 だけどなんか捕まえた時よりも栄養状態が良いらしく、今かなり顔色が良かったりする。

 敵だったけど、逃亡生活も大変なんだなぁ変に同情しちまったぜ。

 

「はは・・・君達には驚かされる事ばかりだ。まぁエピタフの情報を含め、礼を用意してあるから、後日改めて軍司令部に来てくれたまえ」

「了解です。それでは失礼」

 

 そして毎度の如く、多くを語ることなく部屋を後にした。

 

……………………………

 

………………………

 

…………………

 

 後日、司令部の方に顔を出した俺。

 どういう訳だかこの司令部の人間達には顔を知られているらしく、すれ違うごとに挨拶されるからやっぱ居心地が悪い。

 

 そして何だか見慣れちまった通路を通り、司令部の自動ドアの前に来た。

 ドアの前に立つと、プシューって音と共にドアが開く。

 

「おお、待っていたよユーリ君。陸ではよく眠れたかね?」

「どうも中佐。ええ、長い航海はしてますが、時々陸に来ると安心出来ますね」

「そうれは何よりだ。どんな環境でも適応出来るというのは若いモノの特権だな」

「はは、0Gなら大抵そうですよ」

 

 相変わらずの社交辞令的なやり取りを交わした後、すぐに本題に入る。

 

「・・・さて、まずは君達の回収した調査船の航海記録装置(ヴォヤージ・メモライザー)についてなのだが・・・」

「解析が終わったのかい!?」

「トスカさん。声デケェ・・・」

「あ、すまんユーリ」

 

 いきなりオムス中佐に声を張り上げたトスカ姐さん。

 俺の真後ろで大声出すもんだから、耳がキーンってしたぞオイ?

 ホレ見ろ、オムス中佐も苦笑いしてんじゃねぇか。

 

「残念ながら損傷度合いが大きく、いまだ解析は難航中だ」

 

 まぁ、実際ヤッハバッハの連中と会ったのは沈められた調査船だけである。

トスカ姐さんがヤッハバッハの事を知っていたのは、元々ソコの人間だからだ。

今一番、ヤッハバッハの情報が入っているのは間違いなくあの航海記録装置(ヴォヤージ・メモライザー)だ。

 

それ故、彼女は正確な情報を欲している。

 どうするつもりなのかは、まだ解らないけどな。

 

「それと、例のエピタフについての情報だが、君はデッドゲートを知っているかね?」

「デッドゲート、確か機能していないボイドゲートの事ですよね?」

「正確には少し違うが、おおむねそんな感じだ。軍に残された古いデータでは、デッドゲートの付近でエピタフの発見例が2件ほどあるそうだ」

 

 2件、2件ねぇ?・・・・デッドゲートはいま幾つあるんだ?

 

「高名な科学者であるジェロウ・ガン教授の研究でも、エピタフとデッドゲートの組成には近いモノが見られるということだ」

「成程、デッドゲートについて調べれば、エピタフの謎も解ける・・・かも」

「そう、かも、だな。詳しくはジェロウ・ガン教授に直接会って話をしてみると良い」

 

 ま、俺としてはエピタフにはあまり興味は無い。

 ある意味俺にとっては鬼門フラグだしな。この場は適当に答えて違う宇宙島に行くべ。

 だが、次の瞬間、中佐は俺の予想を超えることを口にした。

 

「私から教授には連絡しておいた」

「・・・・へ?いま何と?」

「私から連絡を入れておいた。かなり高名な方だし、アポが取れるかは運だったが、私のコネでなんとかな?」

 

 そんな凄く良い笑顔で言われても・・・。

しかも脇に控えてる部下さんが、大変でしたぁって顔してらっしゃる。

 

「そ、そんなに凄い人なんですか?ジェロウ・ガン教授って?」

「ああ、遺跡関連にもそうだが、様々な分野でも天才的でな?その手の世界の人間にはシンパも多い。アポを取るのは本当に結構大変だったんだぞ?」

 

 うわーい、これで行かないとか言ったら俺どんだけKYだよ。

 どうやら外堀が埋められていたらしい。自業自得?納得できっか!断れんけど。

 

「教授はカラバイヤ星団のガゼオンという星にいるよ」

「・・・・了解、カラバイヤのガゼオンですね?」

「ああ、ソレとエルメッツァからでる君たちに、私の個人的な礼だ」

 

 すると何やら名刺みたいなカードを手渡された。

 なんだこれ・・・?

 

「軍の造船関連や兵装関連を扱っている会社だから、新しい星団に行くんだし訪ねて置くと良い」

「あー、はは、ありがたく貰っておきます」

 

 正直ウチの艦隊の兵装関連や艦船は、我らがマッドな技術陣達により常に進化している。

 まぁ一応参考程度に覗かせておくのも一興かな?

 

「私が出来ることはコレで全部だ。これからの航海の無事を祈っているよ?」

 

 こうして、ツィーズロンドに2~3日滞在した後、俺達は新しい宇宙島へと行く為。

 ボイドゲートへと向けて艦隊の針路を取った。

 

 まぁそっち方面はいずれ行く予定だったし、特に問題は無いな。

 ジェロウさんも仲間にはしたかったしね。原作のマッドさんらしいし。

 

 ああ、次はどんな事が待ち受けているんだろうか?

 死にたくは無いけどワクワクするぜ!

 

 そして惑星ドゥンガを経由し、新しいボイドゲートをくぐったのだった。

 

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第十八章+第十九章+第二十章+第二十一章

 

「ルーさん、本当に降りるんスか?」

「ああ、一通り厄介事は解決した用じゃし、ワシらはそろそろフネを降りようと思うんじゃ」

「一緒に来ては貰えないんスね・・・残念ッス」

「すまんのう、あまり一つのフネに居座るのは性にあわんのでな」

 

 さて、カルバライヤに入る直前だったが、ルーのじっさまが艦橋に上って来ていた。

 そして彼は、唐突にフネを降りることを俺に伝えて来たのである。

 一瞬ウチのフネの福祉厚生や待遇が悪かったんかい!?と思ったがどうもそうでは無かった。

 

「う~ん、ウチとしては、もうしばらく居て欲しかったんスけどねぇ」

「ほほ、この老骨がそこまで言われると、年甲斐も無くうれしいもんじゃ。だがな、このフネは居心地が良すぎるでの。ウォルの為にならんのでな」

 

 ウォル少年に軍師としての視野を広げさせたいじっさま。

 流浪の身であり、弟子を抱える身としては、やはり様々な所を巡りたいのだろう。

 成程、確かにそう言った意味じゃ、このフネの中は便利すぎるしな。

 成長には時としてキツイ環境も必要って訳だ。

 

「解ったッス。残念ッスけど・・・まぁ何時でも席は空け解くので、また何時か」

「そうじゃの。それにワシらも小マゼランを旅するんじゃ、その内偶然会う事もあろうて」

 

 じっさまはそういうと、ではな、といってフネから降りる準備をしに行った。

 後ろにいたウォルくんも、さようならとどもりながら礼をしてブリッジを後にした。

 あー、これで少しさびしくなるなぁ。

 

『そういや、イネスは降りねぇのか?』

「な、なんだよトーロ。突然」

 

 ルーのじっさまを見送った後、現在アバリスの方の艦長をしているトーロが、

通信ウィンドウ越しにそう聞いてきた。

 

『だってお前さんエルメッツァ中央の方の案内って事で乗ったんだろう?って事は、白鯨艦隊は違う宙域に来た訳だから、イネスの仕事が無くなるんじゃねぇか?』

「さ、最初はそのつもりだったさ!だ、だけど君たちが―――」

『あ、そうかスマン。お前さんは女性陣に捕まってたんだっけな?ゴクロウサン』

「おい、トーロなんだその憐みの目は?――ってコラ!通信を切るんじゃない!」

 

 全く、トーロも悪ふざけが過ぎるぞ?大体女性陣云々はイネスの所為じゃないだろうに。

 なんか地団太を踏んでいらっしゃるイネスの肩を、俺はぽんと叩いた。

 

「まぁまぁ、トーロは只ふざけただけッスよ。それにウチは人手不足だから、クルーとして残ってもらえると嬉しいんスがねぇ~?」

「う・・・わ、わかった。そこまで言うなら残ってあげるよ」

 

 イネスはそう言うと、通信パネル上でそっぽを向いていた。

 いや、言ってて恥ずかしいなら、通信切れよ。

 

「ま、よろしく頼むッスよ?イネス」

「あ、ああ・・・ユーリ!」

 

 

 

 

 

 

 

――――と言う事があってから、一日が過ぎました。

 

 ゲートをくぐったのは良いんだが、アレですよ?チェルシーの体調が悪化しました。

 またあの頭痛が起こってしまったらしい。と言っても以前よりはマシで、気絶はしなかった。

 ま、今のところは特に影響は無いみたいだから良いけどさ。心配だよねぇ、兄としてはさ?

 

 なのでボイドゲートにほど近い、惑星シドウに付くまでは休息を取ってもらう事にしたのだ。

 ちなみにチェルシーは食堂のマドンナ的な存在だったらしく、少し食堂へのリピーターが減ったのは余談である。ウチは食堂と自炊と自販機で選べるからなぁ。仕方ない事だろう。

 

 んで、俺は空いた時間になんとか見舞いに来ることが出来た。

 何せトランプ隊が編入されて、しかもVFとかに機種変更を申し出たモンだから忙しくてさ。

 中々時間が取れなくて、ようやく見舞いに来れたのは、惑星シドウに着いてからだった。

 

≪こんこん≫

「うっス、大丈夫かいチェルシー?」

『あ、ユーリ?いいよ入っても』

「んじゃ、お邪魔しますー」

 

 チェルシーの部屋に来た俺は、彼女に許可を貰い入室する。

 考えてみたら初めてチェルシーの部屋に来たんだよなぁ。

 でも何か色々と置いてあるな。ぬいぐるみとか・・・誰からか貰ったのか?

 

「具合はどうチェルシー?後中々来れんで済まなかったスね」

「今はもう大丈夫だよ。こっちこそゴメン。ユーリに迷惑かけちゃった・・・」

 

 彼女はそう言うと、ちょっとショボーンとしていた。

 はぁう!なんだその雨にぬれている子犬的な可愛さわ!?アレか?俺を萌え殺すつもりか!?

というか妹と公言している子にそんな感情を抱いたら死んでまうワイ!

 

「大丈夫ッス。誰だって体調が悪い時くらいあるッス。それにチェルシーは普段から無遅刻、無欠席だってタムラ料理長が褒めてたッスよ?少しくらい休んだって、誰も文句は言わないっスよ」

「――あう」

 

 あまりの可愛さについ撫でちゃう。何?気持ち悪い?ほっとけ。

 只の兄妹のスキンシップやもん。だから倫理的にもんだいな~し!

 ・・・・・なんか色々と不味いか?やっぱり?チェルシーも顔真っ赤だし。

 

……………………

 

………………

 

…………

 

 さて、一通りチェルシーの髪の質感を楽しんだ後、少し部屋をちらりと見回した。

 なんかぬいぐるみのほかにも色々と――――!?

 

「―――ッ!―――」

「ん?どうしたのユーリ?」

「え!?あ、あはは!何でもないッスよぉ!」

 

 おい、どこのどいつだ?チェルシーにメーザーブラスターを渡したヤツは?

 何でだか知らないけど、コレクションみたいに増えてんぞ?

 

「あ、コレ?最初の一丁はトスカさんに貰ったんだけど、何だか自分でも欲しくなっちゃって」

「へ、へぇ。そう何スか?まぁ、趣味は人それぞれッスからね」

「うん!」

 

自分の妹が気が付けばガンコレクターになっていた事に、ちょっとショックを受けた。

ストール辺りがそう言ったのに詳しいということを教えておいたら、後で連絡入れるとの事。

・・・・はは、良い趣味持っちゃったなぁ。絶対黒様はもう来させられないね。

絶対に死人が出るぜきっと・・・。

 

…………………………

 

……………………

 

………………

 

とりあえず只の見舞いだったので、適当に繰り上げて部屋を出る。

これでも一応は忙しい艦長職兼提督業、書類が残ってるんで涙目だ。

はぁ、何でこの世界に来てまでワーカーホリックやんなきゃならんのだ?

 

「よう、どうだった?具合は?」

 

 と、少しばかりたそがれながら歩いていると、後ろから声を掛けられた。

 振り返ってみると、副長をしている筈のトスカ姐さんがそこに居た。

 

「ん?大丈夫見たいッスよ?顔色も治ってたし、以前より軽いみたいッス」

「ふぅん。ま、大事じゃないならいいけどさ・・・」

 

 む?なんか言いずらそうだな・・・あー、成程。

 

「大丈夫ッスよトスカさん。チェルシーはあれで強い子だ。それに自らの意思を曲げる子じゃないですからね。俺が言っても、多分降りようとはしないでしょう」

「・・・・そうかもね。気付いてるかいユーリ?あの子はあんたの事を――」

「知ってるッス。時としてそう言う表情してる事は・・・」

 

 そりゃあねあーた。俺と居る時にだけ、妙に顔を赤くしたりしてればねぇ? 

 元のゲームでも一応そう言うことだって知ってたしな。

 

「そう・・・知ってるなら私から言う事は何も無いね。だけど、いつでも気をつけとくんだよ?」

「ソレはどっちの意味でッスかねぇ~?」

「さぁて?私は知らんね。あ、そうだ、ブリッジのIP通信の調子が悪いのを見に行かなきゃ」

 

 俺がにやりを笑いながら言うと、同じくにやりと笑い返しながらこの場を去るトスカ姐さん。

 まったく、茶目っけが過ぎるぞい。

 

***

 

 さて、惑星シドウに降り立った(ry

 後は言わんでももう解るだろうが、0Gの酒場へレッツゴーってな感じ。

 必要な情報を集めるのが先決だ。特に金になりそうな海賊系の情報をな。

 

「や、マスター。適当にお勧めをくれッス」

「あいよ」

 

 酒場に付いたらまず注文。コレどこでも同じね?

 とりあえず一杯ひっかけてからじゃないと、マスターは情報くれないんだよ。

 正確にはくれるんだけど、ちょっとだけ情報量が少なかったりするんだ。

 ある意味、せこい事してるよなぁ~。

 

「―――お、あんがとっス。・・・所で、ここら辺は海賊は出るんスか?」

「ココいらの海賊ですか?そうですねぇ。グアッシュ海賊団とサマラ海賊団でしょうね」

「サマラってのは、もしかしてサマラ・ク・スィーかい?」

 

 俺に付いてきたトスカ姐さんが、マスターにそう聞いた。

 はて?サマラねぇ?・・・・ああ!そう女海賊さん!

 

「お、よくご存じで。その通りです。女海賊サマラ・ク・スィーが率いるのがサマラ海賊団です。ちなみにもう一つのグアッシュ海賊団は、実は妙な噂がきてましてねぇ」

「妙な噂?」

「はい、実は一年ほど前に、グアッシュ海賊団の頭領は捕まってるんですよ?なのに海賊被害が全然減らないんですよねコレが」

「ふーん、ま、注意くらいはしておくかね。情報御馳走さん」

 

 とりあえず情報はこんなもんで良いだろう。

 後は目で見て確かめる。ソレが旅の醍醐味ってやつさ。

 あ、そう言えば―――

 

「トスカさん?サマラさんって知り合いッスか?」

「ん?ああ。古い友人って奴さ。それなりにつきあいはしてたよ?」

「って事は、狙う海賊はグアッシュにしておいたほうが良いスかね?」

「そうだねぇ・・・出来ればそうしてくれると助かる」

 

 ふむ、ここでの鴨はグアッシュ海賊団になりそうだな。

 ご愁傷さまぁ~グアッシュ。美味しく俺達の糧となっておくれ。

 

「了解したッス。それじゃ、後は適当に情報をあさるッスかね」

「そう言いつつも、本当の所は?」

「ただの自由行動」

「そいつは良いねぇ?私もそうしようかな」

「良いんじゃないッスか?どうせそれ程滞在しないとは言っても、一日は居るんスからね」

「アイサー艦長。好きにやらせてもらうよ~」

 

 そう言うと彼女は、俺から離れて店の奥へと足を向けていた。

どうやら適当にフネのクルー連中のところを回る事にしたようだ。

 俺もそうしようと思って席を立とうとしたところ。

 

「やぁ少年、隣は良いかな?」

「あ、ミユさん。良いッスよ?今は誰も座ってないし」

 

 我がフネが誇るマッド、ナージャ・ミユさんが来ておりました。

 考えてみると何か久しぶりにあった気がするぜ。

 何せマッドとは周りが言ってはいるが、その性格は結構真面目だ。

 なので一度研究に入ると、素人は口出しできないのである。

 

 その為研究室や解析室、もしくはマッドの巣から出て来ないので、普段会える事は稀だ。

でも仕事も早いし、やることは一流。本当に良いクルーを雇えたよなぁ。

・・・・まぁ彼女の場合、勝手に俺のフネのクルーになってたんだが。

 

「どうした少年?」

「ん、何でも無いッス」

 

 それはそれ、これはコレったヤツだな。

 

 

 

 

「―――そう言えば、君はエルメッツァの軍から、エピタフの情報を仕入れていたな」

「ん?ああ、そうッスねぇ」

 

 さて、しばらく雑談をしながら飲んでいると、ミユさんは唐突にそう言い放った。

 まぁ対外的には、俺はエピタフの情報を集めていると言う事になってるしな。

 

「私も素材屋としては興味がある。是非とも手に入れたら、我々に回してくれないだろうか?」

「回してって、どうするんスか?」

「決まっている。破壊して分子構造を隅から隅まで調べるのだ。なぁに宇宙は広い。一個や二個減ったくらいで、どうともならんさ」

 

 あはは、やっぱりマッドだ。エピタフを完全に研究対象としか考えてないぜ。

 

「はは、手に入ればッスけど、手に入ったとしても貴重品だから無為ッスね」

「そこを曲げて、何なら一晩くらい―――」

「ストッープ。そこまでしなくても良いッス。ま、幾つか手に入れられたらって事で我慢して欲しいッスね」

 

 おいおい、幾らなんでも身体を簡単に差し出し過ぎだよ。

 親から貰ったんだから、もっと大事にしなきゃあかん。

 ・・・・そう考える辺り、俺も日本人だなぁ。

 

「ふむ、初心な少年の事だから、色仕掛けで行けるかと思ったが―――」

「はは、生憎と身持ちは堅いッスよ」

「それはソレで良い事だと、私は思うがな。そこらの0Gより好感が持てる」

「そいつは重畳。だけど、ミユさん。幾ら自分の身体とはいえ、大事にしないとダメっスよ?じゃないと艦長である俺が起こるッスからね?」

 

 俺がそう言うと、きょとんとした顔をするミユさん。

 いっけね?外したか?―――そう思った時。

 

「ふふ、あっははは!そんな事言われたのは久しぶりだ!」

「ミ、ミユさん?!どうしたんスか!?」

 

 いきなり笑い始めたミユさんに、俺は戸惑うしかない。

 と言うか、周りのなんか探る様な視線が気持ち悪ぃぞおい!

 

「――くっくっく・・・おい、少年。私はお前の事が更に好きになってしまった。どうしてくれる?」

「へ!?い、いや、そんなこと言われても―――」

「ふふ、まぁいい。それとありがとうな少年」

「うぅ・・・。どういたしまして」

 

 なんかよく解らんが、ミユさんとの好感度でも上がったのかえ?

 まぁよく解らんが、とりあえずこの場は俺が奢っておいたのであった。

 

 

***

 

 

 さて、とりあえず我等白鯨艦隊はカルバライヤに来た訳だ。

 適当にカルバライヤ星系をぶらぶらと巡り、途中ジゼルマイト鉱山とかでアルバイトしたりして過ごしたりした。

 

 そして、運の良い事か悪い事かは知らんが、今まで海賊には遭遇しなかったのである。

 だが、この稼業に生きる以上、絶対に海賊とは遭遇する訳で―――

 

「早期警戒無人RVF、敵海賊艦隊を捕捉しましたー」

「数は3、巡洋艦一隻と駆逐艦2隻の構成です」

【データリンク照会、敵艦はグアッシュ海賊団が使用するバクゥ級、タタワ級と判明】

「さて、お客さんだユーリ。どうする?」

「はは、そんなの決まってるじゃないッスか?」

 

 俺はブリッジを見渡しつつも、指示を出す為にコンソールに手をやった。

 

「総員第一級戦闘配備!目的は敵艦の拿捕、鹵獲にある!各員準備を急げ!」

「アイサー艦長。『総員、第一級戦闘配備、有人VF隊は発進準備を急いでください――』」

「ステルスモード解除、APFS及びデフレクター、戦闘出力へ出力と移行する」

 

 アバリスとユピテルのステルスが解除され、その姿があらわになる。

 おうおう、もうそれだけで大慌てだな。艦隊挙動が乱れてるぞ?

 だけど、こっちもおまんま食う為だからな。勘弁してくれや?

 

『こちら格納庫!VF隊発進準備よし!』

「あ、そう言えば、トランプ隊は今回は機種変しての初出撃と言う事になるのか」

「そういやそうだったね。ププロネンにつなぐかい?」

 

 トスカ姐さんがそう言って、コンソールに手をやった。

 だが俺はソレを手を振って制す。

 

「いや、今は良いッス。きっと気が立ってると思うし」

「・・・ソレもそうだね」

 

 彼らはプロだ。俺がやりたいことくらいとっくに把握している事だろう。

 一々言わなくても、絶対やり遂げる筈だ彼らは。

 

「敵艦、レーザーを発射、ミサイルも射出しました」

【レーザーは出力的に問題無し、ミサイル、デフレクターに直撃します】

「総員、耐ショック防御」

 

 そう指示を出した直後、ミサイルがデフレクターへと直撃してシールドを揺らす。

 問題は無いかと思っていたのだが――――

 

「小型ミサイルが一機だけ抜けました。後部エンジン口付近に着弾します」

「ふむ、一点集中された際に、デフレクターの出力が一部分下がったのか・・・これは改良が必要か・・・」

 

―――どうやら一発だけ抜けてしまったらしい。まぁ2kmもあるから当たっても軽微だけど。

 

成程、敵さんも考えたモンだ。高出力シールドでも一点集中させて貫くとはね。

でもお陰でまた科学班連中が何かやらかしそうだ・・・また金が飛ぶ。

 

「小型ミサイル着弾しました」

【エンジン口のフィルターが破壊されましたが戦闘には影響無し】

「修理は後で行うッス」

 

 今はそれよりも、目の前の敵が優先だ。

 

「駆逐艦隊とVF隊に通達!連中を包囲して逃げられないようにするッス!」

「了解、各艦に通達します」

「あ、それと強襲艇も発進!敵を拿捕するッス!」

 

 次々VF達と、装甲宇宙服を着込んだ保安員達を乗せた強襲VB3機が発進する。

 強襲VBは後部ハッチから発進したと同時に、アクティブステルスを起動した。

 これでレーダー上は見えなくなった訳だ。

 

 そしてこの後は簡単。

 VFたちが派手に飛びまわり、バクゥ級とタタワ級の武装を破壊した。

 ちなみにまだ人型への変形機構に馴れて無い為、ずっとファイターモードだった。

 その後は強襲型VBがそれぞれ一機ずつ敵艦に取りついて、中から制圧したのであった。

 

 コレで、丸ごと巡洋艦と駆逐艦を手に入れた。後は売るだけだ。

 ひっひっひ、久しぶりの海賊船じゃあ・・・いくらで売れるかなぁ?

 ――――と、脳内で銭勘定を考えている時。

 

「む?機関出力低下中?おかしいのう、キチンとメンテナンスはすましておるんじゃが・・・」

 

 機関士長のトクガワさんが、何かブツブツと言っている。

 どうしたんだろうか?

 

「どうしたッスか?トクガワさん?」

「実は機関出力が低下しとる。今の所インフラトン・インヴァイター自体には異常ないが、このままじゃと後20分で完全停止するじゃろう」

 

 珍しいな。トクガワさんの整備をしてある筈の機関部にトラブルが起こるなんて。

 

「ふむ、仕方ないッスね。エンジン停止、非常モードへと移行。機関室班は原因究明を急いでくれッス」

 

 しっかしいきなりトラブルか、嫌だぜ?宇宙を漂流とかはさ?

 ・・・・・言ってて冗談じゃない気がしてきたぜ。

 

……………………………

 

………………………

 

…………………

 

「―――ウス、解ったッス。ルーインさんお疲れ様」

「なにか解ったのかい?」

「トクガワさんの言う通りエンジン自体には異常無し、だけど多数のケイ素生物がエンジン口に付着していたらしく、先の戦闘でそれが剥離してエンジン口を塞いじまったみたいッス」

「うん?だけどフィルターを搭載してたじゃないか」

「そのフィルター自体が先の戦闘でミサイルが当たった時に穴が開いたらしくて」

 

 そん時にケイ素生物やゴミやその他が、中に入っちまったみたいなんだよね。

 そんで入った時に、機関部の色んなところを傷つけて行った挙句に焼きついたらしい。

 お陰でフネがウマい事動かないから困ったモンだ。

 

「ははぁ、それでインフラトン・インヴァイターがオーバーヒートってことかい?」

「ええ、一応ケイ素生物は取り除いてる最中で時間さえあれば問題無いらしいんスが、それまでの間に傷ついたエンジンの方が不味いッスね。トクガワさんとケセイヤさん曰く、レストア作業にかなり時間がかかるかも」

 

 オーバーヒート起して加熱状態だったからなぁ。

 今回は手動で外に強制排気して、機関部内の熱を逃がしたからなんとかなった。

 だけど、その間に中の伝送類や比較的弱い部分のダメージが結構ね。

 

「他の艦船も一応念のためにエンジンを停止。ケイ素生物除去とフィルターの交換作業中です」

【一応は救援信号を断続的には発していますが、場所がデブリベルトの中ですしね】

「ま、少し時間はかかるッスが、自力でなんとかできそうッスからね。人手は欲しいッスけど」

 

 整備用マイクロドロイドも作業用にしたVFも使って急ピッチで作業を展開している。

だが、まだまだ除去作業に時間がかかりそうだ。いやね?大きな汚れなら簡単にはがせますよ?

だけど細か過ぎると逆にとれなくてさ?作業に時間を食うんだわ。

 

 とにかく機関部の修理が終わるまで、白鯨艦隊は運航を停止する事となった。

 一応トラブルが起きている時は、注意を促す意味も込めて救援信号を流すこととなっている。

 そして人手の少ない我が白鯨艦隊はちまちまと除去作業に移るのであった。

 

 

 

 

『オーイ、ソコのフネ!大丈夫かい!?』

 

『おい、ルーべ!俺達は急いでんだ!勝手に通信をいれてんじゃねぇ!』

 

『何言ってるんですか!救援信号を発しているフネを見捨てておけないでしょ!』

 

『てめぇこのヤロウ!艦長の俺に逆らおうってのか!』

 

『やかましいハゲ!』

 

≪ゴイン―――≫

 

 

 

 

 あー、今のはなんだろうか?

 ブリッジでエンジン復旧の報告をまっていると、突然音声だけの通信が入ってきた。

 

「今のは?」

「付近を航行するフネからの広域通信です。センサーをONにしてましたので」

 

 どうやら救援信号を感知したフネがいたらしい。 

 結構航路から離れてたから、感知なんてされないと思ってたんだがね?

 

 ま、通信を入れて来たって事は、海賊では無いだろうな。

 一応修理が終わった駆逐艦が、デブリの陰で息をひそめて護衛に回っている。

 変な真似したら撃ち落とせば良いだけの話だ。

 

「お~い、聞こえてるか?ソコのフネ!」

「聞こえてるが・・・その後ろの人大丈夫か?」

 

 しばらくしてホログラム付きの通信が入ったんだが―――

 その手に持った紅いスパナはなんですか?

 

「うん?ああ、大丈夫、ウチの艦長は何気に丈夫だから」

「なら良いスが・・・現在こちらは機関トラブル中、人手が足りない為、救援をお願いしたい」

 

 コレ本当、規模が規模だからねぇ。

 デカすぎるとこう言った時に困るぜ。

 

「りょーかい、君、運が良いよ。こんな所に凄腕の機関士に会えるんだから。僕はルーべ、今からそちらに移る。接舷コネクトとハッチ解放よろしく!」

「あいよ。待ってるッス」

 

 そして切れる通信。まぁ善意らしいし、機関室は大事だが機密ってワケじゃないからな。

 助けて欲しいのも本当だからちょうどよかったぜ。

 

「―――あ、そういやこんなイベントあったなぁ」

 

 ふとゲームのイベントでこんなのあったの思い出した俺。

 なんのイベントだったかは忘れたけど、まぁいいや。

 

 

 

 

さて、外部からの救援を受け入れてしばらくすると―――

 

「―――しっ、おっけ!インフラトン出力良好!省電力モード解除します!」

「ふむ、そんなやり方があったとはのう」

「あのケイ素生物はここの宙域にしかいないですから、対処法はあんまり知られていないんですよ」

「ワシもまだまだ勉強不足じゃのう」

 

 なんかすさまじい速さで、エンジンが復旧しました。

 予想だと、あと50時間掛かる予定だったんだけど・・・。

 

「いいえ!伝説の機関士長トクガワさんの整備は完璧でした!ただ予想外の事があっただけですよ!」

「ほっほ、そういって貰えると助かるわい」

「そうです!むしろこちらが色々と教わりたいくらいで!でも感激だな、まさかこんな所で伝説のトクガワ機関士長に出会えるなんて」

「伝説なんて、この爺には似合わんよ」

 

 そしてトクガワ機関長に出会った途端、ものすごく目をキラキラさせて握手をしていた。

 どうやらその手の人間の間では、トクガワさんは神に近いのかもしれないねぇ。

 まぁ今だ現役だし、文字通り生き字引な人だしなぁ。

 

 様子を見に機関室に赴いていた俺は、

トクガワさんの手を握りブンブン振っている彼女を見て苦笑しながらも話しかけた。

 

「やるもんすねぇ、良い腕ッス」

「ああ、艦長さん。まぁ僕の腕は故郷のジーバでも一番だったんだ。まぁトクガワさんには負けるけど・・・」

 

 ・・・・トクガワさん、アンタどんだけ凄い人なんだ?

 そりゃ、偶に後光が差しているような感じはあるけどさ。

 つーかよくそんな人を雇えたな俺。偶々ロウズにいたから雇ったんだけど。

 

「今までどこに行ったのか行方不明だった伝説の機関士長。もうこの手は洗わない!」

「いや、洗いなさい。機関士と言っても女の子。最低限の身だしなみはしておきなさい」

「はい!解りました!」

 

 ビシっと、なぜか軍隊式な敬礼をするルーべ。

 中々ノリが解ってるじゃねぇか。

 

「さて、もう少しトクガワさんと話していたいけど、僕はフネに戻るよ。念の為に宇宙港に入ったら再点検を忘れずにね?」

「了解ッス。救援感謝ッスよルーべさん。コレ一応のお礼って事で」

 

 俺はマネーカードを差し出そうとしたが、ソレはルーべに止められた。

 

「いらないよ。こっちは善意で助けたんだからさ」

「・・・・そうッスか。ま、それなら貸し一つって事にしとくッス」

「はは、また会えた時に僕が困っていたら、返してくれればいいよ。それじゃ僕は戻るね」

 

 彼女は俺の言葉にウィンクで返し、減圧ブロックへと身をひるがえして行った。

 しっかしウチの人手不足もあれだなぁ。正確には部署を任せられる人間が少ないんだ。

 

 ああいった機関士も、もう少し欲しいところだな。

 だが、まさかこの時そう思ったことが、あんなにすぐに叶うとは・・・。

 この時は思っても見なかったのであった。

 

***

 

 

―――惑星ジーバ・超弩級ドック―――

 

 とりあえず航路上最も近かった惑星ジーバにて、補給とメンテナンスを行う。

 一応ココまで何の問題も無く運航で来たが、宇宙船は精密機械の塊だ。

 

 確かに頑丈になり、ちょっとした事では壊れにくくはなったが油断は出来ない。

 今回みたいに突発的な事態に発展することも有り得るのである。

 

 ま、今回の事が教訓になったから、おんなじことは起こることはもうないだろう。

 今頃ケセイヤさんやサナダさんやミユさん辺りが、メンテナンスドロイドの改良をしているだろうな。―――R2-○2 とか造らんだろうな?ソレは流石に不味いぞ?版権的に。

 

「―――ハイ、武装類以外は無傷ですね。今回はこれくらいでいかがですか?」

「むー、もう少し上がりませんかね?」

 

 なんてメタな事を考えつつ、俺は今回拿捕したフネの売却の交渉をしていた。

 目の前には通商管理局が使っているローカルエージェントがニコニコ顔で立っている。

 

「・・・あー、私も新型のオイルとか欲しいですねぇ」

「・・・ふむ、そういや在庫が少しあまってたような」

「「・・・・・・」」

 

 通商管理局のローカルエージェントと睨みあう俺。

 だが、すぐにガシっとお互い握手を交わしたのであった。

 交渉成立だ。

 

「・・・・・あれ?でも何で俺が以前ゴッゾでやった事知ってるんだ?」

「あれ艦長、知らなかったのかい?連中は結構色んなところで並列化されてるんだよ?」

 

 俺が不思議に思い口に出した事に、生活物資の補給作業中だったアコーさんがそう言ってきた。

 ふーん、って事はやっぱ独自のネットワークがあるんだ。

 まぁ絶対中立が謳い文句だモンな。敵味方関係無く補給修理するしね。

 

「そ、だから管理局のステーションで問題起せば、他のステーションでもマークされるってワケ。ハイ、これ補給品の目録。一応生活必需品Ⅰ型コンテナを100と生鮮食材のコンテナを200程。後は有料だったけど、以前から要望があったモノをパックした雑貨コンテナを幾つかってとこだ」

「ん、どれどれ・・・・・解った。財源から出しておくッス」

 

 雑貨コンテナか、たしかシップショップの品物も入ってんだよな。

 今回はコレの他に、フネに使う修理用の素材とかもよそから仕入れたらしいから、

 今回の値段はそれら全部含めて、およそ2000Gってとこか。

 

 拿捕した海賊船を全部売り払った値段が、約5000G程度だっから利益は出てるけどな。

 下取りだと、拿捕したフネでも安いもんだなぁ。下手すらジャンクと変わらん。

 まぁロウズとかエルメッツァに比べたら、高い方に入るけど・・・。

 

「ふぅ、もう一隻ユピテルと同型艦を作りたいんスがねぇ」

「しばらくは無理だとおもうよ艦長。ウチの浪費の大半はマッドの巣からだしねぇ」

「・・・・自力で鉱脈でも見つけて造った方が早い気がしてきた」

 

 クスン、お金の昔の呼び方はおあしと言うらしい。 

 なんでも脚が生えたみたいにすぐ無くなるかららしいけど・・・まさにその通りだ。

 艦隊運営も楽じゃないねぇ、まぁ個人で艦隊を持てるってとこで、俺の日本人としての常識からはかけ離れてるんだけどな。

 

「ほいじゃ、後頼むッス~」

「はいはい。あ、艦長はこの後どこか行くのかい?」

「いんやー、特にする事も無いで、下の酒場にでも行く連中に付いていくッスよ~」

「あたしも行きたいから、少し待ってて貰っても良いかね?あと1時間程度で終わるから」

「あいあい、その他面々に伝えとくッス~」

 

 俺はアコーさんに振りかえらずに手だけ振って返事を返した。

 そして1時間後、いつものブリッジクルーや+αな面々を連れて、星に降りたのだった。

 

さて、前回惑星ジーバに降り立った訳だが―――

 

 

「おっし飲め飲め!ルーべ!」

「んぐんぐんぐ・・・ぶはー!おいしい!」

「すげぇ、よく一気飲み出来るなぁ」

「ボクはこう見えても、ジーバで一番のざるらしいからね」

「いや、そこまで行くとこの宙域一じゃねぇか?」

 

 

 酒場で再び出会ったルーべと飲み比べ大会が勃発しております。

 ちなみに飲み比べで付いていけたのは、トーロとトスカさんだけで、後は撃沈されています。

 俺は最初から参加して無いから、元々酔ってないのだが―――。

 

 

「ちょっとー!聞いてりゅのう?ゆーりぃ~」

「き、聞いてるよチェルシー。あと近いって・・・」

「わたしのさけがのめねってぇーのかー」

「うっわ、超棒読み」

 

 

 く、誰だよ?チェルシーにココまでドロドロになるまで呑ませたヤツ!?

 大体犯人は解ってるけどね!そこで普通に飲みまくってる赤い服の人!

 ニヤニヤ笑ってんじゃ無い!全く・・・。

 

 

「いいわねチェルシー。私も、エイ」

「ちょっ!おいティータ」

「なに?嫌なの?」

「い、嫌じゃねぇけど・・・酔ってる?」

「酔ってないわよ。ええ酔ってませんとも、酔う筈が無いじゃない」

「とか言いつつジョッキを煽るの止め、って抱きつくなって!」

「「「「うぅ~、妬ましい」」」」

 

 

 もうやだこの空間。

 

 

……………………………

 

………………………

 

…………………

 

 

 しばらくして、ようやくチェルシーが泥酔した。今は俺の膝枕で眠っていらっしゃるぜ。

羨ましい?2時間トイレに行きたいのに行けない苦しみを味わってみろよ?

俺の今の状況が解ると思うぜ?お酒って結構利尿作用あるしな。

 だけど――――

 

 

「ゆぅりぃ~(ぐりぐり)」

「はいは~い、お兄ちゃんはここに居るッスよ~」

「うにゅ~、スースー」

 

 

 これはこれで良いかなって思っている自分が居たり・・・。

 ナチュラルでヤバいとこ落ちそうだぜ。

 

 

「しっかし毎度宴会になると死屍累々だなぁ」

「だね、まさか艦長とボクだけが起きてるなんてね」

 

 

 気が付けばルーべがコップを片手に、こっちに来ていた。

 

 

「のむ?只の水だけど」

「貰うッス。ちょっと俺もペース速かったッスからね」

 

 

 ルーべからコップを受け取り、彼女も俺のとなりに越しかけた。

 しばらく水を飲む音と寝息だけが聞こえる。

 

 

「あれからどう?エンジンの方は?」

「ん?ああ。ウチの整備連中が頑張ってくれてさ?あれから似た様な事は起きてないッス」

「そう、それはよかった」

 

 

 俺の言葉に、満足げに頷くルーべ。

 自分の手掛けた事だけに、やはり気にはなっていたんだろうな。

 

 

「ところで、何でルーべはここに?もしかしてまだ上陸休暇中?」

「正解―――って言いたいところだけど、実はフネをクビになっちゃってね」

「ええ!なんで!?」

「ちょっ!声が大きいよ!膝の上の彼女が起きちゃうよ」

 

 

 おう、そうだった。俺は少し硬直する。

 だがチェルシーは少し身じろぎしただけで、すぐに寝息立てて寝てしまった。

 た、たくましくなってやがる・・・。

 

 

「豪快な娘だねぇ。きっと良い女になるよこの娘。良い彼女を持って幸せだね艦長」

「勘違いしてるみたいッスが、彼女とは兄妹の関係何スがね」

「うそん?それにしてはべったりに見えたけどな」

「酒のちからッスよ。酒のね」

 

 

 お酒の力にしては、随分と豪快に飲んでいた気もするが・・・まぁ気にしない。

 

 

「――とりあえず、話を戻すッスけど、原因はなんだったスか?」

「いやさ?君達を助ける時にあんまりにも解ってくれなかったから、つい・・ね?」

「あー、ぶん殴っちゃったと?」

「流石にスパナは不味かったかな?あははは」

 

 

 いや、軽く笑ってるけどさ?

下手すりゃ反乱罪とかで宇宙に放り出されても、文句は言えなかったと思うよ?

 クビで済ませてくれただけでも、ありがたいと思った方がいいじゃ・・。

 

 

「う~ん、俺達が原因っぽく感じるから罪悪感がふつふつとわいてくるッス」

「いんや、どうせ近いうちに辞めるつもりだったしね。君達の所為じゃ」

 

 

 ルーべは言いかけた言葉をひっこめると、急に悪戯っぽい目で俺を見て来た。

 な、なんや一体?俺なんかしたんかいな?

 

 

「そういや、一つ借りだって言ってくれてたよね?」

「?――ああ、そう言えばそんなことを言ったッスね」

「じゃあさ、その借りを返すって事で、ボクを君のフネに乗せてくれないかな?」

 

 

 と、ルーべはそう俺に言って来たのだった。

 

 

「借りでは乗せないッスよ」

「・・・そうか、残念「キチンと雇うから、その借りはまだ採っておくッス」え!?良いの!?」

「勿論ッス。ウチのモットーは“人格は関係無しで一流”ッスからね。時には上の人間をぶんなぐれる人間くらいじゃないと、部署は任せらんねぇッスよ」

 

 

 俺がそう答えると、心底うれしそうにガッツポーズを決めるルーべ。

 どうやら何気に本気で言って来ていたようだな。

 まぁウチのフネには伝説の機関士長トクガワさんもいるしねぇ。そりゃうれしいわ。

 

 

「やった!それじゃ改めて、ボクはルーべ・ガム・ラウだよ。よろしく!」

「よろしくッス。ちょっと待っててくれッス。ユピ」

 

 

 俺は携帯端末を取り出し、ユピテルのメインコンピューターにアクセスする。

 そして超級AIのユピを呼び出した。

 

 

【ハイ、艦長。御用ですか?】

「新しく機関士を一人追加ッス。ポジションはトクガワさんの下に頼むッスよ」

【了解、調整しておきます。あと携帯端末を用意しておきますね】

「うん、頼むッスよユピ。それじゃ」

【それではまたフネで】

 

 

 携帯端末を懐にしまう俺。これで彼女もウチのフネの一員と言う事になった。

 いやぁ良い人材を発見出来た。重畳重畳!

だけど、後でそれをトスカ姐さんに報告したら、不機嫌になったのは何でだ?

 

 

***

 

 

 さて、優秀な機関士を手に入れてから一週間、適当にこの星系を回っていた俺達。

 出てくる海賊たちは、相変わらず美味しく頂いていきました。

 だけど、実の所これ以上ぶらぶらしていられなくなってきた。

 

 

「ユーリ、そろそろジェロウ・ガンに会いに行かないと不味いとおもうよ?」

「・・・・めんどくさいけど、もう引きのばすのも限界ッスね」

 

 

 そう、実はこれまでは全部時間稼ぎだったりした。

 だって面倒臭かったんだ。俺の経験だと絶対この後なんか色々とありそうだったし。

 まだ回れる今のうちに、ここいらの星系を回っておきたかったのである。

 

 

「ま、しゃーないか・・・≪ピッ≫ストール、イネス、いるッスか?航路をガゼオンに向けて欲しいッス」

 

 

 俺は航路を担当する航海班の彼らに連絡を入れ、白鯨艦隊の針路を一路ガゼオンへと向けた。

 

…………………

 

……………

 

………

 

 

――惑星ガゼオン――

人工87億4千5百万人、大気は赤褐色のガスで覆われ1日中夕暮れの様な明るさしか無い。重力はおよそ1,2Gと高めであるが十分許容できる程度である。特産物は無いが近くのアステロイドベルトからの物資保管地となっている。

 

―――ってなデータが出て来た。

ちなみに初版は大マゼラン歴2300年だから今から大体250年前だわな。

 あってるんだろうか?ちょっとは差異があるんでねぇの?

 

 とにかく一度フネを停泊させて、ガゼオンに降り立った俺達。メンバーは俺とトスカ姐さん、それと科学班でどうしても行きたいと言っていた連中が数名と、そいつらの引率を兼ねたナージャ・ミユさんが付きそう事となった。

 

ソレと何故かイネスも付いてくる。理由は下手に俺から離れると、ユピテルの女性連合が怖いかららしい。でもだったら普通に町中をあるいてりゃ良いと思うのは俺だけか?

 

チェルシーはその他の人達との付き合いで、買い物に行くらしい。

もっともそれに付いていくのがストールと言うのが気になる。

何せねぇ・・・・二人の趣味ってガンコレクターだし・・・。

だからって折角出来た趣味をやめろなんて言えないし・・・・困ったモンだ。

 

 

 

 

 

さて、問題のジェロウ・ガンという博士の家に行きたい訳だが・・・。

 

 

「家の場所はどこッスかね~」

「んー?私は知らないよ?」

 

 

 ふむ、トスカ姐さんが知らないんじゃ仕方が無い。

 ココはとりあえず酒場に言って作戦をだな―――

 

 

「えーと、“ジェロウ・ガン研究所、セクション4軌道エレベーターより南西に40km”だって」

「へ?イネス、今なんて言ったスか?」

「いや、惑星案内にデカデカ書いてある。どうやら観光地扱いされている様だね」

 

 

 はいと言って渡されたパンフレットには、今イネスが口に出したのとほぼ同じ文句が・・・。

 そういや結構有名人だったけね。ジェロウ・ガン

 

 

「・・・・・いくッスか」

「了解、レンタカー借りてくるよ」

 

 

 内心行きたくねーとか思っていても行かない訳にも行かず。

 トスカ姐さんが借りて来たレンタカーに乗ってそのまま研究所へと向かった。

 

 郊外にあるからか交通量は少なく20分も経たない内に、目的地に付いてしまった。

 パンフにデカデカ書いてあったにしては、随分と小ぢんまりした建物が建っているだけで、他には何も無い。

 

 

「ふーん、もう少し大きい建物を想像してたんスがねぇ?」

「エピタフの研究だからねぇ。考古学に近いモノがあるから、案外それほど研究スペースはいらないのかもね」

「とりあえず入ろう。オムス中佐から連絡は言っているんだろう?」

 

 

 何故か今回付いて来ているイネスにそう急かされ、俺は研究所の門の脇に居る守衛に話しかけた。どうやら本当に話が通っていたらしく、すんなり研究所の一室へと案内された。部屋には様々なモニターやメーターがあり、いかにも解析してまっすって感じだったが、人は逆に少ない。

 

 

―――そしてその部屋の奥に一人の老人が、俺達を待っているかの如く佇んでいた。

 

 

「よく来てくれた。わしがジェロウ・ガンだ。話しはオムス中佐から聞いちょるよ」

 

 

 白髪が若干後退し、発達した前頭葉を更に大きく見せている老人がそう名乗った。

 

 

「初めましてジェロウ・ガン教授。自分は―――」

「ああ、別に自己紹介はいい。オムス中佐の方からデータを受け取っている。今話した君がユーリくんだネ?」

 

 

 ・・・・どうやら俺のデータは勝手に流出しているらしい。

 

 

「はい、自分がそうです。改めて初めまして」

「うむ。わしのことは教授でいい。ではさっそくだが、エピタフについて調べているそうだネ」

 

 

 実際はココで“そんなん調べたくねぇ~!”と叫びたいところだが、これは一応公式の場である。

 ここまで多くの手間がかかっている以上、ここでそんなことを言えば確実に俺の評判は下がる。

 

 別に俺だけなら痛くもかゆくも無いのだが、俺の評判が下がる事によって仲間たちからも見放されたら、宇宙を巡る事も難しくなる。そうなれば宇宙に出て来た意味が無くなってしまうだろう。

 俺が嫌がらせにオムス中佐に頼んだことが、気が付けばこんな事態に・・・鬱だ。

 

 

「はい。それに付いて教授のご協力を仰ごうかと・・・」

 

 

 内心の不満を極力顔に出さないようポーカーフェイスを保ちつつ、俺は教授にそう述べた。

 教授はフムと考える様な仕草をとり、黙り込む。

 しばらくして、考えがまとまったのかジェロウ教授が口を開いた。

 

 

「エピタフの調査と言うものは、検体がまず入手出来ない為に、なかなか調査が難しくてネ」

 

 

 教授はそう言うと、後手に手を組み少し苦笑した様子で話を続ける。

 

 

「そもそもエピタフの組成において、現状では4窒化珪素SI3N4に似たダイヤモンド格子が確認され―――」

 

 

 ココからは、頭から湯気が出そうなくらいの難しい講義が始まってしまった。

 もともと大学生で、こう言ったタイプの教授の話を聞き流す術に長けている俺は問題無かったが、付いてきたメンバーの中で真面目に聞いていた奴らの殆どが、頭から煙を出している。

 唯一付いていけたのは、元々その分野の研究をしていたミユさんだけだった。

 

 

「―――そこから組成活発化と何らかの条件によりStructural phase transition(ストラクチュラル・フェイズ・トランジション)及びポリクリスタル成長の可能性が導かれるのだネ。だからしてシェル・アイゾーマ法による、アブストラクションテストで見られるケイ素生物との―――」

 

 

 だが、そろそろ俺からも、頭から煙が出てきそうだ。

 しかも話しに乗ってきたのか、まだまだ終わる気配は無い。

 他の連中がトイレと言って退散する中、俺は艦長だから逃げる訳にも行かず、ジェロウ教授の専門用語飛び交う話しを聞き続けた。

 

 

………………………

 

…………………

 

……………

 

 

―――そして会話開始から1時間後。

 

 

「と言う訳じゃ、解ったかネ?」

「「「・・・・・」」」

 

 

 ゴメンなさい教授、貴方の高尚な知識は、低能な俺達には荷が重すぎです。

 途中から解らなくて、でも聞いてなくちゃいけなくて意識が飛んでます。

 

 

「つまり、この宙域に存在するデットゲート付近の惑星ムーレアと言う星に、エピタフがあったと思わしき遺跡がある。だからエピタフとデットゲートの関連性を調べる為にもムーレアへと行きたい―――と、言う訳でしょう?プロフェッサー・ジェロウ」

「うむ!そう言う事だ。そこの紫の髪の女性の言っている事であっているネ」

 

 

 俺達が黙っていると、後ろで控えていたミユさんが口を開いた。

 つーかあの説明の中で、よくそれだけ解りましたねミユさん・・・。

 

 

「つまり、自分たちはムーレアに行けば良いって事ですか?」

「うん、そう言ってくれると実にうれチいネ。まぁそう言う訳でしばらくは、わしも君のフネにやっかいになろう」

 

 

 ちぇっちぇれー、ジェロウ・ガンが一時メンバーに加わった。

 なんてファンファーレが脳内に流れた。まだ脳が煙吹いてやがる。

 

 

「―――ん?ムーレア?」

「どうしたユーリ?」

「いや、確か以前海賊を追っていて、そっちの宙域に近寄ったら、カルバライヤ宙域保安局によって宙域封鎖されてて、追い返された記憶が―――」

「あー、そんな事もあったねぇ」

 

 

 あの時は残念だった。輸送艦のポイエン級を連れたせっかくの鴨だったのに、宙域封鎖の所為で追跡を断念せざるを得なくて、しかもそいつらは宙域保安局に拿捕されちまって・・・本当にもったいなかったぜ。

 

 

「そう、ただ一つ問題点を上げるとしたら、まさにそれだネ。

海賊どもを退治せんことにはどうにもならないだろうネ」

「ふむ、なら海賊退治と洒落込む事にしまスか」

「そう言ったのはお手のモンだしねぇ」

 

 

 とりあえずの方針は決まった。まずは海賊退治じゃ。

 付いてきた連中も“狩りじゃ~、狩りじゃ~”と言っている。

 士気だけは十分みたいだな。

 

 

「それじゃ、準備が完了次第、ウチのフネに案内するッス」

「うむ、解った。・・・ところで君のその喋り方は―――」

「あはは、さっきまでのは一応他所行きって感じで、こっちが地何スよ」

「ふむ、成程。わしとしてはそっちの方が喋りやすいから好ましいネ」

 

 

 そう言っているジェロウ教授に笑みを返しつつ、準備を終えたジェロウ教授を連れて、

 俺達はジェロウ・ガン研究所を後にしたのだった。

 

 

***

 

 

 さて、ジェロウを連れて軌道エレベーターにまで来たのだが―――

 

 

≪ボカーン!!≫

「な、なんスか!?」

「ユーリ!ヘルプGの部屋から煙が!」

 

 

 ――――ココでヘルプGという存在に付いて説明しておこう。

 

 0Gと言っても、実の所成る人間はピンキリであり、様々な教養や学力、戦闘に至るまですべてを学習している軍人上がりの人間もいれば、少ない情報の中で厳しい生活から抜け出したいが為に0Gドックに登録した人間もいる。

 

 ここで重要なのは後者の人間達の事だ。0Gドックの登録では余程障害のある人間で無い限り、簡単に試験も無く登録する事が出来る。だがそう言った人間にとって0Gとは何をするのかと言う基本的な知識と言うものが欠けてしまっているのである。

 

 それを救済する為の処置として、ヘルプGと呼ばれる存在が、どの空間通商管理局の軌道エレベーターステーションに配置されているのである。このヘルプGはドロイドであるが、まだ半人前の0G達に0Gのなんたるかを教える先生の様なものであると考えてくれれば良い。

 

 こうして一応最低限の0Gとして覚えておかなくてはならない、基本的ルールやフネの事、戦闘の事、船内生活のイロハ、友達の作り方等を教わるのである。・・・最後が少しおかしいけど、ソコは気にしない様に、とにかくヘルプGとはそういう存在である。

 

 

 さて、話しを戻すが、突然の爆発音に驚きつつも、煙の出ているヘルプGのいる部屋を覗いてみた。

 もくもくとした煙の中で声が聞こえる。

 

 

「ばっかやろう!ヘルプGが壊れちまったじゃねぇか!」

「だって先輩が何でも質問していいっていうから!」

「だからって同じ質問を30回も繰り返して聞く奴があるか!とにかくずらかるぞ!」

「ま、まってー!置いてかないでせんばぁい!」

 

 

 どうやらこの騒動の犯人達らしいが、違う入口から逃げて行ったらしく顔は見れなかった。

 でも、ヘルプGがぶっ壊れたって言ってたな。俺はそのまま部屋に入った。

 

 

「コイツはまたスゲェ煙ッスね。換気装置が作動して無いッス」

「確か手動の換気スイッチが部屋の端っこにあったな」

 

 

 イネスがそう言って部屋の端っこのスイッチを押すと、瞬く間に煙が換気される。

 そして、部屋の中央の机の部分にもたれかかるようにして、ヘルプGがバチバチとショート音を響かせて倒れ伏していた。

 

 

「おい!大丈夫ッスか!?ヘルプG!」

「うぐぐ、たかが、たかが30問でへばるとは・・・寿命が来たようじゃ・・・」

 

 

 寿命って・・・アンタ機械じゃないか。

 しかし、手足もプルプルと震えさせ、容姿が爺さんの容姿なのでホントに召されそうな感じ。

 

 

「自律修復機能、17パーセントまで低下・・・再生不能・・・再生・・・不能」

「おい!おいしっかり!」

「すみヤカに代理タン当者ノ・・・ハ・ケ・・・ん・・・ヨウ・・・セイ・・・」

≪プシュウッ!≫

 

 

 ヘルプGが最後の言葉を発し終えた途端、背中の冷却装置からひときわ大きな排気音を響かせて、ヘルプGはそのまま機能を停止してしまった。

まるで今の排気が最後の呼吸だったかのように・・・。

 

 

「機能停止したようだね」

「・・・お疲れヘルプG。よく頑張った」

 

 

 機械とはいえ、個々のドロイド達には心や感情がある事を俺は知っている。

 だから機能停止したヘルプGの目のシャッターを閉じて、手を組ませて寝かせてやった。

 ここのヘルプGは知らないが、ロウズで何度か話しを聞きに行った事もある。

 これくらいの事は礼儀ってモンだろう。

 

 

「ふむ、ヘルプGが機能停止したかネ」

「教授・・・」

 

 

 俺がヘルプGを寝かせた後、ジェロウ教授が部屋に入ってきた。

 教授は部屋をグルリと見渡した後、最後にヘルプGをジッと見やる。

 

 

「ふーむ、この部屋はどうやら換気システムが悪い様だネ。恐らく排熱機構に埃がたまった所為で、ショートしてしまったんじゃろう」

「え!?」

「恐らくこのステーション設計時のミスだネ。アレだけ煙が出ていたのに、換気されて無かっただろう?」

「そう言えば・・・」

 

 

 そう言えば、かなりもくもくと煙が出ていたのにもかかわらず、換気どころか警報も鳴らないなんておかしい。ステーションは宇宙にあるから、普通こう言った事態には敏感な筈なのに・・・。

 

 

「じゃあ、このヘルプGが壊れたのって・・・」

「十中八九、この環境のせいだろうネ」

「そんな!だったらこのヘルプGは、まだ機能停止する筈じゃ無かったって事ッスか!?」

「うむ、そう言う事になるだろう。・・・・なんなら直してみるかネ?」

「え!?」

 

 

 教授はそう言うと、ヘルプGに近寄って観察する。

 胸部パネルを開くと煙が立ち上った。

中の回路を見ると、確かに埃がたまっているのが見える。

 ジェロウはソレらに触れて、少しばかり観察していたがすぐに口を開いた。

 

「うん、これならまだ間に合うネ。フネの設備を借りれば、中の記憶メモリーが消去される前に修復をする事が出来るじゃろう。どうするかネ?艦長」

「・・・・ウス、助けましょう。昔結構世話にはなった事があるッスからね」

 

 

 俺は機械は大好きという訳じゃないが、ヘルプGとかは嫌いじゃ無い。

 むしろ最初の頃に色々と教えてくれた先生みたいなもんだ。

 多少は愛着と言うのもわくと言うものである。

 

 

「ふむ、艦長は結構義理堅い性格の様だネ。ま、任せておいてくれたまえ」

「なら、我々の研究室を提供しましょう教授。その方が早い」

「ミユさん・・・」

 

 

 気が付けばミユさんも部屋に入って来ていた。彼女がそう言ってくれるのは心強い。

 何せ彼女も優秀な学者であり技術屋でもあるからだ。

 

 

「案ずるな少年。これくらいすぐに修復してやるさ。技術屋の腕にかけてな」

「そう言う事だ。さて、これを運ぶ為の荷車を持ってこようかネ」

「運ぶのは他の連中に任せるッス。とりあえず教授はユピテルに案内するッス」

「・・・・・それもそうだ。わしはまだ艦長のフネがどこにあるのか知らないからネ」

 

 そう言う訳でヘルプGの回収をウチのクルーに任せた後。

俺らはその場を後にした。あ、一応だが管理局に許可は貰ってある。

廃棄処分予定だから別段構わないと来たもんだ。ちょっとドライだけどそんなもんだろう。

そう言う訳で安心してヘルプGを回収したのであった。

 

 

***

 

 

―――ステーション内・弩級艦用ドッグ―――

 

 

「教授、これが我が白鯨艦隊旗艦、ユピテルッス」

「こ、このフネがかネ?なんと―――」

 

 

 教授をドッグに案内し、俺のフネの全体が見渡せる部屋でユピテルを見せた。

 さすがのジェロウ教授もこれには驚いたらしく、口が開いたままとなっている。

 

 

「ふーむ、小マゼランで手に入るどのフネとも異なるし、かと言って大マゼラン製には見えん。それに兵装も普通のフネと違い収納型かネ。デフレクターブレードユニットが大型化している所を見るとかなりの防御力を持つフネにも見える」

「流石は教授、するどい観察眼を持ってるッスね」

「いやいや、わしは戦艦に関しては素人だヨ。それでもあのフネの凄さは解るがネ」

「一応ネタバレしますと、元は大マゼラン製の航空戦艦ッス。それに大規模な改修を加えたのが、あのユピテルというフネッスね。詳しくは比較図を見た方が良いかも――」

 

 

 俺がそう言うと、携帯端末がピピっと鳴る。うん?なんだろう?

 携帯端末の画面を覗いてみると、添付メールが来ており、中に比較図が・・・。

 ユピの仕業だな?

 

 

「これが比較図ッス。もう殆ど原型ないッスけど」

「これはマタ随分と思いきった改造、いやさ改修だネ。下手したらフネのバランスが崩れたと言うのに、そこをうまくカバーしてある。わしはそれ以上は解らんがネ」

「あっと、そうだ。一応紹介しておくッスけど・・・ユピ」

【ハイ、艦長?お呼びですか】

 

 

 俺が呼ぶと、携帯端末のホログラム投影機を用いてユピテルのウィンドウが現れる。

 それを見て更に目を丸くさせる教授だが、すぐになんなのかに行き付いた様だ。

 

 

「驚いたネ。AI搭載型のフネだったのか。いや懐かしいネ」

【初めまして、総合統括AIユピと申します。歓迎いたしますジェロウ・ガン教授】

「おお、随分と成長が進んでるネ。ココまできっちりと感情を持っているのは初めて見たヨ」

「どうやら褒められたみたいッスよユピ。よかったッスね」

【・・・えへへ】

 

 

 この後ユピテルに対してのある程度の質問をされた。

 俺は応えられる範疇で応えて行ったが、その最中にヘルプGを再生する準備が出来たと通信が入った為、とりあえず切り上げてフネへと戻ったのであった。

 

 

Side三人称

 

――――第一工作室――――

 

「人造タンパクニューロンの保全を急げ!これ以上崩壊させると戻せなくなる!」

「う~んと、動作モーションのバージョンは・・・・え!?第2世代なの?てっきり第6世代だと思ってたのに・・・う~、これだったら違う物入れた方が早いわ」

「おいおい、今時集積回路なんて随分とレトロだな。せめて結晶回路の一つくらい使えよ」

「ボディフレームも金属疲労でボロボロだぁ。コレじゃこれ使うの無理だなぁ」

 

 ユピテルのマッドの巣にある工作室。

 そこでは何人もの人間が、たった一体のドロイドの為に、作業を進めていた。

 別に命令された訳では無く、作業室に入ったジェロウが工作機械を借りて作業を開始したら、

 何故かその場に居た人間が徐々に手伝い始め、気が付けばココに居る人間の殆どが手伝っていた。

 殆どが“なんとなく”手伝いたくなったかららしい。・・・気の良い連中だ。

 

「教授~、そのままの修復は無理ですよこれ。耐用年数オーバーとかの前に劣化が酷くて」

「おかれていた環境が劣悪だったからネ」

 

 しかし人手は集まっても、肝心のドロイドの方は本当に限界に来ていたらしい。

湿度があり埃っぽい環境において、機械はそれ用のシールをしていない場合。

著しくの耐用年数に限界が訪れるのが早くなってしまう。

 

 これは蛇足なのだが、この今作業台に寝かされているドロイド・ヘルプGの居た部屋は、

 環境整備の不備に寄って換気が働かず年中埃っぽい上に、湿気も溜まっていたらしい。

 おまけに室温も低いので、その部屋に訪れた人間からは、まるでお化け屋敷の様だったという評価まで頂いているのだ。

 

「不味いですね。記憶媒体はなんとか結晶回路の方に、バックアップが完了したのですが・・」

「ふむぅ、人造ニューロチップが劣化して一部カビているなんて見たことが無いヨ」

「どうしますジェロウ教授?一応新品のニューロチップありますよ?」

「いや、ソレを今これで接続しても、またカビが生えるだけだネ」

「それじゃどうします?」

 

 工作室で自ら手伝ってくれている作業員の一人がそう問う。

 今の所ニューロチップで形成された、人工頭脳の方は機能している。

 だがソレの働きを阻害するゴミやカビやらが、段階状構造のニューロチップを浸食していた。

 ゴミとカビをすべて取り除く事は不可能、なので今チップを変えてもカビは復活する。

 

「仕方ないネ。ちょっと古いけど、複合構造結晶回路のチップを使おう。調整が大変だが、あれなら衝撃や汚れにも強い」

 

 結晶回路とは、小さなナノマシンの集合体に寄って作られる、石の様な回路の事だ。

 ナノマシンの結合によっては、石英並の堅さになる為、衝撃等にも強い。

 ジェロウを手伝う作業員は、彼の指示に寄って結晶回路へと、ヘルプGのデータを移そうとした。

 

「不味い!教授!」

「いかんネ、今に来てニューロンネットワークの崩壊が起きるなんて!」

「短期記憶野、消去(デリート)されました。長期記憶の方も限界です!」

「ちぃ!データバックアップはまだ終わって無い!人格データが吹っ飛ぶぞ!」

「AI脳波がフラットになって行きます。このままじゃ・・・」

 

 ヘルプGは人工知性体である。だからデータさえ無事なら、ハードは選ばなくても良い。

 だが、そのデータが壊されれば、当然ヘルプGと呼ばれたドロイドは消えてしまう。

 それではココに連れて来た意味が無い。

 

「なんとかしてデータを守るヨ!マイクロマシン、ナノマシン注入!データ保全を最優先に!」

「・・・・っ!なんてこった!」

「どうしたネ!」

「教授、結晶回路と人造タンパクニューロチップとじゃ相性が悪かったみたいです。データがオーバーフローします!」

 

 どうやら結晶回路一つでは、長年の経験を積んだ人造タンパクニューロチップの記憶を、

全て修めることは、出来なかった様である。

 

「ちぃ!情報がスムーズに流れないし、ネットワーク構築が間に合わない。コレじゃデータが消える方が早い」

 

 データが消える。ソレはヘルプGの死を意味している。

 だが複合構造タイプの結晶回路には、複数を連結して使うという機能が無い。

どうすればいい?何か良い手は・・・?そう彼らが考えた瞬間。

 

 

 

「は~はははっ!お困りの様だな諸君!」

 

 

 

 バーンと音を立てて、作業室の扉が開かれた。

 そこに居たのは、何かが乗ったストレッチャーの様なモノを持っているケセイヤだった。

 シーツで隠されているが、何か大きな物が乗っているのは見てとれた。

 

「何だか知らねぇが、俺抜きでこんな面白そうな事をやりやがってズリィぞ!」

「いや班長、今はそれどころじゃ・・・」

「君、そのストレッチャーに乗せられているのは何かネ?」

 

 いきなりの乱入者にも、ジェロウは顔色一つ変えず問う。

 今はそんなことよりも、目の前の死にかけドロイドのパーソナルを守るには、どうすればいいかを考えなくてはならないからだ。

 

「あんたがジェロウ・ガンだな?話しは後でするとして、話しは聞いたぜ!コイツを使えばそのロボは助けられる!」

 

 そう言ってケセイヤはシーツを引っぺがした。

 

「こ、これは!!」

「は、班長!?まさかアンタ!」

「おーっと勘違いすんなよ?これは上から下まで人工物だぜ?」

「なに・・・まさか!?」

「そう、これなら寄り人間らしく、しかもコンピュータの機能が維持されるんだ」

「・・・・素晴らしいネ。ならこれにこう言う機能を付けるのは?」

「おおう!?―――流石は教授、俺よりも深い所に行きやがる・・・・」

 

 まわりの作業員が見守る中、ジェロウとケセイヤはお互いを見つめあった。 

 そして次の瞬間には、ガシと熱い握手を交わし、いきなり作業を開始した。

 お互いが何をすべきか解っているかの様で、今まで作業していた者たちは、

彼らが次々と出す指示に、追い付くので精いっぱいだった。

 

【・・・・ケセイヤさん】

「ん?どうしたユピ?」

 

 ケセイヤがジェロウと作業をしていると、突然フネの管理システムであるユピが話しかけて来た。

 珍しい事もあったモノだ。

何時もなら、ケセイヤが作業中は話しかけたりしないコなのだが・・・。

 

【そのボディ・・・・私でも使えますか?】

「一応システム的には問題無いし、予備体もあるが・・・ってまさか!?」

【私も、もっと色々と知りたいですし役に立ちたいのです】

 

 ユピがそう述べると、ケセイヤは何故ユピがそう思ったのかを勘で理解した。

 これまた、艦長も罪つくり無男だぜ全く。とか思いつつも、あふれ出る笑いが止まらない。

 

「・・・くぁははは!そいつはおもしれぇ!解った!この後用意してやるよ!」

【感謝します】

「――――本当に成長したAIだネ。でも面白いヨ。本当に・・・」

 

こうして、マッドの巣にて化学反応を起した二人のマッド達。

彼らにより、ヘルプG修復は飛躍的なスピードで進められるのであった・

 

 そしてユピは一体何をしようと言うのだろうか?

 ソレはまだこの時は、ケセイヤとそばで聞いていたジェロウ以外は解らなかった

 

Side out

 

***

 

「ああ、ぎもぢよがっだー」

 

 出港前にシャワーを浴び、とりあえずブリッジへと向かう俺。

 近道にとマッドの巣の近くと通りかかったのだが――

 

「ああ、艦長、ちょっと良いかね?」

「何ですか教授」

「うん、こっちこっち」

 

 そんな俺を、通路の角から顔だけを覗かせた教授が、おいでおいでと手招き中。

 俺はほいほいと教授の後を付いて行っちまったぜ。

 んで、マッドの巣区画の中にある工作室の一室へと入って行く教授。

 俺その後に続き、部屋へと入ると―――

 

「・・・・・」

「・・・・・だれ?」

 

――――全く見覚えの無い女性が1人、部屋に立っていた。作業室の人か?

 

 

「やぁ、ヘルプG改めヘルプG(ガール)こと、ヘルガじゃよー、と」

「・・・・・へ?」

 

 メガテン・・・もとい目が点になる。

 ちょいまて、ヘルプGって―――

 

「ヘルプGは男性体の筈じゃ!?」

「うん、壊れたヘルプGをケセイヤと言う男と直していたらこうなったヨ」

「ってあの男の仕業か!?というか全くの別モンじゃないッスか!?」

 

 ―――ってそうか、思い出したぞ。これはヘルプGが出るイベントじゃないか。

 でも、あれぇ?ヘルプGって・・・・。

 

「って事は、アンドロイド?・・・にしては、全然見た目人間と変わんないような?」

 

 つぎはぎが無いぞ?原作だと手はアッ○イクローで、耳にはヘッドセットが付いてた様な?

 だけど目の前のヘルプガールは、淡い紫色の髪はそのままだが、人間の女性と変わんない。

 ヘッドセットこそ付いているけど、他に機械だと思わせる様な物が無いんだけど?

 

「ケセイヤが開発していた人間に近い“電子知性妖精”なるモノの素体を利用したヨ」

「ヤツの趣味で女性体だったらしいんじゃよー、と。だからヘルガもこうなったんじゃよー、と」

「結晶回路のナノマシン結晶化現象を元にしたらしく、つまり――――」

 

 まずい!教授がウンチクを始めようとしてらっしゃる!?

 

「あ!あー、つまりはナノマシンの集合体ッスか?」

「厳密に言えば違うネ。だけどおおむねその認識でも通用するヨ。

それと見た目が人間そのものナノは、ナノクラスの極小スキンで覆われているからだヨ」

「ほーら、ヘルガは触ると暖かいんじゃよー、と」

 

 そういうとヘルプGは、俺の頭を抱きしめてその胸にうずめて来た。

 ――――ってホントや!暖かいし・・・や~らかいな~。

 

「って!息出来ないし頭しまってるしまってる!ギブギブ!!」

「おお、すまんのじゃー、と」

 

 あ、あぶねぇ、美女の胸に抱かれて死ぬつーのは、ある意味男の本望だが・・・。

 女性の胸で窒息死つーのは幾らなんでも死因が情けなさすぎるぞ。

 

「はぁ、全く驚いたッス。案外力強いんすね?」

「そりゃ見た目はこれでも、中身は純粋なる機体だからネ。人間よりも力は上だヨ」

「へぇー、見た目は華奢な女性なんスがねぇー?」

 

 ふむ、ケセイヤさんはスレンダーな女性が好きなんだろうか?

 胸が小さめのスポーツマン体形で、よくよく見ると背はあまり高く無いのね?

 

「でも、手からは瞬間的に2500度を超える液体金属、目からはビームがでるぞい?」

「装備はすべて内蔵式だから、一見しただけじゃアンドロイドと解らないだろうネ」

「つまり完全なるコンバットロイドでもあるんじゃよー、と」

 

 ・・・・ようはシャイニ○グFと目からビームも装備ッスか?

 

「しかも、表面のスキンにはレアメタルが使われているから、メーザーブラスター程度じゃ傷しかつかないネ。しかもナノマシンによる自己修復も出来るから、ある程度は整備不要だヨ」

「・・・・もうどこから突っ込めばいいか解んないッス」

 

 そして装備だけなら、タイマンで勝てそうな人間はいなさそうだ。

おかしい、何がどうしてこうなった?アレか?ケセイヤの所為なのか?!

 あの野郎の欲望がマッドと一緒となって更なるカオスを!?

 

「どうだネ?白兵戦にも役立つし、良いクルーになるとおもうんだが」

「白兵戦、もしも壊れた場合は?」

「だいじょうぶ。ヘルガが死んでもかわりはいるんじゃよー、と」

「・・・ヘルガのメンタリティはヘルプGのまま何スね」

 

 代わりってあーた。そこまで改造っつーか、新調されちまったら、もはや別機種じゃん。

 代わりなんて作れないと思うのは俺だけかい?

 

「人格が消えない様にするのは大変だったヨ。ちなみに傷を負えばある程度は修復されるが、大穴があいたりした場合は流石に自力では無理だネ。専用のメンテナンスベッドを使う事になるヨ」

「ま、引き取った手前キチンと面倒は見るッス。部署は・・・」

 

 ここでふと、彼女がアンドロイドだと言う事で俺はある事を思い付いた。

 

「ねぇ教授?」

「なにかネ?」

「彼女はアンドロイド・・・ケセイヤさんの言葉を借りると、電子知性妖精なんスよね?って事は後からデータを取り込む事も?」

「コネクタさえあれば、手から出る液体金属を入れて、どんなPCからも情報を引き出せるヨ」

 

 ほうほう、ソレは大変便利な昨日じゃないか。

 

「そうッスか・・・なら彼女はフリーに所属ッス。艦内を動き回り、手が足りないところで活躍して貰うッス。その為のデータは艦内の端末から得れば良いんスからね」

「なるほど、おもしろそうじゃなー、と。ヘルガはそれでいいよー、と」

 

 どうやら、その役職出来にいってくれたらしい。ヘルガは若干小躍りしている。

 白兵戦部署に入れても良いんだけど、なんとなくそれじゃ味気ない。

 ココは是非彼女は、某理想郷号のミーメさん的な位置づけでやって貰おう。

 なんとなくだが、主食はアルコールと見た(キラン)

 

「それじゃあ、ユピ。頼むッス」

【・・・・・】

「あれ?ユピ?・・・ユピー?おーい」

 

 いつも通り船員登録をしてしまおうと思い、ユピを呼んだのだが音沙汰無し。

 おかしいな?何時もなら返事を返してくれるのに、どうしたんかいのう?

 もしかして機嫌が悪いのか?・・・俺なんか悪いことしたかな?

 

「実は艦長にはもう一人、紹介したいクルーがいるヨ」

「ん、見て欲しい人?」

 

 ユピが返事してくれないので、どうすれば機嫌が直るかと思い考えを巡らせていると、教授がまだ誰か紹介してくれるらしい。あれ?こんなイベント原作にあったか?

 

「さぁ、いい加減隠れてないで出て来なさい」

「・・・え、えっと」

 

 おや、どうやらこの部屋にはもう一人いたらしいな。

 そう言えば、奥の戸棚の影に誰かいる様な気配を感じる。

 だけど、その人物は戸棚の影から、出てくるのを渋っているようだった。

 

「まったく、自分から頼んでおいてその姿になったのに、いざとなると恥ずかしいとはネ」

「だって、だって・・・」

「とりあえず、戸棚の影から出て来なさい。そうじゃないと話しが進まないヨ」

「でも、でも」

「あー、もうまどろっこしいッスね。一体誰何スか?」

 

 あんまりにも渋るから、俺も少し飽きた為、自分から戸棚の影を見に行った。

 恐らく隠れている人物がいる戸棚を、横から覗きこむ。

 

「キャッ!か、艦長?」

「はいはい、艦長ですよー。所でアンタ誰ッスか?」

 

 そこに居たのは、焦げ茶色の目と同じ色の長髪を、結ってポニーテイルにした少女がいた。

 年齢は19才くらいだろうか?う~ん、こんな人物記憶にないんだが・・・教授の助手か?

 

「え、えっと、ユピです」

「へぇ~、ユピッスか?ウチのAIと同じ名前だ」

「艦長、その子はそのユピだヨ。ケセイヤが持っていた電子知性妖精用素体の予備パーツで作られた娘だネ」

「へ?」

 

 教授、あんた今なんつったとですか?説明の中に信じられない様な言語が聞えた様な?

 この娘さんがウチの統括AIのユピって言いましたが・・・マジで?

 

「アンタ、マジでユピ?」

「はい、正確にはコミュニケーション用端末ですけど・・・」

「な、なしてそんなお姿に?」

「艦長の・・・いえ、クルーの人達の役に立ちたかったので、ケセイヤさんにお願いしました」

「今は無理だが、フネのIP通信の技術を用いて、恒星間クラス程度の距離ならラグ無しで動き回れるヨ」

 

 そっか、ユピの本体はこのフネの中枢AIだから、その身体は筐体って事になるのか。

 しっかし良く出来てんなぁ、なんかヘルガよりも人間っぽい?

 

「彼女は戦闘機能を持たせなかった代わりに、肌の質感やその他をほぼ人間と同じに設定してある。唯一の違いは、身体を構成している物質だけだヨ」

「へぇー、成程。おお、髪の質感まで」

「ふぇ!か、かんちょ~」

 

 すげぇと思わず好奇心で、べたべたと髪の毛を触りまくった俺。

 本当に人間の髪と全然大差ないくらいで、むしろこっちの方がやわらかいくらいだ。

だが、しばらく触っていたら、ユピが何か妙な声を上げて、若干涙目でこちらを見て来た。

 

「あ、一応言っておくが、その身体が感じた感覚はAIも感じることが出来るらしいヨ」

「って、そう言う事は速く言ってくださいッス!ごめんユピ!どこか痛かったッスか!?」

 

 教授に言われてハッとなり、慌てて髪の毛から手を放した。

 そうだよ何してんのん俺。ユピは女の子になったんだから、失礼なことしたらアカンやん。

 ココは紳士モード発動だ。俺はフェミニスト。女性には優しく!

 

「・・・ふぇ?あ、いや、そのぅ」

「ゴメンな?ついつい珍しかったから触ってたッスけど、ユピは女の子だったみたいッスからね。べたべた髪の毛を弄られるのは嫌だったッスよね?ホントにゴメンッス」

「え!?嫌、全然いやじゃなくて!?始めての感覚に戸惑っだけといいましょうか!?」

 

 何故か突然取り乱した様に、両手をふって慌てているユピ。

 なんでそんな反応?相変わらず女の子の事は良く解らん。

 でも最初は女性人格じゃなかったよな?―――ミドリさんに任せたからかな?

 

「ちょっ!もちつけ、もとい落ちつけッス」

「ユピはええ~っと!?ふ、ふえ~ん」

「な、鳴かないで欲しいッスーー!!俺に出来る事なら何でもするッスからー!!」

「な、なんでも?はわわわわ・・・」

「あわわ、余計に顔が紅く!?今度は起こらせちまったスかー!!」

「きゃ、ち、違うんですが!そのう・・・ふぇ~ん!」

「いやー!泣かないでッス~~!!!」

 

 まったく、流石はケセイヤさんが作った筐体だ。

 そん所そこいらの擬体なんかがおもちゃに見えそうなくらい、表情が豊かだぜ。

 お陰でこっちは、ユピの泣き顔を見てテンヤワンヤしてるんだけどさ!!

 

「かおすじゃなー、と。ヘルガはどうすればいいんじゃー、と」

「とりあえず、艦長は鈍感なようだネ。しばらく見ていた方が面白いヨ」

「同感じゃー、と。ヘルガは思ったじゃよー、と」

「しばらくは止まりそうもないし、すわってみようかネ。なにか呑むかネ?」

「別に呑む必要は無いけど、この身体は飲食出来るみたいだし挑戦してみよかのー、と」

 

 絶賛混乱中の俺らを放置して、すわって観戦している教授達ご老体共。

 ド畜生。年齢積んでんなら助けやがれコンチキショー!!

 

 

***

 

 

 さて、なんじゃかんじゃでまたもや仲間が増えた我が白鯨艦隊。

 ヘルガもユピも、クル-の皆には好意的に受け入れられた。

 方やスタイル抜群のややじい様言葉を使う美女、方や我らがフネのAI様。

 当然その手の女性に皆さんハートを撃ち抜かれて、何時の間にかヘルガにはFCも登場。

・・・・まぁオタクも多いんスよウチのフネ。

 

 ちなみにユピも艦内を自由に回れるフリーの所属と言う事にしておいた。

 一応便宜上の処置である。AIだから何をさせれば良いのか解らなかったというのもある。

 

でもヘルガと違い、何故か俺の行く先に付いて行きたがるのはなんでなんだろうか?

 その事をトスカ姐さんに相談したら、何故か小突かれたし・・・本当わからん。

 

 まぁとりあえずその話は置いておこう。

 俺達は現在、ムーレアへの航路を封鎖中の宙域保安局がある惑星へと向かっていた。

 ステルスモードで旅は順調、稀に勘のいい海賊に見つかるが、そいつらは美味しく頂いた。

それ以外ホント何も起きない旅に、そろそろ昼飯にしてねぇなぁとか考えていた時だった。

 

「艦長~、前方の宙域が、なんか戦闘中みたいよ~」

「戦闘中?」

 

 はて、こんな宙域で戦闘だと?コンソールを操作して映像を出せば、あらま。

 確かに海賊船艦隊とどこぞの艦隊が戦闘中である。

 俺のとなりにある副長席から身を乗り出したトスカ姐さんが、映像を覗きこんだ。

 ちょっと良い匂いがするので、俺としてはドキドキだ、顔には出さないのが俺クオリティ。

 

「ありゃカルバライヤの宙域保安局のフネだ。相手は・・・グアッシュ海賊団だね」

「でもありゃ多勢に無勢ッスね。海賊の方が数が多い」

「まぁここいらでサマラと数の多さだけで並ぶ海賊団だしねぇ」

 

 どうやら敵さんは3~4隻規模の艦隊が、複数協力しているようだ。

 全部で2~3隻の宙域保安局の艦隊だと、数が違い過ぎる。

 しっかし何でこんな所で戦闘何ぞしてるんだ?

 

「艦長、海賊と保安局のフネ以外の反応があります」

「なんだって?本当スかミドリさん?ユピ」

「了解、メインスクリーンに投影します」

 

 俺の背後に控えていたユピが、システムにアクセスして映像をメインスクリーンに出す。

 そこには一隻の民間船が海賊に接舷しようと、接近されかけている姿が映し出されていた。

ああ、成程。

 

「成程、海賊たちがお仕事中だったワケッスね」

「民間客船を襲っている真っ最中ってわけか・・・どうするユーリ?」

「とりあえず、助けてやろうとは思うッス」

「じゃ、どっちを攻撃するんだい?」

 

 今の所選択肢は2つ、海賊主力艦隊か民間船に迫る艦隊を叩くかだ。

 う~ん、どうせ民間船を護衛しても、主力がいる限り襲われるだろうし・・・。

 

「主力艦隊を攻撃しましょう。民間船は宙域保安局に任せればおk」

「了解だ。総員第一級戦闘配備!敵を全滅させるよ!!」

「「「アイアイサー!」」」

 

 トスカ姐さんから指示が飛び、あわただしくなるブリッジ内。

 艦内には戦闘を知らせるアラームが鳴り響き、各戦闘部署に人員が行き、機会に火が灯る。

 我らが白鯨艦隊はステルスモードを解き、その宙域へと姿を現した。

 

「本艦隊のステルスモード解除完了。ジェネレーターに出力、戦闘臨界まであと5秒」

「デフレクターを起動させる。ミューズ、準備はいいか?」

「ええ・・問題無いわ」

「さぁて、柄にも無いセイギノミカタを、一丁やってみますかね!」

 

 そして白鯨艦隊も戦闘に参加する。突如現れた大規模艦隊に驚く海賊と宙域保安局。

 俺達の標的が海賊船であると解ると、保安局のフネは安心したように戦いを続行し、海賊船には動揺が広がって行った。

 そして、特に苦労することなく、海賊艦隊を殲滅する事に成功したのだった。

 

「うし、主力艦はあれで最後ッスね」

「全敵の殲滅を確認・・・利用できそうなジャンクも無さそうです艦長」

「まぁ粉みじんッスからねぇ~」

 

 数十隻規模の艦隊の砲撃を浴びたのだ。海賊船なんぞひとたまりも無い。

 今回は“艦橋だけ狙え”とか“武装のみ破壊”の指示は無しだったからな。

 ストールが頑張っちゃったんだろうさ。

 

「艦長、宙域保安局のフネより、通信が入っています。どうします?」

「・・・・それじゃスクリーンに投影してくれッス、ミドリさん。一応挨拶しとかねぇとね」

 

 一応こちらが助けた形になる訳だが、ちゃんと正体をあかしとかないと海賊に間違われたら厄介だからな。

 

「了解、通信つなぎます」

『こちらカルバライヤ宙域保安局員、ウィンネル・デア・ディン三等宙尉だ。貴艦の協力に感謝する』

「ってアンタは!?」

『君たちは、もしかしてドゥボルグの酒場で出会った』

『おう?アン時の血の気の多い少年たちじゃないか?なんと少年に助けられるとは』

 

 通信に写っていたのは、ドゥボルグのジゼルマイト鉱山でクル-総出でアルバイトしていた時に、偶々酒場で乱闘騒ぎがあって、多勢に無勢だった行商人を助けようと、乱闘騒ぎに飛びこんだ後、仲裁にきた宙域保安局に所属していた二人だ。

 

 知的な感じのするウィンネルさんと、ちょっと野性味感じるイイ男のバリオさん。

 その二人が通信に写っている。なんとまぁ奇妙なところで会うもんだ。

 

『バリオ、話しが進まないから、ちょっと引っ込んでてくれ』

『え、あ!ちょっと!≪ブツン≫』

『こほん、ええと失礼した。さて放しの続きだが―――』

「こちらは白鯨艦隊です。後何かほかに手伝う事はまだ有りますか?」

 

 そう言うと彼は驚きの顔をするウィンネルさん。

 そりゃあな。俺みたいなのが白鯨艦隊の頭やってる訳だし驚くわな。

 

『≪ブン≫へぇ、お前らがあの白鯨の・・・信じらんねぇな』

 

 何故か通信を切られた筈のバリオという人も、また回線をつないできた。

 どうやら会話に参加したご様子なので、思わず苦笑してしまった。

 ウィンネルは相方の行動に溜息をつきながらも、返信をしてきた。

 

『もう大丈夫だ。とりあえず客船の被害状況の確認だけするが、改めて君達には礼が言いたい。良かったら、後ほどブラッサムの宙域保安局を訪ねてくれ』

「了解しました。通信終わり」

 

 何と丁度良い。俺達の行く星は丁度その宙域保安局がある星じゃないか。

 しかもお礼をくれると言う。是非貰いに行かなくてはなる巻いて。

 

「よし!宙域保安局へと入る為の、理由が出来たッス」

「お礼をくれるなんてねぇ。結構太っ腹なところもあるもんだ。・・・でもマタ厄介事に巻き込まれそうだねぇ」

「ガク・・・うう、考えたくない事をいわないでくらはいよ」

「あ、ごみん」

 

 はぁ、確かに俺達結構厄介事に巻き込まれるタイプだよなぁ。

 でもまぁ、余程の事が無い限り死にはしないだろう。そうなる前に逃げるし。

 とりあえず―――

 

「惑星ブラッサムへと針路変更ッス」

「「「アイサー」」」

 

 貰えるもんは貰いに行きますかねぇ。

 

 

***

 

 

「艦長、惑星ブラッサムに到着しました」

「うす、報告ご苦労さんッス。ミドリさん」

「宙域保安局か・・・また政府組織にいくのかい?」

「そうしないと、教授の行きたい星に行けないッスからね」

 

 まぁ、封鎖宙域通してもらえるかは別だけど、お礼を貰えるのだし保安局には入れる。

 そう言う訳で、俺達は惑星ブラッサムへと足を向けたのだ。

 最悪通行許可は下りなくても、海賊退治に協力したいと申し出たなら悪い様にはされない筈。

 

「ユピはどうするッス?今回は惑星に「一緒に行きたいです!」――そかそか」

「ユピも来るのかい?それじゃ酒場に連れて行って歓迎会をしなきゃなぁ。是非しよう」

「歓迎会ッスか?良いッスねぇ」

 

 歓迎会か。一応フネの中で、合同でやった事は何度かあるな。

 今回はユピとヘルガが加わった訳だし、ちょうど惑星に降りる訳だしな。

 丁度良いかも知れないッス。

 

「それじゃ酒場の一室を貸し切りにするかねぇ。ユピ!」

「は、はい!」

「予約取っといてくれる?」

「わかりましたー!」

 

 そして俺は昭和のコントバリに、イスからずり落ちた。

 おいおい、歓迎会の主賓が予約する歓迎会って何さ?

 

「さぁて、楽しくなりそうだね」

「・・・・酒場行く前に、仕事済ませてからッスよ?」

「わかってるさ!・・・ふふ、お酒お酒」

「トスカさん、よだれよだれ」

 

 タダ酒となると、途端元気になるんだから。しょうがないなぁトスカ姐さんは。

 

 トスカ姐さんの嬉しそうな様子に苦笑しつつも、接舷準備を進める俺たちだった。

 

………………………………

 

…………………………

 

……………………

 

―――惑星ブラッサム・宙域保安局門前―――

 

 

 さてさて、教授やユピやその他大勢を引き連れて、やってまいりました宙域保安局。この宙域を取り締まる警察兼軍みたいな組織である。門前に着いたのは良いが、目つきの鋭いいかにも軍人って感じの怖いオジさん達が、目を光らせて見張っていらっしゃるので、俺はちょい及び腰。

 

「――って誰か口論してるッスね」

「あいつは、あのバリオとかいう軍人じゃないか?」

 

 ふと見れば、門前で口論中の人がいる。

 片方はついこの間見かけたばかりのバリオさんであった。

 

「いいじゃねぇか。もうそんなこたぁ言ってられない状況だろうが!」

「海賊退治はお前たちの領分だろう。我々が勝手に手を出す訳にはいかん!」

「だ~か~ら~!ちょっと回してくれりゃいいんだって。良いじゃねぇか減るもんじゃなしに」

「減るんだよ!確実に!戦力が!・・・たく、もうお前とは話してられん。もう行くぞ」

「けっ、だからバハロスの連中はいやなんだ。勝手にしやがれ!コンチクショー!」

 

 そういってプリプリ怒りながら、建物へともどって行くバリオさん。

 なんだったんだろうかねぇ?今の口論は?

 

「なんだってんでしょ~ね?」

「さ~てね。色々あるんだよ、色々」

「片方の方はバハロスの防衛軍の人でしょうか?」

「それこそこっちが考えても仕方ない事だよ、ユピ。そう言った事は迂闊に首を突っ込まないものさ」

 

 ま、なんか近々海賊狩りの作戦でもあるんだろうさ。その為の戦力が欲しいんだろう。

 グアッシュ海賊団は、本当に運かの如く大軍だったからね。戦力はいくらあっても良い。

 

「んじゃ、とりあえず入りますか?」

「そだね」

「了解で~す」

 

 俺はトスカ姐さんとユピを引き連れて、建物へと入った。

 中に入ると、受付ですぐに一室へと案内される。

 そこにはウィンネル宙尉達とその他が、俺達を待っていた。

 

「君たちか、よく来てくれた。改めてウィンネル・デア・ディンだ」

「バリオ・ジル・バリオ、ヨロシク」

「そして我々の上司の―――」

 

 彼がそう言って顔を向けた先には、深い皺を眉間に寄せた生粋の軍人っぽい人間がたっていた。その人物はウィンネルさんの視線を感じたのか、顔を上げてこちらに意識を向ける。

 どうやら何か案件を抱えていたようだな。随分と疲労の色が出ているようだ。

 

「シーバット・イグ・ノーズニ等宙佐だ。部下への協力に、私からも感謝する」

「いいえ、偶々通りかかっただけですよ」

「だからこそだ。今時海賊に立ち向かう連中はめっきり減った。君達のように通りすがりに助けてくれる人間なんて、殆どいない」

「はは、改かぶり過ぎですよ」

 

 まぁこっちはなんとなく助けただけだしなぁ。

 実を言うと最近戦闘して無かったからストールのストレスがマッハでピンチだったのもある。

 お陰でヤツのストレス発散の所為で、海賊船が木端微塵。ジャンクが殆ど取れなかったんだわさ。

 

「――まぁソレはさて置き、実はお願いがあるのですが」

「ほう何だね?」

 

 とりあえず本題を切りだそうとしたところ、俺よりも先に後ろから声が上がる。

 

「ムーレアへの通行を許可して欲しいんだヨ。わしの研究のためにナ」

「ん・・・ジェロウ・ガン教授!?」

 

 教授が他の人間を押しのけて、前へとやってきた。

 長年研究者をしている彼からは、研究者としての探究心が抑えきれんとばかりの表情である。

 

「まさか、貴方も彼らのフネに?」

「うむ、わしの研究に協力してくれるそうなんでネ。他にも色々と面白いのだヨ。彼らは」

「な、成程」

 

 やはり教授はその筋では有名なのだろう。シーバット宙佐は驚きで目を見開いていた。

 普段はケセイヤさん達マッド衆と、怪しい研究に精を出していると言う爺さんなのにな。

 

「しかし、ムーレアの周辺には“くもの巣”と呼ばれる小惑星帯がありまして」

 

 宙佐がいうには、そのくもの巣と呼ばれる場所が、グアッシュ海賊団の根城何だそうな。

 何度か排除しようとしたモノの、相手の方が勢力が大きく、駆除しきれない。

 現状では人手不足なのがたたり、宙域を封鎖するので精いっぱいだったのだ。

 

 故に被害を出さない為にも、その宙域の航行は認められないと拒否された。

 こちらとしては、その宙域の先にムーレアの航路があるのだから、どちらにしても引き下がれない。議論は水平線を辿るかに見えた。だが――

 

「良いじゃないですか、宙佐。丁度良いから彼らに協力を頼みましょうよ」

「彼らに?まさか例の計画にか?」

 

 え?計画?なんかやな予感。

 

「ええ、彼らの戦力は強大です。ザクロワの連中にも、ツラは割れて無いですしね」

「何言ってるんだ、バリオ。民間人をそんな事に巻き込むなんて無茶すぎる」

「しょうがねぇだろう?バハロスの連中も当てにならねぇんだ。そんなに時間も無い」

「う・・・」

 

 いや、そこで引き下がるなよウィンネルさん!って何こっち見て思案顔してるんスか!?

 そんな時折呟くように『彼らの戦力なら』とか不吉なこと言わないでください!

 すさまじく、俺の中の嫌な予感メーターがドンドンハネ上がっていくのを感じる。

すると、突然メーターが振り切りを見せた。そしてシーバット宙佐が口を開く。

 

「一つ聞きたいが・・・現在グアッシュ海賊団の戦力はバカに出来ないモノとなっている。この状況を許可したとして、君たちは自力でムーレアまで行けるのかね?」

「?元よりそのつもりですが?」

 

 何を当たり前のことを聞いてくるのだろうか?

 俺達のフネは普通のフネと違うから、そこいらのフネが護衛に来ても邪魔なだけである。

 宙佐はその答えを聞き、さらに思案顔になって皺を深くする。

 

「・・・・そうか、ならばよかろう。私から許可を出しておくよ」

「宙佐!良いんスかソレで!?」

「仕方有るまい。それに私も民間人を巻き込むのは好かんよ」

 

 ほっ、どうやら何かの計画に巻き込まれるのは阻止されたようである。

 つーか宙佐ってかなりの人格者?この世界じゃ珍しい類の人間だなオイ。

 

「ユーリ君だったかな?気をつけて行きたまえ。あとくれぐれも無茶しない様に」

「了解です。協力感謝します宙佐殿」

 

 それだけ言うと、俺たちはさっさとこの場を後にした。

 でも計画ねぇ?何なのかがちょっち気になるなぁ・・・。

 

 さてさて、とりあえずムーレアへの通行許可は貰えたので、後は休息のお時間だ。

 クルー達は思い思いに散っていき・・・何故か酒場に集まっていた。

みんなユピとヘルガの歓迎会をしたいんだそうな。

 

まぁ集まれたのは、全体の六分の一にも満たない数しか無い。それでも酒場の一番大きい部屋の定員一杯の人数であり、事前に何時の間にか作られていた歓迎会への参加チケットは、艦内でも人気が高く、高額で取引されていたくらいである。

 

 またチケットを巡ってケンカが起きかけた為に、艦内レクリエーションでチケット争奪戦が勃発しており、生活班、戦闘班、整備班問わず様々な人間が参加し、残し数十枚のチケットを巡っての闘いが行われていたらしい。

 

 尚、俺がその事を知ったのは、宙域保安局を出てからであり、つまり俺達がいない、経ったの数時間の間におきた出来ごとだったのだ。まったくバカと言うか何と言うか。愛すべき素晴らしくもアホなクルー達だよホント。

 

 ちなみにケセイヤさんは最初から参加予定だった癖に、何故か争奪戦に参加しチケットを入手、それを高額で転売しようとしたため、販売元から絞められたらしい。ちなみにその歓迎会チケットの販売元はナージャ・ミユさんであり、ソレで得た利益は研究費へと回されたらしい。

ホント抜け目ねぇな。

 

 そしてここに参加している連中は、全員そのチケット争奪戦を勝ち抜いた猛者たちである。

 凄いのは、それだけの争奪戦だった癖に、男女半々の班員も均等に参加という、ある意味奇跡に近い数字となっている事だろう。どんだけお祭り好きなんだウチのクルー達は・・・。

 

 

―――そして、ユピ達を連れた俺達主要クルーも、予約した酒場へと到着した。

 

 

「おお!主賓達のご到着だぜ。部屋はこっちですぜ!さぁ行きましょう!お~い、みんな!」

 

「「「先におっ始めてま~す!」」」

 

「「「ゆっくりしていってね!」」」

 

 

 クル-の一人が俺達一行を見つけて、貸し切りにした酒場の一室へと案内してくれた。

 既に歓迎会と言う名の宴会が始まっている。みんなお祭り騒ぎは大好きだモンな。

 下手に堅っ苦しくない俺達流の歓迎会って感じだろう。

 

 一応俺が艦隊で一番偉い為、主賓席の一番近い席へと座らされ、主要クルー達もそれぞれ主賓席にほど近い場所に座っている。でも何故にチェルシーの席が俺のとなりに来てるんだ?そこにはストールが来る予定だったのに、突然席換えを希望してきた上、チェルシーを見てカタカタ震えていた。

どうしよう、なんとなく想像が付いちまった。

後で何かでねぎらっておかないと・・・。

 

 

「トーロ艦長!乾杯のおんどおねがいしま~す!」

 

「え!ったくしゃ~ねぇ~な。おいマイク貸せ!」

 

「ほいどうぞ!」

 

 

 主要メンバーも来たと言う事で、実際には既に始まっていたが、改めて乾杯の音頭を取って欲しいと、アバリスのクル-に推薦され、トーロが前に出てきた。若干恥ずかしいのか照れている。

 

 

「あ~、俺は難しいことは言わねぇ!今日は歓迎会だ!大いに騒いで新しい仲間が加わった事を祝おうじゃねぇか!!ヘルガ!ユピ!ようこそ我らが白鯨艦隊に!!カンパ~イ!!」

 

「「「「「「「「「かんぱ~~~~~~~~~いっ!!!!!!!!」」」」」」」」」

 

 

 そして大合唱の如く、部屋の中で乾杯の声が上がったのだった。

その後はみんな思い思いに呑み始め、仲間内が良いのか適度に同じ系統のグループを形成していた。俺は俺で、適当に少し飲んだ後、それぞれのグループを回る事にしたのだった。

 

 

***

 

―――マッドグループ―――

 

 

 さて、最初に来たのはサナダ、ミユ、ケセイヤのマッド三人衆+ジェロウのマッドのグループのところだ。なんとなく近かったから、先にこっちに来た。特に他意は無い。

でもどうやら何かについて話し合っているようなので、すこし聞き耳を立ててみた。

 

 

「つまりはシェキナみたいなHLとかのエネルギー系の火器だけじゃ不安だと?」

 

「そう言う事だネ。この先もしかしたらAPFSが非常に強力なフネも出るかも知れない」

 

「成程、一理あるな。ミサイルも数えるほどしか積んでいない訳だし・・・ふむ、なぁケセイヤ」

 

「なんだよサナダ?」

 

「ユピテルがアバリスにレールキャノンを搭載出来ないか?」

 

「う~ん、着けるとなれば徹底的な大改造が必要になるぜ?あと問題もあるよなミユさん?」

 

「ああ、レールガン系は距離が開くとどうしても命中率が下がってしまう。それに実体弾だから弾切れも起こるし、砲身の冷却機能がキチンと作動しないと、砲身ごと融解する事もありうる」

 

「資料で見させてもらったVBクラスの小型キャノンならともかく、戦艦用の大型キャノンだと、命中率の問題が出てくるのがネックだネ。だけど、一考する価値はあると、わしは思うヨ」

 

「ふむ、とりあえず科学班は設計をしてみよう。教授も手伝ってもらえませんか?」

 

「いいよ。わしが言いだしっぺだからネ。たまには息抜きがてら考えるのも一興だヨ」

 

「それじゃ、設計はサナダにまかせっとしてだ。ミユさん、新しく入った情報何だが――」

 

「「「「ケンケンガクガクウマウマシカシカ」」」」

 

 

 は?斥力場を?…エネルギー縮退?…相転移理論?・・・・何のことか全然解らん。

 ダメダこりゃ、素人は会話の中の入れないぞ。しばらく放置するしか無いな。

 別に学が無いわけじゃないんだが、流石に専門的過ぎて連中の会話についていけねぇよ。つか酒の席で話す内容じゃねぇ。仕方なしに、この場を後にするしか無かった。

 

 

―――生活班グループ―――

 

 さて、こちらは白鯨艦隊の屋台骨を支える生活班の人が集まっているグループ。

 さっきのマッド連中と違い、その会話の内容は、比較的ホンワカとしたのんびりとした内容のモノが多い。戦闘とは直接関係が無い部署だからかもしれないな。

 もっとも、戦闘中でも彼らは雑務を止めることが無いから、日常こそが戦場何だろうけど。

 

 

「ん~、やっぱり発泡酒系には、腸詰が合うねぇ」

 

「お姉ちゃん、おじさん臭いよ~。そんなんじゃ貰い手がいなくなるよ~?」

 

「生意気言うはこの口かい~?ほれビヨ~ンと」

 

「いらい!いらいよ~!」

 

 

 エコーさんとアコーさんが仲睦まじくしてるねぇ。

 まぁ二人は姉妹だし、一緒に居てもおかしくは無いな。

 

 

「ほら、もっと呑みなよエコー」

 

「お姉ちゃ~ん、私そんなに飲めないよー」

 

「あ゛あ゛?あたしの酒が飲めないってか?」

 

「ひーん、のみますー」

 

 

 ・・・・・どうやらアコーさんは酔い始めているらしい。ここは近づかないのがグッドだ。

巻き込まれたらどうなるか解らんからな。俺は音を立てずに、静かにその場を後にする。後ろから“もうむり~”と聞えたけど、キニシナイコトニシタ。

大丈夫、最近の薬は二日酔いに超効果ありだから、サド先生に処方してもらえばいいよ。

 

 

―――さて、この後も色んな所を回る。機関室系や整備班、砲雷班のとこも見て回った。

 

 

 それにしても、トクガワ機関長いつのまにSYOUGIなんてゲーム持ちこんだんだろう?

何時の間にかソレの対戦でトトカルチョが成立してるし・・・もっとも親の総取りみたいだったけど・・・トスカ姐さんスゲェ儲けだろうなぁ。

 

 

「か、艦長!」

 

「ん?あ~ユピッスか。どう?楽しんでるッス?」

 

 

 最近宴会で恒例となっている、イケ面連中の裸踊りを見て爆笑していると、本日の主賓の一人から声を掛けられた。どうやらそれなりに呑んでいるらしい。顔にほのかに朱がさしている。

 となり良いですかと言われ、良いと答えたので、彼女がとなりに座った。今日は彼女の歓迎会でもあるので、俺が酌をしてやると、恐縮されてしまったぜ。

 

まぁ一応この艦隊のトップだし、AIの命令優先兼のトップだもんなぁ俺。

 そんな相手からお酌されれば、そりゃ恐縮位するか。

 

 

「はいはい、いまは宴会、無礼講ッス。スマイルスマイル!」

 

「え!?は、はい!スマイルですね!に、にぱ」

 

「いやいや、笑顔作れって訳じゃないんスけど・・・まま一杯」

 

「こ、これはどうも」

 

 

 まぁ無礼講と言ったって、すぐには難しいだろうなぁ。

 ・・・・・向うで何人もの酒飲みを沈めているルーべと対決中のヘルガと違って。

 あ、そう言えば――

 

 

「どうスか?身体を持って、酒を飲んで騒ぐという体験は?面白いッスか?」

 

「はい、ソレはもう。今まで解らなかった経験が、ドンドン詰まれていきます」

 

「ふんふん、成程。それも良い勉強スね」

 

「それと、なんかお酒を飲むとフラフラするんですね。皆さんが飲みたがるのも解ります。この感覚はなかなか気持ちのいいモノがありますし」

 

 

 ・・・・・・ケセイヤさん、どんだけ凄いの作ってんだ?酒に酔えるロボなんて、それどこのドラえ○ん?それともアナ○イザー?どちらにしても相当凄いシステムだろう。酒飲んだ時の快感を機械に体験させられるとかどうなのよ?

 

 

「ま、ほどほどにッスね。飲み過ぎると、二日酔いという恐ろしい病気が待っているッス」

 

「二日酔いですか?」

 

「ユピが掛かるかは微妙ッスがね。人間だとマジでヤバい。思考が定まらなくなるッス。そして頭痛も地味に辛い。まぁ簡単に言えば仕事能力の低下ってとこッスかね」

 

「それは怖いです。気をつけます」

 

「それに、フネが二日酔いとか洒落になんねっスからね」

 

「くすくす、なんですか?それ」

 

 

 ユピは笑っているが、俺としては冗談じゃない話だ。

 艦長の判断能力の低下、それ程恐ろしいもんはない。

 だから俺なんて絶対に二日酔いになるまで呑まない。

 ・・・・お陰でちょいと詰らないのだが、まぁ致し方なし。

 

 

「それじゃ、新しい仲間に」

 

「乾杯」

 

≪カチン≫

 

 

 グラスを傾け、新たな仲間を祝して乾杯したのであった。

 

 

「あ、あそこで二人だけで飲んでるんじゃよー、と」

 

「「「「「何だと!?」」」」」

 

「行くぞお前らじゃよー、と!」

 

「「「「「おうよ!!」」」」」

 

≪どどどどどどどどどどどどどどど!!!≫

 

「ちょっ!お前らくんな!やめい!」

 

「そ、そのてにもったジョッキはなんですかー!!!」

 

 

ブリッジクルーは元より、その他のグループからも沢山人が押し寄せる。

 その姿に遠慮は見えない。絆によってつながれた家族であり仲間。ソレが俺達だ。

 だけど―――

 

 

「「「「もっと呑めや艦長―――!!」」」」

 

「もうむりじゃーーーーー!!!」

 

 

―――無理やり酒を飲ますのは勘弁して欲しいぜい!

 

 

***

 

 

「あ゛ぁぁぁぁ・・・あたまイテェ」

 

「調子にのってのみ過ぎだよユーリ。ホレ薬」

 

「いや、のまされたって感じなんスが・・・あんがとっス」

 

 

 さて、歓迎会が終わった後日、俺達はガゼオン経由の航路へと戻り、一路ムーレアを目指してブラッサムを後にしていた。若干頭が痛いが、二日酔いの薬のお陰ですぐに収まることだろう。

 そして、航路を進み、現在宙域封鎖が為されていた航路を進んでいるのである。

 

 

「艦長、宙域封鎖地点に到達しました」

 

「さて、あの宙佐が約束を守るのか見物だね」

 

「守るんじゃないッスか?じゃなかったら、強行突破するだけッスけど・・・」

 

「・・・・まだ酒が抜けて無いね。政府連中と争うと後が面倒だよ?」

 

「解ってるッス。う~ん、速いとこアルコール抜けて欲しい」

 

 

 ちなみにユピはあんまり影響は出ていない。

やっぱ機械だけあって薬物耐性は高いちゅうかなんて言うか・・・。

 どちらにしても特に問題無く、俺の後ろに控えております。

 

 

「宙域保安局のフネから入電“ハナシハ キイテイル ソノママ トオラレタシ”以上です」

 

「通信じゃなくて電文ねぇ?以前の警告は通信だった癖に、古風と言うかなんて言うか」

 

「まぁ様式美みたいなもんでしょうけど、とりあえずお言葉に甘えるッスね」

 

「前衛艦隊、封鎖宙域を通過します」

 

 

 宙域保安局の艦隊が上下に移動し、道を開けて貰えたので、我が白鯨艦隊はそのまま通過する。

 ふむ、規模的には数十隻程度の艦隊か・・・しっかし考えてみると、これだけ数があっても、海賊の流出を防ぎきれていないってワケ何だよな。少しは警戒した方が良いかもしれないな。

 

 

「総員、半舷休息を取りつつも、コンディションイエローを発令。警戒を怠らないようにするッス!」

 

「「「アイアイサー」」」

 

 

 ココからは、普段のカルバライヤ航路よりも敵が出るだろう。

 俺は警戒を厳にすることを指示し、そのまま艦を進ませたのだった。

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第二十二章+第二十三章+第二十四章

 

「艦長、早期警戒RVF-0が救助信号を探知しました。現在艦種特定中」

 

「救助信号?海賊のテリトリーの中なのに?」

 

「艦種特定、カルバライヤのククル級です。発信源は針路上ですが・・・いかがしましょう?」

 

 

 ふ~む、ククル級か、確かカルバライヤでは要人送迎にも使われる豪華客船だったか?装甲が厚いから、海賊に襲われにくいと聞いたことがあるけど、流石にグアッシュ海賊団みたいに集団で来たら為す術も無かったようだ。

 

しかし、海賊のテリトリーに入って一日。運良くもまだ海賊には見つかっていないが、罠の可能性もある・・・だが、もしかしたらどこぞの航路から流されてきた可能性も捨てがたい。

 一応航路とは言うが、支流みたいな航路も幾つか存在しているからな。

 

 

「一応、警戒しつつ前衛のK級を救援に向かわせるッス。ルーインさん」

 

『なんだ艦長?』

 

「もしかしたら船外作業になるかも知れないんで・・・」

 

『あいよ。K級に移動しとくぜ』

 

「お願いするッス。トーロ」

 

 

 EVA班長のルーインさんに通信をつないだ後、アバリスのトーロにも連絡を入れる。

 アバリスには威力は普通だが射程が長いリフレクションカノンが搭載されているからな。

 いざとなったら、早期警戒機とのリンクで、レンジ外からの砲撃を敢行するのだ。

 

 

『なんだ?』

 

「リフレクションカノンを、何時でも使える様に準備しておいてほしいッス」

 

『おいおい、警戒のしすぎじゃねぇか?K級だけでも逃げるだけなら大丈夫だろう?』

 

「最悪の事態に備えて置くのも、艦長の仕事ッスよ。頼めるッスか?」

 

『・・・最悪の事態、ね。了解、準備しとく』

 

 

 さて、蛇が出るかそれともって感じか。いずれにしても針路上に居る訳だから、接触しない訳にもいかないからな。艦隊の位置表示をしてある空間ウィンドウを見ると、前衛K級艦を表すグリッドが、もうすぐ救助信号を発しているフネに接舷するところだった。

 

 外部モニターを見ると、信号を発していたフネは、やはり戦闘によって大破させられたらしく、外面は殆どがボロボロになるくらいに破損していた。推進機の損傷が激しいことから、まずはそこを狙い撃ちにされて、航行を停止してしまったのだろう。感じからすると既に略奪が終わった後のように見える。しかしトラップだと言う訳でも無いみたいだし・・・。

 

 

「エコーさん、周辺に反応は?」

 

「今の所~、3次元レーダーにもー、空間ソナーにもー、全く反応が無いわ~」

 

「やはり自力でココまで来たのか?だとしたら、なんて言う幸運なフネだろうねぇ」

 

 

 穴開きチーズにされた状態で、よく信号を出せたモンだと感心しちまう。

 さて、少しして中にはいったルーインから連絡が届いた。曰く生存者がいたとの事。

 死体かと思ったら、動いたらしく若いEVAの一人が漏らしかけたとかなんとか。

 

長いこと無重力空間に放置されていたらしく、現在衰弱しているので、医務室預かりとなっているらしい。あれま、本当に生存者がいたよ。偶然だが、通りかかってよかったなぁオイ。

そのまま放置されてたら、窒息か被ばくかもしくはデブリの衝突か、いずれにしても良い死に方はしなかっただろうさ。

 

 

「――さて、少し時間を取られたけど、くもの巣まで後どれくらいっスかね?」

 

「宙域保安局の情報が正しければ、航路に乗って行ってあと1日もしない距離だそうだ」

 

「・・・・ステルス偵察機を出して置いた方が、良いかも知れないッスね」

 

「まずは情報ってかい?何だか女々しいねぇ」

 

 

 女々しくて結構、エルメッツァでは周辺地域や軍の情報が豊富だったからよかったが、今回は保安局も状況を把握し切れていないのだ。特に相手の戦力に対する情報が圧倒的に足りない。何さ?巡洋艦多数って、調べるんならちゃんと調べておいて欲しい。

 

こんな色々と情報も足りないのに、敵の本拠地に突っ込むのはアホのする事だ。そうそう俺の艦隊が負ける事は無いかと思うが、出来れば損害なしで済む事に越したことは無い。

 

 

「ケセイヤさんに通信を繋いでくれッス。それとトランプ隊にも」

 

「アイサー艦長」

 

 

 とりあえずケセイヤさんに頼んで、ステルス強化型RVF-0を出してもらう事にした。乗るのはトランプ隊の中から、ププロネンさんが選んだ人員。無人機にしたいところだけど、ステルス機という隠密偵察を行う以上、無線誘導では気付かれる恐れがあるからだ。

 

 

「ステルス偵察機、発艦します」

 

「出来れば良い報告を・・・・出来ればね」

 

 

 偵察機が帰ってくるまで、半舷休息の令をだし、そのまま各自休息へと入ったのだった。

 

 

…………………………

 

……………………

 

………………

 

 

―――32時間後―――

 

 ようやく偵察に出した機体が、艦隊の元に帰還した。ステルスのお陰で気がつかれることなく任務を達成できたことに安堵したが、偵察機が持ち帰った情報には素直には喜ぶ事が出来なかった。

 戦況把握用の大型パネルスクリーンがあるCICにて、俺達は敵さんの分析を行っていた。

 

 

「ふ~む、この画像を見る限り、巡洋艦クラスのバクゥ級が40隻、駆逐艦クラスのタタワ級が100隻以上、おまけに幹部用なのかは知らないが、通常と異なる艦が数十隻。まさに要塞ッスね」

 

「解析の結果なのだが、殆どの艦がカスタマイズを施されたアッパーバージョンの相当する事が判明した。さらに、これを見て欲しい」

 

 

 解析を行ってくれたサナダさんが、コンソールを操作して別の画像をパネルに映した。

 そこには先程映し出されていた、今まで見たことが無い艦が映し出されていた。

 

 

「解析の結果、このフネはカルバライヤ軍で使用されている巡洋艦の、バゥズ級と言う事が判明した。問題はこのフネに装備されている武装なのだが」

 

 

 彼はそう言うと、コンソールを操作して画像をアップにした。

 恐らくは兵装部分だと思われるのだが・・・。

 

 

「?――これがどうかしたのかいサナダ?」

 

「ちょっと解りずらいだろうが、対艦ミサイル発射管をよく見て欲しい」

 

「・・・・あー成程。コイツはまた」

 

 

 アップされた画像には、ちょっとこのフネの大きさには不釣り合いな程の大きな穴。

 ソレが片方に3門、恐らく両舷合わせて6門の発射口が見える。

 

 

「恐らくだが、このフネがくもの巣を守る守備隊の旗艦に相当するフネだと思われる。それと兵装には本来の兵装では無い大型ミサイルを、無理やりに差し込んだのだと思われる痕跡が見られた。弾頭にもよるが、例え通常弾であっても相手の勢力から考えると、すこしバカに出来ん兵装だろう」

 

「デフレクターじゃ防ぎきれそうもないッスね」

 

「ユピテルは平気だろう。元々が耐久力も防御力も高い戦艦だから4~5発程度直撃しても沈むことは有り得ない。問題はユピテルに追随する駆逐艦群だ。もしも艦隊を分散して戦った場合、此方の勝率は3割を切る程になる」

 

「確かにあのミサイルは、駆逐艦搭載のデフレクター程度じゃ防ぎきれそうもないッスね」

 

 

 ガラーナK級にはデフレクター同調展開という機能があるが、あれを使用すると著しく機動性が低下するという弱点がある。一応巡洋艦クラスの場合、10隻全部で同調展開すれば自身の3倍の戦力相手でも、持ちこたえることが出来る計算になる。

 

だが、大型のミサイルが搭載されたあの巡洋艦相手だと、一時的には防げる事だろうが、その前にデフレクターシステムが不可に耐えきれなくなって、最終的にはオーバーロードを起して自壊して爆散する可能性が高い。

 

ユピテルやその他の艦も加わっての同調展開でも、恐らく敵さんの勢力から考えると、負けはしないが相当の被害を覚悟しなければならない事だろう。艦載機を用いても、相当数が撃破される恐れもある。

 

 もしも、もしもだがあの大型ミサイルの弾頭が、反陽子魚雷とかの様な高威力弾頭だった場合、俺達だけでも防ぎ切れるかどうか・・・。

 

 

「せめて、戦力的にはもう一隻戦艦クラスのフネが無いと、現状では厳しいだろう。ソレが科学班が出した解析の結論だ」

 

「うす、解析ありがとっス」

 

 

 さーてさて、困ったぞ。原作だと問題無しに突っ込んでいったが、これは少しばかり厄介だ。

 まさか敵さんがあんな無茶な改造を、自分たちのフネに施しているなんてな。デフレクターは確かに実体弾の防御に効果的だが、無敵という訳では無い。

 

もしも、少し前に何も考えずこのまま突っ込んでいたら、あの大型ミサイルをフネが剣山になるくらいに撃ちこまれていた所だったろう。しかし、このまま進まない訳にも行かないし・・・。

 だけど、今回ばかりは引くしかなさそうだな。戦力が足りないのに突っ込むのは得策じゃない。

 

 

「仕方ないッス。今回は一度引くッスよ。幾らなんでも敵さんに規模が、エルメッツァとも違い過ぎるッス」

 

「数十隻くらいだったら、無傷で撃破してやるんだがなぁ」

 

「1000隻・・・はいかねぇだろうけど、あの分じゃ数百隻は行ってそうだしな」

 

 

 ストール達の呟きを聞きつつも、俺は状況把握の為に来てもらっていた教授へと頭を下げた。

 

 

「ジェロウ教授、悪いんスが、もう少しムーレア行きは我慢して欲しいッス」

 

「仕方ないネ。幾ら研究がしたくても、死んでしまっては意味が無いヨ。なに、まだ時間はあるから、なにか別の方法を考えることとしよう」

 

「・・・・貴方が合理的に、物事を考える方でよかったッス」

 

「なに、わしとて人間。研究が終わる前に死にたくも無いしネ」

 

 

 この場での結論としては、とりあえず海賊に見つかる前に一旦下がり、今後どうするか考えると言う事にまとまった。各員解散と言う事で、反転の指示を出そうとしていた所―――

 

 

「――ん?艦長、医務室から連絡です。リアさんが話したいとの事です」

 

「リアさん?誰ッスか?」

 

「艦内時間で34時間前に、大破したククル級から救助されて医務室に収容された人です」

 

 

 ユピから医務室にいたリアと言う人が、俺と話したいと言う事を伝えられた。

 はて?なにか御用なんだろうか?フネの待遇に気にいらないとか?

 いや、ソレは無いか・・・。

 

 

「なんだろう?俺に何か様なんスかね?・・・ま、いいや。ユピ、通信開いてくれッス」

 

「アイサー、医務室とつなぎます」

 

 

 ユピがフッと目をつぶり、フネのシステムにアクセスする。

 そして空間パネルを俺の前に展開し、医務室と中継してくれた。

 ユピはフネと直結した電子知性妖精だから、こんなことが出来るんだよな。

 

 

「あなたが艦長のユーリさん?私はリア・サーチェス。まずは助けてくれた事に感謝を」

 

「ああ、いんや。偶然発見出来ただけッスよ」

 

 

 通信パネルに映し出された黄色い髪留めをつけた女性は、俺にまずは感謝の言葉を述べた。

 まぁ、そのまま放置されてたら、当然確実に死んでいたのだから、そう言うのも解らんでも無い。

 

 

「でも、何であんな危険な所を航海していたんですか?」

 

「・・・実はその件で、艦長に相談したい事があるのですが、今度話しを聞いてもらえるかしら?」

 

「ん?ああ、良いッスよ別に(話を聞くだけならね)」

 

 

 なんとなーく嫌な予感がしなくもないのだが、まぁ軍とかのアレに比べたら軽いモンだ。

 その後一言二言話をした結果、彼女もクルーとして迎え入れる事になった。元々輸送船に乗っていたらしいので、航海経験は豊富なんだそうだ。すぐにでも実働要員として使えるクルーとはありがたい。

 

でも・・・また歓迎会やるのか。今度は酔っぱらい共に捕まらんようにしなくてはなるまい。ついこの間も酔いつぶされる一歩手前だったからな。この時代に良い薬があってホントよかったと感じた瞬間だった。

 

 

 

 

――惑星ガゼオン――

 

 さて、航路上最も近い惑星のガゼオンに一度戻り、補給がてら停泊した白鯨艦隊。序でに以前予約されたリアさんの話を聞く為に酒場に行く事になった。どうにもこの世界では、相談事は酒場で行う的な風潮があるよな。まぁ、別に困らんから良いけどさ。

 

 

「で、話ってな何スか?」

 

「実は人を探しているんです」

 

 

 とりあえず長くなったので要訳すると、彼女は行方不明になった恋人を探して、あんな所にまで行っていたらしい。その人物はそれなりに優秀な、射撃管制システムの開発者だったらしく、監獄惑星ザクロウの自動迎撃装置、オールト・インターセプト・システムを完成させた後、行方不明になってしまったのだそうだ。

 

 尚、ココまでかなり簡素化して書いているが、実際はこの話に行きつくまでに3倍近い長さのノロケ話を聞かされているので、正直ぐったりである。つまり彼女は恋人探しの為に、俺のフネに乗っているらしい。ちなみに配属先はトーロのアバリスね。

 

 

「ま、カルバライヤに居るって言うなら、案外すぐに見つかるんじゃないッスか?」

 

「だと良いんだけど・・・」

 

 

 まぁ、恋人が見つからんのは不安な事だろうさ。

 航海経験はあると言っていただけあり、仕事ぶりにも何の問題も無いしね。

 ウチとしては人手不足でちょうど良かったから、正規クルーとして登録した。

 

 さてさて、とりあえずこの後は・・・・本当は嫌だけど宙域保安局にもう一度赴くかねぇ。

 どうやら嫌な予感が当たってしまった。絶対厄介事に巻き込まれると言うそう言うの。

 まぁ、俺達の艦隊と宙域保安局の戦力があれば、なんとかくもの巣くらい壊滅出来るかな?

 

 

 

―――惑星ブラッサム・宙域保安局―――

 

 さて、再度宙域保安局を訪れた俺は、またまたシーバット宙佐と対面していた。

 彼の横にはやはりといった顔のウィンネル宙尉と、ニヤニヤしているバリオ宙尉が立っていた。

 ・・・・そりゃ失敗したけどバリオさん?ニヤニヤ笑うなよ。なんかイラッてきたぞ?

 

 

「どうだったかね?自力でムーレアまで行けそうか」

 

「一応偵察して来たんですが、あれは無いですね。あれだけの勢力になるまでどうして放置されてたんだか」

 

「偵察して、帰って来れたのか・・・我々の偵察隊は殆ど帰還出来なかったというのに」

 

「運が良かっただけですよ。もっとも、こちらも交戦はしていません。」

 

 

 どうやら偵察を出したのに、気付かれずに帰って来れた事に驚かれたらしい。

 まぁ艦隊は常にステルスモードは展開していたし、偵察にしてもトランプ隊の中でも腕の立つ人間にやってもらったのだ。性格はともかく腕は一流という、某華の戦艦の様な気風がここで役立った訳である。

 

 

「しかし、アレだけの戦力をよく放置しておきましたね」

 

「ソレを言われると耳が痛い。だが、見て来た君達には、アレの危険性が理解出来たことだろう」

 

「ええ、そりゃもう。戦ったらギリギリ勝てる程度で、此方の損害がバカにならないですよ」

 

「・・・・ギリギリ勝てるのか」

 

 

 あり?何か宙佐が落ち込んでいる?なんで?

 なんか落ち込むような事、俺言ったか?

 

 

「ま、まぁ、俺達の艦隊だけでは不安でしたね」

 

「・・・そうか、ならば我々の計画に協力してくれないだろうか?かなり荒療治になるだろうが、グアッシュの連中に対抗するには、この計画しかないのだ」

 

「良いですよ。どうせ海賊をなんとかしないと、ここでの航海が安全じゃないッスから。ムーレアにも行かなければならないですしね」

 

「うむ、では詳しくはバリオ宙尉から聞いてくれたまえ。打ち合わせの場所はそうだな――」

 

「一杯ひっかけながらでいいでしょ。この建物内で出来る話でもなし」

 

「む、ソレもそうか」

 

 

 宙佐がどこにしようかと、一瞬考える仕草を取ると、背後に控えていたバリオさんが前に出て提案をしてきた。そしてやはりこの世界では、相談事は酒場でという公式が成り立つことが実証された訳だな。

 

 

「こちらもソレで良いですよ?場所は軌道エレベーターにある0Gの所で良いですか?」

 

「ああ、そこなら人が絶えることは無いから、相談事にはうってつけだ。じゃ、俺たちゃ一足先にやってます。・・・ウィンネル、行こうぜ」

 

「あ、ああ」

 

 

 彼らはそう言うと、此方に軽く手を振りながら室内から出てしまった。

 それにしても計画か・・・何をする計画だったか・・・?

 一応覚えてはいるんだが、若干こんがらがってて思いだせん。まぁなるようになるか?

 

 

「では宙佐、我々も・・・」

 

「うむ、それでは」

 

 

 そして俺達も、部屋から退室する。俺は仲間に目配せをして、そのまま酒場へと向かった。

 

 

***

 

 

「よぉ、来たな。まずは一杯ひっかけて、のんびりしろよ」

 

「うぃ~す」

 

「って、君達は未成年じゃないか!」

 

 

 酒場に着くと、さっそくバリオさんとウィンネルさんを見つけたので、彼らの元に来た俺。

 だが、ウィンネルさんが慌ててそんな事を言ったので、結局トスカ姐さん以外はのめない事になってしまった。おのれウィンネルめ・・・。

 

 

「で、呑むのはいいが、急いでるんでね。さっさと本題に入って欲しいね」

 

「おお、怖。綺麗な姉さん、んなこと言わないでさ?まずは仲良くなってからって事で――」

 

「・・・握りつぶして欲しいのかい?」

 

「「「「サーセンした!!」」」」

 

 

 トスカ姐さんがぽつりと言った言葉に、この場の男子はほぼ全員がある部分を抑えて土下座した。

 すんませんトスカ姐さん、アンタがソレ言うとマジで洒落になりませんぜ。

 だが、かなり打ち解けたので、ソレはそれでと言う事で―――

 

 さて、誰と話すか―――

 

・バリオ   ←

・ウィンネル 

 

 

・バリオ   

・ウィンネル ←

 

 

・バリオ   ←OK?

・ウィンネル 

 

――――おし、バリオさんに話しかけよう。なんとなくだ。

 俺はバリオさんから本題を聞き出す為に、彼に話しかける事にした。

 

 

「さて、本題に行きますか」

 

「ん?そだな。んじゃ本題。グアッシュ海賊団についてどれだけ知っている?」

 

「ええと、実は頭のグアッシュはとっくの昔に捕まってるとか。サマラという海賊と対立してるとか。アホみたいに戦力が沢山あるとか?」

 

「ああ、それだけ知っててくれりゃ十分」

 

 

 さて、ここで少し話がそれるが、海賊団は何故アレだけいて保安局と全面的に対立を起していないのか疑問に思う事だろう。海賊団の癖して、その戦力は地方軍規模に達しているくらいなのに、どうして宙域保安局を海賊が叩こうとしないのか?

 

 理由は簡単、おまんまが無くなってしまうからである。正確には稼ぎの事なのだが、もしも宙域保安局を潰した場合、完璧に各惑星間のフネの航行が制限されてしまう事になる。そうなれば、航路に網を張って、民間船を襲う海賊としては、おまんまの食い上げになってしまうのだ。

 

 また、宙域保安局を叩けば必ず防衛軍が動くことになる。幾ら海賊の規模がでかくても、スタンドプレーから生じる結果的な協力が主な戦法でしかない集団なので、統一されキチンとした訓練を受けている軍を相手に戦うのは分が悪すぎる事を、本能で理解しているのだ。

 

 だから海賊たちは、どちらかと言えば現状が好ましいと言える。現状ならばやり過ぎなければ、少なくても軍は動かないし、獲物である民間船の運航も止まることは無い。―――と、大分話がそれたので、そろそろ元に戻そうか?

 

 

「さて、問題は頭が捕まったにも関わらず、グアッシュ海賊団の勢いは全く衰えていないって事だ。ソレどころか最近はますます艦船数を増やしているありさまでね」

 

「たしかに、偵察してきて解ったのは、少なくても400隻近いフネがいるんスよね。しかも見えている分でソレッスから・・・」

 

「え?そんなに増えてたのか?」

 

「・・・・ほい、偵察した映像」

 

 

 俺が持っていた携帯端末、そこに偵察したくもの巣の映像を出してバリオさんに見せてやる。

 

 

「・・・・恥ずかしながら、もう我々保安局の手には負えなくなっている状況だ」

 

「ぶっちゃけましたね。ところで正規軍は動かせないんスか?」

 

「バハロスの連中はダメだ。海賊は保安局(こっち)の管轄だって話で終わっちまったよ。まぁ連中の元々の仕事は、ネージリンスとの国境防衛だからな」

 

 

 ココで一応、カルバライヤ星団連合とネージリンス星系共和国と呼ばれる二つの国について説明しておこう。

 

カルバライヤ星団連合は、いわば一攫千金を狙う労働者達が、エルメッツァ星間国家連合から独立したような、いわば独立戦争時代を終えたアメリカ的のような国である。ハングリー精神に富んだ開拓者たちが集まった様な集団で、合理性よりも情緒で動く国民的気質がある国である。

 

一方のネージリンス星系共和国は、小マゼランの人間では無く、マゼラニックストリームを越えた大マゼランにあるネージリッドと呼ばれる国家から流れて来た難民たちによって組織された国家である。

勢力的には人工はカルバライヤの3分の1程度しか無く、勢力圏も小さく資源すら持たない国だが、生来の合理性と論理性を重んじる性情を生かし、金融や技術分野に特化する事で国を成り立たせる経済国家である。

 

 この二つの国は緊張状態にあり、その元々の発端はネージリンスが難民として移住してきた宙域が、もともとはカルバライヤが開拓しようとしていた宙域であり、そこに先に移住されてしまったが為、カルバライヤ側としては肥沃な土地を奪われたと言う風に捉えた訳なのだ。

 

 第三者からしてみれば、難民であり行き場所が無かったネージリンスの民が、ギリギリの状況の中で築き上げた国家と言う事になるのだが、カルバライヤにとってはとられたと言う感情の方が根強く、また感情的に動く気質も相まって、合理性を重んじるネージリンスとは相性が悪かったのである。

 

 そう言う訳で、この二つの国は過去に戦争もしているだけあり、お互いを敵視し合う状態にある訳なのである。現在こそ戦争はしていないが、冷戦に近い緊張状態は続いており、お互いに睨みを利かす為、国境沿いに軍を配備しているのである。だからそう簡単に軍は動かせないと言う訳だ。

 

 

「そんな訳で、政府レベルの指示でも無い限り、勝手には動けないだろうさ。だから、我々としては毒を持って毒を制するしかないって結論に達した訳だ」

 

「毒をもって、毒を制す?」

 

「つまり、実に簡単な事だ。グアッシュと対立中の勢力がもう一つあるだろう?」

 

 

 グアッシュ海賊団と対立中・・・あ!

 

 

「サマラ・ク・スィーッスか!」

 

「そ。んでサマラ・ク・スィーを協力してグアッシュに対抗するって訳だ」

 

 

 成程、確かにソレは毒をもって毒を制すだ。

 しかし、これはマタ随分と危険な賭けに打って出るもんだ。

 

 

「保安局が海賊と取引すんのかい?」

 

「ソレってかなり不味いんじゃないッスか?」

 

「ああ、マズイね。ヤバ過ぎだね」

 

 

 トスカ姐さんが言った指摘に、案外すんなりと答える保安局。

 危険性は十分承知、だがそうもいっていられないと言う事か。

 

 

「だがそうも言っていられない。このままだとカルバライヤの要。このジャンクションの海運が壊滅しちまう」

 

「成程・・・話しは解ったスが、それじゃ俺達は結局何をすればいいんスか?」

 

「サマラと交渉して、協力の約束をさせて欲しい。俺達は保安局の人間だから、会おうとしても逃げられるか返り討ち。だが0Gの君達なら話を聞いてくれるかも知れないからな」

 

 

 どーん、と、何気に問題発言をサラリと言ってくれましたよこの人。

 え?なに?俺達がグアッシュと同程度の戦力を持つサマラと会って、あまつさえ仲間に引き入れろと?・・・・常識的に考えたら、すさまじく無謀すぎる。

 

 

「――引き入れる条件は?」

 

「カルバライヤにおける指名手配の停止、過去3年以前の犯罪データ2万件の消去だ」

 

「そんな条件で、名の通った海賊がウンと言うかねぇ?」

 

「うんと言ってもらうしか無いな。まさか保安局が海賊に報酬を払う訳にも行かないし、これでも最大限の譲歩なんだぜ?裏工作がメンドイの何のって・・・」

 

 

 あー、まぁ過去2万件近い犯罪データの消去なんて、すさまじく工作が面倒臭そうだよな。

 しかも裏取引だから、絶対に公には出来ない事なんだぜ?

 それをしなけりゃならんほど、追い詰められてますって証しだな・・・。

 

 

「行く行かないの問題の前に、サマラに出会う方法なんてあるんスか?」

 

「彼女は資源惑星ザザンの周辺宙域によく出るらしい。あの辺りは資源採掘船を狙って、グアッシュ海賊団の幹部クラスも活動しているからな。それを更にサマラが狙っていると言う訳だ」

 

「ピラミッド構造ってワケか・・・まるで食物連鎖ッスね」

 

「言いえて妙だな。ま、ソレ位しか情報は無いから、後は自力で頼む」

 

「はい、わかり・・・って待て待て、まだウチはやるとは言ってないッスよ?」

 

「ちぇっ!ノリでウンって行ってくれるかと思ったんだが」

 

「「「何やってんだアンタは!」」」

 

 

 ペロっと舌を出してふざけたバリオさんを、俺、トスカ姐さん、ウィンネルさんが怒突き、テーブルに撃沈した。まったく油断も隙もありゃしない。

 

 

「いつつ、軽いカルバライヤジョークなのに・・・」

 

「お前はどうしてそうやって話をややこしくしたがるかなぁ」

 

 

 なんか疲れた感じのウィンネルさんに同情しつつも、俺はこの話を受けた。

 サマラ・ク・スィーは0Gランキングの上位ランカーだ。当然実力は半端無い。

 それが戦力に加わってくれれば、グアッシュを叩くのもやりやすくなることだろう。

 それに、サマラさんとお知り合いが、ウチにはいるしね・・・。

 

 

「―――ん?何か用かいユーリ?」

 

「うんにゃ。ただ、この先大変だなぁって思って」

 

「??そうかい?まぁ、そうだろうねぇ」

 

 

 はてなマークを浮かべるトスカさんを見つつも、次の目的地はザザンかと思う俺だった

 

 

***

 

 

―――惑星ザザン周辺宙域―――

 

 

 さて、1週間かけてやって参りました資源惑星ザザンの周辺宙域。

 ここら辺で、サマラ・ク・スィーが出ると言うので、航路を進んでいると――

 

 

「艦長、哨戒機が前方で戦闘レベルのインフラトン反応を検知、交戦中の様です」

 

「戦闘・・・サマラのフネッスかね?」

 

「哨戒機からの映像を中継、モニターに映します」

 

 

 空間パネルが開き、そこに哨戒機からの映像が映し出される。

 紅黒く細長い船体をひるがえした戦艦と、黒と赤の2色の軽巡洋艦が戦っていた。

 戦艦相手に軽巡洋艦一隻で立ち向かうヤツなんて・・・・ああ、一人いたなぁ原作に。

 

 

「間違いないね。アレはサマラ・ク・スィーのエリエロンドだ。相手は大マゼラン製のフネみたいだが・・・さて、何時まで持つことかな」

 

「サマラ艦から小型の機械の射出を確認!」

 

 

 トスカ姐さんの話を聞いていたが、ミドリさんからの言葉に再び目をモニターに移す。

 エリエロンド級から五つの飛翔体が射出され、自艦の前方に展開していた。

 

 その飛翔体は3枚のパネルを開くと、そこに重力レンズパネルを形成した。

そしてエリエロンド級が放ったレーザーが4枚のパネルに接触。

そのまま反射した先にあった1枚のパネルにレーザーが収束加速し、強大なレーザーとなって軽巡洋艦を掠めて行った。軽巡洋艦は掠ったのにもかかわらず、後退しようとしない。

 

 

「ホレ言わんこっちゃない」

 

「間違いないッスね。ありゃリフレクションショット。あんな機構を搭載しているフネはエリエロンド級しかいないッス」

 

「おや?詳しいね?」

 

「まぁそれなりに」

 

 

 アバリスに搭載されているリフレクションレーザーカノンも似た様な機構ではあるが、エリエロンドのように、主砲クラスの威力を持つと言う訳では無く、アレは重力レンズで収束させた加速レーザーを放つ機構だから、全くの別モンだろうな。

 

 

「・・・で、アレに接触ッスか」

 

「戦闘の直後だから、日を改めた方が・・・」

 

 

 俺もそうしたいぜユピよ。だが、ココで逃したらチャンスが無いかも知れん!

 

 

「そうも言ってらんないッス。サナダさん、ステルスモード解除、ミドリさんは哨戒機を経由して通信回線を開いてくれッス」

 

「「了解」」

 

 

 ステルスモードを解除し、相手にこちらが発見できるようにした後、全通話回線を開いての対話を望む通信を入れた。もっともそれが偶々軽巡洋艦との戦闘に割って入った形になるのだが、そんな事知っちゃいねぇ。

 だが、残念なことに相手は通信に反応することなく、そのまま左舷に転舵して行ってしまった

 

 

「あれま、ガン無視ッスか。やな感じッスね」

 

「艦長、あっちの軽巡洋艦から、通信が来ていますけど・・・」

 

「え?」

 

 

 俺が驚く前に、全通話回線から無理やりに捩りこんだ回線が開き、通信可能状態となった。

 

 

『おい!そっちのフネ!聞えてるか!?何で邪魔しやがる!もうちょっとでサマラと言う海賊を仕留められたってのによ!!!』

 

「・・・・声デケェ」

 

 

 そして、耳を思わず塞ぎたくなるような、腹から出してるだろ的な大声の通信が入る。

 通信機は音量調節機構が付いてるのに、どうやってんだか・・・・。

 

 

「こちらは白鯨艦隊旗艦ユピテル。サマラ艦には―――」

 

『やかましい!テメェら見てぇな低ランクの連中にかまっている時間は無いからな!次は邪魔すんなよ!いいな!≪ブツン≫』

 

「通信、キレました」

 

 

 いやまぁ、なんて言うか・・・嵐みたいな感じだったぜ。

 言いたい事だけ言ってさっさと通信切りやがった。流石は皇子だぜ。

 

 

「何だったんだろうね?」

 

「さぁ?大方賞金稼ぎを生業にしているヴァカじゃないッスか?」

 

「おや?さっきのにイラッと来たのかい?」

 

「いいえー、べつにー」

 

 

 イラッとは来てないッスよ?ムカってきたけど・・・って同じか。

 流石は皇子、冷静な俺っちも怒らせるとは・・・恐るべし!

 

 

「で、どうすんだい?」

 

「・・・話を聞いてもらわないと何もできないッスから、ここら辺で網張りましょう」

 

「了解、んじゃステルスモードでぶくぶく潜航ってね」

 

 

 そう言う訳で、俺達はサマラと対話する為に、この宙域で網を張る事にした。

 それまではヒマだから、他の部署んとこ遊びに行ったのだが、マッドの巣でまたもやナニカ研究に没頭する連中が出始めた。何でもリフレクションショットを見て、開発意欲を増進させたらしい。

 

 その中でもミユさんは、エリエロンドに使われている装甲素材が、通称「ブラック・ラピュラス」と呼ばれる黒体鉱物であり、すさまじいステルス性を持っている事に関心しているとのコメントを残し、俺に「潜宙艦を作ってみないかね?」と、またもや迫って来たので逃げるので大変だった。

 

 ――そうして、この宙域に潜み続ける俺たちだった。

 

***

 

――40時間後――

 

「―――艦長、来ました。サマラ艦です!」

 

「今度こそ通信を入れるッス!エコー!もしも逃げたとしてもトレースを忘れない様に!」

 

「了解ー!」

 

 

 実は前回、サマラ艦がステルスモードを途中で使用した為、レーダーでのトレースが出来なかったのだ。今回は様々な機器を使うので、もし逃げられても痕跡を追う事は可能となっている。

 

 さて、この後何度か通信を入れたのだが、相手は一向に無視したままである。

 さて、どうしたもんか・・・・・・・・・・・・・・あ、そうだ!

 

 

「トスカさ~ん、ちょいと頼みますッス」

 

「え?ちょっ!アンタまさか私がサマラと知り合いだって」

 

「前に酒の席で・・・ま、頼んますッス」

 

「・・・・はぁ、お酒控えようかな」

 

 

 でへへ、実は元から知っています。ですが不用意に呑みまくる貴女が悪いのですよ。

 時たま記憶なくす位呑みやがって、ウチの酒代結構バカにならない値段の時があるんだぜ?

 少しくらい反省して貰わねぇとな・・・そうすりゃ被害者も減るだろうよ。

 さて、俺から通信パネルを受け取ったトスカ姐さんは、スーッと息を大きく吸って肺を広げた後、目をカッと見開いた。

 

 

「おーい!コラサマラー!無視してんじゃないよー!返事くらいしなこのトーヘンボク!!」

 

『・・・・その声、その下品な喋り方、トスカ・ジッタリンダか?』

 

「下品は余計だ!・・・それはさて置き、アンタと話がしたいのさ。サシでね」

 

『・・・・・よかろう、そちらの艦へ行く≪ガチャッ≫』

 

「通信、切れました」

 

 

 へぇ、自ら乗り込んでくるとは、これまた度胸のある方だぜ。

 俺だったら絶対にそんな事しねぇ。だって怖すぎるもん。

 そゆことする前に、通信及び電文で全部済ませるしな!・・・言ってて情けねぇな。

 

 

「さぁ、お客さんが来る見たいッス!リーフ!ユピテルをエリエロンドに接舷してくれッス!」

 

「アイサー艦長」

 

 

 エリエロンドが接舷する様子を見た後、俺はブリッジを出て接続チューブの元に向かう

 そして接舷してつながったチューブの減圧室につくと、ちょうど中から人が出てくるところだった。

 

 

「・・・・」

 

「(・・・・何故に酒瓶を持ってるんだ?)」

 

 

 海賊らしく、胸にどくろマークが描かれた空間服を纏った男が先に出て来た。

 だが何故か片手には酒瓶が握られている・・・・無類の酒好きなんだろうか?

 サド先生当たりと会話が弾みそうな人物だな。

 

 

「・・・・」

 

「(うわぉ、これまた凄く美人、でも冷たい感じがする・・・でもソレもクールでいいね!)」

 

 

 そして酒瓶をもった男性の背後から現れたのが、凄まじい美貌と長い髪を靡かせ、口元に冷笑を湛えた通称“無慈悲な夜の女王”こと、サマラ・ク・スィーその人だった。

 彼女は俺を一瞥した後、すぐに俺の背後にいたトスカ姐さんに視線を向けた。

 

 

「まさかこんな艦のクルーになっているとはな・・・相変わらず驚かせてくれるよトスカ」

 

「ま、色々あってね。今はココに居るユーリの手伝いをしている所さ」

 

「どうも、艦長をしているユーリです」

 

「ほう・・・この坊やが今の男かい?趣味が変わったのか?」

 

「はは、そうだったら良かったんですが・・「ちょっ!ユーリ!?」――生憎と違いますよ?」

 

 

 ちょっ!ジョークにジョークで返しただけなのに、トスカ姐さん何動揺してるんスか?

 そんな反応されたらこっちだって恥ずかしくなっちまうッス・・・・。

 

 

「「・・・・」」

 

「あー、そこ。仲が良いのはわかったから、私に話しというのがあるんだろう?」

 

 

 なんか妙な空気になって、サマラさんが苦笑して(と言うか呆れて)声を掛けてくるまで、なんか変な空気だった。ありがとうサマラさん、お陰で変な雰囲気から抜け出せたぜ。

 

 

「それじゃ、まぁココじゃあれ何で、とりあえず会議室へどうぞ」

 

 

 流石に減圧室で話しこむ訳にも行かない。

なので、防諜対策が為された会議室へと案内したのであった。

 

 

…………………………

 

……………………

 

………………

 

 

「・・・・成程、ブラッサムも余程焦っていると見える。だが・・・そんな話しに、このサマラ・ク・スィーが乗るとでも?」

 

 

 会議室へと移動し、宙域保安局からの話を伝えた結果がこれである。

 まぁ、長年追われ追いかけの生活してる間柄だし、そうそうウマくはいかねぇか。

 そう思い、答えあぐねて沈黙していた所・・・

 

 

「―――まぁ、考えてやってもいい」

 

「え?!」

 

「お嬢!本気ですかい!?」

 

「ガティ。ザクロウに入るいい機会だろう?」

 

「あ、な~る・・・」

 

 

 背後でガティと呼ばれた酒瓶を片手に持つ男が、サマラさんの言葉にいきり立ったが、サマラさんが言った“ザクロウに入る”という言葉にすぐに押し黙った。

 ?・・・ザクロウって、確か監獄惑星だったよな?

 

 

「油断ならないねぇ。何考えてんだい?」

 

「ふふ、たのしいことさ」

 

 

 トスカ姐さんも警戒していたが、本人はいたって楽しそうだ。

 ま、あちらさんにはあちらさんの目的があるんだろうさ。

 

 

「それじゃ、保安局まで来てくれるッスか?」

 

「ああ、そこまで同行し、そこで私を捕えて貰い監獄惑星ザクロウに送って貰う。ソレが私からの条件だ」

 

 

 ・・・・な~に考えてるんでしょ~ね~?

 ま、そんな条件でグアッシュ海賊団壊滅作戦に協力してくれるのだ。

 悪い話じゃ・・・ねぇわなぁ?

 

 

「んじゃ、ソレで良いッスね」

 

「交渉成立だな。ガティ、エリエロンドを頼むぞ?」

 

「がってんでさぁ」

 

 

 ガティさんはそう言うと、エリエロンドに戻るのか席を立った。

 どうやらサマラさんはこのフネに乗って、ブロッサムまで行くらしい。

 まぁエリエロンドごとだと、保安局に捕まるだろうしな。 

 

 

「それではサマラさん、このようなフネで恐縮ですけど、ブラッサムまではゲストとして歓迎いたします」

 

「ふむ、世話になろうか」

 

 

 そう言った訳で、彼女の目的は何なのかは知らないが、彼女を保安局へと送ることとなった。

 まぁ、彼女は誇り高き女性だからな。こちらもそれなりの対応をさせて貰おうかな。

 

***

 

 

Side三人称

 

――監獄惑星ザクロウ――

 

 半永久稼働する惑星防衛システム『オールト・インターセプト・システム』に守られた。犯罪者を収監するだけの惑星である。許可なく近づいた場合は勿論、惑星からも許可なく発進したフネに対し、自動迎撃衛星が容赦のない攻撃を仕掛け沈めてしまう為、一般の航路からは外れている。

 

 そこに、トスカとサマラを連れて、バリオがやって来ていた。サマラとの密約の条件として、この惑星に連れてくると言うのがあり、トスカはサマラの旧知という事あり監視としてついて来ていた。バリオはこの星の実質的なトップである所長の男と対談していた。

 

 

「やぁやぁようこそ惑星ザクロウへ、この私が所長のドエスバン・ゲスです」

 

「保安局海賊対策部所属、バリオ・ジル・バリオ三等宙尉、囚人2名の護送に参りました」

 

「ほっほ、歓迎いたしますぞ。モチロン、そちらの2人のお嬢さんもね」

 

「・・・(ジロジロ見んな。デブ)」「・・・(何故だ?あの男からは不本意だが同類の気が)」

 

 

 拘束具をつけられ、バリオの後ろにいたサマラとトスカを、舐めまわすかのように一通り見たドエスバンは、ソレを咎めるかの様に咳をしたバリオを恨めしそうに見ながら視線を戻す。

 

 

「ん~、ん~、ん~。いやいやこれ程の女囚が2人も・・・女囚・・・ジョシュウ・・・ん~」

 

「あの・・・所長?」

 

「女囚という言葉はお好きですかな?」

 

「―――は?」

 

 

 唐突にそんな言葉を吐かれて困惑するバリオ。いきなり何言ってんだこのおっさんと、バリオは思ったが一応階級的には相手が上な為口には出さないように我慢する。

 表面上は無表情だったが、ドエスバン事態が自分が言った事に気が付いたらしく、誤魔化すかのように腕を振った。

 

 

「あ、ああ・・・いやいや、何でもありませんぞ」

 

「・・・(今更誤魔化しても遅いんだよ。この○○○○(ピー)野郎)」

 

 

 トスカが心の中で、放送が禁止されそうなスラングで毒づく中、ドエスバンは話を続けた。

 

 

「―――で、貴方も7日程駐留されるとか」

 

「ええ、これ程の大海賊ですからね。念には念を入れて経過を見ろと上からの命令でしてね」

 

「成程成程、いやいやごもっとも。では貴方の部屋もご用意しましょう・・・すぐにね」

 

 

 ―――こうしてトスカ達は監獄惑星へと降り立ったのだった。

 

 

***

 

 

~一週間後・白鯨艦隊旗艦ユピテル艦長室~

 

 ユピテル艦長室、ユーリは相変わらず艦長職に精を出していた。何せ艦隊を引き連れているのだ。殆どを無人化している無人艦隊とはいえ、現在の運用している人間の総数は、既に数千にまで膨れ上がりつつあった。

 

 その為、フネの中の福祉厚生やその他の配備の書類は、ほぼ毎日彼の元に送られて来る。それらに目を通し、決算し、変な書類が無いかをチェックするのが、最近の日課となりつつある。この世界における事務系のソフトウェアの発達のお陰により、ズブの素人でも決算が出来るのがありがたいところだろう。

 

 そして今日も秘書のように、事務作業をかいがいしく手伝ってくれているユピをとなりに、頬をパシンと叩き“よしゃっ!一丁やったるか!”と気合を入れた。

 そして、手元の執務机についている備え付けPCを起動させようとしたその時――

 

 

「――艦長、ケセイヤさんが参られています」

 

「ケセイヤさんがッスか?なんだろう」

 

 

 艦長室前のドアにケセイヤがやって来ていた。ユピにより外部監視カメラからの生中継が、空間ホログラムモニターに投影されて、ユーリの目に前に映し出されている。

 

 

「お通ししますか?」

 

「良いッスよー」

 

「ではドアロック解除します」

 

 

 パシューというドアのエアロックが外れる音が響き、艦長室の扉が開かれる。そこを訪れた客であるケセイヤは、そのまま中に入ろうとしたのだが、突然つんのめるかのようによろけて、転んでししまった。しばらくしても起き上がらないので、ユーリは声を掛けた。

 

 

「どしたんスかケセイヤさん?」

 

「・・・・重力制御をノーマルにしちくんねぇかな?艦長」

 

「あ!忘れてたッス!すまんすまん。ユピ」

 

「はい、艦長」

 

 

 ポリポリと後頭部を掻きながら、済まなさそうに言うユーリ。自分もその昔体験した事がある為、バツが悪そうだ。部屋の重力が通常の1G程度に戻り、ちょっとフラフラしつつも立ちあがることが出来る様になったケセイヤは、服をはたきながら起き上った。

 

ところで何故ケセイヤが動けなくなったのか?それは艦長室の重力が異常だったからだ。

最近てんで修練に行けないユーリが、せめて身体能力を落さない為に考え付いたのが、自室だけ重力制御を施し、日がな一日筋肉に負荷を掛け続けると行ったモノだった。

 

 この方法は何気にトーロも愛用している方法で有り、現にこれを行っているトーロは精錬された細きマッチョへと変身を遂げつつある。もっとも、これで上がるのはあくまで身体能力だけなので、戦闘術としての格闘術はたまに練習しないと身につかないらしい。

 

 ユーリも身体能力は流石にトーロには劣るものの、VF-0Sw/Ghost通称「特攻仕様」のゴーストパックで起こる慣性制御装置の限界すら超えた殺人的Gにも、ある程度耐えられる様になってきたのだから、ある意味で凄い。

もっとも本人は最近シミュレーター訓練しか出来無くて、酷くつまんなそうだ。

 

 

「まったくヒデェ目にあったぜ」

 

「んで、今日は何か用ッスか?出来れば仕事を早く終わらせたいんで、早めに簡潔に述べてくれッス」

 

「スルーかよ。まぁ良いか、今回来たのはコイツを作りたいから予算についての交渉だ」

 

「・・・・とりあえず見ようか?」

 

 

 普通なら、経理部門でも通してくれと言うところだが、ケセイヤの事だ。ただの企みでは無いことくらいユーリも把握している。なので、某人造人間を製造したとこの髭司令のように、口元を隠す形でポーズを取るユーリ。所謂ゲンドウポーズってヤツである。

 

 事務作業用に付けていた眼鏡が逆光で反射している為、妙に様になっている。なんじゃカンじゃでノリが良い艦長に内心感謝しながら、ケセイヤは懐からデータチップを取り出し、ユーリの近くで控えていたユピに手渡したのだった。

 

 

 

 

 

「―――むぅ、コレを作るには・・・護衛艦を幾つか売らないとダメっスね」

 

「そうか、戦力の低下は避けられネェか」

 

「うんにゃ、護衛艦を売った分の穴を埋める形になるから艦隊数は変わらんス。護衛艦を売った金+研究費って形ッスね。スペックがカタログデータ通りなら問題なしね。ま、そこら辺は言わずと知れた我が艦隊の開発班が作るワケッスから、あんまし心配なんてして無いッスがね」

 

「あたりまえだ。俺が作るもんはカタログなんかじゃ計れねぇゼ」

 

 

 そういって不敵に笑うケセイヤ。それを見てユーリは苦笑しつつ―――

 

 

「よろしい、予算はなんとかする。存分にやりたまえ」

 

 

 そう、まるで悪の親玉のように言い放ったのだった。

 

 

Sideout

 

***

 

Sideユーリ

 

 さて、サマラさんを保安局に送り届けてたのが1週間前、監獄惑星に向かう彼女の監視として、ウチからなんとトスカ姐さんまで一緒に行っちまうんだから、トスカ姐さんの仕事が俺に流れ込んできて、最近部屋から出て無い・・・。

 

 仕事を手伝ってくれるユピと、食事を運んでくれるチェルシー居なかったら倒れてたぜ。過労で。

俺ぁ艦隊を運営しているからな。それなりに組織として機能し始めたから、そう言った仕事は当然俺の仕事な訳で・・・あうー、専門の部署でも立ち上げようかな?

 

 

「お疲れみたいですね艦長?」

 

「・・・いい加減、経理専門の部署を立ち上げた方が良いと思うんスけど、どう思うッス?」

 

「んー、まだ時期早々かと(そんな部署が出来たら、私との時間が減るじゃないですか)」

 

 

 ん?なんか寒気を感じたが、気の所為か?

 

 

「そう言えば、艦長はトスカさんの事、あまり気にしてないんですか?」

 

「ん?何がッスか?」

 

「だって、心配じゃないんですか?監獄惑星に行っちゃってるんですよ?女っ気が無い星に美女が2人も行ってるんですよ?今頃男達のよくぼうのはけ口にされてやしないかと心配です」

 

「・・・・・・とりあえずユピ、意味解って言ってる?」

 

「え、ええと、後半はあんまり――でも艦内で噂で流れてた話で・・・・」

 

「とりあえず、その噂をしていた奴らを教えてくれないかな?かな?」

 

「は、はいー!!!超特急でリスト作りますーー!!!」

 

「まったく、下品な思考の持ち主達ッスね。クスクスクス―――」

 

 

 あのトスカ姐さんの事だ。そんな事態になる前に相手のを潰すことだろう。

 ・・・・あえて何がとは言わんが、ナニが潰される事は間違いないな。

 ――怖ッ!。

 

 

「ま、心配はして無くは無いッスが、信頼してるッスからね。俺は」

 

 

 トントンと机の上の書類をまとめつつ(いや、データだけでなく、紙媒体も使ってますよ?)、事務の時は気分的につけている伊達眼鏡を外す俺。何せトスカ姐さんは俺と会う前から、普通に0Gドックをして生計を立ててた訳だしな。護身術もかなりレベル高いのだ。いやマジで。

 

 それに大海賊サマラ・ク・スィーも一緒何だぞ?男の方が縮みあがって手を出せねぇだろうよ。こう言っちゃ何だが男ってのは(以下、検閲の為削除されました)

 

 

「・・・・艦長、不潔です」

 

「あ!ああ、そんな、そんな汚物を見る様な眼で見ないでッス~~!!」

 

 

 あ、でもなんか新しい世界に・・・いや、自重しますハイ。

 さてと、仕事の続きをしなければ―――別に、ユピのジト目が辛いからじゃないぞ?

 

 

「―――まったく・・・ん?艦長、ミドリさんから連絡です。保安局から通信が来ました」

 

「ふむ、思ってたよりも早かったッスね。了解、ブリッジに行くッスよ」

 

「はい」

 

 

 俺はユピを引き連れて、艦長室を後にした。

 ちなみにブリッジは艦長室のすぐ真下だったりする。

 艦長室はなぁ!第一艦橋の上だって決まってんだ!ですよね?沖田艦長。

 まぁそんな訳で(どんな訳だ?)俺はブリッジへと足を向けた。

 

 

…………………………

 

……………………

 

………………

 

 

 ブリッジに付くと、既に回線がつながっており、空間パネルのホログラムスクリーンに立体映像のシーバット宙佐が映し出されていた。彼の表情からして、吉報と言う間では無いのだが、俺は適当に挨拶をしてから本題に入ることにした。

 

 

「こちら白鯨艦隊のユーリです。どうです宙佐、大物でも釣り上げましたか?」

 

『それならばよかったのだがね。まだバリオ達からの連絡が一度も無いんだ。コレは幾らなんでも異常な事態だ。一応こちらでも法務局に働きかけて、ザクロウへの調査許可を出しているところだ』

 

 

 どうやら吉報では無く、凶報になりそうな感じである。

 いやまぁ、トスカ姐さんだしねぇ?多分大丈夫だとは思うんだが・・・

 

 

「・・・・許可は、どれくらいの時間がかかりますか?」

 

『解らんが、急がせてはいる。とりあえず君の方に現状を知らせておこうと思ってな。・・・もうしばらく待っていてくれたまえ』

 

「了解、出来れば早く許可が降りる事を願ってますよ。ソレでは」

 

『うむ、それでは』

 

 

 通信が切れる。俺は肩の力を抜き、普段の艦長モードへと移行した。

 あう~、くそったれ。面倒臭い状態だぜ。全く持って厄い。

 

 

「なんか、大変なことになってるね艦長」

 

「そうみたいッスねイネス・・・・何か用スか?」

 

 

 慌てても仕方が無いので、適当に落ち着いて考える為に、飲み物をユピに頼んで艦長席で胡坐をかいていると、イネスが艦長席の近くに寄って来た。

 

 

「艦長、ザクロウは何かがおかしいと思わないか?グアッシュと言うリーダーが不在なのに、連中の活動が衰えていない事からして、そもそもおかしいんだ」

 

「幹部連中が動かしている・・・っつーのにしては、精強過ぎるッスね」

 

「そして、サマラが自らザクロウへ行きたいと言い出した。つまり――」

 

 

 イネスは眼鏡をキランを光らせ、手を振り上げながら言葉を放った。

 

 

「―――つまり、あそこには何か秘密があるんだよ!」

 

「な、なんだってー!!」

 

「・・・・艦長、真面目な話なんだが?」

 

「・・・すまん、ついノリで」

 

 

 なんとなく、そうしなければならないと何処かから電波が・・・。

 

 

「ソレは置いといて、そこら辺は保安局も把握済みなんじゃないッスか?」

 

「解ってる。これくらいの想像は保安局もしているさ」

 

「――だから、サマラさんの申し出にあっさりと乗ったんですね」

 

「ユピ」

 

「なんかお話の途中に来ちゃってすみません。あ、コレ飲み物です。イネスさんもどうぞ」

 

「「あ、どうも」ッス」

 

 そう言って差し出された飲みもんを受け取りつつ、話を続きを促すようにイネスにサインを送る俺、とりあえずどうするか考えとかないとな。

 

 

「ズズ・・まぁ問題は確証を掴むかって事だけだろう?」

 

「ごくごく・・・その分じゃ、何か策でもあるんスか?」

 

「至極簡単な話さ。情報が無いなら、ある所から聞けばいい」

 

「その心は?」

 

「グアッシュの連中に聞く。どうせそこら辺をうろうろしてるんだ。白兵戦をすれば拿捕出来るだろう?」

 

「成程、いやさその眼鏡は伊達じゃないってとこッスね。つーかイネス、何かトスカさん居ないと、随分と生きいきしてるッス」

 

「はっは、女性陣が静かになるからね。お陰で脅威が減って、ストレスが減ったよ」

 

 

 ふーん、まぁソレは良いが安心してると足元すくわれるぜ?この間、マッドの巣を通りかかったら、なんか教授が怪しい薬を女性陣に渡してるとこみたしな。

 ・・・・・何の薬なのかはしらねぇ。知りたくもねぇ。

 

 

「でも、海賊さん情報なんて持ってるんでしょうか?」

 

「ユピの懸念ももっともだ。多分幹部クラスならあるいは・・・」

 

「幹部クラス、ねぇ?」

 

 

 幹部クラスの敵さんが良そうな場所・・・わからんな。

 敵さんが正規軍ならともかく、あちらさんはのんきな海賊稼業。

 居場所を固定しているとは思えないし―――

 

 

「―――多分ですが、以前サマラさんを追いかけたザザン宙域が良いかと思います」

 

「ああ、そっか。あそこはサマラ海賊団のテリトリー、グアッシュも良くちょっかいを掛けに行っている筈!」

 

「ふむふむ、成程ッス。いい案ッスよユピ」

 

「えへへ、褒められた」

 

 

 なんかテレテレしているユピ、なんか仕草が最近ドンドン人間っぽくなってきたぜ。

 これも、ユピテルの連中のお陰かなぁ。ウチのチェルシーも影響受けてたしな。

 ・・・・お陰でガンコレクターになってたのは誤算だったが。

 

 

「リーフさ~ん、航路変更、ザザンの方に向けといてくれッス~」

 

「あいよー」

 

 

 とりあえず、ザザンの方に行ってみよう。話しはそれからだべさ。

 

 

…………………………

 

……………………

 

………………

 

 

 

 さて、ザザン宙域にやってきました白鯨艦隊、全艦ステルスモードで潜宙中。エモノが来るのをジッと待っていた所―――

 

 

「艦長、インフラトン反応多数、艦隊の様です」

 

「艦の中に他のとは違うインフラトン反応を確認、バゥズ級と思われます」

 

 

―――案外すぐに見つけることに成功した。

データ解析の結果、あのミサイルは搭載していないらしい。

 

 

「どうやら、あのミサイルは本拠地防衛の連中しか装備していない様です」

 

「当たり前だ。あんなミサイルを無理やりつけたら、航続距離が短くなるはずだ」

 

 

 ミドリさんの報告にサナダさんがそう返した。まぁ案だけデカイのを運搬するとなると、フネのペイロード削らなきゃいけないだろうし、機動力がモノを言う海賊稼業で、拠点防衛じゃない時にはあのミサイルは邪魔だろうしな。

 

 

「・・・幹部のフネッスね。・・・準備は?」

 

「滞りなく終えています。敵は既に網にかかった様なものです」

 

 

 戦況モニターには、敵艦隊を示す紅いグリッド、そしてそれを取り囲む小さな白いグリッドが表示されていた。もうすぐ敵艦隊は白いグリッドに逃げ場もふさがれる。

 敵艦隊が白いグリッドに完全に囲まれたのを見て、俺は全艦に向けて指示を出した。

 

 

「全艦ステルスモード解除!“錨を上げろ!”ッス」

 

「アイサー、全艦ステルスモード解除」

 

「本艦出力、ステルスから戦闘状態へ移行、臨界まで3秒」

 

 

 そして白鯨艦隊は敵艦隊のすぐ目の前に姿を現した。光学的にもレーダー的にも見えずらいステルスモードは、まさに宇宙における潜宙を可能としてくれる。敵さんは突然の敵反応に驚いて、急激に艦隊挙動が乱れていった。うむ、かく乱は戦闘の基本じゃわい。

 

 

「全艦全兵装自由(オールウェポンズフリー)!幹部のフネと思わしきヤツ以外は叩き落せ!」

 

「「「「了解!」」」」

 

 

 ユピテルと護衛艦隊はH(ホーミング)L(レーザー)シェキナを使用、アバリスはR(リフレクション)L(レーザー)C(キャノン)を使用し、精密射撃で僚艦を撃沈した。

 そして―――

 

 

「VF隊!VB隊!今ッス!!」

 

 

―――兵員輸送使用のVBがステルスを解除し残った幹部艦へと突っ込んでゆく。

 幹部艦は対空兵装を使用しようとするが、兵装が使われるよりも先に、VF隊によって兵装が全て破壊されてしまった為、だるま状態である。

 逃げようにもVF隊に囲まれている為、幹部艦は逃げることが出来ない。

 

 

 そして戦闘開始から十分も経たない内に、敵の幹部を捕えることに成功したのだった。

 と言うか反撃させる前に、ほぼ艦隊ごと潰しちまったしな。

 恐らくあまりの電撃戦に、何が起きたのか解んなかったんじゃねぇか?

 

 

「ユピ、海賊の幹部は?」

 

「現在装甲尋問室に収監、尋問中です」

 

「丁度良い、ソコと内線をつなぐッス。俺が直接尋問するッス」

 

「了解しました」

 

 

 とりあえず捕まえた海賊幹部とOHANASHIしてみる・・・もといお話してみることにした。

 ブンって音と共に、画面に映し出されたのは、えんじ色の襟付きマントを着け、スカーフを付けた何処か撃たれ弱そうなおっさんだった。

 でも、捕まっても暴れ出さない程度の肝っ玉は有るらしい・・・・少し足震えてるけど。

 

 

『何だ貴様は?』

 

「俺ッスか?俺はこのフネの艦長ッスよ。実質的な艦隊の頂点でもあるんスがね」

 

『フンッ、噂の白鯨艦隊の頂点が、年端もいかぬ小僧だとはな。まさかその小僧に捕らわれるとは、このダタラッチも焼きが回ったものだ。言っておくがワガハイはな~んにも話さんぞ!』

 

 

 あー、カッコ着けてるのはいいんスが・・・。

 

 

「―――震えてるッスよ?」

 

『こ、これは武者震いというのだ!』

 

 

 まぁ、怖いもんは怖いわなぁ。

しかし、そうなら―――

 

 

「成程、貴方の決意は固いようだ」

 

『む?なんだ小僧?急に雰囲気が――』

 

「仕方有るまい。貴方はグアッシュ海賊団の幹部。そして俺は敵だ。故に口は割らない。しかしそうなると、貴方の価値は無いに等しい」

 

 

 俺はニヤリと笑いながら、ダタラッチを見る。

 まだどういう意味なのかは解っていない様だ。

 

 

「価値が無いなら、このフネにおく必要も無い。このまま放りだしましょう。着の身着のままでね」

 

『フ、フン!冗談を言うな。小僧の脅しに――』

 

「・・・・エアロックちょっと解放」

 

「エアロック解放します」

 

『へ?!』

 

 

 途端装甲尋問室の隔壁が開く、装甲尋問室は爆発物を持っていたりした時用に、すぐ外に放り出せるよう隔壁は宇宙へ直結なのである。画面の向うでは、急激に気圧がさがり吹き荒れる突風の様な空気漏れに苦しむダタラッチの姿があった。

 

 ダタラッチは今だ拘束されている為、そのまま宇宙に放りだされる事は無いのだが、それが逆におっさんを苦しめる結果となっている。この急速な減圧は応えた様だった。

 

 

「ユピ」

 

「はい」

 

 

 俺が合図すると、阿吽の呼吸でエアロックが閉まる。補給される気圧と酸素に、ダタラッチは喘ぐように酸素を脳へ送る為に、口をパクパクさせながら思いっきり息を吸い続けていた。

 

 宇宙で生活するモノにとって、酸素というか空気は必要不可欠のモノ。急激な減圧は例え一瞬だけでも、めまいや吐き気、頭痛を引き起こすのだ。それを平然と行う俺にダタラッチは恐怖を感じているようだ。

 

 ―――もっとも、脅し様だから死なない様にキチンと計算してあるんだがね。

 

『はっはっ、あひっあひー!き、貴様正気!?』

 

「今のは警告だ。俺は手段を選ぶ必要は無い。あんたに価値が無いなら別の幹部を探す。もっと“モノ解りのいいヤツ”をな?さぁ、今度はじっくり行くかな?さっきのは急激な減圧だったから、それ程でもないだろうが、真綿で首を絞められる様に・・・じっくりと・・・」

 

『い、イカレテルー!貴様はいかれてるぞーー!!』

 

「・・・出来れば、死ぬ前に全部話して欲しいかな?」

 

 

 俺は二コリと笑いながら、彼を見る。画面の向うではガタガタと震えが完全に恐怖のモノとなったダタラッチが、大慌てしている姿が映っていた。

 

 

『ま、待て待て待てぇぇぇぇぇ!!いう!なんでも言うーーーーー!!!!』

 

「そう、それでいい。貴方も“モノ解りの言い人間”だったみたいだ。情報を全て言うなら、キチンと食事を与え、それなりの待遇を約束しよう」

 

 

 俺の言葉にダタラッチは心底安堵したのか、緊張が切れたらしく気絶した。

ちょっと強引で冷酷で俺っぽくは無いやり方だったが、相手は敵なのだ。無用の情けをかけられるほど俺は強く無い。0Gである以上、こう言った事をヤル、ヤラレルは常識。その事を知っているので、ブリッジの面々も何も言わなかった。

 

 

「あの男を拘束したまま、サド先生に見せてやってくれ・・・丁重にな?」

 

「はい、艦長」

 

 

 俺はそう言った指示をユピに出して置いた。

 やれやれ、俺もこの世界に染まって入るが、いまだ少しばかり甘さもあるようだ。

 ・・・・すこし焦ってるのかもな。トスカ姐さんが隣にいないって事に。

 

 

***

 

 

 さて、ダタラッチの意識が回復し、すこし錯乱していたモノの、ほぼすべてを話してくれた。やはり海賊団の指示はザクロウから出ていたらしい。どうにもそこいらの記憶があいまいだったから、これで補てんされた。

 

 

「―――つまり、ザクロウから全部指示が出ていると・・・ウソ偽りは無いッスね?」

 

「そ、そうだ・・・グアッシュ様にかかればザクロウも安全な別荘と言う訳だ」

 

 

 俺は先程まで話していたダタラッチと医務室で対面していた。先の減圧により上手いこと体も動かせない上、拘束も着いたままなので、ダタラッチは大人しく話しに応じている。

 

 でもまぁ案外丹力あるなぁ、目の前の俺が減圧の張本人なのに、普通に話をしているよこの人。普通はあそこまでされたら、取り乱すよなぁ?この世界の人間は、精神の根っこの方もかなり強いのかもしれないな。

 

 

「おまけにさらった人間をあそこに送りこめば、たんまり報酬も貰える。であるからして、ワガハイたちは資金には困っておらんのだ」

 

「成程、今日び珍しくも無い人身売買ッスか。――送られた人間は?」

 

「詳しくは知らぬ。ただ、ある程度数がそろったところで、どこぞの自治領に売られるそうだ」

 

 

 これまた、星系間どころか宇宙島をまたにかけた大掛かりな人身売買だなオイ。不味いなぁ、トスカ姐さんたち、まさか売られちまったのか?だとすると、一度ザクロウに行って売られた先を突き止めねぇと行けなくなっちまった。

 

 

「ま、情報ありがとさんッス。適当に休んてくれてても良いッスよー」

 

「・・・・・フン」

 

 

 奴さんの情報は有益なもんだったな・・・。

 さて―――

 

「全員聞いてたッスか?」

 

『『『『アイサー』』』』

 

 

 通信端末を経由して空間パネルが投影され、そこにはブリッジクルーの殆どが移っていた。

 先程のダタラッチとの会話も、全て聞いていたのである。

 

 

「どう思うッス?俺はウソついているようには見えなかったッスけど」

 

『そりゃあんだけ脅されれば、なぁ?』

 

『『『うんうん』』』

 

『艦長を敵に回したくないと思った瞬間でしたね。もっともゾクゾクって来てましたけど』

 

『あう~、艦長は――S?・・・・ぶー!』

 

『ああ、またこの子ったら鼻血』

 

『最近ブリッジのティッシュの減りが早いのはそれか』

 

『若いのう』

 

 

 どうにもマイペースだな。ウチのブリッジクルーは。

 エコーさんは妄想で鼻血吹いてるし、ソレをみてトクガワさんはホッホと笑ってるし。

 

「トーロはどう思うッス?」

 

『他の連中と同意見だ。ありゃウソはついてねぇぜ?』

 

『艦長、アイツを保安局に連れて行こう。証人にしてしまうんだ』

 

「どういう事ッスか?イネス」

 

『証人さえいれば、法務局も保安局も重い腰を動かせるって事だ』

 

『『『『『イネス頭良い(~)(な)(のう)』』』』』

 

 

 こらこら、ブリッジ。何全員で共鳴してんのさ。

 だが、ともかくやることは決まったな。

 

 

「よし、リーフ」

 

『ブラッサムへ――だろ?アイサー艦長』

 

 

 こうして俺達はすぐさまとんぼ返りし、保安局がある惑星ブラッサムへと向かったのだった。

 

***

 

 

 は~い、現在ブラッサムの宙域保安局にまたまた来ています。

 前回海賊幹部ダタラッチを捕まえた俺達は、そのまますぐに保安局へとやってきたのだ。

 で、ダタラッチを保安局に引き渡し、ヤツが持っていた情報を渡した時のシーバット宙佐の一言。

 

 

「ううむ・・・まさかザクロウが、そこまでグアッシュに牛耳られていたとは・・・」

 

 

 流石の宙佐も自分が所属している組織で、そんな犯罪行為が行われていると言うのは応えた様だった。顔のしわが更に深く・・・苦労人ですね。だが、残念ながら旦那、どうやら事実らしいですぜ?

 

ダタラッチは管轄が違ったらしいが、海賊船の中にはオールト・インターセプト・システム(以下O・I・S)の認証コード持っている奴らもいたらしいし、ソレ使って自由に出入りで来てたんだから、ホント灯台もと暗しだよな。

 

 

「引き渡した海賊幹部からの情報ですから、ほぼ間違いないかと・・・・」

 

「何と言う事だ・・・」

 

 

 ちなみに余談なんだが、連れて来た海賊幹部ダタラッチは保安局に引き渡した。だが、何故だか知らないが、アイツ何時の間にか何気にウチの艦の中に馴染んでたんだよな。基本的にユピが24時間監視しているので、重要区画以外は出入り自由にしてたらそうなってたんだ。

 

何気に掃除とかを何時の間にか手伝ってたし、偶に食堂に現れては海賊をしてた頃の・・・いや現在も海賊だが、その地位に至るまでの話とかが面白かった。特に下っ端時代の下積み話は、涙と笑い無しには語れない面白さが・・・コホン閑話休題。

 

 

―――それはさて置き、これを聞きウィンネル宙尉がザクロウを強襲すべきと発言した。

 

 

「バリオたちだけじゃない。もしも“例の人物”があそこにもしも送られていたら――」

 

「うーむ、保安局の許可を待っている場合ではないか・・・止むを得んか。第3、第9管域の保安対、および惑星強襲隊を呼集――準備が出来次第出発する!」

 

「は!」

 

 

 宙尉はシーバット宙佐に敬礼をすると、踵を返して部屋から出ていった。

 それを見送ったシーバット宙佐は、俺達の方に向き直る。

 

 

「ユーリ君、君たちにも――」

 

「ウチも仲間が命張ってますからね。ダメと言っても行きますよ」

 

「助かる。では今から12時間後に――」

 

「了解、それまでに準備しておきます」

 

 

 俺は宙佐と宙尉に返事をして、保安局を後にした。

 さて、ザクロウ行きか・・・白兵戦の準備はしておかないと不味い。

 装甲宇宙服も開発がかなり進んでるからな。まさかあんなもんが出来るとは思わんかった。

他はVF隊とVB隊は当然出すから、後は行ってからって所だろう。

 元々陸戦も想定してあるVB隊なら、かなり凄いことになるだろうな。

 

 

―――そして、12時間後、俺達はザクロウへと向けて発進した。

 

 

そう言えばケセイヤさんの発案してたアレは・・・・まだ完成して無いか。

アレも使えたら楽だったけど、間に合わなかったのなら仕方が無いさ。

是非ともグアッシュの時には使える様になっていて欲しいぜ。

 

 

 

***

 

 

 

 さて、惑星ブラッサムをでて、現在O・I・Sが展開されている宙域に到達した。時間が無い為強行突破するらしい。インフラトン・インヴァイターを搭載したロケットを囮(デコイ)として使って突入するのである。

 

 

「保安局艦隊、デコイ射出しました。各艦隊進撃開始」

 

「本艦隊も保安局に合わせて進撃を開始する。両舷全速!保安局に遅れるな!」

 

「「「アイアイサー!」」」

 

 

 保安局の艦隊がデコイとなるロケットを発射した所を見計らって、俺たちもデフレクター及びAPFSを出力最大にしてO・I・Sの影響圏へ突入した。ユピテルは単体、アバリス及びその他護衛艦群はデフレクター同調展開システムを用いて、防御力を高めて一気に突破するのだ。

 

 そしてユピテルのFCSが、多数の衛星砲が此方を捕捉した事を警告してくる。だがそれを無視し、そのまま突き進む。

 

 

≪ズズーン!≫

 

「被害報告!」

 

「流れ弾が右舷側に命中、デフレクターおよびAPFS順調作動、損害なし」

 

「K級、S級にも直撃弾多数、同調システムの許容範囲内の為、損害なし」

 

 

 流石にこっちのフネはデカイだけあり目立つ為、大量の弾が飛んで来るモノの、直径数十メートルも無い衛星に搭載されたビーム砲程度では、魔改造戦艦のシールドを突破出来る程では無いらしい。流石にクロスファイアされると、かすり傷が出来てしまうのだが、今のところ問題は無い。

 

 

≪ドーーーンッ!!≫

 

「ッ!い、今のは!?」

 

「保安局艦隊所属、巡洋艦エルビーが大破。爆散しました。その衝撃波です」

 

「保安局のフネでは、この中を強行突破するのは難しいだろう。」

 

「そう何スか?サナダさん」

 

「ウチは常にバージョンアップを続けているが、あちらさんは好きなように改造が出来ないからな」

 

 

 保安局の方は既製品のシールドしか無い為、こちらと違い被害が出てしまっているようだ。だが止まる訳にはいかない。全速で突入した為、慣性の力によって止められないのだ。むしろ止まってしまったら、衛星砲の餌食となってしまうだろう。

 

 

「さらに大破したフネ多数確認、脱出ポッドを発見しましたが・・・」

 

「・・・・無視して突破を優先するッス。リーフ、針路上に居たらぶつからない様に避けるッス」

 

「あいよ」

 

 

 大破した艦の乗員を救出する事は今は叶わない為、脱出ポッドの方はこのO・I・Sを管理しているザクロウを落してからじゃないと、救出は出来ない。なので俺達は急いでこの宙域を突破するしか無かった。

 

両舷全速だったので、白鯨艦隊は保安局艦隊を追い越し、艦内時間にしておよそ30分程度でO・I・S宙域を抜けられた。デフレクター同調展開システムのお陰で、此方の損害は比較的軽微で済んだ。しかし、O・I・S宙域を抜けて安心したのも束の間――

 

 

「ザクロウの宇宙港から大型艦の発進を確認~!突っ込んできますー!」

 

 

 ―――ザクロウからの艦隊の発進を確認した。

よく見ればグアッシュ海賊団のフネも混じっている。どうやらザクロウでも俺達が何で来たのかを察知したんだろう。慌てて戦闘艦を発進させたって感じで、艦隊挙動が不安定だった。

 

 

「艦種特定、タタワ級駆逐艦多数、バクゥ級巡洋艦多数、旗艦にはダガロイ級装甲空母!」

 

「これまた大量のお客さんッスね――各艦コンディションレッド発令!砲雷撃船、および対空戦闘用意っ!密集隊形を取って突破するッス!」

 

「「「「アイアイサー!!」」」」

 

 

 俺の指示により、艦内は非常灯が点灯し、待機していたVF隊が次々を発艦していく。

 ダガロイ級からも艦載機が発進したが、基本性能も操縦者達の腕も段違いなのだ。

 予想通りこちらは無傷、相手は壊滅という形で全編隊を落していた。

 

 

「敵艦隊、VF隊迎撃の為、船足を落しました」

 

「各砲FCSデータリンク、空間重力レンズ形成、シェキナ発射準備用意良し」

 

『こちらアバリス、RLC(リフレクションレーザーキャノン)も発者準備OKだぜ!』

 

「全艦一斉発射、発射後は各砲自由射撃!トランプ隊に通達、30秒後に砲撃を開始するッス」

 

「トランプ隊に通達します」

 

「カウントダウンを表示、発射に備えジェネレーターに出力を回します」

 

 

 トランプ隊全機に30秒後に砲撃が放たれる事が通達された。ユピ彼らは一糸乱れぬ動きで、此方の射線に被らない様に後退していく。こちらのカウンターが0になりエネルギーも充填された頃には、回避行動に移っていない鈍い獲物だけが残される。

 

 

「ほいよ、ほら来たぽちっとな」

 

 

 そして、ストール久々のぽちっとなが発動し、HLシェキナとRLC、およびガトリングキャノンの弾幕が放たれた。高出力のレーザービームが複数、一点に集約されて敵艦隊は為すすべなく爆沈する。ストールの腕があってこその芸当だ。

 

 

「前衛艦隊撃破、これをA1 と呼称、続いてA2 及びA3までの艦隊接近中」

 

「艦載機はトランプ隊に、各艦照準を装甲空母へ照準ッス!」

 

「HLシステム座標入力――って、ミューズ!重力レンズの角度が少し乱れてるぜ!」

 

「ゴメン・・・今直すわ・・・これで―――」

 

「よしOK!後は敵来い!来い来い来い!よし座標設定完了!ぽちっとな!」

 

 

 ストールがそう言って発射ボタンを押すと、艦内に冷却機の出すかすかな音と振動が響き、艦外モニターにユピテルから放たれた弧を描くエネルギー弾が、敵艦に向けて直進していくのが確認出来た。

 そして白鯨艦隊各艦からも、データリンクによって統制された弾幕が同時に放たれていた。高エネルギーが敵艦を貫いて行く。生き残った艦船も、そのほとんどがトランプ隊によって駆逐されたので、ザクロウまでの道が出来た。

 

 

「保安局艦隊、O・I・Sから抜けました」

 

 

そして丁度O・I・Sを抜けて来た保安局艦隊と合流する。

 よく見ると全体の1割くらいの艦船が消えている。強行軍ってのはやっぱ正規軍にはキツイ。

 

 

『ユーリ君!無事かね?!』

 

「こっちは平気です。ですが其方は?」

 

『若干の被害が出たが、ザクロウを制圧すれば助けられる!急いぐぞ!』

 

「了解しました」

 

 

 保安局艦隊と合流した俺達は、そのままザクロウへと舵を切る。

 敵の航宙戦力は先程撃破したので、特に問題無く惑星ザクロウ上空へと接近出来た。

 

 

「保安局艦隊、大気圏突入部隊が降下します」

 

「VF隊に通達、降下部隊を援護せよ。VB隊も発進準備ッス!」

 

 

 VF-0 フェニックスには、ちゃんと大気圏に突入できる能力が備わっている。

 ザクロウ大気圏内に少なくない数の敵戦闘機が飛んでいるのをレーダーでとらえているので、降下中は動けない降下部隊を守らせる事にした。

 

 ついでに砲戦能力が高いVB隊も惑星へと降下させた。

 降下部隊を後方から火力で支援できるだろう。

 

 

「艦長、シーバット宙佐から通信です」

 

「了解ッス、ミドリさん。通信つないでくれッス」

 

「了解、回線繋ぎます」

 

『ユーリ君聞えるかね?先行して降下部隊が軌道エレベーターを占領する。我々はステーションを制圧するぞ』

 

「解りましたシーバット宙佐。一応兵装はパラライザーに限定しますか?」

 

『出来れば正規職員には被害を出したくは無い。ソレで頼む。通信終わり』

 

 

 シーバット宙佐は通信を切ると、自らの乗艦をステーションへと突撃させた。

 港事態は通商空間管理局の管轄なので、入るのは容易だが、エアロックを抜けた先の区画ではバリケードを敵がこさえているらしい。そこを突破して、ステーションを制圧するのだ。

 

 

「ミドリさん、ウチも白兵戦準備ッス。装甲宇宙服の使用を許可するッス」

 

「解りました。保安部に連絡します」

 

 

 そして俺達も後を追い、ステーションへと入港し、白兵戦隊が制圧を開始する。

 いやはや、ケセイヤさん特製の白兵戦用装甲宇宙服“ミョルニル・アーマー”があるおかげか、制圧が早いこと早いこと。名前で解るだろうが、外見はモロそれだが気にしてはいけない。

 

 元々それ程多くの人員を割いておけなかったのか、軌道エレベーターに居た防衛隊はすぐに落ちた為、俺達は軌道エレベーターに乗り込んで、眼下に広がる惑星ザクロウへと、降下したのであった。

 

 

***

 

Side三人称

 

 

 ユーリ達がまだ軌道エレベーターに居る頃―――

 

 

「くっそう!なんなんだあの兵器は!保安局の奴ら何時の間にあんなモンスターを!?」

 

「ドエスバン所長からの情報に、あんなのなかったぞ!」

 

「・・・・つーか何だよ。あのデカイ大砲」

 

 

 ―――階下の軌道エレベーター周辺地区は、撃戦地区となっていた。

 

 

 保安局の降下部隊と、それを支援している謎の陸戦兵器。いやさ、正確には飛行機が変形した機動兵器がザクロウの主要個所を攻めていたのだった。ドエスバンの配下に混じって戦う海賊たちには、あの機動兵器も保安局の開発した兵器に見えていた。

 

各セクションの建物に立てこもり、抵抗を続けているドエスバン配下の職員達ですら正直困惑していた。自分たちの所属している保安局に、あんんあ機動兵器が存在しているとは聞いたことが無い。かと言って軍ですらあの様な兵器は持っていない事を知っているので、余計に混乱していた。

 

 その機動兵器は、四門の大型キャノン砲を背負った重砲戦機、人型で空を自在に飛び回り、様々な兵装でこちらを攻撃してくる人型機動兵器、前者はVB-6ケーニッヒモンスター、後者はVF-0フェニックスである。

 

VF隊とVB隊はユーリの命令に従い、降下部隊の援護を請け負っていたのだ。だが敵はその事を知らないので、ただ保安局が本気出した程度の認識でしか無かったのである。

 

 

「ヤベ!デカブツがこっち向いた!皆伏せろ!」

 

≪―――キュン、パウ!ドーーーーーーーンッ!!!!≫

 

 

 そして強力なレールキャノンと重ミサイルが、敵が潜む建物付近の敵を吹き飛ばした。

 VF・VB隊と降下部隊との連携は稚拙なモノだ。降下部隊が対処できない場合に、援護要請を出して、ソレを受けたVF・VB隊が指定されたポイントに砲撃支援を行ったり、ガトリングポッドを斉射したりして、確実に落して行くというモノ。

 

非常に地味な作業だが、確実に制圧が出来るやり方であり、戦闘が続くにつれて、VF・VB隊と降下部隊との連携も、徐々に簡単に出来るようになっていった。お互いの勝手が時間がたつにつれて理解出来るようになり、データリンクも構築されたからだ。

 

 

―――それにより更なる苛烈な攻撃が、反逆したザクロウ警備部隊+海賊に行われた。

 

 

 VFが掃射攻撃で数を減らし、重火器をもった車両をVBが破壊し、立てこもっている建物を降下部隊が制圧する。ザクロウにはそれなりの数の海賊が駐留していたので、歩兵戦力的には互角であったが、機動兵器と人間の質において圧倒的に劣っている彼らは徐々に数を減らしていった。

 

 

「くそ!収容施設の方に後退するぞ!このままじゃ全滅だ!」

 

「あそこなら防衛にはうってつけだ!」

 

 

 そう誰が叫んだか、それぞれ防衛していた建物を破棄し、もともと囚人の暴動に備え、防御力の高い囚人収容施設へと立てこもるべく、分散していた戦力が各収容施設に集結していく。高機動装甲車や軽戦車のような、本来なら囚人相手に使われるはずだった戦闘車両に分乗して、入口に着くとそれらをバリケードにしていった。

 

 流石の機動兵器も建物の中に立てこもられると攻撃が出来ない。何故ならトスカやサマラがどの収容施設に捕らわれているのか特定が出来ないからである。故に彼らは基本施設の外に居る敵にしか攻撃が行えなかった。

 

 そして反逆者部隊は施設に立てこもる作戦を取ったので、VF・VB隊は手出しが出来なくなり、弾薬も乏しいことから一度フネへと帰還した。しかしそうなると、今度は降下部隊と施設防衛戦力との間がこう着状態へと突入してしまった。

 

降下部隊が持ちこめる火器は良くても迫撃砲程度である。シーバット宙佐から、正規職員に被害を及ぼさない様に、基本パラライズモードでしか、小火器を使用できないように命令が下っており、一応バリケードとなっていた戦闘車両は破壊出来たモノの、決定打に欠ける結果となってしまっていたのだった。

 

 2時間が経過し、降下部隊がどうにも攻めあぐねいていると、軌道エレベーターを制圧したユーリの白兵戦部隊が援軍として収容所前へと到着した。人工的に作られた高重力下の中で鍛えられ、またマッド陣営の技術力を総動員した最新の装甲宇宙服(アーマード・スペース・スーツ)を着込んだ部隊だ。

 

 彼らは降下部隊達と合流後、彼らよりも前に出た。そして遮蔽物に隠れながら、収容所の入口に持ってきた火器を向けて発射した。発射したのは、ユーリが持っているのと同型のエネルギー式バズーカで、艦長自ら試作品であったモノを使い続け、そのデータが反映されたモデルである。

 

 その驚くべき特徴としては、エネルギー火器の癖して、何故か爆発する。そしてパラライズモードが選択可能という、今回の様な制圧戦で“なにそのチート武器?”と思わず突っ込んでしまいそうな装備であった。マッドの技術力恐るべし。

 

 

 こうして収容所入口はあっけなく、ユーリの保安部員達に抑えられてしまったのだった。

 

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 

 ―――さて、ザクロウ制圧戦が開始されて、現在4時間が経過した。

 

 どうやら俺らが参加させた保安部の白兵戦用装甲宇宙服隊が、かなりの働きを見せてくれたらしい。お陰で残る収容所は3つ、西館と東館と中央にある管理棟だ。さて、一体どこの施設に居るんだろうかねぇ?ウチのトスカ姐さんは・・・。

 

 

「バリオさんやトスカさん達って、どこに居ると思う?」

 

 

 俺は何故かついて来てしまったユピに問いかけた。

 

 

「えーと、恐らくですけど、男の囚人と女の囚人は大抵は分けて捕えておきますから」

 

「バリオの子坊なら東館、トスカ嬢ちゃんなら西館の可能性があるんじゃよー、と」

 

 

そしてユピと彼女に着いてきたヘルガがそう答えた。ユピは戦闘は出来ないから置いてきたかったんだがなぁ。何故かヘルガを護衛に着けて来ちゃったんだよ。まぁヘルガはコンバットロイドでもあるから、彼女の周囲にいればメッチャ安全だろうけどさ。

 

 

「ふーむ、トスカさんは女性だから―――」

 

「西館でしょうね」

 

「なら、行く場所は決定ッスね」

 

「それじゃあ、確かイネ坊が車両を回してたから、それに便乗して西館に直行するんじゃよー、と」

 

「ああ、そうしようっス」

 

 

 んで、にべもなく目的地は決めた。男の囚人がいる方は・・・保安部員達に任せよう。

 バリオさんは良いのかって?――野郎相手に頑張る気なんて起きないさぁ。

 なんくるないさー。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、イネスに車両を回してもらい、やってきましたは西館。

女囚の館である・・・何かそう書くとエロいなオイ!

まぁそないな事は置いておいて、とりあえず入口付近を制圧する事にした。

 

 

「へるがパンチ!じゃよー、と」

 

『『『『『うわぁぁぁぁぁーーーー!!!』』』』』

 

「目からビーム(低出力)じゃよー、と」

 

『『『『『ひぇぇぇぇぇぇーーーー!!!』』』』』

 

「ヘルガのこの手がまっかにもえるぅ!お前ら消えろと轟き叫ぶー!はぁくねつ!」

 

『『『『『ちょ!おま!!』』』』』

 

「ヘルガ・フィンガー!!」

 

『『『『『めめたぁぁぁぁぁーーーー!!!』』』』』

 

 

―――そして、あえて言おう。ヘルガが強すぎる。

 

 

俺やトーロやイネス、その他の面々も攻撃を仕掛けようと思い準備してたのに、50人以上いた敵をヘルガが普通になぎ倒してしまった。しかも自分はほぼ無傷で、敵さんはボロボロではあるが気絶させただけで済ませている。

 

 

「むー、加減がまだ解らなくて、こがしてしまったんじゃよー、と。テヘ、なんじゃよー、と」

 

「「「「「テヘじゃねぇ!!だがいいぞ!可愛いぞ!!もっとやれ!!!」」」」」

 

 

 ・・・・そしてウチのクルーにも病気の人間が多いねぇ。

 この後も、ヘルガとヘルガFCの皆様が警備員という警備員達をバッタバッタと気絶させて行ってしまう為、俺とかがマジで暇になってしまった。

 

 

「なんか、スゲェヒマッスね」

 

「ま、まぁ、彼女はバトルロイドだし、ある意味間違ってはいないんだろうけど」

 

「しかしようイネス。正直ついて行くだけだと俺達何しに来たんだって感じしねぇか?」

 

「・・・トーロの言う事も解らなくもないね」

 

「ま、ある意味楽が出来るって考えれば、儲けもん何スがね」

 

 

 あうー、これだったら先の戦闘でVF・VB隊として出てたトランプ隊と一緒に、フネに残って報告待ちしてれば良かったなぁ。・・・ん、報告?

 

 

「おーい、ユピさんや。こっちゃ来い来いッス」

 

「はーい!なにか御用ですか♪」

 

「・・・なんか機嫌良いなぁ。まぁ良いッス。ヒマ何でデータリンクから、他の所がどうなったか教えて欲しいッス」

 

「解りました!それじゃ少しお待ちください!」

 

 

 俺達の前方20m先でココの所長配下の警備員が宙を舞っているのを横目に、他の所がどうなっているのかをユピに調べてもらった。

 すこしして、ユピはデータを収集し終えたのか、空間パネルをつかって情報を見せてくれた。

 

 

「えーと、中央の管理棟は相変わらずこう着状態です」

 

「ま、あそこが一番戦力が多いみたいだしな。所長いるらしいし」

 

「まぁ保安局の降下部隊は、O・I・Sの管制塔制圧に忙しいッスからね」

 

「そろそろ脱出ポッドを救助しないと不味いだろうからね。彼らも必死なのさ」

 

 

 こっちは出てないが、あちらさんは仲間が結構やられている。一応殆どのクルーが脱出出来ているらしいが、O・I・Sいまだ宇宙空間の所為で救助を待っている状態だ。色んな意味で早く助けないと危険なんだろう。

 

 

「えーと、東館は白鯨艦隊の保安部が制圧を完了。バリオさんと他一名を確保しました」

 

「他一名?」

 

「えーと、名前はライ・デリック・ガルドスさん。どうやらリアさんの行方不明だった恋人見たいです。現在映像が中継出来ますけど・・・・どうします」

 

「おk、ちょっとだけ覗いてみよう」

 

 

 せっかくの恋人同士の再開なんだから、これは覗かないとダメでしょう?

 

 

「では、投影します」

 

 

 そして空間パネルに映像が映された―――

 

 

『―――ねぇ!ライ!ライ何でしょう!』

 

『・・・・・あ、リア。久しぶり』

 

『久しぶりじゃないわよ!どうして生きてるなら連絡一つくれなかったのよ!!』

 

『う~んとね。ここ研究し放題で高価な機材使い放題で・・・その前にリアは何で怒ってる?』

 

『あ、あんたは――前からマイペースだとは思ってたけど・・・・』

 

『あ、そうか。手紙も出さなかったから、リアは怒ってるんだね?』

 

『今気付いたの?!遅いわよぉぉぉ!!!』

 

『アベシ!』 ← ライがリアからドロップキックをくらい倒れた。

 

「ユピ、もう良いッス。なんか見てらんねぇッス」

 

 

―――とりあえずココまで見たが、もういいや。後は二人の問題だろうしね。

 

 

「でもま、リアさん恋人見つかって良かったな」

 

「まったくだ。普段は普通に仕事してたけど、時折うなだれいた事もあったし」

 

「うんうん、仲好きことは良い事ッスよねぇ。あれはきっとケンカするほど仲が良いんスよきっと」

 

「・・・どちらかと言えば、あまりにマイペースなライさんにリアさんが怒って入るんだけど、マイペースすぎてライさんが気付いてないの方が正しいような」

 

 

 ま、いいでねぇの?恋人見つかったんだしさ。

 コレ以上は野暮なこといいっこなしよ。幾らコントに見えそうでもね。

 

 

…………………………

 

……………………

 

………………

 

 

「むー、西館にはトスカさんいなかったみたいッスー!」

 

「東館も制圧が終わったし・・・」

 

「後は管理棟だけですね」

 

 

 さて、ヘルガにより制圧がすぐに終わったのは良いが、トスカ姐さんの姿は影も形も無かった。どうも俺達が来る以前に脱走していたらしく、刑務官の日誌にそんな記述があった。

 でも他に制圧した所でも見つかってないし、後残っているのは中央の管理棟だけだ。

 

 しょうがねぇので、管理棟へ移動する。保安局降下部隊もO・I・S管制塔の制圧が完了したらしく、中央管理棟の制圧を行うらしいので、俺達もそれに便乗する事にした。

 

 

「・・・さて、入ったのは良いんスが―――」

 

「??ありゃ??」

 

「だれも、いないな」

 

「一応ターレットとかは作動してましたけど。それ以外はなにも無かったですね」

 

 

 0Gらしく先頭を切って突入したと言うのに、誰もいないとは拍子抜けである。

 

 

「・・・・とりあえず、情報が欲しいッスね」

 

「それじゃあ、監視室に行こう。あそこならこの施設のサーバーにアクセスできるだろう」

 

「お!イネスあったまいい!」

 

「俺たちじゃ思い付かない事を平然と言ってのける!そこにしびれるあこがれるぅ!ッス」

 

「・・・・艦長!何言ってるんだ!」

 

「いや、なんかノリで」

 

 

 で、そう言う君は何故顔を赤くしてんだ?そんなに怒るような事言ったか?

 

 

「まったく・・・僕は先に行くからね!」

 

「なーに怒ってんだアイツ?」

 

「さぁ?」

 

 

 ズンズンと言った感じで歩いて行くイネスの後ろ姿を追いつつ、監視室へと向かう。

 そう言えばユピが“イネスさん、貴方もなんですね?今なら解ります”とか言っていたが、何の事なんだろうか?

 

 

 

 

 

~管理棟・監視室~

 

 さて、監視室に来たので、ユピが監視室の端末にアクセスし情報の洗い出しを行った。

 PCに直接接続して情報を得るユピの身体から、淡い燐光が発している。

 どうやらユピの身体が、PCとアクセスしている為エネルギーが活性化しているようだ。

 ややあって彼女は顔を上げた。どうやら情報の洗い出しが終わったらしい。

 

 

「・・・どうやら所長室の所に隠し部屋があるらしいです」

 

「悪者の頭領の部屋に隠し部屋。古臭い設定みたいだぜ」

 

「まぁまぁ、で、そこに行くには?」

 

「回線の集中具合からすると、所長のデスクに何かあるかと思います」

 

 

 成程、そこに隠れたってワケか。監視室のデータを消し忘れたくらいだから大分慌ててたのか。それとも罠か・・・少なくても隠し部屋に行ってみなきゃ解らんな。

 

 

「おし、とりあえず隠し部屋に急ぐッス!もしかしたらグアッシュを追いかけているサマラさんとトスカさん達もそこに居るかも知れないッスからね」

 

 

「「「了解!」」」

 

「了解じゃよー、と」

 

 

 監視室で情報を得た俺達は、急いで所長室へと向かった。

 

 

 

 

~管理棟・所長室~

 

 

「有った!隠し部屋のスイッチだ!」

 

「デカしたイネス!――ってマジでスイッチなんッスか!?」

 

「引き出しの中とか・・・テンプレすぎるぜ」

 

「だけどこれ以外は無さそうだよ?デスクのPCには何も無いってユピが言ってたし」

 

 

 見つけたのはいいが、あからさまにあやすぃ。だけどこれ以外手がかりなさそうだし・・。

 

 

「ええい!ままよ!ぽちっとな!」

 

「「え!?か、艦長!?」」

 

≪ポチ―――ぷしゅーん≫

 

 

 俺が思いっきりスイッチを押すと、部屋の奥の扉が動いて、隠し部屋への通路が現れた。

 つーか、本当に隠し部屋空けるスイッチだったのかよ・・・。

ある意味ロマンが解る男だったのか?ココの所長さん。

 

 

「とりあえず入るッス!」

 

「ちょ!ちょっと艦長1人じゃ危ないです!」

 

「ヘルガは2番乗りなんじゃよー、と!」

 

「ああもう!罠あったらどうするんですかー!!」

 

 

 やや薄暗い通路を真っ直ぐ進んでいくと、通路は右に続いていた。

 ほかに部屋や通路らしきモノは無いので、俺は右に進む。

 どうやらトラップの類はなさそうだった。

 

 

「・・・何気に長い通路ッスね」

 

「隠し部屋への通路って言いますけど、どんだけお金を使ったんでしょう?」

 

「それだけ稼いでたって事だろうさ」

 

 

 その後も真っ直ぐ直進する道が続き、またもや右に曲がる。コレ最終的に所長室の隣の部屋にでも出るんじゃねぇのとか考えてたら、今度は左折だった。分かれ道が無いので、とにかく道沿いに進むしかない。

 

 

「あ、あそこに誰か倒れてます」

 

「え?薄暗くてよく見えないッス。まさかトスカさんじゃ・・・」

 

「灯りをつけるんじゃよー、と」

 

 

 ヘルガのバイザーに着いたフラッシュライトが、俺の少し前を照らした。

 だが、そこに照らし出されていたのは―――

 

「くぁwせdrftgyふじこl;@:」

 

「きゃっ!」

 

「げぇ!死体かよ」

 

 

 上からイネス、ユピ、トーロの順である。

 

 

「・・・・ユピ、イネス・・・クビ絞めてるッス。苦しいッス」

 

「「あ、ごめんなさい」」

 

 

 そして、怖かったのかイネスとユピに抱きつかれ首を絞められた。

 落ちるかと思ったぞオイ。―――しかし、随分と古い死体だな。乾燥してミイラ化してら。

 

 

「こいつは、もしかすると―――」

 

「グアッシュのなれの果てさ」

 

「え!?トスカさん!?」

 

 

 突然、その死体の向う側から声が聞こえ、明るみにトスカ姐さんが現れた。

 サマラさんの姿も見える、目立った外傷らしきモノを追ってはいないらしい。

 

 

「ココに閉じ込められて飢え死にしたんだ」

 

「名の通った海賊にしては、哀れな死に方だがな」

 

 

 サマラさんはそう言って、グアッシュのなれの果てを蹴る。風化しかけていたグアッシュの亡骸はガラガラと骨の音だけを鳴らして、崩れてしまった。

 

 

「ト、トスカさん!サマラさん!無事だったんスね!ボカァもう心配で心配で!」

 

「な?私の言った通りだったろサマラ」

 

「だな、まったく賭けに負けてしまった」

 

 

 あのう、何でマネーカードのデータのやり取りしてるんスか?

 つーか、賭けって何?

 

 

「いやさ?ユーリが一番乗りでキチンと迎えに来るかどうかって賭け」

 

「そうしたら、本当にお前が一番乗りだ。保安局員がさきかと思ったんだが」

 

 

 ・・・・あーそう。

 

 

「二人とも、よく無事だったよな?ずっとここにいたのかトスカさん?」

 

「ああ。脱獄した後、この部屋を運良く見つけたのはよかったんだが、調べている最中に所長に気付かれてね。そのまま閉じ込められちまったんだ」

 

「てことは、やっぱり所長が海賊とつるんで――」

 

「そうじゃあない。ヤツがグアッシュなのだ。収監したグアッシュを殺し、すり変わった所長がココから資金を渡して部下に指示を出していた」

 

 

 成程、幾ら部下を叩いても捕まえても、最終的に送られる場所に頭がいたならすぐに仕事に復帰できるって訳だ。しかも監獄惑星なんて普段は誰も来たがらないから秘匿性も高い。

 

 

「とりあえず、シーバット宙佐に連絡しておこうッス」

 

「宙佐と回線をつなぎます」

 

「うす、ユピ頼むッス」

 

 

 ユピが回線を繋げ、すぐに通信に中佐が現れた。俺達はココで知った事をすぐに報告する。報告を聞いている宙佐はさらに眉間の皺を深くしていった。

 

 

「むぅ、そうか。所長のドエスバンが、な」

 

「ヤツはまだ見つかって無いのですか?」

 

「どうやら我々がO・I・Sを突破している間に逃げたらしい。捕まえたヤツの部下だった者からの情報だ」

 

 

どうやら、俺達がこの星の制圧に手間取っている間に、ドエスバンはとっとと逃げだしていたらしい。この星事態が囮だったのだ。だが、大体の行き先は解るなぁ。

 

 

「ドエスバンが逃げたのなら、私は追いかけさせて貰う」

 

「―――って、サマラさん行き先解るんスか?」

 

「この星の奥にグアッシュの本拠地“クモの巣”に通じる航路がある。ヤツが逃げるとしたら、そのルートしか有るまい」

 

「なるほど、それならすぐにでも―――」

 

 

 と、俺達が通信を切って、軌道エレベーターに向かおうとすると、シーバット宙佐が慌てて俺達を引き止めようとした。

 

 

「ま、待ってくれ!我々はココの後始末でまだ動けないんだ。それを待ってから――」

 

「ソレでは追撃は間に合うまい。それに私が約束したのは連中を潰すと言う事だけ・保安局と行動を一緒にする気は無い」

 

 

 彼女がそう言うと、突然響き渡る振動音。

施設全体が微振動を起しているのを見ると、重力波によるものだろう。

 どうやら上空にフネが来ているらしい。

 

 

「迎えも来たようだな。私は行くぞ」

 

「俺達も行くッス。あいつ等を倒さないと、先に進めないッスからね。それに綺麗なお姉さんを、あの所長の視線の中で過ごさせてしまったお詫びも兼ねて」

 

「・・・ふ、好きにするがいい。私は先に行っている」

 

 

 彼女はそう言い残し、俺達に背を向けると、管理棟の外へと向かって行った。

 多分さっきの重力波振動は、エリエロンドが来たからだろう。

 彼女はそれに乗りこむ為に俺達と別れたのだった。

 

 

***

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第二十五章+第二十六章+第二十七章+第二十八章

 

Side三人称

 

「VF・VB兼用のRGP(リニアガトリングポッド)の備蓄弾薬は?あ?無い?!また補給かよ!」

「20番機までマイクロミサイルから対艦ミサイルへ換装作業終了!」

「今回反陽子弾頭使うのか?ああ、こっちにゃストックがねぇから、アバリスの生産室から持って来てくれ」

 

 慌しいユピテルの格納庫、そこではVF・VB隊の補給作業が行われていた。白鯨艦隊がザクロウを出発し、グアッシュ海賊団本拠地のくもの巣へと向かう途中であっても、整備班達の手が止まることは無い。

 後回しにしていたVF・VB用の備蓄弾薬の補給、次の戦闘に備えての兵装の換装、特殊弾頭の準備など、休む時間が無い程の忙しさだ。これに更に戦闘中はダメコンの作業や、帰還した戦闘機隊の弾薬補給もやるので、整備班は戦闘中、フネの屋台骨を支えていると言っても良いだろう。

 

「おい!はんちょーはどした!?」

「あん?しらねぇーな。おい新入り、知ってか?」

「班長さんだったら、“外”に出てるだ。なんでも“アレ”を完成は無理でも可動くらいはさせたいらしいだよ」

「ふ~ん、ま、いつもの病気だからしかたねぇか。それじゃ俺達は班長が戻るまでに、仕事終わらせっぞー!今日のユピテル食堂の一押しは、チェルシーちゃんの手作りスープだってよ」

「「「「や る ぞ ー ! み な ぎっ て き たぁーーー!!!」」」」

 

 そして今日も、格納庫では男らしい声が響き渡る。もっともその内容は聞くに堪えないモノだったが、コイツらに何言っても無駄だろう。何故ならコイツらは、“漢”達だから、浪漫大好きな大きな大人達だからだ!

 

「「「「「アダルトチルドレンとちゃうわい!」」」」」

 

 そして、地の文に突っ込むんじゃねぇモブ共。

 まぁそんな感じで、急ピッチで作業を行う整備班だった。

 

Sideout

 

***

 

Sideユーリ

 

―――ザクロウから出て、くもの巣への航路に入った。

 

 だが、それなりに距離が空いてしまっている為、実際戦闘空域に到達できるのは、今から数えてざっと10時間後になってしまう。此方の巡航速度は速いが、ドエスバンとの距離が半日分位空いているので、どちらにしてもドエスバンのくもの巣入りは止められないと結論が出た。

 

 なので、実際はもっと早くに到達出来るんだが、牛歩戦法の如くゆっくり行く事にした。それでも通常のフネに比べたら早いらしいけどね。あとサマラさん側にも準備があるらしい。何をするかは教えてもらえなかったけど、かな~り怖いことを考えているのは解った。

だけどオラ聞かね。だってマジ怖いし。

 

 そんな訳で、戦闘空域到着時間までは整備班を除き現在休息と言う事になっている。自然公園でリフレッシュしたり(主に農作業)、タンクベッドで超睡眠とったり、サド先生の所に入り浸ったり(保健室でさぼりする様な感覚か?)していた。

 

 サド先生の所では公然と酒が飲める。一応食堂や自室、およびバーみたいな娯楽ルームでの飲酒は許可してあるのだが、一人で飲むよりかは複数で飲みたいという人間心理なんだろう。サド先生はザルだし、医務室には飲み過ぎ用の薬もあるので、急な戦闘にも対処できるしな。 

 

 さて、そんな中俺はと言うと―――

 

「はぁ~~、飯がウメェっス~」

 

「ふふ、おかわりも有るよ!」

 

 

 ―――飯時だったから、食堂に飯食いに来ていた。

 

 

 やはり俺も人間である以上、エネルギー補給の手段として飯だけは外せない。

 そして食事と言うのは、只単に生命活動維持の為のエネルギー補給という訳でも無いのだ。

 トスカ姐さんが居らず、ずっと艦長室で缶詰で仕事してたから、その事がよーく解る。

 

 おまけに癒しの元のチェルシーとも、食事を運んで来てくれたときに一言二言話せた程度だ。

 俺の中の妹分と癒し分の成分が、現在非常に不足している状態となっている。

 癒し分はユピで補完していたが、そろそろ色んな意味で限界に近い。

 

 あの子、最近女の子らしくなっちゃってまぁ・・・はぁ。

 俺も男のですし?色々と溜まる訳でして、そんな中で部屋で女の子と2人っきり。

 そんな拷問だって話だ。なまじ臆病で倫理観も高いお陰か、今のとこ平気だけどな。

 

 俺の中の倫理観的には、愛が無いのに押し倒すのは論外だと思っている。

 ユピはAIであり、それこそずっと前から育てて来た娘みたいなもんなのだ。

 もしも若気の至りでそんなことしたら・・・・俺のジャスティスが許さねぇよ。

 つーか、やったら最後自責の念で自殺するね。俺が。

 

 

「うん、あれッスねチェルシーの料理の味は、どこか安心する味ッスね」

 

「安心する味って、どういうことなの?普通過ぎるのかな」

 

「うんにゃ、要はお袋の味みたいなもんス。濃すぎたり、豪華過ぎない素朴の味。

 また食べたくなるような、安心出来る味ッスよ」

 

「また食べたくなる味・・・うん、私の味はお袋――お母さんの味なのね」

 

 

 いやはや、そう言った意味じゃ癒される味だー。

 疲れた心と体に優しく滲み渡る味だわさ。ミネストローネに近いこのスープわな。

つーか何時の間にか、彼女の料理もメニューに加わってたりするんだよな。

 自前で覚えてるんだろうか?それともタムラさん?

 

 

「はぁ、それにしても・・・書類整理が無いのはありがたいッスね~」

 

 

俺は食後のお茶をズズズとすすりながら、ついついそう漏らしてしまう。

そう言った意味では、今回の戦闘はありがたかったのだ。いや、マジな話で。

 

 

「そんなにお仕事大変なの?」

 

「ほり、ココ最近チェルシーに会いに来れなかったじゃん?アレ全部トスカさんがいなかった分の仕事が、俺に回ってきたからなんだよね」

 

「そう言えば食堂で話すのなんて、本当に久しぶりな気がするわ。後私の出番―――」

 

「あー!あー!と、とりあえずトスカ姐さんが復帰したから、ある程度は楽になる筈ッス!」

 

 

 メメタァな発言を途中で遮る俺。

むむ、疲れてるのかなチェルシー、まさか電波を拾うだなんて。

 

 ところで先のトスカ姐さん復帰云々だが、その前に経理部門的な所作ったから、雑多な方はそっちに回るので、俺も少しヒマになるのは本当だ。

 

 

「だけど・・・体壊すまでやったらだめだよ?」

 

「うん、気をつける」

 

「約束だよ?ユーリが倒れたら皆が心配するんだからね」

 

「うん、大丈夫。何せ部屋で鍛えてるから!」

 

 

 伊達に重力ウン倍の部屋に籠っちゃいねぇぜ!それなりに体も鍛えられてます!

 故に体力も以前と比べたら月とすっぽん!24時間働けますぜ!まさにゼナ要らず!

 ・・・・何時から俺はサラリーマンになったんだろうか?

 

 

「――っと、いたいた。ユーリ、休憩時間は終わりだよ」

 

 

 俺が食堂にてダレていると、トスカ姐さんがやってきた。

 どうやら休憩時間は終わりらしい。

 

 

「しゃーない、仕事に戻るべ」

 

「むむ、トスカさん。ユーリは貴女がいない間も頑張ってたんだから、もう少しお休みがあっても良いと思います」

 

 

 心配してくれるのか、俺に仕事させる為に迎えに来たトスカさんを若干睨むチェルシー。

 うんうん、やさしいなチェルシー。だけど、悲しいけどこれって、お仕事なのよね。

 

 

「んー、そう言いたいのはこっちも何だけどね。ユーリはこの艦隊のトップだから、休むに休めないのさ。ま、私も復帰できたから、仕事の方で支えられるけどねぇ」

 

「・・・とか言いつつ、以前隣で酒飲んで“私は監視の仕事をしてるのさ”とか言って、見てただけの人がいたッスけどね」

 

 

 俺はジトーとした目でトスカ姐さんを見る。

 この人は時折さぼりたい時に、俺の部屋に来ることがあるから困る。

 ホント仕事してください、マジでお願いします。

 とりあえず、カンチョーのお仕事に戻りますかね。とほほ。

 

***

 

 さて、仕事の為に部屋に戻る俺とトスカ姐さん。並んで通路を歩き、艦長室へと向かう。

 はぁ~、正直仕事したくねぇ。一応経理部作ったけど、ちゃんと機能するまでまだ時間掛かるだろうしな。でもワンマンシップじゃなくなった訳だから、任せられる所は任せないと、俺が過労で死ぬ。間違いなく死ぬ。

 

 

「まったく、あの子も心配性だねぇ」

 

「まぁ以前よかマシッスけどね。以前は人見知りが凄かったじゃないッスか」

 

 

 食堂スタッフ以外には、あまり笑わなかったんだよな。

 接客が板についてきたのは、ココ最近の事なのだ。

 お陰で男やもめどもに人気が高いんだが、いまだ彼女を射止めるヤツは出てきてない。

 まったく、もう少し根性のある奴ぁいないんかねぇ?

 

 

「それもそうだね。・・・・なぁユーリ」

 

「ン?何スか、トスカさん」

 

 

 彼女が立ち止まったのを感じて、俺も立ち止まった。

 トスカ姐さんは若干何かを言い淀んでいる様な感じだったが、意を決したのか口を開く。

 

 

「他の奴らから聞いたよ。結構、無理してたんだって?」

 

「・・・あはは、やっぱ見てる人は見てるッスね」

 

 

 後頭部を掻きながら、すこし苦笑しつつそう応えた。

 いや、なんと言うか、ねぇ?

 

 

「なんて言うか―――俺の隣が涼しくて、落ちつかなかったんスよ」

 

「・・・・心配かけさせちまったんだね。ゴメンなユーリ」

 

「良いんスよ心配かけて。だって俺らは仲間じゃないッスか」

 

 

 トスカ姐さんが俺に謝って来たので、俺はそう返事を返した。

 そしてちょっと考えてみたら、随分と臭い言い回しだった事に今更気付いて慌てた。

 それを見たトスカ姐さんは、呆れた様な安心した様な不思議な表情をしていた。

 

 

「と、兎も角、無事でよかったって事ッス!仕事しに行くッスよ」

 

「クス、アイアイサー。ユーリ艦長」

 

「むむむ・・・」

 

 

 俺はてれ隠しに早足で通路を歩いていった。

 

 

「ふふ、自分の為に心配してくれる。女なら誰だって嬉しいもんさ・・・」

 

 

 トスカ姐さんが何か呟いていたが、俺はそれを聞くことなく艦長室へ戻った。

 

 

***

 

 

「艦長~、レーダーに大型艦の反応を検知~」

 

「インフラトンエネルギーパターン解析・・・出た。艦種はエリエロンドです」

 

「どうにか間に合ったみたいッスね。ミドリさんモニターに――」

 

「投影します」

 

 

 どうやらエリエロンドが、単艦で海賊本拠地に突っ込む直前に到着出来たらしい。

 モニターには、ちょっと大きめの小惑星の隣に、停泊しているエリエロンドが写っていた。

 

 

「・・・む?艦長、あの小惑星からはインフラトン機関の反応が出ている」

 

「・・・?どういう事ッスか?サナダさん」

 

「恐らくだが、人工衛星の一種じゃないかと思う」

 

 

 そういや、解りにくいけどパイプとかみたいな人工物が見える。

 アレはもしかして―――

 

 

「・・・サマラさんの持つ衛星基地ッスか?」

 

『その通り、私の持つ航行基地コクーンだ』

 

「うわっ!サ、サマラさん!?」

 

 

 突然通信が入って艦長席に仰け反る俺。

 いや、だって唐突に通信が入れば驚きますって。

 

 

「ひそひそ(どうやら、強引にアクセスしてきたようです艦長)」

 

「ぼそぼそ(・・・なるほど、実に海賊らしいッスね」

 

『何が海賊らしいのかは訪ねないが・・・何か不愉快だな』

 

「あ、サーセン」

 

  

 いっけね。ついつい口に出てたぜ。

 

 

「だけどいいんスか?大事な基地をお披露目しちゃって?一応何隻か保安局艦も来てるんスよ?」

 

『かまわんさ。じきに廃棄する代物だ。重要なモノはすべて取り払って有る』

 

「・・・・廃棄?――あー、成程」

 

 

 俺は彼女の意図を読み取り、ニヤリと口角を歪めて哂う。

 これはまた実に豪快な作戦じゃないか。ウマくすれば宇宙に大きな花火が出来るぜ。

 あ、でも―――

 

 

「でも奴さんら、巨大ミサイル詰んだフネが防衛してるッスよ?」

 

『・・・・何だと?』

 

「ウソじゃねぇッス。ユピ」

 

「データ転送します」

 

 

 以前の偵察した時のデータを送る。それを見たサマラさんは、ちょっと顔をしかめた。

 流石に150mクラスのミサイルを、無理矢理に船体にくっ付けた敵に呆れているのだろう。

 

 

『・・・・まったく、こんなバカな改造を良くやる』

 

「俺もそうおもうッス。完全に機動性を無視してるッスからね。こちらが先手を打てれば、楽勝で倒せるんスが・・・」

 

『そうなる前に、剣山にされてしまう・・・か』

 

 

 そう言う事である・・・・つーか、剣山って言葉よく知ってんなサマラさん。

 もしかして花道とかって、この世界にまだ有るのか?

 

 

『・・・・すこし、作戦を変更しなければならないか』

 

「相手もミサイルっていう実弾兵装ッスから、無限にあるって訳じゃないのがありがたい話ッスね」

 

『アレだけデカければ迎撃も容易なのもな・・・だが、数が数だろう?』

 

「そう何スよねぇ・・ホントどうし――『お困りの様だな!艦長!』――む、あえて空気を読まないこの声は!?」

 

 

 突然、通信に割り込みが掛かってきた。

 サマラさんは少し眉を上げ、俺は知っているヤツの声にまたかって顔をした。

 だがヤツは、そんなことお構いなしに言葉をつづけている。

 

 

『こんなこともあろうかと!ギリギリ突貫工事だったが、なんとか“アレ”を完成までこぎつけたぜ!』

 

「あれって・・・以前許可を出したあれッスか?!」

 

『おうよ!・・・とは言うが、流石に時間が無くて、護衛艦を改造したもんだけどな。だがなんとか動かすことは出来るぜ!コイツなら、ユピテルとVFの機能を使えば、圏外からでも攻撃が出来る!・・・問題は試作品みたいなもんだから、連射できねぇってとこか』

 

「いや、あれをこんな短期間で作り上げる方が凄いッスよ」

 

『・・・・出来れば、そろそろ説明して欲しいな。ソコな男は何を作ったんだ?』

 

 

 俺とケセイヤさんとの会話の内容を説明した所、サマラさんも乗ってきた。

 以前から開発を続けていたモノが、一応使える状態に出来たので、ソレを使おうと言う話だ。今回の戦闘については、他に方法も無かったし、今を逃すと更に防備を固められてしまう為、ちょっと不安だが、ソレを使う事にしたのである。

 

 

 とりあえず、俺達は一度二手に分かれ、サマラさんのエリエロンドとは別方向から攻撃を仕掛ける事で合意したのだった。

 

 

***

 

 

Side三人称

 

~くもの巣~

 

 

 ドエスバン所長がくもの巣に逃げ込み、海賊本拠地は蜂をつついたような騒ぎとなった。何故なら保安局が重い腰を上げて、自分たちを殲滅する為に大戦力を送ってきたのだ。

 既に仲間がいる筈のザクロウとは12時間くらい前から連絡が取れなくなっている。その事がドエスバンが言った事に真実味を持たせ、彼らに防衛準備を急がせる要因となっていた。

 

 

「大型ミサイル、多弾頭型、炸裂弾型のどちらとも正常稼働テスト完了」

 

「・・・ふん、武器商人に無理言って買った、大型艦船用のミサイルだ。高い金を出しただけに、ちゃんと起動する様だな」

 

 

 そして、既に艦隊を展開している海賊艦では、既に戦闘に備えて、無理矢理に搭載してある大型ミサイルのチェックを進めていた。

一応まだ敵艦が見えない為、直前に事故が起きない様に稼働テストをしていたのだ。そんな中、手持ちぶたさな海賊手下の一人が、自艦のキャプテンに話しかけた。

 

 

「キャプテン、一応上の幹部からの指示らしいけど、ミサイルを搭載したままだと、バランサーに異常が出るよ?只でさえ自動3次元懸垂とかの駆動プログラムにエラーが起きてんのに」

 

「仕方ないだろう?相手にあの白鯨艦隊がいるって話だ」

 

「え゛ソレってエルメッツァのスカーバレルを壊滅させたっていう!?」

 

「そうだ。その白鯨艦隊だ」

 

 

 キャプテンのその言葉に、顔を蒼くさせる手下A。

 相手はエルメッツァ方面では最大勢力を誇ったスカーバレル海賊団を、たったの数隻で壊滅させたという噂がある白鯨艦隊である。

 

 スカーバレルとは海賊団としては珍しく、偶に交易の様なことや技術提供をしていた事もある間柄の海賊団だ。グアッシュとしては、ある意味商売仲間の様な存在である。

 

 それを壊滅させた存在が、今度は自分たちを狙っているのだからたまらない。何せ生き残りの海賊曰く「海賊専門の追剥」曰く「出会ったら骨の髄までしゃぶられる」と、好き勝手言われており、どれが本当かは不明だが、どちらにしろ、航路で出会ってしまった海賊たちは、そのほとんどが帰還できなかった。

 

 情報が少ない分、怖さだけが独り歩きし、余計に恐怖を煽っているのである。

 

 

「や、ヤバいジャアにでッスかキャプてん!」

 

「おちつけ、何言ってんだかさっぱりだ」

 

「ヤバいじゃねぇかキャプテン!逃げちまおうぜ!」

 

「阿呆、海賊が自分家を守らないで逃げてどうすんだよ?それに逃げようとしたら、まずそいつから撃たれるんだ。そう指示が既に出てる」

 

 

 キャプテンのその言葉に、更に顔を蒼くする海賊A。

 作業しつつも話を聞いていた他の海賊たちにも、不安な空気が降りてくる。

 それを見ていたキャプテンは、溜息をつきながらも、不安そうな部下達に語りかけた。

 

 

「大丈夫だ。俺達ゃこの腹に抱えたドデカイ荷物を撃ったら、後退しても良いって話しを着けてある。当たるかはともかく、コイツを届けた後は、基地主力艦隊の後ろにひっ付いてればいいとさ」

 

 

 そうキャプテンがいうと、ブリッジ内に安堵の空気が戻ってくる。

 そうだ、俺達は海賊だ。素早さが本来の持ち味だ。

 今は不本意だが、こんな重たい荷物を持たされているが、ソレさえ撃ち尽くせば後は海賊本来の闘いが出来るのである。

 そう思えば、なんとなくだがやる気がわいてくる感じがした。

 

 だが―――

 

 

≪ズズーーーーーーーンッ!!!!≫

 

「な!なんだ!?」

 

「オペレーター!報告しろ!」

 

「解りやせん!突然の重力波!?」

 

 

 そうオペレーターが報告するのが早いか、また重力波が海賊船を襲う。

 今度は自艦の隣の艦隊から、火球が起こっていた。

 

 

「今度は何だ!?」

 

「インフラトン反応の拡散!?誰かが撃沈されちまいやした!」

 

 

 唐突の事態に海賊船の中は大混乱となる。デブリの衝突では無い。

 昨今のフネがたかがデブリでやられる事は無いからだ。

 

 キャプテンは急いで状況を把握する為、レーダーや外部モニターを映し出す。

 すると、となりの海賊艦隊が火球に包まれる直前、何かが飛来しているのが確認出来た。

 

 速さはデブリなんて比では無い。またソレは命中すると“貫通”しているのである。

 故に飛来した物体が、タダのデブリの筈が無いのだ。

 

 

「―――まさか、くッ!休息回頭いそげぇ!!」

 

 

 有る考えに至ったその海賊船のキャプテンは、幹部に命令を請う前に命令を出す。

 キャプテンのその言葉に、半ば条件反射の如く舵を切った部下。

 その事が彼らの命を救う事になる。

 

 

≪ギューーン!!ズズーーーーーン!!!≫

 

「ぐわわわわわ!!」

 

「ひぇぇぇぇ!!」

 

 

 次の瞬間、フネを分解出来るんじゃないかという振動と共に、後続の海賊船が爆散する衝撃波に襲われた。コンソールにしがみつきながら、キャプテンが開いておいた外部モニターに目を送ると、そこには先程まで確かにそこに居た筈の、友軍艦である海賊船がいない。

 

 いや、正確には“ある”のだ。だが、ソレは既にフネでは無く、青々とした火球なのである。何が起きたのかをキャプテンが確認する前に―――

 

≪ヴィー、ヴィー、ヴィー!!≫

 

―――今度はフネの異常を知らせる警報が、艦内に鳴り響いた。

 

 

「クッ!今度は何だ!?」

 

「側面の第1、第2装甲板融解!戦闘用レーダー、センサー類が全滅!」

 

「右舷ウィングブロックのミサイルが異常加熱!切り離さねぇと爆発するぞ!」

 

「ちっ!隔壁閉鎖!ダメコン急げ!右舷ウィングブロックはパージ!急いで離れろ!」

 

「メインスラスター破損!推進力3割に低下!」

 

「補助エンジンも使え!全出力をエンジンに回して逃げるんだ!爆発に呑まれるぞ!」

 

 

 直撃こそ受けなかったが、先程の何か通過により、海賊船にはかなりの被害が及んでいた。バクゥ級を元に火力増強改造を施されたフネだったが、右舷側の装甲が所々拉げ融解しており、元々それ程耐久性などないセンサー類は、非常用の内蔵タイプを除き全滅。

 

武装も左舷の小型レーザー砲を残して、右舷側の融解に巻き込まれて使用不能、その際のフィードバックでジェネレーターが行かれたのか、左舷兵装も実質使用不可に追い込まれていた。

 

 まるで巨大な生物の爪に、引き裂かれたような姿をさらす海賊船。自艦のその姿にめまいを感じつつも、今にも暴走して爆発しそうな150mミサイルをブロックごと切り離した。パイロン自体が拉げてしまっており、遠隔操作でも手動操作でも切り話が出来なかったからだ。

 

 

「ウィングブロックパージ!」

 

「エンジン出力最大!!急げ急げ急げェェェェェぇッ!!!!」

 

 

 150mミサイルをブロックごと切り離したバクゥ級巡洋艦は、出せる全力をもってしてその場からの離脱を計る。後少しと言ったところで、巨大な火球が後方で発生した。

 切り離した大型ミサイルが、暴走を起し自爆したのである。

 

 

≪ヴィーヴィーヴィーヴィー――――≫

 

「――ッ・・くそ、これまでか?」

 

 

その火球に呑まれた海賊船、神に祈った事も、神という概念を知らないキャプテンだったが、この時ばかりは何かに祈りたい気分だった。

 

 外部モニターは既にザーとした砂嵐、隔壁の幾つかが破壊され、空気漏れ警報が止まらない。既に非常用の宇宙服がイスから出てきており、ソレを装着しないと、もうすぐ酸素が無くなるような状態だ。

 

 それよりも問題は、フネを揺らす衝撃と装甲板越しなのに感じる熱波。

 これまで危なくない様に生きて来た海賊船キャプテンは、もうダメだと感じた。

 だが、その思惑が当たることは無かった。徐々に振動が引いて行き、やがて静寂となった。

 

 

「・・・た、助かった。のか?」

 

 

 誰かが漏らしたが、実際助かったかどうかは不明だ。なんとか動力は生きているものの、それ以外はほぼ全て破壊されている。現在は爆発の衝撃と、爆発から逃れる為にエンジンを吹かした事による慣性の力で動いているだけである。

 

 救援を呼びたくても、通信機もそとのアンテナが破壊された為、救援を呼ぶ前に修理を行わなくてはならないだろう。

 そして、彼らは爆発するミサイルから逃れる為に、エンジンを全開にして動いたために、慣性の法則にしたがい、何時の間にかクモの巣宙域を離脱する事となる。

 だが、これがまた彼らを救う事となると言う事には、中に居る生き残りの40人の海賊たちが知る由も無かった。

 

 

Sideout

 

***

 

 

 海賊本拠地への攻撃を終えた白鯨艦隊は、次の攻撃の準備を進めていた。

 

 

「―――第5射、発射完了。しかしK級の加速板耐久値が限界です」

 

「放熱システムにも異常を検知、現在強制冷却処理中」

 

「―――砲雷班は第6射の攻撃は不可能と判断するぜ。艦長」

 

「ウス、サマラさんに連絡、Dフィールドの敵ミサイル艦を撃沈、そこを狙われたし、と」

 

「了解しました。サマラ艦に連絡します」

 

 

 先の攻撃の後、俺達はクモの巣へと動き出す準備を完了していた。

 そんな中、整備班のケセイヤから通信が入る。

 

 

『艦長、こちらケセイヤ。改造したK級だが思ったよりも船体フレームのダメージがデカイ。10隻中4隻は、戦闘行動への参加は無理だ』

 

「・・・・戦力低下になるッスが、まぁ仕方ないッスね。K級は後で回収するから、戻ってくるッスよ。これからが本番ッス」

 

『了解、すぐに戻る』

 

 

 さて、一体俺達がグアッシュ海賊団に対し、何をしたのか? 

 ぶっちゃければ、敵が感知出来ない距離からの超超長射程からの砲撃である。

それも1,5kmの長さがある、即席マスドライバーキャノンでの攻撃だ。

 

 

「サマラ艦の攻撃開始に合わせ、クモの巣を強襲するッス!各艦コンディションレッド!微速前進!」

 

「微速前進、ヨーソロ」

 

 

 白鯨艦隊は傷ついたフネを残し、戦いへと向かう。

 んで、話の続きだが、3kmのマスドライバーキャノンなんて普通は作れない。

 だって使用用途が無いし、かさばるし邪魔だ。普通に使うとしても精々小型艇の加速程度。

 

 正直デカさの割に、扱いにくいそれを持つのは、軍隊ならともかく常に状況が変化する0Gにとっては無用の長物でしか無い。文字通りデカさの意味合いでも無用の長物だ。

 だが、それは使い方によっては、通常の兵器よりも恐ろしい質量兵器となるのである。

 

 ケセイヤが当初、俺に提案したのは、フネの装甲板を特殊な加工を施し、マスドライバーの電磁加速レールとして機能するようにした特殊なフネを作ると言うモノだった。その為アバリスクラスの1000m級戦艦2隻を建造し、それを繋げた大型砲艦を作ると言ったモノ。

 

 だが、今回の作戦にはフネを建造する余裕などは無く、レール部分として機能する特殊装甲板しか完成しなかったのである。だが、ソコはマッドの底力、使えるものでなんとかすればいいじゃないと考えた。

 

 そこで思い付いたのが、既に改造を重ねて別のフネとなっているガラーナK級駆逐艦群だった。10隻の駆逐艦の側面に、特殊装甲を突貫工事で貼り付けて固定、それらを片方5隻ずつ並べて直列つなぎにし、長さ1500mのマスドライバーにしてしまったのである。

 

 当然、突貫工事の無理な改造な為、連射は無理だし耐久性も低く、壊れやすい。

 だが、その代わりに加速レールの電圧を、この世界の技術力で最大にしてあるのだ。

 その加速力は凄まじかったの一言で有る。

 

 ―――そして、これまた別の問題で命中率の問題があった。

 

 レールガン、マスドライバーキャノン共に、電磁加速・・・まぁ多少違うかもしれないが、電磁力を使う点では同じな為、詳しい説明は排除するが、加速速度が計算上光速に到達出来るか否かでしか無く、最初から光速で放たれるレーザーとは違いどうしても遅い。

 

 加速する時にも時間が掛る為、どうしても照準から命中までにタイムラグが発生してしまうのである。故に動いている標的に、大型艦クラスの電磁砲を当てるのは逆に難しいのだ。

 

 

 それを解決したのは、ユピテルが誇る超AI様が操る無人機部隊である。

 無人のステルス強化型RVF-0を、クモの巣から直線状に何機か配置。

 そして常にリアルタイムの観測データを、ユピテルの射撃管制に送り続けたのだ。

 それを超AIユピが処理し、データリンクによってMDキャノンへと伝えて発射したのである。

 

 別にHLシェキナの収束発射でも良かったのだが、どうしても光学兵器という都合上、距離が開くと威力が減衰してしまうという特性がある。宇宙は決して完全な真空では無く、薄くだがガスが浮かんでいる所為だ。

 

 その点、質量弾を使うレールガンやMDキャノンは、宇宙空間ではほぼ初速を落すことなく、目標に前進し続けることが出来るのだ。しかも、まだ停泊状態の敵を狙う訳だから、リアルタイムの観測情報により、7割以上の命中率を誇るのである。

 

 

 

「観測データ受信、命中弾は5発の撃ち2発、ですが敵側に被害甚大」

 

「まぁ、半分プラズマ化した質量弾だしねぇ。掠るだけで沈むフネもあるんじゃないかい?」

 

「ま、後はサマラさん次第ッスけどね」

 

 

 ま、突貫の即席兵器だったし、それ程効果は期待していない。

 俺達がしたのは、本命のサマラさんがする殲滅の露払いだ。

 先のK級艦MDキャノンの攻撃で、幾つか艦隊を巻き込んでいる。

 そこに出来た穴に、サマラさんの航行基地コクーンをぶつけるのだ。

 

 

「しっかし、基地手放すとか・・・海賊って儲かるのかな?」

 

「・・・・やめときなユーリ、まだ早い」

 

「あ、止めるって訳じゃないんスね」

 

 

 遠距離を映しているモニターに、自力でインフラトン・インヴァイターを稼働させて加速していく、航行基地コクーンの後ろ姿を眺めながら、次の艦隊戦に向けて準備をするように命令する俺だった。

 

***

 

Side三人称

 

 

クモの巣はてんやわんやの大混乱に陥っていた。準備していた大型ミサイル搭載艦隊が唐突に爆散してしまったからである。情報ばかりが錯綜し、正確な情報が上がって来ない。基本的に群れで行動こそするが、軍隊的行動を取らない彼らの弱点が浮き彫りになった形だった。

 

 ドエスバンがとにかく事態を収拾すべく部下に指示を出すモノの所詮焼け石に水、混乱は収まらないばかりか、どうして艦隊が爆発したのかを問う通信が殺到し、クモの巣の艦隊同士の連絡を請け負う通信設備がパンク状態に成程だった。

 

 しかし、これだけでは終わらない。彼らが混乱している間に、更なる死神がゆっくりと現れたからだ。ソレは一見するとタダの小惑星に見えた。だがよく見ると蒼白い光に覆われて、クモの巣へと迫って来ているではないか。

 

 先程まで混乱していた所為で察知が遅れ、衝突コースであることは確実、頼みの迎撃設備を稼働させようとも、艦隊が来ると踏んで展開していた艦隊が邪魔で撃つことが出来ない。海賊艦隊は今だ混乱していたのだ。

 

迎撃指示を出したのにもかかわらず、迎撃として大型ミサイルを発射したのはわずか数艦で有った。しかも、中には我先に逃げようとして、別の艦にぶつかり逆に逃げられなくなると言う始末である。だが死神は待ってくれなかった。

 

 

≪ズゴゴゴゴゴ―――≫

 

 

 巨大な落花生の様な小惑星を改造したサマラの移動基地コクーン。インフラトン粒子の輝きによって蒼白い光を発するソレは、文字通り死神の如く、容赦なくクモの巣へ衝突した。

 

 

≪ズズーーーーーーン!!!!≫

 

 

コクーンの針路上に展開していた海賊艦隊は、混乱の内にクモの巣と小惑星に挟まれて破壊され、衝突の衝撃でクモの巣を形成していた小惑星を繋ぎとめるパイプラインは拉げ、幾つかはちぎれて飛び去ってしまっていた。

 

 被害をこうむったクモの巣の生き残った通信設備には、全周波帯で背筋から凍りそうな程冷たい女性の哂い声がただひたすら流れているらけだった。

 

 

Sideout

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 

 さて、俺達は既にクモの巣へとすぐに到達できる位置へと来ている。奴さんらが探知できる範囲のギリギリ外側と言う訳だ。俺は戦術モニターとにらめっこしながら、オペレーターのミドリさんに情報を聞く。

 

 

「アバリスとS級艦隊はどうなってるッス?」

 

「今の所問題無く、当初のルートを進んでいます」

 

 

 現在ユピテルとアバリスは別行動を取っており、ユピテルは数艦のK級護衛艦以外は付いて来ていない。戦闘出力で各種センサー波も放出しまくりだから、もうすぐ敵さんに気付かれるだろうなぁ。

 

 

「コクーンはどうなってるッス?」

 

「間もなく、クモの巣に衝突コースに入ります。衝突まで後200秒です」

 

「・・・・派手だね。ショータイムって所か」

 

「(ビリヤードみたいなことになるんだろうなぁ)」

 

 

 こうボールをナインボールに当てたみたいにポカポカと・・・宇宙規模だからスゲェ派手だろうけどな。モニター状では大きめのグリッドで表示された移動基地コクーンが、もうすぐクモの巣の外延部に到達するところだった。

 

 光学映像モニターでもインフラトン粒子を派手に噴き出しながら加速していくコクーンの姿が映し出されている。流石にクモの巣側も気が付いたらしく、

 

 

「クモの巣の外延まで後20秒・・・・10秒・・・3,2,1、命中します」

 

≪ズズーーーーーーーン!!≫

 

「おお!重力波がユピテルにまで到達したッス」

 

 

 モニターにはコクーンに追突されて、パイプラインが拉げてコロニーを形成していた小惑星の幾つが弾け飛んでしまった海賊基地クモの巣の姿が映し出されていた。そこかしこで爆発が起こっている所を見ると、大分敵の艦隊を巻き込んだ様だ。

 

 無事な艦隊もなんとか逃げだそうとしている連中が見受けられる。まぁこんな攻撃されたら戦意も何も無いわなぁ。

 

 

「敵推定艦隊の7割を撃破」

 

「大分そげ落とせたみたいッスね」

 

「ああ、だがココからが正念場だよ」

 

 

 古来から窮鼠猫を咬むということわざがあるように、追い詰められた敵が何をしてくるか解ったモノでは無い。ソレは人間相手でも言えることで有り、背水の陣と言う状態に敵はあるのだ。油断なんて出来やしない。

 

 

「ユピ、サマラ艦と回線を」

 

「了解しました艦長」

 

 

とりあえず、サマラさんとこと連携を取りたい。

 変なタイミングで攻撃を仕掛けて、お互いの邪魔をしちゃ悪いからな。

せめてタイミングだけでも行っておかないと・・・。

 

 

そう思い通信を繋いで貰ったのだが―――

 

 

『アハッ・・・アハッ・・・アハハハッ・・・アハハハハハハハハハッ!!!!』

 

 

―――何と言うバカ笑い・・・もとい冷笑だろう。

 

 

「・・・・めっちゃハイテンションッスね」

 

「はぁ~、サマラの悪い癖さ。感情が一定を越えた途端、堰を切ったようになるんだからな」

 

「アレは喜んでるッスか?」

 

「ああ、めちゃめちゃ楽しんでるんだろうさ。脳内麻薬出まくりッて所だろう」

 

 

 俺達は全周波帯に入るサマラさんの爆笑する声を、少し引きながら聞いていた。

 しかし、彼女の爆笑はともかく、この戦い方はまさに“無慈悲な夜の女王”。

 慈悲の一つもありゃしない・・・嬉々として生き残り艦隊へ吶喊してら。

 

 

≪ヴィー、ヴィー≫

 

 

――と、その時警報が艦内に響く。どうやら生き残りがいたらしい。

 

 

「どうしたッスか!?」

 

「クモの巣方面から、大型艦船複数接近中!」

 

「艦種は?」

 

「艦種は・・・・装甲空母!識別はザクロウのです艦長!」

 

 

 どうやらドエスバンが乗った船らしい。まだ逃げる気かあのおっさんは――

 

 

「艦長、保安局艦より通信が届いています」

 

「え?内容は?」

 

「現在保安局艦隊が急行中、到着は2時間後、ドエスバン所長は情報を得たい為、生かして捕えられたいとの事です」

 

「・・・成程、確かにヤツは人身売買の情報を握っている可能性もあるね」

 

 

 成程、俺らはこの先のムーレアに行ければ良い訳だから、グアッシュを潰せばソレで良い訳だ。そしてそれは既に達成されている。あそこまで沈没船から脱出するネズミ並に逃げているドエスバンがどう頑張ろうとも、この宙域であの規模の海賊団を作ることはもう出来ないだろう。

 

 なにせグアッシュという人物が作って有ったグアッシュ海賊団という下地があったからこそ、ドエスバンと言う男が頂点になっても、機能し続けた訳だしな。それを潰したのだし、俺ら敵にはこれで一件落着に出来る。

 

 だが保安局の仕事はまだ終わっていない。海賊に捕まって何処ぞへと送られた人間の追跡を行い話無いといけないんだからな。あー、だとしたらクモの巣潰しちゃ不味かったか?まぁ人身売買の拠点はザクロウだったらしいし、クモの巣には情報は少ししか無いかもしれないか。

 

 だからドエスバンを捕まえたい訳だ。直接人身売買の指揮とってた訳だし、腹の足し程度には情報を持っている。それを吐きださせなきゃならん訳だ。

 

 

・・・・下手に協力を断って、公務執行妨害的な罪状渡されたくはないな。ウン。

 

 

「ウス、ミドリさん保安局艦に返信、なるべくやってみると応えておいてくれッス」

 

「了解」

 

 

 この間0,01秒・・・・ってのは嘘で10秒程度はかかっていたりする。

 仕方ねぇよ。俺凡人だから、何処ぞの名艦長みたいにぽんぽん名案なんて浮かばねぇさ。

 

 ソレはさて置き、ドエスバンは生かしたままで交戦か・・・・。

 これまた凄まじく大変だな。

 

 

「総員砲雷激戦用意!コンディションレッド発令!艦載機部隊の発進急げ!」

 

 

 俺の指揮に従い、艦内が動き出す。I3エンジンが唸りを上げ、エネルギーを戦闘出力へと押し上げていくのだ。そしてフネのエネルギーは全てエンジンから賄われている。フネに活気が入ったという表現は、間違いでは無いだろう。

 

 敵さんは射程範囲に入っている。VF隊も次々とカタパルトから発進し、編隊を組んで漆黒の宇宙へと消えていく。その編隊に随伴している偵察機仕様のVFからリアルタイムでの戦闘映像と情報が届き、ソレらをCICにて分析、何をすればいいのかを考えていく。

 

 そして最適化された情報が、俺の居る艦長席のコンソールに示されるって訳だ。そんな訳で最終的に決めるのは俺だけどな。

 

 

「空間重力レンズ形成を確認、シェキナ立ち上げ完了。目標敵艦隊護衛艦群。何時でもイケるぜ艦長!」

 

「良しッ!てぇっ!」

 

 

≪ビシュシュシュシュシュ――――≫

 

 

 俺の砲撃発射の指示と共に、艦内に冷却機の音が響く。艦側面部に設置されているH(ホーミング)L(レーザー)発振体から弧を描くように放たれた光弾の群が、前方敵艦隊へと迫っていく。俺は命中確認を聞く前に指示を更に出して行く。

 

 

「トスカさん!アバリスの位置は?」

 

「丁度、奴さんらの背後だねぇ・・・やるかい?」

 

「ええ勿論ッス」

 

「了解、アバリスに通達!“浮上せよ”だ!」

 

「シェキナ、敵護衛艦隊に命中、護衛艦群多数大破、敵旗艦健在」

 

 

 敵艦隊の前衛を一気に蹴散らした為、敵艦隊は船脚が低下した。

 そして、今までステルスモードで隠れていたアバリス達も、ステルスモードを切って姿を表した為、唐突に背後に敵が現れたことで海賊はさらに混乱する。此方から発進したVF部隊とアバリス側から発進したエステバリス隊が、海賊艦隊へと迫った。

 

 

「――ッ!敵艦から多数の艦載機と、分離した何かを探知~!」

 

「まさか大型ミサイルか!?」

 

「数は6、あ!いま別のフネも発射!本艦に向けて14機接近中!」

 

「追い詰められて、本当に撃ちやがった」

 

「K級R(リフレクション)L(レーザー)C(キャノン)に迎撃させろッス!シェキナも拡散モードで投射開始!!」

 

「了解!!」

 

 

 迎撃の大小様々なレーザーが大型ミサイルへと放たれるが、どうやらミサイルの癖にAPFSを展開しているらしく、表面を焼くだけになってしまっている。VF隊も攻撃したが、装甲が厚く中々食い破れない。

 

戦艦クラスのレーザーの直撃は流石に応えた様だが、それでも損傷部分を切り離して逆に加速して接近して来ている。しかもどうやらT(タクティカル)A(アドバンスト)C(コンバット)マニューバと呼ばれる艦隊に使用される回避運動制御システムまで組み込んであるようだ。

 

 

「――ッ!無人艦が!」

 

 

 運悪く展開していたK級護衛艦の一隻が、大型ミサイルの直撃を受けて火球をなった。幸い人手不足がまだ続いている為、アレは無人艦だったが、すぐ隣には有人鑑もいたのだ。少しでもミサイルの軌道がずれていたら、有人鑑が・・・そう思うと背筋が寒くなった。

 

 

「ええい!レーザー連続照射ッス!何としても落すッス!」

 

 

だが、高々150mのミサイルに搭載されているシールドなので、レーザーを浴びるたびに徐々にシールドが減衰していくのが見て取れた。シェキナも拡散モードでは無く、通常砲撃へと切り替えた。考えてみれば相手は150m近く有るのだし、拡散にしなくても十分当たる。

 

流石に対艦レーザーとしてのシェキナにはシールドが耐えきれなかった様で、大型ミサイルは次々と破壊されたが、近づきすぎた為に生き残ってしまった残り6機が迫る。

 

 

「く!避け切れない!」

 

「ダウントリム30!面舵一杯!デフレクター出力最大!」

 

 

 ゴゴゴと各部のスラスターとアポジモーターを全開に吹かし、艦首を下げつつ左へと舵をとり、その巨体が持つ強力なシールドでミサイルを逸らせようと焼きつくのも構わないと全力展開した。スラスター制御により集中展開される左舷スラスターが明るく光る。

 

 

「左舷側の90番台までのスラスター全力噴射!って焼けついちまうぞ!」

 

「ミサイル避け切れません。命中コース3発、デフレクター衝突まで後10秒」

 

「総員対ショォォォォォォックッ!!」

 

 

 1発2発、回避成功、3発目がデフレクターと接触し、火花を飛ばして明後日の方向へと飛ばされる。そして4発目がデフレクターと衝突した。モニターが焼けつくほどの光が、辺りを照らすと同時に、強烈な振動がユピテルを揺らす。

 

 続いて5発目6発目が命中、デフレクターに守られているとはいえ、ショックアブソーバーの限界を超えて中の人間がシェイクされる程度のクェイクが発生する。

日本語でおk?ようは凄まじい振動って事だ。ゲロするかと思ったぜ。

 

 

「っく!デケェ衝撃だなオイ!」

 

「デフレクター・システムダウン」

 

 

 ちょっと戦闘中には聞きたくない報告が、ミューズさんの席からもたらされる。

 

 

「え!?」

 

「復旧まで450秒」

 

 

 それを捕捉する形で、ミドリさんが報告を加えた。大型ミサイルのあまりの攻撃力にデフレクターがシステムダウンを起してしまったのだ。しばらくは物理攻撃に対して自前の装甲板で相手しなきゃならん。まぁもう敵の護衛艦は潰してあるし、降伏は時間の問題だろう。

 

 

「敵艦から艦載機編隊が発進」

 

 

そしてもうやけになったのか、装甲空母からまた艦載機が発進した。

 だがこちらもVF編隊の展開は完了している為次々落される。

何のために発進したんだろうか・・・さて、そろそろかな。

 

 

「トランプ隊、敵艦載機と交戦――っと、装甲空母、エステバリス隊に取り囲まれます」

 

 

そして俺らがミサイルの攻撃にさらされている間に、彼らの背後に展開していたアバリスとS級護衛艦艦隊が吶喊。敵武装を破壊して取り囲んでいた。この世界のフネって一部を除いて背後の守り薄いもんなぁ。ウチは死角無いけどね。

 

 アバリスの艦長はトーロ、あらかじめ敵が此方に食いついたら攻撃するように指示を下して置いたのだ。もっとも食いついたと言うよりかは、前しか見ていなかったって感じだったけどな。

 

 

「――降伏勧告を打診ッス。流石にも詰んだのは相手も解るでしょ」

 

「了解、降伏勧告を行います」

 

 

 そして降伏勧告をピポパ、これで受諾すれば良し、しなければ強引に占領して捕まえる。

 でもまぁ、あいつ等の行動パターンみてりゃ、どうなるかは想像付くけどな。

 

 

「敵艦降伏勧告を受諾、インフラトン機関の出力が下がっていきます」

 

 

 ホラな。敵さんは降伏した。そして今回もなんとか無事に切り抜けられたのだった。

はー、しかし護衛艦一隻が撃破か・・・まぁ艦隊戦で人的被害が出なかっただけマシか。

人死には出ないに越したことは無いぜ。フネなら交換が利くけど、人間はそうはいかねぇからな。

 

 

「保安部!白兵戦の準備をして突入!内部も確実に制圧するッス!」

 

「アイサー」

 

 

 とりあえず最後の支持を出して、俺はイスに深く座り込む。

 あー艦隊戦は楽しいが、やっぱ大変だぜホント。

 

 

***

 

 

 すこしして、保安局の艦隊が来たので、俺達は捕まえたドエスバンとその一味を保安局のフネに引き渡した。ホントならクモの巣に行って、ジャンク集めでもしたいところなんだけど、現在あそこら辺ではサマラさんによる撃沈祭り開催中なので近寄れないのだ。

 

 サマラさんが満足するまでは、保安局は勿論のこと俺達も近寄れない。

あそこにいる残存海賊艦が哀れでしょうがねぇぜ。

 

 

「保安局のバリオ宙尉から通信です艦長」

 

「繋げてくれッス」

 

『聞えるか、ユーリ君。ザクロウ所長のドエスバン・ゲスの捕獲協力に感謝する』

 

「ふぅ、これで終わりッスね~お疲れっしたー」

 

 

 少なくてもドエスバンを捕まえた訳だし、グアッシュはもう再起出来ない事だろう。

 各地に逃げ去った海賊船もわずかにいるが、終結しても今回ほぼ無傷の保安局艦隊が駆逐できる程度の勢力でいしか無いからな。

 

 

『終わりか・・・・それならいいんだが・・・』

 

「え?何そのフラグ立てる台詞・・・」

 

『フラグ?』

 

「あ、何でもないッス」

 

『ふーん、まぁいい。とりあえずドエスバンを問い詰めれば色々と解るさ。ああ、あと俺はヤツを保安局まで連れて行くが、後で君も顔を出してくれよ。礼もしたいしな』

 

 

 礼、か。そういや護衛艦が一隻大破しちゃってんだよな。

 ・・・・・経費で落ちないかしら?って俺保安局員じゃないからムリー。

 流石に護衛艦一隻分は保証してくれねぇだろうなぁ。赤字やぁ~、とほほ。

 

 

「了解です」

 

 

 そして俺はそんなことを億尾にも出さずに通信を終えようとした。

 だがその時いきなり通信ウィンドウが開かれた。

 

 

『では我々もこれで失礼させて貰おう』

 

「・・・ってサマラさん、何時の間に回線に」

 

『ふん、私は海賊だ。通信回線に割り込むことなどたやすい』

 

 

 海賊ってそう言うもんなのか?

ふとバリオさんを見ると違う違うという仕草をしている。

まぁサマラさんだからか・・・。

だよなぁ、星ぶつけるなんて豪快な作戦を実行しちゃう人だしな。

 

 

『とりあえず、一つ教えておいてやる。今回の連中は只の海賊では無い』

 

「タダの海賊じゃない・・・・と言う事は!海賊の中の海賊!その名も海賊エリート」

 

『・・・・私は話しの腰を折られるのはあまり好きじゃないんだ』

 

「あ、ごめんなさいっス。だから展開しようとしているリフレクションビットは締まって欲しいッス。割と切実に・・・」

 

『・・・・次は無いぞ』

 

 

 なんじゃい、少茶目っ気だしただけやんか。

少しくらいユーモア出してもええやろが。

 

 

『はぁ、とりあえず背後に居る連中に気をつけろ。ソレとトスカ!その少年は面白いが、もう少し相手を選んだほうが良いぞ』

 

「はは、コイツはコイツで面白いからいいのさ」

 

 

 むむ、何ぞ失礼なことを言われている様な気がするぞ?

 

 

『ふ、それじゃあな少年、また何時か共に戦える時に会おう』

 

『俺達も帰るぜ。また寄れたら来てくれよ~。犯罪者で無い限り歓迎してやるよ』

 

「お二人とも、さようならッス。また何時か会おうッス」

 

 

 通信が切れ、バリオさんは宙域保安局のあるブラッサム方面へ、サマラさんは自分たちのテリトリーであるザザン方面へと舵を向けて、それぞれ別々の方向へと宇宙の闇に溶けていった。

 

 

「・・・はぁ、ようやく終わったッス」

 

「今回は結構強行軍だったねぇ。何処かで休暇を入れないとダメじゃないか?」

 

「序でに宴会も・・・でしょ?」

 

「当ッ然。流石は艦長、解ってるねぇ」

 

「ま、これでムーレアに行ける様にはなったッス。だけど一度休息と取らないとマジで不味いッスから・・・・ユピ」

 

「はい、近隣の惑星のリストです。何処に行きましょうか?」

 

 

 とりあえず、のんびり出来る場所が良いな。適度に自然があって近い惑星は・・・。

 適当にデータベースに記載された惑星データを見る俺。ふむふむ。

 

 

「良し、ゾロスに向かおうッス。自然が多い欲しみたいッスからね」

 

「ゾロスか。ムーレアにも近いし、良いんじゃないかい?―――そう言えばゾロスには火炎ラム酒が売ってたねぇ。宴会するにも丁度良いね」

 

「リーフ、針路をゾロスに向けてくれッス。トクガワさん、エンジンスタートッス」

 

「「アイサー」」

 

 

***

 

 

 さて、やってきたのはムーレアにほど近い超辺境惑星ゾロス。

 それなりに海があり、緑も豊富・・・というか未開発の星だった。

 

 

「いやー、まさか0G酒場がやって無いとはねぇ」

 

「お陰で近場の居酒屋を貸し切り・・・はぁ0G割引使えないから高くつくなぁ」

 

「艦長しみったれたこと言うなよ。そんな時はアレだ飲むに限るんだぜ?」

 

 

 へいへい、良いですよねー。この後の経理から漏れた書類は全部俺に回るんだぞ?

 とりあえず宴会は夜に予約して朝まで貸し切りとした。どうせ騒ぐならその方が良いだろう。

 日中は遊ぶに限る―――てな訳で。

 

 

「やってまいりましたゾロスの赤道直下大海水浴場!」

 

「「「「わーーーーーー!!!」」」」

 

 

 そう、惑星自体が街の様な感覚であるこの世界、惑星内での移動は非常に安く楽に行えるようになっているのだ。簡単に言えば電車で二駅分位の料金でSSTO(宇宙往還機)にのって惑星中好きな場所を回れるのだ。利用しない手はあるまい。

 

 そう言った訳で、なんとなくソラから見てたらこの星の海が比較的綺麗に見えたので、やってきたという訳である。だがとりあえず突っ込みたい―――

 

 

「なんで整備班の男どもがこんなにいるんスか」

 

「ソレはな艦長。俺達が休暇を貰いせっかくナンパをしようと思ってきた海に、偶々艦長が来ていただけの事なのさ」

 

「ふーん、状況説明ありがとケセイヤさん」

 

「いやいや何の何の」

 

「――――って待て待て待て!それは不味いだろ!」

 

 

 地上の人間に迷惑をかけないのが0Gの鉄則じゃ―――

 

 

「・・・・艦長は俺達の出会いの場を奪うのかい?」

 

 

―――とりあえず、その手に持ったスパナとかしまって欲しいなぁ。なんて。

 

 

「あ、いや・・・うん、海はいいよねぇ。いいんじゃないかな?ナンパ」

 

「艦長公認だオメェら!迷惑にならない様に紳士的にやるぞ!」

 

「「「「「「おおおお!!!」」」」」」

 

 

 いや、ナンパで紳士的とか有るんかいな?

 とかなんとか突っ込む前に、整備班連中は消え去っていた。

 早いなオイ!砂浜で砂を巻き上げて走る人間なんて初めて見たわ。

 

 

「ま、彼らも息抜きが必要なのさ。少年も楽しまなければ損だぞ?」

 

「・・・・・なぜにミユさん来てるんスか?」

 

 

 おかしいな整備班連中と言い、この人と言い、何で俺の行く先に知り合いがいるんだ?

 今回は誰にも声かけないでふらりと偶々見かけたSSTOに乗りこんだってのに・・・。

 

 

「深く気にしたら疲れるだけだよ少年」

 

「・・・・そんなもんスかねぇ?で、なんでミユさんは白衣来てるんスか?」

 

「これは私のトレードマーク。脱ぐときは寝る時くらいだよ」

 

 

 いやそうは言いますがね?なら何で白衣の下水着何スか?

 アレですか?どこぞの人造人間作ってる泣き黒子が特徴の博士ですか?

 え?違うの?

 

 

「ここは海水浴場だ。水着着てないと入れないだろう?」

 

「いやまぁそう何スけど・・・」

 

「それに少年も完全武装では無いか」

 

 

 ミユさんはそう言うと俺の姿を見てニヤニヤと笑う。

 俺もここで買ったしなぁ水着。オーソドックスなトランクスタイプ。

 序でに何故か売っていたアロハシャツと麦わら帽で完全装備だぜ。

 

 

「ま、しゃーないっス。俺も楽しむッス」

 

「その方が良いだろう。他にも来ている連中と楽しんだらどうだい」

 

 

 その口ぶりだと、他にも一緒に来ている人がいるのか?

 そう思っていたら、此方へと近づいてくる人の気配が複数。

 

 

「ミユさーん、飲みモノ買って―――って、あれ?艦長も海水浴なのかい?」

 

「き、奇遇ですね艦長」

 

「ありゃ?ルーべとユピも来てたんスか?」

 

 

 そこに居たのは我がフネの機関副班長のルーべと、何故か顔が紅くすこし口調が変なユピがそこに居た。二人ともリゾートらしい格好で、ルーべはスポーツ系の水着の上にパーカーをはおり、ユピは青のセパレートだ。

 

ふーん、女性三人衆とか珍しい組み合わせやね。

三人とも系統が違う美人さんだから、ナンパが多そうだな。

 

 

「ボクはミユさんに誘われてね!艦長は一人で来てたのかい?」

 

「俺もまぁ息抜きに来たって感じッスかね」

 

「じゃあ、ボク達と一緒に遊ぼうよ!いいでしょうみんな?」

 

「わ、私はかまいませんよ!むしろ喜んで!!」

 

「ふふ、ユピは面白・・もとい可愛いな。当然私もOKだよ少年」

 

「・・・・それじゃ、お言葉に甘え様ッスかね」

 

 

 なんか話の流れで俺も一緒に行動する羽目になった。

 まぁいいか、どうせ夜までに戻ればいい訳だし、俺がいなくても向うは向うで勝手に宴会始めちゃうだろうしな。SSTOは24時間営業です。

 

 さて、せっかく海に来たのだし色々と楽しまなければ・・・・。

 

 

「うみだー!」

 

「「わー!」」

 

「ぱらそるだー!」

 

「「わーー!!」」

 

「トロピカルドリンクだー!」

 

「「わーーーー!!」」

 

「そして何故か俺アロハだー!」

 

「「わーーーーーー!!!」」

 

「そして俺はぱらそるの下に寝そべるのだー!」

 

「「わー!ってコラ艦長!」」

 

 

 な、なんやええやんか!俺泳げないんだから。

 フネに泳げるプールとかだってないし、前の世界でもカナヅチだったし。

 だからそんな「ええ、あそこまで乗っておいて」的な目で見ないでー!!

 俺の繊細なガラスのハートがブレイクしちまうよ!

 

 

「ふむ、少年の意外な弱点だな。泳げないなんて」

 

「宇宙遊泳は出来るんスけどねぇ~」

 

「いや、それ泳いだウチに入らないよ艦長」

 

 

 ですよねー。

 

 

「あ、あのう。だったら私と一緒に練習しませんか?私もこの身体になってからは海は初めてで」

 

「お、良い考えかもね。ならボクが2人に泳ぎ方を伝授しようじゃないか!」

 

「い、いや、オイラは別に泳げなくても生活に支障は―――」

 

「いいじゃないか少年。何事も挑戦だぞ?」

 

 

 い、いやですから俺はあくまで息抜きに来たんであって、新たな世界に飛び込む訳じゃって二人とも何故に肩を掴むのですか?ちょっと引っ張らんといてって聞いて無い?!

 

 

「泳げるのは楽しいんだよ!」

 

「その、頑張りますから」

 

 

 頑張るって何!?まってー!まだ心のじゅんびがーーー!

 

 

 

 

 

アッーーーーーーー!!

 

 

 

 

 

 そして、夕方になるまで、俺は泳ぎの練習をさせられた。

 片方は健康的な褐色少女、もう片方は脱いだら凄いポニー少女。コレどんな拷問?

まぁとりあえずバタ足が出来るようになったのはいいけどさ。

 泳げないから何度か抱きついた程度多めに見てくれる娘達で助かったよ。 

 

 

 そして整備班に呪の視線を浴びせられつつ、SSTOに乗って宴会へと向かう俺だった。

 どうやら整備班連中はナンパ全滅、そして俺が美少女二人と泳ぎの練習をしているのを見ていたらしい。

 

 ああ、しばらくはユピと一緒に行動しないと、フネの中が危険過ぎるぜ。

 しかし、泳ぎの練習終わった後もユピは顔が赤いままだったけど・・・どうしたんやろね?

 

***

 

あのう、なぜにボカぁ縛られてるんでしょうか?しかも簀巻き。

 

 

「くすくすくす・・・おめざめかしら?」

 

「ちょっ!チェルシー!?というか何でメーザーブラスター持ってんの?」

 

 

 彼女の手には、メーザーブラスターが握られている。

 しかもモノっそごっついヤツ。確かライフルとしても使用可能なタイプだっけ?

 

 

「ユーリィ、海に行ったんだって?しかも、女の子と一緒に、ケセイヤさん血の涙流してたよぉ?」

 

「そ、そんなにくやしかったんかいあのおっさん・・・」

 

「で、ユーリは女の子とキャッキャうふふなことをしてたって聞いたんだよぉ?」

 

≪ガチャ≫

 

 

 ・・・・うわはーい。俺の額に冷たいモノが当たってる~~。

 って待てゐ!何故俺が銃を向けられねばならんのだ!?

 

 

「ま、まってチェルシー、俺はただ彼女たちに泳ぎを習っただけ何スよ」

 

「ユピは、やわらかかった?」

 

「そりゃもうやーらかくていい匂いが・・・・あ」

 

 

 あまりにナチュラルに聞かれたので、ナチュラルに返しちまったぁぁぁぁ!!

 ひぃぃぃぃぃ!眼が笑って無いのに笑みが深くなってくぅぅぅぅぅ!!

 

 

「くすくすくす・・・・ぎるてぃ、だよ♪」

 

「う、うわぁーーーーー!!」

 

≪ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン―――――カチカチ≫

 

「うふふ、これでユーリはわたしのもの・・・・くすくすくす」

 

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

 

「ぶはぁっ!!??―――――夢?」

 

 

 俺は何かにうなされて、ベッドから飛び起きた。

寝ている内に搔いた汗が、服をべっちゃりと下着まで濡らしていて気持ちが悪ぃ。

相当な悪夢だった。まるで誰かの怨念が俺に悪夢を見せようとしているかの様な感じだったぜ。

 

 

「夢、か・・・・つーか、なんて夢見てんだ・・・」

 

 

 そして罪悪感を覚える。幾ら黒化チェルシーでもあそこまで怖くねぇよ。

 疲れてるのかなぁと思いつつ、部屋のシャワーを浴びにベッドを立った。

 俺の枕の横に、小さく焦げた黒い穴が空いていた事には気が付かずに・・・。

 

 

***

 

 

『艦長、惑星ムーレアに到着しました。ブリッジにお越しください』

 

「了解、すぐ向かうッス」

 

 

 部屋でフリータイムを楽しんでいると、フネがどうやら目的地に到着したらしい。

 ミドリさんからの通信を聞いた俺は、今まで呼んでいた『ドキ☆子猫だらけの写真集』なる子猫中心の写真集を棚に戻した。いいよねヌコは。本のタイトルがアレなのは残念だけど。

 

 部屋から出ようとすると、何時の間に来たのだろうか?

 何故かそわそわした感じのユピがドアのすぐ横に立っていた。

 

 

「ありゃ?ユピどうしたんスか?」

 

「え、えっと・・・い、いっしょにブリッジまで行こうかと思いまして」

 

「ふ~ん、じゃ行きますか」

 

 

 なんやろう?なんかゾロスの海水浴場行ってから、ユピが少しおかしいな。

 俺といると顔とか赤くするし、仕事中は意識切り替えてるのかそう言うのは無いが・・・。

 ・・・・・・・よし。

 

 

「なぁなぁユピ、この間ゾロス行ってから体調おかしくは無いッスか?」

 

「?――いえ、ナノマシンの自動調整機能は100%働いていますので、特に変化は無い筈ですが・・・」

 

「そう何スか。いやなんかゾロス行ってから、ユピの様子がおかしかったから心配で、何か悩み事でもあるんスか?」

 

 

 フネに対して悩み事ってのもおかしな話だが、ここまで人間っぽいと時たま彼女がフネの統合管制AIだってことを忘れちまう。いい子だし何か悩みがあるなら聞いてやるのも艦長の仕事っしょ。

 

 

「・・・・・その、実は海水浴に行ってから、その――」

 

「その?」

 

「・・・・・やっぱり何でもないです」

 

「・・・・そうスか。ま、男の俺にゃ相談できない事もあるッスよね。ユピは女の子なんだし」

 

 

 なはは、ちーとばっかしデリカシーに掛ける質問やったな。失敬失敬。

 ま、女性特有の問題的なモノならホラ、トスカ姐さんとかも居るからな。

 そういう人達に聞いた方が良いだろうさ。何せまだ0歳なんだしな。

 

 

「そう・・・ですね(鈍感・・・)」

 

「ん?なんか言ったッスか?」

 

「何でもないです!早く行きましょう!」

 

「????」

 

 

 ―――何で機嫌悪くなったんだ?むむ、女性の事は解らんのう。

 

 

***

 

 さて、ブリッジに着いた俺は、さっそく自分の定位置である艦長席へとすわる。

 コンソールに手を置き、指紋認証と網膜スキャン、声紋認証を行う。

古典的な認証方式だが一応これで艦長席の機能が解除されるのだ。

ぶっちゃけユピに頼めば解除可能だけどさ。

そこはほら?様式美ってヤツ?何事にも形って言うのは重要なんだぜぇ。

 

 

「惑星ムーレアか・・・・・」

 

 

ピッピッと適当にコンソールに表示されるデータを流し読みしたが・・・。

 

 

「・・・・・・何も無い星?」

 

「住人がいない星じゃからネ。多分、星外から訪ねた人間も、ここ10年で、わしらくらいだろうて」

 

 

 ふと気が付くと、俺の後ろにジェロウ教授が後手に手を組んで立っていた。

 何時の間にブリッジに来てたんだろうかこの爺さん?

 

 

「あ、教授。あざーす。ようやく着いたッスね」

 

「うん、君達のお陰でようやく来れたネ。とりあえず早くステーションに行って惑星に降りよう」

 

 

 まぁそれはさて置き、とりあえず何故か無人惑星なのに普通に活動している通商管理局の無人ステーションへと向かう。無人とはいえ機能はちゃんとしているらしく、此方からの寄港要請に応じて誘導ビームを出してくれた。 

 

 大抵のステーションは数キロ程度のフネなら中のドッグに収容が可能となっている。

 惑星の静止衛星軌道上に、軌道エレベーター付きのステーションおっ立ててるとかどんだけぇ~って感じだよな。

 

 

「接舷完了、エアロックチューブ接続、ドッグ内気圧0.8」

 

「うんじゃ、降りて調査に行きますかねぇ」

 

 

 科学班と護衛の保安部員が数名、それと興味を持った連中といった自由な構成で向かう事にする。俺は艦長だが、せっかくの学術的遺跡だって言うじゃないか。しかも異星人の、見なきゃ損だね。そう言う訳でオイラも同行するのだ。

 

 

「砂だらけの星だから、あんまり面白そうなとこは無さそうだねぇ」

 

「なんなら残ります?フネに」

 

「じょーだん、私はユーリの副官だ。何処までも付いて行くさ」

 

 

 そいつは嬉しいねぇ。ま、それはともかく。ムーレアに降りますか。

 必要機材とかで軌道エレベーターに乗せられない様なモノは、小型艇を出すことになった。

 精密機械だから分解出来ないヤツってのもあるらしい。

 普通大気圏突入なんて、凄まじい衝撃が発生しそうだって思うんだが、大気圏突入もこの世界じゃ飛行機の振動と変わらない程度だ。技術進歩万歳ってヤツだろう。

 

 そして降り立ったはいいんだが、何処まで言っても砂漠って感じだった。

 イメージ的にはサハラ砂漠の砂エリアと同じような感じ。

 砂丘が所々形成され、一応軌道エレベーター周辺は管理ドロイドによって守られているが、放置されたら数年で砂に埋もれてしまう事だろう。

 

 

「で、教授。遺跡ってのはどこに?」

 

「うむ、そこじゃ」

 

「・・・・・偉い近いんスね」

 

 

 ジェロウ教授が指差したのは、なんと軌道エレベーターがある場所から300mも離れていない場所だった。よく見れば石で出来ているアーチや柱の様な建造物が砂に埋没しているのが見て取れる。

 

 

「なんでこんな近い場所に・・・」

 

「わしもしらないヨ」

 

 

 まぁ近いから便利だしいいか・・・いいのか?

 とりあえず遺跡を見に行かないとな。

 

 

「科学班は予定通り教授と共に調査開始。各グループ機材搬入を急がせろっス」

 

「「「「「「了解!」」」」」」

 

 

 一応調査用の高価な機材らしいしな。持ってきた手前使わないと勿体無い。

 ひとまず調査ベース設営は部下に任せ、俺らは一足先に既に入れる遺跡を見て回ることにした。

 

 

***

 

 

「ここじゃ!まさしくここが、エピタフが眠っていた遺跡!ほれほれ何をしておるさっさと入るぞ!」

 

 

いや、そうは言いますがね教授?

 

 

「す、砂に足を取られて、ってうわった!」

 

 

 長いこと宇宙暮らしだったから、砂場の感覚なんて忘れちまってるせいで、砂に足とられて動きずれぇぞおい!つーか他の連中も馴れて無くて四苦八苦してるのに、何で教授は平気なんだ!?

 

 

「だらしないネ!わしは先にいってるヨ!!」

 

「って早!?速いッスよ教授!?」

 

「・・・・教授って杖付いて歩いてたよな?何で砂の上走れるんだ?」

 

「多分知的好奇心が、肉体のポテンシャルを底上げしとるんじゃよー、と」

 

「執念ってヤツかねぇ?」

 

 

 学者の執念は猫の執念より強し、って感じか?

 すこししてある程度砂場の歩き方に馴れて、歩いて遺跡に行くと既にジェロウは遺跡の狭い入口を抜けて、地下へと続く階段を下りていた。なんつーアグレッシブな・・。

 

 

「ここがエピタフ遺跡・・・」

 

「なんつーか、神聖な感じが漂うって感じか?」

 

「おお、トーロにしては珍しくらしくない事を」

 

「らしくないってなんだよ?」

 

 

 しかしトーロの言う事ももっともだ。ココは地下にありながら、どういう訳か済んだ空気で満たされている。壁の紋様は幾何学的で不可思議であり、意味があるようでない様な物を描いていた。しかもその紋様はどういう訳か薄く光っていたりする。う~んSFだねぇ。

 

 

「一体この遺跡、何で出来てるんスかね?」

 

「床は・・・・堅いな。レーザーナイフ程度じゃ弾かれてしまう」

 

「岩の様な、金属の様な・・・見たことない物質だねぇ」

 

 

 たしか遺跡の材質ってエピタフと似通ってるんだっけ?だとしたら堅さだけでもダイヤモンドクラスか・・・。エピタフの材質が4窒化珪素SI3N4に似たダイヤモンド格子って言うくらいだし。

 

 

「艦長、すこしこっちへきてくれんか?」

 

「あいあい、何スか教授?」

 

 

 俺は教授に呼ばれて高台へ上った。なんかジェロウ教授が指差している所を見てみる。

 そこには人工的に加工された10センチ四方のくぼみがある。

 

 

「どう、思うかネ?」

 

「立派な台ッスねぇ」

 

「いや、見るのはソコじゃなくてネ?」

 

「この形・・・・豆腐が丁度すっぽりと――――す、すんません。学がないもんで」

 

 

 うわ、なんか可哀そうな目で見られた。しかもマッドサイエンティストに・・・・。

 び、びくん!く、くやしい、でも感じ(ry

 まぁ冗談はさて置き本題に入ろうじゃないか。

 

 

「まったく、ニブイネ。艦長はエピタフを持っていたのだろう?」

 

「・・・・・・・(ぽくぽくぽくぽく、チーン!)」

 

「ああ、そう言えばユーリに最初に出会った時には既に持っていたよ」

 

 

 俺はぽんっと手を叩き、トスカ姐さんが捕捉説明を入れてくれる。

 そういや確かに持ってたわ。とっくの昔に盗まれてから大分時間が立ってたから、今の今まですっかり忘れてたぜ。

 

 

「そういや、まるでエピタフの為に作られちまった様なくぼみッスね?」

 

「ウン、やっぱりそうか」

 

「でもくぼみの周辺から伸びるちぎれた管は何々すかねぇ?俺のしってる話だと、こういったのには大抵何か仕掛けが付属してそうな感じがするんスが?」

 

 

 某風使いの原作に登場する巨神兵を育てる黒い箱とかね。

 大分原作知識は飛んでっけど、ここにエピタフはめたらすごいってことは覚えてるぜ。

 残念ながら手元にエピタフはないんだがな。

 

 

「むー、わからんが…フム、随分かたいネ。少し削ってサンプルを採取していこう」

 

「?レーザーナイフですら削れないのにどうやって?」

 

「その為の機材は持って来て有るんだヨ。ちょっと外へ言って取ってこようかネ」

 

 

 そういや、何故かスークリフブレード(俺のじゃなくて、フネの備品)が持ち込んであったな。謎のコードとか色々付いてたゴテゴテ仕様のヤツ・・・・まさか、な。

 

 

「そういや壁画みたいなのもあるんスね」

 

 

 とりあえず、教授がしたい様にさせておこう。マッドのやることを邪魔したら気が付けば自分が実験台にされているかもしれないからな。ワザと危険な実験されてフネ壊されてもヤダし・・・。

 俺は近くの壁に寄り、そこに描かれた酷くが数の多い言語らしき紋様を眺める。

 

 

「こいつは、言語ッスかね?」

 

 

 なんとな~く、画数が多くて何か見たことがあるような?

 ・・・・・・あ!そうアレだ!漢字の元になった甲骨文字に似てるんだ!

 

 

「フム、規則性が感じられるが、画数がおおくて酷く原始的な言語体系だネ。まぁ一応書き写しておこう」

 

「そうッスか。じゃ、カメラでも使ってぱぱっとやっちゃうッス・・・所で何時の間に戻って来たんスか?」

 

「艦長が壁画を見て“こいつは”と言っている当たりだヨ。もう高台のサンプルも取ったネ」

 

「早ッ!?速いッスよ!?」

 

「研究の為なら仕方ないネ」

 

 

 むぅ、何故だ?ジェロウ教授なら仕方ないって思えて来たぞ?

 とか考えていると、突然外からドドドドドと言う音が聞こえ始め、遺跡が振動し始めた。

 パラパラと埃が舞い落ちて来ている。何や何があったんや!?

 

 

「心配ないネ艦長。これもわしの指示じゃヨ。外にある機材で地中探査用のポッドがあるからそれを打ちこんだだけネ」

 

「それにしてはスゲェ振動ッスね。遺跡壊れないッスか?」

 

「大丈夫だろう。何せこの遺跡はレーザーナイフでも壊せないほど頑強だからネ」

 

「でも何か地震が起きてるみたいで、良い気分じゃないッスね」

 

 

 ゴゴゴと揺れる足場とソレで舞い上がる埃で視界が若干悪くなった。

 まぁ息は出来る程度だし、振動もすぐに収まったから特に問題は無い。

 ただ驚いただけだ。一瞬机を探したのは昔の記憶からだろう。

 こうしてしばらくの間、ジェロウが満足してくれるまで、遺跡の調査が続くのだった。

 

 

…………………………

 

……………………

 

……………

 

 

「――で、これで一応一通りサンプルは入手したって感じッスね」

 

「ウン、しかもエピタフがこの遺跡と関わりがあるって事も解ったし、やはりデッドゲート付近にはエピタフがあるという事例も確認できたネ。あとは、リム・ターナー天文台にサンプルを持ち込んで、検査をして貰う事にしよう」

 

 

 発掘された遺跡からの出土品や遺跡自体の構成材のサンプル、及び遺跡内壁や外壁に残された文字を書き写したモノ等、調べられるだけ調べた上のサンプルを前にしてホクホク顔をしているジェロウ・ガン教授は嬉々としてそう述べた・・・・ま、嬉しい事も人それぞれだわな。

 

 

「リム・ターナー天文台ッスか?・・・どこにあるんスかソレ?」

 

「私のデータベースによると、ネージリンス国、惑星ティロアの首都にある研究施設の事です」

 

「ユピが言った通りだネ。少し捕捉すると、小マゼラン最高の研究施設でもある。序でにそこにわしの教え子がいるんだヨ」

 

 

 成程、お次の目的地はネージリンスか・・・なんだかタクシーみたいだねぇ。

 ま、色んなとこに行くのが目的だから、俺としては問題はないな。

 

 

「それじゃ、次の目的地はネージリンスって事ッスね?」

 

 

 さて、以前も説明した事があるだろうけど、一応おさらいの為ネージリンスについて説明しておこう。まぁぶっちゃけ、詳しい事は第22章をもう一度呼んでくれると助かる。お兄さんとの約束だ。まぁ簡潔な説明にするぞ?ネージリンスはカルバライヤと対立中、これだけ覚えておけばいい。

 

一応0Gドッグは中立扱いになるから、戦争でも起きてない限りボイドゲートの行き来は制限されない筈だ。もっともカラバイヤ側からのゲートから出てくる訳だから少しは警戒されるけどな。

 

 

「んじゃ、戦利品をコンテナに詰めて撤収~。ゴミは残すな~キチンと持って帰るッス~」

 

「「「「「アイアイサー」」」」」

 

 

 と言う訳で、さっそく次の宇宙島へ向かう為、すぐさま撤収準備を開始する。持ってきた機材をパーケージし、風を出す逆噴射掃除機みたいなヤツで付着している砂を取り払う。まぁどちらにしろフネに戻ったら分解整備をしなけりゃならんだろうが、やらないよりかはマシだ。

 

 こういった機材はスカイベイサーシステムから流用してるからな。使えなくなるのはもったいないのだ。あ、スカイベイサーシステムって言うのは、宇宙にある小惑星帯から使えそうな鉱物や資源を探し出す装置の事だ。探し出せる量は微々たるもんだが、雀の涙程度には役に立つ。

 

 そんな訳で、車両やら輸送艇やらに機材を回収し、サンプルとかをパッケージしたコンテナをユピテルから呼んだ複数の輸送用ランチに積み込んでユピテルへと収納した。そして俺達も軌道エレベータからステーションに戻り、フネに戻り出港準備を進めた。

 

 

「各区画エアロック閉鎖確認、ガントリーアームも解除されました」

 

「インフラトン機関始動、フライホイール臨界へ」

 

「航路管制システム異常無し、スラスター制御システム異常無し」

 

「レーダー順調に作動中~、その他センサーもオールグリーン」

 

「アバリス及び護衛艦群出港、本艦の出港許可が降りたよユーリ」

 

「艦長、各艦発進準備完了です」

 

「ウス、そんじゃま、ぼちぼち行きますかねぇ」

 

 

ステーションの管制塔から出港許可が降りたことをトスカ姐さんから聞いた。

 各セクションも問題無いとユピテルからの報告をもらい、俺はコンソールへと手を伸ばす。

 

 

「ユピテル、発進。微速前進」

 

「発進します。微速前進ヨーソロ」

 

「インフラトン機関臨界へ、フライホイール接続」

 

 

 インフラトン推進機関の臨界に達した瞬間、まだ静穏装置が完全に機能する前なので、微弱な振動がフネ全体を振わせる。この振動こそがまさに今この瞬間、このフネが“生きている”という事を実感させてくれるのだ。人間に例えるなら心臓の鼓動と言えばいいだろうか。

 

 

「前方メインゲート開口、管制塔より入電“旗艦ノ安全ヲ祈ル”以上です」

 

 

 ゴゴゴ――という重力波の反響音を装甲板内部にまで響かせつつ、白い船体をもつユピテルがゆっくりとメインゲートから現れる。誘導ビームが空間に照らされ、そこに沿って航路へと続く宙域へと進むのだ。

 

 そして先に展開していた艦隊と合流し、陣計を組みつつ惑星ムーレアが見えなくなる位置まで進んでいく。インフラトン機関による航行は光より早い為、すぐに星が見えなくなっていった。

 

 

「サナダさん、ステルスモード起動ッス」

 

「了解、各艦冷却機をブラックホール機構に切り替え、ステルスモードを起動する」

 

 

 そして、宇宙を安全に渡る手段の一つ、ステルスモードを起動させる。

 強力なEPと光学的に眼だだなくさせる装甲。

そして排気熱をほぼ出さない様にする機構がそろって初めて使えるシステムだ。

 マッド達が作り上げたキワモノ発明品の中で、一番使える代物だと俺は思う。

 

 

「ステルスモード起動、展開率90%、潜宙開始」

 

 

 そして俺達白鯨艦隊は海を行くクジラの如く、宇宙と言う名の海へと潜航する。

 目指すはネージリンスへとつながるボイドゲート。

 新しい宇宙島、そこじゃどんなことが待ってるのだろうか。

 

 

 ―――そう思ったら、少しワクワクしてきたぜ。

 

 

 

 

 さて、惑星ムーレアを出立してから数週間後、一度宙域保安局へ寄り道し“お礼+α”を頂いた後は特に敵と出会う事も無く、無事に次の宇宙島へとつながるボイドゲートへと到達した。時たますれ違った海賊の内、中々の規模の奴らは美味しく頂いておくのはいつも通りだ。

 

 また以前からあったチェルシーの頭痛とかの対策として、彼女はボイドゲートを越える際は医務室待機という事を厳命しておいた。今や厨房の一角を任されるくらいにまで成長を遂げている彼女。調理中に倒れられたら目も当てられない。

 

 厨房は戦闘中だろうがなんだろうが24時間のローテンションで仕事が終わらない部署だからな。そこの火が落ちるとしたら、ユピテルが落ちる時だろうとまで言われているハードな職場でもある。何せ最近は自炊や自販機も増えたとはいえ、基本的にクルーの食事は食堂でまかなわれている。

 

 マンパワーの低下を避ける為にも、厨房の火を落すことは許されないのだ。まぁ大味なモノや簡単な代物にはマシンを使用しているし、流石に一度に数百人規模で押し寄せてくるからな。人力だけじゃどうしようもならんらしい・・・。

 

 

まぁそんな訳で準備は万端。白鯨艦隊は特に妨害を受ける事も無く、ボイドゲートをくぐりネージリンス・ジャンクションへと到達した。俺はその時艦長席でチェルシーの体調悪化の報告でも来るのか!?と、若干不謹慎なことを考えていたが、今回はそれが来なかった。

 

 そういや以前くぐった時も体調悪化の兆しは弱くなっていたし、これは自意識が大分確定したと考えるべきなのだろうか?洗脳の効果も殆ど無くなり、つまり今のチェルシーがデフォとなると言う事・・・ガンマニアだけでも治らないだろうか?

 

 

「艦長、惑星リリエの中立宙域に到達しました」

 

「ウス、補給と休息と情報収集の為に一度寄港するッス。ステルスモード解除」

 

「了解、ステルスモード解除します」

 

 

 ボイドゲートを抜けたところで近隣の惑星に到達したから、ステルスモードの解除を行った。流石にステルスモード全開でステーションの空域に入る訳にもいかない。戦闘行為とみなされて宇宙港に入れなくされて門前払いとかされたら言い笑いモンだしな。

 

 んで、各艦のステルスモードが解除され、この宙域に白鯨艦隊が現れた訳だが―――

 

 

「艦長~ロングレンジレーダーに感あり~、アンノウン艦接近中~小型の何かを射出したわ~」

 

「センサーでも探知した。エネルギー量から考えて恐らく空母だ艦長」

 

「小型の何か・・・多分艦載機か何かだろうねぇ」

 

 

どうやらさっそく発見された様だ。

攻撃の意図は無い艦載機がユピテルに接近してきている。

まぁ大方誰なのかは解るけどな。

 

 

「アンノウンからID確認、ネージリンス国境防衛隊所属の艦船です」

 

 

「各艦に通達、絶対に撃つなよ?フリじゃないから絶対に撃つなと厳命してくれッス」

 

「アイサー、各艦に通達します」

 

 

 オペ子のミドリさんからの報告を聞き、俺は各艦に絶対攻撃しないよう厳命した。FCSも起動させること自体厳禁にし、とにかく戦闘行動らしき行為もしない様に命令を出した。航海灯をつけて0ドッグのIDコードも発振させて、こちらに敵意が無いことを示す。

 

 そうこうしている間に艦載機群はこちらの最低射程圏内を超え、俺達を監査するかの如く周辺を飛びまわっていた。まるでエモノを捕捉して空中で旋回している猛禽類・・・と言うよりかはエサを見つけた虫っぽいが(サイズ的な意味で)こちらはただ見ているだけである。

 

 

「何か随分と警戒されているみてぇだなオイ」

 

「国境はカルバライヤとのもめごとが多いからねぇ。ピリピリしてんのさ・・・あとストール、万が一の事もありそうだからって、FCSを何時でも使える様にするのは結構だが、今はやめておけ」

 

「うっ、了解」

 

「ID送信完了、ネージリンス艦載機、宙域を離脱します」

 

 

 そして俺達がだまーっていると、奴さん達もこちらに敵意も何もない中立だと解ったので、そのまま部隊を撤収させていく。とりあえずもめごとにはならなくて良かったぜぇ。

 これでカルバライヤ方面から来たからって、なんかされたら普通に自衛権を行使するけどな。

 

 

「しかし、なかなか性能のよさそうな艦載機だったッスね」

 

「知らんのか艦長?艦船に有効打を与えられる程の威力を持った小型荷粒子をこの銀河で最初に開発したのは、ネージリンスなんだぜ?だから空母のノウハウや艦載機運用も高い。それにあの機能的なフォルム、機能的なアクチュエーター、俺達の作ったVFにも採用した可変式スラスターの構造。一般艦載機の性能ならネージリンスが小マゼランで随一だぜ。ああ、一機かっぱらって構造解析や改造を――」

 

「うす、一息説明感謝ッスけどケセイヤさん、ここでトリップしないでほしいッス。ソレと珍しくブリッジに来るとは、何かあったッスか?」

 

「いや、開発の息抜きに散歩してて見に来てただけだ」

 

 

 普通の軍隊の戦艦とかなら唖然としそうな理由だが、ある程度の艦内風紀さえ守ってくれれば問題無い白鯨艦隊ではよくある光景だ。ウチでは一応便宜的に階級はあるが、それは戦闘の際にスムーズに命令を伝える為の手段であり、普段の生活ではあまり適用されない。

 

 やろうと思えば、この艦隊に入りたての掃除班の下っ端の下っ端みたいなやつでも、艦長である俺と一緒に同席しウマい飯を食うことだってできる。敬語も無しに談笑し、なんだったら全裸で食事に参加してもOKだ。――勿論そうなったら俺は遠慮するがな。

 

他はどうだか知らんが、これがウチの習いなんだから仕方が無いだろう。なまじ何時も肩張っている方が辛いのだから、普段はゆる~んだら~んでも良いのである。

やることさえやってくれれば、ウチは問題にしないのだ。フネ自体が家だしな。家の中で何時も背筋をぴんと伸ばして生活している人は・・・そうは居ないよな?

 

 

「そっスか。なんかいいアイディアでもありそうッスか?」

 

「んな簡単に思い付いたら苦労しねぇよ。んじゃな~」

 

「はいはい~ッス」

 

 

 そのままブリッジを後にするケセイヤさんを見送りつつも、ウチってマジでフリーダムだなぁとか思う俺。しまいに通路で寝てるヤツとか現れるんじゃねぇか?酒瓶片手に。

 

 

***

 

 

 さて、リリエで一旦停泊して情報を一応集め、この近辺の海賊情報も手に入れた。これでおまんまの食いぶちが手に入る訳だ。海賊たちには可哀そうであるが、俺達も食って生きなきゃならん。だから俺らの為に飯代に代わってくれ。

 

 そしてこの後は特に何事も無かったので少々割愛する。普段と変わらぬ何の見栄えも無い生活が続いたからな。普通にクソして寝るだけの事書いてもつまらんだろ?

 

 

まぁソレはさて置き、少し回り道で他の惑星をある程度見て回った。リリエ、シェリオン、ヘルメス、ポフェーラと周り、最後に目的地のティロアに向かうのだ。着たばかりの星系だから、情報とか海賊を狩って金が欲しかったと言うのもある。

 

そしてティロアに向かう途中のヘルメスの酒場でギルドがあると言う事を知り、適当に人員を確保した後、俺達はティロアへと赴いた。惑星ティロアは71億1300万人が暮らす緑が多めな惑星だ。気候も惑星全体を通じて穏やかであり、人類にとって住みやすい環境となっている。

 

そうデータベースには説明があったが、毎回思うんだがその国の人口を公表していいんだろうかなぁ?人は石垣って言う様に、人口とかの数値って相手の国力の目安になるから、結構戦略的には重要な意味を持つと思うんだが・・・まぁいい、とにかく俺達はそのティロアに降り立った。

 

 

…………………………

 

……………………

 

……………

 

 

「――んで、やってきましたのがリム・タナー天文台ッス」

 

「ユーリ、アンタ何処にむかって喋ってんだい?置いてくよー」

 

 

 いや、なんかこうしないといけないというお告げが・・・。

 ソレはさて置き、ジェロウに案内されて俺達は天文台に入った。

 一応研究機関なので関係者以外は入れない筈なのだが、そこら辺はジェロウの顔パスで普通には入れたのだ。ちょっとセキュリティに問題があるんじゃないかと一瞬心配したぜ。

 

 さて、このリム・タナー天文台は天文台と名を打つモノの、実の所既に役割を終えている天文台だったりする。その為観測機器は既に殆どが取っ払われ、現在はポツネンと天文台の施設が残っているだけで、それ以外は何もない。

 

 

「ふ~ん、何もねぇな。もうちょいレーダーやらアンテナやら、観測機器がゴテゴテあるもんだと思ってたんだけど」

 

「ここの売りは情報の収集能力と計算能力らしいッスよトーロ」

 

「あら、よく知っているわね」

 

「ん?」

 

「おお、アルピナ君、久しぶりじゃネ!」

 

 

 適当に談話しながら施設に入ったら、研究者らしき女性が話しかけて来た。

 教授の反応を見るに、この人が教授の教え子さんらしいぜ。

 

 

「お久しぶりです。ジェロウ・ガン先生」

 

「ウン、元気そうで何よりだヨ」

 

「教授、彼女が―――」

 

「そう、かつての教え子のアルピナ君だヨ」

 

 

 教授にそう言われ、ジェロウにアルピナと呼ばれた女性は此方を向いた。

 意外と若い、それなのに役目を終えているとはいえ小マゼラン随一の研究施設であるこの天文台を任されているとは、やはりマッドのお弟子さん。タダ者では無い。

 

 

「リム・タナー天文台所長のアルピナ・ムーシーです。よろしく」

 

「ふむん」

 

「・・・なんですの、先生?じろじろと」

 

 

 彼女が自己紹介をしていると、ジェロウはどこかニヤニヤと笑みを浮かべつつもしたり顔をした。

 

 

「や、相変わらず独り身のようだが、キミもいい加減身を固めるべきじゃないかネ?言ってくれれば、いつでもいい男を紹介してやるヨ」

 

 

 教授、ソレってセクハラだと思います。

 アルピナさんもまたかって感じで溜息を吐いた。

 

 

「先生ったら、会うとそればっかり。そんなことを、わざわざ言いにいらしたのですか?」

 

「ああ、いやいや、ソレは挨拶みたいなもんだ。それよりも今日はキミにお土産があってネ」

 

「・・・?」

 

 

 首をかしげる仕草をするアルピナさん。

まぁお土産って言っても遺跡のサンプルが入ったコンテナなんだがな。

 見せる用に少し小さなサンプルは手持ちで持って来てあるが、本格的なのは後で搬入予定。 

 

ここの職員の人間も驚く事だろう。

そしてそのサンプルの多さに、自分たちが解析を行わなくてはならないその苦労に、かなり絶望する事だろう。知ったこっちゃないがな。

 

 

***

 

 

 さて、その後俺達は天文台の中にある全周囲投影観測室へと案内される。

 そこは球状の部屋の壁に高画像スクリーンが敷き詰められ、そこに宇宙の映像を投影している。

 まるでプラネタリウムみたいだが、それよりもはるかに高価な機材だ。

 つーか、小マゼラン銀河一の研究施設の機材をプラネタリウムと同格にしたらだめだろう。

 機能的には似てるかも知んねぇけど・・・。

 

 

「星が一杯の部屋ッスね」

 

「空間通商管理局から、航路上のガイド衛星の映像データを送ってもらっているの。管理局の開示制限が多いから、全ての航路とは言わないけど―――」

 

 

 まぁそりゃそうだろう。航路の中には自治領として機能している所もある。

 そこがこういった航路のデータを公表して欲しくなければ、管理局も開示しない。

 そう言う風に航宙法で決まっているからな。

 

 

「―――小マゼランをふくむ局部銀河のほぼ全域をリアルタイムで観測できるわ」

 

「ふへぇ~、凄いッスね」

 

「お、ユーリ見てみろよ。こっちにロウズ宙域が写ってるぜ」

 

「ホントだ。大分遠いところまで来ちまったスね」

 

「だな、アレからほんの数カ月しか経ってねぇってのにな」

 

 

 もう何年も宇宙を航海している気がしてきたよ。

 最初は駆逐艦の艦長だったのに、次は戦艦、その次は弩級戦艦の艦長、そして今や艦隊を率いる身なんだよなぁ。宇宙を見てぇって思った気持ちは忘れず、好き勝手楽しんでたら何時の間にか身分もデカくなっちまったな。楽しいから問題無いけど。

 

 トーロも変わったよなぁ。最初の頃はどー見ても街のチンピラにしか見えない小デブさんだったのが今やスマートマッチョで、おまけに工作母艦とはいえ元は戦艦であるアバリスの艦長もやってるのだ。大分出世してるよなぁ。最初は弄りキャラで入れた筈なのに・・・。

 

 まぁちょいと黄昏たが、いい加減話を進めよう。

 

 

「アルピナ君、これがさっき話したサンプルなんだヨ」

 

「ムーレアの遺跡から採取したものですね」

 

「うん、“その一部”だヨ。とりあえず一部分持ってきたんだ。持ちきれないからネ。それとこちらは遺跡の壁に描かれていた言語を書き写したモノだ」

 

「お預かりしますわ」

 

 

 そういってサンプルを受け取り、近くの机に置いたアルピナさん。

 だけど教授が“一部”って言ったように、コンテナクラスで持って来て有るんだけど・・・。

 まぁ言わんくてもいいわな。

 

 

「どちらも解析には少し時間がかかるかも知れませんけど・・」

 

「フム、・・・では解析が終了したら、ユーリ君のフネへ連絡をいれてもらおうか」

 

「その方が良いッスね。んじゃアルピナさん、これがウチのナショナリティコードッス」

 

「わかったわ。何かわかったらこちらに連絡を入れます」

 

 

 ふむ、これで一応解析が終わるまでは自由に行動が出来るな。

 そんな一日や二日で解析出来る代物じゃないだろうし、量が量だしなぁ。

 研究所の人達も大変だぜ。コンテナのサンプルの仕分けだけで一日は消えるんじゃねぇか?

 

 この後はジェロウ教授が教え子アルピナさんとの談話を少しした。

 まぁ若干の暴露話的なモノもあったが、俺達は紳士的な対応を取った。

 俺のフネにいたら自然とスルースキルが上昇するのさ。SAN値の上限もな。

 

 そんでまぁいい加減お暇しようって事になり、ここを出ようとしたんだが―――

 

 

「そう言えば、此方からも一つ質問いいかしらユーリ君」

 

「?―何スか?アルピナさん」

 

「ユーリ君は、どうしてエピタフに興味があるのかしら?やっぱりエピタフが世界を変えるという伝説を信じてる?」

 

「いやぁ~、なはは」

 

 

 実の所、エピタフは本当にそれが“出来る”ことを俺は知っている。

 勿論何でもという訳じゃないし、制限もあるし、使える人間も限られる。とはいえ、エピタフの事実の一端を知っている俺は彼女からの質問に苦笑で応じるしか無かった。そんな俺の態度を肯定と受け取ったのか、更に話しかけてくる。

 

 

「そう。こういった伝説を子供騙しだって言う人もいるけど、私はそうは思ってないわ。エピタフはデッドゲートを復活させる力を持っているという仮説を立てているの。デッドゲートが復活すれば人類の活動できる宇宙が広がる・・・そう考えれば伝説もあながち間違いじゃないわね」

 

「ふむふむ、なるほどッス」

 

 

 俺は以前の世界での情報から知っているから納得できるが、この世界の人間がそう言われてもはぁ?って顔をする事だろう。ある意味荒唐無稽過ぎる仮説だ。だってデッドゲートってのは機能が失われたボイドゲートという意味もあるが、言いかえれば“利用できないガラクタ”でもあるのだ。

 

 独自の技術力をもつ空間通商管理局ですら修理できない代物をエピタフが復活させるとか言われても、この世界の人間にとっては、台所でプロトニウム弾頭を作りましたと言っている様なものである。そうそう信じられねぇだろうさ。

 

 だから、彼女が独自にこの仮説に辿り着いたのだとしたら、マジで天才かも知れない。

 ・・・・・マッドの弟子だけにマッドの可能性もあるけどな。

 

 

***

 

 

 さて、解析が終わるまで時間的余裕が出来た。

とりあえずティロアから発進した後、俺達白鯨艦隊は――

 

 

「各砲撃命中、敵武装大破、VB隊突入しました」

 

「ふむん、これでまた売れるッスね」

 

「もっともカルバライヤ系統のフネはあまり高くは売れないけどね」

 

 

――相変わらずゴミ掃除(海賊退治)の真っ最中だった。

 

 

 基本的にはステルスモードで隠れて動いているが、綺麗な海賊船を見つけたらクリオネの如く豹変し、海賊船に襲い掛かって丸ごと拿捕しちゃうのだ!まさに外道!

 ・・・・海賊専門の追剥と海賊連中から囁かれるのも仕方ない気がしてきたぜ。

 

 

「これで拿捕したフネは合計で20隻前後。いい加減何処かで売りさばかないと、ステルスモードの効率が著しく低下するぞ艦長」

 

「それに拿捕したフネの乗員もそろそろ定員一杯です。流石に何時までも閉じ込めておくと衛生的にも問題が起きますし」

 

 

―――サナダさんとユピからそう報告される。

 

 ステルスシステムは当然のことながら、白鯨艦隊のフネにしか搭載していない。だから拿捕したフネは光学的には丸見えだし、その数が増えれば増えるほど、敵海賊船に発見されやすくなる。なまじ俺達の姿が見えないから、敵じゃないって思って突っ込んでくる奴もいそうだぜ。

 

 ちなみにユピが言っていることは、海賊たちを憐れんでの事では無く、只単に異物をとっとと引き払って欲しいからである。お腹の中に変なもんがあったら気持ち悪くなるよな?

 

 

「それじゃ、イネスー。こっからいっちゃん近い宇宙港どこッスか?」

 

「ココからかい?ちょっとまってくれ・・・惑星ポフューラかな」

 

「んじゃ、とりあえず休息も兼ねてそこに寄港するッス。リーフさん頼むッス」

 

「りょーかい、安全運転で行ってやるさ」

 

 

 さてと、今日も稼ぎを売り払いに行きますかねぇ。

 俺は白鯨艦隊を発進させ、惑星ポフューラへの航路へと乗った。

 この時もう少し狩りを続けていたら、少なくても問題ごとを抱え込むことは無かったんだよなぁ。

 

 

…………………………

 

……………………

 

……………

 

 

 さて、目的地に到着した俺達はこれまたそれぞれ独自に行動を開始する。

 流石の俺も全部のクルーの動きを把握しきれるモノじゃないから、みんながどこに行ったのかは彼らが身につけている携帯端末のビーコンによって解る居場所程度で大まかにしか解らない。

 

 

―――俺も適当に星に降りて適当にぶらぶらしていると、ちょっとした広告を見つけた

 

 

「セグェン・G支社『求む、民間のゆうかんなる艦長。多額の成功報酬あり』・・・ゆうかんねぇ?」

 

 

 ちょっと心が引かれたが、何をするのかの説明が全く書かれていない。

 ソレどころか何時やるのか、仕事の期間も何も表示されていない。アレか?金やるから文句言わずにやれってヤツ?・・・な、なんて上から目線。

 

 

「だけどオイラは遠慮せずにエントリーしちゃうッス!」

 

 

 ウチのフネのナショナリティコードを携帯端末から入力した。

 さて、これでええやろとか思っていたら、ビルの中から一人の女性が現れた。

 ・・・・・胸でけぇなオイ。トスカ姐さんよかデカくないか?

 

 

「今、メッセージパネルでエントリーしてきたのは貴方?」

 

「そうッスけど、アンタは?」

 

「セグェン・グラスチ秘書室長のファルネリ・ネルネです」

 

「ネルネル・ネルネ?」

 

「ファルネリ・ネルネです!・・・それで貴方は艦長さんの使い?」

 

「いんや、俺が艦長ッスけど?ナショナリティコードに名前登録してあったでしょ?」

 

「は?」

 

 

 いや“はっ?”って・・・俺ってそんなに艦長い見えへんのかな?

 まぁ流石に若すぎるよなぁ。見た目は今だ・・・・細いモヤシだし・・・。

 お、俺だって脱いだらスゲェんだぞ!・・・いま脱ぐと変態だけど・・・。

 

 

「ちょ、ちょっと、何突然落ち込んでるの?」

 

「い、いや、自分の外見だと、よっぽど艦長に見えないんだろうなぁって思って」

 

「そうね。もう帰って結構よ?」

 

「ひ、酷!人が気にしてるのに!」

 

「大丈夫解ってるわ。大方小型ボートでその辺飛んで、自身をつけちゃったんでしょ?悪いけど子供の手に終える仕事じゃないの。ごめんなさい」

 

「いや、ちょいまて。ナショナリティコードに―――」

 

「ハイハイ、ほら、記念品のティッシュあげるから、もっと有名になってから来てね?それじゃ失礼するわね」

 

 

 俺が何か言う前に、ものすごくやさしい対応ってヤツをされた。

 つーか、話聞けや。

 

 

「――まったく、こんな方法でまともな航海者が集まるワケないわ・・・」

 

 

 ファルネリと名乗った女性は、ブツブツ言いながら建物の中に消えていった。

 フン、あとでナショナリティコードを管理局に問い合わせて、逃した魚は出かかった事を思い知ればいい。すっげぇー、むかついた!

 

 

「けっ!けっー!艦長に見えなくて悪かったッスね!!」

 

 

 俺は手渡されたティッシュをポケットに突っ込み、地団太踏んでからその場を後にした。

 全く持って腹立たしい。人を見かけで判断しやがって・・・。

 この後近場の酒場に入ってうっぷんを晴らしてやった。

 

 

その後、一度ユピテルに戻ったのだが――――

 

 

『艦長、IP通信が入ってます。発信元はエルメッツァです』

 

「・・・・解ったすぐにブリッジに行く」

 

 

―――どうやら、また何か起きる様だ。俺は急いでブリッジに戻った。

 

 

***

 

 

 とりあえず、通信してきたのはエルメッツァ軍のオムス中佐だった。

 どうにも俺達に見せたいモノがあるらしい。大体予想は付いてるけどな。

 航海記録装置(ヴォヤージ・メモライザー)の解析が終了したんだろう。

 

 場所が場所だから戻るのに苦労するかと思ったが、ネージリンスジャンクションのボイドゲートの一つが丁度エルメッツァとつながっているのがあるらしく、そこから数日もかけず戻ることが出来た。ステルスモードを使えば敵にも会わないからな。

 

 

 ――――そんな訳で軍司令部に戻ってきた俺たちだった。

 

 

「なんか、偉い懐かしく感じるッスね」

 

「最後にココに来たのってドンくらい前だったか・・・私も覚えてないねぇ」

 

 

 目の前には偉く懐かしい建物、そういやこっち出たのってもうだいぶ前だったなぁ。

 アレから色んなことが有って、会って、合って、遭って・・・・。

 うん、本が出せそうな経験積んでるな。色んな意味で・・・。

 

 

「・・・・入りますか」

 

「そだね」

 

 

 勝手しったるなんとやら、顔見知りの受付さんに話せばすぐに通してもらえる。

 ここの人達にも顔を覚えられ・・・・お陰でエルメッツァで犯罪行為は完全にできねぇな。

 んで、ここの指令室に来たのであった。

 

 

「どうも中佐」

 

「ユーリ君、よく来てくれた。さっそくだが、映像を見てから話すとしよう」

 

 

 オムス中佐はそう言うと、部下に指示を出した。指パッチンで。

 部下がコンソールを操作すると、指令室の中央にある空間3D投影球から画像が投影される。

 少しノイズが掛った映像をなんとかキャンセラーで見れるようにした感じの映像が流れる。

 

 しばらくは何もない宇宙空間だったが突然画面がぶれ始めた。

 機材の故障とかでは無く、映しているカメラ自体が揺れている感じである。

 そして左側から何かがゆっくりと写り始めた。

 

 ソレは濃緑色のフネの様でこの時代には珍しくロケットタイプの船体だった。

 だがそのフネは見る人が見れば、恐ろしい程の戦闘能力を持つフネだと言う事が解る。

 小マゼランで使用されているフネの装備は多くても5つくらいだ。

 何故ならジェネレーターの出力上、エネルギーを分散させないように、兵装は少なめなのである。

 

 だが、映し出されているフネには、サイズ的には近くの駆逐艦残がいと同じ寄り小さい程度なのにいたるところに武装があり、こちらのフネと違い1対1では無く多対1を想定している様なレイアウトを取っているまぎれも無い戦闘艦だったからだ。

 

 しかもそれ一隻では無く、同じ型のフネが次々と目測で解るだけでも数十隻、そのフネよりも3倍は大きく、艦載機用カタパルト備え、さきのフネ以上の兵器を多数搭載した大型艦。更にはそれの2倍のデカさがあるユピテルと同サイズの三段空母が艦隊を組んでいる映像が映し出されていた。

 

 つーか色といい三段空母といい・・・ガミ○スか!?ガ○ラスなのか!?

 個人的にはガルマン・○ミラスでも可!ちょっとメメタァな所に思考が飛んだ。

 

「・・・・信じられねぇッス」

 

 あまりの映像に他の連中は言葉を無くしていた。

 知っていた俺ですら圧倒されて信じらんねぇって言葉を漏らしたくらいだ。

 つーか映画化何かじゃねぇかと、聞きたくなるくらいに圧倒される艦隊だ。

 

 

「・・・・私のデータベースにも記録が無い。未知のフネ―――まさか宇宙人!?」

 

「異星人なのかそうでないのかは別だが、解っているのはこの艦隊に調査船が撃沈されたと言う事だ。そしてこの艦隊は小マゼランへと真っ直ぐ向かってきている」

 

「……トスカさん、これって」

 

「間違いない。ヤッハバッハの先遣隊だ」

 

 

 知ってはいたが、一応トスカ姐さんに小声で確認を取った。

 一応俺の仲間の中で、唯一連中とやりあった事があるのがトスカ姐さんの故郷だ。

 連中の事はこの中の誰よりも詳しいだろう。

 

 

「・・・中佐、この映像について政府は?」

 

「国内の混乱を招かぬよう極秘で偵察艦隊の派遣準備を進めている。新たな星系人種との接触になるだろうからな。勿論相手が好戦的な種族だった場合に備えて、打撃力を持つ艦隊を後衛に付ける予定だ」

 

「・・・・多分ダメっスね」

 

「そうかい、そうかい。そりゃ結構。で、その戦力はどの程度なのさ?」

 

「詳しい情報はこちらもまだ入っていないが、慎重を期して5000隻程度の艦隊を編成する事になるだろう」

 

「5000隻ッスか?」

 

 

 五千隻と聞いて、護衛について来ているウチのクルーからスゲェとか声が上がっている。

 中央政府軍の総艦隻数が約1万5千隻だから、およそ3分の1の軍の導入だ。

 ・・・だけどこれって普通に国民にきづかれるんじゃないか?

 

 

「うむ。最初の接触で、我がエルメッツァの威信を見せつける必要があるからな」

 

「ふ・・はは、あはははは!大した自信だよ!たったそれだけの艦隊で威信?あははは!」

 

 

 トスカ姐さんは哂いだす。そりゃそうだろう。ヤッハバッハ相手にこの数は・・・幾らなんでも舐め過ぎだ。画像の荒い映像でさえ向う側に沢山の艦隊が見え、おまけに後続も多いと来たもんだ。絶対スゲェ数が来ている。

 

 確か原作でもこっちのフネとヤッハのフネとじゃ性能で言うと、対艦が2倍、装甲が3倍、耐久値に至っては7倍弱の開きがあった筈。この世界においてそれほどの性能の差があるのかは不明だが、単純に考えてもこっちが向うの10倍近い数をそろえないとまず勝てないだろう。

 

 つまり1万5千隻を集めたとしても、向うが1500隻以上いればこちらは負ける。

指揮官の云々じゃなくて性能差で圧倒され、ほぼ確実に――。

 

 

「中央政府軍の3分の1を動員するのだ。これでも多すぎるくらいだ」

 

「あ~、知ってる。知ってるさ。滅亡した国家の連中がみんな同じ台詞を言ってたってね。一つ忠告だ。奴らと対峙するなら今すぐネージリンスとカルバライヤと手を組んで全戦力を投入しな。じゃないと負けるよ?」

 

「バカな!相手は近辺星系の軍では無いんだぞ!長い航海を経た遠征軍なら当然支援艦、補給艦も多数混ざっているだろう。戦力となる艦船数などたかが知れているのだ!」

 

 

 その発想も解らなくはない。相手の情報は今の所この航海記録装置(ヴォヤージ・メモライザー)だけ、こちらのフネの常識なら、確かに沢山の補給艦や支援艦が必要だと思うだろう。だが連中のフネの性能は恐らく大マゼランのフネのそれよりも凄い筈。

 

 拡張次第であるが長期にわたる航海も可能な設計が為されている可能性もある。

 もしくはそう訓練された長い航海に耐えられる人選もされている筈だ。

 というか、絶対そうだろう。こりゃ勝てねぇわ。

 精神力もマンパワーも圧倒的、性能も上。

 むしろ、どうやって勝てと?特攻でもしろってか?

 

 

「あんた達、その判断が正しいと思ってるのかい?」

 

「このエルメッツァも、大きくなるまでに、多くの異人種との接触同化を繰り返してきた。そこから導き出される常識的な判断だと思うがね」

 

 

 トスカ姐さんからの問いに憮然とした態度で応えるオムス。

 彼女はそんなオムスをしばらく見ていたが。「・・・そうかい」と言って矛を収めた。

 そして彼女はドアの方に向き直り、そのまま歩きだした。

 

 

「この宇宙で未知の敵の力を常識で測る―――救えないよ・・・」

 

「あ、トスカさん!?・・・すみません中佐、副官が失礼なことを」

 

「・・・・君達に伝えたかったのはこれですべてだ」

 

 

 あちゃー、機嫌悪くしてらっしゃる。全くトスカ姐さんもトスカ姐さんだよ。

軍の上層部や政府が方針を変える訳無いだろうに。第一あの言い方じゃ謎の勢力の事を俺らが知っているって取られちまうじゃないか。

 

 

「それと、この映像については――」

 

「ええ、他言無用ですね。我々はこれを拾っただけ、この場では何も見なかった」

 

「それでいい」

 

 

 ムスっとした中佐に別れを告げて、俺もこの場を後にした。

 

 

 

 

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第二十九章+第三十章+第三十一章+第三十二章

 

 さて、勝手にフネに戻ったトスカ姐さんは、その後しばらく自室から出てくることは無かった。この国の対応がもしかしたら故郷の国の対応に似ていたからかもしれない。

 とりあえず、俺は開発部への開発費の増額を決定した。一応の備えってヤツだ。

今のままで戦ったとして生き残れるのか?そう考えたら凄まじく不安だったからだ。

 

だからこそ、フネの改造をもっとやらせることにした。

やらせるのは勿論我がフネが誇るマッド陣・・・・危険な賭け無きがするがもう遅い。

一応基本方針として、フネの装甲、機動性、火力の三つとも上げられる様には通達してある。

願わくば、ヤッハバッハの戦力がそれ程でもないことを祈りたいぜ。

 

 そして、若干不安な事もあったモノの、俺達はエルメッツァ首都のツィーズロンドを後にしたのだった。

 

 

 

「ユーリ、ちょっといいかい?」

 

「なんです?」

 

「いや、エルメッツァから出る前に、ドゥンガによって貰いたいんだ」

 

「ふーん、シュベインさんとですか?」

 

「う、うん。そうなんだよ」

 

「・・・・まぁいいですけどねー。俺も事情は知ってるのに、仲間外れですもんねー」

 

「それは・・・本当にすまないと思ってる。だけど・・・」

 

「・・・・はぁ。まぁ話せないとか巻き込みたくない気持ちは解りますけどね?死に急ぐ真似だけはしないでくださいよ?」

 

「解った・・・なぁ何でそんな喋り方何だい?何時もの“ッス~”っていうアレは?」

 

「・・・・何かムカって来たから使わんかっただけッスよ。まぁとりあえず航路は丁度ドゥンガを通るから問題無いッスね」

 

「すまないね」

 

 

***

 

 

 はい、てな訳で惑星ドゥンガの酒場にやってまいりました。

 カウンター席に居る見た事のある後ろ姿。シュベインさんだな。

 

 

「待たせたねシュベイン」

 

「どうもッス」

 

「おお、これはトスカ様とユーリ様。何、さほど待ってはいませんよ」

 

 

 適当に挨拶を交わしつつカウンターへと座る。

 今回この酒場に一緒に来ているのは俺とトスカ姐さんだけだ。

 ほかの連中に聞かれてもいいが、説明が面倒臭いしな。

 それにココだけの話、今からする話しには政府に逆らう的な内容も含まれるぜ。

 

 

「航海記録装置(ヴォヤージ・メモライザー)のバックアップデータの解析は?」

 

「はい、画像と同期して採取されたデータの内。比較的精度の高いモノのみを取り出しました。レーザー観測データ、重力波データおよび画像範囲内インフラトン粒子の測定データをクロス分析解析致しました結果・・・・主力艦のサイズは2000mクラスのモノが複数だと思われます」

 

「ウチのユピテルとほぼ同じくらいの大きさッスね。数は?」

 

 

 2000m、キロに直すと2kmだ。

戦艦大和が大体263m位だったから、ソレのおよそ8倍に相当する。

そんなのが宇宙を艦隊組んでごろごろ飛んでるとかどんだけやねん。

 

 

「あくまでメモライザーの観測範囲のみの計算ではありますが・・・およそ10万隻は下らないかと・・・」

 

「・・・・小マゼランの軍を全部足した上で倍以上の数ッスか・・・うわっ勝てねぇ」

 

「ええ、しかも彼らのフネは強力かつ堅牢です」

 

「シュベイン、この事をエルメッツァ政府は?」

 

「知ってはいますが分析結果が大分違っている様ですな。どうも古い艦故に一隻当たりのインフラトン排出量が多いモノと判断している様で、政府内の知人によりますと、艦船数は1000隻程度と見積もっているとのことです」

 

「・・・・・何をどうすれば10万隻が1000隻になるんスか」

 

 

 沈黙が流れる。例え連中が1000隻だったとしても、エルメッツァが送る使節艦隊は壊滅する事だろう。ソレ位の力を奴らは持っているのだ。

 

それに宇宙に航路が開かれて幾千年。

それなりに発展した星系国家を築いた相手にケンカを売るガッツがある連中だ。

戦闘力よりも生産性と低価格を優先し、パワーと耐久力を犠牲にして作られたこちらのフネなんかひとたまりも無い。

 

 

「ふん、どいつもこいつも、どうして敵を見くびりたがるかねぇ」

 

「組織がでかくなった上、敵対出来る存在がいなかったからッスね。どんな敵にも負けない、只の張り子のトラだって言う事にも気が付いて無いんスよ。それに気が付くのは、艦隊が壊滅した後って所でしょうね」

 

「国家組織としての弊害でしょう。力が増せば増す程、人間は愚かになってしまう」

 

「どちらにしても、このデータがあった所でエルメッツァも同じデータ持ってるから、こっちの話しも聞きやしないッスね」

 

「・・・もうチョイ色々と解っていればねぇ」

 

 

 いや、流石にこれ以上の情報は望めないでしょう。

コレ以上欲しいなら、俺達だけで威力偵察でもしてみますかい?

10万隻相手にケンカ売ったら、さぞ凄まじい事になりそうッスけどね。

 さて、沈黙が流れる中、酒を一杯煽ったトスカ姐さんが俺に向き直った。

 

 

「・・・・ユーリ、デイジーリップ号を精密メンテナンスに出しておきたい。この先何があるか解らないからね」

 

「え、デイジーリップ号ッスか?・・・そういや、何処にしまったんだっけ?」

 

「え?」

 

 

 いや、本当に何時頃まで使ってたっけ?あれ。

 

 

「ちょいと待ってくれッス。今ユピに問い合わせてみるッス」

 

 

 俺は携帯端末からユピにアクセスした。

 腕に付けた腕輪から空間投影されたユピのインターフェイスが映し出される。

 

 

『お呼びですか艦長?』

 

「うん、トスカさんの以前乗っていた乗艦はどこにしまったか解らないッスか?」

 

『少々お待ち下さい・・・・・解りました。本艦の格納区画にモスボール処置を受けて収まっています。ただ―――』

 

「?何か問題でもあるッスか?」

 

『いえ、そのう・・・デイジーリップ号のある格納庫なんですけど・・・・・・・・開発部に近い区画にあるんです』

 

「「な、なんだってー!?」」

 

 

 この時、俺とトスカ姐さんに電流走る。

シュベインさんはよくわかっていない為、叫んだ俺達に対して首をかしげる。

 

 な、なんて言う事だ。よりにも寄って開発部の近くにあるなんて――

 通称“マッドの巣”と呼ばれる異空間だぞ!?あそこは!?

 

 

「そ、倉庫の映像は?!」

 

『あ、はい。監視カメラと映像を繋ぎます』

 

 

 携帯端末の映像が切り替わり、ちょっと薄暗い格納庫の中が映し出された。

 ふむ、見た感じ改造とかされている様には見えない。

 

元は旧式の小型輸送船を改造したデイジーリップ号。

両舷のペイロード部分に無理やりスラスターを兼ねたシールドジェネレーターと武装を、半ば無理やりに取りつけてある。

その為バランスを保つ為に胴体部分に反重力スタビライザーを四本も取り付けたらしい。

 

その場当たり的な改造のお陰で非常にピーキーな機体なので、トスカ姐さん以外に乗りこなせる人間がいないフネがデイジーリップ号なのだ。

 

 

「ふぅ、とりあえず変なことはされ――」

 

「・・・・ユピ、少しカメラを引いてみて。あと左舷側も見てみたいッス」

 

『了解』

 

 

 カメラが引いて行き、デイジーリップ号の全体があらわになっていく。

 全体的な形とかは変わってないみたいだが―――

 

 

「トスカさん、手遅れだったみたいッス」

 

「・・・・・アタシのフネが」

 

 

 頭を抱えるトスカ姐さんと俺。

放置されていたデイジーリップはマッド達のおもちゃにされたらしい。

 デイジーリップ号の右舷側ペイロード。

そこには、ミサイルランチャ-と小型レーザー砲があるだけだった筈だ。

だが今は左舷側のシールドジェネレーターがあった筈の所にも武装が追加されている。

全体的に見れば左右非対称でバランスが悪かった機体バランスが少し改善されている。

 

 ウン?よく見たらペイロード部分がもう二つ追加されてる?

 ああ、成程それがシールドジェネレーターだったのか。

 元々主翼みたいに出っ張っていたペイロードの下に取り付けてあるから、複葉機みたいだぜ。

 

武装もシールドも2倍になってやがる。

しかもスタビライザーも小型のが幾つか見え隠れしてるし・・・。

フネの後部に追加のエンジンでもくっ付けたのか、少し全長も増しているみたいだ。

 

ミサイルランチャ-も小型のヤツだが、クラスターミサイルと交換されてる。

おまけになんか用途不明の装置らしきモノも追加されてるみたいだぜ・・・・。

こりゃかなりの趣味にはしってんなー。

 

 

「な、ななな――」

 

「こりゃ大分前から改造されてるッスね。そんな事が出来るのは古参のあの人くらい」

 

「ケセイヤーーーーー!!!アタシのフネになんてことしてくれてんだーーーーー!!!」

 

 

 彼女はこんなことをしでかしてくれた張本人の名前を叫びながら酒場から飛び出した。

 まぁ自分の愛機が気が付けば改良されちまってたら、怒りもするだろうなぁ。

 

 

 

***

 

 

 

 さて、あの後トスカ姐さんがマッドの一人をボコボコにした。

 マッドが倒れる時“マッド死すとも、改造は止めぬ”と迷言を残したとかなんとか。

 懲りない人だねー、とか思いつつもとりあえず俺達はネージリンスへと戻ってきた。

 そろそろ天文台の解析が終わるだろうと踏んだからである。

 

案の定、俺達がネージリンス領に帰還したと同時に通信が入った。

 解析が完了するから、そろそろ来てほしいとの事だったので、そのままティロアへと向かった。

 ティロアに着くとその足で天文台へとちょっこした俺達をアルピナ所長が出迎えてくれた。

 

 

「ああ、ユーリ君。ちょうどよかったわ。後10時間程で解析が終わるそうよ」

 

 

 ―――とは、アルピナさんの言。

 

 流石は小マゼラン有数の研究施設、仕事が早いぜ。

 解析が終わるまでこの星で待つので、ホテルの部屋を取ってもらった。

 

 地上でドンチャン騒ぎをする事が多く、酒場で夜明しならしたことがある。

だが、その後は大抵ユピテルに戻ってしまう為、ホテルに泊るのは本当に久しぶりだった。

 

 ちなみにクルー全員がホテルに泊まった訳じゃ無く、天文台についてきた連中だけだ。

 流石に数千人いるクルー達を全員泊められる宿泊施設なんてある訳がねぇ。

 でも宇宙にはそう言う事が可能なホテルがあると聞いたことがあるから恐ろしいぜ。

 

 

≪カチ・・・コチ・・・カチ・・・コチ・・・カチ・・・コチ―――≫

 

「・・・・・」

 

≪カチ・・・コチ・・・カチ・・・コチ・・・カチ・・・コチ―――≫

 

「・・・・・」

 

≪カチ・・・コチ・・・カチ・・・コチ・・・カチ・・・コチ―――≫

 

「・・・・・・・・・・・・眠れねぇッス」

 

 

 よく旅先の旅館とかにある時計の音が気になって眠れないって事あるよな? 

 くそ、誰だよ。レトロチックな置時計を部屋においておくなんて・・・。

 趣味はいいけど眠れねぇっての。

 

 

「う~ん☆ヒマだし、さんぽでもしようかな?」

 

 

 ちょっと某ハンバーガー屋ピエロさんの真似をしつつ、ベットから起きる俺。

 一度目が覚めちまったら、そうそう寝付けないだべ。

 時間的には、むむ、売店も閉まってるだろうしなぁ・・・コンビニでもちかくにあるかな?

 

 

 

 

 

 

・・・・――――さて、一方その頃。

 

 

 

「艦長、まだ起きてるかなぁ?」

 

「ユーリ、起きてるかな?」

 

「「ん?」」

 

 

 俺の泊る部屋から少し離れた廊下で、二人の少女が遭遇していたらしい。

 片方は我らがAI様ユピ。もう片方は我らが妹様チェルシーだ。

 

 

「(艦長の妹さん?)」

 

「(たしかこの娘、フネのAI・・・だったよね?)」

 

 

 廊下で見つめあうこと数分、再起動に時間が掛ったのか、ハッとする二人。

 

 

「「あ、あの。こんな時間に何をしに?」」

 

 

 異口同音で問われた質問。

 流れる沈黙のなか無音の風が加速した。

 

 

 

***

 

 

 

「やべぇ、企業戦士マンダム超おもしれぇッス」

 

  

 少々マナー違反だが、俺はホテル近くのコンビニで漫画雑誌片手に立ち読み中。

 読んでいたのは、とある企業に入った少年が年代を重ねながら徐々に渋みを増して他企業を圧倒していく様子を描いたリーマン漫画。創刊は30年近く前だが、何気に人気があるらしくマンダムエースなる専門雑誌まである。

 

 しかし、やっぱどんな世界にもあるもんだねぇ、コンビニ。

 24時間営業のソレは、暗い夜を明るく照らす頼もしい味方。

 立ち読みして時間つぶすのにちょうどいい空間だ。

 店員の目が厳しくなってるが、オレは自重しないぜ!

 

 適当にとった漫画雑誌、どうも未来になっても漫画と言うジャンルは終えないらしい。

 描き方も20世紀のそれとほぼ変わらん。

稀によく解らん構図の漫画あるけど、過去に描かれた漫画でもよくある話なので気にしない。

 

 つーか、このトガシとかいう作者の書いた漫画。

ぶっ飛んでて面白いけど、話しもぶっ飛んでるね(休載的な意味で)

 でもやっぱり俺が気に行ったのは、ルスィックPという人の書いたヤツだね。

 まるで実際に見て来た様な臨場感がたまらねぇゼ。

 

 

「ふん、ふん・・・――あ、読み終わっちまったッス」

 

 

 俺は結構読むのが早い、だから置いてあった雑誌の殆どは読んでしまった。

 残っているのは女性向け雑誌とアングラ系、それと青年指定系のソレ。

 前者は周りの目を考えなければ普通に読める。

だが、後者は何か命の危険を感じる為、手をつけたくない。

 単行本系は全部ラッピングされていて読めないし・・・仕方ないから戻るべ。

 

 

「・・・1人手酌でもすっかねぇ」

 

 

 ふと酒とつまみのコーナーが見えた。

 1人晩酌って言うのもオツなもんだろうとかオヤジ臭いこと考えつつも購入。

 買ったのはビールっぽい発泡酒系の何かと、ジャーキー的な何か。

 詳しくは知らん、まぁ以前食った時にそう言う風に感じたからそう言ってるだけ。

 不味くは無いしむしろ合うから問題無し。

 長時間立ち読みをしていた俺を睨むコンビニ店員の視線を受けつつホテルへと戻った。

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

 部屋に戻ると中に人の気配、こんな時間帯に来るやつなんて普通いない。

 イコール、悪意を持った誰かの可能性がある。

 だけど、オレ誰かに恨まれる様な事・・・該当件数があり過ぎます。もっと絞ってください。

 

 さて、良い感じに脳内アナウンスが流れた後、そうっと部屋の中の様子をうかがう事にする。

 中折れ接続式のハンディバズも腰のホルダーから外して組み立てる。

 コイツは外見が天空の城のあの大砲にそっくりだが連射が可能な憎いヤツだぜ!

 

 まぁちょいと変なテンションで近くのリネン室に置いてあった段ボールを接収した。

 そしてそれを被り部屋へと入る、気分は伝説の蛇さんだぜ。

 

 

「(こちらユネーク、侵入に成功した)」

 

 

 1人MGSごっこは男の子ならだれでも一度はやってみたいだろう。

 そんな訳で部屋の中に屈みながら入った―――段ボールを被って。

 変なテンションなのは帰る途中でヒャッハー!我慢できねぇー!って感じで酒一本空けたから。

 まぁ多めに見てくれたまえ。

 

 

「(さぁ、何処のどいつが待ち伏せ中なのか)」

 

 

 部屋に入って気配を探る。

 はて、何故か人の気配はベットの方から感じられる。

 一体誰がと思い、段ボールの隙間から覗いて見た俺は後悔した。

 

 

「(た、大佐、美少女が2人何故か俺のベットで寝ている。どうすればいい!?)」

 

 

 脳内の大佐に救援コールを送るくらい、今の俺は混乱中だ。

 ベッドに寝ていたのはユピとチェルシー、何故か仲良し姉妹の用に抱き合って熟睡中。

 チェルシーは解る、彼女が小さな頃は怖がりで一緒に寝ていたという。

ラスボス連中の妙に凝ったかつ、ねつ造記憶が存在しているからだ。

 

 ちなみに脳内大佐はYouヤっちゃいなよー若気の至り万歳WRYEEE!!と非常に問題のある発言をかましてくれている。つーかやめい大佐!

 

彼女たちに手を出すとか俺のジャスティスが許さん!

 片方は年齢的に中学生でもう片方は歳一ケタだぞ!?ロリコンどころの話じゃないわい!

 そんな訳で臆病でヘタレなオイラは部屋からそそくさと撤退した。

 

 

 

 

 

 

 

・・・―――んで、コンビニのビニール片手にホテル徘徊中。

 

 特に行く場所も無く、夜は警備の人間以外は居ない自動化されたホテルを歩く。

 ロビーで寝たら流石に朝ホテルの人になんて説明すれば良いか解らんしなぁ。

 かと言ってあの二人の居た部屋はオートロックが掛っているだろうし・・。

 は?一緒に寝れば良い?・・・・生殺しってキツイなんてもんじゃなくて地獄なんだぜぇ?

 

 

「・・・・トスカさん辺りなら起きてるかもしれないッス」

 

 

 イネスは今回来てないし、かと言ってトーロは・・・彼女とよろしくやっている。

 ケセイヤさんとかのマッド陣営の所には迂闊に近づきたくないという心理が働いた。

 となると、自然と消去法で一番信用が置ける人物と言う事になる。

 

 

「丁度酒もある事だし、夜空を肴に飲みますかねぇ」

 

 

 トスカ姐さんが寝てたらまたコンビニにでも行って夜を明かそう。

 そんな訳でトスカ姐さんが寝てる部屋へと瞬間移動・・・もとい普通に歩いて到着。

 とりあえずドアをノックしてみた。

 

 

「トスカさん、ユーリッス。起きてるッスかー?」

 

「ユーリ?あ、ああ。起きてるよー」

 

 

 どうやら起きていたらしい、ドアは開いているとの事で中に入った。

 部屋に入ると若干薄暗く、よく見れば部屋の中がプラネタリウムの如く星が写っている。

 

 

「これまた面白い部屋ッスねー」

 

 

 素直に感想を述べる。むむ、俺もこんな感じの部屋にしたかったぞ。

 もっとホテルの案内書見ればよかったぜ。

 

 

「ああ、面白そうだからココにして貰ったのさ・・・それは酒かい?」

 

「あ、よかったら飲みます?適当に寝酒程度にでも」

 

「いいね、ちょうど欲しかったとこだ」

 

 

 ベッドにけだるそうに座っていた彼女は、俺が持っているもんに気が付いた。

 適当にホテルの部屋備え付けのコップを拝借し、ソレに注いで渡してやる。

 彼女は黙ってそれを受け取り一口、俺も自分のを用意して飲む。 

沈黙が辺りを包むが居心地は悪くない。

 

 

「・・・で、何かあったのかい?こんな夜中に」

 

「いやー、ちーと眠れなかったんスよ」

 

 

 俺の部屋のベッドは占領中だしな!俺の応えにトスカ姐さんはそっかと応えた。

 再びい流れる沈黙・・・居心地は悪く(ry

 

 

「人間が・・・」

 

「はい?」

 

「人が光の速度を越えられる様になって・・・それ、良かったのかね?」

 

「というと?」

 

「いま、この部屋のモニターに映っている星の光は過去の映像。この中にはもう存在しない星もあるかもしれない・・・滅んだものはきれいさっぱり消えるべきなんだ。昔のままの姿で見え続けるなんて・・傲慢さ」

 

 

 そういうと彼女は杯を仰いだ。

 

 

「・・・・うーん、俺は学が無いので上手い事は言えないッスが。例えそうだとしても、何時かは見えなくなる。だったら見えている間は、見つめ続けるのも一興なんだと思うんスよ」

 

「・・・・・・かも、しれないねぇ」

 

「ま、俺の考えッスからね。自分で言って訳解んねぇッス」

 

「なんだそりゃ」

 

 

 そういってクスクス笑うトスカ姐さん。ふぃ~こういったしんみりは苦手ですたい。

 この後は結局彼女と朝まで呑んで夜を明かした。

 つーか酒が無くなったからパシらされた。あり?俺ってかんちょうだったよな?

 

 

***

 

 

 ちなみにチェルシー達はユーリと夜会話したい為に部屋で待っていたが、睡魔に負けて寝てしまった。次の日の朝二人して赤面していたのは余談である。

 

 

***

 

 

 さて、翌日になってまたもや天文台。

 解析結果がでると聞いて興奮しているジェロウ教授を宥めつつ、部屋に入る。

 すでに準備されたモニターには、様々な比較グラフが展開され、色んな数値が出ている。

 アルピナさんやその他研究員が若干疲れた顔をしながらもやり遂げたという顔をしている。

 そしてプレゼンを始めたのだが――正直チンプンカンプンだぜ。

 

 

「――こほん、結論を申し上げますと」

 

 

 む、いかん。意識が別の方に飛んでいる間に結論が出ている。

 俺はすぐに意識をそちらに傾ける事に全神経を集中させた。

 

 

「(ユーリ艦長、凄い気迫ね。よっぽどエピタフに関心があるんだわ)――エピタフとデッドゲートには、やはり何らかの関係性が見受けられます」

 

 

 そう言うと彼女は手元のコンソールをピポパと動かす。

 すると背後のモニターに映し出されていた画が変わった。

 

 

「先生たちが採取されたサンプルには、微弱ながらヒッグス粒子反応が確認されました。これは私たちが以前偶然にも観測に成功した11番目のヒッグス粒子、ドローンヒッグス粒子と完全に同一でした」

 

 

 ヒッグス粒子つーのは、ヒッグス場を量子化して得られる粒子の事だ。

 詳しい事はウィキで調べれば出てくると思う。

すでにおにーさんの頭は爆発寸前だから、コレ以上聞かないでほしいぜ。

 

 さて、俺にとっては正直“なにそれ美味しいの?”的な話しを終えたアルピナさん。

 ジェロウは自説が証明されたと喜んでいる。

 あそこまで喜ばれると、ムーレアまで連れて行った甲斐もあるもんだ。

 

 さて、もっと簡単に結論を言うと、先のドローン・ヒッグスとかいう粒子の観測。

 それによってエピタフのある場所も解るかも・・・ってのがアルピナさんの説だ。

 

 

「ちなみにこのDH粒子が強く観測された宙域があるの。ゼーペンスト自治領の宙域で以前から微弱な反応があったのを検出する事はあったのだけど、最近検出回数が上がっているわ」

 

「自治領ッスか・・・そらまた面倒臭い場所に」

 

「あそこの領主バハシュールがエピタフを持っていたという噂は以前からあるわ。彼の父親、すなわち先代の領主でありバハシュール自治領を開拓した初代バハシュールね。彼が航海している時に見つけたといわれているわ」

 

 

 普通なら胡散臭ぇと鼻で笑うだろうが、DH粒子の検出量の多いところでエピタフが見つかると言うのなら、信憑性も増している。序でに言えば火が無い所に煙は立たず、噂があるってことは少なくても何かがある可能性が高いと言う事でもある。

 

 まぁまったくの無駄足に終わる事も多いだろうけどね。

 ことエピタフ関連は半分信じて半分疑う程度がちょうどいいのさ。

 

 

「ヒッグス粒子を観測できる装置を、フネに搭載出来るといいんだが・・・」

 

「流石に無理ッスよね。この天文台の能力でようやく観測可能だっていうのに」

 

 

 ちなみにこの天文台、敷地だけでも20平方kmある。

 設備だけにしても、数キロ以上地下に埋没しているから、流石にフネに乗せるのは難しい。

 幾らウチにマッドが多くても、ダウンサイジング化は難しいだろう。

流石にフネ一隻をタダの観測用として使える程余裕はないしな。

 

 

「なんとか乗せられないかネ・・・」

 

「アバリス級を一隻食いつぶす覚悟があるなら可能でしょうけどね」

 

「・・・艦長」

 

「いや、流石にもう一隻作る余裕はないッスよ?」

 

「だが、エピタフを発見したくは無いかナ?」

 

「はっは、だが断る」

 

 

 断るとシューンとした感じになるジェロウ教授。

 いや、一応金はあるッスけど、流石にそこまでやりたくねぇよ。

 以前のグアッシュとの戦闘で受けた損害、正直プラマイで言ったらマイナスに近いんだぜ?

 アレでもし戦闘で犠牲者が出ていたらと思うと・・・はぁ、葬式代もばかにならん。

 

 とりあえず、解析は終えた。これ以上は天文台に居ても仕方ない。

 更なる調査解析はここの職員たちに任せる事にして、俺達は俺達で宙域を回って情報収集だ。

 

 

 だけど、まさかまた色々と巻き込まれるとはなぁ~。

 人生ってのはままならないッス。ウン。

 

***

 

 

各惑星を巡って教授が求める情報を集めることにした俺達。とりあえずウチのデータベースで一番近隣でエピタフがありそうなバハシュール領に付いて調べてみることにした。

IP通信で通商管理局にもアクセスが可能だから、そこから情報を引きだすことにする。

 

バハシュール領はゼーペンストに存在する自治領の一つで、先代が基礎を築きあげた国だ。

現在はその息子があとを引き継いでいるという典型的な2世領主が治めている。 

 

もっとも、更なる反映とかでは無く親が築いた財を子孫が食いつぶしている。

公式のデータベースにすら乗っているダメ領主ってどうよ?

 

 また領主の性格は非常に傲慢勝つ気分屋であるとの分析結果も出ている。

 一自治領を収める治世者がそんなんでいいのかと問いたいところだが、次世代の教育を怠った先代に否があるし、正直そんな話しは幾千万とある星間国家連盟にはよくある話だ。

 

 つーか毎日美女侍らせて退廃的な生活が出来るなんてなんてうらy――ゲ、ゲフン。

 ともかく、そいつは近づく民間船ですら稀に気まぐれで沈めたって話がある。

 そんな頭のネジがゆるんでるヤツの所には行きたくないねぇ。

 

 

「艦長、もうすぐ惑星ポヒューラです」

 

「ん、了解、各艦繋留準備、管制塔の指示に従って順次入港してくれッス」

 

「アイサー、各艦、管制塔の指示があるまで待機せよ。繰り返す――」

 

 

さて、長い事宇宙を飛びまわっていた為、いい加減補給をしなければならなくなった

 目的は、まぁ金稼ぎと言ったところ、あ、海賊退治じゃないよ?

 星々を巡っていると航路を遊廻しているデブリや小惑星帯とかを見つけることがある。

 

 そのデブリや小惑星帯には、レアメタル等のお金になるモノが含有されていることが多い。

 てな訳で、今回は掘削屋の真似ごとをして、ウチのフネの修理素材+売りモンになりそうなレアメタル等を探しだし、ペイロードに詰んだコンテナに満載している訳である。

 

 そして今回惑星ポフューラで受ける補給というのは、主に生活雑貨だ。

食料品はどういう訳か自然公園の艦内農園がある所為で100%とは行かないが自給できている。つーか気が付いたらパンモロとかいう名前だけなら男がときめきそうな牛科の生き物がいた。

 

 なんか最近乳製品使ったメニューが多いかと思ったら、そんな理由だった。

 本当に誰が持ち込んだんだろうか?俺は許可出した記憶がない。

 ありうるとすれば、トスカ姐さんがいなかった時に朦朧としつつ書類決算してた時だろう。

 

 まぁ今んとこ問題ないから放置してるけどな。

 お陰で自然公園なのに農家に来ている気分になってくるけど、ソレもまた一興。

 むしろ農家体験の予約が一杯になるくらい人気が出ている。

 

 

 リスト見たら、3年先まで予約でいっぱいってどんなだよ?

 

 

***

 

 

「――3,2,1、逆噴射減速。軌道ステーションからの誘導ビームに乗ります」

 

「微速前進」

 

「微速前進ヨーソロ、インフラトン機関内 レベル2から1へ正常に移行、推進機停止」

 

「軌道誤差X:0,0002 Y:0,0003 Z:0,0012 全て修正誤差範囲内」

 

「反重力スタビライザー・・・作動」

 

 

 推進機の火が落ち、慣性の力で港内へと入港するユピテル。

 各所のアポジモーターやスラスターが微調整を繰り返し、接舷ドックへの軌道に乗った。

 

 そして壁とかにぶつからない様に、反重力スタビライザーでバランスを取っていく。

 ある程度まで近づくと、船上と船底を固定するガントリーがせり出してきた。

 

 

「接舷ガントリーを確認。本艦と速度同期・・・ロック、艦底完全固定まで13秒」

 

「最終逆噴射、機関停止」

 

「よーそろ、機関停ー止ぃー」

 

 

 その巨体を覆い隠すかのように、ユピテルは弩級船舶用ドックへと入った。

 ガコンという音がフネの内部に響き、船体が完全に港に固定されて接舷される。

 前方のドックの隔壁が降りていき、完全に閉じると連絡橋がフネのエアロックへと固定されると同時にドック内部にエアが充填されて気圧が確保された。

 

 

「・・・・・接舷完了、ドック内気圧0,4から0,8へ上昇、エアロック解除します」

 

 

 ―――接舷手順、全行程完了。

オペレーターのミドリさんのその言葉に、ブリッジ内に安堵の空気が流れた。

 

 

「う~ん、やっぱり偶には人の手で入港ってのもオツなもんスね」

 

「ま、使わなきゃ腕は鈍るからねぇ。最近は何時もユピ任せだったし」

 

 

 今回は久々に手動での入港手順を踏んだのだ。ウチには並列処理でさっきまでブリッジ要員がしてしまう事を全部で来ちゃうAIさまが居られるから正直俺達の手はいらない。

でも流石にそれじゃいけないと思い、久々に手動でやってみたのである。

 結果は、まぁまぁと言ったところかな?特にこれと言ったミスは無かったしな。

 

 

「むむむ、なんかお仕事盗られた気分です」

 

「まぁまぁ、偶には良いじゃないッスかユピ。俺達は人間だから使わないと忘れちまうんスよ」

 

「でも、なんか・・・むぅ」

 

 

 でもうちのAI様としてはお仕事を盗られた気がするらしく、ほほをプクンとされています。

 むす~と、いかにも私不機嫌ですといった感じだが、どう見ても微笑ましさしか感じられないぜ。

 まったく、かぁいいなぁ~ウチのAIは。

 

 

「それに多分定期的に手動手順の訓練は入れる事になるッスけどね」

 

 

 幾らフネが優秀でも、乗っている人間がダメじゃ意味がねぇ。

 いくらAIが優秀になろうとも、フネを動かして行くのは人である。

 だから、マンパワーの低下ってヤツほど恐ろしいモンは無い。

 

 これからも適度に腕がなまらない程度に訓練を入れていこう。

 準備をしすぎるとか言う事はないんだから。

 

 

…………………………

 

……………………

 

……………

 

 

 とりあえず情報収集も兼ねてユピとかその他引き連れて星に降りたぜ。

 ポフューラだと俺あんましいい思い出は無いんだが・・・。

まぁコレも仕事と割り切るしか無い。

 

 そんな訳で、俺はこの星で一番人や情報が集まりそうな場所を巡っている。

 酒場やその他を巡り、次はセグェン・グラスチ社系列の大ホテルへとやって来ていた。

 ネージリンスで一番のコングロマリット系企業で、造船からその他まで様々な分野で成功をおさめた大企業だ。

 

 だけど俺としてはあんましいい印象じゃねぇ。

だってこの間 この系統の支社の方で門前払いされたしな!

 

・・・・まぁあんときは対応してくれた人間が悪かったんだろうさ。

 一応客商売なんだし、客として行く分には邪険にはされねぇだろう。

 

 

「・・・・・・」

 

「・・・・なんだ?この重苦しい空気?」

 

 

さて、ホテルのロビーに来たのはいいんだが、なんかZUNとした空気が漂っている。

はっきりいってまとわりついてくるみたいでウザいくらいのが辺りに充満していた。

 ドンくらいっていうと、そうだな・・・「おやっさん!死んじゃダメだおやっさん!・・・おやっさん?―――ッ!おやっさぁぁぁぁぁぁぁん!!!」と主人公が叫ぶVシネマ程度のヤツ。

 

 まぁんなことはこの業界やってればいくらでも遭遇出来る、日常の空気みたいなモンだ。

 それよりも問題なのは、その空気を辺りにまき散らしていらっしゃる存在だ。

 

 

「・・・・・・」

 

「あ、バリ雄・・・もといバリオさんじゃないッスか。お久しぶりッス!」

 

「バリオ宙尉?――あれま本当だ。でもなんでネージリンスにカルバライヤの軍人が?」

 

 

 瘴気というか暗黒ガスの出所は、以前カルバライヤ宙域で海賊退治をした際に協力しあった宙域保安局のバリオ宙尉だった。

 あれ?考えてみればここはネージリンス側だから、ある意味敵国のカルバライヤの人間がいるなんて珍しいを越えて仰天映像だぞ?

 

 

「・・・・君たちか・・・・へへ、奇遇だぜ。へへ」

 

「「「うわー・・・・」」」

 

 

 なんかもうどうにでもなれって感じのバリオの雰囲気に、この場の全員が引いた。

 つーか、うすら笑いしながらソファーにシナだれてんじゃねぇよ。

 何かあったんだろうか?あのお調子者でフェミニストきどりのバリオさんがこんなことになってるなんて。

 

「な、なんか顔色というか雰囲気が変ですけど・・・」

 

「・・・・実は――」

 

 

 バリオさんは何故ネージリンスに来ているのかを、やけっぱちな感じで話してくれた。

 どうも以前、監獄惑星ザクロウで行われていた人身売買を追ったところ、なんと国境を越えて隣国のネージリンスに送られていたことが判明したらしい。

 

 その為あの幸薄そうなシーバット宙佐が売られた先に単身交渉に出向いたのだそうだ。

 だが問題は、その売られて先が俺達が調べていたバハシュール領だったのだ。

 そしてそこでシーバット宙佐は―――

 

 

「シーバット宙佐が殺されたッスか!?」

 

「・・・ああ、領主に会う事は出来た。だがその後に領主が突如態度を変えて宙佐を・・・くそ」

 

 

 バリオは祈るような手の形に腕を組んでうなだれる。

 彼から少し経ってから聞いた話だと、宙佐は殺される直前に緊急通信でバリオに売られた人達がいることを最後の力を振り絞って伝えて来たらしい。

 だが、その事が領主にばれて通信がつながった状態でとどめを―――

 

 

「・・・・クソ領主ッスね。つーか下手すりゃ戦争の引き金になるじゃないッスか」

 

「ああ、だから・・・保安局としては動くことが出来ないんだ」

 

「でも何でまたシーバット宙佐はそんな所に単身で向かったんだい?それにグアッシュ海賊団を倒す時からあんた達の動きはどこかおかしかった。何か隠してるんじゃないだろうね?」

 

 

 トスカ姐さんが若干すごみながらバリオさんを問い詰める。

 最初はとぼけるフリをしようとしていたバリオさんだったが、どうやらその元気も長くは続かなかったらしい。

 

 

「・・・・はぁ、もう俺の上官はいないし、海賊退治に命をかけてくれた君たちには効く権利があるな」

 

 

どこか疲れたような感じで、突然両手の掌を返したように彼は語り出した。

 

 

「俺達が最初に出会ったところは覚えてるか?」

 

「えーと、鉱山の酒場ッスね」

 

「・・・・・スマン言い方が悪かった。宇宙で最初に出会ったのは?」

 

「たしか、客船が海賊に襲われていたあの時だね」

 

「そうだ、あの時客船の中にはトゥキタ氏ともう一人――セグェン・ランバースの孫娘であるキャロ・ランバースが乗りこんでいた」

 

 

 成程、大分話が見えて来たぞ。

あの時グアッシュ海賊たちが狙っていたのは、客船に乗っていたVIP。

セグェン社のセグェン会長の孫娘、キャロ・ランバースを狙っていたんだ。

そしてあの時、既に彼女は海賊船に連れ去られていたって訳なのね。

 

 

「だから我々は彼女を救出する為にあらゆる手を尽くした」

 

 

 しかし、時すでに遅く、せっかく捕まえたドエスバンから情報を聞きだしたが、既に彼女は人身売買のルートで売られた後だったってことなのか。

 しかも売られた先が道楽ダメ領主のバハシュール・・・・生還絶望的じゃね?

 

 

「成程、相手は自治領領主、普通なら諦めるところだがそうもいかない。ことを荒立てたくは無かったから・・・」

 

「宙佐は単身で乗り込んだってワケッスね」

 

「ああ」

 

 

 そして再びドヨーンとした空気を纏わせるバリオさん。まぁ尊敬出来る上司だったんだろうな。

宙佐とは少ししか話せなかったが、かなりの人格者だったのは記憶に新しい。

 ・・・・一応知り合いだったし、袖触れ合うも何かの縁――か。

 

 

「バリオさんはどうするッスか?」

 

「聞いた通り保安局としては動けん。しかも連中は先代が築きあげた強力な艦隊に守られて、彼の星からも出て来ないからな。宙佐も居なくなってしまったし、この件はコレで終わりさ・・・」

 

 

 彼は立ち上がりながら、俺もカルバライヤに戻る、君たちももう関わらない方がいい、と言ってこの場を後にしようとした。

 

一見、平気そうに話したバリオさんだが・・・・。

 

 

「バリオさん、その手・・・無理しなくても良いッスよ」

 

「・・・ッ!」

 

 

 俺の指摘に動揺した様に手を隠す、彼の手は本当に悔しそうに、血が流れるくらいに握りしめられていた。よほど悔しかったんだろう。

だが彼は保安局という役職に付いている。そうなるともう彼にはコレ以上の事は出来ない。

 

つまりさっきからの暗~い空気を出していたのは、ふがいない自分に対してだったのか。

 カルバライヤの民族性からいって、感情を誤魔化すことは大変だったろうにな。

 だけど下手に動けばソレが戦争の引き金になる可能性もある。

 

 どうすりゃいいかわからねぇんだろう。

バリオさんは仇を取りたいが戦争はしたくないんだ。

 

 

「どうすりゃ・・・いいんだよ」

 

 

 そう、小さくこぼすしかないバリオさん。

 沈黙が流れるかと思いきや―――

 

 

「バリオ様、ここにいらっしゃいましたか。実はこたびの件でカルバライヤに協力して貰えたことのお礼をと――まだご滞在は可能ですかな?」

 

「・・・いや、もう帰る事にしましたトゥキタ氏。それに我々は役に立てなかった故 礼はいりません。ご期待に添えなくて申し訳ない」

 

「いえ、こちらこそ・・・本当に立派な方が亡くなられて残念です」

 

「・・・・そう言ってもらえれば、宙佐も喜んだ事でしょう」

 

 やや長めの髪をオールバックにし、立派な口髭を蓄えた紳士が話しかけて来た。

 話しぶりから察するに、どうやらバリオさんと知り合いの様である。

 

 

「バリオさん?」

 

「ん?あ、ああ、この人はトゥキタ・ガリクソン。ランバース家に仕えている執事だ」

 

 

 ほへー、本物の執事さんなんて初めて見たぜ。

 この老年の紳士が執事とか・・・スゲェイメージがあってやがる。

 よく見れば赤い蝶ネクタイだし、物腰も穏やかなのにどこかきびきびとしてる。

 

 

「トゥキタと申します。あのバリオさま、この方々は?」

 

「彼らは・・・まぁシーバット宙佐の知り合いですよ・・・あと俺はコレで」

 

 

 バリオ宙尉がそう言うと、そのままホテルを出ていった。

残された俺達とトゥキタ氏、彼はこちらを見て若干眼を見開いた。

 そして申し訳なさそうにこちらに向き直ると深々と頭を下げた。

 

 

「シーバット宙佐の・・・宙佐には本当に申し訳ないことをしてしまいました」

 

「いえ、バハシュールの手にかかってしまったことは聞きました。その事情もね・・・キャロ・ランバース嬢を単身救出に向かわれたからだそうで」

 

「はい・・・、あの方は我が国とカルバライヤの関係をよくしたいと自ら交渉役を買って出られたのです。」

 

 

 もう何回目になるかは解らないが、一応状況整理の為に捕捉しておく。

今俺達がいるネージリンスとカルバライヤは仲が非常に悪い。

いまだ戦争こそ起こっていないが、国境では緊張状態は保たれているほどだ。

 

 トゥキタ氏の話によると、セグェン氏がその事に心を痛め二国間の関係改善の為に、主に経済面で動いていたらしい。以前海賊に襲われていた客船には彼とキャロ嬢と経済大使団が乗りこんでいたのだが、グアッシュにキャロ嬢はさらわれてしまったのがこの件の発端だ。

 

 

「―――そしてその後、バハシュールからセグェン様に交流を止める様に脅しが入って来ております。最初からグアッシュ海賊団、そしてその背後にいたバハシュールの目的はソレであったかと」

 

「・・・・ボンクラ2世領主の考えることは解らんスね」

 

 

 これまで集めた数少ないバハシュールの情報を分析する限り、あの道楽2世馬鹿領主が戦争を拡大させる様な事で何かメリットがあるとは思えんのだが・・・・。

 

 

 だがこれではっきりしたな。

 

 

「トスカさん、宇宙開拓法第11条って適用可能ッスよね?」

 

「ほほう、大分0Gの事が解ってきたじゃないか」

 

 

宇宙開拓法第11条、『自治領領主はその宙域の防衛に関し、全ての責を負う』

 つまり、自治領に対する襲撃者が海賊や民間人だったら、それに国家は介入して来れない。

 以前俺達がロウズで大暴れした時、指名手配とかされなかったのはこの法律のお陰だ。

 

 

「しっかし、シーバット宙佐の仇打ちかい?」

 

「それもあるんスけど、一丁 悪代官を懲らしめてやりたくなったッスよ(それにエピタフとかその他もな)」

 

「言うじゃないか、ソレでこそわたしが見込んだだけはあるよ」

 

 

 俺達が自治領を攻めて、そこを制圧してしまえば、エピタフ遺跡は俺達のモンだ。

 ふひひwwwオレって結構外道じゃんwww

 

 

「お、お待ちください!バハシュールの抱える戦力は―――」

 

「なに、グアッシュよりかは少ないんでしょう?」

 

「そ、ソレは確かに」

 

「ならへ兵器ですよ。それに、ウチの白鯨艦隊はそうそう負けませんから」

 

「は、白鯨艦隊!?貴方達がですか!?――っと失礼、少し驚きましたが故」

 

 

 艦隊名を名乗った途端、紳士のトゥキタ氏が声を荒げた。

 すぐに何時もの柔和な笑みに戻ったが、一瞬だけ垣間見えた表情には驚きの色が浮かんでいた。

 

 

「俺達、そんなに有名なんスか?」

 

「有名も何も、近年に入ってわずか数カ月の内に0Gランキング上位に食い込み。どこの既存のフネとは違うカスタム船で宇宙を駆け、海賊たちを専門に倒し続ける正義の艦隊。海賊やゴロツキどもからは『海賊殺し』『見えないクジラ』『海賊専門の追剥』『白の恐怖』という二つ名まで付いているくらいです・・・よもや知らなかったのですか?」

 

 

 あ、いやー、なんつーか海賊専門の追剥とかは知ってたけど・・・。

なんか大分尾ひれが付いて無いか?つーか海賊殺しってなんだよ?

見えないクジラは・・・そういや海賊を襲う時はステルスモードの状態で奇襲してたっけ。

 

 しばらく宇宙で採掘している内に、大分噂が広まっていたらしい。

名声値の上昇っていうのは凄いんだな。

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

 さて、自治領とはいえ国は国、一艦隊でしか無い俺らが責めるというのは大変だろう。

 なのに何故挑むことにしたのか?まぁ実を言えばスルーしても良かったんだがね。

 まぁアレですよ、一応この先ヤッハバッハが来る訳です。

 

 だけど俺達が今まで経験した戦闘は、全部海賊とかの戦略が無い戦闘ばかり。

 この先戦うであろう正規の国家が運用する艦隊とかは相手にした経験が少ないのだ。

 だからある意味予行演習も兼ねてるんだよね・・・宙佐の弔いってのもあるけどさ。

 

 

結構気にいってたんだよな、あのおっさんの事は―――。

 

 

 

「さー、国家相手にケンカ売るんス。どんなことがあるかわからんスから、補給品は何時もの3倍注文しておいてくれッス」

 

『あいよ艦長。任しときな。上手い事ペイロードに収まるようにしてやるよ』

 

「苦労かけてすまねぇッスアねコーさん」

 

『いいよ、こういった刺激が欲しくて0Gに登録したってのもあるしね。どちらにしろ艦長には従うさ・・・通信終わり』

 

 

 さて、そう言った訳で我等 白鯨艦隊は出港準備を急いでいた。

 どうなるかわからねぇから、補給品や修理材とかは多めに摘みこんでいく。

 俺はその作業の確認を行っていたのだが―――

 

 

「――艦長」

 

「ん?何スかユピ」

 

「ドック入口に面会をしたいという方がいらしています」

 

 

 ―――面会?誰だろうか?

 

 

「危険人物の可能性は?」

 

「武器の持ち込み、及び過去の犯罪データには該当なしです・・・あと女性です」

 

「そうッスか、ま、危険人物じゃないなら上がってもらっても良いか・・・」

 

「了解、クルーにブリッジへと案内させるように指示を出します」

 

 

 稀に来るセールスの商人か何かだろうと思い、フネに面会者を呼ぶ事にした。

 しかし、なんかユピが報告の後半ブツブツ言ってなんか不機嫌なのは何でだろうか? 

 まぁそれはさて置き、しばらくしてクルーに案内されて面会者がやってきた。

 

 その人物は―――

 

 

「失礼する「あーーーー!あんたは!」え!」

 

 

 そこに居たのは忘れもしない!

あの俺を小馬鹿にした挙句、ティッシュを渡してきたあの女!

 

 

「ネルネル・ネルネ!」

 

「ファルネリ・ネルネよ!!って、本当にあなたが白鯨艦隊の指揮官?」

 

「ふん、見てくれはそうは見えないだろうけどねー」

 

「・・・・どうやら本当みたいね」

 

「んで、なんでネルネさんがこちらに?我が艦隊はもうすぐバハシュール領へと発進するのですが?」

 

「え、ええ。トゥキタから聞いたの、貴方達がキャロお嬢様の救出に向かうって」

 

 

 実際はエピタフ遺跡とかその他もろもろの財源確保の為の侵攻なんだけどね。

 表向きはキャロ嬢の救出って事に主眼を置いておいたっけな。

 まぁ誰しも利益が全くない状態では動きませんわ。勿論ソレはこの場では口に出さないんだけどな!

 

 

「ええ、確かにキャロ嬢の救出も(序でだけど)します」

 

「だから、私も同行させてもらいます」

 

 

・・・・・・・・・・・・・はぁ!?

 

 

「い、いや!何でいきなりそうなるんスか!?」

 

「私はキャロお嬢様が小さな頃から知っているのよ?だからどうしてもお嬢様を助けたいの。その為に会長におひまを頂いてきたわ。お願い、あの時の無礼は詫びます。どうか私もクルーとしてキャロお嬢様の救出を手伝わせて!」

 

 

 途中から声を張り上げるかの様に、俺に懇願するファルネリさん。

 いや、なんつーかそんな声出されると、ブリッジの眼が俺に集中するんですけど?

 というか流れ的にコレを断ったら俺空気読めないどころじゃ無くない?

 

 でも個人的には乗せたくねぇなぁ。

 俺あの時のむかついたのまだ覚えてるんだよな。

 だからちょいと渋って見せていたんだが―――

 

 

「艦長、乗せて上げましょうよ」

 

「ユピ?――だけど」

 

 

 俺の後ろに控えていたユピが、珍しく俺に意見を述べて来た。

 彼女は懇願の眼差しを向けるファルネリさんを見た後、俺の方をむく。

 ユピの瞳には、同情した光が浮かんでいるのが見えた。

 

 

「わたしは人間じゃないからよくわからないですけど・・・だけどこの人、本当に心配してるって事だけは解ります。だから艦長―――」

 

「む、むぅ・・・」

 

 

 どうやら、ユピはファルネリさんを乗せることに賛成らしい。

 う゛・・ユ、ユピ!そんな純粋な瞳でけがれちまったオイラを見ないでくれぇっ!

 俺のガラスのハートがブロークンしちまうぜ!!

 

 

「じー・・・」

 

「むぅ」

 

「じー・・・」

 

「う、うぐぅ」

 

「じーー・・・」

 

「わ、解ったッス。だからその純粋な眼でオイラを見んといてくれッス」

 

 

 ま、負けた。つーかウルウルとした純粋な眼で見ないでほしい。

 すっごく汚れちまった俺には、まぶし過ぎらぁ。

 

 

「はぁ、てな訳で、貴方を乗船させることを許可します。期間はキャロ嬢が無事に戻るまでで良いッスか?」

 

「ありがとう艦長!少しは役に立つつもりよ」

 

「まぁ配属先については後で決めましょう。一時的とはいえようこそネルネさん。我が白鯨艦隊に」

 

「ファルネリでかまわないわ。あと敬語とさんもいらない。キャロお嬢様を救出するまでとはいえ、このフネのクルーとなるのだから」

 

「・・・了解、いや解ったよファルネリさん。まぁこのフネを一時の家だと思ってくつろいでくれッス」

 

 

 こうして、新たな仲間を加えることになった白鯨艦隊は、補給品を詰み終えてポフューラを出港した。

 当然、新しく仲間になった彼女はクルー達に紹介され、他にも補充されたクルー達と一緒に歓迎会という名の宴会へと強制参加させられた為、このフネの流儀を一晩で理解したと後で語っていた。

 

 ちなみに彼女、ルーべやトスカ姐さん程じゃないが酒豪だった。

 なんでも会長秘書の嗜みらしい・・・秘書をやる人間はお酒に強いのだろうか?

 歓迎会で酔いつぶされた男どもが医務室に搬送されるのを涼しい顔して見てたけどな。 

 

 

 

 ・・・・酒豪ってよりかはザルか。

なんかこの世界の女性って酒に強いのだと改めて思った一日であった。

 

***

 

 

Side三人称

 

 首都惑星ゼーペンスト。

 

バハシュールの領地の首都であるこの星の領主亭というか、宮殿の様にゴテゴテと装飾が為された悪趣味な館において、バハシュールはいつものように享楽的な暮らしをしていた。

 

 

「アーハァ?領内に侵入してきた艦隊がいるって?だったらとっとと所属国家に抗議すれば良いじゃないか、ヴルゴ将軍?」

 

 

 美女を侍らせ片手に酒の入ったグラスを手に、バハシュールは目の前にいる守備隊の総司令官に呑気に声を駆ける。

 

 

「それが、その侵入者は民間人のようなのです。ですから警戒の為本国艦隊の出動許可を頂きたいのですが・・・」

 

 

 ヴルゴと呼ばれた筋骨隆々の男はバハシュールの見せるふまじめなその態度には特に何も見せず報告を続行する。この領主が普段からコレなのは素手に慣れてしまったことなのだ。

 

 

「ハァーン?そんな事したらココの警備が手薄になるじゃないかぁ」

 

「しかし―――」

 

 

 いつもと違いヴルゴはすこし粘ってみせた。

先代の頃からこの領の防衛隊を率いて、自治領を守っていた彼は今回の不法侵入艦隊に何か直感めいたモノを感じたのだ。

 だがバハシュールは彼の普段とは違う態度には全く気がつかずに適当に合いの手を返す。

 

 

「わかったわかった。とりあえず警備隊には気をつけるように指示をだしておくよ。さぁ行った、行った」

 

「は・・・」

 

 

 もうコレで用は無いと行った感じで手をふり、再び快楽と享楽に興じる自分の領主。

 ヴルゴはその姿に何処かあきらめにも似た光りを眼にともしつつ、その場を後にした。

 一体どこで教育を間違えてしまったのだろうか・・・今更か。

 溜息を吐きつつも彼はもしや来るかもしれない自治領の脅威を考えずにはいられなかった。

 

 

Sideout

 

 

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 

「エネルギーブリッド、目標に命中まで後10秒――5,4,3,2,1、命中します」

 

「敵航宙母艦の撃沈を確認、敵残存戦力をトランプ隊が撃破、作戦フェイズ最終段階です」

 

 

 ゼーペンスト領に入りかれこれ一週間、適当に現れる警備隊は全て撃沈している。

 そして現在、俺達はアクティブレーダーもパッシブも全開でゆっくり航行していた。

 ステルスモードを使わずあえてこうしているのは、敵の戦力をもぐためだ。

 

 自治領にある戦力がどれほどだろうが、全部を同時にってのは今のフネでは無理。

 だが、こまごまと今はまだ分散している警備艦隊を完膚なきまでに堕とす。

 最悪かなりの艦隊が来てもステルスで逃げられるしな。

 

 

「航宙母艦か・・・近づいちまえばタダの的だよなぁ」

 

「耐久力も低いしな。つーか錬度低いよなこの星系の敵」

 

「ストール!リーフ!喋ってないで仕事しな!給料下げるよ!」

 

「「サーセン副長!」」

 

 

 とはいえ、この星系の艦隊は若干・・・つーかかなり錬度が低い。

 自治領として機能はしているけど、スカーバレル海賊団クラスが現れたら終わりだな。

 ネージリンス系特優の機動部隊も操る人間がダメじゃ豚に真珠か猫に小判。

 むしろその財源を俺達にくれって感じがするゼイ。

 

 

「やれやれ、もう少し手間取るかと思っていたが、案外いけるもんだね」

 

「ま、たったの10隻程度ッスからねぇ。まぁこの分じゃ一度に30程度なら全然ヨ湯みたいッスけど・・・油断は禁物ッスね」

 

「考え過ぎじゃないかい?」

 

「物事は何事も疑ってかかる方が良いんスよ」

 

 

 敵を侮って撃沈されたら今までの苦労がパーだモンな。

 

 

「―――ん~?あら~?これって~~・・・あーやっぱりそうだ~~」

 

「ちょっとエコー?」

 

「あ、ごめんごめん~。艦長~ここからかなり遠いけど誰かが戦闘しているわ~」

 

「戦闘?警備隊と?」

 

「ううん~、センサーの陰りから考えて多分警備隊じゃないとおもう~」

 

 

 大分遠いから、何処の誰だかは解らないけど~、とはエコーの談。

 誰か俺達以外にこの自治領に来ているヤツがいるんだろうか?

 ・・・・早めに確かめておいたほうがいいか。

 

 

「サナダさん、ステルスモードを展開してくれッス。ちょっと確かめに行くッス。偵察用RVF-0も発進、光学映像を中継させるッスよ」

 

「了解した。各艦ステルスモード準備」

 

「偵察用無人RVF-0発進、IPブースター通信でリアルタイム映像を受信します」

 

 

 とりあえずステルスで姿を隠し、付近で戦闘している奴らを見に行く事にした。

 偶々自治領に迷い込んだ海賊の可能性もあるが、まぁ確かめれば解るだろう。

 そして数十分が経過した辺りで、ようやくセンサーで精密探査できる距離に到達した。

 

 

 んで、そこで戦っていたのは誰かっちゅーと―――

 

 

「この反応、あの時の軽巡洋艦です」

 

「・・・・あー、サマラさんに無謀にも一隻で突っ込んで玉砕したアレか」

 

「ユーリ、玉砕していたらここにはいないよ?」

 

 

 光学用モニターに映し出されていたのは、赤と黒の軽巡洋艦だった。

 確か大マゼラン製の巡洋艦で艦種はラーヴィチェ級というヤツ。

 そいつがまた別のフネと交戦しているのだが、その相手はというと・・・マジでヤバい。

 

 

「もう片方は―――データ照合完了、艦種・・・ッ!?」

 

「・・・?ミドリ、どうした?」

 

「す、すみません。艦種識別終了、グランヘイム級です」

 

「・・・・・・・・・・・・・・マジか?」

 

「本気と書いてマジと呼ぶくらいには」

 

 

 グランヘイム級、ソレは大海賊と名高いヴァランタインが所有する海賊船だ。

 伝統的な艦体中央からやや後部に位置するブリッジや三連装砲。

 艦首につけられた軸線反重力砲、通称肺ストリームブラスターを搭載し、艦載機も搭載。

 単艦でなら他に類を見ない程の戦闘能力を備えたフネ自体が暴力の塊ともいえる存在だった。

 

 ある意味ヴァランタインはマゼランにおいてはなまはげの如く恐れられる存在である。

 小さな子供が悪さをしたら、ヴァランタインが来るぞと脅される位に地上の善良な一般市民から恐怖の対象にされているのだ。

 

 そのグランヘイムに巡洋艦で挑むなんて・・・・・。

 

 

「・・・・・あれは自殺志願者なんスかね?」

 

 

 俺がそうこぼした事に誰も返事はしなかったが、心内は同じらしく首をウンウンと振っていた。

 タダでさえ銀河最高のフネと名高い戦艦にレディメイドの巡洋艦が勝てる訳がねぇ。

 あ、後部単装主砲×4と前部三連装砲×3の一斉射撃喰らってら。

 

 

「あれでよく沈まねぇな」

 

「操艦している人間の腕が良いんだろうさ。もっとも火器管制との連携は取れてないみたいだが」

 

「確かに避けるのに必死で反撃が全部違う所に――あ、まぐれ当たりッス」

 

 

 見れば避ける時になんかやけくそ気味にはなった一撃が、グランヘイムの装甲板に当たり霧散していた。やはりグランヘイムの装甲はかなり分厚いみたいだ。

 ・・・・ウチのフネの主砲で貫けるかな?

 

 

「ふーむ、今装甲強度を計算してみたが、流石はグランヘイムと言ったところだろう」

 

「サナダさん、何時の間に・・・」

 

「技術屋としては一度でいいから分解してみたいものだ。同型艦と思われし設計図はあるが、オリジナルとは天と地の差があるようだしな」

 

 

 0Gランク1位の報酬として大分前に貰ったけど、恐れ多すぎて使わなかったヤツだな。

 マッドが解析したけど、確かに強力なフネだったが思っていたよりは普通って感じだった。

 つーか、よく見たら設計図に所々謎の空間と思わしき空白の個所の存在があった。

 多分ボイドゲートフレームだとか、ロストテクノロジーのある部分は意図的に削除されているだろう。

 

 まぁオリジナルのまま強力なフネだったら、今頃航路は大変なことになってるだろうしな。

 グランヘイムがずらりとひしめく海賊団・・・・怖すぎるぞオイ。

 

 

「どうするよユーリ?助けるかい?」

 

「いや助けるって言われてもねぇ?」

 

 

 アレに関わるのはちょっと勘弁とか考えていたら―――

 

 

「あ!グランヘイムが第2射を――流れ弾がこちらに!?回避間に合いません!!」

 

「「げぇ!?」」

 

 

 はたして本当に流れ弾だったのか、はたまた狙われたのかは不明だ。

 だが、偶々密集形態で航行していたのがあだになり、回避運動が取れない。

 

このまま傍観していようと思った矢先にコレだ。つーかどんだけ射程長いんだよ!

普通の戦艦だったらこの距離で届くことなんてあり得んぞ。

 ――ってそんなこと考えている場合じゃない!

 

 

「ステルスモード緊急解除!APFS全力稼働!デフレクター出力最大ッス!」

 

「こっちの存在がバレるよ!?」

 

「暗黒物質になって死ぬのと見つかってから逃げるのとどっちが良いッスか!」

 

 

 ステルスモード使用中は極端にフネのシールドが薄くなってしまう。

 ソレは敵から探知されない様に最低限デブリ対策の分しか稼働させないからだ。

 だが、センサーで捉えられるか否かの距離に普通に届く程の弾だ。

 その威力はかなりのモノであることは容易に推測できるぜ。

 

 

「着弾まで後3秒、耐ショックを!」

 

≪ズズーーーーーーーンッ!!!!!!≫

 

「「「ぐあっ!」」」

 

 

 凄まじい衝撃がフネを揺らす、流石は大海賊ヴァランタインの乗艦、パワーが半端ねぇ。

 とはいえ、どうやらデフレクターで相殺出来た様だ。

 

 

「ふむ、成程、あの三連装砲のロングバレルがリフレクションレーザーの収束レンズと同じ役割を果たす訳か、そして指向性を持たせた長距離攻撃に威力を発揮できる・・・てっきりイミテーションかと思っていれば、イヤなかなか理にかなっている」

 

 

 そしてサナダさんは冷静に分析した結果を話し続けている。

 撃沈の可能性もある中で解析かい・・・ある意味スゲェよあんた。

 

 

「――ふぅ、被害報告は?」

 

「着弾したのは本艦のみ、ソレもデフレクターで防げましたのでダメージは0です」

 

「おまけに今の攻撃でグランヘイムの砲の威力の測定が出来た。もし戦う事になっても大分参考になる」

 

 

 そいつは良かったね。だけどね?ぼくたち見つかっちゃったんだお。

 下手すると三つ巴の闘いになるお。損害が馬鹿にならなさそうなんだお。

 是非ともオイラとしては逃げたい一心なんだおッ!

 

 と、内心情けないことを考えているのだが、艦長という役職上表には出せない。

 さて、どうしたもんかなと考えていると―――

 

 

「・・・・グランヘイム、後退していきます」

 

「うっとおしくなっただけだろうが・・・素直に後退してくれて助かったね」

 

「・・・・見逃してもらえたって事か≪ヴィー≫ん?巡洋艦から通信スか?」

 

 

 どうやらまた“一言”もの申したいらしいな。

 さて、耳栓を準備しまして、さーこい。

 

 

『オイッ!!テメェら何邪魔してくれてんだ・・・ってまたお前たちか!!』

 

「――っ~~」

 

 

 ・・・・耳栓用意してたのに、耳がイテェ。

 

 

『あん?人が話してる時に何うずくまってやがる?』

 

「・・・スマン、何でも無い。こちら白鯨艦隊のユーリだ。随分としてやられたみたいだな」

 

『ぬぁんだとぉ!?わかった様な口きいてくれるじゃねぇかっ!!お前ヤツと戦った事があるとでも言うのかよ!』

 

「手を出すも出さないも、さっき飛んできた流れ弾だけで、こちらが勝てないと思わされたよ」

 

『・・・ッ。チッ、今度は俺の邪魔≪ドーン!≫――なっ!?どうした?』

 

 

 あやや?なんか通信回線の向うで爆発音が聞こえたんだが?

 

 

『若!不味いです!さっきの戦闘でかなりやられてしまって!!』

 

『あん?だったらすぐ修理すればいいじゃねぇか!最近だらしねぇな』

 

「どうかしたのか?なんかトラブルっぽいが?」

 

『テメェにゃ関係『あ!そこの方!出来れば助けてほしいです!』あ、こんにゃろ!!』

 

 

 俺に悪態を突こうとした青年艦長を押しのけて、副官らしき男が割り込んできた。

 かなり必死そうだったので、俺は頷いて見せて続きを促す。

 

 

『よ、よかったぁ~、実は先の戦闘でオキシジェン・ジェネレーターが破壊されまして・・・それと装甲板の修理素材も底を付いていまして・・・』

 

『な!テメェ!この間ちゃんと補給しとけって言ったじゃねぇか!』

 

『その補給量を上回る形で戦闘ばっかりしたのは誰ですか!さっきだって向うが後退してくれなかったらどうなって!』

 

『チゲェぞ?後退していったじゃなくて後退させたんだ。流石は俺、最強の宇宙の男だぜ』

 

『「・・・・・・・・」』

 

 

 あれ?何でだろう?凄く眼がしらが熱くなってきたぞ?

なんかアホの子が目の前に居るよ?青年の主張にとなりの副官さんが妙に煤けてるぜ。

流石にもう突っ込む気力も無いらしく“燃え尽きちまった・・真っ白にな”って感じだな。

 ・・・ふむ。

 

 

「よろしければ、こちらで補給や応急修理を請け負いますが?」

 

『施しは『<――ガバッ>!本当ですか!?あ、ありがたい!』だからテメェは回線に割り込むな!』

 

「いや、とりあえず君は自艦の様子を見てから考えた方がいいと思うぞ?」

 

 

 正直、彼のフネは何で撃沈されて無いのか不思議なくらいの状態で航行していた。

 装甲板は至るところがそげ落ち、内部機構が露出している個所も見受けられる。

 武装という武装は破壊されるかひんまがっており、とてもじゃないが継戦は不可能だろう。

 しかも外から見て解るくらいに空気漏れが発生しており、EVAと思わしき人間がパテを片手に穴を塞ぐ作業を行っている。

 

 ――――簡単に言っちまえば、穴だらけのチーズと行った感じか。

 

 

「それと、航海者の最低限のマナーとして困っている人間を助けるのは当然の事だ。

現にヤバいだろう?ココから一番近い惑星までは飛ばしてもおよそ1日掛かる。

見た所エンジンも損傷しているそちらのフネが、オキシジェン・ジェネレーターも無しで辿りつけるのか?」

 

『・・・グッ』

 

「・・・・解っては貰えたみたいだな。すぐに艦を向かわせるぞ?」

 

『あ、ありがとうございます!本当に助かります!』

 

『ケッ』

 

 

 まったく、ここまで突っ張られるとむしろすがすがしいな。

 副官さんはもう首が取れそうなくらいにブンブンと頭下げてるし・・・。

 苦労してそうだなぁ。

 

 

「ってな訳で聞いた通りッス」

 

「あいよ。トーロ聞いてたね?アバリスの修理機能使うから準備しな」

 

『了解、整備班の到着を待って修理機能を作動させるぜ』

 

 

 こうして俺はこの後も何度も出会う羽目になるくされ縁の野郎と合う事になった。  

 本当にくされ縁になるんだよなぁ。しかし思ってたよりも⑨・・・もといアホの子だった。

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

『よーし、誘導レーザーで捉えた。トラクタービームで固定完了。修理を開始するぜ』

 

『こちらアコー、エアチューブの接続を確認、補給品を送るよ』

 

 

 ボロボロでボンボン煙を吐き出していた巡洋艦のすぐ横に停泊し、補給を修理を行う。

 いやはや、まさか戦闘用に多めに持ってきた補給品をここで使う羽目になろうとはね。

 

 

「艦長、彼のフネの副官さんからの補給して欲しいモノのリストです」

 

「ん、あんがとユピ」

 

 

 とりあえず向うが指定してきた補給品のリストに眼を通す。

 本当にどれだけ戦闘を重ねればコレだけ消耗するのかってくらいの量だ。

 つーか予想以上に医薬品とかの補充が多いな・・・ふむ。

 

 

「ユピ、ちょっと向うに通信入れて?」

 

「了解・・・・つながりました」

 

「ありがと。ちょっとお聞きしたい事があるのですがよろしいですか?」

 

 

 俺が話しかけると、相変わらずあの副官さんがおどおどとした感じで通信に出た。

 いや、幾らなんでもおどおどし過ぎだろう。流石にこっちも引くぞ?

 

 

『あ、はぁ、なんでしょう?』

 

「補給品のリストに眼を通したんですが――」

 

『ああ!やはり要求が多すぎましたか!?』

 

「いえ、ウチのフネは過分に持ち歩いていたんで問題はありません」

 

 

 とはいえ、これ程多く欲しいと言われるとは予想外だったがな。

 補給品に関しては後でステーションで補充できるからいいんだ。

 だがそれよりも―――

 

 

「それよりも、もしかしてかなりの怪我人が出ているのではありませんか?」

 

『――ッ!お察しの通りです。先の戦闘でかなりのクルーが・・・』

 

「ふむ、なら我が艦の医療班も派遣しましょう。助けておいて途中で力尽きて漂流されても後味が悪いですからね」

 

『かさねがさね申し訳ありません』

 

「こちらが助けると言った以上、コレもソレの内に入るから問題無しです」

 

『あ、後で若・・・もとい艦長ともどもお礼に上がります!それでは!』

 

 

 そう言って通信は終わった。しっかし別に礼なんていいんだがな。

 こっちがある意味勝手にしている訳だしさ。

 

 

「自由奔放艦長と真面目な副官か・・・胃薬をリストに加えておいてやろう」

 

 

 マッド謹製の超強力タイプだ。多分必要になるだろうしな。

 俺は副官さんの苦労に涙しつつ、仕事へともどった。

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

 さて、補給と応急修理がある程度終わったあたりで、向うからお客さんがやってきた。

 あの青年艦長とそれを支える副長さんである。お礼に伺う為に乗り込んでくるつもりらしい。

 そんな訳でとりあえず食堂の方に案内し、そこで会う事にした。

 

 

「リス、す、スカンク、く、く・・・クマ、マリ、リス――あ、お手付きか」

 

 

 んで食堂で待っている間1人しりとりして待っていた。

 寂しいヤツとか言うなよ。他の連中は現在作業中で出払ってるからな。

 艦長の仕事にはゲストをお出迎えすると言うのもあるのだ。

 

 ソレはさて置き、食堂の扉が開く音が聞えたので俺はそちらに目を向けた。

 そこにはあの巡洋艦の青年艦長&副官さんが立っていた。

 何やら眼を丸くしている様だったが、このフネのデカさに驚いているんだろうかね?

 

 さて、お客さんも来た訳だし、俺はお出迎えをする事にした。

 だけどつい自重というロックが外れちまったんだ。

 

 

「やぁようこそ我がユピテルの食堂へ、このバーボンはサービスだから安心して欲しい」

 

「「・・・はぁ?」」

 

 

 いっけね、ついついやっちまったぜ☆

 俺の言葉の意味が解らないからか、ただ風が吹く音だけが響くぜ。

はぁだけどこの手のネタが全然通じないのって何か悲しいぜ。

 

 

「コホン、冗談はさて置き、改めてようこそユピテルへ、本艦の艦長兼艦隊司令を務めるユーリです」

 

「お前がこのフネの?」

 

「ど、どうも」

 

「ああ、あまり恐縮しなくても結構です。自分の事はユーリでかまいません。ソレはそうと立ったままもアレですし、どうぞおかけください」

 

 

 俺はイスを指さし、二人に着席するように促す。

 微妙に警戒している様な感じだったが、客としてきている以上指示には従ってくれた。

 相変わらず青年艦長君はふてぶてしい態度のままだけどな。

 しっかし―――

 

 

「ふむ、あれだけフネがやられていたのに、怪我ひとつ無いとは凄いな」

 

「――ッ!おう!その辺の連中とは、鍛え方が違うからな!ヴァランタインだってさっきは逃げちまったが居場所はわかってんだ。次は絶対ブッ潰してやるぜ」

 

 

 なぜ聞いていないことまで話すんだろうかこの男。

 

 

「ちょ、ちょっと若!懲りて無かったんですか!」

 

「あん?懲りるって何がだ?」

 

「・・・・優秀な副官がいて良かったな」

 

「おう!コイツは優秀だぜ!」

 

 

 褒めてねぇよ。

 

 

「しっかしユーリだったか?俺とそんなに歳も違わないのになかなかのもんじゃねぇか」

 

「だから若!失礼ですって!」

 

「オメェはだーってろ。俺はギリアス。バウンゼィのギリアスだ。助けてもらったのは余計な御世話だったが・・・まぁ礼は言っておくゼ」

 

 

 そう言うと恥ずかしそうに頬を掻くギリアスくん。うん、ナイスツンデレ!

 だけどそれを野郎がやっても、ただ気色悪いって事をお忘れなく!!

 

 

「礼は頂いておきますよ。まだ補給と応急修理には時間がありますから、ゆっくりなさってください」

 

「お気づかい感謝いたします!」

 

「おう、あんがとさん」

 

 

 さて、とりあえず対談を行った訳だが、途中でギリアスくんの腹が鳴った。

どうやら戦闘の後食事をとって無かったらしい。

てな訳で丁度食堂にいるってことで、飯を奢る事にした。

 副官さんも怖々としながらもご相伴にあずかることにしたらしい。

 

 ただ、まさかギリアスくんが常人の5~6倍食べるとは予想外だった。

 お前はアレか?フードファイターでも目指すんかい。

 リアルでズゾゾゾゾとか音たてて飯を食うヤツを見たなんて初めてだぞ。

 

 

「はっは、よく食べますな」

 

「お、おはずかしい」

 

「いえいえ、食材は十分にありますから」

 

 

 自家栽培もしてるしな。数千人の胃袋を支えているフネの食堂なんだ。食材は尽きない。

 

 

「――ングングングング・・・ぶはー!コレあと6人前!」

 

「「まだ食うんかい!?」」

 

「あん?腹減ってるしユーリのおごりなんだからいいだろ?」

 

 

 あ、副官さんがまた胸を押さえてら。胃袋が痛くなったのかな?

 つーかギリアス、確かに奢るとは行ったがお前は自重しろ。

 

 

 

「ところで、以前もたしかサマラ海賊団とかと戦ってましたよね」

 

「んー?ああ、そう言えばそんな事もあったな。あのときもお前らが邪魔しなければ」

 

「若」

 

「はは、まぁあの時は俺達も彼女に用がありましたからね。サマラさんを堕とさせる訳には行かなかったんですよ。でも何でまたこんな危険な事ばかり?」

 

「俺は、とにかく速く名をあげなくちゃなんねぇんだよ。それによえーヤツと戦っても面白くねぇじゃねぇか」

 

 

 こりゃなんつーか、とんでもない狂犬だな。当たり構わず噛みつくって感じか。

 俺も一言行ってやろうと思って口を開こうとしたんだが・・・。

 

 

「無茶な戦いはしたらダメだよ。怪我したりするし、何よりクルーの人達が死んじゃったりするんだよ。無茶なことをしないでまずは地道にやることが近道だよ」

 

「ありゃ?チェルシー何時の間に?」

 

「さっき出前が終わって帰ってきたの。そしたらユーリの姿が見えたから・・・」

 

 

 何時の間にかチェルシーが食堂に戻って来ていたらしい。

 偶々聞えたギリアスくんの言葉にちょっと思うところがあったのか声を出したのだ。

 そういや、ギリアスくんはこの娘に惚れるんだっけな・・・。

 

 

「・・・・・」

 

「ちょっと、若」

 

「あ?ああ、一理あるよな」

 

「―――ッ!?若が人の意見に同意を示した!?明日は宇宙乱気流が起きる!?」

 

「・・・テメェ、とりあえず表でろや」

 

 

 おk、お前一目ぼれか・・・大事な妹はわぁたすぁんぞぉぉ(cv若本)

 

 

「・・・で、そんなことより、お前たちこそ、こんなとこで何してんだ?このゼーペンストは結構ヤバいところだぜ?」

 

「まぁ、それなりに目的があってね」

 

「ほう、何やるつもりなんだ?一応お前には借りがあるから、手伝えるなら手伝うぜ?」

 

「言っても良いけど行ったらキミは多分引くと思いますよ?」

 

「は!俺がか?んなの聞いて見てからじゃねぇと解んねぇよ」

 

 

 まぁ確かに・・・別に隠している事じゃないからいいか。

 

 

「まぁ簡単にいえば、この自治領を潰します」

 

「はぁ!?つーことはあれか?バハシュールを殺るだってぇ!?」

 

「~~~~!!つー、ギリアス、君は声がデカイよ・・・」

 

「あ、すまねぇ」

 

 

 くそ、不意打ち気味でドデカイ声を生で聞いちまった。

 通信機で聞いた比じゃねぇな、頭がクワンクワンするぜ。

 

 

「「うう~~ん・・・(パタ)」」

 

 

 ――って副官さんとチェルシーが気絶した!?

 ギリアス、お前の声は音響兵器かよ・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、話しを戻すけどよ。ソレマジでいってんのか?」

 

「本気さ。出なかったらこんな所まで足は運ばない」

 

 

 気絶したチェルシー達を食堂のイスを並べた即席ベットに寝かせ、話を続ける俺達。

 若干ヤツの視線が気絶したチェルシーの方を見ているのに気が付いてニヤニヤしていたのは俺だけの秘密だ。若いってええのう。

 

 

「ふぅん・・・・・おもしれぇ!俺もいっちょカマさせてもらおうか!」

 

「・・・マジで言ってるのか?」

 

「俺は何時だってマジで全力だぜぇ。それに一国の艦隊とやり合おうってのが気に入った!」

 

「・・・・ま、いいか。そんじゃ手伝ってもらうッスか」

 

「あん?話し方が変わったなオイ?そっちが地か?」

 

「手伝ってくれるって事は一時的でも同志、なら別に猫かぶらなくても良いッスよ」

 

「ますます気にいったぜ!で、俺は何をすればいい?」

 

 

 こうして俺は彼の協力を得ることに成功する。

 やってもらう事は簡単だ、俺達と戦うバハシュールに“第3者”を乱入させるだけ。

 上手くすれば、奴さん等の戦力を大分そげるって訳だ。

 元々はイネスが考える筈の案だけど、使えるから使わせてもらうZE!

 

***

 

Side三人称

 

 

――ゼーペンスト領防衛艦隊駐屯ステーション――

 

 

「将軍!正体不明艦隊が航路を本国に向けて真っ直ぐ進んできます!」

 

「なんだと!」

 

「偵察衛星網に移りました。計算上このままの速度を維持されると、およそ40時間後に本国に到達します!」

 

 

 ここはゼーペンストからほど近い最終防衛圏にある本国防衛艦隊駐屯宇宙基地。

 基地の執務室の一角で本国防衛艦隊司令のヴルゴ・べズンは報告を聞き驚愕した。

 以前から微妙に警備隊を撃破していることは報告に上がっていたのだが―――

 

 

「(何故、急に本国に?まさか何か切り札でも使うつもりなのか?)」

 

 

 参謀陣営の予想ではもっと後になって本国へと来ると思われていた。

 だが、ここまで急激に進撃を進めてくるとは何かがある。

 彼の指揮官としての勘が警鐘を鳴らしているが、何をしてくるのか予想が付かない。

 

 

「将軍!」

 

「――ッ!本国防衛艦隊を全て発進!敵の迎撃に当たらせろ。嫌な予感がする。こちらも旗艦で出るぞ」

 

「了解しました!」

 

 

 執務室を走り去っていく部下の後ろ姿を追いながら、ヴルゴは執務室を出た。

 ゼーペンスト本国防衛艦隊の旗艦を出す為、自分の乗艦へと急いでいるのである。

また歩きながらも各所に設けられた端末から艦隊全体へと指示を出し、更に足を速めた。

 

 

≪ピーッ!ピーッ!≫

 

「どうした?何か問題が起きたか?」

 

 

 乗艦まで後少しと言ったところで彼の通信機に通信が入る。

 彼は早足を続けながら通信機を取り出すと通信に出た。

すると通信機の向う側から若干焦った感じの部下の声が聞こえてくる。

 声から察するに何かが起こったなと彼は感じた。

 

 

『将軍、敵艦隊が哨戒艦隊と交戦を開始しました!』

 

「随分と早いな。敵はどうなった?」

 

『哨戒艦隊は全ての艦載機が落されました。ですが艦隊自体は無事です!敵はどうも攻撃しては逃げてを繰り返しているようであります』

 

 

 どういう事だろうか?戦力的には哨戒の艦隊は国境付近の警備艦隊と規模は変わらない。

 普通なら撃破できてしまう戦力を持つのに、何故後退していく必要があるのだ?

 ヴルゴはどう考えても不審な動きを見せる敵に不気味さを隠せない。

 だが、かと言って指示を出さない訳にもいかないので、通信機を使い指示を送った。

 

 

「解ったこちらも急ぐ。私が旗艦に乗り込み次第、艦隊を順次発進させる。それまでは第4支隊を哨戒艦隊の残存艦隊と合流させて様子見だ」

 

『了解!』

 

 

 ココで正体不明艦隊は落さなければならない。彼の中の勘はそう警鐘を鳴らし続けている。

そうしないとゼーペンストが終わると・・・そう告げる声。

 とにかく急いでこの自治領を乱す不届きな輩を排除しなければ。

 彼はそう思いつつ、自らの乗艦へと乗り込みステーションを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

さて、ヴルゴがステーションを発ったのと同時刻。

ゼーペンスト領首都惑星にあるバハシュールの城の中で、バハシュールは正体不明艦隊が攻撃を受けたことを部下から知らされていた。

 

 

「アーハン?正体不明艦隊の攻撃を受けたって?」

 

「は!現在第4支隊に迎撃を命じましたが、まだ撃沈の確認はありません」

 

 

「シット!ヴルゴ将軍を呼び出せ!」

 

「ハッ!」

 

 

 バハシュールはヴルゴを呼び出すように部下に指示を出す。

部下は言われた通りに出撃しているフネに通信を繋ぎヴルゴを呼び出していた。

 しばらくしてバハシュールの部屋の空間投影モニターにヴルゴの姿が映し出された。

 

 

『バハシュール閣下、お呼びで』

 

「何をしているんだ将軍。さっさと全艦隊で侵入者をもみつぶせ!」

 

 

 バハシュールは気分屋である。どうでもいいと言っておきながら、ソレを突然に覆す。

 今回の正体不明艦隊による襲撃は以前から報告がなされてはいた。

 だが彼の脳みそはそんな事を1μも覚えてはいなかった。

 その事を知っていたヴルゴは通信の向うで内心溜息を吐きながらも落ち着いて言葉を紡ぐ。

 

 

『ソレは危険です閣下、敵は不審な動きを―――』

 

「フンンンン!!この僕が“ヤレ”と言ってるんだ!すぐに本国艦隊全艦を出せ!!」

 

『・・・・・はっ』

 

 

 だが、既に興奮状態のバハシュールはヴルゴの忠言何ぞ聞きやしない。

 甘やかされて育ったが故に、己の言葉こそ全てにおいて優先されると考えているのだ。

 気分的に群がる蠅をブチ殺したかった彼はわめくように将軍に全軍出撃の命令を下す。

 

 そんな気分屋でも上司は上司、真面目なヴルゴは従うしか無く、全軍発進を決めた。 

だが、やはり本国の防衛が心配であった為、自分を含めた親衛隊だけは残しておくことにした。

しかし、それ以外は全艦出撃というゼーペンスト誕生以来初めての事態だった。

ソレがまさか、あんな事態になろうとは、この時の彼は考えても居なかったのだった。

 

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 

「敵艦隊の本体が移動を開始しました。本艦に向けて追撃を開始」

 

「よし!ユーリ、敵の本隊が動きだしたよ」

 

「そッスねイネス。ほんだば、一丁釣ってやろうか。リーフ!」

 

「了解、針路をクェス宙域へと向けるぜ。ゆっくりでな」

 

 

 付かず離れずの距離を保ちつつも白鯨艦隊は航路を奔るってな。

 さてさて、ウマい事敵の本隊をおびき出すことに成功したらしい。

 ま、原作をやっていて知っていたからこそ出来る芸当何だがね。

 

 つーかまさかマジで全艦隊を導入してくるとか・・・領主は本当にアホなんじゃねぇか?

 普通なら本拠地を守る艦隊の一つや二つくらい残しておくもんだろう。

 

 

「相手がバカで助かったね。これなら面白い事になるだろうさ」

 

「で、でも、既に敵の数が50を超えてますよ?」

 

「まぁゼーペンストの本国艦隊は70隻だから8割が付いて来てるって感じッスか」

 

「他は旧式艦らしいね。最新鋭艦はなんとか追随している様だが・・・」

 

 

 流石にユピテルのスピードに追い付けねぇか。

 まぁウチのフネはかなりの大改修が行われているからな。

 相応に金を掛けているんだし、簡単に追い付かれたらオラ泣くど。

 

 

「クェス宙域に到達、敵追撃艦隊接近中!」

 

「ギリアスは!」

 

「確認出来ませ~ン!ってあら~?」

 

「どうした!」

 

「なんか~所属不明艦がー接近ちゅ――あっ、撃ったー」

 

 

 ギリアスはまだ来ていなかったのだが、エコーさんは間延びした声によって報告が入った。

 所属不明艦が唐突に追撃艦隊に攻撃を仕掛けているらしい。 

 モニターで見るとカルバライヤ系の巡洋艦・・・あーっと?誰だ?

 

 

「所属不明艦より電文、“こちらバリオ 白鯨艦隊を 援護する”以上です」

 

「・・・・・何で電文?」

 

「通信入れるヒマが無いからじゃないかい?ホラ」

 

 

 見れば単艦で艦隊に挑んでちょっとヤバげなバリオ艦の姿が・・・。

 おいおい熱血漢なのはいいけど、いきなり来て沈まねぇでくれよ。

 

 

「さて、それじゃギリアスが来るまで耐えるとするッスかね」

 

「だな。全艦第一級戦闘配備!コンディションレッド発令!」

 

「了解、全艦第一級戦闘配備、コンディションレッド発令します」

 

 

 フネの内部が慌しくなる。と言っても今回は積極的攻勢には撃って出ない。

 必要なのは敵艦隊を一定時間この場にしばりつけておくことなのだ。

 なのでほぼやることは飛んでくる敵艦載機を撃ち落とす程度である。

 敵はこちらが防御に移行したのを見て、勝機と思ったのか集団で突っ込んできた。

 

 

≪ズズーン・・・≫

 

「デフレクターに直撃弾、展開率90%、問題無く稼働します」

 

「もうそろそろ来ないッスか「大出力インフラトン反応を確認~」・・来たッスね」

 

 

 突然現れた大出力のインフラトン反応に驚いているのだろう。

 敵艦隊の機動が若干乱れている。まぁソレもそうだ。

 何せ今連中の眼に写っている光景は、通常じゃ絶対に有り得ないモノだからだ。

 

 

 

 

『はっはー!!ヴァランタインのつり出しに成功したZEーーー!』≪ズガーン≫

 

 

 

 そしてこれまた唐突に通信に入る音響兵器・・・ギリアスが到着したのだ。

 それもヴァランタインという“最高の敵役”を引き連れて・・・。

 種を明かせば簡単だ。ギリアスのフネのバウンゼイには特殊なレーダーが搭載されている。

 

 ソレは特定のインフラトン粒子の波長をもった敵を追跡できる便利な代物だった。

 つまりヤツが何故毎回大物と戦えていたのかの理由がそれだ。

 この特殊レーダーで毎回大物がいる場所を探知してケンカ売っていたのである。

 敵側にはたまらない事だろうが、今回はそれが役に立った。

 

 

「ゼーペンスト艦隊、グランヘイムに向けて攻撃開始。両者交戦状態へと入りました」

 

「これは釣れたね」

 

「ウス。今の内に宙域を離脱するッス!狙うはバハシュールの首!バリオさん達にも連絡を!」

 

「「「「アイアイサー!」」」」

 

 

 つまりは“敵の敵は味方?イヤイヤやっぱ敵でっせ奥さん・・って奥さんって誰やねん”作戦だ。

 俺達だけでは流石に戦力としては不足、なら戦力を持ってくればいい。

 ソレは何も味方である必要なんて無いのだ。第3勢力の存在。ソレらに相手をさせれば良い。

 そしてその第3勢力とは、現在ゼーペンスト艦隊を蹂躙中のグランヘイムだったのだ!

 丁度良い時に大海賊ヴァランタインがいてくれたってモンよ!

 

 

「グランヘイム、敵艦隊の2割を撃破」

 

「すげぇな、まだ一時間も経ってねぇよ」

 

「・・・・単艦で全滅させられるんじゃねぇか?」

 

「というよりかは、なんじゃか敵が哀れじゃのう」

 

「「「「確かに」」」」

 

 

 トクガワさんの言葉に思わず全員がそう頷いてしまう。

 何せ現在背後の宙域では火線が飛び交い火球が至るところで発生している映像が写っている。

 しかもソレはグランヘイムという単艦が引き起こしているのだ。

 ありゃ確かに暴力の塊って言葉が一番似合うだろうなぁ。

 

 とにかく今は丸裸同然の首都惑星へと針路を向けた。

 あの大艦隊と戦わずに済んだのはある意味嬉しい。戦ってたら絶対赤字だ。

 

 さぁ待っていろバハシュール、テメェの御殿にあるお宝は俺のゲフンゲフン。

 もとい奴隷とかは全員解放させてもらうぜ!

 

 これまで良い思いしたんだ、もう十分だろう・・・ってカッコいいな俺!

 微妙に脳内でハイテンションになりながら、艦を進める俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ゼーペンスト領の最終防衛ラインも敵艦がいなかった為難なく突破した。

 後は惑星アイナスを越えれば、その先は障害も無く首都惑星ゼーペンストに到着できる。

 俺達が首都惑星に着くまでに追い付ける艦隊は多分もういないだろうさ。

 グランヘイムが全部食っちまったからなぁ!

 

 

「さてさて、ココまで来ればもう首都惑星は一息ッスね」

 

「しっかし自分で戦わないでヴァランタインに相手をさせるとはねー」

 

「真正面がダメなら地の利を生かせって感じッスかね。まぁ偉そうなことはいえんのですが」

 

 

 今回は偶々近くにヴァランタインがいて、ソレを釣れるギリアスくんがいたお陰なんだ。

 俺のもつ薄れゆく原作知識もあったからなんとかなったけど、この先どうなるかなー。

 

 

「惑星アイナスをスウィング・バイで通過しま――インフラトンパターン確認、敵です」

 

 

 惑星の軌道上を通過していると、惑星の影から敵の艦隊の姿が現れた。

 どうやら惑星の影に隠れていたらしい。影になって見えていなかったのだ。

 よくある古典的な策敵防御法であるが、技術革新が進んだ今でも通用する。

 こいつぁもしかすると・・・・。

 

 

「コイツは・・・・強敵かもしれないッス」

 

「だろうね。大方あれは親衛隊って所かい」

 

「敵は空母を中心とした機動艦隊、数は21です艦長」

 

 

 ユピの報告を聞きつつも光学映像から目を離さない。

 艦隊の動きが非常にスムーズだ。成程、確かに親衛隊なのかもしれないな。

 

 

「敵艦インフラトン出力上昇、戦闘出力に入ります」

 

「やる気満々か・・・なら押し通るだけッス!各艦対艦、対空戦闘用意!」

 

 

 とにかく全艦戦闘配備を通達し、これから始まるであろう戦闘に備えさせる。

 フネの隔壁を閉鎖し、ジェネレーター出力を戦闘臨界にまで上げて置くのだ。

 それと―――

 

 

「ギリアス、聞えてるッスか?」

 

『おう、聞えてるぜ』

 

「とりあえず左翼の5隻は任せたいんスが」

 

『あいよ。任しときな。引き受けてやるぜ』

 

『俺も参加しよう。右翼の5隻をやる、君は中央を頼む』

 

「バリオさんもお気をつけて」

 

 

 とりあえず連れて来ていたギリアスくんやバリオさんにも協力要請。

 仕えるもんは何でも使うのじゃ。敵の方が少ないからって油断したらいけない。

 この世界じゃ少数でも敵を打ち破れることを、俺達自身が証明しているからな。

 

 いやまぁ本当なら戦闘を避けたいのは山々何スがね。

 背後にはまだヴァランタインがいるんだよなぁ。

 

 多分俺らが囮にしたって事くらい理解しちゃってるだろうし・・・。

 今反転してあの宙域に戻ったら確実にBADENDなんだ。

 

 ある意味前門の虎後門の狼な状況。あれ?前門の狼後門の虎だっけ?

 と、とにかく戻ったらヤバいって事なのだ!

 

 

「トランプ隊、進路クリア。発進どうぞ」

 

『こちらププロネン機、トランプ隊全機、発進する』

 

 

 全編隊発進の為、カタパルトを使用せず複数の機体が同時に発進していく。

 十数機纏めて艦載機が発進していく光景はどこか頼もしく感じられるゼ。

 そして先に出た艦載機達を追う形で、VB-6 編隊も次々と発進する。

 

 ガザンさんが指揮する部隊で、打撃力なら戦艦を超えるかもしれない部隊だ。

 弾頭は当然、通常に非ずってな・・・巻き込まれない様にしとかねぇと・・・。

 

 

「敵艦隊接近、数は11、本艦の射程まで残り120秒」

 

「全砲門開け、ファイアロック解除、FCSコンタクトッスよストール」

 

「アイサー、FCS開きます。CICとリンク。ユピ、無人艦隊を調整してユピテルの射線を確保してくれ。護衛艦隊と挟唆攻撃が出来るようにな」

 

「了解です」

 

 

 ユピが無人艦隊に指示を送り、護衛無人艦隊の陣形に変化が現れる。

 火線が味方に被らない様に、さりとて攻撃は届くように展開していった。

 十字砲火(クロスファイア)が可能になるように、艦隊の位置を調整しているのである。

 

要はさ?単艦の火力だとたかが知れているけど・・・あ、グランヘイムは除くぜ?

 あれは最凶のフネだから、単艦でも艦隊とやりあえるからな。

 話しがズレたけど、護衛無人駆逐艦隊の単艦の火力だとあまり効果は上げられない。

 

 だけど複数の駆逐艦の火力を一隻に集中させてやればあら不思議。簡単に撃沈出来るのだ。

 要は弱そうなヤツ一人に目をつけて集団でフクロにしちまうって事だ。エゲツねぇな!

 勿論その逆も有り得るから、しっかりと回避機動取らせないとこっちが堕ちるけどな!

 

 

「HL(ホーミングレーザー)シェキナ、砲門開口します」

 

「発振体展開、エネルギー全段直結を確認。冷却機正常稼働も確認」

 

「・・・・特殊デフレクター、作動に問題無し・・・空間重力レンズ形成、完了したわ」

 

 

 そしてユピテルのファイアロックが外れ、HLシェキナの砲門が開口していく。

 本艦の両サイドにつけられたHL発振体があらわとなり、かすかに光を放っていた。

 デフレクターの重力波ブレードも稼働し、空間重力レンズが形成されていつでも発射出来るぜ。

 

 

「敵空母から艦載機の発進を確認、第一波、VF-0隊、トランプ隊と接敵します」

 

「HL曲斜砲撃、敵のドテっ腹を食い破ってやるッス!他の艦は艦載機部隊の援護を開始ッス」

 

「了解、各艦に通達します」

 

 

 さて、戦闘の火ぶたが切って落とされたと言うべきか。

 ある意味遭遇戦と言うべきか、それとも待ち伏せを受けていたと言うべきなのか。

 ともかくこうして戦闘は開始されたのだった。

 

Sideout

 

 

***

 

 

Side三人称

 

 戦闘が開始されたものの、両者の戦力差はユーリの方が優位であった。

 ゼーペンスト親衛隊は確かにエリートで構成された精強な軍ではある。

 歴戦の戦士たるヴルゴが率いている為、結束も統率も取れている。

 

 だが長い事自分の国に籠り、定期訓練をしていただけの人間とは違い。

 宇宙を放浪し、様々な経験を積んできた0Gドックのユーリ達の方がタフであった。

 最初こそ互角の勝負を見せていた親衛隊も、徐々に押されていく事となる。

 

 

「フリエラ級4番艦ルベン被弾!我、操舵不能を発信し続けています!」

 

「将軍!護衛艦の残りは4隻です!後退の指示を――」

 

「我々が下がってどうする!首都惑星は目と鼻の先なんだぞ!クェス宙域の友軍は?」

 

「・・・だめです。応答がありません」

 

 

 また新たに護衛艦が中破して戦線を離脱していく事にヴルゴは舌打ちする。

 当初は10隻ちかくの護衛艦が追随しており、最初こそ互角ではあった。

 

 

「・・・・敵艦隊の総数は?」

 

「駆逐艦クラスが10隻、巡洋艦クラスが2隻、弩級戦艦クラスが2隻の計14隻です」

 

「落とせたのは5隻、しかも駆逐艦のみか・・・」

 

 

 だが既にヴルゴの親衛隊艦隊は半分が落され、敵の方も5隻沈めたが全て駆逐艦だ。

 戦力の中核を担っている弩級戦艦2隻に目ぼしい損害は全く出ていない。

ソレどころか、いまもまさに弾幕と言うべき砲撃が続いている。

 

 そして恐るべきは敵の弩級戦艦の持つその特殊な兵装だった。

 片方は波長が異なる指向性エネルギービームを乱射出来る砲台。

 もう片方はなんとビームが空間で曲がり、弧を描いて横からビームが命中したのである。

 

 フネは正面の方が装甲が厚く、また当然のことながら被弾面積は少ない。

 だが横になると当然被弾面積は非常に大きくなってしまう上、耐久性も若干下がるのだ。

 しっかし生きている内に、光学兵器がひん曲がる兵器を見ることになろうとは思わなかった。

 ヴルゴはそう考えつつも更なる指示を出そうと思っていたのだが・・・。

 

 

「将軍、全護衛艦が撃沈されました。残りは本艦のみです」

 

「・・・・何と言う事だ・・・他に交戦中の友軍は?」

 

「まだ保っていますが押されています」

 

 

 どうやら既に“詰んだ”状況らしい。

コレ以上何をしても、もはや戦況は覆らないとヴルゴは直感した。

 彼は少し考えた後、部下に指示を出した。

 

 

「よし。友軍艦船に後退を命じろ。それと本艦の操縦をオートにし、乗員を退艦させるのだ」

 

「将軍、ソレは―――」

 

 

 ヴルゴからの指示に戸惑いの表情を見せる部下たち。このタイミングで退艦させ、更に操縦をオートパイロットに設定せよと言われれば何をするのか位理解出来る。

 

 

「私は後退の為の時間を稼ぐ・・・・復唱はどうした!」

 

「は、ハッ!これより本艦はオートパイロットに移行、乗員は退艦します!」

 

「ソレで良い。急がぬか!」

 

「ハッ・・・将軍、どうかご無事で」

 

 

 見ればブリッジにつめる乗組員の殆どが、ヴルゴに対し敬礼を行っていた。

 彼は部下には好かれていたという事なのだろう。

 

 そしてヴルゴに敬礼した乗員達が、退艦命令を受けて次々と席を離れて離脱していく。

内火艇や予備の艦載機に分乗した乗組員たちがフネを離れていくのが見えた。

ソレを見ながら誰も居なくなったブリッジの中で、ヴルゴは一人艦長席に深く腰掛けた。

 

 

「・・・フン、先代に受けた恩をボンクラの2代目に返す・・・我ながら詰らん人生よ」

 

≪オートパイロットモード、起動シマス≫

 

 

 艦制御コンピューターの無機質な電子音声が流れ、インフラトン機関が出力を上げた。

エンジンの音を聞きながら、出力を全開にして単艦で突撃をかける。

 ヴルゴは艦長席からFCSにダイレクトにコントロールを繋ぎ戦闘を再開させた。

 

 

 

 ――――自分は軍人、ならば軍人としての使命を全うするのみよッ!!

 

 

 

 一方その頃ユピテルの方では突然加速を始めたヴルゴ艦を探知していた。

 

 

「え、ええ~!空母が単艦で突っ込んできます~!」

 

「な!バンザイアタックか!?」

 

 

 バンザイアタック、ソレは敵に自分のフネごと体当たりを咬ます特攻の事だ。

 空母は耐久力はそれ程でもないが、艦載機を詰め込む為その質量は他のフネよりも大きい。

 そして迫るブルゴ艦はドゥガーチ級と呼ばれる全長680mの大型空母である。

 

もし特攻なら弩級戦艦クラスのユピテルやアバリスでも大破しかねないだろう。

 だが、敵は特攻では断じてなかった。

 

 

「敵艦砲撃を開始、S級近衛艦被弾、損害軽微」

 

「まさか単艦で艦隊に挑むつもりッスか?!しかも空母が!」

 

「・・・・負けだとわかっていても、引けないって事だろうね」

 

 

 無人のS級近衛駆逐艦がそれぞれ砲撃を開始する。

S級が搭載している近接防衛のエステバリス隊も発進して空母を取り囲んだ。

 空母は対空クラスターミサイルと小型レーザー砲を使って吶喊してくる。

 その命を散らすかのような最後の咆哮に白鯨艦隊の人間は驚愕していた。

 

 だが、所詮空母は空母、対艦戦闘を行えるようには設計されていない。

 むき出しのエンジン区画にエステバリスの持つレールガンが命中した。

 電磁カタパルトのレール部分は既に艦隊からの砲撃で吹き飛んでいる。

 それでもなお、後退も撤退もせず、逃げていく友軍を守るかのように立ちふさがる。

 

 まるで古の源義経を守ろうとした弁慶の如く、白鯨艦隊を足止めしていた。

 だが、それでもたった一隻で敵う筈も無い。

 

 

「敵空母に直撃弾、インフラトン機関が完全に停止しました」

 

 

 エンジン部分を吹き飛ばされてもエンジンブロックを切り離して戦い続けた空母。

 しかしエンジンが無ければフネを満足に動かすことは出来ない。

 そして弱まったシールドを貫通し、完全に航行機能を失い停止した。

もはや動くことのない空母は、タダそこにあるだけとなったのだった。

 

 

Sideout

 

***

 

 

 ふひぃ~、まさか最後の最後に突撃してくる人間がいるなんてなぁ。

 てっきり国境警備隊の連中に錬度の無さに、根性のある人間はいないと思っていたけど。

 いやはや中々どうして、凄まじい根性というか執念だったな。

 

 

「敵残存艦、宙域を離脱していきます」

 

「・・・ウス、それじゃ生存者の救助をしたら即行くッスか」

 

 

 流石に敵だったとはいえ放置ってのは寝覚めが悪すぎる。

 戦闘が終わったら人類みな兄弟だお。

 ってなわけで、とりあえず漂流している人をかき集めることにした。

 そう言えば――

 

 

「あの最後に突っ込んできた空母も調べておいたほうが良いッスかね?」

 

「まぁ前例がある事だし、誰か生きているかもねぇ」

 

 

 

 ちなみに前例とは、カルバライヤのグアッシュ海賊団のダタラッチの事である。

 あいつはフネが撃沈されたのに普通に生きていたある意味幸運なヤツだ。

 例えフネが爆発しても隔壁をキチンと閉じていると生き残っている事もありうるって証明だな。

 

 そんな訳で、空母の方も探索させてみたんだが―――

 

 

『艦長、こちらEVA探索班のルーイン。生存者がいたぞ』

 

 

 まさかマジで生存者がいるとは・・・予想外デス。

 

 

『艦長、唯一の生存者を連れて来ましたぜ』

 

「ああ、お疲れ様ッスルーインさん。休んで貰ってもいいッス。で、生存者は?」

 

『旗艦だろう空母のブリッジで倒れていました。恐らくは―――』

 

「敵の艦長か、はたまた艦隊指揮官かってところだねぇ・・・そいつは何処に?」

 

『怪我がヒデェんで医務室に放り込んでまさぁ。助かるかは五分五分ってところでして』

 

 

 成程、殿になり我が身を盾にして、艦隊が全滅するのを防いだのか・・。

 なんてカッコいい!気にいったぜ!

 

 

「気にいったッス。医務室のスタッフに全力で直してくれって伝えてくれッス」

 

『アイサー艦長、ちょうど近くに居るから伝えといてやるよ』

 

 

…………………………

 

……………………

 

……………

 

 

 さて、負傷者を救護したその足で首都惑星ゼーペンストへとやってきた。

 防衛艦隊は全て出撃し、先程親衛隊も倒したのだから、とても静かなもんである。

 襲撃の心配はほぼ無いので、悠々と惑星のステーションへと航行していた。

 

 

「お、見てみなユーリ。ここにもデッドゲートがあるよ」

 

「そう言えばアルビナさんの説が正しいと――」

 

「そう、エピタフ遺跡の近くにデッドゲートはあるってことだネ」

 

「む!その特徴的な語尾!教授じゃないッスか、なんか用スか?」

 

 

 俺に気配を悟らせないなんて―――教授、恐ろしい人!(○影先生調)

 さて俺が白眼でフフフと笑っているのを軽くスルーする教授。

 流石に慣れてきてしまったようだ。く、悔しい、でも感じち(ry

 まぁふざけんのはそれくらいにしてっと。話しを聞きますか。

 

 

「で、結局何しに?」

 

「なに、散歩だヨ。戦闘中は開発が出来ないから、微妙にヒマなんだヨ。ソレはさて置きさっきのはなしだけどネ。アルピナくんが最近この宙域でヒッグス粒子の検出回数が上がっていると言っていただろう?あれ、ヴァランタインがこの宙域にいた為ではないかナ?」

 

「ヴァランタインがッスか?なんで――」

 

 

 この時ふと思いだした。そういやヴァランタインもオイラと同じ観測者じゃねぇか。

 なんでこの宙域に居んのかなぁって思ってたけど、そう言う訳だったか。

 

 

「彼もエピタフを良く狙うらしい。ということはエピタフも当然幾つか入手しているだろう。フフ、どうやら彼女の自説は裏付けられてきたようだ。オモチロクなってきたネ」

 

 

 そう教授は言い残すと、エレベーターの方に向かいブリッジから去っていった。

 自分の弟子の説が証明されるってのが嬉しいのかもな。

 教授は変な人ではあるが、一応人間の感情って言うもんを持っている。

 嬉しい事は嬉しいって言えるのは、ある意味良い性格だよな。

 

 

 

 

 さて、惑星に降りる為にステーションへと入ろうとしていると、通信が入ってきた。

 相手はバウンゼイのギリアスから、はて、なんか用だろうか?

 

 

『おい、ユーリ、聞えてやがるか?』

 

「どうかしたッスか?ギリアス」

 

『ちょっとさっきの戦闘でフネの部品が足りなくなった。管理局に問い合わせたんだが、この宙域では扱ってない部品らしくてな・・・』

 

 

 通信の向う側で本当に申し訳なさそうに顔をしかめているギリアスが写る。

 こいつが人をだます様な腹芸が今の段階で出来るとは到底思えん。 

 そう考えると、言っていることは事実って事か・・・。ふむ。

 

 

「あーなら仕方ないッス。いやココまで手伝って貰えただけでもありがたいッスよ」

 

『すまねぇな。最後まで手伝えなくてよ・・・またいつか会おうぜ!それじゃあな!』

 

 

 ギリアスからの通信が切れ、彼の乗艦バウンゼイはインフラトン粒子を靡かせて宙域から離れていく。この時、彼も残っていてくれればあの事態は回避・・・出来なかっただろうなぁ。

 

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第三十三章+第三十四章+第三十五章+第三十六章

 

 さて、ゼーペンスト艦隊を罠に嵌めたので敵がいない首都惑星に降り立った俺ら。

 敵兵は居るにはいるんだけど、なんつーか非常に脆かった。

 統率は取れてはいる。むしろ今まで出会った中で一番かも知れない。

 

 だけど、咄嗟の事態に非常に弱かった。素手のヘルガが突撃しただけで怯んだほどだ。

 なんか、訓練はしっかりやっているけど、実戦経験はないって感じか?

 ちなみにヘルガは素手に見えても武器を内蔵しているから武器云々は関係ない。

 

 こちらが撃つと何故か攻撃が一度止まり、しばらくして銃撃が再開するのだ。

 何でかなぁって思ってよーく見てみると、こっちの銃撃で全員が怯むのが見えた。

 訓練通りの動きは出来る癖に情けないねぇと思いつつ、容赦なくバズを撃ちこんで制圧。

 

まぁ俺以外もバズを携行しているからな。

というか愛用しているヤツも居る訳で、さっき俺が撃った後に発射していた。

 放たれた弾頭は何故か放物線を描き、敵部隊の近くに着弾する。

 

 

≪ズズーン・・・≫

 

「バリケードが崩れたみたいッスね。ほいじゃ俺も――」

 

 

 愛用のハンディバズを片手に、白兵戦しているとこに行こうとしたら肩を掴まれた。

 誰だろうと思ったら、険しい顔をしたププロネンが立っている。

 

 

「艦長、あまり前に出ないでください。危険です」

 

「ププロネン、上が動かなきゃ下が付いて来ないッスよ」

 

「それでもです。上が倒れたら指揮系統に乱れが生じます。トップである貴方は前に出てはイケなのです。既に貴方は艦隊を率いる身。以前の様な気ままな場合と違って大きな責任を持つのです」

 

「でも・・・」

 

 

 俺だって戦えるのに、なんだが戦力外通知されたみたいだったから反論しようとした。

 だけどププロネンは首を縦に振ることは無く、むしろ正論で攻めて来た。

 残念だが、確かにその通りだ。でもまぁ・・・。

 

 

≪カチャ――≫

 

「艦長、なにを?」

 

「なに、別に近づかなくても・・・ね」

 

 

 俺はバズを斜めに構えて引き金を引いた。

 どういう訳だかは知らないが、このバズはエネルギー式なのに重力に作用される性質がある。

 高エネルギーで疑似物質でも造り出してんじゃねぇだろうな?

 まぁそんな訳で発射されたバズのエネルギー弾は放物線を描いて敵陣に突っ込んだ。

 

 

「これなら良いッスよね?」

 

「・・・・はぁ、ほどほどでお願いしますよ」

 

 

 呆れたように溜息を吐いたププロネンにニカっと笑いかけて俺は味方の援護に回った。

 そういや俺の肩にはクルー達の未来っていう責任が乗ってんだよな。

 迂闊な行動は、あんまりしないほうがいいか。

 

 すでに白鯨艦隊は俺だけのフネじゃない。

 数千人以上のクルー達の生活ってモンがあるんだ。

 うわっはぁ、責任重大じゃねぇか。

 

 そんな訳でとりあえず援護だけに専念する事になった。

 まぁ実質指揮官が前に出過ぎたら、部下はもっと前に出なきゃならない。

 そうなると突っ込み過ぎの状態になって、集団が危険にさらされる。

 

 

 ―――俺もまだまだ未熟だぜーと心の中で思った戦闘中の一幕だった。

 

 

 さて、そんなこんなで戦闘は続行中だ。

 一応軌道エレベーターの周りは確保出来た。

 ココはある意味宇宙からの橋頭保になる重要なポジションであり、敵からすれば増援が現れない様に一番に防衛しなければならない場所だった。

 

 だけど、恐らく俺達の艦隊がこれほど早く首都惑星に到達出来るとは思っていなかったんだろう。軌道エレベーター周辺に防衛部隊の展開が間に合わず、準備不足な状態で強襲してきた俺達と戦闘に入った訳だ。

 

 金をかけて戦車っぽいのやら、兵員輸送車とかをそろえてあったみたいだが、ソレらは真っ先に俺らが破壊した為、兵器として活用されることなくガラクタになっちまった。

 

 

 ちなみに今回は海賊討伐では無い為、VFやVBの様な艦載機による支援が行えない。

 やっかいな事にコレもアンリトゥンルールってヤツでな。

 基本的に0Gは地上に対して兵器を使用する事が一番汚い行為って事になっている。

 

 だから今回に限り、地上攻撃は白兵戦のみで行われる運びとなっていたんだ。

 まぁ白兵戦部隊はほぼ全員が装甲宇宙服を着こんで戦っている。

 そうそうやられる事は無いだろう。

 

 ちなみに俺も専用のヤツ着ているんだぜ?紺色のミョルニルアーマーをな! 

 死なれたら困るかららしいけど、カッコいいから許す!

 

 

「へぇ、なかなかの打撃力だ。どれ、私も・・・」

 

 

 ふとお隣から俺のよく知っている人の声が聞えた。

 俺が振り返る前に金属を擦り合わせた様な音が響き、続いて冷却機が作動する音が聞こえた。

 

 

「あーれま、たったの一発であの様かい?」

 

「トスカさん、何時の間にバズを・・・」

 

「いやー、意外とスカッとするもんだね。コレ」

 

 

 隣に立っていたのはトスカ姐さんだった。

 俺の隣で俺のよかデカい、冷却機から水蒸気を吐きだしているエネルギー式バズーカを抱えているトスカ姐さんが呟いた言葉に思わず突っ込む。いやスカってするってあーた。

 

 

「連射が出来ないのが難点だけど、打撃力と範囲攻撃力は中々じゃないか。いいね気にいったよ」

 

「こえ~」×その他大勢。

 

「さぁ、次の連中をブッ倒しにいこうか!」

 

 

 まるでピクニックに行くかの如く、鼻歌交じりにバズを担ぎあげる彼女。

 バズーカ片手にケラケラと戦闘中に笑う彼女に、俺達は若干の戦慄を覚えたぜ・・・。

 

 

***

 

 

 さて、拠点を占領していくうちに、収容施設とかいう場所を制圧した。

 何でも思想犯とか政治犯を閉じ込めておくための施設らしい。

 中は凄まじく捕まえられた人達でごった返していた。

 どうも専制君主たるバハシュールに反感を持つ人間は意外と多かった様だ。

 

 

「・・・トスカ姐さん、使えそうな人間見つくろっておいてくれッス」

 

「成程、確かにバハシュールに反感を持つ人間なら部下にしやすいだろうしねぇ。

 よし、まかせときな」

 

 

 とりあえず使えそうな人間をスカウトしておくことにした。 

 こんな惑星でももしかしたらロウズの用に“掘り出し者”がいるかもしれない

 ちなみに誤字に非ず。

 

 

 この後は適当に収容所の中を調べて回っていたのだが―――

 

 

「・・・・あら?彼女は―――」

 

 

 収容施設の一室に金髪の少女がポツネンと一人座っている。

 どうみても政治犯には見えないし、正直この環境のなかでは非常に異質だ。

 コイツはもしかすると―――俺は携帯端末を操作し、ファルネリさんを呼び出した。

 

 

「ファルネリさん。ちょっと確認して欲しい事があるんスが?」

 

『何ですか?私は今お嬢様探索にいそがし――お嬢様!』

 

 

 この反応、どうやらやっぱりこの独房の少女がキャロ・ランバースらしい。

 携帯端末の空間投影一杯にファルネリさんが顔をドアップにしている。

 

 

「場所は4階のDブロック何スけど・・・」

 

『わかりました今行きまぁぁぁぁ・・・・・・・――――・・・・・すっ!只今到着!」

 

「はや!?」

 

 

 ちょ!さっきまで一階に居たけどどうやって!?

 

 

「お嬢様への忠誠心のなせる業です!」

 

 

 ・・・そうですか。

 ソレはさて置き、とりあえずキャロ嬢の居る部屋のロックを解除させた。

 そして少し戸惑った感じの少女に俺は―――

 

 

「―――問おう・・・貴女がセグェン氏の一人娘か?」

 

 

 なんとなくフェイ○風にやっちゃったんだー☆

 生身の身体で時を止めてやった!ふふ、周りの視線が痛いぜ!

 

 

「そ、そうよ?貴方は?」

 

「俺?俺は「おじょうさまぁぁぁぁぁ!!!ごぶじでしたかぁぁぁぁぁ!!!」え!?ファルネリ!?」

 

 

 俺が自己紹介をしようとすると、ファルネリさんが俺を押しのけて部屋に突撃してきた。

 その為俺は壁にビタンと張り付くように叩きつけられる。

 

 

「貴女も助けに来てくれていたのね?」

 

「ええ、ええ!本当に良かったわ・・・よくぞご無事で・・・」

 

 

 あー、感動の再会は良いんだけど、俺壁の滲みになっちゃいそうなんだけど?

 とりあえず復帰して、キャロ嬢の身体の心配をしてみた。

 

 

「怪我は無いッスか?」

 

「あ、貴方の方こそ大丈夫なの?」

 

 

 そしたら逆に心配されちまったい。なんていい子なんだろうか?

 

 

「大丈夫、鍛えてるから」

 

「・・・・鼻から血がどくどく流れてるけど?」

 

「ああ、大丈夫。こんなのすぐに止まるッス・・・ほら止まった」

 

「え!?早いよ!ていうかもう治ったの?!」

 

「なれてるッスから」

 

 

 慣れてる慣れてないの問題じゃないと思うけど・・・と冷や汗を流すキャロ嬢。

 いやはや、自分で身体を鍛え始めたころは重力に逆らえなくてよく転んだからねぇ。

 俺の鼻の骨は何回も折れています。リジェネレーション技術万歳。

 

 

「ふぅ、まぁソレはさて置き貴方ユーリって言ったわね?」

 

「おぜうさま~」

 

「ああ、そう言ったスよ」

 

「ご苦労だったわ。あとで私からもご褒美を上げる」

 

「おぜうさま~」

 

「ほう、そいつは楽しみッスね」

 

「さ、すぐにおじい様の所に連れて行ってちょうだい」

 

「おぜうさま~」

 

 

 おやおや、急に強気になったかと思ったら、今度はなんか命令されたぜ。

 つーかファルネリさん、幾らお嬢様が見つかったからってキャラ壊れ過ぎ。

 

 

「うーん、ちと難しいッスかね」

 

「どうして?私はすぐに帰りたいのよ?お風呂だって入りたいし、着替えもしたいの」

 

「あ~う~・・・・実は俺はまだやることがあって・・・そうッス!バリオさんが来てるから、バリオさんの艦で帰って欲しいッス」

 

「いや!私は貴方のフネで帰りたいの!さぁ早く案内しなさい!」

 

「無理ッスよ!こっちはバハシュールを探し出して倒さなきゃならないッス!」

 

「私の命令が聞けないって言うの!」

 

「お願いならともかく!命令される筋合いはないッス!ってなわけでバリオさんカモーン!」

 

 

 俺は通信端末を操作し、バリオさんに連絡を取った。

 そんでしばらくの間キャロ嬢は俺の事をムムムとした眼で見つめていたが、ファルネリさんに諭されたので押し黙った。

 流石はお嬢様と長年連れ添っただけはあるッスね。

 

 

 

 

 

 

 

さて、街中の敵戦力はほぼ排除出来た為、俺達はバハシュール城へと向かった。

つーか、デカイ。街の中でひときわ大きい金ぴかで、おまけに昼間なのにライトアップ。

金の無駄遣いっていうのが遠くからでもわかる城だった。

 

警備員とかが何十名かいた様だったが、そこは物量で押し切った。

んで王の間に辿り着いたけど、そこに目当ての人物は影も形も無い。

代わりに只大勢の美女が残されているだけだった。

 

 

「おおー、美女軍団ッス。眼福。眼福」

 

「むぅ、艦長!鼻の下を伸ばしたらみっともないです!」

 

「しかしユピ、コレは男としての当然やるべき行為で」

 

「不潔ですー!ダメですー!いけない事ですー!エッチなのはいけないと思います」

 

「な!?ユピ!何処でその台詞を?!」

 

「知らないです。ふ~んだ!」

 

 

 何故だ?何故ユピが頬を膨らませて拗ねてるんだ?

 つーか他の連中!なんで“またか”みたいな目で俺を見る!?

 

 

「と、とにかくこの人たちから事情を聞くッス!」

 

「「「へーい」」」

 

 

 心なしかやる気が無い返事にくそ~と思いつつも、美女軍団の方達の優しく聞いて見た。

 最初こそおびえている様だったが、ウチの連中は女性には紳士だ。

 少しずつと情報を離してくれて、ソレらを合わせた情報によると――

 

 

“バハシュールは東の砂漠に逃げた”

 

 

―――との事だった。ちなみにココまで3時間経過。

 

 

「ユピテルに救援要請!兵員輸送VBを回してもらうッス」

 

 

 とりあえずフネから足を回してもらう。

 兵員輸送VBなら最大30名位乗せられるからな。

 VBが来るまでの間に、ユピとヘルガに3時間いないに行ける距離を算出して貰う。

 そしたらどうやら東のさばくには、なんと未発掘のエピタフ遺跡があるんだそうな。

 

 バハシュールはどう見ても考古学には興味なさそうだしなぁ。

 未発掘で残っていても不思議じゃねぇって事なんだろうな。

 

 

 まぁそんな訳でしばらくしてバハシュール城に舞い降りたVBに分乗して砂漠へ。

 何故か教授も遺跡があるという事を何処かで聞いたらしくVBに乗っていた。

 流石教授、自分の分屋の事となると地獄耳だぜい!

 

 

 

 

 

 

 

≪ブォォォォォォーーーーン!!!≫

 

『艦長、こちら機長。間もなく遺跡に到着します』

 

「ウス、俺達を降ろしたらそのまま待機していてくれッス」

 

『了解』

 

 

 VBに揺さぶられて砂漠の中にある遺跡へと飛んだ。

 間は特に何も無かったのでキングクリムゾンだぜ。

 

 兵員輸送VBは遺跡上空を旋回し、遺跡の入口と思われる付近へと着陸。

 俺達は遺跡の入口へと降り立った。

 

 

「おお!ムーレアの遺跡にそっくりだネ!」

 

「ちょっ!教授!敵が潜んでるかもしれないんスから先行しないで!」

 

「ユーリ、こっちにエレカーが止まってる。新しい足跡も遺跡に続いているみたいだ」

 

「・・・こりゃ間違いなくバハシュールがいるッスね。ププロネン」

 

「は、保安部員達に任せてください」

 

 

 保安部のププロネンが保安部員を集め、遺跡へと向かわせる。

 元々はトランプ隊として各地を転々としていた傭兵達だ。

 その為彼らは大地での戦闘の仕方もよく心得ていた。

 

 クリアリングを的確に行い遺跡へと入っていく。

 俺達は先行する彼らに従って後を追った。

 

 

≪―――パラパラ≫

 

「ん?なんか落ちて来た?」

 

「どうやらムーレアよりも風化が進んでいる様だネ」

 

「見たいッスね。下手にバズ撃つと崩壊するかも・・・」

 

 流石に遺跡で生き埋めとかは勘弁願いたいので、部下に爆発物の使用は控えるよう指示を出す。

 探査を続けたが、遺跡はそれほど広くは無かったらしく、しばらくして―――

 

 

「ひっ・・・ひぃ!来るなッ!来るなァァァ!!」

 

 

―――とまぁ、なんとも情けない声が遺跡の中に響き渡った。

 

 

「お前がバハシュールッスか?」

 

「ひぃ!?な、なんで、なんでだよぉ!俺に何のうらみがあるってんだ、おまえら」

 

「えーと、まずカルバライヤ方面でお前さんがパトロンやっていた海賊に襲われて、その所為でウチのクルーが危険にさらされたッス。おまけに要人を誘拐した挙句、その交渉に来た俺達と交友があったシーバット宙佐を手に掛けたッスね・・・大分恨みはあるって事で」

 

「シ、シーバット?あ、あいつは保安局の癖に、自治領に侵入したんだぞ?!

だから!だから殺ッただけじゃないか!ソレが宇宙の掟だろ!!」

 

 

 ヒステリーにかかったかのようにわめき散らすバハシュール。

 その姿は非常に見苦しく、またコレが自治領の領主だった男かと疑いたくなった。

 つまりは、その理屈で行くと―――

 

 

「宇宙の掟ッスか?なら、宇宙開拓法第11条も掟ッスよね?」

 

「宇宙開拓法第11条?な、なんだよソレ」

 

「“自治領領主はその宙域の防衛に関し、すべての責任を負う”」

 

「ひっ!?そ、そんなの―――」

 

「ま、星に引きこもっていたセンズリ僕ちゃんには解らない事かもしれないッスけどね。つまりは因果応報、今まで好き勝手したんだろう?いい加減年貢の納め時さ・・・」

 

 

 俺はハンドサインでバハシュールを拘束するように指示を出そうとする。

 金属音を立てて構えられる銃の群を見たバハシュールは冷や汗を大量に流していた。

 

「ま、ままままっまてまてまて!!そんなの無理!捕まえるとかナイッシングだってぇぇぇぇ!!何でもやる!この宙域も譲るから許して・・・」

 

 

 そう言って何とコイツはジャンピング土下座を決めた。

 一国の領主がだすとは思えない程の見事なフォームで放たれた土下座。

 ソレを見て俺達は一気に士気が低下していくのを感じた。

 あまりにも情けなさすぎる。コイツの所為で何人の人間が死んだ事やら・・・。

 

 

「・・・はぁダメ人間にも程があるよコイツ」

 

「・・・行きましょう。コイツは殺す価値も無いッス」

 

「ゆ、許してくれるのか!あ、ありが―――」

 

「勘違いするなッス。俺はテメェの様なバカ野郎の血で仲間の手を汚してほしくないだけッス」

 

 

 見逃してやるよバハシュール。

 今まで部下に頼って生きて来たお前さんが、この厳しい世界で生きていけるかは知らないがな。

 

 

「さーて、撤収ッスよー」

 

 

 あんまりにもアホらしくなり、撤収指示を出した。

 バハシュールはどうも腰が抜けたらしく、その場にへたりこんでいる。

 だがその時―――

 

 

≪ズズン・・≫

 

「な!?遺跡が揺れ―――」

 

「コレは重力波振動!?何かが降りてくる!?」

 

 

 唐突に遺跡全体に振動が走った。ゴゴゴと経っていられない程の振動に襲われる。

 俺はトスカ姐さん達と一緒に一度遺跡の部屋から逃れたが―――

 

 

≪―――ガラっ!!≫

 

「た、助け――ぎゃぁぁぁぁぁぁっ・・・・・・」

 

 

 断末魔の悲鳴が遺跡にとどろいた。

あ、いっけね。アイツ放置したまんまだった。

 

 

***

 

 

「・・・あちゃー、完全に瓦礫の下だ」

 

「バカ領主だったけど、最後がコレじゃ浮かばれないだろうねぇ」

 

 

 すこしして振動が収まった為、バハシュールが潜伏していた部屋へと戻った。

 中は天井や壁が剥がれおちて所々瓦礫で埋まっている。

 そしてバハシュールがいた場所は赤い水で染まっちゃってました。

 どう見ても下敷きです、本当にどうもありが(ry

 

 ま、バカ野郎だったけど、死んじまったにはしょうがない。

 死者は冒涜するに非ずってな。寂しとこだけど墓標くらい立てといてやるさ。

 

 

 

―――そんな事を考えていた時だった。

 

 

 

「ほう。バハシュールのボンボンを潰しちまったのか。そいつぁ、ちっと悪ぃことしちまったなぁ」

 

「へ!?誰ッスか!?この素敵な銀河万丈ボイスは!?」

 

「ユーリ!メタな事言ってないでアソコだ!」

 

 

 トスカ姐さんが指差した先、天井が崩れて瓦礫が積み重なった山の上にヤツは居た。

 

 

「お、おまえは!!・・・・・・誰ですか?」

 

 

 なんか俺の後ろでズッコケる音が複数聞えた。

 

 

「あんたあいつが誰か知らないのかい!?」

 

「えー、だって知らないッスよ。あんなイカリ肩で髭の素敵なおじ様なんて」

 

「男におじ様っていわれても気持ち悪ぃだけなんだがな・・・まぁいい。俺はヴァランタイン。大海賊ヴァランタインだ!小僧も名前くらいは聞いたことがあるだろう?」

 

「・・・ヴァラン・・・タイン?・・・・マジで?」

 

「おう、よくも俺様を罠に嵌めてくれたよなぁ?俺は愉快だぞ?楽しめそうだ」

 

 

 何がーーー!??と、叫ばなかった俺を褒めてくれ。

この素敵なお髭のおじ様が歌にもでる大海賊ヴァランタインだって!?

あかん、完全に記憶から抜け落ちてやがる・・・。

 え?という事はもしかして、もうゼーペンストの艦隊を超えて来ちゃった?

 

 

「はっはー。こっちはわざわざ策にノッてやったんだ、感謝して欲しいもんだぜ」

 

「あ、その件はどうもありがとうございますですハイ」

 

「お、いやいや、ガキの遊びに付き合うのもオトナノタシナミってヤツでな」

 

 

 ははは、不味い、今気付いたけどものすごい威圧感。

 身体が震えそうだけど、ソレを見せる訳にはいかない。

 カラ元気で頑張ってみたけど、もう泣きそうですー。

 

 

「お前らの目的はエピタフだろ?そいつは俺の後ろにあるんだぜ?だけどコイツは俺のモンだ。悔しかったら俺と戦って―――」

 

「・・・・とったんじゃよーっと」

 

「「あ」」

 

 

 なんかガコって音が聞こえたかと思えば、ヘルガが話しの途中に背後に回っていたらしい。

 台座に安置されていたエピタフを掴んだヘルガが、得意げそうにこちらに掛けてくる。

 ちょ!ヘルガ!お前空気読まないにも程があるぞ!

 

 

「ほい艦長。これがエピタフじゃよーっと」

 

「・・・成程、全部小僧の指示か?」

 

「え?!いやその!?」

 

「・・・・や~れ、やれ。大人でも、ガキが悪さしたら怒んなきゃだめだよなぁ?小僧」

 

「そ、ソレは時と場合によると、俺は思うッスー!!」

 

 

 ひぇぇぇぇぇっぇぇ!!??怒気がましていくぅぅぅぅぅぅ??!!

 あ、青筋がスゲェ事になってますよヴァランタインさーーーん!!

 つーか私は何も関係ないって感じでエピタフ渡すなよぉぉぉぉぉ!!

 やっぱりこれ疫病神じゃァァァっァァ!!!

 

 

≪・・・・ヴヴヴヴ≫

 

「あ、あれ?なんか光り始め――」

 

「なに!?まさかお前も!」

 

 

 ってしまったぁぁぁ!!俺が観測者だってばれちまったぁぁぁ!!

 つーかエピタフ何で反応するかなぁ!?以前のヤツは反応しなかっただろう?!

 

 

「今だ!ソレ!」

 

≪ボフン!≫

 

「な、煙幕だと!くそ小僧待ちやがれ!」

 

 

 一触即発になりかけた時、俺の後ろで控えていたトスカ姐さんが煙幕弾を使った。

 辺りは一瞬にして煙に包まれる。俺は誰かに肩を掴まれて遺跡から逃げだした。

 そしてすぐさま待機していたVBに乗り込み、遺跡から脱出した。

 

 

 途中でいまだ光り続ける懐のエピタフの事を思い出したので、

 とりあえず光るエピタフに“光んのやめい!”と強く願ったら光らなくなった。

 俺GJ,だけどマジでヴァランタインが怖かった。死ぬかと思った。

 

 

「さぁ早く出港準備しないと、ヴァランタインが追って来るよ?」

 

 

―――え?なんで?

 

 

「だってユーリ、エピタフを持って来ちまったじゃないか?」

 

「・・・・・いやぁ~~!!返す!コレ返す~~!!」

 

「ちょ!ユーリ!ドア開けんな!危ないだろう!」

 

 

 離せ!離してくれぇぇぇ!!コイツを返さないとマジで追って来るって!

 つーかなにコレ?なんなんだよおぉぉぉぉ!!

 

 

「エピタフのばかぁぁぁ!!」

 

 

***

 

Side三人称

 

 ゼーペンスト領にあるデブリ帯、普段は漆黒の闇に閉ざされている空間。

だが、今は閃光に照らされてその姿をさらしていた。

 

 そこかしこで上がる閃光が、デブリ帯の近くを航行する駆逐艦に命中する。

 シールドで防がれたエネルギーは徐々にシールドをすり潰して貫通。

 指向性エネルギー弾の直撃を受けた駆逐艦が火球となった。

 

 

「――ッ!有人S級10番艦中破、いえ撃沈されました」

 

「ったくなんて奴らだい!残りの駆逐艦は!」

 

「残り4隻、計6隻が沈められています」

 

 

 そしてその駆逐艦を率いていた白鯨艦隊は今、壊滅の危機にあった。

 既に護衛艦の半分以上が敵のフネに沈められてしまい、敵を振り切ることが出来ない。

 ソレもそうだ、相手はマゼランに名をとどろかす大海賊。

 

 

「ヴァランタイン、やはり手ごわ過ぎるッス」

 

 

 大海賊ヴァランタインが率いる海賊戦艦グランヘイムが相手だったのだから。

 ユーリ達は首都惑星を脱出した後、追撃してきたグランヘイムによって攻撃を受けた。

 その際に2隻の駆逐艦が沈められ、ステルスを使う暇も無く後退する事になる。

 

 反撃をするが生半可な攻撃はグランヘイムの持つ強固な装甲に阻まれ、ダメージを与えられる攻撃はことごとく卓越した操船によって回避されてしまう。なんとかデブリ帯付近にまで逃げて来られたが、既に白鯨艦隊は追い詰められていた。

 

 

Sideout

 

***

 

Sideユーリ

 

 

 不味い不味いマジでヤバいってどうすんのどうすんの俺ライフカードぉぉぉ!!

 って取り乱してる場合じゃ無かったぞコンチキショイ!

 

 

≪ズズーン!≫

 

「デフレクターに至近弾、デフレクター耐久値3%低下」

 

「・・・・掠るだけでこれってどう何スか?」

 

「恐らく大マゼランの技術である超縮レーザー砲なのではないかと推測できるな」

 

 

 そうッスかサナダさん!相変わらずのご高説感謝!

だけど今はそれどころじゃねぇよ!

 

 

「―――待て待て落ちつけ俺、まだ何か方法が」

 

「敵艦主砲発射!」

 

 

 考える暇もありゃしない。

グランヘイムの三連装砲が放ったビームがユピテルのデフレクターを揺らす。

デフレクターの耐久値がドンドン下降していくのがモニターに表示された。

ケッ!やっぱクソ強ぇなヴァランタイン!あれが大マゼランの実力かよ!

 

 

「ビームの一部がデフレクターを突破、熱処理装甲に被弾、損傷無し」

 

「くそ、お返しにHLでもぶちかましたろうか?≪ドーン!≫な、なんだ!?」

 

「ッ!メイン噴射口に直撃弾!ユピテルの巡航速度が60%ダウン!」

 

 

 どうやら三連装砲だけじゃなく、単装砲も発射していたらしい。

 しかも一発の威力は三連装砲よりも上だったらしくデフレクターを突破。

 メインエンジンの噴射口が破壊されちまったよオイ。

 

 

「機関室に火災発生!ダメージコントロール中!」

 

「速度が保てません!このままじゃ追い付かれます!」

 

 

オペレーターのミドリさんとユピの報告が飛ぶ。

 くッ、生き残っているこちらの戦力はアバリスと護衛艦が4隻か・・・。

 

 

「・・・・あ~、だーめだこりゃ。逃げられねぇッスな」

 

「ユーリ!アンタ!」

 

「落ち着くッス。トスカさん取り乱しても何も解決しないッス」

 

 

 はぁ、八方塞がりで逆に冷静になっちまったよ。

 恐らくは連中は俺達の脚を止めて、乗りこんでくる気なのかもな。

 もしくは莫迦にされたと考えて、なぶり殺しか・・・しゃーないか。

 

 

「リーフ、あのデブリの影に艦を寄せてくれッス。敵を近づけさせない様にHLを発射」

 

 

 とりあえずデブリ帯にある小惑星の陰にフネを隠した。

 HLのお陰で敵は近寄ろうとはしない。

 だけど修理する暇なんて無いから俺はある判断を下した。

 

 

「ユピ、全艦放送に切り替えてくれッス」

 

「あ、はい・・切り替えました」

 

「ん、あんがと―――あー、こちら艦長のユーリだ。全艦聞えているな?』

 

 

 俺は手元のコンソールのマイクからフネの中に放送を流す。

 コレは最後の手段でもあり、ある意味仕方の無い事だからな。

 

 

『全艦クルーに告げる。全クルーは速やかにアバリスへ待避せよ。総員退艦ッス。本艦はこれより単艦でグランヘイムを食い止める為反転するッス』

 

「ユーリ!アンタ!」

 

「艦長!?」

 

 

 俺は言い寄ろうとするトスカ姐さんとユピを手で遮り、放送を続けた。

 

 

『繰り返す、全クルーは脱出艇にのり、速やかにアバリスへと待避せよ。コレは艦長命令だ。拒否は許さん。総員速やかにアバリスへと移乗を開始せよ。俺からは以上だ』

 

 

 マイクを切る。これでいい、こうすれば白鯨艦隊の全滅という事態は避けられる。

 俺が艦長席に座ろうとすると、横から腕がにゅっと伸びて胸倉をつかんだ。

 

 

「・・・・何スか?トスカさん」

 

「見損なったよユーリ。あんたユピを見殺しにするつもりなのかい?」

 

「・・・あ、その、きっと艦長にもお考えが」

 

「あんたは黙ってなユピ。私はユーリに聞いている」

 

 

 怒り顔のトスカ姐さんが今にも俺を殴ろうという感じで腕を振り上げています。

 だけど、何でこんな指示を出したのか理由を聞きたいって感じか。

 

 

「なに、簡単な理由ッスよ。肉食獣に追い詰められたエモノが複数いたなら、誰かが犠牲になることで全滅の憂いは避けられるッス」

 

「ほう?その為にユピテルを、ユピを犠牲にしても良いってのかい?!仲間じゃなかったのか!」

 

 

 バキンという音と、頬に走る衝撃と激痛・・・トスカ姐さんに殴られました。

 あるぇ~?俺って艦長だよね?部下に殴られるってマジっすか?

 だけどトスカ姐さん、アンタは一つ勘違いをしているぜ。

 

 

「・・・なにか勘違いしてるみたいッスけど、ユピの人格データはアバリスに転送可能ッスよね?」

 

「あ、はい!私は今や白鯨艦隊そのモノですから、白鯨艦隊のフネが残っていれば・・・」

 

「そう言う事ッス。だからユピは心配いらないッス。問題はこのフネは無人コントロールが出来ないって事ッスよ」

 

 

 ユピテルは今は旗艦として運用する事を前提としており、必要ないモノだろうって事で、マッド達にその無人コントロール機能を取り外されているのだ。正確には誰か一人いないと戦闘を行う様な運航が出来ない。

 

 だから誰か一人ブリッジに残る必要がある。

 だが、それにも問題があるのさ。

 

 

「チッ、そう言う事かい・・・で、誰を残すんだい?アタシかい?それとも―――」

 

「俺が残るッスよ」

 

「・・・・なんだって?」

 

「聞えなかったッスか?俺が残るんスよ。艦長席のセキュリティの関係上、一人でフネを動かすには俺の生体情報がいるッス。つまり、俺しかこのフネを単艦で操れないんスよ」

 

 

 そう、セキュリティが強化されている為、俺以外の人間に艦長席の機能が使えない。

 艦長席のコンソールからでしか、ユピテルの全機能制御は行えないのだ。

 そして、現在このフネの艦長は俺だけだ。

 

 まぁミョルニルアーマーあるし、ブリッジは装甲板の下に入ってるし、直撃貰わなきゃ沈んでも生きられると思うしなぁ~。俺まだ死ぬ気は無いし。

 

 

「あんたは・・あんたが、何で・・・」

 

「艦長ダメですよ!一人残るなんて!死んじゃいますよ!」

 

 

 いやしかしですな?誰かが残らねぇとグランヘイムは止められネェよ。

 スケープゴートを残さないと、みんな死んじまってからじゃ遅いんだヨ。

 

 俺はそう言って二人を説得しようとするが、なんか全然来てくれない。

 しまいにゃなんか気絶させても連れて行くとか言い始めるし、それじゃ誰が動かすんだよ。

 確かに危険だと思うけど、戦闘行動が取れないフネなんてすぐに撃沈されちまうから意味無いんだよ。

 遠隔で動かしたくてもセキュリティやハードの問題で無理だしさ。

 

 

「とにかく、みんなが生き残るためにはこれしかないッス。大丈夫、俺は死ぬ気なんて無いッスよ」

 

「ユーリ・・・」

 

「うぅ・・・艦長」

 

 

 まぁエクストリームブラスターの直撃とか受けなきゃ問題無い。

ブリッジ周辺は特に強固に造られてるしな。

最終的には俺専用のVFで逃げようと思うし・・・。

 

つーかすげぇんだぜ?このブリッジから直通で専用の格納庫に降りられるんだ。

マッドに専用機造ってって言ったら専用の格納庫も付いてきました。

マジでマッドぱねぇ。まぁそんな訳で俺の逃げるルートは確保してあったり。

 

 とにかく、時間がないんだから二人とも脱出してくれッス。

 それになんか涙目で見られると非常に罪悪感がふつふつと・・・。

 

 

「まぁそう言う訳で二人ともアバリスに脱出してくれッス」

 

「・・・・私は残るよユーリ。副長は艦長の隣に居るもんさ」

 

「いや、だけどこんな博打につきあわなくても」

 

「0Gなめんじゃないよ。生きてるうちは博打じゃないか。なら一世一代の大博打にかけるのも酔狂ってもんだろ?」

 

 

 ちょっ!トスカ姐さん何言ってんスか!?

 

 

「私も残ります」

 

「ちょっ!ユピまで!」

 

「幾らデータが生き延びると言っても、私は艦長以外の人の元に行く気は無いんですから」

 

「・・・・・(えー、なにソレ?まさかの告白?いや、そんな訳が・・なんなんさー!?)」

 

「だから残ります。アバリスにデータ転送なんてしません。艦長がフネと運命を共にするというのなら――私も残ります」

 

「そう言うこった。嫌だって言っても聞かないよ?私らはフネに残る」

 

 

 ちょ、待って!なにフネと運命を共にするって感じになってんの?!

 足止め出来たら俺も脱出する気満々なんだけど!?

 

 

 ・・・・あ、でも今までの言動だと・・・うわぁ、俺なに英雄的行動取ろうとしてんの?

 リアルでOTLだわぁ・・・鬱りそうだわぁ。

 

 

「ZUーーーーN・・・・」

 

「ちょっと、何落ち込んでるだい?」

 

「いや、なんでもないッス」

 

 

 い、いえねぇ、実は後から脱出しようとか思ってたとかなんて・・・。

 ど、どうしよう!?あーーーーーもう!どうにでもな~れ☆

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

 さて、結局のところなんですが・・・。

ブリッジクルーはエコーとイネスを除き全員残るそうです。

 なんか梃子でも動かネぇって感じで逃げろっつてんのに残るって怒られた。

 

 仕方ないので、イネスにはチェルシーの事を頼むことにした。

 流石に博打につきあわせたくは無いからね。

 というかイネスに任せたのは、多分彼女も残ると言いそうだったからだ。

 

 ソレだけは兄ちゃん許しまへん!

チェルシーの花嫁姿を見るまでは死なんぞーー!!

 

 

「・・・・・」

 

「ちょ!ユーリどうしたんだい!?目からハイライトが消えてるよ!?」

 

「いえ、ちょっとチェルシーが花嫁になって誰かの元に嫁ぐのを想像したら・・・」

 

「何してんだい・・あんたは」

 

 

 ああ、溜息つかないでくれ、結構切実な問題なんだぞ?

 可愛い義妹が嫁に行く・・・うう、交際相手と対峙する俺!

 妹さんをください!だが断る!そしてギリアス、テメェはダメだ!

 

 

「艦長、トリップ中申し訳ないのですが――」

 

「いやトリップって・・まぁいいッスけど何スかミドリさん?」

 

「そろそろ動かないと敵艦がミサイルの発射準備をしている様なのですが」

 

 

 げ、ミサイルかよ。もしかしてなんかスゲェ威力の弾頭とか言うんじゃねぇだろうな?

 反陽子弾頭ならともかく、量子魚雷だったら直撃じゃなくてもきついぞ。

 

 

「仕方ないッスね。アバリスは?」

 

「既に最大戦速で宙域を離脱しました。我々に残されたのは無人S級艦4隻だけです」

 

「上等ッス、ソレだけあれば囮には持って来いッスからね」

 

「無人艦を特攻でもさせますか?」

 

「はは、武装したミサイルって・・・・いい考えッスね」

 

 

 おお、どうせ出し惜しみしねぇんだからソレもありかもな!

 色んな方位から突っ込ませれば、一隻くらいは到達出来るやもしれん。

 ちょっと今回は数が足りないから、ミサイルじゃなくて移動砲台だけどな。

 

 

「トクガワさん、機関出力はどれくらいまで出せそうッスか?」

 

「そうじゃな、ケセイヤ達が修理しているからもうすぐで全力の7割で動かせるじゃろう」

 

「へぇケセイヤさん達が・・・ってケセイヤさん達降り無かったんスか?!」

 

「“どうせ他じゃ好き勝手出来ねぇんだから、ココ以外居場所はねぇよ”と、彼らは言ってましたよ艦長」

 

 

 ・・・・・おいおい、整備班の連中の腕ならどこででも食って行けるだろうに。

 ――って待て待て、今の言い方だと死亡フラグだろう俺。

 

 

「ちなみに私も残っていたりするぞ少年」

 

「ミユさん!?」

 

 

 突然聞えた声に驚いて飛びあがって振り返るオイラ。

 見れば白衣を着たナージャ・ミユさんがそこに立って居た。

 

 

「意外とキミを慕う人間は多いという事だ。流石に教授は避難させたがな」

 

「え!?あの人まで残ろうとしてたんスか!?」

 

「梃子でも動きそうに無かったから、ヘルガに任せたよ。彼女が鷲掴みにしてアバリスに行った」

 

 

 何でだろう、ヘルガが教授の頭を鷲掴みにして引き摺る光景が普通に見える。

 つーか老人をいたわろうぜヘルガ。お前も元老人だろうに・・・・。

 

 

「まぁそう言う訳で、このフネの乗員の内、タムラやアコーエコー姉妹、それとイネスやチェルシーやルーべや生活班と医療班の大半が離脱している。ちなみにサド先生は離れる気は無いそうだ。彼の酒のコレクションは何気に多いからな。酒と共にココで果てたいらしいぞ少年」

 

「・・・・つーことは、結局艦を離れたのは6割弱って事ッスか」

 

「そう言う事だ。良かったな少年。残りは皆お前を慕っているって事だ」

 

「うわっ、なんか嬉しくて泣きそうッス」

 

「ふふ、胸を貸してやろうか?」

 

「いえ、ソレやるとなんか怖いんで止めとくッス」

 

「ソレは残念」

 

 

 つーかミユさん、流し眼でそんな事言わんといてくらはい。

 スンごく引かれます。ええ、ぼくオトコノコです!

 

 ソレはさて置きモニターに目を戻す俺、モニターには敵のグランヘイムが映っていた。

 正直逃げたいです。誰かワープ技術をください。もしくはハイパースペースでも可。

 このさいフォールドでもいい、目の前の恐怖から俺を逃げさしてくれ。

 

 

「現実逃避は今更だと思うぞ少年」

 

「ですよねー」

 

 

 俺はそう言って少し泣き、頬をパシンと叩いて気合を入れる。

 さぁて、覚悟完了!やったろうじゃんか!

 

 

「HL発射準・・・」

 

 

 俺はグランヘイムの気を引く為、攻撃指示を下そうとした。

 だが俺が攻撃指示を出す前に―――

 

 

「グランヘイムに爆発反応、敵損傷軽微」

 

「・・・・へ?」

 

 

―――何故かグランヘイムが攻撃を受けていた。

 

 あれ?俺まだ攻撃指示出してないよね?何故なの?どうしてなの?

 いきなりの事態に頭が吹っ飛びそうになった。つーか既に混乱の極みです。

今なら鼻からスパゲッティを・・・いや幾らなんでも混乱し過ぎだ俺。

 もっとCOOLになるんだ。決してKOOLでは無くCOOLだぞ。

 

 とにかく深呼吸をした俺がモニターを見た時に、その眼に映ったのは見覚えがある機体。

 VF-0と呼ばれるアバリスの護衛を頼んだ艦載機達が写っていた。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Sideププロネン

 

 

『こちらアバリス、なんとか安全圏には出られたぜ。護衛感謝だ』

 

「了解しました。引き続き護衛を続行します」

 

 

 通信機に入るアバリスからの通信を聞きながら、私はそう応えていました。

 だが、内心私の心は憂鬱でした。何故私はココに居るのか?ソレだけが脳内を占めています。

 

 今回まことに不幸な事に、私の艦長はヴァランタインに目をつけられてしまった。

 当然普通ならソレだけで絶望してしまい、生きることすら放置する事もあります。

 しかし艦長は止まることはせず、何とヴァランタインの手の内から逃げようとしていました。

 

 流石は私が艦長と認めた人物です。物怖じしない姿勢には好感が持てます。

 とはいえ今回は相手が悪すぎました。流石は大海賊の名を持つ者。

 今の我々だけではとてもじゃないですが敵わなかった様でした。

 

 徐々に落される護衛駆逐艦、数少ない有人艦も落されてしまいました。

 なんとかゼーペンスト領のボイドゲートまで半分の所までは逃げられましたが、そこでついにヴァランタインのグランヘイムに捕捉されてしまいました。

 

 そして艦長は決断なさいます。それは二手に分かれ片方が食い止めるというものでした。

 元々の艦隊で勝てないのに、ソレを二手に分けるなんて狂気の沙汰かと思うかもしれません。ですが“生き残る”という観点から見ればソレは正しい判断に見えました。

 

 絶対的な強者から逃げるには贄が必要となる。

 つまりグランヘイムを食い止める方は“贄”なのです。

 かの大海賊の機嫌を直す為の供物。

 

 その時はてっきり私たちにもお呼びがかかるモノだと思いました。

 我々戦闘機隊は艦隊戦においては元々足止め等が主流として行われます。

 ですから残る方に我々も残されると覚悟を決めていたのです。

 

 ですが実際は、艦長は我々に逃げるフネを守るように指示を出しました。

 あっけにとられた私たちが反論する前に、アバリスは発進してしまい、私たちトランプ隊は護衛の為アバリスへとくっ付いて行く事になったのです。

 

 そして気が付けばこんな所にまで来てしまった。

 遠くにかすかにグランヘイムの砲火の光が見える。

 ・・・・私はココで何をしているのだろうか?

 

 

『リーダー、あのさ・・・』

 

「ガザン、わかっています」

 

『ッ!だったら!』

 

「しかし艦長は我々にこのフネを守れといったのですよ」

 

 

 そう、私たちはアバリスの護衛を頼まれた。

 だから離れる訳には・・・いやしかし、う~。

 

 

『あ~、その事なんだが』

 

「何ですかトーロさん?」

 

 

 ふと通信を見ると、頬を掻いているトーロさんの姿が写っていました。

 何かトラブルでもあったのでしょうか?ま、まさかエンジントラブル!?

 だとしたら我々が今度は囮になると―――

 

 

『ココまで来ればグランヘイムでも追い付けねぇと思う。だからお前さんたちはユーリの応援にいってやってくんねぇか?アイツだけじゃ大変だろうしよ』

 

 

―――よし、帰還しましょう。丁度護衛対象からも許可を貰いましたしね。

 

 

「では我々はユピテル援護の為帰還します」

 

『おう、我らが艦長殿を助けてやってくれ。俺は無事にクルーを安全な所にまで運んで行くぜ』

 

「お願いします。VF隊、VB隊、私に続け!艦長を助けに行きますよ!」

 

 

 そして私たちは一路反転、ユピテルに照準を合わせているあの海賊へと攻撃を仕掛ける。

 はは、既に私が使えるべき人は決まっているという事なんでしょうね。

 見殺しになんてさせません。私たちは艦長の手足なのですから・・・。

 

 

Sideout

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 

 さてさて、ちーと・・・つーかかなりヤベぇかな?

 

 

「大6ブロックに直撃弾!熱処理装甲貫通!隔壁閉鎖!」

 

「熱処理装甲の排熱!追い付きません!」

 

「デフレクター展開効率が更に低下・・・このままだと不味い・・・かも」

 

 

 流石は原作において一隻で数千の艦隊を相手にしたフネだけある。

 トランプ隊が決死の足止めをしてくれているお陰でなんとか持っているけど時間の問題か。

 

 

「HLシェキナ発射、エネルギーブレッド直進―――命中、敵損害なし」

 

「がぁぁ!!クソ!!どんだけ堅いんだよ!」

 

「落ちつけストール」

 

 

 こっちも反撃してるし、誘導性の光弾だから当たるっちゃ当たる。

だけど、どうも有効なダメージを敵に与えていない様なのだ。

これでも大分強力な武装なんだけどなぁ。

下手すると兵装スロットLLクラスのビーム砲と同威力が出せる。

だけどソレ位の大砲を敵さんも詰んでいらっしゃる訳で・・・

 

 

「成程、自分の主砲程度なら耐えられる装甲板を積んでいるのか・・次回の改装の時にやってみるか」

 

「その次回がくればいいんスけどね」

 

 

 どうしてくれよう?いやマジで。

 こちらの攻撃は効きづらい、機動性は同程度。敵は攻撃も防御も上。

 唯一こっちが勝っているのは、誘導光線兵器としての精密さ。

 ふーむ・・・ぽくぽくぽくぽく、ちーん!そうだ!

 

 

「ストール、敵の主砲を狙えるッスか?」

 

「主砲を?あの三連装砲の事か?」

 

「ウス、武装の繋ぎ目なら弱い可能性があるッス」

 

 

 ほら!よくあるだろう?主砲が折れまがったりして攻撃不能とかさ?

 ソレをやればもうしばらくは・・・持つと思うし・・・。

 

 

「アイサー艦長、やってみる。ミドリ、データリンクを」

 

「もうやっています。トランプ隊の電子戦仕様VFとリンクしました」

 

「おっしゃ!それじゃほいきたポチっとな!」

 

 

 HLの発振体からビームが発射される。

 発射されたビームは空間に浮かぶ不可視(と言っても、微妙に空間に歪みが見える)の重力レンズが偏向し、グググと軌道を大きく逸らして敵の元へと直進する。

 

 そして微調整を繰り返しつつ、ビームは敵へと命中する。

 だが、ビームが敵の主砲に当たる直前・・・。

 

 

≪―――・・・ビシャァァァ!!!≫

 

「エネルギーブレッド空間中で拡散、兵装撃破ならず」

 

 

まるでホースから出た水が傘によって防がれるかのように、空間中でビームが拡散して消失してしまった。いや、どっちかって言うと何かとがったモンに当たって水流が分散した時に似ている。

一体どうなってんだ?

 

 

「装甲が分厚いって訳でも無さそう何スが、どうなってるんスか?」

 

「瞬間的な重力場の乱れが感知出来た。恐らくピンポイントでデフレクターを展開したんだろう」

 

「ピンポイント?そんなことできるんスかサナダさん(つーかピンポイントって、マクロスかよ・・・)」

 

「ふむ、必要な時にのみ展開するんだろう。フネ全体を包むよりもある意味効率が良い。だが敵の攻撃を予め予測できなければ意味は無いし、出来たとしてもタイミングが難しい。我々の知らない技術なのかも知れん。ただ言えるのは通常のデフレクターよりも高密度であるから、攻撃を防ぐ力もケタ違いという事だろう」

 

 

 うわ~、アレですか?ロストテクノロジーとか言うヤツ。

 この世界の技術って、実はマゼランに来る前の移民船時代の時の方が上らしいんだよね。

 船内で世代交代を何度も繰り返したらしいから、失われた技術とかもあるんだとか。

 

 で、それがロストテクノロジーってヤツらしい。

 でも考えてみると始祖移民船とかってまんまマク○スだよねー。

 ゲームだと全体が把握できない程デカかったから全長数十kmはあるよ。

 ・・・ん?でもあれマ○ロスよりかはゼ○ギアスのエルドリッジにも似てた様な・・。

 

 

≪ズズーン!≫

 

「敵ビーム、デフレクターと接触。艦長指示を出してください」

 

「おっと、悪いッス」

 

 

 いけね。ついつい考え事しちまったぜ。

 だけどどうッスかなぁ、まさかあんな強力な防御システム持ってるなんて。

 デフレクターの一点集中、ソレによってピンポイントで攻撃を防ぐことが出来る。

 なんかオペレーター三人娘がボール型コンソールを一生懸命回してるビジョンが・・・。

 

 

「ブンブンブン(いかんいかん、集中せねば)」

 

 

あ、でもデフレクターの集中運用とかウチもやってるか。

HLシステムの空間重力レンズなんかモロそうだしな。

 ウチがあれを攻撃につかったんなら、向うは防御で使ったって感じ?

 うわ~、パクリとか言われてパテント料払えとか言われねぇだろうな?

 

 

「どうするユーリ?ビーム系は防がれちまうよ?」

 

「・・・もう一度シェキナを発射ッス」

 

「でも艦長、もう一回やっても防がれちまうぜ?」

 

「構わんッス。その代わり全砲を一点に集中、それとトランプ隊に指示、こちらの攻撃が命中すると同時に兵装を狙って攻撃を開始せよッス」

 

 

 デフレクターを一点に集中している時、他の重力波防御領域が薄くなると予想される。

 実弾系の対艦ミサイルやR(レール)G(ガトリング)P(ポッド)を搭載しているVFなら、APFSの影響を受けないだろうから、ある程度のダメージは期待できる筈!

 

 

「OK,座標変わらず!FCSコンタクト!ポチっとな!」

 

 

 そしてストールのポチっとなの掛け声とともに、ユピテルからHLが発射された。

 相変わらずの正確な砲撃、当然相手も同じ場所を狙うと解っていたんだろう。

 

 

「敵収束デフレクターの稼働を確認、エネルギーブレッド拡散されます」

 

 

 そして二度目の攻撃無効化、ビームが拡散されてスプレー状に広がり霧散する。

 スプレー状になってもエネルギーは持っているから装甲に当たれば火花は散るが、グランヘイム級の堅牢な装甲を破るには至らない。

 だが―――

 

 

「トランプ隊攻撃を開始。対艦ミサイル、上甲板三連装砲及び側面部三連装砲を破壊を確認」

 

 

 そして思った通り同時に攻撃を仕掛けると、すんなりと攻撃が通った。

 まずはグランヘイムの主要兵装である3連装砲が破壊される。

 

 

「VB-6G(ガザン仕様)、レールキャノン発射、後部単装主砲を4基撃破」

 

「おっし!これで主要兵装は潰した!畳みかけ・・・」

 

「待ってください!敵艦インフラトンインヴァイターの出力上昇中!30、50%!?なおも上昇!本艦の最大臨界出力を越えます!」

 

 

 敵の主砲を潰したので、俺達は更に攻撃を仕掛けようとした時だった。

 急激にグランヘイムのエネルギーが上昇を開始したのである。

 ソレはユピテルのエネルギー総量を軽く上回る量であった。

 

 

「これは・・・艦長、敵艦から通信が――キャッ!」

 

「え?」

 

 

 ミドリさんの悲鳴に驚きオペレーター席を見ると、コンソールが火花を上げていた。

 強力な信号で強引にユピテルの通信回線が開かれたのだ。

 そして中央空間投影パネルに、あの髭が素敵なヴァランタインが映し出される。

 

 

『・・・・よう、小僧。よぉくもやってくれたな?俺の大事なフネが傷付いちまったぞ?』

 

 

 相手の声が入ったその瞬間、まるで身体の芯を鷲掴みにされたような感じがした。

 全てを見透かされ、その上で相手がどう踊るのか楽しむかのような視線・・・。

 通信機ごしだというのに、何と言うプレッシャーだろう。

 

 

『なんだぁ?ダンマリ決めちまってよ?まぁ良いがな。よくぞまぁ俺相手にココまで頑張ったモンだ。この銀河にゃ骨のある連中なんていないかと思えば、中々どうして』

 

「・・・・なにが、したいんスかあんたは・・・なんで、通信を――」

 

 

 俺は相手の放つプレッシャーの最中、絞り出るように声を出した。

 マイクの感度が自動で上がるシステムが無ければ、聞き取れない様な声。

 俺のその様子を見て、ヴァランタインは獰猛な笑みを浮かべる。

 

 

『・・・はは、なぁ~に、ちょっとはがんばって“楽しませて”くれたオコサマに、ちょっとしたプレゼントを上げようと思ってな?こっちを見てみな』

 

 

 ヴァランタインにそう言われ、外を見るパネルを見る。

 するとグランヘイムの艦首部分が可動しているのが見えた。

 竜が顎門を開くかの如く、上下に開かれた艦首から何かがせり出してくる。

 

 

「・・・は、はは、それも“オトナノタシナミ”とか言うヤツッスか?」

 

『そう言うこった。お前が真に0Gを名乗るなら、これくらい耐えて見せろ。それじゃさいなら』

 

 

 そう言ってヴァランタインが通信を切った途端、世界が揺れた。

 

 

「ユ、ユーリ!?」

 

 

 いや、正確には俺が倒れそうになったんだ。

 通信が切れた途端、プレッシャーから解放された。

 その解放感からか身体から力が抜けて倒れそうになったんだ。

 

 

「―――はは、なんだありゃ。マジでバケモンっスか・・・」

 

 

 乾いた笑いが口から出る。本人と対面した訳じゃなくて通信だけでこうなった。

 本人と対面した遺跡においては、相手は本当に“遊び”のつもりだったんだ。

 つーか、通信先の相手を震え上がらせるプレッシャーとか、どんな漫画だよ。

 

 

「ユーリ、大丈夫かい?」

 

「大丈夫ッス・・・いや本当はヤバいッスけど、けど倒れてらんないッス。ミドリさん」

 

「はい、何でしょう?」

 

「トランプ隊に通達、あの艦首からせり出した敵の特装砲を攻撃して止めろと。もしもあれの発射までに止められない場合、グランヘイムの前方の宙域から即座に離脱せよ――と」

 

「了解しました」

 

「トクガワ機関長、エンジンを臨界一杯で動かしてくれッス。あとユピ、人間が居ない場所は生命維持装置を解除、エネルギーを全部兵装に回すッス」

 

「了解じゃ」

 

「あ、あいさー」

 

 

 まだ足がガクガクするなかで、俺は指示を出してなんとかしようとする。

 だが、敵の主兵装こそ破壊したモノの―――

 

 

「トランプ隊苦戦中!対空ビームシャワークラスターです!」

 

「チッ!艦長!連中を援護してやらねぇと!」

 

「解ってるっスよ!ストール!」

 

「あいよ!ポチっと「敵艦から大型対艦ミサイルが発射されました!本艦をロックオンしています!」」

 

「ストール!命令撤回!HL拡散モードに!」

 

「アイアイサー!!」

 

 

 だが敵さんにはまだ副兵装と呼べる兵装が残されていた。

 しかもまだまだ報告は続く―――

 

 

「敵艦から艦載機が発進、トランプ隊と交戦中!」

 

「艦長!敵のインフラトンエネルギーが臨界に達するまでもう時間がないぞ!」

 

「敵の予想射線は!?」

 

「計算中・・・ダメです、今の本艦の機動性では・・・」

 

「クソ、万事急須かよ・・・」

 

 

 漂う絶望感、グランヘイムの艦首特装砲はハイストリームブラスターと呼ばれるモノだ。

 またの名を軸線反重力砲、重力波をビーム状に照射し、軸線上の敵を押しつぶす兵器だ。

 そしてその照準は本艦に向けられている。マジで万事急須だ。

 

 

「敵、特装砲発射まで、のこり約20秒、トランプ隊の迎撃、間に合いません」

 

「トランプ隊に退避勧告、至急敵の射線上から退避させるッス」

 

「―――ソレはいいとして、私たちはどうするんだい?」

 

「・・・・・・」

 

 

 どうすると言っても、もはやどうしようもない。 

 考えちゃいるけど、正直もう遅すぎるぜ。

 う~ん、遺書を今かいてもフネが消滅しちゃったらなぁ・・。

 

 って待て待て、まだ諦めんなよ!

頑張れ頑張れ諦めなきゃなんとかなる!そこで諦めんなよ!気力の問題だよ!

 

 

「敵艦特装砲発射まで、のこり約10秒」

 

「・・・・・むり」

 

 

 無理じゃァァァァァァ!!!気力とか云々の前に積んでるゥゥゥゥゥゥッ!!!

 どうすんのどうすんのさ!死んじゃうよこのままじゃ死んじゃうゼ!コンチクショー!

 

 

 そんな事を考えている内に、グランヘイムの艦首が明るく光るのが見えた。

 もう手も足も出ない状況に、俺は思わず艦長席のコンソールに手を叩きつけた。

 だけど、コンソールというのは色んなスイッチがくっ付いているのである。

 

 

≪バキャ―――≫

 

「あれ?なんか嫌な音が手元から――【特殊プログラム作動】――へ?」

 

 

 なにやらユピテルの声では無い電子音声がコンソールから流れる。

 嫌な音がした俺の手の下には、黒と黄色の格子模様に囲まれた、いかにもという感じの赤いスイッチ・・・しかも白いドクロがプリントされていた。

 

 

「な、インフラトンインヴァイターのリミッターが解放されるじゃと!?」

 

「何が起きてるんスか!?」

 

【艦長の声帯パターン確認、特殊プログラム『最後の咆哮』を作動、自動発射システムリンク】

 

「ちょっと!どうなってんだい!?」

 

「ひーん!わかんないですー!!完全にスタンドアローンなプログラムで干渉できませーん!」

 

 

 よくわからないうちに、勝手にFCSが立ち上がる。

 どうやら以前ルーのじっさまに貰った“最後の咆哮”を使う為のボタンだったらしい。

 技能じゃなくて実はコンソール操作だったんだけどね。

 

 

「HLに過剰エネルギーチャージ中、発射まであと5秒、敵砲撃とリンク」

 

 

 そしてカウントが0になり、グランヘイムからハイストリームブラスターが発射される。

 時を同じくして、ユピテルが文字通り最後の咆哮を上げて全力のHLを発射した。

 両者は一瞬だけ均衡をみせ・・・そしてやはりこちらが押し負けて消える。

 

 

――――そして宇宙に巨大な閃光が起こったのであった。

 

***

 

 

Side三人称

 

 

 宇宙海賊戦艦グランヘイム、そのフネの艦橋においてヴァランタインは目をつぶり、まるで瞑想するかの如く腕を組み、静かに佇んでいた。そしてヴァランタインが立っている艦長席の背後のエアロックが開き、背の小さな男が1人入って来る。

 

 その男は顔を隠せるくらいの大きな瓶底眼鏡をかけ、頭が大きくガニマタ。

 薄汚れた安物の空間服とジャケットに袖をとおして羽織っている。

 腰には工具入れらしきポーチをつけていることがから、彼が技術職の人間である事が窺えた。

 その男はキョロキョロと辺りを見回し、お目当ての人物を探し出すと、何の気兼ねも無く声を掛ける。

 

 

「艦長、主砲・副砲の修理終わったぜ。キッシッシ」

 

「おう、相変わらず早いなオオヤマ技術官殿?」

 

「あたぼうよ。こちとら手の速さが自慢ってね」

 

「ちなみにアッチの方も早いのか?」

 

「そいつはヒデェ嫌味だなオイ」

 

「「がっははは!」」

 

 

 その男、オオヤマが声を掛けたのは大海賊の称号を持つ男、ヴァランタインだった。

 普通なら萎縮してしまう様な相手だが、両者は旧知の中らしく気負った感じはしない。

 しいてこの二人の間柄を表現するのなら、友人同士といった方が良いだろう。

 

 オオヤマはすたすたとヴァランタインの横に来るとドカっと腰かける。

そして手に持った物をヴァランタインに向けた。

 

 

「飲むか?大吟醸“微少年”だぜ」

 

「ほう、ブリッジに酒を持ちこむとはな。テメェは本当に周りを気にしねぇ」

 

「キッシッシッシ。だが、飲むんだろ?」

 

「モチろんだ。アルコールは飲む為にある」

 

「ちげぇねぇ」

 

 

 断っておくが宇宙船のブリッジで飲み物を飲むことは、別段禁止されてはいない。

 だが、酒を飲むという事はしない。グランヘイムが海賊戦艦であるからこその光景だ。

 まぁ技術が進歩しているとはいえ、マニュアルでの操船はシビアなモノがある。

 アルコールが入ってする事ではないだろう・・・普通は。

 

 

「―――ング、ング、ング・・・ぷは~、やっぱ仕事の後はこいつだーね」

 

「おっさんくせぇな。一気に煽り過ぎだ」

 

「いいんだヨ。まだまだ造ってあっから」

 

「たく、フネの開発から設計、はたまた無駄と思える酒造りまでこなすヤツなんて、銀河広しといえどもオメェだけだろうなぁ、オオヤマよ」

 

「当たり前だ。人間は無駄がある生き物だ。ならば無駄がなくなればソレは人間じゃあるまいて?」

 

「オメェのその考えはいいな。深く考える必要がねぇ」

 

「人間は複雑だと言うが、実質飯と寝る場所さえあれば生きられる。深く考えたところで本質は変わんねぇさ」

 

 

 そして杯を煽る二人。つーか、その酒はグランヘイム産かい。

 周りのクルーも特に反応を示さない所を見ると、どうもこの二人がこういった場所で酒を飲みかわすのは当たり前のようだ。

 しばらく酒を酌み交わす音だけが、彼らの所から聞こえる。

 すこししてふとオオヤマが、微妙に機嫌が好さそうなヴァランタインに気付いた。

 

 

「どうしたヴァランタイン。なんかいいことあったか?」

 

「なに、久々に面白味のあるガキどもだったと思ってな」

 

「ああ、あいつ等の事か。そういや普段ならあんな連中すぐダークマターに変えちまう様な性格してるお前が見逃すなんて珍しい事もあったモンだ。明日はきっと宇宙乱流が起きるね」

 

 

 怖や怖やといってオオヤマは手に持った杯を煽った。

 流れる沈黙、これまた少ししてオオヤマが口を開く。

 

 

「・・・・ソレだけ気にいったか?」

 

「気にいったってよりかは、まぁ同族を見つけたってとこか」

 

「なんぞそら?」

 

 

 オオヤマはヴァランタインの言った事の意味が解らず首をかしげる。

 大海賊の船長はそんな彼を気にせず、手酌で酒を継ぎ足した。

 

 

「ま、俺たちゃキャプテンについて行くだけだがね―――あ!お前注ぎ過ぎだぞ!俺の分もよこせ!」

 

「おいおい、まだストックはあるんだろ?けちけちするんじゃねぇよ」

 

「何を言う、造ったのは俺でお前は造って無い。だから俺にこそ飲む権利があるのだー!」

 

 

 オオヤマはそう言うと、ひったくるようにして酒瓶をヴァランタインから取り返した。

 銀河に名立たる大海賊相手に、なんて無謀なことをと普通なら思うところだが、

ヴァランタイン事態が彼の行動を黙認、いやさ特にどうとも思っていないらしい。

 ひったくられた時は渋い顔をしたが、すぐに呆れたように手を振った。

 ソレだけオオヤマと呼ばれた男が、彼に信頼されているという事なのだろう。

 

 

「へいへい、わぁったよ。・・・所でお前も機嫌が良いな?」

 

「おっとと―――ん?やっぱ解るか?」

 

「俺がどれだけ長くオメェと居ると思ってんだ?―――ング、で?何があったんだ?」

 

「いやなぁ~に、折る意味お前さんと同じさ」

 

 

 同じと言われ、ヴァランタインは首を傾げた。

 その様子を見て、オオヤマは笑いつつも説明する。

 

 

「キッシッシ、俺達のフネに搭載されているロストテクノロジー達。そんなかの重力場収束装置と同じモンを作り上げた連中だったんだよ。この間のあいつ等はな」

 

「ほう、そいつはまたすげぇな」

 

「だろ?俺達ですら遺跡から拾い上げた装置を解析して造ったモンだぜ?それをあいつ等は普通に使ってやがった。しかも俺達が防御に使ったのに対し、あいつ等は攻撃に転用したんだぜ?宇宙空間で曲がるビーム、なんて浪漫だって話しだぜ!解るだろうヴァランタイン?」

 

「お、おう――(しまった。コイツ酔い始めるとウンチクが長くなるんだった)」

 

「ま、そんな訳で、同じ技術屋としては対抗意識がわいちまったって訳だ。ちなみに、あの重力場収束システムはデフレクターを応用すれば造れることは解ってるんだが―――」

 

 

 ヴァランタインは友人がはじめてしまったウンチクに溜息を付いた。

 普段の様子を知っているから、コレは長くなるという事を察知したのである。

 ま、それ程苦痛じゃないからいいけどな。そう思いつつ彼は窓から宇宙を見たのだった。

 

 

「おーい、ヒック!聞ぃてんのかヴァランタイン?」

 

「聞いてるから近づくんじゃねぇ。酒クセェぞ」

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 

 なんだがボーっとした感覚の中で、俺はまどろんでいた。

 直前に何かあった様な気がするけど・・・む~、思い出せん。

 

 

「―――長、――――艦」

 

 

 ん?なんだろうか?なんか呼ばれている気がするぜ。

 だけどオイラはスピードワゴンさんの如くクールに行くぜ~。

 つーか、もう少しこの浮遊感を楽しみてぇ~。

 

 

「――コラ、―――ユーリ―――目を覚ま―――」

 

 

 あん?何言ってやがる?俺はもう少し眠りてぇんだよ。

 

 

「――ダメ、――死ん――嫌です!――艦――長」

 

「ええい!―――こうなれば―――」

 

「――ちょっ――トス――何――を」

 

 

 なんか周りがうるせぇな。

 う~ん、と、ユーリさんはついついうなっちゃうんだ☆

 

 ん?あれは川?それと・・・小町っちゃんじゃないか?

 あれ?もしかして俺死んだの?だけど死んだ場所は幻想郷と場所が違う様な・・・。

 

 なんだぁ夢かぁ、俺の夢なら小町っちゃんとおしゃべりしても良いよな?

 えー、だめなん、なして?・・・・えーきっきに怒られるん?じゃあしゃーないな。

 

 

≪・・・グィ・・・≫

 

 

 と、その瞬間、口の中に異物が入った様な感じを受けた。

 なに、これ・・・ニュルンってしてて・・・気持ち悪い―――

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

「死ぬな!このバカ!起きろユーリ!」

 

「おえ、なんだぁ?(気持ち悪ぃ・・・)」

 

「艦長が目を覚ましました!(凄いですトスカさん、あんな風に唇を・・・私には無理ですぅ(泣))」

 

 

 あ~~、なんか気持ちわるい。つーかココ何処だ?・・・・思いだした。

俺グランヘイムと対峙して戦闘したんだっけ。じゃ、ココはブリッジなのか?

 周りを見渡してみると、あー半壊してるけどユピテルのブリッジのレイアウトだ。

 外を映すモニター類が全部死んでらぁ。しかもまだバチバチいってら。

 

 

「あたたた、う~ん、身体痛い。それになんか空気が薄い様な」

 

「ユーリ、良かった気が付いたね」

 

「ありゃ?トスカさん、何泣いてるんスか?」

 

「!?な、泣いて何かいないさ」

 

「いや、でも目元≪バキンッ!≫――なんでなんっスか~」

 

「か、艦長!?し、死んじゃったらダメですよ~!!」

 

「・・・ハッ!?私は一体何を!?」

 

 

 この人テレ隠しで私めを殴りましたヨ。酷いヨ。身体痛いのに酷いヨ。

 さて、どうやらあの戦闘の中、俺は辛くも生き延びたらしい。

 見ればブリッジクルーも無事だし、ユピも可動している所を見るとAI関連も無事だ。

 

 どうやらあのグランヘイムの攻撃を、最後に発射したHLの所為でフネが射線からずれたらしい。軸線重力砲自体もエネルギーの衝突で火線がずれたらしく、ユピテルはあのエネルギーの塊を直撃しなかったのだ。

 

 とはいえ、フネの半分があの攻撃によって持って行かれたことに変わりなく、インフラトン機関は完全に緊急停止(スクラム)。推進機も完全におじゃんにされ、現在宇宙空間をただ浮遊している状態だ。通信設備も運悪く攻撃に巻き込まれた為救援も呼べない。

 

 まぁ近くにまだグランヘイムがいるかもしれないから、通信は出来ないんだけどな。

 そんな訳で、現在は非常用電源と最低限の生命維持装置だけで俺らは生きているのだ。

 ああ、早い所インフラトンインヴァイターだけでも直さないと酸欠で死ぬなぁ。

 

 ちなみに俺が臨死体験した理由は艦長席のある高い所から落下したから。

 弩級艦だからさ、艦長席が高所にある訳ですよ?大体10m位は軽くね。

 

 んで、あの攻撃の際の衝撃で俺は艦長席から投げ出されて落下、床に叩きつけられたかららしい。 普段から重力の効いた部屋で鍛えてあって、ミョルニルアーマー着ていたから良かったが、普段の空間服のまま落下していたらと思うとゾッとしたぜ。確実に首の骨折って死んでたね、ウン。

 

 

***

 

 

『おーし、艦長、次はそこの外壁を取っ払ってくれ』

 

「えーと、こうッスか?」

 

≪バキャン≫

 

『あー!!もっと優しく扱え!』

 

「無茶言うなッス!コイツの操作難しいんスから!」

 

 

 さて、今俺は船外で俺専用VF-0Sを使い修理作業を行っている。

 正確には修理をおこなう連中が船内に入る為の作業何だけどな。

 何でそんな事をするのかというと、先の攻撃で隔壁が歪んでしまった所為なのだ。

 

 また現在完全に動力が落ちている状態であり、隔壁のロックを外せないのもある。

 フネの中からいけない以上、フネの外側から行く事になるのだが、ドアは開かない。

 ならドアを壊すしかねぇって事で、今動かせる唯一の機体である俺専用機を引っ張り出したって訳だ。

 

 

『お次は右舷の第208ハッチ、小天体と接触しちまったとこの近くだ』

 

「あいあい~ッス」

 

 

 俺は機体を動かし、ユピテルの船体をぐるりと回る。

 ユピテルの外壁を回りながら、しばらくしてあの時受けた傷跡が見え始めた。

 あのグランヘイムの撃ったハイストリームブラスターを受けた際、射線を逸らすことは出来たモノの、右舷側の三分の一が消し飛んでしまっていた。

 

 まるでバターナイフでバターを切り取ったかのように緩やかな融解面を目にしつつ、融解面に沿って俺は機体を進ませる。すこしして“壁”にのめり込んだ部分に到達した。

 いや、正確には壁では無い、ソレは小天体とも呼べる全長約200km程の岩塊だ。

 実はユピテルは今、その小天体に不時着しているような形なのである。

 

 戦闘の際の爆発の衝撃でそのままデブリ帯の中を進みココまで流された様なのだ。

 ああ、せっかくの俺のフネがこんなことになっちまうなんてなぁ。

 応急修理すれば飛べるらしいが、こりゃ応急修理だけで修理代が嵩むなぁ。

 ステーションにつければ無料で修理できるんだが・・・。

 

 

「こちらユーリ、第208ハッチに到達したッス」

 

『おう、そこには5~6機ほどのハシケが置いてある筈だ。という訳でハッチぶっ壊しといてくれ』

 

「りょうか~い」

 

 

 仮にもフネの持ち主に、そのフネをぶっ壊せとは何事だと言いたいが、今は非常時なので自重する。まぁフネの修理関係についてはケセイヤさんの方が権威だしなぁ。

 俺がどうこう言えることは無いって事で・・・。

 

 

「せーの――ッ!」

 

≪ゴン・・・ガギギギギギ―――≫

 

 

 言われた通り、ハッチにバトロイドモードのVFの手を打ちこみ、無理矢理スキマを作る。

 そしてそのまま無理矢理腕を差し込み、少し歪んだ扉を動かしてハッチを解放した。

 機体の中にまで響くちょいといや~な金属音を聞きつつ、扉が開ききった事を報告する。

 

 

「空いたッスよ~」

 

『おう、あんがとさん。これで作業ができるわ。ああ、後他にも作業用大型ドロイドのハッチも開けてくれ』

 

「あいあいッス~」

 

 

 なんかいい様にパシらされている様な気がしないでもないが、それはそれコレはコレである。

 この俺専用機を操作出来るのは俺しかいなんだから、いた仕方なし。

 そんな訳で言われるがまま為すがまま、船外でハッチをあける作業をしていたんだが・・・。

 

 

「――――ん?なんか光った?」

 

 

 ふとユピテルが着床している小天体の地平線辺りで何かが光った様な気がした。

 見間違い・・・かな?いやでも人工的な光りにも見えた様な・・・。

 

 

「ま、調べりゃ解るッスね。ケセイヤさん」

 

『あん?なんだ艦長?』

 

「なんか向うで光るもんが見えたんで、ちょっと偵察してくるッス」

 

『おう、逝って来い行って来い。作業艇も出せたから後は俺達でやっとくさ』

 

「んじゃ、ちょいと行ってくるッス」

 

 

 俺はケセイヤさん達に修理作業を任せて、機体をFモードに可変して飛んで行く。

 人工的な光りだったし、もしも近くを通りかかったフネだったら救援が遅れる。

 仮に海賊だった場合の事も考えて、小天体付近を行く事にしたんだ。

 

 

―――思えば光に気が付かずに、作業に集中していたら・・・大変だっただろうね。

 

 

***

 

 

「う~ん、おかしいなぁ。確かこのあたりだと思ったんだが・・・」

 

 

 さて、ユピテルから少し離れた小天体の地平線の位置。

 俺はそこの上空をファイターモードで飛行して、さっき光った物を探していた。

 地平線の向こう側にフネは無し、見た感じ地表にも構造物は無し。

 う~ん、只の見間違いだったんだろうか?

 

 

「何か見えたのは確か何スけど・・・」

 

『艦長、急にユピテルから離れてどうしたんですか?』

 

「あ、いやミドリさん、なんか見えた気がしたから哨戒に―――」

 

『先程偵察無人機が出せる様に格納壁をこじ開けたとケセイヤから連絡がありました。貴方は腐っても艦長なんですから、突然いなくならないでください』

 

 

 いや、腐ってもってあーた。まぁ良いけど。

 

「むー・・・お、金属センサーに感あり?」

 

 

 ふとセンサーを見ると、何かに反応を示している。

 どうやら足元の小天体に反応している様だ。

 ふむ、金属分が多い天体なのか?だとしたらフネの修理材に使えるかもな。

 

 

「何か足元のセンサーに色々反応が出たから、一度小天体に降りてみるッス」

 

『・・・了解、気を付けてくださいよ?』

 

「おう、まっかせろー」

 

 

 とりあえず、一度小天体へとゆっくり降下していく。

半人半機状態のガウォークで低高度をゆっくりホバリングしながら飛行した。

 

 

「んー・・・ん?」

 

 

すると、一瞬だったが何やら光るものが見えた。

遠目では何か棒状の何かが小天体から伸びている様に見える。

何じゃろうかと思い、俺はガウォークのままで近づき、その棒状の何かの元に着陸。

人型のバトロイド状態に可変すると、調査を開始した。

 

 

「ミドリさん、なんか人工物っぽい何かを見つけたッス」

 

『人工物ですか?宇宙船の残がいでは?』

 

「いや、なんか見たことがないモノで出来てるっぽいッス」

 

 

 その棒状のモノは灰色に近い金属で出来ていた。

 繋ぎ目の様なものは無く、微妙に何か模様の様なモノが描かれている。

 何かの遺跡的なモノなのかもしれない。足元の金属反応も大きいしな。

 

 

「もしかしたら他にも何かあるかもしれないッス。ちょっと周りを歩いて見るッス」

 

『了解』

 

 

 他に何かないかと見回すと、似た様な人工物が少し遠くにあるのが見えた。

 とりあえず調べておこうと思い、機体を歩かせようと一歩を踏み出した瞬間!

 

 

≪―――ガラ≫

 

「え?!う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 突然足元が崩れ、VFはバランスが取れずそのまま落下する。

 

 

「ま、不味いガウォーク!」

 

 

 とりあえずホバリングさせようとガウォークへと機体を可変させる。

 そしてエンジンを吹かそうとした瞬間、上空警報のアラームが鳴り響いた。

 

 

「げ!?瓦礫が!?」

 

 

 上から自分の乗っている機体と同じサイズの瓦礫が降ってくる。

 どうやら、俺が落下した時に周りの岩やその他も連鎖的に崩れ始めたらしい。

 小天体とはいえ重力はある。流石に自分と同じ大きさの瓦礫と当たればタダでは済まない。

 

 

「ぬ、ぬぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 驚いた俺はレールガトリングガンポッドを起動させて、瓦礫に撃ちまくる。

 一番近くの瓦礫は弾幕を受けてぶっ壊せたが、その際更に別の場所に弾が当たり更に瓦礫が発生して、此方へと降ってくる・・・え?これイジメ!?

 

 

「な、なんとぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 機体を横滑りさせてロールや横転も使って岩塊を回避していく。

 定期的にシミュレーターに乗るようにしておいて良かったと考えつつもマジでヤバい。

 ふと視界の隅に横穴らしきものが見えた。

 

 

「し、死んでたまるかァァァ!!!」

 

 

 必死の俺はその横穴へと機体を滑り込ませた。

 その時長距離通信用のブレードアンテナが破損したが、岩塊に潰されるよりかはましだ。

 そして俺が逃げ込んだ横穴を塞ぐように岩塊がドンドンと落ちてくる。

 機体の中に振動が伝わるほど揺れて、横穴の入口がドンドンと塞がって行った。

 ようやく静かになったが、見れば入口は完全に瓦礫で埋まっていて脱出できない。

 

 

「不味いッス・・・そうだ通信!」

 

 

 とにかくヤバいことをユピテルにつなげようと、俺は通信回線を開いたのだが―――

 

 

「≪ガガガ!≫――ダメだ、電波が届かない」 

 

 

 先程の崩落で長距離通信アンテナが破損した為、地下深い位置だと電波が届かない。

 短距離通信は行えるようだが、いずれにしてももう少し上層に出ない事には・・・。

 

 

「・・・・・あれ?この横穴、奥に続いてる?」

 

 

 ふと見ると、俺が飛びこんだ横穴にはまだまだ奥があるらしい。

 むぅ、ココで待つのも一つの手だけど、このまま見つからない可能性もあるしな。

 

 

「一つ、探索と行きますか」

 

 

 もしかしたら横穴が何処かにつながっていると思い、俺は機体を歩かせることにした。

 俺が乗るVFは単機でも恒星間移動が可能なように設計されている。

 一応通常稼働でも数日位は酸素とかが持つ様に設計されているし、サバイバルモードでは数週間は持つ。

 

 出来れば酸素とエネルギーが持つ間に脱出したいなぁ。

 延々と続きそうな横穴を歩きつつ、俺はそう思ったのだった。

 

***

 

 

 どうも、なんか小天体の竪穴に落っこちて、気が付けば埋まりかけてたユーリ君です。

 横穴を見つけて歩いてると、なんか段々坑道に変化が現れて来た。

 なんかさ、最初は洞窟みたいだったのに、なんかスッゲェ壁が滑らかっての?

 よーく見たら人工物の様に見えなくもない。

 

 

「何かの遺跡か?」

 

 

 その可能性は非常に高い、何故なら以前みたエピタフ遺跡と通じる感じがあるからだ。

 とはいえ非常に暗い為、サーチライトがないと何も見えないから詳しい事は解らんが。

 

 

「・・・・あら?行き止まりッスか?」

 

 

 歩いて行くと、レーダーに壁らしき物が映った。

 ライトをそちらに向けると、完全に人工物な壁が坑道を塞いでしまっている。

 どう見ても遺跡関連です本当にありがとう(ry 

とはいえ参ったな。結局こっちも行き止まりかよ。

 このままここで干からびるのは勘弁して欲しい。

 

 

 ―――う~ん、この状況・・・ハンバーガー8個分くらいかな☆

 

 

 脳内教祖さま、お帰り下さい。つーか意味がわからん。

 干からびることが何でハンバーガー8個分なんだよ。

電波を受信しないでデムパを受信してどうすんだ俺。

 

 

「参ったッスね~・・・・おろ?」

 

 

 壁を見ていると、何やら繋ぎ目らしき物が見える。

 つーか、コレ扉じゃねと気が付くのに時間は要らんかった。

 よし!まだ先があるコレで勝つる!とか思ったけど、どうやって開けるんだ?

 

 

「う~ん☆・・・まぁ誰の持ちモノでもないしいっか」

 

 

 微妙にまだ教祖様が取りついている様な気がしないでもないが、気にしない事にした。

 とりあえず扉と思わしき場所から少し下がって、坑道にまで戻った。

 何をするって?くくく、開けられないなら壊すまでよ。

 

 

「RGP発射ってな!」

 

≪ブォーーーーー!!ズガガガガガガガン!!≫

 

 

 VFに標準装備されているレールガトリングガンポッドが火を噴くぜ!

 どうや!ケセイヤさんが造った戦艦の装甲ですら貫通する弾幕!

 壁にぶち当たって弾頭が粉々になって煙になってるせいで見えねえ。

 だが至近距離ならデフレクターも貫通出来るコレを喰らえば―――

 

 

「・・・・無傷・・・・だと?」

 

 

――――うーん、と、ドナ○ドはついついうなっちゃうんだ☆

 

 

 だから教祖様自重しろ。でも驚いたな。

RGPはデブリの中ですらつき進める戦艦の装甲ですら貫通出来るんだぞ?

 見れば噴煙が晴れた壁には傷一つなく、いまだそこにドーンとそびえている。

 普通凹むくらいしても良いんじゃねぇの?どんだけ堅いんだコレ?

 

 

「銃じゃ無理かよ」

 

 

――――ド○ルドマジック☆

 

 

 いや、教祖様はココに居ないから無理です。つーかいい加減帰って下さい。

 

 

――――あら~☆

 

 

 ふぅ、一人だと突っ込みもしなきゃならんから疲れるな。

 ソレはさて置き、俺はもう一度扉と壁を調べることにした。

 もしかしたら見落としがあったのかもしれない。

 

 つーか調べる前に撃つなよという意見は却下だ。

 ゆーりくんは、むずかちくかんがえるのはにがてなのじゃ~。

 ・・・・・ゴメン気持ち悪いな自重するぜ。

 

 

「うーん、うん?」

 

 

 よーく見ると、壁には溝みたいな何かが彫られている。

 ソレは基本的には直線であり、曲線を描く溝は全くなく曲がる時は直角だった。

 んで、その溝を追って行くと、1カ所だけ妙に溝が集約している個所が見えたのだ。

 コレは絶対なんぞあるお。

 

 とりあえずVFの手を伸ばして溝に触れてみる。

 ふーむ、センサー類に色々と反応があるみたいだが・・・・さっぱりわからん。

 俺はこういったのの専門家とちゃうからなぁ、ジェロウ教授が居れば解ったかも。

 

 いやいや、無い者ねだりしてどうするよ俺。

 改めて問題の遺跡の壁を見てみよう。彫られた溝は最終的には一つへと集約し・・・。

 ・・・・・・もしかして、集約したとこの中心を触ると開くとか?

 

 

「そんな上手い話しがある訳――――」

 

 

マニピュレーターを伸ばし溝の集約している中心へと触れてみる。

 

 

「――――ほら、なんも起きないッス≪――ガコン!≫・・・・え?」

 

≪ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――――≫

 

 

 何と言う事でしょう。あれだけ大きな障害であった扉がみるみると開いて―――。

 何一人ビフォーアフターやってんだ俺?突っ込みおらへんと寂しすぎる!

 とにかく、溝が集約している中心に触れたら急に扉が開きやがった。

 まるで誘っているかのように奥は真っ暗で中が見えねぇ。

 

 

「・・・・・ハッ!おいでおいでって事か?いいよ、入ってやるッス」

 

 

 俺は機体を操作し、開いた扉の中に入る。その時は気が付いていなかった。

いまだアーマーのポーチに入れられているエピタフが、扉に触れた瞬間かすかに光っていた事に。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Side三人称

 

 

 さて、ユーリが居なくなってからのユピテルはと言うと――――

 

 

『おーい、取り合えずインフラトン機関へ続く道は開けられそうか?』

 

『うんにゃー、まだ無理だな。とりあえず外壁の穴塞がないと貴重な空気が減っちまう』

 

『そっか、んじゃ俺ハンチョーに飯届けてくっから』

 

『あー、気ぃつけてなぁー』

 

 

――――全然心配されていなかった。

 

いや約1名フネのAIが卒倒しかけたが、それ以外はおおむね平和である。

実際艦長の反応がロストしたことは知っていたし、全員が心配していた。

 

しかし、それ以上にフネの状態がヤバかったのである。

インフラトン機関がスクラムを起している為、エネルギー供給がない。

生命維持装置もエネルギーがなければ只のガラクタでしか無いのだ。

 

その為、このままこの状態が続くと、いずれ酸素が切れて全員がオダブツとなってしまう。

故に数少ない人員を艦長の捜索に出せる訳も無く、彼らは自分たちが生き残る為に仕事を優先した。それもまたこの宇宙の掟でもある。最終的には自分が優先、他人を助けるのは余裕がある時だけ。

 

もっとも、見捨てたというとちょっと語弊が生じる。

彼らは見捨てたののでは無く、己が出来る事を優先しているのだ。

整備班はシステムの復旧を急ぎ、科学班の艦内修理に走る。

そのほかの手が空いている人間は現場の指示によって行動する。

全員が生き残る為に動いているのだ。

 

 

――――そしてその中で唯一、動けるクルーがいた。

 

 

ユピテルの格納庫のハッチが開き、中から無事だったRVF-0がはい出してくる。

ソレを操作しているのは勿論我らがAI様であるユピである。

彼女はフネを修理している無人ドロイド達を操りつつも、その余裕のある演算能力で無人偵察RVFを稼働させたのだ。

 

 

【艦長、今行きます!】

 

「行くのは勝手ですが、居場所は知っているのですか?」

 

 

 RVFに意識を集中させようとした矢先、突然ミドリさんに声をかけられるユピ。

 しかし質問の内容にそう言えばといった顔となり、みるみる困った表情へと変化する。

 心なしかRVFにまで漫画汗が垂れてくる始末だ。

 

 

「まったく、貴方は急ぎ過ぎです。私たちだって探しに行きたいのを我慢しているのに・・・」

 

【め、面目ございません】

 

「・・・まぁ良いです。はい、これ艦長が最後に通信を入れた座標よ。くれぐれもトスカさんにはばれない様にしてください。彼女今すっごくイライラしていますからね」

 

【あ、ありがとうございます!】

 

「いえいえ、何の何の――(これでトトカルチョがまた変動しますね)」

 

 

 純粋なユピは気が付かない。

 既に彼女は艦長とつき合うかどうかの賭けごとレースの大将にされていることを。

 そしてユーリも知らない、ソレの結果次第では整備クルー達に半殺しにされるやもしれないという事を・・・・。

 

 

 ――――そしてユピは無人機を操り、ユピテルを飛びだした。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 

 暗い入口に入る・・・と言ってもこれまで来た道も真っ暗だったから実はあんま変わらない。

 とりあえず遺跡の入口だと思える扉の中に入った訳だが、入った途端埃が舞った。

 どれだけ長い事放置されていたのかわからないが、どうやら近年入ったのは俺だけの様だ。

 もうもうと舞う埃の中を歩くと、それ程歩いていないのにまた扉が立ちはだかる。

 

 

―――――らんらんる~☆

 

 

 でもさっきと同じように、溝が集約している出っ張りらしきものが見えた。

 てな訳で、脳内に聞えるデムパは無視する事にする。

 う~ん、艦長席から落ちた時に頭打ったかな?

 

 

「えーと、ここに触ると―――≪ガコン≫おし、開いてくッス」

 

 

 溝に触れた途端、淡い燐光を放ちつつ反応があった。

 背後の入ってきた扉が閉まって行くが、まぁ向うにも出っ張りあるし大丈夫。

 とりあえず待っていると、急に機体がガクガク震え始めた。

 ジ、地震なのかとか思ったけど、よく見たら気圧計が上昇していた。

 

 

「・・・・・減圧室だったんスか?」

 

 

 どうやらこの通路は厳密には通路では無く減圧室だったようだ。

 遺跡の機能が生きていた事にもビックリだが、この減圧室信じられないデカさだ。

何せ今の俺はVFに乗っているのだ。

 全長10m近い機体が可変しているとはいえ、ソレが普通に入れる部屋でこれである。

 

 まぁ遺跡には時たま稼働する物があったりするらしいから、それ程珍しくも無い。

 ムーレアの遺跡だって、なんかスイッチみたいなもんで操作する扉あったしな。

 

 しかし、ある意味無駄な機能だと思いつつ、前方の扉が開いて行くのを待つ。

 開き切った扉の先は・・・・やっぱり暗かった。

 う~ん、減圧室が動くんなら、何で照明が点かないんだろうか?

 正直VFのサーチライトだけだと微妙に怖いんですけど?

 

 ま、考えても仕方ないので、奥へと続く通路を通ることにした。

 ちなみに外の気圧は丁度1気圧、人間が普段過ごす気圧と同じである。

 ともあれ、本当に空気なのか怪しい為、外気は取り込まないようにしている。

 

 ま、しばらくはVF内蔵のエアで持つからな。

 酸素が切れた時に取り込むって事で・・・。

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

「おう、コイツはまた・・・」

 

 

 しばらく通路をホバー走行していると、どうやら出口に来たらしい。

 前方の通路が暗い為、暗闇ににポカンと薄暗い穴が浮かんでいるように見える。

 んで、ようやく通路から抜け出せた訳だが、周りの光景に驚いた。

 

 

「・・・・ものすごく広いッス」

 

 

 そう、凄まじく広い空間が広がっていた。ユピテルすら完全に格納できる程に広い。

 それこそ、この薄暗さと壁さえ見えなければ、室内である事を忘れてしまいそうだぜ。

天井も高く、戦闘機型に可変するファイターモードで飛行しても問題なさそうだ。

 そんな訳で俺は機体を可変させ、ファイターモードで飛び上がった。

 

 

「本当に広いッス・・・ん?よく見たらビルみたいな構造物があるッスね」

 

 

 ちょいと気になったので半人半機形態のガウォークへとシフトする。

 んでホバリングでゆっくりと眼下に見えた建造物らしき集合体へと降りてみた。

 薄暗いのでサーチライトを上手く当ててどんなものなのかを見た。

 

 そこにあったのは確かにビルだった。窓らしき穴があり、建造物の中には部屋がある。

 壁の材質を見るに、この遺跡を構成するのと同じ建築材で建てられているらしいな。

 ・・・・だけど、なんかこのビル群の壁。焼け焦げた様な跡がある。

 まるでこの中で巨大な炎に焼かれた様な感じだ。

 

 どのビルもそんな感じで焼け焦げている処を見ると、どうも1区画だけでは無いらしい。

 ふと気になって飛びあがり、天井へと向かってみた。

 天井に付いた俺は機体をホバリングさせながらマニピュレーターを壁に伸ばしてみる。

 ザリって感じで擦り、マニピュレーターをこちらに向けてみると、微妙に煤が付着していた。

 

 

「こりゃ・・・この空間ごと焼却されちゃったような感じッスね」

 

 

 この広い空間は微妙にドーム状の空間だ。

もしこの中を覆う様な火炎だとしたら、ここは完全にオーブンと化していたことだろう。

 この遺跡の中で何かが起きて、火炎で焼かなければならなかったのか?

 

 う~ん、わからねぇな。ともかく火で焼かれてからココには誰もきていないって事は解る。

 何せ低重力空間にも関わらず、あれだけ膨大な埃がつもっていたのだ。

 さっきのビル群らしき建造物の周りにもかなりの埃がつもっていた所を見ると、やはり数100年は堅い。

 

 

「詳しく調べてみれば解るんだろうけど・・・今は先に進むッス」

 

 

 新たな通路を見つけた俺は、ガウォークのままで、その通路へと入って行った。

 しばらく通路を進むとまた扉があったが、ソレも出っ張りに触れると解除された。

 やはり部分的に機能が生きているんだろうか?

 

 ともあれくら~い通路を進むと、またもや広い空間へと躍り出た。

 といっても今度はさっきの空間に比べたらそれほど広くは無い。

 雰囲気もまったく異なる。さっきの場所は居住区っぽくて、ココはなんか工場区画みたいだ。

 

見た事も無い様な機械らしき物がならび、そこで何かが造られていたことを匂わせる。

 こりゃ教授がいたら絶対に飛び付きそうな遺跡群だな。

 ココまで完全な形で残されている遺跡なんてそうは無いだろうし。

 

 若干この空間はせまい為、飛びまわることはせずに通路から伸びるハイウェイを道なりに飛ぶ。

 しばらくして、また通路らしき入口が見えたので、そのまま中に入って行った。

 今度の通路はずっと続いて行くだけで、なんだが地底に潜っていく様な感じだった。

 

 こりゃ閉所恐怖症とか暗い所ダメなヤツには恐怖だぜ。

 俺はそう言った体質がないから、全然平気なのがありがたい。

 でもこの通路どんだけ続くんだろうな?ものすごく長い気がするぜ

 

 

「―――ん?また行き止まりッスか?」

 

 

 今度もまた通路の真ん中に壁があった。

 んで、また溝を辿り突起を探してみるとやっぱりあったので押してみる。

 コレでまた奥に行けるだろうと俺が思った瞬間!

 

 

≪ギギギギギ―――ガゴォォォォン≫

 

「げ!?閉じ込められたッス!?」

 

 

 後ろの通路の天井から扉が音を立てて降りて来て閉まっちまった!

 ちょ!マジで閉じ込められた!?なに侵入者対策のトラップか何かなのか!?

 ヤベェ!ヤベェよヤスニシ先生!こんな時どうすればいいんスか!?

 

 

――――諦めたら、そこで試合終了だヨ。

 

 

 はい、ありがたい言葉頂きましたが、それこの状況じゃあんま関係無いッスよね?

 と言うかマジでだれかボスケテ・・・

 

 

――――らんらん

 

 

 正し教祖!テメェはダメだ!

 

 

――――あら~☆

 

 

 やヴぁい、かなりテンパってるぜ俺。落ちつくんだ焦ったら不味い。

 素数を数えるんだ、素数は孤独な数字、俺に勇気を与えてくれる。

 え~と・・・・1って素数だっけ?・・・・ダメじゃん俺!

 

 

≪―――ズズズズ≫

 

「げ!床が上がり始めた!?」

 

 

 おいおい、あれですか?遺跡に良くある侵入者対策トラップのトップ5に入りそうなコレ。

 オラを天井と床とのあいだに挟んで、Gの如く押しつぶす気だなぁ!?

 

 

 

「や、ヤベェよ!この際脳内教祖様でも良いから助けて~!!」

 

 

――――・・・・・・この本、前に読んだなぁ☆

 

 

 テメェェェェェェ!このヤロウ!!!!

大事な時だけシカトこくんじゃねぇぇぇぇ!!!!

 や、ヤバいこうしている内に天井が!うわぁぁぁっぁっぁ!!!

 

 

 

 

シニタクネーヨー・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・あれ?潰されて無い?

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?なして?・・・・ってなんだ。天井が開いたのか」

 

 

 なんてこたぁなかった。ちょっと遅かったが天井が開いただけ。

 つーか押せぇヨ、後少しで本当に天井と床に挟まれるところだったじゃねぇか。

 あれか?脳内教祖様を罵倒した所為なのか?久々にマック食べたい!

 

 

「ふ~ん、上も随分と竪穴が続いてるッスね」

 

 

 どうやらコレはエレベーターだったらしい。

 床がゆっくりとだが確実に上へと進んでいる。本当にゆっくりとしてるな。

 でもそんなこと考えているウチにガクンって感じで上昇が止まる。

 

 

「え?着いたッスか?――――――って訳でもないか」

 

 

 どう見てもエネルギー切れかエレベーターが破損しました。

 どうしよう、扉は閉まってるから戻れないしな・・・・。

 

 

「あの溝を辿って行けば・・・」

 

 

 先程から扉の開閉に使っている突起物。

 それには必ずと言っていいほど、あの溝が掘られていた。

 よく見たら横の壁に同じような溝が、上に向かって伸びている。

 

 てなわけで、ブーーーーーンと空中へと舞い上がるオイラ。

 いやはやVFで来ていて正解だったね。

 

 

「・・・・・お、また行き止まりッスか・・・っとココに出っ張りがあるッスね」

 

 

 ココにも溝が集中して出っ張りが出来ている。

 てな訳で今までと同じくマニピュレーターをかざしてみた。

 

 

≪ゴゴゴゴゴ――――≫

 

「よし、やっぱりあれはスイッチ何スね」

 

≪――――ズズズズ!!!!≫

 

「ん?なんか違う音も聞こえる様な?」

 

 

 そう思った瞬間、下方の警報アラームが鳴り響く!慌てて下の方に目を向けると、先程まで止まっていた床が猛スピードでこちらに上がって来ていた!

 

 

「ちょwwwwwww2段式罠キタコレwwwwwwww」

 

 

 なんつー罠、安心しきったところを狙うとは卑怯なり!

 ・・・・う~ん、でも罠ってよりかは只単に制御装置が壊れてるだけか?

 

 

「ってそんな場合じゃ無かったッスーーーーーー!!!」

 

 

 とにかく迫る床板から逃げる為、俺は全速で飛びあがった。

 床板の速度はかなり早く、時速は500kmに到達しそうである。

 流石にVFでもあの速さで激突されたらショックアブソーバーで相殺しきれない。

 =VFの中身でノシイカ完成!である。

 

 

「のぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 本当にもう泣きそうです。ぐんぐん床板から離れるけど絶対このままじゃ終わらない筈。

 だってコレがエレベーターであるなら、絶対何処かで行き止まりになるからだ。

 そして数分してやっぱり行き止まりになる。

 

 

「出っ張り!出っ張り!あった!」

 

 

 慌てて溝を探し、出っ張っている部分を押す。

 

 

「ちょ!反応しない!?」

 

 

 無情にもうんともすんとも反応がないんですけどーーー!?

 つーか床板が加速したぁぁぁぁぁ!!

 

 

「い、いやぁぁぁぁ!!!死にたくねぇッスゥゥゥゥゥッ!!開け!開けよぉぉぉ!!」

 

 

 ノシイカになるのはいやぁァァァ!!ていうか何このインディ!?

 こんな遺跡探検はもうこりごりッスーーーーー!!!

 マジでシニタクナイ!!!!

 

 

≪ズ、ズズズ―――≫

 

「は!ひらいたっ!」

 

 

 天に祈りが通じたのか、はたまた接触が悪かっただけなのか。

 出っ張りの横の壁がゆっくりと開いて行くのを見て、俺は機体をその開いたスキマに滑り込ませた。

 

 その直後、背後でドゴーンと激しい震動が襲う。

 あの高速で迫っていた床板が天井部分と激突したのだ。

 正直もう嫌、なにこのトラップ遺跡?危うく死ぬところだったんですけど?

いや実はトラップじゃないのかもしれないけど・・・。

 

 

「こ、こあかったッス~」

 

≪ギギ・・・・ズズーン≫

 

「あ!・・・閉まっちゃったッス」

 

 

 安堵のため息をついた瞬間、少しだけ開いていた扉が完全に閉じてしまった。

 壊れた・・・・んじゃなくて、エネルギーが通っていないらしい。

 材質がこの遺跡と同じ材質だから破壊してってのも無理みたい。

 

 

「あー、詰んだ?」

 

 

 見ればここはエレベーター前のエントランスのようにも見える。

 機体がおけるちゃっおけるが、非常に狭い為コレ以上VFで行くのは無理だ。

 でもまだ通路が続いているらしい。目の前には人が通れそうな程度の通路が見える。

 

 

「う~ん・・・どうしよう?」

 

 

 ついついそう呟きつつもマジでどうするっぺ?

 戻る道は無い、あるのは目の前に進む道のみである。

 調べに行くか?う~ん、VFからビーコン出しておけば最悪ココまでは戻れるだろうし。

 

 

「・・・・・よし、止まっててもしょうがないから行くべ」

 

 

 そう意気込んで俺はVFを停止させて、操縦席を開けようと―――

 

≪ぐ~~~~きゅるるるる・・・・≫

 

――――開けようと思ったが、その前に腹ごしらえをする事にしたぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし!今度こそ準備完了ッス!」

 

 

 サバイバルキットに入っていた合成高カロリーレーションを食べた後、ヘルメットをかぶり直し俺は機体から飛びだした。サバイバルキットが入ったバックパックを背負い、腰には折りたたみバズをつけ、手にはVFに乗せてあったライフル型メーザーブラスターを持っている。

 

 

「・・・・・・クリア」

 

 

 なんとなく言って見たかった。特に後悔はしていない。

 ただ誰も聞いていないとなると、非常に寂しい気分になる。

 コレは早いところ皆と合流しなければなるまいて・・・。

 

 

「・・・・あ、でも、普通遭難とかしたら、あんまり動いちゃいけないんだっけ?」

 

 

 真っ直ぐに続く通路をあるていると、ふとそんな考えが浮かぶ。

 ・・・・・やべぇじゃん。メッチャ動いて置くまで来てんじゃん。

 あはは、コレでこの先に何も無かったら完全に俺死んだなぁ~~~。

 

 

***

 

 

 しばらく歩くとまた壁が見えて来た。どうやらコレ隔壁みたいなもんらしいな。

 横にはスイッチらしき物が付いた台座があるが、触れてもうんともすんとも言わない。

 う~ン困った。誰かに相談したいが今は俺一人。

 この際教祖様でも良いか。

 

 

(おーい、教祖様~)

 

――――よんだかい☆

 

 

うわ、本当に来たよ。

 

 

(なんか道が塞がっちゃってて通れないんですよ。どうすればいいと思いますか?)

 

――――あっはははは☆そんなの簡単じゃないか☆ハンバーガー半分程度の難しささぁ☆

 

(え?どうすればいいんですか?)

 

――――らんらん、る~☆

 

(いや、答えろや)

 

――――ヒントはキミがここまで来る時にしていた事さ☆それじゃ、ば~い!

 

(ちょ!?教祖様!俺はヒントが欲しいじゃんなくて答えが欲しいッス!おい教祖!)

 

――――ピー、現在この神託にはデムパが届いておりません。

 

 

 デムパが切れやがった。つーか脳内教祖がマジで応えるとかヤバくね?

 オレって寂しくなると妄想しちゃうんだろうか?とりあえずシェイク飲みたい。

 

 

「う~ん、俺がここに来るまでにしてきたこと?」

 

 

 そんなもん機体を飛ばして、通路を飛んで、遺跡内部を覗きまくっただけ。

 ・・・・・って、ああそうか。確かにソレはまだしてないか。

 

 

「え~と、溝はっと・・・あったッス」

 

 

 今までココに来るまでにしてきたこと、ソレは溝の集中した出っ張りに触れること。

 見ればココの壁にも溝が走っている。ソレを辿るとスイッチがある台座の反対側に出っ張りがあった。

 

 

「・・・・よし」

 

 

 生唾を飲み込みつつ、出っ張りに触れようとする俺。

 さっき凄まじいトラップみたいなのがあったから慎重にもなるさ。

 そして俺の手が、出っ張りに触れるまで後、10cm、5cm、1cm――――

 

 

≪ゴガン、ガギン・・・・ズズズズズズ―――――≫

 

「・・・・開いたよ。スゲェな脳内教祖様」

 

 

 ありがとう教祖様、まさかあんたが役に立つとは思わなかった。

 だけど幾らデムパが来たからって、出演はコレだけにしてくれよ?

 

 

――――はは、勿論さぁ~☆

 

 

 てな訳でまた奥へと続く通路・・・では無く、今度は普通に部屋だった。

 いや部屋って言ってもユピテルのブリッジの5倍程度の広さだけどさ。

 それでも今まで極端に広い通路とか空間ばっかりだったからせまく感じるぜ。

 

 

「うわ、ここも埃がスゲェッス」

 

 

 ここも最初に入った減圧室の様に埃だらけだった。

 俺が入ってきた場所はなんか高台の様になっており、イスの様な突起が一つある。

 その横には下に降りる階段らしき物が両サイドに付いており、下へと降りられる。

 

 下にはなんかテーブルのような物が真ん中にあり、そこに人が座れるようになっているかの様な穴が沢山空いているのが見えた。埃が舞うので下には降りたくは無いが、どうも人型生物が使っていた様な痕跡は残っている。

 

 教授に見せたら心臓止まるんじゃないか?

目を爛々と輝かせて“考古学会における偉大な発見だヨ”とか言いそうだぜ。

 そして嬉しさのあまり心停止するんですね?割と洒落にならない。

 

 

「う~ん、出口は無しッスか・・・困った」

 

 

ミョルニルアーマーに付いているライトが部屋を照らすが、ココから出る通路がない。

 見た感じ出入り口は俺が入ってきた扉だけである。

 もしかしたら見えない位置に何かあるのかもしれないが、流石に疲れた。

 

 ちょっと疲れたので、丁度高台の上にあるイスみたいな出っ張りに腰かけた。

 はぁ、ココまできて出口が見つからないとか、詰んだのかな・・・。

 まぁもしかしたら通路に見落としがあったかもしれない。

 途中で分岐していた所もあったしな、次はそっちを見てみよう。

 

 

「あーもう、疲れたッスー」

 

 

 正直ヘルメットを脱ぎ棄てて思いっきり呼吸したい気分だ。

 だがこんな埃っぽい部屋でんなことしたら最後、ハウスダストよりひどい事になる。

 なんか丁度腕を乗せるのにちょうどいいテーブルみたいな所に腕を組んで体重を傾けた。

 

 

≪――――――――ヴン―――――――――≫

 

 

 あれ?なんか音しなかったか?

そう思い顔を上げると、なんか部屋の中央に空間パネルが浮かんでます。

あら?俺なんか触ったのか?そう思い画面を見ると何やら色んな言語が走って行く。

・・・・・なんだろう?このパソコンが立ち上がる時みたいな感じ?

 

 じーっと流れていく言語を眺めること5分、言語の流れが止まった。

 緑色の画面・・・なんか本当にパソコンの起動画面に似ている。

 

 

「はぁ、どうせ起動するんだったら映画でも見せて欲しいもんスね・・・・ん?」

 

 

 ふと、目の前の画面以外に何やら明かりがあるらしく辺りが明るい。

 周りを見渡すが画面以外に明かりは無いんだけど・・・・。

 すこししてその明りは自分の腰にあるポーチから出ている事に気がついた。

 

 

「??・・・・え?!ええ!!??」

 

 

 何ぞと思い、ポーチを開けてみると、そこには何時ぞやのエピタフが光りを放っていた。

 だがその光りは以前の様な激しい光りとは違い、何処か包み込むような優しい光だった。

 アレかな?遺跡から出たモノだから、こういった生きている遺跡に来ると活性化するのかも知れない。

 

 はぁ、でもどうせ活性化するんだったら―――――

 

 

「この遺跡から出られたら最高何だがね・・・・・」

 

≪――――ヴヴヴヴヴヴヴヴ≫

 

「あ、あれ?この振動・・・なんか嫌な予k―――≪ビカッ!≫うわ!まぶし!?」

 

 

 だがそう思った瞬間、エピタフがはじけるような光りを発した。

 あまりのまぶしさにヘルメットの遮光機能が働き前が見えなくなる。

 そして突然経っていられない様な振動が俺を襲った。

 イスが揺れている?!いや、遺跡全体が振動しているんだ!

 

 

「な、なにが―――」

 

≪ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ≫

 

 

 俺がそう言葉を発するが早いか振動が最大になり、急激な重力が発生する。

 低重力下だった所に、急に重力が発生した事にも驚いたが、振動に揺さぶられる俺はそんな余裕は無かった。

 

 

(あばばばばばばば―――不味い、連続する縦揺れで・・・・吐きそうウプ)

 

 

 こみ上げる吐き気と戦うので精いっぱいだったんだぜ?

 いやいや考えてみて欲しい、俺はいまミョルニルアーマーという宇宙服を着ている。

 つまり完全に外と遮断されてるんだぜ?そんな中ゲロしようものなら・・・わかるでしょ?

 

 

≪ゴゴゴゴゴゴゴゴ――――≫

 

(ど、どうでもいいから―――はやく振動止まれっ!ヤバい!)

 

 

 もはや喋ると戻しそうなので、心の中で喋るが願いは伝わらず振動は激しさを増す。

 遠くを見れば乗り物酔いの様なモノは楽になると言うが、ヘルメットが遮光している為外が見えない。

 

 

(ら、らめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ)

 

 

 そして俺は・・・・・もう飛んでも良いとか思った。

 その瞬間振動が止まり、今度はイスに抑えつけられる程の重力に襲われる。

 

 

 

 

 

この時は知らなかったんだ。

 

 

 

まさか、この遺跡がエピタフで活性化して復活していたなんて・・・。

 

 

 

 そして、この遺跡自体が実は宇宙船で会ったなんて・・・・。

 

 

 

 活性化したエピタフの所為で、長き眠りから目覚めただなんて――――

 

 

 

(うぷ・・・・・もう、どうにでもなれってんだ)

 

 

 

 顔面さっき喰ったモノと遺跡が混ざった物で窒息しかけている俺にはどうでもいい事だった。 

 

 

 いや、本当に誰かボスケテ・・・・。

 

 

 

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第三十七章+第三十八章+第三十九章+番外編3

 

―――――遺跡船起動から少しして。

 

 

「・・・・・・・・・知らない天井だ」

 

 

 気絶から覚めて、なんとなくボケを咬ましてみた。

いやまぁ実際はあの遺跡の天井なんですがね。

 ・・・・・いい加減鼻がバカになっちまったぜ。

 

 

「ったく、何が起きたって言うんスか」

 

 

 あの振動の最中気絶して、イスらしきモノから投げ出され、俺は床に倒れていた。

 非常にヘルメットの中身が顔面に付着して気持ちが悪いが、手元に水がない為VFまで戻らんと洗浄出来ない。一度戻らなくてはと思いつつ身体を起す。

 

 

「・・・・・?」

 

 

 ココでふと違和感に気付く。実はさっきの振動でこけた際ヘルメットのライトが壊れた。

 だからこの部屋は、空間パネルの光だけで照らされているだけで薄暗い筈なのだが――――。

 

 

「灯りが・・・点いたッスか?」

 

 

さっきまでこの部屋は埃だらけで真っ暗だったこの部屋は明るくなっていた。

今この部屋の明るさは、普通に太陽の下に居る時くらいの明るさである。

 何つーか、あの溝?アレから光が発せられて、室内を明るく照らしてやがるゼ。

 

 ほへー、扉の開閉に反応してたから只のセンサーの類かと思っていたけど。

実は照明を兼ねていたと・・・遺跡文明パネェな。

 

 

「・・・・うん?あら?おろ?・・・・・埃も無い、だと!」

 

 

 な、何と言う事でしょう。

遺跡に歴史を感じさせる重厚感を演出していた埃が消え去り。

今では光りが明るく遺跡を包み、手元を明るく照らしています。

これで今まで大変だったハウスダストも気にならなくなりました。

換気設備が稼働し、強力な空気洗浄が行われたようです。

 

 

うん、ビフォーアフターは二度ネタだね。

だけどユーリはついついやっちゃうん・・・・。

 

 

「・・・・は!まだ教祖さまが居る!?」

 

 

――――よんだかい☆

 

 

 呼んでません。本当にコレで最後です。お帰り下さい。

 

 

――――ヒャッハッハッハッハッ☆

 

 

 ふぅ、帰ったか。全く遺跡だからってデムパはもうこりごりじゃ。

 って、んなことしている暇はねぇ!どうなってんだ?この状況は!

 

 

「・・・・一度VFまで戻ろう。まずはそれからだ」

 

 

 この部屋がコレだけ変化しているんだ。きっとVFのある所も変化があったに違いない。

 そう思い俺はまだふら付くがメーザーライフルを杖に立ち上がると、扉へと向かう。

 入って来た時と同じように、溝が集中する突起部部へと手を伸ばした。

 

 

≪――――ヘコ≫

 

「・・・・・・あれ?反応しないッスか?」

 

≪ヘコ、ヘコ―――ヘコヘコヘコヘコヘコヘコヘコヘコヘコ!!!≫

 

「・・・・・ダメっすね。うんともすんとも言わないッス」

 

 

 参った。なんか遺跡が稼働しているっぽいのに、今度は扉の機能がおじゃんなのか?

 突起の部分に触れまくってんのに、扉は全然反応しない。

 いや、触るごとに溝に走る光りが若干強くなるけどそんだけ、ソレ以外反応なしだ。

 

 

「どーしたもんスかね・・・」

 

 

 鼻がバカになっているとはいえ、臭いが強烈だから早くメットを外したい。

 何故ならこの部屋には水道がない。いや遺跡で水道があったらビックリだけどさ。

 

 

「うーん・・・・ん?」

 

 

 視線を扉に這わせていると、ふと視界にあのスイッチらしきものが付いた台座が見える。

 うわぁ、ピカピカしてるぅ・・・そして俺は気がつくとその台座の前に立っていた。

 どうだい?このスイッチ?―――凄く、怪しいです。

 

 

「・・・押せと囁くんだ。俺の中のGhostが・・・てな訳でポチっとな!」

 

 

 俺は俺の中の声に従い、指を台座に当てた!すると―――

 

 

「・・・・・・・・反応無しかい」

 

 

 ざんねん、とびらはひらかれなかった。

 だが絶望するには早い、台座にはまだスイッチが残されているんだぜ!

 

 

「てな訳でもう一度ポチっとな」

 

≪ヴォン――カシュッ≫

 

 

 おし、開いた。どうやら遺跡が稼働したので、溝の所は反応しなくなったようだ。

 そしてこの台座はやはり開閉スイッチの類だったらしい。俺GJ。

 とりあえず一度VFに戻ることにしたぜ。

だってマジで気持ち悪いんだよ・・・ヘルメット・・・。

 

 

 

 

 

――――艦長、移動中。

 

 

 

 

 

 VFに戻った俺は胴体のメンテナンスハッチを開き、予備冷却タンクから水を取りだした。

 冷却用の純水な為飲むことは出来ないが、顔を拭く程度には丁度良い。

 

 そして一度VFの操縦席へと戻り操縦席を閉じてヘルメットを外し顔を拭いた。

 ヘルメットの中身も洗浄したいが、そこまでの水は無い為、拭くだけで代用。

 

 やや臭うが、最初よかマシになったそれを被り直した。

 酸味が効いた匂いが何とも言えない気持ち悪さを醸し出すが我慢できない程じゃない。

 ゆーりくんはつおいこ。だからがまんできるお。

 

 

 

 

 

 

 

さて、そんな訳で(どんな訳?)、先程の部屋へと戻って来た。

 まぁなんやかんやでまだ詳しくは見ていなかったので、好奇心が働いたと言える。

 とりあえず入って来た扉に一番近いイスへと足を向けた。

 

 

「えっと、確かココを触れたら空間パネルが開いてたんスよね」

 

 

 そしてなんとなくだが、あの時座っていたイスの前にあるテーブルみたいな台に触れる。

 あんときは暗くてよく見えなかったが、今はもう明るいので良く見えてる。

壁の溝みたく光が走ってて、ボタンみたいな部分が見受けられた。

 

なんつーか、アレだ。良く解らんがエピタフが反応した原因はコレだと思う。

 コレを調べたら、もっと何か解る様な気がしたのである。尚エピタフは鎮静化している。

 専門家じゃないくせに、なにするだー!って感じがしないでもないが無視するぜ。

 

 

「肘を置いてたのがココだから――」

 

 

 なんとなく、ボタンがあれば押したくなるのが俺クオリティ。

 う~ん、仲間が居ないとなんか行動にエスカレートが掛ってる気がする。

 ちょwww俺自重wwwってか?やだね。俺は自重しないぜ。

 

 そう言う訳で、それっぽーいボタンを弄くってしまう。

 どちらにしても、戻ったところでVFが置いてある所からつながるエレベーターは開かない。

 いやスイッチの類はあったんだけどさ?VFで強引に入った時にゴツンとこう・・・。

 はい、ぶっ壊してました。暗いって怖いね。

 

 

「こぉぉぉぉ、北○真拳奥義・・・っぽく手を動かす!」

 

 

 みよ!かつてパソコンで字を打つ際に鍛え上げた見事な一本指タッチ!

 アタタタタとボタンらしき個所を押して行くぜ!耐えられるのなら耐えてみな!

そして指でやること2分半・・・・・・・何で全然反応しないんだろうか?

 

 

「ゼェ、ゼェ、なかなか手ごわい。こうなれば禁断の足も使って・・・」

 

 

 誰も止めてくれないから、俺の暴走はエスカレート中。

 誰か俺を止めてくれ、そう頭の片隅で願うとその願いは聞き届けられた。

 

 

『ザザ・・・艦――聞――すか!』

 

「チェス・・・ん?短波通信ッスか?」

 

 

 メットに通信が入り、今まさに振り下ろされようとしていた足が間一髪で止まる。

 とりあえず通信帯を合わせて見ることにした。

 

 

「はい、こちら艦長のユーリ。この声はユピッスか?」

 

『か、艦長!ご無事でしたか!ハイ私です!ユピです!無事でよかった!』

 

「いや、正確に言うとあんまり無事じゃなかったりするッス」

 

『でも無事で・・・生きていてくれて本当によかったでずぅ・・・ふえぇ・・』

 

 

 ちょ!ユピが泣いてる?!マジで!?俺そんなに心配かけてたん?!

 多少おろおろしながら通信で彼女を慰める事にする。

 

 女が泣いていたら、手を差し伸べる。ソレが男ってモンだ!

 まぁ実際は彼女に泣かれると現状説明が出来ないってのもあるんだが・・・。

 

 

「・・・・落ちついたッスか?」

 

『は、はい、済みません取り乱してしまって・・・』

 

「はは、良いッスよ別に・・・(泣かれたままの方が辛いからな)」

 

 

 とりあえず通信機越しで向うが落ちついたのを見計らい、俺は現状を説明した。

 ココまでの経緯を説明し、脱出ルートを探していたら閉じ込められたとも話しておく。

 半分好奇心で探検していたことは話さない。だって怒られるもん。

 

 

『そうだったのですか。大変でしたね』

 

「いんやー、こうして仲間の声が聞けただけでも安心出来るッスよ~」

 

『仲間・・・へへ。あ、それよりも艦長!今外は大変なんですよ!』

 

「何かあったッスか?」

 

『はい、それが――――』

 

 

 えーと長いので省略するが、要訳するとだな?

 

 

「遺跡の半分以上が小天体を突きぬけて飛びだしてる!?ユピテルクルー達は無事ッスか?!」

 

『幸い距離が離れていた為、皆さん無事です。多少不時着面に亀裂が来た程度でしょうか』

 

 

 どうやら俺が今いるこの遺跡が小天体から突き出しているらしい。

 あの振動は遺跡が外に飛び出した際の振動だったんだろう。

 おお、つまり地下から出たから短距離通信機でも電波が届いたってワケか。

 ん?でも遺跡の中に居てVFの電波って届くのか?

 

 

『それは私が操作しているRVFが、微弱な電波を拾って増幅しているからですよ』

 

「あ、なーるほどッス」

 

 

 道理で遺跡の中なのにノイズ無しで聞こえる訳だ。

 なんとなくRVFが電波拾う為に遺跡の壁にヒッ付いている姿を想像し吹いた。他意は無い。

 

 

「そんじゃ、俺はココで待機してるッスから、出来れば助けに来てほしいッス」

 

『了解しました。ケセイヤさん達を送りますね』

 

「頼むッス」

 

 

 そんな訳で俺のVF-0Sから救難ビーコンを目印に、助けに来てもらう事にした。

 だって自力で出られそうもないし、それなら他の皆と合流する方が良い。

 そんな訳で、通信を切った後、俺はしばらく寝ることにした。

 

 どうせ皆来るまで暇だしな。胃の中身出しちまったからエネルギーも足りない。

 俺は遺跡の床にゴロンと一の字になると、そのまま眠ったのであった。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Side三人称

 

 さて、ユーリがのんきに遺跡の中で爆睡している頃。

 ユピテルからは遺跡探索及び艦長救出隊が組織され、遺跡へと向かっている最中であった。

 乗っているのはサナダ・ミユ・ケセイヤのマッド衆達。

 ソレと先導役のユピとか科学班や整備班を含めた十数人だけだった。

 

 トスカも来たがったが、今フネを離れる訳にもいかず、彼女はフネの復旧の為に残った。

 そして救出隊に「絶対ユーリ連れてコイ、莫迦には制裁」と、半分ワラキアになって指示をだ割いていたので、その怖さにユピが半泣きになっていたのは余談である。

 そして、ユピが操るRVF-0に先導されて、中型作業艇に乗り遺跡へとやって来ていた。

 

 

「さて、来たのはいいがどうやって入るんだ?」

 

「ユピが少年に聞いた話しだと、入口があるらしいぞ?」

 

「だがそこは入った後艦長自身が閉じてしまったのだろう?」

 

「なら、ソレらしいとこ探すっきゃねぇな」

 

 

 とりあえず遺跡の壁の周辺をグルグル回ること十数分。

 センサーを総動員しつつ、目視も使って見つけた恐らくは扉らしきもの。

 とはいえ扉は見つかったが、どうやって入るかで悩むことになる。

 

 何故なら扉は堅く閉ざされているし、遺跡故何をどうすればいいのかわからない。

 扉の開け方が解らない以上、扉を壊して入るしかないのである。

 

 

「まったく、艦長はどうやって中に入ったんだ?」

 

 

 誰かがこぼしたその言葉に、聞えていた全員が賛同していた。

 とにかく、遺跡の扉を開ける為に中型作業艇を扉に密着させる。

 

この作業艇は何らかの原因で壁にあなを開けた宇宙船の壁を修理する為の物である。

その為、作業する時フネのエアが逃げないように、宇宙船と作業艇との間を特殊な素材でパッキングするかのように囲み吸盤のように張り付き、空気漏れを出さない様に作業を行う事が出来る。

 

作業艇は遺跡の壁に取りつくと、クレーンを伸ばしプラズマジェットバーナーをセットした。

 コレは歪んでしまった宇宙船の壁を取り外す際に、溶断する為に用いるバーナーである。

 超高温高圧のプラズマ流が大抵の金属を瞬時に溶断させる事が出来るすぐれものだった。

 

 工作機械を設置し、作業艇は作業を開始する。

 遺跡の壁にプラズマジェットが放たれて、その部分が白熱化して白くなっていった。

 だが、遺跡の材質が特殊なモノらしく、白熱化してから貫通するまでに時間が掛った。

途中溶断機用の燃料を補充して、普通の20倍の時間をかけてようやく切断する事が出来た。

 

 

「どんだけ時間がかかるんだよ。お陰でバーナーが一ついかれちまったぜ」

 

「ふむ、この遺跡の壁は見たことがない合金で構成されているな。もしかしたら、未発見の元素で出来ているのかもしれない」

 

「ミユくん、調べるのは後にしよう。今は艦長を助けるのが一応の優先事項だ」

 

「確かにそれには異論は無いよ」

 

 

 切断面が冷えるのを待って、壁を取り払うと中にもう一つ壁がある事を確認する。

 どうやらココも与圧室であったらしく、二重構造となっていたようであった。

 仕方なしに作業艇はもう一度、中にあった扉を溶断する。

 

 こうしてなんとか遺跡への入口を作ることが出来た彼ら。

中型作業艇に乗せて来た作業用反重力車を降ろし、それに分乗して遺跡の奥へと入って行った。

 

 

…………………………

 

……………………

 

……………

 

 

 さて、ユーリとは違うルートで遺跡に入った彼らは、1時間程かけて長い通路を反重力車で進んでいた。ユーリの話しでは至る所隔壁が降りていたと言っていたが、遺跡が稼働した際に全て、隔壁が全て上がったらしく、特に動きを止めることなく奥へと進んでいける。

 

 しばらくして、なんやらパイプの様なモノが沢山ある部屋へと出た。

 何の部屋なのかは、専門家集団である彼らにはたちどころに理解出来た。

 その部屋は機関室、もしくはそれに準ずる何かであるという事をである。

 

 遺跡が浮上した際に動いたことから、この遺跡はフネである可能性が高い。 

 フネであるならば、動力源が必要となることは明白である。

 尚、機関部が作動した原因は、ユーリが無茶苦茶に弄くったスイッチの所為だったりする。

 下手すれば暴走の憂いがあったのに、上手い事起動した程度で済むとは悪運が強い男だ。

 

 そして彼らは、センサーに測定しきれない程のエネルギーを探知した為、あまりモノに触れることなく部屋を後にした。下手に装置に触れて暴走でもされたら、自分たちのみならず周辺宙域もろとも消滅出来る程のエネルギーを内包している事がわかったからだった。

 

 

「・・・本当にロストテクノロジーの塊みたいな遺跡だぜ」

 

「コレだけのモノが未発見であったとは・・・ゼーペンスト領は損をしていたな」

 

「確かに、早く艦長を見つけ出してココの研究をしてみたいものだ」

 

「「確かに」」

 

「えーと、皆さんビーコンはこっちの方角ですからついて来てください」

 

 

 段々と目的が擦り変わってきそうだが、一応まだ平気である・・多分。

 ソレはさて置き、彼らはその後も素晴らしきロストテクノロジーを垣間見、創作意欲を掻きたてられるモノや研究したい欲が増大していった。

 

 こういった遺跡というのは異星人が作り上げた可能性が高い。

 それ故、研究者にとっては今の状況はよだれの滝が出来そうな程の状況だった。

 早く艦長を見つけ出し、研究をしなければならない。

 

 こうして彼らは機関室らしき部屋を抜け、何や植物の残がいがある部屋を抜ける。

 恐らくは何かのプラントだった部屋も通り抜け、あのだだっ広い空間に到達した。

 途中、何人もの科学班や整備班の人間が途中下車をしたがったが、ソレらを無理矢理車に乗せて、なんとかここまで辿りつけたといった感じであった。

 

 

「わぁ、広い・・・遺跡の中だって思えませんね」

 

「床には恐らく元は土だったもんがあるな。でも煤が付いてるぜ?」

 

「さっき壁も見て来たが、全て煤で覆われていた。この空間ごと昔炎で包まれたって所だろう。そう言えば少年がいる場所はココからつながっているのだな?」

 

「あ、はい。艦長の言葉が正しければ、ココから工場区画の様な所を抜ければ・・・」

 

「くぅ、凄く研究がしたい・・・あそこにあれだけの資料があるというのに・・・」

 

 

 冷静なサナダですら悔しそうに、本当に悔しそうに遺跡の中の街を眺めていた。

 だが、今すべきことが分かっている為、彼らはまた車に分乗する。

 

 

「急ぐぞ!艦長を早く見つけ出すんだ!」

 

「応ッ!」×艦長救出隊全員。

 

 

 遺跡への探究心が、いま彼らの心を一つとしていた。

 

 

…………………………

 

……………………

 

……………

 

 

「アレは・・・造船区画なのか?」

 

「アッチは工業区っぽいな」

 

「すばらしい。アレだけの規模でありながら無駄がない。あれこそ人類が目指すべき極地」

 

「皆さん!後で幾らでも見学できるんですから、今は急いでくださいよ!」

 

「サーセン」×艦長救助隊から遺跡探索隊にシフトしつつある連中全員。

 

 

 ユーリを救助しに来た救助隊は、あの広い空間を抜けて、あの工場区を移動していた。

 あの時は真っ暗で遠くにあるモノがうっすらとしか見えなかったが、今は太陽の元に居るかの様な明るさな為、救助隊が移動中のハイウェイからでも遠くが良く見える。

 

 そこにあったのは極小、小、中、大、極大、超極大の生産ライン。

 いわゆる工場ってヤツが今にも稼働しそうな状態でそこにあった。

 また奥の方にはおそらくはフネ用の造船ドックと思わしき空間もある。

 

 いや、実際ドックの幾つかにフネらしき建造物が安置されている。

幾つかは建造途中で放棄された感じがあるが、形状からしてフネであることは明白。

なので、アレが造船ドックである事は疑う余地も無い。

 

 小さな都市に匹敵する生活空間、そしてフネが持つには余りにも大きな工場区画。

 この遺跡船が一体どんな目的で、且つ何の為のフネだったのかがおぼろげに解って来る。

 

 

「・・・・多分だが、この遺跡は一つの都市船だった可能性があるな」

 

「サナダ、貴方もそう思うか?私もそう思った」

 

「しかも、何世代にわたり超長距離を移動するという考えが見えるぜ。恒星間とかじゃなく銀河間クラスのフネだったのかもな」

 

 

 真相は不明、だがだからこそ解明したくなる。

 技術者や科学者としての本能が、この遺跡船を調べろと騒ぎたてる。

 こうして彼らはこの遺跡に魅入られていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、艦長が居らっしゃるのはこのシャフトらしき竪穴を上がった場所の様です」

 

「ふむ、だが扉が閉じたままだな」

 

 

 ようやく、ユーリが昇って行ったエレベーターシャフトに到達した救出隊。

 だが、エレベーターはあの罠(接触不良?)の所為で昇り切ったままである。

 

 

「・・・・仕方ない、この先は飛行していこう」

 

 

 反重力車な為、実を言えば空を飛べる。

 ドライバーが運転席のパネルで“地上滑走”から“飛行”へと設定を変更した。

 重力制御装置の振動が増し、車が空中へと浮かびあがる。

 

 すこし時間をかけて一番上の方まで昇って来ることが出来た。

 だが、当然扉は閉まっており、エレベーターが暴走した際に開閉スイッチも破壊されている。

 さすがにこの先に行くには、扉を壊すかどうにかしなければなるまい。

 

 

「どうするか、バーナーでいけるか?」

 

「止めておいたほうが良い。あの扉も外壁を同じ素材だ。只のバーナーじゃ歯が立たん」

 

「そうか・・・・っておい、ケセイヤ。お前も手を貸せ」

 

 

 サナダとミユがどうするかと頭を悩ませていると、車の後ろで何やらガチャガチャと音を立てているケセイヤ。

 すこしして音が止むと、何やら手に機械らしきモノを持ったケセイヤが前の席に寄った。

 

 

「おい、すこしあの壊れた開閉スイッチ辺りに寄せてくれ」

 

 

 サナダとミユはお互い顔を見合せるものの、何か考えがあるのだろうと思い従う。

 反重力車が開閉スイッチがあった場所へと寄せた。

 車が停止すると、ケセイヤはドアを開けて身を乗り出し、開閉スイッチへと何かを繋いだ。

 コード類が伸びた箱らしきモノに付いたキーボードを弄くり回している。

 

しばらくの間、車内にピポパと電子音だけが響いていた。

ケセイヤは何をしているのかと、ミユとサナダが問いただそうとした瞬間―――

 

 

≪―――ガゴォンッ!ズズズズ≫

 

「「な、なにー!?」」

 

「おっし、流石は俺。異星人のシステムでも似た様なもんだな。ハハ」

 

 

―――本の数分で、ケセイヤは遺跡のドアの開閉プログラムに侵入、扉を開けた。

 

 とりあえず言っておこう、遺跡のシステムは現行のシステムとかなり異なる。

 ソレに対し、一部でも制御を行えるように接続するのは容易なことではない。

 とりあえず片手間にこさえた簡易的なハッキング装置でやるようなことじゃない。

 

これって最早天才とかそう言うレベルじゃないんじゃね的な空気が車内に流れる。

 流石のマッド陣営であるサナダとミユも、流れ出る冷や汗を隠すことは出来ない。

 でも、考えてみたらケセイヤである。コイツなら出来ると納得できる面もあるのだ。

 

 

「皆さ~ん!固まってないで行きましょう!ホラ!あそこに艦長の機体が!」

 

「あ、ああ!確かにあるな。あれは少年の専用機じゃないか」

 

「そうだな。きっとこの奥だ。急ごう」

 

 

 早く奥に行きましょうよ~!と騒ぐユピに賛同して車から降りるメンバー。

 ケセイヤの事はとりあえず保留にし、今は目的の場所へと向かう事にする。

 深く考えても仕方がない気がしたのだ。だってケセイヤだし・・・。

 

 そんなこんなで特に障害も無くユーリがいる部屋へとやって来た面々。

 その部屋は外側に開閉コンソールがある為、普通に押したら開いた。

 そして、部屋に入った救助隊が見たモノは―――

 

 

「・・・くかー・・・くかー・・・Zzzz」

 

 

部屋の中央で大の字になって眠るバカ一名の姿だった。

 何とも呑気な姿にもはや起こる気にもなれない。

 とりあえず艦長回収して一度帰ろうかって感じになった。

 

 だがその時ユピテルがユーリの元に走り寄って抱きついた。

 心配して、心配してもうこれでもかってくらい顔をくしゃくしゃにしちゃっている。

 ユーリに抱きついた彼女に犬の耳と嬉しそうに揺れるしっぽが幻視出来そうな感じだ。

 

 

「かんちょぉぉぉぉ!!無事でよかったぁぁぁぁ!!!」

 

「・・・ふへ?ああおはよう≪メキョ≫にゃー!腕が曲がっちゃいけない方向にーー!!」

 

 

 さて、ユピはAIであるが、身体は電子知性妖精と呼ばれるコミュニケーション端末である。

 その素体はナノマシン集合体の様なものであり、戦闘用にナノマシンを調整されたヘルプ・ガールことヘルガは凄まじい戦闘力を持つ。

 

そしてそのヘルガに使われたパーツの予備で構成されたのがユピの肉体である。

彼女の素体は人間とほぼ同じ質感になる様に設定され、戦闘用では無い。

だが、スペック上はその素体のポテンシャルは人間を遥かに上回る力を秘めている。

 

 普段はリミッターを設けて、人間と同じくらいにその力を抑えているユピ。

 だが、実はこのリミッターは任意や無自覚で外せてしまうのである。

 その為――――

 

 

「・・・・・ブクブクブク」

 

「は!艦長は白目をむいて泡を?!だ、誰か助けてあげて!≪ギュ!≫」

 

「クェッ!――――ちーん」

 

「かんちょーーーー!!!」

 

「あー、ユピ。とりあえず少年を離そう。じゃないと死ぬぞ?」

 

 

 大好きなユーリと再会できた為か、思わずリミッターが外れた状態で抱きついたユピ。

 当然そのパワーは凄まじく、車ですらサバ折りに出来るほどのパワーであった。

 ユーリは装甲宇宙服を着こんでいた為、ゴアバックになる事態は防げたが比較的もろい関節部が人間として曲がってはいけない方向に曲がってしまったのも仕方ない事であろう。

 

 

 こうして、せっかく無傷だったユーリは非常に間抜けな感じで負傷する事になる。

 彼に抱きついて涙目なユピとか、それに呆れるクルー達やら、この部屋がいわば遺跡船のブリッジである事に驚きを隠すどころか哂い始めたマッドが居る等、ケイオス空間が形成された。

 

 

 そんな訳で、ユーリは気絶した状態で運ばれる羽目となった。

そして一度ユピテルの医務室送りになったのであった。チャンチャン。

 

 

***

 

 

「・・・・・・知らない・・・いや、知っている天井か」

 

「何いっとるんじゃ艦長?」

 

 

 あ、サド先生お早うございます。なんとなく二度ネタをしたかっただけで他意はないです。

 医務室の責任者のサド先生が居るって事は、俺はユピテルに戻って来たって所か。

 

 

「・・・・・・あ、サド先生、あざーす」

 

「ほい、おはようさん。ところで左腕の調子はどうじゃろうか?」

 

「うで?・・・アツツ!あれ?何で痛いッスか?!」

 

「そりゃ折れたからじゃよ」

 

 

 折れた!?Why?どうして?なんか包帯巻かれてるし、どうなってんだ!?

 

 

「綺麗に折れとったから、栄養剤と骨細胞活性剤を服用すれば、接合するのに4時間、完治なら一日あれば事足りるじゃろう。それまでは安静にしておく必要があるがな」

 

 

 ・・・・何気にスゲェなこの世界のお薬。でも、本当何で折れてるんだろうか?

 

 

「どうしてって顔しとるとこ悪いが、覚えてないのか?」

 

「・・・・・・」

 

 

 ん?ン~~~~~・・・あーー、そうそう思い出した。

 

 

「ユピに抱きつかれたところまでは覚えてるッス」

 

「うん、そして彼女の力が強くて腕が折れたって訳じゃ。ところで―――」

 

 

 サド先生が入口の方をちょいちょいと指差して見せた。

 釣られて視線をそちらに向けると、何やら見覚えがある顔がちらちらと覗いている。

 

 

「―――結構気にしとったから、な?」

 

 

 後は解るだろうという慈愛の様な視線と、自分の聖域にもめごと持ち込むんじゃねぇという視線が4:6で混ざった様な視線を受けた。まぁ基本的には不干渉の姿勢なのだろう。

 サド先生は片手に一升瓶もって奥へと引っ込んだ・・・微妙に見ている辺り酒の肴にするつもりのようだけどな。

 

 俺はなははと苦笑しつつ、医務室の扉の陰に隠れているユピを手招きする。

 手招きするとユピがピクンと反応し、なかなか医務室へと入ろうとはしなかった。

 なんか小さい子が悪いことをして叱られる時に見せる反応に似てるな・・・。

 

 

「ユピ」

 

「≪――ピク≫」

 

「ホラ、ちょっとこっちくるッス」

 

 

びくびくって感じでようやく部屋に入って来たユピ。

 やだ、何この子・・・子犬みたいで可愛いわ。

 

 

「・・・・艦長」

 

「ああ、次はもっと近くに・・・」

 

 

 俺に言われ恐る恐る近づいたユピ。

 俺が寝ているベッドの右手側のイスに腰掛けた。

そして俺は無事な右手を彼女の方へと伸ばす。

 

 

≪ポフポフ≫

 

「え?」

 

「ま、気が動転してたんスよね。なら仕方がない―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして伸ばした手をポフポフと彼女の頭に軽く乗せ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――なんて言うと思ったかァァァァ!!!」

 

「ふぇっ!?か、艦長!イタイ!いたいです!!指食い込んでますぅぅぅぅ!!」

 

 

 思いっきり掴む!俺はまだ骨を折った事を許すとは言っていない!

 俺のこの手が真っ赤に燃える!とにかく怒れととどろき叫ぶぅ!

 喰らえ!リンゴくらい割るアイアンクロォォォォォウッ!!!!!

 

 

「みぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 そして医務室に悲鳴が響いたのであった。ふ、むなしい勝利だぜ。

 あとサド先生、酒瓶片手に何じゃ詰らんとか言わない。見せモノとちゃうで。

 

 

「うぅ、いたいですぅ」

 

「だよね。そして俺はもっと痛かったッス。でも俺自身にも遺跡に閉じ込められたっていう責があるから、コレで勘弁するッス。まぁ骨折られたことへの、ちょっとした八つ当り?」

 

「しどい・・・けど艦長が痛かったのは事実なんですね」

 

「うん。あ、それと―――」

 

 

 彼女にもう一度手を伸ばすと、またクローが来ると思ったのかビクっと身体を震わせるユピ。

 その反応を見ても、、俺はお構いなしに彼女の頭に手を乗せた。そして――

 

 

「あの時俺を探して、助けに来てくれて、ありがとね」

 

≪がしがし≫

 

「―――あっ」

 

 

 ―――グワシグワシと、ちょっと乱暴に彼女の頭を撫でる。

 

 あの時、俺を探していてその後もちゃんと救出隊を引き連れて来てくれたのだ。

 実際もしあのまま放置されてたら、俺多分ココに居ないだろうしね。

 この子が偵察機を飛ばしていたから、俺のVFが出していた短波通信を受信出来た。

 

 そう言った意味でコレは親愛を込めた御礼を兼ねた、いわばスキンシップなのである。

 そんな事考えながらユピを見下ろしていると、何故か彼女は言葉に詰まっている。

 何、この可愛い生きモノ。何故か千切れそうなほど振われる尻尾が見えた気が。

 

 

「あ・・・・・・うぅ・・・・・」

 

「ユピ、顔が赤いけどどうしたッス?」

 

「えう、えっと(何でだろう、艦長に撫でられると顔の火照りが止まらないよ~)」

 

「疲れてるんスか?AIだって言ってもナノマシンへの疲労の蓄積くらいはあるんスから、一度部屋に戻って休むと言いッスよ。俺はホラ、もう心配いらないし」

 

 

 彼女を気遣って休むように勧める。相手の事を気遣えるのが人気者になる第一歩だぜ。

 

 

「あ、はい!お気づかい感謝します!」

 

「はっは、なんのなんの」

 

「で、では私は仕事に戻ります。えっと・・・お大事に艦長」

 

「あいあ・・・・」

 

 

 いつものように軽く返事を返そうとした瞬間、俺は見てしまった。

 ユピの、彼女の背後に立つ修羅の姿を・・・ああユピ、不思議そうに首を傾げないで、可愛いから。

 

 

「あ・・・ああ」

 

「やぁユーリ、災難だったな」

 

「ト、トスカさん」

 

「どうしたのかな?そんなこの世の絶望みたいな顔してさ?そんなに私が見舞いに来たのが珍しいのかイ?」

 

 

 ちゃべー、身体の震えが止まらねぇ。あれ?今度こそ俺詰んだ?死ぬの?バカなの?

 そして彼女は俺の方へと手を伸ばし・・・・。

 

 

「心配掛けさせんじゃない!」

 

「ひぃぃぃぃ許してェェェェェ!!」

 

「あわわわわ!!」

 

「(ふむ、騒がしいが見ている分には面白いのう。酒の肴にはなるワイ)」

 

 

 医務室に哀れな俺の悲痛な叫びがとどろいたのであった。

 結果:怒れるトスカ姐さんのお仕置きならぬOSIOKIにより入院が3週間伸びた。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Side三人称

 

 

 ユーリが無事・・・とは言い難いがなんとかユピテルの帰還した後、ユピテルの復旧作業が開始された。融解した装甲板を交換し、歪みが出来た個所にパッチを当ててエアが漏れない様にしていく作業が延々と続けられる。

 

とはいえ、船体の半分近くが持って行かれ、インフラトン機関も損傷してしまっている現状において、例え応急修理でもフネを恒星間移動させる事は出来ない。

 無事だったVFを使い、応援を呼びに行くという案も出たのだが、あの戦闘によってかなり流されてしまった為、既にVFが到達できる航続距離の限界をとっくに超えてしまっていた。

 

 

 また仮に呼びに行けたとしても、修理素材が不足している為、インフラトン機関が不調なのである。その為何時インフラトン機関が停止してしまうかがまったく解らない。

 もしもVFが応援を呼びに行けたとしても、インフラトン機関が止まればどの道助からない事は明白であった。フネにおける全ての装置のエネルギー源である故の弊害だった。

 

 科学班も整備班もこれには頭を抱えてしまった。今の所予備電源で酸素の供給が行えているが、フネの竜骨も装甲板もかなり歪んでしまい、エア漏れが至るところで起きているので、インフラトン機関へ修理の手が回らなかったのである。

 

 

 このままでは数日中に空気中のCO2 の量が安全値を上回り、乗組員全員が酸欠で死に絶える事態になってしまう。運良くフネでも通ればいいが、航路から大分離れている上希望的観測は当てにならない。

 

 どうしたモノかと、現在入院中のユーリ以外が集まって話しあっていると、ユーリ救出に向かった乗組員の一人が冗談で「あの遺跡の中で作業すればいいと思うばい」と述べたことで、マッド三人衆に電流が走った。

 

 あの遺跡の中にユピテルを持ちこむのは流石に無理だが、今遺跡は稼働状態にあり人間が呼吸していける空気が供給されているのである。それはユーリを救出しに行った時、中に入って観測したデータなため信用が置けた。

 

 今のエア漏れ激しいユピテルにとどまるよりも、一度住処をあの遺跡へと乗り換え、ユピテルを修理した方が効率が良い。それに同時に遺跡を調べれば、ユピテルの修理に使える物が見つかるかもしれない。その考えに行きついた彼らは、さっそく拠点を移すことになった。

 

 

 

 そしてユピテルが落ちてからおよそ30時間経過した。

科学班と整備班はそれぞれが作業艇に分乗して、機材と共に遺跡へと向かう事になった。

尚艦長であるユーリは負傷していた為、作業には参加できないモノの、内火艇に乗せられて先行している。怪我はしていても指示は出せるので、人手が足りない今は彼も働く羽目になった。

 

遺跡へと乗り込んだ彼らは、まずあのユーリ救出の際に開けた侵入口を改造して与圧室と機能出来るようにした。そこを搬入口に見立てて、これからの作業を行いやすくするためだ。

遺跡の壁は非常に強固であったが、マッド連中の行く手を阻む程度では無い。

モノの数時間で侵入口を与圧機能付きの搬入口へと改造してしまったのであった。

 

まぁそれで作業が終わったという訳ではない。次は資材や機材の搬入が残っている。

遺跡の機材がどの程度使えるか不明な為、ユピテルから持ち出せるモノは大抵持ち出した。

 機材は基本的に解体して組み立てが可能な為、部品単位で遺跡へと運びこんだのである。

 

 資材関連は密閉コンテナのままピストン輸送して遺跡へと運びこんでいった。

 その中にはユピテル修理の為の資材の他に、様々なモノがパッキングされ、今の彼らの生命線であると言えた。

 

 

 そして次は運びこんだ機材を、あの広い空間に運び込んだ。

結構色々な機材がある為、搬入口付近の通路に置きっぱなしにはしておけなかったからだ。

幸い広い空間は風が吹かない為、砂や埃が舞い上がる心配がない。

 

やたらと広い空間に、一部ぽつねんとコンテナや機械が積み上げられて、周りの景色とまったく合わないソレらがあるそこだけ異質な雰囲気を放っている。

まぁ今はそんな事を言っている場合ではないので、彼らは特に気にはしなかった。

 

とりあえず持ち運んだコンテナを開封し、野戦用の天幕を設置していく。何気に海賊拠点とかの様な地上での戦いを経験している為、何時か使うかもという理由で、そう言った類の装備品が準備されていたのだ。

 

 まさか他の惑星に不時着して使用するならともかく、謎の遺跡の中で展開する事になるとは思わなかったのであるが、ソレはともかくとして、ちゃんと天幕が機能するように準備していく、しばらくは仮の住居としてそこで寝泊まりする事になるのだ。ある意味真剣にもなる。

 

 

 ユーリも設営を手伝おうとしたが、怪我をしている身であるという事で止められた。

 何じゃかんじゃ言っても、クルー達は皆この艦長の事を好いているのである。

 もっとも、彼の腕を離そうとしないユピや、その様子を見て何故か機嫌が悪くなるトスカを見てニヤニヤとしながら楽しんでいるので、ユーリにとっては余り良いとは言えないだろう。

 

 何気にミユもニヤニヤしながら、ユピやトスカの前でワザとユーリにエロいちょっかいを出して、ユーリのチェリー故の初心な反応を楽しんでいたりするので、ユーリは身体の怪我はともかく、今度は心労に悩まされそうで怖いと漏らしていた。

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

 さて、ユピテルが不時着してから三日目の朝を迎えていた。

 まぁ遺跡の中は常に一定の灯りが灯っている為、実際は宇宙標準時に合わせたモノであったが、宇宙で暮らしているとそう言ったのは余り気にならない。

 

 とりあえず、ユピテルの修理は整備班と科学班の混合チームと修理用ドロイド群に任せ、残った人間(主にマッド三人衆内二人)は遺跡を探索する方向に決まった。

 トスカは前回遺跡に来ることが出来なかった為、この遺跡探索に参加する運びとなった。

 

 ユーリも行きたがったが、結局怪我でまだ動けない為、サド先生の元で療養中である。

 最後まで「行きたいッスー!行きたいッスー!」と駄々をこねたが、トスカの「もぐよ」の一言で完全に沈黙した。

 

序でにまわりの男性クルーも、全員がほぼ同じ場所を抑えて震えあがっていたのを見て、ユピが「・・・不潔です」と漏らした為、男性クルー達に2000の精神ダメージがあった事は余談である。男は皆、あの個所の痛みというモノを共通出来るというのは、どの時代も変わらない。

 

 

 

 そんなこんなで遺跡探索に行く前にひと悶着あったが、遺跡の探索が開始された。

 メンバー的には空いている人間たち、ソレとサナダとミユ、トスカ等が参加する予定である。

 また通信のみでケセイヤとユピも彼らをサポートするのである意味参加メンバーとも言える。

 

 ケセイヤはユピテルの修理作業があるので拠点を離れられないし、ユピはユピでユーリの看病と修理ドロイド達の統制をおこなうという仕事があるのだ。

 ケセイヤは若干残念がったが、ユピテルを修理するのも自分の仕事である事を理解している為、ユーリの様に駄々をこねる様な事はしなかった。

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

 とりあえず反重力車を浮かべ、大居住空間を滑走していく遺跡探索メンバーたち。

 その中の一両の車内ではこれからどこに向かうかと言う事を相談する事にした。

 少なくてもメンバーの内、トスカはこの遺跡の内部をまだ見ていない。

 だから、ユーリ救出の際に内部を見て回っただろうマッドに話を振ったのだった。

 

 

「まず何処へ行くんだい?」

 

「ふむ、色んなところを見て回るというのも捨てがたいのだが・・・」

 

 

 サナダはちらりとミユの方に目を向けた。

彼女はそれを受けて言葉を繋げて説明を行う。

 

 

「ああ、ソレも捨てがたい。だがまずわれわれが優先すべきは、ココで行きぬけるように資材やテクノロジーを手に入れるという事だ」

 

「つまりは報告にあった工場地区と思われる処へ向かうってことかい?」

 

「その通りだトスカ副長。艦長を救出しに行った際、かなりの規模の工場区画が見えた」

 

「そこになら何らかの資材、または機材がある可能性もある。よもやとは思うが、遺跡の工場も稼働出来るかも試してみたい」

 

 

 もしも遺跡にて発見した機材が修理に転用出来る場合、遺跡の工場が稼働出来た方が都合が良い。また遺跡を動かせるようになれば、もしかしたらこの遺跡の調査も早く進めることが出来る。

 異星人か、はたまた違う銀河島からの漂流船かは不明だが、少なくてもマゼランの人間にも動かせるという事が解るからだ。

 

 動かせるとわかったなら、恐らく遺跡船であるこのフネを操作する事も出来るようになるかもしれない。そうなれば白鯨艦隊は大規模な拠点を得られるという事になるのである。これを逃す手は無い。

 

まぁ流石にこのサイズになると、空間通商管理局の軌道ステーションに入港できなくなるが、補給に関しては専用の輸送船を造ってピストン輸送すればいいので、一応は問題無しである。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そんな訳で工場区画へとやって来た彼らは、コントロールルームを探した。

 自動化された機械が多かった為、何処かに統合コントロール室があるのではと思い探した結果、その考えは正しかったようで、ソレらしい部屋を探し出すことに成功していた。

 

 

「―――しっかし、この遺跡は・・・随分と綺麗なモンだ」

 

「一応居住空間に残された土、埃等を調べたら1万飛んで2千年前のモノだって事はわかっている」 

 

「1万とんで2千年前・・・風の無い時代のフネってことかい?」

 

 

 ココで少し補足しておくと―――

 風の無い時代とは、マゼラン銀河文明が起こる以前、1万年ほど続いた移民船時代の事である。

 

テラ文明の末期である第二期、およそ23~24世紀に掛けてインフラトンエネルギー技術がブレイクスルーし、超光速恒星間船が実用化された。これによって恒星間どころか更に遠い外宇宙への航海も可能となり、次々と超光速船が造られていくことになる。

 

また同時期、宇宙適応型人類も発見され、人類は遺伝子的にも宇宙で生きられる肉体を手に入れることになり、当時既に人口が数百億を突破しそうであった人類は、I3・エクシード航法を用いた大規模宇宙移民計画『MAYAプロジェクト』を発動し、宇宙へと旅立って行った。

 

 『MAYAプロジェクト』により超大型移民船団4万隻がテラを旅立ち、様々な方面の移住可能惑星へと進んでいった。しかし、超長距離の航海の間に、移民船に乗る人間の繁殖力の低下によって、居住民の滅亡と言う形で多くの移民船団が消滅してしまう。

 

 その中でなんとか生き残った人類がマゼランに到達した時より、マゼラン銀河文明がスタートする事になる。そしてソレ以前の大航海時代の事を“風の無い時代”と呼ぶのである。

 

 またこの風の無い時代において、サイバネティクス技術が先鋭化し、現在のマゼラン銀河文明よりも進んでいたとされ、ソレが“公式”ではロストテクノロジーとされているのである。

 

―――以上、補足完了。

 

 

「いや、あくまであそこの土がそうであるだけで、実際はもっと古いモノである可能性が高い。もしかしたら異星人のフネの可能性もある」

 

「へぇ、そうなのかい?」

 

 

 サナダの言葉に少し驚いた顔をするトスカ。

まぁ今自分たちがいるフネが宇宙人のフネですと言われれば、悪い冗談か何かの類だろうと考えるところだが・・・話す人間が普段冗談を言わない為、信憑性が増して行く。

 

ソレを聞いていたミユも「サナダの言う通り、確かにその可能性が高いかもしれない。まぁ今はそれよりも、ユピ」と言って、携帯端末でユピを呼び出し、今回の目的である工場区画の調査を再開する事にした。調べたいのは山々だが、今はその時ではないのである。

 

 

『―――はい、こちらユピです。なにか解りましたか?』

 

「工場区画の統合コントロール室と思われる場所についた。端末を接続するから、解析をお願いしたい」

 

『了解しました』

 

 

 ミユは携帯端末に形状記憶端子を接続し、端子をコントロール室の端末へ接続した。

 ユピが解析を行っている間、自分たちも他のシステムや何やらを調べあげていく。

 現行のシステムとは異なるが、ユピの演算機能によってシステムを掌握する事に成功した。

 そして、更なる解析が行われる事となったのであった。

 

 

 

 

 

―――さて、サナダ達が工場区画で解析を行っている頃、別の一団が遺跡内を探索していた。

 

 

「トクガワ機関長、この先だそうです」

 

「うむ、そうか。遺跡の動力源。気になるのう」

 

「どんなエンジンなのか楽しみですな」

 

 

 ユピテルのインフラトン機関がある機関室へと、いまだ入ることが出来ないトクガワ機関長を中心とした機関士達の一団だ。この遺跡船にも生きている動力源があると聞いた彼らも、もしかしたら何か使えるかもしれないと思い、遺跡船の動力室へと足を向けていた。

 

 しかし、機関室に辿り着いた彼らを待っていたのは、既存の機関とは全く違う未知のエンジン。調べてみれば凄まじいエネルギーを生み出せる機関である事は解る。しかし詳しいシステム、制御法に至っては今の所彼らに手を出せる代物では無かった。

 

 

 

 他にも空いている者たちはそれぞれ散らばり、密閉式バイオマスプラントを見に行ったり、使えるモノがないかを探しに出ていた。とはいえ、遺跡船の余りの広さに隅々まで調べることは出来ず、使えそうなガラクタ関連を集めては持ち帰るという作業を行うだけであった。

 

 

 

 

 

 

―――――ユピテルが不時着し、遺跡船内に拠点を移してから一週間経過した。

 

その間にユピテルの修理は、とりあえず空いた穴を塞ぐところまで終えることが出来た。エアが漏れ出ない様にパッチを当てただけなため、戦闘はおろか通常航行もおぼつかない。エンジンもてつかづな為、実質通常航行すら出来るかも怪しかった。

 

 とはいえ一週間の間に遺跡の解析も進み、各種隔壁の開放等は行えるようになっていた。ケセイヤがユピテル修理の片手間に、遺跡船の統合制御AIへとアクセスできるように、ユピを基盤ごと遺跡へと持ち込んだのである。

 

 ユピが遺跡船へと直接アクセスする事が出来るようになり、色々と遺跡船を管理するプログラムを解析した結果、使われている言語モデルを手に入れることに成功し、それを元にケセイヤがこれまた怪しい機械を使用。ある程度のシステム干渉が可能になった。

 

また言語モデルを獲得した事で、遺跡船のコンピューター内に残されたデーターベースらしきデータ類を翻訳する事が可能となり、これまでどう扱えばいいのか不明だった装置の使用法等が解る様になった為、更に遺跡の解析は進んだ。

 

 

 中でも重要だったのが、遺跡の環境管理プログラムの存在と遺跡の動力源やその他運用に必要な情報が残されいたという事であった。また遺跡船を管理しているAIの様な人格データはかつて存在していたことが判明した。

 

しかし、随分と昔にその人格データは破棄されていた。正確には自壊させたらしく、遺跡船に残された居住民が消えた時期と一致する事から、居住民が消えた時に己のレゾンデートルが無くなってしまったが為、それによるストレスから自殺したのではとユピが推測していた。

 

 この遺跡のAIはソレだけフネの中に住む人達の事が好きだったのでしょうと、人が消えた時に自らを破壊してしまう程悲しんだ程に、遺跡船のAIは優しいAIであったのだと・・・。

 

 遺跡船内で何かが起きたのであろうが、映像資料に関しては厳重にロックされており、普通では見られない。既にシステムの8割を掌握しているユピですら、このデータに掛けられた障壁を突破する事が出来なかった。

 

 

 しかし映像こそ見れなかったモノの、遺跡船で何が起きたのかは推測できた。

簡単に言えば出生率低下による衰退と滅亡である。このフネは居住民が死に絶えた為、無傷のまま宇宙をさまよう羽目になったのだ。

 

それを示すように、サルベージされたデータには、居住民の人口を表すグラフが非常にゆっくりとした感じで下降していくグラフも見つかっていた。衰退の道は非常にゆっくりと進み、気がついた時には取り返しのつかないところまで来ていたのかもしれない。

 

 また街と思われる空間は事前に消火装置が働かないように細工され、火が出た時には居住区の隔壁が閉鎖され送風されるエアの酸素濃度も高めに設定されていたていたことから、ワザと放火されて火が消えない様にしたものであると推測できた。

 

恐らくは最後の一人が思い出の残る街ごと燃やしつくそうとしたのだろう。

 なんでそんなことをしでかしたのかは、今になっては謎のままだ。

 ま、そんな事よりも今は生きることが優先なため、それ以上調べることはしなかった。

 

 そして自殺したAIのあとがまとして、暫定的にユピの基盤を接続する事になった。

 今の遺跡船はサブシステムにて動いている状態であり、今後の為にもキチンと動いてもらわないといけないという事になった為、だったらユピを接続しちゃえばいいじゃんって話しになった。

 

 幸いシステムは全て掌握したも同然であり、専任のAIが消えた際にファイアーウォールの様な防衛プログラムも未知連れにしていた為、あとがまに座ることは難しい事では無かったのである。

 

 そしてユピがフネと完全に接続した事で、今まで未開通であった場所に何があるのかも解明される様になる。フネの工場区もデータさえあれば大抵のモノを作ることが出来るシステムであり、今の管理局ステーションの機能に近いモノだった。

 

 また、工場区画には造船所らしき場所が見えたのだが、実際ソコは造船区画であった。なので今は外の小天体に浮かんでいるユピテルをそのまま遺跡船へと回収、造船区画に置いて完全に修理する事となったのである。

 

 

 

 

 ちなみにこれら全ての工程が完了するまで、不時着してから換算して3週間かかっていた。

その為、ユーリ自身は結局ほぼ何もすることなく、遺跡船が使用可能になる時までずっと寝込んでいただけであった。

 

 その為、遺跡船が使用可能になったと聞いた瞬間。

彼の顔が面白いほどポケーとした顔になっていたのは余談である。

 

 とりあえず、やっとサドの元から退院したユーリが、完全ではないが遺跡船を動かすことが出来るようになったと聞いた時、彼は「ウチのクルーまじパネェッス」と漏らしていたという。

 

***

 

 

 あ、ありのままに起こった事を話すぜ?

 

「やっと退院出来たと思ったら、白鯨艦隊の旗艦はこの遺跡船になっていた」

 

 一体全体何が起きたのか解らなかった。頭がどうにかなりそうだった。

 未知のシステム解析したなんて言うレベル何かじゃ断じてねぇ

 マッド共の恐ろしいほどのチートを味わったぜ。

 

 

 

 いきなりポルナレフで困惑したと思うが、正直俺自身が困惑していた。

 だってやっと退院の許可が降りたと思ったらコレだぜ?ユピテルはどうしたって話だ。

 

 ・・・・まぁ、ユピテルはやっぱり損傷が激し過ぎたらしい。

 キールが完全に歪んでしまっていた為、直すよりも造り直した方が良いとの事。

 

 ユピテルは小マゼランで、かなり長い事共に歩んだフネだったから愛着があったんだがな。

 それでも、流石にあそこまで壊されてしまったら、もう共には飛べない。

 

 一応修理はしたらしいが、もう戦艦として機能させることは出来ないらしい。

 今は遺跡船の造船ドックの一つに収容され、モスボール処置待ち何だそうな。

 

 

「まったく、次から次へと・・・波乱万丈な人生ってヤツッスかねぇ?」

 

 

 頭をポリポリと掻きながら、医務室にされていた天幕から出る。

 ま、とりあえずユピテルの方へとよる事にしよう。

 コレもあの船を建造した艦長としての仕事ってヤツだ。

 

 

――――そんな訳で、俺はこの大居住ブロックから工場区へと足を向けた。

 

 

***

 

 

 流石に船内が広すぎる為、俺専用VFを使う事にした。

 あれを使えば広い艦内も楽に移動できる。

 ・・・・戦闘機が普通に飛びまわれるフネって、どんだけでかいんだろうな?

 

 まぁそんな感じで、乾ドックに停泊中のユピテルへと近寄っていく。

 2000mクラスのフネを停泊させてもまだ余裕がある乾ドックの周辺を飛び、VFがおけそうな場所を探した。

 

 丁度、乾ドックの両サイドが壁のようにそそり立ち、その上に3m弱の幅がある。

 なのでそこにVFを乗せ、俺は壁の上に降り立った。

 位置的には丁度ユピテルの側舷側が一望できる位置である。

 

 

「・・・・・確かに、大分傷が目立つッスね」

 

 

 そこから見えるユピテルは、以前の様な白く美しい船体では無くなっていた。

 あの戦いによって、装甲板のいたるところが剥離した為、部分的に灰色になっている。

 パッチを当てたところも目立つ上、何よりもフネ自体が何処か歪んでしまっている様だった。

 

 考えてみればグランヘイムの軸線重力砲が命中しているのである。

 あの重力子の塊を受けて、キールがひしゃげた程度で済んだのは運が良いのだ。

 船体強度が脆ければ、周辺空間すら超重力で捻じ曲げる砲撃によって完全に押しつぶされていた筈だ。爆散していなかったこと自体が奇跡だった。

 

 

「・・・・・ユピテルも、頑張ってくれたんスね」

 

 

 良いフネだった。俺がのった戦艦の中で一番のフネだった。

 フネには魂が宿ると言うが、もしユピテルにそう言うのがあったなら、あってみたかったな。

 そして、謝りたかった。ゴメンなさいと、もう乗ることが出来無くてゴメンと。

 

 

「せめて、就役年数に達するまでは使ってあげたかったんスけど・・・ゴメンな」

 

 

 俺達と共に戦いの中を突き進んだ戦友ユピテル。

 もう乗ってあげることは出来ないが、モスボール処置をするって話しだから保存される事になるだろう。

 

ありがとう、そしてさようならユピテル。

俺達を守ってくれてありがとう。

後は俺達に任せて静かに眠ってくれ。

 

 そう心の中で呟いた瞬間、一瞬だけユピテルの航海灯が光った様な気がした。

 思わず目をこすったが、航海灯は消えており、ユピテルは静かに鎮座しているだけ。

 すこしだけ茫然としていたが、俺は立ち上がるとVFに乗り込み、その場を後にした。

 

 

***

 

 

さて、俺が復帰したのはいいが、やることは山ほどある。

 まずは白鯨艦隊の再編成、正確には散らばってしまった仲間をもう一度集めるって事だな。

 あいつ等の事だから殺しても死なないとは思うけど、いてくれた方が心強い。

 

 それと遺跡船を航行可能にするという事、実の所船体の半分はまだ小天体に埋まっている。

 この遺跡船は船体前部が平べったく、全翼機の様な構造をしており、それにエンジンブロックが接続している形状を取っている。(形状的にはエウレ○のスーパーイズモ艦?色は灰色)

 

 

 大きさはこのフネに残されたデータによると、全長が約36kmもある。

 武装は現在の所、あるにはあるのだが、調べてない為どんなものかは不明。

 ただ既存のレーザーやミサイルの様な兵器では無いという事は判明している。

 

 装甲素材も不明、内部工廠で生産可能であること以外はよくわからないらしい。

 それと機関部については、補機としてインフラトン機関が搭載されているが主機は別。

しかも現段階で理論でしか無い筈の機関が搭載されていることが判明している。

 

 

その名も相似次元機関―――

 

 無限に存在する次元空間から自身の次元よりも高エネルギーを持つ相似性の高い次元を選別し、相似次元からエネルギーを此方側へと移しかえる作業を繰り返すことで、理論値限界以上のエネルギーを機関内に形成したユークリッド空間へと復元させ、超高エネルギーを生み出せるエンジン。

 

―――らしい。技術的な説明は勘弁して欲しい。

 

 

 簡単に言っちまえば、インフラトン機関みたく別次元からエネルギーを得る機関だ。

 ただ、インフラトン機関よりも出力が高い・・・と言うか理論上は上限がないらしい。

 違う次元からエネルギーを移すことからシフト・サイクル・エンジンとも言うそうな。

 

 また機関に限界出力が設定されているが、ソレは機関部の耐久値である。

 それ以上は機関部が造り出す出力に、機関部の構成素材が耐えられないらしい。

 完全稼働出来れば武装撃ち放題なので、ある意味チート機関です。蛇足です。

 

 

 こんな強力なフネだったが、長年眠っていた為、本調子では無い個所もある。

 後で気がついたのだが、この遺跡船オキシジェン・ジェネレーターが積んでなかったのだ。

 何と今時珍しい閉鎖式バイオプラントと密閉式ケミカルプラントのハイブリッドだった。

 

バイオプラントの方は、余りに放置されていた所為で植物が死滅し、当然稼働していない。

現在このフネの空気を提供しているのはケミカルプラントだが、ソレも調子が悪いのだ。

そりゃ一万年近く放置されてた訳だしな。何処か不具合も出るだろう。

 

 他にも操船方法がまだよくわかっていないし、船体各所にロストテクノロジーと思われる装置も多数確認されている。

 全体的に技術力が非常に高いのだが、所々現在と劣っている部分もあるから不思議だ。

 

 

 まぁこうして色々と思い返してみたが・・・・大きさだけで、ちょっとした要塞だな。

 むしろ宇宙基地が、そのまんま戦闘機動が取れるフネになったと考えるべきか?

遺跡船と書いて要塞艦と読んだ方がいいかも知れん。

 

 当然目立つ事この上ないから、ステルスモードを使う為の特殊素材の塗装を急がせている。

 幸い艦内工廠で作れるらしいのだが・・・ストックしていたレアメタルが全部消えるらしい。

 

 レアメタル無くなりました!――ああ、次は金稼ぎだ・・・。

 まぁそんな訳で色々と考えねばならぬことに頭痛を感じつつも居住区へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――ざわ・・・・ざわ・・・・・

 

 

一度大居住区へと戻ってきた俺は、現在の住処である天幕へとやって来ていた。

 今後どうしようかと頭を悩ませていると、何やら人だかりが出来た一角が目についた。

 

 

「・・・・ん?何スかあの人だかり?」

 

 

 近寄って見ると、トスカ姐さんやその他のクルーの姿も見える。

 確かその天幕はサド先生が居るところだから、医務室関連だろうか?

 

 

「どうしたんスか?誰か大けがでもしたんスか?」

 

「ユーリか・・・ちーと不味い事が判明してね」

 

「不味い事?」

 

 

 俺が話しかけると、やじ馬が道を開けてくれた。

 トスカ姐さんは俺を確認すると、眉間にしわを寄せていかにも大変だって顔をしている。

 

 

「密航者が居たんだよ。しかも密航してたのはキャロ・ランバース。ゼーペンストで助け出して保安局が連れ帰った筈のお嬢さんさ」

 

「うげ!マジっすか?」

 

「ちなみに発見者はファルネリさ。コンテナ整理をしてたら見つけたらしい」

 

 

 おいおい、どうやってユピテルのセキュリティを突破したんだ?

 

 

「・・・・って、あれ?ファルネリさん残ってたんスか?」

 

「私物を取りにユピテルに戻ってたら、そのままフネが出港しちまったんだそうだ。んで、そのまま不貞寝してたら何時の間にか戦闘終わっててビックリだってさ」

 

 

 ・・・・・俺としてはヴァランタインとの戦闘の最中に、グースカ寝てられたって所に驚きを禁じ得ないんスけど・・・え?それも秘書の嗜み?秘書パネェなオイ。

 

とりあえず、保護したキャロ嬢は何やら衰弱しているらしいので、現在医務室代りの天幕にいる密航者さんの所に居るらしい。

 

 

「はぁ、どうやってもぐりこんだのか聞きださないと・・・」

 

「じゃ、案内するよ。こっちだ」

 

 

とりあえず様子を見る為に、キャロ嬢の所に向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――医療天幕。

 

 

 天幕に入ると治療用ベッドに点滴をつけて眠る、見覚えのある金髪の少女が寝かされていた。

その少女、キャロ嬢に付き添うファルネリさんが、俺達が入って来た事に気がついた。

 立ち上がって今にも謝りそうに頭を下げようとする彼女に、俺は手をだして制止させる。

 

 

「あ、あの・・・」

 

「ファルネリさん、貴女が謝る必要はないッス」

 

「しかし・・・」

 

「彼女が忍び込んでいた事に気がつかなかった此方にも否はあるッスよ」

 

「・・・・すみません」

 

 

 いや、そう申し訳なさそうにされると、こちらとしてもどうにもやり辛いぜ。

 とりあえず、キャロ嬢の容態を聞く事にしよう。

 

 

「それで、キャロ嬢は大丈夫何スか?」

 

「あ、はい。只の脱水症状ですから大丈夫です。お嬢様が忍び込んでいたのが食糧コンテナでしたから、栄養は取っていたみたいですし」

 

 

 そして話しを聞いて行くうちに、どうやってキャロ嬢が忍び込んだのか大体掴めてきた。

 ユピテルはゼーペンストのステーションに停泊していた。

 ステーションでは停泊したフネに自動的に補給が行われるシステムがある。

 恐らく逃げだしたキャロ嬢は、隠れ場所としてコンテナに忍び込んだ。

 

 そしてそのコンテナがウチの補給に使われるコンテナだったらしい。

 キャロ嬢が入ったコンテナはユピテルに乗せられた。 

 多分そのコンテナがユピテルに補給されるコンテナだって知ってたんだろう。

 大方出港してからコンテナから飛びだして、俺達を驚かせそのまま自分を送らせようって魂胆だったのだ。

 

 

 ―――だが誤算があった。

 

 ユピテルはそのままヴァランタインとの交戦に突入したのだ。

 飛びだそうにも外はドンパチやっているので出るに出られない。

 仕方なしに彼女は閉じこもることを選択したらしく、付近のコンテナから水を探し出した。

 

 まぁ攻撃が直撃したら何処に居ても大体同じ運命だし(要は死ぬって事、意外とドライだよな)、戦闘が無事終わればソレで良し、てな訳でコンテナに潜んで戦闘が終わるのを待っていた。

 んで、その後も結局出るに出られなくて、こうなったって事か。

 

 

「それと、心配なのは、お嬢様は先天的なフェルメドシンホルモン欠乏症なのよ」

 

「じゃあ、今回倒れたのって・・・」

 

「あ、今回は只の脱水症状らしいから大丈夫よ。それに一応薬は私が持ってるしね」

 

 

 フェルメドシンホルモン、ソレは低重力症や宇宙放射線に対する耐性を強めるホルモンの事。

 コレがあるからこそ、俺達は過酷な宇宙空間でも長期にわたる航海が出来るのだ。

 ちなみにこの病気はいわば先祖返りみたいなもので、根治治療法がない。

だが足りないホルモンを注射すればいいので生活に支障は無いそうだ。

 

 

「だけど、手持の分だとどれだけ持たせる事が出来るかわからないのが辛いわ」

 

 

 手持の無針注射機を見せるファルネリさん。

 医務室があるとはいえ、薬を作る様な設備は生憎搭載していない。

 遺跡のシステム使えば造れなくも無さそうだが、完全に解明した訳でもないしな。

 どうしたもんかと頭を傾げていると、俺の後ろに立っていたトスカ姐さんが声を発した。

 

 

「あー、それなら大丈夫だと思うよ?しばらくは」

 

「え?どういう事ッスか?トスカさん」

 

「この間の調査で分かったんだが、この遺跡船元々長期間にわたる航海を目的にしてるらしくてさ?私らが使用するフネの何十倍も宇宙線やそう言ったのに対するシールドが強いんだよ。艦内環境も外見ればわかるだろうけど地上とほぼ変わらない様に造られてるしね」

 

「成程、確かにそれならお嬢様に使う薬の量も抑えられるわ」

 

「ま、幾らシールドされてても完璧じゃないから、どこかの惑星に寄って薬を補充しないといけないだろうけどね」

 

 

 ふむ、ってことは多少遺跡船のステルス加工を行う工期を延期してでも、動かせるようにしないと不味いか。

今の彼女はカルバライヤとネージリンスが戦争を起すか起こさないかのキーマン。

 失われる訳にはいかないのである。

 

つーかご自分の身分解ってんだろうかね?

コレでもしユピテル沈んでたら、キャロ嬢の救出が失敗に終わっていたって事になる。

激怒したセグウェン氏が報復として戦争を逆にカルバライヤに仕掛けないとも限らないぜ。

 

 

「・・・・・ところで、キャロ嬢が無事な事連絡したんスか?」

 

「あ、いいえ。お嬢様が発見されたごたごたで・・・」

 

 

 つーことは、まだ連絡して無いって事か・・・。

 

 

「トスカさん」

 

「あいよ。通信ポッドをネージリンスとカルバライヤに射出しておくよ」

 

 

 そう言うと彼女は天幕から出て行った。

 実はIP通信を含めた超長距離通信が今出来ないんだよね。

 この間の戦争で通信室を含めた殆どが吹き飛んじまってるからさ。

 やや旧式だけど、通信ポッドを射出して上手く届く事を祈るしかない。

 

 

「まったく、このお嬢様は色々と問題起してくれるッスね」

 

「め、面目無いわ」

 

「そう思うなら、今度はきっちり手綱握っておいてくれよ?一応貴方達は客分扱いにしておく。流石にコレ以上の援助は出来ないッスからね」

 

 

 苦笑しながらそう言うと、ファルネリさんは驚いた様な顔をした。

 

 

「え?私も?」

 

「忘れたんスか?ファルネリさんがウチに務める期限って、キャロ嬢を救出した時までッスよ?」

 

 

 彼女が白鯨艦隊でクルーとして働く期限は、キャロ嬢を発見し救出した時まで。

 コレは彼女自身が決めた契約内容だ。違える訳にもいかないでしょ?

 

 

「だけど―――」

 

「それに、貴女の本来の仕事はキャロ嬢のお世話にある。そこら辺は我々より気心の知れた貴女じゃないとダメでしょ?」

 

「艦長・・・・ご配慮感謝します」

 

 

 彼女は立ち上がると、綺麗な姿勢できちんとした敬礼を俺にしてきた。

 今の彼女に出来ることはそれしか無いからである。

 俺はソレをみて頷き、敬礼を受け取った事を示した。

 

 

「はは、なんのなんの・・・ですが、彼女にキチンと言っておいてくださいよ?他人のフネに勝手に乗り込んだ場合、撃ち殺されても文句は言えないって事を」

 

「ええ、必ず!もうこんなことさせない様にキッチリみっちりと英才教育を――」

 

 

 なんか瞳に火を灯らせたファルネリさんを見て、キャロ嬢哀れにと思っちまった。

 財閥お嬢様の教育とか大変そうだよな。礼儀やマナー辺りがさ?

 

 

「それじゃ、俺は我がままお嬢様が目を覚ます前に撤退しますッス。後は任せた!」

 

「お任せください!清楚な淑女に仕上げて見せるわ!」

 

 

 あれ、なんか話しがかみ合って無い様な気が・・・まぁいいか。

 俺はそのまま立ち上がり、サド先生の天幕を後にしたのだった。

 なんとなくこのままいたら、キャロ嬢が起きて面倒臭い事になりそうだったかな!

 はぁ、しっかしお荷物拾っちまったぜ。これからどうしよう?

 

 

***

 

 

 さて、それからまた時間は過ぎて数日が経過していた。

 この遺跡船の重要区画についてはあらかた把握出来たらしい。

 コレもユピがシステムをあらかた掌握してくれたお陰だろう。

 

 まずこのフネは大まかに分けると、船体前部には工場区画がある。

 そこでは日用品からフネの部品まで、大抵のモノを作ることが可能である。

 勿論設計図か資料がなければモノを作ることは出来ないが、それでもフネを動かすには十分すぎるらしい。

 

 そして船体中央部には大居住ブロック、まぁ今俺が居るところだな。

 10kmのドーム状巨大空間に町がすっぽりと収まっているのだ。

 その数あるビル群の幾つかを改装し、現在仮の住まいという事で寝泊まりしている。

 

 流石に天幕の簡易ベッドじゃ安まらねぇからな。

遺跡の内部構造を見るに、遺跡を使ってたのが人型生命体だったのがありがたいぜ。

 お陰で改装をするとしても最低限の人間とドロイド達で事足りたからな。

 

 

そして俺はそのビル群の一つ、臨時の艦長室代わりの部屋にて仕事中だ。

 遺跡船内で見つかった資材や物資、その総数を計算しどれほど持つのかを計算するのである。

 何でかって言うと、俺くらいしかそう言うのが出来る人間が居ないからだ。

 

 会計係だった生活班の人間をアバリスに引き上げた為、また俺が主計・会計・事務をする羽目になったのである、ユピが手伝ってくれるので、なんとか体裁を保っているって所か。

 こういう時演算計算に強いAIって便利だと思う。

 

 

「・・・・さて、今日もお仕事するッス!」

 

「艦長!ガンバです!」

 

 

 ユピの応援を受けて、いざ艦長室に臨時設置されたコンソールを立ち上げようとした。

 コンソールの機動スイッチを押そうとしたその瞬間――――

 

 

≪バンッ!≫

 

 

 音を上げて開かれる扉。それと―――

 

 

「やっほー!お邪魔するわよユーリ」

 

 

 ――――金髪の少女、このフネの客分であるキャロ嬢が部屋に入って来た。

 

 

「邪魔するんやったら帰ってくれッス~」

 

「わかったわ~、って違うわよ!私は遊びに来たの!」

 

「そうッスか~、でも俺はこれから仕事があるッス。だからお帰りは後ろのドアッスよ~」

 

「ああん、もう!笑いながら出てけって言うのね!でもそう言うところもいいわ!」

 

「・・・・(言外に帰れって言ってんのわからんのかい)」

 

 

 柔らかく退室を命じているのだが、どういう訳だか彼女は艦長室のイスに勝手に座っていた。

 まるでこの部屋は自分のモノだと言わんばかりである。

仕事しないといけない身な為、仕事の最中に話しかけてくる彼女は非常にうっとおしい。

 

いや、彼女の事嫌いってワケじゃないですよ?なんつっても美少女だしね。

容姿も非常に良いんですよ。それこそ何処のアイドルってなくらいに。

だけど、毎回毎回艦長室に飛び込んで来ては執務の邪魔をされるのは困る。

 

そりゃ時たま相手にする分は良いですよ?俺だって仕事の鬼とかじゃないし。

だけどこの数日毎回押しかけてくるんだぜ?うっとおしく感じてくるってモンだ。

 

 

「ねぇ~ユーリかんちょー、遊ぼうよー」

 

「あんね?俺仕事あんの。コレやらないとダメなの。解るッスか?」

 

「そうですよキャロさん。艦長のお仕事の邪魔をしないでください」

 

「あ~ら、私は邪魔しに来た覚えは無いわ。ただ、遊んで欲しいだけ」

 

 

 天真爛漫もココまで行くと我がままにしか見えてこないな。

 と言うか、彼女が駄々を言うたびに背後の気温が低下してる気がする。

 怒ってますよね?絶対怒ってますよねユピさん。

 

 

「仕事って言ったって、コンソール弄くってるだけじゃん!」

 

「在庫整理の為にコンソール使ってるッス。大体コレ使わないと仕事にならんス」

 

「えー、おじいちゃんは普通に書類は紙のを使ってたよ」

 

 

 今明かされる事実、セグウェン氏はレトロ派であった!

 ・・・・どうでもいい事実だな。

 

 

「それにほら、可愛い子がせっかく部屋に訪ねて来てるんだからさ?なんかクルもの無いの?」

 

「HAHAHA、クルって何が?」

 

「だって私、自分で言うのもアレだけど可愛いし」

 

「残念、俺の好みは可愛い系じゃなくて瀟洒で清楚系なんスよ(・・・胸も無いしな)」

 

「むか、何か今すっごい失礼なことを考えたでしょ?」

 

「御冗談を、私目は只仕事がしたいだけッスよ~」

 

「ふ~ん、まいっか。でもでも、遊んでくれないならお話しようよ!」

 

 

 う~ん、キャロ嬢って最初会った時はもう少し理知的だった気がするんだが。

 なんか性格幼くなってません?しかも我がまま方面に特化している様な気もする。

 いやまぁ、実際我がままなのかも知れねぇけどさ。

結構ご令嬢ってヤツは、窮屈なのかもねぇ。

 

 

「ねね!少しで良いから、またお話してよ!0Gになってからの事!」

 

 

 こうして俺に0Gドックやってる話を聞きたがるってのも。

 自分はソラに上がれないって事を知ってしまっているからなのかもねぇ。

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

「――――まぁそう言う訳で、アルゴンを倒して、そいつの基地にあったモンを全部頂いたんス」

 

「あっきれた。まるで強盗ね」

 

「合法スレスレッスよ。あくまでも海賊を対峙したら“拾った”もんスから」

 

「うわっ、グレーなのねぇ。0Gってそんなの日常茶飯事?」

 

「むしろ、そう言う旨味がないと部下がついて来ないッス・・・幻滅したッス?」

 

「ううん、むしろ凄いと思ったわ」

 

「そいつは良かった。さて俺はそろそ「で、その後は?」・・・仕事させてくれッスー」

 

 

 不味い、かれこれキャロ嬢相手に2時間近く話している。

こんなとこトスカ姐さんに見られたら「しごとしろー!」って言われて殺されちまう。

 ・・・・・最近トスカ姐さんの尻に敷かれているような。え?前から?さいですか。

 

 

「はぁ、あのねぇ。もう時間的に不味いんスよ。いい加減にしないと人を呼ぶッスよ?」

 

「あら、紳士なユーリ艦長はいたいけな少女をいじめるというのね?」

 

 

 なーにがいたいけな少女だよ。

ワザとらしくハンカチ咬んでヨヨヨとか言ってんじゃねぇ。

 大体それ棒読みじゃねぇか。

 

 

「キャロさん、本当にいい加減にしてください(艦長と二人っきりの時間がドンドン減る!)」

 

「いいじゃない。こうやってリフレッシュする事も、時には必要よ?(ふーん、この子もなんだ)」

 

 

 ユピがキャロ嬢を諌めるが、あんまし聞いていない様である。

 つーか何で竜虎の幻影が見えるんやろうか?なんの対決だオイ。

 

 結局その日も、報告に来たトスカ姐さんに見つかって酷い目にあった。

 しかもユピの視線が、なんか俺を責めている様な視線だった。

 

う~ん、俺が仕事しなかったから怒ったのかな。

後で食事にでも誘って謝っておこう。

 

 

―――しかし、本当にコレ以上は不味いな・・・どうしたもんだろう。

 

 

***

 

 

 さて、それから更に時間が立ち、不時着してから約一カ月近い時間が経った。

 ようやく、このフネを小天体から飛び立たせる程度には調べ終わった。というか、既に物資の在庫が底を尽きそうだった事が判明し、急いで補給しに行かなければならない事がわかったのである。

 

 今ある在庫で行くと、倹約してあと1カ月で全員餓死する可能性があった。

 やはりユピテルの抉られた半分にあった倉庫の中身が、あの時一緒に消し飛んだのが痛い。

 なのでとりあえず飛び立たせる事を中心に作業を続け、ようやくその目途が経った。

 

 

―――そして今日は遺跡船が旅立つ日でもある。

 

 

「遺跡船・・・いや、要塞戦艦デメテール。出港準備開始せよ」

 

 

 そしてこのフネの新しい名前、要塞戦艦デメテール。大規模な閉鎖式バイオプラントを有するこのフネは、バイオプラント自体が農場になる為、多くの実りをもたらしてくれる豊穣神の名前が相応しい事だろう。

 

今は植物が無いからアレだが、いずれは緑を増やしていく予定である。

いやさ?人間やっぱり自然が無いと心が休まらないっていうの?

幸い居住ブロック自体が自然ドームみたいなもんだ。

けど、今は植物がない荒廃とした感じだし、どうせ住むなら自然が多い方がね。

 

 

「出港準備が発令されました。各員配置についてください」

 

「艦内環境システム異常ありません。全てオールグリーン」

 

「FCSは異常無し・・・だけどテストしてみないと後は不明っと」

 

「装甲板及び防御フィールドに異常は見られない。デフレクターも問題無く稼働出来る」

 

 

 各部署の報告が上がって来る。 

 手元にあるコンソールは、遺跡船に元々付いていたコンソールでは無く、ユピテルに搭載されていたコンソールと付け変えた奴なので、扱い慣れたソレを操っている。

 多少レイアウトが変化しているが、ソレはこのフネに付いている機能を使う為のモンだ。

 と言ってもまだテストして無いから触るな危険って張り紙してあるけどな。

 

 

 

「補機・インフラトン機関臨界稼働開始、主機・相似次元機関も問題無く稼働開始」

 

 

 補機であるインフラトン機関が稼働し、エネルギーが増して行く。 

 そのエネルギーを用い、主機である相似次元機関も機関内出力を上げていった。

 I3エクシードエンジンとはまた違った始動時の稼働音が船内に響く。

 

 

「主機、間もなく設定臨界に到達します」

 

「デメテール、発進!」

 

「主機関、推進機とコンタクト!」

 

 

 リーフが操舵席のコンソールにあるレバーを引いた。

 すると臨界出力で稼働してた機関の稼働音が――――

 

 

≪ギュゥゥゥゥン――――・・・・・≫

 

 

―――急に小さくなるのを聞いた・・・・。

アラ?失敗?一瞬ブリッジクルー達の間にそんな思考がよぎる。

 リーフは冷や汗をだらだら流しつつもレバーを引いた状態で固定されていた。

 

 

「もう一度―――」

 

 

 俺がそう言いかけた瞬間。

 

 

≪・・・・―――――ヴィーーーーーンッ!!≫

 

 

 再び艦内に響くエンジンの駆動音。

 それは間違いなく、このフネの心臓部から発せられる音だった。

 今まさに長い眠りから、この遺跡は目覚め、白鯨艦隊旗艦として産声を上げた瞬間だった。

 

 

「主機完全に起動しました。推進機とコンタクト完了」

 

「「「よっしゃー!!」」」

 

 

 ブリッジ内に歓声が漏れる。だけど、まだエンジンが動いただけだ。

 

 

「本艦はこれより試験航海を兼ねて出港する!近隣の宇宙島へと航路設定ッス!」

 

「目的地設定は近隣の宇宙島っと、りょーかいユーリ。それじゃ改めて」

 

「デメテール、発進ッス!」

 

「デメテール発進、ヨーソロ。デフレクター稼働開始」

 

 

 俺の命令によって推進機が稼働し、船体が振動する。

 グラヴィティ・ウェルとデフレクターが周辺の岩塊や土砂を吹き飛ばして行った。

 そして推進機が稼働し、推進力を得たデメテールがゆっくりとだが力強く発進する。

 

 完全に蘇った遺跡船は、力強く自らの半身が埋まっていた小天体を打ち破り、デブリを撒き散らしつつも宇宙空間へと飛び出したのであった。

 

***

 

Side三人称

 

 

 

―――離脱した白鯨艦隊。

 

 少し時間は遡り、ユーリ達と別れたトーロは、アバリスを一路ネージリンス領へと向けていた。自治領では無く正規国家領である為、大海賊といえども追跡は困難であると判断したからである。

 

 

「トーロ艦長、惑星ティロアに到着しました」

 

「了解だ。修理と補給をステーションに打電しておいてくれ」

 

「アイサー・・・・ユーリ艦長、無事でしょうか?」

 

「心配すんな。あいつがこの程度でくたばるタマかよ」

 

 

 部下の不安そうな質問に笑って返すトーロ。しかし内心は似た様なモノであった。

 確かにあのバカは殺そうがすり潰そうが“痛かったッスー”とか言って復活しそうだ。

 しかしあの時戦ったのは、言わずと知れた大海賊ヴァランタインなのだ。

 艦隊を組んでいた時にすら勝てなかったのに、単艦で挑んで勝てる訳がない。

 

 そう言った意味では、今の白鯨艦隊残存クルー達の結束力も心配だ。

 今のクルー達は殆どがユーリを慕っていると言っても良い。

 そんな中、ユピテルがユーリと共に沈んだとなれば、クルーの結束力が瓦解する可能性もある。

 どうしたもんかと思いつつ、頭を抱えたくなる衝動を抑えるしかないトーロ。

 

 本来彼はこういった頭を使うことに全くと言っていいほど向いていない。

 でも今は自分が白鯨艦隊のクルー達を率いているのである。

 それ故に掛かる重圧は一艦の艦長をしていた時とは比べ物にならなかった。

 

普段こんな重圧受けて仕事してたのか、ユーリはスゲェな。

 そんな考えが浮かび、苦笑するしかない。

 とりあえず今後の方針を決める為、こちらに残った主要クルー達を集めることにした。

 

 

「―――さて、とりあえず集まってもらったんだけどよ。俺が言いたいことはなんとなく解るよな?」

 

 

 アバリスの会議室でトーロが集まった人間にそう問いかけた。

 集まった人間は殆どがトーロのその言葉に頷いていた。

 

 

「ああ、今後どうするかって事だろう?」

 

 

 イネスは少しずれていた眼鏡をクイっと上げながらそう応える。

 彼はユーリが死んだなんて一欠けらも考えてはいなかった。

 むしろそれまでにフネが瓦解しない様に全力を尽くすつもりである。

 

 

「・・・私は、ユーリを探しに行きたい」

 

 

 そう応えたのはチェルシーだ。

彼女はユーリの義妹だから、彼の事が心配で仕方がないのだろう。

 そして彼女の言葉は、現在会議室の様子を携帯端末で聞いている大半のクルーの総意でもある。

 

 

「待った。今の私たちじゃ死に行く様なもんだ」

 

「戦力差は歴然でしたもんね~。探しに行くのはムリ~」

 

 

 そのチェルシーに待ったを吐けたのはアコーとエコーの姉妹である。

 彼女等とてユーリを見捨てたい訳ではない。しかしエコーが言ったように、戦力差は歴然である。

 

 まだあの宙域にヴァランタインが居るかもしれないのに戻るのは、せっかくその身を盾に逃がしてくれたユーリの思いを裏切ってしまうのではないかと考えていた。

それに賛同したクルーは機関室クルーを現在取り仕切っているルーべも含まれていた。

 

 

「ふむ、まぁわしは正式なクルーでは無いから、何とも言えないネ」

 

「私は面白ければいいから、どっちでもいいんじゃよーっと」

 

 

 とりあえず集まっていた人間にはジェロウ教授、それとヘルガがいた。

 ジェロウは研究家であり、実質的な科学班の親玉となりつつあるが、フネの事に口出しできる立場では無い。またヘルガも元はヘルプGであり、フネに関する知識は持っているが本人にその知識を使う気は無かった。

 

 ヘルガの場合は単純に面倒臭がっているというのもある。新しい身体に変わってから性格に変化が生じたからだろう。ジェロウやヘルガに賛同したのはリアやライ達である。どちらにしろ彼らはフネの運航に口出しできる立場の人間では無いと思っていた為、口を噤んでいた。

 

 

 こうして始まった会議ではあったが、話しは混迷を極めた。

 助けに行く側と待つ側とで意見が真っ向から対立していたからである。

 唯一の救いは、その根底にはユーリ達を助けに行きたいという思いがあるという事だろう。

 それが今すぐ助けに行くか、ユーリ達を信じて待つべきかと言う風に別れただけなのだ。

 

 

「早く助けに行くべきです!」「だから危険過ぎるってば!」「ユーリ達が心配じゃないんですか!」「クルーの生活も考えろ言ってんだ!」「それに私たちにも~もし何かあればユーリ君悲しむよ~?」「ぐっ、だけど」「俺だってチェルシーちゃんと同意見だ!」「俺も!」「ラーメン食べたい!」

 

 

 騒々しく声が飛び交う会議室、若干違うのも混ざっている様な気がしたが気にしない。

 トーロは半分どなり声になりつつある会議の様子を、ただじっと眺めていた。

 というか、最初の時に声を出してから一度も声を出していない。

 

 

(やべぇ、言いたい事言われた挙句、言いだそうにも言いだせないぜ)

 

 

 いや、正確には熱気に押されて口出しできる状況じゃないからだった。

 彼にだって言い分はあるが、ソレを今の段階で言っても火に航空燃料を入れる様なものだ。

 只でさえカオスなのに、コレ以上混沌とさせたら手がつけられないだろう。

 さて、白熱している会議室だったが、とあるヤツが言った一言で凍りつくことになる。

 

 

「相手はヴァランタインだったんだ。不幸な事故と思ってあきらめた方がいいと思うぜ」

 

 

 ソレを言ったのは、まだ入ってから日が浅い新米クルーだった。

 そのクルーが現状に対し、その様な事を言った理由も解らなくは無い。

ヴァランタインに逆らう事は死を意味する。

小マゼランに暮らす人間にってそれは常識であったのだから。

 

 

「――ッ!不味い!チェルシー!」

 

 

 その時トーロは急に自分の席を立ち、鍛え上げた肉体を最大限に駆使して走りだした。

そしてそのままチェルシーを背後から羽交い絞めにしていた。

突然のトーロの奇行に周りの人間は驚いていたが、ある一点に目が言った時に理解した。

トーロが必死で抑えつけている彼女の手の中に、小型のメーザーサブマシンガンが握られていたのだから。

 

 

「・・・・はなしてトーロ、そいつ殺せない」

 

「だぁー!俺のフネん中でスプラッタは勘弁してくれ!ホラ!お前も謝れって!」

 

「ひぃっ!へあ・・・」

 

「早く!」

 

「す、すみませんでしたチェルシーさん!!絶対艦長は生きてますーーー!!!!!」

 

 

 先程諦めた方が良いといったクルーは、普段は柔和なチェルシーの変貌に腰を抜かしつつも彼女に向けて土下座をしていた。そうしなければ殺されると本能が訴えたからである。

 

 

「ほら!コイツも謝ったんだ!頼むからユーリにチェルシーをフネの外に放り出したなんていい訳を俺にさせないでくれ!」

 

 

 土下座を続けるクルーと必死に止めるトーロを見て、最初は感情がないくらいに無表情だったチェルシーの身体から力が抜けていく。しかし目から危険な光りは消えておらず『次同じこと言ったら殺す』という光りをはらんでおり、ソレを見ていた人間を戦慄させた。

 

 

「はぁ・・・胃薬が欲しいぜ」

 

 

 チェルシーをなんとか落ちつかせたトーロは、自分の席に戻りながら思わずそう呟いた。

 彼女も最初に比べれば落ち着いて来ていたが、やはり長年の性質は変えられないのだろう。

 

 こりゃしばらくユーリ関連のジョークはチェルシーの前では出来ないと思いつつ、食べ過ぎによる腹痛以外では服用する事が無かった胃薬が必要になりそうな現実に、頭を抱えたくなったトーロだった。当然頭痛薬もセットである。

 

 

「・・・さて、話しを戻すがな。俺としてはやはりアバリスを動かすことは出来ないと思う」

 

「―――ッ!」

 

「チェルシー、落ちつけ。トーロがまだ話してる」

 

 

 何やら激昂しそうになったチェルシーをイネスが宥めている。彼女は普段平常に見えても、こういった自体になると途端に昔の様にユーリに依存していた頃の面が出てきてしまうようだ。勿論、普段は普通である、しかし今回の様にユーリ達が生死不明になるとはだれが予想出来ようか? 

 

 そんな彼女を後目に、トーロは言葉を続けた。

 

 

「チェルシーや他の皆が思う事も解るぜ。だけどな、俺達はユーリに生かされたんだ。ココまで育てた白鯨艦隊が壊滅しない様に、態々艦隊構成員の3分の2を移動させてまでな」

 

 

 しんっと静まり返る会議室、携帯端末の向うに居るクルーも声を発しない。

 バカな話である、この時代人が死ぬなんてザラなのだ。

 態々他人の為に命を張るバカは本当に少ないのである。

 

 そして、ユーリはそのバカ・・・いやさヴァカの一人だった。

 フネの艦長とは厳格なモノである。フネの法律そのものと言っても良い。

 ソレは人類が宇宙に進出するよりずっと以前、風の無い時代よりもさらに昔。

まだフネが海洋上に浮かんでいた時代から変わっていない常識である。

 他人に厳しく、自分にも厳しい。そう言った人間が艦長に求められるのだ。

 

 そう言った意味では、ユーリは艦長失格であったことだろう。

 普通艦長とクルーとは気軽に会話したりなんてしない。

 そこには必ずと言っていいほど上下間の隔たりが存在している。

 だがユーリはどのクルーに対しても“平等”だった。

 非常に人懐っこく、言い方を変えれば友人と接するようにクルー達と接していた。

 

 それは彼の中身がこの時代から1万年近く前の地球にある日本人だったからかもしれない。 

 艦長とは何かなんて知る由も無い元一般人の彼は、ただ普通に接していただけだ。

 それが傍から見れば異常であり、また新鮮な驚きであったことも確かだ。

 艦長と一緒に飯を食べて、一緒に呑んで、一緒に二日酔いにかかる。

 最後のはともかく、同じ釜の飯を食った者同士愛着は湧いてくるモノである。

 

 

「だから俺達は生きなきゃならねぇ。ユーリ達が生きているにしても死んでいるにしても、だ」

 

「・・・・絶対に、生きてるよ」

 

「ああ、その通りだぜ。コレでユーリが死んでたら、あの世までアバリスで乗り込んで怒突かなきゃならんだろ?」

 

 

 更なる沈黙、あ、ヤベ、外したかとトーロは思った。

だが、誰かがクスリと笑う声が会議室に聞えた。

なまじ周りが静かだった事もあり、余計に響いて聞えたソレは伝搬していく。

徐々に笑いへと変わっていく声に、会議室は包まれていった。

 あの半黒化していたチェルシーですら、周りの空気に当てられたのか、いつもの柔和な顔に戻っている。

 ――――そう、全員解っているのだ。

 

 ユーリは絶対に死んでいない。アレが死ぬ時は世界が終わる時くらいだろう。

あのバカは絶対に自分たちの想像を超えた事をしでかすに違い無い。

 それこそ思わずはぁ?と言ってしまいそうな、何かを持って・・・。

 

 

「とにかく、俺達はユーリからお呼びがかかるまで、艦隊を維持していくって事だ。あいつが戻って来た時に必要なクルーが居なきゃ意味がないからな」

 

「成程、確かにそれは言えるな」

 

「だろ?んで本題何だが―――」

 

 

 トーロはココである提案をした。

ソレはユーリ不在の間、暫定的に艦隊を指揮する司令を決めようというモノだ。

 クルー達はてっきり艦隊唯一の残存艦アバリスの艦長をしているトーロがするものと思っていたので、トーロのその提案には驚いていた。

 

 

「ほう、トーロ君がするのではないのかネ?」

 

「よしてくれよ教授、俺はそんなガラじゃねぇよ」

 

 

 正直、現段階でも大分胃が痛いのだ。

更に責任を負われそうな部署に臨時とはいえなりたく無い。

 幼馴染であるティータが後ろから情けないわね~という視線を送って来る。

 だがしかし、トーロもこればかりは自分の独断で決めるつもりは無かった。

 ・・・・・流石に胃薬と頭痛薬のデュアル接種は簡便だと思ったからだ。

 

 

「でだ、俺はイネスを押したい」

 

「え!ぼ、ボクかい?!」

 

 

 唐突に自分の名前を言われたイネスは、跳び上がりそうなくらいに驚いていた。

 そりゃ確かに以前は自分のフネを持ちたいと思ってはいた。

 だが、司令という艦隊では実質上頂点に君臨する役職に指名されるとは予想外だったのだ。

 その為予想外の事態に狼狽しているイネスだったが、トーロはそれを見て別の事を考えていた。

 

 

「・・・・(生贄ゲーット!!)」

 

 

 気が動転しているイネスは今のところ気がついては居ないのだが、艦隊の運用にはかなりの苦労が付きまとう。それこそ胃に穴が開く様な事ばかりなのを、トーロは身近な人物であるユーリを見て知っている。

 

 ユーリは艦長兼司令なので、最初の頃は司令の仕事をこなしつつも艦長をしていたのである。今は総務課があるが、当時は人材が足りなかったというのもあるし、本人も既に慣れてしまっていたので余り気にしてはいないのだが、その仕事量はかなりのモノがあるのだ。

 

 フネの備品、装備、艤装、補給品リストの確認などなどの仕事。

そして何よりも一番厄介なのは、クルー達の不平不満の申し立て処理である。

 

やれもっとうまいモノが食べたい、売店の品物を多くしてくれといった即物的なものから、コイツが嫌いだから部署を変えたい、好きな子が居るんだが話しかけることが・・・といったお悩み相談的なモノまであるのだ。

 

 中には差出人も名前も何も無く、只一言「やらないか」と書かれたメールが来た事もある。当時それを初めて受け取ったユーリは、しばらくの間ずっと辺りに気をめぐらして、特に近寄って来る男性クルーに警戒していたのはまた別の話である。尚、犯人は見つかっていない。閑話休題。

 

 要するに何が言いたいのかと言えば、トーロはていの良い生贄を求めたという事だ。

 流石に自分にあれだけの事務を遂行する能力も力も無い。

 事務屋が居るとはいえ、今の状況かだ。不平不満も膨大な量になることが予想される。

 

 

「だ、だけどトーロ、ぼくだってそう言った事はしたことが・・・」

 

「大丈夫、あのユーリにだって出来てたんだ。要は慣れだ慣れ。他の連中も、もしもやってみたいってんなら立候補しな。選ばれれば俺は従うからよ」

 

 

 さぁ生贄よ・・・早く決まりたまへと、トーロは内心ほくそ笑んでいた。

 白鯨に入ってから何気に腹黒くなっているトーロ。コレもユーリの影響だろうか?

 ソレはさて置き、悩み始めるクルーを見て、コレで思惑が達せられると踏んだトーロであったが、予想外の所でソレは破られてしまった。

 

 

「・・・・いや、ぼくはいいよ。参謀役の方が性に合っている気がするしね」

 

「そうか、そいつは残念「その代わりぼくはトーロを押すよ」――は?」

 

 

 イネスが辞退した為、別の奴を押そうとした矢先、突然イネスがトーロを指名した。

 突然の事に今度はトーロが目を白黒させている。

 

 

「只でさえ混乱しているのに、冷静にみんなを招集して会議を開き、おまけにそれを指揮っている。そう言ったリーダーシップが取れるなんて羨ましいよ」

 

「え、いやあの・・・」

 

「だから僕はやっぱりトーロを押すよ。どうだい皆?」

 

「意義な~し」×会議室+携帯端末のクルー全員。

 

「だ、だから待っ―――」

 

 

 トーロは自分はそう言う事をやる気は無いと言おうとした。

 だがその時、背中に戦慄が走る。

 思わずバッと振り返り、背後を見やるとそこには―――

 

 

「うん、そかそか。トーロが艦長をするんだよね?」

 

「あ、あのチェルシーさん?」

 

「うん、大丈夫。トーロなら出来るよ。だから―――」

 

≪―――チャキ≫

 

 

 その時、トーロは確かに銃の安全装置が解除される音を聞いた。

 戦慄を通り越して冷や汗が止まらない。

 そんなトーロを見て、チェルシーはすこしクスクス笑っている。

 

 

「ちゃんと、ユーリ探して、ね?」

 

「イエスマム!!!」

 

 

 内心濁涙しながらトーロは返事を返した。こ、こんなはずではと、トーロは思っているが、いつの時代も腹黒いことを考えたらその身に帰ってくるのである。身から出たさびと言うべきであろう。そう言う訳でトーロは臨時で司令となったのだった。

 

 

「それで、これからどうする?」

 

「あん?ああ、その事なんだがよぉ。とりあえず情報や人やモノが集まる場所に行こうと思うんだ」

 

「って事は他の宇宙島かい?」

 

「おうよ、俺達が次に向かおうと思っているのは―――」

 

 

 イネスにこれからどうするのか聞かれたトーロは、手元のコンソールをピポパと操る。

 会議室のテーブルの中央には空間投影機があり、そこにとあるチャートが映し出された。

 

 

「マゼラニックストリーム、人も物も情報も集まる大マゼランと小マゼランを繋ぐ玄関口だ。そして、そのマゼラニックストリーム内の星系にある星を目指そうとおもう」

 

「マゼラニックストリーム・・・大バザールか!」

 

「おうよ。そこなら情報も物も手に入りやすい。ちょっと危険ではあるがな」

 

 

 マゼラニックストリーム、ソレはマゼラン星雲にあるガスの流れの事である。

 周辺の天体による重力変調や巨大恒星の存在により、その航路は並の船乗りを通さない。

 しかし、そこを渡れる程の腕を持つという事は、船乗りとしては一流である証しでもある。

 海賊も多く危険な宙域ではあるが、挑戦する価値はあるという事だ。

 

 

 と言う訳で、彼らの行先は決まった。

 とりあえずのクルーの再編成も終え、彼らはネージリンス領を後にした。

 必ずまた、あの艦長とバカ騒ぎが出来る未来を信じて・・・・。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Sideミユ

 

 

―――――ミユ博士の一日。

 

 

 ふっとした感じで意識が浮上した。固まってしまった身体をほぐしつつ周りを見る。

無機質な部屋に書類や機材が散乱している。どうやら私はまた研究室で寝ていたようだ。

コーヒーを入れて自分のデスクの元に戻り、イスに座りなおした私は今までの事に思考を傾ける。

 

 この遺跡船、いや今は要塞艦デメテールであったか。デメテールに来てから退屈する暇が無い。

 むしろ寝る間も惜しんで研究三昧だ。ある意味研究者冥利に尽きると言える事だろう。

 何せこのフネには秘密がまだまだ沢山あるのだ。ロストテクノロジーの塊だ。

 いや、ロストテクノロジーだけでなくオーバーテクノロジーの塊でもあるだろう。

 

 このフネの装甲板だけでも、我々が現在作り上げた最高峰の硬度を誇る金属並だ。

 信じられない事に、圧力やエネルギーを与えてやることで自らを強化出来る合金らしい。

 とはいえ、長年埋没していた所為かそれを動かす装置の機能は今の所失われている。

 ケセイヤがなんとかして直そうとしていたが、なおるのは何時頃になる事やら。

 

 それとこのフネを構成している金属や合金系に関しては専門である私でもよくわからない。

 ただ言えるのは、とてつもないオーバーテクノロジーであり、このフネでしか生産できないという事実だけだろう。どうやって作っているのか知りたいところだが、ソレをするには生産レーンを一つ潰さなければならない。

 現状でソレをするのは流石に憚られる。もう少し落ちついてからの方が良いだろう。

 

 

「・・・・ん?ああ、そろそろ朝食か」

 

 

 ふと時計を見れば、丁度朝の時間帯に入っていた。

 現在このフネにおいて食事は配給という事になっている。

 なので時間を逃すと食事抜きという事態になりかねんのだ。

 研究者という職種である為、脳にカロリーを持って行かれる。

 朝食を抜くというのは、ある意味自虐行為に等しい事なのだ。

 

 

「・・・・またレーションパックか」

 

 

 さて、生活班がごっそり抜けている上、配給食となればコレになる。

 栄養価を考えて、色んな食材がセットになっている食事である。

 元々は野戦を想定して造られたモノだ。味なんかは二の次―――

 

 

「ふむ、パンモロのシチューは温めたらいいモノだな。乾パンと合う」

 

 

―――と思われるかもしれないが、実はそうでもないのだ。

味は1000年以上前には、普通のそう食事と変わらない物に変更が為されている。

いつの時代も人のニーズによって、物事が改善されるという事はよくある話だ。

 

ちなみに朝食用はレトルトパックが三つと乾パンと飲み物が入っている。

飲み物に関しては、コンテナから自販機用の缶ジュースがある為余り制限は無い。

こうして私は朝食を平らげると、また研究室に戻る。

それが仕事であるし、それ以外に特にするつもりも・・・いや一つだけあったか。

 

 

「やぁ少年、いまから朝食か?」

 

「あ、ミユさんアザース!今日もいい天気――」

 

「フネの中で天気も何も無いとは思うが?」

 

「ふふ、なんとこのフネの居住区には人工天気装置が!」

 

「壊れて作動しないがね」

 

「うぐぐ、そうだったッス」

 

 

 こうして艦長“で”遊ぶのも私の重要なレクリエーションとなっている。

 ああ、やはり艦長“で”遊ぶのはいい、日ごろのストレスもすぐに溶け落ちる。

 考えてみれば彼と出会ったのは海賊の基地にとらわれていた時だった。

 戦闘のどさくさにまぎれて逃げだそうとした私と出会ったのが彼だ。

 

 出会った最初は、私は随分と滑稽に見えていた事だろう。

 まさか逃げようと入った通風口が点検用ハッチで、その配線に絡まっていたなんて誰が想像できようか?普通はおるまい。

 

 こうして私は彼と出会った訳だが、最初は白鯨艦隊に加わるつもりは毛頭なかった。

 私は研究さえ出来れば良い、それ以外にはあまり興味が無いのだ。

 しかし、現実は厳しい、少し海賊に捕まっていただけだというのに、私が居た大学は私を首にしていた。

 

 海賊に捕まる事はそれイコール死んだも同じと言われている。

 例え死んでいなくても、私は女だ。海賊に捕まればそう言った事をされる事も有り得た。

 勿論そんな事をされてはいない。だが大学側は世間体を守るためという下らない事私を切った。

 

 それ自体は別段悪いことではないし、恨んではいない。

 この時代そう言った事はごく当たり前の空気みたいなものだ。

 一々目くじらを立てていたら生きていけないのも道理だった。

 そう言う訳でどうしようかと悩んでいた時に目に入ったのが少年だった。

 

 海賊に捕まっていた人達を解放し、海賊基地をそのまま手に入れた手腕。

 さりとて、そのまま海賊基地を活用するのでは無く、只物資を奪った程度。

 乗組員は癖があるのにどういう訳だが、全員女性には紳士的だった。

 そんな連中をまとめあげているあの少年に興味を抱いた私は、彼らに近づく為に手伝いを申し出た。

 

 結果は、なんというかあっさりとOKされていた。

 本当に人手不足であったらしく、事務作業もそれなりに出来る人間は重宝されていたらしい。

 また研究者であると解った時、普通に科学班の方に回された。

 あまりの手際の良さに最初から目をつけられていたのではと錯覚してしまいそうだった程だ。

 

 だが気が付けば私はこの白鯨艦隊の研究者集団トップ3の一人に数えられていた。

 どういう訳だが、このフネは居心地が良かった。自宅に居た時よりも安心できた。

 今では白鯨艦隊こそ我が居場所を胸を張って言う事も出来る事だろう。

 何よりもだ―――― 

 

 

「てい」

 

「うわっぷ!み、ミユさん何をッ!?」

 

「なに、軽いスキンシップのハグだ」

 

「うわぁ情熱的・・・ってちょっと!周りからの視線に殺気が籠って来てるッスよ?!」

 

「大丈夫だ。私は気にしないぞ少年」

「俺が気にするッス~!は~な~し~て~!!!」

 

 

―――こんな風に艦長である彼を弄くれるなんて、他じゃ味わえないからな。

 

 

 こうして少年分を補給し、今日も研究に戻る。

 今の私は充実している。以前の生活も悪くは無かったが今の方が良い。

 

 

「か~ん~ちょ~う!!」

 

「ユーリ・・・」

 

「ヒッ!ユ、ユピとトスカさん!?こ、コレは俺が原因では無くてミユさんが」

 

「おや、少年は嫌がってはいなかったと記憶しているが?」

 

「ユーリ~!!」「艦長~!!」

 

「首引っ張らないで!俺を何処に連れてくつもりッスか!!あとミユさん助けて~!!」

 

「はっは、サド先生は優秀だから心配はいらないさ少年」

 

「怪我する事前提ッスか~!誰か助けてくれ~~~っス!!!」

 

「「「「ケッ、リア充爆発しろ!」」」」

 

 

 首根っこを掴まれて、ユピと副長に連れて行かれる少年を見て私は笑う。

 ああ、この瞬間こそ私がココにとどまる理由だ。

 

 人と交わり、話し、遊ぶ。ただそれだけの事が自然に出来る。

 その空間をもたらしてくれた少年、いやユーリ艦長、私は貴方の味方であろう。

 これから先も、ずっとだ。そして私を楽しませてくれ。

 

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第四十章+第四十一章+第四十二章+第四十三章

Side三人称

 

 小マゼラン星雲の小さな星系であるアーヴェスト星系。そのアーヴェスト星系をまたがる航路を、サウザーン級を改修した民間交易船が航行している。いや、輸送を重視した為、必要最低限の兵装を付けただけのフネは、今己が出せる全速力で航行していた。

 

―――何故なら、このフネは現在絶体絶命の危機にひんしていたからだった。

 

 

「SOSだ!近くに警備艇はいないか!」

 

「ダメです!警備艇の巡回航路から離れすぎています!」

 

「諦めるな!補助エンジンも回せ!全速で離脱する!」

 

 

 船長の怒号か飛び、交易船団は速度を上げる為に補助エンジンも点火する。

 しかしソレを見計らっていたかの如く、レーザーが機関部へと迫っていた。

 

 

「船長!海賊船振り切れません!」

 

「もっと速度は出ないのか?このままだと消し炭にされちまう!」

 

「そ、そんなこと言ったって――ぐわっ!」

 

≪ドォーン!!≫

 

 

 船内に響く衝撃音、ソレはこのフネが攻撃を受けている事を示していた。

 彼らを攻撃している相手は、この周辺を根城にする海賊イーグルクロウ団である。

 彼らは細々と地道にこの航路を通る民間船を狙う海賊たちであった。

 

 

「当たりました!総統――もといキャプテン!」

 

「ふむ、攻撃をつづけるんじゃ。ところでヨシダくん、何度わしの役職を間違えれば気が済むのかね?」

 

「はい!申し訳ありません総・・・キャプテン!それと後少しで交易船を停止させられます!」

 

「あんまりやり過ぎないようにな。わしらのモットーは“小さなことからコツコツ”とじゃからな」

 

「了解です!じっくり安全に仕留めてやります!フィリップやっちまえ!」

 

「ワカリマシタ、れーざーハッシャ」

 

 

 安全に仕留めるとはどういう事なのだろうか?

 ソレはさて置き、交易船は様々な物資を満載している為、海賊にとっては宝の山と同義。

 その為偶々網を張っていた宙域を通りかかった交易船を襲うのは必然と言えた。

 

 イーグルクロウ団のバクゥ級2隻、それを引き連れたシャンクヤード級が1隻。

彼らは偶々航路を通った貨物を満載した交易船を見つけ襲ったと言う訳だ。

 襲われた方の交易船にとってはまさに悪夢のような事態であった。

 そして更に放たれる光弾が、交易船へと命中し、航行能力を低下させていく。

 

 

「機関室、応答ありません!」

 

「最後の一瞬まで諦めるな!」

 

「降伏しましょう!船長!」

 

「奴らは狩りを楽しんでおる!エモノが降伏してもなぶり殺しに会うだけだ!」

 

 

 実際はこの交易船の船長が思っている程、海賊船の方は外道でも邪悪では無い。

 だが現状として、何度も撃たれているのに沈まない状況がそうであるように見せていた。

 実際は海賊船の砲撃主の腕が悪いだけなのだが、彼らはそれに気がつかない。

 

 

≪ドドーン!≫

 

「ぐぅ!――め、メインエンジン停止、もうダメです」

 

「くぅぅ・・・・ココまでか」

 

 

 交易船としてのフネであり、一応自衛の為の兵装は残されてはいた。

 ソレはこの近辺のバクゥ級を使う海賊であったなら退けられる程度ではあった。

 だからこそこのフネは単艦で、ココまで航海して来ていたのである。

 

 しかし今襲ってきている海賊艦隊には、通常ならばいない筈のシャンクヤードがいる。

 シャンクヤード級は遠く大マゼランの技術を用いて建造された汎用巡洋艦であった。

 その性能は小マゼランのフネを圧倒出来るほどの力を有していたのである。

 

 

≪ズズーン≫

 

「APFS展開率も限界値です」

 

「・・・・降伏を打電しろ」

 

「――ッ!了解」

 

「・・・・せめて皆殺しにされない事を祈る事にしよう」

 

 

 幾度となく繰り返される攻撃に、APFSも損耗して貫通され被弾していく交易船。

 交易船の操舵主がベテランであった為、今まで大した被害も無かったが限界が近かった。

 ベテランと言えど、長時間集中が続く訳では無いのだ。このままでは確実に落される。

 

 そして先程被弾した所為で、メインエンジンが緊急停止した。

 これでもはや逃げる事も叶わず、エネルギーが無い為に戦う事も出来ない。

 交易船の船長は悔しさで顔を歪めつつも、海賊船へと降伏する事を打電したのだった。

 

 

「キャプテン、降伏すると通信が来てます!」

 

「ふっふっふ、大金を叩いてマゼラニックストリームで買った甲斐があったわい。」

 

「まぁ老朽化したフネを下取りしただけなんですけどね」

 

「ヨシダくん、そう言った事は知っていても言わないモノだヨ?」

 

「済みませんキャプテン。お母さんからは物事は素直に言う様に言われておりまして」

 

「そう言うのは美徳だと思うんじゃが、今は必要ないとおもうぞ?」

 

 

 一方の海賊船の中では、非常に呑気な会話が行われている。

ソレもそうだ。既に交易船は彼らの手中にあると言っても同然。

 ゆっくりといたぶった後は、骨の髄まで頂いて行くのが海賊稼業というものだ。

 まぁコイツらはいたぶる気など無いが、腕が無い為必然的にそうなってしまうのは仕方が無い。

 

 

「まぁいい。とにかくお宝を頂く事にしよう」

 

「了解です。おいフィリップ!どけよ」

 

「Nooooo!!ヨシダサ~ン!!!」

 

「どうしたんだよフィリップ?蛙が潰れた様な声出して」

 

「ソレヨリモ、コレ」

 

「・・・う、うわぁ~~!!た、大変です総統、もといキャプテン!!」

 

「どうしたんじゃ!そんなハトがメーザーブラスター喰らった様な顔を」

 

「それだと跡形も残りません―――じゃなくて!兵装が起動して、その照準が交易船のブリッジに!」

 

「な、なんじゃとう!?」

 

「おまけに他の連中も全弾発射しちゃったみたいです。やっちまったぜ☆」

 

 

 船員の一人が砲撃班長を押した所為で、勝手にコンソールが起動し全弾発射されていた。

 しかもそれを見た他のフネも、指示が出る前に勝手に全弾発射を行ってしまった。

 傷ついた交易船にとっては文字通り“止め”となりかねない攻撃が放たれてしまったのだった。

 

 

「せ、船長・・・回避不可能です」

 

「くっ!奴らの目的は積み荷じゃなかったのか・・・外道め」

 

 

 インフラトン粒子を含んだ蒼色のエネルギーブレットが交易船へと迫る。

 交易船は海賊船からの容赦のない砲撃をみて、自分たちの命はココで果てると覚悟した。

 そして光線が交易船へと命中する・・・・かに思われた。

 

 

≪ババババババーーンッ!!!!!!≫

 

「エネルギーブレッド全弾命中・・・しませんでした」

 

「な、なんじゃとう!?」

 

 

 海賊たちは自分たちの攻撃が、空間で忽然と消えた事に驚き――――

 

 

「せ、船長」

 

「た、たすかったのか?」

 

 

 交易船団は絶体絶命と思われる攻撃が、自分たちへと届かなかった事実に驚いていた。

 そう、攻撃は“届かなかった”まるでそこに壁があるかの如く、光線が消えたのである。

 信じられない事態に、目を丸くするしか無い両者。奇跡でも起きたのかと考えたほどだ。

 

 だが、何故攻撃がかき消されたのかと言う疑問は、すぐに晴れることになる。 

光線が消えた辺りが揺らめき、そこから信じられないほど巨大な物体が現れたのだ。

 今の今まで、センサーに探知されず、存在していなかった筈の超巨大な物体が、である。

 

 

「な、なんだアレは?!」

 

「たかが交易船団にあんなのが居るなんて聞いとらんぞ!?」

 

「キャプテン、ヤバそうです。逃げましょうよ」

 

「んあぁぁ、ど、どうしようヨシダく~ん!!」

 

「だから逃げましょうって!あれ絶対ヤバいッスよ!」

 

 

 海賊艦隊は突如として現れた巨大な物体に驚愕していた。

 その大きさは全長が36km、全高が11kmもある巨大さだ。

 この予想だにしない事態に大慌ての海賊艦隊は、完全にキョどっていた、

一体何なのか解らず、結局出来た事は攻撃を一旦停止させることくらいであった。

 

 

「せ、船長・・・」

 

「絶対に動くんじゃないぞ?もし敵対行動なんかしたら、俺達は粒子すら残らないぞ。それと機関部の修理は?」

 

「あ、後少しで補助エンジンなら」

 

「静かに急がせろ、もしもの時は全力で離脱するんだ」

 

 

 一方交易船団の方でも、困惑が広がっていた。あまりにも強大なその物体、恐らくフネであることは解っていたが、敵なのか味方なのか不明であった。その為交易船団を率いている老年の船長は各艦に絶対に動くなと命令をかけて、事態を静観する構えを取っていた。

 

海賊も交易船も静観する中、その巨大なフネの表面から何かが競り上がった。

超巨大なフネの装甲板が稼働して展開し、見ようによっては連装の砲塔に見える。

 ソレらは海賊艦隊の居る方向へと回転し、砲を向けている様な形となった。

 そして―――

 

 

≪―――ズォォォォォッン!!≫

 

 

海賊の方へと照準を合わせた連装砲塔から、二乗の光が発射された。

放たれたのは螺旋を描く様な不思議な形をした薄緑色のエネルギービームである。

レーザーともインフラトンとも違う、しいて言えばプラズマが一番近いエネルギー。

 

この海賊艦隊に向けて威嚇砲撃を敢行したことで事態は動き出した。

その放たれたエネルギーによる威嚇砲撃は、海賊艦隊の付近を通過した。

余波だけで近くに居たバクゥ級一隻に損傷を与え、後方へと突き進んでいく。

 

 

やがて光弾は海賊艦隊の後方にあった岩塊を、粉砕しながら進んで消えていった。

その信じられない程の威力と貫通力に驚愕する海賊艦隊。

掠っただけで被害が出たのなら、直撃すればいか程のモノなのか。

 

 彼らはそれを考えて恐怖した。絶対に防げない事が解っていたからである。

先程まで狩る側だった自分たちが、今度は命を握られている。

その事に茫然としていると、突如巨大なフネから近距離の周波数帯に通信が発信された。

 

 

『我等は白鯨艦隊旗艦デメテール、海賊艦隊に告げる。ただちに海賊行為を停止せよ』

 

 

 白鯨艦隊、その単語を聞いた瞬間に海賊たちは震えあがった。

 一応0Gでもある彼らにも0G間の話が入って来ることがある。

 その中でも特に海賊にとっての脅威、海賊殺しの白鯨艦隊が現れたのである。

 嘘だと思いたかった海賊たちであるが、目の前の圧倒的存在に動く事も出来ない。

 

 

 一方の交易船の方はある意味で安堵していた。

 白鯨艦隊は海賊を専門に狩ると知られており、民間船を襲った事は今まで一度も無いのである。

 故に、交易船はこれ幸いにと補助エンジンを全開にしてこの宙域から離脱していった。

 逃げる交易船には目もくれず、デメテールに搭載された砲門が海賊船をロックオンしていた。

 

 

「キャプテン、敵艦にロックオンされました・・・キャプテン?」

 

「うぅぅぅ、優しく殺して、優しく殺して、キリングミーソフトリー!」

 

「・・・ボサツトウゲ、キャプテンを医務室のドクトル・レオナルドの所に連れてってくれ」

 

「・・・(コク)」

 

 

 錯乱した海賊船のキャプテンがブリッジから出ていくのを見送りつつ、副長のヨシダは心の中で“ねぇさん、事件です”と呟いていた。ちなみにコイツに姉はいない。そんなこんなで結局大した抵抗をするでなく、海賊たちは降伏するのであった。

 

 

――ちなみに逃げだした交易船が、逃げ付いた惑星に置いて白鯨の話しを広めた為、彼らの名声があがったのは余談である。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 俺はデメテールのドックへと収納されていく海賊船を眺め、久々の仕事に満足しつつ、艦長席へと腰かける。やった事はいつもと変わらず、民間船を襲う海賊を懲らしめつつ、海賊船から物資や資源を頂くというものだ。

 

 ―――相変わらず海賊相手の追剥だな。

 

と少し笑みをこぼしつつ、回収した海賊船の情報を読んでいく。

 海賊一味は全員降参し、現在拘束して収納、いずれ別の惑星にておろす予定。

 収穫はバクゥ級とここいらでは珍しいシャンクヤード級巡洋艦。

 

 正しシャンクヤード級は老朽艦も良いところで屑鉄に近い状態である。

 コレはシャンクヤードってよりかはジャンクヤードって読んだ方が良いとの事。

 そしてお目当てのIP通信機が手に入った。

 

 

「ふぅ、コレでどうにかステーションに連絡が取れるッスね」

 

「ユピテルの通信装置が全ておじゃんになっちまってたからね。下手に近づいたら面倒臭い事になってただろうさ」

 

 

 そう、このフネは元々遺跡船であり、通信手段がこの世界のフネのモノと全く異なるのだ。

 以前ユピテルについていたIP通信設備はヴァランタインとの戦闘によって全て破壊されている。

 その為、近隣ステーションへ連絡を取ることが出来なかった。

 

 0GドックとしてのIDやナショナリティコードを発信しないと海賊扱いされるからな。

 近隣星系から警備艇を呼ばれたり、ステーション備え付けの火器で攻撃されたくは無い。

 物資も手に入らない中、そんな事態になったら文字通り海賊にならなきゃいけなくなるしな。

 

 ソレはそれで自由そうで面白そうだけど、当分先にしたいぜ。

 このキナ臭い情勢の中では、まだ早すぎる。

 でも“俺は俺の旗のもとで生きる”ってのにはあこがれちゃいます。

自分もオトコノコですから!

 

 

 ソレはさて置き、このフネの工廠で作れれば良かったんだけどな。

 生憎IP通信設備の設計図は無かったのだ。大抵フネとセットだからってのもある。

 それに例え設計図があっても材料が無い為、どちらにしても造れない。

 いかに立派な工廠でも材料が無ければタダの設備でしか無いって訳やな。

 

 

「それで、通信設備の設置状況は?」

 

「現在ケセイヤ整備班長が急ピッチで作業に当たっています。予定作業終了時間は6時間後と推定されます」

 

「そかそか、報告ありがとミドリさん。ああ、序でに次の標的が見つかるまでは各艦に半舷休息を出しといてくれッス」

 

「了解、そのようにいたします」

 

 

 俺はミドリさんにそう指示を出し、トスカ姐さんにブリッジを頼むとブリッジから出る。

 敵が来ない限りは艦長の出番なんてそうそう無いしなぁ。

 とりあえず、寝たい・・・でも仕事が残ってる・・・鬱や。

 

 

***

 

 

 さて、俺っちが鬱になりかけながらも仕事を遂行していてもフネは進む。幸いにしてIP通信設備を手に入れた事により、近隣の通商管理局ステーションへと連絡を入れることが可能となった。  

これにより、元の0GのIDとナショナリティコードの照会が行われ晴れてステーションの利用が可能となった。コレで一息つけたと言える事だろう・・・だが―――

 

 

「物資が足りないッスか!?」

 

「いや、正確には部品つーべきか?補充したくてもこの星系じゃ扱ってねぇらしい」

 

 

 現在デメテールはネージリンス領にあるアーヴェスト星系辺境。

NN005と呼ばれる惑星の衛星軌道上に、惑星間の重力場の影響を消しつつ停泊している。

ゼーペンストから大分流された為、一番近いボイドゲートがある宙域にまで自力で航行し、個まで辿り着き、物資の補給をステーションに打診したのだ。

 

んで、そこの管理局ステーションから、物資の補給を受けた。 

輸送船を幾つか借り、ピストン輸送でデメテールに足りない物資を補給していった。

そしてソレは意外と早く終わる事になる。

 

基本的に運用している人員は少ないから、それ程食糧とか生活品の補充は要らなかったのだ。

 だけども、今の時代のフネに必需品と言える機材とかの幾つかが手に入らなかったのだ。

 この宙域のステーションには造船設備が付いていない事も大きい。

 

 辺境故にそういった設備は使われる事が無い

その為、必要じゃないから予備が無かったのである。

 その事に頭を抱えたケセイヤから報告を受けているという訳だ。

 

 

「んで、何が足りないッスか?」

 

「ん~、一番足りないのはオキシジェン・ジェネレーターのコアユニットだな。一応鹵獲したフネから移し換えはしたが、このフネ全域を全部補える程じゃねぇ」

 

「ぬぅ、ソレは困ったっス」

 

「いまサナダ達科学班がケミカルプラントの方を完全稼働出来ないか試してはいるが、あんまし芳しくは無いらしい。まぁ一万年近く放置されてた機材が完全に動く方がおかしいからな」

 

 

 更に足りない部品はコレだけじゃないらしい。

 補機のインフラトン機関のコアユニットにも交換しなければならない部品が多々ある。

 主に粒子コントロール装置やエネルギー伝導管の類だ。

 

 しかもソレらは通常の造船工廠では扱っていない。

 この時代の造船の殆どはブロック工法で行われている。

 大抵は完成品の部品をくみ上げて、フネを作っているのである。

 

 その為、こういった特殊な部品は、辺境の整備ドックには置いて無いのだ。

 取り寄せる事も出来なくはないが、時間がかかる上費用が異常に掛かる。

 しかも今のフネは規格外の超巨大艦、部品のサイズや量も当然規格外になる為、オーダーメイドで作る必要がある。

 

 やろうと思えば艦内工廠で作れるモノの、その材料を扱っている所はこの近辺には無い。

 どちらんしても別の宙域、ココからなら・・・そう、カシュケント辺りに行かねば手に入らないだろう。

 

 

「やっぱり、カシュケントまで行った方が良いッスかね?」

 

「精密部品や機械だからな。流石にウチのフネクラスの奴をあつかっている業者は無い。それに自分たちのフネに使うものは自分たちの眼で品定めした方が良いと思うぜ」

 

「・・・解ったッス。とりあえず会計課と副長とユピを招集して、カシュケントまでに必要な物資、酸素、水等をわりださせるッスよ」

 

「んじゃ、俺は必要になりそうな精密機器の部品、材料とかのリストを作っておけばいいんだな?」

 

「出来れば出港前に頼むッス。一応2週間程度の滞在を予定してるッスから」

 

「りょーかい、んじゃそれまでにその他の物資の補給も済ませときますか」

 

「ウス、頼んだッス」

 

 

 こうして、事務系の連中を招集し、AI故に計算が得意なユピが必要なモンを算出。

 ソレにかかる費用系統も算出し、とりあえずは今まで溜めていた海賊を倒した時の金から出す。

 それも足りなくなればまた海賊を狩るという話で落ちついた。

 

 とくにこの先のカシュケントがあるマゼラニックストリームの入口近辺には海賊が多い。

 しかもそいつらの乗るフネの殆どが、大マゼラン系統の技術を組んだフネだ。

 いずれは大マゼランにまで足を運びたい我等としては良い予行演習になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 とりあえずソレで会議を終了し、俺は一度大居住区へと戻る事にした。

 本当は艦長室へ戻り仕事の続きをしないといけないが・・・まぁ息抜きだべ。

 そんな訳で大居住区の一角にある食堂区域へとやって来た。

 

 物資の補充がある程度出来たので、現在ようやく食堂が開店出来たのである。

 いや、生活班クルーが居ないから、実際は食堂じゃなくて屋台に近いかもな。

 はやくタムラさんとかを呼び戻したいぜ。

 

 

「ふぅ、最近色々やることがあり過ぎッス・・・」

 

 

 んで、何時の間にやら出来ている食事処とかレストラン的な店を見て回る俺。

 何気に個人的趣味からか屋台的な店を出しているクルーがチラホラといる。

 んで凄いのにもなると、ビルを改装して前述のレストラン的な店を作っていた。

 

 なんだかんだでウチのクルー達のバイタリティは凄まじいのだ。この要塞戦艦がある程度機能を取り戻してから、まだ一カ月程度しかたっていないのだが、既に一階部分に料理サンプルが入ったショーウィンドウが付けられたビルが所狭し建っているのである。

 

ココまで活気が良い街みたく出来たのは、ひとえにクルー達の尽力があればこそだろう。

 

 

「お、艦長、疲れた顔してどうした?」

 

「ま~た副長にお仕置きでもされたか?おおっとソレは艦長の業界ではご褒美か?」

 

「リーフ、ストール。ただ単に仕事疲れなだけッスよ」

 

 

 さて、適当に歩いていたら、何時の間にやら出来ていたオープンカフェに野郎が二匹。

 まぁ友人同士らしいから、特に何も言う事は無いか。ウン。

 

 

「艦長も休んでくか?」

 

「・・・そうするッス。偶にはさぼりたいッス」

 

 

 二人に言われた俺は、ホイホイ付いていっちゃうんだZE☆

 まぁブリッジ要員の二人とは知り合いだし、たまには会話を楽しむのも一興さ。

 二人に招かれ、彼らの座るオープンカフェのイスに座る。

 あれ?そう言えば・・・。

 

 

「おろ?そう言えば何時の間にこんな店が?」

 

「アレ艦長知らなかったん?ここ3週間前からあったんだぜ?」

 

「整備班連中が“町にはカフェがあってしかるべき!”とか叫んで一日で作ってたな」

 

 

 イヤ知らんよ、大体その時俺は自室で缶詰だったし、飯も配給制だったじゃんか。

 というか相変わらず整備班連中パネェな・・・あれ?

 

 

「生活班はいないんじゃ・・・」

 

「だから整備班の誰かが交代で切り盛りしてる」

 

「あー、道理で・・・」

 

 

 道理でさっきから視界にマッチョなのにウェートレスが移る訳だ。

 ちなみに俺はソレらを意識的に思考から排除してます。そうしないと危険です。

 主に精神汚染的な意味で・・・。

 

 

「これは急いで生活班の再編を進めないと不味いッスね。主に精神修行的な意味で」

 

「「まったくだ」」

 

 

 というか、何で普通にウェイターの格好をさせないのだろうか?

 お陰でこの店人が閑古鳥だから、静かっちゃー静かだけどさ。

 まぁいいか気にしたところでしゃー無い。今はさぼり中さぼり中。

 

 

「所でストール、どーッスか?新しい兵器のホールドキャノンは?」

 

「どうって・・・凄まじいの一言に尽きるな。まぁ基本は光学兵装と変わらんが」

 

「ホールドキャノン?何ぞそら?」

 

「ほれ、この間海賊とっちめた時に威嚇で一発ぶちかましたじゃねぇか」

 

「あー、あの螺旋を描く光弾が特徴的なアレか」

 

 

 ホールドキャノン、ソレは遺跡船であったデメテールに元から付いていた兵装の一つだ。

 船体前部の全翼機のような部分に横一列に上下合わせて12基配備されている。

 またこの大砲は基部が上下に動くので、射線をさえぎらないのも特徴だ。

 

 エンジンブロックがある船体後部にはこの大砲は付いてはいない。

 だが、内蔵式の同型砲が埋め込まれており、真横に対して発射できる。

 イメージ的には昔の帆船の大砲の配置に近いか?そんな感じだ。

 

 

「威力、射程共に優秀。精度も悪くは無い。やや連射力が低いが遠距離攻撃仕様と考えたら、十分に連射力があると言えるな」

 

「流石はデメテールに元から付いていた兵装だけあるって感じッスかね?」

 

「あれにプラスして連射が効くHLもつけたらマジで敵なしだろうよ」

 

 

 もっとも、今はそれをする為の資材も金も無いってな。

 てな訳でマゼラニックストリームに行くのが一番手っ取り早いのだ。

 

 

「まったく、俺は何時になったら書類から解放されるんスかね?」

 

「艦長代理を立てればすぐじゃないか?」

 

「副長に全部ポイするとか?」

 

「ストール、艦長代理やって見るッスか?あとリーフ、それやったら最後トスカさんに殺されるッスよ?八つ辺りで全員」

 

「いやいや、艦長職。それはユーリ艦長の天職だよ。なぁリーフ」

 

「ああ、全くだ」

 

 

 はぁ、働けど働けど、我が暮らし楽にならざり、じっと空見る―――

 

 

「んだとこらー!」

 

「テメぇ!ぶっころーす!」

 

 

―――ああ、アレ(艦内で問題起すヤツ)の所為か・・・俺は徐に携帯端末を取り出した。

 

 

「――あ、ユピ?ちょっといい?今さ、食堂区画のとこでケンカ起こってるから保安部員よこしてくれッス。俺の携帯端末のビーコン辿ればすぐッス・・・え?仕事?いや、ちゃんとこれからやりますよ?おーい、もしもーし!?・・・・早く戻らないと・・・・」

 

 

 ユピさんに俺がさぼっていた事がバレた。

 不味い、コレ以上問題が来る前にとっとと処理しちまおうと思った結果がコレだよ!

 とほほ、説教+書類仕事って拷問だぜ。泣きそうだ。

 

 

「俺仕事に戻るッス」

 

「おう、まぁがんばれよ艦長。ほどほどにな?」

 

「お前が倒れたら、マジでヤバいからな(フネが暴走しそうな意味で)」

 

「あいあい、ユーリさんはほどほどに頑張るッスよ~」

 

 

 なんかドナドナのBGMが聞えて来そうな感じで哀愁を漂わせながら席を立つ。

 ああ、胃薬上乗せだ・・・序でに頭痛薬も・・・頭が沸騰しそうだよー。

 

こんなんだったら会計課も数半減させるんじゃ無かったなぁ。

 そんな事を考えつつ、俺は艦長室へと戻った。

 

 

その後もこうした平和な日常は進み、俺も仕事を進め(キャロ嬢の妨害あり)2週間が経過。

 デメテールはカシュケントまで行くのに、十分な酸素と水と物資を抱え、NN005を旅立った。

 

 

 うぐぐ、俺に胃薬をくれ・・・割と切実に・・・。

 

***

 

 

 はーい、最近強いチート戦艦を手に入れたモノの、戦闘よりも事務で殺されそうなユーリだ。

いやホント切実に我がフネの人手不足は極まっておる!

頭痛薬おかわりだー!不味い!もう一杯!ヒャッハー我慢できねぇ胃薬だぁバリボリ!

 

そんな感じでジャンキーの一歩手前のオイラであるが、

今日ようやく溜まっていた書類を処理する事に成功した。

これまで胃痛と頭痛に耐えて書類と格闘したオイラを褒めてけれ。

 

 何せ今の今までマゼラニックストリームに蔓延る海賊たちのフネ。

シャンクヤード級やリークフレア級の巡洋艦。

それとファンクス級高速戦艦をジャンクに変えて収集していたからな。

本当は拿捕の方が良いんだけど、うちは人員が足りなくて拿捕出来ないし、

今の兵装が強力すぎて武装だけ壊すってのが出来ない。

 

コレでホーミングレーザーが使えたら武装だけ破壊して丸々拿捕が出来たんだが。

HLを搭載出来るだけの予算が無いから今の内は仕方ないね。

ジャンクだと平均450Gにしかならないが・・・。

まぁ数だけは多いから狩りまくっている。

海賊たちには涙目な話だぜコレは。

 

 

「ああ、ベッドよ。今はその優しき抱擁こそ愛おしい・・・」

 

 

 そう言う訳で、仕事を終えた俺はそのままベッドにダイブした。

この間の補給で良いベッドを仕入れたからな。

 

パラ○ウントもビックリの超低反発マット搭載――

沈みこむ?いやもう埋まるでいいんじゃね?

――な特別製キングサイズベッドを手に入れたのだ!

 

 ちょっとした散財だったけど、給料使う暇が無かったから別に良いよね?

 もうゴールしても、良いよね?反論は聞かん!

そう言う訳でお休みな―――

 

 

≪ドーン!≫

 

「ふわっぷ!?何スか?」

 

 

 突然の振動に驚いた俺は、飛び起きようとして失敗し、ベッドから落ちた。

 意外と頭から落ちるのって痛い、首と顔面(特に鼻)に大ダメージである。

イタタと頭をさすっていると、ブリッジのミドリさんから通信が入った。

 

 

『艦長、赤色超巨大恒星ヴァナージの太陽嵐影響圏に・・・大丈夫ですか?艦長』

 

「うっす、大丈夫ッスよミドリさん。たださっきの振動に驚いて落ちただけッス」

 

 

 どうやらマゼラニックストリームを航行中に、巨大恒星ヴァナージを通過したらしい。

 そのヴァナージの表面で大規模な太陽フレアが発生し、爆発的な太陽風が吹き荒れ。

デメテールのデフレクターを揺るがす程の太陽嵐が吹いたようだ。

 

 どうやら丁度11年周期の極大期に入っているらしい。

高荷電粒子のエネルギーが噴き出したのだろう。

それにあれだけの赤色超巨大恒星である。

フネ一つ動かせる程度のエネルギーを持ち合わせていても不思議じゃない。

 

 

「艦内に影響は出て無いッスか?」

 

『外壁に近い区画では、一時的に宇宙船の量が通常の数十倍に膨れ上がりましたが、今は正常値に戻りつつあります。大居住区はもとよりシールドされているので、それ程影響は出ておりません』

 

 

 熱波の方もシールドは完璧な為、航行に支障は無いらしい。

とはいえ、航路が赤色超巨大恒星の付近を通過する為。

若干排気が間に合わず温度が上昇するかもしれないとの事。

しかも排気が出来ないとなると、ステルスモードは使えなくなる。

だからしばらくは丸見えの状態で航行しなければならない。

 ウチみたいにデカイフネだと、遠くからでも発見されやすくなるから危険だ。

 

 

「ま、それ程大事なことは無いみたいッスね。他に何か影響でも出たら教えてくれッス」

 

『了解しました。それではお休みなさい』

 

「お休みッス~」

 

 

 自然界の現象には幾らチートなフネでも太刀打ちするのは難しいモンだなぁ。

そんな事考えつつ床についた俺だったが、とあることを忘れていたのだった。

 

 

 

 

 

 そして、それは俺が床について約3時間経過した時だった―――。

 

 

 

 

 

≪―――ピー、ピー、ピー≫

 

「・・・うん、何スか?何か問題で――『艦長!大変です!』」

 

 

 昼の時間帯とはいえ、肉体と精神の疲労が限界だった俺は自室で駄眠を貪っていた。

 だがその最も愛おしい時間を破り、けたたましいアラームが鳴り響く。

何だろうかと思い目を向けると、何やら通信ウィンドウに慌ててた様子のユピが映っていた。

 うーん、移動性ブラックホールでも出たのか?

 

 

『キャロさんが倒れました!』

 

「―――ッ!」

 

 

 俺はその瞬間、バッドで殴られたかのように驚きで目を丸くしていたらしい。

憂慮すべき事柄を思いっきり忘れていたからである。

キャロ嬢は先祖返りに近い肉体であり、宇宙放射線に極端に弱い。

先程の巨大恒星ヴァナージの太陽嵐と爆発的フレアの影響が今になって出てきてしまったのだ。

 

 

『現在医務室にて治療中です。今の所経過は安定しているとの事です』

 

「ホッ、よかったッス」

 

 

 彼女は賓客であるという事もあるが、何より友達でもある。

 友達が苦しんでいるのを見て見ぬふりが出来るほど大人じゃないからな。

 とりあえずキャロ嬢の為に早い所カシュケント辺りに行った方が良いだろう。

 そう言う指示を出そうとした時、艦内に警報が鳴り響いた。

 

 

「ユピ、この警報は?」

 

『敵性艦隊の反応をヴァナージの影にキャッチしました。すみません。先程のフレアで探知が遅れた様です』

 

「艦内に第二種警戒態勢、コンディションイエローッス。俺もすぐに行くッス」

 

『了解です』

 

 

 結局まだ眠っていないが、緊急事態発生だしそんな事言ってられない様だ。

 俺はすぐさま服を着替えて自室を飛びだした。

 

 

***

 

 

「状況は?」

 

「ファンクス級を旗艦にして計20隻規模の艦隊です艦長」

 

「相対速度を合わせて、此方から一定距離を維持したままだよ。ユーリ・・・大丈夫かい?」

 

「HAHAHA,眠る直前を邪魔されて、少しイライラがありますが薬で安定させたので平気ッス」

 

 

 今の自分の顔色を見たら凄まじい事になっているだろうなぁ。

 元居た世界の現代人のワーカーホリックもビックリなくらい働いているしな。

 なまじ身体鍛えていたからタフになっちまって耐えられるのが問題だぜ。

 

 

「ま、まぁムリしなさんな。このフネを率いるのはあんたしかいないんだから」

 

 

 トスカ姐さんはそう言うとコンソールを操作して空間ウィンドウを開く。

 そこにはヴァナージの影響からから画像が歪んでいるが、辛うじて艦隊の姿が映っていた。

 ここいらの連中は単艦でいる海賊が多かったが、どうやら徒党を組んでいるらしい。

 

 船体に描かれたマークや武装等の統一化が計られている事が窺える。

 コレは一筋縄じゃいかない連中かもしれない。

 

 

「停船勧告は?」

 

「まったく応答がありません。様々な周波帯や発光信号も試しましたが応答なし。敵性意思ありと判断いたしました」

 

 

 通常航路においては、フネ同士のニアミスや接触等の事故を避ける為。

お互いが安全に通る為の相対距離というものが、航宙法で定められている。

 フネ同士が円滑かつ安全に宇宙を航海する為のルールの様なものだ。

 

 そして、この相対距離を突破してくる場合、敵対の意思があると捉えられてしまう。

 つーか、さっきから勧告しているのに、全く反応が無いのだ。

警告を全部無視してくれてるのだから、これは敵対意思バリバリだろう。

 

 

「相手の進路から察するに、このままヴァナージの周回軌道上にて襲うつもりの様です。」

 

「周回軌道で?こんな電磁波や高エネルギー状態の荷電粒子が飛び交う軌道上でッスか?」

 

「ここいらは連中の縄張りだ。自分たちの土俵だからこそ襲うのかもな。それにココでは大抵のフネがスウィングバイを行う。その瞬間は軌道を変えられないから大抵無防備になっちまうのさ」

 

「尚、予想されるランデブー時間は、およそ27分後です艦長」

 

 

 ふむ、考える時間もない・・か。

 

 

「回避は?」

 

「現在本艦はヴァナージの重力圏を利用し、スウィングバイする為の軌道に入りました。今から軌道変更する事は不可能です。ムリに進路を変えるとヴァナージの超重力に捕まり、最悪恒星に落下します。またその場合、敵に横腹を曝すことになります」

 

 

 この航路に入ったフネは、必然的に減速を余儀なくされる。

 亜光速状態で入ろうものなら、重力変調で船体をズタズタに引き裂かれる事もあるからだ。

他に航路があれば良かったのだが、このヴァナージ以外の航路は重力変調が非常に激しい。

常にデブリストームと呼べる嵐が吹き荒れている為、突破は容易では無い。

 

それに幾ら重力制御が優秀でも、巨大恒星の重力圏に入るとあまり関係が無くなる。

巨星の持つ超重力が、周辺の重力変調の嵐を抑え込んでいるのである。

このヴァナージが持つ重力場があるからこそ、航路を通過する事が可能となるのである。

 非常に厳しい航路であるのだが、デブリで穴だらけになるよかマシなのだろう。

 

 

「なら中央突破ッスね。総員第一級戦闘配備。各砲座展開。エンジン戦闘臨界に」

 

「アイサー」

 

「艦内エアロック全閉鎖、連装ホールドキャノンスタンバイ」

 

 

 ちなみに、この航路以外の航路で起きる重力変調がどれくらい激しいのかと言うと。

以前エルメッツァにあったメテオストーム。

 アレの数倍の速さの流れが複数の方向からランダムに襲い掛かると考えてくれれば良い。

 

デフレクター無しじゃ、まず絶対に通れないだろう。

例えデフレクターがあっても出力が低下すれば最後である。

まぁこんな凄まじい環境だが、ココを抜けるのが一番大マゼランに行く近道だ。

 

そう言う訳で海賊たちもココで網を張っていたのだろう。

だからと言って通らない訳にはいかないのだ。

とりあえずカシュケントにつくまではな!修理材量を手に入れる的な意味で!

 

 

『総員第一級戦闘配備、繰り返します。総員―――』

 

 

 戦闘配備が通達され、艦内の中が慌しくなり、緊張した空気となっていく。

 ブリッジにあるデメテールの前方方向を映しているモニター。

そこでは、上下甲板に連装ホールドキャノンが展開していく光景が映し出されていた。

 普段は装甲板と一体化している砲がせり上がり、四角いバレルを持つ連装砲が現れた。

 

 また艦内の必要ではない照明が落とされ、非常灯へと切り替わっていった。

 エネルギーの節約と言えばいいだろうか?戦闘に入ればいくらあっても足りないのだ。

 このデメテールはロストシップだからか、いまだ各機関は本調子じゃない。

 もしもに備えて、エネルギーがあるに越したことは無いのである。

 

 

「敵艦、間もなく連装ホールドキャノンの射程圏内に入ります」

 

 

 ミドリさんの報告が入り、俺は指示を出す為にコンソールに触れた。

 こちらは進路変更が効かない状態なため、敵の射程に入る前に攻撃を開始する事になる。

 

 敵陣中央突破、慌ててはいけない。慌ててしまっては出来る事も出来なくなる。

まずは簡単に艦砲射撃による小手調べが、セオリーといったところだろう。

 ・・・・出来ればそれで倒れて欲しいとこだけどね。

 

 

「砲雷撃戦用意!各砲一斉射後は順砲発射に切り替えろッス!」

 

「了解、ジェネレーター出力20%をホールドキャノンに回すぜ。各砲座敵艦自動追尾」

 

 

 ストールが自席のコンソールを操作し、エネルギーが砲に回されていく。

 船体前部の翼部分に展開している計12基の砲座が、砲身を調整し敵艦へと照準。

 超圧縮され半分物質と化したエネルギーの固まりが砲身内で渦巻いて行く。

 

 

「全砲照準合わせ完了」

 

「連装ホールドキャノン、てぇーっ!」

 

「了解!ホイさほら来たポチっとな!」

 

 

 主砲から薄緑色のエネルギー弾が放たれた。

膨大なエネルギーの塊は、前方に展開している海賊の元へと軌跡を残し伸びていく。

 ソレらは真っ直ぐと前衛のリークフレア級巡洋艦へと伸び―――

 

 

「・・・・初弾、全弾外れました」

 

 

―――何故か全弾外れました。あれー?

 

 

「艦長、ヴァナージの影響で兵器の命中率が低下しているらしい。注意してくれ」

 

「・・・・早く教えてほしかったスね」

 

「ある程度私が補正します。ですが、ある程度の命中率の低下は覚悟なさってください」

 

 

 あれ?スルー?スルーされた!?・・・クスン、いいもんね別に。

 ともあれ、先程の一斉射撃で、この宙域での砲撃への影響がどれほどなのか観測出来た。

 あとはそれを分析したデータをもとに、補正してやればこちらの攻撃は当たる。

 まぁ後何発かは同じことをしないと、データが溜まらないのだが・・・。

 

 

「敵艦発砲を開始、命中まで4,3,2,――命中します」

 

≪ガーン、ガガガーン≫

 

 

 ちなみに現在スウィングバイの途中なため、回避機動が取れないから攻撃が全部当たる。

 装甲が特殊だしAPFSもあるから、ビーム系やプラズマ系は当たっても特に問題は無い。

 光学兵器系の防御に関して問題は無かった。問題は攻撃だった。

 

 

「チッ!射線が安定しねぇ!おまけにちょこちょこ避けやがってクソ!」

 

 

 一応反撃するが、やはりこの周辺を狩り場としているだけあり操船が上手い。

 ヴァナージの重力圏の影響もあり、放った攻撃は逸れる為、ことごとく回避されていく。

 そしてお返しとばかりに、長距離レーザーと大型レーザーの弾幕が当たる当たる。

 

 

「デフレクター展開率75%にまで低下、貫通弾はありません」

 

「あの程度の攻撃じゃ此方の防御は破けない・・・が、なんか一方的に攻撃を当てられるのも癪だねぇ」

 

「しょうがないッスよ。ここら辺はあちらさんの得意なホームフィールド何スから」

 

 

 こちらの方もデータが溜まって来たからか、徐々に攻撃が掠る程度にはなっている。

 マッド達が増設した、ユピの結晶量子回路の演算性能は伊達では無い。

 このままいけば勝てるには勝てるだろう・・・だが何かもやもやするぜ。

 

 

――――上から来るぞ!気をつけろ!

 

 

 と、脳内神主からの突然の電波を受信したその瞬間。

 

 

≪ズズズズズズーンッ!!≫

 

「わきゃっ!」

 

「つぅ!」

 

「わっと!なんスか?」

 

 

 突然の振動がデメテールを襲う、敵の攻撃がデフレクターを貫通したのか!

 

 

「船体下部に多弾頭ミサイルが直撃!下方に敵艦隊多数感知!」

 

「下からかよ!」

 

「は?何言ってんだい?」

 

「あ、いや。何でも無いッス」

 

 

 あんまり電波も当てにならんな。太陽に近い所為か?

・・・・・まぁソレは置いておこう。

 

 ヴァナージの陰に隠れて此方に密かに迫っていた連中が、下方から攻撃を仕掛けてきた。

 前方に展開している艦隊がレーザーを照射し、デフレクターが減衰した瞬間。

 その一瞬を狙って着弾する様に、中型規模の多弾頭ミサイルが船底に直撃した。

 

 タダでさえ減衰していた防御重力場に襲い掛かる大量の小型ミサイル。

 ソレにより更に減衰したデフレクターを幾つかの弾頭が突破したのである。

 

 

「損害は?」

 

「船体下部に被弾。損傷は軽微です」

 

「ですが、部分的に爆発の衝撃で共鳴裂傷が発生、装甲強度が2割低下します」

 

 

 ミドリさんとユピからの報告によると、どうやら損傷していたらしい。

 勿論このフネの大きさからすれば、非常に些細なモノだ。

 だがこういった些細な傷が、致命的になる可能性もある。

 

 確かに今のままでも、デメテールの装甲板の堅牢さはかなりのモノだ。

 だが長い事眠っていた為、部分的に弱い個所に直撃を受ければどうなるか分からない。

 新しい革袋に古い皮をつぎはぎした状態で水を入れれば、水は古い部分を突き破るのと同じ。

 

 幾ら強度があっても、部分的な弱さがある状態ではその堅牢さが逆に仇となる。

 ソレを修復するには、材料と人手と長い時間が必要である事だろうなぁ。

 そして、それを行う為の事務作業は俺に・・・・死ぬかもしれない。

 

 

「ミサイル第2波、第3波の発射を確認」

 

 

 さて、敵艦からのミサイル攻撃はまだ続いている。

どうやらある程度硬化がある事に気が付いたらしく、ミサイルの大判振る舞いである。

 ウチのフネの装甲なら、あん程度なら数十発くらいの直撃に耐えられると思う。

だが、先程の様な多弾頭が、同じ個所に命中したら、流石のデメテールでもヤバい。

 

 

「射撃諸元データの採取は?」

 

「ヴァナージ近辺のスキャンは終了した。フレアの発生パターンも予測完了。現在FCSにインストール中」

 

「データのインストールが完了次第、主砲連装ホールドキャノンは前方の艦隊を、船体下部8段砲列のホールドキャノンは下方の艦隊へ照準ッス」

 

「アイサー!」

 

 

 デメテールの主砲、連装式ホールドキャノン12基が前方の艦隊へ照準を合わせる。

 装甲と一体化している為、四角く直角的な砲門が前方の敵艦隊を捉えていた。

 同時に船底に埋め込まれている砲列が開口、その照準を下方の艦隊に向けた。

 こちらはバレルが無いが、ある程度はビームの偏向が可能であるので照準を合わせられる。

 

 

「主砲1番から6番発射。7番から12番は1番から6番をチャージしている間に、タイミングをズラして発射。敵に目にもの見せてやれ」

 

「アイサー副長、ホールドキャノン、ぽちっとな」

 

 

 トスカ姐さんの号令に従い、ストールが照準を合わせユピが補正した砲が発射される。

 薄緑色の弾頭が重力の影響を受けて、弧を描いて直進していった。

 先程とは違いかなりの精度の射撃に驚いたのか、若干艦隊機動が乱れる海賊。

 こちらはンなこと関係ねぇとばかりに撃ちまくる。

 

 奴さんらも反撃とばかりに撃ち返してくるが、挙動が乱れた所為で射撃が安定しない。

 デフレクターの防御重力場に散々して当たるのだ。その所為で威力が拡散してしまう。

先程の息の合った艦砲射撃とは違いバラバラなのだから、あまり意味のない攻撃だ。

 

 

「エネルギーブレッド、第7射目、12発中6発命中」 

 

 

 そしてようやく命中する弾頭が増えた。

薄緑色の弾頭は、巡洋艦の幾つかに命中し、大破及び小破させていた。

大破したフネは眼下のプロミネンスに焼かれ粒子へと融解していく。

 

 まったく、環境が厳しすぎてこれほどまで戦闘が困難とは思わなかった。

 流石はマゼラニックストリーム、通常宇宙空間とはマジで次元が違うぜ。

 

 

「間もなく下方艦隊の上空を通過します」

 

「下部8段砲列用意、射撃間隔は0,01ッス」

 

「アイサー」

 

 

 船体下部砲列群からも砲撃を開始し、下方でミサイルを撃ちまくってくる連中を落す。

 そう言えば、なんであいつ等のミサイルは重力場に引かれないのだろうか?

 そう思ってさっきよか近づいたお陰か、若干鮮明になった画面を覗いてみた。

 

 すると、よーく見るとミサイルがなんか棒状の筒から凄まじい速さで射出されている。

 なーるほど、初速が凄いレールガンで撃ちあげているから重力に逆らえる訳か。

 

 

「特殊な環境を根城にしているだけの事はあるッスね~」

 

「ふむ、ミサイルをレールガンで加速・・・いいアイディアだ」

 

「サナダ、解っているとは思うけど、ウチは今は余裕無いんだから仕事増やすんじゃないよ?」

 

「わ、解っているとも副長。カシュケントについてから考えるとも」

 

 

 もしもーし、冷や汗出してそっぽ向かないでくださーい。

 それと、もしも勝手に俺らの書類仕事とか増やしたら、俺ら何すっか解んねぇからな?

 そこら辺を理解していてくれることを期待しておく。なんちって。

 

 

「間もなく前方の艦隊を中央突破します。敵艦は進路から退去」

 

 

 こちらはスウィングバイの途中であるから、軌道変更も速度の強弱も変えられない。

 だからかなりの速度で敵陣へと突っ込む事になる。

 初めは紡錘陣形で弾幕を形成していた海賊であったが、最大の大きさの旗艦が910m。

 

 対してこちらは36000m、どう考えても蟻と象である。

 進路上から離脱していく艦数を10隻にまで減らした海賊艦隊。

 彼らの横をデメテールは悠然と速度落とすことなく通過する。

 

彼らにしてみれば、デメテールは大きいから攻撃も当てやすいと思ったんか。

この特殊な環境故自分たちに利があると踏んだのか。

 はたまたタダのバカだったのかは解らないが、コレだけは言える。

 彼らでは今加速状態にあるデメテールを止めることは不可能であるという事だ。

 

 まぁこんなロストテクノロジーの塊、手に入れたところで売れないだろうけどな。

 ウチですら持て余す程のフネで、いまだに手の入っていない区画が存在するフネだ。

 ロストテクノロジーは国軍とか、国立研究所の様な所で無いと運用は難しい。

 

 市場が限られているのだから、そう言ったところにパイプが無いとまず売れんだろう。

 もっともウチの場合は、マッド達が手放そうとはしないだろうがね。

 

 

「敵陣を突破、このままデメテールは加速状態に入ります」

 

「ヴァナージ影響圏を脱出後、ステルス航行に移行ッス。今回はちょっと急がないと不味いッスからね」

 

 

 スウィングバイによる加速で、敵海賊艦隊を完全に振り切った。

 こうしてなんとか難所をくぐり抜ける事に成功したデメテール。

 多少装甲板が傷付いたが、修復できる範疇である事に安堵しつつ。

俺達はカシュケントへと針路をとるのだった。

 

 

***

 

 

 さて、カシュケントまで後少しといったところまで来た。

 案外しぶとい海賊が多くて、チート艦でも油断できねぇなぁとか考えていた。

 確かに装甲も厚いし、カシュケントで修理出来れば機関出力も上がる。

 だが所詮は人(異星人でも人だよな?)が造りしフネなのだ。

幾らチートでも限界はある。

 

大体このフネでもヴァランタインに勝てる気がしねぇ。

一度負けたからか、臆病な色眼鏡が付いちまったってのもあるけど・・・。

もう絶対ヴァランタインとは敵対はしたくしないぜ。

 

 

「ふふ、ふふふ、なんで昨日片づけたのに、また電子書類が・・・」

 

「諦めな。人手が足りないんだから。ホレ手を動かす!」

 

「トスカさん・・・代わって?」

 

「いやだ。まだ死にたく無いよ私は」

 

「ですよねー」

 

 

 もはや一つの都市と化しているデメテール。

 都市となれば当然様々な問題が出てくるものである。

 つーか、何故に排水管の書類がこっちに来る!?

そこら辺は整備班の方だろうが!大体これ提出期限ぎりぎりとかどういう事だ!?

 

 

「あー、ケセイヤの奴は書類整理出来ないからねぇ。溜まってたのがこっち来たんだろ?」

 

「・・・・≪ギャキ≫」

 

「はいはい、バズ取り出さない。ちゃんと仕置きは死といたからさ」

 

「・・・・解ったス」

 

 

 トスカ姐さんがそう言うならという事で、一度取り出しかけたバズをしまった。

 その後トスカ姐さんも仕事がある為、艦長室から出て行くのを見送る。

黄昏ていても仕方ないので、さぁ仕事しようとコンソールに手を置こうとする。

 

 

 そう、置こうとしたのだが・・・・。

 

 

「じー」

 

「・・・・・・」

 

「じーーー」

 

「・・・・・・」

 

「じーーーーーー」

 

「・・・・・・医務室に居たんじゃないッスか?キャロ嬢」

 

「暇だから遊びに来た」

 

 

 ―――きゃろ嬢が、かまってほしそうに、こちらをみている!

 

 どうしますか?

 

・あそぶ

 

・たしなめる ←

 

・いいのかい?ホイホイきちまって(ry

 

 

――――おk、とりあえず落ちつこうか?

 

 

「キャロ嬢、あんた倒れたんスから、ちゃんと療養しててくれッス」

 

「えー、だってもう何ともないのに暇じゃない」

 

「だとしてもッス。キャロ嬢はウチにとって賓客何スよ?もしコレで何かあったらネージリンスに何されるか・・・」

 

「まぁまぁ、その時は私がおじい様に取りなして、私の子飼いの部下として雇ってあげるわよ」

 

「わーい、再就職先決~定!って何言わすんスか?!つーか俺0G止めるの前提!?」

 

 

 キャロ嬢がどういう訳だか艦長室に来ていた。

 どうやら医務室を抜けだしたらしく、服は入院服にガウンといった感じだ。

 まったく、普通の人間と違うんだから、もっと大人しくしててくれよ。

 

 

「だめ、なの?」

 

「むぅ、そんなすがる様な眼で見られても・・・」

 

「うるうる」

 

「・・・・ごめん、自分で言ってるの見るとちょっと」

 

「うん、私も自分でそう思った」

 

 

 テヘ、失敗失敗と頭を小突く仕草はかわいらしいモンがあるが、生憎俺の食指は動かんな。

 

 

「んで、お嬢様?何故わたくしめのようないやしい艦長風情の元に?」

 

「私を丁寧に運んで下さる艦長さんに、ねぎらいの言葉をお送りしたかっただけですわ」

 

 

 そう言うと彼女は上品に微笑みながら此方を向いた。

 その変わり様に思わ茫然としてしまう。

 なるほど、コレがランバース家のご令嬢ってわけね。

・・・・・普段が普段だから忘れちまうけど。

 

 

「・・・・様になってるッスね。流石ご令嬢」

 

「今のくらいなら5歳の子でも出来るわよ」

 

「それを普通に出来るか出来ないかって事ッス。少なくても俺は出来ねぇ」

 

「練習すればいいわ。そうすれば出来るようになるから」

 

「いやー、一介の0Gには必要「私の執事になるならソレ位はね~」――ってさっきのは冗談と違ったんスか?!しかも子飼いの部下から執事にランクアップしてるし!!?」

 

 

 あーもう!その“何を当たり前のことを”と言う様な目つきはやめい!

 少なくても俺はやめる気何ぞ無いぞ!って上目遣いも禁止じゃあ!

 

 

「まったく、何度も言っているけど、俺は仕事があるッスよ~」

 

「いいじゃない少しくらい構ってくれたって~。賓客をもてなすのも艦長の仕事なのよ?」

 

「頻度が問題何ス。キャロ嬢ほっとくと何時までも居るじゃないッスか」

 

「だって、楽しいし・・・ユーリといるのが」

 

「キャロ嬢・・・」

 

「ユーリで遊ぶのが」

 

「ビキビキ(^ω^♯)」

 

「じょ、冗談よ。だから笑ったまま怒らないでよ」

 

 

 ははは、怒って無いですよ?おれはすこしねぶそくなだけだお?

まぁ兎に角だ。この際だからはっきりと言うべきかな。

 

 

「はぁ、寂しいのも解るッス。一人は辛いんスよね?」

 

「――え?」

 

「このフネにおいて、キャロ嬢と同じくらいの年齢の人間は俺くらいしかいないッスからね。大体予想は付いてたッス」

 

 

 俺がそう切り出すと、彼女は目を見開き驚いていた。

 そりゃコレだけ言い寄られればねぇ?ある程度の予想くらい立てられるさ。

 

 

「俺は良くも悪くも、相手に対して余り態度を変えないッス。そりゃ初対面の時は猫かぶりもするッスけど、知り合いになればそんな遠慮もしなくなるッス。だからこそ、この際ッスからはっきりと言っても良いッスか?」

 

「・・・なによ」

 

「いい加減にしてくれ。俺にだって堪忍袋ってモンがある。今の今までアンタの行動を容認してたが、いい加減キレそうだ。寂しいのは解る。構って欲しいというのは話をしたい口実だって言うのも。でも、だからって俺をアンタの都合の為に使おうとしないでくれ」

 

「え、う・・・」

 

 

 多少キツイ言い方であるが、少しは懲りて欲しい。

 俺にだってプライドッちゅうモンがある。

 

 

「・・・・・解ったッスか?」

 

「・・・・・うん」

 

「まぁあれッスよ。幾ら友人関係でも遠慮くらいはして欲しいっつーか」

 

「友、人?」

 

「ん?あれ?てっきり俺は既に友人だと思ってたッスけど、違ったスかね?」

 

 

 なんかキャロ嬢の事を友人と言ったら目を見開かれた。

 あれ?やっぱり俺の事はていの良いおもちゃ扱いだったのかしらん?

 だとしたら悲しいわぁ。ユーリさん泣いちゃうよ?

 

 

 

 この後は何故か静かになってしまった彼女を、ファルネリさんに引き渡した。

なんかキャロ嬢が普段とは違い妙に静かだったからか、

俺が何かしたんじゃないかと言う眼でファルネリさんから睨まれて逆に泣きそうだったぜ。

 

 

―――断じて違います。そして勘弁してください。

 

 

 とりあえず、そんな事があって、彼女はあまり頻繁に訪ねては来なくなった。

 てっきり嫌われたのかと思ったのだが、どうやら彼女なりに考えた結果らしい。

 訪ねてくる時にはちゃんと、携帯端末で俺に連絡して、行っても良いか聞くようになった。

 多少は俺の言った事が伝わってくれていたのなら嬉しい限りだな。

 

 

 こんなことがあった事以外は、デメテールは海賊狩り以外実に平和であった。

 そしてデメテールは多少損傷が出ていたモノの、カシュケントへと到達したのであった。

 

***

 

Sideユーリ

 

 

 さて、ようやくマゼラニックストリームで最大の貿易地。

荒くれ者の貿易商人が集う商業の中心地、惑星カシュケントへと到着した。

 いやー、何処に停泊させようか悩んだが、とりあえずカシュケント近くの空間に泊めた。

 

 勿論ステルスは常時発動させ、事前に管理局に連絡も入れてあるから準備万端である。

 こうでもしとかないと、あとあと怒られそうだしね。デカイから邪魔だって。

それはさて置き、今デメテールにある格納庫では・・・・。

 

 

「お前ら!準備は出来てるかー!」

 

「「「「おぉぉぉぉぉっ!!」」」」

 

 

 整備班を筆頭に手が空いている人員達が集っていた。

 陣頭指揮を執るのは当然のことながら、拡声器片手に持つケセイヤさん。

 彼は思いっきり息を吸い込むと、集まったクルー達に向け大きな声をだした。

 

 

「ジャンクコンテナは持ったかぁッ!!!」

 

「「「「おぉぉぉぉぉっ!!」」」」

 

「よろしい、ならば換金だ。まずは修理材を買う為にジャンクを売りさばくぞ!」

 

「「「「うぉぉぉぉぉっ!!」」」」

 

「それじゃあ行くぞテメェら!!」

 

「「「「ヒャッハー!!」」」」

 

 

 整備班長ケセイヤさんの声にこたえ、彼の号令の元散っていく行くクルー達。

 ある者はフォークリフトを、ある者はVFの作業用パック搭載型に乗りこんでいく。

そして本来なら航行や整備を補佐する為のAIドロイドすら持ちだしている。

それもこれも格納庫に無造作に収められし宝の山│(ジャンク)を、運び出す為だった。

 

いやー、しかしゴミの山ですら金に変わるとかボロい商売だよねぇ。

 俺は俺で、彼らの邪魔にならないよう、キャットウォークから連中が働く所を見ていた。

 流石にこういったのは非常時でも無いと艦長自らやる事じゃないからねぇ。

 

 

「よう、見送りか?」

 

「あ、ケセイヤさん。作業見て無くていいんスか?」

 

「指示は出したからな。後は積み込みを終えるのを待つだけだ」

 

 

 と、クルー達を上から眺めていると、声を掛けられたのでそっちを向く。

 何時の間にかココに上がって来ていたらしいケセイヤがそこに居た。

 彼も全体総指揮というのがあるから、格納庫全体を見渡せる所に来たのだろう。

 

 

「とりあえず、第一陣はこの第3格納庫から、お次は第4、第5と順に運び出すぜ」

 

「うす、第3から第9までの全部で7つの格納庫(にしている空間)、前部空にしちゃってくれッス」

 

「そしてがっぽり儲けて、研究三昧うわはははは」

 

「あー、うん。まぁほどほどにね?フネ壊さないように」

 

「うんうん、任せておいてくれニシシ」

 

 

 ケセイヤは怪しい笑みを浮かべて、指揮をしにこの場を立ち去った。

 しまいにゃフネを解体しないだろうな?マッドだから心配だぜ。

 

しかし、フネが大きくなったお陰かペイロードとしてのスペースが広がったからな。

これまでとは比べ物にならない程ジャンクを積みこめるようになった。 

 とりあえずはこの第3格納庫一杯のジャンクを、シャンクヤード級に積み込む。

 

そしてそれをカシュケントに持って行き売る。俺ら儲かるって寸法だ。

ここいらのフネは強力なフネばかりだったから、例えジャンクでも高く売れる。

 

ああっと、そう言えばこの辺の商業組合の元締めが居るんだよな?

売りに行くなら、そう言った人間にも挨拶を師とかねぇとなぁ。

後で誰が元締めなのか調べとかないと・・・。

 

 

***

 

 

 さて、とりあえずブリッジに戻って来た。

 あそこに居ても手伝えないし、危ないし、何より邪魔だしね。

 そんな訳で、ブリッジからジャンクを乗せたフネの見送りだ。

 

 

「シャンクヤード級、本艦から離れました。問題無くカシュケントへと向かっています」

 

「了解ッス。第一弾の連中が帰ってきたら、次のジャンク品の積み込みが終わり次第、上陸希望者を順番に乗船させてくれッス」

 

「了解です。・・・キャロ・ランバース様、大丈夫でしょうか?」

 

「・・・まぁこのフネには彼女を治療する設備が無いッスからね」

 

 

 ちなみにキャロ嬢も、さっきのフネに乗って一路カシュケントへと向かって貰った。

 この星系は貿易地となっているだけあり、医療関連も充実している。

 ファルネリさんも一緒だから、彼女に必要な薬がある病院もすぐに見つかるだろう。

 ・・・・勿論、嫌がって暴れた為、俺は多大な精神的労力を払ったのは余談だぜ。はぁ。

 

 

「俺としては、あの子を説明する方が大変だったスよ」

 

「ふふ、確かに・・・そう言えば艦長もカシュケントへ行かれるのですか?」

 

「俺ッスか?俺はもう少し後で良いッスよ。ちょっとやる事あるし」

 

 

 HLが無い為、鹵獲出来たシャンクヤード級は全部で3隻しかない。

シャンクヤード級は輸送船に出来るほどのペイロードを誇るフネではある。

だが流石のシャンクヤード級でも、全てのジャンクを運びだすには時間がいる。

 

ピストン輸送をするから、作業的には不眠不休で最低3日はかかるだろう。

 実際はそんなに急いでやる事では無いので、一週間くらいを目途にしてるけどな。

 てな訳で、この空いた時間俺は暇になる。だから少しは休憩出来るってワケ。

 

 

「やる事、ですか?」

 

「ふふ、オトコノコには秘密があるんスよミドリさん。さてと、ちょっくら遊びに行って来るかな」

 

「・・・?」

 

 

 俺はそう言って後手に手を振りつつブリッジを後にした。

 後には首をきょとんとさせたミドリさんだけが残るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――さて、俺は皆を見送った後、艦内のとある場所に向けて歩きだした。

 

 

 そこはついこの間見つけた珍しい場所だ。今の所俺以外知る人間はいない。

 俺専用VF-0Sでその空間がある所の近くまで飛び、後は通路を歩いて行く。

 少し歩けば、その場所へとすぐに辿り着く事が出来た。

 

ここは大居住区から出て、工場区画に行く道の途中にある所謂電算室に相当する場所。

 いわばサブコンピュータ群とでも呼べばいいのか。

 ユピの本体が安置されている中央電算室とは違う、こじんまりとした空間である。

 

 

「ココをこうしてピポパってな」

 

 

 備え付けのコンソールを慣れた手つきで操り、コンピュータを起動させる。

 なんせココには何回か足を運んだからな。ある程度は扱い方も解るってモンだ。

 まぁ実際は手をコンソールに置くだけで、ほぼ自動でこちらの考えを読み取ってくれるんだが。

 

 ソレはさて置き、この部屋を発見したのは、実は本当に偶然だった。

 その日、俺は仕事が限界だった為、息抜きがてら部屋から出ていた(サボりとも言う)

 そんで何処か静かな場所でもないかと思って見つけたのが、この部屋なのである。

 

 ココはいわばライブラリー(図書室)の様な所だった。

 それも、ココに置かれたデータというのが―――

 

 

「わぁお!なるほど、バルパスバウ付きのフネなんてなんてレトロッス!浪漫ッス!」

 

 

 ―――全てフネに関するモノだったからだ。ちなみに設計図では無い。

 

 多分カタログ的なモノなのだという事は理解できる。もしくは図鑑だろうと。

 でも異星人の言葉で書かれた説明文は、流石の俺も読めたりはしない。

 これで何故か異星人の言葉が日本語だったらいいんだが、流石にそこまでご都合主義は無い。

 

 そんな訳で、この小さなライブラリーに保存されし異星の資料は、

俺の中の精神浄化作用に一役買っていた。

いやー、ストレスに少しだけ負けて部屋から逃げた甲斐もあるってモンだ。

 

 まぁいずれは発見される訳だが、それまではココは俺の城―――

 

 

「艦長!ようやく見つけましたぁ!」

 

「ありゃ?ユ、ユピ!?」

 

 

 ―――と、思っていたが、案外あっさりと発見されてしまった。

 

 そういやユピはこのフネそのモノ。

俺の居場所を見つけるなんて、飯を食うより簡単だ。

 

 

「どうしたんスか?なにか急用でも?」

 

「あ、いえ。そのう・・・・」

 

 

 はて・・・?なんでモジモジとしてるんだろうか?

 いやいや、つーかチラホラとこっちを窺うかのような仕草。

 なにこの可愛い生きもの?

 

 

「あ、あのう!後でケセイヤさん達が帰って来たら、次の便でカシュケントを見学に行きませんか!?」

 

「うわっと!近いよユピ」

 

 

 いきなりこっちにガバッて来るから、俺っちびっくらこいちまったい。

 しかし、必死やねぇ?このつまらん男と何でまた行きたいのかねぇ?

 

 

「はう!すみません!」

 

「いや、別に構わんスけど・・・他に誰かいないんスか?」

 

「あ、えっと、こういった事他のめるのって艦長くらいしか」

 

 

 ふむ、まぁユピとは仕事がてら、惑星に行った事とかあるしな。

 シフトの都合でいけない誰かから、買い物でも頼まれたりしたのかもな。

 そう言った意味では、俺とかの方が気軽に頼めるんだろう。

 

 

「行くにしても、ジャンクとかの運搬が優先だし、その次は病人とか上陸希望者が優先ッス。俺が行くのはそのずっと後ッスねぇ」

 

「あう、そうですか・・・」

 

「心配しなさんな。ユピが行きたいって言うなら俺も行くッスよ」

 

「本当ですか!」

 

 

 おう、おいちゃん嘘つかないよ。せっかくユピが誘ってくれたんだしな。

 娘が一緒に外出したいと言っている様なモンだ・・・まぁ俺結婚して無いけど。

 

 

「でも、それまでは俺は休憩ッス。偶には好きな事したいッスからねぇ~」

 

「そう言えば艦長は先程からココでなにをなさっていたのですか?」

 

 

 アー俺?何、適当に宇宙船のカタログ的なモノを眺めて妄想してただけよー。

 

 

「カタログ・・・ですか?」

 

「おう、ここのライブラリーに結構な数が入ってたッス。どれもこれも、マゼラン系統では見られないタイプのフネばかりッス」

 

「うふふ、船乗りの血が騒ぎますか?・・・・浮気ですか?」

 

「いや浮気はしないッス。けど、いいフネってのは見ていて楽しいんスよ」

 

 

 何故だろう?急に寒気が来たぞ?まぁ良いけど。

 とりあえず俺は視線を図鑑に戻し、フネの鑑賞を再開することにした。

 

それにしても、なんか良いなこのフネ。

直角と曲線の融合、工業的でありながら何処かユーモアと言うか・・・。

ロジックが備わったカタチに必然性のある「工業デザイン」がベースというか。

・・・・・どう見てもシド・○ードです。本当にありが(ry

 

いやいや、幾らなんでも1万数千年前の人間が居る訳ねぇだろう。

しかもこのフネは異星人のフネ、デザインが似ているに過ぎないって・・・。

それにしてもこのフネ無限航路にあっても違和感無い、違和感仕事しろって話しだ。

 

しかし、このシドさんデザインっぽい戦艦は何て名前だろう?

なんか昔どっかで見た様な記憶がふつふつと・・・。

 

 

「・・・・コレはブルーノア級というみたいですね」

 

 

・・・・まて。

 

 

「え、嘘。マジっすか?」

 

「えーと、翻訳するとそうありますが」

 

 

 えー、このデルタ翼機に三連装砲並列で並べた様なフネが?

 しかし随分と古い上にマイナーだな。知っている人間少ないんじゃないか?

 そんな目得たな事を考えられる俺って何モンだオイ。

 

 

 

 ――――さて、それじゃココは、だ。

 

 

 

「見なかった事にしよう」

 

 

 

 ――――秘儀、大人のスルー力(ちから)を発動し、見なかった事にしたのだった。

 

 

 

…………………………

 

……………………

 

……………

 

 

 さて、ただ漠然と図鑑を眺めるというのも、最終的には図鑑に載ったフネを見終えればそれで終わってしまう。図鑑という事もあり300近いフネが乗せられてはいるが、字が読めなければそれに意味は無い。

 

ユピに頼めば翻訳くらいしてくれるだろうが、只でさえ我が艦の様々な部署を代行してくれている彼女にコレ以上負担をかけたいと思うほど俺は鬼畜産では無いのだ。

そんな訳で、只ライブラリーを眺めていたが、絵や図を見るだけではすぐに終わってしまう。

 

久々の休みだった為、1時間程度の時間をかければ全部の画像データを再生する事は容易だった。データの中で幾つか気に行ったモノを選んで置き、後でじっくりを鑑賞したりしたが、いい加減限界だ。

 

 

「・・・・・そうだ!」

 

「わわ!ビックリした」

 

 

 ココで俺の灰色の脳みそが閃き、頭の上に電球が付いた。

 コレ以上ライブラリーが無いなら、足せばいいじゃ無~い!

 俺はごそごそと懐を漁り、取り出したるは小さな小さなマイクロチップだった。

 

 

「それ、何ですか?」

 

「んー?コレは・・・俺が貰った幸運のデータッス」

 

 

 俺が取り出したのは、初めてソラに上がったあの日。

 ロウズ自治領の廃棄されたコロニーの中のコンピュータで発見したデータ達。

 その昔、銀河を練り歩いた名もなき男が残してくれた遺産である。

 

 この小さなチップの中には、俺の最初の戦艦であるヴァゼルナイツ級のデータ。

さらには戦艦や空母や巡洋艦の少し壊れたデータが保存されている。

 このデータを見つけられたからこそ、俺は今まで生き残って来れたと言えるだろう。

 

 

「俺が0 Gとしてやって来れたのは、一重にこの中にある戦艦設計図が入っていたからッス。ココのライブラリにそのデータを映しておくのも悪くないかなぁって思って」

 

「まぁ、思いでを刻むんですね!いい考えだと思います」

 

 

 そんな訳でチップのデータをライブラリーフォルダの中に移そうとした。

 ユピに手伝って貰えば楽勝だろうと思ったのだが、その為にはユピにこっちの言語に翻訳して貰う必要があった。

 

 んで、まぁとりあえず準備だけはしておこうと、チップをライブラリに入れた。

 ・・・・入れたつもりだったんだ。

 

 

「あ、あれ?データが勝手に動いてるッス」

 

「ちょっと艦長、なんか変なシステム動かしたんじゃ」

 

「えーと、なんかさっき急に青い変なウィンドウが出て消そうとしてたッス」

 

「え!?あら?!このプログラム連動して・・・止まらない!?」

 

「なーんかヤバい予感がするッス・・・」

 

 

そして俺は、改めてこのフネが異星人のフネである事を理解する事になった。

 やっちまったぜ、テヘ☆

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Side三人称

 

 

「―――で?何か申し開きはあるかい?」

 

「まったくなんにもすべてわたくしがわるぅございますッス~」

 

 

 怒髪天を通り越してすでに(^ω^♯)ビキビキと、青筋から音が出ているトスカさんに睨まれて、ユーリは完全に謙り見事なDO☆GE☆ZA☆を繰り出していた。

 

 周りの連中はそれを見て止めよう・・・と言う訳でもなく、ちょっと複雑な表情で成り行きを見守っている。一体何があったのかというと、

 

 

「ジャンク品の殆どを勝手に使ってフネの工廠で新造艦造るバカが何処に居るッてんだい!」

 

「ヒィィィィィッ!バズーカは勘弁ッス~~~!!!!」

 

 

 あろう事か、フネの財源である筈のジャンク品が、新しいフネに化けたというのだ。

 しかし、何と言うか、トスカ達が帰って来るまでの間にフネの工廠で新造艦を作れるとはデメテールの生産力は凄まじいモノがある。

 

 実はユーリがライブラリだと思っていたあの場所は、簡単に言えばカタログ置き場の様なモノだったのである。恐らく異星人は、あそこで設計図を作ったりして、それを元にフネの工廠で用途にあったフネを建造していたのだろう。

 

 ユーリは只ライブラリにデータを移そうとしただけだった。だが、この時にこのライブラリ備え付けのコンソールの使い方をマスターしていなかった事、そしてユーリがやる事をユピが見ていただけだったという事態が仇となってしまう。

 

 元々ライブラリのコントロールプログラムは異星人用に造られている。相手の意思を読みこんで操作するユビキタスを超えたユビキタスの様な、簡易IFSの様なものだ。当然人の手が加えられていない為、設定は異星人仕様のままである。

 

 今までユーリがライブラリのコンソール操れていたのも、ある種の偶然によるものだった。しかしこの“動かせる”という事実が、このコンソールを“自在に動かせる”と誤認させてしまっていたのである。

 

 

 そして、ライブラリにデータを移そうとして色々と動かそうとして試行錯誤した結果、偶然か、はたまたバグか、ユーリが居れた筈のデータは所々抜けたデータの筈で設計図としては使えない筈なのに、設計図としてライブラリに保存された。

 

しかもシステムエラーの所為かこんがらがった回線を通じて、それがそのまま造船システムに送られてしまったのだ。オートメイション化された工廠はすぐさまその指令を実行し、材料となるモノが置かれた格納庫を自動スキャンする。

 

そしてデメテールの優秀なセンサーは見つけてしまったのだ。材料となるモノ、すなわちこれまで時間をかけて集めたジャンク品の山が収められている格納庫の存在を。

 

 

―――後はお察しのとおりである。

 

 

「だってまさか格納庫から直通で工場区につながるコンベアがあるなんて思わなかったッス」

 

「ふ~ん、で?遺言はそれかい?」

 

「ちょ!マジで勘弁」

 

「あ゛あ゛?」

 

「あ、いや、ほんとうにすいません」

 

 

 流石のユーリも怒り心頭のトスカさんに睨まれれば、蛇を前にした蛙、猫に睨まれたネズミ、姉さん女房に叱られる宿六・・・・最後のはちと違うがまぁ似たようなもんだろう。

 

 ちなみにユピもその場に居たのだから、罰せられてもおかしくは無いのだが、彼女の心根を全員知っている為、この騒動はどう考えても目の前で土下座し続ける艦長(バカ)が起したモノだという事を理解している。ユーリ哀れなり。

 

 

「しかし、まさかネビュラス級(武装無し)が艦内で建造出来たとはな」

 

 

 サナダはそう呟き、呆れたように溜息を吐いていた。

 今回建造されたフネはユーリが廃棄されたコロニーで見つけた設計図の一つである、その名もネビュラス(恐らくは星雲の意)級と呼ばれている戦艦だ。

 

元々は大マゼラン星雲の星団国家連合ロンディバルドが保有する主力戦艦であり、火力・機動性・耐久性・レーダー管制等の全ての面で優れており、艦載機搭載機能まで持ち合わせている。また大マゼランにあるジーマ・エミュと呼ばれる国からの技術提供をもっとも多く受けたフネで、重力慣性制御による姿勢制御が可能であるフネだ。

 

武装は基本がプラズマ砲で特装砲として大型陽電子砲が搭載されている。ある意味バゼルナイツ級何ぞ歯牙にもかけない程の、デメテールやその他カスタム艦を除けば銀河で有数の超高性能を誇る戦艦であると言えよう・・・・設計図が完璧であったなら。

 

 

「なんで穴開き設計図でフネが作れるんだよ」

 

「いやー、デメテールの工廠ってホント優秀ッスね」

 

「「「お前が言うな!」」」

 

「フヒヒ、サーセン」

 

 

 そう艦内工廠でお金に変わる筈のジャンク品を大量に消費して造られたフネには、一切の武装がついてはいなかった。また重力慣性制御なんぞ付いておらず、レーダーも通常レベルのモノしか装備されていない。

 

 つまり、ただ大きいだけの輸送船の様な状態なのだ。いや、安価な分輸送船の方がまだマシだったかもしれない。異様に分厚い装甲と強力なエンジンを持つ、強力な・・・弩級輸送船。格好悪いにも程があるというものだろう。

 

 

「少年、とりあえずフネを建造してしまったのは置いておく、問題は残ったジャンクではデメテールの全修理を行うには全然足りないぞ?」

 

 

 その時、ミユが良い放った一言で、ユーリが石化する。

 

 

「ま、マジで?」

 

「確か、全ての格納庫に収納されていたジャンク品を売り払って、丁度デメテールを修理できるだけの金額になる筈だった。この騒ぎで大分ジャンクが消費されてしまった。アレだけではエンジンブロックに使うエネルギー伝導管用特殊鉱石や量子共鳴クォーツが買えん」

 

「なら、また狩りに行けば・・・」

 

「その事ですが艦長、現在当艦は修理を行う為、相似次元機関の火を落しています。また4機ある補機のインフラトン・インヴァイターも比較的損耗が少なかった電源用の1機以外は、全て完全に停止しています」

 

 

 八方ふさがりとはこの事だろう。主機は今まで扱った事のない機関である為、慎重を期す為に完全に停止しているし、他の補機も補機とはいえ超大型である為、修理に手間取らないように1機以外完全停止されている。既に点検ハッチも開いている状態だ。

 

 流石のデメテールも補機が1機あるだけでは、メイン艤装兵装を使う事すら出来ない。アレは莫大なエネルギーを消耗するのだ。補機が全機稼働しているならいざ知らず、補機1機だけでは砲弾一つ満足に撃てるかもわからない。

 

 流石のユーリもこの状況には眉間にしわを寄せていた。全く誰の所為だ?俺の所為か。と自問等している。他のクルー達もどうしたもんかを頭を抱えてしまった。下手すればココで白鯨の旅は終わってしまう事になる。主に経済的な理由で・・・ソレは0Gとしてはあまりに情けないだろう

 

 

「・・・・・・・・・・そうだ。ないならある所から貰えばいいじゃん」

 

 

 ソレはまさに天啓、いやさユーリの脳みそが導き出したある意味最高の方式だ。周りの人間が一体コイツは何言ってるんだという顔をしていても、表面上気にしないを装い(内心ドバドバ滝涙である)、彼は部屋を飛びだして必要な情報を集めた。

 

 そして、自分の推測が正しいという事を知った彼は―――

 

 

「ちょっとカシュケント行って、お金集めてくるッス!」

 

「え?お、おい!ユーリ・・・ったく!もう!ちゃんと説明してけ!ユピ!フネを任せるよ!」

 

「へ!?は、はい!」

 

 

 唐突に飛び出して行った、行き先から考えるにVF-0Sが置いてある格納庫だろう。トスカは急に飛び出したユーリを追いかけて格納庫に走った。本来なら艦長不在の際は副長である彼女がフネに残らなくてはならないのだが、今はそんなこと気にしている状況でもない。

 

 

 

―――――ユーリは一体何を思い立ったのか?それは次回に明かされる。

 

***

 

Sideユーリ

 

 貿易惑星カシュケント、人口818500万人程の

 

に降り立った俺は、そのままカシュケントバザールを統括する長老会議所へと足を向けた。

 

 

「まったく、何処に行くのかと思えばよりにも寄ってココかい?」

 

「うす、ココでなら金をこしらえる事が可能ッス」

 

「ユーリ悪い事言わないからやめときな。ここの婆はかなりの守銭奴だよ?下手したら私らの全部を身ぐるみはがされちまうよ」

 

 

 そしてどういう訳だか、デメテールを飛びたとうとした俺のVF-0Sの後席に無理矢理乗り込んだトスカ姐さんも、俺と一緒に長老会議所へと来ていた。つーか、あなた副長なのにフネ放置していいんスか?

 

 

「大丈夫、ユピに任せて来た」

 

 

 さいですか。

 ソレはさて置き、今だブツブツ言うトスカ姐さんを宥め、俺はそのまま会議所に入る。長老会議所なんて名前が付いてはいるが、中は非常にシンプルと言うか無駄のない造りである。恐らく余計な装飾に金を掛けるくらいなら、商売に掛ける方がいいと思っているんだろう。

 どういう訳だか神棚は置いてあるし・・・ソレはさて置いて。

 

 

「こんにちは、受け付けはここでいいですか?」

 

「あ、航海者の方ですね?ようこそカシュケントバザールへ」

 

 

 受付の人に挨拶をすると百%の眩しいくらいの営業スマイルをしてくれた。俺も営業用に意識を切り替えて対応し、トスカ姐さんは俺の後ろに立ち動向を見守っている。

 

 

「本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

「はい、初めてカシュケントに来ましたので、長老であるクー・クー様にご挨拶をと思いまして」

 

 

 クー・クーとはこのカシュケントのバザールを仕切る長老で、実質この星の支配者に当たる人物である。この人物にご挨拶を行い“お土産”等を渡すとバザールにおいて様々な便宜を図ってもらえるという事で有名である。またこの人に頼めば手に入らない商品は無いんだそうだ。

 

 ・・・・ちなみに女性である。参考までに。

 

 

「長老のクー・クー様にごあいさつですか?それは丁度良い時間に来られましたね。現在クー・クー様は執務室においでになりますゆえ。それでは挨拶をなさいますか?」

 

「お願いします」

 

「では、こちらに――」

 

 

 そう言う訳で、俺とトスカ姐さんは建物の奥へと通された。さてココからが白鯨艦隊が存続するか否かの分かれ道、運との勝負だぜ。出来ればがんばって金を手に入れたいところだ。

 俺は案内の人の後を歩きながら、内心気合を入れたのだった。

 

 

…………………………

 

……………………

 

……………

 

 

案内の人に通されたのは、応接用の部屋であった。部屋の中は若干薄暗く、どうも視覚的効果を狙っているらしい。足元が見づらくてしょうがないんだが、ここの主人の趣向なのだからどうしようもない。

 

 

≪――ごそ≫

 

 

さて通された一室の奥に目を向けると、何やら黒い影が動くのが見えた。よーく見てみると、どうやらシルエット的に人間の様である。目が慣れて来て相手の姿を完全に捉える事が出来るようになって来ると、この部屋には小さな年寄りの女性が蹲る様に座っていた。

 

 だが、小さいというのは姿だけで、その人物が持つ威圧感とも言うべきプレッシャーは恐ろしく大きなモノであるという風に感じられる。流石は貿易惑星の頭を張っている長老と言ったところだろう。長と言う肩書は伊達では無いという事なのだ。

 

 そしてその人物は俺とトスカ姐さんを一瞥すると、若干しゃがれた声で話し始めた。

 

 

「おう、おう。星の海をねぐらとする旅人よ、ようきなすった。持てる者にはパラダイス・・・持たざる者には地獄・・・カシュケントを取り仕切っているクー・クーじゃ」

 

「初めましてクー・クー様、自分は白鯨のユーリと申します。カシュケントは初めてなので勉強させてもらうために来ました。ああ、コレはほんの詰らないものですが――」

 

 

 俺はそう言ってカードをクー・クー婆に渡す。彼女は懐から携帯端末を取り出し、カードの中身を確認すると、深い皺の入った顔に更に深い皺を浮かべて、笑みを作り上げた。只でさえ白粉が深く塗られて、妖怪然としているのに余計に人外っぽく見えて怖い・・。

 

 

「おうおう、お主ネージリンスの作法を心得て折るのう。エエのう、金と男は、いくらあってもこまらんて・・・・のう旅人よ?」

 

「は、はい。そうです・・ね」

 

 

 今一瞬凄まじく悪寒が走ったんだけど?序でに虫唾と鳥肌も出てますが、ポーカーフェイスを貫く為に吐き気を飲み込んだ。・・・だけどお願いですから俺の尻の方を見ないでください。マジ心折れそうです。

 

 あと、トスカ姐さん、これにはちゃんとした理由があるし、払ったのは俺のポケットマネーだから睨まないでください。クー婆からのプレッシャーとトスカ姐さんからのプレッシャーに挟まれるとマジできついッスから。

 

 

「くふふ、このクー・クー、お前さんの気持ちに感動したわえ。さぁ、このパスを持って行くがよい。クラーネマインのレッドバザールに入れるパスじゃ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 クー婆は小さなカードを俺に手渡してきた。この小さなカードがあれば大分商売がしやすくなる。だけど今回の目的はコレじゃないんだよなぁ。

 

 

「・・・2000Gも払ってコレかい。とことん業突く張りだね」

 

「ちょ!トスカさん!」

 

「聞えちょるよ。な~にいいさねいいさね。既にお前さんらはカシュケントの客人じゃからのう。ひっひっひっ」

 

 

 その時、ぼそりとトスカ姐さんが変な事言ってくれるもんだから、正直心臓がドクンとハネ上がった。わざと下手に出て形だけでも良いから相手の機嫌を良くしているのに、その苦労が水泡に帰すかと思ったからだ。

 

 全く、機嫌悪いのは解るけど、マジで今だけは邪魔しないでほしいぜ。

 

 

「まことに申し訳ありません・・・所でクー様は生粋の商人で、どんなものでも売買を受け付けると聞いたのですが」

 

「おう、おう。確かにこのクー・クーは元からの商売人、売り買いについてはどんな事でも請け負うよ。なんじゃ?お主何か商売でもしにきたんかえ?」

 

「ええ、ちょっとしたモノを売りに来たんです」

 

「ほう?・・・・お前さんの身体か?」

 

 

 ザ・ワールド!時が止まる!だが俺の寿命がマッハでピンチだ。

 この瞬間、クー婆の言葉に俺自身マジで怖かったのだが、それ以上に俺の背後からのプレッシャーが文字通り肌で感じられる位に増大したのだ。唯一助かったのは、その対象は俺では無く目の前のクー婆に向けられていたという事だろう。

 

 ああ、ありがとうトスカ姐さん。愚かな俺を庇い、態々クー婆を威圧してくれるなんて・・・だけど睨みつけている相手は、今回我が白鯨を立て直してくれる程の財力を持つ金のガチョウ。コレ以上失礼があってはならない。なので―――

 

 

「トスカさん、やめて」

 

「――ッ!ユーリ!だけど!!」

 

「いいから、止めてください」

 

 

 ―――彼女を止める。今が勝負の時なのだ。

さっきのはホント怖かったがこの程度で諦める訳にはいかない。

 だが、ちょっと興奮しているのかトスカ姐さんは大声になる。

 

 

「あんた!また自分を犠牲にするつもりかい!」

 

「うぐ、ちょっと揺さぶら――」

 

「そんな事は許さないよ!あんたはどれだけ私に・・・周りに心配を掛けさせれば!」

 

 

 ちょっ、ガクンガクンゆさぶらんといてくれー、胃の中身が出ちゃう~。

 とりあえず冗談はさて置き、彼女を落ちつかせなくてはクー婆に追い出されてしまう。

 だが、俺は揺さぶられているからか声が出し辛い。

 

 くっ、あんまりしたくは無かったが、こうなっては仕方が無い。

俺は隙を見て、俺を揺さぶりながらまくしたてるトスカ姐さんの両腕を掴んだ。

そしたら何処からかjojoなイメージが流れ込んできたんだ。

 

 

≪ドドドドドドドドドドドドドドドドド≫

 

「お、おいユーリ!?」

 

 

な、何を。と解狼狽している彼女の顔へ近付き、そして―――

 

 

≪――――ぺろ≫

 

「この味は・・・動揺している味だぜ?トスカさん」

 

「ッ!~~~!!!」

 

 

 ―――やっちゃったぜ☆

 

最初こそ少し抵抗があったが、部屋に居る間は重力制御で重しを掛けている俺とは地力が違う。その所為か、彼女の抵抗は俺を振りほどく程強くはない。とはいえ、俺の方が少し背が低いから背伸びしなきゃならんから大変だ。

 

 

「な、な、ななな」

 

「7?」

 

「なんてことするんだ!!≪――ヴォン!≫」

 

「おっとあぶねぇッス。持ちつけ」

 

「こんのバカ!バカバカ!大馬鹿!!」

 

「うわっは、オラオラキタww」

 

 

“こっちの言葉を聞かない程興奮している相手には、混沌をぶつけてやればいい。そうすれば大抵は、予想外の出来事に思考が止まる!”

 

 ――――なんてことは無い、そんなことをすれば大抵こうなる。

 

 そして恥ずかしさからか、俺をボコボコにしようとするトスカ姐さんを避けまくる俺。息切れし始めた辺りで、ヒートアップしていた頭が冷えたのかトスカ姐さんは大人しくなった。

 

 

「落ちついたスか?」

 

「え、あ・・う――」

 

 

 今だ若干恥ずかしそうにしている彼女を無視し、俺はクー婆の方に振り返る。

 そして背筋を伸ばした状態で、思いっきり頭を下げて謝罪の意を示した。

 

 

「申し訳ありませんでしたクー様。部下が大変見苦しい真似を・・・」

 

「くふふ、エエわい別に。久々に若き頃の昂ぶりを感じ取れたでな。ヒヒッ若いってのはエエのう」

 

 

 やはりクー婆は中々懐が大きいらしい。今のも昼ドラを見たほどしか思わないんだろう。しかし目の前でこんなことしても動じないとか、どれだけ肝が坐っているいるんだか・・・・。

 実はカシュケントの歓楽街もクー婆のテリトリーだったりして。

 ともあれ、トスカ姐さんの暴走を食い止めたので、俺は商談に入る事にした。

 

 

「実はクー様に買い取って欲しかったのは」

 

「お前さんか?」

 

 

 うお!?またトスカ姐さんから強烈なプレッシャーが!!

 ビクンと身体を震わせるのを見て、笑みを深めるクー婆。

 クソこんの婆ぁ!ワザとやって遊んでるだろう!!

 俺は背後の気配にビクンビクンしながらも口を動かした。

 

 

「いいえ、違います。買い取って欲しかったのはこっちです」

 

「コイツは・・・ナショナリティコードとフェルメナ・ログかい?」

 

「ええ、貴女には自分の“名声”を買い取っていただきたい」

 

 

 俺はクー婆の眼を真っ直ぐ見据えながら、伝えるべき事を述べた。

 さぁ、後は野となれ山となれだな―――

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

「ウショショ、毎度ありぃ」

 

 

 そんなクー婆の声を聞きながら部屋を後にする俺達。

 何と言うかホント綱渡りだった気がするぜ。俺の貞操的な意味で。 

 ソレはさて置き、俺が一体何を売り払ったのかと言うと、簡単に言えば情報である。

 

 名声値というモノが管理局の0Gランキングと呼ばれている順位表がある。それは登録したフネの艦長がそれまでの航海でどれだけの敵を倒してきたのかというのを、数値で表すシステムなのだ。つまり名声とはそれまでの航海で打ち立てて来たそいつの実力を表す訳である。

 

 それと今回の件がどうつながるかと言うと・・・簡単な事だ。

 

 この名声値というものは確かにそれまでの証しであるが、ソレの管理は結構曖昧なのである。ランキングの重要な数値でありながらも、“誰が”“何時”“打ち立てた”という情報は気にされない。通商管理局に申告した時に付く数値なのである。

 

 そして、この名声値を通商管理局に渡す前に、クー婆に売り渡したという訳なのだ。こういった情報でも意外と買い手はいるらしく、手っ取り早くランキングを上げたいお金持ち辺りによく売れているらしい。

 

 こういった事が出来るのも、空間通商管理局とは別のコミューンを形成しているカシュケントならではの裏ワザといったところなのだろう。

 

 

「ふぅ、緊張したッス。なんとか金は手に入ったッス」

 

「そう、だね」

 

 

 そうトスカ姐さんが少し元気なさそうに返事を返す。

冷静になって思うと、俺はなんチューことしてしまったんだろう。

幾ら落ち着かせる為とはいえ、いきなり舐める変態じゃないだろうか?

 

見るとトスカ姐さんが若干俯いた感じになっている。あー怒ってるかなぁ?

 いやでもさ?いきなり優秀な副官があんな風に取り乱したら驚くじゃん?

 ・・・・いい訳にはならないよなぁ・・・・ココは男がやることは一つ!

 

 

「ゴメンなさい。トスカさん」

 

「な、なんだいイキナリ?」

 

 

 土下座・・・では無く、普通に謝る。流石に往来で土下座はしないさぁ☆

 兎に角腰から90度に身体を前傾姿勢の様に曲げて、トスカ姐さんに向けて謝った。

 

 

「幾らなんでもアレはやり過ぎだったッス。いやホント申し訳ない」

 

「あ、いや・・・私こそ、その取り乱して・・・」

 

「「・・・・・・」」

 

 

 き、気不味い雰囲気が流れるぜ。やっぱり若造にセクハラされたら怒るよな。

 やっべ、これで実家に帰らせていただきます的な事態になったらマジでヤバいんだけど?

 シュベインさんにばれたら、俺抹殺されそうね!

 うわーん、ちょっと前の俺!調子にのりすぎだー!!

 

 

「(うう、あんな事これまでされたことは無かったんだよぉ。何であの程度でこんなにドキドキするのさ)」

 

「え、えーと。とりあえず帰りますか?」

 

「あ、うん・・・そだね」

 

 

 こうしてなんとかフネを修理できる分の金を手に入れた俺達はデメテールに帰還する。

 帰ってから若干トスカ姐さんとの距離感がびみょんになったが、時間と共にソレも薄れて元の感じになったから気にしない。気にしないったら気にしないのだ!

 ・・・・何時か責任取る為に穴埋めでなんか奢っておこう。

 

 

 ソレはさて置き、本当穴開き設計図で助かったかもしれない。もしネビュラス級を本気で作るとしたら、総額38700Gになった筈である。金が掛るプラズマ系統の武装面が全て無かった上、アビオニクスも通常のフネ程度しか装備されていなかった事もあり、値段的には半額にまで落ち込んだのだ。

 

 お陰で名声値を売った金の分をプラスしても、おつりが来るくらいの金を手に入れられた。デメテールをもう一隻造るって訳じゃないから、修理用の建材費だけだし、後はまた少しずつ稼いで強化を続ける事にしよう。

 

 

 ―――こうしてデメテールの修理は進んでいく事になるのだった。

 

 

***

 

 

 さて、フネの修理もだいぶ進み、俺もようやく暇が出来た頃。

 俺は以前の約束通り、ユピと共にカシュケントに向かっていた。正確にはカシュケントを含む四連星のバザール巡りであるのだが、こまけぇ事は良いんだヨ。

 

 

「えへへ、考えてみれば、この身体で艦長のフェニックスに乗るのって初めてかも」

 

「へぇ~そうだったんスか~。それじゃあ楽しんでもらう為にスピード上げるッスかねぇ」

 

「いいですよー!艦長が耐えられる限界でお願いします!」

 

「・・・・(普通そこはお手柔らかにって感じじゃないの?)」

 

 

 やべ、ユピの身体は俺よか丈夫なんだった。

 ・・・Gキャンセラー最大値だけど大丈夫かな?

 

 

 

 んで、道中は特に何もなく進み、カシュケントを経由し惑星ストレイへと降りた。

 この星は水気が多く、温暖な気候であるらしく、日用品などの雑貨を扱っているホワイトバザールが観光名所らしい。

 

 つーか今更なんだが、これってデートじゃね?

 俺としては楽しいんだけど、ユピも楽しんでくれていると嬉しいな。

 

 でも、もしトスカ姐さんとキスした事が伝わってて、“え~無理やりキス~?キモイ~”

とか言われたら、俺はもうハートブロークンで日本海溝に沈みたくなるぜ。

あう、そう思ったら気分が暗くなって来やがった。

 

 

「艦長・・?どうかなさいましたか?」

 

「へぁ、いや何でもないッス」

 

 

 うわ~ん!この間の俺はどうかしてたんだぁ~!全てはjojo電波が悪いんだ。

 ひ~ん、薄汚れちまっててごめんよ~!だからそんな純粋な目で見んといて~!

 良心が絞め付けられて、違う世界の扉を開きかけてるから!

 

 

「と、兎に角、ホワイトバザールでも見に行くッス」

 

「あ、はい。えーと・・・ルートはこっちですね」

 

「え?道解るんスか?」

 

「衛星ハックして指揮下に置きました。コレでこの惑星の中なら迷いませんよ?」

 

「そぉい!ハックしちゃ不味いッス!警備隊に見つかったら―――」

 

「大丈夫ですよ~、ケセイヤさん直伝のハッキングですから絶対にばれませんよ」

 

 

 おk、解った。後でケセイヤさんにはお仕置きだべ。

 純粋なこの娘になんて危険な事教えてんだよ全く!

 

 

「とりあえず、行くッス――ん」

 

「はい・・・(あ、腕組んで貰えた。うれしいなぁ)」

 

 

 だが、実は後で知ったんだが、そのハッキング技能で敵艦のセンサー類をハック。

ステルスモード中の自艦が、相手に見つからないのに一役買っていたらしい。

う~ん、だけど・・・・何ぞ複雑やなぁ。

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

 さて、バザールという名を冠するだけあり、ホワイトバザールは様々な店で賑わっていた。店と言っても出店に近いものであるが、競争率が激しい立地条件からか、売られているモノの大半は質が良いものばかりである。

 

 パンフによると(デフォルメされたクー婆がマスコットキャラでペ○ちゃんみたく舌出してる)、ホワイトバザールには日用品エリア、医薬品エリア、服飾エリアといった感じに大別されているらしい。

 

 

―――――んで、とりあえず日用品エリアから見て回る事にした。

 

 

「いらっしゃいいらっしゃい!安いよぉっ!!」

 

「ウチの商品はそこらのモノとは一味違うぜ!」

 

「・・・・・タコ、いらんか?」

 

 

 道の半分を占領した出店から、商人たちの威勢のいい掛け声が辺りに響く。

 思わず、前の世界でテレビで見た築地市場みたく感じた。

 流石は貿易惑星だ、活気と熱気が半端では無い。

 

 

「うわぁ~、色んな物が売られてますね~」

 

「似た様なものが多いから、最初見つけた時は買わないで、他の店と比較すると良いんスよ」

 

「艦長ものしり~」

 

「わっはっは、褒めるな褒めるなッス」

 

 

 こうしてユピと日用品エリアを見てまわり、丁度艦内清掃用の洗剤が切れていた事を思い出し、ホワイトバザールで探してみた。ユピが居るのでいつでも衛星にアクセスし相場を調べられる為、明らかにボッている商人に掴まされる事も無く、洗剤二種類セットを500Gほど購入できた。

 

 買った時に商人が「絶対、この二つを混ぜないでくださいね~」とか言ったので、塩素系と酸性系か!と突っ込んでしまったぜ。

 

 次は日用品エリアとつながっている医薬品エリア、様々な病気用のアンプルや無針注射器がおかれている店を見て回っていると、ふとユピが「艦長」と言いながら俺の腕を引いた。なんだろうかと思って彼女が指差す方を向くと、バザールの一角にぽつんとある薬屋が目に入る。

 

 

「あの薬を扱ってるとこがどうかしたんスか?」

 

「色々扱っているみたいですし、サド先生へのお土産として買って行ってあげようかと思いまして」

 

「・・・・ユピは本当にいい子ッスねぇ。だけどサド先生の場合は多分お酒の方がうれしいだろうけど。ま、薬があって困る事は無いッスから見てみるッス」

 

「はい、艦長」

 

 

 とりあえず、薬屋に近づき、置いてある商品を物色してみる。飲み薬は粉から錠剤、カプセルとかまで全種類あるし、塗り薬や張り薬、無針注射器とかまで置いてある。なるほどパンフのうたい文句にもあった、このバザールで手に入らないモノは無いってのもあながち嘘じゃなさそうだ。

 

 んで、薬を物色していると、凄まじく見た事のあるマークの入った薬ん瓶を見つけた。それは前世でも胃腸薬として重宝したラッパのマークが付いたアレである。その薬を手に取った俺は店番をしていた店主に話しかけた。

 

 

「店主、これって」

 

「おお、お客さんお目が高い。それはタイコー薬品が造っている大抵の病気なら一発で直せるというその名も「セーロガン」です。独特の風味と苦みがありますが、い~い薬です」

 

 

 ニカッ!と良い笑みで答えてくれた店主、コレはどう考えても俺に対するフリだろう。

そして俺は迷うことなく、○露丸もといセーロガンを一つ購入した。

―――― 俺の医療経験が2上昇した! ―――― 

ん?何やらテロップが出た様な・・・気のせいか。

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

「「うう゛ぁ~~~~!!」」

 

 

 さて、ココはバザールにあるオープンカフェ。

昼時になり先程よりも人混みが増した為、食事がてら喫茶店に避難したのである。

 適当に注文したらなんか、ケバブサンドみたいなピタパンに肉を挟んだのが出てきた。

 ピリッとした唐辛子系の辛さが何とも言えないぜ。

 

 

「つ、疲れたッスねぇ」

 

「ホントですねー、こんなに活気があると楽しいけど疲れちゃいます」

 

 

 テーブルに突っ伏すよにして、俺達は往来を見つめている。

 先程よりも人が増えて、更に活気を高くなれば商人の声も大きくなるのは必然。

 少し離れた位置にある筈のオープンカフェのテラスにもビリビリ響いてくる。

 カフェで買った飲み物を啜りつつも、少しだけだらけていた。

 

 

「・・・それにしても、服飾職人たちが強かったッスね」

 

「うう、似合うからとか言っていきなり試着室に連れて行くとかどうなんでしょう?」

 

「まぁユピは可愛いからなぁ」←下心全く無しの善意の発言。

 

「う、うぅ~~」

 

 

 顔を赤くして俯くユピ、うんうん、おいちゃんには解るぞぉ。

 服飾エリアについた途端、いきなり一人の商人に声を掛けられたかと思いきや、服は要らないかと声を掛けられて、コレも良い経験だろうと試着してきたらといったのが間違いだった。

 

 まさか試着を終えた後に商人たちの数が増えてて、次はウチの店を、ウチの、うちだ、ってな感じでユピが引っ張りだこにされるなんて思わなかった。ユピは造形物の様な美しさがあるからなぁ。スレンダーな体つきも相まって大抵の衣装が似合う事に合う事・・・。

 

 気が付けば商人連合に取り囲まれていた時は驚いた。一応全員女性だったんだが、只の試着会が何時の間にかウチの専属モデルになってくれといった感じのスカウト合戦に代わっていたのだ。ユピはウチの大事なクルーで仲間だから手放すなんて有り得ないと言ったところ、凄まじい妬みの視線で見られて怖かったぜ。

 

 流石にヤバくなったと思ったから、ユピを抱えて逃げだした。

逃げた途端服飾商人たちも追いかけて来て、おお取りものだっから、ものすごく疲れたぜ。

 ちなみに疲れたってのは肉体じゃなくて精神な?間違えんなよ?

 

大体何で服飾商人なのに、cv若本なマッチョオカマ混じってんだよ。

・・・紐パンなのは本当にカンベンしてくれだったぜ。目が腐るかと思った。

 

 

「こ、この後はどうしますか?」

 

「そうッスね~」

 

 

 荷物は全部郵送してもらえるとはいえ、コレ以上散策するのは後日からの仕事に差し障りそうだ。かと言ってそのまま帰るのでは面白くない。なんか無かったかなっと思考は巡らしていると、俺の脳みその片隅である事が思い返された。

 

 

「そういやキャロ嬢は何処に入院してるんだっけ?」

 

「検索中・・・・――バザール裏手の海運病院ですね」

 

 

 ハックした衛星をリンクして調べたのだろう、フッと無表情になった彼女はそう答えた。

 ふむ、そういやキャロ嬢はこの星系にきてイの一番に入院しちまったんだよな。

 幾ら持病とはいえ、せっかく違う星系に来たのに見て回れないなんて可哀そうに。

 ・・・・そうや。

 

 

「ユピ、この近辺で生花を扱っている店ってあるッスか?」

 

「ちょっと待ってください・・・ホワイトバザールでは無く、隣のブルーバザールにあるかと思われます」

 

 

 ブルーバザールは近年出来た新しいバザールで、新参者の小売業者が軒を連ねるバザールである。ココで店を開くのは他の星系から渡ってきた商人が殆どであり、入れ替わりが激しく時たまクーリングオフが効かない事でも有名である。

 

 だけど今回は花買いたいだけだから、クーリンオフの心配は無いな。

 

 

「キャロ嬢のお見舞いに花でも買ってこうかなって思うんスけど」

 

「いいですね!ではこの後行きましょう」

 

 

 そんな訳で俺達は飯を食った後、ホワイトバザールを後にし、隣のブルーバザールへと向かった。

 

 

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第四十四章+第四十五章+番外編4+番外編5

さて、そんな訳でブルーバザールへとやってきました。

 感じとしては若干活気が無いホワイトバザールっぽいです。

 そんで、とりあえず目に付いた花を扱っている店を見つけたんだが――

 

 

「あ、あなたは!お久しぶりです!」

 

「・・・・・誰ッスか?」

 

 

 ―――いきなりその店の店主と思われる人物に話しかけられた。

 

 

「覚えていませんか?パリュン・マリエカです。カルバライヤで質の悪い連中に絡まれていた時にあなたさまがたに助けていただきました」

 

「・・・・あ!あー!!あの時の!!」

 

「思い出していただけましたか」

 

「あ、あのう艦長、この方は?」

 

「この人は以前カルバライヤのジゼルマイト鉱山で、俺らがバイトしてた時にネージリンス人なのに態々国境を越えて商売しようとしてカルバライヤ人に絡まれてた所を助けた商人さんッス」

 

 

 見た感じは何処にでもいる普通の青年さんと言った感じだろうか?

 ある意味近所に住む顔なじみのお兄さんと言っても通用するかも知れない。

 平凡中の平凡、まさにその言葉がふさわしい人物だと言えよう。

 

 

「いやー、ホントあの節はありがとうございました。商売人ではありますが荒事は苦手でして・・・所で今日は何か入り用ですか?助けていただいた分、勉強させていただきますよ」

 

「ウス、ソレはありがたいッス。実は―――」

 

 

 俺はパリュンさんに、これからお見舞いに行くので土産に花を買いたいと言う事を伝えた。

 

 

「成程、お見舞い用の花ですか。現在は人工花が主流ですが、運が良い事に天然の花を入荷してあったんですよ。ちなみにお値段は500G掛かる所を何と大特価の300Gで済みます」

 

 

 この時代、天然の花と言うのは非常に貴重らしく、店ではあまり取り扱っていない商品の一つだ。花と言うのは種類にもよるが、非常に環境に左右されやすく、宇宙に出た花は意外とすぐに枯れてしまう為、貿易商品としては適さないからか敬遠されており、天然モノは値段が高いのだ。

 

 高が花で300Gも掛かるとなると、普通買う人間はいない事だろう。

 

 

「(う~ん、経済的に考えるなら、人工花の方が良いんだろうけど・・・やっぱり天然の方がいいよね!)」

 

 

 気持ちを送りたいのなら、それ相応の敬意を見せるべきだろう。

 そう言った訳で俺はパリュンさんに300Gを支払い天然モノの花を購入した。

 

 

「はい、確かに。ではこちらをどうぞ。黄色のコスモコスモスです」

 

「うわぁ~!可愛いお花ですね」

 

「これならキャロ嬢も喜びそうッスね」

 

 

 パリュンさんが差し出してきたのは、3~4cmほどの花を咲かせる黄色いコスモスだった。

 キチンと手入れが行き届いているらしく、みずみずしく生き生きと花を咲かせている。

 この可愛らしい花なら、見舞いには丁度良いかもしれないな。

 

 

「それじゃパリュンさん、お花ありがとうさんッス」

 

「さようならパリュンさん」

 

「あ、ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 

 目的のモノを購入した俺達はその場を去ろうとした所、パリュンさんに声を掛けられた。

 なんじゃろうかと思い彼の方に振り返る。

 

 

「なにか?」

 

「いや・・・ここで値引きした程度では、みなさんへの恩は返せないと思いまして・・・」

 

「そんな気にするこたぁねぇッスよ。困った時はお互いさまって言うじゃないッスか」

 

「いえいえ、『ネージの民は恩をわすれない』のです。是非!これからクルーとして協力させてください!!」

 

「は?いや、ええ!?」

 

 

 パリュンさんはそう言うと俺に頭を下げて来た。

 

 

「いや、しかしお店はどうするんスか?!」

 

「丁度、お二方がご購入された花が最後の商品でした。今ならあとくされなく旅立てます。どうかココは私めの顔を立てるという感じで、お願いできないでしょうか?」

 

「う~ん、困ったッス」

 

 

 正直人手は足りない。かと言って給料払えるかどうか・・・。

 ソレ位ウチの財政は厳しいのだ。

 

―――いや待てよ?

 

 

「パリュンさんは、事務とか主計とか得意ッスよね?」

 

「え?は、はい。これでも一端の商人ですから計算には強いですよ?」

 

「・・・・解った、パリュン・マリエカ。俺は貴方をクルーとして歓迎するッス」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

 

 俺がそう言うと、思いっきり頭を下げてくるパリュンさん。

 俺が良きかな良きかなと思っていると、隣に居たユピに腕を引かれた。

 パリュンさんに聞えない様に、彼女は俺に小声で話しかけてくる。

 

 

「(ちょっと艦長、みんなに相談せずに勝手に決めて良いんですか!?)」

 

「(いやいやユピよ?彼の特異な事は主計や事務、今まさに我がフネに足りない人員ッスよ)」

 

 

 今白鯨は分裂し、そう言った事務関連の人間は全て片方に移ってしまっている。

 そして主計や事務といった関連の仕事は、各部署の班長が分散して処理している訳だ。

 だが当然、必要な部署が無いから凄まじく処理が遅い。

 いやぁ、上手い事来てくれたモンだ。

 

 

「(な、なるほど・・・確かに今の艦長や副長の仕事量は殺人的でもありますよね)」

 

「(でしょ?だから最初の間は俺のポケットマネーでも良いから、彼を雇おうと思う。専門家が1人いるだけでも違うと思うし)」

 

 

 そう言うとユピは納得してくれた。

 仲間への説明も先に済ませておいてくれるらしい。流石はユピ、頼りになるね!

とりあえずパリュンさんには、一人用の小型宇宙船をチャーターして貰う事にし、後で軌道エレベーターで落ち合う約束をして別れた。

 

 そしてこの後、俺は海運病院へと向かい、キャロ嬢への見舞いを済ませ、一人用宇宙船に乗ったパリュンさんを連れてデメテールへと帰還するのだった。

 

 

 

 Sideユーリ

 

―――― チャッチャラ~!じむいんが なかまに なった~!! ――――

 

 なんていうテロップが脳内を流れていたとしても、俺は悪くない。

 いや、本当にプロフェッショナルが1人いるだけで違うって事を改めて認識したね。

 

 

 

 

 パリュンさんが俺達の仲間となり、ひと悶着あるかと思われたが、意外にもソレは起きなかった。

 俺がこう言った突発的な思い付きで行動を起す人間だってことは重々承知の上らしい。

 

 そんなわけで、我が艦に事務員が追加された訳だが、その手腕が凄かった。

 主計課に入ってから数日後、これまで主計課長をしていた人物が辞職すると言ってきた。

 理由は主計課に所属したパリュンさんの能力が、明らかに自分を超えていたと言う事。

 

 パリュンさん、入ってすぐ溜まっていた書類を片付けただけじゃなく、

再分化してファイルし、統計を取り、効率化を図る為に各員に分担処理をお願いしたり、

これまで放置されていたデータを順にナンバリングして集計したり、

この先同じような事例が出ても、即座に対応出来るようにシステムを構築したのだそうだ。

 

 

流石のこれには同じ主計課のクルー達も舌を巻いた。

自分たちが一生懸命にやっていた事をいとも簡単にやり遂げ、おまけに改良してしまったのだ。

もっとも今の主計課達は本来の主計課クルーでは無かったのだが、それでも事務能力が高めの人間で構成していたのにも関わらずである。

 

 そんな訳でデメテールに来たパリュンさんは、入って数日で主計課長に就任した。

 主計課で仕事していたクルー曰く、ネージリンスの商人はバケモノか!らしい。

 

 

 仕事量が普段の十分の一になるって、俺どんだけオーバーワークしてたんだろうか。

 とりあえず今の所体調に変化は出ていないけど、ヤバかったらサド先生とこ行くべ。

 

 

「艦長、間もなく惑星ゾフィが見えてきますが」

 

「スクリーンに投影ッス」

 

 

 さて、そんな事があってから少し経ち、俺達はまだ行って無かった惑星であるゾフィへと向かっていた。

 星の名前がウルトラ兄弟の一人と同じ星なのだが、生憎光の巨人がいる星では無い。

 だが、マゼラニックストリームにある星々の中でも、1,2を争うほど美しい星でもある。

 

 

「おお、スッゲェ。星全体が濃緑のいろッス」

 

「何でも星の構成物質にトルマリンが多く含まれているらしいぞ少年。それが活火山の影響で大気に噴出し、大気内で冷えたトルマリンが地上に降ってくるんだそうだ」

 

「ふへぇ、宇宙ってのは不思議なもんスねぇ」

 

 

 トルマリンが降るといっても、宝石が降ってくる訳じゃ無くて、粉末に近い微粒子らしいけどね。まぁ宝石振ってきたら、危なくて外に出られないだろうけど。

 ちなみにココはテラホーミングはされておらず、あるのはドーム環境のみである。

 でも外を見れる展望台は各所に設けられているから、後で見に行こうっと。

 

 

「しかしユーリ、あんた何時渡航許可貰ってたんだい?この星は確か渡航許可が無いといけない筈だろう?」

 

「いや、この間もう一回換金に行ったら貰えたッス」

 

 

 いやぁ、まさか金が出来た途端、マッド達が暴走するとは思わんかった。

 今まで資金足りなくて研究出来なかったからなぁ。

禁欲の影響ってヤツ?

 

 まさかソレで貯める予定だった至近を全部持ってかれるとはね。

 パリュンさん配属前の事だから、資金管理甘かったぜ。

 

 仕方ないから、俺の名声を今度は一度に買い取れる限界までうっぱらった。

 ゲームとは違い、一日開ければ幾らでも買い取っていただけるのがありがたい。

 お陰で0Gランキングで追い抜かれてたけど、金があるのとないのでは前者の方がいい。

 

 

「クー婆のところ?・・・・大丈夫だった?色んな意味で」

 

「ババァに食われる程、俺ぁ安かねぇッスよ。それにあの人も、客とそう言うのの区別は付く商売人だから大丈夫ッス」

 

 

 今度は一人で言ったから、普通に商売の相手として見られてた。

 やっぱりあれはからかう人間とそうでない人間をちゃんと分けて相手にしている。

 人を見る目は商売人としての基本だから、そう言った意味ではキチンとしてたぜ。

 

 

――――そんな訳で、今回は惑星ゾフィからお送りするZE☆

 

 

Sideout

 

***

 

Side三人称

 

 

 さて、惑星ゾフィに降りたユーリ達は、これまた各自自由行動をしていた。

 これまでずっとフネの修理に追われていたので、休養を兼ねている訳だ。

 

 そして、もう一つ訪れた理由がある。この星では交易会議が行われるのだ。

 交易会議は大マゼランからの要人が、このゾフィに集まるのである。

 

 

 その事を酒場で聞きつけたトスカはヤッハバッハを相手にするのだから、大マゼランの手も借りれるなら借りたいとユーリに申し出た。自分の故郷は何もできずに奴らに潰された。出来る手は打っておきたいと訴えたのである。なので、ユーリも内心しぶしぶと同意した。

彼にそれを断る理由も無いし、協力するとは言ってある。その交易会議とやらに行く事になった。

 

 だが、流石は要人が集まる会議、警備は警戒厳重、抜け道なんてありゃしない。

 ソレ以前に一介の0Gが交易会議なんていう場に出る事が出来る訳が無い。

 

 

「トスカさん。大マゼランの人間にヤッハバッハの事が通じるんですかね?」

 

「そいつはやってみなきゃわかんないね。でもあちらは小マゼランとは違って、常に強力な国がパワーゲームを繰り広げている、マキャベリズムの世界だ。唯一の大国の座にあぐらをかいて、平和ボケしちまったエルメッツァの連中よりはマシな判断が下せる筈さ」

 

 

―――とは、トスカの談であるが、ユーリにははそうは思えなかった。

 

 

 幾ら脅威だとしても、大マゼランにとっての小マゼランという立地は、マゼラニックストリームを突破しないと辿りつけない遠方の地だ。ユーリにとってみれば、前の世界で中東近辺の紛争のニュースを見ても、ふーん程度で済ませてた様な物である。

 

つまりは大マゼランの連中にとって、小マゼランがやられたとしても対岸の火事程度の認識だと彼は思っていた。やって見なければどうなるかは解らないとはいえ・・・流石に無茶な気もしないでも無い。

 

――――とりあえず、交易会議が開かれる場所に行ってみたのだった。

 

 

***

 

 

 結果だけ言うと、入ることは出来なかった。

 交易会議は結構長い期間開催さるが、要人が来るため、身分証明書がいる。

 しかし、そうなると0Gでは招かれない限り中には入れない。

 

 0Gは顧客ではあるが、商人とかの要人ではない。

 何かしらの事業を成し遂げたならともかく、只の0Gが入れる訳が無かった。

 おまけに礼服で入らないといけない為、空間服姿では浮くこと間違いなし。

 

 

「警備も厳重、こりゃ入れそうもないッスね」

 

「ああ、おまけにドレスコードも必須だろう。クソ、何か言い手はないかな?」

 

「ここは諦めて他の――「一度帰って出直すよ。作戦の立て直しさ」・・アイマム」

 

 

 どうやらトスカは諦める気は無いらしい。

ユーリは彼女にばれない様に内心で溜息を吐きつつも彼女に従った。

 協力すると言った以上、協力するのはポリシーだが・・・身分証ないのにどうするんだろう?

 

 そんなこと考えている間にトスカは何時の間にか消えていた。

 あれっと辺りを見回しても姿は見えず、キョロキョロを探しまわる。

 だが、その所為で挙動不審に見えたのか、警備の人に職質をされかけた。

 

なんとか説明し、解放された時には既に夜になってしまっていた。

畜生、なんだかとってもド畜生!とか叫びたいのをぐっとこらえるユーリ。

とりあえず端末でユピに変えるのが遅れた原因だけメールした。

 

直接通信しなかったのは、怒られると思ったから・・・。

まるで飲み屋に行って遅くなる親父みたいな理由である。

マジでなさけねぇ男である。もはやそれがアイデンティティなのも悲しいが。

 

 

トスカさんの事だから、考えたら即行動で先に戻ったのだろうと考えたユーリ。

彼も変える為にドーム都市を繋ぐ大動脈と言える巨大なチューブレーンの中の道を歩く。

とはいえ、その歩調は非常にゆっくりとしたものだった。

 

 

 

 

 チューブの中にはいたるところに外を見れる窓が取り付けてあり、

ゾフィ特有の美しい緑に染まった景色をぼーっと見ながら足を動かしていたユーリは、

ふと、そういや――展望台に言って無いなぁということを思い出した。

 

ゾフィの目玉は何と言っても、この特殊な環境によって出来た絶景にある。

せっかく観光目玉がある土地に来たのに、ソレを見ないのはもったいない!

そう考えたユーリは、まぁ多少寄り道しても良いだろうと思い、この付近で一番近い展望台のある方へ向かった。

 

人生って寄り道で出来てるもんね。

 そんな爺むさいことを考えつつ、両手を思いっきり伸ばして走るユーリ。

イメージ的にはこんな感じだろう → ⊂二二二( ^ω^)二⊃

 ・・・・正直めーわく以外の何物でも無い。

 

 

 

 

 

「うー、展望台、展望台」

 

 

 そんなことはお構いなしに、展望台へとやってきたユーリ。

 広大な濃緑に光る大地を一望できる透明な壁に包まれた展望台ドームは・・・。

 

 

「ウホッ、誰もいねぇッス」

 

 

 人っ子一人いなかった。ベンチはあるが決してツナギを着た良いオトコはいないぜ。

 実の所、今は交易会議が開催されている所為で、観光客が制限されており人がいない。

 ソレ以前にゾフィに住む人間にとって、ドーム外の風景は日常で見慣れたモノ。

 つまり、一々展望台に足を運んで身に来る様な場所では無かったのだ。

 

 その所為で人気が全くと言っていいほど無い。

なんだかひゅるりら~という風の音を聞きそうなくらい閑古鳥であった。

 だがまぁ、展望台と言うのは景色を眺める為にあるので、騒がしいとソレはそれでウザいのであるが・・・。

 

 

「・・・・・絶景かな。ア、絶景かな!by石川五右衛門」

 

 

 そして展望台の一番よく景色が見える位置に移動したユーリは、思わずそうもらした。

 火山の影響からから、非常に暗いのであるが、地上に落ちたトルマリンの粒子がわずかな光を反射し、ある種の幻想的な風景を醸し出している。

 

 コレは確かに恋人たちに受け合いの景色だろうなぁ。

 ここにある案内掲示板にそんな内容が書いてあったことを思い出す。

 でも正直、そんなこと書いてあったらしらけると思うのは自分だけだろうか。

 

 とはいえ、誰ひとり展望台にはいないのだから、ロマンチックで甘~い空気は無い。

 本当に静かな景色が、ドームの向うに広がっているだけである。

 ユーリも最初はその景色に見入っていたが・・・。

 

 

「・・・・つまらん。これは予想以上につまらねぇッス!」

 

 

 俺には相手がいないってのに、恋人たちが見る風景見たってむなしいだけじゃい!

 そんなある意味周りを敵に回すかのような発言をするユーリ。

 コイツ、命は惜しくは無いのだろうか?鈍感は時に殺意をいだかせると言うのに・・・。

 

 ソレはさて置き、予想以上につまんない事に気が付いた彼はやっぱり帰ることにした。

 そりゃあね、イベントとか何か出店みたいな物があるならまだマシであっただろう。

 せめて展望台なのだから、望遠鏡(一回10G)が使えればまだ暇を潰せた事だろう。

 

 だが現実は誰もいない展望台・・・下手するとホラーゲームのタイトルになりそうな場所だ。

 だ~れもいないのに、微妙に薄暗くライトアップされている展望台に男が1人。

 ユーリはそれを想像して、ドンドン気分が鬱になっていくのを感じた。

 

 

「はぁ~あ、骨折り損のくたびれ儲けとくらぁ・・・おワッと!?」

 

 

 ツル、ステン、ビターン。まさにこの音が相応しい感じで彼は前のめりにこけた。

 何気に金属で出来た床に思いっきり顔面を強打する。

 ム○カさん張りに、鼻が~鼻がぁぁああ!と、叫ぶ姿は奇行以外の何物でも無い。

 

 もしここに他に人がいたらうわぁ・・となること必須であろう。

 そして一人でのたうちまわること数分。

一人で痛がるのにむなしさを感じた彼は立ち上がった。居た堪れなかったのだ。

 

 

「いたた・・・まったく、何でこけたんスか?」

 

 

 そう思って、立ち上がり自分がこけた所を見ると、何やら黒っぽい物が見えた。

 何だろうかと思い拾い上げると、どうやらカードの様なものであるらしい。

 そしてそれには、銀河公用語でこう書かれていた。

 

 

「―――ブ、ブラックパス・・・だと?」

 

 

 なん、だと?――妙に線が深くなった顔で驚くユーリ。

 とはいえ―――

 

 

「・・・・ブラックパスって・・・何スか?」

 

 

 ユーリは自分が拾ったそれが一帯何なのかが全く分からなかった。

でもまぁ貰っておこう程度に考え、それを懐にしまった。

 実はブラックパスは、正史において結構重要なキーアイテムである。

 

 だが、もう正史のあらすじ程度しか覚えていなかった彼は気がつかない。

 そして、転んでぶつけた所をさすりつつ、彼は展望台を後にしたのだった。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 

――――そして、今俺は惑星ストレイにいる。

 

 

 

 礼服&ドレスを買いにきますた。とりあえず形だけでも取りそろえるそうな。

そして俺達はホワイトバザールでドレスを購入した。流石はバザール、何でもありだぜ。

 とはいえ、流石は専門の服飾が造っただけあり、お値段異常って感じだ。

 俺がいた地球で換算したら・・・0が6~7つ程つくんじゃないか?

 

 んで、バザールで礼服関連を買いそろえた後は、キャロ嬢の所に行きます。

もしかしたら彼女の身分証明書でイケるかも知んないから、貰って来いとのこと。

 ・・・・なんか俺パシらされてね?俺艦長だよね?扱い悪くね?

 

 

 まぁ文句言ったらお仕置きタイムが待っている気がするので、口を噤もう。

 そんな訳で、ストレイにある海運病院に序でにお見舞いに向かったのであった。

 

 

 

 

 

 

―――海運病院・個室病棟

 

 

「やっほー、お見舞いに艦長自ら参上ッス~」

 

「あ、ユーリ、こんちゃ~」

 

 

 俺が病室に入ると、妙気とは思えない程元気に返事を返してくれるキャロ嬢。

 はは、もはや俺達に遠慮って言葉は無いのさ。

 必要なのはノリに乗れるアツイハート!そして魂さ!

 あ、ファルネリさん。コレお見舞いのお菓子ですぅ。後でどうぞ。

 

 

「どーよ体調?顔色は良さそうッスけど」

 

「平気よ平気。どうせ今も検査入院とかの名目なんだもん。薬さえ定期的に投与すれば問題無し!」

 

「・・・・聞き様に寄ってはヤバい台詞ッスね」

 

「それもそうね・・・で、今日はどうしたの?只のお見舞いって訳でも無さそうよね。あ、もしかして私を正式なクルーに加えてくれるのね!ありがとうユーリ!」

 

「それは自分の状態を見てから言うべきッスね」

 

「・・・もう、融通がきかない男ね」

 

「艦長には責任があるッスから」

 

 

 そう言って笑い合う俺ら。もはや彼女が俺のフネに乗りたいと言うことは、俺達の間で通用する挨拶みたくなりつつある。

だけど、セグウェンさんから許可貰わない限り、キャロ嬢を俺のフネに乗せる勇気は無いねぇ。

 罷り間違って死なれでもしたら、マジで殺されかねないからな。

 来る者は拒まずが基本姿勢だが、問題持ち込みはお断りです。

 

 

「まぁ、いいわ。ユーリのそう言うとこ、気に行ってるもの。で?今日は何か御用なのかしら?遺跡船の素敵な艦長さん」

 

「褒め言葉として受け取っておくッス。実はカクカクシカジカ―――」

 

 

 ユーリ説明中―――

 

 

「―――つーわけ何スよ」

 

「なるほど、まるまるウマウマね?」

 

「流石はキャロ嬢!ソレだけで理解してくれるとは!」

 

「当~然!あたしを誰だと思っているワケ!」

 

「「わははははは」」

 

 

―――さて、とりあえず冗談は抜きに本題に行こうか?

 

 

「さて、冗談はここまでにして」

 

「そうね。それで私の・・・ランバース家の身分証がどうかしたの?」

 

「いま、この宙域で交易会議と言うのが行われているッス。そこには大マゼランからの要人が沢山集まるって話しを聞いたッス」

 

「ふぅん・・・確かに、以前おじい様がそんな会議に出ていた気がするわ」

 

「はい、5年前の会議ですね。お嬢さま」

 

「そうそう――ってよく覚えてるわねファルネリ」

 

「私も参加しましたから。まぁ秘書としてですけどね」

 

「あー、とりあえず話を続けても?」

 

「あら、ゴメンなさい」

 

 

 ファルネリさんが参加していたとは驚きだ。

 いや、驚く事じゃない。彼女の本職は社長秘書である。

 会議とかに出ていても不思議じゃないって事か。

 

 

「んでまぁ、なんつーか。俺達その会議に顔を出したいンスよ」

 

「待って。私としては協力してあげたいし、確かにランバース家の身分証なら入れてくれると思うけど・・・」

 

「ああいった場所は正式な身分証出ないと、門前払いされますよ?艦長」

 

「あ、やっぱりッスか?そうだろうとは思ってたんスよ」

 

 

 キャロ嬢は確かに身分証を持っているのだが、それはあくまでコピーでしか無い。

 盗まれると困ると言う理由で、本物は自宅に置いて来てあるのだそうだ。

 彼女の場合身分が身分であるし、確かに身分証を悪用されたら洒落にならないだろう。

 

 しかし困ったなぁ、このままじゃ俺がトスカ姐さんに怒られる。

 う~ん、こうなったら伝説の傭兵さんが使っていた戦法で行くしかないのか?

 段ボールと言う秘密兵器を用いて・・・。

 

 

「あう~、どうすればいいッスか~トスカさんに怒られるぅ」

 

「・・・気を落とさないでユーリ。私が直接行けば入れてくれるかもしれないわ」

 

「へ?いやでも・・・体調は大丈夫なんスか?」

 

「あら、ワタクシの事を心配してくださいますの?」

 

「そりゃまぁ・・・大事な客分ッスから」

 

 

 コレで何度目かは知らんが、マジで危険な好意は自重してくれよ、おぜうさま。

 ちょっと困った様にファルネリさんを見ると、彼女は薄く微笑んでいた。

 

おお!このお嬢様を止めてくれるんですね!

ああ、今俺には貴女が救世主に見えるよファルネリさん。

 

 

「そうですわね・・・。一応数カ月分のアンプルも頂いておいたので、大丈夫かと」

 

 

 前言撤回、神は死んだ。もとい、そう言えばファルネリさんはキャロ嬢の味方なのよね。

 当然彼女が行くと強行すれば、彼女も薬片手についてきま~ッスって事なのね。

 そんな訳で、彼女たちがまた付いてくることになったのであった。

 

 

***

 

 

 さて、交易会議が開催されているゾフィへと戻った俺達。

一縷の望みをかけて、もう一度通商会館に行ってきたが、身分証が無いとダメだった。

 まぁ身分証も無しに顔パスで入れる程、警備は甘くないよね。

 ともあれコレで振り出しにまた戻ってしまったと言う訳だ。

 

 そうしようかと頭を悩ませた結果、トスカ姐さんはまたトンでも無いことを思い付いた。

 曰く、身分証が無いなら造ればいいじゃない――との事。

 

つまり、身分証を偽造してしまえばいいと言う事なのだ。

 公文書偽造ってのは、この時代においても結構重たい罪になる。

だけど、トスカ姐さん曰く、バレなければ犯罪では無いんだって。

 ・・・・良いのかそれで?

 

 しかし問題はどうやって偽造するかって事。

 ウチのマッド達に任せても良いんだけど、生憎と偽造用機材を取り揃えるのは時間が掛る。

 早くても交易会議が終了した後くらいにしか手に入らないのだ。

 

 そんな訳でまたもや壁にぶつかったのであるが、ふとブラックパスの事思いだした。

 考えてみれば俺達がそんなグレーゾーンを渡る必要はないのだ。

 餅は餅屋と言う言葉がある様に、適材適所と言う言葉がある様に専門家に任せれば良い。

 

 

 ―――そう、このブラックパスは、裏の市場に入れるパスだったのだ!

 

 

・・・・・ごつごうしゅぎばんじゃい。

 

 

あ、今デムパ入った気がする。

 まぁソレはさて置き、拾っておいたブラックパスを用いて、俺達は見事偽造する事に成功。

 名目としてはランバース家分家、セグェン・グラスチ星間渉外部門所属と言う事になる。

 

 つまり俺達は偽造とはいえランバース家に所属と言う事になったのだ。

 バレたらエライ事になりそうな気もするが、トスカ姐さんがやる気なのだから仕方が無い。

 そんな訳で、偽造身分証明書片手にゾフィにまた戻ってきた俺達。

 

 まったく、大分手間が掛ったぜ。

 そう思い、俺は自室で休もうと思っていたのだが――――

 

 

「ほれ、ユーリも準備しな」

 

「え?準備って何を?」

 

「決まってんだろ?あんたも来るんだよ」

 

「・・・・拒否権は?」

 

「ない」

 

「へぇあ」

 

 

 思わず情けない声を出しちゃうのは仕方が無いと思うんだ。

 そう、俺としてはああいった場は嫌いなので、大人しく自分のフネで待つつもりだった。

 しかし、トスカ姐さんは俺を連れていく気満々だったらしく、普通に首根っこ掴まれた。

 

 

「いや、だけどホラ!オレってばああいった場所は苦手なんスよ!」

 

「なぁ~に言ってんだい。エルメッツァの腹黒共と腹芸咬ます様な面の皮が厚いヤツが」

 

「それとこれとは関係ないッス~!やぁ~なのぉ~!!」

 

「エエいうるさい!とっとと着替えるんだよ!」

 

「いや!止めて!け、けだものぉぉぉ!!!」

 

 

 そして俺は礼服に着替えさせられた。

 どうでもいいがミドリさん、脱がされてるとこ勝手に撮影しないでください。

 

 流石の俺もそれ売ったりしたら怒りますよ?

え?観賞用だから問題無し?いやそれもちょっと・・・。

 

 そんなこんなで、嫌がる俺をクルー達は無理矢理着替えさせて連行した。

 お前ら、後で覚えてろよ・・・。

 

 

***

 

 

―――惑星ゾフィ・通商会館前

 

 

「ようやく来たね」

 

「そーッスね」

 

「ココで強力を仰げれば、ヤッハバッハとも良い戦いが出来る筈さ」

 

「そーッスね」

 

「さぁ、気合入れていくよ!」

 

「そーッスね」

 

「・・・・ところでユーリ。あんたは何でこっちを向いてくれないんだい?」

 

 

 いや、ンなこと言ったって・・・・。

 

 

「ふふ、ユーリったら。副長さんのその姿見ててれてるのよ」

 

「あ!バカ!キャロ嬢!ばらすなよ!」

 

「あらぁ~?図星なのね?艦長さ~ん?」

 

 

 く、そのお前の内心良い当ててやったぜというドヤ顔が恨めしいぞ!

 だってトスカ姐さんの代わりっぷりが凄まじすぎるんだよ。

 彼女今でこそ0Gに身を窶してるが、元がやんごとなきご身分の方なのだ。

 当然、ドレスアップした姿には、何処となく気品が漂ってるんだよ!

 

 美しい白い髪にはソレと合わせた白いティアラ。

褐色の肌を包むのは桜色をした胸元が大きく開いた貴族風ドレス。

腕には入れ墨を隠すために、肘まである白い手袋を付けている。

胸元には白バラのアクセサリーがつけられ、ソレがアクセントになっていてよく似合う。

 

ドレスは肩や胸元が見える設計なのに、持ち合わせる雰囲気からか下品な物は感じない。

逆にすれ違う異性が10人は10人とも“美しい”もしくは“綺麗”と応えることだろう。

 普段の姿に馴れてしまっている俺としては、なんか目を向け辛いのである。

 

 

「ふ~ん、そうか・・・」

 

≪――ふわり≫

 

「あ・・」

 

 

 彼女はキャロ嬢の言葉に微笑を浮かべ、その場でスカートのすそを掴みクルリと回った。

 

 

「どう?これならばっちりだろう?」

 

「・・・・・」

 

「どうした?見とれちまったか?」

 

「ええ、そりゃあ・・・もう」

 

 

 思わずそう声が出てしまった。普段の彼女の格好も嫌いでは無い。

 だが、こう言った雅な趣向を照らした格好と言うのも、また絵になる美しさを持つ。

 俺が言うのもなんだが、コレはまるで綺麗な華だと心から言えるのだ。

 

 

「・・・・」

 

「え、えーと。そう見つめられると、ちょっとばっかし恥ずかしいねぇ」

 

「あっ・・・すみません」

 

「「・・・・」」

 

「むー(なによ。私だっているのに・・・・ユーリと副長さんってまさか?)」

 

 

 恥ずかしい話しだが、マジで見とれてしまった俺は悪くないと思う。

 元々綺麗な人が、普段とはまた違う姿になると、グッてくるよな。

 

 ともかく、俺とトスカ姐さん、ソレとキャロ嬢とファルネリさんが行く事になった。

 さて、ここには大マゼランの要人たちが来ているのだ。

 俺がする事は只一つ!―――――邪魔しない様に壁の花でもしていよう。うん。

 

 

―――そんな情けないことを考えつつ、身分証片手に通商会館に入る俺であった。

 

***

 

 

Side三人称

 

 交易会議の会場として選ばれた通商会館は、様々な美術品やシャンデリアの様な古風な照明、荘厳で伝統にのっとった内装で固められていた。

ソレは祖先たちが紡ぎあげた権力の象徴を表しているとされている。

 

その通商会館のホールでは、大マゼランから招いた要人たちとの親睦パーティーが行われていた。

会議と言うのは、なにも円卓に座って書類を眺め、あれこれを言いあうことだけを指すのでは無い。

こうした親睦パーティーという場所で、お互いの腹を探りあい、自分たちに有利なコネを作り上げるのが目的だ。

 

只でさえアンバランスな星間情勢の中で、グラリと揺れる天秤の様なパワーゲームを水面下で繰り広げているのである。

この場に居る人間は全てが敵であり、また味方である。

二律背反の裏表を含む、利益だけで動く人間が多く集まっていた。

 

 

「いやはや、コレはコレは、どれもこれも目移りする物ばかりですな」

 

「いやぁ、どれもこれも目移りする一品ばかり、立食形式というのも中々新鮮です。好きな物を選んで回るには最適ですな」

 

「成程、見た所その仔パンモロのステーキを大変気に行っていらっしゃるようす。いやぁ光栄ですな我が星系のパンモロを気にいっていただけて。この日の為に特別なパンモロを選んで良かったですなぁ。なにせパンモロの輸出量は“我が星系が一番”ですから」

 

「ほうほう、ソレにしては大使殿は魚ばかり頂いていますなぁ。ウチの星系では“ありきたり”の魚を気に行っていただけて何よりです。ハハ」

 

 

 ホール各所で水面下での競い合いが起こっている。

敵対はしたくは無いが、舐められてはいけない。

このあたりの引き際や線引きが上手い人間と言うのが、社交界では求められる人材と言えよう。

そんな何処か薄暗い感情渦巻く会場に、ユーリ達はやって来ていた。

 

 

「・・・ん?ほう、これはまた」

 

「コレはまたお美しい。流石はランバース家のご令嬢たちですなぁ」

 

 

 そして、入って来るや否や、さっそく会場の人間はキャロ達を見止め、静かに観察を開始した。

キャロは企業としても名家としても名高いランバースの名をもつご令嬢である。

当然彼女のバックにはセグェン・グラスチ社がある訳だ。

 

彼女たちの周りには、各星系でかなりの権力を持つ商売人や領主の関係者と言った人間達が、次々と集まってくる。

セグェン社は小マゼランでも有数の企業として名高い為、そのセグェン社とのパイプを造りたい人間が集まってくるのだ。

 

 

「アラアラ、そう言っていただけるとは光栄ですわ」

 

「おお、ミス・キャロ!お久しぶりですな」

 

「お久しゅうございます。その節は大変良くして頂き―――」

 

 

 そして始まる社交辞令とも言える挨拶の応酬。

 相手をほめつつも、何処か観察するかのような視線が飛び交う。

 

 

「―――処でそちらのお美しい方は?」

 

「申し遅れましたわ。私(わたくし)はセグェン・グラスチ星間渉外部門所属のトスカと申します。お見知り置きを」

 

「おお、これはこれは。ランバース家からはご令嬢が2人も参加とは華やかですなぁ」

 

「よろしければ、後ほど私のフネでクルーズなどいかがですかな?」

 

 

 ホールの一角に小さな人だかりが出来る。

妙齢の令嬢という風にふるまうトスカに興味を持った男たちが群がり、コネを作る為か本気かは知らないがデートの申し込みまでしてくる程だった。

事実トスカは会場に来ている本物の令嬢と同格、否それ以上の美しさを持っている。

ある意味パーティーの華だ。男どもが群がるのも当然と言えよう。

 

 

(あちゃあ、一応護衛役って肩書きッスけど、あれじゃあ迂闊に近寄れないッスね。まぁどちらにしても、あの様子だとしばらく身動きとれ無さそうッスけど・・・)

 

 

 ユーリは会場の壁際に寄りかかり、沢山の男性に言い寄られても見事に華麗にさばいていくトスカの姿を視界の端に見つつ、女性って言うのは目的の為ならこうも変われるんだなぁ、としみじみ思っていた。

 

 ちなみに今回のこの“大マゼランの要人を味方につけちまおうZE☆作戦”を実行するにあたり、ユーリとしては壁の花に徹することにしていた。

正直こう言った社交会における礼儀なんてモノは、ユーリにも、ユーリになる前の自分の記憶にも入ってはいない。

 

 下手なボロを出すよりかは、トスカが成果を上げられるかを見届ける方が良いだろうと彼は考えていた。

どちらにしろ、周りの人間は、本来なら会う筈も無い高官や事業主の様な人間ばかりである。

何が元で弱みを握られるかわかったモノでは無い為、なるべく目立たない位置に移動し、ワイン片手に料理に舌鼓をうっていた。

 

 

(ちょっ、流石は要人が出るパーティー。このパンモロ5等級以上の肉質じゃね?うわ、しかも酸味のきいたソースとマッチして絶品だね。ジュースもウメェ・・・)

 

 

 流石は要人が集まる交易会議、出ている料理は素材からしてランクが違う。

食品を提供している企業関連が見栄を張る為に頑張ったのだろう。

まさかシェフがその場で調理してくれるとは、どこの一流ホテルだヨと内心突っ込みを入れるユーリ。

 

ちなみに飲んでいるのが酒では無くジュースなのは、一応己の身分は護衛であるからだし、下手に呑んでいたことがばれると、後でトスカにヘッドロックをかけられると思ったからである――閑話休題。

 

 

 

とはいえ、ユーリはこの会場に溢れる独特の雰囲気に、少し辟易としていた。

一般庶民の感覚を持つ己には、あまりにもかけ離れていて遠い世界過ぎる為ついていけない。

よくこんな場所で平然としていられるなぁと、今だ男どもに囲まれているトスカやキャロを眺めつつ、ユーリはそう思った。

 

 首根っこひっつかまれて、この会場に居るが正直詰らなくて息がつまりそうだ。

自分はやはり宇宙で好き勝手飛びまわる方が性にあっているなぁと、ユーリはしみじみとした溜息を吐く。

早く終わらんだろうかと、ベランダに続く窓から外を眺めていた。

 

 

「・・・貴公」

 

「(ん?なんだ?)あ、はい。なんでしょう?」

 

 

 突然背後から話しかけられたユーリは気配を全く感じなかったことに若干驚きつつも、その声に応えた。

振り返るとそこには杖を突き、青い服を纏った老人がそこにいた。何処か冷たい視線が混じる眼が、己を上から下まで観察してくるそれに、若干の気持ち悪さを感じる。

 

 

「貴公、ランバース家の者ではあるまい?」

 

「・・・」

 

 

 そして突然の宣告。目の前の老人から事実を突き付けられた事に驚いたユーリは固まった。

ドクンと心臓がはねて、眉が上がる・・・そして次の瞬間にはしまったと後悔した。

そんな態度をとれば、自分で肯定しているのも同然。

 

 

「ふむ、図星か・・・」

 

「・・・なぜ、解りましたか?」

 

 

 恐る恐る目の前の老人に訪ねるユーリ。

すると目の前の老人は、ユーリの眼をジッと見つめながら口を開いた。

対するユーリは、彼の出す冷たい気配に怯まない様に己を律するのに全力を注いだ。

内心冷や汗だらだらである。

ココでランバース家じゃないと叫ばれでもしたら、下手すりゃ詐欺とかでタイーホの運命が待っているからであった。

 

 

「このザバス、ランバース家の者なら分家に渡るまで把握しておるのでな。あの家に貴様の様な・・・・何と言うか芯から能天気な匂いを纏わせた者はおらんよ」

 

「の、能天気って・・・しかも全部把握してるんですか?」

 

「うむ、全部な」

 

 

 芯から能天気って、俺ってそんなに能天気に見えるのかと、自らのアイデンティティに憤りを感じて内心orzになるユーリ。

ザバスはその様子を歯牙にもかけず、言葉を続けた。

 

 

「何をたくらんでおるのかは知らぬが、我々の商談の邪魔だけはせぬようにな」

 

 

 そう言うと、ザバスは杖を突きつつクルリと背を向けユーリの元から音も無く去っていった。

言い回しから察するに、アレは大企業かなにかの指導者だと考えられる。

そんな大物がわざわざ出向いてくるあたり、やはりこの交易会議と言う場は重要なイベントであるらしい。

 

アレは恐らく釘を刺しに来たのであろう。だが、逆に見れば商談の邪魔さえしなければ問題無いし、むしろ商談となりえること、例えばフネや武器の事等に関する事を提示すれば、こちらの味方をしてくれる可能性もある。

とはいえ、不利益となると分かれば即座に掌を返すことだろうが。

 

 

(・・・・ま、見逃してくれただけでも感謝ッスね)

 

 

 何処かで見た様な気がしたが、ユーリは特に気に思う事も無く、会場の様子を眺めていた。

相変わらずキャロやトスカの周りには男が群がっている。

偶にトスカの手にキスをする男がいた。

挨拶なのであろうが、見ているユーリには何だか面白くは無かった。

 

 嫉妬、しているのかな?俺がトスカ姐さんに?――と、自分でそう考えて頭を振る。

いやいや、確かにトスカ姐さんは仲間だし身内だが、俺にそんな感情は持っていない筈さ、と自分の中で否定して見るモノの、やっぱりもやもやが消えない。

 

 仕方ないのでユーリはトスカ達から目を背け、ジュースを煽ることにした。

人、ソレを現実逃避と言う。

だが手元のジュースが空になっている事に気が付き、ウェイターを探そうとして歩きだした。

 

その時であった―――

 

 

≪ドン≫

 

「あた、すいません」

 

「いや、こちらこそよそ見をしていてすまない」

 

 

 ―――誰かにぶつかってしまった。

 

 慌ててユーリはその人の方に向き、頭を下げて謝罪した。

高官や要人が集まる会場であるし、一応今の自分の身分はキャロ達の護衛である。

自分が何か粗相をすれば、その責はトスカやキャロたちに及んでしまうのだ。

謝り続けたお陰か、ワザとでは無いと言う事が伝わったのか、相手も自分が悪かったと謝罪した為、事なきを得た。

 

 兎に角謝った事をお互いに許したので、ユーリは顔を上げる。

そこには、己よりかは10は年上だろうか?

華やかな会場ではいささか地味である黒地の服を身にまとい、むしろその所為で目立っている青年が立っていた。

 

 

「ぶつかって申し訳なかったね。私はアイルラーゼン共和国近衛艦隊所属、バーゼル・シュナイザー大佐だ」

 

 

 アイルラーゼン、その言葉を聞いた瞬間、ユーリは固まった。

アイルラーゼンと言えば小マゼランにまで噂が入る程の大マゼランの大国である。

入ってくる噂の大半をまとめると、曰く「お人よしの国」。

 

銀河連邦に求められ、地勢や政治的立場から軍備拡張を連邦政府に求められ、苦しい国勢にもかかわらず増やしちゃった星間国家である。

もともと国民の性情がややお人よしであり、おまけに国内で教育指針として教えられている『ラーゼンの指針』という騎士道精神的な概念を持つ。

 

そのお陰で、損得勘定抜きで他社の為に行動しようとする傾向が強い。

騎士道精神と書いたが、実を言えば武士道的な部分もあり、「武士は食わねど高楊枝」を地で行える気位の高さも併せ持つ義の国であると言われている。

 

 その国からの軍人が交易会議に出席している。

恐らくは交易航路の警護に関する事で来たと言ったところであろう。

 

 

「自分はキャロ様の護衛役をしているユーリと言います。ユーリと呼び捨てで結構です」

 

「では、私もバーゼルと呼んでくれ、若干この空気に当てられて辟易していた所だから、少し話でもしないかな?」

 

「願っても無い事ですよ。バーゼルさん」

 

 

 なんとなく、この人とはウマが合いそうな気がしたとユーリは思った。

何せこの会場で浮いている者同士なのである。

親近感の様な物が芽生えたのであろう。

またお互いにフネを持つ者同士であると直感で感じたと言うのもある。

船乗りはお互いに一目見れば感じられるのだ。

 

 このあと、また再び壁の花になるユーリ、今度はバーゼルも一緒である。話し相手がいるだけで、随分と気が楽になるモノだと考えつつも、他愛のない雑談に興じた。己が普段はフネの艦長である事も教え、艦隊の運用法等で盛り上がった。

 

 こういった場で、共通の話題が話せる人間がいるのはホントありがたいと心底感謝するユーリ。

そしてしばらく話していると、ユーリはピキーンという感じを受けて思いだした。

この男、物語のキーパーソンじゃないか・・・と。

 

 確かアイルラーゼンの軍隊を率いて来てくれる人間であった筈。

今の自分たちは強力なフネを持っているが、それでもヤッハバッハ相手では勝てそうもない。

この人になら、内情を話せばお国柄というか気質というか、まぁ兎に角参戦してくれることは想像に難くない。

 

 その為、ユーリはそれまで話していた時の呑気な顔を潜め、真面目な顔に切り替えた。

 

 

「―――あの、バーゼルさん。あって欲しい人がいるんですが、ついて来てくれませんか?」

 

「ん?・・・解った。つき合おう」

 

 

 バーゼルもユーリから出される気配が真面目なモノに変わった事を感じ、彼の誘いに了承し手付いて行く。

彼らが向かったのは現在パーティーの華となりつつあるキャロ達の所であった。

 

 

トスカはユーリが近づいてくるとこを見ると、周りの取り巻きの男どもをやんわりと引き離し、ユーリの元にやってくる。

ふとユーリの背後に居るバーゼルに視線を向け、その服装からバーゼルが何者なのかを判断した彼女も、顔をご令嬢のトスカから0Gのトスカのモノへと変えた。

 

 

「ユーリさん、そちらの方は?」

 

「はい、トスカ様。彼は――」

 

「お初にお目にかかります。アイルラーゼン共和国近衛艦隊所属のバーゼル・シュナイザー大佐です」

 

「アイルラーゼン・・・」

 

 

 バーゼルの言ったアイルラーゼンと言う言葉を聞いただけで、トスカはユーリが何を考えて彼を連れて来たのかを理解した。

 ユーリはなんとなくバーゼルをこの場に連れて来ただけだ。

 理由としては、己が説明するのがメンドイ為、全部トスカにお任せして、あわよくば軍事国家であるアイルラーゼンに協力をお願いしてしまおうと考えたからだ。

 

 だが、トスカはユーリが考えていることを深読みし、バーゼルに協力を仰げと言っていると考えた為、真摯になってバーゼルに説明を開始した。

 途中から令嬢の仮面をかなぐり捨てたくらい本気で説明を行った。

 ある種の勘違いから生まれたソレは、波紋のように広がっていく。

 

 

「―――って訳なんだ」

 

「ふむ、しかし証拠はあるのかね?」

 

 

 トスカが真摯に説明したとはいえ、バーゼルにとっては鵜呑みにする訳にはいかなかった。

 彼も軍を率いる人間である為、誤情報に踊らされない様にしなければならない。

 本音を言えば、目の前の美しい女性の言っていることを信じたかった。

 バーゼルは口では言わなかったが、トスカを見る目が言いたいことを物語っていた。

 それを見てトスカは薄く口角を上げる。

 

 

「そう言うと思った。で、コイツが、その回収データのコピー」

 

「むぅ」

 

 

 バーゼルはトスカから手渡されたマイクロチップを見て、もう一度トスカを見る。

 それを何度か繰り返すと、思案するように腕を組んで考え始めた。

 ココに来ている人間は腹芸が得意な人間であるということをバーゼルは理解している。

 それこそ自分の利益の為ならば、他人を追いこみ罠に陥れることをいとわない。

 ソレは身内であっても適応されるある種のルールであった。

 この目の前の女性は、アイルラーゼン軍を嵌めようとしているのかもしれないという考えが過る。

 

 だが、バーゼルは更に考える。

 トスカがバーゼルにデータチップを渡したと言う事は、データチップの中には偽か真かは知らぬが何らかのデータが含まれていると言う事である。

 仮に彼女がアイルラーゼンを嵌めようとしているとして、彼女が得るであろうメリットは何か?

 商人や企業を嵌めて没落させるなら、彼女にも何らかの利益があると思われる。

 しかしバーゼルはアイルラーゼンの職業軍人である。

 彼を嵌めたところでアイルラーゼンの一艦隊が消えるだけで、こう言っては何だがアイルラーゼン共和国自体には何の影響もでない。

 むしろ交易会議でそのようなことをすれば、下手すれば大マゼランを敵に回すことになる。

 彼女の本質が狂気であるならば、小マゼランと大マゼランを貶めたいのならそう言う可能性もあるだろう。

 だがバーゼルは長年培った軍人としての、人を見る目と勘で彼女を見た時、彼女にそう言った狂人の気配と言うものを感じなかった。

 むしろ、芯からこの銀河の行く末を案じている様に感じたのだ。

 

 バーゼルが感じたコレはある意味あっているし、間違いでもある。

 トスカは確かに狂人では無いが、芯から銀河を案じていると言われれば違うのだ。

 彼女は色々と言ってはいるが、実質自分の為に動いている。

 ヤッハバッハと戦うのは、ある意味彼女が持つ恨みによるところが大きい。

 だが、ユーリと言う存在のお陰で、彼女はヤッハバッハとの事を真摯になってバーゼルに訴えた。

 それがバーゼルには、心から故郷を心配している健気な女性に見えたと言う事なのだ。

 

 そして、騎士道精神と武士道的価値観を併せ持つアイルラーゼン人であるバーゼルにとって、困っている女性、もとい人間を放置する事は出来なかった。

 

 

「・・・・エルメッツァ政府は動いているんだね?」

 

「動いてはいるけどね・・・まぁどうなるか・・・」

 

 

 バーゼルの問いにそう応えたトスカであったが、傍から見れば彼女はエルメッツァ政府には何の期待していないも同然の態度であった。

 それを見て更に思案顔になるバーゼル。少ししてまた口を開いた。

 

 

「確かに、君の言う事が本当なら、敵を見くびり過ぎているのは気になるところだが・・・」

 

 

 ここで、バーゼルは今まで説明された内容を聞いた際に感じた疑問を、トスカにぶつけてみた。

 

 

「そのヤッハバッハという連中を、何故君が知っているのか、ソレは教えては貰えないのかい?」

 

 

 バーゼルが感じた疑問はまさにこれであった。

 あまりにも情報が多い、ある種の国家機密に相当するモノが含まれていることに気が付いていたのだ。

 要人とはいえ一般人の彼女(バーゼルはまだトスカが0Gであることを知らない)が、何故政府の眼を掻い潜り、コレだけの情報を持っているのかが不自然に感じられたのである。

 故に、少し興味を持った為、彼は彼女に聞いて見たのだ。

 応えてくれるならよし、応えられなくても独自の情報網でもあるのだろう。

 それを曝す様な事はしないであろうから、別に気にはしない。

 

 だが、トスカとしては、己の忌まわしき過去の記憶でもある。

 その為、バーゼルの説明に彼女が出来た事と言えば―――

 

 

「・・・・」

 

 

 沈黙であった。時として沈黙は言葉よりも多くを語る。

 

 

「そう、か・・・まぁいい。レディに無用の詮索はしない程度のマナーはアイルラーゼン軍人でも心得ているつもりさ」

 

 

 そう言うとバーゼルは矛を降ろした。

 恐らく彼女の態度から察するに、問い詰めてもこの場では吐けないか、吐かない事であろう。

 もとより興味本位の質問であった為、この態度もある程度は予想していたからであった。

 

 

「なら、信じてくれるかい?」

 

「信じると言う言葉は不正解だな。どんな情報でも人から伝わる限り願望が入り込むモノ。我々はそのデータを検証して、客観的な事実を知りたいだけだよ」

 

「ま、疑うのはそっちの勝手さ。ただ言えるのは、私は真実を喋った。ソレだけさ。そのデータは持って行ってくれて良い。母国でキッチリ、検証してくれればいいさ」

 

「・・・・解った。受取ろう」

 

 

 ある種の潔さを漂わせたトスカをジッと見て、バーゼルはチップを懐にしまった。

 後は自国に戻ってから検証すればいい、少なくても小マゼランの技術よりも数段進歩している大マゼランでなら、このデータが真実か嘘かは立ちどころに解る筈だ。

 そう考えた彼はふと、トスカから聞いたヤッハバッハについて口を開いた。

 

 

「しかし、もし君たちの言っていることが本当なら、ヤッハバッハは我が大マゼランにとっても脅威となるだろうな」

 

「・・・その予想、気の毒だけど、気の毒だけど恐らくビンゴだよ」

 

「・・・・・預かったデータは、帰国次第、厳重に解析を行うつもりだ。安心してくれ」

 

 

 バーゼルはそう言い残すと、トスカ達から別れたのであった。

 こうして対ヤッハバッハへ向けての要人たちへの種は仕込まれたのであった。

 

 

***

 

 

 さて、その後もしばらくバーゼルの様な信用出来そうな人間を探すが、結局のところ見つけられなかった。

 と言うか、親睦パーティーであり、尚且つ時間が経過していた為、大部分の人間にお酒が入っている状態であった。

 これではヤッハバッハの事を話したところで、酒の席の冗句と捉えられてしまう可能性が高い。

 そう考えた彼らは、コレ以上は無理と判断し、会場を後にした。

 

 

「どうだった?上手くいったの?」

 

 

 結局、要人には囲まれたが、トスカが抜けた所為でそいつらを一人で相手にしなければならなかったキャロは、やや疲れた声だったが、ユーリ達に戦果を訪ねた。

 

 

「出来るだけの事はやったッス。種もまいたッス。俺達が出来ることは殆どやったッス」

 

「ま、上出来さね。後はキャロを、セグェンの元に返してやらなきゃね」

 

 

 実質ユーリは今回空気であったのだが、そこら辺はスルーする事にする。

 彼らは出来るだけの事はした、後は結果をご覧じろと言ったところだ。

 彼らの答えにふ~んと返しつつも、キャロは少し呟くように口を開いた。

 

 

「・・・まだ、一緒に居たいなぁ」

 

「お嬢様、それは――」

 

「うん、ファルネリ、解ってる。解ってはいるの・・・言ってみただけ」

 

 

 すこし物哀しそうにするキャロであったが、流石にコレ以上引き延ばすのは不味いと彼女自身が感じていた。

 だから、我がままなお嬢様の本当に小さな冒険はコレで終わり。

 戻ったら、ランバース家の令嬢という鳥かごが待つ世界に戻る。ただそれだけ。

 ユーリ達とはもっと居たいし、別れたくはないが、現実的に彼女の肉体は宇宙を旅するのには向いていないのだ。

 我が儘したくても、限界って言うのあるのよねー。そう内心理解したのであった。

 

 

「・・・ねぇ、トスカさん」

 

「うん、解ってる。任せときな」

 

 

 キャロの様子を見ていたユーリは、隣に居るトスカに何やら耳打ちした。

 トスカはユーリが言いたいことを即座に理解すると、携帯端末でどこぞに連絡を入れる。

 そしてしばらくして、トスカはユーリにサムズアップで合図した。

 

 

「キャロ嬢、実はウチのクルー達を呼んで、キャロ嬢のお別れパーティーを開きたいんスけど」

 

「お別れパーィー?私の?」

 

「そうッス。ちなみに会場は―――」

 

 

 お別れ、か・・・。まぁ仕方ないわよねぇ。

 そう考えていたキャロだったが、次のユーリの言葉に噴き出した。

 

 

「―――酒場一店舗貸し切りの第69回朝まで飲み放題コースって所どうスか?」

 

「ブハっ!なにその中途半端な回数!というか、酒場貸し切りって」

 

「そんくらいしなきゃ、ウチの連中は収まりきらないッスからねぇ・・・いや、2次会3次会も絶対遣るだろうから、案外数日間はお祭りかな」

 

 

 クルー全員が見送ってくれる。我がままで勝手についてきただけの私に。

 キャロはユーリ達の提案を聞き、胸が、心が厚くなるのを感じていた。

 嬉しかったのだ、理由も何も分からず、ただただ嬉しかったのだ。

 キャロは客分であった。だが、仲間でもあると言われた様な気がしたからだった。

 

 

「え?な、何で泣くッスか?」

 

「え?―――あれ?」

 

「あれ~?ユーリぃ?女の子を泣かせたのかい?」

 

「ならば、艦長にはお別れ会の際には、是非ともお嬢様をエスコートして貰わないといけませんね」

 

「ちょ!ファルネリさんにトスカさん何を!?」

 

 

 キャロがうれし泣きをし、ソレを見たユーリはあわあわと慌て、トスカとファルネリは彼らを見てニヤニヤと笑いながらユーリを弄る。

 普段となんら変わらない、白鯨艦隊で繰り広げられる日常の風景。

 

 

(ありがとう。ユーリ)

 

 

 今だ眼頭が熱くて、まともに見られないが、目の前で女性二人から弄られているユーリに、少女は誰にも聞こえない声で礼を述べたのであった。

 こうして、キャロ嬢を送ることになり、白鯨艦隊の次の目的地は決定したのである。

 

次の目的地は―――ネージリンスであった。

 

***

 

Sideユーリ

 

 さて、マゼランックストリームにアルカシュケントから、俺達は一路ネージリンスまで戻ることになった。

 俺やトスカ姐さんがヤッハバッハとの戦争に備えて暗躍している間に、デメテールの修理・改修はなんとか終了していた。

 とはいえ、なんとか長期航海を視野に入れた実用的な修理が完了しただけである。

 装甲についてはもろくなっている部分を艦内工廠で製造し交換できた。

 しかし、確かにエネルギー系に強い装甲だが、実弾相手ではそれ程では無い。

 本来なら装甲自身がエネルギーによる皮膜を纏い、実弾すら防げるらしい。

 だが、その制御装置の使い方が今だよく分かっていないのが現状だ。

 ライブラリにも記載はあったが、詳しい制御法のデータが壊れている。

 その為、操作方法は現在模索中であり、少なくても数年は使えない機能との事だ。

 また改修と言っても、規格が合わない通信設備を増設したり、機能していなかったバイオプラントを復活させて、予備としてオキシジェン・ジェネレーターを増設した程度である。 

 規模がでかい為、修理も改装もそこまでしか完了できなかったという感じだろうか。

 とはいえ、現状でも小マゼランのフネなら軽く凌駕している事に変わりは無い。

 そんな訳でなんとか運用目途が立った辺りで、修理改修プロジェクトを一度凍結した。

 本当にバカにならない程の金食い虫であったからである。

 確かにカシュケントで、あの業突く婆さまから金をせしめはした。

 だがそれでも足りないくらいであったのだ。

 また流石に一度に何回も功績データは売れない為、あれ以上は自粛するしか無かった

主計長パリュエンさんがいなければ破産してたかもしれない。

 早い所ウチの財源の一つである海賊狩りを行わないと不味いだろう。

 また、今はまだ無理であるが、科学班達より艦隊構想の草案も提出されている。

 単艦では確かに非常に強力な部類に入るデメテール。

だが、遠距離砲戦は兎も角、近距離対空には今だ若干の不安がある。

拡散HLの増産と増設を急がせてはいるが、全長が36kmもあるのだ。

対空兵装として設置するにしても、全てをカバーしきれない。

一応以前俺の失敗により造ってしまったネビュラス級は、デメテール改装の際の余りモノや自作装置によって改装を行い、稼働状態にまで漕ぎ付けることに成功した。

だが、やはり戦艦と超ド級要塞戦艦の二隻だけでは、対空能力に掛けてしまう。

対空戦闘能力が高い巡洋艦を数隻、近距離での防衛用に駆逐艦も欲しいところだ。

そんな訳で、出された草案には現在俺が持つあの穴だらけ設計図を見直し、駆逐艦、巡洋艦等の艦船のバリエーションを増やす案が提出されている。

人員不足な為相変わらず無人艦となる予定だが、草案によれば戦艦クラスにはユピから株分けした準電子知性妖精が操艦する事になる為、無人でも問題無いらしい。

出来ればネージリンスの無人艦制御ソフトウェアがあればもうチョイ楽になるらしいが、軍が扱っている技術らしいので、一介の0Gには手に入れることは難しいだろう。

だが、どちらにしてもネックなのは、やはりキャピタル、資本と言ったところか。

ウチのマッド達が提案した草案はなかなかのものである。

だけど、それを実現するのには膨大な資金が必要であることが想像に難くない。

 しかし現状では、今のウチの台所は火の車である。

早い所、海賊でも資源アステロイドでも見つけんと不味い。

 意外と金になるデブリ回収も行っているが、まだまだ草案に手を付けるには早い様だ。

 ま、今の段階では単艦でデメテールに勝てるフネはいない。

 ヤッハバッハとの戦闘までに揃えればいい、まだ時間はあるのだ。

 あせらずじっくり地盤と整えることが先決だろう。

 

 

『艦長、定時報告です。予定通りの航路を進んでいます。進路に問題無し』

 

「うす、了解ッス。ミドリさんもそろそろ休憩していいッスよ」

 

『では後ほど交代要員とシフトさせてもらいます』

 

 

 艦長室でプライベートな時間を満喫していると、ミドリさんからの定時報告が来た。

 航路には異常は無いし、艦内にも異常は発生していない。

 実に快適な航海と言えるだろう。

 だが俺がそう思った瞬間―――

 

 

≪ズドォーーーーーーーン!!!!≫

 

「うわっ!?何スか!!?」

 

『警報が鳴らなかった所を見ると、艦内で何か起きた――原因特定、ケセイヤがまたやりました』

 

「・・・・今度は何したッス?」

 

『本人曰く“スーパー・修復ドロイドをつくるぜい!”だそうです。起動実験に失敗して機体が暴走し爆発、奇跡的に人的にも物理的にも損害は無し』

 

「うう~、でも多分実験に既存のドロイドを使った筈ッス・・・修復ドロイドもタダじゃないッスよ~」

 

『ご愁傷様です。艦長』

 

 

 こうして平和な航海が続く――ケセイヤ、テメェは後で減報だ。

 

 

***

 

 

 さて、順調にネージリンスに続くだろうボイドゲートへと向かって航海は続く。

 んで今日は当直なので、ブリッジの艦長席に座っていたのだが―――

 

 

「艦長、微弱なガイドビーコンを感知しました」

 

「ガイドビーコン?付近にステーションでもあるッスか?」

 

「宙図には何も書かれていないぞ?ミドリ、本当にガイドビーコンだったのか?」

 

「弱いけど、確かに通商管理局のビーコンでした」

 

 

 航海班なので、航路の確認も担当するリーフがミドリにそう声をかけた。

 ミドリさんはいつも通り、淡々と返事を返している。

 彼女は職務に忠実だから、嘘や冗談の類は勤務中言わないだろうから本当だろう。

 

 

「ふぅん・・・ミドリ、ちょっと古いほうのチャートデータを検索してみな。大体200年前くらいの奴で」

 

「了解」

 

 

 その時、今まで黙っていたトスカ姐さんが口を挟んだ。

 ミドリさんは言われた通り、同一宙域の古いチャートを今の航路に重ね合わせて検索する。

 

 

「・・・出ました。ビーコンが出ている星はコレです」

 

「開拓星L33376、データによれば伝染病エンパラスの爆発的発生により120年前に放棄されている」

 

「ステーションはAIだから、今だ港は稼働してるってワケッスね」

 

「まぁココはマゼラニックストリームだ。自分の眼で確かめたモノが本物さ。で、どうするユーリ?」

 

 

 伝染病ねぇ?とっても120年も前だしな。

キャリーとなる生物がいなければ感染しようが無い。

 ―――じゃあ降りても問題無いか。

 

 

「場所の特定は終わってるッスか?」

 

「本艦を中心にZ224の方角です」

 

「丁度良いッス。休息がてらその星に向かうッス。このままネージリンスまで直行する事も出来るッスけど、無理してもしょうがないッスからね」

 

「アイアイサー、航路設定を変更するぜ。ミドリ、航路上の環境データも送ってくれ」

 

「了解リーフ」

 

 

 船首を90度反転させ、今まで進んでいた航路から外れるデメテール。

 しばらくして廃棄されたみすぼらしい赤い惑星が有視界に入る。

 デメテールは赤道の衛星軌道上に停泊し、改装を終えたネビュラス/DC級リシテアでステーションに向かった。

 ステーションは人が消えてもAIによって自動で動いていた。

だが、人が居なくなった所為か何処か寒気を感じる。

 工廠はちゃんと稼働しているし、いまだに補給物資を作れるようである。

 適当にフネで使えそうなモンを貰って行こうと思い、ステーションを散策した。

 調べて解ったが、軌道エレベーターは稼働していなかった。

 まぁどうせ眼下の惑星には人っ子一人いやしない。

 ゴーストタウンが入った廃棄された環境ドームしか無いのだから、降りてもしょうがない。

 と言うか治療法が確立されているとはいえ、伝染病で人が消えた星に降りたい酔狂なヤツは少ない事だろう。

 

 

「あ、でも案外残されたモンで色々と――」

 

「やめときな。ステーションは兎も角、下の街は120年も経ってんだ。風化が酷くて危ないよ」

 

 

 リサイクルの精神を発揮しようとしたら、トスカ姐さんに怒られた。

 まぁよくよく考えたらその通りだし、死者の墓穴掘り返す趣味は無い。

 遺跡は普通に掘り返すけどな!まさに外道!何ちって!

 とりあえずステーションに残されていた物品で使えそうなモノ、艦内工廠で材料に出来るモノを出来るだけ運びだした。

 流石に120年も放置されていただけあり、ステーションの小さな工廠に付属していた倉庫の中は、部品や精密機械やその他で溢れかえっていた。

 当然ありがたく頂いて行く、どうせこんな辺境だしな。

俺ら以外にもう来ることも無いだろう。

 量だけは多かったので、ペイロードが余りまくっているリシテアにつめるだけ積み、ピストン輸送でデメテールとステーション間を往復させる。

 この作業だけで一日掛かりそうであったが、まさかそのお陰で彼らと再会するとは思わなかったのであった。

 

 

***

 

 

「救難信号ッスか?」

 

 

 ソレはデメテールに戻った俺が、作業の進行状態を聞いている時だった。

 本艦の総括AIであるユピが、救難信号を受信したと俺に言ってきたのである。

 

 

「はい艦長、先程微弱ながら救難信号を受信しました。位置の特定を行ったところ、ココからそれほど離れてはいない場所から発信されています」

 

 

 ユピの報告を聞き、何処かのフネが海賊に襲われたのかな?

う~ん、作業を中断するほどの事でも無いか? 

 そう思ったのだが、次の瞬間には驚きで言葉を失う羽目になる。

 

 

「その、発信してきたフネのコードも解析出来ました。救難信号を送ったのは、バウンゼィ。ギリアスさんのフネからです。信号も非常に弱く、本艦の設備でようやく探知出来た程度です」

 

 

 バウンゼィ、ゼーペンスト自治領で一旦修理の為に離脱し、そのまま合流することなく別れてしまった若き0Gドッグであるギリアスの乗艦である。

 負けん気が強い彼は強者との戦闘を好み、自分から強者に突っ込んでいくバトルモンキーな性格をしているのだが、危機的状況に陥っても救難信号を出すヤツでは無い。

 そのギリアスのフネからの救難信号である、余程の事が起こったとしか考えられなかった。

 ユピの報告を聞き、反射的に出港と言いかけたのだが、理性で待ったをかけた。

 考えてみれば、ヤツとは今は協力関係では無い。

 今デメテールはネージリンスへと向かう途中であり、大事な客分を乗せているのだ。

 確かにギリアスが大変な目にあっているのだろうが、助けに行っていいモノなのだろうか? 

 ヤツの事だから、また口悪く「余計なことしやがって」と言う事だろう。

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「艦長・・・」

 

 

 

 

 ・・・・・・だが、やっぱりアレだな。

 

 

 

 

「ユピ、艦内放送をかけてブリッジ要員を全員集合させるッス。本艦はバウンゼィの救援の為に、本宙域を離脱するッス」

 

「りょ、了解!!」

 

 

 袖触れ合うも何かの縁、ココで見捨てたら男じゃない。

 あのバカは文句を言うかも知れん、罵倒するかも知れん。

 それこそ素直じゃないあの男の事だ、むしろこっちに突っかかって来るかもしれん。

だが俺は、救援を求めているのを見て見ぬふり出来る様な“優秀な艦長”じゃない。

 赴くままに、思ったように、後悔が無い様に・・・。

 進んで進んで、それでも結局ダメなら笑って死のう。

 それすら出来ないなら、宇宙る出る資格何ぞ無い。

 船乗りを名乗る資格何ぞ無い!

 ―――――こうして、艦内放送で主要メンバーを集めた後、俺は全員に命令を下しデメテールを発進準備を急がせた。ある意味友人とも呼べるギリアス救援の為に・・・・。

 

 

 

***

 

 

 

 ブリッジ要員達から反対意見が出るかと思ったのだが、ソレは無かった。

 ギリアスが救援を求めた。この一言だけで察してくれたのだ。

 内心ありがたいと感じつつ、発進準備を進めていく。

 本当ならRVF-0(A)を先行させたいところであったのだが、RVFを送るには若干距離があり過ぎた為、デメテールの発進準備を優先させたのである。

 デメテールの機関出力なら、救難信号を発信したポイントまで1時間もかからない。

 デメテールは発進準備を終えて、航路に復帰した直後、シフトサイクルエンジンをフルパワーで稼働させて一気に加速し、信号が発信されたポイントへと急行したのだ。

 

 

「艦長、本艦前方に艦隊の反応を感知しました。艦種は不明、データベースにありません」

 

「大型艦に対峙する形でバウンゼィも確認しました!かなりの損傷を受けています!」

 

 

 ミドリさんは淡々と、ユピは若干動揺した声で報告を続ける。

空間ウィンドウに映し出されたのは、所々が破壊され、武装も何もかもが吹き飛び、今にも沈みそうなバウンゼィの無残な姿であった。

 非常に信号が弱かったのは、通信設備に損傷を追っていたからであろう。

 

 

「チッ!遅かったッス!全艦戦闘配――」

 

「待て艦長!アレは砲撃による破壊痕じゃない!」

 

 

 全速力で救援に向かえと指示を出そうとする直前、サナダさんに大声で遮られた。

 彼はコンソールを操作し、何やら観測機を使って調べている。

 

 

「・・・思った通りだ。艦長、この宙域には大量の機雷がばら撒かれている。幾ら本艦の装甲でも機雷の群の中に飛び込めばタダでは済まんぞ」

 

「ゲッ!?マジっスか!?」

 

「ああ、吸着式の機動機雷だ。インフラトンエネルギーに反応して自動で迫ってくる厄介なタイプだ。デメテールには近接対空防御兵装が無いから、むやみに突っ込んだらかなりの損傷を負うことになっただろう」

 

 

 吸着式機動機雷、ソレは文字通りフネの外壁に取りつき、モンロー効果を利用したプラズマ流をフネの内部に叩きこむ厭味な機雷である。

 2重3重の防御隔壁を持つ戦闘艦であるなら、ダメコンによりそれ程被害は無い。

 だが問題はその数である、サナダさんから提示されたレーダー画面には無数のグリッドが、バウンゼィを取り囲み宙域を埋めるかのように設置されている。

 この無数のグリッドこそ、この宙域にばら撒かれた機動機雷なのである。

 範囲的には200kmに渡りばら撒かれており、迂闊に突っ込めば爆発の洗礼を浴びるところであった。

 200kmの範囲と言うのは広い様に思われるが、実は宇宙の距離で換算すると非常に狭い。

 だが、たかが200kmとはいえ、されど200kmでもある。

 事実、バウンゼィは機雷群に囲まれて、もはや動く事も出来ないのである。

 デメテールなんてデカすぎるから、無理矢理突っ込んでも航行不能にはなるまい。

 しかし重力防御場を形成出来るデフレクターで弾けるかと言うと難しい。

ココまで大量にあるとデフレクターにかかる負荷がデカすぎるのである。

艤装の幾つかが使用不能になることは確実であり、ソレを考慮に入れなければ突入できる。

だが向うには敵艦隊が控えており、データベースに存在しない艦である。

機雷を散布できることから特殊作戦艦であることは容易に想像できる。

どんな機能を持つのか解らない以上、突っ込めないのだ。

あれで今度は機雷の代わりに大型量子魚雷でも使われたらマジでヤバいのだ。

しかしふと思ったんだが、コレ凄まじくコスト掛かりまくる兵器だよな。

 一度起動したら流石に回収できないからデブリになっちゃうし。

 ・・・・・敵は金持ちのブルジョワか、畜生め。

 

 

「・・・・なら、全砲門開け!一斉射撃開始ッス!機雷を薙ぎ払うッス!」

 

「ムリだ艦長。いくらホールドキャノンが強力でもデメテールが通れるほどのスキマは作れん」

 

 

サナダさんから待ったが掛った。確かにデメテールはデカすぎるだろう。

だが、それならデメテール以外のフネならばどうだ?

 

 

「デメテールは無理でも、ホールドキャノン掃射で、リシテアみたいな大型戦艦程度なら通れるいのスキマなら作れる筈ッス」

 

「!そうか!なら散布界パターンを広めに設定調整するから1分、いや30秒くれ!」

 

「頼むッスよサナダさん!ストールは照準合わせ急げ!射撃諸元はバウンゼィの周辺ッス!」

 

「「了解」」

 

 

 俺がそう指示を出すと、隣に居る副長のトスカ姐さんも他の部署に指示を回していた。

 こういう時、俺だけでは手が回らないから本当に助かる。

 阿吽の呼吸で指示を出せる副長っていうのは本当にありがたいぜ。

 こういうことが出来るから、安心して女房役を任せられるんだよなぁ。

 

 

「それと各艦第一級戦闘配備!一定以上機雷を破壊したらリシテア発進させるから準備しな。急げよ!敵にこっちが補足されたらすぐ攻撃が始まるよ!時間との勝負だ!」

 

「「「「了解!」」」」

 

 

 いまだに機雷を吐き続けている敵の旗艦・・・何処に仕込んでんだろうか? 

 高々1000mクラスの戦艦のようだが、まぁ横もほぼ同じくらいの大きさだ。

 ペイロードだけは有り余っているのかもしれない。

 とりあえずそいつは無視し、まずはバウンゼィの乗員の救助を優先する事にした。

 さらに俺は艦長席のコンソールを操作し、艦内病院へと通信をつなぐ。

 

 

「サド先生!」

 

『ん?なんじゃ艦長、急病人か?』

 

 

 つながった画面の向こうでは、医者であるサド先生が酒瓶片手に酒を飲んでいた。

 いやまぁ、サド先生は超酒好きだから別に咎めやしないですがね。

 酔っぱらって仕事が出来ないとかは無しですよ?サド先生。

 

 

「サド先生、悪いけど医療班を率いてリシテアに乗って欲しいッス」

 

『ングング、プハァ~。あ~、バウンゼィの救援じゃな。よっし、すぐに用意する』

 

 

 どうやら外の情勢は艦内に伝わっていたらしい。

 サド先生はすくっと立ちあがると、他の医務官に指示を出して行った。

 当然酒瓶は手放さないのがサド先生クオリティである。

 

 

「お願いするッス。がんばってくれたら後でお酒進呈ッス」

 

『大吟醸で頼むよ艦長。それじゃワシは準備があるからな』

 

 

 よし、これでサド先生がリシテアに乗り込むから、向うですぐに応急処置が出来る。

 バウンゼィがもうヤバそうだが、とりあえずコレでなんとかなるだろう。

 そう思っていた。コレでなんとかなったと・・・だが―――

 

 

「艦長!敵艦隊から高エネルギー反応!砲撃準備だと思われます!」

 

「なっ!敵艦の標的は!?」

 

「射線予想―――敵艦の標的は―――バウンゼィです」

 

 

 こちらはまだステルスモードで敵艦隊には見つかっていない。

 だが、敵の艦隊はバウンゼィに止めを刺そうとしているのだろう。

 

 

「ストール!射撃諸元変更ッス!目標敵艦隊!撃たせないようけん制するッス!急げ!」

 

「ムリだ艦長!バウンゼィが射線に入っちまってる!コレで撃ったらバウンゼィが――」

 

「敵艦隊、射撃シークエンスに移行しました。エネルギーの収束を確認」

 

 

 俺達が来るのが遅すぎた。気がつくのが遅かった。

 良い訳は色々と出来るだろう。だが、そんなことは後でも出来る。

 今しなければいけないのは、ギリアスを助けると言う事だ。

 だが無情にも敵艦隊の砲艦と旗艦が、一斉に対艦レーザーを発射した。

 

 

「バウンゼィに直撃弾・・・完全に沈黙しました」

 

 

 爆散こそしなかったモノの、レーザーに貫かれたバウンゼィが沈むのを見て。

 俺は思わず、コンソールに拳を打ち降ろしていた。

 

***

 

Side三人称

 

 

救難信号を発する少し前のバウンゼィ。

バトルブリッジでは、ギリアスと副官が次の目的地について話し合っていた。

 

 

「――ですから若ぁ、本艦の巡航能力にだって限度ってものが」

 

「だぁーかぁーらぁー、カシュケントで高い金払って改修したんじゃねぇか。もう一度小マゼランに戻っぞ。今度こそヴァランタインを仕留めて―――」

 

「でも改修したって言っても、居住性じゃなくてレーザー増幅器だとかスラスター制御設備じゃないですか。このフネに合うモジュールを態々見つくろって貰って。だけど居住性は前より悪化しちゃってますから、航続距離は延びるどころか逆に落ちてるんですよ?」

 

 

ギリアスが全ての方針を決めるワンマンシップを地で行くバウンゼィは、カシュケントで修理がてらかなりの改修を受けていた。とはいえ、ソレはギリアスの趣味で戦闘方面に特化した改修であった。

その為、モジュールで組み込まれていた筈の居住エリアをかなり圧迫したので、あろう事かギリアスは新モジュールの為に居住エリアの住居ブロックを削ったのである。タダでさえタコ部屋状態だった居住区は更に狭くなり乗組員の居住性は悪化した。食堂も正直胃に入れば何でも良いというギリアスの思考の元、簡易的な物しか無い。医務室も更にランクの下がる小型のモジュールに変換され、必要最低限の稼働しかしない。

 

武装面では大マゼランでも通用する程の戦闘力を手に入れる事に成功したバウンゼィは継戦能力や長期航海を捨て去った、ある意味太く短くと言う言葉がぴったりのフネとなっていた。その為、航海の際にはたびたびステーションによって補給と休息を受けなければならず、長期航海には全くの不向きなフネとなってしまったのである。

 

彼が艦隊を率いて、福祉厚生特化艦を用意していればもうチョイマシだったのだが・・・。

 

 

「絶対戻る!もどるかんな!」

 

「ハァ・・・まぁどちらにしろ、このフネの艦長は若ですからねぇ・・・しょうがないですハイ」

 

 

どこか子供のように頑固な面があるギリアスのその態度に副官は溜息を吐くと、半ばあきらめた顔になった。ギリアスがこういう性格なのは、この航海に出てからずっと泣かされてきた為、もう慣れたと言っても良い。白鯨艦隊から貰った補給品リストにおまけで入っていた胃薬があって本当に良かったと思う今日このごろであった。

 

 

「おい、なんだその微笑ましいもんを見る目は?」

 

「いやぁ、私の胃薬の消費量が増えるなぁって思って」

 

「あん?体調が悪いんだったら寝てこいよ。俺だって鬼じゃねぇぞ?」

 

「・・・・」

 

 

本当、鈍感と言うか何と言うか。そんな事をすればタダでさえ大変なフネの運航が出来なくなってしまう。ギリアスは戦闘センスにおいては天才的であるし、フネの運航の仕事も頑張ってはいるが、やはり補佐官である自分が居ないとあまり上手く回せないのだ。乗組員をフネの一部と言う風な認識を持っており、道具扱いに近いところもある。

 

コレが意図的なら見限りたいところなのだが、“彼の国”の気質による無意識に寄るものであるから見限りたくても見限れない。見限ったところで自分には行くあても無いと言うのもあるのだが、兎に角この手のかかる艦長の副官をすることが自分の使命だと、副官は考えていた。

 

 

「・・・・鬼じゃないなら、もうチョイ考えましょうよ。色々と」

 

「あんか言ったか?」

 

「いいえ、何でも無いですよ若・・・・それよりも大丈夫なんですか?それ」

 

 

副官は察しの悪いギリアスに(といっても、この気質は彼の国ではありふれたモノだが)愛想笑いで応えると、彼にまかれた包帯を指さして問うた。ギリアスの両手には包帯が巻かれ、来ている空間服も何時ものでは無く、ラフなモノを着ていた。何故なら彼の胸から腹辺りに掛けて包帯が巻かれていたからである。

 

 

「大体『傷は男の勲章だ。正面から受けた傷を消せるか!』とか言ってその傷の再生治療も受けないで古代の縫合治療法で済ませるなんてあり得ませんよ普通」

 

「はん、どうせ薄皮一枚しか斬られてねぇんだ。こん程度で弱音を吐くことなんかしねぇ」

 

「そんなこと言って、ハリと糸で傷口を縫合するって言われて、医者に止められたのに麻酔無しで縫合して気絶した人は誰ですか?」

 

「うぐ、だが男ってのはなぁ。どんな時でも強くなきゃいけねぇんだよ」

 

 

流石に鬱憤が溜まっていたのか、若干いつもよりも強気な副官に少したじろぐギリアス。

だが、それに対し普段から虐げられている副官の反撃が始まった。

心なしかブリッジ要員達の目から副官に向けて朔望の光が宿る。

普段とは違い、今の副官はギリアスに意見出来ている。

このフネではそれはとても凄い事なのだ。

 

 

「それ、痛み止め飲みつつも冷や汗流している若が言っても説得力無いですよ」

 

「うがっ!」

 

 

ギリアスの精神に1000のダメージ、彼はよろめいた。

副官は少しは普段の鬱憤が張らせたようで満足そうな表情をしている。

ブリッジ要員は“なんてことを・・・いいぞ、もっとやれ”という顔だ。

 

まぁ結構な頻度で、この猪突猛進艦長には苦労させられてきた。

多少イジワルしたって、罰は当たらないだろう・・・たぶん。

もっとも、うぐぐと拳を握って悔しそうにしているギリアスを見ると、後でどんな無理難題をフッかけられるかとビクビクしてしまうのであるが。

 

 

「・・・――ふん!わぁったよ!とりあえず直せばいいんだろうが!」

 

「先に言っておきますが、本艦の医務室はこの間の改装で入れ替えた為、今は最低レベルの治療しかできません。リジェネレーション治療は次の星に行ってからになりますよ?若」

 

「ソレ位我慢できら」

 

 

フン!と鼻息を荒くしてそう応えるギリアス。だが腕を組んだ瞬間、傷口を刺激したのか、プルプルと身体を震わせている。普通なら痛みで叫びたくなる筈なのだが、彼の強靭な精神力が意地でも叫ばないと抑え込んでいるのだろう。だがこれでは、正直見ている此方の方が痛くなってくるのだが、どうせそう言ったところで彼は余計に頑なになるのが想像に難くないので副官はコレ以上言う気は無かった。

 

 

「ン?若ぁ、ロングレンジレーダーに反応あり、大型艦が接近してきますぜ?」

 

 

その時、ブリッジのレーダー班の男がそう声を発した瞬間、突然激震がバウンゼィを襲った。ドガン!という音が艦内に響き渡り、地震の様に揺れた為、立っている人間は悉く床に叩きつけられた。ダメージを受けたという警告音が鳴り響き、非常システムが作動し自動で艦内の隔壁が降ろされていった。

 

 

「いつつ、どうした!?何があった!」

 

「攻撃を受けやした。射撃諸元はさっきの大型艦、損傷個所にはダメコン班が向かってやす」

 

 

いきなりの攻撃を受けたが、クルー達は動じることなくもくもくと仕事をこなして行く。基本的に戦いづめで有った彼らにとって、この程度の事態はよくある事だった。その為いきなりの攻撃であっても取り乱すことなく冷静に対処する事が出来たのであった。

ある意味普段から敵と見れば突っ込んでいく猪武者な艦長のお陰であると言えるだろう。

 

 

「艦影確認、通種管理局のデータベースに存在しない新造艦と思われます!」

 

「光学映像は?―――パネルチェンジ!」

 

 

副官の指示でブリッジの大型パネルにいきなり攻撃を加えて来たフネが映し出される。どうやら艦隊らしく、旗艦と思わしき艦以外は同じフネで構成されているらしい。

 

旗艦の半分の大きさしか無い艦艇はブリッジが表面上見受けられないうえ兵装も見た感じ小型砲が2門だけしかないため貧弱に見えた。だがUの字を縦にした様な形の船体中央には船体の4分の一程の大きさもある装置がつけられ、モノコックに近い船体構造はそのフネの耐久性がかなり高いことを表していた。

 

そしてその旗艦は正面から見るとUFOの様に全長と全幅の幅がほぼ同じという形をしていた。色はワインレッド系で統一され、船底両舷に取り付けられた細長い鋏に見える構造体がある所為か、イメージ的にカニを彷彿とさせるフネであった。

 

 

「あんだぁ?あのタランチュラ星系産のカニみてぇなヤツは?」

 

「若ぁ、向うからなんか通信来てるんスが?」

 

「繋げ、こんなことしたヤツのつらぁ見てみてぇ」

 

 

ギリアスの指示により、先程から敵艦を映していたパネルの隣にあるサブパネルに通信映像が映し出された。そこに映し出されたのは艶やかな薄い紅色の長髪を紫のバレッタでまとめ、その先を薄緑のリボンで可愛らしく整えた髪型をし、紫色のスカーフとそれと同色のマントをはおり、首飾りを付け、薄くファンデーションとルージュを付けた――――

 

 

『んっふっふ。見つけたわよぉ、ギリアスちゃん』

 

「あ!このオカマやろう!?また性懲りも無く!!」

 

 

―――オカマであった。

 

 

『この間はよくも私の美しい顔に傷をくれたわねぇ?そのお返しに微塵も残さず粒子に返してあげるわぁ!』

 

「じゃかましぃぃ!!テメェがいきなり襲って来たんだろうが!!大体オメェの顔に傷なんてついてねぇじゃねぇか!!」

 

『あら、あんなものリジェネレーションポッドで直したわよ。私の美しさを損なう傷なんて一分一秒でも付けて痛くないモノ』

 

「男の癖になんてナンパな野郎だ。このオカマやろう」

 

『オカマじゃないわ!オライアよ!――でもあんた随分と傷だらけネ。何?ポッドに行くお金も無いの?』

 

 

そう、このオカマことオライアはギリアスに怪我を負わせた張本人であった。ギリアスがフネの修理と改装の為カシュケントにバウンゼィを預けた後、ゾフィに来た時に問答無用で襲われたのである。尚、襲ったと言ってもスークリフブレードで斬り掛けられたと言う意味であり、決してアッ―な意味では無い。

 

 

『ま、私にはどうでもいいことだけどねぇ。アンタ追いかけてくるのも大変だったし、高いお金かけて手似れたブラックパスは無くすし・・・ねぇとっとと死んでくれない?』

 

「さっきから黙ってきいてりゃごちゃごちゃと――やれるもんならやってみな!変態め!!」

 

『むきぃぃぃ!!だから野蛮なのよあんたは!』

 

 

何故オライアはギリアスを付け狙うのか、その事は周りの人間はよくは知らない。その理由を知るのはギリアス達とギリアスについてきた副官ダケである。ともあれ、この両者が何やら因縁を持つ間柄と言う事は理解出来た。

 

そんなこんなでギリアスはオライアを言いあいをしていたが、背後の副官にオライアに見えない様にサインを送った。それを理解した副官は生来の影の薄さを用いてカメラの範囲から外れると密かに各部署に戦闘配置を完了させるように指示を出す。

ギリアスのこう言った戦闘に関する能力は本当にずば抜けており、だからこそこれまで付いてきたというのもあるのだ。

 

そして罵詈雑言の言いあいをしている間に、バウンゼィの戦闘準備は完了し、先程いきなり受けた攻撃も応急処置が終わった。しかし、何で言いあいの最中に向うは攻撃して来ないのだろうかと副官は疑問に思ったが、実際の所向うのフネはオライア以外は人の居ない無人艦であり、オライアが指示を出さないと攻撃出来ないという欠点があったのだ。

 

つまるところ、オカマは一人ぼっちなのである。一瞬ギリアスに突っかかるのは寂しさの裏返しかという考えが浮かび、胃痛と吐き気が強くなったので副官は慌てて考えを打ちけした。流石にその考えは即死性が高すぎると体が拒絶したからでもあった。

 

兎に角準備が完了した事をオライアに見つからない位置からギリアスにサインを送り知らせる。ギリアスは準備が出来たことを知ると、ニヤァと口角を歪ませた。

 

 

「行くぞオカマやろう。フネの機能は万全か?」

 

 

『はん、そうやって強気でいられるのも今の内・・・いいわ、遊んであげる!』

 

 

こうして戦いの火ぶたは切って落とされたのであった。

 

 

***

 

 

そして、数時間後――

バチバチと火花が散るブリッジでギリアスは意識を取り戻した。身体が重たく感じられる。どうやら敵の攻撃を受けた際のフィードバックで身体をしこたま打ちつけたようだ。まだ怪我が治っていない本調子じゃない彼の肉体には辛いことだろう。

 

 

―――オライアとの戦いは熾烈を極めた。

フネの性能に関して言うならば、純粋な戦闘力はギリアスの方が上であった。砲戦においてなら例え同型のフネが3隻来ようとも勝利出来るほど、彼のフネは戦闘に・・・こと砲雷撃戦においてはかなりの強さを持っていた。

 

だが、今回は相手の方が1枚どころか3枚もうわ手と言っても良かった。

まず、敵のフネであるオーラゼオンはバウンゼィの居る方面に向けて、船底両舷に装備されたカニのはさみの様な構造体から大型ミサイルをマスドライバーで加速し連続射出した。マスドライバーで加速されたミサイルは通常のミサイルと違い段違いの速度でバウンゼィのすぐ近くにまで飛来する。

 

だが、当然光学兵器のそれと比べれば非常に遅い為、ギリアスは搭載された艦砲でミサイルの迎撃を命じた。だがミサイルはバウンゼィの精密砲撃の射程ギリギリのところで突如弾頭を分離して更に加速した為、砲撃のタイミングがずれてしまい撃ち落とすことが出来なかった。

 

発射されたミサイルは多弾頭弾であった事に気がついたバウンゼィは対空用パルスレーザー砲を展開しミサイルを迎撃しようとした。だが更に予想外な事態が発生する。バウンゼィに向けて飛来していた弾頭がいきなり爆発したのである。正確には“何か”を周辺宙域に向けてばら撒きながら自壊してしまったのだ。光学映像でばら撒かれた何かを確認した彼らは驚愕した。

 

オーラゼオンが射出したミサイルは対艦大型ミサイルでも、多弾頭ミサイルでも無かった。あれは大型機動機雷設置キャリアーであったのだ。連続で発射された機雷キャリアーは次々と周辺に機雷をばら撒き、行く手どころか退路すら塞がれてしまい、バウンゼィはコレを迎撃せしめんとするが、機雷のサイズが小さすぎる為に対艦兵装では対処しきれなかった。

 

このままではじわじわとなぶり殺しとなると判断したギリアスは、全火砲を前方の最大射程内を悠々と航行するオーラゼオンを仕留め、コレ以上機雷が増えるという事態だけでも止めようとした。幸い機雷は小型なため、余程機雷の散布密度が高い所に入りこまなければダメージは少ない。今の所対空兵装で近寄らせない様に撃ち落としているが、コレ以上増えたら不味いという判断からの命令であった。

 

 

 

―――だが、やはり彼は運が悪かった。

 

 

バウンゼィに主に装備されていた艦砲は、その殆どが光学兵装であった。広い宇宙空間において光の速度で飛来するビームやレーザー砲は非常に有効な攻撃手段である。APFSの普及に伴い、実弾がまた再び脚光を帯びてきたが、当たりやすさという点に関して言えばレーザー等の信頼性は非常に高いモノであった。

 

当然ある程度はAPFSで減衰されてしまうが、バウンゼィの兵装はマゼラニックストリームにて改修し、更なる威力を誇る新式砲塔へと換装してあったのだ。機動性が高いオライアのフネはどうやら防御力はそれほど高くないという判断を下していた為、ギリアスは全砲発射を命じた。

 

バウンゼィから放たれたビームは相手のT.A.C.マニューバを解析した未来予測位置へと一直線に伸び、オーラゼオンに全弾直撃となる筈だった。だが、放たれたエネルギーブレッドは突如その機動をグググと曲げると、オーラゼオンの寮艦へと命中したのである。

 

信じられない光景に目を疑うギリアス達であったが、攻撃の手を緩める訳にはいかず、連続で砲撃を行った。しかしそのすべてがオーラゼオンの寮艦へと流れ、オーラゼオンには全く命中しなかったのである。その後もなんとか寮艦の一隻を撃破したが、その時にはバウンゼィのコンデンサーにエネルギーは残されていなかった。

 

このオーラゼオンは機動性と高性能火器管制によるミサイル制御能力により火力は高めに設定されているが、その分耐久性が通常のフネよりも低めであった。それを補う為に造られたのが寮艦であるゴブリン級無人艦であった。

 

この無人艦は火力は低いのだが、非常に高い防御性能を持つ艦であり、装甲や耐久性が低いオーラゼオンを護衛する護衛艦の役目を持つフネであった。しかし特出すべきは艦体に備え付けられたとある特殊装置にあった。

 

その装置の名前はビームリフレクターといい、一定宙域内で放出されたビームを自艦に集中させることが出来る装置であった。この装置により光学兵器は全てゴブリン級に集中する為、結果的にオーラゼオンが一切のダメージを負わないという状況を作り出すことが出来た。先程からバウンゼィのビームが捻じ曲げられたのも、全てこのビームリフレクタ―によるモノであった。

 

さらにこのゴブリン級は攻撃力が低い代わりに耐久性が非常に高い為、破壊するのに時間が掛る。その間に旗艦であるオーラゼオンが機動機雷と大砲を用いて敵を落すのだ。ギリアスはこの単純ながらも非常に効果的な戦法にまんまと引っかかってしまったのである。

 

エネルギーも枯渇してエンジンも限界、機動機雷で身動きを封じられたバウンゼィはオーラゼオンが発射した大型レーザーの直撃をくらい、現在に至るという訳であった。

 

 

「イテェなクソが・・・。おい!お前ら!反撃―――」

 

 

ギリアスは自分の上に覆いかぶさっていた物体を払いのけて、指示を出そうとするが、既にブリッジで動く人間は自分だけである事に気がついた。

所々火花が散り轟々と炎まで噴き出している状況であり、殆どのブリッジクルーはコンソールに突っ伏して動いていない。先程まで口を聞いていた人間が一瞬で動かなくなるという事態にギリアスは一応慣れてはいたが、あまり気分のいいモノでは無かった。

 

 

「――わ、若ぁ・・」

 

「あん?副官の野郎か!?オイ何処に居る!?」

 

 

ギリアスは声が聞えた為辺りを見回した。その時に気がつく。

 

自分は先の攻撃で何で余り怪我をしていないのか?

 

そして攻撃された瞬間、誰かに覆いかぶさられた記憶があるのは何故だ?

 

そして――――どうして自分の副官が、血の海に沈んでいるのか?

 

 

「お、おい!テメェしっかりしろ!」

 

「若、無事で、よかったです」

 

「喋んな!今応急処置してやっから!」

 

 

ギリアスはブリッジに備え付けられた緊急用の救急箱を開き、中から応急パックを取り出した。その応急パックに入っていたスプレー缶の様な物を副官の傷口に吹きつける。

 

 

「うッ!!」

 

「がまんしろ!すぐに終わる!」

 

 

スプレーからはムースの様な泡が噴き出し、副官の傷口を覆った。その泡は副官の血液と反応し、人造たんぱくによる膜を形成して傷口を塞ぎ、出血を抑えていく。更にギリアスは応急パックにセットでは言っていた簡易無痛注射器を副官に撃ち込んだ。

これには細胞活性剤、血液増強剤、医療用ナノマシン等が含まれており、失血による死亡を防ぐことが出来る一般的なファーストエイドキッドであった。

 

 

「わ、若ぁ、脱出なさってください。バウンゼィは、もう持ちません」

 

「バカ野郎!お前ら見捨てて逃げられっか!」

 

「はぁはぁ、救援信号も、間に合わず・・か」

 

「おい!救援信号ってどういうことだ!オイ!目ぇ開けろ!寝るな!オイィィィ!!!」

 

 

応急処置をしているギリアスを血が足りない所為か何処か虚ろな目で見ながら、脱出するように促す副官。やがてガクっと力が抜けて、副官は意識を手放してしまった。

オーラゼオンの攻撃を受けた時、ブリッジに被害が及ぶ瞬間、副官はギリアスを庇い全身に爆炎と金属片を浴びたのだ。死ななかったのが奇跡である。

 

ギリアスは副官が気絶してしまったことを確認した後、応急処置を黙々と終えて医務室に連絡を取ろうとした。だが医務室からの応答は無かった。既に船体各所に穴が空き、自動で居住区画の隔壁は閉鎖され、ブリッジ要員以外の五体満足な雇われ船員たちはこのフネを見限り脱出ポッドに乗り込んで離脱を計っていたのである。

 

その為医務室には怪我人とそれを見ている一人の医者以外、誰ひとりとして残ってはいなかった。その医者も大量の怪我人を自分の娘であり看護師である少女と共に治療室で処置するのが手いっぱいで、ギリアスの連絡に気が付いていなかったのである。

 

そしてギリアスが副官の応急処置をしている間オーラゼオンから攻撃が来なかった理由であるが、我先にと逃げだそうとした雇われクルー達の脱出ポッドを撃ち落とすことを頑張っていたからであった。オライアはバウンゼィに所属する人間を逃がす気は毛頭なかったのだ。

 

 

「ド畜生が・・・」

 

 

副官の応急処置を終えたギリアスは艦長席にある統括システムを立ち上げる。この時代のどのフネでも言えることだが、大抵のフネは艦長席にあるコンソールによって一括操作が可能となっている。勿論部署を決めて人員を配置した方が効率が良いし、何より何百メートルもあるフネをたった一人で動かすことなんて不可能だ。

 

ギリアスに出来る事と言えば、フネのT.A.C.M.コントロールをオートに設定し、コンソールと接続した主砲の遠隔操作を行う程度である。敵は自分たちを逃がす気も無く、救難艇も全て撃ち落とす様な下衆野郎があいてである。戦わなければどうにもならない。

 

しかし、既にバウンゼィは限界であった。各所の損傷個所からエア漏れが発生し、インフラトン機関は何時火が落ちてもおかしくは無い。わずかにコンデンサーにエネルギーが蓄えられていたが、これを使い果たせばAPFSもデフレクターも稼働出来なくなってしまう。

 

 

「・・・とりあえず宇宙服くらいつけとくか」

 

 

だが、ギリアスはこんな状況になっても諦めようとはしなかった。彼の気質がそうであるし、何より踏みにじられたままでいるのは性に合わない。彼は自分とブリッジで唯一生き残っていた副官に傷口にはなるべく触れないように宇宙服を着せ、一人黙々と砲撃準備を進めていった。

 

オーラゼオンは相変わらずこのフネから逃げだした乗組員を救難艇ごと粒子に返している。勝手に逃げだした連中なため同情はしなかったが、かと言って目の前で今まで部下であった人間がなぶり殺しに合う姿を見せつけられて良い気分と言う訳では無かった。

 

そして半壊し出力を半減させつつもエネルギーを絞り出したインフラトンエネルギーをほぼすべて主砲の出力へと回す。砲身限界を考えると実質最後の一発であり、これを撃てばもはやフネは動かなくなることは確実であった。

 

 

「くそ、これなら魚雷発射管を無理にでも付けとくんだったぜ」

 

 

改装の時にケチったのが裏目に出たなと考えつつも、手動照準で比較的損傷が少ない主砲をオーラゼ慧遠に向けていく。副砲及び損傷でもはや稼働していない幾つかの対空兵装へのエネルギー供給をカット、代わりにそのエネルギーを比較的無事であった主砲へとバイパスしリミッターを解除したハイバースト状態で発射する準備を進める。

 

主砲を冷却する4機の冷却機が通常を超える出力を出そうとする主砲を冷却する為、異常振動が発生し警告ウィンドウが表示されているが手を止める訳にはいかない。今は救難艇破壊に夢中のオライアだが、どう考えてもその後バウンゼィを攻撃する事は明白。どうせやられるくらいなら最後の一発くらい決めてやるのが男だと考えた彼は痛む身体を引き摺る様にコンソールにへばり付き操作を続行した。

 

既に痛み止めが切れた肉体は先の攻撃の衝撃をもろに受けた影響もあり、凄まじい激痛へと変わっていた。彼の国特有の肉体の強靭さが無ければ気絶していてもおかしくは無い程だった。痛みで歯を食いしばったからか彼の口からは血が溢れて来ている。彼はジッとコンソールを操作していた為気が付いていないが、既に彼の胴の包帯は傷口が開き赤く染まっていた。

 

 

「へっ!救難艇を襲うなんて、やっぱり下衆なヤロウだぜ」

 

 

ピピピピと電子音がコンソールから響き、ゆっくりと照準がオーラゼオンへと向けられ、主砲へのエネルギーが加速度的に増えて主砲の通常のエネルギーゲインを軽く突破する。

そして経った今バウンゼィを脱出した6隻目の救難艇を破壊した瞬間―――

 

 

「落ちろやァァァァアアァ!!!!!!!!!!」

 

 

インフラトンの光に彩られた蒼いエネルギーブレッドが機雷漂う空間を引き裂いてオーラゼオンへと真っ直ぐ突き進んでいった。そしてバウンゼィの主砲は宇宙空間で音も無く溶けて消えた。過剰出力によって完全に砲塔が溶け落ちたのである。救難艇を落そうとした際にゴブリン級が動き、光弾の進む道を阻むモノは無い。主砲を贄にして発射された超大型レーザー砲に匹敵する蒼き極光はオーラゼオンに損傷を与える筈であった。

 

 

「・・・・チッ、もう一隻居たのかよ」

 

 

だが、その目論見は終えた。オーラゼオンにはもう一隻ゴブリン級が付随していたのである。そいつはオーラゼオンの向う側からオーラゼオンと位置を入れ替えるとビームリフレクターを使い、バウンゼィの最後の咆哮と言える蒼き極光を吸収して爆散した。

そしてその宙域には無傷のオーラゼオンと、もはやわずかな対空兵装しか稼働していない満身創痍のバウンゼィが居るのみであった。コレでバウンゼィの全ての攻撃手段は尽きた。

 

 

『――どうギリアス?もう手も足も出ない上、逃がした部下を全員撃ち落とされた気分は?』

 

「・・・ああ、最悪だ。特にテメェの顔を見なきゃならねぇ事がな。通信回線をハッキングするんじゃねぇ」

 

 

唐突にメインパネルにオライアの顔が映し出された。機雷の群をなんとか突破出来た最後の救難艇を破壊したオーラゼオンから強引に通信回線を開かれたのである。バウンゼィのブリッジ内の様子を見て嘲笑が浮かぶオライアだが、ギリアスの方に目を向けて今度は一転してつまらなそうな顔になった。

 

ギリアスはいまだに目から光りを失ってはいなかった。否、失っていなかったというよりかは、獣の様にギラギラとした光を湛え、もしオライアが目の前に居るのなら咽元を食いちぎるという程の気迫である。それこそ、オライアが正直嫌っていた“彼らの国”の血の現れ、戦いの最後までその血が覚めることは無い彼の血族が持つ特徴でもあった。

 

 

『ふふふ、詰らないわねぇ、もっと苦しんで欲しいんだけど―――さぁお遊びはおしまいよギリアス』

 

「はん!最後に見なきゃならん顔がテメェだなんて吐き気がするぜ!」

 

『言ってなさい。そうやってアンタは叫ぶ事しかできない。なんの力も無いタダのガキよ』

 

 

もう勝てる筈も無い、戦う力も無い。それなのに闘志を湛えて終わらないその瞳を見つつ、オーラゼオンの大型レーザー砲にエネルギーが収束していった。

 

 

『さようなら――――バカな弟よ』

 

「ああ、地獄で待ってるぜ」

 

 

そしてバウンゼィに今まで以上の振動が襲い掛かり、艦長席からギリアスは投げ出されると金属で出来た床に思いっきり叩きつけられた。それによって走った激痛を感じる間もなく、ギリアスは意識を手放した。

 

そしてバウンゼィがオライアによって撃たれる直前、彼らのフネのレーダーが急激に揺らいだというその現象に気付くことは無かったのであった。

 

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 番外編6+第四十六章+第四十七章+第四十八章

 

真っ暗な宇宙を照らす蒼いインフラトン粒子の光。

この世界では光学兵器なら大抵がインフラトン粒子によって蒼い光となる。

ソレは見ていてとても綺麗で、何処か引き込まれる様な魅力があった。

暗闇に煌めく蒼色の光は、何処か月の光を反射する川面の光の様で風情がある。

とはいえ、今はそんなことを考えている余裕は、俺には無かった。

・・・・少なくとも、友人のフネに直撃する所を見なければ。

 

 

「・・・・・・・」

 

「ユーリ、あんた」

 

 

コンソールに手を叩きつけた音がブリッジに響き沈黙が降りる。

ユピが咄嗟にコンソールの機能をOFFにしてくれなかったら、誤作動を起していただろう。

何と言うかもう怒鳴り散らすとか、そう言うのを超越してしまったらしい。

頭の中がスーッとし、何をするべきかを考え続けている。

こうして試行して、客観的な面で冷静に話しているのもその所為だ。

とはいえ思考的には、かなり怒りの度合いが高いらしいが。

 

 

「――リシテアにEVA(船外活動)要員を乗せてください。発進準備を急がせて」

 

「あ、ああ。解った」

 

 

自分でも信じられない位に、静かで、それでいて響く様な低い声で指示を出した。

だが、俺の指示はそれだけでは終わらない。

ユピにコンソールの操作をONにするように指示を出し、サナダさんの席に回線を繋いでいた。

何時もと違う俺の様子を感じ取ったのか、何処となく彼の表情も硬かった様な気がする。

とはいえ、その時の俺にそんなことを気にする余裕は無く、淡々と用事を述べていた。

 

 

「あとサナダさん、どうしてバウンゼィがああも手も足も出なかったか解ります?」

 

「ん?あ、ああ・・・恐らくだが、機雷で見動きを封じられたダケじゃ無く、攻撃すらも防がれたと艦萎えるべきだろう。――いや待て、解析結果が出た」

 

 

彼はそう言うと空間モニターを投影した。

若干戸惑いを隠せないと言った感じであった。

まぁ普段能天気そうなヤツが豹変していれば戸惑いもあろう。

だが、生来真面目であるサナダさんは俺の質問に律儀に答えてくれた。

 

 

「敵の寮艦なのだが、この艦を中心に向かってインフラトン粒子が集中していくのが観測出来た。恐らくインフラトンを引きつける何かを持つ装置が搭載されているのだろう」

 

「・・・で?」

 

 

普段の俺なら、ココで何かしら反応を示すものだが、どうも気乗りがしなかった。

その所為かやはり感情の起伏の無い静かな声を出してしまう。

 

 

「う、うむ。つまり我々の艦艇が持つインフラトン粒子を使う光学兵装は、あの寮艦に引き寄せられるということだ。実質光学兵装は全て防がれ、旗艦には命中しない」

 

「成程、解析感謝ですサナダさん。引き続き敵艦の解析を急いでください」

 

「り、了解した」

 

 

相変わらず淡々とした俺の雰囲気にサナダさんはやはり戸惑いの顔をしたままだった。

そん時は気がつかなかったが、思い出してみれば彼は若干冷や汗を書いていた様な気がする。

そんなに豹変していたのだろうかとも思ったが、この時の俺はそんなことをつゆほども考えず、サナダさんの報告を脳内でまとめ上げている最中だった。

 

サナダさんの解析により、寮艦の機能が判明した。

なるほど、道理でこの宙域では強力な筈のバウンゼィが潰された筈だ。

攻撃が通用しなければ一方的になぶられたも同じなのだから。

だが、防ぐという訳では無く、只単に攻撃を集中させるだけの様だ。

つまり無効化では無く、防御力が高い寮艦が攻撃を防いでいるだけらしい。

あの寮艦のキャパシティを超えた攻撃を行えば、事実上撃破できる。

 

 

そしてその後は・・・あの旗艦の生殺与奪権を此方が握れるということだ。

 

まずは兵装を破壊しよう、レーダーを叩き折るのも良い。

 

エンジンの噴射口を抉ってしまおう。決して逃げられない様に。

 

爆発させない程度で穴だらけというのも捨てがたい。

 

一気に死なせるのもアレだから、艦橋に小さな穴をあけてしまうのもいい。

 

徐々に酸素が無くなり、苦しみもだえながら死んでいけ・・・。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

イケない、自分の中で何処か暗い感情がひしめいているのが解る。

冷めている、のでは無く、冷静にキレて熱くなっていたのだ。

このままでは冷静な判断が下せない。

ソレは不味い、だがどうする?

 

 

 

そう思った時、俺の身体は勝手に行動していた―――

 

 

 

「ドッセイッ!!!」

 

≪バシンッ!!!≫

 

 

気が付けば俺の拳が俺の顔に突き刺さっていた。

顔面は結構急所が集中している為、殴り付けたところが凄まじく痛い。

だが、何処か熱を帯びた様な痛みとは相対的に俺の思考は急激に元に戻りつつあった。

どの世界でも共通の事だ、テレビの調子が悪ければ、斜め45度の角度で殴ればいい。

なんか違う気もしないでもないが、まぁ気にしない事にしよう。

 

 

「か、艦長!!?」

 

「ユーリ!あんた何してんだい!?」

 

 

周囲が驚いている、無理も無い。

なにせ俺は思いっきり自分の拳で、自らの顔を殴り付けたのだ。

下手すればタダの自虐行為にしか見えない事だろう。事実その通りだし。

だが、お陰でマグマの様にぐつぐつと煮えたぎっていた感情が痛みともに引っ込んでいくのが解る。

そして、それと同時に少しずつだが、暗い感情が消えて冷静な思考が戻ってきた。

 

 

「―――つぁーー!!効いたァァァ!!!でもコレですこしはマシになった」

 

「ゆ、ユーリ?」

 

「大丈夫だよトスカさん。俺はこれからも頑張っていくから」

 

「艦長!それは色々と不味いです!!」

 

 

あ~?だいじょうぶらよ~?かんちょーさんはこのていどではしずみません!

あ~う~・・・・よし、クラクラも落ちついた。

 

 

「ふぅ、なんとか普通に戻れたッス」

 

「あ、いつものユーリだね。良かった」

 

 

心なしか、ブリッジの空気もホッとした様な感じになっていた。

どうやら先程の黒ユーリ降臨がアカンかったらしい。皆ゴメンな。

だけどもう大丈夫や。俺だって艦長だからな。

戦いに私情を挟むことはもうしない。今すべきは人命優先だ。

とにかく、あそこに居る敵をなんとかしないとな!

 

 

「ストール、サナダさんから主砲の散布界データを貰ってすぐに撃てるように準備しておくッス!」

 

「わかった!」

 

「リーフは敵艦がこちらに気付いて攻撃してきたらすぐに避けられる様スタンバイ!」

 

「OK!」

 

「ミドリさんは各部署への伝達をお願いするッス!」

 

「アイサー艦長」

 

「ユピはサナダさんを手伝って解析をお願いするッス。それとトクガワさん」

 

「何じゃ?」

 

「全力は出さないッスけど、相似次元機関の出力調整を頼むッス」

 

「了解じゃ艦長」

 

「あとミューズはデフレクターと艦内の慣性制御をお願いするッス」

 

「・・・了解、よ」

 

 

ブリッジに居るメンバーに指示を出し終えた俺は、メインモニターに目をやった。

敵は今だこの宙域にとどまっている。どうやらボロボロのバウンゼィを鑑賞中らしい。

そしてそのお陰で、敵は隙だらけなのである。このチャンスを逃す手はあるまい。

 

 

さぁ~て、お仕置きの時間だべぇ~。

 

 

***

 

 

「リシテア、本艦ドックから発艦しました」

 

「ステルス解除、APおよびEP最大稼働、主砲群を展開します」

 

 

艦内のドックから直接通じるハッチが開き、中からネビュラス級戦艦リシテアが現れる。

ちなみに戦艦用の重力カタパルトのお陰で、最初から通常空間における最大戦速だ。

普通そんなことをすれば、中の人間がノシイカになってしまうのだが、慣性制御のお陰である程度は平気らしい。

つーか戦艦クラスを扱える重力カタパルトってある意味スゲェな。

 

 

「リシテア、コースそのまま。20秒で機動機雷群に突入します」

 

「リシテアのFCS稼働、本艦も全力でコレを援護するッス。主砲照準、機動機雷群!てぇー!」

 

「よいさほら来たポチっとな!」

 

 

上下12基、連装砲なので計24の弾幕が一斉に放たれる。

一発でもかなりの威力を持つ古代兵器は、進路上の機雷群を一掃して虚空へと消えていった。

これにより、まるで回廊の様に弩級艦程度なら十分通り抜けられるスキマが出来た。

そしてそれによって出来た回廊を、リシテアが全速力で走り抜けていく。

 

 

「敵艦、本艦に気付きました」

 

「敵に隙を与えるなッス!第1砲塔と第2砲塔はあのカニのハサミみたいな構造部分を狙うッス!多分アレが機雷射出口ッスから!他の砲塔はリシテアに近づく機雷の除去を続行ッス」

 

「直接照準合わせ問題無し、補正データ入力、FCSコンタクト。イけるぜ!」

 

「ホールドキャノン!てぇー!!」

 

 

これまでも、ある意味神がかり的な砲撃を行ってきたストール。

鍛えられた彼の砲撃センスは、並の砲撃主を軽く凌駕する。

そんな彼が狙った獲物が逃げられる訳も無く、4条の光線は確実に射出口を破壊していた。

ふむ、ストールにはゴル○13の異名を進呈しよう。俺の脳内ダケで。

 

 

「敵艦から通信です」

 

「無視するッス。今はギリアスを救援するのが先ッス」

 

「了解、以降無視します。――序でにウィルス送っとこ」

 

「ユーリ、もうすぐリシテアがバウンゼィに取りつくよ」

 

 

なんかミドリさんが怖いこと言っていた様な気がするが、俺は華麗にスルーした。

んでトスカ姐さんの言葉を聞き、空間パネルに目を向ける。

ユピが気を利かせてくれたのか、画像補正されて鮮明な映像が映し出されていた。

バウンゼィの倍の大きさを誇るリシテアが、彼の艦を庇う様な位置に付き、空間チューブと救命艇が発進しているのが確認出来た。

 

俺は救助が終わるまで敵艦を近づけさせないよう指示を出す。

どうやら敵艦はよっぽどギリアスに固執しているらしく、逃げようとしないからだ。

だが既に機雷攻撃は封じたし、通常の光学兵装では無いホールドキャノンには寮艦の特殊装置は効果が薄い。

 

まぁ、若干影響を受けるので、命中率が低下しているのがあるかな。

とはいえ敵さん慌てふためいて回避機動を取り始めた為、逃げるタイミングを逃した様だ。

まぁ下手に回頭して背中向けたらすぐに蜂の巣だかんな。

 

 

「敵艦発砲、中型ミサイルも発射されました」

 

「回避ッス!リーフ」

 

 

ステルス解除したから、こちらの姿を見つけたのだろう。

数撃ちゃ当たる方式とでも言おうか、微妙に統制が取れてない砲撃が来た。

なんつーか、精神状態が砲撃に現れているって感じか?

だが、大型ミサイルの発射口は既に潰したから、そうそう簡単にダメージは―――

 

 

≪ズズン≫

 

「敵艦からの中型対艦ミサイル命中、損害軽微」

 

 

―――はい、フラグでした。サーセン!

 

そりゃね、潰したのは大型ミサイル発射口だから、他の兵装は生きてますもんね!

とはいえ、ウチのECMやAP・EPが強力だからか、あまり命中弾は無いみたいだけど。

さっきのは只のラッキーヒットだモンん!ホントだもん!キモイ?サーセン!

・・・・サーセン言い過ぎてサーセ――え?それはも良い?すんません。

 

ともあれ、どうやら中型ミサイルも結構な威力を持っている様である。

今だ全力稼働は出来ないモノの、それでもデメテールの装甲板は通常の艦のソレを凌駕する防御力を持っているのだ。

それに傷をつけることが出来るということは、大マゼラン製の可能性もある。

いや、ホント大マゼランと小マゼランとの技術格差はマジで酷いモンがあるね。

ソレは兎も角、その頼みの綱の中型対艦ミサイルも牽制目的で撃った砲撃が運悪く当たっちゃった所為で沈黙した。

いや、なんか寮艦の持つ機能か何か知らんが、少しだけ干渉を受けたホールドキャノンのエネルギーブレッドがグググと曲がっちゃって、弾頭がまがった先に敵旗艦がいただけやねん。

そんでヒットと・・・なんかめっちゃ哀れやな。

 

 

「ミドリさん、リシテアの方はどうなってるッスか?」

 

「現在救助作業中です。居住ブロックはギリギリ敵弾がかすめた程度で済んだらしく、居住ブロックに避難していた乗組員は無事だそうです」

 

 

まぁ居住ブロックは大概フネの中央にあり、堅牢に造られるのが定石(セオリー)だ。

インフラトン機関が暴走して爆散でもしない限り、大破する攻撃を受けたとしても、居住ブロックに居れば助かる事もあるのだ。

とはいえ、某大海賊の持つ軸線反重力砲とか喰らったら、流石に跡形も残らんけど。

ソレは兎も角として、ギリアスは見つかったのか気になった俺は報告の続きを促した。

 

 

「ギリアスは?」

 

「まだ確認がとれておりません。恐らくバウンゼィのブリッジ部分に居ると思われますが、途中の道が破損により塞がっており、ルートを見つけるのに手間取っているとの事です。現在ケセイヤがバウンゼィのホストコンピュータをハッキングし、ルートを見つけようとしています」

 

「・・・ケセイヤさん、何時の間にか付いてったスか。つーか、あの人の事だから、ホストコンピュータにアクセスしてなんか勝手にデータ持ちだしてきそうッスね」

 

「やるでしょうね。彼の性格なら」

 

 

ギリアスに何か言われたら、俺は知らんかったということを全面に出すかねぇ。

俺は艦長だが、流石に部下の全てを把握しているという訳じゃない。

まぁある程度は責任をとるという事にするし、ケセイヤには減法処分に処すことにするがね。

あの人、自分の趣味である研究開発の為ならポケットマネー出す人だからな。

給料が減らされるのは地味に痛いらしい。

 

 

「敵艦砲撃を再開、大型対艦レーザー1、中型連装レーザー2」

 

「デフレクター展開、TACマニューバで対処しろッス」

 

「了解―――大型レーザー回避成功、中型連装レーザー1デフレクターと接触、相殺。直撃弾無し」

 

 

さて、ソレは兎も角、敵さんとの戦闘の方はと言うと、相変わらずこっちが優勢である。

基本性能が違うというのもあるが、敵の大型艦にある兵装の中で、ウチに一番ダメージを与えられそうなもの。

大型ミサイルの射出口をイの一番にブッ潰したお陰である。

恐らくアレが機雷の発射口を兼ねていたと思われる事から、アソコさえ潰せば機雷も無い。

そしてそれ以外の兵装はいわゆる一般的な艤装というものだ。

特に大型レーザー砲を装備している様だが、ウチのフネの装甲はエネルギー系に特に強い。

ミサイルが若干装甲に傷をつけ始めている様だが、耐久値が違い過ぎるから大丈夫だ。

・・・・ああ、また後で材料の入手から始めないと、書類地獄や~。

 

 

「リシテアより入電、バウンゼィの生存者全収容に成功。ギリアスさんも回収したそうです」

 

「ウス、了解ッス。リシテアは即座に離脱ッス」

 

 

コレでもうバウンゼィの方を気にして戦う必要は無くなったぜ。

何せ原型をとどめてはいるが、もう一撃喰らえば爆散しそうな感じがしたからな。

敵が爪の甘いヤツで助かった。お陰でバウンゼィの救援が間に合ったんだからな。

さぁて、一応普段通りではあるが、それなりに俺も怒りが溜まっているモンでね。

・・・・ココは一丁、タンホイザにでも叩きこんでやるよ。

 

 

「ストール、確か主砲は火線収束射撃が可能だったッスよね」

 

「ああ、出来るぜ。タダまだテストして無いんだが・・・まさか艦長?」

 

「俺ちょっと頭に来てるんス。技術的には問題無いんスよね確か」

 

「ああ、問題はねぇが。テストも無しに撃つのか?」

 

 

まぁそりゃ火線収束モードはまだ試してないからなぁ。

だけど、いずれは試さなきゃいけない事項が、偶々今来ただけさ。

それにな―――完膚無きまでに思いっきりヤっちまいたいんだよ。俺は・・・。

 

 

「そんな暇あるか!」

 

「ってサナダさんどうした!?いきなり叫んで」

 

「い、いや・・・何故かそう叫ばなければならないという感じがしてな」

 

 

サナダさんがなんか言ってるが、とりあえず火線収束モードを試すことになった。

まぁ丁度良い実戦テストだ。理論上は平気だってシミュレータデータもあるからな。

問題は無いさ・・・多分。

 

 

「それじゃあ―――後はわかってるッスね?」

 

「―――あいよ。粉々に、だな?任せとけ。火線収束砲撃に切り替える」

 

「ほいだば、主砲照準!目標敵旗艦!―――てぇーっ!!!!!」

 

 

俺の号令に従い、12基ある主砲群から一斉に薄緑色をした極光が発射された。

螺旋を描く光線は遮るものが無い宇宙に一筋の線を描きつつ、真っ直ぐと敵旗艦へと伸びる。

そして極光は途中で重なりあい、収束した巨大な火線となって襲い掛かった。

ソレに慌てた敵艦隊は、寮艦を盾にする為に火線上に寮艦を急いで配置した。

だが、収束したホールドキャノンの威力は高かった。

収束砲撃の直撃を受けた寮艦は、確かに一瞬だけ耐えて見せた。

そう、一瞬だけ・・・寮艦を屠るだけでは収まらないエネルギーの暴風は、容赦なく敵旗艦にも襲い掛かる。

なまじ収束砲撃だけなら貫通してしまう為、運がよくて大破で済んだのに、態々防御力が高い寮艦を配置した所為で、直前で収束砲撃のエネルギーが拡散してしまった。

フネを貫通出来るエネルギーの殆どが、その空間一帯に襲い掛かった為、敵旗艦はそのエネルギー爆発の光球に巻き込まれてしまったのである。

何故か光球に巻き込まれる一瞬『負ける?私が?――不思議!』とか聞えた俺はデムパでも拾ったのだろうか?

ともあれ、バウンゼィを攻撃していた敵は跡形も無く消滅した。

あまりこう言った事はしない方がいいのだろうが、今回は別だ。

ま、ギリアスには貸しにしておいて、あいつと将来対面する時に便宜でも謀ってもらうべさ。

そんなこんなで、案外あっさりと事態は終息していくのであった。

 

 

***

 

 

「リシテアとバウンゼィ、機雷原を抜けます。本艦に合流するまで後20分」

 

 

バウンゼィの生き残り達を乗せたリシテアが、機雷原に開いた穴を通り抜けて此方へと戻ってくる。

乗りこんだ連中の報告がメール形式で上がって来ているが・・・生き残りは数十人にも満たないらしい。

あのクラスの巡洋艦の最低稼働人数は400前後、ウチみたいに優秀に育ったAIやマッドがいる訳ではないから、一般的な自動航法装置を使っていて大体300人前後いる筈だ。

ちなみにバウンゼィはリシテアがトラクタービームで牽引して持ってきた。

かなり破壊されてはいるが、一応まだキールも残ってるし、あんくらいなら管理局ステーションで修理できることだろう。

・・・・マッド共が勝手に修理、いやさ改造しないか心配だが、そん時はそん時さ。

止める?改造根性に火が付いたマッド共を?ハハ、冗談。俺にはムリだネ。

 

 

「本当は機雷の除去もしていきたいところッスが、まぁこの航路は若干外れてるッスからねぇ」

 

「別に私らがそんなことし無くても、専門のジャンク屋がいるさ。大体エネルギーが勿体無いよ」

 

 

いや、エネルギー自体は古代機関から無尽蔵に引き出せるんスけどね。

まぁ気分ってヤツだな。気分。

 

 

「ところで、ギリアスの奴はどうしたんスか?」

 

「ギリアスさん現在重体で艦内病院でサド先生がオペ中です。処置が済み次第集中治療室へとうつされるようですよ」

 

 

ちなみにアイツ、敵旗艦からの最後の攻撃を受けた際に、コンソールの破片が腹部に刺さっていたらしい。

普通なら死んでしまう様な怪我だったらしいのだが、運が良いのか動脈は外れていた。

おまけに鍛えていたからか並はずれた生命力を持っており、サド先生のその場での応急処置も良かったのか、なんとか治療ポッドに押し込んで回収出来たんだそうだ。

流石はギリアス、Gの頭文字を持つだけはあるな。生命力が図太いぜ。

だがまぁ、以前危険な状態であることに変わりなく、現在はオペ中らしい。

 

 

「大丈夫なんだろうか?」

 

「隣で倒れていた副官さんも重傷でしたけど、それよりも重傷でしたもんね」

 

「まぁ副官君はギリアスが応急手当をした形跡があったし、ソレが功を奏して命の危険は脱しているそうだよ」

 

「・・・・ま、知り合い連中はなんとか助けられたって事ッス。ソレだけはよかったと思うッスよ」

 

 

本当は、周辺の残がいにバウンゼィの脱出ポッドの残がいがあったんだが・・・。

ウチだって万能じゃないからな。間に合わなかったとかは思わんさ。

あの状況ではあれが一番早く付いた状態だったんだ。

あえて言うなら巡り合わせがそうだったとしか言えないねぇ。

とはいえ、今回は少し疲れた――なので欠伸が出てしまう。

そろそろ何時も寝ている時間なのに、今回の件で夜更かししちまったからなぁ。

健康優良児の俺の肉体は、凄まじく睡眠を欲し、その合図が出ちまったって訳だ。

だけど、ブリッジに居る訳だから、目の前で堂々と欠伸できる訳も無く。

俺は顔には出さないで欠伸を行った。

ちょこっと涙が漏れたが生理現象だし、誰も見てねぇだろう。

 

 

「!!(艦長が涙を流してる?!・・・もしかして助けられなかった人達の事を・・・やっぱり艦長は優しいです)」

 

「・・・(誤魔化している様だけど丸見えだよ。相変わらず、何でも一人で抱え込んじまうヤツだねぇユーリは・・・もっと頼って欲しいな。私は、その・・副長な訳だし)」

 

 

?なにやらユピとトスカ姐さんの方から視線を感じるんだが?

・・・ま、まさか俺が欠伸していたことがばれたんか!?

なんとなくいたたまれなくなった俺は、そそくさと逃げるようにブリッジを後にした。

なんか言いたそうな目が逆に痛かったよーチキショー!

 

 

「あ!艦長――」

 

「やめときな。男には時として一人になりたい時もあるのさ」

 

「・・・ですが」

 

「あいつがもしも頼ってきたなら、そん時は一緒に居てやればいい。それが良い女ってもんさ」

 

「そう、ですね。じゃあ待ちます」

 

「ああ、そうしよう。もっと頼られる様に自分を磨きながら、ね」

 

 

ううー、もう部屋に戻って寝るぞー!

低反発マット最高!!いやジャスティス!!とにかく眠って明日に備えるぞー!

 

こうして、意識を失ったままのギリアスを収容し、俺達は目的地であるネージリンスへ向かう航路に乗った。

どれくらいでギリアスが目を覚ますのかは不明だが、まぁ起きたらおどろくだろうなぁ。

 

***

 

―――デメテール工廠区画・蜂の巣型汎用ドック。

 

 

さて、先日ギリアス達を救出した本艦隊所属のバトルシップ・リシテアが艦内ドックに係留されている訳だが・・・。

 

 

「こりゃまた、えらい傷だらけになっちまったもんスね」

 

 

ガラガラのドックに一隻だけいるリシテアを見上げながら、俺はそう漏らしていた。

ギリアス救出の際に受けた傷が結構デカイと聞いて、様子を見に来たのである。

戦艦クラスのフネであるリシテアは、白銀色で綺麗だったその船体のいたるところに亀裂を伴った爆痕が残されており、何とも痛ましい姿に見えた。

 

 

「まぁ、全部第一装甲板で収まっているのが救いだな」

 

 

俺の隣でケセイヤが端末を操作しながらそう応えた。

そう、傷は一見酷く見えるが全部第一装甲板より下には到達していない。

最重要区画(バイタルパート)に到達している損傷は一つも無いのだ。

それどころか搭載されている主砲などの兵装も、見た目は酷いが問題無く稼働する。

それはつまり機雷攻撃による内部の破壊を完全に防いだという事にほかならない。

ブロック工法なので、最重要区画を破壊されなければ、周辺のパーツを取り外して入れ替えるだけで、リシテアは建造当初の美しい姿を取り戻すことが可能となるだろう。

だが、問題はそこでは無いのだ。

 

 

「やっぱり対空兵装が不足していた所為ッスねぇ」

 

「だな、せめてパルスレーザー砲が40基もついてりゃもう少しマシだったことだろうよ」

 

 

そう、問題は戦艦クラスのフネであるリシテアが、こうも攻撃を喰らった事なのだ。

実を言うと、あの時出撃したリシテアにも対空兵装は搭載されている。

航宙機の10機程度ならなんとかなるレベルの対空兵装だ。

だが、リシテアは戦艦であるが為、艤装の設計概念自体は砲雷撃戦仕様となっているのだ。

実を言うと対空防御は艦載機や機動兵器に任せると言った思想で設計されており、砲の配置も今回の様に機雷が浮かぶ様な宙域においての戦闘は想定されていなかったのである。

だがそれでもこれ程の損害を受けるとは予想されていなかった為、急きょ対空兵装の充実化が課題として浮上したのだ。

先も述べたが機動兵器等が対空防御を行うというのは悪くない。

むしろ3次元の機動を取る砲台となれる機動兵器により、固定式砲台では回頭不可能な部分の死角をカバーできるからである。

ミサイルなどが飛んできた方向に機動兵器を集めて、弾幕を張るという使い方も可能だ。

だが、現実問題として現在我が白鯨艦隊に機動兵器群はいない。

造ろうと思えばすぐさま作れるのであるが、ようは操縦出来る人間がいないのである。

何で機動兵器がないのに、対空防御兵装の事に気が付かなかったか?

今まで色んな事があり過ぎてそこら辺を完全に忘れてたんだから仕方ないでしょう。

元々機動兵器の扱いはププロネン達に任せてたし、その彼らは見つからないし・・。

まぁ兎も角、今後機動兵器が使えないと言った場面もあるかもしれないということで、リシテアの方も修理がてらに対空兵装を充実させるという事になったのである。

 

 

「ンで、現実問題として修理は兎も角改修は可能何スか?」

 

「ああ、建造予定だった無人駆逐艦の竣工を遅らせりゃ可能だ。もう一つの巡洋艦の方は既に半分完成してるから中止は効かないしな。勿論序でだし、そっちにも同じような改装を行う予定だ」

 

「ふーむ、小回りが利く駆逐艦の導入が遅れるのは少し痛いッスが、まぁ仕方が無いッスね」

 

 

それよりも材料費がかさむなぁと俺は頭を抱える仕草を取った。

ソレを見てケセイヤは苦笑しながら話しを続けた。

 

 

「そうだな。ま、海賊の艦隊を10くらい無傷で拿捕すりゃ金は手に入るんじゃねぇか?」

 

「まぁそう何スがねぇ。このフネなら近づくのは楽勝だろうし・・・問題は砲の威力がデカすぎるって事何スよ」

 

 

攻撃力が強すぎる為、拿捕にとどめるんじゃなくて粉砕になっちまう。

そうなると敵の価値はものすごく低下しちまうのだ。

どうやってもジャンクとかよりも丸ごと残っていた方が買い取り値段が高いからな。

 

 

「ふーん、じゃあ艦長のVF-0を改造して一機で艦隊を落せるくらいにしちまうとかどうだ?兵装さえ落とせば大抵降伏するだろう?」

 

「レッツパァリィィィィィィ!!とか叫んでッスか?いやっスよ疲れるし」

 

 

ゴテゴテにミサイルやレールライフルひっつけたVFで吶喊するなんて俺の趣味じゃない。

そう返事を返すと、ケセイヤは意外と似合いそうなんだがなぁと言って端末の方に目を戻した。

つーかお前は改造がしたいだけだろうに、まぁソレがケセイヤの趣味で生きがいなのだからどうしようもない。

とりあえず出来るだけVFを高性能化させることについては許可を出しておく。

下手に反対するよりも、逃げ道を作っておく方があとあと安全だからな。

戦力増強って言うメリットもあるし。

 

 

「んじゃ、ま。頑張ってくれッス」

 

「おう、任されたぜ」

 

 

俺は振り返らずに手を振りながら、工廠区画を後にした。

 

 

 

***

 

 

ギリアス救出から5日後―――

 

薄暗い部屋の中で、ぼうっとした光が8つ程浮かび上がっていた。

それは有史以来、宇宙に人間が進出してた今でも、現役で使われる事のある原始照明。

いわゆるロウソクの灯りが、暗い部屋の中で輝いていた。

1,5m程度の燭台の上に乗せられたロウソク達の中心立っているのは俺だ。

俺はスークリフブレードの超臨界流体機能をOFFにしたタダの刀剣状態のブレードを、ゆっくりとした非常に緩慢な動きで、不安定な燭台の上に乗せられたロウソクへと向ける。

自分が体で覚えた“もっとも効率の良い動き”をイメージしながらその軌跡をなぞり、剣先がぶれない様に細心の注意を払いつつ、動く。

身体が軋む、額から汗が噴き出てくる。だが、それなりに修錬を積んだお陰か剣先はぶれない様になってきた。

やがて剣先はロウソクの胴体に触れる。

流体皮膜がOFFとなっていても、かなりのキレ味を持つスークリフブレードはゆっくりと、非常にゆっくりとした動きでロウソクの中を通り抜けていく。

やがて、切っ先がロウソクを抜けた。ロウソクの胴体にはコレで2個目の傷が出来る。

そして次のロウソクも同じようにして、胴体に剣先をめり込ませようとしたその瞬間――!!

 

 

「ぶぇッキシッ!!あ~、風邪かな?≪ポロリ≫・・・ってあああ!?」

 

 

くしゃみをした所為で集中が途切れてしまった。

おまけに剣先がめり込んでいたロウソクに振動が伝わり、ロウソクは中ほどからポッキリと折れて床に叩きつけられると、バラバラに崩壊してしまっていた、クソ。

 

 

「ちぇー、今日こそ三カ所斬れると思ったんスけどねぇ」

 

 

俺はブツブツ言いながらもスークリフブレードの剣先の蝋を拭うと、そのまま鞘へとしまった。

パチンという小気味いい音を立てて、刀身が鞘へと収納される。

さて、俺が一体何をやっていたのか気になるヤツも多い事だろう。

これは精神鍛錬を兼ねた剣術の修行である。ちなみに俺の思い付きの修行法だ。

前世のマンガで見た様な記憶がチラホラあるが・・・。

まぁ結構効果的なので、カシュケントを過ぎて以来お気に入りである。

尚、この暗くした訓練室の重力は普通の数倍以上に高められており、だからこそこの短期間でも効果が得られるのだが――閑話休題。

幾ら仕事が忙しかろうと、スキマを見つけては重ねてきたのである。

お陰で機動兵器の扱いが上手くなっていたのだが、何か関係があるんだろうかねぇ?

でも、あの殺人的な仕事量の最中にやった時なんて、死ぬかと思ったけどね。

それでも辞めないのが俺クオリティ!ああ、目が見えない・・・けどビクンビクン!

ちなみに最近はパリュエンさんのお陰で、俺の仕事が若干減ったから、その分訓練に当てられるようになった。

やっぱね、汗流すとストレス発散できる訳ですよ。

少し前よりかは筋肉もついてるし、顔色も良いしまぁまぁって感じかねぇ

 

 

≪ビー≫

 

「少年、ココに居るか?」

 

「んー?ミユさんッスか。何かようッスか?」

 

「少年が携帯端末の電源をOFFにしている所為で連絡が付かないとミドリから連絡が来てね」

 

 

あ、そういや訓練の邪魔にならない様に、通信シャットアウトにしてたんだっけ?

いっけね、訓練終えたのに通信ONにしておくの忘れてたぜ。

 

 

「でだ、偶々ここの近くを通りかかった私が直接伝えに来たという訳だ。まもなく本艦はby度ゲートに入るそうだから、ブリッジに来てほしいだそうだぞ?」

 

「おう、解ったッス。ほいじゃ、汗ふいたら行くッス」

 

 

とりあえず訓練してた所為で汗だくだ。

俺はミユさんの近くにあるイスにおいてあるタオルで、顔をぬぐおうと思いソレに手を伸ばした。

だが俺よりも早くタオルは第三者の手に渡り――

 

ひょい。

 

 

「ほら、少年」

 

「あ、取ってくれてサンキューッス」

 

ポンっと手渡されたタオルをキャッチする。

―――ん?

 

 

「あれ、コレは?」

 

「ソレだけ汗を掻いたんだ。水分補給くらいしておきたまえ」

 

「あ、ドリンクッスか!ありがとうッス!咽がちょうど乾いてたんスよ!」

 

 

タオルと一緒にドリンクが入った容器を渡してくれたらしい。

んで、身内だから油断したんだろう。

俺はその容器の中身を飲みほしていたのである。

だが―――

 

 

「ちなみに薬入りだ」

 

「ぶばぁーーーーーー!!!」

 

 

思わず口に入れた飲みモノを吐きだしていた。

そう、一番の敵は身内であったのだ。

 

 

「ど、どうした少年?むせたのか!?」

 

「ケホっケホっ――何でもないッス (むぅ、少し飲んじまった)」

 

 

ウチのマッド達が作る薬は非常に強力である。

以前、ウチのユピテル内にあった自然公園という名の畑の植物たちは彼らが調合した薬品により、異常な速度で成長し、日々の糧となっていたのだ。

そして現在ではバイオプラントにある植物群にも使用されており、デメテールの艦内の空気や食品を作り出すのに一役買ってはいる。

だけど、実はそれ以外にも沢山薬品を作り上げていたという報告があるのだ。

新薬の開発までやっていたのは驚きだが、実験を受けさせられたヤツは薬を飲むや否や昏睡状態に陥り、懸命の処置(他の新薬の投入)によってなんとか目覚めることが出来た。

しかし、目覚めたそいつの性格は180度反転してしまっていたという。

尚、コイツは新薬を飲む前は結構素行が悪く、ケンカを10回以上行ったペナルティとしての処置として、新薬の実験台第一号としてしまった。

だが、その新薬、胡蝶之夢DX剤を飲んだ後は礼儀正しく清潔で潔癖な人間となってしまった。

人間と言うのは幾ら取りつくろうと、本質が変わらなければ何処かでボロが出る。

だがそいつは本質も変化させられたらしく、別人となってしまっていた。

そして人の本質を人為的に、特に薬品を使い廃人にすることなく、副作用も出さずに変えるなんて前代未聞であった。

それ以来、マッド達から渡される薬品を飲むことは禁止した。

だってそれで死なれたりしたら、夢見が悪くなるからな。

 

 

「ケホっケホっ・・・」

 

「ほ、本当に大丈夫か少年?」

 

「あ、いやホントに大丈夫ッス。むせただけだし」

 

 

さっきのは実際ホントに驚いて、気管の中に少しドリンクが入ってむせただけなんだよな。

だけど薬品入りとか、一体何を入れてくれたんだろうかこの人?

 

 

「ただの栄養剤だったんだが、口に合わなかったかと思ったぞ」

 

 

栄養剤か、マッド達謹製ならさぞかし性能はいいんだろうなぁ。

・・・・・・・・・あれ?あら?おろろ?

 

 

「・・・身体が・・・軽い・・・だと?」

 

「どうやら効いている様だな。流石は私のお手製だ」

 

「え?ミユさんの?」

 

「私の専門は鉱物だが、それ以外にも手慰み程度に習得していてね。まぁ、それは私やケセイヤやサナダも服用している栄養剤を更に成分調整したモノだよ」

 

「はへ~、ソレにしてはすごく効くんスねぇ」

 

「言ったろ?私の手製だと。私は手慰み程度の趣味でも手は抜かない主義だ」

 

「そ、そっスか、でも何でコレを?」

 

 

まぁマッド達の造る薬は即効性が高いから、何か影響が出るならすぐに出ている筈だ。

とりあえず、身体の調子もいいし何で俺に栄養剤をくれようと思ったのか彼女に聞いてみる。

するとミユさんは何故か明後日の方角を向いていた。

思わず釣られて俺もそっちを見たが、何もいない・・・。

まさかミユさんは幽霊が見え――「生憎私はオカルトとは無縁だよ」・・・際ですか。

でも何で明後日の方向いたんだ?アレか?虫でも飛んでたのか?

 

 

「ま、まぁ少年もこのフネを率いる身なのだ。体調を崩さないよう気をつけてもらわねばと思ってな」

 

「ん~、でも普段は大丈夫だったスよ~?」

 

「何を言う、なんだかんだ言ってこの間から働き詰めで、碌な休息も取らず気が付けばココまで来ていたではないか?見た目以上に少年の身体はボロボロだと私は思うぞ?」

 

 

そういや、あれ飲んでから身体が軽いんだよな。

・・・まだ少し残ってるな。

 

 

「えい――おお、更に身体が楽な気がしてきた」

 

「そうだろう。どうせ解らないだろうから技術的な説明は一切省くが、その栄養剤には人間のコンディションを最適に整えるように調整してある。少しは疲れに効いたのではないか?」

 

「いやいや、少しどころかかなり効いたッス。ありがとうございますミユさん」

 

「あ、ああ。少年が元気ならそれでいいさ。それよりもそろそろブリッジに上った方がいいのではないかね?」

 

 

ミユさんにそう言われてそう言えば呼ばれていた事に気が付いた。

いっけねと言いつつも、上着だけはおり訓練室をでようとした。

既に汗は乾いている・・・っと、その前に。

 

 

「ミユさん、栄養剤感謝ッス。それじゃあまた」

 

「ああ、そうだな。頑張って来い」

 

 

そう言ってくれるミユさん、う~ん励ましてもらえるとはありがたいねぇ。

俺は彼女に手を振りながら急いで訓練室を後にしたのであった。

 

 

 

「やれやれ・・・まったく、ユピや副長が零していたから少し心配だったが、いやいやどうして彼は強いな。本当に――頑張れユーリ艦長」

 

 

そう言って少し微笑しながら訓練室を出るミユさんが目撃されたらしいが。

生憎俺の耳に入ることは無かったのであった。

 

 

***

 

 

さて、デメテールはそれぞれの星域を繋ぐ転移門ボイドゲートを超えて、ネージリンス外縁部へと戻ってきた。

偶に現れるグアッシュ海賊団の残党を鴨葱と思いつつ相手にしつつ、ついに目的地に到着する。

 

 

「管理局とコンタクト、航行許可取れました。惑星シェルネージの衛星軌道上に停泊します」

 

「カシュケントを出立して2週間弱・・・リシテアの修理は完了してたッスね」

 

「ケセイヤ達が頑張ってくれたからな。問題無く稼働するぞ艦長。序でに改修もばっちりだ」

 

 

デメテールは長期航海に向いてはいるが、やはりこの世界においては少しばかり大きい。

だから惑星への交通は、主にリシテアを使うことになるだろう。

・・・・パリュエンさんに頼んで運航スケジュールも決めとかないとな。

 

 

「ミドリさん、艦内アナウンスで―――」

 

「あー、ようやくネージリンスに帰って来たわね。見なさいファルネリ。ネージリンスの宙(ソラ)よ」

 

「ええ、その通りですわね。お嬢様」

 

「――っと、お二人とも何時の間に・・・」

 

 

何時の間にブリッジに来ていたのだろうか?

ブリッジの入口付近では、外部モニターに身を乗り出しているキャロと、そのそばに控えているファルネリさんが立っていた。

まぁ賓客とはいえ、彼女の待遇は通常クルーとほぼ変わらないからな。

携帯端末にアクセスすれば、今フネがどこら辺を進んでいるかくらい解るってもんだ。

それに彼女らにはセグウェン社に連絡を入れてもらわなくてはならないしね。

 

 

「・・・ま、良いッスか。とりあえず、キャロ嬢、ファルネリさん。長い航海お疲れさまでした。いかがでした?本船での航海は?」

 

「ええ、艦長。今まで乗ってきたどのフネよりも快適に過ごせましたわ」

 

「コレは是非とも、我が社に迎え入れたいほどです」

 

「天下のセグウェン社の方々にそう言って貰えるとは光栄ですな。しかしながら、本艦の所属は0Gドッグ。天下御免の無法者ですからな。余程の事が無い限り何処にも所属しないんですわ」

 

「あら、残念ね」

 

「「「ふふふふふ」」」

 

 

と、3人であやしげな社交辞令ごっこをしてみる。

あ~あ、この乗りも後少しでおしまいかぁ。

そう思うと少しは寂しいなぁ。

 

 

「さて、社交辞令ごっこはココまでッス。お二人にはリシテアの方に移ってもらうッス」

 

「あれ?デメテールでステーションにつけないの?」

 

「はは、デメテールはデカすぎるッスから、ステーションの宇宙港に入港出来ないんスよ」

 

「あー、なるほど」

 

「だから、連絡船・・・と言うにはソレもデカいんスが、上陸希望者はリシテアの方に移乗して貰って惑星に降りるッス。まぁ実を言うとウチのフネは万年人手不足だった所為か自動化が進んで、見た目より乗員が少ないから、頑張ればリシテア一隻に全員乗れるんスよね」

 

「それはそれである意味凄いわね。・・・解ったわ。それじゃ準備しておけばいいのね?」

 

「ウス、正確な時間は後で知らせるッス。それ程荷物は無いと思うんスが、準備だけはよろしく頼むッス」

 

 

俺がそう伝えると、二人は解ったと言いブリッジを去っていった。

考えてみれば一応俺も付いて行かなきゃならねぇンダよなぁ。

だって、白鯨艦隊の責任者は俺な訳だし、セグウェン社に送り届けるのに責任者いなくてどうすんヨってな。

 

 

「各員、上陸希望者は早めに準備を行い移乗を開始する事。俺からは以上ッス」

 

「アイサー」

 

 

そんな訳で、取りえず惑星に降りる事にしますかねぇ。

 

 

***

 

 

さて、ステーションで軌道エレベータ―に乗り変えてシェルネージに降りた。

この惑星の資本はセグウェン・グラスチ社によって賄われているらしい。

どの店もS・G社の傘下が殆どだというのだから、影響力は凄まじいモノがあるだろう。

まぁ今回は特に寄る所もないので、キャロ嬢を連れてS・G本社に足を運んだ。

受付につくとファルネリさんが対応し、すぐさま俺達は本社ビル最上階へと案内される。

どの時代もお偉いさん方は高い位置を好むのかねぇ?と、雲の上に突き出す高層ビルの最上階に来た時にそんなことを考えていたら、何時の間にか何やら応接室的な所に案内されていた。

中に入ると、何処かカーネ○サンダースを彷彿させる白髪の老人がそこに居た。

入った瞬間にまるで心の奥を見透かそうとするような視線を感じた。

その視線を辿ると行きつくのはカーネルサ○ダース似の老人。

この人物はタダモノでは無い、少なくてもかなりの重役の人だ。

そう考えて表面上はポーカーフェイスを貫いていると―――

 

 

「おじいさま!!」

 

「おお、キャロ!可愛い孫娘や!よく無事に帰って来てくれたね!この老骨にお前の可愛い顔を見せておくれ」

 

 

―――とまぁ、先程までの何処か慇懃な空気は何処へやら。

 

そこにあったのは純粋に孫との再開を喜ぶタダのジジバカの空気しか無い。

あれ?一瞬でも身構えた俺ってバカなの?死ぬの?

いやいや、あれはきっと孫がいるからだ。

爺さんというモノは孫がいると孫powerによって性格が変化するというのは浦○鉄筋家族でもおなじみである。

きっとこの爺さんもキャロ嬢の為ならランボー張りの働きを見せるに違いない。

 

 

「すまなかったね、キャロ。私がカルバライヤなどに生かせたばかりに・・・」

 

「いいえ、平気だったわ!おじいさま!だってずっとユーリ艦長が丁寧に守ってくれていたモノ!」

 

「おお、おお。その話は聞いているよ。そのユーリくんというのは―――」

 

 

さて、俺が変な方向に思考を逸らしている内に話しは進んだらしい。

気が付けばセグウェン氏とキャロ嬢が此方の方を向いていた。

うむ、そろそろ出番かにゃ?

 

 

「こちらの方ですわ、会長」

 

 

なにやらファルネリさんが俺の方に手を向けている。

そしてセグウェン氏は俺の方を見て、特に驚くと言った事も無くジッと見つめてきた。

なるほど、俺の情報は既に届いてるってわけね。

まぁファルネリさんがずっと俺のフネに居た訳だし、知っているのも当然か。

 

 

「初めまして、セグウェン・ランバース殿。白鯨艦隊のユーリです」

 

「あなたがユーリ君・・・失礼、S・G社会長のセグウェン・ランバースです」

 

 

そう言うとセグウェン氏から手が差し出された。

その意図を察した俺も手を伸ばし、お互いに握手を行う。

ギュッと握られた手は予想に反してごつごつとしていた。

剣だこと銃だこ、それによく見ればこの年齢にして中々の筋肉質である。

それはこのセグウェン氏が一介の商人ではない事を意味していた。

元々は戦う商人だったのかもしれないな。ケンカしたら俺絶対負けるわ。

 

 

「まごむすめを救出し、ここまで送りとどけてもらったことを心から感謝しておりますよ」

 

「いえ・・・色々とありましたから」

 

 

いや、救出には手を貸したんですが、その後はおぜうさまの独断専行デス!

とはいえないのが大人の事情ってもので。

 

 

「ん?なにか―――」

 

「お、おじいさま、言葉だけじゃだめよ!ちゃんとユーリにお礼を上げて頂戴。ココまで頑張ってくれた彼にはソレに応じた報酬があってしかるべきだわ!」

 

 

さすがキャロ嬢、雲行きが怪しくなった瞬間にわりこんできた。

セグウェン氏から見えない位置で“テメェ、余計なこというなよ(超意訳)”という視線を送ってくるぜ。

なんて言うジャイアニズム的視線!く、くやしい、でもビクンビクン!!

まぁ冗談は置いておいてだ。何貰えるんだろうか?

フネの設計図は・・・今更か、ならお金かな。

 

 

「あっはっは、よりより解っておるよ。さて、ユーリ君」

 

「あ、はい。何でしょうか?」

 

「近くに私の経営しているホテルがあります」

 

 

―――な、ホテル・・・だと。ま、まさかお礼というのは身体で!!?

 

 

「そこで改めて、礼とお話をさせていただきたいのですが・・・」

 

 

あ、何だそう言うこと。一瞬ビックリしちまったい。さいきんだらしねぇーな。

俺はセグウェン氏の要望に了解の意を示した。

 

 

「それではキャロ様、コレで我々のエスコートは終了です」

 

「ええ、今まで本当にありがとうユーリ艦長」

 

 

そして表面上は堅苦しい挨拶をキャロ嬢とかわす。

だけど俺達は解っている。お互いの目を見ればわかるのだ。

 

 

“んじゃ、コレでお別れッスけど、またいつか会おうぜ!”

 

“ふふ、そうね。その時はまた貴方のフネに乗りたいわ”

 

“なら出来ればその時までに、何かしらの技能を覚えておいてもらえると、優遇されるッス~”

 

“言ったわね!見てなさい!立派な淑女でありながらも凄い技能を付けて戻ってあげるわ!”

 

 

―――そんなアイコンタクトをかわし、キャロ嬢と別れた俺だった。

 

***

 

 

ホテルに案内されると、俺らは名乗る間もなく奥へと通された。

すでに連絡が行き渡っていたと言えば聞こえはいいが、案内されたのはある意味“特別”なお客様用の部屋であった。

どんな所かと言えば、一見すると普通の部屋なのだがまずドアが通常のと違う。

見た目は同じなのだが、通常のソレと比べると微妙に分厚いのだ。

ソレだけでは無く、窓の方も普通よりいささか小さい。

おまけによく見ると2重3重のガラスが張られており、明らかにタダのガラスでは無い。

この部屋は文字通りVIP用の部屋、もしくはオリの様な物かもしれないな。

ソレはさて置き、部屋で待っているとセグウェン氏が秘書官を連れて部屋に入ってきた。

そして秘書官が部屋の一角にネージリンス周辺の宙域図を張りだした辺りで俺は気付いた。

しまった、絶対に何か厄介事をプレゼンする気だこの爺。

そう思った時には既に防犯の為という理由で部屋のカギが絞められた後だった。

報酬の話しと聞いて、ついついホイホイ付いて来ちまった俺が悪いのかもしれない。

ともあれ、話しだけでも聞いておかないと何されるかわからん。

なのでセグウェン氏が口を開くまで待つことにしたのだった。

 

 

***

 

 

「・・・皆さんはネージリンスの歴史をご存知ですかな?」

 

 

すこし雑談した後、唐突にセグェン氏はそう問うてきた。

 

 

「ええと、たしか昔は難民だったとか」

 

「その通りです。かつてスターバースト現象の発生により、大マゼランのネージリッド領の約半数の星が壊滅しました。その受難を逃れ、我々の祖先はネージリッドから小マゼランへと渡ってきたのです」

 

「・・・」

 

「マゼラニックストリームを苦難の末に越え、最初に辿り着いた地が、ここシェルネージ。かつての首都星です。今ではカルバライヤの脅威に備えてより後方のアークネージ星へと首都を移転しましたがね・・・」

 

「・・・セグウェン氏、失礼ですが我々にそんな昔話をする為にココへと呼んだ訳ではないでしょう?」

 

「いやいや。もちろん、孫娘を助けていただいたお礼をする為ですよ」

 

 

ニコニコと笑うセグェン氏に悪意は感じられない・・・様に見える。

ハッ、逃げられなくしておいてお礼の為?飛んだ狸だな。

 

その後、改めてキャロ嬢の救出に関するお礼と、マネーカードが手渡された。

中身を確認すると何と2万Gもの大金が入っていた。

普通にフネを建造できる金である。流石は大企業会長。

こんな金をポンっと渡せるとは中々懐がデカイ。

俺は偽善者では無いので、迷惑料としてもう少し欲しい所であったが・・・。

まぁここいらが落とし所だろうと思い、カードを受け取った。

コレ税抜きですかと尋ねてみたい衝動はあったが、自重する。

 

 

「んで、私らをココへ呼んだのは、コレだけで済ませるという訳では無いんだろう?」

 

「ほほ、そちらのお嬢さんは話しが早い方がお好みの様ですな」

 

「当然だ。腹芸は好きじゃないんでね」

 

 

トスカ姐さんがそういってセグウェン氏に話しの続きを促した。

俺としても実際そうだと思っていたので、トスカ姐さんを止めずに現状がどう推移するか見る事にする。

・・・・別に丸投げとかじゃないぞ?

 

 

「はは・・・ではお言葉に甘えて率直にお話しさせていただきましょう。皆さまにはこれから始まる戦争において、我々の味方となっていただきたい」

 

 

ついに来たか。そう思った俺は目で続きを促した。

セグウェン氏はそれに応えて、一体何がどうしてそうなったのかを語り始めた。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Side三人称

 

3週間前―――アーヴェスト星系CS667植民惑星上空。

カルバライヤによって発見されたばかりのその星に、ネージリンス所属のフネであるララオ・シェナー艦長率いる植民調査船フレイスールが接近していた。

彼らの目的は同胞たるネージリンスの民の為に、新たなる植民星を開拓し領地を拡大する事。

ネージリンス政府が推進する対カルバライヤ政策の一つでもあり、乗組員たちの士気は高い。

そして、様々な星系を巡りようやく植民可能惑星、コード名CS667を発見した彼らは狂喜した。

コレで新たなるネージリンスの大地が増えた。生存権を拡大できたと。

しかし、その思いはすぐに消沈する事になった。

 

 

「――管理局は何と言っている?」

 

「ハッ、既にカルバライヤによって領有手続きを終えたとの事です」

 

「チッ、あの野蛮人どもに先を越されていたか。植民星としては好条件の星なのだがな」

 

「発見は我々よりも10日ほど先の様ですね。無念であります」

 

 

オペレーターが無念そうにそう言うと、ブリッジ要員達も同じような顔をした。

せっかく発見した星は、あろう事か昔からの仇敵であるカルバライヤに取られてしまっていたからである。

ララオ艦長は艦長席に深く腰掛けると、溜息を吐きつつ指示を出した。

 

「うむ・・・。まぁいい、次の星系に向かうぞ。我らの同胞が住める星を一刻も早く探さねば――」

 

 

確かに良い星を取られたのは悔しい。それがカルバライヤともなればなおさらだ。

だが、今はそんな民族的感情に流されるよりも、仕事を優先した方が万倍もいい。

合理的に物ごとを考えるネージリンスの民特有の考え方であろう。

何時までもこの宙域に居ても仕方が無い為、ララオは宙域を離脱する指示を下そうとした。

だがその時、レーダーを見張っていたオペレーターが叫び声をあげた。

 

 

「か、艦長!大変です!カルバライヤ軍です!5・・・いや10隻はいます!」

 

 

一時騒然とするブリッジ、厄介な相手に見つかってしまった。

ララオも激昂したいのを堪えつつもメインモニターに映像を映す様指示を出す。

そこに映し出されたのは間違いなくカルバライヤの宙域保安局の巡洋艦群。

CS667の陰から続々と現れる艦隊の姿に、なんてことだと内心叫ぶララオだった。

そして、カルバライヤの巡洋艦はフレイスールを射程に収めるとそこで一時停船した。

勿論宙域保安局の人間である彼らもカルバライヤ人であり、ネージリンス所属のフレイスールがうろついているのを見て良い気持ちはしない。

むしろ撃沈したいと願う連中もいたことだろう。

だが、カルバライヤの保安局艦隊の艦隊司令が優秀だったのか、兎に角警告が先に行われた。

とはいえ、強制的に通信を繋げたりしたりと、若干荒かったのは仕方が無い。

 

 

「そこのネージリンスのフネに次ぐ。この星はカルバライヤの領有惑星である!星間法第114条に基づき、この惑星から50万kmは他国の艦船の立ち入りが禁止されている。速やかに回頭しない場合、敵性意思があると判断し攻撃を行う。繰り返す――」

 

「クソ!カードゥ共が!調子に乗りやがって!」

 

「艦長、あれだけの艦隊とやりあったら、本艦はひとたまりもありませんよ!!先制攻撃の許可を!!」

 

 

強制通信回線で告げられた乱暴な言い草に、元々国民感情からカルバライヤの事を嫌っているブリッジの人間達は怒りの声を発した。

ララオも出来る事なら怒声を発し、憎むべきカードゥ共に目にモノを見せてやりたかった。

しかし、そんなことをすればタダでさえ緊張している冷戦状態が破られる。

ソレはすなわち、これまで溜められてきた敵国への鬱憤が解放され、大規模な宇宙戦争に発展することを意味していた。

ララオは流石にソレは不味い、自分がそのきっかけになるのはまっぴら御免と考えていた。

 

 

「・・・・落ちつけ。連中も戦争をしたい訳ではあるまい。

国家間の問題もある。ココは刺激するような真似は避けて退くぞ」

 

「し、しかし・・・」

 

 

ララオの指示にいきり立っていたクルー達が戸惑う。

だが、ララオとしては一刻も早くこの宙域を離脱したかった。

もし今ココで何かきっかけでもあれば、すぐさま戦闘状態に突入しそうな緊張があったからだ。

しかし時として、最悪の事態の予想は現実のものとなってしまう。

 

 

「か、艦長!前方からカルバライヤ艦船が急速接近!本艦を包囲する気です!!」

 

「く、くそうっ!やっぱりあの野蛮人どもは俺達をココで沈める気だ!!」

 

 

何と、突然惑星CS667 の影から大きなフネが姿を現したのだ。

ソレは真っ直ぐと、フレイスールを横切る軌道を取っており、見ようによってはチャージ戦法の様にも見てとれてしまった。

この瞬間、緊張状態であった空気が一気に破かれてしまう。

ソレも―――

 

 

「落ちつかんか!艦種の確認を―――」

 

「死ね!カードゥ共!!!」

 

 

近づいてきたフネの撃沈という、最悪の形でであった。

そしてフレイスールの攻撃で破壊されたフネは植民の為の民間移民船であった。

この民間移民船には乗員が900名、新天地を求めたカルバライヤ人が1200名が乗りこんでおり、計2100名が突然の砲撃によってCS667の大気圏に落されて燃え尽きた。

フレイスールはその後、一連の事態を見た激昂したカルバライヤ軍の猛攻を受けて撃沈された。

 

発砲を命じたのがララオ・シェナーであったのかはたまた彼の部下の暴走であったのかは定かではないモノの、ネージリンスの艦が民間人を乗せた移民船を撃沈したという事実は、カルバライヤ国民の間に最悪の形となって瞬く間に広まっていった

 

 

――そして両国の世論は開戦という方向へと突き進む形になるのであった。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 

「―――と言う訳なのです」

 

 

重い、非常に重っ苦しい空気が部屋の中に充満する。

つまりはカルバライヤの民間船をネージリンス所属の軍艦が誤認攻撃で撃沈しちまったというのがこの事件の全貌と言ったところだろう。

 

 

「ネージリンス側はこの件に関して交渉で決着をつけたかったのですが、つい先日、カルバライヤ側から宣言が行われまして・・・」

 

「宣言?」

 

「ええ。カルバライヤ星団主席、ナバロフ・ベクタランの名によるアーヴェスト宙域の領有宣言です。この図を見ていただきたい」

 

 

セグェン氏が示したボードには緑と赤で色分けされた宙域図が置かれていた。

赤い方にはカルバライヤの国旗のマーク、逆に緑にはネージリンスが描かれている。

何やら赤い方はUの字型の宙域で、ソレに食い込むように緑の宙域が伸びていた。

 

 

「見ればわかる通り、赤い方がカルバライヤ。緑が我等ネージリンスが発見した領有星です。そしてつい先日、ナバロフ主席は突然銀河中心核を基点として―――」

 

 

図面が変わり、今度は今まで緑がはみ出ていた部分が赤に変わる。

そして今までUの字の先端にあった領有星からラインが引かれた。

 

 

「―――CL665、CL617 の領有を宣言しました。このラインはナバロフラインと呼ばれ、このラインの内側にある星は全てカルバライヤのモノであるということです」

 

「成程、このラインの内側の惑星は自分たちの領有星。つまりラインの内側にあったネージリンスの量優勢は既に制圧されているんですね」

 

「まさにその通りです。ラインの内側にあった居住可能惑星の2星には既に艦隊が送られて制圧されております。テラフォーミング作業に携わっていた住民たちは皆拘束された様です」

 

 

ピッと機器を操作すると図面が消えた。

セグェン氏は此方の方に向き直ると、改めて口を開いた。

 

 

「そしてカルバライヤ側は、アーヴェスト宙域に艦隊を送り続けています。ネージリンス側もコレをカルバライヤによる侵攻作戦と判断し、対抗策として国防宇宙軍4軍の派遣を決定しました」

 

 

おk、最悪だ。完全に戦争状態になってしまった時に帰還してしまったらしい。

セグェン氏もこれまで中立派として頑張ってきたのに、報われねぇなぁ。

 

 

「ハビタブルゾーン(生命居住可能領域)を多数有するあの宙域をカルバライヤに渡すことはできません。そこで皆さまに依頼したいのです。我々の味方として、戦力として戦ってくれるようにね」

 

 

そう言って頭を下げてくるセグェン氏、だが俺としては正直非常に迷惑な話であった。

俺はあくまでキャロ嬢を送り届けただけである。

ソレが何故戦争の方棒を担ぐ様な依頼を受けなければならないのか?

 

 

「セグェンさん、生憎ウチは0G。正規軍では無くいわば傭兵の様な存在です。カルバライヤの正規軍の様に“よく訓練された”軍隊には太刀打出来ないと思いますが?」

 

 

と言うか、戦うことは出来るだろうけど、損害がバカにならないと思う。

ヤッハバッハとの戦争を控えているのに、今ココで戦力の消耗が起きるのは望ましくない。

なのでやんわりと断りを入れたのだが、セグェン氏は意に還すことも無く平然と言葉を述べた。

 

 

「このような事態において、海賊やフリーの艦船に募集をかける事はどの国でも行っている事です。そう言えば皆さんは以前エルメッツァの方に居られたとか。それなら似た様な募集を見たことがあると思います」

 

「ああ、そう言えば・・・」

 

 

そう言えば確かにアルデスタ・ルッキオ間の星間紛争で似た様な募集を見た。

セグェン氏曰く、戦力とするという理由もあるが、多くは戦力を多く見せる為の張り子のトラにする為の処置なのだという。

つまり、お互いに自分たちの勢力を大きく見せて、相手の士気を落そうとする為らしい。

弾薬補給及び整備は空間通商管理局がやってくれる為、実質国家は報酬金を払うだけで済み、長期的な視野で見れば自国の艦船が撃沈されたりする可能性を考慮した場合、圧倒的に安上がりで済むのである。

そりゃ各国で競って募集かける訳だわ。

この場合先に多くの人員を集められた方が勝者になるんだモンな。

 

 

「私としては是非とも貴方がたに、ネージリンス軍へ協力して貰いたい」

 

「それは・・・ちなみに断るとどうなりますか?」

 

「ええ、勿論突然こんなことを言われて戸惑うのも解ります。・・・ところで私の会社には諜報部がありまして」

 

 

あ、なんかやな予感。

 

 

「“たまたま”カシュケントにもセグェン社の支部があったのですが、そこで異常な量の情報が降り引きされたらしいのです。それこそ、一介の0Gをランキング上位に組み込ませられる量の名声値のやり取りがね」

 

 

・・・・だらだら、冷や汗が出てきたぜ。

 

 

「他にも、おかしな話なのですが、同じ時期にカシュケントのあるマゼラニックストリームで交易会議が行われていたのですが、その交易会議にてセグェン社の者と名乗る人間が出席していたそうです。おかしな話です。今回、カルバライヤとの緊張状態が高まっていた為、星間での渡航を制限した結果、交易会議には我が社は誰ひとりとして人員を派遣していなかったのですがね。不思議な事もあるものです。とはいえ偽造を請け負ったとされるブラックマーケットは既に逃げてしまった為、証拠も何も無いのですが・・・」

 

 

はい、偽造手形を発行した事完全にバレてますねコレ。

不味いよ、イヤマジで不味いよ。

ドンくらい不味いかって言うと、思わずリンディ茶を飲み干しちゃったくらい不味い。

前者はデータだけだから物的証拠は何もないからいいとして、問題は後者だ。

公文書偽造はどの星系国家であろうが凄まじい罪に問われるのである。

コレが知られてしまうと、最悪管理局のステーションで補給を受けられない。

そうなれば海賊に身を落すか、宇宙の藻屑と消え去るしか道が残されていないのだ。

海賊となれば、各国の警備隊、軍隊、バウンティハンターから追われる事になる。

そりゃ眼帯をした海賊はある意味浪漫だけど、流石にまだそうはなりたく無いぜ。

 

ニコニコとした表情を崩さないセグェン氏の前で笑みを張り付けたまま、

俺は胃がキリキリと痛むという事態を経験していた。

一体どこでばれたんだろうかと思ったのだが、考えてみれば丁度キャロ嬢の身分証を偽造した際にファルネリさんが付いて来ていたのを思い出した。

彼女はキャロ嬢サイドの人間である。そしてセグェン社の人間でもあるのだ。

俺の事はあくまでキャロ嬢を捜索する為に利用していたにすぎない。

勿論、時が経つにつれて徐々に仲間意識が芽生えたようだった。

だが彼女の基本的な姿勢は、全く変化していなかったのだ。

キャロ嬢がよくこぼしていたのは、俺にセグェン社に入らないかと言うこと。

もしかしたら、そうなるように仕向ける為に彼女は・・・・。

いや、安易な予想は真実を覆い隠す。下手な妄想はしない方が良い。

でもマジで参ったぜ。コレは。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Side三人称

 

ユーリが内心ウンウン唸っていることを、彼と一緒に居るトスカは感じ取っていた。

もしも彼の内心が絵に表せるのであれば、今まさに彼の内心はこんなんだろう。

 

 

_____

 | ∧ ∧.|| .| |  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 |(;゚Д゚)||o| | .< だ、誰か助け・・・!!

 |/  つ   | |  \______

   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

  パタン

ヾ'_____

 ||    |   |

 ||o   .|   |<な、何をする!離せー!!

 ||    |   |

   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

表情こそ変わらないが、冷や汗をかいているのが見えている。

それに何処かそわそわしているのを感じているのである。

ソレは非常に小さな変化であり、常人では見逃してもおかしくは無い小さなサインだ。

だが彼女も伊達にユーリの副官役を務めている訳では無い。

こういった小さな変化も見分けがつくようになっていた。

 

 

(それにしても、狸爺とはよくいったモンだねぇ)

 

 

実の所、今の状況は既に“詰んでいる”と言っても良い。

相手は既にこちらの弱みを握っているのだ。

とはいえ、その原因を作ってしまったのはある意味自分の所為である。

ヤッハバッハとの戦いに備える為に色々となりふり構わず行動した結果がコレだ。

あの時は気が付いていなかったが、今思えば随分危ない橋を渡ったモノである。

 

 

(どうする?ユーリ)

 

 

だが、トスカにはこの状況に口を挟むことが出来ない。

いや、挟むことが出来なかった。何故なら、ここで下手に口を出せば、どんなことになるのか全く予想が付かなかったからである。

ならず者たちが相手であれば、エネルギーバズで吹き飛ばせばいい。

だが相手は只の“可能性”の話をしているだけなのである。

まだ“お前たちが犯人だ”とは一言も言ってはいない。

ココで何かしらのアクションを取れば、ソレは自分たちが犯人という様なものなのだ。

 

 

「・・・・な~るほど、なるほど。ソレはまた面白い話ですねぇ」

 

「ええ、全くですよ。出来れば何故“そのようなことをしたのか”会って話してみたいものです」

 

「そうですね。ちなみに会えたとしたらどうする気なのかをお伺いしても?」

 

「とりあえず、我が社に引き込みたいと思っています」

 

「ほう!ソレはどうしてですかセグェンさん?相手は“犯罪者”なのでしょう?」

 

「だからこそ、ですかな?どんなことにも使い道はあるものですよ」

 

「・・・それは興味深いですね」

 

 

やばい、非常に胃が痛くなってきたよ。

小さな頃に失敗をして怒れる親が黙って見つめてきた時よりも痛いよ。

そうトスカは思った。同じ空気の中に居るユーリが平気そうなのを恨めしく思う。

だがトスカが予想したそれは間違っていた。

ユーリは平気なのでは無く、既に限界突破して開き直っているだけである。

既に会話内容も半分惰性の思い付きで反射で返している様なモノだった。

頭の中はグルングルンとどうすればこの場を切り抜けられるかを考えてショート寸前だったのだ。

 

ココで冷静になって考えてみると、今この場で断るのは非常に不味い。

何故ならこの星はセグェン・グラスチ社のおひざ元であり、おまけにネージリンス元首都なのである。いまこの場でこの誘いを断ろうものならば、ネージリンス側から白鯨艦隊に向けて何かしらのアクションがあってもおかしくは無いのだ。

彼らの事だ、情報収集の際に0Gランキングのログ情報くらい手に入れることは難しくは無いだろう。ソレを見ればユーリは発足から僅か数カ月で0Gランキングの上位ランカーの仲間入りを果たしている。

通常の0Gであるなら十数年、いやさ数十年掛かっても出来るかどうかの戦績をユーリは上げているのである。もしも敵軍に付いた場合、その戦略的な威力は計り知れないとグラスチ社の戦略顧問からそう分析が上がっていた。

 

実際ユーリ個人としては中立でいたいと切に願っている。

だが、ネージリンス領に来た時期が悪かった。

海賊専門の0Gとして、そして最短上位ランカーとして注目されている白鯨。

ソレを引きこめることが出来たなら、恐らくかなりの士気向上があげられる筈である。

エビで鯛を釣るという訳ではないが、彼らの名声を利用すればフリーランスの0Gを集める広告塔がわりとして使う事も出来る。

おまけにファルネリの報告によって白鯨は自前でフネを改修可能な程の技術力、倍以上の艦隊を相手に戦える戦闘能力を兼ね備えている。

歌って踊って士気向上をするアイドルでありながら、戦場で千の敵を屠れる存在。

まさに一騎当千かもしれない戦力が目の前に居るのである。

コレを士気向上に利用しない手は無い事だろう。

とくにネージリンスを拠点としているセグェン社である。

もしもネージリンスがカルバライヤに倒されれば、軍に対してもコネがあるセグェン社は即時解体される可能性が高い。セグェン氏としても、ココまで大きくした会社を自分の代で終わらせるつもりは毛頭なかったのであった。

 

 

「ところで話は変わりますが、ウチのフネの事はご存じで?」

 

「ええ、ファルネリから報告を受けています。大層大きく、また強いフネだとか」

 

「ええ、偶々見つけた遺跡がそのままフネだったので使っています。ですが実際は張りぼての様な物なんですよ。何せ機能の殆どが今だ封印中なので、全力で使えた試しが無いんです」

 

「それは難儀ですね。よろしければ我々の技術者も派遣しましょうか?」

 

「いえ、結構です。何分ウチは0Gですからね。クルーには気性が激しい奴も多いんです。それにマッド達もいますから、下手なことするとそいつらに実験台にされますね」

 

「(マッド?)・・・そうですか、ソレは残念ですな」

 

 

この後、3時間に渡る“話し合い”が行われ、セグェン氏が仕事の為に変えるまで続いた。

そして最終的には、今度の戦争にユーリ達も参戦することが決定した。

とはいえ、その性質上彼らは遊撃部隊という名の愚連隊扱いとなるらしい。

修羅場を幾度となく超えて、歴戦の艦長となりつつあったユーリであったが。

このような絡め手で利用される羽目になるとは思わなかった。

尚、偽造した件についてはユーリは最後までシラを切り通した。

彼としてはなんとなく嫌だったからそうしたのであったが、実はセグェン社の方でも偽造された身分証が使われたということが秘密裏に知れただけで、一切の証拠を持ち合わせていなかった。

お陰で彼は今後S・Gに利用されるということは無くなったのである。

 

この件についてファルネリは、身分証偽造云々に関しては、報告を上げていなかった。

彼女がそうしたのは、キャロも一緒になって偽造に手をかしたということが、万が一にもバレることを恐れたからだった。セグェン社もコングロマリットである以上、一枚岩等では無く会長派、社長派、キャロ派と言った派閥が存在しているのだ。

 

だから彼女はキャロの地位を脅かすような報告はしなかったのである。

ちなみにキャロ派とは、キャロお嬢様FCから派生した組織であり、他二つにならぶ程の規模を誇る派閥である。その組織を構成している人員は“変態と言う名の紳士”であることが多いらしい。

キャロ本人にばれれば、さぞかし冷たい目で居られそうな人種がそろっているが、彼らにしてみればソレもご褒美に含まれるのであろう。忠誠心も高いしね。

 

 

 

ソレは兎も角としてこの後、白鯨艦隊はネージリンス側に味方していく事になる。

ユーリ達にしてみれば、ある意味不本意であったが、実質軍の指揮下では無く、その所属はあくまでもネージリンス軍を攻撃しないだけの遊撃艦隊でしか無かったのが救いだろう。

つまり、ネージリンス軍を攻撃さえしなければ、大抵の事は自分たちで考えて行動できるという事でもあるのだ。最悪戦況が不利になればトンズラをしても文句は言われない。

 

この事は、我が強くて個人技能がモノを言いやすい0Gを軍の指揮下に引いても、軍としての秩序や統率性を失わせる原因にしかならないというネージリンス上層部の判断からだった。

 

兎も角参戦と決まってしまったが、ユーリはポジティブに考えることにした。

逆に考えるんだ。コレはヤッハバッハに備えた対軍訓練として利用できるぞ。

あと、正規軍に当たるかはわからないし、海賊も報奨金目当てで参戦しているのだ。

となればやることはいつもと変わらない、海賊を狩って身ぐるみ剥ぐだけである。

そん時の片手間でネージリンスを支援すればいい。

ああ、完璧だ。コレで行こう巻いて行こう!

 

 

そしてユーリは ふしぎなおどりを おどった

 

 

 *'``・* 。

        |     `*。

       ,。∩ 炎    *    もうどうにでもな~れ

      + (´・ω・`) *。+゚

      `*。 ヽ、  つ *゚*

       `・+。*・' ゚⊃ +゚

       ☆   ∪~ 。*゚

 

***

 

Sideユーリ

 

俺達はS(セグェン)・G(グラスチ)社と契約を交わし遊撃艦隊・・・・実質的には愚連隊だが、ネージリンス側に協力するにあたり、デメテールは様々な準備に忙殺されていた。

最初に与えられた任務は前線への物資補給の為に行く輸送船の護衛兼物資の輸送だった。

デメテールは非常に大きな船である為、ペイロードに通常のフネよりも数百倍の余裕がある。

その為、拡張性が少ないネージリンスのフネでは運びきれない物資を一度に運んでしまおうという目論見であった。

 

あと、コレは作戦とは特に関係は無い話なんだけど、S・G社のセグェン氏から貰ったキャロ嬢護送の報酬。

あれによって、ようやく予算に都合が付き、ついにデメテールに対艦対空戦兼用の大型ホーミングレーザーの搭載に踏み切れた。

艦隊に関してはもう少し時間が掛るが、4~5隻クラスの艦隊を建造中である。

上手いこと予算に都合が付けば、建造可能ではある事だろう。

はぁ、たかが金、されど金、世界を回す怪物相手ではウチの艦隊は手も足も出ねぇ。

 

ソレは兎も角として、ついにHL搭載に踏み切れたわけだが・・・。

デメテールは装甲が特殊な為、各所の砲口を開けるのは容易では無かった。

その為、改修作業は難航するかと思われた。

だがマッド3人衆の参謀、サナダさんの提案で、装甲板と一体化したユニットとしてHLを造り、増加装甲の様にフネに張り付ける形をとることで、フネを無理矢理改装しなくても済むことになった。

流石はマッド!通常の人間には考えもつかない事を考えつく!そこに痺れる憧れ(ry

 

とはいえデメテール程のクラスの大きさとなると、追加装甲の重量増加はかなりのものだ。

ソレと元々付いていた両舷の砲列群との位置関係も考えなければならない。

その為少なくない数のアポジモーターとスラスターの稼働域を塞いだ為、機動性が低下した。

 

だが、追加装甲と言うだけあり船体の防御力は、概算で3割近く上昇させることに成功している。

また、このフネのエンジン出力は従来のソレと比べると桁違いに出力が大きい為、船速に影響はあまり出ないという事であった。

そして外装式HLのエネルギーは、装甲板の外部ハッチの幾つかを改造した部分から伸びたエネルギーパイプによりエネルギーを供給する事が出来る。

そのエネルギーパイプ自体は外装式HL一体化装甲板と従来の装甲板の間を通るので、多少の攻撃ではびくともしない。

最悪損傷個所をパージ出来る為、ダメコンにも一役買っているという形となった。

従来の船で有れば出力と重量の問題でムリであったが、コレも凄まじいクラスの余剰出力をねん出できるデメテールならではと言ったところであろう。

改めて本艦のバケモノ具合が露見した訳だが、まぁこのフネは元々今の時代の人間が作ったもんじゃないしな。

遺跡艦という名前が付いていただけあり、今だにその全貌は隠されていると言っても良い。

改修の際、船体各所に用途不明の機器が発見されているらしい。

・・・・・流石に変形して強行型にシフトしまーす!とかないよな?無いよね!?

 

 

「ユーリ、一通りの処理はすんだよ」

 

「ウス、ご苦労様ッス。で、何人降りたッスか?」

 

「下船希望者はカルバライヤで乗り込んだ連中が殆どだね。ソレと弱気になった下船希望者がチラホラ。合わせると全体の2割って所だろうかねぇ?とりあえず希望者には給料を精算して下船させておいたよ」

 

「・・・?意外と少ないッスね?」

 

「デメテールに乗り込んでくる奴は別に国柄を気にしないというか、自分の趣味が優先でそう言ったのに興味が無いという連中ばかりだからねぇ。基本採用基準が基準がそう言う感じだし」

 

「ま、差別とか関係無しに働ける人間は貴重ッスからねぇ」

 

 

トスカ姐さんが人事から回ってきた情報を俺に伝えてくれる。

しかし全体の2割近くが降りてしまったか。コレはまた仕事が増えそうだ。

幸いなことにマゼラニックストリームで乗り込んだ連中は荒くれ者が多いのか降りて無い。

荒くれ者と書いたが、実際は細かいことは気にしない剛の者たちである。頼もしいぜ。

 

 

「一応足りない分は通商管理局を通じて補充しておいたよ。ま、降りたのが少なかったから、ウチの採用基準でもなんとか補充可能なくらいに集まったけどね。それでも実際人数は割れてるよ」

 

「はぁ、どうしてこうもお馬鹿な人間が多いんスかねぇ?」

 

「バカじゃないさ。自分の故郷を守りたいという思いは誰だって持ってはいる。ユーリもそうだろう?」

 

 

その問いに俺は一応まぁそうッスねと応えておいた。

だけど実際は自分を取り巻く人間以外は守りたいとは思わねぇんだけどね。

 

 

「しかし、人が減った事で指揮系統の混乱が起きなきゃいいんスがね」

 

「そこら辺は大丈夫だろう。ウチってそこら辺かなり柔軟だしね。やるときには気にせずやる人間が多いから大丈夫さ」

 

「それもそうッスね」

 

 

これ一見無責任に見えるかもしれないが、実際クルー達はそれが出来るんだからすごい。

なんつーか、気が付けば自分のやるべき仕事を見つけているって感じ?

コレはウチで実施している新人育成法が一因だと俺は思う。

新人達に“自分はこのフネで何が出来るか”を見つけるまでは明確な部署には点けず、船の中を転々としても良い許可を与えている。

野に放たれた羊の様に最初はオドオドとしておっかなびっくりな人間が徘徊している訳だ。

でもこのフネは0Gであり、時たま戦闘状態に入ることがある。

その時に戦闘準備に加わる人間は基本的に戦闘系部署のどれかに付くのだ。

逆にこの時に動かなければ、科学班、整備班、機関室、補給、生活班のどれかになる。

一応人事に希望を出せば、そこに配属される事も可能ではあるが、やはり自分の性に合った仕事の方が長続きするだろうし、やりがいも見つけやすいだろう。

尚ウチは万年人手不足である為、どこも定員割れを起しているため、多少の人為に同程度では特に問題が起きたりしなかったりする。閑話休題。

 

 

「ああ、それともう一人志願した凄いヤツが居たんだった」

 

 

さて、人員の補給リストを適当に眺めていると、トスカ姐さんがそう言ってきた。

・・・?この時期誰か仲間に入る人間なんて居たっけ?

 

 

「凄いヤツッスか?誰ッス?」

 

「最近ようやく復帰できた奴で――≪プシュー≫――っと、丁度良い。ご本人の登場だ」

 

 

と、その時ブリッジのエアロックが外れる音が響いた。

 

 

「・・・」

 

「あれ?あんたは確か・・・ブルファンゴ・ぺズン!」

 

「そのようなイノシシのバケモノみたいな名前では無い!!―――ごほん、ゼーペンスト本国艦隊司令のヴルゴ・べズンだ。君に救出され、こうして生き恥を曝している貰っている」

 

 

そこに居たのは明らかに武人オーラ出しまくりなヴルゴ将軍その人であった。

ちなみにこの人、アバリスと別れる際に大けがで集中治療室に入れっぱなしになっており、脱出し忘れた哀れな人物でもある。

・・・・下手したらこの人も一緒に宇宙の藻屑になってたんだよなぁ。

いやぁ生きてて良かった。

 

 

「はは、生き恥ッスか。いやでもそれでも生きていてよかったスね」

 

「そう、だろうか?」

 

「そうッスよ、それに俺はアンタのその生きざまが格好良く見えた。だからこそ態々爆散した船から救出したんスよ。いやー、しかし大怪我だったし本当によく生き残れたというか・・・うん、よかったよかった」

 

 

実を言うと、今の今までずっと忘れてたんだけどな!!

ソレを言ったら俺の威厳が下がるから言わない!これぞユーリクオリティ!

 

 

「(この少年は・・・いや、この艦長はそこまで私を買ってくれていたのか)」

 

「・・・・?あの、ヴルゴさん?どうかしたッスか?」

 

「(モノ言いには若干ふざけている部分が見受けられるが、人をよく見ているようだ。クルー達の信頼も厚い・・・ふむ)」

 

「あのー、ちょっとー、急に黙らないでほしいッスー」

 

 

あのね、大男が無言になると結構こわいのよ?

 

 

「うむ・・・。いやなに、ゼーペンストが滅んだ今、この命を君の為に使わせてもらおう。どうか好きに使ってくれ」

 

「おお、ソレはありがたいッス。何せ万年人手不足で大変だったッスからねぇ~。ともあれよろしくッス」

 

 

彼はゼーペンスト自治領とはいえ、70隻近い艦隊を率いていた男だ。

さぞかし能力は高い事だろう、潰さない程度にこき使う事にしよう。

あ、そう言えば・・・・

 

 

「ところで、なんでバハシュールの部下に?ヴルゴさんなら0Gとして名をはせていても不思議は無いと思うんスが?」

 

「まだ私が若りし頃、航海中に海賊に襲われていたところを先代のゼーペンスト領主さまに救われてな。その時、新天地を求めて旅を為されていた領主さまの下に付き、共に苦難の旅を超えてゼーペンスト領を発見した」

 

 

ふとヴルゴさんの目つきが懐かしいモノを思い出す目になった。

 

 

「それ以来私は。ゼーペンストに身を置くようになったが、私も元はネージリンスの出。恩ある領主さまからご子息を守る様に願われて、叶えずにはいられる身では無かったのだ」

 

「そうだったんスか」

 

「私はそう言った古い人間なのかもしれんな」

 

「いやいや、貴方は最後まで先代の領主に忠義を尽くしたんだ。ソレは評価されてしかるべきッスよ。そのご子息を倒した俺達が言うべき言葉じゃないのかも知れないんスがね」

 

「いや、宇宙では弱肉強食が当たり前だ。それをご子息に教育で来ていなかったのは我々家臣の失敗だ。あのお方のご子息なのだから大丈夫。そう言った色眼鏡で見ていたのかも知れん」

 

「ヴルゴさん・・・」

 

「少々愚痴っぽくなってしまったな。気にしないでくれたまえ艦長」

 

「いや、貴方は今の時代には珍しい、とても信用が置ける人間であると改めて理解した」

 

 

こういう人間は貴重だ。仕える人間の為に何処までも付きしたがってくれる。

0Gドックは個人主義者が多い為、裏切り等も日常茶飯事だ。

ウチではそう言うことは少ないだろうが、無いに越したことは無いぜ。

ともあれ、この人物は使えると決めた人間を裏切ることは無いだろう。

そう思わせる何かを、この人から感じたからだ。

 

 

「ヴルゴ・べズン」

 

「ああ――いや・・・はい。艦長」

 

 

なので、俺も久々に、少しばかり真面目に応えようと思う。

 

 

「貴方は自分の命を俺の為に使っても良いと言った。ソレは真か?」

 

 

ジッと相手の目を見つめる。

彼は俺の視線から目を離すことなく、淡々とした、それでいて嘘いつわりの無い声で返した。

 

 

「真であります」

 

「よろしい。なら貴方はいずれ新設する白鯨艦隊の分艦隊司令官に任命しよう」

 

「・・・・・え?」

 

「といっても殆どが無人艦なんだが、ネージリンスで良いAI技術が手に入ったからな。運用に問題は無いとは思う。その時の貴方の活躍に期待する。―――俺の信用裏切んなよ?」

 

「は!はいっ!ソレは肝に銘じてっ!!」

 

 

うわっは、耳がキーンってなった。お前も超音波兵装を自前で持ってる口か。

ともあれ、しばらくヴルゴは唖然としていた。

そりゃそうだろう、復帰してすぐに艦隊の司令官とか普通は無い。

だが、コレも個人の力がデカイ0Gならではの人事と言っても良いだろう。

俺が相当にポカやヘマや外道に走らない限り、コイツは裏切らないだろう。

だからこそ、俺はヴルゴさんを信用し艦隊を預けるのだ。

くくく、そして普段は書類整理の山でおぼれるがいい!

・・・実を言うとソレが本音だったり、俺って外道ね!

 

とはいえ、今はまだリシテア以外の艦の完成が遅れているからあくまで名目上だがな。

それでもこういった堅実な武人が仲間になるのは心強い。

てな訳でトスカ姐さんに視線を送ると、すでに手続きをやってくれていた。

流石はトスカ姐さん、空気読めるぜ。

こうして俺のフネに新たな仲間が加わったのであった。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Side三人称

 

 

さて、ユーリ達が出港準備を進めている頃、デメテールの医務室では―――

 

 

「・・・・・あん?ここ、は?―――しらねぇ天井だ」

 

 

―――あの男が目を覚まそうとしていた。

 

そう言わず知れたギリアスその人である。

彼はバウンゼィが撃沈された際に大けがを負い、いまの今まで眠り続けていたのだ。

 

 

「クソ、どういうことだ?俺は生きてんのか?――ッ」

 

 

今だ痛む身体を見ると、明らかに治療された跡がある事に気が付いたギリアス。

どうやら命だけは助かったようだと彼は思っていた。

しかし、何故自分はあの爆発の中生き残り、こんな小奇麗な個室に寝かされていたのだろうかと思考を巡らせていた。

だが、彼は元来本能で動くタイプであり、あまり深く考えないウチに何らかの理由で生かされたと考えるに至った。

実際は彼はバウンゼィから白鯨艦隊のユーリ達によって救助され、今ココに居る。

だが、今の今まで眠り続けていた彼にとって、そんな事態は全く分からなかった。

 

 

「クソ、訳が解んねぇ・・・あのバカが俺を生かす理由なんてあるのか?」

 

 

ココに来て、ギリアスはまず多大な勘違いを起していた。

まず彼を助けたのは、何故か彼と戦っていたあの男という風に勘違いしていた。

ソレは別に相手が自分の知り合いだからでは無く、相手の事だから自分を生かして利用しようと、普段使わない頭を使い、奇跡の様な勘違いを起した結果であった。

いま起している勘違いに使われた脳力の十分の一でも普段の行動に使われていれば、少なくても今も大マゼランを駆け廻っていた事だろう。

とにかく、ココを脱出しなけらばならない。

あいつの事だ、誰ひとり信用していないから部下もいないのだろう。

だとすればこの部屋がある区画は無人であるという可能性が高い。

よしんばドロイドが居ても、素手でブチ壊せる自信はあった。

というか、コイツもある意味で脳筋である。

 

 

「とにかく、ココを抜けだし――「う~ん」・・・だれだ!?」

 

 

突如として聞こえた声に、ギリアスは身構えた。

実はこの個室にはもう一人重症患者が寝かされていた。

誰なのかと言うと―――

 

 

「あ、副官!お前も生きてたんか!!」

 

 

――あの色んな意味で苦労人の副官さんであった。

彼の傷はギリアスよりもずっと軽かった。とはいえ一般人基準では重症である。

こんな腹に船の破片が突き刺さって今の今まで昏睡していたのに、今は普通に動き回れるような謎の回復力を持つ男とは根本的に違うのだ。

とにかくギリアスは知り合いを見つけて内心安堵しつつ声をかけるモノの、やはりと言ってはアレだが、身体能力一般人である副官は目を覚まさなかった。

 

 

「・・・チッ、仕方ねぇな」

 

 

ギリアスはそう言うと自らが寝かされていたベッドからシーツをはぎ取った。

そして今だ眠り続ける副官を背負うと、自分とシーツで縛って固定させる。

 

 

「コレで動き回る分には大丈夫だろう」

 

シーツで固定したお陰である程度両手が自由に動かせる。

コレで逃げる時もデッドウェイトの副官は邪魔にならない。

 

 

「しっかし、アイツ身体検査しなかったのか?隠し携帯端末そのまんまだぜ」

 

 

彼は何時も額につけている赤いハチマキを取り外す。

そのハチマキの中には非常に薄くて小さな小型の携帯端末が仕込まれていた。

何故これの存在に気が付かなかったのか疑問に思ったが、まぁアイツもバカだしなという超理論で勝手に納得した。

ピッピッと携帯端末を操作すると、小さな画面に光点が示される。

この携帯端末は非常に薄くて小さくて壊れにくい代わりに機能が限定されていた。

だが、その機能と言うのが―――

 

 

「よし、バウンゼィも捕獲されたみたいだな。俺ぁついてるぜ!」

 

 

―――自分のフネへのナビ機能であった。

性格には双方向の特殊ビーコンによってお互いの位置を確認する為の物である。

ココでもしギリアスが自分の居たベッドの下を覗き込むことがあったとしよう。

そうすれば、彼は今自分がいる場所が少なくても敵のフネか基地では無いことを知った事だろう。

彼のベッドの下には、彼の持ちモノである剣や普段使っている携帯端末が置きっぱなしになっていたのだから。

ソレは兎も角、彼は両腕を使っても副官がずり落ちない事を確認すると、そのままドアへと近づいた。

 

 

「どっせい!」

 

≪どっごーーーーーん!!!!!!!!!!!!!!!!!!≫

 

 

彼はそのままドアを蹴り破った。お前は人間か?

 

 

「脱出に成功した!ココからは隠密行動で行くぜ!!」

 

 

すでに大きな音を立てているのに、隠密もクソも無いと思うのだが。

細かいことは気にしないというか、一応まだ怪我の後遺症で思考力が低下しているギリアスは遠慮しなかった。

隠密行動と言っておきながら、堂々と廊下を通り“よし、ココは通気口を行くのがお約束だ”と、ある種のホラー映画なら死亡フラグ満載の場所へ入り込んだ。

ちなみに幸か不幸か、ギリアスがいた病室周辺には人が全くいなかった。

まず人員と言う人員が輸送する為の物資の積み込み作業で出払っていた。

人手が足りない為、開いている部署の人間も手伝いに出かけたからである。

またこの時代医療は進歩しており、ある程度の外傷及び病気は治療ポッドに入っているだけで治療が出来た。

その為、普段は診療設備で大酒をかっ喰らっている筈のサドも、もしもの時の為の治療係として艦内の巡回に出ていたのである。

その為、ギリアスがいた病室周辺には誰も人がいない状況となってしまったのだ。

なにせサドの診察では少なくても後数日は目覚めないと思われていたのである。

常人離れした体力と生命力はいかに経験豊富な医者であっても、こんなに早く回復するとは予想する事は出来なかったのだ。生命の神秘である。

そして、最大の問題点としてギリアスが入りこんだのが通風口、エアダクトの中であった事だった。

ふだんデメテールの中は、保安部と統括AIユピテルによって監視されている。

だがコレだけでかいフネであるうえ、今まで眠っていた事もあり、彼らでも部分的には監視できない区画がいくつか存在していた

その数少ない監視が不可能なエリアがエアダクトの中であった。

出入口近辺は監視装置が働いているのだが、エアダクトの中にまで監視装置はつけなかった。

また、丁度この時艦内を監視していたであろうAIは、艦長との“雑談”に全システムを傾けていたため艦内では部分的に監視が甘くなっていた。

普通は有り得ないのだが、マッド共に改造されたユピだからこそ、いやさこの艦隊の空気によってはぐくまれた複雑で有機的なマトリクスを形成しているユピだからこその凡ミスであった。

このように、この場所が敵の基地か何かだと思い込んでいるギリアスにとっては幸運だが、真実を知れば不幸だと思えるほどの偶然が重なり、ギリアスは居住区から逃げだしたのであった。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Sideユーリ

 

さて、改装の間に輸送する物資の積み込みも行われ、急ピッチで発進準備が進められた。

フネの準備は滞りなく進んだ・・・・・・かに見えてそうでもない。

実の所、管理局のステーションが使えないから手作業で搬入する訳だ。

管理局のそれよりかは時間が掛るのも仕方が無いだろう。フネ自体デカイしね。

一応手元に送られてきた搬入予定のデータを確認していく作業は、眠い。

いや、もうほんと尋常じゃない量なんだぜ?

A4サイズに起したら軽く伝記並の厚さになると思えるくらいにさ。

でも確認しない訳にはいかないから、とりあえず種類別に大別して確認中。

基本的には医薬品、雑貨、手紙や嗜好品が幾つかだった。

手紙や嗜好品は何で?って思われるかもしれないが、戦場では情報統制という目的でテレビやインターネットすら制限が入る。

そんな訳で前線の兵士にとっての娯楽品はまさに飛ぶように売れていく。

云十万の兵士が一気に買う訳だから、前線基地のPX程度ではすぐに売り切れになる。

だから補給品扱いで追加注文が入るという訳である。

また一人身では無い家族持ちの兵士もいる訳で、手紙を輸送するのはその為でもあるのだ。

家族からの励ましと無事を祈る手紙は、いつの時代でも重宝されるのであろう。

ただその手紙の幾つかには写真入りが入っていることが多いらしい。

当然家族や恋人や自分の子供の写真が入っている訳で・・・。

ああこれでまた“俺、帰ったら結婚するんだ”とか“可愛いだろう?母親似なんだぜ”とかいう死亡フラグ生産機が増えるって訳だ。

チョンガーでその手の話を聞かされる輩はご愁傷様って感じだな。

 

 

「・・・・・ん?」

 

 

さて、確認作業をしていると、目録のある項目が目にとまった。

ソレは実際に搬入されてきた物資の情報をユピが好意で表示してくれているものだったんだが、事前に知らされていたのとは違うモノが紛れ込んでいた。

 

 

「ユピ、ネージリンスの補給担当の人と回線つないで」

 

「はい、艦長」

 

 

回線は少し待ってからつながった。

出たのはネージリンスの補給を担当している後方支援士官である壮年のおっさん。

軍人の筈なのに、何処かくたびれたサラリーマンの様な気配漂う人物だった。

 

 

「遊撃艦隊の旗艦デメテールのユーリです。お忙しいところすみません。少々聞きたい事がありまして」

 

『はいはい、なんでしょうか?搬入に時間でも掛かりそうですか?』

 

 

戦時中の後方支援はまさに戦場である。

戦闘の時と違い前線の兵士を常に支えているのだから、かなりの忙しさだろ。

だが、補給担当官はそんなことをつゆほどにも感じさせない愛想笑いで応答してくれた。

流石はプロであろう。

 

 

「それじゃあ単刀直入に言います。そちらから提供された此方が輸送する手筈の補給物資の目録では、本艦が担当する物資は生活物資及び娯楽品及び医薬品及び食料の筈ですよね?」

 

『えーと、デメテール、艦長はユーリ・・・・はい、確かにそちらが輸送なさるのは生活物資ですね。それと前線ご家族のお手紙とかですハイ』

 

「こちらに実際に搬入されたリストに、明らかに武器弾薬のコンテナが紛れ込んでいるですが?」

 

『・・・・・・・』

 

「・・・・・・・」

 

 

おい、そこで黙るなよ。

だが、よく見ると補給担当官は「そんなはずは」と言いつつ冷や汗を流している。

どうやら向うにとっても手違いであったらしい。確認するから待ってくれと言われた。

しかし、ウチの方の倉庫には既に武器弾薬のコンテナが搬入されている。

すぐにソレらに付いて確認出来たらしく、通信が再度つながった。

 

 

『も、申し訳ありません!そちらに言っている武器コンテナは先程出港した輸送艦に乗せる筈のコンテナです!何かしらの手違いでそちらに搬送されていた様で・・・もうしわけありません』

 

 

画面の向こうで白髪交じりの髪を振りながら補給担当官が必死に頭を下げていた。

すげぇな。この人。普通軍人が宇宙の無法者である0Gドッグに頭なんて下げたりはしない。

よっぽどのお人よしか、はたまたそう言う仮面なのか・・・前者を希望したいね。

 

 

「仕方ありませんね。とりあえず邪魔にならない位置に置いておくので回収よろしく尾根がしますね」

 

『え!?い、いや待ってください!出来ればその武器弾薬も序でに運んでは――』

 

「ダメですよ。ウチが請け負ったのは生活物資関連だったじゃないですか」

 

『そこをなんとか!今送らないと間に合わないんです!』

 

「そこら辺はウチの知ったこっちゃないとこですね」

 

 

今、ユピがコンテナの状況を確認してくれたのだが、運びやすいように簡易梱包しかされて無いそうだ。

ちなみに中身には量子弾頭やらミサイルの弾頭が詰め込まれているらしい。

この手のコンテナは専門の輸送船が衝撃を加えないように慎重に運ぶ。

ミサイル弾頭はまだいい、量子弾頭がフネ内部で爆発しようものなら完璧に消滅だ。

だから専用設備も無いのにミサイル系弾頭を運ぶのは命がけなのである。

 

 

『そこをなんとか』

 

「ムリです」

 

『お願いします』

 

「ムリです」

 

『でもほら、貴方のフネならそうったのを運ぶ設備が――』

 

「ありません」

 

『またまた、今時ミサイルを積んでないフネなんて』

 

「ははは、ウチが該当したみたいですねー」

 

『だけどきっと貴方なら断らない』

 

「だが断る」

 

『即断!?そこに痺れる憧れ――』

 

「まて、それ以上は不味い―――話を戻そうじゃないか」

 

 

この後、持ってていや無理だの話は平行線をたどった。

途中で変な電波が入り、大宇宙の意思に修正されるかと思ったぜ。

まぁ今の積載量から言うと、ペイロードにはまだかなりの余裕がある。

大居住区の方まで使用すればもっと積めることだろう。

だけど、流石に専門の設備も無いのに兵器、特にミサイル弾頭系を運ぶのはいただけない。

万が一襲撃があって爆発でもしたらどうしてくれる?

 

 

「先程から言っているように、ウチでは無理です」

 

『・・・・はぁ、仕方ありませんね。まぁ大体予想は付いてましたし・・・・』

 

「・・・・(予想付いてたなら、何であそこまで食い下がったんだろうか?)」

 

『それも中間管理職の辛いところですよ』

 

「いや、心読まないでください」

 

 

ネージリンスの補給担当官はバケモノか!と俺は戦慄していた。

兎に角、あの武装コンテナは送り返すことに決定した。

最初からリストには記載されて無かったし、俺のフネは弾頭を運ぶ船では無い。

だから別に断っても問題無い筈なんだが、通信を切る前に「お前空気読めよ」的な補給担当官の視線がウザかったぜ。

あ~、こんな時に生活班のアコーさんがいればなぁ。

輸送や物資の取り扱いについてはウチで一番だったし・・・。

ま、居ない人を求めてもしょうがないから、今自分に出来ることを頑張るっぺ。

・・・そんなことを考えていたその時であった――――

 

 

≪―――ズゴガァァァァァン!!!!!!!≫

 

「うわっぷ!?」

 

「キャッ!」

 

 

―――唐突にデメテールに振動が走り、転びそうになった。あ、白だ。

 

 

「な、何が?デブリの巨大なヤツでも衝突したッスか?」

 

 

転んだユピを助け起こしていたその時。

フネの外を映していたモニターの一つに信じられないモノが映っていた。

デメテールの艦船用ハッチをブチ破り、中からバウンゼィが飛びだして、そのままあらぬ方向へと飛んで行ってしまったのである。

 

・・・・何がどうなってるんだ?

俺は茫然とバウンゼィが点になるまでモニターを見つめていた。

なんとか再起動したときには、既にバウンゼィの姿は無くなっていたのであった。

 

 

「な、なんでバウンゼィが――」

 

「そう言えば、ケセイヤさんが余った資材でバウンゼィを修理してました」

 

「え?俺なんも聞いてないよ?」

 

「“ライバルと再開した時に絶対騒ぎになる筈だから、「こんな事もあろうかとフネを修理しておいた」をする為に修理しておくぜ!艦長には内緒な!”・・・とか言ってましたけど」

 

 

あの野郎、変なサプライズをするんじゃねぇよ。

でも何でまたいきなりバウンゼィが発進したんだ?

大体ギリアスは病室に居る筈だし、誰が乗って・・・・・・・・。

 

 

「ね、ねぇユピ?ギリアス達は何処に居るか判るッスか?」

 

「え?医務室に――へ?あ、あれ~!?」

 

「や、やっぱりか・・・・あれにはギリアスが乗ってたのね。つ、通信は!!??」

 

「―――ダメです。全部カットしてるみたいです」

 

 

あ、あの野郎。助けた御礼も言わずに、ウチのフネの外壁傷つけて飛びだしたんかい!

つーか修理代金くらい払え!駐船代も!あと何故ハッチを壊したし?!

 

 

「あ、あと、医務室の扉も破壊されてます。移動したと思われるエアダクトも何カ所か破壊痕を確認しました。そ、そんな私の監視網のスキマを縫って行ったって言うの!?」

 

「デメテールの中まで・・・あの脳筋の大バカ野郎っ!!」

 

 

この、あまりにも予想外な事態の所為でデメテールの外壁修理に人を取られた。

今まで順調で予定よりも早く終わる筈が、ギリアスの所為で予定ギリギリに出港という事に。

おまけに修理代まで嵩む・・・あの大バカ野郎め、今度会ったらタダでは済まさんぞーー!!

 

 

―――そして、ギリギリにデメテールはなんとか出港できたのであった。

 

 

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第四十九章+第五十章+第五十一章

 

さて、あのお馬鹿は放っておいてと・・・・・絶対今度会えたら修理費請求してやる。と、話がそれちまったが、デメテールはネージリンス外縁部にある惑星ミラを経由し、そこからボイドゲートに入った。転移した先はネージリンスに属するアーヴェスト星系セクターβ、通称アーヴェストβ。

一応航路自体は絶対防衛圏内の為、特に敵と遭遇することなく目的地へと到達する。まぁ此処を突破されると首都惑星まで目と鼻の先だから、こんな所で敵と遭遇したらもうネージリンス詰んだなって状態なんだけどな。だから此処での戦闘は有り得ない。あるとすればもう少し先の方だろう。

 

さて、本船の目的地は前線統合司令部がある惑星アーマインである。今回はステルスを展開せず、一緒に物資を輸送する輸送船団と共にアーマインの宙域へとやってきたのだ。まぁ輸送船団の規模とデメテール一隻の大きさを比べると、何故か後者の方が大きく見えるんだから不思議だな。

輸送船団自体は大きさが1000mあるかないかのフネが殆どだし、ならべばマグロ対サンマって感じに見える事だろう。

 

 

「・・・物々しい雰囲気ッス」

 

「ココは最前線だからねぇ。ネージの連中も真剣なんだろうさ」

 

 

ソレはさて置き、モニターにはアーマインを中心に200万kmの宙域に縦しん陣形で展開しているネージリンスの艦隊が映っていた。船体番号やエンブレムから、展開中の艦隊はヒュリアス・マセッフ提督率いるネージリンス主力艦隊らしい。

 

 

「成程、流石は正規軍主力艦隊ッス、綺麗に陣形を組んじゃってまぁ・・・俺らみたいな無頼漢とは格が違い過ぎるってワケッスね~」

 

「ああやって態々陣形を組んでいるのも、そういった意味合いがあるのかもしれないねぇ」

 

 

まぁココは最前線だが、同時に色んな戦力が集まる場所でもある訳で、俺らは別に気にしていないと思うが、連中は国の威信も掛かっている訳だ。こうやって力を誇示しておかないと、俺達みたいなフリーランス0Gが逃げだしたりして、寄せ集めに近い軍が崩壊してしまうとかかんがえてるんだろうぁ。

まぁご苦労様なこって、職業軍人とか大変なんだろうなぁ。

 

 

「艦長、間もなく惑星アーマインに到達します」

 

 

と、上の空で適当に考えていたらミドリさんからの報告が入る。

数隻の艦隊とタグボート役の艦艇が接近してきていた。

 

 

「ちゃんとこっちの情報は正規軍に届いてるッスか?近づいただけで撃たれるとかはゴメンッスよ?」

 

「先程確認しました。管理局は既に伝えたと言って来ています。それと序でに停船エリアは荷を降ろした後は惑星を挟んで反対側にしておいてほしいそうです。輸送船が大量に発着するのでデメテールのような巨艦は邪魔だとか」

 

 

現在戦時中だから、戦闘艦や輸送船がひっきりなしに往来している。

そんな中にこんなデカイフネがいたら確かに邪魔だろうな。

とはいえ、管理局の管制ドロイドらしいその台詞に、少しトスカ姐さんはご立腹。

 

 

「さっすが血も肉も無いドロイド、冷たいこと言ってくれるねぇ」

 

「むぅ、私も純粋な意味で血と肉は無いんですけど?」

 

「あんたはもうドロイドでもAIでも無いだろうが」

 

「・・・ソレもそうですね」

 

「あー。とりあえず話進めて良いッスか?」

 

 

ユピとトスカ姐さんが何やら言いあっているのを横目に、話を進める事にしよう。とりあえずタグボートに案内され、仮の停船場所にデメテールを停船させた後、船体各所にある大小様々なハッチを全て解放し、ハシケを使って荷を運びだしてもらう運びとなった。

 

 軌道エレベーター付きの管理局ステーションもあるちゃあるが、そのどれもがデメテールを収容するに至らない大きさのステーションでしか無い。まぁデメテールの大きさは中規模ステーションの大きさとほぼ同じだから仕方ないことだと言える。

 

 百は行くんじゃないかというくらいのハシケや輸送船がデメテールの各ハッチに取りついて、貴重な輸送品を運びだして行く作業を確認した後、一応司令部に出頭してくださいとの旨を受けた為、俺はトスカ姐さんや護衛の保安部員を何名か引き連れて、リシテアに乗り込みアーマインへと降りることにした。

ユピも来たがったが、今回彼女にはユピテル内の警戒を厳にしてほしかったので居残ってもらった。一応ネージリンス軍は友軍であるが・・・・まぁ何時の間にかスパイが入り込む可能性も無きに下あらずだしな。用心しておくにこしたことは無いぜ。

 

 

「うう~、副長ずるいです」

 

「おいおい、お偉いさん達との会合は結構疲れるんだよ?」

 

「でも、艦長と一緒・・・妬ましや・・・」

 

 

 なにやらパルパルとした気配を背筋に感じたが、背後には誰もいない。ナニソレ怖い。

 ともあれ、俺らは惑星アーマインに降りた訳だが、流石は防衛ラインを引いている星だけあり、慌しさと戦争前の熱気というかふいんき?いや雰囲気か、ソレが凄い事になっていた。殺気立つ益荒男も多くいそうだったので、ダバダバいくと危険だと判断した俺は、適当に目立たない様に車に乗って司令部へと向かった。

 

何せ聞き耳を立てると――――

 

“カードゥはぶっ殺すー!”

 

“金さえもらえれば戦うさ。それが人間でもな”

 

“逃げないヤツはカードゥだ。逃げるヤツはよく訓練されたカードゥだ!”

 

“汚物は消毒だー!”“俺の名前を言ってみろ!”“ひゃっはー!我慢できねぇー!”

 

“らんらんるー☆”“おおきくわはー♪”

 

――――などと聞こえてくるので、あんまり近づきたくはないのである。カオスだぜ。

 

 

 さて、司令部の前に付くと、検問が設けられており途中で身分証の提示を求められた。一応0Gとしての身分証であるナショナリティコードを持っているのでソレを提示した所、門兵は手持の小型端末にて照会していた。俺の事が解ると律儀に敬礼してきたのでこちらも手を振って返しておく。

 

 司令部の近くで車を止めた後、施設の中に入り司令本部のある会議室へ向かった。さて、蛇が出るか竜が出るか、どちらにしろ面倒臭い事に変わりは無いがな。

 

 

 

 

 司令部の中も外とあまり変わらず人が蠢いている。そりゃ何時戦闘状態になるか分からんのだから、常に臨戦態勢みたいな感じなのだろう。しかし正直この殺気だった空気の中を移動するのはなんとなく辛い。

 俺達は0Gであるが為、何とも言えない浮いた感があってだな。そうだな、マ○クにカー○ル・サンダ○スが来ちゃったくらいの浮いた感だろうか?いや、むしろド○ルドとカ○ネルが一緒に肩を並べてモスに入っちゃったくらいの違和感?ああ、モス食いてぇ。

 

まぁとりあえず、奥に通してもらい軍人さん達が沢山いる部屋に通された。そこには所謂艦長の帽子をかぶった人間がチラホラ・・・どうやらネージリンス航宙軍の軍人さんらしい。

 

 

「ん?君たちは?」

 

 

何やら話しあっている軍人の一人が俺達に気が付き、声をかけてくる。面倒臭いが応対しない訳にもいかない。てな訳で―――

 

 

「ネージリンス軍、遊撃艦隊として協力する事になった0Gドックのユーリです」

 

「ユーリ?ああ、話しは聞いている。よくネージリンスに参加してくれた」

 

 

 そう言ってねぎらってくれた軍人さんは、ネージリンス軍正規軍の服装から察するに、将官もしくは佐官クラスの人間、しかも船乗りかなぁって感じだった。つーか、アレだ。艦長がつける様な帽子つけてればいやでも艦船の関係者に見えてくるぜ。

 

 俺に気が付いて声をかけてくれたその人はワレンプスと名乗った。階級はやっぱりというか何と言うか航宙軍統合軍大佐という何とも仰々しい肩書きをお持ちのお方でした。軍人の割には意外と柔軟な思考をお持ちの様で、0Gの俺達にも普通に接してくれる。

 

 とりあえず此処まで運んできた物資の目録党を渡し、どうするべきか指示を待った。このワレンプス大佐がこの司令部の中ではかなり上位の人間らしく、指示を結構取り仕切っているようで、俺達は邪魔にならねぇように隅っこで指示を待っていたのだ。

 

とはいえ前線構築でお忙しい皆さんを後目に只待つというのもスッゲェ暇であり、音楽プレイヤーでも買っとけばよかったかなぁとか考えていた。この世界にIポッド的なモンが売ってるかなぁ?あーでも流石にプレイヤーくらいあ―――

 

 

「お待たせした。君たちには今後色々と協力して貰うのだが、その前に一人クルーを紹介しておきたいのだが、良いかね?」

 

「クルーですか?」

 

「ああ、彼を君たちのクルーとして使って欲しいんだ。エルイット君、きてくれたまえ」

 

 

ワレンプス大佐はそう言うと何やら控えていた人物を手招きした。

 

 

「はっ―――エルイット・レーフ少尉だ。よろしく」

 

「彼は機関士としても優秀でな。中々役に立つとは思うぞ」

 

 

 そう言われエルイット少尉を一瞥する、一見頼りなさそうな男だが、ワレンプス大佐がそう評しているからには本当の事なのだろうか。それとも単なる身内贔屓なのか。もし後者なら正直いらんのだけど。

 

 

「ふーむ、機関士、ねぇ?」

 

「エリートエンジニアとして、ちょっとは知られた名前なんだ。頼りにしてくれて良いよ」

 

 

 俺が漏らした言葉にそう返すエルイット。おま、地獄耳か?

あれか?元いじめられっ子でその手の言葉には敏感とかそういうオチか!?

 

 

「ふん、はっきり言いなよ。ウチらの監視役だってさ」

 

 

 エルイット少尉が下がると、トスカ姐さんがそう言った。

 監視役ねぇ、まぁ確かにこの時期に紹介してくるとか・・・そうかもしれんなぁ。

 まぁ一応の雇い主である軍からの紹介だから無碍に出来ないのが辛いぜ。

 

 

「ま、俺らみたいなフリーの連中をそのまま使う訳もないし、正規の軍人が観戦武官として乗り込むくらい予想してたッスけどね」

 

「はは、そんなにはっきり言うと、ほれ、ワビサビってヤツが無いじゃないか」

 

「なぁ~に言ってんだい。親切ごかしに言われる方がよっぽど性質が悪いよ」

 

「トスカさん、別に良いッスよ。俺は気にしないッス(第一、ユピがいるウチでスパイ活動なんて出来ると思うッスか?)」

 

「(・・・・ソレもそうだねぇ。この間あのバカが逃げた時から徐々に監視装置も増やしたしね)」

 

「(そう言う事ッス。まぁともあれ)――よろしくお願いいたします。エルイット少尉」

 

「う、うん、よろしく艦長」

 

 

 トクガワ機関長の自称弟子のルーべが抜けた穴を塞ぐくらいの腕があればいいんだが・・・。

 

 

「さて、この後我々はどうすれば?」

 

「うん、二つの作戦に協力して貰いたい」

 

 

―――ワレンプス大佐から示されたのは二つの作戦の概要だった。

 

 一つは惑星ナヴァラを拠点に、遊撃隊として敵の戦力を削ってもらうこと。0Gである俺達は正規の指揮系統に組み込むことは難しい。だから0Gらしく好き勝手やってくれと言うことだろう。多少お堅い言葉で飾ってあるのは軍隊の癖みたいなもんだから気にしない。

 

 もう一つは惑星ユーロウを拠点に敵輸送ラインの破壊作戦だ。戦いは数とは言うが、それよりも大切なことは後方からの支援物資を前線に届けることだ。どんなに精強な軍隊でも後方支援が無ければ戦うことは出来ないということは有史以来、人が戦いをおこなうようになってからの絶対の法則であると言えよう。ま、ようは通商破壊任務ね。

 

 

「いずれも、それぞれの星の作戦本部で任務確認をした上で実行してくれたまえ。それぞれの基地への橋渡し役はエルイットがやってくれるはずだ」

 

 

 どうやらエルイット少尉はこの宙域で俺達が行動する為の“通行証”代わりらしいな。

 つまり、下手に放逐出来ないという事でもある。考えてんなー。

 

 

「国家間での戦争においてスタンドプレーはまず無意味だ。統率を崩さず確実に相手の戦力と補給路を断つ。地道な作戦だが、その積み重ねが大局を決する。君たちも各基地の命令をよく聞き、作戦を実行してくれ。たのんだよ」

 

 

最後にそう締めくくって、今回の顔合わせ兼今後の方針を教えてもらった。

 まぁ一応各基地の命令には従うぜ?とはいえ最悪逃げるけどな。死にたくないし。

 

 さて、そんなこんなで司令部から出てきたのだが、相変わらずあのカオスな熱気は収まっていなかった。むしろ悪化している。誰だオフロードバイクにとげとげをくっつけて違法改造したバカは?どうでもいいが民間人が火炎放射機って持ってていいのか?・・・あ、警察に捕まってら。

 

 

―――戦争、ソレは社会に多大な混乱をもたらすという。

 

 

もたらし過ぎじゃね?と思ったのは俺だけの秘密。

 

 

***

 

 

 さて、新たな仲間を迎えた後、一応指示を貰ったので、俺達はそれに沿って行動する事になった。とりあえず現在の戦略図を眺め、眺め、眺め、眺めても決まらなかったんで鉛筆立てて倒れた方に決めたらユーロウになった。

 

何?適当?良いんだよ、適当でも。どっち言っても戦争する事に変わりないんだからさ。 そんな訳で自室でユーロウに行く事を決めた俺は、ソレっぽい理由を考えた上でクルー達に公表し、惑星ユーロウへと赴いて補給線破壊任務を手伝うということに決めた。

 ちなみに大義名分的な理由は“戦争において補給路を断つことは、万の軍勢を動けなくさせる事に等しい”というのと“俺達は遊撃艦隊だから、ある程度の行動は黙認される・・・跡は解るッスね?”と言うモノだった。

 

 ちなみに後者の意味は、相手は敵、俺のモノは俺のモノ、敵のモノも俺のモノ、と言う訳である。別に俺たちは義賊って訳じゃないし、普段から違法すれすれのグレーゾーンでおまんま食っているわけだから、ある意味今更って感じだろう。

 

 尚、鹵獲した武器や兵器の扱いについて、ウチのマッド達に任せると発言したことが一番の決定要因だったのかもしれない。最近予算が無くて若干研究を我慢して貰っているから、今度の作戦で上手いこと物資を手に入れればソレらを使ってある程度の発散が見込めると思う。焼け石に水にならなきゃいいけどな。

 

 

 

 

 惑星ユーロウ、地球型惑星というよりかは火星型惑星と言っても良いかもしれない赤い砂と赤い空によって彩られた寂しい星である。テラホーミングされてなんとか地表での呼吸は可能だが、年間平均気温が15℃を突破しないので砂漠の星の癖に寒い。

 

ちなみに住居は今だドームコロニータイプで人口は7億6600万人程。人も少なめだから余計に寒く感じるぜ。別に何か見るもんがある訳でも無いので、星に降りてすぐにユーロウ基地へと向かった。といっても来るのはエルイット少尉と例によってトスカ姐さんだけである。

 

あんまり大勢で押し掛けてもねぇ?

 

ユーロウ基地に行くとエルイットが話を通した為、基地奥の作戦室に通された。彼はそのまま任務の内容を聞く為、現地の担当士官へと情報を貰いに行く。基本的に現地の士官との対応はエルイット少尉がこなしてくれる為、俺とトスカ姐さんは基本確認をすればいいので・・・手持無沙汰だ。

 

 

「・・・・・暇ッスね」

 

「楽っちゃ楽・・・なんだけどねぇ。―――あふ・・・」

 

 

 トスカ姐さんも暇過ぎたのか、欠伸を噛み殺そうとして口に手を当てていた。

 

 

「まったく、こう言うのなら通信だけで済みそうだと思うんスけどねー」

 

「そう言う訳にもいかないよ。今の時代通信だと色んな工作が可能だからねぇ。こういうふうにフネの代表が態々足を運ぶってのも本人確認の為に重要視される傾向があるのさ」

 

「でもその所為で暇でしょうがないッス~」

 

「それは同感。早い所戻って一杯やりたいねぇ」

 

「そういやサド先生がこの間、バイオプラントの一角を借りてついに酒造り始めたらしいっスよ」

 

「酒飲みたいが為にそこまでやるかい?!」

 

「サド先生ッスから」

 

「・・・・それで納得できる自分が怖い」

 

「でも完成したら試飲させてくれるらしいッスよ?酒好きが作る酒っスから、ある程度は期待できるやも」

 

「それは、うん。いいねぇ」

 

 

 あまりに暇だったので、酒の銘柄は何が好きか?どういう飲み方が美味しいのか?で議論をしていた。中々エルイット少尉が戻って来ない為、議論が少し白熱していく。

 

 

「俺としてはキンキンに冷やした酒をちびちびと飲むのが好きっスね」

 

「う~ん、冷やした奴なら一気に煽るのがいいんじゃないか。あたしは一気に飲むね」

 

「まぁまぁ、酒の飲み方は人それぞれ。自分が一番という飲み方をすればいいじゃないか」

 

「「それもそうだ(ッス)・・・・・ん?」」

 

 

 気が付くとトスカ姐さんと会話していた筈なのに、違う人が一緒になって同じ話題で盛り上がっていた。アレ?この人だれ?

 

 

「あんたは?」

 

「んー?まぁお前らと同じくフリーの0Gさ。ところでアンタ、白鯨艦隊って知ってるかい?」

 

「知ってるも何も・・・」

 

「白鯨艦隊はウチが名乗っている艦隊名だよ」

 

 

 そう言うとその男は「なんだと!?」と驚いた顔をした。

 

 

「それじゃあ、ユーリってのは――」

 

「そいつは俺の事ッスね」

 

「へぇ・・・ほう・・・なるほど」

 

 

 何故かその男は俺の名前がユーリだと知るや否や、じろじろと上から下まで視線を這わせてきた。何やらものさしで計られている様な感じがしたから、俺を推し量ろうとしているのか?

 

 

「な、なんなんスか?いきなり人の顔をじろじろと」

 

 

 だが正直勘弁して欲しい。

綺麗なお姉さんならともかく、野郎にジロジロ見られても嬉しくない。

 

 

「いや、噂にゃ聞いていたが、思っていたよりも若いな。しかしサマラと組んでクモの巣ブッ潰したんだから実力は確かって訳だ。っとすまねぇ紹介が遅れたな。俺の名前はユディーン・べトリオ。お前さんに潰されたグアッシュ海賊団の生き残りさ」

 

「グアッシュ海賊団の生き残り?」

 

「はっ、そう身構えるなよ。別に恨みも何もねぇ。お前は勝って、俺達は負けた。ソレだけの事さ」

 

 

 てっきり“仲間を殺された恨み、今ココで晴らす!”とかいって斬りかかってくるかと思ったが、その男、ユディーンは快活に笑いながら手を振ってその意思が無いことを示した。俺は海賊方面にはかなり恨み買ってるから全くもって心臓に悪いぜ。

 

 

「お前も外人部隊や傭兵とかみたいな感じで、ネージリンス軍に参加しに来たんだろ?だったらしばらくはお仲間って訳だ。ま、よろしくたのむぜ」

 

 

 どうやらユディーン(そう呼べと言われた)も、外人部隊として参加する手続きを踏む為にユーロウ基地に来ていたらしい。んで、同じく正直暇だったので会話に潜りこんでいたとの事。

 いや気が付かなかった俺達も俺たちだが、さっきの話の事と言い随分とあっさりというかさっぱりしているというか。トスカ姐さんも微妙な顔してら。

 

 

「―――ん?あんたってもしかしてカルバライヤ人じゃないかい?」

 

「ふふん、解るかい?ドゥボルグってぇ、チンケな資源惑星の生まれさ。

ま、つまんねぇ星だったから、ガキの頃にさっさと飛びだしちまったがな」

 

 

 何そのちょっとコンビニ行ってくるみたいなノリ?つーか母国は良いのかよ?

 

 

「あんまり母国だのなんだの考えたこたぁねぇな。強いて言やぁ、フネが俺の国。船乗りってのはみんな多かれ少なかれそんなもんさ。お前らにだって、そう言う感覚、あるだろう?」

 

「そう言われれば―――」

 

「確かにそうかもねぇ」

 

 

 実際下手したら小さな国並の大きさあるしな。ウチのフネ。

 

 

「いやーしかし今回の依頼は良い儲けになりそうだぜ。ちょいと艦を改造したらあっつーまにクレジッタが飛んじまってよー。その分キッチリ取り変えさねぇとな」

 

「確かに、フネの改造って金掛かるッスよねぇ」

 

「そうそう、管理局の改装ドッグ使えば楽だけど、その分クレジッタが飛んじまうぜ」

 

「あってもあっても足りない。おあしってのはまさに天下の回りものだねぇ」

 

 

 お互い財源難で苦労してるんだなぁとちょっち親近感がわいたぜ。

 そんでしばらくユディーンと会話してたら、ようやくエルイット少尉が帰ってきた。

 

 

「担当の人の話聞いてきたよ。今回の任務はカルバライヤ領星のCL617の周辺宙域で、敵の輸送部隊を襲撃することだって」

 

「ソコはカルバライヤ制宙圏じゃないのかい?」

 

「うん、だから敵は選ばないと大変なことになるよ。主力がいない事は確認済みだけど、増援の大規模部隊とぶつかったら――」

 

「目も当てらんないッスね。了解ッス。最悪逃げるッスけど問題無し?」

 

「エリートエンジニアの僕も死にたくは無いからそれをお勧めだネ」

 

 

 自分で自分の事をエリートって自称するのって恥ずかしくないんかい。

 

 

「・・・で、最低4隻は沈めて欲しいってさ」

 

「最低ッスか。まぁソレは当然としてだ。エルイット少尉」

 

「ん?なに?」

 

「最低4隻と言うが、別に何隻落しても構わんのだろう?」

 

 

 あれ?なんか急に弓を撃ちたくなってきたけど気のせいか?

 ともあれ、指示は居ただけので、俺達はとっととお仕事をする為に惑星CL617へと向かう準備を進めるのであった。

 

 

Sideout

 

***

 

 

Side三人称

 

 

惑星ユーロウ上空、白鯨艦隊旗艦デメテール蜂の巣型ドッグ―――

 

 

 デメテールの艦内には造船ドッグが存在する。ソレは蜂の巣の形状をしており、6枚の壁で構成されている訳だが、ソレらを可動させることで大抵のサイズのフネを作り出すことが出来た。

 そしてそのドッグには現在唯一の艦隊構成艦であるリシテアが係留されているが、そのすぐ近くのドッグに別のフネが係留されていた。

 

そのフネはやはり小マゼランで見られることは殆ど無い大マゼランのフネの設計図を基にした750m級巡洋艦に該当するマハムント級と呼ばれる巡洋艦であった。これもユーリが昔ロウズの廃棄コロニーにて見つけた(第1章参考)設計図から仕える部分をサルベージしたデータで作り上げられたフネであった。

 

 だが、前のリシテアの様に重要なパーツが抜け落ちていた為、既存の技術の設計図を切り張りする事でなんとか仕えるように再設計されたモノであり、本来のマハムント級とは若干異なるモノとなっていた。その中で最も違うのは、艤装の半分が穴開きで装着されていない事で、仕方ないので現在武装無しで建造し、後から取り付ける作業を行っている最中であった。

 

 それを監督するのは監督室で、様々な場所で作業している部下に指示を飛ばしているケセイヤだった。この穴開き設計図を基に改造を加えたのはケセイヤであり、現在建造中のマハムント級巡洋艦はマハムント/D(デメテール)C(カスタム)級巡洋艦の名称が付く。

 

 主な改修点は主砲であった大型プラズマ砲が、データの欠損で無くなっていた為に、もうノウハウがかなり積み重なったおなじみの兵装であるガトリングレーザー砲の大型を取り付け、また細かな誘導は出来ないがなんとか小型化に成功したホーミングレーザー砲を両舷に各16門ずつ搭載している。そして基本的に人員が乏しいデメテールの実情に合わせ、フネは基本的には無人で運用が可能と言う点が挙げらる。

とはいえネージリンスでソレらのアビオニクスに関する技術を手に入れられた上、無人艦の制御を担当するのはユピと同格のAI達である。その為無人艦といえどもかなりの高性能を持つことが予想されていた。ちなみにユピはソレらの上位存在として登録されている為、ユピが裏切らない限り無人艦も裏切りを起すことが無い。

 

 

「班長~、主砲の取りつけがもすぐ終わるだよぉ」

 

「おっし艤装が完了したから、後は無人制御システムのテストだけだな。

ソレは外に出さないと何とも言えねぇからもう出来るこたぁねぇな」

 

 

 部下が態々監督室にやって来て、その事を伝えてくれる。それを聞いたケセイヤは良しとした。 基本的に彼らはハードを作り上げるだけで、プログラミングに関しては科学班が行う事になっていた。そこれ辺も適材適所というか、なんとなくのウチにそう決まっていた事である。

 無人艦として運用する事は決定していた上、艤装も澄んだためほぼ完成と言っても良かったのだが、細かな調整は科学班達にやってもらわなければならなかったのだ。

 

 

「じゃあ上がっても良いだか?オラ腹減っただよぉ」

 

「バカ、科学班の連中に引き継ぎしてからいけ」

 

 

 ケセイヤはこの愛すべきバカと言うべき部下に応対しつつ、他の作業を監督していく。この仕事はある種のノルマの様な物で、早く終わらせないと趣味の時間が削られてしまうのだ。勿論造り手である彼にとって、フネを作るこの作業は別に苦痛でも何でもない。只単に気分の問題であった。

 

 

「了解だぁ。オラちょっぱやで言って来るだ」

 

「おう、早いとこやって終わらせるぜ」

 

「そうだか?んじゃ班長も一緒にご飯でも行くだか?」

 

「おう、そうだな。確かに飯の時間だ。んじゃ待っててくれや」

 

「了解だぁ。オラは休憩室で待ってるだ」

 

「んーすぐに行くぜ」

 

 

 そう言ってのんびりとした部下を送り出した後、彼はすぐに終わらせなきゃなと一気にコンソールを操作し始める。もとより面倒見が言い彼はこういった付き会いも大事にするのである。

しかし、この光景を影から見つめるモノたちがいた。

 

 

「は、班長・・・あなたもなのか」

 

「クソ!艦長に引き続きってか!?」

 

「・・・・妬ましぃ」

 

「・・・・あれ?おれどうして刃物にぎってるんだ?銘は・・・〆サバ丸・・・だと?」

 

 

 ソレはあの部下と同じく仕事を終えたケセイヤの部下たち♂だ。そして何故彼らがこんなことをしているのかと言うと、言わなくても判る事だろう。あの言葉づかいに独特の訛りをもつ子は、瓶底眼鏡をかけた二股三つ編みおさげの少女なのだ。どういう訳かケセイヤを気にいっているらしく、彼の所での実質の副班長の座を勝ち取った猛者である。

 

 年齢は15歳くらいで、流石のケセイヤも彼女には食指が動かないというか、普段ツナギ姿で見た目を考慮していないその姿に、無意識で彼女を女性というカテゴリーから除外している。まぁ自称紳士である為、ロリコンには走らないのが彼のポリシーなのだ。

 

 お陰でその部下ちゃんとは仕事仲間としてある意味で師弟の様な関係、もしくは兄と妹の様な関係に酷似していた。だが、そんなこと彼女無し(ミナシゴ)である彼らには関係が無い。ここでの問題は自分らの筆頭であるケセイヤが“おなごといる”という点にあるのだ。

 

 

「ここはアレだな。俺達も参加すべきだろうな」

 

「当然だ!整備班でも数少ないおにゃのこを班長の魔の手から守らなくてはな!」

 

「俺達は紳士、YesロリータNoタッチ!」

 

「いや、お前ソレは問題あるだろう。否定はしねぇが」

 

「つーか俺らもトコトン変態という名の紳士だな」

 

「「「「ちげぇねぇ」」」」

 

 そんなこんなで、彼らはケセイヤが仕事を終えた直後に突撃し、なんだかんだあって全員で飯を食いに行く話になった。その時部下ちゃんの反応はというと別に気にした様子も無く皆で飯食ったらウメェだと言っているだけなので、今の所ケセイヤに春は気そうには無かった。

 戦争への準備が進められる中でも忘れられることは無い白鯨クオリティ。そんなちょっとした話し。

 

***

 

「―――空間アレイに反応あり、護衛艦2、輸送船1の編成で4艦隊、計12隻の輸送艦隊です」

 

「見つけたッスね。各艦戦闘配備を急がせるッス」

 

 

 さて、やってまいりましたよ。兵站破壊任務。

 デメテールのブリッジの艦長席で、俺はモニターに映る輸送船団を見つめていた。

 

 

「・・・・のろくさいねぇ」

 

「まぁソレだけ物資を満載してるって事ッスよ。その所為で鈍ガメも良いとこッスけど」

 

 

こちらはステルス全開、おまけに超長距離で無人機による偵察を行っているからか、今だに向うには気が付かれてはいない。

 殲滅するだけなら、この距離からの無人機とのデータリンクによる超長距離砲撃で良いのだが、貧乏なウチとしては、是非とも運んでいる物資が欲しいところだ。

敵のモノは俺のモノ、ジャイアニズム万歳。

 

 

「さぁて、どう料理してやろうかねぇ?」

 

「そりゃ勿論、敵は倒して物資は無傷で頂くッス」

 

 

 とりあえず、今回からは単艦で挑む必要はない。何せ―――

 

 

『こちら艦内工廠ドック、無人艦隊旗艦『リシテア』及び無人巡洋艦『レダ』『ヒマリア』、発進準備完了。現在出撃待機中』

 

「ウス、ヴルゴさんは?」

 

『既にリシテアで待機してますぜ』

 

 

―――ようやく艦隊を造れたんだからな。といっても三隻だけだけどな。

 

 

 なんとか建造出来た無人艦隊を指揮するのは、あのヴルゴ元将軍だ。

 今はヴルゴ司令と言うべきなんだろうか?ともあれ、シミュレーターでも判っていたのだが、彼の指揮能力は抜群に高い。

今回導入するリシテア・レダ・ヒマリアの三隻はリシテア以外は完全な無人艦だが、ユピのコピーAIが搭載されているから大丈夫だろう。

 

 ・・・・逆にAIなのに独断専行しないか心配だが、そこら辺はヴルゴ司令に任せる事にしよう。生まれたてだが、基本的にはユピと同スペックなのだ。育て方によってはどうにでもなるんだぜ。

 

 

「ヴルゴ艦隊、発進準備完了。ゲート開きます」

 

 

 デメテールから発進した3隻はリシテアを中心として並列に隊列を組んだ。

 非常にスムーズなその艦隊機動は、ヴルゴさんの凄さを見せつけてくれる。

 俺がやったら・・・まぁ10回に一度は成功するんじゃね?なさけねぇなorz

 

 

 

 

 さて、発進したヴルゴ艦隊は輸送船団のアウトレンジから後方へと回り込んだ。

 まぁアレですよ。狩りで言う所の追いたて役や猟犬役ってワケです。

 彼らのセンサー範囲に引っ掛かるギリギリの距離を迂回して回ったヴルゴ艦隊は輸送艦隊最後尾にいたタタワ級駆逐艦とバクゥ級巡洋艦を一隻ずつ合計2隻を沈めていった。

長射程の連装ホールドキャノンを持つ戦艦リシテアがまず最初に戦端を開いたのである。

 

このアウトレンジからの超長距離砲撃に驚いた輸送艦隊は、まさしく蜂の巣をつついたかのように慌しくなっていた。

彼らが陣形を整える前にリシテアは随伴艦二隻と共に輸送艦隊に近づいていく。

そしてガトリングレーザー砲の射程内に護衛艦達を収めると矢鱈めったらに撃ちまくった。

散布界が広いガトリングレーザーとマハムントDC級のレダ、ヒマリアの持つ簡易ホーミングレーザー砲がたったの3隻しかいない艦隊だとは到底思えない重厚な弾幕を形成していく。

 18隻いるカルバライヤ側の護衛艦隊の反撃よりも濃い弾幕だ。

 向うの護衛艦隊に与える衝撃波いか程のものか想像に難くない。

 

 

「自分で作る様に指示しといてあれッスけど、容赦ないッスね」

 

「私が敵なら初弾見た段階で真っ先に逃げてるね」

 

 

 カルバライヤ人の気質なのか、散布されるレーザーの砲弾の中でも陣形を崩さないように維持し続けている護衛艦隊。自分たちが殺られても護衛を務めて見せるという気概だろう。

でも装甲板を掠るような弾幕を受けている艦隊を見ていた俺は、脳内でカリカリと言ったグレイズ音が聞こえていた辺り、もうダメかもしれない。

 

ああそうそう、この弾幕は当たりそうで中々当らないギリギリの命中率だった。

 散布界パターンを非常に広くして、兎に角上下や両サイドには逃げられなくし、真っ直ぐに走らせるかのように撃ちまくっていたのだ。

 それでも砲撃は掠ったりするし、運が悪いと直撃してしまうから、乗っている連中には溜まったモノでは無い事だろう。

 

 現に護衛艦隊の陰から逸れてしまった輸送艦には、撃沈に至らなくても被弾した艦が幾つか現れていたくらいだ。

 当然奴さん達は躍起になって、輸送艦隊を死守すべく18隻のうち半数以上の12隻が反転してヴルゴ艦隊へと突撃しようとしてきたのである。

 だが、連射性は低いが射程と貫通力と命中率が高いホールドキャノンを主砲にしているリシテアに、超長距離から狙撃されて殆どが撃沈されてしまった。

 流石はAIの火器管制にストールのデータをブチ込んだだけはある。狙いがゴルゴ並だ。

 だがあれだけ派手に撃てば、その分エネルギーの消費も早く、割とすぐに弾幕は下火になる。

 一応ペイロードを犠牲にして、その部分に大型コンデンサーを搭載してあるらしいのだが、やはりアレだけの砲撃は長くは続かないようだった。

 そんな訳で今のうちと判断したのか、生き残りの輸送艦10隻と護衛艦6隻が、この戦域を離脱しようとヴルゴ艦隊を背後に直線状に加速を開始した。

 どの物体でもそうだが、大抵は蛇行するよりも直線の方が加速しやすいからな。

 てな訳で、まんまと加速してくれたわけですよ。こちらの思惑通りにね。

 

 

「さぁ鴨がネギと鍋とみそ背負って来たッス!デメテールのステルス解除、敵艦の前に出るッスよ!主砲とHL準備ッス!」

 

「デフレクターに出力!APFSもステルス解除と同時に展開しな!」

 

「「「「了解!」」」」

 

 

 そして、満を持して俺達は補給艦隊の前にその巨体を曝した。

 もしも連中の艦隊機動を言葉に表せるならまさに嘘だろっ!?って感じ。

 そりゃねぇ、信じられない様な攻撃を加えてくる艦隊に追い立てられて、ようやく加速状態に入ろうとしたら、目の前に信じられない程の巨大艦がいきなり現れたりしたら絶望もしたくもなるだろう。

 序でに言うとさっきからEA・EP等の強力な電子攻撃を加えているから、基地に連絡が取れないから増援も呼べやしない。

 通信出来なくした上で逃げられなくするとか結構鬼畜だよなぁ俺。

 

 

「艦長、敵艦隊が降伏勧告に応じました」

 

「ヴルゴ艦隊を引き寄せて射程内に敵艦隊を置いておくッス。変な真似したら撃沈すると脅しておいてくれッス」

 

「了解しました」

 

「あと、輸送船は前から順番に中身を頂いて、空っぽになったフネに敵の捕虜をぎゅうぎゅうにつめといてくれッス。使う人員は任せるッス」

 

「アイアイサー」

 

 

こうして輸送艦隊を狙った作戦における無人艦隊の初陣はあっさりと終了した。

予め無人艦隊であろうとも出来るだけ高性能にし、戦列艦から脱落しないようなフネに改造を加えておいた成果であろう。

このまま戦闘をやり続ければ無人艦の制御AIもドンドン成長していくのだから楽しみだ。

 

さて、拿捕した輸送船は、カルバライヤでは官民問わず使用されているビヤット級と呼ばれる全長1200mクラスの大型輸送船であった。

流石に軍の輸送船だけあり、食糧や医薬品や雑貨、兵器の類まで様々な物資が満載されており、フネの修理素材や備蓄部品まで運んでいたらしく、新たな戦列艦を造りたかったウチとしてはありがたく全部頂戴する事にした。

 

 

「しかしまぁ、最低4隻沈めろって言われてたが、既にその倍を落した事になるねぇ」

 

「運良く大規模輸送艦隊に遭遇で来て良かったッスよホント。」

 

「確かに。で、どうする?このまま報告に戻れるけど?」

 

 

 トスカ姐さんに言われて、俺は少し考える。

輸送艦隊は撃沈せよという命令であったが、その中には輸送船の物資を手に入れてはいけないという条文は無い。

どうせ宇宙のチリにしてしまう気なら、ありがたく利用させてもらおう。

 

 

「期限は設定されて無い訳ッスから、もう少し物資を貰ってからで良くないッスか?」

 

「10隻から手に入れた物資もかなりの量だけど?」

 

「流石にネージリンス軍もこんなに早く戦闘が終わるとは思わんでしょ?最低あと数日はやっとかないと疑われちまうッス」

 

「それもそだね」

 

 

 カルバライヤの連中には悪いけど、これって戦争なのよね。

 そんな訳で、まだしばらくこの宙域にとどまる事になっただった。

 そしてこの後も似た様な状況になったが特に代わり映えも無かったのでキングクリムゾン!

 

 

 

 

 

 

 さて、キンクリして時間が少し飛び数日後、俺達はCL617の付近を通過していた。

 最初程の艦隊ではないがそれでも計10隻以上落したので、その時に手に入れた資材を使いデメテール艦内工廠では次の無人艦隊用の艦船の建造が始まった。

 なんか火事場泥棒みたいな真似してるが、0Gだから仕方が無い。アウトローだもん!

 

 

「――艦長、後方のセンサーに反応あり、フネが一隻接近してきます」

 

「フネ?何処の所属ッスか?ユピ」

 

 

 ま、広大な宇宙空間では中々敵と遭遇しない。

 特にこの辺は前線から離れた補給線なため配置されている敵艦隊もごくわずかなのだ。

 

 

「えーと、あ。味方のIFFの反応です!所属は外人部隊の・・・ユディーンさんだそうです」

 

 

 ユディーン?ああ、ユーロウ基地に居たグアッシュ海賊団の生き残りの。

 

 

「艦長、接近中の艦から通信が来ていますが」

 

「ああ、そのフネは知り合いのフネッス。ミドリさん、通信繋いでくれッス」

 

「了解です」

 

『ようユーリ!久しぶりだな!つーかちんたらやってんなオイ』

 

「ユディーンさん、ちんたらじゃ無くてマイペースと言って欲しいッス」

 

『お、わりぃ。ま、見かけたから挨拶したかったダケだしな。俺達はもっと稼ぎたいから先に行くぜぇ』

 

「ほいほい、ご武運を」

 

 

 そう言うと通信が切れて、デメテールから見て右側の航路を、猛スピードを出したグロスター級戦艦が走り抜けていった。

 エルメッツァで唯一民間でも買えるモデルの戦艦だけど、相当機関部を改造したらしい。

 鈍ガメな戦艦が巡洋艦以上に早く宇宙を飛んでいくとか、結構無茶な改造したのかもな。

 

 

「凄い加速性能ですねぇ」

 

「ま、ウチらはマイペースで行くッスよ」

 

「だけど、このまま進んでもユディーンと鉢合わせするだけだろう?違う航路に入った方がいいんじゃないかい?」

 

 

 トスカ姐さんにそう言われ、確かにそうだと思った。

 この世界では0G同士でのイザコザなんて空気みたいなもんだ。

 おまけに相手とエモノは同じ、難癖つけられるのも面倒だな。

 

 

「ミドリさん、この先の航路に分岐点とかないッスか?」

 

「少々お待ちを・・・・・・・・・分岐点は無いですが迂回路ならあります」

 

「迂回路か、それならユディーンの連中とも鉢合わせは避けられそうだね」

 

「なら迂回する事にするッスか。リーフ」

 

「聞いてたぜ。迂回路に入ればいいんだな?アイアイサー」

 

 

 てな訳で、デメテールはそのまま転針し、迂回路の方へと進む。

 まぁ一応味方同士な訳だし?余計なイザコザは勘弁って事さ。

 その後も輸送艦隊を見つけては襲うを繰り返した。

 んでユディーンと会ってから数時間後、適当に現れる哨戒艦隊を喰っている時だった。

 

 

「艦長、救援信号を感知しました」

 

「救援信号?カルバライヤのッスか?」

 

 

 俺達は一応ネージリンスに参加しているが、ソレ以前に船乗りである。

 敵とはいえ流石に救援信号を発しているヤツに止めを刺す趣味は無かった。

 まぁそれでも一応何処の所属なのか聞いて見たのだが―――

 

 

「いえ、違います。あと、出力が弱くて既に光学映像で捉えられる距離に居る様ですので、光学映像を出します」

 

 

ミドリさんはそう言うとコンソールをピポパと操り、艦長席のスクリーンに外部映像を投影した。そこにはかなり見覚えのあるグロスター級戦艦の残がい・・・つーか。

 

 

「ありゃ?これは―――」

 

「穴空いてるがエンブレムはユディーンのフネのモンじゃないかい?」

 

 

 そう、光学映像に映し出されたのはユディーンのフネ。

 ボロボロにされて、一見しただけではデブリにしか見えない。

 

 

「ったく、しょーもない。無茶し過ぎて、返り討ちにあったんだろ」

 

「まぁまぁ、とりあえず救援信号が出ているって事はまだ生きてるって事ッス。一応味方だし助けてはやらないと・・・」

 

 

 カルバライヤサイドに近いこの宙域で見捨てたらユディーンは助からないだろう。

 流石に夢見が悪いので、救助しようとステルスモードを解除させたその時だった。

 

 

「待ってください!前方の上方より此方に接近してくる艦隊がいます!大型艦も感知!敵艦です!」

 

 

 ユピがそう声を荒げ、別の空間ウィンドウを映しだした。

 そこには大型艦を旗艦とした艦隊が此方へと接近してくる姿が映し出されていた。

 どうやらデブリに隠れていたらしく、今まで気が付かなかった。

 

 

「ちぃ!罠か!」

 

「データ照合―――カルバライヤ軍の新型戦艦でシップネームはゾーマ級です」

 

「ザン級巡洋艦、およびゾロ級駆逐艦も多数確認」

 

 

 光学映像にはまるで鳥の頭見たく鋭角なシルエットをした巡洋艦と駆逐艦の姿が映し出されていた。

 どちらもカルバライヤ正規軍のモノであることは間違いない。

 つーか、ゾーマ級といいザン級といいゾロ級といい、全部鋭角なシルエットしてるなぁ。

 

 

「やる気まんまんッスね・・・各艦第一級戦闘配備!砲雷戦用意!」

 

「ユーリ!ヴルゴ達は?」

 

「いまから出すのは危険すぎるッス!本艦のみで対処す―――」

 

「ゾーマ級に高エネルギー反応!」

 

「「――なっ!」」

 

 

 あわてて光学映像を確認すれば、ゾーマ級の艦首部分が開口し、その部分にインフラトン粒子が収束している。間違いなく艦首特装砲を撃つつもりなのだろう。

 

 

「緊急回避っ!!」

 

「ちっ!!くそ!間に合わねぇ!!」

 

「ゾーマ級、想定出力臨界点に入ります」

 

「デフレクター!APFS最大出力!いそげっ!!」

 

「もうやっています!ミューズさん!デフレクターの方お願いします」

 

「まかせて・・・」

 

 

 こちらが回避機動を取るのとほぼ同じく、敵の艦首特装砲のエネルギー量は増していく。

 なんとかデカイ図体を動かし、回避機動を取り始めた次の瞬間!

 

 

≪―――ッズギャーーーーーーンッ!!!!!!!≫

 

「うわっ!」「ひえ!」「・・・ぐぅ!」「あいた!」

 

 

 極太のビームがデメテールの右舷の半分を飲み込んでいた。

 爆発等は起きなかったが、かなりの熱量だったらしい。

 

 

「被害報告!」

 

「右舷側第一装甲とホールドキャノンが損傷。4番、5番砲塔の一部分が融解しました。現在ダメコン班が復旧作業中。あと砲列群にも損害あり、ですがHL砲列は使用可能です」

 

「ええい!また修理費が嵩むッス!ゆるさん!許さんぞカルバライヤ!」

 

 

 俺を過労死させるつもりか!許さんぞコラぁ!!!

 

 

「敵は本艦の射程外、ですがゾーマ級の特装砲は再装填までにインターバルがある模様」

 

「デフレクター、APFS出力そのまま!吶喊せよッス!」

 

 

 デメテールの図体では回頭している間に敵の特装砲撃の準備が整ってしまう。

 初撃なら何とか防げるが、同じ個所に何発も当てられては修理代がバカにならない。

 一応第一装甲板で防げるようだが、何度も受けたら流石に持たん。

 

 

「ザン級、ゾロ級がゾーマ級の前に出ました。本艦の進路を妨害する様です」

 

「左舷ホールドキャノン、準備完了次第随時発射ッス。HLの最大射程は?」

 

「間もなく敵艦隊前衛が最大射程圏に収まります」

 

「左舷側HLも発射!当てなくていいから撹乱させよッス!ゾーマ級だけは艦首部だけ破壊せよッス!」

 

「??何でだいユーリ?」

 

「新造艦だし、拿捕してネージリンスに売れば高く買ってもらえるッス」

 

 

 ああトスカ姐さん、そんな呆れた眼で俺を見ないでくれ。

 少しでも修理費の足しになるもんは頂いとかないと勿体無いんだぜ?

 だってそうしないとパリュエンさんが怖いんだモン。

 柔和な表情はそのままに目が・・・目がぁあばばばばば

 

 

「ザン級、ゾロ級を全艦撃破」

 

 

っと、すこしトリップしてたら時間が進んでいた。

 デメテールが発射したホールドキャノンが護衛艦を貫いたらしい。

 画面には船体中央に無残に大穴をあけられた護衛艦が爆散する映像が映し出されていた。

 

 

「ゾーマ級、間もなくHLの最大射程に入ります」

 

「射程に入り次第HL発射ッス。ストール?」

 

「判ってるぜぇ。俺に任せとけ!それじゃほら来た―――」

 

 

ストールは大きく腕を降りかぶり。

 

 

「―――ポチっとな」

 

 

 コンソールのHLの発射ボタンを押した。

 デメテールの左舷側が光りを放ち、大量の光線が弧を描きながらゾーマ級に迫る。

 ゾーマ級もデフレクターを展開し、回避運動でよけようとするが未来予測されている上に照射元で誘導されている凝集光はゾーマ級の回避を意味のないモノとした。

 光弾は多少デフレクターに疎外されたモノの殆どがゾーマ級へと突き刺さる。

 

 

「敵艦の特装砲口の破壊に成功しました!」

 

「「「よっしゃぁぁぁぁ!!」」」

 

「ミドリさん、敵艦に降伏勧告を――」

 

「敵艦、主砲の照準をこちらに向けています」

 

「あれま」

 

 

 どうやら最後の一兵まで戦うつもりらしい。

 ・・・まぁこの際残がいでも良いか。

 

 

「一応勧告を・・・それでだめなら―――」

 

「アイサー、ホールドキャノンを準備しとくぜ」

 

 

 まぁ、戦争中だしね。全てがこっちの思惑通りになる訳でも無し。

 向かって来るならたたき落とすしかない。

 さっきも言ったけど、これって戦争なのよね。

 

 

「ゾーマ級、勧告を無視しました。対艦ミサイルも撃つつもりの様です」

 

「・・・・仕方ないッス。ストール」

 

「あいよ。ポチっとな」

 

 

 そんな訳で、また宇宙にダークマターが増えたのであった。

 とりあえず残がいは回収しておこう。ウン。

 

 

***

 

 

 さて、何やら罠っぽい感じであったが一応撃破できた。

 しかし流石は戦争中、油断したらすぐにフネが傷付いちまったぜ。

 輸送艦ばかり狙ってた所為なのかねぇ?セコ過ぎて行いが悪いとか?

 

 

・・・・・・・・・。

 

 

 理由があり過ぎて何とも言えねぇや。

 

 

「艦長、ユディーンさんの救出が完了したみたいです」

 

「おう、内線のスクリーンに出してくれッス」

 

 

 まぁ例の如く、救援信号を発信していたユディーンのフネには生き残りが多数いた。

 それにはユディーンさんも当然含まれている訳で、とりあえずの挨拶を交わすことにする。

 

 

「了解、回線繋ぎます」

 

「よう、ユディーン・・・・えらくブラザーな髪型になっちゃったッスね」

 

『うるせぇ、少しだけコンソールの火花浴びただけでぇい』

 

 

 アフロって訳じゃないんだけど、それでも大分チリチリだ。

 黒髪っポイ感じなのにアフロ・・・ああでも意外とに合うかも。

 

 

『しかし、ま、助かったぜ。もうちょっとで空気が無くなっちまうところだった』

 

 

 そう語る彼の顔は何時もと違い真剣そのものだった。

 相当切羽詰まっていたって事だろう。

 宇宙空間で空気が徐々に抜けていく、もしくは無くなる恐怖は計り知れない。

 人によっては発狂する事もあるらしい。怖や怖や。

 

 

『カルバライヤの連中もこっちが正規の軍人じゃねぇってこと知ってっから救助してくれねぇんだよ』

 

「ああ、戦時航海法だね」

 

「戦時航海法?なんスかソレ?」

 

『要するに戦時中は倒したフネの乗組員を救助して捕虜にするのは義務だが、俺らみたいな外人部隊の人間には捕虜にする義務が発生しねぇって事。つまり救助する必表がねぇってことさ』

 

「なるほどねぇ・・・ウチも気をつけるッス」

 

『おうおう、是非そうしとけ。それよりもよ。助け序でに俺の艦も曳航してって貰えねぇか?』

 

「そりゃ無理だ。あそこまで壊れちまってたらスクラップにするしかない」

 

「もしくはジャンクで一山幾らッスかねぇ」

 

『く・・・やっぱりそうか・・・』

 

 

 そう言うと彼は頭を抱える仕草を取った。

 自分で改造したフネだ、きっとソレだけ愛着があったんだろう。

 

 

『・・・ま、壊れちまったもんは仕方ねぇ』

 

 

 あ、あら?意外と軽い。

 

 

『んじゃよ、俺を、俺達をこのフネのクルーにしてくれないか?』

 

 

・・・・なんだと?

 

 

『何せ天下の白鯨艦隊だ。ちっと部下として働いてもいいかな、ってよ』

 

「ふむん・・・」

 

 

 基本的に人手不足の我らが白鯨、優秀な人員なら大歓迎・・・と行きたいところだが。

 

 

「成程、つまり俺達が有名だからその傘下にという訳か」

 

『勿論ユーリ個人の資質に惚れたってのもあるぜ?』

 

「・・・まるでヨイショのバーゲンセールだな」

 

『ハッ、こちとら部下を預かる身なんだ。多少のヨイショでも何でもするぜ』

 

「それを本人の前で言うか普通?・・・まぁいい。とりあえずはだ。――本気か?」

 

 

 いつもの~~っスという語尾はなりを潜め、俺は真っ直ぐとスクリーンの先にいるユディーンへと視線を向ける。

 

 

『ああ、本気だ』

 

「言っておくが給料はそれほど高くないぞ?もう一度聞くが本気か?」

 

『ああ、プーよかマシだ』

 

 

 一見口調は非常に軽く見えるが、その眼は真剣そのもの。

 この立ち位置が彼のスタンスなのだろう。誰に対してもソレを曲げない信念の様な物。

 そう言った芯を持つ人間は強い、なるほど・・・確かに失うのは惜しい。

 

 

「ユディーンが俺に付いたとしてメリットは?」

 

『俺自身元海賊で一匹狼やってたから人並み以上に操艦や航宙機の操縦が出来る。あと、部下たちはグアッシュ海賊団に居た時からずっと俺に付き合ってきた猛者だ。損はさせねぇゼ?』

 

「ふーむ、しかしなぁ」

 

 

 裏切り・・・を怖がっている訳ではない。むしろやれるもんならやってみろって感じだ。

 24時間監視出来る女神さまがウチには付いているんだからな。

 俺が懸念しているのは―――

 

 

「抵抗は無いのか?俺は白鯨、海賊専門の追剥だぞ?」

 

『はぁ?なにいってんだお前ぇ?こっちは既に海賊廃業してるんだから問題ねぇだろう?』

 

「いや、過去の確執というか――」

 

 

『ねぇよンなモン。少なくても昔の話に拘るバカは俺の部下にゃいねぇ。グアッシュに居たのだっておまんまと酒が定期的に手に入る職場だったからな。こう見えても軍以外の民間船からは略奪した事ないんだぜぇ?お陰でクモの巣の警備に回されちまったけどな!』

 

 

 あっはははと快活に笑うユディーン。

 見ていてこっちが清々しくなっちまうぜ。

 

 

『それに一度は俺達を負かした男。強いヤツに付き従うのは常識だぜぇ?』

 

「・・・判った、受け入れよう。ようこそユディーン、我が白鯨艦隊へ」

 

『おう!お邪魔するぜぇ!ソレじゃあまたな』

 

 

 とりあえず話が終わったので内線を切る。

 詳しい部署や職場は連中の適性を見て判断って所だな。

 

 

「・・・・あー、まぁ毎度の如くなんスが」

 

「ふ~ん、まぁいいじゃないかい?」

 

「そうですね。こういったことで艦長が独断専行するのはウチの特色みたいなもんですしね」

 

「うう、すまんこってす」

 

 

 若干呆れの目線をトスカ姐さんとユピに向けられている。

 うう、悔しい、でも感じちゃうびくんびくん。

 

 

「と、とりあえず、一度ユーロウに戻るッスかねぇ」

 

「そうしようか。ちなみに何隻落した事にするんだい?」

 

「んー?ん~~・・・まぁ5~6隻程度で良いじゃないッスか?あんまり多くても向うが困るでしょうし、報酬を渋られたら困るッス」

 

「それもそうだねぇ、んじゃ向うに出す報告はそう言う感じでまとめとくよ」

 

「お願いするッス。なんならパリュエンさん達文官も使うと良いッス」

 

「これくらいで一々人を使えるかい。これくらいなんとかしてやるよ。私の仕事だろ?」

 

「うす、頼むッス」

 

 

 こうして、ユディーン以下生き残りの40人の元海賊たちが加わる事になった。

 2~3日はユピが様子を見ていたそうだが、素行や行動に特に問題は無いらしい。

 (もっとも、ウチのクルーと酒の一気飲み勝負やって病院に運ばれると言った事があったが、まぁソレ位はお目こぼしの範疇だろう)

 

 そんな訳で俺達白鯨は新たな仲間を受け入れ、次の作戦を行う為に違う宙域へと向かったのであった。

 

 

 

 

 ・・・・・・・なんか結構重大なことを忘れている気もするが、まぁ大丈夫だろう。

 

 

 

***

 

Side三人称

 

 

 ユーリ達が惑星ユーロウで報酬を受け取っていた時と同時刻。

 エルメッツァのツィーズロンド上空では、エルメッツァ軍ルキャナン軍務官を全権大使として迎えた先遣艦隊が、ヤッハバッハ艦隊に向けて出撃しようとしていた。

 

 艦隊数は総数が5000隻を超えていた。

コレは小マゼラン星間国家連合のエルメッツァにおける空前絶後の大艦隊である。

 その艦隊を率いる旗艦ブラスアームスに軍務官として派遣されたルキャナンと、以前ユーリ達が世話になったモルポタ・ヌーンとオムス・ウェルが乗船していた。

 

 

「ルキャナン軍務官、ようこそブラスアームスへ」

 

「マルキス提督に代わり、お出迎えに上がりました」

 

 

 モルポタとオムスが敬礼をもってして軍務官たるルキャナンを出迎えた。

 本当は提督が出迎えるべきなのだが、その提督は出撃準備に追われている。

 その為、提督の次に偉い人間として彼らが出迎えたのだ。 

 彼らがそう願い出たという理由もある、主に出世の為に。

 

 

「御苦労。・・・・旗艦としてふさわしい良いフネだな」

 

「そのお言葉、マルキス提督もお喜びになるでしょう」

 

「うむ。我がエルメッツァの威信を遍く広める為の航海だ。良い旅になろう」

 

 

 終始和やかに進むかと思われた会話であったが、この時モルポタが若干不安そうに口を開いた。

 

 

「お言葉ですが軍務官。まだヤッハバッハ艦隊の戦力は定かではありません。

くれぐれも警戒を怠ってはならぬものと・・・」

 

「む・・・」

 

 

 モルポタの言葉に、ルキャナンは眉に皺をよせた。

 幸先の良い航海を前に水を差された様な気分になったからだった。

 

 

「モルポタ大佐。その言いよう、我がエルメッツァの力を信じていない様に聞こえますぞ」

 

 

 そんなルキャナンの様子を見たオムスが慌てて口を挟んだ。

 ルキャナンは政府の中枢に食い込む重要人物である。

 そんな相手に失礼があってはならないと彼は動いたのである。

 

だが、正体が定かではない艦隊を相手にする事に不安を持つモルポタ。

 彼も彼で反論しようと口を開こうとした。

 

 

「いや、私は―――」

 

「オムス大佐の言う通りだモルポタ大佐」

 

 

 だが、ソレは若干不機嫌そうなルキャナンに遮られてしまう。

 一応自分よりも上官に値するルキャナンの前に彼は口をつぐむしか無かった。

 

 

「君もエルメッツァの軍人として、誇りを忘れない様にせぬと・・・」

 

 

 ルキャナンはそこまで言うと一度口を閉じて考え、少し意地の悪い笑みを浮かべ。

 

 

「いよいよ、オムス大佐にぬかれることになるぞ」

 

「う・・・っ。は、ははっ!」

 

 

 そう言われ、モルポタは慌てて敬礼を返していた。

 そして彼が感じていた不安感は有耶無耶となり、そのままとなってしまった。

 コレが彼の運命に大きく関わることになろうとは、この時のエルメッツァ先遣艦隊に居る人間には誰にも予想する事は出来なかった。

 

 

―――銀河の星は今日も冷たく瞬いているだけだった。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 

 さて、フネの損傷は思っていたほどでは無かったので胸を撫でおろした後。

ユーロウでの仕事を終えた俺達は次の仕事を貰いに惑星ナヴァラへとやってきた。

 惑星ナヴァラは衛星モアを持つ星で、二重恒星を巡っている大気が無い星だ。

 データ上ではアーヴェンストにおいて一番最初に移住が始まった星との事。

 

 

「惑星ナヴァラッスか・・・あれ?地表に全然街が無いッス」

 

「ナヴァラは地下に大規模な空洞がある星なんだ。だからその大空洞を利用して大気を満たし、居住域を作ってるんだよ」

 

 

 偶々報告に来ていたエルイット少尉からナヴァラについて説明を受けた。

 地中だから空が見えなくて息苦しそうとか言ったんだが、そうでもないらしい。

 天井が高く、おまけに地熱で年中暖かなんだとか。

 おまけに土の養分が豊富で作物がすぐに育つことからナヴァラでは農耕も盛んらしい。

 

 

「へぇ、年中暖かでご飯が一杯なんスか。何と言うユートピア」

 

「うん、だから発見後すぐに大規模植民が始まって、今じゃ200万人近いネージリンス人が生活してるんだよ」

 

 

 星の規模の割には若干人が少ない気もしないでもない。

 空洞を利用した星だし、空洞が惑星全部を覆っている訳ではないらしい。

 そうなれば人口なんてそんなもんだろう。

 

 でも地下に空洞があってそこに都市があるのかぁ・・・ガミ○ス本星かっ!

 戦闘艦一隻で天井都市ごと落っこちて壊滅するんですね!判ります!

 ・・・・・やめとこ、洒落にならねぇ。言霊がホントになったら困る。

 

 

 

 

 

 

 ヴルゴさんに頼み、リシテアに乗せてもらいナヴァラへと降りる。

 ナヴァラの表面は、なるほど大気が無いから月の表面そっくりだ。

 隕石が燃え尽きないで衝突するから、大地は所々クレーターだらけである。

 空気が無いから風化とかも遅いからだろう。まるっとそのまま残ってやがるぜ。

 

多分前の世界の月の表面も、こんな感じなんだろうなぁと思った。

 そしてナヴァラの景色を眺めている内にリシテアはステーションに入った。

 軌道エレベーターが人がいる星には大抵設置されているって結構凄いよな。

 

 んで、俺達は軌道エレベーターに付いているエレベーター。

 イメージ的には垂直のモノレールかな?それに乗ってナヴァラに降りる。

 ぼーっとしてたら何時の間にか地中に入っててビビったのは秘密だぜ。

 

 

「おお、開けた空間・・・・ってなんだありゃ?」

 

「どうしたユーリ?」

 

「おお、トスカ姐さん、いやね?ほらアソコ。壁になんか芋虫みたいなモンが一杯あるッス」

 

 

 俺が指差した先には、なにやら白っぽい楕円に近い建物・・・なのか?

何かが壁に張り付いているのが見えた。

 

 

「・・・・なんだろうね?私にも判らないよ」

 

「う~ん、そうだこういう時は――エルイット少尉かも~んッス!」

 

「呼ばれて飛び出てジャジャジャ――ごほん、何かよう?艦長」

 

 

 な、なぜ貴様がその言葉を知っている?!とジョジョ立ちしてみた。

 まぁソレは置いておいて、出オチなエルイット少尉に質問をぶつけてみる。

 

 

「ああ、あれかい?アレは農園なんだよ」

 

「農園?あそこ垂直の壁ッスよ?」

 

 

 俺が不思議そうな顔をすると、エルイット少尉は少し苦笑した。

 な、なんだよ、俺にだってしらねぇ事くらいあるだぜ?

 

 

「別に何処だろうとグラヴィティ・ウェルがあれば問題無いよ。あれは限られたスペースを有効活用する為に造られるバイオマスプラントなのさ」

 

 

 彼の説明によると、要はあの幾つもある芋虫みたいな建物は農園なんだそうな。

 地中故に日照には気をつけなくても良い為、こんな場所でも栽培しているんだそうで。

 でも此処で作られた野菜の8割がナヴァラの食卓を支えているんだってさ。

 パネェ・・・いやマジでスゲェな。色んな意味で。

 

 

***

 

 

 そんなビックリ地下世界も時間があれば散策したいところだがそうもいかない。

 一応軍に協力している身なので、このナヴァラにある軍基地に行かねばならないのだ。

 

 

「あ、なんかいい匂いがするッス!」

 

「はいはい、お仕事が先だよ。あとでね~」

 

 

 あう~、せっかくちらりと見かけたケバブっぽい食い物の店が遠ざかる~。

 なんか首根っこ掴まれて連れて来られたのは軍基地。

 ・・・・というか一見すると普通の会社のビルっぽいところ。

 

 

「あれ?地図だと此処で合っているんスよね?」

 

「うーん。ここはまぁ普通のネージリンス軍基地とは毛色がちがうからね」

 

「毛色が違う?」

 

 

 何のことだろうかとエルイット少尉に聞こうとした。

だがエルイットは入れば判ると言って先に行ってしまった。

 仕方ないので、俺やトスカ姐さんらも彼の後に続いて建物に入った。

 

 

――――そして彼の言った意味が判った。

 

 

「うわぁ、民間人だらけ・・・」

 

「これじゃあまるで普通の企業か何かって言われても信じちまうね」

 

 

 建物の中では沢山の民間人と思わしき人達がひしめいていたのだ。

 普通軍基地と名が付いていれば、居るのは例外を除き軍人だと思うんだけど・・・。

 

 

「ああ、ココは元々アルカンシェル計画用の施設なんだよ」

 

「アルカンシェル計画?」

 

 

 聞き慣れない単語を聞いて首を傾げる俺ら。

 それを見たエルイットは苦笑しながらも話を続けた。

 

 

「一番規模が大きい施設だったからね。それを今は軍事基地として一部使わせてもらってるんだよ」

 

「そのアルカンシェル計画ってのは―――」

 

 

 トスカ姐さんがエルイットに気いなれない単語の事について聞こうとしたその時。

 

 

「アルカンシェル計画、ナヴァラの二重恒星を利用した。大規模恒星光発電計画の事よ」

 

「ん?誰ッスか?」

 

 

 何やら見かけない女性(ヒト)が会話に入りこんできた。

 その女性は俺達に一瞥をくれただけで、すぐに視線をエルイットに向ける。

 

 

「久しぶりね。エルイット」

 

「ミューラ!ミューラ・タリエイジじゃないか!」

 

 

 どうやらエルイット少尉の知り合いだったらしい。

 彼の顔が知り合いに会えたことで喜色に染まるが、すぐに怪訝な顔に変わった。

 

 

「あれ?でも君は艦隊勤めだった筈じゃ・・・」

 

「管制官として、アルカンシェル計画のチームに引き抜かれたの。

私もフネに乗っているよりこっちの方が相性いいみたい」

 

「そっかぁ。でも久しぶりに君に会えてうれしいよ」

 

「そう?お世辞でも嬉しいわ」

 

 

 なにやら昔話を始めそうな勢いだ。ちょいとわりこませてもらうぜぇ。

 

 

「あのう、エルイット少尉。こちらの方は?」

 

「ああ。君たちにも紹介しておくね。ミューラとは昔、同じ部署でエンジニアとして働いていたんだ」

 

 

 なるほど、昔の同僚って訳だ。

 

 

「とりあえず。此処での貴方達の対応も私がやる事になってるから、よろしく」

 

「ああ、よろしくお願いします」

 

 

 握手・・・って雰囲気じゃないので俺は自重したぜ。

 知ってるか?握手を無視されると結構傷付くんだぜ?

 だから出さぬ。そういう雰囲気でも無いから。

 

 

「え?でも今の君はプロジェクトチームの・・・」

 

「ここは基本的に只の植民惑星だし、戦略的価値の低い星。だから私たちが兼任してるってワケ」

 

「なるほどねぇ。ドコも人手不足は同じってワケッスね」

 

 

 ウチも万年人手不足だしなぁ。

そろそろケセイヤ達マッドに金渡して人造人間でも――。

・・・・案外いけるかも。

 

 

「さて、昔話はこの辺にしておきましょう。では皆さんにこの宙域での任務を説明します」

 

 

 おっと、どうやらこの宙域で俺達にやってほしいことを教えてくれるらしい。

 カクカクシカジカ四角いムーブってな感じで説明されたのはこんな感じ。

 

 

・敵戦力を削ること

・只一つ条件があって、撃破するのはドーゴ級かゾーマ級の戦艦クラスになる。

・敵はCL665の周辺宙域に敵支隊が遊撃隊として確認されている

・最低3隻以上沈めること、ソレ以下は認めねぇ。

 

 

 と、言うことらしい。

 撃退とは簡単に言ってくれるが、カルバライヤの戦艦が相手か。

 何気に戦艦クラスとなるとカルバライヤのフネを相手にするのは面倒だ。

 連中のフネはディゴマ装甲と呼ばれる複合装甲で覆われいる。

 だから微妙に頑丈なのだ。飽く迄もウチと比較したら微妙だけど。

 

 

「撃破、ねぇ?」

 

「すみません。参謀本部からの指示ですので・・・」

 

 

 申し訳なさそうにしているミューラさんに、仕方が無いと返した。

 実際3隻は飽く迄ノルマで、本当はもっと沈めて欲しいのが本音だろうなぁ。

 特にウチは図体デカイから目立つ。戦闘中はステルス解除するしな。

 ああ、沢山群がってきそうだぜ。

 

 

「それとカルバライヤ側が大海賊シルグファーンを雇ったという情報が入っています。注意してください」

 

「シルグファーン!?」

 

「知ってるんスか!?ライデ・・・トスカさん?」

 

「ライデ?――ああ、ランキングにも載っているだろう?

上位ランカーで正当派の海賊だ。厄介な相手だよ」

 

「うわっ、面倒臭そうッスねぇ~」

 

 

 はて?シルグファーンだって?ランキング上位のランカー?

はて、以前何処かで聞いた事がある様な無い様な・・・?

 ・・・・思い出せん。ま、思い出せないなら特に重大でも無いか。

 

 

「はい、そう聞いてます。くれぐれもお気をつけて」

 

「了解、我等白鯨艦隊。すぐに準備にかかる」

 

 

 さーてさて、命令書は貰ったし、人仕事してこようかねぇ。

 ま、その前にしっかり準備しないとな。

 戦争中は何が起きるか判らねぇんだから、しっかり準備しねぇと。

 

 

***

 

 

 さて、指示を受けて敵艦を狩ることを目的に航海に出た俺達。

アレから一週間、なんと既に2隻の敵戦艦を撃破し悠々と航海を続けている。

 戦艦と言っても大抵一艦隊に1隻しかいないので、こちらとしては楽だったがな。

 

それと航海の途中で無人艦隊の艦隊数が更に増えたというのも大きい。

普通の艦隊戦が可能となり、デメテールは隠れていても大丈夫になったのだ。

ちなみに現在の陣容としてはこんな感じ。

 

 

・ネビュラス/DC級戦艦

旗艦『リシテア』ニ番艦『カルポ』三番艦『テミスト』四番艦『カレ』

 

・マハムント/DC級巡洋艦

一番艦『レダ』ニ番艦『ヒマリア』三番艦『エララ』四番艦『ヘルセ』

 

・バーゼル/AS級無人駆逐艦

一番艦『パシテー』二番艦『カルデネ』三番艦『アーケ』

四番艦『イソノエ』五番艦『エリノメ』六番艦『アイトネ』

 

 

―――以上14隻が竣工された。 

 

流石にジャンクやその他は売り払っていた。

だが、利用できる部品は大抵の場合全部かっぱらったからな。

 

なんとか艦隊として恥じない程度な規模になれたと思う。

流石にコレ以上は修理材にとっておきたいという考えから造る予定は無い。

 

デメテールの艦内ドッグには1000m級なら詰めてやれば30隻は収められるけどな。

まぁしばらくはこの感じで行くということだ。多すぎても整備大変だしね。

 

 

「艦長、センサーに感あり。敵艦隊を捉えました」

 

「戦艦は?」

 

「インフラトン粒子排出量からして、恐らく最低3隻はいるかと」

 

「3隻っスか。まぁまぁの規模ッスね」

 

 

 まぁ粒子排出量が多いからと言って、ソレが必ずしも戦艦であるとは限らない。

 例えばカルバライヤだと輸送艦として使われているビヤット級。

 コイツは大きさが1200mもある大型艦で、当然粒子排出量がデカイ。

 古いタイプの機関を積んでいると、粒子排出量が多くなるので誤認しやすくなる。

 その逆も然りだ。高性能な機関を詰んだ戦艦なら巡洋艦と間違える場合もある。

 ならどうするのか?それは実に簡単なことである。

 

 

「長距離偵察機を飛ばすッス。敵の詳細なデータを見て、戦艦がいれば襲うッス」

 

 

 とりあえず確認すりゃいいんだぜ。

 現在の距離からは詳しく解らなくても、偵察機でも飛ばせばすぐにデータは来る。

 それを解析すれば敵の全容くらい掴めるってモンだ。

 ま、ビヤット級ならビヤット級で補給物資を満載しているだろうしな。

 偽装戦艦でないなら鹵獲して中身をまるっと頂いてしまおう。

 

 

「申し訳ないのですが、現在長距離偵察機は全てC整備の真っ最中で出せる機体がありません」

 

「へぅっ!?全部何スか!?一機も無し?!」

 

「はい、ここしばらく長距離偵察機は使いっぱなしでいい加減分解整備が必要だったらしいので、現在パーツ単位にバラバラにされているみたいです。今から急いで組み立てても整備に時間が掛る為、およそ8時間はかかります」

 

「あ~う~・・・」

 

 

 あちゃ~、そらまた運が悪い。

 まぁ長距離偵察RV-0は使い勝手が良かったから、ココ最近多用しすぎたらしい。

 う~ん、まぁ一応ステルスモードあるし、こっそり近づけば大丈夫か?

 

 

「何を悩んでるんだい。せっかく獲物が来たんだ。とっとと狩りに行くよ」

 

「いや、だってキチンと調べてからでないと――」

 

 

 俺がそう慎重な意見を言ったところ、トスカ姐さんが溜息を吐いた。

どうやら弱気になっていると受け取られたらしい。

 

 

「大丈夫だろう。敵の質や数を見てもウチらの方が圧倒的さ。多少無理しても問題無いよ」

 

「そらまぁ、そう何スけどね」

 

 

 相手の数は現在判っているだけでおよそ5~7隻。

 数が安定しないのは超長距離だからセンサーの精度が安定しないから。

 だけど多くても7隻だ。現在デメテールを含めて15隻いるウチと比べたら・・・。

 

 

「・・・確かに、多少の無理は出来るかも」

 

「それじゃきまり。最後の獲物を狩りに行こうじゃないさ」

 

「そっスね。それじゃリーフ。航路設定よろッス」

 

「アイサーだぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――艦内時間で3時間が経過した。

 

デメテールは敵艦隊をはっきりと確認出来る位置にまで接近していた。

 と言ってもこちらはステルス全開である意味宇宙空間に溶け込んでいる。

向うがよっぽど近づかないと気付けない為ある意味こっちは忍者だろう。

 この世界にブロンディストがいれば『流石にんじゃきたない』とかこぼしてたかもな。

 

 

「敵艦隊を補足、モニターに出します」

 

 

 ミドリさんがコンソールを使い外の様子をモニターに映す。

 映っていたのは案の定ビヤット級が2隻と巡洋艦多数、ソレと―――

 

 

「アンノウン?未確認の新型かい?」

 

「恐らくは、試験航海でしょうか?」

 

「いや、こんな前線で試験航海も何もないだろう。こりゃ何かあるね」

 

 

―――未確認の新型戦艦が一隻、艦隊の中央に布陣していた。

 

 これまた鋭角なシルエットでバルパスバウの部分が衝角の様に突き出ている。

 その衝角のすぐ脇には片側3本、計6本のブレードが天頂方面を向いて伸びていた。

 何のブレードだか判らないが、新装備の可能性があり油断できない。

 序でに何やら砲塔がレールの上に置かれている。

 恐らくリニアレールの上を砲塔がスライド移動するのだろう。

 上手く使えば少ない砲塔で命中率や射界をコントロールできる。

 そして既存のデータには無い・・・新型艦だよなぁ。

 

 

「ま、輸送艦もいるんだ。叩かない手は無いね」

 

「そうッスね。総員第一種戦闘準備。本艦はステルスモードで待機、ヴルゴ艦隊の発進を急がせるッス。それと周辺の警戒を厳にせよ」

 

「「「アイサー」」」

 

 

 さて、デメテールからヴルゴ司令の無人艦隊を出撃させた。

 当然ながら向うは唐突に現れた艦隊にパニックを起してしまう。

 こっちとしてはそれで好都合なので、そのまま計14隻の艦隊を展開させた。

 

 

「敵新型艦、前に出る様です。他の護衛艦2隻も同様」

 

「ま、輸送艦は艦隊戦じゃ盾にもならないしね。下がらせるのはセオリーさ」

 

 

 輸送艦はペイロードが大きく機関部が強力であることが多い。

 だがその半面、ペイロードを多くする為に武装や装甲は犠牲となっている。

 ビヤット級もその例外に漏れず、武装は隕石破壊用小型レーザー砲のみ。

 装甲もカルバライヤ直伝のディゴマ装甲ではあるが、戦艦等に比べたら紙みたいなものだ。

 

 

「ヴルゴ艦隊、敵艦を射程距離に捉えました」

 

「ガトリングレーザーキャノンで牽制しつつホールドキャノンで狙い撃たせるッス。ビヤット級は絶対に拿捕、新造艦も一応航行不能程度で、後はヴルゴ司令の判断に任せるッス」

 

「了解、そう通達します」

 

 

 ヴルゴ艦隊は敵艦隊から一定の距離を置いて正面に展開した。

 ずらりと横に並んだ鶴翼の陣形と言えば判りやすいだろうか?

 コレの利点は狭撃を行いやすい上、弾幕を張ればまず近寄れない。

 大口をあけて待ち構えるケモノの顎門(あぎと)に入るバカはいないのだ。

 

 

「敵艦隊、間もなく駆逐艦隊と接触します」

 

 

 だが宇宙空間において進み始めた物体が転身を行うのは非常に難しい。

 宇宙ではその空間に留まるという現象は無く、全て相対速度で表される。

 つまり、止まっているように見えてソレは常に動いていると言うことなのだ。

 だから戦艦クラスの大質量をもった物体がすぐその場で転回出来ないのも仕方が無い。

 無理やりやればできるだろうが、少なくても既にセンサーの範囲内に敵がいる。

 そんな中で転回するのは敵に横っ腹を曝す為自殺行為と言っても良いのだ。

 だから大抵は一定の距離を保ち、徐々に減速し然る後に後退する。

そして安全圏まで下がってから転回するのがセオリーなのである。

 

 

「敵艦後退を開始、ヴルゴ艦隊は追い詰める模様。各艦ホールドキャノンを発射」

 

 

 そしてリシテア以下カルポ、テミスト、カレが順次主砲を発射する。

 インフラトン粒子とプラズマが混ざった薄緑のビームが24条発射された。

 完全にオーバーキルの攻撃を受けた護衛艦二隻は跡形も無く大破していく。

 新型戦艦はバイタルエリアに直撃を与えはしなかったが武装は全てホールドキャノンの薄緑色のビームに抉り取られており、爆散する一歩手前まで追い込んである。

 

 結構制圧を急いだのは、何気に新型艦も大型特装砲を装備していたらしく。

 戦闘の最中に何度かインフラトン粒子反応が増大していたからだった。

 まぁ不自然な程通常艤装が少ない為、回りこんでしまえば問題無いのだが。

 

 また、どうやら新型だけはあり強力なデフレクターユニットを搭載していたらしく、ヴルゴ艦隊の放つ攻撃の内、ガトリングレーザー砲の弾幕が逸らされていた。

 ガトリングレーザーなだけはあり、14隻の集中砲火喰らったらデフレクターの許容限界を軽く超えたらしく、一斉射で船内から火を拭きだしていたけどな。

 そしてヴルゴ艦隊は逃げようとしているビヤット級を駆逐艦で取り囲み武装解除を要請。ビヤット級もソレに従い、逃げることを諦めた為輸送船2隻を拿捕する事に成功したのであった。

 

 

「ビヤット級降伏しました。現在戦闘ドロイドを中心に制圧を急がせています」

 

「中身は全部頂くんだね?」

 

「もちろんさぁ☆」

 

「・・・殴っていいかい?」

 

「いや、すんません。上手くいったモンで調子に乗ってました」

 

 

 思わず教祖様を肖ろうとしたのがダメだったポイ。

 とにかく、こっちの巡洋艦が鹵獲した輸送艦に接舷して制圧させる。

 輸送艦はそれ程人員がいる訳でも無いので案外すぐに片が付く。

 そう思っていた時期が僕にもありました。

 

 そう、上が降伏を受諾しても血気盛んな下っ端が言うことを聞かない事がある。

 この鹵獲した輸送艦の内の一隻にもそういう輩が乗りこんでいたらしい。

 貨物室の一室に銃器を持って立てこもっているんだそうな。

 正直それで被害が出るのもメンドイので、他の抵抗が無い所から順に制圧。

 立てこもっているとこは除き、貨物室から貨物を運びだして行く。

 

 要は相手にするからウザいのであって、別にこっちは相手にし無くても良いのだ。

態々立てこもってくれるならそのまま放置して他の事をした方が良い。

 立てこもっている所に戦闘ドロイドを3~4体おいておけば出て来ないしな。

 ・・・・いや、流石に立てこもっている貨物室を外からぶっ壊すはしませんよ?

 

 

「ユピ、現在の進行状況は?」

 

「貨物に関しては元からパッケージされてましたので、後2~30分で作業が終わります。新造艦だと思われるアンノウンに関しては今の所手をつけていませんが・・・」

 

「それで良いッスよ。今はまだ手をつけなくても良いッス。とりあえず牽引して友軍の防衛ラインの内側に入ってから調べりゃいいんスからね。此処は前線だから止まってたら怖くてしょうがない」

 

「クス、そうですね」

 

 

 とはいえ、ほぼこの宙域は制圧が完了したと言える。

 まぁあの新造艦が何かの試作艦なら、もしかしたら増援が来るかもしれない。

 敵に新技術を渡す程、流石にカルバライヤも墜ちてはいないだろう。

 問題は何であのアンノウン艦がこんな所を通っていたかだ。

 試験航海なら前線では無くもっと後方でやるものだろう。

 トスカ姐さんの言う通り、何処かキナ臭いぜ。

 

 

「――ッ!艦長、新たな反応を確認。恐らく敵の増援だと思われます」

 

「各艦迎撃準備、本艦も不測の事態に備えて主砲にエネルギーをチャージしておけッス」

 

「アイサー」

 

 

 おっとちんたらしてた所為で増援が来ちまったぜ。

 一応まだこちらは疲弊してはいないから応戦可能だろうと俺は思った。

 

 

「増援の艦隊の識別は?」

 

「それが、妙に早いフネが・・・これもデータにはありません。ソレと―――」

 

 

 ミドリさんが少しためらうかのような顔をしている。

 珍しい事もあるもんだと思いつつどうしたと訪ねた。

 

 

「もう一隻識別不可の艦の後に続いてきた後続艦に、バゼルナイツ級の反応があります」

 

「おやまぁ、随分といいフネを持っている敵もいるもんスねぇ」

 

 

 アレは突出した性能は持たないが、小マゼランでは十分に強力なフネだ。

 どうやって手似れたんだろうかねぇ。

 

 

「いえ、それが・・・そのバゼルナイツ級の識別は―――アバリスの物なんです」

 

「・・・・へぅっ!?」

 

 

 驚きのあまり思わず変な声で応対してしまった。

 な、なんでアバリスがカルバライヤの連中と行動してるんだ!?

 

 

「アバリスに通信を―――」

 

「それが、無線封鎖しているらしく、通信がつながりません」

 

 

ソレは困った。あの時別れた仲間かもしれないのに連絡が取れないなんて・・・。

もし、あれが本当にアバリスだとして、クルー達は全員いるんだろうか?

実は売りに出されていて、ソレをカルバライヤが買い取っただけなら笑えるぜ。

 

 

『そこのフネ聞こえるか?私は海賊シルグファーンだ』

 

 

Σ(゚Д゚;≡;゚д゚)イ、イキナリナンダー!?

 

 

「敵艦から強引に全周波数帯での通信です。ヴルゴ艦隊との通信回線に割りこまれました」

 

 

 お、驚いた。いきなりどすの利いたおっさんの声がブリッジに響いたからな。

 ビビりでチキンな俺を舐めるんじゃねぇぞ!

 お化け屋敷に行ったら確実に泣きだせる自信があるぜ!

 

 

『ゆえあってカルバライヤに味方している。そこの艦長の名を聞こう』

 

「あー、此方ネージリンス遊撃艦隊のユーリだ」

 

 

 とりあえず通信を繋げると、モニターには金の長髪と鳩尾にまで伸ばした顎髭が特徴的なダンディーなおじ様が映る。

 お、おお・・・マントまで付けちゃって、“これぞ海賊”っていう見本みたいな人だな。

 ヴァランタイン程じゃないけど、気迫もスゲェや。

 

 

『ほう、お前が艦長か。気の毒だがその艦隊、沈めさせてもらう!』

 

「一つ聞きたいっス。あんたらに随伴しているそのフネは――」

 

『彼らは随伴している訳ではない。だがあの白鯨艦隊の者たちだ。かなり手ごわい事だろう。さて、おしゃべりはココまでだ!武人らしく戦おうではないか!』

 

「え!ちょっちょっと!―――」

 

「回線強制解除されました」

 

 

・・・・やっぱりこの世界の人間って人の話聞かないよ!汚い!

 くっそー、見ればアバリスもやる気満々じゃねぇか。

 フネが変わって識別コードも変えちまったから判らないのか。

 通信入れたくても無線封鎖してて一切回線が開けねぇしどうするよ?

 

 

「アンノウン艦、アバリス、発砲。駆逐艦カルデネに着弾、損害小破」

 

「ちっ、こうなったらブッ倒して話を聞かせてやるッス!」

 

「OHANASHI☆ですね!判ります!」

 

「仕方ないねぇ、各艦戦闘準備!ヴルゴ司令!アンノウンはやっちまって良いが、もう一隻はげきちんするんじゃないよ。航行不能にとどめるんだ」

 

『了解した。ヴルゴ艦隊前に出るぞ!』

 

 

 数奇な運命とでも言うのか、はたまたスゲェ偶然と言うのか。

 せっかく再開したと思った仲間から撃たれるとはねぇ~。

 ま、別れた時とは規模もフネの種類も全然違うからな。

 

 とりあえず、ヴルゴ艦隊と連中とが衝突する。

 下手に姿見せると逃げそうだから、俺達は隠れたままにして様子を見る事にしたのだった。

 

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第五十二章+第五十三章+第五十四章

Side三人称

 

 

さて、久々の登場と・・・ごほん。

とにかく久々の仲間との再開を予期せぬタイミングで果たしたアバリス。

そのブリッジではどんな会話が為されていたかというと―――

 

 

「戦闘準備だ!ガトリングレーザー砲スタンバイ!」

 

「ププロネン隊も発進させろ!装備はB-1!そうだ対艦装備だ!」

 

「エンジン臨界まで20秒、今日もエンジンは絶好調だよ!トーロ艦長」

 

「う~ん。なぜかしら~?さっき一瞬天頂方面のレーダーレンジに揺らぎがあったんだけど~?」

 

「気のせいじゃないのか?」

 

 

―――実は目の前の艦隊がユーリ達である事に気が付いていなかった。

 

元はと言えば彼らがカルバライヤについたのも、別に大層な理由があったとか何てことは無い。彼らが偶々カルバライヤに居たからであった。お仲間探して三千里、一応マゼラニックストリームにまで足を延ばした後、彼らは補給の為に寄ったカルバライヤの宙域に係留していたのだ。そこでいきなりの戦争勃発である。

渡航は制限され、海賊も星間戦争ともなると唐突に息を潜め始める為、貴重な収入源である海賊が中々見つけられないという事態に、とりあえず金を稼げればいいんじゃね?って感じでカルバライヤサイドが募集していた義勇兵に参加したのだ。

 

 彼らは離ればなれになったユーリ達の生存を疑ってはいなかったが、小マゼランの中を探すには色々と費用が嵩んでしまうというのもあり、資金はいくらでも欲しかったのだ。序でにもしユーリ達が生き残り、こちらと同じく探し廻ってくれているのなら、この騒ぎに参加するかもという期待もあった。そしてソレは謀らずとも実現していたのだが、トーロ達はまだソレに気が付いていない。

 ともあれこうしてカルバライヤサイドに参戦したアバリスであったが、ここで予想外な事が起きる。それはどういう訳かネージリンスとのキルレシオがアバリス単艦に対し10隻を超えていたということであった。しかもその中には正規軍でも手を焼くネージリンスの空母が含まれた艦隊を相手にしてである。

 

 何故空母に対応できたのかと言うと、ププロネン隊の活躍が大きい。ププロネン隊はあのグランヘイムとの戦闘の時に、軸線反重力砲の影響で一時的にシステムダウンを起し宇宙空間に放り出された彼らだったが、少ししてなんとか復帰した後ボイドゲートを越えた先にある近隣惑星に停泊していたアバリスに合流出来たのである。

 これが一般の航宙機であるビトンやフィオリアであったならそのまま宇宙の藻屑となって死んでいたかもしれなかったが、ソレもこれも漢の浪漫と科学者の魂を惜しみなく導入したVF-0という機体が短距離ながらも恒星間飛行が可能な設計がなされていた事が彼らの生命をすくったと言えた。こうして彼らはアバリスと合流し、ユーリ達を見つける為に行動を共にしていたのである。

 

またアバリスには簡易ながらもカタパルトが備え付けられている為、VF-0をなんとか収容で来たという事も大きいだろう。アバリスにはユピテルから脱出した整備班の人間が多数乗り込んでいた。それはVF-0というカスタム機を扱うププロネン達にとっては整備のノウハウを持った人間が乗りこんでいるという事と同義である。

VF-0は一応フィオリアが原型となっており、少なからずパーツを流用してあるのだが、やはり見知らぬステーションの整備ドロイドに任せるよりかはキチンと整備できる人間に任せたいというのが宇宙戦闘機パイロットの感情だったのだろう。閑話休題。

 

こうしてカルバライヤ側に付くことになったトーロ達であったが、その戦闘力は同じ遊撃艦隊のフネの中でも群を抜いて高かったということがあげられる。旗艦を退き内装もファクトリーベースという感じに変えられたアバリスであったが、その火力は当時のユピテルとほぼ同じくらいであり、特に何度が改修をうけて連射性が向上したガトリングレーザー砲と船体両側面に取り付けられている固定兵装のリフレクションレーザー砲もマッドの手によって改修を受けてアウトレンジからの砲撃能力が増しているという。

アバリスの元となったバゼルナイツ級の設計元が聞いたら驚きで口が開きっぱなしになりかねない程の大改造を加えられた兵装により、アバリスは今だに前線で活躍できる砲戦能力を持ったフネとなっていた。特にガトリングレーザー砲は様々な固有周波数をもつビームを連射でき、固有周波数に干渉して防御を行うAPFSの干渉枠から外れるビームが装甲に直撃したり、その多様な固有周波数をもつビームによりAPFS制御装置に多大な負荷をかけて自滅させられる光学兵器となっていた。

またこの砲は一発一発の威力こそ小さいが、散布界が広くて命中しやすいガトリングレーザー砲は戦争の様な多数の敵を相手にするのに最適な兵装であり、遠距離で探知出来たなら対空兵装として使用出来る万能兵器であると言えた。超長距離はリフレクションレーザーで、遠距離は艦載機で、中~近距離はガトリングレーザーで固めたアバリスはどの距離でも対応できるマルチロール戦艦と言っても良く、短期決戦にしたいカルバライヤ側にとってはありがたい存在であった。

 

それもこれも元より人員もフネもすくなった当時の艦隊運用の影響なのだが、それが良い方に働いた結果と言える。結果的に単艦での戦闘力が群を抜いて高かった上、もとより大マゼラン製の船体は小マゼランのフネと比べるとウン倍も耐久力が高かった為、指揮経験の少ないトーロの蛮行に耐えられたというのもあるのだろう。

 結果的にそれによって様々な局面において、彼らは有利に戦闘を進められた。まずププロネン隊のVF-0、この機体は可変機能により三形態への変形が可能となっている。速度が一番早いファイター、四肢を得たことによる能動的質量移動姿勢制御システムを活用出来る人型形態バトロイド、両者の中間としてトリッキーな機動が可能になるガウォークの三つだ。

 

 VF隊はこの機能を駆使し、自分たちよりも数が多い敵を相手に互角以上に戦った。この世界にも人型兵器は確かに存在しているのだが、ソレは小マゼラン銀河では普及はおろか知られていない。おまけにマッドの暴走が起したこの奇跡の様な機体は人型のみならず変形してしまえるのである。通常の戦闘機乗りにとって宙戦中にいきなり相手が変形してしまうことほど驚くことはないであろう。事実、この変形機構によって驚愕したパイロットが動きを止めたことから撃墜されると言った事態が多かったのである。

 飛行機が人型に可変するとかないわー、とププロネン隊と交戦したネージリンス側の生き残りのパイロットたちは口ぐちにそう言ったという。当然VF隊の技量が非常に高いと言う点も考慮に入れねばならない。只でさえ航宙機は扱いが難しいのに、それに加えて変形機構である。ソレを乗りこなせるだけでも十分他の所ではエースであると腕前を誇っても良いのである。

 

 そしてガザンのVB-6G、コレもかなり凶悪であった。既存の航宙機よりも大型なその機体には、艦砲と同等のレールキャノンが4連装で収納されているのである。対艦攻撃以外にも弾種を変更する事である程度の対空戦闘もこなせる彼女の機体は、戦場においてその圧倒的火力をもってして敵を蹂躙していった。

 高機動でトリッキーなVF隊が戦場を掻きまわし、それに鉄槌を下すかのような絶対的火力をもつVB-6Gケーニッヒモンスター・ガザン仕様機が様々な弾種を用いて敵をアウトレンジから粉砕するという構図が一度形成されてしまえば、ネージリンス側の戦闘機隊にとってその戦闘宙域が地獄と化す。VB-6Gを落したくてもそれぞれがエース級の腕前を持つ分厚いVF隊の壁を突破できる程の物量はネージリンスも流石に持っていなかった。

 

 

 こうして単艦でありながらも凄まじい打撃力を持つ戦力としてカルバライヤ側に認識されたアバリスは、同じく単艦で成果を上げていた大海賊シルグファーンと組まされて戦争に従事させられる事となった。比較的需要なポイントに戦力を集中して配備し、それ以外はトーロ達の様な少数先鋭の遊撃艦隊に強襲させるというカルバライヤ側の思惑によって編成されたのだった。

 この作戦本部からの通達は、元々海賊狩りを生業としていた白鯨に所属しているアバリス側と無益な殺生は好まないが貨物船を狙う海賊であるシルグファーン側との間に戦慄をもたらしたのであるが、とりあえず酒盛りで親睦会をしてみたところ何故か馬があってしまい意気投合。もとより細かいことは気にしない連中であったからかもしれないが、とりあえず特に何かトラブルを起すことも無く、戦時下での協力体制をとる運びとなったのだった。

 

 尚、シルグファーンはこれまでのカルバライヤへの貢献によって新型戦艦を受領し、トーロ達も少なくない額の金を手に入れている。今回も戦艦が多数撃破されているという情報と、新型艦がその宙域でテストを行っており、ソレを敵から守ってほしいというカルバライヤ軍作戦本部からの連絡を受けた彼らはこの宙域に参上したと言う訳であった。

 

 

「ふーむ、トーロ。今回はちょっと厳しいかもしれないよ」

 

 

 アバリスでは副長兼参謀役を買って出ているイネスが観測機器からのデータを眺めつつトーロにそう進言していた。

 

 

「そりゃどういうことだイネス?何時ものようにププロネン隊で撹乱してやれば・・・」

 

「この間のネージリンス軍の30隻規模艦隊に比べれば少数に見えるけど、この艦隊を構成しているフネは大マゼラン系だという解析結果が出てるんだ」

 

「ゲッ、マジかよ」

 

 

イネスの報告にトーロは苦い顔をする。

これまで連戦出来ていたのはやはりフネや装備の性能差によるところが大きい。 

小マゼランならまだしも、敵は大マゼラン製のフネであると言うことは、同じく元は大マゼラン製のフネであるアバリスにとっても苦戦を強いられるという意味でもあった。

 

 

「でも、艦載機は今の所確認出来ねぇんだろ?」

 

「うん、今のところはね。見た所艦載機の運用設備は無いみたいだし」

 

「おう、なら安心だ。ププロネンさん率いるトランプ隊を戦闘艦が落せる訳が無いからな」

 

「・・・だと、良いんだけどね」

 

 

 イネスはそう言ってデータボードに目を落した。

 

 

(まだ遠目だから良く解らないけど、艦の種類や装備が統一されている。只の0Gでは無さそうだし大マゼラン製だから性能も侮れない。・・・しっかりと敵を見極めなきゃ)

 

 

 統率が取れた艦隊機動を取る敵艦隊を見て、イネスはどこか不安を覚えつつも戦闘に参加する事になる。こうして両者戦闘態勢が整えられていった。

 

 

『おい、小僧。聞こえるか。とりあえずいつも通りに頼むぞ』

 

「おう、艦載機を前に出して俺達はアウトレンジからの砲撃だな。まかせとけ」

 

『・・・気をつけろよ。向うはかなりの手練(てだれ)かも知れんからな』

 

「心配すんな。こちとら白鯨だ。そん所そこらの相手にやられはしねぇさ」

 

 

 これまでよく作戦を共にしてきたからか、シルグファーンとトーロ達の戦い方もある種のセオリーが生まれていた。基本的に20機編隊であるトランプ隊が敵を撹乱して足を止め、シルグファーンとトーロ達が砲撃を加えると言うオーソドックスなスタイルである。

 味方のフネの射界に入らない様にする為に戦闘機パイロットの技量が試されるスタイルであるが、もとよりエース級の腕前を持つトランプ隊にとっては造作も無い戦闘法であり、これによって様々な作戦において勝利を収めてきた彼らにとって一番扱いやすい戦術でもあった。

 

 

「艦長~、敵艦がうごくわ~。駆逐艦を前衛に出すつもりみたい~」

 

「ほう、あちらさんもまた王道で来たな」

 

「ソレだけ戦い方に自信があるのかもしれない。気を付けた方が良いだろう」

 

 

 一方の敵艦隊――この場合はユーリ指揮下のブルゴ司令の無人艦隊であるが――が艦隊を輪形陣を動かして単横陣の陣形を形成していた。これは単純に横一列に並ぶと言う陣形であり、一見すると単純な陣形に見えるかもしれないが、実際は前方の空間に対しそれぞれのフネに射界が重ならない為、戦い安くまた指揮統制の簡略化が容易で様々な戦況に臨機応変に対応出来る利点があった。

 

 

『こちらトランプ隊、発艦準備完了です』

 

「了解、ハッチを開くぜ。トランプ隊はいつも通りにR(レール)G(ガトリング)P(ポッド)を持った機体と対艦ミサイルを持つ機体とでエレメントを組んで戦ってくれ」

 

『了解です。ソレでは失礼します』

 

 

 トーロが攻撃命令を出す。次々と格納庫から飛び出したトランプ隊はそのまま編隊を組んで命令に従い無人艦隊へと突入していく。遅まきに発進したガザンのVB-6GはVFに比べると速力に劣る為、丁度VFの編隊とアバリスとの中間地点に留まり、ココでレールキャノンによる砲撃を行うつもりのようであった。

 

 

『こちらトランプ隊、敵艦を補足、攻撃を開始します!』

 

 

そしてププロネン率いるトランプ隊が敵艦隊を射程にとらえ攻撃しようとしたその瞬間。

 

 

「敵艦発砲!――ッ!?敵艦の兵装はガトリングレーザー砲とHLです!」

 

「「な、なんだってーっ!?」」

 

 

 アバリスのブリッジではオペレーターの報告にイネスとトーロがあんぐりと口をあけて驚愕の声を上げていた。このガトリングレーザー砲とHLは白鯨艦隊の誇るマッド陣営が作り上げたオリジナルの兵器であり、ほかの艦隊が持ち合わせている筈が無い兵装であったからだ。(ちなみにこれらの兵装はケセイヤによって既にパテントを抑えているので勝手に複製も出来ない。)

 

 

「おいおい!あれはウチが独自に持つ武器だろ!?勝手に複製しやがったのか!?」

 

「わからんっ!けど向うがソレを使っているのは確定的に明らかだ!」

 

「ト、トランプ隊通信途絶・・・シグナル消えました。VB-6GもHLの直撃を喰らったようで通信途絶!」

 

 

 オペレーターが悲鳴をあげるように報告してくる。流石の事態にブリッジが静まり返った。トランプ隊が落されるなんて予想外も良いところである。それよりも予想外な事は敵の艦が装備しているあの兵装。

 

 

「くそっ!何処の誰だか知らねぇが勝手に真似するとか汚いぞ!」

 

「・・・ふと思ったんだが、普通にパテント料を払ったんじゃ?」

 

「・・・その手もあったか―――いや!でもそれでもこっちに一言あっても良い筈だ!」

 

「どんな理屈だよソレ!?」

 

 

 Σ(゚Д゚;≡;゚д゚) ブリッジは混乱している。

どういう理由(わけ)で向うがこれらの兵装を用いているのかが判らない。

 おまけに序盤でいきなりのトランプ隊からのシグナルロスト。

艦内の混乱は今だ収まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【敵艦載機の機能停止を確認しました】

 

「落した機体にはマーカーをつけておけ。何処に流されるか判らんからな」

 

【アイサー、コマンダー】

 

 

 一方こちらはアバリスと対峙しているヴルゴ艦隊。旗艦であるネビュラス/DC級戦艦リシテアの中では、逐一変化する戦況をCICにてヴルゴが戦術モニターと睨めっこしつつ指示を出していた。

 

 

「予想よりも時間が掛ったな」

 

【こちらの予測を4分39秒上回りました。データの補正が必要の様です】

 

「ふむ。駆逐艦アーケに連中の回収を急がせろ。艦隊はもう少し前に出るぞ」

 

 

 CICにあるモニターにはフネを表す大きめのグリッドの他にかなり小さなグリッドが表示されていた。その小さなグリッドが意味しているのはデブリなどでは無く、先程戦闘を行ったトランプ隊のVF-0達である。無線封鎖をアバリスがしていた所為で此方からの連絡手段が無かったユーリはヴルゴにある命令を下していた。ソレは元々味方であるアバリスやソレに所属しているトランプ隊を破壊しないと言う命令である。

 最初はなんて無茶な命令かと彼は思ったのだが、艦載機については破壊しない方法がデメテールに乗っているサナダからのデータが送られてきた為ソレを実行に移した。ソレは演習レベルの出力にまで抑えた艦砲で撃ち落とすと言ったモノである。艦載機のシール程度だと例え演習レベルの出力でも命中してしまうとシステムダウンを引き起こしてしまう。その現象を利用したのだ。

 

 勿論通常のフネのレーザーや艦砲では宇宙空間を高速で飛来する航宙機を捉えることは難しい。的が小さすぎて当て辛いというのが主な理由である。だが、これまでの戦闘を経て蓄積したデータや改良に改良を加えられたガトリングレーザー砲により、ある程度の距離と砲の数をそろえておくことで対空と呼べるかはあやしいが非常に濃い弾幕を空間に形成出来ることが判っていた。

 計14隻いる無人艦隊を単横陣にしたのも、挟撃を想定して弾幕密度を上げるために火線をある距離で重なる様に計算して配置したからであった。横一列に並んだ事により散布界が広く、また何より弾幕密度が高いという空間を作り出すことに成功したのである。トランプ隊はヴルゴ艦隊がガトリングレーザー砲や簡易式HLを搭載していることを知らなかった為、流石のププロネンもこの攻撃を予測しきれずに弾幕に突っ込んでしまったと言う訳である。

 

まぁ、まさかガトリングレーザー砲を駆逐艦から戦艦まで全てのフネが搭載しており、ソレで濃密な弾幕を形成してくる何て普通は思えない事だろう。むしろソレを予見できたらジェ○イだとかNTだとか俗に言うエスパーなんて呼ばれてしまう。

 

 

【コマンダー、ボギー1が前進を開始。距離を詰めてくるようです】

 

「駆逐艦を下がらせろ。連中の砲撃は精度が高い。無駄に前に出しておけば撃沈される可能性がある。そんなことしたらユーリ艦長から大目玉だ」

 

【アイサー。・・・コマンダー、ボギー2も移動を開始しました。ボギー1と同調するつもりの様です。火線の自動追尾を行いますか?】

 

「必要ない。近づく様なら威嚇して撃沈はするなとの命令だ」

 

【アイサーコマンダー。各艦のビーム出力を対空演習から対艦戦レベルに移行。適度に散布界を狭めた“威嚇射撃”を開始します】

 

 

さてこのヴルゴともう片方の台詞から判る様に、ヴルゴ艦隊の特筆すべき点として、このフネに乗船している人間はヴルゴを含めて僅かに数人しかいないと言うことだろう。現在ヴルゴと会話しているのはこのフネに搭載された準統合統括AIである。ちなみに名前はまだない。本家ユピのコピーであるこの準AI達はそれぞれの無人艦に搭載されており、人材が足りない白鯨においてフネの運用を一手に引き受けている。

対ヒューマンインターフェイスをかなり学習したユピのコピーだけあり、AIに命令を下すヴルゴ司令とのやり取りも非常にスムーズに行うことが出来るようにセットアップされている。まだ経験値が足りないからか若干やり取りに拙さがあるが、それは今後の成長次第であろう。

 

 

【駆逐艦を下げ、巡洋艦を前に出します。敵艦警戒ラインに接触まで10秒、コマンダー、主砲による攻撃の許可を】

 

「発砲を許可する。照準は敵武装及び粒子ダクトなどのバイタルエリアとは関係が無い区画だ」

 

【アイサー、各砲自動照準、データリンク開始、上方に2度修正】

 

 

 上甲板にある二基の連装ホールドキャノンのロックが外れオートで照準が合わせられる。細かな微調整を繰り返し行い、主砲の矛先は完全に標的であるボギー1(シルグファーンのフネ)とボギー2(アバリス)をその射程に捉えた。

 

 

【砲撃を開始します】

 

≪―――ズォォォォォォンッ!!≫

 

 

 連装砲二基から放たれた薄緑色のビームは、ほぼ同時にシルグファーンとトーロのフネを貫いていた。シルグファーンのフネには左舷のブロックにビームが直撃し、APFSで減衰させられたものの貫通力の高いソレはそのままシールドジェネレーターを貫通してしまった。シルグファーンは通常の兵器ではないソレに戦慄を覚え、すぐさまデフレクターの出力を最大に設定すると一時的にアバリスの近くにまで艦を下がらせた。

一方、右舷前方から船体右舷側後方にあるウィングブロックまでを、ほぼ直線状にかすめたビームによって、装甲板を焼かれウィングブロックを貫通されたアバリスは煙を拭きだしつつバランスを崩し、姿勢制御に大わらわであった。ウィングブロックがほぼ丸ごと吹き飛ばされたその衝撃でブリッジに居たトーロ達はコンソールにしこたま顔を叩きつけられた。

 

 

「――ッ・・右舷のガントリーアーム及びウィングブロック大破!強制パージします!」

 

 

 アバリスはダメージコントロールの為に大破したウィングブロックを急いで切り離していた。無人とはいえ補助エンジンが搭載されている区画である。幸いなことにエンジン自体が先の砲撃で消滅している為、誘爆する危険は低いが先の攻撃で崩されたバランスを回復させるのが難しくなるのですぐさまパージしたのだ。機能を失った部分をつけていてもデッドウェイトにしかならないという判断からである。

 

 

「アイタタタ・・・ここまでアバリスがやられたのはエルメッツァ以来だぞ」

 

「まったくだ。これは外れ籤を引かされてしまったようだな。どうする、逃げる?」

 

「・・・逃げられれば、おんの字だろうなぁ」

 

 

 イネスが呟くが実際は逃げられるかも怪しい。航空戦力は最初の一斉射で失ってしまい、反転して逃げたくても補助エンジンを貫かれたアバリスは通常より2割程推力が低下してしまう。ある意味でピンチな状況であった。

 

 

「どうするトーロ?このままだと全滅だ」

 

「・・・仕方ねぇ。俺達はユーリ達と合流するまで全滅する訳にはいかないモンな」

 

「それじゃあ・・・降伏する?」

 

「そうしたいけど、あのおっさんがゆるしてくれるかなぁ?」

 

 

 トーロは自艦の右舷にて、こちらと同じく損傷してガスを噴出させているシルグファーンのフネを恨めしそうに見つめる。実はシルグファーンはネージリンスにかなりの恨みを持っているらしく、カルバライヤ側に付いたのも合法的にネージリンスを攻撃出来ると言う理由からだった。

しかもそれを邪魔する人間に対しても容赦がないという噂もあり、ココで下手に逃げだそうとするともしかしたら背後から撃たれるという懸念があったのだ。だが、その懸念は件のシルグファーンからの通信であっさりと覆される事になる。

 

 

『小僧!聞こえるか!俺のフネはシールドジェネレーターをやられた!一時後退するぞ!ついて来い!』

 

 

 なんと自分から引くと言うことを明言したのである。どうやら噂は所詮噂であり、実際今回相手にしたのも恐らく0Gである事からそれ程執着しなかっ――

 

 

『――覚えていろよ。ネージリンスを叩くのを邪魔するヤツは絶対に叩き潰してやるッ』

 

 

―――前言撤回、やはりかなり恨みを持っている。それも通信越しで判る程に。

 

 

「シルグファーン、こっちは補助エンジンをやられた。時間を稼ぐからその間に撤退してくれ」

 

『何っ!?―――すまん小僧!』

 

「え?そこは普通俺も残るとか・・」

 

『俺はこんな所ではてる訳にいかない!ネージリンスの連中に地獄を見せなければッ』

 

「あ、あ~、そうだなー。そっちはソレが目的だったよなぁ」

 

 

 トーロは通信越しに伝わるシルグファーンの執念に何処か辟易しながらも適当に答える。なまじ恨みから復讐心をたぎらせた人間というのは同じく復讐心を持つ人間でも無い限り理解出来ない。

 

 

「ま、こっちは時間稼ぎしたら適当なところで降伏でも何でもするさ」

 

 

 そう言うとシルグファーンは何とも言えない表情になった。ソレはまるで生贄を見るかの様な表情であり、トーロをすこし苛立たせたが、彼はそれを顔には出さずに通信を続けた。

 

 

「とにかく、とっとと後退してくれ。じゃねぇと持たねぇぞ」

 

『・・・すまん』

 

 

 シルグファーンは本当に悔しそうに顔を顰めて通信を切った。そして彼のフネは反転すると全速力で宙域を離脱していく。ある意味トーロ達にとってそれはありがたいことだった。一応敵はネージリンス正規軍ではなく只の0Gの様であるし、同じ0Gであるこっちが降伏すればそれ以上攻撃はして来ないだろう。

 勿論撃沈してこようとするのであれば全力で抵抗するし、そうなるのは相手も好まない筈だ。主にソレに掛かる手間ともしも損傷した際の修理費などの関係で・・・。

 

 

「イネス。無線封鎖を解いて向うに通信を入れてくれ。俺達は降伏するってな」

 

「ああ、判った」

 

 

 シルグファーンも逃げたし、さっさと降伏してしまおう。ユーリ達と合流したいが、命あってのものダネだ。そんな空気がブリッジに漂っていた。最悪生きていれば無効と合流できるけど、死んでしまえばそれで終わりなのだから、ドライな考えながらも合理的と呼べるかもしれない。ここら辺の切り替えが早いヤツは0Gにおいても死ににくいのである。

 

 

「さて――コホン。・・・こちら白鯨所属の戦艦アバリス、僕たちはそちらに降伏する」

 

 

イネスが通信を送り音声だけの返信で降伏を受諾された彼らはすぐに武装を解除した。

アレだけの力を持つ連中に逆らうのも気が引ける。誰だって死にたくは無い。

それぞれ、これからどうなるのかという不安に思う空気がクルー達に蔓延していく。

 

 

 

しかし、ソレもすぐに霧散する事になる事だろう。

 

 

 

アバリスの隣にステルスを解除したデメテールが現れて接舷するまで――後120秒。

 

 

 

***

 

 

Sideトーロ

 

 

「なぁイネス?」

 

「なんだい艦長どの」

 

「さっきまでこんな所に壁なんてあったか?」

 

「艦長、宇宙に壁なんて無いさ。だけど見えている全てが現実さ」

 

「ぜ、全長~36km~!?なにこれ~!?」

 

 

俺は夢を見ているのだろうか?もしそうなら悪夢と言っても良いんじゃないか?

今、降参して停船しているアバリスのすぐ隣に突如として巨大な船が現れたのである。

サナダさんによってセンサー類も強化されていた筈のアバリスでも見抜けない程のステルス艦が、しかもこれ程の巨大艦がすぐ近くに居たなんて・・・。

 

 

「は、はは・・・なんだよ。俺達は最初からシャカの掌の上だったのかよ・・・」

 

 

ブリッジの誰かがそう漏らした後、ブリッジの中はとても静かになった。

というかシャカって誰だ?と思わず現実逃避を起してしまいそうになり、すぐに頭を振った。

指揮官を任されているモノが真っ先に混乱してどうすりゅよ落ちちゅけ俺。

そう深呼吸~深呼吸~・・・・こんな時ユーリだったら・・・。

 

 

『はは!Be Koolさ!Be Kool!!兎に角素数を数えるんだ。素数は孤独な数字、僕に勇気を与えてくれる・・・1って素数だっけ?』

 

 

・・・・ダメだ、参考になりゃしねぇ。と言うかまずはお前が落ちつけ。

記憶の中のユーリは頼りにならない事を実感してしまい更に落ち込んだぜ。

そうこうしているウチにアバリスは何時の間にかこの巨大艦の出したトラクタービームに捕らわれていた。

こっちは機関の火を落した為、すぐには動けないから相手にされるがまま。

そして誘導された大きなハッチの中にアバリスがまるで巨大な生物に食われるかのように入っていくのを見て、絶望が俺達に広がった。

全く、とんだ相手にケンカを売ったもんだぜ。

 

ハッチから中に入ったアバリスはそのままトラクタービームに牽引され奥へ奥へと進んだ。

俺達アバリスのクルーは何時向うが気まぐれを起してアバリスをぶっ壊すのではと内心ビクビクしていた。

そしてようやく進むのが止まり、アバリスは六角形状の空間にてガントリーアームに捕らわれて停泊した。

両サイドの壁から乗り入れ用の空間チューブが伸びてくるのを見て、ああもうすぐ臭い飯を食う生活に入るんだろうなぁと思ったモンだ。

 

 

「艦長、向うから通信が入ってます」

 

「大方とっとと出てこいの催促だろう?・・・出たくねぇなぁ」

 

「もうココは敵の腹の中だ。じたばたしても始まらないよトーロ」

 

「けどよぉ。このまま降伏とか癪じゃない?」

 

 

アバリスは負けた。そいつは判っちゃいる。

だけどせっかくここまで仲間を探して来たと言うのに、ここで負けを認めるのがなんだかユーリ達を裏切るんじゃないかと思えてしまってならなかった。

だが、イネスはやれやれと溜息をつくと何時ものように冷静に返してきた。

 

 

「なら自爆とかでもするかい?エンジンをオーバーロードでもさせればすぐさ」

 

「おお!何か一矢報いたっぽいなそれ!」

 

「だけど態々自分たちのフネの中に入れたって事は、ココはそう言う事も想定した空間何だろうさ。案外自爆しても被害は無いかもね」

 

「・・・あげといて落すなよ」

 

「またまた、自爆する気なんてないんだろ?」

 

「ま、そうなんだけどな」

 

 

そりゃそうだ。死にたくないしな。ユーリ達と合流してないのに死ねるかってんだ。

こうなりゃままよ。臭い飯でもなんでも来やがれってんだ!

・・・銃殺だけは簡便な!

 

 

「向うと通信を繋いでくれ!さぁ潔く行こうじゃねぇか!」

 

「では回線を繋ぎます」

 

 

そして俺は覚悟を決めて、向うと通信回線を繋ぐ様に指示を出した。

潔く降伏してやろうじゃないか!・・・そう思っていた俺であったが―――

 

 

『う~すっ!久しぶりトーロ!』

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×アバリスブリッジクルー

 

『あ、あれ?なにこの沈黙「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!??!!!??!?!」うわっうるせ』

 

 

俺達は一斉に大声で絶叫していた。

何故なら通信回線に映し出されたのは、俺達の仲間である懐かしのユーリの姿だったのだから。

・・・・・・だ、だれか胃薬を頼む、もう俺ダメだぁ・・・ガクッ。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 

「あるぇ~?なんであんなに驚いてるんスか?」

 

「そりゃアンタ、今まで戦ってた相手が味方だったとか判ったら驚くだろ?」

 

「いやてっきりヴルゴさんが伝えてるもんだとばかり思ってたッス」

 

 

そう話題を振ると、別の空間パネルに映っていたヴルゴは首を振った。

 

 

『いえ、伝えておりませんぞ?』

 

「え?!そう何スか?!」

 

『私は元々敵であった訳ですし、気を利かせたのですが・・・』

 

 

どうやらヴルゴ司令のご配慮があった御様子。

ま、まぁ結果的にスゲェサプライズ決められたから良いんだヨ!グリーンだヨ!

 

 

「艦長、トリップ中に申し訳ないのですがそろそろ戻ってください」

 

「・・・ハッ!また脳みそが違う世界に!」

 

「ハイハイ~、いい加減真面目に行くよー」

 

 

わ、判りました、真面目に行きます。だからハンマー降ろしてトスカ姐さん。

兎に角、復活した俺は通信でトーロ達に外に出てくるように指示を出した。

向うも余りの事態に困惑して空気が凍りついていたからか、こちらの指示ににべもなく従って下船準備を始めた。

 

 

「ほいじゃ、迎えに行くッス」

 

「お供します艦長」

 

「私も行くよ」

 

 

こちらも迎えに行くと言う事になりトスカ姐さんとユピ、更にはブリッジクルー達の殆どが出迎えに行くと言い出した。

流石に全員でいってブリッジを開ける訳にもいかないので困ってしまったが、その時にミドリさんだけはクールに自分は残ると言って辞退していた。

後でどうせ会えるのだし、すぐに行かなくても問題無いんだそうだ。う~んクール。

 

そんな訳で俺達はアバリスと繋がっているチューブがある部屋へと向かった。

こちらも移動に手間取ったのだが、向うもこのサプライズの混乱から抜け切っていなかったらしく、準備に手間取ったのだろう。

丁度俺達が着いた時、アバリスの主要クルー達が降りて来るところだった。

 

 

「オッス!久しぶりッス!トーロ!イネス!」

 

「久しぶりだなユーリ!元気してたかって聞く必要もねぇな!」

 

「久しぶり艦長・・・若干やつれてないかい?」

 

 

トーロはすぐさま順応し、イネスも相変わらずズレた眼鏡を直しながらも冷静な感じで返事を返してきた。

ああ、懐かしきこの空気。仲間と合流出来たってのはいいねぇ。

 

 

「はは、ここまで来るのに苦労の連続だったッスからねぇ~。そう言う二人も疲れた顔してるじゃないッスか」

 

「だって・・・なぁ?」

 

「こんなフネを見せつけられたら誰だってこうなるよ」

 

 

デメテールを見た時の驚きが許容のメーターをぶっちぎったと彼らは言う。

どうりで苦笑の様な変な笑いをしていると思ったぜ。

 

 

「どこでこんなフネを?」

 

「いやぁ、語るとすっごく長くなるんスけど――拾ったッス」

 

「「短っ!?」」

 

 

だって実際そうだし。そう答えたら凄まじく呆れられてしまった。

冗談だろうと聞かれたけど純然たる事実なのでそれ以外に言い様も無い。

 

 

「ユーリは前から変なヤツだと思っていたが・・・」

 

「ああ、コレで艦長は変人から変態へランクアップだな。おめでとう」

 

「酷!二人とも酷いッス!・・・まぁソレは兎も角、お帰り二人とも」

 

「「ただいまだ(ぜ)」」

 

 

そして俺達は再開を祝して肩を抱き合ったのだった。

さて、他にも顔見知り達がいたのでとりあえずお疲れの二人と別れて再開の言葉を交わすしていると何やらゾクッとした何かを感じた。

悪寒ではないが、なんだろう?すごく覚えのある様な気h―――

 

 

「―――ユーーーーーーーリィーーーーーーー!!!!!!!!!!」

 

≪グワシ!≫

 

「ヒデブッ!?」

 

 

その時、ユーリに電流走る。

では無く、腰の周辺に下手したら大ダメージを与えかねない程の衝撃が襲い掛かった。

そして腹の方は万力の如き力で締めあげられていくので息が出来ない。

何が起きたと後ろを見ると、そこには懐かしき緑色の髪の毛が―――

 

 

「ちぇ、ちぇる・・しー・・ぎ、ギブ・・」

 

「うわーんっ!沢山探して回ったんだよぉ!ゆーりぃー!!!」

 

「そ、そこしめたららめぇ~!!!」

 

「チェルシー、再開して嬉しいのはいいがそこまでにしときな。死んじまうよ」

 

「そ、そうです!艦長をはなしてくだしゃい!あう・・・噛んじゃった」

 

 

危うく先程食べた飯と前日に食べた飯が上と下両方から出て劇的な再開を果たす直前に、トスカ姐さんとユピがこの状況を見て止めてくれた。

お陰でなんとか解放されたので事なきを得たが、あと一歩遅かったと思うと絶句モンだぜ。

後ユピ、可愛いぞ、GJ

 

 

「ご、ごめんねユーリ!久しぶりに会えたのがうれしくて」

 

「こ、今度から気をつければ良いと思うよ?」

 

「う、うん。本当にゴメンね?」

 

 

うぐ、そうシュンとされると沸々と罪悪感が・・・。

なんだかんだでチェルシーは美人だから、こういった時悪いのは俺になるのかよ。

美人は得だネ!そして俺は大ダメージだネ!

 

 

「でもホントよく再開出来たと思う。コレもちゃんと探しまわっていた成果かな?」

 

「そう何スか。こっちも探してたんスけど、今まで生き残るに必死で中々ねぇ~・・・」

 

 

ふと此処まで来るまでの道のりを考えて眼頭が熱くなる。

ヴァランタインと交戦した挙句になんとか生き残ったのはいいが宇宙を漂流した。

そして偶然にもこの遺跡船であるデメテールを発見出来たのだ。

とはいえ遺跡だったから足りないモノだらけで色々と使えるようになるまでに苦労したっけ。

 

特に書類整理がなぁ・・・殺人的な量だったもんなぁ。

マゼラニックストリームで専門家をを見つけられたのは僥倖―――

 

 

―――とんとん。

 

 

うん?なんだ?

 

 

「ねぇねぇユーリ。さっきさ。ちょっとおかしなことが聞えた様な気がするんだけど・・」

 

「おかしなことッスか?」

 

「うん。私たちは必死でそっちを探してたんだけどさ。ユーリ達はアバリスを探さなかったの?」

 

「いやー、物事には順序ってのがあってですねぇ」

 

「嘘だっ!」

 

「ばっさり切り捨てられた?!」

 

 

あ、あれ?なんかチェルシーのようすが・・・・

 

 

「私たちが必死で探したのに、そっちは能天気に・・・ダメだよね?ソレってダメだよね?ね?」

 

「お、落ちつけッス。マジでモチツケ・・・じゃなくて落ちつけ≪――ジャカ≫って何処から出したそのごっつい拳銃!!??」

 

「これぇ?これはねぇ?カルバライヤに寄った時に偶々手にれた古い銃なんだぁ」

 

 

ワーニン!ワーニン!チェルシーは黒様化した!

ユーリへの攻撃力が無限大に!スキル暗黒の気配発動により相手をスタンさせるぞ!

 

―――って今そんな電波いらねぇッスーー!!!

 

 

「む!あの銃は!」

 

「知っているのかストール!」

 

「アレはF98 ガウスガンだ。半世紀以上前に生産停止になった筈の絶版が何故!?」

 

 

ご解説ありがとう!だけど俺の寿命がマッハでピンチ!誰かボスケテ!

 

 

「ねぇユーリィ?すこし・・・お仕置きしようか?」

 

 

止めてください!というかなんで某魔王さんの「頭冷やそうか」みたく言うんですか!

まじでガクブルが止まらない俺を無視し、彼女は俺にその銃口を―――

 

 

「き、緊急回避ッス!」

 

「な!艦長なにを――≪ズガーン!≫クぺッ!?」

 

「さ、サナダさ~ん!だ、だれがこんな酷いことを!」

 

「「「お前が盾にしたんだろうが!」」」

 

「アレ?弾入れ忘れて一発しか入って無いや。とって来なきゃ」

 

「か、艦長・・・あ、あの銃は、どうやら暴徒鎮圧レベルにされている様だ・・・だから撃たれても・・・安心――ガクッ」

 

 

カオスが巻き起こった。既に黒様として覚醒を果たしている彼女は誰にも止められない。

つーか普通はフネの中で銃撃騒ぎがあれば大変な事態だから保安部が出てくるはずだ。

そして当然のことながらすぐに保安部が駆けつけ―――

 

 

「全員動くなぁ!騒ぎを起したヤツを逮捕する!大人しく縛につけぇい!」

 

 

―――コレで大丈夫なのかと思ったのだが・・・甘かった。

 

 

≪ズガガガガガガン!!≫

 

「ぬうぉぉぉぉぉぉぉッ!!あ、あぶねぇ!!??」

 

「た、隊長ぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「あ、これ連射も効くんだ。後、次に邪魔したらどうなるか・・・解るよね?」

 

「ハッ!了解いたしました!!」

 

「うふ、うふふふふふ」

 

 

チェルシーは躊躇なく撃ちました。幸いに誰にも当たってはいない。

いや、ワザとギリギリの辺りを撃ったらしい。つーか怖ぇよ!目が座ってるよ!

 

 

「か、艦長!なんとかしろ!」

 

「お、俺にはムリッス~!!!」

 

 

クルーが怖さに耐えきれずに俺にそう叫んだが、俺だって怖すぎて立ち向かえない。

だから思いっきり未来へと前進する事にした。

 

 

「せ、戦術的撤退ッス~~~!!!」

 

「「「「ば、ばか!こっちくんな!ぎゃーーー!!」」」」

 

「にがさないよぉ!ゆーりぃ!!」

 

「き、きぃやぁぁぁぁ!!!ヴァランタインよりも怖いッス~~~!!!」

 

 

そして俺対義妹の【ドキ☆実弾だらけの追跡劇!巻き込みもあるよ!】がスタートしたのだった。

 

 

「ユピ、助けないのかい?」

 

「う、う~ん。艦長を助けたいのは山々何ですけど・・えと色々と仕事がありマシて」

 

「そうだネ。アタシ等には仕事があるからね。一緒にやろうか?」

 

「あ、お願いしまーす」

 

 

そして賢い副長とAIはとっとと逃げだしていたのであった。

どうなる!どうなるの俺!続きはウェブで!!!

 

 

Sideout

 

 

 

***

 

 

Sideナージャ・ミユ

 

 

この要塞戦艦デメテールが宇宙の海に再び漕ぎだしてから早数カ月。

ようやく我々の仲間のアバリスと合流する事に成功したのが、今からおよそ1時間前だ。

コレはある意味とても喜ばしいことであり、特にアバリスと別れる前から白鯨に所属している古参クルー達はそれぞれが喜びを露わにしていた。

当然のことながら宴会の準備が部署という垣根を越えて準備中である。

大居住区の中心に大櫓を立ててほぼ全部のクルーが集まる宴会・・・もはや祭りだな。

再開記念の祭りを行うらしく、その陣頭指揮を整備班の長でありこう言った事が大好きなケセイヤが取り仕切っている。

私は彼が色々とヤル事に勘付き、いち早く自分の研究棟に避難した訳だが、彼の近くに居たクルー達は災難だ。今頃祭りの準備の為にこき使われているところだろう。

根っからの研究者である私はそれ程体力がある訳ではない。

祭りは嫌いでは無いが、出来れば準備が完了してから読んで欲しいのが本音だ。

手伝うのが面倒臭いと言う訳ではない。体力が無い身体だから仕方ないのだ。本当だ。

 

 

「・・・ふん、さてさて」

 

 

私は分析に掛けている希土類(レアアース)のを眺めながら、これを如何し様か考えている。

このフネは大きい、故に様々なデブリとよく接触する訳だが、そのデブリや小惑星を回収して資源に当てているのだ。

そして今分析を終えたのもその例に入る。分析をしていたのはボール大の氷だ。

偶に只の氷塊が取れる事があり、所詮氷と思う素人はがっかりする様だが私は違う。

鉱物を専門にしている私にとって、宇宙に漂う氷には大抵の場合少量ながらも希少な鉱物が入り込んでいる事を知っているのだ。

 

氷・・・か。そう言えば私は前の職場では氷の女とか呼ばれていた。

私が持つ雰囲気、態度、感情のあり方、そのすべてが冷たい氷を連想させたらしい。

ソレもこれも自分の興味が無い事には全くと言っていいほど関心を示さない態度の所為だろう。

とはいえ、こればっかりは己の性質なのだから変更が効かない。

私をそんな気にさせる世界が悪いのだと小さな頃に既に諦めていたと言うのもある。

ある意味で恥ずかしい事を幼いころは平気で考えていたモノだ。

今それを口に出せたら赤面出来る自信がある。

 

そう、赤面。今では私は感情を表にある程度だせるのだ。

昔の同僚が見たらどんな表情をするか考えると自然に口がつり上がるのを感じる。

きっと唖然とした表情で「嘘だっ!」と叫ぶ事だろう。ある意味失礼なことだが。

 

 

≪―――ドドーン・・・≫

 

「ん?ケセイヤめ。花火を使う気か?」

 

 

遠くで爆発音が聞こえた。恐らくは祭り用の花火だろう。

全く騒がしい、だが嫌いでは無いと思う自分がいる。

人は環境に合わせて変わるというが、この私も人類のはしくれであったようだ。

ま、精々楽しませてもらう事にしよう。

 

 

≪―――ドドーン・・・≫

 

「・・・・」

 

≪――ドドドドーーーンッ≫

 

「・・・・」

 

≪――ドガンッ!ズガガガガガンッ!!ひゅるるるる・・・ドババババンッ!!!!≫

 

 

・・・・まて、花火にしては物々し過ぎるし音がおかしい。

花火保管庫を間違えて爆破してしまったのだろうか?あの男なら有り得る話だ。

だが直接的な被害はなさそうだ。そう思い研究に戻ろうとした、その時――

 

 

≪カシュー≫

 

「ちょっ!ミユさん!かくまって!!」

 

「え!?な!!?」

 

 

いきなりドアが開いたかと思えば、焦った様な少年が飛びこんできた。

いきなり過ぎた為か私は唖然として動きを止めてしまう。

 

 

「ど、どうした少年?そんなに慌てて」

 

 

くっ、動揺が強かったからか少し口が回らん。

 

 

「何でも良いッスから匿っ・・不味いッス!ミユさんこっち!」

 

「あ!ちょっ少年!?」

 

 

私は腕を彼に引かれるがままに、そのまま何時もなら解析待ちの素材が放り込んであるロッカーに入れられてしまった。

なんと間が悪い事に丁度氷の分析を終えて、ロッカーに入れておいた鉱石を取り出し解析中だった為、ロッカーの中には何も入っていなかった。

その所為であれよあれよというまに少年に引きずられ共にロッカーに閉じ込められる私。

あまりにいきなりであった為、私は今だ混乱している。

 

 

「少年、いきなりこれは―――ムグっ」

 

「(し、しー!静かにするッス!死にたいんスか!)」

 

 

い、いきなり口を手で覆われて喋れなくされてしまう。

只でさえ狭いロッカーに人間が2人も入り、体は密着状態だ・・・密着?

 

 

「―――ッ!!!???」

 

「(ちょっ!マジで静かにしてくれッス!!)」

 

 

いやそれどころではないのだよ。シンパクスウガジョウショウシテイル。

か、顔が火照るのが判る・・・。

あ、生憎私は研究一筋であったからこういうのは知らないんだッ

 

 

「む、むーっ」

 

「(し、しーっ!!き、来たッス)」

 

 

何が来たと言うのだろうか?そう思い耳を澄ませてみると・・・。

 

 

 

 

――――カツン、カツン、カツン・・・。

 

 

 

 

小さいながらも良く響く足音が、此方へと近づいてくる音が聞こえた。

 

 

 

 

――――カツン、カツン、カツ・・・。

 

 

 

 

やがてその音が突然止まる。何故だ?何故こんなにも心臓が痛いのだ。

その理解できない何かに私が困惑していると、突然私の研究室の戸が開く。

 

 

 

 

「ゆーりぃ??ここぉ??」

 

 

 

 

・・・・正直に言おう。

この時ほど恐ろしい体験は私が今まで生きてきた中では無かった。

どこか猫を撫でる時の様な甘い声なのに、背筋が凍りつきそうな程に身体が寒い。

だと言うのに額から汗が止まらないのだ。背中まで汗が噴き出している。

コレが冷や汗だと言うことに私が気が付くのに、それほど時間はかからなかった。

 

 

「あれぇ?おっかしいなぁ?確かにこっちに来たんだけど?」

 

 

ロッカーにあるほんの僅かな隙間から、外の光景が入ってくる。

緑色の髪をした少女がキョロキョロ辺りを見回している光景が目に入った。

だが、その視界にはもう一つあるモノが浮かんでいた。

ソレは彼女の手に握られている鈍い金属の光りを放つソレ。

旧式であるがその分威力は高いと噂で聞いた事があるソレ。

ソレは、ガウスガンと呼ばれる小型の電磁投射銃の一種であった。

簡単に言えば強力な電磁力で磁性体の弾丸を発射する銃である。

威力は非常に高く、電圧さえあれば鉄板程度軽く貫通出来る威力がある。

だが外壁に穴が開く事がタブーである宇宙船では非常にナンセンスな武器である。

その為、半世紀前には既に使われなくなったと聞いた事があったが・・・。

 

 

「おっかしぃなぁ。どこいっちゃったのかし、らッ!」

 

≪ドガンッ!!≫

 

「「――ッ!!」」

 

 

彼女が思いっきり手をロッカーに叩きつけた。

思わず声を出しそうになったが、生憎私の口は少年の手で塞がれており声を出せない。

だが、この時はそれに感謝した。どう考えてもアレは普通じゃない。

どうも彼女はこの少年を探している様だが、一体何があったと言うのだろうか?

すこしして此処にはいないと判断したのか彼女は研究室から出て行った。

足音が遠ざかり、やがて聞こえなくなるまで私は少年と共にロッカーの中に・・・。

 

 

≪――バンッ!!≫

 

「ぷはっ!」

 

「ひ~んっ怖かったッス~」

 

 

慌ててロッカーから飛び出した私の耳に入ったのはそんな情けない声。

だが、何だと言うのだろうか?私の動悸が止まらない。

コレは・・・そう、きっとあの少女に恐怖を感じたからだろう。

よくわからないがきっとそうなのだ。うう、冷静にならねば・・・深呼吸。

 

 

「ふぅ~・・・で、説明して貰えるのだろうな?少年」

 

「いや、巻き込んですまんこってす」

 

 

全くだ。今まさに目の前で土下座をしている少年を恨めしく睨みながらそう思う。

 

 

「本当に何があった?彼女があんな状態になるなんて、少年、君は一体何をしたのだね?」

 

「うぐ、俺が悪い前提ッスか?」

 

「そうとしか考えられんだろう?それとも身に覚えが全く無いとでも?」

 

「そう言われると辛いッス」

 

 

ポリポリと後頭部を掻いている少年・・・このフネの総司令たる若き艦長。

ユーリの姿を眺めながら私は溜息を吐いていた。

 

 

「ちなみに何をしたんだ?三行で頼む」

 

「再開した。ふと探すの忘れてたと伝えた。ああなった」

 

「・・・一言で事足りたな」

 

「ですよねー」

 

「つまり、いままで彼女たちは必死に此方を探していたのに、こっちはそれ程でも無かった事にチェルシーは激怒したと言うことだな?」

 

「いや、別に忘れていた訳じゃ・・・」

 

「本当に?」

 

「・・・すんません。艦長の仕事が忙しすぎて中々そっちに手を回せませんでした」

 

 

そう言って私に本日二度目の土下座を披露するこのフネの総司令の少年。

まぁ確かに彼の言いたいことは理解できる。

我々が此処まで来るのに彼がどれだけ尽力していたか私たちは知っているのだ。

居なくなった人員の分まで眠らずに仕事を行い、それでいて戦闘指揮やフネの運航まで手を出していた。

サドにワーカーホリックじゃのうと言われても栄養剤片手に頑張り続けたのだ。

よく此処まで倒れなかったと思う。見た目に寄らずかなり頑丈な身体なのだろう。

一度解剖してみたいものだ。医学的に。ソレはさて置き。

 

 

「どうする?さっきの騒音も恐らく彼女の仕業なのだろう?」

 

「まさかいきなり銃取り出して撃ってくるとは思わなかったッス」

 

「・・・良く誰も死んで無いな」

 

「ああ見えてまだ理性は残ってるッス。撃ってる弾は暴徒鎮圧レベルにまで電圧を落してると弾の直撃を受けて気絶する寸前にサナダさんがそう言ってました」

 

「むしろよくそこまで説明できたな」

 

 

流石はサナダ、その執念には感服出来る。だが馬鹿だろうお前。

 

 

「でも黒様化しちまったッスから、しばらくは逃げ回らないと不味いッス。少なくても俺の姿を見なければ撃たないみたいッスから」

 

「(・・・黒様?)そうか、まぁ兎に角、あまり被害を出さない様にな。ケセイヤの負担が増えてヤツがストレスの所為で変な研究に走られても困る」

 

「うわ、確かにソレは勘弁ッス・・・コレ以上書類とか増えたら誰か殺しかねない」

 

「そう言った独裁者の元に居る気は無いからな?気をつけろ少年」

 

 

まぁ、研究できるスペースと資金さえくれれば実の所誰でもいい。

でもこの少年にだけはそう言った歪んだ人間になって欲しく無かったのかもしれない。

・・・って何を言っているんだ私は・・・。

 

 

「独裁者・・・意外といい響き・・・」

 

「恍惚の顔がとても気持ち悪いぞ?」

 

「ガガーン!ティウン、ティウン、ティウン――パタ」

 

「立て」

 

「イエッサー!」

 

 

ガバッちょと起きあがる少年に思わず顔が綻んだ。

ホントに彼と居ると退屈と言う言葉が無い。

 

 

「とにかく、そのチェルシーが元に戻るまで逃げ続けろ。あと被害は出すなよ」

 

「判ってるッス。俺帰ったら皆とお祭りするッス」

 

「お、おい待て、それは―――」

 

「それじゃあバイならッス~」

 

 

なんとなく彼の最後に言った言葉に不吉なモノを覚えたのだが、彼はそのまま研究棟を出て行った。まぁ引きとめても仕方ないし、死にはしないだろう。異常かもしれないがコレがこのフネでは日常なのだから。

 

 

 

 

 

「みぃーつけたっ!」

 

「「「「「「「「「「見つけたぞ!艦長ッ!!大人しく縛につけい!!!」」」」」」」」」」

 

「ゲぇッ!チェルシー!しまった!これはチェルシーの罠ッスか!?」

 

 

―――そしてしばらくして、遠くの方から大きな爆音が聞こえたのは言うまでも無い。

 

 

Sideout

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 

俺がチェルシーに粛清された後、お祭り騒ぎは三日三晩続いた。

ちなみにチェルシーだが、俺を粛清した後は非常にすっきりとして仲間の輪に加わり酒を飲んでいる。

トーロ曰くこの手の暴走は結構あったらしく、彼が何処か遠い目をしていたのに涙した。

というか、チェルシーの暴走が起こるたびに彼の胃薬の消費量がハネ上がったとか・・。

うん、もう同志と呼んでも良いかもしれない。主に胃薬関係の。

いやホント最近のトーロは不運続きだと思う。

今回こんな事態になる時だって暴走したチェルシーの凶弾に真っ先にやられてたもんな。

でもすぐにティータに看病されてたし、ある意味役得じゃね?

・・・そう思ったら何故か手元に藁人形と釘がある。どうしようコレ?

とりあえず俺は他の皆を盾にして逃げ回った訳だが、それで怒りを買ったらしく、何故か他の連中もチェルシー側に回り追い詰められた。

最終的にはかなりの人間が追いかけてきたので、少々怖かった。

ちなみにどれくらいかと言うとこんな風に見えた位↓

 

((;;;;゜;;:::(;;:    井'';:;;;):;:::))゜))  ::)))

  (((; ;;:: ;:::;;⊂( ゜ω゜ )  ;:;;;,,))...)))))) ::::)

   ((;;;:;;;:,,,." ヽ ⊂ ) ;:;;))):...,),)):;:::::))))

     ("((;:;;;  (⌒) |どどどどど・・・・・

             三 `J

 

ソレはともかく、細かいことは気にしない質とはいえ、流石にチェルシーのアレにすら動揺しないとかウチのクルーはどんだけ肝が据わってるんだろうか?

まぁこの程度に驚いていたら、大海賊ヴァランタインと対決した際にスタコラサッサと勝手に逃げだしているだろう。

改めて人材集めの時にトスカ姐さんが選んでくれていてよかったと思う。

ただお陰で酒の消費量が非常に高いが・・・その程度許容範囲だろう。

もうすぐ酒造プラントも稼働するらしいし、少しは酒の消費量も抑えられるだろうさ。

ちなみに酒造プラントについて俺が知ったのはつい先日の事で、直前まで全然知らなかったことを此処に記しておく。

俺はハンコを押したダケ・・・ちょっち寂しい。

 

 

「艦長、久しぶりだネ」

 

「教授も息災のようで」

 

「なぁ~に今更そんなカタッ苦しい言葉を使ってるのかネ」

 

「ソレもソッスね」

 

 

さて、現在俺の前には漸く合流を果たしたジェロウ教授が立っていた。

再開してすぐで恐縮だったが、あの新造艦の調査を依頼したのである。

でも彼は嬉々として調査を行ってくれた辺り流石はマッドだと思う。

 

 

「あのフネはかなり強力なデフレクターユニットを搭載しておったよ。あのサイズじゃジェネレーター出力はほとんど喰われてしまっとっただろネ」

 

「成程、そんで見た目より反撃が弱くて硬かったと・・・」

 

 

あのアンノウン艦の名称は向うではゼーガ級という銘を与えられているらしい。

ちなみにネームシップだから一番艦だ。

 

 

「ウン、しかしあれじゃ、戦闘艦としてバランスが悪すぎる。一体何のつもりなのか・・・」

 

「第一線に出して艦隊の盾にするとかじゃないッスか?」

 

「それだったらあんな戦艦の形は要らないヨ。もっと盾としてふさわしい形状にする筈だ」

 

 

言われてみればそうかもしれない。

う~ん、だとすれば連中は何を思ってあんなフネを作ったんだ?

そう言えば教授たちはカルバライヤ側に味方してたんだよな?何か知らないの?

 

 

「カルバライヤに味方していたと言っても、飽く迄も義勇軍というか傭兵だったヨ。それに研究と関係無いことだったから興味なかったからよくわからないネ」

 

「そっスかぁ・・・この分じゃトーロ達も・・・」

 

「多分知らないだろう。新造艦の機密情報を一介の0Gに教えるなんて酔狂を正規軍がする訳が無いヨ」

 

「・・・使えねぇの」

 

「何かいったかネ?」

 

「いえいえ、何にも言ってないッスよ。何にも」

 

 

でも実際情報が無い。大型のデフレクターを搭載してアホみたいな防御力を持つフネ。

しかしその所為で火力は貧弱、これでは戦闘艦の意味が無い。

だと言うのにデフレクターユニットとエンジンに出力を回されているのだ。

速力があって硬いダケのフネなんて何に使うつもりなのだろうか?

・・・なんか忘れている様な気がするが・・・ダメだ、既に原作知識に穴があいてる。

流石に数カ月以上も間が空いたらなぁ、細かい部分は忘れちまうよ。

一応大筋程度は日本語で手書きしてあるけど、ソレ書いたのも随分経ってからで結構虫食いである。

今更ながらこの世界に来た当初に書かなかったことが悔やまれるぜ。

 

 

「ま、考えても判らんッス。とりあえず報酬だけでも貰いに一路ナヴァラに帰還するッス」

 

 

そんな訳でデメテールは進路を一路ナヴァラに向けて帰還を開始した。

この時、もう少しこのフネの事に疑問を持ち合わせてさえいれば・・・。

もしくはもう少し原作知識を思い出してさえいれば・・・。

少なくてももう少し事態は・・・まぁどうにもなんなかったろうなウン。

 

 

***

 

 

さて、ナヴァラに戻ってきた俺達はそのまま軍基地に向かった。

基地の中は相変わらず民間人が犇く喧騒に包まれている。

以前入った司令室には俺達に命令を渡してきたあのミューラと言う女性が待っていた。

とりあえず戦闘記録(バトル・ログ)をミューラに渡し、内容をじっくりと検分して貰った。

まぁ確実に戦艦クラスは数隻撃破しているし、特に問題がある訳じゃない。

トーロ達と合流した件もこちらの個人的な事だし、報告の義務とかはないのだ。

そしてしばらく無言でログを見続けるミューラ。少しするとログから顔を上げて此方を見た。

 

 

「確認終了しました。素晴らしい戦果ですね」

 

「だろう!僕がみ込んだ通りユーリ君は素晴らしい艦長だよ!」

 

「ま、仕事ですから」

 

 

エルイット少尉が何故か手放しで褒めているのだが、エルイット少尉自身がウチを見込んでフネに乗りこんだ訳じゃなくて、エルイット少尉の上司がお目付け役としてアンタをこっちによこしたダケなんだが?

ソレは兎も角、何故かミューラの表情は硬いモノがある。

職務に忠実なのだろうか?

 

 

「・・・こちらが報酬の3000Gです。お受け取りください」

 

 

―――3000Gを受け取った!―――

 

 

なぜかテロップが流れた様な・・・気のせいか?

実を言うと輸送船拿捕して売り払ったから数万単位で貰ってるんだけどね。

報告義務ないから言わないけど―――あ、そう言えば。

 

 

「そう言えば、敵の新造艦を倒したって事になってるけど、かなり不自然なフネだったからレポートつけ解きましたよ」

 

「はぁ・・・?それが何か?」

 

「まぁ余りに不自然だったから・・・気になったら上層部に申告しておけば良いかと・・・」

 

「そうですね。必要ならそうさせていただきます」

 

 

うーん、戦局が詰まっているのかしらん?なんか対応が非常に硬い気がする。

別にそういう態度で来るならこっちも事務的な対応で済むから楽でいいんだけど・・・。

何でだろう?何か引っかかる様な気がするぜ。

 

とはいえ、軍相手に何か言えると言う訳でも無い。

とりあえずこれからどうなるかは見続けるしかなさそうだ。

そして俺はナヴァラ基地を後にしたのであった。

 

***

 

Sideユーリ

 

「・・・・・」

 

 

ここはナヴァラの酒場。

0Gドッグ御用達の軌道エレベーター施設内に存在する酒場である。

普段ならならず者たちでにぎわうはずの店内も、戦時中とあっては―――

 

 

「ひゃっはー!我慢できねぇ!おかわりだー!」

 

「マスター、スピリタスをジョッキでくれ・・・なに、俺にとっては水みたいなものさ」

 

 

―――普段のにぎわいと全然変わんねぇ。この世界の人間はタフだね。

 

 

「さて・・・どうしたもんスかねぇ・・・」

 

 

仲間と離れ態々酒場に訪れていたのは一人で考えたいことがあったからだ。

それもこれもこの間から消えないモヤモヤ感である。

このナヴァラについてから特にその感じを覚えるのだ。

恐らく何かしらの事態がこのナヴァラに降り注ぐのではと思う。

だが生憎俺が覚えている原作知識は既に色々と変わってしまい宛てに出来るか判らない。

特にチェルシーが酷過ぎると思う。本来はもっとおしとやかな筈だ。

何をどう間違えればあんなヤンデレが混じるのだろうか?

まぁ元々素養はあったみたいだが・・・っと話がズレた。

 

 

「う~あ~う~・・・思い出せないッス~~」

 

 

頭を抱えてカウンターに突っ伏す姿は、酒場の喧騒に混じって消える。

何かあるということは思い出せるのに、その“なにか”が何なのか思い出せない。

アルツハイマー・・・な訳が無い。一応健康診断では問題ないのだ。

純粋に此処まで色々あり過ぎて、原作知識を思い出す暇が無かったのだ。

思い出さなければ、ドンドンと消えていくのが記憶と言うものだろう。

一応この世界に元からあったデータベースを見て連鎖的に記憶を思い出すこともある。

だがそれもやはり全てを思い出すには至らないのだ。

所詮はゲームの知識であると何処か無意識で思っているからかもしれない。

大本からして、俺の当初の宇宙に出る為の目的は俺の好奇心から来るモノだった。

そして初めて宇宙遊泳した時の感動は今でも覚えている。

スラスターの扱い方が良く解らなくて、ミキサーの如く乱回転したのはいい思い出。

 

 

「ああ!いかんいかん!思考が変な方に流れるッス!もっと集中ッス!」

 

 

酒場で集中と言うのも変な話だが、ナヴァラは居住区が地下にある所為か狭い。

だから公園の様なスペースをとるモノは殆どが有料だった。

ついどうせ金とられるなら飲み物付きという庶民感情に流されて酒場に入った俺の自業自得という側面があるが気にしてはいけない。

とにかく何処まで考えたんだっけ?

ああそうそう、原作知識と俺の旅の目的に付いてだ。

う~ん、そう、最初は―――

 

 

「・・・ああ、そういえば・・・」

 

 

ふと思いだした。

デイジーリップの凄まじい加速に耐え・・・切れず気絶し、気が付けば大気圏外。

真空の宇宙空間は遮る物質が無いからかとてつもなく透明に見えた。

こいつはロウズから脱出した直後に見た惑星ロウズを見た時の事だ。

そう、俺は“来たかったから”宇宙に飛び出したんだ。

観測者とか追跡者だとか戦争だとか、そんなことは全く考えて無かった。

この人を魅了する宇宙を飛んでいきたい、只漠然とそう思っていたんだ。

 

 

「はは、そんな初心まで忘れてやがった・・・忙しいのも考えもんスね」

 

 

何か一気につっかえが取れた気がする。よくわからんがすっきりした。

いやまぁ原作知識を思い出したりした訳ではないので、何かしら問題が起きるんだと思う。

・・・だけど、ソレがどうかしたか?少なくても“今はまだ起こってない”のだ。

あえて言うならこの世界の人間はそんなことお構いなしに生きている。

原作知識という“道標”がなくても立派に生きているのだ。

 

 

「はは、ここにきてようやくッスか・・・能天気にも程があんだろ俺」

 

 

ははついさっきまで陥っていたことを思うとホント笑えてくる。

たかがゲームの知識を持っている程度でなに天狗になってんだか。

大体俺は別に原作知識で世界を救おうとか、それがこの世界に来た者としての義務だなんて考えちゃいない。

そりゃチェルシーやトスカ姐さん、その他にもこの世界で散っていく人間を俺は知っている。

だが、態々それを精を出して助けようだなんて思っちゃいないのだ。

手に届く範囲でなら助けるし、それに余るのなら知ったこっちゃねぇ。

 

 

此処まで色々とあったが、結局の所俺が此処まで来た理由はたった一つ。

飽く迄も“宇宙を旅したかった”という酷く個人的で我が儘な理由に過ぎないからだ。

大体、なんで来たかったということに、そんな明確な境目を造らなくっちゃいけないんだ?

 

そりゃさ?物ごとの本筋や明確な決心や覚悟・・・。

言葉にするなら疑いようも無い柱の様なモノを持っていることは素晴らしいことだと思う。

だけど、世の中の物ごとはそんなハッキリと決められるモンじゃねえ。

“これこれこうでしたからこうせねば”という価値観は思考の狭窄を起す。

確かに“今は”あのゲームとほぼ同じ様に物ごとは進行しているかもしれない。

これから先も大筋がほぼ変わらなく、あのゲーム・・・無限航路と同じ物語りを歩むのかもしれない。

だが、そんなこと俺に言わせれば「だから?」って話しだ。

この先、星間戦争によって云十万人が死ぬだろう。

ほかにも伝染病が起こるし、上位存在を名乗る生命体に生息圏を破壊されるだろう。

だが物ごとはなるようにしかならんのだ。

原作知識という“道標”に従うのもまぁ別に問題は無い。

だがもし、それから話が逸れてしまったらどうする?

途端にソレに合わせて考えていたコテコテの計画は泡沫へと帰し消滅するぞ?

そうなれば待っているのは手も足も出ないという状況からくる身の破滅しか無い。

だってそれまで道標を頼って生きて来て、それ以外で生きる方法を知らないということだからだ。

此処まで幾つか原作知識を応用した俺が言うことじゃないかもしれないが・・・。

あんまし宛てにしない方が良いのかもしれないな。こうなってくると。

てゆーか、人類がどうとか重くてヤだね。

 

 

「・・・なんかココまで冷静に己を振り返ってみると、俺って最強の我が儘だな」

 

 

ま、それで良いのかもしれないな。

俺は俺のやりたいように、面白いことをしに宇宙(ここ)へきた。

ならば、面白いことが無くなるまで、楽しいことが無くなるまで宇宙に居よう。

そうした上で起こったことに躊躇わずにブツかって行こうじゃないか。

ヤッハバッハの事もある。他にも色々と死亡フラグ満載の世界だ。

だけど何のコネも無い俺が策を巡らすなんて出来るわきゃない。

だからってソレに怖がって尻尾巻いて引き籠るのは論外だ。

行き当たりばったりで対処していくしかねぇんだよな。結局の所。

大体俺は頭が悪いのだ。精々艦隊を率いる程度の俺が何するよ?

ことわざでもこう言うだろう?バカの考え休むに似たりってな。

・・・あれ?下手の考え休むに似たりだったっけな?

とにかく、今更じたばたしてもしょうがない。

何か起きたら俺の手に収まる事態なら頑張って納めるし、ダメなら正規軍とかも頼ろう。

俺たちだけで全てを解決させる為に動く必要なんて全然ないんだ。

他の人間に任せられるところは任せないとな。過労死の趣味は無いしね。

 

 

「マスター!エールくれッス~!!」

 

 

こうして、俺は己の行く道を再確認出来た。我が儘を押し通そう。

他人が聞けば賛否両論になりそうな答えだが、俺はコレで良いのだ。

大体我が儘になるのが怖いヤツが宇宙に出るなんて、おこがましいにもほどがある。

だから俺は我が儘なヤツでいよう。少なくても皆が楽しめるようなヤツでな。

これまでのモヤモヤ感にそう決着をつけると、俺は手渡されたエールを飲み干したのだった。

 

Sideout

 

***

 

Side三人称

 

さて、ユーリが酒を煽っているのとほぼ同時刻―――。

ネージリンスの防衛線がある惑星アーマインにおいて防衛艦隊に動きがあった。

主力艦隊の旗艦ブリッジでは、歴戦の老提督であるフュリアス・マッセフ提督がリアルタイムで更新される戦術モニターを前に眉間にしわを寄せていた。

 

 

「敵が動きだした様だな。ややタイミングが早いようだが・・・」

 

 

情報部が統合して予想していたカルバライヤ軍の侵攻予定よりも少しだけ早い侵攻だ。

それがマッセフには気がかりであった。完全に予測できるという訳ではないが、何か目的があるのではと考えたからである。

ソレを聞いていた統合参謀本部長のレイピル・オリスンは提督の呟きに対して、いつも通り顔色一つ変えずに返事を返した。

 

 

「これ以上の増援を待つより、現有戦力で決戦を挑むのが得策と判断したのでしょう。正面に展開する敵艦隊、ほぼ全軍でくるようです」

 

「こちらの後方撹乱が功を奏したか。いずれにせよ、この戦闘の勝敗で流れは決まるな」

 

 

そう提督は呟き、戦術モニターに視線を戻した。実はすでに両者とも後が無い。

鉱物資源は潤沢であるカルバライヤであるが、その反面食料の生産に適しておらず、度重なる後方撹乱で物資の食糧の備蓄が乏しくなるという事態になりかけていたのだ。

対するネージリンスも後方撹乱で地道に潰す選択をしたはいいが、元々難民であった彼らは人的資源が乏しかった。

また後方撹乱であっても、カルバライヤが対空戦が出来るフネをそれなりに導入した所為でかなりの被害を出してしまったのである。

その為、多くの優秀な人材が失われる事態が起こし、人的資源に乏しいネージリンスにとっては致命的とも言える損害を受けていた。

両者とも早期戦争終結の為に早い段階で決戦に移行するのはごく自然な流れだったのである。

 

―――そして数時間後、ついにカルバライヤ主力艦隊が警戒ラインにまで到達した。

 

 

「敵艦隊警戒ラインを突破!第一防衛ラインへと接近中!」

 

「作戦通り、艦載機隊による最初の打撃で敵の戦意をくじく。艦載機の航続範囲に敵が入り次第、各部隊を順次発進させろ!」

 

 

老提督の指示は瞬く間に主力艦隊へと伝わり、各機動部隊は慌しく艦載機を射出していく。

既に警戒ラインを突破したカルバライヤの前衛艦隊が第一次攻撃隊と接触した。

前衛の駆逐艦は急造で乗せた対空火器でネージリンス艦載機隊を落そうとするが、カルバライヤは如何せんそれまでの対空戦闘のデータ蓄積やアビオニクスを持っていなかった。

特に対空戦に有効なFCSを駆逐艦用に開発しきれなかった為、駆逐艦は対艦ミサイル数十発の集中攻撃を受けて爆沈するフネが続出していた。

だが、カルバライヤとてただ黙って落されてはいなかった。

ディゴマ装甲と呼ばれる強靭な装甲板を持つフネは巡洋艦クラスとなると艦載機の対艦ミサイルの直撃を受けても撃沈しずらかった。

また、重力子防御装置デフレクターに開発費をつぎ込んだからか、実体弾系の攻撃に対しての耐性が向上していた。

その為、最初の打撃で一瞬怯んだモノの、カルバライヤ艦隊は徐々に砲撃可能ラインにまで迫っていた。

 

 

「敵艦隊、砲撃を開始!」

 

「ふん、この距離では当たらんよ」

 

 

宇宙を突っ切る光明が艦隊の至近距離を通過する中、マッセフはそう呟いていた。

事実、まだ距離がある所為か運悪く命中しない限り直撃弾は無い。

 

 

「各艦迎撃ミサイル発射後は駆逐艦を下がらせろ!艦砲射撃の邪魔だ。戦艦を前に出して艦隊の盾にしろ。それと巡洋艦は機動艦隊の近衛にまわせ」

 

 

老提督の指示が飛び、機動力に優れたネージリンス艦隊はすぐにその陣容を変化させる。

カルバライヤとの戦いに備え、S・G社が融和政策を隠れ蓑に開発を続けていたネージリンス側唯一の戦艦であるオルジアール級が機動艦隊を追い抜いて前に出る。

 

粒子拡散システム(パーティクル・リデューサー)を搭載しているオルジアール級の砲口から、文字通り拡散され散布界が広がり命中率が向上した弾幕が張られた。

距離がある所為で命中しても撃沈にまでは至らないようだが、確実に相手のデフレクターとAPFSに負荷をかけている。

マセッフはそれを見て予想通りであることを確信し、更に指示を飛ばした。

 

 

「各艦は対艦ミサイルを順次発射!弾幕を途切らせるな!対艦ミサイルの残弾が少なくなった艦は一度下がって補給を受けさせろ!艦載機は今のうちに補給をすませろ。敵をこれ以上近寄らせるな!」

 

 

老提督の指示が前防衛主力艦隊に伝わり、対艦ミサイル発射筒を持つ艦からは絶えずミサイルが発射される。

オルジアール級の砲撃によりデフレクターに負荷が掛っていたカルバライヤのフネは、対空銃座による迎撃を行う。

だが飛来する対艦ミサイルが薄くなったデフレクターを突破した為、何隻かの駆逐艦がミサイルの直撃を受けて轟沈してしまっていた。

 

オルジアール級が前に出たことでカルバライヤ艦隊の侵攻が一時的に停止する。

その間に攻撃隊として出ていた艦載機隊が帰還し、弾薬の補給を受けた。

ネージリンスがカルバライヤの侵攻を止めたので、戦線は拮抗状態へ突入した。

だがその時、レイピルが部下の報告を聞き、少し慌てたように提督に近づいてきた。

 

 

「て、提督!ベータ象限に展開している哨戒艦から緊急入電です!」

 

「読め」

 

「はっ!・・・“敵の新型艦船の大多数がナヴァラに向けて進軍中”と・・・」

 

「ナヴァラに!?『アルカンシエル計画』が気付かれたか!?」

 

 

思わず声を大にする提督の元に送られたデータには、かなりの規模の別動隊であろう艦隊がナヴァラへと向かっているというデータが入っていた。

遠すぎて正確な数は判らなかったが、カルバライヤの侵攻軍の内3分の1に匹敵する艦隊が動いている所を見ればどれだけ多いのかが分かることだろう。

 

 

「まだわかりませんが、その可能性は高いかと」

 

 

参謀長がそう述べ、否定する材料も無かった。

その為、歴戦を生き抜いてきた老提督も“そうなのでは?”と口には出さないモノの、内心で参謀の言葉を肯定していた。

だが実際の所彼らの予想は大きく外れており、カルバの別動隊には別の目的があり、数が多いのは“もしもの時”に備えてありったけの戦力を分けたからである。

その“もしも”とは何のことであるかは、ココで言わなくても察しがつくであろう。

アレだけ暴れればいやでも目立つのだ。

そのことに気がつかずにクジラはナヴァラに居た。

 

 

「くっ、まだ未完成だというのに・・・迎撃に回せる艦隊は?」

 

「ありません。どの艦隊も現在カルバライヤ主力艦隊の迎撃に当たっています。今、この宙域から引き抜けば総崩れになる可能性があります。後方の遊撃艦隊を使うしかないかと」

 

「しかたないか・・・。グランティノを呼び出せ!」

 

 

マッセフは後方で出撃準備をしていたワレンプスの空母グランティノへと通信を繋げた。

ついに決戦が始まり、双方のフネが脱落していくさなか、マッセフからの命令を受けたグランティノは一路ナヴァラへと向かう。

決戦の勝敗を決めることが出来る『アルカンシエル計画』を守るために・・・。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 

さて、アーマイン近辺が決戦の舞台になっている頃。

そんなこと露ほども知らない俺は艦橋の艦長席でダレていた。

ホンの数時間前に自分のココに居る理由を再確認したのだが―――

 

 

「あ~、暇ッス~」

 

「ヒマならお仕事してください」

 

「ごめんなさいマジでもうじむさぎょうはかんべんしてくださいはんこおしたくない」

 

「もうっ・・・しょうがないですね」

 

 

―――再確認したからと言って、別段何か変わると言う訳でもなかった。

ただ単に難しく考えただけで俺の行動理念は変わってはいないのだから当然と言える。

ここで熱血気取ってヤッハバッハの艦隊へと特攻したらカッコいいのだろう。

だが、少なくても1万はいるであろう艦隊にフルもっこされるビジョンしかうかばん。

 

 

「あ~う~」

 

「・・・艦長、顔がなんか垂れてます。だらしないですよ?」

 

「大丈夫だユピ。これはまだ○れパンダレベル。この先はダリの絵みたくなるぜ」

 

「よくわからないですけど、凄まじいことになりそうですね」

 

 

仕方ないだろう?仕事をしてないと暇なんだヨ。

だったら仕事しろって言われそうだが、これ以上やったら死ぬよ俺?

あーでもヒマ、なんかしようかなぁ・・・。

 

 

「そう言えば、マッド四天王とかが合流したんだよね~。」

 

 

・・・・・・何故だろう?いま研究室を覗いたら凄いことしてそうな気がするぜ。

だけど俺は覗かないぜ!こんなこともあろうかとというマッド達の楽しみを奪ってはいけないのだ!というか邪魔したら己が研究材料にされちまう!

あ、四天王と言えば・・・。

 

 

「そういえば、アバリスの改装案が幾つか出されてたっけ」

 

 

この先の戦いに備えてアバリスを準工作艦からまた戦闘艦に戻そうという案が出ていた。

まぁ元々戦闘能力が非常に高く、工作艦の癖に前線に出せた訳だが気にしてはいけない。

デメテールの艦内工廠は優秀だし、修理ドロイドも作業用エステまでいるからな。

それよりも劣るファクトリーベースしか持たないアバリスに頼る必要は無いのである。

そんな訳で複数出されたアイディアの中から選ぶのである。

 

 

「これかっ!」

 

―――防御特化タイプ

 

「これかっ☆」

 

―――対艦強化タイプ

 

「これもいいなぁ☆」

 

―――対空強化タイプ

 

「やっぱりこうかな☆」

 

―――機動特化タイプ

 

「こっちの方がいいかな☆」

 

―――艦載機運用タイプ

 

「これも良いなぁ☆」

 

―――長距離特装砲装備タイプ

 

 

夜時間なため非番の俺以外に人がいないブリッジで案件を眺めながら教祖様ごっこ。

ああ、見て見ぬふりをしてくれるユピの視線が痛いけど自重しない俺自重。

 

 

「どれもこれも個性的な装備ですね」

 

 

俺がう~ん☆と唸っていると、それを眺めていた彼女が話しかけてきた。

 

 

「アバリスの元になったバゼルナイツ級は個々の部品ごとに建造するブロック工法ッスからね。ブロックを組みかえれば意外と無茶が――」

 

≪ピーッ、ピーッ≫

 

 

自分の周りに空間ウィンドウを展開してどれにしようか決めかねていると、突然デメテールに対してネージリンス軍からの通信が送られてきた。

 

 

「通信ッスか?なんか用事でもある―――」

 

「どうやらアーマインの方でカルバライヤとの全面攻勢があった様です。実質的に決戦と呼べる戦いになったと言っています。あと、各遊撃艦隊は用心の為に出撃との事です」

 

「ふーん。それじゃ一応リーフとか起してデメテール移動させるッスかね」

 

 

正直今は夜時間だから動かしたくは無いんだけど、軌道上に居たら邪魔だろうしな。

邪魔にならない様に動いてあげるのも紳士のすることなのですよ(キリ

 

 

「あ、白鯨艦隊にはナヴァラの衛星であるモアの静止軌道上に移動して欲しいとの事です」

 

「名指し!?ウチだけ?!」

 

「敵戦力の殆どがモアに集結中なので迎撃して欲しいと。ソレ位出来るわよねとミューラさんが・・・」

 

 

ってミューラからかよっ!つーかいいのか?ウチは一応0Gなんだぞ!?

 

 

「許可はとったそうです」

 

「際ですか」

 

 

もう既に手を回してあるのかよ。手際が良いというかなんていうか。

しかし衛星モアか。確かナヴァラのすぐ近くを回る衛星だったな。

 

 

「・・・?」

 

 

・・・あれ?おろ?なんだ?

 

 

「へぇあ??」

 

「・・・艦長?急に頭を抱えてどうかなさったんですか??」

 

「ナヴァラ・・・モア?・・・あれたしか・・・」

 

 

えっと、確かおぼろげに思いだしそうな・・・そうでもない様な。

何だったか・・・ええい、なんだったか?!

 

 

「あのー、艦長ー?」

 

「あ、ああすまないッス。と、とりあえず白鯨の航法班を呼んでくれ。衛星モアに移動ッスよ」

 

「?――了解です」

 

 

俺の奇妙な行動に首をかしげつつも指示に従ってくれたユピは、夜時間に休息している航法班要員達を呼び寄せる。

彼らが集まるまでの間に、俺は久々に感じた既視感について思考を巡らせた。

かすかに脳内に引っ掛かったのだ。

ナヴァラ、モア、そしてモアへ敵軍が進軍する=ドッカーン。

これらの言葉が重なった時に何かを垣間見たのである。

どうしても気になってしまった俺は艦長席でう~ん、う~んと唸り続け、モアとナヴァラという単語がタンゴを踊り始めるかと思うほど頭を捻った。

すると―――

 

 

「―――ッ!!!」

 

 

ユーリに電流走る。・・・ではなく、断片的にだが思い出すことに成功した。

確か、そう。モアの方に敵の艦隊が流れてくる筈なのである。

でもって、えーとモアをナヴァラにぶつけるんだっけか?

いや、ナヴァラ自体が巨大レーザー砲の戦略拠点だったか?

 

 

「・・・あら?」

 

 

俺はまた頭を抱えてウンウン言う羽目になってしまった。

それを見て心配そうにしているユピにも気がつかない。

おかしい、思い出したには思い出したが何故か記憶が二種類ある。

どういうこっちゃコレは?どっちだ?どっちもあってる様な気がするんだけど?

こういうときは慌てないで一休み―――じゃなくて腕を組んで集中だ。

 

―――ぽく

 

―――ぽく

 

―――ぽく

 

 

「―――ちーんっ!」

 

 

電流走ry・・・ああ、そうだ!コイツはあれだ!分岐したルートだ!

ゲーム本編の流れでは主人公はカルバかネージのどちらかに付くように迫られる。

確か基本的な流れは変わらずに、どちらかの陣営の視点から見ることが出来るのだ。

思い返してみればあの狸爺の所がそうだったのである。

・・・まぁゲームだと選択肢あったけど、こっちは半ば強制だったから断定出来ないけど。

でも少なくても大まかな流れは問題無く進んでいた様だ。

原作知識は宛てにしないと決めたモノの、いざ思い出してしまうとなんだかなぁ。

思わず頼りたくなってしまうぜ。まぁまだ様子見にとどめるけどさ。

・・・あれ?でも基本的な流れが変わらないってことは・・・。

 

 

「・・・どっちも、起こるって事ッスか?」

 

 

敵が行うであろう惑星ナヴァラにモアを近づけるという作戦。

もしこれを実行できるなら、ロシュの限界を突破させられればナヴァラもモアも星ごと砕ける。

またもしネージリンスの長射程レーザー砲があったなら、ソレはそれでカルバには脅威だ。

というか、現在俺達のフネはナヴァラの上空に待機してる訳で・・・。

考えてみると己の股下に超大型砲が設置されていたってことになる。

まさか味方ごと撃ったりしなかったよな?そこまで思い出せんのだけど?

でも軍って時々非人道的だしー、とか考えていると仕事を終えたユピが俺の方に報告を入れてきた。

 

 

「艦長、航法班全員呼びだしました。リーフさんがブリッジに付き次第本艦はナヴァラ上空を一時離脱し衛星モアへと向かいます。よろしいですか?」

 

「ウス。それで問題無いッス」

 

 

・・・とりあえずこの宙域からは離脱しておこう。

原作知識は思い出せても当てには出来ないし、どちらにしても衛星モア近辺に展開するであろう敵を排除しない事にはこの宙域は安全にならない。

それに少なくてもモアの陰に入れば巨大砲を使われても衛星を盾に出来る。

しかしそうなると・・・カルバの敵特殊艦隊と戦闘か・・・。

 

 

「ユピ、戦闘班を起すッス。本艦はこれより警戒態勢に移行する」

 

「了解しました」

 

 

うーん、別に思い出したのは問題無いけどその通りに進むとも限らないしなぁ。

少なくても“今は”ネージリンスからの命令だし逆らうと面倒臭いからモアへと針路を向ける事にしよう。

命令違反で撃沈命令出されるとか勘弁して欲しいからな。

 

 

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第五十五章+第五十六章+第五十七章

Sideユーリ

 

 

さて、こうしてナヴァラから発進した俺達は一路衛星モアへと向かった。

だが作戦本部からの出撃命令がこちらへと届くのが遅すぎたらしい。

俺達がモアに着くと、既に敵艦隊がモアに取りついている状況であった。

 

 

「敵艦隊を確認しました。進路上に24隻封鎖線を引いている模様、内8隻はあの新型艦と思われます」

 

 

しかも敵の数は凄まじく多かった。

おぼろげに思いだせる原作知識では正確な数は不明だったが、流石にこれ程の艦隊はいなかった筈である。

恐らく白鯨艦隊が大暴れしたから、此方へと向けられる艦隊の量が増えたのだ。

敵側の補給物資奪ったりとやりたい放題だった訳だしなぁ。警戒されたのだろう。

少なくても戦略拠点から離れた宙域に送りこむ数じゃないよコレ?というか大艦隊?

 

俺はすぐさまヴルゴの無人艦隊を発進させるよう指示を出した。

ちなみにアバリスは損傷がひどくてお休みである。

さて幸いなことに現在デメテールはちょうど敵艦隊から見て天頂方面にいる位置にいた。

今回はココから一気に突撃して敵の中心を突っ切って混乱させるのである。

基本的に前面に砲門が集中しやすいこの世界の艦船の設計上、上からの奇襲は結構有効なのだ。

とはいえ、それは飽く迄艦載機やそれらの様な小さなフネの場合である。

デメテールクラスになると、どうしても機動性に難が出てしまう。

それに幾ら優秀なステルス処理を施してあっても、超質量の物体が移動する以上、それに伴って起るであろう重力変調や空間の歪みは完全には消せないし誤魔化せない。

ある程度は誤魔化せるのだろうが、やはり近づけばセンサーに違和感を覚えて気がつかれてしまうだろう。

だがそれでも、ある程度まで近づけることに変わりは無い。

敵が感知出来ると思われるギリギリの距離をこれまでの戦闘で把握しているので、ギリギリまで近づいたところで一気に無人艦隊を展開した。

そしてカルバライヤ軍の艦隊も無能では無いのか“警戒”はしていたのだろう。

それともこれまでの経験からか今までの様に動揺して動きを乱す艦は少なかった。

すぐに転回行動とそれと同時に対艦ミサイルを天頂方面へと向けて射出したのである。

牽制のつもりらしかったが、実際牽制になっているのだから質が悪い。

まぁ俺が指示を出すまでも無くヴルゴが艦隊を動かして弾幕を張り、ミサイルの殆どを叩き落したので、ラッキーヒットを喰らった巡洋艦以外は目立った損傷は見られない。

そうこうしている間にも場面は動き、ヴルゴ司令が率いる計14隻の艦隊は発進してすぐに敵艦隊を射程に捉えられた。

デメテール及び、無人艦隊旗艦『リシテア』ニ番艦『カルポ』三番艦『テミスト』四番艦『カレ』からなる戦艦が前に出た。

敵艦隊もあの新造艦を前に出すと強力な重力場によるシールドを展開していた。

なるほど、流石は戦艦クラスのジェネレーター出力を全てデフレクターに回したダケはある。

あのヴァランタインのフネであるグランヘイムに搭載されていたピンポイントバリアー(仮)ほど強力ではないが、通常艦船の武装ならばほぼ防げる程だ。

だが、残念ながら特殊な装備は其方だけの専売特許ではない。

遺跡船に搭載されていた未知のシステムを模倣して建造されたホールドキャノン。

デメテールや無人艦隊の戦艦にはこの砲撃システムが実装されているのである。

また俺はあずかり知らぬのだが、合流したマッドと科学班が一丸となってフネの開発を行う為、時間がたてばたつほど武装が改良されていくのである。

そこらに掛ける予算に上限を設けなかった成果であると言えるだろう。

お陰で色んな意味で俺や会計課を苦しめているがソレ位の価値はある。

まぁ趣味に走る某マッドには給料から天引きしているけどな。

ソレは兎も角、戦艦に搭載された貫通力の高いホールドキャノンが一斉射され、敵艦隊の新造艦が張ったデフレクターを貫通して新造艦を撃沈せしめた。

その途端、唐突に敵の陣容が崩壊してしまう。

どうやらカルバライヤ軍は新造艦のデフレクターの防御力に絶対の信頼を置いていたらしい。

そりゃ確かにあの規格外な程の出力で運転すればそう思いたくもなるだろう。

だが悲しいことにこちらも特殊と言えば特殊なのだ。

むしろ特殊さで言えば此方の方が勝っているのだから勝負にならない。

そんな訳でその隙をついて俺達は混乱した敵艦隊の間をすり抜けた。

駆逐艦達の両舷に装備された収納式ガトリングレーザー砲列もすれ違いざまに遺憾なくその性能を発揮していく。

至近距離で大量の弾幕を浴びせかけられた敵艦隊は、口径の小ささ故に撃沈には至らなかったが、それでも航行不能に陥ったことは明白であった。

ここで相手には残念なお知らせだが、フネというのは大きくなればなるほど急には止まれない。

味方の戦列艦は上手いことスキマを縫って回避していたが、ことデメテールはその大きさゆえに、進路上に展開していた何隻かの敵艦を撥ねてしまったのである。

まぁデフレクターに負荷が掛ったが、対艦ミサイルを喰らうほどじゃないので問題無い。

そしてそのまま白鯨艦隊は敵前哨艦隊の封鎖線を突破してモアに到達した。

この調子で衛星モア周辺の敵を片付けようと動いていたのだが―――

 

 

≪ドドドドドドドドドドドドドドド――――≫

 

「うわっ、JoJo・・・じゃなくて振動?!」

 

 

突然艦内を揺らす程の振動が起こった。

通常宇宙空間において、こういった風にフネが振動することはあり得ない。

理由として考えられるのは超巨大恒星からのフレアか重力変調だと考えられる。

そしてこれは“フネ自体”が揺れているという感じである。

ということは、これは空間ごと作用する重力変調が起こっているということだ。

 

 

「これは・・・ミューズ重力制御を!」

 

 

トスカ姐さんが咄嗟に重力制御を担当しているミューズに指示を下した。

ミューズ自身、艦内の重力異常を探知していた為、すぐにコンソールを使い重力井戸を操作していく。

しばらくして艦内の振動が収まっていった。それにしても何があったんだ?

そう思っていると、ユピが何かを探知したと報告してきた。

 

 

「前方の衛星モアの表面付近の映像を出します。メインパネルチェンジ」

 

「こ、コイツは一体?!」

 

 

メインモニターに映し出されていた光景は驚愕に値するモノだった。

衛星モアに見ただけで10隻以上のバウーク級戦艦が取りついているのである。

ソレだけなら只単に衛星を制圧しただけに見えたのだが、それ以外のモノが映像に映り込み、事態を余計に複雑化させていた。

 

 

「ユピ!ジェロウ教授を呼び出せっ!大至急だ!」

 

「は、はいぃ!」

 

 

トスカ姐さんがユピをせっついて研究室にいる教授を呼び出した。

外の映像は艦内に流されている為、事態を把握していた教授はすぐさま推論を述べてくれた。

 

 

『あれは・・・うむ、さっきの振動は強力なデフレクターによる重力波だネ』

 

「何だと・・・。教授っ!ということはまさか目の前の敵の目的は!?」

 

『サナダクンが考えているのは概ね当たっていると思うよ。ユピ、モアの軌道計算をしてみなさい』

 

 

ある事実に辿りついたのだろうか。サナダさんが大声を上げていた。

ある意味で珍しい光景であったが、緊急事態に近い為それどころでは無い。

教授も非常に冷静に淡々とした口調でサナダさんの言葉を肯定した。

 

 

「へひ!?あ、ハイ!・・・出ました。えーと、強力な重力波によってモアの軌道が惑星ナヴァラのすぐ横を通過します」

 

 

何だ、ぶつけるんじゃないのかと思ったそこのあなた!そら大間違いだぜ?

詳しいことはウィキ見ろって話だが、自身の重力のみで形を保っている星の場合、ある程度まで近づくとお互いの潮汐力が干渉し合うのである。

またソレはある限界点を突破した途端、その星の両方か片方を破壊してしまうのだ。

そのことをロシュの限界と呼ぶのである。

つまりこのままモアが軌道を外れてナヴァラに近づいて行くと―――

 

 

『ロシュの限界を越えた途端、ナヴァラより質量の小さなモアは崩壊し、その破片が降り注いで壊滅的な被害となるだろうネ。幾ら地下都市でも衛星一個分の破片は荷が重すぎるヨ』

 

 

―――と、こうなる訳である。岩盤の雨が降る訳だ。しかも問題はそれだけでは無い。

 

 

「ソレだけではありません。もし衛星が破壊されればケスラー・シンドロームが発生します」

 

「そんな事になれば、ネージリンスの食糧事情を支える星が使いモノにならなくなるってワケか・・・どうするユーリ?見捨てるのかい?それともなんとか阻止するのかい?あんたが私らの頭なんだ。あんたが決めな」

 

「・・・」

 

 

展開早くね?こちとら今、戦場に到達したところなのに・・・。

外を見れば二本のブレードが触角に見えるバウーク級戦艦が巨大な重力球を作り出している。

あの重力球を用いて星の持つ重力と反発させることで、ビリヤードの如く押し出す腹なのだろう。

つーか、重力球自体が兵器として転用可能じゃね?重力波砲とかあるしな。

だがこうして俺が判断を決めかねていても、時間は待ってはくれない。

 

 

「新たな増援を確認。敵艦識別、ヴォイエ・バウーク級と確認。インフラトンパターンから照合・・・・・・確認完了。シルグファーンのフネです」

 

「ゲーッ!シルグファーン!?」

 

 

接近中の敵艦隊に大海賊シルグファーンがいることは、この間の戦闘とアバリスに残されたデータですぐにわかった。

ジェロウや科学班の出した予想が正しければ、もうすぐモアがナヴァラに向けて落される。

敵艦隊がモアをナヴァラに落すのだから、何としてでも敵艦隊を排除しないと此方への報酬が減ってしまうのでやらなければならない。

 

 

「モニターに拡大します」

 

 

OPのミドリさんがタタタンとコンソールを操作する。

するとサブモニターに接近してくるシルグファーンの艦隊のアップが映し出された。

・・・これはまた―――

 

 

「うわっ、めっちゃ多いッス」

 

 

見ただけでも10隻近くの艦隊が此方へと急行していた。

もちろんこの敵艦隊の旗艦はシルグファーンである。

そしてどの艦も改造が施され、オベリスクの様な巨大な柱を両舷に装備しているのである。

このオベリスクの様なモノは巨大なミサイルであると映像解析の結果には出ていた。

だがその解析結果が無くても、俺達にはこの艦隊の装備にはある意味で見覚えがあった。

 

 

「アレはクモの巣でみたグアッシュ海賊団の・・・」

 

「成程、確かにあれなら例え大マゼラン製のフネであっても効果的なダメージを与えられる。考えたな」

 

 

そう、オベリスクはグアッシュ海賊団が使用した巨大ミサイルだったのだ。

恐らくはカルバライヤがネージリンスと戦争状態に突入した際にこちらと同じく義勇軍を募集した為、大量のグアッシュ海賊団の残党が流れ込んだからだろう。

グアッシュ海賊団で使われていた独自の技術が拡散したのである。畑迷惑な。

 

 

「艦長、一応警告しておくがあのミサイルの弾頭が何であれあの質量だ。直撃を喰らえばデメテールでもタダでは済まんぞ」

 

「優先的に撃ち落とすか避けるしかないッスね」

 

 

幸い超長射程に届く主砲を持つフネがデメテールを含めて5隻いるのだ。

咥えてデメテール本体はレーザー等の熱光学兵器には凄まじいほどの耐性がある。

デフレクターもこの巨体に合わせて非常に堅牢だから並大抵のことでは落ちまい。

まぁ、機動性に難があるけど、それでもグロスター級よりチョイ低めの機動性だ。

大きさから考えると凄まじく驚異的であると言える。重力慣性制御万歳。

 

 

「ユーリ、輪形陣をとった方が良い。対空戦ではアレの方が対処しやすいからねぇ」

 

「そっスね。既にこちらの姿は完全に見つかってる訳だし、今更ステルスしても補足されてアボンッスね」

 

 

ステルスは確かに姿を隠せるが完全ではない。

移動する為には当然ながらエンジンを使っている訳でどんなに絞っても痕跡は残る。

また重力変調も極僅かであるが探知出来てしまうのだ。

超長距離ならまだしも、既に補足されていてはねぇ?

それに敵にしてみれば小天体に匹敵するほどの大きさのフネがいる訳だ。

当然、ネージリンスのフネだと思われてるしソレを逃がす手は無いだろう。

・・・あっ。

 

 

「ねぇこれって下手したら俺達がネージリンス軍の要塞とかに見られたりしないッスよね?」

 

「「「「「・・・・げっ!」」」」」

 

 

あちゃ~、気が付くのが遅かったが、もしそうなら敵がわんさか寄ってくるぞ。

迂闊に姿を晒すんじゃなかったな。ポカしちまったぜ。

 

 

「ふむ、なるほど。有り得ない話では無いな。敵は此方のことを何一つ知らない訳だしな。だがそれよりもだ艦長」

 

「何スかサナダさん?」

 

「敵はやる気満々の様だ。ミサイルが発射シーケンスに入っているらしい」

 

「それを早く言えッスーーーっ!!!!」

 

「すまない。今報告した」

 

 

思わずウガーと言いかけるがそれを遮るかのように敵から通信が届いた。

 

 

『貴様ら!あの時の艦隊だな!邪魔立てなどさせんぞ!』

 

 

鬼の形相とはこの事だろうか?通信に凄まじい剣幕をしたシルグファーンが映った。

そりゃヴァランタインと比べたら小さいと思えるが、それでも以前の俺が見たら通信越しで気絶できるレベルの気迫を放っている。

まさかヴァランタインとの接触の所為で、こういった気迫に対して変に耐性が付いているとは思わんかった。

 

 

「とはいってもこれはお仕事ッスからねぇ。大体天体を他の天体にぶつけるとか卑怯じゃね?」

 

 

0Gの持つアンリトゥンルールでも地上への攻撃は厳禁だっていう建前があるんだが。

だがそう言った俺をシルグファーンは侮蔑を込めた視線で見つめてきた。

 

 

『・・・その言葉、ネージリンス軍部や首相にそのまま返すがいい。地上の民を人質に敵を倒す刃を研ぐ、その卑劣さがこのような手を取らせたのだ!』

 

「それはどういうことだい?」

 

 

トスカ姐さんがそうシルグファーンに問いかけるが、彼はコレ以上の問答は不要と通信を一方的に閉じてしまった。

その所為でトスカ姐さんのどうするって視線が此方へと向けられる。

 

 

「・・・だれか、エルイット少尉から事情聞いて来て。それとヴルゴ艦隊に対空戦及び対艦戦準備って通達ッス」

 

 

どうにも流れが早くて止めることも出来そうにない。

エルイット少尉の件も一応思い出せたが断片的過ぎるので確認を兼ねていた。

俺が説明しても良いのだが、この時点で俺が知っているのはおかしい。

下手な行動もとれない為、結局の所原作の通りにエルイット少尉から事情を聞く羽目になるだろう。

―――だが、その前にだ!

 

 

「敵艦隊ミサイル発射。迎撃限界点まで後100秒」

 

「各艦輪形陣のまま対空戦用意ッス!HLは対空拡散モードへ!」

 

 

迫りくる巨大ミサイルの群をなんとかせねばならないぜ!

誰が逝った訳でもなく、唐突に切られた火ぶたはすぐに猛火の如き砲撃戦になった。

インフラトン粒子の蒼色で染まったビームやレールガンの砲弾が飛び交っていく。

戦火が煌めくさまは見事なのだが、その渦中にいると思うとやはり生きた心地がしない。

デメテールの装甲や耐久力は高いが、やはり怖さというのはあるのだ。

 

 

「敵大型ミサイル、迎撃可能ラインに接近中。FCSコンタクト、各砲同調させます」

 

「射撃諸元入力完了、それじゃほら来たポチ―――」

 

「―――!大型ミサイル分裂、多弾頭ミサイルです」

 

 

迎撃の為にストールが発射ボタンを押そうとした瞬間、大型ミサイルが突如分裂した。

ミサイルが分裂なんてのは大抵の場合多弾頭ミサイルなのである。

それならば分裂直後で固まっている今の内に撃ち落としてしまえば問題無い。

・・・そう思っていた時期が、ぼくにもありました。

 

 

「ミサイル更に分裂。これは、ミサイルキャリヤーだった模様」

 

「うぇっ!?」

 

「だー!また射撃諸元入れ直しかよ!」

 

 

分裂した弾頭が更に分裂したのである。

これは多弾頭ミサイルではなく、多数のポッドを搭載したミサイルキャリヤーだった。

見た目がグアッシュのとウリふたつの癖に、中身は違いますってか!コン畜生っ。

ミサイルが小さいと侮るなかれ、小さくても弾頭次第ではヤバいのだ。

量子弾頭とか光子弾頭だとか対消滅弾頭とかD(デフレクター)C(キャンセラー)弾頭とか―――

手元のコンピュータのデータだけでもこんなにあるんだぜ?

勿論そのどれもがこの世界ではとても高価だからあまり使われないらしい。

特にデフレクター搭載だと空間ごとダメージを与える量子弾頭以外はあまり効果的じゃない。

もっとも数百とか越えたら通常弾頭でも普通に脅威だけどな

 

 

「各砲座迎撃!VF隊も出撃させろッス!あのサイズなら撃ち落とせるッス!」

 

「了解、最終防衛ライン設定、そこに集中配備します」

 

 

VF-0隊が基本装備で出撃するが、あれだけの数を何処まで防げるか。

そりゃね?VFの原作が板野サーカスの本場だけあって迎撃機能はスゲェですよ?

飛んでるミサイルを補足さえすれば迎撃出来るんですから、再現率高ぇなおい。

それでも数が多すぎると迎撃漏れがでちゃうのも世の心理なんだよなぁ。

 

 

「各砲座迎撃、拡散ミサイルの3~4割の破壊確実。VF隊も迎撃宙域に突入2割を撃破。残存ミサイルの3割ほどが防衛ライン突破、最終防衛ラインまで60秒」

 

 

ほらね?

 

 

「チャフ、EP・EA効果無し、最終迎撃ライン突破。予想弾着点――」

 

 

ミドリさんが言い切る前に前哨の駆逐艦である『パシテー』『カルデネ』がミサイルの群に取り囲まれた。

弾幕を形成していたが、キャリアーから切り離されたミサイルが小さすぎたのである。

10あった大型ミサイルは、その腹に抱えた40の弾頭を放出し400になったのだ。

その400の弾頭もミサイルポッドであり、さらに大量のミサイルが発射される。

こうして数えるのも億劫になりそうな凄まじい量のミサイルが艦隊に迫ったのである。

こちらも遠距離からの迎撃を行ったが、最終的にその2割が迎撃ラインを突破された。

通常の駆逐艦ならば爆沈させられてもおかしくないミサイルの量に駆逐艦達が耐えきれるとは思えなかった。

次の瞬間、前衛駆逐艦のいた辺りは閃光に包まれた。

回避運動も意味を為さないほど大量のミサイルが無人駆逐艦に命中してしまったのである。

 

 

≪―――キュゴォォォォォン・・・≫

 

「駆逐艦パシテー、カルデネに直撃弾。損害把握中―――」

 

 

アレだけ大量の質量弾の直撃を喰らえば巡洋艦、いやさ戦艦ですら危ういかもしれない。

2隻撃沈かぁと冷静な部分で思考していたが、煙が晴れた途端驚きで声を漏らしていた。

なんと、まとわりつく爆炎と煙が消えると、そこには穴ぼこだらけながらなんとか自力航行しているパシテーとカルデネがいたのである。

どうやらパシテーとカルデネを制御するAIがミサイルが命中する直前に砲撃を止め。

そしてジェネレーターに残されたエネルギーの全てをスラスターとデフレクターにつぎ込んだらしい。

リーフの操艦データが反映され、人が乗っていない為無茶な機動が効く無人駆逐艦だったが故、あれだけのミサイルの雨の中直撃弾を減らせたのだろう。

そしてどうしても避けられない分はデフレクターで防御したのだ。

だがそれでも、艦首部に取り付けられていた連装大型ガトリングレーザー砲は見事に大破。

パシテーに至っては艦首部分が完全にもぎ取られてしまっている。

それに両艦とも6つある亜光速エンジンも2つを残して大破していた。

誘爆を避ける為、エンジン部分をオートでパージしているといった有り様だった。

デフレクターを展開するシールドプロジェクターからは煙が上がり、各所の装甲は歪んで火花を放っている。

よくもまぁこれだけ穴だらけにされて沈まなかったモノである。

動かしている準高度AIであるユピコピーはかなり優秀なのだろうか?

だがこれでは戦闘には参加できまい。仕方ないので駆逐艦を下げることにした。

 

 

「パシテーとカルデネを下げるッス。本艦に収容して修理を開始するッス。代わりに巡洋艦を前に出してくれッス」

 

 

敵の中には補給艦がいたらしく、次の攻撃の為にミサイルを補充しているらしい。

シルグファーンめ、アウトレンジからのミサイル攻撃とは意外と姑息な手を使いやがる。

まぁこれも戦術だろうし、今までステルスで敵を屠ってきた俺がいえた義理じゃないが。

 

 

「ホールドキャノン発射用意っ!ミサイルを撃たせない様に牽制するッス!」

 

 

この距離で届くのは特装砲を除けばホールドキャノンくらいである。

だが今はミサイルが今度は断続して発射され精密射撃が出来ない事態に追い込まれている。

なので牽制にやや標準を甘くして撃つくらいしかない。

そして向うの航法班や操縦者も優秀なのか、甘い照準の砲撃があたらないのだ。

ある意味でこう着状態であったが勝機はある。

ミサイルが実弾である以上、防ぎ続ければやがて弾薬は尽きる。

そうすればもっと近づいて精密射撃や弾幕を形成して圧倒出来るはずである。

今までよくも好き勝手撃ってくれたな、ミサイルの至近弾って結構怖いんだぞ!

敵をフルボッコにしてやることを妄想しつつ、今は我慢と耐えた。

―――だがその目論見はあえなく終える事となる。

 

 

「敵艦隊後方に更なる反応を確認」

 

「げっ!増援ッスか!?」

 

「光学映像で確認、識別・・・増援というよりかはミサイル補給艦の様です」

 

 

その報告には愕然とするしか無かった。

こちらは只でさえ大変な量のミサイルの波を防ぐのに精いっぱいなのである。

弾薬尽きればなんとかなると考えていたがどうにもそう簡単にはいかないらしい。

 

 

「艦長、今計算してみたが後数時間でモアはナヴァラへと落ちるぞ」

 

「へぇあ・・・」

 

 

サナダさんからの報告に思わず変な声を上げてしまった。

こっちは時間が無いというのに、アウトレンジからのミサイルを撃ちまくるシルグファーンにイライラする。

時間稼ぎが目的なのだとしたら、なんて考えられた戦術だろうか?

あわよくば撃沈出来ればいいし、それが不可能でもこっちはミサイル迎撃に手を咲かねばならない。

通常ミサイル攻撃はレーザー等に比べると初速の差から射程が短いことになっている。

だがあの巨大ミサイルキャリアーを用いれば話は別だ。

アレがあれば超長距離のアウトレンジからでもミサイル発射を可能に出来る。

それこそ艦隊一つを相手にするには十分すぎるくらいに・・・。

だがそれも―――

 

 

「データ解析完了。ミサイルの分散地点の割り出しに成功しました」

 

「反撃開始だぜ。艦長!」

 

 

こっちだって只やられていた訳じゃない。

向うのミサイルが分散されるタイミングを計測し、コツコツとデータを集めていたのだ。

また巡洋艦を前に出して対空防御をしている。

巡洋艦は駆逐艦に比べればシールド出力がかなり高いので、被弾こそしているが撃沈は免れていた。

そして俺達は更なる手札を切ることにする。

 

 

「ユピ、悪いッスけど“本体”に戻ってくれッス」

「判りました艦長。私はFCSの演算機能を上げる為、しばらく私は意識を本体へと集中させます。よろしいですか?」

 

「許可するッス。ボディはそこらのイスに座らせておくッスよ。・・・がんばれよユピ」

 

「はい、艦長もトスカさんも頑張ってください。それでは――」

 

 

ユピはそう言うとイスに腰掛けた状態で糸が切れかのように動かなくなる。

今まで多目的な方面に意識を割いていたユピが完全にフネの方に意識を集中させて、本来のコントロールユニットとしての能力を上昇させたのだ。

完全にデメテールそのモノと化したユピにより、慣性射撃やT.A.Cマニューバの反応速度が上昇していく。

 

 

「さぁウチの女神さまが頑張ってくれている間に敵を落すぞ!全艦最大戦速!」

 

「「「「了解っ!」」」」

 

『こちらヴルゴ艦隊、先行させてもらいます』

 

「うす、デメテールは後方から援護するッス。損傷艦は随時後退させてくれッス」

 

『了解しました』

 

 

さぁ、第2ラウンドのはじまりだZE!

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Side三人称

 

 

さて、ユーリ達が頑張って艦隊戦を行っていた時と同時刻―――

 

 

「パシテー・カルデネ両艦の接舷完了!修理作業開始します!」

 

「オラオラ!時間はまっちゃくれねぇんだ!ありったけのブロックモジュール持ってこい!」

 

「「「「「うぉぉぉぉぉぉッ!!」」」」」

 

 

艦内の造船所を兼ねた蜂の巣型修理ドッグでは男たちの咆哮がとどろいていた。

パシテーとカルデネが大破に限りなく近い状態で戻ってきたからである。

無人艦艇なので人的損失は無いことは行幸であったが、お陰で修理せねばならない。

まぁ幸いなことにアバリス改修作業を行っていた連中が揃っている為、徹夜や趣味に没頭した事で若干ハイになっている整備班達が急ピッチで修理を行っている。

駆逐艦なので大きさも小さかったことが修理を早く終わらせることに拍車をかけていた。

 

 

「そこー!バーゼルのエネルギーパイプはT-32型じゃなくてT-67型だろうが!マハムントと間違えんな!規格がチゲェだろ!」

 

「すいやせーんっ!!!」

 

「たく・・・ん?だれかライの奴しらねぇか?」

 

 

大声で駆逐艦修復の監督をしていたケセイヤが、アバリス改装の為に今の今まで一緒にいた筈の仲間の一人の姿が無いことに気が付き、近くにいた部下に聞いた。

収監惑星ザクロウにおいてリアと共に救出されたライは優秀なエンジニアでもある。

普段は彼女の尻にひかれている情けない男であるが、特定の分野・・・特に整備や開発等においては天才的な技能を発揮する男である。

天才肌故にある意味独特の思考回路を持つライは、マッド四天王に次ぐエンジニアでもあった。

 

 

「ライさんだかぁ?あの人だったら確か外の戦闘の様子見て“キター(・∀・)”とか叫んでどっか行っただよ」

 

 

三つ編みおさげの部下ちゃんはケセイヤの問いにそう応えていた。

つか、何気に一緒にいること多いなこの二人。

 

 

「なにー?また閃きでも来たってか?こんの忙しい時に・・・」

 

「班長だって時たまやるから人のこと言えねぇだ」

 

「・・・そうなの?」

 

 

部下ちゃんからの指摘に思わず聞き返すケセイヤ。

聞かれた部下ちゃんはうんうんと首を上下に振っている。

まぁケセイヤの暴走は今に始まった事では無いので、もはやおなじみである。

 

 

「んだ。あとライさん偶々来てたユディーンさんまで引っ張ってっただ」

 

「ユディーンをか?アイツなにするつもりなんだ?」

 

「オラがそんなこと知るわけないっぺ」

 

「・・・それもそっか。んじゃ作業に戻るか」

 

「んだな。早く終わらせてチェル姉ぇのごはん食べたいだ」

 

「お前好きだモンな。チェルシー嬢の飯。安心しろ既に出前は頼んである」

 

「それでこそ班長だべ!だから大好きだぁ!」

 

「はっは!褒めるな褒めるな!」

 

 

ごはんという単語に思いっきり反応して飛び跳ねる部下ちゃん。

彼女の頭に犬耳が見えて来そうな感じ、所謂わん子ってヤツだ。

ソレを微笑ましそうに眺めているケセイヤの姿は年上の兄貴に見えなくもない。

だが、それに納得出来ない輩もいるようで・・・

 

 

「「「「「ぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるp・・・・・」」」」」

 

「いや、お前ら怖いからやめろよ・・・」

 

 

作業をしながらもケセイヤと部下ちゃんの様子を見ていたほかの整備員達が呪詛を上げていた。

それでも作業をやめない連中はプロだったが、瘴気を吐くその姿ですべて台無しだった。

 

 

一方、そのころライとユディーンは―――

 

 

「で?俺はなにすればいいんだぜ?」

 

「うん、このヘルメットをかぶって欲しいんだ。大丈夫、只単に脳波をスキャンするモノだから危険は無いよ」

 

「要するに被ればいいんだな?おっしまかせろい―――おお!?宇宙が見える!?」

 

「そとの映像をダイレクトに流せるんだ。さてとそれじゃそろそろ・・・」

 

「あん?なにすんだ?」

 

「うん、僕の研究と倉庫にあった機動兵器で面白いモノをね」

 

「へぇ、面白いものねぇ?」

 

「君の能力次第で結構決まるモノだから頼んだよ」

 

「そうなのかぁ?何か燃えてきたぜぇッ!!」

 

 

何やら薄暗い部屋でたくらみを実行に移していた。

そう、ライもまたマッドの一人であり、それゆえに――

 

 

「さぁ行くよ。こんなこともあろうかと用意しておいたんだ!」

 

 

―――この台詞が吐きたかった。ただそれだけでであった。

 

 

***

 

さて反撃を開始と大口を叩いたは良いが、実質攻めるに攻められない状況が続いていた。いやね、ユピが意識を集中させることで命中率回避率ともに飛躍的に上昇しましたよ?ほかにも指示出して策を巡らしたし、時間を稼げばなんとかなるとは思う。

今も飛来するミサイルキャリアーからミサイルが射出される前に撃ち落とせるくらいになってきた。これで敵艦隊に近づいて砲撃戦に持ち込めば、少なくても此方に軍配があがる。俺はそう思っていたのだが、そんなこと敵もお見通しだったりした。

 

 

「敵艦まであと8000――!敵艦隊全速で後退を始めました」

 

「ちょ!徹底して砲撃戦を避ける気っスか!?」

 

「キャリアー第5射目も射出、それと・・・機雷も感知」

 

「なんて奴らだい・・・砲撃戦に持ちこまれれば勝ち目は無いことを知っているんだ。どうするユーリ、相手は手ごわいよ」

 

「くっ、これが大海賊の実力ってヤツッスか」

 

 

甘かった。敵はあれで大海賊と呼ばれるほどの人間。

そして海賊と名がつくからには冷徹で非情で効果的な戦い方をしてもおかしくねぇ。

 

 

「ヴルゴ艦隊、砲撃開始。・・・エネルギーブレット、命中せず。射撃諸元修正データリンク中」

 

「ええい!あの機雷にゃジャミング装置でもくっ付いてんのか!?センサーがぶれて遠距離砲撃照準がやりずれぇ!」

 

「機雷の除去は!?ププロネン隊は何をしてるッス!」

 

「現在、ププロネン隊は飛来するミサイルの迎撃に当たっています。ですが人手が足りていません。機雷除去にまで回す人員は本艦隊には残されていないんです」

 

 

AIで駆動するVF隊も現在ミサイル迎撃に当たっているからな。

作業艇を出せれば機雷を撤去可能かもしれないが、それをすればミサイルとレーザー飛び交う戦場に鴨をネギつきで突き出すようなもんか・・・。

まぁ作業艇も無人機だから、人的損耗は出ないからいいが、その分お金がね。

 

 

「チッ、なら対空砲でなんとか撃ち落とすしか・・・次のミサイルまでは?」

 

「先程の第5射目は先行する巡洋艦が迎撃しました。次の発射まではおよそ180秒掛かるかと思われます。ですが、巡洋艦の損傷率が上がっています。これ以上の前進は危険です」 

 

「・・・ギリギリまで踏ん張ってもらうッス。次のミサイルの迎撃を終え次第、巡洋艦は後退させてリシテア以外のカルポ、テミスト、カレを前に。アレの耐久力なら例え直撃を喰らってもなんとかなる筈ッス」

 

「しかし、艦隊の損耗率が・・・いえ、指示通りにします」

 

 

損耗率を気にしてたら戦いは勝てない・・・けど、もったいなぁぁぁぁい!!!

ああ、せっかく敵から分捕った40mm速射対空レーザーが、TASMミサイルポッドが、複合型レドームアンテナシステムが・・・宇宙のチリに・・・。

アレを取りつける為にどれだけの決算を俺がしたと―――!!

 

 

「ゆ、ゆるさん、ゆるさんぞ海賊ども。俺の仕事を増やしやがって、消し炭に変えてやろうか?」

 

「ユ、ユーリ、あんた目が怖くなってるよ」

 

「だってトスカさん、また仕事が増えちゃうんスよ!?只でさえ睡眠時間が削られてるってのに・・・マジでヤスリで削ったろっかな・・・」

 

「何を削る気だい!?」

 

 

そりゃナニを・・・おっとこれ以上は紳士な俺の口からは言えないねぇ。

とにかく、これ以上戦力の減少を防ぎたいので、まだ戦艦が持つ内に一気に突撃をかけるべきかと考え始めたその時だった。

 

 

「――?ユピ、あなた何かした?」

 

【いえ、ミドリさん、私はなにもしていませんよ】

 

「どうかしたのかい?」

 

 

突然オペレーターのミドリさんがユピに何かを尋ね、ユピはそれに知らないと応えていた。

何かあったのだろうかとトスカ姐さんが彼女に問うた。

 

 

「いえ、それが本艦の下部ハッチの幾つかが解放されまして」

 

「まさかハッキング攻撃かい!?」

 

【ソレはあり得ません。私が守っている999の防壁を突破した形跡は全くありません】

 

「まてまて、それじゃ何で下部ハッチが―――」

 

 

俺がそこまで言葉を発したその時である。

突然外部モニターに強烈なスラスターの光りが映りこんだ。

明滅するそれはIFFを発信しつつも人間では耐えられない様な加速で艦隊を抜けだし、前面に展開しているププロネン隊の横を通り抜けて、キリングフィールドへと飛び出したのである。

よく見るとその明滅する光の中には人型と思えるシルエットが垣間見えた。

どこか細身の女性を思わせるソレはインフラトン粒子を撒き散らしながら戦場を飛んでいる。

一体何が起きたのか判らない俺達が茫然としていると、全周波帯にわりこんだ通信が吠えた。

 

 

『ィィイーーーヤッホォォォォォォォォォッ!!!!』

 

 

ごく最近仲間となったあの元海賊のクルーの歓喜の声がブリッジにこだました。

その声の主はユディーン、あの元海賊のクルーである。

そして、デメテールから発進したその光の正体は、かつてウチで使用する艦載機のレセプションにおいて、AMSが無いことによる操作の難しさ。

それと搭乗者のことを考慮しない殺人的Gなどの様々な原因が加わり、倉庫で埃をかぶっていた筈の機体である帆歪徒・具凛兎・・・いや誤魔化すのはやめよう。

何故かマッドが何処からデムパを受信したのか作られてしまったこの世界には存在しえない機動兵器であるアーマード・コア、ネクストと呼ばれる最強の機体。

ACホワイトグリントとウリふたつの機動兵器が、暗い宇宙をVOBを装着した状態で駆け抜けていったのだ。

装備までは再現できなくて、専用のライフルとレールマシンガンを装備しているけどな。

それ以外はシルエット等ホントウリふたつと言っても良いだろう。

 

 

「な、まさかこの声は!?」

 

「・・・何してるんスか?ユディーンさん」

 

 

声だけで誰だかわかったのか、トスカ姐さんも吃驚して思わず語気を強めていた。

いや、マジでなにがどうなってんの?と俺は首を傾げるしか無かったのだった。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Side三人称

 

 

衛星モアの軌道上で繰り広げられる激しい砲雷撃戦。

薄緑色の高出力プラズマビームをよけながら、超大型対艦ミサイルを発射できるように改造されたヴォイエ・バウーク級戦艦の艦橋に、胸元まで伸びきった立派な髭を蓄えた金髪の大男が立っていた。

金髪の大男、彼の名はシルグファーン・オッド。殺しを好まず輸送船のみを狙うことで有名な大海賊である。彼は腰元に付けているスークリフ・ブレードの柄に手をかけ、この艦隊戦を見守っていた。

 

 

「・・・衛星モアの軌道変更の進行具合はどうなっている?」

 

 

ふと、現在の作戦進行状況を知りたくなった彼はオペレーターに訪ねた。

部下は手元のコンソールを操り、必要な情報を集め統合していく。

 

 

「へい、現在フェイズ3まで進んでいやす。あと少しで完全に衝突するか、至近距離を通過するコースに突入するかと」

 

「そうか。地上の民には申し訳ないが、ココでカルバライヤを潰させる訳にはいかん。連中を通す訳にはいかんのだ」

 

「ウス。――大型対艦ミサイルの次弾装填完了。次弾発射」

 

 

――衛星とはいえ星一つを動かして、他の星へ衝突させるという計画、プランR。

態々ソレ専用のフネまで設計した程、長い時間構想された計画が始動した今、それを止める輩は何としても排除しなければならない。すでに賽は振られたのだ。中途半端に止めるくらいなら最初から地上を攻撃する様な計画に参加はしない。

0Gである彼らは地上へ攻撃するという行為は、禁止するという明確な法律がある訳ではないが、それでも0Gとしての矜持(ルール)がある。だが、それでもカルバライヤに助力する以上、しなければならない事としてその手を染めたのだ。

シルグファーンはじょじょに本来の軌道を逸れていく衛星モアをモニターで眺めつつ、現在ミサイルの連射でなんとか食い止めることに成功している敵艦隊を見た。

強制回線で垣間見た相手は、とても若い艦長だった。それこそ、どうやってあんなフネを任されているのか判らない位に若い。ただの若造であったなら、この計画は恙無く進行し問題無かったことだろう。卓越した艦隊指揮を行える人間でもないことは今までの指揮を見ただけで理解出来たからだ。

相手は自分の艦隊を大事にし過ぎている。彼奴等の目的が衛星モアの進行阻止にあるのなら、艦隊を分けて別動隊を衛星モアに展開している工作隊撃破に向かわせるべきなのである。だが、相手は義勇軍、悪く言えば雇われの艦隊でしか無いことが今回は幸運であった。

ソレによってシルグファーンは時間を稼ぐことが出来たのだ。相手がどんな犠牲を払ってでも目的を完遂する様な人間であったなら、この時間稼ぎは通用しえなかったことだろう。

そう、これは時間稼ぎなのだ。後方からの潤沢な支援の元、なんとか拮抗状態を保っているに過ぎない薄氷の上の作戦。空間を飽和させるかのようなミサイルにより、撃沈とまではいかなくても、敵艦の足を遅くさせる。

立ったソレだけの為にシルグファーンはここに展開しているのである。一分一秒でも長く、工作隊がその使命を終える為だけに、敵艦隊を足止めしているのだ。

元々未完成で渡されたヴォイエ・バウーク級であった事もこの作戦を可能にしている要因である。カルバライヤから支給された際、このフネはまだ完成には至っておらず、それゆえにある程度の強引なカスタマイズが可能であったのだ。

カスタマイズの内容はシンプルだ。元々カルバライヤに居た海賊集団であるグアッシュから得た巨大ミサイルの発射口を取りつけただけなのだ。

だがそのお陰で足止めに成功している。彼は恐らく衛星モアに駐屯していると確信していた敵艦隊、白鯨が絶対にこの作戦においてしゃしゃり出てくるということを予め予想し、その為だけにこのとてつもなく機動性を悪化させるであろうミサイルを搭載したのだ。

超長距離からのミサイル飽和攻撃による敵艦隊侵攻の封鎖。海賊であった頃なら絶対に出来ないコスト度外視の作戦なのである。それ故に失敗は許されない。

 

 

「敵艦隊、さらに増速。高エネルギー反応感知!回避機動及びデフレクター出力up!」

 

 

白鯨艦隊からのこれで何度目になるか分からない砲撃の予兆を感知し、回避行動に移りつつもデフレクターの出力を上げる。あの艦隊の戦艦が持つ主砲の威力は、常識の範疇を越えており、確実に回避したとしても余波だけでダメージが発生する事がある為だ。

そして一斉射された薄緑の粒子ビームがシルグファーンの艦隊を紙一重といった感じで通過していく。なんども避けているとはいえ、乗組員たちは安堵の息を吐いていた。

 

 

「ジャミング機雷もあるこの宙域で、そうそうあてられるものかよ」

 

 

そうシルグファーンは周りには聞こえない程度の声で漏らした。

この為だけにカルバライヤ軍と交渉し、態々試作品の高効率ジャミング場を形成できる装置を内蔵した特殊機雷を通常の機雷と混ぜてばら撒いたのだ。どんな高性能センサーでも、いやさ高性能だからこそこのジャミングは効果を発揮するのである。

命中すれば確実に大破してしまう攻撃もそうそう当たらない様にしてしまえば脅威ではない。当たらなければどうということは無いのだ。そう言った意味ではミサイル飽和攻撃は命中率だけは断トツで高い作戦であった。とはいえ敵は非常に優秀であり、徐々にその照準が正確なモノへと変わっているということも理解していた。このままではやがて直撃を喰らう艦が出てもおかしくは無い。

だが、作戦の為に障害となる敵艦隊を足止めをするという役目は十分に果たしたと言える。

 

 

「補給艦より連絡、大型ミサイルの残弾が3割を切りました」

 

「・・・潮時だな。大型拡散量子弾頭ミサイル準備!敵をダークマターにかえしてやれ」

 

 

ミサイルも物質を伴う兵装である以上、その展開には限界がある。

この侵攻作戦に合わせて不眠不休で工廠を使って増産させたが、大型ミサイルの残弾は既に乏しいモノとなってしまった。なので彼はこれまで使われなかった切り札とも呼べる大型の量子弾頭が搭載された大型拡散ミサイルの発射許可を出す。

艦載機が撃つ大きさのミサイルであっても、量子弾頭であるなら熱核を遥かに越えるほどの威力となるのだが、その運用の難しさから最後まで温存しておいた虎の子の一発だ。いや、ミサイルキャリアーに搭載された弾頭全てなので虎の子の万発だろうか?

兎に角、いまやシルグファーン艦隊の弾薬庫と化している大型輸送船のミサイルカーゴからクレーンが伸び、ヴォイエ・バウーク級の両舷に取り付けられた発射口へと量子弾頭ミサイルが装着される。

これを放てば、例え迎撃されようとも何割か到達した時点で、敵艦隊は壊滅的なダメージを受けることになるだろう。上手くやればそのまま殲滅出来るかもしれない。そう思うとシルグファーンの中の攻撃性因子が叫んだ。敵を殺せ、殲滅し蹂躙せよと。

思わず思考が熱くなりそうになった事を感じた彼は一度深呼吸を行いクールダウンを図った。冷静な思考が損なわれる事は命取りにつながることを、これまで培ってきた経験から学んでいる。

息を吐き終えた後、彼は真っ直ぐとモニター越しに敵艦隊を見据えた。

 

 

「量子弾頭ミサイル装填完了。本艦他各艦も準備完了でやす」

 

「これで終わりだ!量子弾頭ミサイル・・・発sy――『ィィイーーーヤッホォォォォォォォォォッ!!!!』――ッ!なんだ?!」

 

「敵艦隊からの広域通信・・・いえ、敵艦載機からの高出力広域通信です!」

 

 

発射命令を下そうとした矢先、突然の広域通信波によって入った叫び声に、彼は思わず発射ボタンから指を離してしまった。

 

 

「艦載機だと?あの可変戦闘機か?」

 

 

敵の艦隊は既存の艦載機では無いオリジナルの艦載機を所有していることを彼は知っていた。

VFと呼ばれるソレらはかつて戦列を共にしたトーロ達が使っていたと記憶している。

可変機故の圧倒的な機動性とトリッキーさがウリの艦載機だった筈だ。

だが、飽和攻撃を前に機動性の高い艦載機であってもあまり意味は無い筈である。

 

 

「いえ、それが――見たことが無い人型機動兵器ですぜ?」

 

「・・・新型機、か?何故今になって・・・」

 

 

シルグファーンは首を傾げていたが、同じ頃白鯨艦隊のユーリも首を傾げていた。

どうでもいい話だが何故かシンクロしていたのである。もっとも、ユーリの場合は何でまだあの機体が残っていたのかという所にあったのだが、そこら辺は割愛しておく。

兎に角、今すべきことは変化した状況の把握にあると彼は考え、一時ミサイルの発射を見送った。

とりあえず、量子弾頭ミサイルを搭載せず、通常弾頭を残している僚艦に機動兵器周辺で拡散するように指示を出した。

幾ら機動性があっても飽和攻撃になるミサイルの雨から逃れるのは至難の技である筈だ。そう考えての指示であったが、その考えがすぐに覆されるとは彼は思っていなかった。

 

 

 

 

 

僚艦から発射された大型ミサイルは、途中で分離して大量のミサイルキャリアーへと変化し、そのミサイルキャリアーからも大量のミサイルが発射され、ミサイルの雨が空間に形成されていく。

突如現れた人型機動兵器も大型のブースターらしきモノを背負っており、凄まじい加速でそのミサイルの雨へと突っ込んでいった。

誰もが、速度が出過ぎて避けられないのだろうと思っていた。

 

 

『見える!俺にもミサイルがみえるぜぇい!はっはー!三回転捻りッてかぁ!!』

 

 

その瞬間―――機動兵器がダンスした。いや、ふざけている訳ではない。この規格外の機体性能を見た人間は、これ以外の言葉が見つからなかったと言った方が良いだろう。ブースターを用いて加速している機動兵器と、キャリアーから放たれたミサイル群との相対速度は、既に人間が見切ることが出来る速度限界を越えていた。

しかし、あの機動兵器はその中をきりもみに近い回転をしながらも、高速で立体機動を描きながら全てのミサイルを避けたのである。常識的な人間から見れば、信じられない様な光景を前に白鯨もシルグファーンも一瞬動きを止めてしまったほどだった。

 

 

 

『おっと、通す訳にはいかねぇんだった』

 

 

 突破したかと思えば、今度は“その場”で急停止するホワイトグリント。これも非常識だ。幾ら重力制御技術があっても、この急制動では中に人がいればペッチャンコになるほどのGが掛る筈である。だがWGはそのまま振り向き、過ぎ去ったミサイルをまた“追い越した”。

 

 

『おらおら!避けられるもんなら避けて魅せなぁ!!』

 

 

 ミサイルを追い越したWGはデフレクターの出力を上げる。すると機体の周辺で重力子の振動による発光現象が起こり、機体を覆う球状の光りが視認できるほどになった。だがWGはさらにデフレクターの出力を上げる。ソレにより光が機体を覆い尽くし、全長の約2倍にまで膨れ上がった。

そしてそのままWGは、飛び込んでくる拡散しきっていないミサイルの群の中で―――

 

 

『弾け飛びなッ!』

 

 

―――デフレクターを爆発させた。瞬間的に縮退を起し、それによって高圧縮された重力子が解放され、本来は何もない筈の宇宙空間で重力の波が激しく乱舞する。ミサイルはその影響を受けて明後日の方向へと吹き飛ばされたり重力変調で爆散するものが相次いだ。

シールドをバーストさせた影響からか、バチバチと若干プラズマを纏わせているWG。

その姿は細いシルエットもあって女神の様であったが、明らかにその力は死神そのモノであった。

 

 

『さぁて、次は戦艦、逝ってみようかぁ!』

 

 

 そしてVOBを吹かすWGは、邪魔するモノが消えた宇宙空間を一気に駆け抜ける。

 あまりの出来事にあっけにとられていた両陣営であったが、WGが動きだしたことに気が付くとお互いに我に返り戦闘を続行した。シルグファーン艦隊もミサイルでは落すことは不可能と判断し、対空弾幕を形成し、WGを迎え撃とうとする。

だが艦載機の速度を優に超えたWGは僅か数分でシルグファーンの艦隊の目と鼻の先にまで到達してしまう。使い捨てであるVOBをパージしたWGはそのまま近くに居た戦列艦に喰らいついた。

この世界において、艦載機が単騎でフネを落すことはまずあり得ない。編隊を組んだ艦載機が狼の群の様にフネを囲い逃げ場をなくした上でようやく落すことが可能となるのだ。だが、WGはそんなことは関係ないとばかりにパージした反動を利用しそのまま吶喊。

凄まじい速度で戦列艦の持つ堅牢な筈のディゴマ装甲を、それこそまるで紙の様に引きちぎって内部へ入り込み暴れまわる。幾ら全長数百を越える戦艦であろうと、内部機構を攻撃され、竜骨をへし折られれば脆いモノ。インフラトンの輝きと共に戦艦が一隻、宇宙の塵に還った。

 

 

「「・・・・・」」

 

 

このあまりの事態に長い沈黙の後、両陣営の長が発した言葉は只一つ。

 

 

「「・・・なにこれこわい」」

 

 

 たった一機の機動兵器が無双する戦場だなんて、いつの時代のロボットアニメだと、この光景を見た人間達は思った。ソレ位に衝撃的な光景であったのだ。この時代の戦争の常識を軽く覆し、それどころか常識というラインを斜め上どころかミサイルでかっ飛ばした様な光景。正直言って無茶苦茶である。むしろこれを見て信じろと言われても困ってしまいそうなほどだった。

 

 

『戦艦なんて鈍ガメが俺の動きに追随出来るわきゃねぇだろうぉ!』

 

 

 WGは戦艦を一つ血祭りに挙げ、爆散する寸前に戦艦から飛び出した。そして襲い掛かる対空砲火網の中を悠々と動きまわる。このままいけばシルグファーンの艦隊が危ないかにみえたが、現実はそうでは無かった。何故なら既にWGのフレームは外から見て判るほどに歪み始めていたからだ。アレだけの高機動高加速状態での動きはフレームにも多大な負担を強いたのだろう。

 それ故、一番最初にミサイルを避けた様な精彩な動きは既に失われ始めていた。

 

 

≪ドゴゴン!≫

 

『な!直撃を喰らった!?――いぇあっ!!!』

 

 

 次の瞬間、艦隊が張った対空砲火の一発が運悪くヒットしてしまったWGを火球へと変えてしまった。アレだけの力を見せつけ、戦場を混沌とさせたWGはあまりにもあっけなく、この舞台から消えてしまったのであった。

 

 

 

 

 

「し、しんじられねぇ。なんてヤツだ。だけど、これで一安心ですな」

 

 

 圧倒的な性能を持つ機動兵器の猛攻をくぐり抜けたシルグファーンの艦隊では、安堵の空気が蔓延していた。戦艦を一隻だけ食われてしまったが、それでもあのアホみたいに早い機動兵器が一機だけで本当に良かったと思っていたのだ。シルグファーンもその事には同意していた。此方が切り札である大型拡散量子弾頭ミサイルを持っていたのと同じように、敵もあんな切り札を持っていたのだなとシルグファーンはいい感じに誤解していた。

 

 

「敵の切り札は叩き落とした!此方も切り札を使う!!」

 

 

 切り札を失ったであろう敵を叩くのは今だとばかりに、シルグファーンは先程発射出来なかった大型拡散量子弾頭ミサイルを発射させようとした。敵艦を撃沈したという訳ではないが、性能差がある敵艦隊の戦艦、巡洋艦、駆逐艦を戦闘不能に追い込めたのだ。後は止めとばかりに切り札を撃ちこむだけである。

 だが、WGが与えた損害は何も戦艦だけでは無かったようだ。

 

 

「すみません、先程の敵機動兵器との交戦で、本艦の位置がずれた所為で射撃諸元を入れ直さないとミサイル発射が出来ません」

 

 

突っ込んできたWGを落す為に陣形を組みかえた所為で、ミサイル発射を行う筈の座標からかなり流されてしまっていた。シルグファーンは部下に「いそげよ。敵は待ってはくれないはずだ」と返事を返しつつ、再び戦術モニターに視線を戻した。

流されはしたが微々たるもので、敵との相対距離は変化していない。これならばすぐさまミサイルを撃ち込むことが出来ることだろう。さすればあの強力な艦隊もどれほどまで耐えきれることになるのやら。戦いに負けても戦争には勝ったと彼が思ったその時。

 

 

≪――――ズズズーンッッ!!!!≫

 

「な!?4番艦が轟沈しました!原因不明!」

 

「な、何が起こっている!?」

 

 

 先程の機動兵器WGは爆散し、付近に脅威はいなかった筈なのに、突然友軍戦列艦が爆沈してしまったことに、艦隊に動揺が走った。事態の究明をしていた科学班はデータの解析を終えた途端大声で叫んでいた。

 

 

「敵艦載機部隊です!下方11時の方向から奇襲されました!」

 

「レーダー班は何をしていた!」

 

「迂回してきたものと思われます!≪――ズズーン≫――ッ!6番艦も大破ッ!!」

 

 

 すぐ近くにて旗艦ヴォイエ・バウークと同じく量子弾頭ミサイルの発射準備を進めていたフネが大破してインフラトン粒子を撒き散らして轟沈する。その様子を映していたモニターをみたシルグファーンは確かに見た。まるでシャトルの様な大型機が複数、巨大な4門の砲門を展開し、今度は此方へと照準を合わせている所を―――

 

 

「転舵あぁぁぁっ!!!面舵30!アップトリム全開ッ!!!!!」

 

 

 シルグファーンの命令はすぐさま伝わり、ヴォイエ・バウークはその巨体を跳ね上げる。それと同時に大型機の砲門から電磁投射の光りと共に砲弾が射出された。

 

 

≪――――キュゴォォォォォォォーーーーーーーーッ!!!!!≫

 

「「「「「ぐぁあーーーー!!!」」」」」

 

 

 激しい衝撃、直撃を免れたが近接信管でも仕込まれていたのか至近距離で爆散した衝撃波がヴォイエ・バウークに襲い掛かる。シルグファーンは思わずコンソールにしがみついたが、あまりの衝撃で自分の艦長席にへと投げ出されてしまった。

 

 

「うぐ、不覚。まさか別動隊を送っていたとは・・・損害報告!」

 

 

 シャトル型の大型機、ソレはユーリが密かに迂回ルートを進ませていたVB-6ケーニッヒモンスターの部隊であった。その中には一機だけ真っ赤な色をした機体が混じっている所を見るとガザンの部隊であろう。彼女たちは当初はミサイル迎撃に参加していたが、ユーリの指示の元、密かに艦隊を離れて迂回ルートを進み、奇襲する瞬間を狙っていたのである。

 実際はWGの攻撃の所為で若干出るタイミングを逃してしまったのだが、それでもミサイル発射寸前での攻撃は大層効いていた。

 

 

「各艦被害甚大!撃沈2――≪ズズーン≫――訂正、撃沈3、本艦を含め中破4、小破3。本艦の被害は船底部装甲板に亀裂発生!船底部スラスターが全壊!機動性が57%低下!ミサイル発射機構も損傷大!ミサイル発射できません!」

 

 

 やたらめったら打撃力だけはあるVB-6は奇襲を行うと同時に、背負ってきた外付けのコンテナミサイルを出血大サービスの如く連射して、その場を離脱していった。4連装大型レールカノンで落されたのは最初の1艦だけで、それ以外は中破や小破であったが、確実に攻撃の殆どが大型拡散ミサイル発射筒に命中していた為、ソレを狙っていた可能性もあった。

 

 

「敵艦隊急速接近!本艦では逃げきれません!」

 

「くっ!これまでか!」

 

 

 大型ミサイルを発射出来なくなったとなれば、もはや足止めをすることは出来ない。そして先の攻撃で機動性を失ったシルグファーンの艦隊はジャミング機雷の影響圏が関係なくなるくらいの直接照準が可能な距離まで近づいたデメテールによるホールドキャノンの一斉射を受けて殆どのフネが撃沈され、ヴォイエ・バウークも轟沈寸前までのダメージを与えられてしまった。

 

 

「やるな・・・まさか俺がこれ程までにやられるとは思わなかったぞ。――だが、もう止められん」

 

 

バチバチと火花が飛び散るヴォイエ・バウークの艦橋で、フィードバックによるコンソールの爆発に巻き込まれて吹きとんだ左腕の傷を抑えたシルグファーンは、最後に見た衛星モアの加速度合いと侵入角度を思い出してにやりと笑うと、インフラトン機関が急激な期間停止(メルトダウン)によって暴走爆発を起す直前に最後の咆哮を上げた。

 

 

「人の業を背負わされ崩壊する、哀れな星の姿をとくとその眼に焼きつけろっ!」

 

 

 彼がそう叫んだのと同時に、ヴォイエ・バウークは蒼い火球となって爆沈した。

 義賊として名をはせた大海賊シルグファーンはインフラトンの輝きに包まれて、宇宙のチリに還ったのであった。

 

 

***

 

Sideユーリ

 

 大海賊シルグファーン、あんたはマジで強敵だった。

 お陰で仲間の一人が散っちまったじゃねぇか。くそったれめ。

 

 

「ユディーン・・・」

 

「おう、よんだかい?」

 

「え?」

 

「あん?」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 

―――なんで、特攻したヤツが生きてるの?

 

 

「・・・・!ガタガタブルブル・・・お、お化けがでたぁー!!」

 

「聞き捨て悪ぃこというなよっ!?」

 

「落ちつけユーリ。そいつ足ちゃんと生えてるよ?」

 

【生体反応もキチンと有りますから、生きていらっしゃいますねハイ】

 

 

―――・・・あれ?

 

 

「何で生きてんの?」

 

「んなの、アレが無線操作機だったからに決まってんだろうが」

 

 

 投下される爆弾。・・・良し、とりあえずだ。

 

 

「だれかライさん呼んで・・・いや、リアさんに通達、ライを呼べッス」

 

「アイサー・・・ライの命運も尽きたわね」

 

「あとユディーンさん、ちょいとこっちゃこい」

 

「あん?なんだ?」

 

 

 何も考えてないユディーンを近くに呼んだ。

 まったく、何でテメェはそうも軽いんだろうねぇ?

 久々にオイちゃんイラッて来ちまったよ♪

 

 

「テメェ・・・紛らわしいんだよー!!死んだと思ったじゃねぇか!!」

 

「ヒデブッ!?」

 

「ああん?言い訳したいとでも言うんスか?ダラシネぇいな」

 

「か、関節はやめろー!!たらば!?」

 

「ほれほれ、まだまだ行くッスよー。オラオラオラオラオラ」

 

「な、なんでそんな細い体つきしてるくせに・・・アタタ!だから関節はらめー!!」

 

「伊達に、重力ウン倍の部屋に、籠ってる、訳じゃねぇッス!あとらめー言うな気色悪い!」

 

 

 喰らえ!見よう見まね筋肉バスター!バウンドした瞬間にサマーソルトで追撃!

 そして宙に浮いたユディーンの頭を掴み上げてそのまま床にダンク!

 哀れユディーンは艦橋で沈んだのであった。まる。

 

 

「・・・ユーリ、やり過ぎ」

 

「ついカッとなってやった。申し訳ないと思っている。スカッとしたけど」

 

「まぁ仕事数多くこなしてたもんねぇ。これくらいは良いか。ユディーンも死んでないし」

 

「今にも死にそうですけどね」

 

【サド先生呼んでおきましょうか?】

 

 

 ユピよ。そうは言うがな・・・。

 

 

「あ~、痛かったぜぇ~」

 

「・・・要らないみたいッスねぇ」

 

「無傷か、ときどき不思議なことが起こるのがこの宇宙―――」

 

「サナダさん、無理矢理まとめなくても良いですよ?」

 

「む、むぅ」

 

 

***

 

 

 まぁ冗談はさて置き、ユディーンの野郎は普通に生きていました。

 どうやって生き延びたか?それがまためっぽう単純な話でよ。

 どうもフネの中にある無人機をコントロールする装置に、ライがあるモノを接続したらしいのだ。

 簡易脳波スキャニングシステムを改良した脳波コントロールシステム。ソレが取り付けられた装置の実体だ。

 ユディーンはイスに座らされ、顔面まで覆いそうな沢山のコードがついたヘルメットを被って、何時の間にか無人機に改造されていたWGと一体化した。

 IP通信を応用したタイムラグ0の遠隔操作装置により操作されたWGは無人機である利点として、対G系のリミッターを解除出来るということがあげられる。

 つまり、殺人的なGで駆動しても、遠隔操作だからマンパワー的な限界が来ないということでもあった。しかも、只の遠隔操作では無く、人の意識が反映された有機的パターンを持ってである。

 そりゃ抜群に強くなるはずだ。FCSがすこぶる発展したこの時代においても、人が操る有人機の方が落されにくいのはよく知られている話である。人の操縦が生み出す無秩序のパターンに、所詮は機械であるFCSのコンピュータが対応しきれないのだ。

だから今でも人が乗った艦載機がモノを言うって訳で。

 

 

「艦長、エルイット少尉をお連れしました」

 

「ありがとう―――さて、エルイット・レーフ技術少尉。ここに呼ばれた理由は判るな?」

 

「え、えと・・・艦長?」

 

 

 何時もと違う俺の雰囲気に何やら戸惑っているエルイット。

 だがな、お前さんの茶番に付き合うほどこっちは暇じゃねぇ。

 

 

「単刀直入に言おう。エルイット技術少尉、貴方はナヴァラに何があるのかを知っている。違うか?」

 

「な?!―――何のことかな?」

 

「とぼけるんじゃないよエルイット。あんた今ので顔色変わってるじゃないか」

 

「う・・・」

 

 

 うん、面白いほど顔色が悪くなった。やっぱりあるのか。アレが。

 

 

「言いたかないけどね。そっちが隠すって言うならこっちだって協力する義務は無いんだよ?」

 

「そ、それはこまるよ!誰がナヴァラを守るのさ!」

 

「何が困るって言うのさ。そっちが秘密にするからこっちも信用できない。ソレだけだろう?飽く迄もこっちはビジネスなんだ。秘密が多い雇い主なんてゴメンだね」

 

「いや、ぐぅぅ・・・で、でも・・・」

 

「でも何さ?秘密裏に利用されるのは良い気がしないんだよこっちは」

 

 

 トスカ姐さんからの口撃に混乱してしまったのかうろたえ続けるエルイット。

 だからだろう、彼女からの辛辣な言葉に反論できないのは。

 彼にとってみればどうすればいいのか判らないと言う感じなんだろう。

 まぁそんなこたぁどうでもいいの。

いい加減エルイットの煮え切らない態度に嫌気がさした俺は、とっとと核心をぶっちゃけちまおうかなぁとちょっと思っていた。

 

 

「――ううぅ、そのう、あくまでうわさ何だけど、それでいい?」

 

「何でも良いから知っていること話す。じゃないと真っ裸で外に放り出すッスよ」

 

「ヒッ!わ、判ったよ全部話すよ!つまり――アルカンシエル計画には裏がある」

 

「裏?裏ってのはなんだい?」

 

「つまり、恒星光発電というのは飽く迄表向き、実は宙域制圧用の長射程レーザーを地上に造っているって・・・」

 

「成程、恒星光発電用のマイクロ波送受信施設などは、構造的にちょうどいい隠れ蓑になる。だからナヴァラに大気をあえて定着させなかった。大気があると減衰するし、場合によっては放射線シャワーが起きるからな。っとスマン、続けてくれ」

 

 

 サナダさんが何気に怖いことを言っていたが、つまりはそう言うことだ。

 シルグファーンが言っていた民を人質にという言葉の真意である。

 要するに某種の軌道間全方位戦略砲レクイエムの様な代物を、ナヴァラに建造していたって言う話であろう。

 何せ惑星に建造した超長射程レーザー砲だ。その威力は押して測るべき。

 流石は軍隊、0Gと違って地上を攻撃してはいけないというルールは持って無いから実におっソロしいものを考えつくな。

 

 

「人間ってやつぁ、ほとほと救えねぇッスね」

 

 

 戦争ってのはこんなもんだ。結局、憎い相手をぶちのめさないと気がすまない。

 こんなものを撃てば、撃ち込まれた星がどうなるか何てガキでも判る。

 出力と照射時間さえ十分なら地殻をブチ抜き、マントルを引っ掻き回すことになる。

 そうなれば、地上は地磁気が無くなったり惑星崩壊規模の地震に見舞われること必須だ。

 戦略兵器なんてもんじゃねぇ、コイツは戦略虐殺兵器だ。

 20世紀初頭の核弾頭くらいヤバい代物だぜ。

 こういったのを考えつく人間ってのはどんだけ頭がイカレてるんだろうな。

 

 

「はぁ、衛星モアの軌道は?」

 

「既に衝突コースに入っています。あの質量ですから破砕はまず不可能でしょう」

 

「・・・ちなみに、衝突までの時間は?」

 

「先程ヴルゴ艦隊が工作艦隊を撃破したので、衝突までまだ20時間ほど猶予があります」

 

 

 飽く迄、このままの速度で進めばの話ですが・・とミドリさんはそう答えた。

 ナヴァラとモアは二重惑星に近い形態を持っている

 近づけば近づくほど、お互いの引力で引き寄せあう力が働き、予測不可能な機動や速度を出す可能性が高い。

 だけど―――

 

 

「・・・見て見ぬふりも、夢見が悪くなりそうッスね」

 

「ユーリ!?アンタまさか?」

 

 

 耳元ででっかい声出さなくても聞こえてるよトスカ姐さん。

 

 

「各艦に通達。これより白鯨艦隊は全速でナヴァラへと帰還するッス。流石に地上の一般人たちを巻き込むこれを放置するのは気が引けるからね。本船は軌道上で待機し、全投入できるだけのフネ、輸送機、シャトルを使って人々をピストン輸送するッスよ」

 

 

 まぁ見捨てても良いんだが、なんつーか、ねぇ?

 これは・・・そう!避難民の中から人的資源を確保する為の行動なのさ!

 ・・・ちょっと言い訳が苦しいって?気にすんな。俺は気にしない。

 俺がこの手の無茶難題を出すことに皆慣れているのか、そうかの三文字で納得して、それぞれ行動を開始した。・・・トスカ姐さんには溜息つかれたけど気にしない。

 でも流石は細けぇ事は気にしない連中だ。頼りになるぜ。

 

 

「か、艦長・・・どうして?」

 

 

 ふと気が付けば茫然としているエルイットがそこにまだ突っ立っていた。

 ああ、そういやコイツは客将みたいなもんだからすることないのか。

 ・・・・・・今まで何して過ごしてたんだろう?ちょっち気になる。

 

 

「あれ?エルイット少尉まだ居たんスか?」

 

「君たちは、自分でも言っていたけど、こっちを助ける義理は無い筈じゃないか」

 

「・・・まぁ、一応ネージリンスに肩入れしてたッスからねぇ。それに」

 

 

―――単に、これも俺のエゴから来る我が儘だから。

 

 

そう呟いたのが聞えたのかは知らん。

 だが、あえて言おう。これはエゴから来る我が儘であると!

 ・・・只でさえ寝不足なのに悪夢まで背負い込みたくねぇもんな。

 

 

***

 

 

 それから数時間が経過し、全速でナヴァラに戻ったけど、モアの速度が予想外に早かったのか凄まじく接近してしまっていた。ロシュの限界はまだ超えていないが、時間の問題であることは明白である。

 お月見するにはデカすぎるだろうなぁと思いつつ、デメテールをナヴァラの宇宙港すぐ近くの軌道上に停止させた。

 この位置はちょうどモアが砕かれた際にデブリが通過すると予想される位置であり、強力なHL砲列とデフレクターを持つデメテールならば、少しの間は盾に出来ると考えたからである。

 

そして停泊させると、すぐさま準備させていた兵員輸送VBがVFに先導されて発進。

 地上施設のゲートをミサイルでブチ抜いて、地下の空間へと突入していった。

 VFは可変機であり、作業機械並に細かい動作が出来るからこその芸当だ。

 あと非常時だから許してね?請求されてもこちらは一切の責任を取りません。ハイ。

 

 

「さて、こっちは宇宙港何スが・・・」

 

「イモ洗いってのはこういうのを言うんだろうかねぇ?」

 

 

 ステーションの中は、まるで朝の通勤ラッシュを酷くしたかのように、ナヴァラを脱出しようとする人間達が押し寄せてごった返していた。

 何としても助かりたいのか、他人を押しのけて宇宙船やシャトルに飛び込もうとするヤツ。

 金ならいくらでも出すとかわめくピザなヤツら。

 捨てられた荷物から金目の物をひろいあつめるヤツ。

息子が、娘が、妹が、爺ちゃんバァちゃんが、親がいなくなったと叫ぶヤツ。

 子供は要らんかねぇ~子供がいると優先的にフネに乗れるよ~と商売するヤツ。

 安全の為に個人用ドッグへ続く道はセキュリティースクリーンで遮断されているが、そっちにも押しかけようとして半ば暴徒となりかけているナヴァラ市民の姿がそこにはあった。

 なんつーか、人間の愚かしさを垣間見たというか。何と言うか。

 助ける気力がドンドン下がるぜ・・・。

 考えてみ?人を押しのけて助かろうとするデブとおっさんとクソ爺。

 そう言った連中に押しのけられた善良な女性や子供たち。

 助けるなら断然後者でしょ?紳士的な意味で。

 

 しっかし、管理局も社線というか何て言うか。

 衛星が激突コースに入ったんだし、管理局ステーションも閉鎖されるかと思ったが、閉鎖どころか全く普段と変わらない営業をしていたんだよなぁ。

 入港許可が普段と変わらずに降りた時には流石に唖然としたな。

 よっぽど防御に自信があるのか、はたまたAIが古いからこう言ったのに対処出来ないか。

 

 

「なんとなくアレ見てると後者の様な気が・・・」

 

「艦長?どうかなさいましたか?」

 

 

 ユピが何か言っているが、俺の視線はこんな時でも何時ものように稼働している管理局サイドのドロイド達が、避難しようとしている民衆に押しつぶされかけているのにも関わらず、健気にも自分の職務を全うしようとしている姿が映っていた。

 ああ、幾らイモ洗いの所為で動きが取れないからって、掃除用のドロイドに当たるなよ。

 掃除機のホース引っこ抜いてどうすんだ?命綱にでもする気かよ。

 

 

「とにかく、彼らを避難させるッス。生活班は保安員達と一緒に行動。避難しようとしている彼らをこっちに誘導するッス」

 

「「「「了解!」」」」

 

 

 んで、デメテールの生活班と保安員、ソレと手隙の連中がそれぞれチームを作って、持ち場について行く。

 ステーションの放送席は既に抑えたし、警備室にも平和的に乗り込んでセキュリティ・スクリーンを解除させられるように手配した。

 ミョルニルアーマー装備の保安員達の根気有る説得が功をそうしたのだ。

 

 

【避難民の皆さん。こちらは白鯨艦隊です。これより本艦隊は皆さまのナヴァラ脱出を支援する為、30~108番個人用ドックにて、脱出用のフネを用意しています。40番ターミナルへとお集まりください】

 

 

 そう放送が流れると、半分暴徒と化していた人々は我先にと此方に駆け抜けてくる。

 人間だれしも非常時には本性が出ると言うが、これはまさにそれだろう。

 一見温和そうな人が、足の遅い老人を蹴飛ばした。

 老人は哀れ人々の波にのまれて姿を消してしまうが、その温和そうな人は一番に此方へと辿りついていた。

 その老人は後でなんとか救助出来たが、全身人に踏まれてズタボロで、後少し遅ければ惑星衝突では無く避難民に殺されるところだったのだ。

 これ程のカオスであるが、ゴツイ装甲宇宙服を纏いメーザーライフルを装備した保安員達の威圧感に、少しだけ動きが鈍ったのは行幸だろう。

 さて、ドックに入る唯一のゲートには、所謂改札のごつい番の様な人一人しか通れない様な小さな改札が複数取り付けられている。

幾ら避難民たちが集団で走ってこようが、ココでスピードを落とせざるを得ない為、よくある渋滞の原理が働き、ターミナル前には人がごった返す結果となった。

今の内に列を組むように指示を下し、なんとか列を作ることに成功する。

順番を抜かそうとする不届きものは、物々しい装甲宇宙服姿の保安部員に迫られると途端に大人しくなる為、誘導は意外とスムーズに進んでいった。

 

 

「――まぁ、全部を助けるのはムリそうッスね」

 

「そりゃね。200万人も乗せられないよ」

 

 

 全長36kmあるデメテールだが、それでも収容可能人数は頑張って数十万人に届くか否かだ。

 100万人以上となると、もう乗せられる余裕は全く無くなってしまう。

 それに、恐らく時間的にそこまで乗せることは不可能だ。

 精々あがいて十数万人が関の山。コレが俺達の限界だぜ。

 

 

「とにかく一人でも多くの人達を脱出させるッス。一度地上に降りて避難誘導を行うッス。トスカさんとユピは俺と一緒に一度地上に降りて、軍基地周辺のエリアの住人達を避難させるのについて来て欲しいッス」

 

「「了解/あいよ」」

 

 

 人ごみでごった返しているとはいうが、流石に地上行きの軌道エレベーターは閑散としている。俺達は避難誘導の為の人員と共に急いで地上へと降りたのだった。

 

 

***

 

 

 地上は地上で大変カオスな空間と化していた。

 何せ若い連中は皆我先にと逃げだし、残っていたのは老人や病人だらけだったのだ。

 老人たちは多少認知症の気があったが、これからちょっと宇宙遊覧にでも行きませんかと誘うと、意外とすんなり此方の誘導に従ってくれたので楽だった。

 だが問題は病院などに残された重病人達であった。彼らは治療ポッド等に入っている為、そのままでは移動できない。ちゃんとした輸送機でないと死んでしまう可能性があったのである。

 まだモアが落ちてくるには時間がある為、とりあえずデメテールから医療団を派遣してソレらの対処に当たらせることにした。

 サド先生他医療団、それとギリアスを救助した際に、同じく救出したクルーであったバジル・ファマ医師と、その娘であるルン・ファマ看護師見習いが手伝いを申し出てくれたのはありがたかった。

 今は誘導の為に各地区に散らばっているのだが、やっぱり人手が足りなかった。

 勇気ある人達が今だ残って避難誘導を続けていたので、その人達と合流出来たのが幸いだ。

 そのお陰で地理に明るくない俺達がなんとか避難誘導を行えたのだから。

 

 

「ユーリ、各班から報告だ。やっぱり病人や老人が他の地区にも多くいたみたいで、イネス達が増員を求めてる」

 

「しかし、こっちも手いっぱいですよ」

 

「くそ、小さいコロニーとはいえ町は町ッス。圧倒的に人手が足りないッス」

 

 

 随分と前にヘルガが「皆避難するんじゃよー、と」と言いながら大量の御老体達をリアカーで運んで行ったが、それでもまだ人手が足りない。

 あと数時間もすればモアが完全に砕け散ってナヴァラに落下するのだ。

 そうなればこの地下都市が持つかどうかなんて判らないのである。

 とにかく今出来ることは協力してくれる人達と共に避難誘導を行うくらいしか無い。

 ・・・そう言えばこの近くにはネージリンスの軍基地があったな。

 もしかしたらそこにはまだ人間がいるかもしれない。

軍基地だから簡易的なシェルターになると思っている人達とかさ。

他の班は避難誘導に忙しいので、一番近場の俺達が行くのが適当なんだろうな。

そう思っていた次の瞬間――!!

 

 

≪――ズズズズーーーーーン!!!!!≫

 

「うひゃ!」

 

「ひにゃ!?」

 

「ッ!」

 

 

 唐突にマグニチュード5か6に匹敵するんじゃないかという揺れに見舞われて、俺やユピが転倒し、トスカ姐さんはエレカーに捕まっていたのでなんとか踏ん張っていた。

 一体何が起きたのかと思っていると、デメテールに残っているクルーから通信端末に通信が入ってきた。

 

 

『――ジジ・・・艦長大変だ!衛星モアの一部が崩れてデブリの落下が始まったぞ!』

 

「ッ!予想よりも早いッス!!」

 

 

 デブリが発生した。それはつまりロシュの限界点が近いことを意味している。

 もはや一刻の猶予も残されてはいないことを、冷酷にも突き付けられた感じだ。

 予想時間をユピが計算して此方に提示してくれたが、予想以上に短い。

 あのシルグファーンとの戦いで、思っていたより時間を稼がれた所為だ。

 ユピやトスカ姐さんが、俺にどうするという視線を向けてくる。

 そう、決断しなければならないのだ。俺は。

 

 

「・・・・各班に通達、これより避難誘導から撤退準備へと切り替えるッス」

 

 

 俺は、決断を下した。今だ残っている人達を見捨てるという選択を。

 すでにデブリの降下が始まっているので、俺達も避難を始めないと、この地下都市から脱出することが出来なくなってしまうからだ。

 もう少し粘れば助けられる人達もいる。だけど、俺は自分の仲間たちを優先する。

 俺の我が儘だからな・・・間に合わなかった連中には悪いが。

 

 

「艦長・・・」

 

「ユーリ・・・」

 

「・・・大丈夫ッス。最後にナヴァラの軍基地の方も見ていくッス。もしかしたら逃げ遅れた人達がまだ居るかもしれないッスから」

 

「あ、あそこならそれ程広くないですから!余裕があります!」

 

「だとしたら、善は急げだ。――全員エレカーに分乗!軍基地に向かうよ!」

 

「「「「「応ッ!!」」」」」

 

 

 トスカ姐さんの号令に従い、クルー達がそこら辺で接収したエレカーに分乗していく。

 俺もユピに頼んで各班に避難誘導の中止を伝えると、エレカーに乗り込んだ。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Side三人称

 

 

 ナヴァラ地下都市にて、ユーリ達が撤退を開始した頃―――

 

 

「各砲データリンク、FCSオールグリーン、撃てます」

 

「全砲発射!一つも欠片を通すなよぉーーーー!!!」

 

 

―――衛星軌道上では、始まった大量のデブリの落下を白鯨艦隊が必死に凌いでいた。

 

 潮汐力によって砕かれた最大で全長数kmに達する様な岩の破片を、デメテールやソレに付随するヴルゴ艦隊の戦艦や巡洋艦達が持てる全火力を持って弾幕を張り、地上への落下を阻止しようとしている。

 今デメテールの指揮を執っているのは、なんとトーロだ。

 今だアバリスが使えない為、それならちょうど良いとユーリに館長代理を頼まれたのである。

 

 

『トーロ殿、VBが其方に向かったので、収容を頼む』

 

「了解ヴルゴ司令。とにかく弾幕を張ってデブリを寄せ付けないでくれ。こっちは腹に沢山避難民を乗せてるからな」

 

『任せろ、避難民たちはネージの同胞たちだ。鉄壁のヴルゴと呼ばれた手腕はまだ衰えておらん』

 

「こっちもなんとか迎撃はする。ユーリからの撤退命令も出たらしいから後少しだ」

 

『ああお互いに頑張ろうぞ――≪ズズン!≫――ッ!そろそろ喋る余裕が無くなってきた。通信終わる!』

 

 

 デメテールを中心に対空戦闘時と同じく輪形陣を組み、飛来するデブリを主砲や副砲等で粉砕していく。この時、一番奮闘していたのは連装ガトリングレーザー砲だろう。次点でHL砲列だろう。

 一番火力があるデメテールや戦艦がもつ主砲のホールドキャノンは、威力的には申し分が無かったのだが、貫通性が高い所為で岩を爆散させずに貫通してしまう為、破砕には向いていなかった。

 その点、ガトリングレーザー砲は点ではなく面での攻撃が得意な兵装であり、こう言った大量に飛来するデブリの破砕に向いていた。HLも収束や拡散モードを用いて弾幕を形成する事でデブリの大きさを問わず破砕出来ていた。

 とはいえ、時間が経過するごとに飛来するデブリの量がドンドンと増えていくので、徐々に弾幕が押されるのは時間の問題であった。

重力機器関連の操作をしているミューズがトーロに報告をしたのもその時だ。

 

 

「館長代理・・・デフレクターの負荷率がかなり上昇している・・・わ」

 

「マジっすかミューズさん?」

 

「ええ・・・マジよ。今はまだ大丈夫・・・だけど、細かい粒でもデフレクターに負担は掛かる・・・何か対応をとることをお勧めする・・・わ」

 

「対応ってったって・・・何かあるのか?」

 

「私に・・・聞かれても、こまるわ」

 

「ですよねー」

 

 

 今の所大きな破片は砲撃で破砕し、細かなヤツはデフレクターではじいている。

 だが、流石に数が多くてデフレクターに掛かる負荷が上昇しているのだ。

 今はまだいいが、これ以上破片が増えればしまいには防ぎきれなくなる可能性だってある。

 だが、だからと言って細かなデブリの破砕に使えそうなモノは―――

 

 

『やぁ、お困りの様だなトーロ』

 

「・・・ライさん、今忙しいから後にしてくれ」

 

 

 突然ライから艦内通信が入った事にトーロは溜息をついた。

 何でだろう、何だか凄く何かやらかしそうな予感が――

 

 

『ふふ、ふ。艦長代理。ぼくはこんなこともあろうかと、WGに続いて用意していたのがあるよ。使ってみないかい?』

 

「・・・使えるのか?」

 

『勿論、ぼくが設計したオールトインタセプトシステムに搭載されていた―――』

 

「あー判った判った。技術的な説明は勘弁してくれ。俺が聞きたいのはこの状況下で使えるとかいう話だぜ」

 

『くふふ、それなら問題無いよ。むしろこう言ったことに向いてるかもしれないよ』

 

 

 怪しげな笑いを浮かべるライに一抹の不安を覚えるが、ドンドン増えていくデブリの排除に使えるモノがあるというのなら使うべきだろう。まだしばらくはこの場に留まらなければならないのだし・・・仕方ねぇか。トーロはそう思い、艦長代理権限でライの提案を承認する。

 許可を貰ったライは、リアにボコボコにされて青あざがついた顔を笑顔にして作業を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 デメテールの両舷ハッチが開かれていく。

 そこから次々と何かが射出され、宇宙空間へと飛来していった。

射出されたのは、まるで葉巻に三角の翼がついたかのような棒状の何かである。

 先頭にカメラアイと思わしきセンサー類等が取り付けられたソレは、簡単な武装を施した所謂無人機というヤツであろう。

そして、それらは射出されるとそのまま加速して編隊を組んでいく。

 まるで生き物のように動くソレらは不規則な機動を取りながら、迫りくる小破片状のデブリへと飛びこんでいった。

 デブリに近づくと、一番先頭に居た機体の胴体が開き、中から大量のミサイルがばら撒かれる。

 どういう原理でデブリをロックオンしているのかは定かではないが、ほぼすべてのミサイルが周辺を漂っていた小型デブリに命中して更に細かいモノへと粉砕した。

 ソレを皮切りに他の機体からもミサイルが射出され、ミサイルを打ち終わった機体はカメラアイを光らせると更に加速し、外付けされた可動式小型高出力レーザー砲2門から赤い光が放たれる。

 小型のデブリなんて簡単に蒸発させられ程のレーザーに撃ち抜かれ、デブリの大半はさらに細かく粉砕されていった。

 どんどんデメテールから現れるその無人機の数はざっと数百以上だが、凄まじいスピードど不規則な機動でデブリの間をくぐり抜けて叩き落として行くその機体を視認することは難しく、黒色に近いシルエットもあり、まるで幽霊の様だ。

 そう、ライがこのデブリ掃討にて用いた機体は、VF-0隊の機体に取り付けるゴーストパックを応用して作られた無人戦闘機、QF-2200Dゴーストと呼ばれる戦闘機であった。

 

 

「ウゲぇ~並列操作メンドクせぇ~」

 

 

 そしてデメテールの中にある、あのWGを操作していた部屋では、これまたユディーンがWGを操作したのと同じようにイスに座り、あの脳波スキャニング装置を被っていいた。

 

 

「そう言わないでよ。まさかと思って為したら本当に全部操作出来たんだからさ」

 

 

 そう、これまた信じられない事に現在外で戦っている数百以上の機体は、なんとユディーンが1人で操作していたのである。

 と言ってもWGの時と違い直接操作しているというよりかは、この部分に行くようにおぼろげに思い浮かべることでセンサーがソレを感知し、ソレに合わせた編隊行動をとらせているという感じなのであるが・・・。

 でも、一応慣れれば全機体の個別操作も可能にしてあるのがライ・クオリティ。

 ソレが出来たら人類未踏の境地に至れるのであるが、この世界の人間だと至れそうなので怖い。

 とりあえずこれによって近場の小デブリによる被害がかなり低下した為、救出活動がかなり早まった。

 規則的でありながら不規則な機動をとるゴーストのこの機動を、もしこの場にユーリがいて見ていたら、きっとこう言った筈だ。――これなんてファンネル?

 

 

「うげぇ~、吐きそう。脳みそが沸騰しそうだぜぇ~」

 

「がんばれ!今良い所だから!(データ取り的な意味で)」

 

「そうか、良いところなのか(デブリ迎撃が順調的な意味で)――なら頑張るか!」

 

 

 そしてこの両者の間には致命的な認識の差がある様であるが・・・。

 まぁ誰も気が付かないのでしばらくはこのままだろう。

 少なくてもデブリの迎撃は行えているので、問題は無い。

 もっとも―――

 

 

「う、うげぇ~・・・」

 

「ん?どうしたユディーン?」

 

「・・・酔った」

 

「え?」

 

「・・・洗面器、はやく」

 

「せ、洗面器なんてここには「うげぇ~」――ぎゃぁぁぁぁ!!!」

 

 

―――ユディーンがどこまで耐えられるかが焦点の様だ。既に限界っぽいけど。

 

 

「へへ、ごみん。ぶっかけちまった・・・うぷ」

 

「ま、まって今袋を探してくるから」

 

「大丈夫、胃の中のモンは全部出ちまったからすっきりだぜ」

 

「・・・ああそう。それじゃ、頑張ってくれ」

 

 

 とりあえず、このシステムの問題点が判っただけでもいいかとライは思い。

 ユディーンの方は己が臭いので風呂に入りたがっていた。

 そんなこんなで時間は進み、モアはさらに接近していくのであった。

 

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第五十八章+第五十九章+第六十章+第六十一章

ナヴァラの軍基地に来たが、いち早く退避勧告を受けたのか中は閑散としていた。

まぁ生命反応が各所に点々と見られる為、一応人間がまだ居ることを示唆している。

とりあえず、部下たちに命じて生命反応がある部屋へと散ってもらった。

 

部下たちが散っていくのを横目に俺もトスカ姐さんやユピを引き連れて基地内部へと侵入した。

既にデブリと化したモアの一部が隕石と化してナヴァラの地表に激突し、地下都市を揺らし始めているので何時天井が抜けるのではと内心戦々恐々だ。

 

大丈夫、時間はまだ少しだけある。20時間という時間は結構長いのだ。

上ではデメテールや無人艦隊達が踏ん張ってくれているのである。

またちらりと見ただけだが、俺達以外の勇気ある0Gドッグ達が救助活動を開始したとの報告も受けているし、ユピが本体(フネ)に意識を戻さない以上、まだ余裕があるから救助できるはずだ。

 

 

「生命反応・・・こっちです」

 

 

俺達の先頭をユピが先行する。彼女は電子知性妖精。

なので、携帯端末の機能を使えばこう言った探索とかもお手の物である。

とはいえ、ここには前に来たことあるんだけどな。

 

相変わらず天井部からの振動に怖々しながら基地内を進んだ。

基地とはいえ、基本的には事務や行政系なのであまり広くは無い。

兎に角片っ端から部屋を回り、まだ残っている人間を外に誘導しておいた。

 

とりあえず兵員輸送用のVB-6TCを呼んであるのでソレに乗って脱出して貰うのだ。

あれなら航宙能力もあるし、元々戦闘用でデフレクター積んでるから、岩盤が崩落して押しつぶされなければ恐らく大丈夫なはずである。

 

そんなわけでいる人間、出会う人を片っ端から外に誘導した。

時折なにを嘆いているのか判らん錯乱したヤツもいたが、ユピが黙って出してくれたスタンガンでバチっと一発!気絶させてVB-6TCに運び込んでおいた。

こうして色々と回り、ようやく最後の休場者達がいる部屋に来ることが出来た。

 

 

「ここで最後です」

 

「ここは、作戦室ッスね」

 

「早い所救助して脱出しよう。外にVB-6TC(モンスター)を待たせてあるからね」

 

 

早いとこ脱出したいトスカ姐さんがグイグイと押してくる。

おいおい、生体反応でココに居ることは判ってんだから相手は逃げねぇだろうに。

あ、いやまぁ普通に動けるんなら逃げているはずなんだけど気にしない。

 

兎に角、俺は作戦室の扉を開けて中に入った。

中は閑散としているというか、殆どの人間が逃げだしたから二人だけしかいない。

その二人というのが・・・

 

 

「ミューラ何してんだよ!早く逃げないと!」

 

「無駄よ。港に行っても、とてもフネには乗れないもの」

 

 

イスに突っ伏しているミューラと、何故かいるエルイット少尉だった。

いや、あんたどうやってここまで来たんだよ?救助班に紛れ込んでたのか?

あんまりに影が薄くて判らんかったよ。イヤマジで。

 

 

「そんな、君なら軍用艦に潜りこめるだろ!」

 

「・・・」

 

「何で黙ってるんだ?君らしくも無いぞ!君はもっとこうゴウイングマイウェイを―――」

 

「あなたが私のことをどう思ってるのかは判ったわ。でも、放っておいてくれる?」

 

 

なにやらギャイギャイ言い合いをしている両者。

まぁどうでもいいんだが――

 

 

「あのう、脱出用のフネならまだ乗れる筈ッスよ?」

 

「ありえないわ。だってこのナヴァラにあるネージリンスのフネじゃ――」

 

「現在白鯨艦隊が全力で避難民の誘導と脱出をさせてるとこッス。

アレだけデカイ図体してるッスからねぇ~。ある程度ペイロードに余裕はあるんスよ」

 

「・・・・でも、私は――」

 

「・・・それとも、もしかして後ろめたいことでもあるから脱出できないとか?」

 

「――ッ!?」

 

 

やっぱりね、そうじゃないかと思ったぜ。

大方、アルカンシエル計画の裏を知っている人間の一人だったんだろう。

一般人を盾にして、最悪犠牲にすることを明言している様な計画だもんなぁ。

成功したならまだしも、成功する前に失敗してる訳で・・・。

 

 

「な~る。噂は本当だった訳だ。超長射程レーザー砲の開発、ってやつのね」

 

 

トスカ姐さんの言葉にビクンと肩を震わせるミューラ、図星だったようだ。

そりゃ、大量虐殺の肩棒を担いでいたとなりゃ、ましてやソレが失敗する事が判ったとなりゃ、今まで国の為に我慢してきたプレッシャーに押しつぶされそうになるのも致し方ないな。

 

 

「しかし弱ったッスね。救助したくても本人が嫌がっている様じゃ・・・」

 

 

流石に自殺志願者を助ける義理はこっちには無いんだぜ。どうするかな。

 

 

「そんな!彼女も助けておくれよ!」

 

「エルイット、もういいの。私はここでナヴァラの天井に押しつぶされて死ぬのよ」

 

「ミューラも諦めないでよ!なにか、何か方法がある筈だ!」

 

「方法って言っても、あれッスか?そのアルカンシエル砲とかで衛星モアごと吹き飛ばすッスか?本当に惑星艦規模の長射程レーザーならソレくらい出来そうな気もするッスけど」

 

 

なんとなく思い付きで口にした提案であったが、エルイットがソレを聞いてその手があったかという顔になる。

いや、流石にムリだろぅ。だってソレが出来るなら―――

 

 

「・・・ムリよ、アレはまだ未完成で出力の50%しかでないわ」

 

「そ、そんなぁ~」

 

 

―――ほらな?試せるなら試してるだろうさ。

 

 

エルイットはミューラの言葉に愕然としている。

ソレに対してミューラは溜息だけ、ありゃきっと出来る事ならと試そうとしたんだろう。

だけど現行の状態だと稼働は出来るが出力不足で衛星を吹っ飛ばすほどじゃない。

だから彼女はここで死を待つことにしたって訳だ。

どうせ、どうにもならないから―――だが。

 

 

「でも少なくても、脱出する避難民たちを乗せる時間は稼げるんじゃないッスか?」

 

「「「「――!!」」」」

 

 

俺がそう言うと皆目を見開いた。

どうやらこの場に居た連中はモアを破壊する事に意識が集中していたらしい。

でも考えてみれば、別にムリに衛星モアを破壊する必要は無いのだ。

 

どうせもう近づきすぎていて、破壊できたとしてもデブリの流入は止められない。

ならそのデブリだけでも吹き飛ばせれば、更に数時間近い時間が稼げる。

現在行われている救助活動をさらに引き伸ばせれば、ソレだけ避難民を誘導できるのだ。

 

流石にナヴァラ地下都市全部の住民を避難させることは出来ないだろう。

だが、それでもほんの少しだけでも時間が稼ぐことが出来れば・・・。

一分一秒でも時間を稼げれば、ソレだけ人の命が助かる筈だぜ!

つーか、むしろ今はそっちの方を優先したいところである。

 

 

「ユピ、デメテールに連絡してマッド4人衆集結させてくれッス」

 

「了解」

 

「ま、待ちなさい!なに勝手なことをしようとしているの!」

 

 

とりあえずマッドを呼ぼうとしたらミューラが激昂して俺の襟首をつかんだ。

いや苦しいんで離し――っ!ギブ!しまってるから!マジでヤバいからっ!!

 

 

「い、いや。だってナヴァラの人達助けたいし・・・」

 

「そんなこと誰も頼んでないじゃない!

失敗したらアナタ達ごと岩盤に押しつぶされるのよ!

そんなことをして意味なんて―――」

 

 

あー、まぁ確かに普通はそう思うわなぁ。

 

 

「まぁとくに意味は無いッスね」

 

「だったら!」

 

「でも、ココでナヴァラを見て見ぬふりしたら、正直俺の夢見が悪くなりそうッス」

 

「はっ?」

 

「それに、こうやって助けるのも人材確保の面もあるし」

 

「・・・」

 

 

ああん、本音言ったらミューラの視線が急にジトっと冷たくなった!

く、くやしい、けど!ビクンビクンッ!

 

 

「真面目に話してくれないかしら?」

 

「ウヒヒwwwサーセンwww」

 

「「「(ダメだコイツ・・・早くなんとかしないと・・・)」」」

 

「(か、艦長。そんなあなたでも―――す、す・・・だめぇ恥ずかしい・・・)」

 

 

あるぇ~?なんかトスカ姐さんを含めた他の奴らの目線まで呆れたって感じに・・・。

若干一名もじもじとしてて微妙に違う目線だけど、まぁいいか。

 

 

「まぁ、真面目な話。救助してるのは単に俺の我が儘何スよ」

 

「わ、我が儘ですって・・・?」

 

「そ。見ていてなんとなく、助けたいと思った。ただそれだけッス」

 

「そ、そんな理由で―――」

 

「もういいッスか?兎に角アルカンシエル砲の制御室を探さないといけないんで」

 

 

俺はそう言って彼女の手を振り払い立ち去ろうとする。

たぶん軍施設であるこの基地周辺にあると思うから、ユピに頼んで基地のネットワークにアクセスすれば大体の場所の見当くらい付きそうだ。

そう思い、トスカ姐さんとユピを連れて部屋から出ようとすると――

 

 

「待ちなさい。制御室の場所は判っているの?」

 

 

――手を振り払われて茫然としていた筈のミューラが声をかけて来た。

 

 

「いんや、場所なんて、ねぇ?」

 

「まぁここには詳しくないし、ねぇ?」

 

「え、ええ!?あ、はい。確かにそうですね。なら私が基地の端末にアクセスして――」

 

「無駄よ。アルカンシエルの情報は極秘。

だから、基地の中枢演算機には記録されて無いわ。 

・・・私を連れて行きなさい。案内する」

 

「どういう風の吹きまわしッスか?」

 

「別に、只単にどうせ死ぬんだし自分の生命くらい自分で使い道を決めたいだけよ」

 

「そっスか。じゃまぁ案内よろしく」

 

「ええ、こっちよ」

 

 

そんな訳で俺達はミューラの先導により、制御室へと向かうことになった。

彼女が何を思って俺達を案内する気になったのかはしらない。

だがまぁ、時間稼ぎが出来るんだし、細かいことは後から気にすることにしたのだ。

何せ今は時間が無い。モアが激突するまで12時間を切ってるんだからな!

 

 

「ああ!ちょっと!おいてかないでよー!!」

 

 

そしてエルイット、テメェはもう少し空気呼んで動こうな?

情けない声出して走ってくんな!シリアス台無しだぜ!

と、微妙にメタなこと考えつつ、基地から出る俺だった。

 

 

***

 

 

さて、案内すると言ってくれたミューラにホイホイ付いて行った俺達。

気が付けばナヴァラ基地の裏手へとやってきていた。

はて、こんな所に入口があるんだっけか?と一瞬原作知識と照合したくなったが、んな駒家ぇ事まで覚えてないのでパス。

そうこうしている内にミューラが基地の壁についている小さなスイッチをピポパと操作すると、ガコンガガガガという音と共に金属製の隔壁が開き、地下への入口が露わになった。

何だか秘密基地みたいで、ちょっちワクワクしたのは秘密だ。

・・・でも基地のコンピュータにすら記録されて無いんだよな?

でも普通に基地の敷地内に入口あるんだが、秘匿とかはどうなってるんだろうか?

いや、逆に考えるんだ!灯台もと暗しという言葉もある!

まぁ確かに秘匿された存在が、馬鹿正直に基地にあるとか思わんわな。

俺だったらそんな設備はもっとこう・・・ナヴァラだったら壁面農園に造るとかするし。

あれ数だけは多いからそう言った設備隠すのにはもってこいって感じだしな。

―――っと、話しがずれたな。失敬。

 

 

「――んで、あそこが制御室なんだろうッスけど・・・」

 

「んー、思っていたよりもいるわね」

 

 

制御室の前には恐らく警備の者だと思われるネージリンス兵たち。

その数はおよそ小隊規模、避難勧告が流されたというのに随分とまぁ。

―――っておいおいおい!

 

 

「いやいや、普通に小隊規模で残ってるってどう何スか?」

 

「平時ならもっといたわよ?ここにつめる人間は貴重だったから」

 

「ブ、ブラスターを持ってるね。

アレはメーザーじゃなくてフォトン、つまりはレーザーだ。

 下手に近づくと灰にされちゃうよ・・・」

 

「う~ん、ココは一つエルイット少尉に肉の壁に――」

 

「僕の説明聞いてたよね!?」

 

「そんなことよりも、今はあいつらをどうするかが問題だろう?」

 

 

目的の制御室はこの先だ。そこにたどり着くにはあそこを突破しないといけない。

さて、問題は連中が俺達の言葉を聞いてくれるかどうか―――

 

 

「ムリだろうね。逃げなきゃ死ぬって言うのに残っているなんて普通の精神状態じゃないさ」

 

 

だろうね。あーもう、ミョルニルアーマーでも着てくるんだったなぁ。

マッド達の趣味で普通にレーザーとか防げるから吶喊出来るのに。

 

 

「あのう、増援を呼ぶとか・・・」

 

「そんな時間は多分もうないんじゃないスかね」

 

「でも、どうするの?兵士たちを突破できなきゃアルカンシエルは使えないよ?」

 

「派手なドンパチも禁止よ。制御室が壊されたらどちらにしてもなにも出来ないわ」

 

「うーん、出来ればあんまり使うつもりはなかったんスが・・・」

 

 

俺はそう言うと懐から3つのボールみたいな球を取り出した。

黒光りするプラスチックみたいなもので覆われ、あからさまに赤いスイッチが付いている。

 

 

「・・・なんだい?そのいかにもって形をした球は?」

 

「ケセイヤさん必殺の非殺傷爆弾まーくつーッス」

 

「「「必殺の非殺傷爆弾Mk-2?」」」

 

「のんのん、まーくつーッス」

 

 

ひらがななのがポイントね!

ついこの間、これで何十回目になるか分からんけど、ケセイヤの部屋を家宅捜査した際に押収したケセイヤ特性の爆弾だ。

非殺傷って銘打っているから、今回の避難誘導で暴徒が出た際に役立つかなぁって思って持って来ていたんだが、まさか本当に使う羽目になるとは――。

 

 

「どんな効果があるんですか?」

 

「知らんねぇ」

 

「いや知らないって」

 

「だって一回も使ったことなかったし、でもケセイヤさんの手製だし、大丈夫ッスよ」

 

「「ああ、確かに・・・」」

 

「「なんでそこで納得するの!?」」

 

 

納得するトスカ姐さん&ユピに驚愕するエルイット&ミューラ。

だってケセイヤさんは我が白鯨艦隊マッド集の筆頭なんだZE☆

まぁそんな訳で―――

 

 

「喰らってたまげろッス!鬼才っジョン・ウーに捧げる芸術的爆発!」

 

「「「「はぁ?!」」」」

 

 

あ、そうか。この世界にその手の映画はもう残ってないんだっけ?

まぁいいや、とりあえず3つの丸い球のあからさまなスイッチをポチっとな。

ピッピッピッというお決まりの電子音が響いたら、兵士たちに向けてポイっちょする。

 

 

「―――ん?なんだ?」

 

「お、おい!まさか手榴弾――」

 

 

連中がソレを投げ返す前に、炸裂。

 

≪ばっちゃっーーーーーーーーーーん!!!!≫

 

黒い球から大量の白い粘々が飛びだし、小隊ごと絡め取り―――

 

≪ジュルジュルジュル――≫

 

「う、うわっ引っ張られ、ってお前ひっつくな!」

 

「しょ、しょうがねぇだろう!こっちも引っ張られて、オワッ!?」

 

―――やがて人間を固めた様な球体オブジェが3つ完成したのだった。キモ。

 

 

「おうおう、流石はケセイヤさん。粘着物質を用いた非殺傷兵器ッスか。

鳥モチバスターみたいなもんスねぇ」

 

「いんや、それよりも使い勝手がいいよ。乾くとベタつかないみたいだ」

 

 

おお!本当だ!しかも完全な球体に近いから、捕まえた人間ごと転がせるぜ!

コレはいいモノだ。今度武装局員の特殊装備として案件通しておこうかな。

とりあえずまとめてひっ捕まえた小隊連中は、俺とユピで外に運びVB-6TCに乗せておいた。

まぁ残して行くには忍びねぇしな。

 

 

「ここが制御室・・・誰もいないッスね」

 

「うわぁ可哀そうに、外に居た連中ここには誰もいないのに守ってたって訳だ」

 

「とにかく、制御室を確保したからシステムを立ちあげないと」

 

 

ミューラはそう言うとコンソールに向かい、自分の階級章をなにかの機械に通した。

 

 

「・・・フッ、ありがたいわね。まだ私のIDでもまだシステムが動くわ」

 

 

するとシステムが立ちあがり、制御室のモニターに灯がともる。

エルイットもコンソールに座り、システムへアクセスを始めた。

んで、俺とトスカ姐さんやユピはというと―――

 

 

「がんばれー!ガンバレー!」

 

「二人とも頑張ってくださーい!」

 

「いや、声出して邪魔しちゃだめだろう?」

 

 

コンピュータ関連で出来ることが無いので、応援するしか無かった。

だって、ネージリンス軍謹製の奴だから、扱ったことないしな。

マッド達を呼んでいたらまぁなんとかなったんだろうが、どうも外が凄いことになっているらしくてここまで来れないらしいから仕方が無い。

 

 

「――インフラトン反応炉No.01~No.30まで並列稼働。

No.00は――チッ、まだできてない。なら01~30のバイパスからなら・・・ビンゴ!

エネルギーはコレで良し!次は発振体ペレットは――

クッ、試作モデルしかない。技術部の連中め、サボってたわね。

これじゃ一回の照射で焼き切れちゃう・・・ううん、それならリミッターを解除して」

 

 

なにやらぶつくさミューラがぼやいているが、こっちにゃさっぱりだ。

サナダさんかジェロウ教授がいればわかるのかねぇ?

すこしして、なんとかアルカンシエル砲を稼働させることに成功したらしい。

なら後は発射するだけであるが、上空に展開中の白鯨を巻き込む訳にもいかない。

なので、射線に被らない様にこっちが移動すべきか。

それともキチンと計算して撃ってくれるのか聞こうとした。

だが―――

 

 

「だめね。やっぱり未完成って・・・」

 

「どうしたんスか?」

 

「管制プログラムがまだ出来あがってないの。

お陰で手動で諸元を合わせないと発射できないわ」

 

 

トラブル発生である。

未完成の兵器故、火器管制がまだ完成していなかったらしい。

その為、自動照準が効かない為、誰かがここに残り手動で照準を合わせねばならない。

なら、外から遠隔操作するとか―――

 

 

「言っておくけど、外部からのハッキングを防ぐために完全に隔絶されたシステムだから遠隔操作もムリよ。それと発射には関係者の認証が不可欠」

 

「ミューラさん、あんた、残るってワケッスか・・・」

 

 

う~ん、そいつは困った。ここに残るって事はかなりの確率で死ねる。

だって、モアが通過するだけにしろ、凄まじい重力変調の嵐が発生する事は確実だからだ。

そんなのが起きたら、幾ら頑丈な岩盤の下にある地下都市でも耐えられるか。

下手すらそのままこの制御室が墓穴になっちまうぜ。

 

 

「さて、ココからは専門家の仕事だよ。

君たちはもう戻った方が良いよ。後はやっとくから」

 

「はぁ?エルイット?あなたなにいってんのよ」

 

 

突然この話を聞いていたエルイットが、コンソールから立ち上がると、俺達に退室するように言った。どうしようかマッド達に相談しようとして、デメテールに連絡を入れようとしていた所だったので、携帯端末を落すところだったぜ。

ミューラも驚いた顔をして、エルイットを見ていた。

 

 

「怖いけど、ぼ、僕だってエリートエンジニアだからね!これくらいなんとかなるさ。

他の人間は邪魔だからコレを扱える僕らだけにしてくれないかな?集中したいんだ。

それに艦長も言ったよね。ナヴァラを助けたいのは自分の我が儘だって・・・。

ならコレは・・・僕の我が儘だから――」

 

「いやソレはいいとして、あんたら置いてことになるんだけど・・・良いんスか?」

 

 

俺がそう言うと、彼は首を横に振りながら応えた。

 

 

「邪魔だから邪魔だって言ってるだけさ。

 どうせ居たって、さっきからおしゃべりしてて役に立たないんだ。

 先に星から離れていてよ」

 

「・・・私抜きで勝手に話を進めちゃって・・・仕方ないわね」

 

「判った!それじゃ後頼むッス!」

 

 

実際おしゃべりつーか雑談してて、ここじゃ役に立たないからな。

エルイットの言うことにも一理ある、ならそれを邪魔してはダメだろう。

それにまだ脱出させた避難民は衛星軌道上のデメテールにいる。

まだ避難活動は終わっていないのだ。

 

 

「エルイット・ルーフ技術少尉、ミューラ管制官、貴方達の勇気は称賛に値する。どうかご無事で」

 

「―――ああ、そっちもちゃんと皆を助けてくれよ」

 

「早く行きなさい。もうあまり時間は無いわよ」

 

 

エルイットはコンソールを操作する手を止めず、返事だけ返すと作業を再開した。

ミューラも同じくコンソールと格闘しつつ、一瞬だけ片手を上げただけだ。

彼らはモニターに表示される複数のデータを同時に処理している。

ミューラさんは兎も角、エルイットもマジでスゲェやつだったのね。

だが、彼らの顔はもはや何とも言えない表情だ。まぁここに残れば十中八九死ぬ。

ソレを思えばそんな顔にもなるってモンか。

 

 

***

 

 

とりあえず、俺達は一度地上に戻り、待機していたVB-6TCに乗り込んだ。

細かな岩盤が落下し始めた地下都市を生身出歩くのはもう無理だった。

生命反応が地下都市各所にあるが、とてもそこまで手を回せない。

一応VB-6TCの艇長に、もう少し救助活動出来ないか聞いたんだ。

だが、もう最後の避難船が退避を開始しており、これ以上ここには留まれないらしい。

いずれにしろアルカンシエル発射後もう一度戻る訳だが、その時まで残っているナヴァラの住民達は自分たちだけで生き残っていて貰うほかない。

仕方なしに俺達はそのまま地下都市を離脱、最後の避難船に回収して貰った。

俺達を回収した避難船はそのままデメテールへと向かい、避難民を降ろすのだという。

地下都市から出た際に外を見たが、周囲は巨大なデブリが増え、地上へと落下していった。

ナヴァラの地表に新たなクレーターが出来るのを見ながら、俺達はデメテールへと帰還したのだった。

 

 

 

 

デメテールに戻った俺はすぐにブリッジに向かった。

もうアルカンシエル発射まで時間が無い。

安全圏に退避しなければ、デメテールごと発射の際の重力波に巻き込まれる。

惑星間の超レイザーをこんな至近距離で発射するのだ。

少なくてもナヴァラの陰に入らなければ被害は免れない事だろう。

それに既に大小様々なデブリが対空砲火をくぐり抜けてきている。

デフレクターに接触しては砕け散るものがほとんどだが、それでも危険だ。

 

 

「ただいま皆!トーロもお疲れッス!」

 

「――デブリβ―234を照準!撃ェーー!!・・・おう、ようやく帰ってきたか」

 

 

俺がいない間大分頑張ったのだろう。かなり疲れ切ったトーロがそこにいた。

これまでずっと迫ってくるデブリの対処をしていたのだ。

精神的に疲れるのも無理はないな。

 

 

「ねぎらいたいとこッスけど、今はそれどころじゃないッス。

後は引き継ぐッスから休憩してくれトーロ」

 

「ああ、判った。後頼むわ・・・」

 

 

そう言ってもう半分寝ちまいそうな感じで身体を引き摺り、ブリッジを後にする。

俺はトーロがブリッジを出ていくのを見送り、コンソールを操作する。

一応大方の情報はユピ経由で聞いているが、それ以外の詳しいのはまだだ。

ソレを察してかトスカ姐さんがすぐにブリッジ全員に向けて回線を開けた。

 

 

「皆、とりあえず現状報告!先ずミドリ!全体の進行状況!」

 

「避難民の受け入れ完了しました。詳しい数は不明ですが十数万規模は救出。

 また現在惑星接近の影響で強力な重力変調が発生しています。

ですので、これ以上の停泊は危険だと判断します」

 

 

先ずミドリさんの報告が最初に上がった。

ナヴァラの総人口はおよそ212万人、救い出せたのは10分の一にも満たない。

だがそれでも、俺達がいなければ助からなかった人たちだ。

だから彼らを助けた俺達は、彼らを近くのネージリンス領星に連れて行く義務がある。

 

 

「次!航海班!」

 

「今の所、重力アンカーで各艦船体を安定させてるが、もうそろそろヤバいぜ」

 

 

次は航海班のリーフからだ。

ロシュの限界点に近づいたため、惑星同士の重力がぶつかり合い激しい重力変調がこの空域で発生しているのである。

その為、艦隊の艦がお互いにぶつからない様に、空間にとどめておく必要がある。

それが重力アンカーだ。重力による錨がフネが流されない様に安定させてくれる。

だが、彼の報告からするにソレも限界の様である。

 

 

「次!重力制御!」

 

「――周辺の重力変調も・・・艦内に影響を与え始めているわ・・・」

 

 

お次はフネの重力井戸・・・グラビティ・ウェルの調整を一手に引き受けるミューズだ。

何も重力変調はフネの外だけで起きているのではない。

空間そのものに影響を与える為、フネの中にも影響が出始めているのである。

ミューズはそれを食い止めようと、先程からピアノを弾くかの如くコンソールを操作していた。

 

 

「次!砲雷班!」

 

「今んとこ火器管制は正常に作動してるけど、もうコレ以上は対処できねぇぜ」

 

 

デメテールの火器管制を引きうけているストールの報告だ。

HL砲列からは先程から随時インターバル1で連射モードとなっている。

デブリの量が多すぎて、既にセンサーの同時標的可能限界を越えているからである。

なので数撃ちゃ当たる方式を途中で採用したようだ。

ドでかいやつにはマーキングしておき、各艦の主砲で対応している。

 

 

「次!機関室班!」

 

「ソレに比べて相似次元機関は絶好調じゃ。

重力変調で空間が歪み、相似次元とアクセスしやすいからかも知れんのう」

 

 

機関長のトクガワさんの報告だ。

デメテールの機関はインフラトン機関では無く、相似次元機関と呼ばれる別種の機関だ。

アレは違う次元から高エネルギーを取得するという方式らしいから、重力変調が発生している現在次元に歪みでも発生してるのかもな。目には見えんけど。

 

 

「次!レーダー班!」

 

「センサーの方は~デブリが多すぎて現在正常稼働できません~」

 

 

久々に登場したエコーの報告だ。

うん、そりゃねぇ。外見ればもうどんだけーって規模だし・・・。

 

 

こうして報告を受けたが、もう既にこの空域にデメテールが留まるのは限界らしい。

外では避難船代わりの駆逐艦半分を除き、全てが出撃し対空砲火網を形成している。

勿論ププロネンのトランプ隊も全機出撃、とくにVB-6はガザン機を除き全てVB-6TCに変更し、地下都市部から直接避難民をピストン輸送に使っている最中だ。

ちなみにガザン機はその強化されたレールカノンと重ミサイル及び各種ミサイル等をデメテールの上部甲板に機体を固定してフルバーストで発射し、デブリの迎撃に当たっている。

もはや固定砲台見たくなっちまったな。

ちなみに反陽子弾頭の使用許可は流石に出してはいない。

衛星軌道上だから、流石に惑星に近過ぎるんだよね。

 

 

『こちらヴルゴ、艦長!コレ以上は無人艦隊が持たない!早くナヴァラから離脱を!』

 

 

各所の状況を確認していると、ちょっと焦った感じのヴルゴさんから通信が来た。

デブリの数が無人艦隊の対空処理能力を大幅にオーバーしている為、無人艦にもかなりのデブリが命中し被害が拡大している。

一応まだ爆散している艦はいないようだが、時間の問題だろう。

 

 

「これ以上の停泊はムリッスか・・・・」

 

 

出来るだけのことはした。乗せられるだけの避難民を救助したのだ。

元から全部を助けられるなんて思ってはいない。

まだ地下都市にいる人々には申し訳ないが、自力で頑張ってもらうしかない。

 

 

「これよりデメテールは当空域を一時離脱!ナヴァラの裏側へ向けて退避するッス!!

機関全速!!急がないと足元から極太レーザーが発射されるから急げ~!!」

 

「「「「アイアイサー!」」」」

 

 

アルカンシエルについては事前に連絡しておいたので、みんな何が起きるのか理解している。

兎に角、白鯨艦隊はこの場から退避しなければならないのだ。

トクガワ機関長が操る相似次元機関が唸りを上げ、機関出力が上昇していく。

ソレに合わせてデフレクターも力強さを増し、降り注ぐデブリからデメテールと白鯨艦隊を守ってくれていた。

殿にヴルゴのリシテアが最後の砲撃を加えながら、巨石飛び交うデブリ地帯を通り抜けていく。

 

 

≪―――ゴゴゴゴゴゴ≫

 

「ぐ!舵が取られる、ぜ!艦長!少し揺れますぜ!」

 

「総員隊ショック防御!あとミューズさん!艦内重力制御は大居住区を優先ッス!」

 

「了解・・・」

 

 

だが、いかな強力な機関出力を持つデメテールでも、この重力の中を飛ぶのはきつい。

かなりの揺れ、強いて言うならジェットコースター並の揺れが大居住区を揺らしていた。

だがそれでも、避難民がいる大居住区は重力制御されたエリヤだけに被害は少ない。

それ以外の場所では揺れるフネに翻弄されて各部署で重軽傷者が続出するが、フネ全体に発生した重力変調を制御できるほどの制御能力は本船には無かった。

 

 

「八時の方向、上角40度よりデブリ飛来、デフレクター貫通されました」

 

「本艦の装甲板と接触、ですが航行に支障はありません艦長」

 

「対空防御を厳に、機関全速、早い所この危険なエリヤから離脱するッス」

 

 

そして俺達は避難民をその懐に抱えたまま、ナヴァラの裏側のグレーゾーンへと退避した。

俺達が退避するのとほぼ同時に、ナヴァラに白い光りの柱が立ち上ったのを、一瞬だけ垣間見た瞬間。

アルカンシエルのレーザー発射と、ロシュの限界を越えたモアの崩壊により、白鯨艦隊は強大な重力波に揉まれたのであった。

 

Sideout

 

 

***

 

 

Side三人称

 

 

―――ユーリ達が離脱している頃、ナヴァラ基地地下制御室では・・・・

 

 

「く、どうして、どうしてだよぉ。出力が上がらない」

 

「仕方ないでしょう?アルカンシエルはまだ未完成品なんだから――789回路からこっちにまわして、なんとかしてみるわ」

 

 

非常電源だけがついた薄暗い制御室に残ったエルイットとミューラが、これでもかというくらいにコンソールを叩きまくっていた。

まぁ、本来なら3~4人でするモノを2人でやっていれば、多少操作が荒くもなるだろう。

それでもコンソールがミスらない辺り、2人はエリートだった。

 

 

「はは、みんなを助けてヒーローになるはずなのになぁ」

 

「あなたにヒーローって言葉はにあわなすぎるわね」

 

「煩いな。いいじゃないか。そんなのにあこがれたって」

 

「そう言うのを誇大妄想っていうのよ。合理的に考えて」

 

「そ、そこまでいうかな・・・」

 

 

言い合いをしながらも彼らは手を止めない。

未完成故にさまざまな個所でエラーが発生するたびに彼らが抑え込んでいるからだ。

8割完成しているとは言っても、動作テストもまだなのにいきなりの実戦である。

そりゃエラーくらいでるわな。

 

 

「・・・でも、よかったの?」

 

「なにがよ」

 

「ここに、その・・のこっちゃってさ?」

 

「・・・はぁ~、あなただけじゃムリだと判断したからよ。大体今までアルカンシエルの開発に手を出していなかったあなたがこれを扱えると思ってんの?」

 

「そ、それはそうだけど・・・」

 

「・・・誰かがやらなくちゃダメなのよ。手段がある以上は、ね」

 

 

ミューラは結局ユーリ達とは離脱しなかった。

アルカンシエルを使うのなら、これをココまで作り上げた自分が最後までやる。

そう言って、彼女はこの制御室に留まったのだ。

ナヴァラの民を巻き込んだという自責の念があったのかもしれない。

 

 

「・・・わかったコレね」

 

「え?」

 

「居住域むけの供給を遮断してないからよ。出力が上がらないのは」

 

「あ・・・出力があがって・・・」

 

 

コンソールを凝視するエルイットが驚きの声を上げていた。

どうやらアルカンシエルのエネルギー供給機関はナヴァラ市街用のと共有だったようだ。

ミューラが一時的にそっちへの供給を止めたから、エネルギーが確保できた。

 

 

「現状で最大50%になり次第、発射するわよ」

 

「う、うん!」

 

 

モニター上に表示された内部のエネルギー量を示すグラフが徐々に上昇していく。

重力波で振動する制御室内部には緊張した空気が張り詰めた。

失敗したら、ナヴァラは完全に破壊されてしまうのだ。手に汗が噴き出す。

 

 

「50%まであと少し、カウントダウン開始――5、4、」

 

 

ミューラがカウントダウンを開始し、同時に網膜スキャンセンサーを使って、コンソールを操作すると、制御室中央の台に黄色と黒の縞に囲まれた、いかにもな赤いボタンが現れた。

制御で手いっぱいのミューラに代わり、エルイットがボタンの前に立ち、一緒にカウントする。

 

 

「「3、2、1――」アルカンシエル!はっしゃぁぁぁぁぁぁぁああああっ!!!!」

 

 

凄まじい衝撃と轟音が制御室内に響く。

ナヴァラの地上部施設に偽装されたアルカンシエルの砲身から、高エネルギープラズマレーザーが衝突寸前のモアへと向けて発射された。

白い光りが周辺宇宙を明るく照らし、衛星モアをその奔流に呑みこんでいく。

 

 

「ああ・・・」

 

「ああ・・・」

 

そして、制御室も恐ろしいほどの衝撃により、光を失ったのだった。

 

***

 

Sideユーリ

 

衛星モアはロシュの限界を越えて自壊した。

その際大量のデブリが発生し、ナヴァラへと降り注ぐ筈であったが、アルカンシエル砲が発射されたことで破片ごと吹き飛ばされ、ナヴァラはなんとか穴開きチーズになることを防げた。

アルカンシエルの威力は凄まじく、重力変調まで吹き飛ばしてしまったほどだ。

俺達もナヴァラの裏側に退避していなければどうなっていたことか。

改めてホンマモンの軍隊の底力というモノの片鱗を味わったぜ

 

 

「・・・なんとか無事だったみたいッスね・・・」

 

 

 俺はしがみついていた艦長席から手を離し、パタパタとほぐしながらブリッジを見回す。

 それぞれのシートにはちゃんとシートベルトが搭載されていたので、転んで怪我したとか言うヤツはいないようだ。

 まぁ、かなり激しい揺れだったから、みんなちょっと顔色が悪いけどな。

 

 

「ミドリさん、周辺の状況判ります?」

 

「・・・サーチ完了。ギリギリでナヴァラの影に入れたお陰でコレと言った被害は出ていません。強いていうなら、船尾部分を掠ったデブリで損傷した程度です。コレはすぐに直せます」

 

 

 俺はオペレーターのミドリさんに、周辺の状況を聞いて見た。

 どうやらデメテールは上手いことナヴァラの陰に滑り込めたらしい。

お陰で、こっちには実質的被害は皆無の様だ。

 しかしほんの少しとはいえ、艦尾を損傷するとはな。

 殿のヴルゴ艦隊の収容を終えていて僥倖だったぜ。

 下手したらフネをまた一つ失うところだった。

 

 

「艦内の状況はどうだい?」

 

 

 何時の間にか復帰していたトスカ姐さんがユピに訪ねた。

 ユピも最初は目をクルクルにしてフラフラしていたが、ハッとしてフネの中のスキャンをかけた。

 

 

「えっと、一応重力制御を一番に傾けていた大居住区は無事です。

精々乗り物酔いに掛かった人が出ただけです、はい」

 

「今はサド先生を中心とした医療団が診察を開始したそうです」

 

 

 スキャンが終わりユピはそう報告してきた。

 まぁ大居住区は避難民で一杯だしな。街が一つ内包されていると言ってもいいし。

 重力制御に気を付けていなかったら、どんなことになっていたことやら・・・。

 つか、ミドリさんが続けて言っていたが、医療団動くの速いな。

 怪我人がいたらすぐに直しちまうような連中だし、すぐに復活を遂げたんだろうなぁ。

 

 

「―――ですが大居住区以外の区画で小規模ながら被害が発生。

物資保管庫の一部で火災が発生している模様」

 

 

―――げ。

 

 

「幸い無人区画だった為、現在その区画を閉鎖。真空にして火災を消し止めました」

 

「あっちゃー、やっぱり大居住区以外には被害出てるッスかぁ」

 

「事前に対ショックの指示が飛んでいたので、死んだ人はいません。ですが、一部物資コンテナが崩落したり、振動で配線等がショートして火花が発生した為にボヤを起したようです」

 

 

 う~ん、やっぱり被害は発生してたかぁ~。

 いや、でもアレだけの重力波の嵐の中でコレだけで済んだことの方が僥倖か。

 フネ自体が巨体だから、一部分の酸素が抜けた位じゃ問題はない。

 バイオマスプラントとオキシジェンジェネレーターもあるしな。

 少なくてもこの程度じゃ酸欠とかはおこさんぜ。

 

 

「さて、とりあえずデメテールは航行に支障はないみたいだが・・・どうするユーリ?」

 

 

 トスカ姐さんんがそう聞いてくる。いやまぁやることは決まってるんだがね。

 

 

「・・・全艦に通達。本艦はもう一度ナヴァラへと降りる。救助の続きッス」

 

 

 折角アルカンシエルでデブリが消えた訳だし、まだ生きてる人もいるだろうからな。

それに飛び散ったデブリが軌道上を回っているらしいから、早めに救助しに行かないと、またデブリの雨が降って救助活動が難しくなる。

数時間だけだと思うけど、やらないよりかはマシやねん。 

てな訳で、デブリがもう一度来襲する前に、ナヴァラに降下するぜぇ。

 

 

「あいよ。通達しとく―――既に避難した連中はどうする?」

 

「そうッスねぇ~・・・タムラ料理長に炊き出しをお願いしてくれッス。一時的に本船の食糧庫の制限を解除。出来るだけ暖かい飯でも出してやってくれッス」

 

 

 被害を受けた避難民たちは大なり小なり傷付いているからな。

 少しでもそれらを軽減させるには、飯を食わせた方が良い。

 序でに俺は毛布や怪我人の治療(コレは既に勝手にやってる)などを提供するように通達しておく。コレで少なくても避難民たちがいきなり暴徒になる様なことは防げるはずだ。

 何せ住んでいた所が崩壊した直後だ。どんな精神状態なのか想像に難くない。

あんまりしたくはないが警戒することに越したことは無いだろう。

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

………

 

 

 とりあえず、救助の準備が完了するまで少し時間がある。

 何せ先程の重力変調で色々とフネの中のモノを引っ掻き回されたのだ。

 それを片づけるのに時間が掛るのはいたしかたない。

 決してマッド達の研究所からあやしげな爆発音やらが聞こえてくる訳じゃない。

 そうだ、見てはダメだ。見ればきっと―――

 

 

「うわぁぁぁ!!きたぞぉぉぉぉ!!」

 

「開発中の機動兵器が勝手に動いてるだよっ!?」

 

「誰だ!ゾゴジュアッジュなんて作ったヤツは!!」

 

「「「「班長で~~~すッ!!!!!」」」」

 

「俺か!俺のバカぁ~~~~!!!!」

 

 

―――・・・・。

 

 

うん、見なかったことにしよう。ハイヒールはいた機動兵器なんて気色悪いしな。

ちなみにこの機動兵器は半自立型であり、今回の件でスイッチオン!それで動いたらしい。

ハタ迷惑な話である。ちなみに後日廃棄処分された。

さすがにアレを使いたく無いというか、乗りたがるパイロットがいないというか・・・。

設計図ごと廃棄したらしいので、もう再現は無理だろう。

何のために造ったんだか・・・。

 

 

 

 

 ソレは兎も角として、俺は大居住区にある難民キャンプに赴いていた。

 大居住区は10km近くあるから、中に普通にキャンプ作れるんだよね。

 つーか、ビルディング内部のスペース結構余ってるのだ。

だからそっちに優先で入って貰っている。

それに大居住区内はコロニーと同じく気候や気温の調整が容易だ。

外で屋根無しという環境は少し不安だろうが、風邪はひかないと思うのでそこら辺は許容して欲しい。

 一応俺達がここに来た際に使用したテントなどを貸し出したりはしている。

 ・・・といっても全然数が足りない。避難民は十数万以上いるのだ。

仕方ないので現在整備班達が布と骨組のみの簡易天幕を建設している。

イメージ的には自衛隊の海外支援のと似ているのかもしれない。

住む場所よりも、簡易トイレやお風呂、飯を食べる為の集会場の建設だ。

それ以外のパーソナルエリアに関しては、申し訳ないが勘弁して貰うほかない。

どうせ数日中にネージ系の領星には送り届けるのだ。 

それでも文句いうようだったら、最終兵器「テメェら!放り出すぞ!」を使わざるを得ない。

ソレやると後で政府がうっさいのでやらないけど、俺のストレスがマッハになればどうなるか・・・。

 

 

「おお、野外炊事場は、まさに地獄ッス・・・」

 

 

 さて、現在炊き出しを行う為に造った野外炊事場に来ている訳なんだが―――

 

 

「退けい!大鍋が通るぞ!」

 

「スープやシチューはいいとして主食が足りねぇぞ!パン以外は米か!?」

 

「フードカッターの設定はコマ切れにしとけ!調理時間短縮だ!」

 

「し、塩が!塩が足らんのですッ!」

 

「調味料各種調達してきた!たりねぇところは自分で取りに来い!」

 

「おらおらおらおらー!肉を捌くぜ!」「野菜を剥くぜ!」「野菜を刻むぜ!」

 

「ツァイ!ツァイ!」

 

「そんなことより!おうどんたべたい!」

 

 

――――あー、うん。なんて言うか。

 

 

「すげぇ熱気、下手に近寄れないぜ」

 

 

 野外に設置された即席の厨房だというのに全員手を抜かない。

 作っているのは大人数に対応できて尚且つ食べやすいシチュー系の料理の様だ。

 何処で調達したのかは知らないが、炊き出し用に五右衛門風呂が出来そうなほど大きな鍋が設置され、その鍋を総料理長タムラが巨大な木製スプーンで引っ掻き回している。

 そこは機械に任せられないとでも言うのだろうか?流石は料理長。パネェ。

 

 兎に角、そんな感じで着々と艦内における避難民たちへの配給が実施された。

 また、ドロイド達を用いて入ってはいけない場所は封鎖してある。

 ユピも当然のことながら見張っており、避難民たちは大居住区からは出られない。

 時たまなにをトチ狂ったのか、大居住区から抜け出そうとするバカもいたが、このフネの中はユピそのモノなのだ。

 当然何処か他の区画に行ってしまう前に、ドロイドや警備の人間に捕まっている。

 デメテールは勝手に出回られると危ないところもあるからな。

 捕まる人間の殆どは好奇心に溢れた子供が多いらしいが、中には大人も混じっている。

 前者は兎も角、後者の方々にはご遠慮願いたいところだぜ。

 

 

「―――ん?あれは・・・」

 

 

 人ごみでごった返している簡易厨房のすぐ脇の物資置き場。

 そこに見慣れた緑の髪をした少女を見つけた俺はそこに近寄った。

 

 

「――シチューの鍋はドロイドに持ってもらうわ。パンの配給は一人最大3個までとしてね。食糧は惜しみなく使っていいらしいけど、アコーさんのリストによればパンはもうあまりストックが無いらしいの」

 

「了解です。お嬢」

 

「シップショップの在庫も使うらしいから、そっちの方からも貰って来れるようお願い出来る?」

 

「任せてください。作業用にVFかエステ借りれればコンテナごと持ってきますぜ」

 

「ん、お願い」

 

 

 どうやら食糧の配給について指示を周りに出しているらしい。

 彼女は最初期メンバーという位置だから、結構厨房関連では権限があるようだ。

 今も、携帯端末片手に己よりもガタイの良いアンちゃん達を動かしている。

 つーかお嬢とか・・・筋モンじゃあるめぇし。とりあえず声かけとくかな。

 

 

「オッス。精が出るッスねチェルシー」

 

「あ、ユーリ。こんな所に来てどうかしたの?」

 

「いやまぁ姿見えたモンで。俺は今いろんな部署を見て回ってるんスよ」

 

「そっか、大変だね。あーもう、私もコレが無ければついてくのになぁ」

 

 

 携帯端末を振りかざし、ちょっと残念そうにいうチェルシー。

 え?彼女なら以前の様に黒化して勝手についてくるだろう?

 いやいや、それがまたどうして、意外と彼女は平常時はまともなのだ。

 以前のアレは俺という存在が近くに居なかった為に生じた・・・あ~言わば禁断症状みたいなもんだ。

 この娘の依存症は結構深いからな。普段はこうして平常な普通の娘なんだけど、あの時は長いこと離れていた所為で依存度からくる鬱憤がたまりにたまっていた訳だ。

 あの後の標的は俺のみのスーパー鬼ごっこでガス抜きしたから、普通に戻ったのである。

 普通になると、彼女は本来の気質である真面目な性格から、仕事をきっちりやる。

 だからあの暴走を起した後でも、普通に元の仕事場でお仕事に励んでいるという訳なのだ。

 というか、笑うと可愛いモンだから老若男女問わず人気あるのよねこの娘。

 暴走しなければ普通に可愛らしい女の子なのにねー。

 

 

「はは、お仕事は大切ッス。それを判ってるからチェルシーは手を休めてないんスよね」

 

「だって、お仕事は大切だモン。他の皆も頑張ってるから、私だけサボれないよ」

 

「うん、偉い偉い。兄ちゃんは嬉しいぞ」

 

「えへへ、そう言って貰えると何だかうれしいな」

 

「おうおう、そかそか」

 

 

 褒めてやるとはにかみながらにっこりとするチェルシーに、なんかグッときた。

 まぁ顔には出さずに俺は仏の笑みでほかほかと言った後、チェルシーと共に作業していた連中の方を振り返る。

 作業を邪魔しちまったからか、ちょいと怪訝な顔されちまってるな。失敗失敗。

 

 

「―――お前らもウチの妹を手伝ってやってくれよ?よろしく頼むッス」

 

「「「勿論です艦長!」」むしろ彼女を嫁にくださ≪ドゴンッ!≫ぐはっ!」

 

「もう!ふざけたらダメだよ!仕事に戻る!」

 

「「へい!お嬢!」」「ふ、ふぁ~い!」

 

 

 ヴァカな男がいたようだが、俺が手を下すまでも無かったようだ。

 一応だがチェルシーはまだ14歳の少女だ。手を出せばロリコンだぜ。

 せめて後2年は待て、心は日本人の俺なら(相手次第だが)許すやもしれん、ぞ?

 もっとも、その時には俺とVFとかで一騎打ちして貰うがな。

 手加減?そんなことしませんよ?大事な妹守れる奴じゃなきゃ任せる気なんて無いね。

 

 

「チェルシー、男は狼だから気をつけるッスよ」

 

「??うん、わかった。――それじゃ、私は仕事に戻るから」

 

「ウス、頑張ってくれッス」

 

「ユーリもね。それじゃね」

 

 

 仕事に戻る彼女を見送った後、俺も俺で色んな所を見て回る。

 やっぱりね、ブリッジで情報聞くだけじゃ判らんこともあるんですよ。

 託児所的なエリア作らないと、イザコザが起きるとか思わんかったわ。

 とりあえずデメテールに収容した避難民達はなんとかなりそうだ。

 ホント、よかったぜ。

 

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Side三人称

 

 

 さて、一時騒然となったデメテールだが、避難民たちが落ち着くとそれに比例して艦内の状況も落ち着いていった。

 まぁ騒然といっても、コンテナが崩れていた程度であったし、精々ケセイヤデザインの機動兵器の失敗作が変にショートした回路の所為で勝手に誤作動した程度である。

 兎に角、避難民たちを落ちつかせ、艦内環境をどうにかした彼らは、もう一度ナヴァラへと降下する準備に入った。

 第2次ナヴァラ救助支援を行う為である。一応ついさっきモアが崩壊した所なのだ。

 もしかしたら埋まった地下都市部にまだ生きている人間がいるかもしれない。

 そう言う訳でまだもう少しここに留まっての救助を行うことになった。

 ちなみに機関は最長3日、それ以上は避難させたナヴァラの民から苦情が出る。

 それに、3日も経てば天井部に亀裂が入ったナヴァラ地下都市の気圧は0になる。

 どうあがいても3日間が焦点なのだ。それ以上は・・・探しても無駄である。 

 そんな訳でアルカンシエル発射の影響で空間ごとクリーンになったナヴァラ上空へと戻ってきたデメテール。

 ヴルゴ無人艦隊を発進させ、空間通商管理局のステーションへと向かわせた。

 ステーションは表面上はボロボロであったみたいだが、機能は何ら問題無く作動しているらしく、ヴルゴ艦隊の入港を打診すると、いつも通りの対応で許可された。

 

 この空間通商管理局のステーションは国が作ったモノでは無い。

 星間国家が組織される以前から存在する営利活動を目的としない謎の集団。

 絶対中立をうたう空間通商管理局により運用されてきた。

 なぜ国家が彼らに口出しをしなかったのか?簡単である。

 空間通商管理局が扱うのはステーションだけでは無くボイドゲートも含まれるが・・・。

 扱えなかったのだ。人の身ではアレらオーパーツとも呼べる代物は。

 ロストテクノロジーに分類されるソレらをコピーは出来ても、完全に解明することが出来た人間はマゼラン銀河には存在していない。

 特にボイドゲートは空間通商管理局が完全に取り仕切っている。

 その為、もしも何らかの理由で彼らがへそを曲げた場合。

 ボイドゲートにより通運を確保している星間国家は完全に干上がるのである。

 それ故、ボイドゲートを用いる星間国家では暗黙の了解として、空間通商管理局が管理する施設には不干渉ということが定められたのだ。

 それは今でも変わっておらず、いかに戦争しようがなにしようが、国は彼ら空間通商管理局にはちょっかいを出さないのである。

 今回の一件はある意味でその“ちょっかい”の範疇に入りそうであるが、普通に入港を許可する辺り、やはりあまり問題にはされていないのだろう。

 まぁロストテクノロジーで作られたステーションを破壊することは非常に困難であり、むしろその頑丈さの所為で匙を投げられたという裏話もあるのだが、関係無いことなので省略する。

 

 とにかく、ユーリ達はなんとか機能しているステーションに入ると、そのままこれまたなんとか機能している軌道エレベーターを用いて地下都市部へと降りた。

 メンバーはユーリは勿論としてトスカ、そしてヒマだったトーロである。

 後は部下が十数名、ユピは艦内のことがあるのでデメテールで待機と相成った。

 さて、軌道エレベーターは所々デブリ衝突の影響で穴が開いていたりしていた。

だがロストテクノロジーだろうか?

デブリで空いてしまったと思われる外壁の穴に、謎のエネルギーによるスクリーンが張られ、それにより宇宙と中が遮断されていた。

 ソレのお陰でエア漏れは起こっていない。

 流石は空間通商管理局の運営する施設、管理局の科学力は銀河一!なのだろう。

 

 なんとかガタガタする軌道エレベーターを降りて地下都市部に入る一同。

そこには崩落した岩盤で多くの建物が潰された見るも無残な地下都市が広がっていた。

 とはいえ、惑星の衝突が起きた場所としては非常に被害の規模は小さい。

 精々が巨大地震に巻き込まれた程度である。

 これがもしあのままアルカンシエルを発射せず、ロシュの限界を越えたモアをそのままにしていたら、この地下都市のある空間自体が存在しなかったことだろう。

 とりあえず軌道エレベーターの基部へと降り立った彼らは、周囲の捜索に当たる。

 この時、救助隊の一人が軌道エレベーター基部施設内部にある0Gドック用の酒場において、避難してきた人々と思われる一団を発見して保護している。

 考えてみればあの崩落の後も普通に動いている施設だ。避難所と化していても不思議ではない。

 

 ユーリは彼らをデメテールに避難させるよう指示し、それ以外の人員は周辺の捜索に当たらせることを指示した。

 デメテールからはマッドを中心とした科学班などの人員を呼び、倒壊した建物の下に人がいないかを調べさせる。

 機材の方はVB-6TCに輸送させるので、すぐに作業を開始できることだろう。

 そして序でにVFなどの機動兵器もナヴァラに降下させる。

長時間の単独行動が出来ないエステはムリだが、内燃機関を持つVFなら倒壊した建物を掘るのには十分すぎる重機となるだろう。

 そして、このマッド達を呼んだことで、デメテールに新たな力が加わるのだが、そのことをユーリは知らなかった。

 

 

…………………………………

 

 

…………………………

 

 

…………………

 

…………

 

 

 ナヴァラ軍基地に赴いたユーリ達であったが、そこは完全に倒壊していた。

 振動で崩れたというよりかは、落ちてきた天井に潰されたと言った感じか。

 どちらにしろ、もしこの基地の中に人がいたとしても助かったりはしないだろう。

 まぁこの基地に居た人間は、衛星モア崩壊直前に一緒に脱出させた筈なので、恐らくは大丈夫だろう。

 そしてユーリ達は基地の裏手に回った。

 崩落した天井の破片などで若干ゴミゴミしているが、ここの入口はなんとか無事の様だ。

 

 

「これはまた、随分とボロっちくなっちまったねぇ」

 

「二人とも生きてればいいスがねぇ。とりあえず入って見るしかねぇッスね」

 

「んだね。それじゃトーロ、逝って来い」

 

「えー!コンだけボロボロなのに入ってる時に崩壊したらどうすんだよ!」

 

「葬式代は出してやるッス」

 

「ヒデェ!」

 

 

 とりあえず中を調べることにしたユーリ一行、選ばれたのはトーロだった。

 ユーリとトスカのちょっと理不尽な云い様に少し憤慨はしたが、彼はしぶしぶと中へ降りていく。

 

 

「―――大丈夫だ!意外と中は壊れてねぇぞ!」

 

 

 しばらくして中に入ったトーロから大丈夫らしいから降りて来いと言われた。

 ユーリとトスカも基地に降りてみると、確かに中は外と比べると綺麗だった。

 地下施設なため、地震並の振動でも壊れなかったのだろう、地下は地震に強いのだ。

 赤い色の非常灯が点いた通路を進み、彼らは制御室の扉の前へとやってきた。

 ここまではそれ程損傷も無かったので、制御室も大丈夫だろう。

 そう思い彼らは制御室の扉に手をかけた。

 

 

「あれ・・?制御室のドアが開かねえぞ?」

 

「おろ?」

 

「んん?おかしいねぇ」

 

 

 制御室のエアロック式ドアの横にある開閉スイッチを押しても反応が無い。

 どうやらモア崩壊の衝撃の所為で何処かが壊れたようだった。

 トーロがドアの隙間に手を突っ込み、うぐぐぐぐと唸って開けようとしたがびくともしない。

流石は軍用、そん所そこらの人力程度ではあけることはできないらしい。

 

 

「どうするよ?」

 

「う~ん、爆破してみるッスか?」

 

「おいおい、そんなことしたら下手すると倒壊するよ?一応持ってるけど、この建物はダメージを受けてるんだからね」

 

 

 ダメージが少なそうとはいえ、流石に爆薬はダメだろう。

 目には見えない程のダメージなら、爆発の振動でヤヴァイことになるかもしれない。

 じゃあ、どないすんねんとユーリが言い掛けたその時―――

 

 

「・・・まぁ待ちな。ちょいと待ってな」

 

 

 トスカがそう言って二人を退かすと、ドアの開閉スイッチの横に立った。

 ユーリ達からはトスカが陰になって見えないが、何やら手元をカチャカチャ動かしている。

 しばらくして、エアが抜ける音がして、扉のロックが緩んだ。

 

 

「よっし、これで後は引っ張れば開くだろう。誰か手を貸してくれ」

 

「トスカさん、今のって―――」

 

「昔取った杵柄ってね。良い子は真似したらダメさ。おねーさんとの約束さ」

 

 

 流石はトスカ、昔やんちゃしていただけはある。

 まぁ必要であったから身に付けた技能だったのだろう。

 それが良いか悪いかは別にして・・・。

 

 

「それじゃ、セーノッ!」

 

 

 ユーリの掛け声でトスカ、トーロ、その他がドアを両側から引っ張る。

 やはり歪んでいるドアは中々動かなかったが、ユーリがどこから見つけて来た棒をドアの隙間にはさみ、てこの原理で思いっきり押すと、少しずつであったがドアが開いていった。

 やがて、ある程度までこじ開けた所―――

 

 

≪―――ガコンッ!!≫

 

「うわっと!?」

 

 

―――いきなりすんなりと動き、ドアが開いたのであった。

 

 

「あ、ああ!ドアが開いた!ミューラ!たすかったよ!」

 

「・・・ええ、本当ね・・・」

 

「少尉!ミューラさんも無事ッスか!」

 

 

 ドアを開けると崩壊した制御室の僅かなスペースに、エルイットとミューラがお互いを抱きしめ合うかのようにして座りこんでいた。

 微妙に煤汚れてはいるが、どうやら目に見えた怪我はしていないらしい。

 制御室の崩壊具合からすると、ある意味で奇跡に近いだろう。

 

 

「ユーリ艦長!助けに来てくれたんだね!僕・・・きっと助けに来てくれるって思っていたよ!」

 

 

 自分たちが助かったからか、子供の様にはしゃぐエルイット。

 だが、それを見たミューラはというと――

 

 

「あら?さっきまで見捨てられたってブツブツ言ってなかった?」

 

「う・・・」

 

 

―――何気に容赦ない言葉で、エルイットを責めていた。

 

 

「というか、今までここに閉じ込められてたのか?」

 

「ええ、参ったわ。こんなところにエルイットと二人きりなんて」

 

「大丈夫だろう?そいつがあんたに何かするような度胸がある様には見えないしねぇ。こと、女性に対しては・・・」

 

 

 意外と毒舌な女性陣にorzするエルイット。

 がんばれ。頑張ればきっと良いことがあるかもしれないさ。宝くじ的な割合で。

 兎も角、二人を救出したユーリ達は、他にもいた要救助者達を連れて一度デメテールに戻ったのだった。

 

 

 さて、ユーリ達が要救助者を探している最中、マッド達はというとナヴァラにある軍施設に侵入を果たしていた。

別に軍基地だけが軍の施設ではない。実験施設や色んなモノが結構あったりした。

 特に地表に向きだしになったアルカンシエル砲は、その高出力を出す機構などを解析し、今後の兵器開発の参考にしようともくろんでいた。

 そしてどうやら兵器開発の部署と思われる所に来た彼らは、集められるだけの情報を集めていた。

 

 

「おお、見てください教授。コレは新型兵器の図面では?」

 

「これは・・・ほう、“重力制御を利用した光子力砲”とはまたケッタイな代物だヨ」

 

「光子、つまりは光の粒子を重力で圧縮させて指向性を持たせる」

 

「上手く使えりゃ、従来の出力を越えるレーザー砲の完成ってか?」

 

 

 流石は正規軍の軍事施設、機密情報と思わしきモノが沢山ある。

 恐らくは企画段階のモノから、既に図面まで完成しているモノまで沢山あった。

 

 

「こっちは“ボイドフィールドの原理を利用した任意物質崩壊理論”か・・・上手いこと兵器転用できればソレだけで戦略級兵器だな。どう思うケセイヤ?」

 

「ボイドフィールドってあれだろ?ボイドゲートの周囲に展開されるどんな攻撃すら防ぐ謎の力場じゃなかったか?」

 

「ちょっと正確では無いネ。あれは“防ぐ”ではなく任意に“分解”させているんだヨ」

 

「そう言えばそんな理論を研究していたことがあったと昔聞いたことがある。もっとも情報開示を空間通商管理局が拒否したから研究は進んでいないと思っていたが・・・」

 

「ちょっと違うなサナダ。こういったのは解析装置を積んだフネを何回も往復させれば自然とデータは集まる」

 

「レーザーもビームもミサイルも・・・任意に物質を分解できるなら意味を為さないネ」

 

 

 なにやら兵器転用されたら偉いことになりそうなデータを見つけたマッド達。

 だが、それの技術を既に持っていると思われるのが管理局だと判るとケセイヤが叫んだ。

 

 

「くぅぅぅ!空間通商管理局に勤められればなぁ!そういう内部機器弄り放題なのに!」

 

「「「確かにあれのロストテクノロジーはさわりたい」な」ネ」

 

 

 マッド達の頭には新技術解明の文字しかない様であった。

 まぁ管理局は基本ドロイドで運営されており、生きた人間は補給系とかでしか雇用されない為、中枢は謎に満ちているのである。

 ソレは兎も角、マッド達はその後も様々な軍施設をまわり、ついにはアルカンシエル砲の研究部署まで発見した。

 さりげなくシェルターの様になっていた施設で、今回の騒動で人は逃げたが緊急システムが作動して分厚い隔壁が降りていたのだが、VFのパワーの前では敵で無かった。

 

 

「成程なぁ~、強度とコスト面の問題故に、シンプルなガス式レーザーにしたってワケか」

 

「ある意味で正解だな。シンプルな方が作りやすくて頑丈だというのは歴史が証明している」

 

「軍人の蛮用に耐えられることこそが兵器の基本、か」

 

「それでこの威力なんだから、小マゼランの技術も侮れないネ」

 

「「「違いない」」」

 

 

 こうして、表向き救助がなされていながら、裏では勝手に技術を吸収している白鯨。

 ある意味ばれたら問題なのだが、そこはばれなければ良いのだろう。

 この収穫に満足したマッド達はさっそく手に入れたモノを使い趣味に没頭する。

 サナダとジェロウが設計し、ミユが材質を選び、それを元にケセイヤが作り上げる。

 マッド達が結集した時、只の机上の空論が現実となる。

 それは、はたして白鯨にとって有益なのか、はたまた破滅を呼びこむのか。

 星間戦争に他銀河からの侵略戦争とアクシデントの種は尽きない。

 しかし、これだけは言えた。

 マッドは何処に居てもマッドであると。 

 

 

***

 

 

救助活動は3日目ギリギリまで続いた。

地下都市の中のエアが完全に危険域に入るまで、がれきの下や崩壊した建物を探して回った。

VFのファイター形態が使えるヤツは全員参加だ。勿論俺も例外じゃない。

一杯探して、探して、見つけたのが腕一本って事もあったが、それももう終わりだ。

 

 

『・・・艦長、まもなく地下都市内の気圧は0になります』

 

「――了解したッス。現時刻をもってして、救助者の探索を終えるッス。他の皆にもご苦労様と伝えておいてくれッス」

 

『了解です。通信終わり』

 

 

その時俺は自分専用VF・・・ではなく、ノーマルVFのコックピットに居た。

俺のVFは何故かマッド達に持って行かれてしまった。なので仕方なくノーマルなのだ。

 

ソレは兎も角、デメテールからの通信を受け、他の救助を行っている連中に対し、救助作業終了の指示を出して通信を切った。

やるべきことはやった。助けられるギリギリまで救助活動は行ったのだ。

コレ以上手を貸す義理は無い、大体ネージの方が救助隊を出さないのが悪いのだ。

 

そう言えば傍受した両政府の通信によると、どうも惑星アーマイン上空でのネージとカルバの戦いは、ネージが辛うじて勝利したらしい。勢いに乗って惑星を一つ奪い返したらしいが、かなりの戦力を消耗し、実質痛み分けなのだそうだ。

お陰で反戦気運が高まりを見せているとの情報があったから、セグウェンさん辺りが水面下で活動を開始する事だろう。あの人狸だし。

 

まぁその戦力消耗の影響で軍の再編がてんやわんやになった所為で、本来なら救出に訪れるべき軍隊の救援が殆ど来なかったというのがある。

お陰でデメテールは腹いっぱいに避難民を満載しているんだぜ。

大居住区の収容能力がパネェから、今の所寝泊まり関連に影響は出てないがあまり長くは収容できないしなぁ。

ウチの生活班の班長アコーさんによると、あと精々1週間程度が関の山。

それ以上は倹約なりなんなりしないと無理、か。

まぁ避難民なんだし、他の惑星に届ければそれで終わりなんだがね。

バイオマスプラントと兼任した食糧生産プラントは一応稼働しているし、圧縮食料もカルバライヤ軍から略d・・・もとい、戦利品として頂いたものが異常にあまっている。

飢え死にという事態はあり得ないから、まぁ大丈夫だろうよ。

 

 

「ふぁ~あ・・・ま、俺に出来るのはこれくらいだから、化けて出ないでくれッス」

 

 

俺はそう言い残すと、VFのインフラトン・バーニアを吹かして地下都市から離脱し、軌道上のデメテールに帰還することにした。

まったくもって、救助というのは大変な作業だった

最終的に判明したモアの破片衝突による死者はおよそ50万人以上となっている。

生存したのは150万人、殆どが定期便を乗っ取った即席避難船。

それとデメテール以外にも救助を行っていた0Gのフネやらに助けられたようだ。

その内の10数万人はこっちが受け持ったので、割合的には一番数は多いだろう。

・・・ウチのフネに移住する人とか募集してみようかな?

戦闘班だけじゃなくて、裏方業務である生活班系も人手は足りない。

コレだけ大量に人がいるんだから、多少募集しても問題無いかもな。

 

 

「―――あ、パリュエンさん、俺ッス。実はちょっとやってほしいことが・・・」

 

 

募集はやれるだけやっておこう。まぁ多少選考はさせてもらう。

無駄飯喰らいを養えるほど、ウチは裕福じゃないからな。主にマッドの所為で。

それなりに集まるならよし、ダメでも今よりかはましだろう。

そう考えつつ、デメテールに帰還したのだった。

 

 

***

 

 

デメテールに戻って来た後、俺達はそのままナヴァラの空域を離脱。

その足で隣星のアーマインへと針路をとった。

道中、敗残兵的な連中が数十隻ほどいたが避難民を満載しているので全てスルー。

ステルスモード美味しいですを経験しながら、順調に航路を進んだ。

そしてアーマインまで無事に戻って来れた訳なんだが―――

 

 

注:AAはイメージです

 

 ( ゚д゚ )  ←ユーリ

_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_

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―――という感じでコンソールを・・・え?訳が判らん?

 

 

「つまり、これはどういうこと何スか?」

 

「はぁ、それが予想外な事態に発展しまして・・・」

 

 

俺が何故驚いていたのか?それはちょいと前にパリュエンさんと話した事に起因する。

通信で人材確保が出来ないかパリュエンさんと相談した後、彼はそのままナヴァラ避難民たちに人員募集を公布してみた。

ウチは万年人手不足だし、この際ヌコの手も借りたいという感じだ。

溺れる者は藁をも掴むとでも言えばいいんだろうかね?違うか。

まぁ兎に角、避難民たちにウチで働かないかというのを聞いて見た訳だ。

そして、その結果が―――

 

 

「ま、まさかこんなに沢山応募が来るなんて・・・予想外ッス」

 

「家族持ち許可で、ローテーションはあっても週休二日が大きかったようですね」

 

 

そう、想定していた以上に応募が殺到したのである。

流石に多すぎた為、この件をパリュエンから任されていた担当がウチが戦闘艦であることを話して、尚且つ俺所有のフネだから、よく海賊と戦ったりするということを説明したのだが、それでも半数以上が残ってしまったらしい。

ちなみに、半数減ってもまだ想定の数倍の人数だったんだぜ?

志望動機は避難所に入っても次の職を探すのに苦労するだろうから、多少危険でもウチで働いた方が稼げそうだという理由が多かったらしい。

んで、流石にどうしようって話になって、このフネの実質上トップの俺に話が回ってきたって訳である。

 

 

「選考基準で更に採用者を減らして、戦闘枠にまで広げたんスよね?ならコレ以上はどうしようもないから、とりあえずくじ引きで決めるしかないッス」

 

「はぁ、やはりそうですよね」

 

「ウス。今の所必要な人間の数には限界があるッス。欲を出せば後少しは大丈夫ッスけど、ソレやると選考で落された連中がうっさいッスからねぇ~」

 

「ですね。ではこのようにします。いいですか?」

 

「おう、それでやっちゃってくれッスー」

 

 

当初は生活班のみだったんだけど、どうにも選考基準をくぐり抜けた人間が多くて戦闘枠でふるいにかけようとしたんだが、それすら突破しやがったからそれなりに優秀なんだろう。

小型船舶の運転免許持ちも多いらしいし、これで大幅な航空戦力の戦力アップが図れる。

まぁ最も、戦闘機は初めてという連中が多いらしいし、おまけにウチの戦闘機はトリッキーだから成れるまでは訓練漬けの日々になるだろうけどね。

 

 

「さてと―――」

 

 

 

人事のことを報告に来た部下が帰ったので、俺は俺でまた仕事を再開する。

結局フネの責任者を気取っちゃいるが、全然自由じゃねぇ~。

前から言ってるけど、もうね、アホかってくらいの書類をね、消化せにゃならんのですわ。

 

 

「―――ヒマラヤクラスの登山をする直前が、こんな気分なんだろうなー」

 

 

書類のチョモランマ、いまから登攀開始です!――さぁ、コーヒーの準備は万端か?

 

 

「うっし!やるか!」

 

 

俺は頬を両手で叩いて気合を入れ、最終決算しなきゃならない書類に手を伸ばした。

何せ沢山避難民を乗せたからな。アーマインに着いた時にネージリンス軍から救出に掛かった費用を全額負担してもらえることになったんだが、それについての書類とかが仰山出た。

最初見た時は発狂しかけたね。ネージリンスの阿呆!鬼!過労死させたいのか!

あいつ等こんなときでも役所仕事しやがって、書類出さないと金ださねぇとは・・・。

こう言う時、ネージリンスの合理性的な性格っつーモンが恨めしい。

いや、キチンとやればちゃんとやってくれるけど融通が気かねぇンダよなぁ。

それと、現在俺以外の主要クルーが顔も見せないのは暗にコイツの所為だったりする。

皆それぞれ自分の部署の方で人手不足に四苦八苦しながら書類を片付けている筈だ。

ドロイドは書類決算出来ないからな。コレは自分たちでやるしかないのである。

てな訳で、俺も俺の書類を消化させてもらうZE☆・・・もう死にそうだけどな。

 

 

 

 

 

 

―――そして、それから数時間後。

 

 

「あ~う~、脳がふっとうしちゃう~」

 

 

熱暴走限界まで頑張っていた俺の元に―――

 

 

『ピピ――艦長、超長距離からのIP通信が来ています』

 

「あーうー、今居留守でー『送り主は、セグェン氏からですが?』――え?」

 

 

―――突然狸親父からの通信が舞い込んだのだった。え?ナニソレ怖い。

 

 

***

 

 

■デメテールBブロック・第3層・長距離IP通信室■

 

 

ここはデメテール内に数ある通信室の内の一つ。

何気にブリッジに程近いくせに、通信やらなんやらは大抵ブリッジで、ことが処理できるのであまり使われない場所だ。

そんな場所に態々来たのには理由がある。通信してきた相手がセグェン氏だからだ。

あの一見好々爺に見えるセグェン氏は、和平交渉の裏でちゃんと戦争準備も同時進行させていた狸な爺さんである。

もっとも、それくらい出来なければS・G社をあそこまで大きくは出来なかったんだろうが。

まぁそんな人物が、態々俺みたいな一介の0Gドックというアウトローに連絡を入れようとしているのだ。

ただ事ではないことだろうし、かと言って通信に出ない訳にもいかない。

そんな訳で密会的な通信に臨むって訳である。

 

 

「こちら白鯨艦隊のユーリです。セグェンさんお久しぶりです」

 

『おおユーリくん、久しぶりだね』

 

 

通信に出たのは絵面だけなら某カーネルおじさんに似ている気がする爺さんだ。

いやだって眼鏡にひげでステッキまで持ってるんだぜ?

似てる似てないというのなら、俺は断然似てるに票を入れるね!

 

 

『どうかしたのかね?ユーリくん』

 

「・・・いえ、ちょっと色々とあって疲れていまして」

 

『ソレはいけない。仕事をするのならほどほどが一番ですぞ?身体を壊しては元も子も無いですからな』

 

「エエ確かに・・・」

 

 

軽い現実逃避を起していたが、すぐにセグェン氏から声をかけられた為現実に引き戻される。い、いやだー、オラはもっと夢の中に居たいズラー!とか内心思ったのは内緒だ。

 

 

「そう言えば、アーマインの方で噂で聞いたんですが、カルバライヤと和平交渉の任を任されたと聞きましたが?」

 

『ええ、何分先の戦いで両陣営ともかなりの人材を消失してしまいましたからな。今、和平交渉の為の調整が進んでいる所です。今は私の通信網を用いて、向うの方と非公式に会談が持てないか化策中なんですよ』

 

 

なるほど、公式会見の前に上層部で打ち合わせしておくってわけだ。

そうすれば余計なイザコザで和平交渉がこじれる心配は無い。

和平交渉とは言うが、実際は国民に見せる為のエンターテイメントの側面が強いからな。

恐らく非公式会見の方が本命なんだろうよ。

 

 

「なるほど、セグェンさんも頑張ってください。ところで今回はどのような御用ですか?」

 

『いやなに、我等の同胞を白鯨艦隊が沢山救助したとの情報を得ましてな?御礼を申したいと思ったのが一つあります』

 

「流石は小マゼランに名をとどろかせるS・G社、情報が早いですね」

 

『企業にとって一番の武器は情報の有無ですからな。内容次第では黄金以上の価値を生み出すこともあるのです』

 

「成程。まぁお察しの通り、ナヴァラで救助活動をやって、なんとか十数万人助け出せただけなんですがね」

 

『同時刻、本来なら真っ先に救出に訪れるべき航宙軍が、再編の真っ最中で救助に来れなかったのです。ですからあなた方は誇って良いんですよ。それだけ同胞の命が救われたんですから』

 

「そう言って貰えると、ちょっとほっとしますね」

 

 

い、胃が痛い。表面上すっごくお互いに笑顔で話してるんだけど、セグェン氏全然目が笑って無いんだけど?俺なんか不味いことしたのか?

 

 

『あと、小耳に挟んだのですが、避難民たちから人員を募集したそうですな?それも大量に』

 

「ええ、万年人手不足だったもんで――」

 

『困りますな。勝手に同胞を人材として登用しようなんて』

 

「あー、えーと。ごめんなさい?」

 

『いえ、まぁソレはいいのです。ですが管理局に話しは通しましたかな?』

 

「え?何故です?」

 

『おや、忘れたのですかな?ある程度の集団雇用の際には0Gの場合、管理局に届け出を出さないと、フネのクルーとして認めてもらえず宇宙港に降り立てませんぞ?』

 

「ゲッ――」

 

 

思わず声を漏らしてしまった。

慌てて端末を開いてセグェン氏の言った事を確認してみるとその通りだった。

序でにウチの避難民雇用を任せていた部下に確認をとった所、彼もその事を忘れていたらしい。

そうなると、空間通商管理局にクルーの申請を出しに行かねばならない。

だが、現在その事務に回せる人員がいないんですけどー!!

事務処理が行える人間は現在ネージリンス軍に出す書類の整理に追われている。

俺も含めて、今現在管理局に申請書を掛ける人間が残っていないのだ。

流石に申請する予定のクルーに任せるにもいかないし・・・どうするべ?

 

 

『――ふむ、何でしたら此方の方で手を回しておきましょうかな?』

 

「え?」

 

『そちらは避難民のことで手一杯の御様子。この老人が一肌脱ごうと思いましてな。なぁに、ウチも長いこと宇宙を縄張りに商売しているんです。そう言ったコネは幾つかありますからな。ご心配なさらずに』

 

「は、はぁ・・・」

 

 

不味い。何が不味いのかというと、今の現状を鑑みたら非常に魅力的な申し出なのだ。

ウチとしては人手が欲しいし、ヤッハの事を考えると時間も惜しい。

だから早い所書類を出して、正規クルーとして雇用したいのである。

現状手が空いていない此方としては、ホントにありがたい申し出に映るのだ。

・・・相手がセグェン氏ではなければな。

 

 

「・・・何がお望みです?」

 

『はて?これは只の好意として、人生の先立者からの―――』

 

「セグェンさん、あなたは非常に賢しい辣腕家です。また利益に聡いとも効いた事があります。ですから率直に聞きます。我々に、一介の0Gに肩入れしてまでして欲しいこととは何ですか?」

 

『・・・・』

 

 

正直、これを聞いた時はストレスで俺の胃袋の寿命がマッハだった。

だってこれを聞いた途端、今まで好々爺とした表情が一気に無表情に変わったんだぜ?

ソレは一瞬だったけど、マジで怖かったんだ。

こちとら前世を含め高々数十年生きた程度でしかない若造。

対して相手は云十年会社を引っ張ってきた実業家。

どっちが強いかなんて明白だろ?だけど俺は聞かなきゃならなかった。

こんな時期に態々こんなことを言って来る相手の真意ってヤツを・・・。

しばらく黙っていたセグェン氏であったが、少しするとまたあの好々爺の様な笑みを浮かべて口を開いた。

だが、その声色は先程とは少し異なり若干暗い。

 

 

『ユーリくん達はご存知ですかな?――エルメッツの艦隊が密かにとある勢力と接触していたことを・・・』

 

 

エルメッツァが接触した勢力なんて、この時期のことを考えればヤッハバッハしかないな。

てことは、

 

 

「話し合いで拗れて全滅でもしましたか?」

 

『驚いた。まさか知っていなさるとは・・・』

 

「・・・当てずっぽうで言ってみるもんですね」

 

 

・・・なんてこったい、もうそんな時期か。

どうやらエルメッツァの先遣艦隊がヤッハバッハと接触を果たしたらしい。

そして交渉が拗れてエルメッツァは実力行使に出たものの全滅した。

どういうルートかは知らないが、セグェン氏はその情報をいち早く入手したようだ。

エルメッツァ先遣艦隊に一体なにがおこったのか、そのことを事細かに説明してくれた。

 

***

 

Side三人称

 

 

ユーリ達がナヴァラ上空に留まり、救助活動に没頭していたその頃。

エルメッツァが派遣した先遣艦隊が、本国から離れる事約20光年の位置にて、謎の勢力とされているヤッハバッハ艦隊がいる宙域に到達。

両陣営は会談を行う為に、ファーストコンタクトを取ることまでこぎつけていた。

そしてお互いの艦隊から使者を乗せたフネが一隻ずつ発進。

両陣営のちょうど中間点に当たる位置にて停泊し、階段を行う運びとなったのだった。

 

 

「言語変換ジェネレーターの交換は済んでいるな?」

 

 

そしてエルメッツァ側の大使として、軍務官であるルキャナンが向かっていた。

彼は言語変換ジェネレーターが作動できるかどうか副官に訪ねていた。

 

 

「は、先程交換を終えてあります。データ形式はやや異なっていましたが、問題無くコンバート出来ました」

 

「そうか、最低限の文化水準はあると見える」

 

 

大国の威信をかけた話し合いではあったが、長年小マゼラン一の大国として君臨してきたエルメッツァはヤッハバッハを警戒こそしていたが、それ程危険視はしていなかった。

何故ならエルメッツァにとって現在の位置はホームグラウンドと言ってもいい宙域。

たいして相手はとてつもなく長い航海を続けてきたと思われる一団。

常識的に考えて、長距離の航海を行った相手が、準備を整えた大艦隊相手に奮戦出来る訳が無いと考えていたからだ。

長年大国として君臨した事が、彼らの心情を傲慢にしていたと言えることだろう。

 

 

「もうじきレーダー範囲に入ります。それから30秒後にコンタクトの予定」

 

「うむ・・・」

 

 

エルメッツァ側のフネ、エルメッツァ中央政府軍が正式採用している戦艦であるグロスター級が、ヤッハバッハ側の大使が乗るフネへと近づいた。

有視界で相手の姿を見たエルメッツァ人たちは、一世代前のフネのデザインを取っているヤッハバッハ艦を見て、威圧感こそ感じたがそれ程強い訳ではないだろうと考えていた。

しかし、その距離が縮まるにつれて、徐々にその考えが間違いであることに気づかされる。

 

 

「!!これ程巨大な艦だとは・・・」

 

 

ルキャナンが思わずそう呟いていた。

エルメッツァ中央政府軍が採用しているグロスター級の全長はおよそ800mである。

たいして、ヤッハバッハ側のフネはというとグロスター級の倍以上。

ダウグルフ級とよばれるヤッハバッハ帝国の高位士官に与えられるそのフネは、全長が2250mもあるのだ。

近づけば近づくほど、その威圧感は半端ではない。

システム化が進み、最低限の砲塔しか無いグロスター級に比べ、ダウグルフ級は船体各所に対空ビームシャワークラスター、対空ミサイルランチャークラスターを備えている。

上甲板には4連装主砲塔が2基備えられ、艦底には大型リニアカタパルトまで装備されている。

全身がそれこそ武器の塊、無骨ながらも無駄が無いそれは戦うフネだという事を嫌でも思い知らされる。

 

 

「軍務官、ヤッハバッハに対する認識を改める必要があるのでは?」

 

「む・・・」

 

 

ルキャナンは副官の言葉に一瞬眉を寄せる。

今回軍務官を任された彼は非常に優秀な男であり、副官が漏らした言葉に内心同意していた。

しかし、だからこそこの場でそれに同意することは躊躇われた。

戦争では士気というものが非常に重要なファクターとなる。

精神力だけでは戦えないが、精神力が無いと戦えないのもまた真実なのだ。

いまここで彼が同意してしまえば、そのことが部下の間に伝染してしまう。

万が一戦闘になった場合、そのことが最悪の事態を招く可能性もあった。

それゆえ、ルキャナンは副官の言葉には答えず、そのままヤッハバッハ艦へと向かうのだった。

 

 

「ようこそ。我がヤッハバッハ先遣隊旗艦、ハイメルキアへ。艦隊総司令はこちらでお待ちです」

 

「は・・・」

 

 

エアロックを抜けると、出迎えたのは撫で肩でのっぺりとした感じの顔をした男だった。

仮面のように何処か張り付けた様な笑みを浮かべ、こちらへどうぞと手招いている。

よくある参謀タイプの人間かルキャナンは思いつつ、初めて乗る異星系のフネを見回した。

通路は非常にシンプルかつ、大人が4~5人ならんでも走れるほどの広さがあった。

これは非常時の移動をスムーズにさせる為の処置だろうと彼は思った。

次に歩く時に足に響く感じから察するに、通路の材質はかなり丈夫な金属でつくられている。

エルメッツァ系には無い酷く分厚い感じを受けることから、厚もかなりあるのだろう。

それはつまり豊富な資源を元に、恐ろしく頑丈につくられたことにほかならない。

それでいて一見しただけではソレは理解できないのだから、技術力はかなりのものだ。

ルキャナンは案内されながらも、密かにそうやって相手の観察を怠らなかった。

そして少し進んで昇降機を何度か乗り変えたあと、恐らくは会議室に通された。

そこには金髪蒼目の美丈夫が1人、椅子に腰かけ窓から外を見つめている。

その人物は此方が入ってきた事に気が付くと、微笑みながら振り向き、声をかけて来た。

 

 

「エルメッツァの全権大使、ルキャナン殿ですな。私はライオス・フェムド・へムレオン。ヤッハバッハ皇帝ガーランドより、小マゼラン銀河への先遣艦隊総司令を仰せつかっております」

 

「これは・・・」

 

 

ルキャナンを含め、副官や護衛官達も驚いた表情になる。

なぜなら異性国家の人間である筈の人物の口から、自分たちの国の言葉と同じ言語を発したからである。

それも訛りなどまったくないとても流暢な、聞いていて清々しいほどの発音で。

 

 

「驚きましたな。随分と流暢なエルメッツァ語を話される」

 

 

この場に居るエルメッツァ人の心情を代弁するかのようにルキャナンは応える。

それを聞き、ライオスはまるで子供が悪戯に成功したかのように笑みを浮かべた。

 

 

「はは。彼女・・・ルチアから教わったのですよ」

 

「ルチア・・・?」

 

 

ライオスの言葉に、改めてルキャナンはその背後へと視線を向ける。

そこには、居並ぶ副官らしい男たちに混じって、一人の女性が立っていた。

ルキャナンの視線に気が付いた彼女はライオスの方を向き、ライオスが頷くのを見て改めてルキャナンの方を向いて口を開いた。

 

 

「ルチア・バーミントン・・・かつてツィーズロンドのアカデミーで主任を務めておりました。軍務官にも2、3回お会いしておりますが、覚えていらっしゃいませんか?」

 

 

ルチアと名乗った彼女は、どうやらエルメッツァの出身であるらしかった。

そう言えば何処かで見た顔だと思っていた矢先、ルキャナンはあることを思い出し吃驚した。

 

 

「まさか・・・消息不明となったエピタフ探査船の・・・!?」

 

「はい。今はライオス様に拾われお世話になっております」

 

「・・・っ」

 

 

あっけらかんとそう応えるルチアに対し、ルキャナンは顔を顰める。

何故なら彼女が本当に消息不明となったエピタフ探査船の乗員であったなら、此方の情勢がほぼ丸ごと相手に渡っているということにほかならない。

態々この目の前の美丈夫の副官何ぞやっている辺り、ほぼすべての事を話したと見て間違いない。

エルメッツァは大国とはいえ連合国家である。つまりは言い方は悪いが寄せ集めなのだ。

これまで他国に対して確固たる態度をとれてきたのは、とどのつまり大国故の張り子の虎であったが為であった。

だが、今回のこの相手はその張り子の虎が通じる相手では無いことをルキャナンは密かに感じ取っていた。

そして、ルキャナンの考慮したことは、まるで台本があるかのように的中する。

 

 

「彼女のお陰で小マゼランの政情、国勢などを既に我々は把握しております」

 

「なっ・・」

 

 

思わず驚きの声を出しそうになったルキャナンだが、その次に放たれたライオスの言葉に、更に驚愕する事になる。

 

 

「その上で申し上げる。エルメッツァ政府は即座に我々ヤッハバッハに無条件降伏し、その下へ入っていただきたい。現政府は解体し、我々の総督府をツィーズロンドへ置く。勿論軍は我々の指揮下ということになります」

 

 

突然の降伏勧告。

エルメッツァ星間連合という大国相手に、目の前の若き美丈夫は気遅れもせずそう言いきったのだ。つまりは我が軍門に下れと、彼らはそう突きつけて来たのである。

 

 

「そ・・・そんな条件がのめるとお思いか?」

 

 

冷や汗が止まらないルキャナンは、何処か震えそうになる自身の声をどうにかしてやりこめて、そう返した。

対するライオスはどこ吹く風。ちょっと演技臭く顎に手を当てて考える仕草を取る。

 

 

「・・・たしかエルメッツァ本国の艦船数は、3万隻ほどとか」

 

「む・・・」

 

「そちらの宙域レーダーでは全容を捉えきれておらぬでしょうが、我が先遣艦隊のそう艦隊数は―――12万です」

 

「っ!?」

 

 

12万、目の前の美丈夫は12万と言ったか?一瞬わが耳を疑うルキャナン。

だがそれを顔には出さない様になんとかポーカーフェイスを保つことには成功する。

 

 

「・・・そのような・・・はったりを・・・」

 

「はったりとお思いなら、現実の力でお見せするまで」

 

 

ライオスの何気ない風に放たれたその一言だけで、ルキャナンは理解してしまった。

この美丈夫が話した内容は、全て本当のことなのだろうということを。

仮にハッタリだとしても、相手の言う通り此方の宙域レーダーではヤッハバッハ先遣艦隊を把握できなかったのだ。

その情報がもたらすこと、それはつまり―――

 

 

「元々、我々ヤッハバッハは、そちらの方が得意なのでね」

 

「く・・・では、これ以上の交渉は無意味ですな。失礼する!」

 

 

したり顔でそう言って来る美丈夫に対し、憎々しいという感情をもはや隠そうとしないでルキャナンは荒々しく席を立ち、会議室から出ようとした。

これは警告でも勧告でも何でもない、ただの命令なのだ。

自分たちに従えと命令しに来たのだ彼らは。

いそいでエルメッツァ側の先遣艦隊と連絡をとり、戦闘準備を整えなくてはならない

そんな彼をライオスが呼びとめた。

 

 

「ルキャナン大使」

 

「まだなにか?」

 

「ズィー・アウム・ヤッハバッハ・・・」

 

「・・・?」

 

「我々はヤッハバッハである、という意味です」

 

「・・・、それ以上の説明は要らぬ、と?」

 

「ふふ・・・」

 

 

ライオスは不敵な笑みを浮かべると、もう用は無いとばかりに椅子に腰かけた。

ルキャナンはそんなライオスを一瞥したあと、そのまま自分たちのフネへと帰還した。

 

 

―――そしてルキャナンが帰還すると同時に、両陣営は戦闘状態に突入する事になった。

 

 

マルキス提督率いるエルメッツァの士気は非常に高く、全艦放送で提督からの激励の言葉が飛び、その後で一斉に各艦が砲門を開き、目の前の侵略者たるヤッハバッハの艦隊に照準を合わせた。

その一糸乱れぬ行動は、彼らがかなりの錬度を持ち将兵たちであることを物語る。

 

一方のヤッハバッハ艦隊はエルメッツァが砲門を開いても、今だ動こうとはしなかった。

命令系統に混乱が発生した訳ではない。では何故か?

それは彼らにとって、目の前のエルメッツァ艦隊は―――

 

 

「前方敵艦隊、砲門開口を確認・・・どうやら抗戦するようですな」

 

「ライオス様・・・」

 

「どうやらルチアの言う通りらしい。保守的な生に汲々とする連中は、その生を支えるロープが切れそうになっていても気付かぬのだ」

 

「はい、もはや滅ぶべき国であると思っております」

 

「つらくはないのか?」

 

「いえ・・・」

 

「では総司令、如何いたしますか?」

 

「・・・もみつぶせ。我々はヤッハバッハである!」

 

 

―――全く、脅威でも何でもない。ただ刈り取るべき存在でしか無かったからである。

 

 

ライオスのもみつぶせの言葉通り、ヤッハバッハの艦隊は前進を開始した。

ブランジ級突撃艦を先鋒に配置し、それに追随して戦艦、巡洋艦、空母と続く完全な突撃陣形を組んだヤッハバッハ艦隊はエルメッツァ艦隊が放つ一斉射撃を受けてもびくともしない。

その事に指揮を執っていたオムス・ウェルが困惑した声を発していた。

 

 

「うむっ・・・敵艦は射程に入っているのか!?」

 

「入っています!ですがダメージを与えられません!」

 

 

エルメッツァ艦隊の放つ攻撃は、確かにヤッハバッハ艦隊に届いていた。

発射されたビームやレーザーのほぼすべてが敵艦に命中していたのである。

だが、稀にプラズマを発する事はあっても、エルメッツァ艦隊の放つ攻撃は強力なAPFSやデフレクターを搭載しているヤッハバッハ艦隊を傷つけることかなわない。

エルメッツァ艦隊はなんとかして相手の進行を阻止しようとするが、まるでダメージを与えられず、ヤッハバッハ艦隊の接近を許してしまう。

やがて相手はエルメッツァ艦隊を十分な射程圏に捉えると、一斉射撃を行った。

光学兵器の多いエルメッツァ艦隊とは異なり、ヤッハバッハ艦隊から放たれるのは数世代前の実弾型の速射砲であった。

だが、突撃の際の速度が加わった大口径の速射砲から放たれる砲弾の雨は、大蛇の顎門となってエルメッツァの前衛守備艦隊を容赦なく食いちぎった。

実弾兵装があまり使われなくなったエルメッツァ側にしてみれば、相性が悪かったと言うほかない。そして敵は速射砲を放ちながら大型ミサイルまで放って、前衛艦隊を文字通りもみつぶした。

 

 

≪ズズーン!!≫

 

「うおっ?!」

 

「ぜ、前衛艦隊ほぼ消失!中衛艦隊も被害多数!旗艦ブラスアームスも轟沈しました!」

 

「ば、ばかな・・・!僅か一斉射で・・!?」

 

「敵艦隊、速度そのまま・・・突っ込んできます!」

 

「うおぉぉっ!?」

 

 

気が付けばヤッハバッハ艦隊は前衛艦隊を軽々と突破し、エルメッツァ艦隊の中央に躍り出ると、これでもかというほどの全方位攻撃を実施した。

この戦法はヤッハバッハが一番得意としている戦法であり、ブランジ級突撃艦にはその為の全方位型対艦ミサイルクラスターが装備されているほどである。

そしてその戦法をもろに喰らったエルメッツァ艦隊はまさにボロボロと言った状況に陥った。

 

 

「ば、ばかな・・・こんな・・・こんな・・・」

 

「モルポタ艦隊各艦!応答せよ!応答せよ!」

 

 

前衛でありながら最初の一斉射で運良く全滅を免れたモルポタ・ヌーン率いる艦隊も、容赦のない敵艦隊の砲撃を避けるの精いっぱいであった。

すでに中衛艦隊にまで切り込んでいる敵艦隊相手に、引くことも逃げる事も出来ない彼らは、なんとか生き残りを集めようと通信を飛ばす。

 

 

「だ、だめです!すでに80%の艦船を失っています!」

 

 

既にエルメッツァ艦隊は艦隊としての機能を失っていた。

実質的な壊滅状態であると言っても良かった。

戦闘が始まったから、まだ1時間と経過していないのにもかかわらずである。

 

 

「後方の艦隊が離脱を開始しました!我が艦も逃げましょう!」

 

「に、逃げるだと・・・?」

 

 

至近弾が炸裂し、そのデブリがデフレクターを揺らす中、モルポタの副官がそう叫ぶ。

モルポタもそうしようと思い、命令を下しかけたその時。

偶々外部モニターに映る自軍の姿を見てしまった。

突撃してくる敵の艦を食い止めようとグロスター級戦艦やサウザーン級巡洋艦が進路上に躍り出るが、突撃艦はなんと立ちふさがる戦艦に文字通り突撃すると、そのまま胴体を突き破って強引に突破している。

爆散するが砲塔は生きているフネが、行かせはしまいとばかりに奮闘し、止めを刺される瞬間をモルポタはその眼で見た。

 

 

「に、逃げる・・・こんな奴らを・・・このまま我が母国へ・・・行かせるのか・・・」

 

 

行かせるのか?ここで自分たちが逃げて、そのままこの無慈悲な侵略者たちを本国へと?

次々と火の球に変えられる同胞たちをみて、モルポタはこれまでにないほどの怒りを覚えつつも、困惑していた。

 

 

「軍人になったとはいえ今まで・・・これ程の戦闘があるとは思ったことは無かった・・・。無難に任務を終え、ほどほどの出世をし・・・、その後は悠々と年金暮らしをするつもりだった・・・」

 

 

戦闘の弩号が鳴り響くブリッジで、モルポタは艦長席のコンソールに寄りかかる。

彼の独白は戦闘の音にまぎれて、周囲には聞こえてはいない。

内容は、微妙に情けないものだが、職業軍人なのだし仕方が無いだろう。

 

 

「業者からのリベートも受け取った。地方軍に便宜を図り、見返りを貰ったりもした」

 

 

・・・ああ、まぁ周りには聞こえていないから大丈夫。

もっとも聞こえていたらしばらく白い目が絶えなかったことだろうが。

 

 

「大国の軍の中で栄光を楽しみつつ・・・人生を終えればそれでよいと考えていた・・・だが」

 

 

モルポタはもう一度戦場を映しだす外部モニターを見つめる。

 

 

「だが・・・今、こうして本当の母国の危機を見た時・・・そうだ私は・・・私は国を・・・民を守る軍人なのだっ!」

 

 

モルポタ・ヌーンは顔を上げると、同胞軍を滅多撃ちにしている敵を思いっきり睨みつける。

そして、居た!まるで敵はいないかの如く我が物顔で突撃艦の後を続いてやって来る敵艦隊の旗艦の姿を!

今まで適当にすごし、適当に出世し、適当に良い思いをしてきた矮小な男であるモルポタが大声を出し決意した瞬間である。

突然大声を上げた彼に、周囲の部下たちも驚いて彼を見上げた。

 

 

「た、大佐?」

 

「総員を退艦させろ!これより我が艦は、敵、旗艦へと特攻を掛ける!!」

 

 

部下たちは驚き、モルポタが乱心したかと考えたが、彼の出す雰囲気にのまれ全員何も言えずブリッジから退室して言った。

モルポタは船内に残るクルーが脱出ポッドに乗り込み全員離脱したのを確かめると、一人操縦席へと座り、インフラトン機関のリミッターを解除した。

通常のグロスター級からは考えられない程の速度を出し、彼の乗艦は突撃艦の群を突破して、ヤッハバッハ先遣艦隊旗艦、ハイメルキアへと迫る。

突然の敵の愚行にも関わらず、ヤッハバッハは特に慌てた様子を見せることは無かった。

全エネルギーをシールドとデフレクターと推進機に回したグロスター級は、各所に砲弾を受けて炎上しながらもその速度を更に加速させる。

 

 

「う・・うう・・・うおおおおおおおおおッッ!!!」

 

 

モルポタを乗せたグロスター級はそのままハイメルキアへと激突。

同時にリミッター解除で焼き切れる寸前だったインフラトン機関も爆発し、周囲に蒼い火球が広がった。

だが、遠目からその光景を見ていたエルメッツァ軍は、次の瞬間吃驚する。

インフラトンの炎に照らされながらも全くの無傷のハイメルキアが、火球の中から姿を現したからである。

 

 

「・・・少し、揺れたか?」

 

「そのようで」

 

 

そのような会話がぶつけられたハイメルキアの艦橋でかわされたとか。

そして、数時間を経たずしてエルメッツァ先遣艦隊は壊滅。

ヤッハバッハはその矛先をエルメッツァ本国へ向けて、進軍を開始したのであった。

 

 

Sideout

 

 

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第六十二章+第六十三章+第六十四章

 

Sideユーリ

 

 

『―――とまぁ、そう言うことなのです』

 

 

俺はセグェン氏からの情報を聞いて、どうやら原作通りの事が起きたと推察した。

エルメッツァ艦隊の壊滅、これは仕方が無い。

敵は非常に強大であり、むしろ数時間持っただけでもすごいことだろう。

 

 

『これを見てどう思いますかな。ユーリくん』

 

「ふむ。エルメッツァの大国神話もこれで終わりでしょうね」

 

『そう、大国は更なる強国に敗れた。コレが意味するところは君なら理解できる筈だ』

 

「・・・小マゼランの壊滅。もしくは従属、ですね」

 

『その通り。小マゼランで一番大きかった国が敗れた。それより小さな勢力しか持たない我々が勝てる見込みは全く無い。恐らく上層部は出来る限りの譲歩を条件に、無条件で降伏する可能性が高い』

 

「・・・まぁ只でさえカルバライヤとの戦争で疲弊している今、新たに戦える力は無いですよね」

 

『そう、我々は勿論。小マゼランに点在するいかなる国も、彼奴らに対抗できる力を持っていないのです。すでに我々は負けたと言ってもいいでしょう』

 

 

・・・この場にトスカ姐さんがいなくて良かったな。

このセグェン氏の言葉を聞いたら、ソレだけで激昂して汚い言葉を吐きだしていたに違いない。

彼女も頭に血が昇るタイプだしなぁ・・・っと、それは置いておいて。

 

 

「成程。つまりセグェン・グラスチ社もどうなるか分からないという訳ですね」

 

『その通りです。今の今までネージリンスにご協力くださってありがとう。コレを言いたかったのです』

 

 

セグェン氏は通信越しではあったが、俺に対して深々と頭を下げていた。

・・・どうやら、俺はこの人を見誤っていた様だ。

商人としての顔もそうだが、コレもまたこの人の素顔なのだろう。

 

 

「その、礼を受け取っておきます」

 

『感謝します。それと我らが同胞を多く救ってくださって、本当にありがとうっ』

 

「・・・偶々近くに居ただけです。別に褒められる様な事じゃない」

 

『―――それでも、私は礼を言いたかったのです』

 

 

そう言うと、セグェン氏はまた俺に頭を下げていた。

腕一本で会社を起し、銀河系に名をとどろかせる程の企業にまで育てた程の男が、宇宙に出てから僅かしか時間が経っていないこの俺に頭を下げる。ある意味信じられない光景だろう。

だけど、いい加減居心地が悪い。なんだか老人を虐めている様な感じがしてならん。

 

 

「あの。もう礼は受け取りましたから、その・・・」

 

『おお、これはいけない。年をとるとついつい感情に左右されやすくなりますわい』

 

「はぁ・・・」

 

『まぁ、同胞の話はこれまでと致しましょう』

 

 

ふむ、同胞の話“は”ね。

 

 

『まぁつまり、これから先、小マゼランに未来は無いのです』

 

「そうなんですか?案外良い統治をしてくれるかもしれませんよ?」

 

『希望的観測に金は掛けられないのが商人です。恐らく無条件降伏後に統治されるでしょうが、そこで我々のようなコングロマリットが優遇される保証は無いのです』

 

 

まぁそりゃなぁ。S・G社は軍部にも深くかかわっていた訳だし?

下手するとそのまま解体される可能性もあるわな。

 

 

『もしかしたらS・G社はお取り潰しとなるかもしれません。そうなれば彼奴等の企業が我が物顔で我々が築き上げた客層も取引先も、研究していた成果すらも持って行ってしまう。それが私には我慢ならんのです』

 

「だが、命あってのものダネでは?」

 

『命あろうとも生きがいがなければ、人は死人と同じですわい。まぁそう言う訳で恐らく取り潰される会社はしょうがないのですが、私は私の宝を侵略者に渡すつもりなんて毛頭ない』

 

「宝、ですか?」

 

『そうです。私の宝。セグェン社が作り上げてきた某大な造船基礎データと・・・私の孫娘です』

 

「・・・」

 

 

おいおい、オイラとっても嫌な予感がするんですが・・・。

 

 

『ユーリくん、お願いです。私の宝であるキャロを、どうか君のフネに乗せてやってほしいのです』

 

 

はい、来ましたー。恐らく核心である話がきましたよー。

なるほど、つまりは避難民云々のことを引き受けるのは、キャロ嬢を俺に預けるということへの非公式な見返りってワケか。

関連性が見いだせない報酬ということになる訳だから、他の人間には判いづらいだろう。

でも、やっぱり疑問が残るな。

 

 

「セグェンさん、一つ聞いてもよろしいか?」

 

『なんでしょう?』

 

「正直に言って貰いたい。何故キャロ嬢を自分のフネに?」

 

『それは以前ユーリくんが良くしてくれたとキャロが―――』

 

「嘘ですね。貴方はそんなことで自分の宝という孫娘を手放す筈が無い」

 

『・・・』

 

「お願いです。腹を割って話しましょう。でなければ私はフネを預かる者として、キャロ嬢を自分のフネに乗せることが出来ない」

 

 

腹に爆弾抱える酔狂さはもってないんよ。

俺がそう伝えると、眉間にしわを寄せてものすご~く悩むセグェン氏。

どうやら思っていたよりもかなり込み入った話のようだ。

どうしよう、俺まだ仕事少し残ってんだヨ。

早くやらないと、トスカ姐さんにチョークスリーパー掛けられちまうんだ。

 

 

『・・・判りました。正直にお話ししましょう』

 

 

っと、いきなりかよ。

とりあえず俺は思考をセグェン氏の方にかた向けた。

 

 

『実はセグェン社にも幾つかの派閥があるのですが―――』

 

「ええ、確か会長派や社長派とかいうヤツですね」

 

『・・・何で知っていらっしゃる?』

 

「以前、キャロ嬢から聞きました」

 

『そ、そうですか・・・まぁソレは良いです。兎に角派閥があるのですが、こたびのヤッハバッハ襲来により、本社がお取り潰しとなる可能性が高いと出た訳なのですが、上層部の何人かがヤッハバッハ高官に贈りものを渡して会社を継続させようと言いだしたのです』

 

 

ここまで来ると大体筋が読めたな。

 

 

「なるほど、その為のキャロ嬢ですか」

 

『そう、我が社の派閥である社長派が中心となってそのような話しが動いているらしいのです。密かにヤッハバッハとコンタクトを取ろうとしていると』

 

「貢物として現会長の孫娘とは・・・これまた3流ドラマみたいですね」

 

『それが現実に起ころうとしているのですから、此方としては堪ったモノではないです。コレを知ったのは秘書のファルネリが教えてくれたからなのです』

 

 

キャロ嬢はああ見えて小マゼランの社交界に顔が知られている。

確かに統治の為に派遣されてくる高官にとってはある意味で非常に有能な存在だろう。

ソレだけでは無く、彼女かなり顔の素材もいいからな。

そっち方面でも人気が出そうだな。うん。

 

 

「・・・しかた無いですね。彼女が慰みモノになるのは流石に気がひけます」

 

『おお!では!』

 

「その代わり、キチンと登録の方お願いしますよ?それと序でに造船基礎データも貰いたい」

 

『その程度で済めば安いものです!すぐにそちらへと向かわせますのでよろしくお願いいたしますぞ!』

 

 

何だか画面の向こうで小躍りしそうなほど喜んでいる。

爺だから見ていても楽しくは無いんだけどな。

つーか造船基礎データは宝じゃ無かったのか?そんなホイホイ渡していいのか?

・・・まあ孫娘には変えられないわな・・・っと、そうだ忘れちゃいけない。

 

 

「ああ、それとキャロ嬢の薬の製造の仕方も教えてほしいです」

 

『お安いご用です。それでは秘密裏にキャロを白鯨に合流させます。合流地点は後でお送りしますので、どうかよろしく』

 

「了解です。ああ、でも一応ウチのクルーと同等、もしくはクルーとして扱いますので、そこはご了承ください」

 

『判りました。キャロにもいい経験になるでしょう。それでは私はコレで』

 

「ええ、それでは」

 

 

こうして、通信が終わり通信室は薄暗い部屋に戻る。

ああ、しかしまたこんなの原作にあったっけなぁ?

少なくてもキャロ嬢がこの時期に合流とか言うのは無かったはずだ。

・・・少なからず俺の行動が影響を与えたかな?

出来れば、バタフライ効果とか起さないでくれよ。

流石に因果律にまで手は出せねぇからな・・・マッドがどうにかしそうだけど気にしない。

 

 

「・・・っと!書類書かなきゃッス!!」

 

 

そう言えばまだ仕事が残っているのだ。急いで戻らねばなるまい。

久々の敬語系で凝った肩をほぐしながら、俺は通信室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

さて、ちーとばかり情報が入ったので整理させてもらう。

セグェン氏から提供された情報によると、エルメッツァ先遣艦隊5000隻を壊滅に追い込んだヤッハバッハ艦隊は、すでに20光年の位置に来ているらしい。

巡航速度で航行したとしても多少の誤差はあれど、大体一か月以内に小マゼランに到達する計算となる。

光の速さで20年掛かる距離を一カ月とか、相当凄い早さということになる。

ボイドゲート使って無いのに後一カ月とか・・・エルメッツァ終わったな。

 

そして各国の対応は、エルメッツァはやはり中心となる艦隊を先の戦争で失ったので、抗戦は絶望的らしい。

ネージリンスの方も、さすがに大国エルメッツァが落されたことで、上層部も重い腰を上げたのか停戦協定をすぐにカルバライヤと締結、艦隊の編成を推し進めている。

一応地方に回されていた地方軍を呼び寄せているらしいが、それでもヤッハバッハの大艦隊に比べれば雀の涙ほどでしかないだろう。

カルバライヤもほぼ同じらしく、艦隊の再編を急ぎつつ、政府の判断待ちといった状況だ。

 

まぁ裏の情報を聞くところによると、どの国でも徹底抗戦を唱えている奴は極僅かでしかいない。

エルメッツァの軍がいれば話は別だったのだろうが、それもいない今、只でさえ戦争で主力を欠いた現状では徹底抗戦では無く、降伏を受け入れるという世論のほうが強い様だ。

 

なまじ民主主義の国家が多いから、結局決めるのは軍でも政府でもなく国民だ。

ネージリンスは国民の気質が合理的な考えに基づくところが大きい為、おそらくは降伏出来るように裏で工作を進めているのだろう。

不気味に沈黙を続ける軍司令部がちと怖いぜ。

 

また民主主義では無く、自治領で領主が収めている星系も結構あるのだが、基本的には不干渉、もしくは静観を決めている。

飽く迄も自治領側としては自分たちが所属する派閥が変わる程度の認識でしか無いらしい。

ヤッハバッハが強大な軍事力を背景にせめてくるなら、あっさり降伏して下るつもり満々の様だ。

まぁ無用な犠牲を出さないという意味では、ある意味とても賢い選択だろうよ。

 

ちなみにエルメッツァは結局こっちの忠告を無視した結果壊滅の憂いにあった訳で、このことを後で主要メンバーのみの会議で話した所、やはりトスカ姐さんが紛糾していた。

だが、こうなることは予想の範疇ではあったらしい。

 

 

「ああいう連中は、いつも同じ間違いを繰り返す・・・いまさら何を言っても始まらないさ。ま、一介の航海者の言う事に耳を傾けろという方が無理だしねぇ」

 

 

――と、ある程度理性的な対応を表面上見せていた。

だがよく見れば手が白くなるほど強く握りしめられている辺り、理解はしても感情は納得していないと言ったところだろう。

今度晩酌を差し入れすることにした。溜めこむのはいくないね。

 

 

それはさて置き、ブリッジクルーやトーロやイネスなども加えた会議はかなり荒れた。

血気盛んな連中はとにかく徹底抗戦すべきと声を張り上げ、客観的に冷徹に物ごとを見ている奴は絶対に無理だから退避すべきと反論する。

そしてどっちつかずな奴らは、自分から意見を出さずに静観の構えだ。

 

とりあえず、大まかに3つの意見があるという形になるわけだが、どの意見も根底には共通するものがある。

徹底抗戦にしろ、一度退避するにしろ、最終的には敵は撃ち倒すという意志が込められているのだ。

なまじ小マゼランは自分たちの故郷、荒くれ者たちとはいえ故郷を蹂躙されて黙って見てられるほど冷血漢がいない事に、ある意味で俺はありがたいと思った。

 

だが、そうなると困るのはヤッハバッハの対応である。

とりあえず正面から対峙するのは論外であるが、このまま逃げても碌な軍事力が無い現在の小マゼランはすぐに占領されてしまうだろう。

だからと言って大マゼランに逃げたとしても、大マゼランにヤッハバッハ艦隊がなだれ込んでくる事は明白だ。

盾にすらならねぇとか小マゼラン使えねぇなオイ。

 

これに対応するには選択肢が幾つかある。

一つは隷属。連中の軍門に下るか隷属に見せかけたゲリラ戦を行うというものだ。

大国相手にゲリラ戦は結構有効な戦法である。致命的な打撃は与えられなくても、戦力を減少させたり分散させることが可能であり、また住民に溶け込むことでテロを起すことも出来る。

俺が元いた世界でもテロなどのアレは撲滅とかは難しかったもんな。

まぁ一般人を巻き込むのはいただけないが、戦術的には正しいかもしれない。

テロリストの汚名を着てもいいのならやればいいんじゃないかな。うん。

 

また隷属を選んでも、弱者は強者へとへつらうのは自然の摂理に基づいたものだから責める人間はいない。

しかし、それだと人間の感情というモノが良しとしないのだ。

例え隷属を選んでも、下手すると鬱憤が溜まり爆発する危険性がある。だが鬱憤に任せた感情の爆発から来る抵抗なぞ、精強な軍事力をもつヤッハバッハ相手には小便引っ掛けた程度にもならん。

逆に反航勢力として一挙に殲滅される可能性が高い。

それなら最初から隷属に見せかけて裏でゲリラ戦だろう。

 

二つ目はすぐに逃げ出す。

今取れる中で一番の最善であり、長期的に見れば最悪と言える策である。

逃げだすことは簡単だ。今だ力が隠されているデメテールであるが、現状であっても巡行でならマゼラニックストリームの荒波でも耐え抜き、大マゼランに退避する事くらいできる。

 

しかし、それをすると俺達が通った航路の痕跡が間違いなく残る。

その痕跡を辿り、そのままヤッハバッハ艦隊が大マゼランに到達してしまう可能性が高い。

そうなれば準備も何もしていない大マゼランはいきなり奇襲を受けるに等しく、例え大マゼランの軍が先遣艦隊を倒しても、現行の技術でその後に来るであろうヤッハバッハ本隊と戦えるか疑問である。

 

なにせ原作では十年以上かけて秘密裏ではあったが準備していた大マゼランの軍ですらヤッハバッハの侵攻により半壊しているのである。

ここで逃げれば漏れなくヤッハバッハ付きで大マゼランがアボーンな運命となるので、逃げるのは最終手段ということになる。

 

 

「・・・なんかもう八方塞がりっぽくね?」

 

「同感(一同)」

 

 

冷静に現状を鑑みると一気に会議室のムードが暗くなっちまったぜ。

何せここまでわかった事と言えば―――

 

・抗戦はムリ

・逃げるもダメ

・逃げても逃げきれry追いかけてきた!?な、何をするー!

 

―――である。会議が暗くなるのもいたしかたないことだろう。

 

 

「一応、科学班及び整備班の方に予算は通しておくッス。

最低でもその場から逃げられる程度の装備は研究しておくことをお願いするッス」

 

 

とりあえず、ヤッハバッハ関連についてはこれくらいしか出来そうもない。

科学班を統括しているサナダと整備班のケセイヤから来ている予算案を通すことを進める。

戦争でジャンク品がめいっぱい手に入ったから、予算的には余裕があるからな。

まだまだ航行中に戦闘後で散らばったジャンクが手に入る。

例え売れないゴミであっても金属ではあるから、最悪溶かして金属のインゴットにすれば、それなりの値段となるのだ。

 

 

「了解だ。ま、なるべく予算内に収まる様にしてやるよ」

 

「・・・普通は予算内が基本何スがねー。あとは新しく引き入れた住民とクルーはどうなってるッス?」

 

 

ケセイヤさん達は相変わらず趣味と興味には情熱を傾けることを惜しまないなぁ。

とか考えつつ、新たに入ってきた乗組員のことを聞くと、パリュエン、ミドリ、ヴルゴが順に立ち上がり、現在の状況を報告し始めた。

 

 

「はい、現在大居住区に部屋を割り当てました。家族持ちは最低3LDK、スペースだけは有り余っているので一人身でも今は1DKの状態です」

 

 

とりあえず乗員の住処は大居住区に設定されている。それは俺達主要クルーも同じだ。

俺に至っては一軒家を最近手に入れて、そこに住んでいる。

まさかフネの中に一軒家があるとか普通は思わねぇよな。

 

さて、大居住区は避難民たちを収容してもまだ余裕があった。

なのでさらにそこから選抜した新入りを抱え込めるスペースは十分にある。

逆にスペースがスカスカなのは、今後を見越してのことなので問題は無い。

 

 

「それとそれぞれ適性職への割り振りを開始しました。現行で元々の職業から7割が選別を終えて、それぞれ訓練へと入っています。また以前の職歴を生かして、大居住区に会社を出すことを許可した為、大居住区都市化計画は着々と進行中です」

 

 

元の職業からすぐに仕事に移れる人間は結構多い。

それ以外にも希望者などに限り、他の仕事を割り振っているのが現状だ。

流石に数が多すぎて、以前のように新入りを適当に配置する訳にもいかないのだ。

そんなことをしたら、現状もし緊急事態になった途端、艦が機能しなくなる。

あ~あ、新人が勝手がわからなくて右往左往するあれ、名物だったんだけどなぁ。

ま、彼ら以降の少数配備の連中の選抜では元に戻すから別に良いけどね。

 

 

「戦闘班も艦隊勤務とパイロットで適性を分類、此方は数が少ないこともあり、既に選抜を終えて艦隊勤務はヴルゴ司令やトーロ司令、パイロットはトランプ隊主導の強化合宿実施中です。もっとも、元々戦闘歴が無い者たちばかりなので、とてもではありませんが現状戦闘には出せません」

 

 

コレは戦闘班からの報告だな。

戦闘系に関してはその手の専門家に近いヴルゴがいるし、パイロット育成に関しても百戦錬磨で部隊を数々の修羅場から生還させてきたトランプ隊のププロネンがいるから、彼らに新兵育成は任せている。

特にうちの場合はオートメーション化されたところが多いから、早く慣れてもらわなくてはならないしな。更なる訓練の日々のスタートだろうよ。

 

 

「さて、どうしたものか・・・」

 

 

さて、ちょっと話をずらして後回しにしたヤッハバッハの件。

別に俺らだけが単艦で挑むっていう話では無いのがある意味救いだけど・・・。

 

 

「どうするッス?みんな?」

 

「・・・・・・・・・(一同)」

 

 

良い案は出てくる訳も無く、ジッと手を見る・・・あれ?生命線短くね?

 

 

【あんたねぇ、死ぬわよ!】

 

 

脳内細木先生はお帰り下さい。いや冗談抜きで不吉過ぎますから・・・。

 

 

***

 

 

まぁ会議はこのくらいにして、とりあえず仕事に戻る事にしよう。

兵器関連の予算を通しておいたし、避難民からの選抜で人材の確保は出来た。

無人艦隊から有人艦を加えた半無人艦隊ようやくシフト出来た訳だしな。

あとは艦隊をもう少し増やしておいた方が良いかもしれないな。うん。

 

 

『―――艦長、お時間よろしいですか?』

 

「・・・あいあい、今はなんとかヒマはありますよー」

 

 

 トントンと書類を片しながら、ミドリさんが映る空間ウィンドウに顔を向ける。

 

 

『キャロさんと他2名が合流したとのことです』

 

 

・・・・・・・・おお!

 

 

「おお、そう言えばセグェン氏から頼まれてたッス」

 

『今の間がなんだったのかは聞きませんが、どうされますか?』

 

「う~ん、とりあえず人事の方に回して置いてくれッス~」

 

『会いに行かれないのですか』

 

 

いや、なにその心底驚きましたって顔。

 

 

「飽く迄キャロ嬢を預かる条件は普通のクルーとして扱うことッス。そう言った手前態々会いに行くのはちょっと問題があるッス」

 

 

本音は面倒臭いからなんだけどな!まさに外道!

 

 

『了解しました。彼女らの部屋はどうなさいますか?』

 

「てけとーに空いている所に振り分けてあげてくれッス」

 

 

まぁちーと可哀そうな気もするが、公私の区別は付けておかねばなるまいて。

それに一段落したとはいえ、俺にはまだ仕事があばばばばb。

・・・かみさま、ぼくにすいみんじかんをください。

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

「コーヒー飲みますか?」

 

「ああ、序でに砂糖多めで頼むッス。ユピ」

 

 

なんか久々にユピを見た気がする。

そんなメタな考えを脳内に思い浮かべていると、何処からともなくドドドドドという音が。

 

 

「じゃまするわよっ!!」

 

≪バンッ!ドゴン!≫

 

 

ドアァァァ!!!お前のことはわすれんぞーーー!!!10秒間だけな。

それは置いておいて、どういう訳か怒り心頭で頭から角が幻視出来るおぜうさまがドアを蹴破って入ってきました。

やっべ、攻撃色で真っ赤だ。怒りで我を忘れてやがるゼ。

 

 

「じゃまするんやったらかえってやー」

 

「このキャロ様が折角来たのにどうして会いに来てくれないのよ!説明を要求するわ!」

 

「おま、もちつけ」

 

 

こうぺったん、ぺったんと・・・いまのところ胸はぺったん。

はい、睨み頂きました。・・・漏れちまうぜ。何がとは聞くなよ?

だってねえ、キャロ嬢は将来はボインちゃん(死語)だけど、今はロリーな訳で。

うん、素晴らしき絶壁。貧乳はステータスで希少価値です。まぁ俺は多きほうが好きです。

あ、すんません、調子こきました。その巨乳好きは敵だっていう目は勘弁してください。

 

 

「あのねぇ、あたし艦長、あなたは一般クルー。いきなり会いに行く訳にもいかんでしょうが」

 

 

とりあえずまぁまぁと手を上げながら、正論を述べえてみた。

前はクルーが来るとその都度歓迎したのだが、今回は時期が悪い。

あまりに大量にクルーが増員されたモンだから、まだ歓迎会的なのも催していないのだ。

みんな殺人的過密スケジュールに忙殺されて超忙しいのである。

そんな中、一人だけに特別目をかけて会いに行くわけにもいかんだろう?

キャロ嬢は可愛いけど、彼女の今の能力は知らんから特に目をかけている訳じゃねぇし。

 

 

「うう、私ユーリと再会できるの楽しみにしてたのに・・・」

 

「はい、再会出来たッスねー、それじゃ俺仕事あるんで」

 

「あの熱い夜はなんだったのかしら」

 

「あの時は確か超巨大恒星ヴァナージの近くを通過して空調が逝かれかけたんスよね」

 

 

そんな訳でキャロ嬢がねつ造している記憶の様な事は起きて無いぜ残念ながら!

つーかテンション高いなキャロ嬢・・・どうしたんだろうか?

 

 

「むきー!艦長は私のこと愛してくれてないの!?」

 

「一番、愛している」

 

「やった!宇宙で一番愛しているってことね!」

 

「ニ番、愛していない。三番、どちらとも言えない」

 

「三択!?まさかの三択なの!?」

 

 

バーロー、そんな恥ずかしいこと真顔で言えるかってんだ。

まぁ俺は三番目を選ぶぜ!まさに外道!

あ、頬を膨らませてプスーってしてら・・・なにこの可愛い生きもの?

 

 

「まぁそれは置いておいて・・・ようこそキャロ・ランバース。我が艦隊は君を歓迎しよう」

 

「ええ、そうね。すこしばかり浮かれ過ぎたわ。此方こそお世話になりますわ艦長」

 

「・・・ぷぷ」

 

「・・・うふふ」

 

「「あ~はっははは!!」」

 

 

そして何かおかしくなって笑い会う俺ら。

あ~いいなぁこの感じ。この撃てばなるかのようなボケと突っ込み。

ネージリンスで別れて以来だぜ。ようこそ相棒、いやお帰り相棒か?

 

 

「くくく、なに?出迎えが無くて寂しかったッスか?」

 

「そ、そんにゃなわけないじゃに」

 

「落ちつけ、深呼吸だ。吸って吸って吐いて、だ」

 

「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー・・・OK、落ちついたわ」

 

 

キャロ嬢にそう言ったら何故かものすごく驚いて噛んだ。一体何に驚いてるんだか。

うふふ、それにしても未婚のおなごになんて単語いわせてるんでしょ。

まぁこの世界の出産ではラマーズ法使わんのだけどね。

 

 

「さて、とりあえず仕事部屋のドアを大破させたことは置いておくとして」

 

「う゛っ、わるかったわよ。ごめんなさい」

 

「うん、別に気にしてないからいいッスよ」

 

「あらそう?良かっ「キャロ嬢のお給金から退くから」このおに!悪魔!」

 

「悪魔で良いよ。悪魔らしいやり方でやらせてもらうから」

 

「うー!うー!」

 

 

そのうーうー言うのはやめなさい!

 

 

「お嬢様。それにユーリ艦長。いい加減話をすすめませんか?」

 

「ファルネリの言う通りです。お二人とも再会が嬉しいといってもはしゃぎ過ぎです」

 

 

突然キャロ嬢と俺以外の声が聞こえた。

声のする方に目を向けると、破壊されたドアの向こうには、元会長秘書のファルネリと老執事のトゥキタの姿が見えた。

恐らくこの二人はセグェン氏がキャロ嬢に付けたサポート役兼教育役兼保護者なのだろう。

本当に過保護だよなぁあの狸の爺さん。まぁこの二人はキャロ嬢にも忠誠を誓っているみたいだから妥当な人選だよな。

どっちも独身みたいだし・・・とか思ったらファルネリさんに睨まれました。おお怖。

 

 

「それで?真面目な話何しに来なすったんスか?こう見えても結構忙しい身なんスがね」

 

「アポを取らなかったのは謝りますわ。ついついこのフネに再び乗った興奮と友人との再開に心が躍り過ぎてしまいましたの」

 

「・・・あ~、キャロ嬢?無理に口調を作らなくても――」

 

「あら?私しここにきてからこの喋り方しかしてませんわよ?」

 

 

何言ってんだとキャロ嬢の顔を見た時、彼女の目が訴えてきた。

なになに?“ファルネリが礼儀に関してうっさいのよ”・・・ああ、そうなの。

でも、すでに“うー☆うー☆”言っていた所はファルネリさんに見られてるんじゃね?

マジやっべとか今更思っても、背後のファルネリさんが逃がさんという顔してるぜ。

あとでまたとっくんなのね~、ご愁傷様。

 

 

「まぁ出迎えの通信すらよこさなかったのは謝るッス。友達にすることじゃないよね」

 

「・・・そうね。私だって寂しかったのに・・・」

 

「まぁその理由もこれを見れば判るッス・・・コイツを見てくれ、コイツをどう思う?」

 

「・・・すごく、おおきいです(書類の山的な意味で)」

 

「でげしょ?最近沢山人を雇い入れたから・・・もう死にたい・・・」

 

「ちょ!そんなことで死んだらダメよ!?」

 

「そんな事とはなんでぃすかー!!元々専門家じゃないのに氷山の一角を崩したんだぞ!!むしろ褒めれ!崇め!称えろッス!」

 

「急に増長!?テンションおかしいわよ!?」

 

「・・・まぁ兎に角、すこぶる忙しいってワケッス。そんなわけでこれからもそれ程顔は合わせられないけどね・・・」

 

 

最近、戦闘の時とかのイベント以外、自宅から出てないのね。

基本的に通常運行は艦内の何処に居てもユピ経由で出来ちゃうし。

 

 

「ふーん、まぁそれはいいとしまして」

 

「いや、流すのかよ・・・」

 

「うるさい。とりあえず今のあんたは疲れ過ぎ!少し息抜きがてら遊びに行くわよ!」

 

「いや、遊びに行くって・・・どこに?」

 

「う・・それは・・・わ、私が居なくなってから変わったところとかあるでしょ?そこを案内しなさい!いいわね!反論は受け付けないわ!」

 

 

うわー横暴だー。俺は終わらせねばならぬ仕事が・・・。

って何で襟首をがっしり掴んでるですぅ?ちょっ!引っ張らないで!伸びる~!!

 

 

「行ってらっしゃいませお嬢様」

 

「ユーリ殿、お嬢様を頼みます」

 

 

ちょっと!常識人のお二人が何故に御手をお降りになられてやがりまするかぁ!!

ゴメン自分で歩くから!だから襟首引っ張らないで!俺はヌコとちゃうね~んっ!!

 

 

アッーーーーーーーーー!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・行きましたな」

 

「そうですわね。さて、お嬢様とユーリ艦長がお出かけしている間に私たちで少し艦長のお手伝いでもして差し上げましょうか」

 

「そうですな。見た所結構乱雑にまとめられている様ですし」

 

「艦長~♪お茶が入りまし―――はれ?艦長は?」

 

「ユピさん、お久しぶりね」

 

「あ、ファルネリさんお久しぶりです。艦長に頼まれてコーヒーを持ってきたんですけど」

 

「ユーリ殿はちょっと息抜きに散歩に行って来ると申しておりました」

 

「そうなのですか・・・あ、初めましてトゥキタさん」

 

「・・・はて?お会いしたことはありましたかな?」

 

「トゥキタさん、ユピさんは、彼女はこのフネを統括しているAIなのよ」

 

「なんと・・・人にしか見えません」

 

「あぅ・・・そのう、あんまり見られるのは――」

 

「おお、申し訳ありません。レディをあまりジロジロ見るのはいけない事でしたな。では改めて、私しはトゥキタ・ガリクソン、ランバース家の執事をしております。現在はお嬢様専属ですが」

 

「白鯨艦隊旗艦デメテールの総合統括AIの電子知性妖精のユピです。よろしくです」

 

「まぁ紹介はそこそこにして、この書類の山を少し片づけましょう?幾らなんでもこのままじゃお仕事も何もない訳だし」

 

「・・・そうですね。お手伝いお願いできますか?」

 

「私はかまいません。ファルネリはどうですかな?」

 

「元からそのつもりですから」

 

 

―――俺がいない所でちゃっかりと和んでいる三人であった。

 

***

 

Sideユーリ

 

 

「いらっしゃいませ~」店員A

「ようこそおいでくださいました~」店員B

「お会計ですか?6番レジにどうぞぉぉ!!」店員C

「ジュースが二点」店員D

「スナックが三点」店員E

「計五点で300クレジットです~」店員F

「袋にお入れしますか?」店員G

「カードでお会計ですね。そこにタッチしてください」店員H

「カードおかえししま~す」店員I

「ご利用ありがとうございました~」店員J・K・L・M・N

 

 

「ねぇユーリ」

 

「なにキャロ嬢?」

 

「・・・店員多くない?」

 

「・・・ちょっと、人事に連絡してくるっス」

 

 

キャロ嬢に拉致られて連れて行かれた船内イオングループ店舗においての出来事。

ちゃんとその後の人事で普通の店舗に戻したぜ?無駄だモン。

 

 

***

 

 

キャロ嬢に連れまわされて物凄く疲れながらも楽しかった日から数日後。

再度行われたこれから先どうすべきかの会議の場において、ついに方針が決定された。

いやまあ、現状を鑑みるとこれ以外のことが出来ないってのもあったんだがな。

そしてその方針を述べたのは、我らがトスカ姐さんであった。

 

 

「大マゼランに協力を求めるんだ」

 

 

この一言。この一言だけが会議室に響いた。

この一言を述べたことで、一瞬静まり返った会議室が、水面に小石を投げたかのようにザワザワし始める。

 

 

「大マゼラン銀河の軍事力なら連中とタメ張れる可能性がある。

幸いアイルラーゼンの人間とは面識があるからね。

バーゼルに連絡を取って救援を頼むのさ」

 

幾度にわたる会議。

その上で出た方針は、やはり大マゼランから応援を呼ぶというものだった。

各国の軍は期待できず、その上迂闊に撤退できないと言うこの状況。

トスカ姐さんが提示した可能性は、このままでは独力だけでヤッハバッハ12万の大群に挑まなければならない白鯨艦隊としては、暗闇の中の光明に見えた。

 

 

「アイルラーゼン。ああ、通商会議のときの―――」

 

 

会議の成り行きを見守っていた俺はトスカ姐さんの言葉に、そういえばそんな人がいたということを思い出した。

マゼラニックストリームにおいて行われた通商会議のパーティーに、トスカ姐さんと一緒に招待状を偽造して入り込んだときに出会った軍人の青年バーゼルさん。

 

軍人ってよりかは騎士っていう感じだったけど、良いとこのお嬢様風の格好に身を包んだトスカ姐さんの真摯な説明を一生懸命聞いてくれたとても気のいい青年だ。

・・・軍人としてそれはどうなんだと突っ込みたくなったが、気にしたら負けだよね。

 

 

「それじゃあ今から連絡を入れるんですかトスカさん?」

 

「いや、ここからじゃ無理だ。IP通信は大小マゼラン間では繋がってないからね」

 

 

イネスがトスカ姐さんに疑問に思った事を聞いた。

だがトスカ姐さんは首を横に振ってそう応える。

だとしたらどうやって連絡を取るつもりなのだという空気が会議室に流れるが、トスカ姐さんはシレっという態度でその疑問に答えた。

 

 

「ただ・・・唯一カシュケントのクー・クーがもつ通信装置だけが大マゼランに通信できるのさ」

 

 

カシュケントの長老会議所の長を務めるクー・クーは、一見業突く張りの婆さんであるが、噂では金さえ積めば手に入れられないものは無いという大商人でもある。

そしてその商品には大マゼラン製のものも含まれるのだ。

また大マゼランとの交易会議を行える事から、マゼラニックストリームには大マゼランと通信できる設備がある事を示している。

それを使えば、確かに大マゼラン側と通信は取れる、だが―――

 

 

「ですが、もしも救援に応じてくれなかったら?その時はどうするんですか?」

 

「そうなったらお手上げさ。両手を上げて降伏するか、自爆覚悟で特攻するか、時期を待つ為に潜伏するか・・・どれにしても大変な事に代わりないよ」

 

 

―――向うが通信に応じて救援を寄こしてくれるかは別問題だった。

 

それもそうである。

冷たい様だが、大マゼラン側にしてみれば自分たちとはまだ関係無い事態なのだ。

軍を動かすには膨大な金が掛る上に向うにしてみれば本当に敵がいるのか判らない。

そんな不確定的な情報だけを信じて軍を出すことはまずないのだ。

とはいえ、全開一応の証拠として航海記録装置のデータを渡してある。

手を付けくわえていない生のデータもあり、その上での救援を求める通信だ。

他の国は解らないがバーゼルの所属するアイルラーゼン共和国なら或いは。

希望的観測は死を招く事は重々承知だが、もはや賭けるしか方法が無いことも事実だった。

 

 

「―――で、ユーリ。どうする?一応私の案はコレだけなんだが・・・」

 

 

トスカ姐さんの言葉に会議室に居る全員が俺の方を見た。

最終的な決定権はこの艦隊の頂点にある俺にゆだねられている為である。

俺はとりあえず最終確認の為に会議室を見渡しながら問うた。

 

 

「・・・これ以外に意見は無いッスか?」

 

 

だれもなにも言わない、つまりコレ以上の意見は出て来ないということだ。

会議室の会話及び内容は全てユピが記録している為、言えなかったとか言ったけど無視されたとかの様な言い訳は通用しない。

誰ひとり手を上げることも無く、これ以外良い手がない為、俺はこの案を承認したのであった。

 

 

***

 

 

ようやく方針が決まった。

とりあえず艦載機量産及び強化を施すことを決まった。

何せ扱える人員が増えたのだ、集団戦闘を行う艦載機が多くて困ることは無い。

また簡易脳内スキャニング装置を今までの操縦システムと併用する事で、更なる戦力アップが出来たとの報告があった。

どうやらウチが直掩機や保全・修理用の作業機として使っている有人エステバリスの操縦系統から流用したらしい。

確かにあれならド素人でも妄想力さえあればベテラン並みに押し上げることが可能だ。

通常の操縦システムを使うことの安心感と、脳内スキャニング装置によって実現するかゆい所に手が届く操縦感を体験すればパイロットとしての成熟も早くなる。

もっとも現実的には例え妄想力があろうとも、パイロットがGに耐えられなければあまり意味を為さないけどな。

幾ら慣性制御装置があるって言っても限度があるし・・・。

それと戦闘艦については現在の艦船数で指揮系統的に精一杯な為、もう少し人材が慣れてくるまで増産は見送った。

だが増産を見送った分、現在就航中の艦隊所属艦の強化を進めることで話はまとまった。

とりあえずガトリングレーザーキャノンの冷却装置の強化による散布時間の延長。

主砲のホールドキャノンの発射時間短縮、持ち味の貫通力の増強。

APFSの強化、ジェネレーターをいじくってデフレクターも強化する。

今の所艦船で決まったのはコレだけである。

ああ、そうそう。その代わりマッド達が鹵獲品でも良いから船を一隻手に入れて欲しいと言っていたっけな。

何でも試作兵器や実験兵装のベースにしたいらしい。

ヤッハバッハが迫っているというのに呑気なものだと思ったが、この先マッド達にはかなり働いてもらう羽目になるだろうから、ご機嫌取りとしてその案を了承した。

後はそれぞれの部署が勝手にやってくれるらしい。ありがたいことだ。

もっとも、それが後にあんなことになるとは思わんかったがな。

でもまぁ、流石に大変だろうから迷惑をかけるからスマンとマッド達に言った。

そしたら連中は笑いながら“期限が短い方が燃える”とか答えやがった。

まぁマッドは徹夜すればするほど、異常なほどの技術を見せてくれるからある意味心配はしてないんだけどな。

ただ暴走には注意せねばなるまい、艦載機に某種ガンダムに出てきた様なMS用の大型ビーム砲パックを運ばせる為にくっつけたばかりか飛行中に発射可能にしてしまったあの大気圏内戦闘機みたいなのにされたら厄介だ。

あんなバランスが悪そうで、おまけに機動性が下がる装置作ったらバンバン落されそうだしな。

ああいうのは流石に造らせないようにしないと・・・。

 

 

 

 

 

 

とりあえず会議も終わり、時間も時間なので帰宅することにした。

残り一カ月ちょっと、それまでに色々としないといけないとなると頭痛い。

それにマッド達の分水域を見極めないとヤバいだろうしなぁ。

内心戦々恐々しつつ、俺は重たく感じる身体を引き摺り歩く。

そろそろ本格的に休みを取らないとヤベェかもしれない。

いやまぁ、それが自覚できるだけで十分危険域なんだろうけど・・・。

まだ多分大丈夫だろうしなぁ、俺若いし。

それでも今はただ、風呂入って眠りたいという欲求が強かったがな。

さて艦内移動用のエアカー乗り場に行くと、そこにトーロが来ていた。

何やら考え事していたらしく、俺が近づくまで顎に手を当てて考え中のポーズを取っていた。

とりあえず指摘していいか?トーロ、それはお前には似合わん。

 

 

「よっ、ユーリ。・・・ちょっといいか?」

 

「なにか用ッスかトーロ?何時もなら自分のフネの改修作業を見に一足先にドッグに行ってるのに・・・」

 

 

そう言えば、以前の旗艦であり現在はトーロの乗艦となっているアバリスだが。

すでに修理が完了してヴルゴ司令の元何処に組み込むか再編待ちだそうだ。

ちなみに修理+マッド達の強化が加わっているらしく、性能が以前とは段違いになっているらしい。

先ず電子機器は火器管制や航路のソフトウェアを以前の奴より数世代分向上させた。

それに伴い、EA(Electronic Attack)、EP(ElectronicProtection )の機能も向上し、光学的なのと電子的なのを合わせて使用するステルスモードもバトルプルーフを経てもっと効率的な仕様へと改善されている。

また兵装面ではリフレクションレーザー砲が2基追加されて、計4門になっている。

ガトリングレーザー砲も此方でバトルプルーフを経た改良型に換装された。

更には艦対艦や艦対空ミサイル用の多目的VLS発射口も増設された。

これにより攻撃力や対空性能が大幅に向上したのは言うまでも無い。

だが戦闘力を増強した所為で、居住区画が圧迫されて居住性が悪化した。

普通なら短期決戦用の艦としてそれで通すのだが、ウチのマッド達の辞書に妥協という文字は無い。

なんとブロック工法だった事を良いことに、胴体部分を増量。

更に左右のウィングブロックにも厚みを持たせてペイロードを確保したのだ。

それに伴い全長が1850m、全幅が900mと大型化したが、慣性制御及びスラスターの設置個所の見直しにより、機動性は損なわれていないどころか向上している。

これにより居住空間を十分に取れたうえに、艦内工廠も取り外す必要が無くなった。

艦内工廠についてはデメテールの艦内工廠を元に小型・高性能化が済んだタイプに換装した為、実質アバリス単艦での航続距離及び継戦能力がアホみたく伸びたのである。

また装甲の形状改善による剛性の増加、材質変更によるエネルギー兵器への耐性。

それらも付けくわえた結果、アバリスの形状が結構変わってしまった。

直線形状が多かった形から対弾性を考慮したやや丸みを帯びた形状に変わったのだ。

形状的にも大きさ的にも元のバゼルナイツ級からかけ離れてしまったのである。

そしてシルエット的に・・・本来ならまだ開発すらされていない筈のシュテムナイツ級の形状に酷似してしまったのである。

最初見た時に吹きだしちまったのはいい思い出だ。

何をどうすればバゼルナイツ級がシュテムナイツ級に切り替わるんだろうか?

ここにきてマッド達の頭脳が軽く十年以上先を見越していることに戦慄を覚えたぜ。

・・・とはいっても今更な気もしないでもないけどな!

まぁ酷似しているとはいっても元がバゼルナイツ級だから、シュテムナイツ級との中間?あいの子みたいな感じなので、言い逃れはできそうだけどな。

この際アバリス級と改名した方がいいんじゃないかなと思うぜ。

とはいえアイルラーゼンのほうからパテント料払えとか言われないか心配であるが。

 

 

「あのよ、率直に言うわ。俺別行動してもいいか?」

 

「・・・ぱーどぅん?」

 

 

さて、何やらモジモジと・・・気色悪いな男のモジモジは。

まぁ兎に角、トーロが言いだしにくそうにしていたのであるが、意を決したようにそう俺に言い放った。

突然のそれに思わず聞き返してしまう。

 

 

「小マゼランには知り合いも多いしよ。ヤバそうになったら逃げる手伝いをしてやりてぇ。ティータの母親も心配だしな」

 

「・・・・・・」

 

「だから・・・、そのよう・・・」

 

 

さて、どうしてくれようか悩む。確かにトーロの言い分も判らなくはないからだ。

彼の出身は当然のことながらここ小マゼランである。

俺の艦隊に入る前はロウズ領で小さな運送業者を仲間としていたらしい。

エルメッツァが落ちたとなると、以前の仲間のことも心配となるだろう。

 

・・・・・どうする?――――

 

 

・許可する ←

 

・許可しない

 

 

―――許可する・・・となるとどうなるかな?

 

 

「むむむ~、ちぃーと聞くんスけどトーロ。許可したらどうするつもりッスか?」

 

「そ、そりゃ勿論。アバリスで他の奴らんとこ回るんだよ」

 

 

なるほど、どうやらコイツはアバリスを投入する事を念頭に置いているらしい。

とりあえず許可した場合を考えてみる。真っ先に思い至るのが戦力の低下だろう。

何せアバリスは度重なる改修を受けて、今だ第一線級の戦力として君臨している。

おまけにマッド共が自重しなかったお陰で、超高性能万能戦艦と化しているのだ。

その所為でウチの予算が大分持って行かれたのは余談だ。

それにトーロがアバリスで行くとなると、当然のことながら乗組員も連れて行くということになる。

それだけでも此方の戦力が著しく低下してしまうのだ。

――――というか。

 

 

「あんまりこう言うことは言いたく無いんスけど。

一応まだアバリスの所有権は俺にあるんスけど?」

 

「へ?・・・・・・・あっ!?」

 

 

なに?そのたった今気が付いた的な顔。

いや、まさかとは思ってたけど―――

 

 

「おまっ、わすれてたんスか?」

 

「ずっと自分の乗艦にしてたから・・・忘れてたZE☆」

 

「イラッ☆それはないわー」

 

「しょうじきすまんかった」

 

 

―――トーロの奴、アバリスが俺の所有物である事を失念していたらしい。

 

そりゃ一時期離ればなれになって、アバリスの艦長としてずっとやっていたのは知っているが、基本的に艦隊に所属する全てのフネの所有権は俺にあるんだよね。

だから勝手に持って行って貰っちゃ困るって訳で・・・ふむ。

 

 

「ま、良いッスけどね。別行動は許可するッス」

 

「お!やった!あいつ等も助けに行けるぜ!」

 

 

許可を出した事で喜びをあらわにするトーロ。

だが、俺が続けて言った言葉に、一瞬で硬直する。

 

 

「但し、アバリスは置いて行ってもらうッス」

 

「・・・え?――そ、そんな!」

 

「なんで驚くッスか?当然じゃないッスか」

 

「だけどっ」

 

「それでも行きたければ行けばいいッス。俺は止めない」

 

 

冷たく突き放したかの様な言葉。

それを受けてトーロは驚愕とともにその場に立ちつくした。

俺はジッとトーロを見る。睨む訳でもなく、責めるわけでもない。

ただ彼がどう出るかを見つめていた。

 

 

「・・・・・・ああ、判った。それでもいい。今までありがとよ」

 

「トーロ・・・」

 

「仕方ねぇだろ?確かに俺は楽しそうだからこのフネに乗った。この艦隊はユーリが一から頑張ってここまで大きくしたんだ。それなのに俺が尻馬でそこから勝手に持ってくなんてできねぇよ。だけど、知り合い連中のことも放っておけねぇ。なに、逃げるだけなら死にはしねぇからな」

 

 

トーロは残念だなぁと呟きつつも、何処かはにかんだ笑みを浮かべた。

だが、彼のその眼には覚悟したという鈍い光が見える。

本気なのだろう。彼はたった一人でも小マゼランで別行動を取る気なのだ。

 

 

「・・・覚悟の上か?」

 

 

俺はそう聞き返す。彼は何処かすっきりとした表情で―――

 

 

「おうよ・・・ティータには上手く伝えておいてくれよ」

 

 

―――そう、ことばを返してきた。

 

 

「・・・はぁ、ああ~もう・・・止め止め、そういったのは自分で伝えろッス」

 

「だって、危険すぎるから着いてこさせられないだろ」

 

「まったく、何処まで頑固なんスかトーロは」

 

「わりぃな。ユーリ。それじゃ」

 

 

そう言って後頭部を掻きながら踵を返そうとするトーロ。

俺はそれを見て慌てて引きとめた。

 

 

「ああ、ちょっと待てッス」

 

「なんだ?一人で行くならすぐにでも準備しねぇと・・・」

 

「だから、少し待てッス」

 

 

俺は艦内各所に設置されている端末のボタンを押した。

それはコールボタンと呼ばれるもので、押すと直通で中枢AIを呼び出してくれる。

中枢AIとは、当然のことだがユピのことだ。

コールボタンを押すとすぐにユピのホログラムが現れて俺とトーロの間に立つ。

 

 

『呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~ん!お呼びですか?艦長』

 

「ウス。確か戦艦アバリス所有の名義俺になってたッスよね?あれの名義トーロに変更しておいてくれッス。あ、それと至急サナダさん達に連絡。単艦行動に役に立ちそうな試作品でも何でもアバリスに押しつけちまってくれって伝えてくれッス」

 

『了解です!それではっ!』

 

 

ユピにそう伝えて通信を切ると、目の前にポカーンとしたトーロの姿があった。

俺はこほんと咳払いをし、トーロの方を真っ直ぐと見据える。

 

 

「トーロ・アダ。白鯨艦隊のトップとして命令を下す。お前と同じ志の人間を集め、特装艦アバリスと共に小マゼランに残り、ヤッハバッハの侵攻で苦しむ人たちの手助けをせよ」

 

「え!?」

 

「但し、アバリスを敵に奪われてはならない。奪われそうになったら自沈させること。それが別行動を許す条件だ・・・出来るな?」

 

 

俺が力を込めて見つめると、トーロは任せろと大声を出した。

そしてこうしちゃいられねぇとばかりに駆けだして行く。

俺はトーロの後ろ姿を眺めながらもう一度ユピを呼び出して、先程トーロに言った内容を正式な命令として処理させた。

まぁ、なんだ。今までのはどこまで本気なのかを試した訳だ。

意地が悪いかもしれないが、此方に残るということは苦しい生活を余儀なくされる。

生半可な覚悟じゃ残ってやっていけないと思ったからなのだが・・・。

はは、アイツ普通に一人でもやってやるって表情(かお)してやがった。

多分あれは止めても言うことを聞かないから、勝手に飛びだしちまうだろう。

そうなった方が危険すぎるぜ。

ああいうのは直線的なお馬鹿って言われるかもしれない。

だが、俺はそういう馬鹿は嫌いじゃねぇ。むしろ応援したくなる。

まぁ改修が終わったアバリスを手放すのは少し懐的にきついがな。

改修の際に乗せ換えた準高度AIくんには、捉えられたら最悪データだけでもクラッシュさせるようにして置かせよう。

ま、ゲリラを行う気なら万能戦艦アバリスならちょうど良いかもな。

 

 

「・・・俺にはこれくらいしか出来ないッス。すまねぇッス」

 

 

結局トーロと行く事になったのは、チェルシーを除いたアバリス乗組員たちだった。

主要メンバーでいうと艦長のトーロや副長としてイネス、生活班の長としてティータ、他にも各班からの志願者や頼んでみてOKを貰えた人員達である。

そしてその中には、我らがマッドのジェロウ教授の姿もあった。

彼曰く―――

 

 

「わしもここで降りるヨ。アルピナ君の安否が気にかかるのでネ。

今の内にここまで避難させてやるつもりだヨ」

 

 

―――との事。

 

愛弟子のことが気がかりだった為、トーロのそれは渡りに船だったようだ。

マッドの一人が減るのは非常に戦力ダウンになりそうだが、かと言ってジェロウの機嫌を損ねて無理矢理拘束しておくと死亡フラグになりかねない。

怒って変な発明品作って船ぶっ壊されたら溜まったもんじゃない。

マッドなジェロウ教授はやりかねないのだ。意外とマジに。

そんな訳で俺達とは逆の航路に向かうアバリスを見送った。

そして俺達はまたマゼラニックストリームへと戻ってきたのだった。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Side三人称

 

同時刻―――エルメッツァ本国・惑星ツィーズロンド

 

 

白鯨がマゼラニックストリームに着いたのと同時刻。

エルメッツァの先遣艦隊を打ち破り、快進撃を続けていたヤッハバッハ先遣艦隊が、ついにエルメッツァの首都星である惑星ツィーズロンドへと到着した。

軽く十数万のフネが遮る者がない宇宙を悠々と進み、ツィーズロンドを封鎖する。

エルメッツァの国家元首であるヤズー・ザンスバロスは、元首官邸にてヤッハバッハがエルメッツァ上空に現れ、ツィーズロンドを包囲したと聞き、椅子に力なく倒れ込んだ。

 

 

「し、侵略者が、このエルメッツァ上空に集結しているというのか!?」

 

 

狼狽した彼は、傍に控えるルキャナンに問いただした。

壊滅したエルメッツァ先遣艦隊の数少ない生き残りであるルキャナンは、眉をピクと動かしながらもヤズーの言ったことに同意する。

 

 

「は。各地の地方軍はほぼ壊滅。又は降伏した模様です。完全なる負けですな」

 

「うぬぬぬ・・・このエルメッツァが・・・栄光あるエルメッツァが・・・っ」

 

 

ヤズーはさまざまな感情が渦巻くなかで己の拳を机に叩きつけた。

栄光を守り続けてきた大国が己の代で終わるという苦悩は並ではない。

ルキャナンはその行動には眉一つ動かさず、言葉を続ける。

 

 

「ヤッハバッハは無条件降伏を求めております。閣下の身柄も本国へ送ると―――」

 

 

ルキャナンが述べたヤッハバッハからの通達を聞いたヤズーはガバッと頭を上げる。

 

 

「ル、ルキャナン。ルキャナン君!それだけは・・・なんとかならんのか!?」

 

「だから申し上げておいたのです。本国の戦力を保ったまま降伏するようにと」

 

 

先遣艦隊が負けた後も、国家元首であるヤズーはなんとか戦力を掻き集め、本来なら本国防衛に回す戦力も全て投入してヤッハバッハの侵攻を阻止しようとした。

だがヤッハバッハ先遣艦隊の歩みが止まることは無く、地方軍を織り交ぜた艦隊は全て全滅、宇宙の藻屑と化したのである。

 

 

「それならば、閣下の扱いもまた、ちがっていたものを―――」

 

 

愚かだな。そう小さく口の中で呟いたルキャナンは口をつぐんだ。

目の前にはどうしようもない現状に今にも泣きそうな哀れな男が一人いる。

本国の戦力さえ残して降伏しておけば、ヤッハバッハは占領した星系の軍を放っておくことはできず、少なからず元国家元首となるヤズーにも占領地軍への再編という形で協力を求めたことだろう。

だがあろう事に目の前の元国家元首ヤズーは、全ての戦力を勝てもしないヤッハバッハに投入し、無駄に将官や兵士たちの生命を散らしたのである。

それも大国の元首という椅子に座っていたいという個人的な理由だけで。

 

 

「そんな・・・そんな・・・」

 

「こと、ここにいたっては止むを得ますまい。無条件降伏で、よろしいですな?」

 

「う・・・うっうっ・・・うえっ・・・ううっ・・・」

 

「では失礼します。ライオス総司令と降伏後の処理を話しあわなければなりませんので」

 

 

自分の身かわいさに、ついには泣きだした元国家元首。

それを見限るかのようにルキャナンは踵を返して部屋から去ろうとする。

今は泣く時では無い。エルメッツァという国をコレ以上潰さない為に動く時なのだ。

だが目の前の男は様々なな策を巡らして元首に上り詰めはしたが、所詮は既得利益のことしかない小物政治家でしかない。

参謀が優秀であれば組織は瓦解しない。

その構図がまさに浮き彫りとなった瞬間だった。

 

 

「待って・・・待って、ルキャナンく・・・さん・・・」

 

「・・・」

 

 

ルキャナンが元首室の扉に手を掛けた時、ヤズーが嗚咽混じりに声をかける。

だがルキャナンは歩みを止めることなく、素早く扉を開き外に出た。

 

 

「ふん・・・。戦には負け方というものがある。それを知らぬ男がトップとは・・・我が国の不幸よ」

 

 

それは誰に言った言葉なのか・・・。

あるいは先遣艦隊を全滅させ、おめおめ生きて帰った己への言葉だったのかもしれない。

だが、彼は今が踏ん張りどきであり、死ぬわけにはいかない事を理解している。

この後またあの金髪の美丈夫の総司令と会わねばならないのか。

そう思うと足取りが重くなるルキャナン。

だが、ここで立ち止まる訳にはいかんと己を奮い立たせるとそのまま歩きだした。

エルメッツァの国の高官、その責務を果たす為に。

 

 

***

 

 

ボイドゲートを抜けて、またあの巨大恒星の脇を通過する。

最初ココを通った時と同じようにプロミネンス発生による太陽風と衝撃波が来たが、以前よりも進歩しているデメテールには影響は出なかった。

念のためにキャロ嬢だけはこの区画を通過するときだけ、周囲を水槽で囲まれた水産物生成用プラントの方に移動して貰う。

周囲の水がシールドの役目を果たし、弱い放射線なら防いでくれるという訳だ。

放射線が透過する可能性は低いが、まぁ以前のことも含めての一応の処置だ。

この放射線シールド方法はテラ文明期から存在する由緒正しきやり方だ。

機械でもある程度放射線はブロック出来るけど、まぁ用心だわな。

ちなみにこのやり方はデータバンクに乗っていた。データバンクぱねぇ。

そんで何事も無く巨大恒星ヴァナージを突破したデメテールは、海賊を拿捕して資金源に還元しながらカシュケント近隣宙域に到達したのであった。

 

 

「艦長、間もなくカシュケントです」

 

「カシュケントか・・・何もかもが懐かしい・・・」

 

「・・・は?」

 

「あ、いや・・・何でも無いッス」

 

 

何と言うことだ、何と無くやりたかった沖田艦長を聞かれてしまった。

ミドリさんは訳が解らなくて(◦Д◦)ハァ?って感じだけど、恥ずかしいなぁ、もう。

 

 

***

 

 

カシュケントに付いた俺は護衛を引き連れて長老会議所に向かった。

この星の実質的な長であるクー・クーがいる場所は会議所しかない。

必然的に大マゼランに通じる通信回線はここにあるのだ。

だがエルメッツァ壊滅の話は既にカシュケントまで届いていたらしい。

長老会議所の外も中も何処か慌しい感じであった。

とりあえず受付もすでにいないので勝手に会議所に侵入を果たす。

会議所の一室に入ると、慌てた老婆が1人せせこましく動いているだけだった。

 

 

「おお、お前さん達、大変なことになったのう!」

 

「ここまで来るまでに大体判ってましたけど、既にエルメッツァも壊滅か・・・」

 

「そんとおり。彼奴等め、すでにエルメッツァを支配下においてるようだよ」

 

 

まぁここまでおろおろしていたのを見れば大体予想は付いた。

やはりヤッハバッハの足は早い様だ。

 

 

「エルメッツァが倒れたとなると、近隣星系国家も時期にですね」

 

「ネージリンス本国はあっさり降伏勧告を受け入れちまったよ。唯一まだカルバライヤが抵抗を続けているようじゃがのう・・・」

 

「ネージリンスは戦力を残す道を選んだようだねぇ」

 

 

トスカ姐さんがそう呟いた。なるほど、セグェン氏も大分頑張ったようだ。

戦力を残しておけば、多少は再編させられるけれど国としての対面は残せるもんな。

 

 

「まぁ考えようによっては、小マゼランの支配者がヤッハバッハに変わるだけだ。それなら戦力を蓄えて新しい体勢の中での地位を保つ方が得だと踏んだんだろう」

 

「長いものには巻かれろって感じッスね。流石はネージリンス、合理的」

 

「大方あの狸親父の入れ知恵だと私は思うんだがねぇ」

 

「トスカさんに賛成。あの爺さん結構コネ強いみたいだし・・・」

 

 

まぁ俺に態々キャロ嬢を任せた辺り、権力争いは激化するって事なんだろうなぁ。

何せあの狸爺の政府へのコネは大部分が無価値なものへと変貌する。

今まで築き上げたものを壊され、一から土台作りのやり直しだろう。

あの老人にどこまで出来るかは判らないが、泥水を啜る覚悟はあるって事だろうよ。

おっと、こんな話ししている場合じゃなかったぜ。

 

 

「クー・クー、単刀直入に言いますが大マゼランへの通信回線をお借り出来ますか?」

 

「そんなもんどうする気じゃえ?」

 

「アイルラーゼンに・・・援軍を頼むんだ。来てくれるかは不明だけどね」

 

 

俺の言葉に続き、トスカ姐さんが発した言葉に、クー・クーは眼を見開いた。

うわぁ、真っ青に見える白面メイクの所為で般若みたいに見えるぜ。

 

 

「お・・・おお!その手があったかい!?よ~しよし、特別じゃ。ただで通信回線を使わせてやろう」

 

「金を取る気だったのかい・・・まぁいい、案内してくれ」

 

「ああ、ああ、いいじゃろう。付いてきな」

 

 

そう言うとクー・クーは自分の執務机にあるボタンを2~3個押した。

すると隠し部屋だろうか?奥へと通じる扉が本棚が動いて現れる。

・・・なんつーベタな隠し場所だろうと俺が思ったのは秘密だ。

 

 

「それじゃ、ちょいとお偉いさん方と話してくるよ」

 

「おう、任せたッス。期待してまっせ?」

 

「ああ、ここが女の見せどころってね・・・頑張って見せるさ」

 

 

トスカ姐さんはそう言ってクー・クーの後に続いて隠し部屋に入っていった。

そして彼女らが入ると隠し扉がゴゴゴという音と共にしまった・・・ってあれ?

 

 

「お、置いて行かれたッス」

 

 

ボケっとしてたら部屋に一人取り残されちまってた。

寂しいので護衛の人達を呼んでてけとーにお喋りした。

護衛の人達は元々保安部員の人間で、俺とも肩を並べて訓練した仲なので顔見知りである。

最近どうよ?とか、カミさん元気?とかの世間話しをしたりした。

他にも噂でもいいので自分の評判を聞いて、人気はあるが顔が知られて無い事を聞いて部屋のど真ん中でorzの体勢になり、護衛の人達から慰められたりした。

そんなことしている内にトスカ姐さんも戻ってきた。

その顔には喜色があることから、どうやら上手くいったみたいである。

 

 

「なんとかなったっぽいッスね」

 

「ああ、どうやら私らが連絡入れる前から降伏寸前のネージリンスからネージリッド経由で救援要請があったらしくてさ。救援艦隊を整えてあるからすぐに送るって」

 

「え?あの狸爺からそんな話し一言も聞いてないッスよ?」

 

「言い忘れた・・・じゃなくて、あえて言わなかったのかもねぇ」

 

「・・・その心は?」

 

「驚かせる為」

 

 

・・・何故だろう、無性にセグェン氏を殴りたくなった。

まぁそんな事はどうでもいい、とりあえず救援が呼べたなら長居は無用。

とっととデメテールに戻って準備をしなくてはなるまい。

恐らく小マゼランで最後の大決戦となる事は確実なのだ。

しっかり準備して死なない様にしないと・・・。

 

 

「それではクー・クー。俺達はこれで――」

 

「次は儲け話の一つでも土産に来るんじゃな。そしたらもっと歓迎してやる」

 

 

帰り際でも商売の話は忘れない。

相変わらずがめつい婆さんだぜと思いつつ、部屋を後にしようとした。

だが―――

 

 

「おっと、そうじゃわすれておった。昨日お前さん達を捜して男が訪ねて来よったぞい」

 

 

男?だれだろ?ギリアス・・・じゃあねぇだろうな。アイツ勝手気ままだし。

 

 

「もしかしてそいつはシュベインとか名乗らなかったかい?」

 

「おお、確かそんな名前じゃ。まだこの周辺をうろちょろしとるじゃろ。その気があれば探してみるんじゃな」

 

 

シュベインさんか・・・大方トスカ姐さんがよんだんだろうなぁ。

何気に便利屋もやっているみたいで情報通だから便利だしな。

とにかく、さっきから隠し部屋の通信回線とはまた別の通信機を前に騒ぎ始めたクー・クーに、とりあえず声かけてから帰ろう。

 

 

「それでは今度こそ失礼します」

 

「そうだ!LLクラスのペイロードのある輸送船を10隻だよ!・・・何だいまだ居たのかい?とっとと帰ったらどうだい?あたしゃ忙しいんだよ」

 

 

輸送船か・・・避難船、な訳が無いから高価な品物を大マゼランに送ろうって腹か?

流石は商人、何処までも金にはがめついねぇ。

 

 

***

 

 

さて、カシュケントを出た後はまだ少し時間がある。

だから海賊を倒して資金&か改造部品入手を行うことになった。

シュベインさんも序でに探す、最悪通信で呼べばいいから優先度は低い。

つか、トスカ姐さん曰くここいらで待ち合わせと言っておきながら他の星行くってどういう事やねん。

それは兎も角として、カシュケント近辺の宙域には、まだ戦火が飛び火していない為か、海賊はまだ生き生きと活動している。

だが、俺達白鯨のことはネットワークでもあるのか伝わっているらしい。

お陰で姿を見せて航行しても殆ど襲われない。知名度ってすげぇな。

兎も角、それでは金が稼げない為意味が無い。

仕方ないので巡洋艦レダに囮になってもらった。

デメテール及び白鯨艦隊はステルスモードを展開する。

そしてそれなりの大きさで、そこそこカモに見えるレダを見つけて海賊が寄って来た。

当然それらを待ち構えて逃げられない様に誘い込み、包囲したところでステルスを解除させる。

大抵それで相手は戦う気力を無くすのか、無血開城みたく降伏してくれる。

お陰でドンドン部品やら材料やらが溜まっていった。

中には何を考えたか頑として抵抗する奴もいた。

・・・布陣を終えて包囲されている奴の末路は想像付くだろう?

さて、集めた鹵獲海賊船をドンドン解体&部品に加工し、それをまた湯水のように消費してマッド達が頑張っていた。

なにやら艦船強化だけでなく、怪しげな兵器の試作品まで造っているらしい。

聞いてみたいけど聞いたら怖い様な気がするのは気の所為ではあるまい。

だから俺は彼らが自分で言いだすまで、つまり本番までとっておくことにした。

決して怖かったからではない、彼らの楽しみを奪わない為の処置なのだ。

だから仕方が無いのである・・・あ、ヘタレっていうな!

 

とにかく金は溜めたし艦隊の強化も吶喊ながら短期間で終了する事が出来た。

艦船数を増やせなかったのは乗組員の錬度の度合いからして無理だったが、それでも艦隊所属艦一隻だけで下手な艦隊よりも強くなっている筈だ。

攻撃を当てずらい、防御が高い、耐久がタフ、攻撃力も出力上げて底上げ。

一晩ではないが、マッド達がこれだけやったのだ、僅か2週間かそこらで。

試作兵器群は要望通り鹵獲した海賊船を与えたので、マッド達はサイエンス・ハイに導かれてそっちでも何かしているらしい。

ちなみに試作兵器搭載艦は艦隊の数に数えていない上、テストが終わり切っていない安全性に自身の無い兵器が乗っているので無人艦だ。

なので、艦船数が増えた事にはしていないのは余談である。閑話休題

 

まぁソレは置いておいて、流石にこれ以上の強化は乗組員の錬度を上げるしかない。

一応猛集中特訓をいれて錬度は上げたが、僅か2週間足らずじゃそこが知れるな。

ユピテルやユピコピー達の補助が無かったら、絶対ヤッハバッハ戦じゃ沈むだろうよ。

アドバンテージを生かして戦わないと、今度の戦いがキツイ事は確実。

気を引き締めなければなるまいて・・・。

 

 

……………………………

 

 

………………………

 

 

…………………

 

 

「それじゃユーリ・・・いくよ?」

 

「あ、ああ。そっとやってくれチェルシー」

 

 

彼女の白魚のように綺麗な手が、俺の硬くなったところに触れる。

 

 

「ん、うん。ふぁん、うあ・・・くぅ・・・ど、どう、かな?」

 

「・・・あ、ああ。もうちょっと強く握って」

 

「んんっ、こう?」

 

「・・・そう、そんな感じ・・・あー、気持ちがいい」

 

 

彼女の手がちょうどいい刺激を与えてくれる。

そのたびに快感が増幅され、とてもいい気持だ・・・。

 

 

「んんっ・・・ふぅ、こんなに硬くしちゃって」

 

「だってしょうが無いじゃないか・・・俺だって色々と、あるんだ」

 

 

チェルシーは頑張って力む。

彼女にとっては精一杯なのだろうが、俺にはとてもいい塩梅だ。

 

 

「ぐっ、ああ!そこいいっ!」

 

「ふ、んん・・・こうすれば・・・もっと、気持ちいい筈・・・んんっ」

 

 

チェルシーの力が更に大きくなる!

だがそれでいて柔らかさを失わないそれは硬くなった部分を包み込んだ。

 

 

「ああ、そこそこ、そう・・・そう!ああそこがいいのぉ!」

 

「うふふ・・・そう、ここがユーリのツボ」

 

 

俺の気持ちいい所がまた一つ・・・。

それを見つけた彼女は笑みを深めながら、さらに包む手を加速させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――――――――おれは――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ゛あ゛ぁ~~・・・・気゛持ちえがったッス~」

 

「ふぅ、ユーリったら・・・こんなに肩コリが酷くなるまで頑張ったらダメだよ」

 

「まぁ最近身体動かすのも少しサボってたからねー。凝りもするさ」

 

 

肩もみのあまりの気持ちよさに、おっさんみたいに唸っちまったZ☆E

あん?なんだか大勢の人がこけた様な音が聞こえたような。

別にやましいことは何にもしてませんぜ?ただの肩もみですハイ。

なんで肩もみ?んなもん俺の肩が凝っていたからに決まってるっしょ?

どうもユーリの肉体というのは非常に疲れにくい体質なのは以前も言った通りだ。

なのでこれまで色々と頑張ってデスクワークしてきた訳なんだが、疲労は気が付かないウチに蓄積するらしいな。

一休みの時に肩をグリンと回したら、ゴキゴキゴリゴリという音が響いたのだ。

とてもじゃないが正常な音じゃない、つうか正常なら音は鳴らん。

とりあえずシップでも張ろうと思ったのだが、偶々遊びに来ていたチェルシーがマッサージをしてくれるというではないか。

妹がそう言ってくれるのに、やらせない兄はいないでしょう?

そんな訳で任せたんだが・・・最初何を間違えたかマッサージはマッサージでも整体をやり始めてな。

しかもどう考えてもやり方間違えている奴でよ?肩外れるかと思った。

どうもサド先生の所の女性看護師の知り合いがこの手の整体が得意らしい。

んで、簡単だから自分でも出来そう → そう思った結果がコレだよ!という訳である。

だから普通の肩を掴んでやるやり方に切り替えてやってくれって頼んだ。

流石に白兵戦以外で怪我をしたいとは思えないからな。

ちょっと残念そうだったが、普通にマッサージした方が上手いじゃないの。

そう言う訳で、俺は気持ちよくて変な声を出していたって訳だ。

チェルシーも俺の肩を揉むのに一生懸命頑張ってたから、息が漏れたんだろうなぁ。

ところで、もし上記を見てあんな事を思った奴がいたなら・・・m9(^Д^)

 

 

「それにしても、随分と凝ってたね」

 

「いやはや、何分アレがねぇ?」

 

「あれって・・・ああ、あの書類の束・・・山?」

 

「どっちかって言うと氷山ッスかね?」

 

 

おもに、全体が見えないという意味で。

 

 

「でも、ようやく全部終わったんスよねぇ。優秀な秘書様が付いてくれたからね」

 

 

ちなみに優秀な秘書様とは言わずもがな。

キャロ嬢の付き添いでくっ付いて来た筈のファルネリさんだ。

本来なら現在デメテールの内政をほぼ率いているパリュエンさんの秘書にする予定だったが、本人の立っての希望もあり現在は俺の秘書官役に落ちついた。

彼女はもともと会長秘書だっただけはあり、書類の重要度によって後回しにしていいか今すぐ取りかからなければならないかが判るらしい。

今ではそのお陰で、増えた筈の仕事がまた減ったのである。

 

 

「彼女曰く、俺一人でやり過ぎのきらいがあるんだとさ」

 

「まぁ確かにちょっと異常だったもの」

 

 

なんとか仕事は終えたからいいんだが、そうしたら身体の疲れが一気に噴き出した。

お陰で肩こりやら身体の強張りやらが気になってしょうがない。

チェルシーがマッサージしてくれたから、まぁマシになったけどな。精神的にも。

 

 

「そうよねー。私にも全然かまってくれないし―」

 

「うんうん、そしてキャロ嬢。おま何時部屋に入ったッスか?」

 

「“そっとやってくれチェルシー”の辺りかしら?」

 

 

随分と最初からだなオイ。

 

 

「やほーチェルシー!元気してた?」

 

「うん、大丈夫。キャロは?」

 

「わたしはもっちろん元気よっ!」

 

「見りゃ判るッスもんねー」

 

 

そして平然と居座る度胸、キャロ嬢・・・恐ろしい娘っ。

俺が白目で戦慄していると、また部屋のドアが開いた。

 

 

「よーす、両手に華とはこれまた良い身分だねぇ」

 

「若い内は何でも挑戦とは言うが・・・まぁほどほどにな少年」

 

「あ、あのう。私は・・・そのう」

 

 

上からトスカ姐さん、ミユさん、ユピの順だ。

いや、両手に華って・・・片方は妹でもう片方は一応預かっている人物なんだけど?

そして何故かこの後、俺の部屋を占領した女性陣によって宴会状態に・・・。

まぁ良いけどさ・・・艦長だから家は広いんだ。

でもよ―――

 

 

「つまみはまだかー!」

 

「はいはいただいまー!!」

 

「この銃はね?衝撃波を発生させられる銃で―――」

 

「へぇ、私もコレクションしてみようかなぁ」

 

「ちなみに私は珍しい鉱石だけどな。ああ少年、私にもなにかつまめるものを」

 

「あいよー!」

 

 

―――なんで、家主の俺がさっきから雑用してんだろうね?

ホント、何しに来たんだ?この人達?

 

 

***

 

 

さて、金稼ぎをしつつシュベインを探していた白鯨艦隊。

この星系を構成する5つの惑星を一つ一つ地道に探して行った。

当初はここに最初に来た時のようにバザールで買い物の一つでもできるかと思っていたが、ヤッハバッハ侵攻の影響で全てのバザールが店を閉じてしまっていた。

そのお陰で、探索自体は非常にすぐに終わってしまう。

どの星系も大規模バザールやマーケットが目玉なため、そこが見れなきゃねぇ?

そうなると俺達0Gの様な宇宙航海者が行けるような場所なんて限られてくる。

通商空間管理局の軌道ステーション、ギルド、酒場くらいのものだろう。

ステーションはただの港であり、地上との連絡口程度で見る場所はない。

ギルドは今まで単独でやってきたシュベインさんがいるとも思えない。

消去法により、のこるは0G御用達の酒場ということになる訳だ

そして今はヤッハバッハが迫りつつある。

なので、こんな中やろうという剛毅な酒場も少なかった。

そんな訳で案の定、各惑星に手分けして人を派遣したらすぐにめっかった。

現在シュベインさんは惑星ハインスぺリアの酒場に居るらしい。

とりあえずトスカ姐さんが呼んだ彼の話を聞きに、ハインスぺリアまで向かうのだった。

 

 

「えーと、アイツはっと・・・お、いたいた」

 

「おお、トスカ様!お待ちしておりました」

 

 

酒場に付いてすぐにカウンター席に座るシュベインさんを発見したので、トスカ姐さんが話をする為に彼に近寄って行った。

俺も話だけでも聞こうとトスカ姐さんの後に続く。

 

 

「悪かったねシュベイン。呼びだしちまってさ」

 

「いえいえ、このシュベイン、トスカ様の為なら・・・おおユーリ様まで」

 

「おいッス~。元気だったッスか~」

 

 

こうして再会した俺達もシュベインと同じくカウンター席に座る。

ちなみにトスカ姐さんを挟んで両サイドに俺とシュベインさんだ。

 

 

「しかし、シュベイン。よくここまで来れたねぇ」

 

「聞いた話じゃすでにエルメッツァもネージリンスもヤッハバッハに押さえられてるっていう話ッスよね。あれ?ならどうやってこっちに?」

 

「はい。途中で何度かヤッハバッハ軍とも遭遇しました。ですが幸いなことに職業柄隠し航路を知っておりましたので」

 

「隠し航路?」

 

「はい、こちらのハインスぺリアに通じる細長い航路がRG宙域につながっていまして」

 

 

流石はシュベインさん、こっちが知りえない色んな情報を持っているな。

まぁ情報屋まがいなこともしていたらしいから、それくらい知って無いと命が危なかったんだろうけど。

 

 

「ヤッハバッハ先遣艦隊の情報はどうなんだい?」

 

「はい、流石というべきか、エルメッツァの迎撃艦隊を撃破してからは怒涛の勢いで小マゼランを席巻しておりまして―――」

 

「小マゼランを完全掌握するのも時間の問題って事ッスね」

 

「その通りです」

 

「ふん・・・流石宇宙の半分を勢力下においていると言っているだけの事はあるか。司令官は何者かわかっているのかい?」

 

「は・・・それが・・・」

 

 

ん?なにやらトスカ姐さんの問いかけにシュベインさんの歯切れが悪くなったぞ。

おまけに俺の方をちらちらと・・・なんぞ?

 

 

「それが、その・・・司令官は―――」

 

『カシュケントの諸君!』

 

「「「!!??」」」

 

 

シュベインさんが思いきって口を開こうとしたその瞬間。

酒場のモニターが切り替わり、自信に満ち溢れた男の声がこだまする。

突然のそれに、俺達三人は驚いてすぐに後ろのモニターに眼をやった。

酒場の大型モニターには、凛とした佇まいのブロンドの青年が映っている。

・・・うほっ、良い男―――ではなくて、ああそうか。あれが―――

 

 

『私はヤッハバッハ先遣艦隊総司令ライオス・フェムド・へムレオンである』

 

 

いましがたシュベインさんが口に出そうとしていた、ヤッハバッハ艦隊の総司令。

ぐぅ、なんてオーラだ。“俺に不可能なことはない”的な波動を感じるぜ!

しかも美形!よく見たら背後に美人女官の姿が見えるだと!?

 

 

『我等の艦隊は、すでにカシュケントまで7光年の宙域に来ている』

 

 

酒場の中にざわめきが起こる。7光年というとかなり近い。

俺達は予想していたからそうでもないが、地元民には驚くべきことだったのだろう。

そしてモニターに映る美形の金髪男の言葉はまだ終わっていない。

 

 

『これよりヤッハバッハの名の下、カシュケント宙域の長老に会談を申し入れる』

 

 

これはまた考えたものだ。向うから会談の要請が来たのだ。

わざわざ民間のTV等の電波帯までジャックして・・・。

こうされてはカシュケント宙域を預かるものとして、クー・クーは会談を受けない訳にはいかない。

この放送により、トップの彼女はいきなり逃げだす訳にもいかなくなったからだ。

今頃会議所のモニターの前で歯ぎしりして悔しがっているだろう。

 

 

『一切の抵抗なく、交渉のテーブルに着いてもらいたい。なお、抵抗するモノは容赦なく殲滅する!』

 

 

交渉と言っておきながら、抵抗するものは殲滅か。

しかし乱暴な言い様だ。それじゃ交渉じゃなくて脅迫だぜ?

回りの一般人の客もヤベェとか早く家族に知らせなきゃと言って走り回ってる。

通信が終わると同時に入口に人が殺到し・・・あ、こけた。人間ドミノってこぇ~。

 

 

「司令官はライオスだったのか!そうなのかッ!!」

 

 

トスカ姐さんの大声が酒場にこだまする・・・ように見えて、実は他の音の方がうるさかったり。

それはさて置き、トスカ姐さんはどこか激昂した感じでシュベインさんの胸倉を乱暴に捻り上げていた。

 

 

「・・・は、はい・・・」

 

「トスカさん、ここで怒っても意味ないッス。冷静に・・・落ち着いて・・・」

 

「・・・くっ」

 

 

俺に指摘されてシュベインさんの胸倉から手を離すトスカ姐さん。

だがやはりまだ不機嫌そうだ・・・女性の怒りは恐ろしいね。

 

「――ユピ、聞こえるッスか?デメテールの発進準備、いそいで」

 

『判りました。すぐに発進準備に掛かります』

 

「・・・どうする気だい?」

 

「兎に角、クー・クーの元に行かないとダメっスね。奴さんらはあの業付く婆さんに降伏を迫るだろうから、ソレだけは阻止しないとこれから来る救援艦隊が蜂の巣ッス」

 

別にあの婆さんが降伏しようが正直どうでもいいんだがね。

それをされるとこの付近における係留地が無くなってしまうのだ。

流石にヤッハバッハと一戦交えようとしているのにそれは不味い。

すでに救援艦隊も発進している。

このまま降伏されれば、下手すれば大口開けたサメの巣に自ら突っ込むようなモンだ。

それだけは阻止しないとな・・・最終的な目的の為に。

 

「あっと・・・それとシュベインさん何スけど」

 

「ああ、どうせ人手はいくらでもいるんだ。これからは手を貸してもらうよ」

 

「かしこまりました」

 

シュベインさんを半ば強引に仲間に引き入れた後、デメテールに戻った俺達は一路、長老会議所のある惑星カシュケントへと向かった。

これでようやく長い様で短かった準備期間は終わりを迎える。

出来る事は出来る範囲で全部やった。後は運次第だろう。

これから起こるであろうヤッハバッハとの第海戦を前に、少し身体が震えた俺だった。

 

***

 

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第六十五章+第六十六章+第六十七章

 

どうも、艦長やってるユーリです。

そしてさっそくですが惑星カシュケントにやってまいりました。

前回、空気読めない噂では銀河の半分を手中に収めている帝国が、降伏しないと悪戯もとい殲滅するぞ☆と交渉という名の脅迫をしにやってきました。

俺達はその交渉を止める為に長老会議所へと急いで向かっている最中です。

いやはや、まったく息つく暇も無いとはこの事だーね。

飯とク○するヒマくらいくれたっていいだろうに・・・。

 

それはさて置き、長老会議所へ入ると当然あわあわとしたクー・クーの婆さんがいた。

 

 

「おお!お前さん達、大変じゃ!来よる、ヤッハバッハがついに来よるぞ!」

 

「判ってるさ。その為にアンタんとこまで来たんだ」

 

「反抗作戦というか、連中をここで一時的にでも喰いとめるためには今は降伏して貰ったら困るッスからね」

 

 

そう、倒せないにしても今降伏されては困る。

下手すると一気に艦隊がなだれ込んできて、その足で大マゼランに行く可能性もあるのだ。ちょっとコンビニ行って来る――のノリで行かれては堪ったものではない。

 

 

「そう言われても・・・連中にはむかうなんて無理じゃろうが」

 

「無理でも、やっておかないと後悔するんですよ」

 

 

でないと、大マゼランまで逃げても追いかけてくるし・・・。

だがクー・クーはそんな未来の事よりも今の事の方が大事の様で。

 

 

「アホかい!大国がやられたちゅー今。こんな小さな自治領でどうせいっちゅうんじゃ!降伏じゃ!連中が来たら2秒で降伏じゃ!!」

 

 

とまぁ、降伏降伏とわめくクー婆さんだった。正直見苦しい大人にしか見えん。

だが欲望に忠実で経験が豊富な商人であるからこその決断だろう。

まぁこの世界民主主義あるけど、基本的にそれが通用するのって国家とかくらいだもんな。少しでも星系から外に出たら弱肉強食の世界だし。

彼女が降伏を選ぶのも、強い物には巻かれろという考えがあるからだ。

少なくても一方的な殲滅では無いのだし、多少の窮屈さを我慢さえすれば、降伏を受け入れて生き伸びる事は可能だ。

まぁ、俺とか0Gにはそんなのは耐えられないんだがね。

恐らく正規軍が宙域を占拠したら、その宙域は航海出来なくなる。

自由気ままに航海する事を心情とする俺らにとって、そいつは殺されるのにも等しい訳で・・・。

降伏と叫んでいるクー・クーをどうするとトスカ姐さんと眼を見合せたその時だった。

 

 

「ふふ、流石はカシュケントの長老。物わかりが良い方のようですな」

 

「なにやつ!?」「――!!お、おまえはっ!!?」

 

 

突如部屋に響いた第3者の声に俺達は振り向いた。

そこに居たのは銃を携行させた近衛を引き連れた豪奢な金髪をした白皙の美青年。

ヤッハバッハ総司令のライオスがそこに居た・・・つーかくるの早いなオイ!

出番待ちでもしてたんかい!?タイミングが計ったかのように正確過ぎるだろう!

それに、なんつうイケメンだろうか・・・爆発すればいのに・・・。

 

 

≪ガシャっ≫

 

「ちょっ!いきなり撃ち殺す気ッスか!?」

 

 

うわはーい、変な事考えたら後ろで控えてた近衛に銃向けられちったい。

まぁ俺の後ろにも連中より強化された装甲宇宙服の護衛がいる訳ですけど。

マッドが造ったミョルニルアーマーは伊達じゃない。すでに何度もバージョンアップされているからな。原作みたく周囲にシールド展開まで出来るんだぜ。

とにかく、一色触発、誰かが動けば誰かが死ぬかもしれない様な空気になった。

事実、俺は銃弾一発でも喰らったら泣き叫ぶぞとか考えていると―――

 

 

「銃を降ろせ――失礼した」

 

 

何とあの金髪イケメンが片手で合図を出して先に銃を降ろさせたのだ。

そうしたらこっちも銃を降ろさない訳にはいかない。

黙ってこっちも銃を降ろすように合図し、なんとか一色即発の空気は避けられた。

ふぃー、また懐のボム達が火を・・・つーか鳥モチを吹くとこだったぜ。

 

 

「初めてお目にかかる。ヤッハバッハ先遣艦隊総司令、ライオス・フェムド・へムレオンですカシュケントの長老・・・クー・クーどのですな?」

 

「ひぃ!?」

 

 

婆さんが腰を抜かした。ざまぁ・・・ってそうじゃねぇ!

ええい、こんなに早く来るとかあり得んだろう。普通一日くらい掛けるだろうに!

なに?アレか?言った事はすぐに実行するってヤツですか!?

 

 

「怯えることはない。素直に降伏していただければ手荒な真似は致しません」

 

 

余裕なのか・・・いや、実際余裕から来るのだろう。

非常に紳士的な態度で降伏をクー・クーに迫っていた。

クソ、何よりも悔しいのが敵の首領が目の前にいるというのに手も足も出せない事だ。

今殺すことは可能だろう。ウチの保安部員は百戦錬磨のプロフェッショナルだからな。

装備もマッドの所為でかなり良いから軍人相手もで負けはしないことだろうから、目の前の金髪イケメンをブチ殺すくらい容易いだろう。(近衛が怖いから今はやらんが)

だけど、問題はそれをしたらヤッハバッハから報復攻撃が来るということだ。

仮にも相手は先遣艦隊の総司令、それを問答無用で殺したりなんかしたら兵への対面上、下手人をブチ殺した上でそいつが所属していた所も壊滅させるのは道理だ。

俺は0Gドッグであるが、連中からしてみればここら辺で活動していた以上、俺は小マゼランの所属になる訳だ。少なくてもカシュケントの住人皆殺しは避けられまい。

そうなれば俺は間接的にであるが地上の民に被害を与えたということになる訳で。

0Gのアンリトゥン・ルールにある地上の民に手を出さないに抵触しちまうって訳だ。

一応デメテールは惑星カシュケントの上空にて、艦隊ごとステルスモードのまま待機させているけど、10数万の大軍相手に惑星守りながら戦うのは流石にムリだぜ。

だからここは静観するしかない。我慢じゃ、今は我慢の時なのじゃ。

 

 

「単刀直入に言いますと、我々はあなたに道案内をしていただきたくて、ここまでやってきたのです」

 

「み、道案内・・・?」

 

「そう。ここから大マゼランへと通じるマゼラニックストリームは、かなりの難所だと聞いている」

 

 

なるほど、わざわざ総司令自ら馳せ参じた理由はそれか。

小マゼランは飽く迄前座、このまま一気に大マゼランまで責めるつもり満々って訳だ。

そしてそれを静観している俺らテラ空気。

いや、話に入りこむタイミングが掴めねぇのが正しいか。

 

 

「ですからあなたに道案内をしていただきたいのです。つまらぬトラブルで、皇帝からお預かりした艦船を失う訳には参らぬ故」

 

 

ク ー ・ ク ー は ま だ 怯 え て い る 。

だが、ここで断る道理は彼女には無い訳で――

 

 

 

「そ、それなら―――むがっ!?」

 

「待ちなっ!そうはさせないよ!!」

 

「その先は・・・いわせんっ!」

 

 

当然俺らが前に出た。ちなみに俺は婆さんを羽交い絞めにして口を塞いでいる。

そしてトスカ姐さんがブラスター(何処から出したんだろう?)を取り出し、クー婆の米神に付きつける。

 

 

「ひぃ!?」

 

「コイツのド頭をブッとばされたくなかったら、ここは引いてもらおうか!」

 

 

そしてトスカ姐さんはドスが効いた声でライオス達を睨んだ。

正直、傍目から見たら凄まじくこっちが悪役だろうなぁ。

だって仮にもカシュケントの長老を人質にしているように見える訳だし。

 

 

「・・・誰だ、貴様は。何のつもりだ?」

 

「ハッ。流石はヤッハバッハの艦隊総司令まで上り詰めたお方だ。昔の・・・許嫁も覚えてないってかい?」

 

「む・・・?」

 

「(あー、そういやこの人達って元婚約者・・・飽く迄元だか気にしねぇぜ)」

 

「まさか・・・」

 

 

ライオスはグッと眼にちからをこめる。

いや、トスカ姐さんを撫でまわすかのように・・・言い方がエロいな。

兎に角、ジッと見据えてなにか思考した後、なにかを思い出したように手をポンと叩いた。

今のやけに反応が庶民っぽかったぞオイ・・・。

 

 

「そう・・・そうか、確かに面影がある。トスカ、トスカ・ジッタリンダか」

 

「フン、ようやく思い出したかい。アンタの裏切り、こっちは忘れちゃいないよ!」

 

「ふっ・・・時の流れとは、かくも無残な・・・。無垢なプリンセスが只の阿婆擦れになり果てるのだからな」

 

「(あ゛?テメェさっきなんつった?)」

 

 

ちょいと聞き捨てならん単語が聞えた様な気がしたが気のせいかな。かな。

だが、我慢と自制を理性で強制させて怒りを抑え込んでいる俺は黙ったままでいた。

もっとも額とかには青筋が幾つか浮かび、ヤツの言動を聞いた他の護衛についていた保安部員たちも同様に怒気を発している。

少なくても彼女は乗組員であると同時に付き合いの長い俺らの仲間なのだ。

仲間が侮辱されればケンカ売っているのか、いやケンカ売ってるな、と殴りかかるところだが、ここでそれをしてはいけないことを理解しているが故、手が出せない。

だが仲間がそう思ってくれたのは判ったのか、一瞬怒気に包まれたトスカ姐さんの気配が揺らいだのを感じた。

 

 

「だが――このライオス、過ぎ去った時に、感傷なぞ持ち合わせておらぬ」

 

 

ライオスは俺らの怒気に気が付かなかったか、はたまた気が付いていたが無視したのかは知らないが、何とも思っていないという感じで右手を掲げる。

 

 

「あぶねぇっ!」

 

≪――ザザ!!≫

 

 

恐らく攻撃命令を下そうとしたライオスを見た俺は、クー・クーをトスカ姐さんに任せて彼女をかばう位置に立った。それよりも早く、保安部員たちが分厚い装甲宇宙服を盾にすべく俺らよりまえで壁のように立つ。

 

その威圧感、圧倒的ッ―――!!

 

 

「・・・貴様ら、そこをどけ」

 

「・・・ハッ、いやっスね」

 

 

冷たく睨んでくるライオス、だがそんなこたぁ関係ねぇ。

 

 

「ここで引いたら、男じゃねぇ。仲間守れねぇで何が艦長ってもんだ」

 

 

ちょっとギリアス乗り移ったかなとか考えつつ俺はそう啖呵を切り、エネルギーバズを構える。何処から出したかは聞くな。それに合わせて保安部員達も同じくメーザーライフルや振動剣を構えてライオスとその近衛兵と対峙する。

彼らもまた、仲間を侮辱されて切れかけているのだ。

ソレだけ、俺達0Gの身内にたいする仲間意識というのは強い。

はは、正直ブチ切れて即戦闘で無くてよかったな。オイ。

 

 

「撃てるモンなら売ってみな。少なくてもそっちにゃ強い艦隊は在るみたいだが、そっちの兵士はコイツらに勝てるッスかねぇ?」

 

 

ライオスの近衛兵は見た感じ、どうやら純粋なヤッハバッハ人の兵士では無い様だ。

ヤッハバッハ人の身長は平均2mを越える。特に兵士にはその傾向がみられるらしい。

だがそれにしては連中の大きさはライオスより低い。

だとするならヤッハバッハ人という資格を持った征服惑星からの兵が正しいだろう。

そうならば、ヤッハバッハ人程の生命力や丹力は持ち合わせてはいない。

それなら、例え相手より数が少ないが装甲宇宙服を纏ったウチの保安部員でも対処のしようはあるはずだ。

とはいえ、相手の兵士が8人もいるのに対し、こっちは俺を含めて5人。

数は少ない上に所詮は0Gという無法者(アウトロー)だと侮っているのか、ライオスは改めて攻撃命令を下そうとした。

 

 

「そうか、ならば全員このまま―――」

 

「待ちな!その前にクー・クーの頭をブチ抜くよ!」

 

「はひぃっ!?」

 

 

だがトスカ姐さんがグイッとクー婆の米神にメーザーブラスターを突き付けた為、相手もまた動きを止めた。

いや、トスカ姐さん、確かにこっちがピンチに見えるけどそれはないぜ。

ちょっとシラーっとした眼をして送ってやるがスルーされた。あ、ヒデェ。

 

 

「マゼラニックストリームの途中にゃ、クー・クーしか知らない迷路の様な航路があるんだ!それでもコイツの道案内はいらないってのかい!」

 

「・・・」

 

「ほ、本当じゃ!わしの案内無しではいかな大艦隊でも大量の犠牲がでるぞい!!」

 

「フ・・・つまらぬハッタリを――」

 

 

何やら胡散臭いという目で見てくるライオス。

まぁ向うとしては例え長老で無くても一人や二人くらい違う航路をしている人間がこの星系に紛れている可能性を考えているんだろう。

最悪マゼラニックストリームを抜けて来た交易船を拿捕し、航路データが消される前に抽出すれば大体の見当が付けられる。

あくまで穏便に進めていたのはそれが可能だと判断した為。

要するに、ここでのクー・クーの利用価値は実は結構低かったり・・・あ、詰んだ?

 

 

「総司令!大変です!」

 

「・・・何事だ、トラッパ」

 

 

ライオスが俺達を撃つように指示を出そうとした刹那。

眉毛無しののっぺりとした副官風の男が部屋に飛び込んできた。

あ、あぶねぇ、危うくこっちも応戦する為に引き金引きそうになっちまった。

 

 

「は、アイルラーゼンを名乗る艦隊が、この宙域に接近してきております!」

 

「む!・・・止むを得ん。ここは引こう」

 

「(アイルラーゼン、バーゼルさんか!)」

 

 

エネルギーバズを抱えたまま、俺はあのパーティで一緒に壁の華をしていた軍人の青年を思い出す。向うが送りだした艦隊はやはりバーゼルさんの艦隊だった。

まぁあの人何度かこっちと大マゼラン往復しているから適任と判断されたか。

 

 

「―――だが、クー・クー殿。次は容赦せん。貴女がどのような情報を握っていようと・・・従わぬなら、力で制圧させてもらう・・・それがヤッハバッハだ」

 

 

そう言って、この金髪イケメンは高官が身につけるであろうマントを翻し、兵を伴って部屋から出て行った。彼らが立ち去って少ししてから全員力を抜く。

 

 

「「ふぃぃぃぃぃ~・・・」」

 

「いや、なんでユーリまでそんな緊張してるんだい?」

 

「んなもん、ここで撃ち合いになったら思わず前に出た俺が危なかったからじゃないッスか」

 

「こ、コイツは・・・」

 

「まったく、無茶なハッタリをしよる。命が縮むかとおもったわえ・・・」

 

「はは、あんたが話を合わせてくれて助かったよ」

 

「ふん。人の頭にブラスターを突き付けておいてナ~ニが助かったじゃ」

 

 

まぁまぁ、とりあえずアイルラーゼンのお陰で一息つけるやん。

とはいえそれは一時的、早い所アイルラーゼンと合流しなければ危険が危ない。

 

 

「ああ、ユピ。モンスター迎えによこしてくれッス。長老会議所の目の前に」

 

 

とりあえず兵員輸送用VB-6TCを呼び寄せる。

本来はこういう現地住民がいる惑星内で勝手に飛び回せるのはダメだが非常時だ。

それにこの星の警備隊は既に機能していないみたいだしな。

急ぎだしこれくらいしても問題無い。

てな訳でさっさとVB-6TCモンスターに乗り込み、デメテールに帰還した。

 

 

***

 

 

さて、デメテールと合流した俺達はそのままカシュケント宙域から飛び去った。

とりあえずステルスモードをかけたまま、誰の目にも映ることなく公海上へ出たわけだが―――

 

 

「艦長、針路上に高エネルギー反応を探知。前方にて戦闘が行われていると思われます」

 

「光学センサ、出力最大・・・最大望遠で映像――でます!」

 

 

ヴォンという音と共にメインの空間投影モニターに映し出されたのは、大艦隊同士の会戦だった。数千、数万に届くのではないかという砲火が飛びかい、プラズマの花火が辺りを照らし、弾足の遅いミサイルがレーザーの射線に入り爆散して強烈な光球へと変わる。

それは小マゼランに来てからでも殆どお目に掛かった事が無いクラスの大艦隊同士の戦闘だった。正直見ているだけでもお腹いっぱいな光景だ。

ブリッジの中も静かである。何せ俺らの目的が目的だ。ちょうど目の前で行われている戦闘に飛びこまねばならないかもしれないからだ。

どちらにしてもここまで来て逃げる事は出来ない。

なので、どちらがアイルラーゼンか聞こうとしてその刹那。

 

 

「片方の艦隊、恒星ヴァナージ方面に向けて後退を開始」

 

「・・・どう見るユーリ」

 

「ありゃ・・・ワザと撤退したって感じッスね」

 

 

一見拮抗しているように見えたが、実は片方は全く本気では無かった。

その証拠に片方の艦隊には撃沈はいなくても損傷で煙を吐いている艦が多数いるのに対し、今撤退を開始した艦隊は殆ど無傷。

当たればダメージを与えられた様だが、基本的に逃げに徹する機動を艦隊がとった。

それはすなわち様子見をしていたということにほかならない。

 

 

「・・・まぁここで見ていてもはじまらないッス。ミドリさん、通信回線開いて、多分残った方がアイルラーゼンでしょう」

 

「了解」

 

 

とにかく、残ったアイルラーゼン艦隊と合流しよう。

ミドリさんが現在戦闘後の収拾を図っているアイルラーゼン艦隊に通信回線を開き、間もなく付く事を連絡したのだった。

 

 

……………………………

 

………………………

 

…………………

 

 

此方が連絡を入れる事は、どうやら最初から向うもどうやらその事を予想していたらしく意外とすんなり連絡が通った。バーゼルさんが知らせたんだと思う。

んで、仮のIFFコードを貰い、艦隊に合流する旨を伝えた後、デメテールはステルスを解除すした。

かなり離れてはいるが全長36kmのフネが現れた途端、艦隊に少しだけ動揺が走る。

とはいえ、思っていたよりも動揺が見られないあたり、大分鍛えられている事が判った。

 

 

「艦長、アイルラーゼン艦隊からの誘導ビーコンです」

 

「彼らの指示に従い、デメテールを進ませろッス」

 

 

やがて向うからどの位置に付けばいいのか誘導が来た。

デメテールはその巨体をゆっくり動かしながら所定の位置にて一度停まる。

周りにはデメテールを取り囲むようにアイルラーゼンの艦隊が展開していく。

包囲しているつもりだろうか。まぁコレだけでかいフネだしな。

恐らく用心の為に警戒しているんだろう。

 

 

「やーな感じッスね」

 

「アイルラーゼンは礼儀は弁える。こっちから手を出さなきゃ何もしないさ」

 

「でもあんまりいい気分じゃないですね。小蠅に集られる気分・・・」

 

 

ユピが言ったことはスルーするが、やはりいい気分では無いな。

そう思っていると通信のコールオンが聞えて来た。

向うから通信が来たらしいので、俺はコンソールを操作し直接通信に出る事にする。

そして案の定、通信に映ったのはアイルラーゼンの青年将校その人だった。

 

 

『ユーリくん、久しぶりだな。それに其方は・・・トスカさん、か?以前あった時とは随分雰囲気が違うな』

 

 

俺に挨拶をした後トスカ姐さんを見て驚き目を丸くしている。

まぁ、あの貴婦人というか御令嬢然としていた彼女が、どう見てもアウトローな格好をしているわけだしな。多少は驚くだろう。なにせトスカ姐さんがこっちが素だヨと言っている言葉に普通に応対してるけど、バーゼルさんの目元はひきつってるぜ。

 

 

「バーゼルさん、援軍に来てくれて感謝です。本当によくもまぁこんな遠いところまで来てくれて、0Gではありますが白鯨艦隊の長として御礼を申し上げます」

 

『これは大マゼラン銀河を護る為でもある。礼には及ばないよ』

 

 

そうスか。

しかし、なんつーか良い人だよなこの人。

全身からにじみ出る良いお兄さんオーラとでも言うの?

なんか頼りになるわぁって感じがするんだよね。

 

 

『しかし、一当てしてみたが・・・あれは大変な相手だな』

 

「まぁ小マゼラン一の大国が僅か数回戦で壊滅させられたからねぇ」

 

『だろうな。話には聞いていたが予想以上だ。我々もかなりの難戦を覚悟せねばなるまい』

 

「やはり・・・この艦船数では厳しいかい?」

 

『ああ、先程の戦闘は向こうから撤退してくれたからよかったが、もし攻勢に出られたら勝敗は見えないな』

 

 

そう言って苦笑するが・・・嘘の匂いがぷんぷんだぜぇ。

 

 

「バーゼルさん、失礼ですが今のは・・・」

 

『・・・やはり、判ってしまうかな?』

 

「先程の会戦。此方も見てたので・・・」

 

『そうか・・・ユーリくん、軍事というものはリアルスティックなモノだ。とはいえ、私にも本国の命を受けてやってきた意地もある。連中の進軍は、なんとか止めなければな・・・』

 

 

精神論で敵には勝てない。だが精神なければ戦えないのもまた道理。

正直な話、この艦隊の錬度であるなら対等の数さえそろえれば圧倒出来ただろう。

だが、ここに来る際に脱落したのか、はたまた最初からこれだけの艦隊数だったのかは知らないが、現在の艦船数では敵の艦隊に勝てるかは判らないことは確かだった。

 

 

『正直、相手との戦力のギャップは圧倒的だ。これでは小マゼランの奪還も難しい。だが我々はこのままヤッハバッハを大マゼランに行かせる訳にはいかないと思っている』

 

「つまり、小マゼランは見捨てるって訳だ」

 

『そうせねば、大マゼランも蹂躙される』

 

「・・・ま、つらい選択だってことは解るッスね」

 

「――だね。わかるよ。連中の恐ろしさはね」

 

 

そう俺らが言うと、肩の力を抜くように息を吐き出すバーゼルさん。

なるほど、彼は大分この決断をする為に悩んでくれた様だ。

何せ彼らの名目は小マゼランで蹂躙されている人間たちの救援なのだ。

それがふたを開けてみれば、すでに助ける人々の殆どは敵の手に落ち、しかも敵との戦力差は凄まじくおおきい。俺達と合流しても焼け石に水で雀の涙。

しかも、だとしても自国を揺るがす脅威が存在する以上、軍人としては引けぬ。

まだ戦える上に何かしら方法がある以上、戦わなければ敵前逃亡となってしまうのだ。

 

 

「しかしどうやって進軍を止める?まさか大マゼランへと通じるゲートを破壊しようってんじゃないんだろ?」

 

『ボイドゲートへの攻撃は重大な航宙法違反だ。それにアレは現存する兵器では破壊不可能だよ』

 

「知ってるさ、だから聞いてるんだ」

 

 

そう、デッドゲートが発見され、それがボイドゲートとして機能している事が判ったのが1300年近く前の事だ。

そして人間の歴史が証明している様に、その間も様々な勢力が現れては消えた。

当然重要な輸送ルートとなりえるボイドゲートの存在は戦乱に巻き込まれるに十分な機能を有していた。

だが、どんな勢力が攻撃を加えようとも、ボイドゲートには効果が無かった。

この古代遺跡のような転移門の付近には独特の力場であるボイドフィールドが展開され、レーザーの類は勿論の事、他のどのようなエネルギー兵器も受け付けない。

質量兵器も遺跡の防衛機能なのか、敵性アリと判断されフィールドにふれた途端に分解されて消滅する。

絶対に壊された事が無い実績が、1000年以上たっても稼働し続けるかのボイドゲートが破壊不可能である事を如実に語っていた。

 

 

『・・・巨大砲艦タイタレス。エクスレーザー砲搭載艦だ』

 

「「エクスレーザー砲?」ッスか?」

 

 

なんだっけ?そのどこかFFに出て来そうな名前の兵器。

 

 

『我が軍が極秘に開発していた超出力レーザー砲だ。これを恒星に射ち込む事で内部の陽子-陽子連鎖反応を誘発し、超新星爆発を意図的に起せるだろう』

 

「まさか・・・赤色超巨星ヴァナージを!?」

 

『そう、あれならうってつけだ。一度超新星爆発が起こればその領域は次第に拡大し――大マゼランのボイドゲートも飲み込む』

 

「つまり、破壊は出来無くても通行不能にするって訳ッスね」

 

 

なるほどね、確かにそれなら破壊不可能でも通過は出来ないだろうよ。

何せあれだけの巨大恒星だ。超新星爆発起したらどうなるか簡単に予想が付く。

とりあえず重力変調の嵐が起こって、周辺の航路は使いモノにならなくなる。

さらに強烈なγ線が放射され、周囲50光年以内の惑星に居る生命は死滅する。

おまけに超新星爆発の衝撃波の影響で広範囲に外装ガスが周辺に拡散。

衝撃波によって断熱圧縮や放射性元素の崩壊熱で加熱されたガス雲が誕生する。

それは温度にしておよそ100万K以上に達し、超新星残骸を形成してくれるだろう。

しかも大きくなってガス自体が重力を持つ為、付近の星間ガスを吸収しおよそ数万年規模で輝き続ける。

当然その間は専門の装備を持たせた船でないと行き帰はほぼ不可能。

仮にそこを通り抜けて侵攻しようにも、かなり時間は掛かるだろう。

 

 

「はは、まいったね。トンでも無いこと考えやがる」

 

『こちらに来た時は、まさかそれを使う事になろうとは思ってもみなかったがね』

 

「・・・で、そいつを使うんスか?」

 

『個人的な意見だが、私は君たちを死なせたくはない。だがヤッハバッハを食い止める為に我々はためらうことなくエクスレーザー砲を使用する。その前に大マゼランへと逃げてくれ』

 

「あんたはどうするんだい?」

 

『残念ながら、軍人という職業を選んでしまったのでね』

 

 

そう言いつつも何とも寂しそうな笑みを浮かべるバーゼルさん。

何ともはや、この人この戦で死ぬ気だな・・・。

もし生き伸びたら酒でも飲もう・・・って、それ死亡フラグじゃんよ。

 

 

「ふむ、まぁ確かに妥当な意見ッスね」

 

『うむ、では―――』

 

「だが断るッス」

 

 

ザ・ワールド。(俺の空気読めない意見で)空気が止まる。

はん、そりゃ確かにその手を使えばなんとでもなるだろうさ。

だけどね―――

 

 

「バーゼルさん、軍人はリアリストなのは承知だが――最初から死ぬ気で戦いに挑むヤツがどこにいるんスか・・・?」

 

『そう言う訳ではない。だが時に大多数を救うために多少の犠牲はつきものだ』

 

「それは確かに正論ッス。だけど、だからって死ぬ気でやる事にはならないッス。まだ少しだけ時間はあるッス。ならなにか手が無いか模索しても罰は当たらないっス」

 

 

言外にアンタも死ぬのは惜しいと言ってやる。

そりゃ巨大恒星を撃って道を塞ぐ、もはやこれくらいしかやれない事は解る。

だからって、まるで死に急ぐかの様な言動は、中身日本人な俺には聞き逃せる事じゃ無かった。

 

 

『・・・はは、一本取られたな。だがどうする?少なくてもエクスレーザー砲を使うにはオートでは無理だ』

 

「遠隔操作くらい出来ないんスか?」

 

『出来なくはないが、発射信号の出力上、あまり距離はあけられんぞ』

 

 

一応特殊な暗号化が施された信号だが、通常の発信機からでも送信は可能らしい。

ふむ・・・ならウチの以前開発してたアレを使えば問題はないな。

 

 

「・・・まぁ距離を稼ぐ手立てはウチのあるモノを使えばいいとして、時間稼ぎの手を考えないと駄目っスね」

 

 

何せ高エネルギーで太陽内部の陽子反応を活性化させて爆発させようというのだ。

生半可なパワーじゃそんな芸当は起すことはできない。

彼らが断言しているということはソレが引き起こせるエネルギーを撃てるという訳だが、当然そんなエネルギーを撃ちだすにはかなりの時間を要するだろう。

 

 

「――今敵艦隊はどの辺の位置に居るんだい?」

 

『ちょっとまってくれ、今調べている―――判った。ここからおよそ500万宇宙キロほど離れた所だ。ちょうど件の巨大恒星のヴァナージがある宙域を跨いだ辺りだろう』

 

 

なるほど、巨大恒星ヴァナージの重力圏を抜けるルートは一つしかない。

そうなるとおのずと作戦は限られてくるな。

 

時間を稼ぐという意味でとれる行動は、例えば正面からの会戦。

だがこれにはガチの消耗戦となる事を覚悟しないといけない。

そりゃこっちの状況から考えて短期決戦は魅力だが・・・。

はたして現状の戦力で敵を防ぎきれるかと言えばどうだろう?

流石に戦力的に不安であるし、足止めじゃ無くてカモ鍋になりかねん。

これ以外にあり得るのは敵艦隊を混乱させる為の撹乱。

撹乱を起すには少数先鋭で敵艦隊に突っ込んだり、艦載機部隊で攻撃したりだろう。

だが、少数先鋭もルートが一つしかないなら辿りつく前に砲火の餌食。

艦載機部隊では敵の保有戦艦などから考えて撹乱に至らない。

 

 

――なにかこう、もっと意表を突くなにかはないものだろうか?

 

 

「足を止めたきゃ奇襲がセオリー何スがねぇ」

 

「・・・流石に航路が一本しかない以上、それは無理だろう。別に迂回路でもあるなら別だが・・・しかも相手に発見されていない航路をね」

 

 

そんな都合のいい航路がそうやすやす―――あれ?

 

 

「・・・ねぇトスカさん」

 

 

俺はちーと思いだした事を確認する為にトスカ姐さんの方を振り向いた。

 

 

「なんだい?」

 

「シュベインさんって、どうやってこっちまで来たんでしたっけ?」

 

「そりゃ確か、ハインスぺリアから・・・あっ」

 

「ね?もしかして使えるんじゃ」

 

『なにか策でもあるのかな?こっちにも教えてもらいたいんだが・・・』

 

 

おっとバーゼルさんにも説明しなくてはなるまい。

この間再会した仲間のシュベインさん、彼が此方に来た時のルート。

すなわち、カシュケントの隣星のハインスぺリア付近にある隠し航路が存在するらしいのである。

 

 

「ちょっとシュベインに確認とってくる」

 

「いってら~ス」

 

 

トスカ姐さんがシュベインさんに通信で連絡を取った所、ハインスぺリアの隠し航路はちょうどヤッハバッハ艦隊がいる辺りにつながっているらしい。

なんという幸運、なんという僥倖、それともご都合主義?

なんとでも言えるがとりあえずこの状況は好都合だろう。

 

 

『成程、側面からの不意打ちか・・・』

 

「ちょうど良いことに、ウチの白鯨は隠れて動くにはちょうどいい機能を搭載しているッスからねぇ」

 

「真正面からガチンコするよりかは、勝機はあるだろうよ」

 

 

つまりは側面から奇襲をかけて陽動作戦を展開するのである。

敵は何時の間にか此方が側面に現れて攻撃してきた事に動揺する。

そしてアレだけの大艦隊であるから、一度動揺が伝搬すればすぐに収まる事はない。

その隙をついて、俺達は遊撃をしまくって陽動。

本隊は正面からの彼の言う所の切り札を用いてヤッハバッハを攻撃するのだ。

・・・つーか何時の間にかそれが中央ホログラムモニターに作戦として表示されてるんですけど?

すげぇなアイルラーゼン、よく見たら情報士官らしき人が良い仕事したって顔してるし。

 

 

『・・・判った。陽動作戦については君たちに任せよう。但し、君たちの仕事は飽く迄時間を稼ぐことだ。ある程度の敵艦隊を掻きまわしたらすぐに離脱するんだ。いいね?』

 

「了解ッス(巻き込まれて融解したくないからね)」

 

 

流石のデメテールも超新星爆発には耐えられねぇだろうしね。

ソレ以前に現行ではまだ眠っているシステムが存在するのだ。

完全な時ならともかく今の状態なら逃げるので精いっぱいだろうよ。

 

 

こうして、作戦を話し合った俺達。

どうなるかは判らないが、少なくても相手の天狗をへし折る事はできそうだ。

さてと、とっとと戦闘準備に入ってあん畜生らとドンパチと洒落込みますかねぇ。

 

***

 

 

ヤッハバッハと戦う前。

我等が白鯨艦隊で一艦隊の指揮を担うヴルゴさんに一度聞いてみたことがある。

 

 

「ヴルゴさん、この状況下でどうにかならない?」

 

「ありませんな。ハッキリ言って逃げる方がいいでしょう。戦力が違い過ぎる」

 

 

きっぱりと、完全なる敗北でしょうと言われた。

10万対数万少々+白鯨・・・ま、普通ならコレで戦うなんて正気を疑うな。

 

 

「しかし、アイルラーゼン来ちゃったし」

 

「アイルラーゼンにはアイルラーゼンの国防事情がある。この銀河に派遣される戦力に期待してはいけません。自分の期待を元に作戦を立てるのは、指揮官にとって敗北へとつながる道ですぞ」

 

「ま、そりゃ判るんスがね」

 

「・・・別に戦いは正面からの突撃ではありません。奇策を用いて戦況を覆すのもまた戦術であり策です」

 

「そうッスね。遠くから隕石降らしたり、隕石に紛れて核弾頭ミサイルのコンテナを撃ちこんで敵艦隊の中心で乱射したり、敵艦を少人数でのっとって同士撃ちさせたり、毒ガス積め込んだミサイルで無力化したり――」

 

「・・・・・・えげつないですな(ボソ)」

 

「え?何か言った?」

 

「いえ、別に」

 

 

何故か唐突に眼を逸らされたのはなんだったのじゃろね?

 

 

***

 

 

「間もなく、カシュケントを通過します」

 

 

さて、アイルラーゼンとの共同作戦を組むことになり、俺達はヤッハバッハ艦隊を強襲する為、一路ハインスぺリアへの航路を進んでいた。

カシュケントからはいくつもの光が別れ、さまざまな方面へと飛んでいくのが見える。

どうやら民間船が迫りくるヤッハバッハとの戦いを察知して退避を始めたらしい。

星間戦争というのは、なにも宇宙空間だけが戦場という訳ではない。

近隣の惑星をすべて含んで戦場となるのが宇宙戦争というものなのだ。

その為、0Gの小競り合いではないこういう大規模な戦争の場合。

大抵近隣の惑星では避難をするか地下に潜るかするという。

何故ならごくまれに主戦場から流れたエネルギー弾やミサイルや被弾した戦艦が降ってくることもあるからである。

 

 

「おうおう、蜂の子を散らすようにってなこの事ッスね」

 

「退避勧告が出てるみたいですからね・・・艦長、それよりも」

 

「おう。――本艦隊はこれよりハインスぺリアの秘密航路を抜け、敵へと強襲をかける。全艦第二種戦闘配備、ステルスモード展開、周辺への警戒を厳にせよ!」

 

「了解!全艦第二種戦闘配備!ステルスモードオン!周囲への警戒を厳にしなっ!」

 

 

俺の号令がブリッジに響き、各所呼び指令所へと伝達され、艦隊へと伝わっていく。

さながらスポンジが水を吸ったかのようにそれは瞬く間に広まった。

そして各艦のデフレクターが一時的に解除される。

ステルスモードに入る前には一時的に重力場を解除しなければならないからだ。

 

 

「各艦・・・デフレクターの停止を確認。重力波干渉は・・・確認されず」

 

「ステルス起動します」

 

 

アクティブステルスが稼働を始め、インフラトン機関から排出される青いインフラトン粒子が細くなりやがて消える。

光学迷彩機能が働き、周囲の空間と同化していくようにその姿が溶けていった。

やがてそこにあった筈の超ド級巨大艦の姿はどこにもなく、漆黒の宇宙が見えるだけとなる。

相変わらず姿を完全に隠してしまうコレは凄すぎるな。

ステルスモード展開中はデフレクターが使えなくなるのが難点だが、姿を補足されていない以上攻撃のしようが無いからな。

まるで忍者、流石忍者キタナイ!とか言われそうね。

さて、そんなこんなで黄金の鉄の塊で出来た我らが白鯨はシュベインさんの案内の元。

巧妙に隠された細い航路を進み続ける。

あまり知られていない航路との事なので、道中はそれ程何かが起きることもない。

時間だけが過ぎる・・・やがて、隠し航路を抜けて通常航路へと出た。

しかし辺りには敵影は無し。非常に暇である。

 

 

「暇ッスねぇ~」

 

「ヒマだねぇ」

 

「確かにヒマね」

 

「何時入ってきたキャロ嬢」

 

「ん?ついさっき」

 

 

そして普通なら戦闘配備の時は入って来れない艦橋に普通に侵入しているこの娘。

こりゃ、勝手に入ってきおってからに・・・なに?私は自由なの?お前はネコか!

って途端にニャーって招き猫ポーズをとるんじゃない。可愛いじゃないか。

 

 

「で、どうやって入ったの?」

 

「そんなの私のスニーキングスキルで」

 

「・・・ユピ」

 

「先程トイレに行った艦長の後に続いてはいって来てました」

 

「え!なんで判って?!」

 

「ふははは、残念だったッスね!ユピはこのフネそのもの!彼女にこのフネの中で隠しごとは不可能何スよ!」

 

「げぇー!」

 

「ああー、どうでもいいんだが、前方に艦隊が出てきたらしいんだけど」

 

 

艦隊?このルートはあまり知られていないんじゃ・・・と思ったが、前方に展開しているのはどうやらエルメッツァの艦隊の様だ。

 

 

「光学映像キャッチ、メインに投影します」

 

 

ミドリさんがコンソールを操作し、遠距離だが光学映像を映す。

そこにはエルメッツァであるが、エルメッツァのエンブレムが消された艦隊がいた。

IFFも昔のエルメッツァ軍のではない、ヤッハバッハのものとなっていた。

 

 

「おやおや、降伏した国の艦隊が捨て駒にされたようで」

 

「相手はエルメッツァ人が乗っているけど、ここからは生きるか死ぬかの世界だ。ユーリ、あんたのことだから判ってると思うけど・・・」

 

「ええ、ここで見つかる訳にも行かないし、幸い数もそれほどじゃない。ヤッハバッハがいると予想される地点はまだ先ッスけど挟撃されたくはないッスからね。生き残るためなら、俺は修羅にでもなるッスよ・・・という訳でキャロ嬢、邪魔にならないところで座っててね」

 

「あーあ、折角ヒマになったから遊びに来たのになぁ~。エルメッツァも空気読まないわねぇ」

 

「・・・(キャロ嬢の方が空気読んでない気もするけどな。でもそこもいい所だな)」

 

 

とりあえずキャロ嬢を引きはがして艦長席の横からサブシートを出して座らせる。

戦闘中は何が起きるか分からない。衝撃で投げ出されない様にする為の処置だ。

 

 

「各艦、第一級戦闘配備、艦隊は出さず本艦だけで叩く。火線収束砲撃準備!一隻も逃がすな!」

 

 

艦内にガコンという音が響き、主砲が装甲から分離し連装砲として展開していく。

デメテール船体前部、翼上に広がった部分の上下に設置されている12基の連装砲。

大きさは軽く2kmに達するホールドキャノンは、すぐにエネルギーを収束し始める。

最初からコンデンサにプールしてあるエネルギーのお陰で発射まで十秒も掛からない。

 

 

「1番から12番、射撃諸元確認、火線収束砲撃準備よろし」

 

「デフレクター展開・・・準備よろし」

 

「EA・EPともにステルス解除後最大出力、準備よろし」

 

「よし、各セクション衝撃に備えっ!ステルス解除っ!全砲、てぇー!」

 

「ほいさほらきたポチっとな!」

 

 

砲雷班長のストールが腕を振りかぶってコンソールを押した。

以前より高出力で可動したそれは、大量のプラズマを伴い螺旋を描きつつ発射される。

一基一基の威力は軸線反重力砲には及ばないが、全ての砲が合わさった威力。

 

 

「収束点突破、エネルギーブレッド、火線収束します」

 

 

24条、全ての火線が収束した時の威力は、通常の軸線反重力砲の威力を数倍上回る。

恐らくはヴァランタインのグランヘイム級の全力の軸線反重力砲に匹敵するだろう。

デメテールの連装ホールドキャノン、24門の砲口から放たれた24条の光。

それは途中でより合わさり一つの巨大なエネルギー弾へと変わり艦隊へと直進する。

突如何もない空間から放たれたエネルギー弾に驚き、混乱するエルメッツァ軍。

回避機動を取ろうとする前に、収束ホールドキャノンは艦隊中心部を抉り取った。

後にはジャンクすら残らず、封鎖艦隊の真ん中にぽっかり穴をあけていた。

 

 

「最大戦速!中心へと突入する!HL砲列群起動!エネルギー回せ!」

 

 

主砲発射の際にどうせばれるので、ステルスモードを解除したデメテール。

空間にボウっと現れた巨大艦に、残存エルメッツァ艦隊はさらに混乱していく。

突然の攻撃で艦隊の主力が消し飛び、指揮系統をズタズタにされた。

そんな彼らがまともに迎撃なぞ出来る訳も無く、デメテールを食い止める者はいない。

まだ敵が混乱から復帰していない間に、先程の攻撃で開けた穴へと滑りこんだ。

そして俺は周囲に展開しているエルメッツァ軍に対し、容赦のない砲撃を加えるよう指示を出す。

 

ここからはまさに虐殺といってもよかった。

先制攻撃により、ヤッハバッハ指揮下のエルメッツァ軍は混乱状態だ。

相手の反撃を許さず、情報も漏らさないように徹底的に叩いた。

艦として機能しているのは勿論、エネルギー反応があるフネは全て撃ち落とした。

通話帯には続々と落されることに対する怨嗟の声。

なすすべも無くHLの弾幕が近づき泣き叫ぶ断末魔が入りこんだ。

だがそれでも砲撃の手を緩めることを俺は許さなかった。

そして、デメテールの暴風が過ぎ去った時、後には殆ど何も残らなかった。

 

 

「残存艦・・・探知できず。敵艦隊・・・全滅です」

 

 

ブリッジの中は静寂で包まれていた。

艦隊を展開せずとも単艦で敵艦隊を撃破したのだ。

それも此方のことを敵に悟られない為に、展開していた艦隊を全滅させて。

皆が無言となるのも判るというもんだ。

だが、ここで止まる訳にもいかない為、俺は静寂を破り指示を出す。

 

 

「・・・ステルスモード再起動、各セクションは戦闘で異常が無いかチェックしておけッス。――すまんな、こっちも命がけだ。恨むなら俺だけで良いぞ」

 

 

細かなデブリが浮かぶ戦場をモニターで見つめ、俺はそう漏らす。

キャロ嬢やユピやトスカ姐さんが俺を見てくるが、俺はそれに気が付かなかった。

あのエルメッツァ艦隊とて、捨て駒にされたことくらい理解しているだろう。

だが俺達も、生きる為に、自由に宇宙を行く為に、目の前に立ちふさがった艦隊を消した。

後悔はしない、憐れんだりもしない、それは最大の侮辱となるから。

だから、せめて痛みはないように強力無比で全力を出して攻撃した。

ここで止められる訳にはいかない。既に、賽は振られているのだ。

 

まったく、戦争なんてくだらないぜ。もっと楽しく生きた方が良いだろうに・・・。

俺は内心そう溜息を吐きつつ、第二種戦闘態勢にシフトしたデメテールを戦場へ進ませた。

この虐殺とも呼べる戦闘の責任は全部俺にある。

だから、さっきも言ったが、恨むなら俺を恨めよ。エルメッツァ軍人さんよ・・・。

 

 

***

 

 

通常航路に復帰した俺達はステルスモードではあったが特に敵とは遭遇しなかった。

敵本隊は大分後方に位置していたらしく、ステルス機を出して偵察をした。

結果、ヤッハバッハはRG宙域と呼ばれる宙域にて部隊を待機させていた。

そこはくしくも以前あのバカ皇子を助けた宙域である。

 

 

「いたっ!ヤッハバッハの艦隊だ!」

 

 

トスカ姐さんの声に、俺はコンソールを操作して偵察機からの映像をモニターを出す。

モニターに映し出されたのは、宙域を埋め尽くさんばかりの大艦隊の姿だった。

確かに話では十数万入るとは聞いていたが・・・。

 

 

「うひ~、雲蚊のごとくってなこの事ッスね」

 

 

・・・実際にこの目で見るのは、また違う物があるな。

 

 

「ミドリさん、会敵までの予想時間は?」

 

「・・・このままの速度でおよそ3時間後、戦速を出せば30分です」

 

「なら、ステルスを展開したまま艦隊を発進させておくッス。それとアイルラーゼンは?」

 

「かなり飛ばしてきたので、アイルラーゼン艦隊の予想位置は時間的に言って、ヤッハバッハ艦隊の正面から60万宇宙キロほどの距離にいるかと」

 

 

そして現在の俺達の位置がヤッハバッハ艦隊のちょうど左舷側。

姿はまだ発見されていないので、奇襲をかけるのには良いポジションだと言える。

ただ先程、エルメッツァ艦隊を撃破しているので、定期連絡が無いという事態を鑑み、待ち構えている可能性もある。

とはいえ、ここまで来た以上、そのままUターンとかは出来ない。

 

 

「・・・各艦、第一級戦闘配備、突撃陣形を取り、敵の中を突破するッス」

 

「えっ?それだと集中砲火を浴びないかい?」

 

「下手に外側から仕掛けても、あの数ッスから数が少ない此方が不利ッス。それなら敵陣中央を奇襲しながら突破した方が―――」

 

「成程、相撃ちを恐れて敵の攻撃は少なくなる。電撃戦だね」

 

「デメテールの防御と速力、そしてそれに付いてこられる艦隊がいるから出来る芸当ッスけどね」

 

 

そうでなければ、突っ込むなんて狂気の沙汰だろう。

まぁ正確には中心を突破するのでは無くて、中心からややそれた所。

天頂部に抜けるルートを取りつつゴースターンして急速回頭。

そのままアイルラーゼンの方まで速度を落とさずに駆け抜けるのが理想かな。

 

 

「艦長、大居住区の住民の避難完了。全員強化宇宙服装備完了です」

 

「最低限の生命維持装置だけのこして、他はエネルギー全カット。今回は長くなりそうッスからね。エネルギーはいくらあってもいい。ミューズさん、デフレクターは?」

 

「全力運転で敵のフネと激突し続けても・・・12時間は可動できる・・・わ。それと、ケセイヤさん・・・」

 

「おう、以前のシステムと同じく、各艦との同調展開も可能だぜ。移動しながらでもな」

 

 

デフレクターがあるのと無いでは、その耐久性に絶対的な開きが発生する。

今回は敵陣の中を突っ込むのだから、デフレクターが無いと蜂の巣だろう。

 

 

「リーフ、かじ取りは任せたッスよ!ストールもド派手に撃ちまくるッス!」

 

「任せときな!華麗なTACマニューバ見せてやるぜ!」

 

「今回は何処に撃っても当たるが・・・花火と洒落込むか!」

 

「機関長もエンジンの御機嫌伺いよろしくッス!」

 

「ほっほ、機嫌は良くも無いが悪くも無い。なんとか頑張ってみようか」

 

 

準備はほぼ整った。後は俺が命令するだけ・・・・。

 

 

「・・・」

 

「・・・ユーリ、どうした?」

 

「・・・はは、少しばかり手汗がスゲェッス」

 

 

緊張の所為か、何もしていない筈なのに汗が出る。

手なんて手汗でぬれているくらいだ・・・なんとも、恐ろしいなオイ。

 

 

「怖いかい?」

 

「怖いッス・・・んだども、負けらんねっスから、なら負けないように戦うッス」

 

「そのいきだ。負けると考えたら負ける。何も考えず突っ切ろう」 

 

「へっ、難しいこと、言ってくれるじゃないの・・・でもトコトンやってやるからな」

 

 

俺はコンソールを押して艦内放送用のマイクのスイッチを入れる。

息を吐いて心を落ち着かせ、俺はマイクの向けて口を開いた。

 

 

『全員聞いてくれ―――これから我が白鯨は敵陣へと突っ込む』

 

『相手は俺達のホームと言える星系を土足で踏みにじってくれた阿呆共だ』

 

『これからの戦闘は、恐らく非常に厳しい物となるだろう』

 

『隣の誰かが死ぬだろう、知り合いの誰かが宇宙へと消えるだろう』

 

『だが、忘れるな。俺達は負けやしない。俺達は負けないのだ』

 

『白鯨艦隊に所属する者は全て負けない。何故か?』

 

『それは絶対に無駄死にしないからにほかならない。犬死にもしない』

 

『俺達はこの戦い、最後まであがいて生き残る』

 

『俺達のホームでの戦いだ。今後の為に俺達は今戦う――』

 

『――俺からの皆への命令はただ一つ。“死ぬな”たったこれだけを守ればいい』

 

『白鯨艦隊に所属する諸君の健闘を期待する――俺からは以上だ』

 

 

俺はそう言ってマイクを切った。

さぁて先のエルメッツァは前菜、今からメインディッシュと洒落込もうじゃないか。

 

 

「艦長、ヴルゴ艦隊の展開、完了しました」

 

 

ミドリさんの報告に、俺は外を映しているウィンドウモニターに目を向ける。

ステルスモード起動中の為、ヴルゴの乗艦であるリシテアの姿は見ることはできないが、ユピが気を効かせてコンピューター補正の掛かった映像に変えてくれた。

大マゼラン国家ロンディバルド系の戦艦であるネビュラス級戦艦リシテア。

その鋭利な直角を繋ぎ合わせた様な白い船体が悠々とデメテールの前に出る。

俺はそれを見届けると、思いっきり肺に空気を取り込み―――

 

 

「全艦、ステルスモード解除!全砲門開き突撃ィっ!!」

 

 

―――艦隊をヤッハバッハへと突っ込ませたのであった。

 

 

***

 

 

Side三人称

 

 

ユーリ達が敵陣に突っ込む直前、アイルラーゼン艦隊がRG宙域の近くへと到着した。

既に両陣営とも準備は万端、何時戦端が切られてもおかしくはない。

ヤッハバッハ艦隊は偵察機を出し、センサーを全開で回して戦闘態勢に移行する。

アイルラーゼンも機動艦隊から艦載機を発進させ、各艦のインフラトン反応も上昇していた。

睨みあう両陣営、何時火蓋が切って落とされてもおかしくない状況。

まだ距離がある為、両者とも無駄な砲撃等はしない。

だが射程圏内に入った瞬間、両陣営から火球が上がるのは確実だった。

故に両陣営ともゆっくりと近づき、セオリーに乗っ取って会戦が行われる。

 

 

――――かに見えた。

 

 

「バーゼル大佐!敵の左翼に陣形の乱れが!」

 

 

アイルラーゼン艦隊旗艦のオペレーターがヤッハバッハ艦隊の異常を察知する。

左舷に展開していた艦隊の陣形が崩れて蒼い光、インフラトン粒子の火球を確認したからだ。

 

 

「ユーリ君たちが到着したか・・・」

 

「光学映像出ます!」

 

「――ッ!!これはまた、随分と派手に動いてくれる」

 

 

バーゼルが見たもの、それは青白く輝く光の球だった。

その光の球からは、薄緑に輝く螺旋の光が12条ずつ交互に放たれている。

巨大なのと小さなのが混ざった光弾は確実に周囲の艦隊を撃沈せしめていた。

またその光の球の先端には光の傘が展開されているのをバーゼルは見た。

それは光の球、白鯨艦隊が放っているHLの収束した状態で展開している光である。

重力レンズで収束も偏向も思いのままに出来るHLを収束した状態で止め、それを盾の代わりとして用いているのだ。

光の球に見えたのは、高出力で展開されているデフレクターの光だろう。

この時、白鯨艦隊はデメテールの強大なデフレクター範囲内に収まっていた。

各艦はデフレクター同調機能を使い、重力子防御帯を同調、励起させていた。

それによりデフレクターの出力は二乗的にハネ上がり、ある程度の攻撃を無効化する。

但し、これには一つだけ弱点があった。

 

 

「ユーリ君、艦隊を展開しているのに、攻撃の数が少ない・・・どういう訳だ」

 

 

そう、この最強の盾と呼べる励起デフレクターは一定以上の攻撃を無効化する。

だがそれは敵だけでは無く、攻撃をするべき白鯨艦隊も同様だ。

複数のデフレクターを同調し励起させている為、内側からの攻撃もある一定以上のエネルギーを保有していないと、放ってもデフレクター内部で反射してしまうのである。

その為、現状白鯨艦隊が攻撃する際はホールドキャノンを搭載したデメテール。

リシテア、カルポ、テミスト、カレのネビュラス級戦艦だけしか攻撃できない。

唯一デメテールのHLはデフレクターを突破出来るが、エネルギーを喰う為撃たないでシールドの様に白鯨艦隊前面に展開して防御を担っている状態だった。

敵を殲滅するというのであれば攻撃の幅が狭まる為、非常に愚策でしかない。

だが今回のように敵を撹乱するという点で言えば、矢鱈めったら撃ちまくるデメテールは非常に厄介な存在であった。

 

 

「(ユーリ君たちは頑張っている・・・が、敵が混乱から体勢を立て直せば危険だ)・・・タイタレス、そっちはどうなっている?」

 

 

バーゼルは後方で控えている筈のタイタレス級巨大レーザー決戦砲艦に連絡を入れる。

本来なら小マゼランの戦闘に応じた極秘実験で実戦データを取る筈の実験艦。

それがいきなりの実戦に放り込まれた為、タイタレススタッフもてんやわんやだ。

その所為で若干通信が伝わるのに遅れが生じる。

 

 

『こ、こちらタイタレス、エネルギー充填65%』

 

「・・・ふむ、ユーリ君たちから借りたデータリンクシステムはかなり優秀だな」

 

 

バーゼルはタイタレスとのデータリンクにユーリ達が貸したRVFを使用している。

電子支援に特化したRVF-0はレドームを背負った機体で攻撃力はポッド以外ない。

だがその代わり、各無人機の天文単位での誘導を可能とするブースターの役割を持っている為、そのシステムを利用し各艦の正確なデータリンクを行っていた。

タイタレスはその巨大さからまだ運用方が確定していない。

その為データ収集の為にユーリ達の申し出を受けたのだ。

 

 

「だがあまり長くは持たん。エネルギー充填を急げ」

 

『りょ、了解!トランスフォーメーション、開始します!』

 

 

タイタレスはようやくエネルギーが半分以上に達した。

ユーリ達が離れてから随分と経つがそれでもまだ半分しかたまっていない。

それが決戦兵器と言われる所以である。戦闘中に充填の遅さで一発しか使えないのだ。

そして増加したエネルギーの排熱をスムーズに行う為の形態。

トランスフォーメーションをタイタレス級は取り始めた。

 

基本的にタイタレス級の形状は遠目から見ると柄頭を付けたメイスの様な形である。

その柄頭の部分に見えるところは8本の巨大な可動式アーム。

通称、大型オクトパス・アームユニットと呼ばれているアームが接続されている。

トランスフォーメーションではそのオクトパス・アームユニットが展開。

まるで傘を広げたかのような形態となるのだ。

そして中央船体から砲身に重力レンズリングユニットが分離。

タイタレスの前方、砲門のそばに設置されるのである。

またこのアーム、砲撃の際の絶大な衝撃を殺す為の重力アンカーとしての役割も担う。

その為、巨大ながらも非常に頑強に造られたアームユニットには、超巨大リフレクションレーザーが8門、大型が5門、中型が16門装備されている。

船体中央の砲身から放たれるエクスレーザーと、オクトパスアームユニットに搭載された大小のレーザーを重力レンズユニットにより収束統合させたレーザーこそ、タイタレス級が放つ決戦レーザー。

エクスレーザー・フルバーストと呼ばれる直径1600mに及ぶ極太レーザーとなるのだ。

 

 

「バーゼル大佐!敵艦隊からの砲撃の密度が上がり始めましたっ!」

 

「落ちつけ、機動艦隊は後方に下げ戦艦を前に出すんだ。それとヴィエフ級砲艦は各自エネルギーが充填完了次第随時発射。弾幕を形成し敵を近づけるな!」

 

「了解!」

 

 

船体の8割が大型粒子加速器と冷却ユニット、ジェネレーターという特異艦。

ヴィエフ級は大砲艦というか、大砲にブリッジとエンジンを付けただけのフネだ。

 

 

「先行してるSS004級からのデータリンク確認。射撃諸元各艦入力完了。発射します」

 

 

ヴィエフ級の様な重砲艦を運用する場合、正確な距離測定が求められる。

その為に必要なのはレーダー等による正確な距離測定なのだが、ヴィエフ級は発射の度に電磁波障害を起す為、自身のレーダーが使用不可能となってしまう。

その為、彼らにはSS004というレーダー管制専用艦が常に共にいる。

SS004が測定したデータをデータリンクにより各艦に送り、射撃諸元とするのだ。

今回は白鯨からRVFも助成している為、更に測定は正確なものとなる。

そしてその測定の元、ヴィエフ級重砲艦隊から多量のレーザーが発射された。

赤い光となったエネルギー弾は、次々とヤッハバッハ艦隊へと突き刺さり、相手に被害を与えていいった。

 

 

 

 

 

一方、ヤッハバッハ艦隊では突如として出現した謎の艦隊からの攻撃により、指揮系統に混乱が発生していた。

 

 

「各艦隊!被害を知らせろ!」

 

「敵N677方面から来襲!左舷に展開していたエルメッツァ艦隊の被害甚大!」

 

「被征服民軍なんぞどうでもいい!此方の艦隊はどうなのだ!」

 

「2040隊、2456隊、2550隊の艦隊が壊滅です!周囲の艦隊が敵艦隊の迎撃を開始するも被害拡大中!」

 

「ええい!遅いわッ!」

 

 

艦隊副官であるトラッパはオペレーターからの報告を聞いてダンと壁を殴る。

被征服民の軍隊が落されようとも心底トラッパはどうでもいい。

だがこの戦いで陛下から賜った艦隊を落され、自分の進退に影響が出る方が不味い。

あのクソ生意気な司令が絶対的な勝利では無いと意味が無いなどと抜かすから!

と、トラッパは内心、近くに居るあの若き金髪の指揮官に対し呪詛を吐いていた。

 

(絶対にアイツよりも上に立って見せるッ)

 

そしてその胸に密かに掻き抱く野心も、黒く燃え上がる。

だがその時だった―――

 

 

「て、敵艦隊!針路を真っ直ぐ本艦へ向けています!?」

 

 

―――敵艦がデフレクターの蒼い光とともに近衛の艦隊をなぎ倒す姿を捉えたのは。

 

 

「た、退避急げ!ハイメルキアを急いで動かすんだ!」

 

「だ、ダメです!間に合いません!!」

 

 

トラッパは大慌てで迫りくる蒼い光の奔流を見る。

その高密度の重力子帯が放つ燐光に触れたフネはことごとく弾き飛ばされている。

しかも相手はトラッパも数えるほどしか言ったことが無い首都艦。

ゼオジバルド級よりも大きいのではないかという巨大艦である。

幾らヤッハバッハのフネであろうが、あの巨大な質量は止められない。

 

 

「・・・全火器と防御帯のエネルギーを推進機に回せ」

 

「司令!それでは本艦の守りが薄くなります!?」

 

「良いから早くしろ。本艦ではアレは沈められん」

 

 

今まで静観の姿勢を取っていたライオスはデメテールが衝突コースを取っていることを知ると、目を開きすぐさま指示を飛ばした。

デメテール程の質量を完全に消滅させる兵器は先遣艦隊は持っていない。

十万を越える火線を集中させれば、幾ら堅牢な防御帯でも撃ち破れよう。

だが、その場合制御を失ったあの巨大な質量がそのまま暴走してしまうことになる。

そうなれば止めることは難しい上、被害も尋常なモノでは無い。それ故――

 

 

「ハイメルキアッ、衝突コースから外れます!」

 

「・・・・くは~・・・」

 

 

ライオスは旗艦ごと逃げろと指示を出した。

凄まじい重力波がフネを揺らしたが、幸い損傷個所は発生していない。

避けられたことにトラッパは思わず安堵の息を吐いている。

プライドもいい、時に敵から逃げない気骨は良いものだ。

だが時と場合による。この場合逃げない事は艦隊の崩壊につながる。

ライオスは天頂方向へとゆっくり上昇していく敵艦隊を見つめながら、いずれ小マゼランを征服した暁にはあの艦隊を手に入れて見せよう。

そして、自身が皇帝へと至る足掛かりにしてくれようと、怒りを封じながら思った。

 

 

「司令!増援が到着します!」

 

「ネージリンスに展開していた3075、3076艦隊、到着した様です」

 

「よし、敵艦隊の両翼に展開し艦載機を発進させ包囲、殲滅せよ」

 

 

ネージリンスを抑えるために展開していた空母を中心とした機動艦隊が到着した。

ライオスはその報告を聞き、すぐさま部隊を展開させる。

艦載機にはデフレクターへの攻撃を第一とし、決して前に出ない様に指示を出した。

屈強な兵と鉄の掟によって団結している機動艦隊は司令の指示をコンマ一秒も無駄にせずに実行していく。

やがて天頂方向へと向かう白鯨を機動艦隊が包囲を完成させたのだった。

 

 

 

 

一方の機動艦隊―――此方は攻撃命令を受けて艦載機が今にも発進しようとしていた。

 

 

『此方管制塔、リニアカタパルトの充填が完了した。発進を許可する』

 

『攻撃隊、システムオールグリーン。出撃する』

 

 

増援の機動艦隊のブラビレイ級三段空母から、汎用艦載機ゼナ・ゲーが射出される。

護衛に付いているダルタベル巡洋艦からもリニアカタパルトで艦載機が発進した。

数百機を越えるであろう攻撃機隊はカタパルトの初速を受けて高速で編隊を組む。

電磁力で艦載機に高初速を与え射出するリニアカタパルトで加速された艦載機達。

彼らは真っ直ぐと射程外からでも視認できる光の球、白鯨へと迫った。

 

 

『3075攻撃隊、敵艦隊(エネミー)を補足(タリホー)』

 

『攻撃隊へ、交戦を許可する。全火器使用自由』

 

『交戦(エンゲージ)』

 

 

対艦用クラスターミサイルと対空クラスターレーザーを備えた汎用機ゼナ・ゲー。

かの機はウェポンベイを開き、中からクラスターミサイルランチャーを露出させる。

小マゼラン製とは比べ物にならない深緑の艦載機達が牙を白鯨へと向けた。

 

 

『エア1、エネミーロックオン、FOX3』

 

 

―――ガコン。バシュー。

 

ミサイルランチャーから白い帯を吹きだしながらミサイルが飛びだした。

数百機のミサイルから放たれたミサイルは数万の小型ミサイルへと分離。

暗い宇宙を埋め尽くすかのような白い帯が蛇のように絡まりながら白鯨を包む。

第一次攻撃で放たれた小型ミサイルは全て、蒼いデフレクターへと命中した。

 

 

『全弾命中、効果確認―――だめだ、目標健在、繰り返す、今だ目標健在!』

 

 

小型ミサイルの爆炎の中からゴゴゴと重力波を響かせてデメテールが顔を出す。

だが無傷という訳では無く、凄まじい爆発でデフレクターに負荷が掛り過ぎたのか駆逐艦と思われるフネから煙が噴き出しているのを攻撃隊のパイロットは見た。

旗艦と思わしき巨大艦も速度を緩めた所を見ると少しは効果があったのだろう。

そう理解した攻撃機隊の隊長は残りのミサイルを全弾撃ちこむように他の機体に指示を出した。

 

 

『第二次攻撃、エネミーロックオン、FOX・・・』

 

 

攻撃機隊隊長機の攻撃指示は途中で途絶える。

何故ならその時隊長機のゼナ・ゲーはいくつもの弾頭に貫かれ爆散していたからだ。

副隊長が指揮権を受け継ぎ編隊を再結集させていく。

そして彼らが見たものは―――

 

 

『・・・ふむ、ヤッハバッハと聞いていましたのでどれほどかと思っていましたが・・・どうやら期待外れだった様です』

 

『まったく戦闘機は数さえいれば良いってモンじゃないよ』

 

 

―――ブースターとレドームが一体化した機体と大きなシャトルタイプの赤い機体。

 

 

トランプ隊隊長のププロネンが駆るRVF-0 Sw/Ghostフェニキア。

ガザンが駆る赤いVB-6Cヘカトンケイルが兵装を此方に向けている光景。

そして―――

 

 

『ヒャッハー!食い放題だぜぇぇぇいぇぇぇ!!』

 

 

―――ユディーン操るQF-2200Dゴーストと高速エステの無人機混合部隊。

 

 

黒いゴーストと大型バックパックを背負ったエステ達がゼナ・ゲーへと銃口を向ける。

それを見たヤッハバッハの3075攻撃隊は散開しようとするが、人知を越える速度で周囲を駆け抜けるゴーストと人型機体になすすべもない。

クラスターレーザー砲を使い彼らに反撃するも、殆ど避けられてしまう。

無人機より速度が遅いVFたちはクラスターを完全には避け切れない。

だが機体に搭載された小型デフレクターが、完全に撃墜されることを防いでくれる。

その為、攻撃機隊は徐々に数を減らしていく、増援が来たので盛り返そうとしたが、まるで歯が立たない。

おまけに妙なバックパックを積んだププロネン機、アホみたいに火力があるガザン機。

この二機の完全な連携プレーにより、瞬時に数十機が落されてしまう。

なので攻撃機隊は攻撃目標を今急激に速度を落とした完全にデメテールに定めようとした。

 

 

―――その時だった。

 

 

『な!?あの巨体が、反転する!?』

 

 

デメテールはその巨大な船体からは想像もつかない程早く、自身の軌道を変更する。

そう、止まったのはエンジントラブルなどではなく、最初から予定通りだったのだ。

デフレクターが弱まったのは攻撃機隊の御手柄であるが、そこには最初から艦載機が展開していたのである。

そして気が付けば先程まで猛威をふるっていた筈の艦載機の姿はそこには無く。

巨大な船体が艦隊を引き連れアイルラーゼンのいる方面へ離脱しようとしている姿だけ。

 

 

『・・・タダで、タダで、いかせてなるものかぁぁぁぁぁ!!』

 

 

加速に入った白鯨を見て半ば茫然とした攻撃機隊の一機が突如として加速する。

突撃していくその攻撃機のパイロットは先の白鯨艦隊の雷撃的突撃で跳ね飛ばされて轟沈した艦隊に友人がいた。

彼は勇猛なるヤッハバッハ人が屈辱を受けたまま黙って見ていることなどせぬ。

そう言わんがばかりか、機体を加速させ再度展開されるデフレクターの内側へと突入。

そしてそのまま、先程煙を吹いていた駆逐艦カルデネに突っ込んだ。

シールドジェネレーターが疲弊していた状態で受けた特攻。

それによりカルデネはジェネレーターから連鎖爆発を起し、そのまま轟沈してしまった。

 

それを見て喜ぶヤッハバッハ攻撃隊であったが、敵艦隊は既に加速状態に入っていた。

その為艦載機の装備では追いつくことは出来ず、戻って機動部隊と合流する。

アレだけの戦闘で攻撃隊の被害は7割の未帰還者を出し、相手に与えた損害は駆逐艦一隻と運悪く撃墜された無人機が数十機のみ。

大損害を被った上にほぼ壊滅した攻撃機隊は継戦不可と判断され後方へ移る事となる。

それが生き残った彼らの生命を永らえさせるのだが、この時はまだ彼らは気が付かなかった。

 

 

***

 

 

デメテールが去った後、ハイメルキアでは―――

 

 

「―――被害を報告しろ」

 

「ハッ、艦船数を合計するとおよそ五千隻が撃沈になり、戦闘不能は三千です。エルメッツァ艦隊は激突の余波で小破したのを合計するとかなりの数になるかと・・・」

 

 

ライオスは損害を聞いてそうかと声を出し無言となる。

損害自体は十数万ほどいる先遣艦隊の全体からしてみれば些細なモノだ。

だが、ライオスは無表情で自分の予定を狂わせた白鯨艦隊を見つめる。

周りは只一人を除いて彼のそれには気が付かなかった。

怒りで硬く白くなるほど手を握り締めて血を流している総司令に。

 

 

「白鯨艦隊・・・か、覚えたぞ。その名前」

 

 

誰に聞かれるでもなく、ライオスはそう呟いていた。

そしてそれを見ていた副官のルチアは黙って救急箱を取りに行くのであった。

 

 

***

 

Side三人称

 

白鯨艦隊が一見無謀に見える突撃を掛けたお陰で、一時的にではあったが戦場に混乱をもたらした。

とくに引っ掻き回されたヤッハバッハ軍の被害は甚大である。

碁盤の目の如く、正確に陣を組んでいたことも、被害を助長させる一因となった。

艦隊戦における艦隊運動を主目的とした陣形は、確かに強固であった。

しかしまさかの横からの奇襲と体当たりを含めた突撃には対応できなかったのである。

艦隊運動に特化しているということは、転じて各艦が自由に動く場所が無いという事。

それ故に他の艦が邪魔となり逃げきれず、デメテールに轢かれたフネが続出したのだ。

そして、ユーリ達がなんとかヤッハバッハ艦隊を突きぬけ。

ユーリくんはクールに去るぜぇとか浮かれていたその時。

暗い宇宙を駆け抜ける白鯨を見つめる一対の目が存在した。

 

 

「巨大船、ヤッハバッハ艦隊の射程から抜けやした。識別は白鯨艦隊」

 

「ほうほう、あの小僧、本当に生きてやがったか」

 

 

顎に手をやり、にやにやとデメテールを見つめるその男。

彼は小マゼラン、大マゼラン問わず人々に恐れられる大海賊。

その大海賊の乗艦、グランヘイムのブリッジにて、この馬鹿らしい戦力差の戦いを見つめていたのは宇宙にその名を轟かす男、ヴァランタインその人だった。

宇宙をまたにかけるこの大海賊は小マゼランを震撼させた巨大勢力。

ヤッハバッハ先遣艦隊が大規模戦闘をしていると聞いて、この宙域にやってきたのだ。

勿論、本来の目的はソレだけでは無いのだが―――

 

 

「ありゃま、ひときわ大きなロストテクノロジーの反応を追って来てみれば既に稼働していて、おまけに大艦隊相手に戦ってやがるぜ。キッシシ、コイツは面白いな!」

 

 

ブリッジに興奮した若い男の声が響く。

自分の席で脚をコンソールに乗せていたその男はデメテールを見るなり身を乗り出して目を輝かせながら画面にくぎ付けだった。

彼はこの海賊船グランヘイムの技術官の頂点に立つ男。

グランヘイムの兵装・システム・構築の全てを一手に引き受けているオオヤマである。

さまざまな技術・サイバネティクスに精通するこの男は、一目見ただけでデメテールがどういう代物なのかを見抜いたのだ。

グランヘイムにも少なからずロストテクノロジーが搭載されているので興奮も一塩だ。

 

 

「体当たりしても大丈夫なデフレクターか・・・相当なジェネレーター出力だ。いや、それ以上に機関出力が尋常じゃねぇな。波長も見たことねぇやつか――」

 

 

いままで足置きでしかなかったコンソールの上で彼の指がダンスを踊る。

超長距離なので正確なスキャンは出来無くても、エネルギースペクトル分析くらいなら出来るのだ。

そしてこの世界では一般的では無い機関を積んでいるデメテール。

技術屋であるオオヤマが興奮するのもうなずけるという話である。

 

 

「――で、どうするよキャプテン?」

 

 

オオヤマは顔を逸らさずに作業を続けながら、ヴァランタインに問うた

口には出さなかったが、このまま見ているか介入するかを問うたのだ。

その問いに対しヴァランタインはにぃっと口角を歪ませる。

 

 

「テメェなら判ってんじゃねぇのかオオヤマよ?」

 

「おいおい、薄情なヤツだな。助けねぇのか」

 

「んなもん、いらねぇだろ?」

 

「根拠は?」

 

「勘だ」

 

 

ああそうかいとオオヤマは振り返らず応えた。

ヴァランタインが己の感じるがままに行動する事に、彼に付き従う彼らは慣れている。

それに勘と言ったが、それはいわば核心めいた何かなのだろう。

その何かがなんと言えばいいか判らない為、“勘”と呼称しているに過ぎない。

それなりにヴァランタインと付き合いがある人間は皆そのことを理解している。

それはヴァランタインの采配に自信があるから、信じているからである。

彼の勘と言う名の導きで、ある意味ここまで来たのだから。

まぁ、それはそれで凄いんだが・・・。

 

 

「んじゃ、連中のセンサー範囲に入らなから見物でもしてますかねぇ~」

 

「宇宙に咲くはプラズマの華ってな・・・いい花見じゃねぇか」

 

 

そして彼らはリラックスした状態で何処からか持ちこんだ一升瓶を開ける。

当然中身は酒である。花見には酒が付きモノだとは誰の談か。

彼らは遠くで艦船が轟沈する様を肴に、杯を開けるのであった。

 

 

***

 

 

一方、敵陣を中央突破し、なんとか味方の元へとたどり着いたデメテール。

その機関出力にモノを言わせた突撃攻撃を敢行したフネの損害は、駆逐艦一隻に思われた。

だが実際は――

 

「シールドジェネレーターが過負荷でオーバーロード寸前ッスか。良く持ったッスね」

 

「ケセイヤ達が・・・ちゃんと整備してくれていたお陰・・・もしもあの時壊れてたら蜂の巣だったわ・・・」

 

「グラビティ・ウェルまでダメージッスか。でもミューズさんがデフレクター制御を頑張ってくれたからか、重力井戸のダメージは予想よりも小さいって聞いたッス」

 

「それ程でも・・・あるわ」

 

「あるんかい・・・まぁ良いッスけど」

 

 

―――船体各所へのダメージはかなりのものがあった。

 

 

特にシールド・デフレクター関連のジェネレーター系の損傷は著しい。

万を越える軍勢に体当たり攻撃を仕掛けたことで、ジェネレーターに過剰な負荷が掛ったからである。

それ以外にもいつもより高出力だった主機によって破損した部位もあった。

 

 

「ジェネレーター自体は予備がまだあるッスから交換すれば済むッスけど」

 

「コレ以上はあの戦法は使えませんね。負荷も予想以上に大きかったですし、あれは奇襲が効いたから駆け抜けられました。でも駆逐艦を一隻失った今、同じことを正面からすれば全滅する確率が78,92%です」

 

「・・・まぁ、どちらにしろ後はアイルラーゼンの作戦待ちッスからね」

 

 

ユピの報告に、とりあえずもうやんねぇと心に決めたユーリだった。だって怖いし。

とにかく、安全圏まで一時的に逃れた為、デメテールはさっそく修理を開始していた。

装甲や艤装についてはダメージは皆無であったのでそのままである。

だが、急造のデフレクター同調装備、シールドジェネレーター回りは総取換えとなり、戦闘中ということもあいまって同調装備の修復は後廻し。

その為、次からはデフレクターの励起展開は行う事は不可能となった。

 

「さて、飯ッスね飯」

 

この戦闘は過去、類を見ない程の大規模戦闘であり、非常に長い事戦う事になる。

その為、デメテールでは今は交代で食事を取る事を行っていた。

これから何時飯が食えるかわからないのだから、カロリーは取っておかないといけないのである。

その為、生活班を中心とした裏方一同は総出で各部署に出前を行っていた。

配達の為に艦内を作業用VFとエステが飛びまわっているのはちょっとシュールだ。

だが全員が真面目にこなしているあたり、そこら辺は指摘し無い方がいいのだろう。

まさかタムラ料理長がエステバリスに乗り込み、何時造ったのかエステサイズの中華鍋を振るい、大人数の炊き出しを行っているとか・・・。

しかもセンサーを用いてちゃんと火が通っている料理を作っているとか・・・。

もはや冗談とかにしか見えない光景が大居住区で繰り広げられているとか・・・。

一般人からすれば眉間を押さえたくなる光景なので指摘してはいけない。

 

 

「どうせ長引くんだし出前でも・・・」

 

 

さて、ユーリが食事の出前を頼もうかと思った時だった。

ふと何時もならいる筈の誰かの姿が見えない事にユーリは気が付いた。

 

「ユピ、トスカさん何処に行ったか判るッス?」

 

「トスカさんですか?少々お待ち下さい―――位置特定、Dブロックの格納庫に居ますね」

 

「Dブロックの格納庫?確かそこには・・・」

 

 

Dブロック格納庫。

そこは現在マッド集の“作品”や、使わない物が保管されている区画である。

そしてそこには、トスカの乗艦であったデイジーリップ級が保管されいた。

その事を思い出した時、ユーリの脳裏には電球がぺかーっと光ったのである。

 

「ユピ」

 

「はい、なんですか艦長?」

 

「しばらくブリッジ頼むッス」

 

「はい私にまかせ―――って艦長!?」

 

 

唐突な指揮権の一時的移譲に目を見開いて大声を出すユピ。

AIである筈なのに、ユーリの不可解な行動に驚愕してしまった。

そして声を掛けるべきユーリはというと、既にブリッジを後にしていた。

 

 

「・・・」

 

「・・・で、どうします?ユピ艦長代理」

 

「えっ?!そのまま通すんですかミドリさん!?」

 

「艦長が許可されたのだから文句はないわ」

 

「そ、そんなぁ~」

 

 

後に残された高度知性を有する電子知性妖精はどうしようかと悩んで見せる。

しばらくして、とりあえずユーリが良くしているように椅子に座って待っていよう。

その考えに至った彼女は少し背筋を伸ばして艦長席・・・の隣のサブシートに座った。

で、それを見ていたOPのミドリはユピの何処か背伸びした子供が親の仕事を真似ている様なユピの姿を滑稽に思い、若干肩を揺らして笑いをこらえていたとさ。

 

 

…………………………

 

…………………………………

 

………………………………………

 

ユーリはブリッジから出るとすたすたとDブロックへ歩いて・・・。

 

 

「・・・いや、遠すぎるッス」

 

 

・・・いく訳もなく、普通に艦内を走る列車に乗って船体下部へと向かう。

でかいので移動自体が一苦労だが、列車やVFを利用すればそれほどではない。

まぁVFだといける所に限りがあるので、今回は列車に乗っている訳だ。

下手すれば一つの町に匹敵するデメテールだが、真空のパイプを最高速度が最終的に音速となる列車を使えば、すぐに目的地に到着する。

列車から降りたユーリはDブロックの格納庫へと続く低重力搬入路へと足を向けた。

そこはあえて重力を抑え、物品を運びやすくした空間である。

とはいえ、低重力というのは人間にとっては移動しにくいという空間でもある。

なのでピョンピョンと月面を飛ぶ要領で移動しながら、ユーリはとある事を思い出していた。

それは、もはや錆び付きつつあるが、いまだ色濃く記憶に焼き付いていること。

原作知識という、ユーリにとっては行動の指針である為、ある意味でありがたく。

また、それと同時にある意味で厄介な代物のことだった。

原作において、トスカは奇襲して遭遇した敵旗艦へと、自身の愛機であるデイジーリップ単機で乗り込み、敵の総司令であるライオスと対峙している。

ライオスを討とうとしていたのだろうが、彼女は一瞬の隙を突かれてライオスの剣に切られてしまう。

そして、傷を負いながらも原作のユーリへと最後の通信をいれてから、膨張したヴァナージの炎に包まれて消息不明となってしまうのである。

 

この世界において、ユーリは戦闘に関してはある意味で非常に憶病だった。

対人戦では基本的に不殺、艦隊戦においてもなるべく敵の投降を促す傾向がある。

だが、それゆえに戦いに関しては慎重であると周囲の人間には認識されている。

まぁ実際は中の人が基本的にビビりで怖がりというのもあるのだが。

それはさて置きそういった事情もあり、ユーリは先程の戦いで原作ユーリのように無茶をして敵旗艦を沈めようとはせず、文字通り撹乱や時間稼ぎに徹している。

なにせ皆必死であったし、全速力で当て逃げせよと命令を下していたのだ。

その為、原作で行われた敵旗艦との一騎打ちは行われず、ニアミスしただけに終わっている。

だが、トスカとライオスとの間には、途轍もないほどの因縁がある。

なにせ彼女の星、いや国家はライオスの裏切りにより滅亡しているのだ。

それも、“ヤッハバッハに攻められて”である。

そんな仇敵とも言うべき存在が居た場所を前にして、感情を抑えられるだろうか。

特にデメテールの突撃で敵はまだ混乱している。

デイジーリップは全長100mクラスの小型艇だ。

今だ混乱している艦隊に密かに忍び寄り、敵旗艦へと接舷できる可能性は高い。

恐らくトスカはデイジーリップを使い、ライオスの元へと向かう。

己の復讐の為に、恨みを晴らすために・・・とユーリは考えていた。

 

 

「・・・ここか、随分遠かったッス」

 

 

そして、ユーリはデイジーリップが保管されている格納庫へとようやく辿りついた。

艦長権限で列車を直通で回したりと急いだが、ブリッジからここまで40分近く経過しているあたり、どれだけデメテールがデカイかが判る。

デカすぎるのも考えもんだぜとユーリは考えつつ、静かに格納庫へと入って行った。

 

 

***

 

 

―――デイジーリップの操縦室、そこには足を投げ出して席に座る一人の女性がいた。

 

 

「・・・」

 

 

コンソールの上に足を投げ出し、ややだらしなく座って虚空を眺めている彼女こそ。

この艦隊の設立当初から関わりがあり、もっとも最初にユーリと出会った女性。

周りからはそのさっぱりとした性格からか姐ごや姐貴と慕われる最古参。

意外と可愛い物が好きで、さりげなく部屋には酒びんと共にぬいぐるみが――」

 

 

「ねつ造すんな」

 

「ふひひ、さーせん」

 

 

彼女以外人っ子一人いない筈のデイジーリップに彼女以外の声が響く。

かってにナレーションに介入してくれたソイツは、現在の彼女の雇い主。

そして、もっとも気心が知れた相手でもある、ユーリだった。

 

 

「――で、なにか用かい?」

 

「いや、てっきりデイジーリップで突撃でもしようとしてんじゃないかって思って」

 

「なんだいそりゃ?幾らなんでもそんなことはしない。死にに行く様なモンじゃないか」

 

「へぇあ」

 

 

トスカの呆れ声に思わず変な声を出すユーリ。

どうもトスカが復讐云々はユーリの思いこみで、只単に黄昏ていただけの様だ。

しかし、何故わざわざデイジーリップに来て黄昏ていたのかが判らない。

そんなユーリの心情をさっしたのか、はたまた何と無くそう思ったのか。

トスカは席に深く腰掛けながら、ユーリへと声を発した。

 

 

「・・・過去との決別だよ」

 

「え?」

 

「デイジーリップはね。私が0Gをやり始めたころからずーと一緒だった。いわば私の分身の様なもんなのさ」

 

「あ、なーる」

 

 

トスカの発した言葉はユーリには理解出来た。

フネを持ち、そのフネを自分の意のままに使っている内に、フネは家となり、また自分の半身のように感じられてくる。

 

 

「それに、コイツに乗ってから色んな事もあったしね」

 

「色々ッスか?」

 

「そ。色々と、ね―――」

 

 

そう言ったトスカは何処となく悲しそうな寂しそうな、そんな表情を一瞬浮かべた。

ユーリには彼女がどれだけ大変な思いをしたか、どれだけ苦労したかはしらない。

いや、実際は知っているんだが(酒の席での愚痴、ユーリは基本素面)それをここで言うのも白けるので止めていた。

ともあれ、何故かその後彼女の昔話が始まり、ユーリはそれを黙って聞いていた。

昔話の中には、かつてライアスと自分が婚約者同士だった時の幸せな思い出。

あの女海賊のサマラが若きトスカを男と勘違いして惚れたとかいう裏話。

サマラが結構本気で口説いてきた時、普段の冷徹さとのギャップで女性だったのにクラリときたとかいう様な内容もあった。

そして一通り話終えたトスカは唐突に口をつぐむ。

デイジーリップの操縦室の中に静寂が降りた。

 

 

「―――まぁ、そう色々とあってさ。すこし懐かしくなってここに来たのさ」

 

「ふーん、へぇ~」

 

「・・・なんでそんなにどうでもよさそうなんだい?」

 

「いや、だって、サマラさんの秘密聞いたのは儲けとか思ったけど、考えてみたらそれ知ってるのばれたら俺殺されちまうッスからねぇ。どうしたもんかと」

 

「・・・はぁ~、まったく、あんたといると何だか悩んでいたのがアホらしくなるね」

 

「はは、真面目に堅苦しくよりアホやって楽しくがモットーッスからね。仲間と馬鹿やって、仲間と酒飲んで、仲間と愚痴を言い合う。中々幸せなことだと思うッスよ」

 

「仲間と馬鹿やってか・・・うん、確かに幸せだねぇ」

 

 

トスカは自分の人生を振り返りつつも、最近になってから出来た思い出の方が、強く輝きを放っているように感じられた。

生きるために必死だったあの頃、やることは何でもやり、外見すら気にかけなかった。

流石に身体は売らなかったが、犯罪スレスレのグレーゾーンな事はやってきたような気がする。

だが、ある意味でそんな印象に残りやすい記憶より、ユーリや仲間と共にいた時間。

この短い間に思い出となった記憶の方が、楽しく、またとても暖かいモノだった。

 

 

「・・・ユーリ」

 

「ん、何スか?」

 

 

トスカはコンソールから脚を降ろし、何時の間にか火器管制席。

一番最初にローズから出た時のユーリの席に座っているユーリの方を向く。

 

 

「私は、過去と決別出来るんだろうか・・・」

 

「ん?・・・ん~」

 

「私は、ライオスが来ていると知った時から、ここが熱い」

 

「ま、まさか・・・恋」

 

「恨みだよ。私の星はアイツが滅ぼした様なモンだ。昔ほどじゃないが今も恨んでる。だけど、だけどさ・・・ここに来てから、その気持ちがドンドン無くなるって言うか・・・何て言うか・・・」

 

「・・・恨みが軽くなった?」

 

「そう!それだ。だけど、私の心はそれを良いとも言っているし、ダメだと叫んでる。なぁユーリ、私は過去と決別なんて出来るんだろうか?」

 

 

トスカが漏らしたのは、彼女が抱える心の葛藤の吐露だった。

いま彼女は、仲間や弟のように愛おしく思っているユーリ達の為にに過去と決別するか、それとも心のままにライオスを倒しに行くべきか悩んでいた。

そこへユーリが来たのだから、余計にこころの葛藤は深まるというものである。

だから聞いてみたのだ。ユーリがどうこたえるのか聞きたくて。

どんな風に返事を返してくれるのか聞いてみたくて、彼女は質問を投げかけた。

過去と決別出来ると言ってくれるのか、それともそんな事出来ないと言ってくれるのか。

問いに対して、何故かあぐらをかいて唾付けた指を米神に当てて坐禅するユーリ。

何故か何処からともなくポクポクと聞こえてくるそれを眺めつつ、答えを待った。

 

 

「うー、あー・・・俺には解んねぇッス」

 

「・・・そうか」

 

 

すこしして、帰ってきたのは彼女の臨む答えでは無かった。

それどころか理解できていないと感じた彼女は、何処か寂しい気持ちとなる。

だがそれを見たユーリは慌てた感じで取り繕った。

 

 

「い、いや違うんスよ?確かに判らねぇンスけど、何て言うか・・・」

 

 

ユーリはちょっとタンマと手を交差させる。

そしてまたウーと唸ってから、考えがまとまったのか口を再び開いた。

 

「人の心は解らないもんス。それが例え家族や親友であっても」

 

「そう、だね。確かに人のこころは解らないか」

 

「でも、だからこそ生きるのが面白いんじゃないんスかね」

 

「そう言うもんかい?」

 

「ウス。だって人の心は移り変わるッス。何時までも同じ感情でいられる訳が無いッス。少しづつ、少しづつ、人間は移り変わりゆく。そう考えたら、よくわからないって思ったんスよ。俺は」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

確かに、ユーリの言う事には一理あった。

現にトスカの心情は彼と関わりだしてから随分と変わってしまった。

 

 

「年取れば考えも変わるじゃないッスか。トスカさんだって年を取れば考えも変わるんだ。別にそれが悪い事って訳じゃないッス。それに―――」

 

「?――それに?」

 

「そうやって悩んでるって事は、俺達はトスカさんの仲間だって証拠っスから」

 

 

ユーリはそう言って嬉しそうにニカッと笑みを見せた。

それはトスカがユーリと出会った短い間で常に心に感じていた暖かさを感じさせてくれる、親愛の現れの笑み。

 

 

「・・・あっ」

 

 

そうか、そうだったね。葛藤するってことは、それだけ悩むって事は・・・。

トスカは何処かストンと収まる感じを受けて、思わずポカンとしてしまう。

それはとても簡単な答えだった。

 

 

「ユーリ」

 

「何スか?」

 

「私は・・・まだ過去と決別できないかもしれない。変われないかもしれない」

 

「・・・・・・」

 

「それでも、私を仲間だと言ってくれるのかい?」

 

「あたりまえじゃないッスか」

 

「・・・ありがとう」

 

「・・・どういたしまして」

 

 

ユーリはそう言うと、再びニカっと笑みをたたえてそう応えた。

なるほど、人の心は移り変わるか、だから面白いとはよく言ったものだ。

トスカは過去との決別とか、そういうのを考えるのは後回しにすることにした。

それも大事だが、それよりも自分のことを思ってくれているユーリ達のことの方が重きが上であったから。

そう思うと、彼女は何だか嬉しくなった。

少なくても以前のように一人酒におぼれ無くても良い。

何処か寂しい時間の中で生き無くても良いのだ。

そして、そんな世界を自分にくれたのが、目の前に居るユーリだった。

なんだか、とても愛おしく感じた。・・・だからだろうか―――

 

 

「ユーリ」

 

「今度は何ス・・ムグぅっ?!」

 

 

―――ついつい、ユーリの唇を自分のを重ねたのは。

 

 

「んっ・・・ちゅ・・こく・・・じゅぅ・・・ぁむ・・・こく、ん」

 

「・・・――!!!!!???」

 

序でに以前の仕返しとばかりに舌まで入れたのは余談である。

流石にこういう体験はなかったのか、ユーリの腰が砕けていた。

普段のほほんとしているだけに、こういった反応をされると新鮮で面白い。

 

 

「あむ・・・む・・・ぇう・・・ぷは」

 

 

結構長い事、唇を重ねていたからだろうか。

大人のキスだっただけに・・・まぁあえて表現は控えよう。

ただ二人の間に橋が掛っただけである。あえて何がとはいわない。

 

 

「・・・話を聞いてくれたお礼だよ。あとこの間の仕返し」

 

「そ、そいちゅは・・・どうも」

 

 

そう返した後は何処か腰砕け放心しているユーリだった。

やがて我に返ったのか、仔鹿が立つかのようにプルプル震えながら起きあがる。

そして自分仕事あるッスからと言ってデイジーリップから降りて行った。

もっとも、それをした張本人は何処か満足をしてデイジーリップから降りた。

あれの意外な面を見れた。これで酒の席でからかう要素が増えたねぇとほくそ笑む。

そして、もう来ることはないだろうと思った彼女は格納庫をロックし、その場から立ち去ったのだった。

 

 

***

 

 

さて、そんな事があっても時間は刻々とすぎ、第一回戦をしてから4時間が経過した。

十分な休息とはいえなかったが、タンクベッドシステムによる休息。

また裏方生活班の活躍により十分な食事を取れた白鯨乗組員の士気は高かった。

あの後しばらく放心したり、顔を赤らめていたユーリではあったが、指揮を取らねばならずとぼとぼとブリッジへと戻った。

その様子を見てユピが首を傾げて居たり、大居住区に居る妹君が一瞬黒いオーラを発して周囲の人間が萎縮したり、フラフラと色んなところを手伝っていたキャロもむっと何かを感じたりしたのは余談だ。

ともかく、第一回戦を終えたユーリ達を含むアイルラーゼン軍は後退。

ヴァナージの狭い航路を取り囲むように陣を組み、そこで敵を迎え撃つ体勢を取った。

一方、敵一艦隊に艦隊全てを撹乱させられ、一割にも満たないが一艦隊に負わせられた被害とは思えない被害をこうむったヤッハバッハ艦隊はそれに応じ、ヴァナージを挟んで反対側へと陣取った。

両者の傷は癒えていないが、一度開かれた戦端はどちらかが倒れるまで終わらない。

 

 

「大佐、敵艦隊の敵影をレーダーが捉えました」

 

「・・・ついに来たか。各艦戦闘準備!白鯨にもそう伝えろ!」

 

 

そしてヴァナージの周囲を抜ける狭い航路を越えてヤッハバッハが侵攻を始める。

それをSS004級レーダー専用管制艦が捉え、ここに第二回戦の火蓋が切られた。

待ち構えるアイルラーゼンに対し、ヤッハバッハがとったのは王道と言える作戦。

艦載機を戦法に、突撃艇、巡洋艦、戦艦、空母と続いて突撃という物。

狭い航路を通るしかないヤッハバッハだったが、その数の多さを生かして多少落されても数で押し切る物量作戦と言えた。

そして、それはアイルラーゼンとデータリンクしているデメテールにも伝えられる。

 

 

「敵艦載機編隊を確認、数は2000、尚も増加中」

 

「ついに来たッスね・・・各艦第一級戦闘配備!ジェネレーター出力上げ!VF隊発進準備!ここが正念場ッス!気張るッスよ!」

 

 

ユーリ達白鯨を含めて、アイルラーゼン機動部隊からも艦載機が発進していく。

その中でノイセンやシヴィルと言った汎用機に混じり、VF達も迎撃の為に発進した。

この周囲を重力嵐に囲まれた航路において、ヴァナージの周囲だけが唯一通れる航路。

アイルラーゼンはその狭き航路の出口に陣取る事で数や性能の差を埋めようと考えたのだ。

勿論、ヤッハバッハはその事を百も承知であるが。

だが無様にも最初の一回戦で艦隊を混乱させられ、そのくせ敵への被害は殆ど与えられなかった事態にライオスは少し焦っていた。

ヤッハバッハは風潮として武門を重んじる傾向がある。

先の戦い、彼は敵へ損害を与えることが殆どかな解った事が焦りの原因だ。

それを為したのが一艦隊だけで、目の前に居た旗艦に歯牙にも掛けず素通りしていったことも、彼のプライドに火をつけている動機であった。

彼がもう少し冷静であれば、この場は一時離脱し、戦い易い宙域に誘い込む事を洗濯した事だろう。

だが、白鯨によってもたらされた混乱は、艦隊だけではなく艦隊を指揮するものたちにも影響を与えていた。

 

 

「トランプ隊、無人VF隊、アイルラーゼン空間竜騎隊の編隊に加わります」

 

 

そしてアイルラーゼン空間竜騎兵と呼ばれる機動戦隊と合流したVF隊。

VF-0やRVF-0、VB-6にエステバリスやゴーストまで混じった混在部隊。

巨大恒星ヴァナージの赤い光に照らされた彼らは迎撃の為に速度を上げた。

 

 

 

「各編隊、速度をあげました。敵編隊との予想会敵まで後120秒」

 

「各小隊リーダーに通達、“全火器使用自由、生き残る事を優先、後は好きにやれ”以上ッス」

 

「了解―――――・・・各小隊から返答、“了解、楽しませてもらう”以上です。間もなく交戦予定宙域に到達・・・!各編隊戦闘状態に入りました!」

 

「すぐに突撃艇が来るッス。各艦砲雷撃戦用意、ホールドキャノン展開、HLもすぐ照射出来る様に拡散モードでチャージ開始ッス!」

 

「了解」

 

こうして、アイルラーゼンと白鯨の連合艦隊VSヤッハバッハ先遣艦隊との第二回戦が始まった。

 

 

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第六十八章+第六十九章+第七十章

Side三人称

 

デメテールから発進した艦載機隊とアイルラーゼンの空間竜騎隊は、それぞれに編隊を組みつつ、ヤッハバッハの攻撃機編隊と接触した。一番最初の接触で両者ともに対空ミサイルを放った為、少なくても避け切れなかった数百機が火球となる。

それでもひるむことなく両者は加速した為、相対速度の関係で距離が一気に縮まり、すぐさまドッグファイトへと移行した。

 

方やヤッハバッハ汎用艦載機ゼナ・ゲーがクラスターレーザーを照射して十数機をまとめて落し、方やアイルラーゼンの艦載機ノイセンが編隊を組んでゼナ・ゲーを十数機を相手にして落して行く。

機体性能と単機戦闘力に優れたヤッハバッハと機体性能は低くても集団戦法と熟練されたチームワークで戦うアイルラーゼンの戦闘は拮抗していた。

そして、その中でも異色だったのがデメテールから来たVF等の特殊戦機達である。

この時期、可変する機体や人型機体はまだあまり普及しておらず、それもまた彼らが異色であるという風に見せていた。

VF自体の機体性能はエルメッツァ中央軍が各方面に売り出していた汎用機であるフィオリアが原型となっており、多少機動性は向上しているが機体が重くなった分実はそれ程機体性能に変化はない。

だがデメテールのVF隊はゼナ・ゲーやノイセンに劣る機体性能である筈のVFで、ヤッハバッハを圧倒していた。

それは技量の高さも当然ながら、VFという機体には全てAPFS(対エネルギー・プロアクティブ力場遮断装置)が搭載され、また他に類を見ない小型デフレクターを搭載した可変戦闘機と呼ばれる特殊な機体だったからである。

俗に言う戦闘機の形態であるファイターの時では能力的にはゼナ・ゲーにはかなわないが、可変するというトリッキーな機動と人型になる事で発生する能動的質量移動、アンバックにより総合的な戦闘能力はゼナ・ゲーには決して負けなかったのである。

またデメテールにとっては数が少ない艦載機搭乗者の生命を優先した設計の為、APFSやピンポイントでシールドのように展開するデフレクターにより、戦闘機としては以上な防御力を与えられていた。

これは拡散レーザーや拡散ミサイルを主兵装としているヤッハバッハの艦載機にとっては、相性が非常に悪かったと言わざるを得なかった。

VFのAPFSやデフレクターは出力の関係上戦艦クラスの攻撃には耐えられるものでは無かったが、拡散するレーザーなら至近距離でもない限り掠った程度ではダメージを受けなかったのである。

その為、一部のエースを除き、まだ新米が多いデメテールのVF隊でも、圧倒的な数を誇るであろうヤッハバッハと互角以上に戦えたと言える。今回ばかりは機体性能に助けられたという形となっていた。

 

勿論、機体性能だけでは無く、それらを操るエース達も獅子奮迅の働きを示している。

VF混成攻撃機隊のトランプ隊リーダーのププロネンやケーニッヒモンスター部隊のリーダーで自身もVB-6のカスタム機に搭乗しているガザン等は自ら前線に立ち、敵を落し続けていた。

この二人のエースは白鯨艦隊に所属する以前から傭兵で活躍したエースである。

そして彼らの活躍は白鯨に入ってからも衰えることがなく、恩賞としてボーナスとは別に特別に専用機をマッド達に依頼して造ってもらったのである。

こうしてププロネンはRVF-0と呼ばれる本来は電子戦機である機体を元に改造した彼の専用機であるフェニキアを手に入れた。

この機体は彼のレーダーを読む特殊技能であるアルゴスの目を最大限に発揮できるようにされた機体で、大型レドームによる広範囲策敵やECM/ECCM機能はそのままに攻撃力や機動性や速度を向上させた戦術電子戦機として組み上がっている。

彼はこの機体の情報処理能力を使いAWACS、エイワックスとして各編隊へと管制を行う事が出来るのだ。またその情報処理能力は複数の敵機を同時に把握し、攻撃対象とすることも可能としている。ただレドームやスラスター関連にエネルギーを持って行かれた為、通常のVFよりも防御力が下であるのが弱点と言えるだろう。

 

そしてガザンはVB-6ケーニッヒモンスターをベースに、火力重視に設計を変更した機体ヘカトンケイルを駆り戦場で死を振りまいていた。

この機体は名前からもわかる通りに火力と機動性を向上させた彼女の専用機である。

それは他称深紅の稲妻と言われている彼女の特性と良くマッチしていた。

レールキャノンの出力を向上させ、三連装重ミサイルランチャーや対空高機動ミサイルランチャーは二基から倍の四基に変更され、一基しか無かった対空ターレットも三基に増加している。

そして搭載火器を増やした事で機体がやや大型化し、重量も増えたのだがスラスターの配置の変更や高出力化により機動性はむしろ向上している。

シャトル形態でのレールキャノン砲撃も可能となり、弾種も通常炸裂弾の他にAP弾や反陽子弾頭により広範囲攻撃も可能なまさにバケモノと化していた。

ちなみにその姿は若干ガンダムのザンジバルにシルエットが似ているは余談である。

そして彼らのように専用機を与えられた訳ではないが、彼らの傭兵時代からの部下たちの機体にも各々調整やカスタムを加えている為、外見は同じでも中身は別物である機体が多い。

こうして彼らトランプ隊はVF編隊の中でもエース編隊として君臨し、この戦場においても確実な戦果をあげていた。

基本的にププロネンが戦場を把握し、ヘカトンケイルで初撃で大打撃を加えてトランプ隊が殲滅するか、トランプ隊がフォーメーションで敵を撹乱した後、ヘカトンケイルの大火力で止めを刺すかのどちらかだが、その効果は絶大である。

キルレシオが彼らトランプ隊の場合、3部隊同時に相手しても一機も脱落しない程の力があり、熟練したパイロットたちと経験に裏打ちされた技能技量がなせる技であった。

 

≪此方トランプ1、敵機補足(エネミータリホー)、2時方向、下方30°、距離6000、各機交戦せよ≫

≪トランプ2ウィルコ、エンゲージ≫

≪トランプ3、トランプ2を援護する≫

 

とはいえ、彼らが幾らエースであっても、続々と増援が来る戦局を変えられる程では無かった。

戦場で戦う機体数は両陣営ともほぼ同じであったが、後続の機体数はヤッハバッハの方が圧倒的に上であったのだ。

つまりアイルラーゼンやVF混在編隊が幾ら奮闘して敵機を落しても、おかわりはいくらでもやってくるという事であった。そしてそれは人間が乗る戦闘機で戦う彼らにとっては圧倒的に不利であった。

 

 

≪こちらアルファ4!尻に付かれた!誰か助けてくれ!≫

≪アルファ4、待ってろ!オメガ11救援に向かう!≫

 

―――ドーン。

 

≪ギャー!!≫

≪オメガ11、イジェークトッ!!≫

≪クソ!アルファ4が喰われた!オメガ11はベイルアウト!!≫

 

こう言ったことが各所で起こり、徐々にアイルラーゼンの空間竜騎隊は数を減らして行く。

何せ戦闘で消耗しても中々交代出来ないアイルラーゼンとは違い、後続が沢山いるヤッハバッハは何度でも交代してくる為疲れを知らない。

また幾ら落してもすぐに増援が来るという波状攻撃に最初こそ拮抗していた戦況は徐々にアイルラーゼン空間竜騎隊は数をへらしていく。

それはVF混成部隊も同じであり、獅子奮迅のトランプ隊以外では上記と同じく落されて離脱する機体が続出し始めていた。

 

≪ヒィーーハァーーー!!俺も加わるぜい!行け!ゴースト達!≫

 

ヤッハバッハが開けた穴を、疲れを知らない無人攻撃機であるゴースト編隊がその穴を埋めるが、一度破けた水筒からは水がドンドン零れ落ちる様に徐々にその穴は大きくなっていった。

そしてこれまで獅子奮迅の活躍であったトランプ隊も疲労で動きが鈍り始めた。

かれこれ数時間が経過しているのだ。補給のランチを何度頼んだか判らない。

だが疲れた彼らの元にも、ヤッハバッハは容赦なく増援を叩きつけた。

 

≪―――敵増援第7波接近、各機警戒せよ≫

≪何ともすごい数だねぇ。リーダー本当にやるのかい?≫

≪トランプ2へ、撤退は許可できない。交戦せよ≫

≪だろうね。報酬上乗せだ。首を洗って待ってなよ!≫

 

トランプ2ことガザン機は一気に加速して敵編隊の近くへと飛びかかる。

彼女の機体はVB-6をベースとした大型爆撃機に分類される機体だ。

その為軽快な機動を行う事は出来ず、その軌道は必然的にもっさりとしたものとなる。

当然、それを見たヤッハバッハの戦闘機パイロットたちはチャンスだと思いヘカトンケイルへ向けて殺到する。

 

≪舐めんじゃねぇッ!≫

 

だがその機体は大きさは大型爆撃機で一見機動が遅そうに見えても、バケモノなのだ。

ガザンはバーニアを全開に開放する。そのもっさりとした外見からは予想だにできない加速能力で迫っていたゼナ・ゲー達をやり過ごした。

 

≪派手に、逝っときな!≫

 

そして可変爆撃機は急激に可変しながら背面を向く。

主翼が折れまがるとそれは脚部に変わり、背面格納庫カバーが展開し、それがそのまま腕部へと切り替わり、格納庫が開かれたことで4連装レールキャノンが露わになった。

変形に所要した時間は僅か1秒、そして変形が完了したその刹那。

 

―――パウッ!

 

この大型機の持つ4つの砲門が輝き、ゼナ・ゲーの編隊ごと電荷が貫いた。

本来のVB-6は砲撃が出来るだけの可変重爆撃機なので、通常では不可能な芸当だ。

だがヘカトンケイルは接地しての攻撃手段であるレールキャノンを、増設されて出力が上がったバーニアがあるおかげで、接地しなくても砲撃が可能となっていた。

精密射撃こそ出来ないが、至近距離なら問題無く当たる上、余波で敵を撒きこめる。

まさに度胸と技量を兼ね備えたガザンだからこそ出来るドッグファイトであった。

 

≪ハッハ!見たかい!ケツにブチ込んでやった!≫

≪ガザン、あまりそう言う言い方は感心できませんよ?≫

≪良いの良いの。細かいことはねぇ≫

≪・・・まぁ良いですが、ぼうっとしていていいのですか?まだ来ますよ?≫

 

そうププロネンが言うが早いか、ゼナ・ゲー編隊のおかわりが宙域に到達した。

ガザンは迎撃しようとしたが、今度の編隊はベテランが多い編隊であったらしい。

直掩機をしていたVFが瞬時に落されてしまったのだ。

そして今だガウォーク形態のヘカトンケイルへと突撃を仕掛けてくる。

ガザンは堪らずシャトルモードへと移行させるとブースターを吹かして離脱を図った。

だが気が付くのが遅すぎたのか、加速が間に合わず追いつかれてしまう。

そして放たれるクラスターレーザーの雨あられ。クラスターの名は伊達じゃない。

高出力エンジンと大容量ウェポンベイを持つゼナ・ゲーは兎に角撃ちまくる。

それは散弾なんか目じゃない量のレーザーやミサイルが広範囲に弾幕を形成する。

まさに物量差で押しつぶすヤッハバッハの戦い方を体現したような戦法だ。

後方に幾らでもおかわりが控えているヤッハバッハだ。

だからこそ、こうも惜しげもなく弾幕を張れるのである。

全くと言って良いほど隙間が無く、アリの這い出る隙間もない密度のある弾幕。

そんな中をヘカトンケイルの様な大型機が潜り抜けられる訳が無い。

ガリガリとグレイズ・・・もとい、装甲に弾が掠る音がヘカトンケイル内に響いた。

直撃こそ受けていないが、大型機故の被弾率の大きさに徐々に掠り傷が増えていく。

累積ダメージを考えたら、戦闘不能になってもおかしくはない。

それでもまだ動き回っているのはガザンのエースとしての腕前によるものだ。

可変機能を使い大型機らしからぬ乱数機動でなんとか回避しているからである。

彼女は迫りくる敵機とミサイルから逃れるためにフレアとECMを全開で起動。

そして機体を横に滑らせダッチロールを行いつつ、機体を90°上角にする。

そのあまりにも急激な軌道変更にGキャンセラーが限界値を越えた。

ガザンは耐Gスーツを着ても関係なく動く重力に従った血流により、グレイアウトを起しかける。

視界が灰色に染まりかけた。ミサイルアラートが止まらない。

だが止まればそのまま火球に変わることを彼女は体で理解している。

速度計が一定値を越えた、それを見た彼女は操縦感を押し倒す。

 

≪ふぅぅぅぅ!!≫

 

バレルロールからの急激な下方ループで機体の進行方向を変える。

速度が出ている状態で行った急激な機動変化に肺から空気が強制的に抜けていく。

グレイアウトを起していた血流が今度は逆に視界を赤く染めていく。

レッドアウトの兆候、眩暈と頭痛が来るが止まることなどしない。

そしてその刹那、後方を映すモニターが光に焼かれて一時的にホワイトアウトした。

どうやらヘカトンケイルに搭載されているターレット(自動銃座)に運悪く命中したミサイルと機体がいたらしい。

だがそれを見る余裕なんて無いガザンは朦朧としかける意識を無理矢理戻す。

日々訓練を怠らない肉体は条件反射で機体を安定させる為にうごくのだ。

だが、まだ付いてくる敵編隊を確認した彼女は舌打ちしつつ回避機動に入る。

今度はスプリットSの容量で180°旋回した後、連続して上方ループを行う。

そして乱数回避を織り交ぜつつ再度ダッチロールしながら左へと旋回した。

このマニューバ中は気が付かなかったが、この時ガザン機は機体に装備されたターレットにより3機程撃墜していた。

だがそんなことはどうでもいい、まだ敵は追って来るのだ。

彼女は通信機に向かって大声を出していた。

 

≪チィ!次からはもっと早く言ってくれリーダー!振り切れない!≫

≪倒すので夢中だったでしょう。――大丈夫、慌てなくても救援ならすぐ来ますよ≫

 

ガザンの機体がやられているのに、何処か平然としたププロネン。

彼の態度に若干のいら立ちを感じたが、その瞬間彼女を追っていたゼナ・ゲーが爆散した。

 

≪た・す・け・に・き・た・ぜ・ぇ・いーーー!!ガザンの姐さ~ん!!!≫

 

現れたのは黒の群隊・・・。

そう表現せざるを得ない程の数百機はあろうかというほどの無人機ゴーストの群。

そして黒色に塗装されたゴーストパック装備型エステバリスの集団が数十機。

それらは全速を出していたヘカトンケイルを瞬時に取り囲み、守る様に展開する。

哀れなのはヘカトンケイルを追っていたゼナ・ゲーの編隊だ。

通常の戦闘機よりもはるかに小型の無人機ゴースト。

人型でありながらゴーストパックを装着した事で異常な速度と機動性を持つエステ。

人が乗っていない為に通常では行えない機動を行う無人機に、ゼナ・ゲーは為す術が無い。

統率された動きをしたかと思えば、時折有機的な機動を取る為余計に戦いづらかった。

 

≪はっは!天使とダンスしてな!≫

 

そして放たれるはクラスターミサイルなんか目じゃない量のミサイル。

正直ヤッハバッハの戦闘機乗り達は思った。何この無理ゲー。

だがそんなこたぁお構いなしにホーミングミサイルにロックオンされた。

チャフ、フレア、ECM、色々使っても数が多すぎた。

一部をミサイル防御装置でだまくらかしても、その次には別の奴に標的にされる。

もっとも逆に数が多すぎて一部撃ち落とすと連鎖爆発が起きたが気休めにもならない。

さっきまでの状況と逆の事態が起こり、ヤッハバッハ側としては堪ったものでは無い。

とにかく、この時YAG-D-09ゼナ・ゲーに乗っていたヤツは殆どが全滅である。

一部士官に支給されていたアッパーバージョンであるYAG-D-12ヅム・ゼーもいたが、

逃げ回るので精いっぱいで、なんとか逃げきったところをトランプ隊に落された。

それを見ていたガザンはしばし呆然としたが、ゴーストをこう言う風に使うヤツは一人しかいない事を思い出した。

 

≪ユディーンか!≫

≪うす!姐さん大丈夫だったかぃ?!≫

≪アンタなんでこっちに?アンタの配置はもっと前方だろ?≫

≪ああ、そいつは―――≫

≪私の要請ですよ≫

≪え?リーダーの?≫

 

ガザンが気が付くと、彼女の機体のすぐ横にRVF-0 Sw/Ghostフェニキアがいた。

ププロネンの専用機であるフェニキアは人型に可変してヘカトンケイルを掴んでいる。

通信回線も繋げたらしくヘカトンケイルのコックピットにププロネンの顔が写った。

 

≪ええ、この宙域の防御は彼に一任します。我々は戻らなくてはいけません≫

≪・・・私はまだいけるが、もう限界か?≫

 

ガザンがそう聞くと、ププロネンは頷いて見せた。

 

≪はい、そろそろ疲労度がピークに達します。あなたもそうでしょう?≫

≪いや、私は―――≫

≪疲れている筈です。その機体でミサイルとの空戦機動を取ったのですからね≫

≪・・・・・・≫

 

確かにガザンは今はあまり感じていないが、何処か身体に違和感を感じていた。

実を言うとあの様な戦闘はあれが初めてでは無い。

トランプ隊はエースと呼べる腕前であったが、乗っているのは人間である。

人間であれば疲れもするし腹も減る。長時間の戦闘で彼らは確かに疲弊していたのだ。

それが先程の戦闘である。本来ならVF隊がいる所をガザン機が一機で戦っていた。

あれはVF隊が離脱し、その穴を埋めるためにトランプ隊が散らばった為に、本来ならいる筈の直庵機の数が激減していた。

その為後方支援が特異な筈のヘカトンケイルが前衛で戦っていたのである。

そしてガザンの体力は危険域に近づきつつあることをププロネンは送られてくるバイタルデータで把握していた。

 

≪さきほど右翼に展開していた空間竜騎隊のノイセン部隊が壊滅しました。開かれた穴に敵の艦船が殺到してきています。本船からも防衛ラインを引くという通達がありましたから問題ありません≫

≪つーわけで、俺が全員が離脱するまでここで足止めって訳だ。悪いね、獲物はいただきだ≫

≪食いきれないもんを無理して喰うこたぁない。腹下すよ≫

≪ふへぇ、腹よりも俺ぁ頭がやばいけどにぃ≫

≪そうかい・・・それじゃリーダーに従って後退しますか≫

≪そうしましょう。VF隊、トランプ隊全機集合!一時帰還します!≫

 

ププロネンはフェニキアの通信能力を使い、生き残った部隊を呼び集め撤退した。

ユディーンがその後の宙域を請け負ったが、周囲が完全に後退した所で彼も後退した。

こうして機動戦隊同士の戦いは終わったのであった。

 

 

***

 

Sideユーリ

 

「艦載機隊、全機帰還しました。有人機未帰還は20%、無人機の損耗率60%です」

「大分やられたねぇ、これはしばらくは前に出せないよ」

 

第二回戦の前哨戦は正直どっちが勝ったとも言えない泥仕合だった。

向うは向こうで物量がスゲェし、こっちも劣勢だったけど奮闘したからなぁ。

お陰でこっちの有人機に未帰還者が出ちまった。

まぁ基本戦闘機パイロットはチョンガーが多いから遺族への考慮が少なくて済む。

・・・嫌だなぁ、そう言う考え持つと戦争数字で見てるみたいだぜ。

だけど、俺にとっての戦争は戦うだけじゃないしなぁ。

艦長が呪縛なオーラを放っているように見えるのは俺だけかしらん?

 

「敵艦隊に動きあり、突撃艦と巡洋艦を多数確認。詳細な数は不明」

「息つく暇も無いッスねぇ・・・長距離雷撃戦用意!ステルス観測機発進ッス!」

「了解、ステルス機飛ばします」

 

さて、艦載機同士の戦闘は一応の終了を見せたがまだまだ序の口。

今度は足の速い突撃艦がもう数えきれんくらいに殺到してきた。

なんせ後続が見えねぇくらいだしなぁ。流石は十万以上いるだけはある。

兎に角、此方に接近してくる突撃艦の速度が半端無い程速い。

旧時代のロケットを思わせるシルエットをした艦がヤッハバッハ突撃艦だ。

スティック状の船体は正面からの砲撃戦での被弾率を極端に低下させている。

後で知ったがアレは突撃艦がブランジ級、巡洋艦がダルタベル級と言うらしい。

なんとも、実に合理的な形状をしていらっしゃるぜ。

美しさやらバランスを重視する傾向の小マゼラン艦船は見習ってほしい。

それはさて置き、一応迎撃したが距離が遠いのと大恒星ヴァナージの超重力。

それと敵の突撃艦の持つ極端に被弾率が低いシルエットの所為で全然当たらない。

観測機を飛ばして補正させてはいるがそれでも雀の涙程度だった。

 

「中央アイルラーゼン艦隊動きます。駆逐艦、巡洋艦、戦艦が多数展開」

「馬鹿な!今飛びだしたら確実に標的にされるぞ!」

 

トスカ姐さんが声を張り上げたが、まさにその通りのことが起きた。

駆逐艦のランデ級、巡洋艦のグワンデ級、バスターゾン級。

そして戦艦のバゼルナイツ級を中心とした機甲艦隊が前に出たのだ。

こっちもそうだが艦載機をほぼ落したので砲撃戦に打って出たのだろう。

そして、最初に砲火を放ったのはアイルラーゼンの方だった。

アイルラーゼンは後方からヴィエフ級砲艦が援護射撃をし、艦隊自体も砲撃を開始。

ヤッハバッハもそれに応え、突撃艦が艦首側面の大口径速射砲を連射する。

方や高出力レーザーやリフレクションレーザー、方や実弾砲とミサイル。

どちらの方が早いかは言うまでも無く、アイルラーゼンの攻撃が先に到達する。

直撃を喰らったのだろうか、ヤッハバッハ陣営の方から蒼い閃光が瞬いた。

だがその閃光の数は放たれたレーザーの量としては圧倒的に少ない。

そして少しして敵艦から放たれた実弾砲が到達する。

―――その途端、アイルラーゼンの前衛が崩壊した。

 

信じられない事にランデ級を含めた駆逐艦がほぼ一撃で大破した。

巡洋艦も大破こそしなかったが中破が大多数で小破の艦もかなり出た。

敵のブランジ級の大口径速射砲の威力は想像以上に大きい。

遠距離戦はともかく、すでに中距離戦となり、間もなく至近戦闘になる。

改めてヤッハバッハの技術はあり得ねぇと思った。

 

「敵巡洋艦に動きがあります。左舷ブロックが開口」

 

だがヤッハバッハの攻撃はまだ終わらない。

俺のバトルフェイズは終了して無いぜと言わんばかりに今度は巡洋艦が前に出る

このダルタベル級巡洋艦は右舷に船体全長よりデカイ大きさのリニアカタパルト。

そして船体挟んで左舷には、何か大きなコンテナの様なものを搭載していた。

そして最初はそれは艦載機の保管庫だと思われていたのだが・・・。

 

「ありゃ・・・もしかしてミサイルッスか?」

 

コンテナブロックが開口してみれば、中には平頭なミサイル達がギッシリである。

そしてそれを確認した刹那、大型ミサイルランチャーからミサイルが発射された。

計40発、恐らくこれまでのデータや形状を察するに、弾種はクラスター系である。

正直アホみたいな物量差で大型対艦クラスターミサイルが艦隊に迫っていた。

とはいえ、ミサイル自体の足は遅くアイルラーゼンは落ち着いてほぼすべて迎撃する。

だが、ミサイルを撃ち落としアイルラーゼンが反撃しようとしたその時。

 

「敵突撃艦加速、機甲艦隊に突っ込みます」

 

まるでタイミングを計っていたかの様に、突撃艦が群をなして機甲艦隊に突撃した。

距離が近づけばレーザーの減衰率も下がるので、何隻かは蒼い火球に変わる。

だが多少艦がやられても突撃艇は歩みを止めることはなかった。

そのまま数を少し減らしつつアイルラーゼンの艦隊中央へと直線に並び躍り出る。

そして―――

 

―――シュパパパパパパパパッ!!!!

 

一列に並んだブランジ級の胴体から全方位に対艦ミサイルが射出された。

いやあ、なんつーかまるで花火を見ているかの様な光景だった。

それはブランジ級に搭載された全方位攻撃システムである。

あの突撃艦はその名の通り敵艦隊中央に突撃し、あの攻撃で撹乱するのだ。

密集した艦隊中央でそれをやられたアイルラーゼン艦がドンドン沈んでいく。

こっちにも前方から別の艦隊が迫ってくる為、全力で迎撃していた。

近づけさせてはいけないとあの光景を見て感じたというのもあるが、それ以上にあの突撃艦は非常に不味いと見てとれたからだった。

 

「本艦へ接近する艦隊、計6艦隊。突撃艦数は800」

「撃て!撃ちまくって近寄らせるなッス!」

 

アウトレンジからホールドキャノンで攻撃を掛け、近寄る前に撃沈していく。

だがいかんせん数があまりにも多すぎ、徐々に近寄られているように感じられた。

事実、敵は此方の砲撃パターンを解析したのか、それに合わせて回避するようになる。

どうやら突撃艦には高度な測量機器も搭載されている様だ。

多分先程の全方位攻撃用だが、それ以外でも使用できるのだろう。

そして徐々に押されて中距離にまで接近され、向うからの砲撃が始まった。

 

―――ズズーン!ズズーン!ズガガンッ!!!

 

「デフレクターに連続で接触弾、デフレクター展開率94%」

「各艦にも至近弾、及び直撃弾。ですが損傷は無し」

「まだ距離があるからこの程度で済んでるッスけど・・・こりゃ怖いッスね」

 

数百発喰らっただけで6%もデフレクターを削られた。

こりゃ集中砲火でも浴びた火には目も当てられない事になってしまう。

その為艦隊機動と連動したTACマニューバでもっと回避を優先させる指示を出した。

そのお陰で直撃弾が減った為、なんとか押し返すことが出来た。

 

「ほーら如何した!もう掛かってくんなッス!」

「挑発してるのか怖がってるのかどっちなんだい?」

 

んなもん決まってんでしょうがトスカ姐さん・・・どっちもです。

何アレ?数多すぎじゃねぇ?どんだけ実弾撃ってくんの?

どう考えても雨霰レベルじゃねぇよ。大雪ドサってレベルじゃんかよ。

デメテールは大きいから的には苦労しないってか?

これで壊れたら謝罪と賠償を要求するニダ!

撃ちまくってたら何か攻撃があたりにくい後方へと後退してく。

やったね。攻撃は当たり辛くなったが、こっちの負担も減るぜ。

そろそろこっちの切り札のタイタレス級のチャージが終わるころだしな。

それさえ発射すれば、後は巨大恒星ヴァナージさんが一晩で殺ってくれる。

つらつらと、そんなこと考えていた矢先―――

 

「敵突撃艦、艦隊に向けて加速―――ッ!艦長ッ!アレ!」

「どうしたんスかユピ・・・ってうわぁ、マジで?」

 

ユピが叫んだので、何と無くみたモニターには凄まじい物が写っていた。

フネが、突撃艦が、アイルラーゼンの巡洋艦に突き刺さっていた。

え?なに、操船ミスったのか?そう思った瞬間、突撃艦がメインスラスターを吹かす。

あ、もしかしてあれってそういう戦法か!?

 

「バスターゾン級巡洋艦ローワーク、船体中央断絶しました」

「じゅ、巡洋艦が・・・ポッキリ折れちゃいました」

 

ミドリさんはあくまで冷静に、そしてユピは唖然とした感じで報告をする。

実際モニター見ていた俺もびっくりしたのだが、ラム戦をしかけてくるとは・・・。

そして接近を許したアイルラーゼン艦隊は同じ様な感じで撃沈される艦が多数出た。

デメテールは巨大なので突撃艦が突撃してきても突き刺さるだけだ。

だが多分それ許すと内部に敵兵が侵入してくる。

そうなったら内部で白兵戦・・・それだダケは阻止しなければ。

主に破壊工作阻止とか、後の修繕費決算の書類の低減的な意味で!

 

「ストール、もっと弾幕を張るッス!」

「合点だ!そらよ!ポチっとな!!」

 

中距離に近づいてくれたのでHLの射程内に入った。

また他の艦に搭載されているガトリングレーザー砲の射程ギリギリにも入る。

その為、ホールドキャノンのみの時と違い、さらに濃厚な弾幕を形成出来る様になった。

流石にその弾幕の中を突破できる敵艦はいない。

そしてなんとか突撃艦と巡洋艦を後少しで殲滅出来る。

その瞬間―――

 

「大型インフラトン反応多数確認!ヴァナージ影から敵戦艦が多数接近中!」

「チッ!真討ち登場ッスか!皆気を引き締めるッス!」

「了解」×ブリッジ全員

 

ここにきて疲弊した俺達に波状攻撃を掛けるかの如く戦艦がやってきた。

その戦艦はダウグルフ級、全長2kmの巨大戦艦だぜ。

デメテールと比べたら小さいものだが、それでも通常艦艇からしたらデカイ。

そしてデカさに見合い凄まじく硬い戦艦であった。

なんとこの戦艦、超長距離ホールドキャノンを数発は耐えるのである。

超長距離だと周囲の環境により、中々命中しないのでコレは脅威だ。

この距離では殆ど落せないと踏んだ方が良いかもしれない。

 

「敵突撃艦、巡洋艦も確認。敵戦艦と艦隊を組んでいる模様」

 

そしてアレだけ倒したのにまだ敵突撃艦や巡洋艦がいた。

ヤッハバッハ艦隊は見事な四方陣形。ファランクスの様な陣形で迫ってくる。

とくに突撃艦は戦法にラム戦があるので、まるで槍の様だ。

ファランクスで槍・・・お前らはローマの軍勢か!と思った。

あ、つーか高圧的外交とか、軍事を背景にした外交とか・・・歴史は繰り返すってか?

 

「艦長、アイルラーゼン艦隊司令バーゼル大佐より通信です」

「バーゼルさんから?なんだろう――繋いでくれッス」

「了解、通信繋ぎます」

 

まぁ、大方このタイミングで通信が来るって事は―――

 

『ユーリ君、間もなくタイタレスの発射準備が終わる。艦隊ごと後方に下がらせるぞ』

「おお!ようやくッスか!長かったぁ~!」

 

―――ようやく、此方の切り札である決戦砲の発射準備が完了に近づいたって事だ。

 

ああ、長かったぜ。

 

 

***

 

Sideユーリ

 

さて、タイタレスの主砲が発射されたんだが―――アン?描写省くなって?

いやなんつーか如何言えばいいのか判んないって言うか・・・ああ、判った判った。

なんとか説明してみようじゃないか。頑張って。

 

 

 

 

決戦兵器、エクスレーザー砲艦タイタレス級のエネルギーがなんとか充填でき、俺達は一度タイタレス級とヴァナージを結ぶ直線状を開ける為に艦隊を開いた。

タイタレス級の前方をモーゼの如く艦隊が別れたので、敵にもタイタレスの姿が露わになる。今まで此方の艦隊はブラインドの役目を果たしていたって訳だ。

 

『タイタレス、エクスレーザー砲エネルギー充填完了』

『オクトパスアーム可動調整、収束開始』

 

タイタレス級からの通信がデータリンクで入り、発射態勢に移行した事が判った。

しかし、流石は大マゼラン製だな。正直どんだけーって感じか?

なにせメーターが振り切れるんじゃないかって言うほどのエネルギー量。

デメテールの観測機でもギリギリ観測できる範疇なのだから相当凄い。

なるほど、これなら確かに天体に影響を与えられるというもの。

仮にこのエネルギーがどれくらいかと言うと、地球サイズの惑星に撃てばその惑星は跡かたも残らない威力と言えば判るだろうか?波動砲なんか目じゃない威力である。

これも異次元からエネルギーを持って来れるインフラトン・インヴァイターの恩恵だ。

その分チャージにほぼ二日掛かったけど、それ程のエネルギー量なら頷ける。

そして、それだけの時間を掛けたエネルギーが後数分で発射されるのだ。

既に周囲の艦隊は全速後退と反転の準備に入っている。

エクスレーザー砲が発射されてからおよそ5時間半後にここは火の海になるからだ。

ちなみに距離的には60億km、俺達の地球からすると冥王星に行ける距離である。

それだけ離れているのに減衰気にせず撃てるとは、流石は大マゼランry

 

ゲフン、とにかく発射後は速やかにこの宙域を離脱しなければならない。

その為現在タイタレス級に何隻か接舷して乗組員の移乗が行われている。

タイタレス級は砲艦と銘打たれているが、実際には文字通り大砲でしかない。

むしろ巨大な大砲にエンジンと制御室がくっ付いている感じだ。

イメージ付かないなら某ガンダムのヨルムンガンドを想像してみてくれ。

要するに動かせはするが基本的に非常に鈍速なのだ。

よくそれで宇宙の難所であるマゼラニックストリームを突破出来たと思う。

まぁここに持ってくる時も何隻もトラクタービームを出してけん引していた。

そう言う訳でタイタレスはエクスレーザー発射後、この宙域に放棄されるのである。

そんな事して大丈夫かと聞いたら、もう一隻ニ番艦があるから大丈夫だって言われた。

流石は大マゼry

 

『発射まで、後3000秒。各艦対閃光防御』

「ようやくここまで来たねぇ」

 

トスカ姐さんが何処か感慨深そうにそう漏らした。

 

「赤字覚悟のミサイル大決算市でしたッスからねぇ」

 

俺も腕を抱えうんうんと言いながら別な意味で感慨深くそう漏らした。

 

「・・・・あとで仕事だね」

「・・・・そうッスね」

 

そして二人してこの後待っているであろう書類のチョモランマへの登頂を覚悟する。

あんまり実感わかないだろうが、この会戦で実は結構ミサイルとかを消費している。

ちなみに一番大きなのはバーゼル/AS級駆逐艦の特殊兵装の大型空間魚雷だ。

コレは数は少ないが対艦兵装としては威力があったので使用した。

まぁデカすぎて途中で撃ち落とされたので微妙な戦果だったけど。

また艦載機隊は対空ミサイルを装備しているがそれは当然有限だ。

だから使ったら帰還して補給しなければならない。

ビームやレーザーは基本直線なのでホーミングするミサイルは現代でも主力なのだ。

そして連続的戦闘により、凄まじい量のミサイルを消費している。

戦闘中にも関わらず、デメテールの工廠はフル稼働でミサイルの在庫を増産していた。

そうしないと補給が間に合わなかったからだ。

そして溜めこんでいた資源はかなり消耗している。

反陽子弾頭系が特に痛い。反陽子の生成はかなり手間とコストが掛るからな。

そしてそれらの報告書などが纏められ、俺達上の人間の元に届くという訳だ。

実質上、ブリッジ要員は彼らが任されている部署のトップである。

そのため、俺達はこの戦いが終わっても別の戦場が待っているという事になる。

だからそこはかとなく戦闘が終わりに近づくにつれてブリッジの空気は重くなった。

ユピがみんなを励まそうと私も手伝いますと言ってくれるので目頭が熱い。

 

『――・・・発射まで300秒―――』

 

気が付けばカウントダウンは残り5分を切っていた。

あまりのエネルギー量に漏れだした光子が砲口から流れでてキラキラと輝いている。

それは何処か幻想的に見える光景だが、天体一つ壊せる兵器だと思うと背筋が寒い。

少しして1600mもある収束用の巨大重力レンズリングが砲口へと移動する。

傘のように広がった8本のオクトパスアームもレーザー発射の為にチャージしているので発光し、何だか光の傘を横倒しにしたように見えた。

だが、当然こんな派手なモンを見せれば敵さんも慌てるようで・・・。

 

「敵艦隊、さらに増速。此方へと突っ込んできます」

「主砲のインターバルを2から1へ、強制冷却装置可動。ここが正念場ッス!」

「アイサー!」

 

・・・そりゃもう死に物狂いと言う訳でも無いけど、突撃してくる艦艇が増えた。

先程から此方の被弾率が上昇している。何せ防がないと自分たちが死ぬのだ。

事実戻りたくても連中は戻ることが出来ない。

何故なら、このヴァナージによって狭められた航路に密集しているからだ。

しかも連中は俺達よりもずっと数が多く後続も沢山いる。

この意味が分かるか?つまり、連中には後退出来る隙間が無いのだ。

幾ら優秀でも10万規模での艦隊運動では必ずどこかが渋滞する。

それなら万が一を掛けて突撃した方が生存率は高いと考えた訳だ。

というか航路が細長くて狭いから、それ以外の戦法以外取りようが無い。

そしてそんなことをすれば鶴翼で広がっている艦隊に突っ込むことになる。

火線が重なるキルゾーンに自ら突っ込むのは、相当な勇気か、はたまた蛮勇か。

とりあえず半ば偶然だったがヤッハバッハ引き込めた俺らグッジョブ。

 

―――キューン・・・ズォォォォォォッン!!!

 

ホールドキャノンの斉射が始まった。

相変わらずの高威力と貫通力で数隻まとめて敵艦を撃沈する。

そしてインターバルの間はHLが発射され、砲撃間隔の隙間を埋める。

ホールドキャノンほどの威力はなくても、複数の“まがる”光線だ。

命中直前まである程度誘導できるその効果は素晴らしいものがある。

一撃で撃沈出来ずとも収束させ同時に命中させれば、小破ないし中破は可能だった。

とはいえ、幾らキルゾーンに入っていると言っても、外宇宙からここまで長い旅を切り抜けてきたヤッハバッハ戦力の底力は途轍もなかった。

小破や中破した艦を後方の艦が追い抜いて盾になり徐々に此方に進んでくるのである。

圧倒的な戦力というのはこれ程やりずらいものかと思う。

なにせ小破や中破だと少し後ろに下がれば応急修理が可能だからである。

特にヤッハバッハのフネは耐久性とダメコンがしっかりしているのか、ホールドキャノン以外の攻撃だと数発程度では沈まなかったのも、彼らが前線を押し上げている原因であった。

 

『発射まで、あと180秒』

「あと3分ッスか・・・短い様でなげぇッス。だけど勝ったなコレは」

 

ついつい某眉なし閣下の真似をしてしまった。

だがここはミサイルが飛びレーザーが照らす戦場。

後少しで発射だと思うと残り2分がとてつもなく長く感じられる。

時間にすればカップラーメン一つ作る程度なのに、手から汗が止まらない。

いや、どちらかと言うと嫌な予感の汗の方が―――

 

「艦長!敵戦艦が一群突っ込んできます!」

「ゲッ!数はどれくらいだいユピ?」

「およそ200隻です!防御帯出力を全開にしている模様!あと100秒でタイタレスに到達します!」

 

そして嫌な予感は当たっちまったようだ。

ヤッハバッハは装甲が分厚い戦艦を盾に、タイタレスへと一直線に向かっている。

当然此方もそれを緩さじと火線が集中させるが、防御に力を回したからか落し辛い。

まるで触手を伸ばすかのように一直線に飛びだす艦隊とかあり得ねぇけどなぁ普通。

 

「敵、先頭の戦艦が沈みます」

 

ホールドキャノンの冷却が終わり一斉射したことで、2kmもある大型戦艦が沈んだ。

後に知ったが、あの戦艦はダウグルフ級と言い上級士官に与えられるものだそうだ。

そんな戦艦をよくもまぁこんな消耗品のように使えるなと感心した。

こっちが苦しい様にアッチも苦しいのだと考えれば、戦っている意味もある。

だが物事と言うのは得てして上手くいっている様に見えても油断できない。

ほんの少しのことで簡単にひっくり返るのが事象なのである。

そしてその考えの通り、事態はより悪い方に転覆する。

 

「・・・?撃沈した戦艦に複数の反応?」

「どうしたミドリ?」

「いえ副長・・・多分戦艦クラスのインフラトン機関の影響かと――」

 

そうミドリさんが推測したその刹那―――

 

「―――ッ!敵突撃艦確認!そんなまさか―――ッ」

「報告ははっきりと」

「は、はい!撃沈した敵戦艦の噴煙の陰から突撃艦が飛びだしました!」

 

俺達が見たのはとてつもない速さで加速する突撃艦達の姿だった。

慌ててさらに弾幕を張ろうとしたが、その瞬間―――

 

―――ズズズーーンッ!!!!!!

 

「うわっ!」

「ぎゃっ!」

「ひえっ!?」

「敵戦艦が爆散しました。突撃艦さらに接近、進路はタイタレス」

 

―――先程沈めた戦艦が大爆発を起した。

 

偶然にもダウグルフ級の主機をアイルラーゼン艦隊が放った弾幕が貫いたのだ。

そしてそれにより大爆発。I3・エクシード航法を可能とする次元を招き寄せることで高エネルギーを生み出すインフラトン機関がそのエネルギーを放出したのだ。

勿論その爆発は拡散するので至近距離でもない限り直接の被害はない。

だがそれよりも問題なのが空間への影響、そして―――

 

「アイルラーゼン艦隊が混乱中、恐らく先の爆発でセンサー系が狂ったようです」

 

―――アイルラーゼン艦隊のセンサー系の目を眩ましたことだった。

 

デメテールは兎も角アイルラーゼンのセンサーは、先程の爆発を察知して自動的にセイフティを落したのだろう。

その所為で一時的にではあるがセンサーの目が閉じてしまった。

そして・・・ウチ以外は突撃艦をロストしてしまったのだ!

 

「突撃艦が5隻防衛ライン突破。最終防衛ラインまで10秒」

「砲撃をッ!」「やっています」

 

唯一デメテールのシステムだけが飛びだしたブランコ級を捉えていた。

だから砲撃をさせようとしたが、主砲は最初から追尾していた訳ではない。

その所為で照準が遅れ、HLやホールドキャノンが突撃艦を捉えた時には―――

 

『――5、4、3、2、――』

 

―――ズガガガガンッ!!!

 

突撃艦が5隻ともタイタレス級に突き刺さっていた。

俺はそんとき驚くとかよりもやられたっていう感じが強かったな。

まさか戦艦にコバンザメのように突撃艦がくっ付いて来て、おまけに戦艦が被弾した時に噴き出した煙の影を利用して、ギリギリまで察知されなかったんだからな。

そして突撃艦はブリッジとエンジンブロックが付いた船体後部を切り離した。

タイタレスの装甲の中には約150mもの楔が5つ撃ち込まれた形となる。

切り離された船体前部は後部が切り離されたと同時に全周囲対空クラスターを発射。

その途端楔が打ち込まれたアームが内側からボコボコと膨らみ爆散する。

ブランジ級突撃艦はその本懐を遂げて、オクトパスアームの一つを破壊したのだった。

 

『――1、発射っ』

 

そしてもはやカウントは止められない。

オクトパスアームが破壊された途端タイタレス級のシステムが破壊されたオクトパスアームへのエネルギー供給をストップし緊急パージした。

そしてそのまま残ったエネルギーを主砲以外のオクトパスアームにバイパスした。

お陰で出力自体はエクスレーザー砲と変わらない威力のが発射される。

だが、ここは狭い航路とはいえヴァナージまで60億近い距離がある。

数撃ちゃ当たる方式の戦艦主砲等とは違い、ちゃんと効果のある場所へ当てなければならない。

だがかなりの時間を掛けて調整してヴァナージのコアに到達できるように調整されていた弾道が、先程の突撃艦の突撃でほんの少し動いてしまった。

ほんの少しだと書いたが、60億kmもあるとその差異は凄まじいものとなる。

だがそんなことはお構いなく発射されたエクスレーザー砲はそのまま宇宙を進む。

そしてヤッハバッハ艦隊を幾つか巻き込み、なんとかヴァナージには到達した

そう、なんとかだ。

軸線がずれたエクスレーザーはコアをかすめる様に反対側に抜けてしまった。

つまり、今回の作戦は―――

 

「・・・エクスレーザー砲、貫通」

「最悪だ・・・もう次弾をチャージする時間なんて・・・」

 

―――失敗に終わる。その言葉が俺達の脳裏を駆け巡るのに時間は掛からなかった。

 

そしてそれを見ていた俺はと言うと、どっしりと艦長席に構え―――

 

「どッドドドドドどうするッスかΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)!?」

「落ちつけユーリ!まだ慌てる時間じゃない!」

 

―――ものすごく動揺してました。誰かボスケテー!!!

 

***

 

 

Side三人称

 

「た、大佐・・・エクスレーザー砲、外れました」

「・・・・」

 

一方、こちらはアイルラーゼン艦隊司令バーゼルの乗艦。

発射されたエクスレーザーが目的を達せられなかった報告を聞いたバーゼルは、静かに椅子に腰を落としていた。

彼らは頼みの綱である決戦砲が外れたことによるショックで茫然としたのだ。

まさに執念、これは相手の執念が為せる技――とでも言えばいいのか。

もはや旗艦のブリッジ要員達は誰も声を出すことが出来ない。

なんと言い現わせばいいのか、判らなかった。

判っていたのは作戦が失敗した事と、とてつもない絶望感に包まれたことだった。

 

「・・・総員撤退戦の準備だ。殿は――私の艦で・・・」

 

なんとか茫然とした中から立ち直ったバーゼルは撤退する命令を各艦隊に通達する。

だが乾坤一擲の攻撃が、まさかの突撃戦法で防がれてしまった所為か空気が重い。

なにせ、タイタレス級のエクスレーザーは本当に一発しか撃てない攻撃だったのだ。

エネルギーチャージには専用のインフラトンインバイターを使用している。

だがそれでもチャージが完了するまでにコレだけの時間を要したのだ。

すでに戦力が半減している現状でまたチャージしたくても無理である。

主砲身こそ無傷ではあるが、エネルギーが無ければそれは鉄屑以下だった。

 

「殿、ですかな?」

「ああ、他の艦隊を逃がす為、そして本国にこの事態を伝えてもらわねばならん。そして殿は間違いなく粒子に帰る・・・すまないが退艦する余裕はなさそうだ」

「この身は国に使える身。覚悟は出来ていますとも」

「・・・すまない」

 

副官やその他の部下たちが自分を見上げてくる。

その眼にはかつてないほどの輝きをたたえた確固たる信念が宿っていた。

彼らは職業軍人である。国の為に税金を喰らって戦争に出るものたちだ。

そしてその本分は本国の国民達や弱き人々の平和を守ることになる。

その為なら命を掛けることをいとわない事を義務付け、また誉れとする。

ラーゼンの指針、旧時代から続く損得抜きで他者の為に行動する概念。

その概念を誇りとしている彼らの眼に、死への恐怖は全く無かった。

これから死地へと赴き、一秒でも長く敵を足止め、味方の撤退を援護する。

たったこれだけのことだが、相手の規模を考えれば殿は生きては帰れない。

だが、職業軍人である彼らは既に覚悟を決めたのだった。

 

そんな中バーゼルは身を乗り出して通信機のスイッチを入れる。

ここまで作戦に尽力してくれた白鯨艦隊にも退去の旨を伝えるためだった。

自分たちは殿となって本国を守るための礎となる覚悟だが、もとより民間からの協力者である彼らを巻き込もうとはバーゼルは露ほどにも考えていない。

むしろ、いち早く大マゼランに向かって貰い、この脅威の警告をしてほしかった。

彼らの船や技術があればマゼラニックストリームくらい楽に越えられる筈だ。

そう思い、白鯨へ通信を繋げようとしたその時だった。

 

「白鯨、いやデメテール!何をしている!」

「如何した?」

「大佐、白鯨艦隊が持ち場を離れタイタレスに向かっています」

「なんだとッ!?」

 

何を考えたのか、白鯨艦隊旗艦が艦隊ごと持ち場を急に離れたのだ。

そして既に役割を失った筈のタイタレスに接舷し、何かの作業を開始した。

唐突の事態に周囲の艦隊もどうすればいいか分からず、バーゼルに指示を求めてきた。

バーゼルはとにかく他の艦隊に陣形を維持することだけに専念せよとつたえ、慌てて白鯨へと通信を繋げた。

 

「ユーリ君!何をしている!もう結果は見えた!君たちも―――」

 

すでに敗戦色濃く、部隊は半数が落され壊滅状態なのだ。

今撤退しないと不味いと考えていたバーゼルの声色は自然と怒鳴るに近い声色に変わっていた。

そんな些細なことにも気が付かず通信を繋げたバーゼルであったが返ってきた通信を聞いて絶句する。

 

『バーゼルさん、ちょっとタイタレス借りるッスよー』

「なっ!?」

 

そのあまりにも軽い・・・ちょっとコンビニ行って来るのような軽いノリ。

ハッ、まさか恐怖のあまりおかしくなってしまったのか!?

気の良い少年であるユーリ君を戦争という狂気でおかしくしてしまったのか!?

何と言う事だ、私たちは守るべきものすら守れないのか・・・。

――と、微妙に見当違いの方向に思考がずれるバーゼル。

しかし彼のそんな苦労など露ほども知らないユーリ達は作業を進めていた。

 

「一体何をする気なんだ?タイタレスが外れた以上、もうこの戦いは――」

『なぁに、一発でダメならもう一発ってね。幸い砲身はまだ使えるらしいじゃないッスか。もう一回チャージすれば使えるッスよ』

 

あまりにあっさりと応えるそれに、やはり気がふれたかとバーゼルは思った。

専用の大型インフラトンインバイターリアクターでもチャージするのに2日近くを要したこの欠陥決戦砲を戦闘中のこの中でチャージ出来る訳が無い。

如何言えばいいのか判らず、思わず口をつぐんだバーゼルにユーリはちょっとうろたえた。

 

『い、いや、ちゃんと考えた末の作戦何スよ?』

「・・・しかし、タイタレスのチャージには非常に時間がかかることくらい君も理解しているだろう?すでに此方の戦力は半分を切っている。これ以上は持たない」

『あー、実はまことに言いづらいんスけど・・・チャージに関してはウチの主機からバイパスしてやればなんとかなりそうなんスよ』

 

そうユーリは何処か申し訳なさげにそう答えた。

実はこれ、ユーリの乗艦デメテールの存在を考えればあり得ない話では無い。

このフネに搭載されている主機は通常のインフラトン機関に非ず。

相似次元機関、理論上でしか存在し得ない筈の太古のオーバーテクノロジーなのだ。

理論上無限に近いエネルギーを供給できる・・・筈のエンジンである。

問題は今だ解析が上手く進んでおらず、全力運転をしたことが無いということ。

だがもはや四の五の言ってられない。ヤッハバッハの魔の手は目前なのだ。

本来なら10年近くかけてゆっくりと全力を出せるよう調整する予定を早めた。

ただそれだけのこと、とはいえ正直何が起きるのかが判らないと言った感じだった。

勿論バーゼルはそのことは知らされていない。

ユーリのフネであるデメテールはタダの巨大な要塞艦であるという認識だ。

ただ、彼の持つ技術力はある意味でアイルラーゼンすら凌駕しているところもある。

白鯨艦隊が持つ少数とはいえ非常に強力な艦隊や艦載機隊を見ればおのずと判るのだ。

それに、確かにデメテールほどの規模なら、あり得ない話では無いかもしれない。

何せ大きさだけでタイタレス級の3倍はあるのだ。

その巨体を運用できるだけのエネルギーを一度全て砲に回せば・・・あるいは。

だが、だからと言って憶測だけではいまいち信用に欠ける。

真偽が判らない以上、今ユーリが行おうとしているのは自殺行為に等しいと思わざるを得なかった。

 

(・・・自殺行為・・・か。俺がソレを否定出来るのか?)

 

ふとそこまで考えて、バーゼルの中で疑問が鎌首を上げた。

自分は先程まで敗戦を悟り一番死亡率が高い筈の殿をしようと決めていた。

考えればこれも自殺行為なのだ。そんな自分が彼の行為を咎められるのか?

そう考えたら、答えられない。ちょっとしたジレンマである。

だが時間が惜しいという感じを隠そうともしないユーリはバーゼルよりも先に口を開いていた。

 

『ま、ウチのエンジンはちょいと特別製なモンで・・・これからやろ事その他は口頭で説明するのは大変なんで一応データだけ渡しとくッス。時間も無いッスからね』

 

そう言うと圧縮ファイルが一つ送られてきた。

バーゼルは半信半疑ながらも一応データの解凍を行う。

どうやら一部のみの情報の様だが、どうやらタイタレスにデメテールからのエネルギー管を幾つか接続し、一気にエネルギーを補充するというものだ。

だがその間デメテールは完全に動けなくなり、デフレクターは兎も角兵装類は殆ど使えなくなると書かれていた。

 

「・・・」

『まぁ言わば賭け何スけどね。最後の悪あがきでも見せてやろうかと思ったんス。後これ使うとタイタレスは完全にぶっ壊れるけど、どうせ廃棄するんだから大丈夫ッスよね?』

「・・・勝算は、ほぼ無いと言っても過言じゃない。それでもやるのか?」

『だって、死にたくねぇッスから。ほいだば、こちとら準備があるんで』

 

そう言って通信回線を切ろうとしたユーリにバーゼルは慌てて待ったを掛けた。

 

「待ちたまえ―――タイタロス級の使用許可を艦隊司令権限で譲渡する。それと今一度陣を引き直す。どれだけ持たせればいい?」

『うぇ!?いや、だって撤退するんじゃなかったんスか?!つーか俺が言う事じゃないッスけど、そんなホイホイと権限を譲渡しちゃっても良いんスか!?』

「我々とて軍人だ。民間人をほっぽいて戦場から逃げ出す何てことは出来ない。盾位は出来る。だから此方が全部墜ちる前になんとかやってくれ」

『バーゼルさん・・・』

 

そう、自分たちは職業軍人だ。軍人である以上、一応民間人を見捨ててはおけない。

つーか軍人なら危険な所に態々でようとする民間人を止めろと言いたいが、ユーリ達の勢力である白鯨艦隊は下手な国家の軍隊よりも強大である。

すでに半壊というか壊滅しかけた艦隊でどうやって止めろと?

 

「いま生き残りで最後まで残る艦隊を掻き集めている。防御に専念させれば盾に喰らいはなるだろう」

『・・・強力感謝するッス』

「頭は下げなくていい。むしろ、救援といってもこれくらいしか出来ない我々を笑ってくれてもいい」

『そんな事出来ないッスよ。そんなことしたら危険を承知で残る連中に失礼ッスから。それに今回の会戦で死んでいったウチの部下やそっちの部下さん達にも申し訳が立たないッス』

「―――感謝する。彼らもそう思われれば報われるだろう」

 

死にゆく訳ではない。生きるために戦うのだ。

それが自分の為か他者の為かの違いだけでバーゼルとユーリとの考えに隔たりはない。

その両者が選んだこの選択は、必ずしも正しいとはいえないのかもしれない。

だが、少なくても―――

 

『出来るだけで良いッス。弾幕を張って敵艦隊を寄せ付けない様にしてくれッス』

「了解した。なんとかやってみる――ユーリ君」

『ん?何スか?』

「・・・死ぬなよ。君はまだ死んではいけない」

『バーゼルさんも、まぁ軍人にそんな事いうのはナンセンスかとも思うッスけど』

「はは、ちがいない――それじゃ、頼んだぞ」

『白鯨艦隊艦長ユーリ、了解であります』

 

最後におどけて見よう見真似であろう敬礼を見せるユーリ。

そんな彼にバーゼルが、いやさブリッジクルー達すらもアイルラーゼン式の敬礼を返した。

そう、まだ戦える。勇気と蛮勇は違うが、戦えるのに逃げるのは論外だ。

多少危険であっても戦おう。彼らはそう心に決めた。

 

 

***

 

Sideユーリ

 

さて、時間軸はほんの少し戻る。

バーゼルさんが固まっている時、俺の方がいち早く現実に戻って来ていた。

とはいえ、現状が凄まじく不味い方向に転がってしまったことは否めない。

なのでボスケテーと叫ぶ声をなんとか咽に押し込めて現状を確認した。

 

「如何なったスか!?」

「突撃艦の強襲で軸線が僅かにズレた為、エクスレーザー砲がヴァナージのコアを捉えずに付き抜けました。その為恒星活動がやや不安定になっただけで、超新星にまで至っていません。現在非常に強いフレアが観測されている為に若干センサーに誤差が発生していますが問題はありません」

 

ミドリさんは淡々とした口調でそう報告してきた。

一応この攻撃で敵艦隊の幾つかを巻き込んだので、数割くらい戦力を減らせた。

現在敵からの砲撃や攻撃があまりこないのも、再編している最中だからだ。

組織戦が基本の艦隊戦では、指揮系統をちゃんとしないと機能出来ない。

艦隊がそれぞればらばらに動いたら艦隊の意味がないからだ。

話しが逸れたが、実際の所は、現在現状が悪化の一歩を辿ると言ったところだろう。

なにせ頼みのエクスレーザー砲が外れたのだ。これは非常に不味い。

 

「ったく、まさか味方の噴煙を利用するなんてね」

「ヤッハバッハ人の底力って感じッスかね。クソったれめ」

 

思わず悪態をついてしまう。

本当にヤッハバッハめ、強引さだけでなくてこう言った柔軟な戦術まで使うか!

まぁヤッハバッハ人の中には、あのバカ皇子を襲っていたヤツみたいな卑劣なヤツも存在しているみたいだしな。

でもそれよりもそう言った難しい指示をこなせるヤッハバッハ軍人の方が怖いぜ。

とまぁ心のなかで悪態を付きまくっていた俺な訳だが、そばに控えるユピが何だか元気が無い。

如何したんだろうか?

 

「ごめんなさい。ユピがもっと早く感知していれば・・・」

 

どうやらユピは戦艦を囮に現れた、突撃艦の察知が遅れた事を悔やんでいるらしい。

 

「ユピは悪くないッス。強いて言うなら全員がもうすぐ終わるって気を抜いた所為ッスよ。俺ももっと警戒してりゃよかった」

 

俺はそう言ってちょっと涙目な彼女を慰めていた。

それに言い訳になるかもしれないが、俺達は連続でかなりの時間戦い続けている。

その所為で疲労の蓄積により何処か集中力の低下が起こっていたのだろう。

とはいえ、それは起こってしまった事への釈明にはならないのだが。

兎に角どうするかねぇ?このままだと敵の数に押し切られちまうよ。

 

「どうするよ艦長?一応まだ砲撃は可能だけど?」

 

砲雷班班長のストールがそう聞いてくるが、俺はどうこたえりゃいいか判らねぇ。

逃げるにしては距離が近過ぎるし、かと言ってもうこっちはボロボロだ。

良いとこフンバって耐える時間が増えるかどうかが関の山だろう。

デメテールだけなら速力があるから振り切って逃げられる可能性は高い。

 

「だけど、絶対すぐに追って来るッスよねぇ」

「ああ、間違いないね。連中のことだからすぐに艦隊を再編して追って来るだろうさ」

 

ここで逃げても追って来ることは確実な訳で・・・。

正直八方ふさがりとはこの事を言うんだろうなぁ。

乾坤一擲のエクスレーザー砲がもう使えないとなりゃ、どうしようも―――

 

「まてよ・・・・サナダさん」

「なんだ?」

「タイタレス級ってもうぶっ壊れちまったッスか?」

「ちょっとまってくれ・・・」

 

サナダさんが空間コンソールを展開(何時造ったんだ?)してスキャンを開始する。

頼むぞ、もし無事だったなら頑張れば何とかなるかも知れねぇ。

そして十秒も待たずに答えが返ってきた。

 

「8本あるアンカーアームの内、一本が破壊されただけで後はまだ動かせるぞ。船体中央の主砲塔ブロックも特に問題はないらしい」

 

尚、アンカーアームとはオクトパスアームのことを指す。ああもう紛らわしいな。

オクトパス(O)アーム(A)と略称にするぞ、正直書きずらい。

とにかくその破壊されたOA以外の機能は無事であるらしい。

ということは、もしかしたらもう一度チャージすれば使えるのでは?

その事をサナダさんに尋ねると、彼は理論上は可能だと答えた。

但し現状ではタイタレス級のインフラトン機関を全開可動しても時間が足りないだろうとの事だった。

だが俺はこの時に平目板・・・もとい閃いたのだ。

 

「サナダさん、確か装甲近辺にはHL用のエネルギー管が主機から延びてるッスよね?」

「それはそうだが、それが?」

「タイタレス級にウチの主機繋げれば短時間でチャージって出来ないッスかね?」

「!!――艦長の発想には何時も驚かされる。ちょっとまってくれ、いま調べる」

 

コロンブスの卵とはこの事か。サナダさんは驚いた感じでコンソールを叩き始めた。

考えてみればウチのフネは非常に特殊なフネなのだ。

なにせ発掘された遺跡艦をそのまま使用している古代船でもある。

所々に垣間見れるオーバーテクノロジーの粋を集めて造られたシステム。

そしてそのシステムの中には当然本艦のメインエンジン。

相似次元機関と呼ばれる本来なら理論しかない筈のエンジンも含まれるのだ。

このエンジンなら多少の無茶をすれば、短時間でのエネルギーチャージが可能かも知れなかった。

その為、いま急いでタイタレス級をスキャンして構造を解析している。

一応アイルラーゼンの軍事機密にあたるものなので、これをしたら撃沈されても文句は言えないのだが、非常時だし誰も気が付かないだろう。

火事場泥棒で申し訳ないが、緊急事態なのだしデータの悪用はしない・・・多分。

 

「艦長、思った通りタイタレス級の折れたアームに接続すれば構造上此方からチャージする事が可能だぞ」

「トクガワさん、現状でデメテールの主機はどれだけ出力出せます?」

「ふむ、今の所機嫌が良いから、60・・・いや70まで出せるかもしれませんな」

 

全力は出したくても出せない。まずそこまで上げられるか分からないのが一つ。

それと全力を出した場合にメインエンジンが耐えられるかが問題か。

未知のシステムを運用して70%で運用出来ること自体が異常なんだがな。

 

「チャージに予想される時間は鈍くらいになりそうッスか?」

「・・・おおよそだが、本艦の全エネルギーを投入すれば、2時間・・・いや40分で終わらせて見せる。いま作業用エステの手配も終了した。こんなこともあろうかと予備のエネルギーパイプを多めに作っておいてよかった」

 

 

「ヤル事はきまったってこったねユーリ?最後に連中の鼻を明かす何かを・・・」

「そうッスよトスカさん―――総員聞いてくれ、本艦はこれよりタイタレス級の再チャージを試みるッス。上手くいくかは判らないッスけど」

 

思わず頬をポリっと掻きながら俺はそう答えた。

コレは賭けだ。賭け金はこっちの命でおまけにレートこそ高いが失敗すれば死ぬ。

確かにタイタレスはもう一度砲撃することは可能だ。

だが、サナダさんの解析したデータでは、あと一回撃てば砲身が焼き切れる。

それだけじゃなくて無理矢理チャージするのだから如何なるか解んない。

だけど―――

 

「これで黙ってたら、0Gの名がすたるってもんス」

 

人間はたとえ如何なるか判っていてもやらなければならない時がある。

死ぬかもしれない、危険かもしれない。だが怖気づく訳にゃいかないんだ。

ヤッハバッハをここで見逃せば、どちらにしろ敵対した俺達に未来はない。

未来の為に、その時間を作る為にも踏ん張らなければならないのだ!

 

「・・・よく言ったよユーリ。私はアンタの案に乗った!」

「トスカさん・・・」

 

トスカ姐さんがそう言ってくれた事に、何だかとてもうれしいと思う反面気恥しい。

とはいえ、恥ずかしいと思う時間も惜しいので、俺は指示を出す。

 

「それじゃ、タイタレス級に接舷準備してくれッス。各セクションも準備を開始――」

「?如何したユーリ?」

 

ふと、ここまで考えて俺が勝手に決めて良いものかと思ってしまった。

確かにこのフネは俺のフネだが、乗っているクルー達の家でもある。

ちょっと心に迷いが出てしまい、思わず口をつぐんでしまった。

だが、それを見ていたミドリさんが普段と変わらない感じで口を開いた。

 

「―――ちなみに、全区画に先程の艦長の言葉を流しました」

「そうッスか・・・ってマジっすかミドリさん!?」

「はい、マジです。ちなみに集計の結果、反対の人間は殆どいませんよ?」

 

そう言ってコンソールに向き直るミドリさんだが、彼女は言外にこう言っていた。

このフネの責任者はアナタなのだと、トップが迷ってどうするのだと。

思いこみでは無いと思いたい。そして多分そう言う意味も込められていると。

だからだろう、俺は何と無くこう漏らしていた。

 

「・・・ふぅ、ウチのフネは馬鹿ばっかりッス」

「その馬鹿の筆頭が何言ってんだか」

「みんなバカなら怖くないって事ですね。わかります」

「「いやユピ、その考えは何か違う」」

 

***

 

Side三人称

 

ユーリ一党が生き残りを賭けた作戦の為にタイタロスを接続した頃。

巨大恒星ヴァナージを挟んだ反対側の宙域にいるヤッハバッハ旗艦傘下艦隊。

その旗艦ハイメルキアでは先程の戦闘における損害の報告を兼ねた会議が行われていた。

戦闘中なため艦隊司令他、出席者は全員ホログラム投影である。

しかしホログラムの数は小マゼラン銀河に侵攻した時と比べれば減っていた。

当初、小マゼラン方面軍先遣艦隊総数12万隻を総括する12の艦隊。

その12の艦隊のトップである人間12名と総司令ライオスを含めた13名がこの場に集う筈であった。

しかし、現在この場にいる艦隊司令の人数は、ライオスを含めて9人となっていた。

但し、この内1名は占領星系の監視の為にいない。

なので、本来はこの場には12名いるべきである。

だがこの場にいるのは9名、先の戦闘におけるエクスレーザー砲の発射の際に前衛で戦った3艦隊はエクスレーザーによって粒子に変換された為、この場にはいなかった。

現在における艦隊総数は9万隻、戦闘可能艦はその内の8万程である。

つまり最低でも3万隻がアイルラーゼンと白鯨艦隊により戦闘不能や撃沈に追い込まれたのである。

 

これは正味な話、想定以上の損害であることは明白であった。

アイルラーゼンの機甲艦隊の実力が小マゼランと次元が違ったのもある。

だが最初の白鯨艦隊の大立ち回りにより、各艦隊は完全に血がのぼってしまった。

それにより逃げていく白鯨を追いかけた為、まんまと相手の戦い易い土俵に上げられてしまったのである。

他の航路を通ればよかったのであるが、ソレは周辺の環境が許さなかった。

技術力には自信があるヤッハバッハであるが・・・。

それでも、巨大恒星ヴァナージ周辺宙域以外の航路を通る事は難しい。

この航路は安定して通ることが出来る唯一の航路となっているのである。

それはヴァナージが持つ超重力と周辺の重力帯との均衡があるからこそだ。

そういった要因が絡み合った末、艦隊数万を失うという大損害である。

ライオスも正直これには頭が痛かった。

彼の野望は最終的にヤッハバッハの頂点に立つ事にある。

しかしこれではのっけから躓いたようなものであり、只でさえ純粋なヤッハバッハ人ではない被征服民出身の成り上がり軍人というハンデを持っている彼には途轍もない痛手であった。

その為、彼の計画をとん挫させかけてくれている白鯨艦隊に対して憎悪の念を抱くのは自然な流れであった事だろう。

 

さて、IFの話であるが、もし先遣艦隊の総司令が冷静沈着の知将だったなら・・・。

このような力ずくによる泥沼な戦いは避けていたことだろう。

態々大艦隊が動き辛くなる狭い回廊を通る必要などはまったくない。

アイルラーゼンがヴァナージを抜けた後は航路を封鎖すればよかったのである。

だが結果的に、ヤッハバッハ艦隊はアイルラーゼンに突撃。

当初から物量作戦であったとはいえ、それでも無視できない被害数となった。

ここまで大きな被害の拡散を招いたのは、一番大きな要因としてヤッハバッハ人の特質が挙げられる。

彼らは野性味あふれるパワフルな人種であることは以前も述べたとおりだろう。

そして熱しやすく、またサバサバしている性質も持ち合わせている。

この熱しやすい性質・・・要するに頭に血が上りやすいのである。

また絶対的な力を持って本来らくしょーな筈の戦闘で沢山の友軍を沈められた事。

それが彼らの自尊心をより刺激し、不利な場面において突撃を掛けたという訳である。

また、そんな彼らの気質に合わせて艦船は設計されているとはいえ限度がある。

ある程度の無茶は可能でも、ソレを越えた無茶をすれば落されるのは当然だった。

 

「・・・予想以上の損害だな」

『ハッ、何分敵艦隊の展開が早く、我々もそれに対応したのですが・・・』

「言い訳はいい。この数字が事実であるなら、それを甘んじて受けとめよう」

 

扇状に展開している敵艦隊の真ん中に一直線に並んで突っ込めばこうもなろう。

ライオスはそう考えつつも、本国で責任を負わされそうだと頭痛がした。

横からスッと水と胃腸薬&頭痛薬のセットをルチアが差し出したのを飲みほし。

さらにどうするかを決めるべく会議に臨む。

 

「さきの戦略級レーザーには驚いたが、突撃隊の尽力で直撃は防げたのは称賛に値するな」

『ソレを聞けば突撃隊の彼らも喜びましょう。勇猛果敢に飛び込み、敵の兵器にダメージを与えたのですから』

「ふむ、彼らには活躍に見合った報酬はあるべきだな。打診しておこう」

『ソレがよろしいですね。ところでこれから如何なさりますかな?』

『兵力は消耗しましたが、すでに此方が圧倒的に有利。第3艦隊は敵の殲滅を上申しますぞ』

『いや待たれよ。彼らもここまで此方に被害を与えた猛者たちだ。最後まで気を抜くことは―――』

『何を言われるか!ここまで戦った相手に敬意を持って全力で当たるべきであろう?大体そんな弱腰では皇帝に宇宙の征服何ぞ片腹痛いと言われてしまうぞ?』

『むぅ、しかしだな。現に想定以上の被害は出ているのだぞ?』

『だからこそ、ここで粉骨砕身に頑張らねば兵が付いてこぬ!』

『卿は兵を無駄死にさせるおつもりか!?』

「・・・もうよい、止めろ。言い争っても会議にはならん」

 

徹底抗戦か、それとも宙域封鎖の上での撤退か。

どちらが良いかと等ライオスに言える訳も無い。

彼は溜息を飲みこみながら、言い争っていた高級士官をいさめる。

彼らは一応言い争いは止めたものの、不満そうであることは見て判る。

その怒りの矛先がまだライオスに向いていないのが唯一の救いだろうか?

 

「とにもかくにも、敵にはどれだけの損害を与えられたのだ?」

「―――報告によりますと、既に敵の総数は半数を切っています」

「確かか?ルチア」

「一番最後の観測データはあの巨大なレーザーが発射される前ですので・・・」

 

ライオスのそばに控える副官のルチアは端末を操りデータを空間投影する。

そこには扇状に展開し、狭い航路から躍り出てくるヤッハバッハ艦隊を頭撃ちにするアイルラーゼン艦隊の姿が写っている。

しかし、それまでの艦隊戦で数を減らしていたからか、艦隊密度は薄かった。

最初こそ優勢だったが時間が立つほどに押され始め、途中で拮抗状態になる。

つまり狭い航路に一部展開したヤッハバッハ数万隻と同程度の戦力である。

 

「これ以降の観測データは?」

『戦闘のどさくさで艦測艇が落されたので、まだ観測しておりません。ですが、それ程変わりはないかと―――しかし妙な話ですな』

「妙、とは?」

 

『はい、こちらもそれなりに損もうしておりますが、それは相手も同じです。ですが連中、相応の損害を与えてられているというのに、いまだに撤退するそぶりがみえません』

『撤退?どうやってです?彼らは大マゼランの艦隊だ。帰ろうにも容易にはゆかぬ』

『だからこそ解せんのです。普通半分以上艦艇がやられればソレは壊滅と言っていい被害となり、遠征しているのならなおさら戻る為に戦力を温存するのが常道。また恐らくは必殺の策であったレーザー砲も失敗し、兵の士気も低下している筈です』

「―――なるほど、確かに妙ではある」

 

ホログラムの司令達が報告する内容を聞いてライオスはそう漏らした。

 

『気の回し過ぎやもしれませんが、何かを待っているのかもしれません』

「・・・いや、ソレはないな」

 

待つ、何を?彼らの本国からは信じられない程の距離があるというのに・・・。

フィクションの瞬間転送装置でも持たないと不可能だ。そうライオスは思った。

 

『それでは、彼らは一体―――』

「我々が引けぬように、彼らも引けない意地があるのだろう」

『意地、ですかな?』

「そう、意地、だ。―――とにかく損傷を受けた艦はすぐに作業艦に修理させよ」

『戦闘は継続という事ですかな?』

「そうだ。彼らの意地に付き合う必要はないが、決着をつけられる時につけないのはヤッハバッハの人間として許されることではない。我々はヤッハバッハなのだ」

『了解です。―――それでは』

 

ホログラムが消え、会議室には静寂が戻る。

ライオスは椅子に深く座りなおすと天を仰ぎつつ息を吐いた。

そしてクルクルと椅子を回しながらこれからのことを考え始める。

何処か子供っぽいその行動。

不遜な態度を取ることが多く、物ごとを冷静に判断している彼。

それでいて熱くなると回りが見えなくなる上、こんな子供っぽさも持っている。

勿論、彼が無能という訳では無く彼が持つ戦場を見る才は本物である。

出なければ彼の様な若者が、総司令の椅子に座っていられる訳がない。

だが時折、こうして無意識に子供のような行動を取るのが彼の癖だった。

そしてそんな彼の様子をルチアは微笑ましそうに見つめていた。

惚れた弱みとでも言うのだろうか?それとも恋は盲目?

 

「―――そう言えば、先程意地と申されましたが・・・」

「ん?ああ、大マゼランの艦隊の事か」

「何故彼らは望みも無い戦いを望むのでしょうか?彼らが反抗しなければ、命を無駄に散らすことも無かったでしょうに・・・」

 

何処か愁いを帯びた表情をするルチア。

彼女は今こそライオスの副官役であるが、元は小マゼランで生きていた女性である。

エルメッツァを見限ったとはいえ、元々軍人では無い彼女のことだ。

戦場で死んでいく人達のことを思うのは仕方が無いことなのである。

 

「ルチア・・・君は優しいのだな」

「あ、いえ。ただ気になっただけでして」

「・・・彼らも引けないのだ。大国から派遣された以上、その責務を負わねばならない。それに、負けるという事実があってはならないのだ」

「それは・・・どう言う事なのですか?」

 

ライオスはこの優しい副官に自分の考えを簡単に説明した。

今相手にしている艦隊は大マゼランからの派遣軍である。

当然、今この小マゼランで起こっている出来事の鎮圧の為の軍である。

だが大マゼラン上層部からすれば、精々が小マゼランでの小競り合い程度の認識だ。

その小競り合いを収め、尚且つ自分たちの力を誇示する。

その為の政治的意味合いが込められた派兵であった筈だ。

だがふたを開けてみればヤッハバッハという超大国との戦争である。

まさか彼らも自分たちと同程度、もしくはそれ以上の力を持つ敵と相対するとは思わなかったことだろう。

幾ら力を誇示するとはいえ、その戦力は多少過剰な規模の救援軍だ。

真正面での戦いであれば、戦闘国家ヤッハバッハが負ける要素はない。

実際正面で戦った時は圧勝に近い戦闘をしているのだ。

今の状況は周囲の環境が影響しているだけで戦力は以前こっちが有利だった。

話を戻すが、そう言う派遣軍ではあるからこそ、彼らは負けて帰ることを許されない。

そうなれば大国が自分たちより下である筈の小マゼランで痛手を受けた事を国民に知られてしまいかねないからだ。

仮に大マゼランの艦隊が引き揚げたとしよう。

そうなると彼らを待ち受ける運命は隔離惑星での強制労働。

もしくは秘密裏に葬り去られるか、表に出ない影の戦力としてその存在を抹消されるかのどれかとなる。

当然彼らは家族や友人に合う事は出来ず、使い捨てとして各地を転々とさせられる。

そうやってジワリジワリと数を減らし、気が付けば証言する人間は居なくなる。

誇大妄想に聞こえるかもしれないが、事実勝った負けたの情報はかなり重要なのだ。

それだけにこの想像はあながち間違いにはなるまいとライオスは踏んでいた。

 

「とにかく、彼らが引けないのと同じように、此方も引けないのだよ」

「そう、ですか・・・」

「心配しなくても戦局はもはや此方が優勢だ。もう少しすれば此方から降伏勧告も出そう。それで良いかね?」

「は、はい。ありがとうございます」

 

どこか嬉しそうに返事をするルチア。

やはり元は一般人の彼女は戦争で人が死ぬという事に躊躇いがあったのだろう。

そんな戦場にそぐわない彼女を好ましく思いつつ、ライオスは指揮に戻ろうとした。

 

「――総司令殿、エルメッツァ本星のジンギィ提督より至急帰還して欲しいとの通信が来ております」

「トラッパ・・・わかった。通信を繋げ」

 

この時、エルメッツァの首都星であるエルメッツァ本星から通信が入る。

通信の送り主はエルメッツァにおかれた総督府の総督。

ジンギィ・ララス・ゼゼンからの救援要請であった。

このジンギィという男、これまでも数々の制圧地で民生を行い。

文化も思考も異なる筈の異人種融和を実現した優秀な統治者である。

だが半面軍事に関しては不得手なところもあり、軍事面はライオスに一任していた。

そして送られてきた通信の内容は、各地で起こった0Gドック達による散発的反乱の為の制圧の為に人を回してほしいというものである。

 

0Gドックは本来自由な航海を行う事を目的とした人間たちの総称である。

だがヤッハバッハはソレらの行為を禁じており、当然彼らも航海に出る事が出来ない状況に追い込まれていた。

もともとが開拓心やハングリー精神に富んだ人間たちである。

そんな彼らを押さえつけることがジンギィには出来なかったのだ。

今回の大マゼラン艦隊との戦いがどういう訳だか小マゼラン全域にも伝わり、それに呼応してまだ戦える0G達が抗議の意味も兼ねて各所で動きだしたのだ。

それは決して計画されていたモノではなく、あるいみ行き当たりばったりのこと。

しかし、偶然か必然か、彼らの自由を取り戻そうとする行為が同時に起こったのだ。

しかもソレはエルメッツァや近隣星系を含めたとてつもなく広範囲である。

ジンギィ提督の元に残された一万の艦船では到底手が足りなかったのだ。

その為、ライオスは自己の艦隊を含めた現在の戦力の半分である四万隻を連れて帰還することになった。

この時のライオスの判断ではすでに戦いの決着は付きつつあると踏んでいた。

なので戦力の半分を連れて後を任せても大丈夫と考えたのである。

どちらにしても航路が狭くて艦隊の半分はまだ戦っていないのだ。

無駄に溜めておくよりかは、もっと広い場所で使った方がいいと考えた。

そして自分が0G達の制圧の総指揮を取ることで二つの局面での功績が得られる。

これでまた野望に近づけると、彼はこの場を先程戦意が有り余っていた艦隊司令に任せ、この宙域から損傷艦を引き連れて後退したのである。

 

そして、結果的にこの事が彼の命を救う事となる。

後退した彼は一度破壊して放棄されたはずのタイタレス級がまた命を吹き返した。

そしてその為にデメテールが取りついた報告を彼らはまだ受けていなかった。

もしその報告を後退する前に聞いていたなら、彼はこの場に残った筈である。

しかし、彼はこの場に残ることなくそのまま帰還したのであった。

 

・・・・・巨大恒星ヴァナージは、まだ揺らいでいる。

 

 

***

 

 

~ヴァナージ宙域・アイルラーゼン白鯨混成艦隊方面~

 

 

さて静かなエルメッツァ方面のヴァナージ宙域とは違い。

マゼラニックストリーム方面のヴァナージ宙域では今だ激しい戦闘が続いていた。

白鯨艦隊はタイタレス級とドッキングし、現在動かすことが出来ない。

またエネルギーのほぼすべてをチャージに回す為に兵装が使えなくなっていた。

その為、護衛艦隊と戦闘機隊の負担が飛躍的に増大していた。

その中で40分のタンクベッド休憩と補給を終えたトランプ隊が再度出撃をかけていた。

だがトランプ隊の面々は、リーダーであるププロネンすらも表情が硬い。

何せかれこれ一日半以上、休憩をはさんでいるとはいえ連続で出撃しているのである。

この容赦のない出撃は肉体と精神への重い負担を彼らに課していた。

タンクベッドは肉体の休息は得られても夢が見れない為に精神の休息は得られない。

しかしその為のリラクゼーションポッドはタンクベッドに比べると数が少なく。

とてもではないが戦闘中に入れることは稀だった。

 

彼らの待機ルームにいる医師らがドクターストップをかけない限りは使用できない。

だがそんな中でも敵は容赦なく出撃してくる為、彼らは擦り切れていく精神を引き摺りながらも自分の機体に乗り込み、カタパルトで撃ちだされて戦場に向かっていた。

 

≪こちら先行しているスカウト4番機 敵機確認 爆装タイプ40 護衛の制空タイプ70確認 各機警戒≫

≪トランプリーダー了解 リーダーより各機 シークエンスG-6 敵機迎撃ラインに侵入した 電子戦用意 マスターアームオン――4番機 戦闘に巻き込まれない内に急いで戻れ 戦場で丸腰は危険です≫

≪了解 ミッションコンプリート RTB≫

 

白鯨艦隊の居る方向へ帰還していくRVF-0を見送るトランプ隊。

彼らは部隊を率いてスカウト4の来た方向へと機首を向けた。

敵は有視界のはるか先の虚空にいる。到達するまで数十秒掛かるだろう。

向うはどうか知らないが、すでに敵を察知している彼らは非常に有利であった。

だが、それでも時間と言う呪縛は彼らを縛りつけ始めていた。

 

≪・・・トランプ9、11 機体がふらついています 大丈夫ですか≫

 

編隊の右翼側にいた内の数機が共にふらつき始めていたのだ。

リーダーであるププロネンは彼らに大丈夫かと通信を送る。

 

≪こちら・・・トランプ9 なんとか平気です≫

≪同じく11 すぐに戻します≫

 

そう返事を返しては来るが、やはり限界が近い。

肉体の疲労を回復しても精神の方が先に参りはじめ、それが肉体に影響を与えている。

9と11はこの戦闘の後はリラクゼーションポッド行きだと彼は思った。

そしてそれにより戦力がさらに低下するということも。

 

ププロネンは愛機フェニキアのレーダー出力を限界まで上げた。

連動して高性能シーカーポッドも起動する。

通常では捉えられない距離だが、元が電子戦機のフェニキアはなんとか捉えられた。

彼はその情報を編隊各機にリンクさせ、一斉に長距離ミサイルを発射させる。

アウトレンジからのミサイル攻撃。

そを逃れる術を持たないヤッハバッハの戦闘機隊の何機かが遠くで火球となっていく。

だが確認する暇も無く今度はトランプ隊はミサイルを避け切ったエース部隊とドックファイトに入る。

 

 

≪――つぅ、数が、多い、ですねぇ≫

≪リーダー、援護砲撃、要請したらいいの、では?≫

≪これくらいで、援護を要請して、どうするのです?私たちが経験した修羅場は、こんなものではない≫

≪・・・ですね。では、気張り、ましょう≫

≪ええ、後30分持たせれば、いいのです≫

 

ププロネンはそう零しながらデメテールのある方向を一瞬見る。

だがドッグファイトの最中であったので一秒も見ることは出来なかった。

 

―――彼らの休息はまだ先だった。

 

…………………………

 

……………………

 

……………

 

一方こちらはデメテールとタイタレスのドッキングした通路―――

 

 

((;;;;゜;;:::(;;:   炎 '';:;;;):;:::))゜))  ::)))

  (((; ;;:: ;:::;;⊂( ゜ω゜ )  ;:;;;,,))...)))))) ::::)

   ((;;;:;;;:,,,." ヽ ⊂ ) ;:;;))):...,),)):;:::::))))

     ("((;:;;;  (⁀) |どどどどど・・・・・

             三 `J

 

「急げ急げヤローども!でっかいソケット持ってこい!あと走れぇい!」

「「「「「「へい!班長!」」」」」」

 

通路では何やら大量のコードやらパイプやらを輸送車から降ろして行く男たちがいた。

彼らはソレらを持って走り、タイタレス側のと接続していく。

 

『班長、主エネルギー伝導管のラインは全部接続完了しただ』

「こっちももうすぐ終わる!そっちは一部ラインから全部へと切り替えろ!」

『了解しただぁ』

「テメェら!アッチはもう終わってるぞぉ!俺達も早い所終わらせるんだっ!」

「「「「「「へい!班長!」」」」」」

 

彼らが何をしているのかと言うと、エネルギーのバイパスを急造しているのである。

タイタレスと既に接続しているとはいえ、デメテールのエネルギーは膨大だ。

全長36kmに及ぶ巨体を動かしているエネルギーである。

ただのエネルギー伝導管ではすぐに融解してしまう為、一気に流すのではなく細かにエネルギー伝導管を分けてチャージしているのだ。

 

『ケセイヤ。強化エネルギー伝導管の補充分が出来た。列車でそっちに送るぞ』

「おう、悪いなミユさん」

 

さて、ケセイヤ達がソケット片手にあっちこっちへ移動していると、彼の端末に通信が入る。通信相手は白鯨が誇るマッド四天王の一人のナージャ・ミユ女史だ。

 

『気にするな。こうフネの中が騒がしくてはおちおち研究もしてられん』

「たしかにな。第一デメテール沈んだら研究もクソもあったもんじゃねぇや」

『・・・あっ』

 

何故か目を見開いているミユを見て怪訝に思うケセイヤ。

いや、まさかとは思うが・・・

 

「・・・なんだその“あっ”って?まさか忘れてたとか?」

 

ケセイヤの核心を突く口撃!ミユ女史に動揺が走る!

 

『い、いや――私はこのフネが沈むとは思っていないのでネ』

「もしもーし、語尾がジェロウ教授になってんぞー」

『う、うるさい。とにかくパイプとか贈ったからな』

「へいへ~い」

『返事はハイだ』

「はいよ。それじゃあな。―――さてと、お前らぁ!準備は?」

「終わってまーす!」

「それじゃ送電開始すっぞ!」

 

ケセイヤが通信を終えるのと同時に作業が完了した為、そのまま送電を開始する。

ヴォンという冷却機のファンの音が響き、エネルギー伝導管に電荷が走った。

 

「これで30カ所のバイパスが完了したから、40%ほど出力上げても平気だな」

「班長、爆発ボルトの設置も完了しました」

「そうか、なら―――撤収!俺達の仕事は終わりだ!ドッグエリアと機関室に行くぞ!」

「「「「「「応ッ!」」」」」」

 

 

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     ("((;:;;;  (⁀) |どどどどど・・・・・

             三 `J

 

 

そして彼らは今度はドッグと機関室に分かれて移動を開始する。

戦闘中は彼らが休める時間は全くと言っていいほどない。

だが、サイエンスハイに取りつかれた猛者たちなので疲れを感じずに作業を行う。

脳内麻薬であるアドレナリンの力は偉大である。

彼らが去った後、バイパスされた所にエネルギーがより高出力で流されはじめた。

こうしてさらにタイタレスのチャージが加速するのであった。

 

 

***

 

Sideユーリ

 

 

アイルラーゼンが協力を申し出てくれた為に共同戦線を張ることになった。

んだども、俺達の数は最初に比べれば非常に少なくなりつつある。

そんな中で敵の数は前と変わらず、おまけに疲労に囚われてはいない。

連中、数だけは多いからしょっちゅう選手交代していればそうもなる。

此方も温存していたヴルゴ艦隊を前面に押し出し、弾幕を張らせている。

もっとも何処まで耐えられるか分からないが、な。

 

≪―――ズズーーンッ≫

 

「おっと、今度の揺れは大きいッスね」

 

コレで通産何度目かは解らないが砲撃が命中した。

普段ならデメテールの運動性を持ってすれば避け切れる砲撃だが、今はタイタレスという重たいもんをぶら下げているので殆ど動くことが出来ない。

一応全兵装へのエネルギーはカットしてチャージ分以外を全て防御に回している。

だども、命中してデフレクターが揺れているのを見るのはあんまりいい気分じゃない。

さっきなんか一瞬デフレクターが抜かれたもんな。

もっとも抜けたのがレーザーとかの光学兵器だったからAPFSが防いだけどね。

 

「あーん、私のお肌が傷付いちゃいます」

「お肌って・・・ああ、そうだった。ユピはこのフネそのものだもんねぇ?」

「フネとはいえ女の子なんスよねぇ。可哀そうに・・・」

 

泣くなユピよ。後でケセイヤさんに頼んで装甲板一斉点検とかしてやるからさ。

そうすりゃ洗ったみたいにピカピカになれるって・・・多分。

 

「ところでミドリさん、現状は?」

「はい、現在エネルギー供給率は39%です。ですが先程バイパス回路が完成しました。これで一気にエネルギー供給が加速する事が予想されるので約29%程短縮できると思われます」

「ヴルゴ艦隊の様子は?」

「今の所無事です。連れて行かせたゴースト編隊を攻撃機、エステバリスを直庵機に分けて敵を撹乱しつつ戦術的には優位に立っています」

「戦術的には、か」

「はい、戦術的には、です」

 

そう、戦術的にはヴルゴ艦隊は有利に立てている。

だが戦略的に見ればコレ以上の戦闘継続は不味い。主に損失的な意味で。

一応ガトリングレーザーで弾幕を形成している様だが、アレはジェネレーターへの負荷が強い。

連続稼働なら持って数分が関の山だろう。

それに幾ら弾幕を形成しても―――

 

「敵突撃艦3隻、防衛ライン突破」

「ええ!?」

「まっすぐ此方に向かってきます。接敵まで後30秒」

『すまん艦長!抜かれてしまった』

 

とまぁ、こんな具合に小型艦は稀に突破してしまう。

大型艦は逆に被弾率がデカイからカモなんだがな。

 

「うぃっス。その分はこっちで処理しとくッス」

『すまない。すぐにでも反転したいのだが・・・』

「そこでアンタが抜けたら前線が崩壊するッス。大丈夫、戦艦ならともかく突撃艦ッスからね。だから戦艦だけは通さないでくれよ?」

『―――ッ了解』

「・・・さて、んな訳でガザンさん、迎撃頼んだッス」

『あいよ。任せておきな』

『ガザンの姐さん、撹乱ように何機か回すか?』

『おう、頼んだユディーン』

 

通信が切れると赤い大型機と黒い無人機が何機か敵突撃艦の方へと飛んでいった。

少しして白い閃光が伸びたかと思うと、3つの火球が光学映像モニターに映る。

至近距離でガザン機のヘカトンケイルが持つレールカノンの直撃を受けたんだろう。

戦艦ならともかく、突撃艦となるとあれを相手にするには少し荷が重いぜ?

もっとも戦艦が来たらより辛いんだけどな。

火砲の数も装甲の厚さも全然違う、戦艦だけは通さないでほしいね。

こっちはまだ動けないんだから・・・。

 

「タイタレスへのチャージ率52%を突破、作業用エステバリスが帰還します」

 

作業が終わった作業用エステバリスが帰還を始めている。

これで接続通路は無人区画となるから、寄りチャージの出力を上げられるな。

 

『此方機関室、もう少しこいつは頑張れるらしいがどうするんじゃ?』

 

渡りに船だ。もっとあげちまえ。

そう指示を出すと機関出力が上がったのだろう。

ドッキングした場所から光子が漏れ始めるのがブリッジからでも観測できた。

逆に船内の照明がやや不安定に面滅したけど、チャージ中だから仕方が無い。

かなりエネルギーがチャージ出来たわけだから、このまま順調に進んで――

 

「艦長、恒星ヴァナージに異常な量の電磁波と熱量を感知しました。200秒後に巨大フレアが発生する可能性が―――」

 

―――もうやだこの戦場。

 

「至急各艦シールド準備、艦載機はただちに帰還させるッス。間に合わないなら友軍艦の陰に!急げッス!それと一応アイルラーゼン側にも警告を!」

「了解」

 

どうやら先程の掠ったエクスレーザーが太陽活動を活発化させたようだ。

太陽風フレアは太陽系クラスの恒星なら、今の技術力を持ってすればそれ程脅威ではないが、ヴァナージクラスとなると話は別だ。

アレの大きさは下手すると太陽系がすっぽり収まるデカさがある赤色超巨星だ。

周囲に放たれるエネルギーの総量は太陽の三万倍・・・もう比べるのもアホらしい。

そんなエネルギーを持つ恒星からフレアが発生したらフネはともかく艦載機はヤバい。

だって最低でも太陽の3万倍だぜ?そこから出るフレアなんて物理的な作用まで――

 

「フレア発生しました。本艦到達まで30秒」

「デフレクターの効果範囲タイタレスまで広げます」

 

思ってたよりも早かったな・・・。

そう思った途端震度6はありそうな振動がデメテールを襲う。

そう、あのクラスの恒星ともなれば質量を伴ったエネルギーや重力波も発生する。

空間ごと揺らすような力が働いているのだからその影響は計り知れない。

 

「作業用エステバリス、78から150番台まで通信途絶」

「人的被害は?ププロネンさん達は?」

「幸いやられたのは全て無人機です。トランプ隊は少し前に休憩の為に帰頭しています。ですが外にいた無人機有人機問わず先のフレアで基盤を焼かれたらしく応答なし。またフレアの残留した高エネルギープラズマが周囲にある為に艦載機発艦不可能です」

 

自然の猛威で艦載機が使えなくなったおっ( ^ω^)

だけど、それは向こうも同じなんだおっ(^ω^ )

だからガチの艦隊戦に移行しただけなんだおっ(^ω^)

 

―――おっおっ言うんじゃありません!

 

しかし参ったな。

フレアは高エネルギー状態の太陽風も伴うから通信状態が悪化する。

ヤッハバッハ側にも被害が発生しているだろうけどセンサーも不調で確認出来ない。

まぁ艦載機が動かせなくなったのはある意味で僥倖だろう。

艦船なら砲撃出来るが小さな艦載機は迎撃が難しい。

一機ではそれほどで無くても数百機纏めてきたらその攻撃力は馬鹿にならないからな。

考えてほしい、ヤッハバッハの戦力はそれこそ宙域を埋めるほどなのだ。

一斉に発艦した艦載機の群はまるでバッタの群のように見える。

それこそフネを食いちぎる顎門を持ったクソみたいなバッタだ。

そんなもんにさらされるくらいなら、まだ艦隊戦をした方が良いってモンだ。

もっとも性能的に拮抗してるから落したりするのは非常に困難だけど。

 

「エネルギーの充填率は?」

「後20%、カウント600で時間合わせします・・・3、2、1、今です」

 

カウントが残り10分で固定された。

凄まじい勢いでチャージしている為に各部署に些細ながら影響が出始めていた。

中でもフレアの影響もあるかもしれないが、デメテールがうっすらと発光している。

正確には装甲板から淡い緑色の光が漏れ始めていた。

心なしかフネ自体が揺れている様な気もする。

高エネルギーを一カ所に集中させたことで何かしらの影響が出たのだろうか?

ちなみにこの事について科学班のサナダさんに意見を聞こうとしたのだが。

すでにその席はもぬけの殻でサナダさんはブリッジを飛びだして観測しに言っていた。

さすがはサナダさん、こんな時でも研究ですか。

 

「しかし、なんか静かになったッスね」

「そりゃね。今周囲はプラズマ流が渦巻いているからミサイルが使えないんだろ」

「そういえば、ヤッハバッハ艦艇の主兵装ってミサイルが多かったですね」

 

可視可能な程のエネルギーを持ったフレアのプラズマだ。

艦載機すら飛ばせないのにミサイルなんて撃ったら途端爆発する。

心なしか光学兵器にも干渉しているらしく、微妙に精度が落ちている。

 

「各艦隊の砲撃精度30%低下、高エネルギーが観測機器やレーザーに干渉している所為だと思われます」

 

・・・タイタレスは大丈夫なんだろうか?

 

「タイタレスのエクスレーザーは出力がケタ違いですので、この程度のプラズマでは干渉を受けません」

 

あ、そうなの。まぁそれなら構わんのだが・・・。

そろそろヴルゴ艦隊を後退させないと、タイタレスの射線に入ってしまうな。

とりあえずバーゼルさんに連絡を入れてカウントダウンが始まったので援護を頼んだ。

そしてここにきてアイルラーゼン艦隊が意地を見せる。急に砲撃の量が増したのだ。

何故に砲撃がと思ったが、その理由はすぐにわかった。

彼らの巡洋艦であるバスターゾン級巡洋艦が艦前方の兵装ブロックを切り離したのだ。

切り離された兵装ブロックは周囲に展開し、死角にあった兵装も起動した。

その為砲撃が若干増えたように感じられたのである。

多方向攻撃システムを艦砲を増やすために使用するとは思いきったことをする。

一応ジェネレーター搭載らしいが、それでも短時間しか起動できない。

恐らく兵装ブロックは廃棄することも前提に一斉攻勢に出たのだ。

そしてソレだけ頑張ってくれているのが解る。だからこっちも―――

 

「ストール。FCSの調整は?」

「へへ、大マゼラン製だったからちょっと感じに手間取ったが、なんとかなったぜ」

 

ストールはそう言うと、自身の目の前にある物に目を向けた。

砲雷班長席に座る彼の目の前には、銃のトリガーを取って付けた様な物がある。

そう、それは引き金。タイタレス級のエクスレーザー砲用のトリガーなのだ。

いや、本当に取って付けたんだけどね。

だってアレ、ストールのコレクションからの流用だもん。

是非使わせてほしいと何処で調達したのか旧式砲艦の手動制御トリガーを持ってきたんだ。

まぁ気持ちは解らんでも無い。憧れるよね。そう言うの。

 

「艦長、エネルギー充填率96%、まもなく発射準備が整います」

 

お、もうそんな時間か。

ミドリさんの報告に俺は思考の海から意識を上げる。

 

「本艦はこれよりエクスレーザー砲発射体勢に移行するッス。総員耐ショック」

「アイサー」

「ストール、俺らの命運、あんたに預けるッス」

「アイサー任せろ艦長。一度これくらいドでかいのをぶっ放してみたかった」

 

ストールはコキコキ指を鳴らしつつ、慣れた手つきでコンソールを操作する。

するとそれまでタダのトリガーだった物が起動したのかいくつもの光が回路のように浮かび上がり文様を作り出した。

 

「カウントダウン、30秒を切りました。各区間隔壁閉鎖。重力アンカー射出します」

「重力アンカー・・・射出、固定確認・・・」

「ヴルゴ艦隊、アイルラーゼン、エクスレーザーの射線から離れます」

 

戦術モニター上のヴルゴやアイルラーゼンを示すグリッドが移動していく。

予想される射線から全ての艦艇が離れつつ、押し込もうと突進してくる敵を撃ち落としていた。

デメテールの中は非常用電源に切り替わり、周囲が赤い光に染まる。

外を映すモニターには接合部や船体から光子を漏らすデメテールとタイタレスが写った。

 

「エネルギー充填100%!エクスレーザー発射10秒前!目標赤色超巨星ヴァナージ!」

 

―――10

 

―――9

 

―――8

 

カウントダウンが始まり、出力がドンドン上昇していく。

未知のテクノロジーの塊である相似次元機関が唸りを上げフネ全体が振動した。

そしてデメテールとタイタレスの輝きがさらに増していく。

 

―――7

 

―――6

 

―――5

 

周囲のアイルラーゼン艦が完全に撤退を終えた。

遮る物がいなくなり、そこにめがけて敵艦隊が押し寄せてくる。

だがもう遅い、ミサイルでも撃てたなら勝算もあったことだろうに・・・。

 

―――4

 

―――3

 

―――2

 

そして、カウントダウンが終わった。

 

―――1

 

「エクスレーザー・フルバースト!発射!」

 

ストールが引き金を引いた。

その途端周囲の空間を押しのけて膨張した光子の塊が発射される。

オクトパスアームが壊れた為に主砲身に限界まで溜めたエネルギーが解き放たれた。

第一射目を遥かに上回るリミッターすら解除した全力の砲撃が、射線上の敵艦隊の8割を飲みこんでそのままヴァナージへと直進する。

 

 

そして天体を破壊せしめる光は原初の炎へと―――直撃した。

 

 

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第七十一章+漂流編1+漂流編2+漂流編3

Side三人称

 

その恒星が誕生したのは、人類がマゼラン銀河圏に到達するよりずっと昔。

大マゼランと小マゼラン、そしてその二つを繋ぐマゼラニックストリームの奔流。

その奔流がもっとも活発だった時に誕生したのが赤色超巨星ヴァナージであった。

重力変調の渦の中、その強大な質量により周囲を安定せしめた超巨星。

 

そして今、星の成り行きを見守り続けてきた巨星は寿命を迎えようとしていた。

中心核であるネオンやマグネシウムが縮退し、電子捕獲反応が増大。

それによる不安定核である中性子過剰核が増え、縮退圧が徐々に弱まりを見せていた。

電子の縮退圧が弱まれば自身の質量から来る重力収縮が打ち勝ち崩壊が起こる。

通常であるならここから数百年の時を経て、超新星爆発へと至る筈であった。

 

しかしヴァナージが星としての最後を迎える時、それは人の業により引き起こされた。

本来なら起こる筈の鉄の光分解が、人為的なエクスレーザーにより一気に加速した。

不安定核であった中心核がレーザーの力によってさらに不安定な状態になったのだ。

光分解が行われる直前の鉄の中心核が一気にヘリウムと中性子に分解されてしまう。

 

―――その瞬間、超巨星が縮んだ。

 

中心核が一気に失われたヴァナージの中心核に、回りの物質が一斉になだれ込む。

超重力による超圧縮により中心部に新たなコアが発生する。

発生した衝撃波が反射され外部へと広がり恒星の中をめちゃくちゃに掻きまわした。

そして、安定を失った超巨星は自らの重力と内部の衝撃波に耐えられずに、崩壊。

暗い宇宙でまるで華が咲くかのように、一つの恒星が爆縮的崩壊を見せたのである。

そして莫大な可視光線、γ線、プラズマを衝撃波と共に吐き出した。

それらは近隣の重力変調によって出来た回廊の自然の重力レンズにて収束。

収束したγ線は回廊にある航路に沿って通常の何倍ものガンマ線バーストとなった。

そしてそれらは航路に布陣しているヤッハバッハ艦艇に容赦なく襲い掛かった。

この時代のフネにはI3エクシード航法が採用され、光速の200倍ほどの速度が出る。

だがいかに速度があろうとも、現在戦闘の為に通常航法へと移行している艦隊だ。

そして突撃戦を常としていた密集した陣形も彼らはそのまま第一波の直撃を受ける。

もはや光というのもおこがましい、それ自体がエネルギーの様な衝撃波。

その奔流の中ではAPFSもデフレクターも重金属製の装甲も、全くの無力。

人類の英知を軽く超える暴力は、人類の技術では防ぐこと叶わない。

そしてヤッハバッハの残留艦隊は最初のバーストで指揮官艦が吹き飛んでいた。

指揮系統が完全になくなり統制が取れなくなった艦隊ほど脆いモノはない。

このガンマ線バースト現象に飲み込まれた艦船の内のおよそ8割が、上級将校からの指揮が来なかった事による混乱で粒子に帰っていたのだ。

鉄の規律は統制のとれた軍事行動、対人類相手には無類の強さを誇った。

だがぎちぎちに固まった柔軟性がやや薄いその軍は自然の猛威に負けたのだ。

人類に最強、自然現象には無力、それが露呈した瞬間とも言えた。

そしてこのバースト現象はヤッハバッハをあらかた飲みこんだ後。

今度はヤッハバッハと対峙していたアイルラーゼン機甲艦隊に襲い掛かる。

ヤッハバッハよりかはいくらかヴァナージから離れていたアイルラーゼン艦隊。

またこうなる事を事前に計画していた彼ら。

その彼らはいきなりダークマタとなったヤッハバッハと比べれば有利であった。

とはいえその為の準備の為に、この大舞台の為に、彼らはその代償を払う事になる。

 

 

「っ!各艦反転を急げ!γ線バーストが来るぞ!」

 

 

アイルラーゼン艦隊司令のバーゼルの焦った怒声がブリッジに響き渡る。

エクスレーザーを発射した時点で後方の艦隊はすでに反転を終え加速に入り。

順序良くこの宙域から離脱していたが、それでもまだ前衛の艦隊の幾つかはこの宙域に取り残されていた。

 

「大佐!左翼の艦隊がっ!」

 

部下の一人がそう叫ぶ。

左翼側は敵の機動艦隊との激戦を繰り広げた。

その為傷付いた艦船がいまだ取り残された状態にあった。

いかな大マゼランの艦船でも中破した状態では加速に入るまでに時間が掛る。

だがγ線バースト現象はすぐそこまで迫り、退避を行った仲間の願い空しく原初の光の中に没していった。

 

「っ!全艦隊全速力でヴァナージ宙域を離脱せよ!」

 

ヴァナージ宙域付近の航路は重力変調の壁に遮られている。

そしてそれはやや入り組んだ様相を呈しており、迂闊に逃げる事叶わない。

だが皮肉にもそれら重力変調の壁が、半径5光年の生命体を即死させうるクラスのγ線バーストを恐ろしく減衰させるため、周辺星系への被害はほとんど発生しない。

つまりこのヴァナージ宙域さえ逃げ伸びれば生きられるのだ。

生死をかけたデッドレースにバーゼルは沸々と感じる熱い死の恐怖に怯え。

それを顔に出すことなく己の職務を全うする。

 

「デメテールは如何した!」

「本艦隊よりも後方500の位置で自身の艦隊を収容し此方へ向かって来ています」

 

そして、この人為的スターバースト現象を起した艦隊。

白鯨艦隊も逃げるアイルラーゼン艦隊より少し後方で加速を開始していた。

彼らは鉄の規律など存在しない緩い0Gだが、生き残る本能についてはプロだ。

下手な軍人よりも生命の危機に敏感な彼らは砲を発射した段階で既に回れ右をして退避に入っていたのである。

だが迫りくる第一波γ線バーストを伴う光の衝撃波のすぐ近くなため予断は出来ない。

 

≪―――・・・ヴィーッ!!ヴィーッ!!ヴィーッ!!≫

 

白鯨の無事を確認したその時、ブリッジの中で艦の異常を知らせる警報が鳴り響く。

何事だとバーゼルはオペレーターに確認を求めた。

 

「す、推進機に異常加熱!コンピューターが勝手に停止信号を!」

 

彼らの船を管理している統合コンピューターが船の異常を感知。

それに対しコンピューターは船の保全を第一として推進機を緊急停止させた。

推進機がコレ以上加熱すると最悪爆散する可能性があったからである。

しかし有機的な思考を持たないコンピューターはこの船の状況を理解していなかった。

 

「すぐに止めろ!ここで加速できないと火球になるぞ!」

「やっています!停止信号――ッ!拒絶されました!」

 

現在バーゼルの船は迫りくるγ線バーストから退避している最中だった。

ここで加速を得られなければ船は迫りくるエネルギー流に飲み込まれてしまう。

高速演算を追求した結果、AIの様な有機的判断では無く全て計算のみのPC。

それは目先の状態しか理解できない管理コンピューターを搭載しているという事。

そしてこの事態はそのコンピューターが起した事態であった。

 

「っ!手動に切り替えろ!コンピューターは凍結!ダメなら物理遮断を!」

「コンピューターを停止したら各所に不具合が!」

「衝撃波に飲み込まれてプラズマに焼かれるよりかはマシだ!急げ!」

 

艦内が慌しくなる、ここで止まれば死は免れないからだ。

だが最悪な事にコンピューターはブリッジ側からの要請を全て拒絶した。

後に判明した事だが、この時戦闘で受けた損傷で過電圧がPCに掛かり、若干動作に不具合が発生していたらしい。

 

だがそんなことは知る由も無いバーゼル達は最終手段である手動に切り替える。

コンピューター制御が進んだ中、手動で作業を行うのはかなり骨がいる。

そんな中でもバーゼル達は日ごろの訓練の成果を見せた―――だが遅すぎた。

 

「だ、第一波と接触まで300秒・・・加速、間に合いません」

 

ここまで来て、そういう空気が艦内に流れ始める。

そう、手動動作に切り替えようがPCがちゃんと動作しようが、推進機が一度止まったことは事実。

それによるラグは到底埋め切れるモノでは無く、ましては手動では対応できない。

光速の数パーセントに相当する衝撃波の第一波に飲み込まれればタダでは済まない。

よしんばなんとか乗り切っても船体はボロボロ。

その後の第二波、第三波を防ぐことも、そこから逃げる事も不可能だ。

まさに詰んだ状態、第一波到来のカウントダウンは死へのカウントダウンだった。

そしてその報告を受けたバーゼルは、そうかとだけ呟いて静かに腰を下ろした。

もはや逃げることも出来ない、自然の猛威は人間では防げない。

彼は各員にそれぞれ覚悟を決めるように命令すると一人天を仰いだ。

最後の最後で自分たちは破滅する。それがどれだけ恐ろしい事か。

これはその自然の猛威を人為的におこして利用しようとした。

そんな傲慢な自分たちへの罰なのだろうか?

そんな考えが浮かんだ彼は、すこしだけ苦笑した。

ふと外部を映すモニターで後方の視界を映したものに目を向ける。

そこに映し出されたのは、衝撃波とは名ばかりの光の壁。

今まさに膨大な暴力を内包したそれが、主観的にはゆっくりと。

客観的には凄まじい勢いで動けなくなったバーゼルの船へと迫りつつある。

覚悟していたとはいえ、自分たちはこの原子の火に焼かれるのか。

その時は一瞬であるという事が判っていても、心の奥底からの恐怖はぬぐえなかった。

 

そしてブリッジでは何処からともなく啜り泣きの声が漏れ始める。

ブリッジに詰めている乗員には女性のオペレーターもいる。

彼女たちも軍人ではあるが、こういった状況下だ。誰も咎めることはしなかった。

バーゼルはこの事態に巻き込んでしまった部下たちに申し訳ないと思った。

 

「―――・・・ん?」

 

迫りくる衝撃波を前に身体がすくんだ時、彼は自分の服のポケットに違和感を感じた。

なんだろうかと無造作に手を突っ込んでみると、そこには小さなロケットがあった。

 

「なんでこれが・・・ああそうか、いれっぱなしにしていたんだった」

 

彼はそう呟くと、ロケットの出っ張りを触る。

するとロケットが割れて、中から写真が顔をのぞかせた。

そこに映っているのは軍学校を卒業した際の写真。

両親と自分と、年が少し離れた弟の姿が写っていた。

 

「・・・ダンタール」

 

バーゼルは写真に映る弟へと指を這わせると、弟の名を呟いた。

将来、自分と同じく軍へと入るべく勉強していた自慢の弟。

あの弟の事だから、立派に軍学校に入学を果たしている事だろう。

任務の為に彼の入学に顔を出せなかった事が悔やまれる。

本当に、こんな、最後だから――

 

「・・・ふぐ、うっううぅぅ・・・」

 

バーゼルはロケットを握り締めると、声を押し殺して泣いた。

自分は軍人だ。軍人なのだ。感情をコントロールする事は必須な事だ。

だが、今だけは、最後の今だけは許して欲しい。

 

彼が泣いているところをバーゼルの副官も見ていた。

本来なら軍の士気や規律を守る為にやんわりとでもいさめなくてはならないだろう。

だが、副官も最後を悟り、彼の思いを汲んだのか何も言わなかった。

 

 

 

 

そして、後少しでフネが衝撃波に飲み込まれる―――――その時だった。

 

 

 

 

 

『―――こちらデメテール、貴艦を収容します。衝撃に備えてください』

 

 

 

 

 

突然ブリッジ内に広域通信が響き渡る。

みれば何時の間にかデメテールがバーゼルの船の背後に陣取っていた。

速度は若干デメテールの方が早いらしく、徐々に距離を詰めている。

 

「っ!やめろっ!こっちは損傷して動けないんだ!」

 

バーゼルは通信機にそう叫んだが、デメテールは答えることはなかった。

やがてバーゼルの船と白鯨の船との距離はほぼゼロ、いやゼロとなった。

まるで大型の生物が小型の魚をのみ込むかのように・・・。

バーゼルの船はデメテールへ引き込まれたのだ。

信じられない速さが出ている中での艦船の収納は相当な技術がいる。

デメテールの操縦士はそんな事を簡単にやってのける人間がいるという事だろう。

だが、そんな中でバーゼル達一同が感じたことは、助かったという安堵感であった。

そして自動でドックに固定されつつある自分の艦を眺めたバーゼル。

彼はもうどうにでもなれといった感じで、部下に待機を言い渡したのだった。

 

***

 

 

Sideユーリ

俺達がバーゼルさんを収容する少し前―――。

 

「逃げろ逃げろ!爆発ボルト点火!」

 

今まさに原初の炎をまき散らすべく縮退を開始したヴァナージを前にしてデメテールは撤退準備を進めていた。

俺の号令と同時にタイタレスとデメテールを繋ぐ部位が爆発する。

一々切り離すよりも爆発させちまった方が早いからな。

 

≪―――ドガガガガガガンッ!!!!!!!≫

 

「タイタレスの切り離し完了。急速反転後離脱します!」

 

こうしてリミッターを外し、文字通りの全力全開で発射を敢行した決戦兵器として造られた巨大な大砲は、その役目を終えてデメテールから切り離された。オクトパスアームは砲撃の衝撃で全部吹き飛び、歪みきった砲身は所々穴があいてボロボロだ。

 

だがぼろ屑のような姿になってしまったのに、その姿は何処か寿命を迎えて静かに眠ろうとするクジラのように雄々しく感じられた。

そして誰が始めたのかは知らないが、ある者はその巨大砲艦に敬礼をし、ある者は帽子を取って礼の形を取って切り離された決戦兵器に別れを送っていた。

 

ほんの数秒だけの時間であったが、俺を筆頭とするデメテールの乗組員は、命を失って暗い宇宙に漂う決戦兵器に手を振ったのだ。

それは限界を越えても力の限りを尽くしてくれたタイタレスに対する船乗りとしての俺達なりの感謝だった。

 

「タイタレス、衝撃波に飲み込まれます」

「・・・ありがとう、タイタレス」

 

そしてデメテールがその場から離脱してすぐに、この絶望的な戦局をどんでん返ししてくれた巨大決戦兵器はヴァナージの放つ衝撃波に飲み込まれる。

ボロボロの船体はその暴力の塊といっていい奔流に耐えきれる訳が無い。

まるで木の葉が波にのまれるかのように衝撃波に翻弄されていく。

やがて装甲が剥がれおちると、それらは瞬時にプラズマ化して光に変わっていった。

 

「うへぇ、綺麗だけどああはなりたくねぇッス」

 

タイタレスがプラズマに変わる瞬間、俺は思わずそんな声を出しちまった。

確かに綺麗なんだが、ここで見取れている訳にはいかないんだぜ。

タイタレスを飲みこんだ衝撃波に此方まで巻き込まれてはたまらない。

幾ら強力無比なデメテールでも視界一面の衝撃波の壁の前では無力だからだ。

大体デメテールの大きさは36kmでも、相手は数千数万kmに広がっている衝撃波の壁だ。こうなると勝負にすらならない。逃げるが勝ちなのである。

 

「本艦後方3000にスーパーノヴァを確認。プラズマガスの表面温度は約1億K。もし本艦が巻き込まれれば、融解に掛かる時間は―――」

「あー、ミドリ。それは言わなくていいよ」

 

隔壁越しでも熱さを感じそうなエネルギーを前にしてもミドリは冷静に報告を続ける。

それを聞いたトスカ姐さんは手を振って彼女の報告を遮っていた。

皆どんな事になるのか何て言われなくても判っているのである。

 

まぁ、ちなみにどうなるかと言うと、デフレクターが使用できる十数分は一応持つ。

その後ジェネレーターは確実に死ぬので瞬時に熱波に船体がさらされる。

そして船体中心部分までオーブンになるのに掛かる時間はおよそ30分。

完全に融解してしまうまでは40分というところだろうか?

要するに40分くらいでデメテールといえども星間ガスの材料にされるわけなのだ。

これでも持つ方なんだぜ?マゼラン系のフネなら数十秒も持つかどうか・・・。

 

「とにかく、周辺の残骸のデブリから抜けたら一気に加速に入るっッスよ!」

「アイアイサー」

 

周辺に漂う元友軍艦達となるべく接触しない様にしながら駆け抜ける。

デブリとなっちまったそれらは普通なら回収する所なんだがな。

流石に今回は自重する。回収何ぞしてたら衝撃波に飲み込まれるからな。

 

 

「針路上にアイルラーゼン艦隊旗艦確認」

「へぁっ!?バーゼルさん何してんスか!?」

「待っていてくれたんですかねぇ?」

「いや、それはないよユピ。常識的に考えて」

 

逃げろ逃げろと急いでいると、前方に反応アリ。

見ればそれはバーゼルさんのフネの反応であった。ありゃ?如何したんだろ?

 

「もうとっくに退避してるもんだと思ってたッス」

「推進機が止まっています。何かあったんでしょうか?」

 

その報告にブリッジの面々はそれぞれ吃驚という顔をした。

この時点ですぐに加速に入らないと背後の衝撃波に飲み込まれてしまうからだ。

もし飲み込まれれば、灰になるとかそんなちゃちなモンじゃ断じてねぇ。

もっと恐ろしい。部品一つ残さず溶かされてしまう事は明白だった。

そしてデメテールもこれから加速状態に入る直前であった。

ある意味で僥倖である。これで加速に入っていたら軌道修正が出来なかったのだ。

そんな訳で俺らはバーゼル艦を見捨てることは出来ず、少し加速を遅らせ軌道を変更し、白鯨艦隊を収容するドッグへとバーゼルの船を招き入れたのである。

 

「さぁ彼も回収したし、このまま全速力で逃げるッスよぉ!」

「「「「アイアイサー!」」」」

 

そしてデメテールは加速に入る為に機関出力を上げ―――

 

「・・・・ん?機関室、どうしたんじゃ?」

 

―――ようとしたんだが・・・おかしなことに出力が上がらない。

 

 

『機関長!先程のタイタレスとの切り離しでエネルギーが漏れてます!出力が上がりません!』

「なんじゃとっ!?」

 

ちょっ!?おまっ!?

 

「っ!加速に必要な分は!?」

『それがエネルギー漏れが原因なのかエンジンコアがいきなり不安定になってきて、ドンドン出力が低下してます!機関長!』

「判った。わしが行くまでになんとか出力を維持するんじゃ―――艦長!」

 

 

トクガワさんが機関室への通信を繋げたまま、こちらへと向き直る。

いま現在、迫りくる衝撃波とデメテールの速度は等速である。

しかし出力がコレ以上下がればデメテールの速度は低下してしまう。

そうなれば灼熱地獄も真っ青な猛火の中に後ろ向きでダイブする羽目になるだろう。

流石にそうなるのは御免だ、俺も若干焦りを見せていた。

 

「トクガワさん急いで機関室の応援にいってください!サナダさんも! 」

「わかった! 」「いきますぞ! 」

「こちらブリッジ! ケセイヤ!ミユ!緊急事態だよッ! 」

 

俺がそう叫ぶとサナダとトクガワは頷き、急ぎ機関室へと向かった。

その間にトスカ姐さんがケセイヤやミユにも連絡を入れる。

ケセイヤは整備班であり、戦闘で疲労して今はタンクベッドにはいっている。

だが彼らにもう一頑張りして貰わねば、皆の生命が危うくなる。

ミユさんは本来研究者だが、鉱物資源の扱いに長けているから破損個所等の修復に役立つだろう

 

だが、動くにしてもなんにせよ、少しばかり遅すぎた。

 

「第一装甲板、表面温度が毎秒300℃で上昇中。予想融解限界まで後37分」

 

既に、俺らのすぐ背後には光の壁が迫っていたからだ。

それもデメテールであっても溶かしちまうほどの熱量を持ったのがな。

高温のプラズマを伴った星雲ガスを多量に含んだそれは、接触する全てのものを融解。

自らの一部としてさらに巨大化し、周囲に拡大を続けていた。

 

「第二装甲板、イエローアラート。排熱機構強制稼働開始します」

「機関出力の復旧はまだッスか!」

『まっとくれ艦長!後少しかかる!』

「第一装甲板、融解を始めました。第二装甲板レッドアラート。第三装甲板イエローアラート。強制冷却装置オーバーフロー寸前です。外装式大型HL装甲板が爆発する危険性があるのでパージします」

 

ああああ、折角造った外装がパーツがっ! まだ数回しか実戦で使用して無いのに!

もったいねぇ!もったいねぇよー!と、日本人らしい勿体無いの精神を発動していた俺だったが、現状は悪化するばかりでそれどころでは無かった。

艦長席のコンソールは艦内のさまざまなステータスが表示されるんだが・・・。

もうね、艦内温度が既に上昇してて、外板に近い部分は隔壁を閉鎖してるんだぜ。

強制冷却機構はフル回転なのに、ドンドン温度が上昇して警告音が止まらねぇ!

 

「衝撃波が追い付きました。のみ込まれるまであと30秒」

 

つーか衝撃波さん速いよΣ(゜A゜)

 

「デフレクター展開!補助エンジン全力噴射!」

「だめです!間に合わないです!」

 

そしてデメテールはほぼ等速の衝撃波の壁にゆっくりとのみ込まれていく。

光速の数パーセントに達している速さの中、まるで壁の中にめり込むように。

 

≪ヴィー!ヴィー!ヴィー!ヴィー!―――≫

 

「うわぁ!一気に後部からアラートがががががが!!」

 

コンソールのステータスは後部から全部真っ赤になっていく。

心なしかフネの内部で熱い隔壁にかこまれている筈のこのブリッジの中も熱くなった。

そして外を映す外部モニターが次々と消失していく。

外の温度は爆発地点から離れたとはいえ数億K。

デフレクターやAPFSが無ければ瞬時に溶解しているほどの熱波にいる。

装甲は兎も角、外部モニター用のカメラの類はその熱さに耐えきれなかった。

原初の炎がゆっくりとデメテールの巨体を焦がして行く。

それはまるで、獲物を調理する為にあぶっているようだ。

 

「じょーずにやけましたー!」

「ユーリ!やけになるなー!」

「も、もうだめかっ!」

「諦めんなよストール!もっと熱くなれよぉぉぉぉ!!!」

「「「熱くなったらダメだろう!?」」」

「・・・デフレクターが・・・ジェネレーターが爆発しそう」

「か、舵が動かねぇ!?」

 

そしてブリッジ内部は混沌と化した。

もう手も足も出ない、これはアレか?自然現象を変なことして起したからか?

罰が下ったとでも言いたいのか!?俺達が全部悪いのか!!??

 

 

・・・・・・・。

 

 

基本的に全部俺達のせいじゃーん!!!

 

 

≪バガーン!!≫

 

「装甲板が爆発した」

「クソっ、ここまで頑張ったのに!畜生め・・・」

「リーフ・・・クソ」

「・・・やっぱり私がいると、みんな不幸に・・・」

「ミューズ、そんなことないわ」

「でもミドリ・・・」

「頑張ったもの。私たち頑張ったもの。不幸の一言で終わらせないで・・・」

「・・・ごめん」

 

ブリッジ要員達にも諦めにも似た空気が漂い始める。

そして今度は内部隔壁の幾つかが破られた警報が鳴り響く。

幸いまだ居住区までは距離があるので少しは大丈夫だが、時間の問題だ。

 

「・・・クソッ」

 

死にたく無い、まだこんな所で死にたくはない。

だが隔壁が破られ強制冷却機がオーバーフローを起したのか艦内の温度がサウナを越えて溶鉱炉の近くにいるかの様に上がってきた。

それが否応にも俺達に死ねと言っているようで・・・。

じわじわとなぶられているかの様で・・・。

 

「熱くなってきたッス」

「そうだね。まぁダイエット出来ていいかもしれない」

「最終隔壁が破られるまで後数十分、そうなれば一気に火の海になるねぇ」

「そうッスねぇ。ユピも最後までごめんな」

「いいえ、私はいざとなれば感覚を止められますから・・・でも皆さんは」

「はは、俺達はこう言うのはある意味覚悟してるんだ。ねぇトスカさん」

「そうだねぇ。ま、ヤッハバッハの連中はある程度仕返し出来たし、私はいいかな」

「はぁ~、俺は最後に妹の顔でも見て来たかったッスけど・・・そんな時間は無さそうッス」

 

遠くで爆発する音が聞こえた。また隔壁が破られたのだ。

その途端艦内温度がまた上がり、ブリッジのコンソールが電圧のフィードバックを受けて爆発する。

爆薬とかが仕込んである訳ではないのだが、破片は容赦なく俺達を傷つけた。

内部居住区よりかは外にあるブリッジは温度が上がるのが早い。

そして俺達はオーブンの中で焼かれる肉のように、じわじわと焼き殺される。

皮肉にも、隔壁がある分、熱の伝わりが内部にじっくりだからな。

 

「うぐ、息するのも、つらい」

「そ、うだねぇ・・・」

 

ブリッジ要員は皆、自分の席に座って座して死を待っている。

すでに一部の装甲板は融解を開始してプラズマとなりつつある。

もう人間が手を出せる環境では無い。むしろこうしてまだ生きている方が奇跡だった。

 

「ユーリ、最後だしさぁ・・・言って、おくよ」

「な、何スか?トスカ、さん」

「私は、あんたの事、気にいってた。大好きだ」

「は、はは、俺も、皆のこと、大好きッス」

「私も艦長や皆さんの事、大好きです」

「俺も、だぞー!」

「そうですね」

「だな」

「・・・こういう、最後、悪くはない、わ」

 

 

ああクソ、こんな事態になったのは俺のせいだって言うのになぁ。

みんな文句一つ言いやしない・・・なんて良い連中だ。

俺も返事を返そうとしたが、ブリッジ内の空気は熱くて息が出来ない。

肺が焼かれる、頭が朦朧とする。

 

 

―――死にたくない。しにたく、ない!

 

 

もう、みんな、うごかない。死にたくねぇ、死にたくねぇよ!

まだ追われねぇんだよ!まだ小マゼランしか巡ってねぇ!

大マゼランも、この無限に広がる宇宙の何パーセントも旅してねぇんだ!!

死ねねぇよ・・・まだ死ねねぇ、死んでも死にきれねぇ!

他力本願でも何でもいい!誰か、誰か助けてくれッ!!

 

≪――――ヴヴヴヴヴヴ≫

 

「あひん、ケホ、な、んだ?」

 

もう半分意識が無くなりかけたその時、急なバイブレーションで意識が少し戻った。

どうやら俺の腰の部分にあるポーチが震えているようだ。

俺はまだ腕が動くので、ゆっくりではあるが腰のポーチに腕を突っ込む。

 

そして取り出したのは、エピタフだった。

このフネが動きだした後、普通に床に転がっていたそれ。

拾っておいてずーっとポーチに入れて忘れていた。

そしてエピタフはこのデメテールが動きだしたあの時のように、光を放っている。

なんだ?また遺跡船を活性化させるのか?だが活性化して溶かされるだけだぞ?

俺はうつろにエピタフを見つめるが、エピタフはそんなの関係ねぇって感じでバイヴと輝きが酷くなる。

手に力が入らない。俺はそのままエピタフを落した。

俺の手から滑り落ちたエピタフはそのまま熱された鉄板のようになった床を滑る。

そして、エピタフが止まると、そこを中心にして光を伴う直線の模様が浮き上がるのを俺は見た。

インフラトン粒子と同じ輝きが、エピタフを中心にして、広がっていく。

 

 

―――もう、どうにでもなれよ。兎に角この熱い場所から、逃げてぇぜ。

 

 

俺がそう考えつつも意識を落した。

 

周辺の景色が一瞬、スパゲッティーにでもなったかの様に引き伸ばされるのを見て。

 

 

***

 

<ここから漂流編>

 

***

 

Side三人称

 

 赤色超巨星ヴァナージがその最後を迎えたのとほぼ同時刻。ヴァナージ宙域から恒星を四つほど挟んだ暗黒領域に、巨大な物体が蒼白い光と共に周囲にインフラトン粒子をまき散らし、空間に突如出現する。全長数十kmはあるその物体は其処彼処からプラズマを放出し、その表面はまるで高熱に晒された硝子の様にどろどろだ。

 

 まるで溶鉱炉に飛びこんだ直後のように白熱化しているその物体は、暗黒領域においてまるで星のように光って見える。だが暗黒領域という太陽の光がない宙域の冷たさにより冷やされ、その光は瞬く間に収束し、やがては金属の鈍い銀色を残すのみとなっていた。

 

 一見すればただの金属を多く含む小惑星の一つと思われるかもしれない。だが明らかに意図を持って作られた等間隔上に並ぶ元は主砲であった建造物、溶けているとはいえ今だ微かに動いている主機関の漏らす粒子が、これが自然物では無いという事を示していた。

 

 この巨大な物体こそ、赤色超巨星ヴァナージの存在する宙域において、10万以上の艦隊を相手に互角以上の戦果をあげた白鯨艦隊のデメテールであった。あの原初の炎に包まれたどんな物でも溶かしてしまうであろう溶鉱炉な宙域から、理屈は判らずじまいだがどうにかして脱出し、この宙域に出現したのである。

 

だがその姿はあの美しい流れる様な海洋生物を思わせる白い船体から遠く離れ、霧の海をさまよい続ける幽霊船の如く見るも無残な姿であった。どろどろに溶けた船体の装甲板が文字通り幽霊の衣のように揺れており、遠目からだと由緒正しき布を被ったあの手の幽霊のように見えるのだから、どれだけ無残か想像に難くない。

 

―――暗黒領域に静かに漂う巨船は、いまだ動くこと叶わず。

 

***

 

Sideキャロ

 

 わたしが気がついた時、あたりは一面真っ暗闇と化していた。一寸先は闇という言葉よりももっと暗く、まるで世界をインクで塗りつぶせばこうなるかと言わんばかりの暗闇。むしろインクの瓶の中に落っこちたらこうなるんじゃないかしら?とにかくそれくらい真っ暗だった。

 

 

少しすれば目が慣れはじめて見えるかと期待したが、明かりとなるものが一つも無ければ目が慣れても周りは見えない。たぶんフネの電源が落ちているのだろう。このあたりにエネルギーが供給されていないのだ。これでは暗いしドアも開かないし下手すると酸欠になるから最悪ね。

 

でもわたしはとくに取り乱すこともなく、あの人から貰った携帯端末を取り出してライトを付けた。こう言う時は何ていったかしら?『あわてるな。まだ慌てる様な時間じゃない』だったかしら?まぁとにかくライトを使って回りに照らし出されたのは私が意識を失う前と同じ光景だった。

 

まぁコレで全く違うものが見えていたら流石に何が起きたのと取り乱すわね。だってわたしが居たのは、水産生産設備がある区画の中心に造られたある種の特別なシェルターだったのだし。

普段は大居住区にいるんだけど流石に今回は巨大な太陽の近くが主戦場の戦争と言う事で戦闘と直接かかわりのない人は、皆それぞれ居住区にあるシェルターに避難しているんだけど、わたしはわたしのもつ病気の所為でここにいるというわけ。

 

 わたしはフネの一員とはいえ、基本的には生活関連の職であるし、戦闘中はやれることも無い上、この先祖がえりを起す病気の所為で居住区よりも外側の区画では行動が制限されてしまうのだ。まったくもって忌々しい。これじゃあの人、ユーリの傍にいられないじゃない。

 

 そう言えばユーリは如何なったんだろう?わたしはそれが気にかかり暗い部屋を壁伝いに進んで入口近くに設置されている端末を動かそうとした。フネで情報を得るなら、其処彼処に設置されている端末を調べろってね。

 

だが触っても叩いても殴っても蹴っても、あまつさえひっかいてもウンともスンともいわない。あ、そう言えば電源が落ちてるんだ。これじゃ動く訳も無いわね。ひっかいた所為で痛くなった爪を撫でながら落ち込んだ。

 

 ライトが代わりにしようしている携帯端末の方も、どうも本体との接続が切れちゃってるみたいで、スタンドアローンモードで動いている。統合AIのユピも沈黙しているってことなのね。如何したもんかと思ったが、これで黙るキャロさまではないわ!

 

こんなこともあろうかと、わたしもある程度フネの構造くらい理解している。エアロック式の扉の前に立ったわたしはその四隅をくまなく探してみた。すると足元の方に赤い枠で囲まれた小さな戸を発見。ビンゴ。

その戸を開いてみると中には何かのパイプと繋がったレバーが見えた。わたしはそのレバーを躊躇いなく降ろす。すると扉からプシューというエアが抜ける音が響き、わたしはそれを聞いて扉の片方に手をかけて引くと多少てこずったがエアロックが外れてわたしは外に出る事が出来た。

 

 これは緊急用にエアロックが手動でも外せる仕組みである。フネに乗った頃はこんな装置があることなんて知らなかったし、まさか本当に使う羽目になるとは思わなかったわね。それだけあの戦闘で受けたダメージが大きかったってことなのかもしれないわ。

 

「うわっ・・・通路も真っ暗じゃない」

 

 出て見てびっくり、通路も全部照明が落ちている。だけどこの部屋と違い補助照明が足元を照らしているのでまだマシね。とにかく誰かと合流しなければ話にならないわ。わたしは持っている薬の量を確認。たしか最後に使ったのが3時間前だから、後20時間くらいは持つわね。それじゃ人を探しに行きますか。

 

 

―――てくてくてく。

 

 

 とりあえず行き先は決まっている。大居住区だ。わたしは特殊だからこの水産生産設備の中に特別に設けられたシェルターに避難してたけど、ほかの人達は大居住区自体がシェルターとなっているから、みんなそこにいる筈・・・もっともあの居住区ごと戦闘で撃ち抜かれてなければの話だけど・・・うう、暗い話は無し!こわいもん。

 

 少し進むと、ライトに照らし出された扉が見えた。これは隔壁ね。戦闘中だったから隔壁が降ろされたままなんだ。とはいえ、これもエアロック式だからさっきと似た様な感じで・・・ビンゴ。問題無く開くことが出来るわ。この程度でわたしの行く手を阻もうなんて甘いわね!

 

 そんな感じで通路を進むけど、やっぱ戦闘とは関係ないエリアだから誰ひとり途中で会うことも無く、途中何故か浸水してしまったエリアを通り――潜水用の人工エラ付きマスクが其処彼処に置いてあるので進むのは問題無し――なんとか来た時にも乗った船内列車の駅に辿りつけた。

 

「えーと、次の列車は・・・」

 

 時刻表を眺めようと思い・・・電源が来ていないので時刻表の電光掲示板も機能しておらず、大体ユピが機能していないから列車も止まっていることに気がついて、ああもう何で電源落ちてんのよー!と叫ぶ。

 

 私以外だーれもいない無人駅だから声だけがむなしく響くのが無性に寂しいわ。早く人の居る所にいかないと如何にかなっちゃいそう。だけど問題は―――

 

「はぁ。ここから居住区まで・・・何kmよ?」

 

 船内列車が止まっている以上、行く手段は歩きしか手段がない訳だけど、そうなるとかなり歩くのよね。面倒臭いわ~、歩くのや~よ。だけど居住区まで行かないと如何なってるのか判らないだろうし・・・むー。

 

 ベンチに腰かけ、歩くべきかどうすべきかを悩む。ここまで来るのにも大分時間が経過しているというのに、一向に電源が回復しないのだから、デメテールの受けた被害はかなり大きいわね。恐らく必要のないエリアには最低限の電源しか回していない筈。うー、せめてわたしがここにいる事だけでも伝えられればいいのに・・・。

 

≪―――フォォォ≫

 

「・・・あら?なにかしら」

 

 そのとき、ふとわたしの耳に風が鳴る音が聞えて来た。何処からと思い耳を澄ますと、どうやら船内列車のレールから聞こえるらしい。変ね、電源が止まっているのに何で風が吹いているのかしら?そう言えばファルネリから受けた授業でなんかこんなの聞いた事があったような・・・。

 

「・・・あっ、何かがトンネルの向うから来るのね!」

 

 そう、トンネルを何かが通ると反対側では空気が押されて風が吹くのよ。と言う事はこのレールの上を列車が通るという事なのね。危ない危ない。下手にレールの上に出ていたら今頃轢かれているところだったわ。

 

 すこしして風と音が大きくなってきたから、大分列車が近づいた事を肌で理解したわたしは早く来ないかとホームで待ち続ける。そして、来た。レールの上を恐らくは緊急用の車両だと思う黄色い塗料で真っ黄色な列車がホームに入ってきた!ホームに立っていたわたしに気がついてくれたのか列車が徐々にスピードを落としてホームに停車する。

 

プシューという空気が抜けるあの音が音がない無人のホームに響き、列車のドアが開いた。中から作業服姿の壮年の男性が一人降りてくる。暗い所で目が慣れてしまい、列車からの逆光で見え辛いが、多分船内列車の保守点検とかする整備班所属の作業員さんだ。漸く人と会えたことにわたしは大分安堵して思わずため息を吐いていた。

 

「おおキャロの嬢ちゃんもぶじだったか」

「この声はケセイヤさん!?無事だったのね!」

「おれぁピンピンしてらあ。今は各所点検の途中よ。それよりも」

「お嬢様!」「お嬢様!よくぞご無事で!」

「ファルネリ?!それにトゥキタも!」

 

 降りてきた作業員さんが突然わたしの名を呼んだことに驚いたけど、その後すぐに彼がケセイヤだという事に気がついた。そして彼の後ろからファルネリとトゥキタが駆けよってくる。わたしは駆けよってきたファルネリを抱きとめられ倒れそうになった。まったくファルネリはわたしの事となると普段よりも情けなくなるわねえ。

 

 どうやらこの二人はあのヴァナージからの衝撃波から逃れる際に大居住区で気絶した後、(わたしも大体そこらから記憶がないから、そこで気絶したんだと思う)すぐにわたしの元に来ようとしてくれたらしい。普通の船内列車が停止しちゃってるから彼らと同じく気がついたケセイヤさんが動かす自律起動可能な列車に無理矢理に便乗してここまで来たっと。ホント心配性ねー。けどありがと。

 

「ねぇケセイヤさん。今フネは如何なってるの?端末とか止まっちゃってて判らないのよ」

「う~ん、俺も格納庫で気絶してて起きたらこうなってたからなぁ。だが少なくても主機関はスクラムして、補機からの予備エネルギーが稼働してなんとか動いてるってとこだな。アレ動いて無かったら今頃ここらへんを空中遊泳してるぜ」

「えっと、スクラム?なんで空中遊泳?」

 

 専門用語言われてもわからないわよ。そうわたしが言うと、スクラムとは緊急停止で空中遊泳というのはエンジンが止まると重力井戸へエネルギーが供給されなくて動かなくなるから、ゼログラビティ状態になるからなんだって教えてくれた。

現に今も重力井戸は最低限しか稼働していないらしく普段1Gなのに今は0,7Gほどなんだとか。なんで測定してないのに重力判るのよと言ったら、マッドの勘とか答えやがりましたよこの人。

 

「一応気がついたヤツや無事なヤツは大居住区に集合して貰ってる。嬢ちゃんもこの二人と一緒に大居住区に行くんだな。あそこは非常用のリアクターがあるから少なくてもここよりは明るいぜ」

「そうさせてもらうわ。ここに来る途中水没した場所通る羽目になって塩水浴びちゃったのよ」

「げぇ、また修理する場所が増えちまった・・・あとで人員まわさねえとな。」

「それじゃ、大居住区に戻ろうかしら。あ、でもこの列車は―――」

「おう気にすんな。俺はこの先の水没したとこの状況見てくるからしばらくこのエリアにいるしな」

「だけど、列車はどうするの?」

「俺の形態端末使えば呼び寄せられるから問題無し」

 

 ケセイヤさんはそう言うと手に持った携帯端末を操作した。すると列車の別のドアが開いて中から小さなロボットたちが道具とかを持って降りてくる。見た目わたしのもつ携帯端末と同じなのに、やっぱり改造してあったのね。

 

「この先調べるから先に行ってろチビエステども」

『『『ウァーウ!』』』

 

 ケセイヤが指示を出すと、ビシッと敬礼しつつそれぞれ散らばっていくロボット、というか小さなエステバリスの姿なのは彼の趣味なのかしら?男の人って何時までもこどもなのねぇ。ああ、それよりも聞かなきゃいけない事があったんだった。

 

「ねぇケセイヤさん、ユーリは今どこにいるかわかる?」

「あん?そりゃお前。ブリッジにいるだろうよ」

「そう、ありが「だけどブリッジへの通路が溶けちまって安否不明だけどな」とう!何ですって?」

「だから今チェルシーとかが中心になって救助隊を・・・って嬢ちゃんどうした?」

 

 どうしたもこうしたも、連絡が取れないってことは心配じゃない!わたしもブリッジに向かわないと!

 

「行くわよ!トゥキタ!ファルネリ!」

「はいお嬢様」「わかりました」

「・・・いっちゃったよ。ブリッジは結構シールド硬いからそれ程心配はいらねぇ筈だけどなぁ・・・まぁ良いか仕事仕事」

 

 

***

 

「チェルシー!」

「キャロ、無事だったのね。よかった」

「わたしも連れて行きなさい!」

「え、え?」

「お嬢様はブリッジへ向かわれるならご自分もと申しております」

「え、ええそれは構わないわ。むしろ人手が足りなかったし」

 

 大居住区にてなにやら周囲に指示を出していたチェルシーにやや強引に頼み込んで、ブリッジ行きを許可して貰ったわたしは、彼女らと共にユーリが居るブリッジに向かうこととあいなった。流石はチェルシー、ユーリの妹だけはありいきなりの訪問をかましたわたし相手でも普通に応対してくれた。実際人手不足ってのもあるけどね。

 

 しかし大居住区内が随分と騒がしい気がするわね。まぁそれもその筈でわたしが目を覚ますまで結構時間が経っていたらしく、わたしが目覚めるよりも数時間前には皆活動を開始していたらしい。各部署のリーダーが連絡を取り合ってそれぞれ自分たちの出来ることを始めたのだそうだ。

 

 整備班はデメテールの点検で科学班はその手伝い。白鯨艦隊所属部隊は動かせる艦船や機体を引っ張り出して周辺の警戒・・・まだヤッハバッハが近くにいるかもしれないからその為ね。そして機関室用員はトクガワさんの主導の元、主機と補機のメンテナンス。医療班のサド先生は怪我人を見て回り、チェルシーは生活班を率いて艦内の安定に努めているという訳。

 

 とはいえ、怪我人などが出た上にフネの一部の機構が停止している為にオートメイション機構の幾つかが使用不可となってしまっており、手動で動かすにも人手が足りないのが現状だったらしい。てな訳で五体満足な人間は貴重でわたしが手伝うから連れてけと言っても渡りに船っぽかったらしいわ。

 

 とにかく付いて行くと決めたわたしはチェルシーと共にブリッジへと向かうエアカーに乗りこんだ。編成されたブリッジへ向かう人数は結構おおく、作業用のエステを一機持ちこんでいる。これが後々必要となってくるとは、のこのこ付いて行ったわたしには想像もつかない事だった。

 

「・・・」

「・・・」

 

 さて、ブリッジに向かう為にエアカーに乗りこんだのだが、どうも車内が静かと言うか暗い。同乗しているのがチェルシーとかだし、彼女あんまり自分から会話して来ないのよねぇ。しかもわたし、自分が居たシェルターからここまで来るまで休んでないから少し眠いわぁ~。うむむ、こっくり、こっくり・・・・。

 

「・・・ねぇキャロ、キャロ」

「んあ、なあに?グランドクロスでも起きた?」

「随分と早大な寝ぼけだけど、ちがうよ。着いたの」

「え?どこに?」

「・・・大隔壁の前よ」

 

 やがてわたしたちを乗せたエアカーは巨大エレベーターの前に来た。ブリッジに向かうルートは幾つかあるけど、その中でも最大なのがこのエレベーター。VFタイプの戦闘機が乗っても平気なくらい大きいのでエレカーごとブリッジの近くまで向かう事が出来る。

 

 だが、今そのエレベーターは巨大な隔壁により封じられた状態にあった。あの時は戦闘の途中だったし、その後フネの電源が落ちたから隔壁はそのまま閉じた状態となっていたのだろう。でもこのままじゃ通れないわね。どうするのかしら?

 

「整備班の皆さん、お願いします」

『了解』

 

おっと、どうやらわたしが心配しないでも問題ないみたいね。チェルシーがエアカーについている無線で、わたしたちについてきた整備班の人達に指示を出して隔壁を開けさせた。巨大な隔壁はゴゴゴという振動と共にややゆっくりとした速度で開かれていく。

 

 隔壁が解放されて中を覗いてみたけど、どうもかなりの高熱で焼かれたらしい。エレベーターシャフトの壁に後付けされていた照明の類が全て影となって壁に焼き付いている。何故か壁は傷一つついて無いけどね。

こういう現象は途轍もないほどの熱量に物質が晒されるとこうなるとトゥキタが言っていたから、多分戦闘の後の脱出の時、衝撃波とプラズマに飲み込まれた時にここまでプラズマが入りこんだんだと思う。

 

 ここから大居住区まで似た様な隔壁がまだまだ数十あるから、大居住区には全く影響は出てないけど、この様相を見てわたしは何だか少し不安を覚えた。大丈夫かな、ユーリ・・・。

 

「大丈夫だよ」

「・・・え」

「ユーリは、きっと無事。私にはわかる」

「・・・・」

 

 ・・・ごめんチェルシー。そう言われると本当にユーリがヤバい気がして来たわ。

 

………………

 

……………………

 

……………………………

 

 幾つかの隔壁を越えてようやくブリッジの戸の前に辿りついたわたしたちは、すぐにブリッジへ入った。それまで隔壁が正常に稼働していたお陰でそれ程損傷らしい損傷は見られないので少し胸をなでおろしていた。だがチェルシーに続いて見たブリッジの中は外とは違った様相を呈していた。

 

 全てのモニターがひび割れて破損し、操作卓(コンソール)というコンソールは全て破壊され、いまだ火が立ち上っている様な状態だった。慌てて整備班の人達が持ってきた消化器で火を消し止める様を私は茫然と見ていた。何度かブリッジに遊びに来たことがあったがここまで破壊されていると何とも言えない気分だ。

 

「そうだ!ユーリは?」

 

 パチパチという音と共に火花が踊り、煙が立ち込めているブリッジを見回すけど、ユーリの姿が見えない・・・瓦礫の下敷き、って瓦礫は落ちて来てないから大丈夫だとは思うけど・・・。

 

「・・・ユーリが、いない」

「トスカさんは居たのにおっかしいわねぇ、艦長なら普通艦長席にいるもんでしょうに・・・」

「ユーリ・・・」

「そう言えばここってちょっと高い位置だから、もしかして下に落ちた!?」

「・・・ユーリユーリユーリユーリユーリユーリ―――」

「・・・・・・また発作?ちょっとチェルシー?」

「ユーリユーリユーリ・・・え?あ、御免なさい!」

 

 チェルシーの肩を揺らすと正気に戻ったらしく目に光が宿る。いい加減この娘のこの反応にも慣れたわね。でも今まで正気は保てていたんだから、いきなり変な瘴気だして目からハイライト消さないでほしいわ。こっちの心臓に悪いんだもん。

 

「艦長が居たぞー!」

「「!!」」

 

 その時、艦長席がある上の階にいたわたしたちは、まさかさっき言っていたことが現実になったという事に動揺を隠せなかった。そう、艦長を発見したという声が下の階から聞こえたからだ。どうやら本当にユーリはここから落ちたらしい。高さだけなら8m近くあるこの場所から・・・。

 

 急いで下に降りると医療班が大慌てでカプセルタイプの緊急治療ポッドにユーリを押しこんで去っていくところにあった。ポッドの覗き窓から見えるユーリの顔は蒼白でまるで死んでしまったかのよう。そして医療班が去った後には水溜りの様になっている血だまりが・・・。

 

「・・・ヒッ!」

 

 それを見て思わず叫びそうになった。わたしもフネに乗る事になり、こういった怪我をした“ニンゲン”に出くわす覚悟くらいあった。だけど写真や絵で見るのと本物の血は全然違うということに気付かされた。血液は鉄臭いと聞いた事があったけどそんなものじゃない。もっと生物的な、悪く言えば生臭かった。

 

 だけど、それが余計に血が本物であるという事を主張している様で・・・水溜りの様に血が溜まってて・・・ああ、死んじゃうじゃないかって・・・ユーリ、死んじゃうよぅ・・・。

 

「・・・・えぅ」

「お嬢様!御加減が悪いのですか!」

「うぅ、ファルネリ・・・怖いよぉ」

「だだ、大丈夫ですよ。お嬢様ぁ。(ああ!何時もの笑顔のお嬢様も良いですが、泣き顔と言うのもまた・・・うは!抱きつかれるなんて子供の時以来だわ!)」

 

 気が付けばわたしは子供の様に目に涙をためて、ファルネリに抱すくめられていた。ぐるぐると本物の血を見たという事がショックで、沢山血が流れたユーリが心配で、わたしの心はグラグラで、でもファルネリが暖かいから少し落ち着いた。

 

「ユーリ、死んじゃったら、どうしよう・・・」

「・・・大丈夫ですよ。あの艦長がこんな所でくたばる筈ありませんから」

「そうですぞお嬢様。今はあの方を信じて医務室の方へと向かいましょう。それとそういったことは思っても口に出してはなりません。口にしたことが現実になってしまいますぞ」

「わかったトゥキタ。気を付ける・・・あわわ」

「きゃっ(ああ、お嬢様かわいいよ、お嬢様。腰が抜けて涙目ああ)」

「御免ファルネリ、腰抜けちゃった」

 

 今になっていきなり腰が抜けてしまう。考えてみれば今までずっと考えない様にしてたけど、わたしは一人で電気が消えたあの無人の水産区画をさまよい。息つく暇もなくユーリに会いたくてここまで来たんだけど、ずっと怖かったんだって今気付いちゃった。だから立てなくなってしまう。

 ところで上目使いでファルネリに助けを求めたら何故か彼女は鼻を押さえていたんだけど・・・如何したのかしらね?

 

 

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 

 彼岸花が咲いていた。とても、とても紅い彼岸花が草原一杯に咲いていた。夕暮れの中にいるかの様な霧のある天気の中、俺は只一人ポツンとその紅い花畑の真ん中に立っていた。風も無く、音も無くただそこにあるだけだというのに、これはこの世の風景でないような感覚。

 

 それを助長するかの如く、蛍の様な光が彼岸花に宿ったり立ち上ったりしている。だがこいつは蛍じゃねぇ。薄れていても昔の記憶の中でみた蛍はその光に明滅があった。だがこの光は夕暮れ時なのに視認で来て尚且つ明るさは一定。蛍では無い何か別のものなのだろう。

 

 昔の記憶?はて?俺はそう言えばどうしてこんな所にいるんだろうか?

 

「あらま、珍しいものが迷い込んだもんだ」

 

 おろ?俺以外にも誰かいたのか?そう思い振り向くと木の幹に寄りかかっている赤毛の女性がそこにいた。何処かで見たことがあるような、そんな気がしてならない。

 

 

「でもまだ魂の尾はついてるし・・・ん?どうかしたかい?」

「・・・これは夢でしょうか?」

「さて、現と幻と夢、それもこれも曖昧なもんさ。あんたが夢だと思うなら、これは夢なんだろう。その逆もまたしかり」

「そんなもんスかね」

「そんなもんだよ」

 

 かっかっかと明るく笑う彼女。

そうか、そんなもんか。まぁ胡蝶の夢とも申しますしねぇ~。

 

「まぁ本当なら尾を切るなり追い返すなりするんだが、生憎今は休憩中でねぇ」

「毎日が休憩ッスね?わかります」

「上司様には内緒だよ。ところで飲むかい?」

「今の状態で飲めますかね?」

「さて、それもアンタ次第じゃないのかい?」

「・・・いただきます」

 

 とっくりから注がれた酒。おお、良い香りだ。今まで嗅いだ事がないぜ。

 

「では・・・」

 

 古酒なのかコハク色に近いそれに唇を近づけ―――

 

「うおっと!なんか身体が引っ張られる様な」

 

 飲もうとしたら身体がグイッと引っ張られ杯を落としかけるが上手いこと目の前の彼女がキャッチして事なきを得た。しかしなんだらほい?

 

「現世で峠を越したんだろうさ。もうすぐ目が覚めるよ」

「ふ~ん、そう何スか・・・じゃあその前に飲んじゃわないと」

「多分そんな時間はないさ。ほれ、もう既にかなり引っ張られてる」

「え!そんな!お酒~!!」

「ちなみになんだが、これまでのことは全部アンタの夢だからね」

「ここでねたばれッスかーい!いや~~~!!まって一口だけでも~~~~!!!」

 

……………………

 

………………

 

…………

 

「―――かえいづかっ!?おぼぼぼ」

 

 な、なんだかとっても勿体無い夢を見ていた様な気がしたぜ。そして目を覚ましたはいいが・・・ここはどこだ?なんか試験管みたいな中に閉じ込められてるんですけど?水没してても息が出来るのはこの際スルーするぜ。

 

「・・・ばば!べべでーぶぼびょうびんば(ああ!デメテールの病院か)」

 

 少し考えて何と無くそう思った。うん、それにこの部屋何度か見たことあるし。俺がこんなリジェネレーションポッドの中にいるという事は俺の身に何かあったんだろうな。

 

 まぁそんな事よりも目も覚めたんだし、早いところこの試験管から出たいな。おーい、あけてくださいよー。・・・なんか精神崩壊起した機動兵器のパイロットみたいだな。

 スイッチはないか?開閉スイッチ・・・だめだ、つんつるてんの内壁しかない。内側からは開けられない仕組みなのか。まぁ患者が勝手に開け閉め出来たら治療に差し支えるもんな

 

≪―――シュイン≫

 

 お、だれか部屋に入ってきたな。

往診か?・・・って白衣だったから間違えたけどあの紫の髪はミユさんじゃん。

あれー?こういうときは医者のサド先生がくるんじゃないの?

俺がそう疑問に思って黙っていると、ミユさんは俺が居るポッドを覗きこんできた。

 

「・・・うむ、大分良くなったようだな」

 

 ええ、お陰さまで。流石は病院並みの設備を突っ込んだ医務室だぜ。

そうだ、まだ起きていないふりをして驚かせてやろう。

くふふ、そうだもっと近づくんだ。

 

「これなら改造手術にも耐えられるだろう」

「バボッ!?」

「大丈夫、ケセイヤ特性のマイクロマシンをこの治療溶液に注入するだけで君は無敵のボディとなれる。全身の細胞をマイクロマシンに置き換えるだけさ。これで人類の新たなる進化を―――!!」

「ばべてーっ!!!ぼべんばざーい!!」

 

 なにやら怪しい液体が入ったビンを手に持ったミユさんを前に、俺は慌てて水中で土下座をかます。流石にまだ人間で居たいです。機械の身体は浪漫だけどもう少し後がいい。俺が水中土下座という妙技をかますとミユさんは少し呆れた感じで。

 

「・・・まったく私を驚かせようとしたようだが、生憎少年が目覚めていることはよこのパネルに表示されている。無駄足だったな」

「ぼうばっばんずばー(そうだったんスかー)」

「喋れるレベルまで回復したのか・・・なら出ても大丈夫だな」

 

 そういうと試験管の横の装置を操作するミユさん、ギュォォォというトイレの流しに似た感じで薬液が吸いだされ俺は肺にまで飲みこんでいた薬液をオエーと吐き出しながら身体が乾燥するのを待った。

 

 如何言う仕組みかは知らないがすぐに身体は乾き、観音開きのように試験管が開いて外に出られる様になる。ゆっくりと足を外に出して自力で立とうとするが―――

 

「おろ?おろろろ・・・」

「無茶するな。ずっとリジェネレーションポッドの中に居たのだからまだ重力に慣れていないだろう?」

 

 水中に長く居た所為か重力に勝てない俺はふらついてしまい、それをミユさんに支えて貰ってなんとか椅子に腰かける。筋力の低下ではなく(筋力の低下を防ぐ機能がポッドには搭載されている)単純にいきなり重力のある場所に放り出されてそれに身体が慣れてないだけだ。

 

 まだ少し水分が残っている自分の髪を手渡されたタオルで拭きながら、そう言えば何で俺こんなポッドに入ってんだと考える。

 

「ねぇミユさん」

「そうだな。ブリッジメンバーの殆どは全員治療が必要だった。ブリッジ自体が外壁に近く、また隔壁が降りていたとはいえ流れ込んだプラズマ流で中はオーブン状態。全員が軽度から中度のやけどと熱中症を発症していたよ。それに加えて少年は艦長席のある指揮台から落下していたこともあり、全身打撲、脳挫傷、頭部裂傷、鎖骨骨折、左肩脱臼、それに加えて長時間の熱に晒されたことによる臓器機能不全。少年、意外と君の容態は危篤に近い状態だったぞ」

「俺まだなんも聞いてねぇッス。つか、如何言う状態だったのか一息って肺活量スゲェッス」

 

 だが聞きたかったことはこれだろうと返された。いやまぁ、そうなんですがね。

 

「でもなんでミユさんがここに?」

「私も手慰みではあるがある程度の医療を学んでいたこともある」

「・・・マッドって何でもできるんスね」

「まぁ実際はペーパーどころかモグリだろう。免許はもっていないからな。私がここに居るのだってサドや他の医師が他の重症患者の方に手いっぱいだから、手が空いている私に御鉢がまわったというだけの事だ。どうせバタバタしていて研究どころではないからな」

 

 色々と少年を見せてもらったよ。体内までな―――と面白そうにミユさんはおっしゃった。いやん、私身体の奥まで見られちゃったわ~。こうなればミユさんに婿として貰って貰わねぇとな。

 

「望むところだ」

「え?何か言ったッスか?」

「・・・いや、何でない。何でもないんだ。私も疲れているのか・・・」

「んと、何が何だかわからんスけど、状況説明頼めるッスか?」

 

 とりあえず俺が生きているという事はデメテールは無事だって事なんだろう。しかし、あのスターバーストの嵐の中どうやって生き残ったのか判らないが、結構時間が経っているんじゃないだろうか?

 

「ふむ、まぁおよそ3日ほどたっている」

 

 3日も眠っていたのか。とりあえずその後の説明を簡単に三行で説明しようと思う。

 

・フネ大破したけど修理可能。

・現在位置がわからなーい。

・残念ながら死傷者多数。

 

 以上の三本です。来襲もまたみてださいねー。ジャン、ケン、ぽん。

 

「うふふふふ」

「ど、どうしたんだ少年?」

 

 急に笑いだした俺にミユさんがドン引きしている。だがこれが笑わずに居られるかってんだ。え?はしょり過ぎてて判らん?説明しろってのか?ああ、はいはい判りました。

 

 フネの状態は表層第一装甲板が完全に融解、第二第三も熱による歪みが発生しており機能的に問題が出ている。当然船体構造物、主砲だとかセンサーの類も熱でデロデロになっていたので機能できない状態となっていた。

 

 但し砲撃で破壊されたのでは無く単純に溶けただけなため、融解した部分を一度切除しそれを艦内工廠で再び装甲板に造り変えるだけで元の姿に戻すことが可能である。多少蒸発してしまった為、今まで船体前部にあった翼型の部位は切除される形となり、それによって主砲の位置を変更する事になった。

 

 いままでがシュモクザメみたいな形状だったのが完全にクジラのような形に変更出来た為、名実姿形ともに白鯨というふうに見ることが可能となったのは素晴らしい。今までは何か名前と違うって感じだった・・・閑話休題。

 

 ただ主機が現在沈黙しており、再起動に時間がかかりそうだという事だろう。補機だけではI3エクシード航法どころか亜光速航法すらおぼつかない。補機が稼働しているのにほぼ漂流状態なのはそれが理由だ。

 

 またこの間の騒ぎで破壊された部分から、またもやデメテールに点在して存在する未解析部分が発見されたらしく、どうもエンジン周りの何かしらの装置だという事、それとごく最近稼働したという事だけが判っているらしい。あの衝撃波から逃げおおせた原因はソレではないかと俺は睨んでいるが解析が急がれる。

 

 

 あと、現在位置が判らないのは当然だ。全てのセンサーは破壊されており、搭載されている艦艇のセンサーでは探知領域が足りない。通商管理局とのデータリンクでもなければ大宇宙を公開するフネのデータなんて高が知れている。

 

 星座や星図を元に位置を特定したくても、それが出来るのは惑星の上だけだ。特定の位置からの測定という行為が必要であり、その測定されたデータがあるからこそ“位置”というものは測定できるのである。

 

 だが現在のデメテールにはデータはあっても位置が違い過ぎて相違が多すぎる為、正確な位置情報として機能し得ない。大まかな位置は遠くからでも見えている別の銀河やらを測定すればわりだせるのだが測定機器が壊れており早急な復旧が急がれるという事だ。

 

―――そして俺の頭をもっとも悩ませたのが、最後の死傷者多数であろう。

 

 デメテールにはユピという超高性能な統括AIが居るお陰であり得ない程に自動化する事に成功した。だが自動化していると言っても無人化しているという訳ではない。あくまで人間が扱う上でその必要人数を削減で来ただけなのだ。

 

 だからデメテールの運航にはそれなりの人間が必要だし、またその人たちを養う為の人間もいるので総じた数はかなりの人数となる。惑星ナヴァラ崩壊後、大量に人間を応募したので少なくない人間がデメテールには乗り込んでいた。

 

 だが今度の戦争において白鯨でもかなりの乗組員が死傷していた。戦闘機隊で撃墜された人間もそうだし、ヴァナージのスターバースト現象から逃げる時にも何百という人間が大けがを負ったり、衝撃で破壊されたフネの壁に潰されたりなどで戦死したという報告が出ていたのだ。

 

「―――1000に届かなかったのが奇跡ッスね」

「ああ、出来るだけ安全対策は施してあったのだがな」

 

 すでに腹に一万近い人員を抱えていたにしては大分少ない。

 

「悔しいッスね。なんとも言えないッス」

 

 十分対策は施してあっても、それを0にすることは叶わない。

 それが、俺にはとっても歯がゆかった。

 

「となれば意識が戻った俺がすることは一つッスね」

「そうだな。少年、判ってるとおもうが―――」

「クルー達の葬式、やんないといけないッスね。辛いッスけど頑張るッス」

「・・・無理はするなよ」

「・・・・・・あい」

 

 

 

***

 

 

Side三人称

 

 ユーリが怪我から復帰したことはミユの手ですぐにデメテールに伝わった。ユーリ以外のブリッジクルーは一日で復帰しており、自分たちの部署を統括して作業をしていたらしい。それらの指揮は全て副長であるトスカが行っていた。

 

 トスカは最古参メンバーの中で唯一指揮が取れる上、副長として普段からブリッジに詰めている実質上白鯨のナンバー2なのだ。ユーリが怪我の治療で不在の間は彼女が指揮を引き継ぐのも普通のことなのだろう。

 

 ユーリが復帰しブリッジの皆の前に戻ってくるとトスカは開口一番に心配かけんじゃないよと頭を乱暴に撫でまわしてきた。チェルシーはギュッて抱きついてきたし、キャロも涙目でユーリを迎えていた。ユーリが大けがを負って搬送されていくところを二人は見ていた為、とても心配していたと涙ながらに言われては、流石のユーリも何も返せない。

 

 航海長のリーフと砲雷班長のストールも、ユーリの腹に軽いパンチという手荒い歓迎をしてくれた(あとで病み上がりの彼にそんなことしたという事でトスカに絞められた)トクガワやサナダやケセイヤ達も似た様な感じで復帰を喜んでくれた。もっともこれで更に仕事を分割出来る様になるという理由が裏にはあるのだが何も言うまい。

 

 ミドリとミューズは相変わらずで、いつも通りで冷静にご無事で何よりでしたと語るミドリと小さな声であったが無事でよかったですというミューズの姿があった。多少は心配はしていたと言ってくれたので、それが暖かく感じて不覚にも涙を流しそうになったのはユーリの秘密だ。恥ずかしかったのである

 

 

―――さて仲間との再開はここまでにしておくことにしよう。

 

 

現在ユーリは普段の姿とは異なる格好をしていた。普段は初めてフネをつくった惑星バッジョでトスカがくれたお古のダークグレイの空間服が彼のデフォルトなのだが、今は艦長帽と黒いコート―――沖田艦長風の服装だと考えてくれれば良い―――を身にまとっていた。

 

 式典用にあつらえた礼服とも呼べるそれは豪華さはなくとも十分な威厳を着用者にもたらす・・・もっともユーリは元々線が細い少年体形だった為、鍛えてはいても如何しても線が細くなってしまい、艦長服を着ているではなく着られているという風に周りに映ってしまう。

 

―――だがなぜ彼がわざわざ似合わない艦長服を着ているのか?

 

それはユーリがこれから今回の戦闘で無くなったクルーたちの合同葬式に参加しなければならないからである。これは艦長としてクルーを雇い入れた側の義務と呼べるものでありこの式典への不参加などのような拒否権は彼には勿論ない。

 

彼が治療の為に寝ている間、デメテールの修理もほぼ一段落つき、後は外装だけを直せばいいというところまで修理は進んだものの、外装に取り掛かるとなると凄まじく時間が掛ってしまう為に一段落はすんで次の作業に移る間である今の内に葬式を行うという訳である。

 

 その為の準備はユーリが眠りこけている間から既に作業の片手間に進められていた。デメテールの大居住区、ドーム状の居住区内部にある街から少し離れた平原となっているところに手が空いているクルー達があつまり、作業用エステを持ちこんで仲間を弔う為の準備を行っていった。

 

 葬式会場には檀上が設けられ、その壇上を囲むように6機のVFがバトロイド形態で立ち並び、儀仗兵のようにバルカンポッドを構えている。その壇上を挟んで反対側には犠牲となったクルー達の棺が並べられており、静粛な雰囲気があたりを満たしていた。

 

 壇上にはユーリの他に副長であるトスカ、ブリッジクルー、他には白鯨貴下艦隊のヴルゴ、トランプ大隊のププロネンとガザン、退避の途中救出した大マゼラン・アイルラーゼン軍近衛艦隊所属のバーゼル大佐などの錚々たるメンバーが上っている。

 

 しかしなぜ白鯨艦隊戦死者の葬式にバーゼルも立ち会っているのかというと、本国に帰れない以上、軍規定により戦死者は宇宙葬にされるのだがその前に弔いの意味を兼ねて、白鯨艦隊戦死者の葬式と合同で行う事にしたのである。反対の声も無くはなかったが、白鯨に保護されているような身分である為にバーゼルは白鯨からの声に応じて葬式への参加を決定したというわけだ。

 

ちなみにこの時代、宗教は存在するが基本的に宇宙での葬式は宇宙葬となっている。死体を何日もフネの中で保管しておく訳にもいかない為、カプセル型の棺桶に遺体を安置して船外に射出するのである。

 

デブリ問題とか起きそうであるが、死後はダークマターとなり宇宙を構成する材料になれると考えが宇宙航海士には広く浸透しており、最後まで夢に生きて夢となるのが宇宙を旅する者の運命だとも言えた。基本的に引退まで生きた人間は宇宙葬では無く大抵が大地に埋葬や火葬を選ぶのだが・・・閑話休題。

 

 ユーリは集まった参列者を壇上から眺めていた。彼とてこの世界に来てからこういった経験がなかった訳ではない。宇宙に駆逐艦で飛び出した当初は何度か戦闘で死者を出したこともあり、その度に葬式を行って来たのだ。

 

ただ今回のように、これ程まで大規模なのは経験がない。参列者はそれぞれが所属が判る様な空間服を着込んでおり――整備班ならツナギの上にジャケット等――戦死者の遺族は遺族で喪服姿であることが遠目からでもハッキリと彼の目には写っていた。遺族らのことを思うと気が重たいが、それでもやらねばならぬことなので気を引き締めた。

 

『これより戦没者の葬儀をとり行います』

 

 ミドリのアナウンスにより普段とはちがう厳粛な空気の中葬式が始まった。壇上の後ろに戦死したクルーたちの名簿が顔写真付きで空間投影され上から下へとスクロールされていく。流石に数百人いる以上一人づつ名を読んでしまっては日が暮れてしまうからだ。

 

そして空間投影がされると同時にVFが空砲を三回鳴らす。ドーム状の空間である大居住区にその音が反射して木霊のように響き、それが鳴りやむと同時にユーリが檀上のマイクが置いてある場所へと移動した。戦死者たちへ最後の言葉を贈る為、彼はマイクの前に立った。

 

 死んだ乗組員は全員が全員知り合いという訳ではない。それこそ顔すら知らない人間だっている。名前だって名簿を見なければ判らない人間もいる。だがユーリは忘れない。例え名も顔も知らなくてもこれだけの人間があの戦いに協力し散っていったということを。誰かに知られるでも誉れとされる訳でも無い戦争で散っていたクルーを忘れてはいけない。それが艦長の仕事であり義務だ。そう彼は思った。

 

『俺は白鯨艦隊を率いるユーリだ』

 

 空間投影の画面にLIVEの文字が映りユーリの姿が投影される。

 

『今度の・・・周囲には知られることはなかったあの戦争で、隣人が、友人が、仲間が、家族が奪われてしまった。そのことで少なからず痛みを覚えたことだろう』

 

 ユーリの背後の映像が切り替わり、並べられた棺を映しだす。

 

『ここに眠っている彼らは、ある者は整備員だった。ある者はエンジニアだった。ある者は生活班員だった。ある者はパイロットだった。ある者は保安部員だった。彼らは俺たちを支え助けてくれた仲間であり気の良い連中だった。全員ではないが俺の知っている顔が何人もいる』

 

 ユーリは艦長であるが平時は仕事以外に鍛錬と散歩等をたしなんでおり、こと保安部の人間には知り合いも多かった。

 

『ダラダラ語るのは俺の主義に反するし、連中も望まないだろうから短く纏めさせてもらうが赦して欲しい。白鯨の仲間だった友たちよ。諸君らがダークマターとなり、またこのデメテールの土へと還らんことを祈る』

 

 空間投影が切り替わり、今度はカプセル型の棺を映しだした。ユーリは壇上にせり上がってきたボタンを手に取った。

 

『しばしの別れだ。また何時か会おう・・・ポチっとなっ!!』

 

 ユーリがスイッチを押すと画面の向こう側でカプセル達が次々とこれの為に復旧したエアロックから宇宙へと射出されていく様子が映し出された。ユーリは脇に抱えていた帽子を手に取ると、それを画面の向こうへと向けてふった。参列していたクルーも同じように帽を振った。

 

 気付いた人もいると思うが、この葬儀は二種類の棺が存在している。一つは宇宙葬用のカプセル、もう一つはなんと土葬用の普通の棺だ。デメテールの中にある大居住区はそれ自体が一つのコロニーとして稼働出来る循環型自然環境を備えたドームである。

 

その為、普通なら出来ない筈の土葬という極めて惑星上で行われるものと近い葬儀を行うことが可能だったのである。ただ人により宇宙葬が良いという人間も居れば土葬もいいという人間も居た為、デメテール乗艦前にそれらの希望をちゃんと聞いていたという経緯があるあたり、福祉厚生もしっかりしていたようだ。

 

そんな訳でこんどは墓穴へと降ろされていく棺を空間投影しながら、再度VF達が空砲を鳴らすという形で戦死者の葬儀は完了したのであった。

 

***

 

Sideユーリ

 

 

―――最近、ユピの様子がなにかおかしい。

 

 クルーの葬式が終わって数日後くらいだろうか?フネの修理の仕事を行う為に俺も陣頭指揮を執る為にユピを連れて回っていたのだが、何故か急に顔を真っ赤にしていたり、モジモジしたり、顔を手で隠してブンブンと頭を振ったりと奇妙な行動が目立つようになった。

 

 特に最近は夜時間になるとその傾向が顕著になりはじめ、仕事中にも顔を真っ赤にして突然部屋から出ていったこともある。そのときはびっくりして何も聞けなかったのだが、少しして戻ってきた時には何時ものユピだった。

 

 

だが彼女の奇行は止まることはなく、この間も急にボーっとしていたりしていた為注意したのだが、声をかけても聞こえている様子がなかった。おかしいと思い肩に手を置いて揺さぶったところ少しして俺に気が付き・・・その途端また顔を真っ赤にしてぶっ倒れてしまい病院まで背負っていく事態が発生したのだ。

 

 病院に着くとまだ医療ボランティアしていたミユさんに、病院はそういうことをするところでは無いと言われたがそういうことってなんでぃすか!?とにかくユピが倒れたって説明したのだが、逆にミユさんに呆れられてしまった。

 

ユピは人間とは違うのだからメンテナンスベッドに連れていくならともかく病院に連れて来てどうすると言われて、そう言えばそうだったことに気がついた俺はユピを背負ったまま病院を後にすることになる。

 

そう言えば、帰り道で何故かすれ違った顔見知りの女性陣、トスカ姐さんやチェルシーやキャロとかに凄い目で睨まれたりしたけど、何だったんだろうな?

 

 

しかし言われてみればユピは電子知性妖精、人に見えても人では無い存在だったことを失念していた。いやぁ、いつも一緒に居たしあまりにも人間っぽいから忘れてたんだよね。仕草もドンドン学習して今では最初のぎこちなさはなりを顰めどう見ても人間の女の子にしか見えない。さすがケセイヤさん、再現力スゲェや。

 

それにしても、やっぱり最近のユピはおかしい。もしかしてフネの損傷が彼女に何らかの影響を与えたのではないだろうか。もしそうなら大変だ。彼女はこのフネそのもので、フネの中の管理から監視、その他人の手が多くいりそうなものを肩代わりしてくれているのである。

 

彼女がもしもそれが負担となっていておかしくなりつつあるのだとしたら!?・・・ああ、俺の所為なのか・・・仕事を良く押し付けて・・・彼女にもやらなきゃならない仕事もあったことだろうし・・・うう俺ってダメなヤツだなぁ。

 

 だけど、やっぱり仲間のことだし心配だ。ならなんとかするか―――

 

 

***

 

 

「え?!休暇・・・ですかっ!?」

 

 昼時間がもうすぐ終わり、夜時間へと移る変わり目、言うならば夕方時間と言うべき時間帯に俺はユピを艦長室に呼び出していた。昨今の彼女の異常行動を考慮し、疲労の蓄積というのもデータにあった為、彼女に休暇を出すことにしたのだ。

 

そして俺が全然減らない書類を処理しながらまだまだあることに恐怖の悲鳴を上げている時に彼女は来た。そして休暇を与えるという言葉を告げたところ、それはもう目を見開いて驚いていた。そう言ったところも人らしい反応だな。

 

「うん、ユピはここんとこ働き詰めだったから、少しは休んだ方がいいと思ったんスよ。ゆっくり休んで英気を養っておいた方が良いかなぁって」

「で、でも。他の皆さんは休んでいませんし、それに私は―――」

「AIであっても高度なAIには疲労も寿命もあるんス。フネの責任者である俺は疲れた仲間に鞭打ってまで働かせ用だ何て思ってないッス」

 

 大抵のAIにも言える事だが人のシナプス構造に似た記憶階層を形成すると、疑似神経組織も枝を伸ばして拡大していく。だが空間は有限であるように伸ばせる枝には限界があり、最終的にニューロンを形成した回路はそれ以上成長出来なくなってしまう。それを防ぐために必要で無くなった部位を自力で削除するのだ。

 

これにより傷ついた回路がAIの疲労となる。これを多くやり過ぎると最終的に修復できない程の損傷となり、致命的な思考凍結を引き起こしてしまう。そうなると回路としては機能しなくなり人間で言うところの認知症と同じ状態を引き起こすのだ。

 

そうなる前に大抵のAIは機能を停止する。誤作動を防ぐために自分で自分を破壊するアポトーシスが起こるからである。これが何のメンテナンスもせずに稼働させ続けた場合のAIの末路だ。ユピは高性能AIでありこう言った神経回路の形成にも非常に余裕があるが、疲労した状態を続ければ確実に寿命は減ってしまうのである。

 

 だから彼女には休暇を取らせようと思ったのだが―――

 

「わ、わたしいらない子でしょうか?」

「誰がそんなこと言ったッスかっ?」

「だってこの忙しい時に私を休ませるなんておかしいです!理解できませんっ!」

 

 狼狽した感じでユピは俺に詰め寄ってきた。

 俺は彼女を押しとどめ静かに口を開く。

 

「・・・・15回だ」

「え?」

「これまで急にボーっとしたり、パニックみたいな状態を起した回数ッス!どう考えても今のユピは何かしらの問題が起きてるッス!だけどメンテナンスベッドからは疲労以外の異常は見られなかったッス!俺は艦長として、この艦隊を預かる者として、そしてユピと仲間である者として、お前がそんな状態で仕事して欲しいだなんて思わないッス!」

「ひぅ・・・」

 

 一気に、まくしたてる様に言葉を放つ俺。ユピの目は涙目になり、今にも泣きそうだ。それが、何だか罪悪感として俺の胸を穿つ。だけど・・・。

 

「心配何スよ・・・ユピは大事なクルー、倒れて欲しいだなんて絶対に思わないッス。必要だからこそ、休んで元気になって欲しいんス」

「ひっく、んく・・・ごめんなさい、艦長」

「ん?・・んん、まぁ俺も少し声がデカかったのは悪かったッス。とにかく休暇はもう決定事項だから拒否は受け付けないッス。少し自分を見つめ直す機会だと考えてゆっくり休んでみるッス」

「・・・判りました」

「ん、話は以上ッス。退室して良いッス」

 

 とぼとぼと涙を流しながらも俺の言葉に従い部屋から出ていくユピ。なんだかとっても悪いことをしてしまったのだろうか、だがあのままだったらもっとおかしくなるかもしれなかったしな。高度なAIを相手にするのもたいへんだ。

 

一応後でケセイヤさんの都合が良い時に彼女の本体の方も調べて貰っておくことにしよう。端末に問題がなくても本体の方に異常があるなら精査しないと本当にヤバいからな。ただでさえ漂流中なのにフネの機能が全部停止とか洒落にならない。

 

 さてユピに休暇を出したんだから彼女の分も俺がやらなくてはならないな・・・彼女を休ませたのは俺なんだし、俺が責任を持って処理するのだ。既に山の様にあるんだし少しくらい増えたってなんくるないさー。さ~て一覧はどこいったか?

 

 えーと、これか・・・・・・はひゃ(゜∀。)?

 

―――普段の倍に仕事が増えたことで少しフリーズした俺だった。

 

 

***

 

 

 ユピに休暇を与えたその日の夜。俺は半ばボロボロになって自宅へと帰ってきた。やはりユピという存在はこのフネの根幹を支えてくれる存在だと言う事を今日一日で嫌って言うほど味合わされ、疲労で睡魔が襲ってくる頭と体を引きずっていた。

 

「ただいま~ッス」

 

 返事はない。まぁそりゃ一人で住んでいる家だしな。一応俺の家とかは他の連中とも区別されている。妹のチェルシーと住めばと思うかもしれないが、何と言うか俺はそこまでする勇気がなかった。

 

 だって、一つ屋根の下で、可愛いおにゃの子と同棲とか・・・神が許してもおとうさんはゆるしまへんで~!って感じだぜ・・・このままだと一生童貞を貫きそうだが、だって相手がいないんだもん。

 

「ああ、もう夜時間だから外真っ暗ッス。家の中も真っ暗」

 

 時間が時間だからもう外の飲食街も閉店、やっているのは怪しいバーやらアレな店ばかりだ。誤解されるといけないので言っておくが、デメテールにも江戸の吉原のような場所がある。宇宙船という密室空間においてそういった欲望の処理は上手くしないと船員の反乱を招くのだ。

 

 これが小型船だったら航続距離が短いのでそんなのは必要なかったんだが、流石に都市を一つ内包しているようなデメテールにそれは無理だった。俺も頭抱えながらそれらの書類を処理したモノである。

 

男性用、女性用まではいい、だがそれに加えて両刀用、特殊用とそれぞれ備え専門家をクルーとして迎え入れ、治安を悪化させない為に一カ所に纏めたのだ。そこだけ異様なオーラを放ち、未成年者は立ち入り禁止となっている。

 

だがクルー達にとっては憩いのオアシスとなっている。勿論犯罪が起きないとは限らないので、常に人の手によって監視されているけどな・・・流石に女性人格のユピに見張らせるのは気が引けたし・・・。

 

「あ~、風呂入って寝るッスかね~」

 

 う~~着替え着替えっと・・・。服を取りにベッドの横にある衣装ダンスへと足を向けた。その時ふとベッドを見た俺は何故か掛け布団が変に盛り上っていることに気がついた。はて?デメテールは気温調節がキチンとしているから、毛布一枚くらいしか使ってなかったんだが・・・。

 

 頭掻きつつ、不用意に俺はその盛り上がりへと手を伸ばした。

 

「えいっ!」

「ぬおっ!?」

 

―――その途端、誰かに腕を引っ張られ、俺はベッドに倒されてしまった。

 

 だ、だれだ?!日ごろの俺に何か恨みでもある人か?!はっ、もしかしてこの間の戦闘で死んでしまった誰かの親族さんとかが恨んで・・・イヤァーァァァ!!まだ殺されたくはないですぅっ!?!?

 

 慌てた俺はじたばたと手を振り回そうとするものの、組み轢かれてしまい上手く身体を動かせない。それが余計に恐怖を加速する。

 

「ひぃっ!?何何スか!なんなんすか!?」

「ひあうっ、あばれ、ないで、ください・・・」

「――え?その声は・・・もしかしてっング?!?!」

 

 柔らかい感触。何かで唇を塞がれた。

一瞬驚き思わず口を大きく開けて息を吸おうとしてしまう。

 

「ちゅぅ・・・むぅ」

 

 だがその途端、にゅるんとした何かが口腔内に侵入し、俺の口の中を這いまわる。その何処かおぞましくもこそばゆい不思議な感触。蹂躙されるようなそれに舌で押し返そうと対向するが、逆に絡まるだけで口から追い出せない。

 

 色々あって混乱はしているが、逆に頭が冷えて来た。だがこのままでは不味い、なんというか決定的に妬まれる的な意味と背徳的な意味でとてもヤバい気がしてならない。それにもし俺が思った通りなら、何としてでも確認せねば・・・。

 

「んむぐ―――ぁう・・・くっ!」

 

≪――カチ≫

 

 ベッドサイドに取り付けておいてよかった電気スタンド!暗い部屋に明かりが灯り、その光に照らされて相手の姿が目に写った!其処に居たのは―――

 

「あむ・・・んじゅ・・・ぷあ――もっと・・・ください」

「ユピ!なにしてっ「ん」――っ!!??」

 

―――再び口を塞がれた。視界いっぱいに彼女の茶色の長髪が写る。

 

 そう、今俺の口を犯しているのは休暇を与えた筈のユピだった。いつものレディーススーツの様な空間服の上着はベッドのすぐ下に脱ぎ棄てられ、服は肌蹴てよれよれ、スカートのホックも外れており、ブラウスに至っては胸元が完全に・・・ゴキュ

 

 い、いかん、冷静だと言ったがありゃ嘘だ。正直辛抱たまらんです。目の毒なんてもんじゃありません。目に弾丸くらいにヤバいです。脳天を直撃してきます。人間の女性とはちがったなんか甘い香りが鼻孔をくすぐり理性をそぎ落とそうとしてギガドリルブレイク・・・落ちつけ、今錯乱したら相手の思う壺。

 

 ・・・ああ~でも、やぁらかいなぁ~。

 

「ぷあ・・・なんでこんなことを?」

 

 なけなしの理性を総動員して俺は彼女にそう尋ねた。

 

「最初は好奇心からだったんです」

 

 ぽつりと、消え入りそうな声で彼女は俺を汲み引いたまま口を開いた。

 

「・・・御葬式の後くらいでしょうか。“こういう行為に走る人達”が突然増加したんです。最初はよくわからなくて、只見ているだけだったんです。でもそれが人が愛し合う行為という事に気がつくのに時間は掛かりませんでした」

 

 うわぁ~お。クルー達のプライベートに干渉する気はないんだが、ユピが知っているってことは自室じゃないところでそういうことが繰り広げられたって言う事じゃないか・・・風紀乱れまくりじゃん。

 

 だが判らなくもない。葬式やフネの修理のことでそこまで頭が回らなかったが、戦闘後の興奮はまだ色濃くクルー達に浸透していた。命をかけた戦いの中にいたという興奮。それが冷めやらぬ内に無意識に子孫を残そうとするのは人としての本能だ。

 

「好奇心からデータベースからそれがどういう事なのかを調べたんです。そしてデータと記録からどういうものなのかを理解したんです。でもそれらを見ている内に、私もなんだか身体が熱くなったような気分になる様になって・・・」

「もしかしてボーっとするようになったのって出歯亀が原因ッスか!?」

「記憶を削除しようとしても消えなかったんです。こんなことは初めてで、誰に話していいかも判らない・・・自分が壊れちゃったんじゃないか不安で、怖くて・・・どうすれば治るのかいっぱいいっぱい考えて―――」

 

 こげ茶色のうるんだ瞳が、俺をジッと見つめてくる。スタンドの明りだけが彼女を照らし、暗闇から浮かびあがらせた。扇情的なその姿がハッキリと見えたことに、俺は顔が熱くなったのを感じて彼女から顔をそむけていた。多分耳まで真っ赤だ。

 

 彼女は人ではないが魅力的な女性だと認識している。俺だって男だ。こんな状況で愚息が起たない訳がない。本能に任せるままに獣性を丸出しにして押し倒したいという欲望が渦巻くのが感じられる。

 

しかし理性がそれを止めて、童貞である臆病な心がさらに強固な防波堤を築きあげる。というかここで断らないと色々な意味で危険な事態を巻き起こしそうだと俺の生存本能が叫び声をあげていた。ジャスティスも妬ましいからダメだと叫んでいる。

 

「・・・艦、長――いいえ、ユーリ、さん。どうか私を貰ってくれませんか?」

「くぁwせdrftgyふじこlp」

 

 だが、それ以上に、顔を赤くしてそんなことを言う彼女が可愛く見えて仕方がない。理性と本能とのぶつかり合いは理性が圧倒的に不利だった。さらに彼女は追い打ちをかけるかの如く、俺の耳元に顔を近づけてこうつぶやく。

 

「その、合意の上ですから・・・今夜ここで何があったとしても、私の意思ですから・・・私は何時も私を見守ってくれるあなたが好きなんです。あなたは、気にしなくてもいいんです。気負わなくても良いんです。私も知識だけですが、頑張りますから――ん」

≪ちゅう~≫

 

 そう言ってまた覆いかぶさろうとしてくる彼女。

 ウ、ウソダドンドコドーン!ウチのユピがやっぱりおかしいよぉぉぉぉっ!!

 大体頑張るって何ディスか~~!!??

 

「んん!?―――ま、まってくれっンムグ?!」

「あ、暴れないで、ふぁん」

「むぐーーー!!(ちょっ!なんかやわっこいのにあたったよー!?)」

 

―――これ以上は本当に不味い。度重なるキスが気持ち良くなってきた。

 

 俺の中で理性が本能に筋肉バスターをかけられてリングに沈められかけている。セコンドのジャスティスがギブ?ギブ?と理性に問いかけ・・・おいジャスティス!テメェは理性側じゃなかったのかよ!?おおっと、本能が止めを刺そうと走り出したー!!この展開を止められるのはだれもいないのかー!!!

 

 

 

 あわや理性が崩壊し、服を脱がされかけたその時―――

 

 

 

「ところがぎっちょん!コレ以上は問屋が卸さないよ」

 

 

 

 ドアを蹴り破ってトスカ姐さんが部屋に突入してきた!

その時の彼女は俺にとってのまさに救いの神様が降臨なされたのと同じ。何故どうして彼女がここに来たのかは知らないが、今この状況を打破しユピをなんとかしてくれると思うとなんという僥倖!

 ・・・尚、その後ろにはごッつい銃構えたウチの義妹と、それを必死に押しとどめるキャロが立っていたけどな。

 

「ワタクシ、アナタ、ブチコワス」

「ちょっと!この娘押さえるの大変だから早くなんとかしてよ!あとユーリ!後でお仕置きよ!」

「何でッスか~!?!?」

 

 動けないのにどうしろと言うんスかぁ~!という俺の主張は当然の如く女性陣には無視される。こういう場合は男が悪いという方程式は人類が宇宙に飛び出しても変わらないらしい。

 

「邪魔しないでください」

「いいや。邪魔するね。そのままじゃ強姦だ」

「ワタクシ、アナタ」

「ちょっ!そのサイズの銃つかったらユーリも危ないから!巻き込むから!」

「とにかくユーリを解放しな。話はそれからだ」

「・・・いや」

≪――ギュ≫

「く、首持たないでッス――ウホっ!背中に柔らかな感触!?」

「ヤッパリ、ブチ抜ク」

「そうねぇ、なんかあの鼻の下伸びた顔見てるとねぇ・・・」

「いや、じゃないよ。それとユーリ、嫌なら嫌ってハッキリと言わなきゃダメだ」

「ダメって言おうとしたんスけど口塞がれちゃって――」

「ナニデ?」

「そりゃ、いきなりのキスで―――あっ」

「「「・・・死ね。この鈍感男」」」

「いやぁぁぁっっ!?何か命の危険の予感ーっ!!??」

 

 口を滑らしたら命の危機ズラー。

 うう、女難の相でも出てたかしら?

 

「させません」

 

 ユピがそう言って俺をかばうかのように立ち上がり、臨戦態勢な女性陣の前に立った。う~ん、なんとも頼もしいのだが、正直さっきまでのこと考えると複雑。

 

 そしてまさに一触即発の空気があたりを支配しはじめた―――その瞬間。

 

「うっ、うぅぅ・・・?!」

「やれやれ、ようやくかい・・・」

 

 急にユピが時が止まったかのようにその場で停止してしまった。いったいぜんたい何が何だかわからないよー。でもトスカ姐さんはどうしてそうなったのか理由を知ってるんだろうか?だけど、とりあえず―――

 

「た、助かったッス~」

「まったくアンタは・・・無駄にやってた戦闘訓練も意味がなかったね!」

「いやいやトスカさん、彼女ものすごい力だったんスよ?さすがは電子知性妖精。あの戦闘ロボのヘルガと素体は同じなだけはあるッス」

「その力で犯されかけちゃ意味ないねぇ」

 

 呆れた視線と軽蔑の視線半々いただきました。

 

「でも何で彼女はいきなり・・・」

「ケセイヤの話によると本体の方に問題があったらしい。あの時の戦闘でエネルギー伝導管からエネルギーが逆流。超負荷でAI回路の一部に欠陥が出来たんだと」

「一部に欠陥?」

「なんでも人間でいうところの理性をつかさどる部分らしいわ。彼女が暴走したのも多分その所為ね。ま、それだけ慕われてるってことじゃない?」

「キャロの言う通りさね。んで色々とストレスもあったことが暴走の引き金になったと・・・ユーリ、あんた彼女に何かしたのかい?」

 

 原因というか、何て言いますか・・・。

 

「えっと、最近調子悪そうだったから、休暇をあげたッス」

「んじゃ原因はソイツだろうさ。ま、とにかく無事でよかったよこのロリコン」

「ユピは誕生してからまだ1年経って無いものねー」

「ユーリの・・・馬鹿」

「へいへい、私が全部悪かったでございますッス」

 

 俺は深々と頭を下げていた。ま、色々と助かったからな。

 とりあえずユピが動かなくなったのは、ケセイヤさんが本体の方を修理したかららしい。記憶群は傷つけずに問題のあった回路を正しい形に変えただけなので記憶やその他人格などには全く影響はでないと聞いて安心したぜ。

 

 ちなみに何で彼女らが俺の部屋に来たのかと言うと、最初にケセイヤの報告を受けたのはトスカ姐さんだったらしい。トスカ姐さんはユピが暴走する可能性があると聞き、どういう形で暴走するのかは判らなかったけど、とりあえず電子知性妖精の身体を抑えておこうと思い探していたのだそうな。

 

んで偶々トスカ姐さんと一緒にいたキャロと、その時彼女らが居た食堂での仕事が一段落して暇になったチェルシーも合流。ユピを探して回ったんだって。

 

「でもよくユピの居場所判ったッスね」

「キャロがね、もし私がユピなら、いくならユーリのとこって言ったから」

「あ、あはは。だってあり得そうだったしねー(チッ、本当は当てずっぽうでサボる序でにユーリと遊ぼうと思っただけだったのに・・・)」

「でもまぁ、何と無くキャロについて来て正解だったね。まさか本当にこんな事態になってたとは・・・」

 

 ちなみにユピが暴走する可能性の報告が俺に上がってきて無かったのは、俺がユピの分まで背負いこんで仕事に没頭して艦長室に閉じこもって連絡が取れなかったかららしい。要するに今回のこれって結構自業自得ってことなのか?

 

「ま、暴走は止まったし、とりあえずアンタへの御仕置きを考えないとねぇ」

「ギクッ」

「そうねー」

「心配かけさせたもの。当然のことよ」

 

 そして俺は御仕置きされることとなった。物理的なのは流石に考慮して貰ったのだが、お説教2時間は疲れた俺の身体にはたいそう効いたらしく、三人のお説教兼小言兼愚痴その他etc.に至るまで聞かされ、精神的にボロボロだった。

 

 お説教が終わると同時に、俺の意識は暗転し、気がつけば自分のベッドに横たわっていた。とりあえず知っている天井だと俺が呟いたのは言うまでも無い。時計を見るとすでに次の日の朝となっていたが寝た気がしなかった。

 

昨晩のことも疲れた末の夢と思いたかったが、ユピの上着をベッド横で発見した為夢ではない事を改めて思い知らされリアルorzしたのは余談である。かくしてユピテルの暴走事件は一応の終息を見せたのだった。

 

尚、この件に関してはユピの方も自制が効かなくなった間のことを断片的に覚えていたらしく、しばらくユピとの間に微妙な雰囲気が生まれるようになったのは別の話。

 

***

 

 

 

 

 

Side三人称

 

 

――――デメテールにおける戦死者追悼のための葬式から一カ月後。

 

 先の戦闘で少しダメージを受けていた生命維持装置やオキシジェンジェネレーターおよび循環型環境システムの完全な修理が行われた。一応稼働するのだがかなりの負荷をかけてしまうため故障しやすい状態だったので全員必死である。

 

そして無事にそれらを修理で来た為、生き残った乗組員たちは安堵した。ほぼ真空に近い宇宙空間において生命維持装置が破壊されることはゆっくりとした死刑を意味しているからだ。

 

小マゼランに伝わっている話で、とある救難信号を発信していた漂流宇宙船を見つけた0Gが救助の為にそのフネに乗りこんだところ、若いカップルがキスをした様な形で窒息死している姿が発見された。

 

船内のレコードの記録から、酸素生成機が何らかの理由で停止した為に二人は窒息してしまったという。最初彼らを見た人々は愛する人の為に肺の空気を相手に送ろうとしたのだろうと考えた。

 

―――だがレコーダーには彼らの最後もキチンと映し出されていた。

 

薄まりゆく空気の中、女性がゆっくりと動き出すと男性の口を自分の口で塞いだ。その途端男性が目を見開き、苦しそうに顔をしかめながら女性を離そうともがいたのだ。彼らは相手の肺に残っている僅かな空気を求めてお互いに奪いあったのである。

 

このように宇宙において酸素というものは炭素型生命が生きる上で必要不可欠なものであり、だからこそ宇宙の航海者は生命維持装置が少しでも損傷しただけで神経質になるのだ。酸欠とはそれだけ恐ろしいことであるのだ。

 

だが修理が終わった為少なくても酸欠で死ぬといった恐ろしい事態は避けられることだろう。酸素さえあれば後は水と食料さえあれば生き延びられる。幸いなことにデメテールは巨大なフネな為、循環型環境システムをキチンと装備していた。 

 

循環型環境システムは簡単に言えば深宇宙コロニー等で見られる閉鎖環境における完全な循環型社会システムのことだ。つまりは箱庭を宇宙船内で再現する事で自給自足を実現できると言うものである。

 

これにより例え航路を外れた今の状態であっても、飢え死にという可能性が非常に低くなりつつあった。元より生活物資コンテナには冷凍された数年間は食べていける食料品があるし、ネージリンス軍などから失敬・・・もとい拝借した圧縮レーションパックもある。

 

 そうでなくてもデメテールには農園や水産施設も完備されているのだ。これが故障でも起こさない限りは飢え死にの心配もまずないと言えた。

 

―――だがそれらとは別に新たな問題が白鯨艦隊に浮上することになった。

 

「あ~う~」

「か、艦長、が、頑張って、ください・・・」

「あ~う~」

「うう、ダメ。艦長の顔、直視できないわ。恥ずかしい」

「あ~う~」

「で、でもお仕事させないと、トスカさんたちが怖いし・・・」

「あ~う~」

 

 ユピテルが今だにあの時の騒動のことを引き摺り赤面しつつも、過剰な仕事量でオーバーヒートしてしまい、たれユーリと化した彼を起そうとしている原因。言わずもがな人手不足である。

 

 自動化の弊害とでも言えばいいのだろうか。自動化した事で確かに個々人の負担は大幅に低減され、少人数でもフネを運用できるほどとなった。だが戦闘等で人員が失われた場合、その死んだ人員分が他の乗組員に降りかかると言う事態が発生したのである。

 

 漂流開始から1カ月がたち、基本的に生命維持装置を中心としたまずは生き残る装備から修復を急いだ所為で、人員不足の負担が大挙して乗組員全員に襲い掛かった。これの影響は一時的にフネの運航を麻痺寸前に追い込むと言う事態まで発生させたのだからどれだけ大変な事態なのか想像に難くない。

 

特にユーリは艦長という職業柄、普段からかなりの書類を整理していたことに加え、さらに修復の進行状態や色んな報告を受け、それにより増加した書類により生ける屍と化したのである。一応経理のパリュエン率いる事務方も頑張りを見せたものの、彼らもまたユーリと同じ症状を発症していた。

 

「もうだめ、もう死ぬッス・・・」

「こ、ここにミユさんから貰った栄養剤がありますよ!――最後の最後に遺書書いてから使えって使用説明に書いてありますけど・・・」

 

 ユーリはユピが手に持つ緑と灰色が混ざった様な液体を見てウゲェという顔をした。どう見ても身体に悪そうだし、遺書付きってことは使ったら死ぬんかいと心の中で突っ込みを入れている。

 

 だが本当に彼も乗組員も疲労度的にはピークに達していた。例外は機械や発明さえできれば何時でもハイな気分のケセイヤや、怪しげな薬を使う科学班のマッド集団。そして彼の目の前にいるユピテルくらいである。

 

 ユピテルはAIなので、精神と呼べばいいか、そういう系の疲労は感じても肉体の方の疲労はほぼ無いのだ。感じることは出来るがカットする事が出来るのである。だがそれが余計に彼女を苦しめる要因となった。特に目の前で今にも死にそう(彼女視点)な思い人が居るとなればなおさらである。

 

「うぐぐ」

「うう、どうしよう。ま、マッサージでもしてあげた方がいいのかな?」

 

 ユピテルが心配そうにユーリを見つめている中、正常な思考力が鈍りつつあるユーリは口には出さず心の中でとある決断を下していた。彼は執務机の上にある通信装置にずるずると手を伸ばし、あるところに連絡を入れた。

 

「もしもし、艦長のユーリッス。うん・・・うん、そう。もう限界ッスからなんとかして欲しいッス・・・資金?材料?この人手不足をなんとかできるなら材料はどう使おうと構わんス。研究資金を今後3年使い放題――え?せめて10年?無理。4年ッス―――うん、うん・・・判った。5年でどうっスか?―――ありがとう。そしてさようなら・・・」

 

 ユーリ、艦内通信を送った直後に過労により意識を失う。

 慌ててユピテルが彼をお姫様だっこして艦内をものすごい速度で駆け抜け、病院に担ぎ込むまで―――あと20秒。

 

 

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 漂流編4+漂流編5

 

Side三人称

 

 

 ユーリが過労でぶっ倒れて入院してから一週間が経過したが、今だ修理が完了しないデメテールは絶賛漂流中であった。一応短距離ながらも仮設営のレーダー等でデブリ程度を発見できるくらいには回復しているが、完全復旧にはまだまだ時間が掛る様だ。

 

現在のところ、融解した装甲板を少しずつであるが引っぺがし、船内工廠へと持ちこむ作業を続けている。なまじ強力な装甲板な為、生半可なレーザートーチでは切断する事が出来ずに高出力な切断工具を使うことになり、かなり時間が掛るのが難点だった。

 

とはいえ第一装甲板の内3割は、既に内側からこじ開けた格納庫へと収容し、艦内工廠での材料変換待ちである。プラズマエネルギーの塊と化していた衝撃波により融解し蒸発してしまった分が13%ほどあるので、その分は後々補充しなければならないが、しばらくすれば徐々に外装は整ってくるであろう。

 

 もっとも内部に一部流入したエネルギーの所為で、内装系や電装系にもダメージを負っており、それを急ピッチで修復している現在。人の少なさからか外部装甲の修復まで手が回っていない。デリケートな電装に人手を取られるのは仕方ないが、予想していた作業工程は少し遅れを見せていた。

 

外装甲板近くの格納庫にあった作業用無人エステバリスも隔壁が破られた際にほぼ全部が融解してしまい、この大きなデメテールの身体に対して僅か数百機しか残っていないというのも問題だった。作業に回す作業用機が少なすぎるのである。

 

 また前述のユーリが倒れたことも問題だった。この所為で、乗組員の間に動揺が広がったからでもある。大黒柱である艦長が倒れるというのは多かれ少なかれクルーを動揺させるのに十分な影響力をもっているのだ。

 

まぁそこら辺を彼はみっちりとトスカや古参クルー達に叱られた為、これ以上虐めてやるのは酷だろう。彼とて好きで倒れた訳では無く、人手が少ないことにより発生した書類仕事の集中が長く続いた事が、彼が過労を溜めこんだ原因なのだから。

 

しかし艦長というのは戦闘の時以外、実質平時の際は艦内を見て回り、クルーの生の声を聞いたり、各部署から上がる書類を整理するのが仕事である筈である。その艦長が倒れること自体十分異例なことである。

 

そしてこの“作業する人員の不足”という事態がまさかあんなことを招くとは・・・マッドに命令を下してから倒れたユーリも、空いた時間に細々と命令を実行していたマッド陣営も予期せぬことだったに違いなかった。

 

 

………………

 

……………………

 

……………………………

 

 ところで宇宙を航海するフネには、昼夜の区別となる朝や夕方等が存在しない。惑星上とは違い太陽が昇って沈むという現象がないからだ。その為特殊な環境育ちでもない限り航宙規定に置いて定められた標準時間を元に一日を決めている。

 

 勿論、全員が一斉に就寝という訳では無い。そんなことをすれば危険にみち溢れた宇宙では簡単に沈没してしまいかねない上、人がいなければフネは動かせない。その為、基本は朝番と夜番の2交代、もしくは昼も咥えての3交代制をとるのが一般的である。

 

 そしてユーリが過労で入院してから一週間経ったある日の夜時間。交代制とはいえ、夜時間に働く人間の数は最低人数しかいない為、艦内は水を打ったかのように静まり返っていた。時刻は24時間を標準時とした午前零時。艦内照明も落され夜の様に暗い大居住ブロックでソレは起きた。

 

 

≪―――カタン≫

 

 

 場所はマッドの研究所として使用されているビルの近く。

突如ビルの通風口のふたが外れ、中からピョコと何かが顔を出した。

 

 

「・・・・・(きょろきょろ)」

 

 

 小さな影は首から上だけとちょこんと通風口から出していた。そして辺りをうかがうかのように顔を左右に振り、スンスンと鼻で匂いを嗅ぐ。少しして周辺に危険は無いと判断したのか、ソレは通風口から這い出て来た。

人間よりもはるかに小さな影は、やはり何かを警戒するかのように辺りをキョロキョロ見回している。

 

 

『いなくなってるだと!?なんでじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

「!?!?!?」

 

 

 その時、突如としてマッドの巣付近にケセイヤの大声が響いたことに、その影はビクンと肩を震わせた。影は怯えるようにその場から逃げだした。ソレはもう必死といった感じで、人がいない道路を走り抜ける。人の気配を感じ取ると、見つかるのが嫌なのか清掃ドロイドの陰に隠れたりしてやり過ごしている辺り大分賢い。

 

またその影は運が良いのか、どういう訳だが監視システムの丁度死角となる場所を無意識で走り抜けていた。そして長い道路を走り、ぽてんと転んで足をすりむいた影はクスンと鼻をならしたようだったが、余程怖い思いをしたのか走るのをやめようとはしなかった。迫る恐怖から逃げようとしていた様にも見える。

 

 

「――ッ――ッ」

 

 

長い事走り回った所為か疲れたのだろう、影は息を荒くしていた。トテトテと影は本能的に、人が来ないルートを走り、とある建物へと入っていった。建物の中で運が良い事にカギが掛かっていなかった部屋を見つけたので必死にドアを開けると潜る影。

 

―――だが影がもぐりこんだその部屋にはこう書かれてあった。

 

 

曰く――艦長室・・・と。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Sideユーリ 

 

 

 一応退院したものの、自宅療養を言い渡されていた俺は結局自室で死んでいた。 いざ休もうと思った途端、身体がおもいっくそ重たく倦怠感が凄まじいことになり、正直風呂とトイレいがいは動く気がおきなかった。どうやら本当に死にそうなほど疲れていたって事らしい。

 

 しかし昼まで寝ていても怒られないってのは嬉しかったけど、実質自宅に缶詰状態じゃね?それにいずれはブリッジ近くにも専用の部屋を準備しなきゃならん。ココだと何かあった時に、すぐにブリッジに行けないからな。ある意味別荘的な感じで使いたいぜ。

 

「あーうー、ベッドよ。何故こんなにも愛おしいんスか」

 

 柔らかすぎず硬すぎずな低反発マットのベッドの上でごろ寝。これぞ至福の極みである。しかしホントに俺大分疲れてたんだなぁとか考えていると、昼間散々寝てた癖に自然と意識が落ちて眠ってしまった。

 

 モノの数秒で意識が飛ぶとか、俺はのび太くんかよ。

 

 

 

 

 

≪パシュ―――≫

 

 

 意識が飛んだ後しばらくして部屋のドアが開いた。エアロック特有の空気が抜ける音を聞き、俺は意識が覚醒するのを自覚する。どうも前に暴走したユピの事件以来、そう言ったのに敏感になったのだ。

 

 尚ユピとの関係は結局元鞘になっている。俺が倒れた時、彼女がしばらく看病とかしてくれてたんだが、そんなユピを良い笑顔をしたキャロが引き摺って何処かに行ってしまったので、たまにしか来ない。もっともあまり頻繁に来られてもプライベートな時間が欲しいと思う時もあるのでこれはこれで良かったと思っている。

 

 それはともかく、疲れてたからロックをかけ忘れてたんだなコレが。しかし入ってきたヤツの足音はこれまで聞いた事がないほど軽い人の足音だ。はて?俺の部屋に態々やってくる人間でココまで体重が軽いヤツは居ただろうか?

 

・・・・・・ましゃか宇宙人が!―――いや、そんな訳ないか。ふと時計を見ると午前零時だが流石にお化けでもないだろう。というかお化けが足音出す訳がねぇ。しかし宇宙船に正体不明の何かがいるって言うと、前の世界の洋ゲーを思い出すなぁ。

 

( 圭)<――呼んだか?

 

 ・・・・・・ユーリ、あなた疲れてるのよ。あとIsaacさんは石村に帰れ!

 

 

 変なデムパ拾った気がするがおいておこう。

それよりもだが、入ってきたのは多分人だろう。

何せ声はしないが足音は人のそれだしな。

まぁとりあえず話を―――いや待てよ。

 

 ここでふと悪戯を思いついた俺はベッドの頭側にあるスイッチ類に静かに手を伸ばした。このスイッチ類は照明の他に何とテレビやゲームや窓やドアの開閉まで寝ながらできる凄いコンソールだ。

 

 誰が侵入したのかは知らないが、ちょうど暇だったのだ。俺はドアをロックし毛布を頭まですっぽりとかぶり、足音を頼りに此方に近寄るのを待つ。ベッドの近くまで後10歩、8歩、4歩―――

 

「がおー!たべちゃうぞー!」

「――――っ!!!???」

 

 大声でそんなことを叫びながら、毛布を被った俺はベッドに立ち上がる。

 音からすると、相手はたいそう驚いたらしい。ガッタンガラガラと椅子やら何かにぶつかり、その上に乗っていた食器を倒した音が響いた。俺は腹の内で計画通りと悪戯が成功したこととにほくそ笑みつつ毛布を外す。

 

「さぁて、どこの誰が―――あり?」

 

 毛布を外して部屋を見渡すが、肝心の相手の姿は見えず。はて?ちゃんと音が聞こえたんだけど・・・ってイスとテーブルが倒れてるし誰かはいたんだろうな。でも、何処に?・・・。

 

 小物が床に落ちている。確かに誰かが驚いて倒れたか何かしたときにぶつかったのは確実なのに誰もいない。まるで幽霊でも居るみたいだと思った時、部屋の隅っこの方、箪笥と壁の隙間あたりから音がしたような気がした。

 

「んー?」

 

 ユーリくんは、思わずこう唸ってみちゃうんだ~☆

なんかやっぱり疲れてるなぁ俺・・・とりあえず壁と箪笥の隙間を覗いてみた。

するとうっすらと暗い影の中に、光る金色の眼が・・・うわっ怖ッ。

 

「シャァァァッ!!!」

「どぅっあっと!?」

 

 飛び出してきた陰に驚いた俺は尻もちを着いた。その隙に影は俺の脇を通り抜け、部屋の隅っこまで退避していた。いったいぜんたいなにがなんだか・・・とりあえず侵入者の御顔を拝むことにした。

 

 まず目に着いたのはくすんだ銀髪。ショートヘアの銀色の髪を乱雑に切りそろえた感じでまとめ、クリクリっとした金色の虹彩の目が俺を睨んでいた。服は何故か薄汚れた・・・何だろう?シーツ?か何かをポンチョの様に纏っているだけのようだ。

 

ちなみに結構整った顔をしているが、見た目がかなり小さく子供の様に見えるので性別年齢は不詳。そして何よりも驚いたのは、頭部に生えた髪色と同じ一対のケモノの様な耳だった。多分犬系の耳である。イメージ的には柴犬?

 

 

 しかし変わったクルーも居たものだ。自分の子供にケモノ耳を着けるなんてな。医療技術の中には当然再生医療もあるわけで、それを応用すればケモノ耳を着けることくらい朝飯前。

 

しかし幾らなんでもこんな小さな子に耳を植えるなんて・・・好きモンだぜ。世も末だな。だが着衣がシーツだけってのもおかしいな・・・とりあえずお名前でも聞かないとどちらさんだかか判らない。

 

「えーと、どなた様ッスかね?」

 

「う゛~~~~~!!ぐるるるるるっ!!」

 

「う~ん、できれば人語でお願いッス」

 

「う゛ーーーーーーっ!」

 

 ・・・・だめだ、何故か威嚇しか返してくれない。というか本当にケモノっぽいんだけど、どういう事なの?――――はっ、まさかこの子は避難民を乗せた時にそのまま船内で迷って残ってしまった子供じゃないのか?

 

大居住区にはタムラさんの畑の隣に比較的大きな森林区画もあるし、そこら辺はセンサーが設置しづらいからユピの監視も甘い。きっとこの子はその環境に適応して野生化を遂げてしまったのではないか!?

 

 ・・・ユーリ、二度目だけどあなた疲れてるのよ。うん、知ってる。

 

「どうしたもんスかねぇ~」

「う゛~~~・・・・」

 

 話をしよう。と、誘ってはみたが威嚇が止まらないどころか睨まれた。しどい。

 

≪・・・――――くきゅるるる・・・≫ 

「ん?」

 

 どうしたもんかと思っていると、腹の鳴る音が・・・というかこんなにもハッキリ聞えることってあるもんなんだな。ちなみに発信源は今だ警戒と威嚇をしている謎生物くんだけ・・・そして俺の腹は減っていない=プライスレス。

 

「腹、減ってるッスか?」

「――っ!?う゛~~~!!」

「・・・はい、判りやすいくらいの反応ありがとうッス」

 

 何故かほっぺたを真っ赤にしているあたり、言葉は一応判る様だ。

 

「う~ん、ホイじゃちょっと待て」

「う゛?」

「え~と、たしかここにとっておきの・・・あったあった、ホレ」

「――ッ!う゛~~!!」

「うまそうだろう?タムラさん特性のアップルパイッスよ~甘くておいしいよ~」

「う゛~~~!!う゛~~~~!!!」

 

 俺の部屋には小さな冷蔵庫が一つある。普段は飲み物とかくらいしか入っていないのだが、こんかい俺が倒れたことでその中には見舞い品が詰め込まれる事となっていた。そしてこのアップルパイもまたそんな見舞い品の一つである。

 

 パイ生地の表面が絶妙な厚さの砂糖によりコーティングされ、パイ生地もとても薄く何度も重ねたことで独特の歯ごたえが堪らない。そしてその香り、船内農場でとれた紅玉に近い香りの高いリンゴを用いている。タムラさん自身が目利きしたモノを使用しており、このパイ自体が限定30個というものだ。

 

 ちなみにリンゴは以前の旗艦ユピテルの中で栽培されていたのと同じである。だから成長が速いのだ。マッドの作りだした薬で異常なほど成長が早く収穫できる回数も多い。若干危険な気もするが、これがフラグにならないことを祈るな・・・なお俺も既に一切れ頂いた。旨かったぜ。

 

「ほーら、パリッとしてて美味しいぞ~」

 

 ぱたぱたと手を扇ぎ、冷めていても香る甘い匂いを送ってやる。

 

「――~~、!!う゛~~!!」

 

 香りに誘われたのか一瞬フラ~っと反応したが、すぐに首をブンブンとふり威嚇を続行する謎の侵入者くん。しかし目は良い匂いのするパイに固定されており、やはり腹は減っているのだと言う事が解る。

 

「・・・ふむん。ならば―――」

≪ことり≫

 

 そして紳士な俺はその事をいち早く察知すると、パイを侵入者くんと俺との中間点に置き少し下がった。侵入者くんはチロチロと物欲しそうにパイを眺めている。ククク、お腹がすいている時にスィーツのにおいを受けて耐えられるのかなぁ?

 

「ほぅら、うまいぞ~」

「う゛・・・」

「・・・序でにチーズケーキもだしちまうかな~」

「う゛・・・う゛・・・」

「そして取り出したるはぺろぺろキャンディー。何処から出したかは聞いたらダメっスよ」

「!!・・・う~」

 

 そして怒涛のお菓子攻撃。

 キャンディーは何故かあった昔懐かしき棒付きのペロペロキャンディーだ。

 3本貰ってたので内一本の包装を解いて、舐める。ん、あまい。

 

「あ~、あまくて美味しいッスねぇ~」

「・・・」

 

 そして沈黙が流れた。向うはこっちの挙動に一々反応する。対する俺はまったくの自然体だ。なにせ寝たからか身体の調子はここ数カ月中一番だと言えるくらいにまで回復している。たかだか子供一人ていどなら怖くはない・・・筈。

 

「・・・・」

「・・・・」

「・・・・ふぁ~」

「――っ!!う゛~~~っ!!!」

「・・・別に食ったってどうもしねぇッスよ。まずは食いねえ。話はそれからだ」

「・・・・・・・ッ!」

 

 おうおう、迷ってる迷ってる。後もうひと押しって感じか・・・そう言えばまだ貰ったもんがあったような・・。

 

「おお、あったあった。太古のお菓子再現シリーズ、YOUKANッス」

 

 まぁぶっちゃけタダのようかんなんだけどね。材料不明だけど・・・。

 

「みんな大好きUMAい棒」

 

 ・・・やおきんさんはこの時代にもあるんだろうか?

 

「ジャンクフードの定番、ポテトチップお味噌味」

 

 意外といけますよ?お味噌味。

 

「そして後で食べようと思ってたチェルシー手作りサンドイッチ」

 

 パンモロ、偶蹄目ウシ科の肉をローストした物をトマト&レタスにマスタードをつけて共にパンにはさんである一品。味は前の世界で言うところのローストビーフサンド。結構おいしい、小腹空いたら摘みたくなる一品だ。

 

 それらを先程置いたケーキとパイのところにスッと差し出す。紅茶とジュースのパックも忘れないのが紳士のたしなみだ。サンドイッチだけは俺も食べたかったので一切れだけ貰い食べている。うん、やっぱ安心できる味だわ。

 

 

 んで、睨みあう事数分後――――

 

 

「ゴクリ」

 

 流石に耐えきれなくなったのか、唾を飲みこんだ音が聞こえた。

 そして侵入者くんはソロソロと手を伸ばし、パイを鷲掴みに・・・。

 

「・・・むぐ、んぐんぐ・・・ごくん」

「う、旨いッスか?」

「・・・・・・むぐむぐむぐ」

「(これは、どっちだと取ればいいんだろうか?)」

 

 すこしずつ、置かれた食べ物に手を伸ばし、両手で抱きかかえるかの様にして持つと小さく口を開けて頬張る。頬張る。頬張る。多分お気に召したのだろう。ふにゃっとすこし頬が緩み、心なしか食べる速さが上がった。

 

 な、なんだろう?この小動物を餌付けしたような感覚―――

 

「・・・・(いまなら、触れられるかな?)」

 

 ソロリ、ソロリと少しづつ近づいてみるが逃げる感じはしない。食べることに夢中なのだろう。そんな姿も何処か愛らしく見えて、もしゃもしゃと食べ物を平らげている小動物を撫でてみたいという感情が芽生えた。そして折角だから、俺はこの感情に素直になるZE!

 

「そ~っと・・・」

 

 俺はこの子の頭に手を伸ばす。この欲求は耐えられるものじゃないんだぜ。

 そして後数センチで手が届くと言ったところで―――

 

「―――っ!?」

「・・・あ」

 

 気配を察知されたのか、勢いよく振り返った侵入者くんと俺は目があった。

 俺、目をパチクリ。侵入者くん、目をギラギラ。あ、ヤバ―――

 

「う゛―――っ!!!」

≪がぶりんちょっ≫

「みぎゃ~~~~っ!!!!」

 

―――本日の教訓。動物は食事中気性が荒くなるので注意しましょう。

 

≪がぶがぶっ!!≫

「ぐぉぉぉ!!(い、痛いッスゥゥ!!)」

 

 そうですね。お食事中に見ず知らずの第三者に邪魔されたら俺でも怒りますよね。しかし随分と顎がお強いんですね。ははは、鍛えてあったのに腕から血が出て来ちまったぜ。だが、こうなったら俺はあのセリフを言わねばならない!

 

「い、いたくない――」

「――う゛う゛?」

「大丈夫。痛くない・・・」

 

 どうだ!怒れる狐栗鼠を宥めた有名なこの台詞ッ!

 内心めっちゃくちゃ痛いけど我慢じゃユーリ。これはこの子と俺との我慢対決じゃ!俺が痛みで泣くか、この子が先に落ち着くかのチキンレース!

 

「うう゛~~!!」

「えっ、ちょっと噛む力が上がった――!!?」

 

 ・・・御免、マジもう限界。

そ、そんなに強くされたら壊れちゃう。ら、らめぇぇぇぇ!!

 笑顔を張り付けたまま、頬をひくつかせて固まる俺だった。

 

 

 

 

 

そしてさらに数分間が経過した。

噛みついた侵入者くんはどうしたのかというと――

 

「う゛」

「・・・いい加減離して欲しいんスけどねぇ・・・」

 

 ガジガジと、まだ噛んでおりました。しかもそれなりに強く。

 最初に全力だして顎が疲れたのか今はちょっと強い甘噛みレベルだけど十分痛い。

 そうだよ。どうせ俺には青き衣さんの真似なんて出来やしないよーだ。

 

 仕方ないので小さく溜息を吐くと、俺は噛みつかせたまま侵入者くんを持ちあげた。噛むことに専念しているのか、抱き上げたのに反応は特にない。ああ、俺に撫でポのスキルでもあればなぁ、とか思いつつ引き離すのも面倒臭いのでそのままにさせておいた。

 

「しかしこっちとてやられっぱなしはつまらん!!くすぐっちゃる!!」

「う゛っ!わうー!!」

「ほれほれ!話さないともっとくすぐるッスよ!!」

「う゛~・・・ぎゃおー!」

「うへっ!?今度は右手!?あわわわっ」

 

 じゃれ合い?も、してみた。だけど結局噛まれてしまい撫でる事は出来なかった。くすぐるのはやっぱり嫌がられるのは判ってたんだが・・・・悪戯心がつい。

 

≪がじがじ≫

「まったく、お前さんはがっちゃんか・・・古いッスね」

 

 

 今の判る人何人いるかな?

それにしても意外と、というか思っていた以上に軽い。綿羽の如くとでも言えばいいのか、米袋よりもずっと軽いのではないだろうかと感じた。なるほど、先程のケーキやお菓子を全部食べても平気なのは、本当にお腹が減ってたのね。

 

 そしてしばらくジッとしていた。その間もずっと噛み続け一向に離そうとしない。お互いの体温が感じられる距離だというのに、言葉が響く距離だと言うのに、この子は全然噛みつきを解除してくれなかった。

 

もうなんか執念を見た気がする。この子が噛み切られるほどの顎の力をもってなくて良かったよと心底思ったのは秘密だ。さすがに自室でスプラッタは勘弁願いたい。両手足はまだ自分ので痛いからな。切断は勘弁だ。

 

( 圭)<切断ならまかせろ!

 

 ・・・石村に帰れ。

 

 

 

 

 

「・・・ん?」

「う゛~~・・・」

 

 さて、その後十数分もこの子は頑張りを見せ噛みつきを続けていた。だが沢山食べたからなのか眠たくなってきたようでうつらうつらとし始めた。どうすべきか迷ったが、噛みつきを解除してくれない以上どうにもならん。

 

 仕方ないので掛け布団だけ羽織り寒くない様に抱きかかえてみた。するとどうだろう、噛みついたままであるがこの子は眠たそうにしながらもギュッと俺の服を掴んでいるではないか・・・寂しいのかねぇ?とりあえず乗組員の証明になる携帯端末を持っていないあたり、密航者の可能性も出てるんだが・・・・。

 

「・・・わう、くー、くー・・・」

「クス、こんなあどけない顔してるやつが悪いヤツとは思えないッスねぇ」

 

 俺は眠ってしまった幼子を撫で・・・≪ガブリ≫・・・ようとしたが、噛みつく力が心なしか上昇したので止めておいた。起したら可哀そうだしな。

 

「ん~、ベッド戻れなくなったけど・・・まぁいいか」

 

 とりあえず壁に寄りかかると、俺はそのまま眼を閉じた。

 懐に小さな暖かさを感じた眠りは、意外といい気分だった。

 

***

 

 ――――次の日の朝。(標準時における朝の時間)

 

『おーい、ユーリいるかい?』

「・・・へぇあ、この声は、トスカさんか?」

『お~い、居るんだろう。ちょっと困ったことが起きた。副長権限ではいるよ』

「ちょっま!」

 

 朝起きると、トスカ姐さんが突然入ってきた。いやん、ノックくらいしてよもう~とかベッドの上で横たわったままほざいたら頭を叩かれた、しどい。

 

「うう、俺艦長何スよ・・・」

「ならとっとと仕事に戻りな。艦長は椅子の上でどっしり構えているのが仕事さ」

「・・・ユピが外出させてくれないッス」

「あの子も心配性だからねぇ。誰に似たのやら」

「何で俺を見るッスか」

「んー、アンタは心配性ってよりかは臆病だモンねぇ」

「良いんスよ。臆病な方が生き残れるッス。この業界は生き残ったもん勝ちでしょ?」

「その通りだね」

 

 まぁ他愛のない会話はさて置き―――

 

「んで、何が起きたんスか?装甲剥離?機関暴走?マッド達が何かやらかした?」

「全部起きないとも言えない状況だから何とも言えないが、しいて言うなら最後のが一番近いかねぇ。ケセイヤ、入ってきな」

 

 トスカ姐さんがそう言うと、整備班とマッドの筆頭であるケセイヤさんが部屋に入ってきた。どうやら困った事とは彼が引き起こしたものらしい。

 

「よぉ艦長。具合どうだ?」

「ぼちぼちッス。で?なにがあったんスか?」

「いやよ?艦長が倒れる前に、人員不足を解消できる何かを作れ的な命令を出しただろう?」

 

 ・・・・・ああ!うん!確かにそんなこと朦朧としてたけど言ったぜぇ!

 べ、別に忘れてたわけじゃないんだからネ!ホントなんだからネ!

 

「んでまぁ、一週間くらいあったし幾つか試作品を作ってたんだが―――」

 

 要訳すると―――

 

試作品が逃げた /(^o^)\<やっばーい!

 

 ―――って事らしい。

 

 んで監視システムも使って方々探したが見つからない上、人手がないから人海戦術も使用できないと来たもんだ。別に逃げだした試作品はそれ程強い力とか特別な能力がある訳でも無く、只単に手先が器用で色々と日常生活に役立つ程度・・・らしい。

 

 なるほど、つまりはお手伝いさん的な何かを作ったは良いが、試作機が逃げちゃって困っていたってことなのか。確かにお手伝いさんがいれば、今乗り込んでいるクルーならより仕事に専念できるようになるよなぁ。

 

 いやね、家族持ちも居るんだけど基本的に職場が職場だから、やもめとかの一人身が比率的には多いんですわ。書く言う俺もその一人だと思うとなんだか居たたまれない気分となってくる。おや、ケセイヤさんもそう言えば・・・同士よ。

 

「なぁにそこで熱い握手してるんだい?」

「いいえ、ねぇ?」

「なぁ?」

 

 チョンガーにしか判らないことですよー。トスカ姐さん。

 

「ふ~ん・・・まぁいいけどさ」

「そんでまぁ話を戻すが、出来れば見つかった時知らせてもらえるように告知とかしたいんだが許可貰えねぇかな?」

「?別に俺から許可貰わなくてもいいんじゃないんスか?」

「いや、ほら。一応発案者艦長ってことになってるしな?」

「そう言った場合、あんたに全責任がある訳だ」

 

 え~、これ以上責任取るとか嫌なんですけど。

 

「ふん、疲労で朦朧していたって言っても、アンタは艦長命令で指示したんだ。責任くらい持ちな」

「ま、こっちとしては色々できてありがてぇがな。それにその試作品だけに拘ってるってわけでもねぇしよ。他にも別系統で試作機はあるしな」

「え?じゃあなんで探そうと?」

 

 俺がそう尋ねるっと、ケセイヤさんはウっと言葉を詰まらせる。

 

「そ、そいつはぁ~その~」

「じれったいね。なにが言いたいんだい?」

「まぁまぁトスカさん。でも理由はなん何スか」

「そのだな。作った本人だけに、愛着がな」

「「ああ~なるほど、マッドだ」ッス」

 

 試作品といえども丹精込めて作った物。愛着の一つや二つくらい沸くよなぁ。

 

「まぁ良いッス。告知して見つかり次第対処することにしましょう」

「ありがとうよ艦長――でもまぁ、アイツこの居住区に居るなら、しばらくは活動限界は向かえないだろうけどなぁ」

「どういうの作ったんだい?」

「まあそこら辺は秘密って事で・・・ところで艦長。ずっと気になってたこと聞いていいか?」

「ん?何スか?」

「なんでずっと掛け布団を羽織ったままなんだ?」

 

 おお、そう言えば―――

 

「いや、昨日ちょっとしたお客さんが来ちゃって・・・」

「それが?」

「―――見てもらった方が早いッスねぇ」

 

 とりあえず羽織っていた布団を片手で下ろした。そこには昨夜の侵入者くんが今だに片手に噛みついていた。もっとも寝ぼけているからかアムアムと甘噛みになってたけどな。それにしても寝ていても齧るとか、執念凄すぎるだろう・・・。

 

「「なっ!?」」

「いやはや、まるで野生動物みたいで警戒解くのに苦労したッスよ。あとでデータバンク開いて、この子の両親を探そうと思ってたことッス。迷子だとかだったら――」

「いや、ユーリ。ソイツは迷子なんかじゃないよ」

「・・・・え?」

 

 迷子じゃないの?密航者でもない?じゃあ、この子は一体だれなんさ?

 トスカ姐さんはなんか驚きと呆れが入り混じった眼を俺に向けている。そしてケセイヤさんはというと――

 

「・・・」

「あの、ケセイヤさん?」

「デ、ディアナ~!!探したぞぉぉぉぉっ!!!!」

「―――ッ!!!?」

「うわっ、吃驚したッス」

 

 突如大声を出して両腕を突き出して此方へと突進してきた。

 なので思わず――

 

≪――ガスンッ≫

 

「イテェ・・・ヒデェよ艦長」

「いや、だって、俺男に抱きつかれる趣味ないッス」

 

 野郎に抱擁されるのは、サッカーで日本が進出した時くらいで結構だと俺は思う。

 

「俺だってないわっ!俺が抱きしめたかったのはお前の後ろにいるディアナだっ!」

 

 ケセイヤさんは掴みかかりそうなほどの結構な剣幕で俺に言うと、視線を俺の後ろに落とした。一方、俺のうしろでは――

 

「う゛~~~!!ぐるる!」

 

 昨夜の侵入者――ディアナだったか?ディアナが髪の毛を逆立てる程にケセイヤさんに威嚇し、まるで俺を盾にするかのようにギュッと服の背中の部分を握っておられた。

 

 ―――まぁ、とにかくだ。

 

「トスカさん、説明プリーズッス」

「・・・はぁ、アンタといるとホント退屈しないよ・・・」

 

 そ、そんなに溜息つかなくても・・・うう。おれは悪くないッスー。

 

 

***

 

Side三人称

 

 

さて、事情が呑み込めなかったユーリはトスカに説明を頼んだ。そして判った事は、ディアナはケセイヤが作りだした人員不足解消の為の試作品・・・という名の趣味の産物であったということだろう。

 

 ユーリからの命令を受けた際、研究費用をほぼ無制限で使用する事が可能となったのだが、その時にケセイヤのマッドサイエンティストとしての血が騒ぎ、今まで作りたくても資金不足で作れなかった物に着手したのである。

 

 そして完成したのはどんな環境でも動ける耐久力と手先の器用さと賢さと可愛らしさや癒し等、彼が持てるすべての技術と萌えへの欲望を詰め込んだ挙句に、コスト面を考えて常人の半分以下の身長、つまりは人形サイズで製造されたのがディアナという名をつけられた存在であったのだ。

 

なんと、この獣耳以外は人に見えるディアナという存在は、実はユピと同じ電子知性妖精の素体とほぼ同じナノマシンによる身体を備えた万能お手伝いさんだったのだ!

 

ΩΩ Ω<ナ、ナンダッテー

 

「な、なんだって試作がこんな可愛らしい子に―――」

「そりゃお前、一度作りたいと思ったら自重しないし、こんなこともあろうかと作るのが―――」

「ケセイヤさん、自重してくれッス・・・」

 

 片手間に造った。というか片手間が本気だったのだが、とにかくこうして作られたディアナは色々と教育を施され、別途で作った他の試作品とのトライアルの末に量産(ケセイヤの考えではトライアルに負けようが関係なく決定)することになっていた。

 

「僅か一週間で作るとは・・・」

「マッドに不可能はねぇぞ!」

「威張ることじゃないだろうに」

「う゛~~!!」

 

 だが、どういう訳か突然ディアナはケセイヤのラボがあるマッドの巣から逃げ出したのだ。そして逃亡して逃げ込んだ先が偶然にもユーリの家であったと言うのがここまでの顛末であった。

 

「しかし、ディアナはなんでこんなに警戒心丸出し何スか?」

「どうせまたケセイヤが変な実験でもしようとしたんだろう?」

「失敬な。大事な試作ちゃんにそんなことしねぇ!」

「じゃあ何したんだい?この子の威嚇する時の目。あれ尋常じゃない程怒ってるよ」

「・・・研究班の女性陣がな。コイツをお披露目した時に可愛い可愛いって言って着せ替えのおもちゃにしちまったんだよ。そりゃもうメイド服やら薄手のワンピースやら、眼福だったぜ」

「っ!!う゛~~!!」

「ディアナが怒ってるのってその所為じゃないッスか?」

「お、俺は参加して無いんだぞ?!着せ替え後を見せられただけだ!」

「この子頭いいッスから、本能的に誰がその集団の筆頭だか見抜いたんじゃ・・・」

「あ~、だったらケセイヤを嫌がるのもわかる気がするねぇ。嫌なことした相手の親玉は嫌なもんだろう?」

 

 ケセイヤはOTLとなった。

 

「で、どうするッス?まさかこんな状態で連れて帰るって訳にも―――」

 

 いまだに警戒心剥き出しでケセイヤやトスカに威嚇を続けるディアナを見て、ユーリは流石にこんな嫌がっている子をこのまま帰すのは気が引けた。だが、一応製作者はケセイヤなので彼は強く言う事が出来ない。

 

「・・・う゛ー」

≪――ぎゅ≫

 

 だが、ユーリの心情を感じ取ったのか、ディアナはユーリの服をギュッと握っていた。心なしかディアナの頭に乗っている耳も不安そうに垂れている。

 

 んで、それを見たユーリはと言うと、ドキューンという効果音と共に父性という心を撃ち抜かれていた。今のディアナの姿は庇護欲を誘う似には十分な威力を持っていたのである。

 

「う~ん、どうもユーリには懐いてるみたいだしねぇ・・・」

「ええーそんな~~!!ディアナ、こっち戻ってきてくれ~~!!」

「・・・(ぷい)」

「ディアナ~~(涙)」

「諦めた方がいいみたいだよ。他にも試作品はあるんだろう?」

「他のは可愛くないんです!可愛いは正義!」

「気持ちは判らんでもない・・ゴホン。どんなのがあるんスか?」

「ん~?ほらコイツらだよ!」

 

 ユーリに質問され、ケセイヤは自分の端末を使い空間投影でこれまでの試作品を映した。そこに映されたのは趣味としてのディアナとは違い、仕事としての試作という無骨なものが多く映されていた。

 

どれもこれも人手不足を補うために、船内で作業する事を前提としていたからか基本的には人型であり、ターミネーター的なのやロビタの様なロボットまで様々である。そう言ったリストの中に、ユーリは唯一人型では無い物を見つけた。

 

丸いボディに折り畳み式の四本足。それはユーリが以前いた世界でとあるゲームに登場していたBALLSと呼ばれるオートマトン型ロボットであった。時折マッドは飛んでもない事をしてくれるが、まさかこれまであるとは思わなかったらしい。

 

 BALLS、ボールズは自己を複製する工場を持ったロボットであり、まずは自分のコピーを次々と生産して小惑星などから資源を採取してさまざまな物と作り出せる。このボールズが居た世界ではこの機能により資本主義が崩壊したほどである。

 

 なるほど、今まさに人手が足りないデメテールにはうってつけの存在だった。本当のBALLSとは厳密には違うのだろうが、コンセプトとしてはこのボールズも体内に工場を持つという点では同じであり、自分で増えることも可能という風に使用説明には書かれていた。

 

―――いまは他の部署の人手もそうだが、何よりも修理に回す人手が欲しい。

 

「・・・ケセイヤさん」

「おろろ~ん――ん?なんだ艦長」

「この30番目の丸っこいの採用。艦長命令」

「え、うえっ~~!?」

 

 ケセイヤはおどろいて大声を発するが、ユーリとしてはこれは当然だと考えていた。現状ケセイヤが考えたと思われるディアナを含む人型達は流石に遊びが過ぎる。人手不足に人型アンドロイドを作って対応する。実に浪漫だ。面白いことと楽しいことを念頭に行動するユーリとしても是非賛同したいところ。

 

だが残念な事に、今のデメテールに浪漫を追求する余裕は残念ながらあまりない。生産性を考えるなら下手に人型やらにするよりかは、こう言ったオートマトンタイプの方がずっと建設的で合理的であると彼は判断したのである。現在修理材料は支出あっても補充はないのだから、小さく大量生産向きのボールズにするのは当然だった。

 

「あ、後増え過ぎない様に一定以上の数になったらそれ以上は増えない様にプログラム師といてくれッス」

「了解~・・・ってディアナはどうするんだよ艦長?」

 

 話は脱線したが、ディアナをどうするかはまだ決まっていないとケセイヤは声を張り上げていた。ケセイヤとしても折角作ったディアナを大事に思っているし、色々と楽しい事( 着せ替えですよ?)等をして遊んでみたいのだ。

 

 彼はマッドサイエンティストと周囲から言われる通り、欲望に忠実なのである。

 

「ん~、お前さんはどうしたいッスか?」

「・・・う゛?」

 

 そう問われたディアナは賢い頭で考えた。少なくても目の前の奴は嫌なことをしなかったし、そんな気配を感じない。だがアイツ(ケセイヤ)のところに戻るのは嫌だった。アイツはなんだかあの嫌なことをしてきた奴らと同じにおいを感じるからだ。

 

――まぁそんな訳で、すぐに答えは出た。

 

「ケセイヤさんのところ、戻る?」

「・・・・ブンブン」

「じゃあ、こっち残るッスか?」

「こくこく」

 

 ケセイヤのところには戻らない。ユーリのところに残る。

 そうとれる反応を示した事でケセイヤはそんなーと滝のように涙を流す。

 

「だそうだよケセイヤ。あんたよっぽど嫌われてたらしいね」

「うう、ちくしょー!いいもんなぁ!俺はマシン一筋だもん!まだ開発費用使いまくれる期間は残ってるからディアナ型を他にも作っちゃるもんねー!!」

「ちょっ!?」

「じゃあな艦長!だいじにしてくれやーっ!!」

 

 そしてケセイヤはそう叫んで、ユーリの部屋から飛び出し家から出ていったのだった。その眼には赤い水が流れ落ちていたらしいが、よく見えなかったのでユーリはスルーしたのだった。

 

「ふぅ、これで一応は一件落着かねぇ?」

「みたいッスねぇ。まぁ開発するにしても艦内なら資金は殆どいらないし、今のところ材料も有限だから、一定以上は無理何スけどね~」

「あんたも結構腹黒くなったもんだ」

「教育が良かったッスから~。ま、とりあえずよろしくなディアナ」

 

 ユーリはそう言ってディアナを撫でようと手を伸ばす。

 懐いてくれたと感じた為、これくらいなら良いだろうと思ったのだ。

 だが―――

 

「う゛―――っ!!」

≪がぶりんちょっ!≫

「う、うわぁぁぁぁっ!!!」

「あれま。懐いてると思ってたんだけど違ったのか?」

「うーー!!」

「イテェッス!マジイテェッス!堪忍してー!!」

 

 この後、ユーリの叫び声を感知したユピが乱入してユーリに噛みついているディアナを何とかしようとしてカオスったり、何故かユピに抱きかかえられたり撫でられたりすることには全く怒らないディアナのこの差にユーリが落ち込んだりしたものの、なるたけ平和に事は終わったのだった。

 

この小さなお手伝いさんがユーリ争奪戦に参加する事になるかは、神のみぞ知る。

 

「う゛!」

 

***

 

Sideユーリ

 

 漂流を開始してついに2カ月が経過した・・・と書くと、宇宙船という密閉空間なんだから色んな不平不満が出てくる事態になって反乱する者が出て来そうだと思われそうだが、意外とそんなことはなかった。

 

 航海に必要な物は最低限に直し、他の生命維持や生活に必要な方を優先的に直したので、生活する分には問題が起きなかったからである。あまり贅沢なことは出来ないが普通に暮らせるだけでも不平不満は低減されていくのだ。

 

 もっともカシュケント出身のパリュエンさんが内政を取り仕切り、不平不満があまり沸かない様に調整してくれていたお陰でもある。元が商人だけあり、人の心を読み取りどういったモノが必要なのか見る目を確かに持っている。

 

 ―――って感じで航海日誌にしたためておいた。まぁ実際事実だけど。

 

 さて、2カ月ちかく経過してこれまで内装を重点的に修理していたのが、今度は外装を重点的に修理するという方向に移行した。基本漂流なので不味復旧しないといけないのが航行システム、そしてエンジンだ。

 

 ロストテクノロジー万歳なエンジンな為、完全な修理はまだ無理だが、少なくても動かせる程度には修理する予定である。といっても材料が足りない為、どこかに惑星かアステロイドベルトでも見つけないと在庫不足で修理できないだろう。

 

―――そう在庫不足、現在目下の問題は修理素材の在庫不足であった。

 

 まぁアレだ。普段修理素材なんてのは空間通商管理局のステーションで無料で補充して貰えるのが普通・・・この世界の船乗りにとっては当たり前のことだったんだが、現在座標もわからぬ漂流の身。補充は期待できないので自前で探すしかない。

 

現在位置はどこであれ、マゼラン銀河圏以外にもボイドゲートはあるが、そこにステーションがあるかと言えば答えはNO。それに合わせてボイドゲートが稼働しているのか同化も考えると、多分よくわからんが相場だろうなぁ。

 

一応、不思議な力を持つエピタフがあればゲート動かせるらしい・・・けど、行き先が何処につながるか判らないから正直最終手段でしかないし、怖いからやんない。とにかく今は何でもいいから惑星がある宙域を探さないと不味いだろうな。

 

 でも悲観的になっても仕方がないので、とにかく白鯨はデメテールの修理を続けていた。外壁がはがされたデメテールは何と言うか一回り小さくなったように見えた。実際第一装甲板を外した上、デメテールの船首付近に左右に出っ張っていた翼上の構造物をニコイチで修理素材にする為に削ったからだ。

 

 お陰でちょっと船首部分が太いだけのスマートな外見となり、白鯨の名前っぽくクジラっぽいシルエットになったのは余談。もっともその所為で主砲の位置を調整しないといけないとケセイヤさんやサナダさん達が嘆いていたけど頑張ってくれたまへ。

 

 ああ、それと前回人手不足解消の為に開発してもらったオートマトン達のお陰で工期が短縮出来た事も述べておこう。BALLS、いや色々と制限をかけたので劣化したからボールズと呼ぼう。このボールズ達のお陰で作業がはかどり、俺の負担も軽減した。

 

 ボールズは見た目が絢爛舞踏祭のソレらとほぼ同じである。体内に工場まで持つ彼らだが、放っておくと際限なく増えて自己進化するらしいので、そこら辺は一定以上は出来ないようにプログラムしているのでしばらくは大丈夫だと思う。

 

 とくに際限なく増える。一体でもいれば自己複製可能だというのがホントスゲェ。試しに残っていた材料で修理お願いしたら僅か半日でネズミ算式に上限の1万体まで増えて、残りの反日で全部の修復やってくれました。ボールズさんマジパネェッス。

 

 ケセイヤさんも自分が作った最初の一体を偉く気にったらしく、何故か髭をつけて可愛がっていた・・・名前もグランパらしいッス。知類みな友達らしいッス。ただコイツらマッドと繋がると本当、できない事が無くなりそうで怖いね。

 

***

 

「う゛っ」

「ん、どうしたッス?ディアナ」

「う~!うっう」

「トスカさんが呼んでるッスか?あい判った」

「う゛っ!」

 

 最近ディアナが何て言ってるか判る様になりました。ボディーランゲージと雰囲気だけどよく見れば何考えてるのかくらい判るぜ。ああディアナは結局俺んちに住むことになった。一応彼女は身体は小さくてもお手伝いさんの性能をもっている。だからハウスキーパーになってもらったのだ。

 

 それを決定したらユピがなんか羨ましそうな目をしていたが、スマンが君はしばらく家に入れてやれない。この間の暴走は怖かったからな。勿論もうその事については別段気にしてはいない。怖いのは俺の義妹を含めたクルー達だ。まじめで優しいユピは意外と人望あるんだぜ。

 

 遅れると怒られるので俺はすぐに支度して家を出る。ディアナも最近はすっかりお手伝いさんが板についたらしく、ちゃんとお見送りまでしてくれるようになった。もっとも頭を撫でようとするとがぶりんちょされるのは変わらないけどな。好かれてるのかそうでないのか、今一判らないなぁ。

 

………………………………

…………………………

……………………

 

 

「てな訳で呼ばれたのできましたッス」

「ああ来たね。とりあえずそっち座っとくれ」

「ういッス」

 

 やってきたのはデメテールの航海艦橋だ。ここは簡単に説明すると指揮とか戦闘には直接関わることはないが、フネの行き先などを色々と決める上で大事な部署である。

 

「んで今回呼んだのは他でも無い。なんとか今の座標・・・というか“とても大まかな”現在位置が判ったんでアンタも呼んだってワケさ」

「おお、ついに判ったんスか・・・大まかだけど」

「ボールズ達のお陰で大分作業がはかどったからね。大まかだけどさ」

 

探査用のセンサー類がなんとか復旧したから、正確ではないけど位置はなんとか判ったんだよ。とはトスカ姐さんの談。なるほど、ついに復旧したのか。これで宇宙の漂流迷子からは脱出できるだろう。宇宙で漂流、バ○ファムかっ!って話だったしな。いや銀河漂流だったけ?

 

 まぁとにかく、トスカ姐さんは足元でせかせか動き回るボールズに指示をだし、スクリーンに現在位置を投影してくれた。現在位置は恒星ヴァナージから離れることおよそ15パーセク。光年に直せば315光年といったところだろう。距離的にはマゼラニックストリームとも近く、エンジンさえ直れば到達は可能だ。

 

 だけど問題はエンジン。前述の通り既に修理用材料が尽きつつある為、これ以上の修理は先ずできない。流石のボールズも材料がなければどうしようもない。とにかく現在残っている材料でのできる範囲での修理を続行し、修理素材がありそうな小惑星でも発見できたらけん引してくるように探査に出している艦隊に指示しておく。

 

 あとは寝て待て。俺に出来る事は書類仕事くらいだが、なぜかボールズが整理したら今までのより減った。理由は知らんが好きな時間を怠惰で過ごせるのだし問題はない。というか今までのが多すぎたのだし、元々人手不足で俺に回って来ていた簡単な書類ばかりだからボールズが処理してもある程度は良いだろう。

 

 そんな訳で、白鯨は漂流を続けながら哨戒と探査を兼ねた艦隊を何度か発進させて周辺の探査を続けた。大まかな位置は判ってもまだ安心できない。せめて宇宙港があるところまでいかないとマジでヤバいからだ。そんな折に探査艦隊は小惑星を発見、けん引してくることに成功する。やったね○○ちゃん、これで修理が出来るよ。

 

 だけどそれで済めば桶屋がもうかる筈もない。小惑星の主成分は珪素、簡単に言えば石英系の結晶が8割を占め、多少のレアメタルを含んでいたけどデメテールの修理にはじぇんじぇん足りなかった。それならそれでもっと集めれば良いのだが、この広い宇宙で正確な座標もわからないのにおいそれと母艦の傍を離れる訳にもいかない。

 

 せめてもう少し正確な位置が判るなら、それを基点としてI3エクシード航法による遠出も可能なのだが・・・このままデメテールから離れたら、通常の艦船はそのまま宇宙の藻屑になれれば恩の字といった末路を辿るだろう。大まかでは無くもう少し座標が判る物、マゼラニックストリームが視認できる位置まで行けるならなぁ。

 

 ただし、マゼラニックストリームは現在暗黒ガスを挟んだの向う側らしく、デメテール側から観測ができていない。大まかな位置が特定ってのはあくまで15パーセクほど距離が離れたってだけで、ならX軸、Y軸とかそういった要素を含めてセクターのどこらへんかと問われれば答えることができないのだ。

 

 宇宙はとてつもなく広いからねぇ、たった数ミリの誤差がこの距離だと数光年の誤差で出ちゃうから恐ろしい。それでも自分の位置と星図さえキチンと機能すれば迷子にはならないけどな。そんな訳で距離は判ったけどまだのろのろ行かなきゃならないというかエンジン修理終わるまでのろのろ行かざるを得なかったのだった。

 

 

***

 

トスカ姐さんとの話も終わり航海艦橋から出た俺は大居住区の商業区域に足を運んでいたのだが―――

 

「――やぁユーリ君、久しぶりだね」

「おろ?バーゼルさん!」

 

 とても懐かしい人に出会いました。顔を見たのはクルーの葬式以来かな?これまでは仕事の所為で部屋に軟禁という缶詰だったから、本当に彼の顔を見るのは久しぶりである。というか、あれ?なんでここに?

 

「夕飯の買い物に来たらあうとは、偶然とは面白いものだ」

 

 ・・・よく見たら買い物袋下げてら・・・服装も軍服じゃなくて普通の格好だし。

 

「なんか、随分とここの生活に慣れたっぽく見えるッスね」

「そうかい?まぁ実際のところ、今はここから離れられないだろう?軍服じゃ周囲を威圧するだけだし、郷に従えとも言うしね」

 

 なるほどねぇ。まぁそれなら仕方がないだろう。幾らインフラトン機関が無限に近い航続距離を出せるといっても乗員はそうはいかない。ウチみたく自給自足できる設備を持つフネは珍しいし、かなりの規模のフネかペイロードを犠牲にできるフネに限られる。

 

 それに彼らのフネは軍艦であり、元より艦隊を組んで行動する事を前提としたセットアップがされている。戦闘用は戦闘用、補給用は補給用といった具合の役割分担されているのだから、0Gドッグのフネみたく何でも1艦で出来るという訳ではないのだろう。

 

だから艦隊を組まない場合、彼らの軍艦の航続距離は民間船にすら劣る。フネは進めるけど食料が尽きたら結局難破することになるのだから、近くにステーションがない以上彼らは白鯨の元から離れることは出来ないのは当然だった。下手に離れたら餓死するとかは流石に嫌なのだろう。

 

 それにこのままだとMIA、戦闘中行方不明者認定されて、本国から家族へと残念ですがという封筒やら便箋やらが届けられ空っぽの小箱とか贈られてしまう。だから彼らもとにかく本国に帰還しないといけないのである意味必死である。故郷に家族を残している者ならなおさらだろう。

 

「そうスか、なんか不便なところはないッスか?あったらなんとかするんで」

「いや、大丈夫。生活面では問題はない。むしろここまでして貰ってもいいのかと思ったくらいだからね。ここは気楽に過ごせる良いフネだ」

「そういって貰えるのは嬉しいッス。ところでその手に持った袋は?」

「はは、恥ずかしい事に根っからの軍人でね。お陰でこの年になっても嫁ももらえん」

 

 どうやら食料品などを買ったらしいね。お惣菜じゃなく材料というあたり、彼はどうやら結構家事スキルがあるようだ。まぁ軍人で一人暮らしなら出来無くないだろうけどさ。なんかイメージあわねぇーなぁ。

 

「ただでさえ厄介になっているからな。少しでも負担は軽くしようと出来ることは自分たちでしているだけなんだ。哨戒に出るだけで食事が貰えるとは思ってないのさ」

「いや、でも客分なんだし・・・」

「0Gにも矜持があるように、僕らにも軍人としての意地があるって事」

「ああ、なるほど・・・出来るだけ修理は急がせるんでご心配なく」

「そうしてくれると助かるよ」

 

そう言えば哨戒艦隊の中にバーゼルさん達のフネが混じってるのが報告に上がってたっけ。まぁ使える物は何でも使えの状態だったから今のところ問題にはなっていないけど、このままだと正規軍を顎でこき使っちまったっていう事になるよなぁ。そう意図として無くてもそういう事実が出来ちまったのは痛い。

 

 これはなんとかせんといかんなとも思いつつ、さりとて変なことは出来ないと来たもんだ。おまけに彼らは、アイルラーゼン人は義理がたいらしく、客分として大人しくしていて欲しいという思惑にはハマってくれそうもない。かと言って無碍にも出来ないというなんとも文字通り厄介な存在だった。

 

「ああ、あと聞いてるかも知れないッスけど、現在のデメテールがどれだけマゼラン銀河圏から離れてるのか判ったッスよ。15パーセクらしいッス」

「15パーセクか・・・艦隊を組めれば目と鼻の先なんだけどなぁ・・・」

「あいにくまだI3航法が使えないッスからねぇ」

「こっちも艦隊を組まないとその距離はムリだし、現状維持が関の山かな?」

「せめて通信が出来ればよかったんスけど、何分アイルラーゼンまでは距離があり過ぎてウチの設備でも無理ッスからねぇ」

 

 実のところ、ボイドゲートが使えないとインフラトン機関とI3エクシード航法を使用するフネでも動ける距離は恒星間が関の山。前述通り人が耐えきれないからだ。それにボイドゲートってのがまた便利で、どれだけ距離があってもタイムラグ無しで別のゲートから出て来れるのだ。

 

 そりゃフネの設備もそれに似あった物にもなるってモンだ。恒星系を移動できるほどの航続距離さえ持たせればいい訳だし、まぁ俺の元居たところじゃそれすらもオーバーテクノロジーだけど、ここではそれが当たり前。必要がなければそれ以上の変化が起こる筈もなく、結局はそのままって感じなんだろうな。

 

「ま、気を落とさんと頑張りましょう。まだ生きてる訳だし、生きてれば連絡の一つや二つくらいすぐに出来るッスよ」

「そうだな。おっと、午後からまた哨戒に出なければならないからこれにて失礼するよ?」

「なんか不都合あったらなんでも言ってくださいッス。出来る限りは善処するんで」

「ああ解った。その言葉だけでも貰っておくよ」

 

 そう言ってバーゼルさんと別れた後、俺も俺でここいらで飯食って帰ろうかと思った。大居住区でも店舗が集中している区画だし、飯を買うには事欠かない。肉類は現在補給がないので少ないが、水産施設で魚や小型のクジラみたいなのを生産しているので今のところ嗜好品以外は普通に食べれるのだ。

 

 だがいざ買おうかと思った時、そう言えば家にはお手伝いさんが一人いたことを思い出し、買うのは止めて帰ることにした。はぁ、早いところ人がいる星系にでも行かないとなぁ、まぁ待つしかないから寝て待つことにでもしよう。果報は寝て待てってね。

 

―――そうだ日誌でも書こう。艦長と言ったら航海日誌だよな。

 

***

 

 

Sideユーリの日誌より

 

 

―――漂流開始5カ月目

 

 漂流を開始してすでに5カ月近い時が流れた。兵糧は底をつき少ない食料を求めて日々暴動が―――なんてことは起きず、キチンと農作業してた所為か豊作となる。まさかの無重力栽培による4mスイカが出た時は度肝を抜かれた。

あと環境設定がすぐに出来るからかとれた作物に一貫性が無く、四季折々の作物が全部出て来ちゃったから風情の欠片もねぇ。3mのカボチャパイが出てきた時は正直苦笑いした。どんだけ食糧できてるんだ?ちなみに農作業はボールズがやってくれました。

 

―――漂流開始6ヶ月目

 

 さすがにこれ以上留まるのは不味いと判断したのか、バーゼルさんが本国に帰還したいといってきた。バーゼルさんの部下たちからの立っての希望だったらしい。だが今だ漂流するしかないデメテールとしては、それは容認できない話だった。

 だけど、彼らは本気だったらしくこのままでは格納庫吹っ飛ばしてでも出ていきそうだったので、仕方なしに大型輸送船に食糧と水をたっぷり積みこみ、これまでの迷惑料として渡して譲渡したら何故か逆に恐縮されてしまった。

 そんでしこたま感謝されて彼らを見送ることになった。送迎会では皆羽目を外して飲んで騒いで爆発したのでまぁまぁ楽しかった。野球拳教えたらトスカ姐さんが20人抜きして死屍累々が・・・しかしバーゼルさん流石は軍属、隠れマッチョだった。

まぁ実を言えば既に2か月前にはセンサー類が復旧して正確な座標はある程度絞り込めていたので、彼らがこういう行動を起したのは渡りに船だったんだけど・・・この事は日誌の中にだけに留めておこう。

 

 

―――漂流開始7カ月目

 

 補機を使ってエッチラオッチラ進んでいたら、探査に出した艦隊が資源となる小惑星を発見する。運が良かったのか大量のレアメタル等を含有する鉱石が多数内包された小惑星で作業用メカを全部出して採掘にあたらせた。

その日の内にこれまで負荷をかけて少々お疲れ気味だった補機の修理が終了する。主機はちょっと材料が足りないので、まだまだ時間がかかることが懸念されたが、俺達は0Gで別に急ぎの旅じゃないし、食料は仰山あるのでのんびり行く。

久々に海賊を見た。船種はバーゼル級の母体となった全時代のフネをそのまま使用しているらしく、性能はインフラトン機関搭載船に遠く及ばない。一隻だけだったので偵察かもしれなかったが・・・材料ウマー。

 

―――漂流開始8ヶ月目

 

 漂流して8ヶ月目、なんとか比較的大きな星系に辿りついた。この間の海賊はこの星系から流れて来たらしい。ただこの星系はマゼラン銀河圏の宙図には乗っていない為、通商管理局のステーションやボイドゲートすらない結構ド田舎だった。

航路も途絶えて久しく、自治領だけが小さな箱庭のように発達した星系だったらしい。独自の文化は0Gの好奇心からすれば魅力的だったが、どうやら内紛真っ只中に来てしまったらしく、自治政府VS海賊による前面戦争が勃発していたので接触は諦めた。

ただ修理はしたかったので、自治領政府が海賊退治に必死だったのをいいことにステルス用いてすぐ近くのガス惑星の軌道を巡るリングの中に隠れた。戦場に近いことが難点であるが裏を返せばジャンクが集まりやすい場所でもある。

 ステルスを施したフネを何隻か作り資源の回収にあたらせることにした。もしもどちらかに見つかっても全時代のフネを使っている彼らにやられる様なヤツは俺のフネにはいないので大丈夫だとは思う。

 でも心配なので科学班に護衛用としてVFの開発を進めることを指示しておいた。周辺のリングから資源を集められるので材料には事欠かないだろう。いい加減修理以外のこともしたかったのか、科学班や整備班は快く引き受けてくれた。

あとガス状惑星はそのままでは人が住める場所ではないが、色々と資源としては解析の結果有用だと判っていたので採掘ステーションを設置、しばらくはこの星系に留まり修理を行うことになる。

 

―――漂流開始10ヶ月目

 

 ガス惑星に設置したステーションとプラントが稼働を開始。一定条件下で結晶化するフネのレーザー発振体やエンジンコアのベースマテリアルの一つである特殊鉱物フェムトクリスタルを生成できる成分が含まれていたのは僥倖だった。

 

これで多少日数は掛かるが艦内工廠で特殊な材料を生成していける。デメテールが復活するまで後少しだ。ドンドン作業が早まる気がする。そしてまたしてもボールズがデメテールの艤装を一日でやってくれました。パネェ。

 

―――漂流開始1年

 

 漂流を開始してから大体1年が過ぎようとしていた。信じられない事に何故か人口が増えつつある。原因はやはりあの戦闘の後の興奮冷めやらぬ空気によって・・・まぁ色々あったんだろう。

 

プライベートでなにしようと別に構わないんだが、まさかこんなにベビーラッシュが増えるとか予想外でした。産婦人科の医者が足りず、何度も出産を経験している人が産婆さんをしてくれたのでなんとかなった。

 

・・・ボールズの需要がさらに高まった。

 

―――漂流開始1年と2カ月

 

 なんとなく宴会をした際にバレンタインの話をしたら、部下たちの間で何故か広まってしまった。あちこちの店舗からチョコレートが消失してリア充シネという思念が込められたであろう藁人形が自然公園のあちこちから見つかった。

 

 ちなみに藁人形のことを教えたのはぼくでーす。そしていま絶賛身体が重たいんだが・・・祈祷師みたいなこと出来る人、誰かいないか?と漏らした所、ミューズがなんか出来たらしい。何と発音しているかわからなかったけど効果はあった。

 

 次の日色んな部署で結構欠勤者が増えたらしいが、人をのろわば穴二つという言葉を贈呈しておきたいのを堪える身にもなってくれ。もっともこの件に関してありがとうの意味を込めてミューズをハグしたところ別な方面から殺気が・・・生きた心地がしなかった。

 

 

―――漂流開始1年と4カ月

 

 主機関についての新しい報告が上がってきた。どうもヴァナージ戦役においてデメテールが離脱できた原因は相似次元機関に接続されていたとある装置にあったとの事。その装置の正式名称は不明だったけど、どういう効果があるのかが判明した。

 効果は単純、相似次元機関の力を一時的に増大させて相似次元、俗に言うと通常次元とは違う次元の隙間を抜け、フネが進む直線状における任意の座標にワープアウトできるという・・・簡単に言えばワープ装置だった。

 

 ・・・だけど今更過ぎる。インフラトン機関ですら順調に加速すれば最大で光速の876倍にまで加速でき、その際には相対論的時間のギャップであるウラシマ効果を調整する為に、子宇宙を現宇宙に形成して駆け抜ける・・・これもワープだ。

 しかもこの装置、直線状だけしか使えない。瞬間的な転移みたいなもので瞬発力こそあるが、インフラトン機関も搭載してるのになんでこんな装置が・・・いや、まだ全貌を解明した訳じゃないらしいから・・・きっと、めいびー。

 

 でも直線だけとか、どこぞの女子中学校に配属された子供先生が主役の漫画に登場する直線距離だけ加速できる某技みたいな微妙さ・・・大丈夫、きっと報われる日も来ます。もっと色々と解析を続けてもらう様に指示をだしたのは言うまでもない。

 ちなみにこれ、ウラシマ効果の調整は付いていません。ちょっと外と時間ずれてるかも知んない。まあたったの数時間未来に来ただけだけどね。

 

 

―――漂流開始1年6ヶ月目

 

 ・・・正直書くことがない。修理は整備班と科学班任せだし、戦闘はここの紛争には介入しないと決めたから戦闘もない。毎日の書類は以前ほどの量では無いので一時間もあれば終わる・・・暇すぎる。

 

 このままでは半分自宅警備員・・・これじゃ艦長として不味いだろうと何時ものように散歩に・・・あれ?艦長の仕事って、書類と戦闘なければ殆ど無くね?ああダメだ職業艦長趣味は遊び人とか洒落にならない。

 

仕方ないのでデメテールが復帰するまで重力制御室で白兵戦訓練ロボで身体を鍛えて、頭も鍛える為に戦略シミュレーターを利用しまくることにした。勿論最初からハードモードでやるのはお約束、結果惨敗。いたひ。

 

 最初からハードモードは無茶過ぎた。全身ボロボロで杖を付きながら家に帰り玄関で動けなくなりかけるが、なんかディアナが心配でもしてくれたのかポンポンと撫でてくれた。ちょっぴり感動した。だけど撫でさせては貰えないのが悲しかった。

 

 

―――漂流開始1年8カ月

 

 フネの修理がここまで時間が掛るものだとは思わなかった。専用のドッグがないと本当に時間が掛る。ボールズでもロストテクノロジーさんのエンジン関連には手が出せなかったのも時間が掛った原因だろう。

 

 もっともそれももうすぐ終わる、なんとかエンジンの修理が終わりそうだと報告を受けたのだ。これでこの宙域からも脱出できると思う。あとは大マゼランまでいけばいいのだ。ああ、これでまたスリルある0G生活に戻れるのだと思うと目頭が熱い。

 

 ところで今日はキャロ嬢が遊びに来ていた。仕事の合間に手作りのケーキ作ったから試食よろしくと言われたのは結構嬉しい。とりあえずケーキはうまかったという事は述べておこう。ただワンホール二段重ねはやめてほしい。

 

 残りは他の知り合いにおすそわけしておこうと心に決め、台所から戻ってくると何故かキャロ嬢はまだ居た。そして何か期待した目で此方を見てくる。食べた時にすでに美味しいと言ってあるから言葉が欲しいのではないだろう。

 

だとするならば、することは一つ。折角だから、俺は彼女の金糸の髪を撫でてやるぜ!何と無くであったが正解であったらしく、撫でるごとにキャロ嬢は嬉しそうに目を細め、屈託のない笑みを俺に向けていた。

 

なんだか愛おしさを感じたので、撫で続けていたら物陰に見たことのある銀色の髪が見えた。ディアナだった。何故だか知らないが機嫌が悪そうにかキャロ嬢を撫でる此方を見ている。

 

もしかして意外と仲がいいキャロ嬢と仲良くしている俺が気にくわないのだろうか?とか考えていたらディアナが何処かに連絡を入れている。一体何だろうかと思いつつキャロ嬢とじゃれあっていると、何故かユピが乱入してきた。

 

 ディアナの交友関係は女性陣を中心に結構広いとは思っていたが、なんでキャロ嬢といるだけでユピを呼んだのだろうか?何故かキャロ嬢は♯を浮かべたユピに引きずられて部屋から退散してしまう。その直後ディアナに頭を齧られた。理不尽だった。

 

 

***

 

Side三人称

 

 そして2年が経過し、ほぼ完全に修復されたデメテールは大マゼランへと向けて発進した。漂流では無いちゃんとした航海、活気立つクルー達。そんな彼らを束ねながらユーリはこれまでの航海日誌を読み返し、艦長席にもたれ掛かりふと溜息を吐く。

 

「―――ふう」

「おや?どうしたんだい溜息なんかついて?」

「いやぁ、ここ2年間の日誌を読み返したら結構懐かしい話が書いてあったんスよ」

「まぁようやく大マゼランに辿りつけたからねぇ」

「使えるフネを見捨てるわけにもいかなかったし、なんとかここまで来れただけでも恩の字じゃないッスか」

 

 よみがえったデメテールは前とそれ程変わった訳ではない。だがこれまで長く宇宙を旅してきたクルー達の技量は総じて高く越えるのが大変と言われたマゼラニックストリームをなんとか抜けることが出来たのだ。

 

 クルーの中に何度か大マゼランにまで行った人間が居たというのも大きい。カシュケントでは長老クー・クーを利用されない為に、クーが全ての航路を知っていると言ってヤッハバッハを追い返した。

 

 だが、大マゼランと貿易をしている以上、クー以外に大マゼランへの航路を知らない人間がいないとは思えない。案の定、大マゼランへと行った人間はクルーの中に確かにいたのである。

 

 

とはいえ、例えそうであっても道のりは険しかった。フネを修理してマゼラニックストリームのガス流を突破してあと少しで大マゼランに到着する。ここまで2年も掛かったのだから―――

 

「とりあえず、大マゼランはどんな所か見て回りたいッスね」

「ま、大小の国がひしめき合ってるんだろうけどねぇ」

「良いじゃないッスか。俺大マゼラン来たことないし、はやく見てみたいッスよ」

「若いねぇ。ま、気持ちは判らんでも無いか」

「トスカさん、その言い方は――いえ、何でも無いッス」

 

 その所為か若干浮かれていた彼は、途轍もないミスを犯してしまう事になる。

 

「艦長、間もなく大マゼラン圏に入ります。空間通商管理局のステーションと連絡が付きました」

「おっし!それじゃあ俺はすぐに上陸準備に掛かるッス!」

「ちょっ!艦長の仕事は!?」

「一番最初に上陸するのは俺だー!!」

 

 そう言って彼は艦橋から飛び出し、ステーションへと向かう艦隊に乗りこんだのだ。だが彼はこの時忘れていたのだ。自分が今、大マゼランではどういう立場なのか、そして大マゼラン星系の政府はヤッハバッハとの戦いをどう考えていたのか・・・。

 

「―――っ!?緊急連絡!?副長!艦長からです!」

「なんだって!?繋ぎな!」

 

 居残り組のトスカの元に、突如ユーリからの緊急通信が入る。

 

『逃げろ!いそいでこの宙域から離れるッス!』

「ユーリ!何があったんだい!?」

『降りた途端軍に――とにかく逃げろッス。俺達の“知っている”ことは連中には邪魔―――ちょっ!ガス弾きたこれゲホッゲホっおえー!』

「ユーリ!」

『―――うわっなにをするっ!?話さないとぶっ飛ばすアヒンッ』

 

 映像が横倒しとなる。通信を送ってきたユーリが倒れたからだった。そして通信に写ったユーリを何名もの人間が取り押さえたところで通信が切れる。

 

「通信、途絶――っ!こちらに接近する艦隊を補足。かなりの数です。インフラトン粒子戦闘濃度にまで上昇中。戦闘機の発艦を確認」

 

 最悪の事態だった。まさか上陸した途端捕まるとは誰も思わなかったのだから。必死な思いでここまで来たというのに、この理不尽な仕打ちはなんなのだ。トスカは憤慨している自分の心にふたをして、どう動くべきか頭を働かせることに意識を集中する。

 

「トスカさん!艦長を助けないと!?」

「・・・いや、撤退するよ」

「どうして!?トスカさん!」

「艦隊は全部ステーションにいる。丸裸なままじゃいい的だ」

「いやです!艦長を見捨てては!」

「状況を見るんだ!すでにユーリは捕らえられちまった!ユーリが逃げろっていっただろう!」

「でも、でも・・・」

「堪えるんだ。あたしらが逃げ切れれば幾らでも奪還のチャンスはある。今はとにかく逃げるよ!ステルス稼働!EA・EPを最大稼働!機雷散布!」

 

 

―――こうして、ユーリは囚われの身となった。どうなる白鯨?

 

 

・・・・To Be Continued.

 

 




……囚人編が見つからない(´・ω・`)


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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 囚人編1~4

ひゃっはー!データ見つけたぜー!


Sideユーリ

 

「大人しく其処に入ってろっ!」

「人は投げるものじゃ――ぐえっ!?」

 

ズサーc⌒っ゚Д゚)っ

 

 あ、ありのままに今起こったことを話すぜ?

『兵隊に何故か捕まったかと思うと、気が付いたら監獄惑星に送られていた』

 なにを言ってるかわからねーと思うが俺もなにされたのかわからなかった。

頭がどうにかなりそうだった。裁判だとかなんてもんはなんにもねぇ。

 もっと恐ろしい官僚組織の片鱗を味わったぜ。

 

 軽くポルナレってみたけど、簡単にいうと牢屋にぶち込まれたってワケだ。しかもご丁寧に重犯罪者用の特殊合金製の檻である。やれやれ、俺としたことが・・・大マゼランは必ずしも味方では無いことをすっかり忘れていた何てな。

 

 バーゼルさんたちの人柄が良すぎて、敵になるかもという思考にならなかったというのもあるし、それ以上にあの時は半壊したフネを立て直すことに精いっぱいだったからなぁ・・・まぁ想定出来た筈の事態だったのに、間抜けにも引っ掛かったんだが。

 

 重力制御室で鍛え、俺は人間をやめるぞー!だとかハァァァッ!とかアタタタタタッ!とかいって常人以上の速度で動きまわれた俺でも、催涙ガスとかをまともに食らわせられて背後から殴られたら気絶もする。鍛えても人間は人間だったんだなぁ。

 

 それにしても、いきなり捕まえられて檻の中かぁ。原作のユーリもこんな感じだったんかねぇ?まぁ現在ヤッハバッハ関連は全部緘口令が轢かれているって証拠だな。クークーとか小マゼラン脱出した人間も捕らえられたのかね?

 

 しかし、デメテールは・・・みんな逃げ切れただろうか?あれだけ苦労したのにいきなり攻撃をされかけて内部で内乱とか起きてないよな?まぁ起きてもユピが鎮圧しちまうだろうけどな。内部機器は全部彼女の味方なのだ。

 

 俺は固いベッドの腰かけると、残ったみんなのことを思う。怖いのは義妹が黒化したり、ユピが暴走しないかどうかだろう。前者はもう結構知られていると思うが、単機で出撃しかねないし、後者に至ってはデメテールごと突っ込んできてしまう。

 

 正直な話し、デメテールが軍隊などに捕まるのは非常に困るのだ。あれはまさしくロストテクノロジーの塊であるし、それが大マゼラン銀河に所属する国家のどれに拿捕されてもパワーバランスを崩しかねないもろ刃の剣となりえる。

 

 ヤッハバッハ進行中ならいざ知らず、ボイドゲートを破壊したことで実質10年近くの封じ込めに結果として成功した今、大マゼランをこれ以上分裂させるのは死亡フラグであろう。第一、あれは俺のフネだ。他の野郎に使わせたくねぇ。

 

 なんだかんだで惚れこんでるからな。愛着もあるしデメテールこそ俺の死に場所と叫ぶ事すら出来る。それくらいに俺の居場所であるあのフネを誰かに奪われると考えただけで身の毛もよだつ程嫌な気分になってしまう。

 

―――まぁあれは賢いから、無駄に暴走はしない・・・と信じたい。

 

***

 

「・・・出ろ」

「釈放でもしてくれるのか?」

「・・・」

「まぁいいか。とりあえずこの薄いスープを飲んで――」

「良いから早く出ろっ」

 

 飯として出された如何にも囚人飯的な、いやむしろワザと薄くしてるだろう的な超減塩スープをちびちびやっていたら檻から出してもらえることになった。なんか警棒を持った監守さんがこっちを見ているぜ。

 

「何スか、飯は監獄だと唯一の楽しみ≪――ジャキ≫・・・いけずー」

「五月蠅いこの重罪人。生かされているだけありがたいと思いやがれ」

「丸腰の俺に銃を突き付ける・・・ハッ!この身体が目的なのね!」

≪ガツン!≫

「ふっざけんな!殴るぞ!」

「既に殴ってるッス~。ああ痛いなぁ。そして俺はこのまま密室に・・・いやぁぁぁ!!」

「ええい!其処から離れろ!俺は女の方が大好きだ!」

「おおう、ほかにも囚人がいる監獄で女性が大好きと叫べるなんてあなたは漢だ!・・・まぁ時と場所を考えた方がいいと思うッスけど」

≪バキン!≫

「殴るぞ――って何で貴様殴っても堪えない!?」

「あはは、鍛え方が違うッス~。というかまた殴った!おやじとお袋・・・はいないから、ロボットとか海賊とか女とかにしか殴られたことないのに!」

「両親いないのあたりでほろりと来た俺の感動を返せ!あと微妙にレパートリーが多いぞ!」

「0Gは伊達じゃない!」

「ああもう、判ったからとにかく来い!」

「いやー!けだものー!」

「だからry」

 

 無限ループってこわいぜよ。さすがにふざけ過ぎてノリの良い監守がメーザーブラスターのモードをパラライザーから殺傷に切り替えようとしたのを見てヤバいと感じた俺はとっとと手錠をはめてもらい檻からでることにした。他人をからかう時は注意しようね。お兄さんとの約束だ。

 

 そんなこんなで護送エアカーに詰め込まれた俺は、どこぞへと搬送された。何故か護送車は外がまったく見えず、何回も右左折を繰り返して移動している。まるでわざわざ遠回りをしているかの様で奇妙なことをしている気がした。第一外が見えないと何かつまらん。しょうがない、監守に話しかけてみよう。

 

「監守さん」

「だまれ喋るな息するな」

「ソイツは難しい注文ッスね・・・ところで、ちょっと良いッスか?」

「・・・なんだ犯罪者」

「袋ってあります?出来れば口を閉じられるヤツ」

「吐くのか!?止めろ!こんな密室で!」

「だめ、でちゃうのぉ」

「き、気色の悪いヤツ!」

「うう、早く着かないと大変なことに・・・で、何処に向かってるんスか?」

「宇宙港だ!貴様はそこから監獄星へ運ばれるんだ!判ったなら上向いて口を閉じてろ!絶対吐くなよ!」

 

 誰が吐くもんかい。こんな密室で吐いたら臭いで二次災害(貰いゲロ)が起きるわ。

 でもそうか・・・俺はいきなり監獄惑星に送られてしまうようだ。なるほど、情報を遮断するには隔離してしまうのが手っ取り早い。てっきり俺は形式的な裁判の一つでもあるかと思ったんだが、なるほど情報漏洩を防ぐために其処までしますか。

 

 よっぽど俺という存在を外に出したく無いらしい。まぁ俺は小マゼランで起こったことを知る唯一の一般0Gドックだもんなぁ。0Gドックには宇宙に居る限り法的な処理はそうそうできない。だから上陸する時を狙ってたんだろう。まさか辺境のステーションで其処まで見張られているとは思わなかった俺のミスだな。

 

 痛恨のミスを犯した事に落ち込んでいる内に、護送車は目的地であろう軌道エレベーターの基部に辿りついていた。てっきりそこで卸されてエレベーターに乗せられるのかと思いきや、そのまま護送車は基部の中に入って行ってしまう。そして護送車ごとエレベーターに乗せられて宇宙港へと向かった。

 

 軌道エレベーターのエレベーターは実のところ大きな垂直に上る列車の様なもので、日々宇宙船への輸出品や輸入品を上げ下げしているのでペイロードは下手な宇宙船以上に大きいのだから、車一つくらい朝飯前なんだろうな。んでそのまま護送車は宇宙船に乗せられ、俺は結局ほぼ一度も降りることなく捕縛された形で宇宙に出た。

 

 トイレとかどうすんのとか思ったが、宇宙に出たところで護送車から降ろされ宇宙船の檻の中へどっぽーんされた。ご丁寧に両手に手錠掛かったままでな。監守さんをからかい過ぎちまったらしい。お陰で臭い飯を食べるのにも一苦労だった。手錠の所為で両手が同じ動きしか出来ないので食いにくかったのだ。

 

 んで、そのまま宇宙船内で過ごすこと5日。囚人として閉じ込められている俺にはこのフネが今どこを航行しているのか全く分からない。おまけにこれが一番の問題なんだが、非常にヒマだ。脱走を防ぐためフネの中心部に近い場所にあり、窓一つない独房なので暇をつぶせるものが何にもない。

 

 仕方ないので瞑想やこれまで培った格闘技の型、そして手足が鈍らないように部屋の隅の天井付近に張り付いての筋力トレーニングを行った。偶に様子を見に来た監守が天井に張り付く俺を見て『もうやだこの蜘蛛男』と叫んだのは余談である。毎日やってたらそりゃ呆れるよなー。

 

 そして気が付けば、俺は一人岩牢に繋げられていた。

 

 何てことはない、監獄惑星に到着してそのまま其処に預けられたってだけだ。しかし道中白鯨艦隊から救出の手が一切なかったところを見ると・・・見捨てられちまったかな?彼らも下手に大マゼランに出れば今の俺と同じ境遇を味わう事は目に見えているから裏切りはそうそうないと思ったが・・・はてさて。

 

 裏切られたならそれでもいい。ここから生きて出て、自前の船をまた作り、デメテールを返してもらいに行けばいい、ただそれだけのことだ。この世界に来てから随分と経つが、やられたらやり返すのはいい気分だしな・・・・おろろーん、やっぱり裏切られるなんてやだよー

 

***

 

「何時まで寝てんだ。おきろクソヤロウ」

≪バキン!≫

「イテッなんスかっ?石油戦争かΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

「呑気なヤツだ・・・ほら腕出せ。手錠を外してやる」

「おお!いい加減かゆくてたまらなry」

「口を開くんじゃねぇ!」

≪ガスン≫

「おぶっ!?」

「仕事だ。とっとと逝って採掘してこい。但し手作業でな。クカカカ」

 

 いきなりそんなこと言われ、お前の荷物だと下着とかハブラシの入った袋だけ投げ渡されて外に放り出された。俺が今までいた房は囚人を入れておく施設の準備が整うまでの仮房だったんだそうな。そして働かざる者は死すべしの考えらしく、強制労働も兼ねて採掘に回された。

 

 なんで手作業なのかというと、重機を使わせると刑にならないし反乱が怖いというのもあるのだが、採掘されるのがジゼルマイト鉱石とよばれる特殊鉱石で機械での採掘が出来ず手作業という非効率な方法でしか採掘が出来ない。そして鉱山掘りは重労働であり手作業ともなると本当に死人が出る。

 

 だからこそ囚人に行わせるのにふさわしいのだろうが、飯くらいはちゃんと用意して貰えるのか不安だった。そんで他の新しく入った囚人たちと肩を並べて炭鉱へと向かわされた。他の囚人に聞くと、つるはしで岩盤を削り、ネコ車で掘り出したジゼルマイト現石をトロッコへと運び、精製所へと送るのが囚人の仕事なのだそうだ。

 

 超重労働と人はいうだろう。パワーショベルもドリルもなんも使えない中で、何時崩落するか判らない鉱山の中に入ってつるはしを振るうとかマジ勘弁、だが悲しいかな。俺はこのジゼルマイト鉱石の採掘の経験があった。小マゼランで金欠が酷かった時クルー総出で一般の鉱山でアルバイトしてたのだ。

 

 まさかその時の経験が今になって役立つことになろうとは思わなかった。何事も経験と言うが鉱山で美しい汗を掻いた経験がここで生きるとは誰が予想できただろうか?いや原作知ってたけどさ。放り込まれた初日で鉱山奥にとか予想外だったぜ。何故なら鉱山の奥は崩落しやすく、また毒ガスなどもあるので非常に危険な場所なのだ。

 

 だが幾度も修羅場を乗り越えた俺は動じない。メーザーの飛び交う白兵戦の中に比べれば、薄暗い鉱山の生易しさと言ったら・・・まぁ面倒臭いのは致し方無し。迎えが来るまで、もしくは自分で脱出するまではここで頑張るしかなさそうだ。せめて炭鉱で働くんだから、飯には少しは期待したいなぁ。

 

 

***

 

Side三人称

 

 さて艦長のユーリと白鯨艦隊のデメテール以外のフネが艦隊要員ごととっ捕まった現状の中で、トスカはデメテールをマゼラニックストリーム方面へ向かわせたように偽装した後、最初に上陸した惑星付近に漂う小惑星帯へと密かに戻って来ていた。追尾してきた艦隊は全て撒いたのでしばらく発見される心配は皆無である。

 

 そして静かに小惑星に偽装されて漂うデメテールの中では、白鯨を動かす首脳陣が会議室で頭を抱えていた。ユーリが逮捕されるという可能性は予想は出ていたが、まさか中立である筈の軌道エレベーターの中で大胆にもフネを拿捕する程の軍事行動を行える規模の戦力を常駐させるというのは予想外であった。

 

 デメテールの乗組員は艦隊要員も含めて総じてレベルは高い。人手不足時代にかなりの負担を強い多分、個人個人の技能は余所の0Gよりもずっと高いのだ。とくに白鯨艦隊発足時から白兵戦を支えてきた保安部の装甲宇宙服部隊は精強であり、下手な軍隊よりも強いと誰もが思っていた。

 

 だが、残念なことに今回は補給を兼ねた上陸であったため、陸戦部隊と呼べる保安部員は乗船しておらず、艦隊ごと拿捕されるという失態を犯してしまう。2年近く宇宙を漂流していたことで少なからず油断と慢心を招いた結果であるとトスカは思っていた。

 

「さて、ユーリの奴が囚われちまったんだが・・・ちょっとコイツを見てほしい」

 

 会議に招集した首脳陣の前で非常時故に臨時的に指揮権を得た艦長代理のトスカが司会進行を行いつつ、空間投影モニターを展開させる。そこには棒グラフが掲示されており、その棒グラフの上には何のグラフかを示す言葉が記載されていた。曰く『艦長のこと、どう思いますか?』である。

 

「コイツを見てもらえると判るんだが、今回のことでユーリが艦長に相応しいかということに疑問を感じる輩が増えたっていうグラフだ」

 

 白鯨艦隊はすでに万人規模の人間を乗せている巨大な街の様なものだ。当然それだけの人間がいれば不平不満がでるし、意見の相違が出るのは仕方がないことだ。これが普通の艦隊なら意見の違いによる命令系統上の遅延を防ぐために退艦を許可するのであるが、今の白鯨ではちょっと無理なのである。

 

 理由はユーリが捕らえられたことと同じ。あの様な事態が発生してしまった以上、今の段階で退艦者を許すわけにもいかなかったのである。仮に退艦を許しても、ユーリの二の舞になってしまうのが容易に想像出来た。それゆえユーリに対して懐疑的な人間を降ろすことも出来ず、現状に至るという訳である。

 

 もっともクルー達が懐疑的になってしまうのも、ある意味仕方がないことであった。今の乗組員の多くは崩壊した惑星ナヴァラから救出した避難民からの公募によって集められた元一般人であり、新天地を求めて故郷から旅だった者たちだ。当初こそ救援してくれたユーリに対しても協力的だったが、時間は人を変える。

 

 小マゼランのヴァナージ宙域における死闘、そしてその後の2年にも及ぶ漂流生活は乗組員たちの心に影を植え付けるのに十分すぎる時間だった。ユーリとて努力はしたが、努力したからと言って全てが報われるのはおとぎ話の中だけ。現実的にはこうしてユーリに対して胡乱な眼を向ける者も出始めていた。

 

「トスカさん、なんで今これを?今必要なのは艦長の救出ですよ?」

 

 ユーリ救出の筈なのに別の問題を立ち上げたトスカに、少しばかりシステム上のストレス・・・すなわちイラ立ちを覚えたユピがトスカにそう言った。正直彼女は出来ることなら追跡してきた軍隊を蹴散らしてでもユーリの元に向かい彼を助け出したかった。

 

だがユーリが捕まる直前に送ってきた通信の中で告げた“逃げろ”のコマンドが今だ生きている状態でありAIの彼女にはまだソレを無視できるほどの自己を形成出来るほどの経験値を積んではいなかったのである。その為に艦長に次いで第二位の命令権を持つトスカの言う事を聞いていたというわけだった。

 

「ユピ、確かにユーリの救出は最優先事項だろう。だけど今のままじゃ近いうち反乱が起きてもおかしくないんだ。指針である艦長を信用できない輩が増えたみたいだからねぇ」

 

 トスカとしてはユーリを見捨てる気などある筈もない。彼は以前計略で監獄惑星に侵入した自分を心配してちゃんと迎えに来るようなことをしてくれた大事な仲間である。そんな彼を見限ることは既にトスカにはできないことだった。だが現実問題としてクルーの反乱の兆候が出始めている。

 

 これを放置するのは危険であると長年宇宙を旅した彼女の勘がそう告げていた。クルーはフネにとっての血であり、時に艦長をその座から引き摺り降ろすことも出来るのだ。力で無理矢理抑え込んでも意味はないため、どうすべきか頭を悩ませる。

 

「なら、放りだしちゃいましょう」

「・・・ユピ、それは短絡的過ぎるよ」

 

 あまりにもあっけなく、反乱するかもしれないクルーの放棄を明言するユピ。そんな彼女にトスカや他の主要クルーたちは苦々しい表情をした。純粋な彼女がもっとも慕っている人間。それがユーリなのだ。そしてユーリが奪われたことはユピの中では非常に悲しく辛い経験、トラウマに近い状態で保管されている。

 

 それ故に普段の思慮深い彼女とは異なり、些か配慮が欠けてしまった思考に至っているのが悲しいと会議室のクルーたちは感じていた。彼らとてデメテールを纏める首脳陣である。そしてユピはデメテールその物であり、その成長を見続けてきた主要クルーたちにとってユピがそのようなことを言う事は何よりも悲しく胸に刺さっていた。

 

「だって今必要なのは艦長です。そんな我が儘をいう人達はいりません」

 

 だがこの一言は言ってはいけないことだった。ユピがこの言葉を吐いた直後、トスカはたちあがるとつかつかと彼女の元へと向かい―――

 

≪バシン!≫

 

 ―――その顔を張り飛ばしていたのだから。

 

「――っ!?」

「アンタね。言って良いことと悪いことがあるよ。ユーリは確かにあたしらに必要さ。だけどね。アイツはそんなこと望んじゃいないんだよ!」

「な、なんで艦長が思うことがアナタに判るんですか!アナタは艦長じゃないのに!」

「ああそうさ。あたしはユーリじゃない。だけどアンタが生まれるよりも前からアイツの横で副官してたんだ。少なくてもユピよりは知っているよ。だけどアイツが望むのはそうじゃないだろう?嫌いだから排除して、嫌いだから放り出してったらクルーが全部居なくなっちまうよ。生温かい話だけどさ。アイツは皆と馬鹿騒ぎするのが好きなんだ。それなのに自分から出ていくならともかく、放り出す?ハッ!ばかも休み休みいいやがれ!」

 

 ものすごい剣幕でここまで言い切ったトスカと、頬を抑えたまま涙目でトスカを睨むユピ。お互いに大事な人が囚われているのだ。意見は平行線をたどるかに見えた。

 

「―――喝ッ!!!!」

「「!?!?」」

 

 だがその時、古参メンバーの一人であり、機関室を統括する御老体のトクガワが立ちあがり、睨みあうトスカとユピに喝を入れた。その迫力と破棄はトクガワが古参の老兵であることを感じさせないほど強く、熱くなっていた二人を鎮めて座らせるほどの力を発揮した。

 

「お二人とも、少しばかり熱くなりすぎですぞ?まるで熱暴走を起しかけた機関部のようじゃ」

「し、しかしだねトクガワ、ユピが言った暴言はいさめないと」

「だからこそ落ち着きなさい。あなたは今、艦長代理なのですぞ?一番落ち着いていなければならない人間がここで騒いでどうするのですか。それとユピや?」

「ひゃ、ひゃい!?」

 

 トクガワの言葉がユピに向けられる。先程の喝はAIであるユピですら腰を抜かすほどだったらしく、この腰が抜けるという不可解な現象に困惑しつつ、イスからずり落ちないように必死だった。そんな彼女にトクガワは優しく語りかける。

 

「先程の言葉は、少しばかり考えが足りない言葉でしたな」

「・・・はい」

「このフネは確かにユーリ艦長のフネじゃ。じゃが同時にわしらのフネでもあり家でもある。お前さんは確かにこのフネの統括AIであるしこのフネそのものであると言ってもいい。じゃが、だからと言ってお主が一方的にフネの所有権を主張できるものじゃない」

 

 一応書類上の所持者はユーリである。だが元々遺跡だったフネをここまで修繕し、破壊されても動けるようにしてきたのはユーリだけでは無く白鯨に所属するクルー達でもある。トクガワはデメテールは一人が持つ物では無いとユピにそう諭していた。

 

「このフネを発見したのは艦長じゃ。だがここまで修理したのはユーリ艦長だけではなくわしらでもある。そんなわしらにお前さんは出ていけというのかね?」

「えぅ、えっと・・・いえない、です」

「ならば、先程言った言葉が間違っていることも、理解して貰えたかな?」

「―――はい、先程の言葉は失言でした。申し訳ありませんでした」

 

 ユピはそう言って頭を下げた。その様子に他のクルー達もほっとした表情を見せる。この場はまだ古参メンバーの主要クルーでまとめられていたからいい。だがもしもここでは無い外で同じことを言えば、必ず反乱の火の芽となりえたのだから。

 

「さて、話を中断させてすまなかった。老人の説教はいらんお世話だっただろうが、少しは頭を冷やせただろうか?」

「・・・ああ、ありがとうトクガワ」

「ありがとうございますトクガワさん」

 

 美女二人の礼にふぉっふぉっふぉっと笑いながら、トクガワは何時もの柔和な笑みを浮かべつつ自分の席に深く腰掛けた。こうしてもう一度頭を冷やし仕切り直しとなった会議は滞りなく進み、再び会議の内容はユーリの奪還の話となる。クルー達の不満の有無はともかく、奪還は決定事項と決まったのでユピは少し機嫌が良くなった。

 

 だが問題もあった。あの時艦隊に追われて脱出した為、今現在のユーリの居場所が全く分からない。木を隠すなら森の中とはよく言ったもので、毎日恐ろしいほど人の流入がある空間通商管理局の軌道エレベーターに来る人間の特定はほぼ不可能と言ってもいい。

 

 特に自分たちの置かれた状況では、絶対にユーリのことを隠して護送するのでそうなると余計に特定が困難だろうことは目をつぶってもわかる。見つけ出すには幾多ある監獄惑星をしらみつぶしに探すくらいしかできない。幸い捕まえたということからいきなり殺していたりはしないだろうが、時の情勢によっては変わることもある。

 

―――素早い対応が必要だと言えた。

 

「少数精鋭で情報を探すしかないか」

「しかし現在白鯨に搭載されていた艦艇は全部拿捕されていますよ?副長」

「・・・作るしかないだろう。幸いあたしらは今、材料の真っただ中にいるよ」

「小惑星帯のことですな艦長代理?たしかに小さなフネくらいなら製造も可能ですな」

 

 デメテールが身を隠しているのは小惑星。デメテールの艦内工廠の能力とボールズ達の生産力を考えれば、その気になれば小さなフネくらい幾らでも作れる場所である。

 

「その通りさ。だけどその言い方はよしとくれ、何か背筋がかゆいよ。あと情報収集は・・・そうだな。シュベイン」

「はい、トスカ様」

「情報屋をやっていたお前に探してもらう。出来るか?」

「はい、やらせていただきます。艦長殿はトスカ様に必要でしょうからね」

 

 そして情報を集めるのはシュベインに決定した。彼の情報を集める技能は確かであり、また白兵戦においてもかなりの技量を持つが故の判断であった。こうして情報収集隊の結成が決定し行動を開始することになる。材料はボールズ達を射出し小惑星をインゴットなどに変えてデメテールに持ちかえることで決定したのだった。

 

なお余談であるが懸念されていたような反乱の芽は結果だけを言うとコレ以上育つことはなかった。不平不満はあるが今のところデメテールから放り出されれば、結局ユーリと同じ運命を辿ることをクルーも理解していたし、彼らとて一応は募集の際にちゃんと篩いにかけられて選抜された人材である。

 

デメテールを第二の故郷と定めている彼らが時期尚早にことを荒立てる様なことをする輩など、実はトスカが考えていた程いなかったのである。これも募集の際に有象無象で選ばなかった白鯨の人事課の努力のたまものであると言えた。もっとも反乱の芽は育つことはなかったが、無くなってはいないので注意はいるのであるが・・・。

 

 

―――ともかく、少しずつだがユーリ救出を目指すトスカ達だった。

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 ギュインギュインという錆びた金属がこすれあう様な不快な音を立てて落下するエレベーターに詰め込まれた俺は、他の囚人と一緒にジゼルマイト鉱山最奥へと送られていた。

このジゼルマイト鉱石の影響で鉱山の中では高度な電子機器が一切使えないため、旧時代由来の単純なモーター式のボロボロのエレベーターが使用されていた。

 

 

ところで今エレベーターが落下とか述べたが、これはホントにフリーフォール並のすごい速さで下に降りているからである。

あまりの速さにこれ実はワイヤーでも切れてるんじゃないかと錯覚してしまいそうなほどだ。操作は全て上の階にある制御室でスイッチの強弱により行われているらしい。

 

つまりは手動操作。ある意味俺達の命は上の制御室にいる人間の手にゆだねられていと思うとすこし背筋がゾッとしたが、エレベーターには監督を兼ねた監守が乗りこんでいるので、そいつが制御室の人間とケンカでもしてない限り意図的に落下が止まりませーンという事態にはならないだろう。

 

もっともこのエレベーターは何十年も修理しながら使っているらしく、所々ガタが来ていて壊れているみたいなので、この状況で何かが起こっても意図的だとか無意図だとかはあまり関係なさそうな気もするが。

 

「こんな深いところまで降りるのか・・・」

「このエレベーター大丈夫なのか?」

 

 まわりの囚人も自分と同じことを考えているらしく、時折異常な振動を起すこの昇降機に不安の表情を隠せないようだ。大抵の人間はこの鉱山でなにをするのかはまだよくわかっていないらしい。それがまた怖いのだろう。

俺?俺はもう一度剣件あるし腹もくくってるからそれほど怖がったりはしてねぇよ?

 

 やがて終点に近づいたのか、エレベーターがもうこの世の終わりだーと叫んでいるかのごとく凄まじい音を立てて徐々にスピードを落とし始めた。

しかしフリーフォールばりの落下が急激に減速したため踏ん張っていない囚人の何人かがその場で転んだりしている。何人かギャーとかおかーちゃーんとか叫んでたが、スルーしておこう。

 

 そして凄まじい恐怖を囚人たちに塗りこんだあと、ギギギとこれまた金属がこすれる鈍い音と共に網で出来たエレベーターの戸が開いた。監督が全員に降りろと叫んでいることから、どうやらこの場所が目的地の採掘場らしい。

濁った空気に饐えた臭いに最低限の光源となるランプ・・・ブラック企業で働かされたらこんな感じか?

 

「さて、囚人共。これからお前らがすることを簡単に説明してやる。一回しか言わねぇから耳かっ穿ってよく聞いておけ。説明聞かないで死んでも知らねぇぞ?」

 

 若干やる気のない監督監守がこの鉱山におけるルールを簡単に説明した。

 

――曰く、時計は肌身離さず持つこと。

 

 支給された物に腕時計があるが、酸素計と気圧計とガスや放射能測定などの機能が搭載されているらしい。また常にエレベーターの方を指すコンパス機能もある。これは死なれると後処理が面倒であるための処置であるらしい。

まぁ万一死んだ場合はほりつくした坑道に集めて発破しちゃうらしいが。

 

――曰く、時間はきっちり守れ。

 

エレベーターが動くのは朝と夕の二階のみ、これを逃すと次の日まで坑道の中に閉じ込められる。一応水分補給用の水タンクやトイレ付き簡易休憩室などがあるが、どんな時崩落するか判らないこんな場所で寝泊まりする猛者はそういないだろう。

俺は絶対無理だネ。ノシイカになりたくないし。

 

――曰く、自分の身は自分で守れ

 

 監守は囚人同士のイザコザに基本的に関与しない。大乱闘で被害が及びかけそうなときは制圧するがそれ以外は基本傍観であるそうだ。

また自分の身を守れというのはなにも暴力だけの話ではない。遠回しの言い方なので簡単にさせてもらうが自分のケツの処女は自分で守れとのこと―――怖っ!?

 

 

 

 

 そんなこんなで最低限のルールだけを教えられた新人の囚人の集まり、この場合は新囚人とでも言えばいいだろう。その新囚人たちと共にエレベーターからでてすぐの部屋に通された。そこは簡単に言えば道具小屋であった。

 

 つるはし、スコップ、その他もろもろの如何にも鉱山員キットのようなツール達が所せましと置かれていた。ただどれについても言えるのが、めちゃくちゃ年期が入ってるってことだった。つるはしの幾つかは柄が折れたのを直した形跡もある。

 

「ルールは簡単、ノルマ分の鉱石を集めて来い。そこにおかれた探査機でノルマ分をクリアしたらヤツから今日の仕事は終わり報酬が貰える。またノルマ以上持ってくるとボーナスがでる」

「報酬がでるのか!」

「・・・勘違いしない様に言っておくが、報酬というのはここでの生活費だ」

 

 報酬という監守の言い回しに思わず反応するヤツが出たが、どうも意味合い的には報酬では無いらしい。どちらかというとこの監獄惑星では自分の食い扶持は自分で作れということらしく、生活費という意味はそこから来るのだろう。

 

ここではシャバと同じく飯も食うには金がいるらしい。地獄の沙汰も何とやらで、稼がないことには飯は買えないし食えない。一応死なれると困るから栄養補給の丸薬はタダで支給されるのだが、そんなモンでここで動けるヤツは見たことはないとのこと。

 

 説明聞きながら内心はうへぇ、面倒クセェと辟易する。ここで生きるには自前で稼げってことか。こりゃ下手に怪我したらそれだけでヤバいかもしれないな。

そんなことを考えつつ、ぞろぞろとつるはしやスコップやネコ車を手に取っていく囚人たちと同じく、俺もとりあえず基本である3つの道具を選ぶことにする。

 

 

ツールナンバー1 つるはし

 

 いわずと知れた鉱山といえばコレと言える採掘ツールである。先端を尖らせ左右に長く張り出した頭部をハンドル部分に直結した道具であり、尖らせた先端部分を振り降ろすことでかたい岩盤を砕くことが出来る。

大きさは大中小と揃っており、ここでの使用率の高さを思わせるツールだ。

 

ツールナンバー2 スコップ

 

 つるはしで砕いた岩石を集めたり出来るツールで、掘って良し、叩いて良し、突き刺してぶった切って良しの塹壕における最強武器・・・じゃなくて工具である。

砕いた岩盤からでた鉱石とごみくずであるボタを素手で運ぶことは難しいのでスコップの出番だ。これもまた年季が入っているのが多いので使用率は高いだろう。

 

ツールナンバー3 ネコ車

 

 名前から聞くとときめきを感じるが実際は工事現場でよく見かける一輪車が付いた土砂を運ぶための手押し車のことである。基本的に複雑な機械が使われないこの鉱山で大量の鉱石を運ぶために重宝するツールであろう。

というかコレがないと他のツールも運び辛いし。

 

 

 これら三つは基本的なツールであり、他の囚人もある程度知識があるヤツは皆似たりよったりであった。中にはスコップだけとかつるはしだけの奴もいたが、どうやってここまでジゼルマイト鉱石を持ち運ぶつもりなのだろうか?

両手で持てる数なんてたかが知れているというのに・・・。

 

「ん?こいつは・・・」

 

 他にも工具はないかと探していたら、隅っこの方に大槌、スレッジハンマーが置かれているのが目についた。見たところあまり使われていないらしく埃を被っていたが、使われていない分他の道具に比べると新品みたいだ。

まぁ重たい大槌を坑道の中でぶん回す体力があるヤツはあんまりいないということだろう。

 

 何と無くであるが俺はコイツを持って行くことにした。序でに杭と比較的新しい小型ピックもネコ車に乗せる。上手く使えば硬い岩盤でも壊せると踏んだからだ。

回りの連中が既に奥に向かったのを追って、俺もネコ車を押して最奥へと向かったのだった。

 

 

***

 

 

 奥には来たが、どうやら囚人たちはノルマ達成に必死らしく、少しで遅れた俺が入って出来るスペースはなかった。飯抜きになるかもしれないと聞かされたのだから、ある意味仕方がないのだろう。

元よりここにいるのは囚人、他人より自分の方が大事な人間が殆どなのだ。

 

 仕方ないので同じくあぶれてしまった他の囚人に混ざり掘れそうな場所を探す。

だが良いポイント、といえばいいのか?掘りやすそうな所は大抵先に来た囚人が陣取り、他の者が採掘出来る場所はなかった。

ここが通常鉱山なら他の連中と混ざり採掘作業を行うのだが―――

 

「てめぇ!ここは俺の場所だっ」

「うるせぇ!こっちの方が掘りやすいんだよ!」

「掘りやすいのはてめえのケツだろうが!」

「んだこの○○○ヤロ―が!潰すぞゥオラァ」

「ヒャッハー!新鮮な肉だー!」

「ピッケルふりまわすんじゃねーっ!!」

 

―――とてもではないが混ざれる環境じゃない。むしろ後ろ見せたら殺されそうだ。

 

 場所はないのに無理に入ろうとした奴らが先客とケンカを起している。そして恐ろしいのは監守がそれを止めようとしないことだ。鉱山内でケンカで死亡した場合、殺したヤツが始末をつけることとなっているので止める必要がないのだろう。

怪我をしたくない賢しいヤツや臆病者はこのケンカを遠目から眺めるしかできない。

 

 しかしこうしている間にも時間は過ぎていく、朝と夕しかエレベーターが出ない上、衣食住は金次第というここでは、生きる為には時間を金で買うしかない。

乱闘を起し始めた囚人たちを余所に、俺やほかの賢しい奴らはさらに奥の坑道へと進むことになった。ここじゃ安全に作業なんて出来やしない。

 

 

 

 すこし奥に進むと自然の空洞とぶつかったと思わしき坑道を見つけた。どうやら適当に掘っていたら掘りあてた系らしく、整然と整理された坑道とは違い自然物特有のごつごつとした岩盤がむき出しとなっている。

でもそのお陰であまり囚人が入って来ないらしくほぼ手つかずで残されていた。

 

 たしかにネコ車が通れないほどごつごつしていれば奥まで進む奴はいないだろう。地盤の補強もしていないのだから、もし崩れたら完全に埋まることになる。

だが俺はあえてそちらに入ることを選択した。たぶんだけどこう言うところの方が一杯ある。そんな気がしてならなかったからだ。

 

 回りには他の囚人はいないことを確認した俺は、ネコ車は坑道と自然洞との境目において他のツールを担いだ。ありがたいことにこれまで鍛えた結果、見た目は最初とそれほど変わらないが体力はあったらしく重たいスレッジハンマーですら今の俺には綿の様に軽い。鍛えておいてホント正解だったぜ。

 

 安全第一と書かれたランプ付きの黄色いヘルメットの被り具合を確認し、しっかりと固定されているのを確認した俺は自然の坑道のなかへと足を踏み入れた。本当は迷う危険性があったので誰も入らなかっただけなのだが、ここにきて間もない俺がそんなことを知る筈はない。

 

 無意識に危険地帯の中に突入したことに気が付かないまま、ずんずんと奥へと歩を進めた。自然に出来た坑道らしく通常の坑道では小さな物しかない鍾乳石が途轍もなく大きい。

しかもそれが普通に周囲に散らばっている。俺は地質学とかは知らねぇが、まるで滝がそのまま石になったかのような大きな鍾乳石は結構見ごたえはあった。

 

 だが今はそれに感動を覚える時間はない。時計を見ると既にここに来てから1時間経過している。たしか夕方のその日最後のエレベーターが動くのが後4時間後。

ここまでの移動時間を考えると残り3時間しかない。金を稼がないと飯抜きとなるのでそれだけは勘弁と探索を続ける。

 

 さらに奥に進むとそれなりに大きな広間の様な空間に出た。完全に前人未到らしくここまで繋がっていた道もここで終わっており、あとは掘るしかない。

だがそれなりに広いので大型つるはしとスレッジハンマーが普通に振り回せるのはありがたい。他の場所じゃ囚人がひしめき合っていて下手に振るうと絶対誰かが大けがしてしまう。

 

「よっしゃーーーーっ!やるッスよぉーーーーー!」

 

 大声あげて気合一発。つるはし抱えてどっこいしょー!

 

「とりゃぁぁぁぁぁあああっ!」

 

 飯の為に、記念すべき第一破砕、突貫しまーーーすっ 

つるはしを思いっきり振りかぶり、岩盤へ叩きつける。だがその途端至近距離でミサイルでも炸裂したかのような音が響き、視界が煙で覆われてしまう。

 

「・・・はぁっ?」

 

 思わずそんな声が漏れる。そしてどうやら俺の身体能力は天元突破をしていたらしく、つるはしで岩盤を殴りつけたところ軽くクレーターが出来あがっていた。煙は土煙だったらしい。

というか俺は今どんな筋力してるんだ?ずっと重力が何倍の部屋に閉じこもってただけだぞオイ?と、とりあえずここいらの岩盤は簡単に壊せるのは判った。

 

「おや?(力加減を)間違えたかな?」

 

 おもわずアミバってみたが、それよりも新たなる問題発生。つるはし壊れますた。 あまりにも力強いスイングでハンドル部分がぼっきりとへしおれてしまった。木製だったし古かったってこともあるけど、やっぱり俺の力は結構あるようだ。

しかしつるはしがなぁ・・・不良品持って来ちまったか?

 

 しかたねぇのでもう一つのツールであるスレッジハンマーを用意する。タダのハンマーだがないよりかはマシ。まずは小さなピッケルで穴をあけてそこに杭をセットする。あとは振り下ろすのみ。ね?簡単でしょう?

 

「せーのっ」

 

 今度は軽くやってみた。打ち降ろしたスレッジハンマーはほぼ自重の力のみで杭にあたる。杭はごっすんと良い音を立てて大地にヒビをいれながら食い込んだ。意外と簡単じゃねぇの。

 

「よいしょっ」

 

 あとはこれを繰り返すのみ。ごっすんごっすんと杭を打ち込んでいき、ひび割れが広がったらその中心に最後に大きく一回突貫!今度はスレッジハンマーの着地地点がクレーターとなり、そこから打ちこんだ杭に沿って大きくひび割れが広がっていく。

 

「あ、あはは・・・俺は人間発破ッスか?」

 

 なぜか出来あがったクレーターを横目に砕けた岩石を持ちあげ、つたない鑑定眼を使い目的の鉱石なのかを確かめてみる。ジゼルマイト鉱石自体は依然見たことがあるし、ミユさんに一度ジゼルマイト鉱石の特性について習ったこともあるので見分けるのは簡単だった。

この鉱石は実は暗闇でうっすら光るのだ。あ、飛行石の原石とかそういうのじゃねぇぞ?もっとこう、人魂みたいにぼんやりしてんだ。

 

俺が躊躇なくこの奥に進んだ理由はそれだ。人工の明かりがない自然洞なのに、うっすらとした感じで足元が見えていたのである。思った通りこの自然洞はやはり全体が鉱脈といってもいいのだろう。

ちゃんとした開発計画とかはなく、殆ど無計画にしか掘り進んでないから未発掘だったお陰で今はまだこんなに含有量が豊富である。ぐふふ、儲け儲け。

 

―――囚人生活がバラ色になりそうだと脳天気に考えながら俺は採掘を続けた。

 

 

***

 

 

 掘れば掘るほどガンガン出てくる。場所的には当たりを引いたので満足した俺はここまで来るのにかかった時間である一時間を残して採掘に専念した。

なにせこれだけの量だ。ボーナスもたんまり付くに違いない。ふひひと変な笑みを浮かべつつ、俺はスコップで鉱石を持ちあげ―――

 

「・・・そういやネコ車は?」

 

―――いざ運ぼうと思ったところで、大事なことに気が付いた。

 

 自然洞でボコボコしていたのでネコ車が通せず、ここの入口においてきたことをすっかり忘れていたのである。つまり、ここに出来たジゼルマイト鉱石の山を持って行くには、自然洞の入口にまで手で運ばないといけないのだよ!

 

ΩΩΩ<ナry

 

 なんてこったい、いやホント。調子に乗ってかなりの山を築いてしまった。その量は半端無くネコ車にも乗せきれないほどである。勿論日を分けて何度か往復するのは覚悟していたが、ここから運び出すのにも往復する羽目になろうとは!このユーリが不覚を取ったわ!

 

「あー、いま何時ッスかね?」

 

 慌てるな。慌てたらダメだ。とりあえず残り時間を確認しないと・・・えーと、あの入口に戻ってさらにエレベーターのあるところまで戻る時間を引いて、最後の便が出るまでは・・・あと十数分しかない。これじゃ往復して鉱石を回収するのはムリだ。

 

 仕方がないと俺は溜息を吐いて諦めることにする。幸いここに入ったことは見られていないのだから、回収は後日に行えばいいだろう。とりあえず両手持てるサイズの一番大きな原石を持ってこの場を後にした。

 

 

 

 

 ネコ車のところに戻るのは簡単だった。自然洞とはいえ基本低に一本道であったし、支道も無くはなかったが基本的には匍匐じゃないと入れないような穴しかない。だから迷うことなく坑道まで戻ってきた俺は原石とツールをネコ車に乗せてすぐにその場を後にした。

 

 時間は結構ギリギリ。ほかの全くとれなかったらしい囚人たちを横目に元気にネコ車を押して行く。もちろんそんな目立つことしてればガラの悪いヤツに目をつけられる。案の定眼つきのわるーいお兄さん方が行く手を阻もうと前に出てきたのだが、彼らには特別にこの言葉を送ろう。車は急には止まれない。

 

「ちょっ!とまっ」

「どーん」

 

 俺はノンブレーキで立ちふさがる輩の一人を遠慮なく轢いた。時間が押していたし、一々相手にするのも面倒臭かったのだ。シャバならともかくここは監獄、一々ケンカしてたらみが持たないのよ。良い子は走っているネコ車の前に飛びだしたらダメだぞ?おにーさんとのやくそくだ。

 

「はっはっは、さらばだ明智クーン!」

「ま、まてー!鉱石おいてけー!」

「もってて良かった三角形の妙に尖った石!」

「うわぁぁぁぁっ!!!」

 

 取り巻きが追いかけてこようともした。掘り出した鉱石をよこせと彼らは叫ぶ。鉱石は残念ながら俺の夕飯が掛っているので渡せないが、紳士な俺はわざわざ追いかけてくれる彼らに別の物をプレゼントしてやることにした。採掘した際に偶然出来た尖った石をお土産に落しておいたのである。

 

 え?マキビシ?なんのことですか?別に本当は投げつけようとか思ってた訳じゃないんだからネ。ホントなんだからネ!―――自分で言って吐き気催したわ。

 

 とにかく人の物を盗ろうとする不埒な輩を振り切り、急いで原石を探査機にかけた。結果は大きいけど含有量が微妙でノルマギリギリ。だけどこれで一食分は稼げたことになる。探査機が発行したマネーカードを手に取り、周りが唖然としてみる中、俺はそのままエレベーターに飛び乗った。

 

「ぐっ、間に合わなかった・・・」

「やろー!てめーの顔は覚えたからな!後で覚えてろっ!」

 

 エレベーターが上昇を開始した直後、そんな声が聞こえたが―――用心しておくことにしよう。ありがとう親切な誰かさん。わざわざ襲撃フラグ教えてくれてさ。

この時は採掘の疲れで若干興奮状態であり、何と無く強気なことを考えていたが、後に冷静になって考えてヤバいことに気が付き、怖々と夜に震えて枕を涙で濡らしたのは余談である。

 

***

 

 さて久しぶりに地上に出た時に感じたのは、結局坑道内とあんま変わらねぇ空気ってことだった。要するに淀んだどこか饐えた臭いってヤツ。それに加えて乾燥してて埃っぽい風が吹き荒れてくるので、荒れ地というか岩山の砂漠って感じ。とにかく普通に外で過ごすことは難しいということは判った。

 

 空は空で分厚い積乱雲の真下で雷が鳴っているかの様な光景が広がっている。とはいえ雷のようなあのどでかい音は聞こえず、断続的なゴゴゴゴという地鳴りのような音が響いていた。何故なら空の発光現象は正確には雷ではなくプラズマエネルギーの流れなのだ。常に帯電して流れているのだから雷の様に一瞬じゃないってこと。

 

 この監獄惑星のことを知らない人間がこの惑星のことを監守に質問していて何と無く聞こえていたことによると、この星は惑星全体をプラズマの層に覆われてしまっている惑星らしい。一説ではマゼラニックストリームというガス雲のジェットが発生した時に発生したプラズマをこの惑星が偶然に虜にしてしまったから、らしい。

 

 まぁそんなことはどうでもいい。問題はその話が本当であるならこの監獄惑星ラーラウスにフネが近づける可能性は非常に低いということだ。なぜなら普通のフネならプラズマ層なんて危険なところは通過出来ない。プラズマとは電気ではなく粒子が電離した高エネルギー体の総称なのだ。

 

 普通のフネからしてみればプラズマ層と突破せよというのは、言わばビームの川の中に飛び込めと言われるようなものであり、当然そんなことをしたらよほど特殊な処理でもしていない限りフネが持たない。そんな風な説明も監守から受けた囚人はがっくりと肩を落としていた。

 

 妙に監守が説明に慣れていたのは、この手の質問が沢山来るからであろう。なるほど、確かにプラズマ層という天然の攻性バリアーがあったなら誰もが諦めたくもなるだろう。だが冷静に考えれば実はかなり矛盾点があるのだ。バリアーに守られているならどうやって俺達はここに来た?つまりはそれである。

 

 それにプラズマ層が本当にあったなら、惑星の表面温度は太陽と似たりよったりとなる上、惑星規模のサイズがあればエネルギーが宇宙に放出される割合も大きいのですぐにエネルギーが無くなり、プラズマは消失している筈である。ようするにこんな所で鉱山員まがいのことをすることは本来不可能なのである。

 

「おやじやってるー?」

「あぁん?マスターとよべクソガキ。客でないなら帰れ」

「なんだい。ノリ悪いッスね。まぁいいや、俺今日ここに来た新人ッス。よろしく」

「店こわさねぇならよろしくしてやるよ」

 

 まぁ俺は原作知ってるのでその理由は大体知っているから別に気にしない。そんなことより今は飯だ。脱出するにしても救出されるにしてもヘロヘロに痩せてしまっていては締まらない。今日はかなり運動したから正直腹が減ってしょうがない。何か胃に溜まる物が欲しいぜ。

 

 てな訳で色々考えるのは後まわしにして、囚人用のバーに来ていた。何で監獄惑星なのにバーがあるのかは甚だ疑問だと思うだろうが、鉱山で働かされる囚人をこれ以上虐めたら軽く暴動が起きるからその為の処置なんだろうよ。飴と鞭の使い分けってヤツさね。

 

 ガス抜きできることを一つでもおいとけば、他はなんとかなるもんだ。

 

 

 

――――ガヤガヤ

 

 

 

 さて、無愛想なバーのマスターに飯を注文してカウンターで待つ。先払い方式でマネーカードを渡したらマスターは無言で調理を始めやがった。採掘のノルマを達成した時に貰ったマネーカードには、それなりに入っていたと思っていたが、どうやらここでの一食分の金しか入って無くて全部持ってかれた。

 

 暴利もいいところだとも思ったが、監獄惑星で金さえあれば飯も酒も飲めると来ればこの値段も納得できる。袖の下はずまないと輸入できないもんな。回りにもいた囚人から洩れた話を聞いた感じじゃマスターから食材を買った方が半分以上安くなるとのこと。いいことを聞いた。今度から食材買って手弁当にしよう。

 

 てな訳で監獄惑星最初の夜を堪能していた。このバーは監獄惑星唯一の娯楽施設を兼ねている場所なので結構人が一杯いた。そりゃ監獄惑星には何千という囚人がいるのだし、繁盛するのも仕方ないのだろう。もっとも窓の外に少し視線をやれば、羨ましそうに飯を頬張るこっちをジッと見つめる複数の目。

 

 ノルマを稼ぐことの出来無かった囚人たちだ。ちなみに鉱山にいた他の新囚人の多くがこの視線の中に紛れている。お気の毒だとは思うが、周囲に流されて殆ど採掘が終わった掘りやすい場所で掘っていたお前らが悪い。知り合いでも無ければ顔見知りでも無いので此方に助ける義理は一切ない。

 

 餓死しそうなヤツもいたが、だからどうしたってヤツだ。下手したら次にああなるのは自分であるし、ここで誰か一人でも飯をおごったりしたらカンダタの蜘蛛の糸の話の如く次々と他の目敏い囚人がやって来て何かを要求するだろう。余計なリスクを背負い込むのにはまだ時期早々。いまはまだ潜伏の時。

 

「ほらよ」

「ありゃ?酒は頼んでないスけど?」

「酒も料金の内だ。飲めねぇなら小便でも飲んでな」

「へいへい、ありがたく貰っときますッス」

 

 そうこうしている内に飯は来た・・・序でに酒も。ふははは、流石は大マゼランの監獄惑星、フリーダムだぜ。何せ監守塔は完全に武装化された要塞みたいだったし、採掘の時以外に外で監守を見かけたことはない。監視カメラこそあったがそれに派死角もある。見張るヤツがいないなら自由が跋扈するのも道理だな。

 

つーか檻すらない・・・いや、この星全体が檻なのだから、一々監視はしないんだろう。ホント監獄惑星の癖して中は無法地帯ってのはスゲェなと考えていると、急に回りが騒がしくなる。なんだと思い騒ぎの方を見ると―――

 

「――で?命乞いはするか?」

「ヒィっ!金はちゃんと用意しますから!時間をくださいドドゥンゴさまっ!殴らないで!」

 

―――妙に筋骨隆々な刺青をした大男が囚人をカツアゲしていた。

 

「ドドゥンゴだ。西囚人獄舎のリーダーだ」

「アイツも可哀そうにな。密輸で下手に稼ぐから目を付けられちまったんだ」

 

 周囲の囚人がそう漏らしているのを聞いた。ふへぇ、あんな筋肉だるまがここいらの元締めに幹部してんのか。こりゃあんまり変なことしない方がよさそうだぜ。周囲がざわざわ見ている中、筋肉だるまの恫喝は続いていた。

 

「ほぉ、時間があると金が用意出来るのか。なら殴る必要はねぇな」

「あ、ありがとうござい」

「でも足は出ちまうなぁ」

 

 バキンという棒で地面を殴った様な音が響く。ドドゥンゴというこの筋肉だるま、なんと近くにあった酒入りの樽を蹴っただけで十数mも飛ばしやがった。驚くべき筋力である。数バレルは入るであろう酒樽なのだから、その重さは数百kgはくだらない。例え半分近く飲まれた酒樽でも、100kgはゆうにあるだろう。

 

蹴り飛ばした酒樽を見て酒が泡立つだろうがとマスターが怒鳴ったり、明後日に飛んでいった樽に巻き込まれてボーリングのピンみたく吹き飛ぶ囚人たちがいたが俺は気にしないことにした。

 

「ひ、ひぃ!」

「あと二日、まってやるが、それ以上はわかるよな?」

「は、はいーーー!!!」

 

 一目散で逃げ出す男を尻目にどっかりと椅子に座る筋肉だるま。取り巻きが色々とゴマをすっているので相当な実力があるのだろう。主に腕っ節的な意味で。こりゃしばらくは大人しくノルマ分だけを採掘していた方がよさそうだ。目を付けられたらたまったもんじゃね。

 

 あん?腰ぬけ?ぬかせ。余計なリスクを背負いたく無いだけだってば。べ、べつにあの男の腕を見て、コイツをどう思う?すごく、太いです。とか思っただけなんだからね!腰が引けただけなんだからネ!・・・考えて鬱になった。死のう。

 

「お、おい。なんだいきなり湿気た顔しやがって」

「自分の矮小さに気が付いて自己嫌悪真っ最中ってだけッス。あはは死のう」

「ここで死ぬな。死ぬなら鉱山か外で死ね」

「マスター、こういうときはスッと酒を差し出すもんじゃないんスか?」

「スッと金を差し出したら出してやるよ」

 

 姉さん、ここでの生活は厳しそうです。姉さんって誰やねんという突っ込みはなしで。タダのノリだから。

 

***

 

Side三人称

 

 何時もと同じように自分の部屋で目が覚めた彼女は顔を洗い何時もの服に着替えると、トテトテとおぼつかない足取りで自分の家の周りの掃除をしに外に出た。何時も同じように掃いているいるのでゴミ一つ落ちていない玄関におかれた愛用の箒と散りとりを持ってドアをあけると、早朝の時間帯独特のひんやりとした空気が頬にあたる。

 

 気象群団の気象予定では今月から秋の天気を再現すると言っていたので、彼女はそれほど驚いていない。秋という季節のことを知っていたし、自分がいる家があるフネはトップに立つ人間が四季という季節が好きで、船内の大居住区の気温や日の入り日の出天気を管理する気象群団に日々に変化を付けるよう指示しているのを知っていた。

 

 本当は熱すぎず寒すぎずという天気の方が快適なのに、なんでそんな無駄なことをしているんだろうと疑問に思った時、それをさっしてくれたあの人はわびさびがどうとか言っていた気がするが、わびさびというのがよくわからない彼女は思考を切り変えて家の前を箒で掃いて行った。

 

彼女の小さな身体にあった箒は彼女がここに住み、こういう仕事を始めてからの相棒であり、彼女自身気にいっている。とはいえ普段から掃いていた上、道路サイドは相似ドロイドが掃除してしまうため、今日の彼女の箒はあまり出番がない。精々が気温が下がったことで紅葉を迎えた落ち葉を回収するだけの出番しかない。

 

それになんだか彼女の箒は普段の掃除の時と違いあまり冴えが見られず、彼女もある程度落ち葉を掻き集めたところでそうそうに引き上げる。正直秋空の早朝はとても寒い。人よりも小さな身体の彼女は寒さにあまり強くないらしく。ぷるぷると身体を震わせて家に戻っていった。

 

 寒いからポタージュでも作ろうと自分用に調整された台がおかれたキッチンで食材を探した。ポタージュについては朝だし一から作るのはちょっと大変だったので缶詰を代用する。食パンを“ふた切れ”とりだし、トースターに放り込みつつ、パンが焼き上がるまでにサラダと目玉焼きを“二つ”流れるように準備していった。

 

 もともとがお手伝いさんなのでこれくらいで来て当たり前といった感じに、次々と食卓に並べられる朝食は決して豪華ではないとはいえ、十分に一日の活力を与えてくれるものだった。並べられた二つのスープ皿から温めたポタージュの美味しそうな湯気が上がっているのを見て、彼女は良しと頷き自分の席へと上る。

 

 だが、ここでふと気が付いた。

 

 何時もなら出来あがった頃に起きて来てうまそーと脳天気に言いつつ、朝はコーヒーだぜと言いながらミルクたっぷりのコーヒーを飲むあの人がいない。どうやら何時もの癖で二人分のご飯を作ってしまったようであり、それがどこか言いようもない寂しさを彼女に与えていた。

 

 放っておいても冷めてしまうし片付けようかと皿に手を伸ばそうとするが、その手は途中で止まる。なんだか片付けたらもうあの人のことを忘れてしまうような、そんな根拠のない不安感に襲われたからだ。あり得ないと首を振りつつも再び自分の椅子に座りなおし朝食を睨みつける。

 

 あれだけ美味しそうに見えた朝食も今は何処か色あせて見えた。そして何故か視界もかすんで見え始めた。スンスンというしゃくりあげるのを我慢したような声がキッチンに響いていく。その音は自身が発していることに彼女はすぐ気が付いた。何故だかわからないが胸が締め付けられる。これが寂しいというものなのか。

 

 ぽろぽろと目から流れ出る涙が止められない。服の袖で拭っても拭っても、服に水の滲みを広げるばかりで一向に止まらない。タダの眼球の潤滑油の役割しかない筈の涙が何で溢れ出るのか彼女は理解できなかった。まるで自分が如雨露にでもなってしまったかのように止まらない。

 

そして本当はうっうと声をだして泣いてしまいたいのと何故か堪えてしまう。大声で泣けば楽になるのに彼女はそのことを知らなかった。どうして自分が突然こんな変な気分になり、目から水をだしているのかも良く解らない。だが少なくてもあんの脳天気男が原因であることをうっすらと思い、少し怒りがわいた。

 

すこしすればきっと収まるとおもい、ハンカチを取り出そうとしたその時、玄関の呼び鈴が鳴った。だれだか知らないが朝時間にこの家いおしかけてくる人間はそれ程いない筈と知り合いリストを脳内に浮かべた彼女だったか、その間に気が付けば玄関が開く、どうやら鍵をかけ忘れてしまったらしい。

 

そして足音が響き、キッチンに顔を見せたのは―――

 

「よぉう、タダ飯が貰えるのはここかい?」

「もう、トスカさんったら。自分で用意するのが億劫なだけでしょう?」

「……う゛?」

 

―――このフネの副長とユピテルの二人だった。

 

 彼女はこの二人とも面識がある。どちらとも彼と知り合いでソレ経由で知っていたし、たびたびこの家にくるのでよく食事やお茶をふるまった事がある。だからだろうか、比較的この二人とはお互いのパーソナリティを侵害しない程度の距離感を知っていたので安心できる存在であった。

 

「まったく、季節なんて結滞な代物を導入しちゃってさ。あさから寒いったらないよ」

「それはトスカさんが普段から肌を見せる服そうだからだと思います……」

「女は自分を魅せてナンボってね。ディもそう思うだろう?」

「……う゛?う~」

「もう、ディアナに変なことを吹き込まないでくださいよ」

「へいへい、とりあえずあったまるものってあるかい?」

「うっ!」

 

 愛称でよばれ話題を振られるがよくわからない。でもとりあえずはこの二人の食事を用意した方がよさそうだ。一食分余計に作る羽目になるが、それでももう一食を無駄にするよりかはいい。そう考えつつまだ鍋に残っているポタージュを温め直して皿によそっていくディアナ。

 

―――彼女が感じていた寂しさは、気が付かない内に消えていた。

 

 

***

 

 

 ユーリが監獄にて囚人生活を満喫もとい営んでいたその頃。

白鯨艦隊はユーリ救出というお題目の元、マッドが暴走して得体のしれないメカを作り上げようとしていた計画を事前に察知したトスカが阻止したりという事件があった以外は特に何か起きることもなく、アステロイドベルトに鎮座していた。マッドの暴走は日常茶飯事なので既に住民は慣れているあたり、白鯨は計り知れないのかもしれない。

 

 それはさておき、ユーリの投獄先を彼らは探していたのだが、いまだにその行方を知ることが出来ずにいた。小集団の調査隊を組み、民間船に偽装したフネで交易地に降り立ちそこから様々な情報を収集し、隕石に偽装したIP通信ブースター内蔵の通信衛星によりリアルタイムの情報を得ていたが、それでも探し出せない。

 

 正確には通常ならある筈の囚人船の出港データ(勿論普通は見れる情報では無い)を情報屋、ハッカー、自力でハックまでして調べたが、ついにデータの中にユーリの名を見つけることは出来なかった。ここまで見つけられないとなると既に情報漏洩を恐れた者たちの手で消されていると考えるかもしれない。

 

 だが、ユーリと共に捕まったヴルゴ等の艦隊隊員たちの収監先は分散こそされていたが、すぐに割り出すことが出来たのである。それ故にユーリがまだ処分されていないとは思えなかった。もっともそちらの方は厳重にガードされた監獄惑星で生半可な艦隊では突破する事は出来ないような場所である。

 

 どう見ても罠である可能性が高い。白鯨が大マゼラン連邦政府の監視の目から離脱したことは大マゼランの上層部に既に伝わっていることである。調べてみればユーリを捕縛し、デメテールに襲い掛かって来たのは、あの近辺を管轄とするエンデミオン大公国であることが判明した。

 

だが、この国は歴史こそ古いが国力は大マゼランのそれを比べると非常に低く、ロンディバルト連邦とよばれる大マゼラン最大勢力の後塵を拝するところまで落ち込んでいる国家だ。そんな国家がまだ大マゼランの艦隊が小マゼランで大きな打撃を受けて敗退に近い形で引き分けた等知る筈もない。

 

となれば、あの時に白鯨を捕縛しようと指示を出したのは表向きはエンデミオン大公国であるが裏ではロンディバルト連邦である可能性が非常に高かった。特にロンディバルトは現在連邦としての屋台骨がぐらついており、余計な混乱をもたらす様な存在を放置しておきたくはない。

 

また撃沈を避ける様に捕縛を優先したのはデメテールに残されたデータが欲しかったのではないかともトスカは予想していた。ヴァナージ宙域での戦闘データはあの時生き残った艦艇にも残されているが、唯一デメテールは陽動を兼ねて敵陣深くを突破している。

 

もしそのことが知られているなら軍隊ならそのデータは咽から手が出ても欲しいだろう。なにせ未知の巨大勢力であるヤッハバッハの艦隊の陣容を間近で観察したようなデータなのだ。遠目から見るのと中から見るのとでは後者の方が圧倒的に得るものが大きい様に、それを欲したとも考えられる。

 

もっとも全ては憶測であり予想想像の域をでていない。

 

 なかなか上がらない成果の前に、トスカはハァと溜息をつきながら報告書のウィンドウを閉じ、別の仕事に取り掛かった。電子的なデータ上には残されていないのなら、監獄惑星をしらみつぶしにするしかないのかと思い、これからの苦労を前に頭を抱えたくなったトスカだった。

 

「ユーリ、あんたは今どこにいるんだい?」

 

 ホント切実に、仕事で押しつぶされそうな艦長代理はブリッジで一人そう呟いた。勧められたが頑として上がらなかった艦長席の方を見て、ああこのブリッジはこれだけ広くてまた寂しいのかと改めて実感する。副官としてユーリと馬鹿を言い会っていたのが何だかとても遠い過去に思えてくるほど。

 

diiiii…diiiii…diiiii…diiiii…

 

「ん?だれだ?―――あたしだ。なにかあったのかい?」

 

 突然の呼び出しアラートにトスカは眉を顰めつつも応答する。通信を送ってきたのはケセイヤだった。かねてより開発していた新型機が完成したという報告である。トスカはそうかと答えつつもケセイヤに一言――

 

「また材料水増しして変なモン作ってないだろうね?」

 

 と聞くと、ケセイヤは――

 

『ななななな、なにをおっしゃってるんですかい副長?』

 

 口は笑い、顔は土気色、おまけにダラダラと汗を流し、視線は明後日の方向を向いて泳ぎまくっている。あからさまな動揺を見せたケセイヤはどう考えてもアウトであろう。

 

「……ほう、今度は何をつくったんだい?」

『べべべ別にそんな大したもんじゃねぇけど』

「大したものかどうかはあたしが決める。それともまた拷問でもされたいのかい」

『ひっひぃ~っ!!もうガチムチはいやだぁぁぁぁぁっ!!!』

 

 

 トスカの拷問という一言に身を震わせて取り乱すケセイヤ。尚、誤解の無いように言っておくが、拷問とはパンツレスリングビデオの24時間観賞であり肉体的な拷問では無い。だが確かに男には拷問かもしれない。

類似の拷問には大居住区の大通りで正座させられ夜時間になるまでバケツに張った水面に映る自分の顔を見続けるというのがある。それはさておき古傷をえぐったのかトラウマモードと化して怯えるケセイヤを押しのけてサナダが画面に写った。

 

『フム、ケセイヤがこの調子だ。説明は任せてくれ』

「……アンタも変なモンだまって作って無いだろうね?」

『大丈夫だ。問題無い。ちゃんと申請は出している。通ることは稀だがな』

 

 アンタは申請出してたのかいとマッドの癖に微妙に律義なこの男に少し感心する。もっとも手慰み的なものに関しては申請を行っていないため、彼もまたマッドと同類であることに変わりはなかった。

 

『まぁとりあえず一応の完成を見た機体だ』

 

 そういって別のウィンドウが開き、白鯨の主力であるVFが映し出される。だが映しだされていた機体は今までのVFと少しちがい一回り小さいこの機体は、少しだけ大型になった双発エンジンとコックピット斜め下後方にカナード翼があるなどの特徴が見られ、デザインも全体的にシャープな印象があった。

 

――白鯨艦隊の新作可変戦闘機、VF-11サンダーボルトがこの機体の名前である。

 

 VF-0フェニックスのもつ性能はそのままに、より安定した飛行性能を獲得し、部品もある程度共通させたことで整備性や信頼性も向上したまさしく今のVFの後継機と呼ぶにふさわしいマルチロールファイターであった。突出した性能こそ持たないものの、誰でも動かしやすいというそれは十分武器となると言えた。

 

 トスカは映像に映し出されたVF-11を見て、中々いい機体じゃないかと思う反面、少しばかり疑問というか違和感を感じ取り、VF-0よりも航宙能力が5割増しだと説明しているサナダの方を向いた。

 

「で、VF-11ってことはこれよりも前にあるんじゃないのかい?」

『ギクッ』

「……サナダぁ、あんた」

『い、いや。別になんだか趣味に走った機体が多くてとても普通の人間に扱えそうな代物がなくてとりあえず寄せ集めで良い具合になった機体を発表した訳じゃ』

 

 あわてて釈明するサナダであるが、語るに落ちていた。

 

「大体わかった。まぁ良い機体ではあるし、他は目をつぶっといてやるよ」

『……申し訳ない。ケセイヤの暴走はとめられなかったのだ』

「それはともかく、ほかにな~に造ってたんだい?」

『一応その他はデータしか残っていない。材料が無駄だったからな。だが――』

 

 第三のウィンドウが空間投影される。そこに映されたのはVF-11…ではない。似ているがどこかが違う。機首がとても長く、小さな前翼が4つもある双発複座のこの機体はどうやら可変機構が取り入れられていない機体らしく、代わりに特徴的なのが機体下部の大きなセンサーブレードであった。

 

―――戦闘機というものではない、別の何かと言うべき機体。

 

『こっちはある意味で化け物かもしれない。エルメッツァの対宙戦機ビトンのようなLF系の設計に手を加えて……いやもう設計自体別物となったがなんとか完成した機体だ。開発コードはLF-RX-031、愛称はスーパーシルフ、超高速戦術偵察航宙機だ。VFで獲得した技術を電子戦機としてより高度な装備に換えたことで誕生した妖精だ』

「妖精?どっちかっつたら、アホウドリに見えるけどねぇ」

 

 トスカは画面上に映る機体をそう称した。その言葉に一瞬サナダは眉を顰める。たとえどんなに美しい機体と称されても感受性が異なればそうなるのは世の常。確かに機首が長いので首の長い鳥に見えなくもないのだが、持てる技術をもって丹精込めて作った航宙機にアホウドリというのは流石にいやだった。

 

『……判る奴にしかわからんよ(ボソ)』

「なんか言ったかい?」

『いや……ともかく、コイツは今までの航宙機から一線を画く機体だ。いまの白鯨に搭載されているどの機動兵器よりも機動力・航続距離があり、まだ完成していないがブースターパックを付ければ恒星間の移動も理論上は可能となっている。そして一番の特徴はセンサーブレードからみてもわかる様に電子戦にある』

「ふーん、そんなにすごいのかい?」

 

 白鯨にもすでにVFの電子戦機が存在している。RVFと呼ばれる機体でププロネンなどの一部のエースはその機体のカスタム機を用いている。それ故に今更電子偵察機はいるのかとトスカは疑問に思ったのだ。だがそれもサナダが発した次の言葉で覆されることになる。

 

『これ一機で艦隊規模のレーダー範囲を確保し、リアルタイムでアクティブリンクできると言えば理解してもらえるか?』

 

 艦隊規模のレーダー範囲、それはこの一機で戦場を全て把握できるということにほかならない。宇宙での戦いは途轍もなく広い範囲で行われることを考えると、なるほど確かに目の前の機体は恐ろしいほどの性能を持った化け物と呼べた。

 

「………サナダ、というかマッド共。やり過ぎだ」

『褒め言葉として受け取っておくよ』

 

 マッドに不可能はない、ボールズが集めた素材を元に、今日も元気に開発だ。

 そんな言葉が脳裏をかすめた様な気がしないでもないトスカだった。

 

 

***

 

 

「はぁ、ユーリ」

「どうしたのチェルシー?食料品受け取りの書類書いた?」

「え!?あっ、ごめんなさい!すぐやるわっ!」

 

 大居住区にあるチェルシーの持ち場である食料品街では、最近そこの代表にスポットが決まりつつあるチェルシーとなんだかんだでチェルシーと仲が良いキャロが仕事に精を出していた。彼女たちの受け持つ食料品街は白鯨の中の最大の市場のような場所であり、艦内設備で生産された殆どがこの市場で買うことが出来る。

 

ちなみに今までの艦内ショップもそこに集合して配置されたので完全に食材市場と化していた。最初は食堂のお手伝いさんだったチェルシーも時がたつごとに徐々に立場を確立し、今ではタムラ総料理長と同じくらいの権限を持つ食料品管理の長としてデメテールに君臨している。

 

そしてキャロもまたちゃっかりとチェルシーの手伝いを称してナンバー2の場を獲得していた。元がネージリンス一大商社の跡取り娘であり、彼女の連れ2人により英才教育を施されていたために才能を遺憾なく発揮した結果である。さりげなく結構高い地位に入ったために彼女の連れ2人はこれまでの教育が生きたと涙を流したとか。

 

「……はぁ」

「ねぇ、ここ最近ずっと溜息ばっかじゃない?本当にどうかしたの?」

「ううん、なんでもないのよ」

「何でもなくない!なにかあるなら相談くらい乗ってあげるからそんな不景気な顔しないで!」

 

突然キャロが声を荒げたことに驚いたチェルシーは思わず「キャロ?」と彼女の方を見やる。もっとも内心はああまた一人で悩む癖を出してしまったと罪悪感を感じていた。

 

「べ、べつに友達だからとかじゃなくてね!その……あれよ!職場が暗くなるのは何となく嫌というのかしら?とにかくこのキャロ様が色々と聞いてあげるわ!」

「キャロ……うぇ~ん、ユーリがいないとさみしいよ~」

「ちょっ!抱きつかないでよ、もー!ほらハンカチ」

 

 キャロの不器用ながらも心配してくれる心づかいに感動したのかチェルシーは彼女に抱きついていた。キャロとしては相談に乗ってあげようと思った程度だったが、まさか泣かれるとは思わずたじたじだった。

 

ま、黒化しないだけマシよね、とチェルシーのもう一つの一面を知っている彼女は個性あふれる友人の背を撫でていた。ここだけで済めばいい話だったのかも知れないのだが―――

 

「……あー、キャロ嬢。薬が出来たから届けに来てたのだが?」

「え?ええ!?ミユさん!?」

「大丈夫だ。私は何も見ていない」

「なんですかその何でも許容します的な目は!?ご、誤解ですっ!チェルシーはなれてよっ!」

「ええ?なんで?」

「……ごゆっくりー」

「だから誤解だってばー!!」

 

 たまたまキャロの宇宙線への抵抗薬を持ってきたミユにチェルシーに抱きつかれているところを見られ、顔を真っ赤にして叫ぶのだった。

 

***

 

さて、着実とデメテールが戦力を整えつつある中、白鯨から見れば行方不明なユーリは何をしているかというと―――

 

「まてやごらー!」

「逃げんなこのっやろー鉱石よこせぇぇぇ!!」

「今日こそ俺達の仲間に!」

「いいえ!こっちにきてもらいますよー!」

「良いシリしてるじゃないの……や ら な い か ?」

「ヒャッハー!新鮮なにくだー!!」

「ぼくあるばいとぉぉぉ!!」

「鉱石何かしるかー!とにかくケンカケンカー!!」

 

―――待ち伏せからの追いかけっことなっていた。

 

 監獄惑星に来てから早数日。ユーリはそれなりに話題の人間となりつつあった。まずいきなり最初からノルマ分の鉱石を持ってきたということ。囚人でも慣れたヤツはノルマ分を持って来れるが慣れていない人間は石と鉱石の違いが判らないのでノルマを達成することはほぼ無いのにもかかわらず、ユーリはソレをした。

 

 そして毎回ノルマを達成。初見でノルマ達成も十分凄いというのに、連日ノルマを稼いだとなれば話題の一つにもなる。掘削を協力してやる訳ではない鉱山で一人でそこまで出来る人間は非常に少ない。大抵は徒党を組んで協力してやるからこそノルマになりそうな量を確保できるのだ。

 

 当然こんなことをすれば色んな人間から目をつけられる訳で、最初の頃絡んできた鉱石狙いの連中から仲間にして採掘量upを図る輩から、それなりに整った顔をしているユーリを見てお尻合いになりたい輩、そして騒ぎを聞きつけた戦闘狂までレパートリーは際限ないほど増えていた。

 

 そしてそう言った騒ぎをいさめる筈の監獄職員はというと―――

 

「ふ~ん、輸入ワインが値上がりすんのかぁ。エルルナーヤ35世もっと頑張れよ」

 

―――無視、というか携帯端末でネットしてヒマつぶしをして何もしようとしなかった。

 

 それでいいのか監守とがなりたいユーリであったが、ここは監獄惑星の地下深くにあるジゼルマイト鉱石採掘場。そんなところまで行政の監視がある訳ではないので監守は実にフリーダムという訳だ。人間監視の目がないと何処までも堕落するのはどの世界でも同じである。

 

 そんな訳でシツコイ野郎どもをトレインしながら今日もユーリは坑道奥へと逃げ込み、そしてまたまた採掘してしまった鉱石を引っ提げて戻って来てしまったため、待ち伏せの憂いを味わう羽目となるのであるが、

 

「まてやー!」

「まちなさーい!」

「や ら な い か?」

「ヒャッハー!」

「いい加減しつこいッスー!!我慢したよね!?俺我慢したッスよね!?殴ってもよかですかー!?」

 

 艦隊戦に白兵戦までこなす癖に変なところでビビりを出したのでケンカ出来ない彼は、目立ちたく無かったのにどうしてこうなったー、と叫びつつ坑道の奥へと消えていった。目立ちたくないなら掘らなければいいというのに……安全と飯なら飯を取った男は今日も行列を引っ提げていた。

 

 

「……リーダー、ヤツがそうです。最近荒稼ぎしているユーリとかいうガキですぜ」

「随分と良い動きしやがるな……ヒマつぶしにちょうど良さそうじゃねぇか」

「やっちまいましょうゼ!ドドゥンゴ様!」

 

 そしてまた厄介事に目をつけられるユーリの明日はどっちだ!

 

 

***

 

 

 この監獄惑星に来てからもはや日課になりつつあるジゼルマイト鉱山での労働を終えた俺は酒場へとやって来ていた。中は俺と同じように鉱石を鑑定して貰い稼いだ囚人の男客と給仕役の女囚がひしめき合っていてちょっと暑苦しい。

 

 どうも酒場にいる人間の数からしてジゼルマイト鉱山は一つだけという訳ではないようだ。まぁたった一つの鉱山に監獄の全囚人が集まるはずもない。アレは恐らくお試し鉱山というか、初心者向けというか、篩いにかける為の鉱山なのだろう。

 

 あの鉱山レベルでも働けないのなら、他はムリだから別の仕事探せという感じ。俺みたいな健康体は鉱山行き確定なのだが、実は高齢者や病気持ちとかの場合は他のもっと楽な仕事、例えば酒場の雑用的な仕事があったらしい。

 

「オラァっ!テメェ何処見てんだ!」

「うるせぇ!テメェこそ人の酒飲みやがって。」

「コイツは俺ンダ!」

「右に100だ」

「俺は左の野郎に220賭けるぜ!」

「おらおらー!やっちまえー!」

 

 まぁもっともここではしょっちゅう喧嘩があるから、あまり生きた心地はしないだろうなぁ。酒に酔うと理性失いやすいからマジ怖いし、絡まれたら常に肉体を鍛えている様な囚人に勝てるヤツは少ないだろう……ソイツが合気道でもならってなければな。

 

 とにかくまたもや発生したケンカを尻目に俺は酒場のカウンターへと足を運んでいた。マスターは俺を見るとチッと舌打ちする。いやアンタ客商売だろう?いい加減俺を見て舌打ちするのやめてくれよ。

 

 内心から湧き出る溜息が間違っても表に出ない様に、注意しつつ顔に薄く笑みを張り付けて、髪が薄くなったことを気にしているこのマスターに話しかけた。

 

 

「マスター、いつものをくれますか……ッス」

「ハッ!金は?お前のことだから大丈夫だとは思うが」

「ここは監獄。用心に越したことはない。はいマネーカード……ッス」

「どれ―――ん、たしかにあるな。ほらよ。ご注文の食材だ。あと調味料はサービスだ」

「ン~ふふ。ありがとうございますマスターさん……ッス」

「何時も定期的に購入するのはテメェくらいのもんだからな。これからも頼むぜユーリ」

 

 ラーラウス収容所に来てから随分と経ったように感じられ……るけど、実際はまだ一週間経過して無かったりする。いやはや、マスターさんと早めにうち解けておいて正解だったな。衣食住の内の食をつかさどる人だったから、険悪になってたらヤバかった。

 

 でもこれからも頼むんなら舌打ちするのやめてください、あれ地味に傷付くんだぜ。

 

「――ところでさっきからなんだ?その口調」

「いやぁ、いつまでも“~~ッス”という口調だとここじゃ舐められると最近気付きましてねぇ。頑張って口調を直そうと努力してるんでスよ」

 

 随分長いこと~~ッスというのをやっていたので骨身に滲み付いているらしい。お陰で意識して無いと無意識で~~ッスという語尾が追加されてしまう。いい加減その口調を改めないと、なんだか何時までも下っ端な感じがしていやだ。

 

 どうせ艦内業務はないんだし、収容所に投獄されたとはいえ折角できた暇な時間だ。こうやって少しずつ矯正していくのも悪くはないだろう。

 

「気持ちわりィのな。はやくどっちかにしろよ。しかも胡散臭いぞその顔」

「……暖かい忠言感謝しますよ。ソレでは失礼」

 

 やかましい、自分でも気色悪いのは判ってんだよ。だけどなんか鉱山で埃を吸い過ぎたのか咽が荒れて声色が低くなっちゃってさ。CV朴さんから素敵な低音ヴォイスのCV森川さんになる筈なのに、なんか録音した自分の声がどう聞いても子安さんでした。

 

 どうやら遅れて来た声変わりの時期と重なっていたらしい。変に丁寧な口調にしてみたのはその為だ。CV子安と言えばレザ○ド・ヴァレスやジ○イド・カーティスさんのような人を小馬鹿にする感じでしょう!異論は認める!

 

 まぁ丁寧な言葉遣いは~~ッスっていう口調を直すのに都合が良かったというのもあるんだけどね。でもまかり間違ってCV若本にならなくて良かった。ぶるぁぁぁは魅力的だけど、流石にそれはなんか、ねぇ?

 

 

 

 

 そんな訳で囚人獄舎へと向かった。囚人獄舎は監獄の牢屋みたいな場所と考えてくれればいい。もっとも星自体が収容所な所為でドアの鍵は外側では無く内側についている。獄舎とは言うが実際は寝泊まりする為のスペースなのである。

 

「今日のごはんはおかゆにしますかねぇ」

 

 粥は身体にいいんだぜぇ。決して食材がそれしか買えない訳ではなく、作り置き出来て消化吸収がよく、朝飯夕飯どちらでも食える。味があって無いから適当に具材を放り込むだけでそれなりの飯がつくれるのだー!

 

 ちなみに俺はこの獄舎でそうそうに部屋を手に入れていた。鉱山でちゃんとノルマを達成できるためチンピラっぽいヤツに目を付けられてしまったのだが、そのチンピラの内の一人がかなりしつこく鉱石よこせとちょっかいをかけてきたのだ。

 

最初は笑いながらネコ車で轢いていたのだが、しだいに耐性が付いてしまい轢いても追いかけてくる程の猛者になってしまったのだ。もっともあまりの素行の悪さに一度ブチ切れて拳と椅子で会話したところ意外と良い人だったらしく、俺は出ていくからこの部屋を使ってくれと泣きながら明け渡してくれたのだ。

 

 うんうん、最初は人の物を横から奪おうとする輩かと思ったが、ちゃんと礼儀はわきまえているではないか。アンパンマンレベルに顔が膨らんでいたことは俺は見なかったことにしておこう。ワンパンでそうなるなんて誰が解るかってんだよなー。

 

 

――――・・・・コンコンコンコンコン―――

 

 

 適当に買って来た食材をブチ切りにして粥にした物をかっこもうとした時、部屋がノックされた。いや、ノックって言うか何か硬い物を戸に連続で当てている感じ?何だろうかと戸の方を見ていると音がコンコンからガンガンに変化し、最終的にガチャッと言う音が……ガチャ?

 

「テメェがユーリだな?ドドゥンゴさまがお呼びだ。とっととついて来い」

 

 ゴメンナサイ、プライベートって言葉ご存じでしょうか?というかどうやって入ったと目で追ってみたら、ドアのかぎに突き刺さるドライバーらしき物。なるほど、ここでは鍵はあって無い様なものなのか。これからは貴重品をちゃんと肌身離さず持っておくことにしよう。

 

 そして俺は折角作った粥の皿を持ったままこわいお兄さんたちに連行されていったのだった。うわっは、まじこえ、何コイツら?ヤではじまってザで終わる任侠大好き自由業な方々?囚人服じゃなくてスーツ姿ならマフィアじゃんとか考えていると連れてかれたのは西の囚人獄舎だった。

 

 まぁドドゥンゴというヤツから呼び出されたというのだから、何で西囚人獄舎に連れて来られたのかは判る。多分よく稼ぐから上納金とか言う感じで巻き上げるか調子に乗らない様に絞めてしまおうという感じ何だろう。ほら、新人が付け上がるのはどの社会でも良く起こることじゃない?

 

 序でに見せしめも兼ねてボコボコにしてしまえばリーダ―としての威厳も保てると来たもんだ。お山の大将が考えることなんてどこも同じだよなぁ。でもなんでそんなことが言えるかって?

 

「ほう、テメェがユーリってガキか」

 

 

―――今現在ドドゥンゴと対面してるからだよ!

 

 

 目の前にはここ最近姿が見えなかったというか視界から除外していた肌が浅黒いタンクトップのヒゲ付き筋肉だるまが居ります。照明の関係なのか何か筋肉が光って見えるので俺のSAN値がドンドン低下していく。

 

神さまワタクシ何か悪いことしましたでしょうか?狭い部屋で野郎たちと仲良くいるなんて拷問です。精々が海賊を狩りまくったり、軍の手伝いと称して敵基地にあった物資を補給品にしたり、しっとと書かれたマスクを付けた男たちを撃墜しただけです。

 

 ねぇ?そんなに悪いことしてませんよね?

 

「何黙ってんだテメェ?なんか言ったらどうなんだ?」

「……いやぁすみません。ちょっと考え事をしておりました」

 

 笑みを浮かべる様に心がけながら声を出す。回りにはメンチ切って睨みまくるお兄さんで一杯なのだから、なるべく相手を刺激しないほうがいい。そして逃走経路を確認するのだ。鍵を掛けていないのは入った時に確認済みである。

 

ふむ、この部屋は一般的囚人獄舎の部屋と違いやや大きめ、窓があるが鉄格子付きで後は入ってきたときの扉だけある。そこには二人ほどドドゥンゴ配下の囚人がもんペイの様に立ち、こっちを睨みつけているようだ。視線が痛いぜ。

 

「――でまぁ、んなわけで俺の傘下に入ってもらうぞと、異論はねぇな?」

「……え?」

「お前!リーダーが説明してたのを聞きながしやがったな!」

 

 やば、考えててマジで聞いて無かった。そのことに気が付いた筋肉だるまの配下の一人が俺の襟首を持って締め上げようとしてくる。いや、全然苦しくないんですけどね。形だけでも苦しんでおかないと色々と逆上させそうだぜ。そして、ああ粥を落してしまった。持ったいねぇなぁ。

 

「うぐっ、すみません。これでもいきなりリーダーの前に出されて緊張しておりました」

「テメェ……」

「おい、止めろ」

「しかしリーダー!」

「緊張してる何ざ可愛いじゃねぇか。それくらいで一々目くじら立ててんじゃねぇよ」

「流石はリーダー、なんて慈悲深い……命拾いしたなお前」

「ええ、本当ですねぇ」

 

 何が慈悲だよなぁ。本当に慈悲深いんだった俺を巻き込むんじゃねぇよ。と心の中で叫ぶがチキンなのでここでは言わない。内心は何時ドスとかナイフとか出されるんじゃないかって凄まじくこわいんだけどね!大分鍛えたから刺されない限りは大丈夫だと思いたい今日この頃である。

 

 まぁそれはさて置き、彼らの要望をもう一度よく聞いたところ、こんなだった。

 

・ドドゥンゴ様は所長と交流がある

・ドドゥンゴ様の配下に加われ

・ドドゥンゴ様に忠誠を誓え

・ドドゥンゴ様の為に働け

・ドドゥンゴ様の為に上納金をもってこい、やり方は任せる

 

 はい、テンプレありがとうございます。

 どうもこうも簡単な話で手下になれっていう話である。なんだかんだで稼げる能力を持ち、日々鉱石を狙う輩や小規模ではあるがドドゥンゴとは違う陣営の勧誘をことごとく退けている俺を配下にすればより強固な支配体制を敷けるという訳だ。

 

 他の星団国家ではありえない非常に野蛮かつ野性的な方法だが、基本的に弱肉強食のこの惑星ラーラウスでは非常に有効な手段である。力の強い者が同じく力の強い者を配下に加えるというだけで、その力を誇示する事が可能となるのだから。

 

 つまり、俺は目立ち過ぎたということなのだろう。ああもう、まだフネの場所すら特定してないのに!この星のすべてを見張っている管理棟の地下の何処かにあることは判っていたんだが、まだ来たばっかりなので明確な場所が全然わからんのだ。

 

 いやね?俺だって何時までもこの星にいるつもりはないし、脱出の手段くらい探しますよ?だけど管理棟って実は小さな要塞なみの設備を持ってるらしくて、下手に近づこうとすると、セントリーガンやら色んな倫理的に問題がある兵器で撃たれるんだ。

 

 潜入するには準備がいる。少なくても金はかなり必要だろう。幸いここで貰えた通過は一応銀河圏共通通貨というかマネーデータなので、賄賂やら技能持ち囚人を雇う分には問題は無い筈である。

 

 話が逸れてしまったが、つまり目の前の筋肉だるまは俺に隷属を誓えと迫っている訳だ。そう隷属。確かに俺はビビりだし、相手が格下でもない限り生身で殴り合いをするほどの度胸はないが、これだけは言える。

 

 俺は0Gだ。誇り高き宇宙の航海者だ。宇宙征服でも考えている帝国の帝王ならいざ知らず(あ、シディアス卿は勘弁な)こんなお山の大将で満足している筋肉しか取りえの無さそうな脳みそ筋肉男の配下につく気など一切ない!

 

 それを知ってか知らずか、目の前の筋肉男は実に俺って尊大だろと言わんばかりのことを述べ、おべっかをいう部下の言葉を真に受けて気分を良くしたのかドヤ顔でふんぞり返っていた。所詮はお山の大将、この程度で満足ってワケか。

 

「返答は?」

「―――配下に入ったとして、特典はなにかあるのですか?」

「テメェ口のきき方に気をつけろッ!」

「おや、これはおかしいなことを言いますね。此方はまだリーダーの配下ではありません。一応の礼節は弁えても、それ以上に取り繕う必要は此方にはない」

「ヤロォ……舐めてんのかぁぁっ!」

 

 ドゴン、とすぐ近くにあった椅子が吹き飛んでいく。切れた筋肉だるまの手下が蹴り飛ばしたようだ。思ったんだけど、それ備品じゃねぇの?筋肉だるまの。とにかく0Gを名乗っていた以上誇りはあるので配下になることはお断りだった。

 

 こう言うのはキチンと相手の方を向いて自分の意思を伝えなきゃいけない。相手の空気に呑まれるな!伝えないことを伝えないとこのまま恐怖に屈して配下にされてしまうぞ!負けるなユーリ!今こそ立ちあがるのだっ!

 

そして俺はこの件を断る為に口を開こうと立ちあがろうとして―――足元に落していた粥を踏んずけてバランスを崩しいていた。あひょっ!?と奇声を上げた俺は悪くないだろう。バナナの皮ほどではないが急激な重点移動でバランスを崩した俺はバランスを取ろうと両手を広げようと動かした。

 

「俯いてんじゃ―――ガッ!!!」

 

 その途端右手の甲にパカンという音と共に軽い衝撃が走る。そして誰かがドサリと崩れ落ちる音が聞こえた。エッ?と思いバランスをとって前を見れば、壁際に何故か寄りかかるようにして白眼をむいている男が1人。さっき椅子を蹴りあげ俺に怒鳴っていた男だ。何があった?!

 

「……小僧、それがお前の答えか?」

 

 そして筋肉だるまがギラギラとした目で俺を見ている。それは配下が倒されたことにたいする怒り――ではなく、どちらかというと玩具を見つけたクソガキのそれ。そう、ドドゥンゴさんは人を殴ることが大好きな戦闘狂だったんだよ!

 

 どうやらバランスを崩した際に偶々突き出した手が、此方に詰めよって来ていた配下の男の顎のクリーンヒットしてしまったらしい。よ、よかった~気絶だけで済んで……最近岩も素手で壊せることが判明した俺の筋力だと、下手したらスプラッタになってたぞ!?嫌だぞ?!無駄に目が良いから飛び散る脳みそ見えるとか?!

 

「―――……ええ、アナタの配下に加わる気は毛頭ない。何故なら私は0Gドッグだからです」

「……馬鹿な野郎だぜ。出る杭は引っこ抜かれるって知ってっか?」

 

 思わずガクッとなる、なんだその格言?打たれるんじゃなくて抜かれるの?再利用は無くて諦めるの前提?こんな言葉あったか!?誰の言葉だオイッ!

 

「ドドゥンゴ様、それいうなら出る杭は打たれるですよ」

「お、俺の故郷じゃこう言うんだよっ!それよりもテメェら!判ってるな!」

「「「応っ」」」

 

 不味い、思わず力が抜けた所為で逃げる暇を失ってしまった。俺は慌てて壁を背にするために部屋の壁際へと移動する。背中さえ取られなければ一対多で負けることはすくないというケンカ指針を忠実に実行する。

 

「オラァっ!」

 

 そして考えなしが1人突っ込んできた。獲物を持つこともなく素手で大ぶりなパンチを放とうとしていたのを見た途端。そのあまりの隙の多さに思わず胴体ががら空きだと言いつつ軽~く叩いた。途端、相手はグハァっと叫んでひざから崩れ落ちる。大げさな。

 

 残りの二人は瞬殺された仲間を見て驚いていたが、二人掛りなら倒せるとでも思ったのか同時に攻撃を俺に加えようとしてきた。ウチ一人はどこで手に入れたのか、こん棒らしきものを振りかざしているのを見て卑怯だぁぁと叫びたいのを我慢する。

 

 素手で殴りかかってきたヤツの腕を掴んで拘束し、こん棒を持つヤツの方へそいつを向けて、押し出すように蹴った。するとどうだろう。俺は初めて成人男性二人分が素晴らしき直線を描きながら飛んでいくという光景を見た。

 

 そしてそのまま吹き飛ばした二人は壁にどどど~ん。たぶん死んでいない、いやうめき声は聞こえるので一応生きているんだろう。大分手加減したのだから。手加減難しいよ。

 

「ほう、俺の配下でもそれなりに強い連中を瞬殺か。面白ぇな」

「……こっちは全然面白くなんてありませんがね」

「ふん、だがどちらにしろテメェの負けだ。この部屋の外には手下が一杯だ。逃げられはしねぇぞ?」

「………」

「それに―――こんな面白いヤツをそのままで返すかよっ!」

 

 そしてこれまで見ているだけだったドドゥンゴが、血気盛んに此方へと駆けてくるのが見えた。キュッと身を占めて両手を身体の前に構えるスタイル。拳闘のスタイルから放たれるパンチはかなり早い。この世界に来た頃の俺には到底見えない早さだ。

 

「とうっ!」

「ぐっ!受けとめるとはやるなっ!」

 

 だが俺はそれを腕をクロスさせて防いでいた。なるほど、確かにこれだけの力強さと正確で早いパンチ力があれば、只のチンピラ程度なら余裕で勝てて当然だ。だが残念だったな。俺は普通のチンピラとは訳が違うぜ。

 

「フフフ、フワァッハハハハッ!今ので全力でスか!」

「ンな訳ねぇだろうがっ!オラオラオラオラオラ―――ッ!!」

「ふん、無駄無駄無駄無駄無駄無駄――――ッ!!」

 

 伊達に暇な時重力何倍もの部屋で過ごし、保安部員に混じって汗を流し、ケセイヤさん特製の武術訓練マシーンCQCくんと組み手をしていた訳ではない。今の俺にとって閉じられた世界のお山の大将であった筋肉だるまの攻撃など余裕で見切れる!

 

 ドドゥンゴが放つストレート、ジャブ、フックに至るまですべてを防いでかわしていく。重力何倍もの部屋で過ごした身体は息一つ乱すことなく動き続けた。やがて筋肉だるまの動きが鈍くなっているのを感じた俺も攻撃に転じる。

 

「浸透勁(嘘)」

「なぬうっ!?ぐおぁっ!!」

 

 ドドゥンゴの腹に手を当て、押し出した。途端ズドンという人間が出す音じゃない音が聞こえたかと思うとドドゥンゴがたたらを踏んだ。うへぇ、筋肉硬ぇ。手加減はしてたけど絶対吹き飛ぶと思ったのに普通に腹筋に力入れられただけで防いでやがる。

 

 でもダメージは入っているらしく、腹のところを抑えているドドゥンゴ。よし今の内なら逃げられると思い、俺はドドゥンゴを無視してドアを目指して駆けだした。何もここで戦う必要なんてないんだぜー!外にさえ出れば逃げ回ればいいんだもんねー!

 

「――……なっ」

「残念だったな。さっき言っただろう?外に部下がいると」

 

 だが現実は非常であった。ドア開けたはいいが、ぞろぞろと一杯いるのが見えたので慌ててドアを閉めて鍵を掛けていた。正直一瞬だったので何人いたのか判らないが数十人はかたい。もしかしたらもっといたかも知れないがそれだけ多いと流石に不味いと感じた。

 

「くくく、形勢逆転だな。鍵かけたところですぐに入ってくるぞ?」

「っ、複数で取り囲んでボコ殴り。もう少し華麗さはないのか」

「しらねぇ~なぁ。勝てば将軍って言葉があんだよ」

「……勝てば官軍だと思うんですが」

「んで、いい加減諦めろや?俺+武装した連中相手で勝てると思うか?」

 

 スルーかよ。変に間違っている諺の所為で余計にやる気が落ちてきた。ハッ、まさかドドゥンゴはこうやって変な諺を使って相手のやる気をそいで倒してくのか!?だとしたら筋肉だるま、恐ろしい子ッ!

 

 一瞬目が白目になる感じで戦慄を覚えたが、このままじゃ不味い。殆どが素手なら問題無いが、一瞬見た時に来ていた奴らはなんか世紀末な装いに鈍器で武装していた。クッ!このままでは容赦なく武器を持った奴らになぶり殺しにされちまうッ!

 

 

 

―――なんていうとでも思ったのか?

 

 

 

「ふむ、たしかにこのままでは不利ですね」

「だろう?それじゃ大人しく死んどけ」

 

 相当頭に血が上ったのか、ゆでたタコのようにお怒りのドドゥンゴが再び突進してきた。これまでので闘争本能に火をつけてしまったのか攻撃にキレがある。どれもこれも急所狙いで頬を掠った途端ぬるっとした感触を感じた。

 

 うそん、素手で傷を付けるって何処の漫画ですかー。

 

「クッ、よくもこの私に傷をつけてくれましたね。許さん、許さんぞ!じわじわとなぶり殺しにしてくれるわぁッ!」

「面白ぇっ!ぜひやって見やがれ!」

 

 頬が切れたことに驚いて、思わずフリーザ様が降臨しちまったじゃねぇか。ああもう!とにかく一々相手するの面倒クセェんだよ!飯だって食いたいし、この星を脱出する手立てを考えたいのに―――もう面倒臭いし逃げるか。

 

 頑張ったよね?俺かなり我慢したし、手加減して殺しもしなかったんだ。もう、ゴールしても、良いよね?

 

「―――というわけで、折角だから私は落ちているこのこん棒を使うぜ」

「なにぃぃぃっ!なにがという訳だ!ひ、卑怯だぞ!」

「複数人で取り囲んで襲って来たあなたに言われたくないわっ!喰らえ!ゴルディオン・ハンマー!」

「どう見てもハンマーじゃねぇぇぇぇ!!つかゴルディオンってなんだぁぁぁぁ!!」

 

 いやぁ、やっぱ武器持った方が楽だわ。スークリフブレードの方が慣れてたけど、この際棒状ならなんでも良かった俺は、最初に倒したモブが落としたこん棒を拾いドドゥンゴを圧倒する。武器があるとね、精神的安心感が段違いなので落ち着いて手加減が出来た。

 

 とりあえずすぐには起き上がれないくらいにぼこった直後、ドアがぶち破られてドドゥンゴの配下が突入してきた。窓には合金製の鉄格子があるのでそこからは逃げられない。だが、別に逃げ道はこの二つだけとは限らないのだ。第三の逃走経路が無いというのなら……。

 

「はぁぁぁぁっ!吶喊ッ!!」

≪ドッゴーーーーンッ!!!!≫

 

 逃げ道を増やせばいい。俺は手に持った鈍器でさっきの戦いの中セーブしていた力を思いっきり吐き出すかのように全力で壁を殴りつけた。常人離れした筋力は老朽化した囚人獄舎の壁何ぞいとも簡単に破壊してくれたため、人が通れるほどの穴を作ることに成功した。

 

 その光景にあっけに取られている筋肉だるまの部下を尻目に――――

 

「さらばです明智く~ん!」

「…ぐっ、追え追えェェェェェ!あの小僧をブチ殺せェェェェ!!!」

「「「「「うぉぉぉぉ!!」」」」」×沢山

 

―――その場から離脱して、東囚人獄舎まで逃げ切ったのだった。

 

 東囚人獄舎は筋肉だるまが支配する西囚人獄舎とは違い、ドドゥンゴとは対立関係にある派閥の人間が多くいるので、流石に旗印だったドドゥンゴがいない配下の下っ端どもは西囚人獄舎にまで追い掛けてくることは無かった。

 

 正確には追っかけて来たのだが、それを見た西囚人獄舎の囚人がついにドドゥンゴが此方に攻めてきたという勘違いを発揮し、普段ばらばらな派閥同士が徒党を組んで筋肉だるまの配下達を攻撃したのである。

 

 その所為で今度は東囚人獄舎に残っていたドドゥンゴ配下の下っ端達が全員参戦し、自分以外全員敵と言った感じの乱闘に発展してしまった。流石の事態に管理棟にいた監守が武装してこれを鎮圧するという状態にまで発展。

 

 メーザーブラスターのパラライザーモードで容赦なく気絶させられていく囚人たちを、俺は参戦しなかった他の囚人に混じり眺めていた。乱闘が起きたお陰でさりげなく西囚人獄舎の中に逃げ込めたのである。いやはや、それにしても本当に大変だった。

 

まさか乱闘が鎮圧された直後に管理棟から所長まで出張ってくるとは思わなかったぜ。その所長は何か途轍もない下種って感じの顔してたので、嫌な予感がした俺は、所長が到着した時にすぐさま自分の部屋に戻っていた。案の定、何を考えたのかその所長は観戦していた囚人まで捕縛しろと叫び、その後は阿鼻叫喚の事態に発展してしまった。

 

 

 

後日知った話なんだが、どうやら監守側でも囚人たちの中にいくつも派閥があるのは把握していたらしく、ドドゥンゴの派閥に肩入れし、派閥を一つにまとめることで囚人の反乱がおきることを阻止しようと模索していたようだ。

 

だが今回まさかの派閥同士が乱闘を介したことを聞いた所長はこの際だから派閥の代表人物を全員とっ捕まえて派閥を全て消し去ることにしたらしい。あの時観戦していた囚人まで捕まえたのは、派閥の幹部にあたる連中が高みの見物をしている可能性があったからだそうだ。

 

この事件の所為で、東西の両方の獄舎はしばらくの間とても静かになったのは言うまでもない。もっとも元が犯罪者の集まりである監獄なため、すぐに別の派閥が台頭していくのであるが、一度乱された波紋はすぐに消えることはなく、しばらくは小規模な派閥しか出来ないだろう。

 

かくして、別に意図した訳じゃないんだが、結果的に派閥の現象を起した所長と繋がりのあるドドゥンゴの派閥が大きくなり、より大きな顔をするようになってしまった。お陰で出かける度に因縁をつけられるので常に周りに集中しなければならなくなった。最近眉間にしわが寄って戻らなくなってきたので、泣きそうな俺だった。

 

 

 

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 囚人編5~7

Side三人称

 

 

 ■監獄惑星エーテルナ・宙域監視室■

 

「ふ~んふんふんフフフ~ン」

 

 宙域監視室、そこは監獄惑星に近づくフネを逐一監視する部屋である。とはいえ監獄惑星に近づく馬鹿なんてそれ程多くないので、今日も今日とて監獄惑星に物資を運びこむ輸送船以外、レーダーに映ることはない。

 

 監視室務めのレーダー手は今日も鼻歌を歌っていれば業務が終わるだろうと考え、売店で何買おうか脳内リストを組み上げていた。ああそう言えば今度の補給で酒が入るだろう。良し、ハリレイク星のスルメを片手に一人で宴会だ。

 

―――……ジ…ジジ……

「うん?」

 

 そんなことを考えていた彼だったが、突然レーダー画面がぶれたことに気が付き、慣れた手つきでコンソールを操りシステムチェックを行い恒星フレア情報を呼びだした。データ上では、今日は晴れ(太陽風フレアは発生しない)システムの故障もない。

 

「どうした?」

「いや、なんだろう?機械の故障か?」

 

 機械の不調は古い機材を使っているからかよく起こる。バンバンと斜め45度で画面を打ちすえると画像が元に戻った為、レーダー手は良し直ったと考え再び物思いにふける。それが彼らの日常であった。

 

 だがもし、この時レーダー手がレーダー画面をキチンと見ていたのなら見えた筈だ。移る筈のないとても小さな陰が、レーダーに写っていたということを。

 

 

監獄惑星エーテルナ・周辺宙域

 

「――……ECMポッド散布完了。ジャマー正常に作動」

 

 僅かなデブリが浮かぶちょうど惑星を挟んで恒星から反対側の陰ゾーンに単機で展開した超高速戦術偵察航宙機、通称スーパーシルフが一つのデブリに寄り添うようにして浮かんでいた。

 

センサーブレードを展開した本機は僅かな電子音を発しながらただ静かにそこにある。だがヒトの眼には映らない電子の世界において、本機はタダの電子戦機を遥かに超える処理速度で監獄惑星に浮かぶ監視衛星のデータリンクを掌握していた。

 

当初は監獄惑星と聞かされていた為、厳重な監視システムが張り巡らされていると思っていた複座機のコパイ(副操縦士)は、あまりにも簡単すぎることに感嘆の息を漏らす。

 

「なんとも、緩みきっているな。」

「楽が出来ていい。コイツもそう言っている」

 

すでに8割方掌握したスーパーシルフはその役目を潜入と監視から欺瞞情報散布へと切り替えていた。これにより次の定時連絡までの2日間、エーテルナは宇宙の孤島と化す。たかだか監獄惑星に対しては異常なことである。

 

だが例え異常と言われても、彼らにはやらねばならぬことだった。

 

「全衛星システム掌握完了」

「了解――こちら特殊戦2番機、敵電子システムの掌握完了」

『此方でも確認した。これよりトランプ隊を発進させる。貴機は彼らと合流しつつ戦術偵察と電子データ収集を行え』

「2番機了解。移動を開始する」

 

 そう言うと機長は通信を切った。そして機器を操作して、これまで最低限の電力しか動いていなかった機体に灯を入れた。

 

「――ん?」

「どうした」

「どうやら奴さんらようやく気が付いたらしい。APか…いやこれはまだシステム走査か…奪われたシステムにどうにか侵入しようとしている」

「防壁展開、サブストラクチャ起動」

「了解、敵アンダーデコイにシフト、デコイに切り替える」

 

 スーパーシルフの電子機器が薄く発光しシステムが活性化する。己が異界の地で構築した砦を奪い返そうと躍起なる相手を電子の海の中で圧倒していく。ついにはウィルス爆弾で初期化を図ったが、ウィルス送信前にシステムのオーバーロードを起させたシルフにより初期化が失敗した。

 

「敵さん大慌てだ」

 

 副操縦士は躍起なってアタックをしかけてくる監獄惑星からの電子攻撃を面白そうに笑う。電子戦に特化した妖精の機体はその尋常ではない処理速度で文字通り相手の走査を煙に巻いていた。システムが掌握されていることに気が付いた監獄惑星から救難信号が発信されるが、それらはすべて事前に散布したECMポッドで拡散され近隣星系まで届くことはない。

 

 スーパーシルフは速度を上げ、VB-6TC(兵員輸送型VB)と新鋭機VF-11を引き連れた隊長機のRVF-0 Sw/Ghostフェニキアの元へと合流した。他の宙域に展開していた他のスーパーシルフもあつまり、全機欠けていないことが判ったところでトランプ隊はエーテルナへと機首を向けた。

 

『白鯨所属の各機に次ぐ、エーテルナへの降下作戦を開始せよ。全火器使用自由』

 

 ププロネンから全編隊へのGOサインが出る。それを合図に次々と各編隊が一糸乱れずにエーテルナを目指し加速していく。スーパーシルフを駆る特殊戦闘偵察隊もそれに追従しつつ、監獄のシステムが奪い返されないようにセンサーブレードを全開にしたままトランプ隊の後に付いた。

 

―――それから少しして先発の部隊が監獄惑星の武装衛星と接触する。

 

「おっぱじめやがった」

 

 前席の操縦士がエーテルナ方面を見つめつつそう漏らした。後席の副操縦士の男も狭いコックピットの中で器用に首を動かすとエーテルナの方を見据える。監獄惑星はまだビー玉サイズだというのに、そこで開かれた戦端は彼らの居るところからでもハッキリと視認出来た。

 

ミサイルが火球となってあたりを照らし、凝集光が敵を焼きながら空間を埋め尽くす。特殊戦によりシステムのアクティブリンクが切られた状態にあった武装衛星は、事前の手順に従い防衛線を突破した機体目掛けてレーザーを照射。旧式ながらも艦船を撃沈せしめる威力があるレーザーだったが、小型で俊敏なVF達を捕らえることはできない。

 

VFたちはレーザー発射の傾向を捉えると、各機が各々の判断で一斉に散開。乱数加速をとりつつジグザグに飛び込んでいく航宙機に対し、武装衛星は手順通りミサイルによる飽和攻撃を開始する。武装衛星から切り離された大型コンテナが自律巡航し、VF隊のすぐ目の前で炸裂。視界いっぱいに大量の子弾ミサイルをばらまいた。

 

VF隊であっても飽和攻撃はかわせないと判断した機から減速していく。だがその中で最古参の傭兵部隊トランプ隊は一気にミサイルの群目掛けて加速していった。ミサイルのセンサーが加速したトランプ隊を最脅威と判断し、一斉にそちらに目掛けてミサイルが押し寄せていく。

 

 命中まで後十秒、減速も回避も間に合わない位置にトランプ隊は進出していた。だがトランプ隊は全く動揺せず、全機一斉に戦闘機形態から人型機動兵器形態へと瞬時に変形。その直後殺到するミサイルへと大量の弾丸とレーザーとマイクロミサイルが発射された。

 

 殺到した所為で密集していたミサイルはその攻撃で一斉に誘爆。宇宙に咲いた火球の中をトランプ隊は減速することなく潜り抜けていく。操作を一瞬でも間違えばたちまち火球の仲間入りだというのに、その機動に迷いは一切なくむしろ魚の群と戯れて楽しんでいるかのように感じられた。

 

 一機も欠けることなくトランプ隊がミサイルの群を突破した後には、誘爆を免れたがセンサーがいかれて迷走する弾頭のみ残される。それを後続にVF-11たちが排除しながらVB-6TCの為に道を作り上げていく。その動きは精練された機械ではなく、生き物のように有機的な動き。部隊全体が一つの生物として動いていた。

 

そんな彼らの後を追う様にして、武装の少ないスーパーシルフ達がその様子を遠距離からカメラで捉え続ける。情報の収集が彼らの仕事だった。

 

「ヒュ~、流石はエース部隊。カスタム機を許されているだけはある」

「――第一陣が大気圏に入った。自律タイプ武装衛星は約8割破壊完了。俺達も監視の為に移動を開始する」

「了解(コピー)……上手く回収できるといいな」

「やってやるさ。その為のシルフだ」

「上等――行こうぜ!」

 

 そして交戦を記録し続けたスーパーシルフ達もエーテルナ衛星軌道上に展開し、そこから強力なECMにより監獄惑星メインシステムをクラッキング。完全にシステムを乗っ取られ囚人データを奪われたエーテルナ囚人管理棟は降下してくるVFやVBを見上げることしかできなかった。

 

 監獄惑星エーテルナはトランプ隊到達後、僅か2時間で完全制圧された。彼らは監獄所長へ収監されていた一部の囚人の引き渡しを要求。元より戦う力など殆ど無い監獄惑星収容所は要求に応じ、指定された囚人をVB-6TCに乗せて黙って彼らを見送ることになった。

 

 監獄惑星側の被害は全システムダウンと通信網の破壊及び自律した武装衛星の全破壊。それとこの混乱に応じた一部囚人の暴動などにより、監守数名が怪我を負うが幸いなことに死者は出なかった。暴動は定時連絡が途絶えてから3日後に派遣された救援艦隊が到着するまで続いたが、所長が管理棟のシステムを最優先で復旧させたことで被害を抑えることに成功する。

 

この監獄惑星を襲撃した集団は当時監獄惑星に務めていた所員が趣味で持っていた光学式カメラにより密かに記録されており、救援艦隊がそのデータを持ちかえったことで襲撃犯の正体が明らかとなった。襲撃者は指名手配中の白鯨艦隊。理由は襲撃者の使用した機体及び彼らが要求した囚人は、捕らえられていた彼らの仲間だったからである。

 

それによりエンデミオンにある全監獄惑星の警戒態勢の引き上げが行われる。かくして小マゼランでは海賊狩りの英雄だった白鯨艦隊はタダの指名手配から一転。監獄惑星襲撃を行った“海賊”として大マゼラン銀河へと指名手配されていくことになった。

 

―――そんな中でも、銀河の煌めきはただ光を放つだけだった。

 

 

***

 

 監獄惑星ラーラウス・管理棟所長室

 

「―――乱闘騒ぎでの負傷者は囚人側で698名、その内乱闘の原因となった派閥の代表者は26名で全員拘束し、所長の指示通りに全員ばらばらに惑星上の収容所に分散させておきました」

 

 部下が読み上げる報告を興味が無さそうに気だるげに聞く男。その男はこの惑星ラーラウスにおいて一番の権力者である所長である。名をドエムバン・ゲス。かつてユーリ達がカルバライヤの保安局と協力し捕縛した元監獄惑星ザクロウ所長の弟である。

 

「――……で、何人が“手紙”を出したんだ?」

「はい、26名中半分の8名です。合計はそちらに―――」

 

 そう言って渡された書類を見たドエムバンはニヤリと嫌らしく笑う。書類にはいくつもの0が付いた数字が羅列されている。それは手紙に同封されたマネーカードデータの総額であり、それがかなりの金額であったため思わず笑みが漏れたのである。

 

そう、手紙とは所長あての賄賂のような物であり、長年ラーラウスにいる囚人なら誰しも知っている問題解決の手段であった。

 

「しかし、あのクソ野郎はつかまらないか……」

「はっ?」

「ンん、なんでもない。もう帰って良いぞ」

「わかりました」

 

 部下が出ていくと、ドエムバンはフンと息を吐き行儀悪く両足を机に投げ出した。

 

「――……獄舎全体を巻き込んだ派閥闘争でも起これば、この機に乗じて色々するかと思っていたが……あのクソ野郎は頭のできが以外と良いみたいだな」

 

 そう言って机の上に乗せていた足を退ける。足の下には一枚の書類が置かれており、どうやら囚人のプロフィールのような物らしい。

 

「……兄貴を嵌めたテメェは、絶対ここから生かして出ていかせやシネェ」

 

―――そして書類に記された写真、そこには新人囚人ユーリの名が記されていた。

 

彼の名はドエムバン、監獄惑星ラーラウスの所長、そしてユーリ達の活躍によって逮捕された監獄惑星ザクロウ所長ドエスバンの弟。兄を失脚させたユーリを目のかたきにして痛い目にあわせたいと願う男だった。 

 

「所長ッ!」

「うおっ!?なんだいきなり暴動でも起きたか!?」

 

 突然入ってきた所員に怒りを覚え怒鳴りつけようとするドエムバン。

 

「そ、それが、本土からこんな通信が!」

「あん?どれどれ―――」

 

 だが、それも所員が持ってきた通信内容により、意気消沈した。通信の内容は監獄惑星エーテルナが襲撃を受けたということ。これにより一部の“特別(アドホック)”な囚人が脱獄したため各監獄惑星は警戒レベルを上げ警戒を厳にせよという本国からのお達しであった。

 

「ふ、ふざけやがってェェェェェェェェェェッ!!!!!」

 

 突然の事態にドエムバンはわなわな震えながら通信文書を破り捨ていら立ちを隠さずに雄叫びのような声で怒鳴り散らした。通信文をもってきた所員が怯えた目で彼を見ているがそんなことはお構いなしだ。

 

彼はただ気にくわなかっただけだ。捕まっているのに諦めもしない下賤な0Gドックがうろちょろしているということに我慢がならなかった。すこしして切れた息を整えてから彼は口を開いた。

 

「――……コイツを知っているヤツは?」

「えと、私と通信室の人間だけです」

 

 その答えにドエムバンは二重あごのたるんだ肉をつまみながら思考する仕草をとる。

 

「緘口令だ」

「……は?」

「だから緘口令だ。この通信文の内容は絶対に漏らすな。漏らしたら給料は9割カットだと思え。警戒レベルの上昇は……あー、警戒週間とでも名打っとけ。判ったな!」

「は、はいー!!」

 

 ドエムバンがこの警告文を発表しなかったのには訳があった。ここで下手に本国に救援を頼んだりすれば、それが逆に敵を呼び寄せる結果を生んでしまうと彼は考えたのだ。なのでこの件に関して過剰な反応を取らず、あくまで平常を装い時間を稼ぐという道を彼は選択する。

 

 どうせ相手は一介の0Gなのだ。それも文化的にも技術的にも遅れていた小マゼラン出の。だから本国がキチンと警戒すればいずれすぐに追いつめられる。俗物でしかない彼はそう考えて、再びこの襲撃者の親玉であった男をどう料理してやろうかということに思考を埋没させていった。

 

 もっとも後日何故か保管せよと本国から通達され受け渡されたフネが自分が目の敵にしていたヤツが乗っていたフネだということを知り、少しあわてたのは余談であった。

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 

■第801坑道■

 

「う~、鉱石鉱石~」

 

 いま鉱石を求めて全力疾走している俺は、何故か収監されているごく一般の0Gドック。しいて違うところをあげるとすれば、艦隊の艦長をしていたってとこかな~。名前はユーリ。そんな訳でつるはし片手に鉱山へとやってきたのだ。

 

 ふと、坑道を覗くと、掘り出したであろう鉱石の上に一人の若い男がすわっていた。

 

―――ゆらり ゆらり 揺れている 漢(おとこ)心ピーンチ☆

―――かなり かなり ヤバイのさ 助けてダーリン くらくらりん 

 

 ウホッ、良い鉱石!

そう思っていると、突然その上に乗っていた男は、俺の見ている目の前でツナギのホックをはずし始めたのだ!

 

 

―――何もかもが 新しい 世界に来ちゃったZE☆

―――たくさんの ドキドキ☆ 乗り越え 踏み越え イクぞ☆ 

 

「や ら な い か?」

「無理です」

 

 ゆーりは そくとうして まわれみぎを した

 ざんねん まわり こまれて しまった !

 

「付いてこないでください!」

「そんなことよりコイツを見てくれ。コイツをどう思う?」

 

 彼はおもむろに下を指差した。

 

「すごく……大きいです(ジゼルマイト鉱石が)」

「そうか、ならとことん楽しませてやるからな!」

「断固お断りですッ!来るな!来るんじゃないっ!」

「良いこと考えた。おまえそこに一度とまれ」

「断固お断りですッ!とまったらどうなるか!(ナニされるか!)」

「おいおい、どれもこれも断られちゃ俺の立つ瀬がないじゃないか」

「しーましぇ……とにかく付いてくるなッ!」

 

 何故だろう。彼を見ていると括約筋がキュッとなる。主に食われる的な意味で。

 

「くっ!何故だ!隙だらけなのに近寄ったら危険だと勘が警鐘を!」

「俺は何時でもOKだぜ?もっと楽しめよ?それにあいつ等もお待ちかねだ」 

「遅かったじゃないか……」

「手こずっているようだな……尻を貸そう」

「ノーマルなのか、アブノーマルなのか。話はソレからだ」

 

 ダニィ!?なんか増えたぞぉぉぉぉぉっ!!!

 

「クッ!仲間を呼び寄せただと!?た、退避を―――」

「このままでは逃げられてしまうな」

「ああ、だが問題はあるまいゲドよ。既に私はターゲットを捕獲している」

 

 か、身体に縄が、何時の間にっ!?

 

「すべては私のシナリオ通り……残るは肉○ハメハメだ」

「すばらしい。私の目に狂いはなかったようだ……準備は良いか?」

「こちらはお尻の括約は効いている」

「イイぞっ、纏めてハメるには最適だ」

「よし、全員心行くまで楽しませてやるからな!」

「や、やめろ……そんなモノだしてくるんじゃない!止めッ」

 

Σ(゚Д゚;≡;゚д゚)<ナ、ナニヲスルダーー!!

 

「夜は長いぜ……相棒」

「折れるなよ♡」

 

アッ――――!!!!

 

………………………

…………………

……………

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁっぁああああ!!!!――あれ?」

 

 最悪な目覚めだった。途轍もなく恐ろしい夢を見ていた気がする。だがそれを思い出したらヤバいと本能的に理解した俺は、さっさと忘れることにした。一応尻をさすってみた。大丈夫俺はまだ処女だ。

 

 俺はそのまま立ち上がると時計を見た。ふむ、まだ朝にもなっていない時間帯か……“上から”の定期便はまだ先だから今の内に飯を食ってしまおう。そう考えて買い込んだ日持ちのするレトルトを置かずに乾パンを胃に放り込んだ。

 

 あのドドゥンゴ一味と戦いの後、俺は鉱山へと逃げ込んでいた。ゴタゴタが起きることは簡単に想像がついたので、巻き込まれるのを嫌った俺は必要な時以外に上に出ないことを決め、地下の休憩スペースにて寝泊まりしていた。

 

持ちこんだ食料はその時に買えるだけ買った日持ちする食糧を、いまだ大事に食べているので後数日は持つ。全然買い物をしなくなったため掘り出した鉱石を換金したマネーが溜まる一方だが、ないよりかは良いだろう。

 

なにせ上だと綺麗な水を飲むには自販機か酒場で買う必要があったからな。飲む量を最低限にしていてもそれなりに金が掛っちまう。だが地下の休憩室は恩赦なのか水だけは飲み放題と来れば、案外地下生活も悪くないと思ってしまう。

 

「まぁ、それでも天気とかないと気が狂いそうだが……」

 

 見上げても見えるのは大きな岩盤ばかり、ああ無常とはこの事か。とにかく嘆いても始まらないので俺はつるはしを何本かと、愛用の大槌とスコップとバケツをネコ車に放り込んで他の囚人が降りてくる前に坑道の奥へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「一つつんでは母の為~…どっせい!」

≪ズガーンッ!≫

「二つ積んでは……なんだっけーっ!」

≪ズドーンッ!≫

「三つ、この世の悪を倒してあげよう……これちが~う!」

≪ドドーンッ!≫

「……ふう、大分掘り進みましたね」

 

 ここはとある坑道の最深部。ここ最近ずっと同じ場所を掘り続け、掘削機も真っ青な掘削速度をマークしつつも誰もいないから褒めてもらえなくて泣きそうな……いけない、一人だと思考が変な方へ流れてしまうな。

 

 何か脱出の手立てがないかと思ったが、現状では何もできない。苛立ちだけが募りストレスを抱えた俺はただひたすら掘削に力を込めていた。立ちふさがる岩盤を憎いあん畜生(ヤッハバッハ)だという風に脳内変換しブッ壊し続ける。

 

 意外とこれがすっきりする。手堅い岩盤を大槌で粉砕した時何ぞ胸が空くような気持だった。さぁみんなもレッツ掘削!がんばればスペランカー先生レベルすぐになれるぞ!岩盤崩落的な意味で!……やな慣れ方だな。

 

 

「……はぁ、でもいい加減あきましたね」

 

 

 かれこれ何日地下に籠っているのかも、もう覚えていない。結構長いこといるような気もするが、ここでの時間は腕時計以外時間の指針がないのだ。しかもこれ朝と昼の表示は出るが何年何日かは判らない仕様なのである。

 

 もしかしたら疲れすぎて丸一日寝て過ごした日もあったかもしれない。休憩室って意外なことだが誰も利用しないので外が何日たったのか判らなくなる。それにそろそろ食料が尽きそうだし、いい加減補給しないと日干しになってしまうだろう。

 

 そう考えた俺は今日も今日とて大量に鉱石を手に入れ、他の連中が掘削している間に急いで換金し、報酬を大量ゲットした。そしてその日の夕方の便で久々に地上へと出た。坑道の籠った空気よりかは埃っぽいが普通の乾燥した大気でも今は満足だ。

 

「地上よ。私は帰ってきた!」

「何言ってんのアンタ?」

 

 いやホント何日経ったのか判らないってのもアレだね。それにしても横のつながりがないというのも困りもんだ。

 

「食料も尽きたことですし、マスターのところにいかないといけませんね」

「そうなの?じゃあアンタ結構ここで過ごして長いのか?」

「あとあの暴動騒ぎがどうなったのかを聞かないと…まぁ金はありますから大丈夫でしょう」

「なぁなぁ聞いてるのか?というか聞けよコラ」

 

 いやいや、さっきからこっちがワ・ザ・と無視しているのに、馴れ馴れしくも話を聞けとかどういうことなんでしょうね?俺は声がする方に顔を向けた。するとそこにはなんかツナギっぽい空間服を着たオールバックの若い男がっ!

 

「近寄らないでくださいっ!」

「な!いきなりなんだよっ!?」

 

 おっと、俺としたことが思わず取り乱してしまった。あの変な夢の所為だな。

 

「嗚呼すみません。貴方が悪夢に出てきた連中と符合する格好をしていた所為でつい拒絶してしまいました。別に特に何かあるって訳じゃありません。なので3m以内に近寄らないでくれませんか」

「いや、それ普通になんかあって拒絶してるっしょ?」

 

 煩い男だね。一々気にしてる奴は嫌いだよ。

 

「それで、なにか様ですか?生憎私と貴方は初対面の筈なのですが」

「いや、なんでそんなに距離とるんだ……はぁ、まあいい。俺はトトロスッつうモンだ。ここに来る前はまぁ色々と火遊びしてたんだがミスってとっ捕まったんだよ。んで最近ここに来たばっかりでさ?アンタここに来てから長いんだろう?色々と教えてもらいたいと思って話しかけたってワケだ」

 

 トトロスと名乗った男は此方が聞いていないことまでベラベラ話してくれた。何でも故郷で情報を扱う仕事をしていたのだが、マフィア関連に情報を流したりなどして小金を稼いだりしていたらしい。んでそいつらとの繋がりがある日暴露されてしまい突然過ぎて逃げる暇もなかったこの男はあっさりと捕まりここにいるんだそうな。

 

 ちなみにそこまで聞かされたが俺は一切彼に対し何で来たのか的はことは訪ねていない。全部前を歩く俺の後ろを歩くコイツが勝手にぺちゃくちゃ話した内容を纏めただけだ。いやまぁ聞いて無いんだが耳には入ってくるモンだからさ?

 

 んで俺としてはトトロスとか言う男の身の上話何ぞ興味はない。

 

 

「――そんでその時俺は行ってやったね。そしたら俺が現れるのは予想外だったらしくてアイツの顔を来たら――」

「あのですね。私は何時までそのくだらない話に付き合えばいいんですかねぇ」

「くだらないって、俺の波乱万丈の半生を面白おかしく語ってあげただけなのブべッ」

 

 いい加減ウザくなったので超パワーセーブした裏拳を叩きこんだ。

 なんか吹っ飛んだけど死んでないなら良いだろう。

 

「ふぅ、ようやく静かになりまし――」

「良いパンチだった。俺の奥底にまで響いたぜ」

「(やっぱり変人か?それとも強く殴り過ぎたか)……とりあえず医務室はアッチです」

「おう!鼻血出ちまったしな。やっぱりアンタに聞いて正解だったな!」

「いえそれよりも頭の検査をお勧めします」

 

 普通囚人だらけの監獄でフレンドリーに話しかけてくる方がおかしい。第一俺だってここに来てから一年経って無いのにな。そんなに古参に見えるんだろうか?つまり老け顔?……若白髪に見えるもんなぁ。

 

 ―――……orz

 

「どうしたんだ?!いきなり倒れるなんて病気か!?」

 

 ちがわい。只単に自分の容姿が結構老けてることに衝撃を受けたんじゃい。

 

「……なんでもありません。とにかく医務室はそっちです」

「ありがとうさん。ここの連中は話しかけても無視しやがるから本当に助かったぜ」

 

……無視できたのか。まぁいい。それじゃあな。

 

「ああちょっと。アンタ名前は?」

「……ユー……」

「ユー?」

「いえユータローです。それではこれで」

「ユータロー?変わった名前だな」

「貴方にそのようなことを言われる筋合いはありませんがね。それでは」

 

 そう言ってトトロスと別れた。けけけ、偽名教えてやったからこれで会うことも無かろうて。しかしトトロスか……随分と気楽な男というかなんというか……なんだろう?何か引っかかる。なんか結構大事なことだったような気がしないでも無いのだが……。

 

(……んなことより飯だ飯。久々にマスターの手料理でも頂きますかねぇ)

 

 男の手料理と書くと吐き気が沸くのは気のせいだ。今の俺は猛烈に他人の料理を所望している!てな訳で酒場へゴー!

 

 

まぁこの時は気がつかなかったんだが、後のちこのトトロスと色々やらかす羽目になるとは、空腹だった俺には想像つかないことであったのはいうまでもない。

 

ああ、早く脱出したいぜ。

 

***

 

Side三人称

 

 

 宇宙におけるステルスというのは、何もレーダー波をジャミングするだけに留まることはない。排熱を内部処理する機構が必要であるし、宇宙は薄暗いとはいえ闇と呼べる空間は少なく、必然的に光学的迷彩もステルスシステムに組みこまれている。

 

 そして宇宙におけるステルスはその隠す対象が大きければ大きいほど隠すことが難しくなる。でかければ遠目からでも視認しやすくなるからだ。隠れる場所が殆ど無い広大な宇宙で隠れ続けることは容易ではないのだ。

 

 だがそんな中でも例外はある。それは小惑星帯がある場合だ。小惑星は数メートルクラスの小型から数百キロクラスの大型まで多種多様であり、その中に紛れ込めば艦隊規模でも見つかることはそうそうない。

 

――そんな小惑星帯の一角に、一際大きな小惑星が浮かんでいた。

 

 一見しただけでは普通の小惑星となんら変わりない大型小惑星。だがその中身はボールズ達により修理素材の掘削が完了し、空洞になった小惑星をそのまま利用した基地と化していた。偽装もほぼ完璧であり、惜しむらくは防衛兵器がないくらいであろう。

 

 数百キロメートルクラスの大型小惑星は36kmクラスのデメテールが停泊できるほどの大きさを誇り、簡易的なドックとしても機能できる。これもボールズ達が一カ月でやってくれた代物である。流石ボールズ、劣化していてもチート具合が半端ではない。

 

 時折やってくるエンデミオンの哨戒艦隊や警備隊の巡視艇の監視を欺き、修理と改造及び戦力の増強を行いつつ、デメテールはただ静かに時を待っていた。

 

 

***

 

「ふーむ、まいったねこれは」

 

 さて、そんな空洞基地に停泊中であるデメテールの艦長宅。主がいない筈のこの家で、何時の間にか入り浸るようになったトスカが炬燵に肘を付けながら唸っていた。ちなみに現在デメテールの内部季節は冬。大居住区は雪が降るほど寒い環境だったりする。

 

 

「これで捕まった連中の大半は救出する事に成功」

「……ですが、艦長だけは捕まったまま、です」

「ユーリ…」

「あの馬鹿。ホント何処にいるのよ…」

「――う゛~…」

「……申し訳ない。我々がもっと気を張っていれば」

 

 ユピテルやチェルシーが心配そうに宙を仰ぎ、キャロはユーリが中々見つからないことに対して悪態をつく。そして身長が座っていても2mはありそうな男。救出された艦隊司令のヴルゴが身を縮こませて謝罪する。

 

 ユーリ達が捕まった際、もっとも近くにいたにも拘らず、敵の艦内への侵入を許し、あまつさえ最高指揮官であるユーリを逃がすこと叶わず共に捕まり、その後別々の場所に移送されてしまったあの事は未だにヴルゴを苛み続けていた。

 

「――いや、あんたが気にすることじゃないし、もう過ぎたことさ。むしろ良く無事で戻って来てくれたと思うよ、ヴルゴ」

「うぐ、しかし副長――」

「誰にだって予測できないこともある。まさか中立の筈のステーションでやって来たばかりの0Gをいきなり捕縛する輩がいるなんて思わないさ。それでも失態だと感じるなら、働きで返せ。――そうユーリなら言うだろうねぇ」

「……承った。このヴルゴ全力を持って当たろう」

 

 ちなみにこの男。帰ってくるなり己の蛮刀型スークリフブレードでハラ切りしようとしたほどの義に熱い漢である。熱い男と言えば聞こえはいいが、下手すると優秀な手駒が自刃してしまう羽目になるので上司としては扱い辛いことこの上ない。

 

 しかし逆にこうして煽れば、扱いにくい熱い男は一騎当千へと切り替わる。アクとクセの強い0Gドックならではの用兵であると言えた。そういった意味ではトスカの方が経験が多い分ユーリより用兵上手であった。

 

「さて、ヴルゴのことは良いとしてだ」

「これで4つ近い監獄惑星を襲撃しました。それと物資補給の為に軍の輸送船団も幾つか……これで名実ともに私たちは海賊です」

「不可抗力だったけど、やっちまったからねぇ」

 

 先日の監獄惑星襲撃の際、彼らは監獄惑星に向かう軍の輸送船を拿捕してしまっていた。決して狙っていた訳ではなく、作戦の邪魔になるから捕まえたのであるが、指名手配されていた為に近くの港に寄る訳にもいかず――という具合である。

 

「でもコンテナの中身が殆どワインってどうなのよ?」

「しかたないよキャロ。データによるとエンデミオン国民の年間に消費するワインの量って桁違いみたいだし、あれくらいこの星系じゃ普通なのかも」

「だとしても限度があるわよ。お陰で艦内市場の酒株価は暴落中なのよ?パン買う金でワイン一瓶買えて釣銭が返ってくるわ」

「あ~、話がずれてるから戻してもいいか?――おほん、とにかく主目的はユーリの発見と奪還で、これまでかなりの情報を手に入れてきたんだが…」

「高度プロテクトの所為でデータ取得はムリ。これ以上はお手上げですね」

 

 トスカがズレた主題を強引に引き戻したが、結局未だ進展がない話ということになってしまった。だがこれまでの情報収集は無駄ではなく、ある事だけはハッキリとした。

 

「どうやら、相当私たちの存在ってのはこっちの銀河じゃ目ざわりらしいねぇ」

「調べられなかったデータ領域の中に、エンデミオンのプログラムを遥かに超えるプロトコルとマトリクスを見つけました。これにより、より上位のシステムによってデータが封印されたと見て間違いないでしょう。それこそエンデミオン上層部すら見ることが出来ない程に」

「それじゃ、相手はエンデミオン大公国だけじゃないんですか?!トスカさん」

「あれくらいの封印を付けられる相手とくりゃ、私の経験上大マゼランだと数えるくらいしか知らないねぇ」

「げぇ、それは厄介ね」

 

 現在デメテールを動かしている最も最高位に近い女性陣たちは、これだけやってもしっぽの先ほどしか掴めなかった相手の強さにゲンナリとした。敵はそれほどまでに強大である。だが残念ながら此方には大きな戦艦がある程度。戦略的には話にならない。

 

「――つまり、副長は今後どうすると?」

「一番いいのはユーリの奪還に尽きるけどねぇ…まぁ現状は場所すら判らないケド」

「ならば、諦めるということで?」

「さて、こう見えても私は案外諦めが悪い方だ」

 

あんたが考えていることと案外同じかもよ?ヴルゴ――とトスカは薄く笑って見せた。見る者ほぼ全員に絶対諦めてないだろうと言わせる光を瞳に灯して。

 

「ふむん」

 

 ヴルゴはヴルゴでこんな事態に陥ったことに、例えそうなる気はなかったとしても加担してしまったという負い目がある為、このまま彼女らに協力しユーリ奪還を続けようとは考えていた。だがしかし、どちらにしてもかなりの戦力がいることだろう。

 

「――現行戦力はデメテールと艦載機のみ。果たして艦隊司令のこの身が何処まで役に立てることか…いや、いざとなればゲリラ屋になってでも戦うだけ、か」

 

 何時の間にやら今日の予定へと話がシフトしている女性陣を前に、ヴルゴは彼女らに聞こえない声量でそう呟いていた。実のところ現在この艦長宅にいるのはヴルゴ以外全員女。正直肩身が狭いヴルゴとしてはとっとと仕事に取り掛かりたい。

 

 その為、現状ではやることがない=艦隊戦シミュレーターで鍛錬を積むくらいしか艦隊司令の身である彼にはできそうにない。したがって4人そろってさらに騒がしい女性人たちを尻目に一人この場から静かに立ち去ろうとした。

 

だが――

 

「う゛!」

「うぉっと。デ、ディアナ殿か。いかがしたかな?」

「う゛う゛っう~!」←ボディランゲージ

「……(なにを言っているのかさっぱり判らん)」

「およ、珍しいね。ディがアンタも飯食べていけだってさ」

「い、いえ。これから鍛錬でも―――」

「どうせ今指揮する艦隊もないし。ヒマだよな?なら食べていきなよ。ディの飯は意外といけるよ。つーか食べてけ」

「――う、むぅ」

 

 たまたま御茶を持ってきたディアナに捕まり、純粋な好意から食事の誘いを受け、どうすべきか判らず思わずうなるヴルゴであった。

 

「そうだわっ!あのワインは横流し品みたいな感じにすれば資金を稼げるわ!」

「おっ!いいねぇ!最近マッド共の使いこみが響いて予算がヤバかったんだ」

「どうせ有り余っているんだし…うん、キャロの案はいいと思う」

「でしょでしょ?」

「いっそのこと生産プラントで密造酒でも作りますか。どうせ海賊の汚名は着せられているんですし、今更ですからネ」

 

 そして気が付けば悪だくみが進行しており、皆エチゴヤおぬしも悪よのぉという顔に変わっているのを見て、ヴルゴはこういう時は女性の方が強かで恐ろしいと背筋を震わせたのはいうまでもない。

 

 

***

 

 

Sideユーリ

 

―――それはある日のことでした。

 

 

注:AAはイメージです

 

 

・何と無くネットで世界情勢のニュースを見ていた。

 

 (  ゚д゚ )

_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_

  \/    /

 

 

・ウチの艦隊が海賊として指名手配されていることをしる。

 

 ( ゚д゚ )

_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_

  \/    /

 

 

・冗談だろうと思わず立ち上がる。

 

  ( ゚д゚ ) ガタッ      

  .r   ヾ

__|_| / ̄ ̄ ̄/_

  \/    /

 

 

・信じられなかったので夕日に向かって走り出した。(いくえふめい)

 

 ⊂( ゚д゚ )

   ヽ ⊂ )

   (⁀)| ダッ

   三 `J

 

「廊下は静かにー!」

「すいませーん!」

 

 そして監守に怒られた。

 

 

 

 

 

 

⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブ――ーン

 

 いや、のっけから変なテンションで申し訳ない。何分色々とあったもんで…。まさかね、ヒマつぶしに立ち寄ったライブラリーで、そんなニュースを見る羽目になろうとは思わなかった。つーか指名手配ってお前ら何やったんだYO!

 

 これじゃ俺が戻っても海賊の親玉あつかいになっちまうじゃねぇけ!いやまて落ちつけ。そうしなければならなかった止むを得ないじじょーがあったのかも知れん。まぁその場にいなかったので何とも言えないのが歯がゆいな。

 

 ああちなみに監獄ではあるがライブラリーのような施設も一応ある。金払うのが条件だけどね。日本と違って金さえあれば何でも出来るなんて発展途上国の刑務所みたいだ。基本的には刑期明けるまで生き残れればいいなんていう場所故って感じだぜ。

 

しかし考えてみれば走り出したは良いが俺は今は囚われの身であるのでどうする事も出来ないことに気がついて、半ばやけになりキーンと両手を広げて走っていた。ああん最近ダラシネぇな。

 

「ユータローさん、坑道で両手広げて走るのはちょっと…」

「うるさいんですトトロスさん。どうせ貴方以外誰もいないんだからいいじゃないですか」

 

 そして両手広げて走る俺の後を歩きながら話しかけてきたのは、つい先日監獄へとやって来た新人…というのが表向きの姿を持つ男トトロスである。俺の奇行にもうやだこの人と言わんばかりの瞳で投げやりに域を吐いていた。

 

 まったく失礼なやつである。以前情報ツウを気取った所為で抗争に巻き込まれそうになったのを助けてやったことを忘れてしまったのだろうか。まぁ別に今更変人を見る目で見られたところで全然苦にならないさ。こう見えて0Gドッグで艦長だからネ!

 

「――泣いてもいいですか?」

「いきなりどうしたというか止めてくれよ」

 

はっはっは、やはりコヤツはまだ修業が足りないのう(なんの?)。それはさて置き始めてあった時から変なヤツとは思っていたが、実はコヤツも俺と同じく順応力は半端ではなかった。何とコヤツも初鉱山入りで鉱石ノルマを達成していたのである。

 

シャバでは情報通でいたので“偶然”にも採掘すべき鉱石のことを知っていた――らしい。随分と都合のいい話であろう。しかし俺みたいなイレギュラーはともかくとして、この若くてヒョロイこの男が随分と新人らしくないことをしてくれた。

 

そのお陰でトトロスは新人囚人の稼ぎ頭となり、色んな方面に顔が効く監獄内の情報ツウとしての立場に収まりつつあった。そしてそれは別にどうでもいい。俺にとってコイツが牢名主になろうが陰の監獄長になろうがしったこっちゃない。

 

しかし現実にはコイツは派閥争いに精を出す連中に目を付けられた。それも当然だ。俺がついつい引っ掻き回した所為で、監守の眼を盗んだ水面下ではこの監獄の中は現在戦国時代真っ青の群雄割拠な状態に突入している。

 

当然どの陣営も人材確保に必死であり、そんな中入ってきた稼ぐことのできる人間は彼らにしてみれば格好のカモである。何をするにも焼き立つ者は必要。この閉じられたコミューンでも同じ、だから連中は色んな手を使い自分の陣営に引き込もうとした。

 

勿論俺のところにも勧誘は来ていた。幹部にしてやるやら、派閥に属する女をくれてやろうとか、この監獄の半分をやろうとか色んなうたい文句を言われたもんだ。だが俺はこんな場所で終わるようなタマじゃないと思っていたのですべて断っていた。

 

べ、べつに未だ童貞だから女性を貰えるとか聞かされてしり込みしたとか、荒くれ者が多い監獄で何時下克上が起きるかわからない状況に陥りたく無いというヘタレな理由ではない。断じてないとも。俺は俺と似たような弱い連中を守っているのだ!

 

―――はい、嘘です。面倒くさくて怖かったヘタレなだけです。

 

まぁそれはともかく、そんな風に狙われていたアレを助けたところ、何故か俺に妙になれなれしく接してくるようになった。本人曰く、最初に世話になったから部下やりますぜ、情報持ってくるのはお手のモノなんなのぜとなんとも無理がある語り草。

 

これを信じろというのならダークマターになった部下がよみがえると聞かされた方がまだ信憑性がある。とはいえ、トトロスという男が色々と役に立つことも事実。信頼こそないが信用は出来る腕前だと判っているのである意味付き合いやすい。

 

もっとも何考えているのか判らないあたり、なにされるか気が気じゃないのもあるんだけどね。

 

――やったねユーリ、舎弟がふえたよ!

――オイバカやめろ。

 

とか思ったのは、まぁしょうもないことだろう。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……もうどんだけ歩いたんだよ」

「トトロス、ついて来れないなら置いていくッs……いきますよ」

「ああもう!判りました!判りましたとも!地獄の果てまで付いてきまーす!」

「お断りです。野郎はいりません」

「そこは否定しないでくれよユータローさん!?」

「軟弱者ー」

「絶望した!俺の扱いに絶望した!」

 

 やかましい。男がついてくるとかのほうが悪夢じゃ!

 

「大体ついてくると言ったのは貴方の方からですよ?」

「だって、ついて行けば鉱石の一つや二つくらいおこぼれ貰えるかと思って」

「なら目的は達成してるじゃないですか。さりげなく拾っていたでしょう」

「ゲ、ばれてら。一番いい結晶を拾ってたのに!」

「…(なんで聞いて無いことまで口にするんスか。クセ何スかねぇ)」

 

 さて、坑道で何しているのか気になる人もいるだろう。だがこればっかりは言わずともわかるやもしれん。何てことのない金稼ぎ兼坑道探索である。金を稼ぐ理由は追々説明するとして、何故坑道を探索しているのか。

 

 理由は簡単。自然に出来てしまった天然の洞穴の内の一つが監獄の管理棟地下に繋がっている可能性があったからである。トトロスが仕入れてきた話なのだが、とある坑道でクレバスに落下した囚人が別の坑道から衰弱した状態で発見されたことがあった。

 

 それだけならなんら珍しい物ではない。坑道はアリの巣のように幾重にも重なり合っている迷宮のような場所であるし、洞穴とも繋がっているのでクレバスで落下した先が別の坑道に繋がっていたのも想像出来る範疇である。

 

だがこの話には続きがある。

 

 その囚人は手にコンクリート片を持っていたのだ。それも管理棟などの重要施設にしか使われていないモノと同じ、地下鉱山に使われているような粗末なシロモノではない。古いが壊れにくいであろう上質なコンクリートの欠片を。

 

 これが何を意味するのか。明かりのない冥府のような地下をさまよったであろう囚人が管理棟と同じコンクリート片を握り締めて発見された。つまり、この遭難した囚人はさまよっている際、管理棟地下に繋がる坑道または洞穴を通った可能性があるのだ!

 

 これが随分昔の話であるなら信憑性は薄かったのだが、どうもここ最近の話らしく、遭難した囚人は今も現役で地下坑道に潜って飯のタネを稼いでいると聞く。もっとも派閥入りしているらしいので本人に話を聞くことは叶わなかったが。

 

 周りの人間はたまたまその囚人がポケットに持っていたお守り代わりのシロモノだったと思っていたらしいが、俺はそうは思わない。なぜなら坑道に繋がっている天然に出来た自然坑道は手が入った坑道と同じく日々成長しているからだ。

 

 もし辿りつけたなら、目的の為の大きな一助になるに間違いない。勘だけどね。

 

「うぉっ?!あぶなっ!?」

「ほお、随分と深いクレバスですねえ。―――落ちなかったんですか」

「なんで残念そうにいうのかな?かな?」

「いえ失敬。何故落ちなかったのです?」

「落ちること確定だったのかよっ!」

 

 そうじゃないと絵的に面白くないぜ。トトロスとの漫才はさて置き、目的のクレバスへとやってきた。暗い坑道に突然口を開けているクレバス。底は暗黒に包まれ目視することはできない。試しに近くに落ちていた小石を落としてみたが音がしない。

 

「結構深いようですね」

「ユ、ユータローさん、やっぱりやめねぇか?他にも管理棟に行く道くらい――」

「男は度胸!なんでも試してみるものさ」

「使い方間違ってるよソレ!」

 

 ぎゃーぎゃー煩いコヤツは放置し、俺はささっと担いでいたリュックのベルトを締め直しそのままクレバスの淵に手を掛け―――

 

「よっ、ホッ――」

 

 そのまま降りる。ロッククライミングってヤツ?上るんじゃなくて降りてるけどね。俺の奇行に最近耐性がついてきたトトロスもこれには額に手を当てて泣き笑い。それでも覚悟を決めたような顔して俺が伝っていった場所に手を掛ける。う~ん、男だねぇ。

 

 ちなみに明かりは手回し充電のヘッドランプと化学反応で光る使い捨てのトーチロッドしかないので暗い。その為なんどか上からトトロスが落下してきたが、俺持ち前の筋肉力にモノを言わせ、ファイトー、一っ~発!とやっていたので死んではいない。

 

 そのまま底に辿りつくかと思ったが、やはりというべきか地下水脈が流れており降りることは出来ず仕方なしに壁沿いに進む。勿論壁に捕まったままでだ。当然俺の後に続くアヤツ、トトロスも必死に泣きながら着いてきたのがおもしろかった。

 

 そして意外と長いクレバスは別の自然洞穴と繋がっていた。ここで俺はごく最近できたと思う足後を発見する。どう考えても話に聞いた囚人が通ったものであろう。風すら吹くことがない坑道で痕跡が消えるには地殻変動とそれに伴う流水がないと消えない。

 

 どうやらさまよった囚人と同じルートを進んでいる。目印代わりにトーチロッドを一本壁に突き刺し、まるで九死に一生を得たような顔をしてぜーはー息を吐いているトトロスに奥に行く事を告げて再び歩き出す。トトロスは絶望的な表情でついてきた。

 

「ほう、素晴らしい光景ですねぇ」

「……ここの地下ってこんなにすごかったのか――…自然惑星を利用したらしいからな」

「ん?トトロスさんなんか言いましたか?」

「それよりもちゃんと道判ってるのかユータローさんよ?」

「んー」

 

 ユーリは思わず道化師のように唸っちゃうんだ。

 

「あ、あんたまさか…」

「いえ、ここまでの道順はちゃんと記憶してますよ?マッピングしてますし」

「ああ、そうなんだ」

「でも帰りも同じ道を通ることになるかは判りませんけどねぇ」

「ああ、遭難か」

 

 まぁどうにかなるでしょ。

 

***

 

 山を越え(いや地下空洞に山っぽいのがあったんよ)谷を越え(クレバスです)、管理棟へとやってきた~♪と思わず歌ってしまいたくなった。

 

「…やっぱり勘は当たってたッス(ボソリ)」

「ん?ユータローさん、なんか言いました?」

 

 いま俺達の前にはクレバスの一部に露出した明らかな人工物であるコンクリートの壁が見えていた。周囲は薄暗く良く見ると膝上まで溜まっていた地下水の池がうっすらと光っている。どうやら細かなジゼルマイト鉱石が流されて蓄積していたらしい。

 

恐らくトトロスの話にあった暗闇をさまよった囚人もこの場所まで辿りついていたのだろう。管理棟と思わしき建造物の基部部分には、地下水の浸食からか少しばかり欠けている部分が目立ち、足元にコンクリート片が散らばっているのが見てとれた。

 

絶対ここまで来ていた。これだけは確信出来た。そして問題はここからである。

 

「ふむ、何処がいいか…」

 

 トトロスが地下水池に溜まった細かなジゼルマイト鉱石の結晶を拾い集めていた時、俺はコンコンとコンクリートの壁を叩いて回っていた。

 

「ここかな?」

≪ゴンゴン≫

「ここがいいかな?」

≪ゴンゴン≫

「それともココかな?」

≪ゴンゴンゴン≫

「ここもいいな☆」

≪ゴィン、ゴィン≫

 

 らんらんるー、……教祖さまお帰りください。変なテンションで脳内教祖が復活しそうだ。まぁそれは今はどうでもいい。聞いただろうこの音の違いを。

 

「…ここか」

 

 俺は背負って来た麻袋のようなバックパックから愛用の品になりつつある大槌を取り出した。音の変化したあたりは地下水によりひび割れが発生していたので、そこに楔を軽く打ち込む。そして後は判るな?

 

「せーのっ!」

 

――吶喊っ、轟音。

 

 空洞に響き渡る破砕音。

人間が出すような音ではないが、出てしまうのだから仕方がない。

 

「ユータローさん!?なにをっ」

 

 大槌をしまう。なぜなら大槌を叩きこんだ壁には、人一人が通れる大きさの穴がぽっかりと開いていたからだ。バックパックを背負い直すとこの間酒場のオイチョカブで没収したレトロなオイルライターで火を付けて穴にかざす。

 

 とりあえず燃えている。ガス管は破壊しなかった様だ。さすが俺、運が良いな。さっきの音に驚いたトトロスが狼狽していたが、着いてくるかここで待つかと聞いたところ彼もまたバックパックを背負い直した。ふむん、意外と胆が据わってるねぇ。

 

「吉と出るか、凶とでるか――当たるも八卦当たらぬも八卦、ですね」

「それって行き当たりばったりって意味じゃ…」

 

 そんなこんなで監獄惑星脱出計画の第一フェイズがさりげなく進行したのだった。

 

 

***

 

――管理棟・地下区画

 

 監獄惑星という惑星一つが監獄であるこの星において、管理棟は地下に膨大なスペースを持つ要塞のような作りをしている。地上入口には幾重にもセンサーが張り巡らされ、許可のない人間が通るとセントリーガンで射殺されてしまうほどだ。

 

「ん?なにしてんだお前ら?」

「いやー洗濯物溜まっちゃったんスよー。ランドリーだと金掛かるしどうしようかなぁって思って」

「ゴホゴホ」

「そっちの奴は風邪でもひいてんのか?つーか手洗いとかまめなヤツだな」

「貧乏性ってのは捨てられないもんスよ。母ちゃんの偉大さが判るってもんス」

「ナハハッ!ちげぇねぇな!邪魔して悪かったな」

「うんにゃ、どうってことねぇッスよ。それじゃ」

 

………行ったか?フッ、俺の三下オーラは健在のようだね。

 

「ぶはぁ、心臓が飛び出るかと思った」

「情けない。一々びくびくしてたらこの先身が持ちませんよ?」

「なんでアンタは全然余裕なんだよ…」

「フンっ、宇宙戦闘に比べれば、ね。それにこういうのは堂々としてれば意外とバレないモノなんです」

 

 さて、そんな地下施設に潜入したのは俺とトトロスだ。思った通りここは管理棟の地下であり監守がうようよしていた。当然そのままでは見つかっしまうが。

 

「まさか、ちょっと制服を拝借しただけでバレないなんて…」

「ここは最深部に近い居住区。彼らのプライベート空間に潜りこんでいる囚人がいるとは誰も予想していない。これを東大デモクラシーと呼ぶ!」

「……灯台もと暗しだろ。響きしかあってない…つーか何しに忍び込んだんだよ。見つかったらタダじゃすまないし最悪殺されるだろうに」

「え?」

「その今更何言ってんの的な眼は止めてくれ。判ってるから。ここまで付いてきたからには腹くくってるから!」

 

 なら文句言うのをやめろっつーに。大体着いてきたのはトトロスの勝手だろうに。まぁ良いけどさ。俺の目的はただ一つ。ここで脱出する為の手がかりを掴むことだ。なんだかんだでこの星からは鉱石が輸出され、少なくない物資が輸入されている。

 

 当然それには輸送船が来る訳だし、他にも囚人護送の為の護送船や連絡船なども監獄惑星に降りてくるはずなのだ。それらに忍び込めれば、もしくは奪取できれば、この星から離脱することは可能となる……筈。

 

出来ることなら白鯨と連絡が取りたいが、まさか海賊行為をしているとは思わなかったしなぁ。実は艦長交代とかで帰ったら殺されたりしてな!この時の俺はまだ白鯨がそれなりに無事に機能していたことを知らなかった。

 

それよりもとりあえずこの星から逃げ出すためにはどうすればいいのかを考える方が先だったのだ。もっともこの星は近くの恒星系から吹き付ける太陽風とこの星の大気により発生した濃密なプラズマ層に内外問わず守られている――ことにされている。

 

 まぁここが人工惑星であることは既に知っているので後は出る手段さえあれば…。

 

「ま、とりあえず色々と見て回ろうじゃないですか」

「はいはい、俺はアホ亭主に惚れちまった女房みたいなもんだ。何処までもどこまでも着いてきま~すってな」

「…………男にそう言われても気色悪いだけですね」

「モノのたとえってことくらい理解しろよ!?」

 

 そんなカリカリしなさんな。乳酸菌とってるぅ?――そう言ったら無言で殴られた。ヒドゥイわ。痛くないけどね。さておふざけもここまでにしてそろそろ調べることは調べることにしよう。折角無事に潜入出来た訳だしな。

 

 俺は堂々と、トトロスはおっかなびっくりという感じで、管理棟地下を歩き回る。俺達がいた監守達の居住スペース。物資倉庫、ジゼルマイト鉱石倉庫、食糧庫、そして万が一暴動が起きた際の武器庫に経路図の入手などなどだ。

 

 つーか経路図さえ手に入れば他の見て回るべきモノはそれほど多くない。一応の確認だけしとけばいいんだしな。てな訳で管理棟地下の経路図とか地図的な物を探して回る。探し物は意外とすぐに見つかった。監守の電子手帳に普通にデータ入ってた。

 

 そのデータだけを物資倉庫で拝借した適当な記録媒体に移し、それを元に上記の場所を見て回る。複数階層に別れそれほど広くはなくても複雑な地下施設でも、経路図さえあれば迷うことはない。俺は方向音痴じゃないからな。

 

「ここが鉱石倉庫で……ん?この隣の空間は一体?」

 

 んで一通り見て回ったところ、経路図上に未知の空間があることが判明。

 

「倉庫に隣接してるから輸送船用のベイとかじゃねぇの?」

「それですっ」

 

 トトロスの何気ない一言に確信を得た俺は、格納庫隣の空間へと続く通路を探して回り、途中監守と遭遇すること8回。それを華麗にやり過ごしてなんとかそれを見つけ出すことに成功。しかし迷路みたいに入り組んでやがる。どうなってんだここの地下はよぉ。

 

 きっと倉庫から直接入れば近いんだろうなぁとか思いつつ、黄色と黒の縞シマ模様でかこってあるエアロックを発見する。いかにも重要そうなブロックに通じておりますと言わんばかりのそれに、俺の期待は膨らむばかりだった。

 

「…開けますよ」

「藪蛇にならなきゃいんですがねぇ」

 

 拝借した監守服のIDカードを用いてドアロックを解除する。記録が残る可能性はあるが、今は確認する方が先だ。IDカードを通した端末からピッという電子音が聞えたかと思うと、エアロックが外れる空気が抜ける音が響く。

 

 パシュという軽い感じで解放された扉の向こうは、とても広い空間が広がっていた。薄暗いが徐々に目が慣れてくると、この20階建てビルがすっぽりと収まりそうな空間に何かが浮かんでいるのが見てとれた。

 

「あっ…」

 

 思わず息が漏れる。薄まった記憶が再び結合し浮かびあがってくる。そこにあったのは俺が囚われた際に敵に鹵獲された筈の白鯨艦隊所属のネビュラス/DC級戦艦リシテアが静かにその場に鎮座していたからだった。

 

 思い出したのは掠れていた原作の記憶。きっかけを得たことで芋づる式に関連記憶が掘り起こされてある程度思いだしたその記憶にあったのは、管理棟の地下にある倉庫にモスボール処置がされた宇宙戦艦が何隻も格納されているということだった。

 

 見ればリシテア以外にも拿捕された際の艦隊が、そのままモスボール処置を施された状態でそこにあった。白く輝くレアメタル製装甲を持つ魔改造されたネビュラス級やマハムント級やバーゼル級の艦船達。ともに星の海で戦った仲間たち。

 

「ヒュ~、これはまた。ただの監獄惑星にしては物々しいもんだ」

「……すでにここにこれがあるとは、予想外ッス」

 

 タダそこにあるだけだというのに、静かに接岸しているだけだというのに、白鯨艦隊戦列艦を見た途端、俺の身体にパリィと電流が走った気がした。アレらの存在感はここ最近薄まって眠っていた宇宙への探求心を再び目覚めさせた。

 

もう何も怖くない。あとは突き進むだけだ。勿論チキンなので計画を練って。

 

「ん?なんか言ったかユータローさん?」

「いえ、何でも―-この戦艦は使えないでしょうかね」

「んー、モスボール処置もキチンとされているみたいだし、ちゃんとした手順で機関さえ動かせれば動くだろう。その前に気付かれたらダメだろうけど」

「……ふむ、ならある程度の戦力は必要ですか」

 

 そうと決まれば話は早いな。

 

「あっおい!どこ行くだ?」

「いえ、とりあえず帰りましょうかと」

「え?!なんかしないのか!?監獄爆破とか、監守の飯に毒混ぜるとか!?」

「貴方が此方をどういう目で見ているのかは後で追及することにして――目的は殆ど達しました。あとは痕跡を残さないように気を付けて地上に戻り、考えることにしましょう……ああ、そうそう」

 

 端末からデータを入手するの忘れないでくださいね。得意なのでしょう?情報通さん――そう笑いながらトトロスに話しかけたところ、彼はただブンブンと首を激しく上下に揺らしただけで声を発しなかった。震えていた気もするがどうでもいい。

 

「さて、下調べは済んだ。あとは計画を練るだけ」

 

 

 どうしてやろうかな。まぁなんとかして見せようじゃないか。そう考えつつ俺は懐かしい仲間のいた格納庫を後にし、管理棟地下から脱出するのであった。エレベータにのって地上から堂々とな。警備が薄すぎるから簡単すぎた。

 

 手に入れたデータは有効活用させてもらおう。俺が再び宇宙に戻る為にね。

 

***

 

Sideユーリ

 

 地上よ!わたしは帰ってきた!―――なんてザルな警備だろうか。いやあれでも警備が上がっているらしいから、よっぽどプラズマ層の守りに自信があるってことなんだろうなぁ。囚人が管理棟にはいって返って来れるレベルだけどね。

 

 それはさて置き、換金だ!とにかく換金だ!――てな訳で酒場にやってきた。

 

「マスター、これ換金してくれませんか」

「……ここでやると手数料で2割持ち分が減るぞ?」

 

 最近知ったのだが、酒場でもジゼルマイトやその他鉱石の換金が可能だったらしい。とはいえ帰りは何時も鮨詰めなエレベーターには手癖の悪いヤツも多く、カードならともかくそれなりに嵩張る鉱石を懐にもって地上に来るのは大変であり、おまけに手数料とられるのでやるヤツは非常に少ない。

 

 まぁ元々酒場で換金してたのが、利便性と混雑による混乱を避ける理由で鉱山に装置を設置した所為で使われなくなったことの名残だもんねぇ。最も今の俺の様に換金できる物を持ちこんでいる人間にしてみればありがたい名残であるといえた。

 

「構いません。どうせ自分の分は大量に持っている」

「……お前さんみたいなお人よし。監獄には似合わんなぁ」

「褒めて頂き恐悦至極……んじゃ何時ものように」

「褒めてねぇぞアホたれ。――少し待ってろ」

 

 相変わらず毒舌なマスターさんはそう言うとカウンターの奥へと消えた。そういえば基本的にモノは酒場で金払えば手に入るけど、一体どこに仕舞ってあるんだろうか?裏手に倉庫とかある様には見えないし……やっぱり地下だろうか?盗難対策とか?

 

 しかしさりげなくだが、拾っておいたジゼルマイト鉱石の結晶、高くてウマーでした。因みにトトロスは手数料が惜しいので明日さっそく坑道に降りるとの事。いやしかし無茶をする。降りる人間で一杯のエレベーターに鉱石の塊持ちこむだなんてな。

 

 手癖の悪いヤツに会わなきゃいいな。そして俺はそのことを忠告していない。まさに外道!後日マジ泣きしているトトロスにあうのは余談である。まぁ結構頑張ってカバンに詰めてたもんなぁ、労力考えたら泣きたくもなるだろうよ。

 

「……ほれ、いつも通り立て替え差し引いた分だ。カード出せ」

「サンクス。おやおや、結構削られてますねー」

 

 手渡されたカードには鉱石を換金し手数料を引いた値から考えると、0が四つほど消えた金額になっていた。まぁそれでも節約すれば2週間は普通に食える金額が残っているので問題無い。物価が高めの監獄惑星ではかなりの額と言っても差支えないだろう。

 

 手の内のマネーカドをクルクルともてあそぶ俺に、マスターさんは呆れた表情を浮かべていた。

 

「あれだけ数の子供を養えばな…このお人よしめ」

「いや何と言いますか。成り行きと言いましょうか…見ていられなかったので」

「甘い、甘すぎる。慈善家でも気取ってるのか貴様は。詐欺師共のイイかもだな」

 

 マスターさんが言った子供を養っていると聞いて、俺の子供と思ったヤツはいないだろう。だって相手もいないし娼婦に手を出せる度胸ないしなぁ~。では一体子供たちとは誰のことを指しているのか?

 

何てことはない。犯罪を起した少年受刑者やこの監獄にある娼婦の元で生れ、商売の邪魔といった理由から捨てられたストリートチルドレンたちのことだ。

 

「いやー、痛いところを突いて来られますなー」

「十分お人よしだ。とくにここじゃあな」

 

 この監獄では金さえ払えば何でもある。酒、金、麻薬、そして女。抜け出せない箱庭であっても人はそれに会ったコミューンを形成している。以前群雄割拠と述べたことがあったが、その実コミューンの末端はマフィアっぽくもあるのだ。

 

 だが女が春を売るという商売が成り立つ以上、そのリスクとして当然子供が生まれるということがある。大抵は堕胎を選ぶらしいが時として稼ぎが悪くて堕胎をするには成長し過ぎてしまい、生むしかなかったという事例がある。

 

 生れてくる子供に罪はないのは当然。だが生んだ親にとってある意味厳しい環境である監獄内ではお荷物でしかない。経済的にも鉱山職とちがい日々の食事を得るのにも苦労する娼婦が子供を育てることは並大抵の苦労ではないのだ。

 

 最初こそ苦労して生んだ愛着からか少しの間育てるという。それこそ如何に残酷な仕打ちであろうか。その内に育てられなくなって捨てるんだぜ?子どもの側からすれば何もできない内に捨てられるほうが冗談キツイって感じだろう。

 

 だが捨てる神あれば拾う神あり、監獄世界には生まれた子供を利用する為のシステムがキチンと存在している。救済ではなく利用なのがみそだ。一つは通称孤児院、悪く言えば将来の奴隷育成所。男の子は労働力、女の子は…そう言う年齢になれば仕込まれる。

 

 もう一つは施設に入らず路上で生活する子供の囚人のグループに引き取られた所謂ストリートチルドレンの集団だ。上記の孤児院と違い、年齢が上の子供らが共同で下の子供らの面倒を見るので結束は固いらしく家族の様である。

 

 だがそれでも生きる為にゴミ拾いの他に身体を売ったりするコがいるので、基本的には孤児院と大差ないのかもしれない。需要があれば供給あり、狭い箱庭世界でも彼らのような“子供”の需要はある。吐き気がするがな。

 

 外のスラム以上にスラムなのが監獄惑星という訳だ。本当に監獄として機能しているんだろうかね?どちらかというと厄介払いの為に閉じ込めてあるというのが正しいだろうな。そしておいらもそんな閉じ込めておきたい一品です。異論は認めるぜ。

 

 さて話が脱線したが、そんなところで俺が出会ったのは一人のストリートチルドレンだった。もとより現実日本では特番などで小耳にはさんだ程度で実際にお目にかかったことはなく、この世界に来てからもずっとフネにいた俺が会うことはない存在である。

 

だども、はじめて会った時は衝撃的だったなぁ。思わず直そうと努力していた、~ッス言葉が再来したくらいに。襤褸を纏っていた…と口にするのは簡単だ。だが現状はそれよりもはるかに酷い環境で暮らしていたというのが一目で理解出来るほどだった。

 

 細い体躯、俺みたく阿呆力の持ち主が触れただけで小枝を折るよりも簡単にちぎれてしまいそうだった。見なり自体は襤褸ではあるがそれ程汚いという訳では無かった。頭のいかれてしまった路上生活者などに比べれば普通の子供に見えるくらいに清潔だ。

 

 不潔にしていれば病気になることを知っている彼らは、自分の出来る範囲で自分の身なりを清潔に保っていた。だが使える水道などないので飽く迄も埃や垢や泥だらけにならない様にしているといった程度でやはり汚いと最初は思ったものだ。

 

 でもね、ほら。基本的人権が保障され子供に教育をすることが義務とされている日本という国で生まれたからだろうかね。彼らを見て、その、ご飯を奢ってしまったのだ。だってあまりに酷い格好でなんかくださいって言って来たから…つい。

 

そしてそれがきっかけだったんだろうな。気が付けば年齢違えど似たような格好の子があれよあれよという間に集まってきた。一人だけに食わせておいて、他の子を放置という訳にもいかず…その日の稼ぎが露となって消えたのは言うまでもない。

 

 んで派閥という訳ではないが、そう言ったストリートチルドレンと交流が少しだけ出来たという訳だ。もっとも基本鉱山にいるので会うことはめったにないがな。偶に飯おごって他のとこの情報を聞いたりする程度の付き合いだ。既に習慣になりそうだけどな。

 

―――日本人だった性なんだろうかね。なんかほっとけなかったんさ。

 

「そう言うマスターさん、あなたも密かに残飯を多く捨てたりしていたじゃないですか」

「…早く行け、こっちは忙しい」

「おや、別に恥ずかしいことではないと思いますが?」

「……出入り禁止にされたく無かったその胡散臭ぇツラをひっこめろ」

「フフ、これは手厳しい。では胡散臭い人は退散させてもらいますか」

 

 きらりと光る笑顔を見せたのに胡散臭がられた。ああん、ひどぅい。まぁ何時も通りに台車にのって運ばれてきた麻袋を背負い酒場から出ようとした。だがその時、入口のほうが妙に騒がしくなる。何だと思い振り返ると人だかりが出来ていた。

 

「昼間っから酒を飲むとはいい度胸だなクズども!」

 

 ゲェ、監獄所長のドエムバンだ。何で監獄惑星所長が護衛付きとはいえ囚人の酒場に来るんだよ。俺はいそいそと身をちぢこませ目立たぬように座る。アレに目を付けられるときっと煩いにちがいないのだ。

 

 身を小さくしている俺とは対照的に、恰幅の割には割と背の低い所長は少しでも体を大きく見せようとしているのか、はたまた偉いんだぞと体現したいとでも言わんばかりに身体を大きくのけぞらせ、口を開いた。

 

「よいか。このドエムバン・ゲス様はちっとの酒くらいは大目に見てやる慈悲をもっておる…。―――が、その酒が少しでも明日の労働に差し支えるようならタダじゃおかんぞ!貴様らは囚人でクズだ!このラーラウス収容所に入れられていることをわすれるな!」

 

 酒場の中は静まり返っているが、特に動揺している風には見られない。ふむ、どうやらドエムバンはときおり囚人いびりにやってくるようだな。俺は基本的に鉱山で美しい汗をかいたあとは部屋に直帰して酒場には物資補給の際にしか来ないので、これまであわなかったのだろう。

 

 周囲をいっかつし囚人たちが黙ったのを見て、如何にも俺様の威厳ですと言わんばかりのドヤ顔を晒す愚鈍な男ドエムバン。回りが黙ったのはただ単に絡まれると独房とか拷問部屋行きなど面倒臭いことばかりだからなのだが…。

 

 まぁ入口付近に立って目を光らせているブラスターで武装した監守がいれば、下手に反抗したりする輩はいないだろう。武器を向けられた人間は大抵竦み上がるし、この時間帯に酒場にいるのは小賢しく稼いだり、監守に賄賂を贈っている連中ばかり。

 

――反抗する気も起きないだろうよ。

 

 さてドエムバンはその後も適当に酔客の間を縫うようにして歩く。よく見たら手を後ろにかざしており、そこに偶に酔客の手が重ねられる時があった。そして何と言うことでしょう。短い指をしたドエムバンの手の中に光る貴金属が。賄賂ですね。判ります。

 

 なるほど、定期的に来るのはそう言うことか…つーかどうやって貴金属を手に入れてるんだと思ったが、考えてみれば密輸的なことをしている人間もいるのだ。別の監守にマネーカードで賄賂渡して、所長にはおべっかがてらの貴金属の賄賂を贈る訳だ。

 

 なんとも、ここラーラウスの監守たちはいい思いしている訳だ。管理棟に潜入した時に妙にワインとか酒の種類が豊富だったのはそう言うことか。本当いいご身分だぜ。監守は搾取する側でこっちはされる側ということなのか。民主主義はどうしたと内心叫んでみる。無駄だけど。

 

 んでドエムバンの賄賂回収が早く終わらんかとちらりと視線を向けると―――

 

「……ん?貴様っ」

「………(やっべ、目があっちまった)」

 

 目と目が合う~♪なんて綺麗なもんじゃなくて、もっとおぞましい感じをうけた。おっさんの油ギッシュな眼は気色悪い。まぁ一つしかない出入り口陣取られて逃げられない中、近づいてこられれば見つかるよな。

 

 そしてドエムバンは獲物を見つけたとばかりに俺をジロリと睨みつけてゆっくりと此方へと歩いてくる。本人は肩を揺らしてイメージはマフィアのボス。見ているこっちからすれば素焼きの狸が歩いてくるようにしか見えん。

 

「まさか、こんな所で会えるとは思わんかったぞ。ユーリ」

「これはこれは。名高きドエムバン所長に名を覚えて貰っているとは」

「くふふ、余裕なのも今の内だ。我が血を分けた兄弟の恨み。ここで晴らしてくれる。そうだな。とりあえず――」

「――ガッっ!」

 

 ドエスバンは大きく振りかぶった腕を振り下ろす。俺は大げさにワザと吹き飛んだ。いや痛くないんだけどさ、そういうの見せるともっと酷くなるのは定番だしね。

 

「――ラーラウスに来た歓迎だ。お前のようなクズは一生ここからは出られんぞっ!」

「………ウぐっ」

 

 俺が無様に転げ落ちたところを更に短い足で蹴りあげるドエムバン。鉄か何か入っているだろうかたいブーツだったが、鍛えられた筋肉を引き締めていたのでダメージはない。ただ地味に食い込んでほんの少し痛かった程度だ。

 

 うん、ダメージはないんだ。ただ黙ってやられるのが癪な程度。ヤダねぇ勝ち誇った顔なんぞ晒しちゃってさ。へどが出るぜ。だが、この様子だと俺がトトロスと一緒に管理棟に侵入したことはバレてなさそうだな。

 

 その後も執拗に蹴り続けるドエムバンだが、息を切らせている上につま先を少し引き摺っていたあたり、どうやら蹴り過ぎで痛めたらしい。対する俺は鍛え方が違うので無言で蹲って見せていた。それに満足したのか汗を拭きながら高笑いして出ていくドエムバン。ウゼェ。

 

 

***

 

 

 酒場を後にし、やってきたはゴミ捨て場近くの広場だ。ゴミ処理施設に放り込む前のゴミが山積みにされている集積場であり、ストリートチルドレンの稼ぎ場所の一つである。若干匂いが酷いが慣れればそれ程でもない。

 

「やぁ皆さん。配給ですよー」

「あ、ユーさんだ!」「ユー来た!」「ユゥ兄来た…」「これで勝つる!」

 

 そして俺の声を聞くと何処からともなく顔を出して集まってくるストリートチルドレンたち。すでに顔を覚えられているので、それ程警戒はされていないようだ。飯を配って歩いた甲斐があったというモノだろう。

 

「え?いや何時も並んでと言ってるでおばっ!?」

 

俺の腹や胸や股目掛けて飛び込んでくる色とりどりの隕石(コメット)たち、岩盤を素手で破壊できる俺も十数名のフライングアタックの前では無力だ。おおユーリよ、死んでしまうとは情けない…がっくし。

 

「ちょっと、食べ物くれるなら早く頂戴よ」

 

 死んでも食い物入った麻袋を手放さなかった俺をげしげしと足蹴にする10歳くらいの金髪の少女が冷めた目で此方を睨んでいる。よっぽど腹をすかせているらしい。まぁ定期的にパンを配ることは週に一度だけだしな。稼ぎがないヤツはつらいだろう。

 

 俺は大量のパンが入った袋を年長組に投げ渡す。向うも理解していて数人がかりで持ち上げると封を解いて既に並んでいる集団に手渡していく。一人一個は確実な数ある筈だ。その間に寸胴鍋へ運んできたポリタンクの中身をぶちまける。中身はスープだ。

 

 流石にパンだけじゃ味気ないだろうし、栄養も偏る。ちなみにコンソメではなくポタージュみたいなどろどろに具材が溶けた栄養価だけは高いスープだ。酒場で金が飛んだ理由はこれだったりする。だが無駄な投資ではないと踏んでいた。

 

 なぜならストリートチルドレンは色んな情報を持っているからだ。それこそ情報通を気取るトトロスみたいに深い情報はないが、広くて浅い噂のような情報ばかり。彼らは何処にでもいるし、何処にいてもなにを聞いていても無視される。

 

だがそれが役に立つこともあるという事だ。例えば―――

 

「ほう、ドドゥンゴの勢力がまた盛り返していると」

「あいつ等腕っ節だけは強いから闘争が起きると大抵相手を吸収しちゃうんだよ」

「でもあいつ等嫌い、ボクたち殴る…また人が増えてた」

「あ、そう言えば新しい定期便来たんだって。やったねラーラウス、囚人が増えるよ」

「「「おい馬鹿やめろ」」」

 

―――とまぁこんな具合にね。

 

 玉石混合、くだらない情報でも価値はある。多少すれていても子供は子供。基本的な情報は忘れたりしない限りは大抵が聞いたままを話してくれる。意図的に騙すつもりもないだろう。俺以外にストリートチルドレンと渡りを付けているヤツはいないからだ。

 

 そんなこんなで話を聞いていたら、ちょっと気になる話があった。何でも今度来た囚人に少年を連れた老人がいたらしい。監獄惑星に高齢の人間が来ることは非常に珍しい。厳しい生活環境の中で老人の体力が長く持つことはなく、大抵すぐ死んでしまうからだ。

 

 だが鉱石採掘を奉仕活動のような形で囚人たちにさせているので労働力が死ぬことはラーラウス監獄惑星は望まない。だから普通は手工業や機械操作などを労働に当てている監獄惑星に護送されるのが普通なのだが…ふむ。

 

 俺は残りの食い物を渡して彼らの元をさった。彼らから貰ったこの情報が気になったからだ。この時期に“少年”を連れた監獄惑星に来る筈のない“老人”に少し心当たりがあったからである。まだ覚えていた原作知識、役に立つか判らんが賭けてみたのだ。

 

 

 

 という訳でやってきたのは俺が最初に入った鉱山である。出戻りでもない限り監獄初心者はここに送られてくるので、会えるとすればここしかあるまい。ここで重要なのは地下に続くエレベーターは朝と夕の2回しか運航しないということだ。

 

 別に入口で待っていてもいいのだが、なんのヒマつぶし道具もない監獄では流石にきつすぎる。携帯電話でもあればインターネットとかにつなげられるのになぁ。まぁない物ねだりは見苦しい限りなので、酒場で待つか入口で待つかの2つが普通の選択肢だ。

 

―――だけど俺は、折角なので第3の選択肢を選ぶ事にするぜ。

 

 昇降機がある入口から脇に300mほどあるいた場所。俺は無造作に積み上げられた岩石を退かしていく。するとしばらくしてぽっかりと地面に開いた穴が見えてきた。何てことはない、コイツは俺が作った地下への隠し通路の一つである。

 

 いやね?坑道の中で朝夕待つっていうのが結構苦痛だったから、有り余るパゥワァを用いて、こうちょいちょいっと…結構便利なんだぜ?昼飯時に回りを気にせずに酒場に戻って温かい飯にありつけるのってさ?

 

それはさて置いて俺は地下坑道へと続く下降トンネルを降りた。アリの作った坑道がこんな感じなんだろうか?見たことないから判らんけど、デコボコであまり歩き心地は良くない。自分で造っておいてなんだが、今度時間あれば手直しがしたいと思う。

 

そんで自力で開けた坑道を通り、自然洞窟を抜け、既存の坑道まで来た時、その会話は聞こえてきた。

 

「ごほっ、ゴホ…ウォルや、大丈夫かのう?」

「(ふるふる)…し、師匠の方が、心配…最近は体調が良くないし、だから僕が持つ」

 

 見れば坑道の向うから鶴嘴とシャベルを担いでいる少年とせき込んでいる老人が歩いてくるのが見えた。そして少年のことを老人はウォルとよんでいた。十中八九ビンゴでありドンピシャリという訳だ。ヒャッハァー!新鮮な老人と若造だぁ(?)

 

 …長く監獄の空気に触れすぎたカモしれないな。

 

「ん?だれぞおるのか?」

 

 変な方に思考が逸れている内に結構近くまで来ていたらしい。少年は気が付いていないようだが老人の方が俺に気がついたようだ。気配察知と軍師資質が関係あるかは置いておくとして、流石は老いてなお小マゼランでは知将と呼ばれていたことはある。

 

「お久しぶりです…」

「む…おお!お主は…」

「あ、あなたは…!」

 

 流浪の名軍師ことルスファン・アルファロエン。俺達からはルー・スー・ファーと呼ばれていた老軍師と、ルーの最後の弟子で軍師の才を持つ少年ウォル・ハガーシェ。小マゼランで一時別れた彼らとの再会は、なんとも埃っぽい場所で実現したのだった。

 

 というか老人なのに地下鉱山によこすとかあり得ねぇだろう。常識的に考えて…って常識が通用してたなら、俺は未だに0Gドックしていたか。なんとも世間というのは世知辛いもんであるな。面倒臭いことこの上ない。

 

「うぅ、ゴホゴホっ」

「し、師匠…!」

「……とりあえず、上に上がりますか。ここはいささか、御老体には差し障る」

 

 俺は秘密の地下通路を通り、彼らを地上へと連れ帰ったのだった。

 

…………………………

 

……………………

 

………………

 

 連れ帰って、何故この監獄に来たのか理由を聞いたところ、彼らはいち早くヤッハバッハという侵略大国の存在に気が尽き、客将として軍師をしていた頃のコネを利用して、マゼラニックストリームから脱出するクー・クーの船団に潜りこむことに成功したらしい。

 

 そして大マゼランに辿りついた彼らは、この2年の間を小マゼランを襲った悲劇を大マゼランに伝えようと各地を翻弄したが、ヤッハバッハに関する混乱を防ぎたい国家からの情報統制により全てを虚偽とされ、騒乱を起そうとした罪で捕らえられてしまったのだそうだ。

 

「――で、老師は体調を崩された。そう言うことか」

「は、はい…」

 

 小マゼランから大マゼランへの脱出劇。それはクー・クーの案内があったにも関わらず思っていた以上に厳しいモノであったらしい。何せ輸送船はクー・クーが欲を出して詰め込んだ財貨や商品のコンテナでぎゅうぎゅう詰めであり、居住区も圧迫していたそうな。

 

 その所為で長旅による体調不良者は続出していたし、苦労して荷揚げした商品も実のところ大マゼランでは旧式であったり型遅れである物が多くて高くは売れず、クー・クーは結局のところ失脚し、財と信用をすべて失い大マゼランの親類の元へと駆けこんだそうな。

 

 小マゼラン随一とまで呼ばれた巨大バザーを牛耳っていた守銭奴ババアの最後としては意外とあっけないものである。それはともかくとしてその所為でルーは体調を崩しており、本来なら空気のいいところで静養するのが吉なのだと医者に言われていたらしい。

 

 しかし、そうなるとここでは絶望的だな。空気の悪さは肺に入れている空気と周りの雰囲気の両方の意味で最悪。静養のセの字も不可能であることは間違いない。精神的にも肉体的にも最悪な環境なのだし、絶対に老師の体調は悪化する。間違いないね。

 

「――まぁ、ここで会ったのも何かの縁。この部屋は自由に使うといいです」

「何から何まですまんのう。ほれウォルも礼をせんか」

「あ、ありがとうございます。ユーリさん」

 

 とりあえず二人に“ちょうど空いた空き部屋”に入ってもらうことにしよう。前の持ち主?先日起きた闘争に巻き込まれて死んでますよ。ここじゃあ日常茶飯事なので今更だし気にしない。一々気にしてたら禿げちまうからな。

 

 二人はたいそう俺に感謝していた様だが、さりげなく家具で隠れている血痕とかについては聞かれるまで黙っておこう。住めればいいのだし、ここでは一々気にしてたら身が持たないさ。習うより慣れろって素晴らしい言葉だよな。

 

 俺はその後も適当に久々に会った二人との会話を楽しみ、就寝時間がきたあたりで自分の部屋に戻る為に部屋から出た。そしてそれから二日ほどが経ち、俺はルーたちに管理棟へと続く坑道の存在、そして管理棟で見つけた自艦隊のフネのことを打ち明けた。

 

聡い老師はこのあからさまな在り様を知り、どう考えても罠じゃなと一言呟いていた。それには俺も同意しておいた。普通囚人から奪った宇宙戦艦をその囚人がいる監獄に、わざわざモスボール処置まで賭けて保管何てする訳がない。

 

な~んかきな臭い理由が背後に見え隠れしていてこっちとしては気分がよくないが、これに乗らないと脱出出来ないこともまた事実。なるほどわざわざ舞台を用意してくださっているのだしそれに乗らない手はないだろう。

 

そんな訳で金さえ払えばそれなりに信用が置けて、尚且つ昔フネを扱った事がある元0Gドックの募集を密かに開始した。フネを運航できるという篩 (ふるい)があったので、集めることに苦労したが、その苦労は並大抵のことではなかった。

 

幾らユピテルコピーたちにより自動化されていても、運行するためには指揮する人間が最低8名必要であり、言いかえればそれだけいなければあの艦隊は動かせない。そうなるとさらに人員は制限されるのだ。

 

 バイトで貨物船に乗ったが実は海賊船で一緒に捕まった人とか、フネで船医してたがアルコール依存症の所為で医療ミス起こした人とか、もと戦闘機乗りで自称撃墜王とか、非常にクセの強い人材は集まる癖に、艦長のような指揮を行った人間は圧倒的に少ない。

 

 なにせここは囚人が住まう監獄惑星だ。全員何かしらの罪を犯した人間で、その中でもクスリとか依存症とかがなくて比較的まともな判断力を持つ人間の方が少ない。辛うじて集まった人材も僅か4名しかいなかった。

 

しかも内2人が博打でフネ取られた挙句密輸が発覚した輸送艦隊で艦長やっていた凡人で、残りは海賊と着たモンだ。前者は金だけで済んだが後者は抜け目なく報酬として脱出したあかつきにはフネごとよこせと催促された。

 

 ネビュラスなどの戦艦クラスに関しては、武装にデメテールで発見された一部ロストテクノロジーを応用している為に、海賊に戻るかもしれない連中に渡すことは拒否したが、ルーの爺様を交えた交渉の結果巡洋艦で妥協してくれるということになった。

 

マハムント級巡洋艦を囚人たちに渡してしまうのはもったいない気もするが、脱出を手伝わせる以上対価は必要である。とはいえマハムント級の武装はホーミングレーザー砲を除き基本高性能だが大マゼランの機材とそれ程性能差はない筈だ。

 

どうせ拿捕された際に調べあげられているので技術漏えい云々とか考えても今更である事だし、マハムント級に搭載されているユピコピは脱出した際に基幹プログラムごと破壊する命令を、白鯨艦隊最上級指揮権保持者権限で出すことにした。

 

HLの運用にはデフレクターによる重力レンズ空間展開の技術が求められる上、通常の統合AIでは専用のプログラムが必要であり運用する事は先ずできない。機関プログラムごとユピコピが消えたマハムントは少し特殊装備付きの巡洋艦に戻るのである。

 

多少汚い気もするが素直に渡す何ぞ一言も交渉では述べていないし、あちらさんも隙があれば撃つ気満々のようなのでお互い様だろう。犯罪者に必要とはいえフネを譲るのだし、これくらいは大目に見て貰ってもいいはずだ。

 

「ふぉっふぉ、意外と悪徳なったようだのう」

「いえいえ、ただ小賢しくしているだけッスよ~」

「ふむ、やはり喋り方はそっちが地かの?」

「直そうとはしてるんですけどねぇ…」

 

さてさて、そういった見つかるとヤバいことを計画しつつも、表面上は監獄に囚われた囚人として生活せねばならない。とりあえずルーとウォルには自分の食い扶持を稼いでもらわなければなるまい。おんぶに抱っこというのはその時は良くても後に障害になるでな。

 

とはいえ結構な高齢者であるルーには鉱山で穴掘り何ぞまず無理だ。というか軍師系なので総じて体力がなく、晩年の諸葛亮孔明の如く病気に掛かっているので無理が出来ず、しかたなく持てる伝手を用いて彼が出来そうな仕事を斡旋してやることにした。

 

まぁそれくらいなら俺にもできらぁな。マスターとか情報通トトロスの手を借りればな。あとは彼らに任せれば少なくても死ぬような労働環境に放り込まれることはないだろう。多分、きっと…めいびー。

 

それはともかくウォルはまだまだぴっちぴちの十代で若いので、俺は彼を鍛えると同時に、共に鉱山で管理棟へ続くルートの拡張を行うことにした。流石に毎回クレバスを通るのはキツイので、簡単に通れるように穴を掘り、少しづつ資材をもってきて補強し崩落することを防ぐことにしたんだ。

 

基本は一人作業だったけど、トトロスの伝手で金さえあれば信用が置ける人間を集めることに成功し作業は予想以上に早く終えることが出来た。知り合ってから数カ月だが、トトロスというこの男は実に使いやすい。

 

知りたい情報をすぐに仕入れ、色んなところと伝手を持ち、まるで今までも上司から使いッパシリをされていたような感じを覚える。いやパシリではないな、パシリを越えたパシリ、パシリオブパシリの称号がふさわしいだろう。

 

そのこと伝えたらマジ泣きして止めてくれって泣き付かれたが、まぁ口では言わないが俺の中でのトトロスの評価はパシリオブパシリで確定しているので今後変わることはないかもしれないな。あ、マジでへこんでらゲラゲラ

 

 

 それはさておきウォル少年については流石にひょろすぎたので、少し鍛える為に俺の作業に付き合わせた。日給はノルマ以上のジゼルマイト鉱石で師匠と二人で贅沢しなければ3食を食べておつりは出せるくらいのモノを渡しておいた。

 

 最初はやはり軍師キャラの宿命と言えばいいのか体力が全然なかった。(もっとも岩を軽々と粉砕する俺と比べるのも酷だとも思うが…)その為鉱山式ブートキャンプを行ってひょろひょろから脱げばすごいレベルにまで到達することに成功する。

 

 もっとも生前の俺と同じく筋肉が付きづらい体質であり、服装がローブに近い空間服姿だったので外見は全く変化なし。生来の気弱さの所為で監獄という閉鎖環境では四苦八苦しているようだ。囚人から見れば彼はネギをもったカモに見えるんだろうな。

 

 しょうがないので派閥に引きこんだ…というか最初から派閥のメンバーだな。よく言うだろう?3人いれば派閥が出来るって…意味が少し違いそうだが、少人数でも組織を作れればそれは派閥となる。結局俺も派閥組って訳だ。くわばらくわばら。

 

 その所為かドドゥンゴからケンカをよくフッ掛けられる様になった。当然俺は逃げられる時は逃げた。一々相手にしている時間はないしキリがないからだ。とはいえ、向うからすれば面白くないらしく、不戦勝で199回向うが勝ち越しとなっている。

 

 はいはい、勝手に勝った負けた言っていてくれと俺は言いたい。たかが収容所で満足できるタマならそれがお似合いさ。俺は当然満足何ぞ出来ないので、ここから脱出させてもらう。ああ、後少し…後少しでココから出られるかな。

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 囚人編8+9

Side三人称

 

 

「ユピ~、わたし死んじゃうよぉ~」

「大丈夫ですよ。艦長はその数倍こなしてましたしね。同じ人間なんですから出来ないわけないですよ」

 

 ここは白鯨が停泊している小惑星基地に造られた執務室。一つの都市を内蔵している白鯨は日々生活するだけで行政やら色んな仕事が舞い込み必然とトップの仕事が増えるのでトスカはユピと共にその処理にあたっていた。

 

「判ってないなぁ…個人差ってのがあるじゃないさ」

「個人差は気合と努力で埋めることも可能というレポートがありますけど読みます?ちなみに作者はサナダさんですけど」

「……いい、仕事するよぉ」

 

 トスカが処理しているのは本来ユーリがやるべき仕事が主である。暫定的とはいえ現在白鯨の最高責任者の任にあたっているので、ユーリがこれまでしていた仕事が彼女にも回ってくるようになっていた。

 

 だが、さりげなく人類超えていたあのお馬鹿(ユーリ)がとくに自覚もせずに処理していた仕事量は、常人の行うそれを遥かに超えていたりする。その所為で優秀ではあるが人類の範疇に収まっているトスカがユピを手伝わせても苦労しているという訳だ。

 

「はい!筆跡を真似て描いて、こぴーあんどぺーすと」

「もう!それらはあんまり重要じゃないからいいですけど、他の重要な方はちゃんと読んでからにしてください!」

「硬いねぇ。楽できるところは楽をしようじゃないか」

 

 もっとも苦労していると言っている割に、ワイン片手にやっているのだが…。

 

「あのう…そのワイン何処から持って来たんですか?」

「ん?拿捕した輸送品の保管庫から拝借~♪」

「はぁ~……勝手にですか?」

「失礼な。ちゃんと書類上はちゃんとしてあるよ。ホレ」

「どれどれ……ブッ!馬鹿ですか貴女!馬っ鹿じゃないですかっ!またはアホですかっ!一体宇宙のどこにコンテナ一つ分のワインを懐に入れる女がいるんですか!」

「いいじゃないか、コンテナ数十個あるんだし一つくらい」

「………」

「あ、あら~ユピさん?なんで青筋浮かべて――ちょっ!関節技はダメだってばっ!」

「一度痛い目を見て反省しなさぁぁぁい!!!」

「いひぃぃぃぃぃ!!!」

 

 ユピは成長する。色んな意味で。

 

………………

……………………

…………………………

 

 ユピお仕置き後、しばらくしてから執務室に来訪者があった。

 

「………なぁユピ。艦長代理どのは何で腰を押さえて蹲ってんだ?」

「気にしないでください。それよりも今日は何か用事ですかケセイヤさん?」

 

 我らがマッドサイエンティストこと、整備班のトップであるケセイヤである。トスカから頼まれていた仕事を終わらせ、彼女へと直接報告をしに来たのだが…ちょっと具合が悪い時に来てしまったようだった。

 

「いやまぁ、頼まれていた戦列艦への改良設計が終わったからその報告兼――」

「兼?」

「艦長代理が仕事したらタダでワインをくれr「まてまってケセイヤいまは」」

「ほう?あとで詳しくお願いしますね?あとワインはボッシュートです」

「……神は死んだ!」

 

 両手を天に掲げて叫ぶトスカであるが、ユピはそんなこと無視して主計課へと連絡を入れて、酒豪でもあるトスカが密かにちょろまかした強奪ワインを没収するように指示を出した。それにより膝をついてさらに落ち込むトスカだったが、やはり無視される。

 

 仕事のし過ぎで疲れてんだなぁとトスカの奇行を見ながらそう思うケセイヤは、とばっちりが来ない内に報告を済ませることにした。

 

「―――んで頼まれていたヤツなんだがよ」

 

 マイクロチップを出してデスクのプロジェクターに挿入すると、ホログラム画面が投影され、そこに艦船の設計図が映し出された。それを何時の間にか椅子に腰かけていたトスカが設計図をジッと眺める。流石にトスカも仕事の時は真面目になるらしく、今は大人しく仕事に集中していた。

 

「ファンクス級戦艦、リークフレアとシャンクヤード級巡洋艦……また随分とポピュラーなヤツばっかりだねぇ」

 

 ファンクス級、リークフレア級、シャンクヤード級、共に全翼機のように横幅と全長がほぼ同じで、胴体部側面から張り出した翼面部に取り付ける様にエンジンブロックを取り付けたことでペイロードと速度を重視した設計が施された艦船である。

 

 エンデミオン大公国や一部の大マゼラン宙域にいる海賊は、強奪品を大量に持てて、航続距離が長く(寄港地が少なくて済む、危険減)、それでいて足が速いので獲物を逃がさず警備艇からは逃げやすいこれらの艦を使う輩が多い。

 

 0Gドックの一部もこの足の速さとペイロードの大きさを用いて輸送艦として自由貿易に励む者も多く、そう言った0Gドックが多く集う、大マゼラン・ロンディバルト連邦領宙内に浮かぶゼオスベルト宙域では、シャンクヤード級のCMを見ない日はないと言われるほどである。

 

このゼオスベルト宙域にあるギルドの総称を纏めてゼオスベルトユニオンというのだが、ユニオンの人間かどうかはCMソングのシャンクヤードの唄を歌えるかで判ると言われるほどで、同じ設計が施されたファンクス、リークフレアも同じく、同宙域ではベストセラーの艦船達なのである。

 

 だが特筆すべき点は速度とペイロードの二つしか無く、それ以外は武装も防御力も通常艦船と殆ど変らない平凡な性能であり、正直ロンディバルド連邦軍正式採用艦であるネビュラス級戦艦などを使っていた白鯨では少し性能が足りないなと言ったところ。

 

 もっともそのネビュラス級自体が本来の設計は基幹フレームしか残っておらず、それ以外は設計データ破損による穴開きを埋める為に、その時の使える技術をブチ込んだカスタム艦なので本来のネビュラス級とは性能が異なることを示しておこう。

 

「ここらじゃこういう艦船が一般的だからな。木を隠すなら森の中っていうだろう?」

「なるほど………それで?」

「ん?なにか?」

「アンタの事だ。どうせ普通の設計何ぞしてないんだろう?」

「……………くくく、よくぞ聞いてくれましたっ!!!!」

 

 デスクに片手を置いていたトスカはじとーっという視線を送るが、ケセイヤはそんなことお構いなしである。というかコイツに自重を求めるのは太陽の核融合をやめさせるくらいに無茶である。

 

「例の如く!設計俺!計算修正サナダ!材質はミユ!その他はライが担当!」

「あ~あ、はいはい…(アンタらがそろうとなんでも出来るねぇ)」

 

 さて図面上で施された改造はステルスシステムの搭載、ボールズ常備、兵装の変更、エンジン増量、装甲材の変更など多岐にわたる。ちなみにどの艦の図面もコスト度外視設計なのはマッド達の御約束であろう。

 

 ステルスシステムは何度もバトルプルーフを繰り返してきた白鯨のステータスと呼べる装置と化し、コストも最初期に比べれば下がっているので搭載は必須である。というかむしろこれが搭載されていないと白鯨艦隊としての艦隊行動がとれない。

 

 ボールズについては既存の修理ドロイドよりも優秀であるのに大きさはバスケットボールくらいなので場所を取らず、また個体数が何らかの理由で減っても周辺の物資を使って自己補充可能な上、既に一万体ちかくいるのでコストは安い。

 

 兵装についてはファンクスもリークフレアもシャンクヤードも高速艦なため、対艦装備が基本前方にしか向いておらず、中型砲2門とかそう言ったレベルである。流石にこれじゃキツイのでガトリングレーザーやリフレクションレーザーを追加していた。オーバーテクノロジーのホールドキャノンは搭載していないが十分な火力である。

 

 エンジンの増量はそのまんま同型エンジンを直列繋ぎで出力3割増し、装甲材の変更が一番コストが掛ったが、重要な部分以外はそのままという形をとったので思っていたよりもコストは上がらずに既製品のフネと比べるとコストは10%増加で済んでいる。改造した内訳とアップした性能を考えれば大分抑えられていると言ってもいいだろう。

 

「んで半自律型迎撃端末とかを搭載した試作戦闘艦の設計図」

 

 次にケセイヤが見せた設計図にはゴテゴテとうろこのような物体が付いたリークフレア級が描かれていた。うろこのような物は無人戦闘機ゴーストの小型版である。簡単に言えば戦闘艦がファンネル搭載という鬼畜仕様である。

 

「あー、そいつは却下な。多分コスト馬鹿ヤバいだろう?それとユディーンみたいな能力の持ち主がいないと使えないシステムはちょっとね」

 

 当然トスカは却下した。小型攻撃端末が付いているのはいいが、特殊すぎて流石に艦隊運用で組みこめないと踏んだからである。

 

「じゃあこっちの誘導帰還式運動エネルギー弾装備搭載艦わ?」

 

 こっちはシャンクヤード級の翼部両端に大きな球体がくっ付いていた。ご丁寧にその球体には鎖が付いているらしく、高速艦の速度を利用して打ち出し対象を撃滅するものらしい。

 

「戦艦に鎖付きハンマー付けてどうすんだい?」

「それもダメ?なら艦首特重粒子収束砲を装備とかは?」

 

 ファンクスの胴体に円筒でもブチ刺したようなデザイン。艦首部分に突き出した円筒の先には大きくぽっかりと大穴があいている。特重粒子収束砲を取りつけた砲艦スタイルで+α戦艦としての機能が損なわれていないというキワモノ設計図だった。

 

「前にしか撃てないじゃないか。それだけならまだしもチャージに時間掛かり過ぎ」

 

 これも却下した上にダメ出しだ。浪漫というのは女性には判りにくいのかもしれない。というかロマンのベクトルが違うのだ。男の浪漫=女性のロマンという訳にはいかない。

 

「それじゃあ、特攻用特殊突撃螺旋衝角――」

「ただのドリルじゃないか。あと一々言い回しが言いにくいから普通にしてくれ」

「そんなのロマンがない!ちくしょー!ユーリ艦長はやくもどってきてくれー!」

 

 とはいえ、自重させないとこのようにロマンに走る。どうしてロマンを理解してくれないんだー!と叫ぶケセイヤにトスカはもう慣れたよという眼を向け、ユピは浪漫サイコーと叫ぶ製造者に少し呆れた眼を向けていた。

 

「ロマンがあるの大いに結構。だけどそれは趣味だけにしておくれ」

「いわれなくてもっ!期待していてくれっ!―――たしかライブラリーに異星のフネが……ブルーノアだったかな?」

 

 ケセイヤはちょっと不吉なことを口ずさみながら良い笑顔で執務室から退室していく。こと自分の興味のある研究に対しての情熱が尽きることがない彼は、それ以外は比較的普通なのにその情熱の所為で損している気がしてならない。

 

「―――仕事しようかユピ」

「ですね……あ、そうそうシュベインさんの報告で、やっぱり艦長はゼオスベルト宙域にいる可能性が高いそうです」

「ゼオスベルトねぇ…たしかゼオスベルトユニオンがあったね」

「ユニオン?」

「ギルド連盟の事を総称してそう呼んでいるだけさ。そういう組織がある訳じゃないよ。しかしシュベインの奴、ようやく仕事してきてそれかい?」

「まぁまぁ、なんの手がかりもなかったのにここまで突き止めただけでもすごいじゃないですか。それにちょうどいいですよ」

 

 まぁそうだけどねぇ、とトスカはデスクの上に置かれた紙束に目をやる。そこには次の標的となる監獄惑星侵攻作戦計画書があり、その書類に書かれた次の監獄惑星の名前は―――ラーラウスであったのだから。

 

 

***

 

 

―――監獄惑星ラーラウス・所長室―――

 

《―――ズズン》

「ん?いまなんか音がせんかったか?」

「………なんも聞こえないです。空耳じゃないですか?」

「う~ん、わしも歳か?たかだかコスモスコッチの一杯くらいで酔ったか」

「経済的でいいじゃないですか。でもまだいけるでしょう?まま、一杯」

 

 今日も今日とて賄賂で懐を温めたドエムバンとその部下たちは、いつものように賄賂の金で手に入れた高級酒を飲んでいた。警備はシステムが自動でやってくれるし、基本的に彼らの仕事は機械の前に一定時間座っているだけでいい。たかだか1100万人程度しかいないのだから気張らなくてもいいのである。

 

 そんな感じでぐびぐび呑み続ける呑んべぇ共が酔い潰れるのに時間はそれ程掛からない。やがて全員トロンとした目になり、全員がZzzといびきをかきながら、つまみのなれの果てが残るテーブルに突っ伏して眠り始めた。何とも適当な連中である。辺境の監獄惑星何ぞこんなもんだろう。

 

 だから彼らは気にも留めなかった。遠くの方から聞えた筈の振動に―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………聞こえちまったかな?」

「…………どうでしょうね?」

「………とりあえず、迂回して先進みましょうや」

「そうですね。急ぎましょう――皆さん、ちゃんと着いて来てください」

「「「「へーい」」」」

 

 監視塔地下数百メートル、迷宮のような坑道が縦横無尽に広がる地下坑道の一角に、大人や子供を含め数十名に及ぶ集団がいた。全員が何かしらの袋を携え、まるで夜逃げをしようとしているかに見える。その集団の内訳は元0Gの囚人、そして一部のストリートチルドレンたちである。

 

―――その集団を率い、筆頭に立っている男こそ、我らがユーリであった。

 

 そう、監獄惑星から脱出する為に、ついに行動を起したユーリが仲間を連れて地下坑道に入り、管理棟に辿りつく一歩手前まで来ていたのである。先程の大きな音は手入れが万全ではなかった坑道が一部崩れてしまい、再度掘り返そうとしたら余計に崩れて埋まってしまった音であった。

 

 当然、崩したのはこの集団の中で随一の馬鹿力の持ち主であるユーリである。一応ウォルや雇った囚人たちと共に坑道を補強したりしたのだが、広すぎて十分に手が回らず崩落。そして穴を塞いだ岩を粉砕してこの体たらくである。

 

その所為で全員から冷たい視線が来るが“よし、プランBでいこう”と言って視線を逸らしていた。アホである。

 

「ふーむ、どうしたものですか…」

「ユーリ君。たしか、ここは…右の坑道が繋がっておる……ゴホッ、ゴホッ!」

「し、師匠…水を」

「老師はマスクを外さないでください。ここは埃っぽい」

 

 咳き込むルー・スー・ファーを気遣うウォル。地下坑道は基本的に一定の温度が保たれているのだが、地下水脈が近いからなのかいま彼らがいる場所は乾いているが気温がかなり低い場所である。病気を患うルーにとってはかなりキツイ場所であると言えた。

 

 またこんな場所を抜けなければならない為、囚人たちからも不満の目で見られている。その事が災いせねばいいがとユーリは先頭に立って彼らを誘導していた。幸い多少坑道を崩した程度なら他にもルートがある為まだ挽回できる。

 

 伊達に数カ月、網の目のように縦横無尽に走る地下坑道をさまよった訳ではない。ユーリ自身がこの日々変化を迎える迷宮のような坑道の生きた地図のようになっていた。俺艦長なのに何だかベテラン鉱山員な気分だぜと彼が思ったのは余談である。

 

「ユーリさんよ。まだつかねぇのか?というか本当に脱獄できるんだろうな?」

 

 さて、坑道を歩いているとやはりと言うべきか。ついて来ていた囚人の一人がユーリに疑問をぶつけてきた。この事については坑道に降りた際に彼らに説明していたのだが、あまり人の手が入っていない坑道を延々と歩かされた事に彼らは不安か不満を覚えていた。

 

 そしてその矛先は彼らをここまで連れて来たユーリに向けられるのもごく自然の事。彼らの多くはこの星から脱出できるという事に望みを掛けている0Gである。0Gドックは殆どが星の海を航海する船乗りたちであり、こんな陰気くさい地下道にいるのは飯の種の為以外なら御免であると公言できる人間たちだ。

 

 本当に目の前の優男(に見えるが怪力男なユーリ)が言うようにフネがあるのか。そしてそのフネでプラズマ層が渦巻くこの星から脱出できるのか。多くの者たちはその事について疑問に思っていた。

 

特にこの監獄惑星ラーラウスは近隣の恒星から吹き付ける太陽風により形成された鉄壁のプラズマ層に覆われた星。生半可なことでは星に降りることも星から出ることも叶わない文字通り監獄な星である。

 

実際ラーラウスの空は常に灰色の分厚い雲に覆われて、数十年いるという古株の囚人ですら晴れた空は拝んだことがないという星だ。フネを奪ったくらいで脱出できるのか?多くのモノが疑問に思うのも無理ない事だった。

 

「これはこれは。私が嘘をついていると?」

「だったら何で地下道に入るんだ?管理棟は地上にある。そっちを制圧した方が簡単じゃねぇか。それにこの星はプラズマ層におおわれている。普通のフネじゃ空に上がった途端プラズマ流の餌食だぞ」

「………ヒントをあげましょう。これまで定期的に囚人が来ていますが、その定期便を見た囚人はいない。そして常に厚い雲とプラズマに覆われたこの星の空に“フネが通れるほどの晴れ空”が出来た試しもない。ただの一度もです。これがヒントですよ。さぁ急ぎましょう。大分スケジュールを押してしまいました」

 

 そう言って胡散臭く笑みを浮かべて話を強引切り上げたユーリに、疑問をぶつけた男はしぶしぶといった感じで一端引き下がる。なんだかんだ言ったもののここまで来た以上単独で暗く曲がりくねった地下道をひきかえすことは不可能だったからだ。

 

ユーリの派閥に一応属する形をとっていたが、ユーリ自体が囚人である以上、本当に信用できるとは彼らも思ってはいない。それなりにいて少しは判っても長年囚人生活をしていた癖は抜けないのだ。下手に信用すると馬鹿を見るのはラーラウスの囚人の常識である。

暗い坑道を歩きながら、一か八か自分の命をチップに博打を打つのは何年振りだろうと彼は思ったのだった。

 

………………

……………………

…………………………

 

 さてさらに2時間ほどが経ち、なんとか以前侵入した管理棟最下層部の坑道と接触している部分にユーリと数十人の囚人たちは到達していた。剥き出しとなったコンクリートと、そこに最近出来たと思わしき人がやっと通れる大きさの穴がぽっかりと口を開けている。

 

 本当に管理棟の地下に辿りついたのかと思わずそう呟く者もいた。なにせ彼らの感覚では大分地下深くまで降りてきていると感じている。そんな深さにまで管理棟の施設が伸びているとは思わなかったのだ。この惑星にただ一つある政府の建物は十数階建てのビルにしか見えないので地下がここまで大規模だとは思わなかったのである。

 

「さて、つきました……けどここから先は無駄なお喋りは禁止です。それとダクトを通って途中のランドリーまではいけますが、通路には監視カメラがあるので集団で行く事は出来ません」

 

 ユーリは驚きでまだ上を見上げている囚人たちの前でパンと手を打ち鳴らし注目させる。流石に数十人で固まっていけば見つかるのは当然なので、一応ルーを含めて他の囚人たちはダクトの中で待機する。そして以前一度中に入った事があるトトロスも残り、ユーリが監視をなんとかした後、残った連中を案内するという手筈となった。

 

 残していく連中に不安がない訳ではないが、すでに最深部に辿り憑いているので単独でとっ返すのはまず不可能。一応は残った連中の監視を脱いだら凄いウォルに任せたユーリはダクトの中に消える。前と同じくダクトを抜けて人気のない部屋へと抜けてから中に入るのである。

 

 ここで役立つのが、前に侵入した際に入手していた監守の制服だ。正面玄関から中に入るには厳しいチェック……というか認識票の掲示が求められ、コンピュータのデータと照合されるので偽造する偽造屋がいないこの監獄惑星では難しい。だが中に一度は言ってしまえば照合されることはない。

 

「……(潜入した。指示をくれ大佐)」

 

 監守服に着替え潜入した管理棟の中はとても静かであった。……というか、既に侵入されているとは誰も思っていない為、警戒もなにもしていない。寝静まったように静かな廊下を歩く。時折通り過ぎる部屋からはいびきの音以外は聞こえない。

 

 好都合とばかりに堂々と彼は廊下を歩き続け、とある部屋の前で立ち止まった。プレートには中央監視室と書かれている。

 

 扉は特にロックされている様子はない。それもそうだ。この監視室がある場所は最下層に近い。そんなところにまで侵入できる囚人がいるとは誰も考えていないのだから、扉にロックを掛ける必要がないのだ。満身の極みとはこの事かとユーリはドアを開けるスイッチに触れる。圧搾空気が抜けるカシュという音と共に、扉は開かれた。

 

「…ん?だれだこんな時間に?交代はまだ先だろう?」

 

 そしてユーリは臆することなく、ごく自然に部屋へと入った。中は近来の監視室の例にもれず、監視カメラの画面とコンソールと監視映像の録画機材が置かれている6畳ほどの部屋である。そこに3人の監視員が待機しており、ウチ一人が入ってきたユーリに声を掛けてきた。

 

「いいえ、交代の時間です―――よッ!」

 

 早技であった。3人の内声を掛けてきた1人は立っており、残りは画面の前に座っていたのであるが、ユーリは先ず立っていた男に足払いをして転倒させる。画面前に座っている2人が驚いている間に2人の元へと移動。

 

警報を鳴らされる前に1人は首を叩いて気絶させ、もう1人は首を掴んで持ちあげ、椅子から引っ張り上げた。そして転倒させた最初の男が起きあがったところで、画面の前に座っていた1人を掴んだまま腹に膝蹴りを入れ強打、気絶させる。

 

「ぐっ、お、おまえ監守じゃ―――」

「さて残りはアナタだけです。ここの機器はどう操作すればいいのですか?」

「だ、だれが教えてやるものか」

「そうですか……フンッ!」

 

 首を掴んだまま対面している男は顎に強烈な痛みが走ったのを感じた。ユーリが弱く殴打したのである。その所為で歯が一本吹き飛んでいるが飽く迄気絶させないために“弱く”であった。

 

「―――それで、操作の仕方は?」

「ぐっ……き、基本的にコンソールで行え、るっ!」

「操作にパスワードは?」

「へ、そんなの自分で」

 

 再び反抗しようとした監視員の男を壁に叩きつけ、殴りかかってこようとした監視員に弱めの膝蹴りを喰らわせた後、腕を思いっきり掴み―――

 

「ハッ!」《ゴリン》

「―――ッッ!!!!???」

 

 ―――口を塞いでそのまま手首の関節を外した。

 

 あまりの痛みに監視員は手首を抑えて悲鳴をあげる。彼らとて一応は国家公務員であり、囚人を相手にする職業である以上訓練を積んでいる筈なのだが、辺境星系に位置するこの収容所で毎日訓練をする殊勝な輩はいなかった。

 

「操作する上でパスワードは必要なのですか?それと録画装置は?」

「ぱ、パスワードはない!録画装置は市販の映像装置と変わらない!そこのデッキだ!」

「では監視カメラとレーザーセンサーやターレットを止めるには?」

「ここでは出来、ない」

「ほう、出来ないと?」

 

 再び監視員の首をギリリと絞めあげたユーリが薄ら笑みを浮かべる。男は顔を青くして逃れようとするが、ユーリは無慈悲に監視室に置かれたデスクに男を叩きつける。勿論気絶させない様に手加減する事は忘れない。だが叩きつけられた方は溜まったモノではないらしく痛みにうめき声をあげながらデスクから転がり落ちて蹲っていた。

 

「それで?」

「うぅ…スイッチ、そこ。オンオフはそれで、できる」

「ふむ、やはり嘘をつこうとしたと……これはお仕置きが要りますね」

 

 男の回答にうんうんと頷きつつも、ユーリはそう呟いて懐から小さな折り畳みナイフを取り出した。監視員の男は「ひっ!」とひきつったような声を出す。

 

「しゃ、喋ったじゃないですかっ!」

「でもそれ以前の情報に嘘がなかったとは限らないですしね……ところで貴方は“歯医者”って拷問知ってますか?」

「は、歯医者?」

「はい歯医者さんですよ。なに簡単です。嘘付きなその口に生えている歯とか舌とかを、歯医者さんのように取ってあげましょうという親切なご・う・も・ん・です」

 

 もっとも麻酔無しで唇の上からやりますけどねーとナイフをちらつかせて言うユーリ。あまりにも楽しそうにうすら笑いまで浮かべている彼に、監視員の男は震えが止まらず、下手り込んだ男の足元に水たまりができる。

 

あまりの恐怖に失禁したのだ。そのまま意識まで飛ばしかけた男だったが、それくらい想定済みのユーリに思いっきり頬をビンタされ、無理矢理意識を覚醒させられてしまう。一思いに殺れと内心懇願する彼が、どうしますと聞いてくるユーリに言えたの言葉は………。

 

「う、嘘なんらついてない、まへん!や、やめへください!」

「ふーむ、これで嘘だったら交代の人が来るまでいたぶるつもりなんですが……」

 

 試してみましょうかとユーリがコンソールを操作すると、警報が鳴ることもなく確かにセンサーや監視カメラが止まった。それを見たユーリは笑みを深める。

 

「はいご協力感謝します。もう夜も遅いですし眠ってもかまいませんよ」

 

 そしてそう言ったが早いか掴んだままの男を、録画機材へと放り投げた。男は録画機材へと突っ込んでボーリングのように機材を破壊した後に床に投げ出される。だが男の顔には気絶できることへの安堵の表情が浮かんでいた。

 

 

***

 

Sideユーリ

 

 うへぇ、小便臭ぇ……もう演技でも拷問とかしたくねぇや。

先程放り投げた男を一瞥しながら俺は少しよごれた監守の服を脱ぎ、懐から事前に用意しておいた小さな通信機を取り出した。こいつは密輸の奴に金を握らせて手に入れておいた品で、旧式だが十分使えると言われ数セット購入した。ぼられたけどね。

 

「あー、あー。トトロスさん、聞こえますか?」

『ザ、ザザ――おう、聞こえてるぜ。上手くいったか?』

「ええ、センサーとカメラは止めました。急いで中に入ってください。あの場所で合流します」

『了解だぜ』

 

 そう言って通信を切り、俺は念の為に監視員達を壊れた録画機材にあったコードで縛りあげ監視室を後にした。念の為出る際に鍵も掛けるのが紳士の嗜みだぜ……言ってアホかと思った。それはさて置きトトロスと合流する為に急ぎ合流場所へと向かった。

 

 合流場所は、以前見つけた白鯨艦隊のフネがある格納庫である。監視カメラを止めたので悠々と格納庫に行くと、既にトトロス達は到着していた。アレ?俺よりも早いなと思ったが、話を聞くとレーザーセンサーが止まったので格納庫まですぐに来れたんだ、とトトロスが言っていた。

 

 監守に遭遇しないか心配だったらしいが、一応夜時間で寝静まっており遭遇する事は幸運にもなかったそうな。運が良いねぇ。際先は結構いいのかな?とにかく出港準備をしなければならないので、俺は懐かしきネビュラス級戦艦リシテアへと乗り込んだ。

 

 リシテアの艦内は特に荒らされたような形跡はない。政府に一度渡っているというのに調べられなかったのだろうかとも思ったが、まぁ配線がむき出しになってとかいう事態じゃなくて僥倖である。そうなっていたらユーリ君はウーンと唸っちゃうんだ☆

 

 おふざけは兎も角として、まずはモスボール処置の解放……といっても機関部にあるスイッチ類を元の位置に戻すだけで済む。後は通常の手順なら手動で予備電源を使い補機を起動させ、補機が起動したらそのエネルギーで主機のインフラトン・インヴァイターに火を入れて稼働させるのだが―――

 

「ユピコピ、起きてださい」

【声紋、静脈紋、遺伝子照合完了――最上位ユーザーであると確認。起動します。おはようございます艦長。どうしますか?】

 

 

 機関部のスイッチを戻した俺は早々とブリッジに来ていた。そして予備電源で生きていたコンソールに手を置いて、フネのAIに目ざましを掛けてやった。ユピコピはその名の通りユピテルのコピーAIであるが、本家ユピに比べると簡易化された影響か感情が見えない為、受け答えがどこか機械チックだぜ。

 

「主機を起動して発進準備をお願いします。それと他の艦が起動したら他のユピコピに通達して存在を悟られないようにと。あ、あと乗り込んでいる人員は仮乗組員ということで登録をしておいてください」

【了解しました】

 

 AI相手に随分抽象的な言い回しであるが、未来のAIは伊達では無い。こんな指示でもちゃんと命令を実行できるのである。まぁマッド謹製だからだとも思うが、それでも俺の時代よかインターフェイスが格段に進歩しているのは言うまでもないだろう。

 

 そして後はすることもないので艦長席に座っていた。するとしばらくして他のフネのインフラトン機関にも火が入り、フネが起動しはじめたのをセンサーで感知する。流石は腐っても0Gドック、機関始動が早い。

 

「さて現在の状況はどうでしょうか?」

【インフラトン・インヴァイター正常稼働、出力上昇中。全動力弁閉鎖、解放。――同型艦『カルポ』『テミスト』『カレ』も起動を確認。マハムント級巡洋は1番と4番は起動完了。2番と3番の準備が少し遅れています。無人駆逐艦群は既に起動完了。待機状態です】

 

 ネビュラス級の方は『カルポ』にルー、『テミスト』にウォル、『カレ』にトトロスが乗りこんでいる。彼らとは知り合いで信用が置ける上、派閥設立当初からいる連中なので、一番戦闘力があるフネを任せるのは必然であると言えた。

 

 大型艦を動かした事はないだろうが、基本的にネビュラス級の起動はユピコピ達が代行してくれるので、乗っている彼らは軽く指示を出した後は見ているだけで済む。自動化バンザイとはこの事か。人員が足りなくて戦闘で人員が少なくなっても戦えるように再設計されたのが今効いてる!効いてるよ!

 

 ちなみにその他の囚人たちは、ストリートチルドレン以外はマハムント級巡洋艦に乗ってもらっている。戦艦ではないがマゼラン銀河のロンディバルド連邦軍でも正式採用している巡洋艦なので、元0Gドックの囚人たちが乗っていたフネよりも高性能であることは間違いないようで、特に文句は来なかった。

 

 もっともユピコピリンクで囚人たちが乗る巡洋艦を密かに覗いてみると、火器管制のプロテクトを外そうと必死なようだ。だがここから脱出するまで勝手にプロテクトを外されるのは困るのでユピコピに指示を回して火器管制は開かない様にさせて貰っている。

 

脱出が済んだ途端後ろから撃たれたら堪ったものではない。もっとも連中のフネに搭載された武装は、ロンディバルド連邦軍が使うプラズマ兵器ではない。マッドと白鯨の技術陣営がちょっと改良した大型ガトリングレーザーなのである。多分撃たれてもネビュラスの装甲なら耐えられる…多分。

 

「ん?おやおや、今更気が付きましたか」

 

 ふと外の映像を見ると、格納庫内で真っ赤な非常灯が点滅している。どうやら警報が鳴り響いているようだ。こいつは侵入した事がばれたみたいだな。しかしたかだか監視室を抑えただけなのに随分と遅かったな。職務怠慢もほどほどにした方が良いんじゃないか?

 

『おい!監守たちに気付かれたぞどうすんだ!』

「いまさら騒いでもしょうがないですよ。すでにフネは動きだしたのですから」

『なに言ってんだ!気付かれたら最後隔壁がロックされて逃げられねぇんだぞ!』

 

 ま、たしかに普通ならそのまま閉じ込めて、身動きが取れないフネのエアロックを焼き切り、中にいる人間をつまみだすという手段をとるだろう。だが折角ここまで来たのにそんな最後は当然お断りだ。

 

「ユピコピ、データリンク解放。最上位権限発令―――各艦、火器管制を本艦と同調せよ」

 

 旗艦リシテアの火器管制が開きコンソール上で操作が可能になった。俺はすぐに砲の仰角を目一杯上方にセットする。ほぼ90度垂直に上甲板にある二機の主砲が立ちならび、同型艦カルポ、テミスト、カレも主砲を上方へ向けた。

 

【メインシステム…エラー。バイパス、自動照準システムオン。全火器管制ロック解放。エネルギー・クイックチャージ完了まで3秒2秒1秒…完了。全ホールドキャノンスタンバイ】

「撃て」

 

 リシテアから放たれるホールドキャノン。それに同調するようにカルポ、テミスト、カレからも主砲が発射される。計12条もの光の螺旋は頭上の隔壁を簡単に融解させて蒸発させていく。なにせホールドキャノンは宇宙空間において、遠距離でもその余波で駆逐艦を破壊できる威力を持っている。

 

 当然、ただの監獄であるラーラウス収容所管理棟の格納庫が耐えられる訳もない。隔壁には融解して溶け落ち、頭上に開いた穴にはラーラウスの薄暗い曇り空が見えていた。それを見て俺は大きな声をあげ号令を掛ける。

 

「さぁ再び星の海へ!各艦発進せよ!」

 

 各艦一斉に飛びあがり、囚人たちのマハムントが先行して空へ続く穴を上昇していく。此方もインフラトン機関の出力が上がりフネ全体に振動が走った。そして1kmを越える大型艦は大気を震わせながら順次格納庫から離脱を開始した。

 

【各部スラスター、重力圏離脱モードへ移行、姿勢制御仰角55度、機関出力最大へ】

 

 オートパイロットで地上に飛び出した各艦はリシテアを待っていたかのように空中で待機していた。プラズマ層の突破の仕方は俺しか知らないのだから、そうする他なかったというのが本音かな。とにかく空中で合流した俺達はそのまま俺が乗るリシテアを先頭に艦隊を組み、速度を上げていく。

 

【後約10秒で第一宇宙速度に到達します】

 

 重力制御とシールド技術がなければ大気との乱気流で恐ろしい振動が襲い掛かって来ただろうが、キチンとモスボール処置がなされていたお陰で機能は万全。大気流の影響は殆ど無い。そして徐々に天を覆う雲海へと近づいていく。

 

 リシテアが近づくとまるで近づくなと言わんばかりにプラズマ層の放電現象による蒼白い発光が外部カメラに映し出されていた。このプラズマ層こそがこの星の鉄壁の守りの中心であり要。でも見た目的にはタダの雷にしか見えないんだけどねー。

 

『ユーリさん、プラズマ層まで後20秒だけど、大丈夫なのか?!』

 

 慌てたような声が通信機に入る。トトロスが真っ直ぐ上昇している艦隊がプラズマ層へと突っ込むのではと思い掛けてきたらしい。だが心配ない。ここのからくりは最初から知っている。本来なら原作でウォルくんが解きほどいてくれる謎だったが、今回はちょっとこの星から早く離脱したいので俺がネタバラシさせてもらうぜ。

 

「ユピコピ、全砲門開口、出力リミッター解放」

【了解、ジェネレーター出力を砲門へ回します。バーストリミッター解除】

「狙いは付けなくてもいいです。全部正面にエネルギーを解き放ちなさい!」

【全門、発射】

 

 主砲の連装ホールドキャノンがバーストモードで発射され、側面の中型ガトリングレーザーキャノン4機が唸りをあげてレーザーの雨を降らし、船体に取り付けられていた外部装甲一体型ホーミングレーザーの収束砲撃が極光となって進路方向へと放たれる。

 

 弾幕というか弾壁と言うべきそれはまさにエネルギーの暴力であった。ラーラウスを包むガスのような雲を押しのけ突き進んだエネルギー弾は突如何かに“着弾”し、そのエネルギーを存分に開放して爆発した。

 

『ちゃ、着弾しただと?!』

『なににあたったんだ!?おいユーリさんよ。どうなってんだ!』

 

 囚人たちの乗る巡洋艦から何が起きたか説明しろという煩い通信が入ってくる。じゃあそろそろネタバラシと行きますかね。出番盗っちゃってごめんねウォルくん。

 

「なんて事はありませんよ。本当にプラズマ層があるなら、我々はその熱量に焼かれて地上を歩くことはまずできません。つまり―――」

【警告、大型デブリを確認。自動回避します】

 

 目の前の雲から“大きな壁”のような物が半ば融解し赤色した状態で落下してくるのをTACマニューバでオート回避する。そう絶対に抜けられないというのはまさしく本当であり、天は天井に覆われていた。

 

「つまりプラズマ層は人為的に作られたものだったんです!」

『『『『な、なんだってー!』』』』

 

 驚きの声が大音量デジタルサラウンドでリシテアのブリッジに反響する。うるせぇ。

 

「別にあり得ない事でもないしょう。ただたんに自然惑星を外郭で覆った惑星なんて幾らでもありますしね」

 

 たしか鉱物資源採掘惑星の幾つかで似たような事例がある。恒星に近い位置にある惑星、太陽系でいうなら水星みたいな星の外側をダイソン球研究の応用し耐熱外郭で覆い、安全に作業が出来る様に改造したものがあった筈だ。確かに太陽に近すぎるとテラフォーミングもクソもないのだし、よく考えたものだと先人たちに敬意を払いたくなる。

 

 それはともかく、外郭壁に巨大な穴をあけることに成功した。もっとも穴を開けたからと言って、スペースコロニーみたいに大気が流出という事態に陥ってはいない。既に高度は120km、地球型環境が整えられ1G下なので回りの空気圧はほぼ0であり、流出しようにも大気がないのだ。

 

 ここまで雲がある様に見えたのだが、実際には外郭壁自体が巨大な立体型スクリーン投影機であり、周辺にガスを漂わせていただけなのである。100kmも距離があれば分厚い大気の元にプラズマ層が発生しているように錯覚できる……こういうからくりであった。紐とけば実に簡単なトリックである。

 

「とにかくこの星から出ます。残りたく無ければついて来てください」

 

大気圏内で出せる最高速度で外郭壁へ開けた穴へと飛びんだリシテアに、他の艦も何とか追随して次々とラーラウスから離脱していく。今頃地上にいるドエムバンは歯ぎしりして悔しがっていると考えると、殴られたことも含めて胸がすっとする思いだ。ああ、早く白鯨と合流したいぜ。

 

しかし皆海賊になっちゃってるんだよなぁ。まぁ原作と同じく俺の白鯨艦隊はこの大マゼランにおいて小マゼランの事情を知る唯一の存在。おまけについ先程、俺が脱獄なんぞやらかしたから、どちらにしろ白鯨の指名手配は確実である。むしろ大所帯を食わせていくにはちょうどいいか?民間船襲わないようにすれば良いだろう。

 

いままで通り、海賊専門の海賊でもやらせますか―――ふと思ったけど、白鯨艦隊に俺の居場所残ってるよな?まさか簡単に捕まったからお払い箱とか言って全く知らないヤツがトップに君臨してたらどうしよう?流石にリシテアだけじゃ歯が立たねぇしなぁ。あ、ユピが掌握されてなければ大丈夫か?うむむ。

 

【――艦長、IP通信です】

「………」

『艦長?指示をお願いします。艦長?指示を――』

「ふむ……ああ、すみません。少しばかり考え事を―――通信ですか?」

【発進元はラーラウスです】

「通信は別に『聞こえるかユーリ。まさか本当に脱獄するとはな』」

【すみません。全周波数帯で無理矢理割り込まれました】

「……ECM起動準備」

 

 なんで脱獄したのにムサイおっさんの声を聞かなあかんのや。そう思いステルスシステムにもしようされる強力なECMを起動準備させる。まったく、脱獄後も気分を害してくれるとは、本当に嫌な男だドエムバン。

 

『ふ、通信を妨害する気ならそれでもいい。だが貴様は逃げられんぞ。既に本国へ応援要請を送ったのだ。わしがわざわざ頭を下げたくらいだからな。またすぐに捕まってここに戻されるだろう。その時こそわし自らが尋問をしてやる。棺桶準備でな!何、収容所で事故は良くある事だからな!フワッハハハハハ――(ブツ)』

 

 ウゼェ、これほどまでウゼェと感じるヤツは早々いないだろう。あまりのウザさに吐き気を催し、怒声でも叩き返そうかと思ったところでECMが作動し通信断絶……この中途半端に振り上げた右手と言いようもない感情はどうすればいいのだ?

 

「………………ユピコピ、第三主砲照準、目標ラーラウス極点。その後射程が許す限り外郭壁を壊しなさい。私が許可します」

【発射します】

 

 イラつきが抑えられなかったので、船底甲板の後方に位置する第三主砲からホールドキャノンを発射させた。螺旋を描くエネルギー弾頭は最初に北極点、その次に南極点を抉り、その後の追加砲撃でラーラウスの外郭壁を穴開きチーズに変えた。

 

簡単に言えば嫌がらせだ。精々修理代でこれまで溜めてきた賄賂を放出でもしてろってんだ。とっても小物臭がするがそんなこと気にしないぜ。小物だけどやってることは惑星規模って逆にすごくね?え、やっぱりセコイ?さーせん。

 

***

 

 

Sideユーリ

 

「さて、なんとか脱出できましたが……」

『こまったことになったのう。すでに応援が呼ばれているとは』

『しかも既に応援と思わしき艦隊を長距離レーダーで捉えた。さすがは速度と航続距離に定評があるエンデミオンだ。行動が早い』

『こ、このままだと、数時間後にはランデブー…です』

『それで、この事態をどうしてくれるんだ?ワシ達を連れだしたユーリさんよお?』

 

 通信画面の向こう側で巡洋艦を任せた元艦長の囚人……長いのでおっさんでいいや。おっさんがこちらを睨むように見てきた。どうしようと言われてもねぇ?

 

「戦うしか、ないんじゃないですかね。ここラーラウスから延びる航路は一本。ゼオスベルトへと繋がる航路しかない訳ですし、待ち構えるならそこでしょう」

 

 ステルスシステムを使ってスルーという手も考えたが、白鯨の人員ならいざ知らずいずれ別れる羽目になる囚人たちが動かしているのでステルスの使用は躊躇われた。

脱獄した以上彼らも指名手配犯となる。そうなると必然的に海賊に身を落とす訳で……ステルスシステムを悪用されたらヤバいという理由である。

 

―――てな訳で、結局のところ応援艦隊と戦う他ないのだ。

 

 

『だが今なら航路を変えられるんだろう?座標を頼りに航路から外れていくとか――』

『そう言う訳にもいかん。何せこのフネには他のチャートがないからのう』

『なに!?そいつはホントか爺さん?』

『ホントも何も、航路図データを呼び出して見れば判ッ――ゲホゲホッ』

 

 そう……老師の言う通り、今現在どのフネにもこの近辺の詳しい航路チャートはデータバンクに記録されていない。何故なら本来なら最初の寄港地。正確には俺達が囚われたあのステーションでデータを貰う予定だったからだ。

 

 データを入手する以前にとっ捕まって曳航されちまえば、ここら辺の詳しいチャートが手に入らないのは当然な訳でチャートがなければI3航法のような超光速航行はとたんに難しくなる。

 

クルーが全員いるなら問題はないが今はほぼ一人で艦を動かしているような状態。ゲームで言うなら艦長以外のクルー無しで航行しているようなものであり、それも慣れたフネではなくあんまり扱わなかったフネの指揮をしているのである。

 

しかもいま俺達の中でユピコピの恩恵を得られるルー師弟やトトロスを除き、他の数十名の中で艦長をしたことがある人材は数えるほどしかいない。こんな状態でチャートもなく航路から外れたりしたら、下手すると何年か宇宙を漂流する羽目になるかもしれない。

 

艦内工廠があるデメテールと違い、この艦隊はステーションやデメテールのドック等で定期的なメンテナンスや補給を必要とする。修理に関しては過去にデメテールで活躍した修理ドロイドやエステを積んでいるので、ユピコピが指示すればなんとかなるだろうが、数十名分の食料だけはムリだ。

 

どうやら調べられたときに他の物資と共に押収されていたらしく倉庫は空っぽ。残されているのは非常用圧縮食くらいで、それだけでは当てもなく彷徨う様な航海は到底不可能だといえた。下手すると宇宙島に辿りつけず干からびてミイラになっちまうぜ。

 

 まぁ唯一水だけは毎日大浴場に入っても大丈夫な程アホみたいに備蓄があるけどね。流石に食料がなければたった数十名でも暴動が起きかねん。当然そうなったら矛先は連れだした俺に向く。責任取れって宇宙に放り出されるのは勘弁だぜ。

 

「老師の言う通り、この艦隊にはチャートがありません。ですので航路を離れての無作為航行は先ず自殺行為と言えるでしょう。それと急造の即席艦隊なので艦隊運動にバラツキが目立ち、正規の訓練を受けた軍あいてでは流石に負けます。緩やかな死か、万に一つを賭けて突破するか、選ぶのは皆さん自身です。ああちなみに私は真綿で首を絞められるくらいなら生きることに挑戦したいので、敵陣突破の後者を選びます」

 

 ここまで一気に言い放って会議に参加している全員の反応を見る。といってもこの会議の為の通信に上がっている人間はそれ程多くない。ネビュラス級を任せているトトロス、ルー師弟、そして先程のおっさん+3人と俺の8名だけである。

 

 それ以外では結構な人数を占めるストリートチルドレンたちもいるにはいるが、彼らはフネを動かせるほどの力がない。ユピコピのサポートがあれば例え子供だろうと簡単に操縦できるだろうが、それに味を占められても困る。

 

 話が逸れたがこの件に関してトトロスは俺に追随。ルー師弟は考え中なので保留。そしてそのほか囚人の皆さんはおっさん以外の2名程が反対であり、おっさんともう一人は一応状況が判っているのかやる気はあるようだった。

 

 時間もないので戦う気の起きなかった奴らとはもうこの場で別れることにした。やる気もなく戦場をうろつかれるよりかはマシだというルーの助言を受けたからである。派閥を作ってはいたが信用も信頼もない結構殺伐とした関係だったとはいえ、一応仲間意識はあったのか、別れ際に幸運を祈ると言われた。

 

 むしろその言葉はこれから漂流する事になるかもしれない彼らに送りたかった。送りだした段階で既に彼らのフネのユピコピは基幹プログラムを完全破棄しており、マハムント級にも搭載されていたHL砲塔群ももはやちょっと大きな対空兵装でしかない。

 

 彼らが辿りつけるかは運次第だったが、あえて口には出さず此方も幸運をと返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

【敵艦隊針路上に展開を確認。戦艦クラス2、巡洋艦クラス4、駆逐艦クラス12】

「データバンクにデータは?」

【データバンクにアクセス。処理中………一件ヒットしました。圧縮ファイル解凍します。お待ちください―――ファイル解凍完了。ファイル名“俺の艦船コレクション図鑑Ver3 byケセイヤ”】

 

 ―――………珍妙なファイルを作ってんじゃねぇよあの中年野郎。

 

【観測データをデータバンクと照合中……検索終了。情報を開示します】

 

 えーとなになに―――

 

・エルンツィオ級戦艦

 エンデミオン大公国軍で採用されている標準型戦艦。航行速度、航続距離共に高く巡洋艦並。但しその分軽量化したため、武装まで巡洋艦並。ダラシネぇな(笑)

 

・ラーヴィチェ級巡洋艦

 エンデミオン大公国軍で採用されている国防用軽巡洋艦。ギリアスとかいう小僧のフネの元となったフネ。シャンクヤードと性能かわんねぇ癖にペイロード少ないぜ。

 

・ナハブロンコ級水雷艇

 多種多様なミサイルや魚雷を搭載している水雷艇。装甲は紙。エンデミオン大公国軍唯一の駆逐艦より大きいのに水雷艇とはこれいかにというのは突っ込んではだめらしい。

 

―――ケセイヤェ……へんな考察いれんなよぉ。

 

 つーかケセイヤは何処でこんな情報手に入れてたんだ?大マゼランに来た段階で情報を入手できる時間はなかった筈。だとするなら小マゼランにいた時からか?………なんか突っ込んだらヤバい気がするのでとりあえず放置しよう。それに敵艦の情報が判っただけでも良しとしようじゃないか。

 

 敵艦隊は旗艦であろう戦艦を後方に置き、打撃力があるであろう水雷艇を前面に押し出した三角の単純陣。何ともエンデミオンの特徴が現れた陣容である。すなわち平凡かつ凡庸。独創性の欠片もなくそれでいてセオリーに忠実だ。

 

 とはいえその状況がやりやすいかと聞かれれば、今の状況では首をひねらざるを得ない。圧倒的に人手が足りないのだ。全くと言っていいほど人手が足りない。対空監視もダメコンも重力制御もシールド操作も今は全部艦長席のコンソールで行われているからだ。

 

 ユピコピのサポートありきとはいえ、次々と現れるウィンドウを処理するのは大変だ。俺ですら大変なので、慣れていないであろうルー師弟やトトロスは半泣きかもしれない。これでは複雑な艦隊行動なんて夢のまた夢だろうなぁ……どうしようか?

 

【敵艦から入電。“脱獄囚へ告げる。本艦隊は第306哨戒艦隊と第312哨戒艦隊である。速やかに停船せよ。抵抗は無意味である”以上です】

「返信、“知らんがな”とでも返しておきなさい」

 

 捕まればラーラウスかは判らないが牢獄送りは確実、しかも警備が厳重になるので脱出は不可能になりかねない。10年どころか100年冷凍睡眠で幽閉とか勘弁願いたい。まかり間違ってラーラウスに戻されたら、俺棺桶行きになりそうだしな。童貞捨ててないのに死にたくないぞ。

 

【敵艦隊前進を開始。水雷艇が高速で接近中】

「総員、砲雷撃戦用意、対空戦とEA(電子攻撃)の準備も」

 

 久方ぶりの戦闘指揮に心躍らせつつも、全自動でしか動かせないフネに少しばかり不安を覚えた。ネビュラスは全長が1km以上ある巨船、それを一人で動かすとかどれだけ心細いか口では言い表せないだろう。

 

【水雷艇、ミサイル発射】

「回避運動を、それとEMPとデコイを発射。射程に入り次第、対空火器で撃ち落とせ」

 

 デコイを発射した後はTACマニューバで艦隊ごと乱数回避に入る。デコイに引っ掛かったり、電子攻撃によりセンサーを狂わされたミサイルは目標を見失ったが如く見当違いの方向へと飛びさっていくのが8割。そして目標は見失ったが進む方向に偶々フネがいるのが2割だった。

 

【迎撃、迎撃……不可能。耐ショック】

 

 だがAIにフネの操縦を任せると、その行動が終わるまで次の行動に中々移れないという弱点がある。正確にはできるのだが、機械である以上最初の命令が優先されてしまう傾向があり、刻々と変化する状況に対応しようとすると少しだけラグが発生してしまうのだ。

 

 これがユピテルクラスの人格まで形成した超級AIなら、演算処理も早く倫理プロテクトなどの処理も早い為、むしろ人間よりも早く行動を行えるのだが……生憎ここにはそのコピーのAIしか無かった。

 

その為、残り2割を対空火器で対処しようとしたが、対空火器が起動する前に近接信管だったのか至近距離でミサイルが自爆する。すさまじい熱量と閃光。反陽子かはたまたそれより威力のある量子かは不明だが直撃はまずいだろう。

 

《――ドォォォンッ》

「――クッ、損害は?」

【デフレクターが作動した事により損害ありません。熱量から考えると熱核だと思われます】

 

 核か、小型の水雷艇が使う兵装なら量子魚雷程じゃないが強いな……あ、そうか。デメテール程じゃないが1300m級戦艦のネビュラス級相手にする対艦装備ってワケなのか。つかネビュラス級もロンディバルド連邦軍主力軍が長年愛用している主力戦艦。警戒して最初から強い攻撃を繰り出すのも当然なのか。

 

 だが幾らある程度防げるとはいえ直撃はまずい。デフレクターは最強の盾という訳ではないのだ。正規軍が相手だし、恐らく最後の手段的な弾頭も持っているだろう。一番ヤバいのを例にあげるなら量子魚雷。当たれば効果範囲にある物質は粒子にまで分解されちまうという脅威の武器である。

 

 現在はジャミングやEMP、チャフやデコイに至るまで電子攻撃が恐ろしく発達しているので、よほどの事が……例えば操舵手がいないとかいう今のような事態でもないと直撃を喰らうことは少ない。だが仮に直撃を受ければダークマターになること請け合いである。流石にそんな最後は御免である。最後は墓の下に行きたいものだ。

 

「バーゼル級をもっと前に出して囮に。その間に私たちは突破を図ります」

 

 仕方ないので無人艦であるバーゼル/AS級駆逐艦を前衛に移動させる。そして水雷艇の側面から攻撃させ、そちらに注意を向けさせるように仕向けた。意外と単純に水雷艇は前に出した駆逐艦に食いついてきた。存外単純なヤツらが艇長を務めているらしい。

 

 駆逐艦に水雷艇が群がりミサイルを乱射しているその隙に、残っている戦艦と巡洋艦を全速力で敵の艦隊へと突っ込ませた。自分から弾幕に突っ込んで本当に大丈夫なのかとトトロスから通信が来たが、俺はそれに大丈夫大丈夫と軽く返事を返す。

 

 何故ならこれはあらかじめ決めておいた作戦行動なのだ。錬度もコンビネーションもクソもない即席海賊艦隊で、正規軍を打ち破る方法。それは突撃あるのみ。いや、お馬鹿な行動に思えるかもしれないが、性能しか頼るものがない現状ではこれしか手がなかったのだ。

 

 最初はルー老師の天才的手腕にも期待したのだが……あの爺様重要な時になってぶっ倒れてしまって、ネビュラス級2番艦『カルポ』は無人艦よろしく他の艦船に合わせた自動航行を行っている。そして老師は弱っていた身体に脱獄劇と慣れない戦艦の運用が相当堪えたらしく、今はカルポの医務室にて治療ポッドに缶詰め状態となっていた。

 

 いや老人に鞭打つ趣味は毛頭ないんだが……病気よ空気読め。お陰で良い案もなくして撤退もできないという無理ゲー状態。切羽詰まりまさしく背水の陣な俺らが取れる戦法は高性能に任せた突撃バカ一代しか無かったという訳だ。自殺行為なんてもんじゃ断じてry

 

【敵巡洋艦のインフラトン反応増大。中型レーザー砲クラスと推定】

「ジェネレーター出力をシールドジェネレーターに回せ、本艦を先頭に一気に突っ切ります!全艦突撃!」

 

 リシテアを先頭に単縦陣(縦一列に並ぶ陣形)を引き、敵からの砲撃の被害を最小限に食い止めつつ全速力で敵本隊へと突っ込ませる。シールドジェネレーターにエネルギーを回したため、薄くなったデフレクターをレーザー砲撃が次々と突破し船体を揺らすが、どうせ殆どは無人区画なので主砲とエンジンさえ無事なら問題はない。

 

【船体ダメージ18%】

「気にせず突っ込めっ」

 

 いそいで翔けぬけろー!ふははは!装甲に熱がドンドン溜まる!熱処理装甲なのに排熱追い付かねェー!ホント戦場は地獄だぜー!

 

 もうそう言わんがばかりに突出するリシテアに火力が集中する。優秀な操舵手たるリーフがいないから神がかり的な回避はできないし、トクガワ機関長がいないのでリーフのような操縦に耐えられる機関調整もできないし、砲雷班長のストールがいないから針の穴を穿つような攻撃はできない。

 

 ただひたすらに防御シールドに出力を回し、分厚い装甲を頼りに敵艦隊へと突っ込む。慌てたのは敵艦隊だ。なにせ撃ってもひるむことなくこっちは前進を続けている。よほど慌てたのか敵艦隊は転進しようと横っ腹を此方へと晒していた。

 

「敵艦隊に照準!何処でもいい!撃ちこめっ!」

【散布回パターン、入力完了。各砲発射】

 

 リシテアが主砲を発射する。続いてカルポ、テミスト、カレも進路を少しずらしリシテアの側面に出ると主砲を発射した。各艦のエネルギー弾は真っ直ぐと敵艦隊へと伸び……そのまま100mほど隣、至近距離を通過して消えてしまう。砲術長がいなければ艦砲の命中率は格段に下がるというが命中弾0とか、ね。

 

 砲撃はまだ続けているが速度を上げたからか殆ど当たらない。忘れてはならないが相手はあれでエンデミオン大公国の正規軍。幾ら辺境の哨戒艦隊とはいえ、その実力は海賊よりずっと高いのは当然と言えた。とはいえこちとら歩みを止める訳にもいかないんだよっ。

 

『あ、当たってねぇっ!?』

『自動照準だと、TACマニューバで回避されやすいみたい、です』

「あたらなくても良い。撃ち続ける様にAIに指示をだしてください。マハムントに乗っている皆さんはとにかく戦艦の陰に!ユピコピ、両舷ガトリングレーザーの準備を!」

 

 準備と言っても、AIに指示を出すだけだがね。

 

『おい!こっちゃ一部使えない兵装があるんだが!?』

「マハムントの兵装は大型・中型レーザー砲とガトリングレーザーが使える筈です。それで対処をお願いします」

 

 マハムントを始めこっちもHLが使えないのは、移動しながら空間に重力レンズを作り照準できる人員がいないからだった。フネに乗りこんでいるのは俺以外全員ラーラウスの囚人。HLのような白鯨オリジナルの兵装を扱える訳がなかった。

 

 その点、ガトリングレーザーは効果こそ異なるが、その使用法は通常のレーザー砲と変わらない。元が敵から鹵獲したジャンク品の武装を束ねたようなシロモノだった為、使用法に関しては通常兵器と大差なかったからである。そりゃ普通の0Gドックでも使えるわ。

 

『あわわわわ、し、師匠っ』

『ひぃぃぃぃ!!』

「トトロスさん、うるさいんです!気が散る!」

『な、なんで俺だけ《ズガン!》当たった!弾当たった!』

 

 そして俺達は恥も外聞もなく、タダ敵のド真ん中へと突っ込んだ。船体は砲撃でボロボロで所々煙を吐き出して穴があきまくっていた。特に装甲が薄い第1主砲塔のホールドキャノンがブッ壊されて使用不能になり、続いて第2主砲塔も完全にお釈迦になる。

 

 だが機関から排出されるエネルギーの殆どをシールドと副砲のチャージに回していた為、主砲塔にエネルギーは回っておらず、幸か不幸かそのお陰で破壊されても誘爆は起こらなかった。ちなみにシールド張ってるのに穴だらけな原因は、艦橋周辺や機関部など壊されるとヤバいところにAPFシールドを集中していたからである。

 

 お陰でブリッジにいる俺は全然平気だけど……さっき居住区画に直撃弾の表示が出てたから、このフネを預けたヴルゴたちに怒られるかも知んないね。

 

【船体ダメージ30%突破】

「あと少し…あと少しです」

 

 船体を敵の砲火にさらして犠牲にしてまで加速させた事で、俺達は敵艦隊の最初の位置から見て左舷側に到達する。敵艦隊反転終了間際だったこともあり、変形T字……いやトの字と言えばいいだろうか。上手い事右舷側に敵の先頭がいる形となっていた。

 

「右舷側砲塔照準!先頭のやつに火力を集中!」

 

 ネビュラス級の右舷側面部にある副砲の中型ガトリングレーザー4基、リシテアはプラスして生き残っていた第3主砲塔。そしてこれまで温存しておいたマハムント級の連装大型ガトリングレーザー砲2基、及び副砲の連装大型レーザー1基と連装中型レーザー2基が一斉に敵の先頭へと向けられる。

 

【射撃諸元入力、ジェネレーター出力一杯へ】

「―――撃ェ!」

 

 蒼い凝集光と螺旋を描く薄緑色の光弾が、濃密な弾幕となって敵艦隊先頭にいたラーヴィチェ級巡洋艦へ襲い掛かる。エンデミオン系特有のワインレッドカラーの船体にいくつもの波長がそれぞれ異なるレーザーが降りかかった事でAPFシールドに負荷が掛かり過ぎたのか瞬時にシールドが消えてしまった。

 

シールドが消えても絶え間ない弾幕により一気に軽石の如く穴ぼこだらけになった装甲。そこへ降りかかったホールドキャノンにあらがえるほどの防御力を、ラーヴィチェ級の装甲は有していなかった。僅か数秒の出来事であったが、その威力絶大ナリ。

 

 先頭の艦が攻撃に耐えきれず爆散し、周囲にインフラトン粒子たっぷりの衝撃波とデブリをばらまいた事で敵艦隊の動きが一気に弱まった。チャンスである。

 

「全艦全速力!突破するッ!…チッ、艦の動きが鈍いッス」

 

 思わず昔の口癖が出ちまったがそんなこたぁどうでもいい。

 大分ボロボロになったリシテアがその他ネビュラス級とマハムント級を引き連れ、先の攻撃で動きが鈍った艦隊の横を駆け抜ける。もう目視でも捉えられる程の距離だがこっちも必死だった為に攻撃の手を緩めなかった。

 

 全艦撃沈こそできなかったが一隻撃破、のこりを中破させた事で相手の進撃速度が目に見えて落ちた隙に、全機関出力を持ってしてこの場を離脱する。ジャンク品も鹵獲もなしで離脱………………もったいねぇなぁ。もったいないお化けが舞い降りるぞ。廃材回収も俺達の生業の一つだというのに。

 

 後ろ髪を引かれる気分で敵艦隊の射程圏から逃げ出した。無人艦を相手にしていた水雷艇が無人艦を撃破して戻って来ていたが(無人艦が半ば特攻したので艦数は半分)、動けなくなったフネからの乗員救出でテンヤワンヤのようだった。そのまま動けないでいてくれれば俺達は安全圏まで行けるだろう。

 

 ちなみに通信を傍受したら、ものすごく怒り狂っていることに加えて、何で脱獄犯があんな強力な武器が残っているフネに乗っているんだとか、帰ったらその旨を報告し保管場所を管理していたヤツ(この場合はドエムバン・ゲス所長)に責任追及してくれるという怒りが籠められていたのは言うまでもない。

 

『包囲突破!やったなユーリさん!これで逃げられる!』

『まさか本当にあの監獄から逃げられるとは……疑っていてすまんかった』

『…フ、フネ、ボロボロですけど、大丈夫ですか?』

「……いやぁ、本当に、皆さんも頑張りましたね。しかし久しぶりに指揮をして、流石にちょっと疲れました」

 

 レーダー上で敵艦隊が追って来ないことを確認し、椅子に深くのけぞる様にして座り溜息を吐く。正確な時間を計っていた訳ではないので本当に久しぶりに艦隊指揮を執った気がしてならない。

 

『ふっ、人外で胡散臭い我らがリーダーも疲れはするんだな』

「人外とは心外ですね。これでもちゃんと人間ですよ」

『『『………えっ?』』』

「なんで心底意外そうなんですか……酷いですよ」

『いやだって普通の人は壁に蜘蛛みたく張り付いてたりしないよなぁ?』

『普通の人間は岩盤を素手で壊さないよなぁ?』

『え、えっと。普通の人なら監守に殴られてケロリとはしてない、です』

「いやだって鍛えましたし」

『『『鍛えたからってあんたのような吃驚人間がいて溜まるか』』』

「………これって虐めですよね?泣いてもいいですよね?」

 

 ひでぇや、監獄から出られたのは誰のお陰だと思ってやがるんだ。一人さめざめと涙を流しつつも他の連中は連中で騒ぎ、通信上で脱獄出来た事を喜んでいた。やはりあの環境は辛かったというのもある。日々の糧を得る為に何時死ぬかも知れない坑道に潜るのはあまり気持ちのいいモノではなかったのだろう。

 

 そんな訳で監獄を脱出した上に、捕縛する為に来ていたであろう艦隊をも突破できた事は彼らの興奮を呼ぶのに十分な内容だった。というか祝杯とか言って非常食の缶詰を勝手に開けてもいいのか?酒あんの………気分だからいいんですか。そうですか。水杯も乙なもん……おひおひ。

 

彼らのそんな様子を見て苦笑しつつ、どっと疲れが出た俺はフネを自動航行に切り替えて少し休憩することにした。久方ぶりの戦闘指揮に疲れが出たというのもあるが、どうにもこれで終わりそうだとは思えなかったからだ。周囲警戒と修理をユピコピに任せ、空間ウィンドウのむこうで騒いでいる連中を一瞥した後、ブリッジから退室した。

 

 

 

 

 

 

―――適当な部屋がないか徘徊中。

 

 

 

 

 

 

「ほ、近いところに休憩室あってよかったッス」

 

 ブリッジにわりかし近い位置に休憩室があったのは幸運だ。船内のモジュール操作はそれぞれの艦長に一任していたが、やはり軍人であったヴルゴは合理的なモジュールの配置をしていたらしい。ブリッジ要員の交代を容易にするために近くに置いてあったのだろう。

 

 中に入ってみると円筒を横にしたような部屋の中は無重力にされ、壁には通常ベットとタンクベッドがハチの巣のように交互に並んでいた。たぶん元は乗組員の居住モジュールだったんだろうが、あえて無重力空間にすることでデッドスペースを埋めたのだろう。

 

 タンクベットと通常ベットが交互にあるのは、精神的に疲れている時はタンクベッドよりも夢を見やすい通常ベッドの方が良いから。うむ、よく考えられておるわ。それは置いておき、俺はタンクベッドではなく当然通常ベッドに狙いを付ける。

 

「肉体的疲れ微弱、精神的疲労それなり、目標捕捉――」

 

トンッ、と床を軽く蹴ってベッドの中へと直接ダイブする。

 

「プギャッ!」

 

 だがベッドの上に乗った途端墜落。どうやら寝る場所には重力がかけてあったようだ。まぁ非常時ならともかく無重力空間で睡眠をとろうとすると血流の関係上頭部に血が集まりむくんでしまう為、結構寝辛く感じてしまう。

 

 だけどお陰で俺はベッドに頭から墜落して変な叫びをあげてしまった。船内には俺しか人がいないから誰もいなくて本当に良かったと思うぜ。まぁそれはいいとして、久しぶりの囚人獄舎にある硬いベッドではない、硬すぎない良いベッドである。よく眠れそうだ。

 

「はぁ、ようやく一段落【警告、接近する艦影多数】――え、もう?」

 

 一難去ってまた一難……おまけにもう一つ一難がやってきたらしい。折角ちょうどいい部屋を見つけベッドに横になろうと思ったところだったのに……多分さっきとは違う哨戒艦隊だろう。だけどこれだけは言いたい。空気読めよ哨戒艦隊。

 

「一応確認ですが船種は?多分エンデミオン系かと思うのですが」

【観測データ識別中、お待ちください―――照合完了】

 

 表示された各種データを見たが予想通り哨戒艦隊のおかわりだった。

 

「接敵まで時間は?」

【計算中、お待ちください―――このままではランデブーまでおよそ58分です。それと、敵からのセンサーウェーブの痕跡を確認。すでに捕捉されています。尚本艦は先の戦闘により巡航速度が低下しており、回避及び今からの離脱は不可能です】

「………戦うしかない、ということですね………めんどくさい」

 

 ブリッジに向かって走りながら盛大に肩を落として溜息を吐く。だけどやらなきゃ死ぬので足を止める訳にもいかないだろう。また捕まれば今度こそおしまいだ。多分2度と脱出の機会は巡って来ない。わざわざフネを用意しておいてくれた黒幕さんよォ。俺の能力を図りたいのか、それとも殺したいのかどっちなんだい?

 

 さてエンデミオンの哨戒艦隊が俺達の艦隊を補足したのは、まったくの偶然であったことは彼らの通信を傍受したことで明らかとなった。この艦隊が派遣されたのは軍の輸送船がたびたび行方不明になった、とある宙域の警備強化が目的であり、この航路にいたのはたまたま彼らがいた宇宙島軍基地から向かうルートと重なっていたからである。

 

 問題は味方の無人駆逐艦がもういない事だろう。5隻いた無人駆逐艦たちは追撃してくる水雷艇を巻き込むように自沈している。本来艦隊を守るべきフネを特攻させたのは、そうせざるを得なかったとはいえ痛い。だが艦載機がなかった以上、高機動でミサイルをばらまく水雷艇は脅威だったのだから仕方がない。

 

 幸い今度の艦隊に水雷艇は含まれていなかった。数は先の哨戒艦隊とどっこいどっこいであるし長期任務の為にビヤット級輸送艦を4隻連れているので、実際に戦闘可能な戦列艦は8隻ほどだった。もっともこちらは戦闘可能が6隻しかおらず、おまけにリシテアがかなりのダメージを受けているので実質5隻かもしれない。

 

―――嘆いても問題は消えないのだし、そろそろ準備を始めるか。

 

 

***

 

 

 俺がブリッジに付き、他の連中と軽くブリーフィングをした後、戦闘はすぐに始まった。飛び交うレーザーを艦隊機動でかわしつつも主砲で反撃する。その際修理が間に合わずにボロボロになっていたリシテアは下がらせ、カルポを前に出し、カルポの前をカレとテミストと巡洋艦二隻が守る陣形をとった。

 

 こちらのアルファベットのYに似た布陣に対し、相手は航路に封鎖線を引いているからか、横一列の単横陣であった。あえて密集形態をとったのは各個撃破を恐れての布陣であるが、この布陣の要は最前列に位置するカレとテミストの両艦にあった。この二隻のシールドを盾に残ったフネが敵を撃つためである。

 

 またカレとテミストを前に出したのは、これまた慣れない操船で若い二人よりも遅れが目立つルー老師の支援の為でもあった。俺がカルポに乗り移ったなら良かったのだが、生憎移乗する時間もなかったので、何時の間にか復活していた老師に言われ、陣形を整えることくらいしかできなかった。

 

まぁ既に発見した時には一時間を切っていたんだし、むしろその短時間で僅か6人が艦隊戦が出来る準備ができたことの方が奇跡である。ぶっちゃけ間に合わないと思ったしな。宇宙服を着る時間があっただけでも十分すぎるぜ。もっとも直撃を受けて爆散すれば宇宙服何ぞ紙切れ程の役にも立たんけどね。

 

【高熱源体急速接近、標的はカルポ】

 

 飛来する中型対艦ミサイル。弾頭は不明だが直撃はまずい。

 

「トトロス!」

『合点だ』

【カレがカルポの前に出ます】

 

前に出した事で敵の攻撃にさらされたカルポをかばったカレのシールドから激しいプラズマ光が発せられる。地上で使われれば甚大な被害と放射能をまき散らす熱核も、宇宙で使われればちょっと熱量の大きな閃光弾のようなもの。

 

シールド技術の拙かった前世紀ならばともかく。APFシールドに加えて重力場防御帯のデフレクターがある今では一撃必殺とはなりえない。とはいえ膨大な熱量とエネルギーはフネのセンサーを狂わせ、シールドに多大な負荷をもたらす。

 

《ギュォォォォッ!!!》

『うひぃぃぃぃっ!!』

 

 激しい震動と閃光に身をちぢこませるトトロスの姿が通信に映る。彼にしてみればほんの数百メートルと離れていない地点で、人類が生み出した最初の地獄の火炎が炸裂していたのだから生きた心地ではあるまい。だが、なんだかんだ言ってトトロスはちゃんと命令を聞く。扱いやすい男だ。

 

 そして撃たれて黙っているほど、こっちは紳士じゃねぇぞ。反撃だとばかりに生き残っている砲を敵艦隊に向けて発射させる。よし、久しぶりに今だ記憶に残る有名艦長にあやかってみようじゃないか。

 

「おっさんたち弾幕薄いぞ!なにやってんのぉ!」

『うるせぇ!慣れないフネじゃ難しいんだよっ!大体一人で操船なんて無茶過ぎるんだぞ!ちくしょうがっ!』

 

 弾幕が厚くなった。流石はブラ○トさんやでぇ。まぁ冗談は置いておき、巡洋艦には頑張ってもらわないといけない。なにせ先の戦いと違い敵艦隊と距離をとっている為にガトリングレーザーでは収束率が悪いのだ。速射できて長距離でも減衰しない大型レーザー砲が装備されているマハムント級に頑張って貰わないと。

 

【第3主砲エネルギー充填完了まで後少し】

「……主砲発射十秒前!各艦本艦と連動!」

『『『了解!』』』

【リシテア第3主砲用意良し。カルポ、カレ、テミスト第1から第3まで用意良し】

「射撃諸元、前方敵艦隊―――全艦発射ッ!」

 

 リシテア船体下部の後方に位置する唯一生き残った第3主砲塔からホールドキャノンが光り、カルポ、カレ、テミストも全主砲を敵艦隊目掛けて発射した。一発の余波でも小マゼランの巡洋艦に損傷を与えられる威力がある。

 

それが二十発ほど敵艦隊の至近距離を掠めダメージを与えた。直撃はしなかったので小破した艦が目立つが航行に問題はないらしく、ミサイルやレーザーの雨あられが此方に降り注いだ。かなり正確な砲撃で避け切ることが出来ず、俺も含めて全てのフネが被害を受ける。

 

《――ズズゥゥゥゥゥンッ!!!》

【応急修理個所が破壊されました。ボールズ40基損失。ダメコンにより12~18ブロックまでを放棄。完全閉鎖します】

「くっ、敵の狙いが正確過ぎる……」

【敵艦の一部に強力なセンサーを積んだフネがいるかと思われます】

「んな事は判っています」

 

 べートリア級。それが8隻いる敵艦隊の内の2隻を占めていた。このフネは高性能センサーや解析装置を持ち高い探査能力を持つ対地攻撃に優れたフネであるらしい。そいつらが恐ろしく正確な諸元を搭載されたその優秀な解析装置で割り出しているのだろう。

 

 戦えば戦うほどお互いにダメージが増加するが、当たる攻撃と当たらない攻撃なら前者の方が脅威である。当てられれば一撃で沈められる攻撃を持っているのに、それが当たらなければ意味がない。ドンドン溜まるダメージは既にイエローゾーンとレッドゾーンの境目に達しようとしていた。

 

『背後に艦隊の反応検知!敵艦だ!』

「もたついている間にあの哨戒艦隊が復帰したのか……まずい!回避をっ」

【攻撃きます。自動迎撃開始、回避運動―――】 

 

 水雷艇がその機動力をもってして、ミサイルの照準を此方に合わせ一斉発射。それによりAIが鳴らした警報がブリッジ内部に響き、艦隊ごと回避運動の為に大きく動く。前方の艦隊からの攻撃も依然続いていた。その為に被弾率が跳ね上がったが、APFシールドが効かないミサイルの方が脅威であったのでそちらを優先する。

 

 一発ではない、それこそ数十ものミサイルが幾重にも波状攻撃を仕掛けてくるという状況は、先程からの戦闘でダメージを負っていたフネにとっては非常にキツイ攻撃だった。シールドジェネレーターも限界に近いらしく、時折攻撃が直撃することがあるから余計に怖い。………それでもまだ動くあたり、リシテアってスゲェとおもう。

 

 

【迎撃、間に合いません。ミサイル接近、着弾まで4秒】

「デフレクターを後部に集中―――」

 

 そこまで言おうとした時、俺は艦長席から投げ出されそうになった。迎撃装置が作動して後方へ弾幕を張っていたが、これまでのダメージの蓄積により弾幕には穴が開いていたらしい。次々と味方艦隊や旗艦リシテアにミサイルが着弾したのである。

 

 それにより一応厚くしたデフレクターが消失。俺もその衝撃で投げ出されそうになった。また激しい熱量と閃光により一部センサー類がダウン。何よりも厄介なことに至近距離で強力なEMPを喰らわされたのと同じようなモンで、すぐに復旧するとはいえ数秒間“フネの目”が見えない。

 

 その僅か数秒、遮るものが無くなった空間をミサイルが駆け抜けてきた。それこそまさに花道を渡るようにして……そしてブリッジに軽い衝撃が走った。高速で飛来したミサイルがその運動エネルギーを持ってして装甲に、それこそダーツの矢のように突き刺さっていた。

 

 今だ推進機が生きているのか尾から炎を噴き出して、ゆっくりとまるで豆腐に指を刺すかのように装甲板に食い込み……爆発。激しい衝撃で再びコンソールに叩きつけられそうになる。ダメージ表示が今のでレッドゾーンに突入。まぁ時間の問題だったから少し早かったと考えれば―――

 

【リシテア被弾しました。後部対空砲沈黙……機関部に異常発生。粒子パイプ断絶、推進機沈黙、インフラトン粒子シリンダー、内部圧低下中】

「な!エンジンがっ」

【ボールズ急行中、現場の修理ドロイドが修理を開始。ですが戦闘臨界まで出力はあげられません】

「………ちなみに無理に上げるとどうなります?」

【爆散します。盛大に】

 

 

…………………(゚Д゚)ボーゼン

 

 

 ハッ!いけねぇ!戦闘中に茫然としてどうすんだ!

 

 

「修復を急がせなさい!他の部署は放棄!ブリッジとシールド設備と機関部だけに!」

【生命維持装置にも損傷を負っています。修理しないと機能停止します】

 

 んなモン宇宙服予め来てるからある程度持つわい。

 

「……全ボールズを機関部に、旧式修理ドロイドも全部だして対応してください」

【了解】

 

 最悪の事態、と言えばいいだろうか。

 戦闘の中でエンジンが止まる、陣形で最後尾に位置していた事が災いしたということなのだろうか。いやその他の艦からも煙が噴き出しているから被害は出ているのはこっちだけじゃない。全員ヤバかったし、当たり所が悪かったのか……。

 

『ユーリさんよ?インフラトン反応が拡散して減少してるけど?』

「直撃は喰らったらしいですが…まだ大丈夫、です」

 

 動けないんだけどね。まぁ補機が稼働しているから推進機への粒子供給パイプが修理できれば動くことは出来る。ここで動けないとか言ったら士気が下がるからあえて言わなかった。

 

「そっちこそ煙吹いてますよ?トトロスさん」

『それこそ今さらだぜ。つーかここまで来て無傷のフネなんていねぇゼ』

「それもそうですね」

『「わはははは………ヤベェ」』

 

 包囲されその砲口やミサイルが全て此方を向いているという状況に、正直笑うしかないので乾いた笑いを浮かべてしまう俺とトトロス。うむむ、少し現実逃避したが撃つ手がねぇ…これじゃホントに八方塞だ。

 

『おいィィィ!!レーダーに反応、前方10時の方向から別の艦隊来てッぞ!』

『あわわわわ』

『ふむ、こうなると策など無意味。捕まること覚悟で脱出ポッドに乗り込むくらいしかないのう……』

「こんどは何処のフネッスか!」

【リークフレア級×4、シャンクヤード級×2、ファンクス級×2、艦種不明×1、所属不明、識別信号を発信していません】

『海賊まで来やがったのか?!』

『エンデミオン艦隊のインフラトン反応増大!ロックオンされた!もう逃げられねぇ!』

「くっ、ここまで…ようやくここまでこれたのに…」

 

 かなり堅牢な此方の艦を完全に破壊するために、最大出力で砲撃を行うつもりらしく、全砲門を此方に向けたまま全砲斉射準備に入っていた。万全の状態なら避けるなり防御するなりできたのだが、艦隊はかなりの攻撃にさらされたので満身創痍に近く、とてもではないが攻撃を回避することも受けとめることもできそうにない。

 

刻一刻と発射までの予想時間のカウントが減っていく。このカウントが尽きた時が俺達の命が尽きる時なのだろうが、なんか現実感がないなと俺は思っていた。畜生、無理矢理脱出なんてしたからか?あのまま大人しく救助が来るまで監獄惑星に閉じこもっているべきだったと?冗談じゃねぇ。

 

「比較的無事なフネは……カルポか!」

 

 損害が一番少なかったのは艦隊中心に居たカルポだった。中心に居たことで目の前の艦隊からの砲撃も後方から追い付いてきた艦隊のミサイル攻撃もあまり受けなかったからだ。俺はすぐさま老師に移動チューブを伸ばして他のフネに移乗するように指示を出し、他のフネも何時でも脱出できる様に準備するように指示を送った。

 

急がないと敵の大攻撃が始まってしまう。時間との勝負であった。俺は俺でユピコピに指示を送り、リシテアを前に出すように命令する。何をしようというのかというと実に単純な事だ。敵に隙を作るためにカルポを盾にしてリシテアを相手の艦隊に突っ込ませ、中央でエンジンをフル回転させる。ただそれだけだ。

 

機関部に損傷を負ったリシテアはエンジンのオーバーロードを起して爆発。上手くすれば包囲網に穴をあけることが出来る。そうすれば混乱している間にこの場は切り抜けることが出来る筈だ。どうせこのままじゃ死んじまうなら、でっかい花火くらいあげてやらぁ!

 

【未確認艦隊急速に近づきつつあります】

「構わずカルポを前にだしてリシテアを後ろに着けて!」

 

 無人艦と化したカルポが前に出て、その後ろにリシテアが着き、一列に並んだ両艦が艦隊の前に出る。俺も脱出しなければと脱出ポッドに行こうとしたが―――

 

【敵の予想攻撃開始時間まで、後10秒、9、8、7―――】

 

 ―――どうやら間に合わなかったようだ。脱出ポッドが射出されるまで早くても20秒掛かる。とりあえず言えるのは今脱出したらハチの巣じゃなくて消滅するということだろう。

 

「打つ手なし、もうダメか……クソッ」

【――3、2、攻撃、今】

 

 無駄だとは思ったが衝撃に備える為にコンソールに伏せた。シールドを全開にしたカルポが前に出ているからしばらくはしのげるが、今の速度だと僅か数分で敵艦隊に突っ込むことになる。出来れば機関部の爆発で一瞬にして消滅したいなぁ。一番の心残りは結局童貞だったってことかぁ……はぁ。

 

―――そして俺は目を瞑り、親しかった人達の顔を思い浮かべるのだった。

 

 

 

 

何時の間にか無限航路、BAD END

 

 

 

 

………………………。

 

 

 

 

………………………。

 

 

 

 

………………………。

 

 

 

 

………………………。

 

 

 

 

………………………あり?振動もなにも来ない?

 

 

 

 

 敵艦隊から砲撃が来る筈なのに、待てど暮らせど攻撃の振動が来ない。おかしいと思い恐る恐る顔をあげ外部モニターを見た。するとそこには火球となりて爆散しているエンデミオン艦隊の姿が……うえぃ!?

 

 あ、ありのまま起こった事を話すぜ?死を覚悟して突っ伏していたと思ったら敵艦隊が次々と落とされていた。何を言っているか判らないと思うが俺にもよくわからなかった。目の錯覚だとか気が狂ったとかちゃちなもんじゃry

 

 と、とにかく思わずポルナレるくらいに動揺が走った。あ、また一隻沈んだ。

 

《――┣″┣″┣″┣″┣″┣″┣″┣″┣″┣″┣″┣″┣″┣″┣″》

 

 気合が入った衝撃波が来たような気がした。え?なにこれ怖い。

 

【未確認艦隊、エンデミオン艦隊を強襲、敵艦隊は混乱しています。作戦は続行しますか?】

「未確認艦隊が……?なして?」

 

 所属不明ってことは未確認ってことで、そう言うヤツは大抵が仕事中(・・・)の海賊か、所属を知られたくない何処ぞの国家直属特殊部隊とかが相場だ。仮に前者だとしたら海賊が利にならない事をする訳がない。後者の方がもっとありえない。それこそする意味がない。

 

 まさか通りすがりのセイギノミカタとかいう輩じゃねぇだろうな?宇宙ってのは広いからそう言った変人がいないとは限らない………あんまり考えたくないけど、作戦行動中のエンデミオンの哨戒艦隊にケンカ売れるようなヤツって普通の精神じゃない気がする。

 

 気が付けば目の前のエンデミオン艦隊は残存艦が4隻を切っていた。あまりの電撃戦に碌な反撃も出来ずに輸送艦を連れて脱出しようとしていた様だが、リークフレア級高速巡洋艦に回りこまれ離脱できず立ち往生している。そして止まったフネを未確認艦隊にいる旗艦と思われるフネが、ほぼ一撃で葬っていた。

 

 その旗艦と思われるフネは帯同している味方艦とは全く違う形状をしていた。まず他のフネがリークフレアやシャンクヤードといったゼオスベルト系の横に広がった全翼機みたいな艦船なのに対し、そのフネはどこか水上艦を彷彿とさせるような形状をしていた。

 

 といっても、バルパスバウにあたる部分は鋭利な衝角のように長く伸び、それと同じくらいの長さがある同じ様な突起物がその上に二本伸びている。見る視点を変えれば三脚台の足の配置に見えるかもしれない。そして船体中央部分からまるでデルタ翼機のように大きな翼のように見える構造体がせり出している。

 

 上甲板には船体中央部より少し後ろに水上艦の艦橋のようにせり出した構造物が立ち、その構造物の前には三連装主砲と思われる砲塔が左右対称並列に並んでおり副砲も2基あった。おまけに艦橋と思わしき構造物の後ろにも、後部砲塔と思わしき主砲が2基、副砲が2基と艦前部と似た配置で置かれている。火力は異常にありそうだ。

 

よく見ると艦橋と思わしき構造物の真下、艦底部分にも艦橋とは対称な感じに構造物が伸びている。第三艦橋とでも言うのだろうか?しかもその第三艦橋っぽい部分にも上部甲板程ではないが4基の主砲と2基の後部砲塔がくっ付いている。各主砲が速射可能なら単艦でも非常に強固な弾幕を形成できそうである。

 

 しかしその未確認戦艦はエンデミオンともロンディバルドとも、ましてや他の星間国家群に所属するどの艦艇とも全く異なる設計思想が見受けられる。蒼いそのフネだけがまるで別世界から迷い込んだ兵器のような、そんな錯覚を始めて見る連中には与えた事だろう。

 

『なんだあの艦隊……』

『もうわけが判らない』

『後ろの艦隊も逃げていく……』

『敵なのか、それとも味方なのじゃろうか……』

 

 監獄惑星から逃げ出した仲間の顔には判りやすいほどの疑問符がありありと浮かんでいた。対して俺は疑問符は浮かべていたが、それは別の事に対してだった。

 

「…………(あらー?なんかあのフネ見たことがあるような?)」

 

 つい最近、大マゼラン……ではなく小マゼランに居た時か。たしかに何処かで見たような気がする。というかあんなフネは無限航路に登場しない筈だ。ただデメテールのような異例もあるから断言はできないが……しかし何処で見たんだっけ?

 

 そこまで考えて、未確認戦艦の全体をもう一度見た時に“実に機能的なブロック工法だな。ロジックが備わったカタチに必然性のある「工業デザイン」がベース…あり?デジャブ?”とか考えたところで、おらのからだに電流走る。

 

「ま、まさか……あのフネはっ」

【エンデミオン哨戒艦隊、正体不明艦隊により壊滅しました】

『―――しめたっ!ユーリさん今の内に離脱しよう!』

『し、針路上に艦隊が展開してます。方向転換している間に捕捉されます…』

『おいおいウォル坊!逃げるなら今しか無いぞ!とにかく俺達は逃げるぜ!』

 

 マハムント級に乗っているおっさんたちはそう言うが早いか全速力でこの場から離脱を始めようとする。彼らを追いかけるべきかどうすべきか躊躇している間にユピコピから声が発せられる。

 

【未確認艦から通信、繋ぎますか?】

 

 とっさにコンソールでYesを選択していた。そう、あのフネを見たのははデメテールを手に入れた直後の事。小マゼランのマゼラニックストリーム玄関口にあるカシュケントで修理の為に停泊していた時、デメテールの中にあった異星人のライブラリーに保管されていた艦船のカタログデータの中に確かに存在していた。

 

 その名は確か―――戦闘空母ブルーノア級。

 

 

【メインパネルに投影します】

 

 ブルーノア(仮)から送られてきた通信が、リシテアブリッジのメイン空間ウィンドウに投影される。そこに写ったのはがっしりとした体つきのカイザル髭が特徴的な武人風な男。そして俺は、彼を知っていた。

 

 

「―――やはり、貴方がたでしたか……」

『………お久しぶりです。ユーリ艦長―――随分と成長なされたようですね』

「ええ我慢できずに自力で脱出するほどに、ね。そちらはあまり変わりないようですね―――ヴルゴ・べズン」

 

 そう返すと通信先の武人風の男―――白鯨艦隊・分艦隊司令ヴルゴは一瞬胡乱な目で此方を見た。あれ?なんでそんな顔しとるん?

 

『……………(はて?見たところ間違いない筈だがどこか違和感が――)』

「どうかしましたか?」

『いえ、なんでもありません。積もる話もありますが今はこの場から離れることを優先したいと思いますが、いかがであろうか?(―――そうか!口調がちがうのか!)』

「お願いします。見てわかる様に此方はボロボロです。応急修理の為にボールズと資材を送ってほしい。あと操船の為に囚人たちもフネに乗っていますが、彼らは良き協力者です。手荒なまねはしないでください」

『判りました。手配します。(フーム。あの口調ではないと何か調子が狂う。というかこれは本当に艦長なのだろうか?)―――艦長、つかぬ事を聞きますが、私が以前使えていた領主は聡明ではありませんでした。では何故使えていたか判りますか?』

「ん?それは―――先代にご子息を守るように言われたから、でしたね」

『……変な質問をしてもうしわけない。それでは責任を持ってエスコートさせていただきますぞ(過去を話したのはあの一度きり…(第48章参照)ということは彼は間違いなく…)』

 

 あれれー、疑いの目が質問に答えたら普通になったよー。

 いやまぁ何の意図の質問だったのかくらいは察しがつくけどね。

 

「フムン、不安だったら遺伝子鑑定でもしますか?」

『これでも人を見る目は確かです。ご安心無されい』

 

 俺がクスクスと笑いながらそういうと、ヴルゴは憮然とそう切り返してきた。

 

『―――それと艦長』

「はい、なんですか?」

『よくぞ……よくぞ生きて戻られましたな』

「その言葉はデメテールに着いた時にこそ受け取ろう。だが……心づかいに感謝します」

 

 こうして名が気に渡る囚人生活は終わり、俺はヴルゴ艦隊の庇護の元、囚人たちと共に一路デメテールへと向かうことになる。とりあえず懐かしき我が家に帰れると、その日の夜時間に歳甲斐もなく心が弾んだのであった。

 

 



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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 番外編7+8

「……ようやくここまで来た。あと少しでマゼラン銀河百年戦争も終結する」

「おめでとうございます総統」

「この戦いに勝てば例え数十年の平和とはいえ、銀河を統一する事が可能となる。ふふふ、クローニングマシーンでのクローン代謝処置をしてまで生きてきたかいがあるというもの…参謀、全軍の準備は?」

「はっ、御前に」

「そうか……私について来てくれた同士たち、すこし手を止めて聞いてほしい。

―――我々が銀河に出てからおよそ百十余年、その百十余年全てが戦いの日々であった。

長き戦いの中で多くの仲間が一握りの平和の為に散っていった。

諸君らもまた、散っていた彼らの子孫であるが、勇敢であった諸君らの父母の子孫たちと今だにいられることを私は誇りに思っている。

こたびの百年に渡る長き戦いもこの戦いで終わる。これが終われば諸君らは長年の悲願だった平和な世界を享受できる。故に、総統である私は諸君らにお願いする。

決して犬死はしないでほしい。

そしてこのような百年も続いた愚かしい戦争が二度と起きないように、君達の子孫へと語り継いで欲しい。

百年以上生きながらえた老人の、最後の願いだ……全軍が生きて帰れることを望む、以上だ」

「―――全軍出撃!」

 

 時代がうねりを挙げて動く。飛び立つのは万を越える機動兵器。六本の伸縮自在テンタクル・アームと赤いハイヒールを装備し、センサーが集約した巨大なカメラアイを持つその機体。

 

「――――ゾゴジュアッジュよ。我々に勝利を」

 

これでうちゅうはわたしにひざまずく( ゚∀゚)フハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \

 

 

―――恐らく、この光景を見た人々はこう言うだろう。それは夢落ちだヨ、と。

 

 

…………………

 

………………………

 

……………………………

 

「………………なんじゃいあの夢わ?」

 

 

 はいどうも、くどい夢落ちを経験したユーリ君です。

 

 『夢落ち』……それは……シリアスを解きほぐしてくれる物語の癒し。だが……ソレの度が過ぎればそれはっ……ただの『茶番』に変わるっ!正直ゾゴジュアッジュはないと思う。主に世界観的な意味で。

 

 夢見の悪さに辟易しつつベッドから降りる。うーん、まだ少し寝足りない気もするが、時間的には朝時間をとっくに過ぎているから起きた方がよさそうだよなぁ。とりあえず毛布とマットの誘惑を振り切り、囚人服…ではない普通の空間服に着替えた。

 

 そう、囚人服じゃない。あの襤褸で薄汚くて埃っぽくて洗っても落ちない滲みが付いた囚人服じゃなくて、そこいらのスーパーでも売っていそうな既製品だが、新品の服である。なにせここは囚人獄舎じゃないのだ。ここは―――

 

『ユーリ艦長、起きておりますか?入っても?』

「ん?その声はヴルゴさん。鍵は空いてますよ」

《――カシュン》

「失礼致す。―――その様子だとよく眠れた様ですな」

「お陰さまで。中々良い客室です。このフネの艦長は良い趣味をしていらっしゃる」

「福祉厚生に関しては自分自ら設計に加わりましたからな。客室の雰囲気に関しては以前の領主相手にとった杵柄です。良いフネですよ。このブルーノアは…」

 

 そう俺は今、ブルーノア級一番艦ブルーノアに乗り込んでいる。だって俺が乗っていたリシテアは穴だらけで現在曳航中なんだもん。幾ら堅牢な戦艦だったとはいえ、損害がバイタルパートにも届いていたので無茶し過ぎと整備の人に怒られました。

 

 他の連中も似たりよったりで、皆脱出の時に乗っていた白鯨所属艦隊……混同しない様に旧艦隊と言っておこうか。その旧艦隊から降りてブルーノア率いる新艦隊の方に身を寄せていた。理由としては戦闘のダメージもあったけど、何より飯がないから。

 

 食糧を乗せ換えるって方法もあったけど……それよりも乗っている人間ごと別のフネに移乗して貰った方が遥かに楽だった。そりゃ物資輸送コンテナを作業用エステ使って運びこむより、僅か数十名を移乗させる方が楽に決まっている。

 

 てな訳で、俺達脱出組は新艦隊の方に身を寄せて貰っているという訳である。とりあえず乗り込んで早々思ったのは、久々に食べる白鯨産の飯は美味しかったってこと。少なくても最後に食べたのは5年近く前で、その間ずっと囚人飯を食べていた訳だ。

 

 あれもオツな味で悪くはないが、基本的に質より量で嗜好品より実用品、あじよりカロリー優先だったので、こうして比べてみれば囚人の時食った飯は食べられなくないが、やはり白鯨産のものと比べれば見劣りしてしまうのだ。飯ウマウマ。

 

「もうすぐ本拠地へと到着するのでブリッジへどうかと思いましてな」

「ああなるほど。それでは行きましょうか」

 

 通信で呼び出せば良いのにとも思ったが、空気が読める俺は口には出さないぜ。まぁ通信で呼び出すんじゃなくて自分で呼びに来るあたり、ヴルゴの実直さが判るってもんだ。………起きて最初に見た顔がおっさんなのはチト残念ではあるが。

 

「しかし、まさかお一人で脱獄なさるとは驚きましたぞ」

「ん、まぁあんな場所で終わりたいと願えるほど世捨てしていないもので。それに囚人たちの協力もありましたから」

「そう言えば囚人たちですが……いえ彼らはもう囚人ではありませんでしたな失敬」

 

 脱獄した彼らを囚人と言った事を言い直すヴルゴ。

わざわざ言い直すあたり、やはり実直な男である。

 

「何か問題でも起こしましたか?」

「いえ彼らが元囚人であると聞いた時はそう懸念しましたが……」

「ふふ、意外と行儀が良かったでしょ彼ら」

「監視が無駄になりましたよ」

「まぁ比較的まともな人間を選んで派閥を組んでいたということもあります。とはいえ彼らもまた罪を犯して囚人であった事に変わりはありませんよ」

「そうですな……ですが一つ気になる事があります。元囚人の一人のトトロスという男はご存じで?」

 

 監獄における俺の丁稚一号のトトロスの事は良く知っているが……つかヴルゴの口からトトロスの言葉が出るとは思わなかったので少し驚いた。ふむ、あの男何かしでかしたのかな?

 

「人の上に立つ職業柄、悪人かそうでないかを見抜ける目を持っているのですが……ユーリ艦長、質問ですが彼は囚人として監獄にいたのですな?」

「え、ええ。初めてあった時には既に囚人でした。確か情報屋をしていておイタをし過ぎたとか何とか」

「情報屋だったのに罪を犯して収監されたにしては、彼から悪人の空気を感じません。あれは何かを隠している。そんな気がしますぞ」

「まぁ知ってましたよ」

「ご存じだったので?」

 

 ヴルゴに驚かれたが、ねぇ?

 

「ヴルゴ、監獄ということは多かれ少なかれ何かしらやましい事をした人間が放り込まれる場所です。隠したい事の一つや二つくらいあったでしょう。脱出するにはそういう些細なことに向ける余裕はなかったのですよ。まぁあれは大方自分への監視というところでしょうねぇ」

「………始末しますか?」

 

 そういうと腰に下げたスークリフブレードに手を置くヴルゴさん。イヤ怖ぇよ。

 

「今はいいです。彼がスパイだとしても、どうせ今は何もできませんよ」

 

 とくにこれから向かう場所は内部からの特定が難しいだろうしね。俺の答えにヴルゴはスッと居住まいを正して剣から手を離した。彼から一瞬感じた殺伐とした空気で彼が武将ではあるが、その本質は武人そのものだなと改めて感じた。

 

 こうして俺のフォローのお陰で平服のままお外に放り出されるという事態にはならなかったトトロスくん。知らないところで命の危機とかイヤな人生だよな。俺はヴルゴに案内するようにいい彼の後に続いた。

 

 

 

 

 

 ブリッジに着いてから少しすると、外部モニターに小惑星帯が写った。小惑星帯といっても数十キロ~数百キロレベルがごろごろしているような場所だ。なるほど気を隠すなら森の中、デカイものを隠すにはデカイものの中というかんじか。

 

 そうヴルゴに尋ねたところ、ちょっと違いますなと言われた。どうも5年前のあの時に追手から逃げ回って航路から少し外れた際に発見したのがこの小惑星帯らしい。意図してこの小惑星帯を発見したという訳ではなかったのだそうな。

 

「第一防衛ライン、偽装衛星監視網を通過します」

 

 オペレーターの一人がそう言った。なるほど大分基地に近づきつつあるようだ。しかし偽装衛星というがモニターには衛星らしき姿は見えないので思わず画面を凝視した。考えてみれば偽装と付いているのだし、人の眼でみて判れば世話ないわなぁ。

 

 防衛網は6つほどあるらしく、第2第3までは基本的には監視用であるらしい。正確には第3までの防衛網は使い捨てであり、意図して接近してくる艦船を見つけた際には大型固形燃料ロケットを吹かしてそれ自体が質量ミサイルになるとの事。

 

 そして第4からは小マゼランの監獄惑星ザクロウに用いられていたオールト・インターセプト・システム通称OIS(オイス)の改造版、ハイド・オールド・インターセプト・システム通称HOIS(ホイス)が置かれていた。岩盤で攻撃衛星が偽装されただけらしいけどな。

 

 最後の第5防衛ラインは今乗っているこの艦隊がそうらしい。衛星が感知して撃退するか足止めしている間に部隊を展開するそうだ。ちなみに最終防衛ラインはデメテールの主砲射程圏らしい。主砲をくぐり抜けてまで接近を許したら最後だから最終って訳だ。ちなみにオイスとよめるが決しておいっすーではないのぜ。

 

 んでとりあえず第5までスムーズに来たのはいいんだが……。

 

「ん~?どれがデメテールなんですか?」

 

 正直、どれも同じような岩塊で見分けがつかないんだぜ。大きさも小さいの(数十キロクラス)から大きいの(数百キロクラス)まである。まさかこの中の一番大きいのがそうだなんて安直な事は言わな―――

 

「見えましたぞ。あそこの一番大きな岩塊です」

「……………そうですか」

「む、どうかなされたかな?」

「いえ、ただ想像と違っていただけで―――」

「む?」

「―――気にされなくても結構ですよ。それにしても他にも大きな岩塊がありますね。偽装用ですか?」

 

 安直な事は言わないかと思ったが、そんなことはなかったぜ!それはさて置き同じくらい大きな小惑星もごろごろしているあたり偽装しているのかな?

 

「いえ、純粋な偽装用ではなく資源衛星兼という感じです。この小惑星帯にはなったボールズ達が一カ月で掻き集めたもので、資源採掘の結果、今では外側を残し中は空洞と化しております。そして丁度良いので農業プラント化する話が……まぁ空間の再利用ですな」

「まぁ食糧は沢山ある方がいいと言いますから正解っちゃ正解ですよね。農業プラント化するなら空気生産も可能でしょうし」

「他にも兵器製造プラントやデメテールのドックを模した造船施設等も作るらしいです。まぁ基本的にここでは生きること以外に仕事がありませんからな。逃げ込んだ小惑星帯を本格的に本拠地に仕立て上げるつもりのようです。あのマッド共は」

 

 そう言われて冷や汗しか流れない。マッド共ならやりかねんからである。特にさっきの防衛ラインにあったHOIS (ホイス)とか…設計者は絶対にオールトインターセプトシステムを作ったライが関わってるだろう。ご丁寧に完全に隠された防衛システムを実装してやがったのだ。

 

 アレが本気出せば近寄った艦船は知らない内にオオカミの口の中に頭突っ込んだような状態になる。そのままガプンッ、宇宙の藻屑と消えるって寸法だ。何て恐ろしい。そんなえげつないものと平然と作るのは、ウチのマッド以外にそうはいないだろう。……指向性ゼ○フル粒子とかあったら無力だけど、多分この世界にはないしな。

 

 俺が思考の海に沈んでもフネは進み、ブルーノアは大型の小惑星がごろごろしている中でも一番大きな小惑星に近寄っていた……しかし“小”惑星なのに大型とか何か変な感じがするな。気にしたら負けなのか……まぁいいや。第一小惑星なんていっても大きさはピンからキリまであるしな。

 

 まぁとにかく一番大きな小惑星に近づいたブルーノアは、ある程度小惑星の表面に沿って進み、小惑星表面に出来ていたクレバスへと近寄っていく。クレバスの大きさは小型船なら降りれるが大型船は降りることすら困難だろうに何故だろうと思っていたが、その考えは杞憂であることをすぐに知ることになる。

 

 ブルーノアはある程度クレバスに接近すると一度停船し信号を発信した。するとどうだろう、クレバスがさらに大きく裂けて巨大な谷に変わっていくではないか。少しすればあら不思議、クレバスは谷に変わり、その谷の底に艦隊がそのまま通れるほどの大きな穴、いや回廊がその前に姿を現したではないか。

 

序でに周囲に先導役だろうか?久しく見かけなかったVFの編隊の姿が見える。ちょっと知らない形だから新型だろうか?彼らの後に続き、ブルーノア率いる艦隊は次々と回廊へと降下していく。殿のフネが回廊へ入った途端、再び谷は口を閉じるかの様に狭まり、ただのクレバスへと戻っていく。随分と大がかりな仕掛けである。

 

まるで秘密基地に入るようなワクワク感を感じるあたり、ここらの設計を誰がしたのかは明白であるがあえて言おう。ケセイヤGJ。俺が中島誠○助さんだったら「良い仕事してますねぇ」と絶賛してやるほどだろう。薄暗いながらも回廊には誘導灯が等間隔に灯りゆっくりとそこを艦隊が進んでいく……かっこいいのう。

 

 そして闇の先に光がぁ……いやまあ回廊つっても数キロもないんですぐに回廊を抜けただけなんだけどね。でも目に入ってきた光景に俺は息を飲んだ。剥き出しの岩盤に、これでもかという感じで固定された人工物、そしてそれを繋ぐチューブ状の通路、そして中央に鎮座するデメテールはインフラトンの輝きを放っている。

 

 

 なんて、なんて………なんて中途半端設備だ。だがそれが良い(キリ

 

 

 剥き出しの岩盤の中に浮かぶ人工物とか、まさに秘密基地といったこの宙ぶらりんさがなんとも言えないワビサビを感じさせてくれる。さすがはマッド、機能性だけでなくロマンをキチンと追及するから大好きだぜ。残念ながら俺達は実質海賊なので、正義の味方の基地ではなく、悪党の基地ということになるのであるが。

 

 

「ドックに入港します」

 

 ブルーノアはその巨体には似合わないほど繊細な動きで、デメテールの蜂の巣型ドックを真似たであろうスペースへと入港していく。完全に船体がドックに入ったあたりで周囲の壁が開き、中から固定用の大型ガントリークレーンが伸びてガコンというブルーノア船内に響く音と共に船体を固定した。

 

 他にも補給用や整備用のアームが外に出ていたブルーノアを調べ、整備の人間やドロイドが小型艇に乗り周囲に展開している。この蒼い戦闘空母も家に帰ってきたので羽を休める為に機関の火を落とし、停泊モードに移行していた。やがて乗組員に上陸許可を出したヴルゴが、仕事がなくてモニターを見る以外空気だった俺に振り返る。

 

「さて―――ユーリ艦長、ようこそ小惑星基地レイアに」

「レイアっていうんですか。ふむ命名した人は結構洒落が効いてますね」

「どうしますか?基地内を見学しますか?それとも主要メンバーを招集しますかな?」

「うーん。出来れば見て回りたいけど、それはあとで出来ますので……」

「ではメンバーに招集をかけます。デメテールに向かいましょう」

 

 さて、久々に古参メンバーと対面か……皆老けたかなぁ?あれから5年だしなぁ。まぁおいらはいつも通りに行くしかないんだけどねぇ。腹くくっていきますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁみんな、乳酸菌とってるぅ~?」

「……………はぁ?」×全員

 

 しみったれた再会イベントなんてくだらねぇぜ!とか考えて、いきなり銀様の真似をしてみたが、全く似てないから外したらしい。いやそもそもこのネタが判る人間がこの時代にいる訳がないし、第一俺も良く覚えていたもんだ。原作知識はもう殆ど覚えてないってのに困ったチャンなオツムだね!

 

 冗談は置いておいて、久々にブリッジメンバーと、創設以来相棒のトスカ姐さんや我が妹チェルシーや悪友キャロ、それに我が白鯨そのものと言えるユピとの再会を果たしたのであるが、なんでトスカ姐さん外見変わらんのん?むしろ俺よりか若く見えるってどういうことよ?教えてエロい人。

 

「ム?なぜ皆さん固まっているんですか?」

「ちょっ……あんた、もしかして本当に……あのユーリか?」

「あのユーリか、どのユーリか?このフネに同名の人がいないなら、この私がユーリです。顔を見て判りませんか?」

 

 皆の反応が明らかにおかしいので控えていたヴルゴに尋ねると、彼はちゃんと報告したと返してきた。ただし、IP通信では軍に傍受される恐れがあったので、報告では一方通行の暗号回線を使ったとの事。ふむん、よっぽど外見が変わったインパクトがつよかったのかしらん?

 

「(ひそひそ)……見てみれば判るかとおもったけど……判らん」

「(ひそひそ)随分と背が伸びてるね。もう私より背が高いんじゃない?」

「(ひそひそ)それに顔が全然違うぜ。なんか眼つきが悪くなってるぜ」

「(ひそひそ)あと良い筋肉してるわねぇ~……アレはあれで良いわ」

「(ひそひそ)……声が違うわ」

「(ひそひそ)確かに5年近く収監されていましたが……イメージ変わり過ぎですね」

「(ひそひそ)言葉使いもどこか違うのぉ。本当に本人か?」

「(ひそひそ)つーか表情胡散臭いし、笑い方が気持ち悪いな」

「(ひそひそ)でもちょっと野性味が増したというか…ポッ」

「(ひそひそ)ユピ、アンタ…」

「ユーリユーリユーリユーリ…」

 

 あるぇー?なんか遠くからヒソヒソ話してて、なんかとっても孤独だよー。

あとごめん、久々だから目から光消えた妹様がものすごく怖いです。

 

「やれやれ、ようやく外に出られたってのにこの仕打ちですか?まぁ刑期を終えたという訳ではないのですが……そう言えば私の刑期はどれだけあったんでしょうね?」

「もしかして、本当に……ユーリ?」

「そうです。そうですとも。心配しなくても、足はちゃんと二本ついてます」

『うえぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!!???』×全員

 

 うっわ、耳が痛い。急に叫ぶなよ。

 

「ありえん!確かに面影あるけど背が高い!」

「顔つき違うぞ!むしろイケメン死ね!氏ねじゃなくて死ね!」

「髪が凄く長いわ!というか手入れして無い筈なのに何でそんなに綺麗な銀髪なのよ!馬鹿なの死ぬの!?」

「喋り方も随分変わったのう…変わり過ぎじゃろう」

「笑い方…胡散臭い」

「つーか今頃よく帰って来れたよな。監獄の警備システムって甘いのか?」

「そんな喋り方するのはユーリじゃないな。もっと気色悪い何かだ」

 

 上からストール、リーフ、キャロ、トクガワさん、ミューズさん、ケセイヤ、サナダが矢継ぎ早にまくしたててくる。ヒデェ言われ様だ。オイラあんだけ頑張って慣れない監獄生活を送りここまで逃げて来たってのに労う心はないんですか!

 

というかリーフよ、イケメン死ねは同意するが俺に言うな。あとキャロよ、髪の毛については遺伝子的にこうなっているだけだからどうしようもないんだが?あとサナダさん、流石にそれは俺のこと全否定じゃないッスか?泣くよ?泣いちゃうよ?

 

 それにトスカ姐さん達が、まるで幽霊を見るかの様なあり得ないものを見る目で俺を見てくるし……というか他の人もチェルシー以外皆似たような目……ちなみにチェルシーはなんか下向いてブツブツっているので目が見えないし、なんか怖い。

 

「ねえユーリ……本当にユーリなの?」

「キャロ、そう言われるととても悲しい……なんなら遺伝子も調べますか?本人と言わざるを得ない程一致すると思いますけどね」

「ああ御免なさい。だってあまりにも“前”と雰囲気違うんだもの」

『んだんだ』×その他一同

「というか身体が成長しているのはいいとしてだ。その口調なんとかならないかい?アンタの喋り方は必ず“ッス”が付いていたから、なんだか調子がおかしくなるよ」

「ト、トスカさんまで酷いですね。監獄で舐められない様に必死になって口調を直したと言うのに…」

「あー、確かにそれだけヒョロ…背が高くて薄笑い浮かべながら敬語使われたら、相手側にしてみればある意味恐怖だね。色んな意味で」

「それにもうこっちの喋り方の方があっているというか何と言いますか…声も低くなりましたしねぇ。何時までもなんとかッスとか言っていると、やっぱり体面が…」

「「「「いや、でもアンタはやっぱりその喋り方は似合わない」」」」

 

 ヒデェ!俺の苦労はなんだったんだ!?これもう怒っても良いレベルだよな!?

 

「貴方達、そk「喋り方がどうだろうと、ユーリはユーリだよ?」…チェルシー」

「そんな些細なことよりも、私はユーリが無事に戻って来てくれた方が嬉しい」

「わ、私もそう思います。艦長が戻ってきてくれて本当にうれしいです!」

「……私の味方はチェルシーとユピだけですよ。ハグさせてください。いやむしろ結婚しちゃいましょう」

「「…………はう」」

 

 冗談を言った途端、二人の様子が!?え?なに顔赤くして倒れるほど嫌だったか?!……まぁ理由は判ってるけど、マジかよ。5年もたってるのに酷くなってやがる。距離開けすぎたから余計に感情が高まってるのか?……家帰ったら戸締りに気を付けよう。

 

「ちょっ!おまっ!?だれか、誰か担架を!メディーック!!」

「もう呼んであります。予想付きましたから」

「流石はミドリ!テキパキと冷静に何でもこなす!そこにしびれる―――」

「まて、それ以上はいけない」

 

 なんかコントが展開されている。ああ、この混沌とした空気こそ白鯨の空気だ。

 

「ハァ~~…監獄に入った所為か鈍感とか色々と酷くなってるね。まぁとりあえずユーリ」

「なんですかトスカさん」

「他の連中とはあとで引き合わせる。んでだ。ちょっと着きあって欲しいんだけど良いか?ああ、チェルシー達なら医務室手配しとくから心配ないよ?」

「ん?まぁ、いいですけど…」

 

 本当はディアナにも会いたかったけど…まぁ家戻ればすぐ会えるよな。

 

「んじゃ決まり。私についてきな。他の連中は仕事に戻れ」

 

 トスカ姐さんがそう言うと、全員有無を言わず退室していく。なるほど、どうやら彼女が俺の代わりを長い事勤めてくれていたようだ。チェルシー達もブリッジメンバーと入れ違いに入ってきた医療班が担架で運んでいった。まったく、ジョーク

 

「どこに連れてかれるんです?」

「ん?ん~、まぁ新しくできたところを案内してやろうと思ってね」

「それはあとでも出来ると思いますけど…」

「……とにかくついてくればいいよ」

 

 あれ?なんか不穏な気配を感じるぞ…勘が警鐘を鳴らしている気がする。いやでもトスカ姐さんに限ってそんなことはないだろう。それならそれで良い女にそう言う事されるのは色々と本望だしな。何をするつもりなのか…まぁ行けば判るか。

 

 とりあえず彼女に案内されて、俺は部屋を後にする。終始無言で壁の花と化していたヴルゴさんも俺達についてくるらしく、俺の後ろを歩いている。そのまま近くの船内列車に乗り、何度か乗り変えた後、車に乗り換えてデメテールの外へと出る。

 

 透明なチューブで出来た何処か一昔前の未来都市に出て来そうな道を走る車は、そのままこの小惑星基地レイアに造られた基地部分へと入っていった。まぁ行く時も通った道だからあんまり語るべきモノはない。基本的に岩石質の岩肌しか無いもんな。

 

―――んで、良い女(トスカ)につられてホイホイ来ちまった訳だが…。

 

「あのう、トスカさん?この部屋って……」

「見て判るだろう?執務室さ」

 

 ふむ、確かに机とPC端末以外は特に何もないまごうことなき執務室だな。でもでもなんで執務室にいきなり……………ッ!?ま、まさかあの紙束のチョモランマは!?

 

「あ!ディアナに会いに行かないと!」

「ヴルゴ!」

「合点ッ!」

「な!貴方たちグルだったんですね!止めろーショッカー!」

 

 嫌な予感的中、急いで離脱を図るが背後に控えていたヴルゴにとっ捕まった。なぜだ!何故動けん!?ヴルゴ貴様武術をたしなんでいるな!?しかもかなりのレベルの捕縛術を!完全に決まってて動けないぞチクショー!

 

「大丈夫ですユーリ艦長。マッド共謹製の薬もありますぞ」

「薬飲むことは確定何スか!?」

「お、やっぱりアンタはその喋り方が一番だねぇ。ま、見て判る通りだけどあたしはタダの人間だからね。このバケモンみたいな量の仕事はユピの手伝いがあってもこなせなかったんだよね。アンタはホント何時も良い時に来てくれるから大好きだよ」

 

 ちょうど良い時に帰って来てくれたねぇ~と良い笑みを浮かべるトスカ姐さん。そして俺はドナドナが脳内再生される中、執務室へと押し込まれて大量の書類や新しいデータや決算などの仕事をやらされたのだった。

 

 しかもユピが倒れているので彼女の応援は期待できない。なのに書類の山が目の前に…これなんて無理ゲー?戻って来て最初にすることかよ?!普通はこう歓迎パーティー的な何かを催しても良いだろう!?何時もの酒宴はどうしたよ!?

 

 え?まだ俺が返ってきた事はブルーノアのクルーと主要メンバーしか知らないから、発表はもう少し待つの?その間に書類を片付けさせる?本気?本気と書いてマジと読むくらいに?……ああ、これくらい出来なきゃ白鯨を率いる座を返せないと。

 

 なるほど、ならば戦争(じむさぎょう)だ。鉱山で鍛えた体力と集中力舐めんな。リポディ的な味のするマッド謹製ドリンク剤を飲めば眠気すらこねぇよ!幸いトスカ姐さんたちも手伝ってくれるらしいからな!なんとかやってヤンよ!

 

………ちなみにこれが実はトスカ姐さんから課せられた俺が本人かどうかを見るテストであった事はあとで知ったのは余談。そしてこの事務仕事により我が家に帰るのが10日後になったのは蛇足である。

 

「おわんねぇッス!おわんねぇッス!」

「いいから手を動かしな!」

「はぁ、もっと事務方が増えてくれないと、過労で死にますな」

「それ以前に、マッドの薬飲み過ぎてるから、色々と手遅れな気がするッス」

「「……同感」」

 

 そして、あまりの事に俺の口調も元に戻ってしまった。いや大事な時は敬語モードに戻るんだが……どうしてこうなった!?どうしてこうなった!?

 

***

Sideユーリ

 

 ああ、腰が痛い。

 

 これは別に比喩でもヤぁらしい意味でもなく漠然とした事実である。俺は今モウレツに腰が痛かった。何故か?そんなもん、帰ってきて早々に他のクルーと顔合わせとかもソコソコに執務室に放り込まれて…あとは言わなくてもわかるわよね?

 

 ともかく常時座りっぱなしで空間コンソールのキーを打ち、紙媒体の書類にはハンコを押し、何故か紛れこんでいた科学班&整備班のマッドコンビがお送りするデメテール素敵な楽園化計画と銘打たれたロマンあふるる企画書何ぞ吟味してみたりと……。

 

 とにかく忙しかった。軽く腰痛になりそうなほどに…。

 

俺が居た時代よか医学が進歩している世界だから、薬やナノマシン薬を使えば平気だがそれでも痛い物は痛い。再生ポッドに入れば腰痛の原因である椎間板ごと通常の状態に戻せるから大丈夫だからって腰痛くなるまでヤルなと、馬鹿かと。

 

「ミユさん特製の薬が無ければ(腰が)即死だったッス…」

 

 ユーリは思わずそう呟いちゃうんだ――割と冗談抜きで。

 

 さて、若干たそがれながらも俺は自分家への帰路を急いでいた。なんだかんだでトスカ姐さんに捕まり仕事をさせられていたので、フネには帰ったのに自分の家には帰っていないのである。これでは会社に泊まりこむサラリーマンと変わらない。

 

 家に居るであろう同居人のお手伝いさんの事も気になるし……俺忘れられて足りしないかな?もしも忘れ去られてたらもうね、泣くよ?恥も外聞もなく。だって忘れ去られるってとっても悲しくて残酷なことだと思うし。

 

 話は逸れたが、とにかく帰路に着いた俺は大居住区へとやって来ていた。ちなみにここまではマイカーならぬマイVFを使わせてもらった。しかも乗ったのは俺が投獄される前に使っていた俺専用VF-0Sである。所謂指揮官用。

 

すでに白鯨の主力戦闘機は新型のVF-11に統一され、VF-0は完全にカタ落ち扱いを受けている……だが俺はコイツの方が好き。だってなんかシンプルでゴツゴツしてないし、なにより宇宙機というよりも飛行機って面構えが実に素晴らしい。

 

まぁソイツをわざわざ中身のアップデートという名の魔改造を施してパッケージ保存しておいてくれたケセイヤ総合整備班長には、こころの中でおおいに感謝しなければならないだろう。口には出さないのがユーリ・クオリティというヤツである。

 

別にお礼言っても良いんだが……口に出してお礼言うと、その代わりに危ない研究の許可をとか言われそうで……バイオでハザードとか機械達の反乱とかいうのは嫌ですたい。

 

 

さてそんな事もあり愛機を一度駐機スペースに停めて住宅地に入ったが、何と無く違和感を覚えていた。道自体は一応見慣れた道なのだろう。大マゼランへの旅の中で何度も通った道なのだから覚えが無い訳が無い。

 

だが5年の時が流れた居住区の様子は俺の記憶からすっかり様変わりしていた。大居住区は巨大な生活スペースであるが、配置としては自然ドームに近く、実際建物は一つに集中して建立していたのだが、それもこの5年で随分と建物が増えており、以前は遺跡ビル群だった居住区も今や下手な開拓惑星にも負けない規模の街と化していた。

 

恐らく生活班と行政を指揮っているパリュエンさんが大分頑張ってくれたんだろうな。風の噂に聞いた話にゃ、外の秘密基地にも同じ様に都市を建設する話が出ているらしい。もっとも人員補充の目途がいまだ立っていないので今はムリだが、彼らのバイタリティは将来の事も見据えての事だそうだ。海賊認定受けても逞しい事で。

 

「おい、あの人……」

「おお!テレビで言ってたウチの艦長じゃねぇか。アレ偽報道じゃなかったんだな」

「また、アレに、きれいどころを、もっていかれるのか、いあいあ」

「あーあ、可愛い系だったのに成長したら……タダの二枚目じゃない、ジュルリ」

「ちょっと貴女、よだれよだれ」

 

 ああ、ご近所さんの眼がまぶしいぜ。若干暗雲とした呪いも混じってるようだけど懐かしい雰囲気じゃねぇか。そうこうして歩いている内に人混みが増した。おや、ここら辺には見覚えがあるな。

 

「しっかしこの変わり様。パリュエンさんも上手い事やってるって事なんスねー」

 

 ユーリも、思わず口に出しちゃうんだ☆

 

 

 

 

[――――以上の様に医薬品の材料不足が懸念されており―――]

「街頭テレビでニュースが流れて…ホント街になったんスねー」

 

 ふと見上げればビルの屋上に設けられた立体空間スクリーンに、大居住区にあるテレビ局(ナヴァラからの受け入れ難民から採用したクルーに元々そう言うテレビ関連の人達がいたらしい)が、ワイドショーを流し、その日の出来事やら色々番組を流していた。

 

そう言えば俺が帰還したというニュースは、帰ってから3日後くらいに艦内テレビ局と新聞社の手によって報道されていたらしい。もっともオイラ自身がそのことに気付いたのは帰還してから5日後、休憩中にテレビをつけたからだった。

 

 もっとも俺の帰還というのが乗組員すべてに受け入れられたかというとそうでもない。統計をとったところ数こそ少ないが5年もフネを離れていた俺を艦隊トップから降ろして、民主的に指導者を立てようという意見も出ていたのだ。

 

 こればっかりは5年近くも拘留されてしまった俺にも責任の一端があるとはいえ、元々俺が設立した艦隊なのにそこに民主主義とかの思想を持ち出して、トップの座の交代を迫ってくるとはなんともはや……言われたこっちとしちゃ言葉にならない。

 

 正直ショックだったが、デメテールが都市を内包したフネである以上、不平不満の一つや二つあっておかしくない。むしろ9割以上の住民が俺の帰還を喜んでくれたのだからありがたいと喜ぶべきなのだろう。あんまりいい気分にゃならんけどなー。

 

「お土産はアップルパイでいいよな?」

 

 これが従来の艦隊ならお外に出して粛清とか、どっかの宇宙港に放り出せば済むんだろうけど、ここはすでに一つの都市、いや小国レベルにまで達している以上、下手な粛清は乗組員、いやさ住民の反感を招きやすいだろう。粛清の嵐とか洒落にならねぇべ。

 

 スターリンのしっぽ…いやいやいや、マジ勘弁。

 

…………………

 

……………

 

………

 

 

「くく、我が家よ!私は帰ってきたっ!」

 

 手にはデメテール料理街を牛耳るタムラさん特製アップルパイ(コネでちょいと作ってもらった)を持ち、久々の我が家を見上げつつ電子ロックに手をかざす。静脈認証でドアのロックが外れたので俺は中に入った。

 

 ああ、仕事に疲れながらも、戸を開ければそこは暖かい我が家―――

 

「ただいまディアナ!」

「―――!!」

 

 小さな箒片手に掃除の片づけをしていたディアナに元気良くただいまを言う。専用のメイド服型の空間服をはためかせて振り返ったディアナは、驚愕といった表情を浮かべている。

あり?テレビとかで放送されていたから俺が帰って来ているのは知ってると思ってたんだけど…はて?

 

「さぁこの胸に飛びこんでおいでー!」

 

 とにかく今はスキンシップを図ろうではないか!そう思い両手を広げ何時ハグが来てもいいよう身構える。一方のディアナは感動のあまりぷるぷると肩を震わせ―――

 

「ウ゛ーーーッ!!」《――がぶりんちょっ!》

「うぎゃー!頭頂部はぁぁ!!なんでぇぇぇ!?」

 

―――筈だが、事前に帰ることと伝え忘れればこうなります。

 

皆も気をつけようね!お兄さんとの約束だ!

 

 

「う゛~~」

《がじがじがじがじ―――》

「まってまって!スタップ!それ以上やられたら歯がミソに届いちゃう~!」

「う゛~~~ッ!!!」

「ゴリゴリいってる~!?は、反省してます!顔見せなくて済みませんでしたっ!あとこれタムラさんところのアップルパイ!お土産!買って来た!」

「う゛ッ!」

《シュバッ》

「あー!アップルパイだけもって何処に行くんだ!ディアナ!ディアナァァァッ!!!」

 

 なんという事でしょう。気が付けば手に持っていたアップルパイを奪い取ったディアナが家の奥へと駆けていってしまいました。……こ、これはまさかっ!

 

「ディアナがぐれた!?」

「ま、帰ってきたのに連絡一ついれずに、そのくせ元気そうに帰ってくれば怒りも沸くってわけよねー。ダメ亭主待つ妻の気持ち?」

「そっスねー。アップルパイだけ強奪してくくらいお怒りのようで……ってキャロさん?」

「ハァイ~、五日ぶりー」

 

 気が付くと後ろに見慣れた金髪をしたキャロが立っていた。何時の間に…。

 

「別にいいじゃない。ほら私とユーリの仲だしさ」

「そうやって普段からいると既成事実にしてしまうって腹ッスね。おお怖い怖い」

 

 そういうと何かムーって感じで睨まれた。はっは、そういうジョークは嫌いじゃないが好きでもない。自粛しておくれよ。

 

「うん?ウフフ、普段からって意味ならもう手遅れかもねー」

「………うぇ?」

 

 そんな謎の言葉を残しつつ、臆すことなく家の奥へ上がるキャロ嬢……なんだろう、やな予感が止まらない……まぁいいか。

 

とにかく彼女を追うようにして俺も中に入る。調度品とかはあまり置いていないので割と殺風景な感じだ。5年も立っているのだし少しは変化があるかとも思ったが、ディアナに任せておいて正解だったかもしれない。

 

 んでとりあえず居間に向かう。そこには確か炬燵を作って置いてあった筈。今の艦内は四季を取り入れた影響でやや寒い温度に設定されているから、温度の調整がある程度効く空間服でも炬燵は嬉しいのだ。

 

「こたつ~こたつ~こた…」

 

 ボタンを押して微妙に近未来的な自動ドアを開けばそこは―――

 

「遅かったねユーリ。どっかより道してたの?」

「あ、“ユーリ司令官”お帰りなさい」

「おっす、おかえり~じゃましてるよ~」

 

―――女の園でした。なにそれこわい。

 

「…………OK,落ち着こう。まずは落ち着こうか」

「生憎タイムマシンの入口はないよユーリ?」

「…………現実逃避くらいさせてくれたっていいじゃないッスかぁ、トスカさん。つかキャロめそう言う事か」

「だって5年も経ってるんだし、良いじゃない綺麗どころ一杯よ~」

「そういう問題じゃないんスよぉ…」

 

 5年、たかが5年、されど5年。この微妙な時の流れは、俺のベストプレイスを違う色に染め上げていた………安寧の地はないのか俺に!?

 

「う゛」

「ディアナ…なんでハウスキーパーな君がいるのに他の人があがりこんでるんスか」

「う゛っう゛っ、う゛~」

「どうせ皆、あなたのコレでしょ?――トスカさん!へんな事ディアナに教えんでください!」

「私は教えて無いね。元からだろうケセイヤ印なんだし」

「嘘だと言えない感じが憎いでッス!」

 

 頭に切り分けたパイと紅茶が乗った盆を器用に載せたディアナが、やれやれといった感じに首を振る。それを見てトスカ姐さんは笑い、ユピはオロオロし、キャロとチェルシーは炬燵にてまどろむ。そんな日常……騒がしい以外なんと言えばいいのやら。

 

 しかしこうして見ると、本来なら死んでいた筈のトスカさんや小マゼランにて大企業の令嬢としての過酷な運命が待っていた筈のキャロ、ほかにも難民とかいろんな人がこのフネに居ると思うと、結構感慨深いものがあるというものだ。

 

「おーいユーリ、そんなとこ突っ立てないでディがもってきたオヤツでも食べよう」

「美味しい紅茶もあるわよー」

 

 騒がしき日常…平和だねぇ。そんなことを思いつつ俺も炬燵に入ろうかなぁと思ったが、目の前の状況を見て足を止めた。

 

「ん?コタツに入らないのかい?」

 

そう言いますがねトスカ姐さん……ここで少し考えてみよう。この家で使っている炬燵は四角い炬燵机なので入れる場所は四方の四辺である。一辺にそれぞれ一人づつ、ユピ、キャロ、トスカ姐さん、チェルシーによって占領されている。

 

 つまりさっきからタダ突っ立っていただけの俺は、ここにいる誰かと一緒に入らないと炬燵に入れないという事なんだよッ!な、なんだってー!………一人ボケ突っ込み終わり。でもこのままじゃ俺座れねぇじゃん。どうするよ?

 

<ライフカード>

1炬燵から離れたところに座る

2このメンツの中の誰かの隣に入る

3あえて炬燵の上に乗る(行儀が悪い)

 

 どうする、どうするの!続きはWEBでッ!

 

「あ、司令。こちらにどうぞ」

「あ、ああ、ユピありがとうさん」

「あっ」

「むぅ…」

「ほう」

 

 ………WEBで見る前に結果は2番でした。ユピはポンポンと自分の隣を叩きここにどうぞと視線を送る。別に断るもんでもないので俺はユピの隣に座った。

 

「こ、このコタツっていう暖房器具は、本当にあたたかいですね」

「…………そだね(せ、せまい)」

 

―――とはいえ極自然に座ったのが間違いだった。

 

こうやって自然に座ったは良いが……お互いに身体が密着する!炬燵に潜りこんで蓑虫化することを見据えてワザと大きめのを造らせたとはいえ、前世における4人用とさほどかわらん。つまり一辺に二人座るとそれなりにひっつく事になる。

 

 その身体はナノマシン集合体による作りものである筈、だが作りものであるということを感じさせない女性特有のふわふわとした柔らかさ、そして無意識に払ってもフッと感じてしまう甘い香りが心臓を高鳴らせ顔に血が昇るのを感じてしまう。

 

 実を言えば俺はこの5年間こういった機会が一切なかった。監獄には娼婦はいたけど顔も知らぬ相手に手を出す程の勇気が無いヘタレでありまして……つーか殆どを地下坑道との往復で過ごしていたから、酒場でも勧誘とか受けなかった。

 

 厳つい顔つきになっても身体はまだ綺麗なまま――ぶっちゃけ5年間女絶ちをしていたようなもので本能と言いましょうか――とにかく堪らないです。自然と咽が鳴りそうになるのをいかんいかんと首を振って押し留め、平常心と呟き呼吸を深くした。

 

 だがそれでも、少し動くだけで聞こえる着崩れの音、ほのかに香る甘い香りを感じるだけで胸がドキドキするのが止められない。俺に出来る事は表面上問題無しに、内心汗ダラダラでどうしたもんかと悩むくらいだった。

 

「なぁ~に鼻の下のばしてんのよアンタは」

「お、おいキャロさん?―――」

 

 さっきから睨むように見て来ていたキャロは急に立ちあがると俺の顔に手を伸ばし、結構力込めて引っ張ってきた。さりげなくツイストを加えられたそれは非力な女性の握力であっても俺を涙目にするのに十分な威力を誇る。

 

「イデデデデデッ―――!痛いでッスっ!」

「キャロさんッ。ユー……提督に酷い事はっ」

「ふん!こんどからは気をつけなさいよねッ」

 

 最後にピンッと力を込めて頬を引っ張って手を離した彼女は、ストンと俺を挟んでユピとは反対側に腰を降ろす。思わず涙目になりながらも、あのうキャロさん?なんでこっち座るのん?と眼で問いかけるが、彼女は俺の視線とは別の方を向いているので眼を見れない。心なしか顔を赤くしていたような……気のせいだったのであろうか?

 

「……むむぅ……そうだ」

 

 一方その頃。キャロと俺のやり取りを見ていたチェルシーも、良い事考えたという顔をすると行動に出た。なんと彼女、炬燵に潜りこんだかと思うとするりと器用に俺の前に這い出てそのまま膝の上にストンと収まったのだ。19歳にもなり身体も大きくなったというのに身体やわらかい事で。

 

 そすて女性が三人も集まれば騒がしくなるのもまた道理。両サイドとフロントからのドルヴィーサラウンドでワーワーと牽制し合う彼女らに男の俺が口をはさめる筈もなく……ようするに止めらんねぇ。どうせ俺はヘタレですよーだ。

 

 

 こうなると問題は一人残るトスカ姐さんだ。

 

 流石にトスカ姐さんは彼女たちみたく騒ぐような事もなくこちらを静観している。いや静観しているというか余裕?なんでだろう?疑問に思いおもわず彼女の方を見遣るとトスカ姐さんはにっこりとドキリとするような艶やかな笑みをくれる。

 

 ふと、そう言えば彼女とは色々とキスまでしたような記憶が……そこまで思いだして両サイドステレオで流される喧騒で萎えていた女性を前にした恥ずかしさがふつふつと再燃し、気が付けばあの手この手の恥ずかしさでボッと顔が熱くなった。

 

 そうかっ、いまこの状況で余裕そうなのはそういうことなのねーっ。しかもトスカ姐さんはそんな俺を見て面白そうに……それこそ悪戯を思いついたかのように笑い……スクっと立ちあがって俺の背後に立つと―――

 

「なんだい?私だけ仲間はずれなんて寂しいねぇ。背中が寒そうだし暖めてあげようか」

 

―――そういって抱きつき俺の首に腕を絡めて来た。って、うぉい!?

 

「おいコラっ、皆いい加減にしろっ!はなれんしゃいっ!狭いし熱いし恥ずかしいッス!」

「えー、やーん」

「いまユーリ分補充中なのよー」

「そ、そのう。いまは離れたくないと言いますか。私だけ離れるのも嫌と言いますか……」

「いいじゃないか。ここに居る皆は5年間待たされた分のスキンシップを今濃縮してとってるんだよ?むしろまだまだ甘いと思うよ?」

 

 ………もう、どうにでもしてぇ。

 

 

***

 

 

「――てなことがありましてね。色々と大変な休暇でした」

「なぁ俺が全男乗員代表して言ってもいいか?マジでモゲロよ……」

 

 そして短い休暇も終わり、各責任者会議へと出席中。色々と話をしていたら何故かケセイヤ総合整備班長と休暇の間の話になっていた。

 

「ところで何でそんな丁寧口調なんだ?」

「いえ少しばかり監獄では色々ありましてね。とりあえずこういう場ではこの口調で通そうかと思いまして。やっぱりおかしいですかね?」

「まぁな。前の喋り方知ってるから胡散臭さしか感じねぇよ。――で、ひっつかれた後はどうなったんだい?」

「いや普通にオヤツ食べて終わりましたよ?夜時間になると皆さん自宅に帰られましたしね」

「そこは普通喰っちまうとか、男の家に女が来たらどうとかになるんじゃねぇのか?」

「フフ、ケセイヤ。考えてもみてください。色んな意味で私が彼女たちに敵うとでも?」

 

 なさけない話ではありますがと呟く俺に、ケセイヤは同情というか呆れというか色々と複雑な感情が籠った溜息を吐く。そう、結局あの後ディアナが食べるならとっとと食べようと騒ぎ、良い雰囲気になる事もなく自体は終息してしまったのだ。

 

 なんか残念というか勿体無いというか……もっとも男性乗組員の憎しみをこの身に受ける程の器はまだないし、そういう関係というのも色々と各所で歪みを引き起こしそうだったので良かったと言えば良かったのであろうが……やっぱり勿体ねぇ。

 

「あのう、報告続けてもいいですか?」

「おっとこれは申し訳ありません。たしかデメテールの現状の途中でしたねパリュエンさん」

 

 会議の途中で関係ない事を話していた俺達に苦笑を向けるパリュエンに俺は向き直る。だってなぁ、ここで話していることは既に執務室でなんども眼を通したデータの確認作業みたいなもんだから、正直詰まんねぇんだもん。

 

「はい、では続きをば―――コホン、工業で必要な鉱物資源は周囲の岩塊を含め、現在の消費量を考えれば備蓄も入れておつりが来ます。また食料品の幾つかは基本的な物は船内で生産可能です」

「だが輸入が見込めない以上、一部の農作物や畜産、水産物や医薬品などが手に入りにくい状況で現在艦内を含めすべての工廠では生産に制限をかけている」

「一応消費と生産のバランスは保たれてるが、問題は山積みだぜ」

「なるほど…今の勢力規模ならこれから数十年は安定していられるってワケですね」

「その通りです“司令”」

 

 さてちょっとここで補足するが、俺の役職が艦長から艦隊司令官へとランクアップしてました。俺としては艦長の役職を気にいっていたんだが、大規模な艦隊を指揮する以上、一艦長という訳にはいかず一応艦長より上の司令官というポジに収まったそうな。

 

 なのでこれからはユーリ司令官、簡略して司令と呼ばれる事になりそうである。ああ、でも司令と呼ばれるのも……悪くないかも。とか優越感に浸っていたかったが、少しばかり今の白鯨を取り巻く環境を鑑みると正直あたまがいたい。

 

「輸入の不可、定期的な物資の補充が出来ないのは痛いですが……なによりも一番の問題はやっぱり人材補充の目途が立たない事でしょうか」

「やはりユーリ司令もそう思われますか」

「もともと数が少ないのをC(コントロール)U(ユニット)とユピで誤魔化してやってきたものですからね。常に人材が火の車だったのは何処の部署も同じ筈だと収監される前から気付いていましたからね」

 

 この先戦闘などの大規模消費が起こらなければ、エンデミオン軍に対する海賊行為により手に入れた物資、周辺宙域に点在する鉱物資源となり得る小惑星、そして元よりデメテールにある生産設備を考慮すれば、数十年単位で生きる事は出来る。

 

 だがだとしても今必要な物やもしもの時の為の備蓄は圧倒的に少ない。しかも今は良くても数年くらいすればベビーブームで人口が増える事が予想されている。しかしその場合クルーとして扱うには最低でも十数年単位で考えなければならない。

 

 なんとも、気の長い話になりそうだ。本当に頭痛を感じて来たよ…。

 

「なにか対策はありますか?」

 

 額を抑えながら部下に問う。

 

「対策としては3つ程あります。一つは現状維持。出産を登録制にし、住民が減らない程度に現状を維持させます」

「難しいですね。子供を作りはぐくむのはヒトの本能です。それを抑制することは多大なストレスを与える事に他なりません」

「ええ、参謀会議でもそれが予想されています。他にはサナダさん&ミユさん原案のクローン兵製造、ヴルゴ艦長原案の捕虜洗脳案があります」

「………どれもこれも一癖も二癖もありますねぇ」

 

 クローン兵とか……嫌確かにサイバネティクス文明が頂点まで行って、医療関係にも再生医療が普通に使われている世界だから、クローンの一つや二つくらい簡単に作れるだろうけどさ。それならロボット作った方が楽だぜ。

 

 捕虜洗脳も問題ありだ。今のところ海賊行為の後捕まえた捕虜は、基本的に元のフネに戻し(物資は必要だが売る場所が無いのでフネはいらない)開放している。そうしているから軍も表立って警戒を強くはしていない。

 

 だが、これでもし捕虜を陣営に加える為に洗脳とかして捕縛し続けたらどうなるだろう?当然軍としては捕縛した捕虜たちの事は任務中行方不明か戦死とみなすだろう。そうなれば白鯨艦隊は大殺戮をする大海賊となる。

 

 大海賊の名はちょっとあこがれるが、さすがにそこまで血まみれな状態に勘違いされてまで欲しいとは思わない。というかソレすると下手したら洗脳組と正規軍が戦う訳で、それがばれたらそれを実行させた俺とかへの恨みが半端無い訳で。

 

「全部むずかしいですね」

「ですよねー」

 

 会議室全体で溜息をつく。それからもああでもないこうでもないドンドンガヤガヤ喧々囂々と会議は困窮を極めるが、いいアイディアは沸いてこない。三人寄れば文殊の知恵と言うが、数十人以上いても問題が難し過ぎれば出ないもんはでない。

 

 結局今回の会議では良い案は出ず。懸案は次回へと持ち越しになる。人はそれを問題の先送りというだろうが、一日や二日でこんな大問題が片付けば行政府は必要ねぇンダよ!と言い訳してみる。

 

 もっとも司令官である俺は彼らが考えた事を聞いてから、GOサインを出すかどうか最終的に判断しなければならないのであるが……さてさて。どうなることやら。

 

 

 




とりあえず、これで全部です。続きは改訂版からになります。
……な、なるべく早く出せるよう頑張るッス


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旧版 妄想戦記
旧版【妄想戦記】第一話から三話まで


誰が作ったか黒歴史。

だけど見たいと言われたからには出さねばならぬ。

ここは旧バージョンの墓場。改定もクソもしていない場所。

それでも良ければどうぞご覧ください。


「あう?(うんと、アレだ……なんで赤ん坊になってんだ?)」

 

 

 

——妄想戦記第1話——

 

 

 

 その日、目が覚めた彼が見た物は―――知らない天井であった。

 

(………何ディスカこれは?自分が寝かされているのは判る。だけどみた事がない天井が見えるのはなぜ?)

 

不思議な現象に頭を抱えていると、突然彼の頭は重さを通り越して痛みに昇華した頭痛にさいなまれた。気分は最悪で頭が痛い上、それまでの記憶もはっきりしない。

 

(えーと昨日の夜は何してたんだっけかな?意識がはっきりしてくるにつれて痛みが収まってきたから少し昨日の事を思い出してみよう)

 

 

たしかバイトが終わってから、すぐに誰もいない我が家に帰って晩酌と共に遅い夕飯を作ろうとしたら材料が無かった。 

肉体的には大丈夫だったけど精神的に疲れていて、飯作るの面倒臭くなってコンビニに行ったんだっ…け?ちっ、ハッキリと思いだせない。その後はどうなったんだっけ?誰か頭にかかる靄か霞を払ってくれ――ん?だんだんと思いだしてきた。

 

 

えーと、帰り道に突然車が突っ込んできて……

その車にプレスされてペッチャンこにされて……

口から血とか噴き出して……

それなのに痛みは感じなくて……

下半身取れて内蔵潰されてもうダメだって判った瞬間、目の前真っ暗になって……

おえー、俺死んだのか。死に方がミンチより酷いぜ。

 

 

 

 

 

 

 

―――まぁいいか……。

 

 

 

 

 

 

 

「え!あういあぉえ!(——って!軽いな俺!)」

 

 

 

――――あ〜、うん納得!そう思いこもう。

 

死んじまったのは事実だし、その証拠に車に轢かれた時の記憶がデジタルリマスターよろしく高解像度で残ってやがんの…怖っ。とりあえず天国か地獄かは知らないが、生前の世界ではないという事だけは理解した。

情報は少ないが後ろ向きに考えてもしょうがないし、慌てたところでどうにかなるモンじゃない。とりあえず意識があるんだし…とここまで理解してから気が付いた。俺の視界にさっきからチラチラ映っている回転する物体。

 

アレって……所謂メリーさんじゃね?ほら赤ちゃんあやす時に使うベビーグッズ。

 

え、どういう事なの?そう言えば俺の周りは高い柵で囲んであるし、眼だけ動かしたら顔のすぐ横に瓶みたいな何かが見えるんですが?口も動かないし……もしやとは思ったが、これはまさか所謂転生というモノではないか?身体も妙に重たいと思っていたけど、赤ん坊になっているのであれば理解したくないが納得は出来る。

つまりはどういう事かは判らないけど赤ん坊となったと…………泣いても良かですか?こんな自由に動かない身体なんてタダの牢獄よりもキツイんですけど!確かに俺は聖人じゃ無かったかもしれないけど、幾らなんでもこの仕打ちは死後の待遇にしては容赦なさすぎな気がしないでもないんですが神さま…神さま信じて無いけど思わず祈っちゃうくらい冷静さを失っていますよ。ええ。

 

こいつは本当やっかいだが、だがそろそろ時間切れらしい。強烈な睡魔が俺のまぶたを鉛に変える。後にこの睡魔は恐らく柔らかな赤子の脳みそに何十年分の記憶とそれを元にした人格が生まれた弊害だろうと理解したが、こん時の俺がそんな事知る訳もない。

再び眠りにつこうしていると感じた時、これは夢で次はきっと天国何だろうなと妄想し、適当にニューワールドで生きていけるよう頑張るさねとか考えて眠ってしまった。もっとも現実は非情であり、目が覚めた時に天国であるとは限らなかったんだが…。

 

―――コレが、俺が最初にこの世界を意識した瞬間であった。超眠い。

 

 

***

 

 

―――そして気が付けば2年、人生が進むのは早い。

 

この2年間の事は別に語るつもりもない。ガキの生活のこと書いても面白くないし、大体が基本食べて寝て排泄してソレの世話されての繰り返ししかされてねぇんだ。羞恥プレイしかないんだぜ。おしめってあんな感触だったんですね。制御できねぇ膀胱にいら立ちを感じたわ。

色々あって赤ちゃん生活は精神的に死にそうになるというテンプレを味わい、1歳になる頃には自分が転生した事を完全に認め、むしろ開き直って人生をエンジョイする事に決めた。同時期にカタコトで喋り始める。

そうやって訓練しないと口が言葉とかを発声してくれなかったからだ。でも結構早めに流暢とはいかないが理路整然とした言葉を喋ったら、この世界の両親には驚かれたけど、逆にうちの子は天才だとか言って喜んでくれたんさー。

なんか懐が大きいっていうか大雑把で助かったさぁー。でもちょっとだけ寂しそうな目をしていたのを俺は見逃さなかったさぁー。だからちょっと自粛しているんさぁー。やり過ぎて捨てられたら生きてけねぇさぁ。

 

さて、気が付いたら違う身体に転生という形となった訳だ。尚、以前の俺の名前は高辺正憲って名前の元一般人だった。そして交通事故で死んで、新たに生れ出でたこの世界での名はフェンというらしい。ちなみに姓はラーダーだそうな。随分と外国人の名前っぽくて、純日本人だった俺はなんとなく違和感を覚える。

だが、この名前で2年ちかくも呼ばれ続ければいい加減慣れてくるもので、今では俺のソウルネームだぜ。まだ少し変な感じはするが、これもしばらくすれば消えるだろう。第一俺の外見も外国人だし、日本名は多分にあわないからな。兎に角、これから先は心機一転、憑依幼児フェン・ラーダーとして頑張る事にした。

 

 

 

 

―――で、現在の俺は2歳、まぁ今日の誕生日になってからだが…判ったことがある。

 

 

 

 

とりあえず、ここは俺がいた日本じゃないし外国ではない。現在過去未来という訳でもない。それどころか地球ですらなかったのだ。なにせ、この世界は完全なる異世界だった。どうしてそう思ったのかと言うと答えは単純なもんだ。生前の世界では見れなかったシロモノを見せられたのだ。

 

そう、この世界には魔法がある。ちなみに怪しいクスリはやって無い。大体この年齢じゃ薬買えるだけの金なんて持たせて貰えない。それは置いておいて俺もまさかって思った。一歳の頃は両親の顔立ちを見て、ただ単に外国のご家庭に転生したんだと思っていたのだ。

おかしいと思ったのはハイハイ覚えて動けるようになり、色々家の中を動き回れるようになった時だった。両親側から見れば俺は色んな物に興味を持った腕白で好奇心旺盛な赤ん坊に見えた事だろう。だから特に邪魔されることなく精々が赤ん坊にとって危険なモノを手の届かない位置に片付けられる程度だった。

そりゃそうだ。自分の子供が遊びまわるのを邪魔する親は普通いない。そして俺が動き回る先々で赤ん坊が飲み込んだら危険な物、重たくて落っこちたら危ない物、そういったのが目の前から“飛んでいった”…文字通り“飛んだ”のだ。いやまぁ飛んだっていうか、彼らにしてみれば簡単な念力系の物体誘導魔法だったらしい。

 

だが、当時の魔法の魔の字も想像して無かった俺にしてみれば、掴もうとした物が勝手に宙を舞うその光景はポルターガイストに見えてしまい、自宅が幽霊に呪われてやがると戦慄を覚えていた程度だった…異世界だし幽霊位居ると思ったんだよ。幽霊屋敷にご家族で住んでいるとは奇異な人達だと感じたものさ。

結局、その怪奇現象が魔法だと理解したのは、俺が見ている前で母上が小さな魔法円を空中に描き、魔法の力で俺を引きよせて抱き上げたとくれば、信じないという訳にはいかなかったってのもある。なまじこれまでポルターガイストと思っていた現象が、実はタダの魔法だったのだ。

 

いや魔法って時点で超自然的というか超能力とかと同レベルの物である事に変わりはないのだが、とにかく愕然とその光景を眺めていたのはしょうがなかった。誰だって自分の親が魔法使いだと知れば唖然とする。本来なら魔法という存在に対して、困惑するのが普通かと思うのだが俺の場合魔法はすぐに受け入れた。

死と転生を体験したというのもあるし、異世界ならばあり得ると思っていた事も理解は出来ない納得を加速させたのである。とはいえ転生者であり、生半可な事じゃ何があっても驚かない自信があったが俺だが、魔法という非現実に触れられると思えば股が濡れた(おしっこ漏れた的な意味で)。

 

親が魔法使いならば、そのレベルはどれくらいなのかという純粋なる知的好奇心から、俺は母上に笑顔でもっと魔法見せてー!と、羞恥に頬を赤らめながら精いっぱい甘えてみた。思えば普段から世話をかけない良い子ちゃんだった俺は両親にしてみれば子育てのイメージからかけ離れており、物足りなかった事だろう。

そんな我が子が目を輝かせて拙いながらも言葉を発して、精いっぱいの笑顔で懇願して見せる姿は可愛く見えたに違いない。母上は張りきって極太ビームの砲撃魔法を虚空に向けてブチかましてくれた。しかも我が家の敷地上空20mの位置にちゃんと転移門開いてビームを何処か違う場所に撃ち込むというアフターケアもバッチシな魔法を。

 

お陰で俺はまた股を濡らした(オムツ的な意味で)。ま、まぁその話は置いといて正直ちょっと嬉しかったりした。だって魔法だぜ?超能力に匹敵する超常の技、魔法。その魔法が使える両親は魔法使い、それもかなり高レベルの使い手だってのは先の魔法で十重理解できた。おっきい方も漏らした事で涙を飲んでおしりを洗って貰った位にね。

 

 

―――それからさらに時が経ち誕生日の日。

 

大分今の身体に慣れた俺は3歳となった事を機に、思い切って両親に魔法を習いたいので教えてくださいと土下座して頼み込んでいた。考えてみると3歳児の土下座ってシュールだよな。ギャグテイストのカートゥーンでも出てこねぇよ。土下座文化が存在しないから余計におかしく見えただろうにウチの両親はホント懐が深い。

 結果はまぁ、割とあっさりとOKされた。

 というか両親の立場とか色々理由はあるが、立って歩けるようになった段階ですでに教える気満々だったそうな。時折病院に定期健診に連れていかれたのは魔法を扱えるかどうか調べる為だったらしい。道理でワクチン注射をされる訳でも三種混合とかをされる訳でもないのに病院に連れていかれた訳だ。

 

もっとも何故両親が幼い俺に魔法を教える気満々であったのかは後々になってから判ったが、判っていたらこの道を選んでいたかどうか。

 

―――そういう訳で、俺は母親に魔法を教えてもらえる事になった。

 

 初めは神秘に触れられると考え、少年のようにワクワクしていた。いや、事実身体は少年なのだから間違いではない。しかし習ってみて判ったが、この世界の魔法というのは高度にプログラム化された非常にシステマチックな代物であり“科学では説明できないような現象を起すがおおむね科学”という感じが相応しいモノであった。

 その代表格がデバイスの存在だった。

デバイスとは所謂“魔法使いの杖”に相当するもので術者の力の増幅や能力補正にリミッター、魔法プログラム登録によるサポート機能をもった魔法的ハードディスクといえる存在だった。また魔法の才を持つ者が歪に育たないように矯正する大リーグ養成ギプスのような機能もあり…まぁ色々便利な魔導機械である。

 

しかしこの魔法の杖、その便利さから犯罪に使われる事もあり、俺が生まれたこの国では銃火器のように個人の所有は制限され、特定の役職につく人間及びその人間の監視下において所持ができるという法律がある程危険な物でもあるらしい。それもその筈で殺傷能力がある魔法をインプットしたデバイスは起動できる魔力さえあれば使用できてしまうからだ。

制御の失敗による魔力の暴発や暴走が起こり得る事を考えると、子供が拳銃を持って撃ちまくるよりもある意味危険であり規制の対象になるのもまた当然と言えた。その為、デバイスを持てるという事は犯罪者かもしくはそれを取り締まる役職に着けるエリートという事になる。デバイスを所持できるのは魔導師のステータスともいえるのだ。

 

さて、そんなデバイスであるがそれは我が家にもあった。ここで一つの疑問を上げてみよう。何で我が家にデバイスという“魔導兵器”が無造作に転がっていたのか?その実、非常に高価な機材であるデバイスは魔導師本人が身に着けるか非常時以外は仕舞っておくのが通例であるのに何故?……理由は単縦明快だった。

つまりそれまで気が付かなかったが、我が家系は通常のご家庭に非ず。両親揃って軍属であり母上に至っては軍の高官だったのだ。国に仕える軍人だからデバイスの所持携帯を許可されている、そして当然そんな彼らの息子である俺も彼らの監督の元、デバイスに触れられる環境が整っていたのだ。

 

 この事実を知ったのは規制されている筈のデバイスが我が家に無造作にあった事に関して疑問に思って素直に尋ねたからだ。そうして上記の事を知ったのであるが、その内容の端々を聞くに、この世界の魔法使いは俺が転生時に持っていた魔法使いのイメージとは随分とかけ離れた非常に生々しい存在だったって事がより理解できてしまった。

そう俺が生まれたこの世界での魔法使いは魔導師といい、特殊な能力と戦闘能力により国により管理され、その殆どが軍属だった。それを聞いた時、神秘は?魔法はどうなった?と、魔法という神秘の術を行使する存在が一端の兵士と同程度の扱いという事実に魔導師に対するイメージがガラガラと音を立てて崩れさった。

 

この世界の魔導師の存在が俺の記憶する魔法使いなどという存在などとは、色々と異色である事は理解したが、実はそれよりも重要な部分がある。重要な部分はここだ。【両親が軍属である】これに尽きる。何が言いたいかと言えば、要するに教え方が泣く子は気絶し鬼も裸足で逃げる様な地獄…いやさ軍隊形式だった。

一番簡単にイメージできるのはハートマ○さん的な海兵隊式だろう。殴る蹴る?身体に触れてくれるだけまだ優しい。流石に身体が小さくて未成熟なのを考慮して殴る蹴るは最低限だったけど痛かった。さらには言葉攻めによる罵倒がもう何度枕を濡らせばいいのかってくらいきつかった。

魔法の練習のイメージはイギリスの9と四分の三番線から行く某魔法学校だった俺は、それが凄まじく幻想であり現実は非情であると身体で理解させられたのである。普通なら引きこもり一直線なのであるが、普段の生活では溺愛されておりそのギャップが飴玉とムチのような感じで作用した事も俺が自ら止めようとはしない原因だった。

 

例えばであるが、初日の訓練だと————以下ダイジェスト。

 

 

『FNG(ファッキンニューガイ、新兵の意)ッ!貴様は何だッ!!』←これ母上ね?

 

『自分はクソ虫でありますッ』←まだノリで答えてるだけの俺。

 

『どうした、そのメロンみたいなスッカラカンの頭に脳みそは詰まっているのか?それとも頭に詰まっているのは果肉で、ついでに生まれた時にそのクソったれな口と耳をどこかに置き忘れたのか!言葉が全く聞こえんぞッ!』

 

『イエス!自分はクソ虫でありますッ!!!この世で最も劣った存在でありますッ!!!』

 

『いいや違うぞ新兵ッ!!貴様は兵隊技能どころか魔法のマの字も知らない魔導師の風上にも置けないようなクソに集るクソ虫にも劣るクソ以下の存在だッ!!言ってみろっ』

 

『イ、イエッサー、自分は《バキン》――うぎっ!』←平手打ちされた。イテェ。

 

『サーをつけろ馬鹿モンがッ!大体私はマムだッ!ついに脳みそまで虚数空間に忘れて来たか?もう一回だ。貴様は一体何だ?』

 

『サー・イエス・マムッ!自分はこの世でもっとも劣ったクソ以下のクズ野郎でありますッ!生きる資格も無いでありますッ!サーッ!!』←必死&やけくそ。

 

『よろしい、だが出来るのなら最初から声を出せ。――では訓練という名の地獄へのご招待だ………出来るだけ死ぬなよ?後処理が面倒だからな?』

 

『サ、サー・イエス・マムッ!!!』

 

 

 とかね、初日にこれである。ホントに何処の海兵隊の人ですかアナタ?というか本当に魔導師なのか?俺と同じく転生した前世ハー○マン軍曹の方じゃないのか?それはそれで非常に怖すぎる。母親がハート○ンとか自殺レベルだ。勿論そんな事実はない、ない筈である。聞けないけど恐ろしすぎて聞けないけど俺はそう思っている。

ともあれ普段はにっこり美人である母上が一変して氷より冷たい視線で射抜くようにして俺の事を貶すのだ。正直、心にクル。俺が変な世界への扉を開かなかったのはまだ幼いこの身体のお陰かはしらんが、よくも持ったものである。魔法を扱えるように訓練してくれと頼んだが、軍人教育までしてくれとは言ってないとは言えない日本人、それが私です。

 

そもそも本来魔法に関しては俺がもっと育って13歳くらいになって、魔法の才能があった場合に開始する予定だったが、両親の予想を裏切って精神が急成長(そりゃ中身は異世界の元大人ですしおすし)して早熟だった俺を見て、計画が前倒しになったそうな。こうなった原因は全部俺の所為で、しかも自ら言いだした手前止めるとは言えないこの状況となっていた。

これを知った時にかなり凹んだ。でもすでに泣きごとが言えなくなるくらいに徹底的に心根まで拷問…もとい鍛えてもらっていたので一応大丈夫だった。もっとも幼少期に精神的な拷問まがいの訓練をしてしまった所為なのか、副作用と言うべきなのか、自分の表情筋が万年休業状態になってしまい、顔から表情が消えてしまった。

どんな状況でも感情が出ない鉄面皮、戦闘において相手に自信の感情を一切察知させないそれは戦闘においては非常に便利だろう。だが日常生活の中では不気味でしょうがない。自分の顔がまるで西洋の人形の如くなのだから余計に怖いのだ。最近では天然のポーカーフェイスだと割り切ったが、今でもたまに目から暖かい水が溢れて枕が濡れる。

 

 顔で思い出したが、俺の容姿はこの世界においては珍しい部類の黒髪黒眼だった。もっとも顔の造りや肌は白人系なのだが、全体的に小顔に纏まっていて妙に人形のような感じを受ける。両親がかなりの美形なお陰なのかは知らないけれど、鏡を見るとどうにも中性的を通り過ぎた女の子の様な顔が映る。まるで造り物みたいだと思ったものだ。

そして猛訓練の影響もあり、やや背が小さいオトコノコである。この時期は男の子も女の子も境界線が薄いからそう思うのかとも思ったが、ある日訪ねてきた親戚が酒の席で面白半分に俺を無理矢理女装させたところ、その……俺の艶姿に酒の席を忘れて絶句する程洒落にならなかったくらいで……ええ黒歴史確定で記憶を一時封印しましたとも。

 

 大体前世も三枚目な男で今世も性別は男なのに、何故にこんな中性的な容姿なのは一体誰得なのよ?残念なことに俺はオカマでも女装癖もない極普通の軍人一家の跡取りでしかないにな。でも俺にとってはコンプレックスな顔を両親は存外に気にいっていた。女装だけは何とか阻止させました。でも髪形だけはダメだった。

 今現在、俺の髪型はとても長いサラサラストレートな黒髪を後頭部で結う形のポニテにされている。女の子ッポイのはイヤという俺と、そう言うのも良い♪っていう両親との妥協の末の結果である。本当は嫌だったがニコニコ笑う両親の手に握られたデバイスを見て、俺は捕らえられた小鳥であると理解した。

 

まぁその話は置いておいてほしい。つーか流してくれ、お願い。えーと、何処まで話したか…そう訓練の様子だったな。たしか…他にもこんな訓練があった————

 

 

『―――以上がこの魔法の効果的運用法だが、魔導師の身体強化の重要性は理解したな?』

『イエスマムッ!』

『では今から実地訓練を行う。私が撃つ低速の魔力弾を先程教えた身体強化の魔法だけで逃げ切って見せろ。何か質問は?』

『ハッ!……ですが、あの、自分はまだ魔法式を教えられただけで練習とかは―――』

 

 

 虚空に浮かぶ数百もの魔力スフィア。

 

 

『―――え…!?チョッ!!』

『たわけ、貴様が講義の際に密かに実践して成功させていた事に気がつかないと思っていたのか?それに実戦に勝る修練はない。第一新兵、お前に訓練を拒否できる権限は一切ない。さぁ舞踊れ、パーティクル・ダンサーズ(低速)!!』

『メ、メディーーーック!!!』

 

 

―――新しく知った魔法を黙って試した事がバレていて、危うく死にかけました。

 

 

この日の訓練から俺は必要なこと以外話さなくなった。いや話せなくなったが正しいか?訓練中下手な事を言うと弾幕と言ってもいい魔力弾一斉掃射の回避訓練と同じモノが1セット追加だった。普通そこは筋トレじゃないのかよと思ったが、まるで心を読んだかのように母上は年齢的に筋力鍛えても無駄だからとお答えになりました。

まぁ良く忘れるが肉体はいまだ脆弱な成長期のお子様である。第一無駄な筋力をつけたところで燃費が悪い身体にしかならない。ならば魔法を使わせ続けて精妙な操作力を身につけた方がいいのだろう。この訓練お陰で制御力向上と超人的な反射神経と勘の眼を会得できたが、下手な事は言わない方が良いと心と体に刻まれたのは言うまでもない。

 

 ちなみに母上は空戦が出来て、近接攻撃も遠距離も砲撃も回復も結界etc。もう兎に角何でもござれなオールラウンダーなのです。そしてその基本戦術は超が付くほど高速高機動で空を翔け周り、音速を超えているのにも拘らず、正確無比な射撃および砲撃魔法をぶっ放すというモノスゲェことが出来るお人です。

 

 すこしは上手くなったとかできる様になったとか思っても、このお方と比較すれば、どうあがいても…絶望!自分から頼みこんだ事とはいえ絶望したッ!ああ、今でも目をつむれば————ヒァッ!く、来るなぁ!空が、空が落ちてくるぅ!アレはサディズムの光だ!らめぇ!そんなおっきなビーム受けたら(意識が)飛んじゃうーー!!

 

 

……落ち付け俺大丈夫だ、戦場では取り乱したら死ぬんだ。

 

 

だから落ち付け―――ふぅ。

 

 

 

 すまん、取り乱した。どうにも一部トラウマになった訓練も多々ある為、たまに精神を守るために逃避する事もあるけど許してほしい。厨ニ病とか言わないでくれッ!アレはマジで洒落にならなかったんだッ!!いいか?気絶させて貰えないんだぞ?気絶させてもらえないんだ…大事な事なのでry…顔面にビームry…死ねるry

 

 

 とりあえず話題を変えよう。トラウマを見せてもお互いに無益でしかないからな。他にも全力疾走の100kmマラソンとかやらされた事があって――え?普通のマラソンでも40kmなのに全力で100kmなんて3歳時には不可能?ところがどっこい、そこが魔導師の訓練が通常の訓練と違うところだ。

 

 このマラソン、この間覚えたばかりの身体強化魔法を使っても良かったのだ。当然理性的な判断で俺は魔法を構築し使用した。体力はつけなきゃいけないから走り込みは基本だとは思うが、僅か数百m全力しそうしただけで倒れそうになるこの身体で身体強化なしで100kmも走れる訳がない。

そう思っての身体強化魔法の使用だったにだが、俺が魔法を使用した直後に言い渡された母上の言葉にその日一番の絶望を感じたのだ。曰く、なるほどこの訓練の本質に気が付くとは流石は私の息子だ。そして最後までやり遂げるという勢いや良し!存分に走るがいい!最後まで!――である。

 

一部リピートしてみよう『最後まで』母上は確かにそう言った。これはどういうことなのか?なんとこの訓練、強化魔法を使ったら最後、泣こうが叫ぼうが俺がゴールにたどり着くまで終わらせてもらえない地獄の魔法制御訓練だったのだ!理由を話した時の母上は、それはもう満面の笑みだった。別な意味でマジ泣きしたぜ。

 でもこの100kmマラソンは魔法の制御を覚えるという意味では本当に効果的な訓練だった。何せ道中は常に身体強化魔法を使用し続ける。それらの制御はマルチタスクという思考分割術によって行われている訳だが、まだ魔法初心者な俺はマルチタスクという魔法自体が不慣れなので常に全力運転な訳だ。

 

 このマルチタスクも曲者で魔力を消費しながら本来一つの事しか考えられない人間の脳みそを複数用意するような魔法である。要するにリアル脳内会議とかも出来ちゃうような技術だった。というか基本以外の魔法はマルチタスクかデバイスがないと一人で発動するのに時間が異様にかかるのだし必須技能だ。

しかも強化した状態で走り続けている間は魔力がどんどん消費されて魔力最大値の増加にも役立つと言うおまけ付き。

 

 この時の魔力配分と体力配分の仕方を間違えると途中で意識がマジで飛ぶ。だから自然と肉体が効率のいい歩方と適量の魔力の巡らし方を覚えていくのだ。何とまぁマラソン一つとってみてもやり方一つで効率のいい訓練に様変わりだ。てっきり魔力制御は瞑想とかやるんだろうとか思ってた数カ月前の自分を呪いたい。

 

―――ただ言いたいのは、マラソンとか何処の体育会系?

 

 

 

 

 さて、両親から受けた訓練は何も模擬戦染みた実戦訓練だけではない。当然座学もあったし座学を受ける為の基礎知識勉強もあった。だが群を抜いて俺の興味を引いたのは父上から受けたデバイス構築の知識だった。なんと母上に比べて影が薄かった父は軍属とはいっても技研の人間だったのである。

 

所謂デバイスの整備班とかにいたメカニックやデバイスマイスターと呼ばれる職種の人で、正規の軍人でありながら技術畑の父は母上と比べればとっても優しい人だった。なにせ母上みたいな心身ともに擦り切れる様な訓練はしなかったのだから、それだけでも段々と日々の訓練で身をすり減らしていた俺にとって見ればオアシスだった。

 

興味はあるが詳しく知らない技術を知るというのは、理解とか以前にとっても面白かった。だってさ?デバイスが分解整備とか出来るなんて俺知らなかったもんよ。てっきりそこら辺も魔法の力でメンテナンスフリーかと思っていたのに、これが現実。

 

 もっとも母上よりかは優しいとは言ったが、繊細さというか精神的な意味ではこっちの方がきつかった。つーかさ、ウチの家には何故か工房がある。それもデバイスとかを作る工房がな。その工房は父上が集中したい時に使うラボの様な小さなものだが、趣味に走った物がたくさん置いてある工房なんだ。

 

 でな?父上は俺みたいなガキに対しデバイスの調整の仕方や改造。果ては一から造るやり方まで教えてくださりやがったのですよ。とにかくデバイスってのは結構微妙なバランスで成り立っているもんで、ハンドメイドなデバイスだと手作業で部品一つ動かすのにも恐ろしく精神使うのよ。

 

 まぁ最初に初歩くらい出来るかって言われて、ついムキになって組み上げた俺が悪いんだけどさ…だってケーブルと基盤が合わさった様なブロックを筐体にはめ込むだけだったから、なんだがパズルミたいで楽しくて…難易度的にはちょっと難しめの、ブロックパズルみたいな感じだったからつい、ね?

 

 そんな感じで色々仕込まれたのである。まぁ部分的に極細のピンセットとか専用の拡大鏡を使わないと見えないとか色々と制限があったけど、パズル自体は嫌いでは無かった為、大変楽しかった。つーか後半はデバイス構築をレゴ代わりにして遊んでた様な気もする。

 

 多分幼児特有のというかテンプレな知識の吸収力を見た父上が、徐々にハードルを上げていったのだろう。気が付けば俺は何時の間にか上記みたいな事になっていたってワケ。一つ出来るたびにものすごく褒められて嬉しかったけどさ……自重くらいしてよ父上。俺ァ一応3歳児ですぜ?転生者でも限度がありまさぁ。

 

 まぁこの精神をすり減らす作業のお陰で、俺は冷静さと強靭な忍耐力も身につけられたから良しとする。魔力と精神は密接に絡み合っているから、こう言う訓練も効果的らしいしね。

 

しっかし軍隊形式って言うのはすわ恐ろしい。子供に対してもまったく手加減が無い。 軍隊というのを知らんから多分という言葉が付くがな。とにかく死にかけては回復魔法の無限ループだったもんなぁ……お陰でもう低速の弾幕くらいじゃ怖くもなんとも無いぜ。

 

 何度地面の味を知った事か…何度鉄の味を感じた事か…正直魔法無かったら死んでんじゃね?とはいえ今の生活は半端無くキツイけど、それ以上に楽しいんだよなぁ…。 前の世界では未知の分野だった魔法が学べるのだ、これに心踊らない男子が居ようか? 絶対におるまいっ!!断言できるッ!!

 

 

つーかそう思わんとやっていけんからなッ!ナーハッハハ!

 

 

「フェンちゃ〜ん、御飯よ〜!」

「サーイエスマム!」

「もう、今はプライベートなのよ?だから普通にしなさい」

「……うん、わかった」

「それでいいわ。今日のごはんは最近頑張ってたから、フェンちゃんの大好きな特製ミートローフよ」

「…やた」←思わず小さなガッツポーズ

「ああん!もう可愛いわねぇっ!」

 

 母上が呼んでるな、デバイスの設計図造りはこれ位にしておこう……ん?今の人誰かって?————母上ですけど何か?あの方は訓練の時はもう鬼軍曹って感じだけど、プライベートだと普通の…というか俺を溺愛するような母親だからなぁあの変わり身はスゲェだろ?もうなんか仮面かぶってるとかのレベルじゃ無いんだぜ?

 

―――最初の頃は本当に人格が複数あるんじゃないかって疑った位だよ。マジで

 

「フェンちゃ〜ん。はぐはぐはぐ」

「……ご飯、行く。だから放して?」

 

 さて、あんまし父上待たせるのもマズイからな。そろそろ行きますか。そう言えば今度の週末はサバイバル訓練か……生き残れるように全力を尽くそう。そう思いつつ、色んな意味で素敵な我が家族の元へと行く俺であった。なんかもうドップリと浸かってるなぁと思いつつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え―――――マジかよ。」

 

 

 

 

――転生か?第2話――

 

 

 

 

やぁ皆久しぶり!みんなのアイドル、フェンくんだよ~!キラッ☆

 

 

 

……ゴメン、調子に乗りすぎた。だから生温かい目でこっちを見ないでェ!!!

 

 

 

―――――ハァハァ、OK、COOLに行こう……うん落ち着いた。

 

 

 

さて“地獄の行軍サバイバル付き~君は未来を勝ち取れるか編~”をなんとかクリアした。3歳児なのに凄いんじゃねェとか思ってたり、魔法覚える時とかの習得のしやすさを両親の遺伝子に感謝感謝と感謝していたりしていた。

 

―――もっとも、あのサバイバルはマジで凄すぎた。

 

まさかねぇ母上に言われて騙されたと思い、芋虫食ってみたらプディングの味だもんなぁ。現地でそういう知識叩きこまれた後、実地って事でそのまま3週間森の中に放置された。一応サーチャーで見張られてはいたけど、それでも野生の獣がいる森の中でのサバイバルってマジで辛い。

 

下手にご飯も集められないだぜ?集めたら匂いで肉食系の奴ら集まってくるしよぉ。

おまけにタンパク質を確保するのがつらかった。今じゃトカゲとか蛇が食い物でネズミが御馳走にしか見えん。ミミズはソーメンです。あはは。

 

おまけに人の居ないジャングルに居た所為かな……ますます人前で表情を出す事がなくなり、完全な鉄面皮になってしまった。この間久しぶりに訓練が休みで公園に一人遊びに行ってみたら、そこですれ違う子が皆泣いちゃったんだよ?

 

別に威嚇もしてなければ声すら出していない。それどころか一人で散歩してただけなのに、泣いた子供に同伴してた親は俺を睨んでくるし…睨んだ癖に目線逸らすし…まぁ人形のように整った顔してて無表情なら一般人なら怖いかもしれないけど釈然としねぇ。

正直、コレで良いのか?魔導師に成りたかったけど訓練の方向性は大丈夫なんだろうか…俺大丈夫だよなぁ?そうは言ってももう遅いだろうけど思わず悩んでしまうフェン君であった。

 

―――とりあえず暗い話はやめて話題を変える事にしよう。

 

 

さて、そう言う訳で皆さんにご報告何だが……どうもこの世界俺の思ってた世界と違ってたみたい。

 

ココ最近になってから気が付いたんだが、魔導師が居る世界にしては、管理局とかがテレビに出てこない。

それに新聞とか見ても時空管理局なんて単語が見つからない…

俺ァてっきりリリカルなのはの管理世界のどれかだとばっかり思ってたんだが、どうやら管理外世界の一つだった様だ。

まぁ魔法の方は原作の奴と似ているのや同じなのが多いからな、何らかの繫がりはあるんだとは思うぜ?

 

ただし、デバイスもバリアジャケットもあるんだが―――――やはり、どうも違う世界っぽい。

まずアレだ……デバイスとかの形状が、銃やら剣やらの兵器……所謂質量兵器という奴が多い。

 

原作によれば管理局では質量兵器をことごとく嫌っており、所持は勿論ご法度だ。

そんなものをデバイスのモチーフにするのは、ごく一部モノ好きくらいの筈。

しかし、この世界にあるデバイスのほとんどがクロスミラージュを無骨にしたような拳銃タイプばっか。

 

 

 

――――でもさ、その理由はすぐに解ったんだ……俺が今いる国の名前……教えてやろうか?

 

 

 

俺が居る国の名前…ソレは――U.S.N.ニューコンチネント合衆国――ゲーム、FRONT MISSIONの世界に登場する巨大合衆国だ。

でもアメリカだとかアフリカだとか日本だとかの様な、地球の国家のソレは一切含まれていない。

対立相手もO.C.U.オシアナ共同連合とか言う名前だったりするけどね。

 

まぁこれらのお陰で、俺は現在リリカルだけでは無く、

そのリリカルな魔法が混ざったフロントミッションの世界に居ると言う訳ワカメな状態な訳だ。

 

しかしフロミねぇ~道理でデバイスが武器関連多い訳だよ。

未だにこの世界U.S.N.とO.C.U.がケンカしてるからなぁ。

 

今のところ休戦中らしいけど、不安感は抜けないようで……。

そうなると結局最後は武器に頼りたくなるのが心情ってもんだよな。

 

この世界においてデバイスが武器の形なのも、そう言った理由なのかもしれないなぁ。

ちなみに俺の訓練用に渡された量産型ストレージも待機時の姿はデリンジャーだったけどな!

 

―――――まぁ世界情勢はこのくらいにしておいて、俺の近況報告と参りますか。

 

 

現状の俺の強さだがまず魔力量が非常に多い。瞬間的に発揮できる魔力量も中々だ。

すでに3歳にして魔力量だけならば、普通の大人のソレを超えてるのだからその凄さが解るだろう。

ビバチート万歳。

 

 

いや~正直転生してからこんなに順調でいいのかな~――――って思ってたら、やっぱりありました問題が。

 

 

それが判ったのは魔法の練習の時……

母に教えてもらったクロスファイアシュートという魔力の誘導弾を使った日の事。

 

『―――――以上だ、概略は理解したな?』

『イエスマム』

『よろしい座学はココまでだ。実践してみろ?』

『了解…………クロスファイア―――――――シュート』

≪バシュッ!≫

『良し、使えるな?次は誘導を試してみろ?』

『了解…………クロスファイア―――――――シュート』

≪バシュッ!≫

『………おい、私は誘導してみろと言ったのだが?まぁ新しくやる魔法だから仕方ないか。』

 

――――出来たには出来たんだけど………真っ直ぐにしか飛ばない。

 

≪バシュッ!≫

『違うッ!誘導だ!魔力弾を誘導させろ!!』

≪バシュッ!≫

『おちょくっているのか貴様…』

≪バシュッ!≫

『おい!いい加減に……おかしい、確かに遠隔操作術式は出来ている、なのに何故だ?』

『………解りません』

 

最初は始めてだからだと思ってたけど、何度やってもいくら思考しても真っ直ぐに飛ぶだけ…。

これじゃただの弾丸じゃん!…つまり俺は魔力弾の遠隔誘導にリソースを割り振れない体質なのだ!

後で詳しく調べたが、今まで基礎の魔法の時には問題なかったのに、誘導系は一定のレベルを超えるとダメらしい。

 

だから、折角の高魔力による誘導弾も宝の持ち腐れ。

制御できて野球の変化球くらいなんだから普通に無誘導のフォトンバレット撃ったほうが、余計な手間がない分燃費がいい。

 

『お前は……誘導系は素質がゼロだな。というか体質では仕方が無い、諦めろ』

『…………了解』

―――――なので、誘導系は諦めた。悔しい…俺はファンネルも出来ないのか?

極め付けは、母上に憧れ、空飛ぶ魔法を教えてもらった時のこと――――

 

『―――――そう、慎重に魔力を操作しろ。下手に魔力配分を間違うとひっくり返るぞ?』

『了解―――――≪フワッ!≫』

『―――良しッ上手いぞッ!!』

 

重力制御は普通に出来た為、しばらくしてから、いざ飛んでやろうと訓練用バリヤジャケットを展開して大空に飛び出した。

 

『おお、上手いな。よし、フェン戻って来い』

『………』

『なに?!まがる事が出来ない?!取り合えず止まれッ!!』

 

――――結果は、飛べました。但し真っ直ぐに…な。

つ~か、正面にしか飛ぶことが出来なかったのには唖然としたぜ。

 

 

空戦魔導師の強さはその運動性にあると俺は見ている。

敵の攻撃をかわし、三次元の動きで翻弄し、魔砲を叩きつけ……まぁつまりハイマニューバは必須スキルなのだ。

 

なのに俺の場合、ただ真っ直ぐに突っ込むだけ……スピードこそ速いが、避けられないなら意味がない。

闇雲に突っ込むのは早死にのモトだ……特攻じゃないんだから……。

 

『ちゃんと制御が出来るようになるまで、空を飛ぶのは禁止だな……特訓メニュー増やさないと……』

『………(ガタガタガタ)』

 

――――というわけで、飛べない訳じゃ無いけど、陸戦に進むしか無くなった俺……鬱だ……。

おまけに、恐らく本気で血反吐だす特訓メニュー付きになる訓練も追加―――アレ?死亡フラグ?

べ、別にいいさ…基本的な魔法ならちゃんと使えるし……。

べ、べつに負け惜しみなんかじゃないんだからね!ほんとなんだからね!

 

まぁこんな事ばかりじゃなくて、うれしいこともあった。

何と俺レアスキル持ちでしたッ!ご都合主義万歳ぃぃ!!

 

―――――まぁこれにも致命的な問題があったりするんだけどね。

 

ちなみに、何故レアスキルがあるのか解ったのか?

理由は簡単、母上との訓練の成果………というか所為か。

 

まぁアレですよ、訓練では基本非殺傷設定の模擬魔力弾を使う(と言っても痛みはある)のだが、

その日は何を考えたか『今日は殺傷設定だ。死にたくなかったら避けろ』と言ってくれまして…。

 

ええ、殺傷設定です。前の世界基準で言うなら実弾で撃たれるようなもんです……訓練でな?

そらーもう、こちとら必死だったよ?だって普段の母上の攻撃ですら容赦無しで急所狙われるんだぜ?

絶対にこのヒトならヤルッて確信があったね。

 

後で聞いた話じゃ、殺傷設定でやることで実戦の臨場感を出そうとしたそうな…。

だが、あえて言おう……俺幼児ですよ?母上。

 

でまぁ、戦々恐々とした感じで訓練は始まったんだけど……正直、気が狂うかと思ったね。

始まった途端地近距離で魔力弾が通過した途端、頬にヌルってした感覚…まぁ解るよね?

気が付けば頬には一筋の傷、深くも無いし魔法使えば直るだろうけど、痛みは本物。

 

――――――たった数センチ、たった一つの怪我……

 

でもそれだけで、俺を本気で回避に専念させるのは十分過ぎるほどの脅しだった。

ある時は回避し、ダメな時はラウンドシールドに角度を着けて魔力弾を逸らすことで必死で抵抗した。

だけどさぁ母上、俺一応幼児だぜ?魔法使ったチートで動けても精々15分が限度だよ。

 

まぁ当然のことながらアレだ、俺途中で集中力の限界に来ちまって……一瞬だけ意識が跳びかけた。

時間にしたら0,1秒にも満たない時間だったけど、迫りくる魔力弾が回避不能な位置に来るのには十分過ぎる隙だった。

 

顔面に直撃コース、殺傷設定だから顔なんてドドリアさんもビックリな感じで弾け飛ぶに違い無い。

ホントはそれほどじゃ無いらしいけど正直ね、マジ絶叫したよ…………………死の恐怖でさ。

前世では平和世代の日本人、ゲームでは撃つ撃たれるなんてシチュはあっても現実にソレを体験したことは無いんだぜ?

 

避ける事も出来ず、混乱した頭では魔法で障壁張る事も出来ない。

俺は迫りくる恐怖に叫び声をあげながら、何を考えたか両腕で魔力弾を受けとめようとしたのさ。

 

イヤホント冷静に考えたらバカなことだと思うよ?相手は現役の魔導師、対して俺はちょっと前世の記憶を受けついだお陰で成長が早い幼児。

そんな俺が現役が放つ殺傷設定の魔力弾なぞに耐えきれる筈も無いのだ、精々よくて肘が残れば良い方だと思うよ?威力的にさ。

 

――――でもその時、奇跡は起きたね。

 

魔力弾が俺の腕に当った瞬間、腕を切り裂きながらもその魔力は俺の腕に吸い込まれていった。

感じたのは物凄い充足感……そして両腕に異物が入るかのような激痛。

それと、気絶しそうになるくらいの神経系の痛みだった。

つーかそのまま気絶した。目が覚めたのは3週間もたった後でした。

 

 

目が覚めた時、ベッドの横にいた母上が泣きだした事には驚いたけどね。

そらもう泣かれましたよ、もう訓練は止めようかって言われるくらい。

でもさ、ココまでやっておいて今更宙ぶらりんってのもいやだから続けるようには頼んだ。

それが良かったのかはしらないけどな。

 

―――――まぁそんな訳で、俺は訓練で覚醒しレアスキル持ちであると、病院で診断された。

 

その名も『リサイクル』、空間にある魔力素子や魔法使った後の霧散した筈の魔力を吸収、自分のモノとして活用できるってヤツだ。

理論上魔力が充満している空間なら、魔力切れが起こる事もないという、もう魔導師ならちょー有り難いスキルであると言っても過言ではない。

おまけに吸収とかの副産物としてSクラスの魔力収束が可能。

 

―――――うわっチートと思ったけどその実、問題が多かった。

 

まず吸収できる魔力だが、撃たれた魔法の場合だと大なり小なり関係無しに半分しか吸収できない。

おまけに吸収した魔力を自身の魔力に変換する際、制御が繊細な為無意識に神経系にかなりの負担をかける事になる。

 

ソレで生じる痛みは…………そうだな、前世でトラックに潰されたアレ並みかな?

いままでの訓練で痛みになれた俺じゃ無かったらショック死してたかも知れないくらいだった。

 

一応使用すれば徐々に身体が慣れて行くので気絶しない程度に痛みは治まるらしいが………。

痛いのはイヤでおじゃるッ!!マジ勘弁やっちゅーのッ!痛いのは訓練で沢山だ!!

 

 

つーか、転生でチート能力くれるんなら普通に使えるヤツにしてくれよッ!!

中途半端に痛みが来ると戦闘に集中出来ないじゃないかッ!!

 

まぁ、このスキルのお陰で、俺は常人が考えられない程の長い時間、単独戦闘が可能になった訳何だが……あんまし良く無い。

いや強くなる事に反対はしないんだが、また母上の訓練の内容が増えちまってよ?

 

レアスキルに馴れる為だッ!とか言って痛みを我慢しながら魔力吸収を行ったり。

弱くても常時発動しているから、マジでぶっ倒れるまで魔法使わせ続けられたり……etc。

 

 

―――そんなこんなあって、更に一年たった。

 

 

四歳になって、更に魔法に磨きがかかったよ。無口にも…。

最近は声に出さなくても、両親が乏しい俺の表情を読んでくれるのであまりしゃべらなくていい。

 

返事は首を縦に振るか、横に振るか…お陰で最近会話してない…。

まぁ、それが原因で関係が崩れることは無くて、コレが普通って認識されてるから、家族との関係は良好だ。

 

今は母上から中距離の戦い方を伝授してもらっている。とりあえずまじキツイ…でも楽しい!

母上も教えるのが楽しくなったのか、最近手を抜かなくなってきたから、俺のレベルはどんどん上がってる。

 

実質いまだ冷戦状態にあるこの世界、おまけに国名が国名だ。いつ戦争が始まるか解ったモンじゃ無い。

最初こそ魔法覚えられるぜヤッフゥゥゥッ!!って感じだったが、もしもの時の為にも力を付けといて悪い事は無いね。

 

――――主に俺が生き残る為にわなッ!

 

あ、今日は感覚遮断室で精神鍛錬訓練だ。

急がないとまた特別訓練が入っちまうぜ。

それじゃあ皆さま、また生きていたら合いましょう。

 

「専用機…うん良い響きだ」

 

 

 

 

――転生か?第3話――

 

 

 

 

いやぁ、人間のみなさん、こんにちは――――なんて鬼太郎の真似かいッ(ビシッ)

 

 

さて冗談は置いておいて、母上から言いつけられた地獄の訓練メニューを消化していたある日の事。

俺はその日、珍しく父上から呼び出しを受けていた。

はて?俺なんかしたかね?褒められることも叱られることもしてはいなかった筈何だが?

 

まぁ考えてもいたしかたない為、言われた通りに父の居る工房に行くと、予想を斜め上に行くような展開が、俺を待っていた。ソレは―――――

 

 

 

―――――曰く、そろそろ自分の専用デバイスが欲しいんじゃないかと?

 

 

 

当然俺は即答したね『凄く…欲しいです』ってな?ああ、話し方がアレなのは訓練のやり過ぎと人と接する機会が少なかった所為だから気にするな。

でだ、この時は当然俺専用デバイスを造ってくれるのかと思ってた………のだが。

 

 

「基本となるフレームは組んでおいた、拡張性だけはすさまじく高いから、己が思い描くデバイスを造り上げてみなさい。」

 

何故か自分の手で組み上げろと言われ、何か知らないけど大きな骨格やら部品みたいなモノ渡された。えーと父上、コレなんですか?

 

「まぁアレだ、色々機能つけてやろうかと思ったんだが、色々湧きすぎてな?お前に合いそうなヤツが解らなくて、とりあえず着けられるだけ付けたらそこまでデカくなってしまったんだよ。」

 

えと出来れば普通に完成された高性能のデバイスが欲しかったのですが?

 

「うんそのままでも十分高性能だよ。でもほらそう言うのって自分で決めたいと思わないか?」

 

まぁ解らなくもないんですけど………コレって丸投げって言わない?

 

「そうとも言う、じゃあ後は頑張ってね。ココの工房好きに使っていいから」

 

そう言うと逃げるかの様にスッと工房を後にする父上、逃げたなありゃ。

まぁいたしかたない、とりあえず訓練用のデリンジャーじゃなんか物足りないと思ってたところだ。

こうなれば俺の好きな様に改造させてもらいまっせ?さて部品は何があるかな~?

 

 

――――こうして自分のデバイスを自分自身で組み上げる事となった。

 

 

……………………

 

…………………

 

………………

 

 

さて、アレから2週間が経過した――――。

 

母上に体がなまらない程度の訓練にして貰って時間を造り、空いた時間を寝食を忘れるくらいにデバイス造りに当てた。

その結果、俺専用デバイスは漸く形が出来て来たのだ。

 

作業台に置かれているのは大きな鎧の様な代物。どちらかと言えば強化外骨格の様にも見える。

普通はデバイスと言えば杖とかそういったのなのだが、コレはそう言うのとは運用方法がまるで違う。

 

 

―――コレは俺が今の自分のスタイルに合わせた結果なのだ。

 

 

当初は空を高機動で動き回れるのをコンセプトに、高速飛行をメインに据えようと考えていた。

しかし、考えてみたら今の段階では真っ直ぐにしか飛べない俺が高速飛行用モジュールをデバイスに組み込んだところでたかが知れている。

 

別に最初はそれでもいいかと思ったんだが、どうにも世界情勢が怪しい状況になりつつある今。

上手く操れないデバイスを持っていてもしょうがないと思い、拡張性を残してある程度オミットした。

代わりに足周りに特殊なローラーと魔力モーターで駆動するローラーダッシュという機能を搭載した……まぁ中身はマッハキャリバーみたいなもんだけどね。

 

さて、こう言う訳で高速飛行型は諦めた訳だが、ならば逆に重装甲にするのはどうだろうと思ったのであるが、バリヤジャケットとの防御力は基本的に魔力次第な為、それならいっそのこと鎧にしてしまおうという考えが浮かんだ。

 

俺は装甲素材として魔力による疑似物質とカーボンの複合素材を使用し、バリヤジャケットの強度を上げる事に成功する。

更に、装甲表面に薄いシールドを絶えず張る事で耐物理、耐魔法において鉄壁の防御力を誇る。

まぁその所為でバリヤジャケットを維持する為の消費魔力がバカみたいに増えたけど、

元々レアスキルで常に魔力だけはみなぎっている俺には関係無し。

 

一応もしもの事を考えて、魔力バッテリーを改造した箱型マガジン魔力チェンバーと呼ばれる半カートリッジシステムを搭載した装置を組み込んだ。

コイツは大型のバッテリーの中に魔力をプールさせておき、必要に応じてカートリッジの様に必要分の魔力を爆発させて使う事が出来る代物だ。

――――まぁ試作段階のものであるが、強度だけは高いから壊れる心配も低いのが取り柄かな?

 

でだ、鎧にしてしまおうとは思ったけど、普通に鎧にしてしまうのはどこか面白く無い。

どうせなら強そうな……ロボットみたいな感じにしても良いんじゃないかなぁと思っちまった。

 

そして色々候補がある中で選んだのは、汎用人型兵器ヴァンツァーの中の一機。

生前最後にやったフロントミッション5に登場するヴィーザフをモデルに造り上げた。

なんでヴァンツァー?それはこの世界がフロミ成分も混じってたからさ。

 

フロミなのに一機もヴァンツァーが居ないのはおかしいッ!!って事でつい乗りで造っちゃった。

若気の至りって奴さ、後悔はしてないけどなッ!

 

もうこのデバイスは普通のデバイスじゃ無い、祈祷型ともストレージとも違うそれは、あえて言うなら強化装甲型デバイス。

今の俺が組み込めるだけの技術を組み込みつつも、これからも拡張…成長の余地がある俺専用のデバイスだ。

 

いやぁしかしまたココまでごつくなるとは、自重って大事だね。

試作状態で装着してみたけど、大きさ4歳児のヴァンツァーじゃん。

 

あと、そろそろ兵装モジュール用のストレージデバイスも考えておかないと……。

それらを統括できる程のAIも搭載せにゃならんしなぁ。

 

そうだッ!どうせAI乗っけるんなら、喋れる機能は付けておこうッ!

それだけで夢が膨らむぜいッ!!さてさて、それが出来るパーツはどこじゃいなぁ~♪

 

父上殿の新作部品から際物まで、この工房には何でも有るから楽だね。

でも考えてみたら、実戦であんまし際物ばっか使ってあったりなんかしたら、

整備する負担が増えるなぁ~コリャ。

 

…………市販の部品で流用できそうな所は流用しとかないと。

ガチャガチャと部品の山をかき分けながら、俺はそんな事を考えていた。

 

制御系については、所謂インテリジェントデバイスと呼ばれるモノと同じように、AIに統括させる事にする。

術式制御についても同様だ、この方式なら戦闘中にリソース配分に余裕が出来る。

基本術者は魔力タンクとなってしまうけど、どうせ使う術式なんて二つ三つくらいなんだからな。

増やし過ぎたら制御が難しくなるだけじゃわい。

 

――――戦闘に使わない奴は自分自身が覚えれば良いだけの話だしね。

 

まぁ一応演算装置はかなり強力なモノに交換して、メモリの方も大容量にしておこう。

強度を増す為にブラックボックス化させてと……後は適当に経験積ませれば色々と楽になるだろうね。

 

 

「お……ナノマシン……発見」

父上の作業台の引き出し探ってたら『試作XA-205FO』とラべリングされたナノマシンが出て来た。

えと取扱説明書は………あた、コレか。

 

「…………すご」

 

なんじゃこのナノマシン……でも便利そうだな。

父上から“工房にあるモノ”はすべて使っていいっていう言質は貰ってるから使っても良いんだろうけど……。

 

ん?どんなナノマシンかって?まぁ基本的に普通の簡易修理用魔導ナノマシンと変わらんよ。

ただ“簡易”じゃなくて文字通り“修理用”ナノマシンってなだけ……え?どこが凄いかって?

 

んーそうだな、普通のデバイスについている簡易修理ナノマシンは、応急修理しかできないんだ。

もちろん1~2週間くらい時間かければ修復可能だけど、戦闘中は無理でしょ?大魔力でも無いと。

 

この試作型魔導ナノマシンは多大な魔力を消費する代わりに、戦闘中でも瞬時にデバイスの修理修復が可能になる……らしい。

カタログスペックがあてになるならそう言う事になる。

 

一応自己増殖出来るし、魔力で出来た疑似物質製だから壊れる事も無いらしい。

まぁ使ってみれば解るっしょ?軍の試作品らしいけど、まぁ幾つか同じヤツあるみたいだし一つくらいええやん。

つー訳で使わせてもらうで~~♪

 

 

 

――――こうしてオイラは自分専用のデバイスを自重とか無しで造り上げていく事になる。

 

 

 

おまけに使用されている部品のほとんどは、ブラックボックスを除けば最高級品といえども一般に販売されている部品が多く流用され、

例え壊れても部品の手に入るところならば修理が可能になる様にした。

 

もっとも、修理用の魔導ナノマシンが父上の作業台で手に入れた軍の試作品である為、殆どメンテナンスフリーですんだりするのだが……さもあらん。

 

 

 

 

正直、やりすぎちった。てへ☆

 

 




自分で読み返すと七転八倒するくらいひどいねこれ。


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旧版【妄想戦記】多分四話から八話

残された文章のままなので旧メインタイトルも残っておりますが気にしないでください。


 

「やりすぎ(じゃない!?)」

 

 

 

 

 

―――転生か?第4話―――

 

 

 

 

 

やぁみんな元気かい?僕はフェン、ピッチピチの5歳児だよ!

ごめん、自重するからそんな可愛そうな子供見る目で見ないでください。マジにへこみます……。

 

さて、何の因果かこの世界に来ちまった俺。

最近ではもっぱら新しく相棒となったヴィズに新しい魔法プログラムするかたわら、

新機能を取り付けたり、追加兵装のストレージ作ってます。

後は、母上と行う地獄の模擬戦をヴィズと一緒に励んでました。

 

――――あ、ちなみにヴィズって云うのは俺が作り上げたデバイス、ヴィーザフのAIの事ね?

言い辛いから略称にしたんだ。何?安直?いいんだよ俺が言いやすければさ。

 

ソレと現在の俺の魔導師ランク何だけど……気が付けば既に陸戦AAA+でマジチートです!

魔力量ならSSランク超えてるってどうよ?レアスキルも付いてるしね。

空戦ができなくて誘導制御型魔法が全然出来ないけど、それ以外なら母上に迫る勢いだぜ!!

 

―――いまだ勝てないけど…ハァ。

 

……………………

 

…………………

 

………………

 

さて、今日母上に有無を言わさず連れてこられたのは、母上の部隊の訓練している施設だ。

門で母上が何か許可証の様なモノを見せて一発で入る事が出来た。

 

一応突っ込むけどココ軍事施設だよな?なんで家族とは言えボディチャックしないの?

危機管理に問題無く無い?まぁ面倒臭くなくていいけどさ。

 

まぁそんなことがあったが、今は母上の後について施設内を移動している。

なんせ始めて来たところだからな。金魚のフンをしないと迷子になっちゃうしね。

そんなこんなでPXに連れてこられたんだが――――――

 

「敬礼ッ!」

≪―――ザッ!≫

 

―――――母上がPXに入った事に気が付いた隊員の一人が号令をかけた途端、屈強の男たちが一糸乱れぬ動作で一斉に敬礼を行った。

は、迫力がすげぇ。驚いて心臓が飛び出るかと思ったぜ……顔には出ないけどな。

 

「楽にしろ、今日の私は非番だ。いちいち敬礼は必要ない」

≪―――ホッ≫

おお、いきなり安堵の空気がッ!?――――つーかどんだけ恐れられてんだウチの母上は?

その後はまぁやや緊張している様だったが、隊員たちも各々食事に戻ったりゲームに興じたりしている。

そんな中恐らく母上の副官と思われる人が、俺の方にちらちら視線を向けながら母上と何か話している。

俺?目立たないように母上の後ろで黙って突っ立てたよ?だってこんなとこで目立ちたくないしね。

まぁそう言う訳で置物の如く立っていただけの筈……だったんだが――――――

 

『フェンちゃん♪準備良い?』

「………問題無し…です」

 

――――――何故か気が付けば、模擬戦用ホログラム環境シミュレーターにいます。

 

まぁアレだ、本編のストライカーズに出て来た模擬戦用のアレのちょい荒いヤツみたいな感じ?

実体が無いから別モンだけどね…しかし母上も酔狂な人だな。

見学だけかと思ってたんだが、母上フェンちゃんがんばってね!とか言って素敵な笑みを浮かべながら、いきなり模擬戦に参加させやがった。

あの時副官と話していたのはコレの為だったらしい。

 

しかも部隊のみなさん対俺………幾らなんでも戦力違いすぎないか?いやマジでビビったよ?

だって相手は現職の魔導師さん、しかも見た目叩き上げの鬼軍曹って感じのおっさんだ。

対する俺は最近やっとこさデバイスを扱えるようになったペーペーの幼児ですぜ?

 

ほら相手も戸惑ってる……ってあれ?何でデバイス向けて臨戦態勢?

えっ!?【ラーダー隊長には逆らえません!ガンホーの精神です!!嬢ちゃん覚悟してくれ】

…だって?だ・か・ら!お前はどこの海兵隊だ!!大体俺は男だ!!女顔だけど男なんだッ!!

 

 

「…ヴィズ」

『Yes,マスター…セットアップ』

 

とりあえず俺もデバイスを起動して装甲を展開、シミュレーター室に白いヴァンツァーが顕現した。

 

「レールブラスター………フォックス2」

『ファイア』

 

―――で、手加減する余裕もないから(怖かったんだよぅ)手に持ったヴィズを至近距離で乱射しちゃった。

 

 

――――ヴィズには基本兵装として同名のマシンガン型の兵装が取り付けてある。

コレには新しくつけた魔力チェンバーのカートリッジ機能により、俺の魔力を薬室内で圧縮して高圧魔力弾を形成。

その魔力弾に更に処理を施して障壁を突破できるように多重弾殻弾が使えるように術式を組むことに成功したのだ。

 

更に俺は魔力弾の誘導が出来ない為、だったら弾の初速を高められるだけ高めるればいいんじゃない?と考えた。

基本はフォトンバレットだが術式プログラムをやや変更し、初速を高められるだけ高めたが、希望よか遅かったので、

薬室内で魔力を爆発させ装薬にし、さらにバレル部分に電位差を発生させ磁場の相互作用を作りだす事でレールガン化

させることに成功したのだ……ある意味すごくね?

 

まぁ何故かその際に、魔力弾は電気抵抗である程度プラズマ化するため、属性変換もついたのは予想外だった。

しかもだ、初速が毎秒3,400km位になって、照準もヘルメット内のHUDに表示されるから、余程の事がない限りはずさない。

 

更に、この間やっと試作品から正式なモノとして完成した、箱型マガジン魔力チェンバーMTS-40。

それにに魔力をあらかじめチャージしておくことで、すぐに発射+連射可能。

威力も一発当たりB+からA-のあたりの弾を連射すっから…うん、普通は耐えられないし弾足が早いから避けられない。

 

――――白い悪魔さんに効くかはしらんが…。

あ、ちなみに母上には避けられたよ?何でも銃口を見れば予測できるとか……ホントに人間かあんた?

 

 

さて話を戻そう。俺はコイツを使い、始めての他人との模擬線で緊張したのか、つい連射しちまったんだけど……。

至近距離だったから、俺の相手をした魔導師のラウンドシールドを貫通して、おっちゃんをノックダウンさせちまった。

 

―――始まって1分もたってない…非殺傷設定じゃなかったら相手ミンチだぞ?くわばらくわばら…

 

でもさすがに鍛えてるだけあって、おっちゃんはすぐに気がついた。

だけど、母上から後で特別訓練入れてやるって言われて青ざめてた。つーかマジ泣きしてた。

まぁアノ特別訓練は人生観変わるモンなぁ~、なんかご愁傷様。

 

そんでこれで終わりかと思った………だがソレは甘かった。

母上、今度は部隊全員vs俺…とか言って、俺が無口なのをいい事に了承も取らずいきなり始めちまいやがったのだ!

 

『負けたら特別訓練…』とブツブツ言ってる筋骨隆々の男たちが迫ってくるんだぜ?ありゃ恐怖以外の何物でもないよ。

仕方ないからヴィズの機能“ローラーダッシュ”で連中から一気に後退して距離を引き離し、

俺が作った兵装デバイスの一つM82A1を起動させた。

この名前…わかる人にはわかるが…実はこれ俺の世界に実在する対物狙撃銃のバレットM82をモデルにしている。

 

―――――なんかさ、小さい子供がおっきい獲物持ってる絵って映えない?

 

口径は本物と同じ12,7mm、こだわりってやつだね!ちなみに魔力カートリッジ装弾数はちょっとお得な14+1発。(本物は10+1発)

ヴィズと同じく魔力弾を使用し、口径がデカイ分高威力でちょっとした砲撃並み、一般のバリアジャケット位なら掠っただけでも破壊可能さ!

 

その分燃費が悪いけど…なんせ一発当たりの魔力消費がヴィズの2,5発分に相当するからね…。

何かに当たると、あたり巻き込んで爆発するけど、長期戦に向かないのが悩みかな。

 

「M82A1起動……術式はレールブラスター」

『了解』

 

んでこのM82A1片手に連中から十分距離をとったところで、追っかけてきた連中に目がけて―――

 

「フォックス3」

『ファイア』

≪ドウッドウッドウッ――――――≫

 

―――――遮蔽物に隠れながら、15発全部ぶっ放した!

 

 

「え?攻撃?ぐわぁッ!」

「散開…散開しろッ!このままじゃ全めt」

≪――――ドドドドドーーーーんッ!!!!≫

「「「ギャーッ!!」」」

 

 

流石に遠距離から高威力の狙撃を受けるとは予想していなかったらしく、相手がガキだからと油断してたのもあり、面白いくらいに弾に当たる。

マガジンの魔力使いきったけど、交換する暇もないと判断した俺は、すぐにヴィズにエリアサーチをおこなってもらった。

 

――――そしたら部隊の半分近くが魔力爆発に巻き込まれてて気絶してやがんの!びっくらこいたよ?!

 

で、その結果……残りの連中を怒らせちまった。

 

「喰らえッ!怒りのバーストショットッ!!」

 

―――近づくのは危険と判断したヤツが砲撃魔法を撃ってきたり。

 

「リングバインドッ!」

 

―――逆に近づいてきてバインドで捕まえようとしてくるヤツがいた。

 

「貫けッ!ストライクブレードッ!!」

 

子供相手に本気で魔力斬撃を繰り出してきたヤツも居た……おまけに連携してくんの。

正直、大人げねぇぇぇぇ!と思ったけど、何とか全員ノしたところで模擬戦は終わった。

 

 

――――とりあえず、今回ので学んだのは近距離の武装が無いとキツイって事。何度か懐に入り込まれた時は本気で焦った。

 

ヴィズが張るプロテクションが、幾重にも重ねられている多層構造障壁だったから、

相手の魔力刃防げたけど、只のプロテクションとかだったら普通に抜かれてた。

8層ある障壁の内、第3層まで刃が届いたからな…さすがは現役ってとこか。

 

――――銃だと剣の斬撃は防げないし…此方としても近接戦の対抗手段として近距離兵装の追加を考えさせられるいい機会だった。

 

「お疲れ様フェンちゃん、でも驚いたわ。まさかウチの部隊に勝っちゃうなんて…」

「ギリギリ…だったし…手加減されてたから…」

 

――――流石に母上もここまで出来るとは思ってなかったのか驚いてた。

せいぜい、ニ三人倒す程度だと思ったんだろう、予想を裏切ってわるいね。

 

「そうねぇ、でも私手加減する様には命令して無かったんだけど……あとで全員特別訓練ね♪」

「「「「N,Nooooo-----!!!」」」」

 

で、5歳児に倒された部隊の人たちは、全員特訓と言う名の地獄に旅立って行った……BGMはドナドナだ。

 

そして、俺はこの日からちょくちょくこの人たちの所に行くことになった。

実戦積んでる人の動きは参考になるしね。

 

―――――かくして俺は母上の部隊のマスコットになるのでありました。

 

「これで……いいのかな?」

『私はマスターについてきます。』

 

 

ありがとよ…ヴィズ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うそ…だろ…」

 

 

 

―――転生か?第5話―――

 

 

 

やぁ俺は今、平穏は長続きしないことを噛み締めてるよ…。

アレから2年たって、俺が7歳になった時だった。戦争が起こった。U,S,Nから海を挟んだ位置にあるO,C,Uが、海の真ん中にある大きな火山島の所有権を巡って勃発したらしく、相手の国がとった軍事的挑発の制裁を行ったら、向こうが国境を越えてこっちの街をいくつか占領したらしい。

同時多発的に国境を越えて攻める電撃戦だったらしく、随分と前から準備を進めていたらしいOCUは一気に国境を越えて侵攻した。戦線は拡大し食い止めるUSN側が必死の抵抗を見せた事で、現在両陣営は膠着状態となり両国とも現在本国からの援軍の準備を進めているんだそうな。

 たまたまテレビをつけたところ、無名のカメラマンが撮影したという件の火山島での先端が開かれた映像が公開され、都市にある高層ビル群に一発の空対地ミサイルが突っ込み、あれよあれよという内に瓦礫と粉じんとなって崩れ落ちる光景が映っていた。

 

――うん、コレ聞いた時点で俺は思ったね。フ○ント・ミッションだってな。

 

島の名前がもろハフマン島だった。人型機動兵器ヴァンツァーが出てこないだけで状況ほぼ同じだし、俺のデバイスの名前からして何らかの意図を感じるのは気のせいか?

ちなみにこの戦争の名前は第一次ハフマン紛争なんだそうで…やっぱりな。

 

 

―――でだみんな…俺の両親軍属だって覚えてるか?

 

 

ハイそうです。お察しの通り軍の上級士官である我が両親は、先月から前線へと赴任していきました。

つまり我が家族は、戦争の所為で離ればなれとなったって訳だ。

前世で良くテレビとかで、紛争地帯の実況とか見てたから、今回もその程度でしかないだろうって高括ってた。

 

でもあれだね…家族が戦争に行ってしまうってのは、ココまで不安なモノなんだな。

母上の部隊の連中も、前線に行っちまったそうだし、あの濃いメンツが見れないのも寂しい。

まぁ父上はともかく、母上が落とされるところは想像がつかないけど……でも心配だ。

 

 

―――――主に俺の命がなッ!!なんでかって?決まってるだろう?俺も戦線に送られる可能性があるからだよッ!冗談抜きでなッ!!

 

 

最近、風の噂で軍の高官の子供たちが、次々と軍学校へ突っ込まれていると聞いた。

良くも悪くも、この世界も魔法第一主義が蔓延していたりする……まぁ解るだろ?

 

要するに資質のある子供は、年齢を問わず戦争させる為に教育を施されて前線に送られる可能性があるって訳ッ!

おまけに軍の高官の子供たちならば、プロパガンダにもなるんだからな。一石二鳥ってわけだ。

 

そして最近、俺の家の近辺において、不審な人物の反応をヴィズの高感度センサーが探知したりした。

―――――ヴィズには父上の部屋にあったかなり高精度なセンサーを搭載したから、探知出来たけど普通のデバイスなら探知できないくらいの隠ぺいの上手さだった。

 

ちなみにフリーの魔導師でココまで隠ぺいできる人はそうはいない。

それに俺にフリーの魔導師が目を付ける理由も無い……で、導かれる答えは……。

――――軍の人間――――と、言う訳だ。

 

 

うん、間違いなく俺狙われているね。

 

 

コレはヤバい事になるかもしれないっていう嫌な予感がしたから、あいた時間は全て自主訓練にあてた。

というか十中八苦、俺は多分軍にしょっ引かれるだろうから、かなり鬼気迫るくらいのレベルでやった。

 

魔力の成長度合いはまだまだ延びるはずだけど、手っ取り早く最大値を上げる為に、気絶するギリギリまで魔力行使した。

魔力を多く含むと言われる食物を食い、逆に呑まず食わずで、真っ暗な洞窟をさまよった。

 

正直、数撃ちゃ当たる方式で本当に上がるか微妙だったが、洞窟での臨死体感で結構最大値は増えた。

やっぱ死を擬似的に体感するだけでも違うのだろう…死に対する恐れが薄くなり、精神の揺らぎが少なくなる。

生き残る為だと自分に言い聞かせココまでやったけど……ホント今まで良く発狂しなかったな。

 

下手すら廃人だってのになぁ…まぁ死にたくは無かったから仕方ないんだけどさ……発狂してた方が良かったか?

精神患者認定されれば表向き戦場に放り込まれることも……いや案外捨て駒にされたりして……。

それは洒落にならんのぅ……。

 

 

―――――まぁ他にも訓練では、魔力制御を上げる為に魔力スフィアを造れるだけ造ったりした。

 

 

少しは進歩があったらしく、今んとこ10機前後を身体の周りに浮かべて置くの事が出来る様にはなった。

まぁ固定砲台でしかないんだけどな…でもそれを地雷みたいに遠隔で設置とか出来るようになったし、ソレの起動も遠距離で出来る。

遠隔誘導こそ出来ないけど、それなりに面白い事は出来そうだ―――でもなぁ、使って見たかったな……ファン○ル。

 

後は…そうだな…ヴィズの強化も行ったな。新しいデバイスも何個か作り、出来が良いのはヴィズに組み込んだりしたんだ。

それと格納領域を増設したり、ヴィズ用の箱型マガジン魔力チェンバーも量産し、その他スペア部品も幾つか作り上げた。

ヴィズの人格AIにも戦略シミュレーションが組めるよう、システムを構築し直したし、新しく魔法も登録した。

 

どれだけ怖がりなんだと思うかも知れないけど、殺傷設定の魔法ってのは冗談抜きで人間を消し飛ばせるからな。

用意しておく事に越したことは無いって……うん。

 

――――後、驚いた事があった、実はこの戦争に時空管理局が参戦しているらしい。つーか居たのね管理局…。

 

母上の部隊が前線に出る前に、母上の副官さんから聞いた話何だが、何でも以前から次元犯罪者を追ってこの世界にまで来ていたらしい。

――――で、近年その犯罪組織が相手の国に潜んで軍の研究に協力していることがわかったらしく、それを捕らえる為にこっちに協力を申し出た…らしい。

 

人伝に聞いた事だったから正確なところは分らんが、多分概ねあってる。

あいつら正義感の塊みたいな連中だからな。敵の敵は味方ってか?

まぁ、きっといい人材がいたらスカウトする気とかもあるんだろうけどな…万年人手不足だし。

 

しっかし管理局ねぇ~、この世界が管理外世界の筈なのにデバイスがあったのはそう言う訳か。

次元犯罪者がデバイスや魔法のノウハウを広めたのね…でそれに対抗する為に管理局も来た。

でもまぁアチラさんとしても、火種は欲しく無いんだろう。表向き活動していないのは…。

まぁこの世界火種だらけだしね。

 

そう言えば、今は原作の前なんだろうか?後なんだろうか?

デバイスや魔法の感じから、原作よか未来だとは考えられねェ。

かと言ってSSとかにあった古代ベルカ時代という訳でもないし。

う~ん…解らん。

 

こういった場合原作に介入したくないと言っても介入させられるって言うのが定石だし、介入しようとしても空回りするのもデフォだよなぁ。

ならば、俺が出来る事はただ一つッ!!!――――――流れに身を任せてみよう。

 

え?何かしろ?嫌だぜそんなん。面倒臭い。まぁ二度目の人生楽しむ為には手段は選ばないけどね。

どうせ遅かれ早かれ、戦争に巻き込まれる事は目に見えているし、巻き込まれなかったならソレで良い。

とりあえず生きれれば良いのだ。幸いなことに母上から生きる為の技術は全て習得させてもらったしな。

――――――とりあえず覚悟だけは決めておこう…いろいろと。

 

……………………

 

…………………

 

………………

 

数週間後、ヴィズの強化もひと段落させ、取り合えず魔法の訓練に精を出していたその日。

 

――――≪ピンポーン≫

『マスター…“例”のお客さんです』

「ん…解った」

『ちなみに“何時も来ていたヒト”でもあるみたいですよ?』

「そうか…」

 

ついに、運命の時が動き出す……なんてな。

 

≪ガチャ…≫

「どちら様…ですか?」

「こんにちは、ココはラーダー夫妻の家で良いかな?」

「はい、そうですが…アナタは…?」

「あ、紹介が遅れたね?USN軍人事部所属のエリカ・タスト少尉です。よろしくね?」

「はい…どうも」

 

玄関に立っていたのは…人懐こそうな笑みを浮かべ、いかにも子供が好きですと言う仮面をかぶった女性…。

彼女は俺を見ながら、自称USN軍の人事部に所属するエリカ少尉だと言ってきた。

 

―――だが俺は知っている。この一カ月程、この近辺を嗅ぎ廻っていたのは彼女であると言う事を…。

なんせヴィズがとらえた魔力パターンと完璧に一致するからな……少し位隠せよ。

 

「……で、御用件は?」

「うーん、とりあえず家に入れて貰っても良いかな?ココじゃ喋れない事だし」

「知らない人は…家には上げられないのです…が?」

「でもねぇ?ここじゃ話せないのよ」

 

まるで駄々っ子をあやすかのような口ぶり…うあ、ウゼー。

それにこのままじゃ話が進まんなぁ……しゃーない。

 

「ふぅ…とりあえず…客間にどうぞ…両親は前線に居るので留守ですが…」

「ええ、ありがと♪」

 

――――勝手知ったる家の如く、普通に客間に向かうエリカ少尉。う~ん幾らなんでも図々しいだろソレ、まさか素なのか?

 

 

 

≪カチャ――≫

「とりあえず…お茶をどうぞ…」

「あら、気が効くのね?ありがとう」

 

ホントはブブ漬け出したいんだけどなッ!この世界じゃ通じないだろうけど…。

しばらくお互いに無言が続いた後、俺はとりあえず要件を聞く事にする。

まぁ…大体予想はついてるんだけどな。

 

「―――――で、本題は何です」

「あら、いい茶葉…ん?あ、そうそう要件ね?じゃあハイこれ♪」

 

彼女はそう言うと、まるで回覧板を渡すかのような手軽さで、書類を渡してきた。

中身は――――

 

「―――非常徴兵令…特別召集令状…ですか?」

「ええそうよ?君は国の為に闘う魔導師に選ばれたのよ?」

「選ばれた…ね」

 

ふーん、そう…そうやってジワジワと自分からやるよう仕向ける訳なんだ…悪どいねぇ。

 

「そう言う事、まぁ2~3日くらい経った後に出せばいいからね?良く考え「いいえ…今書きますよ?」……あら、どうして?」

「どうせ、この特別召集令状…拒否権は無いでしょ?この間から…監視してたエリカさん」

「ふぅん、バレていたの?」

「解らいでか…というか…ワザとやっているでしょ?」

 

この書類は普通の召集令状とは違う……特別製の召集令状だ。

コレが出たら最後、こちらに拒否権なんてモノは存在せず、もし拒否しても強制的に連れて行くだけの癖に…この狸が。

 

俺がその旨を説明すると、途端に彼女の表情が子供好きから軍人のモノへと変化していく。

ふーん、さっきのはやっぱり演技か……てことは、こっちが素だな?

 

「ワザと…ね。ところでアナタはいつ頃から気が付いていたの?監視されていたのを?」

「一カ月程前…ですかね?まさか監視していた本人が来るとは…こちらとしても予想外でしたが…」

「随分と鋭いのね?」

「親に…仕込まれましたから…」

 

正確にはヴィズの高感度センサーのお陰だがな。

 

「ふふ、探知能力も優秀、魔力も高い…あとは駆け引きを覚えればそれなりに優秀な士官になれるわね。合ー格よ?」

「合格…?」

「ええ合格、そこまで鋭い子なんて今までそうはいなかった。私がそう報告するからアナタは短期教育プログラムを終えたら尉官待遇で赴任出来る」

 

わーお、流石魔法世界。魔法第一主義万歳様々だね。

つまりコレはテストの一環だった訳か、監視していた存在を見抜ければ、特に優秀な個体として評価し、余計な手間を省く。

確かに…これは随分と効率のいい事で―――――

 

「それじゃあ、早速行きましょうか?フェン・ラーダー君?」

「はぁ…お早いですね…」

「戦線は緊迫している。こんなことで本来は時間をつぶせないのよ。それに解っているなら準備も終わっているんでしょ?」

 

―――わぉ、鋭いこって…というか監視してたから気付いてたんだろ?

 

「アイマム、10分ください」

「8分でお願い」

「厳しい事…で」

 

荷物を取りに二階へあがる…ふぅ、とうとう来ちまった。

両親が両親だし、俺の魔導師ランクもデータで持っているだろうから避けられない事かと思ってたけど……。

あーーーーーー死にたくねェーよー。

 

『マスター』

「ん?何?」

『何故そこまで抵抗も無しに従っているのですか?』

「ん、そうね……逆らっても意味が無い……からかな?」

 

なんせ命令してるのが国家だからな、一個人が逆らえるわけがない。

 

『マスターは常日頃死にたくないとか戦争は嫌とおっしゃっていたじゃないですか?嫌なら逃げれば良いのでは?』

「そうしたいのも…山々なんだけど…ね」

 

泡良く逃げたとしても、この国にいる以上絶対に捕まるし、海外になんて逃げるルートなんて戦争が始まった段階でアウトだ。

それに国家の意志に背いたなんて判断されたら、この国の暗~い部分に連れてかれる可能性もあるしね。

それも事故死に見せかけて……とかさ。

 

「――――流石に…そう言うのは遠慮したい」

 

それならば、普通に国に従順なフリをして、戦線に行った方がずっとマシだ。

戦いなら、これまでの経験で何とかなる可能性はある。

だが、もし国家に背いたとかで暗殺やらに処されるとしたら、俺にソレを防ぐ手立てなんて無い。

 

『しかし…戦争に行けば…』

「うん…確実に相手を…殺す事になる…だろうね」

 

――――覚悟はしている……訳が無い。俺は元は平和な国日本生まれだぞ?人を殺す覚悟なんて……ムリだ。

だがそれでもやらなきゃならん……生き残る為ならな。

 

「それに…断ると両親に迷惑がかかる…とっくに逃げ場なんて無い…」

『……私はデバイスです。ですので上手い言葉が出てきません…でも、幾らなんでもコレは…』

「言うな…ヴィズ」

『……了解』

 

ヴィズはそう言うと黙りこんでしまった―――随分と優しい子に育ってくれたようだな。 

ふふ、しかし戦争か…戦争なんて対岸の火事位にしか思って無かったのに…な。

まさか自分がそれに行く事になるなんて夢にも思わなかったぜ。

 

しかも転生したリリカルな魔法がある世界でなんてな……笑っちまうぜ。

―――――精々死なないように……敵は倒すしかない……か。

厄介な世界に転生しちまったなぁ…魔法使えると浮かれてた前の自分を叱りたいぜ。

 

 

俺はやるせない思いのまま、準備はしていた荷物を手に取り、そのまま我が家を後にした。

 

 

まさか、もう二度とこの家に戻れなくなるなんて……このときの俺は知るよしも無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様の口から垂れる言葉の最初と最後にサーをつけろー」

 

 

 

―――――転生か?第5,5話―――――-

 

 

 

 

いようみんな元気か?俺は今――――

 

「どうしたクソ虫どもがッ!自分よりもはるかに小さなガキに負けやがってッ!!!それでも兵士かッ!!!」

「「「「サー!申し訳ありませんでした!サー!」」」」

「全員もう10周追加だッ!あと声が小さいぞこのなんじゃく者どもめッ!ジジイのフ○○クの方がまだ声がでかいぞッ!」

「「「「サーイェッサーッ!!!」」」」

 

――――フリーダム基地軍学校にて鬼軍曹からシバかれているよ。まぁ最も母上程じゃ無いから物足りない位なんだがな。

 

「走れぇッ!!そして声をあげて歌えッ!!」

「「「「~♪♪」」」」

 

………この走りながらエロ歌を歌うって言うのは、軍隊でのセオリーなんだろうか?

正直、子供の教育にはすこぶる悪いよなぁ。

俺よか10歳は年上の連中が、軍隊の過酷な洗礼を受けているのを横目に、俺は自主トレとして魔力強化をしていた。

 

―――――まったく、面倒臭い…。

 

……………………

 

…………………

 

………………

 

「ラーダー訓練兵」

「ハッ――なんでしょうか?」

 

いつものように他の訓練生が走り終わるまで、マルチタスクを用いて魔法で浮かびながら瞑想をしていると、教官の一人が話しかけてきた。

 

「どうだ?訓練は退屈か?」

 

そう問いかけるのはワイズ教官……この軍学校での最古参の教官の一人だ。

フルネームはジョナサン・ワイズマンと言い、卒業した訓練兵たちからはその真摯な姿勢と真面目な教導から“親父さん”と親しまれている

 

「……問題ありません。」

「そうか…」

 

問題が無い訳じゃない……だが、俺はどっちにしろ逃げられないのだから、鍛えられるだけ鍛えておかないといけないのだ。

この世界に来て7年と少し……どっちにしろ、まだ死ぬのには早すぎる。

 

「貴様は夜中に自主訓練を行っているそうだな?」

「……いけないでしょうか?」

「いや、俺にも経験がある」

 

そう言うと彼は自嘲気味にクククと笑った。

そして再び沈黙……BGMには訓練兵たちの歌が流れている。

 

「貴様は…」

「ハッ…」

「貴様は…何故そこまで頑張る?」

「……質問の意味が…理解しかねます」

 

――――俺がココに聞いた理由、知らない訳は無いだろう。

 

「質問の仕方が悪かったな……まぁアレだ?貴様の自主訓練はだ。我々からしたら少し度が過ぎている。……ある意味異常だと言っても良い」

「そうです…ね」

「その事を踏まえてだ。なぜ貴様はそこまで頑張る?自分自身を苛める?もしやとは思うが……」

「………………別に自傷行為という訳ではないので…安心してください。そうですね……自主訓練にあえて理由をつけるならば……」

「―――ならば?」

「――――生き残る…為です」

 

いや真面目な話、本当にそれが理由なんですワイズ教官。

―――――正直ね、マジで死にたくないんスよ…俺は。

 

「後は…臭い話ですが、家族を守りたい…その為の力が欲しい…それだけです」

「いや、いい心がけだと俺は思う。」

「そう…ですか」

「ああ」

「「…………」」

 

再び流れる沈黙――――き、気まずい(汗)

 

「最後に同じ事を聞くようだが、生き残りたいんだな?死にたくは無いんだな?」

「??はい…そうですが?」

「その為なら、どこまでもヤル覚悟もあるんだな?」

「はい」

 

――――んと、教官は何が言いたいんだ?

 

「そうか…まぁ俺が聞きたかったのはそれだけだ。訓練に戻ると良い」

「ハッ――失礼します」

≪ザッ≫

 

立ち去るワイズ教官を敬礼をして見送り、俺は訓練に戻った。

 

……………………

 

…………………

 

………………

 

――――数日後―――――

 

俺は訓練の途中、いきなり呼び出しを受けた。はて?特に問題がある行動はしていなかった筈だが?

その事を不思議に思いながら、教官待機室の扉をノックした。

 

「―――誰だ?」

「フェン・ラーダー訓練兵…です」

「ん、入れ。」

「……失礼します」

 

部屋に入ると、ワイズ教官を含め複数の教官達が部屋にいた。

―――というかアンタら、他の訓練兵の訓練は?

 

「短答直入で言う、貴様は他の訓練兵との訓練から離れ我々が行う特別訓練に参加させる。なお、拒否権は無い。」

 

え?――――死亡フラグ?

 

「質問が…有ります」

「許可しよう」

「自分は何か…失態を犯しましたでしょうか?」

 

なるべく怒られないように、言われた事は全部平均よりも高めにクリアしたのですが?

何故こんないじめの様な事になるんですか?嫌マジで…。

 

「逆だ。貴様は訓練で失態を犯した事がない…むしろ優秀な訓練兵だ。」

「でしたら…」

「だが…優秀すぎる。正直貴様の実力はとっくに訓練兵のソレを逸脱している。このままでは他の訓練兵たちの士気に影響が出る…いや既に出始めている」

 

―――あーそう言えばココ最近なんか視線感じてたのはその所為か?いきなり闇打ちに会いそうになったのもソレか…ってヤバいじゃんッ!!

 

ん?闇打ちされて大丈夫だったのかって?大丈夫だったよ?じゃなかったらココにいないモン。

俺母上の訓練のタマモノなのか敵意とか殺気とかが解るようになってさ?お陰で相手が仕掛けてきた時も何とか撃退できたんだ。

とりあえず襲ってきたバカはMP(ミリタリーポリス)に引き取ってもらったけどね……ボロボロにして。

――――閑話休題。

 

「―――まぁそう言う訳だから諦めろ?」

「……イェッサー」

 

別に良いけどね、年齢が年齢だから友達とかなんて出来なかったし……言ってて哀しいなコレ。

 

「話は以上だ。下がっていいぞ」

「ハッ!――――失礼しました。」

 

カッと靴が鳴るくらいの敬礼をして、俺は教官待機室を出た。

 

≪カツカツカツ……≫

 

一人寂しく廊下を歩く音を聞きながら自重する俺、はは…ホントお笑いモンだ…。

まさか、やり過ぎで余計に目をつけられる羽目になるとはなぁ。

―――でもさ…そうやって訓練にでも打ち込んで無いと、不安で押しつぶされそうだったからな。

 

 

「ちょっといいか?ラーダー」

「…ワイズ教官」

「敬礼はいい」

「…了解」

 

突然声をかけられ後ろを向くと、親父さんが立っていた。

一応軍施設内なので敬礼は欠かさない……のが普通なんだが、このヒトはそう言うのを嫌う様で。

 

「とりあえず、コイツを返しておくぞ?」

「え?あ…」

 

思わず驚いて変な声が出ちまったい。

なんせ手渡されたのは―――――

 

『マスター!お久しぶりです!』

「ヴィズッ!」

 

――――ココに来る時に、訓練兵には早いと言われ持っていかれた、ヴィズだったのだから。

 

「どうして…」

「なに、どうせ貴様はココを出たら尉官として着任させられるんだ。尉官は他の訓練兵と違って自分専用のデバイスを持つ事が許可されるからな?予定を繰り上げたにすぎん」

「しかし…」

「それにだ。俺達からのワン・トゥー・マンの訓練を受ける事になるだろう?普通のじゃあ実力を発揮する前に落とされる。」

 

―――そう言えばこのヒト、今は実戦を退いて教官職してるとはいえ、若いころは歩く災害とか呼ばれてた人だっけ?他の教官もなんか二つ名付きだった様な……ヤバいかも知んない。

 

「―――まぁこちらの楽しみを増やしただけにすぎんから貴様は気にしなくていい。」

「…………(唖然)」

「ん―――もう時間か?それじゃ俺は訓練に戻るからな?貴様の特別訓練は明日からだが…」

 

ワイズ教官は俺に視線を向けると、ワザと二ヤリとした悪戯を企むかの様な笑みを浮かべ―――。

 

「覚悟しておくことだな?ラーダー訓練兵?」

「ッ!―――サーイエッサーッ!!!」

 

―――プレッシャーと不安を煽ってきた……教官、アナタ意外とSなんですね?

教官は言う事は言ったという表情を浮かべると、そのまま廊下の角を曲がり見えなくなった。

 

「……(はぁ~)」

『溜息なんて幸せが逃げちゃいますよ?』

「ほっとけ…」

 

何だか余計めんどくさい事が起こりそうな予感がして溜息をつく俺。

あーもう、優等生ですまそうと思っただけなのになぁ。

夜中の鍛錬だって、母上から言われてたのを欠かさずやってただけだし…。

 

あ、でも…いままで母上の訓練を基準で考えてたけど……

アレって結構常人には異常なレベルだったり?

 

『今更何言ってるんですか?』

「……地の文に突っ込むな」

 

あはは、やっぱりそうだよなぁ~コイツはうっかりだ。

――――ちきしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フルボッコ?そんなの生ぬるいッ!!まずは地獄を見てこい!」

 

 

 

 

――――転生か?第5,6話――――

 

 

 

 

――――フリーダム基地 第4訓練場――――

 

『熱源接近、接敵まで20秒』

「―――チッ…アルアッソー展開…術式レールブラスター準備」

『了解、アルアッソーモード――――!ッ敵の反応ロストッ!』

「あわてるな…必ず痕跡がある…ソレをさがせ…」

『了解』

 

廃ビルの中に入ったか?イヤ以前は地下鉄の構内に隠れていたな……

しかし“アノ人”が同じ事をするとは考えられない。

下じゃ無いなら……まさかッ!?

 

『上空魔力弾接近ッ!自動障壁展開』

≪ズガガガンンッ――――≫

「くッ!…レールブラスター!フォックス2」

 

射撃地点と思われる所を狙い、魔法を放つが――――

 

『反応ロスト――敵未だ顕在』

「広い空間まで…後退する…策敵レベル4で起動」

『了k――ッ!!ディレイバインドの反応多数!!トラップも検知!そんな一体どうやって?!』

「無駄口を叩くなヴィズ…なるべくトラップの少ないルートを検索」

『り、了解―――ルートをHUD上に表示します』

 

――――姿が見えない相手に翻弄される……畜生、忌々しい。

 

『後方警戒!障壁展開ッ!!』

≪ズガガガッ!!≫

「…ぐぅ!」

 

クソッ!敵は一人な筈なのに何でこうもいろんな方向から攻撃が来るんだよッ!!

 

「はぁ…はぁ…」

『マスター、バイタルに異常が見られ…右から魔力弾ッ!』

「またか…くッ!」

『障壁展開効率60%に低下――コレ以上は危険と判断します』

 

ええい…コレが実戦経験者とそうでない者の違いってヤツなのかッ!?

魔力量も技量も攻撃も防御も速さも全て優っている筈なのに!!

 

「姿がみえない…厄介だな…」

『魔力隠ぺいも完璧ですね。あちらが攻撃してこないと位置の特定も出来ませんし…』

「さすがは…ワイズ教官か…」

 

経験というのがいかに大事なのかがホント良く解る……しかも容赦がない。

ヴィズの高感度センサーすら騙す隠ぺい能力といい、どうやっているのか不明な全方位からの同時攻撃といい、伊達に教官では無いって事か。

 

『今度は左に魔力反応!』

「毎回…やられるかッ!」

 

俺は周りにあるトラップに注意を払いつつ、なるべくトラップが無い所を走る。

そう“無い所”を…そして――――

 

≪ブン≫

「ディレイ…バインドだと?」

『バインドブレイク開始!ブレイクまで10秒』

 

―――――巧妙に隠された“罠”に捕まった。クソッ!逃げ道に罠を置くのは常識じゃないかッ!

 

「そこまで、貴様は“戦死”だ。ラーダー訓練兵」

「……イエッサー」

 

首筋に充てられる小さな魔力刃、ナイフ程度の魔力刃だが、人を殺すのに大きい刃物は必要ない。

幾ら小さな魔力刃でも、それなりの出力と首周りの関節部分を狙われたら、俺のバリアアーマーも貫通する事だろう…その結果はデッドだ。

それに今まで姿が全く見えなかった教官が姿を自ら見せた時点で、俺の敗北は決定した訳だしな。

 

 

 

 

「今日の模擬戦はココまでだ。貴様はセンサーに頼り過ぎだ。

もっと全体を見て流れを掴まんと死ぬぞ?気配の一つくらい察知できるようになれ」

「…了解」

 

無茶言うなよ…大体アンタ気配消してるじゃないか…どうやって察知するんだ?

まぁ考えてもしょうがないだろうけど…。

 

「何が悪かったのかをレポートにして明日までに提出しておけ、シャワー浴びたら今度は座学だ」

「了解」

「では解散」

 

―――――こうして俺の負けた模擬戦の数が二桁を超えた。ちくせう。

 

***

 

Sideジョナサン・ワイズマン

 

今日も教え子を扱き、模擬戦の報告書を自室でまとめる作業を行う。

俺は教えるのは生き残る為の技術……そして効率の良い殺し方だ。

決して褒められる仕事ではあるまい、言いかえれば人殺しを教育しているのだからな。

 

だが、前線にてその若い命が少しでも長く生きられる様に、扱き罵倒し慢心を砕いてやる…

そうして一人前の兵士を作り上げるのが、俺の仕事…そう思っていた。

 

――――特例として設けられた短期魔導師育成プログラム…ソレを受けるのはたった一人。

これまた特例で配属された特殊訓練兵フェン・ラーダー…若干7歳の子供だ。

………いくら特例でもコレは無いんじゃないだろうか?正直最初は上の正気を疑った。

 

まぁもっとも、ラーダーの実力を見てソレは無くなったがな。

はっきり言えば、異常…この言葉が似合う…いやバケモノの方が正確か。

 

俺が思っている事では無いが、彼の同期の訓練兵や教官達の一部がそう呼んでいたの聞いた。

もちろんそんな輩にはお灸を据えておいたがな…蔭口はみっともない。

 

――――だが一方で、彼らがそう口にするのも解ると言うのが本音だ。

戦い続けて30年前、線を退いて10年、かれこれ40年も軍に居た俺だが、あんな教え子は初めてだ。

確かに7歳児に軍の魔導師訓練をさせる酔狂な輩はそうはいないだろうが…まぁソレはともかくとしてだ…。

 

俺達USN軍の魔導師は通常の魔導師とは訓練の密度、質、量、全てが通常のソレを上回る。

当然、訓練について来れず、脱落するモノ達も存在する…

だがラーダーは脱落どころか、他の訓練兵を大きく引き離す成績を訓練で修めている。

 

―――――兎に角成長が早いのだラーダーは。

 

初めてやる訓練ですらソツなくこなし、その次からは必ず今までの成績を塗り替える。

他の訓練兵が寝静まった夜中に自主練習をいれ、更なる高みを目指す。

 

 

だが――――正直に言おう……まだ早すぎる、早すぎる筈なんだ。

 

 

魔導師の子供は早熟であると言える。

親がそうであるし、マルチタスクなどの並列処理を覚えた子供は、

様々な思考を同時に処理できるようになる為、心の成長が早い。

 

だがそうだとしても、ラーダーのそれは幾らなんでも早い…だから異常なのだ。

まるで大人が子供の皮をかぶっているかの様な錯覚すら覚える。

 

そして何より、俺達を困惑させるのは、どんなに苦しい訓練ですら顔色一つ。

表情をまったく崩さないと言う事だ。

何か精神的なショックがきっかけで、無表情になる子供は職業柄見たことがある。

 

しかしラーダーのソレは、そう言ったのでは無く…。

自ら望んでそうなったと言う、所謂兵士のソレに近い。

 

何故彼はそこまで自分をいじめるのか?―――正直俺には理解が出来ない。

まるで怯えるかの様に訓練に打ち込む様は、悲しみすらおぼえるくらいだ。

 

だが、残念なことにこれらの事を俺達教官職に就く者は、上へと報告しなければならない。

そしてその所為で……彼は特例の短期魔導師育成プログラムと称した、実験に放り込まれることとなった。

 

――――――現在、前線は膠着状態を維持している。

 

世論は戦争賛成派が大多数ではあるものの、時間が長引けば当然ながら、

敗戦ムードが高まる事による反対派の運動が活発になる。

別にそれは良い、こちらとしても大事な教え子たちが戦争で散るのは勘弁してほしいのだから…。

―――――だが問題はだ、それに応じた過激派がテロを行ったりした時だ。

上層部としては短期決戦が望ましい、なので使える戦力はドンドン前線へと送り込みたいのが、心情なのだろう。

勿論、人の道を踏み外したとしても…だ。

 

―――――ラーダーが唯一このプログラムを受けているのはそう言う訳だ。

 

このプログラムは正直、彼の為に造られた訓練なのだ。

魔法の才能さえあれば、どんな年齢の子供でも戦場において活躍が出来ると言う事を証明する…。

それがこのプログラムの裏側である。

 

今までは最低でも15歳を超えていない子供は前線には送らず、後方勤務が殆どであった。

だが、恐らくラーダーはいきなり前線へと配属される事が、すでに決定している。

 

たとえ死んだとしても、一般にはすぐにはバレない訳だし戦争のドサクサという事で処理できる。

逆に功績をあげれば、それは軍の功績となる訳だ……おまけとして少年魔導師部隊というモノが作られるのだが…。

人の死を数値でしか見れなくなった上層部連中には、そう言った事は関係ないのだろう。

 

 

―――――彼は優秀だ。

経験さえ積めば、すぐに俺を追い越せる程の逸材だ。

こんな大人の事情で起こったくだらない戦争で散って良い命では無い。

 

だからこそ、俺は今まで経験した全ての技術を、ラーダーに教え込む。

血反吐を吐こうが、泣き言を言おうがやらせる…と言っても普通に付いてきてるのだが…まぁいい。

とにかくだ、俺に出来ることは、あいつが死なない様に、教えられる全てを教えると言う事に他ならない。

 

―――――例えその結果、あいつの心に大きな傷を作る事になろうとも…死なせはせん。

 

 

 

俺が出来る事は殺し方を教える事………ただそれだけなのだから。

 

 

 

Sideフェン

 

死ぬ…マジで死ぬ…なんなんじゃこの短期魔導師育成プログラムっちゅうのは?

実戦形式の模擬戦に次ぐ模擬戦、ワイズ教官以外の教官は倒したけど、それでもきついぞコン畜生。

座学に居たっては………戦略ってなんですか?美味しいんですか?

 

俺7歳だぜ?お前ら人の皮を被った鬼かいな?幾らなんでも苛めすぎやと思うで?

それでも自主トレを欠かさない俺は…もう手遅れなのかな?まぁいいけど…。

 

しっかし今日の模擬戦もワイズ教官には勝てなかったなぁ。

“見えなければ、どうという事はない”を実戦で見せてくれたもんなぁ…え?字が違う?いや違わないよ?

 

なんせ姿が見えないタネは、ミラージュハイドとかいう光学迷彩魔法。

それと自身の魔力操作の上手さだもんなぁ。

ミラージュハイドで姿隠して、そこら辺じゅうに設置型術式を同じくミラージュハイドで隠して回るっていう単純なもんだし。

まぁイメージできない人は、そこら辺じゅうに見えない地雷が設置された様なもんだと思ってくれ。

 

しかし、タネさえ解れば単純なもんだけど、魔道師からしたら相当厄介な人だよ。

相当の熟練者か魔力探知に長けた魔導師じゃないと、見破れないレベルの隠匿魔法だぜ?

俺も段々感覚を掴んで、徐々に察知出来る様になったけど、初見の奴ならムリだ。

 

というか、設置式術式+隠匿魔法はヤバいコンボだろ…見ただけじゃ探知出来ねぇし。

辺りに魔力素子が充満していたら、幾ら魔力探知に長けた魔導師でも、発見しずらいしな。

ようやく発見したかと思ったら、気が付いたらあの世だなんて笑えネェ…マジで。

 

俺は夕飯がわりのレーションをほう張りながら、そんな事が出来る教官の事思い溜息をついた。

で、夜の訓練の為に次の教官の所へと足を運んだ。

ああ、さっきのとは違う意味で疲れる訓練か…鬱だぜ。

 

………………………

 

……………………

 

…………………

 

「お、来ましたねフェン君」

「はい…ソフィア教官」

「ふふ~ん♪まえも言いましたが教官は要りませんよ?」

「いえ…一応規則ですから…」

 

フレンドリーな態度で接してくる。教官団の中でも珍しく、唯一の女性の教官である彼女。

ニコニコと笑みを絶やさない彼女は……正直苦手である。

 

「では、いつも通りまずは運動をしましょうか?」

「はい」

 

そう言ってゴム製のナイフを2本投げ渡してくる…とは言うモノの実質山刀なみの大きさだが…。

―――――そう、彼女は珍しく近接攻撃が主体の魔導師なのだ。

 

ナイフを受け取った瞬間、途端に構えを取る。この運動に合図などは無く、いきなり始まる為だ。

身体強化魔法で身体を強化し、間合いを計って、懐に入り込む為に距離を詰める。

―――――というか身体強化以外使ってはいけないのが暗黙のルールだ。

 

俺は横一線にナイフを振るう、だがソフィア教官が一歩下がった事で、そのナイフは相手に触れることなく虚しく空を切った。

俺は攻撃の手を緩めず、返し刃でもう一度薙ぎ払うかのように斬る…当るかと思った瞬間、彼女が視界から消えた。

 

「!?」

「下です」

 

下を見ればしゃがみこんだ彼女が居た。そして俺の首にはゴム製のナイフ…ちっ1死亡だな。

 

「大ぶりはNGです」

≪シュッ!≫

 

無駄のない動作で繰り出されたナイフは、まるで生き物のように、俺の胴体を切りつける。

反撃のため袈裟切りを返したが、あっさりと避けられさっき斬られた場所と同じところを切りつけられた。

 

「アツッ…」

「ほら無駄が多いですよ?」

 

ゴムがこすれて熱くなりつい声を出してしまう。

今度は太ももにナイフが当てられた、コレも動けなくなると言う意味で1死亡だ。

 

「例え必殺にならなくても…」

≪ススッ≫

「浅からろうが何度も斬りつければいいのです」

 

テンションが上がってきたのか、手首足首同時に斬られた……つか見えねぇよ。

 

「特に手足は動きを制限させるのに有効です。」

 

確かに人間ってのは手足怪我すると、かなり動きが制限されるモンな。

そんな事を考えつつ、2本のナイフで連続して斬りかかる。

 

「そう、軽くても当れば良い…当らない刃物は怖く無い」

「―――――ッ」

 

そう言いつつも未だに一太刀も当らない教官に、俺は左のナイフを投げつけた。

 

「はずれ、今のタイミングは悪くはないけど必殺じゃない…必殺というのは…」

 

ソフィア教官はいきなり体制を崩して、視界から掻き消えるかの様に動く。

重心が一気に下がった事で、腰の入った一撃が―――――

 

「地面をはうように…」

≪ボッ!≫

「入れるのです」

 

―――――俺の鳩尾よりかちょっとした…胃袋か肝臓辺りに当った。イテェ…。

 

「ケホッ…」

「予想だにしない動きで相手を止めるのも、ナイフの奥義の一つです」

 

そういうと彼女はどこかハ虫類を思わせる笑みを浮かべる……ぐぅ、やっぱり苦手だ。

 

「はい、じゃあいつものように死んでしまったフェン君は、PXで私にデザートを奢る事。良いですね?」

「…アイマム」

 

はぁ、コレだモンなぁ…物凄く強いけど、どこかカラっとした態度。

まぁコレが意外と人気があるそうな…奢らされる俺はたまったモノではないが…。

絶対いつか俺が勝って奢らせてやるモンなッ!!―――永遠にムリな気がしてきた。

 

「さて、今日も動きの確認をした後、組み手やりますよ。さっきみたいに手加減はしませんからね」

「了解」

 

 

―――――というか、さっきのですら手加減されてるんだもんなぁ。

 

 

ソフィア教官の魔導師資質…彼女自体の総合魔導師ランクはC+…正直一般兵よりも低い。

使える魔法も高密度だけど小さな魔力刃が造れる程度……だけど彼女は室内戦闘においては無敵を誇る。

少ない魔力で“どうすれば相手を制する事が出来るのか”を極めた完成系がこのヒトであると言ってもいい。

 

魔法第一主義が蔓延しているこの世界で、一時期少佐にまで上り詰めた実力を持っているのだ。

つーか勝てねぇよ…ホント容赦しないし…姉御肌だし。

 

まぁココまで来るのに、血反吐を吐くと言うのも生易しく見える程の訓練と経験を積んでいるのだ。

幾らチート性能を持つ俺でも、このヒトに勝つのには時間が掛かる…。

というか、もしかしたら近接戦闘では勝てないかもしれない。

つーかUSN軍内でも、近接戦闘のみで一対一なら、彼女に勝てる人間はいないと思う。

 

そもそもどうして俺が彼女から近接戦闘を教わっているのか?

ソレは俺も魔力刃を使った近接戦闘の魔法を持っていた所為だ。

 

ココに来る直前に造って入れた術式なんだけど、ソレをワイズ教官に見られて……。

気が付いたら彼女との近接戦闘訓練がプログラムに組み込まれてたって訳。

 

まぁ近接戦闘用魔法持っていても、肝心の使い手が扱えませんじゃ話にならないモンなぁ。

魔力刃とはいえ刃物は刃物、こうして昔ながらの近接戦闘訓練や組み手の方が、身体がなじみやすいのだ。

 

なんか着々と最強魔導戦士育成計画が進んでいる様な気がするけど……気にしたら負けだよね♪

まぁ心技体全てが強くなれば戦場で死ぬ確率は減る事だろうから反対はしないけどね。

 

―――――とりあえず。

 

「死なないよう…頑張らな…」

『マスター?』

「ん、何でも…無い」

 

何としても生き残らなければ……うん。

 

 

 

 

「Amenってか?」

 



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旧版【妄想戦記】多分九話から十四話まで

 

 

 

 

――――転生か?第5,7話―――――

 

 

 

 

 

 

優秀すぎたがために、特別にやらされる羽目となった短期魔導師育成プログラム。

命令を受け、このプログラムを開始して2カ月が経過した。

 

最初の数日は鍛えた身体があったとはいえ、訓練が終わるとぶっ倒れていたが、それにも慣れた。

人間は慣れの生き物だと言うけど……ココまで行くともう常識超えてるなぁと思い知らされる。

今ではこの基地における二凶…ワイズ教官とソフィア教官を相手に出来る程になっていた。

 

 

―――――とは言うモノの、実質相手に“できる”ってだけで必ずしも“勝てる”訳じゃない。

 

 

現在、短期魔導師育成プログラムにおける、俺の模擬戦の勝率は6割がいいところだ。

他の教官達もそれぞれ見習うべきところがあるのだが、この二人が断トツでヤバい。

何せこの二人が組んだ時など、俺の勝率は一気に2割…いや1割以下にまで低下するくらいだ。

 

ソフィア教官は近接戦のプロ、そしてワイズ教官は全体を見て指揮も出来るオールラウンダー。

前者がフロント、後者がバックの陣形を取るのだが、それがすこぶる凶悪だった。

 

最初の頃の模擬戦では、まずソフィア教官が、俺の動きを封じるために接近してこようとする。

勿論、彼女の近接戦の強さは知っている為、俺は近づかせまいと弾幕を張ろうとした。

これが1対1ならば、力押しのソレで勝てる…だが、バックのワイズ教官がそれをさせない。

 

かなりの制御力をもったシューターで、オールレンジアタックを仕掛けてくるのだ。

当然こっちもシールドを張るんだけど、魔力弾がシールドに触れた瞬間閃光が走り視界を遮った。

どうやら、スフィアに閃光弾のようになる様な術式が組まれていたらしい。

 

それ自体に威力は無く、只視界を奪うだけなのだが、所見では見切れない為身体が硬直してしまう。

そしてその隙に、ソフィア教官が懐に入り込まれてしまうパターンが多い。

まぁ簡単に言えば、俺は降参せざるを得ない状況に追い込まれるって訳。

 

しかもだ、この二人前衛と後衛で役割が決まっている様に見えて、実は決まっていないのだ。

時折前衛後衛を入れ替えては、こちらを撹乱し罠にはめ、こちらの自信を完膚無きまでに叩き潰す。

もう本当にどんだけぇ~ってくらい強い。

 

お互いが役割を持っている事を理解したうえで、戦場の状況に応じて臨機応変に対応する。

おまけにどちらも『脅威は実力を持って排除せよ』『見敵必殺』を地で行く人達なのだ。

それなのに冷静…お陰で俺はとことん容赦もなく、模擬戦の中で叩き潰されたよ。

 

座学において戦術や戦略についても習ってはいた…。

だがソレを読んで覚えるのと、身を持って体感するのとでは訳が違う。

 

この二人との模擬戦は、俺にいかに固定概念を覆す事、戦術戦略が大事なのかを教えてくれた。

基本母上の戦法は“考えるよりも先に力で叩き潰せ”だったから、まだ慣れない所もあるけどね。

 

 

 

 

 

 

 

さて――――――

 

 

 

 

 

 

 

『多重シールド展開』

「いや…回避を優先」

『了解』

 

 

短かったけど辛かった、短期魔導師育成プログラムも…もうすぐ終わる。

なぜならば――――――――――

 

 

『α1ロスト、策敵中』

「β1の殲滅を優先する…」

『了解、レールブラスター・フルオートファイア』

 

 

―――――――――今日が最後の訓練、卒業審査なのだからッ!!

 

 

***

 

【30分前】

 

「最終総合訓練…ですか?」

「ああ、そのとおりだ」

「フェン君は優秀でしたからね。予定よりも早くプログラムを消化しちゃったのです」

「という訳で、予定を繰り上げて、今日は貴様の卒業審査を兼ねた最終総合訓練をすることとなった!!」

 

ドーンってな感じで俺にそう告げるワイズ教官とソフィア教官。

というか、すでにその前の模擬戦でぼろぼろなんですけど俺?

 

「ソレはハンデって奴です。だって2人合わせても、今のフェン君の魔力量には届かないですから」

「ま、そう言う事だ。何普段通り戦い、我々を下せばいい。実に簡単な事だろう?」

「そう…ですね」

 

いやまぁ確かにそうだけど…。

 

「ちなみに負けたら、超濃縮還元訓練“もう…川を渡りたい…編”を更に2カ月追加です」

「おまけに卒業は無し、その分戦場に出られなくなる上、下手すると実験部隊行きだ」

「あ、ちなみに実験部隊のモルモットにされるって事だからね?当然拒否権は無いよ?」

「…へぁ…」

 

…………俺に死ねと?鬼かアンタら?

 

「ちなみに、ルールも簡単だ。相手を気絶させるか降参を口に言わせればいい」

「時間制限もないですよ?自分の力を精いっぱい発揮すればいいですから」

 

―――――でも2対1って酷く無いすか?

そんな俺の呟きはお構いなしに2人は少し距離を取る。

 

「じゃあまぁ…」

「さっそく…」

「へ?」

 

えと、何故にデバイスを起動してるんスか…?

 

「「最終総合訓練…開始!!」」

「ヴィズ!ローラーダッシュ!!」

 

そして俺はローラーダッシュで、一気にこの二人から距離を取った……というか逃げた。

 

***

 

【更に40分経過】

 

『あ、反応がありました』

「無視しろ…ヴィスはセンサーを全て…α1のトラップ発見に向けるんだ」

『了解』

 

俺は訓練開始と同時に、目の前の2人には目もくれず、ひたすら逃げ隠れると言う戦法を取った。

万全の状態なら、多重シールドを展開し、鉄壁の防御を持ってして、弾幕を張り続けるのだが、今回はそうもいかない。

 

俺は事前にやった模擬戦の所為で、まだ魔力が回復しきっていなかったのだ。

なのでこうして逃げ回る事で、俺のレアスキル“リサイクル”により、魔力の回復を図った。

でもソレは―――――――

 

『ッ!!発見されました!反応はβ1』

「ちぃ…しつこい!!」

「ほらほら逃げなよミーシャ(こぐま)ちゃん♪じゃないと大怪我しちゃうよ~?」

 

――――――――とても甘い考えであった。

 

そう、逃げても逃げても、α1(ワイズ教官)とβ1(ソフィア教官)は追いかけてくる。

なので逃げる為に無駄に魔法を使わされる所為で、回復する魔力量より消費が上回ってしまうのだ。

 

「ちぃ!M82A1起動!」

『起動します』

 

俺は迫ってくるβ1に、圧縮魔力の弾丸を浴びせるが、そんなものどこ吹く風に避けられてしまう。

まるで柳…風に吹かれて、そのまま揺れる柳の枝の様だ。

 

「ン~フフフ、ソレでおわりですかぁ?」

「く…ヴィズ!!」

『多重シールド展開!!』

≪ガキキンッ!!≫

 

しかも、どうにも戦闘に興奮してしまったらしい…。

彼女から放たれる、普段の彼女からは想像できない狂った覇気が俺の動きを制限する。

 

『バースト!!』

「――――ッ!!」

≪ドド――ンッ!!≫

 

俺はバリアバーストでβ1を吹き飛ばし、その場から逃れる。

アレくらいでは倒せない…あの教官なら絶対に―――――

 

「ああ、ビックリしました…いいですねぇ♪」

 

――――――そう言って起き上がるからだ。

 

とにかく俺は本能で、この場から離れたい一心だった。

β1から放たれる狂った殺気…コレが戦場の殺気なんだと思う。

数か月前の俺なら、精神が耐えきれず壊れていたかも知れない程、強烈だ。

 

「――――フォックス2」

『レールブラスター・フルオートファイア』

 

逃げながらも後ろ向きに攻撃するモノの、β1はすぐさま近くのビルの中に逃げ込んでしまう。

もうすでにこんな感じの攻防が3~4度近く続いてたりする。

 

流石にα1との同時攻撃には焦った。

未だ飛べないけど跳ぶ事は出来たので、それを使って逃げたくらいだ。

中々倒す事が出来ないのでいい加減、ストレスも強くなる。

 

「―――――ちくしょう」

 

思わず出たそのつぶやきは、徐々に暗くなってきた訓練場に解けて消えた―――――。

 

***

 

【そして2時間経過】

 

流石は最凶の2人…前線を退いていたとしても、このくらいなら戦闘継続可能か…。

普通の魔導師だったらすでに根を上げている筈だもんな。

 

完全に当りは真っ暗になり、視覚での警戒は困難になってくる。

故に恐らくは魔力探知などを使って来るハズだ。

 

『サーチャーに反応あり…2人ともいます。向うはまだ気付いていません』

「そのまま監視を続行…動きを見せたら知らせて…」

 

俺は訓練場にいくつもある廃ビルの中の一室に隠れていた。

幾度となく痛手を貰ったワイズ教官の得意技であるミラージュハイド…

更に魔力隠蔽も用いて探索されないようにしながら、反撃の機会をうかがっていた。

 

俺とて今まで伊達に殺されかけ…訓練で気絶してたわけじゃない。

相手の得意な術式を盗んだりして、自身を強化したりした。

 

まぁ最もワイズ教官はわざとコピーするように仕向けてた節があったけどね。

自分の弟子みたいに思われてるんだろうなぁ俺。

 

『α1、β1、移動開始、どうやら気付かれたようです』

「…離脱する。ビルのマップをHUD上に表示」

 

兎に角この場から離れないと、2人一緒に来たって事はそろそろ本気で落すつもりに違いない。

コリャ気合を入れないとまずいぜ…全く負けても地獄だし勝っても最前線行きの地獄か…。

本当着いてねぇ…鬱だ。

 

マップに表示されるルートをたどり、階段を上がりつつそんな風に思った。

 

『どうやらビルの中に侵入されたようです。こちらに向かって来ます』

「逃走ルートは…?」

『この廃ビルは第六世代型の高層ビルです。窓が無い為、出入り口は下か屋上のどちらかしかありません』

 

なら仕方ない…上に逃げますか。

どこぞの白い悪魔みたいに砲撃で穴開けられたら楽だろうけど…

そんな事したらビルが倒壊しちまうからな!!

 

身体強化を行いつつ、何とか屋上にまで来れたので、屋上へ出るドアを見つけ外に出る。

俺は飛行魔法を応用した跳躍で、隣のビルにでも乗り移ろうとした。

 

瞬間――――――

 

≪ゾク…≫

「!!??」

 

――――――首筋がチクリとした…コレは殺気か?!

 

そう思ったが早いか、とっさに横に飛び去ると俺がいた所にスフィアが命中し霧散する。

あぶねぇ…避けてなかったら間違いなく首に当って気絶してたぞ。

 

「相変わらず…隠れるのが上手ですね…ワイズ教官」

「……ふっ、昔からかくれんぼには自信があったからな」

 

そう言って、何も無いところから滲み出るかの様にその場に現れるワイズ教官。

下から上がってきたソフィア教官も、追い付いたようだ。

 

「まさか…こんな古典的な方法で来るとは…」

「古典的だろうがなんだろうが、使えるモノは使うのは当り前だろうが?」

「確かに…」

「ねぇおしゃべりも良いんですけど…そろそろ始めませんか?」

「そうだな。―――――展開!」

 

その途端辺り50mくらいが結界に包まれた!これは…強装結界!?

 

「さぁコレでもう逃げられまい…」

「いい加減追いかけるのも空きました。さぁ戦いましょう?」

「……わかりました」

 

ふぅ、俺こう見えてもまだ年齢一桁なんだけどなぁ…。

何が悲しゅうて、こんな戦争してる世界に来なアカンのや…全く。

とりあえずヴィズを、アルアッソーモードからキーンセイバーに切り替える。

対峙している2人も俺が構えたのを見て、自分のデバイスを構えた

 

 

 

「「いざ…」」

「尋常に…」

「「「勝負!!」」」

 

―――――こうして2対1の不利な戦いが始まった。

 

「切り刻みます!クロックダガー!!」

『Yes,Boss Deep knife・full power!!!』

 

ソフィアさんの持つ、ナイフの形をしたストレージデバイスから男性のように低い声が聞こえた。

そして、高濃度に圧縮された魔力刃が展開される。

 

リーチこそ短いのだが、その圧縮された魔力刃は、プロテクション程度なら簡単に斬り裂いてしまえる。

彼女が考えだし、作ったオリジナルの魔法であり、デバイスのソースをかなり食っている。

だがそのお陰で、例えAAランクのシールドでも斬る事が出来るのだから、どれだけ凄いのかがわかるだろう。

 

「キーンセイバー…」

『キーンセイバー』

 

俺も負けじと双剣になったヴィズから魔力刃を展開して構える。

同時に身体に魔力を巡らし、身体機能の強化を図る。

なんせまだ身体はガキだからな。流石に強化無しだと大人には敵わんのですよ。

 

そして、コレで何度目かは解らない、ソフィア教官との剣劇が始まる。

素早く着きだされた左手の突きを、右手のヴィズの剣の腹で受けとめ、カウンターを返す。

 

だが、それが掠める事は無く、彼女からの右の拳が迫ってくるのが解る。

本当なら避けるのだが、別方向からワイズ教官の放った魔法が迫って来ているのでココは――――

 

「多重プロテクション」

『多重プロテクション』

 

―――――全て受けとめる事にした。

 

「ふふ、うれしいです。今までならココでkillしていたのに」

「成長っていうのは早いもんだな」

「お二人に…扱かれましたから…ね」

 

ギリギリと軋む障壁を維持しながら、マルチタスクによる会話。

これも幾度となく訓練してきた光景だ。

 

「お二人って…他にも教官はいただろう?」

「戦闘方面では…お二人に敵う教官は…いませんでしたよ?」

「うれいしいことを言ってくれますねフェン君は。まぁ事実ですが」

 

そういって今度は距離をとり、突進するかの如く迫る。

俺はバインドを使おうとするが、先にワイズ教官に使われそうになったので、とりあえず逃げた。

 

「おいおい、事実って…まぁそうだな」

「実質前線を退いた方ばかりでしたからね…仕方ないかと…」

「いや、それでも一般の魔導師以上の力はあるんだ。ソレを下せるフェンの方が異常だ」

「ですね~」

 

迫るフォトンバレットをBA(バリアアーマー)の防御力に任せてワザと受ける。

ちょっと驚いた隙に、こちらもマルチタスクで構築したフォトンバレットを放った。

…………ソフィア教官の方に。

 

「うわっ!あぶないですね!まぁ避けますが」

「ほう、そっちを先に倒そうとするか?じゃ俺はチェーンバインドを…」

「させませんって…アルアッソーモード」

『レールブラスター・フルオートファイア!!』

 

瞬時に変形したヴィズの銃口から、マズルフラッシュが出て辺りを照らす。

ワイズ教官はシールドを幾重にも重ね、更に角度を受ける事でソレらをしのいだ。

ちなみにソフィア教官は、ワイズ教官の後ろに退避済みだったりする。

 

「ぐお、相変わらず凄い威力だ…動けやしない」

「まだまだ…ですッ!」

『M82A1 mode release!』

 

空いている左手に兵装デバイスM82A1が展開、内部で魔力が充填圧縮されていく…そして。

 

「フォックス3」

『炸裂弾発射!!』

「ドゥオアアああ!!」

 

五発の砲声…至近距離での爆発の暴風が、ワイズ教官を貫いた。

そしてその爆煙を切り裂いて、鋭く俺に斬りつけようとしているソフィア教官。

実はこのヒト、さっきワイズ教官のジャケット掴んで、砲撃の盾にしてました。

 

その所為でワイズ教官逃げられずボロボロに…なんてひどい人なんだろうか。

自分が避けられないからって他人を盾にするなんて…コレも戦場の習いか?(違います)

 

「はぁぁぁ!!」

「くぅ…!」

 

振られた斬撃をキーンセイバーで受けとめる。

そのままでは連撃が来るのが解っているので、身体強化をMaximにして相手をはじいた!!

弾き飛ばされた勢いで空中にてたたらを踏むソフィア教官。

 

彼女は着地すると、そのまま俺を斬り捨てた―――――

 

「チェック」

「なッ!?」

 

―――――――かに見えた。だが思惑は外れ、彼女は俺をすり抜けてしまう。

 

そして彼女の後ろに立った俺が、首にキーンセイバーを当てていた。

 

「降参…してください」

「……………はふぅ、仕方ないですね」

 

彼女は手からデバイスを放し、両手を頭にやった。

俺は彼女にバインドをかけておく、一応念の為。

 

「でもまさか…幻影だったなんて、驚きました」

「未熟ですがね…」

 

何種明かしをすれば簡単なモノだ。

斬られる直前に幻影魔法で造り出した自分と入れ替えたのだから。

 

「おまけにワイズ教官のミラージュハイドと魔力隠蔽の複合技まで使えるとは凄いですねフェン君」

「苦労させられましたからね…このコンボに…で、降参ですか?」

「あら?私はもうフェン君に捕らわれているのですが?」

 

いやまぁそうなんですがね?

 

「あなたの口から…降参とは聞いていない…」

「………ふふ、良く気が付きましたね?解りました“降参”です♪」

「ありがとうございます」

 

こうして俺はバインドを解いた。

何せ勝利条件は気絶させるか、相手が降参を口にしないとダメなんですからね。

彼女はバインドで縛られた個所をさすりながら、未だ気絶していたワイズ教官の元に近寄った。

 

「さてと…いい加減起きてくださいワイズ教官」

「……………」←気絶中

「…………てい」

≪ドゴンッ!!≫

「ぐアッ!!――――ん?なんだ?どうなってた?ぐぅ…なんか色んなところが痛い…特に顔」

 

うわぁヒデェよソフィア教官…思いっきり顔蹴ってた。

 

「しっかりしてください。もう最終総合訓練は終わりましたよ?」

「おおう、そうでしたか?という事は…」

「ええ、フェン君に捕まってしまい降参と口にしてしまいました」

 

ははは、と笑う教官達…その笑みにどれだけの感情が含まれているのだろうか。

とりあえず、両教官がシャンとして立ったので、俺もそれに習う。

 

「フェン・ラーダー訓練兵」

「ハッ!」

 

軍人が出す独特の気に当てられ、俺も敬礼で返す。

 

「最終総合訓練の結果を伝える………おめでとう、合格だ」

「ハッ!ありがとうございます」

「一六○○の現時刻を持ってして、貴様は短期魔導師育成プログラムを終了した」

「なので、今この時刻を持ってして、あなたは中尉となりました」

「故に今後、貴官は我々の上官になります。今までの訓練ご苦労様でした」

 

ザッと一糸乱れぬ動作で敬礼をするふたり…。

 

「ありがとう…ございます」

 

―――――俺もそれに答え敬礼で返した。

 

「………と、まぁ表向きはこれでいいとしてだね」

「一応今からフェン君は上官になるんだけど、書類上は明日からなんです」

「なので、今の内に色々とお話して、媚でも売ろうかと思っています!」

 

そう言って悪戯っ子の様な顔のお二人さん…

おいおい、せっかくシリアスだったのに、ココで落すなよぉ…。

 

まぁ、堅苦しいのは苦手だから助かったし嫌な気分でも無いけどね。

2人がワザとこうやって、緊張とかほぐしてくれて、しかも労ってくれているのが解るからだ

 

「ワイズ教官…その心は?」

「優秀な教え子に、年金を優遇して貰う事であります!!なんてな?」

「私はそんなことしませんよ?でもその代わり今度ケーキでも奢って下さいです」

「……そんなに使えるお金は…無いのですが?」

 

俺尉官になったとしても未成年だからなぁ…。

この世界なら最低8歳からなら、通帳自由に出来るけど、俺まだ一年程たん無いしね。

 

「大丈夫!将来奢ってくれればいいのです!食べ放題で!」

「一応言っておくが、コイツの食べっぷりは半端無いぞ?」

「はは…知ってます…PXで良く奢らされましたから」

 

この後、一時間は談笑し、今まで話せなかった事を話した。

とても楽しい時間だった…何せ苦しかったからな訓練。

そして、夜も遅かった為、それぞれの宿舎へと足を向けたのであった。

 

 

こうして、俺はUSN軍の魔法部隊の兵士となった。

そして、最終総合訓練が終了してから三日後に、俺は前線近くの基地へと配属される事となった。

 

教官達は次の日から皆俺に敬語で話すようになった。

階級が俺の方が上なのだから、コレは仕方ない…だけどちょっとさみしい。

 

 

だが、ココで培った技術は必ず生き残る為に使う事が出来るだろう。

故に、俺はこの先でもずっと、ここの教官達…特にソフィア教官とおやっさん事ワイズ教官には頭が上がらないだろう。

 

 

今まで――――――本当にありがとうございました!!!

 

Rail Blaster Fullauto Fire

「この香りこそ戦場よ!」

 

 

 

 

 

―――転生か?第6話―――

 

 

 

 

 

Sideジェニス少尉

 

――セスル基地、司令部――

 

その日、俺は司令部に呼び出された。別に何かしでかした訳じゃあない。

俺の小隊の新しい隊長さまが本土から来られるからだ。

そのことの説明を受けに司令官室に入った。

 

「喜べ、ジェニス少尉…貴様のところの隊長が決まった。」

 

そう言って司令官は皮肉たっぷりに俺に書類を投げてよこした。その書類に目を通した俺は唖然とした。

 

「これは何かの冗談ですか?」

「残念ながら現実だ少尉…来週着任してくる。少なくとも仕官学校出のボンボンでは無い事は確かだ。」

「くッ!上の連中は何考えてんだ!」

 

書類に写されている人物…それは7~8歳くらいの子供が写っていた。

 

「司令、命令の撤回は…」

「無理だな。すでに撤回要求を送ったのだが、返ってきたのは撤回要求の撤回状だったよ」

 

司令官も苦笑する…この常に冷静沈着の歴戦の戦士が表情を変えるなんて…。

 

「ちなみにこれは決定事項だ。反論は許されん…くれぐれも壊すなよ?」

「ちっ…了解」

 

まだ、熊が上官になったって方が可愛げがあるぜ。

 

「まっ…あいつの話がホントなら、案外拾いモノかも知れんがな。」

 

司令が最後に何か言っていたみたいだが聞き取れなかった。

しかし、ガキが隊長だなんて此方の精神衛生上にかなり悪い…。

 

とりあえず、壊れないくらいにビビらせてとっとと配置換えを希望するようにしむけるか…うん。

戦場に行って壊れるよりかは幾分かマシだろう―――

 

…………………

 

………………

 

……………

 

1週間経過―――

 

先週と同じく司令官室に呼び出された俺は、依然と同じく司令の目の前に立っていた。

そして今日…新たな隊長が着任されるらしい…しかも7歳のガキが――――

 

≪プルルルル―――ガチャ≫

「―――私だ」

 

――――そんなこと考えてたら司令官室の電話が鳴った。

司令官が応答し電話を切るといささか憐れんだ視線を此方を向けてくる。

 

「少尉、今お前たちの上官が到着した。ここに来るそうだから部隊のところまではお前が案内してやれ。」

 

おいおい…もう来たのかよ…俺に子供のお守りをさせる気かよ…勘弁してくれ…。

 

 

 

 

 

―――――しばらくすると、後の戸が開いた。軽い足音、それが俺の横で停止する。

 

「…フェン・ラーダー中尉…着任しました。」

 

こいつの顔を見て俺は驚いた…感情が見えない…一体どんな経験をすればこんな顔ができるんだ?

 

「うむ、確認した。ようこそ中尉…死臭漂う戦場へ、そこにいるジェ二ス少尉が先任だ。部隊のところまで彼に案内してもらえ、以上だ。」

「…了解しました。」

 

感情の無い声で答えた中尉はこっちの方を向いた。

 

「では、此方に…」

 

そのことにうなずき、中尉は俺について部屋をでた。

廊下を歩く間、中尉は一言も言葉を発することも無く俺のあとをついてきた。

 

***

 

―――――隊舎に付くと、俺は小隊を整列させる。

 

「全員聞けぇ!此方が新しく隊長に就任されたフェン中尉だ!」

 

ウチの部隊は30人…全員顔には出してないが、言いたい事はわかる。

 

「中尉挨拶を…」

「…フェンだ。よろしく」

「なんでぇ!そんだけか隊長さんよぉ!聞こえねぇぞ!」

 

声をあげたのはケイン曹長か…普通はこういった事を上官に言うことはタブーなんだが…誰も止めない。勿論俺もだ。

何せコレはワザと仕組んだ事だからだ…まぁウチの隊の洗礼みたいなもんだ。

 

中尉はこう言った事を一体どうするのか、しばらく見学させてもらう事にしよう。

ココでどういう事をするのかが、良い隊長かダメな隊長なのかを分けるのだからな。

 

「威勢がいいな…いつもそんな態度なのか?」

「だからどうしたっての?お怖い隊長さまは哀れなこの自分に罰でも与えてくださるんですかい?」

 

ゲハハと笑うケイン曹長……あの笑い方、演技じゃなくて素なんだよなぁ……気持ち悪。

 

「ケツの穴が心配ならとっととお家に帰ることですなぁ。ええ?小さなお嬢さん?」

 

―――――曹長は相変わらずニヤニヤしながら中尉を馬鹿にしている。

流石に言いすぎだが、ここはガキの来るとこじゃない、だから俺たちはなにも言わない。

中尉は特に怒りを見せることなく一言だけ呟いた。

 

「…寿命を縮めたいようだな?」

 

―――――前言撤回…物凄く怒っていた。

気が付くと中尉の手には、魔力刃を発生させた剣のデバイスがいつの間にか握られ、ケイン曹長の首に当てられている。

いつ抜かれたのか…いや、それよりも驚いたのは中尉から発せられる尋常じゃない殺気…。

殺傷設定なのか、曹長の首からうっすらと血が流れている。それを見ておどろく俺たちを一蹴すると中尉は更に言葉を紡ぐ。

 

「…ふっ、冗談だ。」

 

―――そう言って中尉はデバイスはおろしたが、言葉はまだ続いている。

 

「将校相手にそのクソ態度とは気に入った。そうだな、そんなクソ度胸を持つ貴様を、最前線への旅に招待してやろう。感謝しろ?敵と好きなだけフ○ックできるぞ?おまけにトリガーハッピーなら大好物の…皆殺し(オールキル)と血風呂(ブラッドバス)もセットで付いてくるんだからな…」

「…………」

 

 

無表情で淡々と言う中尉に曹長は呆気にとられて声も出せない。

気持ちはわかる。他の連中も唖然として声も出せない。

…勿論俺もな。

 

「なんだ?随分おとなしいな曹長?うれしくて声も出ないか?生憎俺は男だが、そんなに“溜まってる”なら…別のことで発散させてやろうか?」

 

そう言うと、白い宝石のついたブレスレットに手を当てた……デバイスか?

 

「セットアップ」

『了解』

 

中尉が呟くと、機械的な音声と共に全身鎧のようなおかしなジャケットが展開され、その身を包み込んだ。

中尉は頭からヘルメットを外して此方をみる。手にはさっきの剣型デバイスが握られていた。

 

「なぁ…どうだ曹長?」

そして静かに…そう告げた…まるで死の宣告のように…感情をまったく乗せない声で。

同じく手に持ったデバイスを曹長に向けた中尉は、酷薄な笑みが浮かべている。

 

「――っ中尉!!」

 

流石にヤバいと感じ、思わず声を出しちまった!

曹長も冷や汗流しながら念話で話が違うって言ってきている。

だが、それは俺が言いたい―――というかこんな7歳児なんていてたまるかッ!!

アレは子供の言うことじゃない――というかラーダー夫妻…子供にどんな教育してんだ?

 

俺達にざわざわと動揺が広がっていく。

それを見た中尉はフッと狡猾な笑みを浮かべていた。

 

「…冗談だ。少尉…今後の予定を言え!さっさと前線にいくぞ!我々はごくつぶしでは無いのだからな」

 

 

―――――そこまで言われて俺は我に返る。

 

 

「は!一週間後にエリアBの哨戒任務が入っています。」

「そうかわかった。では我が隊はこれより慣熟訓練を開始する。

各員一時間後に演習場に集合。準備を始めろ」

 

これまでの事に大半の隊員がフリーズをおこしている。

ソレを見た中尉は大きくは無いものの、良く響く声で―――――

 

「……何をしている?今すぐだ」

 

―――――そう発破をかけてきた。

 

「「りょ、了解!!」」

 

凛としたその声に反応していっせいに動きだした俺たち…しかし、これでよかったのかなぁ?

まっしばらくは様子見だな。只者じゃ無い事は十二分に見せつけられたからなぁ。

いきなりの訓練、ワタワタした空気が漂う中、俺達の隊…レッドクリフ隊はどこか不安な感じで準備を始めたのであった。

 

Sideフェン

 

ははは超~こぇ~!

着任早々、いきなり紹介をやらされたと思ったら筋骨隆々なおっさんが反発してきた。

こえぇ~!なにあの腕?なに食ったらあんな象の首もへし折れます的な腕になんの?

 

流石に上官に手はださねぇみたいだが舐められてんなァ~俺。

まァ~こんなガキに指揮されるなんて癪だよな……俺ならゴメンだ。

 

でもなぁ、俺だって伊達に(転生して)生きてねぇ~ゼ!

中身は大人だから相手をイビルやり方だってめっちゃくちゃ詳しいぜ!

さぁアノ訓練の時の言葉(暴言)を思い出せ…ワイズ教官…俺に…力をッ!!!

 

 

 

―――――願いが聞き届けられたのか思いのほか上手くいった。

 

 

 

慣熟訓練を終え、この隊の性格も把握した…後は始めての任務だ。

まぁ初日にいきなり敵さんに遭遇するなんていうのは、そうそう起こらないとおもうから気楽にいくべ。

………一応保険として、毎回敵さんの偵察部隊が来るルートは外しておくか…死にたくないし。

 

 

***

 

 

―――1週間後、エリアB・廃棄都市――

 

 

 

 

敵なんて出無い―――――そう思っていた時期が、僕にもありました。

 

『(ヤード軍曹の分隊が12km先にアンノウン反応を確認)』

『(衛星リンク照会…………出た、恐らく敵の偵察部隊です。どうしましょうか…隊長?)』

「(……殲滅命令が来たよ。さっそく仕事だお前ら…さっさと倒すぞ)」

 

つーか、いきなりの実戦かよ…来る時に見た奴さん達の偵察ルートから大きく外れた地区なのに…

なんでまた俺が居る時に限ってこんなとこに来るかな?

 

「(敵の規模は?)」

『(偵察部隊ですから、5~6人程度の筈です。ヤード軍曹の報告では7人とやや多めですが…)』

「(ヤードの分隊はそのまま監視を続行、他の分隊も展開急げ)」

『『『(了解)』』』

 

ふぅ、一応指示は出せたな…一応ちゃんとした軍人さん達だ。

上官の命令にはちゃんと従ってくれる。

――――内心で何を思っているのかは解らないが……止めよう無駄な思考は命取りになる。

 

『(敵、警戒ライン突破、こちらには気付いてはいません)』

「(了解、他の連中の準備が整うまで待機せよ)」

 

ちなみに今回の哨戒任務で俺は隊を3つに分けて、哨戒を行っていた。

一つは俺と副官であるジェニス少尉の居るA分隊で、二つ目は先ほど俺をバカにしていたケイン曹長率いるB分隊。

で、最後についさっき敵の偵察部隊を見つけてくれたのが、ヤード軍曹率いるC分隊って訳だ。

 

エリヤBはなかなか広かったから、隊を分けて哨戒任務にあたってたんだが……

まさかワザと警戒ルートからハズれた事が裏目に出るなんて……鬱だ。

 

『(―――配置完了)』

「(ん…了解…封時結界・強装結界同時展開…敵を閉じ込めろ)」

『(了解)』

 

3か所を基点とした強大な結界が、敵の部隊を包み込む。

退路を塞ぐと同時に、味方への通信を妨害するための措置だ。

このクラスの結界を解除する為には、SSランクの砲撃でも無いと突破は難しい。

……レアスキル持ちならば話は別だけどね。

 

「(結界魔導師は結界を維持、残りの連中は結界内に入り敵部隊を殲滅するぞ!)」

『『『(了解ッ!)』』』

 

たった7人の偵察部隊相手に20名近く投入させるのはいささかアレな気もする。

だが、もしも敵さんが偵察部隊などでは無く、かく乱を目的とした少数先鋭部隊だった場合の為の措置だ。

 

この世界の魔導師のランクは一つ上がるだけで、その下のランクの魔導師5人分くらいだしな。

ウチの部隊の書類に記載された平均魔導師ランクはAAランク…。

もし敵さんが平均AAA以上なら、マジで全滅の可能性があったり……怖。

そんな事を考えつつ、俺も封時結界の中に突入した。

 

***

 

結界に入りこむと、待ち伏せでもしていたのか、B分隊の突入した辺りから火の手が上がる。

 

『アクセル・シュートッ!』

≪カッ―――――ドドド――ンッ!!≫

『(効果確認―――敵は散開した模様、各員注意を)』

 

故意なのか無作為なのか……

恐らく後者だとは思うが、B分隊からの反撃を受けた7人がそれぞれバラバラに逃げ始めた。

コレはどういう事だろうか?自分の力に自信があるのだとでも言うのだろうか?

だがどっちにしても―――

 

「―――殲滅する事に…変りない」

「…隊長?」

「…何でも無い…各員周辺を警戒」

 

例え今回…初めて人を殺める事になろうとも…な。

 

 

 

 

 

――――作戦開始から20分経過、どうやら敵さん達の魔導師ランクは高くは無い。

 

だがそれを補ってあまりある程の経験を積んでいるベテランの部隊のようだ。

こちらの策敵を上手い事かわしている。

 

今の所こちらに損害は無いが時間がたてばたつほどこっちが不利か………。

どうしよう、まさかココまでしぶといとは思わなかったぜ。

 

「ヴィズ…反応は?」

『有りません』

 

ヴィズのセンサーにも掛からない…か。正直お手上げだな。

ココは廃棄された都市だからなぁ~遮蔽物はギョウサンある訳で…。

 

『(A分隊接敵!奇襲されました!怪我人はありません)』

 

―――――いきなりかよッ!!

 

「(後退しつつ敵の強さを見ろ…体制を立て直せ)」

『(了解ッ!―――ッ速い!こちらA分隊ッ!敵2人がA分隊の方に向かったッ!迎撃を!)』

 

しかもコッチにキターーーー!!!!!

 

「全員聞いたな?距離が600になったら攻撃する!射撃魔法準備!」

 

通信を聞いたA分隊の面々はそれぞれデバイスを立ち上げ、攻撃魔法陣を展開する。

俺もヴィズのマシンガン形態であるアルアッソーの中に、術式レールブラスターを走らせいつでも撃てるよう準備した。

 

『距離2000…1800っち、速い…1600』

 

ドンドン近づいてくる敵さん、ヴィズのHUD上に表示されているレーダー表示には光点が二つ、こちらに向かっているのが確認できた。

 

『距離1400…1200…1000…』

 

―――――まだか…まだなのか?物凄く落ち付かないぜ…。

 

『800…600』

「発射しろッ!!」

 

俺達が撃った魔力弾は弾幕となり、向かって来る敵に迫ったが、その全てが回避された。

それどころか、敵のうち一人はあろうことか俺に狙いを絞って突撃してきた!!

 

「死ねぇぇぇーー!!!!!」

「くッ…キーンセイバー」

『キーンセイバー』

 

俺の魔力光と同じ白い魔力の刃が双剣状に変形したヴィズから伸び、敵の魔力刃を受けとめた。

受けとめた刃を弾いて、斬りかかろうと思ったが、あろうことか再度突進され、鍔迫り合いとなってしまった。

 

その所為で相手の顔がよく見える……若い、俺よか3歳ほど上の10歳くらいだろうか?

恐らくOCUでもこっちと同じ理由で子共が前線に送られているんだろう……辛いな。

俺の思考の一部がややずれた所為で力が少し減ったので押し切られそうになる。

 

必死に相手の魔力刃を押し返す為に、俺は余計な事を考えていた思考を中断させた。

目の前の相手からは、膨大な殺気が放たれており、どうやらUSNをかなり敵視している様だ。

鍔迫り合いの所為で俺が敵に近すぎる為、フレンドリーファイアを警戒してか味方からの援護射撃も出せない。

 

「USNのクソ野郎どもがぁ!!」

「……」

 

くそっ!どうする?なるべくなら殺したくない………って何バカ考えてんだ俺は?

 

「うらぁぁぁ!!」

「ぐ…う…あぁ」

 

ココは……ココは、戦場だぞ!?殺さなきゃ殺されるんだッ!!

 

「……ぁぁぁ」

「クソッ!喰らいやがれッ!エンドストライク!」

 

ガチャンという音、目の前の敵兵の腕に装着されたパイルバンカーから魔力で出来た杭が現れた。

かなりの魔力が収束している…当れば幾ら重装甲のヴィズでも、貫通させられる可能性が高い。

当る事は―――――負けだ。

 

「ぁぁぁ…はぁぁぁ!!!」

 

―――――俺はその瞬間、魔力刃を引いた。

 

「な!?」

 

―――――体勢が崩れる敵兵…俺は覚悟を決めて…

 

「ヤッ!」

≪ズシャ…≫

「あ、あ?……おふッ!(ビチャ)」

 

―――――魔力刃を…振り抜いた。

 

俺の振った魔力刃は、敵さんのわき腹を切裂いた……帰り血が俺の身体に降りかかる。

初めて人を斬った…初めて人を自分の意志で…傷つけた。

思っていたよりもあっさりと人の身体は斬れた……。

だが、その感触は腕から離れようとはしなかった。

怖いとか恐ろしいとかよりも――――気持ち悪い。クソ…胃の中身…戻しそうだ。

 

「ッ…敵一人を撃破…各員引き続き戦闘を続行しろ」

「「「り、了解」」」

 

相手はあっさりと倒れ伏し、俺の足もとに血の海を作って倒れている。

ほんの一瞬の攻防…だがそれだけだ。俺が人の命を奪った…初めての瞬間……。

解ってはいた…魔法の力は人を殺せるって事…だけど…だけど……クソッ!

俺は頭を振り、意識を戦闘に向ける―――そうしなきゃ…耐えられん。

 

「(各員…殲滅を急げ!)」

『『『(了解)』』』

 

フルフェイス型のマスクが付いていてくれて助かった……今、きっと俺の顔……見れたもんじゃないだろうから……畜生。

 

…………………

 

………………

 

……………

 

sideジェニス少尉

 

 

――――無事作戦は終了した。敵は全滅、こちらは無傷。戦果としては上々だ。

だが作戦を指揮した中尉はいま此処にはいない。

基地に帰るまで全く顔色も変えず自然体でいた中尉は、現在部屋で休んでいる。

 

それもそうだ、聞くところによると実戦は今日が初めて…。

つまり初めて人を殺したのだから…歳は7歳なんだがな。

 

優秀な軍人が隊長になったと軍人として喜ぶべきであり…

あんな子供が優秀な軍人になってしまったと人として哀しむべきだと思う。

 

 

―――――で、俺はあの後、一応報告の為に中尉の部屋に向かった。

 

 

一応副官である以上、今回の件の報告書作成はしなけりゃいけないしな。

正直、今あの小さな隊長の元に向かうのは、あんまし気乗りがしないがコレもお仕事なのよね。

………そう思って部屋の前までいくと、吐いている音が漏れて聞こえてきた。

 

『うぅぅ…あぁぁ…』

 

そして次は嗚咽の声…部屋に戻って緊張が解けた所為か…思えばよく今まで持ったもんだ。

その精神力は感嘆にあたいする…部下を不安がらせないよう、自身はいつも通りを貫いたんだろう。

だが中尉はまだ7歳なんだ…心に傷を追っても不思議じゃねぇ。

 

『ぁぁぁ…ヒク…ぁぁ…』

 

時折聞こえる声はなんとも弱弱しい。

俺たちはナンちゅうもんをあの小さな背中に背負わせちまったんだろうか…。

 

『ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい』

 

今日みた中尉の姿は尊敬に値する。的確に指示を出し、作戦地域から帰還する時の殿もやっていた。

だが、今の姿はどうだ?年相応の……小さな子供じゃないか……。

やってはいけない事をして、後悔して泣き崩れている……子供じゃないか……。

 

『…ゆるして…くだ…さ…い』

 

もう、あの子の心は壊れているのかも……いや壊れているのだろう……

人を殺してしまった人間は必ずどこかが壊れる…。

 

俺は報告書の件は後回しにする事にして、中尉の部屋から離れた。

こう言った時は下手に声をかけない方が良いからな。

それに俺達がどうこう言おうが、すでにフェン中尉は隊長なのだ。

この決定は覆されることは無い…功績も出してしまったしな。

 

 

だが、だからこそ…だからこそだ…せめてあの小さな背中を守ってやろうと俺はおもった。

せめてコレ以上、大人の都合で壊れない様に…。

 

 

 

 

 

 

「まさか…こいつらがねぇ。」

 

 

 

 

―――転生か?第7話―――

 

 

 

 

やぁ、みんな!毎度お馴染みフェンくんだ。あの初めて人を殺めた初任務から既に1ヶ月たったぜい。

流石に人を殺したのは辛かった…あの時は部屋に戻った瞬間にトイレに直行してリバースしちまったからな。

ヴィズが励ましてくれなかったらPTSDになってたかも知んない…色んな意味で危なかったぜい。

 

別に人殺しに慣れたい訳じゃないが……こんなご時世だしね。

あん時も後で捕虜にすればよかったとか思ったけど、相手も殺す気で来ていたからなぁ…。

初めての実戦で手加減とかなんて出来るほど、俺は強く無いしね。

 

 

まぁ暗い話は置いておこう――――あの後もすぐに任務が入って、俺たちは出撃していった。

 

 

最初は小隊の連中ともギクシャクしてたんだが、俺が率先して任務を遂行して段々と打ち解けた。

意外なことにジェニス少尉がよく俺のサポートをするようになったんだ。なんでだろ?

特に何か言った訳でも無いのだが……はて?

 

で、俺はいま部屋にて書類整理に追われてる。隊長ってのは事務作業も給料のうちだからな。

ウチのところは優秀な連中が多いのか、他のところに比べたら少ないほうらしいが…多い。

 

「はぁ、7歳児にやらせる量じゃないな…」

『マスター、お気を確かに…』

「まぁまぁそう腐らずに中尉、俺たちも手伝いますから。」

「そうそう」

「…と言いつつ、ソファーでくつろいでる奴等に言われたくは無いな…」

 

何でだか知らんが、俺の部屋はいつの間にか小隊連中がたむろするところになっちまった。

まぁよく書類整理を手伝って貰えるから助かっているけどな。

 

≪ぷるるるる……≫

 

―――さて、みんなで黙々と書類整理をしていると、備え付けの内線が鳴った。

 

「…はい、こちらフェン」

『中尉、司令部からの連絡で司令に呼ばれています。至急、司令室に向かってください』

「了解した。」

 

≪ガチャ!≫

 

「司令が何の用ですかねぇ?」

聞えていたのかジェニス少尉が質問してきた。

 

「さぁな、厄介ごとじゃなきゃいいが…」

この俺の呟きは、後にいろんな意味であたることになった。

 

 

とりあえず司令室に行くとするか…

 

 

***

 

――司令室――

 

≪こんこん≫

「だれだ?」

「レッドクリフ隊、隊長…ラーダー中尉です。」

「入れ。」

 

―――中に入る俺、早いとこ書類を整理したい為、本題を聞くことにした。

 

「それで…なにかあったのですか?」

「なに、大した事じゃない。上からの命令が届いてな?この辺に次元犯罪者が逃げ込んだらしい」

「はぁ…次元犯罪者ですか?ソレは管理局の管轄では?」

「そう。あいつ等の管轄だ。だがどうにも捕まえられなくて、何とか捕縛したい管理局が軍に泣きついた。」

 

司令は皮肉交じりに笑いながらそう言うと、俺に書類の入ったファイルを手渡した。

 

「…それで?」

「それで…だ。管理局の連中と合同で次元犯罪者を捕まえるために、君の部隊にお鉢が回った―――というわけだ」

「了解…我が隊は管理局の応援に向かいます」

「……応援と言ってもアレだ?正直わが軍はこの件についてはあまり好意的では無い。まぁ舐められない様に気をつけてくれ」

「了解」

 

 

アッサリと引き受け、俺は敬礼をすると司令の部屋を出た……しかし、管理局ねぇ?

まぁ連中ウチの国に技術協力もしてるから、軍も協力せざるをえないんだろうなぁ…。

しかも、二日後に現地にて合流…あっそのまえに書類かたづけなきゃ…鬱だ。

 

 

***

 

 

――二日後、合流地点――

 

 

合流地点にて執務官と武装局員達をまつ、今回は新しく入れたデバイスの兵装システムのテストも兼ねている。

ふふふ、今度のはすげぇぞ~相手が敵だから思いっきり可動テストするぞぉ~。

 

「…くくくく」

『マスター…』

―――ん?どうした?

 

『顔に出てます。皆さん引いてますよ?』

顔に出てたか?そういや俺の周りに人がいない…みんな離れたところで怯えた顔してるし…

 

「た、隊長…今度は何作ったんですか?」

「…………………知りたいか?」

「っ!やめときます!」

 

ありゃりゃ、更にどん引きさせちまった。こないだ実験したとき隊舎吹き飛ばしそうになったアレが原因かな?

まぁ、俺がそんなコト考えていると、合流時間丁度に転送魔法陣が展開されて、管理局の連中が転送されてきた。

――――挨拶でもしとくか。とりあえず近くのヤツに話しかける。

 

「…代表の方は?」

 

―――――と、その時、連中の後ろから代表と思われるヤツが出てきた。

 

「次元航行艦イリス所属、ジェノン・トーラス執務官だ。そちらの将校さんはどちらにいるかな?」

 

へー、アレが管理局の執務官かぁ…うん、かなり強いね、あの執務官。

やっぱりエリートなんだろうなぁ…だって全然隙が見当たらないんだもん。

 

「陸軍第7機動魔導師部隊“レッドクリフ”隊長フェン・ラーダー中尉だ。

今回は宜しく頼む…ウチの連中はつぶしが利くので使ってくれ」

「へ?―――あ、ああこちらこそ!」

 

おーおー、目見開いて驚いてるわ。まさか7歳児が隊長で社交辞令を言うなんて思わんだろう。

トーラス執務官以外の局員も唖然としてやがる。ウチの連中は笑ってやがる……うん、後で〆よ!

とりあえず挨拶は済ませたから次は――――

 

「では早速…敵の情報を確認したい…後、敬語は結構だ…背筋がかゆくなる」

うん、相変わらず感情がこもらんなぁ、俺の声。顔も見事な無表情。

 

「…解った…では其方のデバイスに送る」

 

―――――執務官の持つ、管理局標準装備型ストレージデバイスからデータが届く、えーと何々?

 

犯人は複数で廃棄された基地に潜伏。しかも質量兵器搭載の無人兵器を、基地周辺に展開。

かなり大量に…確認できたのだけで雄に500機はある……というか、どうやって集めたんだろう?

 

それと無人機の搭載火器は、機関砲とミサイル位なもんで魔法対応装備は確認できず…か…。

どうやら旧式ばっかみたいだな…でも密集してやがる―――で中々近づけないっと…。

 

あー確かに管理局には荷が思いわ。こいつらには非殺傷設定ちゅう括りがあるしね。

俺は多層式の多重プロテクションがあるから平気だけど、普通の魔導師なら辛いわ。

 

で、肝心の主犯のお名前はっと――モーガン・ベルナルド――っておいおいマジでか!?

ちょい待ちちょい待ち!フロミ成分のある世界だって解ってたけど…いや待て早合点はいけない。

同姓同名の別人の可能性もある―――――出来れば別人でいてくれ頼むから。

 

 

――――――あっ!この後どうするか聞かないと。 

 

 

「情報は確認した…そちら側の作戦は?」

「連中の方が敵の数が多い、だから別働隊を用いて陽動をかけ敵を引き離し、

その隙に機動力のある空戦魔導師が基地内部に侵入、犯罪者を確保する」

「隊長、どうしますか?」

「……」

 

うーむ、どうしようか?こちらとしては、派手に殲滅戦仕掛けても良いんだが…。

とりあえずジェノン執務官に視線を送る…あっ目逸らしやがった。感じ悪いな。

管理局としては犯罪者だとしても無傷で捕らえたいだろうから、ここは顔を立ててやるか…。

 

―――――新式兵装デバイスのテストもしたいしな。

 

「執務官…一つ提案があるのだが?」

「何でしょうか?ラーダー隊長?」

 

俺はジェノン執務官に、なるべく周りにも聞こえるよう響く声で話しかけた。

 

「何シンプルな作戦だ…俺が無人兵器郡に突貫して殲滅し道を開く」

「な!?」

 

俺の言葉に目を見開くジェノン執務官。だが俺は気にせず言葉を紡ぐ。

 

「道ができたら突入して連中を捕らえて欲しいのだが…できるか?」

「なっ単騎でやるのか?!無茶だ!敵が多すぎるッ!

せめて何人かで陽動をして相手の戦力を分散させないと…」

 

ふーむ、やはり反対されたか…俺としては密集されてる今の方が楽なんだけどなァ…。

 

≪――ポンポン≫

ん、誰だ?肩を叩いたの…って何だジェニスか。

 

「大丈夫ですよ。こんなのウチの隊長にしか出来ないですから。ねぇ隊長?」

ジェニス…それは聞きようによっては、任務マル投げに聞えるのだが…?

 

「しかし…」

「…大丈夫だ。この程度の敵ならストレス発散にしかならない…」

「!!」

 

――――うわっ!そんなに驚かんでもいいだろ?別にほんとなんだからさぁ…。

 

「それに俺にはこいつがいる…ヴィズ」

『Yes,マスター、セットアップ』

 

俺は管理局の連中の前で装甲型バリヤジャケット…通称BA(バリヤアーマー)を展開させて纏う。

このヴィズの姿を、もう見慣れているウチの連中は別に驚かないが、管理局の連中はというと……驚いてる驚いてる!

 

「…俺のデバイスは強襲制圧と突破力に特化している。」

「まぁ見ていてくださいよ。ウチの隊長、最近書類仕事でストレス溜まってるんで…」

 

こら!ジェニス!まるでそれじゃ俺がバトルジャンキーみたいじゃないか!

ほら見ろ…クロノ引いてんじゃん。

 

――5分後――

 

すこし揉めたが最終的に俺の案で行くことになった為、部隊のコールサインをきめる。

俺たちの部隊はそのままのレッドクリフ、管理局はブルーレインと呼ぶことにした。

そして、作戦がはじまる―――――――と、その前に。

 

「…少尉」

「はい、」

「後でおぼえてろ?」

「!!?」

 

***

 

Sideジェノン・トーラス

 

僕たちは次元犯罪者を捕まえるために、この国の軍と協力して作戦を行うことになった。

ついでにこの国の有能な魔導師がいたら、勧誘もして来いと提督から言われてる。

で、合流地点に来たわけだが……何で目の前に子供がいる?こちらの代表者を捜しているみたいだが…伝令役か?

とりあえず、この部隊の隊長に合おうと思いこの子に話しかけてみた。

 

「次元航行艦イリス所属、ジェノン・トーラス執務官だ。そちらの将校さんはどちらにいるかな?」

 

すると、周りの連中の顔が妙に硬くなった。なんだ?

そのことに戸惑っていると、そいつらの視線は目の前の子供に集中している。まさか…

 

「陸軍第7機動魔導師部隊“レッドクリフ”隊長フェン・ラーダー中尉だ。

今回は宜しく頼む…ウチの連中はつぶしが利くので使ってくれ」

 

流石に驚いた…管理局も人手不足で就職に年齢制限が無いが、目の前の子供がこの屈強な男たちのトップにいて…

あまつさえ、子供が出すとは思えない程の気迫を放っていることに心底驚いた。

 

「へ?―――あ、ああこちらこそ!」

 

思わずそう声をだして答えた僕は悪くは無いと思う…連れて来た武装局員達も唖然としている。

そして目の前の彼の目はジッと僕たちを見つめてきた。まるで、心の奥まで見られているような感覚に陥る。

その後のことは余り覚えてないが、気が付けばどのように攻めるかの作戦を練っているところだったので急いで話に参加した。

 

彼が提案したのは、彼が単騎で攻め込み殲滅させるというもので、正直余りにも無謀に思えた。

たった一人で次元犯罪者の持つ戦力を相手取るだなんて、質の悪いジョークだと思ったくらいだ。

―――だが、彼の目は真剣そのもの。

 

つまりは本気で1人であの中に飛び込むと言うのだ。

だが、法の番人である執務官としては享受しにくい。

 

彼の部下は止めないのかと思い、彼の後にいた副官らしき男の方に視線を送るが、全く驚いていないどころか平然としている。

他の連中も同様だ。彼らはこの小さい隊長なら出来ると確信している。副官は彼の肩に手を乗せ、僕を説得してくるほどだ。

 

――――それでも了承しかねる僕に、彼は自分のバリヤジャケットを見せてくれた。

 

全身を機械的なフォルムの装甲に覆われたその姿は、あえて言うならロボットのように見える。

彼いわく強襲制圧に特化したデバイスだそうだ。

長いことミッドにいたせいなのかもしれないが、少なくとも僕はあんなデバイスは知らない。

 

結局最後は僕が折れて、彼の作戦で行くことになった。彼には一体どれほどの力があるのか知りたくなったのも理由だ。

何時でも援護できるようにはしておいたから、心配ない…そして全員が配置についたとき作戦は始まった。

 

 

 

「モーガンが居るってことはグレンもいるのかな?」

 

 

 

 

―――転生か?第8話―――

 

 

 

 

や!みんな愉快な転生者のフェンだよ!今回のミッションは敵の殲滅。

しかも相手は無人兵器…つまりは機械だから、全然心が痛まねぇ~ゼッ!!

という訳で、俺は嬉々としてローラーダッシュを使い、所定のポイントに移動していた。

 

「(こちらレッドクリフ1…作戦地域に入る)」

「(…ブルーレイン1了解)」

「(レッドクリフ2了解……隊長、存分にストレス発散をしてください)」

「(…ふっ了解した。)」

予定のポイントに到着し、俺はヴィズの新たな機能を起動させる。

 

「…いくぞヴィズ、“フォルム・ランチャー”バレル展開」

『Yes,“フォルム・ランチャー”マジックレール・バレル展開』

 

俺はヴィズを砲撃に特化したフォルムへと変える…魔力の粒子が長大の砲身を形作る。

格納領域にしまったおいた砲身を再構成して銃型のヴィズと合体させたのだ。

それによって巨大な砲身が、俺の肩のジョイント部分へと接続され、異様な迫力を放っている。

 

コレは一体何かというと、ヴィズは戦況に応じて、瞬時に各兵装部分を切り替えることで、各戦況に対応出来る。まぁ、ぶっちゃけ、フロントミッシ○ンのセットアップシステムのパクリなんだけどね?

で暫定的に、現在ヴィズには5つの兵装を、それぞれフォルムという名前であらかじめ登録してあるのだ。

 

―――――1つ目はフォルム・アサルト

 

普段はこのフォルムがデフォで、一番バランスに優れていて中距離戦で力を発揮する。

またバックパックのリペアは、強力な治癒魔法に魔力を上乗せで消費する。

だが、その代わり、消費魔力を増やしたことで、攻撃で破損したバリヤアーマーの回復。

更には例え腕が吹き飛んでも、吹き飛んだ腕が残ってさえいれば、回復が出来る術式を組み込んだ。

 

 

―――――2つ目はフォルム・ストライカー

 

アサルトと基本は変わらないが、名前の通り近距離戦に特化した形状。

で、手に持っているヴィズも銃型から双剣に変化する。

その際、魔力刃を展開する魔法キーンセイバーを使い、近接戦闘ではかなりの力を発揮できる。

また、バリアアーマーに回す魔力を少し上乗せする事で、防御力のUPにもつながっていたりする。

 

 

―――――3つ目はフォルム・ガンナー

 

遠距離戦に特化した形状で、兵装デバイスとして組み込んだM82A1(こいつだけを単独で起動させるのも可能)をメインアームにして戦う。

 

 

―――――4つ目はフォルム・アサルトⅡ

 

基本はアサルトだがバックパックをリペアパックから、フライアーフィンの魔法を取り込んで作ったジェットパックに切り替える。

ジョットパックをブースターとして稼働させることで、直線での高速移動を可能にさせた。

直線の加速はわずか数秒でトップに入り、最大スピードは空中において音速を軽く超える。

ただ相変わらず細かい機動は取れない為、一撃離脱…もしくは強襲使用である。

 

 

―――――そして今回新しくいれた兵装が、5つ目のフォルム・ランチャー

 

広範囲攻撃魔法「ガルヴァドス」と収束砲撃魔法「グロム」を使う完全な超長距離・殲滅戦特化型。

ガルヴァドスは両肩に形成した魔力スフィアから射出され広範囲を殲滅出来る。

グロムの方は格納しておいたバズーカ型の砲身に、ヴィスを合体させた事で高威力の砲撃が可能だ。

ちなみに、そのバズーカの形状のイメージは所謂ビームバズーカだ。

 

このフォルムチェンジは全部尋常じゃない程魔力を消費するのだが、高魔力量、高魔力精製能力、レアスキルの三拍子がそろった俺なら問題なく使用できる。

まぁ暫定的に造ったモンだし?正直一々フォルム変えながら戦うの面倒だしなぁ。

その内変えるかも知れんがね―――と、思考がずれたな。

 

 

「グロム、スタンバイ」

『術式展開、チャージ終了まであと5秒』

 

砲身内に環状魔法陣が展開され魔力が収束・圧縮されていき、魔力圧力が高まっていく。

その間に俺は、砲身を敵のいる方角にむけ、サーチャーで敵のおおよその位置を割り出す。

そして敵を示す光点がメット内のHUDに表示された…距離は…およそ3km、いけるか…な?

 

『チャージ完了』

「ターゲットインサイト…レッドクリフ1、フォックス4」

『ファイア』

 

術式を展開し、魔力球が臨海に達したところで、俺は最大出力でグロムを発射した。

 

≪ギュォォォ―――ッ!!!!!≫

超長距離からの物理破壊をともなう白い極光は、ほぼ減衰する事無く射線上の敵を全て巻き込み、対物破壊設定の魔法は、敵を粒子に変換していく。

――――そして表示された光点の内、4分の1を消滅させた。

 

≪ガキンッ!パシューーー≫

『砲身の強制冷却中、冷却完了まで40秒』

 

ヴィズは冷却装置を全開にして、水蒸気と余剰魔力を噴出し、砲身の冷却を行っている。

しかし、すげー威力だな…なのはのSRBにも負けないんじゃないか?燃費が凄い悪いけどな。

M82A1の箱型弾槽魔力チェンバーMTS-40の中の魔力…カートリッジ40発分が一回で消えた。

今後の課題は省エネ化か、図式を組むのが面倒そうだなぁ…。

 

「ターゲットスプラッシュ…ガルヴァドス起動」

『Yes,』

 

――――――お次は肩に乗っているロケットランチャー型スフィア…ガルヴァドスを起動する。

 

「…レッドクリフ1、フォックス5」

『フルオート・ファイア』

 

こちらは魔力弾が、予め装填されているので特に何かすることなく、そのまま発射する

 

≪カカカカカカカカッ!―――――――≫

 

高濃度に圧縮された魔力弾が肩に浮かべたスフィアから連続で発射される。

高魔力弾頭は放物線を描き敵の頭上へと落下していく。

 

≪ドドドドドドドーーーンッ!!!≫

 

着弾と同時に魔力弾の外殻が崩壊し、ソレと共に爆発の術式が発動。

一瞬にして辺り一面に、高濃度の魔力が伴ったエネルギーが解放され爆発する。

広範囲に降りそそいだ為、連鎖的に敵を巻き込んで、辺りは火の海と化した。

 

う~ん、コレもやっぱり燃費が悪い、それに誘導が出来ないから初撃にしか使えん。

高速戦闘用に弾速をもっと早くしたヤツも作るかな?いや拡散掃射型も捨てがたい。

むしろ、地雷みたいに設置できるようにするか?ミラージュハイド付きで。

 

『残敵を計測……残り約150』

 

とりあえず敵の数は当初の500から150近くまで数を減らせる事に成功っと…

さてと…一丁踊りに行きますかね!

 

「…フォルム・アサルトⅡ起動…エリアサーチ実行、HUDに生き残りを表示」

『Yes,マスター』

 

メット内のHUDに生き残った無人機が光点で表示される。

とりあえず一番近いやつはっと…11時の方向、距離2km先か…。

 

「砲身格納」

『格納します』

 

俺はかなり大きなロングバレルの砲身を持つバズーカを、格納領域に戻し身軽になる。

同時にジェットパックを展開、余剰魔力で現れた光の翼をともない敵に真っ直ぐに突撃した。

ちなみに飛んではいない、ローラーダッシュの加速装置としてジェットパックを使様している。

スピードはやや落ちるが、その代わりにかなり高機動な動きが可能になるからだ。

 

――――そして、突撃を開始してから数分で、敵さんの生き残りを視認した。

 

『残存部隊確認、飛行型5機、人型10機、大型1』

「ターゲットエンゲージ…交戦する…レッドクリフ1、フォックス2」

『ファイア』

 

≪バララララッ!!!≫

 

ヴィズから放たれる超高速の魔力弾が敵を蜂の巣に変えていく…く~!快感!

脚部のローラーが唸り、舞うような機動で敵の攻撃を避けながらヴィズを撃ちまくる。

撃つ毎に、HUDの魔力弾の推定残弾表示が一瞬で十桁位消えていく。

 

『大型無人機接近、注意を』

 

――――と…デカ物が来たみたいだな。

 

「ターゲットインサイト…レールブラスターフォックス2」

『ファイア』

≪バララララッ――――ガガガガガガンッ!!≫

『高出力光波シールドを確認、命中弾ゼロ』

 

どうやら防御に特化した奴みたいだな?AMF(アンチ・マギリンク・フィールド)…

とは違うみたいだけど、かなり分厚い対魔法用のシールドでも持っている。

 

「M82A1…起動、フォックス3」

『ファイア』

≪ドガギン――――≫

『敵に損傷なし』

 

こっちの魔力弾が貫通しない……

弾を一箇所に集中させれば、簡単に貫通できるが、弾がもったいねぇな。

 

『敵増援部隊接近、数およそ30機。ミサイルの発射を確認、着弾まで後140秒』

 

攻撃が効かない事に少し驚いて、俺の一瞬動きが止まった隙を突いて弾幕を張り始めた。

ふ~む中々の状況判断だ。優秀なAI積んでんのか?戦術データリンクも早いしな。

どうやら奴さん、こちらが近づけないようにするつもりみたいだが…甘いな!!

 

「ヴィズ、フォルム・ストライカー、近接攻撃魔法術式キーンセイバー起動」

『フォルム・ストライカー、キーンセイバー起動、魔力刃展開します』

 

双剣型に変化したヴィズを握り締め、キーンセイバーを起動すると白い魔力刃が形成される。

魔力刃形成を確認後、俺はジェットパックをふかし、大型機の懐に跳び込んだ。

敵増援の支援砲撃に多少被弾したが、俺の多層プロテクションを打ち抜ける程の攻撃は無い…。

 

「…はぁぁぁ!!」

≪ガンッ!――パキンッ!!―――≫

 

キーンセイバーの出力を物理破壊に設定して、高出力モードでシールドに突っ込んだ。

過負荷を受けてガラスの割れる様な音と共に敵無人機にシールドは崩壊する。

 

予想外の出来事に、無人機のAIが一瞬のディレイをおこした隙に、ヴィズを真横に構えた俺は、スピードはそのままにすれ違い様に大型機をぶった切った!

俺は別に斬鉄なんて業を持ってるわけじゃない。ただの高い魔力に任せた力押し…。

それでも母上と…母上の部隊の連中との模擬戦、それにこれまでの戦いの中で編み出したモンだ!

 

 

 

―――――――戦で使える剣は…戦場で覚えた剣よ!

 

 

 

≪バァーーンッ!!!!≫

「ターゲットスプラッシュ…」

『熱量増大を探知、追加砲撃来ます。』

 

――――――迫ってくる敵の砲撃をジグザグで避けつつも接近、ヴィズを振り被り…斬る。

 

振り下ろして終りじゃない。

勢いを円を描くように操作し、スピードを落とさないで次の敵へ向かう。

たった一回のすれ違い様に10機の光点が消える…まさに敵がいなくなるまで続くロンド…

 

――――――ソフィア教官との模擬戦で編み出した戦闘機動…その名も“限界機動・戦(いくさ)神楽(かぐら)”

 

味方には勝利を…敵には死を運ぶ戦場の神楽を踊り続け、HUD内の光点はどんどん消えていく。

返り血の如く飛び散ったオイルが、俺の装甲を違う色に染め上げていった。

 

『敵基地からの敵増援部隊の発進を確認、数およそ100機、

二手に別れ包囲する模様、敵射程距離まであと200秒』

 

―-―――おやおや、まだ残ってたか…そうでなきゃ面白くない。

 

『敵基地の砲台が稼働した模様、超長距離砲撃来ます。』

「砲撃回避後、右手の敵部隊に吶喊、撃破する…食い放題だ…」

『Yes、マスター、全部平らげてやりましょう。』

 

俺は敵に向かって翔ける…超長距離砲撃の何発かが、多層障壁を貫いたがバリアアーマーに阻まれて俺自身には損傷なし…いける。

 

「機械風情が…!」

 

そして作戦開始から10分後――――――

 

「お前で…最後だッ!!」

 

―――――――俺は全ての光点を撃破した。

 

「(…こちらレッドクリフ1、敵勢力の殲滅を終了した。後は頼む。)」

「(ブルーレイン1了解)」

 

念話で連絡を入れる。待機していた管理局の連中が基地内部に突入して行った。

ふむ、なかなか訓練された動きだな。隊員間の連携における隙が殆ど無いぜ

 

「(レッドクリフ2了解…ところで隊長どうでした?遊んだ感じは?)」

「(…ばれていたか。)」

「(ええ、何時もより時間かかってましたから)」

「(…ストレスの発散にはなった)」

「(そいつは良かったですねぇ)」

「(とりあえず、まだ作戦中だ。おしゃべりは後にするぞ…通信終り)」

「(了解!)」

 

とりあえず不足の事態が起こっても良いように、レアスキルで魔力回復に努めますかねぇ~。

俺の取り得はこのレアスキルの魔力回復にある。闇の書みたいに一瞬で回復とまではいかないが、それでも格段に早い。

常時起動してるから(強弱は出来るがON、OFFができない)戦闘中も回復して長時間の行動が可能なのだ!便利だねぇ~神経系は疲れるんだけどな。

 

――――さて、そろそろ制圧が終わるかなと思っていると、突然爆発音が聞えた。

 

「っ!報告」

「は!…モーガンを捕まえようとしたところ自爆した模様です。怪我人多数ですが死傷者は無しです。」

 

自爆しただと!?まさか複数のモーガン・ベルナルドがいるとか言わないよな?

名前が名前だし…

 

とりあえず、主犯死亡ではあるが負傷者を収容し、この作戦は終了した。

 

そして基地に戻った俺を待っていたのは、書類の山だった…そうだよ終わらなかったんだよ!

とりあえず逃げようとしているジェニスを捕まえ、また黙々と作業をすることになった俺であった。

……鬱だ……

 

 

 

 

「哀しいけど…これって戦争なのよね。」

 

 

 

 

 

―――妄想戦記 第12話―――

 

 

 

 

 

 

今俺は、セスル基地のブリーフィングルームにいる。

どうやら上の連中が大規模な反攻作戦をおこすらしい。

で、俺たちレッドクリフ隊以外にもこの基地にいる様々な部隊全員が集められているってわけだ。

 

でも書類整理の真っ最中の俺にとっては、気晴らしになる救いの手に見えたよ。

――――だってよ?こないだなんて書類の雪崩に埋まったんだぜ?

 

毎日全部片付けてんのに、次の日には同じ量の書類がまた積んである。

時間がループしてんじゃないかって思いたくなった。冗談ぬきで…。

 

 

「中尉、どんな作戦なんでしょうね?」

 

ジェニスが作戦について聞いてきた。無論俺も知らない。

 

「・・・さぁな、案外集団で休暇を取らせてもらえるかも知れんぞ?」

「それなら大歓迎なんですが…中尉、此処最近きな臭い噂があるのご存知ですか?」

 

―――うわさ?最近部屋に篭りっぱなしで人と話して無いから知らんぞ?

 

「うわさ?」

「はい、哨戒任務に行った連中から聞いたんですけどね。敵が新兵器を投入しているらしいんです。何でもシルエットは人型で、機械と言うより生物だとか…」

 

―――生物…生物兵器かな?いやだよタイラント的な何かが来たら。

 

「興味深いな…その哨戒任務に行った連中はナニを見たんだ?」

「分りません。交戦する前に相手が逃げたらしいです。レコーダーを回してなかったので、

公式な記録に残っていないため、上の奴らは錯覚だろうと言う事にしてるらしいです。」

 

ふむ、確かに見かけただけじゃ証拠にはならんな…

だが火の無いところに煙は起たないしな…なにかあるのかもしれん。

 

どんな作戦を行うのか聞いていない為、

こういった憶測も交え部隊の連中と喋っていると、

ブリーフィングルームにコーウェン准将が入ってきた。

 

どうやらブリーフィングが始まるらしい。

 

「諸君、楽にしてくれ。」

 

敬礼を解き、イスに座る俺らを見て、司令は言葉をつづけた。

 

「諸君も知っての通り、本日未明、合衆国軍第24軍中央司令部により反攻作戦『ヴァイエイト』が発令された。」

 

ヴォンという音と共に背後の大型ディスプレイが起動する。

 

「フリーダム市奪還を目的とする合衆国軍の大規模反攻作戦だ。なお、当作戦は天候等に左右されず決行される。諸君はその反攻作戦に先立ち、ある基地の制圧作戦を行ってもらう。この作戦は『インビジブル』呼称する…では概略を説明する。」

 

准将がそういうと背後の大型パネルに映像が映し出された。

映し出されたのは何かの施設のCGイメージによる概略図…感じからしてかなりの規模だ。

 

「本作戦の第一目的はニューヘルバと呼ばれているこの基地の無力化、

第二目的が可能な限りの敵施設破壊及び敵情報の収集である。」

 

周りから息を飲む音が聞えた――――まぁ理由はわかる。

反攻作戦については知っていたが、まさか別の作戦をこの時期にやるとは思わなかったからな。

 

「ニューヘルバは元々は我が軍の基地であったが、先の敵の侵攻作戦により放棄され、それを敵が占拠し利用している。またこの基地は位置的には今後の戦略的に大変重要になるものが保管されている。」

 

画面が切り替わり、基地の断面図が描かれた映像に変わる。こいつは…

 

「…見て分る通り、ニューヘルバは魔導師が戦場に登場する以前からある基地の1つであり、元々対空陣地を兼ねた高射砲郡が設置されていた。だが魔導師の登場により高射砲で高速で飛来する魔導師を捕らえる事はまず不可能だった為、後に解体され基地内に保管されることとなる。しかし、情報部の情報収集の結果、この高射砲郡を再度地上に設置しようとしている事が衛星からの情報により確認されたのだ。この高射砲の射程圏内には我が軍の侵攻ルートの7割が含まれており、陸戦魔導師が多い我が軍にとっては、のど元に突き付けられた死神の鎌である訳だ。」

 

確かにな…空戦魔導師に砲撃を当てる事は困難だろう。

だが地を張って進むしかない陸戦魔導師には、まさに死神の鎌だ。

 

このクラスの質量兵器を防げるのは、俺を含めて一部の将校クラスの人間だけだ。

一般兵クラスの魔導師に防げるもんじゃない。

 

魔導師の質の向上により、数のアドバンテージが無くなったなんて言うヤツがいるけど、

戦いはやっぱり数だよ!兄貴!

 

人がいなきゃ戦えないし、陣地の占領も出来ない。

大体、補給線を確保できる人数がいなきゃ戦争なんてできませんよ。

 

「この脅威を取り除く事により、フリーダム市に向かうルートと近隣三都市における防衛ラインの戦略的安定を更に強固なものとするのだ。――では次に作戦の概要を説明する。

作戦の第一段階は、第1空戦砲撃魔導師部隊《ヴァルキリーズ》と第4陸戦砲撃魔導師部隊《スルト》を中心とした混成部隊による超長距離砲撃が行われる。超長距離からの砲撃による指揮系統の撹乱が目的だ。

また同時に囮として、第3機甲魔導師部隊《サイクロプス》を基地近辺20kmにまで侵攻、敵の迎撃が開始されると共に、第5陸戦砲撃魔導師部隊《フレイア》の支援砲撃魔法による遠距離飽和攻撃を開始。

敵の二次迎撃の確認を合図に、《サイクロプス》は撤退戦に切り替え、以後敵をその場に釘付けにする。」

 

なるほど…高射砲台が完成する前に、此方から攻撃を仕掛ける事により、敵の注意を引き付ける。

基地の駐留部隊を迎撃にまわさせ、一見すると膠着状態になったと錯覚させるわけか…

しかし、結構大掛かりな作戦だ。この基地の防衛部隊の第2機甲魔導師部隊《ヘリアル》を残してほとんどが出撃なんてかなりの作戦だ。

 

「ここで作戦は第2段階へと移行する。第6強襲魔導師部隊《グリム》を第3機甲魔導師部隊《サイクロプス》とは違うアプローチからニューヘルバ基地へ侵攻させる。

それにより敵基地施設の防衛網及びレーダー施設等を破壊し更なる混乱を発生させる。

続いて、突入部隊として第7機動魔導師部隊《レッドクリフ》が、地下に設置された物資搬入用リニアラインに突入、中央集積場からメインシャフトに続くルートを進み、その際敵との交戦はほぼ無視し、メインシャフト内に突入する。」

 

パネルに表示されるメインシャフト…かなり広いみたいだな…

 

「第7機動魔導師部隊《レッドクリフ》がメインシャフトに到達したのを確認後、作戦は第3段階に移行する。第6強襲魔導師部隊《グリム》は第3機甲魔導師部隊《サイクロプス》と合流、敵に対し面制圧攻撃を行ってもらう。

その動きに呼応する形で、第7機動魔導師部隊《レッドクリフ》の諸君はメインシャフトから通じている基地中枢部に突入、基地最深部の反応炉を破壊し爆発物をセット、離脱してもらう。第7機動魔導師部隊の脱出をもって作戦完了とする。

なお作戦決行は一週間後、これよりセスル基地はコンディションイエローを発令する。任務に全力をもって当たれ、私からは以上だ。」

 

――――こいつは厄介な作戦だな。

 

第7機動魔導師部隊…つまりは俺たちの事だが…

俺たちがどれだけ早く基地中枢に突入できるかがこの作戦の鍵だ。

時間がかかれば、その分友軍に被害が出る。

戦線が維持できなくなれば、外の残存兵力がなだれ込んでこちらもボン!…か。

 

しかし、敵さんの大部分をおびき出すとはいえ、一部隊だけで内部制圧とは…

上の連中もひでぇ作戦考えやがる。

 

まぁ、今更命令には逆らえん。今の内にできる事をやって置くしかないな…

はぁ、また書類が増えそうだ…。

 

***

 

―――1週間後、野営基地――

 

「…今回の作戦で…我がレッドクリフ隊は突入部隊として、敵の懐に飛び込むことになる。」

 

ここは野営基地、作戦決行まであと一時間ほどだ。

我が部隊の任務は他の連中の陽動が成功するまで待機している。

 

「先に簡単に説明したが、確認の為もう一度小隊編成を確認する。俺と副官のジェニス少尉を含めた飛行魔法が使える九人はA分隊とする。そして先行する形で、メインシャフトへと向かう。

コールサインはレッドクリフ1~9とする」

「「了解!」」

 

メインシャフトは垂直の縦穴だ。最低限飛行魔法が使えないと突破に時間がかかる。

俺も飛ぶのは苦手だが、穴を降りるくらいはできる。

 

「次に、ケイン曹長を中心としたB分隊は俺たちが食い残した残敵を掃討しながら退路を確保して貰う。コールサインはレッドクリフ10~20とする。」

「「了解!」」

 

こいつらが一番辛いかも知れない、何せ動きが限定される屋内だ。

敵がわんさかいる基地内で退路を維持し続けるのは、至難の業だ。

 

「そして最後に、ヤード軍曹を中心としたC分隊は基地内にて、爆薬設置及び情報収集を行ってもらう。もし占領に失敗した場合は、我々が脱出に成功後に即座に爆薬を起動、基地を爆破する。

コールサインはレッドクリフ21~32とする。」

「「了解!」」

 

こいつらはいわゆる工作隊みたいな感じだ。

情報が得られれば良し、そうでなかったら徹底的に破壊してもらう。

「以上だ。なにか知りたい事はあるか?」

「「「…」」」

「…無いようだな…これより突入ポイントに向けて進軍する。各小隊はデバイスを起動、通信はチャンネル4にて行え、地獄の釜に突っ込むぞ。」

「「「Sir,Yes,Sir!!!」」」

 

 

さぁ、殺し合いの時間だ!生き残る為の闘いだ!!綺麗事などクソ喰らえ!!

くだらない倫理観など犬に食わせてしまえ!!!

立ち塞がる奴は死神だろうが何だろうが殲滅あるのみ!!!

始めよう、死に魅入られた者同士の宴を!!狂宴を!!!!

 

 

――――なんて事言えたらカッコ良いだろうけど、正直洒落にならない気がしたので自重した。

ヘルシング的な言いまわしは結構好きだけど…俺まだあそこまで狂って無いもんねぇ…。

一応、まだ“人間”の範疇のハズだよ……うん。

 

………………………

 

……………………

 

…………………

 

 

 

―――作戦開始より30分経過―――

 

 

 

『ターゲット、エンゲージ!!フォックス2!フォックス2!』

『ヴァルキリー1から各隊員へ、デバイスが焼きつくまで撃ち続けろ!敵を火達磨にしてやれ!』

『『『了解』』』

『HQから各部隊へ、敵基地から熱源感知、無人迎撃機部隊と推測!数およそ60!』

『サイクロプス1から全隊、食い放題だ!食い尽くすぞ!!』

『『『了解!』』』

『B小隊遅れるな!前衛魔導師のクソ度胸…ココで見せてみろ!!』

『サイクロプス9!ブレイク!ブレイク!』

『す、すげぇ数だ…』

『サイクロプス5!余所見をす……ザザ…』

『い、イヤダッ!死にたく…』

『なんとぉぉぉ!!』

『HQ!デカ物が出た!フレイアに支援砲撃要請!』

『こちらHQ、了解。つなぎの無人機隊が到着するまで持たせろ』

『ターゲットインレンジ!フォックス3!』

『敵熱量増大!敵砲撃来ます!』

『ギャァァァ…ブツ』

『クソッ!8と13が食われた!!支援はまだか!』

『フレイア支援砲撃開始!着弾………今!』

『敵無人迎撃部隊の6割撃破、残り17機、此方の無人機隊と戦闘に入った』

『敵基地内部魔力反応増大!敵迎撃魔導師隊確認!数は20…30?!尚も増員されてます!』

『くそ!サイクロプス1から全小隊へ敵を引き付けるぞ!Fラインまで後退する!』

『敵砲撃魔法きます!結界を!』

『HQよりグリムへ、第2段階に移行!!』

『グリム隊了解、突撃開始します!』

 

 

 

―――――グリムが動いた!

 

 

 

「全員聞いたな?俺たちも行くぞ。」

「ミラージュハイド起動、通信封鎖、レッドクリフ隊!出撃!」

 

***

 

――リニアライン、中央集積場――

 

俺は部下8人を引き連れて先行し…何とか中央集積場にたどり着いた。

今回、俺の速度についてこれるように、こいつ等には俺のローラーダッシュの簡易版と呼べる

Rギアというストレージを渡してある。形はぶっちゃけマッハキャリバーそのものだけどな。

 

「レッドクリフ1からHQへ、基地内部、中央集積場に到達…通信封鎖解除、誘導頼む。」

『HQ了解。レッドクリフ1、その先Bゲート付近に敵迎撃機集結を感知、数は60、交戦はなるべく避けろ。』

「レッドクリフ1了解。聞いたなお前ら…遅れるなよ?」

「「了解!」」

 

俺はローラーダッシュを駆使し、通路の壁を駆け巡る。重力制御魔法を使えば壁走りも簡単だ。

 

「ターゲットエンゲージ!」

「レッドクリフ1、フォックス2!」

 

目の前を塞ぐ無人機に向かってヴィズを掃射しながら突貫する。

 

「撃破確認は後まわしでいい…かまわず突撃しろ!」

「「了解」」

 

中央集積場は規模がデカイ為、無人機の溜まり場になっているらしく、うじゃうじゃ大量にいる。

だが、同士討ちを避けるために、基地内であまり火器の発砲ができないらしい。

格闘戦を行いたくても所詮は無人機…防御魔法を持っている魔導師相手では分が悪いだろう。

誤射を避ける為のAIの思考ルーチンが仇となったな。

 

「レッドクリフ3、ストレートキャノン!」

「レッドクリフ9、ストレートキャノン…」

「レッドクリフ4!ストレートッ!キャノンッ!!」

 

三乗の魔力砲が敵の屍を増やしていく…通路が狭いので被弾しやすいが、それは敵も同じだ。

俺たちは、通れるだけの道を明けるとそのまま突っ込んでいく。

後方から轟音が聞えてきた。どうやらB分隊も奮戦中みたいだな。

 

『300m先メインシャフト…隔壁が降りていきます!』

「ちっ!お前らそこで止まれ!ヴィズ、グロム起動、シークエンス・キャンセル」

『了解』

「フォックス4」

 

隔壁が降り切る前に、俺は発射シークエンスをキャンセルしたグロムを発射した。

普段のより3割程威力が低下しているが、何とか物理破壊でも隔壁をぶち破る強さはある。

放たれた魔力の極光により、目の前の隔壁が音を立てて吹き飛んだ。

 

「ぐぅ…A分隊続け」

「「了解」」

 

シークエンス・キャンセルは、リンカーコアと身体に負担がかかるが、今は休む訳にもいかない。

俺たちは任務を遂行する為、そのままメインシャフトに突入し、下に向かって飛び降りた。

 

しかしなぁ、自由落下の方が早いとはいえ、この感じは気持ちが悪い…。

飛ぶじゃなくて落ちるだから余計にさ…胃袋がよ?上に浮き上がる感じがするんだぜ。

まぁそれは置いておいて、俺はヘッドクォーターに通信を入れた。

一応予定ではこれで作戦は第三段階…基地破壊の為のフェイズへと移行する筈だ。

 

「レッドクリフ1からHQへ…メインシャフト内への侵入に成功した。」

『HQ了解――――全部隊に通達!作戦は第3段階に移行する。』

 

その通信を終えた直後。

 

『下方より敵反応多数!魔導師です!』 

「やっぱり、待ち伏せしてやがったか!隊長!!」

「アローフォーメーション。」

 

メインシャフトに侵入した俺達を倒す為に、敵さんも増員を送ってきたようだ。

俺はヴィズの防御魔法の出力を上げ、俺を先等にして他の連中が続く様にした。

こうすればそう簡単には流れ弾で死ぬことは無いだろう…多分。

 

「ヴィズ、多層プロテクション5層前面集中展開!」

『Yes,マスター、プロテクション集中展開』

 

序でに複数の障壁を展開したので、目の前に分厚い魔力の障壁が出来上がる。

通常の魔導師にこの障壁を破ることは難しい…出来るやつは白い悪魔さん位だと思いたいウン。

 

『敵防衛線突破、中枢区画まで後130秒…』

「隊長、あと少しですな。」

「レッドクリフ7…作戦中だ…気を抜くな…」

「りょうか…≪ドシューッ!!≫うぎゃ!」

「!!―なんだ?!」

 

いきなりレッドクリフ7がビームで撃ち落とされただと!?

 

「魔力反応は無かったぞ!?」

『魔力ではありません。アレは光学兵器です。』

 

何!敵さんそんなものまで持ち出したのか!

 

「全員散開!!回避運動を取れ!もたもたしてると食われるぞ!!」

『前方に駆動音探知、セントリーガンが設置されています。ビーム型も多数確認!』

「ちっ、各員臨機応変に対処せよ!障壁を常時展開しないと落されるぞ!

お前らの糞度胸ここで見せてみろ!!レッドクリフ1フォックス2!フォックス3!」

 

アルアッソーモードのヴィズとM82A1から多重弾核弾が放たれ、セントリーガンを打ち抜いていく。

自由落下中なので、他の連中は逃げ回るばかり…俺だけが何とか攻撃している状態だ。

正直、基地内部にココまで過剰な装備を入れておくなんてな…敵さんもようやるぜホント。

そんなこんなで、セントリーガンを壊せるだけ壊していると、通信を求める音が聞こえた。

 

『(此方レッドクリフ21、聞えますか隊長!)』

 

――――ヤードから通信?なんだこの忙しい時に!!

 

「(なんだ!悪いが今手が離せんのだが!…そこッ!!)」

 

俺を狙ってたセントリーガンを撃ち落す。あぶねぇ。

 

「(おっと…手短に話せ…くっ!)」

『(この基地の情報端末からメインAIにアクセス、八割を掌握しました!

現在データコピーを行っています。そのデータの中に気になるものが…)』

「(なにが入ってた?敵司令の秘蔵コレクションでも入ってたか?)」

『(それの方が何倍もマシですよ隊長。この基地、生体兵器やデバイスを埋め込んだサイボーグ等の人体実験もしていたようです…わが軍の捕虜を使って…)』

 

なっ!何処のスカリエッティだよ!!

 

「(捕虜がいるのか?)」

『(分りません。ただデータには中枢部に搬入としか書かれていませんから…)』

「(一応捜索しろ…もし生きてるヤツがいたらソイツが証拠になる…条約違反だからな。こってりと絞れるぞ。)」

『(了解)』

 

 

 

全く…戦争のドサクサで何やってんだか…

その後も落下を続けながら、何とか中枢部への侵入に成功した。

 

 

………………………

 

……………………

 

…………………

 

 

―――ニューヘルバ基地最深部、反応炉区画―――

 

 

「A分隊集合、損害報告」

「…レッドクリフ4、7が殺られました。それと5、8が負傷、戦闘は難しいです。」

「……反応炉破壊には俺とレッドクリフ2で行く…6と9は5と8を連れて後退しろ。」

「「了解」」

 

なんとか全員で中枢部へたどり着いたモノの予想外に敵が残っていた所為で何人かやられた。

魔導師は優先で倒したから、残りが殆ど無人機だから良いけど、後続がきたら少々不味いかもな。

とりあえず後退していく部下を見つめながら、唯一この後俺と行動を共にする副官へ指示を出す。

 

「ジェニス、ここからは無闇に砲撃魔法等は使えん。前衛は俺がやるから射撃魔法で援護を…」

「了解、背中は任せてください。」

 

ヴィズの箱型マガジン魔力チェンバーを予備に切り替え、フォルムをストライカーへ変える。

ここからは、俺とジェニスの二人だけで進む事になる。

正直心細いが仕方ない…地上で頑張ってくれている味方が崩れる前に破壊しないとな。

 

「…行くぞジェニス…目指すは反応炉だ」

「Yes,Sir!!」

 

流石に反応炉を落とされたくは無いらしく、敵の質が上にいた奴らとは一線を架していた。

だがこちらにも時間がない為、力押しで俺が防御力にモノを言わせて突っ込んで撹乱。

 

撃ち漏らした敵をジェニスが射撃魔法で息の根を止めるというコンビネーションで進む。

何とかココを防衛していたと思われる、最後の魔導師を殺したところで、また通信が入った。

 

『(此方レッドクリフ21、…ザザ…隊長聞えますか?)』

「(ややノイズが入るが聞えるぞ…どうした?)」

『(先ほどB分隊が中枢部に突入したのですが、捕虜だったものを発見しました。)』

 

―――――だったもの…か。

 

「(…皆殺しか?)」

『(正確には実験台にされたようです。何かに引き裂かれたような死に方でした。)』

 

エグイねぇ…幾ら戦争でもやっていいことくらいあるだろうが…全く救い難いぜ。

 

「(…遺品を回収してやれ…あと研究区画と思われる場所はデータをコピーし終えたら、

念入りに…徹底的に爆破しろ!隊長であるこの俺が許す)」

『(了解、あと捕虜を引き裂いたと思われる実験体ですが移送データによると、

どうやら反応炉の防衛にあてられたようです。用心を…)』

 

そう言ってヤードは通信を切った。

 

***

 

 

―――反応炉、隔壁前―――

 

俺は反応炉の手前の隔壁前に来ている。

なんかね…エライ分厚い隔壁なんですよ。そんで俺の本能が告げてるんです。

 

―――――あけちゃだめ………って…ぶるっ。

 

と、とにかく不吉な何かを扉の向こうから感じるんです。

できる事なら回れ右して帰りたいのですが任務だし、それに――――

 

『マスター!やりました!隔壁の制御の把握に成功しました!!』

 

――――この子がね…張り切ってくれたんですよ…はぁ。

 

「…隔壁、解放。」

『了解』

≪ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッッ!…………ガゴン!!≫

 

あー、開いたね…。

扉を開けるとそこは……………………反応炉でした。うんほかに何もない。

 

「…レッドクリフ2、制御室で反応炉を緊急停止させろ…その後爆発物をセットして撤退する。」

「了解」

 

≪ゾワ…≫

 

「!!」

「わっ!ちょっと!隊長!」

 

俺はジェニスを押し倒した…。

その直後、俺らが居た位置を何かが抉りとった…てか重金属製の床なのに!!。

 

「いてて、隊長…俺にそんな趣味は…」

「馬鹿言ってないで後を見ろ!ジェニス!」

 

全くなんでこんな所に配置するんだよ…ラスボスかっての!

まるで水死体みたいで継ぎ接ぎだらけな肌、異常発達した右腕、光りを反射しない濁った瞳。

ソレと体中に埋め込まれ盛り上がっている機械類…間違いねぇ、こいつが報告にあった―――――

 

 

「『実験体』か…クソ」

 

 

ソイツは白く濁った目で、こっちを見続けている…見えてるのかは分らないが、恐らく元は人間だ。機械を埋め込んで自由を奪い…次元世界の生物と融合させたり…人間がすることじゃないな。

コリャ原作のスカさんのほうがまだ可愛くみえるぜ…少なくともこんなのは作って無かったし。

 

「た、隊長…」

 

ややビビった声を出すジェニス…まぁ気持ちは解る。

俺も素面であったら失禁しちまうくらいのインパクトだ。

まぁとりあえず指示を出さなくては……。

 

「俺が仕掛ける…お前は制御室に行け…」

「!しかし」

「お前に…アレの相手ができるか?」

「く…了解…」

 

こうして会話してても実験体からは目を逸らさない。

奴さんもこちらを伺うかの様に微動だにしない。

生き残るには…やはり倒すしかないみたいだな。

 

「ヴィズ…」

『了解、キーンセイバーを殺傷設定から物理破壊に移行』

 

俺は剣を構え直し、相手を見据え………一気に相手の領域に踏み込んだ。

 

「……………はっ!」

 

≪ガン!≫ 

初撃は簡単に防がれて金属に弾かれたかの様な…ありえない音がした。

 

【■■■■■――――!!!】

 

どうやら今ので怒らせちまったみたいだな…

 

【■■■、■■■――――!!!】

 

実験体は右手の爪を大きく振り被り…

 

≪ヴォン≫

 

――――音速を超える速さで振り下ろした。

 

「ちいっ!」

『ローラーダッシュ』

 

脚部のモーターが唸り、敵さんの爪が掠りはしたものの回避する事に成功。

ふぃー、あぶねェ~ヴィズが機転利かせてくれなかったら、この物語が終わっちまうとこだったぜ。

しかし、あの爪は脅威だな…全体の動きはソレほどじゃないけど、右腕だけ妙に早いぜ。

 

「シュート」

『フォトンバレット・シュート!』

 

―――――射撃魔法を一発…あくまで布石でしかない≪ヴォン!≫な、何!?

 

「ぐはっ!」

『マスター!』

 

くそが…腕が伸びやがった。おまけに肩に…爪、刺しやがって…

げほっ…アバラも…折れた…かな…うっ。

 

「ゲホッ!」

≪ビチャ!≫

 

あー…口の中切った時とはまた違う鉄の味が…。

 

「やろう…」

『マスター動かないで!』

 

おいおい…うごかねぇと潰されるぞありゃ。

 

【■■■■……】

 

なんだ…なんで、こっちを見てくる…?

 

【■■ゴ■■ロ■ジ■■■テ…】

 

いま“殺して”って聞こえた―――空耳か?

 

【■■■■■――――!!!】

 

「ちぃ!」

 

多重プロテクションを展開した俺を、そのまま伸ばした腕を使い吹き飛ばした。

多層プロテクションごと吹き飛ばすなんて…なんてちからだ…

 

「ヒュ…ゲボッ!」

『マスターこれ以上は!』

 

【■■ゴ■■ロ■ジ■■■テ■■■ロ■ジ■■テ…】

 

 

間違いない…殺してって…言ってる。

被害者の人格も移植してんのかも……胸糞が悪い…。

 

「ヴィ…ズ…キ、キーン…セ…バー…CS」

『しかし…』

「はや…く」

『了解、キーンセイバーCSモード』

 

二振りの剣だったヴィズが合わさり、1つの大剣に変わる。

キーンセイバー・クライシス・スキュア・モード…通称K,C,S。

己の魔力を更に上乗せさせ、極限まで収束させた魔力刃は触れたものを粒子にまで還元させる。

俺は意志の力で痛みをこらえ、剣を構えた……伊達に母上からの訓練を受けていた訳じゃない。

 

「いく…ぞ…。」

『…チェンバー・ロード』

≪ガシン!≫という音と共に箱型マガジンからカートリッジで言うところの3発分がロードされる。

 

「くらえ…」

『ディメンジョン・グレイブ!』

 

カートリッジ三発分を消費させ、膨れ上がった大剣を実験体に振り下ろす。

爪でガードしようとしたのか、実験体は右手を挙げるが――――

 

≪ジュ……≫

 

―――――魔力刃に触れる直前に、右腕がグズグズになって崩壊、消滅した。

 

「はぁぁぁ……!!」

 

遮るものが無くなった光の刃はそのまま実験体の身体の半分を照らす。

そして実験体を粒子にまで変換させながら…白い機神の剣が―――――

 

≪ザンッ…≫

 

―――――無慈悲に…そして静かに振り下ろされた。

 

いや彼らにとってはこれが慈悲なのかもしれない…。

声も挙げる事無く絶命した実験体だったが、剣で斬られるその一瞬。

その顔は眠りにつく事が出来るかの様に…とても穏やかだったからだ。

 

「ぐ…」

『マスター!?』

 

そして、俺も限界に来てしまったようだ…目が霞む…ぜ。

と、とにかく応急処置を…。

 

「ヴィズ…リペア…」

『しかし、魔力負担が…』

「チェンバーを使え…急いでくれ…目が霞ん…で…」

『は、はい!リペアパック起動、応急システム展開!チェンバー内の貯蓄魔力を消費します』

 

リペアにより傷が一応はふさがっていく。

それによって大分楽にはなったモノの、気を抜けば意識が飛んでしまいそうだ。

 

「中尉!」

「…ジェニス…反応炉は?」

「停止させました。爆発物のセットも完了…あとは離脱するだけです」

「よし…時限装置…起動…ここから…離脱す…る。」

 

正直息も切れ切れ、限界まで消耗してしまった身体は言う事を上手く聞いてくれない。

立ち上がろうとしたが、景色がふらついてしまい立てない…これは血を流しすぎたかな?

 

「だめだな…立てない…ジェニス…俺にかまわ…」

「かまわず逃げろっていう命令は無しですよ隊長。よいショット。」

 

いきなり抱きかかえられた…しかも…お姫様抱っこ!!せ、せめて…

 

「おんぶ…位…してくれ…はずい」

「時間が無いため却下します。(HQ、レッドクリフ1負傷、至急後送の準備を頼む)」

「クソ…あとは…たの…んだ」

 

 

 

 

―――――ここで俺の意識は一旦途切れた…。

 

 

 

 

***

 

「うぐ…ココ…は?」

『あ、マスター気が付きましたか?ココは味方の野戦病院です。作戦は成功しました』

「ヴィズ…か」

 

俺が次に目覚めたのは、敵さんの基地からほど近い、味方の野営基地の野戦病院だった。

 

「アノ後どうなった?」

『あ、ハイ説明させて貰いますね?まずは―――――』

 

ヴィズからアノ後なにが起きたのかを聞いた。

あの後、副官のジェニスが指揮をとり、爆発物のタイマーをセットして脱出。

 

地下に造られた反応炉の爆発と、基地内部に仕掛けられた爆薬によって基地は内部から破壊された。これによって、もはや基地として機能する事は出来無いだろうとの事。

 

「ふむ…そうか」

『なんとか生き残れましたね…いやはやマスターが気絶した時はどうしたモノかと…』

「なぁヴィズ…」

『はい?何でしょうか?』

「今回…何人哨戒任務に行った?」

『………………6名です』

「そう…か」

 

俺たちの部隊の損失は、ABCある分隊あわせて6名が哨戒任務に旅立ったらしい。

犠牲が出る事は覚悟していたが、やっぱり実際に出るとこたえるな。

 

「辛い…な」

『辛くても…任務ですから…』

「ふふ、確かに……あまりにこういう事が多すぎて……もはや泣く事も出来ない」

『マスター』

 

昔は映画でも泣けるほどの純情だったのにな…人間ってのは物事に慣れる。

もう部下が死んだくらいじゃ涙も出やしない…人が本当に死んだっていうのに…。

 

「はぁ…止めておこう…ヴィズ、後何か報告はあるか?」

『あ、ハイ…失った人員の補充が来週にもあるそうです。詳しくはジェニスさんに聞いてください』

「そうか…ヴィズ、俺は…後どれくらい寝られるか?」

『ざっと3時間くらいでしょう』

「2時間後に…おこしてくれ」

『解りましたマスター…おやすみなさい』

 

今だけは…何も考えたくない…そう思い再びベッドの中に入り泥のように眠りを貪った。

 

そして一週間後、俺たちは新しい兵員を補充され、新たな任務につかされる運びとなった。

 

それが兵隊、それが軍人、その事が頭で分っていても、心が受け止めるには時間がかかる。

 

そのため、この作戦からしばらくの間……俺の心が晴れることは無かった。

 

 

 

 

 

 



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旧版【妄想戦記】多分十五話から十八話まで

 

 

「兵士も人間…一日くらい休みもあるさ」

 

 

 

 

 

―――――妄想戦記――――――

 

 

 

 

*セスル基地・隊長室*

 

 

カタカタカタカタ……

 

 

――――ええっと、確かこの任務の時は第3機甲魔導師部隊《サイクロプス》と一緒だったから掛かった経費は~…折半でいいか。っておいおい、何故その後の祝勝会の経費の書類が廻ってやがる?これは事務の仕事だろうが…ったく。

 

 

カタカタカタカタ……

 

 

――――ん?新規装備品の概算目録か、どれどれ?………………誰だコレ書いたヤツ?何でチョコバーが必需品の欄に記載されてやが…ん?【長時間の任務中における効率的なカロリーの摂取法方として、チョコバーは最適であり―――――】……むしろココまで書いた奴の顔がみたいな。

 

 

――――およ?やあ皆さんお久しぶりおはようコンニチワこんばんは。

今日は久しぶりに任務も無く、お外は晴れ渡って良い天気でピクニック日和だ。

おまけに我が隊は働きぶりを認められ、一日だけではあるモノの特別休暇が認められたのだ!

………そして俺は書類作業に追われている。うん、実に休日らしいね…………。

 

「なんか…違う!」

『マスター、手と頭を休めないで』

「………アイマム」

 

 

カタカタカタカタ……

 

 

え?俺がなにしてるかって?見ればわかるでしょ?

事務作業ですよ事務作業。大事な事なので二回言った。

 

ココ最近外で出張る仕事が多かったからさぁ、書類たまっちゃってさ?

お陰で休日潰して作業中って訳よ―――っとデバイス整備関連の資料はどこだっけ?

 

「検索魔法…アタラクシア…起動っと」

 

目の前に空間ディスプレイが投影される…えーと、あった!コレコレ。

結構こういった資料って数があるから、魔法でも使わんとやってらんねぇや。

 

「はぁ…デバイスショップめぐり…したかったなぁ」

『マルチタスクに割いている思考リソースを、此方に回せば午後にはいけますよ?』

 

そう言われ、ジッと山(書類の)見る、休日よ……ってな。

はぁーーー、エベレストとは言わないが、富士山クラスは無いだろうマジで…。

 

「秘書官でも居ればなぁ…」

『この人手不足に、一介の部隊長に秘書官をつける余裕なんて軍には無いでしょう。それよりも手を動かす!』

「うう…デバイスが厳しい…」

 

隊長職なんて…ていの良い事務員じゃ無いかぁッ!!

―――――と、心の中で叫んだ俺だった。

 

***

 

頑張った甲斐あって、何とかお昼(と言ってもすでに1時を回っている)には半分仕事を終えた俺。

頑張った…マジで頑張ったんだぜ俺。マルチタスクと思考制御タイプライターに感謝だよホント。

 

あ、思考制御タイプライターっていうのは、その名の通り頭で考えた文章をタイプする機械の事だ。

マルチタスクと併用する事で、通常の十数倍の速度で事務事後とが出来る優れモノなのである!

 

ただ難点として、頭の中で考えた事が全部文章にされちまうからかなりの集中力がいるけど…

その弱点を補って余りあるほどの便利ツールなのだ!お値段は大特価の300US$で~す!

・・・大分精神的に来てるなぁ。早いとこ終わらせて外に行って気分転換でもしよう。

 

 

―――――で、ぶつくさ言いながら書類をドンドン消化した俺だったけど…途中で気が付いた。

 

 

「これ…他の部署の書類が紛れ込んでないか?」

 

どう考えても、俺がやるべき書類はコレの3分の1なのだ。

でも、ココにあるのはその三倍…残り3分の2は一体……??

 

『あ、コレ第6強襲魔導師部隊のデバイス修理の請求書ですね?』

「はぁッ?!」

 

ちょっ!そんなの経費では落とせないし!というか俺じゃなくて事務の仕事だってソレ!!

 

『こっちは第4陸戦砲撃魔導師部隊のですね。これはどうやら事務の人が間違えたっぽいですが』

「…………事務の方に行くぞ…流石にコレはおかしい」

 

どうなってんだよ!こちとら休日返上して仕事してるんだぞ?

なのに、書類の半分以上が、本来事務がやるべき筈の書類だなんて!

 

以前からおかしいとは思っていたが、コレはあんまりだ!

そう思った俺は、基地にある事務課に向かう事にした。

 

 

 

 

~セスル基地・事務課~

 

 

事務課…ソレは軍内の庶務を一手に引き受けている部署の総称である。

魔導師というのはとにかく色々と書類が多い。

 

――――消耗品であるデバイスの発注

――――新魔法の登録

――――飛行魔法使用の哨戒任務

――――その他色々

 

こういった雑務を引き受けて、俺達魔導師の戦争活動をサポートしているのが彼らなのだ。

人員は攻撃魔法が使えない人間ばかりだが、その事務処理能力は魔法を併用する事で群を抜く。

―――――筈なんだが……。

 

「おい…しっかりしろ…」

「……………」

「へんじがない、ただのしかばねのようだ」

 

死屍累々というか…死体の山?

 

「―――い、いきてるよぉ…」

「お、生存者発見」

 

死体の山(だから死んでないって)から這い出て来た、事務課所属のまだ若い兵隊君。

何が何でこうなったのか、理由を聞く事にしますか。

 

………………………

 

……………………

 

…………………

 

「はぁ?ワーカーホリック?」

「ええ、そうなんです」

 

なんだそりゃと思い、詳しい話を聞くと、大体こんな感じらしい。

 

事務課仕事する → 普段でも手一杯 → 戦争始まり仕事増える → 頑張って仕事した → 仕事減らない → 事務課長の大尉がワーカーホリックに → 事務員にそれが伝染 → 頑張り過ぎで全員ダウン → 現在に至る。 

 

――――――――本当はもうチョイ複雑ながら、ざっと簡単にすると大体こんなもんなんだそうな。

あーえと、なんて言うか…。

 

「自業自得…じゃないかソレ」

『ですね。というか止める人いなかったのでしょうか?』

 

普通はそうなる前に、病院に行くなり有給取るなりするもんだがなぁ?

特に事務課の人間は俺達と違って、職務規定に有給を取れる権利が盛り込まれている筈だし。

 

「さ、最初は…ドリンク剤のんで頑張ったのですが…一人倒れ二人倒れ…最後は俺だけに」

 

―――――なんかもう唖然とするしかない状況だねコレ。

 

しばらくすると、最後の生存者(!?)だった彼も、安らかな眠りに落ちた(死んだわけじゃないよ?)。

仕方ないので、とりあえず彼らは俺が通報して人を呼び、医療室へ直行する事になった。

全く、少しは自分の身体の事も考えろ―――――――

 

 

 

 

「―――――って…どうして俺のところに書類が来たか…聞いて無い」

『事態が事態でしたから忘れてましたね』

 

まぁ、後で聞いた話なんだが、彼らは以前から少しでも仕事を減らそうとしていたらしい。

で、事務処理が早い部隊長の順に、あまり重要ではない書類を紛れ込ませていたんだそうな。

しかもそれに気が付かず、おまけに早い人には優先的に紛れ込ませていたんだそうで……。

 

つまり、俺が頑張って仕事減らそうと頑張った行為が裏目に出ていたって事なのか?

……………………はぁ、でもアノ人達の現状見てたら、文句の一つも出ないわ。

 

 

とりあえず、遊びに行こう…うん。

 

 

***

 

 

何だかウチの基地の酷い現状に溜息をつきながら、俺は基地内の散歩に出る事にした。

なんかもうね、一連のアレで外に出かける気力もうせちまったよ。

 

しっかし、あれだね。

訓練学校を卒業してから1カ月ちょいしか経って無いのに、随分と慣れたね…この生活にさ。

本当は少々マズイんだが、人殺しに関しての抵抗感が、殆ど無くなっちまったよ。

 

一応戦争協定には捕虜の扱いも載ってるんだが…いかせん戦争中は金がない。

だから非殺傷設定なんて使うバカはいないんだわ。

 

え、解らん?簡単に言えば…そうだな…“生かすよか、殺した方が早い”ってもんでさ?

協定じゃ捕虜の扱いってあるんだが、ぶっちゃけ捕虜とる余裕なんてない。

だから、戦争状態なんだしKIA(戦闘中死亡者)とかにした方が都合が良いんだわ。

 

それに魔法弾一つで人は死ぬ…戦場での生身の人間の命なんてさ?

魔導師の力をもってすれば紙クズみたいなモンなんだよ。

 

後、相手も魔導師だから、気を抜けないってのもある。

気絶したかと思っていたら、実は気絶した振りで、隙突かれて殲滅魔法で一部隊全滅。

そういった風に全滅した事例が、過去に幾度となくあったんだそうだ。

 

故に現代における魔法戦は“見敵必殺”……見つけ次第即排除が基本戦術となっている。

コレが銃とか使っている戦争なら、そう言ったことしなくても済むんだけど…。

魔導師は一人でも爆弾みたいなモノだから仕方ないちゃ仕方ないんだよねコレが。

 

しかしまぁ…実質、魔力刃で斬り殺すなんて事は少なくて、大抵砲撃魔法や狙撃魔法で殲滅しちゃうから、あんまし人殺しの実感わかないんだ、ほんの1カ月ちょいは胃の中身戻してたのにな。

人間ってのは状況に“慣れちまう”んだよなぁ・・・適応とでも言うんだろうかね?

 

なんにしてもアレだ……改めて魔法ってのは恐ろしい技術だよなぁ。

ソレを扱う魔導師も含めて、もはや“兵器”だぜ。

扱うヤツ次第で世界も簡単に終わらせられるよ。

 

でもまぁ…多分この世界も、もうすぐ終わりだろうなぁ…。

次元航行技術は秘匿研究されているらしいけど、

こんな血まみれの世界の住人を外に出そうだなんて、時空管理局が黙っていねぇだろうよ。

 

恐らく戦争が終わっても30年くらいは、次元世界間の渡航だなんて夢のまた夢だろうな。

はぁ、原作の世界に行ってはみたかったけど、俺の死ぬ世界は恐らく“ココ”だ。

何の因果か転生して兵士になっちまった…ま、コレも運命ってやつだろう。

 

ココで転生系に良くありそうな俺tueeeee!!!系のオリ主だったら―――――

 

『運命?そんなもん努力しない負け犬のセリフだろ?』とか

『どんな事態になっても俺は諦めない!絶対なのはに会うんだぁぁ!!』とか

『フッ、こんなこともあろうかと、次元転送用魔法を習得しておいた』とか

『ハァ…ハァ…フェイトたん…』

 

―――――とか何とか云いそうだけどさ。あ、最後のは無しで…。

 

ぶっちゃけ、俺チート性能持ってるけど、どう考えてもこの箱庭から出る事は敵わないと思うぜ?

なんでかって言うと、どんなに強い力があっても、ソレは所詮一個人の力でしか無い。

俺達は幾らチートでも、神さまって訳じゃ無い。飯も食うし休息もいる。

あ、ジョブが神さまだって言うヤツのは除外な?話が進まなくなっちまうからよ。

 

まぁ話を戻すが、俺達は人間、それこそ24時間以上、数万を超える魔導師と戦闘出来るなら話は別だけど、そんな力はあいにく流石に持ってはいない。

あるのは、あくまでもで遺伝的…もしくは先天的に優れた魔導師資質でしか無いんだ。

 

そんな俺達が努力しても数の暴力に敵う訳がない。

死ぬ気ならまた違うだろうが、俺は正直巻き込まれない限り死にたくは無い。

逃げられるなら逃げるし、倒せるのなら倒す主義だ…っと話がまたそれたな、失敬。

 

ま、ともかくだ…人生には、努力しようが、諦めないだろうが、

こんな事もあろうかと!と、準備しようが関係無しに、

出来ない事…越えられない壁は存在するって事なのさ。

 

コレはあくまでも俺個人が考えた事だろうから、真実は実は全く違うのかもしれない。

それこそ俺が今言ったことの反対が真実なのかもしれない。

 

 

だが、現状においては―――――――俺が言った事が真実だ。

 

 

この状況が変わるにはそれこそ……奇跡でも起こらないとだめだろうなぁ。

 

「そんなご都合主義…あったら良いんだがなぁ…」

『マスター?』

「ん…何でも無い…」

 

俺達は、この“箱庭の世界”からは逃れられない…か。

あかん、どう考えても厨二病臭いやん!俺も働き過ぎで思考がヤバいわぁ~。

こういう時は、自主訓練にでも励んで汗かいて、嫌な事は忘れる事にしようウン。

 

―――――――そう思い、俺は訓練場へと向かった。

 

***

 

魔導師が使う訓練場は、この基地内には主に二カ所存在する。

一つ目は、出力リミッターをデバイスに設けた上で、障壁内に囲まれた部屋を使う屋内型。

二つ目は、出力リミッター無しで、思う存分動き回り訓練が出来る屋外型だ。

 

どちらにも一長一短が存在し、一概にどちらが良いとはいえないが、基本的に思いっきりヤル時。

俺達魔導師は屋外型を選択する…まぁ勿論許可がいるんだけどね。

必要書類はすでに出しておいたから、問題は無い――――あの事務課が稼働すればだけどな。

 

話を戻すが、屋外では出力リミッター無しで出来るというメリットがあるモノの、代償もある。

――――――ソレは実際に怪我をしてしまうという事だ。

 

まぁバーチャルじゃないんだから、当然魔法は痛いし、飛行魔法が途切れて落下すれば怪我もする。

ある意味現実を肌で感じられるから、勘を鈍らせない為には最適だけど、怪我は痛いぜ。

 

そういう意味だと屋内型の方が安心してできるし、ホログラム投影の敵も出るから、戦術的バリエーションは豊富だ。

だけど、やっぱり思いっきりやるのなら、外に限るんだなぁコレが!

 

「さて…」

 

俺は訓練場に置いてある、とある機械の電源を入れる。

この機械は一人用の訓練の時に使うモノの一つで、クレー射撃のようにディスクを射出する機能が付けられている。

とりあえず射出するディスクは300枚にセット、射出間隔は一番短めにセットし訓練を開始した。

 

……………………

 

…………………

 

………………

 

ガシュンという音と共に、一度に3~4枚のディスクが射出される。

アルアッソーモードで展開したヴィズから放たれる魔力弾が、それらを撃ち落としていった。

 

一つ、二つ、三つ…最後の四つ目は、連射して跡形もなく粉砕する。

続いて機動させたのはM82A1、大型対物狙撃銃の姿をしている兵装デバイスの一つだ。

 

M82A1を構え、先ほどと同じようにディスクを射出するが、先ほどとは違う方向に向かっている。

スコープからの映像がヘルメットの中のHUDに投影され、すさまじい速さのディスクを捕えた。

そして、ドシンと肩に来るような衝撃と共に放たれた魔力弾は、ディスクを粉々に粉砕していた。

 

――――ソレを繰り返す、何度も何度も……一心不乱に、無我の境地で……。

 

こうして射撃を続けている内に、ディスクが無くなってしまい、そこで射撃は終了した。

仕方ないので、こんどは別の訓練をしようと思ったその時、訓練場に誰かが来た気配を感じた。

 

 

「あれ?隊長、今日は休みじゃなかったんですかい?」

「ソレはこちらのセリフだ…外に行ったのでは無かったのか?ケイン曹長」

 

そこに居たのは、俺がこの隊に来た当初、一番最初に反抗心を示したケイン曹長だった。

つーか相変わらず良いガタイしてるぜぇ……残念ながら俺はウホでは無いけどな!

 

ちなみにこの人、最初の出会いがアレだっただけで、中身は結構良い人でした。

言葉づかいがチト悪いが、普通に会話してもかなり博識で常識人だし、アメちゃんくれるし……。

べ、べつに御菓子につられてる訳じゃないぞ?本当だぞ!?

 

「いやまぁ…最初はそうだったんですがね…」

 

ケイン曹長は苦笑いを浮かべる、どうしたんやろか?

 

「なんかこう…落ちつかねぇっていいますかね?シャバじゃ休めねぇんですよ」

「しっかり休むのも…兵士の仕事だと思うが?」

「ジョーダン、休めねぇところで休めだなんて。俺はとんちはきらいですよ?」

「くく、違いない…」

 

ソレもそうだな、俺達みたいな人間なら特にな。

 

「なら、俺の訓練に付き合わんか?」

「いえ、自分はまだ死にたくないので、回れ右をしたい所存でありまーす!!」

「不許可だ…なに模擬戦じゃ無いから安心しろ」

「ソレを先に言って欲しかったぜ、隊長さんよぉ?」

 

刹那睨みあう俺達、そうしてお互い苦笑する。

 

「まぁ…アレだ?魔導計測機と魔力霧散化装置の制御をしてほしいんだ…一人じゃ無理だし」

「アイサー隊長、付き合いますぜ?」

 

 

―――――そして、別のエリヤに移動する。

俺の休日は結局訓練と事務で消えたけど、まぁコレもタマには良いか。

 

 

 

 

 

 

「まぁ、いつかはこうなると思ってたさ…」

 

 

 

 

 

――――妄想戦記――――

 

 

 

 

―――――戦場に偶然ってのはつきものだ。

 

大軍を前に奮闘して偶然にも生き残れる事もあるし、その逆もしかり。

いくら気を付けていても、一度戦闘に入れば無事でいられる保証は無い。

 

そしてその日は、いつものように警戒ラインを突破した敵さんの迎撃任務の筈だった。

これまで何度もあったし、正直1日に4度のペースもあった。

だからある意味、俺達もソレらの対応に慣れていた。

 

油断とかは無い、只どうやれば上手く相手が倒せるかに慣れただけ。

そう、丸でお決まりのパターンがあるみたいな感じ……。

だけど―――――

 

「嘘だ…うそだろう…」

 

俺達は忘れていた――――

 

「傷は…浅いんだろう!…おいッ!」

 

戦場に置いて――――

 

「逝くな!…おい!ふざけるな!…目を開けろ!」

 

絶対に…お決まりのパターンなんてものは…存在しないって事を…。

 

***

 

『敵が警戒ラインを突破、第七魔導師部隊に出動要請』

「お、定期便の連中か?」

「全く懲りないねぇ」

「こっちが殺そうとしても死なないから、かなり腕がいい連中なのは解るんだけど…」

「毎回誰か怪我すると逃げるモンな?」

「所詮腰ぬけなのさ。OCUの連中なんてさ?」

 

部隊の連中がそんな事を言っている。

まぁ解らなくもないかな?連中すぐ逃げちゃうしさ。

 

正直、きちんと戦えやッ!って言いたい連中が出るのも予想できる。

俺は嫌だけどね。このまま、あまり戦う事も無く終戦になってほしい。

 

「お前らッ!無駄口叩いてないで準備しろ!」

「「「イエッサー!ジェニス少尉殿!」」」

「そういうのは良いからジャケット付けろ!スクランブルなんだぞ?一応…」

 

おーい、副官のあんたがそんなんでどうすんだよー?

とりあえず、今日も今日とて追い返す事になるだろうなぁとか思いながら基地を出た俺達だった。

 

…………

 

……………

 

………………

 

「各分隊、報告を…」

『こちらA分隊、敵の姿発見できず』

『こちらB分隊、同じく敵の姿発見できず』

『C分隊も同じです』

「……どういう事なんでしょうか?敵の姿が影も形も無いなんて」

 

さて、俺にも解らん。

ただ言える事は、“いつもとは違う”ってことだ。

 

「何かあるかも知れん…各員に注意を「な、何だッ!?」」

「アレは敵の強装結界かッ!」

 

しくじった。どうやら罠にかけられたらしい。

この辺一帯を覆い隠すくらいの規模の結界が、俺達の部隊ごと閉じ込めてしまった。

 

「チッ各員散開ッ!一カ所に固待ってると、バラバラにされるぞッ!」

「結界魔導師は強装結界の解析を急げ!それ以外は結界魔導師の援護だ!」

 

俺の指示と、それを補佐するジェニスの指示が飛び、俺達は急いでこの場からの離脱を開始する。

結界さえ突破すれば、最悪一人でも転移魔法を使わせて基地に戻せば援軍が呼べる。

だが、そうは問屋が下さなかったらしい。

 

≪ドゴォォォォンッ!≫

「な…」

 

見れば巨大な爆発が起こり、白煙を上げていた。

しかし問題はそこでは無かった…。

 

「C分隊…通信途絶…」

「何ぃ?!」

『バイタルデータ…受信できません』

 

ヤード達とはすぐに連絡が取れる様に、回線は常時繋げてあった。

それが途絶したと言う事は……。

 

「敵は…高ランク魔導師…」

「もしくはそれに準ずるスキルの持ち主…か。ヤード…」

 

まさか一撃でC分隊が倒されるだなんて…いた仕方ない。

 

「結界魔導師は魔力隠蔽をしつつ後退、俺はこれより陽動を仕掛ける」

「では隊長、自分も…」

「ジェニスは残って指揮を取れ…どうも嫌な予感がする」

「しかしッ!……いえ解りました」

 

A分隊の面々が後退していくのを確認し、俺は陽動を行う為、敵のところへと向かう。

しかし、連中は自信でもあるのか、はたまたジャミングが出来る奴がいないのか?

先ほどから、全然探知妨害をしていない、レーダーに丸映りだ。

 

「……出来ないのか…もしくは罠…か?」

 

だとしても、陽動をかける以上、俺は連中に近づかないといけない。

BA(バリアアーマー)や防御魔法の強度を上げておくことにするか。

とりあえず、死なない程度に頑張らねぇと…皆で一緒に帰りたいから。

 

***

 

Side三人称

 

「クソが…どうなってやがるッ!」

 

フェンが移動を開始したころ、C分隊の唯一の生き残りが、逃げ回りながらそう呟いていた。

いきなりの奇襲によって、小隊は崩壊し、唯一生き残ったのは自分だけ。

 

しかも運の悪い事に、先の攻撃でデバイスが損傷し、バイタルデータの送信が出来なくなった。

辺りはジャミングされていて通信もできない。

 

お陰で自分が無事だという事を仲間に伝えられないと言う、絶望的状況。

だが彼は、一人になったものの、諦めずに仲間の元に戻ろうと必死だった。

 

「大体なんなんだアレは…」

 

そんな中、彼は駆け続けながら呟いていた。

敵からの殲滅攻撃を受けた際、彼は見ていたのだ。

こちらを攻撃してきた敵の…その異常性を…。

 

「なんでタイムラグ無しで、魔法使えるんだよ!!」

 

そう、魔法と言うモノは発動までに必ずタイムラグが発生する。

それは魔力を込める時間だったり、詠唱している最中の時間だったりと色々だ。

デバイスによって大幅に短縮されては居るが、ソレらのタイムラグはいまだに存在するのである。

 

「まるで、手を動かすみたいに、自然に発動させるなんて…」

 

魔法と己は一心同体とでも言うのだろうか?

そんな技術をOCUの野郎どもは何時開発したのか?

そんな事を考えるヒマも無く、彼はひたすら逃げようとしていた……だが。

 

≪ドス≫

「ひゅ…が…」

 

仲間の元にたどりつく前に、彼の胸から光輝く魔力刃が生えていた。

心臓からやや外れた位置、一瞬で命を狩り取られることなく、彼は死にたくても死ねない。

焼かれるかの様な痛み、苦しみ、もうろうとした意識の中で、彼がいだいたのは絶望。

 

最初こそ手足を動かし抵抗していたが、ソレも段々弱くなり、ピクンと痙攣するだけになった。

ソレは、男が絶命したことを悟ると、ゴミを払うかの如く死体を投げ捨てる。

 

 

「ククク…クククククッ」

 

 

ソレは哂う、いとも簡単に魔導師を殺せることに歓喜しているかの如く。

己の手に付着した血を舐め取り、ソレはひたすら哂っていた。

 

その目には何も映っていない、焦点の定まらないソレは、次の獲物を探しに戦場を走る。

その顔は、苦痛と快楽が入り混じったかのような色で染まり、傍から見れば狂気に映るだろう。

 

だが何よりおかしく映るのは、それは見た目にはデバイスを所持していなかった。

確かにデバイスを用いずに闘う魔導師は存在する。

だが、ソレはとてもわずかであり、特にこの戦時下に置いてソレを行うバカはいない。

だれしもが生存率を上げる為に、デバイスを所持しているのは当たり前だからだ。

 

だが、それはデバイスらしきものは所持していない。

かわりに耳の後ろに何か光る板のようなモノが付いているだけである。

 

 

 

―――――それは一通り走ったかと思った途端、脚を止める。

 

 

 

“み~つけた”

 

 

 

近くに新たな魔力を感知したソレは、ニヤァと口角を歪ませる。

そして新たなる獲物に向かって瓦礫の中を駆けて行った。

 

 

 

 

ちょうどその頃、フェンは敵部隊と感知した反応に向かっている最中であった。

もうそろそろ、目視で確認できるはずなのだが、どうにもおかしい。

普通なら感じる筈の、人の気配を感じないのである。

 

気配遮断に優れた人間は、確かにいない事は無い。

だが、こちらとも気配は消しているし、何より集団で気配を全て消す事は難しい。

しかも、魔力が微弱に漏れ出して感知されているのに、気配を消すと言うチグハグさ。

 

「………まさか」

 

とある予想が頭をよぎったフェンは、隠れていた遮蔽物から跳び出した。

ソレは普通なら敵に見つかってしまう行為である。

しかし、敵からは何のアクションも無かった。

 

 

何故なら―――――

 

 

「くッやられた!」

 

敵がいると踏んでいた場所には、何かの機械が転がっている。

恐らくは魔導機械で、微弱な魔力を発生させる機械なのだろう。

 

「レッドクリフ1から各隊へ!聞こえるか?」

『(ザ…ザザ…)』

『ダメです。ジャミングフィールドの力が強すぎて、ココからでは念話は届きません』

「ダメか…」

 

コレは明らかな囮である。

罠かと思ったが、ソレらしきモノは感知出来ない。

まさか囮である自分が囮にハマるとは滑稽だ。

 

「クソ…対人警戒レベル5で移動すr≪ズガァァン!!≫何だ?!」

 

閉じられた世界である結界内で、遠くの方から破砕音が響き渡る。

辺りを見渡せば、煙が上がっている場所が見て取れた。だがソコは――――

 

『レッドクリフ隊のバイタルデータが、ドンドン消失していきます!?』

「なッ…」

 

ヴィズが悲鳴の様に声を荒げ、HUD上に部隊員のバイタルデータが投影された。

特別な信号を使っているソレは、余程の事が無い限り途切れる事が無い。

そして、その事がHUDの故障などでは無く、次々と隊員の命が消えていると言う証しであった。

 

「くそ、B分隊か…急ぐぞ、ヴィズ!」

『ローラーダッシュとジェットパック展開!』

 

俺は襲われている隊員たちの元に急行する為、ジェットパックを起動する。

魔導エンジンに組み込まれたターボファンから蒼い火が上がり、一気に加速した。

来た道を戻り、B分隊の元へ着くまで後数十秒もかからないところまで来た時。

 

『B分隊…バイタルデータ消失…全滅しました』

 

***

 

Sideフェン

 

『B分隊…バイタルデータ消失…全滅しました』

「なん…だと…」

 

バカな!ケイン曹長だぞ?!

あの腕っ節だけなら副長にすら勝つあの曹長が死んだだって!?

 

『動的物の反応を感知、ココからの離脱を推奨します』

「だ、だが…」

『バイタルを送ってくるデバイスが破壊されたんです!人間が無事だとは思えません』

「……解った……A分隊と合流すr」

 

 

 

――――ズクン!

 

 

 

「……ッ……」

≪バッ!≫

 

頭上からの殺気に身体が勝手に反応し、回避行動を取った。

その途端、俺が今の今まで立っていた場所に、銀色に光る何かが落下し、砂埃が辺りに舞う。

今だ舞う砂埃を見て、俺の中の危険を訴える警鐘が鳴りやまない。

 

「…くっ!」

≪ビュッ!≫

 

そして跳び出してきた鈍い銀色のナニカ。

ソレは展開した多重プロテクションに阻まれて、辺りに落下する。

俺に向かって投摘されたのは、ナイフだった。

 

「チッ!フォックス2!」

『レールブラスター』

 

砂埃が収まらない中、俺はナイフが投げられた所に魔法を撃つ。

手応えは当然・・・・無い。

 

「ッ!後退するぞ!」

『了解!』

 

更なる悪寒、お返しとばかりに飛来する魔力弾を避けながら、一気に後退した。

射出された紺色の魔力弾は、誘導性は無かったが、まるでショットガンの如く、効果範囲が広い。

着弾した際に爆発していた事から、至近距離で喰らえばかなりヤバい…というかエグイだろう。

 

「(ヴィズ、設置術式スタンバイ。コイツは危険すぎる)」

『(了解)』

 

そして、ようやく砂埃が晴れて、相手の全体が見えるようになる。

 

(?…デバイスを持っていない?そんな馬鹿な。アレだけの魔法をあんなに早く…)

 

砂埃が晴れた所、クレーターの真ん中に居たのは、一人の男。

帽子付きのOCU軍純正デザインのバリヤジャケットを纏っているが……

 

(コイツ…階級章が無い…)

 

考えられるのは特殊部隊か…はたまたこの世界の裏か…。

どっちにしろ、俺はこいつを倒さなければならない。

 

「返り血…C分隊のか…」

『敵討ちも兼ねますか?』

 

それが出来たらどれだけ良いか…。

コイツのバリヤジャケットに飛び散っている、尋常じゃ無い程のアカイもの。

C分隊の全員、至近距離で魔力刃にやられたのか…クッ。

 

しかもバリヤジャケットなのに、返り血が落ちていない。

つい先ほどやり合ったって所か?なのに全然疲れた顔してねぇぞコイツ。

 

「くかかか…」

 

・・・おまけに正気じゃないみたいだな。厄介すぎる。

正気だったなら、まだ付け居る隙はある。だが、死に対する恐怖が無い奴ほど、怖いもんはねぇ。

杖を向けられようが、魔法を撃たれようが構わず、死兵になるタイプだなコレは…。

 

「コイツから生き残れれば…良いんだけど…」

「くくくく…」

 

おまけに、感知出来る魔力量はSランククラス。

簡易測定だから正確には解んないけど、感覚からすれば大体ソレ位か。

 

「とりあえず…実力を持って排除する!」

「!!かかかカッ!!」

 

得体のしれない魔導師と対峙する俺。

男は哂いながら、何故かこちらに手を向けて来た。

その途端、敵魔導師の周辺に数百を超えるであろうスフィアが瞬時に形成された。

 

「なッ?!」

≪ドガガガガッ!!≫

「…ウグァ!」

『シールド展開効率63%に低下!』 

 

何だこの出鱈目な詠唱の速さは!?明らかにデバイスなしの魔導師のレベルじゃネェぞ?

簡単な魔法ならともかく、さっきのは誘導弾、しかもかなりのスフィアの数だった。

まさかそれを同時展開したあげくに操りやがっただと?……デバイス使っても普通は無理だぜ。

 

一つの威力はそれほどじゃない。だけど数が尋常じゃ無いから、あまりの負荷に術式が持たん。

緊急展開タイプのプロテクションシールドでは、数回受けただけで破られる。

俺はそう判断し、キーンセイバーを即座に展開して斬りかかった…だが。

 

≪ガギンッ!!≫

 

相手も同じく魔力刃を展開、此方の斬撃は防がれる。

しかしそれじゃあ…甘いッ!

 

「ハッ!」

「!!?」

 

もう一本あるキーンセイバーが、塞がっている胴へとせまる。

鋭い一閃、しかし手ごたえは無かった。

 

「ぐるるる」

「どんな反射神経…してる?」

 

身のこなしがまるで獣じみている。

斬り付ける直前に、いきなり後方へと一気にジャンプしやがった。

掠らせた程度で、ほんの少し血が滲んでいる程度だ。

 

「がぁぁぁぁ!!!」

 

響き渡る咆哮、獲物と認識された俺目掛けて刃を構え突進。

設置術式を強引に食いちぎり、放つ弾幕をモノともせずに喰らいつこうとする。

 

「チィッ!」

『術式1番2番3番、強制解除!5,6,7番作動前に魔力干渉で機能不全!作動しません!』

「術式は破棄する!チッ、コイツを…喰らっとけ!!」

≪バラララララ―――!!≫

 

アルアッソーモードのヴィズから放たれる火線が、目の前の敵に襲い掛かる!

だが俺の体質上、誘導が出来ない為、どうしても火力が直線となってしまう。

その所為で、射線を見切られてしまい、殆ど当らない。

 

「ガァァァァァ!!」

≪ドガッ!!≫

 

恐ろしい速さで接近され、防御魔法を使う暇も無く、一撃をくらってしまった。

左肩への衝撃、吹き飛ぶ装甲、貫通はしなかったものの、この感覚……

 

「脱臼したか…クソ!」

「アァァァァ!!!」

 

味方がいる状況ならば、ハメ込めるが今の状況では無理だ。

そんな隙を与えてくれる程の精神…というか理性が相手には残って無さそうだしな。

幾ら治癒魔法でも、脱臼した状態で使えば、癒着したよりもひどい事になる。

 

「ク…ソ…たれがぁぁ!!」

『M82A1起動!』

 

片腕で、ガシャンと魔力が充填された兵装デバイスを向ける。

だが――――

 

「がぁぁぁぁ!!」

≪バキン!≫

「折られた…だと、だが!」

 

ライフルタイプのM82A1は接近戦では使えない。

敵はそれを両手で持ち、力でへし折ってしまった…だが、ソレはあくまで布石。

 

「デバイス無しは…お前だけじゃ無い!」

 

手に一発だけ、ガルヴァドスの術式を展開させる。

ソレを至近距離にいる目の前のアイツに、殴りつけながら喰らわせてやった!!

 

敵の両手がふさがっているという、一瞬の隙をついた攻撃。

異常な反射神経をもつ敵も、さすがに対応しきれなかった様だ。

 

≪バガンッ!!≫

「ギャァァァッ!!!」

 

魔力で強化した拳が、敵の顔にまるで吸い込まれるかの如く放たれた。

 

(っ!痺れが…!)

 

だが、固い装甲を持っているとはいえ、こっちも無傷で済むはずが無い。

脱臼こそしなかったが、残った方の腕も魔法発動の際の衝撃で痺れている。

コレはマズイぞ…と、一瞬思考を逸らしてしまったのがいけなかった。

 

 

「くくく…“アクセル”」

「ぐがっ!!」

 

 

敵は今まで使ってこなかった高速術式を突如起動。

いきなりで対処のしようがない俺は、そのままタックルまがいの攻撃を喰らってしまう。

 

比重が軽い俺の身体は、そのまま背後の廃墟に叩きつけられ、そのまま壁を突き抜けていた。

おまけに運の悪い事にぶつかった衝撃で、建物に止めを刺したのかそのまま崩れてしまった。

そして、俺は崩れて来たその瓦礫の下に生き埋めとなり、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、いつかはこうなると思ってたさ…後篇」

 

 

 

 

――――妄想戦記――――

 

 

あらすじ

 

・敵部隊接近中でスクランブル。

 

・敵の罠にハマり、結界に閉じ込められた。

 

・何時もの様に、部隊を分けたのが仇となり、各個撃破される。

 

・囮となる為に単騎前に出たが、敵を捕捉できずC分隊が餌食に…。

 

・謎の敵と交戦、戦闘中に瓦礫に埋まる。 ← 今ココ。

 

***

 

 

 

とくん・・・とくん・・・

 

 

 

頭がぼーっとする。

 

 

 

とくん・・・とくん・・・

 

 

 

なにが、おこったんだっけ?

 

 

 

とくん・・・とくん・・・

 

 

 

ああ、そう――――敵に攻撃を受けて。

 

 

 

とくんとくんとくん・・・

 

 

 

瓦礫に埋まった。ってことはコレは夢か?

 

 

 

とくんとくんとくんとくん・・・!!

 

 

 

くそ、他の連中が戦っているのに、俺だけ寝てらんねぇだろうが!

 

 

 

とくんとくんドクンドクン!!

 

 

 

起きろ、俺!有給休暇はまだ先だッ!!!

 

 

 

――――――ドグン!!

 

 

 

「ハッ?!」

 

か、身体が動かない?!ってそう言えばあいつの攻撃喰らって瓦礫の下敷きになったんだっけ?

くそ、道理で目の前の映像が、コンクリートな訳だよ!BAが壊れなくて良かったぜ。

 

「(ヴィズ!!)」

『(マスター!気が付かれましたか!?よかった・・)』

 

ヴィズが安堵の声を出しているけど、そんなところじゃ無い!

 

「(ヴィズ・・・俺はどれだけ眠ってた?)」

『(およそ10秒ほどです。先ほどの敵は現在交戦中)』

「(交戦中?・・・一体だれと、まさか)」

『(・・・交戦しているのはA分隊。ジェニス少尉が指揮をとっています)』

 

なん・・・だと・・・?

 

「(くっ・・俺も出る・・あいつらだけじゃ・・ぐっ!)」

『(その前に治癒魔法をかけてください!肋骨が折れて内臓を圧迫してるんですよ?)』

「(そのようだ・・・な。今の痛みで・・少し冷静になれた)」

 

俺は自分に治癒魔法をかける。その場しのぎの応急処置。だが、しないよかまし。

 

「(まったく、ココまでされたのなら・・・アレには是非とも多重弾核弾をプレゼントしないと・・・)」

『(同感です)』

 

さぁ、第2戦の始まりだ。

 

俺は多重プロテクションを展開。

 

そして――――――

 

 

 

「シールド・・・バースト!!」

≪バッガァァァァンン!!!!!!≫

 

 

 

第一層目のプロテクションを爆破、瓦礫を吹き飛ばした。

 

「(ジェニス・・・ガルヴァドスを使う。退避しろ)」

 

そして、ガルヴァドスを起動し、敵さんに弾幕の雨を降らせてやった。

 

***

 

Sideジェニス

 

――――しくじった。

 

まず、脳裏に浮かんだ言葉はソレだ。

 

「レッドクリフ4が奴に喰われました!」

「チッ、7をそっちに回せ!弾幕を張ってヤツを寄せ付けるな!!」

 

この強装結界を抜けるには、結界を崩さなければならない。

その為に、先ほどから結界魔導師が頑張っては居る。

だがまだ時間が掛かる。

 

「速い!速すぎる!!」

「泣きごと言ってねぇで撃ちまくれ!当らなくても寄せ付けなければ良いんだ!!」

 

既に部隊の8割が戦死、コレはもう事実上の全滅と言っていいだろう。

どうやら俺達は、あの小さな隊長にまた重荷を背負わせちまうようだ。

 

「こっちへ来る・・ヒッ!」

「気を抜くんじゃ≪グシャッ≫」

「クソが!また一人魔力弾にやられた!!」

 

A分隊もすでに戦力は半分になりつつある。

俺を含めて、陸戦魔導師が後2人、空戦出来るのが1人、結界が1人。

唯一の救いは、敵は弾幕を張れば近寄ろうとしない事だろうか?

 

「・・・だがこのままじゃ、ジリ貧か」

「・・・隊長はどこに行った?まさか逃げたのか?」

「・・・それが出来る人間だったら」

 

―――――まだマシ・・そう言い終わる前に、俺は防御魔法を発動させた。

 

≪ギュォォォォッ!!!≫

「グッ!重たい・・」

 

それは閃光、敵の放った砲撃魔法だった。

 

「デバイスも無しにこの速度、バケモンだ・・な!!」

 

防御魔法の壁はドンドンひび割れて行く。

一体どんな仕組みで、コレ程の威力を引き出しているんだろうか?

そんな事を考えさせてくれる余裕も、与えてもらえそうにない。

 

「ッ!砲撃が途切れたら、弾幕急げ!」

「りょ、了解!!」

 

こっちはストレージデバイスだから、タイムラグは少ない。

だが、敵さんはデバイスも無しに・・・“手をかざした”だけで魔法をつかう。

敵は一人、数の上じゃこっちが圧倒的有利だ。

 

≪バキ・・バキ・・≫

(くそう、俺は防御魔法は不得意なんだぞ!!)

 

心の中でそう叫ぶ。

背後では仲間の結界魔導師が、結界に少しだけ穴をあけて、救援要請を出していた。

だが問題は、救援が来るまで俺達が生き残っていられるか・・・かな?

 

「隊長・・・」

 

今はこの場に居ない、あの小さな隊長の事を思う。

あの隊長なら死ぬはずはない・・・とは思う。

 

女の子の様な顔をして、それでいて凶悪な戦闘能力とサバイバル能力の持ち主だ。

滅多な事じゃ死なないだろう。デバイスも秀逸だしな。

だが、その時―――――

 

「(ジェニ・・・)」

(隊長?!生きていたのか!!)

 

ノイズが入っているが、確かに通信から隊長の声が聞こえた。

 

 

だが――――――

 

 

「(ガ・・・ヴァドス・・・使)」

 

 

この言葉が聞こえた瞬間、あたまからサーっと血の気が引いて行くのがわかった。

ガルヴァドス、それはラーダー隊長がもつ広域殲滅魔法の一つ。

 

 

「おい!“ガルヴァドス”だ!隊長が“ガルヴァドス”を使うぞ!!」

 

 

俺のその言葉だけで、生き残りの連中も、顔色が真っ青に変わった。

そしてその後の行動は速かった。敵さんの砲撃が止んだ瞬間。

先ほどまで救援通信を送っていた結界魔導師が、全力で結界を張った。

 

 

 

そして―――――――

 

 

 

≪ズガガガガガがガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!!≫

 

 

 

敵の周辺が、爆炎と業火に包まれた。

・・・俺達も巻き込んで。

 

***

 

Sideフェン

 

ガルヴァドスを射出するのと同時に、俺はジェットパックを用いて一気にA分隊の元へと跳んだ。

放物線を描きながら、射出したガルヴァドスと一緒になって落ちて行く。

若干俺よりも先に、ガルヴァドスが敵を巻き込みつつ着弾し、辺り一帯は火の海に包まれた。

 

味方も巻きこんでいたが、彼らはこういった事に慣れている。

きちんと結界を張っているのも確認しているので、大丈夫だ。

 

「策敵」

『魔力残照が多くて、センサーがまだ効きません。キャンセラーレベル最大』

 

そこらにある障害物等は一掃され、開けた大地が広がっている。

だが、俺にはまだ敵を“殺った”とは思えなかった。

 

「…ッ!!」

≪ガギン!≫

 

とっさに、左腕にデフォで装備されているW-シールドを構えた途端、走る衝撃。

 

「くっ!」

『左腕部、盾使用不能』

 

見れば敵があの魔力刃を振り抜いたところだった。

そして壊れる俺の盾。

 

盾が壊れたのは仕方が無い、元々碌な機能をつけていない只の飾りの盾だ。

精々左手の防御がやや上がった程度の防御力しかない。

 

だがそれでも―――――

 

「・・・砕け散れッ!!」

『ファイア!』

 

至近距離での隙を作りだす程度の役目は出来た様だ。

 

「!!??」

≪ゴガガガガガ!!!!≫

 

まさか敵も、右手に持つアルアッソーからでは無く、突如出現したスフィアから攻撃されるとは、

思わなかった事だろう。しかも放たれる弾はガルヴァドスのモノだ。

 

「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

――――その威力は、普通の魔力弾の比じゃ無い。ミラージュハイドで隠しておいてよかった。

 

「教官の技・・覚えておいてよかった・・ぐっ」

『損傷度B・・・無茶しましたね』

 

しかし、こっちも無事って訳じゃ無い。

至近距離でガルヴァドスを起動させたのだ。

当然こちらも爆風を受ける事になる。

 

「B(バリア)A(アーマー)で・・よかった」

『そうでないと、今頃跡形もありませんよ』

 

完璧自爆技だわコレ。防御力が高いから出来る芸当だな。

あーもう節々が痛い。

 

「・・・ぐぐぐ」

「まだ・・生きてるのか」

 

しぶとすぎる。

殺傷設定のガルヴァドスを至近距離で喰らわせたのにも関わらずだ。

 

「げひゃひゃひゃ!!」

「・・・ッ・・・」

 

だが、無傷って訳でも無い。

敵は俺と違い、通常のバリアジャケットよりも薄いヤツしか身に付けていないのだ。

 

右腕は根元から吹き飛び、左手もひじから先が無い。

それどころか、わき腹が大きく抉れ、腸の一部がはみ出しかけている。

出血もかなり酷く、放っておいても自滅する事だろう。

 

だが、この時はコイツを殺さなければならないと、俺の本能が警鐘を鳴らしていた。

どう見ても死に体、風が吹いただけで消えてしまいそうな命の火。

コレ以上の攻撃は必要無さそうに見える。

 

「ひゃひ≪ごぽ≫・・げひゃ♪」

「・・・哂ってる?」

『!!?オートプロテクション!!』

 

突然ヴィズが俺を囲むかのように、障壁を展開させていた。

そして衝撃が襲う。見れば足元から複数の杭が伸びている。

ソレらは全て人間を貫くのにちょうどいい大きさで、しかも全て殺傷設定だった。

 

「けけ・・」

≪ヴォン≫

 

そして、血液で水たまりが出来ているにも関わらず、目の前の敵は魔力刃を作り上げる。

先が無くなった、左腕の肘から・・・。

 

「・・・痛覚を外したのか・・・いや、コレは」

 

意図的に外された・・・恐らく以前の『実験体』とおんなじ。

魔導師の兵器化・・・やっぱり、まだ続いてたんだ。

 

「≪ごぷ≫・・まだまだ」

 

一応言語は言えるが、現状認識は出来ない。

爆発で折れてしまった脚を引き摺り、目の前の標的(俺)に対して攻撃しようとしている。

 

どう考えても失敗作・・・いや、この場合死兵として考えれば、これ程の兵はいない。

何せ、コイツの所為で、俺の部隊は全滅だ。

 

「・・ハッ!」

≪ヒュン≫

 

魔力刃が振われるが、ソレはどう考えても先ほどよりもずっと遅い。

身体の損傷がひどく、もう殆ど動かせない様だ。

流れ出る血を止めないので、既に顔は青を通り過ぎて白くなり始めている。

 

「ひひ・・」

≪ヒュン≫

 

俺は出される、もはや斬撃とも呼べない攻撃を避け続ける。

本当なら、止めを刺してやればいい・・・。

部下を殺された・・だがココは戦場・・私怨をはさむなんて・・。

 

「・・・アルアッソーモード」

『・・・了解』

 

俺はマシンガン形態になったヴィズを敵に向ける。

 

 

 

―――――――――――バシュン・・・ドサ。

 

 

 

一発の魔力弾を、心臓に撃ちこんだ。

とたん、糸が切れたマリオネットのように崩れ落ちる。

たった一人で、俺の部隊を壊滅させてくれた男の骸が、静かに転がった。

 

「・・・あっけない」

『マスター・・』

 

たった一人・・・コイツ一人に俺の部隊は全滅させられたって言うのか?

目の前であっけなく死んで転がっているこの男に?

 

「・・・ッ!!」

 

思わず目の前の死体に手を振り上げそうになる。

それをなけなしの理性と自制心で抑え込む。

 

 

こんな・・・こんな。

 

 

「・・・はは」

『・・マスター?』

「アレだけ部下が死んだんだ・・・哀しいんだよ」

 

 

おかしいよなぁ・・・一粒くらい、涙を流してくれよ。俺は人間・・だろ?

 

 

『マスター、生き残りを集めて離脱しなくては・・・』

「わかっている・・・」

 

徐々に強装結界も解除されつつある。

大本の基点は、やはりコイツが動かしていた様だ。

上の方から解除されていってるから、もうしばらくすれば全解除されるだろう。

 

「・・・ジェニス達、反応ある?」

『一応、生きてます』

「そう・・・何人生きてる?」

『全員で四人です』

「よかった」

 

よかった・・俺一人残されなくて・・。

 

***

 

俺はガルヴァドスの所為で、付近に埋まってしまった部下達を掘り起こした。

皆ちょっと疲れてはいるが、あの敵を相手にしたのに、擦り傷程度とは運が良い。

 

「・・・はぁ、隊長?ガルヴァドス使う際は、周りのことをよく見て使ってくださいよ」

「ああ、ええと・・・すまん」

「すまんじゃないです!お陰でこっちは生き埋めだったんですよ!!」

 

生き残り連中は首を揃えて縦に振る。

いやだって―――――

 

「・・・あ、あのタイミングが・・ちょうどよかった」

「ほう?それで私たちごと吹き飛ばしたと?」

「あう・・・ごめんなさい」

 

うう、確かに俺が悪かったような気がするから、強く言えん。

 

「そ、そんなことより、ココから離脱する」

「ええ、何時敵さんの増援が来るか解りませんからね。お前ら、撤収だ!」

「「「了解」」」

 

皆声を出す。仲間が死んだけど、ココでそれを悔やむ事は出来ない。

悔やむだけなら後で出来る。今すべきことは生きて帰る事だから・・・。

俺達は仲間の遺体の回収は後回しにして、この場から去ろうとした。

 

 

 

だが――――

 

 

 

「!!――隊長!!」

「え?!」

≪グシャ――≫

 

 

 

          なにがおきた――――

 

 

 

「「ふ、副長!!」」

「あ、あの野郎!!まだ生きてやがった!!ええい死ね!!」

 

 

 

貫かれた・・ジェニスが?誰に?――――――

 

 

 

「クソ!俺は治癒魔法が使えない!」

「俺もだ・・・隊長!!」

 

 

 

あの敵に?俺が止めを刺し忘れたから?――――――

 

 

 

「隊長!すまん!」

≪バシッ!≫

「!?」

 

なんだ?ほほがいたい・・・?

 

「隊長!アンタしか治癒魔法使えねぇんだよ!しっかりしてくれ!!」

「!!すまない!ヴィズ、リペアパック展開!リペア起動!」

 

ええい、少しばかり放心していたようだ。

くそ、傷が深い・・・。

 

『リペアパック展開!治癒魔法作動開始!!』

 

傷は・・・なんてこった寄りにもよって心臓の近く。

幸い心臓は外れてるけど・・・ココには――――

 

「リンカーコアが・・・」

『ぐ、脳波がどんどんフラットに・・治癒が追い付かない』

 

くそ、リンカーコアも傷つけてる可能性が高いぞ!

おまけに今の治癒魔法だけじゃ回復が追い付かない!・・・だったら。

 

「MTS-40内の残存を全て使え・・」

『ですがソレではマスターの身体に』

「いいから!・・・使うんだ」

『・・・了解』

 

ガシャンという音と共に、残った魔力が全てリペアに回される。

 

「・・・ッ!」

 

途端全身に負荷が掛かる。

まるで大きな岩に乗られているかのような、ジワジワとした苦しみ。

戦闘で酷使されていた俺のリンカーコアが悲鳴を上げている。

 

「隊長!くそ、俺たちじゃ何もできねぇ」

「あいつに止め刺した所為で、もう魔力は空っぽだ」

 

周りの連中が見守る中、俺は負傷してしまったジェニスの傷を癒し続ける。

5分以上かけ傷を塞ごうとしたが、ヤツの魔力残照の影響か傷の直り方が遅い。

 

 

「嘘だ…うそだ…!」

 

 

俺は呼びかける。

 

 

「傷は…浅いんだろう!…おいッ!」

 

 

もうこれ以上、死なせたくない。

 

 

「逝くな!…おい!ふざけるな!・・・目を開けろ!命令だ!」

「隊長揺さぶっちゃダメです!!副長が死んじまいます!!」

 

 

ましてや、目の前で助けられるのに・・・コレ以上死なれてたまるか!!

 

 

 

 

「目を開けろ!ジェニス!!」

「・・・・聞こえてますよ。全くおちおち寝てもいられない」

 

 

 

 

俺は神に祈った事は無いが、この時ばかりは祈ってもいい。

顔をしかめているジェニスを見て、俺はそうおもった。

 

 

 

 



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旧版【妄想戦記】多分十九話から二十一話、USN編ラストまで

 

 

「オウノウ、髭だるまか・・・」

 

 

 

 

―――妄想戦記―――

 

 

 

 

 

やぁみんな、相変わらずしぶとく汚く生き残っている転生者フェンだよ。

何気にあの部隊全滅した戦いから数カ月が経過しました。

戦線が緊迫しているお陰なのか、部隊を全滅させた俺にはお咎めは無かった。

 

あるとすれば今までの戦闘での功績が剥奪された位である。

そして部隊が再編するまで待機と名目上相成った。

その為空いた時間を訓練や事務にいそしんだ訳だが…主に事務関係に殺されかけた。

 

他にも、何気に顔見知りが増えたりして、俺なりにこの生活を続けていた。

だが、俺の中には小さいながらも、とある感情が燻っていた。

それは・・・憤り。

 

信頼出来た部下の殆どが、OCUだと思われる敵兵に皆殺されてしまった。

しかも自分が殺し切れなかった所為で、あわや優秀な副長まで失うところだったのだ。

己の未熟さと馬鹿さを呪いたい気持ちでもあったのか、最近更に表情が硬くなってしまった。

 

何とも馬鹿らしい話だ。自分は今だ未熟であると思うが、人間の心まで失いそうである。

このままでは社会復帰も難しい事になってしまう事であろう。

純粋な戦闘マシーンになりそうで怖い・・・実はこれは陰謀じゃ無いのか?

 

「・・・ハァ」

 

全く持って馬鹿らしい・・・そして、そんなチンケな事を考えられる自分が恨めしい。

任務が無いと余計な事を考えてしまう自分にイライラする。

 

「あーもう・・・やってられん」

『マスター、訓練の時間です』

 

鬱だろうがなんだろうが、軍の規定により兵士は一定以上の訓練をする事が義務とされている。

当然俺もそれが習慣化しているので、重い足取りで部屋から出ようとした。

だが―――

 

≪コンコン≫

 

「?」

 

誰だろうか?今現在俺のところに来る人間はいない筈だ。

大体俺、部隊再編までは緊急事態にでもならない限り、名目上部屋で謹慎みたいなモンだし。

まぁ立っていてもしょうがない為、とりあえず扉の鍵を解除した。

 

 

………………………

 

 

…………………

 

 

……………

 

 

………

 

 

―――――そして俺は今、何故か知らんが髭のおっさんと二人っきりである。

あ、ウホっでは無いので安心してくれ・・・そうでなかったら逃げてるわい。

 

「―――君が最年少の隊長とラーダー中尉かね?」

「“元”・・・ですがね」

 

現在は隊長職では無いのだ。

なので今の俺は隊長室じゃなくて普通の士官室に住んでいたりする。

 

「・・・で、あなたは?」

「おおっと、こちらも名乗らないとフェアじゃないな。俺はヘクター・レイノルズとある部隊のしがない部隊長をやっている。ちなみに階級は少佐だ」

「失礼いたしました」

 

俺は慌てて敬礼を取る。

この髭親父は何かフランクな態度だが、一応こっちの方が階級が下である。

対外的にもきちんと敬礼をしなくてはならないのである。

 

「・・・敬礼はしなくていい。俺は固ッ苦しいのは嫌いだからな」

「ですが・・・」

「なら俺の前では普通にしていろ。命令だ」

「わかりました・・・・で、ご用件は?」

「順応が早いなオイ」

 

だってそう言う命令だし、命令なら仕方ないじゃ無いッスか?

しかし、ヘクター?・・・どっかで聞いたような?

 

「ま、要件はな?・・・お前の部隊が全滅したことに付いてだ」

 

その言葉に、思わず身体がビクンと反応してしまう。

あのことは、軍の中でもごくわずかな人間しか知らない筈だ。

敵魔導師の亡きがらも回収されたとは聞いたが、詳しい話は俺も知らない。

 

「・・・その件は既に裁断が下されており、自分にはソレを喋る権限はありません」

 

――――なので俺はこう返すしかない。でも何故軍の中でも内々で処理された事を知っている?

 

「ふん、大方上の連中に口止めされているってとこか」

「・・・・」

「まぁこの件は俺の管轄でもある。上の連中もそう文句はいえんから安心して話せ」

 

 

この件が管轄?上の連中が文句言えない?

あれ?そう言えばヘクター・・・っあ!!

 

「・・・“バーゲスト”」

「なんだ、俺の部隊の事をしてっていたのなら話は早い。ま、そう言う事だから知っている事を全て述べて貰おうか?」

 

バーゲスト、俺の元いた世界のゲームフロントミッション5に登場する部隊の名前。

『ソーコム直轄、特殊機甲分遣隊、通称バーゲスト』がゲームでの名称だ

ちなみにこの部隊が出来るのはもうチョイあとの筈なんだが、この世界では既に存在している。

この世界では『中央情報部直轄、特殊魔導師分遣隊、通称バーゲスト』となっている。

 

最初軍の資料にバーゲストの文字を見た時、嫌幾らなんでもまだ早いだろ?

とか突っ込み入れた事をよく覚えている。

そうかぁ、なんか見た事あるかと思ったら・・・ヒゲダルマの人か。

てことは、最初から俺が誰とか事件の事全部知ってたな?この髭狸。

 

「事件についてはお前が出した意見陳述書しか目を通しとらんぞ?」

「・・・声に出してましたか?」

「いや、顔見れば解る」

 

・・・・スゲェなバーゲスト。俺鉄面皮で通ってるのに。

しかしまぁ、とりあえずだ。

 

「はぁ、あんまり思い出したくは・・・無いんですがね」

「すまんな」

 

素直に起きた事を全部話すことにした。

このおっさん敵に回したら流石にヤバいからなぁ。

 

***

 

「―――――コレが起こった事の全てです」

「ふむ、たった一人の魔導師による惨殺。しかもデバイス無しか・・・同じだな」

 

あの時の事を全て話した俺。

トラウマってワケじゃないが、あんまし思い出したい事じゃないの思い出すのは苦だな。

 

「同じ?」

「・・・まぁ、あの“ラプター”を親に持つ貴様になら話しても良いか」

 

あのラプター?もしかして母上の事かな?

 

「貴様が交戦した相手。アレはOCUの連中じゃ無い」

「・・・成程」

「驚かんのか?」

「いえまぁ、うすうすは感じてましたし・・・」

 

どう考えても正規軍じゃない上、無理やり見かけだけOCUだったもんなぁ。

大体バリヤジャケットの設定は簡単に変えられるから、見た目の変化は重要じゃ無いし。

それよりも――――

 

「このご時世・・・デバイスを使っていないヤツは見ませんから・・・」

「ソレも含めて、とある話しをしてやろう」

 

髭狸から話されたのは、所謂国家機密、しかも暗い部分に近いところの話だった。

この世界にデバイスおよび魔法関連技術が持ち込まれて幾年。

各国はデバイスの開発に余念が無く、戦争も相まって技術的進歩は恐ろしい程だった。

 

そんな中、更なるデバイスの運用法として考えられたのが、術者とデバイスとの直結。

タイムラグを無くせるという画期的な方法――――

 

「我々はこうよんでいる。―――“S型デバイス”と」

「S型デバイス?」

 

――――それこそ、人間工学、生物学、医学、魔法技術の粋を集めて考えられたデバイスである。

 

通常のデバイスともっとも事なる点、ソレは脳と直結する事により、

デバイスそのモノをもう一つの魔法専用の補助脳にしてしまうというもの。

人間自体がデバイスとなると言っても良いだろう。

 

魔法を使うという行為自体が手足を動かすと同じである為、タイムラグが無いのだ。

おまけにデバイスのセンサー類もダイレクトで術者にフィードバック出来る為、

近~遠距離接戦に置いても、通常の魔導師のソレをはるかに上回る能力を有する事になった。

 

ある意味でベルカ式のユニゾン型デバイスとはコンセプトこそ似ているかもしれないが、

全く別の技術と観点によって生み出された新デバイスであると言っても良い。

外見的にもデバイスは保持している様には見えないのも特徴である。

 

何せ人間の脳自体、デバイスなのだから他に余計なモノを持つ必要が無い。

そして、簡単外科手術によって、少しでも魔力持ちの人間なら誰にでも扱えるようになる。

自分の思った通りに魔法を扱えるのだ。最初から歴戦の魔導師を手に入れる様なものである。

 

おまけにセンサーのフィードバックの影響からか、本人自体の視覚・聴覚などの感覚器も、

S型を使えば使うほど、鋭敏になっていくという。

 

――――何という・・・フロミ成分。

というかデバイスを使っていなかったじゃなくて、本人がデバイスだったのか。

 

「だがその分、我々には問題もある」

「我々?問題?」

「そう、我々だ。生体デバイスと化す以上、常にデバイスを起動し続けるという事になる」

 

ヘクターは己の頭を指しながらそう言った。

見れば彼の頭にも、銀色に光る小さなプレートの様なものが付いている。

 

「常にセンサーからもたらされる膨大な情報を処理する事になる。ようは脳を酷使するんだよ」

 

そう、それこそこのS型デバイスの最大の弱点。

長期的な面で見た場合の魔導師への負荷量の高さだ。

 

「他にも無理やりリンカーコアから魔力を引き出したりする。コレも負担がデカイ」

 

通常待機状態でのデバイスの魔力消費量は、通常魔導師が普段垂れ流しにしている余剰魔力とそう変わらない為、戦闘状態で無い限り魔力に置ける負担はそれほど高くは無い。しかし、それ以外の肉体と精神の面に置いての負担量は、常人のソレをはるかに超えるらしいのだ。

 

「考えても見ろ?鋭敏になった感覚の所為で、寝ていてもネズミの足音すら感じ取れるくらいなんだぞ?」

「それはまた・・・」

 

―――とてもじゃないが気になって眠れないだろうな。

 

「だがその程度ならまだいい。センサーを切れば良いし、最悪薬に頼るって手もある」

「問題はもっと別だと?」

「その通りだ。S型には向き不向きがあるらしく、時に精神障害、記憶喪失を引き起して行く。我々にとって、普段の日記は日々失われゆく己を保つモノとなる事もしばしばだ。まぁ症状にはピンキリだから、俺の場合はそれほど酷くは無い」

 

対象者への心身の安全を考慮しないデバイス。

ある意味人道から外れた“兵器”と言えるものである。

何せそれ程高い魔力持ちで無くても、対人戦スキルを高めた人間なら即戦力になれるのだから。

 

「お前も見ただろう?敵の異常性を・・・」

「・・・・」

 

まるで支離滅裂、と言うか狂っていた。

いや、だが・・・

 

「レイノルズ少佐、質問があります」

「何だ?言ってみろ」

「・・・あの敵は、狂っていたと思われますが、何故ソレで軍事行動が取れるのでしょう?」

「ソレは正解であって正確では無いな」

「というと?」

「アレは軍事行動を取るんじゃない。取らされるんだ。脳に入れられたデバイスによってな」

 

予想していた事ではあったが、実際聞くと胸糞が悪いなんてもんじゃない。

つまり、あの敵は最初から人形であったという事なのだ。

 

「デバイス自体が脳と直結しているからな。理論上デバイスを介して人間を操る事も可能な訳だ」

「・・・かなりの軍事協約違反・・・ですね」

「もっとも、こちらでもおんなじ研究がされていた。一概にどっちが悪いとは言えんがな」

「?・・・少佐もその?」

「ああ、その時の生き残りだ・・・さて、そろそろ俺は行かなきゃならん」

 

部屋の時計を見れば、長針が一回りするくらいに時間が経過していた。

レイノルズ少佐とはそのまま一言二言喋り、部屋を出て行った。

 

***

 

「はぁ・・・」

『マスター先ほどの話は・・』

「ヴィズ、さっきの話は記録容量から削除しておけ。完璧に機密情報だアレ」

 

どう考えてもヤバいなんてもんじゃない。

ヘタすると、あの敵とまた戦わされるとかされるぞ。

 

『了解しました。ところで、どう思われます?』

「・・・半分ウソ、半分ホント。フィフティフィフティ・・・だ」

 

恐らくエサを巻いて、大きな魚釣りをしようって腹だろうさ。

このタイミングで話しかけるという事は、俺に敵討ち的な何かを促そうとしたんだろう。

俺のバック・・と言うか親は軍上層部に食い込む人物だし、人脈を作っておくにも悪くない。

 

「まったく・・・本当に狸だ」

 

あいにくだが、部下が死んだ事は確かに哀しし悔しいが、俺は仇討する程の度胸は無い。

この戦争が終わるまでは・・・と言うか今すぐにでも隠居したいくらいだからな。

 

「少なくとも・・・俺はアレの話には・・・乗らない」

『・・・記録削除します』

 

ああ、もっと平和で平穏に暮らしたかった。

生き残る為に必要だと思って力をつけて見たが、結局災いしか来ないんだよな。

過ぎた力は身を滅ぼすっていうけど、力がある時点で身を滅ぼしてるよ。

 

「・・・もしかして、モーガン生きてんのか?」

『マスター?』

「・・・今のも削除しておけ。今日は・・・やっぱり寝る」

 

最悪だ。全く持って最悪だ。と言うか転生しての特典が強すぎるからなのか?

ああ、この世界だとOCU側だろうけど、縁側とお茶が欲しいよぉ。

 

ストレスで胃袋がマッハでピンチだよ。

恐らくフラグ来てるけど、ぜっていイベントはおこさねぇからな。

 

「平穏が欲しい」

『同意します』

 

俺は痛む胃袋と共に、今日はかなり早めに床に付いたのであった。

 

***

 

 

 

・ある日の通信回線ログ

 

 

 

『ようラプター、久しいな?』

 

『レイノルズ、私をその名で呼ぶな』

 

『誰だかわかればそれでいいじゃないか?まぁそれはさて置き面白い情報があるんだが聞くか?』

 

『ソレは私にとって利益が出る話か?それとも損失か?』

 

『さて、そこら辺はお前が判断する事で・・・こっちの量分じゃ無いな』

 

『・・・まぁいい、聞かせてみろ面白い情報ってヤツをな』

 

『お前さんの子供が軍に居る』

 

『・・・・・・・・あー、レイノルズ。ジョークもほどほどにしといてくれると嬉しんだが?』

 

『俺はジョークは言うがウソは言わんぞ?気になるんなら確認して見れば良い。それじゃあな』

 

『お、おい!レイノルズ!!・・・切られた。―――とりあえず確認してみましょう・・・。』

 

 

 

 

 

 

――――この数日後、USN軍の人事をつかさどる部署に所属する人間が、何人か消え去った。

 

 

行方不明となり、軍当局も捜索したが何の手がかりも見つからず、OCUのスパイの仕業かと思われた。だが数日後、行方不明者たちはあっさりと見つかった。しかし全員心神喪失状態であり、運よくも意識があった一人は“弾幕が・・・空が落ちて・・”と言って、そのまま意識を落し、現在も意識不明である。

全員極度の精神的なストレスにさらされたとの診断結果であったが、結局全員口を聞けぬ状態にあり、当事者以外何が起こったのか解らないまま、戦争中で操作が出来ず、この件は迷宮入りとなったのであった。

 

 

 

「連中には幻術をかけて、心神を喪失してもらったよ」

「そう、ありがとうアナタ」

「何、僕たちの可愛いフェンの為じゃないか」

「そうね。さて、勤務地の変更をしなくちゃね」

「ああ、あの子の顔も久々に見たいからね」

 

 

――――こうして、フェンの預かり知らぬところで、10歳以下の少年兵たちによる魔導師部隊を作るプロジェクトが、潰されることとなった。その事を前線に居る彼は未だ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっ、両親自重してくれ」

 

 

 

 

 

 

 

ヤァ皆、激戦をくぐり抜けて来た歴戦の俺でも、今ちょっと拙い

―――――というかかなりヤバい状況だ……何でかって?

 

 

 

 

 

 

それは………

 

 

 

 

「フェンちゃ~ん♪逃げないと死ぬわよ~?」

「・・・(ひぃぃぃぃ!!!)」

 

 

 

 

―――――――――親にバレたんだよ!軍隊に入った事!!!

 

 

 

 

実は既に軍に入ってから結構経ってんだけど、両親には話してなかったんだよね。

何気に俺活躍してたせいか、流れた噂が両親の耳にクリーンヒットしたらしい。

でもって、たまたま同じ作戦を行うことになって基地に猛禽と化した母上がいらっしゃったと…

 

 

 

「久しぶりに全力で行くわよ♪パーティクルダンサーズ!!」

 

 

 

ああ、視界いっぱいの魔法陣・・・もう、逃げられない・・・ハハハ、短い人生だったなぁ~。

 

 

 

***

 

それは何時もの朝だった。

 

朝起きてすぐ呼び出しがあり、司令官室に行ったんだが、その時から何故か背筋を撫でられるかのような感覚だった。

でも、特に何も変わらないのでそのまま司令官室に入ったんだ。

 

司令はいつもは、表情を変えたりはしていなかった。

だけど、その日だけは違った――――

 

「ラーダー中尉、ご両親が面会だそうだ」

 

――――と、いかにも笑いをこらえていると言った感じで、基地司令はそんな事を言ってくれた。

 

 

そして気が付けば部屋の扉が閉まる音・・・立っている両親の姿。

途端本能的な恐怖を感知した俺は、身体が勝手に動き基地司令室の窓を突き破って逃亡した。

セットアップしながら窓を蹴り破ったから、怪我とかはしていない。

 

当然の事ながら、母上が追っかけて来た上、問答無用で魔法をぶっ放し始めた。

一応軍基地では、非常時以外での私用による魔法の発動を禁止している。

しかし、母上は事前に訓練の目的で許可を取っていた為、ふつうに使ってきたのである。

 

 

そんで逃げ回りつつも、ものすご~く怒られました。演習場にて…。

何が起こったかって言うとデバイス起動させて、魔力弾を撃って叱るってどうよ?

アンタはどこの白い魔王さんですか?会話=攻撃ですか?

死なないためにこっちもヴィズを起動させるしかないじゃん!!

 

そして、スーパーフルボッコタイムが始まりました。

こっちが悪いことは分かってるから手が出せない。

 

 

「フルバスターカノン展開♪」

「!!多重プロテクション全力展開!!急げ!!」

 

 

母上は杖から三つのバレルを展開。三条の光線が迫ってくる。

ああ、時が見える…じゃなくてヤバイ!死んでしまう!!

 

 

「カッティング・ブラスト」

「――――あわわわ・・!!」

 

 

杖を振るえば、そこから20数個はあろうかと思えるほどの魔力刃が空を乱舞する・・・。

誰か、誰か助けてー!メ、メ、メディィィィクッ!

 

 

「よく耐えたわね?でも、いい加減止めよ♪」

「ちょっ!?」

「―――生と死の狭間より出でよ・・・フライング・ダッチマン!!」

 

 

そして母上の奥義、無機物召喚最大級、召喚されし亡霊船が通過する。

 

≪ゴイン!≫

 

そして船に跳ねられる俺―――――――この時、本当に流れ星がみえたんだお☆

 

***

 

気が付くと己の部屋に居た俺。

ああ、夢か・・・と思いたかったが、普通に両親が立っていたので夢ではない事が解った。

そして言葉による尋問訓練もとい・・・お説教がスタートし、俺の精神はドンドンすり減らされた。

消耗しきった感じの俺を見て、母上のお説教は終わったのである。

 

「――――軍は続けても良いけど、危ないことはしないように!」

「?・・・軍は危ないところなんじゃ「フェン・・・・ちゃん?」!ハイ!アブナイコトハシマセン。ガンホーノセイシンデス!サー!」

 

物凄いお仕置き(魔法有り)を何とか切り抜けた俺は、正座をさせられ両親に怒られた。

ちなみに父は言いたいこと全部母上に言われちまって、今は口を閉じてこっちを見ている。

でもさ・・・逆に見られているだけってのもつらいモノがあるよな?

無言の圧力ってヤツ?怒り顔じゃないのが余計にこうなんて言うか・・・堪えるんだ。

 

 

そして、お叱りタイムはもう終わりって事で、久しぶりの家族の団らんタイムになった。

俺はここまで来るのに何があったかを順を追って説明していった。

とくにお世話になったワイズ教官やソフィア教官と、どんな訓練をしたかの話もした。

 

意外な事にウチの両親と教官達は知り合いだった。

何でも母上も昔お世話になったんだそうな。

・・・ワイズ教官っていくつなんだろう?

 

久しぶりに両親と水入らずの雑談をしていく。

やっぱりね、精神が身体に引き摺られているのか。

両親と居ると安心できるんですよ。

 

 

 

しかし、その後、あまり話したくない話題を、両親は繰り出してきたのであった。

 

 

 

「ところで、なんでフェンちゃんは軍にはいったの?」

 

えっと、それさっき言いましたよ?軍の人から勧誘を受けたって。

俺がその旨を言うと―――――

 

「違うわ…貴方が何故傷付いてまでここにいるのか?ってこと。」

 

あーごまかしは効かない雰囲気だな…仕方ねぇ、本当の事を話すか…

 

「…俺が軍に入ったのは、他の子供を守るため(ソレと保身の為)」

「でもそれは大人がやること…」

「(フルフル)俺が軍に入らないと他の子供がこの役をする筈…」

 

その言葉に母上は言いかけた言葉を飲み込んだ。

 

「しかも俺よりも魔導師ランクが低い子供が…彼らでは、まだ人を殺すことに耐えられない…」

「でもフェンちゃんも…」

「そう、普通は耐えられない…」

 

実際血反吐を吐いたからね…言葉のあやじゃなくて文字通り血を吐いたからな。

死にかけて…死にかけて…何度壊れるかと思ったものか…。

 

「でも母さん言った。強い力を持つものが、弱いものを守ることは当然だって」

 

今でもその言葉は、俺の心に刻み込まれている。

絶対に忘れることは無いだろう・・・・戦争怖いけど。

 

「その思いがあったから・・・・俺は耐えられた」

「………」

 

あながち嘘じゃ無い…英雄願望こそないけど、何クソォ!って感じで耐えていたからな。

兎に角、自分と自分の周りの人の為に精いっぱいだッたヨ。

 

「力がある俺でもここは辛い…それにもう俺は戻れない。この手で…もういっぱい殺したから、

 でも他の子供たちの心と平安が守れるなら…俺は耐えられる。殺した人たちの事も忘れない。

それが俺の背負う罰だから…」

 

これが俺の今の気持ち。

あの時、俺が行かなかったら他の誰かが犠牲になっていた事だろう…。

中身が大人の俺でも吐くほどヤバかったんだ…こんなとこ子供が耐えられる訳無い。

 

元の世界じゃ一般人だったんだがなぁ…使い古された言い回しだと、俺の両手は血塗れだ。

もう人を殺している以上、俺は一線を越えてしまっているし、今更戻るなんて贅沢言わない。

 

そんなのは、俺が死んでから地獄で懺悔すればいいだけの事何だからな。

なんじゃかんじゃでここまで来ちまったんだから、今更逃げないさ。

 

こうなったら意地でも終戦まで意地汚く生にしがみついてやるんだもんね!

じゃなかったら何のためにこの世界に転生したんだかわかりゃしないんだからな!

 

 

「だから逃げない…立ち止まらない…終わるのは…後悔は死んでからでいい…」

 

 

ここまで話したら両親が俺の前に立ち、黙って俺を見つめている。

スッと両親の腕が上がっていく…叩かれるかな…と思い身構えた。

だが、俺は叩かれることは無く…俺は両親に――――

 

「「………ギュ」」

「―――?!」

 

 

 

 

 

――――両親に…抱しめられていた…。

 

 

 

 

 

「もう泣かなくても大丈夫…不甲斐ない親でゴメンね?」

「………ッ………」

 

 

 

 

いつの間にか泣いていたらしい…うろたえる俺を両親は再度抱きしめてくる。

 

 

肌に伝わる両親の温もりは、俺が小さかったころから全然変わっていない。

 

 

それが何だが無性に懐かしくて、そして悲しかった…

 

 

約束を破り、この両親に心配をけてた俺が、こんなにも愛されてもいいのだろうか?

 

 

そう思うと涙があふれ止まらなかった―――――

 

 

「…ごめん……」

 

 

そう言葉を述べた俺は、両親に抱きついてひたすら泣き続けた。

 

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

 

恥も外聞もなく、“フェン・ラーダー”個人として…この両親の子供として泣いた。

 

 

だって状況が状況だったとはいえ、選んだのは俺だから…。

 

 

周りがそうだからと逃げたのは俺だから…。

 

 

 

 

 

 

涙を出し尽した俺は眠ってしまい、そのまま気が付くまで両親に抱きしめられていたそうな。

こうして両親と再会した俺は、何故か両親と一緒の作戦に出されることが多くなった。

噂ではウチの母上が、俺と一緒の作戦に出る事を上伸(脅し)したという。

 

 

・・・・・昔から思っていたけど、ウチの母上ってどんだけぇ~?

まさか母上、OHANASIが出来るのでは?・・・・勝てるわけがねぇ。

 

***

 

さて、両親との再開と言うなんかフラグ的なイベントがあった。

だけど、俺の日常は変わらず、暇な時はいつも書類整理に追われている。

 

そこら辺どうなのよ?と両親に尋ねたところ、

二人ともちゃんとこういった事は終わらせていらっしゃるんだそうで…。

私たちにも出来るんだから、貴方も出来るわよ。とは母上の言である。

 

とりあえず何回目だったかは忘れたが俺はこう言っておこう。

俺はまだ年齢一桁の子供やっちゅうねんッ!!

 

 

まぁそれは置いておくとしようか、ウン。問題はだ。戦争終わりました。

現代の戦争は電撃戦だって言うけど、まさかこれほど速く終わるとは・・・。

 

なんでも停戦協定を結んだダケらしいので、結局ハフマン島は半分に分けられたままだそうだ。

でも戦争が終わったことにかわりは無い。

 

戦争が終わったことに、喜びをあらわにする市民達の騒ぎが、基地にまで聞こえた程だ。

・・・・・流石に魔法乱射で花火代わりにするのは、どうかとも思うが。

まぁみんな喜んでいたって事でしょう。俺も柄にもなく笑顔になれたからね。

 

 

とにかく、そんなこんなで戦争も終わったし、ようやく軍から抜けられる。

・・・・・とは、問屋が下さなかった。どうやら俺はまた頑張り過ぎたらしい。

 

以前の失態で軍歴こそ剥奪されてはいるモノの、任務達成率はかなり高かった俺。

どうやら軍はそれを失う事が嫌だったらしい。

気が付かない内に俺は、母上の部隊に配属される運びになっていたんだそうな。

 

ちなみにその事を知ったのは終戦3日後。両親からそう話された。

ようやく帰れると安堵していた矢先の話だったので相当驚いた。

 

まぁ大方、別の部隊に回される所を、今度はなんとか自分の手元に引き寄せたってとこか。

相変わらず母上はすさまじい。G(グレート)M(マザー)の称号がふさわしいんじゃないか?

 

そんな訳で俺は今だ軍にいなければならないらしい。

最も戦争中では無い為、活動的には各紛争地帯でのPKFが主な任務になるそうだ。

前線真っ只中にいるよりかは遥かに安全である。

 

そして何よりも楽になったのは、もう俺に指揮権は無いのである。

故に戦闘だけに集中出来るのだ。これ程楽な事は無い。

母上の部隊だから、俺との連携は慣れてるし、慣熟訓練も必要ないだろう。

 

序でに何故かジャニスも俺と一緒に母上の部隊に入ることになったらしい。

彼も了承しているらしいので、なんだか今までと変わらんと言う感じである。

問題は彼が母上の扱きに堪えることが出来るのかと言うところであるが、まぁ大丈夫だろう。

 

 

 

―――――こうして俺は、新たなる道へと進むことになった。

 

「ようこそ、特殊機甲強襲魔導師連隊、ストライクワイヴァーンズへ・・・ってか?」

 

今度は空母が駐屯地かい?・・・・船酔いしなければ良いけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ぬのはイヤ…だけど死なせるのはもっとイヤ」

 

 

 

 

―――転生か?第9,1話―――

 

 

 

 

さて、心機一転、今回新たな任務を受けた俺達。

両親の部隊と俺は、とある研究施設をジャックした敵部隊の制圧任務に来ていた。

この施設は、時空管理局の技術協力の下、所謂次元航行エネルギーを研究していた所らしい。

 

故に下手に破壊すると周辺を巻き込んで消えてしまう可能性もある

その為、俺を含めて母上父上…ソレと部隊の数人の少数鮮鋭で制圧する運びとなったのだ。

ちなみにその施設の出資者はサカタインダストリィである・・・陰謀臭ぇ。

 

こんな所で戦闘なんて、ある意味正気の沙汰じゃないと思ったんだけど…

母上の部隊の人間はもう調教が進んでいて、イエスかハイしか言わなかったし。

俺も信頼されてるのか、俺と殆ど俺専属の副官ジェニス以外は待機する運びとなった。

 

部隊の運営として、こんな事でいいのだろうかと母上を問い詰めたいところだけど…

――――――まぁウチの母上だから……うん、仕方ないよね。

 

それに魔導師の軍隊は、普通の軍よか個人の融通も聞くからさ…多分問題無い。

突っ込みどころ満載だけど…突っ込んだらそこで試合終了だよ(何が?!

 

――――――兎に角、色々気にしないで任務にあたる事にした。

 

しかし、この時は思わなかった。

この任務両親との、最初で最後の初任務となるなんて・・・・。

 

***

 

―――施設内最奥―――

 

 

「…この奥が最重要区画か…ヴィズ?」

『そうです。いまハッキングして扉を開きます。』

 

≪プシュー≫という音と共に、エアロックがはずれ気密の高い部屋に入った。

 

「(こちらレッドクリフ、重要区画へと侵入した。指示を乞う)」

「(ラプターマム了解、敵性反応が多数ある。まずはソレらを殲滅せよ)」

「(レッドクリフ了解)」

 

通信を切る。ちなみに俺のコールサインが変わらないのは、俺がそう頼んだからである。

引き摺るつもりは無いけれど、前の連中のことを忘れたくないと・・・。

まぁ案外あっさりとOKされた。流石母上、大抵のことは何でもできるんだね。

 

「・・・・」

『敵正反応、接近中』

 

途端、背後の扉が閉まりロックされ、遠くで隔壁が閉まる音も聞えた。

多分トラップの1つなんだろう、序でにわらわらと無人機の団体さんが現れた。

 

俺以外の小隊のメンバーは、それぞれ重要なところを制圧しに行ってる為、ここには俺1人だ。

1人でこの狭い空間でやるのは、少々骨が折れるが・・・問題はねぇ!

 

「ヴィズ」

『了解、キーンセイバー展開・・・いけます。』

「さて、それじゃあ・・・舞い踊ろうぞ・・・?」

 

 

―――――――俺は敵の集団の中に突っ込んだ。

 

前列の無人機の一機に狙いを定め、兵装を破壊してからキーンセイバーを突き刺す。

破壊したのは兵装部分だけなので、機関部は破壊して無いから爆発は起こらない。

そのままローラーダッシュの馬力に任せ、無人機を盾にして吶喊する。

 

AIのプロトコル上、誤射は避けられるように設定されている為。敵は攻撃を停止してしまう。

だがすぐに命令が書き代わり、此方への攻撃が再開されるが、この一瞬があれば問題無い。

 

「ガルヴァドス!」

 

次々発射される魔力弾達。凶悪な威力のソレらは爆発という牙で無人機達を蹂躙していく。

部屋が狭い為、爆発の威力は恐ろしく集中するのだが、俺の防御力を揺るがすほどでは無い。

 

次の部屋では大型無人機械2体が待ち構えていた。

そいつらは俺を見た瞬間、肩の大型のキャノン砲を俺目掛けて発射した。

だが、こんな狭い場所で大砲を扱えるわけがない。

 

「多重プロテクション」

 

多層構造シールドに阻まれて、砲弾はあらぬ方向へと飛んで行ってしまった。

次弾がヤッシャされる前に、出力を上げたキーンセイバーで撫で斬りにして撃破した。

どれも強力な機械達だが所詮は無人機、対処法さえ覚えていれば楽なモノである。

 

 

その後も事務的に敵を薙ぎ払って行き、全ての敵を破壊したところで念話が入った。

 

 

「(ラプターマムから各チームへ!)」

「母さん?・・・(こちらレッドクリフ・・・)」

「(捕虜にした奴の情報で、ここの次元航行エネルギーを暴走させたらしい!全員直ちに離脱準備!)」

 

最悪だ。俺の現在位置が特に最悪だ。

ここ施設の一番奥だぞ?ココに到達するのにどれだけかかったと思ってんだ。

 

「(・・・暴走が起こると、どうなる?)」

「(研究所の資料によると、周辺30kmが虚数空間に消える!)」

「(!止める方法は?)」

「(残念ながら・・・無い。だが最重要区画を越えた先にある、次元航行エネルギー機関の制御室にある端末から直接制御を行えば、周辺へのエネルギー拡散は抑えられるらしい。だが、その代わり施設自体は虚数空間に飲み込まれ、操作した人間は助からない)」

 

ここら辺は・・・確か来る時に近くに町を見かけたな・・・

それに多分、俺の場合今から避難しても間に合わないか・・・。

 

俺は少し考えたが、どうにもこの考えが頭から離れない。

ふふ、自己犠牲は無かったんだがな。俺も変わったか。

 

「(レッドクリフからラプターマムへ、秘匿通信の使用許可を…)」

「(こちらラプターマム、許可する)」

 

――――許可が出たので、俺はラプターマム事母上に、直接秘匿通信を開く。

 

「(・・・母さん、聞えてる?)」

「(どうしたのフェンちゃん、早く脱出しないと間に合わなくなるわよ)」

「(今ちょうど、制御室にいる。・・・・直接制御の仕方を転送してほしい)」

「(だめっ!フェンちゃん逃げなさい!制御室には別の人を回すから・・・!!)」

 

悲鳴をあげるかの如く、声を荒げる母上。

 

「(多分、間に合わない。それに制御室への通路は異常事態を感知して、隔壁が全部降りてる)」

 

この場所に来るまでに大分騒いだからな。

センサーが感知して、隔壁の殆どが降りてしまっている。

時間をかければハッキングで出られるが、力づくじゃ俺ではまだ無理だ。

 

「(此方からの脱出も到底間に合いそうに無い・・・)」

「(だけど・・・とにかく貴方は脱出しなさい!)」

「(ムリ・・・もう時間が無い)

「(貴方を失いたくは無いの・・・お願いだから)」

 

泣きそうな母の声、普段の強い母上はどこに行ったんだか。

だけど、どうあっても逃げるわけにはいかねぇんだ。

どちらにしろ逃げる時間も無いしな。

 

「(この近くには町がある。誰かが直接制御しないと・・・ソレが出来るのは俺だけ・・・)」

 

俺がそう言うと母上は黙ってしまった。

 

「(・・・・ごめんなさい)」

 

たった数秒の沈黙だったけど・・・俺には恐ろしく長く感じた。

 

「(母さん哀しまないで、こういうのは覚悟はしてたから・・・とにかく早くデータを・・・)」

「(……判ったわ)」

 

―――――転生して7年と半分、長いようで短かったな・・・っとヴィズにデータが届いた。

 

手順に沿って操作し外周部の加速リング内のエネルギー流を操作、方向を炉心中心に集約させる。

緊急事態の為、エネルギーを別空間に流すヴォイドフィールドが展開されている。

炉心に集まった次元航行用エネルギーは、自身のエネルギーを圧縮されながら縮退。

最終的には落ちついていくらしい。

 

だが当然ながら、制御室はヴォイドフィールドの内側、エネルギーの圧縮で何が起きるのやら。

さて、後は臨海を越える瞬間にボタンを押すだけ・・・まだちょっと時間があるな。

 

「(母上、聞える?父上も・・・)」

 

俺はつないだままの秘匿通信を入れる。

既にエネルギーの奔流が流れこみ始めているから、まともな通信は今の内にしかできない。

まぁ、簡単に言えば・・・・最後のお別れってヤツかな。

 

「(・・・聞えている)」

「(ここにいるぞ)」

 

若干、軍人モードが入っている母上と、こんなときでも変わらない父上。

コレが最後だなんて、急展開過ぎるなぁとか思いながら通信を続ける。

 

「(多分、臨界に入ったらもう話が出来なくなるから・・・今のうちに言っとくね・・・)」

 

俺は思いっきり息を吸って、ゆっくりと吐く。

そして今まで言いたかった事を、この場で言う事にした。

 

「(・・・ありがとう。そして大好きだよ?お父さん、お母さん)」

「(・・・っ・・・)」

 

息をのむ音がした。だがソレは見えない。既に通信の画像は砂嵐状態だからだ。

なんとかヴィズの機能のお陰で、声だけは聞こえているが、時間は殆ど無いらしい。

 

「(二人ともまだ若いんだから、もう一人子供を作りなよ・・・俺は妹が欲しい・・・よ)」

「(あぁ!任せとけ!お前と同じく可愛い妹を作るとも!)」

「(うん、後二人とも・・・ムリはしないでよ?俺も最後までがんばるから・・・)」

「(うん・・・うん・・・)」

「(それじゃあね二人とも・・・・元気で)」

 

そう言うと俺は、一方的に二人への念話をカットした。

限界だ。これ以上二人と話したら・・・耐えられなくなっちまう・・・。

 

「・・・っ~!・・・」

 

湧きおこる生への渇望、まだ死にたくは無いと何かが叫ぶ。

だがもう遅いのさ。既に臨界が始まった。

・・・・まだ通信回線は生きているな?

 

「(ジェニス少尉、いる?)」

「(・・・はい)」

 

どうやら、もう俺が逃げられない事を知っているらしいな。

話しが廻るの早く無いか?――――まぁ母上の部隊だしなぁ。

 

「(こんな子供の下で・・・大変だったでしょう?)」

「(いいえ・・・いいえ!)」

「(でも、もうすぐ解放だ。俺の部屋に何故か酒があるから部隊の連中と分けていい)」

 

 

なんか停戦祝いのお酒だったらしいんだけど、ちょろまかしておいたんだ。

 

 

「(それと・・・今まで付いて来てくれて・・・ありがとう)」

「(―――中尉は・・・)」

「(・・・うん)」

「(中尉は俺がいままであった中で、最高の軍人でした)」

「(・・・うん)」

「(だからさよならは言いません!無事に戻ってきてくださる事を祈っています)」

「(ありがとう・・・最後まで足掻いて・・・みる)」

「(どうか・・・ご無事で――ザ―ザザ――――)」

 

ついに通信回線もつながらなくなった。ヴォイドフィールドが機能し始めたらしい。

―――――そろそろ時間みたいだな・・・。

 

「ねぇ・・・ヴィズ」

 

『なんでしょうか?』

 

「不甲斐ない主人で・・・ごめんね」

 

『・・・・謝らないでください。貴方は私にとって最高のマスターです。あなた以外にマスターは要らない』

 

「うん・・グスッ・・・ありがとう」

 

 

どこか冷静な部分が、強く出ているお陰で取り乱す事は無い。

訓練で身に付けた事に感謝だな。

 

≪ゴゴゴゴゴゴ―――――≫

 

 

さぁ、言いたいことは言った。あとは野となれ山となれだ!

 

 

『次元航行エネルギー、臨海突破まであと10、9,8,7―――』

 

 

「6」

 

 

「5」

 

 

「4」

 

 

「3」

 

 

「2」

 

 

「1」

 

 

「制御弁・・・・開放!」

 

 

 

 

 

 

 

――――――ブーーーン――――――

 

 

 

 

 

 

 

あれ?何もおこらない?≪ズゴゴゴゴゴ!!!≫―――な訳ないか…

 

 

『炉心が誘拐を始めましたね・・・この区画が飲み込まれるまであと10秒』

 

 

うん、的確な解説ありがとうよ、ヴィズ。

 

 

「時間みたいだな。皆・・・俺、先行ってるよ」

 

 

目の前では巨大な光球となった炉心が、徐々にエネルギーを増しながら広がっていく。

 

次の瞬間、まるで風船がはじけるかの如く、膨大な量の次元航行エネルギーが放たれた。

 

俺はそのエネルギーの奔流にのみ込まれる。

 

 

「ぐぐ・・・う、あぁ・・・・」

 

 

そして身体の中をグチャグチャに引っ掻き廻される感覚と共に意識を失い。

 

 

―――――その流れに身を任せたのであった。

 

 



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