ワールドトリガー A級奇術師 (ひよっこ召喚士)
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ワールドトリガー A級奇術師
『奇跡呼び込む
名前
性別 女
年齢 18
ポジション 完璧万能手
サイドエフェクト 『トリオン視覚』
『トリオン視覚』
自身のトリオンから周囲の視覚情報を得ることが出来る。というより強制的に視覚情報を得てしまう。しかし、目の様に閉じる事が出来る為にそこまでデメリットは強くない。閉じる前に破壊されるとかなりの精神的ダメージや脳への負担が掛かる。その為に予想外の攻撃を喰らうと他の人よりも崩れやすい。
『夜景隊エンブレム』
よくある顔の左と右で白黒になってる道化師の仮面が中央にあり、顔の左右の白黒と逆になる様な白黒の背景。仮面は少し立体的に描かれ、仮面の真下から白い背景には黒の、黒い背景には白で薄っすらと影が伸びている。エンブレムのフレームの近くは夜の闇を示すほの暗い紫がグラデーションの様になっている。
・設定
サイドエフェクトにより、視覚情報の処理能力が高く、それに応じて脳全体の演算能力も高い。そのため頭も結構良く、県内の模試では1位である。
不気味さを出すために黒いコートと付属のフードを被って身を隠している。声も低くして、コートの下はボーイッシュな物をあえて選んでいる。要約すると男装して普段から過ごしている。
相手の裏をかくのが好きで同じ作戦は基本的には使わない。奇をてらった作戦を好むが、戦い方自体は確立している。それでも他の人と比べてとれる手段は多い。
A級隊員で、自分1人のチームを率いている。オペレーターは居る。個人ランク戦にはあまり興味が無く、ポイントでは負けているが勝率だけを見ると全隊員の中で一番を誇る。
それでも他の隊員に誘われたら戦い、ポイントを手に入れるので個人ランクも常に10以内には入っている。
姿は常に一緒だが、性格や雰囲気はその日の気分で演じ分ける。そのため、一人称もコロコロ変わるし、気分次第で対応も変わる。
しかし、素だと結構普通の女子。性格の演じ分けはトリガー開発で漫画やアニメのキャラの真似をしている内に癖になった。
バイパーの軌道をリアルタイムで引く、戦闘フィールドにある物を利用して罠を作る。スコーピオンをよく投げる。レイガストは防御か移動手段として使用する。
弧月はオプションを多用する。合成弾を使用する。ワイヤーも使う。エンジニアとしても優秀でオリジナルトリガーで試合をぶち壊す事も。処理能力が高いためにオペレーションの適性も非常に高い。
レイジに大規模侵攻時に助けられており憧れからボーダーに入隊している。恋愛感情とかは全くなく、完璧万能手になった時は対抗心を持つくらいである。
『次はどうしようかな。天候と何か組み合わせるか、それともトリガー自体を弄くるか、はたまたその両方か、ふふふ』
『さぁて目を見張るトリックを魅せようか?』
『思考を遮るな。その先に答えはある。あらゆる手を回して自分で奇跡を引き寄せるんだよ』
『ステージで踊るのは僕の役目、君は存分に踊らされてくれ』
『私に死角はない。逃さないよ』
代表作
『ピリオド』
残ったトリオンを火力に周囲を吹き飛ばすベイルアウトのオプショントリガー。倒された時だけでなく、自らベイルアウトしても効果は発動する。万全な状態でトリオン能力の高い人物が使うとステージ全てを破壊するのでランク戦では使用が禁止された。一部の防衛戦及び遠征で使用される特殊トリガー。トリガーチップ枠を3つ埋める。
『ビネガロン』
スコーピオンとワイヤーをはるスパイダーを掛け合わせたワイヤーシリーズの最高傑作。二つのスコーピオンの合わせ技である『マンティス』を参考に、中距離型の攻撃手用トリガー、中距離型のスコーピオンといったコンセプトで作られている。鞭の長さの設定は限界はあるが流し込むトリトン量で調整可能であり、鞭だけでは威力に欠けるので表面に刃を生やすことが出来る。やすりの様に削る刃かスパッと切断するような鋭い刃など、切れ味と強度のどちらにトリオンを注ぐかで大体の調整は可能だ。攻撃を弾くときは硬さを相手を攻撃する際は鋭さを高める。攻撃手用のトリガーにしては操作の多い物になっているが上手く使えばトリオン消費を抑えられる。上手く勢いをつければ遠心力も相まってブレード型トリガーよりも素早く攻撃できるが、短く設定してもそこまで小回りはきかない。そのため『レイガスト』のオプショントリガーである『スラスター』をそのまま流用した加速機構も取り付けてある。こちらもトリオンを流す事で発動する様になっている。機能が多く、有用に見れるかもしれないが他のトリガーに比べてセットする際に消費するトリオン量が多くなっている。比較すると1.3〜1.4倍くらいだろうか。
『
トリオン消費量を増やす事で速度と射程を大幅に上げた『旋空』の改造トリガー。効率が悪く、そこまでトリオン量の高い攻撃手が居ない事も相まって採用はされなかったが一部の隊員の目には留まった。勢いが付きすぎるため複数回回転してしまうが、360度を万遍無く切り裂く光景は一目を置かれている。
『ステルスボール』
夜景空のサイドエフェクトを前提としているので採用されることはまずないトリガー。その性能は分かりやすく言えば『カメレオン』と『バッグワーム』の効果を持ち、攻撃力の無い『バイパー』だ。
『スパイダーネット』
ワイヤーシリーズのスパイダーとバイパーやスパイダーとハウンドを組み合わせたトリガー。バイパーやハウンドの機能を持ったスパイダーであり、スパイダーの強みである消費トリオンの少なさが消えているが、自由にワイヤーは張り巡らしステージを整えたり、上手く使えば相手をワイヤーで拘束できる。
『ビースティンガー』
スコーピオンをもとに作ってあり、主に投擲用に作られているブレードトリガー。ある程度の形は操作出来るが強度はそこまでない。スコーピオンと違い、一つセットすれば複数の刃を作ることが出来るのでスコーピオンと併用する事で相手の意表をつくことが出来る。
『バイパー改』
弾道を設定して撃つのではなく、弾道を描きながら発射が可能な『バイパー』。視線ではなく思考で完全に誘導出来る『ハウンド』と言った方が近いかもしれないが『ハウンド』程、滑らかには動かせないのでやはり『バイパー』枠。威力の設定は常に一定で、速度と距離は込めるトリオン次第になる。込めるトリオン量が燃料と想像すると考えやすい。速度に緩急つけたり、思い描いた弾道を走らせる事が出来るが、速くすれば燃料の消費は多くなるし、距離は飛ばなくなるなど考える事が多い。その他に操ってる間はそのトリガーが起動状態の為に起動している側の手に設定されてる他のトリガーは使えない。弾道や速度を決めきり、接続を切れば他に切り替える事が出来る。接続が切られると残ったトリオンを消費して事前に飛んでた方向に直進する。
『止める気のないストッパー』
名前
性別 女
年齢 18
ポジション オペレーター
出会いは部隊を結成しようと考えていた夜景に迅悠一が紹介した時、そこからすんなりと夜景隊のオペレーターを引き受けた。
コロコロ性格を変えたり、毎回他に見ない作戦を決行する夜景に合わせられる適応能力にコミュニケーション能力、オペレーション能力がある。
お揃いにしようよと言われてオペレーター用のトリガーにはフード付きのコートが登録されており、試合に出る訳ではないので色違いで白色にしている。
隊室の外でもコート姿で出歩いている。トリオン体じゃない時は学校の制服で過ごしている事が多く、遊びに行くときも制服姿が多い。
服を持っていない訳では無いが今のうちはこれが正装扱いされるんだから便利と思っており、卒業した先輩から貰い受けた予備の制服が家とボーダーのロッカーにそれぞれ入っている。
常識を持ち合わせており、突拍子もない夜景に対して度々注意を行うし、行動を事前に止めようとはするが、止めても聞かないのを分かっているので言うだけである。
力付くで止めたり、何か権限を振りかざす様な事はせずに、言葉の上で止めながら「今回はどうしようかな?」と決行した時の事を考えている。その為に周囲からは『止める気のないストッパー』と呼ばれている。
成績も悪くないし、交友関係も学校とボーダーでそれぞれ少なからず形成できており、ボーダーではオペレーター仲間と話したりする事が多い。
好き勝手やっている夜景の方が成績が良いのはもう諦めたが、戦闘員の夜景の方が実はオペレーション能力が高いのは少し腑に落ちていない。
『制服ですか?全部で10着はあるかと、はい』
『止めといた方が良いと思いますよ…出来そうな所をピックアップしたので送りますね』
『このコートも嫌いじゃないですよ』
『もう自分でオペレーションしたらどうですか?ほら『ステルスボール』使って観測出来るでしょ?』
『仕方ないですね。私が貴女を導きますよ』
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夜景空①
ランク戦室に顔を出すべきでは無かったと思い始めたのは、既に騒ぎがある程度大きくなり、逃げられなくなってからだった。今日の
「普通に負けた。おい
「黙れ槍馬鹿、連続は許されねえぞ」
「誰が槍馬鹿だ。弾馬鹿」
目の前で勝手に始まるいつものバカ騒ぎにどちらも馬鹿には変わりは無いだろうと心の内で毒を吐く。
「普通のトリガーで戦ってくれる機会なんてほとんどないんだぜ」
「だからこそ、周りに譲るという気を持て」
「周りってお前だけじゃねえか」
槍馬鹿と称されているのはA級7位の
君らが騒ぎ立てるとその周りから新しいのが湧いてくる可能性が高いからやめて欲しいんだけど、そんなこっちの気持ちを考えないようで本人抜きで話が進んでいく。
「おっ、珍しい。空の奴が個人戦に顔を出してるじゃねえか」
「おっ、太刀川さん。やるんなら俺の次の次っすよ」
「ナチュラルに自分の番を先にすんじゃねえ。図々しいぞ1戦やったんだからお前は俺の後だ」
いや、何勝手に予約受付てるんですかね?それと槍馬鹿、少し前の身勝手な喧嘩の時から思っていたんだが私と交わした
「こいつらじゃなくてもお前と戦いたい奴は山ほどいるぞ」
響いてきた声はボーダー内である意味有名人であるS級隊員のものだった。
「レイジさんに続くボーダーで二人目の
「戦闘員1名の言葉通りのワンマンチーム、A級
「そして個人戦の勝率9割の実質1位とも言える戦績」
「実際のランクも個人総合で5位ともなれば戦闘馬鹿じゃなくても向上精神の高い奴らは寄って来るよ」
ブラックトリガーの使い手、S級隊員の
「おっ、迅も来たのか?」
「いやいや、俺はS級の実力派エリートなのでランク戦はしないよ」
「じゃあ、何をしにここへ?」
迅さんはするりとこちらへ近寄ってくると僕に腕を回しながら振り返る。自分に迅さん個人からの用事があるとは思わないので、上からの伝令役だろう。
「
ふむ、元々馬鹿に捕まらなければラウンジでのんびりする予定だったので問題は無い。むしろこの場から逃れられるのであれば喜んで仕事に向かおう。僕が頷くと周りからは残念そうな声が上がるがすべて無視する。
「それじゃ、開発室の方まで行こうか」
一緒に行く事は別にどうでも良いんですが
「尻から手をどけろ!!この変質者!!」
ナチュラルなセクハラさえなければ良い先輩なのに、そう思いながら容赦なく旋空弧月でバッティングの如く自称エリートを壁まで吹き飛ばした。はあ、いけないいけない。今日のぼくはスマートな性格なのだから。パパッと腕を捻った方が様になっただろう。しかし、この未来が見えているはずなのに、あえて手を出してくるのだから余計腹が立つ。
その後、全然反省が見られない迅さんと途中まで来たが、難しい顔と面白い顔の間で百面相を繰り返すと予定が出来たと謝りながら帰って行った。サイドエフェクト絡みの問題でも生じて今頃暗躍を繰り返しているのだろう。
「いや、すまんな夜景君。こっちの予定に合わせて貰って」
目の前で心底申し訳なさそうにしている方は開発部門のトップで上層部の偉い人の1人の
「別に忙しくも無いので構いませんよ。鬼怒田さんや寺島さんとのトリガー議論は楽しいですから」
「おっ、嬉しいねぇ。今度はこのアニメの再現目指してみない?」
この人は
「雷蔵!!お遊びの話は用件が済んでからにしろ」
「そのお遊びのおかげで新しいトリガー技術が生まれてるんですよ」
「お遊びに変わりはないだろ。屁理屈はいいからさっさと準備をしろ」
「はいはい」
ぼくには結構優しいのだが、周囲からは厳しいと評判の鬼怒田さんとやりあえている時点で尊敬に値する。なあなあでとぼけているが結構世渡り上手なのかもしれない。
「それで今日の議題は何ですか?」
いつもと同じく自分が作ったトリガーに関しての検証か他のトリガーへの応用などだと思うが、ここ最近は失敗作も含めてかなりの数を作成したのでどれの事か想像がつかない。
「この前のA級ランク戦をぶっ壊したベイルアウト機能のオプショントリガー『ピリオド』、弧月のオプショントリガーである『旋空』を改造した『
「後は『スパイダー』と他のトリガーを組み合わせて作った通称
あれは私の中でもかなりいい線をいってると感じたトリガーだ。
鞭の長さの設定は限界はあるが流し込むトリトン量で調整可能であり、鞭だけでは威力に欠けるので表面に刃を生やすことが出来る。やすりの様に削る刃かスパッと切断するような鋭い刃など、切れ味と強度のどちらにトリオンを注ぐかで大体の調整は可能だ。攻撃を弾くときは硬さを相手を攻撃する際は鋭さを高める。攻撃手用のトリガーにしては操作の多い物になっているが上手く使えばトリオン消費を抑えられる。
上手く勢いをつければ遠心力も相まってブレード型トリガーよりも素早く攻撃できるが、短く設定してもそこまで小回りはきかない。そのため『レイガスト』のオプショントリガーである『スラスター』をそのまま流用した加速機構も取り付けてある。こちらもトリオンを流す事で発動する様になっている。機能が多く、有用に見れるかもしれないが他のトリガーに比べてセットする際に消費するトリオン量が多くなっている。比較すると1.3〜1.4倍くらいだろうか。
「『ビネガロン』か……あれは今までにない武器であるため簡単に普及しないだろうが性能はもちろん凡庸性も高い、一部の隊員に試験的に使用させてもらったが思っていたよりも評判が高かった」
「という事で正規トリガーとして登録が会議の結果、賛成多数により承認されたよ。おめでと」
ん……っとなんて言いましたか?
「『ビネガロン』は正式なトリガーとして制作、運用されることが決まった。それについてはボーダー内でも近々発表される。もちろんその功績で小さいが表彰もある」
「
「驚きすぎて、一人称が素に戻ってるよ」
「そんなつまらない嘘を吐くわけないだろ。正式な通達がそのうち行くはずだ。それよりも他のトリガーに関しての話をするぞ」
その後の話は中々に頭が回らなかったが、残存トリオンを全てつぎ込み自爆するというぶっ飛んだ機能のベイルアウト機能へのオプショントリガー『ピリオド』はチップの枠3つで機能するのであれば中々に高性能だが、ランク戦での使用は禁止、遠征や一部の防衛ににおいて運用するとのことだ。トリオン能力が高過ぎると防衛時には逆に使えないかもしれないと考え、ボーダー内でトリオン能力が高い人たちに実験協力を頼むことになった。
トリオン消費量を増やす事で速度と射程を大幅に上げた『旋閃』は効率が悪く、そこまでトリオン量の高い攻撃手が居ない事も相まって採用はされなかったが一部の隊員の目には留まったらしい。勢いが付きすぎるため複数回回転してしまうが、360度を万遍無く切り裂く光景は一目を置いたとのこと。
『ステルスボール』、これは名称からして微妙だし、ぼくの
その他にもいくつかのトリガーの考察と説明を繰り返したが、運用されるのにランク戦での禁止を言い渡されたのは初めての事だった。まぁ、前回のランク戦の事を思うと納得できるので文句はない。
「それでは失礼します」
「ああ、またそのうち呼び出す事になるだろうが、その時は頼む」
「時間空いてるときで良いから、前に渡したリストの再現頼んだよー」
締めかけのドアの向こうから鬼怒田さんが寺島さんを怒鳴る声が聞こえるが、いつもの事なので苦笑しながらドアをしめ切って、帰路に立つ。
「
迅さんの要件が支部絡みの問題だった場合はドタバタしているだろうと考え、緊急性も無いのでまたの機会にしてそのまま家に帰った。この時は二週間後に迅さんからの共犯者としての収集が掛かるとは微塵も思っていなかった。
まだ前の作品が終わってないので基本的に更新は無いです。時間が有り余ってるか、気分転換の時に書くかもしれない程度です。似たようなネタだけ作ってる作品があるのでどれを次に書くかも未定です。
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三雲修①
その人に出会ったのは偶然だった。ぼくはまだC級隊員だからボーダーの内情は全然知らないし、目的を果たす為に必死だったから正隊員の人を調べたりもしていなかった。
その日も訓練に参加しても良い結果は残せず、『レイガスト』でC級の個人ランク戦に挑んでも全然勝てずに落ち込んでいた。
「はぁ……」
「おやおや、如何にも不幸ですって雰囲気だねぇ」
「うわぁ?!」
いつの間にか隣の席に座り話し掛けてきたのはフード付きの黒いコートを着込んだ怪しい風体の人だった。ここにいるという事はボーダーの人なんだろうけど、急に声を掛けられたぼくは驚いてしまった。
「ふふ、驚かなくても良いよ。僕は君の先輩さ。悩みが何かは知らないけど辛気臭い顔をしてれば解決するものもしないよ。言いたくない事じゃなければこの先輩に相談してくれても良いんだよ?」
急に現れて相談にのると言ったこの人、正隊員の様だし、ボーダー的にもおそらく年齢的にも先輩だろうこの人。
その後に「こんな僕は珍しいし、ね」と小さく呟いている。出会った時は知らなかったが毎日性格を演じ分けていて、この日は胡散臭いけど面倒見の良いキャラだったらしい。
誰とも知らない人に全てを打ち明けるなんて事をする程に弱りきってはいなかったが、何処か安心感を与えるその人の声に釣られ、上手くいかない現状に対しての弱音を僕は口にしていた。
「事情があって守りたい子がいるからボーダーに入ったけどC級でくすぶってるねぇ……言ったら悪いけどありがちな話だよ」
街を守りたい、家族を守りたいと言った思いでボーダーに入る人は多い、そしてぼくと同じ様に結果を残せない人もいる。確かに悩みとしてはありふれたものなのかもしれない。だけど……
「あいつは近界民に狙われてる。だから早く強くならないと……」
名前は隠したし、麟児さんや居なくなった友達の事も言わなかったがそれでも必要以上に溢してしまったとぼくが内心焦っているとその先輩は何か考え込んでいた。
「狙われる…それが本当なら…トリオンが…そうか…C級への情報制限……こうなると秘密主義も問題だな…………三雲くんって言ったっけ、ごめんね今からちょっと素で話すね。君の友達の事情は巫山戯る事が許されない事柄だから」
声がガラリと変わり、口調もごく一般的な物へなり、怪しいフードを取ったその人は整った顔付きの女性だった。服装や声から男性と思っていた事は後でバレたが、「男装だからむしろ騙せて嬉しいから気にしない気にしない」と言われた。
「三雲くんの友達はおそらくトリオン能力が高いの。トリオン能力が高い人間と言うのは近界民からしたら何が何でも欲しい対象なんだ」
ぼくが驚いている「防衛任務につかないC級だとまだ必要ないとあまり知らされてない事だからね」と補足された。他にもC級だと
「その子をボーダーに誘う事は出来る? いや、この言い方だと答えにくいね。こっちを先に訊こうか、三雲くんはその子をボーダーに誘いたい?」
「いえ…出来れば戦いには巻き込みたくないです」
おそらくボーダーの保護を受けさせる事を提案したいんだろうがぼくの勝手な考えでそれをしたくないと言っても先輩は「男の子だねぇ」と笑って許してくれた。
「A級とB級の差よりもB級とC級の差が大きい。特に
使えるトリガーの数や防衛任務の参加など理解していたつもりではあったが、改めて言われるとより自分のC級の立場に拳を握る力が強くなる。
「トリオン体とは言え力まないの。君が知りたい事の一部を私が教えてあげる。これでも私はA級、夜景隊の隊長だからね」
そう言って夜景先輩は自身のトリオン体のエンブレムを見せてくれた。A級もしくは元A級しか付けれないオリジナルのエンブレムを。
「なんでそこまでしてくれるんですか?」
会ったばかりで事情を全て話してもいないのに親身になって相談にのってくれるのか不思議で仕方がなくてつい尋ねてしまった。
「声を掛けたのは本当に偶然だけど、事情が事情だからね。三雲くんの友人の話は仕方ないとはいえボーダーの不備だと思ったのが一つ、そしてもう一つは私がどんな人にも助けられるチャンスがあるべきだと思ってるからかな」
そう何でもないような声で告げた言葉にぼくはただ頭を下げ、夜景先輩はただ「これからよろしく」と笑って言った。
「とりあえずは教えられる情報を伝えながら、戦い方も見ていくよ」
それから直ぐに夜景先輩にボーダー内のあれこれに加えて、トリオンやトリガーについての色々を教えてもらった。知らない事ばかりで使っている『レイガスト』の機能の中に知らないものも存在した。
流石に情けなく思っていたが「そもそも使ってる人少ないし、一々説明もしてない不親切さだから仕方ないよ」と励まされた。
何故トリオン能力が高いと近界民に狙われるのかは話せない事と関係してくるからと言われたがB級になったら教えると約束してくれた。
そして何よりも助かったのが知り合いらしい知り合いもいない中でひたすら手探りでやっていた戦い方の教導だ。
「ぼく『レイガスト』あってないんでしょうか?どうしようか考えてる内にやられてしまう事も多くて……」
「うぅん、合ってる合ってないの話になると三雲くんは武道はやってないから『孤月』を直ぐ使いこなすってのは難しいと思うし、教えてもらった訓練結果から見てスピード型でもないから『スコーピオン』もあってなさそうだね」
攻撃手のトリガーの名前がどんどん上げられ、ぼくに合ってないと言われるが反論出来るポイントは無いので項垂れていると「続きも聞いて」と言われ顔を上げる。
「まずトリガー全体から話してくけどB級に上がることだけを考えると狙撃トリガーはよほど狙撃手の素質がないと難しいの。他とは昇級条件が違うからね」
狙撃手は訓練の結果で上位を取り続けていないとB級に上がれないらしい。他と比べて技量が必要とされるからなんだろうが、全然知らなかった。
「射手や銃手もシールドがないとトリオン次第になりがちだからね。トリオン量の少ない三雲くんだとかなり戦略を練らないと厳しいと思う」
C級の個人ランク戦だと使えるトリガーは一種類、それも訓練用の物だけだ。その為に全員が一種類の武器で戦う事になる。
百発撃てるのと一発しか撃てないのでは、後者が百発百中の腕前の持ち主でない限り、前者の勝ちが決まってる。流石に一発しか撃てないなんて事は無いが少ない手数で勝つには戦略が必要になる。
「だからこそC級に限れば『レイガスト』の選択肢は悪くないよ。シールドが使えないC級ランク戦なら『
よほどトリオン能力が高くない限り合成弾のあり得ないC級個人ランク戦では『盾モード』を正面から破る事は出来ないと言われた。
合成弾が何かは分からないが『レイガスト』は防御に関してはとても優れている。それを今までは知らずに活かせてなかったのだから知れただけでも大きな進歩だ。
「ただ攻撃力は低いし、C級だとオプショントリガーも使えないから決め手には欠けるよ。最低限の戦い方は身に着けないといけない」
他の攻撃手トリガーは正直向いてないのが説明でよく分かった。『レイガスト』で戦うには『盾モード』も含めて戦い方を考えないといけない。
「他のトリガーだと早く上がれますか?」
「どっちもどっちかな。他のだと決め手があってもそこまで持っていく技量か戦略が必要になるからね。それと攻撃手以外なら銃手か射手になるけど、その二つなら射手をお勧めするよ。そちらの方が戦略性が増すからね」
仮に弾トリガーを使うならば戦い方を身につける以上に相手を倒す為の戦略を考えていかないといけない。どちらも直ぐにどうにか出来る事ではないか。
「『レイガスト』で戦い方を覚えれば負けにくいからコツコツとB級は目指せる。射手での戦い方は基礎を覚えれば後は戦略が鍵になる。まぁどちらを選んでも基礎が身につくまでは付き合うよ」
「夜景先輩は何を使ってるんですか?」
「私はA級だと普通のトリガーはあんまり使わないんだけど、個人ランクだと『スコーピオン』と『バイパー』だからあんまり参考にはならないかもね。もちろん他のトリガーもある程度は使えるから安心してね」
『スコーピオン』は向いてないし、『バイパー』は弾トリガーの中ではかなり上級者向けなんだそうだ。それにしてもメインがあるとはいえ何でも使えると言うのは凄い。
「それでどうする?始めるなら早いほうが良いよ」
「それなら……」
「おらぁ!!『メテオラ』!!」
「……『盾モード』」
「なっ?!」
比較的近い位置から放たれた『メテオラ』に対してあえて近寄りながら『盾モード』の『レイガスト』を広げて相手の方に更に突っ込む。すると先に相手のトリオン体が爆破に巻き込まれ勝負は決まった。
〚戦闘体活動限界
〚◯◯◯◯✕✕✕◯◯◯ 7対3 〛
〚勝者 三雲修〛
「ふぅ…なんとか勝てた」
手に表示されている3940の数字を見てようやく辿り着けそうだと成長を実感するが、4点先に取った所で安心し3連続で取り返されたのは問題か。
「あいつ最近勝ちだした奴だろ?」
「今まで全然見なかったのに、守りが固くて戦い方が独特だからやり辛いんだよな」
「なんでも噂だとA級隊員の弟子だとか」
注目された事なんて今までなかったが戦い方を覚えて結果を残せる様になってからああしてC級隊員の中で話される事が少しずつ増えていった。
めちゃくちゃ強くて話題になるとかではなく、厄介な奴としてマークされたり、夜景先輩との関わりから妬まれての事が多い。
だけどそんな周りの言葉で止まるわけにはいかない。思考を遮るな…制限しては答えに手は届かない…あらゆる手を回して掴み取る。
「今は疲れてるし、目も集まってる。連戦しても良いことはないかな」
残りもう少しで焦ってまたポイントを失っては元も子もない。とても小さな、騒ぎにもならない声の輪から離れるように本部を出る。
「明日、学校が終わったらまた来よう」
意識は既に明日の学校へと移っており、やってない宿題はないよなと日常に頭を回す。そしてその思い描く日常が大きく移り変わるとはこの時のぼくは微塵も思わなかった。
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夜景空②
そうだなまず私がなんでボーダーに入ったかを話そうと思うとあの日まで遡る必要があるかな。そう三門市の人間なら忘れることの出来ないあの日だ。
大規模侵攻……三門市を襲ったあの大災害の日、私も家族も近しい知り合いも無事ではあった。無論、家が壊されたりなど被害が零ではなかった。
それに命が無事だったのも当時のボーダーの人達が助けてくれたからであって、正直結構ギリギリな状況まで追い込まれていたのは確かだ。
「大丈夫だったんですか?」って大丈夫じゃなかったらここにいる訳無いだろう。心配してくれて嬉しいが落ち着いて続きを聞いてなさい。それで何処まで話したっけな。
そうそうトリオン兵が目前まで迫ってきているそんなギリギリな所で私を助けてくれた人が居たんだよ。その人は今もボーダーに居るし、一応A級の人だよ。
「無事か?」
「…は、は、はァイ!!あり、ありがと…うございます?」
助けてくれた恩人に対して私はかなり間抜けな返答をしてしまったとあの時を思い出すと顔から火が出そうになる。声は変につまり、裏返りながら、疑問符を付けるような口調でのお礼にその先輩は笑って「無事で良かった」と行って次の現場に駆け出していった。かっこいいだろ?
普通の女子ならまず惚れるであろうシチュエーション。命の危機に駆けつけてくた異性という物語の中から飛び出したのかと思う様な相手。
それに対して私が抱いたのは憧憬の念だった。ただただ純粋にかっこいい!!すごい!!あの武器はなんだろう!!と言った感情が救助され落ち着いてから途切れずに溢れ出した。
オタクを名乗るにはニワカ過ぎる私だがそういったサブカルチャーには触れる機会があり、物語もびっくりなSFチックな存在を目の当たりにしてネジが数本とんだ。おい、何故納得顔で頷く、それはそれで失礼だろ……まぁ良い。
ボーダーが隊員を募集し始めると直ぐに応募したいと両親に告げた。幸い学業はトップを独走しており、社会をいち早く体験すると言うのも良い経験になると母からは直ぐにOKが出た。
父は危険だとか女の子がそんな危険な事をとか色々と煩かったけど理詰めでいけば直ぐに陥落した。現実的な母を説得するのは厳しいが夢見がちな父は弱かった。
家の事は置いとくとして、ボーダーに入ってからはお礼を言うために情報収集をした。それで直ぐに相手が誰かは分かったし、その人の周囲の状況に気付いて惚れなくて良かったと安堵したのも懐かしい。
そう…その恩人である先輩には好きな人がいたんだよ。今はどうにか応援できないか頑張ってる。恩返しのつもりだが余計なお世話にならないようには気を付けてる。
と話がそれたが、ボーダーの試験の際、筆記試験はまぁ問題なく満点に近い点を取ることが出来ていた。そして問題の素質の検査、要するにトリオンの計測だが、これが問題だった。
問題と言っても君とは真逆だな。私と戦ってるから十分に分かってるだろうが私のトリオンはとても多かった。直ぐに職員から声がかかったよ。
「『夜景さん、貴方のトリガーを扱う才能はとても優れています。よろしければ入隊よりも早めに体験してみませんか?いわゆる研修に近い形と思って頂ければ分かりやすいか』…とね」
トリガーやトリオンなど当時は全然仕組みも何も知らなかったが、とにかく早く触れたかった私には願ってもない話だった。
内情を知ってから考えると向こうとしてはトリオン能力が高い私を逃したくなかったんだろう。それと早めに戦える人員を用意したかったのもあるかな。
そして体験の初日、トリガーについてとトリオンについて簡単な説明を聞いて、お試しでとトリガーを起動させた私は即効で意識を失いぶっ倒れた。
他にも体験入隊をしている人がいる中でトリガーを起動した瞬間に倒れた私はどう見えたか、会場は騒然となり、ボーダーの人も大慌てで私は救護室へ運び込まれた。
倒れる瞬間の脳が僅かにだが残した像は私の周囲全体の景色を無理矢理圧縮したかのような物で、そんな情報の塊に対して私は驚き気絶した。
そうして起き上がった私を検査したボーダーの人たちから知らされたのが『トリオン視覚』、私のトリオン能力によって発現したサイドエフェクトだった。
もう直ぐにBに上がれるだろうからって君にもこの前教えただろ。トリオン能力が高いと起こる副作用、特殊な能力。それは薬とかと同じでメリットもデメリットもあるんだ。
私は自分のトリオンで作られた物から視覚情報を得ることが出来る。私が生み出すトリオンの全てが目であり視神経の役割を担えた。
初めそれを聞いた時は特殊能力に胸が踊りつつ、制御するか慣れるかしなければトリオン体にも成れないのではと不安を抱いた。
しかし、その問題は段々と解決していった。まず今までトリオンを使う機会がなかった故に機能していなかったがサイドエフェクトは常に私に存在し、それに対する受け皿も私にはあったんだ。
要は主に視覚を司る目と情報を処理する脳、その二つについても私はサイドエフェクトの効果でかなり発達してて、実感するのが初めてだから驚いて気絶したが覚悟してトリオン体に成れば大丈夫だった。
それでも全身が目である感覚に戸惑って上手くいかず、トリオン体になって動くのに慣れる事から始めないといけなかった。
全身という事は足の裏にまで視覚があるんだが、地面が迫る映像に気圧されたりもしてな。必要ない部分の目を閉じれる事に気付くまでは大変だった。
段々と360°死角のない視界でも動ける様になり、距離感などの把握に役立て、様々なアドヴァンテージに変える事が出来た。
もちろん、そのサイドエフェクトのせいで不利になる事も非常に多い。避けれない攻撃を受ける際にその部分の目を閉じれないとかなりの反動がある。
不幸自慢をしたい訳でもないし、わざわざ弱点を全て説明する気はないから私のサイドエフェクトの詳細はこれ以上は話さない。
けど私はサイドエフェクトを前提に動かざるを得ない。だからこそサイドエフェクトの無い視界や戦いの組み立て方は分からないとも言える。
だから正直基本以外を教えるのは向いてない。それでも最低限最後まで面倒はみるから安心しなさい。
今ではボーダー内に多くのサイドエフェクト所有者がいるし、苦労話をした後でこう言うのも難だが、私のサイドエフェクトほどデメリットが少ない物は無いだろう。
意識して目を一々閉じると言う手間がかかるがある意味オンオフが効いているのは私ぐらいの物だし、とにかく幸運と言える。
と話がだいぶ反れたが、そうだ私の体験入隊に誘われた時の話だったな。私は倒れて騒動を起こした事を謝り、ボーダーは想定しなかった事を謝りながら、改めて体験入隊が始まった。
苦労しながらも体験中にサイドエフェクトに慣れた私は死角が無いために奇襲が効かず、視覚と処理能力が高い為に攻撃を避けるのはもちろん、相手の動きの予測も出来た。
正式入隊後もトリガーに慣れればそう簡単に負けることはなく、記憶した相手の動きから自分の動きを最適化していき戦い方をどんどん完成させていった。
その途中で『スコーピオン』や『イーグレット』『ライトニング』『アイビス』などの武器トリガーやその他のオプショントリガーもどんどん増えていった。
その最中に私が思い描いた事はただ一つ、「私も何か作りたい!!」それだけだった。2期にA級部隊の1つを率いてみないかと誘われてた私はその誘いを蹴って開発室に入り浸った。
物覚えは良い方だし、頭もサイドエフェクトもあって悪くない。それでも初めてどころか、まだまだ解明されてない事も多い技術を会得するのは並大抵の事では無い。
他のトリガー開発に携わった人たちは開発室の人と協力して作っていたが、私は自分で全てやりたかった故にだいぶ習得に時間を注いだ。
まぁ途中で狙撃用トリガーが普及し、完璧万能手と言う概念が生まれ、先輩がその名を手に入れた時に「は?!私も成りたいんですけど?!」とポイント稼ぎに明け暮れるなど寄り道も多かった。
ん、あぁそれで完璧万能手になったんだよ。憧れ兼対抗心で頑張ったら成ってた。意外とそんなもんだよ。完璧万能手を目指してる荒船ってのがいるんだけど、そいつなんかは「やはり本人のやる気も影響するか……」と理論化の参考にしてたぞ。
それでまぁトリガー開発の中で漫画やアニメを参考にする事が多くて、キャラに成り切ったりしてたんだ。それが今の性格七変化の元だね。高3にもなって厨二病?特別な力で異世界からの侵略者と戦うなんて状況自体が厨二だろう。
まぁサイドエフェクトによる優位と死角の無さ、情報処理能力にトリガー開発の知識から考える手法、色々とやる内に色んな戦略を考えるのが楽しくてとにかく試しながら戦ってたら勝率が高くなってった。
私の取れる手が増えて対応出来る状況が増えたから当たり前と言えば当たり前だけどね。奇襲も効かないから圧倒的な物量で詰みに持ってかれなければ早々負けなかった。
突拍子も無い戦い方についていける人が居ないからオペレーターだけみつけて戦闘員一人の部隊を作ってB級ランク戦を勝ち抜いてA級に上がった。
そこからは正直やりたい放題しまくったねぇ。A級からは改造トリガーを自前で用意してランク戦に持ち込めるんだ。毎回毎回試作トリガーを持ち出してランク戦を荒らした。
この前なんかは自爆トリガーを持ち出して自分の死と引き換えに全員倒したら反省文を書かされた。一応使い所はあるからデータは提出したけどね。
まぁ好きな事やってる内にこうなってたってのが私の場合は正しいかもね。これを言うとおしまいだけど才能はあったんだと思うよ。
トリオン能力にサイドエフェクト、それを十全に扱えるポテンシャル、それがなければこんな所までは来れなかったからね。
まぁめちゃくちゃ端折りはしたけどこれが私がボーダーに入ってから今までの大体の流れかな。たぶん参考にするには向いてないタイプだよ私は。
……そう落ち込まない落ち込まない。やりたい事をやるのが1番なのは誰でも一緒。それに才能だけが全てって訳でもないんだよ。
才能が全てならば個人ランクも部隊の順位も変動する訳が無いでしょ。変動全てが運による物だって言うなら話は別だけどそんな訳も無いでしょ。
君にはコツコツと積み重ねていく学んでいく才能、伸び代は豊富にある。ただ行動力は十分ありそうだけど、もう少し我儘になった方が良い。
君が前に言った我儘は私が覚えてる限り2つ、いや3つだけだからね。しかも本当に君の為なのはその内の1つだけ、自分の為にもう少し動くんだ。それこそが君を成長させる鍵だよ
「はい、貴重なお話ありがとうございました」
なになに、師匠と名乗るのもおこがましい小さな助言程度しかしてないけどこれでも先輩だからね。また何かあったら何時でも声を掛けなさい。
そう言って別れた面倒を見ている後輩を見送る。抱え込みがちな子だけど真面目だから持ち込むとしてもそんな大事は無いだろう。
この時の私はそう思っていたが、私は1週間後にそう言った事を後悔こそしないが、しばらく頭を抱える事になるとは思わなかった。
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夜景空③
『夜景先輩、少し良いですか?』
修くんから連絡がきた明日にはB級に上がれそうと言っていたからその報告だろうか。まだ勤務中ではあるが担当範囲に
「修くんちょっと待ってて…良いかな?」
『今のところは
仮に電話しながらでもトリオン兵なら群れてても問題は無いけど、オペレーターからの注意はしっかり受け止めつつ、電話を続ける。
さて彼の目的への一歩を見事刻んだ修くんをしっかりお祝いしてやろうと思っていると彼から衝撃的な言葉がとんできた。
『近界民ってぼくたちと同じ様な人なんですか?』
とりあえず一言「ごめん」と言って自分の隊のオペレーターとの内部通信を切った。携帯の音量は小さめだし、トリオン体との関連は無いから向こうの声は拾われていないと思う。
だが私の応答の声は通信状態だと確実に拾われる。
近界民についてはC級には知らされていない、まだ私も修くんには教えていない情報だ。C級からB級へ上がった後に教えられ、受け入れられずに記憶処理後にボーダーを辞める者も出る重大な秘匿事項。
B級に上がって教えられて親しい私に確認がしたかった?いや、果たす目的がある修くんなら驚きつつも飲み込める情報だ。
それに几帳面な修くんの性格を考えると先に昇格の報告とお礼の言葉を言う。そうなると彼は予期せずにその情報を手に入れた事になる。
それに修くんの言い方は疑問形だが何処か確信を持って訊いている。近界民が人だと確信する様な状況……彼は今、何処で、何をしている。
「もしかしてだけど、近界民を名乗る誰かと出会ったりした?」
『ッ?!……はい、それでえっと空閑って言うんですがそいつと話しながらいて、どうしたら良いか相談できる人に連絡する事になって先輩に……』
おそらくだが友好的な近界民か……正直に言えば役職なんてない、あくまで一戦闘員でしかない私の手にはあまる話だが、後輩に頼られる状況でパスするのもね。タイミングよく防衛任務も交代の時間が近い。
「これから君たちの所に行くから待ってて」
日はもう暮れかけているが急げば多少は話す時間はあるだろう。カメラの無い警戒区域の何処かで待ち合わせってのも考えた。
だけど修くんは映らないルートを知らないし止めといて正解かな。それに三輪隊が向かった方向で何か問題があったらしいし、遭遇すればまずいどころではない。
『悪いね日向。ちょっと私的な相談だったから切らせてもらったよ』
『いえいえ、大切なご要件だったんですね。大事なサポートをしている日向を突き放すほど大事なご要件だったんですからね』
とりあえずぶち切っていた通信を再開させると日向からのありがたい小言が送られ、そこにいないのにジトーっとした目で睨まれてる気になる。
とりあえずお詫びとご機嫌取りはそのうちしとかないとなと考えつつ、この場をやり過ごす方法を考えてると別口で通信がきた。
『夜景さん、お疲れ様です。今から
「真織ちゃん、ありがとう。日向、後は頼んだ」
『前んとこ
「イコさん、すみません急いでるので詳しい引き継ぎは日向経由でお願いします。それでは……」
直接顔を見せてしっかり引き継ぐのが本当は良いんだろうが直ぐ近くまで来ているのが
『まりおちゃん、日向ちゃん……俺なんか空ちゃんに嫌われる様な事やってもうた?だとしたらラウンジで土下座して謝るんやけど』
『ウチに聞かれても知らんし、仮に迷惑掛けてたとして余計に迷惑やからそれはやめとき』
『いえ、空さんは本当にただ急いでるだけなんで…こちらの隊長がすみません』
後でイコさんが物凄く気にしていたと聞いて申し訳ない気持ちになり、後日謝りに行ったら普通に歓迎されて終わったのはまた別の話。
トリオン体で行くのは警戒させるかとも思ったが、とりあえず時間が惜しい。『グラスホッパー』を使って住人のいない家の上空を駆けぬけた。
警戒区域の中は猛スピードで進むことが出来たがここから先を跳んで進むのは考えなくても目立つこと必至である。
「『カメレオン』」
持ってて良かったと透明化トリガーである『カメレオン』を使って丈夫な建物を選んで自力で跳び移っていく。これでも地形踏破は得意な方なので問題はない。そしてもう1つ……
「『ステルスボール』」
大体の居場所は聞いているが探すのであれば
これを使うとトリオンを通して視覚情報を得る私なら広範囲を一方的に索敵できる。仮に戦闘になったとしても優位を取れる状況にもなる。まぁ、壊されるとそれなりに負担が返って来るけど、そこは慣れるしかない。
「っと、居た居た……あの白い子が近界民かな?」
不用意に音を立てれば警戒されるだろうが無音で近付くのはそれはそれで警戒される。なので少し離れた位置でわざと音を立てて着地し『カメレオン』を解除した。
「おまたせ、修くんに空閑くん?」
「ふむ、音を立ててもらうまで気付かなかった。中々やりますな。あんたがオサ厶の言ってたセンパイさん?」
「空閑、先輩は敬称だ。あの人の名前は夜景さん、夜景空さんだ。来てくれてありがとうございます。それでその……」
何から話していいのか分からないと言った様子だね。まぁ、私達は慣れているけど初めて聞いた人達は驚く情報が降って湧いたんたから仕方ないかな。
「とりあえず落ち着いて話せる場所に移動しよ。後は起きたことを順番に話してくれれば大丈夫だから」
「はい、分かりました」
「空閑くんもそれで良い?」
「おれはそっちが仕掛けて来ないなら、それでも構わないけど」
そう言いながら空閑くんに一番近い『ステルスボール』へと視線を向けた。今までに動かした際の空気の流れや勘で気付いた人は居るけど、どちらにせよこの子も強いな。
「まぁ、敵対しなければ攻撃はしないよ」
「ふぅん、嘘はついてないね。なら良いか」
嘘はついてないねぇ…それを判別したのは雰囲気からか?それとも私と同じか?まぁそれなら後者の方が今の段階ではありがたいけど、了承を得たからとりあえず移動しよう。
「ここから近い所に旧い私の家があるの。カメラに映らないルートでそこに行くから私の後ろについてきて」
私達の周りに飛ばしている『ステルスボール』の一部を先行させて防衛任務中の他のボーダー隊員に出会さない様にしながら3人で歩いていった。
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空閑遊真①
こっちの世界は向こうと違う事が多過ぎて大変だ。信号とか言うのは何度も忘れかけるし、そもそも言葉や文字も完璧じゃない。
それでも親父の出身地であるし、ボーダーの事は気になってたから来たことは後悔してない。それにこっちに来る目的もあったしな。
こっちに来て直ぐにオサ厶と知り合えたのは悪くない。オサムは強くないのに度胸はあるし、嘘をつかないからな。
ボーダーの筈なのに近界民について知らなかったり、ボーダーの役割が聞いてた話と違ってたり、色々と誤算はあったけどな。
代わりに食事を買ってきてくれたり、ニホンの事について教えてもらう約束もした。たぶんこいつは良い奴なんだろうと思ってると、言い出しにくそうにしながらも口を開いた。
「空閑、ぼくにもボーダーに知り合いは居る。その内1人だけにお前の事を話しても良いか?」
「んん?他の奴に知られるとまずいんじゃないのか?」
「その人ならぼくは信頼できるし、相談にのってくれると思ってるんだ。お前に不安があるならやめるし、お前の事は伝えない」
ボーダーが近界民、いや基本的にはトリオン兵に対抗する為にいるみたいだけど、近界民が嫌われてるならオサムはおれを捕まえる側の筈だ。
それなのにこっちに確認をとったりしてくるとは…しかもダメだと言ったら本当にやめるつもりでいるみたいだ。騙してきたり罠にかけてくる奴の対処は知ってるけどこれはどうしたら良いんだ?
チラッとレプリカに意識を向けるが『決めるのはユーマ自身だ』としか言わないだろうし、それにそうしないといけないって事はおれも分かってる。
「いいぞ、オサムは
内容が内容だから比較的人気のない場所に移動してからデンワと言う物を使うオサム。おそらく通信系の道具なんだろうがトリオンを感じない。こっちの技術はすごいな。
コソコソと話すようなら探ろうかとも思ってたけど目の前で聞き耳を立てなくても聞こえる声で話すオサムを見ていると調子が狂うな。
「これから先輩が来るから少し待つけど空閑は時間は大丈夫か?」
この後は予定はない。それにこの身体だと睡眠を取れず、一日中活動出来るおれならたとえどれだけ遅くなっても問題はない。
にしても、ついてきてるって事は了承してる様なもんだろうにわざわざ確認するとはやっぱ面白いな。それともこっちのやつはみんなこれぐらい丁寧なのか?
そんな事を考えてるとおかしな足音が聞こえた。オサムは気づいてないみたいだけど、あれは人の音、それもある程度の高さから飛び降りた音だ。
かなり近いと思うのに全然気づけなかった。謎の足音に警戒をしているとそいつは簡単に姿を表し、オサムの方に手を振っている。オサムが反応を返したって事はあれがセンパイか?
「強いな……」
はっきり言ってオサムは強くはない。だからオサムの知り合いっていうのもオサムより強くてもそこそこだと思っていた。おれのトリガーなら勝てるとは思うけど、ボーダーは侮れないかもな。
「おまたせ、修くんに空閑くん?」
「ふむ、音を立ててもらうまで気付かなかった。中々やりますな。あんたがオサ厶の言ってたセンパイさん?」
「空閑、先輩は敬称だ。あの人の名前は夜景さん、夜景空さんだ。来てくれてありがとうございます。それでその……」
センパイは敬称で、名前がヤカゲクウね。ふむふむ、覚えた。とりあえずオサムがヤカゲさんやヤカゲセンパイって呼んでるから真似しておこう。そのオサムは何やらつまりながらヤカゲセンパイと話してる。
「とりあえず落ち着いて話せる場所に移動しよ。後は起きたことを順番に話してくれれば大丈夫だから」
「はい、分かりました」
「空閑くんもそれで良い?」
言ってる事に嘘はないから罠じゃないのは分かる。だけどなんか違和感を感じる。何も無いのに視線を感じる様になったのはこの人が来た直後だ。話してないだけで何かある。
「おれはそっちが仕掛けて来ないなら、それでも構わないけど」
「まぁ、敵対しなければ攻撃はしないよ」
「ふぅん、嘘はついてないね。なら良いか」
敵対しなければって事は敵対すればヤルのも厭わないのか。それはまぁ当たり前だし、わざわざ敵対しなければって事は何かしてくる可能性は低いかな。
「ここから近い所に旧い私の家があるの。カメラに映らないルートでそこに行くから私の後ろについてきて」
ふるい家と聞いてボロボロの家を想像したがそうではなく、今の家の前に住んでた家という意味の様だ。先ほども居た警戒区域と言う場所に入ってその家を目指す。
「ここだね。普段は使ってないけど防衛任務終わりに覗いて行くからあまり汚れてはないよ」
家の中に入るのは普通ならリスクがあるけど、こっちの普通の家はそんなに丈夫じゃないからトリガーを使えば逃げるのは簡単だろうと考えながらヤカゲセンパイの家に入った。
「お邪魔します」
「オサムそれは家に入る時の決まりか?」
「ん、あぁそうだ。自分の家以外に入る時の挨拶だ」
「オジャマします。であってるか?」
「ふふ」
ニホンのルールを覚える約束をしているので聞いてみたら家に入る時に言う挨拶らしいので修が言ってたのをとりあえず真似しているとヤカゲセンパイの方から笑い声が聞こえた。
「いらっしゃい。まさか修くんが近界の人と会うとは思ったなかったし、ましてそんなに仲が良いとはね。つくづく何が起こるか分かんないねぇこの世界」
笑顔を浮かべたままそんな事を言うと修とおれは座れる場所に案内された。座りながら気付いたけど、いつの間にか変な視線は完全に消えていた。
「さて、それじゃあ色々と話そうか」
どんな話し合いになるかはおれにも分からないが、なんとなくそんな悪い事にはなりそうにないと思えた。レプリカから後で聞いたらおれも笑ってたらしい。
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迅悠一①
初めにおれが直接彼女を見たのは『スコーピオン』開発後に使用感を伝えに言ったり、最適化の為に開発室の方に何度も足を運んでいる時期だった。
「トリオンの出力が超過しちゃうなぁ……これだと武器としても耐久面が保たないし、使えばチップが焼ききれる……とはちょっと違うけど直ぐに壊れちゃう……待てよいっその事、使い捨てのトリガーとかもロマンなのでは……」
「馬鹿者!!一々壊れる様な物を作る資材も予算も、時間にも余裕はないわ!!」
「ですよねぇ……いやいや、分かってるからそんなに怒らないでよ鬼怒田さん」
彼女はトリガー開発に関わる職員って訳ではない。戦闘員として有望な人材として会議の話題にも出ていたので名前と顔は知っていた。
夜景空…同じサイドエフェクト所持者としても気にはしてたし、おれのサイドエフェクトでレイジさんの周りで朧気に見えてたのもおそらく彼女だろう。
特に害はなさそうだから関わる事はなかったし、夜景が部隊を組んでも組まなくてもそこまで大きな影響は無かったから此処にいるのも問題ない。
「とりあえずこれで出来る筈…ちょっと試してきますね!!」
「まったく、念の為データはとっておくように」
困った様にしつつも何やらそこまで怒らずに見守る鬼怒田さんに楽しげに駆け出していく夜景の姿に何処か喜んでいるおれがいた。
「あれもボーダーの在り方の1つだよな」
『スコーピオン』を使った戦闘データと共にレポート形式でおれの見解を提出しながらその日は開発室を後にした。
それからも度々夜景を見かける機会はあり、こちらが見るだけでなく向こうに気付かれる事ももちろんある。
そこから『スコーピオン』の開発者の1人として話を聞かれたり、方向性は違うけど視る事に関するサイドエフェクト持ち同士として話すこともあった。
「ん、面白い未来が見えたな」
夜景の未来であり、おれの未来でもある光景。別にそうならなくても大筋は変わらない。けれどもそちらの方が良くて、特に苦労も無いのであれば一興だろうとおれは夜景にレイジさんが完璧万能手と呼ばれ始めた事をそれとなく伝えた。
「はっ?!なにそれ私も成りたい!!てか絶対に成る!!」
元より射手としての強さは頭一つ抜けており当時は『アステロイド』と『バイパー』のポイントはマスターであり、攻撃手としても死角の無さと自身の戦いやすい場を作る力で『スコーピオン』のポイントはマスターに届いていた。
そんな夜景が毛嫌いしてあまり使っていない狙撃トリガーのポイントを獲得するために動き出した。個人ランク戦にて『バイパー』か『ハウンド』で相手を補足して『アイビス』で撃ち抜く。
夜景自身は『バッグワーム』を使いながら姿を隠して、一方的に相手を見つけて比較的弾速が遅く、シールドを貫ける『アイビス』で倒す。
相手が『カメレオン』を使ったり、運良く先に彼女を補足しない限りはアイビスに吹き飛ばされる。仮に見つけられても『アイビス』で倒すのを諦めるだけで『バイパー』で蜂の巣にされる。
当時の夜景と当たった相手は一部を除いて絶望的な表情を浮かべて戦闘に臨んだと言う。そうして夜景は1月の内に『アイビス』で8000点を稼いで二人目の完璧万能手となった。
そして上機嫌のままにまたランク戦から離れて開発室に入り浸り、幾つか夜景の満足行くトリガーが完成した。そして出来たとなれば使いたくなるのが人情だが彼女はB級である。
この時にも正式に認められたトリガーはあった。だがそれはオプショントリガーであり、その数は1つ。個人ランク戦で使ったり、他の人が使ってるのを見てはじめは満足していたが……
「他のも実戦で試してみたい……」
「ならA級目指してみたら?オペレーターなら紹介出来るし、夜景ちゃんなら1人でも目指せるよ。おれのサイドエフェクトがそう言ってる」
言っても言わなくても目指し始めたらA級に成る。そこが変わらないから、今のタイミングで目指して欲しいから珍しく出来る出来ないを教えた。
「すみません、オペレーターを紹介してもらっても良いですか?」
「おっ、任せて夜景ちゃんに相性ぴったりの子と合わせてあげよう」
そうして紹介したオペレーターの子、
「あん時背中を押してくれた迅のおかげだ。深く感謝する」
「いやいや、隊を組んだ時点で決まってた未来だからね。おれは何もしてないよ。それにしてもその役作りは続けるの?」
「むしろここからだな。作ったもんでやってくんだ。ならオレもやりきるしか無いだろ?」
強いし、優しいし、悪い子じゃないのは確かだけど夜景ちゃんも中々にキャラが濃いと言うか、なんで使うトリガーに合わせて自分の性格を変えようと思ったのか、この未来は見えなかったなぁ。
まぁ面白いのは確かだし、近界民にそこまで恨みがなくて強い子と仲良くなれたから色々と良い感じかな。
「未来は良い方向に進んでるな」
それからは個人ランク戦で戦ったり、セクハラして殴られたり、一緒に食事をしたりとそれなりに仲良く過ごし、そしてついには個人的な趣味にも付き合ってもらう…そんな楽しい未来が遥か遠くに見えた。
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木崎レイジ①
俺と夜景が初めて出会った時の事は覚えてはいる。あのボーダーが公になった日、大規模侵攻の時に助けた市民の1人だ。
ボーダーの戦える人間は今と比べるまでもないくらいに少なくて次ぎ次ぎに湧いてくるトリオン兵の処理に追われまくっていたのを覚えてる。
トリオン兵を倒したら次の現場へと向かいまた倒す、それを繰り返しているとモールモッドに襲われている人が見えて急いで向かいギリギリだが助けた。
急いではいるが危険な状況だったし、対応が悪くて後に響いたら問題だと思い怪我はないか確認の意味で声をかけた。
「無事か?」
「…は、は、はァイ!!あり、ありがと…うございます?」
それが夜景だったと知ったのはあいつがボーダーに入隊してB級に昇格してからお礼を言いに来て、その時の状況を伝えてからだがな。
まぁあの時に人一人の顔まであの時に覚えている余裕はなかった。夜景もそれが分かっているし、状況からあの時のと思い出してくれるだけで十分だと笑っていた。
噛みまくっていた事を思い出した時には「それは忘れてください」と言っていたが流石に印象が強かったので難しい。まぁからかうような事はしないがな。
夜景とその家族からとお菓子を渡された。悪いと言ったんだが命の恩人ですからとグイッと渡された。色々とやらかしてる噂は今でも聞くけど根は律儀な奴だ。
ちなみにお菓子は当時2歳の陽太郎に半分ほど持っていかれた。小南や迅も食ってたがあいつらは戦ってからまぁ食う権利はあるだろう。それに陽太郎も今よりも子供なんだから仕方ない。
夜景のやる事の中にはやらかしと言えばやらかしだが、偉業と言えば偉業な事もある。そんな中で俺に非はないが関わってしまった事件もある。
その最たる例が爆速完璧万能手事件だろう。別名狙撃手強襲事件と呼ばれるそれは個人ランク戦のトドメを狙撃トリガーで行う夜景が現れた一ヶ月の事を指す。
個人ランク戦を狙撃手が行うことは無い。狙撃以外のトリガーを使う人がやることはあるし、その際に狙撃トリガーを使うのもありだ。
B級以上なら複数のトリガーを組み合わせて戦うのは当たり前だし、戦略として無理がない範囲ならむしろ推奨され、狙撃トリガーもその選択肢に入ってある。
つまりB級以上なら狙撃手ポジションが個人ランクに居ることは珍しいが無くはない。ポイント移動ありで倒した際に狙撃トリガーを使っててもポイントは入る。
まぁ真っ当な狙撃手ポジションが個人ランク戦にいる時は他のトリガーの戦い方を学ぶか、攻撃手のや射手銃手相手の立ち回り練習が普通だがな。
それを悪用って訳じゃ無いが執拗に相手を追い詰めては『アイビス』を撃ち込んで倒すと言うやられる側からしたらオーバーキルとも所謂ナメプとも取れる行為を続けたそうだ。
狙撃手の訓練にも参加し、防衛任務も狙撃トリガーで行っていたそうだが、それによって俺に続く2人目の完璧万能手に夜景がなった。
上層部は夜景に対してどうしても良いのかかなり悩んだらしい。強くなろうとするのも目標の為に頑張るのも悪い事じゃないし、規則に違反もしていないのだ。
迅も何やら動いてたが、ボーダーと言う組織の役割からしても強い隊員を逃す事は出来ない為に厳重注意と言う形でその事件は幕を閉じた。せめて俺はしっかり叱っておこうと思ってたんだが……
「レイジさん、私も完璧万能手に成りました!!」
そう笑顔で報告してくる夜景を見るといきなり叱りつける気にもなれずに俺はとりあえず凄いなと褒めた。周りにも気を使うようにも言ったが、慕ってくる後輩には俺も少し甘くなる事に自分でも驚いた。
「あのレイジさんがねぇ」
「レイジくんにもそういう所があるのね。ふふ」
そう言って小南には驚かれたし、妙に感心していた。ゆりさんには笑われたんだが、あれは良い印象の笑いだよな。そう思っておかないと心が潰れる。
いやその話は良いんだ。それからも夜景は『イーグレット』以外の俺が使っているトリガーは覚え、実力を付けてA級に実質単独で昇格を果たした。
何やら背中を押したのが迅だったらしく、お礼を言いに来たのでそのままお祝いを玉狛支部で行った。忍田本部長派に属しているが、かなり玉狛にも近い位置にいる。
上層部から睨まれないかと心配にもなったが、開発室に出入りしていて鬼怒田さんと仲が良いと迅から聞いてるのでたぶん大丈夫だろう。
時間が経てば大暴れのせいで流れてた悪評も薄れていき、時折A級ランク戦にてポカをやらかす事はあっても概ねボーダー内でも認められて、居場所は確立されている。
「助けられて良かった」
ふとそう思えるくらいには身内の様な扱いをしている夜景、あいつがあいつらしく楽しめてる。助けた命の先を見るってのは眩しいもんだな。
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