獅子戦役からなんて聞いてない。 (産業革命)
しおりを挟む

獅子戦役からなんて聞いてない。(メモ書き)

1度考えたら、つい筆をとっていた。

期待はしないで、メモ書き程度として読んで頂きたい。


《七曜暦748年》ノルド高原

 

 雄大な山岳に囲まれて穏やかな風が吹く草原の何処か、馬に跨った青年が広大な野原を一人颯爽と駆けている。

 馬の主たる青年の表情は何処か険しく、まるで疾走る事で嫌な事を忘れようとしているかの様だ。

 

 まぁ、青年の顔が険しくなるのも無理は無い。何せ青年の祖国たる『帝国』では、今血で血を洗う熾烈な内戦が起きているだから。

 皇帝の崩御から勃発したこの内戦の戦果は、既に帝国の全土にまで広がっている。各地の大貴族達の対立と帝位争いが絡まった争いは止む兆しを一切見せず、激化する一方だ。

 最も、現在争っている誰が勝利したとしても待っている未来が明るいという事はないのだが。皇帝の座に即位しても良くて後ろ楯たる貴族の傀儡で、悪ければ帝位簒奪があり得る。

 そして、その先に起きるのは他の貴族の不満から起きる第二の内戦か虎視眈々と帝国領土を狙う諸外国の侵略だろう。若しくは市民による『革命』もあるかもしれない。

 いくら帝国が大国であるとはいえ内乱によって国力は大幅に低下している現状、二度の内乱を治める事も外国からの侵略を防ぐ事も、市民の蜂起を防ぐ事も難しい。

 

 

 

 内憂外患な祖国を憂いつつ、愛馬に身を任せて走る事少々。青年の姿は高原と帝国を繋ぐ街道にあった。

 祖国を放浪した後に辿り着いたノルド高原、其処で遊牧民に迎えられてから早四年。

 結果として内乱から逃れる事が出来たのは幸か不幸なのかは分からないが、遊牧民である彼等と共にいると皇子としての責務、今は亡き母の想いを放棄している事をつい忘れそうになる。

 

 その皇子としての責務を思い出す為、母の言葉を忘れない為に、青年は護衛も無しに度々帝国へ続くこの街道――現代のゼンダー門周辺――に来ていたのだが…。

 

 

 

「む…。アレは…人か…?」

 

 七曜暦にして748年のある日、将来は『獅子心皇帝』と呼ばれ、後に帝国中興の祖として知られる事になる青年〈ドライケルス・ライゼ・アルノール〉は、ある一人の異邦人と出会った。

 

 

_____________________

 

 

 

 突然だが、一つだけ聞いてほしい事がある。

 

 「自室のベッドで『英雄伝説:閃の軌跡』をプレイしていたと思ったら、突然草原の何処かに立っていた。」

 

 何を言っているのか分からないと思うが、自分でもどうなっているのか分からなかった…(以下略)。というジョジョネタは兎も角として、まるで意味が解らない状態になっていたらどうすべきなのだろうか。

 

 周囲を見渡して見ても生い茂る草と疎らに生えている樹木、遠くにはストーン・ヘンジらしき何かと巨人らしき石像位で人も建物も見えやしない。

 強いて言うなら道らしきものは見当たるが、タイヤ痕や車輪痕等の乗り物が通っている様な跡がまるで無い。  

 獣道はあるので生物が闊歩している事だけは理解できるが、果たして本当に人が来るのだろうか。

 

 

「どうしましょう…。」

 

 

 そんな事よりもだ。付近に人がいるかどうかは今気にしている事に比べると別にどうでも良い。

 

 いや、本当に。

 

 

 

 大事な事は唯一つ。それは…

 

 

 

「私の…私の長年の相棒が…!?」

 

 

 

 アイエエエ!ナンデ!?TSナンデ!?

 

 正直ニンジャスレイヤーは一粍も知らないが、そんな事を叫びたくなる。

 長年の相棒は影も形もなく、それどころか慣れない下の感覚と奇妙な胸の重さと声の高さを感じる事にパニックをせずにはいられ無い。

 『俺』が自然と『私』に変換され、ヒラヒラとした服装故か少しだけ風を感じるのもパニックポイントに加算されている。

 

 彼の有名なトラック=リインカーネーションを経験した訳でもなく、ブラックダークノワールカンパニーで働い(社畜し)ていた訳でもない。ましてや部下に突き落とされて神の存在を否定してもいない。

 

 

 何が原因かとその場で考えていると、突如として頭が痛んだ。どんな痛みかといえば、頭の中を直接掻き回される様な頭痛がする。

 余りの頭痛に禄に思考が纏まらないが、何とか周囲と自分の状態を確認しようとする。

 

 そして痛みに耐えかねて気絶してしまう前に見た物は、遠くから馬で駆け寄ってくる一人の青年の姿だった。

 

_____________________

 

「……知らない天井です。」

 

 一度は言ってみたかった(※個人の主観です。)よくある目覚めテンプレな科白を呟きながら目を開けると、ゲルらしき天井が目に入った。

 上体を起こして周囲を見回すと、何時ぞやの本で見た事がある遊牧民らしい家具や寝具が置かれている。

 

 

 

「おっ…無事に起きたか。」

 

「え…と、アッハイ。」

 

 そのまま部屋の内装を観察していると、入口から一人の青年が入って来た。

 つい変な言葉と目を泳がしながらで返事してしまったが、突然現れた青年と今の状態に混乱気味な自分を察してくれたのか青年は今に至る迄の説明をし始めた。

 

 

 

 どうやら自分は『エレボニア帝国』へ繋がる街道で倒れていた所を青年…いや、自らを『ドライケルス』と名乗る目の前の人物に助けられたらしく、介抱する為に此処『ノルドの民』なる遊牧民の集落に連れてきたのだとか。

 

 

 

 ………『エレボニア帝国』…?『ノルドの民』…?

 

 えっ…?先程この人『ドライケルス』って言った?

 

 すみません。今は何年ですか?はぁ…『七曜暦748年』ですか…。

 

 

 

 えっ…エエェェええぇぇ!?

 

 

 

《こういうのって、普通はトールズ士官学院からじゃないの?》

 

_____________________

 

 こんな話があってもいいと思うんです。

 

 あと、この後に書こうと思って断念した妄想をちょこちょこ…。

 

 

 

 獅子戦役事態、流れは特に変わりません。

 

 ただ主人公がドライケルスに(前世からの推しである事も相まって)忠誠を誓って(話をグッドにしたいが為に)挙兵迄の一年間で現代ミリタリー&歴史知識云々を仕込んでロラン殿を存命させたり、途中で合流したリアンヌ殿とドライケルス殿の仲を縮めようと努力したりとかしました。

 あと富国の為に必要な事(教育の重要性や中央集権、立憲君主の必要性とか)を議論したりも…。

 

 最終結果としては、帝都決戦でリアンヌ殿は原作通りに(蘇るけど)死亡。

 主人公もドライケルス殿の戴冠式で発生したオルトロス派残党による時属性魔法テロで未来(リィン入学の二十年前)に時間転移(但し戴冠式に居た人々は死亡と認識)。

 エンド何とかさんの封印が解けたんだから、そんな魔術が使える魔術師がいても不思議じゃない…はず。

 未来では皇帝暗殺を防いだとして教科書に掲載されていたりいなかったり…?

 

 原作二十年前に時空転移した主人公は強力すぎた時魔法の影響でロリ化。

 そして孤児院に拾われた後、奨学金でトールズ士官学院に入学。

 卒業後は帝国軍へ入隊し百日戦役前のギリアス・オズボーンと再会。百日戦役後は全面的に協力する。

 

 原作開始時はギリアスの為に帝国軍を辞めて、スパイとしてノルティア州領邦軍参謀本部の補給参謀として登場。この関係で(主人公が面識を持ちたかったからか)リィン、アリサとは知人関係。

 

 閃2では途中然りげ無くリィン達に情報と物資を提供、最後のギリアス登場シーンで然りげ無く鉄血の子供ではなく鉄血の盟友として登場。

 

 閃3では第2分校の戦術教官として赴任。リィンに気を掛けつつ、黒キ星杯で明確に対立。

 

 閃4では所々で姿を現しつつ、二部で最終ボスとして機械人形と共に登場。敗けた際には成長したリィンを褒めた後に船から飛び込んで自害。

 最後の科白は「陛下、リアンヌ様…(先に逝って)申し訳御座いません…。」

 

 

 

 ……みたいな妄想をしてみたかった。

 

 誰か獅子戦役時代からのモノを書いてくれないかな…。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

本編
出会い〜挙兵《七耀暦748〜749年秋》


アニメ決定おめでとうございます(歓喜)。

そのテンションのまま前回のアレを加筆、修整したモノです。

設定を調べはしたけど自信はないので、そこは御注意を。


《西暦2022年》日本 とあるマンション

 

 日本の都市部にあるマンションの一室、ある一人の男性が覇気のない目をして寝台で寝転びながらゲームをしている。

 

 そしてゲームをしながら、コロナ騒動でリストラされた事の愚痴を呟いている。

 

 そう、この男性は今生きる為の活力と目的を失っていた。

 

 

 

 

 

 思い返せば、生きる事の意味を最近は見出だせなかった。

 

 ブラックな企業ではなかったが、毎日仕事に追われて家に帰れば御飯を食べて寝る。

 

 そんなルーチンワークを繰り返す事に何か意味があるのだろうか。学生時代に聞いた歌でも「自分がいなくても世界は廻る」的な事を唄っていた。実際にそうだと思う。

 

 

 

 学生、新成人時代はまだ目的や夢があった。

 

 自分とはオンリーワンな存在で、決して代替品は無いと思っていた。学業や運動がトップでなくとも、それ以外の長所があるから違うと疑っていなかった。

 

 

 

 社会人に馴れた頃だろうか、社会は規格化されていて、自分は取替えの効く歯車の一つだと知った。

 

 資格を持っている?自分以外に持っている人は何百人といる。求人募集を掛ければ幾らでも来るだろう?

 

 軍事や歴史の知識がある?それが何の役に立つのか。趣味なら兎も角、仕事の成果には繋がらないだろう?

 

 勉強が出来て良い大学も出た?それがどうした。卒業生なら同期だけで百何人もいるし、大事なのは仕事が出来るかどうかだろう?

 

 

 

 同一品はなくとも、互換品はある。

 

 そんな事を日々感じていた時に出会ったのが、『英雄伝説』シリーズだった。

 

 久しくゲームをやっていなかったからか、それとも惹き込まれるストーリーやキャラクターが魅力的だからか、運命に必死に抗う彼等の姿に熱中して感動して、そして悲嘆した。

 

 何故リベールやクロスベルに比べて、帝国編はこんなにも悲惨で過酷なのか。

 

 要約してしまうと全部あの『黒いの』(あとそれを産み出した過程の奴らもだが)が悪いで終わってしまうが、それにしても思った事がある。

 

 

 

 閃の軌跡の真のラスボスは一応『イシュメルガ』であるが、私としてはその宿主であった『ギリアス・オズボーン』…いや、『ドライケルス・ライゼ・アルノール』こそが真のラスボスであると思っている。

 

 だが、そんな偉大なる彼の想いを最終的に理解、共有出来た人物が『リアンヌ・サンドロット』唯一人とは、あまりにも哀しいのではないかとも。

 

 獅子戦役当時の人間には寿命という問題があるから仕方が無いとはいえ、あのローゼリアさんですら気付かない…いや、気付かせなかったのは信頼が足りなかったか責任感が強かったかだろう。多分、後者だとは思うが…。

 

 

 

 そんな彼にもしも『ロラン・ヴァンダール』以外の親友がいて、『巨いなる黄昏』時に共犯者となってくれる人物がいたら?

 

 しかもその共犯者が転生者のゲームプレイヤーで、計画の目的を完全に理解していたら?

 

 

 

 こんな世界ではなく、もし、もしも…

 

「あの世界に生きられたらな…。」

 

 寝台に寝転びながらゲームをプレイする男は、そんな詮無き事を呟きながら目を閉じる。

 

 

 

 

 

 男性が眠りについた時、クリアしたゲーム画面がやけに煌いている様に見えた。

 

 

_____________________

 

《七耀暦748年》ノルド高原

 

 雄大な山岳に囲まれて穏やかな風が吹く草原の何処か、馬に跨った青年が広大な野原を一人颯爽と駆けている。

 

 馬の主たる青年の表情は何処か険しく、まるで疾走る事で何かを堪え忍ぼうとしているかの様だ。

 

 

 

 まぁ、青年の顔が険しくなるのも無理は無い。何せ青年の祖国たる『帝国』では、今血で血を洗う熾烈な内戦が起きているだから。

 

 皇帝の崩御から勃発したこの内戦の戦火は既に帝国の全土にまで広がっている。各地の大貴族達の対立と帝位争いが絡まった争いは止む兆しを一切見せず、寧ろ激化する一方だ。

 

 最も、現在争っている誰が勝利したとしても待っている未来が明るいという事はないのだが。皇帝の座に即位しても良くて後ろ楯たる貴族の傀儡で、悪ければ帝位簒奪があり得る。

 

 そして、その先に起きるのは他の貴族の不満から起きる第二の内戦か虎視眈々と帝国領土を狙う諸外国の侵略だろう。若しくは抑圧されてきた市民による『革命』もあるかもしれない。

 

 いくら帝国が大国であるとはいえ内乱によって国力は大幅に低下している現状、二度の内乱を治める事も外国からの侵略を防ぐ事も、市民の蜂起を防ぐ事も難しい。

 

 

 

 

 

 

 

 内憂外患な祖国を憂いつつ、愛馬に身を任せて走る事少々。青年の姿は高原と帝国を繋ぐ街道にあった。

 

 祖国を放浪した後に辿り着いたノルド高原、其処で遊牧民に迎えられてから早ニ年。

 

 結果として内乱から逃れる事が出来たのは幸か不幸なのかは分からないが、遊牧民である彼等と共にいると皇子としての責務、今は亡き母の想いを放棄している事をつい忘れそうになる。

 

 

 

 その皇子としての責務を思い出す為、母の言葉を忘れない為に、青年は護衛も無しに度々帝国へ続くこの街道――現代のゼンダー門周辺――に来ていたのだが…。

 

 

 

「む…。アレは…人か…?」

 

 

 

 七耀暦にして748年のある日、将来は『獅子心皇帝』と呼ばれ、後に帝国中興の祖として知られる事になる青年〈ドライケルス・ライゼ・アルノール〉は、ある一人の異邦人と出会った。

 

 

_____________________

 

 突然だが、一つだけ聞いてほしい事がある。

 

 

 「自室のベッドで『英雄伝説:閃の軌跡』シリーズをプレイしていたと思ったら、突然草原の何処かに立っていた。」

 

 

 何を言っているのか分からないと思うが、自分でもどうなっているのか分からなかった…(以下略)。というジョジョネタは兎も角として、まるで意味が解らない状態になっていたらどうすべきなのだろうか。

 

 周囲を見渡して見ても生い茂る草と疎らに生えている樹木、遠くにはストーン・ヘンジらしき何かと巨人らしき石像位で人も建物も見えやしない。

 

 強いて言うなら道らしきものは見当たるが、タイヤ痕や車輪痕等の乗り物が通っている様な跡がまるで無い。  

 

 獣道はあるので生物が闊歩している事だけは理解できるが、果たして本当に人が来るのだろうか。

 

 

 

「どうしましょう…。」

 

 

 

 そんな事よりもだ。付近に人がいるかどうかは今気にしている事に比べると別にどうでも良い。

 

 いや、本当に。

 

 大事な事は唯一つ。それは…

 

 

 

 

 

「私の…私の長年の相棒が…!?」

 

 アイエエエ!ナンデ!?TSナンデ!?

 

 正直ニンジャスレイヤーは一粍も知らないが、そんな事を叫びたくなる。

 

 長年の相棒は影も形もなく、それどころか慣れない下の感覚と奇妙な胸の重さと声の高さを感じる事にパニックをせずにはいられ無い。

 

 それに『俺』が自然と『私』に変換され、ヒラヒラとした服装故か少しだけ風を感じるのもパニックポイントに加算されている。

 

 彼の有名なトラック=リインカーネーションを経験した訳でもなく、ブラックダークノワールカンパニーで社畜していた訳でもない。ましてや部下に突き落とされて神の存在を否定してもいない。

 

 

 

 何が原因かとその場で考えていると、突如として頭が痛んだ。どんな痛みかといえば、頭の中を直接掻き回される様な頭痛がする。

 

 余りの頭痛に禄に思考が纏まらないが、何とか周囲と自分の状態を確認しようとする。

 

 そして痛みに耐えかねて気絶してしまう前に見た物は、遠くから馬で駆け寄ってくる一人の青年の姿だった。

 

 

_____________________

 

 内戦の影響もあり、最近はめっきりと見なくなった来訪者に驚いて傍観してしまった青年だったが、突然倒れ込んだその人を見て急いで駆け寄る。

 

 倒れた人物は女性のようで、不躾の無い様に診断した結果、熱があり顔色も少々優れないが命に別状は無さそうだと判断し、少し汚れている帝国では見慣れない衣服や年期が入った持ち物から、女性というのは珍しいがおそらくは異国の旅人だろうなと推察できた。

 

 なぜ彼女がこの高原に辿り着いたのかという疑問が過ったが、救助が先決だと判断して彼女を背中に背負うようにして馬に跨り、介抱するために速足で集落へと向かう。

 

 

 

 そして青年はその途中、世界の何処かで歯車が回り始めた音を聴いた気がした。

 

 

_____________________

 

「……知らない天井です。」

 

 一度は言ってみたかった(※個人の主観です。)よくある目覚めテンプレな科白を呟きながら目を開けると、ゲルらしき天井が目に入った。

 

 上体を起こして周囲を見回すと、何時ぞやの本で見た事がある遊牧民らしい家具や寝具が置かれている。

 

 

 

「おっ…無事に起きたか。」

 

「え…と、アッハイ。」

 

 そのまま部屋の内装を観察していると、入口から一人の青年が入って来た。

 

 つい変な言葉と目を泳がしながらで返事してしまったが、突然現れた青年と今の状態に混乱気味な自分を察してくれたのか青年は今に至る迄の説明をしてくれた。

 

 

 

 どうやら自分は『エレボニア帝国』へ繋がる街道で倒れていた所を青年…いや、自らを『ドライケルス』と名乗る目の前の人物に助けられたらしく、介抱する為に此処『ノルドの民』なる遊牧民の集落に連れてきたのだとか。

 

 

 

 ………『エレボニア帝国』…?『ノルドの民』…?

 

 えっ…?先程この人『ドライケルス』って言った?

 

 すみません。今は何年ですか?

 

 はぁ…『七耀暦748年』ですか…。

 

 

 

 

 

 えっ…エエェェええぇぇ!?

 

 確かにこの世界で生きたいとは思っていたし、口にも出していたけれど…

 

 

 

こういうのって、普通はトールズ士官学院からじゃないの?

 

 

_____________________

 

 助けた女性――アウィナというらしい――は非常に面白く、又博識な人物だった。

 

 助けてくれた御礼がしたいと彼女に言われたので、戯れに何か面白い話をしてくれと頼んでみた。旅の話か何かでも話すのかと思えば、彼女が生まれたという国の事を話してくれた。

 

 嘗て戦乱を経験したニッポンなる国は永きに渡って戦争を経験していないとか、食が豊かで餓死する人がほぼ出ず、努力すれば誰もが教育を受ける事が出来るのだとか。

 

 大陸で最も国力のある国の一つである帝国でも有り得ない様な話ばかりだったが、もしその様な国が本当にあるのなら正しく楽園なのではないだろうか。

 

 もし自分が国を率いる指導者ならば、是非ともその様な国を目指したいという指標の参考になった。

 

 ただ彼女に「まるで楽園の様な場所だな。」と言ったら、無言で何処か遠くを珍しく濁った目で視ていた。祖国で何か嫌な事でもあったのだろうか、だとしたら申し訳ない事をした。

 

 

 

 ノルドの民たちにも、何時の間にか受け容れられていた。

 

 積極的に仕事を手伝ったり、見知らぬが美味しい料理を披露したり、子供の遊び相手をしていたのが理由だろう。

 

 自分としては、彼等の仕事を手伝っている時や料理中の明らかに慣れていない動作に不安を感じずにはいられなかったのだが…。

 

 

 

 あと、銃火器や火砲に対する知識が豊富だった。

 

 偶然彼女が私物の手帳に何か描いているのを見かけて尋ねてみたら、戦場において効果的な火砲や銃火器の配置や螺旋状の溝を刻んだ小銃、新型の弾丸について描いていた。

 

 武を尊ぶ帝国貴族としては別に可笑しい知識ではないのだが、他国の女性が戦術や武具について学ぶというのは珍しい。

 

 もしかしたら産まれは名のある武門の家柄か武器工房なのだろうか。だとしたら立ち振舞が丁寧な事も知識がある事も頷ける。

 

 

 

 

 

 そんな彼女と交流し見識を深め、挙兵について考えていたある日の事。

 

 遂に、その日が訪れた。

 

 

_____________________

 

《七耀暦749年》秋 ノルドの民の集落

 

 放浪時代に親交を深めた親友『ロラン・ヴァンダール』が齎した知らせを契機として、母の言葉を胸に挙兵する事を決意した。

 

 そして集落で旅立ちの支度をしている最中、一人の女性が青年に声を掛ける。

 

「出立の時なのですね、ドライケルス様。…いえ、『ドライケルス・ライゼ・アルノール皇子』。」

 

 此処で呼ばれる筈がない『皇子』と呼ばれて振り向くと、そこには何時ぞやに助けて交流を重ねた女性――アウィナが立っていた。

 

 巷の噂で自分の名を知っていたらしく初めて名乗った時から気付いていたと言い、今回の事で確信を持ったと言う。

 

 そして胸に手を当てながら必死にこう続ける。

 

「どうか、私も貴方様に同行させて頂きたいのです。」

 

 あの助けられた日からこうなるであろう自分の力になる事を決めており、この時の為に護身術としてノルドの弓術を教えて貰っていたらしい。

 

 一瞬彼女の申し出を断ろうかと思ったが、こちらに向いた目に宿る堅固な意思を感じ取り熟考する。

 

 確かに人手が欲しい上、彼女の知識は大いに自分の助けになるだろう。しかし、帝国に無関係であろう彼女を帝国男児としても人間としても自分の危険な旅路に巻き込んでも良いのだろうか…。

 

 

 

 そのまま向かい合っていた二人だったが、半刻程悩んだ後に彼女へ「よろしく頼む。」と唯一言だけ返す。

 

 それに応えるように、彼女も臣下の礼を返した。

 

 

_____________________

 

《黒の史書》7~『ドライケルス挙兵』~より

 

 以下、黒の史書より一部抜粋

 

『ある日、青年は一人の異邦人を助け、そして彼女との間に性別を越えた得難き友情を築く。』

 

『彼女との交流は、青年にとって目指すべき未来を示す良き助けとなった。』

 

 (中略)

 

『旅立ちの支度をしているドライケルスに友人である彼女が訪ねてきた。』

 

『恩人である彼の助けになる為に同行を申し出る彼女の提案に悩んだドライケルスだったが、熟考の末に受諾した。』

 

『彼女も臣下の礼をとり、第二の盟友となった。』

 

 (中略)

 

『七耀暦949年秋、ドライケルス軍挙兵――』

 

『手勢はわずか1()8()()であった。』

 

_____________________

 

●主人公(アウィナ・ウェレンドルフ)

 

 何の拍子かリアルワールドの男の魂が宿ってしまった現地人の女性(19歳)。転生ではなく憑依にしたのは因果律云々の設定をややこしくしない為。

 原作でのカルバード周辺で暮らしていたが、内戦が起きた帝国に居るという親戚の安否確認しに来た所を戦火に巻き込まれて、導かれるようにノルドまで逃げてきたという設定があったりなかったり。

 あと、途中の頭痛は意識が融合する時の副作用で、現地語が読み書き出来たり仕草が女性として違和感が無いのも其のため。

 

 憑依した男は両親の事故死にコロナ禍でのリストラという追討ちを喰らって意気消沈だったところ、現実逃避する様に好きだったこのゲームをプレイしていた。

 なおミリオタ兼歴オタであった為、作中の知識はこれが由来。

 英雄伝説シリーズではギリアス推しで、偉大な人柄とラスボスとしてのオーラが堪らなく好きだったとの事。

 

 憑依後は憑依前が嘘であったかのように非常に活き活きと活動。

 最初は興奮や未知の環境からくる空元気だったが、新鮮な遊牧民生活と穏やかな自然環境で精神も従来の精神状態にまで回復。鬱病の治療法に近い。

 

 名前の由来はドイツ産出の宝石であるアウイナイトと、同じくドイツの宝石工房であるウェレンドルフから。

 

 TSにした理由は、男よりも女の方がドライケルス一行のバランスが取れると思ったから。容姿イメージはヘタリアの女体化版「にょたりあ」のロシア。

 

●ドライケルス・ライゼ・アルノール(20歳の姿)

 

 若かりし頃の獅子心皇帝の姿で、無自覚だがその魂の子孫へ引き継がれるカリスマと朴念仁が既に備わっている。

 放浪中や集落での生活では、彼に心惹かれる人(異性含む)が多数いたとか。ただ、後に惹かれあう女性以外の好意にはまだ気付かない。

 

 ノルドにて争いとは無縁に過ごしていたが、原作と同様にロランの知らせにより挙兵を決意。

 ただ原作に比べて既に目指すべき国家像が定まっているので意思は固く、主人公のミリタリー&歴史知識の影響か軍略にも明るい。

 




次回は未定です。

その、資料がないので…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

会合~終結《七耀暦750~752年》

原作に載っていないところを考えるのは面倒だった。

余り期待せずお楽しみください。


《七耀暦750年》レグラム近郊

 

 ノルド高原を出立してから半年程経った私達は、戦禍に巻き込まれた人々を助けながら帝国領南東部にあるレグラム近郊にまで来ていた。

 

 ここに来るまでの間、実に様々な困難があったが、個人的に一番困難だったと感じたのは『ロラン・ヴァンダール』の死の阻止だろう。

 

 原作の『黒の史書』でも『リアンヌ・サンドロット』に会う直前にドライケルスを庇って死亡としか書かれていなかったので、ここ最近は常に気を張っていたのだが大変疲れる事この上なかった。

 

 例えるなら、大体一ヶ月程ぶっ通しでデスゲームをやっている感覚だったと言えば分かりやすいだろうか、肉体的にも精神的にも疲労が酷いのだ。

 

 

 

 というのも、レグラムに来る直前に寄った町で兵隊崩れの山賊の討伐を依頼されたのだが、その山賊が根城にしているという廃砦での戦いの最中にドライケルスを狙っていた狙撃兵がいて、その攻撃から彼を庇って原作では死んだらしい。

 

 かなり巧妙に偽装していたので攻撃されるギリギリまで気が付かなかったが、攻撃前に紅黒いオーラを感じて反射的に矢を射って狙撃を阻止したというのが真相だ。

 

 普段だったら絶対間に合わなかったタイミング射ったのだが、これまでの戦いでかなり疲労していた事が幸いしたのか、遥か限界まで集中して神業ともいえる速射が出来たから間に合ったのだろう。二度目は多分出来ないし、したくもない。

 

 これまで戦ってきた敵の中にあの紅黒いオーラ――十中八九、帝国に伝わる『呪い』か何か――を感じる敵はいなかったので、多分あの名もなき狙撃兵がロラン・ヴァンダール死亡の原因だったのだろうと推察できる。

 

 

 

 今現在の結果としてレグラム到着直前に起きるはずだった彼の死亡を阻止でき、ドライケルス時代を原作よりも(ほんの少しだけ)ハッピーに出来る事が分かった。

 

 まあ、本当の困難はこれからなのだけれども…。

 

 

 

 今後とも励むとしよう。総ては、我が主君(推し)の為に。

 

 

_____________________

 

《七耀暦750年》ローエングリン城

 

 自分が彼女――噂を聞くに名高いサンドロット伯の息女――と出合った時の反応を纏めるなら、きっとこの様な言葉だっただろう。

 

『彼女と相まみえた時、今まで感じた事のない衝撃が身体中に奔った。』

 

 所謂『目と目が逢う〜瞬間好きだと気付いた〜♪』的な感覚であり、恋愛小説や御伽噺ではごくありふれている表現だが、まさか自分が感じる事になるとは思わなんだ。

 

 

 

 一度目は戦場で、二度目はレグラムにある彼女の副将たるシオン・アルゼイド殿の邸宅での会合で、そして協力関係を結んだ事を祝う祝賀会での三度目の今回。

 

 戦場での甲冑姿時もそうだったが、祝賀パーティで初めて見る彼女のドレス姿に嘗て無い程の胸の高鳴りを憶えている。

 

 以前見た時よりも調えられた髪、薄いながらもより魅力を引き立てている化粧、不快感を感じさせない程度の香水等など、溢れ出る女性らしさを全開にした彼女から目を離せない。

 

 

 

 自分を慕ってくれている侯爵令嬢の妹分――そう言ったら臣下からは呆れた目で視られた――がこの場にいたら、多分自分の腹を抓られていただろう。

 

 彼女は自分が女性を見ているとそういう事をしてくる。以前に理由を聞いてみても「御自身の胸に御聞きになってくださいまし。」と怒られてしまった。未だに理由が分からないのだが、誰も教えてはくれなかった。何故だろうか…。

 

 

 

 それは兎も角として(閑話休題)、何とか彼女と話せないだろうか。自分から彼女に話し掛けるのは何故か恥ずかしく感じるのだ。普段はこんな事はないのだが…。

 

 そうだ。臣下を連れて今後の協議がしたいというのはどうだろうか。彼女は同じ目標を持つ同士なのだから、別に可笑しい事ではあるまい。うん、そうしよう。

 

 そう思って臣下がいる方面を見てみると、我が悪友のロランは彼女の副将のアルゼイド殿と意気投合したのか中庭で稽古をしようと話しているし、もう一人の友人であるアウィナは既に酒に潰されて夢の世界へ旅立ってしまっていた。ノルドからの友人達も他の臣下達もこの会を楽しんでいて、とても邪魔できる雰囲気ではない。

 

 

 

 自分が孤軍である事を認識し、致し方無いと覚悟を決めて彼女に話しかける。

 

「ウウンッ…リアンヌ嬢、少し宜しいか。」

 

 自分の声に反応してこちらに振り向く彼女。一瞬見惚れ掛けて固まってしまったが、勇気を振り絞って続ける。

 

 

 

「その…少しバルコニーで話さないか?」

 

 そのやり取りに周囲の人々が固唾を呑んで見守る中、彼女も緊張からか頬を僅かに染めて肯定し、二人してバルコニーがある方向へ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、結局この後は互いの事を話すだけで、異性としての関係は進展しなかった。

 

 後日、両名は互いの関係性を臣下から質問攻めにあうのだが、主君から答えを聞いた両名の臣下はあからさまにがっかりしたとか。

 

 

_____________________

 

《七耀暦752年》7月1日 帝都ヘイムダル近郊

 

 あの会合から2年が経ち、鉄騎隊と各地の人々、それに第6皇子であるルキウス陣営の協力と新たな灰色の騎神『ヴァリマール』を得て、遂に帝都ヘイムダル近郊にまで辿り着いた。

 

 魔王と化した『緋』によって魔都へと変貌した帝都――原作での『煌魔城』――での決戦を前にして、皆最後の準備をしている。

 

 と言っても、私がする事は自分の得物である弓矢の手入れと、砲弾や魔煌兵、医療物資の在庫の確認程度なのだけれども。

 

 

 

 戦いの火蓋を切ったのは何方だったのだろうか、『緋』と味方砲兵の激しい砲撃戦から決戦が始まった。

 

 魔弓の放つ矢や武具と大砲から放たれた砲弾が所々で衝突して爆発を起こし、こちらが展開している魔道障壁に命中した剣や槍が嫌な音を奏でながら消滅していく。勿論『緋』は此方の砲弾が当たっても微塵も傷つくことはない。

 

 

 

 私は『灰』と『銀』が煌魔城に近づくまでの陽動と援護の指揮を執っていたが、一体どれ程の時間が過ぎたのだろうか。

 

 これ迄激しい射撃の応酬をしていた『緋』が急に攻撃を止め、城内へと急いで姿を消した。恐らくだが、鉄騎隊等の精鋭で構成された突入部隊が潜入に成功したのだろう。あの魔城から離れている筈のこの場所でも激しい戦闘音が聞こえてくる。

 

 あとは祈る事しか出来ない自分に少し腹が立つと同時に、是非とも原作の激戦を観戦したいという場違いな思いまで感じてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのまま激しい戦闘音だけを聞きながら最悪の事態に備えていたが、あの突入より三日が経った七耀暦752年7月4日。

 

 これまで続いていた激しい戦闘音が止み、突入班があの魔王を打ち破って遂に帰還した。

 

 

 

 

 

 彼等は後に偽帝と呼ばれる事になるオルトロスと、槍の聖女と呼ばれる事になるリアンヌの遺体を背負っていた。

 

 分かり切ってはいたが、彼女の運命を変える事は出来なかった。

 

 

_____________________

 

《七耀暦752年》秋 帝都ヘイムダル

 

 次期皇帝の座を巡って勃発し、5年にも渡って続いた内戦は、内戦中盤から参戦して事の発端であった第4皇子オルトロスを打倒した第3皇子ドライケルス・ライゼ・アルノールが勝利した。

 

 相思相愛の仲であった人物であるリアンヌ・サンドロットを帝都での最終決戦で失うという哀しい結末になってしまったが、彼は皇帝として彼女の想いを受け継いでこのエレボニア帝国を導いていかなければならない。

 

 

 

 ある程度復興が進んだある日の事、正式に皇帝へと即位する為の戴冠式が行われようとしていた。

 

 この歴史的な戴冠式には彼へ忠誠を誓った臣下やノルドの民は勿論の事、今後の帝国を支える事になる生き残った各地の貴族達、諸外国の来賓客も参列している。

 

 会場では皆が今か今かと待っていたが、鐘の音が数回鳴り響くと共に入口が開き、今回の主役たる彼――第73代エレボニア皇帝(予定)――がゆっくりと威厳ある歩みで入場してきた。

 

 

 

 戴冠式は順調に進み、遂にメインである戴冠の儀を迎える。

 

 

 

 誰もが戴冠する彼に目を奪われたその一瞬、警備中だった衛兵達の気が緩んだ隙の出来事だった。

 

 式場の床に突如として魔法陣が現れ、それから見知らぬ女性が出現して戴冠中だった彼へ向かって薄暗い光沢をもった宝石を勢いよく投げつけた。

 

「愛するオルトロス様の仇!死ねっ、ドライケルス!!」

 

 その言葉と共に石が輝きを放ち始め、護衛が動くよりも早く石がドライケルスの元に届く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「陛下ッ!!」

 

 誰もが間に合わないと思い、当事者であるドライケルスでさえも諦め掛けたその時、彼は腹心であるアウィナに突き飛ばされていた。

 

 突然の事に意識がハッキリとせず、ただ流される様に床に倒れ込む。

 

 

 

 そして次の瞬間に彼が見たのは、時空の歪みに消えていく彼女の姿だった。

 

 

_____________________

 

《黒の史書》9~『獅子心皇帝・後日譚』~より

 

 以下、一部抜粋

 

『終戦の年に即位し、またそれと同時に最初の臣下であり腹心であった彼女も自身を庇って時空の果てに去ってしまった。』

 

『悲しみと後悔はあったが、それを乗り越えて仲間達と帝国の復興にひたすら尽くした。』

 

 (中略)

 

『内戦を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()彼にとっては満足いくことだった。』

 

『彼女の様に、自分という存在が不幸を齎す事が無かったからだ。』

 

 (中略)

 

『――懐かしい、あまりに懐かしい鈴のような声と共に』

 

『黄金を溶かした髪をなびかせた”その人”が顕れるまでは。』

 

 

_____________________

 

《七耀暦1184年》帝都ヘイムダル

 

 大陸横断鉄道が出来た頃の帝都ヘイムダルの何処か。

 

 帝国最大の都市にして最多の人口を誇るこの都市では日々人影が絶えず、それに比例して問題事や事件も数多く発生している。

 

 

 

 そんな帝都の治安を維持し、事件などの解決をする組織である憲兵隊の本部庁舎に一本の電話が掛かってきた。

 

 

 

「はい、こちら帝都憲兵隊本部。」

 

「…何?身寄り不明の少女を発見しただと?」

 

「対象者の名前は?年齢は幾つだ?」

 

「……なるほど、了解した。一度帝都庁に問い合わせるので、一時的に我々が保護するとしよう。」

 

 

 

 その憲兵は電話を切ると、今度は帝都庁へ問い合わせの電話を掛けて、こう尋ねた。

 

「身寄り不明の()()程度の少女を保護した。帝都の住民に『()()()()()()()()()()()()』という人物がいるか、至急調べてほしい。」

 

 

_____________________

 

 皇帝に即位する為の戴冠式の最中に起きた事件からドライケルスを庇った私は、気が付けばまた見知らぬ場所に立っていた。

 

 前回は草原だったが、今回は何処か見覚えのある教会の様だ。だが、記憶のモノより年期を感じるのは気のせいだろうか。

 

 周囲を確認できたので自分の事を確認してみると、あの戴冠式当時の服装だった。しかし、身体が縮んでしまっているのか大分袖を持て余している。

 

 既に二度目の経験だと驚くにも驚けず、寧ろ様々な突っ込みの方が湧き出てくる。自分は何処かの高校生探偵してた訳でも毒薬を飲まされた訳でもない、魔法的な何かは喰らったけど、みたいな。

 

 

 

 これでは本当に麻酔銃を撃って迷探偵の声真似をしなければならないのだろうか。

 

 そんなくだらない事を考えていたら、突然扉が開いて軍服らしい服装をした男女が銃を構えながら入ってきた。

 

 誰だろうかと思っていると、相手は私が此処にいる事に困惑した様子ながらも女性の方が質問してくる。

 

「ここで何か爆発の様な事が起きなかったか」「何故ここに一人でいるのか」「御両親は何処にいるのか」といった質問に対して、正直に「分からない」「気が付いたら此処に一人でいた」と答える。

 

 私のその答えを聞いた女性は男性に目配せして彼は何処かと連絡を取り始めた。

 

 その会話を流れ聞きしていると、この状況に何処かデジャビュを感じる。

 

 ……『帝都』?

 

 ……『ヘイムダル大聖堂』?

 

 あの、今って何年ですか?

 

 えっ…『七耀暦1184年』?

 

 

 

 確か原作開始(リィンの入学)が七耀暦1204年の4月だったから…。

 

 まさか、今度もトールズ士官学院からじゃないの?

 

 

_____________________

 

●主人公(アウィナ・ウェレンドルフ)

 

 閃の軌跡のファンである男に憑依された現地人の女性(22歳)。

 

 今回は原作イベントであるロラン・ヴァンダール死亡事件を阻止する事に成功し、リアンヌと主君の関係性があまり進まないのをみて少しイライラして、リアンヌに突撃かました事も裏であったりする。

 

 帝国は魔境で修羅の国だと常々思っていたが、リアンヌさんやアルゼイドさん、ロランさんやローゼリアさん等の帝国トップクラスの奴らを近くで見続けた結果、感覚と実力が何処かおかしくなってしまった。

 具体的には先程のヤベー連中と相打ち、又は善戦出来ないと弱いと思う程度の思考と実力がついた。

 

 獅子戦役を生き延び、ドライケルスの戴冠式ではオルトロス派の残党が起こしたテロから主君兼推しを身を挺して守った。

 が、そのせいで遥か未来へ時間転移&ロリ化(十歳程度)してしまう。

 

 主君の事を守ったは良いが、その精神状態を悪化させた事はまだ知らない。

 

●ドライケルス・ライゼ・アルノール(23歳)

 

 リアンヌに一目惚れした第73代エレボニア帝国皇帝になる男。

 

 産まれて初めての恋にドキドキが止まらなかったりした。恋愛弱者1号。

 

 リアンヌとは両片想いだったが、初めての女性の扱いに勝手が分からずに周囲をヤキモキさせていた。

 

 最後の決戦では原作通りにリアンヌが負傷して死亡してしまうが、無事ではないけど原作同様に獅子戦役を平定する事が出来た。

 とても哀しかったが、ロランや主人公という臣下がいるので原作よりは良い状況。

 

 ただ主人公も戴冠式という戦場以外で自分を庇って目の前で(生きているけど)死亡(扱い)してしまったせいで、自己犠牲精神は原作同様に強い。

 

●リアンヌ・サンドロット(26歳)

 

 ドライケルスとは両片想いだった伯爵令嬢。

 

 単純な武力では帝国でも一・二を争う程に強いが、恋愛では意外にも箱庭令嬢だった為に恋愛弱者2号と化した。

 

 帝都決戦までの間、腹心の部下であるアルゼイドや自身の導き手に恋愛相談する姿が見られたとか何とか。

 

 実は主人公とドライケルスの関係性を疑っていた事も、ドライケルスと関係があまり進展しない原因だったりした。(なお、誤解だった模様。)

 

●ロラン・ヴァンダール(23歳)

 

 ドライケルスを庇って死ぬ運命だった彼の親友にして悪友、そして臣下。既に妻子がいる。

 今回は主人公が偶然助ける事に成功した。

 

 鉄騎隊の副将であったアルゼイドとは意気投合。武芸と主君の話題で盛り上がるが、互いの主君の恋愛クソ雑魚っぷりには頭を抱えている。

 

 主人公とは主君の女性の扱いをどうにかしようとする仲だった。目の前でいなくなってショックを受けるが、それを乗り越えて帝国の復興に専念する。

 

 戦後は帝国軍元帥に昇進し、トールズ士官学院の初代学院長にも就任。ドライケルスの異変にも気づいていたが彼が頑なに事情を話さなかった事もあり、心配しつつも彼より先に死去。

 

 なお、ヴァンダール家は原作と変わらない構成になる。

 

_____________________

 

 因みに、テロを起こした女性はオルトロスさんの騎神の導き手という設定。

 

 『魔女』として緋が封印されている帝都の皇宮で侍女として働きながら緋の監視をしていたが、そこでオルトロスに恋をして全面協力する事に。緋の封印を解いたのもこの人。

 

 テロの時に使った石は宝物庫にあった最高品質の時属性の七耀石。理由は得意な魔導属性が時属性で最速発動可能だったから。この時、既に『呪い』に掛かっている。

 

 オルトロスさんとの間に子供もいたので、カイエン公の遠い祖先…だったのかもしれない。

 




次回は未定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

入学〜再会《七耀暦1188〜1190年》

これからは多少更新が長くなると思います。

話の構想を練らねば…。


《七耀暦1188年》4月 トリスタ

 

 あの後、憲兵隊に保護された私は帝都在住の貴族*1の夫婦に引き取られる事となった。

 

 当然の事だが、この時代に私を引き取るべき両親なんている筈も無い。多分とっくの昔に亡くなっている。子孫も作らなかったし。

 

 転移前の周囲の友人――特に頻繁に妻と子供を自慢してきた愛妻家で子煩悩なロラン・ヴァンダール――からは結婚を勧められたのだが、未だに残っていた男としての意識から婚約すらしなかった。

 

 前世で流行っていた精神的BLは、現実問題と化した自分には無理だった。

 

 そのツケが今の状況なのだが、仕方が無いと思う。というか、この時代迄家の名が遺っているかどうかも定かでは無いし…。

 

 

 

 本題に戻るが、引き取ってくれた貴族はどうやら訳ありの様で、使用人の噂話を盗み聞きした結果によると奥方との間に子供を成す事が出来なかったらしい。

 

 義理の両親は私の事を可愛がってくれた――どうやら憲兵隊から誘拐事件に遭ったと説明されたらしい――が、多分これは実子が出来たら邪魔者扱いされると思ったので、早めに家から独立する事にした。

 

 

 

 

 

「トールズ士官学院へ入学おめでとう。新入生の諸君。」

 

「『若者よ――世の礎たれ。』」

 

「ドライケルス大帝が遺したこの言葉を胸に、諸君には学生生活を励んで貰いたい。」

 

 そして今、私はあの『トールズ士官学院』に入学する日を迎えた。

 

 入学試験の範囲である帝国史や古典、現代文等、この世界特有の内容には苦戦したが、少女化した影響なのか思ったよりも順調に習得する事が出来たので突破する事に成功した。転移前に弓以外の新たな武術を研いておいたのもプラスになっている。

 

 但し美術、テメーはダメだ。美術史は兎も角、実技は本気で赦さん。

 

 

 

 然し、この学校に入学を果たす時が原作時ではないのが残念だが、一生に一度(憑依前含めれば二回目だが)の学院生活を悔いの無い様にするとしよう。

 

 憑依前とは違い卒業後は就活にも困らなそうだし、充実した学生生活になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 なお、受験勉強の最中は年頃の女子…いや、大人でもしてはいけない眼と言動をしていたらしい。

 

 その状態の私を見た義理の両親や使用人曰く、『死んだ魚の眼をしながら社会の怨みを呟いて机に向かっていて、まるでフォースの暗黒面に目覚めそうな勢いだった…。(意訳)』とか。

 

 危うく義理の両親や使用人達によって帝都病院に連行されそうになった所で正気を取り戻したが、明らかに憑依前の嫌な記憶がフラッシュバックしていた。

 

 彼等は私が合格した事を我が事の様に喜んでくれた。いずれは家を出る予定だが、今後は心配を掛けないようにしよう。

 

 

_____________________

 

《七耀暦1188年》トールズ士官学院

 

 吾輩は士官学院生(名のあるモブ)である。名前はマダナ・イネコ。

 

 帝国屈指の名門校であるこのトールズ士官学院のⅠ組に在籍している1年生で、イネコ伯爵家の3男である。

 

 

 

 突然だが、高貴にして栄光ある貴族生徒が在籍している我が組には、一人不思議な雰囲気を放っている生徒がいる。

 

 名前を『アウィナ・()()()()()』。帝都庁に勤めているというツェレナー子爵家の養子である人物だ。

 

 

 

 別に名前が不思議な訳ではなく、アウィナというのは比較的に珍しくもない名前だ。

 

 帝国史に残るテロ事件であったドライケルス帝の戴冠式襲撃事件で彼を庇った忠臣の名前であり、一部では彼の『槍の聖女』並みの偉人として知られている人物だからか、それに肖って子供に名付けるのはよくある事だ。

 

 

 

 彼女を不思議に感じさせるのは、日常時と戦闘時のあまりにも大きい雰囲気の差だ。

 

 日常ではやや抜けていながらも品格があり、その出自から平民、貴族問わず男女ともに多くの交流がある淑女らしい女性なのだが、戦闘時にはそれらが激変して誰よりも冷静であり、普段抜けているのが嘘のように適格な援護と攻撃、指揮をする。

 

 確かに彼女は戦闘や軍事学に秀でているが、戦闘時のその経験は何処で得たものなのだろうか。

 

 様々な憶測があるが、私としては養子前は帝国軍人の家系だった説を推している。

 

 猟兵説や改造人間説、突拍子も無いのでは獅子戦役で亡くなった()()()()()()()()()()()()()()だという説もあるが、とても現実的では無い荒唐無稽な話だ。

 

 第一、彼女の得物は()()()()()()()()()だ。

 

 獅子戦役のアウィナ・ウェレンドルフは長弓を得意としていたと聞く。万が一にも本人説はないだろう。

 

 もし彼女や槍の聖女が存命ならば、今頃は200歳を…。

 

 …ん?何か途轍もない寒気を感じる。この話はやめておこう。

 

 

 

 彼女が養子である事に眉をひそめる生徒もいるが、個人的には会話していて楽しいし、何より新たな発想を得られるのは実に感謝している。

 

 特に『世界大戦論』とかいう考えだったか、連鎖的に起きた小さな衝突が世界を巻き込む争いになるというのは考えもしなかった。彼女は『バタフライ・エフェクト』とかも言っていた気がする。あと『飛行機』なる物もあったか。

 

 聞けば教官達からもいい意味で目を掛けられているらしく、特に実技教官とは毎週末特訓しているのだとか。その特訓を一度見学したがアレには参加したくない。残像を残したり『闘気』とやらで武具を実体化するのは可笑しいと思うのだが…。

 

 

 

 結論としてだが、彼女は少し変わっているがいい友人だと思っている。

 

 我が友の中には彼女に心惹かれる者もいるらしい。確かに悩み事や勉強には付き合ってくれるし、細かな気遣いも出来る人で何より美人だ。同級生の女子の中には彼女を姉として慕う人もいるのだとか。

 

 だが、正直我が友の恋は実らないと思う。彼女には既に心を決めている殿方がいると本人から聞いた。友には哀れではあるが、多分当たって砕けて終わりだろう。

 

 

 

 彼女にただ一つだけ文句を言うのならば、あの壊滅的な絵画の腕だけはどうにかしてほしい。何がどう変化すれば猫が触手を振り回す邪神(クトゥルフ的な何か)になるのか理解に苦しむ…。

 

 

_____________________

 

《七耀暦1190年》4月 帝国軍駐屯地

 

 真面目に勉学に励み、後の後輩の様に単位が足りなくて留年の危機という事もなく、トールズ士官学院第206期生として卒業した。

 

 あっという間の学生生活を謳歌し、卒業後の進路を考える時期であった2学年末は少し鬱な状態であったが、結局私は帝国軍へ就職する事を決めた。

 

 昔とは違い義理ではなく本当の親と感じている今の両親からは、彼らの勤務先である帝都庁の職員を勧められて割と真剣に迷ったりもしたが、ドライケルス…いや、今は文字通りの意味で生まれ変わった『ギリアス・オズボーン』に会うという目標の為に諦めた。今でもちょっとだけ後悔している。

 

 

 

 入隊式を終え、司令部からの辞令を受けてこれから配属されて勤務する帝都近郊の駐屯地に勤務する初日。

 

 軍人として働く事の緊張から早朝に帝都の実家を出て、まだ朝早くの時間に駐屯地についてしまった私が集合地点であった駐屯地司令部の前で待っていた時。

 

 

 

「…ム。君が今日配属される士官候補生かな?」

 

 後ろから声を掛けてきた男性の問いかけに答えようと振り返ったその時、男性を見て身体に衝撃が奔る。

 

 若さを過ぎた大人特有の雰囲気に圧されて体が固まってしまった訳ではない。ただ、本能で感じたのだ。

 

 

 

 

 

 私が知っている彼とは姿形は確かに別人だ。だが、確かに彼と解る。

 

 これでも一時期はローゼリアさんの弟子でもあったのだ。霊力や魔法についても学んでいる。

 

 

 

 そして、『魂』についてもまた同様。

 

 常人は一生の中ですら魂の変化を繰り返す。人の心とは、感情とは、常に変化しなければ壊れゆくものだから。

 

 魂とは移ろいゆくモノだ。同じモノなどは存在しない。そう、常人なら。

 

 

 

 こちらの感覚では別れていた期間は5~6年だが、現実では200年程の月日が経っていたにも関わらず、その在り様は変わっていない。

 

 この世界の歴史を知って彼がドライケルスとしての生を全うしたのは分かっていたが、こんなにも変わらず且つ未だ燃えている強い意志を秘めているのは流石『獅子心皇帝』と言うべきだろう。

 

 だからこそ、あのリアンヌも彼を見つけたと判断できたのだろう。普通の人物ならば無理な話だ。

 

 嗚呼、何故だろうか。原作の知識として彼が生きているは分かっていたが、まさかこんなにも気持ちが溢れてくるとは。

 

 

 

「…?どうした?大丈夫か?」

 

 固まっている私を心配して彼が声を掛けてくれるが、感情の処理が追い付かず内容が頭に入ってこない。

 

 意外と私は彼に依存していたらしい。最初に出会った事もそうだが、転移前のこの世界の私を知っている人に初めて出会えた事が嬉しくてたまらない。

 

「…ッ、陛下ッ!ドライケルス様!」

 

 思わず涙が溢れ、はしたないと思いつつも目の前の彼――ギリアス・オズボーンについ抱き着いて泣いてしまう。

 

 心の中でリアンヌとカーシャさんに謝罪しつつ、今しばらくはこうする事を許してほしい…。

 

 

_____________________

 

 己が嘗て皇帝として導いた祖国に転生してから三十年少々。

 

 辺境勤務時代に出会った愛しき妻との間に子供も出来、あの『黒』からの干渉を受けることなく職務に励んでいたある日のこと。

 

 今年も新兵達が入って来る時期になり、駐屯地司令としての新兵歓迎の為に妻と子供に見送られて自宅を出た自分が職場に着くと、この春から配属されることになった新兵であろう少女が集合場所として指定した司令部前に立っていた。

 

 自分も早めに家を出たつもりだったが、集合時刻として指定した時間よりもかなり早い時間に来るとは見込みがある。案外我が子の様に遠足前の緊張で寝れなかっただけ、みたいなのかもしれないが。

 

 

 

 それに、配属予定の人材には気になる人物もいる。母校であるトールズの後輩であり、実技教官として赴任していた同僚からは自分と互角に打ち合える人材と聞いている。特に集団戦の指揮で真価を発揮するとも。

 

 その名前を聞いた時に前世であの時失ってしまった彼女の事を思い出してしまったが、あり得ないと判断した。

 

 前世でのロゼとの別れ際に尋ねて、「奴の事は諦めろ。」と言われたのだ。つまりはそういう事なのだろう。

 

 

 

 嫌な記憶を頭を振りかぶって思考の奥にしまい、それよりも今の事を考える。

 

 事前に送られてきた履歴書の写真から司令部前で立っている彼女が件の人物と判断し、近寄って声を掛ける。

 

 

 

「…ム。君が今日配属される士官候補生かな?」

 

 こちらの声に反応して目の前の彼女が返事をしようと振り向き、一度口を開くと何かに衝撃を受けたかのように固まってしまった。

 

 

 

 いったい何に驚いているのか気になってつい後ろを見てしまったが、特に何もなかったので改めて尋ねる。

 

「…?どうした?大丈夫か?」

 

 そう彼女に話し掛けると彼女は何故か突然涙を浮かべ、自分の体に抱き着いて泣きながらこう言った。

 

 

 

「…ッ、『陛下』ッ!『ドライケルス様』!」

 

 

 

 『陛下』?『ドライケルス様』?

 

 何故だ?なぜ彼女は自分がドライケルスだと知っている?

 

 

 

 そうだ。彼女の履歴書を見た時に何かこう、運命的な何かを感じた事を覚えている。

 

 

 

 戴冠式後、ロゼにテロ現場を見てもらった時、彼女は時属性の力を感じると言っていた。

 

 履歴書では、自分が戴冠式を行った『ヘイムダル大聖堂』で彼女は発見されたと書かれていた。

 

 その時、自身の名前を彼女と同じ『アウィナ・ウェレンドルフ』と名乗ったとも。

 

 あの時に彼女が死んだと思っていたが、思い返せば『黒の史書』でもハッキリと死んだとは書かれていなかった。

 

 

 

 今までは点でしかなかった全ての状況証拠が、目の前の彼女に繋がっている。

 

 まさか、まさか彼女は本当に…

 

「君は……君は本当に、我が臣下にして盟友の『アウィナ・ウェレンドルフ』、なのか…?」

 

 

 

 答えを聞くのが怖い。もし彼女が本物では無かったらどうしようか。

 

 然し、彼女は自分を一目でドライケルスであると解ったようだった。なら、期待しても良いのか?

 

 

 

 

 

 自分の問いかけに彼女は暫く「陛下ッ…、陛下ッ…」と呟きながら泣き続け、ようやく落ち着いた頃に泣き跡がついた笑顔で返答する。

 

 

 

はいっ、『陛下』(イエス・ヨア・マジェスティ)!!』

 

 

 

 運命とも言うべき200年以上の時を隔てた再会が成ったのは、七耀暦1190年の春の事であった。

 

 

_____________________

 

●主人公(アウィナ・ウェレンドルフ改めて、アウィナ・ツェレナー)

 

 遂にトールズ士官学院に入学する事が出来た憑依現地人(転移の影響で入学時は16歳の姿)。

 

 憲兵隊に保護された後に貴族に引き取られたが、そこでこの世界に来てから初めての家族を得ることが出来た。

 当初は彼等を警戒していたが、彼等の真摯な姿に徐々に絆されていった。両親からは誘拐事件で人間不信だったのが治っていく様に見えたとか。

 

 学院生活は全力で満喫した。勉強にも部活にも打ち込み、結構優秀な成績を残していたりする。

 学生後半は憑依前の記憶から就活という言葉に憂鬱気味だったり、就職という事実を前に結構病んでいた。

 

 家族もできて少しだけ精神値が回復していたが、やはり本当の自分を誰も知らないというのと、この世界の自分のルーツであるドライケルスがいないというのがダメージとして積み重なり疲労限界を起こしていた。メンタルは意外と弱い。

 

 ドライケルスと再会した際には溢れる想いに身を任せて行動。長年の女性生活の結果、大分精神が女性側に傾いている。

 

 実は士官学院に入学した直後あたりで妹が産まれた。(特に意味のない伏線)

 

●ギリアス・オズボーン(39歳)

 

 ドライケルスが生まれ変わった人物。愛妻家兼子煩悩な帝国軍人。自我の割合はギが7にドが3。

 

 この時点では仕事もキャリア街道まっしぐらで、美人な妻に可愛い子供もいる人生の勝ち組。

 黒いアイツの声が聴こえなくなって一番幸せな時期にいる。

 

 主人公の事は死んだと思っていた。前世での後悔その1。

 なお、その2はリアンヌで、その3は黒いのだったりする。

 

 然し、なんと主人公と運命の再会を果たす事に成功。  

 精神値はかなり回復し、最早過去最高を更新し続けている。

 

 このあと主人公との謎の関係を部下に見られたりして、それ経由でカーシャさんから目の笑っていない笑顔で主人公との関係性を問い詰められたりする事を、彼はまだ知らない。

 

*1
この場合の貴族は、領地を持たない法服貴族の事。というより、領地持ちの貴族は貴族全体でも少数に過ぎない。




初めて誤字報告を貰えました。

ありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

覚醒~百日戦役《七耀暦1192~1193年》

思ったよりも間隔が空いてしまいました。

書いていると新しい設定が出てきて、意外と書き直すことが多くて…。


《七耀暦1192年》4月中旬

 

 獅子戦役で別れる事になったドライケルスと再会し、その後特に何事もなく軍人として職務に励んでいたある日の事だった。

 

 ギリアス・オズボーンが指揮する部隊から転属して、帝国軍第一機甲師団の戦車小隊長となっていた私は一週間に一度の休日を迎え、駐屯地近郊の街に借りているアパートメントの自室で椅子に寄りかかりつつ趣味である読書をしていた。

 

 

 

 そして二冊目の中程までを読んだ頃、突然呼び鈴が鳴り来訪者の存在を報せてきた。

 

 読み途中の頁に栞を挟んで近くのテーブルに置き、返事をしながら玄関の扉を開くと、そこには元上官であったギリアス・オズボーンがやや窶れた顔をしながら子供――おそらく、嫡男系シスコン男子を装った喰いまくりのリア充野郎主人公――を抱えて立っていた。

 

 そうか、この時だったのか。あの『鉄血』覚醒の引き金を引いた事件があったのは。

 

 そんな原作知識を思い出すと同時に、帝都決戦後の時の様にふと胸の奥が痛んだ。

 

 

 

 とりあえず彼等を家の中に招き入れ急いでお茶を淹れようとするが、子供をソファーに寝かせた彼はそれを制止して口を開いた。

 

「この子を…リィンを、テオに託そうと思う…。」

 

 唐突に子供の事を話す彼に、原作で知ってはいるが確認の為に連れてきた子供に何があったのかという事情を尋ねる。

 

 内容としては原作同様にカーシャさんとリィン君が猟兵の襲撃を受けて致命傷を負った。彼が駆け付けた頃には親子共々瀕死で、彼の奥方であるカーシャさんが子供であるリィン君の事を託して死んでしまい、自分の心臓を彼に移植して生き延びたとの事。

 

 その後も自分が『呪い』を背負っている事、これからの行動の為に子供とは離れなければいけない事、出来ればで良いので再び仕えてほしい事などを言われた。

 

 だが、事情を聴く前から私の返事は決まっている。

 

「勿論です、陛下。この身は、我が主君の為に。」

 

 私の返事をある程度分かってはいたのか、彼は唯一言「そうか…。」と少し安堵した表情で呟く。

 

 

 

「ただ、一つだけ御聞きしても宜しいでしょうか?」

 

 私のその言葉に、彼は確りと私の目を見つめ返す。原作で分かってはいたが、臣下として、何よりも友人として今一度彼に問わねばなるまい。

 

「貴方様は、本当にその選択を御選びになるのですね?」

 

 

 

 一瞬とも数時間とも思えた静寂がこの場を支配し、長い沈黙の中苦渋の判断と表情をした彼がその鋼の意志をもって答える。

 

「あぁ、これが私の…父親としての決意だ。」

 

 そういった彼の瞳に強い意志と未来への希望を感じる。そうか…結局こうなるのか。

 

 

 

 分かった…。彼がそう決めたのだ。ならば、私は友として全力をもって応えるまでの話。

 

「分かりました…。では行きましょうか、陛下。既にシュバルツァー卿には手紙で知らせているのでしょう?」

 

 彼は私の言葉に頷くと子供を背負い私の手を掴むと、魔法陣が足元の床に現れて眩い閃光を放つ。

 

 次の瞬間、部屋には誰もいなくなった。

 

 

_____________________

 

《七耀暦1192年》ユミル近郊

 

 春となっても未だ雪が積もる帝国北部にある郷、温泉で名を知られるユミル近郊の森林地帯。その中をロングコートを着た女性と男性、そして一人の子供が毛布に包まって寝ている。

 

 

 

 彼らが暫く雪中を歩いていると森林でも一際目立つ巨木に辿り着き、その根元に子供を置いた男性は子供の頭を優しく撫で語りかける。

 

「どうか、この子に女神の加護が有らん事を…。」

 

 子供との別れを告げる男性を見守っていた女性は、男性が言い終わったのを確認すると子供の額へ手を触れ、この時以前の子供の記憶を封印した。

 

「…では未来で会いましょう。帝国の英雄(リィン)様。」

 

 そう言うと女性は子供の手に魔術で創ったゼムリア大陸には無い花(ストレリチア)を持たせ、子供に微笑んだ。

 

 

 

 朧げな意識をしていた子供の最後の記憶は、そんな男性と女性の言葉と立ち去る姿だった。

 

 それから暫くして、その子供は記憶が曖昧な状態でシュバルツァー男爵家に保護された。

 

 

_____________________

 

《七耀暦1192年》4月26日

 

 ここ数日で急な配置転換を受けて帝国軍第十三機甲師団に転属して数日後、私は突如ある命令を請けた。

 

『宣戦布告と同時にリベール王国へ侵攻せよ。』

 

 たった一文ではあったが、原作知識を元にその文章から裏で起きた事を感じ取った。

 

 

 

 リベール侵攻という大義名分の生贄となったのは、きっと原作同様ハーメルの住民達なのだろう。同僚や上官達がハーメルの噂をしていたのを知っている。

 

 然し、犠牲になった人々には悪いとは思うが、この胸の奥に感じる想いに見て見ぬ振りをする。知っていたのに行動せず、結果として見棄ててしてしまったという罪悪感から。

 

 きっとこの想いを一度でも直視してしまったら、私は立ち直る事が出来ないだろう。悲劇に何も感じ無いという程に人間性は失っていないし、失いたくもない。

 

 この世界は遊びでもゲームでは無い。紛う事なき現実で、ゲームでのモブ一人一人にも役割と人生があると知っている。

 

 

 

 目の前の百日戦役が、いや、全てが終わったら一度ハーメルにもそれ以外にも訪れるとしよう。

 

 …その時が来るのは多分、十四年後(世界大戦後)位になるだろうけど…。

 

 

 

 まずは、この戦役で()()()をしなくては。

 

 

_____________________

 

《七耀暦1192年》リベール ロレント市

 

 『百日戦役』の緒戦において劣勢だったリベール王国軍が新兵器『導力飛行艇』を用いた反撃*1により王国各地の関所等などを奪取してから少し経ったある日の事。

 

 本国からの連絡と補給が途絶えて混乱の窮地に立たされていた帝国軍の一部は最後の悪足掻きとして都市部の象徴施設を破壊するという暴挙に撃って出た。

 

 轟く砲声と撃たれた砲弾の風切り音が空に鳴り響き、聞こえた数秒後に砲弾が時計塔に着弾。そして爆轟し閃光と熱、轟音が周囲に拡がると共に砲撃を受けた時計塔の瓦礫が付近にいた住人に降りかかる。

 

 その住人の一人、見る人に太陽の様な印象を与えるまだ幼い少女は急な出来事に体が動かず、自分に向かって落ちてくる人一人分程度の大きさの破片を見て幼いながらに死を悟った。母親である女性も少女を助けようとしていたが、女性が少女に駆け寄るよりも破片が当たる方が早い。

 

 

 

 少女自身も諦めて目を瞑って備えていたが、当たると思った次の瞬間に銃撃と剣戟音が聞こえた。

 

 驚いて目を開けると帝国軍の士官服を着た女性が少女の目の前に立っていて、周囲には砕けて切られた破片が散らばっていた。

 

「御無事ですか?空の英雄(お嬢さん)。」

 

 目の前の女性は少女にそう訊ねながら、女性を追いかけてきた部下らしい人達に負傷者の救助と瓦礫の撤去を命じている。少女は余り年が離れていない女性の他の帝国軍人(民衆の剣)と違う軍人()としての後ろ姿に目が離せなかった。

 

「エステルッ!」

 

 女性の言葉に返事をしようとした少女だったが、駆け付けてきた母親が女性に一礼すると少女の手を引き、感謝の返事をすることなく足早にこの場から去る事になってしまった。

 

 少女にとって敵国の軍人ではあるが、誰かを守るという強く格好いい姿が憧れになった瞬間であった。この時の守られた経験と女性の後ろ姿が、少女が後に遊撃士を志望した理由の一つになる。

 

 

_____________________

 

《百日戦役経過報告書》

 

 我が帝国軍は4月23日に発生した例の事件を理由に、4月26日にリベール王国に宣戦布告。それとほぼ同期して帝国軍第十三機甲師団が国境の『ハーケン門』に攻撃を開始。《百日戦役》が開戦。

 

 開戦一ヶ月でリベール王国首都のある『グランセル地方』及び王国軍の一大拠点である『レイストン要塞』以外のリベール王国全土を占領し、ツァイス市の導力工房設備も接収完了。

 

 ~(中略)~

 

 王国軍が新兵器『導力飛行艇』を用いた反撃作戦を開始。王国各所の関所を電撃的に制圧され、我が帝国軍は補給及び指揮系統が崩壊。

 

 その数日後、ロレント市に駐在していた帝国軍部隊の一部が独断で時計塔を砲撃し市民数十人が負傷。砲撃を指示した将校は軍法会議にて処罰済み。

 

 ~(中略)~

 

 王国政府と帝国政府との間に講和条約が締結。この時をもって《百日戦役》が終結。

 

 

 

 この戦役によるリベール王国軍及びエレボニア帝国軍の死傷者及び行方不明者は多数。

 

 行方不明者については撤収時に各部隊の軍務記録を元に捜索が行われたが、指揮系統の崩壊により詳細は不明。

 

 なお、撤退中に魔獣の襲撃を受けて死傷者が発生したとの報告あり。犠牲者の名前は…。

 

 

_____________________

 

《七耀暦1193年》帝都ヘイムダル近郊

 

 帝国に端を発した《百日戦役》はリベールとエレボニア両国に死傷者と悲劇を齎し、軍事学や導力学的には『導力飛行船』という革新があったが歴史書の一頁にたった4文字の単語を創り出しただけで終結した。

 

 帝国とリベール間で講話条約が締結されると出征していた兵士達が帰還し、広場や酒場、各々の家庭では再会や無事を喜ぶ声や仕草で溢れている。

 

 そして、不幸にも戦役で戦死してしまった者達の遺品や遺灰を前に泣く家族や恋人もまた然り。故郷ではなく異国の地で散っていった人々に悲しみの涙と啜り泣く音が止まらない人々もいる。

 

 

 

 人々が笑顔で祝杯を挙げて和気藹々としている帝都の眩い街中から離れた墓地である『ヒンメル霊園』では、喪服を着て暗い表情をした夫婦と娘、使用人達が涙と泣き声を流しながら埋葬の儀式を見ていた。

 

 墓穴に埋められた棺に遺体はなく、代わりに胸のあたりに風穴が空いた血塗れの軍服の一部と家族から入学祝いに送られたという砕けた銀の髪留めが入れられている。

 

「御嬢様…。」

 

「ウッ…ヒック…。お姉さま…どうして…。」

 

「私が…。私があの時、軍人になりたいと言った『あの娘』を止めていれば…。」

 

「貴方…。」

 

 彼等は嗚咽と後悔を繰り返し、埋葬が終わっても墓石の前から暫く離れようとしなかった。

 

 

 

 

 

 そんな義理の両親と妹、使用人達の様子を、私は崖上の遠くから眺めていた。

 

 自分の埋葬を眺めているというのは私の心を実に不思議な気持ちにさせる。

 

 私は本当にこの世に生きているのかという漠然とした疑問に近い気持ちと、私の事をそれ程までに想ってくれていたのかという感動と騙す事の罪悪感。それと少しの愉悦を感じている。

 

 ギリアスからは転移前にも自分の葬式をしたと聞いたが、獅子戦役の時代にビデオがあればその光景も観られたのだろうか。もし観られるのならドッキリを仕掛ける側の気持ちが今ならよく分かる。ネタバレは200年以上後になってしまっただろうが。

 

 

 

 そんな冗談はさておき、改めてこの世界での家族の姿を見る。

 

 厳しくも優しく、義妹が生まれてからも私の事を気に掛けてくれた両親。引き取られて直ぐの頃は彼等を警戒してしまって、余所余所しい態度をとって申し訳なく思っている。

 

 私が士官学校に入学した直後に産まれて、実家に顔を出した際には必ず笑顔で迎えてくれた妹。物や御菓子をあげると目を輝かせ、実家では一緒に寝たいと言って私の寝台に入ってきて可愛かった。

 

 偶に御菓子をくれたり、武術や勉学を教えてくれた使用人達。私が何かを達成すると必ず喜んでくれたし、私の事を温かく見守ってくれていた第二の(憑依前も含めれば第三かもしれない)両親と感じている。

 

 

 

 彼らに対して家族としての愛情は確かにある。だがそれでも…いや、それ故に私は…。

 

「…今までありがとう。どうか、女神の加護が有らんことを…。」

 

 最後に家族であった彼等から目を背け、逃げ出す様にこの場から走って立ち去る。何故か漏れ出る声と歪んでゆく視界を手で振り払い、これからの決意を新たにする。

 

 

 

 この日、『アウィナ・ツェレナー』という帝国軍人だった者はこの世から消えた。

 

 

_____________________

 

●主人公(アウィナ・ツェレナー改め『名無し』)

 

 未来の主人公達に出会った現地人憑依女性(20歳)。実は妹(5歳)が生まれていて、両親含め家族仲は良好。

 

 軍人として百日戦役に出征し、その最中にあのブライト家の娘さんを助ける事になった。そして最後にギリアスの計画に参加、協力する為に死亡を偽装した。

 

 義理の家族であった彼等との繋がりがなくなる事に抵抗があったが、帝国の呪いを清算するためにとその想いを振り切った。

 

 精神面では、ハーメルやオズボーン邸襲撃という悲劇を防げなかった事から、断罪を求めていたり贖罪したいという一面があったりする。クレアさん状態に近い。

 

 なお、この時の別れが妹の運命を変えたという事を、彼女は後々になって知る事になる。

 

●ギリアス・オズボーン(41歳)

 

 人生のどん底に落とされて『鉄血』へと覚醒した超帝国人。所謂隠れ光落ちの闇落ちをした状態。

 

 これまで干渉してこなかった『呪い』が家族に降りかかった事で、皇帝としても父親としても帝国の『呪い』を失くす事を決意した。以後、彼の正体と本質を知っている者達は、彼にどこかの軍事帝国の総統閣下の様な(陰ではあるが)『英雄』を観ている。

 

 転移前の事件もあって主人公を計画に巻き込んでよいのか迷ったが、自分を知っている数少ない人物だったことから協力を頼んだ。

 

●エステル・ブライト(6歳)

 

 時計塔砲撃事件に巻き込まれた未来の主人公その1。

 

 この世界では母親が彼女を庇うことなく存命で、主人公が因果を捻じ曲げたともいえる。

 

 敵国の軍人ではあったが主人公の誰かを守るという姿と強さに憧れ、(軍人は両親から猛反対された為)原作と同じ遊撃士の道を進むことにした。

 

 父親は百日戦役後に「家族を失いたくない」として退役し、遊撃士として活躍している事も遊撃士を選んだ理由だったりする。

 

 棒術を学び始めたが、主人公や過去の父親の姿から剣を使うことに密かに憧れていたりいなかったりする。

 

●リィン・シュバルツァー(5歳)

 

 将来は恋愛的にも剣術的にも超帝国人になるかもしれない主人公その2。

 

 襲撃時に原作同様の致命傷を負っていたが、父親の闇医者まがいの臓器(以外も含めた)移植によって復活。その後は雪山でテオ・シュバルツァー男爵に拾われた。

 

 拾われる前の記憶が曖昧なのは、死に掛けだった事と主人公に記憶を封印されたからであり、原作の様に徐々に思い出していく。

 

 

_____________________

 

 因みに、主人公の家族は帝都在住で両親は帝都庁勤務です。

 

 両親の仲の良い同僚にはカールという人物がいて、家族ぐるみの付き合いがあったりなかったり。

 

*1
気球も飛行船もない世界とはいえ、この頃の帝国軍には『対空』という概念が無かった。勿論軍事教本にも載っていない。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Ⅶ組、その始まり《七耀暦1204年3月31日》

皆さま、お久しぶりです。

え~遅れた言い訳ですが、休みが無かったんです。ハイ。

4月は忙しいし、5月はGWも休みなんかなかったし…。

すみません。何でもはしないけど。



あっ、今回は主人公が一切出ません。


 私には最愛の『家族』がいる。

 

 この『家族』の範囲には仕えてくれている使用人達も含まれているけれど、血の繋がりだけが家族ではないと思っているので別に変な事ではないと思う。

 

 それは兎も角、そんな私の家族を一言で言い表すなら『凄い』という言葉に尽きるのだと思う。

 

 

 

 先ずは御父様。

 

 職場では大役を担っていて、帝都という世界的な大都市を動かしている他、どうしても外せない仕事がある場合以外は家族の時間を大事にしてくれる。

 

 食事は出来るだけ全員で食べるようにしてくれているし、毎年の家族の誕生日には仕事を入れない様に調整していると御母様から聞いた。

 

 次に御母様。

 

 御父様を職場で支えつつ、家庭の事も決して疎かにはしない。少し古臭い表現かも知れないが、夫を立てながら頼り甲斐もあり、武術で培った洗練された動きは品格感じさせる。正に、誰もが思い描く理想の帝国淑女ではなかろうか。

 

 但し怒ると怖い。いや、本当に…。

 

 そして御義姉様。

 

 血は繋がっていないけど、私にとって唯一無二の義姉で身近な相手だ。両親が不在の間は使用人達も構ってくれたが、やはり歳が近くて親近感が湧く姉との遊戯が一番楽しかった。

 

 それに勉強や武術も優秀で、同年代の子供と比べて大人びたその姿に憧れを抱いていた。

 

 最後に私。

 

 当時は未だ幼かったとはいえ、両親の同僚の子供で幼馴染のマー君……マキアス様を散々振り回して遊んでいたのは懐かしくも恥ずかしい思い出であり、御義姉様やマキアス様の従姉であるトリシャ様が微笑ましい表情で見守ってくれたのを覚えている。

 

 

 

 何時までも、それこそ私が死ぬまで家族全員で笑って暮らせると思っていた。

 

 その平穏な日常が崩れたあの日、私は戦争で最愛の家族を喪った。

 

 

 

 その後はあまり良い思い出が無い。我が家もレーグニッツ家でも、心休まる場所というのがなくなってしまったから。

 

 家族は義姉の事を忘れるかのように仕事をするようになり、レーグニッツ家とは関わること自体が無くなった。

 

 そして私も、剣術を母から、銃器を父から、勉学を使用人と家庭教師から教わるのに集中するようになった。その時だけは、以前のように誰とも変わらぬ関係で関われるから。

 

 

 

 それから暫く経ち、私はついに姉と同じこの場所にいる。

 

 両親からは聖アストライア女学院に進学して欲しいと言われたが、自分にとって最後の我儘として、そして薄れつつある姉との家族としての縁を確かめたかったのだ。

 

 

 

 ……この時の私はまだ何も知らなかったが、この時に人生で一番価値ある決断…いや、最高の結果と未来を作ったのだと信じている。

_____________________

 

《七耀暦1204年》3月31日 トールズ士官学院

 

 冬の寒さが徐々に和らぎ、場所によっては未だ僅かに残った白雪を見納めて、季節を代表する花であるライノの花が咲き誇る時期へと変化した3月。

 

 散った花弁が風に運ばれる先には、今年も多くの新入生が期待と不安を胸に、緊張した面持ちをして伝統あるトールズ士官学院の校門をくぐっていく生徒達の姿。

 

 その内の一人、艶やかな黒髪と母親似らしい中性的な顔をした少年が講堂へと去った後に、校門に辿り着く少女が一人。

 

「ご入学、おめでとうございます!」

 

「うんうん、()()()()()みたいだね。」

 

 

 

「『アイフェ・ツェレナー』さん、――でいいんだよね?」

 

 緑色の制服を着た小柄な少女からそう尋ねられた少女は肯定し、入学案内書通りに小太りな青年に大事な荷物を預けて講堂に向かう。

 

 少女はこれからの2年間に想いを馳せ、まだ思いもよらぬ未来への一歩を歩んでいく。

 

_____________________

 

《七耀暦1204年》旧校舎 地下

 

 軽薄且つ突発的に告げられた特別オリエンテーリングでは、色々――いや、本当に(女難とか確執とか)色々あったが、なんだかんだ最終地点で石造りの化け物(イグルートガルム)を協力して破壊した『Ⅶ組』一同は、改めて担任である『サラ・バレスタイン』からクラス加入の意志を問われる。

 

「トールズ士官学院は、このARCUSの適合者として君たち()()()を見出した。」

 

「でも、やる気のない者や気の進まない者に参加させるほど予算的な余裕があるわけじゃないわ。」

 

「それと、本来所属するクラスよりもハードなカリキュラムになるはずよ。」

 

「それを覚悟してもらった上で『Ⅶ組』に参加するかどうか――改めて聞かせてもらいましょうか?」

 

 そう言われて思慮や顔を見合わせる彼等だったが、参加しなければ本来のクラスに行くことが出来るらしい。

 

 

 

 暫しの沈黙の果てに黒髪の刀使いの青年(別世界ではISに載ってそうな青年)が真っ先に参加を表明し、その後も互いの意見衝突や拗れあいがありながらも次々と参加の意思を顕にする。

 

「これで9名ね…。じゃあ最後の貴女、どうするの?」

 

 教官である女性が最後に残った生徒、オリエンテーリング最初の自己紹介で『アイフェ・ツェレナー』と名乗った少女に質問する。

 

「私は……いえ、私も参加します。――しなければいけないと思うのです。」

 

 少女のその答えに、教官は少し意外そうな反応をする。

 

「あら、意外ね。ARCUSの目的に対して思う事があるであろう貴女は、てっきり元のクラスに行くのかと思っていたけど…。」

 

「だからこそ、です。家族からも『過去に戻れない。だからこそ未来に向けて行動すべし』と教わりました。」

 

 それに――

 

「大帝の言葉通り、若者である私たちは世の礎にならなければいけないと、強く思うのです。」

 

 その言葉と共に、少女は皆と同じように前に足を進め、改めて宣言する。

 

「アイフェ・ツェレナー、『Ⅶ組』に参加致します。」

 

 

 

 七耀暦1204年、後世の帝国史において『激動の時代』の転換点とも呼ばれるこの年に、後に英雄達の代名詞ともなる『Ⅶ組』が発足した。

_____________________

 

●アイフェ・ツェレナー(16歳)

 

 今回全く出番が無かった本作主人公の義妹。茶髪のロングヘアーで銀の髪飾りがある。何がとは言わないがそこそこはある。具体的には世間一般での大きめ程度にはある。

 

 使用武器は主人公と同じで細剣と拳銃だが、武門の家出の母の剣術と(光の剣匠とか赤毛の猛将とか)帝国の猛者達と同年代で互いに切磋琢磨した父の銃撃の教えから意外と強い。今の実力だとリィン君(通常)には7割位で勝てる。

 

 軍について思う事は多々あるが、帝国にいる限り切っても切れない事情である事と義姉について知りたいと思ってトールズに入学した。但し入学に反対した両親との関係性がやや冷え込んでしまい、更に事件以降疎遠であった幼馴染の貴族アレルギー(重症)君と再会してしまい気まずい雰囲気に。

 

 名前は主人公の名前元の宝石、アウイナイトの産地であるドイツの『アイフェル地方』から。

 

●マキアス・レーグニッツ(17歳)

 

 例の貴族憎し事件から帝国でも1・2を争う貴族嫌いを公言して止まない発言だけならヤベー眼鏡。帝国の特権階級である貴族を批判することは、具体的に言うと黄金樹王朝な銀河帝国で劣悪遺伝子排除法を公布した初代皇帝陛下を堂々と批判するようなモノ。場合によっては処刑されても可笑しくない。

 

 ちなみに初恋は主人公で、従姉と幼馴染は親愛の対象。主人公を戦死(していないけど)させる要因を作り、仲の良い幼馴染を悲しませたことから貴族に対して批判的に思い始め、従姉の自殺とその後の父親からの影響で思想が急激に先鋭化した。

 

 幼馴染である彼女に対しては複雑な思いを抱えており、どちらも切っ掛けが無い限りは避けあって仲が改善しない。クラスの雰囲気悪化要因その1。

 

 記憶にある昔の幼馴染と今の幼馴染の余りの変わりように戸惑っているらしい。

 

●リィン・シュバルツァー(17歳)

 

 初日からついているようでついていない原作主人公。始まりから雰囲気が死に掛けのクラスに頭痛が痛い状態だが、雰囲気改善の全て(絆イベントとクエストの発生)は彼に掛かっている。

 

 現状の最大の問題であるマキ&ユーに気を揉んでいるが、観察眼からアイフェとマキアスに何かある事には気付いている。でも彼らの完全な和解には帝都での実習迄待たねばならない。

 

 なお、彼女の髪飾りには見覚えがあるらしいが…?

 




次回は未定。未定ったら未定です。




…思ったんだけど、百日戦役って割とゲーム上大事なイベントのハズなのに、初代Ⅶ組で直接関係ある人ってリィン君しかいないのよね…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話・忘れじの面影+α《七耀暦1204年4月18日》


明けまして、おめでとうございます。(大遅刻)



 学院生活にも慣れ始めた頃の自由行動日の校内、多くの学生が部活動に熱中している中、所属していないが為に時間が空いているリィンは学院内を散策していた。

 

 目的地も用事も特には無いが、強いて言えば軽い運動ついでにクラスメイトを見つけたら交流でもしようかな程度のものだ。

 

 そのまま特に宛もなく図書館へ入ると、クラスメイトであるアイフェが何かを探している姿を目撃した。目当ての本が見つからなくて困っているのだろうか、本棚から本を取り出しては確認して戻す事を繰り返している。

 

(彼女、何を探しているのだろう…?)

 

アイフェと時間を過ごしますか?

(絆行動ポイントを消費します。)

 

▶はい

 いいえ

 

(交流ついでに、手伝ってあげるか。)

 

(それに、彼女は何か気になるんだよな…。)

 

「すまない。何を探しているんだ?」

 

「…!リィン様ですか…。」

 

 リィンに気がついていなかったのか、一瞬警戒するような雰囲気を漂わせたかと思うと、リィンだと気づき直ぐに警戒を解いた。

 

「リィン様。警戒してしまい、申し訳ありませんでした。ついトマス教官かと思ってしまい…。」

 

「あぁ…成る程、それで…。」

 

 そう、帝国史担当のトマス教官はアイフェから苦手意識を持たれていた。

 

 その経緯をものすごく簡略して伝えると、トマス教官の講義中の雑談で『獅子戦役』を話している時に、ついアイフェが専門家レベルの内容*1を話してしまった。

 

 それ以降、トマス教官は隙あらばアイフェと歴史談義をしようとするが、それを嫌がるアイフェが徹底的に避けるという一種の名物的な光景になっていた。

 

 リィン自身は歴史が好きであり、彼にとって面白い講義をしてくれるトマス教官は嫌いではないが、何としてでもアイフェと語り合おうとする熱の入れようは凄かったと思わざるをえない。

 

 

 

「兎に角、何を探しているんだ?アイフェさえよければ、探すのを手伝うけど…。」

 

「……迷惑を御掛けして申し訳ありません。ではリィン様、御願い出来ますか?」

 

「あぁ、任せてくれ。」

 

 リィンの提案に対し、アイフェは少し悩みながらも頼ることにしたらしい。それに対して快諾すると、アイフェは探している本の題名を教えてくれた。

 

「『獅子戦役記』か…。それって確か…。」

 

「えぇ、あの『獅子戦役』についての本です。」

 

 帝国の転換点とも言える『獅子戦役』、その勝者にして学院の創始者である獅子心皇帝の格言は記憶に新しい。

 

『若者よ――世の礎たれ。』

 

 それを発言するに至った経緯を改めて知れるのは良い機会かもしれないと感じ、手分けしてその本を探すのであった。

 

 

 

 

 

 その後、無事に本を見つけた二人は、図書館内の読書スペースで本の内容を確認した。

 

「ノルドでの挙兵、帝国東部での勢力拡大、『槍の聖女』との出会い…。」

 

「…帝都決戦、聖女との死別、戴冠式でのテロ事件、皇帝への即位…。」

 

 たった数年の出来事だが、波乱万丈な人生を送った皇帝を中心に纏めてもかなりの厚みがあった。その証拠に読み始めの時はまだ高かった日が、読み終わった頃だと暮れかけている。

 

 リィンとしては新たな発見に溢れた今日一日だったが、横目に見たアイフェは何処か落ち込んでいるように感じる。

 

…これも違った。

 

 そうアイフェが呟きながら本を戻すと、リィンへ頭を下げて御礼の言葉を述べる。

 

「さて…リィン様、本日は手伝って頂きありがとうございました。この御礼は、後日…。」

 

「…いや、御礼はいいさ。それよりも一つだけ訊かせてくれ。」

 

 御礼については(彼にとって)当たり前の事をしただけだけであり、特に対価を受け取る必要性を感じていない。

 

 そんなことよりも、リィンはアイフェについてずっと気になっていた事を訊きたかった。

 

「その…歴史が好きなのか?あんなにトマス教官の事を避けているから、てっきり嫌いだと思っていたんだが…。」

 

 トマス教官との歴史談義を拒否している彼女が、まさか歴史関連を調べている事にリィンは驚いていた。そういう意味での質問に、彼女はこう応えた。

 

「…別に嫌いではありませんよ。ただ…。」

 

「ただ…?」

 

「……いえ、何でもありません。」

 

 それだけをいうと、アイフェは足早に図書館から去っていく。

 

 

 

(これは…失敗したかな…。)

 

 どうやらパーフェクトコミュニケーションには失敗したらしい、と去り行く後ろ姿を観ながら考える。

 

(歴史は嫌いではない、その言葉に嘘は感じなかった。)

 

(つまり、歴史を知る過程での記憶に対して思うことがあるのか…?)

 

 

 

 こうして、初めてのクラスメイトとの交流は終わった。

_____________________

 

【オマケ】空と零と碧と関わりし主人公

 

○空の軌跡

 

 名無しの帝国大使館職員として初登場。劇中では偶にオリビエに説教をする程度で、最後以外に特に活躍はなし。

 

 リベル=アーク突入時には、オリビエの監視役兼帝国代表としてアルセイユに乗艦。意味深な会話をオリビエと繰り広げる。

 

 〜以下、抜粋〜

 

オ「…まさか、宰相の腹心である貴方がこんな危険地帯にまで着いてくるとは思わなかったよ。」

 

主「私としても、貴方に着いてくる気は微塵も無かったのですがね。」

 

主「まぁ、そうですね…。強いて言うのならば、貴方には此処で死なれては困りますからね。」

 

主「御安心下さい、殿下。貴方の命は然るべき時迄は保証しますよ。それに、いざとなれば殴ってでも連れ帰ってさしあげます。」

 

オ「然るべき時迄は、ね…。なら、今回の戦いは安心して良さそうだね。」

 

 

 

○零の軌跡

 

 メインストーリーの依頼人として登場。今回も途中迄は名無しの人物扱いであるが、依頼の最後で宰相補佐官という肩書になる。

 

 依頼内容は盗品の回収(という名の、クロスベルへ逃げ込んだ帝国開放戦線の構成員の逮捕)であり、特務支援課の評価が目的。

 

 此処では特に何もなく、帝国からの圧力と力関係を意識させられるだけ。

 

主「何か勘違いをされているようですが、クロスベルは自治を許されているだけです。」

 

主「帝国からしてみれば、此地を手に入れる事のメリットと共和国と開戦するデメリットが割に合わないからに過ぎません。」

 

主「もっと言えば、帝国か共和国が相手を超越したその瞬間にクロスベルの自治などは無くなります。」

 

主「約束が有効なのは、私達にとって有益な間だけですよ。」

 

 

 

○碧の軌跡

 

 通商会議に姿だけ登場する。

_____________________

 

●主人公(名無し)

 

 オマケにしか登場していない本作の主人公(重要)。

 

 過去作に登場したときは、実はとてもワクワクしていた。

 

 因みに、座右の銘は「権力と教会、あと教授は信じるな。」だそう。

 

●アイフェ・ツェレナー(16歳)

 

 本作主人公の義妹。

 

 幼い頃に姉から聴いた事(事実)をつい話してしまい、トマス教官から(歴史愛好家の同士的な意味で)目をつけられている。

 

 歴史自体は嫌いではない。ただ、それに付随する亡き姉との思い出が複雑な感情を生み出している。

 

 なお、何時かに聞いた『過去も未来も記述されている本』を探しているらしい。

 

 因みに、リィン君から「何処か合ったことはないか?」という実に青春っぽい科白を掛けられたらしい。

 

●リィン・シュバルツァー(17歳)

 

 雰囲気改善の鍵を握る原作主人公。

 

 困っている人を見かけたら余程のことがない限りどんな些細な事でも助けるという御人好し。

 

 勉強はどれも比較的出来るし楽しいと思うが、特に歴史(英雄譚)は男の子らしく好き。

 

 実際に交流することで、何となく相手の事を理解できる。それ故に相手の事を優先しがち。

 

 因みに、アイフェとの絆イベントでは獅子戦役→守護役→槍の聖女と調べる話題が移ってゆく。

 

*1
勿論、実際に体験したことのある義姉から伝え聞いた経験談。全て(主観混じりではあるが)真実。




閃1の絆イベントはもう書きません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夏至祭、そして帰省(前編)《七耀暦1204年7月》

明けましておめでとうございます。

こんなご時世ですが、だからこそ何かしなくてはと思いました。
なので今年の抱負は、何か1つでも作品を完結させることです(できるとは言っていない)。


《七耀暦1204年7月某日》宰相執務室

 

 『Ⅶ組』の級友達が運命とでも言うべき出会いを果たしてから早数か月が経った頃、帝国の象徴たる皇族が暮らす皇城に存在する帝国政府の宰相執務室での話。

 

 ノルド高原での事件の顛末と近く開催される夏至祭に関しての対応をクレア・リーヴェルト大尉から聞き、その後に訪れたカール・レーグニッツ帝都知事との話し合いも終わり、現在のこの部屋の主である男性が一人考え込んでいた。

 

 帝国解放戦線と名乗るテロリストの対応や議会での演説や政策、貴族派への工作や懐柔、そしてあの結社をも巻き込む今後の計画。鉄血として考えるべき事は多く、今現在での少しの失敗が未来において災厄となると思うと気を緩める事は出来ない。

 

 

 

「……また考え事ですか、閣下(陛下)

 

 大窓から見える帝都の賑わいを傍目に深い思考の海に潜っていると、突然こちらを諫める声が聞こえてきた。その声に振り返ってみると、何時の間にか女性が頭に手を当てながら困ったように立っていた。

 

「考えるのは宜しいですが、昔からの癖であるその雰囲気を改善して下さると、私に相談が来なくなって嬉しいのですが」

 

「……いつもすまないな」

 

 本人は大して意識していないのだろうが、思考中に溢れ出る圧力――所謂『今は考え中だから邪魔すんな。○すぞ。』的なオーラ――を誰が見ても明らかなほどに放出しており、偶々部屋の前を通りかかった人間が思わず踵を返してしまう程であった。

 

 なお、その所為かどうかは分からないが宰相執務室前の廊下を通るのは出来るだけ避ける……というのが政府官僚たちの間で暗黙の了解になっているとかいないとか。

 

 

 

 女性からの小言と視線を受けて反射的に言い訳しそうになったが、これまでの経験上素直に謝罪した。怒った女性は敵にすべきではないと学んでいる。

 特に妻や子供からの諫言は素直に受け入れた方が身のためでもある。人は学習する生き物であり、過去の反省を活かす生物なのだ。

 

 過去に同様の事があった時の妻や息子の拗ねた姿も愛おしいが、それ以上に口を利いてくれないのは辛かったと、つい思い出してしまう。いや、正直に言えば此方の事が気になっているのを必死に我慢している姿も良かったが……

 

 

 

――閑話休題(それは兎に角)――

 

「ウウン……それで、例の件については? アウィ……いや、()()()()()()()()()()()()

 

 過去に何度も言われた自身の悪い癖を責める視線を咳払いで誤魔化し、改まった表情と口調で女性に問う。

 

 

 

「我が『()()』、()()()()()()()()()宰相補佐官?」

 

_____________________

 

《七耀暦1204年7月21日》トールズ士官学院

 

 鮮やかな花弁が散って木々の緑が深みを増し、日が長くなりつつある初夏を迎えたトールズ士官学院Ⅶ組。

 

 事の始まりは、Ⅶ組にとって恒例である実技試験が終わり、遂に実習地と班分けが発表された直後であった。

 

 受け取った紙を見て一瞬見間違いかと思ったが、瞬きを繰り返しても紙面に書かれた文章は変わらず、班分けを見た全員が思った事を代表して黒髪の青年(シスコン)は教官に尋ねた。

 

「――サラ教官」

 

「何かしら、リィン君?」

 

「君付けはやめてください。それよりも……」

 

 

「どうしてA班がこの6人何ですか?」

 

 そう、B班がアリサ、エマ、ユーシス、ガイウスの4人なのに対して、A班はリィン、ラウラ、フィー、マキアス、エリオット、そしてアイフェというアンバランス且つ問題ありなメンバーだけで構成されていた。

 

 

 特別演習での数多の苦難と強敵、そして各々の柵を乗り越えて団結しつつある彼等だったが、未だ解決していない関係性もある。騎士と猟兵の流儀の違いから確執が起きつつあるラウラとフィー、そして何処か気まずい雰囲気のアイフェとマキアスという二つの問題だ。

 

 前者は兎も角、後者は決して仲が悪いわけではない。日常では普通に会話を交わし、誰かのようにいがみ合っていた訳でも戦術リンクを結べない訳でもなく、寧ろ戦闘では連携が出来ていて、戦術リンク無しではクラスで一番の連携を誇っている程だ。

 アイフェが剣と銃撃で相手を牽制し、マキアスがショットガンで体勢を崩して隙をつくり、最後はアイフェが神速の突きを、マキアスが徹甲榴弾を同時に放ち戦闘終了。魔獣は死ぬ。実技テストでも大変良いコンビネーションなのだが…。

 

 なのだけれども、やはり二人の間に見えない壁があり、それがクラスの気がかりでもあった。

 

 

 

 そんな問題を抱えているメンバー(リィンとエリオットを除く)をA班だけに集めたことの説明を求めるが、サラは珍しく真面目な表情をしつつ口を開いた。

 

「最初に言っておくけど、この班分けは既に決定事項よ」

 

「今回の実習での依頼内容を鑑みて、このメンバーが適切であると考えたわ」

 

 

 

「特にアイフェ、貴方は覚悟を決めておくべきよ。」

 

 何時かの戦闘のように真剣な声音と眼をしながらそんな事を言い残したかと思うと、何事もなかったかのように普段の調子で解散を宣言して去っていった。

 

 

_____________________

 

《七耀暦1204年7月25日》帝都ヘイムダル

 

 そして、そんな事が事前にありながらも遂に特別演習を迎え、一行が帝国の首都『ヘイムダル』へ到着して二日目の今日。

 いろいろあった初日が終わり、多少の疲労を見せながらも二日目の演習依頼を確認するA班の面々。ヘイムダル港の手配魔獣、新製品のテスト、迷い猫の捜索、そして……

 

 

《件名:Ⅶ組一同との面会 依頼者:フリードリッヒ・ツェレナー》

 

「面会って一体…それにこの名前は…。」

 

「…はい。この住所は、間違いなく私の実家です。」

 

 まさかのクラスメイトの親御さんからの依頼、しかも面会という中々に緊張する内容だった。ついでに必須の印も押されている。

 ここに来て漸くあの不思議な班分けの意味がわかった。実家関連の依頼があるのなら、その円滑な進行をするのに確かに本人は必要だろう。

 

 だが、教官の言っていた『覚悟』とは何だろうか?恐らくただ会うだけが目的ではなく、他の目的があるのだろう。それも、この歪な班編成でなければ対応できないような何かが。

 

 依頼の真の思惑について皆は少し考えていたが、なんと一番最初に当の本人から意見が出た。思わず見てしまったその顔は、少し強張っている様にも見える。

 

「…すみません。この依頼は最後にしていただけませんか?」

 

 それまでに『覚悟』を決めたいというアイフェの言葉を尊重し、その他の依頼を先に処理する事にした彼等であった。

 

 

 

 依頼書には「詳細は到着後に説明するので、各自相応の準備を整えてから来てほしい」とも書かれており、その言葉に従って午後に訪れた邸宅――アイフェの実家であるツェレナー子爵邸では、使用人である男性が家の前で待っていた。

 

「お待ちしておりました、御嬢様とⅦ組の皆様! 当主様方は中でお待ちしておりますので、どうぞ中へお入りください」

 

「……ただいま、爺や。出迎えも有難う」

 

 久しぶりの再会に喜びを感じさせる老人の歓迎に、アイフェは少し後ろめたそうに言葉を返す。恐らく、この様な形で実家に戻りたくはなかったのだろう。リィンとしても、在学中に自主的には故郷であるユミルへは戻らないと決めているので、その気持ちは分からないでもない。

 

 アイフェ曰く爺や――より正確には家宰の老人から迎えを受けて家の中へ案内されると、直ぐに応接間に通された。扉の蝶番の具合が悪いのかやけに重々しく響く音、少しずつ開いていく扉の隙間からでも感じる寒気に似た空気の先には――

 

 

「よくぞ御出で下さいました、皆さま。そしておかえりなさい、アイフェ」

 

「ツェレナー家へようこそ、Ⅶ組の諸君。それに……無事で何よりだ、我が娘よ」

 

 アイフェと同じ髪色をした夫婦――今回の依頼人であるツェレナー夫妻の姿があった。

 

 

 

 

「実習で忙しい所すまなかったな、Ⅶ組の諸君。ツェレナー子爵家が当主『フリードリッヒ・ツェレナー』だ。娘が随分世話になっていると聞いている」

 

「では私も改めて……初めまして、Ⅶ組の皆様。いえ、マキアス君は久しぶりと言った方がいいのかしら? アイフェの母である『ユーリエ・ツェレナー』です」

 

 当たり障りのない自己紹介を無事に――但し、マキアス以外――すますと、世間話もそこそこに依頼の話となった。貴族的には本来出された茶菓子や茶でも楽しむべきなのだが、とてもそんな雰囲気ではなかった。

 

「それで子爵閣下、依頼の内容について説明をお願いしたいのですが……」

 

「……ああ、そうだな。だがすまない、その前に少しだけ話しておくべきことがある」

 

 フリードリッヒはそう言うと目を閉じながら深呼吸をし、そして一拍開けてからアイフェを見詰め、真剣な表情と声音で話し出した。

 

 

 

 

「――アイフェ。お前は、士官学院を辞めろ」

 

_____________________

 

 

●主人公(『名無し』改め『ベルン・シュタイン』)

 

 最初しか出番がないが、今作の一応の主人公。可愛がっていた義妹が何時の間にかⅦ組とかいう世界の特異点にいると知り、内心かなり驚愕していた。

 

 偽名であるベルン・シュタインは文字通りドイツの国石である琥珀から。なお命名元であるベルンシュタインとは独語で『燃える石』という意である。

 

●アイフェ・ツェレナー(16歳)

 

 今作主人公の妹。実家には卒業まで自主的に帰らないと決めていた。が、帝都が実習先と知らされた時点で嫌な予感がし、班分けの時点で確信していたが、まさかの依頼で実家に帰省する事になった。

 

 実は実習の前にある手紙を受け取り、何かに深く悩む様子を見せていたが……?

 

●マキアス・レーグニッツ(17歳)

 

 アイフェ・ツェレナーの幼馴染にして、ツェレナー家を知るA班で唯一の人物。但し、過去形。昔の記憶とは変わり果てた雰囲気と家族関係に驚愕中。そこに幼馴染の両親からの中退宣告も加わり、倍プッシュな衝撃を受けて放心中。

 

 幼馴染とその両親の気持ちを知る彼が選んだ選択は――

 

●A班の面々(リィン、ラウラ、フィー、エリオット)

 

 依頼で来たはずなのに、何時の間にか家庭問題に巻き込まれていたかわいそうな面々。前日までのフィーとラウラの問題が解決したと思ったら、この仕打ちである。教官を恨んでも良い。

 

 とはいえ、この問題は決して他人事ではない。むしろ、学校生活でテロリストと命のやり取りをするのが異常なのだから。

 

●ツェレナー夫妻(共に50歳)

 

 帝都庁に勤務する貴族で、主人公とアイフェの(義)両親。夏至祭の準備に追われるが、それらの仕事は強引に終わらせた。

 夫の名は『フリードリッヒ・ツェレナー』、妻は『ユーリエ・ツェレナー』。共に銃と剣の世界においてそこそこ知られた名前の持ち主。

 

 アイフェの事は家族として愛している。だが、それ故に想うのだ。あの娘のような軍人にしたくないと――。

 




大まかなストーリーの筋書きはあるので、(いるか分からないけど)気長にお持ちください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。