機動戦士ガンダムSEED〜ラスティ生存√リメイク〜 (残月)
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プロローグ

 

 

 

俺の人生は……まあ、なんと言うか普通だ。普通に高校に行って仲の良い友人と雑談に花を咲かせては笑う。それが趣味の合う友人なら尚の事だ。

 

俺は友人とアニメや漫画の話で盛り上がり、今期のアニメが良かった悪かった等と盛り上がった帰り道。雨が降って来たので友人と走って駅に向かっていた。

歩道橋の階段に差し掛かり、もうそろそろ駅に辿り着く。階段を登る俺達と逆に階段から降りて来た人とすれ違う中で友人が口を開いた。

 

 

「今すれ違った子、雨で服が透けてたぜ」

「え、マジか」

 

 

俺は雨で視界が悪かったから気付かなかったが友人の鷹の目はそれを流さなかったらしく、それを俺に告げて来た。そして俺は思わず振り返って先程の女性に視線を移して……

 

 

「おわっ!?」

「お、おい!?」

 

 

階段を踏み外した。俺の身体は投げ出され、一気に登った分の階段から滑り落ちて行き、最後には凄まじい衝撃が頭に来た。ああ……これはやっちまったな。

 

 

「お、おい!大丈夫か!?」

「キャァァァァァァァァァァッ!?」

 

 

友人の叫びと先程の女性の悲鳴が遠く聞こえる。二人は俺を心配そうに見ていた。ボンヤリとだがギリギリ見える光景から友人も女性も巻き込まなかった事だけが分かった。そう思ったら俺の意識は薄れていく感覚になる。

 

 

「ああ……馬鹿な死に方したもんだ」

 

 

俺の短い人生はこうして幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

って事を先程、頭を打った際に思い出した。

俺、ラスティ・マッケンジーが前世を思い出したのはザフトのアカデミーで訓練中に頭を強打した際に気絶して、その間に夢を見ていた感覚で前世を思い出した。此処は……この世界はガンダムSEEDの世界だ。

 

 

「おい、ラスティ!大丈夫なのか!?」

「しっかりして下さい、ラスティ!」

 

 

イケメンボイスと可愛らしい声音の心配そうな声が聞こえる。ああ、アスランとニコルだ。しかし、頭を打った所為なのか、声が遠く聞こえる。

 

ちゅーか、今の状況は……転生って奴か?しかもアニメのキャラとかになる憑依転生。前世の俺とラスティとしての記憶が混じり合ってグルグルと頭を駆け巡ってる。

 

 

「おい、ラスティ?……何をボンヤリしている貴様、返事をしろ!」

「打ち所が本格的に悪かったんじゃないか?」

 

 

熱血漢な声とチャラそうな声。これはイザークとディアッカだよな。

と言うかちょっと待て。今がザフトのアカデミーって事は卒業したらヘリオポリス行きだよな。その初任務で頭をパーンされるんだよな。

 

 

「お、おい頭から血が出てるぞ!?」

「医務室に運ぶぞ!」

「ラスティ!」

 

 

頭痛から額に手を添えたらヌルっとした感触が手に伝わる。周囲の声が騒がしくなり始める。手を見れば血が付着していた。頭パーンされる前に額から血が流れて来た。

こんな事をしてる場合じゃないのに……ダメだ……頭の処理が追いつかない。俺の意識は再び遠くなり始める。

 

 

 

 

ラスティになった俺は生き残る事が出来るのか?

薄れゆく意識の中で俺はそんな事を考えていた。

 

 



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転生してから感じた原作との違い

 

 

 

前世を思い出してから早三日。俺は未だに頭に包帯を巻いて過ごしている。

俺が前世を思い出す切っ掛けとなったナイフによる格闘訓練。俺はアスランと組手をしていたのだがエキサイティングし過ぎてマジの戦いになっていた。その最中に俺はアスランのナイフをスウェーで避けた際に額にナイフが擦り、更に足を滑らせて後頭部を強打したってのが話の始まりでありオチである。血が出たのは切れた額に衝撃が加わった事による出血で比較的軽症だ。

正直、頭痛も額の傷も治った様なものなのだが何故、未だに包帯が巻かれているのか。

 

 

「どうしたんですか、ラスティ?まさかまた傷が!?」

「いや、ちょっと考えごとをしていただけだよニコル。つうか、心配し過ぎだよ」

 

 

上目遣いで俺を覗き込む様に見上げているのはニコルだ。今回の俺の怪我を一番心配してくれたのはニコルで治療と検査を終えて医務室から出た後も色々と気に掛けてくれている。原作でも気弱だが優しいイメージだったしな。

 

 

 

「だが、心配したぜラスティ。いつもは笑わせてくれるお前がマジの気絶とはな」

「ふん、軟弱だからだ!」

 

 

皮肉気味にだが俺を心配する様子のディアッカとあからさまに俺を罵るイザーク。ディアッカは皮肉屋でも俺の見舞いに来てくれて、医務室で寝ていた俺にグラビア雑誌を持って来てくれた。その時の熱い握手は今でも忘れられない。対するイザークだが見舞いには来なかったもののアスランに「やりすぎだ馬鹿者!」と抗議に行ったらしい。口は悪いが友情に熱い男め、ツンデレか。

 

 

「改めてすまなかったラスティ」

「謝罪ももう良いってアスラン。それに俺も鈍臭かったって事だよ」

 

 

アスランはアスランで毎日見舞いと謝罪に来ていた。流石に毎日、謝られるとこっちが悪い気になってくる。

話をしながらアカデミーの廊下を歩く彼等の背中を見ながら……俺はこの世界がガンダムSEEDの世界とは似て非なる世界だと感じていた。

 

頭を打って前世を思い出した時は『此処はガンダムSEEDの世界だ』と直感した俺だった。そりゃそうだろうラスティとして生きていた今世の記憶に前世の記憶が混じったのだから目の前のアスランやイザークを見れば『ガンダムSEEDの世界だ』と思ってしまう。

地球から離れたコロニーであるプラントやMS。それらもガンダムSEEDなのだと改めて思い知らされるのだが……一点だけ。そう一点だけ俺の知るガンダムSEEDとはかけ離れた事が起きているのだ。

 

 

それは俺の前を歩く『少女』の存在だ。そうニコル・アマルフィさんは女の子なのだ。原作でもあどけない中性的な顔立ちだったけど、今目の前のニコルは完全なる女の子だ。しかも僕っ娘。

前世を思い出し、ガンダムSEEDの世界に転生したのだと気絶した俺だったが、医務室で目覚めてから混乱の極みと化した。だが、いつまでも混乱ばかりはしてられない。ガンダムSEEDに似て非なる世界でもキャラの配置的な部分は変わらない筈だし、このまま行くとヘリオポリスで頭パーンの運命が待っているのだ。それを考えればニコルが女の子でも構わない……正直、可愛いし何の問題があるんだ?と結論付けた。

 

 

当面の目標としてはアカデミー卒業は勿論だがヘリオポリスで頭パーンされない様にするしかない。そして目指すのはニコル生存。ぶっちゃけナチュラルがどうとか地球軍がどうとか今の俺はどうでも良いとすら思ってる。だが、アスラン達が戦場に行くとなれば原作の悲惨な結果が待っているのは目に見えている。

 

 

「ラスティ?どうしたんですか、真面目な顔をして」

「んー……休んでた分は補習になるのかなって考えてた」

 

 

アスラン達との会話に加わらなかった俺を不思議に思ったのかニコルが振り返って聞いてくる。心配そうな顔ですら可愛いと思える美少女である。俺は咄嗟に思い付いた言い訳を口にした。まさか本当の事を言う訳にもいくまい。

 

 

「大丈夫ですよ、遅れた分の勉強なら僕が見てあげます!」

 

 

ニコルはそれを信じたのか遅れた分の座学は教えると言ってくれた。それは正直助かる。ニコル以外は理詰めだったり、怒鳴ったり、そもそも勉強してなかったりで他は他人に教えるには向かない連中ばかりだからな。

 

 

「ニコルは良い子だねー」

「エヘヘ……じゃなくて子供扱いしないでください!」

 

 

俺が頭を撫でると嬉しそうに微笑むニコル。こんな良い女の子を死なせるわけにはいかんでしょ。

 




『転生ラスティ』

普通の高校生が憑依転生したラスティ。前世の記憶とラスティとしての記憶を両方持ち合わせており、自身に待ち受ける運命に争うと決意。

元々の人格と原作のラスティもそうであった様に他者を明るく笑わせる事が好きでムードメーカーになる存在。
ディアッカとはグラビア雑誌で意気投合し、一足飛びで親友となった。

ガンダムSEEDの事はうろ覚えだが自身の事とニコルの死亡フラグをへし折る為に奮闘する。
ニコルが女性である事から転生した世界が『ガンダムSEEDに似て非なる世界』だと考えており、今後に多少の不安を抱えている。


『ニコル・アマルフィ』

この世界において女性であるニコル。
見た目は原作とほぼ変わらないがボーイッシュな美少女になっている。
一人称は『僕』
貧乳が悩みのタネ。
ラスティの事を実は意識している。


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アカデミー卒業後の任務と訓練

 

 

転生してから既に半年が経過していた。アカデミーでの日々は何気に楽しいもので俺を特に奮い立たせたのはMSの存在だった。シミュレーターや実機に乗った時は感動して泣きそうになった程である。

まあ、最初のシミュレーターに乗った時は戦場の絆気分でやろうとしてシミュレーターでも仮想Gが掛かる事を知らず、何も考えずにフルスロットルを吹かして意識が飛び掛けるというアホな事をした。教官にはめちゃくちゃ怒られて、イザーク達からは馬鹿にされた。アスランとニコルは心配してくれたけど。

 

あれ以降、大きなトラブルも無くザフトのアカデミーを卒業した俺達は赤服を身に纏い、クルーゼ隊に配属された。

 

アカデミーを卒業したばかりのひよっこって事もあり、日々訓練や重要度の低い任務や雑務をこなす日々。まずは軍隊の規律や任務に慣れろって事なのだろう。そんな中で俺は……

 

 

『ちぃっ……やってくれる!だが、そろそろ終わりにするぞ!』

「ぐ……うぅ……っ!」

 

 

シミュレーターで模擬戦をしていた。目の前にはザフト軍の主力機であるジンを専用にカスタマイズしたオレンジ色のジン。俺の乗るジンは通常タイプの物なので性能に差はあるがカウンターや意表を突く戦い方ならなんとか戦えるので必死に応戦しているのだがいかんせん性能差とパイロットの腕の差でジリジリと追い詰められていた。

相手側からの通信で相手もこっちを仕留めようとしているのが分かる。高機動戦をしながら76mm重突撃機銃で撃ち合いをしていたが弾切れとなり、互いに重斬刀を構えた。こっちの機体は既に限界が近いが相手はまだ余裕がありそうだ。

 

 

『せやぁぁぁぁぁぁっ!』

「突貫する!と見せ掛け……ぐべっ!?」

 

 

ペダルを踏み、ジンの背面ブースターを吹かして突然。無理に突っ込もうと見せ掛けて、直前で軌道を変えて相手のジンをタックルで吹っ飛ばして体勢を崩してから重斬刀の一撃をと考えていたのだが俺の行動が先読みされていたのか、相手のジンは俺が変えた軌道に合わせて体勢を変えており、丁度俺が突っ込んだ先に待ち構えていた。そこへ相手のジンの重斬刀の一撃が俺のジンに浴びせられ『機体大破』の文字がディスプレイに表示される。俺の負けが確定した。

 

 

 

「くはー……負けたー」

「ふん、だらしない奴め」

「いや、俺達全員漏れなくミゲルに負けてるからな?」

「一番、食い下がったのはラスティだったな」

「お疲れ様です、ラスティ。凄かったですよ」

 

 

 

シミュレーターから出た俺はイザーク、ディアッカ、アスラン、ニコルが迎えてくれた。今現在、シミュレーターでの訓練に勤しんでいた。通常なら相手は連合のMAメビウスや戦艦を相手にシミュレーターをするのだが傭兵が相手の場合、相手もコーディネーターでMSを使ってくる場合がある。その為、MS同士の経験も必要だと模擬戦となった。

 

 

「まったく…ノーマルのジンで俺の機体に追い付くとか普通は無理だからな?自信無くすぜ」

「終始押されっぱなしだったから、それを言われても……やっぱミゲルは強いな」

 

 

俺と同じくシミュレーターから出てきたのはクルーゼ隊の先輩でもあるミゲル・アイマンだ。エースパイロットの証である専用機持ちなのは伊達じゃ無いな。めっちゃ強かった。

 

 

「ノーマルのジンで俺と互角に戦ってる段階で異常だっての。ラスティは新人の中で専用機を貰う筆頭かもな」

「アカデミーでもラスティはMSの扱いの成績が良かったですからね」

 

 

ミゲルが俺の評価を下し、ニコルがアカデミーの頃の事を思い出した様に口にする。

そう、最初の失敗を除けば俺はMSの扱いだけは成績が良かったのだ。アスランやイザークとMS模擬戦タイマン勝負をしても勝てる程度には。もしかしたら原作のラスティも同様だったのかも知れない。まあ、でも……いくらMSの扱いが巧みでも乗る前に頭パーンされたらダメだよなぁ……アカデミー卒業してから、いつヘリオポリス行きが確定するのか不安で時折胃が痛くなる。腹を括ったつもりでも不安が勝る時の方が多い。

 

 

「くそっ……勝負だラスティ!」

「よーし、返り討ちにしてやる」

「だったらチーム戦にしないか?俺とイザーク、ラスティとアスランで組めよ」

「ラスティは今、ミゲルとやったばかりだろう。俺とニコルで組むぞ」

「そうですね、一先ず休んでくださいラスティ」

「んじゃ、俺も休むか。シュミレーターをセッティングしてやるから待ってろ」

 

 

そんな俺の不安を知らずに負けん気の強いイザークはMS模擬戦で自分よりもミゲルと良い戦いをした俺に対抗心を燃やしたらしい。こういう時、イザークの性格って助けられるよ。体を動かしてた方が不安な事を忘れられるし。

そんな風に思っていたらディアッカ、アスラン、ニコル、ミゲルでトントン拍子に話が進み、俺は休みにされた。四人はそれぞれシミュレーターに入っていき、ミゲルは四人用のセッティングをし始める。

 

 

「ラスティはクルーゼ隊の次期エース候補だな。もっとも簡単にエースの座は渡さないがな」

 

 

ミゲルの発言に「それ、ある意味死亡フラグです」と心の中で呟く。そんな風に考えた俺の胃は再びキューッと痛み始めていた。

 



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MSの適正値

 

 

「あー、キツかった!」

「ったく……俺の機体を使いこなしやがったな、テメー」

「フ……やるじゃないか、ラスティ」

 

 

難易度を激上げしたシミュレーターを終えて俺は地べたに座り込む。そんな俺にミゲルは呆れた声を出す。ミゲルはシミュレーターをモニターで見ていて最初こそ野次を飛ばしていたが、段々難易度が笑えない程に上がっていた。途中からセッティング厳しくしやがったな。

そしてクルーゼ隊長は笑みを浮かべながらデータを見ていた。先程まではシミュレーター室には居なかったのだが俺がシミュレーターで訓練している間に来たらしい。

 

怪しさマックスな仮面を付けているのに部下から慕われている謎の男クルーゼ。無印のSEEDのラスボスさんだと思うと警戒したくもなるが、下手に勘繰られても怪しまれるだけだと今は大人しく上官と部下の関係だ。

 

 

「まさかアカデミーを卒業したばかりの赤服がミゲルのカスタマイズされた専用機を乗りこなすとはな。機動データも戦い方もザフトの一般兵と比べても高い部類だ」

「冗談で俺の専用機のデータでシミュレーターをさせてみたんですが、良い意味で予想外の結果を叩き出しましたよ」

 

 

二人揃って先程までの俺の機動データを眺めて検証をしている。そう、ミゲルに「素質があるから鍛えてやる」と言われた俺はミゲルに個人指導を受けていた。その中でミゲルが冗談で「俺の機体に乗ってみるか?まあ、動かすので精一杯だとは思うがな」と言われたのでマジでミゲル専用ジンをシミュレーターで乗ってみた所、割と乗りこなせてしまったのだ。結構ピーキーなカスタマイズだけどコツを掴めば俺と相性の良さそうなセッティングだった。

そこでミゲルが「じゃあ、そのまま使って見せろ」と訓練開始。最初は高速軌道訓練だったのが大量のメビウスと乱戦や対艦戦、更にはMSの模擬戦に至るまで様々なシチュエーション訓練をした。ミゲルの言うままに訓練を続けて流石に体力が無くなった所で俺はシミュレーターから出た。

流石に汗だくになっちまった。パイロットスーツの中が汗で凄い事になってる感覚。

 

 

「これだけの力があるなら期待が高まるなラスティ。これ程のMS適正がある者が私の隊に配属されるとは私は運が良い様だ。この分なら早く出世するかも知れんな」

「偶々ですよ、クルーゼ隊長。俺はMSに乗るのが好きなだけです」

 

 

期待って何だよ。アンタの手駒になれるってか?そんなんゴメンだね。落ち着いてきた俺は立ち上がりながら謙遜しつつクルーゼ隊長の評価をやんわりと否定する。

そう、俺はMSが好きだ。転生に気付いてからアカデミーの訓練時に乗った時から夢中になっている。単なる夢物語、SFの産物でしかなかったMSに実際に乗れた時からワクワクが止まらなかった。テンションが上がっていた俺はジンだけじゃなくバクゥやディン、グーン等のMSもシミュレーターで乗っていた。その結果、俺は様々なMSに対する適正値が高い事が判明した。慣熟訓練をしなければ乗りこなせないらしいが存外普通に乗れてしまった。

 

この事は実はクルーゼ隊に配属になってからも変わらず、MSを整備してるのを見学していたら手伝う様に言われて、ハードウェアにもソフトウェアにも関わる様になっていた。まあ、バリバリ出来る訳じゃなくて学びながら四苦八苦って感じだが。それを考えると戦闘中にOSを書き換えるとかキラの凄さを思い知らされる。

 

 

「ふっ……MSが好きなだけ、か。キミは新型やテスト機のテストパイロットに向いているのかもな。ミゲル用にセッティングされたジンを乗れる段階でキミの力は評価されるべきだ。これからも期待しているぞ、ラスティ」

「は、光栄です!」

 

 

クルーゼ隊長は笑みを浮かべながらポンと俺の肩を叩いて行ってしまう。本来なら隊長に期待を寄せられてると喜ぶべきなんだろうけど、ガンダムSEEDの黒幕って知っていると胡散臭い以外何者でも無い。

 

そして、この日から数日後にミゲルが任務の最中で専用のジンを小破させて帰投した。なんでも凄腕の傭兵と戦闘になり、相討ち気味の結果に終わったのだと言う。

そしてクルーゼ隊長から重大な情報を手に入れたと告げられた。次の任務の行き先はヘリオポリス。

 

 

 

 

遂に原作が始まる。

 

 



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原作主人公と遭遇

 

ヘリオポリスに到着したクルーゼ隊は潜入任務をする事になった。クルーゼ隊長曰く「地球軍が中立国のコロニー、ヘリオポリスで新兵器の開発をしている。我々はこれを奪取、または破壊をする」との事だった。

 

 

ヴェサリウス内部でこれから潜入するグループで一塊になり、待機していた。アスランやニコルは少々緊張気味でイザークやディアッカは『ナチュラルの施設への潜入なんか楽勝だぜ』と言わんばかりのリラックスモードだった。原作のラスティも似た様な考えで頭パーンされた訳だが。

 

 

「ラスティ……大丈夫ですか?」

「ん、ああ……中立のコロニーに潜入しても良いのかな……って思ってな」

 

 

ニコルが俺を見上げていた。俺は咄嗟に原作のラスティが言っていた軽口を出していた。まさか、これから頭を撃ち抜かれる心配をしていたなんて言えないしな。

 

 

「は、だったら……中立コロニーで地球軍の兵器を作るのはいいのかよ?」

「ま、ダメだよなぁ……」

 

 

イザークからは鼻で笑われていた。ため息混じりで返事をすると潜入するメンバーも苦笑いで俺達を見ている。一様に皆の緊張が解れた様にも見える。

 

 

『お前ら、あんまり待たせんなよ?』

「わかってるよ、それじゃ行こうか」

「オッケー」

「はい」

「ああ」

「おう」

 

 

 

モニターに映るミゲルから『早しろ』と急かされる。俺の一言に潜入メンバーがそれぞれ返事をする。

 

遂にヘリオポリスへの潜入を開始した。映画でしか見た事が無いような赤外線を張り巡らされたセキュリティーを解除して爆弾をセットする。

思った以上に簡単な潜入となった。新造艦であるアークエンジェルを格納庫で見た時は感動したが警備は隙だらけ簡単に爆破の準備が完了してしまった。ここで爆薬の量を増やしてアークエンジェルを破壊してしまえば『機動戦士ガンダムSEED・完』になってしまうのだろう。そんな考えが頭を過ったが止めておこう。これからの展開が完全に読めなくなるのは怖すぎる。

 

あまりにも予定通りに潜入出来た為に余裕が出来て、余計な事を考えてしまう。トレーラーの警備を倒した後にイザーク、ディアッカ、ニコルが地球軍の新型に乗り込んで起動を始めている。

俺とアスランは情報では五機の人型と聞いていたのに三機しかなかったから格納庫に行って奪取する事になった。

 

格納庫に向かい始めると背後ではデュエルが立ち上がっていた。初めて見るガンダムの起動シーンにちょっと感動してしまう。『ギュピィン!』とツインアイが光ったのはガンダムファンにとっては堪らないシーンだ。もっと見たかったが格納庫の方に行かねばならないので後ろ髪を引かれる思いで、その場を後にした。

 

格納庫に到着するとMS用のハンガーで横になっているストライクとイージス。サッサッと強奪して逃げたい所だが警備の数が半端ねぇ!外のトレーラーの警備員よりも人数多いんだけど。銃撃戦をしていると随伴していた仲間も撃たれて残るは俺とアスランだけとなっていた。いや、原作よりも難易度上がってねーか!?

 

 

「どうする、アスラン?」

「思った以上に抵抗されているな……数も向こうの方が多い」

 

 

物陰に隠れながら話し合う俺とアスラン。ぶっちゃけ頭を出したら即座にパーンされる程の銃弾の雨に二人揃って隠れていた。

 

 

「このままじゃジリ貧だな。一気に突入するか?」

「いやぁ……それは流石に。ミゲルが近くに居る筈だし、ジンで援護してくれないかな?」

 

 

隠れながらコソコソと話し合うアスランと俺。ぶっちゃけ、このまま突撃を仕掛けたら撃たれる自信がある。

 

 

「仕方ない……俺が突撃するから援護してくれ」

「死にに行く気か、阿呆。同時に仕掛けよう。どちらかに銃撃が集中する筈だから即座に互いの援護だ」

 

 

アスランが覚悟を決めた顔で提案してきたので、却下した。俺の代わりに頭パーンされるぞ。

警備隊の連中から放たれていたマシンガンの銃撃が多少収まったのを実感し、俺とアスランは飛び出した。警備隊の一部がマシンガンのマガジンを交換していたので銃撃が止んだのだろう。その銃弾を掻い潜り、警備の兵を倒していく。

 

大方の兵士を倒した後、アスランが女性士官の肩を撃つ。あ、マリューさんだ。巨乳だよ、スゲェ。じゃなくて!このパターンで行くと……周囲を確認すると隠れていた警備兵が俺を狙っていた。俺は咄嗟に体を捻った。頭の上を弾が通過したのか風切り音が聞こえた。あっぶねぇ!?

 

 

「ラスティ!?」

「大丈夫だ、当たっちゃいない!それより前見ろ!」

 

 

倒れた俺を心配して叫ぶアスランだが、俺は弾も当たっていないので無傷だ。原作知識が無かったらさっきので頭パーンだったけど。取り敢えず俺を狙っていた兵士を倒すとアスランが棒立ちになっていた。視線を移せばアスランの前方には同じ様に立ち尽くす少年。ガンダムSEEDの主人公キラ・ヤマトが立っていた。

 



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何も出来なかった悔しさ

 

 

 

 

あの後だが、概ね原作通りだった。キラとマリューさんはストライクに乗り込み、アスランはイージスを奪取。俺はアスランに回収して貰い、イージスの掌の上に居た。

 

俺はと言えば立ち上がったストライクに感動していたりする。デザイン的に五機のGの中でストライクが一番好きだったから。ワンテンポ遅れてミゲルが援護に来たのでミゲルのジンとストライクが対峙する。当初は静観していたアスランだったが、ミゲルから『さっさっと、その機体を運べ!』と怒鳴られアスランはイージスを飛ばした。俺はイージスの指の隙間からストライクとジンの戦いを見ていた。ノーマルのジンじゃストライクには勝てないよなぁ。そんな事を思いながら俺はイージスの手の中でヴェサリウスまで帰投した。あ、赤服の中で俺だけ失敗してんじゃん。始末書かな、これって。

 

そんな事を思いながらヴェサリウスに帰投すると全艦放送で『ミゲル機、ロスト』『ミゲル・アイマンのガイドビーコンを受信!』『エマージェンシー!』と騒がしくなっていた。やはりノーマル装備のジンじゃストライクには勝てないよな。PS装甲は伊達じゃない。

 

その後、クルーゼ隊長が指揮官機のシグーで対応しに行ったが見事に返り討ちに会って帰投した。その後、事態を重く見たクルーゼ隊長はマトモに起動する残ったジン三機を要塞戦用のD型装備で発進させていた。ストライクのPS装甲に対応する為にバルルス改・特火重粒子砲を装備していた。アレはビームランチャーだからPS装甲を撃ち抜ける。まあ、当たればの話だが。

 

 

発進するジンと無断出撃をしでかしたアスランのイージスを見ながら俺は先程の事を思い出していた。

 

 

「失敗は気にするな……と言いたいが俺も新型を取り逃がしたから言えた義理じゃないか。兎に角、リベンジマッチだ。今度こそ堕としてやるさ」

「気を付けろよ、ミゲル。あの機体は……並じゃ無さそうだ」

 

 

再出撃の前に俺とミゲルは話していた。任務失敗のお咎めが無かったのは喜ばしかったが、やはりミゲルは再出撃となった。元気が無かった俺を励まそうとミゲルは態々俺の所に来てくれていたのだ。

 

 

「確かに最後の一機は妙に動きが良かったな……ラスティの見立ても間違っちゃいないだろう。だが、次は俺が勝つ」

「ミゲル……油断すんなよ」

 

 

そう言ってミゲルは部下を引き連れてジンに乗り込み、出撃して行った。

ジンが三機、飛び出した所で緊急警報が鳴り響く。データの吸い出しと整備を終えたアスランがイージスで無断出撃をしたと騒ぎになった。本当は俺も行きたかったが機体が無い。隊長のシグーやミゲル専用のジンは修理中。俺はミゲル達を見送るしか無かった。

 

と、まあ……先程のやりとりを思い出しながらイザーク、ディアッカ、ニコルが奪取したデュエル、バスター、ブリッツのデータを見ていた。

 

 

「アスランも行ったみたいだな」

「ああ、アイツにしちゃ珍しいな」

「そうですね……冷静じゃなさそうですね」

「ラスティと違って任務に成功したのにな……ぐわぁぁぁっ!?」

 

 

ディアッカの呟きに答えた俺にニコルとイザークも首を傾げていた。俺はイザークにそっと近付いて……華麗にコブラツイストを仕掛けた。どうせ、俺は任務失敗したよ、チクショウ。

 

 

「きっさまー!がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「おっと失礼。思わず激励の関節技を仕掛けてしまったよ」

「どんな激励ですかっ!?」

「アッハッハッ!グレイトだな、ラスティ!」

 

 

自然とギリギリと力が入ってしまう。イザークの悲鳴を聞きながら『うっかり』関節技を仕掛けた事を謝罪する。当然ながら技は解かない。

ニコルは驚愕し、ディアッカは笑っていた。

 

そんな馬鹿な事をしていると艦内警報が鳴り響く。慌ててイザークへ仕掛けていたコブラツイストを解除して、艦内放送に耳を傾ける。

 

 

 

ヘリオポリスが崩壊し……ミゲル達が撃墜されたと報告が入った。それと同時に何も出来なかった悔しさで壁を殴る事しか出来なかった。

 



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受け継いだ機体

 

 

ヘリオポリス崩壊後、クルーゼ隊はアークエンジェルを『足付き』の呼称で呼び、あの船とストライクを沈めるべく行動に出ていた。適度な距離を詰めながら後を追っている最中、アスランがクルーゼ隊長に呼び出されていた。多分、さっきの無断出撃の件での呼び出しだな。と思っていたのだが、俺もアスランの後で呼び出された。なんで?やっぱ任務失敗の始末書かなぁ……

 

 

「ラスティ・マッケンジー、出頭しました」

「ああ、入ってくれたまえ」

 

 

アスランと入れ替わりで隊長室に入室して敬礼するとクルーゼ隊長は「まあ、楽にしてくれたまえ」と告げたので敬礼を下ろして直立。なんの話なんだろうか……

 

 

「我々はこれから足付きを墜とす為に出撃するが……どうにも手が足りなくてね。ミゲル以下二名も撃墜され、私のシグーも小破だ。そこでラスティ……次回からキミにも出撃して欲しくてね」

「ヘリオポリスでの任務失敗への挽回の機会を与えてくださるのは嬉しいのですが……予備のMSは無かったのでは?」

 

 

クルーゼ隊長は椅子から立ち上がると如何にも困ってます、みたいな口振りで俺に歩み寄る。出来る事なら出撃したいがストライクの奪還は失敗してるし、予備のMSは無い。どうしろってんだ。

 

 

「その事についての話さ。付いてきたまえ」

「は、はい」

 

 

クルーゼ隊長に促されるままに隊長室を後にする俺達。向かった先はハンガーだった。そして俺は驚かされる。片腕が欠落して修理中だったミゲルのジンが直っていたのだ。驚かされたのはそれだけではなくカラーリングもだ。ミゲルのパーソナルカラーであるオレンジから深い赤色に変更されていたのだから。

 

 

「驚いた様だね。この機体はミゲルの専用機だったが、今後はキミの機体となる。上手く使ってくれると嬉しい」

「はい?」

 

 

クルーゼ隊長は俺が驚いていた事に満足したのかクックっと笑みを浮かべた後にミゲルの機体が今後は俺の機体となる事を告げてきた。いや、なんで!?

 

 

「実のところ……キミに話すつもりは無かったのだが、これはミゲルの意志なのだよ。地球軍の新型機を奪った後、ミゲルは本国で新型機を受領する予定だった。そうするとミゲル専用のジンは乗り手が居なくなってしまうだろう?故に彼は、この機体を任せられる人物としてキミを指名していた」

「ミゲルが……」

 

 

クルーゼ隊長の悲しそうな表情と口調に絆されそうになる。思えば五機のG奪還前からミゲルは俺を鍛えると宣言してシミュレーターに付き合ってくれていた。まさか、この為だったとは……

 

 

「他の者に使わせるべきだと意見もあったがセッティング的に乗りこなせるのはキミだけだ。そして私もミゲルと同じ気持ちでね。キミに任せたいんだよ、ラスティ。それにこの機体でミゲルの仇を取ってはくれないかな?」

「……わかりました。この機体を受領させて頂きます。ですが、聞きたい事が」

 

 

クルーゼ隊長は俺を持ち上げると同時に煽ってくる。何も知らなければ『部下の気持ちを汲み取る指揮官』に見えるだろうが相手が黒幕だと知っていると『憎しみや使命を奮い立たせて戦争にのめり込ませようとしている』としか思えなかった。本当に怖いよ、この人。この人の言葉の一つ一つで此方を奮い立たせようだしているのが分かるんだから。だが、此処で断るのも不自然だし、ミゲルの専用機を受け継ぐ話は有難い。そして、そこで疑問が残る。

 

 

「何故、カラーリングが赤と黒のツートンカラーに?」

「それもミゲルの意志……と言うか彼が私と雑談をした時の話だが『ラスティが専用機を得たらパーソナルカラーは赤ですね』と言っていたのだよ。これも彼の遺言だと思ってくれると嬉しいな、ラスティ」

 

 

俺の疑問に答えながらクルーゼ隊長はポンと俺の肩を叩いてからハンガーを後にした。ミゲルに関する話が何処まで本当なのか、分からない。でも、この機体は俺が受け継ぐ。俺は改めて俺の専用機となったジンのセッティングに向かう事にした。

 

 

 




『ミゲル専用ジン/ラスティ専用ジン』
エースパイロット用にカスタマイズされたジン。ミゲル専用機はオレンジ色に塗装されている。基本的な武装は通常のジンと同様が専用のシールドが付属されている。
スラスターやセンサー類が強化されている。そのスペックは通常のジンと比較して約20%向上している。

ガンダムSEED ASTRAYで傭兵叢雲垓との戦いで右腕が破壊されてヘリオポリスの任務には修理が間に合わなかった為にミゲルは通常のジンで任務に就いていた。

修理を終えたミゲルの機体はラスティの搭乗機となった。ラスティの専用機になった際に機体のカラーリングはオレンジから深い赤と黒のツートンカラーに変更されている。


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ラスティ専用ジンのデビュー戦

 

 

ミゲルのジンが俺の専用機になった。それ自体は嬉しいのだが、やる事が増えた。俺の専用機になったとは言えど元々はミゲルの機体だ。改めて細かなセッティングをし直さなければならないのだ。それに加えて、現在クルーゼ隊はアークエンジェルを追跡中。つまり、次の接敵までに機体のセッティングを終わらせなければならないのだ。

 

 

「それに加えて追加装備の発注もだもんなー……なんで、俺にやらせるかなー」

 

 

カタカタとキーボードを叩く音が鳴り響く。何故か俺はクルーゼ隊長からジンの装備の追加発注の企画書を提出する様に言われたのだ。ジンのセッティングをある程度終わらせてから発注書の作成を急いでいた。

 

 

「ラスティ、仮のセッティングチェック終わりましたよ。相変わらず高機動のセッティングなんですね」

「ありがとう、ニコル。その方が性に合ってるんだよ。追加装備はこんなもんかな」

 

 

手伝いに来てくれたニコルに俺のジンのOSのチェックをお願いしたけど問題は無さそうだな。追加装備の発注もこんなもんだろう。クルーゼ隊長のPCに発注書をメール添付する。これって整備班の仕事だと思うだけど。

 

そんな風に思っていたら隊長からメールの返事が返ってきた。いや、はえーよ。しかも『考えている装備の案があるなら提示してくれ』って、なんやねん。はぁ、と溜息を零しながら『了解です。後程提出します』と返信。なんか仕事増えてねーか?

 

 

「ま、これで一休み……」

「あ、これから足付きの攻略の為のブリーフィングをするって言ってましたよ。隊長が」

 

 

ニコルから告げられた一言に隊長のマスクを剥ぎ取って殴りたくなってきた。あのマスク野郎、分かってて俺に仕事を回したんじゃなかろうな。

 

ブリーフィングで決められた作戦は単純なものだった。ガモフとヴェサリウスでアークエンジェルを挟み討ちにする。出撃するのは強奪した四機のGと俺のジンでだ。

 

とは言っても俺がやるのはアスラン達の援護だ。だって俺のジンで戦おうにもPS装甲のストライクを倒す術が無い。マシンガンやバズーカは決定打にならない。かと言ってビームランチャーは取り回しが悪い。俺は俺のやれる事をしよう。マシンガンと盾を装備していこう。スタンダードなのが良い。

ジンに乗り込んだ俺はベルトを絞めて、発進口にジンを固定する。ヴェサリウスは宇宙型の戦艦だから足下を固定するタイプじゃないのは残念だ。

 

 

「ラスティ・マッケンジー、ジン出るぞ!」

 

 

俺はジンのブースターを噴かしてカタパルトから発進する。実はこの発進する時の加速って割と気に入っている。こう……飛翔する感じが。

俺のジンの加速に遅れてアスラン達も発進してくる。

 

 

『ディアッカとニコルとラスティは足付きを沈めろ!俺はアスランとMSをやる!』

 

 

イザークからの通信に俺達は頷く。そして俺はペダルを踏みジンを加速してアークエンジェルに接近する。装備したマシンガンでアークエンジェルの銃器を狙い撃ちして破壊していく。俺は順調に破壊をしていったのだが、ディアッカとニコルの方が不調だった。

 

 

『グゥレイト!』

『ビームが弾かれる!?』

 

 

バスターとブリッツのビームライフルは直撃しているがアークエンジェルの装甲はビームを弾いていた。そういや、そんな特殊装甲してるんだっけ。

 

 

「足付きはビームを弾くらしい。実体弾じゃなきゃダメだな」

『なら、ミサイルを喰らわせてやるゼ!』

 

 

俺の一言にディアッカはバスターの肩部のミサイルを放つ。しかし、アークエンジェルのマシンガンや艦砲で撃ち落とされてしまう。ビームは効かず、実体弾は撃ち落とされてしまう、と。正直手詰まりじゃね?地道にアークエンジェルにダメージを与えていたが、ヴェサリウスが被弾したと報告が入る。あ、この話ってストライクとアークエンジェルが囮でメビウス・ゼロが奇襲する話だった!

 

俺とニコルとディアッカは慌ててヴェサリウスに援護に戻ろうとするとアークエンジェルから砲弾の雨嵐。更にメビウス・ゼロがヴェサリウスに奇襲でダメージを与えた事で俺達MS隊に帰還命令の指示が降る。

 

銃弾の雨を避けながら帰投すると、戻る途中でイージスがPS装甲がダウンしたストライクを捕獲していた。

 

 

『何をしているアスラン!』

『このままストライクを捕獲する!』

『はあっ!?何言ってんだアスラン!?』

『命令は破壊ですよ!?』

「まあ、捕獲出来るなら、その方が良いだろうけど……ま、そう上手くはいかないよな」

 

 

イザーク、アスラン、ディアッカ、ニコルの順に叫び声が上がる。俺はと言えば、このままストライクを捕獲しても『ガンダムSEED・完』になるわきゃないと馬鹿な事を思いつつジンのモノアイを上方向へと向ける。そこにはガンバレルを展開したメビウス・ゼロが一直線に突っ込んできた。俺は銃弾の雨を一足早く避けながら距離を空けた。

アスラン達はメビウス・ゼロの奇襲に驚愕し、隊列を崩した挙句、捕獲したストライクを逃してしまった。

 

この時点でヤバいのだがイージスの捕縛から逃れたストライクをデュエルが後を追っていた。もう帰投命令も出てるのにイザークの奴……

 

 

「仕方ないな。ニコル、ディアッカはアスランを連れて引き上げてくれ。俺はイザークを連れ戻す」

『ちょっ……待って下さい、ラスティ!』

『おい、ラスティ!?』

『待て、ラスティ。ストライクは……』

 

 

俺はニコル達に指示を出すとジンの最大速度でデュエルとストライクを追った。デュエルはビームライフルに付属されているグレネードランチャーでトドメを刺そうとしているが深追いは危険な上にイザークは周りが見えていない。その証拠にアークエンジェルからストライクの換装武装が飛んできてドッキングしようとしてるのも見えてないんだもんよ。明らかにストライクの背中を撃つ事しか考えてないな。

 

 

「下がれ、イザー……ぐうっ!?」

『邪魔をするな、ラスティ!いや……なんだとっ!?』

 

 

放たれたグレネードランチャーの爆炎でストライクの姿が見えなくなってイザークは勝利を確信した様だが、それはフラグだ!俺はデュエルの前に出てシールドを構えた。それと同時に煙の中から極太のビームが顔を出す。ランチャーストライクのアグニをジンのシールドなんかで防げる訳も無く、吹っ飛ばされる俺とイザーク。危なかった……直撃の瞬間に盾を晒して手を離さなかったら機体ごと貫かれてたわ。

 

 

「イザーク、撤退だ。これ以上はフォロー出来ないからな」

『くっ……チクショウ!覚えてろっ!』

 

 

原作と違い、片腕を失う事は無かったが流石に状況を見たのか今度は素直に撤退したイザーク。捨て台詞が三流だぞ。いや、「くっ……殺せ」をしろとは言わんが。

 

 

この後、後続でアークエンジェルがストライクの援護に来たので本格的に撤退となった。やれやれ、俺のジンのデビュー戦は苦いもので終わったな。これから、もっと苦い思いをしそうだな。特にシールド壊した事を整備の人達に怒られそうだ。

 



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アルテミス要塞の戦い

 

 

 

クルーゼ隊長とアスランが評議会に召集され、本国へ帰投し離れる事に。俺、ニコル、イザーク、ディアッカは機体をガモフへと移動させ、足付きの追跡続行となった。ヴェサリウスに残っていたジンの装備は全てガモフへと移送した。クルーゼ隊長からは「上手く使ってくれ」と言われたけど、どーすっかな。

アークエンジェルは地球軍の要塞に逃げ込んだのだ。軍事要塞アルテミス。難攻不落と謳われる要塞でザフトも迂闊に手が出せない場所。

 

 

「しかし地球軍も姑息な物を造る。逃げる事や、隠れる事は得意らしいな」

 

 

イザークの言う姑息な物とは通称「アルテミスの傘」はレーザーも実体弾も通さないバリアだ。戦艦やMSが一定の距離接近すると傘を展開する。こうなると手が出せなくなるので手詰まりとなってしまう。

 

 

「どうするよ、出てくるのを待つか?」

「ふざけるなよディアッカ。お前は戻られた隊長に『何も出来ませんでした』と報告するのか!」

「んじゃ、どうする?」

「僕のブリッツならアルテミスに近付けるかも知れません」

 

 

ディアッカ、イザーク、俺、ニコルの順に話が進みブリッツのミラージュコロイドで接近してアルテミスのバリアの発生装置を破壊して足付きを要塞ごと破壊しようとなった。

 

 

「ククッ……臆病なニコルにはピッタリの装備じゃないか……がぁぁぁぁぁぁっ!?」

「お前は自分が勇敢だ、みたいな言い方してるけど単なる向こう見ずなだけだからな?この間の深追いを忘れたか?」

「おおっと、ギブアップかイザーク?」

「アハハ……」

 

 

ニコルは臆病なんじゃなくて慎重なんだよ。俺はイザークを卍固めに極める。ディアッカは笑い、ニコルは苦笑いになっていた。

イザークへのオシオキを終えた後、早速アルテミス攻略の為に動く事になった。ガモフをアルテミスが傘を開くであろうギリギリの地点まだ移動させてブリッツを発進させる。その後、ブリッツはミラージュコロイドを発生させて接近する事に。

 

 

「じゃあ、頼むぞニコル」

『はい、僕がアルテミスの傘を破壊したら直ぐに来てくださいね』

 

 

ニコルのブリッツが姿を消してアルテミスに接近していく。俺はブリッツと同じくジンを発進させており、ガモフの外で待機していた。俺のジンの加速力はデュエルやバスターよりも上でアルテミスの傘が破壊されたら即行でニコルの援護に向かう為だ。前回、シールドを破壊されたので重斬刀を腰にマウントし、両手にバズーカを構える装備にしていた。余った武装を預かっていて良かった。本当ならマシンガンも持っていきたいがこれ以上装備を増やすと重量で速度が落ちるし、ペイロードも足りなくなる。

 

 

「ああ、すぐに迎えに行く。だから無理するなよ、ニコル」

「は、はい……待ってますね、ラスティ」

 

 

姿は見えないがまだブリッツは近くに居るのが分かっていたから通信をするとニコルからは戸惑った様な返事が来た。緊張してるのかな?

暫く、待機しているとアルテミス要塞に爆発を確認した。どうやらニコルがアルテミスの傘を破壊したらしい。

 

 

「んじゃ、行くか!イザークとディアッカも来いよ!」

『俺達の分も残しておけよ?』

『フン、さっさっと行け!』

 

 

ディアッカとイザークに声を掛けてからジンをフルスロットルで加速させてアルテミスに接近する。まあ、とは言ってもアークエンジェルはアルテミスから脱出して、ニコルはストライクと一騎討ちの最中だろうから早く援護に行こう。

 

 

「って、なんじゃこりゃ!?」

『くっ……数が多い……あうっ!?』

『うわぁぁぁぁぁぁっ!』

 

 

アルテミスに到着すると原作とはちょっと違う光景が広がっていた。ブリッツとストライクのタイマンではなく、ブリッツとストライクを大量のメビウスが包囲しながら攻撃していたのだ。ブリッツとストライクはタイマンをしながらメビウスの砲弾を避けている。時折、弾がブリッツやストライクに当たっていた。いや、なんでこんな事態に?アルテミスのメビウスってこんなに出てきてたっけ?

 

 

「取り敢えず……援護するしかないよな!」

 

 

俺は両手に構えたバズーカを乱射する。即座に弾切れを起こすが、その甲斐あってブリッツとストライクを囲っていたメビウスはあらかた全滅させた。俺がメビウスを落としている間にブリッツとストライクのタイマンは更に白熱しており、凄まじいの一言に尽きる。ストライクは接近専用のソード装備でブリッツと戦っていた。破壊されたアルテミス要塞の破片を縫う様に高速移動しながら斬り合う二機。だけど、ブリッツの方が若干押され気味に見えた。

 

弾切れになったバズーカを捨て、俺はストライクとブリッツの間に割り込む。腰部にマウントしていた重斬刀を構えて、ブリッツを庇う様に前に出る。

 

 

『ラ、ラスティ……』

「悪い、待たせたなニコル。だが、アルテミスの防衛していたメビウスは大抵落とした。後はストライクと足付きを落とすだけだ」

 

 

ニコルの安堵した様な声に俺もちょっと安心する。モニターに映るニコルはちょっと涙目になっていて、それがまた可愛かった。

さて、ストライクを落とすと言ったものの俺のジンじゃ手に余る相手なんだよなぁ。バズーカでも大したダメージにもならないし、重斬刀じゃ話にもならない。

そう思っていたらストライクは大型のソードを振りかぶって接近して来る。俺は思わず重斬刀で対抗しようとしたが当然ビームの刃に勝てる訳も無く、重斬刀はアッサリと折れ……いや、斬られてしまう。俺は残された刀身をストライクに投げ付ける。ダメージにはならないが多少の目眩しにはなった。ストライクが右手にソードを持ったまま、左腕で重斬刀を払い退けた。だが、それこそが俺の狙いだった。

 

 

「隙ありっ!」

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

 

 

俺は最大速でストライクに接近して、その腹に飛び蹴りを直撃させた。機体そのものにはダメージは無いだろうが衝撃までは無効化出来まい。蹴りの衝撃とアルテミス要塞に叩き付けられて内部へ衝撃があったのだろう。ストライクからは悲鳴が聞こえた。

 

 

『す、凄いですラスティ!トドメは僕が……キャアッ!?』

「ニコル!?ちっ……足付きが援護に来たか……」

 

 

武装が無くなった俺のジンに代わってニコルがビームサーベルを起動させてトドメを刺そうとしたがアルテミスから脱出したアークエンジェルからストライクへの援護射撃が飛んでくる。

 

 

「アルテミスから発進したか……俺のジンは武装が無いし、ニコルもエネルギーが足りないだろ?退くぞ」

『で、でも……イザークとディアッカが来る筈ですよ?』

 

 

俺のジンは丸腰だし、ニコルのブリッツもそろそろエネルギーが心許ない筈だ。確かにイザーク達もそろそろ合流する時間ではあるが……

 

 

「微妙に間に合わないな。下手すりゃこっちが墜とされるぞ」

『そう……ですね』

 

 

俺の判断が間違っていないと判断したのだろう。やっぱニコルは慎重で冷静に物事が判断出来るから助かるわ。イザークだったら間違いなく突撃してるだろうから。

俺とニコルは揃ってアルテミスから離脱した。深追いをしてもアークエンジェルもストライクも落とす事は無理だから。

しかし……直接戦うとやっぱ強いなストライク……いや、キラ・ヤマト。さっきは初見で上手い事、隙を突いたからなんとかなったが同じ手は二度通用しないだろうし。

 

 

『どうしたんですか、ラスティ?』

「ああ。いや……うん、ちょっと考え事」

 

 

ガモフへの帰投中に俺が何も話さなかったから心配になったのかニコルが不安そうな顔をしていた。俺が現段階でキラの名を知ってるのは不自然だから言えないし……ふむ。

 

 

「ニコルの『キャアッ』なんて悲鳴初めて聞いたから可愛いって思ってた」

『わ、忘れてください!』

 

 

誤魔化したらニコルは顔を赤くしてプイッとそっぽを向いた。いや、だから可愛いだけだっての。

 



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足付き、追跡

 

 

あれからアークエンジェルを見失い、恐らく向かうであろう進路方向を探す日々。

そんなある日、ラクス・クラインが行方不明になったとニュースが流れて大騒ぎになった。ユニウスセブンの追悼慰霊の事前調査に向かった所、行方不明になったとの事だった。

 

 

「ラクス・クラインが行方不明ね」

「心配になりますね……それにアスランの婚約者さんな訳ですし」

「案外、足付きにでも保護されてるんじゃないか、あのお姫様。あの船は俺達と因縁があるからな」

「ふん、くだらん。それよりも足付きの捕捉はまだ出来ないのか!」

 

 

この話題で俺、ニコル、ディアッカ、イザークで雑談が交わされた。ディアッカよ、実はお前がビンゴなんだよ。

そんな話題が上がってから合流予定だったヴェサリウスが遅れると連絡が来たらしい。なんでもアークエンジェルと交戦した後になんらかのトラブルがあり合流が遅れるとの事。

これってラクスがアークエンジェルに保護された時の話だよな。そんで合流した地球軍の船をアスラン達が落として、危機に陥ったアークエンジェルがラクスを人質にしてその場を脱出。その後、キラが独断でラクスをアスランに返還する……って流れだったかな。流石に細かい所は覚えてねーや。

 

 

まあ、兎も角……クルーゼ隊長が交戦した地点から逃亡したコースを計算すると俺達の居る地点からなら追い付けると判明。現在、ガモフで追跡中である。本来ならクルーゼ隊長と合流して追加装備を手に入れてから仕掛けたかったんだけどな。

 

 

「しっかし……クルーゼ隊長とアスランで取り逃がすなんてね」

「俺達が情けないのか、相手の指揮官が優秀なのか、それとも別の要因があったのか」

「ふん、今までは奴等の運が良かったに過ぎん!でなければナチュラル如きに負けるなぞ、あり得ん!」

「油断は大敵ですよイザーク。ラスティの言う通り、あの船には何かがあると思います」

 

 

そろそろアークエンジェルに追い付きそうって所でブリーフィングの場でディアッカ、俺、イザーク、ニコルの順でコメントを溢し、どう仕掛けるか悩んでいた。

 

 

「取り敢えず俺が先行してストライクの足止め。メビウス・ゼロを……ディアッカが仕留めて。そんでイザークとニコルで足付きの動きを封じながらタイミングを見て、ストライクにトドメ。その後で全員で足付きを沈めるってのが良いと思うんだが」

「貴様、勝手に決めるな!」

「そうですね……周囲の状況をクリアにしてから本丸に攻め込むのが一番です」

「だとしてもラスティ、ジンでストライクの相手出来るのかよ?」

 

 

俺が意見を出すとイザークは反発したがニコルとディアッカは概ね肯定的だった。

 

 

「俺に出来るのは足止めだけだぞ。PS装甲だからジンの装備じゃ時間稼ぎが精々だ。トドメはビーム装備のGじゃなきゃ無理だぞ」

「決まりだな」

「ちっ……仕方ない。だがストライクのトドメは俺がするからな!」

「はい、ラスティの案で行きましょう!」

 

 

どうするかが決まると後は早かった。ガモフから俺のジン、デュエル、バスター、ブリッツが発進する。速度の都合上、俺のジンが先行しストライクに肉薄する。今回の俺のジンはマシンガンの二丁装備と予備の重斬刀である。対するストライクはエール装備。こりゃ高速機動戦になるな。

 

 

「ちっ……速い上に的確な射撃ってのは厄介だよな!」

 

 

マシンガンを両手に構えて撃とうとしたが、先にストライクからのビームが放たれる。ブースターと姿勢制御を駆使してギリギリ避けたが、何度も避けるのは無理だな。マシンガンを放つが高速機動戦じゃ集弾率が悪く、弾をバラ撒くだけに近い。そもそもジンは本来、高速機動戦に向いてない。ハイマニューバタイプも高速機動戦タイプとは謳ってはいるけど今俺とストライクが繰り広げてる程の速度は想定してない。つまり高速機動戦に適した装備が現状存在しないのだ。

 

 

「くっ銃身が安定しない!後でデータ纏めて開発に……があっ!?」

『何してんだよ、ラスティ!?』

 

 

弾をバラ撒きながらストライクと高速機動戦をしていたがストライクのサーベルにマシンガンの銃身を斬り裂かれ、更に蹴り飛ばされたと思ったらメビウス・ゼロと戦闘していたバスターと激突してしまう。

そして、その隙は逃さんとばかりにメビウス・ゼロのポッドから弾丸が放たれ、俺のジンとバスターに降り注がれる。

 

 

「ぐ、あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

『くっそ……おい、ラスティ!?』

 

 

降り注がれる弾丸の雨に俺のジンのダメージがヤバい。バスターはまだPS装甲だから衝撃は来ても機体のダメージは少ないだろうが、俺のジンはノーマルの装甲だ。メビウス・ゼロの弾でも充分な程の被弾になってしまう。

 

 

『大丈夫か、ラスティ!?』

「内部まではダメージは行っちゃいないが表面装甲は死んだな。次、食らったらマズい……」

『ラスティ!イザークが!』

『痛い痛い痛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!』

 

 

俺とディアッカがストライクとメビウス・ゼロに苦しめられてる間に状況は最悪な方向に向かっていたらしい。モニターにはコックピット付近から煙を拭いているデュエルを抱えてアークエンジェルから逃げているブリッツの姿が。更にストライクから放たれているビームで仕留められそうになってるのがヤバさを引き立てている。どうやらストライクは俺を蹴り飛ばした後でイザークとニコルの方に行って二人をボコボコにしたみたいだ。見事に返り討ちにされたイザークとニコル。特にイザークの方が骨身に染みる程に痛い目を見た様だ。

 

 

「ディアッカ、俺がイザークを退かせるから援護、頼む」

『任せろ。グゥレイト!』

 

 

俺のジンのダメージもヤバいがデュエルの方もヤバい。俺はブリッツに庇われているデュエルを抱えるとガモフへ一直線に帰投した。バスターは援護射撃でアークエンジェルとストライク、メビウス・ゼロを牽制して、ブリッツはトリケロスを防御態勢で構えて撤退支援をしてくれた。

 

 

『ぐぅぅぅぅぅぅっ!チクショウ、チクショウ!』

「暴れんな!俺のジンもヤバいんだから!」

 

 

イザークはまだストライクに向かおうとしているのかデュエルを動かそうとしているがもう無理だっての!

しかし……本来よりもこっちの戦力は増されている筈なのに返り討ちにされてしまうな。直接、戦うとわかるがキラ・ヤマトの戦闘能力の高さが窺えるな。ろくに訓練してない素人の筈なのに軍学校で訓練を受けた俺達よりも強いんだから。

 

これがスーパーコーディネーターの力か……既にこっち側の力不足を実感するわ。クルーゼ隊長が持ってくる追加装備で強化しないと太刀打ち出来そうにないな。デュエルの強化もするだろうし、俺のジンも強化してもらおう。

 

 

 

 



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専用のジンの新たな装備

 

 

 

クルーゼ隊長率いるヴェサリウスと合流したガモフ。イザークは前回の戦闘の影響で未だに医務室に篭っており、俺はニコルと共にジンとデュエルの追加装甲装備を眺めていた。

 

 

「デュエルにもジンのアサルトシュラウドが換装出来るとは思いませんでした」

「MSとしての互換性は兎も角、追加装甲はパーツの組み合わせだからな。後付けなら改良すれば装着は可能なんだろうよ」

 

 

俺のジンとデュエルにはアサルトシュラウド装備が追加されていた。アニメで見たのと同じ装備に組み上がっていくデュエルと本来のジンアサルトとは若干違う仕様になっていく俺のジン。

 

現在、俺のジンは通常のジンアサルトの装備に加えて試作された対ビームシールドと手持ちの試作型大型マシンガン。盾の内部に忍ばせた試作のハンドガンにアーマーシュナイダー。背面のブースターは試作品で大型化されており、外部パーツに冷却剤パイプで繋がっている。更に追加装甲の内部には稼働時間を伸ばす為のバッテリーが備わっていた。

 

 

「まさか、俺が引いた図面の試作品を全部、開発して持ってくるとは思わなかった……」

「クルーゼ隊長の計らいだったみたいですね。でもこれでラスティのジンもイザークのデュエルもパワーアップしましたね!」

 

 

以前、ミゲルに鍛えられていた頃に「こんな武装はどうだろう?」なんて装備やMSの図面を書いた覚えは確かにある。しかも、その図面をクルーゼ隊長が「ほう……興味深いな。そのデータは私が預かろう」なんて持っていってしまったのだが、まさか形にして持ってくるとは誰が予想出来るよ?

 

しかしニコルの言う通りジンアサルトも相当パワーアップしたな。通常のジンアサルトは手持ちの装備はなく固定武装のみだったけど手待ちの武器があるのは有難い。オマケにあの試作型マシンガンは俺が望んだ高速機動戦に適したマシンガンで集弾率の向上がなされたそうだ。まあ、PS装甲にはダメージが無くて意味が無いんだろうけど当てる事には意味があるから良いのだ。

 

 

作業を眺めていた俺とニコルだが、クルーゼ隊長に呼び出されたのでブリーフィングへ。うん、もしかしなくてもこの後、大気圏間際の戦いだよね。アークエンジェルも第八艦隊と合流したって聞いたし。

 

 

「イザーク、負傷したとのことだが傷はもういいのかね?」

「はい、問題ありません!次こそは足付きを堕としてみせます!」

 

 

ブリッジに到着するとアスラン、イザーク、ディアッカは既に来ており、顔面に包帯を巻いて顔の半分が見えないイザークがクルーゼ隊長と話をしていた。おいおい、もう起きあがってんのかよ。

 

 

「わかった、君の奮起に期待しよう」

「ハッ!」

 

 

クルーゼ隊長にリベンジのチャンスを貰ったイザークはビシッと敬礼をした。やる気に満ち溢れてんな、おい。

 

 

「なら装備の確認をしておけよ、イザーク。デュエルの追加装備のスペックだ」

「感謝する。見てろよ、ストライク!」

 

 

俺がデュエルのアサルトシュラウドのデータが映し出されてるパッドを渡すとイザークは鼻息荒くデータを漁り始めた。

 

 

「来たかラスティ、ニコル。先程、アスラン達にも少し話したが我々はこれから足付きと第八艦隊と一戦交えるぞ。アレを地球に降下させる前に沈めてやろうじゃないか」

「了解です!」

「俺のジンアサルトを試す良い機会……って事にしておきます」

 

 

クルーゼ隊長の笑みにニコルと俺は敬礼する。うん、間違いなくヤバい事態になるから気を引き締めないと。取り敢えず、ジンアサルトの作業を手伝ってこよう。大気圏間際の戦いって死亡フラグが乱立しやすいんだから。

 

 

 

 




『ラスティ専用ジンアサルト改』

ラスティ専用ジンにアサルトシュラウドを装備した状態の機体。
全身に追加装甲が施されており防御力が向上している。背部と脚部に追加されたスラスターにより推力も強化されている。
固定兵装として肩部にガトリング砲、胸部と腕部にグレネード弾、脚部にミサイルポッドが追加されており火力も向上している。この追加装備は被弾時や不要時にパージすることが可能となっている。

更に試作型マシンガン、試作型対ビームシールド、試作型ハンドガン、アーマーシュナイダーと通常のアサルトシュラウド装備よりも武装が充実しており、背面のブースターは試作品で大型化されており、外部パーツに冷却剤パイプで繋がっている。更に追加装甲の内部には稼働時間を伸ばす為のバッテリーが備わった。


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大気圏間際での戦い

 

 

 

地球に降下するアークエンジェルを阻止するべくヴェサリウスとガモフから搭載MSが次々に出撃していく。

俺もニコル達と共にガモフから出撃したのだが……

 

 

「ぐ……うぅ……更にジャジャ馬になりやがった!」

『気を付けてくださいラスティ。機体がフラついてますよ』

『グゥレイト!』

『何処だ、何処だ!ストライクゥゥゥゥゥッ!』

 

 

ニコル、ディアッカ、イザークが順調にメビウスを墜していく最中、俺は機体に振り回され気味だった。

通常のジンアサルトよりもチューンナップされた俺のジンアサルトは操作するので精一杯だった。増設され大型化したブースターは洒落にならん加速性を持っている。迫ってくるメビウスを墜してはいるものの機体の操作に気を取られて疲れが倍増してる気がする。だがアサルトシュラウドの装甲は伊達じゃ無いな。一発二発被弾しても問題がない。

問題があるとすれば加速が凄すぎて下手すると艦隊に体当たりをしそうになるのだ。カスタマイズも考えものだな。出力が上がった分、操作性に難が出てるんだから。

 

 

「だが、結局は慣れだよな!」

『無理はしないでくださいラスティ。援護しますから』

『出てこないと傷が疼くだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』

 

 

コツを掴んできたので俺もメビウスや艦隊に攻撃を加え始める。ニコルが俺のジンを追って援護してくれているので非常に助かるのだがイザークがうるさい。

イザークの叫びをBGMに俺達はアークエンジェルを沈める為にメビウスや艦隊を次々に墜していくが第八艦隊の戦力が凄まじく中々辿り着けずにいた。

 

 

『ハルバートンめ。その身と引き換えに足付きを地球に降ろすつもりか……各機、足付きに戦力を集中させろ』

『『『了解!』』』

「りょーかいってね」

 

 

クルーゼ隊長からアークエンジェルを狙えと命令が来るけど結構キツくなってきた。限界高度に地味に近付いて来てんだもん。

 

 

「死にたくない奴は引っ込めよ!」

『う、うわぁぁぁぁぁっ!』

『ダメだーっ!』

『さ、避けられない!』

『ちくしょう!ちくしょう!』

『ア、アメリアーッ!』

 

 

俺はメビウスの群れに突っ込んで固定武装をフルオープンで放った。狙いは定めてないが、戦力が集中して密集している場所なら効果はある筈だ。その証拠に次々にメビウスは撃墜されていって……ん?オープン回線で聞こえた悲鳴に違和感を覚える。なんか他のシリーズのガンダム混じってなかったか?明らかにZ時空の叫びだぞ今の。まさか、居たのかカクリコン。

 

なんて事を考えていたら、いつの間にかストライクがイザークとアスラン相手に戦っていた。あの二人を相手取って互角以上って……俺とニコルとディアッカは援護に回ろうとしたがディアッカがメビウス・ゼロに絡まれ始め、仕方なく俺とニコルが二人の援護に回る事に。だが、イザークが熱くなりすぎている。デュエルのビームライフルから放たれたビームはストライクには一向に当たらず、アスランもストライクと戦おうとしているがデュエルから放たれる攻撃の流れ弾に当たりそうでろくに戦えていない感じだ。

 

 

「落ち着け、イザーク!状況を見ろ!」

『五月蝿い!俺が奴を墜とすんだ!』

 

 

俺の叫びにイザークは案の定、噛みついて来た。そうこうしている間に限界高度ギリギリまで来ていた。メビウス・ゼロに追い回されていたディアッカもメビウス・ゼロが撤退した事でフリーにはなったがストライクとアークエンジェルの追撃は無理そうだ。帰還命令も出てるし。

 

 

「限界だな、そろそろ戻る……と言いたいけど俺はあのバカを連れ戻すから、お前等はヴェサリウスに戻れ!」

『おい、ラスティ!?』

『ちっ……タイムリミットかよ!』

『僕も行きます!』

 

 

俺は未だにストライクとのタイマンをしているイザークを連れ戻す為に急いだ。アスランとディアッカは一足先にヴェサリウスに戻り始め、俺一人で行こうと思ったのだが、ニコルも付いてきてしまった。ニコルには「戻れ!」と言いたかったが時間が無い。

俺とニコルはイザークとストライクのタイマン場所へと急いだ。ちゅーか、アラートが鳴り止まない。流石にマズいか!?

 

 

「撤退だ!イザーク!」

『退きますよ、イザーク!』

『五月蝿い!此処で仕留め……何っ!?』

 

 

尚も戦おうとするイザークだったがビームライフルを構えて撃とうとした瞬間、小型のシャトルがデュエルとストライクの間に割って入る様に大気圏突入を始めていたのだ。ビーコンでシャトルに乗ってるのは一般人であると表示される。

 

 

『おのれ、奴を仕留めるチャンスを……この戦場から逃げ出す軟弱者共がぁぁぁぁぁっ!』

 

 

そう言ってデュエルのビームライフルをシャトルに向けるイザーク。あの馬鹿、ビーコンの確認もしてないのか!

 

 

「民間のシャトルを撃とうとすんな、ボケッ!」

『なっ……がぁっ!?』

『ラ、ラスティ……もう限界ですよ!?』

 

 

シャトルを撃とうとしたバカの射線に割り込んでタックルをする。衝撃でビームライフルの照準が外れてシャトルは無事だった。危なかった……今頃の話だが、あのシャトルにはアークエンジェルに乗っていた避難民が乗っていた筈。原作だとイザークがシャトルを撃ち落とす所だったけど間に合って良かっ……いや、良くねぇ!?今のやり取りでヴェサリウスに戻る為の高度はとっくに過ぎ去っていた。

デュエルとブリッツはPS装甲あるから大気圏突入もなんとか出来るけど流石にジンで大気圏突入は無理だ。フルブーストでもヴェサリウスに戻るのは不可能だし……いや、マジでどうする!?アラートはもう鳴り過ぎて訳わかんなくなってる。

 

 

『ど、どうするんですかかラスティ!僕とイザークの機体は兎も角、ラスティのジンじゃ……』

『貴様、どうする気だ!?』

 

 

涙目のニコルに漸く状況を冷静に見始めたイザークの焦りの表情。いや、俺が知りたいくら…‥あぶなっ!?俺の目の前を先程、轟沈した第八艦隊の戦艦のデブリが直撃しそうになる。大気圏突入の前にあんなのに当たったらそれだけでMSなんかブッ壊れるっての。ん、デブリ?

 

 

「それだ!ニコル、イザーク!大型のデブリを盾にするぞ。デブリを盾にしてニコルは大気圏突入コースを算出!イザークはデュエルとブリッツを並ばせて俺のジンを守ってくれ!」

『は、はい!』

『何をする気だ!?』

 

 

既に大気圏突入の熱でコクピットが熱いのでニコルとイザークへの説明は省いたが大型デブリを降下ポッド代わりにして、デュエルとブリッツが壁になり俺のジンを守る。更に試作型のブースターは外部パーツで冷却剤に繋がっている。これをコックピット付近を冷やすのに使えば俺のジンでも大気圏突入に耐えられる筈!

かなりデカい博打になるけど、コレしか手段がない!俺はジンを操作してブースターに繋がっているパイプをコックピット付近に近づけて固定した。後は上手くいく様に祈るのみ。

 

 

ニコルは必死に降下コースの算出をしてくれて、イザークも素直に聞いてくれた。俺はと言えば鳴り響くアラートとモニターに映し出されるジンの機体のダメージデータに意識が遠のいていった。

 



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大気圏突入後の話

 

 

目を覚ましたら見知らぬ天井……思考が回らず鈍い感覚。重い体を起こそうと思ったら胸の辺りに感じる小さな重み……視線を移せば少々癖のある緑色のショートヘアー。

 

 

「すぅ……すぅ……」

 

 

ベッドで眠る俺に寄り添うに上半身を預ける様に眠るニコル。椅子に座っていたのだろうが眠った拍子に俺のベッドに倒れ込んだのか何この寝顔……天使?じゃなくてっ!

 

 

「ニコル、ニコル……起きてくれ」

「ん……んうぅ……」

 

 

俺がニコルの肩に手を置いて揺するとニコルは眠そうに眼を開き始める。

 

 

「あれ……ラスティ?……ラスティ!」

「おはよう、ニコル……っとは!?」

 

 

ニコルは意識がはっきりしたのか俺を視認すると抱きついて来た。ヤベェ!可愛い、柔らかい、良い香りの三拍子!ニコルの控えめながら女の子足り得る『それ』が俺を更に興奮させる!

 

 

「バカバカバカッ!心配したんですよ!」

「悪い、ニコル。俺も今、目を覚ましたばかりだから状況が掴めていないんだ。此処は何処なんだ?」

 

 

抱きついていたニコルの背をポンポンと叩くとニコルはスッと離れた。そして涙目のまま俺を睨む。

 

 

「此処はジブラルタルです。大気圏突入した時の事は覚えていますか?」

「ジブラルタル?……大気圏突入の……」

 

 

 

ニコルの発言から此処はジブラルタルだと判明した。んじゃ大気圏突入は上手く……いや、ちょっと待て。俺は記憶の糸を手繰り寄せる……えーっと確か……

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

『コースの算出、出来ました!でもラスティのジンが!?』

『仕方あるまい!こうするしかないんだ!』

 

 

俺の意識は殆ど飛んでいた。意識は朦朧として腕が上がらない。コクピットの熱も相当なものだし、計器のアラートもどれが鳴ってんだか……

 

 

『ラスティ!ラスティ!?しっかりしてください!』

『貴様、死んだら許さんぞ!』

 

 

デブリを盾にしながらブリッツとデュエルがシールドを構えて俺のジンを庇う様に前に出てくれているがそろそろ不味い。冷却剤も底を尽きそうだ。これは……もう……そう思った時だった。

 

 

『此方、ジブラルタル基地防衛隊!応答せよ!そちらのMS、所属を報告せよ!』

『あ……此方、クルーゼ隊所属、ニコル・アマルフィ!作戦中のトラブルで大気圏突入を試みました!三機の内、一機が危険な状態です!救援を!』

『クルーゼ隊?報告通りだな、了解した。すぐに回収部隊をそちらに回す』

『ジブラルタル基地の防衛隊!?そうか、クルーゼ隊長が根回しをしてくれたのか!』

 

 

 

どうやら大気圏突入した事でジブラルタル基地の防衛網に引っかかったらしい。ニコルが状況を説明してイザークが対処の早さからクルーゼ隊長がジブラルタル基地に連絡を入れたのだと判断していた。

それはそうと、もう大気圏突入が済んだのなら……俺はなんとか腕を上げてコンソールに手を伸ばして最後の作業をする事にした。

 

 

「外部装甲……強制パージ……ニコ……後は……たの……」

 

 

俺は半壊を通り越してほぼ全潰状態のジンアサルトの追加装甲をパージした。大気圏突入の熱でアサルトシュラウド装備は溶解しており邪魔にしかなってない。だったら外してしまった方が安全だろう。

あー、ヤベェ……意識が遠のく。

 

 

『ラスティ、ラスティ!?しっかりして!目を開けて!?』

『死んだら許さんぞ、貴様!ラスティ!』

 

 

ニコルとイザークの叫びを聞きながら……俺は本格的に意識を手放した。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

「ああ、うん……大体、思い出した」

「あの後、ジブラルタル基地の部隊が来て僕達を回収してくれました。ラスティはその時、完全に気を失っていたので……」

 

 

色々と思い出した。うん、あの時切羽詰まってたけどGなら兎も角、ジンで大気圏突入とか正気の沙汰じゃないわ。追加装備で冷却剤が追加されてなかったらコクピットもお釈迦になってただろうし。

そんな事を考えていたらニコルが半目で睨んでいた。

 

 

「心配したんですよ……ジブラルタル基地に回収された後、二日も目を覚まさなかったんですから」

「二日!?そんなに眠ってたのか、俺……」

 

 

驚きはしたもののGに乗ってないのに大気圏突入した代償がそんなもんなら安いもんだな。普通に死んでてもおかしくない状態だった訳だし。

 

 

「そういや、イザークは?」

「イザークはジブラルタル基地経由でクルーゼ隊長に報告してますよ。それに足付きが北アフリカに落下したそうで追跡の許可も打診しています」

 

 

姿の見えないイザークの事を聞くとイザークは俺が眠っていた間にも色々と動いていたらしい。アークエンジェルが北アフリカに落ちたって事は概ね原作通りな展開……いや、大気圏突入したのがイザークとディアッカじゃなくて俺とニコルとイザークって段階で原作通りとは言えんが。

 

 

 

「んじゃ俺もそれについて行……俺のジンは?」

「ラスティのジンは……ほぼ全壊状態です。ジブラルタル基地の人の話じゃ、大気圏突入が済んだ段階で爆発してもおかしく無かったくらいだと言っていました」

 

 

俺も砂漠に行くと言おうと思った所で俺のジンの事を思い出す。そしてニコルの発言から、やはりあの時に限界は来ていたのだと確信してしまう。

 

 

「データならありますよ。イザークが『アイツの事だから目を覚ましたら機体のデータを見たがる筈だ。格納庫には行かせずにデータだけを見せて安静にさせろ』と言ってましたので」

「あのツンデレめ……でも、有難い」

 

 

ニコルが準備してくれていたパッドに俺のジンの現在の状態が表示される。うわぁ……頭部が欠けてモノアイが割れてる。左腕と両足が無く、背面のブースターは大気圏突入の熱で半分溶解している。追加装甲に守られていたコクピット付近は冷却剤で冷やし続けたおかげなのか形はマトモだが全体的に破損が目立つ。改めて良く無事だったな俺……いや、マジで。

 

 

「ミゲルが守ってくれたのかな……」

「そうかも知れませんね……でも」

 

 

正直、爆散してもおかしくないくらいのダメージを受けて無事だったのは状況もそうだがミゲルが守ってくれたからな気もする。データを見ながら呟いたらニコルも同意はしてくれたがパッドを取り上げられる。

 

 

「ラスティはまだ目覚めたばかりなんですからMSよりもまずは自分のメディカルチェックが先です!」

「あ、うん……ゴメンなさい」

 

 

立ち上がりながら腰に手を当てて怒ってますと言わんばかりの態度のニコル。ビシッと俺を指差しながら指摘されるとグゥの根も出ない。

そこからニコルの対応は早かった。医務官に連絡を取り、俺のメディカルチェックの申請をして、イザークにも俺が目を覚ました事を連絡している。本当に出来た娘さんですよ。

 

 

「なんか怪我して入院した彼氏の世話を焼く彼女みてーだな」

「な、ななな何を言ってるんですか、ラス……きゃあ!?」

 

 

思わず口にしてしまった俺の呟きに過剰反応したニコルがすっ転ぶ。派手に転んだな、おい。

 

 

「ぼ、僕がラスティの……あわわ……し、失礼しまーす!?」

「あ、ニコ……行っちゃった……」

 

 

顔を真っ赤にしてニコルはバタバタと出て行ってしまった。ちょっと迂闊な発言だったかな。俺は再度、ベッドに寝転びながら出て行ったニコルを思いながら……「少しずつ原作とズレて来てるよな……」と心の中で呟き、今後の展開に不安を感じるのだった。

 

 



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砂漠の虎と意気投合

 

 

 

 

あれから一週間程が経過して俺とニコルとイザークはアークエンジェルが降り立った砂漠へと来ていた。

その間に俺の体調は回復しており、コーディネーターの身体能力の高さに改めて驚かされたもんだ。

 

 

「なんだ、これは……」

「凄い風ですね」

「地球だからなコロニーとは環境が違うのも当然だろ」

 

 

到着早々に砂塵による歓迎を受ける俺達。特にイザークとニコルは舞い上がった砂に驚いている様だ。砂が口の中に入ったのかイザークはペッペッと唾を吐いている。

そんな中、副官らしき男を連れた人が笑みを浮かべながら歩いて来た。その人物が誰なのかを察した俺は敬礼をしてイザークとニコルもそれに続く。

 

 

「クルーゼ隊ラスティ・マッケンジーです」

「同じくクルーゼ隊イザーク・ジュールです」

「同じくクルーゼ隊ニコル・アマルフィです」

「アンドリュー・バルドフェルドだ。ようこそ砂漠へ、歓迎するよ」

 

 

位置的に近くに居た俺と握手をするバルドフェルド隊長。ん?なんか品定めのような目で見られてるんですけど。

 

 

「噂には聞いているよ。降下ポッドを使わずにジンで大気圏突入したデンジャラスボーイが居るとね」

「俺のジン単体で降りた訳じゃないですよ。状況と……コイツ等の手助けが無かったら途中で爆散してたでしょうから」

 

 

握手をしたまま笑みを浮かべるバルドフェルド隊長。アッハッハッ、こちとらマジで死に掛けたっての。

 

 

「彼等の機体のアシストね……成る程、確かに似ているな」

「あの……バルドフェルド隊長もストライクと交戦したと聞きましたが?」

 

 

握手を解いてデュエルとブリッツを見上げるバルドフェルド隊長。ニコルがストライクとの戦闘を聞きたいと言うと苦笑いになった。

 

 

「僕もクルーゼ隊を笑えないな。なんせ砂漠でバクゥと互角に渡り合う様なMSだ」

「やっぱ規格外って感じだな……宇宙から降下した後の地上戦でバクゥと互角って…-」

 

 

アニメで見た時は『凄い』の一言に尽きるが戦闘中に砂漠に適応したOSに書き換えるって、あり得ないよな。こっちはジブラルタル基地で砂漠用のOSに切り替え作業に二日も費やしたってのに。

 

 

「あのディンはキミの機体かな?補充のリストにはザウートのみだと報告を受けていたのだがね」

「ああ、はい。俺としても砂漠ですからバクゥが欲しかったんですがジブラルタルで修理中だったディンを受領しました。一応、修理は済んでいます」

 

 

バルドフェルド隊長がデュエルとブリッツの後ろに格納されていたディンを見て疑問を投げかける。俺のジンは完全にお釈迦になってしまい、乗るのは不可能。一応、ジブラルタル基地で修理は請け負ってくれたが今回の戦いには間に合わない。そこでジブラルタル基地で修理途中だったディンを受領して修理の後に持ってきた訳だ。

 

 

「航空戦力が増えるのは嬉しいな……嬉しいと言えば増援に美しいお嬢さんが居るのもね。キミもドレスが似合いそうだ」

「え……ぼ、僕ですか?」

「バルドフェルド隊長……一つだけ言っておきます」

 

 

ディンを見て飛行能力のある機体は有り難いと言うバルドフェルド隊長。そして視線がディンからニコルに向けられる。『キミも』なんて言う辺りキラとカガリにはやっぱり会ってるんだろうな。だが俺は此処で言うべき一言がある。俺は一歩前に出た。

 

 

「ニコルのドレスのデザインは足が出る物でお願いします」

「ラスティ!?」

「成る程、脚線美と言う訳か。因みに僕は腰のくびれが好きでね」

 

 

俺の一言にニコルは顔を真っ赤にした。バルドフェルド隊長はニヤリと笑みを浮かべる。そして俺とバルドフェルド隊長は何も言わずに握手を再び交わす。

 

 

「キミとは気が合いそうだ。そうだ、コーヒーは好きかね?美味いのを淹れてやろう」

「ゴチになります!」

 

 

バルドフェルド隊長に背をポンと叩かれてレセップスの中へ案内される。うん、本当に気が合いそうだわ、この人。

 

 

「そ、そっかぁ……ラスティは僕の足が……エヘヘ……」

「足付きとストライクの話はどうしたぁっ!?」

 

 

俺とバルドフェルド隊長の後ろではニコルが嬉しい様な恥ずかしい様な気持ちが入り乱れたなんと言えない表情をしていてイザークはいつも通り怒っていた。

バルドフェルド隊長に淹れて貰ったコーヒーはめちゃくちゃ美味かった。ニコルとイザークは微妙な顔してたけど。

 

 

「足付きだな、間違いなく」

「それにストライクも……砂漠での戦いに完全に対応してますね」

「ストライクゥゥゥゥゥッ!」

 

 

コーヒーを飲みながらアークエンジェルとストライクの映像を見ていた。映っているのは間違くアークエンジェルだし、戦闘中の映像も間違いなくストライクだ。

しかし、完全に砂漠に適応してやがるな。普通、砂漠でバクゥ相手に優勢は取れないって。

 

そんな事を思っていたら警報が鳴り響く。副官のダコスタさんの話ではアークエンジェルが砂漠からの脱出を図ろうと発進したとの事だった。

 

 

「もう少し時間が欲しかったが仕方あるまい、レセップス発進だ。キミ達はザウート部隊と同様に各艦の上で援護射撃を行なってくれたまえ」

「な、何故なんです!?我々に控えろと言うのですか!」

 

 

バルドフェルド隊長の号令でレセップスと僚船の発進が決まったが案の定、イザークが噛み付いた。

 

 

「おやおや、クルーゼ隊では上官の決めた事に部下が逆らっても良いのかね?キミ達の機体は宇宙での戦いを主体としているのだろう?ラスティ君の発案で砂漠用のOSは組まれている様だが簡単には適応出来まい。高速戦闘をするバクゥとの連携は取れないよ」

「し、しかし……ストライクとの戦闘経験は我々の方……がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ったく……指揮下に入ったばかりで指揮官に逆らうなよ」

 

 

バルドフェルド隊長の命令に早速背こうとしたイザークの背後に回った俺はイザークをロメロスペシャルを極めて吊り上げる。

 

 

「こりゃ見事だ。流れる様に技を極めたな」

「貴様……ストライクは俺の手で……仕留める、と……」

 

 

ギリギリと締め上げるがイザークに反省の色が見えない。仕方ないな……

 

 

「何処から痛めます?膝、背骨?」

「うむ、では膝で」

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

俺の問いにノリが良いバルドフェルド隊長は箇所を指定してきたので締め上げた。

 

 

「さて、程よく緊張も解れた所で行こうか」

「そですねー」

「貴様……後で覚えてろ……」

 

 

アホなやり取りも終わって、さあ行こうってなったのにニコルの姿が見えなかった。格納庫を見渡すとニコルがアイシャさんと何やら話をしている。時折、俺の方を見てはニコルは顔を赤くして、アイシャさんはニコニコとしていた。

 

 

面白くて美味いコーヒーを淹れてくれたバルドフェルドさん。ニコルと既に仲良くなっていて優しいアイシャさん。

 

 

「死なせたく……ねぇよな」

 

 

ミゲルの時は何も出来なかった自分を呪ったが……今は違うと思いたい。俺はメットを被り、ディンへと向かった。

 

 



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砂漠の決闘

 

 

 

ディンに乗り込んだ俺は上空から戦場を見ていたのだが……開戦と同時に俺はある違和感を覚えていた。

 

 

「なんでスカイグラスパーがもう二機飛んでるんだよ!?」

 

 

そう何故かこの段階でスカイグラスパーが二機飛んでいて、俺はランチャーパック装備のスカイグラスパーに追い回されている。もう一機は戦闘ヘリをぎこちない動きで墜していた。スカイグラスパー二号機ってアークエンジェルが動けなくなってから出撃するんじゃなかったっけ!?

ランチャーパック装備って事はこっちの機体はムウさんだよな?呑気に観察してると墜とされそうで気が抜けない!こっちはまだ大気圏内で飛ぶのに慣れてないってのに!しかし、妙だ、戦力は強化されてる筈なのに戦局が此方の優勢になっていない。

 

 

スカイグラスパーから逃げ回っているとストライクは次々にバクゥを墜としていて戦局が傾き始めていた。しかも、アークエンジェルが廃棄された工業地帯で身動きが取れない状態なのに未だに墜ちていない。レセップスの艦上ではデュエルとブリッツが慣れない砂漠戦で苦戦している様だ。そりゃそうだよな、地上じゃビームの減衰率が高く、照準がズレる。ブリッツの強みであるミラージュコロイドは砂漠じゃ効果が無い。砂塵で姿が丸見えになってしまうから。

 

 

『ちぃっ!いい加減に墜ちろ!』

『イザーク、艦上から降りては……あうっ!?』

「あーりゃま、こりゃマズい……ってこっちもかっ!?」

 

 

デュエルがビームライフルと固定武装でアークエンジェルを墜とそうとしたが逆効果となった。アークエンジェルが身動きが取れなくなった工業地帯を破壊してしまい逆に自由になってしまった。しかも、それを見て余所見をしていた為に追い回されていたスカイグラスパーにディンの羽を撃ち抜かれて落下してしまう。なんとか姿勢制御をして砂漠に不時着したが飛べそうにないな。機体をなんとか起き上がらせて空を見上げたら三機目のスカイグラスパーが飛んでいた。

 

 

「ええー……三機目のスカイグラスパーって何よ……」

 

 

そう……何故か、スカイグラスパーが三機飛んでいるのだ。原作ではムウのランチャー装備が一号機で二号機はカガリが飛ばす話だった筈だが……何故、三機目が飛んでいるのだろうか?だが謎は解けた……妙にこっちが劣勢だと思ったらスカイグラスパーが三機飛んでたからだ。ストライクがバクゥやザウートを仕留めて、二機のスカイグラスパーが戦闘ヘリや戦艦を墜としていく。最後の一機が俺のディンを追いかけ回した事で航空戦力の最大戦力を抑えたんだ。やられたな、こりゃ。

 

 

『聞こえるかダコスタ君。戦力を集めて、ジブラルタルまで引き上げたまえ!』

『そ、そんな隊長!?』

 

 

バルドフェルドさんが乗るラゴゥからレセップス宛の通信で撤退が命じられた。くそ、展開はある程度は読めていたのに予想外の事が起きすぎた。スカイグラスパー三機いたり、ストライクのバクゥ隊の殲滅速度が速すぎたり……そのストライクはラゴゥとタイマンをしていた。

 

ラゴゥは片足を負傷して、ストライクはエール装備の羽を破壊している。一見、互角に見えるけどストライクの方が優勢だ。しかし、やっぱ凄いなキラ・ヤマト。宇宙で戦った時より明らかに強くなっている。戦う度に成長してる感があるな。

 

 

「って、ああ!背部のビームキャノンも……ちぃ!動け、ディン!」

 

 

ストライクとラゴゥが交差する。すれ違い様にラゴゥのビームキャノンがストライクのビームサーベルで切り裂かれ、ラゴゥの武装は二連装のビームサーベルのみとなってしまった。しかもラゴゥは今、片足が無くバランスが悪い。

明らかにストライクの方が優勢だ。このままじゃマズい。俺はディンを立たせる。ギシギシと音を鳴らしながらディンは立ち上がる。機体のダメージを確認すると、羽は肩翼が穴が空いていて飛べそうにない。不時着した時に本体にもダメージが行ったのか動きが鈍くなってる。

 

俺がディンを動かすのに苦労しているとストライクはPS装甲が切れた証拠である灰色になった。ヤバい!だとすれば、この後の展開は……俺はディンのペダルを踏み込み、背面のブースターを吹かせた。

 

 

「ぐ、と、この……飛べっ!」

 

 

肩翼の翼で飛べずに地面に這う様に走らせる。ガタガタと機体が揺れるが関係無い。俺は最後の特攻を仕掛けようとしたストライクとラゴゥの間に割って入る。

 

 

「間に合った!痛でっ!?」

『何っ!?……なんのつもりだ、ラスティ君!』

『このっ!』

『キャァァァァァァァッ!』

 

 

ディンをストライクにタックルさせる。俺がタックルして事でストライクのアーマーシュナイダーはラゴゥの背中では無くラゴゥの頭に突き刺さり、ラゴゥは沈黙した。俺はタックルした拍子にバランスを崩してしまったが、慌ててラゴゥの状態を確認する。頭にアーマーシュナイダーが刺さったままバチバチと火花を散らしている。間に合わなかったか!?そう思った瞬間、ラゴゥは大爆発をした。その光景に俺は目が離せないし、モニターには俺と同じ様に打ちひしがれているストライクが映っている。

 

 

「くそ……また間に合わな……いや、まさか!」

 

 

俺はディンを立たせて走らせる。流石にもう飛べそうにないが走らせるには問題なさそうだ。ラゴゥは爆発はしたものの、まだ原型は留めていた。

 

 

「バルドフェルドさん、アイシャさん!?」

 

 

ラゴゥの背中を力任せに開き、中のコクピットを確認する。正直、グロテスクな光景が広がっていたが、二人分の生体反応が確認された。

 

 

「これなら、まだ間に合うか!?」

 

俺はディンでラゴゥを抱えて走り出す。だが、俺のディンも機体のダメージが深いからかマトモに動かない。更にディンは『飛ぶ』事に特化した機体だから地上を歩く事は想定してない上に砂漠だ。

だが、近くにストライクもアークエンジェルも居るのだ、もたもたしてられない。

 

 

『ラスティ、撤退を!』

「ニコルか!?ナイスタイミング!一緒に運んでくれ!」

 

 

ニコルが不慣れな砂漠でブリッツを走らせながら迎えに来てくれた。良い子過ぎるだろ。俺が説明する前にニコルのブリッツもラゴゥを抱えて一緒に走る。

ストライクはエネルギー切れだし、アークエンジェルやスカイグラスパーの追撃もないまま、俺達はラゴゥを抱えたまま撤退していく戦艦に合流した。ダコスタさんに状況を説明してラゴゥを回収してもらった。

 

 

「間に合った……のかな?」

「そう信じましょう……ラスティは間違ってないと思いますよ」

 

 

戦艦の中でラゴゥが解体され、コクピットブロックからバルドフェルドさんとアイシャさんが運ばれていく。その姿は正直、アニメじゃ見せられない状態だった。もっと早く、援護に行けていればこの状態にはならなかったのだろうか。そう思っていたらニコルが側に寄り添ってくれた。泣きそうになったがギリギリ耐えたよ。此処で泣いちゃいけないと思ったから。

 

 

「そう言えば……借り物のディンもお釈迦になっちまったな」

 

 

ラゴゥと同じく羽に穴が空いた上に機体本体のダメージも著しいディンに俺は溜息を吐いた。ジブラルタルに戻ったら怒られそうだ。

 



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ザラ隊結成

 

 

ジブラルタルまで引き上げた俺達は待機を命じられていた。それと言うのもクルーゼ隊長がアスランとディアッカも宇宙から地上に降りてくると言うのだ。それまでは暫しの休みとなって……イザークは地上戦のデータを纏めていた。前回の失敗でアークエンジェルを優位に立たせてしまったから気にしているのだろう。ニコルはアイシャさんの事を気にしていた。俺もバルドフェルドさんの事は気になるが、二人は救助された後に専門の医療機関に運ばれて行った。無事だと良いのだが。

 

 

さて、それで俺は何をしているかと言えば……

 

 

「小僧!取り付け完了したからチェックしてくれ!」

「りょーかいです」

 

 

ジブラルタル基地で俺のジンの更なるカスタム化をしていた。借りていたディンを半壊状態で返却したら一人のガスマスクを被った整備班の人にめっちゃ怒られた。そりゃもう、包丁を持って「俺の整備した機体を壊すとは何事だ、貴様ーっ!」って感じで三十分ほど鬼ごっこが開催された程である。

その後、事の経緯を聞いて落ち着いた整備班の人だが「だったら貴様のジンを直すから手伝え」と俺の休暇はなし崩し的に消え去ったのだ。

まあ、ジンの修理の進捗も気になってたから良いんだけどさ。

 

 

俺のジンはコクピットブロックを除いて新造パーツで改修と言う事になって。先ずはエース用の機体に改造して、更にアサルトシュラウド装備をする。此処までは以前の物と同じだが、脚部パーツを新しい試作品を装備していた。ジンの脚部の追加装甲はホバリングシステムが使われている。

整備班の人達は「このホバーシステムは今後、ザフトのMSに使われるだろう。三年もすれば実用化される筈だ」と言っていたが、惜しい。二年後にはドムトルーパーが開発される。もしかして、この試作品のデータ集めがドム開発の下地になるのだろうか。

 

取り敢えず脚部の追加装甲以外は宇宙で仕上げたアサルト装備と変わらない性能になった。現状、ジンのカスタム機としては最大限の性能となった。

 

 

「凄い見た目になりましたね、ラスティ」

「ああ……これで少しは足付きに対応出来るだろうな」

 

 

ニコルが改修された俺のジンを見上げながら呟く。実を言えば正直不安だとは思う。砂漠での戦いの時に二機だけの筈のスカイグラスパーが三機居た事といい、キラの戦闘能力の向上速度が異常に速かった事。

基本的には原作に沿った様に見えるけど難易度が上がっているのは目に見えている。

 

あの時のスカイグラスパーのパイロットは誰だったんだろう?ムウさんは俺を追い回していた。もう一機はカガリだとして……まさかトールか?だとすればスカイグラスパーに乗るのが早すぎやしないか?何気にスカイグラスパーって性能が良いから苦戦するんだよな。

 

 

そんな思いとは裏腹に時間が過ぎ、一週間程が経過した頃にアスランとディアッカ、クルーゼ隊長が合流した。

 

 

「アスラン、ディアッカ!」

「久しぶりだな。宇宙からお疲れさん」

「おう、出迎えありがとよ」

「待たせたな、ラスティ、ニコル、イザーク」

「ふん、宇宙から地上に降りたばかりでボケない事だな」

「久しいな、ラスティ、ニコル、イザーク。早速だが今後の話をしようか」

 

 

久しぶりの再会を喜んでいた俺達だったがクルーゼ隊長が話を切り出す。

クルーゼ隊長の話では今後のアークエンジェル追跡任務はカーペンタリアの部隊が管轄することになり、俺達にはオペレーションスピットブレイクの準備をしてもらいたいらしい、との事だった。

当然、足付きとストライクにご執心のイザークが黙っている筈もなく「足付きは自分達の手で!」と直談判していた。まあ、こうなるよなぁ。

 

 

「ふむ……そうまで言うならキミ達だけでやってみるかね?」

「はい!お願いします!」

 

 

クルーゼ隊長は何かを考える仕草をした後に俺達にアークエンジェルの追撃を決定した。

 

 

「ではキミ達五人で隊を結成してもらう。指揮はそうだな……ラスティ、キミがやってみないかね?」

「「「「ラスティが?」」」」

「え、俺が……ですか?」

 

 

俺を含めて驚く四人。うん、向いてないのは理解しているが、そのリアクションは地味に傷付くぞ。

 

 

「キミの戦闘での振る舞いは指揮官向きと言える……それに僚機へのフォローも的確だ。まあ、無理強いはしないがね」

「御言葉ですが俺に指揮官は向きませんよ。俺も割と無茶をするし……何よりも俺の無茶は指揮官が居て成立する物ですから。ニコルは慎重で一歩踏み出せない事がありますし、イザークとディアッカは熱くなりすぎる部分がありますから、そのフォローを俺がするなら……指揮官はアスランがするべきかと」

「なんだと貴様っ!」

 

 

クルーゼ隊長は他者のフォローが出来る俺を指揮官にと言うが、機体をすぐに駄目にする指揮官は駄目だろうよ。アスラン以外も指揮官には向いてないだろうし。そしてイザークよ、熱くなるのがダメだと言っているのにアッサリと挑発に乗るなよ。

 

 

「アスランか、確かにアスランも指揮官に向いているな。では、キミ達五人はザラ隊として足付きの追跡任務を正式に命じよう」

 

 

こうしてアスランが指揮官になり、ザラ隊が結成されカーペンタリアに移動後に本格的にアークエンジェル追跡任務となったのだが……移動中にいきなり隊長のアスランが行方不明になった。あれか、移送中に会敵して無人島に流れ着く話だ。って事は今頃、カガリと会ってんな……あのムッツリラッキースケベめ。

 




『地上用ラスティ専用ジンアサルト改』

ラスティ専用ジンにアサルトシュラウドを装備した状態の機体。
全身に追加装甲が施されており防御力が向上している。背部と脚部に追加されたスラスターにより推力も強化されている。
固定兵装として肩部にガトリング砲、胸部と腕部にグレネード弾、脚部にミサイルポッドが追加されており火力も向上している。この追加装備は被弾時や不要時にパージすることが可能となっている。

更に試作型マシンガン、試作型対ビームシールド、試作型ハンドガン、アーマーシュナイダーと通常のアサルトシュラウド装備よりも武装が充実しており、背面のブースターは試作品で大型化されており、外部パーツに冷却剤パイプで繋がっている。更に追加装甲の内部には稼働時間を伸ばす為のバッテリーが備わった。

脚部パーツが試作品のホバリングシステムになっており、短時間ならホバリング移動が可能になっている。
全身が試作品の塊となっている為、ある意味データ収集の機体となっている。


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平和の国で・前

 

 

行方不明のアスランが発見された後にザラ隊の出撃となった。俺のジン、イージス、ブリッツ、デュエル、バスターは飛行足場ユニットであるグゥルに搭乗し、アークエンジェルに攻撃を仕掛けていた。

 

結構、弾を撃ち込んではいるもののアークエンジェルは頑丈で中々墜ちる兆しはない。ストライクはイージス、デュエルを相手取り、ブリッツ、バスターは二機のスカイグラスパーに追いかけられながらアークエンジェルに攻撃を加え、俺は地道にアークエンジェルに攻撃を仕掛けていた。

三機目のスカイグラスパーが出て来ないのは此方としては有り難く俺は容赦無く手持ちのマシンガンと固定武装のガトリング、グレネード、ミサイルランチャーを放っていく。アークエンジェルのラミネート装甲はビーム兵器には強いが実体弾には微妙に弱い。与え続けたダメージにアークエンジェルも耐えるがもうそろそろ轟沈だ。なんてタイミングで機体のアラートが鳴り始める。レーダーに映し出されるのはオーブ軍の水上戦闘艦隊。

 

うん、そろそろだとは思ったよ。原作でもそろそろ墜とせるってタイミングで現れたからね、あの艦隊。

 

 

『接近中の地球軍艦艇及びザフト軍に通告する。貴艦はオーブ首長国連邦の領海に接近しつつある。速やかに進路を変更されたし。我が国は武装した船舶、航空機及びMSの事前協議なしの侵入を一切認めない速やかにに転進せよ!』

 

 

オーブ艦隊からオープン回線で警告が発せられる。

 

 

『なんだとっ!?邪魔をするなら……』

「オーブ艦隊に弾を撃ち込もうとしたら俺がお前を撃つからな。中立国を敵対国に変える気か?」

 

 

ビームライフルを構えようとしたイザークに先に釘を刺す。危ねぇ……いきなり外交問題になる所だった。

 

 

『だったらオーブの海域に入る前に墜とすぜっ!』

『繰り返す、速やかに転進せよ!この通告は最後通達である。貴艦等がこのまま転進しない場合、我々は貴艦等に対して発砲する権限を有している』

『よせ、ディアッカ!オーブ艦隊に当たったら問題になる!』

 

 

オーブの海域に入る前にアークエンジェルを轟沈させようとディアッカがバスターのライフルを構えるがアスランが止めに入る。睨み合いの様な状況が続く最中、アークエンジェルからオープン回線が開かれた。

 

 

『アークエンジェルはこのまま突っ込む!』

『な、何だお前は!』

 

 

アークエンジェルは速度を落とさずにオーブ海域へと入っていく。アークエンジェルのオープン回線で女の子が響き渡る。

 

 

『お前こそなんだ!お前で判断できないなら行政府に繋げ!父を……ウズミ・ナラ・アスハを出せ!私は……私はカガリ・ユラ・アスハだ!』

『何を馬鹿な事を。姫様がそんなところに乗っている訳ないだろう!警告通り、我々は貴艦等に対し自衛権を行使する!撃ぇーっ!』

 

 

子供の喧嘩の様なやりとりの後に問答無用とばかりにオーブ艦隊から艦隊射撃が行われる。まだオーブの海域には完全には入っちゃいないんだが。そんなツッコミを入れる間もなく、オーブ艦隊から激しい砲撃がアークエンジェルと俺達に降り注がれていた。

 

 

『どうしますか、アスラン?このままじゃ!?』

『くっ……撤退する!』

「それしかねーよな。ほら、引き上げるぞ」

『クッソォォォォォォォッ!』

『やれやれだぜ』

 

 

ニコルの叫びにアスランは撤退を決め、俺は不満そうなイザークとディアッカを引き連れて撤退した。万が一にも予想外の事をされると困るからな。

撤退した俺達はザフトの潜水艦の中でオーブから開示された発表に驚いていた。

 

 

「こんな発表を信じろというのか!?」

「足付きはもうオーブ海域を出発して我が国の海域外に出て行きましたか……これって俺等がナメられてんのかね?」

 

 

机を叩き怒るイザークと皮肉を口にするディアッカ。気持ちはわかるけど落ち着こうか。

 

 

「俺達がナメられてるとか、そんなことはどうでもいい。オーブが正式に発表したものなら、ここで俺達が嘘だと喚いても仕方がない」

「何を言うアスラン!こんな発表を信じると言うのか!」

「こんなもん嘘だって主張してオーブに押し通れば本国を巻き込んだ外交問題になるぞ」

 

 

アスランが諭す様に俺達に言うが秒でイザークが噛み付いた。俺がフォローをするとイザークはニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

「ほう、流石は冷静だ。いや、ザ・ラ・隊長?それにラスティも随分とフォローが板に付いてるな」

「じゃあ、本国のお前のお母さんに連絡取ろうか?お宅のイザーク君、外交問題を引き起こそうとしてるって伝えるぞ」

 

 

俺とアスランに「今しかない」とばかりに皮肉を言うイザークだが俺の一言に悔しそうに黙った。いや、マジで本国を巻き込む外交問題になるから自重しろ。俺はイザークにアームロックを仕掛けて軽いお仕置きを与えた。ニコルが止めに入ったから直ぐに技を解いたけど。

それとフォローが板に付いたとすれば、主な原因はお前だぞイザーク。

 

 

「一応、カーペンタリアから圧力は掛けてもらうがすぐに解決しないようならオーブに潜入する……それでいいか、イザーク?」

「ほぅ……」

「へぇ……」

 

 

アスランの提案にイザークとディアッカは呆気に取られた表情になる。僅かな沈黙の後、イザークは意地の悪い笑みを浮かべた。

 

 

「OK、従おう。俺なら突っ込んでますけどね。流石はザラ委員長閣下のご子息だ。ま、潜入っていうのも面白そうだし?案外、奴の……ストライクのパイロットの顔を拝めるかもしれないな」

「そりゃ、面白そうだ」

 

 

そう言ってブリーフィング室から出て行くイザークとディアッカ。もうちょっと強めに技を極めるべきだったか?最近、タフになってきたなイザーク。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

そんなこんなでオーブへと潜入捜査となった。アークエンジェルの手掛かりを探そうと躍起になる俺達だったが早くも問題発生中。

 

 

「マジか……この歳で迷子って」

 

 

潜入した際に偽造IDとモルゲンレーテの作業着を借りた俺達はオーブを散策していたのだが、ちょっと興味を惹かれる物があって少しアスラン達から離れてしまった。そして気がつけば俺はアスラン達と完全にはぐれて迷子になってしまった。

 

 

「まいったね、どうも……」

 

 

そうは言いつつも歩きながら街中を散策する。平和だなぁ……とても外では戦争してるとは思えないな。

平和の国か……先日、海域のギリギリの所で騒ぎがあったってのに街中は平和そのものだった。平和と言えば聞こえが良いけど危機感が足りなさすぎる気もするな。その騒ぎを作った原因である俺達が思うのもなんだけど、この国では戦争が完全に他人事になっているんだろう。だから……オーブが地球軍に攻められた時に……

 

 

「きゃっ!?」

「っと、悪い。大丈夫か?」

 

 

なんて思考の海に沈みながら歩いていた所為で注意力が散漫になっていた。前から歩いてきた少女にぶつかってしまい転ばせてしまった。俺は尻餅を搗いた女の子に手を伸ばす。あれ……なんか見覚えがあるような?

 

 

「お前、マユに何してん……がっ!?」

「あ、ヤベ……」

「お兄ちゃん!?」

 

 

俺が女の子に見入っていた次の瞬間、黒髪の少年が俺に殴りかかってきた。俺は咄嗟に拳を避けて、ガラ空きだった少年の首筋に肘を落とした。不意打ちされたから、つい完璧にカウンター決めちまった。

 

ドサリと倒れた黒髪の少年を俺は茫然と見るしか出来なかった。



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平和の国で・後

アドバイスを頂きましたのでラスティ専用ジンの設定と本文の内容を若干変更しました。


 

 

 

 

「お兄ちゃんが本当にゴメンなさい!」

「……すんませんでした」

「ああ、いや……俺も反射的に手を出しちまったから。スマン」

 

 

あれから、少女の説得により黒髪の少年の誤解を解き、お詫びとしてカフェテラスでコーヒーをご馳走になった俺は再び、兄妹から謝罪の言葉を受けていた。尤も兄の方は不満が溢れ出ていたが一応、自己紹介され、この二人は間違いなくシン・アスカとマユ・アスカだと判明する。

 

しかし、シンにマユか……まさか、このタイミングで次作の主人公とキーキャラに会うとはね。オーブだから可能性はゼロじゃなかったけど、まさかのエンカウントである。

 

 

「兄としては可愛い妹が心配だったんだろ?」

「それは……そうかもですけど……」

 

 

先程、聞いた話の経緯はこうである。

街に買い物に来ていたシンとマユだが少し目を離した際にはぐれてしまったとの事。やっとの思いでシンはマユを見付けたと思ったら地べたに座り込み、男に襲われそうになっている、と勘違い。咄嗟に男を突き飛ばそうとして俺に返り討ち……ってのが事の顛末だ。

この頃のシンってまだ家族を失ってないから、やさぐれてはいないと思ってたけどシスコンフィルターが掛かったらしいな。

加えて、二人が通うスクールではオーブ国内でも不審者の目撃情報があった為に注意する様に促されていたらしい。それってもしかして俺達と同様にオーブに潜入した地球軍かザフトなのでは?確信は無いがそんな気がした。

 

 

そんな事情もあったのだから俺が仕方無い事だから気にするなと言うけどマユはそれを気にしていてシンは俺がマユに絡むのが気に入らないらしい。

 

 

「やらかした事は兎も角……大切な人が居て守ろうとする姿勢は間違っちゃいねーよ。後はもう少し状況を見ような」

「……はい」

 

 

俺の一言にシンも素直に頷く。少しは頭が冷えたらしいな。俺はそう思いながらコーヒーを飲んで……その香りと味にバルドフェルドさんが淹れてくれたコーヒーを思い出してしまう。豆が同じなのかな?

 

 

「どう……したんですか?」

「急に黙ったから……大丈夫ですか?」

「ん……ちょっと思うところがあっただけだよ。このコーヒーが知り合いの淹れてくれたコーヒーに少し似てる気がしてな……」

 

 

先程まで俺を不満そうに見ていたシンが今度は心配そうな表情でマユと共に俺を見つめていた。DESTINYの頃も捻くれてはいるけど素直な部分が多かったからな。まだシスコンを拗らせた程度だから不満よりも素直な気持ちが上回るんだろう。

 

 

「その人は……面白くて、俺と気が合う人だったんだ。コーヒーのブレンドが趣味の人で部下や友達にもよく飲ませていたらしい。でも、その人は少し前に大怪我を負ってな。今は彼女さんと入院中だ。それを思い出したから……ちょっとな」

「そうなん……ですね」

 

 

なるべく暗くならない様にしようと思ったがバルドフェルドさんとアイシャさんの事を話してる内に俺自身がへこんできた。それを察したのかシンとマユの表情も曇ってしまう。テーブルの上のシンのコーヒーとマユのココアがカップの中で揺れていた。

 

 

「それよりもシンは大丈夫なのか?綺麗にカウンターが決まっちまったからな」

「だ、大丈夫ですよ。それよりも……」

 

 

俺がシンの肘を落とした辺りに手を添えるとシンは子供扱いすんなとばかりに俺の手を振り払う。そして、また謝ろうとする流れだったのでパンと俺は両手を叩く。

 

 

「ま、俺が気にするなっていってんだから、もうこの話はおしまい。コーヒーもご馳走になったしな」

「はい。あ……そう言えば、お名前を聞いてませんでした」

 

 

これで話を終えようとしたがマユが俺の名を聞く。さて、どうする……まさか、本名を名乗る訳にもいかんしな。

 

 

「見付けたぞ、ラ……貴様!何をサボっている!」

「探しましたよ、ラ……ライ!」

 

 

そんな風に悩んでいたら車道から聞き慣れた叫び声に振り返る。車に乗ったアスラン、ニコル、イザーク、ディアッカが俺を探していたらしい。イザークとニコルがうっかり俺の名を叫ぼうとした所でギリギリ踏み留まり、ニコルが咄嗟に俺の偽名を決めてくれた。

 

 

「おう、悪い。今行くよ」

「あ……ゴ、ゴメンなさい。私達の所為でライさんの、お仕事の邪魔をしちゃったんですか!?」

 

 

俺はニコル達に返事をしつつ席を立つ。マユは自分達の所為で仕事の邪魔をしてしまったのかと心配しているがモーマンタイ。

 

 

「ちょっと長めに休憩を取っただけだよ。コーヒー、ご馳走様。シン、俺に殴りかかってくる度胸があるんだからマユの側に居て、守ってやれよ?じゃあな」

 

 

俺はマユの頭を撫でながらカフェを後にしようとして……最後にシンにアドバイスと言うか忠告をしてから去る。こんなもんで運命が変わるとは思わんが言わなきゃならない気がした。

俺は車の後部座席の真ん中に乗る。運転手がアスランで助手席にディアッカ。後部座席はイザーク、俺、ニコルの順に乗っている。

 

 

「貴様……サボってお茶とは良いご身分だな……」

「羨ましいだろ?」

 

 

イザークの発言にボケで返すと拳が飛んできたので軽く受け止める。フ、甘いなイザーク。さっきのシンの方が勢いがあったぜ?

 

 

「ナンパしたのか、ラスティ?」

「可愛い子だったろ?兄貴も付いてきたけどな」

「ラスティは年下が好きなんですか!?」

 

 

ディアッカがニヤニヤした表情で質問してきて、何故かニコルが食い付いた。ふむ、どう答えるのが正解か……

 

 

『トリィ』

「ん?止まってくれ、アスラン」

 

 

そのタイミングで俺達が入れない工場の敷地内から何かが飛んで来た。その独特な鳴き声に俺は何が来たかを察してしまう。俺の言葉に車を止めたアスラン。俺が車を降りるとアスラン達も車を降りた。すると先程、飛来した物がアスランの下へと飛んでくる。

 

 

『トリィ!』

「何だ、コイツ?」

「へえ、ロボット鳥だ」

 

 

アスランの腕にとまった、精巧な作りのロボット鳥にディアッカやニコルが覗き込む様に見ていた。そして、その直後、工場から俺達と同じくらいの年齢の少年が出てきた。

 

 

「おーい、トリィ!もう、何処に行っちゃったんだよ?」

「アスラン、ソイツはあの人のじゃないか?」

「あ……ああ、そうだな」

 

 

その少年は困った風に辺りを見回し、何かを探している様だった。間違いなくキラである。俺の言葉にアスランはハッとなった表情を浮かべた後にトリィを腕に乗せたまま工場のフェンスの方へと歩み寄る。キラの方も歩いて来たアスランに気付いてフェンスの方に歩み寄っていく。

フェンス越しに見つめ合うキラとアスラン。

 

 

「おい、行くぞ!」

「……ああ」

「友達に……大切な友達に貰った物なんだ!」

 

 

何も知らない者が見ればなんなのか分からない状況に業を煮やしたイザークが車からアスランを呼ぶ。その声に踵を返し戻ってくるアスラン。その背中に叫ぶキラ。アスランは振り返る事もなく車に乗り込んだ。

 

帰り道でアスランが「足付きはオーブに居るからオーブ海域の外で待ち構える」と今後の方針を決めたので数日待機する事が決定した。

 

 

 



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交わした約束

 

 

 

あれから数日間、オーブ海域の外でアークエンジェルを待ち構えていた俺達。恐らく現れるであろうポイントで待ち構えていた。いつ来るか分からないアークエンジェルを待ち続けるのは結構暇なもので補給や整備が終わってしまえば、退屈になってしまう。

 

アスランは何処か思い詰めた表情になっていた。多分、キラの事で悩んでいるな。

イザークはギラギラとした目で日々を過ごしている。多分、『俺がストライクを倒す!』なんて意気込んでいるんだろう。

ディアッカはグラビア雑誌を読んでリラックスをしていた。後で借りるとしよう。

ニコルは……アイツにしちゃ珍しくボーっとする事が多くなった。オーブから戻ってから様子がおかしい気がする。

 

 

まだ出撃にならないので俺はニコルの様子を見にいく事にした。甲板に上がるとニコルがカモメに餌をあげながら囲まれていた。

カモメに餌を与える美少女……うーん、絵になるな。

 

 

「随分、懐かれたなニコル。おっと」

「あ、ラスティ……」

 

 

俺が声を掛けると一羽のカモメが俺の方に飛んできたので腕を伸ばすとカモメが俺の腕に留まる。おお、テレビで見たのをやってみたが案外、上手く乗ってくれるもんだ。

俺の声に振り返ったニコルは少し元気が無さそうに見えた。

 

 

「最近、少し悩んでる風に見えたが何かあったのか?」

「悩み……うん……聞いた方が早いですよね……」

 

 

俺の言葉にニコルは少し躊躇った後に口を開いた。

 

 

「ラスティは……年下が好みなんですか?」

「真顔で何を聞いてんねん」

 

 

真面目な表情で俺を見上げるニコル。思わず、芸人風のツッコミが出てしまった。でも何処か切羽詰まった様子のニコルに答えた方が良いのだろうと思う。

 

 

「そうだな……まあ、年上か年下のどちらかと言えば年下かな」

「そ、そうなんですね……だからラスティはオーブで、あの娘にナンパを……」

 

 

俺が質問に答えるとニコルは悩む仕草を見せた。ちょっと待とうか。あの後、何があったが説明しただろうが。

 

 

「説明はした筈だがシンとマユは偶々会っただけだぞ」

「でもディアッカが『ラスティは足が好きだからスカートを履いた、あの娘の足に夢中になったんだろうぜ』って言ってたので」

 

 

シンとマユに関する誤解は解いた筈なのに、ある意味誤解とは言えない誤解が発生していた。あながち否定も出来ないのが悲しい。取り敢えず後でディアッカには卍固めの刑に処するとしよう。

 

 

「それはディアッカの嘘……いや、からかっただけだろ。と言うか、それで悩んでたのか?ニコルも可愛いし、スカートも似合いそうだから着てみれば良いのに」

「に、似合うと思いますか?」

 

 

俺の発言に食い気味に反応するニコル。落ち着きなさいっての。

 

 

「ニコルは可愛いんだから、もっと自信を持っても良いと思うぞ。さぞ女の子らしい姿も似合うだろう」

「じゃ、じゃあ……今度、着てみますから……その……見て下さいね?」

 

 

思えばニコルは学生服と軍服しか見た事がない。しかも軍学校の制服もスカートをではなくズボンを履いていた。特別許可を貰っていたらしいのだが、俺としてはスカートを見たかった。

そんなニコルが私服を……しかもスカート姿を見せてくれると言うのなら嬉しいじゃないの。恥ずかしそうに、そんな事を言われたら色々と考えちゃうじゃないの。

 

 

「じゃあ、休みが取れたら一緒にショッピングにでも行くか。楽しみだなー、ニコルを着せ替えさせるの」

「うっ……いきなりハードルが上がりましたよね!?僕に何を着させるつもりなんですかっ!?」

 

 

俺の提案にニコルは何を着せられるのか想像したのか頬を染めていた。そんな想像をしたのなら、想像通りにしてやろうじゃないの。色々と楽しみになって来たぞー。

 

 

このやり取りの二日後にアークエンジェルを捕捉した俺達は出撃する事になった。俺は後々、この死亡フラグ満載の会話をニコルとした事を後悔する事となる。

 



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運命の楔

 

 

 

 

オーブから出航し、オーブ海域の外に出たアークエンジェルを俺達は襲撃した。

しかし、向こうも待ち構えを予想していたのか、煙幕で姿を隠した後、アークエンジェルの砲撃とランチャーストライクのアグニが放たれ、いきなり出鼻を挫かれる形となった。だが、こうなるのは此方も予想済み。ストライクはアスランとイザーク。スカイグラスパー二機はニコルとディアッカが担当し、俺がアークエンジェルの担当になった。装備の関係上、俺がストライクの相手をする訳にはいかないからな。

だが、今回の話は今後に関わる話な上に俺にとっても最重要案件となっている。今回のストーリーはアスランを庇ったニコルがソードストライクにコクピットを切られてしまう話になっている。誰がそんな事させるかよ。

今までもイレギュラーな事が多く、歴史の修正力的な物を感じだが今回ばかりは失敗は許されない。

 

 

『うわっ!?』

『チクショゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!』

 

 

そんな訳で俺は戦場の様子を観察しながらアークエンジェルに攻撃を加えていた。ある程度ダメージを与えていた所でバスターとデュエルがストライクに足場であるグゥルを墜とされ、落下して行く。いや、早ぇーわ!ワンセットで落とされてんじゃねーから!その間にもアークエンジェルの砲撃にイージスとブリッツが追い詰められていて、二機のスカイグラスパーの支援も何気にキツい。明らかに原作よりも手練れになった感があるアークエンジェル勢。ストライクだけじゃなくて全体的に強くなってるよなぁ、明らかに。

そんな事を思っていたらストライクはランチャーからエールに装備を空中で変えていた。

 

 

『アイツ、空中で換装を!?』

『くっ……』

『ボサっとすんな、二人共!イザークとディアッカは地上から支援してくれ!』

 

 

サーカスもビックリな戦場で武装のドッキングを目の当たりにして動揺が隠せないニコルとアスラン。俺は落下して行ったイザークとディアッカに叫ぶ。少しでもアークエンジェルの動きを鈍くしてくれれば御の字だが……俺はグゥルを走らせ、アークエンジェルの攻撃からニコルとアスランの援護に向かう。

 

ブリッツとストライクはタイマンをしており、イージスはエール装備を外したスカイグラスパーに追いかけられてニコルの援護が出来ないのだろう。しかも地味に二機目のスカイグラスパーの援護が効果がある。

だが、やられてばかりじゃないっての!俺はストライクに接近してグレネードを放つ。ブリッツと戦っていたストライクだったが超反応で振り返るとシールドで防御される。

 

 

「あの距離で気付くか普通!?だが!」

『やぁぁぁぁぁぁっ!』

 

 

俺の方に振り返った事でブリッツの方がガラ空きになる。ブリッツからグレイプニールが放たれるがストライクはソレを避けてブリッツに迫ると左手でビームサーベルを構えた。ブリッツも迎え打とうとしたがスカイグラスパーから放たれたミサイルに動きを阻まれてしまう。その一瞬をストライクが見逃す筈も無く、ブリッツの右腕を切り落とそうとしたので俺は足場だったグゥルを単体で放ち、体当たりをさせる。体勢を崩したストライクを俺は背後から押さえ付けて一緒に地面に激突した。

 

 

「ガハッ……やっぱキツい……だが、これでアイツ等から引き剥がしたぞ……」

 

 

地表への衝撃もさる事ながら機体のダメージも大きいが俺の狙いはストライクをアスラン、ニコル、イザーク、ディアッカから引き離す事だ。俺がストライク相手に時間を稼ぎ、残った四人がアークエンジェルとスカイグラスパーの相手をしてくれれば良い。まったく、勝算がない訳じゃ無いしね。

 

 

「と言う訳で……お相手願おうか!」

『もうよせ!ジンなんかで!』

 

 

俺はペダルを踏み、背面のブースターを噴かせてストライクに急接近しながら手に持つマシンガンと肩のガトリングを放つ。当然、PS装甲のストライクにはノーダメだが俺は時間稼ぎに徹すれば勝機が見える。この戦い方はバルドフェルドさんがバクゥで行った戦いで実体弾でエネルギーを削り、バッテリーが切れてPS装甲がダウンするのを待つ。アークエンジェルはイザークとディアッカが抑えているし、二機のスカイグラスパーはアスランとニコルが動きの制限をしている筈。

 

 

「とは言っても……キツ過ぎるけどな!ドンドン強くなってねーか!?」

 

 

最初は当たっていたマシンガンやガトリングも当たらなくなっていた。高速移動をしながら弾を当てていたのだが段々見切られたのか当たらなくなっていき、寧ろ先読みされて肩を撃ち抜かれた。瞬間的に肩の追加装甲をパージしてダメージを最小に抑えたが対峙してるのも正直ツラい。

と思っていたのだがストライクのPS装甲がダウンした。これは勝機!……と油断はしない。何故ならば俺の背後から二機目のスカイグラスパーが飛んできてるのだ。そうだよな、エネルギー切れのストライクにソード装備を渡しに来るよな。

 

 

『俺がお前を落とす!ガアッ!?』

「アスランか!お前は下がれ!」

『こんのぉぉぉぉぉぉぉっ!』

 

 

俺がスカイグラスパーの相手をしようと思った瞬間、アスランがエネルギー切れを起こしたストライクに突っ込んで行った。しかし、ビームライフルを避けられた上にカウンターで拳を食らったイージスは岩盤に叩き付けられた衝撃で動けなくなっていた。

俺がストライクに接近しようとしたらスカイグラスパーのビームが飛んできたので避ける。あの機体はニコルを相手にしていた筈だが、振り切られたらしいな。しかも、その間にストライクは二機目のスカイグラスパーからソード装備を受け取ってエネルギーも装備も万全状態になってる。

 

 

『もう退け、アスラン!キミ達の負けだ!』

『何を言う、撃てば良いだろう!俺はお前を撃つと言った筈だ!お前も俺を撃つと!』

 

 

二人とも熱くなって周りが見えてないな。オープン回線でそんな会話すんなよ。距離があるから俺しか聞いてないだろうけど。アスランを援護しようと思ったら二機のスカイグラスパーからの援護に阻まれてしまう。その一瞬の隙だった。

 

 

『アスラン、下がって!』

『よせ、ニコル!』

 

 

ミラージュコロイドを解除し右腕のトリケロスのビームサーベルを展開して突撃するブリッツの姿が見えた。出来たら姿を消したまま奇襲して欲しかったがエネルギーの問題もあるのだろう。だが、俺がこれを見逃す筈が無いだろうが!俺は脚部の試作型のホバー推進を全開にしてストライクに急接近させる。

 

 

「ニコル、アスランを連れて下がれ!」

『え、ラスティ!?』

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

 

 

ストライクはブリッツの左側に踏み込むことで回避し、隙だらけの腹部へ右薙ぎに大型ソードを振ろうとした。俺は側面からストライクへタックルしてブリッツとの距離を開けさせた。

 

 

「アスランも撤退しろ!奴等の方が上手になってんだ!対策しないと勝てる相手じゃないのは明らかだ!ニコルも援護するからイザークとディアッカと合流してサッサッと引き上げろ!」

「し、しかし……」

『いやです!ラスティが戦うなら僕も……』

 

 

俺の叫びにアスランは戸惑い、ニコルは再び俺の援護に回ろうとしたが俺は背面のブースターと脚部のホバーを吹かしてストライクを押し出す。イージスとブリッツから物理的に距離を取った俺はストライクを押し出したらスモークを散布して退こうと思っていたのだが、背面のブースターがスカイグラスパーに撃ち抜かれて俺とストライクは地面を滑る様に叩き付けられる。

 

 

「痛ててっ……良い腕してやがる……こりゃ飛ぶのはもう無理だな」

 

 

地面を滑る衝撃でコクピットが揺さぶられる。スカイグラスパーのビームは完全に俺のジンのブースターの片翼を撃ち抜いていた。もう一機のスカイグラスパーがイージスとブリッツにちょっかいを掛けているから、今俺のジンを撃ったのは二号機の方か。そして目の前のストライクから前蹴りで距離を開けられ、ストライクは再び大型ソードを構えた。

 

 

「こりゃ……退くに退けなくなっちまったな……」

 

 

今、俺のジンはマシンガンもシールドも無い。ガトリングもグレネードもミサイルも弾切れ寸前。スモークで逃げようにも背面のブースターが使えないから撤退も厳しい。アークエンジェルの方は……ダメだな。デュエルとバスターが頑張って攻撃しているが決定打となるダメージは与えられていない。

 

 

「ちっ……だが、時間稼ぎをすれば逃げるチャンスも……」

 

 

そう思いたかったがストライクは肩のビームブーメランを投擲して来たのでホバー移動で避ける。避けながらガトリングを撃ち間合いを取りながらシールドから取り外しておいた試作型のハンドガンを右手にアーマーシュナイダーを左手で逆手に構えた。

アーマーシュナイダーならPS装甲にダメージを与えられる。それは奇しくもストライクがデュエルに実践して証明された事だ。

俺は間合いを取りながらホバーでストライクの周囲を旋回し、隙を窺う。

 

 

その時だった。

 

 

 

『キラァァァァァァァァッ!』

「アスラン!?馬鹿、来るなっ!」

 

 

アスランのイージスが俺とストライクの間に割り込む様にビームサーベルを両手に展開して突っ込んで来たのだ。あの馬鹿!そろそろエネルギーもヤバいだろうに!

案の定、イージスはストライクの大型ソードの峰打ちで返り討ちにされた。だが、ストライクは流れる様に峰打ちから刃の側に切り替えており、イージスがトドメを刺される寸前となっている。防御しようにも無情にもイージスのPS装甲がダウンした。あの時に素直に撤退してくれてれば俺も逃げれたのに、と思いながらも俺は咄嗟にストライクへの距離を詰めていた。

俺は先程と同様にストライクにタックルで怯ませようとしたが、先程の事で動きを読まれたのかストライクのバルカンで右手のハンドガンを破壊され、更にハンドガンが誘爆し右手が破壊されてしまった。更に大型ソードが振るわれて左腕と左脚も同時に斬られてしまう。機体のダメージを知らせるアラートが鳴り響く。いや、アラートが鳴っていない部分の方が少ない。

 

 

「マジかよ……だが、まだだ!」

『なっ……うわっ!?』

 

 

俺はペダルを踏み、片翼となった背面ブースターでジンの体勢を無理矢理起こすと、残された右脚のホバー推進でストライクの顔面を蹴り上げた。だが、その直後に残された右脚も斬られてしまい、俺のジンはダルマ状態。そして機体はそのまま身動きが取れなくなり海の中に沈んでいく。思えば、この世界でMSをダルマにされたのは俺が初なんじゃね?

 

そんな事を思っていたらコクピットのアラートが鳴り終わる。いや、これは鳴り終わったと言うよりは……モニターに『danger』『warning』と表示されている。

 

あ、この状態はヤバい……そう思った次の瞬間、俺の機体は一瞬の衝撃の後、大爆発を起こした。そこで俺の意識は途絶えた。



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それぞれの想い

 

 

 

◆◇sideアスラン◆◇

 

 

 

「この…‥大馬鹿者がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!何故あの時、退かなかった!貴様が……貴様がラスティの言う通りに撤退していれば奴は……奴は……」

「イザーク……」

 

 

ラスティのジンがキラのストライクによって討たれた。茫然自失となった俺を回収したのはラスティの指示で足付きを攻撃していたイザークとディアッカ。そしてイザークとディアッカに合流したニコルだった。

あの時、ラスティがキラと戦っていた最中……俺とニコルは撤退の為に二手に分かれた。ニコルはイザークとディアッカを呼びに離れ、俺はラスティの支援に向かった。そこで俺はラスティの撤退援護をして撤退すれば良かったのにラスティとの戦いで満身創痍に見えたストライクを見て俺の感情は爆発した。キラを討つならせめて俺の手で……そんな俺の思いと決意は上辺だけのものだった。そんな半端な思いで戦いを挑んで、その結果ラスティは俺を庇ってキラに討たれた。ラスティのジンはストライクのソードでバラバラに切り刻まれ、海に落ちた後に爆発を引き起こした。あの爆発では生きてる可能性は限りなく低いだろう。しかも足付きからの攻撃から逃げる為にラスティの機体の捜索も出来なかった。

 

潜水艦に戻った俺はイージスから降りた直後、イザークに詰め寄られて胸ぐらを掴まれて壁に叩き付けられた。いつもなら此処でラスティがイザークを止めるか茶化して場を和ませるが……いない……そうだ、俺の所為でラスティは……

 

 

「よせ、イザーク!」

「なんだと、ディアッカ!アスランを許せとでも言うのか!?」

 

 

そんなイザークを止めたのはディアッカだった。睨むイザークにディアッカはクイッと親指で右側を指差す。その仕草に俺とイザークの視線は同時に移り……言葉を失った。

 

 

「ラスティ……嘘ですよね……一緒にショッピングに行くって約束を……うっ……ラス、ティ……約束したのに……うっひぐっ……らすてぃ……」

 

 

ニコルは地べたに座り込んだまま動かなくなっていたのだ。ラスティのジンが置かれていたハンガーを見上げて涙を流している。その姿に俺とイザークは何も言えなくなり……イザークの手の拘束も緩んだ。

 

 

「一番ツラい奴が居るんだ……少しは気を使ってやれよ……」

 

 

ディアッカの絞り出すような一言に俺は視線を落とす。そうだ、あれだけラスティに懐いていたニコルが一番ツラい筈だ。だが、ニコルになんと言えば良いのか分からない。

こんな時、ラスティだったら場を和ませながら笑わせてくれたのだろう。イザークもディアッカも同じ気持ちなのか黙ってしまっている。俺達はラスティが居なくなった……それだけでこんなにも足を止めてしまう程に弱かった。それだけラスティが俺達の中で大きな存在なのか思い知らされてしまう。

 

 

『あんまり気にすんなって、気にし過ぎると禿げるぜアスラン』

 

 

一瞬、ラスティの声が聞こえた気がした。もしもラスティがこの場に居たら、こんな事を言うんじゃないかと幻聴まで聞こえたらしい。俺がそんな事を思っているとニコルは立ち上がり、俺達を見据えながら叫ぶ。

 

 

「行きましょう……足付きもストライクもダメージは受けている筈です。今から追いかけて、ラスティの仇を……僕がストライクを討ちます!」

「っ!当然だ!だが、ラスティの仇は俺が取る!」

「だったら競争だな。俺も話に乗るぜ」

「……決まりだな。俺達は足付きの追跡任務を続行する」

 

 

一番ツラい筈の……そしていつも優しげな表情のニコルがいの一番に戦いを決意し、イザークとディアッカもニコルの気持ちを汲んで足付きを沈める事を決意した。だったら……俺も隊長として覚悟を決める。先程までの上辺だけじゃない……俺がストライクを……キラを討つ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇sideディアッカ◆◇

 

 

 

ラスティがストライクとの戦闘でMIAになった。その言葉を俺は信じられずに居た。アカデミーの頃から何処かタフな奴で何があっても場を和ませて笑いをとっていた。ラスティは何というか……クルーゼ隊の潤滑油みたいな奴だった。メインではないもののサポートが上手く、気が付けば誰かの隣に居る奴。イザークとアスランが揉めるなら真っ先に間に入るか茶化す奴だった。アイツが居ないと思うと……妙に静かなもんだと思ってしまう。

 

部屋に戻った俺はアカデミー時代を思い出していた。初対面の奴ばかりが揃う教室で超速で馴染んだコミュ力が異常に高い奴ってのが第一印象だった。

堅物のイザークや真面目なアスランと違ってラスティは俺と女の話を時折する奴だった。俺は胸派だがラスティは脚派。派閥は違うがグラビア雑誌を見ながら良く語り合ったもんだ。

 

 

「ああ、そういや……貸す約束してたっけ……」

 

 

俺はラスティが今度貸してくれと言っていたグラビア雑誌を手に取る。何故か、いつも手にしている筈の軽い雑誌が妙に重く感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇sideイザーク◆◇

 

 

俺がラスティと初めて会ったのはアカデミーでの事だった。会った時からヘラヘラ笑って、俺とは合わない奴だと思っていたが、ラスティは強かった。MS戦でも肉弾戦でも、俺は奴に勝てなかった……クルーゼ隊に配属になってからも奴の関節技から抜け出せる事は無く、随分と苦しめられた。

 

奴は頼んでもいないのに、俺のサポートをする事が多かった。ディアッカは援護射撃でラスティは接近戦での援護が巧みで何度も助けられた。

大気圏間際での戦いで俺はストライクとの対決の邪魔をした脱走兵のシャトルを撃ち落とそうとしたがラスティに阻まれた。後から聞かされたのだが、あのシャトルには民間人が乗っていたのだと言う。それを聞いた時、俺は血の気が引いた。いくらナチュラルでも力を持たない者を撃つなど、あり得ないからだ。それを止めてくれたラスティには感謝しかない。

奴はいつもそうだ。どれだけ俺達が熱くなっても、いつも冷静に周囲を見ている。

 

だから、俺は許さない……我が友を討ったストライクを……

 

 

 

 

 

 

 

◆◇sideニコル◆◇

 

 

 

 

 

ラスティがMIAで行方不明になった……その事実を僕は受け入れる事が出来なかった……彼の事だから「あー、死ぬかと思った」なんて、へろっと笑いながら帰ってきそうだと思ってしまう。

 

僕がラスティと初めて会ったのはアカデミーの時で年下と言う事で周囲に中々馴染めなかった僕をラスティは手を引いてアスランやイザーク、ディアッカの友達の輪の中へと誘ってくれた。

でも、何故か僕が自己紹介をした時に「ん?……女の子……うん、OK問題ない……なんで違和感を覚えたんだろ?」なんて言っていたのは妙に印象に残った。

 

ラスティ達の輪に入ってから笑いの絶えない日々が続いた。

 

イザークと言い争いになったラスティはプロレスを開始して……

アスランとMS運用の話をする時は物凄く盛り上がって……

ディアッカと……エッチな本をコソコソと読んだりして……

 

でも皆の中心にはラスティが居た。皆と笑っているラスティにドンドン惹かれていった。いつの頃からか彼が笑っていると胸がドキドキしていた。

特にMSの事に関わっている時の彼の無邪気な笑う顔が好きだった。

 

アスランとの訓練で頭を打ってから何か悩みがあったのか、難しい顔をする事が増えたけど悩みが解決したのか、吹っ切れたのかいつものラスティに戻っていった。

 

一度だけ、あるトラブルで僕の着替え途中をラスティに見られてしまった事がある。慌ててタオルで姿を隠したけど、ほぼ全裸を見られてしまい凄く恥ずかしかった。この時があったからバルドフェルド隊長に『ドレスのデザインは足が出るのが良い』と言ったのだろう。

 

ラスティがショッピングに誘ってくれて僕は似合わないかも知れないけどスカートで行ってみようかと考えていた。でも、その約束も水泡に帰してしまう。

 

ラスティのジンが置かれていた場所を僕はズッと見ていた。いつもなら僕の隣にラスティが立って一緒にジンや四機のGを見ていた場所。彼のお気に入りの場所。その隣こそ僕の居場所だった。

 

 

その居場所はストライクの手によって奪われてしまった。僕は生まれて初めて本気で人を憎んだかも知れない。ストライクは僕の手で討つ。ラスティの仇を取ると決意した。

 

 

『俺は敵討ちなんて望まねぇよ。つまらない事を考えんじゃねーよ。変に意地はってないで素直になってみろよ。いつもみたいに可愛い顔で笑ってくれ』

「笑え……ないよ……いつもみたいに側に居てくれないと……笑えないよ、ラスティ……」

 

 

ラスティの声が聞こえた気がしたけど僕は笑う事が出来なかった。その場に座り込み、涙を止める事が出来なかった。

 




主役不在回でした。


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閃光の刻

本日二度目の更新


 

 

◆◇sideニコル◆◇

 

 

ラスティの敵討ちだと意気込んだ僕達は足付きに奇襲を仕掛けた。僕とイザークがストライクを二機の戦闘機をアスランが、足付きをディアッカが担当する配置となり、一気呵成に畳み掛ける形となったのだが……ストライクが兎に角、強かった。僕とイザークの二人がかりなのに上手くあしらわれた上にデュエルのグゥルをビームライフルで撃ち落とし、更に蹴りで空中から地面に叩き落とす。その蹴った反動で僕のブリッツに急接近したストライクはビームサーベルを引き抜くとブリッツの左腕を切り落とした。なんて速度だ、反応が追いつかない。

 

 

「でも……まだだ!」

『くっ!?』

 

 

僕はトリケラスのビームサーベルを発動させて振りかぶる。ストライクの肩に命中はしたが、ダメージを与えるだけで切り落とすまでには至らなかった。

 

 

『クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』

『デュエル!?しつこいっ!』

「回り込みます!」

 

 

地面に叩き落とされたデュエルだがブースターでジャンプしてストライクに迫る。僕が攻撃した事で体勢を崩していたストライクは反応が遅れて左脚にダメージを負うが致命傷にはなっていない。先程からこうだ。時折、攻撃は当たるものの殆どが避けられ、当たっても最小限のダメージにしかならない。宇宙で戦っていた時は互角だったのにドンドン力の差が開いていった気がする。そんなストライクにジンで互角に戦ったラスティの凄さを改めて感じてしまった。

 

 

『油断するな、ニコル!』

「え……キャァァァァァァァァァァッ!?」

 

 

イザークの叫びにハッとなる。僕は戦闘中なのに、ラスティの事を考えて隙を作ってしまった。その隙をストライクが見逃す筈も無く、僕のブリッツは両足を斬られ、体勢が保てなくなり落下していく。

 

 

「うっ……がっ!?」

 

 

落下し、地面に叩きつけられた衝撃がコクピットを襲う。ブリッツは半壊状態で受け身も取れなかったので直で衝撃が来たみたいだ。

 

 

「ごめんなさい……ラスティ……仇が……と、れ……」

 

 

僕の意識は其処で途絶え……次に目が覚めた時には足付きの中だった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇sideアスラン◆◇

 

 

 

ニコルとイザークがキラのストライクを相手に戦っている最中、俺は二機の戦闘機を相手にしていた。一機はベテランが乗るタイプで素早い動きに的確な判断をしていたが、もう一機は少々不安定な動きをしていた。

 

 

「墜ちろ!」

 

 

俺は早くニコルとイザークの援護に回る為に二機の戦闘機を墜とそうとしたのだが足付きとの巧みなコンビネーションで苦戦させられる。ディアッカのバスターも足付きを落とそうと必死だが、二機の戦闘機との連携を重ねてくる足付きに決定打が打てない状態が続いていた。そんな中、ニコルのブリッツがストライクに切り刻まれて落下していくのが見えた。それと同時にディアッカのバスターも一機の戦闘機に腕を撃ち抜かれ、行動不能に。イザークのデュエルもそろそろエネルギーが心許ない筈だ。

 

これが俺達と奴等の差か……ラスティが居ないだけで随分とボロボロにされたものだと思ってしまう。

 

 

「イザーク、撤退しろ!ストライクは……俺が墜とす!」

『なんだと、貴様!勝手な事を抜かすな!』

 

 

俺が指示を出すとイザークは即座に噛み付いてきた。だが、俺も引くわけにはいかない。

 

 

「隊長としての判断だ。補給に戻れ、イザーク。それまでは……俺が戦う」

『……ちっ。深追いをしようにもエネルギーが足りないのも事実だ。補給が済んだら、すぐに戻るからな!』

 

 

エネルギーの事もあり、素直に引いてくれたイザーク。宇宙で指示に反してラスティに迷惑を掛けた事を思い出したのだろう。間を空けてから舌打ちが聞こえたがイザークのデュエルは補給の為にこの場を離れた。

 

 

「すまない、イザーク。だが、これは……俺のケジメなんだ!」

 

 

俺はイージスを走らせてストライクに迫る。俺の甘さがラスティを殺した。ならば、その代償は俺が支払わねばならない。

 

 

「キラァァァァァァァァッ!」

 

 

俺は上辺だけじゃない……本気の覚悟でキラを討つ!

 




ラスティ「出番まだー?」

次回、判明します。


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憎しみの連鎖と初めまして

 

 

 

◆◇sideミリアリア◆◇

 

 

 

アークエンジェルに攻撃を仕掛けていたGのパイロットを機体ごと捕虜にした。その報告を聞いた私は複雑な気持ちになっていた。トールもキラもMIAになったのに敵のパイロットを保護する形になるなんて……一人は褐色の生意気そうな男。もう一人は小柄のショートヘアの可愛い女の子だった。

 

気になる事があった私は医務室で怪我の様子を診察している筈の二人の敵パイロットの所へと向かった。キラと戦っていたのはイージスだった。残った二機のどちらかはトールが乗っていたスカイグラスパーの行方を知っているかも知れない。私はそれが知りたかった。

 

医務室に行くとベッドには褐色の男が此方を馬鹿にした様な雰囲気を出していた。私がトールの事を聞こうと思ったら先に男の方が口を開いた。

 

 

「ハッ……何、暗い顔してんだよ、恋人でも死んだのか?」

「っ!」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、私の頭は一瞬で沸騰した。医務室に治療用として置いてあったナイフを持った私はコイツを……

 

 

「なんて酷い事を言うんですか!!」

「ぐはあっ!?」

 

 

私がナイフを振り下ろそうとした瞬間、カーテンに仕切られた反対側のベッドからもう一人のパイロットの女の子が飛び出して男の顔面に蹴りを叩き込んでいた。その細く綺麗な足から放たれた蹴りは完璧に男の鼻に命中して男は壁に叩きつけられた。

女の子の方はTシャツにハーフパンツに着替えさせられていて、手を後ろに縛られているが男を涙目になりながら睨んでいる。

 

 

「な……何するんだよ、ニコル!?」

「僕達は……僕達はラスティの敵討ちでストライクを討ちに来ていたんですよ!僕達がツラいんだから、この船に乗っている人達もツラい思いをしているに決まってるじゃないですか!なんで、そんな酷い事を言えるんですか!?」

 

 

鼻から血をダラダラと流しながら抗議する男に女の子が叫ぶ。茫然とその事態を見ていた私だったけど彼女達も誰かを失った悲しみを持っていたらしい。この子も私と同じ様に好きな人を失ったのだろうか。

 

 

「何してるんだ、ミリィ!?……本当に何があったんだ?」

「あ、えっと……」

 

 

騒ぎを聞きつけ戻ってきたサイだけど、この状況を見て混乱してる。仲間割れをしている敵パイロット二名にナイフを持ったまま立ち尽くす私。誰が見ても混乱するだろう。

そんな状況を破る様に入口の方からガチャリと銃を操作する音が聞こえたので振り向くと女の子に銃口を向けたフレイが立っていた。

 

 

「コーディネーターなんて……皆、死んじゃえばいいのよ!」

「駄目っ!」

「キャアッ!?」

 

 

私は咄嗟にフレイを止めようとしたけど、フレイが構えた銃から弾が放たれ、天井のライトを破壊した。ライトの破片が女の子に降り注ぎ、悲鳴が聞こえた。

 

 

「止めるんだ、フレイ!」

「何で邪魔するのよ!?ミリィだってコイツ等を殺そうとしたじゃない!?」

 

 

サイがフレイを羽交い絞めにして銃を取り上げる。私は咄嗟に女の子に駆け寄り、髪に降り注いだライトの破片を取っていた。さっきまで殺したい程、憎んでいた筈なのに私はこの子を放って置けなくなっていた。

 

 

「ミリィだって憎いんでしょう!?トールを殺したコーディネーターが!トールもキラも殺したコイツ等が憎いんでしょ!」

「……違う、違う!」

「止めるんだ、二人とも!」

 

 

フレイはコーディネーターが憎いのは同じだと主張してくる、否定は出来ない。さっきのこの子の涙と誰かを失った発言を聞かなかったら私もフレイみたいにこの子達を憎み切っていたに違いない。フレイはサイが取り押さえていたけど私はこの子を庇っていた。

 

 

「おい、なんだこの騒ぎは!?」

「何をしている!」

 

 

銃声と騒ぎを聞き付けて、艦内のクルーが走ってきた。この後、私達は厳重注意を受けて、敵パイロット二名は部屋を捕虜用の場所へ移されていった。

 

 

この騒ぎの数時間後。私は捕虜用の部屋に向かって二人と柵越しに対面していた。女の子の方は私に気付くとペコリと頭を下げた。

 

 

「先程は気に障ることを言ってしまったようで、すみませんでした。ほら、ディアッカも」

「………悪かったよ」

 

 

女の子の方が頭を下げて謝罪する。そして、そのまま男の方にも謝罪を促して、謝らせてきた。男の方も悪いと思っていたの素直に謝ってくる。先程、鼻を蹴られたから鼻に大きめなガーゼが当てられている。少しだけ胸がすく気分になった。

 

 

「それで何の用だよ?……さっきの仕返しにでも来たか?」

「………スカイグラスパーのパイロット」

「スカイグラスパー?」

 

 

先程に比べれば多少はマシとは思うけど皮肉気味な口調は変わらない。思わず殴りたくなったけど、私は聞きたかった事を聞く事にした。女の子の方はスカイグラスパーを知らなかったのかオウム返しで聞き返してきた。

 

 

「戦闘機よ。青と白の。島であなた達が攻撃してきた時にも出撃していたわ」

「ああ、あの……二機飛んでいた筈ですね。あの機体が何か?」

「あの機体か……アスランが落とした戦闘機だな」

 

 

女の子の方は私の質問の意味がわからなかったみたいだけど男の方は察した様だ。

 

 

「遠目だけど見えたんだ。ストライクとイージスの戦いに割り込んで……イージスの投擲したシールドに翼を落とされて海に落ちていった筈だ」

「それは……」

「……トールはその後、機体のシグナルがロストになって……MIAになったわ」

 

 

あの時、レーダーだけで状況を知る事は出来なかったけど、バスターのパイロットは投降する際に僅かに見えていたらしい。私は知りたかった事は聞けたけど……トールの生存は希望が無いと思い知らされた気分にさせられた。私が踵を返して捕虜用の部屋から出て行こうとすると、女の子の方が声を掛けて来た。

 

 

「僕も……大切な人を失いました。ストライクに討たれて……」

「……同じだったのね。でも……ごめん」

 

 

私は女の子の吐露に何も言えなくなってしまう。女の子の言う、大切な人はキラのストライクに墜とされたみたいだ。だから、この子や男の方も必死に仇を取ろうと戦いを仕掛けてきたんだと思う。私はそれ以上、何も言えなくなって足速にその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇???◆◇

 

 

 

体が痛ぇ……まどろむ意識の中、俺はボーッと見覚えの無い天井を見上げていた。フッと意識が急浮上する感覚に俺は周囲を見渡して……凄い美人が俺の顔を覗き込んでいた。なんか見覚えのある人だと思った瞬間……俺の意識は完全に覚醒した。

 

 

「あら、目が覚めたわ」

「え……ア、アイシャさ……痛でぇ!?」

 

 

視線の先には砂漠で重傷を負ってプラントの特別施設に行った筈のアイシャさんだった。俺は勢い良く起きあがろうとしたら体に激痛が走った。

 

 

「ダメよ、まだ起きちゃ」

「痛たたっ……こ、此処は?」

 

 

咄嗟に俺の体を支えてくれたアイシャさん。一体、何がどうなってるんだ?

 

 

「あら、目が覚めまして?初めまして、ラスティ・マッケンジーさん」

「ラ、ラクス・クライン!?」

 

 

え、いや……マジで何が起きているんだ!?和やかに挨拶をするラクスに俺は混乱するしかなかった。



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此処に至るまでの経緯

 

 

 

 

あれからアイシャさんに支えてもらいながら起き上がり……俺の身に何が起きたかを教えてもらった。

俺は傭兵の叢雲劾に助けられたのだという。ああ……クルクルシュピンの人ね。じゃなくてブルーフレームに乗る凄腕の傭兵サーペントテール。

あの人はブルーフレームの水中装備のテスト中に俺とストライクの戦闘に遭遇。俺のジンが敗れて海中に落ちた段階で機体のダメージがヤバい事に気付き、爆発寸前だった背面のブースターを無理やり引き剥がして、爆発から俺を逃してくれたらしい。だが、爆破の衝撃が凄まじくて俺のコクピットへ影響が出たらしく俺は気絶。その後、ザフトに俺を引き渡そうと思案したが任務の都合上、それは叶わず仕方なくマルキオと呼ばれる信頼出来る人物に治療を依頼して引き渡したらしい……マジかよ。

 

 

「本来であれば貴方をザフトにお送りするべきなのでしょうが……少々事情がありまして、私の所で治療を行わせて頂きました」

「成る程……経緯は理解しましたが、なんでアイシャさんが此処に?」

 

 

なんとなく話の流れは読めてきた。多分、『少々事情』ってのはキラの事だよな。うろ覚えだが、キラとアスランの死闘の後にキラを助けたのはジャンク屋のロウだった筈。そのロウがマルキオ導師にキラを預けて、治療中だった俺も搬送……って所かな。

 

 

「ラクスと呼び捨てで結構ですよ?敬語も必要ありません。アイシャさんの方は……」

「そこからは私が説明するわ。貴方と最後に会ったのはラゴゥで出撃した時よね。あの坊やに負けた後、貴方が助けてくれたのでしょ?ラゴゥが爆発した時にアンディが私を庇ってくれたのよ。私は体に傷跡が残った程度だけどアンディが重傷だったの。私はアンディの治療の為にプラントに戻り、今はラクス様のお手伝いの途中なの。護衛も兼ねてるけどね」

「アイシャさんの事情は理解しました。バルドフェルドさんには後で見舞いにでも行かせてもらいます。んで、お姫様の方も了解だ。今後はラクスと呼ばせてもらうよ」

 

 

アイシャさんから事情を聞いておおよそ理解した。あの時、ストライクのアーマーシュナイダーが俺の妨害でコクピットに届かなかったからラゴゥの爆発は小規模で収まり、バルドフェルドさんがアイシャさんを庇った事でアイシャさんは生存。傷跡は残ったものの軽傷で済んだとのなら結構な話だが……問題はバルドフェルドさんだよな。アイシャさんが生存で軽傷で済んだって事はバルドフェルドさんが原作以上の重傷になった可能性がある。アイシャさんが生きているんだから結果としては良しと思いたいが……ちょっとモヤモヤするな。もっと良い結果があったんじゃと思ってしまう。贅沢なんだろうな、この考えは。

ラクスからは呼び捨てと敬語を許してもらったので普通に喋る事に。

 

 

「はい……その事情なのですが……実は地球軍のストライクとアスランが相打ちに……」

「そのストライクのパイロットが居る……って所かな?」

 

 

ラクスが口ごもりそうになったので推理した風の口調で話すとラクスとアイシャさんは驚いた表情になる。

 

 

「俺が生きていてプラントに搬送までは理解したがラクスの所に送られる理由として俺がアイシャさんの知り合いだからってだけじゃ説得力に欠ける。だったら俺が此処で治療を受ける理由として他に重傷者、それもラクスと親しい人が居ると考えるべきだ。それも俺がいた地球のあの地点から近隣。そして、俺の知ってる範囲でその条件に当て嵌まるのは足付きに保護されていた際に地球軍からザフトへラクス・クラインを送り返したストライクのパイロット……と予想したんだが。話の途中だったけど相打ちになって死んでいなきゃ治療を受ける筈だ」

「お見事ですね……アスランが貴方を称賛していた理由が分かる気がします」

 

 

俺の原作頼りな推理に驚くラクスとアイシャさん。いや、穴だらけで矛盾が見え隠れしてるからあまり誉めないで欲しい。却って恥ずかしいわ。ん?アスランが称賛?

 

 

「アスランが俺の事を話してたのか?」

「MSに詳しく、優しい方で周囲を見る事が多く沢山の方を笑顔にしてくれる方だと聞き及んでいます」

 

 

ラクスは俺の問いに答えてくれたが過大解釈だと思う。多分、アスランは学生時代の俺のエピソードを話してラクスが良い方向に受け取ったんだな。

 

 

「大分、過大解釈をしていると思いますよ。俺はただ、気ままに生きてるだけなんで。えーっと、そのストライクのパイロットは?」

「今はまだ目覚めていません。彼に会いたいのですか?」

 

 

俺がストライクのパイロット……キラの事を問うとラクスの顔が曇る。まだ怪我の影響で目覚めていないらしい。

 

 

「見事な実力だったんで純粋に気になったってのと……アスランがやたらストライクを気にしていた……いや、固執していたって言うべきか。まあ、気になる事は色々と」

「彼に……恨みは無いのですね」

 

 

ラクスはキラが俺を倒した事に恨みがあるのではと考えていた様だが、それは違う。あそこまで完膚なきまでにやられちゃ恨みも無い。

いや、恨みはあるっちゃあるよ?ミゲルの仇で、しかもその形見のジンをバラバラにされた訳だし。

だが、それとは別にキラとは話をしておきたい。今後の為にも。

 

俺はラクスの案内でアイシャさんと共にキラが眠る別室のベッドへと向かっていた。まだ目覚めてはいないが、顔を見に行くだけでも良かろう。

そして、部屋を移動する途中で……気付いた事がある。俺が眠る病室の隣にもう一つベッドがあった事だ。

 

 

そっちは後々聞くつもりだが……まさかねぇ。

 



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主人公とのファーストコンタクト

 

 

◆◇sideキラ◆◇

 

 

アスランの乗るイージスと死闘を繰り広げた筈の僕は何故か寝心地の良いベッドに寝かされていた。働かない頭では何故自分が此処に居るのかさえ、分からない。ぼんやりと、そんな事を思っていたら遠くで扉が開く音が聞こえる。

 

 

顔をそちらに向ければ其処にはピンクの髪をした見覚えのある少女と黒髪の女性。そして見覚えのないオレンジ色の髪をした僕と同年代の少年が居た。

 

 

「キラ、目を覚ましたのですか!」

「あら、丁度起きたのね」

「凄いタイミングでしたね」

 

 

ピンクの髪の少女ラクスが僕に駆け寄り、黒髪のアイシャさんが笑みを浮かべていた。オレンジの髪の少年は凄く驚いた様子で僕を見ていた。

 

 

「此処は……僕は……どうして?」

「此処はプラントですわ、キラ」

 

 

僕の眠るベッドの隣に置かれた椅子に腰掛けてラクスが微笑む。それからラクスから今の状況を聞かされた。

僕とアスランの戦いの結末。アラスカに到着したであろうアークエンジェル。アイシャさんが無事な理由。今の世界情勢等……僕が知りたかった話を教えてくれるが……

 

 

「僕は……僕を助けようとして……トールが……友達が……」

 

 

僕は涙が抑えられなかった。ボロボロと涙が布団の上に落ちて濡れていく。そうだ、アスランと僕は互いに友達を殺してしまい、激情に駆られて殺し合いになった。

 

 

「その事なんだけどよ……俺の病室は相部屋になってて隣に連合の少年兵が寝てるんだとよ。もしかしたら、そのトール君かもな」

 

 

するとアイシャさんの隣に立っていたオレンジ髪の少年は苦笑いをしながら教えてくれた。トールが生きていた!?その言葉に僕は驚き……

 

 

「あ、俺の名はラスティ・マッケンジー。赤と黒のジンに乗ってたパイロットだ」

『お前がラスティを!ラスティを殺したーっ!!』

「あ……」

 

 

オレンジ髪の少年ラスティの自己紹介にアスランが名を叫んでいた人だと察して、僕は言葉を失う。彼がオーブ海域を出た後の戦闘で僕が殺してしまったと思ったジンのパイロットだったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇sideラスティ◆◇

 

 

 

いやぁ……まさかの展開だった。俺の病室のベッドの隣に寝ていたのは、キラと同じ戦場で保護したと言う連合の少年兵なのだとアイシャさんから聞かされた。なんでも戦闘機のコクピットブロックだけ海中から発見されたらしく、ストライクからキラを救助したロウが海中に漂うコクピットブロックを発見。回収してみると中には傷を負った連合の少年兵が居たのだと言う。そしてキラと同じく治療をマルキオ導師に任せたらしいが間違いなくトールだよなぁ。

 

俺はまだ見ていないが顔に包帯が巻かれているらしく、傷は出来たものの此方は全身打撲程度なのだと言う。

俺も大概だが、コイツも運が良いよなぁ。いや、パイロットとしての素質があったから、この結果だったのか……イージスの投擲した盾の直撃を避けたみたいで即死は免れたし、下手に戦闘機の緊急脱出装置が作動しなかったのも運が良い。だって作動していたらイージスの自爆の余波に巻き込まれるか、海中に投げ出されて水没かどちらかだもんよ。

 

そんな話を俺が居た病室からキラの病室に移動する間に聞かされた。こんな話を聞いたら苦笑いである。なんやかんやで至近距離でイージスの自爆に巻き込まれたキラが一番重傷なんだから。

それを自己紹介と混じえてキラに伝えたら様々な感情が入り乱れた凄い顔をしていた。そりゃそうか。キラとアスランは互いに敵討ちで死闘を繰り広げたら、当の本人達は意外と無事で生きていたんだから。

 

 

「僕は……」

「ま、話し合おうや。それはそうと名前を聞いても良い?」

 

 

謝罪の言葉か懺悔の言葉を出そうとしたキラのベッド隣に備え付けられた椅子に座る俺。色々と言いたい事もあるだろうけど先ずは話し合おうじゃないの。

この後、多少気まずさはあったものの様々な話をした。アスランとの友人関係やMSに関する事、ヘリオポリスの友人の事。

そして惚れた女の話……は地雷になってそうだから、止めた。もしも原作通りだったら昼ドラ並みにキツい展開を繰り広げてた訳だし。

 

 

まだ目覚めたばかりだからキラに無理はいけないとラクスに止められるまで俺とキラは話をした。取り敢えず互いに呼び捨てをしあう程度には打ち解けた。

連合だザフトだと、そんな垣根を無視した間柄になれば案外普通の友人になれる物だと思いたい。

 



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新たなる剣

 

 

 

 

あれから数日が経過し、体の調子も随分と良くなってきて、日常生活に支障をきたさない程度になった。やっぱコーディネーターの身体能力って凄いよなぁ……と思っていたのだが俺以上に重傷だった筈のキラも俺と同じくらいの状態になっている。心の傷からか落ち込んではいる様だが、肉体的には完治している。スーパーコーディネーター半端ねぇな、おい。

 

因みに俺の相部屋の同居人はやはりトールだった。全身打撲に加えて、スカイグラスパーのコクピットがひび割れた為にイージスの自爆の衝撃と熱がコクピットを襲い、ヘルメット越しでも熱にやられたらしい。その結果、顔の左半分に火傷の痕が残ってしまったらしく治療には時間が掛かるとの事だった。

ナチュラル故か意識は戻ったがまだ立ち上がれる程に回復はしていない。キラを交えながら談笑する程度の間柄になった。余談だがトールは尻派である事が判明した。ディアッカとも気が合いそうだと思ったよ。

キラにこの手の話題を振ると顔を赤くしながら気まずそうにする。まあ、あの昼ドラドロドロ恋愛の後じゃコメントしづらいよな。

 

 

 

「キラと……その友達は俺達を殺したと思って互いに憎み合って殺し合ったんだよな……」

「ああ……その本人が生きてるんだから気まずいよな。トールも良い腕してたな。スカイグラスパーからの援護射撃には手を焼かされたもんだ」

 

 

現在、キラはラクスに話があるとかで席を外してる。時期的にそろそろザフトがアラスカにスピットブレイクを仕掛ける頃だ。ニュースかなんかで見てキラが立ち上がったって所かな。

トールとの話の中で俺のジンの背面ブースターを撃ち抜いたスカイグラスパーはトールの機体だと判明した。まだ発展途上だが良い腕してるわ。鍛えれば良いパイロットになるだろうな。

 

 

「トール、ラスティ……その、ちょっと話が……」

 

 

ラクスに付き添われてキラが俺達の病室に顔を出す。何かを決意した様な顔をしているから間違いなさそうだな。トールは何事かと混乱しているが。

 

キラとラクスの話を聞くと、やはりザフトが地球軍の本部があるアラスカにスピットブレイクを仕掛けると言う話題だった。アークエンジェルがアラスカに居る事と今の自分が何をしたいのかを考えた結果、其処に行きたいとなったのだ。

 

 

「キラが戦場に行くってのは分かったが……MSはどうするんだ?ストライクは半壊で地上。しかも行方不明だろ」

「それなら私に考えがあります。キラに新たな剣を授けます」

 

 

フリーダムに乗り換えなのは分かってはいるが俺が知っているのも不自然だからな。知らないフリで話を進めるとラクスが微笑みながら答えた。

 

 

「新たな……剣?」

「なら、俺から言う事は無いが……俺はどーすっかな。今更ザフトに戻る気も正直、薄いし……」

 

 

トールが首を傾げ、俺は『新しい剣』がなんなのかを察して、話を進める事に。だが俺のそんな発言を聞いたラクスは俺に微笑んだ。

 

 

「この数日で貴方の事も知りました。貴方の気持ちが戦場に向いている事を。貴方もキラと同じく誰かの為に戦える方なのですね」

「そりゃトールも同じさ。ど素人が友達の為に戦場に出る決意をしたんだからな」

 

 

ラクスの話に俺はベッドで上半身を起こしているトールの背をポンと叩く。話題を振られたトールは気恥ずかしいそうにしていた。

 

 

「貴方にも……望みを叶える力を」

「そりゃ有難いが……大丈夫なのか?話から察するにザフトのMSを俺達に受領させるつもりなんだろ?明確な反逆罪になりかねないぞ」

「あ、そっか……国家機密とか……」

「ラクス……」

 

 

ラクスは微笑みながら俺にもMSしかも新型を回すつもりらしい。流石にジャスティスとかじゃないだろうからゲイツの試作機とかかな?でもザフトの最新技術でしかも国家機密に抵触するものを赤の他人に渡すなど明確な国家反逆罪になる。俺の指摘にトールとキラの顔が曇った。

 

 

「大丈夫です。覚悟の上ですから」

「じゃあ、覚悟の上に更にお願いを。プラントに住む俺の母親の避難と保護を頼みたい。俺の母親は何も知らないからな。俺がMSを受領した後で一族皆殺しになる可能性もありうる」

「母親は……って父親は?」

 

 

ラクスは微笑むが瞳には確固たる決意が見えた。ならば、他の懸念事項を言っておくとしよう。アニメでもラクスの親父は殺されてたからな。キラの家族はオーブに居たから免れたが俺の母親はそうはいかない。なんて言ってもプラント住まいだから。

トールが父親の事を控え気味に聞いてくるが……

 

 

「俺の両親は離婚してんだよ。俺は母方に引き取られたんだ。俺とオフクロを捨てた親父に未練なんかねーよ。加えて言うなら親父はナチュラルぶっ殺し勢だ」

「なんつー、身も蓋もない……」

 

 

俺の発言にトールは若干引き気味だ。アニメや原作では描かれなかったが……まあ、俺の親父はそう言う事である。

 

 

「……分かりました。ラスティのお母様の保護も急がせます」

「よろしく、頼む。キラ、話も纏まったし行こうか」

「あ……う、うん」

 

 

俺とラクスの話が終わり、ポカンとしていたキラに急ぐ様に促す。

 

 

「では、着替えを用意します。キラとラスティは此方へ」

「お、俺は……」

「トールはまだ立つのも難しいだろ。まだ療養してろ」

「トール……ごめん。でも、先に行ってくるよ」

 

 

ラクスに促されて病室の外へ出ようとするとトールが声を掛けてくるがまだ立ち上がる事も不可能な状態じゃどうする事も出来ないだろう。俺の指摘にトールは悔しそうにしていたがどうしようもないだろう。

 

俺とキラは案内された部屋でザフトの赤服に着替えていた。ぶっちゃけ似合いすぎだろキラ。違和感ないよ。いや、この数年後にキラは白服を着るから違和感ないんだろうけど。

そんな事を思いながら着替えを終えて、更にラクスの案内で軍事施設の様な区域を進む。今の俺達はラクスの護衛の赤服二人……って感じだ。何も疑われる事もなく俺とキラはハンガーに到着した。

 

 

「これは……ガンダム!?」

「ちょっと違いますわね。このMSはZGMF-X10Aフリーダムです。でも、ガンダムの方が強そうですわね」

「こりゃ凄いもんだ。今までのMSとは根本から違うみたいだ……んで」

 

 

キラが目の前のフリーダムに驚く最中……俺は内心もっと驚いていた。そのフリーダムの隣に鎮座している機体に理解が追いつかなかったからだ。

 

 

「そちらの機体はZGMF-X12Aテスタメント。まだ仮組みの状態の機体を回収した物です」

「そ、そうか……新型だもんな」

 

 

ラクスの説明に乾いた笑いしか出なかった。この機体は後に開発されるプロヴィデンスと同時期にロールアウトしたテスタメント。言ってしまえばフリーダムと同等以上の性能の機体だ。本来ならばテスタメントは完成後に連合に強奪されてしまうのだが、ラクスが手を回した事で仮組み状態だが俺の手に渡ったって事だ。よく見ればハンガーには組み立て途中のストライカーパックみたいなのがある。成る程、マジで開発途中で回収したらしいな。

 

 

「この分だとテスタメントは発進は出来なさそうだな。OSも組み上がってないだろうし。キラ、お前は先に行くと良いだろ。俺は早速、テスタメントを見させてもらうから」

「あ、うん!」

 

 

俺は一方的に告げるとテスタメントのコクピットへと向かう。ラクスがキラの見送りをするのを邪魔しちゃ悪いからな。

さて……それはそうとまさかテスタメントとはな……そう思いながら俺はコクピットに入って機体のスペックを確認するのだった。試作のストライカーパックと武装もチェックしなきゃだし忙しくなるぞー。

 




『テスタメント』
型式番号 ZGMF-X12A
核エンジン搭載型MS
フェイズシフト装甲(PS装甲)


ザフトが連合のストライカーパックを研究する為に開発された機体。
その為、背面のコネクタから各種ストライカーパックの装備が可能になっている。
本来の歴史では連合に強奪されたが今作ではラスティの搭乗機となった。
連合の手に渡らなかったので連合開発の特殊兵装である『トリケロス改』『ディバインストライカー』『量子コンピュータウイルス送信システム』は無い。


武装
テスタメント本体のみ
『MMI-GAU2 ピクウス76mm近接防御機関砲』
頭部に2門内蔵されている機関砲。

『ビームサーベル』
両腰部に2基装備されている。


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テスタメント発進

 

 

 

あれから数日。キラが発進したステーションから逃亡した俺達は、他のステーションに身を隠した。流石に同じ場所に留まるのはマズいと判断したからだ。

 

テスタメントのコクピットでOSのプログラムを組み立てながら俺は考えていた。今、この状況が今後にどう響くのかを。俺は今まで所謂原作知識を元に助けられる命は助けてきたつもりだ。アイシャさんの命を拾い、ニコルを助け、トールとも友達になった。だが、これからはある意味予想できない事態へと繋がっていく。

それは俺がテスタメントに乗ると言う事だ。本来ならラスティ・マッケンジーは頭パーンされて退場してるし、テスタメントも連合に強奪され後に……えーっと名前が思い出せないがMSVのキャラが乗る筈だった。だが、それらが今、根本から崩れていくのだ。悩みもする。

俺はてっきりゲイツの試作型の火器運用試験型ゲイツ改辺りでも貰えるのかと思ってたから。

 

しかし、まあ……俺がテスタメントとはね。テスタメントは言ってしまえばザフト生産のストライクだ。ストライクを強奪する予定だった俺が乗るとはどんな皮肉だよ。

 

 

「どうですか、ラスティ。テスタメントは使えそうですか?」

「機体そのものは問題なさそうだ。だがストライカーパックはこれから試運転だから、ちょっと不安かな」

 

 

コクピットを覗き込む様にラクスが尋ねてくる。完全に試験運用を済ませたフリーダムやジャスティスと違ってテスタメントは俺がOSを組み上げた上にストライカーパックはこれから試運転ってんだから不安しかない。武装も試作品だし。俺好みの武装……って言うか、ちょっと世界観を超えた武装だったから言葉を失ったけど。

 

 

「それと……ラスティのお母様の保護は上手く行きました。事情をお話しして私達の潜伏先で保護させて頂きました。万全を期しています」

「そりゃ安心……これで俺も地球に向かって飛び立てるな」

 

 

OSの組み立ても終わり、俺はコクピットから出る。ザフト製の試作ストライカーパックの装備も済んでるし、後は飛び立つのみ。キラはアラスカでアークエンジェルと合流しただろうから、俺はオーブを目指して行くとするか。

 

 

「アレは……トール、病み上がりなんだから無理すんなよー」

「わかっ……て……ぐ……」

「ほら、集中しなさい」

 

 

テスタメントのコクピットから降りた俺は格納庫の端でシュミレーターを熱心にしているトールに声を掛ける。トールはキラが一足先に地球に行った事で焦り、リハビリをしながら俺が組み上げたナチュラル用のOSでMSのシュミレーターをしている。スカイグラスパーを乗りこなしていた事もあって筋は良い。だが俺が組んだOSだしナチュラルには完全に適応出来てないから苦戦してるっぽい。アイシャさんがトールの指導はしているがまだまだ未熟って印象だな。

『トールが美人で年上のお姉さんにつきっきりで特別授業を受けている』とミリアリアに伝えたらどうなるかなーって考える俺は悪い子だと思う。

 

 

「アラスカのスピットブレイクは失敗か……ザフトはしてやられた感があるな」

「沢山の人が……」

 

 

フーッと一息つきながら失敗したスピットブレイクのデータを眺める。地球連合はザフトのスピットブレイクを予見してサイクロプスを起動して侵攻してきたザフトの部隊を殲滅……って話になってるが、話が纏まり過ぎてる。なんで地球連合はピンポイントでザフトの侵攻を予想していたのか。ザフト側に裏切り者がいた?地球連合は最初から自爆用に設置していた?この事態を知っている者がいる?アニメを見ていた当時から気になっていた事だ。だが知識も不十分でうろ覚えの頭じゃ考えても意味は無さそうだ。ならば目の前の事に全力を尽くすのみだ。

 

俺はパイロットスーツに着替えてテスタメントに乗り込む。機体を起動させ発進シークエンスに入った。試作型のエールストライカーと試作型のトリケロスを装備した初期型のテスタメントの初陣である。ディバインストライカーとトリケロス改が無いのは非常に残念だが仕方無い。

 

 

『ラスティ、ご武運を』

「ラクスも頑張れよ」

 

 

とラクスから激励を受け。

 

 

『ラスティ、坊やによろしくね』

「バルドフェルドさんの見舞いに行けなかったのは残念でしたけど、また会いましょう」

 

とアイシャさんからキラにヨロシクと言われる。本当にキラを気に入ってるのな、あの二人。

 

 

『ラスティ、俺もすぐに行きたいけど……まだ無理なのはわかってる。だからアークエンジェルを頼む!』

「安心しろ。と言うかお前の一番の心配は恋人の事だろう?ミリアリアも守ってやるよ」

 

 

とトールからアークエンジェルの事を頼まれた。まあ、本心で一番心配してるのは地上に残して悲しませてる彼女さんの事なんだろうけど。ついでにお姉さんからの特別授業の事も教えてやるから安心しろ(笑)。

 

俺はテスタメントのPS装甲を発動させる。PS装甲になったテスタメントは俺のカラーリングである赤に染まっていく。要は原作のテスタメントカラーな訳だ。ペダルを踏み、背部のブースターに火が灯る。正面のモニターにはラクス、アイシャさん、トールが手を振っていた。彼女達は前回と同様にこのステーションを離れる予定だ。上手く逃げてくれよ、と思いながら俺はテスタメントを発進させる。

 

 

「ラスティ・マッケンジー、テスタメント発進するぜ!」

 

 

俺はブースターを全開にして一気にステーションの外へと飛び出した。凄いな……機体性能もさる事ながら対G性能が高いから一気に加速しても苦しくなかった。ジンで今の加速をしたら洒落にならん事になってた。

 

 

『止まれ、貴様!』

『新型ばかりを盗まれてたまるか!』

「あらら……気合い入ってんな……」

 

 

すると当然防衛隊が出てくるのだが五機のジンが行手を阻んできた。フリーダムの強奪事件は軍内部でも問題視されて同じくロールアウトしたジャスティスの警備は相当なものになっていたらしいが俺のテスタメントは既に強奪済みだったからアンタ等に落ち度はないと言ってあげたい。

 

 

「アンタ等にも警備隊として守らなきゃいけないもんがあるんだろうが……こっちも色々と背負ってるんでね!」

『な、何っ!?』

『馬鹿な、速すぎる!?』

『まるで……赤い彗星……』

 

 

手前に居た三機のジンの頭部を試作型のトリケロスのビームライフルで撃ち抜く。思っていた以上に使い回しが良さそうだな。テスタメントそのものの操作性にも問題は無さそうだ。それと三機目の人、俺はそんな大層な二つ名を名乗る気は無いです。

 

 

「こっちも試しておくか!」

『な、関節を!?』

『ぐわあっ!?』

 

 

左手にハンドガンを構えながら急接近しながら残ったジンの武器を持つ手と足を撃ち抜く。そして動きが止まったと同時に試作型のトリケロスの折り畳んでいた実体剣を展開させると頭部を斬り落として行動不能にしてから一気に加速して地球方面へとテスタメントを走らせた。

 

 

「分かってはいたけど……やっぱジンとは全然違うな。機体の動きもしなやかで動かしやすいのに加速には粘りがある。良い機体を貰っちまったな」

 

 

今まで乗っていたジンもザフトの中では高性能機なのは間違いない。だが『ガンダム』はやはりモノが違う。俺は新たな機体に心を踊らせながら地球、そしてオーブを目指した。

 

 




『試作型エールストライカー』
テスタメントの為に急遽作成されたストライカーパック。
エールストライクと同型で背面に大型ビームキャノンを装備している。

『試作型トリケロス改』
ブリッツのトリケロスを模した攻守一体型の武装。見た目はブリッツのトリケロスに似ているが小型化されている。ランサーダートが無く、ビームライフルもルプスビームライフルと同等の物になっている。接近戦用に折り畳み式の実体ソードを内蔵している。イメージ的にはガンダムエクシアのGNソード。

『ハンドガン』
試作型トリケロス改の中に収納されているハンドガン。


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オーブへ……?

 

 

 

宇宙から地球に降り立って数日。俺は地球のある場所で……

 

 

「おーい、兄ちゃん。そろそろ休憩しよーよ」

「そうだな。耕すのも大体終わったからちょうど良いな」

 

 

タンクトップにオーバーオールを着て、農作業に勤しんでいた。何故こんな事をしているかと言えば俺の立場故に迂闊にオーブに入れなかったからである。

そもそもキラはフリーダムに乗り換えてアラスカでアークエンジェルを助けた後に一緒にオーブへと行った。後のアスランは乱戦の最中にキラの援護でオーブに入った。

つまりはどちらもある程度の理由があったからなのだが今の俺の立場はMIA認定されながらもザフトの新型を奪った脱走兵的な扱いでオーブとの繋がりは皆無だ。このままテスタメントでオーブに行った所で『未確認のMSが接近中!』等とスクランブルが掛けられてしまう状態なのだ。かと言ってオーブに居るキラとの連絡手段も無いのだ。

俺は調べ物が済んだ後に悩み迷った挙句、マルキオ導師の下へと行った。助けてもらった礼も兼ねて訪ねて行くとマルキオ導師は快く迎え入れてくれた。

 

そして孤児院の子供達と交流を深めながら孤児院の仕事を手伝って数日が経過。最初は警戒されていたものの今では孤児院の子供達も俺の事を『兄ちゃん』と呼ぶ程に打ち解けている。

因みに『ザフトなんか俺がおっきくなったらやっつけてやる!』なんて脛を蹴られるポジションは俺になってしまった事も記しておこう。

俺は孤児院の子供達と共に孤児院に戻るとお客様がいらっしゃった様だ。やれやれ……やっと来たか。

 

 

「マルキオ導師……この中継は……」

「地球連合の艦隊がオーブに向けて進軍しているらしいですね」

 

 

テレビのニュースを共に見ているアスランとマルキオ導師。マルキオ導師は目が見えないから音声だけで判断してるんだろうな。

 

 

「また戦争か。つくづく戦火は広がっていくな」

「な……ラスティ!?」

 

 

俺が孤児院の中に入りながら声を掛けるとアスランの顔が驚愕に染まる。そりゃ死んだと思っていた奴が生きていれば驚くか。いや、案外ラクスから俺の生存は聞いていたのかも知れないが此処に居るとは思ってなかったのだろう。

 

 

「ザフトから命令が下され……ラクスから話は聞いてはいた……お前やキラが新型を強奪して逃走している、と……」

「今はただの農夫と化していたけどな」

 

 

困惑しながらもアスランは俺を見つめながら状況を説明してくれた。やっぱラクスがある程度の説明をしていたらしい。まだ半信半疑だったんだな。

そんな事を思っていたら孤児院の男の子が2人程走ってきた。一人がアスランの前に立つと、もう一人が背後からアスランの足にタックルして体勢を崩し、片膝をついたアスランへ正面に立っていた子はラリアットを仕掛けた。

 

 

「ぐはっ!?」

「やったぜ!」

「ザフトをやっつけた!」

「タイミングバッチリだったな。実にグッドだ」

 

 

子供達の見事なツープラトンにアスランは沈んだ。俺は子供達にビシッとサムズアップをしてから奥の部屋に行くように促す。アスランはラリアットを食らった首を押さえながら立ち上がり、俺を睨んだ。

 

 

「絶対に……ラスティの仕込みだろう」

「筋が良くてな。教え甲斐があるんだわ、コレが。あの子達は戦争でザフトに親を殺されたらしくてな。会ったばかりの頃は俺も足を蹴られたよ。この孤児院に居る子供達の大半は親を亡くしている」

 

 

二人の男の子がプロレス技を仕掛けた事で俺の仕込みだと確信したアスラン。うん、正解だ。だが重要なのは、そこじゃない。

 

 

「親を……」

「憎しみの連鎖……って所か。随分と怨まれる立場になっちまったよな」

 

 

俺が孤児院の子達の現状を話し、アスランの顔が更に曇る。

 

 

「俺はこの数日間……この孤児院に居た。ザラ隊として戦っていた頃よりも……戦争の悲惨さを感じたよ。あの子達を見ていたら尚更な」

「ラスティ……俺は……」

 

 

俺の言葉にアスランは何かを口にしようとしたが口を閉ざしてしまう。今のアスランは元々抱いていたナチュラルへの恨みと軍の命令とラクスの言葉とキラへの友情とかで揺れ動いてるからな。まだ自分の中で答えを見出せてないから『それ』を口にする事も出来ない。

 

 

「んじゃ、行くか」

「行くって……」

 

 

俺が孤児院の扉を開けようとするとアスランは首を傾げた。

 

 

「オーブへだよ。オーブにはお前が追うフリーダム……キラも居る。それに俺の予想が正しければニコルとディアッカもオーブにいる筈だ」

「キラがオーブに!?ニコルとディアッカも!?」

 

 

俺が行き先を告げるとアスランは驚愕する。フリーダムの追跡任務で近くに寄っただけだからキラがオーブに居るとは思ってなかったのだろう。ニコルとディアッカの方は原作的にもアークエンジェルに乗っている可能性が高い事と……俺が地球に降り立ってから、近隣の調査をした。調べた結果この近隣での戦闘の後に破壊されたMSで新型らしき物は確認されなかった。つまりブリッツもバスターも破壊されずにアークエンジェルかオーブに回収されたと言う事だ。

 

 

「と言う訳だ。それを確かめる為にもオーブに行く……お前は俺のテスタメントやキラのフリーダムの追跡任務があるから目を離さない方が良いじゃないか?」

「それは尤もだが……お前はその格好で行く気か?」

 

 

アスランの指摘に俺は未だにタンクトップにオーバーオール姿だった事を思い出す。この姿でMSの操縦したら、かなりシュールな絵面になるな。

取り敢えず着替えてこよう。そんでオーブに行ってニコルに会いに行こう。



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オーブへ!

 

 

 

 

俺はマルキオ導師に挨拶を済ませた後、着替えてから隠しておいたテスタメントに乗り込んでオーブを目指していた。アスランのジャスティスもテスタメントと並ぶ様に飛行している。

 

 

『それがラスティのMSか……強奪された時はまだ未完成だったと聞いたがお前が完成させたのか?』

「俺が望む機体にはまだ程遠いけどな。ま、これから良くしていくさ」

 

 

アスランの疑問に答えこそしたが俺はテスタメントは完成していないと思っている。なんせトリケロス改やディバインストライカーが無いんだからテスタメントとしては未完成になる。かと言って今から急造した所で間に合う訳もないので試作型のトリケロスとエールストライカー改を使用しているのだし。

 

 

「それはそうと……もうオーブで戦闘が始まってるみたいだな。地球連合の部隊も展開が速いな」

『ああ、余程オーブを落としたいんだろう。マスドライバーとモルゲンレーテの工場は喉から手が出る程に欲しい筈だ』

 

 

オーブの海域に入った俺達だがオーブ軍は俺とアスランに構っている暇が無いのか乱戦で俺達に気付いていないのか特に騒がれた様子は無い。だが、これは酷いもんだ。地球連合の部隊はオーブを取り囲む様に進軍しており、様々な角度から攻め入っている。特にマスドライバーとモルゲンレーテの工場側に戦力を割り振っている印象だ。民間の方にも少なからず被害が出ているみたいだな。

 

 

『俺達の戦いも……こうだったんだな』

「アスラン……」

 

 

恐らくヘリオポリスの一件や今まで俺達の戦いで壊滅した街の事を思い出しているのだろう。アスランも難しい顔をしていた。他人がしている事で初めて自分を客観的に見る事が出来るんだから。

 

 

「後で悔やむから後悔ってか?だったらこれから後悔しない為にも……行こうぜ」

『フリーダム、キラ!……ああっ!』

 

 

 

俺がテスタメントでジャスティスの肩を叩きながらオーブの空を指差す。そこには連合の新型三機に追い回されているフリーダムの姿が。アスランは意を決してフリーダムに急接近して行った。俺もワンテンポ遅れてテスタメントを走らせる。

アスランのジャスティスはフリーダムに直撃しそうだったビームをシールドで防いだ後、ビームライフルを構えて牽制した。レイダーの動きが止まったので俺はテスタメントでドロップキックを放ち、レイダーを蹴り飛ばす。

 

 

『ぐあっ!?なんだテメェは!』

「自己紹介なんざ照れくさいが……敢えて言うとするなら愛と言う陽炎を追い続ける平和の狩人……みたいな感じ?」

 

 

レイダーから通信が入り、怒鳴られながらも誰かと問われたので返答した。一瞬の間があった後にレイダーが変形しながら突っ込んできた。

 

 

『ぶっ殺す!』

「やってみろよ!」

 

 

口からビームを吐きながら迫るレイダーに俺は試作トリケロスの刃を展開しながらビームを弾く。そして返す刀でレイダーのボディに一撃を与えた。TP装甲だからダメージは無いだろうけど威嚇程度にはなった筈だ。加えてさっき俺がボケた事で相手の冷静さも奪う事に成功した模様。レイダーは再度俺に突撃しようとしてきたが下から放たれたビーム砲に阻まれる。そこにはキャノン砲を俺達に向けたカラミティの姿が。

 

 

『此方、ザフト軍特務隊……アスラン・ザラだ。フリーダム、聞こえるか?キラ・ヤマトだな?』

『アスラン!?どう言う事だ、ザフトがこの戦いに介入するのか!?』

「……ったく、余裕だなアイツ等は。キラ、アスラン。俺は下の奴の相手してくるわ」

 

 

フォビドゥンとレイダーの相手を口喧嘩しながら普通に圧倒しているキラとアスラン。やっぱ並じゃないよな、アイツ等。

俺は機体を降下させながらビームライフルでオーブに攻め入ろうとしているストライクダガーを撃ち抜いていき、最終的にカラミティと対峙する。

 

 

『ヘヘッ……行くぜ、狩人さんよ!』

「あら、やだ……聞かれてたとは恥ずかしいね」

 

 

ストライクダガーを撃ち抜きながら降下しているとブリッツとバスターの姿も見えたのでニコルとディアッカも無事なんだとホッとしているとカラミティがバズーカを構えながら小馬鹿にしてきた。どうやらさっきのボケを聞かれていたらしい。後になってくると割と恥ずかしいな、おい。

カラミティのバズーカから放たれた砲弾を避けながら試作トリケロスのビームライフルを放つ。装甲も厚いのかカラミティはシールドで防御しながら一気に突っ込んできたので背面のビーム砲で迎撃する。これは防げないと判断したのかカラミティも回避を選択し、詰めていた距離を空けた。成る程、三馬鹿で仲間意識はほぼ皆無だったけど一応はリーダー格だけの事はある。一歩止まって冷静になりやがった。

 

 

と思っていたのだが、急に動きがおかしくなった。上空のレイダーとフォビドゥンも同様だ。ああ、そう言えば時間制限とかあったなコイツ等には。

レイダーに回収されカラミティは一目散に撤退していった。フォビドゥンもそれに追従する形で。

 

 

「やれやれ……一先ずは話し合いかな?」

 

 

並んでオーブに降り立とうとしているフリーダムとジャスティスを見て俺は安堵の気持ちを抱きつつ……ニコルとの再会にも心を躍らせていた。

 



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少しだけ変わる運命

 

 

 

◆◇sideニコル◆◇

 

 

 

僕とディアッカがアークエンジェルの捕虜になってからどれくらいの日にちが経過しただろうか。ミリィの話じゃアークエンジェルは地球連合を離反して今はオーブに居るらしいけど……ミリアリアとはあの一件以来少しずつ話をする様になって愛称で呼ぶ仲にはなった。

ラスティ……貴方は無事なんですか?僕自身が捕虜の身分であるが故に捜索には行けないし、ザフト側では恐らくMIA認識されているだろうから僕もディアッカも探される立場だけど……僕がそんな事を悩んでいると捕虜を収監している部屋にミリィが訪れた。手にはザフトのパイロットスーツが二着あった。

 

 

「こんにちは。今日はどうしたのですか?」

「戦闘になるの。この艦」

「あん?」

 

 

ミリィの発言に隣の牢で寝転んでいたディアッカが起き上がる。

 

 

「連合がオーブを攻めてくるんだって。だから、貴方達はもう釈放していいんだって」

「ちょ、ちょっと待って下さい!?」

「待てよ、おい!」

 

 

牢屋の鍵を開けてパイロットスーツと私服らしき物を床に置き立ち去ろうとするミリィに僕とディアッカは駆け寄る。

 

 

「戦闘ってどういうことなんですか!?」

「連合が攻めてくるからアークエンジェルは戦うの。だから捕虜のアンタ達をいつまでも乗せておいても仕方ないの。連合から脱走した私達を匿ってくれたオーブにはお世話になったから協力するのよ」

「なんだそりゃ?ナチュラルってやっぱり馬鹿ばっかりか!?」

 

 

僕の問いにミリィは答えてくれた。ディアッカはもう少し言葉を選んで下さい!僕がキッと睨むとディアッカは「あ、悪い」と謝罪をした。ラスティだったら、この辺りのフォローを上手くしてくれるのだろうけど僕じゃこれが精一杯だった。

 

 

「そんなわけで、悪いんだけど後の事は自分でやってもらえる?その服は……私からの餞別だから」

「事情は理解しましたけど……ブリッツとバスターは返してもらえ……ないですよね?」

 

 

パイロットスーツとは別に私服が渡された時にはなんでだろうと疑問に思ったけどパイロットスーツだけじゃ目立つし浮くだけだ。移動用の為に私服を用意してくれたらしい。僕は一応、気になっていたMSの事を聞くとミリィは振り返る

 

 

「当然でしょ?元々は連合の物なんだから。モルゲンレーテが持って行っちゃったわよ」

「げ……マジかよ」

「ですよね~」

 

 

ミリィからの返答にディアッカは渋い顔になり、僕も苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

「こんな事になっちゃって、ごめんね」

「もしかしてミリィも戦闘に参加するのですか?」

「……っ」

 

 

謝罪するミリィに強い意志を感じて僕が聞くとディアッカが息を飲んだ。

 

 

「当然でしょ?私はCIC担当なんだから。それに……オーブは私の国なんだから」

 

 

そう言い残してミリィは去って行った。僕とディアッカは何も言えずにその背を見送ってしまう。でも、このままじゃ何も好転しないのでミリィから渡された餞別の服に着替える事に。

ミリィの選んだ僕の服は僕が普段から着ない様なチョイスで長袖のパーカーにショートパンツと女の子らしいコーデだった。服の間にメモが挟まっていて『ニコルが例の恋人と再会出来る事を祈っています』と書かれていた。

 

 

「ミリィ……僕とラスティとはまだ……でも……」

 

 

ミリィだって恋人がMIAなのに僕に気を遣って……ミリィの気遣いに僕はちょっと泣きそうになりながらもディアッカと共にアークエンジェルから下船した。

 

僕とディアッカがアークエンジェルを降りてから暫くすると警報が鳴り響き、戦闘が始まる。その様子を僕とディアッカは見ている事しか出来なかった。僕はラスティならどうするだろう、ラスティなら笑いながら戦闘に参加しに行くだろう、なんて考えていた。ディアッカも色々な感情が渦巻いているのだと表情から察せる。ミリィとの会話や今までの自分を省みてるのだろう。僕は何気無く視線を逸らして……絶句した。

 

 

攻めてきた連合軍の量産型じゃない新型三機が攻めてくる。その内の一体の機体が山間部に着地した。その山道に走っている人影が見えたのだ。

 

 

「えっ……ディアッカ、あそこに!」

「どうしたニコ……逃げ遅れかっ!?」

 

 

僕がディアッカの肩を叩き、山を指差すとディアッカも逃げ遅れた人達をすぐに見付けた。あのままじゃ間に合わなくなると思った僕とディアッカは悪いとは思いながらも乗り捨てられていた車を拝借して山へと走らせた。

 

 

「はぁはぁ……父さん、このままじゃあ……」

「大丈夫だ、シン。もう少しで港に出る筈だ」

「ここは危険ですよ!避難して下さい!」

 

 

車を走らせて逃げ遅れた人達の所へ行くと息を切らしながら走っていたが避難警報の事を知らなかったのかまだ港へ向かうつもりらしい。港にはもう船は残っていないと言うのに。

 

 

「だ、誰だね君は?」

「そんなことより早く避難して下さい!ここは危険です!」

「連合の目標は軍関連施設なんでしょう?」

「んな訳あるか!ここは既に戦闘地域だ!」

 

 

父親は驚いた様子で僕達を見ていた。少々緊張感の無い姿に僕が叫ぶと母親の方は連合の目的は軍事施設だけだと思い込んでいるらしく、そんな事は無いとディアッカが叫ぶと二人ともショックを受けていた様だ

 

 

「とにかく、ここは危険なんです。車に乗ってください避難区域まで連れて行きますから!」

「あ、ああ……わかった。走るぞ」

「うん!」

「あ、マユの携帯!」

「そんなの良いから!」

 

 

僕が車に乗る様に促すと父親は戸惑いながらも車に家族を乗せようとし走り始める。しかし、走っていた事で女の子のポケットから携帯が落ちて、しかも運の悪い事に携帯は下の茂みに落ちてしまった。取りに行こうとする女の子を母親が諌めるが駄々をこね足を止めてしまった。よく見たらこの女の子はオーブでラスティと一緒にいた兄妹だった。確か……シンとマユって……

 

 

「俺が取ってくる!」

「ちょっと、シン!」

「危ないんですから、一人では動かないで!」

 

 

母親の制止を振り切り斜面を滑り降りて樹の根元に引っかかった携帯を拾いに行くシン。僕は思わず、シンと同様に斜面を降っていた。

素早く携帯を拾い上げたシンは山の斜面を登ろうと上を見上げた、その瞬間だった。

 

 

「ヤベェ、伏せろ!」

「なっ……」

「シン!」

 

 

斜面の上からディアッカの叫び声が響いた。僕は咄嗟にはシンを抱き伏せた。それと同時に爆発音が聞こえ、僕とシンは爆風によって吹飛ばされ、近くの木々に体を打ち付けてしまった。

 

 

「……痛っ!」

 

 

爆風に吹き飛ばされながらもなんとか受身を取ったけど……身体中が痛い。でもディアッカの叫び声が無ければ何も出来ないまま僕とシンは吹き飛ばされていたから、この程度で済んで良かったと思えてしまう。

 

 

「そ、そうだ……シンにディアッカも……」

「父さん……母さん……マユ……?」

 

 

僕が居た場所から少し離れた場所でシンの声がした。僕が慌てて声のした方へ走ると、そこには爆発を近距離で受けたのか、手足や首が通常ではありえない方向に折れ曲がり、または千切れ、全身から大量に血を流し倒れている父親と母親の姿があった。近くにはマユちゃんが着ていた上着もボロボロの状態で落ちている。ディアッカの姿も確認出来ず僕も言葉を完全に失ってしまった。そこへ被害を確認しにきたのかオーブの軍服を着た兵士達が走ってきた。

 

 

「大丈夫か!?」

「おい、しっかりしろ!」

「ぐ、うぅ……あぐ……あ……」

 

 

オーブの将兵がシンの身体を揺すり声を掛けるが、シンはそれに気付いていないようだった。シンはその場に蹲り、右手に持ったピンク色の携帯を握り締め声を押し殺し泣いていた。

 

 

「うわあああああああああああっ!!!」

 

 

堰を切ったようにシンの咆哮が木霊する。その場にいる僕も将兵も誰もシンに声を掛けられなかった。そしてシンは上空で戦いを続ける新型機達を睨みつけていた。

 

 

「オーブの将兵さん、この子をお願いします」

「それは構わないが、キミは?」

 

 

未だに空を睨み続けているシンをオーブの将兵に任せると僕は少し痛む体に鞭を打って走り出す。

 

 

「僕はやるべき……いえ、やらなきゃいけない事を見つけました。だから、行きます!」

「そうか……彼は任せたまえ。本来なら危険だから止めねばならんのだろうが我々も彼の保護をしなければならないからキミを止める為の問答の時間も惜しい。行くと良い」

 

 

僕の言葉にオーブの将兵は苦い顔をしながらも僕を送り出してくれた。僕は振り返りながらシンの姿を見るとオーブの将兵に立たされながら、この場を離れるのを見れた。

 

 

「よし……急がないと!」

「痛ってぇ……死ぬかと思ったぜ……」

 

 

シンやオーブの将兵から大分離れた位置まで来た所で気合を入れ直そうとした瞬間だった。聞き覚えのある声に僕は足を止めてしまう。茂みの奥からボロボロの姿になったディアッカが姿を現したのだから。しかも、その腕の中には……

 

 

「マユちゃん!?」

「車でお前達を待とうとしていたらミサイルが飛んできてよ。車から降りて咄嗟に庇う様にしたんだが、ここまで吹き飛ばされちまった……」

 

 

ディアッカの腕の中で眠るマユちゃんは頭から血を流しているものの生きている。もう少しディアッカと早めに合流出来ていればシンにこの事を告げる事が出来たのに……

 

 

「ディアッカ。マユちゃんの事も心配ですし、モルゲンレーテに急ぎましょう。あそこにはブリッツもバスターも保管されている筈です」

「そうか……ちっと距離はあるが……また車かバイクを借りるとするか!」

 

 

僕とディアッカは揃って走り出す。僕の言いたい事もディアッカは察してくれたみたいだ。この後、乗り捨てられていたバイクを見つけた僕達はモルゲンレーテへと急いだ。

モルゲンレーテに到着してからマユちゃんの事をお願いしてから僕とディアッカはパイロットスーツに着替えてMSの格納庫へと走る。乱戦の最中だから侵入する事はアッサリと出来て僕とディアッカはそれぞれブリッツとバスターに乗って機体を起動させた。

 

 

そして機体を発進させるとディアッカはオーブ軍の援護に行ったので僕はアークエンジェルの援護をする事にした。ミリィとは色々あったけど今は友達なんだ!守りたい、アークエンジェルもマユちゃんも全部!僕がそんな思いで戦っていると上空の新型機達の戦いに動きがあった。連合の三機に追い回されていた蒼い翼のMSを援護する二機の赤い機体。片方の機体が連合の黒い機体に攻撃を加えた後……

 

 

『ぐあっ!?なんだテメェは!』

『自己紹介なんざ照れくさいが……敢えて言うとするなら愛と言う陽炎を追い続ける平和の狩人……みたいな感じ?』

 

 

物凄く聞き覚えのある声も相手を挑発する言葉のチョイスにも覚えがあり過ぎた。

 

 

『ぶっ殺す!』

『やってみろよ!』

 

 

変形した黒い機体の突進をいなしながら攻撃を加える動きに間違いなくラスティだと確信してしまう。ああ、もう……MIA認定だったから生きていてくれて凄く嬉しいのにっ!あの飄々としながら人を小馬鹿にした挑発に僕もイライラしてしまう。

 

 

「人を怒らせる天才なんでしょうね、あの人は!」

 

 

今頃、ヘロッと笑っているだろう愛しき人にビンタの一つでも見舞ってやりたくなる。戦闘が終わったら覚悟してくださいね、ラスティ!

 



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一度に情報を詰め込むと混乱する

 

 

地球連合が一時撤退し、フリーダムとジャスティスが並んで立ち、キラとアスランがコクピットから降りて行く。

 

 

「感動の再会……って感じじゃないよなぁ」

 

 

俺はテスタメントのコクピットから歩み寄るキラとアスランを眺めながら呟いた。二人は険しい顔をしながら徐々に近付いている。

そして少し会話をした後に金髪の少女がキラとアスランに間に入り込み抱き着いた。ありゃカガリだな。

 

 

「さて……俺もそろそろ降りないと怪しまれるな」

 

 

もう少しキラ達の事を見ていたかったが俺のテスタメントの隣に立つブリッツの圧迫感が凄いのでそろそろ限界だろう。ついでにバスターもテスタメントの隣に立っており、『逃さねぇぞ』と言った次第である。

 

テスタメントのコクピットを開くとその場の全員の視線が俺に突き刺さる。う……ちょっと恥ずかしい気分だ。だが、取り敢えず自己紹介して……

 

 

「えーっと俺は……ぐはっ!?」

「ラスティ!」

 

 

地面に降り立ってから話しかけようとしたら左側から何者かのタックルを喰らう。地面を滑る様に倒れ、俺にタックルした奴を見上げると緑髪の癖っ毛を持つ……涙目のニコルだった。

 

 

「馬鹿馬鹿馬鹿!心配させて……もう馬鹿!」

「アッハッハ……馬鹿しか言われてねー」

「馬鹿と言われても否定出来ないだろ」

 

 

俺に跨って馬鹿を連呼するニコル。苦笑いを浮かべたら、ニコルの背後から呆れた様な声が聞こえる。ニコル越しに見上げるとディアッカが立っていた。

 

 

「まあ……色々あったとしか言えないな」

「なんですか、色々って……全部喋ってもらいますよ、ラスティ」

「それはそうとニコル……会えなかった期間も長かっただろうが、随分と積極的になったな」

「ニコルったら……大胆……」

 

 

俺の一言にニコルは俺に跨ったまま俺を睨み、ディアッカと外側にハネた髪型の少女……恐らくミリアリアが見て呟く。ミリアリアの頬は少し赤く染まっていた。

そして指摘されてから客観的に自身を見てみる。

俺は地面に寝そべり、ニコルに押し倒されている。ニコルは俺の腹に腰を下ろして、両手は俺の両肩に添えられている。

 

成る程……ニコルが情熱的に俺に迫ってる様に見えるな。そしてニコルもその答えに辿り着いたのだろう。顔が真っ赤になり、目がグルグルとなっている。あら、やだ……凄い可愛い。そしてニコルの拳が振り上げられ……え、ちょっと待って?

 

 

「いやぁ!」

「あうちっ!?」

 

 

振り下ろされた拳を避ける事は叶わず、それに心配させた詫びも含めて俺はニコルの一撃を甘んじて受け入れた。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

あの後、俺とアスラン、ニコル、ディアッカは敵じゃないとキラからアークエンジェルやオーブの皆さんに取り成してもらってからお互いの話をする事に。

 

俺はオーブ海域の後の経緯を話した。とある傭兵から助けられた事。助けられて治療を受けた場所でキラとトールに出会った事。テスタメントを貰った事。地球に来てからマルキオ導師の所で数日過ごした事。

逆に俺もニコルとディアッカがどう過ごしていたかを聞いた。なんと言うかまあ、ニコルとミリアリアが仲良くなっていたのは意外だったな。ディアッカもミリアリアには多少恨まれてはいる様だがキラからトールが生きていた事を聞いていたからなのかミリアリアもディアッカやアスランを原作程憎んではいない様だ。

 

キラもある程度は話していたのだろうが、俺が生きていた経緯やトールの話はニコル。アスラン、ディアッカは相当驚いていた。

そりゃそうだよな。互いの憎しみ合い殺し合いの切っ掛けの当事者二人が生きていたってんだから。

 

 

「そっちの子はミリアリアさんだよな……トールから話は聞いてるよ。良い尻を持つ子だと」

「トールから何を聞いてるんですか!」

 

 

俺の話を一緒に聞いていたミリアリアがスカートの端を押さえながら顔を赤くしていた。

 

 

「トールとはそんな話をするくらいの仲になったって事。寧ろ、俺はほぼ毎日キミとの惚気話を聞かされていたんだがな。好きが溢れ過ぎて胃もたれ起こすくらいに」

「そ、そうなんですか?」

 

 

俺の発言にミリアリアは嬉しそうだ。んじゃ、そろそろ爆弾投下と行くか。

 

 

「ああ、そしてトールはこれからキラの助けになりたいと今はMSの操縦訓練を受けているぞ。一流の美人歳上女性MSパイロットから付きっきりで」

「ラスティさん。そのお話を詳しく」

 

 

目の光が無くなってガシッと俺の肩を掴むミリアリア。しまった、フリが効き過ぎたな。

 

 

「話してやりたいけど……俺もやらなきゃならない事が沢山あるからさ。それに直接会って話をした方が良いんじゃない?」

「う……でも、トールが今どこに居るか……」

 

 

俺のごまかしにミリアリアは言葉に詰まる。会いたいけどトールが何処に居るか分からないと言うミリアリアに俺は上空を指差した。今は宇宙にいますよってね。

さて、俺も大凡の話が終わったし本命との話をさせてもらおうか。

 

 

「あー……ニコル、散々心配させてすまなかった。だが俺は……」

「ラスティ、僕も話したい事は沢山あります。でも、今一番話さなきゃいけない事があります」

 

 

俺が諸々の事を謝罪しようと話し掛けるとニコルは意を結した様な表情で俺を見つめた。こりゃまだ怒ってるかな……もう二、三発は殴られる覚悟をした方が良いか?

 

 

「その……シンとマユちゃんの事です」

「え、シンとマユ?何があったんだ?」

「貴方がラスティ君?ちょっとお話良いかしら?」

 

 

ニコルから予想外の名前が出た事に驚きながらもシンとマユの状況が気になった。いや、俺が居ない間に何があった?

何ですか、エリカ・シモンズさん?え、俺のジンを回収して修理したから来て欲しい?いや、ニコルからシンとマユの話を……え、マユの話もそこで話す?イージスも修理したから見てほしい?ナチュラル用のOSを組み込んだ?

 

ちょっと待って情報量多すぎるから一旦整理させてくれ!

 



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少しずつ変わりゆく運命

 

 

エリカさんに案内されてモルゲンレーテの工場に案内された俺とニコルとディアッカは言葉を失っていた。

 

 

「間違いないな……確かに以前、俺がオーブで会ったマユだ」

「どうしてザフト軍の貴方がオーブに住んでいた、この子を知っているのか大体想像はつくけど今は追求しないでおくわ。それで、この子の症状なんだけどね……頭を強く打った事で視力に異常が起きてるの。失明とまではいってないみたいだけど」

 

 

俺がベッドで眠るマユを見て間違いないと宣言するとエリカさんは俺が何故、マユを知っているかの追求は今は避けてくれた。そうしてくれると助かります。

ニコルから聞いた話では避難するのが遅れたシンの一家は原作同様に飛んできたミサイルによって両親が亡くなり、シンは絶望感に打ちのめされながらもオーブの将兵に避難させられたらしい。原作との違いがあるとすればニコルとディアッカが関わった事でマユが生存した事だろう。ニコルとディアッカはMSに乗り込む為にモルゲンレーテまで走り、マユをそのまま預けたらしい。モルゲンレーテの工場は今、夜戦病院みたいになっていた。そしてマユはモルゲンレーテで医者の手当を受けて今はベッドで眠っている。

だが、全てが上手くいった訳じゃない。マユは頭を強く打った事で視力に影響が出ている可能性があると言うのだ。

 

 

「それと言いにくいんだけど……記憶にも影響があったかもしれないの。治療した医師の話じゃ一度意識を取り戻した時に記憶の混乱が見られたと言ってたわ。それが今だけなのか……今後もなのかはマユちゃんが目を覚ましてからの判断になるけど」

「そう……ですか」

「くそっ……俺がもっとしっかり庇っていれば!」

「いや、ニコルもディアッカも、聞いた状況じゃ良くやってくれたと思うよ。今はマユが生きている……それだけでも良いんじゃないかな?」

 

 

エリカさんの発言に俺達は更に沈んだ気分にさせられる。視力に影響がある上に下手をすると記憶障害になっているかも知れないのだ。ニコルもディアッカも悔やんでいる様だけど命があるだけ良かったと思うよ、俺は。

 

問題があるとすればシンがマユの生存を知らない事だ。現状、シンは原作通りの状況となっている。だが、シンの行き先はプラントだと分かっているし、マユの生存を伝えるだけでも救われる筈だ。今はそう思うしかない。

 

 

「この子の事‥‥お願いします。ちょっと特殊な事情ではあったけど友人には違いないので」

「ええ、貴方の友人じゃなかったとしてもオーブの住人だもの。ちゃんと治療させるから安心して。それで私の方の事情に取り掛かっても良いかしら?」

 

 

マユの話もひと段落したので今度はエリカさんの方の話を聞く事に。再度、エリカさんの案内でモルゲンレーテのハンガーに足を踏み入れると修理された俺のジンと……修理?改修?どちらとも判断がつかない感じのイージスが鎮座していた。

 

 

「あの……見た感じ、ジンは完全に修復されてますけどイージスは……」

「キラ君からも話は聞いたけど、イージスはストライクと違って自爆したんでしょ?それで主要な部分の殆どが欠けた状態だったけどパーツは回収したの。データを取り合えた後はM1アストレイの機体にイージスのパーツを組み込んで再生してみたのよ。機体名はイージスリペア」

 

 

成る程、自爆で機体の大半を失ったイージスをアストレイの機体で再生したのか。と理解した反面、何処か妙に納得している自分もいた。何故ならば目の前のイージスリペアは見た目がムラサメに似ているのだから。ムラサメは後のSEED DESTINYにおいてオーブの主力機となる機体だ。しかし、今まで陸戦主体のM1や取り敢えず飛ばせる程度のシュライク装備から何故急に完成度の高い可変機が主力に上がったのかと不思議だったが……推測になるがオーブはイージスの変形機構やエールストライクの推力のデータからムラサメを作り上げたのではないだろうか?そして目の前の再生されたイージスリペアはプロトタイプのムラサメって事になるんじゃ……まあ、全部俺の予想でしかないから確証は何処にも無いのだが。

 

 

「ジンの修理は有り難いです。この機体は残したかったので」

「ミゲルから受け継いだ機体ですからね」

「あら、噂は本当だったのね。暁の閃光さん」

 

 

俺がジンを見上げているとニコルが微笑んでくれてエリカさんは少し意外そうな顔をしていた。いや、その前に暁の閃光って何よ?

 

 

「一部関係者の間で噂になったのよ。黄昏の魔弾の機体を受け継いでカラーリングを夕暮れの意味の黄昏から夜明けの意味の暁に変えたエースパイロットがいるって」

「確かにミゲルから機体は受け継いだけど、そんな壮大なテーマは初めて知ったんですが。なんか恥ずかしい、照れる!」

「平和の狩人もよっぽどだと思うけどな」

 

 

エリカさんから俺の二つ名の説明が入るがマジマジと解説されると結構、心にくるな!なんかハズイ!そしてディアッカのツッコミに俺は一時のテンションの怖さを思い知らされる。あの会話、結構広範囲に聞かれてたのね。

 

 

「悶えてる所、悪いけど……このイージスリペアは使えそうかしら?最初はフラガ少佐にお願いしようと思っていたのだけど少佐はストライクに乗っちゃったから乗り手がいないのよ」

「他にパイロットの候補はいなかったんですか?」

 

 

俺のリアクションはさておき、エリカさんはイージスリペアの事を俺に聞いてきた。意外な事にムウさん以外に乗り手の候補がいなかったらしい。ニコルも意外そうにエリカさんに質問する。スペックも高そうだし、余らせるには勿体ない機体だ。

 

 

「それがね。ある程度の戦闘機の実力が無いとイージスリペアの飛行形態を使いこなせないの。かと言って戦闘機のパイロットだとMS形態を使いこなせない。今からじゃ慣熟訓練をする時間も無いしでフラガ少佐以外のパイロット候補がいなくて困ってたのよ。貴方のジンも同様よ。セッティングがピーキー過ぎて並のコーディネーターじゃ使いこなせないじゃない」

「成る程、俺のジンもイージスリペアも乗り手がいなくて問題になったと……俺のジンは取り敢えず、このままでお願いします。何かの機会にテスタメントじゃなくジンで出る機会があるかもしれませんから。それと……イージスリペアに関しては乗り手に心当たりはあります」

 

 

イージスリペアはナチュラル用のOSは搭載されてはいるものの戦闘機とMSの両方の適性が無いと完全には使いこなせないらしい。俺のジンはセッティングの都合上、乗れるのは俺だけっと……高性能の機体を二機も余らせるのは勿体無いがイージスリペアに関しては乗り手に心当たりがあったりする。

いるじゃないか…スカイグラスパーに乗って適性もあり、現在宇宙でMSの特訓を受けている奴が。

 

 

「問題があるとすれば、そのパイロット候補になりそうな奴が現在宇宙にいるって事ですが」

「そう、宇宙……ね。ならイージスリペアは当分使えそうに無いわね」

 

 

 

一先ず俺のジンとイージスリペアは保留と言う形で落ち着いた。俺とニコルとディアッカはエリカさんと別れ、キラとアスランの所へ向かう事に。

 

 

「ディアッカ……ミリアリアさんを怒らせたんだって?」

「そ、それは……いつもの調子で話してたら、まさか恋人が死んだとかビンゴだとは思わなくてよ」

「あの時のディアッカはデリカシーに欠けていましたよ」

 

 

話題はディアッカがミリアリアを激怒させた事だった。原作通りに軽口を叩いたディアッカだったが、その頃はキラもトールもMIA認定されていて皆の心が不安定だった。そんな時に『恋人が死んだ』なんて軽口を叩けば、そうなるよな。そんでニコルの美脚から繰り出された蹴りで沈められたと。その事が切っ掛けでニコルとミリアリアが仲良くなったのは思わぬ副産物だったが良い傾向だとは思う。

ミリアリアにはニコルの女子力を上げる手伝いを……?

 

 

「それで……ラスティの話だとトールはリハビリが終わったらMSの操縦訓練をするって言ってたらしいんだ。それで、そのコーチを引き受けてるのはバルドフェルドさん……えーっと砂漠の虎の恋人で……」

「うんうん、それで?」

 

 

モルゲンレーテの工場からアークエンジェルの格納庫に戻ってきたのだが、キラがミリアリアにトールの現状を説明しながら、トールの事をフォローしてくれていた。そう言えば爆弾を投下してから放置していた事をすっかり忘れていた。ミリアリアはキラから話は聞いてはいるものの雰囲気としては少々怖い。

 

俺達が戻った事に気付いたキラとミリアリア。ミリアリアはニコリと笑みを浮かべると俺を手招きする。あ、これ絶対に逃げられない奴ですね。

 

 

こうして俺はニコルと二人きりで会話をするタイミングをすっかり逃してしまったのだった。自業自得なのだ甘んじて受け入れよう。

 





『イージスリペア』
自爆したイージスをオーブが回収して修理した機体。
ストライクと違ってイージスはバラバラになった為にM1アストレイのパーツを流用して修理された。パーツ比率はM1が7割、イージスが3割。
オーブの可変機の試作機となった。

機体のベースとなる機体がM1である為にPS装甲ではない。見た目はムラサメとイージスを足して2で割った様な外見となっている。
飛行形態にも変形可能だが従来のイージスと違って移動目的の変形なのでスキュラは装備していない。飛行形態時の形状もムラサメに酷似している。飛行形態時の武装はビームライフルのみ。

両手がイージスなので固定のビームサーベルを両手に装備している他に腰にM1のビームサーベルも装備している。



武装
ビームライフル(イージス)
固定ビームサーベル(イージス)
ビームサーベル(M1)
イーゲルシュテルン
シールド(イージス)


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新たな決意と覚悟

 

あの後、トールのフォローをした後で俺達はハンガーで雑談をしていた。キラとアスランも少し離れた場所で何か会話しているが今は二人にさせておくのが正解だろう。

 

 

「それでディアッカ……あのアストレイ隊の子達と何があった?あの三人の内の1人が随分と熱い視線を送ってたじゃないか」

「あ、ああ……戦闘の時に援護してやったんだが、感謝されてな」

「僕はアークエンジェルの援護をしていたから気付かなかったけど、そんな事をしてたんですね」

 

 

さっき所謂アストレイ三人娘がディアッカに感謝をしていたのを目撃したのだが、その内の1人がモジモジしているのを俺は見逃さなかった。アレは恋する乙女の目だった。

 

 

「で、第一印象は?」

「ちょっと気が強そうには見えたけど、ありゃ甘えに来るタイプだな」

 

 

俺がディアッカの肩を組み、その子の聞く。ディアッカの方の印象も悪くないみたいだな。

 

 

「で、巨乳だったか?」

「パイロットスーツの上からでもわかる。ありゃ相当なお宝の持ち主だ」

「二人とも最低ですね」

 

 

コソコソと最重要事項を聞いたらディアッカはサムズアップをして答えた。ニコルは俺達の話をバッチリ聞いていたのかゴミを見る目で睨みながら殴ってきた。超痛い。やはり胸の話題はニコルの前では禁句だな。

そんな馬鹿な事を話していたら警報が鳴り響く。地球連合の第二波攻撃が始まったんだな。

 

 

「ごめんアスラン。話せてよかった」

「キラ!」

「キラ、先に行っててくれ。俺も後で行く」

 

 

キラがアスランに別れを告げ、タラップを登っていく。俺はキラに一声掛けるとキラは頷き、急いで走って行った。

 

 

 

「戦闘に参加しちまったけどよ……やっぱ不味いんだろうな、俺達ザフトが介入しちゃあよ」

「それでも……俺はアイツ等を死なせたくない」

「僕もあの人達を見捨てたくないです!」

 

 

キラを見送った後、ディアッカが口を開き、アスランとニコルも同意した。しかし俺はディアッカ、アスラン、ニコルはザフトのプラントの事を考えるとオーブの戦いに介入すべきではないと思っている。だが、心情的にはオーブやアークエンジェルを助けたいと思っている。軍の命令に従っているだけの状況はとっくに通り過ぎているのだから。

 

 

「ラスティは……どう考えてるんですか?」

「俺はもう決めたよ。テスタメントを受け取った時に家族の事やザフトの事も信頼出来る人にお願いしてから俺は戦場に戻ると決めたからな。キラも同じだろうよ。アイツも俺達との戦いで失う怖さを思い知らされたからな」

 

 

ニコルの問いに俺は戦う意志を示す。

 

 

「無理にオーブの戦いに付き合う必要は無いんだぞ?アスランはフリーダムやテスタメントの奪還命令を受けてるんだし、ニコルとディアッカはMIA認定されてはいるがプラントに戻る事は出来んだろ。それに家族の事もある。俺は母親の保護を頼んであるから問題無いけどお前達の親はプラントの評議会の一員なんだ……お前達がオーブの戦いに介入すれば悪い方向に話が進むかも知れないぞ」

 

 

俺の発言にアスラン、ニコル、ディアッカは「うっ……」と声を詰まらせる。

そりゃそうだ。原作と違い、アスランは任務が増え、ニコルは生きてはいるものの親想いだ。ここでニコルがオーブの戦いに介入する事でプラント評議会の一員である親にどの様な影響が出るのかは言うまでも無い。ディアッカはミリアリアとの確執が格段に減った事でオーブの戦いに介入する理由は減った筈だ。

俺はガンダムSEEDの世界に転生してから随分と悩んだが、今はこれが正しいと思ってる。それにニコルを死なせたくないし。

 

 

「俺はさ……ミゲルの事やバルドフェルドさん達の事もあって、色々と考えさせられたよ。戦争だからと命令に従って戦う。それも間違っちゃいないんだろうさ。それで戦争が終わるなら……でもそうじゃなかった。戦火が戦火を呼び、憎しみが憎しみを招く。それを実感しちまったからな」

「だからラスティが戦うって言うんですか!?」

 

 

俺がヘルメットを抱えてタラップを登ろうとする所でニコルが叫ぶ。

 

 

「本当は戦争なんかに参加せずにニコルとの約束を守りたいんだかな。そうもいかなくなっちまった。あーあ、俺はもっと気楽に生きたかった筈なのになんでこうなったのかね」

「ラスティ……」

 

 

戦争で死にかけたから戦争の虚しさを知ってしまった。死にかけたから生きてる有難さを実感した。だから尚更思ってしまった。

 

 

「地球軍と……ナチュラルと戦争をしていた俺が……俺達が言っちゃいけないんだろうけど……戦争なんざ、色んなもんを飲み込んで何も生まないくだらないもんだよな」

 

 

俺はニコル達にそう言うとテスタメントに乗り込む。転生したばかりの頃は原作を知る俺なら良い方向に修正出来るなんて考えただろう。だが、そんなに甘い世界じゃない事は散々思い知らされた。気が付けば普通にこの世界の住人として生きていた。俺は俺らしく生きていたつもりでも戦争にハマっていた。

 

 

「だったら……俺は俺のやれる事をやるべきだな」

 

 

俺はテスタメントを発進させ、PS装甲を起動させる。テスタメントは赤く染まり、俺のパーソナルカラーとなった。

 

 

「黄昏から暁に……か。ミゲルを討ったキラと一緒に戦う俺をミゲルはどう思う?」

 

 

ミゲルのオレンジのジンはミゲルの遺言で赤と黒に染めれた。その色は関係者には黄昏のオレンジから暁の赤へと変えられたのだとエリカさんは言っていた。

じゃあ、黄昏の意志は受け継がれたのかと言えばそうじゃないだろう。ミゲルの仇であるキラと一緒に戦うのはミゲルの意志に反する事なんじゃないかと思ってしまう。だけど……さっき眠るマユを見た時に俺の腹は決まっちまったよ。

そんな事を思いながら俺は大量に迫り来る、ストライクダガーに武器を構える。

 

 

「ニコルとディアッカはどうするのか……ま、後でわかるだろ」

 

 

色々と変わった事態に今後は原作知識が役に立ちそうに無いからな、と思いながら俺は引き金を引いた。



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オーブ防衛戦①

 

 

 

再度、オーブに攻めてきた地球連合軍。大量のストライクダガーがオーブ本土に攻め込む中、カラミティはレイダーの背に乗りながら次々にM1を撃破していっている。ったく、デタラメ砲撃仕様の機体は厄介だよな。通常のMSの射撃武装の射程範囲外から撃ってくるんだからたまったもんじゃない。しかもオルガは激情型ではあるが射撃のセンスは抜群だ。だから適当に撃って敵部隊を壊滅に追い込んでいくんだろうけど。

キラのフリーダムはフルバーストでストライクダガーの数を減らしに行ってるから俺はコイツ等を押さえるとするか。

 

 

『どうしたんだよ、昨日の白い奴と狩人は!?』

『狩人を出しやがれ!』

『はぁ、ウザい狩人を狩ってやるよ』

 

 

訂正。押さえるつもりだったけど、此処で撃墜してやろう。オルガ、クロト、シャニのそれぞれの発言を聞いた俺はモルゲンレーテに置かれていた試作のガトリングガンをテスタメントに背負わせて発進していた。射程距離に入ったので迷わず引き金を引く。

激しい振動音と共に放たれる弾。試作品故なのか反動が凄まじいが威力も高いのだろう。TP装甲なのでカラミティ、レイダー、フォビドゥンはダメージは無いものの衝撃で足を止めた程だ。

 

 

『テメェ!』

『出やがったな、狩人!』

『ウザっ……』

 

 

弾を食いながらも攻めに転じるレイダー、カラミティ、フォビドゥン。カラミティがレイダーの背中から飛び降りて俺に砲撃を浴びせようと突っ込んでくる。更にレイダーが上空から接近しており、その隣にはフォビドゥンが大鎌を構えながら接近中。

ドンドン来なさい。ぶっちゃけ、お前等三馬鹿がいなければ連合はストライクダガーだけだ。オーブを攻め切れる戦力じゃないのは明白だ。

三馬鹿はガンガン、ビーム兵器を使ってエネルギーを消費しているが俺は実体弾のガトリングガンだけだからエネルギーの消費は抑えられてるし、無駄な動きも減らしてるから

エネルギー切れを起こしてTP装甲の効果が無くなった時がお前等の最後だ。ト○とジェ○ーのチーズみたいに穴だらけにしてやろう。

 

 

「げ……ヤバ」

『滅殺!』

『ラスティ!』

 

 

なんて思ってたらガトリングガンが即行で撃てなくなった。弾詰まり起こしたか、動作不良か……こっちが焦っているとレイダーが変形しながら突っ込んできたがキラのフリーダムが援護に入ってくれた。正直、助かった。

 

 

『来たな、白いのも!』

『今日こそやらせて貰うよ』

『ハァァァァッ!』

 

 

フリーダムの姿を確認した三馬鹿は統率の取れてない動きで俺とキラに迫る。だが、そこへビームブーメランが飛んできてフォビドゥンの動きを阻んだ。更にビームライフルでレイダーとカラミティを牽制する。俺とキラの更に後方からの援護射撃。振り返ればジャスティスを先頭にブリッツとバスターが機体を走らせていた。

 

 

『アスラン、皆!』

『俺達にだってわかっているさ……戦ってでも守らなきゃならないものがある事ぐらい!』

『そう言うこった。援護するぜ!』

『ラスティ、僕も気持ちは一緒です!』

『それじゃ……皆んなで行くとするか!』

 

 

テスタメント、フリーダム、ジャスティス、バスター、ブリッツVS三馬鹿って正直イジメにすら見える光景になるかと思ったが、ブリッツとバスターはアークエンジェルとM1隊の援護に向かって行った。うん、絵面的に危ない事になりそうだったし、他の部隊への懸念も消えるからありがたい。

 

 

「取り敢えず……ガトリングはダメだったな。後で設計見せてもらうか。コレを直すよりも作り直した方が早そうだって事で……パス!」

『あ、ウザ……ぐあっ!?』

 

 

俺は使用不可になったガトリングガンを弾が込められたままフォビドゥンに投げつける。当然、フォビドゥンは大鎌でガトリングガンを斬ったのだが弾がまだ入ってる状態のガトリングガンを斬れば残った弾が暴発する。その衝撃でフォビドゥンがよろめき、その隙をアスランのジャスティスが飛び込んで蹴りを見舞った。

 

 

『テメェ、瞬さ……があっ!?』

『『『ぶふっ!?』』』

「オモチャか!」

『なんで、お前は相手を怒らせる戦い方しかしないんだ……』

 

 

レイダーが俺の隙を突こうとしたのかミョルニルを飛ばしてきたので避けてからワイヤー部分を蹴り落とした。すると慣性の法則で蹴った部分を支点にミョルニルは振り子となりレイダーの頭に直撃した。しかも追撃しようとレイダーは口からビームを放とうとしていたのかミョルニルが頭に直撃したジャストタイミングでビームが放たれた為にミョルニルの衝撃で口からビームが溢れた様に見えてしまう。その光景を見ていたキラやオルガ、シャニから吹き出すような笑い声が聞こえ、俺は思わずツッコミを入れた。アスランからは俺に対するツッコミが来たが正直、意図してやった事じゃないんだけど。結果的に笑いに繋がっただけで。

 



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オーブ防衛戦②

 

 

 

予想外の面白映像になって、その場の全員が噴き出す事態になった。頭への衝撃がきっかけでレイダーの口からビームが溢れるとかギャグが過ぎるわ。

 

 

『てんめぇ……抹殺!』

「おっと、危なっ!」

『効かないよー』

 

 

怒り狂ったレイダーが突進して来たので、避けながらビームライフルで撃つがフォビドゥンがカバーに入り防がれてしまう。仲間意識皆無なのに、連携攻撃の時とかはコンビネーションが巧みなんだよな、コイツ等。

 

 

『ラスティ!』

『本当にお前は……らしいと言えばらしいが』

「今回のは狙った訳じゃないんだけど。まあ、相手を怒らせたから戦いやすくはなったな」

 

 

フリーダムとジャスティスが俺の側に飛行してくる。キラは俺の心配をしてくれたみたいだが、アスランは呆れてるみたいだから、狙ってやったと思ってるぽいな。

 

 

「キラ、アスラン。お前等は新型機三機を抑えてくれ。主に空中戦になるからフリーダムとジャスティスなら問題ないだろう。ニコルとディアッカはM1隊の支援に回って、少佐と一緒に防衛に専念してくれ」

『ラスティはどうするんですか?』

 

 

俺が指示を出すと皆は素直に従ってくれた。話が早くて助かるね。俺はしつこく迫り来るレイダーの攻撃を避けながら空中から降りて地球連合の艦隊の方へと機体を向ける。ニコルは俺が何をしようとしているのか察したのか心配そうと言うか、嫌な予感がしているのだろう。

 

 

「俺の得意な事をしてくる。少しは効果があるだろうからな」

『格闘戦?』

『なるほど、嫌がらせか』

『OK、嫌がらせだな』

『ラスティ、程々にしてくださいね』

 

 

俺の発言にキラ、アスラン、ディアッカ、ニコルの順にコメントを溢す。キラとニコルは兎も角、後で覚えてろテメェ等。

俺は心の中で毒づきながらテスタメントのペダルを踏み、オーブの沖合に停留している地球連合の艦隊へと機体を走らせる。

 

 

『な、なんだあの機体は!?』

『突っ込んでくるぞ!』

『迎撃しろっ!』

 

 

テスタメントが急接近した事で慌て始める地球連合艦隊。先頭の戦艦に急接近した後で機体を浮かせて悠々と連合艦隊の上空を飛行する。俺の行動に連合の部隊の動きに変化が起きた。オーブを攻めようと進軍していたストライクダガーの部隊の動きが鈍くなり、戦艦の砲はオーブではなく俺に向けられている。

 

 

『舐めおって……あの機体を撃ち落とせ!』

『待機している機動部隊を発進させろ!』

「あー、怒ってる怒ってる。怖いから逃げよう」

 

 

俺が挑発した事で地球連合の艦隊はオーブに攻めるだけだった状態から自分達の身を守る防衛に動きを回さねばならなくなった。それだけでオーブに上陸したストライクダガーの部隊の動きが鈍ったんだから効果はあったと思いたい。

俺はテスタメントを艦隊の合間を縫う様に飛ばす。艦砲は俺に向いてはいるが同士討ちになるから艦砲の弾は飛んでこない。

飛んでくるのは近接防衛システムのイーゲルシュテルンだ。それと戦艦の甲板に乗ったストライクダガーのビームライフル。当たらない様に銃弾とビームの雨をPS装甲と回避で捌いていく。

暫く時間を稼いだ後、俺は地球連合の艦隊群から離れた。取り敢えず現場を混乱させたから十分だろう。オマケに俺は地球連合の艦隊には一発も撃ち返してない。奴等にしてみれば場を混乱させられた上に一度も撃ち返さず挑発され、しかも逃げられるとなれば艦隊の数や戦力を把握されたと情報を持ち帰らせられる。

 

 

『撃て撃て!』

『奴を撃墜しろっ!』

 

 

つまりは馬鹿にされた挙句、良い所が何一つとして無いのだ。ならばどうするか?馬鹿にした張本人の撃墜しかない。

テスタメントが離れたと同時に放たれる艦砲射撃。地球連合はメンツもあるので、この場で俺を墜としたいのだろう。あの艦隊の何処かにいるコンプレックスまみれの盟主さんはブチギレてるだろうし。まあ、俺としては地球連合の艦隊の弾やエネルギーの消耗を狙っていたから渡に船であるのだが。

砲戦の合間を縫いながら帰ろうとしている俺の視界にキラとアスランと戦っていたレイダーとカラミティが見えた。

 

 

 

『勝手に乗るなよ!』

『良いから戻れよ!お前もそんなんじゃしょうがないだろうが!』

 

 

レイダーはミョルニルを破壊され補給に戻ろうとした所をカラミティが勝手に乗ってきて帰投しろと喧嘩をしている。良いタイミングだから手伝ってやろう。

 

 

「嫌がってんじゃん。降りてやれよ」

『ぐあっ!?テメ……ぐわぁぁぁぁっ!?』

『オル……危なっ!?』

 

 

 

テスタメントで急接近してレイダーの背に乗っていたカラミティを蹴り落とす。不意を突かれたカラミティはそのまま落下し、レイダーも突然の事態に動けなくなっていた。それと同時に俺を狙った地球連合の艦隊の砲艦射撃が俺、レイダー、そして落下中のカラミティに降り注ぐ。俺は即座に回避行動に出たから当たりはしなかったが、硬直していたレイダーと飛行能力が無く落下していたカラミティは味方の砲撃の雨の直撃を受けていた。TP装甲だから実体弾の砲艦射撃ではダメージは少ないんだろうけど精神的なダメージはデカかろう。機体の損傷度を確認しようとしたが黒煙が凄くてマトモに見えないな。

あ、持ち直したレイダーが落下中のカラミティを回収して逃げてった。平然とフレンドリーファイヤをされた割には妙な所で律儀なんだよなクロトって。

 

 

 

さて、俺自身は然程消耗してないし哨戒をしながら戻るとしよう。マユの事も気になるしな……

 



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オーブ防衛戦③

 

 

 

オーブに戻った俺達はアークエンジェルに身を寄せていた。キラやマリューさん、少佐はオーブの行政府に呼び出されている。アスランとディアッカは今後の事を話し合っている。そんな最中、俺とニコルはマユの診察結果を聞いていた。

 

 

「記憶喪失に視力の低下……それに精神的なトラウマですか」

「彼女が目覚めてから何度か受け答えをして確認したが彼女は記憶の殆どを失っている。両親や兄の事を思い出そうとすると寧ろ恐怖で身を震わせる程だ。今は無理に思い出させるよりも、心の回復を待った方が良いだろうね」

「そんな……」

 

 

オーブの軍医から聞かされたマユの今の状態に俺とニコルも言葉を失う。俺としては当初、生きているのだから原作よりはマシになったと思っていたかったが、余計に拗れている気がしていた。

心の拠り所になりそうな家族の事がトラウマとなったマユ。こうなると迂闊にシンに会わせる訳にはいかなくなったな。家族の話をするだけで身体が震えるんだ。直接家族に会わせるとどうなるか予想がつかない。

 

 

「まさかマユちゃんの症状があそこまで酷いものになってるなんて……」

「そう思い詰めるなよ。ニコルとディアッカのおかげで命を拾ったんだぞ、あの兄妹は。マユの状態が良くなったらプラントに避難させた兄の行方も探してみよう」

 

 

辛そうな表情になるニコルに命が助かったのだから、良かったと告げる俺だが内心では焦っていた。

シンは家族が皆殺しになったと思っていて、マユは記憶喪失な上に家族の事を思い出させようとするとトラウマで体が震える。コレ、ある意味詰んでないか?

 

 

「兎も角、記憶の方は時間をおくとして視力の方はプラントの技術でなんとかなるだろう。前に視力デバイスで盲目の人でも人並みに視力を回復させたってニュースをやってたからな」

「だったら……尚更、オーブを守らなきゃですね」

 

 

視力デバイスに関してはニュースで見たのも本当だし、ASTRAYシリーズでそんなキャラがいた筈。名前は忘れたけど。

ニコルは俺の話を聞いてオーブと言うか、マユを守る決意を固めた様だ。プリプリと張り切る姿が可愛くて……俺はニコルの肩に手を回そうと……

 

 

「ラスティ、ニコル。アークエンジェルとオーブの艦隊は宇宙に脱出を決定したそうだ!」

「俺達も宇宙に上がる事を考えているんだが……ラスティの意見も聞きたい」

 

 

慌ただしくディアッカとアスランが走ってきた。どうにも俺はラブコメには向かないらしい。話を聞いた後でディアッカとアスランは絞めてやる。

 

アスランとディアッカから話を聞くと強固な防衛線を張っていたオーブ守備軍も、地球連合が動員する圧倒的な物量の前に瓦解し始め、防衛線も下げざるを得なくなった。俺の嫌がらせが効果的だったのか原作よりもオーブの戦力は保てている様だがジリ貧なのに違いはない。増援も見込めない状態ではこれ以上事態が好転する事はないだろう。

そこでオーブの首脳陣は戦力がある内に宇宙への脱出を決めたとの事だ。カガリの父であるウズミは自国の陥落を前にして『自国の理念を託せる者』としてアークエンジェルとオーブの軍隊を宇宙に上げて想いを託すとの仰せらしい。その話を聞いた後でアークエンジェルで元ザフト組とキラで話し合う事に。

 

 

「そりゃあ、このままカーペンタリアに戻っても良いんだろうけどさ。今オーブと敵対してんのは地球軍なんだし」

「今までなら……ザフトの為に、とそうしてましたね」

「『ザフトのアスラン・ザラ』か。彼女にも……そしてお前等にもわかってたんだな……」

 

 

ディアッカの発言にニコルが口を開き、アスランが悲痛な面持ちで何かを思い出したかの様にポツリと呟いた。そして『お前等』の所で俺とキラを見るアスラン。彼女ってのはラクスの事だよな。

 

 

「国や軍の命令に従って敵を撃つ……オレはそれでいいんだと思っていた……仕方ないと思った……それでこんな戦争が一日でも早く終わるなら……でも、オレたちは本当は……何とどう戦わなくちゃいけなかったんだ?」

「俺だってそうだよ。こんなくだらない戦争なんざ早く終わって欲しいと思ってたし、前にも言ったろ。俺は戦争なんざ色んなもんを飲み込んで何も生まないってな」

 

 

アスランの絞り出した悲痛な思いに皆が黙ってしまう最中、俺も同意する。

 

 

「一緒に行こう……アスラン。皆で一緒に探せばいいよ……それもさ」

「キラ……」

 

 

未だ悩むアスランにキラは微笑みながら告げる。キラの言葉にニコルもディアッカも笑みを取り戻した。俺も口を開こうとした、その時だった。背中に柔らかな何かが押しつけられたと思ったら襟首を引かれる。

 

 

「あ、こんな所に居た!エリカ・シモンズ主任が探してたわよ!ストライカーパックの改造の相談と試作の武器の調整をお願いしたいって!」

「ほらほら、こっちに来て!」

「ディアッカの話も聞かせてくれない?」

「え、あ、ちょっ……まだ重要な話をしてるんだけど!?」

「……ラスティ……最低です」

 

 

振り返るとジュリ、マユラ、アサギが居た。ジュリが笑みを浮かべながら俺の背中に張り付く様にしていて、マユラが襟首を引く。アサギは恋する乙女の顔でディアッカの事を聞かせてくれと言ってくる。それは後で良いんじゃないかしら!?

 

引っ張られる最中、ニコルが頬を膨らませながら俺を睨んでいた。可愛いんだけど俺が望んで彼女達に絡んだと思わないでほしい。寧ろ、巨乳の彼女達を睨んでいるのか?

 

キラ達は苦笑いで俺を見送っていた。少しはフォローしろや!

 



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オーブ防衛戦(裏)

 

 

 

 

◆◇sideウズミ◆◇

 

 

アークエンジェルやオーブの防衛隊に我らの意志を任せると決めた後は彼等を宇宙へと旅出せる準備を進める。オーブの首脳陣に各エリアの避難状況の確認や街の復興の手続きの準備を進めてもらっている。だが私のやるべき事はまだある。

MS開発主任のエリカ・シモンズに任せていた、あのMSの開発計画を確認し我が娘への遺言も遺した。後はアークエンジェルとオーブの艦隊を打ち上げるのみとなった。

最終確認をエリカ・シモンズにしようとするが彼女は見覚えのない……いや、ザフトからの脱走兵で今はオーブの防衛に参加してくれている少年と一緒だった。ザフトの最新鋭の機体であるテスタメントを強奪し、無類の強さを誇るエースパイロット、ラスティ・マッケンジー。

私が近づくと彼とエリカ・シモンズは姿勢を正し、敬礼をする。手で制して敬礼を解かせるとエリカ・シモンズから彼がここに居る理由を告げられる。

 

 

「彼に新型の開発のアドバイスを貰っていました。彼の持つMSの開発設計は他の開発者よりも進んでいます」

「俺は俺の思うがままに機体の開発プランを出しているだけですよ。しかし、まあ……遺言と遺品にしちゃ仰々しい物を遺すご予定の様で」

「……必要な事なのだ。私がカガリに遺せる物は少ないのでな」

 

 

彼等の持つパッドに計画が凍結させたアカツキの開発プランの設計が映されていた。エリカ・シモンズや一部の関係者しか知らないアカツキのプランを見せているとは意外だった。彼は先程、カガリ宛てに遺した遺言の事も知っている様子だった。

 

 

「開発プランのスペックだけ見ても破格なMSですね」

「願わくばカガリが私の遺言を聞かぬ事を……とは思うがな」

「ですが、ウズミ様の想いはカガリ様に受け継がれます。そして、その道を歩む以上は……」

 

 

開発プランを見たラスティ・マッケンジーは呆れた様な、それでいながらも納得している不思議な表情をしていた。私の言葉を……私の思いを肯定してくれている。

 

 

「何処まで手伝えるかは分かりませんが、やれるだけの事はしますよ。アイツ等は色々と危なっかしいですから」

「ああ……頼んだぞ」

 

 

ラスティ・マッケンジーは私に敬礼をした後、パッドを持ったまま立ち去っていく。

カガリは独りではない。兄たるキラと……頼りになる友人が居るのだから。彼もまた、私の想いを継ぐ1人なのだな。

 

 

 

 

◆◇sideウズミend◆◇

 

 

 

 

 

 

 

あー、焦った。アストレイ三人娘に連れていかれたのはオーブ行政府の地下施設。そこでエリカ・シモンズさんに見せられたMSと設計プランに言葉を失った。なんせアカツキの開発計画のリストだったんだから。アカツキはまだ基本フレームしか組み上がってなかったけど原型だけは既に存在していたのだから驚きである。

そういや、アカツキはこの頃には開発が進んでいたんだっけ。完成したのがDESTINYの直前だったとか?この辺りはよく覚えてないが、そんな感じだった気がする。

最初に連れて来られた時はストライカーパックの開発の相談だと思っていたのにデータを見せられた首を傾げたっつーの。

 

オマケにまさかのウズミ様のご登場である。めちゃくちゃ威厳あって話すのも緊張しっぱなしだった。

雰囲気からウズミ様が既にカガリ宛の遺言を遺した後だと知ってしまう。

 

俺はなるべく、いつもの口調で話したつもりだが先の歴史を知る身としては何ともやるせない気持ちになる。だったらアカツキを完璧な仕様にしてやろう。今まで上手くいかない事が多かったがこればかりは失敗するわけにもいかんだろう。その考えを伝えるとウズミ様から改めて兄妹の事を頼まれた。

んじゃ、頑張るとしますかね。

 

 

「ラスティ君。話してたストライクのIWSP装備のプランの改善点も提出しておいてね。データの中の試作武装のリストのチェックもね」

「やる事がいっぱいですなぁ……」

 

 

アークエンジェルに戻ろうと思ったらエリカ・シモンズさんに釘を刺された。ストライカーパックの事もそうだが、ブリッツやバスターの強化プランも考えなきゃだからなぁ。次の地球連合の侵攻前までにチェックしないと。

 



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暁の宇宙へ

 

 

 

 

アークエンジェルとオーブの艦隊を宇宙へ脱出させる為にバタバタと準備が急ピッチで進んでいく最中、パイロット組は脱出援護の為に体を休めておけと言われたので雑談に興じていた。尤も俺は手元のパッドでデータ整理に忙しかったが。

だけどまあ……本当ならこうなる前にどうにかしたかったし、ウズミ様の自爆も止めたかった。あの手合いの人は生き残って戦後の処理もして欲しかったし『生きてください』の一言も伝えたかったが、あの決意を秘めた目と気迫を感じたら黙るしかなかった。

 

 

「宇宙に上がったら……恐らくザフトとも戦闘になるだろう」

「ああ、クルーゼ隊長やイザークともやり合う可能性があるな」

「出来たら戦闘は避けたい所ですが……」

 

 

宇宙へ脱出したらメンデルコロニーでの戦闘だったっけ?アスラン、ディアッカ、ニコルの会話をBGMに俺は各種MSの強化プランの設計を見直しを練っていた。エリカ・シモンズさんに頼まれはしたものの時間が足りない。しかも既存のパーツから組み上げたり、加工しなければならないのだ。プラモみたいに簡単にはいかないし、それも分かってはいるがやらねばなるまい。

 

 

「凄いね。これなら戦闘の幅も広がりそうだよ。稼働時間の延長も……」

「ストライクのマルチプルアサルトストライカーの稼働データがあったのも大きいな。それにG同士で互換性がそこそこあるからパーツの連結もうまく行きそうだ」

 

 

ザフトの内部事情の話に口が挟めないキラがデータを覗き込んでくる。丁度良いし、キラの意見ももっと聞こう。俺としてはムウさんも来て欲しい所だ。だって宇宙に行ったらガンバレルストライカーを組み上げる事が出来るかもしれない。だったらガンバレルを扱えるムウさんの意見を聞かないとだし。

 

 

「警報っ!?」

「地球軍の三度目の進軍ですね!」

「行くぞ!」

「ラスティ!」

「やれやれ……何をするにも時間が足りないな」

 

 

このまま宇宙にフェードアウトしたかったが、そうは問屋が卸さないらしい。マスドライバーのあるカグヤの軍港に地球連合が迫ってきたらしい。

俺達はバタバタと緊急発進の準備をしていたらオーブの人達の会話が耳に入る。

 

 

「逃げ遅れた一般人をクサナギに乗せるのか!?」

「此処に残す訳にはいかんのだ!早くしろ!」

「避難民はアークエンジェルの方にも急がせろ!」

「宇宙に上がった後はアメノミハシラに移送させる準備を……」

 

 

この会話からマスドライバー、いやカグヤ島そのものを自爆させるつもりなのは明白だった。そういや忘れてたけどアメノミハシラはオーブの宇宙施設だったな。このタイミングで思い出したのもアレだけどサハク姉弟の事を忘れてた。詳しい経緯は忘れたけどオーブが戦火に包まれた理由の一つってコイツ等だったんだよな。

思い出せない事を悩んでも仕方ないし、それどころじゃない。俺はテスタメントに乗り込んでアークエンジェルとクサナギの発進援護をする事に。

 

 

『援護します。発進を急いでください!』

『空中戦になる。バスターとブリッツでは無理だ。二人はアークエンジェルへ!』

『ちっ……しょうがないな!』

『ラスティ、アスラン、キラも気をつけて!』

「先に宇宙で待っていてくれ。俺達も直ぐに行く」

 

 

地球連合の進軍を俺とキラとアスランで食い止める事に。ストライクダガーは空中戦が出来ないから地上から来るだろうが三馬鹿は空から来る。だとすれば発進前の戦艦を墜とすにはもってこいだ。しかもカラミティはそういった事に向いている機体だ。なんとしても食い止めて……ん?

 

そう思っていたのだが、飛んできた三馬鹿の機体に違和感を感じる。カラミティは左腕が欠落していて、レイダーは右足が無い。フォビドゥンだけマトモな状態だ。

 

 

「ヒドい……あんな状態で出撃してくるだなんて」

『テメェの所為だろうがっ!』

『僕達はお前を許さないからな!』

 

 

俺の呟きにカラミティから怒声と共にビームが発射され、レイダーはカラミティを背に乗せたまま、俺を執拗に追いかけて来た。

どうやら、前回の出撃の最後に味方の艦隊射撃で負ったダメージが残っていて修理が間に合わなかったみたいだ。嫌がらせと思ってやったのだが思いの外、効果的だったらしい。と言うか、俺への被害者意識からか妙に仲が良くなってんな、オルガとクロト。

 

 

この後、アークエンジェルは無事に飛び立ち、俺とキラとアスランもクサナギの発進援護をしながら戦って、最終的にクサナギにしがみ付いて宇宙へと脱出した。三馬鹿の機体がダメージ負ってたから割と楽勝だった。三馬鹿から俺への恨み骨髄だろうけど。

 

クサナギが飛び立った後、オーブ本土のモルゲンレーテ本社とカグヤ島のマスドライバーが自爆した。地球連合にオーブの施設を利用されない為とオーブを守りきれなかった自分達のケジメとして。

 



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宇宙に上がってからもやる事が満載

ちょっと裏話。
オーブが地球連合に攻め入られ、シンを代表とする被害者達が多く生まれたのも事実で批判的な目で見られがちなウズミですが、オーブが侵攻された原因に関してはASTRAYシリーズに登場するオーブ氏族のサハク家のロンド・ギナ・サハクとロンド・ミナ・サハクにあり(地球連合(アズラエル)にMSの技術提供。ザフトにGシリーズの情報を売っていた)しかも元凶であるロンド・ギナ・サハクとロンド・ミナ・サハクはこの段階で逃亡。更に事実を隠蔽したまま、ロンド・ギナ・サハクその後の戦いで死亡。
ウズミもオーブを守れなかった事で自爆により自害した事で真実を知る者の殆どが実質上、闇に葬られてしまった為、オーブ侵攻と壊滅双方の責任は、ウズミ一人だけに押し付けられてしまうに至っている。
真実を知る者達も戦後の混乱を避ける為に口を閉ざしたのが更に混乱と誤解を招いた。
この事は主人公であるキラ達は殆ど知らず、当然シンはそんな大人達の裏事情は知らなかった為に一方的な恨みをアスハ家に抱く結果となってしまった。


因みにウズミがオーブの理念を突き通さなかった場合、地球連合に組みすればオーブに在住していたコーディネーターは殺害され、ザフトに組みすればオーブ在住のナチュラルも良い対応を迎え入れられたかと言えばそうじゃない。つまりはどちらに偏ってもオーブ国民の最低半分は碌でもない結末を迎えた可能性が高く、これは地球連合、ザフトの両陣営のトップが『敵対する者を確実に滅ぼす』スタンスでいた為、どちらかの陣営に身を寄せればどちらにせよオーブの理念は崩れ去るし、国民も殺される。つまりウズミはナチュラル、コーディネーターの差別をせず国民の為に中立の立場を貫かざるを得ない状態となってしまった(事実、オーブ戦以外での両陣営は降伏した相手への虐殺が平然と行われていた)

ウズミがオーブの理念を突き通したからシンの様な犠牲者が生まれたのも事実だが、理念を突き通そうとしたからSEED時代の戦争が終結に向かったのも事実である(そもそもウズミはオーブ防衛の際も国民の避難誘導はしていたし、避難指示をギリギリまで守らなかったのはシンの一家である)

それらを知らない一般人からしてみれば『政治的理念を貫き通して国民を不幸にした愚か者』と見られがちだが関係者からすれば『周囲から何を言われようと国民を守る為に奔走し、責任を取った人物』となる訳です。
それぞれの立場や見方で人物像が違ってきますね。



 

 

 

 

宇宙に上がってからアークエンジェルとクサナギは一路、コロニーメンデルを目指していた。

オーブを脱出をする際に物資はたんまりと持ち出したので余裕を持って所持しているが、それも無限ではない。

かと言って地球連合やザフトの軍が駐在しているコロニーに立ち寄る訳にもいかないので、無人の資源コロニーに行くしかない。それらの事もあり、今は揃ってメンデルを目指していた。

 

そして時間も無駄には出来ない。メンデルに向かう道中も無駄にはしない為に俺は宇宙に慣れてない人達の面倒を見ていた。

 

 

「ムウさんは動きが大雑把になりすぎで三人は慎重になりすぎだ。宇宙は全方位に気を使わなきゃだけど気負いすぎも良くないぞ」

『やっぱMAとMSじゃ勝手が違うよなぁ。慣れるまで時間が掛かりそうだ』

『そ、そんな事、言っても……ひゃあ!?』

『シミュレーターでは上手くいったのに……』

『思ったよりも難しい』

 

 

俺はテスタメントで随伴しながらストライクに乗ったムウさんとM1に乗ったアストレイ三人娘の宇宙慣熟訓練に付き合っていた。四人ともMSパイロットとしての経験値が少ないが戦力の中核を担う人達だから早く慣れてもらわないと困るから少々厳しめに指導中である。四人ともバランスが上手く取れず溺れているような動きで姿勢制御をしていた。MSの溺れる動きって凄いシュールだ。

 

 

『それはそうと……ラスティはアークエンジェルに居なくて良いのか?あのお嬢ちゃんも目を覚ましたんだろ?』

「その辺りもどうしたら良いか分からないのでニコルに任せてます……」

 

 

ムウさんの言う『お嬢ちゃん』とはオーブで保護したマユの事である。避難状況から彼女もアークエンジェルに乗せたまま一緒に宇宙に上がる事になってしまい、更に困った事が起きてしまっていた。

 

 

◆◇◆◇

 

 

「お兄さんとお姉さんが私を助けてくれたんですよね?お医者さんが言ってました。ありがとうございます」

「正確にはこのお姉さんと他にお兄さんが居たんだがな」

「まあまあ、僕達が助けたで良いと思いますよ。今、無理に説明をしても起きたばかりじゃ理解できませんよ」

 

 

ベッドで上半身を起こしながらマユは見舞いに来た俺とニコルに頭を下げていた。本当はマユを助けたのはディアッカなのだが現在は交代をしながら物資搬入や宇宙用のOSの切り替え作業で忙しい為、順番で休憩しているから俺とニコルが二人で来たのだ。

本当ならディアッカがマユを助けた事を説明したかったのだが、ニコルから目覚めたばかりで情報の詰め込み過ぎは良くないと言う事で一先ず俺とニコルが助けた事に。

 

まあ、ニコルが助けて俺がオーブに保護を申し込んだから間違っちゃいないんだろうが。

 

 

「それで……体調の方はどうだい?」

「体はちょっと痛いけど大丈夫です。でも……思い出せないんです。家族の事が……お医者さんから私の家族構成を聞いてもピンと来なくて」

 

 

俺の問いにマユは首を横に振り、目を伏せた。コレは俺もニコルも軍医から聞いた話だった。マユの記憶の一部に障害が起きていると。まさか、その内容が家族の事に関してだとは思わなかったが。

それと気になるのは目の方だ。今は包帯を巻いて一時的に目を休ませているが……視力にどんな影響が出ているかは後々の検査となっている。

 

 

「でも……少しだけ覚えてるんです。お父さんとお母さんみたいな人達が居なくなって……黒髪の人が私を置いて一人で……逃げて……待ってって、置いてかないでって思っても……う、うぅ……」

「いいんですよ、無理に思い出そうとしなくても。ゆっくり……まずは体を休めましょう……ね?」

「そうだな。今日は軽く顔見に来ただけだけど、話す時間が出来たら色々と話そう」

 

 

ガタガタと震え始めたマユをニコルが優しく抱きしめて落ち着かせていた。俺もマユの頭を撫でながら笑みを浮かべる。

 

 

「うん……お兄さんもお姉さんも優しいね」

「ふふっ……僕がお姉さんって呼ばれるのはちょっとくすぐったいですね」

「お兄さんと呼ばれるのも気分が良いもんだな。ニコル、もう少しマユと一緒に居てやってくれ」

 

 

マユの笑顔に俺もニコルも少し安心した。俺はニコルにマユの事を任せて

医務室を後にする。

うん、記憶障害が起きてるとは聞いてたけど、割と元気そうで安心したけど……

 

 

「なんで家族の事を忘れた挙句にシンが恨みの対象になってんだよ……」

 

 

俺は頭を抱えてしゃがみ込んだ。今、マユの中ではシンは『自分一人だけ逃げて家族を見捨てた男』となってしまっている。

原作でもシンは『アスハの一族の為に自分の家族は殺された』『自分は世界で一番不幸』『俺以外が皆、間違っている』みたいな捻くれた思考の持ち主になっていたが……

 

 

「捻くれ兄妹め……と言いたいが状況が状況だから仕方ないと言えば仕方ない。マユは体を治しながら心のリハビリをして、経過を見ていくしかないか」

 

 

ハァーと溜息しか出なかった。

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

とまあ、悩む事が多くこうやってMSに乗って操縦指導していた方が気楽と言うのもある。

 

 

「マユの事も気掛かりですけど、やる事が多いんで時間を割いてるんでしょ。ほら、早く慣れてアンタ等が他の人達の指導が出来る様になってもらわないと。特にムウさんは新装備の調整もあるんだから」

『前に言ってた俺のゼロを改造して作るストライカーパックだったか?やれやれ、初心者の俺にやらせる事が多いな』

 

 

俺の発言にやれやれと呆れた声を出すムゥさん。忙しいのは百も承知だが、早めにガンバレルストライカーに慣れて欲しいんだよ。

 



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ライトニングストライカーパックの行末

 

ジンに乗った俺はを宇宙で進む。同伴するのは試作されたライトニングストライカーパックを装備したストライク。 

 

 

「ライトニングの調子はどうですか、ムウさん」

『新作のストライカーパックとは大盤振る舞いだな。機動力も高いし調子が良いぜ』

 

 

ムウさんのストライクに通信を入れるとご機嫌な返答が来た。何故俺達二人がアークエンジェルから離れた宙域でライトニングストライカーの稼働実験をしているかと言えば現在の状況的にやる事をやっておかねばならないからだった。

 

現在、アークエンジェルとクサナギは補給と整備の為に廃棄されたL4コロニーを目指していた。その最中、プラントの各所でラクスの戦争を反対するラジオが流されておりザフトは彼女を裏切り者として捜索中。そんなラクスの真意と父であるパトリックの真意を知る為にアスランはプラントに戻り、話を聞く事に。アスランはプラントに戻る為に小型シャトルで帰還。キラも途中まで護衛として同伴して不在。

 

エース二人が欠けた事によりニコルとディアッカがアークエンジェルとクサナギの直援兼MS教習指導。他のMSパイロットは宇宙空間での慣熟訓練。

 

そして俺とムウさんはオーブから持ち出した試作型のストライカーパックの試運転をしていた。ムウさんのストライクにライトニングストライカーパックを装備させ俺はオーブで改修されたジンに乗っていた。流石にアサルト装備では無いが元のジンの姿と性能になっていた。アサルト装備は一応修復してはいたが、まだ試してはいない。同時に試験をして同時にトラブルが起きるのは勘弁だからな。

 

そんな訳で俺はジンに乗り、ムウさんにライトニングストライカーの試験運用をお願いしていた。因みにアークエンジェルとクサナギから離れた宙域で運用試験をしているのは万が一の接敵の際にアークエンジェルとクサナギの所在がバレない様にする為である。なんせ地球軍からの脱走組、オーブ軍、ザフトの機密を盗んだ組織と三つの要素がある以上、何処かの軍に遭遇すると非常に都合が悪い。そんな訳で新兵器の試験も単独行動をしながら実施となったのだ。

 

それにしてもライトニングストライカーの調子なかなり良いな。ムウさんが先日よりもMSでの宇宙操作になれたと言っても中々良い機動をしている。でも装備そのものが重いからエール程の加速が無い。

 

 

『ラスティは休まなくて良いのか?この間も言ったが、やる事が多いんだろ?』

「そうなんですけど一個一個片付けていこうかと思ってます。それに他のパイロットの慣熟訓練が終われば他の武装の試験も進められますし。それにストライカーパックは実質、俺とムウさんじゃなきゃ出来ないんですから」

 

 

ムウさんの問いにそう答えるしかなかった。他の武装ならまだしもストライカーパックそのものはストライクかテスタメントじゃなきゃ運用が出来ない。

ストライクルージュはまだ組み立て途中だし、M1にストライカーパックを装着させる改造も進めているそうだけどまだ先の話だ。

 

 

『ラスティ、ストライカーパックの電圧と内部熱が上がってきてんだが。想定よりも冷却が追いついてないみたいだぞ』

「重量増加でブースターを追加したから冷却システムを組み込んだって言ってましたけどプログラムか循環が上手くいってないみたいですね。アークエンジェルに戻ってチェックしましょうか」

 

 

なんて思っていたらムウさんからライトニングストライカーの問題が発生したと通信が。ライトニングストライカーパックは稼働時間を延ばすと同時に他のMSへのエネルギー供給を目的に開発されているのだが、その分重量が増している。それを解決する為にブースターの増加や冷却システムを追加したのだがそれが上手く起動しなかったりプログラムの誤作動が起きていた。まあ試作品だし不具合が多いか。じゃあ取り敢えずアークエンジェルに戻って……なんて思っていたら敵機接近のアラームが鳴り響く。

 

 

『敵機接近!機体は……ジンか!』

「ザフト正規軍じゃなさそうですね。型落ちのジンを改造した感じだから傭兵か宇宙海賊って所ですね」

 

 

レーダーには三機のMSが接近しているのがわかった。機体を確認してみると軍で使われたジンの払い下げの機体だった。ゴテゴテとカスタムされたジンは稼働限界が近く無理に改造した感が凄い。

軍で使用されていたMSがジャンク屋ギルドや傭兵に払い下げられ作業用MSや無理に使用されるケースは非常に多く、この傭兵か宇宙海賊も同様なのだろう。

 

 

『敵は三機か。こっちに狙いを定めてるみたいだし、迎え撃つか』

「ライトニングストライカーに不具合出てるなら無理しないで下さいよ」

『ヒャッハー!新作のMSじゃねーか!』

『俺達が使ってやるから、それを置いていきな!』

『汚物は消毒だー!』

 

 

ムウさんはライトニングストライカーの装備の一つであるレールガンを構えたが不具合が発生してる機体で無理はしないでほしい。

俺はライフルを構えて三機のジンを牽制しようとしたと同時に三機のジンから通信が入る。世紀末の世界から来たのか、お前ら。ヘルメット脱いだらモヒカンだろ確実に。

 

 

『やる気満々みたいだな。迎え撃つぞ』

「イマイチ納得出来ないけど仕方ないですね」

 

 

宇宙海賊が確定した三機のジンを迎え撃つ事にした俺とムウさんは散開した。三機のジンはそこそこ良い動きはしているが所詮は海賊。正規軍とは比べるまでもなく弱かった。サーペントテールみたいのが出てきたら流石にマズいとは思っていたけどコイツらはそんな腕ではなかった。

 

 

「多分、民間のシャトルとか襲ってた海賊ですね。ギルドステーションの方に漂流させますか。いや、MSだけの行動は考えられないか。母艦が近くにいる筈だから放っても大丈夫かな?」

『俺達の姿を見られたのは少しマズいかもな。引き上げ……ん?』

 

 

三機のジンを行動不能に追い込み、引き上げようとしていた俺とムウさん。行動不能にした手前、放置もマズいとは思ったがそれこそ母艦が近くに居るはず。それなら放置しても大丈夫か。それよりも早く立ち去った方が良さそうだ。

だが不測の事態が発生していた。なんとバチバチと火を吹くライトニングストライカーパック。

 

 

『うおっ!?電圧と機体の熱が急上昇してるぞ!?』

「冷却システムが作動してない!?さっきの戦闘で回線にトラブルが!?このままじゃ……ストライカーパックのパージを!」

『バカめ!伏兵が居るとは思わなかっただろう!』

『覚悟しやがれ!』

 

 

このままじゃライトニングストライカーが負荷に限界が来て爆発する。そう思った俺はライトニングストライカーに近付きながらムウさんにストライカーパックをパージする様に叫んだ。だが、それと同時に他の場所から叫びが上がる。先程倒したジン三機とは別に二機現れて俺とムウさんに急接近し始めた。成る程、伏兵を偲ばせて追撃って……それどころじゃない!

俺はムウさんがライトニングストライカーパックを強制パージをした後でライトニングストライカーパックを二機のジンに投げつけた。

 

 

『なん……ぐわぁぁぁぉぁぁぁぁぁっ!?』

『な、なんだこりゃ!?』

 

 

投げ付けたライトニングストライカーパックは直後に爆散。手前で爆砕したライトニングストライカーパックの爆発に巻き込まれて二機のジンも大ダメージを負った。大破とまではいかなくても、ありゃもう動けないな。しかし危なかった。下手したらドミニオンの一撃を防ぐ前にムウさんのネオフラグが成立する所だった。

 

 

『危なかった……助かったぜラスティ。だが、これ以上ここに留まるのもマズいな。引き上げるぞ』

「了解。ストライカーパックが無いんだからこっちで牽引しますよ」

 

 

ムウさんの提案ですぐさま引き上げる事に。ストライカーパックが無いので機動力が無くなったストライクは俺のジンで牽引してアークエンジェルまで戻る事にした。

 

 

「はぁ……まさかこんな形でライトニングストライカーを失うなんて。やっぱガンバレルを組み立てるしかないか……」

 

 

俺はライトニングストライカーパックを失った事に意気消沈しながらアークエンジェルに戻る事に。

アスランが出てから数日経ったからそろそろラクスと合流時期かな?そんな現実逃避しながら俺はアークエンジェルへ急いだ。



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望む再会と望まぬ再会

 

 

 

ライトニングストライカーの件でエリカさんにめちゃくちゃ怒られた。いや、現物は失ったけど実働のデータと改善点の提出で勘弁してくれませんかね?

確かに今現在重要な資材を失ったけど下手すればムウさんとストライクの両方を失いかねない状況だったんだから見逃して欲しい。

そんな事を思いながらイージスリペアのOS調整を進める。

 

 

「しかし……そろそろキラとアスランが戻ってきてもいい頃の筈なんだがな……トールとも早く会ってOSのフィッティングしたい」

 

 

そう、父親に今回の戦いの真意を問いただすべくザフトに戻ったアスランは父親であるパトリックに様々な責任を問われ幽閉されてしまうが、それをラクス率いるエターナルが助けだしアークエンジェルやクサナギに合流する。

ここで原作と変わってくるのはアイシャさんとトールの存在とバルトフェルドさんの怪我の具合である。

 

 

「そろそろ本格的に読めなくなってくるよな……急がないとマズそうだ」

 

 

本来死亡する筈だった人物が生還し、話の流れも変わっていく筈だ。良い方向に向かってくれれば良いけど悪い展開も考えなければならない。

 

 

「特に……これからは生還率が下がるからなぁ……」

 

 

敵の砲撃から艦を守って爆散とか、最終回付近で突如全滅とか。それならば少しでも生存率を上げなければならない。

 

俺のパソコンに映るのはイージスリペアのOSのウインドウから切り替えたMSの追加装備の一覧だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆sideアスラン◆◇

 

 

父上に真意を聞く為に戻ったプラントだったが、父上にはナチュラルを滅ぼすと宣言され俺は拘束された。なんとか脱出しようと抵抗した所でラクスの一派に助けられて今はエターナルでプラントから脱出を図っていた。

しかし、ヤキンドゥーエから防衛隊が出陣して次々にジンが現れていく。

 

 

「この艦にMSは!?」

「生憎パイロットが居てもMSは出払っていてね。だが砲撃手は超一流だよ」

「ええ、任せて」

 

 

俺の質問に艦長であるバルトフェルド隊長が苦笑いで答える。すると砲撃手として席に座っていた女性が答えると飛来するミサイルを次々に迎撃していく。恐ろしい程に正確な射撃だ。

だが、艦の迎撃システムでは対処しきれず徐々に被弾しそうになってしまう。ラクスがヤキンドゥーエの警備隊に『行かせて欲しい』と広域通信で語り掛けるが効果は薄そうだ。

 

 

「くそっ!俺にも乗る機体があれば!」

「貴方にはまだ無理よ。それよりも手伝いなさい」

「辛口なコメントだねアイシャ。愛弟子には厳しくするもんだが少しは認めてやってもいいんじゃないかい?」

 

 

同じ様にコンソールに座る俺と同じくらいの歳の少年が叫ぶが女性は冷静に反論した。バルトフェルド隊長はまた苦笑いで口を開く。

 

 

「坊ややラスティ君とは違うもの」

「比較対象が凄すぎやしませんかね!?」

「比較された側も苦笑いか爆笑しそうだがね」

 

 

なんだろう……まるでラスティが居る時みたいに妙に笑いを誘う様なやり取りを見ている気分なんだが。

それに雰囲気もだ。なんとかなる……危機的な状況なのにそう思えてしまう様な感じがしてしまう。

 

俺がそんな風に思っていたらキラの乗るフリーダムが増援に現れてミサイルを次々に迎撃していく。その光景にラクスやバルトフェルド隊長、女性は安堵の表情を浮かべ、少年は泣きそうになっていた。

 

 

「キラ!」

「よう、少年!助かったぞ」

「久しぶりね、坊や」

「キラ!やっと会えたぜ!」

『え、ラクス、バルトフェルドさん、アイシャさん……トール!!?』

 

 

それぞれの思いが交差している。そしてキラが口にした少年の名を聞いて俺は背筋が凍る思いだった。

その名は俺とキラの仲違いを決定的にした俺が墜とした戦闘機に乗っていたパイロットの名だったのだから。



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感動の再会トールとミリアリア

 

 

空気が重い。いや、宇宙だから空気は無いのだが……なんて現実逃避もしたくなる。

 

アスランを乗せてエターナルが合流し、それぞれの再会を喜んだ。キラはバルトフェルドさんに謝罪をしていたがバルトフェルドさんとアイシャさんに生きているのだからいい、とアッサリと許されて困惑気味だった。

トールとアスランの仲もまだギクシャクしていたが『お互い様だった』とバルトフェルドさん達同様に今後の交流で解消されていくだろう。

では何が問題なのかと言えば……

 

 

「ねぇ……トール?年上のお姉さんの個人トレーニングは楽しかった?」

「とても厳しく楽しいなんて言えませんでした!」

 

 

腕を組み仁王立ちのミリアリアに正座のトール。

うーむ……ミリアリアを煽りすぎたかなぁ。でも、トールの対応もぶっちゃけ悪かった。

ミリアリアの『ラスティから話を聞いたけど年上のお姉さんに個人指導受けてたんだって?』と言う問いに『ああ、ビシバシしごいて貰ったぜ!』と答えてしまったのだ。

トールからしてみればキラの助けになる為に頑張っていたのだがミリアリアからのニュアンスは『年上のお姉さんにデレデレしていた』だったのだ。

目のハイライトが無くなるだけあるな。めっちゃ怖い。

 

 

「ミ、ミリィ……せっかく再会出来たんだから……」

「そうね。せっかくの再会だからロマンティックにしたかったかなぁ……ねぇ、ラスティ?」

 

 

ニコルが勇気を出してミリアリアを宥めようと頑張っているが効果は薄そうだ。するとキロ……と視線が俺の方に向いたので俺はクールにこの場を去る事にした。

 

 

「さて、俺はマユの見舞いにでも……」

「逃がさないわよ」

 

 

去ろうとした俺の肩をガシッと掴むミリアリア。肩に指が食い込んで凄い痛い。

 

 

「言っとくけど俺は嘘は言ってないからな?トールがキラやミリアリアの為にMSの訓練をエースパイロットに受けていたのは事実だし。勘違いしたのはそっちの勝手だからね」

「どう聞いても誤解する様な言い方をしたのも事実よね!?」

「ミリィ落ち着いて!」

 

 

俺が惚けるとミリアリアは俺の襟首を掴んでガクガクと揺らす。トールが生きてるから精神的な余裕もあるんだろうけどキャラ崩壊してんなー。ニコルの制止もそろそろ可哀想だし纏めるとするか。

 

 

「ま、ともあれトールとの再会を喜びなって」

「煽った人がそれを言うの?」

 

 

俺の言葉にミリアリアは俺の襟首から手を離した。

 

 

「それが出来たのもトールが生きていたからだ。火傷の跡は残ったけどな。そうやってトールを叱れるのも奇跡的な偶然が重なってなっただけだ。KIA(作戦行動中戦死)になっても可笑しくは無いんだからな?こうやって死の恐怖と生存の喜びを叩き込まないと、また同じ事が起きかねないぞ」

「あ、もしかして……わざと」

「ラスティ……」

 

 

そう。ニコルやアイシャさん、トールが生き残ったのを俺が手繰り寄せた結果だとは俺は思わない。ほんの少しの話のズレが生じた結果だと思ってる。一兵士の行動が残り全てに影響を及ぼすなんて気楽な考えはしちゃいない。

なんとかしようと努力は出来ても結果が伴わないのは当たり前だ。世界はそんなに単純じゃない。

 

だからこそトールやミリアリアにはわかって欲しかった。素質があったとは言ってもトールは素人に毛が生えた程度の訓練しかせずにスカイグラスパーで戦場に出て墜とされた。それで生還して当たり前だと思ってしまえばまた無茶をしてしまうだろう。

 

 

「だからこそ俺はトールに戦場に出るならギリギリまで訓練をして欲しかった。そして最後に気構えを整えて欲しかった……って所かな。これでお互いに理解もしただろ?」

「ああ……ミリィ。ごめん、散々心配かけさせたけど俺はキラを助けたいからアイシャさんに訓練受けたんだ。もう墜とされないなんて言えないけどラスティの言う通り……」

「ううん。ごめんなさいトール」

 

 

俺の言葉に改めて再会の喜びで抱きしめ合うトールとミリアリア。

ここで声を掛けるのは野暮だよな。ラスティ・マッケンジーはクールに去るぜ。ニコルもそれを察してから俺の後に着いてきてくれた。

 

 

でも、まあ……

 

 

「気構えも本当だが面白がってたのも事実なんだよな7対3くらいの割合で」

「ちょっと感動した僕がバカでした。ラスティはそういう人ですよね」

 

 

俺の最後のコメントにニコルは呆れた様子だが笑って俺の腕を取った。さぁてエターナルが合流したなら、そろそろ連合とザフトが来る頃だから気合い入れないと。



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トールのMSと今後の懸念

 

 

 

 

 

 

 

「俺が……コレに?」

「今現在、イージスリペアに適性が高いのがトールって判断なんだよ。や、無理強いはしねーよ。複雑なのは分かるし」

 

 

アークエンジェルの格納庫で俺とトールはイージスリペアを見上げながら話していた。

トールもアイシャさんからMS操縦訓練をしていたからパイロットとしてアークエンジェルに配属となった。そして乗る機体の選別となったのだがトールのMS訓練の結果と戦闘機の適性を鑑みるとイージスリペアに乗せようとなったのだがトールからしてみれば自身を撃墜した機体に乗れと言われるのはキツすぎるだろう。

 

 

「いや……俺が乗るよ。此処で逃げたらキラや皆を守れない。それにアイシャさんにも怒られそうだし」

「逃げる事は恥だとは思わないけどな。ま、トールがそう言うならOSのフィッティングを進めよう」

 

 

トールの決意を聞いた俺はトールをコックピットへ行くように促しながらOSのフィッティングを進める事にした。なんせエターナルと合流したから、そろそろドミニオンとラスボスさんが来る頃だし。

トールがコックピットに座ったので俺はコックピットの外側からパソコンでOSの調整を始める。

 

 

「キラも……ズッとこんな気持ちだったのかな。『俺がやらなきゃ』『俺が守らなきゃ』ってさ」

「俺もザフトで戦いを挑んでた側だからなんとも言えないがそうだろうな。アークエンジェルの戦力はストライクと支援の戦闘機が数機となればMSメインの戦略を組むしかない。それにアークエンジェルにトール達が居たなら『友達の為に』戦う選択肢しかないだろ」

 

 

イージスリペアのコックピットに座りながら苦笑いのトールに俺は自分なりに思う事を告げた。

DESTINY開始時のキラは戦いと喪失感から半ば世捨て人の様になっていた。それはアークエンジェルで戦い続けて精神が磨耗していった結果だろうし。

守れなかった命と奪った命。親友との死闘、恋人だった人との別れ。

 

そんな日々を過ごしてりゃそりゃ世捨て人にもなるわな。でもニコルもトールも生きてるし、アイシャさんもだ。バルトフェルドさんも重傷になったけど生存している。

 

それを考えればキラの精神状況はまだマシなんだと思う。でも、この後キラの最大級の曇らせが発生する。

 

そうフレイ・アルスターの事である。

 

彼女の存在がキラの最大のターニングポイントであり、今後の在り方が変わってくる。

俺はキララク派なんだ。いや、でもキラフレも捨て難いんだけどさ。

そう言えばキラって二次創作でカップリングが多いんだよな。キラマリュとかキラナタとかキラミリとかキラカガとかキラアストレイ三人娘とか。それどころかDESTINYとかだとキラステとかキラミアなんかもあったっけ。

 

 

「ラスティ、待ってくれ!セッティングの確認が間に合わないって!?」

「あ、悪い」

 

 

トールの言葉にハッとなる。現実逃避にメタな思考に走っていた様だ。トールの処理速度を超えたスピードでフィッティングをしていたらしい。OSのチェックが間に合わなかった様だ。

 

 

「こっちはまだ慣れてないんだから頼むよ」

「そうだな。トールは習うよりも慣れろタイプっぽいしな。OSチェックが終わったら実機で稼働訓練をするぞ」

 

 

トールが俺が組んだOSのセッティングチェックに四苦八苦していた。後は実際に機体に乗って訓練しなきゃだな。シュミレーターと実機じゃ感覚違うから慣れさせないと。

 

 

「ゲー、マジかよ。大変だなぁ……」

「セッティングが終わって訓練が終わったらご褒美でも用意してやんよ。俺とディアッカ厳選のお宝を見せてやろう」

 

 

明らかにテンションが下がったトールだったが俺の一言にやる気が少し戻ったのか確認の速度が上がった。

 

ま、それはそうと早めに訓練に取り掛かりたいのも事実だ。生存率を上げる為にもな。

 



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いつも想定を上回る事態は起きてしまう

 

 

 

 

 

『お、とととっ!?』

「トール。今は変形よりもMSに慣れる事を優先してくれ。MA形態はその後だ」

 

 

イージスリペアのOSセッティングを終えた俺とトールはそれぞれテスタメントとイージスリペアに乗りながらトールのMS完熟訓練に勤しんでいた。

凡その予想通り、トールはシュミレーターでの成績は良いのだが実機での操作に難があった。まあ、シュミレーターで感じるGと実機でのGは違うからな。

加えて今までのシュミレーターはジンでの操作であり、イージスそのもののシュミレーターではない。その操作性の違いが混乱に拍車をかけているのだろう。その証拠にトールはイージスリペアを中途半端な変形をした状態でワタワタと慌てていた。プラモで変な状態にしたイージスみたいに変形しとる。

 

 

『おーい、そっちは大丈夫?』

「こっちは個人指導中だからそっちは運搬作業を進めてくれ」

『はーい』

 

 

三隻の近くで慣熟訓練をしていたから時折、数機のM1から茶々が飛んでくる。今のはジュリとマユラだな。コンテナを運びながらこっちに意識を向けるとは慣れてきてるな。

アサギは……あっちでバスターと飛んでる。MSでデートってシュールな絵だ。まあ、実際にはディアッカがアサギの訓練に付き合ってんだろうけど。

 

 

しかし、まあ……キラやフレイの事や今後の事を色々と考えはしたけど俺の基本方針は変わらないんだよなぁ。今更ながらだが一介の兵士に出来るのは戦う事だけだ。原作を変えようなんて都合の良い考えはとっくに捨ててはいたが希望は捨てちゃいない。

ぶっちゃけドミニオンが来たら速攻で墜としてしまえばピースメーカー隊が組まれないから……なんて考えても実行出来るかは別問題だ。

 

油断はしないようにして三馬鹿を抑えないと。なんて思っていたらレーダーに反応が出た。大型戦艦の反応……来たなドミニオン。

 

 

『こちらは地球連合軍、宇宙戦闘艦ドミニオン。アークエンジェル聞こえるか?』

「トール……アークエンジェルに戻れ」

『な、なんでだよ!?敵が来たんだろ!?俺も戦うぞ!』

 

 

ドミニオンからオープンチャンネルで広域通信が放たれる。これから戦闘になるのは間違いないな。俺はトールにアークエンジェルに戻る様に伝えるとトールは反論してきた。

 

 

「イージスリペアは慣熟訓練でエネルギーを消費してるだろ。一旦補給に戻れ。補給が済んだらアークエンジェルの直援に付くんだ。無理するなよ?」

『わ、わかった!』

 

 

俺の指摘にトールはフラつきながらもアークエンジェルに戻っていく。うんうん、素直でヨロシイ。

そんな俺達はさて置き、マリューさんとナタルさんの話は進んでいた。

 

 

『アラスカでのことは自分も聞いています。ですが、どうかこのまま降服し、軍上層部ともう一度話を。本艦の性能は、よく御存知のはずです』

「……ありがとう。でもそれは出来ないわ。アラスカのことだけではないの……私達は、地球軍そのものに対して疑念があるのよ。よって降伏、復隊はありません!」

 

 

ナタルさんの提案をマリューさんは拒んだ。そうするしかないよネ。マリューさんがナタルさんの提案を拒んだ事でドミニオン側は戦闘態勢に入った様だ。さて、俺も本格的に戦う準備を……ん?レーダーに反応が。

 

 

「な、速……ぐうっ!?」

『ヒャーハッハッハッ!遊ぼうぜ狩人さんよ!』

 

 

ドミニオンから三馬鹿が発進した……と思って迎撃準備をしようとした瞬間、レーダーに反応が出た直後に衝撃が襲った。異常な速度の接近とまだそこそこな距離があったのに俺に当てやがった。なんちゅー腕だよ、おい。

そしてオープンチャンネルで聞こえてきた叫びに俺を狙撃した奴の狙いは俺だとわかる。だが、それ以上に俺が驚いたのは……

 

 

「三馬鹿の……四機目っ!?」

 

 

俺のテスタメントに迫る機体は黒いカラーのフォビドゥンだった。

 



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予想外の敵ほど厄介

 

 

「三馬鹿の……四機目っ!?」

 

 

俺のテスタメントに迫る機体は黒いカラーのフォビドゥンだった。黒いフォビドゥンは構えていたバズーカを乱射しながら高機動で迫ってくる。弾の軌道予測をすると……三隻のどれかに当たる!

 

 

「ちぃっ!」

 

 

俺はテスタメントのビームライフルで迫る弾頭を撃ち落としていく。

 

 

「このMSは俺が相手をする!作業してたM1は直援に回れ!他の機体も出撃を!」

『りょ、了解!』

『任せて!』

『各機発進を急がせて!』

 

 

俺の叫びに三隻は慌ただしく動き始め、M1隊からも返事が来た。さて、俺はこの黒いフォビドゥンを相手をしなきゃ。でも誰が乗ってんだ?MSV系のキャラか!?

 

 

「と言うか……速い!」

 

 

俺はテスタメントのビームライフルで牽制するが悉く避けられ接近を許してしまう。すれ違い様にビームサーベルで斬られそうになったがなんとか回避した。

 

 

「後ろかっ……ちぃ!」

 

 

黒いフォビドゥンを狙ってビームライフルを連射するが全て避けられた上に避けたついでにデブリを蹴り飛ばして来た。細かいのは避けたが戦艦の外壁らしき物が飛んできた時には避けられるタイミングでは無かったのでビームサーベルを引き抜くとデブリを切り払う。

 

 

「見失った……何処に……あぐっ!?」

 

 

だが、その行為が奴の狙いだったと気付いた時には遅かった。黒いフォビドゥンはデブリで俺の意識を逸らした後、デブリの影に姿を隠したのだ。そして俺が黒いフォビドゥンを見失って周囲を警戒したと同時に衝撃が来た。

黒いフォビドゥンは俺が見失った一瞬の隙を突き、その高機動でタックルをしてきた。PS装甲は起動させていたが、いくらPS装甲でも衝撃までは完全に殺し切れない。タックルされた衝撃で硬直している俺のテスタメントに接近しながら黒いフォビドゥンはビームサーベルを両手に構えた。ヤベェ!?

 

 

『死ねやっ!』

「でいっ!」

 

 

黒いフォビドゥンは右手のビームサーベルで縦斬りをしてきたので咄嗟にテスタメントを反らせて一撃を回避する。危ねぇ!ギリギリだった!

 

 

「オオオオッ!」

『チィ!やるな小僧!』

 

 

俺はテスタメントの左手に構えていたビームサーベルを横薙ぎに振るったが黒いフォビドゥンは両手に構えていたビームサーベルの左手で俺のビームサーベルの一撃を防いだ。俺は連撃で斬り掛かるがその全てを防がれてしまう。俺は斬り掛かるふりをして黒いフォビドゥンの腹部に前蹴りを叩き込んで距離を無理矢理取る。

 

 

「この距離なら!」

『甘ぇよ!』

 

 

至近距離からビームライフルで撃ち抜こうとしたが黒いフォビドゥンは瞬間的に察知して避けた。マジかよ!?その直後に数発ビームライフルを放つが全て避けられた上に間合いを開けられ過ぎた。この間合いじゃ当たりはしないだろう。この黒いフォビドゥンは今まで戦った誰よりも強くて速い。

 

 

『中々やるな小僧。俺を相手にここまで楽しませてくれるたぁ驚きだ。この猟犬ゲールとインサニティの相手に相応しいぜ。さぁ、もっと楽しもうぜ!』

「一番相手にしたくないタイプの相手だなチクショウ!?」

 

 

見たことないMSとパイロットだけど特に関わりたく無いタイプのキャラだな間違いなく!!

 

 





『ガンダムインサニティ』
『狂気』の名を持つガンダム。

地球連合軍のMS。
オーブ戦での三馬鹿の不甲斐なさからカラミティ、フォビドゥン、レイダーの余剰パーツで生み出されたMS。
フォビドゥンがベースとなっていてカラーリングは黒。
通常のフォビドゥンと違い、背面の大型バックパックは装備されておらず、代わりに高機動用のブースターが装着されており高速戦闘を専門としている。このブースターは可変式多方向スラスターとなっていて無茶苦茶な機動を描く事も可能となっている。背面にはバズーカがマウントされている。
またフォビドゥンの大型バックパックが無い為、固定武装に乏しいがスタンダードな強さを持つ機体となっている。


武装。
ビームライフル
バズーカ×2
ビームサーベル×2
アーマーシュナイダー×2
収納型可変式トマホーク
対ビームコーティングシールド




『ゲール・ウドウ』
地球連合の元エースパイロットで『猟犬ゲール』の異名を持っていた。
浅黒い肌に短い銀髪が特徴的。
戦闘狂と言える性格で気に入らなければ仲間や上官を半殺しにするのも厭わない。
上官殺しの罪で投獄されていたが戦力増加の為にアズラエルが釈放手続きをしてドミニオンに配属となった。
ナチュラルではあるがMS適正値が高く並のコーディネーターよりも強い。

戦いの中でハイテンションになりやすく『自分は常に乾いてる』『戦いや人殺しで自分は満たされ潤う』『断末魔が子守唄』と考えるなど生粋のサイコパス。
オールラウンダーではあるが接近戦を好む傾向にある。



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