ゴジラ バーニングブラッド feat.リバイス&トリガー (ホシボシ)
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プロローグ

※注意!

・この作品はゴジラ、ウルトラマン、仮面ライダーのクロスオーバーです。
 ウルトラマントリガーと、仮面ライダーリバイスを見ていなくても問題はありませんが、非常にわかりにくくなるので、その点は注意してください。

・オリ主要素があり、世界観もオリジナル設定とオリジナル要素が中心になります。
 原作と用語が同じでも、設定などが違う場合があります。

・デリケートなテーマではありますが、とにかくこの作品は実際の人物や企業、団体とは何の関係ありません。
 
上記の要素が苦手な方は我慢してください。
解釈違いやったら、ごめんやで……(´;ω;`)




主要都市破壊ミサイル発射装置設置場。

繰り返されるサイレンに交じって打撃音と電子音が聞こえてくる。

 

 

「ハーイッ! 大きなお友達のみなさーん! こんにーちはー! 文字じゃわからないだろうけど、現在、恐竜のフードを被ったキュートな悪魔が戦ってるよーっ! おれっちの名前はバイス。仮面ライダーバイスだよーっ!」

 

「おい! 何言ってんだバイス! ちゃんと戦え! この大事な時に!」

 

「ああん! もうっ! わかってるって! ほいでもって、こっちのピンクの仮面ライダーが五十嵐(いがらし)一輝(いっき)。仮面ライダーリバイ! もうわかるよね? リバイとバイスで、仮面ライダーリバイスってわーッけ!」

 

「だから真面目に――ッ! 状況わかってんのか! って、やばい! アイツ!」

 

 

リバイの視線の先では、蜘蛛男がミサイルに手足を張り付かせて上のほうに移動しているところだった。

せっかくフェニックスが妨害電波で照準を宇宙に設定してくれたのに、修正装置を取り付けられては意味がなくなってしまう。

そうしているとカウントダウンが始まった。

リバイスは蜘蛛男を追いかけようとしたが、ショッカー戦闘員が多すぎてなかなか階段を上ることができない。

かといって飛行しようにも、ミサイルが発射されては追いつけるかどうか。

 

 

「こうなったら……!」

 

 

そこでカウントダウンがゼロになった。

吹き出る炎と白煙。崩壊していく足場の中をリバイスは走り、飛び上がった。

 

 

「やだあああああああああああああああ!」

 

 

宇宙を目指して飛行するミサイルに、バイスはしがみついていた。

すさまじい衝撃と抵抗の中でも振り落とされないでいるのは、コングゲノムのおかげだろう。

とはいえ、何も余裕というわけではない。

少しでも力を抜けば終わりだ。それはリバイと蜘蛛男も同じようで、硬直状態が続く。

 

 

「マジでヤバイって、いやこれガチでヤバイって! ガチのガチで一周回って……、あれ? 逆にやばくない? なーんだ。やばくないのかぁ。じゃ、安心だね! うふ! って、んなワケあるかーいっ!」

 

「おちつけバイス! 深呼吸でもして気分を整えろ!」

 

「お、おっけー! スゥーハァー! スゥ! ハァ! んー! 最高ッ! 宇宙の空気って最高に美味いね! マスター、もう一杯。って、バカーッ!」

 

「……さっきからなに言ってんだお前」

 

 

気づけば周りは完全な宇宙空間だ。

しかしそこでミサイルが減速した。みんな一斉に立ち上がる。

蜘蛛男が装置をミサイルにつけると、ミサイルが行き先を地球に変更する。

しかし同時にリバイも走り出して、そのままの勢いで蜘蛛男を殴っていた。

宇宙に放り出される蜘蛛男。続いて装置を剥がすと、宇宙に向かって投げ捨てる。

 

 

「させるものか!」

 

 

宙に浮いていた蜘蛛男が、右手から糸を出した。

装置を絡め取り、左手からも糸を出してミサイルに付着させて戻ってくる。

 

 

「気をつけろバイス! 来るぞ!」

 

 

返事はない。

 

 

「っ?」

 

 

リバイは後ろを見る。バイスがいない。思わず二度見する。

 

 

「あれ? バイス?」

 

 

よく見れば地球に向かって何かが落ちていっているような……。

 

 

「我が魂はァァァァア! 一輝と共にあ――」

 

「うぁぁ! ま、まずい! 待ってろ! すぐに終わらせてやる!」『コング! スタンピングフィニーッシュ!!』

 

 

リバイがバックステップで蜘蛛男から距離をとる。

これは好都合だと蜘蛛男は再び装置をミサイルに取り付けようとしたが、それが狙いだった。

空を殴るリバイ。そこで手が分離して飛んでいく。

ロケットパンチだ。蜘蛛男が顔を上げた時にはもう遅い。剛腕が腹部を貫通して蜘蛛男は悲鳴と共に爆散した。

 

リバイは装置を握りつぶすと、ミサイルから飛び降りた。

しばらくしてミサイルは爆発。これで地球の平和は守られたというわけだ。

一方でリバイはバイスを助けるために、バイスタンプを起動させた。

ゲノムチェンジの際はバイスはリバイの体に戻る。これで引き寄せようとしたのだが――

 

 

「あれ? バイス? なんで……!?」

 

 

バイスが戻ってこない。

どういうことなんだ? リバイがドライバーから視線を外すと、そこには巨大なオーロラがあった。

 

 

「なんッ、だ……? あれ」

 

 

一瞬、オーロラの向こうに何かが見えた。

あれは文字だ。赤い文字。

しかし何と書いてあったのか、目を凝らすまえにそれは消えてしまった。

そうしていると、オーロラが移動してリバイを通過した。

 

 

一方、『別の宇宙』では巨大な蝙蝠が星の一つに着陸した。

吸血魔獣キュラノスは、自分やその配下たちが地球の支配者となるために邪魔な太陽に細工を施そうとしていた。

しかし翼を矢で射抜かれてしまったために、緊急で着陸したのだ。

 

同じくしてウルトラマントリガーも着陸する。

キュラノスが吠えた。それを合図に両者が走り出す。

キュラノスは翼を振るうが、トリガーは前宙で飛び越えて回避。さらにその際に振るった弓でキュラノスの背中を斬る。

着地と同時にさらに背を蹴った。よろけて前に行くキュラノスを矢で追撃しようとしたが、そこでキュラノスが飛んだ。

 

空中で頭を下に向けて反転。

蝙蝠の特徴的なシルエットであるが、その際に怪音波を発射してトリガーの脳を揺らす。

 

 

「グァア!」

 

 

トリガーは思わず頭を押さえ、武器を落としてしまった。

すぐに首を振って意識を覚醒させたが、キュラノスの姿を見失った。

まさか、と、背後を振り返った時には、すぐそこに牙があった。

 

「!」

 

予想外だった。

それは、お互い。

トリガーはキュラノスの怪音波という飛び道具に怯み、キュラノスはトリガーのスピードに怯む。

 

奇襲は完ぺきだったが、今のトリガーにはそれを凌駕するスピードがあった。

牙が届く前に横に跳んでおり、さらに両腕を広げていた。

ランバルト光弾がキュラノスの頭部に直撃した。キュラノスは悲鳴を上げて後退していき、顔を何度も払って煙と熱を取り除こうとしている。

 

光を感じた。

キュラノスが前を見ると、目の前に光の矢があった。

キュラノスは自分も横に跳ねようと思ったが、足が動く前に矢は腹部を貫いた。

爆発が起こる。キュラノスが消滅し、トリガーは小さく頷いた。

地球に帰ろう。そう思って飛び立とうとした時、宇宙にぽっかりと大きな穴が開いたのを見た。

 

 

(あれは確か、ワームホール……!)

 

 

嫌な気がする。

そう思って飛び立ったはいいが、前に進むことができない。

気づけばトリガーは、そのまま巨大な時空の中に吸い込まれてしまった。

そこで彼の意識は途切れた。

 

 



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第1話 God nose

「信じられません!」

 

全く――、信じられません!

しかも……の…られない事件が! 今、我々の眼前において……されているのであります!

今や、ゴ……の通…した跡は…炎の海と……見渡せ………町から!

 

新……方面は……海です!

神代坂テレビをご覧の皆さま! これは劇でも映画でもありません。

現実の奇跡! 世紀の怪事件です! 我々の世界は一瞬のうちに200万年の昔に引き戻されたのでありましょうか……?

 

 

「こちらはMS短波無線機による実況放送班であります!」

 

 

ゴ……は……ま、この放送を送って……テレビ塔に……進んでまいりました!

もう退避する、いとまも……。

我々の命……。

ますます近づいて……りまし…。

いよいよ最後です。

右手を塔に……した! もの凄い力です!

 

 

「いよいよ最期!」

 

 

さようなら。

 

 

「みなさんさようなら!」

 

 

男が電波塔から落ちていった。

 

 

人生はクソだ。

いつか誰かがそう言った。

間違っちゃいないが正解でもない。

正しくは、上手くいかなかったヤツはとことん上手くいかずにズルズル引きずることになる。

 

 

「………」

 

 

三冨士(みふじ)カイは目を覚ました。

夏なのに寒い。風が強いんだ。海辺の崖はいつもそうだった。

立ち上がって崖の下を見ると誰かの靴があった。

少し離れたところにある大きな崖のほうは観光名所になっていて、食事をする場所や写真を撮る所がたくさんある。

遊覧船も出ているから、ボランティアの人間がよく見回りにきていた。

だがこう少し離れたところともなれば、ほぼ同じ高さの崖であったとしても誰もいない。

 

見たところ死体はなかった。

流されたのか、それとも初めから靴だけだったのか。

この場所にはよく来るが、飛んだ人間を見たのはたったの一回だけだった。

危ないと叫んだが、あの人は止まらなかった。

名前も知らない人だった。

 

カイは羨んだ。

なぜならばそれはきっと揺るぎのない勝利だったからだ。

だがカイには『負け』に見えた。

 

「カイ」

「カイ」

 

父と母が笑っていた。

カイは微笑み、二人のもとへ行こうとして気づいた。

母が薄い。紙みたいだ。顔も潰れて、誰だかわからない。

父は赤く爛れている。

幻想と無限のケロイド。そう名付けた。

空も同じ柄だ。

ずっと悪夢を見る。

 

 

今も覚めない。

 

 

「こら」

 

 

頬に当たる手が冷たくて、カイは目を覚ました。

気だるい。唸りながら体を起こす。

ボサボサで乱雑に伸びはやした髪、後ろは結んであるが、寝ているときは解いている。

カイの前にいたのは、赤毛の女性だった。

夢樹(ゆめき)ネムは、カイの隣に座った。

 

 

「ダメでしょ? こんなところでサボっちゃ」

 

「……やる気なくて」

 

「じゃあいっしょにサボりましょ!」

 

 

カシュッと音がした。

ネムはレモンサワーをグビグビ飲み始めた。

 

 

「医療班なのに。いいんですか……?」

 

「だからよ。あんなこと、できゃあしないわ。私の仕事はケガをした人を治すことだもの」

 

「じゃあこなきゃよかった」

 

「そういうわけにもいかないのよ、大人の世界は。あなたもわかるでしょ? 飲む?」

 

「飛行機で来てるんで」

 

「あら、そう。残念」

 

 

ネムはカイのために開けたグレープフルーツサワーをグビグビと飲み始めた。

 

すべてのはじまりは1954年。

神代坂(かみしろざか)という街に、巨大怪獣が現れた。

 

呉爾羅。

大戸島にある伝承によると、普段は海底で眠っているが人間の愚かさに反応して目覚めるらしい。

近海の生物を食らいつくし、やがては陸にあがり人間を食らい始める。

処女の血を飲むと眠くなるとされており、大戸島では毎年『生贄』を海に流していたという。

 

後に『ヤマネ博士』が怪獣の正体を突き止める。

 

それは呉爾羅伝承のモデルとなった、絶滅を免れた恐竜『ゴジラサウルス』が水爆実験の影響で変異したものだった。

政府はこれを"水爆怪獣ゴジラ"と名付け、戦車や戦闘機で迎え撃った。

しかしゴジラの皮膚は厚く、攻撃をものともしないばかりか、微量ではあるものの放射能をまき散らしながら移動して建物を薙ぎ払い、さらに口からは高濃度の放射能エネルギーを超高温ミストとして噴射して神代坂を火の海に変えた。

 

 

『その有様は、終わった筈の戦争を思い出させたのです』

 

『その光景に、誰よりも胸を痛めている青年がいました』

 

 

セリザワ博士です。

彼はかつて戦争で大きな傷を負い、体が思うように動かせなくなり、右目も失いました。

婚約は解消されてしまい、幻視や幻覚に悩まされた彼は、人との交流を避け、少しでも戦争を忘れるために研究に没頭しました。

そんな彼はある日、酸素を研究する中で禁断の存在を見つけてしまいます。

後に名付けられたそれは、水中酸素破壊剤・オキシジェンデストロイヤー。

 

博士は絶望しました。

戦争を忘れようともがいた結果、どんな兵器よりも恐ろしいものを生み出してしまったのですから。

彼はそれを決して、世間に公表しないでおこうと心に決めました。

しかしテレビを見てゴジラの存在を知った彼は、察してしまったのです。

ゴジラを倒すことができるのは、この最強の兵器だけだと。

 

彼は悩みました。

久しぶりに訪ねてきた元婚約者や友人に説得されても、初めは拒みました。

なぜならばゴジラを倒した兵器を、人間は放っておくわけがないからです。

 

しかし彼にはたった一人、息子がいました。

血のつながりはありません。悩んで眠れない夜、気分転換に出かけた散歩で出会った子供でした。

母親は酷く錯乱していました。夫は戦争で死んだようです。両親はゴジラが食い破った電車に乗っていたそうです。

彼女は子供を川に流そうとしていました。

育てられないそうです。なぜならば彼女は病を患っていたからです。

彼女は酷く怯えていました。ゴジラを恐れていたのです。

殺されるくらいならばいっそ自分の手で、と。

 

博士はそれくらいならば自分が引き取ると、赤ん坊を連れて帰りました。

名前を聞かなかったので、レンと名付けました。

博士はレンを少しだけ育てました。

博士は気づきました。

 

 

「オガタ、僕はね、知ってしまったんだ。とても単純なことだがこの歳まで理解できなかった」

 

 

それを聞いた友人は驚きました。

 

 

「こいつは興味深いね。俺よりもずっと頭のいいお前が、いったい何を知ったというんだい?」

 

 

博士は頷きました。

 

 

「生きるものは、孤独には耐えられない」

 

 

博士はレンを愛しました。

なので博士はゴジラを倒そうと誓ったのです。

すべての研究成果を燃やし、博士は友人とともに海に入りました。

そして友人だけを逃がし、オキシジェンデストロイヤーを起動させました。

博士は自らの頭の中にあるオキシジェンデストロイヤーの設計図ごと、ゴジラを葬り去ったのです。

こうしてゴジラは死にましたが、ヤマネ博士が最後にポツリと言いました。

 

 

「あのゴジラが最後の一匹だとは……、思えない」

 

 

もしも、水爆実験が立て続けに行われるとしたら、あのゴジラの同類がまた世界のどこかに現れてくるかもしれない……。

 

 

『これが、我々人類を苛む永遠の呪縛となりました』

 

 

いつか、また。

それが人々の心に残り続けたのです。

思えば、世界にはいろいろな神話や伝承があります。もしもそこに何かしらのモデルがいたとすれば……?

だから人間はいずれ現れるかもしれない怪獣に対抗するチームを作りました。

 

 

「それが、我々、アンタレスなのです!」

 

 

 

 

「アカン! エグイってほんまコレ! 死ぬほど疲れたわ!」

 

 

分厚いゴジラの着ぐるみの中から汗だくの男が飛び出してきた。

那須川(なすかわ)マルオ。筋肉質のガッチリとした体が特徴的な大男である。

整えられた口髭と、あご髭がトレードマークであり、身だしなみを気にする彼は素早く汗を拭いて体にスプレーをかけていた。

 

 

「ナスさんおつかれ~」

 

「おお! サンキュー!」

 

 

那須川はカイが投げたペットボトルを受け取ると、ものの三秒ほどで飲み干した。

 

 

「って、お前らなぁ、何をサボっとんねん!」

 

「悪い悪い。でも俺、"逃げ惑う人A"だしさ。いなくても変わらないだろ……?」

 

「私も、"逃げ惑う人B"だし」

 

「何をぬかしとんねん! あのな、そういうのがおるからリアリティが出るんやろ?」

 

「まあまあ、いいじゃないか。逃げ惑うCからLはいたんだし。あれだけいれば二人だけいなくても気にはならないさ」

 

 

メガネをかけた落ち着いた雰囲気の男性が入ってきた。

鷹診(たかみ)レイジ。今日の『劇』で、ゴジラの説明を行っていたのが彼だった。

 

仰々しい組織名をつけられてはいるが、かつてよりだいぶと小規模になってきた。

というのもゴジラが現れてから約68年経ったが、その間に他の怪獣が現れたことはない。

やはり巨大怪獣はゴジラだけだったのか? そうは思えど、不安は消えない。

目撃情報はたびたび送られてきた。

だからアンタレスは、サーチ(怪獣の捜索)、スタディ(研究)、シェルター(怪獣出現時の避難誘導)を目的として活動しているのだ。

今日はスタディの一環として、近くの小学校でゴジラの劇をやっていたのだった。

 

 

「あ、あの!」

 

 

片づけを行っていると、一人の男の子がメモ帳を片手にやってきた。

 

 

「どうしたんだい?」

 

 

鷹診がしゃがみ、男の子と目を合わせる。

 

 

「ぼく、ゴジラが好きで……!」

 

 

こういうのは珍しくない。

巨大怪獣という存在に一定の興味を示す子供は出てくるものだ。

そういう特撮作品も多いし、ましてやかつての被害を知らない世代からしてみれば、ロマン溢れる話だろう。

鷹診は少年の疑問の一つ一つに丁寧に回答していった。

ゴジラに関心を持ってもらうことはアンタレスにとっては重要なことである。

 

 

「どうしてゴジラは町を破壊したんですか?」

 

「……わからない。一体どこを目指そうとしたのかは今も調査中なんだ。それにもしかしたらどこも目指していなかったのかもしれない」

 

「そうなんですか?」

 

「もしかしたら怒っていたのかもしれないね人間に。破壊できればどこでもよかった」

 

「ど、どうして?」

 

「我々がゴジラを怪獣に変えてしまったんだ。核兵器なんてものは作るべきじゃなかったんだよ」

 

「ぼくたちのせいですか? ぼくらが悪いんですか?」

 

「悪いか悪くないかも……、難しいね。まあでもキミにもいつかわかるよ。人間は後からならなんとでき言えるものさ。だからキミだけの答えがいつか生まれる」

 

 

男の子は何度か頷き、戻っていった。

カイも、それを見送りながら、ふと右を見た。

核兵器。鷹診の言葉が頭をよぎる。

カイが見ていたのは、この神代坂にいればどこからでも見ることができる巨大な『塔』だ。

クリスタルタワー。文字通りクリスタルのように澄み渡り、なおかつ眩い輝きを放つ巨大な建造物。その役割はエネルギー供給施設である。

 

1993年。

日本はすべての原子力発電所の稼働停止を宣言した。

 

その背景にゴジラの影があったことはいうまでもない。

アンタレスは当時、ゴジラの行動目的が核エネルギーの採取であった可能性が高いと発表した。

もしもまたゴジラか、それに類似する怪獣が現れて原発が狙われたらどうなるか?

以後、日本は火力発電や風力発電を主とすることを決めたのである。

しかしそれらでは、原発に見合う電力の供給が行えるとはいいがたかった。

そんな中、1999年。日本の歴史が変わる日がやってくる。

 

極星(きょくせい)という未知の鉱物が見つかったのだ。

 

それに火をつけてみると、灯った炎は永遠に消えることはなかった。

研究の末、この鉱物には無尽蔵のエネルギーが込められているらしい。

その一端しか理解できなかったが、それでも生み出されたプラズマエネルギーによる発電システムを確立することができた。

そして建設されたのが極星保管施設、クリスタルタワーである。

極星発電のおかげで電力の心配は解消された。今もタワーでは極星の研究が行われており、今後の発展が期待されているのである。

 

 

「………」

 

 

カイは思い出していた。

一部の学者は極星はゴジラの体内で生み出されたされた龍涎香(りゅうぜんこう)(クジラの腸内に発生する結石)のようなものだと提唱していた。

 

影に、怯えている。

今日も道で『白夜(びゃくや)』と呼ばれる白装束の集団がスピーチを行っていた。

人間は怪獣に世界を返却するべきだ。人間こそが環境汚染の原因であり、今の生活を改善しない限りは怪獣に滅ぼされるのだとか何とか。

多くの人間はそれを聞き流して歩き去るが、心のどこかで影を感じている。

にも関わらず、見えない。見ようとしない。目を塞ぎたがる。

ゴジラ以降、怪獣は一体も現れなかったが、それは間違いだとカイは今でも思っている。

彼はゴジラに会っていた。

そして父と母を殺されたのだ。

 

 

『本当だ! 本当に見たんだ!』

 

 

何度も何度も繰り返した言葉だが、誰も信じてくれなかった。

ゴジラは死んだのだ。いるわけがない。

いたとしても、それほど大きな生物がいたなら絶対に痕跡があるものなのだと。

 

確かにそうかもしれない。

足跡は見つからなかったし、当時のカイは6歳だ。

発言の信ぴょう性がないのはわかっている。

 

だが、だったら崩壊した家はどう説明する?

踏みつぶされて原形をとどめていない母の死体はどう説明する?

黒焦げになって転がっていた父の死体はどう説明する?

 

カイは覚えている。あの咆哮、あの姿、あの口から放たれた熱線。

間違いない。幻ではない。

あれは正真正銘、水爆怪獣ゴジラだった。

 

 

「ん?」

 

 

少し、景色が暗かった。

それは黒い靄があるからだと気づく。

はて? これはなんだろうか? 黒い煙だろうか?

しかし近くで火災があった様子はないし、何かを燃やしている気配もないし、煙突がはない。

地下から何かガスが漏れている可能性もある。

カイは鷹診たちに声をかけようと――

 

 

「え?」

 

 

ネムの声が聞こえて、カイは動きを止めた。

視線を横に戻す。ビルの間にそびえたつ『黒』があった。

 

シン――、と。静まり返った気がした。

 

あまりにも唐突に視界に入ってきたそれを、誰もが信じられず言葉が出てこなかった。

間違いなく、つい先ほどまであんなものはなかった。

ではそれはなんだ? 巨岩とも見間違えたが、それが生物であるということに気づくのはすぐだった。

 

 

「ゴォォォォオォオォォォオォオオ!」

 

 

鳴いたのだ。

口が裂けて、音が出た。

みんな、震えを感じた。

音の衝撃なのか、それとも違うものが体を震わせたのか。

いずれにせよ、その轟音が人々から一瞬で声を奪った。

 

ブゥン、と音がした。一つ、背びれが赤黒く光る。

また一つ、ブゥンと、背びれが光った。

また、一つ。また一つ。そうやってだんだん尾から頭のほうへと光が伝わり――

 

そしてそれが。

巨大怪獣が口を開けた。

 

「!!」

 

赤い熱線が出た。

ピィィィィっと高い音がして、細長いレーザーがビルを貫き、後ろにあるビルを貫いて爆発が巻き起こる。

降り注ぐ瓦礫が多くの人々を飲み込んで、そこでやっと悲鳴が聞こえた。

逃げ惑う人々の中で、怪獣は歩き出す。

その瞳は黒目しかなく、真っ黒でどこを見ているのかわからない。

 

「ガァアア!」

 

怪獣は近くにあった建物を爪で破壊し、尾をふるってマンションを叩き壊した。

崩れ落ちる無数の瓦礫。邪魔だと言わんばかりに熱線が飛ぶ。

首を払い、レーザーが移動していく。炎の中に多くの人が消えていった。

 

 

「……ぜ」

 

 

足が震えている。

しかしそれは恐怖ではない。それを超越した何かだ。

彼は、あまりにも大きな感情を制御できず、思わずニヤリと笑った。

 

 

「会いたかったぜ……! ゴジラ!!」

 

 

それは間違いない、あの日見た、水爆怪獣ゴジラだった。

目を合わせようと思ったが、ゴジラには黒目しかない。

しかしカイはゴジラと目が合っているのだと信じた。信じるしかできなかった。

 

 

「お前を殺すことだけを考えて生きてきた!!」

 

 

カイたちは走り出し、『それ』に向かった。

 

 

 

 

「にゃー!」

 

一方、逃げ惑う人々の中を猫が走っていた。

 

 

「ミケ!」

 

 

男の子が猫を追いかける。彼の猫だった。

 

 

「りーちゃん!!」

 

 

母親が血相を変えて、男の子を追いかける。

男の子は猫を抱きしめ、母親は男の子を抱きしめた。

 

 

「あ、あ……!」

 

 

腰が抜ける。

すぐそこにゴジラがいた。

足を上げる。巨大な影が親子とペットを覆う。

 

 

「いやぁぁあああ!」

 

 

母親は息子たちを強く抱きしめ、目を瞑った。

 

 

「……っっ?」

 

 

しかしいくら待っても痛みはない。

それを感じる前に死んだのだろうか?

ゆっくりと目を開けるが、ここはまだ現世だった。

 

上を見る。ゴジラが足を止めていた。

ゴジラは下を見ていた。親子を見ていた。

なので親子を避けるように足を前に出し、歩いていった。

 

 

「ママ見て! 怪獣さんがぼくらを避けてくれ――、り゛ゅんっっ!!」

 

 

親子がまとめて吹き飛んだ。

ゴジラが尻尾で弾き飛ばしたのだ。

ゴジラの口が裂けた。笑っているようだった。

 

 

「………」

 

 

ゴジラが止まった。

凄まじい光を感じたからだ。

ゆっくりと振り返る。殺したはずの親子と猫一匹が生きている。

 

 

「ゴォオオオオオオオオオオ!」

 

 

不快感に吠えた。

親子はボール状のバリアの中にいたのだ。

弾き飛ばされたそのボールを受け止めたものは、親子と猫を地面におろして避難させる。

そして、振り返った。

 

 

『ULTRAMAN・TRIGGER! MULTI-TYPE!!』

 

 

右手は指を伸ばして前に出し、左手は引いて拳を握る。

構えを取ったウルトラマントリガーは、ゴジラと睨み合った。

 

 

 

 

 

「ハァ!」

 

飛びかかり、殴りつける。

ゴジラの皮膚に沈む拳。衝撃でよろけたところへ、トリガーは蹴りを繰り出した。

しかし力を込められたのか、ビクともしない。

そのままゴジラは腕を振るって引っ掻いてくるが、トリガーは後ろに飛びながら光弾を連射して命中させていく。

 

 

「ゴォォォォオ……!」

 

 

ゴジラが構えた。背ビレが光る。

着地したトリガーは前に走り、そのまま両足を揃えて地面を蹴る。

ピィィーと、高い音がして、ゴジラの口から赤いレーザーが発射された。

しかしトリガーは前宙でそれを飛び越え、そのまま足を突き出す。

 

 

「ウ゛ア゛ッッ!」

 

 

しかし飛び蹴りがもう少しでゴジラに届くというところで、ゴジラは体を回転させた。

振るわれた尾がトリガーを弾き、そのままマンションを巻き込んで墜落してしまう。

瓦礫がまとわりつく。トリガーは素早く立ち上がったが、そこで思わず前のめりになった。

 

ゴジラが消えていたのだ。

素早く左右を確認するが、ゴジラの姿はない。

後ろか? 素早くターンを行ったが、やはりゴジラはいなかった。

 

 

(あんなに大きいのに、すぐに身を隠せるなんて……!?)

 

 

辺りを見回すが穴を掘って逃げた様子はない。

では空か? トリガーは一歩後ずさりながら上を見るが、やはりそこにゴジラはいなかった。

 

 

「グアアァ!」

 

 

次の瞬間、背中に凄まじい熱と衝撃を感じた。

よろけると何かにぶつかる感触。

顔を上げるとゴジラの手が見えた。

顔を殴られてトリガーは右へはじかれる。

 

何かにぶつかった。ゴジラだった。

蹴られたトリガーはそのままの勢いでバク転を行い、ゴジラから距離を取る。

さらに飛び上がり、飛行、上空からゴジラの動きを把握しようとした。

 

 

(え!? いない?)

 

 

ゴジラがどこにもいない。

そんな馬鹿な? トリガーが混乱していると、頭部に強い力を感じた。

ゴジラだった。トリガーの頭を掴み、そのまま落下いく。

 

「ゴガアァアアアア!」

 

「グアァアアアア!」

 

地面に叩きつけられたトリガーから苦痛の声があがる。

しかしそれを上回る混乱があった。

それなりに高く飛んだつもりだったが、ゴジラは後ろにいた。

ゴジラは飛行能力を持っている? しかし翼はない。跳躍で到達したとでもいうのか?

 

 

「グォオ!」

 

 

トリガーの胸を抑えるゴジラの足。

さらにトリガーは見た。ゴジラの口の中が光っている。

 

「ハアッ!」

 

「ゴッ!」

 

トリガーは何とか足を上げて蹴りでゴジラを怯ませると、さらに足を殴りつけて抵抗する。

しかしゴジラはトリガーを踏みつけたまま、さらに口内の光を強めていった。

このままではマズいが、そこでゴジラがよろけて力が緩んだ。

トリガーは足を持ち上げて地面を転がり、拘束を抜け出す。

さらに飛び上がり、ゴジラを攻撃してくれたサークルアームズを手元に呼び寄せた。

 

 

「ハァアア!」

 

 

走り、剣でゴジラを切り抜けようとした。

ズブリと、刃がゴジラの胴体に沈んでいく。

 

 

「!?」

 

 

トリガーは大きな違和感を覚えた。

攻撃は当たったはずだが、どうしてだか全く手ごたえがない。

そこでトリガーはゴジラが一瞬にして消え、真横に現れたのを見た。

振るわれた足がトリガーを打つ。

そうか――、と、理解する。よろけた背後に現れるゴジラ。

トリガーは剣を突き出したが、ゴジラは消えて、そして後ろに現れる。

 

 

(ワープだ!!)

 

 

ゴジラは口を開けた。

トリガーの背中にレーザーを当てようとして、やめる。

振り返り発射する赤い線。それは飛びかかってきた巨大なゴリラを撃ち抜き、爆散させた。

 

 

『レクレク!』『カマカマ!』『バリバリスタンプフィーバー!』

 

 

ゴジラよりは小さいが、それでも大きめのティラノサウルスとカマキリが纏わりつくようにゴジラへ攻撃を仕掛けていった。

ティラノは噛みつき、カマキリは両手の鎌でゴジラの肉体を傷つけながら飛び回るが――

 

「ゴオオオオオオオオオ!」

 

体内放射。

ゴジラの体からエネルギー派が拡散されて、ティラノとカマキリを吹き飛ばした。

カマキリはその際の衝撃でバラバラになり、ティラノもまた首を掴まれていた。

ゴジラが力を込めると、ティラノは苦し気に呻く。

そしてブチリと音がして、頭部と胴体が分離した。

 

 

「ハァァアア!」

 

 

ゴジラの後ろ。

トリガーが飛び上がって、剣を振り上げるが、そこでレーザー音が聞こえた。

ゴジラの背ビレから赤い線が幾重にも発射されてトリガーを撃ったのだ。

ゴジラはそこでしばらく停止する。やがて真っ黒な瞳が一つのビルの上を捉えた。

 

 

「あれ? なんかおれっちたちのこと見てない? アイツ」

 

 

次の瞬間、ピィィイイと音が鳴った。

 

 

「ウォオオオオ!」

 

 

バイスは咄嗟に前に出てエネルギーシールドを展開させてリバイを守った。

しかしその衝撃にバイスの足裏が滑る。リバイが受け止めるが勢いは止まらず、二人はフェンスを突き破って地面に落下した。

 

 

「グアぁ!」「ぎゅへぇ!」

 

 

変身しているおかげで落下の際のダメージは軽減されたが、先ほどと今の衝撃で変身が解除されてしまった。

それで終わってくれればよかったが、赤いレーザーがビルを切断したのが見えた。

ほどなくして、ビルの上半分がそれが一輝たちのほうへ落下してきたではないか。

 

 

『ヤッベェエエエエ! これはまずいって一輝(いっき)!』

 

「ぐッッ!」

 

 

絶体絶命かと思われたが、そこで光が迸る。

トリガーが割り入り、ビルを受け止めたのだ。

しかしそうなると動きは制限される。ゴジラは口を開き、背ビレを光らせていく。

 

 

「!!」

 

 

爆発音。

ゴジラの背ビレに次々とミサイルが着弾していく。

 

 

「ゴジラ……!」

 

 

カイから搾り出るようにして漏れた声。

アンタレスはいつかまた現れるかもしれない怪獣のために、それに対抗する兵器を開発していた。

極星をエネルギーコアとするその名は、『タルタロス』。

正式パイロットは三人。

まずは三冨士カイが搭乗する戦闘機・スターファルコン。

 

 

「被害は甚大だ。さらにゴジラの他にも人型の巨大生物が確認できる。様子を見ている時間はない。一気に終わらせよう」

 

 

そして鷹診レイジが搭乗する巨大なドリルがついた飛行機能付き潜水艦・ゴウテン。

 

 

「ついにこの時が来たんやな……! うっしッ! 任せとき!」

 

 

最後に那須川マルオが搭乗する巨大なパワードリルが二つ付いた戦車・ランドマン。

 

 

「鷹診さん。俺をメインにしてやらせてくれ!」

 

「カイくん。気持ちはわかるがタイプ3のテストはまだ完了していない」

 

「でも!」

 

「それに今のキミではシステムのの数値を安定させることができるとは思えない。違うかい?」

 

「それは――ッッ!」

 

 

カイは言葉を飲み込んだ。

 

 

「……わかった。俺は、ゴジラを殺せればそれでいい」

 

「感謝するよ。ではいくよ! カイくん! ナスさん!」

 

 

三人は同時にボタンを押していく。

そこでゴジラからレーザーが放たれたが、三機は素早くスライド移動で光線を回避した。

さらにスターファルコンからレーザーが発射されてゴジラに向かう。

 

黒い霧が散布された。

ゴジラは一瞬でスターファルコンの真下に現れ、真上を向いてレーザーを発射しようと試みる。

だがその前に全身が爆発していく。ランドマンからも無数のミサイルが発射されていたのだ。

追撃にランドマンは二つのドリルを回転させて機体を跳ねる。

ゴジラの心臓があるだろう胸に向かっていったが、そこでゴジラはワープ。ランドマンの後ろに回ると、レーザーを発射した。

 

だが同時にゴジラの頭部が爆発した。

ゴウテンのドリル中央から発射された光弾が直撃して、衝撃で頭部の向きが変わったのだ。

おかげで放たれた赤黒い線は、ランドマンを逸れて地面に直撃する。

 

 

「ゴオオオオオ!」

 

 

ゴジラが尾を振るった。

しかし三機はそれを回避すると、そのまま変形を開始する。

スターファルコンが突出しているコックピット部分が機体に収納され、ランドマンもキャタピラ部分が変形して、ジョイント部分に代わる。

極星が放つ光のラインが三機を繋いだ。

スターファルコンが下半身に。ランドマンが上半身になったのを確認すると、鷹診が最後のレバーを引いた。

 

 

「「「チェンジ! タイタン!」」」

 

 

ゴウテンが折れて展開し、『首』ができた。

つまり頭だ。それがランドマンに繋がり、三機の合体完了を知らせる電子音が流れる。

 

 

『Mobile Operation Godzilla Expert Robot Aero-type』

 

 

タルタロス、タイタンモード。

巨大怪獣に対抗するべく三機の極星を合わせて、さらなる高出力のエネルギーでの戦闘を可能にする形態である。

コックピットが連結し、正面から見て右にカイ、左に那須川、そして二人の前、中央部分にメインパイロットとなる鷹診が座っている。

完成したのは両腕のドリルと頭部のドリルが特徴的な、戦闘や移動などバランスの取れた形態。

タルタロス・タイプ1。

 

 

「合体完了! 『モゲラ』、発進します!」

 

 

バシュン! と音がして、モゲラが地面を滑る。

巨体でありながらも極星のエネルギーにより、常時ホバー移動を可能にしているのだ。

エアロスライドにより、一瞬でゴジラの前に位置をとった。

モゲラの右腕、ドリルの先がゴジラの胴体に食い込んだ。

 

 

「今だ! パワースパイラル」

 

「了解ィッ!」

 

 

那須川がレバーを引くとドリルが回転し、ゴジラが悲鳴をあげた。

カイは目を見開く。

 

 

「見ろ……! 見ろよ! なあ、見てくれよ! ほら! いたんだ! やっぱりいやがった! こ……、この野郎! 一体全体今まで、どこに隠れてやがったんだ! あぁ? ほら、見てくれよナスさん! 鷹診さん! こいつが! こいつが俺の家族をこッ、こ、殺しやがったんだ! くそっ! あぁ、クソッ!」

 

「落ち着くんだカイくん! ミサイルを頼む!」

 

「あ……! す、すまねぇ鷹診さ――」

 

 

衝撃を感じた。

ゴジラの体内放射を受けて、モゲラは吹き飛ばされる。

とはいえ、鷹診の操縦で地面に倒れることなく体勢を立て直し、すでに展開済みの左ドリルをゴジラに向けた。

 

 

「スパイラルグレネード発射!」

 

 

割れたドリルの中からミサイルが発射されてゴジラに向かう。

ゴジラは不動だった。当然ミサイルが命中するが、そこで目を疑うようなことが起きる。

ミサイルがなんのことはなくゴジラを『通過』していったのだ。

確かに胴体に命中したはずなのに、すり抜けるように貫通して、かといってゴジラにダメージが入ったような様子もない。

 

 

「どうなってんねん……ッ! おかしいやろ!」

 

 

尤もだ。

さらにゴジラは消えて、モゲラの背後に現れた。

しかし予想はできたため、鷹診は既にボタンを押していた。

モゲラの背中にある電磁ノコギリが高速回転すると、衝撃波・ショックフォースが放たれた。

 

ゴジラが霧と変わる。

すぐに距離をとったところに出現した。

一方でモゲラもゴジラと向き合い、胸部中央からパラボラアンテナ型の砲身を伸ばした。

ゴジラが背ビレを赤く光らせる中で、鷹診は素早く出力を設定する。

 

 

「プラズマメーサーキャノン! 発射!」

 

 

ゴジラのレーザーとモゲラのレーザーがぶつかり合う。

競り合うエネルギー、しかし徐々にゴジラの赤が、モゲラの銀を塗り物していく。

目を細める鷹診。するとそこで光線が飛んできて、加勢が入る。

 

 

「ぉぉぉ! なんや知らんけど助かったで!」

 

 

那須川が笑った。

ゼペリオン光線とメーサーキャノンはゴジラのビームを押していき、そして爆発が巻き起こる。

 

「……ッ!?」

 

煙が晴れたとき、ゴジラはどこにもいなかった。

 

 

「ッッ、どこに! 俺はここだぞ! おい! どうした? 殺し損ねた俺がここにいるんだぞ!」

 

 

カイはそう叫んでみたが、結果は同じで。

 

 

 




編集は全くしていないので、毎日投稿とまではいかないかもしれませんが、本文そのものはもう全部できているので、なるべく早く投稿していきます(´・ω・)b


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第2話 Oblivion(前編)

科学者同士の結婚だったらしい。

極星研究の第一人者だった父も母も忙しかっただろうが、それでも家族の時間を頻繁に作ってくれた。

今にして思えば稚拙で、何も褒めるところがない似顔絵も笑顔でありがとうと言ってくれた。

わざわざ額縁まで買って飾ってくれた。

 

遊園地に連れて行ってくれたこともある。

はじめは夕方には帰るとの約束だったが楽しかったのでもっといたいとワガママを言ったら、閉園まで付き合ってくれた。

その日、両親が徹夜したことに当時のカイは気づいていない。

 

次の日、カイはワクワクしていた。

夜ご飯はカレーだった。カイはカレーが好きだった。

甘口ではなく、辛口を作ってもらっていた。少し辛いとは思ったが耐えることはできた。

父は本当は甘口ではなく辛口が好きだと知っていたし、辛口を食べることができたら母はすごいすごいと褒めてくれた。

それが嬉しくてカイは辛口が好きだった。

 

 

「あ、しまった!」

 

 

カレーをかき混ぜている母が笑った。

父も母も、研究に没頭していたせいで、朝刊をポストに入れたままだったのだ。

 

 

「おれがとってくるっ!」

 

 

カイは急いで玄関を飛び出した。

両親の役に立てるからお手伝いは好きだった。

ただ褒めてもらいたかっただけだ。それでよかった。それだけでよかった。

 

「え?」

 

カイは足を止めた。

振り返った時、家の横に、家よりも大きな何かがいたからだ。

恐竜がよぎったが、カイは両親からきちんと教えられていた。

ゴジラという存在を。

 

 

「ゴオォォォ!」

 

 

ゴジラが鳴いた。

それはとても恐ろしいことで足がすくんだが、なにより大きな混乱があった。

だって先ほどまでは何もなかった。あんな大きな生物がいたのなら、玄関を出たときにわかる筈なのだ。

だからカイはそれが偽物だと思った。

何か、人形か、あるいはいつの間にか眠ってしまっていて、夢を見ているのだと。

だがそれでも、やはりゴジラが腕を振るい家を壊し始めたときは、とてつもない恐怖でカイは泣いてしまった。

へたり込んでいると、ぼやけた視界に母の面影が見えた。

 

 

「カイ!」

 

 

母が飛び出してきた。

次の瞬間、ゴジラの足が母を押し潰した。

あまりにもアッサリと、それはまあアッサリと母の人生は終わった。

カイが鳴いていると、次は父の声が聞こえた。

そして何よりも熱い。

カイが目を開けると、ゴジラが火炎放射で逃げようとした父を焼いているのが見えた。

 

 

「ギャァアァァアァアアアァ!」

 

 

炎にまみれてもがく人間から、この世のものとは思えない絶叫が聞こえる。

父の声のような、そうでないような。

カイは泣いた。だからまもなく息絶えるものは、力の限り叫んだ。

 

 

「カイ! 逃げろォォォオォォ!」

 

 

そこでもう一度炎が父を包み、それは炭になった。

カイは後ろを向いた。熱を感じて泣いた。痛かったので泣き続けた。

ゴジラは無言でカイを見ていた。無言で、無音で、カイを、カイの場所を。

そしてゴジラは煙のように散って、あっという間に消えていった。

 

カイは、耳の下や首、背中に火傷を負った。

幸い障害が残ることはなかったが、痕が目立つほどには酷かった。

熱が出てベッドの上で苦しんでいると、ふと思った。

どうしてこんなに苦しくて辛いのに母は来てくれないんだ?

どうして父はアイスクリームを買ってきてくれないんだ?

水が飲みたい。そう叫ぶと、看護師がやってきた。

 

 

そこでカイは泣いた。

 

 

退院した後、警察はカイに何があったのかを聞きに来た。

カイは何度も訴えた。ゴジラが両親を殺したのだと。

しかし誰も信じてくれなかった。カイは両親を失ったショックでこうなったのだと精神科医は説明していた。

 

本人は本気のようだが、自分の心を守るために偽りの記憶をでっちあげることは子供にはたまにある事例らしい。

無理もない、どう考えてもゴジラが現れたという証拠がなかった。

周囲には足跡ひとつないし、建物の倒壊や、木が倒れたなど、巨大生物が通過した痕跡はない。

 

カイの家は周囲に民家がない山の上にあったものの、それを降りたところには民家がある。

そこに住む人たちは、大きな音はしたし、言われてみれば鳴き声のようなものも聞こえたかもしれないが、周りに被害はないと口を揃えた。

あともう一つ、念のためにと当時の調査隊は放射線測定器を使った。

しかしいずれもわずかな反応すら示さなかった。

カイは大人に言われた。

ゴジラは水爆怪獣なんだから反応しないのはおかしいんだ。

だからキミが見たものはゴジラではないんだよ。

大人はかわいそうなものを見る優しい目でカイを見ていた。

 

施設に行ってからもカイは訴えた。

本当にゴジラがいたのだと。

もしも放置すればやがて、ゴジラは街を襲う。その前にゴジラを殺さないと大変なことになると。

しかし誰も信じなかった。

それでもカイは訴えた。するとカイは嘘つきだとみんなから言われた。

優しい職員にも言われた。カイくん。みんなを不安にさせたらダメだよ。

大丈夫。ゴジラはもう現れないから。みんなで一緒に遊ぼう?

 

カイはみんなと一緒に遊んだが何も楽しくなかった。

だってどれだけ楽しくてもゴジラが現れれば一瞬で殺されるからだ。

かと言って危険性を訴えても誰も信じない。

カイはそれを理解した。だから何も言わなくなった。

 

高校生の時、カイは職員室に呼ばれた。

珍しいことではなかった。カイはよく人を殴った。

絡まれている生徒を守るために。誰かがいじめられていると噂が立てば、真偽を確かめる暇もなく、犯人と思わしき人間に殴り掛かった。

カイは自分からは手を出さなかった。

決まって相手から動くのを待った。それだと言い訳がきくと知っていたからだ。

その日も適当に言いくるめて帰ろうと思っていた。

 

 

「イキのいい後輩が、俺の髪が長いってイチャモンをつけてきたんだ。俺は特別だってもっとちゃんと言ってくれよ先生」

 

 

カイは冷めた様子で笑った。彼は特別に髪を校則で決められたところより長くすることを許されていた。

それで火傷を隠していたからだ。

 

 

「そう説明すればよかった」

 

 

その日は、少し変だった。

教師ではない人間がいたのだ。それが鷹診だった。

 

 

「本当の理由はなんだい? 三冨士カイくん」

 

「本当の理由?」

 

「ああ。全て包み隠さず教えてくれ。あの日のように」

 

 

鷹診はアンタレスの隊員証を見せてきた。

 

 

「私はキミの言ったことを信じると簡単にいうことができない。なぜならば私自身、いろいろと疑ってしまうところがあるからね」

 

「へへ、まあそうだな。錯乱していたガキの言ったことさ」

 

「だが、キミの感じた苦しみは紛れもない真実だろう。私はそれを疑うことはない」

 

「……っ」

 

「キミの力を貸してくれないか? 今でもキミはゴジラを信じてる。違うかい?」

 

 

カイの担任と鷹診は友人だった。

カイのことを相談された彼は、カイをアンタレスに招くことを決めたのである。

 

 

「かつてヤマネ博士はゴジラの同種が存在し、それがいずれ現れるといった。キミが見たのがそれだった可能性がある」

 

「……ッ」

 

「誰も信じてくれないなら、キミ自身の手で決着をつければいい」

 

 

鷹診はまっすぐにカイを見た。

カイの心に炎が灯った。

 

 

「……むしゃくしゃしてる」

 

「?」

 

「皆、見えない敵に怯えてるんだ。だったら俺が付き合ってやるって思っただけだ」

 

 

それがカイが人を殴った理由だった。殴り、殴られる中で冷めればいいし、より熱くなってカイを殺してしまったとしても、カイはそれでよかった。

なぜならばきっとその時、その人間が見ているのはカイではなく、本当の敵だからだ。

その時はじめて人は己の中にいるものと対峙ができる。

疑うことなかれ。カイはそういう人間がいるのならば、祝福してやりたいと思っただけだ。

 

 

「よくないな。心は疲弊していくよ。私にはわかるんだ。キミよりは長く生きているからね」

 

 

それにキミの"ひいお祖父さん"も言っていたと鷹診は付け加えた。

カイはセリザワ博士のことをほとんど知らないが、どんな人物くらいかは知っていた。

祖父の義理の父だった。

といっても、物心がついた時にはゴジラと心中していたらしいが。

 

 

「人は孤独には耐えれない。それはカイくん、もちろんキミもね」

 

「……忠告ありがとうございます」

 

 

もしかしたらゴジラは復讐をしにきたのか?

わからない。わからないから知りたい。調べるしかない。

いずれにせよ、この疑問は、消し去ることができる。

 

 

「……まあ、アレですよ。やっぱり惰性で生きるのは、よくないなって思ってました」

 

「そうか。ならどうする」

 

「アンタレスに入ります」

 

「ああ。待ってるよ」

 

 

カイはその日から一心不乱にアンタレスを目指した。

ゴジラを探す。そして、殺す。

それが彼の全てになったのだ。

 

 

 

そして現在。

 

泣いている男の子がいた。

しかし小さな男の子が泣いているのは、ままあることだ。だから誰も気に留めずに歩いて行った。

ただでさえゴジラの被害は凄まじい。泣きたいのはみんな同じだった。

 

 

「だいじょうぶ?」

 

 

しかし、一人の青年が男の子の前で立ち止まった。

しゃがみ込み、目線を合わせる。

白峰(しらね)メイ。眼鏡をかけた中性的な容姿で、ふんわりとした茶髪だった。

 

 

「どうしたの?」

 

 

男の子はグズりながら木の上を指さした。そこには赤い風船がある。

 

 

「あー、引っかかっちゃったんだ。うん。大丈夫。待っててね」

 

 

大丈夫とは言ったが、なかば勢いで口にしてしまった。

プランがない。ジャンプでは届かないし、近くにハシゴや台なんてものは存在しない。

 

 

「ちょっとすいません。僕が肩車するのであの風船とってくれませんか?」

 

 

道行く人にそう聞いてみたが、もちろん断れた。無視された。

早くしないと風に吹かれて飛んで行ってしまう可能性がある。

メイはだったらと木をよじ登り始めた。

落ちた。

もう一度。

落ちた。

もう一度。

落ちた。腰を強打した。

もう一度。落ちた。そこで男の子の涙は乾いた。

父親が戻ってきたのだが、彼の手には新しい風船があった。

 

「だから、もういいよ」

 

「………」

 

それでも、メイは微笑んだ。

男の子の視線は木に引っかかった風船にあった。それは赤色で、父が持ってきた風船は緑色だったのだ。

 

 

「大丈夫。本当に、あと一回だから」

 

 

メイはそれなりに。

いや、結構真剣に全力を込めて木を登った。

わずかな恐怖心を抑え込んだのは、時間がないということだ。

だからメイは風船をキャッチして、なんとか下に戻ることができた。

 

 

「はいどうぞ」

 

「ありがとう!」

 

「すみません。わざわざ」

 

「いえいえ」

 

 

メイが親子と別れて歩いていると、道でウロウロしている外国人の男性を見つけた。

道行く人に話しかけているが、ごめんなさいと繰り返されている。

メイは翻訳アプリを起動して、男性に話しかけた。

 

 

『どうしました?』

 

『道に迷ってしまって。目印がゴジラに壊されてしまったんです』

 

『どこに行きたいんですか?』

 

 

メイは地図アプリを使って道を説明した。

 

 

『わかりました。ありがとうございます!』

 

『どういたしまして』

 

 

男性は今まで散々断られたことが相当ショックだったらしく、それはたいそう喜んでいらっしゃった。

簡単ではあるが、何かお礼をさせてくれと言われたが、メイは断った。

全部アプリがやったことだ。もしも優秀なアプリがなければメイとて何の力にもなれなかっただろう。

 

 

『でも、そうだな。もしあなたが困っている人を見かけたら、どうか助けてあげてください。それが一番のお礼です』

 

 

きちんと翻訳されているかどうかは怪しかったが、男性は何度も頷いてお礼を言っていたので伝わったと信じよう。

そこで、メイはあっと表情を変えた。

いけない。取材の約束があるんだった。

 

 

五十嵐(いがらし)一輝(いっき)です」

 

『やッほー! おれっちはバイスだよーんっ!』

 

「マナカ・ケンゴ、所属はガッツセレクトです!」

 

 

アンタレス本部では、帰還した戦士たちが集まっていた。

細かな違いはあるが、トリガーとリバイスは変身を解除した後、アンタレスの隊員たちに声をかけて本部まで連れ来てもらった。

そして事情を説明する。お互い、気を失っており、目覚めたらゴジラがいたので変身したのだと。

 

 

「キミたちは、それぞれこことは違う世界から来た、と」

 

「はい。以前にもそういった経験があって」

 

「オレも、まあ、上手く説明はできないけど……」

 

 

そこで鷹診は視線を一つのモニタに向けた。

そこには頭をかいている長い髪の男がいた。

クドウ・ハジメ、ラフな格好をしているがアンタレスのメカニック担当である。

 

 

『あー……、いやぁ、どうにもマジもんだなコレは』

 

 

ラボで彼が研究していたのはトリガーの変身に使用するガッツスパークレンスと、リバイスの使用アイテムであるバイスタンプの一つだ。

クドウもいろいろなものを見てきてはいるが、こんなものは生まれて初めて見たと。

 

 

『やるじゃないの。これ作ったヤツは天才だよ。まあおれは超天才なんだけど』

 

 

そこでモニタが切れた。

とりあえず鷹診がこの世界の事情を説明する。

言語もそうだが、街の名前は違うものの、おおまかな概念は共通しているので話は早い。

異なる点といえばやはりゴジラの出現、そして極星の発見、そして今ゴジラが現れたということだ。

 

 

「ボクの世界にも怪獣はたくさんいます。何か協力できることがあれば言ってください」

 

「オレも。怪獣ともなると自信はないけど……、やれることはやりますよ」

 

『えーっ! いや危ないって二人とも! まったく、お人よしだなぁ相変わらず!』

 

「こらバイス! お前はちょっと黙ってろ!」

 

 

一輝はガンデフォンの画面を隠した。

どの道、帰る方法もわからないのだ。このまま何もしないでいるよりは何かアクションを起こしたほうがいいと考えた。

ケンゴはともかく、一輝は送り込まれたと思っている。

何が目的かは知らないが、そのうちわかるだろう。

 

 

「ありがとう。それは助かる。正直、我々としても想定外の出来事なんだ」

 

 

鷹診がお礼を言ったと同じくらいにカイが入ってきた。

 

 

「どうだった、カイくん」

 

「生物学の専門家いわく、あれは戦争で失われた命が亡霊となったものらしいですよ」

 

「幽霊っちゅうことか? んなアホな!」

 

 

カイは皮肉めいた笑みを浮かべたし、那須川も笑っていたが、鷹診は深刻な表情だった。

 

 

「あながち否定できない話でもないね。あのワープを見てしまうと」

 

「ま、確かに幽霊みたいに消えとったな」

 

「だがヤツには実体があった」

 

「例えば一輝くんや、ケンゴくんの世界の要素が我々の世界に触れてゴジラを具現させた可能性もある。霊的なものに括らずにね」

 

 

リバイスが戦うのは悪魔だ。

幽霊と存在が遠すぎるわけでもない。

あるいはケンゴの世界にいる不思議な力を持った怪獣や異星人の仕業であるというのは、確かに可能性としては高い。

しかしカイは、それを否定した。

 

 

「あれは俺の両親を殺したゴジラだ。少しデカくなってやがったが、間違いない」

 

「……家族を」

 

「ああ」

 

 

一輝には何か思うところがあるのか、深刻な表情で俯いた。

それはもちろんケンゴたちも同じだ。

 

 

「確かにカイくんが見たのがあのゴジラなら、足跡が見つからなかったのも説明がつく。ヤツはワープで移動していたんだ」

 

「せやかて……、そんなめちゃくちゃな」

 

「ケンゴくんの世界にいる怪獣も、かなり多様な能力を持っているとか言ったね。そういう存在に我々の世界の怪獣も近づいているのかもしれない」

 

 

そこで鷹診は腕時計を確認した。

 

 

「取材が入ってるんだ。もうすぐだね」

 

「俺がいきますよ。二人はお疲れでしょ? 年なんだから」

 

「なんやと! まだ49やがな!」

 

「ジジイじゃないっすか」

 

「アホ言うて! 兄さんからも反論してやってください!」

 

「いやいや、そう言ってもらえると助かるよ。もう52ともなると疲れやすいし、疲れがとれなくなってきて……」

 

 

と、いうわけで、カイが担当することになった。

食堂に通されたのは白峰メイだ。雑誌『フォーカス』は編集長が鷹診の知り合いであり、そのこともあってか頻繁に独占取材をさせてもらっているのである。

雑誌の内容も『偽りなき真実と事実を』をモットーにしており、信頼もあってのことだった。

 

 

「コーヒーでいいか?」

 

「ありがとうございます」

 

「……で? 何が聞きたいのかな?」

 

「はい。ゴジラの件で被害状況や、アレはヤマネ博士が危惧していた第二のゴジラなのか? あるいは最初からゴジラは死んでいなかったのか」

 

「あぁ、えぇっと……」

 

 

カイは気だるげに説明していく。

と、いっても具体的に答えられることはほとんどない。

ゴジラに関してはほぼ全てが『調査中』だからだ。

 

 

「こう言っちゃ失礼だが、もう少し時間をおいて来てくれればよかったのに」

 

「そうですね。すみません。実は、個人的に知りたいことがあって」

 

「?」

 

「今いきなりこんなことを言うのは不謹慎かもしれませんが、僕はゴジラは優しい……、善良な怪獣だと思ってるんです」

 

「ほぉ……、面白いことを言うねアンタ。だがそれはありえない。ゴジラは凶悪な怪獣だ。アンタも見ただろ?」

 

「確かにそうですが、何か大きな理由があると僕は思ってます」

 

 

カイはジットリとメイを見る。

彼はまっすぐにカイを見ていた。少なくとも冗談で言っている様子はない。

 

 

「……理由はどうであれ、ヤツはあれほどの破壊を行った。もはや生かしちゃおけないだろう」

 

「それは、そうかもしれませんが、どうかもう一度。どうかッ調べてみてはくれませんか? お願いします。どうか、どうか……!」

 

 

カイは少し怯んだ。

メイの縋るような言葉は、かつてカイが周りに頼んだことだ。

カイはそんなことはありえないとメイを突っぱねるつもりだったが、それが非常に滑稽なことのように感じてしまった。

あの時も周りの人間は同じようなことを思っていたのだろう。

今になってわかるとは皮肉である。

 

 

「……あぁ、ダメだな」

 

「え?」

 

「いやいや……、コッチの話だよ。まあ少し調べてはみる。期待はしないでほしいけどな」

 

「ッ、ありがとうございます!」

 

「だがワケを聞かせてもらっていいか? あの化け物が優しいだなんて、理由があってのことじゃないと成立しないぜ?」

 

「はい。実は、5歳の時にゴジラに助けられたことがあるんです」

 

「は――?」

 

「信じられないかもしれませんが、記憶にあるんです。両親といったキャンプの時にゴジラが助けてくれたと……」

 

「そんなバカな。アンタ、年齢を聞いても?」

 

「22です」

 

 

カイは23歳だった。つまり――

 

 

「それはありえない!」

 

 

突如カイが大声をあげるものだから、少しメイの表情が強張った。

 

 

「俺は、同じ年に、ゴジラに両親を殺されてる……ッッ!」

 

「ッ、あなたもゴジラを!?」

 

 

予想していた答えとは違った。

メイはてっきり怪獣を見たことが、ありえないと言われているのだと思ったが、そうではないのだ。

カイもそのことに気づいたのか、混乱する。

だってこれは悪くない話だ。

あの時、誰一人として目撃情報がなかったゴジラを見たという人間が現れたのだ。

問題はその内容が真逆ともとれることだったが。

 

 

「俺はこの目で確かにゴジラが父さんと母さんを殺すのを見た。ヤツが吐いた炎が、この身に刻まれている」

 

 

カイは髪をあげて火傷の痕をメイに見せた。

 

 

「精神科医は俺が幻覚を見たとか、ショックが記憶ですり替わってるなんて言ったが、誓ってそうじゃない。俺は見たんだ! 確かに! ゴジラを!!」

 

「……っっ」

 

 

メイの頭にはいくつか言葉が浮かんだ。

ゴジラが、たとえば、何かによって操られていたとか。

だがそんな都合のいいものはなんだ? あの時代に生物をコントロールできる技術が存在していたとは思えない。

それに加えてそういう言葉を口にできなかったのは、強く否定できないからだ。

 

というのも、メイはゴジラをハッキリとは見ていない。

きっとそうだったと漠然とした思いがあるだけで、一部の記憶がおぼろげだった。

しかしそれでもあの咆哮は確かに覚えているし、飛んできた青い光だって……。

 

 

「僕はゴジラが、正義の心を持った……、存在だと」

 

 

伝えたいことを少し大げさに言ってみたものの、言葉が詰まった。

カイのように瞳に焼き付けたとは言えない。メイは嘘が苦手だった。カイはそれを察したのか大きなため息をつく。

 

 

「アンタが見たものはきっと間違いじゃかった。でも、正しくもないのかもな」

 

「ッ」

 

「俺とアンタ……、どちらかが記憶違いをしてるんだ。悪いが譲る気はねぇ。俺はあの時の憎悪を今も振り払えていないんだ」

 

「憎悪ですか」

 

「……ああ。よくねぇもんだよ。それでまあ、性格の悪い言い方にはなるが、あえてアンタに対抗するのであれば――」

 

「?」

 

「ゴジラは悪だ。あの凶悪怪獣を殺さない限り、地球に平和はやってこないぜ。お坊ちゃん」

 

 

鷹診からメイのことは少し聞いていた。

大手旅行会社を経営する社長の御曹司が、写真の趣味を活かしたいとコネで入社したらしい。

 

 

「育ちがいいアンタの目には、きっと少しフィルターがかかってる」

 

 

メイは沈黙した。彼自身、自分の価値観が周りと少し違うことはわかっていた。

となると、もしかしたら正しいのはカイのほうかもしれないと思ってしまう。

 

 

「……あぁ、悪い。最後のは余計だったな」

 

「いえ。お気になさらず」

 

「気を悪くしないでくれ。ただ、まあ、なんていうか。こんなムキになっちまうほど俺にとっては重要なことなんだ……」

 

「当然のことだと思います。確かに僕の記憶には間違いがあって、正しいこともある。とりあえず今はそれを僕なりに調べられたらと思っています」

 

「俺も言えることがあれば教える。まあ、よろしく頼むぜ……」

 

 

二人はしばし取材の続きをして別れた。

アンタレス本部を出たメイは、しばらく歩いた後に立ち止まる。

 

 

「はぁ」

 

 

大きなため息をひとつ。すると、声が聞こえた。

 

 

「スマイルスマイル! ですよ!」

 

「え?」

 

 

振り返ると、そこにはマナカケンゴが立っていた。

 

 

「はじめまして」

 

「どうも、はじめまして。アンタレスの方ですか」

 

「んー、まあ、えーっと、なんていうか。ちょっと説明が難しいんですけど……」

 

 

カイが取材対応をしにいった直後、鷹診はケンゴと一輝に休憩を与えたのだ。

二人は食堂に向かい仮面ライダーとウルトラマンの情報を交換しつつ、似通ったもの同士で盛り上がっていたのだが、そこでカイが声を荒げたのを聞いてしまったのだ。

 

 

「そこからは、まあ、話を聞いちゃって……」

 

「そうですか、いや、いいんですよ」

 

「ごめんなさいッ。でもとにかく、メイさんが落ち込んでるのが見えちゃって」

 

「励ましにきてくれたんですか? わぁ、ありがとうございます!」

 

「送ります! ね! さ! 行きましょー!」

 

 

ケンゴは大きく手を振って歩き出した。

メイは微笑むと、後をついていく。

 

 

「これからもうひとつ、取材予定があって。そこまでお願いします」

 

「了解です!」

 

「そうだ。せっかくだからアレも聞いちゃおうかな。あの光の巨人が出ましたよね。あれは一体なんだと思います? 少なくとも怪獣には見えなかった」

 

「え? あ、あははは」

 

 

露骨にケンゴの動きが固くなったが、メイは気にしていないようだった。

二人は歩いていく中で、他愛ない話を繰り返した。

あまり中身はなかったが、おかげで仲良くなれた。

 

 

「でもダメだなぁ。どうにも身が入らないや」

 

「え?」

 

「ワガママだったんです。取材っていうのはまあ言い訳みたいなもので。どうやら僕はゴジラが現れて、街を壊したことが想像以上にショックだったらしい」

 

 

人が死んだ。

建物が壊れた。

そういうことは純粋に心が痛む。

もう一つは、ゴジラそのものに対する想いであると。

 

 

「世間はゴジラを最悪な存在として見ています。次に現れる時を想像して怯えてる。それは当然なんですけど、僕にとっては違うから、少し辛くて」

 

「メイは、ゴジラが好きなの?」

 

「そうだね。聞いてくれます?」

 

 

おぼろげなところがあると前置きして、メイは5歳の時の記憶を語り始めた。

どこに行ったのかは覚えていない。両親いわくインドネシア旅行の際に訪れたバリだったらしいが……。

飛行機に乗ったのは覚えている。

ホテルはなくて、両親の知り合いの家に泊まることになって。そこはすごく民族的で、一人娘だという女の子と知り合った。

 

顔はぼんやりとしか覚えていないが、存在の記憶は鮮明だった。

その島には他に子供がいなかったので、彼女は同年代のメイにすごくなついてくれた。

二人はすぐに仲良くなって、島を探検したり、一緒にご飯を食べたり、お風呂に入ったり、眠ったり、ずっと一緒にいた。

 

しかしある夜。メイは一人だった。

少女は大切な勉強があるらしく、祭壇という場所に行かなければならなかったからだ。

そこは部外者を入れることが許されておらず、メイは退屈だった。

両親は島に来ても仕事中のようで、メイは一人で島を歩いていた。

しかし慣れない場所だったから途中で迷子になってしまった。

辺りは真っ暗になり、知らず知らずに立ち入ってはいけないと言われている洞窟の近くまで来てしまった。

 

メイは見た。暗闇に光る二つの目を。

それは大トカゲだった。獰猛な性格で、子供なんて一噛みで殺してしまうほどの牙を持っていた。

メイは恐ろしくなって背中を向けて走り出してしまった。

トカゲもまた走り出した。メイを獲物と認識して襲い掛かったのだ。

来る。それを感じる。怖い。助けて。

 

「!」

 

メイは青白い光を感じて振り返った。

泡のような光の球体がいくつも飛んできて、それがトカゲに直撃したのである。

トカゲは吹き飛び、木に叩きつけられた。

すぐに暗くなったが、わずかな光で見えた影。

 

背ビレのようなものがあったと思う。

そして赤い瞳。

トカゲが鳴くと、"それ"も吠えた。

メイは怖くなって逃げた。しかしすぐに鳴き声も気配もなくなった。

 

メイが振り返ると何もいなかった。

放心していると彼の名を呼ぶ声が聞こえる。

祭壇から帰ってきた女の子が迎えに来てくれたのだ。

帰り道、メイは今あったことを女の子にすべて話した。

すると彼女は微笑んで、こう言った。

 

 

『火を吐いたんだよね? だったらそれは――』

 

 

ゴジラかもね。

 



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第3話     (後編)

一瞬だけ見えた姿。

確かに街を破壊したゴジラよりはずっと小さかったし、シルエットも違っていたかもしれない。

でもあれはきっとゴジラなんだとメイは思って生きてきた。

かつて1954年に神代坂に現れたゴジラの仲間なのか、それはわからないが、あの背ビレと炎は必ずそうなんだと。

 

 

「その島には?」

 

「一度だけ。記憶とはずいぶん景色が違っていて。一緒に遊んでいたあの子はいなかったし、もちろんゴジラも」

 

 

メイも本気で探すことはしなかった。

もし自分がゴジラを見つけてしまったら、きっと何かが壊れてしまうだろうから。

 

 

「僕は感じたんです。あの子が、ゴジラが僕を助けてくれたんだって。でもそう伝わったのは上手く言語化できなくて」

 

 

心配しないでとゴジラに言われた。

メイは本気でそう思っているが、もちろんゴジラが喋ったわけではない。

だがしかし本気でそう感じたのだ。気持ちが伝わってきたというか。心が温かくなった。

しかしやはり言語化できないので説明もできない。そういう訳が分からないことを人は信じてはくれない。

 

当たり前である。

証拠があって、事実が見えて、人はそれを受け入れるのだ。

もしもそれを証明しようとすればゴジラを深く知る。知らせる必要がある。

だから関わってはいけない。自分にできることは感謝の気持ちを持つこと。

つまりゴジラを想い続けることだ。決して彼の平穏を暴こうとすることじゃない。

 

 

「ふとした時に考えるんです。元気にしてるかな? 今、どれだけ大きくなってるのかな?」

 

 

怪我してないかな?

悪い人たちに見つかって、狙われてないといいな。

おなかいっぱい食べられてるのかな?

 

 

「……人間を嫌いになってかな? とか、いろいろ」

 

「優しいんだね、メイは」

 

 

ケンゴの言葉にメイは目を丸くした。

まさかそんな言葉が返ってくるとは思わなかった。

たいていの人間は頭がおかしいと思う。なのにケンゴは屈託のない笑顔でメイを見ている。

そのことを伝えるとケンゴはバツが悪そうに笑った。

 

 

「さっきも言われちゃったよ」

 

 

バイスにしこたま怒られた。

あのね! ケンゴっち! 一輝もお人よしだけど、アンタも相当だよ!

いくらなんでも簡単に信用しすぎだって! 変身に使うヤツまるまま渡すとか実は向こうがワルでしたー! ってなったらどうすんのーッ!?

だとか。いろいろ

 

「………」

 

ケンゴは首を振る。

 

 

「と、とにかく! きっとゴジラにもメイの気持ちは伝わってるよ」

 

「だといいんですけど。ありがとう救われました」

 

 

メイは少し安堵したように笑った。

 

 

「僕はやはり、ゴジラが街を破壊したと聞いた時すごくショックだった。今はたくさんの人がゴジラに怯えて、ゴジラを恨んでます」

 

 

昔の話だ。

あれがもしも本当にゴジラだったとして、メイの記憶がゴジラの無実を証明するものにはなりえない。

人間だってそういうことは、おうおうにしてあるものだ。

この前も殺人犯の知人にインタビューをするというニュースがあって、その知人は犯人のことを『昔は優しい子だった』と話していた。

 

 

「時間という概念は生き物を変えます。 でもあの時、僕の心に届いた感情はすごく大きて温かなものだった。だから僕はゴジラがあんなことをしたなんて信じたくない……」

 

 

あるいは、あんなに純粋な心を持ったゴジラが邪悪なものに染まるほどの出来事があったなんて思いたくない。

しかし人間として考えたとき、あまりにも心当たりは多い。

だからメイはあまりにも小さい声で呟いた。

 

 

「怪獣と分かり合うことはできないんでしょうか……?」

 

 

そこで我に返ったように顔を上げた。

 

 

「ごめんなさい。被害者もいるのに。自分でもおかしなことを言ってるのはわかってるんですけど」

 

「そんなことないよ! ボクはメイを信じるよ! あぁ、えっと、でもカイが嘘を言ってるとも思ってないし! ゴジラがどうあるのかはさておくとして……っ!」

 

 

ケンゴは腕を組んで唸る。

なかなか、これも言葉にするのが難しい。

ケンゴ自身、ゴジラと戦ってみてわかる。あの殺意の中には欠片の優しさも存在していなかった。

だがそれでも、メイが感じたものは確かなんだから。

 

 

「とにかく! ゴジラが何かに操られてるとしたらボクが元に戻すから!」

 

「……はい」

 

「だからね、ほら、スマイルスマイル!」

 

「ありがとうケンゴさん。貴方みたいな人がいてくれて嬉しいです。本当に、本当に」

 

 

こうして二人は目的地、『教団・白夜』の本部にたどり着いた。

白夜教団とも呼ばれている。

中に入ると、真っ白な衣服に身を包んだ男女が整列していた。

 

 

「うわぁ、すごい! ね!」

 

「うん。そうだね」

 

 

ケンゴははしゃいでいるが、メイは少し怯んだ。

全員同じ衣服、それも白一色という有様は、逆にアンバランスなものを感じる。

とはいえ、態度は柔らかい。先頭にいた女性に自己紹介をすると、しばらく待っていてほしいと言われた。

そして二分後、白いローブに身を包んだ男性が下りてきた。

 

 

「ようこそ、白夜教団においでなさいました」

 

 

男性のアシンメトリーの髪色は奇抜だった。

緑、赤、紫、黄色、黒、いろいろな色をマーブル柄になっている。こんな染め方は見たことがなかった。

それに貝殻を模したピアス、頬やローブから覗かせた手首には蛇の鱗のようなタトゥーが刻まれている。

先月取材したミュージシャンを彷彿とさせる。

 

 

「ワタクシが教団の長、ネオでございます」

 

 

彼は三日月のように笑い、深くお辞儀をした。

 

 

「うわー、すごい! ボクも話を聞いてもいいんですか!?」

 

「もちろん。ワタクシたちの想いをより多くの人に知っていただきたいのでね。ええ」

 

 

奥の部屋に通されたメイとケンゴ。

ケンゴは相変わらずはしゃいでいたし、出された白湯をゴクゴクと飲んでいたが、メイは少し緊張していた。

この部屋も真っ白だ。天井、ライト、壁紙、床、すべてが白い。

白い椅子と白いテーブル以外何もない。なんだか現実離れして不思議な気分だった。

失礼なことはできない。メイは意識を集中させて、取材を始めた。

教団への入信者は日々、右肩上がりであり、支部も増えてきている。

メディアで活躍中の人気動画配信者や、若手俳優も『薄明者(はくめいしゃ)』――、つまり教団の入信者であることを明かしていた。

 

改めて、教団白夜とは何か?

 

そして、ここまで大きなものになった理由と分析を聞きたいというのが取材内容だった。

ネオはフムと唸り、椅子から立ち上がってローブを翻す。

 

 

「ワタクシは見ての通り、こんな奇抜な格好をしております。従来の新興宗教であれば誰もがワタクシのことをペテン師だと疑うでしょう。ましてやそういう題材、あるいは存在はドラマや漫画ではありがちな演出ではありますしね。そういったエンタメ、あるいはメディアが作り出すものを受信するのはおかしなことではありません。そういった見方になるのは不思議なことではないのです。真実がどこにあるかはおいておいて」

 

 

ですが、と、ネオは人差し指を立てる。

 

 

「ワタクシはただ髪を染めただけです。タトゥーもただ、入れたかったから入れただけ。これは決して神の意志を受けて刻んだ聖刻でもなければ、儀式のために刻んだ呪文でもない」

 

「ほかの雑誌で拝見しました。それが白夜であると」

 

「そう。我々が信仰するのは不確かな存在である神ではなく、この地球(ほし)そのものであります」

 

 

インチキ宗教だと言われたことがあるらしいが、それはおかしな話だ。

ネオだって神がいるかどうかなんてわからない。

神の声が聞こえる人間がいるかどうかはわからない。

みんなそうなんだ。だから疑うものがいるし、中には悪用しようとするものもあらわれる。

 

 

「しかしワタクシは違います。ワタクシたちはただ、この星を敬うだけなのです。そこには一片の偽りも幻想もない。今もワタクシたちがいるこの世界こそが常に動き続ける唯一無二の真実なのですから」

 

 

教団の活動は主に環境保全や動物愛護、あるいは近所の清掃など、ごくごく身近なものだった。

あの世や、この世。天罰や天啓。そんなことより環境変化のほうが問題であるとネオは説く。

身に着けているだで幸運をもたらすブレスレットより、笛を吹いて子供たちの下校を見守ることこそが使命ではないか。

 

 

「まああえてスピリチュアルなところでいうならば、我々は見えないものを作りたがる。ワタクシは偽りの神に縋る心を解き放ちたいのです」

 

 

そこで初老の女性がネオの隣に来た。

 

 

「たとえば彼女は風水にのめりこむがあまり、多くの財を失いました。ワタクシは占いを否定はしませんが、あれは支配されるほどものでもない」

 

 

ネオは彼女と共に海の掃除や山の掃除を繰り返した。

彼女はそのうちに気づいた。悪いことは起こっていない。もしも悪いことが起きるとすれば、それはもっと大きな『力』によるものだ。

たとえば、まあ、自然とか。

 

 

「今はまだ強迫観念のようなものが清掃活動にシフトしているだけなのかもしれません。しかしまずはそちらのほうがいい」

 

 

教団の制服は『白』だ。

地球の汚れを無くそうというコンセプトのもとに作られた。

 

 

「シンプルながらにインパクトのある衣装だと思います」

 

「着たくない人は着なくていいのです。現に、薄明者の中には私服で活動を行っている人もたくさんいます」

 

 

ネオは再び椅子に座った。

 

 

「とまあ、我々の活動を理解していただいたところで、次の質問の返答ですが――」

 

 

ここ最近の入信者の数が増えていることだ。

 

 

「やはり怪獣の存在は大きいでしょう。あれこそが神に最も近い事実だと」

 

 

神が不確かなのは人によって定義が違うからだ。

死後世界、あるいは現世で、ある日ヒゲモジャの老人が唐突に現れて私は神だと口にしたならば果たして何人の人間が信じるだろうか?

人間と同じステージに立つものなのか?

性別は男性なのか?

我々と同じ言葉を話すのか? などと、疑問が浮かんでくるのは頭の中に浮かべる神が人によって違うからだ。

 

 

「しかしゴジラは誰が見ても同じである」

 

 

ネオは33歳だが、ゴジラの映像は資料などで見ている。

それは皆も同じだ。これからもゴジラは語り継がれていくし、誰もが思い浮かべるあの姿は乱れない。

 

 

「しかしそれでも人間は事実を依り代にして、呪いに変える時がある」

 

「というと?」

 

「ゴジラは伝説から名付けられたそうですね。確か、魚を食い尽くし、処女の血を飲んで眠るとか。しかし1954年に処女を差し出した記録はないのはなぜか? 答えは簡単、そんな生き物はいないからです。蚊の怪獣ならまだしもトカゲみたいなものですよ? 血を餌としても眠くなるだなんて……」

 

 

そうなると言い伝えにあった『呉爾羅』の正体がゴジラサウルスであるとは考えにくい。

そもそもゴジラサウルスとは、呉爾羅から名前をとったものだ。

呉爾羅に怯えていた人間たちが生きていた時代に存在していた恐竜に名前はなかった。

 

 

「つまり、後付けである。伝承における被害は一部こそゴジラサウルスの行いはあったかもしれないが大半は自然災害の類がもたらしたものであり、それらの恐怖と悲しみと、そこから生まれる憎悪をゴジラサウルスに擦り付けただけです」

 

 

それはゴジラに限った話ではない。

鬼や、妖怪、そういったものと同じだ。無知なる時、人は正体がわからぬものを恐れ、なんとか名前をつけようとした。

 

 

「今も変わらない。その依り代が怪獣なのです。そしてそれは確固たる事実であると」

 

 

裁きの具現化。概念の実体化。

 

 

「ワタクシはゴジラが水爆実験の影響でゴジラサウルスが変異して生まれた人類の罪の化身だと思っています。再びゴジラを生み出さないためにも我々は環境を保護する必要がある。生き物の突然変異を防ぐために」

 

 

ネオは曇りのない眼でメイを見ていた。

 

 

一方、アンタレス本部内ではカイがメイのことを話していた。

 

 

「アイツはおそらく……、人が良すぎるんだ。地球はおひとよしが損をする。びりっけつってな。映画で見た」

 

「しかし善良。正義、か」

 

 

鷹診は噛みしめるように言っていたが、那須川は呆れたように笑い、たこ焼きをバクバク食っていた。

 

 

「いやいや。正義っちゅうってもゴジラってクマとかライオンみたいなもんやろ?」

 

 

善も悪もない。本能で生きる存在。

言い方を変えるならば善悪を超えた存在だ。

 

 

「気持ちはわかんねんけどな。前に話したっけ? まあええわ。一輝くんもおるし、もう一回話すわ。おれの祖父さんの話やねんけどな、くいもんの店をやっとたんや」

 

 

それなりに成功しとったから、それなりにデカイ会社が建った。

でもな、それがゴジラにぜーんぶ潰されてしもた!

会社だけやなくて工場も全焼したし、豪邸もボカンや!

 

まあ幸い、社員と家族は無事やったから、アレやねんけど。

それでも祖父さん真っ青になって気絶したらしい。ワシャ自殺するって何度も言うとったらしいで。

まあ嘘やろうけどな。おれの家系の男はビビリばっかやから、んな度胸あるかっての。

 

まあ、まあ、ええわ。

とにかく、大人はみんな悲しんどったけど、親父だけは嬉しかったらしい。

正直、会社が上手くいっとった時は、潤いはしたけども、すれ違いも多かったらしくてな。

あの店が残ったままやったら確実に一家はバラバラになっとったそうや。

 

親父と飲んだ時は毎回言うねん。

ゴジラのせいで、せっまい部屋で家族みんなで寝転んで寝るハメになったわ。

イビキがひどすぎて寝られたもんやなかったって、笑いながらな。

 

 

「だからまあ、親父はゴジラが好きっていうとったわ。ワイもそれは同じや。実家にあるゴジラの絵を見て育ったし、不謹慎とか言われて販売中止になったゴジラの人形で遊んどったからな。あの人形、親父はプレ値がついたら売るつもりやったらしい。ほんましょうもないヤツやろ?」

 

 

那須川は結婚しており、子供は三人いる。

今、そのゴジラの人形は、その子供たちの手にわたっており、ボロボロになるまで遊びつくされたそうだ。

 

 

「せやからワイもな、心のどっかではゴジラに対する無責任な情があったんや」

 

「………」

 

 

一輝は言葉を探した。

上手く見つからないのか、違うのか。

霞かかっているような感覚。いつか言われた言葉がフラッシュバックする。

他者の気持ちがわからない。

そうだ。そういう話なのだきっと。センチメンタルな領域。

それを裏付けるように、鷹診が言葉を続けた。

 

 

「友人の話をしてもいいかな? 面白くはないけれど」

 

 

カイと那須川にはいつだったか話したことはあった。

しかしもう一度、今だからこそ聞いてほしいと『鷹診は』思っていた。

できればケンゴもいてほしかったが、まあいいだろう。

 

 

「ある人は、ゴジラの咆哮を聞いて悲しそうと言った。ある人は同じ咆哮を聞いて、ゴジラは怒りに震えているのだと答えた」

 

 

そんな前置きだった。

 

 

鷲見(すみ)と鷹診は幼馴染であり、親友だった。

いつもぼんやりとして、流行にも疎くて、かといって特別な才能もなかった鷹診は周りを話を合わせるのが苦手だったが、鷲見とは不思議と気が合った。

マイナーな音楽も知っていたし、同じ映画も見ていたし、自分しか読んでないだろうと思っていた小説の話で盛り上がった。

 

 

「もしかしたら俺とキミは生き別れた兄弟なのかもしれないね」

 

「あるいは同じ人間が二つに分かれたのかもしれない」

 

「アルビーの小説か。あれは傑作だった」

 

 

まあ今でいうところのただのオタクだったのかもしれない。

でもとにかく楽しかった。休みがあれば鷹診の部屋で徹夜で映画を見たし、夏は海にも花火大会にもいかずに、ひたすら鷲見の家で小説を書いた。

はじめは誰にかに見せるつもりはなかったが、それじゃあ寂しいと鷲見は妹を呼んで出来上がった小説を渡した。

鷲見の妹はヒバリと言った。兄たちに呆れることもなく、差し入れにスイカを持ってきてくれた。

 

ヒバリは律義に本を全部読んだ。

感想を聞くと、鷹診が書いた部分が特別面白いと微笑み、お世辞を言ってくれた。

やがて、鷹診はヒバリと結婚した。鷲見は心から喜んでくれた。

ちなみにあの時の小説の内容は『ゴジラ』をオマージュしていた。

 

そうだ。ゴジラだ。

鷹診と鷲見結ぶのはマイナーな映画や小説だけではなかった。

1954年、二人はまだ生まれていなかったが文献や資料映像で何があったのかは詳しく知っていた。

果たしてゴジラとはなんだったのか? 二人で無限に考察し合った。

 

 

「ゴジラとはまるで宇宙だ!」

 

 

そう言って鷲見は笑った

よくわかならいが、わかる気がすると鷹診も笑った。

 

そのころ、鷹診はアンタレスでゴジラの研究をしていた。

一方で鷲見は原子力発電所に勤めていた。

核によってゴジラが生まれ、今は核によって電気が生まれている。

ゴジラは街を破壊し、電気は街を発展させる。そういったコントラストに鷲見は魅力を感じていたらしい。

だがある日、いきつけのバーで鷲見が深くうなだれていた。

 

 

「どうした? 元気がないな。飲みすぎか?」

 

「いやぁ、なに、ただ悪夢を見ただけさ」

 

 

それだけだった。話している内に鷲見は元気になった。

深く考えなかった。鷹診も悪夢は見る。

しかしその日から確かに、何かが、少しずつ、狂い始めた。

 

違和感を覚えたのは三日後だ。

面白い小説があったから勧めてやろうと鷲見の家に行ったら部屋が散らかっていた。

もちろん普段から整理整頓などという性格でもなかったが、それでも何か異様な散らかり方をしている気がした。

それだけではなく、廊下に空になった酒の瓶がいくつも転がっていた。

これはおかしいと、鷹診は布団に入っていた鷲見を叩き起こした。

 

 

「どうした? 何かあったのか?」

 

「何もない。が、しかし、何もなさすぎるんだ……!」

 

「え?」

 

「何もなさすぎる。それは正常なのか? あ、あ、あ、嵐の前の静けさという」

 

 

その時はただ酔っているだけだと思って、水を飲ませて帰った。

だがもっと話を聞くべきだった。

彼が言っていたのは、ヤマネ博士の言葉だ。ゴジラには同種がいる筈なのに、まったく姿を見せる気配がない。

鷲見はその日、あの時と同じ悪夢を見た。

ゴジラが来た。ゴジラが怒っている。

 

 

「人間はまだ核を使うのか? まだそれに頼るのか?」

 

 

ご、ご、ゴジラが、喋った!

鷲見は驚いた。するとゴジラも同じように驚いた。

驚くと大きな口が開く。ゴジラは鷲見を鷲掴みにして、口の中に入れた。

食われる! 叫ぼうとして、鷲見はできなかった。

金縛りの中で、ゴジラの口の中に広がっていた宇宙を見た。

 

そうか、ゴジラとは宇宙だったのか。

 

そこには海があった。神殿が浮かんでいた。

よくわからないが、人間が足を踏み入れてはいけない領域だと思った。

するとまるで裁きのようにして、ゴジラは鷲見の頭を食い破った。

 

ゴジラは鷲見の体を足に押し当てた。

すると鷲見の体がゴジラに吸収されていく。

そうか。あの岩のようにゴツゴツとした皮膚は人間の躯でできていたのだ。

鷲見は大きな発見だと思ったが、そこで自分が死んでいることを思い出して、死体に戻った。

 

鷲見は目覚め、嘔吐した。

激しい頭痛の中で、これは苦痛だと思った。

そうか。と、気付きを得る。首を噛みちぎられたのはギロチンのメタファーであり、であるならば、この苦痛を以てすれば鎮魂の意をゴジラへ届けることができないだろうか?

 

それから時間が経った。

1993年、鷹診と鷲見が25歳の時だった。

雨が降っていた。鷹診は屋上で叫んでいた。

 

 

「よせ! やめろ!」

 

「鷹診! 今のを聴いたか? あれは咆哮だ!」

 

「違う! あれはただの雷だ!」

 

「いいや違う! 叫びだ! そしてこれが涙だ!」

 

 

雨が強い。眼鏡に水滴がびっしりとついて、前が見えない。

鷹診は眼鏡を外し、目を細め、フェンスの向こう側にいる鷲見を見つけようとした。

ぼやける視界の中で手を伸ばす。

よく見えないが、鷲見の振り払うようなジェスチャーはなんとなく確認できた。

 

 

「大変だ! ゴジラが俺を殺しに来る!」

 

「鷲見! 恐れるな! ゴジラはもういない」

 

 

鷲見が部屋を飛び出したのは浴びるように飲んだ強い酒のせいだとばかり思っていたが、どうやらそれは引き金にしか過ぎなかったようだ。

 

 

「いや、いや! 違う! 鷹診、お前は甘い! ヤツは原子力発電所を許さないだろう! 必ず蘇り、俺を殺しに来るぞ! それだけじゃない。きっとまた戦争が起こる! 今も海外のスパイが日本に山ほど潜んでる。噂では怪獣を洗脳する装置を作っていたという噂だ! 日本政府は至急ッ、それに対抗する装置を作るかあるいは怪獣を所持している国を買収するかしてなんらかの防衛手段をとるしかないんだ!」

 

 

鷲見はこのころ貯金をすべて使って国旗や、海外の絵画を買っていた。

俺たちは友達だ。殺さないでくれ。

この言葉を、世界各国の言語で勉強すると意気込んでいた。

 

 

「鷲見! 巨大生物は逃避の道具じゃない! 戦争は終わった。もう起きない! それを我々は胸に誓って生きていくんだ!」

 

「ゴジラがいる!」

 

「もう死んだ! 同種はいるかもしれないと言われただけだ!」

 

「確定している! まだいるんだ! 俺にはわかる!」

 

「今を生きろ!」

 

「日常を一瞬で破壊するくせにか!?」

 

「そうだ! たとえ怪獣が人類を凌駕していたとしても、我々はそれに縋るべきではない!」

 

「お前は何もわかってない! ヒバリに子供ができないのだって放射能……、いや電磁波の影響なんだ! それらは怪獣を生み出す原因であって、第二第三のゴジラをすぐに生み出す! そ、そうか! 次のゴジラとは放射能の影響で生まれる奇形児だったか!」

 

 

鷲見はそこで振り返り、絶句した。真っ青になった。

 

 

「目だ……! ヤツが俺を見ている――ッ!!」

 

「え? なんだって!?」

 

 

雨音で聞こえない。

仕方ないので、鷹診は同じ場所を見た。遠くのほうに坂があって、そこに車のランプが小さく灯っている。

同じような光があった。あれも、それも、向こうのも、車のライトだ。

 

 

「ゴジラよ……、ゴジラよ! 頼む! 俺がすべてを背負う!」

 

「鷲見……? 鷲見! おい鷲見! よせ!!」

 

「だから頼む! 俺を踏みつぶしてくれ!!」

 

 

鷲見が、落ちた。

いや向かっていったというのが正しい。地面に叩きつけられたのではない。逆だ。押し潰されたのだ。

大地こそがゴジラの足裏であると鷲見は信じていた。

 

 

「――ゴジラが死んだあと怪獣は一度も現れなかった。だけどアンタレスには毎年、必ず怪獣の目撃情報が送られてくる」

 

 

今に戻る。アンタレス本部で鷹診は言葉を続けた。

 

 

「地震が起これば下に怪獣がいるのではないかと疑い、土砂崩れが起これば怪獣が人間に送ったメッセージではないかと震える。津波があれば、波の中に巨大な影を見たと……」

 

 

あるいは面接に落ちた男性からは、怪獣が妨害電波を発射していたと情報が入った。

むろん全ての可能性は捨てきれないが、アンタレスの調査ではいずれも怪獣の影響は存在していなかったと結論が出た。

 

 

「ありもしない怪獣の影に怯えて、中には自殺した人間もいる」

 

 

ちょうど白夜教団ではネオが同じような話をしていた。

 

 

「みんな何かのせいにしたいのですよ。あるいは、心のどこかで望んでる」

 

 

場面はアンタレス本部に戻る。一輝は何度か頷いていた。

 

 

「大きな力が人を変えてしまうっていうのは、オレも……、見てきました」

 

 

そこで、バイスは両手をあげて、やれやれというジェスチャーをとった。

 

 

『いやぁ、でもさ。結局それってゴジラが悪いヤツか良いヤツかってところには繋がらなくない? そもそも言葉が通じなきゃ終わりっしょ?』

 

 

どこからともなく漫画を取り出す。

そこにはバイスがゴジラと会話をしているイラストがあった。

 

『おお! ゴジラ! ワタシ、アンタト、トモダチ! トモダチ!』

 

『ガオーン!(食してもいいですか?)』

 

『オーケーオーケー! トモダチトモダチ!』

 

『ガオガオ!(ほな、いただきます)』

 

『ぎゃあああああああ!』

 

バイスがゴジラに食われた。

バイスはその漫画をびりびりに破って燃えるゴミに出した。

 

 

『そもそも怪獣だろうが人間だろうが正義も悪もないっしょ! だっておれっち、正義の悪魔なんだし! フハハハハ!』

 

「おい! バイス! 変に茶化すなよ!」

 

 

鷹診は少しだけ唇を釣り上げた。

 

 

「確かに、人間にはないものかもしれない。でもだからこそ怪獣にはあるのかもしれない」

 

『ほえ?』

 

「彼らは我々が想像するよりもずっと賢く、そして愚直だからね……」

 

 

 

 

 

 

「すみません! 遅くなりました!」

 

 

ケンゴが慌てて部屋に入ってくる。

警報音が流れており、慌ただしくアンタレスの隊員たちが動き回っていた。

 

 

「何があったんですか!?」

 

「これから映像が出る。カイくん!」

 

「ああ」

 

 

カイが写した映像には湖と山が映っていた。

なんでも芝原湖(しばはらこ)の水温が急激に低下したとの情報が入ったのだ。

確かにすでに薄い氷が張っているようにも見える。

さらに少し離れたところにある桝賀武山(ますがたけやま)が噴火したと報告が入ったのだ。火口からはもうもうと黒煙が上がっている。

 

 

「少し離れてはいるけれど村が二つある。既にアンタレスと自衛隊が協力して避難誘導にあたっているが――」

 

 

そこで鷹診は言葉を止めた。何かが聞こえたのだ。

 

 

「まさか……」

 

 

一同はモニタを見る。

それは決して見間違いなどではない。

 

 

「イア゛アアアアアアアアッッ!」

 

 

氷がはじけた。

水しぶきを上げて湖から巨大な影が飛び出してきたのだ。

 

 

「ピィアアァァァァン!」

 

 

着地したのはアルマジロのような怪獣だった。

背中にある鱗甲板部分にはいくつもの棘が確認できる。

さらに影が飛び出してきたのは湖だけではない。黒煙が伸び、そして吹き飛ぶ。

そこにいたのは巨大な翼竜のような化け物だった。

 

 

「ピキュォ! オオォォォオン!」

 

 

翼竜は再び火口に突撃する。

マグマが噴出して、まるで翼竜は水浴びでもするかのように溶岩を体に纏わせていた。

 

 

『げー! めっちゃデッケー!』

 

 

バイスが前のめりになる。確かに大きい。あれは普通の生き物ではない。

 

 

「怪獣――ッ!」

 

「でも、ゴジラじゃない」

 

 

こんなことがありえるのか? 誰もがそう思った。

今の今まで一度も現れなかった巨大生物。

誰もがいるのではないかと思いつつも、いないのだろうと思っていた存在が、今、二体も同時に現れたのだ。

 

 

「アンギラス……、ラドン――ッ」

 

「え?」

 

「……え?」

 

 

一輝はケンゴに問いかけた。

しかしなぜかケンゴはポカンとしている。

 

 

「今、何か言わなかったか?」

 

「あ。あぁ、なんだろ……? なんかパッと浮かんで……」

 

「いや、いいじゃないか。それでいこう。名前はあったほうがわかりやすい」

 

 

アンタレスはアルマジロのような怪獣を『アンギラス』と。

翼竜のような怪獣を『ラドン』と命名した。

 

 

 



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第4話 Dead end

 

新たな怪獣出現の噂は既に一般市民に耳も届いていた。

この白夜教団においてもそれは例外ではない。

白いホールには無数の白い壺が等間隔に並べられている。

中には泥が入っており、入信者たちは白装束のままにその中に浸かっていた。

お清め、と呼ばれる儀式の最中である。

 

 

「誰もが皆、心に闇を抱えているものです」

 

 

それは業となり、地上へ放たれる。

スピリチュアルな話ではないと念を押した。

汚れは文字通り、地球を汚す。血であり、泥であり、毒である。

それが生み出したものがゴジラであるならば、また怪獣が現れたのは地球が差し向けた白血球。

あるいはもっと現代的な言い方をするのであれば、掃除機(ルンバ)であってもいい。

 

 

「汚れに浸かることで、汚れを輩出するのです。皆様の心に贖罪の想いがあればそれは怪獣に届くでしょう」

 

 

薄明者たちは頷き、手を合わせて泥に浸った。

中には泣いている者もいた。

彼女は夫を通り魔に殺害されたのち、息子を小児癌で失った。

もしも神がいたのであれば、そのような仕打ちを与えるはずがない。裁かれるべき人間が山ほどいるこの世界で。

 

 

「信ずるは地球なのです。皆様の身に沁みこんでいる泥には、ゴジラの血が混じっています。世界が与えたもうた審判を下す怪獣の血が」

 

 

なにやら騒がしい。

薄明者たちの視線が集まる。

大柄の男たちによって取り押さえられているのは、薄明者ではない人間だった。

なんでもその男はゴジラが街に現れたとき、混乱に乗じて店から物を大量に盗んだらしい。

いわゆる火事場泥棒というものだ。男は他にも暴行や恐喝で、何度か警察に逮捕されていた。

ネオは男を、泥につけるようにいう。

大柄の薄明者たちはすぐに男を空いている壺の中に入れて、泥の中に押し込んでいった。

 

 

「ぐあぁぁあぁあ! ひぃぃいああえええああああ!」

 

 

男は叫び声をあげた。

やがてぐったりとして動かなくなる。

ネオは男の髪を掴んで引き上げた。

薄明者たちがザワザワと声をあげる。男の頭から下、つまり泥に浸かった部分が"無くなっていた"。

正確には『骨』だけになっていたのだ。

 

 

「御覧なさい。愚かな人間を世界は赦さない」

 

 

あえていうならば『信者』たち。

彼らはその凄惨な光景を前にしても感動を胸に手を合わせ、ネオと地球を崇めた。

ネオは男の死体を信者たちに片づけるように言って、自室に戻る。

 

そこは白ではない。

いろいろな色がマーブル模様に混ざっている。

ネオは大きな椅子に座ると、足を組んでふんぞりかえった。

怪獣はいい。実に、いい。無意味に意味を与えてくれる。

今も、ただの泥に酸を混ぜただけのものを信者たちは『裁き』であると信じた。

 

 

「救いであり、赦しであるべきなのだ。怪獣は複雑であり単純でなければ」

 

 

ネオの背後には大きな窓があった。

 

 

 

 

山と湖から離れたところある海。

そこで今、巨大な背ビレが海面を突き破って姿を見せた。

 

 

 

 

「え!?」

 

メイは間抜けな声をあげた。

ネオとの取材を終えて、ケンゴと別れて街を歩いていると、編集長から報告を受けた。

真偽は不明だがSNSではまた怪獣が出たという報告が次々とあがっているようだ。

しかもそれはゴジラではない。今まで見たこともない怪獣だとか。

SNSではハリネズミみたいな怪獣と、鳥のような怪獣であるとの文字があった。

すぐに調べなければ。携帯(スマホ)から目を離すと、辺り一面に緑が広がっていた。

メイは、花畑の中に立っていた。

 

 

「え? えぇ!?」

 

 

風が吹く。木々が揺れ、葉や花びらが舞った。

温かい風だ。なんだか懐かしい気分になる。

 

 

「これは……、どういう」

 

 

先ほどまで街の中にいた。

立っているという以上、気絶して別の場所で目覚めたとも考えにくい。

だからつまりこれは別の場所に移動したということか?

そんなバカなとは思ったが、今は何が起こっても不思議じゃない。

メイが辺りを見回すと、やがて声が聴こえた。

誰かが呼んでいる。

メイはそれに従い、洞窟の中に入った。

それは神殿だった。祭壇には(すだれ)のようなものがあり、声は奥から聞こえている。

 

 

「ここです。白峰メイ」

 

「貴女は?」

 

「わたしのメッセージを世界へ届けてほしく、貴方にその役割を与えたいとこの場所に呼びました」

 

「メッセージですか」

 

「はい。邪悪な意思が動き出そうとしています」

 

「もしかするとそれは、ゴジラですか!?」

 

「そこまでは……、ごめんなさい。ですが感じるのです。張り付く殺意や憎悪、そして――」

 

「あの」

 

「っ? はい?」

 

「大事なお話の最中にすみません。違っていたら申し訳ないんですが、もしかして、テネさんですか……?」

 

 

次の瞬間、簾を押しのけて女性が飛び出してきた。

 

 

「メイくん! 覚えててくれたのっ!?」

 

「うん、もちろん!」

 

 

童顔で緑色の髪。

メイの記憶にある。ゴジラに助けられた島で、いつも一緒にいた少女。

それが『テネ』だ。彼女がそこにいたのだが、すぐにメイは怯んだ。

というのもテネが小さい。背が低いというレベルではなく、15センチほどしかない。

 

 

「メイくん! あのね――」

 

 

何かを伝えようとしたが、同じように小さな人々が奥から出てきて、テネを引っ張っていく。

 

 

「テネ!?」

 

「大丈夫っ、とにかく! これをっ!」

 

 

テネが手をかざすと、メイは手に熱を感じた。

見れば、十字状の短剣が握られている。

中央部分と柄には、地球のように青い宝石が埋め込まれていた。

 

「これは?」

 

「それをね――」

 

そこで、祭壇は消えた。テネも消えた。

メイは人々が行きかう街の中に立っていた。

 

 

「あれっ?」

 

 

辺りを見回すが、テネの姿はどこにもない。

しかし手には、彼女から預かった短剣が握られていた。

つまりあれは夢ではなかったということだ。

 

 

 

 

「ひどい!」

 

テネは怒っていた。

しかし周りのものたちは、むしろテネに怒っていた。

なぜ、メイがテネのことを覚えているのか。

そこを突かれると弱いのか。テネはモゴモゴと言い淀み、居心地が悪そうに視線を逸らす。

 

 

「神子としての自覚が足りない! そもそも人間に姿を晒して!」

 

「うぅぅぅ! し、しらないもん!」

 

 

テネは耳をふさいで祭壇を出て行った。

 

 

 

 

アンタレス本部。

そこではモニタに表示された巨大な背ビレが見える。

 

 

「間違いありません! これはッ、ゴジラです!!」

 

 

誰かがそう叫んだ。

確かに、それはゴジラの背ビレに見える。

 

 

「しかし、前より大きいような……?」

 

「成長してるってことかいな!?」

 

「なんだっていい。今度こそアイツを殺してやる!」

 

「カイくん。気持ちはわかるが落ち着いてくれ。ここは冷静に対処しなければ危険な状況だ」

 

 

なにせ怪獣が三体も現れるなんて前代未聞だ。

幸いウルトラマンと仮面ライダーもいるわけだが、それでも手が足りない。

 

 

「怪獣たちが集まっているのは森林地帯ではあるが、このまま進行を許すと街に出る可能性が高い」

 

 

そこで二つの村の避難が完全に終わったとの報告が入った。

ゴジラは現在のスピードであれば軍隊の迎撃配置が間に合うらしい。

 

 

「ではまずゴジラの足止めはそちらに任せて、我々は七原村と六甲村に向かうだろうアンギラスたちを止めることを優先させよう。それでいいね、カイくん」

 

 

カイは何か言いたげな表情だったが、首に手を当てて考えた。

感情的になるのはあまり好きじゃない。熱くなるのはもうたくさんだ。

興奮したら火傷の痕が痛む気がする。だからなるべくならクールにいきたいというのがポリシーである。

 

 

「……わかったよ」

 

「助かる。では行こう」

 

 

ほどなくして本部からモゲラが飛び立った。

 

「………」

 

モゲラ内部。カイはコックピットを出たところで座っていた。

メイと話していた分、休憩の時間が取れていない。

少しでも休めればという鷹診の配慮だった。

一輝もそこにいて、カイをジッと見ている。

 

 

「……大丈夫ですか?」

 

「んん? 何が?」

 

「オレは悪魔に憑かれた人間をたくさん見てきました。なかでも憎悪は悪魔を生み出す理由になりやすい」

 

「……俺の中に悪魔がいるって?」

 

「誰の中にもいます」

 

「まあ、確かに」

 

 

カイは大きなため息をついた。

 

 

「……アンタ、肉は好きか?」

 

「え? まあ」

 

「俺も好きだった。特にハンバーグが。でも今はもうダメだ。どうにも潰されてミンチになった母さんを思い出しちまう」

 

「……ッ」

 

「焼いてるものもテンションが上がらない。そもそも火があまり好きじゃない。カップ麺を作るときに黒焦げになって死んだ親父を思い出す。なんか、まあ、そんな感じなんだよ」

 

 

どうやらまだ、夢の中にいる。

覚めないし、冷めてくれない。

 

 

「きっと殺すまで」

 

 

そこで扉の向こうから声が聴こえてくる。

アンタレス本部からの報告だ。アンギラスとラドンが急加速を始めたらしい。

 

 

「ピィアアアアアン!」

 

 

アンギラスが地面を蹴って跳ねた。

次の瞬間、体を丸め、ボール状になったではないか。

そのままゴロゴロと猛スピードで転がり、時に地面をバウンドしながら猛スピードで移動する。

木を次々になぎ倒し、粉砕し、森の中を転がって七原村にやってきた。

既に避難は終えているからよかったものを。アンギラスは木片や土片をまき散らしながら容赦なく家を押し潰して進む。

 

さらにバウンド。地面が波打つような錯覚。

周囲の家が激しく揺れ、アンギラスが跳ねる。大きくて丸い影が憩いの集会場を覆った。

直後、棘が建物に突き刺さる。そのままアンギラスは集会場を押しつぶしてバウンド。神代坂に向かって跳ね進んでいく。

 

 

「キュルッ! キュォオオオオオオオオ!」

 

 

ラドンが翼を広げて飛んだ。

空中で体を回転させるバレルロールで炎を払って火の粉を散らすと、猛スピードで飛行する。

あっという間に六甲村にやってきた。村といっても、海が近いこともあって、かつては賑わっていたのだろう。今はもう廃墟になっているがそれなりに大きなホテルや旅館があった。

 

ラドンは飛んだ。

そしてあえてそのホテルの間近をスレスレを疾駆する。

次の瞬間、ホテルが粉々に崩れ、旅館もまた瓦が次々と吹き飛んだ後、崩壊した。

ソニックブームだ。ラドンはどうだと言わんばかりに鳴いて、さらにスピードを速めた。

こちらも既に避難は完了しているとはいえ、風が、衝撃が、次々に家を崩壊させていく。

 

 

「ボクがいきます! もうこれ以上は!」

 

 

間に合わなかった事実が胸を刺す。

だからこそマナカケンゴは走り、ハッチから勢いよく飛び出して空に放り出された。

鷹診たちは一瞬ギョッとしたがケンゴの顔には欠片の恐れもない。落下する中で腰に手を伸ばした。抜き取ったハイパーキーと、スパークレンス。

 

 

『Ultraman Trigger Multi-Type!』

 

 

キーを起動させて、スパークレンスの銃床にセットする。

 

 

『Boot up』『Zeperion』

 

 

スパークレンスを展開し、腕を旋回させる。

 

 

「未来を築く、希望の光!」

 

 

そしてスパークレンスを突き出して、トリガーを引いた。

 

 

「ウルトラマン……! トリガーッッ!!」

『ULTRAMAN・TRIGGER! MULTI-TYPE!!』

 

 

光が迸り、ウルトラマントリガーが空を飛行している。

一方でケンゴは光の空間に立っていた。

そこでさらにハイパーキーを起動させる。

 

 

『Ultraman Trigger Sky-Type!』

 

 

ラドンのスピードは見ただけでわかる。

あれに対抗するには、相応の力が必要なのだ。

 

 

『Boot up』『Runboldt』

 

「天空を駆ける高速の光! ウルトラマン! トリガーッッ!!」

 

『ULTRAMAN・TRIGGER SKY-TYPE――!』

 

 

トリガーが額の前で腕をクロスに組んで、振り払うようにすると、トリガーのシルエットがややソリッドになる。

さらにカラーリングも紫とスカイブルーが基調となった。

スカイタイプ。特筆するべきはそのスピードだ。

トリガーは両腕を伸ばし、モゲラを遥かに凌駕するスピードで飛んで行った。

 

 

「……凄いな。羨ましいぜ」

 

「ラドンは彼に任せよう」

 

 

20秒もない。

トリガーは前方に飛行するラドンを発見した。

しかしラドンが首を動かした。どうやら気づいたのは向こうも同じようだ。

トリガーは腕から光弾を発射した。

ハンドスラッシュ。それなりのスピードではあったが、ラドンはいとも簡単に回避してみせる。

咆哮が聞こえた。ラドンは掴みかかるトリガーをヒラリとかわすと、なんのことはなく飛んでいく。

追いかけるトリガー。どうやらスピードは僅かながらトリガーのほうが速いようだ。

少しずつ距離が縮まっていくが、そこでラドンが吠えた。

 

「ッ!?」

 

ラドンの両翼が赤く光り、大量の火の粉が散った。

すると、なんとラドンが五体になったのだ。

突如としての分身に、トリガーは大きくうろたえる。

四体のラドンは縦横無尽にそれぞれべつの場所に飛行していった。

減速するトリガー、これはどういうことなのか? 冷静に分析するとすぐに異変に気づいた。

 

四体のラドンが赤い。よく見ればそれは炎で作られた偽物だった。

そもそも本物はトリガーから離れるように飛行している。

そしてなによりも時間とともに分身たちは燃え尽きるようにして消滅した。

 

トリガーは再びトップスピードでラドンを追いかける。

するとまたラドンが吠えて分身が現れた。しかも今度はすべてのラドンが赤い。

本体も発光しているのだ。炎で構成されているため、ディティールは荒いが高速で飛び回る分身をよく観察するのはそれなりに骨が折れた。

"ミラージュフレア"、ラドンが赤く発光して炎の分身を作り出す技である。

トリガーは先ほどと同じく、自分から離れるラドンをまず確認した。

しかしそれは分身だ。ハッとして上を向くと、本体が嘴を光らせて突進してくるところだった。

 

 

「ウアァアア!」

 

 

わずかに体を逸らして直撃こそ避けたが、衝撃でトリガーは空中をきりもみ状に回転して落下していく。

ラドンは少し笑ったような表情をして、また街を目指して飛んでいくのだった。

 

 

「ターゲット確認!」

 

 

一方でモゲラは、バウンドしながら高速回転して街を目指すアンギラスを補足した。

ドリルの先端からレーザーが発射されて、アンギラスに直撃する。

しかしまるでスピードは落ちない。

アンギラスは地面に着地し、ゴロゴロと転がり進んでいく。

 

 

「これならどうや!!」

 

 

モゲラの足からミサイルが連射されていき、アンギラスへ命中していく。

爆発の衝撃でボールは跳ね動き、大きく減速した。

 

 

「どや!」

 

 

ボール状態が解除される。

しかし見たところアンギラスはピンピンしている。

本体にダメージは入っていないようだ。

 

 

『やべーッ! ぜんッぜん効いてないじゃん! ねえどうなってんの! ねえってば!』

 

「落ち着けバイス! ど、どうなんですかカイさん!」

 

「装甲が固いんだ。どうする鷹診さん。タイプ2ならって感じだけど」

 

「そうだね。それでいこう」

 

「よっしゃ! ワイに任せとき!」

 

 

アンギラスが吠えた。

先ほどからチョロチョロとちょっかいをかけてくる目障りなものがモゲラであると理解したようだ。

モゲラの顔のドリル先端にエネルギーが集中する。そこでアンギラスは後ろ足で立ち上がると、素早く旋回して鱗甲板を向けた。

レーザーが発射されて鱗甲板に当たった瞬間、アンギラスは高速で棘を震えた。

するとどういう原理かはわからないが、レーザーが反射されてモゲラに返ってきたではないか。

 

 

「ぐぉお……!」

 

 

レーザーが直撃してモゲラが地面に墜落する。

そこでアンギラスが飛んだ。体を丸めてボール状になると一直線にモゲラに向かっていく。

直撃すると思われたが、そこでモゲラが三つに割れた。

合体解除。三機はすぐに分散して、アンギラスの突進を回避する。

そしてすぐに地面に着陸したランドマンに集合した。

 

 

「いくで! チェンジタイタンッッ!!」

 

 

三つのボタンをおして、那須川がレバーを引いた。

アンギラスは山の傾斜でバウンドを行い、再びランドマンのほうへと飛んでいく。

そして衝撃。

アンギラスは――、止まっていた。

 

 

『MEga CHAracter NIrvana Knight Of New Ground-type』

 

 

巨大な両腕がアンギラスをキャッチしていたのだ。

 

 

「しゃあ! メカニコング、発進や!」

 

 

タルタロス・タイプ2・メカニコング。

アメリカの都市伝説に登場する巨大なゴリラをモチーフにした機械の猿人だ。

モゲラの時とは逆にランドマンを下半身にしており、スターファルコンが上半身。

そしてゴウテンは割れてアームパーツになっている。

 

機動力は低いが、パワーはタルタロスの中で最強である。

さらにメインパイロットの那須川は、機械に繋がれたグローブの中に腕を入れていた。

これがメカニコングの腕と連動しており、那須川の腕の動きを再現するのである。

メカニコングはキャッチしたアンギラスを思い切り投げ飛ばした。

しかしボールはバウンドするだけだ。まずはアレを何とかしないといけないらしい。

 

 

「ハードウェーブボンバー! 見せたるッ!」

 

 

那須川が両手を開いた。

さらにカイと鷹診が交互にスイッチを連打する。

するとメカニコングがドラミングを始めた。ドンドンドンと音がして衝撃波が拡散。

飛んできたボール形態が解除されて、アンギラスは苦しみながら落下する。

 

「どっせぇええええいッ!!」

 

「ィア゛ァアアアア゛!」

 

メカニコングがアンギラスの頭部の棘と、鱗甲板を掴んで掲げ上げた。

もがくアンギラス。しかしメカニコングも抵抗し、アンギラスを離さない。

 

 

「エレキアーム発動します」

 

 

カイがレバーを引くと、アームが帯電をはじめ、アンギラスへ電撃を浴びせる。

アンギラスは苦しげに吠えるが、それでもやはり効いているようには見えなかった。

 

『リミックス!』『バディー↑ アーップ↑』

『ヒッサツ!ミラクル!グルグル!イーグル!』

 

大きなイーグルが飛翔した。リバイスの形態変化である。

確かにアンギラスの防御力は凄まじいが、鱗甲板がない腹部であれば話は別かもしれない。

メカニコングによって持ち上げられている今ならば攻撃することが――

 

 

「なにッ!」

 

 

アンギラスが吠えた。

いや、ただ吠えただけじゃない。何か特殊な咆哮をあげた。

それは今までとは比べ物にならないほどの爆音。それと共に放たれる衝撃波。

機械装甲がいくらか遮断してくれたが、それでもすさまじい音に、カイたちはいっせいに耳をふさいでしまった。

那須川も同じだ。グローブから手を出して耳を覆う。

力が緩み、アンギラスは地面に着地する。

 

 

「ぐっぉお……ッ!」

 

 

それはリバイスたちも同じだった。

かろうじてリミックス形態は留めたが、怯んでいたためにアンギラスを放置してしまった。

 

 

『目だ! そこなら固い装甲も関係ない!』

 

 

メカニコングからカイの声が放たれた。

急所を狙うことは、怪獣であっても少し抵抗があったが、それでもこの大怪獣を放置して街に放つことはできない。

リバイは頷き、必殺技を発動する。

エネルギーを纏い、コンドルが空を疾走した。

 

 

「!!」「げげげっ!」

 

 

アンギラスが目を瞑っていた。

 

 

「マジィ!?」

 

「なんでだ!?」

 

 

言葉を理解したのか? それとも――

 

 

「とにかく、止まれない! このまま行くぞ――ッ!」

 

 

リバイスが瞼に突っ込んだ。

しかし固い。生物であれば比較的柔らかい場所の筈だが、アンギラスは皮膚のみでリバイスの必殺技を弾いてみせたのだ。

 

 

「ピィァァァン……!」

 

 

しかし、流石に今までとは違ってダメージは受けているようだ。弱弱しい声を漏らして動きが止まる。

 

 

「キュッオォォォオ!」

 

 

ラドンの声が聞こえてきた。

トリガーがしがみついている。

こちらまで運んでくれたようだが、抵抗するラドンを抑え込んでいたためか、体力の消耗が激しい。

ラドンもそれを感じているのか、そこで一気に力を込めた。

激しく体を回転させて繰り出したバレルロール。スカイタイプの腕力では足りなかったのか、トリガーは振り払われてしまった。

 

 

「ピキュォ! オォォオオン!」

 

 

ラドンは再び飛び立った。

 

 

『CIRCLE ARMS』『Sky Arrow』

 

 

トリガーは弓を呼び出し、ラドンに向けて構えた。

弦はないが、手を引くと光が収束していく。

ラドンは完全に振り切ったと思っているようだから、トリガーには気づいていない。

だからこのまま手を離せば光の矢で貫けるだろう。

 

 

「………」

 

 

怪獣と分かり合うって無理なのかな?

そう呟いたメイの顔が浮かんだ。

次の瞬間、トリガーの脳裏にノイズ混じりでブツ切り映像が飛び込んできた。

それは、泣いている女性の映像だった。

緑色の髪をした小さな女性が目に涙を浮かべている。

 

 

「こ……き…な…いで!」

 

 

必死に叫んでいる。

 

 

「傷つ……な…でっ!」

 

 

映像が変わる。

見えない。謎のマーブル。例えばそれは黒と、紫、だろうか?

わからない。それがなんなのか言語化ができない。

きっとそれは言葉ではないからだ。

しいて言うならば、それは『心』である。

おそらく日本の言葉で近い文字を並べるならば――

 

 

(友……? 友達?)

 

 

トリガー、ケンゴにも大切な友人がいる。

複雑だけど、愚直。こんなメッセージを送ってきたのは誰なんだ?

おそらく人ではない。人ならばもっと言葉が強く届く筈だから。

いずれにせよ、弓を持つ手の力が緩んだ。何者かに止められている気がしたからだ。

しかしそこで気づいた。ラドンが振り返っていたということに。

 

 

(しまっ!)

 

 

ラドンの口から"ウラニウム光線"が放たれたのはその時だった。

それだけじゃない。アンギラスも口から"ニトロ光線"を発射し、メカニコングを撃った。

巻き起こる爆発。

それを今、少し離れた山の高台から地元のテレビ局が撮影していた。

この映像はライブ中継で国民に発信されている。

 

 

「いかなくちゃ……!」

 

 

メイはそれを見て、タクシーを拾いに走った。

むろんあの大怪獣バトルの現場に赴くことがどれだけ馬鹿げたことかは理解している。

しかしそれでも行かなくてはならない。メイは手をあげて、必死に車を呼び止めた。

 

メイは行き先を正直に告げた。

隠してもどうにもならないと思ったからだ。今、怪獣が暴れているところに行ってほしい。

はじめは断られた。二度目は村に家族がいるのかと聞かれた。

違うが、近いと答えた。

詳細を聞かれたが答えられなかった。本当にわからないのだ。しかしその表情を見て、ただごとではないと理解してくれたらしい。運転手は近くならばいいと乗せてくれた。

 

 

「ありがとうございますッ!」

 

 

しかし怪獣出現に怯えて避難しようとしている人間が多いようで、すぐに渋滞につかまった。

メイはお礼を言って料金を払うと、車から出て走りだす。

正直体力には自信がないが、だったらとすぐにレンタルサイクル屋に駆け寄ってピカピカの自転車を借りた。

それを全力でこいで怪獣たちを目指す。

もう一度いうが体力には自信がない。すぐにゼヒュゼヒュと息が切れてきて、さぞ無様な格好だろうて。

しかしメイは止まらなかった。

 

 

『お願いっ! 傷つけないで!!』

 

 

そう言っていた。泣いているテネが頭の中にいたのだ。

よくわからない。なぜか彼女のことを思い出そうとするとモヤがかかったようになる。

なんで鮮明に思い出せないのか、自分で自分が腹立たしかったが、とにもかくにもそれは後だ。

 

 

「誰も殺してほしくないと思うことがそんなに悪いことか!?」

 

 

誰に向かって叫んだのかは自分でもサッパリわからないが、とにかく声を張り上げねばと思った。

あの子の想いを、抱きしめるために。

 

 

 

 

「来おったか――!」

 

 

豪呑(ごうどん)は、双眼鏡を覗き込みながらフムと唸った。

見える背ビレは、縁が僅かに青い。

海面から突き出しながら進んでくるその様は、先日ウイスキーをかっくらいながら見たサメ映画を思い出させる。

 

 

「チビるなよお前たち、一世一代の晴れ舞台だ」

 

 

されびた民宿や、ボロボロの釣具店、もう誰も使っていないコインシャワー。

かつては栄えていた場所も、今は店が一軒もない状態になった。

ここに住んでいる僅かな人たちは車で近くの町まで買い物にいく。

そんなレトロなところに並ぶ戦車や、メーサー戦車。

 

これはアンタレスと軍で協力して作り上げた無人機だ。遠隔で操作できるため、仮に熱線が飛んできても被害を抑えることができる。

豪呑たちは少し離れたところでターゲットを確認していた。

隊員の一人が距離を告げる。どんどんと近づいてくるようだ。

誰もが喉を鳴らした。豪呑も同じで、自慢の口ひげを何度も触っている。

 

 

「来ます!」

 

 

来るらしい。

そして来た。水しぶきが上がる。

まず見えたのは長い尾だ。そして次に巨大な影が海中から現れた。

 

 

「ぉぉぉぉお……ッ!」

 

 

高いところから落ちる水の音。

海面に落ちる水の音。

それに混じった未知なる声。

 

 

「ギャォオン! グォオオオオァァァェンッ!!」

 

 

隊員や豪呑は息をのんだ。間違いないと、改めて思う。

ゴジラである。今、目の前にしてやっと一連の出来事が嘘ではなかったと思ってしまった。

本当に存在していたのだ。こんな生き物が。それが信じられなかった。

 

報告の通り、神代坂に現れたゴジラとは姿が変わっている。

マッシブでどっしりとしたシルエットではなく、ややスリムになっていた。

反対に、背中にあった背ビレが大きくなっているような印象を受けた。

特に7つの背ビレのが大きく、先端は青みかかっており、ゴジラ自身の皮膚はやや緑かかっているように思えた。

さらに一番の変化は瞳だろう。神代坂に現れたときは真っ黒だったが、今は白目の中に光を灯した大きな黒目が確認できる。

 

「むぅう……ッ!」

 

今も、目にしているのに脳が理解を拒もうとする。

だからあれは神なのではないかと錯覚してしまった。

しかし、だからこそ、この目の前の存在を殺し、超えることができたなら、その時、何か大きなものを手にすることができるのだと夢想する。

 

この夢は果たして真昼の夢か……?

それともあの時から目が覚めていないのか。

あるいは、どうだ――?

ダメだ。頬の抓り方がまだわからない。

 

 

「変わらず、放射線反応はなし!」

 

「好都合だ。丸焼きにしたあとで食ってやる!」

 

 

だが焦るなと。

ゴジラを倒すことが一番の目的ではないのだ。

モゲラ到着まで時間を稼ぐことが最重要ミッション、それを忘れるなと怒号を飛ばす。

まずは一つめの時間稼ぎ。砂浜に設置した大量の催涙地雷だ。

 

 

「目だけを見ればクリクリで可愛のにな! くそったれ!」

 

 

豪呑は双眼鏡を覗く。

上陸したゴジラは体を振るわせて犬のように水を払っていた。

その後、ドシドシと歩き出す。

 

 

「いいぞぉ、そうだぁ」

 

 

ゴクリと喉を鳴らす豪呑。

次の瞬間、バチュン! と音がした。

 

 

「バカ者めが! いいぞ! かかったかかった! ハハハハ!」

 

 

赤いガスが勢いよく噴射され、ゴジラが苦しみだす。

 

 

「ギャワ! アギャ! アギャギャ!!」

 

 

小刻みに甲高い声をあげてゴジラは顔を擦る。

ギュッと目を瞑り、後ろに下がったところでまたバチュンと音がしてガスが噴き出した。ゴジラが連続して頭を振る。

これはいけないと、ゴジラは無理矢理に前に出た。

しかしそこで抵抗感。砂浜を出ようとすると強靭なワイヤーがネット状に張られている。

 

 

「かかった!」

 

 

豪呑がスイッチを入れる。

これはただのネットではない。電磁ネットだ。

激しい電流が流れてゴジラは急いで後ろに下がっていった。

ちょうどネットに触れたのが股間部分だったからか、しきりにそこを掻くようなリアクションを取っていた。

 

 

「ハハハ! どうやらヤツのリトルモンスターには大ダメージだったみたいだな! 後でEDの病院を紹介してやれ!」

 

「大佐! 下品です!」

 

「これは失敬! むっ、なんだ! 見ろ!」

 

 

ゴジラは口を拭ったあと、猫の手招きのような仕草を行っていた。

 

 

(癖か……? 報告にはなかったが)

 

 

何かの予備動作だった場合はまずい。

緊張感が走る。するとゴジラが下のほうを見ていることに気づいた。

戦車よりは少し位置がズレている気がする。

なんだ? 不思議に思っていると、隊員の一人が慌てて飛んできた。

 

 

「大佐! 大変です! 民間人が!」

 

「なんだと!?」

 

 

ドローンが撮影していた。豪呑はすぐに映像を確認する。

すると戦車の前に一人の男が立っており、自撮り棒を片手に大きく手を振っていた。

 

 

「ゴジラ! おーいっ! ここだよー!」

 

 

彼の名前は『やったるで東野』、登録者数に伸び悩んでいるバイチューバー(動画投稿者)だった。

以前この近くに住んでた彼は一発当てるために神代坂に来たものの、望むような生活を手に入れることができなかった。

落ち込んでいた時にゴジラが現れ、死にかける。それは彼にとってはあまりにも刺激的な体験だ。

本気で思った死という恐怖、そして生き残った時に出た未知のアドレナリン。

彼は思った。

これだ。これがバズる『種』に違いないと。

ゴジラを撮る。あるいは踏みつぶされてもいい。そうしたならばきっとこの冴えない人生も報われるだろうから。

 

 

「避難や規制は完璧だった筈だろう!」

 

「は、はい! ですがなにぶん山道が多く……!」

 

 

道路は完全に封鎖したが、山道を使われたのだろう。

いずれにせよ、男はスマホのカメラを向けて必死にゴジラの名を叫んだ。

 

 

「バカもんがぁ……ッ! 死ぬつもりかッ!」

 

 

今から助けに行っても絶対に間に合わない。

見ろ。既にゴジラの左手が動く。

爪で引き裂くか、握りつぶすか、いずれにせよ男はもう終わりだ。

 

緊張が走る。

ゴジラの指は四本あって、人間でいう所の小指が存在しない。

ゴジラは親指と薬指を曲げ、人差し指と中指をまっすぐに伸ばして、少し開いた状態で男に向けた。

光線だ。男が焼き尽くされるのだ。

誰もがそう思ったが、しばらく待ってみても何もない。

ゴードンは口を開けたままゴジラを見ていた。

ゴジラはやったるで東のをジッと見つめて、固まっている。

 

 

「まさか……ッ!」

 

 

ゴードンは強い既視感を覚えた。

昨日見た。というより、カメラを向けられた自分が同じポーズをとったのだ。

 

 

「ぴ、ピース……、しているのか……?」

 

 

やったるで東野のもポカンとしていた。

あまりにもポカンとして、そしたら力が抜けてカメラを落としてしまった。

するとゴジラはピースをやめて前を見た。

ネットが見える。戦車が見える。その向こうには豪呑たちが見える。

 

 

「ア゛ェア! ァォオァアン……!」

 

 

吠え、振り返る。

そしてゴジラが地面を蹴った。

飛び上がり、そして体を丸めて、両手で尻尾を抱っこした。

 

 

「………」

 

 

ゴードンがポカンと口をあけ、双眼鏡を落とした。

ゴジラが青い火を噴いた。

そのまま自分たちの真上を飛んでいく。ネットを越えて、戦車を越えて、ヘリコプターの上を行き、ゴジラは山の向こうに消えていった。

 

 

「ゴジラって、飛べるんだぁ。すごぉい」

 

 

豪呑はポツリと呟いた。

 

 






ウルトラマンとかゴジラとかを原作にした文章系の二次創作では『怪獣の鳴き声、書くんかい書かへんのかい問題』というのがあると思うのですが、このお話ではバリバリ書いていく感じにしてあります。
それには明確な理由があるのですが、僕が覚えてたならもう少しあとのほうで理由を書こうと思ってます。(´・ω・)


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第5話 Zone wars(前編)

編集は後からになるかもしれませんが。
キャラクターの一人で、ランドマンのパイロットに『那須川マルオ』というのがいるんですが……
あだ名をこの話まで『マルさん』にしてたんですけど、書いてる途中で『ナスさん』に変えて、その変更を思い切り忘れてました。
なのであとからナスさんに変更しておきます。

地の文では那須川って記載してるので、そっちのほうがわかりやすいかなって思って変えたままにしてしまいました。

ちなみに私は子供の時、おナスがあまり好きではありませんでしたが、天ぷらでナスを食べたら美味すぎて草が生えたので以後、食べられるようになりました。
しいたけも不味すぎて悲報ではありましたが、天ぷらにしたら美味すぎて朗報になったので、食べられるようになりました。
つまり天ぷらにしたら、だいたいのものは食えます。
あなたも嫌いな食べ物があったら、プロにサクサクにしてもらっておいしく頂きましょう(´・ω・)b

しかし仮面ライダー龍騎20周年が物語っているとおり私もおっさんになりました。
天ぷらをバクバク食ってると高確率でキラキラしそうになります。
かなすぃー!(´;ω;`)




 

ダダーン! と、着地した音がする。

ゴジラは口を拭ったあと、猫の手招きのような仕草を行った。

誰もがゴジラを見た。鷹診、那須川、リバイス、トリガー。

そして――、カイも。

 

 

「ギャオン! グォオァァァァン!」

 

「ィア゛ァアアアアアン!」

 

「ピキュォ! オオォォォオン」

 

 

ゴジラの咆哮に反応するようにして少し離れていたラドンも吠えた。さらに呼応するようにしてアンギラスが吠える。

 

 

「な、なんや……ッ! うっさいなぁ!」

 

「怪獣同士で何かコミュニケーションを取っているのか……?」

 

 

那須川と鷹診が分析するなか、カイは目を細めた。

ゴジラの姿が少し変わっていることに気づいたのだ。

 

 

「………」

 

 

カイはレバーを掴んだ。

直後、メカニコングの目からレーザーが発射され、ゴジラに直撃する。

 

 

「カイくん!?」

 

「ヤツは進化しています。こんな短時間で。早めにケリをつけないと危険です」

 

 

そこでゴジラの鳴き声が聞こえた。

見ればアンギラスがボールとなってゴジラに直撃していたのだ。

ゴジラが倒れたところで、ラドンがウラニウム光線を直撃させる。

 

 

「な、なんや? 味方ちゃうんか!?」

 

「むしろ都合がいいぜ。先にゴジラを倒すチャンスだ」

 

「お、おお! せやな! 確かに!」

 

「……よし、タルタロスをモゲラに変えよう」

 

 

合体が解除され、再び変形合体が行われる。

その間も怪獣の鳴き声は轟いていた。

ゴジラは立ち上がり、アンギラスを受け止めようと両手を広げる。

しかし肩付近にウラニウム光線が直撃して、大きく怯んだ。

ゴジラが鳴く、そこへ突撃していくアンギラス。着弾直前にボール状態を解除して、直接ゴジラの首に噛みついた。

 

 

「ヴィァァァァン!」

 

「ギャオ! ギャエ! ギャァァェン!」

 

 

ゴジラは腕でアンギラスの頭部を掴み、引きはがそうとする。

そこへ着弾していくミサイルやレーザー。

ゴジラは苦痛の声をあげながら地面に倒れた。

 

 

「よっしゃ! やれやれーッ! やったれーッッ!」

 

「……ッ」

 

「あれ? どしたの?」

 

 

ゴジラが劣勢なのを見てバイスははしゃいでいたが、一方でリバイは戸惑っていた。

それはトリガーも同じだった。構えてはいるが、動けない。

 

 

「ャオォォン!」

 

 

ゴジラは再び立ち上がり、吠える。

 

「ギャオォォン! ギャオ! アァァン!」

「キユゥオォ! オォォオオオン!」

「ピヤァァアァァアン! ァァア゛アアアアン!」

「ヤオッ! ギャォ!」

 

咆哮なんて不協和音だ。

カイは表情を歪め、慣れた手つきでスイッチを押していった。

モゲラが胸部のプラズマメーザーキャノンのチャージを開始する。

アンギラスはゴジラの足に食らいかかり、ラドンはゴジラを爪で切り裂こうと襲い掛かる。

 

「――ッ!」

 

そこで、モゲラのチャージが一時停止した。

というのも、トリガーが射線に入ったからだ。

それだけではなかった。トリガーはアンギラスにつかみかかり、ゴジラから引きはがそうとする。

さらに飛び回し蹴りで、近づこうとしていたラドンをけん制した。

 

 

「ど、どういうことや!?」

 

 

まさにその通りである。

実際のところトリガー自身も明確な理由はわかっていない。

しかし脳によぎった少女の涙と、メイの願い、そしてなによりも未だに熱線を吐き出さないゴジラのことがどうしても気になってしまったのだ。

 

 

「ケンゴ……!」

 

「ちょいちょいちょい! ケンゴっち何やってんの! ねえ一輝! もしかしてケンゴっちの裏切りってやつ!?」

 

「いや――ッ! 違う」

 

 

空を漂っていたリバイが言葉を漏らす。なぜだかわからないが、彼は安堵していた。

トリガーがその行動を取ってくれたことに、言葉にできない安心を覚えたのである。

 

 

「ん?」

 

 

リミックスを解除する。

空中を浮遊しながら、リバイは耳を澄ませた。

何か、声のようなものが聴こえる。声というより――、これは歌だ。

 

 

「あれ? なぁにかしらコレは」

 

 

バイスが両手を耳に添える。

 

 

「あら、なんて、きれいなんでしょうかしら……」

 

 

思わずお口が上品になってしまう。

空からキラキラとしたものが降ってきたのだ。雪かと錯覚したが、どうやら違う。もっと煌めいているコレはなにか?

自然と空を見上げた。青ではない、淡いエメラルドグリーンの光が広がっている。

柔らかな風が髪を揺らし、歌声は近づいてくる。

 

 

モスラヤ モスラ

 

 

「ッ、なんだ……? 歌?」

 

 

モゲラの中にいるパイロットたちも、煌めく粒子を見た。

 

 

ドゥンガン カサクヤン インドウ ムウ

 

 

それはゴジラたちも同じである。

 

 

ルスト ルィラードア ハンバ ハンバムヤン

 

 

皆が、動きを止め、空を見た。

 

 

ランダバン ウンラダン

 

 

「……きれいだなぁ」

 

 

ケンゴが呟いた。

輝き、瞬く鱗粉の向こうに、巨大な羽をもった怪獣が浮遊していた。

鱗粉が緑の風に運ばれる。それらはゴジラの傷に付着していき、自然治癒能力を高めていく。

 

 

「トゥンジュンカンラー……」

 

 

モスラ。

丸い頭部に、フワフワした毛が特徴的な蛾の怪獣である。

 

 

「カサクヤーンム――!」

 

 

その頭部にテネがいて、歌っていた。

小さな体なのにその歌声は誰の耳にも届き魅了する。

だからメイがひょっこりと顔を覗かせたことに気付くのが遅れてしまった。

 

 

「聞いてくださいッッ!!」

 

 

メイはモスラの上で力の限り叫んだ。

鷹診はハッとして、すぐに彼の声を拾うように設定する。

 

 

「怪獣たちは洗脳されているようです! ですが――」

 

 

そこでメイはテネにもらった短剣をかかげた。

 

 

「このインファント島のお守りを少しでも刺せば! 洗脳は解除されます!!」

 

 

滅多にあげない声をあげたものだから、メイはそこで激しくせき込んだ。

 

 

「ですので! どうか――ッッ!」

 

 

しかしどうしても続きを叫ばねばならない。

喉がつぶれてもいい。なんだったら声が出なくなってもいいと彼は本気で思った。

 

 

「ゴジラに協力してください!!」

 

 

間があった。一瞬の静寂だ。

何故、一瞬なのか? それはだれよりも早くトリガーが力強く頷いたからだ。

 

 

「勝利を掴む、剛力の光! ウルトラマンッッ!! トリガーッッ!!」

 

 

トリガーが額の前で腕を組んで斜めに腕を払うと、体系がマッシブになって色が赤く染まる。

 

 

『ULTRAMAN・TRIGGER! POWER-TYPE!!!』

 

 

トリガーは全速力で走りだす。

飛び、今まさにゴジラへ突撃しようとしたアンギラスをキャッチ。

アンギラスはボール状態を解除するが、トリガーは逃がさない。

 

「オォォォッ!」

 

トリガーはアンギラスの背に覆いかぶさった。

鋼の肉体は、棘先の侵入を許さない。先ほどまでは押し負けていたパワーも怪力自慢の形態となったため競り勝っている状態だった。

今の内にと、トリガーはモスラを見る。

テネは頷いたが、そこで悲鳴が聞こえた。

 

「ピキュォッ! オオオンッッ!!」

 

「キュウ! キュワァアア!」

 

モスラに纏わりつくようにラドンが攻撃を仕掛けてきた。

爪でモスラを傷つけようと飛び回り、モスラも触れられないようにしたり手から衝撃波を出してけん制する。

激しく動き回る二体の怪獣の上でメイは必死にしがみついていた。

テネの力で抵抗感はかなり軽減されているらしいが――

 

 

「あ」

 

 

大人になってから運動はほとんどしていない。

インドア派なのが不味かった。メイは手の力が緩んでモスラの毛を離してしまい、振り落とされてしまった。

終わった。お母様、お父様、今までどうもありがとう。僕はお先にお星になります。

そう思いながら落ちていったが――

 

 

『カモォン↑↑』『プッ・プ・プテラ!』『カモォン↑↑』『プッ・プ・プテラ!』

 

 

何かが聴こえる。ははあ、きっとお迎えに来た天使様の声に違いない。

ずいぶんとファンキーでチャラめな声だが、最近は皆こうなのだろうか? いや、それとも凝り固まった固定概念が――

 

 

「おっと!」『上昇気流↑一流↑翼竜↑↑ プ・テラァー!』

 

「わぁ!」

 

「ナイスぅ! 一輝! 間一髪だったねこ・れ・は」『Flying by Complete!!』

 

 

抱きとめられた感覚。

エアバイクに変身したバイスと、それに跨ったリバイを見つめていたが、やがては意味を理解したようだ。

 

 

「たすかりました……! 命の恩人だ」

 

「気にすんなって。それより――」

 

「あ、そうだ! これ!」

 

 

メイは短剣をリバイに見せる。

 

 

「すみません。なんだかとっても情けなくて悔しいですが、僕には誰も止められない」

 

 

リバイは頷いた。

メイから短剣を受け取ると、彼を近くの平地に降ろす。

 

 

「任せてください! そのために仮面ライダーがいるんだ。いくぞバイス!」

 

「言われなくても! あ、ちょっと待って! 気合入れるために首の骨鳴らすから!」

 

 

ゴキッ(バイスの首の骨が折れる音)

 

 

「……え?」

 

 

やべっ、間違えた。

 

 

コキコキ(バイスが気合を入れる音)

 

 

「よっしゃァアアア! ウォオオオオオ! フハハハハハ!」『ヒッサツ!ウッテナ!ミテナ!プテラ!』

 

 

紅い残像を幾重にも残しながら加速するプテラゲノム。

怪獣たちの間に割り入ると、高速移動で突進を繰り返し、モスラからラドンを引きはがしていく。

 

ラドンが吠えた。

バレルロール、翼を広げながら体を連続で回転させることでリバイスを撃墜しようと試みるが、スピードはそれを凌駕する。

放たれた光線も掠ることさえなく、逆にオーインバスターの弾丸がラドンに命中していった。

それがラドンをイラつかせたのか、ラドンは一気にスピードをあげて距離を取ると、急旋回して一気にリバイスのほうへ突っ込んでいく。

 

 

「真っ向勝負だ!」

 

 

リバイスもアクセルグリップを限界にまで回した。

バイスの周りに現れる青いプテラノドンのエネルギー。二つの翼竜が風を切り裂き、0.1秒減速することなく突き進んだ。

眼前に互いがいた。そこでなぜか時間が止まる錯覚。

次の瞬間。爆発が巻き起こった。

 

 

『スタンピングフィニーッシュ!!』

 

 

きりもみ状に落下していくラドンと、遥か彼方にぶっ飛ばされたバイス。

そこでラドンを追いかける紅い残光が見えた。

リバイだ。ぶつかり合う瞬間に離脱した彼は、超加速でラドンのもとへ疾走する。

 

 

「オオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 

ラドンの眼が動いた。リバイを見たのだ。口を開き、光を集中させるが――

 

「ハアアアアアアアア!」

 

スピードが、ラドンを、越えた。

刺す感覚。着地して疾走するリバイ。

一方でラドンは放心したような表情のまま地面に墜落した。

 

 

「ウワァア!」

 

 

同じくして、トリガーの声が聴こえた。

アンギラスの棘の先からエネルギーが放出されて、トリガーの体が浮きあがったのだ。

その隙にアンギラスは走り、脱する。

 

 

「アンギラスは少しだけ未来を見ることができます!」

 

 

テネが叫んだ。

 

 

「未来? ンなアホな!」

 

 

那須川が思わず叫ぶが無理もない。そんな生き物がいてたまるかと。

 

 

「だが、いる!」

 

 

鷹診が叫んだ。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ……! 鷹診さんアンタまさかゴジラに協力を……」

 

 

カイは口を閉じた。

今の鷹診は、きっといつかの自分と同じような眼をしていたと思う。

とにかく今の鷹診の声色からは言いようのない覇気を感じた。

見えない怪獣に殺された親友を思い出しているのだろう。。

今、その怪獣がハッキリと見えている。たとえばテネが悪人で自分たちを利用しているとしても、それでいいのだ。

鷹診はあの日の続きが見たいのだから。

 

 

「………」

 

 

カイは嫌な顔をした。

今すぐゴジラを殺したかったが、鷹診は恩人だ。

殺意はあるが――、それに飲み込まれるなとも、既にさんざん教えられてきた。

バカではない。ほんの少しだけだが、大人になることはできたと思ってる。

それが成長なのかはわからないけれど。

 

 

「未来が"みえる"ってことは視覚、あるいはとにかく頭に入れてるってことだろ?」

 

 

カイの言いたいことがわかったらしい。鷹診も頷いた。

 

 

「了解。ナスさん、タイプ2に交代をお願いします」

 

「あいよ、リーダー! いっちょやったりまっか!」

 

 

分離、そしてすぐに連結変形。

メカニコングはすぐにドラミングを連打し、衝撃波をアンギラスへ浴びせる。

苦しげな声が聴こえた。アンギラスの脳が揺れる。思考が鈍り、そして――

 

 

「キャオ! ァアェエエエァアン!」

 

 

ゴジラが走った。

そして飛んだ。両足をピンと伸ばして、そして腹を突き出してダイブ。

ボディプレスでアンギラスの背中に伸し掛かる。

 

「ギャオオオ! ギャオ! グググ!」

 

針が痛いのか、ゴジラが唸った。

とはいえ、ゴジラの重量がアンギラスを抑え込んだ。

すぐに針先から衝撃波を出そうとしたが、そこにまた衝撃波がやってきて集中を散らしてく。

頭が真っ白になれば未来が見えない筈だ。

もちろんゴジラも苦しそうではあるが、その中を駆け抜ける紅。

 

「ハァア!」

 

衝撃波が止んだと同時にリバイが飛んだ。

慣性を味方につけて滑空し、その間にスタンプを変更していく。

 

 

「ただいまー!」

 

 

吸い込まれたバイスがスタンプを投げ、それがリバイの体を通過してはじけ飛ぶ。

 

 

『ガオーン↑ゲットオン↑野獣の王↑↑ ラーイーオォォォォン!!』

『見ててください……! 俺の! 雄叫び!』

 

 

ライオンゲノム。着地と同時にリバイは腕を突き出した。

狙うはアンギラスの前足、指と指の隙間だ。

 

 

「ぐッ!」

 

 

ガッ、と、固い感触。

ラドンの時は簡単だったが、アンギラスの皮膚はかなり厚い。

鱗甲板ではない部分であっても剣先が通らない。まるで分厚い岩だ。

どんなに鍛えた人間でもこれは無理だろう。

だが、しかし、ライダーのパワーならどうか?

 

 

「オオオオオオオオオ!」

 

 

踏み込み、全力を込める。

するとわずかながら剣先が少し、ほんの少しだけ入った。

リバイは手を離し、レバーを二回倒して飛び上がる。

 

 

『ライオン! スタンピングフィニーッシュ!!』

 

 

足で蹴り押した。

スタンプが押される。

押される。押された。だからこそ、剣が肉体に侵入した。

 

「………」

 

アンギラスが崩れ落ちる。

そしてすぐに首を振ると、体を起こした。

 

 

「ピィアアアン!」

 

「ピキュオォオ!」

 

 

ラドンも同じく起き上がり、吠える。

どうなったかリバイスやトリガーたちは困惑したが、どうやらテネは怪獣の『声』が理解できるらしい。

満面の笑みを浮かべて大きく手を振った。

 

 

「みなさん! 本当にありがとう! みんな元に戻りました!」

 

 

モスラも鳴いた。心なしか嬉しそうな声だった。

 

 

「はぁ、よかったぁ」

 

 

ドッと疲れた。

メイは腰が抜けたように座り込んだ。

 

 

「ん!?」

 

 

しかしすぐに立ち上がる。

 

 

「ギャェン! ギャェン!」

 

 

ゴジラの鳴き声が聞こえた。

みんな、目を見開いてゴジラを見ていた。

 

 

「ギャェン! ギャェン! ギャェン! ギャェン!」

 

 

ゴジラは跳ねていた。

空中で左手をあげて、反対の手は曲げて。左足も曲げている。

着地と同時に飛び上がり、今度は逆の手を垂直に上げて、逆の足を曲げて――

 

 

「ギャェン! ギャェン! ギャェン!」

 

「え? なにしてんのアレ?」

 

 

マジなトーンでバイスが呟く。

メカニコングの中では答えを知っている男が汗を垂らしていた。

 

 

「……ェーや」

 

「え?」

 

「シェーをしとるがな……! ゴジラが……ッ」

 

「あの、ごめんなさい。わたし、おそ松さん、好きなんです。日本のアニメってすごく面白いですよね。だから、あの、ほら、見ててテンション上がったら真似とかするでしょ? しないです? とにかく、そしたらゴジラもわたしの動きを見てたみたいで、それから……、あの、えへへ……」

 

 

モスラの上で、テネが真っ赤になって俯いていた。

 



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第6話      (後編)

インファント島。

それがテネの故郷の名前だった。

 

そこに住む"ビーナス"という種族をわかりやすく説明するのであれば『妖精』とでもいえばいいか。

彼ら、彼女らは、地球の眷属であり、そのメッセージの代行者ともいえる。

インファント島には『終焉』と名付けられた時計があった。

これが動き、針がゼロを示す時が世界の終わりと言われている。

針が進む主な原因は『業』だ。人間の愚かさが崩壊を加速させる。

 

現に、水爆実験が行われたときに針は動いた。

カウントが進んだ時、まるで代償かのようにゴジラが現れたのである。

それもまた地球の使いであるかは、ビーナスたちでさえわからない。

 

 

水爆怪獣ゴジラ。

 

 

神代坂に甚大な被害をもたらした災悪の死後、ヤマネ博士はゴジラの同種がいるのではないかと危惧したが、それは正しかった。

海の底にあったのだ。ゴジラの卵が。

ゴジラはオスであったが無性生殖によって新たな命を地球に植え付けていた。

人間は誰も気づいておらず、とするとやがてこの卵は孵化し、第二のゴジラが再び破壊の限りを尽くすのだろう。

 

ビーナスはそれを運命と言った。

1954年の時と同じように観測する側に回ろうと決めたが、妖精も一枚岩ではない。

ビーナスの中にはセリザワ博士の自己犠牲をはじめとし、多くの罪なき命が失われたことを憐れむ声も多かった。

その結果せめてもの情けにのと、ビーナスたちは破壊神ゴジラのタマゴをインファント島に持ち帰り、守護神モスラのタマゴの隣に置いて祀ることを決めたのである。

 

そして時は流れ2000年。

白峰メイが生まれた年に、インファント島では島長(しまおさ)の孫が生まれた。

それがテネである。

 

ビーナスは地球の意思を感じ取れる能力がある。

それは花であり、風であり、空であり、生き物であり、巨大生物であり。

テネはその能力が特別強いとされ、次期島長の資格である『神子』という称号が与えられた。

だからだろうか? 彼女に呼応するようにして二つのタマゴが割れたのは。

 

 

「愛を忘れないでね」

 

 

テネの母がよくそう言っていた。

優しい両親に育てられ、テネはすくすく育った。

その傍にはいつもゴジラとモスラがいた。テネは生まれたゴジラを『ミニラ』と、モスラ幼虫を『ミニモス』と呼んで、いつも一緒にいた。

 

テネは母親から教えられたことを、そのままゴジラとモスラに伝えた。

神子故なのか、テネは幼いながらに母の想いをなんとなく察していた。

モスラは代々、インファント島の守護者であり、同じくして終焉時計がゼロを示した時にその原因を滅ぼすものとされている。

地球にとっての癌はおそらく、人類だ。

 

テネはそれが嫌だった。とても嫌だった。もの凄く嫌だった。

ならばとビーナスたちはその破壊の役割をゴジラに担わせようと言った。

テネは駄々をこねた。冗談ではなかった。馬鹿なことをいうのはおよしになってほしかった。

テネはゴジラも愛していた。破壊神なのにと言われてもサッパリだった。

同時に生まれたからなのか、ミニラとミニモスはとても仲が良かった。いつも一緒にいて、どちらかがいなくなると悲しそうに鳴いて探し回ったし、夜はいつもミニラがミニモスを抱き枕のようにして眠っていた。

いくら破壊の具現化のような怪獣の息子だったとしても、個体差がある。人間やビーナスだってそうだ。まったく同じ人間は生まれない。性格の違いがあるのはゴジラもそうで、彼はどちらかといえば臆病で危ないことが嫌いだった。

怖くなると目が赤くなって、雷が鳴ると自分よりもずっとずっと小さなテネの後ろに回って隠れる。

ビーナスたちの中にはゴジラを恐れるものも多かったが、テネはそうではなかった。

母もその想いを尊重してくれた。

いつか人間の世界でゴジラたちが暮らせる? そう聞くと複雑そうな顔をしたけれど……。

 

 

「ミニラちゃん。ミニモスちゃん。ずっと一緒にいましょーね」

 

 

テネが微笑むと、ミニラは何度も頷いた。

ミニモスもきゅうと可愛らしい声をあげた。

 

 

しかしどうやらミニラには一つ大きな問題があったらしい。

それが現れたのはミニラが少し大きくなった時だった。

シルエットが恐竜のように変わったので、テネはミニラの名前を『ベビーゴジラ』と名付けて、同じく少し大きくなったモスラを『ベビモス』と呼んだ。

 

ビーナスには影響を及ぼさないが、ゴジラの体には放射能のエネルギーが纏わりついているらしい。

ベビーになった段階で体からは微量の放射線が放たれるようになり、成長するに従ってその濃度も強くなっていくことが予想された。

これを克服しない限り、どうやらゴジラは人間たちにいじめらてしまうらしい。

 

テネは島長である祖母に助けを求めた。

すると祖母は、インファント島に伝わる神秘の水を飲ませれば、ゴジラの体から放射能が消え失せると教えてくれた。

テネはすぐにベビーに水を飲ませようとしたが、そこで初めて明確に一部のビーナスから反対の声があがった。

その水は神聖なものであり、それを口にするのはモスラのみと決められてきたからだ。

 

掟を破ることは許されない。

ましてや守護神モスラと、対の存在であろうゴジラに与えようなどと。

もしもゴジラに何らかの変化があって、インファント島が危険に晒されたらどうするのか?

いくらテネが次期島長になるとしても幼いゆえに未熟なのだ。

優しさで全てが許されるわけではないと声を荒げられた。

 

しかしそれでもテネは食い下がった。

それこそ未熟さを象徴するような暴れっぷりだったかもしれないが、この駄々はこねなければならないとわかっていた。

議論は三日間続いた。テネも参加すると意気込んだが、さっさと追い出された。

スネていると、やがて祖母が声をかけてきた。

水を飲んでいいと決まったらしい。テネは両手を振って、ピョンピョン跳ね回って喜んだ。

 

しかしテネは知らなかった。祖母は完全にテネの味方ではなかったのだ。

祖母はビーナスたちにこう説明した。

ゴジラがかつてあれだけのパワーを獲得したのは放射能のエネルギーが中心にあったからだ。

放射能の力によって歪に進化した体を制御できたのは、ほかでもないその核エネルギーがあったからだ。

ベビーは生まれた時からゴジラであった。

しかしてその中心にあるエネルギーが失われるということは、早い話が生命維持装置を外すようなものだ。

 

つまり、短命になるということだった。

 

祖母はタマゴから出たゴジラを見たときに確信していた。これは紛れもなく、破壊神の器であると。

生物には本能というものがある。たとえ今、ゴジラがテネやモスラと友好な関係を築けていたとしても体の中に刻まれた『血脈』、あるいは本能には抗えない筈だ。

テネは人間に夢を見すぎている。

ゴジラをこのまま成長させていたとして、生まれるのは放射能をまき散らす存在。それは多くの命に影響を及ぼす。

そしてゴジラもまた大きな悪意や敵意を向けられたときに、己のありあまるパワーを自覚する筈だ。

その時に待っているのは有効な話し合いなどではない。愚直なる破壊である。

 

ゴジラに居場所はない。

ならばまだ被害が少ないうちに、優しいままで終わらせてやるべきだと。

だからこそビーナスたちはテネやベビモスに黙って、ベビーゴジラに命の水を飲ませた。

するとみるみる放射能が消え去った。

このまま成長して、体が大きくなって、維持できずに死ぬことが決まった瞬間だった。

 

 

テネが5歳の時、島に人間がやってきた。

 

 

テネは人間を見るのが初めてだったのでとてもワクワクしていた。人間の言葉もパパッと覚えて準備は万端だった。

なんでもビーナスは望みさえすれば人間になれるらしい。

ある日、島の近くで漂流していた日本人を一人のビーナスが見つけて先代モスラの力を借りて島まで運んだ。

そこで男とビーナスの女は恋に落ち、彼女は人間になったのだ。

体が大きくなって、結婚して、子供を産んだ。

世界中を旅した夫はその経験を活かして旅行代理店を起業したらしく、今日はその報告と里帰りにやってきたのだという。

 

 

「はじめまして!」

 

 

テネは笑顔で挨拶を行った。

初めて見る妖精に、白峰メイはとても驚いていた。

 

メイとテネはすぐに仲良くなった。

ずっと一緒にいたかったが、この時期からテネは神子としていろいろ勉強することも多く、その日も祭壇に呼ばれて退屈な話を聞かなければならなかった。

しばらくするとテネはモスラの意思を感じた。

あの子が危ない。そういう内容だと察した。

 

テネは祭壇を飛び出した。

そして、へたり込むメイと、傍にいたゴジラを見つけたのだった。

 

どうやらインファント島にある立ち入り禁止の洞窟の傍まで迷い込んでしまったらしい。

ほとんどないことだったが、たまたま運悪くそこからスカルクローラーというトカゲの怪獣が現れてしまったようだ。

非常に獰猛な怪獣であり、小型であっても多くの生物を食らいつくすとされているほどの凶悪な存在だった。

危なかったとテネは胸をなでおろす。メイも改めて腰を抜かした。

 

 

「本当にキミのおかげだよ。ありがとう」

 

 

メイは笑顔を向けた。

ゴジラは返事をするように鳴いた。

 

このころ、ゴジラとモスラは順調に大きくなっていた。

テネはベビーから、『リトル』と呼び方を変えていた。

リトルといっても20メートルはくらいはある。

とはいえメイは怯まず、大型犬を接するくらいの調子でゴジラやモスラを撫でていた。

 

 

「こわくないの?」

 

「どうして? 守ってくれたんでしょ」

 

「うんっ! ゴジラもあなたが好きみたい」

 

「ほんと? うれしいなぁ」

 

 

メイはゴジラをたくさん撫でた。

メイは本当にゴジラに感謝していた。

というのも、スカルクローラーと対峙するゴジラの目が赤くなっていたことに気づいたのだ。

よくわからないが、ゴジラの恐怖がメイの心に伝わってきた。

 

ゴジラは怖かったのだ。

それでもメイを助けるために、凶暴な怪獣に立ちむかってくれた。

それが嬉しくて、メイはありったけの感謝の気持ちをゴジラに向けた。

その日からしばらくメイとテネとゴジラとモスラの四人で遊んだ。

お昼も一緒に食べた。ゴジラはメイが食べているものが気になったようだ。

 

 

「ハンバーガーだよ。ほしい?」

 

 

メイは自分のハンバーガーをすべてゴジラにあげた。

確かに凄まじく美味かったが、ちょっとしょっぱい。

それに、あまりにも少なすぎてゴジラには物足りなかった。

 

 

 

 

「それなぁに?」

 

夕焼け。

オレンジ色に染まった海と砂浜。

メイの肩の上にテネは座っており、後ろではゴジラとモスラが並んで座っている。

 

 

「これ? カメラだよ。パパからもらったの」

 

「にんげんのどうぐね。わたし、しってるよ」

 

 

テネはなんとなくそんなものがあるということは知っていたが、実物を見るのは初めてだった。

風景を記録として残せる。それはとても素敵なものだ。

 

 

「とろっか。これね、けっこう高いやつみたいで。すぐ出てくるんだよ」

 

「ほんとう!?」

 

 

タイマーもついている優れものだった。

メイはそれをセットして、急いでテネたちのところに戻る。

 

 

「写真を撮るときはこうするんだよ」

 

 

メイはピースをした。テネは真似をした。

 

 

「ぴぃ! ぱや!」

 

 

ゴジラも真似をしてみた。

 

 

「ぴゅい!」

 

 

モスラは手がないからできないと嘆いていた。

こうして、出来上がった写真はぼけぼけだったし、ゴジラとモスラはそもそも入り切っていなかった。

まあなんというか稚拙というか、プロからしてみれば見れたものじゃないものだった。

でもその時のメイたちにはとても素敵なものだった。テネはその写真をこっそりとしまって宝物にしてある。

 

 

「ねえ、メイくん」

 

「うん? なぁに?」

 

「ゴジラたちはね、人間とお友達になれると思う?」

 

 

テネは常々思っていた。

ゴジラはこの島で一生暮らすのだろうか?

テネにとってはいいことかもしれないが、ゴジラたちにとってはどうだろう? まだそんなことを考えるほど、誰もが大人ではなかったが。

 

 

「なれるよきっと。うん。ぼくは絶対にそう思う。いつか僕らの街にきて、そしたらお腹いっぱいハンバーガーもお魚も食べられるよ。きっと」

 

「ほんと? よかったねリトルちゃん。モスラちゃん。うれしいね。えへへ」

 

 

ゴジラとモスラはよくわかっていなかったが、テネとメイの嬉しいが嬉しかったので、とても喜んでいた。

 

その後、メイたちが日本に帰ることになった。

テネは離れたくないとワンワン泣いたが無駄だった。

それにもう一つ、辛いことがあった。

インファント島の場所は知られてほしくないらしい。

メイの両親は重々承知の上だったが、メイはまだ幼い。そうなるといろいろ心配だ。

 

だからメイの記憶を消さなければならないと言われた。

それができるのはインファント島の神子の務めだった。

お守りと呼ばれた十字状の短剣を渡される。神器と呼ばれるもので、テネが触れるとテネのサイズになった。

それでメイを刺し、記憶を書き換えればいいらしい。

 

 

「ごめんね。メイくん……」

 

「ううん。いいんだ。また大人になったら絶対来るよ。そしたら、また一緒に遊んでくれる?」

 

「うん。やくそくだよ……」

 

 

それは無理な話だった。

お互い、なんとなくわかってしまう。

テネは泣きながら、お守りを刺した。

メイがいなくなって、テネは泣き続けた。

悲しみが伝達したのか、ゴジラとモスラ悲しそうだった。

 

そんな時、島長に名を呼ばれた。

テネはドキッとした。涙も引っ込むほどのドキドキだった。

その実、メイに忘れられるのが嫌すぎて、ほどほどに記憶を残してしまったのだ。

ゴジラを忘れてほしくもなかったし、改ざんもほどほどに済ませてしまった。

 

島長はテネをジロリと見つめ、やがてため息をついた。

どうやらすべてを把握されているようだが厳しく追求しなかった。

それを許すほどのことがあったからだ。

 

 

「カイザー、か」

 

「え?」

 

「あの男の子……」

 

 

はじめて聞く単語にテネは困惑した。

そこでとうとう島長は命の水を飲んだゴジラがこのままでは危険だということを包み隠さず教えた。

メイは驚き、当然怒りの感情を覚えたが、なにより島長に感謝した。

 

 

「どうして教えてくれたのぉ?」

 

「ゴジラがあの子を救うとは、思わなんだ」

 

「そんな! 当然だよっ! だってゴジラは優しいもんっ!」

 

「優しさ。そうか、優しさ……」

 

 

島長は噛みしめているようだった。

カイザーとは? ポツポツと語り始める。

実は、ビーナスにも具体的な詳細はわからないようだ。

しかし以前からたびたび、そういった存在がいると報告は受けていたらしい。

はじめは動物と会話ができるという女性の存在だった。アメリカに住んでいた彼女は、犬が言っていることがわかると多くのテレビに出演した。

世界各国で似たような人間がチラホラと現れる。

 

インチキもいたが、本物もいた。

それは動物に限った話ではない。ある登山家が急遽登山予定だった日をキャンセルした。理由を聞かれたら、嫌な予感がしたと答えた。実際にその日、山で雪崩が起きていた。

あるダイバーが魚に帰れと言われた気がして帰ってきたと告げた。神の視点だからこそいえるし、原因は割愛させてもらうが、そのダイバーが無理に潜っていたら死んでいたとここに誓おう。

 

このように少し特殊な能力を持った人間が現れ始めた。

声が聞こえるもの。意思を伝えられるもの。それをカイザーと呼ぶらしい。

わかりやすくいえば、テネのように自然や怪獣と会話ができるものだ。

文字を使うわけではない。心で会話をするのだ。

インファント島には代々、伝えられてきた言葉がある。

 

 

「自分がどんな存在であるかは、自分が決めることができる……」

 

 

ビーナスは望みさえすれば人間になって人間と恋に落ちることができる。

望みさえすれば鳥になって大きな翼で青い空を飛ぶことができる。

望みさえすれば魚になって深い海を泳ぐことができる。

望みさえすれば獣になって緑の森を駆け回ることができる。

文字通りであり、内面の話でもある。

 

 

「テネ、心なんだ。大切なのは」

 

 

島長はメイを助けたゴジラを評価した。

今はまだその事実だけでいい。島長はゴジラを助ける方法を告げた。

それは、『地下世界』にある。

 

 

「なぁに、それぇ?」

 

 

そこでテネは地球の秘密を知ることになる。

地下深くに巨大な空洞が存在している。地球各地にあるトンネルからそこへ行くことができ、その地下世界には怪獣が形成した独自の生態系が存在しているのだという。

 

 

「かつて地上にいた恐竜や、一部の生命が地下世界に逃げ込んだため絶滅を免れた」

 

「はじめのゴジラがそうなんだねっ」

 

 

島長は頷いた。

そういった生き物たちが独自の進化を遂げてスカルクローラーなどが生まれたのである。

地下世界には想像を絶するほどの物質や力が存在している。

 

 

「そのアースエネルギーの一端こそがモスラであり、命の水である」

 

 

その根本に触れることができれば、ゴジラは放射能によって生まれたエネルギー凌駕する力を手に入れることができるだろう。

しかし問題もある。スカルクローラーをはじめとして地下世界には数多くの危険な怪獣が潜んでいる。地下世界には食料や栄養も豊富な事と、地下トンネルが複雑に入り組んでいたり、絶滅に至る多くの出来事が地上で起こった事も相まって、多くの巨大生物は地上に出ることを本能的に嫌っている面がある。さらに先代モスラをはじめ、何体かの怪獣は他の怪獣が地上に出ないように睨みを利かしているらしく、そういった上位存在のおかげで地上は『一応』平和なのである。

しかし自分たちから向かうとなると、そこは完全に弱肉強食の世界だ。地球の環境には適応できないが、地下世界の環境下であれば存分に能力を発揮できるものも多い。

力を失ったゴジラや、まだ幼虫のモスラでは抵抗もむなしく殺されてしまうだろう。

 

 

「でもいくもん! でないと、どのみちゴジラは死んじゃうんでしょっ?」

 

 

テネは一人でも行くつもりだった。

手足を食いちぎられても、歯でそのエネルギーを噛んで引っ張ってくるつもりだった。

むろんそれは幼い彼女の楽観的な考えの一つでしかない。しかし島長はその想いを尊重した。むしろこれが神子になるための最後の試練である。

非情ではあるがテネが死ねば反対派は安堵するだろうし、テネが威厳を示すことができればみんな彼女を島長として認める。

なにより、テネがそう望んだ。

そしてその話を聴いたゴジラとモスラもまた同じ気持ちを抱いたからだ。

 

 

「すごい……! 凄いよテネ! それでっ、キミたちは地下世界に!?」

 

 

現在、メイの手の上でテネは気まずそうに目を逸らした。

森には怪獣たちとメイとテネとケンゴが留まり、アンタレス本部にはカイたちと一輝が戻っていた。

 

 

「そ、それがね……、いろいろあって。本当にいろいろあったんだよ? とにかく、いろいろあったから、ぜんぜんダメだったの」

 

「えぇ」

 

「でもっ、でもねっ! 助けてくれた怪獣さんがいたんだもんっ」

 

 

キングシーサー。

日本の守護怪獣の一体である彼が、テネたちの事情を把握してアースエネルギーの中でも最も強力だったものの一端を与えてくれたのだ。

ゴジラはすぐにそれに適合し、見事に死の危険を振り払ったのである。

完全な他人――、もとい他獣任せではあったが、彼女の勇気は評価され、おまけで神子の試練も一応は合格したのだとか。

 

 

『まあとにかくそんなわけで! ゴジラは優しくて良い怪獣なんですっ! 絶対に街を破壊することなんてありえませんもーんっ!』

 

 

テネは頬をぷくーっと膨らませた。

モニタ越しにアンタレス本部で、それをカイたちが見ている。

 

 

「いや、そうは言うてもやな……」

 

「別個体だ」

 

 

カイはあまりにも大きなため息をついて崩れ落ちるように椅子へ座った。

 

 

「どういうことや?」

 

「そのまま意味だよナスさん。もう一体ゴジラがいたっつぅことさ。マジかよ……、クソッ!」

 

 

カイは机を殴る。どういう感情なのかは皆、曖昧に感じた。

カイ自身も気まずい雰囲気を察したのか。急いで神代坂を襲撃したほうのゴジラをモニタに映し出す。それはメイの携帯にも送られたようで、メイはテネに映像を見せた。

 

 

『確かに……、インファント島で生まれたゴジラちゃんとは見た目に違いがあります』

 

「我々はいつの間にかゴジラが一体しかいないと錯覚していたが、その前提が間違っていたというわけかな。水爆怪獣ゴジラはタマゴを二つ残していたんだろうか?」

 

『それは違うと思います。お祖母ちゃんたちはタマゴが一つだって言ってたもん』

 

「ビーナスの探知能力でも捉えられなかった個体がある可能性は?」

 

『ない、とは言い切れませんけど……』

 

「あるいはタマゴではなく、元々いたかだ。絶滅を免れたゴジラサウルスが二体いても何にも不思議じゃない」

 

『たしかに。そっちのほうが可能性は高いと思います。生物は似た種に分かれることがありますから。ゴジラサウルスじゃなかったとしても……、たとえばゴジラモドキサウルスとか』

 

 

テネは振り返る。

釣られて傍にいたメイとケンゴも振り返った。

森の中にゴジラがいて、ゴジラの頭にモスラが頭を乗っけていて、その隣にアンギラスがいて、さらにその隣の大木の上にはラドンがとまっている。

とんでもない景色だ。とりあえずケンゴが手を振ってみると、ゴジラが振り返してくれた。

 

 

『できればコチラに協力してもらえると助かるんだが……』

 

 

鷹診がそう言う。

テネはテレパシーを飛ばして怪獣たちに意図を伝えた。

 

 

「キュオン! キュゥゥ!」

 

『な、なんて?』

 

「モスラはもちろんですわと言ってます。人間の皆様のお力になりたいですわと言っています」

 

『蛾のくせになんてお上品なしゃべり方!』

 

『こらバイス! 失礼だろ! お前は黙ってろ』

 

「イア゛ァァアアン!」

 

『アンギラスはなんて?』

 

「嫌だと言っています」

 

『イヤーンッ!』

 

『バイス!』

 

『だって! ケチ! 協力してくれてもいいじゃん!』

 

「ピヤァァン!」

 

「人間は怖い生き物だ。関わると危ないと言っています」

 

「キュオオ!」

 

「ラドンもそうだそうだと言っています」

 

『んなワケあるか! むしろお前らの方がよっぽど危ないわ!』

 

『バイス!』

 

「ィア゛アアン」

 

「現にあの大きなモグラやゴリラのような機械でいじめられたと言っています。とても痛かったと言っています」

 

「キュオオ!」

 

「ラドンもそうだそうだと言っています」

 

『それはお前らが悪いんだろーッッ!』

 

『こらバイス! 仕方なかったんだ洗脳されてたんだし』

 

『そっか。でも誰に!? 本当なのか怪しいけどね!』

 

「そんな! ねえみんな、誰にそんなことされたの!?」

 

「イアァアン!」

 

「アンギラスは覚えてないと言っています」

 

「キュオオ!」

 

「ラドンもそうだとそうだと言っています」

 

『べつに訳さなくてもいいよ今のは!』

 

「キュィイイ!」

 

「モスラは原因を突き止めて、対処しよう。それが世界平和のためですからと言っています」

 

「ピアァアンン!」

 

「アンギラスはそうだったとしても自分たちが関わるのはやめたほうがいいと言っています。また操られるのは嫌だと言っています」

 

「キュオオ!」

 

「ラドンもそうだそうだと言っています」

 

『気持ちはわかる。気持ちは、ええ、とてもわかりますよ。でもそれでも! 力を合わせようよ! 大丈夫、おれっちはキミたちを理解してる。だってみんな、おれっちと同じ、キラキラした目をしてる。優しい目を……』

 

「キュォオオオン」

 

「ラドンはそうかな……? と、言っています」

 

『あ。ぜんぶ肯定してくれるわけじゃないのね……』

 

「イヤァン!」

 

「アンギラスはもうゴジラたちとは戦いたくないと言っています」

 

『だああああもう! そんなでかい図体してるのに臆病なんだから!!』

 

「キュオオ!」

 

「ラド――」

 

『はいはい。わかってますよ。そうだそうだって言うんでしょ?』

 

「いえ。ナメてるとソニックブームで吹き飛ばすぞクソガキが。俺はスピードとプライドを軽く見られるのが大嫌いなんだ。ほら、来いよ。おら来いよと言っています」

 

『怖いわ! なんで!? イントネーションさっきと同じだったでしょうが! てか、え? ちょっと待て。鳴き声の尺的にそんなに喋ってなくない? テネちゃん適当に言ってない!?』

 

「ち、ちがいます! テレパシーなんです! そりゃあまあ少しは翻訳の過程で言葉が変わることはありますけど……! だいたい合ってるもん!」

 

 

またラドンが鳴いた。人間には付き合ってられないと翻訳された。

さっさと飛び立ち、火口の先にあるトンネルから地下世界に帰っていった。

そしてそこでゴジラが鳴いた。

テネはそこで固まる。

 

 

「どうしたの?」

 

「………」

 

「テネ? 大丈夫?」

 

「……我々は人間に関わるべきではないと言っています」

 

「っ」

 

「そのほうが人間もいい筈だろうからって」

 

 

テネは悲しそうだった。

しかしゴジラにとっても、一番大事なのは仲間の怪獣たちだった。

だからアンギラスやモスラを危険に晒すことはしたくないと。

 

 

「ギャオン」「ャアアン」

 

 

ゴジラが鳴くと、アンギラスが頷いた。

 

かえろう

 

OK

 

そんな会話があったのだろう。

二体は森を歩き、やがて海に出て、海中トンネルで帰るつもりなのだ。

モスラは残ってくれるようだが、ゴジラは歩き出した。

振り返るとき、ゴジラはメイを見た。

メイもゴジラを見ていた。

 

 

「よかったね。ゴジラ、悪い怪獣じゃないんだ!」

 

「ありがとう。そうだね、うん、本当にありがとう」

 

 

ケンゴに言われて、メイは複雑そうに微笑んだ。

いろいろあるのだろうが、今はこの安心感を信じたい。







ドハティ神に、乾杯……(´・ω・)Y


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第7話 Island(前編)

今回は予約投稿なので、なにかミスがあったら修正まで時間がかかります。
ごめんやで(´・ω・)


 

「……きれい。メイくんもそう思うでしょ?」

 

「うん。そう思う」

 

 

アンタレス本部、屋上。

そこでメイは仰向けに寝転がっていた。彼のみぞおち辺りにテネも寝転んで星を見ていた。

 

 

「神代坂は星がよく見えるんだね」

 

「クリスタルタワーから遠隔で充電ができる技術があって電気自動車が増えてるからかな。極星エネルギーは環境にやさしいっていうのが一つの売りだから」

 

「でもね、インファント島の空だってね、とっても綺麗だもん」

 

「うん。覚えてるよ」

 

「ほんとう? 嬉しいっ」

 

「でもさ、僕って記憶を消されたんでしょ? 結構覚えてるんだけど、どうして?」

 

「いじわるなんだね。ふふふ、それを聞いちゃうの?」

 

「ごめん。まずかったかな?」

 

「いいの。ふふふ、いいんだもん♪」

 

 

テネは真っ赤になってもじもじとしはじめる。

 

 

「それはね、あのね、忘れてほしくなかったから……」

 

「?」

 

「ワガママしちゃった。えへへ、悪い子だね、わたし」

 

 

どうしてもメイに忘れてほしくなかったから、記憶を改変する時に最低必要減に留めたのだとか。

 

 

「そっか。でもありがとう。僕も忘れたくなかったから」

 

「えへへ、ほんとう? えへへへへ」

 

「うん。またテネやモスラたちに会えてとっても嬉しいよ」

 

 

人差し指の腹でテネの頭を撫でると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

モスラは今、格納庫で待機しており、尋常じゃない果物を召し上がっている。

その間、アンタレスはモスラの体を調べているが、すぐに人智ではまだ到達できないところに『彼女』がいることに気づくだろう。

 

 

「僕が知らないゴジラのこと、教えてくれる?」

 

「いいよ。何が聞きたい?」

 

「アニメのギャグしてた」

 

「あ、あれは……、うん。そうだね」

 

「ゴジラはアニメ見るの?」

 

「ゴジラちゃんとモスラちゃんとアンギラスちゃんと一緒によく見てるよ。テレビはね、運んでもらちゃった。えへ!」

 

 

インファント島は漂流者や、海賊など、あるいは飛行機などなど、見つかった時のためにカモフラージュとしてちょっとした町があるのだという。

そこには電気もあるので、テレビがつく。

アンテナはないため地上波は見れないが、知り合いのお姉さんがDVDをたっぷり持ってきてくれたので暇なときはよく見ているのだとか。

もちろんテネにとっては大スクリーンだが、ゴジラにとってはスマホ以下のモニタであるために内容はハッキリとわかっていないだろう。

正確にはアニメを見ているテネを見ているのだ。彼女の感情を感じて、テネはよく内容を実況していた。

 

 

「車とかビルとか、そういうのがあるよって、教えてあげたの」

 

「ゴジラたちは意味がわかってるの?」

 

「ゴジラちゃんたちはとっても賢いからね。わたし、日本のことが知りたくていろいろ見たよ。アニメとね……、他にも恋愛映画が好きなの。えへへ」

 

 

テネは体が小さいが、声量は普通の人間と変わらない大きさだった。

とはいえ、ここばかりはモニョモニョと聞こえずらくなる。

 

 

「知ってる? あのね、メイくんだけに、ううん。メイくんだから教えてあげる。ゴジラちゃんとモスラちゃんはね――」

 

 

テネはコソコソと耳打ちをする。

メイは目を丸くした。

なんというか、ゴジラとモスラは『()い仲』らしい。

 

 

「た、たぶんね……、ちゅーもしてると思うんだぁ」

 

 

一瞬とんでもない光景が頭に過ったが、どうやらそういうことではないらしい。

唇と唇を合わせるという意味ではない。

顔をすり合わせることはあるが、そもそも怪獣に唇はない。

テネが言いたいのは、つまり心と心を合わせるということ。

そういう特別な絆がゴジラとモスラの中にはあるというのだ。

もちろんテネもゴジラたちから付き合ってますと言われたわけではない。

ただし、なんとなく感じる心の波長が、そういうベクトルのものに思えるのだ。

 

 

「あの子たちって幼馴染みたいなものだから。えへへ、いいよね、そういうの」

 

 

本来トカゲと蛾の間に愛は生まれないのかもしれないが、ゴジラたちは超越している。そういう共生関係が生まれてもなんら不思議じゃない。

 

 

「わたしたちも、そうなるといいね。なぁんて……」

 

「ああ、そうだね。人類とビーナスが良い関係になれるように一人の人間として頑張らなきゃ」

 

「んー、そういうことじゃないんだけど……」

 

「うん?」

 

「ま、いっか。メイくんにはまだちょっと早かったのかもしれないね」

 

「うん。あとさ、テネ、聞いてくれる?」

 

「なぁに?」

 

「キミが好きだ」

 

「ぜぜぜ前言撤回っ! 大人大人! おッとなぁ!!」

 

「うん? キミの"そうなるといいね"っていう言葉で背中を押されたんだよ」

 

「なーんだぁ。ちゃんと伝わってたんだね」

 

「キミも同じ気持ちだと嬉しい」

 

「……わたしも、一緒の気持ちだもん♪」

 

「そっか。はぁ、よかったぁ。とっても緊張しちゃったよ」

 

「でもいいの? わたし妖精だし、いくら昔遊んだことがあるからって。離れてた時間は長いんだよ」

 

「これからお互いを知っていけばいいと思うよ」

 

「ふふふ、なんだかメイくんって変わってるって言われない?」

 

「そう、かな? ごめん」

 

 

たしかにいきなりだったと思う。

でも幼い時……、あの時はまだそういう感情はなかったけども。

今になってテネといた日々を思い返すと温かい気持ちになったし、同時にもう会えないんだろうって思ったら切なくなった。

だからきっとあれが初恋だったんだと思う。実らないとはよくいうが今またこうして再開できたのだし、その奇跡を大切にしたいと思ったまでだ。

 

なにより、メイも記者としていろいろな人間にあってきた。

清濁併せのんでこそとは言うが、やはり人は抱える闇のほうが大きいものだ。

しかしテネからはそういうものがあまり感じられない。

彼女のような甘ったるい声色や態度は、世間一般でいうと煙たがられる傾向にある。それは露骨に裏があるのではないかと勘繰ってしまうからだ。

だが、なんというか、カイザーとしてテネから感じる波長がすごく心地いい。

人間は生きている中で疲弊していくものだが、彼女と一緒にいるだけで、とても心が落ち着いた。

 

 

「って、ことなんだよ」

 

「わぁ、とってもだいたんっ! ちゃーんとっ、伝わりましたっ!」

 

「うん。よかった」

 

「ふふふ、よかった! でも、うん、やっぱり貴方を信じてよかった!」

 

「うん?」

 

「わたしね、正直、ほんのちょっぴり不安だったの。みんながずっと地下世界で生きていけるんだったら、それで良かったんだけど、なかなかそういうわけにもいかないでしょう?」

 

 

地球の支配者はあくまでも人間だ。

彼らはきっとゴジラたちを受け入れてくれない。もしもそんな種族だったら、終焉時計は動かなし、そもそもゴジラは生まれなかった。

皆がそうではないが、人は同種同士で殺しあう野蛮な生き物だと祖母も言っていた。

でもメイは優しかった。

それにメイはカイザーとしてゴジラの気持ちを感じることができるし、ゴジラもメイの気持ちを感じることができる。

 

クジラは青森から大阪まで仲間との意思疎通が取れるともいわれているが、ゴジラは遠く離れたメイの気持ちを感じていた。

怪我してないか。悪い人たちに見つかってないか。おなかいっぱい食べられてるのか。

そして、人間を嫌いになっていないか。

そういう心配の気持ちがちゃんとゴジラに届いていたし、ゴジラを通してテネもそれは感じていた。

 

 

「メイくんみたいな人がいるってわかってたから、わたし、諦めなかったよ」

 

「ありがとう。本当に、ありがとう。だからあのお守りをくれたの?」

 

「うん。奇跡の力が宿ったものは、あなたに使ってほしいって思ったから」

 

「特別なことじゃないんだ。みんな優しいところもあって、残酷な面もある」

 

「メイくんにもあるの?」

 

「きっとね。まあ、まだ幸い自覚はしてないし、したくもないけど。ゴジラだってそうなんでしょ?」

 

「……うん、そうだね。ゴジラは怖がるのも怖がられるのも嫌みたい。だってきっと自分の奥に本当に怖いものがあるって知ってるから」

 

 

モスラはいろいろなことができる。でも、ゴジラは――……。

そこでテネは言葉を止めた。

メイはテネを撫でながら、星空をジッと見ていた。

ネットニュースでは早速アンギラスたち、そしてゴジラについての記事がいくつも掲載されている。

 

 

「……誤解を解こう。人間も対しても、ゴジラに対しても」

 

 

どれだけ時間がかかってもいい。

今はまだこの気持ちの言語化はできないけど、それでもメイが感じたものを少しでも多くの人に知ってもらえればきっと何かが変わる。

 

 

「できる筈だ。キミと、僕なら」

 

 

そういうと、テネは嬉しそうに頷いた。

 

 

翌日、アンタレス本部屋上。

そこにモスラがいた。頭の上にはテネが乗っている。

 

 

「じゃあ一度、インファント島に帰ります。島のみんなにもいろいろ報告しなくちゃ」

 

「本当に助かります」

 

「モスラの頭は、ええ丸さやな。たこやき食いたなってきたわ」

 

 

それぞれが挨拶を済ませていく中、最後はメイが前に出る。

 

 

「また会えるよね? テネ」

 

「うん。もちろんだよ。あんなことを言ったのに、お別れだと思ってたの? ふふふ」

 

「そういうつもりじゃないんだ。ただちょっと嫌な予感がしてさ。ほら、カイザー? あれもあるからね」

 

「あまり気にしすぎちゃダメだよ。じゃあ、またね。いこうモスラちゃん」

 

「キュォオオ!」

 

 

モスラは飛び立ち、あっという間に見えなくなった。

 

 

 

 

「おはようございます」

 

 

一輝がモニタルームに入ってくる。椅子に座っているカイが軽く手をあげた。

 

 

「……ああ」

 

「浮かない顔ですね」

 

「まあ、朝は苦手なんだ」

 

「………」

 

 

一輝は机の上に置いてあったパンフレットを見つけた。

遊園地のものだが、デカデカとアメリカンコミックのキャラクターが書いてある。

 

 

「スパイダーマンだってさ。ナスさんのお子さんが好きで、今度行くって言ってたな」

 

「同じく蜘蛛男でも、かたやスパイダーマンっていうヒーローで、かたやショッカーの怪人か……」

 

「なんの話だ?」

 

「テネさんが言ってましたよね。自分がどんな存在であるかは、自分が決めることができるって」

 

「………」

 

 

カイはしばらくバツが悪そうな顔をして笑っていた。

すると一人の女性が入ってきた。白衣を着た赤髪の女性だ。

アンタレス医療班、夢樹ネム。彼女は親指で扉の向こうを指さした。

 

 

「テネちゃんとモスラちゃんも帰っちゃったし、退屈で死にそう。遊びに行きましょ?」

 

「「………」」

 

 

カイと一輝はポカンとした表情で目を合わせた。

 

 

 

 

「くぁー、気持ちいいわねーッ!」

 

 

ネム曰く、エンジンをかけた時に尻と胸と頭に響く感じが最高らしい。

車道は空いている。連日の怪獣騒ぎで渋滞に巻き込まれたら車などなんの意味もないことがわかったのだろう。

法定速度ギリギリのオープンカーが、カイと一輝を乗せて疾走していた。

 

 

「電気自動車とかまだまだダメよ。やっぱりこのエンジンの振動と音がないと」

 

「はぁ」

 

「人間だってちょっとお酒飲んだほうが健康的でしょ? 地球だって排気ガスをおいしく頂いてると思うのよ」

 

 

サングラスをかけたネムが風に髪を靡かせている。

救護班に所属していても今までは出番がなくてほとんどお飾りだったという。

書類仕事で、たまに呼ばれようものなら災害や事故の応援だったり。

そうなってくると、どうしても気分が沈む。

そうすると、よくドライブでかッ飛ばしているそうだ。

 

 

「この赤い革のシートとか最高でしょ?」

 

『はーい! 先生ーッ! カレーうどんとポテチをバリバリたべていーい?』

 

「いいけど零したら自殺するわね」

 

『予想外のお返事きちゃった……』

 

 

やがて車は神代坂の外れにある遊園地にやってきた。

ギュギュギューン! と音を立てて、オープンカーはドリフトで白線の中に滑り込む。

 

 

『普通に停めろよ!』

 

「いいじゃない着いたんだし。じゃあ行きましょ」

 

「はいはい」

 

 

明らかに気乗りしていないカイを引っ張って、ネムたちは遊園地に入っていった。

 

 

「何に乗ります?」

 

『はーい! おれっちジェットコースターに乗ってみたいでーす!』

 

「むりよ。こわいもの」

 

『じゃあお化け屋敷は!? 悪魔VSお化けなんて燃えてくるじゃーんッ!』

 

「ダメよ。怖いじゃない」

 

『え……? あ、じゃ、じゃあ観覧車……』

 

「いけないわ。高いもん」

 

 

結果。

 

 

「あははは。楽しいわね。メリーゴーランド!!」

 

『つまんねぇえええええ!!』

 

「こらバイス! なんてこというんだ!」

 

『だって! これ六回目! もう六回も乗ってるんだよ! 他にもたッッくさん楽しそうなものがあるのにーッッッ!』

 

「だってどれも速そうだし」

 

『アンタの車よりは遅いよ!』

 

「とはいえ六回も乗ってるとさすがにちょっと酔ってきたな」

 

「そう? じゃあ降りましょう」

 

 

ネムはにっこりとほほ笑んだ。

三人は馬を降りて、休憩場のカフェに座った。

 

 

「付き合わせて悪いな。これやるから、好きなもん乗ってくるといい」

 

 

カイは一輝に向けて財布を投げた。一輝が持っていたお金は別世界ものだから使えるかどうかわからないからだった。

 

 

『本当!? マジで!? やったぁ! おれっちアレにのりたーい!』

 

 

人の心がどうたらこうたら。

とはいえ、まったくわからないわけでもない。

一輝がチラリとネムを見ると、彼女はカイを見つめていた。

ははあ、そういうことかと思ってみる。

 

 

「お、おお。仕方ないな……」

 

『やたーッ!』

 

 

一輝たちがアトラクションに向かうのを見て、ネムはカイに近づいた。

 

 

「浮かない顔ね。何かあったの?」

 

「そう見えます……?」

 

「もちろんよ。ちょっと、私がどれだけ貴方の顔を見てきたと思ってるのかしら?」

 

 

"その頃"、ネムは辟易としていた。

避難を終えた人たちの手当て!

あるいは、負傷した隊員たちの応急処置!

などと……、はじめはそんな期待もされていたが、怪獣がでなければ意味はない。

少なくともネムがアンタレスに入った頃には、救護班は自分ともう一人の二人だけで、仕事は保健室の先生より少ないだろう。。

給料だってどんどん安くなっていくばかり。これじゃあ、大好きな車も買えないじゃないか。

とはいえ、いざ怪獣が出てくれば命を懸けるのだろう。。

両親からは早く辞めた方がいいと、いつも電話で言われた。

そんなところにいるより帰ってきてさっさと結婚をした方がいい。早く子供を産んだ方がいい。見合いを用意してあげるから、などなどなど。

 

ネムは『なにおう!』と前のめりになってみたものの、すぐに姿勢を正した。

実をいうと彼女に特別なエピソードなど何もない。

特別な過去も信念もなく、少しだけ強めの正義感だけでアンタレスに入った。

いざ入ってみると同年代は一人もおらず。仲のいい人たちはいたが、友人はできず、ましてや職場はおじさんばっかり。何度マッチングアプリに手を出そうかと思っていたことか。

しかし悲しいかな、田舎生まれの偏見なのか渋っているうちに時間が経っていた。それに当時はまだそんなに活発でもなかったし。

そんな時だ。カイが入ってきたのは。

 

稲妻が落ちた。

 

5歳年下らしいが関係ない。

なんて可愛いのかしら! そこからはもう、カイに会いに行くためにアンタレス本部に行っていたようなものだ。

向こうは興味がなさそうだったが、関係ない。お酒の席でたくさん飲ませてお家に呼んでちょっと休んでもらえばオッケーだった。

 

 

「……あの時のネムさんはやばかったっすよ。獣の目をしてた」

 

「あら。渋滞は嫌いなのよ。車道も人生もスムーズなほうがいいじゃない。それにカイくんだって来てくれたんだし」

 

「眠かっただけです。酒も初めて飲んだし。本気で休ませてくれると思ってさぁ……」

 

 

飲み会には鷹診に誘われたから行っただけだった。

しかしそこで初めて味わった酒は、すぐによくないとわかった。

いろいろ脆くなる。ネムだって、そこでカイの火傷を見つけた。

これはなに? なんでもない。なんでもないことないでしょう。だからなんでも――

 

そんな押し問答が続いて、カイは押し負けた。

ネムは医療班である手前、ある程度カイの事前情報に目を通していた。

たとえばアレルギーとか、健康状態とか、そこで彼の親が既に亡くなっていることは知っていた。それが首の火傷に関係していると気づいたのだ。

熱かったでしょ? 熱いでしょ? 絶対に痛かったでしょ? だったら心も痛かったに決まってる。ネムはそういうのがなんだかとてもムカつく性格だった。

だからきっとアンタレスに入ったのだ。

誰もがみんな、傷を隠したがる。

痛いくせに。

 

 

「かわいそうに。辛かったでしょう?」

 

 

その言葉は、正直、あまり良くない受け取り方をされるかもしれない。

しかしネムは、そういう面倒なものが嫌いだった。

 

 

「これからは私もいるから、少しくらいは寂しくないわ」

 

 

ネムはカイを抱きしめて、頭を撫でた。

鬱陶しいといえばそうなのだが、カイはその時、飲みすぎて彼女を振り払うことも億劫だった。

終わりにできるならさっさと終わりにしてほしかった。

 

それに、まあ、なんだ。間違ってはいない。

寂しいかどうかなんて勝手に決めるなよとは言えないくらいの感情があった。

だいたい、これからお世話になる同僚だ。鷹診がそうだったように受け入れてくれるならそのほうがいい。

 

なのでカイは過去をすべて話した。

ゴジラが親を殺した。でも誰も信じてくれなかった。

一人で寝ていた病院。施設の門を初めてくぐった日。

親が死んでから初めて迎えた誕生日とクリスマスは一生忘れないだろう。

 

 

「まあ、それなりに、結構、寂しかったですよ」

 

 

カイは静かに泣いていた。ネムは困ったことになったと思った。

初めはハッキリくっきり言うのであれは『性欲発散』というとんでもないことを脳裏に宿していたが、どうやらカイに本気で惚れてしまった。

彼の孤独をほんの少しでも癒してあげたいと思った。

彼が笑顔になってくれることがあるなら、協力してあげたいと思った。

 

 

「私は貴方を信じるわ」

 

 

嘘をついている人間が、こんな涙を流すものか。

だからそう言った。それはそれなりに心地よかったので、カイは何も言わなかった。

 

 

「それはそれとして、することはしておく? 大丈夫、甘えてもらってもいいのよ」

 

 

ネムはベッドに飛び込んで腕を広げた。

いろいろ台無しである。

 






ゴジラもシリーズでかなり見た目が変わりますが、個人的にはミレゴジ、ギラゴジと呼ばれるタイプが好きです。
背びれの紫がおしゃれでかっこいいんですよね。
まあちょっと口が裂けすぎな気もするので、もう少し抑え気味だったら個人的にはもっと良かったんですけれどもね(´・ω・)


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第8話    (後編)

 

もちろん、カイは断った。

ただそれはネムのことが好きじゃないからだとか、そういう目で見れないからというわけではない。

むしろカイはネムが好きだった。綺麗だとは思うし、煙たがれるところもかもしれないが、こういう性格の人は必要だと思った。

ただ、やっぱり――……。それをはっきりと口にしなかったからヘンテコな関係が続いているが、今なら口にできる。

 

 

「どうやら。俺の火傷は治ってなかったってなぁ」

 

「?」

 

「脳が今でも燃えてやがる」

 

「どういうこと? 苦しいの?」

 

「それすら怪しい」

 

 

ゴジラが二体いるのはわかったし、納得だ。

両親を殺したゴジラと神代坂に現れたゴジラは同じだと思うが、テネと一緒に育ったゴジラは見たことがない。

だったら、そういうことなのだろう。

それは当然だ。当たり前だ。

 

 

「なのにどうしてだか、納得がいってねぇ……」

 

 

テネといた『アイツ』が許せない。

憎悪が、炎が消えてくれないのだ。

どうか、ヤツであってくれと願ってしまう自分がいた。

そうか。そうなのか。カイは自覚した。

 

メイにも少し話したことだ。

美味いものを食ったり、楽しいものを見たり、好きな人と一緒にいたり。そういうことはきっと幸せだ。でも舌を火傷してるから味がわからないし、目を火傷してるから何も見えない。肌を火傷しているから、触れられると酷く痛むんだ。

耳からは今もアイツの咆哮が聴こえてくる。

手に入れても、すべて一瞬でゴジラが壊すなら、それは手に入れたとは言わない。

それはきっと、ゴジラがいなくなっても同じなんだ。

その概念が幸福を踏み潰す。

 

 

「俺はまだ、あの日の夢を視てる。病院で眠ってるんだ……」

 

「鷹診さんのお友達も似たようなものだったのかもね」

 

「前に進むのが怖いらしい。忘れようとしてもダメだ。忘れようとするほどに恐怖が強くなる」

 

「みんなそうよ」

 

「だけど俺はゴジラを殺すために生きてきた。そうすることでしか生きられなかった。だから殺すならどのゴジラでもいいのかもしれないって心がある」

 

 

復讐を遂げたとしても両親は返ってこない。

ましてや今、復讐心よりを超える恐怖がある。

ゴジラを追いかけてきたと思ってきた。でも違う。ゴジラから逃げていただけだ。

 

 

「どうすればいいかわかんねぇ、困っちまったな。へへへ……」

 

「カイくん……」

 

 

それだけじゃない。アンギラス、ラドン、モスラ、そしてインファント島。

そんなの知らない。そんなの届かない。人間の自分じゃ追いつけない。

 

 

「ゴジラだけ殺しても足りねぇよ……」

 

 

そこで人の気配を感じてカイは横を見た。

コーラを三つ持った一輝が気まずそうに立っていた。

 

 

「ごめん、なさい。聞いちゃってました」

 

『怪獣が出たら避難できませんので、アトラクションはほとんど運転を中止していますだって……』

 

 

悲しそうなバイスはまあ置いておいて、一輝はカイの傍に来た。

 

 

「カイさん。風呂! 入りましょう!」

 

 

風呂。そのままの意味である。

だからアンタレス本部に戻った二人は大浴場のお湯の中で肩を並べていた。

 

 

「……どういう風の吹き回しだ?」

 

「人間、どんなことがあっても熱いお風呂につかれば復活できるんです」

 

「はは、本当かよ……?」

 

「オレ、銭湯やってる家の長男で。あ、しあわせ湯っていうんですけど」

 

 

ただのお風呂屋さんが悪魔と戦う仮面ライダーになってしまった。

 

 

「はじめは銭湯があるから弟に任せようと思ってました。一応、オレなりに弟の――、大二っていうんですけど、アイツのことを考えてたつもりなのに、どうにも上手くいかなくて」

 

 

ブチギレられたと苦い顔する。

 

 

「でも今は、世界中の人を悪魔から守るために戦ってます」

 

「ああ、それがいいかもな。アンタの力は特別だ」

 

「そう、やっぱり仮面ライダーは特別で。いろんな人を見てきました」

 

 

仮面ライダーを祈る人たち。

仮面ライダーだから助けられた人がいて、仮面ライダーだから恨まれた。

 

 

「みんな力を望んでる。変身したいから」

 

 

でも、少し違う。

確かに仮面ライダーだから変われたけど、仮面ライダーが変えたんじゃない。

やっぱりそれは仮面ライダーが齎した人間関係、それを受けて自分が変わったんだ。

悪魔もライダーも同じ仮面。つけてる人間が変わらないと、大した変化は齎されない。

 

 

「ウルトラマンも、タルタロスでしたっけ? あのロボット。あれもライダーと同じなんですよ」

 

 

一輝だってベルトがなければただの人間だ。

ケンゴもスパークレンスがなければウルトラマンに変われないと言っていた。

 

 

「でもオレたちはきっと……」

 

 

カイだって、スターファルコンの搭乗者になるために努力してきたはずだ。

その原動力が復讐心であったとしても、その技術を獲得した。

その事実は揺るぎのないものだ。

 

 

「アンタレスは、世界の人を守ることができる場所ですよ」

 

「……ああ」

 

「自分がどんな存在かは、自分が決めることができる」

 

 

たしかに、すぐに壊れてしまうものなのかもしれない。

 

 

「でもだからこそ、守るために戦うことができる」

 

「……ッ!」

 

「貴方にもオレと同じ力がある。いつかの自分を超えることができる」

 

 

蝕もうとしているのだろう。自分の中にある悪魔が今も。

しかしそれを超えることも、受け入れて、共に戦うこともできる。

 

 

「他人のために戦うのも、悪くないっすよ」

 

「……かもな。ワリィな、なんか。気を遣わせて」

 

「いえいえ。オレ、日本一のおせっかいですから」

 

「はは……、いいキャッチコピーじゃん」

 

「そうだ! ちょっと思ったんですけどココの大浴場、脱衣所に自販機ないですよね? 絶対置いたほうがいいですよ! 風呂上りの牛乳は最高なんだから!」

 

 

一輝の笑顔に釣られてカイも笑みを浮かべた。

しかしそこで、メイが服を着たまま入ってきた。

その表情は深刻だ。

 

 

「大変です! インファント島が!」

 

 

時間は巻き戻る。

ビーナスたちが空を見上げていた。

そこには巨大な船があった。三日月のように湾曲した形であり、その先端が光ると赤いレーザーが発射されて木々を爆発させて大地を吹き飛ばす。

ビーナスたちは悲鳴をあげて地下のほうへ避難していった。

 

 

「キュォォン!」

 

 

そんな彼女ら頭上を、モスラが羽を広げて飛んで行った。

触覚からジグザクな軌道で飛んでいく『ソディウム光線』を発射して船を落とそうと試みる。

しかしそれが命中することはなかった。

突如として赤い光線が飛んできて、相殺したのだ。

飛行してくるのは紛れもない怪獣だった。

 

 

『キシィイイ!』

 

 

金切声と電子音が混じった鳴き声。

両手には大きな鎌があり、腹部にはノコギリがあった。

彼らの兵器である"ガイガン"は、モスラとぶつかり合い、羽を切断しようと鎌を振るった。

 

 

「まったく。こんなところにあったとは」

 

 

インファント島、祭壇。

島長とテネが後ろに下がっていく中で、黒いコートと、サングラスを身に着けた集団が進んでいた。

数は五人。大柄の男、"パンチマン"。

銃を持った女、"ガンナー"。

剣を持った男、"ソードマン"。

シルエットが人間ではない。まさに正体不明、"モンスターX"。

そしてそれらの前に、リーダー各の男が立っている。

 

 

「どうしてこの場所が!?」

 

 

テネは焦っていた。

インファント島には簡易的な結界が施してある。

敵意や殺意を強く持ったものには見えなくなるような仕掛けだ。

たまたま迷い込んだならまだしも、狙って攻めてくるなんてできない筈なのに。

 

 

「案内してもらったのだ。キミにね」

 

 

そこでテネの背中の一部が赤く点滅した。

点滅はテネから離れて男の指先へ戻る。

テネのサイズですら資格できないほどの小さな小さなナノロボット、これが発信機としてインファント島の場所を特定したのである。

 

 

「私の名前はバイラス。"X(エックス)星人(せいじん)のバイラス"と覚えてくれ」

 

「異星人ね……ッ、目的はなぁにっ!?」

 

「この場所を我々の拠点にし、支配下に置く」

 

「そ、そんなの――」

 

「スマートに終わらせたい。キミが利口ならば死人は少なくて済む」

 

 

テネは目を細めた。

この祭壇がある場所はインファント島の中でも、特別なパワースポットである。

テネの力も増すために、いろいろなことができた。

たとえばあの時のように、遠く離れたメイへコンタクトをとることもだ。

 

 

『どうしてこの場所が?』

 

 

テネがバイラスにそう聞いた時には、既に"メイの脳裏"にこの光景を映し出していた。

 

 

「どうすればいいの!?」

 

 

メイが問いかけた。

テネはお守りを渡した時と同じように、メイをインファント島に召喚する方法がベストだと説いた。

しかし向こうは異星人。メイでは太刀打ちができないだろう。

そこで一計を案じる。

 

 

『お守りはまだ持っててくれてる?』

 

「もちろん!」

 

『それを一輝さんたちに渡してほしいの』

 

 

お守りを使えば一輝の精神を引っ張ってこれるという。

つまりリバイスドライバーを持ったメイを召喚して、一輝の精神を肉体へ憑依させればいいと。

 

 

『やったことないけど、がんばるもん!』

 

「わかった!」

 

 

ということなので、メイは一輝がいる大浴場にやってきたということだ。

一輝はすぐに脱衣所にあったリバイスドライバーと、無数のバイスタンプをメイに渡す。

 

 

「でも大丈夫かな? 精神がオレになるとはいえ、リジェクションが起こる可能性があるんだ」

 

 

聞けば、かつて変身に失敗したおじさん(28歳)がいるらしい。

そうなると悪魔が生まれて、返って不利になる可能性がある。

その点に関してはテネもやってみなければ、わからないという。

 

 

「お願いします!」

 

 

メイは即答した。

一輝は彼の目を見て、強く頷いた。

 

 

「お願い! テネ!」

 

『任せて! いくよっ!』

 

 

光が迸った。

テネの前にメイが着地する。

さらに光が迸った。精神が憑依し、メイの姿さえも変わる。

 

 

「フハハハハハハ!」

 

「!」

 

 

立ち止まるX星人たち。

 

 

「破壊と創造が繰り返されるこの混沌の時代! まったく新しい仮面ライダーが誕生しようとしていた!!」

 

 

バイスが顔を上げた。

 

 

「ヒーローは、悪魔と契約する!!」

 

 

今度は逆に、X星人たちが一歩後ろへ下がる番だった。

 

 

「行こうぜ、一輝!」

 

 

バイスは右を見た。

 

 

「あんれ?」

 

 

無。

 

 

「え? 一輝?」

 

 

誰もいない。返事はない。

 

 

「あれ? え? やだ。ちょっと、ねえ、一輝?」

 

 

返事はない。

 

 

「一輝ーっ?」

 

 

返事はない。

 

 

「一輝ちゃーん! ママよー!」

 

 

返事はない。

 

 

「嘘嘘! おれっちだよ! バイスだよーッ!」

 

 

返事は――

 

 

「答えてよ一輝!!」

 

 

返――

 

 

「やだああああああああああああああああ!」

 

 

失敗しました! と、テネの声が響く。

一輝はいまだに脱衣所にいる。

つまりテネがメイに憑依させたのは、一輝の中にいたバイスだったのである。

しかもリバイスドライバーだけは向こうにいってしまったので、非常によくない状況だった。

 

 

「ちくしょー!」

 

 

実体化はできてる。

バイスは腕をブンブン振ってバイラスに殴りかかるが、拳を払われ、受け流され、逆に裏拳で顔を殴られた。

 

 

(もう一人呼べないの!?)

 

 

メイはそういうが、テネは汗を浮かべていた。

インファント島に召喚できるのは、カイザーの資格を持つものか、あるいは地球のエネルギーを得た怪獣に対する強い想いを抱いたものだ。

アンギラスやラドン、モスラは人間との関係がない。

ゴジラだってそれは同じだ。メイくらいなものである。

 

 

「それはマイナスの感情でもいいのか?」

 

 

その時、視線がカイに集まった。

 

 

「どんだけアイツのことを考えてきたと思ってんだ!」

 

 

テネは戸惑った。

復讐心、それが凄まじいエネルギーを生むことは知っている。

確かに、カイならば召喚は可能かもしれない。

しかし彼自身が言っていたようにそれはマイナスの感情。それをインファント島に招き、この祭壇の場に招いていいものか。

 

 

(どうなんだろう? どうしたらいいんだろう?)

 

 

するとメイの声がテネの頭に響いた。

 

 

(信じよう! キミがまだ彼を信じられないなら、僕を信じて!)

 

 

テネは頷いた。すると、カイの慌てた声が聞こえる。

 

 

「悪い! ちょっと待て! 待ってくれ!」

 

 

カイは見つけたのだ。

ひょっこりと、ネムが脱衣所に顔を出している。

理由は二つあるのだが、まずはなにやらメイが血相を変えて脱衣所の方へ入っていったものだから、純粋に気になったため。

もう一つは……、まあ詳細は伏せよう。語るほど中身はない。

よこしまな思いだ。

 

 

「ネムさん。それは!?」

 

「え? これ? あぁ、コーヒー牛乳。下の売店で売ってたの。二人の分もあるから飲む?」

 

「ネムさん。アンタ、最高のタイミングだぜ!」

 

「あら本当? だったらいいのよ。うふふふ眼福」

 

 

いや、まあ、このタイミングでやるべきことではない。

しかしそれでもカイにとっては重要だった。

カイはネムからコーヒー牛乳を受け取ると、蓋を開けて――

 

 

「腰に手を当てて!」

 

 

一輝に教えられたとおりにして、一気に飲み干した。

 

 

「どうですか?」

 

「うめェな……! 染みるぜ!」

 

「はい!」

 

 

そこでカイはインファント島に立っていた。

見ればモンスターXがテネを掴み取っていた。

手に力を込めると、テネが苦しそうに呻き声をあげる。

さらに殴られて蹴り飛ばされているバイス。

まずいな。まずいだろう。誰だってわかる。だからカイは走った。

なぜ走る? 誰かが問いかける。

 

 

「憎しみを終わらせに来た!」

 

 

光が迸り、カイの姿が一輝に変わった。

 

 

「ハァア!」

 

 

飛び蹴りがモンスターXの肩を打つ。テネは解放され、飛んで逃げていった。

 

 

「一輝ーッ!」

 

 

バイスがドライバーとバイスタンプを投げる。

一輝はそれをキャッチすると、並び立つ侵略者をにらみつけた。

 

 

「なんだ? さっきから。こっちはスマートに終わらせたいのだが……」

 

「終わるさ。ただし、オレたちの勝ちでな!」

 

 

一輝はリバイスドライバーを腰へ押し当てるとベルトが出現して腰に固定される。

体の感覚を確かめるように。指を一本一本動かしていった。

 

 

「わいてきたぜ……!」

 

 

そしてバイスタンプを突き出し、起動させた。

 

 

『レックス!』

 

「ハァー……!」

 

 

一輝はバイスタンプを口元にもっていき、印面に息を当てた。

そして一気にバイスタンプをオーインジェクターに押し当てる。

 

 

「フハハハハハハーッッ!」『カモォン↑↑』『レ・レ・レ・レックス↑↑↑』

 

 

響き渡るバイスの笑い声。

体を捻り、そしてゆっくりと両腕を伸ばして旋回させていく。

 

 

『カモォン↑↑』『レ・レ・レ・レックス↑↑↑』

 


 

んもう! 遅いぞ一輝!

めちゃヤバかった!

 

わるい わるい

でも間に合ったんだからいいだろ?

さあ、あばれてやろうぜ!

 

怪獣ちゃんたちはデカすぎてアレだったけど。

コイツらだったら敵じゃないぜ! マジで!

ぶっとばしてやるからな!

 


 

『カモォン↑↑』『レ・レ・レ・レックス↑↑↑』

 

 

繰り返される電子音。さらに後ろへ表示されていく謎のメッセージ。

X星人たちは呆れたように笑みを浮かべて様子を伺っている。

そんな中、一輝が腕を戻す。

さらに左手を大きく開いて『五』本の指を真っすぐに伸ばした状態で腕を『十』字に組んだ。

 

 

「変身!」

 

 

バイスタンプをスロットに装填し、横に倒してロールさせる。

しかしそこでガンマンが動いた。

光線銃を抜くと、エネルギー弾を発砲して一輝を狙う。

 

 

『バディー↑ アーップ↑』

 

「ッ、何!?」

 

『オーイング↑ ショーニング↑ ローリング↑ ゴォーイング!!』

 

 

バイスが飛び上がり、巨大なハンコ型のエネルギーで一輝を押しつぶした。

すると透明なハンコの中に一輝が入ることになり、そこへ光弾が命中していく。

弾丸はハンコを貫けない。そうしていると、ハンコが弾け飛んだ。

 

 

『カ・メ・ン・ラ・イ・ダー↑』

 

 

複眼が光る。

同時にバイスも恐竜のフードを装着し、着地する。

 

 

『リ・バイ! バイス! リバァーイスッ↑!』

 

 

仮面ライダーリバイ。仮面ライダーバイス。

リバイの左腕を、バイスが右手で叩く。

続けてリバイの左手と、バイスの左手がタッチ。

最後にリバイの拳をバイスが右手で受け止めた。

そこで二人の背後に一瞬、仮面ライダーの紋章・ライダークレストが光り輝いた。

 

 

「イッキにいくぜ! バイス!」

 

「オッケー! おれっち暴れまーすッ!! フハハハハハ!」

 

 

"仮面ライダーリバイス"が、変身を完了させて走り出した!

 



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第9話 Love me do

「やれやれ」

 

バイラスがため息をつくと、その体にジャミングが走る。

ホログラム映像だったのか、そこで彼は消え去った。

そこで鳴き声が聞こえた。ガイガンが鎌でモスラの羽に触れる。

しかし触れた瞬間、大量の鱗粉が纏わりついて切れ味を落とした。

おかげで羽は切断とはいかず、モスラは足からエネルギー波を出してガイガンを吹き飛ばす。

 

その下では、祭壇を飛び出したリバイスが敵ともみ合っていた。

連続して繰り出される拳と蹴り。

しかし勢いとは裏腹に、対するモンスターXはそれを全て弾き、受け止めながら後退していく。

 

 

「一輝! 後ろ!!」

 

 

パンチマンが走ってきてリバイに掴みかかった。

しかしバイスの警告のおかげでリバイは既にスタンプを持っており、それをなんとか胸に押すことに成功する。

 

 

「ウォオ!」

 

 

リバイは掴まれた状態で両足を振り上げた。

同時に脚部が巨大化。ティラノサウルスのごとく肥大化した足で大地を踏みしめると、身長が高くなったことで掴んでいたパンチマンが浮き上がる。

そこで気づいた。モンスターXが目を光らせていることに。

 

 

「させるか!」

 

 

リバイはそのまま跳ねて高速前宙。パンチマンを勢いで投げ飛ばしてモンスターXのレーザーに直撃させる。

パンチマン地面に倒れたところで巨大化した足で真横に蹴り飛ばすと、全速力でモンスターXに近づいた。

滅茶苦茶な蹴りの乱打ではあるが、とにかくサイズが雑さをカバーしてくれる。

多少のレーザー受けても強引に足をふるい、モンスターXに蹴りを叩き込んでいった。

 

 

「はーい! ようやくおれっちの活躍がはじまるよーッッ!」

 

 

バイスも炎を吐いてガンマンとソードマンをけん制する。

すぐにガンマンは隙を狙うが、バイスは持っていたハンマーで近くにあった木を叩いていた。

 

 

『レッツ! イタダキ!』『ネイチャー!』

『イタダキ!』『エレメント印!』

『オストデルクラッシュ!』

 

 

立て続けに鳴っていく電子音。ハンマーを振るうと、バイスを中心に竜巻が発生。

さらに大量の葉っぱが舞って、視界を覆い隠した。

風の音、葉っぱが擦れる音、そして、電子音。

 

 

『カモォン↑↑』『メ・ガロドォン!』

『カモォン↑↑』『メ・ガロドォン!』

 

『バディー↑ アーップ↑』

 

『潜るドンドン!ヨーイドン・ドボン!メガ・ロ・ド・ン!』

『通りすがりのハハハハンター!』

 

 

雄たけびが聞こえた。

葉っぱを切り裂いてメガロドンゲノムに変身したリバイスが飛び出してくる。

着地と同時にブレードを振るい、ソードマンと斬りあった。

リバイとソードマンの実力は互角。しかしだとしたならば『リバイス』の勝ちだ。

 

 

「ほい! ほいしょーッッ!」

 

 

剣とブレードが弾きあった時、お互いに隙が生まれる。

そこでバイスが滑り込んでリバイスラッシャーでソードマンを斬った。

 

 

「あぁ、おれっちってばなんて流れるような動きなのかしら! 文字では表現できない動きのせいで皆さんに見せられないのが残念で仕方ありません!」

 

 

ソードマンの動きが鈍る。

そこでリバイとバイスは同時に蹴りを繰り出し、ソードマンを弾き飛ばした。

 

 

「うぉぉぉお!」

 

 

手足をばたつかせながら放物線を描いて飛んでいくソードマン。

そこでバイスは、リバイの肩を叩いて踵を返した。

なにかのやり取りがあったようだ。

とにかく、バイスはソードマンを放置して残りの敵のほうへと走っていく。

 

 

「ッッ!」

 

 

立ち上がったソードマン。

前方にはリバイがいて、腰を落としている。

ソードマンも意図を理解して腰を落とした。

 

若干の沈黙。

そして両者、同時に地面を蹴って走り出した!

 

スピードは互角だ。

同時に縮まっていく距離。そして――!

 

 

「ハァアッッ!」『メガロドン! スタンピングフィニーッシュ!!』

 

「グアアアアアアアア!」

 

 

ピンク――、訂正。

マゼンタの斬撃が先に刻まれた。

ソードマンは倒れて気を失い、一方で敵の集団に向かっていくバイスはスローモーションになっていた。

 

 

「あれ? なんかヤバくね?」

 

 

モンスターXは両手を広げてエネルギーを集中している。

光を感じた。直後、バイスの足元が爆発する。

爆風で打ち上げられたバイス。向けられる銃口、さらに集まるエネルギー。世界がスローだ。あぁ、これが人間が死ぬ前に体感するという――

 

 

「やめて! 宇宙人の一斉攻撃で仮面ライダーを焼き払われたら、変身してるおれっちまで燃え尽きちゃう!」

 

 

そうは言ってもチャージはやめてくれない。

スローの世界で、再び強い光を感じた。

放たれた光線と光弾。バイスはスローの世界で手をそっと合わせる。

南無。

 

 

「お願い死なないでバイス……! アンタが今ここで倒れたら一輝や狩ちゃんとの約束はどうなっちゃの? ライフはまだ残ってる。ここを絶えれば宇宙人に勝てるんだから!」

 

 

バイスは改めて光線と光弾を睨んだ。

あれ? ガチでやばくね?

防御とかしても防げなくね? 悪魔焼きができて終わりじゃね?

 

 

「あ! ヤんベェエエ! マジで終わった! 次回バイス死す! 仮面ライダーを楽しみにしてるみんな! ごめんねぇええッ!」

 

『カマキリ!』

 

「んなーんちゃってぇー! フハハハハハ!」

 

 

バイスが急加速でリバイのもとへ引き寄せられる。

はじめから囮だったというわけだ。メイの体を使っている都合上、一体化はしないが、ゲノムチェンジはきちんと働き、バイスは大きなスタンプをリバイに向けて叩き込む。

 

 

『いざ! 無双斬り! 俺が横切り!カ~マキリィ!』

 

『俺たちオンステージ!』

 

 

ガンマンは目を見開いた。

すぐそこに光の矢がある。

素早く抜いた光線銃が矢を撃ち弾いたが、直後衝撃を感じた。

矢は二連射されていたのだ。

ガンマンの手から光線銃が弾かれた。すぐに拾いに走ったが、電子音。

銃を掴んで顔を上げると、見えた。

そこに巨大なカマキリがいた。

 

 

『スタンピングフィニーッシュ!!』

 

「うあ゛ァアアア!」

 

 

ガンマンは鎌で斬り飛ばされ、木にぶつかって地面に落ちた。

リバイスはリミックスを解除。リバイは地面を転がりながら次のバイスタンプを起動させて押印する。

 

 

『巨大なキバ持つ陸のボス! マァ~ンモス!!』

 

『ハナっからクライマックスだぜッ!!』

 

 

向かってきたパンチマンに向けてブーメランを投擲するが、剛腕で弾かれて距離を詰められた。

放たれたストレート。バイスがリバイの前に立ち、盾でそれを防御する。

すかさずリミックスを発動。巨大なマンモスとなったリバイスは、全力でパンチマンにぶつかっていった。

当然、向こうも両手を広げて巨体を受け止めるが――

 

 

「ぉ、ォォオオォオォオッ!?」

 

 

敷かれたレール。

電車の音とともにマンモスが急加速し、パンチマンが押され始めた。

無数の木々にぶつかり、破壊しながら突き進む。

終着駅は『巨岩』だ。パンチマンは踏みとどまろうとしたが、地面を滑るだけで背中から激突。白目をむいて動かなくなった。

 

しかしそこで爆発が起こる。

吹き飛ぶリバイス。見ればモンスターXが歩いていた。

彼の光線が原因だろうが、どうにも先ほどより威力が上がっている気がする。

さらに気絶しているパンチマンをも容赦なく巻き込んでおり、モンスターXはそのまま焦げ付いた彼の頭を片手で掴み、軽々と持ち上げた。

 

「ッ!」

 

リバイが唸る。

モンスターXの手が発光するとパンチマンが目を見開いて悲鳴を上げた。

迸るエネルギー。どうやら生気を吸収しているらしい。

やがてパンチマンは異形の姿へと変わる。どうやら人間の姿に擬態していたらしいが、正体は昆虫を人間にしたような異形の姿だった。

やがてパンチマンの命が尽きた時、モンスターXは干からびた死骸を投げ捨てた。

見れば、ほかのメンバーも同じことになっている。

 

 

「ひぇええ! 悪魔みたいなヤツ!」

 

「仲間だろうが! クソ!」

 

「独り占めしてずるい! おれっちにもちょっと分けてよ!」

 

「は?」

 

「……え? って、一輝! 危ない!」

 

 

吸収したということは、それだけのエネルギーを獲得したということだ。

はじめとは比べ物にならないほどの輝きの光線が放たれる。

縦横無尽に駆け回るエネルギーが次々に着弾していき、大爆発を巻き起こす。

 

「………」

 

モンスターXはジッと爆炎を睨んでいた。

炎の中に青い光が見えた。モンスターXは拳を振るう。

破片を弾いた。炎が消えうせ、吹雪とともにタマゴの殻が飛んできたのだ。

 

 

『My name is """KAMEN RIDER""" 』

 

 

辺りの木々や地面が凍結していく。

 

 

『リバ・バ・バ・バイ↑ リ↑バイ↑リバイ↑↑』

 

 

吹雪が吹き荒れる!

 

 

『リバ!』『バ!』『バ!』『バイ!』『リ!』『バイ!!!』

 

 

"バリッドレックスゲノム"。

強化形態となったリバイと、大きなシールドを持ったバイスは走り、モンスターXを目指す。

先頭を行くバイスが構えたシールドからエネルギーが展開されて、より大きくて巨大なバリアを張ることで敵の光線を遮断していく。

 

 

『リ・ボーン!』『グルグル!』『プテプテ!』『バリバリスタンプフィーバー!』

 

 

上空に現れる二体のリミックス。

それは空中を舞っていたモスラを飛び越えてガイガンたちに突進していく。

 

 

『キシィイイイ!』

 

 

ガイガンは高速回転でリミックスたちをけん制するが、その間にモスラが距離を取って触覚からレーザーを発射した。

それが直撃して爆発。ガイガンは煙を上げて後退していく。

 

一方で地上のリバイス。

バイスが全速力で走り、その後ろをリバイがついていく。

既に距離は縮まった。モンスターXが光線を止めたのを見て、バイスが右へ転がった。

後ろにいたリバイは、突き出した両手から冷気を放出。

すると瞬く間にモンスターXの体が氷で覆われる。

 

 

「ハァア!」

 

 

踏み込み、足裏を叩き込んだ。

氷が砕け、破片と共にモンスターXが転がっていく。しかしすぐに跳ね起き、向かってくるリバイと同じタイミングでフックをぶつけ合った。

腕を組合い、睨み合う。リバイは大量の冷気を放出しているが、一方でモンスターXもまたエネルギーを放出しているためまったく凍る気配はない。

モンスターXが唸る。するとリバイの体が持ち上げらた。凄まじいパワーだ。リバイが抵抗するのも許さず、モンスターXはリバイを上空に放って、身動きができなくなったところに光線を撃ち当てた。

 

 

「ぐぅぉおッ!」

 

「はいはい、今いきますよーッ!」

 

 

バイスは倒れたリバイのところに駆け寄って追撃からリバイを守る。

 

 

「おぉぉぉお、これはキツイですよーッ!」

 

 

凄まじい衝撃、バイスは必死に耐えている。

リバイはスタンプを操作。モンスターXの背後にリバイスマンモスが現れ、前足を上げて押し潰そうとする。

しかしマンモスの足が触れる前に、マンモスが吹き飛んだ。

モンスターXは、尾でリミックスを吹き飛ばしたのだ。

細長い尻尾ではあるが、かなりの威力だったらしい。

しかし注意は逸らせた。リバイは飛び、バイスが盾を上に掲げる。

 

 

「ハァッ!」

 

 

バイスが盾を突き上げる。それを味方につけてリバイが飛んだ。

オーインバスターから雹を発射して敵を狙いつつ、後ろへ着地すると銃をハンマーと合体させて剣に変形させる。

 

冷気が高まる。

剣にまとわりついた氷。できあがったのは氷柱のような槍だった。

リバイはそれを構えて走り出す。一方でモンスターXは再び尾を振るった。バイスの気配を感じたからだが、手ごたえはあれど、気配はいまだ消えない。

後ろを向いて確認をすると、盾を構えて突っ込んでくるバイスが見えた。

 

 

「ド根性ォオオオオオオ!」

 

 

エネルギーバリアを展開させた盾で繰り出すシールドバッシュ。

尾は激しく動いてバイスを何度も叩くが、ついには盾が体に触れ、そのままバイスはモンスターXを押し出してリバイのほうへと近づけていく。

 

 

「………」

 

 

まもなく氷の槍で串刺しになるところでモンスターXが浮き上がった。

なんのことはなく盾から離れ、飛んでいく。

 

 

「羽ないのに飛べんの!? ズルじゃん! ねえ一輝アイツずるしてる!!」

 

「おい! バイス! 前見ろ!」

 

「え?」

 

 

そこには槍先が。

 

 

「わーおッッ!?」

 

 

バイスは盾で氷の槍を受け止めた。

迸る冷気。氷が盾を覆い、さらに氷の槍先に繋がって連結する。

 

 

「ぬぉおおおおおおお!」

 

 

バイスが踏み込み、思い切り盾を振り回した。

つながっているリバイは必死に柄を掴み、そして――

 

 

「せいぃいいいいッ!!」

 

 

バイスが勢いをつけ、そしてリバイが柄から手を離してモンスターXの方までぶっ飛んでいく。

 

 

『バ・バ・バリ! バ・バリ! バーリバリバリ!』

 

 

飛びながら前宙。そして右足を突き出した。

 

 

『バリッドレックス!』『フィニフィニ・フィニッシュ!!』

 

 

冷気をまとった飛び蹴りがモンスターXに直撃するが――

 

 

「う――ッ!」

 

 

モンスターXは片手でリバイの足を掴まえていた。

リバイは力を込めるが、ビクともしないし、相手が凍ることはない。

そうしているとモンスターXは目を光らせる。リバイはすぐに腕をクロスして防御の構えを取った。

しかしその時、空を切るシールド。盾がフリスビーのように飛んできてモンスターXの腕に直撃した。

 

 

「!」

 

 

力が緩む。

対して、そこでリバイは全力を込めた。

 

 

「オッラァアアアアアアアアアア!」

 

「ッッ!!」

 

 

掴んでいた手から足が抜け、そのまま胸に突き刺さる。

モンスターXは凄まじいスピードで地面に叩き落された。

一方で着地を決めたリバイはバイスとハイタッチを決める。

 

 

「ナイスアシストだったぜ、バイス!」

 

「異星人だかなんだか知らないけど、悪魔よりは下だろ? フハハハハ!」

 

 

しかしそこでリバイスは息を呑んだ。

既にモンスターXが立ち上がっていたのだ。

体についた霜を払い、気だるそうにしながらリバイスを睨む。

そこで空から光が伸びてきた。モンスターXを照らすと、瞬く間にその姿が消え失せる。

 

 

「なんだ?」

 

 

それは空も同じだった。

金切声の電子音。ガイガンが光に包まれるとあっという間に消えたのだ。

これはプラスの出来事なのかマイナスの出来事なのか判断ができないでいると、再び轟音と衝撃が走る。

待機状態であって三日月型の宇宙船が再び動き出したのだ。

船の先端からレーザーを乱射して島そのものを破壊しようというのである。

 

 

「まずいな……!」

 

「任せて!」

 

 

そこでテネが浮遊してきた。

 

 

「モスラちゃん!」

 

「フュイイイ!」

 

 

モスラはテネの声を『理解』した。

大きく羽ばたくと大量の鱗粉が散布され、それが小さなモスラの分身を形作り、実体化させる。

フェアリーモスラ。小さなモスラたちは猛スピードで島中に飛び回り、触覚を光らせる。

するとフェアリーモスラを中心に巨大なバリアが形成され、降り注ぐレーザーを受け止めていった。

 

さらにモスラが鳴くと、燦々と輝く太陽から一本の光が伸びた。

それがモスラの背に当たると羽中に光が満ち満ちていく。そうやってオレンジ色に輝いた状態で大きく羽ばたいた。

すると炎の竜巻が発生し、宇宙船を包み込んだ。

 

 

「やったぁ! モスラちゃん! すごぉい!」

 

「ピュゥウ!」

 

 

モスラはテネの嬉しさに呼応して鳴いたが、そこでリバイが叫んだ。

 

 

「まだだ!」

 

 

炎の竜巻が弾け飛ぶ。

宇宙船に目立った損傷はない。すかさずレーザーが飛んできてモスラに直撃した。

爆発が起こり、モスラは煙をあげて墜落していき、インファント島を越えて海の中に落ちてしまった。

 

 

「やばくね!?」

 

「ううんっ、大丈夫! 心配ないよ!」

 

 

テネは目を閉じた。モスラに訴えているようだ。

誰が決めたか、一つのルール。

それを『人類のために使ってはならない』なんて掟があるが、今はインファント島の危機だ。

 

 

「――♪」

 

 

再び歌を口にする。

そもそもテネはその掟が嫌いだった。

なので、今、解き放つ。

 

 

「な、なに!? 今度は何さ!」

 

 

バイスは、海を突き破って巻き上がった水の柱を指さした。

やがて水が落ちていく。

宙に浮かんでいたのはモスラであるが、先ほどとは形状が違っていた。

頭部や体がシャープになっており、羽はまるでトビウオの『ヒレ』のような形状になっていた。

それだけではなく尾にも『ヒレ』のようなパーツが追加されている。

 

 

「"アクアモスラ"です! いいよ! 貴女の力を見せてあげて!」

 

 

モスラが鳴いた。

海から水が巻き上がり、モスラを包み込むように球体となる。

水の結界に守られて飛行する。レーザーが直撃しても、水の壁を突破することはできない。

それを理解してか、船から特大のエネルギー波が発射される。

水のバリアが吹き飛ぶが、モスラの加速は止まらない。

 

一方で宇宙船からは無数のカッターが発射された。

モスラの羽を切断するためだが、どうしたことか?

モスラは回避しないし、カッターもモスラを傷つけることはない。

 

モスラは液状化していた。

大量の武器がモスラの体に当たるが、バシャンと音を立ててモスラの体を通り抜けていく。

レーザーならばと思ったが、これもモスラの体をすり抜けて無効化された。

そうしていると、モスラの青い目が光る。

 

 

「キュァーン!」

 

 

液状化したのはモスラだけではない。

船も同じだった。モスラが機体にぶつかると、水に着水したかのようなエフェクトが視覚できる。

そしてモスラは宇宙船の中に消え、ほどなくして機体の一部が吹き飛んだ。

 

場所は右上、右下、左上、左下。

モスラは機内で羽からエネルギーを射出したのだ。

光の翼は、そのまま前に移動していき、機体を切り裂きながら突き進んでいく。

 

羽から光線を出して、X状のエネルギーとなって対象に突撃するモスラの必殺技・『エクス・ア・クエリア』がさく裂した。

爆発を起こしながら大破していく船を越えて、モスラはテネのもとへ戻っていく。

 

 

「ふんふん」

 

 

テネは頷いた。モスラが船で感知した生命反応は一つもなかったらしい。

つまりあの宇宙船は無人で動いていたということだ。

モンスターXやガイガンが消えたこと、何よりもX星人のリーダーであるバイラスがいなかったという点がテネは気になった。

 

 

「ッ、いけない!」

 

 

バイラスたちはどこにいるのか?

予想がつくとすれば――

 

 

 

 

「………」

 

 

男は古い村で生まれた。

 

 

「………」

 

 

母は、たまたま村を訪れた父と知り合ったらしい。

父は外国から来たらしい。自転車で日本を一周するなかで、母がいた村にやってきたようだ。

二人は勢いで肉体関係を結び、父はそのまま自転車をこいで村を出て、途中で寒くなったので自転車を捨ててタクシーで空港に行って、母国に帰っていった。

 

母の父、つまり男の祖父は、男の父のことが大嫌いだったらしい。

それはきっと父が異国の人間だったからだ。

おお、偉大なる日本軍よ万歳。鉛玉、まだ負けたとは思っていない。今も命令を待っている。鬼畜うんたらかんたら――……。

祖父は、しきりにそんなことをいいながらヘルメットを磨いていたそうだ。

 

そこまで嫌っている男の子供が腹の中にいるだなんて、母は口が裂けても言えなかった。

バレれば銃剣で刺殺される。そう思った母は妊娠を隠した。

幸い祖父は目が悪かったので、母のおなかが大きくなっていることに気づかなかった。

 

そして母はトイレで男を出産した。

母は、村の外れにある池に男を持って行った。

そこは池というにはあまりにも汚れた場所だった。

死んだ水の中にゴミや汚水を放り込むだけの場所だ。凄まじい悪臭に絶え、母は男をそこに投げて帰っていった。

 

男は沈んでいく。

しかしそのスピードは遅い。池は大量のゴミと汚物のせいで、とても粘度があった。

男は泣いた。

窒息が先か、それともこの水が齎すものが男を殺すのが先か。

男は泣いた。

そこで男がとまった。

男は沈まなかった。

あまりにも粘度が高かったためか、赤ん坊の体重では沈みきらなかったのか。それとも、他の理由があったのか。

 

いずれにせよ男はまだ呼吸をしていた。

そんな男を引き上げた手があった。

男の母は、妊娠を隠していたが、唯一それに気づいたものがいた。

それは母の母、つまり男の祖母だった。

祖母は男を連れ、無免許で車を飛ばした。

そして教会にやってくると、扉の前に男を置いて、家に帰った。

 

 

●●年後、その村の池が問題視された。

 

 

数多くの廃棄物に加えて、とある業者が工業汚水や抱えきれなくなった危険な薬品を流し捨てていたらしい。

そのずさんな行動のせいで多くの有害な物質が発生し、それが村にまで届いて、そこに住んでいたものは一人残らず難病を患い、二年ほどで死んでいった。村の人間は病院で天罰が下されたのだとしきりに呟き、恐怖していた。

 

後でわかったことだが、村の近くの山奥にはいくつもの白骨死体が埋まっていた。

それが何なのかを説明すると果てしなく脱線してしまうため、ここに記載することはないが、村人は自分たちが死んだ理由を有毒物質ではなく神の裁きだと信じた。

 

 

「水銀、鉛、シアン、クロム……」

 

 

現在、白夜教団。

ネオは椅子に座り目を閉じていた。

あの時の自分を、ネオはハッキリと覚えている。

正確にはネオではなく『彼』が覚えていた。

カイザーであるネオは、それを感じただけにしか過ぎない。

 

 

「………」

 

 

神託だ。オラクルだ。ネオは改めて思う。

ゴジラは世界を壊す中でいろいろなものを残す。

破壊の爪痕、大量の放射能。

消えないケロイド。

 

人々はゴジラを恐れ、そして祀るだろう。

なぜならばゴジラは神だからだ。

神話において神々は人を殺し、そして人を救い、人に残す。

そのメッセージを人々は心に刻み、解釈する。

 

ネオは今日も家の鍵が締まっているか6回確認した。

家を出るときは右足から出ないと裁きが下されるからだ。

 

 

「なのに偉大なるアースパワー? インファント島の奇跡? モスラとラブラブっておい! おいおいおい……ッ!」

 

 

おいおいおいおいおい!

 

 

「そりゃあねぇえだろうがァ! クソが! 吐きそうだ!」

 

 

ネオはのけぞり、天井に向かって叫んだ。

ゴジラの生き残りがいたと知った時、ネオは激しく興奮した。しかしすぐに気持ちはどん底にたたき起こされた。

てっきり、人類への復讐者にでもなってくれると思ったら、離島でのんびりスローライフなんざおくってくれてやがったのだ。

解釈違いなんてレベルではない。その失望感が理解できるだろうか?

 

 

「ゴジラは放射能怪獣でなければならない! 人々の愚かさに呼応し現れる。今までだってアイツが核を教え、人々に戦争の恐怖を教え、原子爆弾の愚かさを説く!」

 

 

信者が言っていた。先日見に行った戦争映画で泣いた。ブルーレイを買ったそうだ。

戦争を繰り返してはいけませんねと真面目な顔で言っていた。

 

 

「結構! 俺様もそう思う!」

 

 

それを世界中に教えるゴジラ先生が、核を克服しているだなんて冗談もいいところだ。

少なくとも今のゴジラが教えられる教訓はない。

子供たちが楽しむような内容。いや、それ以下の子供だまし怪獣なんて誰に何が伝えられるという?

子供を笑顔にするのは後々の人間の役目であって、殺してくれなきゃ嫌なんだ。

いや殺すなんて言葉すらおこがましい。ただ大手を振ってノシノシと文明の上を歩いてくれるだけでいい。

ゴジラ様! 頼む! 頼むから誰か被ばくさせてくれ!

え? 無理? おいおいおい! おいおいおいおいおいッッ!!

 

 

「メッセージ性が無いなら、ただのでかいゴミだ!」

 

 

ネオは椅子の手すりを殴った。

それと同時にネオの背後、大きな窓に映る一つの巨大な『目』。

 

 

「掃除しろ、ヘドラ!!」

 

 

神代坂。

地中を突き破り、コンクリートを吹き飛ばして公害怪獣ヘドラが現れた。

 

 

「ブロロロ……! ギョロロロロロロ!」

 

 

遠目に見れば大量の海藻を纏っているような姿だ。

突如として現れた異形の怪獣に人々は悲鳴を上げて逃げ始める。

公害怪獣"ヘドラ"は、ゆっくりと辺りを見回していた。

やがて、まだゴジラの爪痕が残るところに赤い怪光線・ヘドリューム光線を当てて爆発させる。

 

さらにそこへ新たな異形が現れた。

数は二つ。轟々と燃え盛る炎の塊、ファイヤードラゴンである。

それは怪獣ではなくX星人が知り合いの宇宙人から譲り受けた兵器であった。

二つの火の玉は、不規則な動きでバラバラに飛び回り建物を破壊していく。

 

次々と降り注いでいく瓦礫。

アンタレスをはじめとして警察や消防の人間は、大声をあげて人々の避難を促した。

こんな時のためにと作った地下への避難道があった。次々と人々は地面の下に潜って瓦礫や爆発、光線から身を守る。

 

 

「オオオオオオ!」

 

 

乗り捨てられた車を吹き飛ばしながらランドマンが加速する。

ミサイルやレーザーを発射して、飛び回るファイヤードラゴンを撃墜しようと試みる。

それは空に浮かぶゴウテンも同じだった。

ドリルの先からレーザーを出してファイヤードラゴンに攻撃を仕掛ける。

 

 

『ULTRAMAN・TRIGGER! MULTI-TYPE!!』

 

 

地響き。 着地したトリガーは構え、ヘドラを睨んだ。

 

 

「ハァッ!」

 

「グロロロロ……!」

 

 

ヘドリューム光線が発射される。

トリガーは両手を広げてバリアを張ることで、それを防いだ。

さらにバリアを消すと、すかさずハンドスラッシュを撃ち、ヘドラに当てた。

 

 

「ッ!?」

 

 

光弾はヘドラの体に沈むようにして消えていった。

もう一度トリガーはハンドスラッシュを撃ってみるが結果は同じだった。

 

 

「ガララララ!」

 

 

ヘドリューム光線が飛んでくる。

トリガーは右へ移動し、回避。

光線の軌道も右へ移動していくが、トリガーはそこで左に跳んで回避。そのまま前に転がって一気に距離を詰めた。

 

 

「ハァ!」

 

 

立ち上がり蹴りを一発、さらに拳を当てた。

硬いゴムを殴っている感触だったが、ヘドラの動きが一瞬止まった気がしてトリガーは一気にラッシュを仕掛けた。

連続で殴る。しかし殴るたびにバチュンバチュンと音がして、よりヘドラの体が硬くなっていくような感触だった。

重い一撃を与えなければ。

トリガーはそう思って地面を踏み込み、思い切り右腕を突き出した。

 

「!!」

 

硬い感触があると思っていた。

しかしトリガーの拳は一切の抵抗感をかんじず、ズボッという音と共にヘドラの体内に侵入した。

胸部とでもいえばいいのだろうか? 肘まで埋まった腕。

そこでトリガーは苦痛に叫んだ。

 

 

「グアァアアアア!」

 

 

ジュゥウゥウっと、音がする。

トリガーは右腕に激痛を感じた。

何かが起こっている。トリガーは左腕でヘドラを抑えようとしたが、ここでもまた腕が沈めば終わりだ。

冷静に考え、トリガーは左手から光弾を発射してヘドラの目を狙った。

ヘドラが体を震わせた。そこでトリガーは飛行して後ろに下がる。

腕が抜け、トリガーは安心感からか体幹がブレる。墜落するように地面に膝をついた。

 

 

「ぐぉおオ……!」

 

 

トリガーは右腕を見る。

白い煙があがっていたが、これは間違いなく酸だ。

ヘドラが叫ぶ。すると次々と頭部からヘドロが噴射されていき、辺りに散らばっていく。トリガーはゾッとして、すぐに辺りを探った。

 

 

時を同じくして雀荘『朱雀』ではサラリーマン・マサキチが汗を浮かべていた。

今日は仕事が早く終わったので、同じ職場のマメと、プリン課長と沼尻さんと帰り道に行こうかと入ったはいいが、マサキチはポケモンドンジャラしかしたことがなかった。

確かに最近、ブイチューバーがやっている麻雀アプリのアーカイブは狂ったように見ているが、だとしてもルールなんて覚えてない。

これで負けたヤツが焼き肉の会計を一身に背負うことになっている。負けるわけにはいかないが、どう考えても分が悪い。

 

 

「しかしなんだか今日は外が騒がしくないですか?」

 

「いやだねマサキチくん。そんなことを言って、キミ、さては勝ち目がないんだな」

 

「で、でもなんだか悲鳴のような、地響きもしますし」

 

「結構じゃないですか。人間ね、ちょっと不健康なくらいがちょうどいいんですよ。お酒飲んだりね、タバコしたりね。地球も同じで少しくらい――」

 

 

その時、窓ガラスが割れた。

巨大な泥の塊が雀荘に突っ込んできた。

 

 

「ぎゃぁあぁあああ!」

 

 

男たちは泥に埋もれて死ぬ。

筈――、だったが、マサキチたちは生きていた。

光のシールドが張られていたのだ。

 

 

「フアッ!」

 

 

トリガーは雀荘に手を突っ込んでボール状のバリアに入れた雀荘の客たちを取り出すと、ボールを飛ばして避難させる。

 

 

「グッッ!」

 

 

トリガーが再び苦痛の声をあげる。

市民を守れたのはいいが、当然それが大きな隙となってしまう。

ヘドラが連射した爆発性の泥団子が次々と背中にぶつかり、さらには左腕の先端にある触手が伸びて、トリガーの首に巻き付いた。

トリガーは触手を掴むが、ギリギリと締め付ける力は強まり、ヘドラのほうへと引き寄せられていく。そこでトリガーは触手から腕を離して、額の前で腕を組んだ。

 

 

「ぐッ! がぁッ! 勝利を掴む――ッ、剛力の光……ッ!!」『ULTRAMAN・TRIGGER! POWER-TYPE!!!』

 

 

トリガーがビタリととまった。

ヘドラはより力を込めて引っ張るが、トリガーは踏みとどまっている。

さらに触手を掴んで首から引きはがすと、思い切り振り回した。

ヘドラの巨体が浮き上がり、トリガーが手を離すと投げ飛ばされて地面に倒れた。

衝撃で周囲の車や自転車が浮き上がり、セキュリティアラームが鳴り響く。

トリガーは両手を左右に広げて上に振るいあげることでエネルギーを集中させる。そして胸の前に球体状にしたエネルギーを持ってくると、そのまま振りかぶって放った。

デラシウム光流がヘドラに直撃し、爆発する。

 

 

(やった!)

 

 

ケンゴは笑みを浮かべるが――

 

 

「……ッ」

 

 

煙が、晴れてきた。

 

 

「ッ!?」

 

 

ヘドラが四つ這いになっていた。

形態が微妙に変わっている。

体が四足歩行に適応したフォルムになっていたのだ。

 

 

「ガロロロロロロ!」

 

 

ヘドラが飛び掛かった。

前足と後ろ足で地面を蹴り、一気にトリガーのほうへと飛び掛かる。

 

 

「うッ! ゴォォオオ!」

 

 

トリガーは受け止めようと手を広げた。

そして胸に当たるヘドラの頭部。先ほどの力比べでは勝利したが、今度はそうではなかった。

トリガーの体が後ろの方へと移動し、ついには頭から倒れる。

そこにあったのはマンションだ。トリガーは最上階から一階までを全て破壊して崩壊させていき、瓦礫と共に倒れた。

 

 

「グロロロロロ!」

 

 

光が迸った。

再びヘドラの形態が変わる。

手足がなくなり、ヒラメのようなフォルムになる。

飛行形態。ヘドラは飛び立ち、トリガーから離れていく。

 

 

「ッ、天空を駆ける、高速の光――!」『ULTRAMAN・TRIGGER SKY-TYPE――!』

 

 

青色の閃光があっという間にヘドラに追いついた。

しかしそこで再びトリガーは苦しみだし、制御を失って地面に墜落する。

ヘドラは硫酸をミスト状に噴射しながら飛んでいるのだ。

トリガーはサークルアームズを振るい、吹雪をまき散らした。

冷たい暴風がミストを吹き飛ばし、トリガーはそのまま光の矢でヘドラを射抜く。

 

 

「………」

 

 

ネオは白いマントを羽織り、ビルの屋上からヘドラを見ていた。

風がマントを揺らす。

ネオはニヤリと笑っていた。

 

 

「全て、人間から始めたことだ」

 

「……ッッ!?」

 

「罪に溺れろ。光の巨人」

 

 

トリガーは見た。

矢で射抜かれたヘドラが形を失ったのを。

形容しがたいドロドロなものとなり、墜落する。

その中でシルエットが形成されていた。それは着地と共に完成を迎える。

 

 

「ゴゴゴォォオロロロロロロォオ!」

 

 

ヘドラ・シーリザー。

そのシルエットはゴジラのようなベーシックな怪獣を彷彿とさせる。

しかしやはり肌はヘドロ状になっており、肉とも形容しがたい赤い繊維状のものが見え隠れしており、まるで怪獣のゾンビのようだ。

明らかに異様な形態である。

 

 

「こうなったら……ッ!」

 

 

ケンゴは金色のハイパーキーに触れた。

しかしそこで目を見開く。ヘドラとトリガーの間、右側にあるビルの中に、避難に遅れた人々がいるのが見えたのだ。

 

 

「グッ!」

 

 

トリガーは矢を連射しヘドラに命中させると、一気に走り、ビルのもとへ向かう。

手をかざすと人々がボール状のバリアの中に入れられて、トリガーはそれを掴み取った。

ヘドラが口の中に闇のエネルギーを収束させるのは見たが、それでも優先させるべきは一つだ。

 

素早く辺りを探ると、地下の避難通路につながるトンネルを見つけたので、そこへボールを放る。

ボールは空中を浮遊して地下通路の中に入っていった。

トリガーはそこでやっと振り返ったが、遅かった。

 

 

「ゴォルルルルルルル!!」

 

 

ブシュウウウウウッと音がして、ヘドラの口から真っ黒なガスが噴射された。

ムルロア・ガス。トリガーの全身を包み込み、悲鳴も真っ暗な闇の中に沈めていく。

 

 

「ぐあぁあぁあああ!!」

 

 

光の精神空間にまで黒いガスが充満してきた。

ケンゴの視界が真っ暗になり、感覚さえも消えうせる。

腕の感覚がないからハイパーキーに手を伸ばせない。そうしていると意識さえも真っ暗な闇の中に消えていった。

 

 

「………」

 

 

トリガーは棒立ちだった。

そしてそのままゆっくりとビルを巻き込みながら倒れていく。

完全に意識はない。トリガーは光の粒子となり、消え去った。

ケンゴは瓦礫の上で木を失っている。

 

 

「ゴロロロロロロ! ゲルルルルルルルァ!」

 

 

そして尚もヘドラはガスを放っていた。

口だけじゃない。腕、体、足からもガスは噴き出していき、ガスは空に昇り、雲を黒色に染めて辺りを『夜』に変えた。太陽は白くなり、月のようになる。

光の力をエネルギーとするものには、この闇の力はあまりにも猛毒だったのだ。

 

 

「ケンゴくん!」

 

 

鷹診はゴウテンからそれを見ていた。

既にファイヤードラゴンは破壊してある。

不規則な動きで飛び回るターゲットではあったが、鷹診はルートを読んでゴウテンを加速させた。

ドリルを回転させ猛スピードで突っ込んでいくと、回転する刃が相手の機体を完全に捉え、貫き、爆発させた。

 

 

「ッ、あかん! なんやこれ! 鷹診はん!」

 

 

それは那須川も同じだった。

ミサイルを直撃させて怯ませていき、動きが鈍ったところにアームを移動させてレーザーを発射、ファイヤードラゴンを爆散させる。

しかしそこで二人は気づいた。

トリガーにもいえたことだが、気づけばクリスタルタワーから引きはがされていたのだ。

それを証明するかのようにクリスタルタワー上部に巨大な球体状の宇宙船が現れる。

 

 

「下等生物にしては面白い兵器を作ったものであるが……」

 

 

入念なテスト。

クリスタルタワーに接触しようとしたら、いつ護衛が来るか?

あるいはモスラやウルトラマンをはじめとした邪魔者が現れのか。

もしくは、集合した場合、『充電』がどれだけ持つのかを。

 

 

「X星人の科学力を前にしてみれば、ただの玩具よ」

 

 

宇宙船から黒い霧が噴射された。

それはクリスタルタワーの近くで、徐々に一か所に集まっていく。

 

 

「……!」

 

 

スターファルコンが駆けつける。

カイは見た。霧や煙の類ではない。それはX星人の兵器の一つ、『ナノロボット』だ。

テネにつけたのもそれである。兆を超えているのではないだろうかと思われるほど大量の超小型機械が放たれ、それが一か所に集まっていく。

 

カイはスイミーという物語を思い出した。

小さな魚が集まって大きな魚となることで天敵を凌駕するという話だ。

一人一人の力がちっぽけでも、力を合わせることで活路が切り開くというメッセージ。

それと同じだったのだ。無数のナノロボットが連結し、質感をゴツゴツとした岩のようなものへ再現を行い、さらにヒレや爪などそれぞれのパーツの構成に入る。

 

あっという間だった。『合体』が完了したのは。

 

 

「ゴジラ……ッ!」

 

 

カイが呟いた。

間違いない。それは両親を殺し、神代坂を襲った超兵器、"メカゴジラ"だったのである。

 

 

「ゴオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 

口の中に生成されたスピーカーから咆哮が再生される。

これははじまりでしかない。

メカゴジラは歩き、クリスタルタワーを抱きしめるように掴んだ。

そこで腕が消えた。ナノマシンが分離したのだ。

 

腕だけじゃない。体が沈むように、クリスタルタワーに交わっていく。

異様な光景だ。ゴジラの体の中央にクリスタルタワーがある形になっている。

現在、クリスタルタワー内部に大量のナノマシンが送られているのだ。

各セキュリティーも、とある理由で解除済みである。

 

そして、ナノマシンはたどり着いた。

クリスタルタワーの下部が崩壊していく。

極星があり、発電機構の主を担っている部分がメカゴジラに取り込まれ、そして肉体の変化が齎された。

 

 

「ゴォォォオオオ!」

 

 

頭部に、まるで王冠のようにきらめく再現されたクリスタル。

さらに両肩を突き破った巨大なクリスタルタワーの一部。

ナノマシンの最大の弱点は、充電式であるという点だ。

連結合体となるメカゴジラは強力だが、あまりにも消費エネルギーが大きい。

ましてや分離して粒子状となって高速移動をして合体を繰り返したり、レーザでも発射しようものならば、すぐにナノマシンたちは活動を停止してしまうのだ。

 

だが極星、およびクリスタルタワーが体内にあれば、そこから電力が供給されて各ナノマシンが瞬時に充電されていくのだ。

それだけではなく炉としての役割もあるため、ナノマシンの性能も上昇している。

捉えたと思っても消え、そして瞬時に現れ、どこに逃げても追いかける。

 

 

「これが究極の兵器、『空間の支配者(スペースゴジラ)なのだ』」

 

 

 



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第10話 Last battle 『対 ゴジラ』

 

ここはどこだ?

 

過去だ。

 

過去か。メイはぼんやりとした思考を巡らせる。

 

なぜ過去に?

確か、戦いが終わってアンタレス本部に戻ったはずだ。

しかしここは別の場所だ。どうしてだろう? メイは『そこ』にいる人に聞こうと思ったが、僅かな躊躇いがあった。

 

あなたは誰なんですか?

そう聞いたが、ぼんやりとした実体のないシルエットは答えなかった。

もしかしたら悪魔であるバイスを憑依させて変身してもらったことで自らの中に眠るそういった存在が浮き彫りになったのかもしれない。

あるいはそれに近い存在。インファント島という場所を考えれば、ない話でもない。それは名前をつけるとすれば天使とでもいえばいいか。地球の使いだ。

 

また別の可能性があるとすれば、カイザーとしての能力。

テネはカイザーにも意思疎通が取れる対象の差があると言った。(ここでは知る由もないが、ネオがヘドラと心を通わせてるように)

それで言えばメイが最も声を聴くことができる存在はゴジラなのだろう。

そうだ。だからゴジラの過去が見えるのだ。

 

 

「よし! いくよ! リトゴジちゃん! リトモスちゃん!」

 

「ぎゃお!」

「ぴゅぃ!」

 

 

テネはリトルゴジラとリトルモスラを連れて地下トンネルに入っていこうとした。

これから大冒険が始まるのだ。地下世界に行けば食べ物もあるらしいが、それまでどれだけかかるかも怪しいのでたっぷりお魚を食べておいた。

意気込んで入口の洞窟に足を踏み入れようとすると、そこで何かが飛び出してきた。

 

それがラドンだった。

ゴジラたちのように小さかったので、リトルラドンである。

かつて地球に隕石が落ちて、氷河期が始まり、恐竜は絶滅した。

しかしゴジラサウルスのように一部の恐竜たちは地下通路に逃げて独自の進化を遂げた。

 

ラドンもそのうちの一体だった。

地下世界に逃げたプテラノドンが進化した姿である。

ラドンはゴジラを探していた。

ゴジラを見つけると、すぐに飛びついて突っつきはじめた。

三十秒後、モスラの糸でグルグル巻きにされたラドンが地面に転がっていた。

なんてことをするの! テネは思ったが、ラドンは嘲笑のような感情を向けていた。

 

所詮ゴジラなどその程度なのだ。

メス芋虫に守ってもらうような腰抜けなのだ。誇りはないのだ。そんなチクチクとした念を込めて鳴いていた。

ゴジラは怖かったのでテネの後ろに隠れて目を赤くした。なぜだかわからないが、ラドンはゴジラを恨んでいた。

しかし覚えはない。

テネが事情を聴くと、どうやら原因はゴジラがメイを守った時のことだそうだ。

 

あの時、メイを襲ったスカルクローラーはラドンが追っていたものだったらしい。

というのも、スカルクローラーの群れがラドンたちのタマゴを狙って巣を襲撃したのである。

ラドンたちは戦ったが、陸上での戦闘能力は向こうのほうが上だった。

結果として多くのタマゴが犠牲になった。

なによりもタマゴを守るために小さな体で戦ったラドンの弟が引き際を見極めきれずに犠牲になったのだった。

ラドンはタマゴが犠牲になったのはラドンたちが弱いことが原因であり、弱肉強食が自然の摂理であることも理解していた。

しかしそれはそれとして、弟を食ったスカルクローラーを許すことはできなかった。

だからその個体が群れと離れたところを狙って、襲い掛かったのだ。

 

絶好のタイミングだったが、地下トンネルに逃げ込まれ、追っている途中で見失ってしまった。

その間に、インファント島に出たスカルクローラーがメイに襲い掛かったのである。

ゴジラはスカルクローラーを撃退したが、トドメを刺していなかった。

だからビーナスたちは気絶したスカルクローラーを再び地下世界へと帰したのだ。どうにもラドンはそれが気に入らないようだった。

 

 

「それはこの島の掟だから!」

 

 

むやみに命を奪ってはいけない。

インファントの教えをゴジラにもモスラにも伝えてある。それを守っただけだ。

しかしラドンは納得ができなかった。できなかったが、負けたことは理解できる。

負ければ死ぬのが摂理だ。ラドンはそれを受け入れるつもりだった。

しかしゴジラはラドンを縛る糸を千切った。

ラドンは怒った。

なぜだ? そうだ。なぜだ!?

腹が立つ。そうだ。腹が立つ!!

ゴジラはテネが怒っていても、ぐっすり眠れば次の日には笑顔になっていることを思い出した。

眠るといいとラドンに伝えると、ラドンはわかった寝ると言って洞窟に入っていった。

 

翌日、ラドンがやってきた。

どうしても納得がいかない。スカルクローラーを殺さず、気絶させただけのゴジラに腹がって仕方ない。

俺と戦えと言った。ゴジラを倒すことがラドンにとって何かケジメをつけることだったらしい。

ゴジラとラドンは戦った。

ゴジラが勝った。

ラドンは殺せと言ったが、ゴジラはそこで魚とフルーツを持ってきた。

ゴジラはテネもよく怒っているのを思い出した。でも彼女は甘いフルーツを食べるとニコニコと笑顔になる。モスラもおいしい木を食べると嬉しくなるし、ゴジラもおいしいお魚をたらふく食べるのは好きだった。

ラドンは飯を平らげると帰っていった。

 

翌日ラドンがやってきた。

ゴジラに負けたのが悔しいのでリベンジをしに来たらしい。

戦った。ゴジラが勝った。

ゴジラは丘の上にラドンを連れて行った。ゴジラにはよくわからないが、テネはきれいな景色を見るのが好きらしい。メイも同じことを言っていた気がする。

ラドンはよくわからないと言った。しかし海は広くて青いとゴジラが言った。

ラドンはそうだと言って帰っていった。

 

翌日、ラドンが――

ゴジラが勝った。もう来ないでほしいというと、ラドンは『では一週間か二週間に一度にする』と言って帰っていった。

ゴジラは口を拭っていた。熱線を放つと口の中が熱いらしく、口を拭うことで冷ましているのだ。効果があるのかどうかはわからないが。

それを続けている内に癖になったようで、たまに何もない時でもそんな仕草をしていた。

 

やがて、テネたちは再び洞窟の中に入っていった。

今度はより深いところまで行った。

巨大生物たちの妨害もあったが、ゴジラとモスラは助け合ってそれらを撃退して進んでいった。

 

そこでゴジラはアンギラスと出会った。

 

地下世界に逃げ込んだアンキロサウルスが独自の進化を遂げた種であった。

ゴジラやラドンと同じくらいの年齢であるリトルアンギラス。テネは一瞬身構えたが、すぐにホッと胸をなでおろした。アンギラスからは一切の敵意を感じなかった。もともと大人しい性格のようだ。

彼は口に魚を咥えており、背中の棘にも死んだ魚をいくつか刺していた。

ゴジラは小腹が空いていたので、お魚が食べたくなった。

一つ分けてくれないかと吠えると、アンギラスは申し訳ないがそれはできないと断った。

 

その時、テネは悲しみや焦燥の念を感じた。

少し気になって、ゴジラたちに相談してみると、行ってみようとゴジラとモスラは意見を揃えた。

テネたちはアンギラスについていった。

すると地下通路の外れに行き止まりになっている空間があった。

テネは顔を顰めた。悪臭がした。それは腐った魚が原因だった。

それだけではない、もっと大きな何かが悪くなっている。

アンギラスは持ってきた魚を置いた。

地下通路には光を放つ鉱石がいくつもあって、明かりには困らないのだが、そこには何もなかった。

なのでモスラに発光性の糸を出してもらう。

そこでテネは見た。腐りかけている大きなアンギラスの姿を。

 

 

「……!」

 

 

テネは口を覆った。

アンギラスは悲しそうに鳴いた。

早く良くなってほしいとの気持ちを感じた。アンギラスの父親だった。

 

 

「ぴやぁぁん!」

 

 

アンギラスはご飯をたくさん食べれば治る筈だと思っていた。

事実、前に彼が怪我をした時は父がご飯を持ってきてくれて、それを食べて休めば治ったからだ。

だから今度は自分が父のためにご飯を持って来たのだと。

父は眠っているから食べてくれないが、起きた時にお腹が空いているのは可哀想なので、たくさん運んでいるのだと。

 

 

「……っ」

 

 

テネはボロボロと泣きはじめた。

その気持ちが伝染し、モスラも悲しそうに鳴き始める。

アンギラスはまだ死という概念を理解していなかった。小さなアンギラスは大きなアンギラスの傷がよくなるように、ペロペロと舐めていた。

 

 

「ぎゃお! あおぉん」

 

 

ゴジラが鳴いた。

ゴジラは死を理解していた。

悲しいが、もう動くことはない。それを伝えるとアンギラスは弱弱しく鳴いた。

それは嫌だ。そういう意味だった。

嫌だ。もう一度鳴いた。

ゴジラは困ってテネを見た。しかしテネもどうしていいかわからない。

そうしているとアンギラスがフラフラとへたり込み、苦しそうに舌を出した。

はじめは悲しみからくるものだと思ったが、どうやらそうではないようだった。

というのも、アンギラスには傷があったのだが、そこからよくないものを感じた。

 

生命力が弱まっていくような感覚。テネには覚えがあった

祖母が言っていた。これは『毒』を抱えたものに起きる現象だ。

アンギラスは地下世界から食料を探していたのだが、その途中、怪魚の毒針を受けてしまったらしい。

成体であれば硬い皮膚が防いだだろうが、子供のアンギラスでは毒針のほうが勝ったのだ。

 

非常に危険だった。このまま放置しておけば確実に死に至るだろう。

とはいえ今のテネやモスラでは、毒の進みを少し遅らせるくらいしかできない。

するとゴジラが力強く吠えた。ふとした時に、メイの精神とリンクするときがある。彼の意思が流れ込んでくるときがある。

メイはよく横断歩道を渡るのに困っている老人の手を取って共に歩いた。

自分とそう変わらない年齢の迷子の両親を一緒に探し回った。

 

手を差し伸べる。共に行く。

それが正しいと思っているようだ。ゴジラにはよくわからないが、それが正しいのだ。きっと。

テネもよくそんなことを言っている。

そして同じような気持ちを抱けば、モスラは喜んでくれた。

モスラの心から温かいものがあふれて、それがゴジラにも伝わって心地がよかった。

だからモスラの糸をネットにして、アンギラスを包むと、ゴジラはそれを引っ張ってインファント島に戻っていく。

 

 

「……ぎゅぅう」

 

 

だが、しかし、半分ほど戻ったところでゴジラは動かなくなった。

アンギラスはゴジラとほとんど同じ大きさだった。さらに弱って、全身の力が抜けた状態のために、引っ張っていくのはかなり苦労する。

ゴジラはもう腕に力が入らなかった。

モスラも糸を伸ばして引っ張ろうとするが、あまり効果はなかった。

そもそもモスラが引っ張るとなると、糸を付着させた状態でバックする形になるためスピードが遅い。

これでは毒が回って、アンギラスが死んでしまう。

 

どうしよう。

テネも糸を掴んで必死に引っ張ったが、なんの加勢にもならない。

どうしよう。どうしよう。焦る。怯える。

ゴジラは苦しそうに唸り、糸を引くがどうにもならない。

目が赤くなった時だった。

へなちょこ共め。そんな意味だろう声が聞こえた。

 

 

「ぴゅぉ! おぉお!」

 

 

ラドンが飛んできて糸を掴むと、そのままアンギラスを持ち上げて飛んでいった。

テネたちはお礼を行って追いかけた。

だが距離はまだまだある。ラドンもどうやら無理をしていたらしい。

場所は洞窟だ。天井もボコボコで一部はツララ石まである。それを避けながらではストレスも疲労も溜まっていく。

さらにそれだけではなく糸の方が限界を迎えて、ブチリと切れてしまった。

アンギラスは既に気を失っており地面に落ちてもピクリともしない。

 

モスラはすぐにまた網を作ろうと思ったが、彼女も既に疲労からかエネルギー切れで網を構成するだけの糸を生み出すことができなかった。

そもそも糸が切れたのはこれが初めてではなかった。幼体とはいえアンギラスの背中の棘は既に立派なものであり、そこに糸が引っかかったり擦れると大きなダメージが入るのだ。

ゴジラはすぐにアンギラスの頭を掴んで後ろに引っ張ることで連れて帰ろうとした。モスラもゴジラの尻尾を噛むと後ろに下がって一緒に手伝う。

しかしズリズリと引きずれるのはいいが、こんなスピードではアンギラスの体がもたないのは明白だった。

するとラドンが鳴いた。

イライラするぜと叫んだのだ。

 

 

「あッ!」

 

 

テネは思わず声を上げる。

というのも、ラドンが爪を光らせてアンギラスの背中に爪を叩き込んだのだ。

鱗甲板はまだ脆く、ラドンの爪が深く背中に入った。

そしてラドンは叫び、強引にアンギラスを持ち上げて宙に浮かび上がった。

しかし糸を介していないせいで、アンギラスの針がラドンの足に突き刺さっている。

ラドンの足からは当然、出血が見られた。

 

 

「危険だからやめて!」

 

 

テネはそう言ったが、ラドンは無視をした。

どうしてかと聞くと、たった一言、『誇り』だと返ってきた。

どうやらここでアンギラスを捨てていくのはラドンのプライドが許さないらしい。

 

確かに、これしか方法はないのかもしれない。

するとゴジラがアンギラスの下に回り込み、大きな頭にアンギラスの腹を乗せて、垂れた足を手で掴んだ。

これでラドンの負担も軽減される。さらにモスラはゴジラの尻尾を噛み、栄養素を注入した。

ファイト一発である。ゴジラは最後の力を振り絞ってモスラをブラさげたままドタドタと全速力で走り出した。

ラドンも必死に羽ばたいてゴジラの負担を軽減した。

 

目の前につらら石が見える。

構うな! 走れとラドンが吠える。

ゴジラは言われた通り減速をせずに直進した。

ラドンは頭突きで岩を破壊してみせた。

大丈夫? テネが聴くとラドンは当たり前だと吠えたが、痛そうにしていた。

鳥頭になったら殺してやるからな。ラドンはそんな意味にもとれるメッセージを発信していた。

 

やがてゴジラたちは無事に洞窟の外に出た。

テネが必死に訴えると、島長はアンギラスに命の水を与えてくれた。

しばらくするとアンギラスは目を覚まし、元気な体で辺りを見回していた。

ゴジラとモスラとテネがいた。ラドンはさっさと帰ってしまったらしい。アンギラスはテネから事情を聴いて、深い感謝の念を示した。

しかし同時に、『生きた』ということを理解して、悲しそうに鳴いた。

 

テネがどうしていいか悩んでいると、ゴジラが魚を差し出した。

とてもうまそうなマグロだった。ゴジラは火を入れたほうが好きだったので、熱線でマグロを焼いた。

アンギラスはお礼を言ってそれを食べた。食料は全て父に与えていたため、アンギラスはほとんど何も食べていなかった。お腹がペコペコだった。

アンギラスはマグロ食べた。ガツガツガツ食べていた。

ゴジラはおかわりを持ってきた。

アンギラスはありがたく追加のマグロを美味しく頂いた。

悲しいが、美味しいので、アンギラスはマグロをガツガツ食べた。

 

あまり食べすぎるとダメになるらしいので、それは忠告してあげた。

何がどうダメになるかはわからないが、マグロばかり食べていてはダメらしい。

 

その二日後だった。

再び地下世界へ赴こうとしていたテネたちの前にキングシーサーが現れたのは。

日本の――、正確には沖縄の守護怪獣だった彼は、まずテネたちにメイを救ってくれたことのお礼を告げた。

 

なにやらキングシーサーはメイたち家族のことを知っていたらしい。

旅行会社として沖縄の海を綺麗にする清掃活動に参加していたようだ。キングシーサーは、海を汚すのは人だが、海を綺麗にするのもまた人間なのだと教えてくれた。

だがしかしなにも、たった一人の日本人を守ったからと言ってキングシーサーがわざわざ出向いたわけではなかった。

 

どうやら彼は初代キングシーサーの息子らしい。今の正式名称はヤングシーサー。

先代キングいわく、ゴジラとは人間が受けるべき制裁だと言っていたらしい。

環境を破壊した人間が作り上げた文明の破壊者こそがゴジラであり、ある程度の犠牲はやむなしと。

 

そのゴジラに息子がいた。

同じ怪獣の二世として、ヤングシーサーはどうしても彼に会っておきたかったのだ。

テネは今のゴジラは優しい怪獣であるということを必死に説いた。

確かにヤングシーサーから見てもゴジラから邪悪な意思は感じない。

彼を、あるいは彼を介してどこからか感じる意思は、穏やかなものだ。

 

モスラもテネに味方をした。ゴジラと共に生きたいと祈った。

さらにアンギラスも、ゴジラたちに助けられたのだと吠えた。

ヤングシーサーは頷き、虹色に光る宝石を差し出した。

地下世界の秘宝、アースパワーの欠片である。これをゴジラに与えようというのだ。

テネはお礼を言った。モスラもお礼を言った。アンギラスもお礼を言った。

 

そしてゴジラがお礼を言った。

ヤングシーサーは頷き、そして最後に一つ、釘を刺す。

もしもまた、ゴジラが地球の脅威となりうるならば、ヤングシーサー自身がゴジラを倒すつもりであると。

それをゆめゆめ忘れるな、と。

 

 

こうしてゴジラは元気になり、それからアンギラスはインファント島に住むことになった。

何かお礼がしたいというので洞窟の門番になってもらった。

ゴジラたちはアンギラスのところへ頻繁に遊びに行った。

テネはアンギラスにもメイのことをたくさん喋った。

そしてたまにラドンがちょっかいをかけにくる。

 

そんな日が続いたある日、モスラに異変が起きた。同じくして終焉時計の針が動いた。

人間は未だに核実験をやめていなかった。それだけではなく、人間の中にある憎悪が少しずつ積っていく。

今日もどこかで人が人を殺したらしい。

大切な何かが盗まれたらしい。誰かが誰かの不幸を願って呪術に手を出したらしい。

 

地球が一つ、ステージを上げようとしていた。

モスラの力。つまり守護獣としての力を高めるため、モスラは繭に包まった。

しばらくモスラとは会えないことを知ると、ゴジラはとても寂しがった。

 

 

そして、どれだけ時間が経ったろう。

リトルゴジラはもういなくなった。成体に近づくゴジラに、テネは『ジュニア』という名前を与えた。

ジュニアの隣には相棒のアンギラスがいた。

そして少し離れたところではライバルのラドンが『それ』を見ていた。

 

三体の怪獣には多くの傷が刻まれていた。

しかし彼らはそれに耐え、たどり着いたのだ。

目の前にある虹色の塊。アースエネルギーそのものに。

時を同じくしてインファント島。繭が割れ、モスラの羽が広がった。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「スパイラルグレネードミサイル発射!」

 

 

モゲラの両腕からミサイルが発射された。

しかしスペースゴジラは動かない。避けることも、防ぐこともしない。

ただ体に二つ、ミサイルよりも少し大きな『穴』を作るだけだ。

ナノロボットたちが動くと体にトンネルができて、ミサイルが通り抜けていく。

 

黒い風が吹いた。

クリスタルが突き刺さっている『両肩』だけを残して上半身が分離、粒子化して四散する。

高速で飛行するナノロボットの群れ。

それらはモゲラの背後で収束。

スペースゴジラの上半身ができあがると、口からレーザーが発射されてモゲラに直撃する。

 

 

「グッッ!」「アダダダダダ!」「ぐあぁッ!」

 

 

激しい揺れに三人のパイロットは唸り、モゲラもバランスを崩す。

スペースゴジラはより強力なエネルギー波、コロナビームを放出した。

モゲラはホバースライドでなんとかそれを回避してみせるが、攻撃はまだ終わっていなかった。

ビームは宙に浮かぶ右肩のクリスタル(ライトクリスタル)に直撃すると反射、そのまま左肩のクリスタル(レフトクリスタル)に当たり、再度反射、そのままモゲラに直撃する。

 

モゲラから火花が散った。

かろうじてドリルからレーザーを発射するが、スペースゴジラは両目と口から光線を発射してそれをかき消しながら、さらにモゲラに一撃を与える。

そこで上半身が粒子化して体に戻った。

やはりあの粒子化をどうにかしないといけない。タルタロスは分離し、再度合体、メカニコングはドラミングを開始して衝撃波を発生させる。

周囲のビルの窓ガラスが次々と割れ、やがてビルそのものが崩れていく。

車も吹き飛んでいくなかで、スペースゴジラはどっしりと立ち構えていた。

 

 

「なんちゅうヤツや――ッ!」

 

 

那須川は驚愕の表情を浮かべている。

以前のメカゴジラならばまだしも、極星の力で常にフルパワーで活動ができるのだ。

メカニコングはさらに追加でレーザーを発射するが、スペースゴジラはクリスタル状のバリアを張って、それを防いだ。

 

 

「愚かであるな人間。玩具の銃で戦車に勝とうとするとは。それともこれは、そういうジョークなのか? いずれにせよスマートではない」

 

 

空から球体状の宇宙船が現れる。

X星人の母船だ。中にいたバイラスは戦いを観察し、ニヤリと笑った。

それにシンクロするようにして、メカゴジラも口が裂けてニヤリと笑う。名のロボットのAIにはバイラスの思考回路が元になっているようだ。

 

 

「戯れに、望み通りの展開にしてやろう」

 

 

するとメカゴジラの体がバラバラになり、ナノロボットの群れは黒い霧のように空中を漂う。

 

 

「お! やったで! バラバラに吹っ飛んだわ!」

 

「いや違うナスさん! あれはただ分離しただけだ!」

 

 

スペースゴジラが二つのクリスタルを宙に残し、それ以外は全て粒子化した。

五つに分かれると、そこで連結合体。

クリスタル型の槍が生まれて、それらが次々と発射されていく。

 

メカニコングはそれらを拳で弾き飛ばした。

これならばと安堵するが、これも甘かった。

吹き飛んだクリスタルは地面に設置されていき、いつの間にか五角形の並びができあがっている。

吹き飛んだのではなく、はじかれた後に自分で移動していたのだ。

 

設置されたクリスタルの真上で、スペースゴジラの頭が実体化した。

浮遊する頭部は大口をあけて、コロナビームを発射。

それは空中で五つに枝分かれして、設置されたクリスタルへ直撃した。

 

するとバチバチと音を立てて、クリスタルが発光と共にエネルギー波を拡散し、周囲を吹き飛ばしていく。

さらに強いエネルギーが中央へ集中。メカニコングはまるで電子レンジの中に放り込まれたような感覚に陥った。

機内は激しく揺れ、高温になり、至る所から火花がシャワーのように噴き出ていく。警報音が鳴り響き、操縦のレスポンスが悪くなる。

 

 

「くッ、おぉおおお!」

 

 

強引に前に出ていくとスペースゴジラへ殴り掛かる。

しかし当然、粒子化。ナノロボットたちは攻撃をすりぬけながら背後で実体化した。

 

左肩にクリスタルがあるスペースゴジラと、右肩にクリスタルがあるスペースゴジラの二体に分裂。

二つの口からビームが発射されてメカにコングを撃つ。

さらにそこで電子音混じりの金切声が聞こえた。

 

ガイガンだ。

ちょうど攻撃が止んだところで着地し、メカニコングの背中を斬る。

さらに鎌を振るって斬る。

そして最後にバイザー状の目から赤いレーザーを発射した。

爆発が巻き起こる。重なる三人の悲鳴。そして最悪なことにヘドラも飛来してきた。

 

 

「いったん離れよう! このままではただの的だ!」

 

「了解!」

 

「おっしゃ! タイタンモード終了! 分離!!」

 

 

タルタロスは三機に分離すると、バラバラに散ろうとハンドルを握る。

しかし悲しいかな。スピードは出したつもりだがゴウテンはヘドリューム光線で、ランドマンはガイガンの鎌で、スターファルコンはスペースゴジラの口から出た赤いレーザーに弾かれてすぐに墜落する。

 

警告音が鳴り響き、電子音が告げる。

損傷が激しいので、修復作業・リカバリーモードに入るようだ

こうなってはしばらくは発進ができない。

脱出するしかないが、おそらく逃がしてはくれないだろう。

タルタロスの中にも極星が入っている。それを回収するために、破壊するのは当然のことなのだ。

 

 

「なんでだ……!」

 

 

カイは異形を見上げ、叫んだ。

 

 

「なんで殺した!!」

 

 

答えたのは、ヘドラだった。

 

 

『極星研究者だったからだ。他に理由はない』

 

 

ヘドラが喋ったのではない。

彼の体に埋め込まれているX星人から貰ったスピーカーからネオの声が出ていた。

スマホで喋ればヘドラからボイスチェンジされた声が拡散されるのだ。

 

 

過去。

 

 

ネオが置き去りにされた教会が祀っていたのはキリストではなかった。

それこそが教団白夜だ。前教祖はネオを育てる中で、彼のカイザーとしての力を感じたのだろう。神童と敬い、ネオはわずか13歳で白夜のリーダーとなった。

ネオもまた、幼いころからの教育で自らが特別であることは理解していたし、やがては世界中の人間を導かなければと、使命感を抱いていた。

 

そんな中、彼は地球に潜入していたX星人にいち早く気づいた。

それがただの人間ではないことがわかったのだ。

もしもし、異星の人よ。

声をかけると、X星人は驚き、すぐにネオを殺そうとしたが焦りはなかった。

X星人の考えていることに予想がついたからだ。

 

 

「極星、ですよね?」

 

 

X星人は頷いた。

 

 

「あれは本来、我々のものだった」

 

「でしょうとも。あれは地球人の手にはあまるオーパーツだ」

 

 

かつてX星人は宇宙船のトラブルにより、保管していた高エネルギーを集中させた鉱石である極星を宇宙に落としてしまったらしい。

バラバラに散っていった極星だが、その一つが地球に落ちた。

すぐに奪おうとしたが、極星が保管されている所には日本の宝を守る最終手段が存在していた。

それこそが極星を破壊する『オーパーツデストロイ(OD)』というものだ。

 

強引に攻め込むのは簡単だろうが、だとしても三秒もあれば地球人はODを起動して極星を破壊してしまうだろう。

それはX星人の望むところではない。かといって奪うとなってはそれなりに骨が折れる。

ありとあらゆるシミュレーションをしてみたが、ODの起動スイッチは複数の人間が所持しているらしく、どんな可能性を考えても盗み出す前に破壊されてしまうらしい。

 

 

「では、協力しませんか?」

 

 

既にネオにはたくさんの信者が存在しており、中には極星関係者も大勢いた。

彼らの手を借りれば、極星をX星人に渡すことはそう難しくないように思えたのだ。

見返りは? と、X星人は問いかける。

するとネオは穏やかな笑みでこう答えた。

 

 

「ゴジラを作ってほしい」

 

 

世界にはゴジラが必要なのだ。ネオは本気でそう思っていた。

たとえばそれは世界共通の敵。ゴジラが世界を壊し、そうすれば人間同士で争おうなんて馬鹿な考えは消えてなくなるだろう。

皆がゴジラ殺害という目標に向かって手をつないで歩いていくそれは紛れもないラブ&ピース。

それをいちいち口にすることはなかったが、X星人は提案を受け入れた。

 

当時は今とは違い、ゴジラ生成には立体ホログラム映像を使用した。

ゴジラの映像に合わせて火炎放射器や衝撃波発生装置が搭載されたステルスドローンを操縦して、さも巨大怪獣が暴れているかのように見せるのである。

これを使い、信者の一人が知り合いだという極星研究者の住所を教えてもらい、その一家を襲撃して地下にあった資料を奪った。

上手くいったが、やはりホログラムで怪獣を投影しながらだと充電の減りが異常に早くなり、結果として子供を一人逃がしてしまった。

 

しかもここで予想外の出来事が起こる。

X星人が別の宇宙人であるキラアク星人と戦争を始めたのだ。

極星回収にはまだ少し時間がかかりそうだと連絡を入れると、すぐに帰還命令が出された。

 

 

それから約17年が経ち、2022年。

 

 

再びX星人が、バイラスがやってきたのである。

聞けばかなり苦労したようだ。戦争が大きな被害を齎し、結果は両者痛み分けという形でとりあえずは和解したと。

しかし、かとも思えば次は内戦が始まった。それを収めた時にはこれほどの時間が経ってしまったわけだが、悪い話ばかりではない。

人間は極星を研究し、クリスタルタワーを建造したではないか。これは極星を力を増幅させる役目も担っている。

さらにネオもずっと目を光らせていたのだ。

その結果、クリスタルタワーのセキュリティシステムの関係者や、ODの使用権原を持っている最高責任者が白夜の信者と来た。

 

早速バイラスは行動に出る。

進化した科学力を見せてやろうと、彼らはメカゴジラを神代坂に出現させた。

しかしそこでウルトラマンや仮面ライダー、タルタロスの出現が起きる。

ナノロボットの充電が切れてしまい、作戦は失敗。

 

さらにはネオが感じた地下の鼓動。

極星よりももっと大きな価値がある宝が眠っているかもしれないという期待が生まれた。

とはいえ、インファントのビーナスもX星人たちの動きに気づき始めていた。

 

なのでX星人たちは作戦を切り替え、まずは地下世界にドローンを飛ばして、その途中でゴジラたちを発見した。

洗脳光線はアンギラスとラドンには有効だったが、ゴジラとモスラには効かなかった。どうやらゴジラの中にある『G細胞』が洗脳をするための物質を、瞬く間に破壊しているらしい。

ゴジラと長い間一緒にいたモスラの中にも、いつの間にかそれが入り込んでおり効かなかったらしい。

 

あとは今まで通りである。

アンギラスとラドンで戦士たちのパワーを計測し、それを踏まえたうえでクリスタルタワー襲撃に踏み切った。

 

 

『我々X星人は人間に擬態ができる。極星研究者であったお前の親を殺し、擬態することができれば内部情報を盗み見るだけではなくスマートにクリスタルタワーに近づけると思ったのだ』

 

 

続きを宇宙船からバイラスが口にする。

 

 

「しかし人間も、人間が造った建物も――」

 

「……ッッ」

 

「想像以上に脆くて驚いた」

 

「ッッッッ!!!」

 

 

激しい怒りの感情がカイの全身を包んだ。

しかし今の彼には何もできない。スペースゴジラの手がスターファルコンの前に現れ、今まさに握りつぶさんと指が広がった。

 

 

『リボーン! マックス!』

『エブリバディ↑↑ マックス↑↑↑ バリバリスタンプフィーバー!!』

 

 

電子音。

空に巨大なタマゴパックが現れた。

そこからいくつものタマゴが放たれ、それが割れるとリミックス体が飛び出していき、怪獣やX星人の母船に襲い掛かる。

 

 

「ハアアアア!」『ヒッサツ!カワッタ!マタ!ネオバッタ!』

 

 

巨大なバッタが腕を蹴り飛ばす。

跳ね、ヘドラの頭を蹴って跳躍。ガイガンの鎌をかわして首を蹴るとスペースゴジラに向かって飛び掛かった。

そこでスペースゴジラは粒子化する。

しかし同じくしてリバイスネオバッタも分裂し、無数の小型バッタになった。

蝗害のようにして無数のバッタが霧状のスペースゴジラに襲い掛かる。

 

次々と火花が散り、そして両者弾かれるように距離をとるとそこで実体化。

スペースゴジラがレーザーを発射すると、ネオバッタはジャンプでそれを回避した。

だがリバイスはスペースゴジラの背びれの一つが消えていることに気づいていなかった。

ネオバッタが跳んだちょうどその場所に伸びる一本のクリスタル。そこにレーザーが当たると、赤い線が軌道を変えて上空にいるネオバッタに直撃した。

煙をあげてネオバッタが落ちてくる。そこへ直撃するヘドリューム光線。

 

 

「グアアアア!」「ギュエエエエエ!」

 

 

リミックスが解除されてリバイとバイスが地面を転がった。

さらにリミックスたちも次々に迎撃されていく。

 

 

「くそッ! こうなったら直接行くぞ!」

 

「え? あッ、ちょっと待ってよ一輝ーッ!」

 

 

黄色い線を幾重にも残してリバイとバイスは高速でビルを駆け上がり、そのまま跳躍で母船を目指した。

しかし母船に触れるかというところでバチリと音がしてリバイスは墜落する。

どうやら母船を守るためにシールドが張ってあるようだ。

さらにそこで母船からビームが発射され、墜落したばかりのリバイスを撃った。

 

 

「ガァアアアア!」

 

 

爆発にもまれ、リバイスは膝から崩れ落ちて地面に倒れる。

これは非常に危険な状況だった。

このまま攻撃を受ければ間違いなく――

 

 

「ね、ねえ一輝! 逃げちゃおうぜ!? 知らない世界の人のために命を懸ける必要なんてないじゃん!」

 

「――そうはいかねぇ! オレは日本一のおせっかいだ――ッ!」

 

「おせっかいで死んだら意味ないって!!」

 

「たとえ世界が変わっても、人間には折っちゃいけないもんがある!」

 

「人間には……!?」

 

「ああ、悪魔にもだ!」

 

 

バイスは少し怯んだが、今までのことを思い出した。

やがて一度頷く。そしてもう一度頷いた。

 

 

「そこまで言われちゃあしょうがない。付き合いましょうそうしましょう!」

 

「……悪いな。バイス」

 

「でもさ一輝、考え、あるわけ?」

 

「ない――ッ」

 

 

そう、早い話が、絶体絶命なのである。

 

 

 

 

「!」

 

 

白峰メイは砂浜に立っていた。

向こうには幼いメイとテネがいる。

テネはメイに怒らないの? と聞いた。彼の心の穏やかさを感じたのはあるが、それにしてもメイは静かな心を持っていた。

子供とはよく心を荒げるものだ。それが普通であると皆は言っていたし、テネもよく怒ったりするものだから純粋に気になったのだろう。

 

するとメイは、少し困ったように微笑んだ。

自分は我慢をするのだと言う。

聞こえは悪いが両親も祖父母も、お金持ち。我慢をすると、後から大抵のものが手に入るからそれなりに満たされる。

満たされると不満はしぼんでいくから、怒りまでいかないし、それがわかっているからなんだか大抵のことは平気になる。

でも、もちろん周りの人はそうじゃない。

だからよくわからないから、なおさら大人しくしているのだという。

 

 

「でもね……、もしかして」

 

 

ここでメイは一度黙った。

自分でもわからないことがある。

しかし、やっぱり、もう一つ大きな理由があるのではないかと思ってる。

それは怒りよりも、遥かに大きな感情があるからに他ならない。

 

 

「……寂しかったりは、するよ」

 

 

両親は旅行会社の経営で忙しく、会社に泊まって家に帰ってこない時もあった。

保育園に置き去りにされたこともある。

みんなが両親と手をつないで帰っていくなかで、メイは親を待っていたが、そこで電話が入った。

仕事が忙しくて大事な商談もあるので、今日はそちらに泊めてくれないかと。

 

そこはお金持ちしか入れないところだったので、そういったサービスが存在していたらしい。

チップを弾むという話のおかげで、先生たちはメイに嫌な顔一つせず、優しくしてくれた。

 

また違う話。

〇〇が見たいといえば、すぐにその映画のビデオやらDVDやブルーレイを買ってくれたが、代わりに親と一緒に映画を見たことがなかった。

 

現役プロ野球選手とキャッチボールをしたことはあるが、父と公園に出かけたことはなかった。

 

遊園地を貸し切りにしてもらったことはあるが、宿泊したことはなかった。

 

世界三大珍味やフカヒレ、フグの白子や、とんでもなく分厚いステーキを食べたことはあるが、母の手料理を食べたことはほとんどなかった。

そもそも家族三人一緒に食事をしたことが数えるくらいしかない。

外食だってそうだ。ただ唯一、飛行機を待っている空港にあったファーストフード店でハンバーガーを一緒に食べたことはあったので、メイはハンバーガーが一番好きな食べ物だった。

 

 

「そうか。寂しさこそ、僕の中にいる悪魔か」

 

 

人型のモヤモヤはゆっくりと頷いて消えていった。

 

 

「………」

 

 

砂浜にゴジラジュニアが座っていた。

彼は天に向かって吠えた。海に向かって吠えた。

メイには彼の言葉がわかった。モスラがいないとき、テネがいないとき、アンギラスがいないとき、ラドンがいないとき、彼はこうして吠える。

メイにはその叫びの意味がわかった。

 

彼は呼んでいるのだ。ゴジラを。親を。仲間を。

しかしそんなものは、どこにも存在していない。同族はいない。

ゴジラサウルスはもう絶滅したし、彼を生んだものはオキシジェンデストロイヤーで骨になった。

 

 

「僕は、ただ、怒られたくなかっただけだよ」

 

 

メイは歩きだした。

 

 

「人にも、そして怪獣にも」

 

 

原爆にはじまり、たとえばそれは水爆。

怒りの炎が吹きあがり、雪のようには溶けてくれない死の灰をまき散らす。

 

青い海へ。

 

人の海の中へ。

 

毒ガスも、ヘドロも、死体も、悪意も、殺意も。

 

みんな捨てる。

 

おしっこも。

 

ゴジラが見たらどう思うだろう?

 

怒らないかなぁ?

怒るだろうなぁ。

 

いやだなぁ……、いやだなぁ……。

 

 

「ギャオォォン……」

 

 

ゴジラが鳴いた。

ピースをしたり、シェーをしたり、お茶目なところはあるけれど。 

でも、やっぱり人間を恐れてる。

人間が『ゴジラ』を恐れてるからだ。

 

 

「そうか、キミはパパが好きだったのか」

 

 

当然だ。親であり、同族だ。

でも会ったことはない。会えない。もういない。

たったひとつ、同じゴジラだった。

だが人間はゴジラを恐れる。それは仕方ないことだ。人間が悪いのかもしれないが、それにしても多くの命を奪いすぎた。

 

 

「お願いだよゴジラ、どうかキミはそうならないでくれ」

 

「………」

 

「僕はキミが、大好きだから」

 

 

ゴジラは鳴いた。

メイは何度も頷いた。

ひょっとするとゴジラが助けてくれたのは、同族だと勘違いしたからかもしれない。

カイザーの心を通わせる力が、そんな勘違いを生み出したのか。

 

 

「しかしいずれせよゴジラは助けてくれた。だったら、僕はキミに何を返せる?」

 

 

あれが無償の行いだとしたら、なおさらだ。

何をしてあげられるという?

それはきっと今は一つしかない。少なくとも、メイにはゴジラの心がわかる。

 

 

「傍にいるよ」

 

 

メイはゴジラの体に触れた。

 

 

「僕がキミの味方になる」

 

 

理解できるかどうかの話ではない。

こう言おうと思った。こう言わなければならないと思った。

それだけだ。

 

 

「僕がそばにいる。世界中がキミを非難しても、僕はキミを愛するよ。キミが大切な仲間と一緒にいられるように全力を尽くすよ。だから、だから――」

 

 

メイはほほ笑んだ。

ゴジラという概念に謝罪をする。

ゴジラという概念に感謝をする。

そして、さようなら。

 

 

「共に生きよう、ゴジラ」

 

 

それが白峰メイの回想である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「たすかった!」」

 

 

リバイスは声を揃えて走った。

ミサイルが次々に怪獣たちに直撃していき、逃げる時間を与えてくれたのだ。

飛んできたのは無数の戦闘機・グリフォンである。

さらに赤いメーサーレーザー、"ドラゴンアロー"が直撃していく。

それを放ったのは、角のような砲身を持った戦車・ユニコーンであった。

その一撃を受けてガイガンは思わず後ろに倒れ、ヘドラも苦し気に呻く。

 

 

「フハハハハ! 見たか怪獣ども! 異世界人だけに守られる我々ではないのだ!」

 

 

ユニコーンの中で豪呑大佐が満足げに笑い、腕を組んでいた。

 

 

「目障りな。射殺しろ」

 

 

バイラスの命令を受けスペースゴジラは双肩のクリスタルを光らせる。

しかしそこで豪呑大佐が吠える。

 

 

「今だ! ディメンションタイド! てぇーッ!」

 

 

グリフォンたちから黒い球体状のエネルギーが投下されていく。

それはある程度降下した際に巨大化。

黒球は空間を歪ませ、激しい引力で光線さえも吸い込んでしまう。

人工ブラックホールとでもいえばいいか。これにはバイラスも大きな舌打ちをこぼした。

 

 

「驚いたか宇宙人! そりゃそうだ、誰が造ったと思ってる。人類が生んだ唯一無二の天才だぞ!」

 

 

アンタレス本部でクドウ博士がふんぞり返る。

軍とアンタレスが共同で作った兵器、メテオールシリーズである。

これら全ての機体に極星の欠片が使われており、燃料を必要とせずに飛び回ることができるのだ。

 

メカゴジラはレーザーを発射し、撃墜を試みるが、グリフォンたちは華麗なパイロットテクニックでそれを回避して反撃のレーザーを発射していった。

避難訓練も戦闘訓練も、全てこの日のために何度も何度も行っていたのだ。

それはきっとアンタレスや軍人だけじゃない。神代坂に住むすべての人がだ。

しかし、これらの出撃が遅れたのには理由がある。実はもっと小型の兵器が事前に出動していたのである。

それが小型ドローン『SGS』。

トリガーやモゲラ、リバイスが戦っている間に軍の操作で無数のドローンが町中をひそかに飛び回っていた。

ドローンは建物や瓦礫の中に人が残っていないかを探す能力があった。

 

多くの人が避難を完了させていたが、中には逃げ遅れた人々がいる。

トリガーが一部を守ったように、軍やアンタレスもそういった人たちを助けるために全力を尽くしていた。

すべては彼女との――、テネとの約束だ。

彼女はアンタレスのモニタの向こうで必死に頭を下げた。

 

 

「お願いです。あの子たちはとてもいい子だけど、でも、それでも……ッ」

 

 

テネの必死の訴えを。

 

 

「壊すことしかできません! だからお願いです!」

 

 

人間は信じた。

 

 

「人は、人が守ってください!」

 

 

それは、祈りである。

 

 

「みんなを助けて!」

 

 

突如、青い光が迸った。

それはあまりにも早く。だからスペースゴジラが分裂する前に直撃する。

光はそのまま移動していき、防御の構えをとっていたガイガンを容赦なく吹き飛ばすと、さらに移動してヘドラに直撃して地面に倒した。

 

光は、地面から伸びていた。

 

そこで地面が吹き飛んだ。

穏やかだった目が、今は激しい闘志を宿している。

 

ゴジラが――、そこにいた!

 

 

「ギャオオオオン! グォオオオオオン!!」

 

 

そして現れたのはゴジラだけではない。

ビルを挟んだ右隣の道路にアンギラスがいた。

さらにゴジラの左隣、上空をゆっくりと飛行するラドンをキミは見たか。

そしてアンギラスの右隣には、彼らを呼んだモスラが羽ばたいている。

一緒に行きましょうという提案に、どうしてゴジラたちが乗ったのかはわからない。

しかしただ一つ言えることがあるなら、『祈り』が見えたからだ。

 

たとえばそれは白峰メイ。『彼ら』の祈りだ。

 

今日もどこかにいる、ゴジラに向けられた祈りの数々。

モスラがそれを教え、ゴジラはメイを通してそれを見た。

そしてラドンとアンギラスは。ゴジラの答えに付き合っただけだ。

それを絆というのならばそうしよう。彼らの中にある共生という、一つの誓いに名前をつけるならば。

 

四体の怪獣は並び歩き、地球を狙う怪獣たちのもとへと進んでいく。

スペースゴジラの真っ黒な瞳――、モニターがゴジラを捉えた。

ゴジラもまた、スペースゴジラを睨み殺さんとの眼光で歩いていく。

車があった。ゴジラは歩く。故に、踏み潰す。

アンギラスも同そうだ。踏みつぶした車から小さな爆発が起こるが、怯まず前に進んでいく。

 

 

「………」

 

 

少し離れたところでは車が走っていた。

この危険極まりない戦場をネムが運転しているのには理由がある。

そしてそこにはメイが乗っていて。メイの肩の上にはテネがいた。

 

テネは涙を流した。

 

いつだったかゴジラたちに教えてあげた。

車は踏み潰しちゃダメですよ。とっても高いから怒られちゃうんだよ。なんて。

ゴジラたちはそれを守ると約束した。

ラドンは関係ないといった顔をしていたが、あなたが人前に出て自慢のスピードで飛んだら町がめちゃめちゃになるからダメだよと強く言ったら、しぶしぶ了解していた。

破ったら絶交すると念を押したからだ。

だからラドンは人間の前に姿を現さなかった。

 

しかしそれは神代坂では無理なのだ。

乗り捨てられた車はたくさんあって、それを避けてゴジラが歩くなんてできる筈がない。

そんなの、わかっていた筈なのに。

しかし今、ゴジラたちが誰かの愛車。思い出の詰まった車を踏み潰して進んでいくたびに胸が激しく痛んだ。

そしてこれから始まることを考えれば、車なんて些細なものだ。

 

 

「こんな道……、できれば歩ませたくなかったなぁ」

 

 

テネからポロポロと涙が零れた。

 

 

「そうだね。でも、大丈夫。大丈夫だよ!」

 

 

メイは手を添えた。これは人間が言わなければならない言葉だった。

怪獣は心を視ている。利口で、そして愚直だ。

だからこそ言葉を知らない限り、言葉を与えることはできる。

 

 

「お願いだ。ゴジラ。どうかッ、どうか1954年を超えてくれ!」

 

 

それを超えられる存在は、たった一つ。キミだけなのだと!

 

 

「運命を! 超えてくれ!!」

 

 

その時、ヘドラが僅かに動いた。

 

 

『……ゾーンマンっていう巨大なヒーローが戦う番組があったんだよ』

 

 

心。思い。願い。

ヘドラがポツリと呟いた。

教団白夜。椅子の上でネオは足を組んで頬杖をついていた。

目が赤い。ヘドラの見ている物が視える。

 

 

『そのロケ地に使われた秀田町って場所で災害があったんだ。大きな爪痕を残したけど今は復興が順調に行われてる。それでこの前動画サイトでたまたまそのヒーローの動画があったから見たんだよ。思ったより微妙だった。でもそれでコメントも見たんだけど、ならなんて書いてあったと思う? ゾーンマン、秀田町を災害から守ってくれてありがとうだってさ。コメント欄は同意の嵐だ。でも一言アンチコメがあった。キモ過ぎってコメントがあってさぁ。そいつはきっと見えてるんだよ。ゾーンマンが守っていないという事実を。その現実を直視しないで偶像に縋るヤツらはそりゃあキメぇよな。ヘドロ、ウンコ、ゲロだよマジで』

 

 

早口で、小声、ボヤけた言葉を拾えるものはいない。

ただ一人、メイには全てが聴こえていた。

 

 

「でも俺様は愛しいと思ったぜぇえ!?」

 

 

ネオは立ち上がり、叫ぶ。

 

 

「神を作るのは俺様だ! 俺様の神話通りに動かないゴジラはゴジラじゃねぇ!」

 

 

困るんだよなぁ!

被ばく、核、メルトダウン! とにかくそういうのはいいネタになる!

ゴジラはメッセンジャーでなければ困るんだ!

そのゴジラはダメだ! 悲劇が足りねぇ!

核が関係ねぇならジジイとババアはゴジラを視ちゃくれない!

そうだろ? なあ! そうであれよ!

 

 

「僕はそう思わない!」

 

 

メイは叫んだ。

言葉に反論したのではない。流れ込んでくる意思に反論するのだ。

少なくともそれはネオに、テネに。

あるいはカイに、那須川に、鷹診に、ネムに。

仮面ライダーに、ウルトラマンに届く筈だ。

 

 

「ゴジラは戦争の鏡写しじゃない。災害の具現化でもなければ、人類への警告者でもない!」

 

「そう! ゴジラこそが神なんだ!」

 

「違う! 怪獣だ!!」

 

「ッ!?」

 

「僕らと同じ! ただの命だ!!」

 

 

ちょうどその時、カイはスターファルコンから出て上を見た。

体が、魂が震える。

彼のすぐ傍をゴジラが通り過ぎていく。

 

 

「人類がお前を受け入れるには……、まだ相当な時間がかかる!」

 

 

カイザーではないカイの言葉はきっとゴジラには届かないだろう。

 

 

「壊すことしかできないとしても! でも! それでも! 守るために壊すことだってできる筈だ!」

 

 

しかしそれでもカイは力の限り叫んだ。

 

 

「頼む、ゴジラ! 俺を縛る鎖は、お前にしか壊せない!」

 

 

そもそも、人はゴジラを殺さなければならなかった。

それしか選択肢がなかったからだ。しかし今は違う。過去と同じではない。同じにはなれないのだ。

同じくして――! そこでメイは叫んだ。

 

 

「もう運命の歯車は回り始めた! 止めることも! 目を逸らすこともできないんだ!」

 

「……ッッッ」

 

「ゴジラは過去にも未来にもなれない! 今を生きてるんだ!」

 

 

メイの言葉が胸の奥を殴るから、覆わずネオは心臓の辺りに指を立てた。

そこでメイはいつかケンゴから聞いていた言葉をそのまま言い放つ。

 

 

「希望の未来には光も闇も関係ない! キミの中にも光はきっとある! そうだろ、ゴジラ!!」

 

 

そこでテネは突き動かされる衝動を覚えた。メイと頷きあい、振り返る。

メイはスマホを構えた。SGSを動かすアプリである。ドローンが撮影した映像は、彼の働く雑誌『フォーカス』の公式チャンネルでライブ配信されていた。

 

ゴジラたちが映し出されている。

人はゴジラたちを見る。

ゴジラは口を拭ったあと、猫の手招きのような仕草を行っていた。

 

 

「ゴジラ! モスラ! アンギラス! ラドン! あなたたちは良い怪獣にになるの! 正義のヒーローとして皆を守って!」

 

 

テネは必死に叫んだ。ボロボロ泣きながら叫んだ。

 

 

「破壊こそが怪獣の運命なら、あなたたちがそれを超えて!」

 

 

お願い、だった。

 

 

「宿命を超えるのっ!!」

 

 

祈りが、あった。

 

 

「さあ行って! 人間のため!」

 

 

ゴジラが、モスラが、アンギラスが、ラドンが吠えた。

グリフォンたちがはけていく。まっさらになった空を飛翔するラドン。

大いなる矛盾があった。ラドンは高いビルに腹を向けて一気に舞い上がる。

ソニックブームで窓ガラスが割れていき、ラドンはそのまま屋上に着地した。

ビルが揺れ、ヒビが走る。

 

 

「ピキュオオ! ォォオォオ!!」

 

 

ラドンは白い太陽をバックに翼をはためかせた。

それを合図にアンギラスとモスラも加速して先行する。

ゴジラもまたスピードを速めた。

そして、止まる。

 

 

「ギャオオオオオオオオオオオン!」

 

「ゴオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

ゴジラとスペースゴジラが吠え合う。

それに負けないように。テネが目に涙を浮かべながら叫んだ。

 

 

「みなさん! どうか最後まで見てください! あれが今の新たなゴジラ――ッッ!!」

 

 

矛盾もあるが、それは澄み渡る想いであった。

ゴジラの目が一瞬、ほんの一瞬だけ赤くなる。しかしそれは咆哮と共に消えていった。

メイの世界を、テネの願いを、モスラたちとの時間を守るため。

ゴジラは思った。テネやメイの中にあるもの。あの温かな光。

それを奪おうとするものを壊すため。

ゴジラは人類のために、悪の怪獣たちと戦うのだと。

 

 

「正義の怪獣! ゴジラ2代目! 怪獣王の息子(バーニング・ブラッド)です!」

 

 

 

 







というわけでね。
すべてはこの私が、いま再び、正義の怪獣ゴジラ概念を浴びたいがために作ったものでありましたよと。
まあ、シン・ゴジラとかメガギラスとかみたいな感じも面白かったんで好きなんですけど……
好みでいえば、どちらかというと昭和の可愛げのあるゴジラというか。

最近はキングオブモンスターズが今のところベストゴジラです。
まあ正義とはちょっと違いますが、見てて健康になりました。

まあ詳しくは、また後で書こうとは思いますが。
ちょっと久しぶりにアマプラで見直してみたら、昭和ゴジラってゴジラは喋れないぶんギャオギャオ鳴きまくるというか。
特に怪獣が複数出てくるやつだと咆哮が重なり合ってとんでもないことになってて。
そういう騒がしさと、いい意味でちょっと気が抜けるような感じを再現できるかなって思って、僕は怪獣の鳴き声を書くようにしましたよと。

後半とエピローグは今日の夜にでも更新しようと思います(´・ω・)b


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第11話 Alive

 

ゴジラが前のめりに走だすと、スペースゴジラも同じように走った。

迫る距離、二体の怪獣は両腕を前に出して掴み合った。

スペースゴジラはゴジラの腕を粉々に粉砕するつもりだったが、どれだけ力を込めてもビクともしない。

そうしているとゴジラは足を振るいあげてスペースゴジラを蹴った。

衝撃が響く。さらにゴジラはスペースゴジラの首に噛みついた。軋む音、ゴジラが首を振るうとガチリと音がして、スペースゴジラの一部を食い破った。

 

 

「……! ナノロボットの連結力は極星の力でより強固になっているのに!」

 

 

バイラスが思わず前のめりになる。

スペースゴジラは細長いレーザーを発射してゴジラの顔面に当てた。

ゴジラは目を細めたが、逆に言えばそれだけだった。

尾の方から、背びれが青白く発光していく。そして徐々に光が上にあがっていき――

 

ゴジラが口を開くと、青いレーザー、『青炎熱線』が放たれた。

それはスペースゴジラの胸に当たると強制的に押し出していく。

ビルがあった。スペースゴジラはそこへ直撃。踏みとどまろうとするが、つま先が浮いて浮き上がった。

ビルと共にスペースゴジラは倒れる。さらに倒れたビルは次のビルを押して、そのビルも倒れ、近くにあったビルに寄り掛かった。

まるでドミノのように。

 

「ゴオォォォオ!」

 

しかしよく見れば、倒れていたのはスペースゴジラの『下半身と肩』だけだった。

上半身がゴジラの目の前に現れると、鋭利な爪で喉を貫こうとする。

しかしその時、ゴジラの全身が光ってスペースゴジラの体が消し飛んだ。

エネルギーを体内で爆発させて衝撃波として拡散させる技、ブルーバーンだ。

ゴジラはさらに熱線を撃ってスペースゴジラの下半身を狙った。

ビルが爆発する。

 

しかしビルだけだ。

下半身は粒子となり熱線を回避、そのままゴジラの背後で実体化した。

ゴジラはそれを察して尾を振るう。しかし二度三度と往復させても空を切る感触、ナノロボットが尻尾の動きを完全に捉え、直撃しないようにズレているのである。

 

そうしていると、前方から二つのクリスタルが飛んできた。

ゴジラは迎撃しようと熱線を放つが、クリスタルに当たると反射されて逆にゴジラを傷つける。

大きく怯んだところへ激突するクリスタル。

ゴジラは鳴きながら地面に倒れた。

 

「ゴォォオ!」

「ギャアオォ!」

 

スペースゴジラはゴジラの体に足を乗せた。

そうやって固定して、口を開いて光を集中させる。

コロナビームでゴジラの頭部を炭に変えるつもりだったが、発射の直前でスペースゴジラの頭部が粒子化して攻撃は中断された。

回避のために粒子化したのではなく、強制的にそうなったのだ。

飛んできたのはモスラである。彼女が羽ばたいたことで突風が生まれ、それが連結を吹き飛ばすに至ったのである。

 

モスラはさらに大きな羽を振るった。

緑色の竜巻が生まれ、粒子の連結を遅らせる。

しかしその時、一部の粒子が風を抜け出し、影響を受けないところまで離れて収束していく。出来上がったのはスペースゴジラの頭だ。

それも五つ。それらが一斉に赤いレーザーを放った。

 

しかしゴジラは跳ね起きており、モスラを抱いて後ろを向く。

背びれに当たる五つのレーザー。ゴジラが苦しげに唸った。ダメージはあるが、同じくして青く光る背ビレ。そこからも青い光線が放たれ、五つの頭を消し飛ばした。

そこでモスラはゴジラの手から離れて再び風を起こす。

ナノロボットたちが吹き飛ばされて、多少の時間稼ぎくらいはできそうだ。

 

 

「ヴィア゛アアアアアアア!」

 

『キシィイイイイイイイイ!』

 

 

少し離れたところでは、アンギラスがガイガンに向かっているところだった。

基本的には四足歩行だが二足歩行もできるのか、アンギラスは加速と共に立ち上がって後ろ足で進んでいく。

 

ガンガンの目が光った。

そこでアンギラスは体を捻りながら跳ぶ。

怪光線を鱗甲板で受け止めて反射し、ガンガンの体が爆発した。

さらに怯んだところに、振るった尻尾が直撃する。

 

ガイガンはバランスを崩して近くの建物に寄り掛かった。

怒るようなリアクションを見せると、腹部にあるノコギリが激しく回転する。

一方で着地したアンギラスはそのまま飛び上がり、体を丸めた。

ボールモードになってガイガンに向かっていき、ガイガンもまたノコギリを当たるようにして飛行した。

 

両者が通過した時、ガキンと硬い音がして火花が散る。

着地するガイガン。

アンギラスもボールモードを解除して着地する。

 

 

『キキキキ……ッッ!!』

 

 

煙が上がっている。ガイガンの腹部からだ。

ノコギリの歯が完全に砕けており、一方でアンギラスの鱗甲板にはわずかな傷しかついていなかった。

 

 

「ピキュオ! オオオオオオオオオ!」

 

 

頭上では空の大怪獣ラドンが猛スピードでX星人の母船に向かっていた。

すぐにラドンを撃墜しようと光線が飛んでくるが、バレルロールで体を捻り、的確に回避を続けて近づいていく。

 

しかし中にいたバイラスはニヤリと笑った。

母船には強力なシールドが張ってあり、今もラドンが放ったウラニウム光線を無効化して見せた。

だがその時、ラドンが吠えた。

一切スピードを緩めず加速、さらには体を細めて高速回転をはじめる。

 

 

「まさか!」

 

 

そう、それはまったくスマートではないやり方だったが、ラドンはそれがしたくてたまらないので、そうした。

シールドが張ってあるとわかっていながら、全身でそこへ突っ込んでいったのだ。

考えはない。しかしラドンには勝算があった。

作戦があったわけではないが勝てると思ったから突っ込んだのだ。

 

 

「だから動物は嫌いなんだ!」

 

 

バイラスはそういいながら近くにあった壁に背中をぶつける。

激しい衝撃で立っていられない。

ラドンは見事にシールドを貫通し、さらに母船の機体をも嘴で貫いて見せた。

電子音が聴こえる。ラドンが顔を引き抜くと、出来上がった穴の中へ、プテラゲノムに変身したリバイスが飛び込んでいった。

機体の中に入るとリバイはバイスから飛び降りて床を転がっていく。

 

 

「こっちは任せろ!」

 

「ピキュオオ」

 

 

ラドンは落下し、ループ(宙返り)で体勢を整えると下に飛んでいった。

 

 

「ね、ねえ一輝。なんかヤバくない?」

 

 

バイスが辺りを見回すと、『侵入者迎撃システム』がうんたらかんたらと警報音を鳴らしている。

機内にある機銃の銃口が、一斉にリバイスの方を睨んだ。

 

 

「イッキにいくぜ! バイス!」『テクニカル! リズミカル! クリティカル! ジャッカル!』

 

「あん! 強引なんだからーッ!」『ノンストップでクリアしてやるぜ!!』

 

 

ジャッカルゲノムとなったリバイは、スケートボードになったバイスに乗ると一気に加速して銃弾の間を駆け抜けていった。

 

 

「ハアアアアアアアア!」

 

 

やがて指令室の壁が吹き飛んだ。

バイラスが振り返ると、レックスゲノムとなっていたリバイスが立っている。

拳を震わせながらも、それをもう一方の手で包み込み、バイラスは笑ってみる。

 

 

「スマートにいきたい……! 話し合おうじゃないか」

 

「何……ッ?」

 

「極星はもともと我々の物なのだ。落とし物を返してもらうのは当然のことだろう?」

 

「フフフ、フハハハハハ!」

 

「ッ?」

 

「いやぁね? おれっちもほら、悪魔ですから。ある程度はわかるわけですよ! まあ隠されてたらアレですけどね? フハハハハハ!」

 

「どういう意味だッ?」

 

「アンタからは隠しても隠し切れない悪魔の香りがするぜぇぇエ! 我々の物!? ウソウソ! 盗んだんだろーッ!? 他の星からさァ!!」

 

 

リバイはため息をついてバイラスを睨んだ。

 

 

「そもそも、その言い訳を通すには遅すぎだ。あんだけ町を破壊しておいて虫が良すぎるぜ」

 

「虫だけにってね! ブハハハハハハ!」

 

 

バイラスは壁を殴りつけて正体を現した。

まさに虫人間だ。蜂がモデルのようで、右腕には蜂の尾を模したガントレットが装備されており、太く長い針が光る。

さらにその意思を読み取ったかのように後ろからモンスターXが現れた。

 

 

「さっさと殺して! スマートに終わらせてやる!!」

 

 

リバイとバイラスが。

バイスとモンスターXがぶつかり合い、激しく拳を交差させた。

 

一方、地上では、ノコギリを破壊されたガイガンが怒りに吠えていた。

目を光らせてレーザーを発射。アンギラスは体を回転させて鱗甲板でそれを反射する。

しかしガイガンはそれが狙いであった。腕をクロスさせ、飛んできたエネルギーを逆に自らの鎌で吸収していくと、両腕の鎌が真っ赤に光った。

 

ガイガンは走り、鎌を振り下ろす。

アンギラスは四足歩行になり、鱗甲板で鎌を受け止めるが、直撃と同時にそこが爆発して衝撃を生み出す。

アンギラスは崩れ落ち、腹が地面に当たる。ガイガンは思い切り足を振り上げてつま先の部分でアンギラスの顎を蹴った。

 

衝撃で体は反転し、アンギラスの腹部が晒される。

そこを一突きにしてやろうとガイガンは狙いを定めた。

さああとは腕を前に出すだけだというところで、ガイガンの腕に光線が直撃する。

空からラドンが駆けつけ、ウラニウム光線を放ったのだ。

ガイガンはラドンを見る。だからゴジラたちから目を逸らした。

 

 

「ギャオ!」「キュイ!」

 

 

ゴジラがガッツポーズを取ると、モスラはゴジラの背中にまわる。

そこでヘドラがハッとして、ゴジラたちに目を向けた。

しかし、ヘドリューム光線を撃つまえに倒れていたアンギラスが首をヘドラのほうにむけて、ニトロ光線を発射。

ヘドラの体が爆発し攻撃が中断される。

 

なので走るゴジラ、はばたくモスラ。

すると風が生まれてゴジラはそれを感じると同時に飛び上がった。

フワリ、スイーッと、ゴジラは背中を地面に向けて並行になったままで飛んでいく。

そのまま両足がガイガンに直撃し、ドロップキックでブッ飛ばした。

 

 

『ギィイイイイイイイ!』

 

 

ガイガンは歩道橋やコンビニを巻き込んで地面に倒れる。

先に立ち上がったのはゴジラだ。地面に熱線を吐いて爆発させると、大量の岩を作って、それを両手で持ち上げると思い切り投げつけた。

立ち上がったガイガンはそれを鎌で弾いて見せる。

 

ゴジラはムッとし、ガイガンは笑った。

再び岩を投げつけるが、ガイガンはもう一方の鎌で岩を弾く。

ゴジラはムッとし、ガイガンは笑った。

ゴジラがまた岩を持ち上げると、そこでガイガンは後ろを向いた。チャンスだとばかりにゴジラが岩を投げるとガイガンは高速で振り返りながら鎌を振るい、岩を真っ二つにしながら弾いて見せた。

 

 

「ギャギャギャギャ……ッッッ!」

 

『キキキキキ!』

 

 

ゴジラはムカムカが止まらず悔しそうに何度も地団駄を踏んだ。

一方で体を揺らして笑うガイガン。何度やっても同じだともう一度背中を向ける。

 

 

「ギャオオオオオン!」

 

 

ゴジラは吠えて、また投げた。

ガイガンは同じように振り返り、鎌を振るったが、飛んできたものがボールとなったアンギラスだったので弾くことができずにそのまま直撃してぶっ倒れた。

 

 

「グロロロロロロ!」

 

 

見てはいられないとばかりにヘドラが動く。

飛行形態にフォルムチェンジを行うと、硫酸ミストをまき散らしながらゴジラたちのほうへと向かっていった。

しかしモスラが大量の鱗粉を風に乗せて飛ばす。

それらが硫酸ミストを無効化し、さらにラドンがヘドラに掴みかかり空中で動きを止めた。

ラドンとヘドラが競り合っている。

 

 

「ィアアアアアアン!」

 

 

そこでアンギラスが跳ね、ボールモードに変わってゴジラの頭上に来た。

ゴジラは威力を弱めた熱線をアンギラスに当てると、まるで『吹上パイプ』みたいにアンギラスを飛ばしてヘドラに直撃させる。

 

 

「ギュロロロロ!」

 

 

ヘドラが墜落していく。

その中でモスラは羽を広げた。

空には太陽だけではなく月もある。そこから光が伸びてモスラに力を与えるのだ。

 

 

「フィイイイイイイイイイイ!」

 

 

モスラが叫ぶと目が青白く光る。

触覚から巨大なレーザーが発射され、今まさに立ち上がったガイガンへ直撃。

きりもみ状に吹き飛ばして地面を転がしていった。

 

 

 

 

 

「いました!」

 

 

一方、下の方ではメイが声を荒げていた。

ネムが急ブレーキで車を停止させると、彼女らはすぐに車から降りて倒れていたケンゴのもとへ駆け寄った。

テネが手をかざして目を閉じる。

しばらくすると彼女は頷いた。ケンゴの身に何が起こったのかを理解したようだ。

 

 

「お守りを使えば光の力を彼に与えることができるの!」

 

「これを刺せばいいんだね!」

 

「うん! チクっとねっ」

 

 

首筋にプスリと刺すと、短剣が光り、それがケンゴの体に注入されていく。

 

 

「うわぁあ!」

 

 

しばらくするとケンゴが跳ね起きた。

体をペタペタと触って状態を確かめる。

 

 

「平気ですか!? ケンゴさん!」

 

「うん。助けてくれたんだね。ありがとう!」

 

 

ケンゴは辺りを確認して状況を確かめる。

戦っている巨大怪獣。空に浮かぶ宇宙人の飛行船。

 

 

「まったくとんでもない光景よね」

 

 

ネムの言うとおりだ。

そしてこれはきっと、この日だけで終わる景色じゃない。

でも、だからこそ……。メイはそう思った。

 

 

「とにかく一旦この場所を離れましょう! ケンゴくんだってまだ本調子じゃないんだから、私の車で――」

 

 

ズドン! と音がした。

沈黙。ネムはテネとメイとケンゴが目を見開いているのを見て、嫌な汗を垂らした。

 

 

「あ、あの、夢樹さん……」

 

「い、いや。いやよ。振り返りたくない!」

 

「お車が……」

 

「言葉にしないで!」

 

 

バッと、振り返るとネムの愛車のボンネットにコンクリート片が埋まっていた。

 

 

「うーん……」

 

「ネムさーんっっ!!」

 

 

ネムは真っ青になって倒れると動かなくなる。ショックで気絶したようだ。

たぶんきっとゴジラの攻撃のせいだ。テネは謝り続け、メイはグリフォンに助けを呼び、そしてケンゴは前に出た。

 

 

「究極で、純粋たる正義……」

 

「え?」

 

 

ケンゴが振り返ると、メイは少し疲れたような表情で頷いた。

 

 

「きっとそういうのは、とても難しいんだ。人類にとっては」

 

 

カイザーとして自覚しはじめたからか、メイはケンゴが人間ではないことがわかった。

きっと彼が特別な存在だからこそ、たとえばテネのテレパシーを拾ってアンギラスたちの名前がわかったし、そういうビジョンを見ることができたのだろう。

カイザーのようにゴジラたちの気持ちをなんとなく察することだってできていたのではないだろうか?

 

きっとケンゴは人間よりももっと純粋なもので……、それは凄く羨ましいほどの輝きを持っている。

だからこの戦いには彼が必要だと思った。

彼が欲しかった。

 

 

「どうか、哀れな人間を超えてくれ。ウルトラマン」

 

 

ケンゴは少し間、怯んだ表情を浮かべていたが、やがてはニコリと笑った。

 

 

「ボクはウルトラマンだけど、人間として育ってきた」

 

 

だからメイの望む導く存在にはなれないかもしれない。

ひとたびお目にかかることができれば、どんな人の心も癒す超正義だとか。

あるいはその輝きが瞼の裏から消え失せないほどの救世主だとかには。

 

その時、メイはハッとした。

今まさに彼がケンゴに望んだものは、ヘドラの向こうにいる誰かがゴジラに対して抱いた希望と何が違うのだろうか。

悔しさか、それとも恥ずかしさか、メイはケンゴから目を逸らして謝った。

 

 

「ううん! これはもっと単純な話。もっとも簡単で、誰しもが持ってる光なんだ」

 

「え?」

 

「ボクは、友達(キミ)の気持ちを抱きしめる。笑顔にして見せる!」

 

 

ケンゴは前に出た。構えるスパークレンス。起動するハイパーキー。

 

 

「人間も、ゴジラたちも! スマイルスマイル!」『Boot up』『Zeperion』

 

 

メイは、テネは頷いた。そしてケンゴはスパークレンスを掲げる。

 

 

「未来を築く、希望の光! ウルトラマン……! トリガーッッ!!」

 

 

光の柱が伸びた。

 

 

『ULTRAMAN・TRIGGER! MULTI-TYPE!!』

 

 

そこから現れたるは光の巨人。

左腕は曲げて、右腕はまっすぐに天へと伸ばす。

ウルトラマントリガー・マルチタイプ。

 

 

「ヘアッッ!!」

 

 

トリガーは飛行するとヘドラをつかみ、少し離れたところへ移動する。

そこで手を放し着地。ヘドラもまたフォルムチェンジでシーリザーとなって着地する。

噴射されるムルロアガス。それは瞬く間にトリガーを包み込むが――

 

 

「!」

 

 

闇の中、金色の光に包まれているトリガーが見えた。

 

 

『Glitter Trigger Eternity』

 

 

光の空間。

ケンゴは金色のハイパーキーを起動させ、スパークレンスに装填する。

 

 

『Boot up』『Glitter Zeperion』

 

「宇宙を照らす、超古代の光――ッ!!!」

 

 

十字に腕を組む。光の空間が金色に染まり、ケンゴは大きく手を旋回させてスパークレンスを掲げた。

 

 

「ウルトラマン――……ッッ!! トリガアァァアアッッ!!!」『GLITTER・TRIGGER ETERNITY!!!』

 

 

ムルロアガスが吹き飛ぶ。

グリッタートリガーエタニティ。金色に染まったトリガーがそこにはいた。

さらにそれに呼応するかのようにモスラが鳴いた。

光が溢れ、どこからともなく水が生まれてモスラを包む。

 

 

「ヒュイイイイイイイイイイイ!」

 

 

それがはじけると、モスラが『アクアモスラ』へと強化を遂げた。

さらにそれだけではない。彼女が発生する鱗粉と風がゴジラたちにもあたり、彼らの中にあるアースエネルギーの力を解き放っていく。

 

 

「ビギュオ! オオオオオオオオオ!」

 

 

ラドンの体が炎に包まれる。

ダメージはない。むしろこれはラドンのエネルギーとなるのだ。

炎が弾けると、角が長くなり、嘴はより強固に、さらに翼は大きく。

そしてなによりも真っ赤に染まった『ファイヤーラドン』がそこにいた。

 

 

「ギアアアアアアアアアアアアン!!」

 

 

アンギラスが氷に包まれる。

ダメージはない。むしろこれはアンギラスのエネルギーとなるのだ。

氷が砕かれると、青く染まったアンギラスが姿を見せた。

頭の角や背中の棘が氷柱に覆われてより巨大化している。『ブリザードアンギラス』がそこにいた。

 

 

「グワァアン! アオオァァアアアアアアアン!」

 

 

ゴジラが吠えた。

すると光が彼を包み、7つの背びれの縁の色を変えていく。

下から紫、藍、青、緑、黄、橙、赤。

『レインボーゴジラ』。地下世界のパワー、アースエネルギーは地球の中央に存在している。

 

であるからにして、またの名を『(コア)』エネルギー。

地球のコアが、ゴジラに力を与えたのだ。

 

 

「ハァアア!」

 

「よいしょーッ!」

 

 

リバイの掌底と、バイスの拳が空間を歪ませるほどの打撃をバイラスとモンスターXに与えた。

ブラキオゲノム。相手の攻撃に対する回避ルートを先読みして頭に叩き込んでくれるようだ。

バイラスは走り、ニードルを振るうがリバイはそれを的確に回避してカウンターの一撃を与える。

ほらまた。掌底が入ってバイラスは吹き飛んだ。

 

そこでモンスターXが前に出た。

縦横無尽に動き回る光線を発射し、そもそも回避などできない攻撃を放った。

リバイとバイスは苦痛の声をあげて下がっていく。

そのなかでバイラスは大きなため息をついた。

 

 

「貴様らさえいなければ、もっとスマートにいけたのに……っ!」

 

 

ふと、外の景色を見る。

変わったゴジラたちを見てバイラスはもう一度パネルを殴った。

 

 

「あれがこの星の選択か? 愚かな……!」

 

 

振り返り、もたれかかり、笑う。

 

 

「神ではないとしたら、どこまでいっても獣でしかない。いずれ人類は怪獣に滅ぼされるぞ。我々の家畜になっていたほうが、まだ幸せだった!」

 

「果たして、そうかな――ッ!」

 

「なに……?」

 

 

神代坂。

ユニコーンが走っていると、そこからネムがひょっこりと顔を出した。

前を行くのはスターファルコン、ランドマン、ゴウテンだ。リカバリーモードが終わって再び動き出したのである。

 

 

「ここまでやったんなら絶対に勝ちなさいよねーッ!!」

 

 

ネムは大声で叫んで三機を見送った。

 

 

「カイくん。キミでいこう」

 

「せやな。それがええ!」

 

 

鷹診と那須川の期待を受け取り、カイは強く頷いた。

 

 

「終わらせる。新しい世界のために!」

 

 

聞こえるか、ゴジラ。

これがお前たちと肩を並べる、人間の力なんだ。

 

 

「正義! 一直線! 皆驚(かいきょう)勇気(ゆうき)!」

 

 

らしくない言葉ではあるが、なんとなく叫んでみた。

 

 

「チェーンジッ! タイタァアアン!!」

 

 

三機が分離、合体していく。

胴体ができて、腕と脚ができて手と足ができて、シルエットはヒト型となる。

最後に翼が折りたたまれたスターファルコンが頭部となって合体が完了した。

 

タルタロス・タイプ3。

今までのタイプとは違って、コックピットが二つある。

 

まずは那須川と鷹診がいる胴体だ。ここではサポートのみを行う。

そして全ての操縦や技の選択は、その上の部屋にいるカイに一任された。

 

彼は今、ヘッドギアをつけて立っている。

シンクロシステム。カイが右腕を上にあげれば、タルタロスも同じように右腕を上にあげる。

カイが首を振れば、タルタロスも首を振る。

つまりこの状態はカイがそのまま巨大化したと同じなのである。

 

 

『バイタル安定。シンクロ率100パーセント! よっしゃ! かましたれ!』

 

 

那須川の言葉に、カイはもう一度頷いた。

 

 

「苦しみも、悲しみも、痛みも! すべてゴジラに重ねてきた! だがそれももう終わりだ!」

 

 

同じくしてタルタロスも同じように頷く。

 

 

「宿命も! 輪廻も!」

 

 

極星が供給するエネルギーが全身に駆け巡り、装甲の色が変わっていった。

肩と膝は黄色に、胸の上半分は赤く、下半身は黄色と赤、そして脛は青く。

 

 

「未来も! 全部抱えてッッ!!」

 

 

銀色の頭部、黒い目が光った。

 

 

「行け! ジェットジャガー!!」

 

『Justice Emperor-Type Justice Aero Ground Ultra Apex Robot』

 

 

鋼鉄の巨人、"ジェットジャガー"は両腕をまっすぐに伸ばして飛行した。

ウルトラマンと同じ方法だ。頭部からはアンテナが伸びて制御を行っている。

着地と同時にアンテナが収納されて、ジェットジャガーは構えをとった。

周りにはゴジラたちがいて、その先に実体化したスペースゴジラが立っていた。

 

 

「超えていけるさ」

 

 

母船にいたリバイがそう口にする。

 

 

「大変かもしれないけど。呑み込まれそうになるかもしれないけど、それでも人間は大きな力を背負って生きていける!」

 

 

リバイはバイスを見た。

 

 

「?」

 

 

バイスは首をかしげる。

リバイは少し笑った。

 

 

「オレが、オレたちが保証する! そうだろ、バイス!」

 

「フハハハハ! よくわかんないけど、オッケー!!」

 

 

リバイスは防御をやめた。

光線が直撃していくが、同じくして取り出した物がある。

 

 

『ボルケーノ!』『コンバイン!』カチチチチチチチ

 

「!!」

 

『Burning fire……↑↑↑カモォン↑↑↑ボル・ケ~ノ♪』

 

『Burning fire……↑↑↑カモォン↑↑↑ボル・ケ~ノ♪』

 

「な、なんだ!」

 

『Burning fire……↑↑↑カモォン↑↑↑ボル・ケ~ノ♪』

 

 

リバイが巨大なタマゴに身を隠し、バイスもまた周りを飛び回る。

溢れるマグマ、それを見て、モンスターXは攻撃を止めた。

 

 

『バーストアップ!』

 

 

タマゴが弾け飛ぶ。迸るマグマと吹雪。

 

 

『鬼ィ!』<アツーイ

 

『バリィ!』ヤバーイ↑

 

『ハァッ!』卍ゴン・スゴーイ卍

 

『パネェ!』『ツヨイ!』『リバイス!』

 

 

 炎炎炎↑↑⇔ We are ⇔↑↑炎炎炎

 

 

『リバァァァァァアイスッッッ!!!』

 

 

降り立ったのは炎の力を獲得した仮面ライダーリバイ・"ボルケーノレックスゲノム"。

その隣に立つのは冷気の力を獲得した仮面ライダーバイス・"バリッドレックスゲノム"。

リバイスはタッチを繰り返し、最後にリバイの拳をバイスが右手で受け止めた。

そこで生まれた氷がはじけ飛び、生まれた炎が消し飛んだ。

 

 

「………」

 

 

それを見てモンスターXは一歩後ろに下がった。

闇が溢れ、彼の姿が消え去る。

どうやら撤退したようだ。バイラスは待ってくれとばかりに手を出したが、やがてそれを握りしめて震わせる。

 

 

「下等種族が! 殺してやる!!」

 

「行くぞバイス! 燃えてきたぜ――!」

 

「はーい! 破天荒(ホット&クール)なおれっちたちの活躍がはっじまるよーッ!」

 

 

走るリバイスとバイラス。

バイラスがニードルを振り下ろしたが、リバイスはそれを同時にキャッチ。さらに同時に前蹴りでバイラスを吹き飛ばす。

 

 

「んン゛……ッッ!」

 

 

バイラスは煙が上がる腹部を抑えながら後退していく。

リバイの中にはマグマのように滾る感情がある。炎弾を発射し、バイラスはそれを弾いていくが連射スピードが勝って、次々と着弾していく。

そこでバイスがシールドを投げた。バイラスはニードルを盾にしてそれを受け止めるが、その瞬間着弾部分が凍結をはじめ、あっという間に針が分厚い氷で覆われてしまう。

 

バイスが走る。

バイラスは構わず凍り付いたままの武器を振るった。

しかし氷の重量が追加されている分、動きが鈍くなる。

それよりも早くバイスの飛び回し蹴りが間に合い、ニードルとかち合った。

 

 

「グォオオ……ッ!」

 

 

砕ける音がする。

凍結したニードルが蹴りの衝撃で砕け散ったのだ。

さらにバイスのブローがわき腹に入り、蹴り上げが顎に入る。

後退していくバイラス、一歩、二歩、そこで完全に肉体が氷に覆われた。

 

 

「ウォオオオオオオオオオ!」

 

 

踏み込み、リバイが拳を突き出した。

燃え滾るストレートが氷を粉砕する。さらにがむしゃらに連続で繰り出す高速ラッシュ。パンチの嵐が次々とバイラスに直撃していた。

 

 

「ハアアアア!」「オラァア!」

 

「ズァァァアアアア!」

 

 

リバイスが同時に繰り出したハイキックでバイラスは吹き飛ばされる。

放物線を描いで飛んでいき、その隙にリバイはスタンプを横に倒した。

リバイスは並んで走る。高まるシンクロニズム。もはや言葉さえもいらない。

二人は同じタイミングで地面を蹴って飛び上がった。

 

 

「グッ! おぉぉぉ……ッッ!」

 

 

立ち上がったバイラスは唸り、両手を広げて走り出す。

叩き落そうとしたが、そこですさまじい熱波と吹雪に怯んでしまった。

だからこそ、リバイスの飛び蹴りが胸に突き刺さる。

 

 

「「ハァアアアアアアアア!」」『ボルケーノ! フェスティバル!!』

 

 

スタンプのエフェクトが浮き上がり、バイラスは凄まじい勢いで後ろに吹き飛んだ。

宇宙船の壁を破壊し、そのまま下に落ちていく。

一方でリバイスは後ろを向いて構えた。

 

 

「それじゃあ皆さんいきますよ……!」

 

 

バイスがカメラに向かって囁く。

 

 

「3!」

 

 

スローモーションになる世界。

 

 

「2!」

 

 

ゆっくりと落ちていくバイラス。

 

 

「1!」

 

 

キラーン☆

バイラスから十字状の光が浮かび上がり――

 

 

「グアアアアアアアア!」

 

 

爆発が起こる。

さらに宇宙船もまた次々と爆発を起こしていく。

やがてリバイスイーグルが船から飛び出した。直後、船は大破し、地面に落ちていくのだった。

 

 

「ゴォロロロロロロロ!」

 

「フ――ッ!」

 

 

トリガーは走った。

一方でヘドラはムルロアガスを噴射する。

だがやはり今のトリガーには通用しない。ヘドラもそれを理解して放つものを変えた。ヘドリューム爆弾。

エネルギーを凝縮した発光する泥団子が連射され、トリガーを狙う。

 

 

「ハァアア!」『GLITTER BLADE』

 

 

燃える闘志が沸き起こり、黄金の一閃が迸った。

切り裂かれていく穢れ。トリガーの腕に剣が装備される。

ヘドラが吠えると両腕から無数の触手が伸びてトリガーに向かっていった。先は硬質化して鋭利になっており、刺し貫こうというのだろう。

しかしそこでトリガーは剣にある三つの菱形の宝石、トライアングルクリスタルを回転させて青色を中心に持ってきた。

 

『Sky photon』

 

トリガーから青色の光に包まれて急加速する。

一瞬でヘドラを斬り抜け、さらに一撃、加えて一撃、次々に周囲を移動しながら斬撃を刻み込んでいった。

ヘドラは斬られたところから大量のスモッグや硫酸ミストを噴射させた。

 

しかしグリッターブレードの斬撃はそれをすべて一瞬で浄化してみせる。

ケンゴはさらにトライクリスタルを操作し、紫色を中央にしてみせる。

 

『Multi photon』

 

トリガーが光に包まれると分身が生まれ、三人のトリガーがヘドラを囲む。

そこでグリッターブレードが消失し、三人のトリガーは両腕を左右に広げた。

 

紫色の光をまとったトリガーには、両腕に重なるように紫の線が生まれる。

赤色の光を纏ったトリガーは光を手の中に集中させていく。

青色の光を纏ったトリガーは両出を旋回させてエネルギーを集めた。

 

 

「ハァアア!」「タァアア!」「ヤァアア!」

 

 

ゼペリオン光線、デラシウム光流、ランバルト光弾が同時に放たれて中央にいたヘドラに直撃する。

爆発が起き、ヘドラは苦しみながら地面に倒れた。

トリガーの分身が本体に吸収されていき、同時にグリッターブレードが再び装備されてケンゴは赤色の宝石を中央に持っていった。

 

 

「ハア゛ァアア!」『Power photon』

 

 

トリガーはすくい上げるように剣を振るった。

シンクロするように赤い斬撃が地面から飛び出し、ヘドラを空に打ち上げた。

黄金の空間。ケンゴは腕にあったグリッターブレードのトライクリスタルを激しく回転させる。

 

 

『VIOLET!』『ETERNITY ZERADES!!』

 

 

真横へ振った剣。

紫色の斬撃は光の粒子をまき散らしながらその場に留まった。

 

 

(歪んだ運命に、風穴を開けてみせる!)

 

 

その時、ネオはケンゴと目が合い、表情を歪める。

 

 

「これがッ、光の巨人――ッッ! ウルトラマン……!」

 

(撃ち抜け――ッ!)

 

 

光。

 

斬撃が発射されて、ヘドラを貫いた。

爆発が起こり、ヘドラは跡形もなく消え去った。

 

 

 

 

「ギアアアアアアアン!」

 

 

先陣を切ったのはアンギラスだった。

前足を上げて、思い切り地面に叩きつける。

するとドーム状のエネルギーが発生し、神代坂を通過した。

 

 

『ウォオオオオオ!』

 

 

カイの声がジェットジャガーから聞こえた。

握りしめた拳をスペースゴジラへ向ける。

しかし粒子化されて当たらないのが絶対なのだ。

にも関わらず、ジェットジャガーの拳は確かにしっかりと、スペースゴジラの顔面に叩き込まれた。

 

 

「ガアアアアアア!」

 

 

スペースゴジラは地面に倒れる。

理解不能。解析が瞬時に行われ、答えが導き出される。

原因はアンギラスだった。彼の発生させた絶対零度のエネルギー、アブソリュートゼロのせいで連結部分が凍り付いて分離ができなくなったのだ。

 

ナノロボットたちはすぐに高熱を発生させようとするが、そうはさせるかとジェットジャガーが走る。

しかし急ブレーキ。ガイガンが滑り込んできた。

鎌を受け止めるが腹を蹴られて後退していく。

もう一度殴り掛かるが、ガイガンはそれを受け流し、再び鎌を刻み込んだ。

 

 

「ぐッ!」

 

 

カイは目を細める。

というのも、ジェットジャガーを出すのは今日が初めてであった。

今まで何度もシミュレーションをしているが、やはり実戦の空気が調子を悪くする。

するとアンギラスの鳴き声が聞こえた。アンギラスは大きな棘の一つを鱗甲板から飛ばすと、ジェットジャガーの隣に突き刺した。

冷気が迸ると、棘から氷でできた『柄』が伸びてきた。

なんて賢いんだと改めて思う。

 

 

『助かる! 使わせてもらうぜ!』

 

 

ジェットジャガーは柄を引き抜き、アンギラスが作ってくれた槍を構えて前に出た。

槍というより長刀だ。リーチの分があり、ガイガンの鎌を弾いて胴体に突きを打ち込んだ。

ガイガンは怯み、よろけ、後退していく。

そこへモスラが飛んでいき、翼を胴体に叩きつけた。

ガイガンが地面に倒れ、モスラは触覚を光らせサイコキネシスでガイガンを持ち上げた。

そのまま猛スピードで飛行する。連れていく先は少し離れたところにある大きな川だ。

海に繋がる場所で、かなり深さがある。モスラはガイガンをそこへ落すとサイコキネシスでさらに押し付けて沈めていった。

そして自らも着水して猛スピードで突進していく。

 

 

『ギシイイ!』

 

 

攻撃を受け、ガイガンは反転した。さらにそこへモスラの突進が直撃する。

水中で身動きが取れないところへ次々とぶつかっていくモスラ。

しかしガイガンもやられてばかりではない。両手を広げると高速回転。渦が生まれ、モスラはそれに巻き込まれて逆にバランスを失う。

 

 

『キシィイイイイ!』

 

 

水しぶきが上がり、ガンガンが飛び出した。

華麗に着地を決めて振り返り、腰を落とした。

バイザーからレーザーを発射し、鎌を赤く光らせる。さらに鎌同士を擦り合わせて切断能力を極限まで上げてみせた。

 

しばし、沈黙。

 

シン……、と、荒れていた水面が穏やかになる。

だが次の瞬間、再び水しぶきがあがり、モスラが勢いよく飛び出した。

 

 

「キュアアアアアアアアン!」

 

 

突進するモスラ。だがスピードはガイガンのほうが早い!

鎌がモスラの頭部に直撃してしまった!

 

 

「!!!?!?!?」

 

 

鎌が砕けた。

ガイガンはそこで体の上半分と下半分が分離していることに気づいた。

自分が破壊されたことさえ気づかずに、爆発して砕け散る。

モスラはもう一段階、強化モードがあったのだ。

それが現在の姿、『鎧モスラ』である。その強固なアーマーが鎌を逆に粉砕し、高速のスピードで繰り出される鋼の突進でガイガンを粉砕したのだ。

 

 

「グォオオオオオオオオ!」

 

 

メカゴジラが地面を蹴った。

粒子化ができなくなったとはいえ、ナノロボットとしての機能、飛行能力が備わっている。

上空からゴジラを狙うつもりなのだろう。あるいは宇宙から神代坂に突進をしかけても、その際に生まれる熱で氷も溶けるだろう。

 

 

『させるか!』

 

 

ジェットジャガーが飛翔した。

両腕を広げて飛んでいくが、スペースゴジラに迫った時、両肩のクリスタルが激しい光を放った。

衝撃を感じてジェットジャガーが墜落していく。衝撃波に撃ち負けたのだ。

するとラドンが鳴いた。飛翔し、ゴジラの脳天に着地する。

 

重すぎる。

ゴジラはすぐにラドンを払いのけようとするが、すでにラドンはゴジラの背中に回り、背びれをガッチリと掴んでいた。

ゴジラが浮き上がる。ラドンが翼を伸ばし、ゴジラを連れて上昇していく。

 

再びクリスタルが光り、衝撃波が飛んでくるが、ゴジラの黄色い背ビレが光ると黄色の衝撃波が発生してスペースゴジラのそれを相殺する。

ラドンが加速した。あっというまに距離が縮まる。

ゴジラとスペースゴジラは腕を振るい、ひたすらに引っ掻き、殴り合う。

 

 

「ギャオ! ギャオオッ!」

 

 

そのなかでゴジラの赤い背ビレが光った。

ゴジラの手に炎が収束し、それが拳の形に変わる。

それを突き出すと炎塊が発射されてスペースゴジラの顔に直撃した。

 

 

「ガガガガ……!」

 

 

スペースゴジラの動きが鈍った。

ラドンは急上昇し、そこでゴジラの紫色の背ビレが光る。

ゴジラが口を開けると紫色の光線が発射されてスペースゴジラは叩き落されて神代坂に墜落した。

すぐに浮き上がって立ち上がるが、そこで全身が凍り付いていく。

 

 

「ビュオ! オオオオオァア!」

 

 

ラドンは掴んでいたゴジラを放ると、一気に真下へ飛行する。

炎が溢れラドンの全身を包み込んだ。

火の鳥はそのままスペースゴジラの右肩にあったクリスタルに直撃。

バラバラに砕け落ちる水晶、スペースゴジラの全身から火花が散っていく。

 

上空ではゴジラがなすすべもなく落下していった。

しかしまもなく地面に激突するというところで、ゴジラの体がフワリと浮き上がり、そのまま綺麗に着地できた。

モスラだ。サイコキネシスでゴジラを補助したのである。

 

 

『アンタらすごいな……』

 

 

思わずジェットジャガーから声が出る。

ゴジラは返事をするように短く鳴いた。

 

 

「ガアアアアアアアアアアアアア!」

 

 

スペースゴジラが赤いレーザーを放つが、モスラがシールドを張って無効化する。

そこでアンギラスが吠えた。吹雪を発生させて、ゴジラの体に纏わりつかせる。

続いたのはモスラだ。羽ばたきで鱗粉をゴジラに纏わせていく。

ゴジラは赤い背ビレを発光させると、炎のエネルギーを体内で生み出し、胸や下半身、腿の辺りが真っ赤になっていき、そこから炎が溢れていった。

 

ゴジラの目が『赤く』染まる。

 

そこでさらにラドンが羽ばたき、大量の炎をゴジラに浴びせた。

バーニングゴジラ。モスラとアンギラスが制御に力を貸しているが、オーバーエネルギーではある。

短時間の使用しかできないということは、つまり決着をつけるということだ。

ゴジラはチラリとジェットジャガーを見た。

ジェットジャガーが頷くと、ゴジラは一気に走り出した。

 

 

「ギャオオオオオオオン! グオォォオオアアアアン!」

 

「ガアアアアアアア! ゴアアアアアアアアアア!」

 

 

スペースゴジラも走り出す。というよりは浮き上がり、飛んできた。

一方でゴジラに纏わりつく炎も徐々に形を形成していく。右側はモスラの羽を、左側はラドンの翼を、背中にはアンギラスの鱗甲板のようなシルエットになった。

怪獣と兵器はそのままぶつかり合い、衝撃波が生まれた。

吹き飛んでいく瓦礫の中で、両者は体を旋回させて長い尾をぶつけ合う。

ゴジラの背中から棘状の炎が連射され、スペースゴジラの背中から幾重ものレーザー光線が射出される。

 

互いの攻撃は競り合い、相殺していく。

その中で雄たけびが聞こえた。

スペースゴジラが振り返ると、ジェットジャガーの飛び蹴りが胸のところに直撃した。

よろけて後退していくのを追いかけて、持っていた長刀を思い切り投げた。

それはスペースゴジラの顔面に突き刺さり、大きくのけ反らせる。

 

 

「ウオオオオオオオオ!」

 

 

すべての力を込めて。

コックピットでは、カイが拳を何度も前に出した。

握りしめた鉄の拳がスペースゴジラの体に直撃していく。

そこでゴジラも駆け付けた。燃え滾る拳をスペースゴジラの体に打ち当てていく。

 

 

『オオオオオオオオオオオ!』

 

「ギャオ! オオオオオオ!」

 

 

ゴジラと、ジャガーで!

 

 

『ウララララララァラアア!』

 

 

パンチ!

 

 

「ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 

パンチ!!

 

 

『オラアアアアアアアア!』

「ギャオオオオン! グォオオォォエエアアア!」

 

 

パンチ!!!

 

 

同時に突き出した拳がスペースゴジラに突き刺さる!

 

 

「グガァァエアァアァアアアア!」

 

 

スペースゴジラが叫びながら大破していく。

大量のナノロボットが飛び散るが、すぐにゴジラが発生した熱波により蒸発するように消滅していった。

スペースゴジラは踏みとどまると、逆に前のめりになって走り出した。

左腕と尻尾を構成するナノロボットが全て右腕に集まってドリルの形になると、それを突き出してジェットジャガーを貫こうとする。

 

しかし感触はない。ドリルが装甲に触れる前に三機が分離して、散開した。

スペースゴジラの股下をランドマンが走り、左右を他の二機が飛行していく。

さらにもう一機、結合した状態のコックピットがスペースゴジラの頭上を越える。

 

 

『Mobile Operation Godzilla Expert Robot Aero-type』

 

 

四機が合体してモゲラに変わると、すぐに体をまっすぐに伸ばして頭部のドリルを激しく回転させた。

それだけじゃない。モゲラの体さえも高速回転して、彼自身が巨大なドリルとなって突進していった。

 

 

「スパイラルブレイカー!!」

 

 

鷹診が吠える。

同じくしてスペースゴジラも吠えてドリルを突き出した。

ぶつかり合う刃。すさまじい勢いで火花のシャワーが散っていき、そこで激しい抵抗感が襲う。

その時、鷹診は火花の向こうに友人の幻影を見た。

 

会わなければ。

 

その想いが呼応したのか、モゲラはスペースゴジラのドリルを打ち砕いていき、その脇下に突き刺さる。

モゲラの足裏の光が強まると、スペースゴジラの体が浮き上がり、激しく回転させたまま機体を操作して地面に叩きつけた。

モゲラはスペースゴジラを放置して上昇していく。そしてスペースゴジラが立ち上がったところで落下していった。

 

 

『MEga CHAracter NIrvana Knight Of New Ground-type』

 

 

メカニコングはスペースゴジラの背後に着地すると、その体をガッチリと掴んだ。

 

 

「どっせぇえええええええいッッ!!」

 

 

那須川が吠え、メカニコングがスペースゴジラを掴んだまま跳んだ。

バックドロップ。スペースゴジラの脳天が地面に激突する。

しかし、肩のクリスタルが地面に突き刺さろうというところで、クリスタルが浮き上がった。

 

クリスタルは瞬時にスペースゴジラの足裏に結合すると、そこが『肩』になっていく。

地面に突き刺さった顔がみるみる小さくなって、反対に肩が膨れ上がり『腿』に変わっていく。

逆に脚が細くなって『腕』に変わり、尾が『頭部』になっていった。

 

つまり上下が逆転したのだ。

頭だったものが尻尾に、尻尾だったものが頭に変わったのである。

それはスペースゴジラがナノロボットの集合体。偽りの生命であることの証明にも思えた。

 

 

『Justice Emperor-Type Justice Aero Ground Ultra Apex Robot』

 

 

スペースゴジラの前にジェットジャガーがいた。

両腕を前に伸ばして交差させて、拳をスペースゴジラの胸に押し付ける。

 

 

『ジャスニウム光線! 発射!!』

 

 

腕から光線が発射されてスペースゴジラに直撃した。

しかしスペースゴジラも踏み込み耐えていく。

地面を滑り、距離ができたところで光線は終了する。

 

 

「ゴオオオオオオオオオン!」

 

 

スペースゴジラは叫び形状を変化させた。

それは巨大なゴジラの頭部だった。その脳天にクリスタルが突き刺さっているという生物らしからぬ歪なデザイン。

すべての力を込めてゴジラを消し去ろうというのだ。

大きな口が光ると赤いエネルギーが集中していき、全てを消し飛ばすための準備を始める。

 

 

「ギャオン! グォオオオオン……!」

 

 

ゴジラも大地を踏みしめた。

虹色の背レビが一つずつ強く強く、それは強く光り輝いていく。

地球の『核』が呼応する。

 

 

「ゴジラ!」

 

 

誰かが名前を呼んだ。

そこでゴジラは、全てのエネルギーを解き放った。

口から虹色の熱線が発射され、スペースゴジラからも最大出力のコロナビームが発射される。

二つの光線はぶつかり合い、競り合いを始めるが――

 

 

「ゴ……! ゴゴ――ッ!」

 

 

徐々に、スペースゴジラの頭部が震え始める。

赤黒いエネルギーが、虹に侵食されていく。

 

 

「ゴゴゴゴゴッゴゴ……!」

 

 

虹が、迫る。

 

 

「ギャオオオオオオオオオオオオン!」

 

「ゴアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 

虹色熱線がコロナビームを塗りつぶし、スペースゴジラに直撃した。

頭部は消え去り、かろうじて散らばった残りのナノロボットもゴジラは発生させた熱波により全て消え失せた。

 

 

「………」

 

 

ゴジラ、モスラ、アンギラス、ラドンは再び並び立ち、アースエネルギーを解除して元の姿に戻る。

その中央に、ジェットジャガーが立っていた。

 

 

「……!」

 

 

ラドンが鳴いた。

見れば、遠くの空を飛ぶ飛行機のようなものが見える。

それはガイガンの頭部だった。どうやらあのガイガンは完全に機械でできていたらしい。

中には逃げ延びていたバイラスが乗っており、宇宙を目指している。

 

 

「く、クソ……! こんなのはスマートではない! 待ってろ! エックス星に帰還して正式に戦争の手続きを――ッ!」

 

 

警報。後ろを見ると、ジェットジャガーが腕を交差させていた。

放たれるジャスニウム光線。さらに続いて、ゴジラ、モスラ、アンギラス、ラドンが同時に光線を発射した。

五つのエネルギーは途中で交わり、黄金のビームとなってガイガンに向かっていく。

 

 

「なんじゃッッッそりゃぁああああああああ!!」

 

 

黄金の奔流はガイガンの頭部を飲み込み、爆発させた。

 

 

 

 

 

「!」

 

アンタレス本部屋上。

戦いの終わりを見届けていたメイたち。ケンゴや一輝たちも合流していたが、そこに灰色のオーロラが生まれた。

さらに隣にはワームホールまで見える。

 

 

「こ、これだ! これでオレたちはコッチの世界に!」

 

「ボクも! これに吸い込まれて!」

 

『ってことは、これを通れば帰れるんじゃね!?』

 

 

目を凝らせばオーロラの向こうにしあわせ湯が見えるし、ワームホールの向こうにはナースデッセイ号が見えた。

これを逃せば、次はいつになるかわからない。当然ではあるが、お別れの時だ。

 

 

「あの! 本当にありがとうございました!」

 

「いやいや、困ったときは助け合うのが人間だから。それにこれはオレのおせっかいみたいなもんだし」

 

「忘れないでね! スマイルスマイル! だよ! 他のみんなにもよろしくね!」

 

 

最後に、一輝とケンゴは目を合わせ、頷きあう。

 

 

「ディケイドにウィザード、他の仮面ライダーがウルトラマンの話をしてた。その時も一緒に戦ったみたいだ」

 

「ボクもゼッ……、ええっと、他のウルトラマンたちから、仮面ライダーって人たちと一緒に戦ったウルトラマンがいるって教えてもらったことがあるよ!」

 

「一緒に戦えてよかった。トリガーがいなかったら、大変だったよ」

 

「こっちこそ。リバイスがいてくれて凄く心強かった」

 

『おれっちも、ウルトラマンになりたーい!』

 

 

またどこかで何かの危機が起こったら一緒に戦おう。

そういって二人の戦士は消えていった。

それでいい。これでいい。平成ライダーの王が褒めてくれた気がしたが、気のせいだったということにしておこう。

 

 

「………」

 

 

戦いが、終わったのだ。

ゴジラは辺りを見回してみた。

街はめちゃくちゃで壊滅状態だ。たくさんの物が壊れているが、半分以上は自分たちが暴れたせいである。

人間のためにと思ったはずだが、これではきっとたくさんの人が怒り、悲しみ、そして憎む。

 

いつの日かテネが、そしてメイが人の世界に遊びに行こうと祈った。

しかしコレを見ろ。どうだ? 足を出せば何かに当たり、熱線を外せば必ず何かが壊れてしまう。

そんな状況でどうやって共に生きろというのか。

壊すことしかできない。ゴジラは悲しくなったので踵を返した。

去るべきだと思ったし、そうしようと歩き出した。

 

 

『待ってくれ』

 

 

だがそこで呼び止められたので、ゴジラは再び踵を返した。

そこにはジェットジャガーがいた。

ジェットジャガーはゴジラをジッと見つけた。そして、手を差し出したのだ。

 

 

『ありがとう。おかげで助かったぜ。はは……』

 

 

ゴジラは意味がわからずに呆けていたが、メイの想いが流れ込んできた。

メイはゴジラにその意味を必死に説明した。

それが伝わったのか、ゴジラも手を伸ばした。

 

黒い雲が晴れていく。光が街を照らしていく。

その中で、ゴジラとジェットジャガーは固い握手を結んでいた。

テネとメイは、ケンゴに言われたとおり、とびっきりの笑顔でそれを見ていた。

 

 

 






私は生まれてはじめて借りたレンタルビデオが怪獣総進撃でした。
あまり記憶はないんですが、たぶん怪獣が出てたところだけ見ていた気がします。
先日、改めて作品を見たらアホみたいにみんなギャオギャオ鳴いててめちゃくちゃうるさかったんですが、それが逆に可愛げがあっておもろかったです。
あとやっぱりオールスターですしね(´・ω・)

それでこれも記憶はおぼろげですが、おそらく買ってもらったであろうゴジラの本に、二代目が正義のために戦ったみたいなことが書いてあったんで、まあ普通に二代目が好きでした。

もちろんシン・ゴジラみたいなやつも普通に好きですが、どこか胸には二代目スピリットがあるというか。
それを思い出させてくれるキングオブモンスターズはとても良かったです。

とにかく、あのゴジラをどうにかこうにか……
ということでコレを書きました。
はじめはゴジラオンリーで行こうと思ったのですが、そういえばゴジラもコンパチヒーローズに出てた仲間であり。

以前もどこかで書いたのですが、ウルトラマンとライダーで挟めばガンダムが立派な正義のヒーローになったようにゴジラもまた……
そんな祈りを込めて、クロスオーバーにしました。

それにライダーは、よくこんなのライダーじゃないと言われてきたものですが、リバイスを見ている人間はおそらくフォーゼや鎧武、エグゼイドやジオウを通過して凹凸を受け入れる器が形成されていると思います。
なので多少無茶なゴジラ像をぶつけても大丈夫やろ? せやんな? せやろ?

サンキューな(´・ω・)b

次のエピローグで終わりです。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。



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エピローグ

 

 

「おかえり兄ちゃん」

 

「おかえり一輝にい」

 

 

弟と妹に一輝は笑顔を向けた。

父は相変わらずよくわからない動画の撮影をしていた。

 

 

「顔つき変わったね」

 

 

母はそう言って笑った。

 

 

『やだ! 一輝! 整形したの? おれっちにも教えてよ! おれっちも今度ちょっと鼻のほうを……』

 

「そうじゃねぇって」

 

 

さあ! 風呂でも入るか! 一輝はそういってスマイルを向けた。

 

 

 

 

「昔、ガイアっていうウルトラマンが同じような目にあったって本があるんだ。まあ本だからお話なんだけど、もしかしたら別の世界では本当にあったことなのかもな」

 

 

仲間がちゃぶ台付きの六畳一間を探しながら教えてくれた。

ケンゴはそれを手伝いながら、そういうものかと頷いた。

 

 

「どうして、違う世界に行けたんだろう?」

 

「そりゃあ……、誰かが助けを求めてたってことでいいんじゃねぇか? 助けれたんだからそれでいい! うん!」

 

「そっか。そうだね! あ! 見て! いい感じの物件あったよ!」

 

「なにぃ!? ほ、本当じゃねーか! あ! だが待て! ちゃぶ台がない!」

 

「買えばいいじゃん」

 

「え?」

 

「へ?」

 

「あ、そっか」

 

 

でもレトロがどうとか、風情がどうとか。

うんたらかんたらと悩む仲間をほっといて、ケンゴはあの世界のことを想った。

きっと大丈夫だ。ケンゴはスマイルを浮かべて、ちゃぶ台探しを手伝い始めた。

 

 

「………」

 

 

ネオは水槽の中にいるヘドラを見つめていた。

わざとか、それとも偶然か、トリガーはヘドラの核を破壊できなかった。

小さなオタマジャクシが水槽で泳ぎまわっている。同じ水槽には小さなカニもいた。

 

 

「………」

 

 

そして、もう一ぴき?

カニからボコボコと水色のジェルが出てきた。

黄色い目をしたヘドラがいた。

 

 

「時代が変わる」

 

 

ネオは白いマントをはためかせ、椅子に座った。

同時刻、革命軍『スカーレットバムブーク』の船の中では、新たなるリーダーが誕生し、スピーチを行っていた。

腐った世界を断ち切り、我々が未来を創るのだ。

男は吠え、それに呼応するように背後では巨大怪獣エビラが海から姿を見せた。

 

 

「常識が通用しなくなり」

 

 

薔薇の花畑の中を一人の女が歩いていた。

髪は緑色で、白衣を着ている。

風が吹いた。大量の薔薇の花びらが宙を舞い、女はそれを掴もうと手を伸ばした。

その背後では、ひときわ大きな薔薇が花びらを光らせていた。

 

 

「新たなルールが適応される」

 

 

少年はペットに餌をあげていた。

周りは気持ち悪いと怖がるが、少年はその子が優しいことを知っていた。

確かに見た目は……、怯むかもしれない。

少年も始めはこんなあまりにも大きな蜘蛛……、慣れなかった。

しかし今は、クモンガと名前をつけて可愛がっている。

 

 

「人は進化を促される」

 

 

シートピアでは、王子が冠を受け取っていた。

人々は新たな王の誕生を祝い、その背後にいる巨大怪獣を敬った。

 

 

「それは是か非か」

 

 

エックス星人がニヤリと笑っている。

壁にはモンスターXがもたれ掛かって腕を組んでいた。

惑星のマップ、そこに表示される文字。

キング、カイザー、デス。それは、それぞれの星が所有している。

 

 

「歯車は回りだした」

 

 

ドクロ島。

小さな少女の前に、英雄・コングが座っている。

少女が微笑むと、コングもまた微笑んだ。

 

 

「カイザー共よ。あなた方は、世界をどう変えますか?」

 

 

ネオは未来を見ていた。

そう、未来だ。あれから時間が経った。

予想していた通り、怪獣を否定するものが現れ、怪獣を肯定するものが現れた。

 

アンタレスは瓦礫の山から極星を無事に回収できたそうだ。

つまりゴジラの攻撃を受けてもアレは壊れなかった。

ますますその価値が証明され、同時にそれが異世界から齎されたということは、それを凌駕するものがあるかもしれない。

あるいは、再び侵略者がやってくるかもしれないということだった。

なにかしらの棘が抜けても、また新たな棘が人の心には突き刺さる。

 

 

「……何を?」

 

ピカピカのオープンカーの前でネムが問いかけた。

両親の墓参りを終えたカイは、少し疲れたように、けれども希望を感じさえる笑みでこう答えた。

 

 

「長い話さ」

 

 

カイはそう言ってほほ笑んだ。その頭の上にはもう一つの頭があった。

 

 

「ずいぶんなついてるじゃない」

 

「親と勘違いされたんだよ。コイツ、マグロが好きなんだけど特に大トロが好きなんだ。困ったヤツだよなぁ?」

 

 

アメリカで見つかったタマゴがアンタレスに運ばれてきたので調査をしていたら、そこで孵化してしまった。

出てきた恐竜は、向こうでゴジラと呼ばれていたものの幼体だったので、カイはこの子を『ジラ』と名付けて育てているのだ。

 

とにかく、いずれにせよ確かなことは一つだ。

 

多くの怪獣たちが、この世界に存在しているということである。

世界のどこかではその事実に耐えることができず電車に飛び込んだり、首を吊った人間がいるらしい。

カイはそれを胸にして、歩いていく。

 

 

「おい! 頼むよ!」

 

 

そして、今日もクドウがメイを追いかけまわしていた。

手には四機目のタルタロスの設計図がある。

 

 

「頼むよ! スターガルーダ! こいつをゴジラに纏わせ――」

 

「いや僕は! 車の免許も持ってないのに!」

 

「大丈夫! 全部アンタにフィットするようにしてあるから!」

 

 

その近くでは出店があって、子供たちがはしゃいでいる。

 

 

「とうちゃんうまーい!」

 

「うまーい!」

 

「なはははは! せやろせやろ! いやコレ! 売り上げがとまらんねん!」

 

 

那須川が息子や娘に焼いていたのは『ラドン焼き』である。

那須川の実家の食品会社と協力して作ったアンギラスまんや、モスラシュー、ゴジラソフトの売り上げも順調で、笑いがとまりまへん!

そうしていると鷹診がやってきた。準備ができたらしい。

 

 

「さあ、行こうか」

 

 

一同はグリフォンに乗って、そこへ向かった。

メイと、メイの両親がお金を出して買った『島』である。

メイはそこを"怪獣ランド"と名付けた。いわばこれはゴジラたちの別荘だ。

島には地下世界につながるトンネルもあるし、中央にはアンタレスの研究施設もあり、将来的には怪獣にストレスがかからない程度に観光ができるようになればと考えていた。

 

 

「知ってもらいたいんですよ。あのゴジラは、僕らの友達だって」

 

 

そうしていると早速アンギラスが顔を見せた。

あれを試してみようと那須川が前に出る。

彼の手には、クドウが作った『オルカ』という装置があった。

腕時計の形をしており、疑似的にカイザーシステムを使用できる代物である。これによって怪獣の気持ちがわかるし、気持ちを伝えることができる。

猫の気持ちがわかる玩具みたいなものだ。将来的にはアプリにまでできればと考えている。

 

 

「こんにちは!」

 

 

那須川がオルカに向かって話しかけると、グリフォンからアンギラスの鳴き声に似た音声が放たれる。

するとアンギラスが鳴いて、オルカにメッセージが表示された。

 

 

『こんにちは!』

 

「ええ天気ですね!」

 

『お魚がおいしいです!』

 

 

鷹診もラドンがいたので使ってみる。

 

 

「おはよう」

 

『そうだそうだ』

 

「気分はどうかな?」

 

『そうだそうだ』

 

「好きな食べ物は?」

 

『そうだそうだ』

 

「クドウくん、これ壊れてない?」

 

 

問題は山積みだ。

たとえば仕方ないことだったとしても、ラドンたちは一度洗脳されている。

再び洗脳されて地球に牙をむく存在になりうる場合もある。

だからこそすぐに洗脳を解除できるように。

あるいは予防できるシステムを日々、アンタレスは研究しているのだ。

何者かが悪意を振りかざした時、そこにはきっと仮面ライダーとウルトラマンはいない。だからこそ自分たちでそれを乗り越える必要があるのだと。

 

 

「見て! メイくん!」

 

 

メイの肩に座っていたテネが指をさした。

そこにはゴジラがいた。モスラを布団のようにして一緒に昼寝をしていた。

 

 

「!」

 

 

ゴジラはメイが来たことに気づいて目を覚ました。

モスラもテネの気配を感じて目を覚ました。

こんにちは。そういう気持ちを送ると、同じ気持ちが返ってきた。

 

メイとテネは、思い切り手を振った。

これからゴジラたちには、きっと楽しいことばかりは起きない。

それでも僕は、僕らがここにいる。そんな気持ちを込めてメイたちは手を振った。

 

するとゴジラが手を振り返してきた。

グリフォンが島を離れて見えなくなるまで、ゴジラは手を振っていた。

 

 

 






実は、よくネットとかでゴジラじゃないといわれて(そもそも私も思ってしまった)、一番最初のハリウッドゴジラを見てなかったんですが、かまいたちのyoutubeで、山内さんがめちゃくちゃおもろい映画でゴジラをあげてたので、僕もそこでようやっと見ました。

結果としてめちゃくちゃ面白かったです。
確かにまあゴジラじゃないと言われたらそうなのかもしれませんが、それでも核の影響で生まれたりと抑えるところは抑えておいて、怪獣映画として何度も盛り上がりポイントがあったりと完成度は高いように感じました。

それでこれはがっつりとネタバレになるんですが、その映画ではラスト生き残りの子供が出てくるんですけど、その映画だけを見ると不穏な感じで終わるんですが、実はこの映画はアニメで続きがあって、その最後の一体が正義の怪獣として戦うものになるらしいです。

そういえば平成ゴジラもね。
これもまたネタバレになりますが、VSデストロイアのラストはどうもジュニアが核を吸って生まれたゴジラっぽいですからね。
途中でクジラはしばいてましたが、テレパシーお姉さんもいますからそこまで危険な存在にはならないだろうと……!

私はこれらを二代目スピリッツが齎した祈りであると思ってます。
まあ二代目もぶっちゃけそこまで正義かと言われたらアレかもしれませんが概念はね。概念は。

私は素人なので何も裏事情はわかりませんが、最近はどうにも新作を作るのがエグイくらい大変であろうということはわかります。
とはいえね、アニメとかいろいろ媒体はありますから、これからも新しいゴジラは生まれて、新しい世界を見せてくれるのだろうと思ってます。
いろいろな作風を浴びながら、いつかまたどこかで二代目の香りを感じた時、私はきっと笑顔になるのでしょう……(´・ω・)b



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