実力主義の教室にようこそせず (太郎)
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1巻
1話


 ふと考える

 

「人は平等であるか否か」

 

 今、現実社会は平等にやたら厳しい。性別や障がいの有無についてそれらの差を無くすべきだと様々な働きが行われ、そして今の子供たちは人は皆が平等だと教え込まれる。

 それが正しいのかどうかなんてのは私には分からない。ただ、私は周りで飛び出ている杭にトンカチを下ろす気もなければ、足並みを周りに合わせるなんてこともしたくない。つまるところ、平等という名のもとに不平等を強いられるのには耐えられない。そう自由がいい、自由愛してる。

 

 

 

 

 4月、入学式。私、松崎 美紀は学校に向かうバスの中、座席に座りボーッとしていた。それなりの数の乗客がいる中で運良く席に座れたことに感謝しつつ辺りを見渡すと、乗客の多くが私が着ている制服と同じものや恐らくそれの男子バージョンであろう制服を着ており、今日から学校生活が始まることを再認識し憂鬱な気分になった。

 この嫌な気持ちを忘れるために寝てしまおうかと考えていると、前の方から声が聞こえた。

 

「席を譲ってあげようと考えないのかしら?」

 

 ふと視線をやると、優先席に座っている制服に身を包んだ金髪の男子が、OL風の女性に話しかけられていた。

 

「そこの君、お婆さんが席に座れず困っているのが目に入らないのかしら?」

 

 よく見ればOL風の女性の隣にはおばあちゃんがいる。つまるところ優先席をおばあちゃんに譲れという話だろう。出来ればもう少し声量を落として欲しいものだ。眠りを妨げられたことにちょっとした怒りを覚える。

 

「実にクレイジーな質問だね、レディー」

 

 金髪男子くんはニヤリと笑うと足を組み直し、言葉を続けた。

 

「何故この私が、老婆に席を譲るべきだと思うんだい? 理由がどこにも見当たらないが」

 

「君が座ってる席は優先席よ。つまりお年寄りに席を譲るのは当たり前でしょう」

 

「理解できないね。優先席はあくまで優先席であって法的な義務はどこにも存在しない。この席を譲るかどうか。それは今現在この席を座ってる私が判断することなのだよ。若いから席を譲る? 実にナンセンスな考え方だ」

 

 金髪男子くんの言っていることは正しい、たしかに優先席に法的な義務はない。そもそもおばあちゃんも優先席=座れるという考えのもとバスに乗りこんできてないだろう。そして、そんな考えの人に席を譲りたいという人も少ないのではないか。

 

「私は確かに立つことに何の不自由も感じない。しかし、座っているときよりも体力を消耗することは明らかだ。意味もないのに無駄なことをするつもりはないねぇ。それとも、何か対価を恵んでくれるとでも言うのかな?」

 

「そ、それが目上の人に対する態度!?」

 

「目上? 君や老婆が私よりも長い人生を送っていることは一目瞭然だ。そこに疑問を挟む余地も無い。だが、目上とは立場が上の人間を指す言葉であって歳が上の人間を指す言葉ではない。それに君にも問題がある。歳の差があるとしても生意気極まりない実にふてぶてしい態度ではないかな?」

 

「なっ……! あなたは高校生でしょう!? 大人の言うことを素直に聞きなさい!」

 

 ペースは完全に金髪男子くんのものになり、OL風の女性もムキになり始めた。こうなった時点で金髪男子くんの勝ちでOL風の女性と要らないお世話を受けたおばあちゃん、そしてついでに朝からめんどくさいものを見せられた私達乗客は負けだろう。まぁ勝ち負けの話では無いかもしれないけど。

 

「も、もういいですから……」

 

 おばあちゃんはこれ以上騒ぎを大きくしたくないのか。手ぶりでOL風の女性をなだめるが、OL風の女性は高校生に侮辱され怒り心頭のようだ。

 

「どうやら君よりも老婆の方が物分りがいいようだ。いやはや、まだまだ日本社会も捨てたものではないな。老婆よ、残りの短い余生を存分に謳歌するといい」

 

 金髪男子くんはそう言い、爽やかなスマイルを決めると、イヤホンを耳につけ爆音ダダ漏れで音楽を聞き始めた。うるさいOLが黙ったと思ったら、お前もうるさいんかい。

 

 

「申し訳ありません……」

 

 OL風の女性は涙を堪えながら、おばあちゃんに小さな声で謝罪する。騒動自体は終わり、あともう少し経てばこの最悪の空気も何とかなるだろうと思い、目を閉じた瞬間にまたひとつの声が聞こえた。

 

「あの、私もお姉さんの言うとおりだと思うな」

 

 私と同じ制服に身を包む可愛らしい女子高生だ。

 

「今度はプリティーガールか。どうやら今日の私は女性運があるらしい」

 

 爆音で音楽を聞いていたにも関わらず、よくプリティーガール(仮)ちゃんの声に反応できたね、すげ〜。それにしても金髪男子くんもプリティーなものはプリティーと思う感性はあるらしい。

 

「お婆さん、さっきからずっと辛そうにしているみたいなの。席を譲ってもらうことはできないかな? 余計なお世話かもしれないけど、社会貢献にもなると思うの」

 

 えぇ、どう見ても金髪男子くんは社会貢献に興味あるタイプじゃないでしょ……。

 

「社会貢献か。中々面白い意見だ。確かにお年寄りに席を譲ることは、社会貢献の一環かもしれない。しかし実に残念だが私は社会貢献に全く興味が無い。私はただ私が満足であるならばそれでいいと考えているんだ。それともう一つ。このように混雑した車内で優先席に座っている私を槍玉に挙げているが、他にも我関係なしと座り込み沈黙を貫いている者たちは放っておいていいのかい? お年寄りを大切に思う心があるのなら、そこには優先席か否かはささいな問題でしかないと思うのだがね」

 

 やっぱり無かった。そして、残念ながら私も見ず知らずのおばあちゃんに席を譲る気は全くもってない。哀れなりおばあちゃん。

 

「皆さん、少しだけ私の話を聞いてください。どなたかこのお婆さんに席を譲っていただくことはできないでしょうか? お願いします、誰でもいいんです」

 

 プリティーガール(仮)ちゃんは金髪男子くんに誘導され、私達に口撃対象を変えてきた。ただの傍観者だった私達も一気にフィールドに召喚されてしまったようだ。彼女の放った口撃に当たってしまう人はいるのだろうか、そんなしょうもない事でワクワクしていると、無気力な目をした少年と目が合った。と言っても少年は一瞬で別の方向に目を向けた。彼も席を譲る気は無いのだろう。そんなことがあの目からは伺えた。

 

「あ、あの、どうぞっ」

 

 そう言って一人の社会人女性が立ち上がる。プリティーガール(仮)ちゃんの口撃が見事にヒットしたらしい。どうせ譲るならもうちょっと早く譲って欲しかったと思わないでもないが、この状況に終止符を打ってくれたことに感謝する。ありがとう。

 

「ありがとうございます!」

 

 プリティーガール(仮)ちゃんは満面の笑みで頭を下げ、おばあちゃんを席まで誘導する。おばあちゃんは何度もお礼を言い、めんどくさい朝の一悶着がハートフルストーリーに変わっていくのを感じる。良かったねおばあちゃん。

 

 その後程なくして目的地に着き、私もバスから降りる。東京都高度育成高等学校。これが私が今日から通うことになった学校だ。めんどくさい。ただ、全寮制かつ外部との接触が禁止というバカみたいな校則によってうるさい両親から逃げられたことだけが救いだろうか。人の波に流されながら私は門をくぐり抜けた。

 

 

 

 自分のクラスを確認し、その教室を目指す。どうやら私はDクラスらしい。教室のドアを開けると既にグループができ始めているのか教室はガヤガヤと騒がしい。自分のネームプレートの置いてある席を見つけ、周りを見渡すと先程同じバスに乗っていた顔がチラホラある。プリティーガール(仮)ちゃん、そして後ろの席には目のあった無気力少年もいる。どうやら皆同じDクラスのようだ。無気力少年はどうやら隣の席の美人系の女の子と話しているらしい。

 ってかここに来るまでもこの教室も監視カメラ多くない?? なんで皆すんなり受け入れてるの? 

 

「中々設備の整った教室だねぇ。噂に違わぬ作りにはなっているようだ」

 

 見てみれば教室の入り口に金髪男子くんがいる。彼も同じクラスらしい。さて、私も友達を作ろうと後ろを振り向くと既に会話を終えたらしい無気力少年とまた目が合う

 

「さっきもバスで目が合ったよね、まぁ今回は私が振り向いただけなんだけど。私は松崎 美紀、君は?」

 

「あ、あぁオレは綾小路 清隆。よろしく」

 

 無気力少年もとい清隆くんは私がいきなり話しかけたことに戸惑いながらも自己紹介を返してくれる

 

「バスの中ではなんでわざわざ後ろを向いてまで、キョロキョロしてたの? 清隆くん、席譲る気なかったでしょ」

 

 清隆くんは私がいきなり下の名前で呼んだことに少し驚いていた。この生き物は少し可愛いかもしれない。

 

「いや、単に周りに席を譲る奴がいるのか気になっただけだ。それに松崎も席を譲る気なんてなかったじゃないか。事なかれ主義としてはああいうことに関わって目立ちたくない」

 

「目立ちたくないならキョロキョロせずに振り返ったりせず下向いてたらいいのに。でもそんな事なかれ主義の清隆くんにこの学校は向いてないかもね」

 

 監視カメラだらけで目立つ目立たないの話じゃないしね

 

「?? どういうことだ」

 

 監視カメラに気づいてないの? こんなにいっぱいあるのに? 

 

「だってかんs」

 

 言いかけたところでチャイムが鳴り、同時にスーツ姿の女性が教室に入って来た。長い髪を後ろで一つにまとめている。なかなか真面目そうだ

 

「先生来たみたいだね」

 

 私は視線を後ろから教卓に移し、これから始まるであろう話を待つ。

 

「新入生諸君、私がDクラス担任の茶柱佐枝だ。担当教科は日本史。初めに言っておくが、この学校には学年ごとのクラス替えは存在せず、卒業までの三年間、私が担任としてお前たち全員と学ぶことになると思う。今から一時間後に入学式があるがその前に、この学校に設けられている特殊ルールについて書かれた資料を配る。もっとも、以前入学案内と合わせて配布してあるがな」

 

 3年間クラスも担任も固定。何かクラス内で問題が起こった時、担任が頼りなかったら終わりじゃん。交流もかなり狭くなりそう。頼むぞ佐枝ちゃん先生。

 

 そんなことを考えていると前の席から見覚えのある資料が回って来る。それを前の席の人に習って清隆くんに回す。どうやら合格発表後に貰った資料と同じものらしい。この学校には、キモく、意味不明な、そして私を入学に至らしめた校則がある。

 それは寮生活を義務付け、例外を除き外部との接触を禁止、敷地から出るのも禁止という校則だ。改めてキモイ。その代わりこの学校の敷地内には様々な施設が存在する。カラオケ、シアタールーム、カフェ、ブティックなどがある。もはや私の実家付近より充実している。かなりお金がかかっている事が伺える。他に税金回せよ!! と思う。嘘。この学校に入れてよかった。もっと税金使え。そして私の卒業とともに廃校して下さい。この学校はそんな学校だ。

 

 そして、もう1つの激キモ校則、Sシステム。

 

「今から配る学生証カード、それを使えば敷地内の全ての施設を利用することが出来る。勿論、売店などで商品を購入することも可能だ。端的に言えばクレジットカード、電子マネーのようなものだな。ただし消費されるのは現金ではなく、この学校内でのみ流通しているポイントだ。この学校においてポイントで買えないものはない。学校の敷地内にあるものなら何でも購入可能だ」

 

 そう! この学校は毎月お小遣いが貰えるのだ!! もちろん無償である。つまり税金からだ。ホントに私の卒業とともに廃校してくれ! 頼む! 

 

 だが、そんなこと些細なことに思える発言が佐枝ちゃんから今出た。「この学校においてポイントで買えないものはない」と言ったのだ。勝った。私がこの学校を選んだのは間違いではなかったらしい。

 

「施設では機械に学生証を通すか、あるいは提示することで使用できる。それからポイントは毎月一日に生徒全員に自動的に振り込まれることになっている。お前たちには既に一人十万ポイントが支給されているはずだ。尚、このポイントは一ポイントあたり一円の価値がある。分かりやすくていいな?」

 

 教室内がザワつく。私もこんなに嬉しいのは人生初かもしれないと思うほどテンションが上がる! 嬉しい。

 そりゃ外部との接触を禁止するわけだわ、こんなの学校に入る前に知ってたら、絶対倍率えぐい事になるし、苦情殺到だろう。3学年4クラスに月々10万円。あまりにも莫大すぎる。卒業したら絶対リークしよう。

 

 

「支給額に驚いたか? この学校は実力で生徒を測る。入学を果たした時点で、お前たちにはそれだけの価値と可能性があると学校側は判断した。それはお前たちに対する評価の表れだ。遠慮なく使え。ただし、ポイントは卒業後には全て学校側が回収する。現金化などは不可能だから貯め込んでいても得にはならんぞ。ポイントはどのように使おうがお前たちの自由だ。仮に必要ないと言うのであれば誰かに譲渡してもいい。だがカツアゲのような真似はするなよ? 学校はその手の問題に厳しくに対処する」

 

 ん? 評価の表れ? もしかして評価が下がったらお小遣い減る? なんだよ、期待させちゃって。佐枝ちゃん先生も意地悪だなぁ。だからこんなに監視カメラがいっぱいあるのか、結果だけでなく生活態度も評価のうちということだろう。

 10万ポイントは評価最大値なのだろうか? ワンチャン最低値であれと思いつつ、それはないことを悟る。そこで大切なのは最低値がいくらかだろう。さすがに0ポイントでは生きていけないの20000ポイント位は毎月絶対貰えるだろうか? 

 私の評価は今後下がる一方だと思うので、なるべく最低値が高いことを祈る。戸惑いが広がる教室内で、佐枝ちゃんはぐるりと生徒たちを見渡す。

 

「質問は無いようだな。では、よい学生ライフを送ってくれたまえ」

 

 そう言い、佐枝ちゃん先生は教室から出ていく。クラスメイトの多くは10万ポイントという大きな数字に驚きを隠せないようだ。

 そうだよね、頑張れば毎月お小遣い10万ポイントだもんね。なんならもっと貰える可能性もあるし。バカみたいな学校だと思っていたが、ホントにバカな学校だったようだ。そして、そのバカな学校に入学できた私たちはとても幸運なのだろう。きっと卒業して行った先輩方は後輩の幸せのために内部情報の黙秘を守ったのだろう。感謝感激雨あられだ。

 いや、この学校の進学率、就職率が100%とはいえ、多くの有名人を排出していることから、ただ多額のお小遣いを貰えるだけという訳ではなく、かなりハイレベルな教育が行われるのだろう。それこそ、外部に漏らしたくないような。

 

「皆、少し聞いて貰ってもいいかな?」

 

 そんな中スっと手を挙げたのは、如何にも好青年といったイケメンくんだ。

 

「僕らは今日から同じクラスで過ごす仲間だ。今から自発的に自己紹介でもして一日でも早く皆が仲良くなれれば思うんだ。入学式までまだ時間もあるし、どうかな?」

 

 自己紹介大事だよね。わかります。

 

「さんせー! 私たち、まだみんなの名前も全然わかんないし」

 

 イケメンくんに賛同するようにクラスでは自己紹介をする雰囲気ができてくる。

 

「じゃあ言い出しっぺの僕から。僕は平田洋介。趣味はスポーツ全般だけど、特にサッカーが好きかな。気軽に洋介って呼んでほしい。よろしく」

 

 イケメンくんもとい洋介くんはまるで教科書にも載っていそうなイケメンとはクラスの中心人物とはこう自己紹介するものだという自己紹介を体現したかのような挨拶を爽やかな笑顔とともに行う。これはときめく。

 

 その後は彼に続いて自己紹介が行われる。緊張して上手く自己紹介できない子もいればウケを狙いにくる子もいる。

 

「じゃあ次は私だねっ」

 

 元気よく立ち上がっのはプリティーガール(仮)ちゃんだ。

 

「私は櫛田桔梗と言います。中学からの友達はこの学校にはいないので一人ぼっちです。早く名前と顔を覚えて、みんなとも友達になりたいなって思ってます。私の最初の目標は、ここにいる全員と仲良くなることです。皆の自己紹介が終わったら、ぜひ連絡先を交換して欲しいです。それから放課後や休日は色んな人とたくさん遊んで、多くの思い出を作りたいので、どんどん誘ってください。ちょっと長くなりましたが、以上で自己紹介を終わりますっ」

 

 プリティーガール(仮)ちゃんは桔梗ちゃんというらしい。最初の目標でクラスメイト全員と仲良くなるということは最終目標は人類と仲良くなったりするのだろうか? 近いうちに桔梗ちゃん中心の世界ができる日が来るかもしれない。ぜひ私とも仲良くしてほしい。

 

「じゃあ次──」

 

 洋介くんが促すように次の生徒に視線を送ると、その生徒は洋介くんを睨み返す。髪を真っ赤に染め、まさに不良と言った感じの赤髪不良くんだ。

 

「俺らはガキかよ。自己紹介なんてやる必要ねぇ、やりたい奴だけやってろ」

 

 こちらの赤髪不良くんもまたまるで教科書に載っていそうな自己紹介の拒否をする。赤髪不良くんも同じ入試を受けて、この学校に合格出来たことが信じられない。性格は見かけによっているが、学力は見た目によらずらしい。

 

「僕には強制する権利はない。でもクラスで仲良くしようとすることは決して悪いことじゃないと思うんだ。もし不愉快な思いをさせたのなら謝るよ」

 

 そう言い頭を下げる洋介くん。洋介くんの模範的な謝罪、赤髪不良くんと洋介くんのどちらを擁護するかなど分かりきっていた。

 

「自己紹介くらいいいじゃない」

 

「そうよそうよ」

 

 洋介くんは一瞬のうちに多くの女子生徒を味方につけ、それに嫉妬する男子生徒を多く生み出した。

 

「うっせぇ、こっちは別に仲良しごっこしに来たわけじゃねぇんだよ」

 

 赤髪不良くんは席を立ち、ドアへ向かう。同じように数人の生徒が後を続く。えぇ自己紹介くらいしようよ。3年間クラス替えが無いことを忘れているのだろうか? それともホントに誰とも仲良くするつもりがないのだろうか? だとしたら強い。あくまでそれがただの反抗期でないのならだけど。私の予想は出ていったうちの10割が反抗期もしくは厨二病。

 

「悪いのは彼らじゃなく、勝手にこの場を設けた僕が悪いんだ」

 

「そんな、平田君は何も悪くないよ。あんな人たち無視して続けよう?」

 

 まぁこれを見て赤髪不良くんたちが出ていった組を悪くないという人は一定数いるだろうが、洋介くんが悪いと言う人はほぼ居ないだろう。居たら、その人を指さして爆笑する自信がある。

 

 雰囲気は少し悪くなったが自己紹介は続いていく。そしてついに金髪男子くんの番が回ってきた。手鏡を見ながら、髪を整えている。

 

「あの、自己紹介をお願いできるかな?」

 

 洋介くんがそう声をかける

 

「フッ。いいだろう」

 

 金髪男子くんは微笑みを見せるが、そこからふてぶてしさが感じられるのは気のせいではないだろう。そして立つことなく、机に足を乗せながら自己紹介を始める。

 

「私の名前は高円寺六助。高円寺コンツェルンの一人息子にして、いずれはこの日本社会を背負う男だ。以後お見知りおきを、小さなレディーたち」

 

 なんと金髪男子くんもとい六助くんはお金持ちのお坊ちゃまらしい。羨ましい。私もそこまでお金に関して不自由を強いられたことはないが、やはり欲しいものをなんでも買えた訳ではない。きっと六助くんはクレジットカードで欲しいものなんでも買ってきたのだろう。これはお坊ちゃまに対する偏見だろうか? 

 

「それから言っておこう。私が不愉快と感じる行為を行った者は、容赦なく制裁を加えることになるだろう。嫌ならば十分配慮したまえ」

 

 六助くんは何を不愉快と思うのだろう? 肩を叩いて振り向いたほっぺに指をツンツンしたら制裁を加えられるのだろうか? いつかやってみたい。

 

「えーっと、高円寺君。不愉快と感じる行為っていうのはどんなことかな?」

 

 洋介くんも私と同じことを思ったのか不愉快のラインを質問する。

 

「言葉通りの意味だよ。まぁ1つ例をあげるなら私は醜いものが嫌いでね。そのようなものを目にしたら果たしてどうなってしまうやら」

 

 醜いもの。つまり見た目が悪いものや道徳から外れているもの。おばあちゃんに席を譲らなかった彼の従う道徳は何なのだろうか? その道徳が私の邪魔をしないことを祈る。

 

「あ、ありがとう。気をつけるようにするよ」

 

 修学旅行では六助くんの顔にジャン負けでラクガキしにいく遊びが行われるかもしれない。

 

「じゃあ次は君、お願いできるかな?」

 

 しょうもない事を考えていると私の番が回ってきた。

 

「私の名前は松崎 美紀。勉強やスポーツは人並みには出来ると思います。私もこの学校に知り合いは多分いないから、みんな仲良くしてくれると嬉しいです」

 

 みんなから拍手をもらう。それなりに無難な挨拶が出来ただろう。自己紹介は無難にそれでいってハキハキと。友達作りはその後の休み時間に頑張るべきなのだ。

 

「うん、よろしく。えーっとじゃあ次の人。後ろの君、お願いできるかな?」

 

 洋介くんは私への社交辞令とともに後ろの席の清隆くんにパスを回す。

 

「え?」

 

 窓の外を見てボーッとしていた彼は順番が回ってきたことに驚き、椅子をガタッと言わせながら勢いよく立ち上がる。分かる。その席は窓の外見ちゃうよね。私の自己紹介とかどうでもいいよね。

 

「えー……えっと、綾小路清隆です。得意なことは特にありませんが、皆と仲良くなれるよう頑張りますので。えー、3年間よろしくお願いします」

 

 挨拶を終え、そそくさと席に座る。私と同じ無難な挨拶なのに情けなく聞こえるのは合間合間の「えー」のせいだろう。これが事なかれ主義の自己紹介か、なるほど。やっぱりこの生き物は可愛いかもしれない。

 

「よろしくね綾小路君、仲良くなりたいのは僕もみんなも同じだ。一緒に頑張ろう」

 

 洋介くんのフォローと同時にパラパラと拍手が鳴る。私は清隆くんが少し嬉しそうにしているのを見逃さない。やっぱりこの生き物は可愛い。

 

 

 

 

 

 長い長い入学式を終え、みんなが寮やショッピングに向かう中、私は1人職員室に方向へ足を進める。そして職員室に着くとコンコンとドアをノックし入室する。

 

「1年D組の松崎 美紀です。茶柱先生はいらっしゃいますか?」

 

 しばらくすると佐枝ちゃん先生がやってくる。

 

「入学早々なんだ松崎?」

 

 その目からは少し期待が伺えるのは気のせいだろうか? 

 

「質問がありまして。佐枝ちゃん先生は先程プライベートポイントの説明の時にこの学校においてポイントで買えないものはないとおっしゃっていましたよね?」

 

「茶柱先生だ。あぁ確かに言ったな」

 

 

「ずばり、授業の出席はいくらで買えますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




指 名 松崎 美紀
クラス 1年D組
誕生日 6月27日

学力 A
知性 A
判断力 C
身体能力 B+
協調性 B

面接官からのコメント
学力は中学2年生の時1度だけ受けた全国模試では全国一位という素晴らしい成績を残しいる。友達もそれなりにおり、コミニュケーション能力に関しても問題と思われる。面接でも模範解答と言える受け答えができていた。しかし圧倒的に授業への出席日数が少なく、テスト、行事への出席は小、中学校合わせて1度もない。ただ放課後に学友と遊んでいる姿はよく見られていたらしい。よって参考資料が少ないこともあり、Dクラスへの配属とする。

学校からの評価は今後の展開によって修正するかもしれません。とりまなんとなくって感じです。

面白いと思ったらいい評価下さい。と言っても1話はほぼ原作のコピペであり、オリ主と他キャラの絡みもほぼ無ければ原作との乖離もない。これの何を評価しろって感じなんですけどね。まぁ2話に期待の評価ってことで。


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2話

1話の平均って何文字くらいなんやろか?


 

「ずばり、授業の出席はいくらで買えますか?」

 

 

 佐枝ちゃん先生は目をギョッと開く。驚いている。授業をサボりたい! せや! 出席を買えばええんや! なんてこと多くの生徒が考えそうなことなのに、歴代の先輩方にはいなかったのだろうか? 

 

「学生の本分は勉強だ。授業の出席なんて売っているはずないだろう」

 

「嘘ですよね。売っているはずです」

 

 佐枝ちゃん先生はため息をつき、私に問う。

 

「なぜそう思う?」

 

「佐枝ちゃん先生は朝、二つのことを言ってました。一つは先程も言った通り、この学校においてポイントで買えないものはない。もう一つは10万ポイントは今の私たちの評価である。つまるところ、来月からの学校から支給されるお小遣いは己の評価によって変わるのでしょう。そして、恐らく授業に欠席することは評価を下げる対象でしょう。誰しも病気や怪我で授業に欠席する場面が絶対出てくる。つまり、評価が下がる瞬間がくる。その下がった評価を元に戻すために出席をポイントで買うという発想に至るのは当たり前のこと。なぜなら、佐枝ちゃん先生曰く、この学校で買えないものはないらしいから。もう一度、聞きます。授業の出席はいくらで買えますか?」

 

 ヤバい、めっちゃ自信満々にドヤ顔で語っちゃった。間違ってたらどうしよう。恥ず。これで買えなかったら、私はこのドヤ顔をどうしまえばいいの? そんなことを考えていると、佐枝ちゃん先生から先程よりも大きなため息が聞こえてくる。

 

「茶柱先生だ。1授業につき、1000ポイント。それで売ってやろう」

 

 よかった。買えた。私はドヤ顔のままでいいらしい。

 

「やっぱり買えるんじゃないですか。ヒヤヒヤさせてくるな〜。欠席した授業に対して、出席の購入期限はいつまでですか?」

 

「成績を付ける関係から、欠席した次の日の放課後までだ」

 

「なるほど、では欠席するより前に先に購入しておくこと、そしてメールでポイントを送金することでの購入は可能ですか?」

 

「どちらも可能だ」

 

 月のはじめに1ヶ月分のポイントを全部払っちゃうのが楽でいいな。

 

「なるほど、ありがとうございます。時間貰っちゃって申し訳ないんですけど、あと二つほど質問があります。まずひとつ、この学校の単位の取得条件を教えてください」

 

「ふむ、少し待て」

 

 佐枝ちゃん先生はそう言うと席を立ち、職員室の奥の方へ向かう。私はドヤ顔を静めながら考える。

 高校の単位の取得条件は普通の高校だと、だいたいは授業への3分の2以上の出席と試験で赤点を取らない、もし取ってしまったらその後補習を受け再試験合格することだろう。そして、年間授業日数は190〜200日。この学校にもこれが適応されているとして、1週間のうち2日が7限残りが6限まで授業があるので一日の平均授業数は6.4授業。

 よって、私が退学になることなくこの学校で1年過ごすために必要なポイントは最低190日ײ/₃ ×6.4授業×1000ポイントの81万666.66……ポイント。とりあえず、今月分は足りるとしても来月からは足りない。どこかで増やさなければ。

 

「すまない、待たせたな。単位の取得条件は授業への3分の2以上の出席、赤点を取らないこと。この2つだ。まぁ普通の高校と一緒だな」

 

 どうやら、私の予想はあっていたらしい。まぁこの学校も国運営なのにその他の公立高校と違ったら変だもんね。しかし、赤点を取らないこととわざわざ言うということは補習は無いのだろうか? まぁこれは私には関係ない事だからいい。いざという時は点をポイントで買えばいい。

 

「ありがとうございます。では最後の質問なんですけど、部活一覧とその部活が行われている場所の一覧を頂けませんか?」

 

 これはズバリ賭けによるポイントの増加。これはボードゲームやカードゲーム、陸上や水泳などの競争系に多いだろう。と言っても陸上や水泳で本職に勝てる気はしないが。もしくは得意そうな部活があれば入っていい成績を残すことで評価を上げつつもしかしたら直接ポイントが貰えるのではないかと思ったからだ。

 

「それは渡してもいいが、明日ある部活動紹介の後でないと新入生は部活に参加出来ないぞ。それにお前が何を考えているかはなんとなく分かるが、それも明日の部活動紹介でそれぞれの部活の特色を聞いてからでも遅くはないだろう」

 

 佐枝ちゃん先生には私が何をしたいか見抜かれているんだろう。というか毎年、私のような生徒が一定数いるんだろう。それにしても部活動紹介で賭けをしていることを公言する部活はあるのだろうか? 

 

「なるほど。分かりました。明日、部活動紹介に行ってみようと思うので、一覧は大丈夫です。わざわざ教えて頂きありがとうございます」

 

 私がそう言って頭を下げると、佐枝ちゃん先生はまた小さくため息をつき言う。

 

「構わない、また何か聞きたいことや困ったことがあればいつでも来い。できれば授業にも出て欲しいが」

 

 なんていい先生なのだろう。きっと佐枝ちゃん先生はDクラスのみんなから慕われるに違いない。

 

「はい、ありがとうございます。では失礼します」

 

 私はそう言い、職員室を出るとショッピングモールへ向かう。ホントなら部活に殴り込みという名の入部をしようと思っていたが、それは明日行くことになった。よって今は昼食が大切である。

 あぁしまった。部活動紹介がいつから始まるか聞いとけばよかった。明日も学校に行かなきゃじゃん。適当にクラスメイト一人捕まえて連絡先交換しとけばよかった。いや、それに関しては今からでも遅くないな。ショッピングモールまでの道のりで誰かを見つけよう。

 

 

 周りに注意を巡らしていたが、クラスメイトを誰一人見つけることなくショッピングモールに到着する。広い。案内板を見るに多くの店が中に入っているようだ。いろいろと回りたいところではあるが今日は昼食の買い出しのみをして寮に戻ろうと思い、食料品売り場へ行くと思いがけないものが目に入る。無料と書かれたワゴンだ。

 

 その中には食料品や日用品が入っている。そして無料の文字の下には「1ヶ月につき3点まで」と書かれている。

 あれ? これもしかしなくても、お小遣い0ポイントになる可能性ある? このような無料商品がコンビニや食堂にもあるのなら1ヶ月0ポイント生活は全然可能だ。食費が限りなく0ポイントになったことを喜べばいいのか、お小遣いが0になる可能性が大なことを悲しめばいいのか分からない。

 

 私はワゴンの中から塩、醤油、サラダ油をカゴに入れ、袋麺とパスタ、ソースを取るとレジへ向かう。調味料は大切。料理のさしすせそが大切なのだ。味噌? 知らない子だな。しかし、早急にポイントを集めねば焼きそば&パスタ(どちらも具なし)が永遠と続いてしまう。

 

 今日のうちに食堂も見に行ってみようと思い、食堂に入るとそれなりの生徒がいる。そしてやはりあった無料メニュー。山菜定食。山菜の天ぷらに味噌汁、ご飯。普通に美味しそうだ。こちらには回数制限がないようだし、今日のというかこれからしばらくの昼食はこれにしよう。お野菜も取れるし。

 

「山菜定食ひとつ下さい」

 

 食堂のおばちゃんに注文すると、周りからクスクスと笑い声が聞こえる。その方向に視線を向けると、おそらく上級生であろうと思われる女子生徒がこちらを見て笑っている。もしかして山菜定食を頼むのは評価が低く学校から支給されるポイントが少ないヤツの特徴みたいな風潮があるのだろうか? タダなんだから、みんな頼めばいいのに。

 

「山菜定食ひとつ、お待ち!」

 

 食堂のおばちゃんから山菜定食を受け取り、席を探すと1人でモソモソと山菜定食を食べている女子生徒を見つける。

 

「ここ座ってもいいですか?」

 

 その女子生徒は私の問いかけに、少し驚きつつも返してくれる。

 

「うん、いいよ」

 

「ありがとうございます。私、今日からこの学校に入学した松崎 美紀って言います。先輩ですよね?」

 

「うん、私は2年の吉田 かりん。せっかくの初食堂なんだからもっといいもの食べればいいのに」

 

 かりんちゃん先輩は私に少し羨ましそうなそして悲しそうな表情を向けながら言う。

 

「今後、貰えるポイントがどれくらい減るかわからないので、少しでも節約したいですからね。逆に私が山菜定食を頼んだ時に笑ってくる人たちの方が不思議ですよ。あっ、かりんちゃん先輩はもしかして山菜定食を頼むしかないタイプですか?」

 

「えっ!」

 

 かりんちゃん先輩が大きな声を上げる。

 

「どうしたんですか?」

 

 かりんちゃん先輩は口を手で抑えると小声で尋ねてくる。

 

「なんで、貰えるポイントが減るって思ったの?」

 

「? 担任の先生が言ってましたよ」

 

 私は首を傾げながら答える。

 

「ホントに?」

 

「えぇ。10万ポイントはお前らの評価だ。って佐枝ちゃん先生が。これって評価によっては貰えるポイントが変わるってことですよね」

 

 かりんちゃん先輩は目を見開き、ゆっくり言う。

 

「美紀ちゃんは何クラスなの?」

 

「Dですよ。かりんちゃん先輩は?」

 

 かりんちゃん先輩が口を開こうとした時、後ろから声が聞こえる

 

「やっぱり不良品同士は引かれ合うのかしら」

 

 私たちをバカにしたような声だ。後ろを振り向くと先程私を笑っていた女子生徒のうちの一人だ。目が合うと私のことをバカにしたようにニヤッと笑い、食堂から出ていく。

 変なのもいるなーと思いつつ、かりんちゃん先輩の方を向き直ると、悲しげな表情を浮かべている。あんなのほっとけばいいのに。

 

「さっきの知り合いですか? 変なのもいるもんですね。不良品同士ってどういう意味なんでしょう」

 

 私の質問に、かりんちゃん先輩は慌ててトレイを持ちながら立ち上がり言う

 

「それは言えないな。でもその前の質問には答えるよ。私はDクラスだし、山菜定食を頼むしかないタイプだよ。声掛けてくれてありがと、久しぶりに昼食が楽しかったよ」

 

 かりんちゃん先輩はそう言ってトレイを返却口に返し、食堂から出ていった。

 私は少し冷めた山菜の天ぷらを食べながら考える。美味しい。かりんちゃん先輩と私は不良品同士。思いつく共通点はクラスと頼んだ無料の定食 。

 無料の定食を頼む主な理由はポイントがないから。そして、ポイントがない奴を不良品と呼ぶのは分かる。だってポイントがないのは学校からの評価が低いとほぼ同義だから。

 

 私を笑った先輩は私がDクラスと言った後に私とかりんちゃん先輩を不良品同士と言った。そして私自身も不良品である自覚はある。また今日のクラスでの自己紹介を思い出しても、六助くんに赤髪不良くん含め自己紹介もせずに出ていった生徒達。

 今日だけで数人、社会不適合者がDクラスにいることが分かる。もしかしてクラス分けには意味があり、Dクラスはホントに不良品の集まりなのだろうか。さらにここから予想するならAからDの順に優秀なのだろう。

 

 だけど、そのようにする意味はなんだろう? パッと思いつくのだと、優秀な生徒に敢えて不良品を見せることでそのような不良品にならないようにと戒めること。しかし、それなら3年間クラス替えなしという制度が邪魔だ。Aクラスの生徒がただ上で胡座をかくだけになる。

 もう1つ自分に都合のいいことを思いつくのなら、学校からの評価は個人ではなくクラスに与えられること。そしてその評価をクラス間で競わせることだろう。そうすることで上は常に下から追われる意識、下は下克上を狙う意識が芽生え、互いに成長を促すことが出来る。そして何より集団で成長することの難しさを学べるだろう。

 

 この仮説があっているなら、私にとってメリット、デメリットがそれぞれある。

 メリットは私自身の評価は低くとも、クラスメイトの頑張り次第ではそれなりのポイントの支給が行われること。しかし、不良品と言われるDクラスに期待できるのだろうか? 私のような生徒の集まりの可能性もある。かりんちゃん先輩も月のはじめから山菜定食を食べていたわけだし。

 デメリットはクラスの評価のためにクラスメイトから学校に来いという催促が来る可能性があることだろう。これは早ければ3日後位から来るかもしれない。めんどくさい。まぁ全く来ない可能性も同じくらいあるが。しかし、Dクラスが評価を上げたいと考えるのなら私がサボり続けている限り、Dクラスで友達を作ることは厳しそうだ。他クラスか部活で友達を作らねば。

 最後に残しておいたミツバの天ぷらを食べ、私は立ち上がる。いろいろと悩んだけど、まぁどうにかなるか。寮に帰ろ。

 

 あっ、もし仮説があってるなら、佐枝ちゃん先生にドヤ顔で語ったこと間違ってたじゃん。恥ず。




というわけでなんとなく学校のシステムの真実に近づいたオリ主ちゃん。僕は原作にわかであり、よう実はほぼ二次創作しか読んでいないのでこれは矛盾してるよってとこあれば遠慮なく教えてください。逆に僕に知識があるが故にオリ主ちゃんの思考がおかしかったりしても教えてください。
あとかりんちゃん先輩はモブです。


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3話

この子らって携帯料金どうしてるんやろか?どっかに記載されてたりします?


 学生寮に着き、1階フロントの管理人から自分の部屋のカードキーと寮でのルールが書かれたマニュアルを受け取り、エレベーターに乗り込む。マニュアルには、ゴミ出しの日や時間、水や電気の使いすぎへの注意などの生活の基本の事柄ばかりが記載されていた。

 

「水道代、電気代、ガス代も基本的に無料なんだ」

 

 これらも全生徒分賄おうと思えば、かなりの額が動くはずだ。この学校はある程度の入学費さえ払えばあとはホントにタダで生きていけるようになっているようだ。永遠に留年していたい。

 自分の部屋の前に着き、ドアにカードキーを差し込んで部屋に入る。だいたい八畳くらいだろうか?広いとは言えないが私だけの部屋だ。初めての一人暮らしにワクワクが止まらない。一通りの家事はできるし、特に困ることもないだろう。それに口うるさい親がいない。これがなんといってもデカい。

 とりあえず制服を脱いで、入寮前にあらかじめ送っておいた動きやすい服に着替える。キッチンの方にいき、収納を開くと包丁やまな板、鍋にフライパンなどの最低限の調理器具がある。よかった。とりあえず料理で困るのことはなさそうだ。あっ洗剤とスポンジ、布巾がない。もしかしてと浴室をのぞく。何もない。そりゃそうか。浴室に置くものなんて人それぞれこだわりがあるだろう。また、買い出しに行かなきゃダメなのか。

 こうなったら、無料商品が貰えそうなところ全部回ってやる!そう思い、カードキーと学生証、携帯を持つと靴を履きドアノブに手をかける。いざゆかん!!

 

 

 

 なかなかに疲れた。自分の部屋に戻ると、部屋を出てから4時間が経っていた。

 ショッピングモールの中にも食料品売り場以外に無料商品が貰える場所があったとは。でも必要な日用品はだいたい集まっただろう。自販機で水も無料でゲットできたし。しかし、無料商品のワゴンの中に普段使っているシャンプーなどのトイレタリー用品がほぼなかった。そのせいで結構なポイントを使うことになってしまった。必要経費だ。それに歩き回ったおかげで施設の配置もだいたい覚えれたしね。

 買ってきたものをそれぞれの場所に置き、お風呂場の掃除を始める。早く汗を流したいけど、いくら清掃が入っているだろうとはいえ、つい先日まで誰かが入っていたお風呂に何もせず入ろうとは思えない。

 

 風呂掃除を終えると、浴槽にお湯を貯めてからお風呂に入る。私は湯船にしっかり浸かる派なのだ。体を清め、湯船に浸かる。リラックスしながら、この学校について振り返る。

 おそらくクラスごとに評価され、その評価によって毎月支給されるポイントは変わる。そしてそのポイントは0になる可能性がある。

 学生の評価と言ったら、学力、運動能力、授業態度や生活態度あとはコミュニケーション能力だろうか。そしてめっちゃある監視カメラはそれらを公平に審査するためのもの。あっ佐枝ちゃん先生なんて呼ばずに茶柱先生って呼ぶべきだったな。ミスった。まぁいい。

 そして、Dクラスが不良品の集まり。逆にAクラスは良品の集まりだろう。洋介くんや桔梗ちゃんなどのDクラスでありながら、特に問題ないように見えた人達はめっちゃバカか、小中学校で問題を起こしたかのどちらかだろう。2人とも明日から学校に来ずにサボる可能性も微レ存。

 とりあえず、今日あったことから考えられるのはそれくらいだろうか。あと気になるのはクラス間の競走がどれくらい活発かだ。それはテストか何らかのイベントまで待つか先輩の様子を見に行くことで分かるか。

 

 ここまで考えたところでお風呂から上がる。髪にヘアオイルをつけ、乾かす。パジャマを着て、サラサラでいい匂い髪を振りまきながらベットにダイブする。

 今日は歩き回って疲れた。晩ご飯はまだ食べてないけど寝てしまおう。おやすみ、世界。

 

 

 

 

 

 ふと目が覚める。手探りで携帯を探し、時間を確かめる。午前9時17分。寝坊だ。

 いや、学校行くつもりがなかったから寝坊ではないが、普段起きている時間よりかなり遅い。なんやかんや新生活の始まりに緊張し、疲れていたのだろうか。

 とりあえず、朝の用意をし、パジャマを脱ぎジャージに着替える。今日は部活動紹介のために学校に行かなければならないので学校は午後から行こう。

 私はそう決めて、小学校4年生からの毎朝のルーティンであるランニングを行うためにランニングシューズを履き、外へ出る。本来は朝もっと早く起きてするのだが仕方ない。生徒はみんな授業を受けているせいか誰もいない。静かだ。走りやすい。私は昨日覚えた道を確認するように敷地内を大きく一周して、寮に戻ってくる。正確な距離は測っていないがそれなりに走った気がする。

 部屋に戻るとシャワーを浴びて、制服に着替え学校へ向かう。まだ昼休みには1時間程早いが、食堂が開いているのが見えてくる。昨日、晩飯を抜いたせいかお腹がすいているのだ。食堂に入り食堂内を見渡すが、生徒は誰一人いない。どうやら誰もサボりはいないようだ。

 

「山菜定食ひとつ下さい」

 

「アンタ、授業は?」

 

 食堂のおばちゃんは怪訝そうな顔をして私に尋ねてくる。

 

「お腹すいたのでサボっちゃいました。」

 

「しっかりしなさいよ。はぁ山菜定食ひとつね。まだ準備の途中だから、あと20分ほど待ってなさい。」

 

「は〜い」

 

 私はそう言って適当な席に座り、携帯を取り出す。そして佐枝ちゃん先生に4000ポイントを送金する。これで4限までの授業は出席になったはずだ。お腹すいたな〜と足をパタパタしながらボ〜っとしているといきなりおばちゃんから声がかかる。

 

「山菜定食いっちょ!」

 

 急に現れたおばちゃんに私はビクッとしつつも頭を下げ、お箸を持つ。

 

「いただきます」

 

 うん、やっぱり美味しい。やはりお腹がすいていたのか、一瞬でお皿の上から山菜の天ぷらがなくなる。

 時間を見ると、あと15分ほどで昼休みが始まる。それまで適当にぶらついて、昼休みになってしばらくしたらまた来ようと思い、立ち上がり食堂から出る。目立ちたくないし、このお腹の感じならもう一回は山菜定食が入るだろうと思ったからだ。図書室にも近いうちに行ってみたいな〜と思いつつブラブラと辺りを散策する。

 

 キーンコーンカーンコーンとチャイムの音が校舎から聞こえてくる。どうやら4限が終わり昼休みが始まったようだ。私は再び食堂に足を向けて歩き始める。するとイケメンが目に入る。どうやら洋介くんと女の子数名のグループも食堂に向かっているようだ。

 声をかけるか迷う。仮にDクラスが上を目指すのなら私の方針的にクラスメイトと仲良くなるのはなかなか難易度が高い。そして何より仲良くなったら面倒な気がする。だがしかし、学生生活において友達を作ることは必須事項。私は現段階で友達が一人もいない。それに彼らと仲良くならずとも彼らとの昼食を共にすることで、彼らの考えとDクラスの生徒のレベルを知ることが出来るのでは無いだろうか?それによって今後Dクラスで友達を作っていくかを考えれば良い。

 思い立ったらすぐ行動!私は洋介くんたちの方へ駆け寄る

 

「こんにちは、洋介くん。私もお昼ご一緒してもいいかな?」

 

「もちろんいいよ、松崎さん。それにしても午前中は来てなかったみたいだけど、なにかあったたの?」

 

 洋介くんたちは授業を受けていなかった私がここにいることに驚いているようだ。そりゃそうだ。

 

「寝坊したんだよね。午後からは授業に参加するよ。」

 

 私はまるで明日からしっかり授業に参加するかのように答える。

 

「そうなんだ、新生活の始まりでリズムが崩れちゃったのかもね。」

 

 私と洋介くんが会話を続けていると、周りの女の子たちから視線が刺さる。どうやら彼女らは洋介くんハーレム列車の乗客のようだ。5限駅に着いたら降りるから少しの間だけ乗せておくれ。ごめんね。

 しかし、洋介くんたちは誰も私に出席を買うことを勧めてこない。これはその方法に気づいてないのか、そもそもクラスでの評価に気づいてないのか、全くもって今後のお小遣いに興味がないのか、たった4限分の休みなど微々たるものだと考えているのかどれなのだろう?

 先にあげたふたつだとするとクラスの中心人物であろう洋介くんがポイントの仕組みについて知らないのだからDクラス誰も理解していないのか、私のようにわざわざ報告してないのかのどちらかだろう。これに関しては前者にしても後者にしてもなるほど不良品の集まりだろう。

 次にお小遣いに興味がない場合。この場合はDクラスで友達を作ることは余裕そうだ。しかし、明らかに真面目そうな洋介くんを見る限り可能性が低く感じる。やはりここは洋介くんたちはこの学校のシステムに気づいていないと考えて行動するべきだろう。

 

「それにしても、入学2日目からサボりなんて強すぎでしょ。」

 

 そう言うのはギャルギャルした女の子。確か名前は軽井沢 恵ちゃん。この子も可愛い。恵ちゃんは洋介くんの隣にいるのは私だと主張するように洋介くんに体を寄せる。なんか警戒させちゃってごめんよ。

 

「強いも何もないよ。ただ寝坊しちゃっただけなんだから。それより授業の様子とか教えてよ。」

 

「うーんとね。進学校って言うから厳しいんじゃないかって警戒してたけど、先生たちはみんなフレンドリーだし、結構男子とかうるさかったけど私語とかも全然注意されないしでめちゃくちゃ楽だったよ」

 

「僕としては授業はみんな真面目に受けてほしいんだけどね。」

 

 恵ちゃんの言葉に洋介くんが苦笑いしながら続ける。しかし、先生たちが注意しないということは学校は初めの1ヶ月はポイント支給のシステムを隠して生徒たちを驚かせたいらしい。かりんちゃん先輩が教えてくれなかったのはきっと箝口令が引かれているからだ。

 Dクラスにおいて学年全体において5月までにこの真実に気づくものの割合はどれくらいなのだろうか?多数派?少数派?小、中学校とまともに学校に通ってこなかったことに後悔だ。それは嘘。全く後悔してない。

 しかし一般人の思考のレベルがどれくらいか分からないのは中々のディスアドバンテージではなかろうか?とりあえず、今、この時間に関しては流れに身を任せ続けよう。

 

「それは楽でいいね!そんな感じなら明日からは私みたいに朝寝坊する生徒がチラホラ出てくるかもね。恵ちゃんたちとかももしかしたら……ね。」

 

「ちょっとやめてよ、美紀こそ明日も寝坊するんじゃないの」

 

 談笑していると私たちの注文の番がやってくる。

 

「平田くん見て、無料の山菜定食だってー」

 

「コンビニにも無料商品があったよね。ポイントを使いすぎた人への救済処置なのかな?10万ポイントなんて大金を貰えるとしてもしっかり節約しないと。」

 

 みんなはどうやら昨日は食堂に来てないようだ 。

 それにほぼ確定だな。今のところDクラスはこの学校のシステムに気付いてない。別に教えてもいいんだけど、変に目立って頼られても困るし。ここは私も気づいてないフリをするのが吉だろう。佐枝ちゃん先生が要らないことを言わないといいけど。

 

「私、席取ってるよ。その代わり注文頼んでもいいかな?」

 

「松崎さんありがとう。注文は何にする?」

 

「山菜定食で。それなら無料だから学生証渡さなくてもいいしね。」

 

「山菜定食を食べるの?」

 

「だって気にならない?無料の定食。」

 

 実は既に2度食べているのだけど、ここは周りに合わせて初めてのフリをする。席を取りに行くのは食堂のおばちゃんにバレないようするためだ。

 

「え〜美紀って変わってるね。絶対美味しくないよ。」

 

「それを確かめるんじゃん」

 

 そう笑って私は席の確保へ向かう。適当な席に座りみんなを待っているとすぐにみんながやってくる。この食堂は注文からご飯を出すのがとても早い。

 

「こっちだよー」

 

 手を振りながら自分の存在をアピールして、洋介くんたちを呼ぶ。

 

「席ありがとう。はいこれ、山菜定食。」

 

「ありがと〜。全然美味しそうじゃん」

 

「そうかな〜?」

 

 みんなはこれが美味しそうに見えないらしい。もしかしてこいつらも六助くんと同じでお金持ちなのか?それとも山菜ってただの葉っぱじゃんって言っちゃうタイプなのか?

 

「それでは皆さん手を合わせて」

 

「「合わせましたー」 」

 

 私の音頭にみんな着いてきてくれる。

 

「いただきます!」

 

「「いただきまーす!」」

 

 みんなで顔を見合わして笑う。みんなノリがいい。3度目の山菜定食はやっぱり美味しい。

 

「全然美味しいよ!恵ちゃん食べてみる?」

 

「ホントに?じゃあ貰おうかな?代わりに私の唐揚げもひとつあげる。」

 

 恵ちゃんと山菜の天ぷらと唐揚げをトレードする。等価交換だ。なんたってどっちも揚げ物だからね。

 それにしても入学して3度目の食事にて初の山菜定食以外の食べ物。ひと口食べると肉汁が溢れ出てきてとても美味しい。必然と気づいてしまう。山菜定食が美味しいじゃなくて、食堂のおばちゃんの料理が美味しいんだ。

 

「ホントだ。山菜定食も無料の割には全然食べれるじゃん!節約したい時は食べるのアリかも!」

 

「でしょ!でもやっぱポイント払って買った唐揚げの方が断然美味しいね。」

 

「そうなんだ、僕も明日は山菜定食食べてみようかな?」

 

「なんなら洋介くんもいる?」

 

 私のその言葉に女の子たちの空気が一瞬凍る。嘘じゃん。ついさっきまで楽しそうにしてたじゃん。

 

「いや、僕は遠慮しとくよ」

 

 その言葉によってまた空気が動き出す。コイツ、ハーレムに慣れてやがる!

 その後、雑談を交わしてると、ピンポンパンポーンと音が流れる。

 

「本日、午後5時より、第一体育館の方にて、部活動の説明会を開催いたします。部活動に興味のある生徒は、第一体育館の方に集合してください。繰り返します、本日──」

 

 あっここにいる意味ないじゃん。部活動紹介がいつあるか分かったら今日学校に来る意味ないじゃん。図書室にも行ってみたいしね。私は残りの山菜定食を食べると立ち上がり言う

 

「ごめん!この後用事あるんだった。先抜けるね。一緒に食べてくれてありがと!」

 

「そうなんだ、また一緒にご飯食べよう」

 

 いきなり立ち去ろうとする私を怪訝に思いながらもそうフォローしてくれる洋介くん。

 

「うん、ごめんね。じゃあバイバイ、洋介くん、恵ちゃんにみんな。」

 

 そう言い、私は図書室を目指す。楽しかったなぁ。あーあ早く5月にならないかなー。佐枝ちゃんに2000ポイントを送金しながらそんなことを考える。

 

 

 

 

 




まだ入学2日目が終わらないだと!?


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4話

お気に入り100件突破。ありがとうございます。僕は承認欲求の権化なのでみんなもっと評価とか感想くれてもええんやで。


 洋介くんたちと別れ、図書室を目指す。この学校の図書室はさすがに地域の図書館よりは小さくともかなりの蔵書数を誇っているらしい。何を隠そう私は読書が好きなのだ。

 ルンルン気分で図書室のドアを開くと中にはまばらに生徒がいる。あと数分で昼休みも終わるので、みんなすぐに出ていくことだろう。入り口近くにある新書のコーナーに目を向けるとめっちゃ充実してる。すご!さすが都会!私の最寄りの図書館ではこうはいかない。先週発売したばっかの本とかあるじゃん。

 私はその宝の中から好きな推理小説シリーズの新刊を見つけて取る。部活動紹介まであと4時間程あるので本がもう2冊は欲しいと思い、新刊コーナーに置いてある上下巻完結の恋愛小説を手に取る。これにしよう。よしっと思い席に座ると周りに人っ子一人いない。時計を見れば既に5限が始まっている。チャイムの音が聞こえなかっただと!?

 しかし司書さんらしき人に退室は促されないし、授業時間中もここにいていいようだ。ちょっとした安堵とともに私は推理小説を開く。私に解けない謎はない。じっちゃんの名にかけて、真実はいつも一つ。

 

 

 

 面白かった。いつもならノートに分かったことや推理を書いていき犯人を探す探偵役として推理小説には参加する派なのだが、今日はノートを持っていなかったため一般観衆役として参加したがそれでもやはり面白いものだ。このシリーズは新刊のでるペースも早いからいい。

 ぐーっと伸びをしてから恋愛小説へと手を伸ばす。私は雑食なので恋愛小説もよく読むがやはり好みとしてはあまり好きではないのだ。しかし、読むからにはこの恋成就されるのみよ。

 

 

 

 面白くなかった。あんだけネタにされときながらまだ「おもしれー女」のフレーズを使う作者様がいるとは、やっぱり恋愛小説は肌に合わない。どうしてだろう。私自身、恋をしたことがないからだろうか?

 それなりの数、告白されたこともあるが、どうしても好きな人は現れない。この人のためなら働いてもいいと思える人に会ったことがないのだ。このままでは私の将来はニートまっしぐらだろう。六助くんのお嫁にとってもらってヒモにでもなろうかな?でもあれの相手するのはダルいな。金無き自由と金有り不自由なら私は金無き自由を選ぶ。はぁ宝くじ当てたい。

 

「あなたも本が好きなんですか?今読んでいたそれもそちらに置いてある推理小説もつい先日発売したばかりのものですよね。」

 

 ふと前から声がかかる。顔を上げると可愛らしいのほほんとした銀髪少女がこちらに目を向けている。なんだその期待でキラキラした目は。表情はないのに。というか図書室に人がいっぱいいる。どうやら既に放課後に突入しているらしい。

 

「この図書室では新書か歴史書、参考書くらいしか新しく読むものがないくらいは好きかな。」

 

「それはすごいですねっ!わたしもミステリーはかなり読んでいるのですが、この図書室にある分全部読んだとはさすがに言えません!」

 

 銀髪少女は嬉しそうに声を大きくする。どうやら私は期待には応えれたらしい。

 

「ちょっと声、大きいよ。」

 

 私が口元に指を持っていきしーっとすると、銀髪少女ちゃんはハッとして周りに頭を下げてから恥ずかしそうにこちらを見る。

 

「すみません、クラスメイトには読書好きがいなさそうだったのでつい興奮してしまいました。わたしは1年Cクラスの椎名 ひよりと言います。」

 

 どうやら銀髪少女ちゃんはひよりちゃんと言い、同学年らしい。

 

「私は1年Dクラスの松崎 美紀。よろしくね、ひよりちゃん。」

 

 私はそう言いながら携帯で時間を確認する。17時20分。私の気のせいでなければもう既に部活動紹介は始まっている。ヤバい。

 

「ごめん、ひよりちゃん。せっかく話しかけてもらったのに悪いんだけど、部活動紹介に行きたいから私もう行くね。あっ連絡先だけ交換しとこ。」

 

「あ、そうなんですね。」

 

 そんな捨てられた子犬のような目をしないでおくれ。そうやって連絡先を交換すると私は第一体育館へ急ぐ。それにしても連絡帳に初めて人が登録された。それも他クラス。私はきっとこの学校では自クラスよりも他クラスとの交流が大切になってくるはずだ。上がる頬を必死に抑えつつ第一体育館へ走る。

 

 第一体育館前に着くと中からガヤガヤと話しているような声が聞こえる。私は扉の前で息を整えてから、扉を開く。

 どうやら説明会は既に終わり、みんな入部の手続きをしているらしい。間に合わなかった。悔しい。とりあえず、受付のところに立っている部活動の名前が書かれた看板に目を向け、目的の部を探す。

 やっぱりあったボードゲーム部。誰も並んでない。どのような部活か聞きそびれたし、受付にいる先輩に直接聞くとしよう。私はボードゲーム部の受付まで足を運び、受付をしている男子生徒に小さく声をかける。

 

「この部活では賭け事は行われていますか?」

 

 これが1番大切なことだ。いくら楽しそうな部活でもここでNOと返ってくればこの部活には入らない。

 

「あぁ特に決まった日はないが、部員同士でよく行われている。」

 

 よし!やはり私の予想は外れていなかったらしい。

 

「その賭けには部活に所属していないと参加できませんか?それとも道場破りみたいに賭けをしたい時に部室に訪れたら参加させて貰えますか?」

 

「その時部室にいる部員が断らなければ可能だが、見ず知らずの生徒と賭けをする部員は少ないかもな。」

 

 なるほど毎月ある程度まとまった額を稼ぐには部員になった方が楽そうだ。それもそうか。出会い頭に賭けに誘われて乗る人の方が少ないだろう。

 

「ふむ、では部員は何名くらいいますか?あとこの部活に所属するにあたっての決まり事などは?」

 

「部員は俺を合わせて9人。特にこれといった決まり事はなく、毎日部室は開いてるが誰も来ない日も少なくない。あぁでも感想戦だけはみんなきちっとやるな。一応部活だから共に向上していこうという考えはみんな持っている。」

 

 どうやらほんとに緩いらしい。感想戦も大切なのは分かるから大歓迎だ。賭けが行われていて決まり事などはほぼなく緩い。まるで私のために用意された部活じゃないか。よし、この部活に入部させてもらおう。

 

「なるほど。私は1年Dクラスの松崎 美紀です。ぜひ、ボードゲーム部に入部させてもらえないでしょうか?」

 

「あぁ、もちろん歓迎だ。今年は誰も新入部員が入らないのかとヒヤヒヤしていたよ。俺は3年Bクラスの近藤 栄作だ。一応部長を努めさせてもらってる。これからよろしくな。ここに名前とクラスを書いてくれるか?」

 

 そう言って、入部届けをこちらに差し出す栄作先輩。私はそこに必要事項を書きつつ、栄作先輩に尋ねる。

 

「今日は部室に誰か来てますか?」

 

「あぁ俺を除いた部員がいるはずだ。みんな新入部員が入るかどうかワクワクしているからな。今から行くのか?」

 

 私は入部届けを栄作先輩に手渡して言う。

 

「はい、先輩方にあいさつついでに軽く顔を出してきます。」

 

「きっと喜ぶよ。場所は別棟の4-D教室だ。場所は分かるか?」

 

「はい、分かります。では行ってきますね。」

 

 私は栄作先輩に頭を下げ、ボードゲーム部を目指す。新入生は今のところ私1人か。誰かこの後入ってくれるかな?

 できればAクラスかBクラスかのどっちかが好ましい。ひよりちゃんとももっと仲良くならなければ。A、B、Cクラスにそれぞれ友達がいれば今後絶対に役立つ。

 4-Dの教室発見。体が高揚しているのを感じながら私はノックをする。

 

「はいどうぞ〜」

 

 優しそうな声が中から聞こえてくる。扉を開け入室すると8つの顔、16個の目がこちらを嬉しそうに見ている。

 

「もしかして新入部員かなっ?」

 

 嬉しそうに弾んだ声だ。ほんとに新入部員が来るのを楽しみに待っていたらしい。

 

「はい、今日からボードゲーム部に入部させて頂くことになりました。1年Dクラスの松崎 美紀と言います。どうぞよろしくお願いします。」

 

 私のあいさつを皮切りに先輩方があいさつをしてくれる。どうやら歓迎ムードのようだ。良かった。しかし、今日はワイワイするために来たのではないのだ。

 

「入部初日でこんなことを言うのは失礼かもしれませんが、先輩方、ぜひ私と賭けを行っていただけないでしょうか?」

 

 先輩方の暖かな目が一気に鋭くなる。

 

「それはいいけど、何で賭けをするの?この部活での王道は将棋、オセロ、チェスのどれかかな?」

 

「その3つならどれでも構いません。私から勝負を申し込むのですから、先輩方の得意なもので。」

 

 私はなにを隠そう小学五年生のときに、ボードゲーム極めたらカッコよくねと思い、学校にほぼ行かずに将棋にオセロ、チェスの練習を死ぬほどやったのだ。

 

「ふ〜ん、随分と舐められたものだね。いいよやってあげる。いくら賭けるの?」

 

「今、私は約7万2000ポイント持っているので、それ以下なら何ポイントでも構いませんよ。」

 

「なら1万ポイントで。私は将棋が得意で対戦してもらおっかな。」

 

「分かりました。よろしくお願いします。」

 

 そうして、二人で駒を並べゲームをスタートする。他の先輩方も見学しているようだ。序盤は様子見として軽く指すが、先輩はあまり強くないように感じる。結局、最初から最後までこちらの優勢のまま私の勝利でゲームは終わる。

 

「これで詰みですね。」

 

「いやー強いね!いきなり賭けを吹っかけてくるだけのことはあるよ!ねーねーここはどうしてこう指したの?」

 

 割とフルボッコにしたけど、先輩はあまり気にした様子もなく感想戦に入る。そうして感想戦を終えて、次の先輩との勝負を始めては勝ち、感想戦をする。

 その後、先輩たち全員と戦って分かったことがある。この人たちホントにボードゲームが好きな人の集まりだ。強くなれるなら後輩にボコされようとある程度のポイントが持っていかれようとどうでもいいんだ。

なんていい狩場なんだろう。この部活に入部して正解だったようだ。

 

「美紀ちゃんなら大会でもいい成績残せるかもね。」

 

「大会があるんですか?」

 

「決まった大会とかはないけど、みんなそれぞれ参加したいときにエントリーしてるよ。」

 

「それっていい成績残せたら、やっぱり学校からポイント貰えるんですか?」

 

「そりゃもうたんまり貰えるよ。」

 

大会の日程を調べる。私は頭のノートにそうメモをした。

 

「さて、そろそろ最終下校時間だから、帰らなきゃ。片付けは私たちでやっとくから美紀ちゃんは先に帰ってていいよ。」

 

「そうですか?ではお言葉に甘えて、お先に失礼します。」

 

 私はそう言って頭を下げ、教室から出ていく。こういうのは素直に甘えたほうがいいのだ。知らんけど。

 学生証を見ると初め7万2000ポイントだったのに今は16万4000ポイントもある。かなり稼げたのではないだろうか。次からは栄作先輩もいるはずだし、もっと稼げるだろう。まぁ大きな賭けは月初めだけにしている方がいいかな。先輩たちが賭けを忌避するようになったら嫌だし。この部活で賭けに勝ち続ける限りは私は学校に登校せずにこの学校を退学することなく卒業することができるだろう。ルンルンと廊下を歩いていると後ろから声がかかる。

 

「ぜひ、私ともポイントを賭けたチェスをしてもらえませんか?松崎さん?」

 

 後ろを振り向くとそこにいたのは、ちっちゃな可愛らしい少女だった。

 

 

 

 




ちっちゃな可愛らしい少女。イッタイダレナンダ?
まだ2日目

ちょっとずつ減る文字数。


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5話

タイトルつけるセンス全くないのがわかった。


「ぜひ、私ともポイントを賭けたチェスをしてもらえませんか?松崎さん?」

 

 後ろを振り向くとそこにいたのは、ちっちゃな可愛らしい少女だった。よく見れば足が弱いのか杖をついている。ゴスロリが似合いそうだ。

 それにしてもいきなり勝負を挑んでくるなんてこの子はポケモントレーナーなのだろうか?いや目すら合っていない。それに私の名前を知っているところもちょっと怖い。ゴスロリ少女が可愛いから許容できるものの、不潔な見た目だったら逃げていただろう。やっぱり見た目は大事だね。

 

「えっと、誰かな?」

 

 私は至極当然の疑問を声に出す。

 

「これは失礼しました。私は1年Aクラスの坂柳 有栖と言います。私もボードゲーム部に入部したんですよ。そしたら近藤部長から松崎さんが既に部室に向かっていると聞いて来てみたのですが、部室の中を覗けば松崎さんが先輩たち相手に賭けをしていらっしゃったので入りづらかったんです。」

 

 Aクラス。私の仮説ではもっとも優秀な生徒の集まり。その集まりに身体的なハンデを負いつつも所属する有栖ちゃんはどれほど優秀なのだろうか?そして、そんな優秀であろう有栖ちゃんと同じ部活に所属できたことはなんと幸運なのだろうか。

 

「あぁそれはごめんね。部活全体のレベルが知りたくてさ。知ってるようだけど改めて、私はDクラスの松崎 美紀。これから部活仲間としてよろしくね。」

 

「D…クラスですか?」

 

 有栖ちゃんは私がDクラスなことに驚いている。いや、これは私がDクラスなことに疑問を抱いているようだ。なぜ私がDクラスだと疑問に思うかは分からないが、特定のクラスに疑問を覚えるといことは彼女もクラス分けの仕組みには気づいているのだろう。

 

「そうだよ?それよりチェスをしようって言ってるけど部室は閉まっちゃてるよ。」

 

「心配ありません。私の部屋にチェス盤があります。ぜひ今からいらしてください。」

 

 どうやら私の心配は全くの無駄だったらしい。二人で寮の方向へ足を進める。

 

「入学二日目で既にマイチェス盤を持ってるなんて、有栖ちゃんは相当なチェス好きだね!」

 

「そういう松崎さんこそ、私がチェス好きだと分かった上で負けることなんて一切心配していない顔をしていますね。」

 

「確かにそれもあるけど、もし負けたとしても有栖ちゃんと友達になれるなら儲けものだと思ったんだよ。」

 

 これはホントだ。今日、先輩たちと闘ってみた感じだと私のチェスの実力は小学五年生の時から衰えた感じは特にないし、負けることは早々ないだろう。

 例え負けたとしても有栖ちゃんと仲良くなることはチェスの勝ち負けよりも重要なことだ。そうやって二人で会話を続けていると有栖ちゃんの部屋に着く。

 

「どうぞ上がってください。」

 

 カードキーを差し込み、ドアを開けながら有栖ちゃんが言う。

 

「おじゃましまーす。」

 

 私はそう言って靴を脱ぎ部屋に入る。クラスは違えど、部屋のグレードに差はないらしい。まぁ今後、クラスの実力がひっくり返るなんてこともあるかもしれないしね。部屋の改築っていくら払えばできるんだろう?

 

「腕、貸そっか?」

 

 私に続いて部屋に入ってきた有栖ちゃんが靴を脱ごうとしていたのでそう声をかける。

 

「ありがとうございます。お願いできますか?」

 

 そう言う有栖ちゃんに腕を差し出すと、有栖ちゃんはその腕を掴みバランスを取りながら靴を脱ぐ。ホントは靴を脱がせてあげるのが早くて楽なんだろうけど、そこまでいったら介護とか幼い子に接するみたいなるからね。それはもう少し互いを知ってからだろう。

 そうして、二人でリビングに入ると真ん中に置かれた机の上にチェス盤が置かれている。

 

「ホントに持ってたんだ。」

 

「疑ってたんですか?」

 

「うん、新手のナンパなんじゃないかと。どう彼女、うち来てチェス打たない?みたいな。」

 

「なんですかそれ。」

 

 有栖ちゃんが手で口元を隠しクスクス笑う。笑い方が上品だ。冗談を交わしながら二人でチェス盤を挟み対面に座る。さっきまでの雰囲気が消え去り、互いに本気モードに入る。本気と書いてマジと読む。

 

「さて、いくら賭ける?」

 

「5万ポイントなんていかがですか?」

 

 それは一見大金を持ってはしゃいでいる、お年玉を貰ってついついいつもとは違うお金の使い方をしてしまう子供のように見える。

 しかし私には分かる。これは煽ってきてるのだ。「私に勝てる自信があるのならいくら賭けたとしても怖くないでしょう」と。良い、面白い。私はニヤッと笑う。

 

「いいね。でも私は先輩方から分けてもらったポイントがあるけど、有栖ちゃんは5万ポイントも失って今月生活出来る?」

 

 Aクラスならきっと来月もかなりのお小遣いをもらえるだろう。もしかしたら今月よりももらえるお小遣いが増えるなんてこともあるかもしれない。しかし今月はまだ始まってばかり。3食山菜定食を食べてる有栖ちゃんは見たくない。いや、見たいな。

 

「大丈夫です。まだポイントに余裕はありますし、足りなくなったら私も先輩方から分けてもらうとします。」

 

 悪どい笑みを浮かべる有栖ちゃん。有栖ちゃん!なんて悪い子!

 

「そっか、ならやろっか。私が握るね。」

 

 私は黒と白のポーンを有栖ちゃんに見えないように握り、前に出す。

 

「ど〜っちだ?」

 

「ではこちらで。」

 

 有栖ちゃんが選んだのは右手。開いてみると黒のポーンがあった。

 

「やったね、私先行だ。」

 

 チェスは先行の方が有利だ。これは単純に一手多く打てるから。だからといって全く油断はできない。

 当たり前だがチェスをやる人は後攻になったときでも勝てるように様々な研究をしている。もちろん、先行のときの研究も多く行われているのだが、やはり不利とされている後攻になったときに勝つための研究の方が多く行われているのだ。頭の中でいくつかのパターンの試合をシミュレーションしてると駒が並べ終わる。

 

「「お願いします。」」

 

 二人で揃って頭を下げる。さぁ頑張らないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

「チェックメイト」

 

 私はそう宣言する。

 

「……」

 

 有栖ちゃんは盤面から目を離さない。ボードゲーム部の先輩方に比べればかなり強かった。しかし決して勝てないほどではなかった。これは相性だったり今回は私が先行だったりといろいろな要因があるのだろうが、もう1戦しても私は勝つことができるだろう。

 

「もう1戦」

 

 有栖ちゃんが下を向いたまま小声でそれでいって芯のある声で言う。そしてガバッと顔を上げると今度はハッキリと言う。

 

「もう1戦してもらえませんか?ポイントならまだ3万ポイントほどあります。」

 

 目に涙を浮かべながら、それでも今度こそ勝つという意思が感じられる。ホントに負けたくなかったんだろう。どれくらいチェスに打ち込んだのだろうか、どれほどチェスを愛しているのだろうか。

 きっと今、有栖ちゃんの中でもっとも大切なことは私とチェスの再戦をすることでポイントなんてものはどうでもいいんだろう。きっと私に対して闘志をここまで燃やしているのは今しかない。今後、仲良くなるにつれてこの闘志は薄れていくだろう。だからこそチャンスだ。

 

「ごめんだけど、有栖ちゃんから全財産を巻き上げようとは思えないな。ポイントを賭けるのはまた来月にしよ。その代わりと言ってはなんだけど、勝った方が負けた方になんでも一つお願いできる権利を賭けてもう1戦しない?まぁなんでもって言っても限度があるだろうけど、叶えられる範囲でみたいな。」

 

 Aクラスの有栖ちゃんになんでもお願いを聞いてもらえる権利。絶対に5万ポイント以上の価値がある。有栖ちゃんからしたら勝ってもDクラスの生徒にお願いができる権利。この賭けは私に圧倒的に有利なものだ。そしてそれに有栖ちゃんも気づいているのだろう。

 

「分かりました。それで構いません。」

 

 さっそく駒を並べなおす有栖ちゃん。やっぱりノってきた。

 

「次は有栖ちゃんが先行でいいよ。」

 

 私は煽る。別に有栖ちゃんから精巧を欠くためじゃない。有栖ちゃんは苛立ちでミスをするほど愚かではないだろう。そう私は苛立つ有栖ちゃんが見たいだけなのだ。可愛い。

 

「分かりました。」

 

 有栖ちゃんは頭の中でいろんな計算をしているのか私への返事もおざなりでチェス盤から目を離さない。そして白のポーンを持つ。2戦目は開始の合図なしに始まった。

 

 

 

 

 

 

「チェックメイト」

 

 私は再びそう宣言する。びっくりした。かなりの接戦だった。有栖ちゃんのレベルが先程と比べ物にないほど上がっている。先行だからというだけではない。先の1戦でレベルアップしたのだ。

 

「本当にお強いんですね。」

 

「まぁね、一時期めちゃくちゃ練習したから。」

 

「一時期ですか?」

 

 あっしまった。有栖ちゃんがピキっているのが分かる。今も切磋琢磨頑張ってることにすればよかった。しかし口に出してしまったものは戻せない。

 

「うん、そうなんだ。小学五年生の時にホントに365日24時間、学校にも行かずにチェスと将棋の練習してたんだ。なんかふと極めたくなっちゃって。」

 

 嘘だ。ホントは365日24時間なんて言えるほどではない。せいぜい320日16時間くらいと言ったところだろう。

 

「学校に行かずに?」

 

「私、昔っから集団行動苦手でさ。なんか周りのペースに合わせるのが無理なんだよね。この学校でも授業の出席、ポイントで買ってるし。」

 

「なるほど。だから入部初日から先輩方に賭けを申し込んでいたんですね。松崎さんがDクラスなのも納得です。」

 

 言外にあなたもこの学校の仕組みについて気づいているんでしょうと語りかけてくる有栖ちゃん。私はクスッと笑って言う。

 

「そういえば、初め自己紹介したときに私がDクラスなことに驚いてたっていうか疑問に思ってたけどなんでなの?」

 

 私は気になっていたことを聞く。

 

「あぁそれは実は私、松崎さんのことを前から知っていたんです。」

 

「どっかで会ったことあったっけ?」

 

「いえ、中学2年生の時に全国模試で松崎さん、全国一位を取ったでしょう。私はそれまでずっと一位だったんですよ。なのに突如現れた松崎さんに一位を取られてすごく悔しくて次は私が勝つんだって勉強に一層取り組んだんですよ。まぁ松崎さんはそれ以降1回も模試を受けなかったみたいですけど。」

 

 こちらをジト目で見てくる有栖ちゃん。全国模試、確かに1度だけ受けたことがある。結果には目を通してなかったがまさか一位だったなんて。っていうか有栖ちゃんずっと全国模試で一位を取り続けてたのか。すご。私の気まぐれで連続記録に泥を塗ってしまったことが申し訳なくなる。

 

「そんなこともあったね。でもこれからは同じ学校なんだし、毎回テストで勝負できるよ。」

 

「そうですね。楽しみにしておきます。」

 

 そんな風に話しているとふとお腹が空いたなと思う。時計を見てみれば11時48分。嘘でしょ。どうやら私たちはチェスに集中しすぎていたようだ。

 

「もうこんな時間じゃん!有栖ちゃん晩御飯食べた?私の部屋きたら簡単なご飯は作れるけど、どうする?」

 

「それならいいものがあります。」

 

 そう言ってキッチンの方へ何かを取りに行く有栖ちゃん。なんだろ?待っているとカップラーメンを2つ持って有栖ちゃんが帰ってくる。有栖ちゃんにカップラーメン。似合わない。

 

「家では父が厳しく食べさせて貰えなかったのですが、せっかくの一人暮らしということで買ったんです。よければ松崎さんもいかがですか?」

 

 どこか嬉しそうにそう言う有栖ちゃん。可愛い。仕草から何となく察していたが有栖ちゃんはいいとこの子らしい。

 

「有栖ちゃんは可愛いな〜。ありがと、いただくよ。」

 

 お湯を用意してカップラーメンに注ぎ、2人で待つ。有栖ちゃんがまだかまだかと待ち望んでるのが分かる。

 3分が経ち、フタを開ける。美味しそうないい匂いが漂ってくる。

 

「「いただきます。」」

 

 私も久々に食べるカップラーメンだが美味しい。有栖ちゃんに顔を向けると、めちゃくちゃお上品に食べてる。カップラーメンすらも高級食材に見えてくる。しかし、私は見逃さない満足そうな有栖ちゃんの顔を。可愛い。

 二人でカップラーメンを食べながらいろいろな話をする。家族のこと、なんでこの学校に入ったか、これからの行動について。どうやら有栖ちゃんのお父さんはこの学校の学園長らしい。有栖ちゃんの前でこの学校の悪口を言わないでよかった。

 

「それじゃそろそろお暇するね。」

 

 有栖ちゃんと連絡先を交換しポイントを受け取ると私はそう言う。

 

「えぇ同じ寮内とはいえ気をつけてください。」

 

「ありがと。じゃあまたね、有栖ちゃん。」

 

 そう言って私は有栖ちゃんの部屋から出る。

 

「えぇまた、美紀さん。」

 

 驚いて振り返ると既にドアは閉まっていた。それでも有栖ちゃんがドアの向こうで笑っているのがわかる。やられた。

 こうして私の入学二日目は終わる。

 

 

 

 

 なお、食事中に有栖ちゃんがあまりにもチェスを誘ってくるものだから、私たちの中で賭けチェスは毎月一日に1度だけ無理のないポイントを賭けることに決まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




有栖ちゃんは可愛い。
そして頭が相当いいことが明らかになったオリ主ちゃん

やっと2日目が終わりました。次回からは結構時間が進むはずです


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6話

お気に入り200人突破!感謝です!
誤字報告めっちゃきてました。報告ありがとうございます。眠い中、書いたらダメですね。今後もよろしくお願いします


 翌朝、普段通りの時間に起きてランニングをする。朝のランニングの途中でコンビニで買ったヨーグルトを朝食として食べる。美味しい。

 

 今日はどうしようか? と思い学生証を見る。そこには21万4000ポイント。ボードゲーム部に所属し続ける限りはとりあえずポイントに問題はなさそうだ。しばらく続くと考えていた山菜定食が早くも終わりを告げる。

 とりあえず学校が始まったら図書室に行って参考書を借りよう。その後はその参考書で勉強をして放課後になればボードゲーム部に顔を出すのも悪くない。今はまだ大丈夫だけど胡座をかいていたら有栖ちゃんにチェスで負けるなんてこともあるかもしれない。有栖ちゃんに勝ち続けることができるかどうかで今後の私のポイント事情は変わってくるだろう。

 

 朝食を食べ終え洗濯物を干したりしていると既に一限が始まっている。私はポイントに余裕ができたこともあり、佐枝ちゃん先生に今月分の出席を買うために6万4000ポイントを送る。

 今月はまるまる1ヶ月、学校がある訳ではないからこの程度で済んだが、来月からは1ヶ月分の出席を買おうと思えば9万ポイントほど必要だろう。まぁそれも先輩方や有栖ちゃんから分けてもらえばいい。ノープロブレムだ。

 

 私は制服に身を包むと図書室へ向かう。なんの参考書を借りよう。いきなりだが私は授業は嫌いだが勉強は嫌いではない。実際に高校レベルの勉強ならばとっくの昔に家で勉強しているのでわざわざ授業を受ける必要はない。と思う。

 高校で習うようなことを勉強し終えてからはいろいろな資格についての勉強をしていた。これもなんとなく知識が豊富なのはかっこいいなと思ったからだ。と言っても検定はめんどくさくて受けていないので資格は1つも持っていないのだが。今まで勉強しまくった分の資格を一気に取りにいって学校にポイントを請求するのもありかもしれない。まぁめんどくさいからこれは最終手段だ。

 図書室に着くと司書さんからジト目を受けながら適当な参考書を5冊手に取り借りる。どうやらこの図書室は同時に5冊まで借りることができ、期間は1週間までらしい。

 

 そして図書室を出ると今度はスーパーに向かう。1ヶ月分の食料とノートを買うためだ。無料商品の入ったワゴンを見ながら早く5月にならないかなーと考える。そうして買い物を終え部屋に帰ってくる。部屋着に着替えると机で借りてきた参考書とノートを開き勉強を始める。頑張るぞい。

 

 

 

 

 

 ピンポーン

 

 その音によって意識が勉強から離れる。なんとびっくり放課後になっている。またもや集中のしすぎで時間を忘れていたようだ。この癖は早急にどうにかせねばと思う。

 しかし誰が訪ねてきたんだろう? 有栖ちゃんは昨日の今日でわざわざ私の部屋に来るとは思えないしそもそも私の部屋を知らないだろう。それに携帯を見ても連絡は入っていない。

 ではDクラスの誰かが私のサボりを止めに来たかと考えるが、その考えを頭から外す。昨日、洋介くんたちと話した感じDクラスの誰もこの学校のシステムには気がついていないだろう。いや、もしかしたらシステム云々ではなく普通にクラスメイトを心配してやってきたという可能性はあるか。というかそれが1番ありそうだ。そこまで考えインターホンで返事をする。

 

「はい?」

 

「あっ、松崎さん? 私、同じクラスの櫛田だけど。昨日に続いて今日も学校休んでたし大丈夫かなって思って」

 

 どうやら突然の来客は桔梗ちゃんだったようだ。

 

「あぁ桔梗ちゃん、今玄関開けるから待ってて」

 

 私は予想が当たってたことを喜びつつ玄関に行き扉を開ける。

 

「こんにちは桔梗ちゃん。わざわざ来てくれてありがとね」

 

「ううん、こっちこそいきなり来てごめんね。今大丈夫だった?」

 

「全然大丈夫だよ。私に関してはただのサボりだから気にしないで。むしろ心配させちゃってごめんね」

 

 ただのサボりなのに来てもらって申し訳なくなる。そしてそんな私にも満面の笑みで対応してくれる桔梗ちゃん。さすが最終目標として全人類と友達になろうとしているだけはある。

 

「そうだったんだ。答えたくなかったら全然いいんだけど、なにか学校に来たくない理由でもあるの? あっ良ければ連絡先交換しよ!」

 

 そう言って携帯を差し出す桔梗ちゃん。

 

「特に理由とかはないよ。強いて言うなら50分間座り続けるのは辛いな〜って思って。携帯、部屋の中だ。ちょっと取ってくるよ。なんなら桔梗ちゃんにこの後時間があるなら上がってく? 特におもてなしは出来ないけど歓迎するよ」

 

「いいのっ! ならそうさせてもらおっかな」

 

「どうぞどうぞ〜」

 

 桔梗ちゃんを部屋に招きいれ朝買った紅茶を入れる。

 

「ごめん、紅茶しかないんだけど大丈夫だった? 私、コーヒーは苦手だから部屋に置いてないんだ」

 

 あの飲み物は苦すぎる。人の飲むものでは無い。

 

「私も紅茶派だから全然大丈夫だよ! ありがと」

 

「よかった」

 

 机の上に広げてあった参考書とノートを畳んでそこにカップを二つ並べる。

 

「勉強してたんだ。それなんの参考書?」

 

「あぁこれ? 宅建士の参考書だよ」

 

「へ〜松崎さんは宅建士? になりたいの?」

 

 そりゃ学校サボってまで宅建士の勉強してたら、余程のことがないと宅建士を目指しているのかと勘違いするだろう。

 

「いや別にそういう訳じゃないんだ。図書室行ってなんとなく目に入ったから勉強してみようと思っただけなんだよね」

 

「なにそれ〜」

 

 クスクスと笑う桔梗ちゃん。あぁそういえば連絡先を交換するんだった。私は携帯を手に取り、桔梗ちゃんの方へ向ける。

 

「はい、連絡先。桔梗ちゃんはこれで私とも連絡先を交換できたけど、クラスメイトと友達になる計画は順調なの?」

 

「ありがと! それが昨日、一昨日のうちに松崎さんともう一人以外とは連絡先交換できたんだけど、松崎さんは学校来ないし、堀北さんには断られるしで」

 

「アハハッそれはごめんね。それにしても堀北さん? そんな人クラスメイトにいたっけ?」

 

 確か自己紹介をした中にそんな名前はなかったはずだ。ということは自己紹介をせずに出ていった組か。それにしても自己紹介をせず、連絡先交換も拒否。卒業間近、堀北さんが誰かと仲良く話してたらこのことをいじりたい。

 

「堀北さん、自己紹介しなかったからね。松崎さんが知らないのも無理ないよ。松崎さんの斜め後ろの席に座ってる女の子だよ」

 

「私の斜め後ろってことは清隆くんの隣のあの黒髪ロングちゃん?」

 

「そうそう、堀北さんってば綾小路くんとしか話してるの見たことないんだよね。そういえば、松崎さんも今日私と話すまで綾小路くんとしか話してないんじゃない?」

 

「たしかに! 清隆くんの周りには変なのが集まりやすいのかもね」

 

「なるほど、それなら堀北さんと仲良くなるためにはまずは綾小路くんと仲良くなればいいのかな」

 

「清隆くん、私が話しかけた時もキョドキョドしてたし、可愛い桔梗ちゃんが話しかけたらキョドりまくるかもね」

 

「え〜そうかな? 松崎さんの方が可愛いと思うけど。髪とか艶あって綺麗だし、毛穴も全然ないじゃん。シャンプーとか洗顔何使ってるの?」

 

 そうやって二人で女子トークに花を咲かせる。楽しい。これが花の女子高生。

 

 

「おっと結構遅くなっちゃった。私、そろそろ帰るね。松崎さんは明日からも学校来ないの?」

 

「うん。テストとかにはしっかり学校行くから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

 

「そっか。来てほしいけどな〜」

 

 こちらにねだるように言う桔梗ちゃん。私はそれに苦笑いでしか返せない。

 

「もうっ! また遊びに来るね!」

 

「うん、だいたいは暇にしてると思うからいつでも来て。あっでも、一応来る前に連絡してくれると助かる」

 

「わかった。じゃあ、またね」

 

 そう言って部屋から出ていく桔梗ちゃん。彼女は5月1日以降も私と友達でいてくれるだろうか? 桔梗ちゃんがDクラスのために私の自由の邪魔をするというなら私たちの友情はそこで解散だろう。方向性の違いだ。

 まぁクラスメイト全員と仲良くなりたいとのことだし私とも仲良くしてくれるのを願う。貴重なDクラスで仲良くできそうな生徒なのだから。

 

 

 

 

 そうしてそれからは朝起きていつも通りにランニングをしてから適当な勉強をし、放課後になったらボードゲーム部に行って先輩方や有栖ちゃんとチェスや将棋などをしたり、有栖ちゃんの部屋でチェスやゲーム、チェスに勉強やチェスをしたり、たまに遊びにくる桔梗ちゃんとおしゃべりをしたり、図書室でひよりちゃんと並んで本を読んだりとなかなか充実した日々を送っていた。

 

 そして気づけば今日で4月が終わろうとしている。きっと明日学校へ行けば佐枝ちゃんから何かしらの説明があるだろう。私の仮説はあっているのかどうかを確かめるために明日は学校へ行こうと思い布団に潜る。

 私の仮説があっていたらDクラスのみんなに責められるだろうか? めんどくさい。だが桔梗ちゃんの話ではDクラスは授業態度があまりよろしくないらしいので、評価が低くとも私だけのせいではないだろう。私たちは一蓮托生。連帯責任なのだ。

 明日のために早く寝ようと思い、目を閉じる。すぐに夢のお誘いがきそうだ。おやすみ、世界。

 

 

 

 

 そして迎える翌朝。学生証を見れば増えているポイントは0。わぉ。やっぱりあったかお小遣いが0になる可能性。これは今日荒れるだろうな。学校に行くの嫌になってきた。もともと嫌だったのが更にって意味で。しかしここで行かずに私の仮説と真実に差異があれば非常に困る。よし行こう。ガンバレ! 私! せめてギリギリに行こう。

 

 

 

 朝のホームルームが始まる寸前、私は教室前に着く。ガラガラっと私が教室のドアを開けると一瞬、場が静まる。どうやら私は能力者になってしまったらしい。冗談だ。

 入学初日以来初めて登校する私に皆動揺が隠せない模様。そんな状況で真っ先に桔梗ちゃんが声をかけてくれる。

 

「松崎さんおはよっ」

 

 さすがは桔梗ちゃん。その一言でクラスで私を迎え入れる空気が整う。すまない、またすぐ出ていくんだ。

 

「桔梗ちゃんおはよ〜」

 

 そう言って席を目指す。清隆くんと目が合う。3度目だ。

 

「清隆くんもおはよ」

 

「あ、あぁおはよう」

 

 久しぶりの私に戸惑っているみたいだ。もう少し話していたかったが佐枝ちゃん先生がポスターを持ってやってくる。なにやら険しい顔だ。そんなにこのクラスの評価が悪かったのかな。そりゃそうか、0ポイントだもんね。

 

「せんせい、もしかして生理でも止まりましたー?」

 

 たしか寛治くんだったかな? がそう言う。キモイ。面白いと思っているのだろうか? これからは池くんだな。

 

「これより朝のホームルームを始める。が、その前に何か質問はあるか? 気になることがあるなら今聞いておいた方がいいぞ?」

 

 佐枝ちゃん先生は池くんのセクハラを無視してそんなことを言った。

 

「あの、今朝確認したらポイントが振り込まれていなかったのですが。毎月一日に支給されるはずじゃなかったんですか? 今朝ジュース買えなくて困りましたよ」

 

 数人、うんうんと頷く。どうやら彼らにもポイントは振り込まれていないらしい。

 

「前に説明しただろ、その通りだ。ポイントは毎月一日に振り込まれる。そして今月も間違いなく振り込まれたことは確認されている」

 

「えっ、でも振り込まれていませんでしたよ」

 

 質問した生徒は「な?」と言って同意を求めようと周りと顔をあわせる。

 

「……お前たちは本当に愚かだな」

 

「愚か? ですか?」

 

 そう間抜けに返すクラスメイトたち。

 

「座れ、ポイントは振り込まれた。これは間違いない。このクラスだけ忘れられたなどという幻想は一切ありえない。わかったか?」

 

「でも実際に振り込まれてなかったし」

 

 戸惑いながら納得しないクラスメイトたち。Dクラスはここまでバカなのか。これを見るにDクラスはもっともダメな生徒の集まりという仮説はあっているっぽい。これが不良品の集まりか。まぁ私も不良品の1人なんだけど。

 

「ははは、なるほど。そういうことだねティーチャー。理解出来たよ、この謎解きがね」

 

 声高らかに笑う六助くん。机の上に足を乗せると続ける。どうやら彼は気づいたらしい。

 

「簡単なことさ、私たちDクラスには0ポイントが支給された、ということだよ」

 

「はぁ? なんだよそれ。毎月10万ポイント振り込まれるって……」

 

「私はそう聞いた覚えはないね。そうだろう?」

 

 ニヤニヤと六助くんは佐枝ちゃん先生に指先を向ける。

 

「態度に問題はあるが、高円寺の言う通りだ。これだけヒントをやっても自分で気づく生徒が数人だけとはな。嘆かわしいことだ」

 

 みんなはあまりの事実にザワザワしだす。

 

「先生、1つ質問していいですか? 腑に落ちないことがあります」

 

 洋介くんは手を挙げて行動する。さすが優等生だ。クラスのために頑張っている。

 

「振り込まれなかった理由を教えてください。でないと納得できません」

 

「遅刻欠席、合わせて105回。授業中の私語や携帯を触った回数391回。1ヶ月でよくやらかしたものだ。この学校では、クラスの成績がそのままポイントに反映される。その結果がこれだ。入学式の日に説明したはずだ。この学校は実力で生徒を測ると。そしてお前らは0という評価を受けた。それだけだ」

 

 やはりクラスの評価で支給されるポイントが決まるという予想はあっていたらしい。そしてクラスの様子を見るに私以外に気づいていた生徒は0だと思う。多分、きっと、十中八九。

 しかしここまで酷いと私が文句を言われる標的にされることは今日のところはないだろう。明日サボったらなにか言われるだろうが。いざとなったら3分の2の出席は買っていることを言えばいい。3分の1? 知らんが? 

 

「茶柱先生、そんな説明を受けた覚えはありません……」

 

 頑張る洋介くん。

 

「なんだ、お前らは説明されないと理解できないのか?」

 

「当たり前です。支給されるポイントが減ることさえ分かっていたら、皆遅刻や私語なんてしなかったはずです」

 

 ごめん、洋介くん。私は説明されたとしても欠席します。

 

「それは不思議な話だ。確かに振り込まれるポイントについて説明した覚えはない。だが、学校を遅刻しない、授業中は私語するななんて小学校、中学校で教わってこなかったのか?」

 

「それは……」

 

 洋介くん敗北! 

 

「身に覚えがあるだろう。義務教育9年間、嫌というほど聞かされてきたはずだ。それを説明された覚えがないから納得できない? 甘えるな。当たり前を当たり前にこなしていたなら、少なくとも0にはならなかったはずだ。すべてお前らの自己責任だ。高校に上がったばかりのお前らが、なんの制約もなく毎月毎月、大金をもらえると本気で思っていたのか? 政府が作った優秀な人材を教育することを目的とするこの学校で? ありえんだろ。常識的に考えて。なぜ疑問を疑問のままにしておく?」

 

 その正論にクラスのみんなは悔しそうにするが、洋介くんだけがすぐに先生を見て質問する。

 

「では、せめてポイント増減の詳細を教えてください。今後の参考にします」

 

 あぁ確かにそれは気になる。けどこれで欠席が大きな減点対象だったら嫌だな。絶対クラスメイトの目がこっちを向く。別にそこまで気にならないか。

 

「それは出来ない。人事考課、つまり詳細な査定は学校の決まりで教えられないことになっている。社会と同じだ。しかし、私もお前たちが憎くて冷たく接している訳ではない。一つだけいいことを教えてやろう。遅刻や私語を改め今月のマイナスを0にしたところで、ポイントは減ることはないが増えることもない。つまり来月も1ポイントも振り込まれることはない。裏を返せば、どれだけ遅刻や欠席、私語をしても関係ない、という話だ。どうだ、覚えておいて損はないぞ」

 

 キタ──! マイナスないんだ! じゃあ休み続けてもDクラスから文句言われることないじゃん。Dクラスのみんなも個々でポイント稼いで退学にならないように出席を買えばいいじゃん。

 

「っ……」

 

 洋介くんがより悔しそうにする。まじかコイツ。クラスのリーダーっぽい洋介くんがそっちに傾いたら私が悪になるじゃん。あくタイプじゃん。

 話の途中だが、チャイムが鳴ってホームルームの終わりを告げる。

 

「どうやら無駄話が過ぎたようだ。だいたい理解できたろ。そろそろ本題に移る」

 

 佐枝ちゃん先生はそう言うと手にしていたポスターを広げて磁石で黒板に貼り付ける。ポスターを見ると各クラスの隣に数字が書いてある。

 私たちDクラスは0。ひよりちゃんのいるCクラスが490。Bクラスが650。そして有栖ちゃんのいるAクラスは940。おそらく各クラスの成績だろう。

 やっぱりAクラスは優秀、Dクラスは不良品。という仮説も間違ってなかったようだ。これは×100が支給されるポイントでいいのだろうか? だとしたらAクラスは群を抜いて優秀なのがわかる。今月も有栖ちゃんからたんまり稼げそうだ。

 

「おかしいと思わない?」

 

「綺麗すぎるよな」

 

 まだみんなクラス分けの仕組みには気が付かないようだ。ガンバレ! ちょっと考えれば分かるぞ! 

 

「お前たちはこの1ヶ月、好き勝手生活してきた。それを否定するつもりはない。すべてお前たちに返ってくるだけのこと。ポイントの使用についてもそうだ。どのように使おうと個人の自由。何も制限をかけなかっただろう?」

 

 確かにそうの通りだ。節約は大事。私なんてなんやかんやポイントが貯まったあとも結構、山菜定食食べたしね。安上がりな女だぜ。というか1ヶ月で10万ポイント使い切ってしまった生徒もいるのか。逆に凄い。

 

「こんなのあんまりっすよ! 生活出来ませんって!」

 

 池くんが叫ぶ。池の遠吠えだ。クラス内は阿鼻叫喚だ。

 

「よく見ろ。Dクラス以外は1ヶ月過ごすには十分なポイントが振り込まれている」

 

 Cクラスでさえ4万9000ポイントももらえる。この学校の中であればそれだけあればそれなりに生活しても5ヶ月は余裕だろう。いいな〜毎月そんなにポイントもらえて。羨ましい。これに関してはクラスメイトに頑張ってもらうしかない。頼むぞ! ファイト! 

 他のクラスにポイントが残っていることを不思議に思っているクラスメイトに佐枝ちゃん先生が追い打ちをかける。

 

「言っておくが一切の不正はない。この1ヶ月、全てのクラスが同じ条件で採点されている。にも関わらずこれだけ差がついた。これが現実だ」

 

「どうして、クラス間にここまで差があるんですか?」

 

 洋介くんがクラス分けの謎にようやく気づく。

 

「やっと理解したか? お前たちがどうしてDクラスに選ばれたか」

 

「Dクラスに選ばれた理由? ランダムじゃないんですか?」

 

「それが普通だよね?」

 

 互いに顔を見合わせるクラスメイトたち。誰も私とは顔を合わせようとしてくれない。どうしてだよ。これからの3年間、苦楽を共にする仲間でしょ? 

 

「ここでは、優秀な生徒はAクラスへダメな生徒はDクラスへと、優秀な生徒から順にクラス分けされるようになっている。つまりお前たちDクラスは落ちこぼれの集まり、最悪の不良品ということだ。結果も実に不良品らしいものとなったな」

 

 おぉ〜結構言ってくるね! でも入試を受けた落ちこぼれの中からDクラスに配属されるべき落ちこぼれに選ばれたことを感謝しなければいけない。ありがとう。今まで落ちこぼれでいて良かった。

 

「しかし1ヶ月でポイントを0にしたのは歴代のDクラスでもお前らだけだ。誇ってもいいぞ?」

 

 佐枝ちゃんのわざとらしい拍手が教室内に響く。選ばれし落ちこぼれの中でもトップ。落ちこぼれof落ちこぼれ。なんて不名誉な賞なのだろう。笑けてくる。

 

「僕たちはずっと0ポイントのままということですね?」

 

「あぁ。このポイントは卒業まで継続する。でも安心しろ。寮はタダだし、食事も無料のものがある。死にはしない」

 

 今ここでボードゲーム部で賭けが行われていることと一緒に勧誘したらカモがめっちゃ寄ってくるんじゃね? そんな悪い考えが横切るが、よく考えたらコイツらほぼ0ポイントかそれに近しいポイントしか持ってないんだった。

 

「これから卒業までバカにされ続けるってことか」

 

 机を蹴る赤髪不良くん。自己紹介の時も蹴ってたな。サッカー部だったりして。

 

「なんだ、お前も気にする体面があったんだな。須藤。だったら頑張って上のクラスに上がるんだな」

 

 赤髪不良くんは須藤くんと言うらしい。

 

「あ?」

 

「クラスのポイントは何も毎月振り込まれるポイントと連動しているだけではない。ポイントの数値がそのままクラスのランクに反映されるということだ」

 

 えっ! もしうまいこといけばCクラスになるってこと? 分かりづらくない? 入部届けに書いたクラスとかも書き換えたりするのかな? テストとかで名前書く時間違えそう。

 

「さて、最後にもう1つお前たちに伝えなければいけないことがある」

 

 佐枝ちゃん先生は紙をもう1枚黒板に貼る。そこにはクラスメイトの名前とその横に数字が書かれている。私の名前を探すとその横には0と書かれていた。

 

「この数字が何か、お前たちでも分かるだろう。そう、先日やった小テストの結果だ。揃いも揃って粒ぞろい。私は嬉しいぞ。一体今まで何を勉強してきたんだ? お前らは」

 

 数人を除き、ほぼ60点くらい。受けてない私の0点を抜くと最低は須藤くんの14点。なんて見た目にあった点数なんだろう。っていうか不良っぽいのに学校来てテストは受けてたんだ。やはり馬鹿だった赤髪不良くん。

 

「危なかったな、これが本番なら8人は退学になっていたところだ」

 

「説明していなかったか? この学校では中間テスト、期末テストで1つでも赤点を取ったら退学になることになっている。今回で言えば、32点未満の生徒たちが対象だ」

 

「はぁぁぁ!?」

 

 何人かの生徒が声を上げる。佐枝ちゃん先生は赤のマッキーを持つと、31点を取った菊池くんの上に線を引く。どうやら赤点は平均点の半分らしい。まぁこれに関してはテストを受けることさえ出来れば私には関係のない話だろう。

 

「退学とか冗談じゃねーぞ! ふざけんなっ!」

 

「私に言うな。学校のルールだ。腹をくくれ」

 

 退学という言葉に怯え、佐枝ちゃん先生に文句をいう生徒。それをルールだからの一言で済ます佐枝ちゃん先生。まぁ確かに学校のことを一教師に言っても仕方ないよね。有栖ちゃんのお父さんまで直談判しに行きなさい。

 

「ティーチャーの言う通り、愚か者が多いみたいだねぇ」

 

 偉そうに言う六助くん。彼の名前を探せば1番上にあった。その点数は90点。私は小テストを受けてないのでなんとも言えないが多分すごいんだろう。クラスメイトも六助くんが頭がいいとは思っていなかったのか驚いている。

 

「それからもう一つ言っておこう。この学校は高い就職率や進学率を誇っている。それは周知の事実だが、そんな上手い話は残念ながらない」

 

 佐枝ちゃん先生の言葉に洋介くんが返す。

 

「つまり、その恩恵を受けるにはCクラス以上になる必要があるということですね?」

 

「それでも甘いな平田。望み通りの進路を叶えたければ、Aクラスに上がるしかない。それ以外の生徒にはこの学校は何一つ保証することはない」

 

 まぁそもそも進路ってそういうもんだしね。そりゃAクラスなら楽なんだろうけど結局、自分の進路は自分で掴んだ方がその先のためにもなるでしょ。

 簡単に考えてしまうのは私がニートもしくはヒモ志望だからだろうか? 事実を受け止めきれず文句を言う生徒たちにまたもや六助くんはため息をつきながら言う。

 

「みっともないねぇ」

 

「お前はDクラスだったことに不服はないのか? 高円寺?」

 

「不服? なぜそう思うのか、私には理解できないねぇ」

 

 六助くんと同じく私も理解できない。別に他人からの評価とかどうでもいいじゃん? 

 

「俺たちは学校側から、落ちこぼれと見なされ、その上進路の保証もしないっていわれたんだぞっ!」

 

「実にナンセンス。愚の骨頂と言わざるを得ない」

 

 爪を研ぎながら答える六助くん。私もそろそろ爪切らないと。

 

「学校側に私のポテンシャルを測るだけの技量がなかったこと。私は自分のことを誰よりも優れていると自負している。そこに学校側の評価など関係の無いことだよ。仮に退学になったとしても、最後に泣きついてくるのは学校側なのだからね」

 

 すごい自信だ。泣きつく学校。それをヨシヨシする六助くん。見てみたい。

 

「それに私は高円寺コンツェルンの跡を継ぐことが決まっている。そこに卒業時のクラスなど些細なことだよ」

 

 どうやら六助くんは将来が既に決まっており、私と同じくクラスどうでもいい派らしい。同盟結成だ。心の中で六助くんに向かって親指を立てる。

 

「浮かれた気分は払拭されたようだな。それができただけでこの長いホームルームは意味があったかもな。中間テストまで3週間。よく考えて、退学を回避してくれ。お前たちなら赤点を乗り切れる方法はあると確信している」

 

 そう言って強めにドアを閉めて教室から出ていく佐枝ちゃん先生。赤点を乗り切れる方法があると確信している? なんだろ? 学校から点をポイントで買うとか問題を買うとかかな? それとも先輩方から過去問をもらうとか? まぁテストに関しては心配せずとも大丈夫だろう。 クラスはどんよりした空気に包まれている。可哀想に。

 

 

 よし! 学校のシステムの答え合わせも終わったし、帰るか。

 




この子らって文理選択どうなってるんだろう?
所持しているポイントはだいたいのものを書いています。


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7話

お気に入り300人突破ありがとうございます!

今回は特にオリ主ちゃんの性格が出たんじゃないかな。苦手な人はごめんなさい。今までと変わってないよって思ったらごめんなさい次に期待してください。


「ポイントが入らないって、どうすりゃいいんだよ」

 

「私、ポイント全部使っちゃったよぉ……」

 

 似たような声がクラス中であがる。ポイントが既にない人がたくさんいるらしい。かわいそうだ。いや〜それにしても朝のホームルームで全部説明してくれて助かった。わざわざ授業受けなくてもいいじゃん。ありがとう佐枝ちゃん先生。

 私はカバンを持って立ち上がるとドアの方へ向かう。有栖ちゃんにポイントが入っていることは確認できたし、それを確実に我がものにするために早く帰ってチェスの練習をしなければ。ボードゲーム部でもポイント支給日ということでいつもより活発に賭けが行われることだろう。今から楽しみだ。そうしてドアに手をかけた私に声がかかる。見つかった。

 

「松崎さん、どこへ行くんだい?」

 

 振り返ってみると声の主は我らDクラスのリーダー洋介くんだ。洋介くんが帰ろうとした私に声をかけたことでクラス中が静まり返り私を見つめる。団結力〇じゃん。

 

「どこって?帰るんだよ?」

 

「帰るって…?」

 

  何を言ってるんだい?といった顔をこちらに向ける洋介くん。彼は佐枝ちゃん先生の話を聞いてこれからは真面目に授業を受けていかなければと考えたらしく、私の行動が理解できないらしい。

 

「そのままの意味だよ。あぁこの学校が嫌で実家に帰らせていただきます。って話じゃなくてこの教室にいる意味がなくなったから寮の自分の部屋に帰るってことだよ」

 

 私はしょうもない冗談で返す。しかし誰もクスリともしない。それどころか私を見る目が険しくなるばかりだ。

 

「来月、ポイントを獲得するために僕たちはクラス全体で協力しなきゃならない。まずは欠席や授業中の私語なんかをなくしていかないとダメだと思うんだ。違うかな?」

 

 洋介くんは優しくゆっくりと言う。ここで私が「心配しないで、今日の分の出席は買ってあるから」なんて言ってもそういう話ではないのだろう。3分の1は買ってないわけだしね。ならばここで私の考えをクラスに伝えておいた方が今後が楽だろう。

 

「うん、何も間違ってないと思うよ。まずはマイナスをなくしてどこかでポイントを増やす。これがDクラスが来月からポイントをもらおうとするならばすべきことだよ」

 

「そこまでわかっているんだね。ならどうして松崎さんは帰ろうとしているんだい?」

 

「単純な話だよ。私はポイントはいらないからだよ」

 

「ポイントがいらない?」

 

「うん、正確には頑張って授業を真面目に受けてまでポイントをもらうくらいなら評価最低でも自由な時間を過ごしたいんだ。それに佐枝ちゃん先生も言ってたじゃん。この学校ではポイントがなくても死にはしないって」

 

 そう。これが私の意見。きっとこの考えは私でいうボードゲーム部のような学校から支給されるポイント以外にポイントを得る手段を手に入れることができた者にしか理解できないだろう。

 みんなが私の話を聞いてまたザワザワしだす。おおよその内容は私への文句だろう。

 

「だいたいアンタが毎日サボるせいでポイントがなくなっちゃったんじゃない!アンタがいなければ少しくらいポイントが残ってたかもしれないのに!」

 

 誰かがそう叫ぶ。それを皮切りにみんなはっきりと私に憎悪を向けてくる。洋介くんはそんなクラスメイトをどうしたらいいか分からずにオロオロしている。頑張れ。

 

「確かに私がいなければポイントは少しは残ったかもしれない。でもそれはみんなも同じでしょう?遅刻欠席105回、授業中の私語や携帯を触った回数391回だっけ?前者に関しては私は数日関係してるけど後者に関しては全くの無関係だし、結局は誰かがいなくてポイントが増えたとしても誤差の範疇だよ」

 

 あっけらかんと言う私にみんな一瞬黙り込むがすぐに一人の男子生徒が声をあげる。

 

「…お前がサボったのは数日どころじゃないだろ!初日以外1度も来なかったじゃねぇか!」

 

「あぁそれなら心配しないで。私、授業の出席買ってるから。出席日数足りないとこの学校だからとか関係なく退学になっちゃうからね」

 

「「「えっ…」」」

 

「私は3分の2の出席を買ってるから今月だと私が欠席扱いになってるのは7日かな?ほら数日でしょ?」

 

 クラスがまたもや静まり返る。誰も出席を買うという発想はなかったらしい。もういいかなと思って再びドアに手をかける。

 

「そんなふうにポイントを使ってるならこのままじゃなくなっちゃうんじゃないかないかな?」

 

 そう優しく声をかけてくるのはやはりこの男。洋介くんだ。無視をしてさっさと帰りたいところだが我慢する。

 

「そうだね。もしそうなったら授業を受けに来るよ」

 

「それはポイントが続く限り学校に来ないということかい?」

 

「うん。ごめんね。私もポイントがあるに越したことはないからみんなのことは応援してるよ。あっそうだ。本気でポイントを増やしたいなら私が買ってない残りの3分の1の授業の出席をみんなで買うってのはどうかな?1授業につき1000ポイントだって。クラスみんなで分ければそこまで痛手じゃないでしょ?もしその気があったら連絡してよ。私が買ってない授業教えるからさ。じゃあ今度こそまたね。」

 

 私は矢継ぎ早にそう言うと返事も聞かずに教室から出る。肩凝ったわ〜。あ〜あせっかく桔梗ちゃんとも友達になったのにな〜。まぁ私がこんなふうに行動しても特に問題なく過ごしていけるようなルールを作った学校が悪いよね。

 よし!チェスの練習だ。あっその前に佐枝ちゃん先生に今月分のポイント送っとかないと。

 

 

 

 

 

 

 部屋に帰ってきてチェスの練習をして数時間が経った時携帯が鳴る。ディスプレイには佐枝ちゃん先生と表示されてある。学校は今、昼休みだそうだ。いい予感がする。

 

「はい、松崎です。いきなり電話なんてどうしたんですか?」

 

『君は電話にすぐ出るタイプだったんだな。意外だ。それで要件だが今日の放課後、職員室まで来い』

 

 失礼なことを言われた気がするが気にしないでおく。要件についてはどうせ放課後には部活に行こうと思っていたから制服から着替えてないので学校に行くこと自体はそう苦ではない。だが理由が気になるところだ。

 

「どうしてですか?」

 

『理由は言えん。』

 

 えっ!人を呼び出そうとしておいて理由言えないってどうよ?なんか一気にダルくなったな。

 

「嫌です」

 

『お前ならそう言うと思ったがな、残念ながらこれは命令だ。来なければ退学処分とする』

 

 退学処分。物騒な言葉が出てきた。なにか退学になるようなことでもしてしまっただろうか?それともタダの脅しだろうか?

 もし脅しならここでYESと言えば今後も似たように呼び出しをくらってしまう。それはダメだ。初めが肝心なのだ。ここは勝負だ。

 

「特に退学になるようなことをした覚えはないのでいきません。それに一教師が生徒を好きに退学させられるなんて職権濫用でしょ。私はそんなことはできないに賭けます」

 

 電話口の向こうでため息が聞こえる。気のせいかな?私、佐枝ちゃん先生にため息つかれすぎじゃない?

 

『はぁ、わかった。5000ポイントやるから来い』

 

 やっぱり出来なかったらしい。それにポイントを払ってまで私にしたい話は気になる。しかし長引いて部活に行けないなんてことになったら笑えない。今日は稼ぎどきなのだ。

 

「私今日、部活に顔出すつもりなんですけど、用事ってどれくらいで終わりますかね?」

 

『長くなっても30分といったところだ』

 

 30分…それくらいなら特に問題ないか。

 

「分かりました。いきますよ。あぁでもポイントはいりません。まぁ借り1つってことにしておいて下さい。放課後すぐに向かえばいいですか?」

 

 ポイントは別にいらない。先生に生徒を退学する権利がないこと、先生からのポイントの譲渡が可能なことがわかっただけでも儲けものだしね。

 

『あぁそうしてくれ。くれぐれも遅れるなよ』

 

「はーい」

 

 電話を切るとアラームをセットする。七限が終わる20分前にセットしとけば余裕で間に合うだろう。そして視線をチェス盤に移す。さて次はどっちの手番だっけ?

 

 

 

 

ピピピピピ、ピピピピピ

 その音で私の意識はチェス盤から離れる。時間のようだ。私は鏡の前で軽く身だしなみを整えてから学校に向かう。今から向かえば学校に着くころには七限がちょうど終わるところだろう。

歩きながら佐枝ちゃん先生の話が何なのか考える。

 私になにか伝えるだけなら電話だけでもよかったはずだ。なら何か手渡すものや見せたいものがあるかそれとも私と佐枝ちゃん先生以外の第三者もいるか。他にも単純に電話では話すようなことではない大事な話ってこともある。

 渡される物といってパッと思いつくのは先日行われた小テスト。休んで受けなかった私のためにわざわざ用意してくれたのかもしれない。しかしこれなら私にポイントを払ってまで呼び出す必要はないし、今日である必要もないだろう。

 第三者がいる場合はどうだろう?ポイントを払ってまで呼び出そうとする訳だし怒られることではないだろう。しかし褒められるのなら呼び出しの理由が言えないのは意味が分からない。かと言ってなにか学校の重大な話なんかを聞かされても私にはどうしようもない。

 この学校ということに囚われずに考えるともしかしたら佐枝ちゃん先生は教師として私とクラスメイトとの和解の機会を設けてくれたのかもしれない。昼休みに電話なんてあまりに行動が早すぎる気がするがこれなら私に理由を言えないのも分かる。先に教えられていたら絶対に断る。めんどくさいしね。それにポイントを払ってまで呼び出したいのも自分の生徒を思う気持ちがあってのものかもしれない。

 うん、考えれば考えるほどそんな気がしてきた。行きたくなくなってきたが約束を破るわけにはいかない。

 学校に着くと廊下を歩いている生徒がチラホラいる。どうやら既に7限は終わっているらしい。ゆっくり歩きすぎたようだ。少し急ぐか。

 

『1年Dクラスの綾小路くん。担任の茶柱先生がお呼びです。職員室まで来てください』

 

 ん?清隆くんも佐枝ちゃん先生に呼び出されてる。私の予想は外れているのだろうか。それとも清隆くんが私の説得代表?清隆くんには悪いが力不足役不足だろう。いや気弱そうだし押し付けられた可能性もなくはないが、洋介くんや桔梗ちゃんはそんなことをするくらいなら自ら私のもとへ来そうだ。実は私が知らないだけで清隆くんも私と同じくらいクラスで浮いて私と一緒に説得される側かもしれない。事なかれ主義を自称する彼に至ってそれはないと思うが。

 職員室に着くとちょうど清隆くんが扉の前にいた。彼も今着いたところのようだ。

 

「やっほ、清隆くん。私も佐枝ちゃん先生に呼び出されたんだけど同じ要件かな?」

 

「お、おう松崎。俺は松崎と違って特に悪いこともしてないし別々の要件じゃないか?」

 

 相変わらず一声目はどもる清隆くん。可愛い。

 

「私も悪いことはしてないよ。それに私も放課後すぐ来るように言われてたしわざわざタイミングを同じにするってことは多分同じ要件だよ」

 

「そうなのか?まぁ先生に聞けば分かるだろ」

 

 そう言って職員室の中へ入る清隆くんにひょこひょこついていくと清隆くんは近くにいた先生に茶柱先生がいるか尋ねる。

 

「え?サエちゃん?えーとさっきまでいたんだけど」

 

 そう応えた先生は、セミロングで軽くウェーブのかかった髪型をしている可愛らしい人だった。佐枝ちゃん先生とは友達なのかもしれない。

 

「今、席を外してるみたい。中で待ってれば?」

 

「いえ。じゃあ廊下で待ってます」

 

 そう言って職員室から出ていく清隆くん。私はまたもやひょこひょこと後ろをついていく。職員室の中で待ってても気まずいしね。

 2人して廊下に出ると、さっき質問に応えてくれた先生もなぜかついてくる。

 

「私はBクラスの担任の星之宮知恵って言うの。佐枝とは、高校の時からの親友でね。サエちゃんチエちゃんって呼び合う仲なのよ〜」

 

 佐枝ちゃん知恵ちゃん。響きがいい。

 

「ねぇ、2人はどうしてサエちゃんに呼び出されたの?」

 

「さぁ?それは俺にもサッパリで」

 

「私も理由聞いたけど教えてもらえませんでした」

 

「理由も告げずに呼び出したの?ふーん、君たち名前は?」

 

 やっぱ理由聞いても教えてくれないって変だよね。よかった、この学校では普通とかじゃなくて。

 

「綾小路、ですけど」

 

「松崎です」

 

「綾小路くんに松崎さんかぁ〜。2人ともモテるでしょ〜?」

 

 この先生グイグイくるなぁ〜。清隆くんがペースについていくのに必死だ。ここは私が助けてあげよう。

 

「そういう知恵ちゃん先生の方がお綺麗ですよ。おモテになるんじゃないですか?」

 

 話題を私たちから知恵ちゃん先生に移す。知恵ちゃん先生は褒められて嬉しいのかにっこり笑う。

 

「松崎さん、嬉しいこといってくれるね〜。綾小路くんもこれくらい言えるようにならないとダメだそ〜。つんつんっと」

 

 助けようとしたつもりだが結局、矛先は清隆くんへ向かう。無念なり。清隆くんも固まってしまってるではないか。

 

「なにやってるんだ、星乃宮」

 

 知恵ちゃん先生の後ろから突如現れた佐枝ちゃん先生がクリップボードで知恵ちゃん先生の頭をはたく。痛そうだ。

 

「いったぁ。何するの!」

 

「うちの生徒に絡んでただけだろ」

 

「サエちゃんに会いに来たって言うから、不在の間相手してただけじゃない」

 

「放っておけばいいだろ。待たせたな綾小路、松崎。ここじゃなんだ、生徒指導室まで来てもらおうか」

 

 先生二人の会話からも仲がいいことが伺える。いいな〜。私もいつか佐枝ちゃん先生と仲良くなって美紀ちゃんと呼ばれたいものである。

 

「それは大丈夫ですけど。指導室って俺なんかしました?松崎だけなら分かりますけど」

 

「だから私がなんか悪いことしてるみたいな言い方はやめてよ」

 

 清隆くんが私だけを売ろうとする。清隆くんの中で私のイメージはどうなっているんだ、まったく。

 

「口答えはいい。ついてこい」

 

 佐枝ちゃん先生は私たちにそう言うとついてこようとする知恵ちゃん先生を睨みつける。

 

「お前はついてくるな」

 

「冷たいこと言わないでよ〜。サエちゃんがわざわざ新入生2人を指導室に呼び出すなんて…何か狙いがあるのかって気になるじゃない?」

 

 ニコニコと笑いながら清隆くんと私の肩に手を置いて知恵ちゃん先生は続ける。

 

「もしかしてサエちゃん、下克上でも狙ってるんじゃないのぉ?」

 

 下克上、つまり私たちが上のクラスにあがることだろう。確かにそれは生徒みんなが多かれ少なかれ狙っていることだ。

 だがしかしそれはクラスの問題であり、生徒の問題だ。それに担任が介入してくることはあるのだろうか?もしかして私は今からクラスメイトの説得よりもめんどくさい話を聞かされるのだろうか?

 

「そんなこと無理に決まってるだろ」

 

「ふふっ、確かにサエちゃんには無理よね〜」

 

 含みのある言い方。もしかしたらDクラスを任された佐枝ちゃん先生も不良品でしたなんてこともあるのかもしれない。

 ついてくる知恵ちゃん先生とついてきてほしくない佐枝ちゃん先生の言い合いを見ていると1人の生徒が私たちの前に立ちはだかる。巨乳の美人さんだ。

 

「星乃宮先生。少々お時間よろしいでしょうか?」

 

 どうやら彼女は知恵ちゃん先生に用があるらしい。しめたと思ったのか佐枝ちゃん先生は知恵ちゃん先生のおしりをクリップボードで叩いて言う。

 

「ほら、お前にも客だ。さっさと行け」

 

「もう〜。これ以上は本気で怒られそうだから、またね、綾小路くんに松崎さん。じゃああっちで話しましょうか、一之瀬さん」

 

 そう言って、職員室へ入っていく知恵ちゃん先生。どうやら巨乳美人ちゃんは一之瀬さんと言うらしい。

 佐枝ちゃん先生は知恵ちゃん先生を見送ったあと指導室へと入っていく。

 

「で?なんで私たちを呼んだんですか?」

 

 私はずっと気になっていたことを質問する。そろそろ教えてほしい。

 

「それなんだが、話をする前に少しこっちに来てくれ」

 

 佐枝ちゃん先生は時計を確認したかと思うと、指導室の中にあるドアを開けて私たちを中へ促す。どうやら給湯室のようだ。

 

「お茶でも沸かせばいいんですかね。ほうじ茶でいいですか?」

 

「いいねっ、どっちが多く茶柱立てれるか勝負しようよ」

 

 私がワクワクとヤカンに手をかける。

 

「余計なことはするな。黙ってここにいろ。いいか、私が出てきてもいいと言うまでここで物音立てずにじっとしてるんだ。破ったら退学にするぞ」

 

 佐枝ちゃん先生はそう言って私を見るといらないことは言うなと目で語りかけてくる。いいでしょう。じっとしといてあげましょう。サービスサービス。

 佐枝ちゃん先生が出てドアを閉める。清隆くんと二人で首を傾げながら待っていると程なくしてドアの開く音が聞こえる。

 

「まぁ入ってくれ。それで私に用とはなんだ?堀北」

 

 どうやら佐枝ちゃん先生は私たちに盗み聞きをさせたいらしい。

 

 

 

 

 

 

 




オリ主ちゃんの考え Dクラスみんなで頑張る?いいじゃんいいじゃん!えっ協力してほしい?それはめんどいからパス

今までオリ主ちゃんの思考メインだったから、会話めっちゃムズい。
そして中々1巻が終わらない。
あえて言う。もっと感想と評価が欲しいです。


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8話

お気に入り500人突破ありがとうございます。めちゃくちゃ難産でした。何度も書き直したので逆に変になっちゃったかも。
あと作品と各話のタイトルをあらためて見てタイトル付けるセンスがマジで無さすぎる。各話のタイトルに関してはいつか消えるかもしれません!


「まぁ入ってくれ。それで私に用とはなんだ? 堀北」

 

 堀北さん。斜め後ろの席の黒髪ロングちゃんだ。1度も話したことがないのでなんとも言えないが、自己紹介もせずに連絡先の交換も断る。相当なコミュ障だろう。桔梗ちゃん曰く清隆くんとしか話していないらしいし、学校でできた1番最初の友達に依存気味なのかな? 

 

「率直にお聞きします。私はなぜDクラスに配属されたのでしょうか?」

 

 あっ違う。これ、コミュ障はコミュ障でも強気なタイプのコミュ障だ。一番タチ悪いタイプだ。

 

「本当に率直だな」

 

「先生はクラスは優秀な人間から順にAクラスに選ばれたとおっしゃいました。そしてDクラスは落ちこぼれの集まりだと」

 

「あぁ言ったな。ふっ、どうやらお前は自分が優秀な人間だと思っているようだな」

 

 どうやら堀北さんはDクラス配属に不満があるらしい。佐枝ちゃん先生は私にこの話を聞かせてどうしたいんだろう? 堀北さんのことを指さして笑えばいいのかな? 自己紹介も連絡先の交換もできないお前が社会に出ても邪魔なだけだってとか言えばいいのかな? 少なくとも私の言えた話じゃないと思うんだけど。

 既に話を聞くことに飽きてきた私は清隆くんにジェスチャーであっち向いてホイをしようと伝えると清隆くんも話に飽きてきていたのかすぐに首肯する。

 ジャンケン! ポイ! あっち向いてホイ! 

 ジャンケン! ポイ! あっち向いてホイ! 

 …………

 …………

 …………

 

 

「おい! 出てこいと言ったら出てこい!」

 

 その怒号と同時に給湯室のドアが開く。なにやら怒っているらしい佐枝ちゃん先生がいる。

 

「あぁ話、終わりました?」

 

「なぜ呼んですぐに出てこなかった?」

 

「清隆くんがあっち向いてホイを仕掛けてきて、それの相手に夢中になってたら気づきませんでした」

 

 ここは清隆くんを売ろう。さっきのお返しだ。清隆くんをギロリと睨む佐枝ちゃん先生。怖い。かわいそうな清隆くん。

 

「ちょっと待ってください。確かにあっち向いてホイはしてましたが仕掛けてきてのは松崎です。松崎もしょうもない嘘をつくな」

 

「ごめんごめん」

 

 何度目か分からないため息をつく佐枝ちゃん先生が開けてくれたドアから指導室に出る。

 

「私の話……聞いてたの?」

 

「話? 初めの方はチョロっと聞いたけど、途中からは全く聞いてなかったよ。清隆くんは?」

 

「あぁ俺もあっち向いてホイに夢中になりすぎていたらしい」

 

 清隆くん、無表情のまま目キラキラさせてたもんね。友達とあっち向いてホイするの初めてなのかなってくらい。

 

「お前ら頼むぞ。まぁ最初の辺りを聞いていたならいい」

 

「先生、どうしてこのようなことを?」

 

 そうだ、結局佐枝ちゃん先生は私たちにこれを聞かせて何がしたかったのだろう? 

 

「必要なことと判断したからだ。さて松崎、綾小路、お前らをここへ呼んだわけを話そう」

 

「私はこれで失礼します」

 

「まぁ待て堀北。最後まで聞いていけ。それがAクラスに上がるための鍵となるかもしれないぞ」

 

 その鍵と私たちになにか関係があるのだろうか? 私は特に目指すつもりはないしな〜。

 横目で清隆くんを見る。彼はどうだろうか? 特に際立っているものがあるわけではない。と思う。と言っても私はDクラスの生徒とはほぼ喋ったことがないし、喋ったとしても一言二言だ。誰がとんでもない実力者でも驚くことではない。

 清隆くんが仮にAクラスが狙えるほどの実力者だったとして、事なかれ主義を自称する彼はAクラスへ昇るため前線に立つだろうか? まぁ私としても頑張ってくれるに越したことはないのだが。

 

「手短にお願いします」

 

 上に同じく。

 佐枝ちゃん先生はクリップボードに視線を落としてニヤリと笑う。

 

「まずは松崎、お前だ。松崎 美紀、入試では500点満点を取り堂々の1位通過。素晴らしい結果だ。しかも資料によるとどのテストも入室可能な20分遅れギリギリにやってきて解いたらしいじゃないか」

 

 堀北さんは驚いた様子でこちらを見る。ドヤァ。清隆くんも少し目を見開いている。驚いてくれたようだ。

 

「あぁ満点だったんですか。運が良かったんですかね」

 

「運? 笑わせるな、マーク式テストならともかく記述テストだぞ。次に綾小路だ。お前は面白い生徒だな」

 

「茶柱、なんて奇特な苗字をもった先生ほどじゃないですよ」

 

 佐枝ちゃん先生の苗字をいじる清隆くん。綾小路も十分珍しいと思うけどなぁ。

 

「全国の茶柱さんに土下座するか? まぁそんなことはいい。これを見ろ。国語50点、数学50点、英語50点、社会50点、理科50点加えて今回の小テストも50点。これが何を意味するか分かるか?」

 

 佐枝ちゃん先生はそう言いながら入試の解答用紙を並べていく。私はそこから目が離せない。すげ〜。めっちゃギャグセン高いじゃん清隆くん。事なかれ主義ってのもこの時のための前フリだったのか。満点ごときでドヤってたのが恥ずかしい。

 

「偶然って怖いっすね」

 

「ほう? あくまでこの結果が偶然だと? 意図的にやったろ」

 

「偶然です。証拠がないじゃないですか。第一、試験の点数を操作して俺にいったいどんな得があると? 高得点取れる頭があるなら松崎みたいに全科目満点狙ってますよ」

 

「全く実に憎たらしい生徒だな。いいか? この数学の問4、この問題の正答率はたったの3%だ。が、お前は途中式も含め完璧に解いている。一方、こっちの問は正解率76%。それを間違えるか? 普通」

 

「世間の普通なんて知りませんよ。偶然です、偶然」

 

 あくまで偶然だと言い張る清隆くん。ダメだ、我慢できない。

 

「アハハハハッ」

 

 私はお腹を抱えてしゃがみながら笑う。面白すぎる。なんで佐枝ちゃん先生も堀北さんもそんなに真顔でいられるんだ。

 

「清隆くん、これは面白すぎでしょ。あぁダメだ。まだ笑いが止まらない。入試受ける前から考えてたの?」

 

「笑ってるところ悪いが本当に偶然なんだ」

 

 まだ偶然を装う清隆くん。そこにこだわりがあるようだ。

 

「あーはいはい、偶然ね偶然。いやー笑わせてもらった。佐枝ちゃん先生もこのためにわざわざ今日呼んでくれたんですね。ありがとうございます。ねぇ清隆くん、連絡先交換しよ」

 

 こんな面白い人中々いない。私は携帯を差し出して清隆くんと連絡先を交換する。清隆くんは増えた連絡先を見て嬉しそうにしている。そんなに嬉しそうにしてくれると私も嬉しい。

 

「綾小路くんはどうしてこんなわけの分からないことをしたの? それに松崎さんも入試満点を取るほど優秀なのにDクラスに配属されることに不満はないのかしら?」

 

 堀北さんはまだ納得がいかない様子だ。めんどくさいな〜、面白いかったらなんでもいいじゃん? そろそろ部活に行かないと行けないのに。

 

「俺はホントに偶然なんだよ。松崎と違って隠れた天才設定とかないからな」

 

「まぁこの学校はあくまで日本の将来を担う実力者を教育する学校だからね。不登校の私、入試で遊んじゃう清隆くん、コミュ障の堀北さん。ほらっ私たちはDクラスにお似合いじゃない?」

 

「何度でも言うが俺の点数は偶然だ」

 

 堀北さんはクラスなんてどうでもいいといった態度の私たちに唖然としている。清隆くんの渾身のボケに笑わせてもらったし、部活でポイントを稼いで何か奢ってあげてもいいかもしれない。

 

「私はもう行く。そろそろ職員会議の時間だ。ここは閉めるから3人とも出ろ」

 

 佐枝ちゃん先生に背中を押され、私たちは廊下に放り出される。結局、佐枝ちゃん先生は私と清隆くんにAクラスを目指す堀北さんの手伝いをさせたかったのかな? 

 

「とりあえず帰るか」

 

 歩き出す清隆くんになんとなくついて行く。部活に入っていることを内緒にしているわけではないが狩場があることをわざわざ吹聴したくもない。

 

「まって」

 

 私たちは堀北さんの静止を無視して歩き続ける。

 

「貴方たちは本当にAクラスに興味がないのかしら?」

 

「そういう堀北はAクラスに並々ならない思いがあるようだな」

 

 私は会話に入ることなく二人の会話に耳を傾ける。

 

「いけない? 進学や就職を有利にするために努力しようとすることが」

 

「別にダメとは言ってない。自然なことだ」

 

「私はこの学校に入学して卒業すれば良いと思っていた。でもそれは違った。まだスタートラインにすら立てていなかったのよ」

 

 堀北さんは歩くスピードを上げ私たちの隣に並ぶ。

 

「ならお前は本気でAクラスを目指すつもりなんだな」

 

「まずは学校側に真意を確かめる。もし、茶柱先生の言うように私がDクラスだと判断されたのなら、その時はAクラスを目指すわ」

 

 Aクラスを目指す。簡単なことではないだろう。多分だけど評価が上がる対象は目に見える結果だ。それはわかりやすいもので言えばテストや体育祭の順位だろう。しかしそれらでDクラスより優秀とされる他のクラスに勝つのはかなり難しいことだと思う。まぁDクラスには既にわかってるだけで入試学年1位と4位がいるんだから分からないけどね。

 いろいろと考えていると話が進んでいる。

 

「そこで綾小路くんには協力をお願いしたいの」

 

「協力ぅ? ってかなんで俺なんだ? 松崎の方が適任だろ」

 

 またもや私を売ろうとする清隆くん。どう考えても私は適任ではないでしょ。

 

「今朝の様子を見る限り松崎さんへの協力は頼むだけ無駄だと思ったのだけれど。違うかしら?」

 

「ううん、全く違わない。私はパスで」

 

 どうやら話したことのない堀北さんの方が清隆くんよりも私のことを分かっているらしい。

 

「なら俺もパスだ」

 

「綾小路くんなら協力する、そう言ってくれると信じてた。感謝するわ」

 

 2人はその後も協力するしないで言い争いを続ける。このまま聞いていてもいいがそろそろ部活に行かないと本格的にまずい。ここは最後に先輩としてアドバイスを残してあげよう。

 

「堀北さん、ちょっと屈んで」

 

 首を傾げつつ私の前に屈む堀北さん。

 

「少しの間だけごめんね」

 

 私はそう言って堀北さんの耳を塞ぐと清隆くんの目をまっすぐ見て言う。

 

「清隆くん。貴方は普通で目立たないようにいたいみたいだけど平均と普通は全くもって別物だよ。まぁそもそもオール50点は平均ですらないけど。君が平均を目指している限り普通にはなれない。平均は1つしかなくとも普通ってのは人の数だけあるものなんだ。普通になりたいと思うならまずはいろいろな人の普通を知った方がいいよ。そしてそのために友達をたくさん作りなさい。その一環として堀北さんに協力してAクラスを目指すってのもいいかもね。そして自分の普通を見つけな」

 

 清隆くんはいきなり真剣になった私に驚きつつも真剣な眼差しを返してくれる。

 私は堀北さんの耳から手を離す。

 

「ごめんね。いきなり耳塞いじゃって。んじゃ私もう行くから。Aクラスへ頑張ってね」

 

 そう言って足早に清隆くんたちから離れる。っぽいことを言えたのではないだろうか? これで清隆くんが少しでもAクラスを目指すことに前向きになってくれたら御の字だ。

 さてぶっかつ! ぶっかつ! 

 

 

 

 

 

 

「すみません! 遅れました!」

 

 ボードゲーム部に着くと先輩たちは既に集まっていた。有栖ちゃんはいないようだ。クラスで今後についてでも話し合っているのかな? 

 

「遅いぞ松崎! 今日こそお前にもリベンジするつもりでみんなでこっそり特訓頑張ってきたんだからな!」

 

 ギラギラとした目を私に向ける先輩たち。私に勝つために特訓してくるなんて可愛い。ボコボコにしてあげなくちゃ。

 

「へぇ〜そうなんですね。なら遅れたお詫びもありますし、多面指しでいいですよ」

 

 今日は気分がいいのだ。私は机の上にオセロ、将棋、チェスの盤を1つずつ並べて席に座る。

 

「さて、誰からやりますか?」

 

 

 

 

 

 その後、下校時間ギリギリまで先輩たちと賭けをした。もちろん、私の全勝だ。先輩たちはお揃いのハンカチを噛みながら次こそは! と私を睨みつけて見送ってくれる。ちなみに私も有栖ちゃんも持ってるハンカチだ。それでも後片付けはしてくれるのだからいい先輩たちだ。しかし、やはりというか先輩たちはここ一ヶ月でメキメキと実力を伸ばしている。これからは多面指しなんて舐めプはできないだろう。

 

 プルルルルル

 

 電話が鳴る。ディスプレイには有栖ちゃんの文字。

 

「はい、もしもし?」

 

『そろそろ部活が終わった頃だと思って電話をしたんですが』

 

「あぁ、ちょうど終わったところだよ」

 

『そうですか。では今から私の部屋へ来ませんか? カップラーメンも用意してあります』

 

 どうやら有栖ちゃんはカップラーメンにハマってしまったらしい。

 

「別に私はカップラーメンには釣られないからねっ。まぁ行くけど」

 

『ふふ、ではチェスの用意をして待っておきます』

 

 有栖ちゃんはいくらカップラーメンにハマってようと頭の中のほとんどをチェスが占めるようだ。可愛い。急いであげるとしますか。

 

 

 

 

 

 

「チェックメイト」

 

 私の声が有栖ちゃんの部屋で木霊する。なんかあっさり勝ててしまった。練習しすぎたかもしれない。リベンジに燃えていた有栖ちゃんを一瞬で沈める。私の中の加虐心に小さな火がつくのを感じる。鎮火せよ。マッチ一本火事の元。

 

「もう1戦」

 

「ダメ、賭けは月に1回だけって決めたでしょ。それに今日はチェスよりも話したいことがお互いにあるでしょ」

 

 私はぐずる有栖ちゃんをなだめつつお湯を用意してカップラーメンに注ぐ。

 

「うちと違ってAクラスはさすがに優秀だったね。今後の方針とかもう決めたりしたの?」

 

「そうですね。Aクラスの内情を話す前に美紀さんの今後のスタンスについてあらためてお聞かせ願えませんか?」

 

 相変わらずお上品にカップラーメンを食べる有栖ちゃん。

 

「あぁそうだね。私としてはこのまま自由にいかせてもらおうと思うよ。楽しそう! やりたい! って思ったことは頑張るし、嫌だ! ダルい! って思ったことはやらない。それがDクラスにとってプラスになるかは学校次第だね」

 

「なるほど。ちなみに私がAクラスに協力して欲しいと言ったらどうしますか?」

 

「もちろん断るよ。ただ有栖ちゃん個人とは今後も仲良くやっていきたいと思ってるんだ。どうかな?」

 

「そうですか。分かりました。しかし、ならAクラスの内情は話せませんね。美紀さんの気まぐれに巻き込まれるのも楽しそうですが今はまだ不確定なところが多い」

 

「え〜ケチー」

 

 私たちは顔を見合わせて笑い合う。そこからはDクラスのことやチェスのこと、そしてテストのこと。私が入試で1位だったことを話すと有栖ちゃんはピキってた。可愛い。あの程度のテスト有栖ちゃんも満点を取れるはずだからどうせ手を抜いたんだろうに。

 

「なんだか今日はテンションが高いですね?」

 

「ん? あぁちょっと面白いことがあってね」

 

 そんなにいつもと違うかな? それにしてもいつもとのテンションの差が分かるなんて私たちは仲良くなったもんだ。

 

「面白いことですか?」

 

「うん。まぁ内緒だけどね」

 

 清隆くんも言いふらされたくはないだろう。

 

「美紀さんこそケチじゃないですか。そんなケチな美紀さん、どうです? もう1戦」

 

 そう言ってチェス盤をつつく有栖ちゃん。まだ諦めていなかったのか。どんだけ負けたのが悔しいんだか。可愛い。

 

「嫌でーす。それに今後クラスで動いていくのにポイントは大切でしょ。大事に取っておきなさい」

 

 そう言って立ち上がる私を有栖ちゃんはじっと見てくる。

 

「拗ねないの。もう遅いし私はそろそろお暇するね」

 

 既に時刻は23時をまわっている。

 

「分かりました。次は勝ちます」

 

 相変わらず闘志に満ち溢れた目だ。そんな目をしてくるから私もチェスを頑張らなければいけなくなってしまう。来月にはまた一段と強くなっているんだろう。

 

「うん、期待してるよ。じゃあまたね」

 

 

 

 

 有栖ちゃんの部屋から出て自分の部屋へ向かう。もう5月とはいえ始まったばかり。この時間はさすがに寒い。早くお風呂に入って寝よう。今日はいろいろあって疲れた。

 自分の部屋に近づくとドアの前に人影が見える。

 

「あっやっと帰ってきた。一応連絡してたんだけど見てないでしょ。いろいろと話したいことあるんだけど今からいい?」

 

 帰ってきた私を見て満面の笑みになる彼女。どうやら今日はまだ終わらないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オリ主ちゃんは清隆くんのこと英才教育を受けた箱入り息子でこの学校には環境から逃げるために来たんだと思っています。つまりニアピンです。
堀北さんと初期小路くんムズいし、坂柳さん可愛いし。

数日間休みます


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9話

9話(仮)を加筆したものです。文字数は倍くらいになっています。




「あっやっと帰ってきた。一応連絡してたんだけど見てないでしょ。いろいろと話したいことあるんだけど今からいい?」

 

 疲れた私を迎えてくれたのは桔梗ちゃんだった。携帯を確認してみると確かにいくつかのメッセージがきている。

 

「ごめんごめん。気づかなかったよ」

 

 私はドアを開けて桔梗ちゃんを部屋の中に促すとお茶も出さずに席につく。こんな時間に紅茶もなんだしね。

 

「聞くまでもないかもだけどわざわざ遅くまで私の帰りを待ってまでしたい話って何かな?」

 

「うん。なら早速本題に入るけど松崎さんには学校に来て欲しいの」

 

 やはり彼女の目的は私の引きこもりから脱却させることだった。つまり彼女はDクラスからの親善大使なのだろう。適任だ。

 

「やっぱりそれか〜。ん〜何度も言うのは心苦しいけどパスで。ごめんね」

 

「そっか。改めて理由を聞いてもいいかな?」

 

 桔梗ちゃんは悲しげな表情をしながらそう言う。親善大使は大変そうだ。申し訳なさで胸がいっぱいだ。頑張れ。

 

「えっとね、理由はシンプルにめんどくさいからだよ。苦手なんだよね行動が制限されるの」

 

「分かった。答えてくれてありがとね。とりあえず今日は帰るけどまた来てもいいかな?」

 

 どうやら今日は様子見のジャブを放ちにきたらしい。しかしこれが毎日続くとなるとかなりめんどくさい。今日は桔梗ちゃん一人だったけど明日からは違う人が複数人で押しかけてくる可能性もある。嫌すぎる。ウザすぎる。

 

「友達としてならもちろん歓迎だけど、Dクラスからの使者としてならもう来ないでほしいって言ったら桔梗ちゃんは困るかな?」

 

「別に困らないよ。私は友達として松崎さんに学校に来てほしいからね」

 

 桔梗ちゃん! なんていい子! ヤバい、顔がニヤける。

 

「そっかそっか友達としてか。いいね、そういうの。じゃあ私から友達の桔梗ちゃんに質問とプレゼントがあるんだけどいいかな?」

 

 せっかく桔梗ちゃんがこう言ってくれたんだ。この学校における数少ない友達とは深く付き合っていかねば。

 

「うん、何かな?」

 

「まずは質問なんだけど桔梗ちゃんがDクラスになった理由ってなんだと思う? 小テストの結果を見る限り成績に問題があるようには見えないし、コミュニケーション能力に関しては言うまでもない。なんか心当たりない?」

 

 私のこの質問に桔梗ちゃんは一瞬顔をこわばらせるがすぐにいつもの笑顔に戻す。

 

「どうしてそんなこと聞くのかな?」

 

「いや単純に友達が不良品の評価を受けた理由が気になっただけだよ。ちなみに私の予想は高校入学前に何かやらかしたに1票。これは洋介くんにも当てはまるね。あぁもちろん言いたくないならいいよ」

 

 やらかしたとしたら何だろうか? 犯罪を犯したにしても少年院に入るレベルのことではないと思う。きっと。まぁそれは政府運営のこの学校を信じよう。軽犯罪ならどうだろう。学生のしそうなので言うと万引きにいじめ、飲酒や喫煙辺りだろうか。正直どれをしていてもおかしくはない。

 しかしあくまで私の印象だが桔梗ちゃんは強い。彼女は何かをやらかしてしまった時に自分を責めるタイプではなく、次に活かそうとするタイプな気がする。そういう意味では彼女が外部との連絡が完全に遮断され知り合いが誰もいないこの学校に来た目的は過去に何があったかはひとまず置いといて人間関係の再構築に違いない。

 知り合いが誰もいないかどうかはあくまで彼女の発言なので真偽は曖昧だがわざわざ嘘をつくメリットもないと思う。仮に彼女の知り合いがこの学校にいたとしても完全な計算違いだろう。

 まぁつまり彼女がこの学校で品行方正であればあるほどその過去は知られたくないものであるはずだ。

 

「言いたくないかな」

 

 ビンゴ! 

 

「そっか、なら今はいいや。でも次からは私を学校へ勧誘するたびにこの質問をしようかな。そんでもってあまりしつこいと本格的に探りにいかせてもらうよ。なんたってこの学校にはポイントで買えないものは無いらしいからね」

 

「わかったよ。もう学校に来てほしいなんて言わないようにするね」

 

 どうやら交渉成立のようだ。桔梗ちゃんは今度は笑顔を崩すことはなかった。すごい。私たちの関係は友達からお友達(笑)に進化した。テッテレー。

 

「ありがとね。いくらお友達でも触れてほしくないものって誰でもあるもんね。まぁいつか私ともっと仲良くなりたいって思ったら教えてよ」

 

「うん、そうだね。それでプレゼントってのは何かな?」

 

「あぁそれに関しては現物とかはなくただの憶測なんだけど、多分次のテストは先輩方の過去問が鍵になると思うよ。過去問と全く同じかは分からないけどそれなりに関係してくると思う。まぁ2、3年生からそれぞれ過去問をもらえば確実かな」

 

 桔梗ちゃんは驚いた顔で身を前に乗り出してくる。可愛い。

 

「それはどういうことかな?」

 

「佐枝ちゃん先生が赤点を取らずに乗り切れる方法がある的なこと言ってたじゃん。それって過去問のことだと思うんだよね。点数や問題を買うことも考えたけどポイントがほぼないDクラスにその方法はあってないようなものだしなら過去問かなって。まぁ間違ってても過去問をもらうこと自体はマイナスにはなり得ないから試してみたらどうかな」

 

 桔梗ちゃんはまだ驚いた状態から帰ってこれていないがそれでもゆっくりとこちらに問いかけてくる。そんなに驚くことか? 割と誰でも気づきそうだけど。

 

「どうしてわざわざ教えてくれたの?」

 

 え??? 何を聞いてくるかと思えば教えた理由? 嘘じゃん。今度は私が驚く番のようだ。

 

「えっと、一応私もDクラスの一員なのでDクラスのみんなのテストの平均点が上がってそのことでクラスの評価が上がるなら嬉しいんだけどなーって」

 

「あっそっか、そうだよね」

 

 私たちの間に沈黙が流れる。私がジト目を送ると桔梗ちゃんは気まずそうに目をそらす。

 

「あー夜も遅いし、そろそろお開きにしようか」

 

「そうだね。そうしよっか」

 

 桔梗ちゃんは気まずい空気から逃げるように立ち上がり、素早く玄関に向かう。私はそんな桔梗ちゃんの後ろに付いていき見送りへ向かう。

 

 桔梗ちゃんが靴を履くのを待ちながら今後のことを考える。私の仮説が正しく過去問と今回のテストがまったく同じならDクラスの平均点は凡ミス含めて95点くらいになるだろう。これは一般的に褒められる結果だろう。つまりクラスの評価アップにつながるはずだ。

 しかし、学校に登校していない私が一人で考え付くことなんて他クラスの集合知には叶わないだろう。今回のテストでは各クラスの評価の差はそこまで変わらないだろう。もしかしたら他クラスがⅮクラスの生徒の点数を買い赤点に追い込むという作戦に出るかもしれないが、1点の価値がわからない今考えても仕方のないことだろう。

 ここまで考えたところで桔梗ちゃんが靴を履き終え、体をこちらに向ける。

 

「それじゃあ帰るね。改めて遅くにありがとう。過去問は何人かの先輩にあたってみるよ」

 

「うん、それと過去問のことなんだけど、桔梗ちゃんが思いついたことにしておきなよ」

 

「えっいいの?」

 

 桔梗ちゃんが心底驚いた顔で言う。かわいい。

 

「もちろん。私より桔梗ちゃんのほうがクラスでの地位は必要だろうし、なにより友達じゃん!」

 

 そして何より、私自身が今後どう行動していくか明確じゃない状態で名が売れるのは避けたいしね。

 

「そっか、ありがと。過去問手に入れられたら松崎さんにも送るね」

 

「待ってるね。それじゃ、近いとはいえもう時間も遅いから気を付けて」

 

「うん、ばいばい」

 

 そう言い、部屋から出ていく桔梗ちゃん。あぁ私の部屋のかわいい密度が減った。半減だ。私はかわいい。

 疲れた頭でアホなことを考えながら風呂場に向かう。今日は湯船に浸かるのはなしでいいや。さっさと寝てしまおう。

 それではおやすみ人類たちよ。いい夢見ます。

 

 

 

 

 それから私はテスト当日までは特に代わり映えのない日々を送っていた。途中、桔梗ちゃんからテスト範囲の変更や過去問を教えてもらったりしたが私には関係のないことだった。念のために目を通した過去問もやはりと言っていいのか私にとっては造作もないものだった。これで桔梗ちゃんが偽の過去問を送ってきてたらおもしろいけど、まぁ大丈夫だろう。大丈夫だよね? 私たち友達(笑)だよね? 

 

 

 そして迎えたテスト当日、私はセットしてあったタイマーでしっかりと起き、余裕をもって学校へ向かった。教室に入ると周りの目が一瞬集まるが、やはりテスト目前ということもあってかすぐに各々のテスト勉強へ戻っていく。一ヶ月ぶりに訪れた教室は私に優しくないようだ。愛なき時代に生まれてしまったようだ。

 席に着き佐枝ちゃん先生がくるのをボーっと待っていると不意に後ろから声がかかる。いったい誰だろう、皆目見当がつかないなー。

 

「さすがにテストの日は来るんだな」

 

 なんとびっくり清隆くんだ。

 

「清隆くんおはよう。さすがにまだテストを免除してもらえるほどのポイントは持ってないからね」

 

「仮にポイントが集まったら来ないのか」

 

 呆れたように清隆くんは言う。やる気のない目にはジト目が似合うぜよ。

 

「ポイントによるとしか言えないな~。高校のテストも途中退室があればテストなんてなんら苦でもないんだけどな~」

 

「テストなんて一瞬で終わるってことか、余裕だな」

 

「清隆くんだって余裕のくせに私にそんな目を送る権利はないでしょ。あっでも清隆くんは得点調整に時間がかかるかな?」

 

「何度でも言うがあの点数はたまたまだ」

 

「じゃあ今回はオール50点は取らないのかな?」

 

「取らないんじゃなくて取れないんだよ、あんな偶然が2度も起こるはずがないだろ。しかも誰かさん曰く俺はこのままじゃ普通になれないらしいからな、それは事なかれ主義に反する」

 

 偶然なんて口では言っておきながら、もう私相手に誤魔化すことを諦めた様子の清隆くん。私の助言を聞き入れつつも事なかれ主義をやめようとしてないところを見ると今回も得点調整はするつもりなんだろう。まぁ清隆くんが実力を発揮して目立っても上手く対処できなそうだしね。あたふたする清隆くんが見たくもあるがそれはほっといてもいつか見れそうだしいいや。

 

「松崎さん少し賭けをしないかしら?」

 

 脳内の清隆くんで遊んでいるといつの間にか私の席の横に立っていた堀北さんが面白そうな提案をしてくる。しかし、さすがコミュニケーションが苦手なだけある、相手のことをまったく考えていない突然の提案だ。世界の中心は君だ。さぁ愛を叫ぼう。

 

「いきなりだね、堀北さん。このタイミングでってことはテストの点数での勝負かな?」

 

「ええそうよ。ルールは簡単に5教科の総合点数でどうかしら? 私が勝ったら松崎さんには毎日ちゃんと学校に来てもらうわ」

 

「おいおい堀北、松崎の入試の点数忘れたのか?」

 

「今は松崎さんと話しているの、口を挟まないでくれるかしら綾小路くん」

 

 口をパクパクと開けつつも声の出ない清隆くん。哀れなり。世界の中心には勝てないようだ。

 

「ふ~ん、私が勝ったら?」

 

「もちろんそちらの要求に無理のない限りで答えるつもりよ」

 

 なんでもとは言ってくれない堀北さん。しかし、余程勝つ自信があるのだろう、かなりの強気だ。あれ? いつものことかな? 

 

「ん~パスで」

 

「あら、勝てる自信がないのかしら?」

 

「賭けの勝ちに価値を感じないからだよ」

 

 勝ち価値

 

「どういうことかしら」

 

「清隆くん、説明!」

 

「いきなり振るな、まぁ単純に考えれば堀北の用意できるものの中に松崎が毎日学校に来るということと釣り合うものがないんだろう」

 

「正解! 簡単な話だよね。相も変わらず堀北さんは自分に自信満々で価値があると思っているようだけど、残念ながら私は交友関係も狭くというかほぼ無く、Dクラスでポイントの安定供給も見込めない君にさほど魅力を感じない。ごめんね」

 

 なんかおもしろいことをやらせても堀北さんは見てられなくなるタイプだろうしね。私たちの親愛度もまだまだ低いしね。

 

「っ……」

 

 悔しそうに顔をゆがめる堀北さん。かわいい。

 

「また堀北さんが自分が成長したと思ったならいつでも声かけてよ。楽しみにしてる」

 

「ええそうさせてもらうわ」

 

 納得したかどうかはともかく堀北さんは自分の席に戻っていく。

 

「ずいぶんきつい言い方をするんだな」

 

「堀北さんの成長はDクラスのためになるからね。清隆くんだったらいつでも賭け、待ってるよ。もちろん内容によるけど」

 

 なんせ私たちは親愛度MAXだからね。

 

「機会があればな」

 

 その後も少しの間清隆くんと雑談をしていると、教卓の方から声がする。

 

「欠席者はなし、ちゃんと全員揃っているみたいだな」

 

 どうやら佐枝ちゃん先生がいつの間にか来ていたみたいだ。そして来て早々に佐枝ちゃん先生はテストを配り始める。

 

「もし、このテストと7月に行われる期末テストをお前ら全員が乗り切れたら夏休みにはバカンスに連れていってやる。青い海に囲まれた島での夢のような生活だ」

 

 バカンス、海という単語に皆やる気が出たのか声を上げる生徒までいる。強制でないことを祈っておこう。

 そしてそうこうしているうちにテストが配り終えていた。どうやら1時間目は社会のようだ。

 

「それでははじめ」

 

 佐枝ちゃん先生の合図とともにテストが始まる。

 

 私の戦いはこれからだ! 松崎先生の次回作にとうご期待を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




10話に続く
感想にあった段落などのことについて全話、修正しました。またなにかあれば気軽に乾燥らんまで


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10話

お久しぶりです


 社会から始まったテストは、国語、理科、数学と続いていく。どの教科も難易度自体が高くないのはもちろんのこと、桔梗ちゃんから送ってもらった過去問とほぼ同じ内容だった。見える範囲にいるクラスメイトたちも焦った様子がなかったことからしっかりと過去問を覚えてきたのだろう。感心感心。

 そして迎えた休み時間。私には一緒に昼ご飯を食べる友達がなぜかいないので一人で肩を落としながら食堂へ向かう。ちらっと見た清隆くんも堀北さん含むクラスメイトたちとテストの出来についておしゃべりしていた。べっ別に悔しくなんてないんだからね! 清隆くんなんて人間強度が下がっちゃえばいいんだ。

 

 一人寂しく昼食をもぐもぐと食べ、5時間目が始まる前にきちんと自分の席に戻る。えらい。するとしばらくして佐枝ちゃん先生がきて、最後のテストとなる英語のテストを配る。これさえ終われば放課後だ、頑張ろう。

 

 チャイムが鳴りテストが終わる。帰りのホームルームはぶっちして帰ろうと考え、清隆くんにバイバイを言おうと席を立ち振り向く。しかし、そこにはすでに清隆くんはおらず、教室を見回せば清隆くんと堀北さんを含む数名のクラスメイトが赤髪不良くんの周りに集まっていた。聞き耳を立てみるとどうやら赤髪不良くんが英語の過去問を暗記している途中で寝落ちしてしまい、テストの出来に自信がないようだ。南無三。今、清隆くんに話しかけるのはめんどくさそうなのでさっさと帰るとしよう。そうして教室のドアに手を掛けようとすると後ろから声がかかる。見つかった。

 

「松崎さん、帰るの?」

 

 桔梗ちゃんだ。

 

「うん。テストも終わったしね。桔梗ちゃんが送ってくれた過去問のおかげで余裕だったよ。ありがとう」

 

「先輩に言えば簡単にくれたし、気にしなくてもいいよ。元はと言えばみたいなとこあるしね」

 

 過去問の存在を教えたのは確かに私だが、それをわざわざここで言うほど馬鹿じゃない桔梗ちゃん。少なくとも馬や鹿よりは広い視野を持っている。斜め後ろに立っても気づかれそう。

 ていうか過去問にしても私じゃゲットできてたか怪しいし、桔梗ちゃんのおかげということに間違いはない。私に過去問が必要だったかはさておき。

 

「まぁとにかく帰るよ。ホームルームは出席に関係ないっぽいし」

 

「クラスの評価には関係しそうなんだけどなぁ」

 

 そう言いつつこちらをジト目で見てくる桔梗ちゃん。かわいい。

 

「ごめんごめん。テスト返却日がわかったら教えてよ。その日は頑張って来るからさ」

 

 赤髪不良くんの結果も気になるしね。

 

「もう、毎日嘘ついて呼び出そうかな」

 

「怖いこと言わないでよ。桔梗ちゃんに嘘なんてつかれたら人間不信になっちゃうよ」

 

「はいはい。じゃあまたね」

 

「うん。バイバイ」

 

 クラスメイトから感じる視線に気づかないふりをして教室から出て廊下を歩く。私の視野に後ろは入っていない。今日はたくさん教室にいて疲れた。へとヘとだ。へとヘってなんでひらがなとカタカナでこんなにも形が似ているのだろうか。

 こんなしょうもないことに思考を奪われてしまうのはきっと疲れている証拠だ。決していつもではない。早く帰ってシャワーを浴びて寝よう。

 

 シャワーを浴び、パジャマに着替えふかふかベットにダイブして携帯に目をやると有栖ちゃんからメッセージが届いている。ほんまにごめん無視で。返事はすぐにしちゃダメってだれかに聞いたことあるからね。私は駆け引きができる子なんだ。

 それではおやすみなさい人の子たちよ。いい夢みます。

 

 

 目が覚めると外は明るかった。あれ? まだ夜になってない? なんて勘違いはしない。経験上わかる。これは朝だ。そう確信して、時計に目を向ける。針が示すは11時25分。午前中ならセーフ。今はとりあえずいっぱい寝れた自分を褒めてあげよう。よしよし。これは育っちゃうね。

 朝。誰が何と言おうとも朝の準備をし、携帯を見ると有栖ちゃんから昨日寝る前にきていたメッセージに加え、いくつか追加のメッセージがきていた。要約するとテストはどうだったか? 今日は部活にくるのか? 寝ているのか? 今から部屋に行ってもよいか? そして最後にしゅんとした顔の猫のスタンプがきていた。さすがにかわいい。彼女か。私はそれに寝てたことを謝りつつ、テストが返ってくるまではとりあえず部活にいかないことを伝える。

 

 今日の分の出席を買い、今日することを考える。溜まってた本でも読むか。

 

 チャイムが鳴る。時計を見ればすでに放課後だ。なんとなく予想できるが誰がきたのかモニターを覗いてみればやはりというか有栖ちゃんだ。

 

「いらっしゃい。どうしたの?」

 

 ドアを開け、有栖ちゃんを部屋に向かい入れる。

 

「どうしたの? ではありません。私は怒っています」

 

「え、ごめん」

 

 どうやらお怒りのようだ。私は有栖ちゃんに手を貸しつつ、原因を考える。あれ、私なんかしちゃいました? 

 

「なにもわかっていない謝罪はいりません」

 

「えー、じゃあなんで怒ってるのか教えてよ」

 

 どうやら相当ご立腹のようだ。かわいい。頭なでなでしてあげたい。

 

「どうしてメッセージに返信を返してくれないのですか?」

 

「遅くなったけど返したじゃん。寝てたんだよ」

 

「違います。その後です」

 

「その後?」

 

 携帯でメッセージアプリを開くと、そこには有栖ちゃんからの返信が返ってきていた。あっ桔梗ちゃんからテスト返却日についてもメッセージがきてる。ありがとうスタンプを返しておこう。

 

「ほんとだ。本読んでたから気付かなかったよ、ごめんね」

 

「まったく、これからはこまめに携帯を見るようにしてください」

 

 めんどくさいな~。メッセージくらい自分のペースでやらせてほしい。

 

「なるべく気を付けるようにするよ。でもなんか用事があるときは電話か今みたいに私の部屋に来てくれたほうが確実だと思うよ」

 

「何のためのメッセージアプリなんですか」

 

 有栖ちゃんが幸せを逃がしながら言う。

 

「苦手なんだもん。それでなんの用だったの?」

 

 私は早くこの話題を終わらせるために有栖ちゃんに本題を聞く。

 

「いえ、ただテストの出来がどうだったのか聞きにきただけです」

 

 え? それだけ? そんなのメッセージで聞いてくれよ。

 

「多分満点だよ。過去問もクラスメイトから貰ってたし」

 

「Dクラスも過去問の存在に気づいてたんですね。他のクラスはどうだったんでしょうか」

 

「私が知るわけないじゃん。でも気づく人は気づくんじゃない? Dクラスは佐枝ちゃん先生が軽くヒントくれてたけど」

 

「そしたら今回のテストでは退学者はでないかもしれませんね」

 

 実はDクラスには危うい人が少なくとも一人いることは内緒にしておこう。赤髪不良くんに幸あれ。

 

「ところで有栖ちゃんはテストできたの?」

 

「もちろんです。勝負をしてもよかったんですけど今回は過去問がありましたからね」

 

「まぁ次回からだね」

 

「そうですね。とりあえず今日は帰りますね。あっそういえばテスト返却日が今日わかりましたよ」

 

「あぁそうらしいね。クラスメイトから教えてもらったから知ってるよ」

 

 改めて桔梗ちゃんありがとう。感謝感謝。

 

「私からのメッセージは無視しといてクラスメイトからメッセージは読んでるんですか?」

 

 有栖ちゃんから黒いオーラが出てる気がする。

 

「さっき見ただけだよ」

 

「そういうことにしておいてあげます」

 

 ほんとなんだけどな。めんどくさくてかわいいなー。

 

「ありがとうございます。それじゃあね」

 

「はい、また来ます」

 

 ふーやっと帰った。おなか空いたしごはん食べて本の続き読も。

 

 

 そうしてダラダラ過ごしていると、テスト返却日がきた。わざわざ朝起きて学校へ向かう。えらすぎ。

 教室に入ると気合の入った目をしてる気がする。

 

「おはよう。清隆くん」

 

「おお、おはよう。テスト返却日知ってたんだな」

 

「桔梗ちゃんが教えてくれたからね」

 

 清隆くんと談笑していると、佐枝ちゃん先生が来る。ちなみに清隆くんは笑ってはなかった。

 

「先生、本日テストの採点結果が発表されると伺っていますがいつですか?」

 

 洋介くんが手を挙げ、質問する。大事だよね。

 

「喜べ、今からだ。放課後じゃ手続きがいろいろと間に合わないからな」

 

 誰か退学になっちゃったのかな。まぁまだこのクラスと決まったわけではないしね。まぁまだ赤髪不良くんと決まったわけじゃないしね。ドンマイ。

 

 そうして張り出されたテスト結果。私は予想通りすべてのテストで一番上に名前があった。ドヤァ。

 

「っしゃ!」

 

 赤髪不良くんが叫んで立ち上がる。英語のテスト結果の一番下を見る。須藤健、39点。おそらく赤髪不良くんのことだろう。英語の平均点はぱっと見80点くらい。ギリギリアウトくらいな気がするけどセーフなのか。暗算速いな。私が関心していると佐枝ちゃん先生が赤いペンで須藤くんの名前の上に線を引く。

 

「お前は赤点だ、須藤」

 

「は? 嘘だろ、なんで俺が赤点なんだよ!」

 

 赤点なんかーい。逆になんで赤点じゃないと考えたんだ? 

 

「お前は英語で赤点取ってしまった。ここまでということだな」

 

「ふざんけんな! 赤点は31点だろうが!」

 

「誰がいつ、赤点が31点だと言った」

 

「いやいや先生は言ってたって!」

 

 周りのクラスメイトたちも須藤くんに同調するように騒ぐ。あぁなるほど。みんなは赤点は31点で固定だと考えていたのか。そういう考え方もあるのか。いったい、いつから赤点が31点だと錯覚していた? 

 

「お前らがなにを言っても無駄だ。今回の中間テストの赤点は41点未満だ。つまり2点足りなかったということだな」

 

「41なんて聞いてねえよ! 納得できるか!」

 

「前回、そして今回の赤点基準は各クラスごとに設定されており、求め方は簡単で平均を2で割るだけだ」

 

 佐枝ちゃん先生が黒板に81.8÷2=40.9と書く。四捨五入方式なのか。

 

「今回のテストの平均点は81.8点。2で割り、四捨五入して41点未満の者を赤点とする。これでお前が赤点でということが証明された」

 

「俺は本当に退学だっていうのか」

 

 おいたわしや。テストの点数がいくらくらいで買えるかは気になるところだったけど、まぁいいか。それにかの日本政府様ならきっと違う高校への編入くらい用意してくれてるでしょ。切り替えてこう。

 

「短い間だったがご苦労だな。須藤は放課後、職員室まで来るように。そして他の生徒たちはよくやったな。期末テストも精進してくれ」

 

 よし、帰ろう。カバンを持ち立ち上がる。

 

「松崎、どこへ行く」

 

「体調が優れないので早退します」

 

 私は佐枝ちゃん先生の返答を聞かずにそそくさと教室から出る。逃げるは勝ち。恥ずかしくもない。須藤くんからのヘイトがすごいことになりそうだけどもう会うことはないだろうしね。さよなら須藤くん。

 それにしてももう退学者が出るとは。他のクラスは大丈夫だったんだろうか。赤点がクラスごとに決まる以上脱落者いてもおかしくない。

 

 考え事をしながら部屋へ歩いていると、清隆くんから電話がかかってくる。めずらしいというか初めてだ。

 

「もしもし、どうしたの?」

 

「8万ポイント貸してくれないか?」

 

「テストの点数はいくらだったの?」

 

「やっぱりわかっていたか。一点につき10万ポイントだ。今回は特別らしいがな」

 

 次回からは参考にならないのか。

 

「でもな~、ただで貸すっていうのもな~」

 

「はぁ~、わかった。今度俺の半生でも語ってやる」

 

「自分の半生に8万もの価値があるなんて自信満々だね。やっぱり清隆くんっておもしろいなぁ」

 

 実は世界を救ったことでもあったらアガるな。

 

「俺を面白いだなんていうのは松崎くらいだ。で、どうなんだ?」

 

「しょうがないなぁ。はい送っといたよ。なるべく早く返してね」

 

「あぁ感謝する」

 

 そう言い、電話を切る清隆くん。清隆くんは須藤くんを救済する道を選んだようだ。やさしい。おかえり須藤くん。

 それにしてもポイントなくなっちゃったな。8万ポイントは大金。大ポイントだよ。私は有栖ちゃんへ今夜、チェスをしようと誘いのメッセージを送り帰路につく。カップラーメン買って帰ろう。

 

 

 

 

 

 

 




清隆くん(初期)はおり主ちゃんのことを過去を知られても態度変えなそうと思うくらいには信用してる。まだ数回しかあったことないのにね

やっと1巻終わった、あとは他視点


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11話 綾小路視点(1巻)

まじで投票がいい勝負だった。
おもんなかったらごめんね。でもいっぱい書いたからぜひ読んでくだせー


 バス前方で行われる老婆のための座席募集に対して、周囲の人間がどのような反応をするのかふと気にかかり、辺りを見渡すと大体は見て見ぬふり。あるいは迷ったような素振りを見せていた。

 しかし、その中に異なる雰囲気を放っている二人の少女がいた。一人はまるでこの状況を楽しんでいるかのようにキラキラした目で周りをキョロキョロと見渡していた。表情も相まってか少し幼く見える。一瞬目が合うがすぐにそらされてしまう。どうやらオレにそこまで興味を示さなかったらしい。

 もう一人はオレの隣に座る凛とした少女。先ほどの少女と違いこちらはこの騒動などまるで起こっていないかのように無反応、無関心を貫き無表情で過ごしている。思わず見つめてしまうとこちらも同じく一瞬目が合う。これは良くも悪くも互いの意見の一致を表していた。席を譲る必要なんてないという意見の。

 少女たちから意識を外し、改めて騒動の顛末に目を向けると、老婆の近くに座っていた社会人のような風貌の女性がいたたまれなくなったのか席を譲っていた。そうして一人の勇気によって騒動は終わりを迎えてた。

 

 それから程なくして目的地に着くと、高校生たちの後に続きバスから降りる。学校の門を前でこれから始まる高校生活を思い、深呼吸をする。よし、行くか!

 

「ちょっと」

 

 そんな勇気の一歩は真横からの声によって止められる。バスで隣に座っていた少女だ。

 

「さっき私の方を見ていたけれど、なんなの?」

 

 どうやら先ほど見ていたことに不満と疑問があるようだ。

 

「悪い。少し気になっただけなんだ。あんたは最初から席を譲ろうなんて考えを持っていなかったんじゃないかって」

 

「ええそうよ。それがどうしたの?」

 

「いや、ただ同じだと思っただけだ。オレも席なんて譲るつもりなんてなかったからな。事なかれ主義としては、目立ちたくない」

 

「事なかれ主義?同じにしないで。私は老婆に席を譲ることに意味を感じなったから譲らなかっただけよ」

 

「それはそれでどうなんだ?」

 

「ただ面倒事を嫌うだけの人間とは違う。自分の信念に従って行動しているだけよ。願わくばあなたのような人間と関わらずに過ごしていきたいものね」

 

「同感だ」

 

 どうやら互いに関わり合いたくないということ以外は気が合わないらしい。互いにわざとらしくため息をつき同じ方向に歩きだす。

 

 

 

 自身のクラスを確認し、教室へ向かう。どうやらオレはDクラスのようだ。教室に入り、自身の席に座る。窓際の一番後ろの席。大当たりだ。

 周りを見れば既にいくつかのグループができており、そこに話しかける勇気は残念ながらない。重い腰を上げ、話しかけようとした男子生徒にも他のクラスメイトが話しかけてしまい、つい頭を抱えてしまう。

 そんなオレの頭上から聞き覚えのある声がする。顔を上げれば先ほど別れたばかりの少女だ

 

「同じクラスだったなんてね」

 

 そう言い、隣の席に座る。

 

「そうみたいだな。オレは綾小路清隆。よろしくな」

 

「いきなり自己紹介」

 

「会話するのは二回目だしいいだろ」

 

「拒否してもかまわないかしら?」

 

 今後、このクラスに馴染んでいくために隣人の名前くらい知っておきたかったのだがまさか拒否されそうだ。

 どうにかして少女の名前を聞きだそうと話しかけ続けると少女は観念したのか渋々名前を教えてくれる。どうやら少女は堀北鈴音という名らしい。

 堀北と話しているとバスの中で騒動の中心となっていた男子とこれまたバスの中で目が合った少女が教室に入ってきていた。どうやら二人もこのクラスようだ。少女はオレの前の席に座り、ボーっとしたかと思うといきなりこちらを向き話しかけてくる。

 

「さっきもバスで目が合ったよね、まぁ今回は私が振り向いただけなんだけど。私は松崎 美紀、君は?」

 

「あ、あぁオレは綾小路 清隆。よろしく」

 

 どうやら彼女は松崎というらしい。いきなり話しかけられたことには驚いたが堀北と違い、松崎はどうやら社交的のようだ。ありがたい。

 

「バスの中ではなんでわざわざ後ろを向いてまで、キョロキョロしてたの? 清隆くん、席譲る気なかったでしょ」

 

 いきなり名前呼びはオレには少しレベルが高いかもしれない。

 

「いや、単に周りに席を譲る奴がいるのか気になっただけだ。それに松崎も席を譲る気なんてなかったじゃないか。事なかれ主義としてはああいうことに関わって目立ちたくない」

 

「目立ちたくないならキョロキョロせずに振り返ったりせず下向いてたらいいのに。でもそんな事なかれ主義の清隆くんにこの学校は向いてないかもね」 

 

「?? どういうことだ」

 

「だってかんs」

 

 松崎が何か言いかけたタイミングで担任と思わしき女性が入ってくる。この学校が事なかれ主義に向いてないとはどういうことなんだろうか。あとで詳しく聞いてみるか。

 

 その後、担任である茶柱からこの学校のシステムについての説明があった。怖いくらいの優遇に関して堀北と話していると、いかにも好青年といった感じの生徒が手を挙げクラスメイトに声をかける。

 

「皆、少し聞いて貰ってもいいかな?僕らは今日から同じクラスで過ごす仲間だ。今から自発的に自己紹介でもして一日でも早く皆が仲良くなれれば思うんだ。入学式までまだ時間もあるし、どうかな?」

 

 どうやら自己紹介の提案のようだ。ありがたい。そうして平田と名乗った青年から順番に各々の自己紹介を行っていく。どういった自己紹介をするのがいいかと頭を悩んでいるうちにも自己紹介どんどんは進んでいく。

 

「俺らはガキかよ。自己紹介なんてやる必要ねぇ、やりたい奴だけやってろ」

 

 そんな風に悩んでいるといかにもな見た目をした赤髪が席を立ち、教室から出ていく。そして同じく自己紹介に不満があったと思われる生徒たちも数名それに続き教室から出ていく。その中には堀北もいた。この年で自己紹介すらまともにできなくて大丈夫なのか。そうして出ていった生徒たちに非難の声が上がるが、それを平田が納め自己紹介が再開する。なんとなくバカらしくなり窓の外へ目を向け、外の景色に意識をやる。

 

「私の名前は松崎 美紀。勉強やスポーツは人並みには出来ると思います。私もこの学校に知り合いは多分いないから、みんな仲良くしてくれると嬉しいです」

 

「うん、よろしく。えーっとじゃあ次の人。後ろの君、お願いできるかな?」

 

「え?」

 

 ふと、松崎の自己紹介が聞こえ、意識を戻すとどうやらオレの番が回ってきたみたいだった。やばい急いで自己紹介をしないと。

 

「えー……えっと、綾小路清隆です。得意なことは特にありませんが、皆と仲良くなれるよう頑張りますので。えー、3年間よろしくお願いします」

 

 最悪だ。失敗した。頭の中でシミュレーションした自己紹介は焦りによって消え去り、高校始まって早速黒歴史を作ってしまった。

 

「よろしくね綾小路君、仲良くなりたいのは僕もみんなも同じだ。一緒に頑張ろう」

 

 平田からの優しいフォローが身に染みる。ありがたい。パラパラと同情の拍手が鳴り響く。

 

 

 その後には長い入学式があったりだとか堀北とコンビニで再会したりだとかいろいろあったが、それらのイベントを終えオレは寮母から今後3年間の家となる部屋の鍵を受け取ると部屋に入り次第制服のままベッドにダイブしてしまった。初日ということから疲れですぐに眠ってしまうかと考えたが眠気は一向に襲ってくることはなかった。どうやらオレはこれから始まる自由な学園生活にワクワクしてしまっているようだ。

 明日には松崎にあの発言の意味を問わないとな。

 

 

 学校二日目。この日は授業初日とということもあってか大抵の授業が方針などの説明で終わった。なお松崎は休みだった。さっそく体調でも崩してしまったのだろうか。前の席が休みだと視界が開けていてなんとなく居心地が悪いな。しかし思ったより厳しくないのか眠りこけている生徒が注意されることもなく授業は進行されていく。

 

 昼休みを迎え、ランチタイムを共に過ごす友がいないことを堀北に哀れまれつつ昼食を買いにいこうとすると櫛田に呼び止められ、堀北について聞かれる。どうやら櫛田は堀北と仲良くなりたいが堀北がオレとしか話していないのを見てオレに架け橋になってほしいらしい。残念ながらオレはたまたま隣の席というだけで堀北と仲が良いわけではない。なんならオレが友達を紹介してもらいたいものだ。

 そんな櫛田からの依頼を丁重に断った後にコンビニでパンを買い教室で一人寂しく食べる。

 

「本日、午後5時より、第一体育館の方にて、部活動の説明会を開催いたします。部活動に興味のある生徒は、第一体育館の方に集合してください。繰り返します、本 日──」

 

 どうやら部活動説明が放課後にあるらしい。友達作りのきっかけになるのではと堀北を誘ってみると罵倒の後にまさかOKをもらった。もしかしなくても堀北とオレは仲が良いのか。こんなこと言えば拳が飛んでくるので決して口には出さないが。

 

 迎えた放課後、思ったより多くの生徒が集まった部活動説明会では堀北の兄が生徒会長を務めていたり、須藤、池、山内からクラスの男子用のグループチャットに誘ってもらえたりなどのことがあったが、オレが入りたいと思える魅力的な部活は存在しなかった。

 

 それからは須藤たちと仲良くなったのをきっかけにクラスに少し馴染めたり、水泳の授業で女子に軽蔑の目を向けられたり、櫛田に頼まれ堀北に内緒でお茶会をセッティングをして堀北を怒らせたり、池や櫛田、平田と遊びに行ったりといろいろあったが楽しく充実した生活を送っていた。

 

 

 そうして迎えた五月一日。振り込まれえるはずのポイントが振り込まれていなかった。そのことで騒めく教室にいると始業のチャイムの少し前に久しぶりに見る松崎が教室に入ってきた。約一ヶ月ぶりの登校かここまでくればサボりだと誰でもわかる。そしてさすがにそのサボり魔でもポイントが振り込まれなかったわけはきになるようだ。

 

「清隆くんもおはよ」

 

「あ、あぁおはよう」

 

 櫛田に挨拶にした後、オレにもまるで昨日も会っていたかのように挨拶をしてくる松崎に少し戸惑ってしまい、返事が詰まってしまう。どうにか会話を続けようと休んでいた理由を聞こうとするがそんな間もなく始業のチャイムが鳴り茶柱がポスターと共に険しい顔で教室に入って来る。

 

「これより朝のホームルームを始める。が、その前に何か質問はあるか? 気になることがあるなら今聞いておいた方がいいぞ?」

 

 まるで生徒から質問があるのを確信してるかのような物言いに何人かの生徒が手を挙げる。

 

「あの、今朝確認したらポイントが振り込まれていなかったのですが。毎月一日に支給されるはずじゃなかったんですか? 今朝ジュース買えなくて困りましたよ」

 

 代表した生徒がみんなの疑問を先生に投げかける。

 

「前に説明しただろ、その通りだ。ポイントは毎月一日に振り込まれる。そして今月も間違いなく振り込まれたことは確認されている」

 

「えっ、でも振り込まれていませんでしたよ」

 

 ポイントは既に振り込まれているという茶柱。しかしポイントは確かに今朝確認してみても1ポイントも増えていなかった。

 

「……お前たちは本当に愚かだな」

 

 そう始め、茶柱が説明したのは驚愕の事実だった。毎月振り込まれるポイントがクラスの評価によって変動すること。A~Dのクラスは優劣によって分けられていること。卒業特典を受け取れるのはAクラスのみということ。テストである点を下回ったら即退学だということ。

 

「浮かれた気分は払拭されたようだな。それができただけでこの長いホームルームは意味があったかもな。中間テストまで3週間。よく考えて、退学を回避してくれ。お前たちなら赤点を乗り切れる方法はあると確信している」

 

 そう言い残し教室から出ていく茶柱。いきなり説明された事実にクラス中は混乱に陥っている。平静な態度を装ってるのはぱっと見では高円寺と松崎くらいだ。松崎に至ってはなぜか機嫌が良さそうですらある。

 そしてそんな混乱の中でもやはりなのか平田と櫛田を中心にこれから方針を打ち立てようとしているとき、平田が思ってもいなかった声を上げる。

 

「松崎さん、どこへ行くんだい?」

 

 声のする方向を見てみれば、どうやら松崎が教室から出ようとしていたらしい。普通ならトイレなどの用事かと考えるが松崎に至っては嫌な予感がする。平田もそう考えたから声をかけたのだろう。

 

「どこって?帰るんだよ?」

 

「帰るって…?」

 

 やはり帰ろうとしていたらしい。クラス中が信じられないのか驚愕の目を松崎に向ける。そんな目をクラス中から向けられても平然としている松崎。強い。

 松崎は帰るのを必死に止めようとする平田やサボっていたことを責めるクラスメイトを淡々と躱しながら学校に来る気がないことを説明する。松崎は出席すらポイントで購入しているようだ。たしかに入学時にポイントで買えないものはないと説明されたが出席を買うなんて発想に至れた生徒はどれだけいるだろうか。さらにそれを実行する生徒となったらおそらく松崎一人しかいないだろう。

 先ほどの茶柱の説明後の態度からしてもこの学校のシステムにも気づいていた可能性が高い。

 

「うん。ごめんね。私もポイントがあるに越したことはないからみんなのことは応援してるよ。あっそうだ。本気でポイントを増やしたいなら私が買ってない残りの3分の1の授業の出席をみんなで買うってのはどうかな?1授業につき1000ポイントだって。クラスみんなで分ければそこまで痛手じゃないでしょ?もしその気があったら連絡してよ。私が買ってない授業教えるからさ。じゃあ今度こそまたね。」

 

 そう言い残して教室から出ていく松崎。松崎が出ていった後の教室は一瞬静まり返った後、松崎への文句で大盛り上がりだ。あの態度からするにもしかしたらクラスに配布されるポイント以外のポイント獲得のルートがもう松崎にはあるのかもしれない。

 その後、授業が始まるまでの間、平田がクラスメイトを鎮めつつ、放課後に話し合いの場を設けようとしている。オレと堀北もその誘いを受けたが申し訳ないが断らせてもらう。オレはなんとなくで断ったが堀北はどうやら自分がDクラスに配属されたことに不満があるようだ。

 

 

 その日の授業はどこかピリピリした雰囲気で行われたがそれを終え、放課後になるとポイントを使い切った者が物乞いを始める。この場合はポイ乞いか。ポイ活か。友達の多い櫛田なんかは大変そうだ。

 

『1年Dクラスの綾小路くん。担任の茶柱先生がお呼びです。職員室まで来てください』

 

 ポイ乞いを躱しているとそんな呼び出しが聞こえてくる。なにか呼び出しを受けるようなことをした覚えはない。しかしなんとなくクラスから逃げ出したくてオレはそそくさと教室から抜け出した。

 職員室の前で入るか迷っていると後ろから声がかかる。

 

「やっほ、清隆くん。私も佐枝ちゃん先生に呼び出されたんだけど同じ要件かな?」

 

 松崎だ。どうやら松崎も茶柱に呼び出されたらしい。しかし先ほどDクラスの面々から向けられた非難の目などなかったかのように当たりまえに接してくる。ほんとに強メンタルなんだな。

 

「お、おう松崎。俺は松崎と違って特に悪いこともしてないし別々の要件じゃないか?」

 

「私も悪いことはしてないよ。それに私も放課後すぐ来るように言われてたしわざわざタイミングを同じにするってことは多分同じ要件だよ」

 

「そうなのか?まぁ先生に聞けば分かるだろ」

 

 オレたち二人を呼びだしてする話なんてあるんだろうか。Bクラスの担任だという星乃宮に絡まれながら考えるが何一つ思い当たらない。

 

「なにやってるんだ、星乃宮」

 

 遅れて現れた茶柱がクリップボードで星乃宮の頭をはたく。痛そうだ。

 星乃宮を適当にあしらった茶柱へ連れられ、生徒指導室に入るといきなり松崎と二人で給湯室に入れられる。

 

「余計なことはするな。黙ってここにいろ。いいか、私が出てきてもいいと言うまでここで物音立てずにじっとしてるんだ。破ったら退学にするぞ」

 

 横暴だ。松崎と顔を合わせ首を傾げていると、指導室の扉の開く音がする。どうやら誰かきたようだ。

 

「まぁ入ってくれ。それで私に用とはなんだ?堀北」

 

 どうやら来たのは堀北のようだ。しかしこんなとこで盗み聞きしてるのが堀北にバレたことを考えると恐ろしい。茶柱めなんて状況に巻き込んでくれるんだ。

 

「率直にお聞きします。私はなぜDクラスに配属されたのでしょうか?」

 

「本当に率直だな」

 

「先生はクラスは優秀な人間から順にAクラスに選ばれたとおっしゃいました。そしてDクラスは落ちこぼれの集まりだと」

 

「あぁ言ったな。ふっ、どうやらお前は自分が優秀な人間だと思っているようだな」

 

 やはりというか堀北は自身がDクラスになったことに納得がいってないようだった。しかしオレたちにこの話を聞かせてどうするつもりなんだか。

 ふと松崎のほうを見ると、なにかジェスチャーをしている。じゃんけんか?試しにグーを出すとじゃんけんに負けた。すると松崎はこちらを指さしその指を上に向けた。もしやこれはうわさに聞くあっちむいてホイというやつなのではないか。

 楽しい。堀北のことなど忘れあっちむいてホイに興じていると勢いよく給湯室の扉が開く。

 

「おい! 出てこいと言ったら出てこい!」

 

 どうやらお怒りのようだ。あれなんかやっちゃいました?

 

「あぁ話、終わりました?」

 

「なぜ呼んですぐに出てこなかった?」

 

「清隆くんがあっち向いてホイを仕掛けてきて、それの相手に夢中になってたら気づきませんでした」

 

「ちょっと待ってください。確かにあっち向いてホイはしてましたが仕掛けてきてのは松崎です。松崎もしょうもない嘘をつくな」

 

 話を聞いていればさらっとオレのせいにしようとしてくる松崎。でもこの軽口を言い合っている感じ、もしかして初めての異性の友達ができたんじゃないだろうか。

 

「ごめんごめん」

 

「私の話……聞いてたの?」

 

「話? 初めの方はチョロっと聞いたけど、途中からは全く聞いてなかったよ。清隆くんは?」

 

「あぁ俺もあっち向いてホイに夢中になりすぎていたらしい」

 

 堀北がDクラスを不満に思っていることなどわかっていたことだがわざわざ教師に尋ねにくるほどとはな。

 オレたちが盗み聞きしていたことに怒り、指導室から出ていく堀北を止めると机の上に入試の答案を並べる。そこには松崎の名前と100点の数字が答案用紙の枚数だけ並ぶ。どうやら松崎は相当頭が良いらしい。

 

「まずは松崎、お前だ。松崎 美紀、入試では500点満点を取り堂々の1位通過。素晴らしい結果だ。しかも資料によるとどのテストも入室可能な20分遅れギリギリにやってきて解いたらしいじゃないか」

 

 確かテスト時間は全科目50分だったはず。つまり松崎は30分で満点を取ったということだ。ふと松崎のほうを見ればドヤ顔をしている。

 

「あぁ満点だったんですか。運が良かったんですかね」

 

「運? 笑わせるな、マーク式テストならともかく記述テストだぞ。次に綾小路だ。お前は面白い生徒だな」

 

「茶柱、なんて奇特な苗字をもった先生ほどじゃないですよ」

 

「全国の茶柱さんに土下座するか? まぁそんなことはいい。これを見ろ。国語50点、数学50点、英語50点、社会50点、理科50点加えて今回の小テストも50点。これが何を意味するか分かるか?」

 

 そう言い茶柱が並べたのは当然オレの入試の解答用紙。どうにかしてこの結果は偶然であるとごまかそうとわざとらしくとぼけてみるが無意味だろう。堀北や松崎も食い入るように答案用紙を見ている。

 

「アハハハハッ。清隆くん、これは面白すぎでしょ。あぁダメだ。まだ笑いが止まらない。入試受ける前から考えてたの?」

 

 オレの行いをギャグだと思ったのか、ツボに入ったらしい松崎は端末を出すと連絡先を交換しようと言ってくる。うれしい。

 

「綾小路くんはどうしてこんなわけの分からないことをしたの? それに松崎さんも入試満点を取るほど優秀なのにDクラスに配属されることに不満はないのかしら?」

 

「俺はホントに偶然なんだよ。松崎と違って隠れた天才設定とかないからな」

 

 そんなホクホク顔のオレだが堀北からの問はしっかりと否定しておく。こういうのは認めたら負けなのだ。

 

「まぁこの学校はあくまで日本の将来を担う実力者を教育する学校だからね。不登校の私、入試で遊んじゃう清隆くん、コミュ障の堀北さん。ほらっ私たちはDクラスにお似合いじゃない?」

 

「何度でも言うが俺の点数は偶然だ」

 

 そう、何度でも否定する。それにしてもオレが不良品か。あそこで最高傑作と言われたオレが。

 

「私はもう行く。そろそろ職員会議の時間だ。ここは閉めるから3人とも出ろ」

 

 そう言う茶柱の後に続きオレたちも帰路につく。

 

「まって、貴方たちは本当にAクラスに興味がないのかしら?」

 

「そういう堀北はAクラスに並々ならない思いがあるようだな」

 

 堀北からの問をのらりくらり躱しながら歩く。頭の隅で考えるのは松崎のことだ。入試のことがバレたのは少し痛い。

 

「そこで綾小路くんには協力をお願いしたいの」

 

「協力ぅ? ってかなんで俺なんだ? 松崎の方が適任だろ」

 

「今朝の様子を見る限り松崎さんへの協力は頼むだけ無駄だと思ったのだけれど。違うかしら?」

 

「ううん、全く違わない。私はパスで」

 

 松崎を売ろうとするが失敗する。どうやら点数という目に見える形で敗北した相手に協力をお願いするのは堀北のプライドが許さないのだろう。

 

「なら俺もパスだ」

 

「綾小路くんなら協力する、そう言ってくれると信じてた。感謝するわ」

 

 おい!松崎だけずるいだろう!堀北からの依頼というなの強迫にどうにかして抵抗する。

 

「堀北さん、ちょっと屈んで。少しの間だけごめんね」

 

 しゃがんだ堀北の耳をふさぎこちらを見てくる松崎。先ほどまでと違い真剣な目だ。

 

「清隆くん。貴方は普通で目立たないようにいたいみたいだけど平均と普通は全くもって別物だよ。まぁそもそもオール50点は平均ですらないけど。君が平均を目指している限り普通にはなれない。平均は1つしかなくとも普通ってのは人の数だけあるものなんだ。普通になりたいと思うならまずはいろいろな人の普通を知った方がいいよ。そしてそのために友達をたくさん作りなさい。その一環として堀北さんに協力してAクラスを目指すってのもいいかもね。そして自分の普通を見つけな」

 

 それだけ言い残し、松崎は堀北の耳から手を外すと別れの挨拶をすませると用事があるのか小走りで帰ってしまう。

 普通は人の数だけあるか。オレの普通が見つかったとして果たしてその普通で平穏な学園生活を送れるのだろうか。しかし、周りの人間を知らなければいけないというのは納得だ。

 

「あ~堀北、さっきの話だが役に立たないかもしれないがたまになら手伝ってもいいぞ」

 

「どういった心変わりかしら。それに手伝ってやってもいいじゃなくて手伝わしてくださいじゃないかしら」

 

「さっきのはなしだ帰る」

 

 それにしても友達を作るか、一番難しいことを言ってくれる。

 

 

 

 そうしてテストまでの期間を堀北の手伝いとして堀北の兄と寮の裏で決闘したり、三馬鹿と櫛田と勉強会を開いたり、その際に堀北が三馬鹿を怒らせたり、櫛田の闇を覗いてしまったりとなかなか濃い時間を過ごしていた。そしてテスト前日、櫛田がゲットしていた過去問が配られ万全の準備を終わらせテストに臨んだ。なお友達になったと思っていた松崎は宣言通り一度も学校に来ることはなかった。櫛田が松崎の愚痴を言っていたあたり説得にきた櫛田を追い返したのだろう。

 

 迎えたテスト当日は前日に配られた過去問のおかげかどこか余裕そうな雰囲気がクラスに流れていた。そんな教室で教科書を広げ、ボーっとしていると松崎が来た。一瞬クラスメイトの意識がそちらに持っていかれるがすぐにテスト勉強に切り替える。退学にだけはなりたくないのだろう。

 

「さすがにテストの日は来るんだな」

 

「清隆くんおはよう。さすがにまだテストを免除してもらえるほどのポイントは持ってないからね」

 

 ということは授業を買うだけのポイントはある程度用意できているのだろう。

 

「仮にポイントが集まったら来ないのか」

 

「ポイントによるとしか言えないな~。高校のテストも途中退室があればテストなんてなんら苦でもないんだけどな~」

 

 テストにさえ来なくなったらほんとに松崎と会えなくなるかもしれない。

 

「清隆くんだって余裕のくせに私にそんな目を送る権利はないでしょ。あっでも清隆くんは得点調整に時間がかかるかな?」

 

「何度でも言うがあの点数はたまたまだ」

 

「じゃあ今回はオール50点は取らないのかな?」

 

「取らないんじゃなくて取れないんだよ、あんな偶然が2度も起こるはずがないだろ。しかも誰かさん曰く俺はこのままじゃ普通になれないらしいからな、それは事なかれ主義に反する」

 

 オレの実力を知って初めと同じような態度で接してくれる松崎になんとなく心地良さを感じる。松崎にとってはオレがどんな点数を取ろうとただのクラスメイトでしかないんだろうという安心感がある。

 

「松崎さん少し賭けをしないかしら?」

 

「いきなりだね、堀北さん。このタイミングでってことはテストの点数での勝負かな?」

 

 松崎に勝負をしかける堀北。無謀だと思うが過去問をすべて暗記してきたのなら堀北にも勝ち目があるかもしれない。

 

「ええそうよ。ルールは簡単に5教科の総合点数でどうかしら? 私が勝ったら松崎さんには毎日ちゃんと学校に来てもらうわ」

 

「おいおい堀北、松崎の入試の点数忘れたのか?」

 

「今は松崎さんと話しているの、口を挟まないでくれるかしら綾小路くん」

 

 どうやら自信があるらしい。

 

「ふ~ん、私が勝ったら?」

 

「もちろんそちらの要求に無理のない限りで答えるつもりよ」

 

「ん~パスで」

 

 しかし松崎は堀北のプライドを賭けた賭けをあっさりと放棄する。

 

「あら、勝てる自信がないのかしら?」

 

「賭けの勝ちに価値を感じないからだよ」

 

「どういうことかしら」

 

「清隆くん、説明!」

 

 そして堀北の安い挑発すらも受け流し、オレに説明を投げてくる。嫌なことを押し付けられた。

 

「いきなり振るな、まぁ単純に考えれば堀北の用意できるものの中に松崎が毎日学校に来るということと釣り合うものがないんだろう」

 

「正解! 簡単な話だよね。相も変わらず堀北さんは自分に自信満々で価値があると思っているようだけど、残念ながら私は交友関係も狭くというかほぼ無く、Dクラスでポイントの安定供給も見込めない君にさほど魅力を感じない。ごめんね」

 

 賭けで勝つよりも簡単にそして完璧に堀北のプライドを砕く松崎。

 

「ずいぶんきつい言い方をするんだな」

 

「堀北さんの成長はDクラスのためになるからね。清隆くんだったらいつでも賭け、待ってるよ。もちろん内容によるけど」

 

 堀北の成長が必須というのは同意見だ。

 

「機会があればな」

 

 その後も松崎と雑談をしていると茶柱が来てテストが始まる。

 1限は国語か。前回張り出された国語の点数から予想される今回の平均を狙って解答欄を埋めるが不確定要素が多すぎて難しい。ふと周りのペンの進み具合に目を向ければみんな快調な筆運びのようだ。松崎を見てみればペン回しをしながら窓の外に目を向けている。もう終わったのか?

 そうして2,3,4限とテストを終え、昼休みを迎える。勉強会のメンバーが堀北の机の周りに集まり出来具合について話し合う。池や山内は出来すぎたテストに興奮が隠しきれていない。

 

「須藤くんはどうだった?」

 

 一人机に座り過去問を見ている須藤に櫛田が声を掛ける。しかし須藤が返事を返すことはなくどこか焦った表情をしている。

 

「須藤、お前もしかして過去問やってこなかったのか?」

 

「英語以外はやったけど寝落ちしたんだよっ」

 

 焦る須藤の周りに集まり、どうにか覚えやすい箇所を教えあうが、無情にも5限開始のチャイムが鳴る。

 

 

 英語のテストが終わり再び須藤の周りに集まるが須藤の顔は晴れない。そんな須藤に堀北が今までの態度を謝罪するが果たしてどうなることやら。せっかくできた友達とお別れなんてもったいないからどうにか耐えていてほしいものだ。

 

 

 

 テスト返却日の朝。さすがに結果が気になったのかやってきた松崎と話しながら茶柱を待っていると大きな紙を持った茶柱が入って来る。そうして張り出された紙にはテストの結果が点数順に載っており英語を見れば一番下に須藤健、39点という文字があった。

 

「っしゃ!」

 

 茶柱は小テストのときと同じように須藤の名前の上に赤いペンで線を引く。その後、須藤には退学が命じられる。どうやら覆らない事実のようだ。どうやら須藤は2点足りず赤点のようだ。

 教室が騒がしくなる。須藤の退学を悲しむ者、喜ぶ者、自分じゃなくてよかったと安心する者。そして体調不良などという誰が見ても嘘だとわかる理由で早退する者。そんな中オレはトイレに行くと言い教室を出る。早歩きなら茶柱に追いつけるだろうか。

 職員室に向かう途中にある廊下で茶柱は窓の外を眺め立っていた。それはまるで誰かを待っているかのように。

 

「綾小路か、どうした?」

 

「ひとつお願いがあります」

 

「ほう、そんなことのためにここまで追いかけてきたのか。聞くだけ聞いてやろう」

 

 心なしか茶柱が楽しんでいるように見える。

 

「須藤の英語のテストの点数を2点売ってください。入学式の日に言ってましたよね、ポイントで買えないものはこの学校にはないって」

 

「なるほど。確かに言ったな。しかしお前に買えるだけのポイントが残っているとは限らないぞ」

 

「じゃあ何ポイントなんですか?」

 

「そうだな、今回は特別に一点10万ポイントにしてやろう」

 

「おい堀北、そこにいるんだろう。今何ポイント持ってる?」

 

 物陰に隠れこちらの様子を伺っている堀北に聞く。

 

「どうしてわかったのかは今は置いといてあげるわ。約6万ポイントよ。」

 

「オレも同じくらいだ。先生も意地悪ですね」

 

「どうするの?クラスに戻ってポイントを集めるかしら?」

 

 確かにそれもありだがあまり目立ちたくはない。

 

「ちょっと待ってろ」

 

 オレは数少ない連絡先の中から松崎を選び電話をかける。数コールした後に松崎が電話にでる。よかった、意外にもすぐに電話に出る派だったらしい。

 

「もしもし、どうしたの?」

 

「8万ポイント貸してくれないか?」

 

「テストの点数はいくらだったの?」

 

 やはり気づいていたらしい。

 

「やっぱりわかっていたか。一点につき10万ポイントだ。今回は特別らしいがな」

 

「でもな~、ただで貸すっていうのもな~」

 

「はぁ~、わかった。今度俺の半生でも語ってやる」

 

 不安がないかと言えば嘘になるが、なんとなく松崎ならオレの過去を聞いてもケラケラ笑ってくれるような気がした。

 

「自分の半生に8万もの価値があるなんて自信満々だね。やっぱり清隆くんっておもしろいなぁ」

 

「俺を面白いだなんていうのは松崎くらいだ。で、どうなんだ?」

 

「しょうがないなぁ。はい送っといたよ。なるべく早く返してね」

 

「あぁ感謝する」

 

 そうして松崎から送られてきたポイントと合わせて20万ポイントを茶柱に送る。

 

「いいだろう、確かに受理した。堀北もわかったんじゃないかこいつらの有用性を」

 

「えぇ、でも二人の手綱を握るにはまだまだ時間がかかりそうです」

 

「ククッお前たちはほんとにおもしろい生徒たちだ。お前らがいればもしかしたら」

 

 オレたちに背を向けながらそうつぶやきながら茶柱が去っていく。

 

「さて、あなたに聞きたいことがまたたくさん出来たわ。お時間もらえるかしら」

 

 まったく目が笑っていない笑顔でこちらを見てくる堀北を尻目に教室に戻る。

 

「早く戻らないと授業に遅れるぞ」

 

 オレは初めての学校でどうやら厄介なクラス、厄介な隣人を引き当てたようだがなんとなく今は明日が楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




綾小路、堀北の心の変化がメインでストーリーはあんま変わってないからこれからに期待。
あと、ちょくちょく他視点書いてかないと書くことたまりすぎて大変だということがわかいました。


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2巻
12話


2年たってようやく2巻突入!
おり主ちゃん視点書くの楽しい。
書き始めから割と考えていた話です


 七月一日、端末を開けてみればそこには昨日の夜と一切変わらないポイントが表示されていた。どうやら今月もポイント支給額は0のようだ。このままDクラスからのポイント供給がないとするとボードゲーム部以外にポイントを獲得する方法を考えないといけない。ポイント依存の先が一つだけではあまりにも不安だ。そもそも他生徒から奪えるポイントにはどうしても限りがある。とは言っても今月はまだ大丈夫だし、適当に考えておこう。 

 今月分の出席代を佐枝ちゃん先生に送り、ダラダラ過ごしていると清隆くんからメッセージが入る。めずらしい。

 そこに書いてあったのは今日あったことについてだった。どうやら今月のポイント支給額が0なのは須藤くんがCクラスとの間に起こした暴力事件のせいらしい。それがなかったら8500ポイント入ってきていたようだ。しかも須藤くんによれば須藤くんは手を出すように仕向けられたようだ、それもカメラのないところで。面白いな、須藤くんの話がホントなら他クラスを落とそうとする者がもう出てきていることになる。さらに詳細を清隆くんに聞く。また事件現場でも見に行こうっと。

 

 すっかり忘れていて気が付けばあれから五日くらいたっていた。そろそろ事件現場を見に行こうと寮の玄関に降りてみればそこには清隆くんといつしか職員室で見た巨乳美人ちゃん。たしか名前は一之瀬さんとかだったはず。なにやら面白い気配を感じる。こっそり後をつけてみれば辿りついたのは体育館裏。いかにもな場所だ、もしやかしてもしかしてするのか。

 期待を胸に物陰に隠れていると一人の女の子がやってきた。その女の子は二人の元へ訪れると何やら揉め始める。と思うと清隆くんが去っていく。なんとなく読めてきた。女の子は一之瀬さんに告白しようとし、一之瀬さんは断るというかごまかす理由として清隆くんを連れてきたがそれを清隆くんが断ったというところだろう。一之瀬さん、なんという悪女なんだ。しかしこれはチャンス到来だ。

 

 その後、物陰から経過を見守っていると告白を断り涙目で去っていく一之瀬さんとフラれ呆然と立ち尽くす女の子に分かれた。やっと終わったか。私はしんどい顔を隠すと女の子に近づく。

 

「フラれちゃったね」

 

「誰ですか?今はほっといてください」

 

 自分一人で告白を断る勇気のない小心者にフラれて傷心中だ。

 

「私はDクラスの松崎美紀。でもさ悔しくないの?」

 

「悔しいに決まってるじゃないですか!フラれたんですよ!」

 

「それもそうなんだけどさ、一之瀬さん自身にだよ」

 

「どういうことですか?」

 

 こっちに顔を向ける女の子。なんだかアホの子の気配を感じる。かわいい。

 

「だってさ、告白の場に関係ない男子呼ぶなんて、君の告白を利用されたようなもんじゃん」

 

「適当言わないで!一之瀬さんはそんなつもりないって、初めての同性からの告白でどうすればいいかわからなくなったって説明してくれた」

 

「それはホントかもしれないけどさ、よく考えてよ。告白の場に彼氏のふりを頼む相手ってどんな相手?」

 

「っ」

 

 女の子は私の言いたいことがわかったのか顔を歪める。

 

「ね?利用されたんだよ、悔しいでしょ?」

 

「で、でもだからってどうしようもないじゃん、もうフラれた後だよ」

 

 涙目でこちらを見てくる。かわいい。そしてやっぱり素直だ。

 

「ここで折れちゃだめだよ。君には復讐する権利があるんだよ、先に騙してきたのは、君の勇気を踏みにじったのは一之瀬さんなんだから」

 

「復讐、、私にできるかな?」

 

「乗りかかった舟だし、私も手伝うからさ。さて君の名前は?」

 

 私が手を差し出し、名前を聞くと女の子はまだ状況を上手く飲み込めていないのか不安そうに、しかししっかりと私の手を取る。

 

「Bクラスの白波千尋です」

 

 やっぱりBクラスだ。ちょうど知り合いいなかったからラッキー。

 

「千尋ちゃんだね。ほら私の部屋で作戦会議しよ、顔も洗わないとね」

 

 千尋ちゃんの手を引き、千尋ちゃんから一之瀬さんについて聞きながら寮へ向かう。面白いことになってきた。

 

 

 

 私の部屋に千尋ちゃんを招き入れると私たちはさっそく復讐を成功させるための作戦会議を始める。

 

「やっぱりさ最終的なゴールは一之瀬さんに告白されることだと思うんだよね?」

 

「でもフラれたばっかですよ」

 

「だからこそチャンスなんだよ。千尋ちゃん曰く一之瀬さんは聖母みたいな人なんでしょ、絶対千尋ちゃんに罪悪感を持ってるよ」

 

「そんな優しい人だからこそなおさら復讐なんて気が引けるんですけど」

 

 一之瀬さんのことを好きな千尋ちゃんはこの話にあまり乗り気じゃないようだ。まぁそりゃそうか、いい子ちゃんだもんね。

 

「ならこう考えよう。千尋ちゃんが魅力的になって一之瀬さんを落とすんだ。これなら恋する女の子なら誰でもやってることでしょ」

 

「まぁそれなら。でも具体的にどうするんですか?」

 

「それならもう考えてあるよ、でもまず千尋ちゃんの覚悟を問いたい。一之瀬さんを恋人にするためになんでもする覚悟はある?」

 

「なんでもですか?まぁできる限りは努力します」

 

 さすが恋する乙女、命を燃やせ。

 

「まず、ファーストステップとしてさっきも言った一之瀬さんの罪悪感を利用しないといけない。明日から千尋ちゃんには一之瀬さんやクラスメイトに笑顔禁止。会話もなるべく最小限で」

 

「えっ普通に友達もいるんですけど」

 

「我慢して。一之瀬さんはどうやら同性を恋愛対象としてないようだし、ある程度振り切らないと友達としか見てくれないよ」

 

「わ、わかりました。頑張ります」

 

 素直すぎないか千尋ちゃん。いつか悪い奴に騙されちゃうよ。私?私は恋のキューピットだよ。

 

「でもそれだけだとただの嫌な奴になっちゃうからね。次のステップとして有能であることを見せつけていかないといけない。一之瀬さんはBクラスのリーダーという立場にいる以上さまざまな選択をする場面が今後出てくるはずだ、そこを千尋ちゃんがサポートするんだ」

 

「サポートなんてできる自信ありません。私そんなに頭も良くないし」

 

「そこに関しては私がいろいろサポートするから任せて、これでも頭はいいんだ。外部と連絡が取れないというこの学校の性質上、頼りになる相手に対して依存しがちになる。実際Bクラスにおいて一之瀬さんがそこまで神格化されてるのもこれが原因だろうしね。千尋ちゃんは周りからのプレッシャーで誰にも頼ることができない一之瀬さんを助けるんだ」

 

「たしかに!そんなことがほんとにできたら誰でも好きになっちゃいます!」

 

 ふむふむと私の話を聞きながら相槌を打つ千尋ちゃん。やっぱりアホでかわいい。こんなかわいい子からの告白を断るなんて一之瀬さんももったいないことをする。

 

「とりあえず今すぐに一之瀬さんに好きになってもらえるという作戦でもないから、地道にがんばっていこう」

 

「はい!」

 

 元気よく返事をした千尋ちゃんとふたりでえいえいおーと拳を高らかにあげる。そんな千尋ちゃんと今後の過ごし方を詳しく詰め、演技指導を行い別れる。盛り上がって夜も遅くになってしまった。結局事件現場には行けなかったがもっと面白いものと出会えた。千尋ちゃんを上手くBクラスの頭脳の地位まであげることができれば私にとってかなりのアドバンテージだ。そしてそのアドバンテージを十分に発揮するためには千尋ちゃんからの好感度を稼ぎつつ千尋ちゃんの中の一之瀬さんの好感度を下げないと。さぁ恋愛シミュレーションゲームのはじまりはじまり。

 

 

 次の昼休み、昨日約束していたとおり千尋ちゃんとのランチタイムを誰も来ないような空き教室で行う。このためにわざわざお弁当を作った私えらい。

 二人でお弁当を広げさっそく本題に入る。

 

「どうだった?」

 

「松崎さんの言う通り、一之瀬さんは私のことが気になるのか初めは積極的に話しかけくれましたが私が適当にあしらっているのがわかると自分の席からこっちをちらちら見るだけになりました。昼休みになった時も昼食に誘ってくれたり断るの心が痛みましたよ~」

 

「うんうん作戦通りだね。進展が見えなくてつらいかもだけどなにかイベントがあるまではこのままいってもらうよ」

 

「なんか一之瀬さんと付き合うまでに友達もいなくなっちゃいそうです」

 

「まぁ私は割といつでも暇だからさ、なんかあったら電話でも会いに来るでもしてよ。遊びの誘いももちろんウェルカムだよ」

 

 この学校の性質上、心がよっぽど強くない限り依存先が誰しもできる。友達やクラスメイトと仲良くすることができない千尋ちゃんはいったい誰に依存するのだろうか。私には皆目見当もつかない。

 千尋ちゃんが語る一之瀬さんの魅力を右耳から脳を経由し左耳に流しながら考える。聞く限り完璧に思えるような一之瀬さんがBクラスになった理由はなんだろうか。それとも私が知らないだけでAクラスは化け物揃いでただただ一之瀬さんがAクラスに劣っているだけなんだろうか。一之瀬さんがBクラスになった理由がもし能力不足以外のところにあるのならその情報は何ポイントで買えるのだろうか?後で佐枝ちゃん先生にでも聞いてみるか。

 

「そういえば、Dクラスって暴力事件のせいでポイント振り込まれなかったんでしょ?先月も0ポイントだったし。松崎さんはポイント大丈夫なの?良ければ貸そうか?」

 

「ありがとう。でも私は大丈夫だよ。ポイントにはあてがあるからね」

 

 借りたくないと言えば嘘になるが私は千尋ちゃんにとって頼りとなる存在でないといけないしね。ほんとの意味で借りを作るわけにはいけない。

 適当に談笑していると予鈴が鳴る。昼休みもここまでのようだ。お弁当をたたむとギリギリに教室に入れるように調整した千尋ちゃんを見送り私は帰路につく。

 

 

「ねーねー佐枝ちゃん先生、この学校って生徒の過去とかどうせ調べてるんでしょ?それっていくらくらいで買えるの?」

 

 放課後、佐枝ちゃん先生の元を訪れた私は先ほど気になったことを聞く。放課後わざわざ教師の元に訪れて質問するなんてまるで優等生だ。さすが私。

 

「茶柱先生だと何度言えばわかる。それにしても他人の過去か、また君はおもしろいものを買おうとしているな」

 

「まだ買うと決めたわけじゃないんですけどね。割とポイントピンチだし」

 

「君がポイント不足になってくれたほうが私としても好都合なんだけどな。それで必要なポイントだが人によって多少前後するがだいたい20万ポイントだと考えてくれていい」

 

 ため息をつきながらやれやれといった感じで教えてくれる佐枝ちゃん先生。これが大人の魅力。しかし20万ポイントか、今の私には到底払う余裕ないな。おのれ清隆くんめ!

 

「高くないですか?」

 

「そうかもな。しかし、それだけ学校の調査は精密かつ詳細に行われていると思ってもらってかまわない」

 

「なるほど、ありがとうございました」

 

 職員室から出た私は直接部活へ向かう。それにしても生徒の隠したい過去すらもポイントで買えるなんて監視カメラといい相変わらずプライバシーの欠片もない学校だ。なにかに使う場面が出てくるかもしれないし、今後の目標としては20万ポイントくらいの余裕を常に持っておくことだな。桔梗ちゃんのこともあるし。というかそう考えると清隆くんの過去を8万ポイント貸すだけで知れるのはかなりお得だったのかもしれない。

 さて五日遅れではあるが月が変わって初めて行く部活だ。先輩たちもポイントに余裕ができて今日の賭場はさぞかし盛り上がることだろう。ぶっかつ!ぶっかつ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんとなく今後の方針が決まった話でした

感想、高評価、チャンネル登録お待ちしております。


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13話

だんだん短くなってくる。


 朝起きて、少し運動をし昼休みになれば千尋ちゃんに会いに学校へ向かう。放課後になればボードゲーム部に遊びに行ったり、有栖ちゃんや千尋ちゃんが私の部屋に遊びに来るという生活を送っていた。

 そんなある日端末を見れば8500ポイントが送金されていた。どうやら暴力事件は解決したようだ。一之瀬さんの協力のもと学内掲示板でも目撃者の募集をしていたみたいだし見つかったのかな?まぁなんせよかった。8500と侮るなかれ、塵積だからね。

 Dクラスが軌道に乗り始めていることを感じホクホクしていると電話が鳴る。

 

「もしもし」

 

「今大丈夫か?」

 

 みんなのアイドル清隆くんだ。

 

「大丈夫だよ。どうしたの?」

 

「例のことについて話したい。今からどこかに集まれるか?」

 

 例のこととはおそらく清隆くんの過去についてだろう。

 

「あんまり周りに聞かれたくない話でしょ?なら私の部屋来なよ」

 

「いいのか?」

 

「もちのロンだよ」

 

 清隆くんに部屋を教え待つこと30分。いや遅くない?同じ寮を移動するだけだよね?心配になりもう一度清隆くんに電話しようとしたちょうどそのときチャイムが鳴る。やっと来たか。

 やってきた清隆くんを部屋に招き入れるとどこか緊張しているように見えなくもない清隆くんに遅かった理由を聞く。

 

「ずいぶん遅かったけどなにしてたの?」

 

「いや、恥ずかしい話なんだが女子の部屋に入るのが初めてで緊張してたんだ」

 

「さすがにかわいすぎでしょ。もしかしてあざとい系で売っていくつもりなの?」

 

「そんなつもりはないし、かわいくもない」

 

 そういうところもかわいんだよ。頭良くてかわいいなんて完璧で究極じゃないか。

 

「清隆くんは東大にだけは行っちゃだめだよ」

 

「何をいってるんだ?まぁ安心しろ。オレが東大に行けることはないだろう」

 

「行けることがない?仮に学力が足りないとしてももしAクラスで卒業できたら進路選び放題なのに?」

 

「そこらへんもこれからの話に関係している」

 

 どうやらここからまじめな話が始まるようだ。私は姿勢を正し、清隆くんの話に耳を傾ける。姿勢を正したのに耳を傾けるとはこれ如何に。

 

「オレが今まで育ってきた環境はーー」

 

 

 そこで清隆くんの口から語られたのは衝撃の事実だった。なんと清隆くんはホワイトルームなるおもしろ教育機関出身らしい。そんなこと思ったらダメなんだろうけど面白いものは面白い。漫画みたいだ。事実は小説より奇なりってこのことか。

 

「というわけで悲しいことにオレには東大どころかこの学校を卒業した後の自由はないんだ」

 

 清隆くんはそう言って話の幕を閉じた。どうやら清隆くんは未来になんの希望も持っていないらしく、卒業後すんなりとホワイトルームに連れ戻されることを受け入れているようだ。意味が分からない。

 

「清隆くんはもう家畜になっちゃったんだね」

 

「どういうことだ?」

 

 清隆くんは少し怒気をはらんだ声で返答してくる。私にバカにされてるのには当然気づいたようだ。やーいやーいおまえの父ちゃん変な教育機関のおやだま~。

 

「だってそうでしょ?せっかく外に出てきたのに柵の中に戻ることを受け入れてるなんて完全に牙抜かれてんじゃん」

 

「簡単に言ってくれるが松崎はアイツのことを知らないだろ」

 

「そりゃ知らないけどさ、でも清隆くんはそこにいるのが嫌で自由になりたくてここに来たんでしょ」

 

「それはそうだが、」

 

 清隆くんが既に諦めていたことをつつく。きっと私が言ってるのは理想論だ。しかし人生、理想論を求めてこそだ。

 

「それに清隆くんはホワイトルームから出てきたばかりで知らないかもだけどこの学校だってホワイトルームと何も違わない、柵がちょっと広がっただけだよ」

 

「その理論だと松崎も自由じゃないんじゃないのか?」

 

「ルールが、環境が、寿命が、身体がある以上人っていうのは私たちが想像するような自由にはなれないんだと思う。でもね、私は自由ってなんでもできることじゃなくて、自分ができる選択肢の中からしたいことを選ぶ心にあると思ってるんだ。心だけが何にも邪魔されずただ純粋に自由なんだ。私はそう思うよ」

 

 なんか宗教みたいだな。この宗教の教典にはきっと神様は自分自身だって書いてあるね。教義を信じる信者が増えれば増えるほど信者が減ってしまうという欠陥。我は神なり。

 しかし清隆くんは私の戯言を真摯に受け止め真剣な顔をしてくれる。

 

「したいこと選ぶ心か、、難しいことを言うな、、」

 

「難しく考える必要はないよ。ホワイトルームが嫌でここに来たんでしょ。憧れの学校生活では何がしたいの?」

 

「憧れか、、。そうだな、まずは友達がほしい」

 

「うんうん。それで?」

 

「彼女もほしいし徹夜でゲームだってしてみたい。いろんなことを気にせずにだらだら過ごしたい。そしてオレを負かしてくれるライバルがほしい」

 

「それが卒業とともになくなってもいいの?」

 

「ダメだ」

 

 先ほどと違いはっきりと拒否の反応を示す清隆くん。どうやら清隆くんをぐるぐるに縛っていた枷はもうなくなったみたいだ。アシックスの対義語はあしっかせ。

 

「ならがんばらないとね」

 

「あぁ。なるほどこれが自由か、オレは今ワクワクしている」

 

 これがそうか、この掌にあるものが、心か。獄頣鳴鳴篇描いてくれよ師匠。

 

「ま、いろいろ初めてのことで大変だと思うけどさ、相談とかあればいつでも乗るしファイト!」

 

「あぁ。松崎に話してよかったよ。とりあえず今日は帰るがまた頻繁に相談することになるかもしれないが頼む」

 

「おっけー。じゃまたね。あっ8万ポイント、できるだけ早くお願いね」

 

「あぁそれについては当てがあるから安心してくれ」

 

 なんだかすっきりした顔の清隆くんを玄関で見送り考える。まさかあそこまで重い過去だったとは。そりゃ私が話しかけるだけでオドオドするわけだ。それにしても清隆くんと友達になれたのはかなりラッキーなのかもしれない。彼の成長がこれから楽しみだ。私の自由を侵す存在にならないことを祈っておこう。

 あ、暴力事件をどうやって解決したのか聞くの忘れてた。まぁいっか。

 

 

 清隆くんから重大発表があった次の日、いつも通り放課後にボードゲーム部で有栖ちゃんと遊んでいると部長がやってきた。

 

「おはよう、なんと驚け。新入部員が入ってくるぞ」

 

「おはようございます。新入部員ですか?タイミング遅めですね」

 

「おはようございます。何年生の方ですか?」

 

「喜べ、お前らと同じ一年生だ」

 

 一年生か。もしかしたら知り合いの可能性あるな。来い!私の数少ない知り合いよ!

 

「今日から来るんですか?」

 

「あぁ今職員室で必要な書類を書いてるところだからしばらくしたら来ると思うぞ」

 

「それなりにチェスが強ければいいんですけれど」

 

「有栖ちゃんはチェス以外も練習しないともしかしたら将棋なんかでボコボコにされるかもよ」

 

「全種目で常に上位にいる美紀さんがおかしいだけで普通は得意不得意があるものです」

 

 私の煽りにチェス盤を広げながらぷんすかと怒る有栖ちゃん。かわいい。

 有栖ちゃんとチェスを打ちながら部長と三人でしゃべっていると扉がノックされる音が聞こえる。

 

「入っていいぞ」

 

 部長の合図に数巡遅れて扉が開く。そこに立っていたのはなんとなんと清隆くんだ。ポイントに当てがあるってここかよ。

 

「えー今日からこの部活に入ることになった綾小路清隆です。えーよろしくお願いします」

 

 緊張した面持ちの清隆くん。入学式の自己紹介から何も成長してないな~。かわいい。

 そんな緊張している清隆くんに部長が嬉しそうに話しかけてる。一言も発しない有栖ちゃんを不思議に思って目を向けてみれば駒を手から落とし驚いた表情で清隆くんを見つめていた。え、あなたに恋をしてみました?トキメキ感じたの?

 そんな冗談は置いといて、どうやら私の狩り場にどこからか放たれた獣というか化け物が侵入してきたみたいだ。場合によっちゃここを捨てて新しい狩り場を見つけないとな。

 

 

 

 

~一之瀬視点~

 

 千尋ちゃんからの告白を断った次の日、昨日のことをまわりに悟られてはいけないと思いいつもと同じように千尋ちゃんに声をかける。私たち友達に戻れるよね?

 

「お、おはよう!」

 

 少し詰まってしまった。はずかしい。笑顔も上手くできているかわからない。

 

「おはようございます」

 

 そんな私のあいさつに返事をしてきたのは昨日とはまったく違う千尋ちゃんだった。いつもの笑顔で元気いっぱいの声でなく、無表情で抑揚のない声。まわりのみんなもいつもとの違いに驚いたのかこちらを見ている。いつもだったらここから雑談するのだが今日は何を話せばいいのかわからず自分の席に座ってしまう。

 きっと昨日の今日で緊張してただけなんだよねと期待して目を向けてみるが、千尋ちゃんは私にだけでなく誰に対しても壁を作るかのような態度を取っている。

 いつも一緒に昼食を取っているメンバーでお昼ご飯に誘っても断られてしまうし、話しかけてもやっぱり冷たい反応が返ってくる。

 

 その後、千尋ちゃんの態度は何日経っても元に戻ることはなかった。数日は元々千尋ちゃんの友達だったクラスメイトが何度も話しかけていたが、何日も同じ態度が続くとみんな呆れて話しかけることはなくなった。私もそんな千尋ちゃんに声をかける勇気はなかった。告白を断っておきながら話しかけるのは千尋ちゃんの負担になっちゃうかもしれないし。今思えば千尋ちゃんのあの笑顔は私のことが好きだったからなのだろう。もう私のことは嫌いになっちゃたのかな。

 どんどんクラスの中で浮いていく千尋ちゃんをどうにかしないといけないのは確かなのだが、Dクラスの暴力事件の解決を手伝ったり、クラス委員長の役目をこなすという忙しさから目をそらしてしまう。

 どうしてこうなっちゃったんだろう?私は皆で仲良くしたかっただけなのに。こんなこと相談できる相手もいないし。あっ、でも綾小路くんなら私が告白されたの知ってるし相談してみようかな。私は綾小路くんに連絡を取るために端末を手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おり主ちゃんの人生観を見習っていきたい。
まさかの2巻終了。一瞬だ。


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3巻
14話


三巻突入。
ほぼ説明会。
お気に入り3000人突破感謝


 視界には広大な海が広がっている。上を見上げてみれば満点青空。そう、期末テストを終えた私たちは夏休みを迎えるや否や2週間に渡る豪華旅行に来ており、今は初めの一週間を過ごす無人島へ行く豪華客船に揺られているところだ。

 身体が弱くこの旅行に参加できなかった有栖ちゃんが必死に私がこの旅行に行くことをやめるように説得してきたがそのか弱い手を振りほどいて私はここにきた。私とてこの旅行にそこまで参加したかったわけではないが、目的の都合上参加せざるをえなかった。

 しかし、そんな気持ちで来たこの旅行もさすがにこの景色の前ではワクワクしてしまう。私は一人でデッキから海を眺めながらこれからを思いニコニコしてしまう。友達ほしい。

 

 ちなみにそんな一人学校に置いてきぼりになっちゃった有栖ちゃんだがホワイトルームの見学に行ったことがあったらしく清隆くんのことは元々知っていたらしい。しかし清隆くんがこの学校に入学していることは知らなかったらしくこの前驚いてしまったんだとか。

 私たちはあのあとやってきた清隆くんを含め、4人で楽しく遊んだが結果は清隆くんに2万ポイント取られる形となってしまった。そして清隆くんは私たちからぶん取ったポイントで借ポイントである8万ポイントの内半分である4万ポイントを返してきた。と言っても私とて負け越しはしたが清隆くんに一度も勝てなかったわけじゃない。別に悔しくなんてないんだからねっ! ちなみに余談だが私はチェスより将棋の方が好きだ。

 

 

 そんな感じで海を見ながらぼーっと考え事をしているとアナウンスが聞こえてくる。

 

『これより、当学校が所有する孤島に上陸します。生徒たちは30分後、全員ジャージに着替え、所定の鞄と荷物をしっかりと確認した後、携帯を忘れずに持ちデッキに集合してください。またそれ以外の荷物は部屋に置いてくるようにお願いします』

 

 どうやら島に着いたようだ。船はこれから一週間過ごす島を紹介するかのように島の周りをぐるりと一周する。けっこう大きい。キャンプファイヤーに飯盒炊爨。楽しみだ。

 

 

 デッキに集合した私たちは船が島に着くとAクラスから順に島に上陸していく。上陸大陸。それにしても私物を一切持ち込み禁止だなんて私たちはここで一体何をさせられるんだろうか?土器がむねむねだ。

 島に降り、周りをキョロキョロと見回しているとジャージ姿の佐枝ちゃん先生がやって来る。なんか普段は固い人のジャージ姿っていいよね。

 

「今から点呼を行う。呼ばれた者はしっかりと返事をするように」

 

 そうして一人一人の点呼が終わった後、今度は全学年が一か所に集まり学年主任っぽい教師の話が始まる。長くないといいんだけどなー。

 

「今日、この場所に無事に着けたことをうれしく思う。しかしその一方で一名ではあるが病欠で不参加となった生徒もいることが残念でならない」

 

 有栖ちゃんのことだ。有栖ちゃん以外は参加してるのか。夏休みなのになんて結束力のある学校なんだ。すごい。私も一緒に手をつなぎたい。

 そんな学年主任っぽい先生はしばらく黙り、生徒たちを見つめているかと思いきやいきなり話し出す。

 

「ではこれより、本年度最初の特別試験を行いたいと思う」

 

「え、特別試験って? どういうこと?」

 

 やっぱりなんか始まった。生徒たちの多くは普通の旅行だと思っていたのか疑問の声が各クラスで巻き起こる。まぁ友達のほぼいない無人島で自由に一週間過ごすよりかは何かすることがあった方がマシか。

 

「期間は今から1週間。8月7日の正午に終了となる。君たちはこれから1週間、この無人島で集団生活を行い過ごすことが試験となる。なお、この特別試験は実在する企業研修を参考にして作られた実践的、かつ現実的なものであることを言っておこう」

 

「無人島で生活って……船じゃなくて、この島で寝泊まりするってことですか?」

 

 どこかから疑問が飛び出る。一週間無人島か。私には我慢できそうにないな。する気もないが。ってか企業研修厳しすぎでしょ。

 

「そうだ。試験中の乗船は正当な理由なく認められていない。この島での生活は眠る場所から食事の用意まで、その全てを君たち自身で考える必要がある。スタート時点で、クラス毎にテントを2つ。懐中電灯2つ。マッチ1箱を支給する。それから日焼け止めは制限なく、歯ブラシに関しては各自1つずつ配布することとする。特例として女子の場合に限り生理用品は無制限で許可している。各自担任の先生に願い出るように。以上だ」

 

「はぁっ!? もしかしてガチの無人島サバイバルとか、そんな感じ!? そんな滅茶苦茶な話聞いたことないっすよ! テント2つじゃ全員寝れないし! そもそも飯とかどうするんですか! あり得ないっす!」

 

 みんなに聞こえるほど大きな声で池くんが叫ぶ。うるさい。それにしてもリタイヤには正当な理由が必要か。体調不良はしょうがないよね?えっうそ?ほら自分の身体のことは自分が一番わかるっていうし。

 

「安心していい。これが過酷な生活を強いるものであったなら批判が出るのも無理のない話だ。しかし、特別試験と言ってもそれほど深く考える必要はない。今からの1週間、君たちは海で泳ぐのもバーベキューをするのもいいだろう。時にはキャンプファイヤーでもして友人同士語り合うのも悪くない。この特別試験のテーマは『自由』だ」

 

 自由がテーマか。ずいぶん面白いことを言ってくれる。まるで私のためにあるような特別試験じゃないか。

 

「え? 自由がテーマってどういうこと? バーベキューもできるって……んんっ? それって試験って言えんの? ヤベ、頭混乱してきた」

 

「この無人島における特別試験では大前提として、まず各クラスに試験専用のポイントを300支給することが決まっている。そのポイントを上手く使うことで1週間の特別試験を旅行のように楽しむことが可能だ。そのためのマニュアルも用意している」

 

 そういってかなり厚みのある冊子を学年主任先生が掲げる。マニュアルって自由の対義語じゃなかったけ?

 

「このマニュアルには、ポイントで入手できる物のリストが全て載っている。生活で必需品と言える飲料水や食料は言うに及ばず、バーベキューがしたければ、その機材や食材も用意しよう。海を満喫するための遊び道具も無数に取り揃えている」

 

「つまり、その300ポイントで欲しいものが何でも貰えるってことですか?」

 

「そうだ。あらゆるものをポイントで揃えることが可能になっている。計画的に使う必要はあるが、堅実なプランを立てれば無理なく1週間過ごせるように設定されている」

 

 特別試験と聞き、不安そうな顔をしていた生徒たちもこの説明で顔を緩めていく。学校からの発表に一喜一憂して楽しそうだ。

 

「で、でも先生。やっぱり試験って言うんだから難しい何かがあるんでしょう?」

 

 そんな中、この学校を疑う声も上がる。しかもなんとあの池くんからだ。

 

「難しいものは何もない。2学期以降への悪影響もない。保証しよう」

 

「じゃあ本当に、1週間遊ぶだけでもいいってことですか」

 

「そうだ。全てお前たちの自由だ。もちろん集団生活を送る上で最低限のルールは存在するが、守ることが難しいものは何一つない」

 

 しかしそんな池くんの疑問にすら学年主任先生は何もないと否定する。やたら自由自由とうるさい。他人から与えられる自由に一体なんの意味があることやら。

 

「この特別試験終了時には、各クラスに残っているポイント、その全てをクラスポイントに加算した上で夏休み明けに反映する」

 

 その時、全生徒に激震が走る。びっくり仰天だ。最大300ポイントもクラスポイントが増えるのだという。

 全生徒、特に下位クラスの生徒がこのことに色めき立つ。やっぱりお小遣いが少ないのは悲しいもんね。

 

「マニュアルは各クラス1冊ずつ配布する。紛失した際は再発行も可能だが、ポイントを消費するので大切に保管するように。また、今回の旅行を欠席した者はAクラスの生徒だ。特別試験のルールでは、体調不良などでリタイアした者がいるクラスにはマイナス30ポイントのペナルティを与える。そのためAクラスは270ポイントからのスタートとする」

 

 Aクラスの方に目を向けてみれば動揺している様子はなかった。まぁ身体的なことで来れない生徒に文句言ってる奴がいたらさすがにカスすぎるか。有栖ちゃん、いいクラスメイトに恵まれたね。そして先に謝っておく、ごめんDクラスのみんな。

 ここで学年主任先生の話が終わり解散が言い渡される。とりあえず、Dクラスについていこっと。

 

 解散後、私たちDクラスは佐枝ちゃん先生の元に集まり、詳しい説明を聞く。

 

「今からお前たち全員に腕時計を配布する。これは1週間後の試験終了まで外すことなく身につけておくように。許可なく外した場合にはペナルティが課せられるのでそのつもりでいろ。この腕時計は時刻の確認だけでなく、体温や脈拍、人の動きを探知するセンサー、GPSも備えている。万が一に備え、学校側に非常事態を知らせるための手段も搭載してある。緊急時には迷わずそのボタンを押すように」

 

 作業着を着ている業者さんたちが佐枝ちゃん先生の傍に段ボールを重ねていく。おそらくDクラスの支給品が入っているのだろう。あんな人たち船のどこにいたんだろう?

 箱から取り出した腕時計が生徒一人一人配られる。デザインはシンプル。つまりベストだね。しかし緊急用のボタンか、つい押したくなるね。

 

「あのー、佐枝ちゃん先生? 緊急時ってことはですよ? この島ってなんかヤベェ生き物とかいたりしないっすよね……?」

 

「仮にもこれは試験だ。結果を左右する可能性のある質問には答えられない」

 

「いやいやいや! クマとかいたら死ぬでしょ! 他にもヤベェ虫とか蛇とか!」

 

「流石に大丈夫じゃないかな? それでもし生徒が危険な目にあったら大問題だ。腕時計は単に僕たちの健康管理が目的じゃないかな?」

 

 洋介くんの言う通り、そこは大丈夫だろう。大丈夫だよね?不安で早く船に帰りたくなっちゃうよ。

 

「茶柱先生。僕たちは今からこの島で1週間生活するとのことですが、ポイントを使わない限り全て僕たちで何とかしなければならないということでしょうか」

 

「そうだ。学校は一切関与しない。水も食料も、お前たち自身で用意してもらう。足りないポイントにしても同様、解決方法を考えるのも試験の一環だ」

 

 腕時計についての説明を受け終わった後、洋介くんがここでの暮らしについて聞く。

 さすがにある程度のやさしさを島に施してくれていると思うが何もかも自分たちで用意か。みんなかわいそうだ。

 

「大丈夫だって。食料は魚でも捕まえたり森で果物探せばいいじゃん。テントだって葉っぱとか木とか使ってさ。最悪体調崩しても我慢すりゃいいし」

 

 池くんがまさにバカ代表のようなことを言う。ばか。

 

「残念だが池、お前の目論見通りに行くとは限らんぞ。お前たち、マニュアルを見てみるといい」

 

 言われてマニュアルを開く洋介くん。しばらく読んでいたかと思うと佐枝ちゃん先生の言いたいが分かったのかみんなにわかるように声に出して読んでくれる。

 

「えっと、以下に該当する者は定められたペナルティを課す。著しく体調を崩したり、大怪我をし続行が難しいと判断された者はマイナス30ポイント。環境を汚染する行為を発見した場合、マイナス20ポイント。毎日午前8時、午後8時に行う点呼に不在の場合、一人につきマイナス5ポイント。他クラスへの暴力行為、略奪行為、器物破損を行なった場合、該当生徒の所属クラスは失格。該当生徒のプライベートポイントは全没収。」

 

 なるほどそこには常識というルールが載っていた。

 

「でもこれは割と当り前のことさえ守れば大丈夫なんじゃないかな?まぁ体調不良が出てペナルティで損するわけにはいかないからなんでも我慢すればいいって感じではないね」

 

「平田の言う通りペナルティがいくつかある。お前たちが無茶をするのは勝手だ。だが、もし10人の生徒が体調不良に陥りリタイアすることになった場合、それまでの我慢と努力は全て泡と消える。一度リタイアすれば試験中に復帰することは出来ない。強行するときはそれを覚悟しておくといい」

 

 なるほど我慢をできるだけするというわけではなく、この環境でいかに折り合いをつけてクラスとして一週間乗り切るかがこの試験の肝だろう。

 

「つまりさ、ある程度のポイント使用は仕方ないってことじゃない?」

 

 たしかさつきちゃんだったかな?が言う。

 

「最初から妥協する戦い方は反対だぜ。やれるところまで我慢すべきだろ」

 

「気持ちはわかるけど、体調を崩したら大変だよ」

 

「萎えること言うなよ。まずは我慢あっての試験じゃねぇの?」

 

 さっそく意見が分かれ始めている。ここは私がクラスの仲が悪くなることこそ学校の思うつぼだよ!と言ってもいいがリンチに遭う未来はあたりまえのように見えるので目立たないように黙っておく。私は事なかれ主義。

 

「茶柱先生、答えられることであれば教えてください。仮に300ポイント全てを消費してしまった後にリタイアする者が現れた場合はどうなるのでしょうか」

 

「その場合、リタイアする人間が増えるだけだ。ポイントは0から変動しない」

 

「つまりこの試験でマイナスに陥ることはない、ということですね?」

 

 堀北さんが手を挙げ質問する。大事な確認だよね。しかしマイナスにならないのか。ポイント使いきって楽しむだけ楽しんでリタイヤってのもありだな。

 

「支給テントは1つが8人用の大きなものになる。重量が15キロ近いから運搬の際は気をつけるように。また支給品の破損、紛失に関して学校側は一切手助けしない。新しいテントが必要な場合はポイントを消費することを覚えておくように」

 

「僕からもよろしいですか先生。この点呼というのはどこで行うのですか?」

 

「担任は各クラスと共に試験終了まで行動を共にする決まりになっている。お前たちでベースキャンプを決めたら報告してくれ。私はそこに拠点を構え、点呼はそこで行う決まりだ。それから一度ベースキャンプを決めた後、正当な理由なく変更はできないのでよく考えて決めるように。これらは他クラスも同様の条件だ。例外はない」

 

 佐枝ちゃん先生も一緒なのか。なんかかわいそう。学生の私たちはまだしも監督責任もあって大変だろうな。

 

「話の途中で悪いんだけどよ、トイレに行きたいんだよ。トイレはどこなんだ?」

 

 須藤くんが落ち着かない様子で辺りを見ている。いるよね、こういうときにトイレを我慢できなくなる子。

 

「ちょうど今それを説明しようとしていたところだ。コレを使え」

 

 佐枝ちゃん先生は折りたたまれた段ボールを掲げながら答える。

 

「佐枝ちゃんせんせー、なんすかそれ?」

 

「簡易トイレだ。各クラス1つずつ支給されるものだから大切に使うように」

 

 あれがトイレらしい。なるほど数日様子を見てもいいかなって思ってたけど即リタイヤだな。というかこんなのリタイヤ続出じゃないの?

 

「もしかして、私たちもそれを使うんですか!?」

 

「男女共用だ。だが安心しろ。着替えにも使えるワンタッチテントがついている。誰かに見られるようなこともないだろう」

 

「そういう問題じゃなくて! 段ボールになんて絶対無理です!」

 

 そこからは大変だ。簡易トイレを我慢しろという池くんと拒否の姿勢を見せるさつきちゃんの間で言い争いが始まった。なるほど私は学校に行かずに知らなかったがこれがDクラスの現状か。私を含めなんて先が思いやられるクラスなんだ。

 

 言い争いで佐枝ちゃん先生の説明が止まっていると佐枝ちゃん先生の背後から知恵ちゃん先生が現れ佐枝ちゃん先生といちゃついている。

 

「あっ。綾小路くんと松崎さんじゃない。久しぶり〜」

 

 こっちは目立たないように影を忍ばせていたのに大声で声かけてきた。なんて嫌がらせなんだ。

 

「お久しぶりです」

 

「松崎さんは授業でも会うことないからホントに久しぶりね~」

 

「その話は今は言わないでください」

 

 一部の生徒から冷たい目を向けられてる気がする。ちょうど暑かったからぴったりだね。

 

「夏は恋の季節。二人とも、好きな子に告白するならこういう綺麗な海の前とか効果的かもよ〜?」

 

「海は綺麗でも、クラスにそんな余裕はないんで」

 

「告白する相手がいないんで」

 

 私と清隆くんの返答が被る。あっ今日はじめて清隆くんと目が合った。

 

「お前は早く自分のクラスに戻れ」

 

 佐枝ちゃん先生に怒られしょぼんとした顔で森へ帰っていく知恵ちゃん先生。かわいい。退くのも勇気だ。

 

「ではこれより追加ルールを説明する」

 

 どうやらまだまだ説明は終わらないらしい。長くない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんならまだ説明が続く。
誤字脱字報告助かってます。ありがとうございます。
あと感想も待ってます。


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15話

反省のもう一話投稿
不快な思いをした人ごめんね


「つ、追加ルール? まだなんかあるんすかぁ……」

 

 佐枝ちゃん先生から告げられた事実に喧嘩を一旦やめ、みんなが注目する。

 

「間も無くお前たちはこの島を自由に移動できるようになるわけだが、島の各所にはスポットとされる場所が幾つか設けられている。それらには占有権と呼ばれるものが存在し、占有したクラスのみ使用できる権利が与えられる。どう活用するかは権利を得たクラスの自由だ。ただし占有権は8時間しか意味を持たず、自動的に権利が取り消される仕組みになっている。そして、スポットを1度占有するごとに1ポイントのボーナスが与えられる。このポイントは試験中に使用することはできないが、試験終了時に加算される仕組みだ。学校側は常に監視しているため、このルールにおける不正の余地はない。心しておくように」

 

「え、それってスゲェ大事じゃないっすか! ポイント付いてくるなんて美味しすぎる! 俺たちで全部取ってやろうぜ!」

 

 先ほど喧嘩していたことなんて忘れていたかのようにテンションを上げる池くんは仲間を集めスポット探しに行こうとする。それにしてもスポットか、ただ占有するだけでクラスポイントがもらえるなんて虫が良すぎる話だ。きっとまだなにかある。それこそクラスポイントがマイナスなるようななにかが。

 

「焦る気持ちはわかるが、このルールには大きなリスクがある。それを考慮した上で利用するかを検討することだな。そのリスクも含めてマニュアルに書いてあるから目を通しておけ」

 

 佐枝ちゃん先生に言われマニュアルに目を通した洋介くんがまたみんなのために読み上げてくれる。

 

・スポットを占有するには専用のキーカードが必要である。

・1度の占有につき1ポイントを得る。占有したスポットは自由に使用することができる。

・他クラスが占有しているスポットを許可なく使用した場合、マイナス50ポイント。

・キーカードを使用することが出来るのはリーダーとなった人物に限定される。

・正当な理由なくリーダーを変更することは出来ない。

 

 要約するとこんな感じのルールだ。さらにそこに佐枝ちゃん先生が追加したのは占有権がリセットされた後、同じ場所を再度占有することも可能ということと同時に複数のスポットを占有することも可能ということだった。

 仮に一か所のスポットを一週間占有し続けた場合に得られるクラスポイントは21ポイント。いくつスポットがあるか知らないが単純計算それがスポットの数だけ増えていくことになる。これは控えめに言ってすばらしい。

 

 しかしそんなすばらしいルールは最後に説明されたルールでおもしろいルールになってしまった。

 そのルールとは以下のような内容だった。

 

・試験最終日、点呼の際にリーダーは他クラスのリーダーを言い当てる権利が与えられる。

・リーダーを的中させた場合、的中させたクラス一つにつきプラス50ポイント。

・リーダーを的中させられなかった場合、外したクラス一つにつきマイナス50ポイント。

・リーダーを的中させられた場合、マイナス50ポイント。

 

 一気にこの試験本質が変わった。節約やスポットの占有なんて些細なことと言ってもいい。やっぱり来てよかった。千尋ちゃんに会いに行かなきゃ。

 

「参加するしないは自由だが、例外なくリーダーは必ず一人決めてもらう。欲を出さなければリーダーだと知られることもなく済むだろう。リーダーが決まったら私のところに来るように。その際にリーダーの名前を刻印したキーカードを支給する。制限時間は今日の点呼まで。もしそれまでに決まらない場合はランダムで選出するからそのつもりでいろ」

 

 佐枝ちゃん先生の話はそこで終わったのか佐枝ちゃん先生は見の姿勢に入る。

 

 

 「リーダーを誰にするかは時間もあるし後で考えよう。まずはベースキャンプをどこにするかだね。このまま浜辺に陣取るか、森の中に入っていくのか。スポットのことはその後で考えるべきじゃないかな」

 

 洋介くんがそう言い、みんなの移動を促そうとするが、佐枝ちゃん先生の話が終わったことで話は先ほどのことに戻り、トイレにポイントを使うかどうかの争いが始まる。馬鹿らしい。

 こんなところにいたら息が詰まっちゃうよ。せっかく島にきたんだ、探検にでも行こうっと。そんな忍び足の私に後ろから声がかかる。

 

「どこに行こうとしているのかしら?」

 

 堀北さんに見つかった。運命は如何に。喧嘩に夢中だったクラスメイトもこちらに注目している。気まずい。

 

「話が長くなりそうだから、探検にでもいこうかなーって」

 

「ふざけないでよ!」

 

「ふざけんなよ!」

 

 なんとびっくり。非難の声がクラスメイトみんなから鳴り響く。さっきの敵は今の友なの?洋介くんがオロオロしててかわいそうだよみんな。

 堀北さんは私の返答に少し間を空けてから改めて話し出す。

 

「今更あなたを説得できるとは思ってないわ。それであなたは点呼のときには戻ってきてくれるのかしら?」

 

「う~ん、何とも言えないな~」

 

 適当に戻って来ると嘘をつけばいいだけの話だが、なんとなく正直に話す。

 

「あなたが点呼のときに戻って来ると約束できないならあなたはクラスのためにリタイアすべきよ」

 

 思ってもみない提案だった。まさか堀北さんからその話をしてくれるなんて。

 

「おいおい何言ってるんだ堀北、リタイアした奴が出たらペナルティで30ポイントあるんだぞ!」

 

 今度は堀北さんにヘイトが集まる。扱いやすい民衆たちだ。

 

「あなたたちこそよく考えるべきだわ。点呼はあと13回あるのよ。もし仮にそのすべてに松崎さんが出なかったらペナルティが65ポイント。6回出ないだけでリタイアのペナルティと同じになるのよ」

 

「だからって!そもそも松崎が点呼に出ればいいだけだろ!」

 

「ならあなたが松崎さんを説得してくれるのかしら?」

 

「くっ!」

 

 くっ!じゃないのよ。え?私ってもうクラスの中でそんな認識なの?あってるけどなんか悔しい。

 

「というわけで松崎さん、今夜の八時までにはリタイアしてくれるかしら?」

 

「はじめからそのつもりだったけどなんか釈然としないな~」

 

「ならいいじゃない?探検と言っていたかしら?存分に楽しんでらっしゃい」

 

 こんなの私じゃなかったらいじめじゃん。みじめだよ。

 なんだか少しドヤ顔をしているように見える堀北さんと文句たらたらクラスメイトを背に私は改めて探検に旅立つ。ふんっ堀北さんのばーかばーか。

 

 

 

 適当に島を探検しながら冷静に考える。よく考えたら堀北さんに怒ることはひとつもないな。むしろ公認でリタイアが認められるなんてラッキーだ。ありがとう、堀北さん!

 それにしても船から見たからわかっていたがかなり大きな島だ。島の平均サイズとか知らないけどとにかく大きい。これ八時までに千尋ちゃんと会えるかな?

 

 そんなふうにBクラスを探しながら歩くこと数十分。見つからない。一度初期地に戻って足跡辿ったほうが早いな。は~戻るか。

 そんな回れ右をしたとき、ガサガサと茂みから物音が鳴る。もしかしてクマじゃないよね?

 

「これはこれはフリーガールじゃないか?」

 

 まさかの六助くんだ。それにしてもフリーガール?直訳して自由な少女。六助くんはあだ名をつける才能がないみたいだ。もしかしてリッチボーイとかって呼んだほうがいい?

 

「誰かと思えば六助くんじゃん。六助くんも単独行動?」

 

「先ほどまでは凡人が二人居たんだけどねぇ、どうやら私にはついてこれなかったらしい」

 

「それ置いてきただけじゃん」

 

「そうとも言うねぇ」

 

 そうとしか言わないでしょ。なるほど六助のことは入学式の日のバスや自己紹介である程度わかっていたつもりだけどこれは少し上方修正だな。思ってたより全然おもしろい。

 

「どう?スポットは見つかりそう?」

 

「そんなものには興味ないがそれらしきものはここに来るまでにいくつか目に入ったよ」

 

「興味ないって、なんのためにここまで来たのさ」

 

「愉快なことを聞いてくれる。美しく輝く私の完璧な肉体美を世界に轟かすためだよ」

 

 ふむ、意味がわからない。適当に流しておくか。

 

「確かに六助くん、いい身体してるもんね?」

 

「どうやら見る目はあるようだね」

 

 自分でも意味がわからないことを言った自覚はあったがどうやら六助くんは納得してくれたらしい。目利きの能力以外もいつか認めさせたい。

 

「では私は行くよ、アディオス!」

 

 六助くんはそう言うとものすごいスピードで森を駆け抜けていく。Dクラスには変人が多いな。困ったもんだ。

 

 

 六助くんと別れたあと船まで戻ってきた私はBクラスの集合場所があった場所から足跡を辿り歩き出す。雨が降っていたわけでもないからよく目を凝らさないと足跡を見失っちゃいそうだ。

 そんなこんなで途中足跡を見失い、引き返したりを繰り返しながら私はなんとかBクラスのベースキャンプにたどり着く。遠目から見ただけだが一之瀬さんいるし多分Bクラスだろう。さて千尋ちゃんはどこかな~。

 少しずつ近づきながら千尋ちゃんを探してみれば発見。集団から少し離れたところに一人腰を下ろしている。千尋ちゃんがひとりぼっちなんていったいどうしてなんだぁ~。という冗談は置いておいて千尋ちゃんは私の言いつけをしっかりと守っているようだ。えらいえらい。

 私は茂みに身を隠しながら千尋ちゃんにこっそり近づくと小声で話し掛ける。

 

「千尋ちゃん、千尋ちゃん」

 

 千尋ちゃんは私の声に気づいたのか周りをキョロキョロと見回す。そんな千尋ちゃんがこっちを見たタイミングで手招きを行いこちらに引き寄せる。

 

「どうしたんですか?」

 

「ちょっとね、今時間大丈夫?」

 

「はい、購入するものを決めて夕飯の準備まで自由時間なので」

 

「なら話があるからさ、ちょっとついてきて」

 

 千尋ちゃんを連れ、人目に付かない場所に移動する。私が来たことも私と千尋ちゃんが繋がってることもバレたくないしね。

 

「Bクラスはもうリーダー決まった?」

 

「はい、決まりました」

 

「優秀だね。それで今回の試験の方針はどうする予定なの?」

 

「どこのリーダーも当てにいかない代わりに無理もしない方針らしいです」

 

 やっぱりBクラスは守りに入ったか。一之瀬さん像が私の中でどんどんはっきりしていく。

 

「なら千尋ちゃんがする事は、もし他クラスのスパイが来たとき一之瀬さんがどれだけ反対したって追い返すこと。そしてそれが無理なら少し乱暴してでも試験最終日前の夜くらいにでもリーダーをリタイアさせ、リーダーをこっそり変更すること」

 

「スパイは分かりますがリーダーをリタイアさせるなんてどうやってすればいいんですか?」

 

 千尋ちゃんは私の狙いがわかったのか、なんで?の先の質問をしてくる

 

「それは簡単だよ、水浴びさせてそのまま一夜過ごさせたら体調崩すだろうし、もしそれが失敗したら頭でも打って血でも出させればいいよ。頭部の怪我は素人では判断できないからね。少しの怪我でもきっと船で正確な診察を行うためにリタイアさせてもらえるよ」

 

 こんな試験をやると言っても学校だ。生徒の安全第一で行ってくれるだろう。

 

「とは言っても少し難易度が高いから無理なら諦めてもらっても大丈夫だよ」

 

「いえ大丈夫です!ここだけの話、私がリーダーですし」

 

 これにはびっくりだ。いっきに難易度が下がった。キングスライムとスライムくらい違う。

 

「ならスパイをわざと招き入れてもいいかもね。それでリタイア後のリーダーを一之瀬さんにさせるんだ」

 

 私がニヤニヤしながら言うと、千尋ちゃんもやる気に満ち溢れているのか両手を胸の前にやり、ぐっと拳に力をこめる。かわいい。

 

「がんばります!」

 

 がんばるぞい!

 

「それじゃ私はもう船に戻るから、ばいばい」

 

「やっぱりそうするんですね」

 

 少し呆れている千尋ちゃん。

 

「そういえば言い忘れてたことがあった。わたしの予想が正しければDクラスのリーダー、綾小路清隆くんだよ。Bクラスのリーダーを教えてくれたお礼ね」

 

 千尋ちゃんが驚きの声を上げ説明を求めてくるが、これを説明すると清隆くんのホントの実力を千尋ちゃんに教えることになるので説明することから逃げるように船へ向かう。

 きっと未来の自分は今の私にお怒りだろうな。でもしょうがないよね、今はこっちのほうがおもしろいと思っちゃたんだ。一週間後のことを考えなんだか足取りが軽くなる。ルンルン。

 

「Dクラス、松崎美紀。体調不良のためリタイアでお願いします」

 

 さーて有栖ちゃんに電話でもしようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




堀北「お前、船に戻れ」
オリ主ちゃん「はい」

誤字脱字報告ありがとうございます!
面白いと感じていただければ感想や高評価をぜひ!モチベ上がるます


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16話

質問でいただきましたがあらすじの恋愛云々の部分を消したのはなんとなくでした。今後もとくにおり主ちゃんと綾小路くんの恋愛は考えておりません。そしてガールズラブになるかは未定です。勘違いさせてしまった方申し訳ないです。あらすじ修正しときました
ってことで今回は一之瀬視点です。おり主ちゃんと違って聖母の一之瀬さんの心の中ムズかった。変なとこあったらごめんね


 ~一之瀬帆波視点~

 

 バカンスと言われ連れてこられた島で始まった特別試験。私たちBクラスは星之宮先生から試験の概要を聞くとベースキャンプとなる場所を探しに移動し始めた。

 

「トイレなんかの生活していく上で絶対に必要なモノの中でこの島の中にないモノは買うとして、食糧なんかは頑張って自分たちで用意していきたいよね」

 

「力仕事なら任せろよな!」

 

 これまで築いてきた関係のおかげかそれともただ持ち合わせた人柄なのか私たちはこんな状況にいきなり放り出されても協力し合う雰囲気が出来ていた。私もみんなの役に立てるように頑張らなくちゃ!

 

「おい!いいとこ見つけたぞ!」

 

 しばらく探索を続けているとそんな声が聞こえてくる。そう言ったクラスメイトの後をついていってみればそこにあったのは井戸だった。そして井戸のすぐ横にはなにやら無人島には似つかわしくない近代的な機械があった。あの井戸がスポットでその横の機械がキーカードを読み取るモノなのだろう。

 

「ここならスポットの近くだし少し開けてるからテントとかも設置しやすい。なにより飲み水とか生活で使う水を井戸水が使えるからかなりのポイント節約になるんじゃね?」

 

 うん、かなりいい場所だと思う。みんなもベースキャンプとして完璧とも言えるこの場所を見つけれたことに喜びを隠しきれていない。というか隠す気もない。

 

「帆波ちゃん、ここでいいんじゃないかな?」

 

「うん!いいと思う!飲み水にできるかは試さないとだめだと思うけど。いいとこ見つけてくれたね」

 

 こうしてこれから一週間過ごす場所が決まると一気にこの試験が現実味を帯びてくる。さっきまでやっていけるか不安だったけど、クラスのみんなとサバイバルっていうのも楽しみになってきた。

 でもスポットも見つけたことだしリーダーを決めないとだよね。

 

「みんな、ちょっと集まってもらっていい?」

 

 私がそう呼びかけると談笑していたみんなも会話をサッとやめ、こちらに注目してくれる。こういった些細なことだけど、あるたびにこのクラスでよかったと嬉しくなる。

 

「スポットも見つかったことだしリーダーを決めようと思うんだけど誰かやりたい人はいる?」

 

「一之瀬がやればいいんじゃねーの?」

 

「ばか、帆波ちゃんがリーダーになったら周りのクラスにまるわかりじゃん」

 

 私がリーダーをやってもいいんだけどさっき言ってくれたように自分で言うのも恥ずかしいけど私は他クラスに名前が知れ渡っていてリーダーになるのは危険だろう。

 

「あ、そっか。なら誰がやればいいんだ?」

 

 今まで私がクラスの委員長をやってきたことが原因か私以外にリーダーを決めるとなると途端に話が進まなくなる。別にこのクラスのみんななら誰がリーダーをやってくれても大丈夫だと思うんだけどなー。

 

「なら俺がやろう」

 

 そう言って手と声を挙げたのは神崎くん。いつもは私の補佐的なことをしてくれてる頼りになる男の子だ。

 

「でも一之瀬が目立つからダメってなら神崎もなんじゃね?」

 

「そうだよね、神崎くんが帆波ちゃんの補佐やってること他のクラスの子結構知ってるよ。それに神崎くんかっこいいって噂だし」

 

「それにお前デカいから占有権更新のときみんなで隠しづらいだろ」

 

 なるほど、そういう見方もあるのか。確かに背は低いほうがいいかもしれない。そんなこんなで神崎くんがリーダーをやるという意見は却下され、話は振り出しに戻る。

 みんなで頭を抱え、意見を出し合うがなかなか決まらない。みんなもリーダーをやるということに少なからずプレッシャーを感じているのか自分自身がリーダーをやることには消極的だ。

 こうなったら私がやるしかないのかな。私が決心して声を上げようとしたとき一つの手が挙がる。

 

「私がやる」

 

 千尋ちゃんだ。とてもありがたい提案だが私が告白を断ってしまってから千尋ちゃんが変わってしまったせいかみんなは微妙な顔をする。

 

「私なら他のクラスにもあんまり知り合いいないし、そんなに目立つ方じゃないからリーダーに向いてると思う。それに背も小さいし」

 

 確かに千尋ちゃんならリーダーの条件を満たしている。みんなもそれが分かっているのか判断を委ねるようにこちらを見てくる。

 心配がないと言ったら嘘になるが、ここで千尋ちゃんにリーダーを任せたらクラスのみんなと千尋ちゃんがもう一度仲良くなるチャンスになるかも。そしてなにより私が千尋ちゃんと仲直りしたいし。

 

「なら千尋ちゃんに任せていいかな。もちろんみんなでサポートしていくし」

 

 私は千尋ちゃんにリーダーを任せることを改めて確認するとみんなで星之宮先生にキーカードをもらいに行く。もちろんこのとき複数で移動することを忘れない。いったいどこから他のクラスの生徒が見てるかわからないからね。

 キーカードを受け取った私たちはさっそくリーダーである千尋ちゃんを隠しながら井戸の横にある機械にキーカードをかざしスポットを占有する。

 

 そうして私たちはスポットの占有が終わると初めに配布されたテントを広げその中に荷物を置き、マニュアルを見ながら購入するものを話し合う。

 

「トイレやテントは買うとして他にほしい必要なものはある?」

 

「水はどうする?」

 

「とりあえず井戸の水を試しに数人飲んでみて明日まで様子みるか」

 

「ならとりあえず今日の分の水は必要だね。食糧も島を探検して採れるものはとって足りない分は買う感じでどうかな?」

 

「いいと思う。調理器具もいるだろうけどそれも後でいいな」

 

「そうだね。あと夜はテントひとつに付きひとつ明かりが必要だと思うからランタンも買おう」

 

「はいは~い、シャワーもほしい!」

 

「それならこのウォーターシャワーってのは水とガス缶さえあればお湯を浴びれるぞ」

 

 40人もいればいろんな知識が集まる。そうやって私たちは各々の希望を言い、工夫でそれを解決していく。もちろんなんでも意見が通るわけじゃない、節約することも大事だからね。

 そうやってみんなで輪になってわいわいと話し合う。千尋ちゃんただ一人を除いて。千尋ちゃんは輪の外から話は聞いてはいるが意見を出すことはついぞなかった。

 

「次にこの試験の乗り切り方なんだけど他のクラスのリーダーはよっぽどの確信ができない限り当てにいかず守りの姿勢でやっていきたいと思うんだけどどうかな?」

 

「よっぽどの確信って言うのはキーカードを見るとかそういうことか?」

 

 星之宮先生の説明を聞いてから私は今まで考えてきたことを話す。

 

「そう、無理に当てにいって外したらもったいないからね。ポイントもある程度の節約はもちろんするけどあくまで無理せずにみんなで一週間楽しめたらって思ってるんだけど」

 

「それでいいと思うぞ。そもそも夏休みだし楽しまなきゃ損だ。ポイントが余ればラッキー程度の心構えでいこーぜ」

 

「さんせー!もちろんリーダーはバレないようにね」

 

 みんなが私の意見に賛成とうなずいてくれる。ほんとに私は良いクラスメイトに巡り遭えたと思う。

 

「ありがと!じゃあ話し合うことも終わったし自由時間にしよっか」

 

「おっけー、ならなんか食えるものでもないか探しにいこーぜ」

 

 私が自由時間が言い渡すと、何人かのクラスメイトが探検ついでに食糧探しに立候補してくれる。ありがたい。

 

「必ず複数で行動してね。いくら腕時計があると言っても危険なものは危険だから。あと4時くらいには戻ってくるようにおねがい」

 

「はーい」

 

 本格的に自由行動が始まり、私も友達と協力しながらテントを組み立てたり簡易トイレの設置を手伝ったりとやるべきことをこなしていく。

 

「一之瀬さん、ちょっといい?」

 

 そんな時、先ほどまで少し離れたところで一人座っていた千尋ちゃんから声をかけられた。もしかして一緒に手伝ってくれる気になったのかな?

 

「あっ千尋ちゃん、どうしたの?」

 

「ちょっと試験のことで話がある」

 

 どうやら違ったらしい。それでも千尋ちゃんから話しかけてくれるのはあの一件以来初めてだからうれしい。

 

「うん、なにかな?」

 

「ここではちょっと、少し二人きりで話したいことがある」

 

 千尋ちゃんは辺りを見渡すと少し離れた茂みを指出す。二人きりか、この前あんなことがあったばかりだから二人きりになるのは少し不安に感じてしまう。いやいや、そんなこと思っちゃダメだよね。試験の話って千尋ちゃんも言ってるし。

 

「いいよ、わかった」

 

 私は一緒に作業していた友達たちに断りを入れると千尋ちゃんと茂みの中へ入る。

 

「それで話って?」

 

「この試験でのリーダーとしての立ち回り方のことなんだけど、なるべく多くのスポットを確保したいと考えてるんだけど」

 

「できるだけ多くの?さっきも言ったけど今回の試験は無理せず守りの姿勢でやっていかない?無理してリーダーを他の3つのクラスに当てられちゃったら仮にスポットを7つ一週間占有できてもマイナスになっちゃうし」

 

 どうやらほんとに試験についての話みたいだ。少しでも疑った自分が恥ずかしい。そもそもこうして二人きりで話しているときも今までみたいに笑顔すら見せてくれない。千尋ちゃんはもう私のことなんて好きじゃないのかもしれない。

 

「それについては考えがある。リーダーがバレてもこっそりリーダーを変更したらいい」

 

「リーダーの変更?リーダーは変更できないんだよ?」

 

「それは正当な理由がない場合でしょ。体調不良によるリタイアは正当な理由になる。そうすればペナルティの30ポイントだけだから二つのスポットを占有し続けるだけでおつりがくるし、他のクラスのリーダー当てを上手くいけば外させられるかもしれない」

 

 千尋ちゃんが語った作戦はなるほど見事なものだった。ただ一つを除いて。

 

「普通の生徒ならまだしもリーダーが体調不良って嘘ついても学校側は簡単にリタイアさせてくれないんじゃないかな?」

 

 そう。そんな簡単な嘘に騙されるほどこの学校は甘くないということだ。千尋ちゃんなりにこのクラスについて考えてくれたのかもしれないがこの作戦は使えない。

 しかし千尋ちゃんはそんなことはわかっていたみたいだ。

 

「私もそう思う。でもそれならホントに体調不良になればいい」

 

「ホントに体調不良になる?どうやって?」

 

「別に水浴びでもなんでもすればいい。最悪頭から血でも流せばリタイアさせてくれるでしょ」

 

「ダメだよそんなこと!千尋ちゃんが無理するってことでしょ!千尋ちゃんがそんな無理してまでポイントほしいなんて誰も思ってないよ!」

 

 千尋ちゃんはホントに体調不良になるつもりだと言う。たしかにそれならリタイアはできるかもしれないけど危なすぎる。ポイントなんかのために千尋ちゃんが体調を崩す必要はない。ましてや怪我なんて以ての外だ。

 

「私が構わないって言ってる。それでこの話を一之瀬さんにしたのは私がリタイアした後のリーダーを一之瀬さんに任せたいから」

 

「だからダメだって!もしもがあったらどうするの?それに今回の試験ではみんなで楽しもうって言ったじゃん!」

 

「楽しむのはあなたたちで勝手にすればいい」

 

 私はその言葉に呆然としてしまう。私たちだけ楽しめばいいなんてまるで千尋ちゃんはもう私たちのこと友達だとも仲間だとも思ってもいないかのような物言いだ。どうして?私が告白断っちゃったから?そんなに千尋ちゃんの中でクラスのみんなはどうでもいい存在だったの?そんなに千尋ちゃんの中で私は大きな存在だったの?

 

「それじゃあ私、スポット探しに行くから」

 

 そう言って私に背を向け歩き出す千尋ちゃん。止める言葉はいくらでもあった。やっぱりそんな作戦ダメだよとか森を一人で歩くのは危険だよとか。でも私は去っていく千尋ちゃんに声を掛けることが出来なかった。今はただ私たちの仲がもう元に戻らないという事実に胸を締め付けられて痛かった。

 

 

 

 

 

 




もうちょい一之瀬視点続きます。

誤字脱字報告ありがとうございます。助かってます。
面白いと思っていただけたら感想、お気に入り、高評価お願いします。まじでめちゃくちゃモチベ上がります。


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17話

難産でした。
千尋ちゃんの人気でうれしい。


~一之瀬帆波視点~

 

 結局千尋ちゃんを止めることができなかった私は少し時間を置いてからみんなの元に戻る。

 しかし、みんなと作業を再開してもどこか集中できない。ちょっとしたミスを繰り返してしまう。千尋ちゃんをどうやって止めればいいか、このことをみんなに相談するべきか。頭の中がぐるぐるする。楽しみだったはずの無人島生活も今じゃ過去の話だ。

 

「一之瀬さん、手が止まってるけどなにかあった?」

 

「もしかしてさっき千尋ちゃんに何か言われた?」

 

 一緒に作業していた友達たちにも心配されてしまう。ダメダメ、千尋ちゃんのことはあとで考えるとして今は作業に集中しなきゃ。私は頭を振って気持ちを切り替えようとする。

 

「大丈夫だよ。ちょっと考え事してただけだから」

 

「そう?なんかあったら言ってね。最近の千尋ちゃんなんかやばいし」

 

「ほんとそれ!リーダーに立候補したときなんてなんで!?って思っちゃったもん」

 

 そんな言葉を皮切りにみんなは千尋ちゃんの悪口で盛り上がり始めてしまう。切り替えようとした頭がまた引き戻される。やめてよ、千尋ちゃんがあんな風になっちゃったのは私が上手く告白を断れなかったことが悪いんだし、そもそも千尋ちゃんは今クラスのためにスポットを探しに行ってくれてたりこの試験について真剣に考えてくれてるんだよ。どうして悪口なんて言うの? 

 とにかく悪口を止めなきゃ。

 

「ちょっとみんn」

 

「おーい帰ってきたぞ~」

 

 そんなとき食糧探しに行っていたメンバーが帰ってきた。時計を見たらもう16時前だ。みんなの意識も千尋ちゃんの話からそっちに向く。悪口を注意できなかったことは惜しいけどとにかくこの話が終わってよかった。これからは悪口を言う雰囲気なんて作らないようにしないと。

 私は今度こそ気持ちを切り替えて食糧探しの成果を聞く

 

「おかえり!どう?なんか見つかった?」

 

「おう!すぐそこにとうもろこしが生ってたし、ちょっと遠くまでいけばいろんな野菜や果物が生ってたぞ」

 

 探索に行ってたメンバーはそれぞれいくつかの食糧を抱えながら笑顔で報告してくる。どうやら大収穫のようだ。

 

「おぉ~大量だね!この分だと買うのはお肉とかだけでいいかな」

 

「そうだな。あと少し大事な話がある」

 

「あぁ、おい!来てもいいぞ」

 

 神崎くんのその呼びかけで現れたのはたしかCクラスの金田くん。その顔には痣があり痛々しい。

 

「コイツがすぐそこに一人でいてな。事情を聴いてみたところ一之瀬の判断を聞いたほうが良いと思って連れてきたんだ。おい自分から話せ」

 

「事情?その顔の傷と関係あるのかな?」

 

 私の質問に金田くんはポツポツと語りだす。

 

「自分、Cクラスの金田悟というんですが簡単に言うとーーーー」

 

 そうやって金田くんが語った内容は衝撃的のものだった。Cクラスは与えられた300ポイントを早々に使い切り一週間ただバカンスを楽しむつもりなんだとか。そしてそれに反対した金田くんは龍園くんに殴られクラスから追い出されたらしい。信じられない。ポイントをすべて使い切ることはまだしも同じクラスの仲間に手をあげるなんて。

 

「それなら一週間ここにいなよ!いろいろ手伝ってもらうことになるけど。みんなもそれでいいかな?」

 

「そんな!私は他クラスの生徒ですよ。あまりにも警戒心がなさすぎるのでは?」

 

「そうは言っても追い返すわけにもいかないしね。あっもちろんスポット更新のときは目隠しなりをしてもらうよ」

 

 あらためてみんなに確認を取ってみればみんなも賛成のようだ。千尋ちゃんはいないけど優しい千尋ちゃんなら許可してくれるよね。

 

「ありがとうございます。頑張って皆さんに貢献するのでなんでもお申し付けください」

 

 涙を流しながらお礼を言う金田くんをみんなで慰める。たった一週間だけど金田くんにも楽しいって思ってもらえたらいいな。

 

 金田くんを加えた私たちが夕飯の準備をしているといつの間にか千尋ちゃんが帰ってきていた。あいかわらずみんなの輪には入らず一人ポツンと離れたところに座っている。

 私は金田くんのことを報告しようとみんなの元から離れ千尋ちゃんの元へ向かう。

 

「千尋ちゃんおかえり。あのね、さっきCクラスから追い出されちゃったっていう金田くんをここにいてもらおうって話になったんだけどいいかな?」

 

 私はCクラスの状況を含め、金田くんの件について説明する。

 

「スパイなんじゃないの?」

 

「もちろんその可能性はあるけど、だからと言って放っておけないでしょ?」

 

「あっそ、まぁどうでもいいけど。それにしても一之瀬さん、私がリタイアするのには反対とか言ってたのに嘘だったんだ」

 

「どういうこと?もちろん今でも反対だよ」

 

 そんなわけない。私はホントに千尋ちゃんを含めたクラス全員でこの試験を楽しく乗り切りたいと思ってる。

 

「ならCクラスの生徒なんて入れるべきじゃないでしょ。だってスパイの可能性があるんだよ。しかもそれをわかってて入れるなんてまるでリーダーがバレて私がリタイアするのを願ってるみたいだよ」

 

「まって、そんなつもりはないよ。それに金田くんにもスポット更新のときは目隠しするように頼んでるし」

 

「スポット更新のときだけがリーダーがバレる瞬間ってわけじゃないでしょ」

 

「ほんとにそんなつもりはないんだって」

 

 少し口論になってしまう。いくら弁明しようと千尋ちゃんは信じてくれない。たしかにリーダーがバレると考えなかったわけじゃない。でもそれは千尋ちゃんがリタイアしてほしいことにならない。

 

「まぁなんでもいいや、もともとバレたほうがいいっていう作戦だったし。そんなことよりそろそろスポット更新の時間でしょ。その金田くんとやらに目隠しでもなんでもしてくれば?」

 

 千尋ちゃんはもう話すことはないという風に夕飯の準備をしているみんなの方へ歩いていく。

 私もその後を追い、みんなのもとに戻るとみんなに呼びかけスポット更新を行う。もちろん金田くんの目隠しは忘れない。

 

 スポット更新が終わったあと、夕飯の準備を再開するとテントの中に戻ろうとする千尋ちゃんが見える。

 

「千尋ちゃん!もうすぐ夕飯だからね!」

 

「私は大丈夫。そこらへんで適当に果物食べてきたし。それより疲れたから寝る」

 

 私の呼びかけに千尋ちゃんはそれだけ言ってテントの中に入ってしまう。

 

「なにあの態度?なくない?」

 

「まぁまぁ、きっと千尋ちゃんも慣れない環境で疲れてたんだよ」

 

「帆波ちゃんがそう言うならいいけど」

 

 また始まりそうになっていた良くない雰囲気をどうにか止める。でもね千尋ちゃん、私もあの態度は良くないと思うな。

 

 その後、みんなで夕飯を食べているときも結局千尋ちゃんは起きてくることはなかった。

 

 そして夜中、みんな疲れていたのかすぐに眠りについてしまう中、私は千尋ちゃんのことが頭をよぎり中々寝付けない。そんな私の肩が誰かに揺らされる。目を開けて見れば千尋ちゃんだ。千尋ちゃんは話があるのかテントの外を指さしている。

 

「こんな夜中にどうしたの?」

 

「今からスポット更新にいくから懐中電灯を貸してほしいのと昼の報告」

 

「いまから!?危ないよ!」

 

「道は覚えてるから大丈夫。報告だけど追加で二つのスポットを占有しといたから」

 

 千尋ちゃんは更に二つのスポットを占有したという。すごい。

 

「それなら私も行くよ!」

 

「それも大丈夫。私ならまだしも一之瀬さんがいなくなってるのに誰かが気づいたら大騒ぎでしょ?」

 

「そんなの千尋ちゃんがいなくなっても一緒だよ」

 

 千尋ちゃんがまた自分を蔑ろにするよなことを言う。確かに今はちょっとクラスで浮いてるかもしれないけどだからってクラスのみんなは心配しないほど薄情じゃないよ。

 

「ならなおさら一之瀬さんがここに残って私がいなくなったのに気づいた人に誤魔化してもらわないと」

 

「それはそうかもしれないけど、、」

 

「あとこれから不規則な生活を送ることになると思うから私のことは気にかけなくてもいい」

 

「でもご飯はしっかり食べたほうがいいよ」

 

「免疫下げとかないとだし、ご飯も自分で調達するから。じゃあもう行くね」

 

 私のそんな意見にも返答が用意してあったかのようにすぐに返されてしまう。もう千尋ちゃんは覚悟を決めているのだろう。

 

「もし一時間経っても帰ってこなかったら探しに行くからね!」

 

 

 出て行ってしまった千尋ちゃんのことが心配でテントの外で待っていたがそんな心配も杞憂だったのか千尋ちゃんは30分も経たずに帰ってきた。

 千尋ちゃんはそんな私を一瞥すると何も言わずにテントの中に戻ってしまう。待ってたんだから一言くらいくれてもよかったのに。でもよかった、見つけてくれたスポットは近くにあるみたいだ。なんだか安心したら眠くなってきた。

 

 

 

 そんな感じで私たちBクラスは何事もなく試験最終日前日の夜を迎えた。金田くんはいつの間にか消えていた。千尋ちゃんがリーダーだということがバレたのだろう。もしくは千尋ちゃんがわざとバラしたのかわからないが。

 私は結局、千尋ちゃんを説得できないでいた。あれから話しかけても適当に流されてしまう。私は日に日に衰弱していく千尋ちゃんをただ見ていることしか出来なかった。

 

 そして恒例となった夜中の千尋ちゃんのスポット更新の時間。雨の降る中、傘もささずにスポット更新をしに行った千尋ちゃんを傘をさして待つ。なんとも皮肉な状況だ。

 ポイントなんて千尋ちゃんに比べたらどうでもいいと本気で思っているのなら力づくで止めることだってできた。でも私にはそうすることができなかった。それがポイントに目がくらんだのか、千尋ちゃんへの罪悪感からなのかはわからない。ただ今、変わってしまった千尋ちゃんがやろうとしてくれてることを止める権利は私にはないと思った。

 遅い、いつもならもう帰ってきてもおかしくない時間を大幅に過ぎている。雨で足元の状態がよろしくないとはいえだ。もしかしてなにかあったの?

 私は心配になり、懐中電灯を手に持ち森の中に入る。怖い。千尋ちゃんはいつもこんなところを歩いていたのか。

 千尋ちゃんは森に入ってすぐのところで見つかった。よかった。しかし上手く立てないのか木にもたれて止まっている。

 

「千尋ちゃん!」

 

 私が急いで駆け寄ると千尋ちゃんは安心したのかふにゃりとした笑みを見せてくれる。それは久しぶりに見る笑顔でこんな状況なのにうれしく思ってしまう。

 

「来てくれて助かった。ちょっと歩けそうになかったんだ」

 

 そう言う千尋ちゃんの額に手を当ててみれば熱い。どうやら熱があるようだ。

 

「すぐに船まで連れて行ってあげるからね」

 

 千尋ちゃんを背負い、船のもとまで急ぐ。異様に軽い。もともと小柄なほうであったがこの一週間の生活でさらに軽くなったのだろう。

 

「ねぇねぇ一之瀬さん、あのねDクラスのリーダーは綾小路くんだと思うの」

 

 いきなり話しかけられ少し動揺いてしまう。こんな優しい千尋ちゃんの声を聞くのはいつぶりだろうか。それにしてもDクラスのリーダーが綾小路くんか。私たちBクラスはDクラスと協力関係にあり、リーダーがわかったとしてもそれを指名することはできない。そんなことは千尋ちゃんもわかっているだろう。

 

「証拠もなにもないしDクラスと協力関係にあることはわかってる。でもそれでも綾小路くんより私のことが大切って思ってくれてるならDクラスのリーダーを指名してほしい」

 

 言葉に詰まりながらそう言う千尋ちゃん。傘をさしているはずなのに背中が濡れていくのを感じる。あぁ私はこんなにも千尋ちゃんを傷つけてたんだな。

 

「ごめんね千尋ちゃん、それはできない。ここでDクラスとの協力関係を破ることはBクラスの今後の信頼に関わってくると思うんだ。それはクラスポイント50ポイントなんかより絶対に大切だと思うの。でもね、綾小路くんには悪いけど綾小路くんが千尋ちゃんより大切なんてことは絶対ないよ」

 

 千尋ちゃんから返事が返ってくることはなかった。

 

 千尋ちゃんを船の近くの特設キャンプまで連れていくとリタイアとリーダー変更の手続きをして私はテントに帰るために歩き出す。千尋ちゃんが私の言葉を信じてくれたのかはわからない。でも千尋ちゃんがどう思ってても私はこれからあのときの過ちを千尋ちゃんに許してもらえるようにもう一度信頼してもらえるように頑張っていかないといけない。雨は強くなっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一之瀬さん視点終わり。難しかった。上手く書けてたか不安なりけり
次回で3巻終了&千尋ちゃん視点書けるように頑張りたい。



真面目な話。
先日、評価非公開の方から無言評価0をくらい悲しかったので評価受ける際にコメント5文字を試験的に設定しました。というか今まではコメント欄をなしに設定されてた。ごめんね。
よってこれからは理由とともに評価ください!
また試験的にというのは最低コメント数を設けることで評価をくださる方が著しく減るとう噂を聞き、それは本末転倒なのでいったん試しにという形にしていただきます。おわり。

誤字脱字報告助かってます。これからもよろしくお願いします。
面白いと感じていただければお気に入り、感想、高評価をぜひ!モチベがかなり上がります!


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18話

ちょっとミスとミスがあったので再投稿。急いで直したのでなんかまだミスあったら教えてください。
CクラスとDクラスの試験結果に修正入ってます。ごめんね。


船に戻ってきた私はダラダラと過ごしながら試験終了を待つ。しかしダラダラと言っても何もしてなかったわけじゃない。一人で寂しい思いをしてるであろう有栖ちゃんと電話しながら遊んだり、私と同じく体調不良になってリタイアしてしまったかわいそうな六助くんとプールで遊んだり、またもや同じくリタイアしてきたひよりちゃんとおしゃべりしたりだとかとても忙しかった。そうとても。

 ひよりちゃん曰くCクラスはポイントを使い切って全員でリタイアする作戦にしたらしい。やけに三日目あたりから船内が騒がしくなったわけだ。

 そんな感じで迎えた試験終了前日の夜。忙しい日々もあと十数時間で終わるという中、私は船のデッキにいた。あいにくの雨だ。夜の海ってだけでも不気味なのに天候が悪いと余計だ。私の予想が正しければそろそろリタイアしたリーダーが船に戻ってき始めるはずだ。

 

 海をぼーっと眺めていると明かりが船と島をつなぐ階段で動いていた。きた!私がワクワクしながら待っていると上ってきたのはなんと堀北さん!まぁ予想の範疇である。堀北さんは意識がないのか試験の説明をしていた学年主任先生に抱えられている。

 学年主任先生は私を視界に捉えるものの何か言ってくるわけではない。船内でどう過ごそうと自由ということなんだろう。

 それにしても堀北さんがリーダーだったのか、あの自己紹介ができなかった堀北さんが。子供の成長は早いっていうのはこのことだな。リーダーは私の予想通り清隆くんに変わったのかな?そうだといいな。千尋ちゃんに嘘教えたことになりたくないし。

 

 堀北さんがきてから6時間ぐらい経ったとき、また一つの明かりが階段を上ってくる。遅い。案の定、千尋ちゃんだ。千尋ちゃんは意識はあるものの自分で歩くことができないのか知恵ちゃん先生に支えられている。かわいそう。声を掛けるか迷ったが知恵ちゃん先生がいるしやめとこう。なんかめんどくさくなりそうだし。

 堀北さんにしろ千尋ちゃんにしろ頑張りすぎでしょ。まったくありがたいな~。自分の身体は大切にしないとだめなんだぞ。

 

 

 あの後、一時間くらい待っても誰も来なかったので大人しく寝た。まだもしかしたら追加の脱落者がいるかもしれないけどしょうがない、眠かったんだもん。

 そうして迎えた朝八時。眠い目を擦りながらデッキに向かうとそこにはCクラスらしき人々の集団と六助くんがいた。しかし堀北さんと千尋ちゃんの姿は見えない。まだ起き上がれてないのかな?私はしょうがなく六助くんに声をかける。私と六助くんは友達。

 

「おはよー」

 

「やけに眠たそうだねぇ。夜更かしでもしたのかい?」

 

「うん、ちょっとね」

 

 六助くんが眠そうにしている私にジュースをついでくれる。紳士だ。二人でおしゃべりしながら試験終了を待っているとアナウンスが聞こえてくる。

 

『ただいま試験結果の集計を行なっております。暫くお待ち下さい。既に試験は終了しているため、各自飲み物やお手洗いを希望する場合は休憩所をご利用下さい』

 

 私たちに向けられたメッセージでないのは明らかだが、リタイアした私たちにも聞こえるように船内アナウンスに繋いでくれている。優しい。

 アナウンスの通り、暫く待っていると再び船内アナウンスが聞こえてくる。どうやら集計が終わったようだ。

 

『ではこれより特別試験の順位を発表する。最下位は──Cクラスの0ポイント』

 

 周りにいるCクラスの生徒たちが騒ぎ出す。この騒ぎ様を見るにどうやらひよりちゃんは嘘をついていたようだ。ひどい。つまりCクラスは全員リタイアしたと見せかけてリーダーだけ残りリーダー当てに参加した結果ぼろ負けしたということなんだろう。報われない努力もある。

 

『続いて3位はAクラスの120ポイント、2位はDクラスで195ポイント。そしてBクラスは225ポイントで1位だ。以上で結果発表を終わる』

 

 どうやら千尋ちゃんと堀北さんの努力は報われたらしい。千尋ちゃんのクラスが1位か。これはかなり一之瀬さんからの好感度を稼げたんじゃない?よかったね千尋ちゃん。

 それにしても私が関わりが強いクラスがどっちも上位なんて鼻が高いよ。見る人が見たら私が嘘ついてるんじゃないかって思うくらいには鼻が高い。六助くんがリタイアせずに頑張ってればBクラスと同率1位だったのにしっかりしてほしいよ。

 

 

 試験が本当の意味で終了したのか乗船してくる生徒たち。私と六助くんはDクラスのみんなを出迎えるためにデッキで待つ。

 

「やぁ諸君。1週間の無人島生活はどうだったかな?」

 

「高円寺と松崎! お前らのせいで60ポイント失ったんだからな! 分かってんのか!」

 

「落ち着きたまえ池ボーイ。私は体調不良で寝込んでいたのだ。仕方ないだろう?」

 

 なにやら喧嘩が始まってしまった。なんで六助くんはそんな煽るようなことを言うかな?ここは私に任せろ。

 

「まぁまぁせっかく快適な船に戻ってこれたんだから喧嘩はやめなよ。船内はクーラー効いてて涼しいしレストランにはおいしいごはんがあるよ。みんな疲れてるだろうしゆっくり休みなよ」

 

「お前が言うな!」

 

 激おこぷんぷん丸だ。怖い。クラスのみんながこちらをギラギラした目でにらんでくる。一週間の無人島生活は人をここまで野蛮にしてしまうのか。

 私が生まれて結構な年数経つ鹿のように佇んでいるとうしろから青い顔をした堀北さんがやってくる。堀北さんはまだ体調が悪いのか立つのもやっとという感じだ。それこそ生まれたての小鹿のように。

 

「す、鈴音。もう体調は大丈夫なのか?」

 

「まだ万全とは言えないわ。何よりリーダーとしてリタイアしてしまったミスは大きい」

 

 どうやら堀北さんはわざとリタイアしたわけじゃないらしい。ってことはやっぱり清隆くんかな。清隆くんの方を見てみれば目が合う。そしてその目からは何もしゃべるなというテレパシーが伝わってくる。コイツ脳内に直接!?

 まぁDクラスの立役者も誰かわかったことだし。千尋ちゃんのお見舞いでもいこっと。私は相も変わらずこそこそとみんなの輪から抜け医務室に向かう。るんるん

 

 

 

~白波千尋視点~

 

 私が松崎さんと会ったのは最悪のタイミングだった。彼女は私が一之瀬さんに告白していたのを見ていたのか私がフラれて人生に絶望しているところに声をかけてきた。その内容は一之瀬さんが私の告白を自分の色恋のために利用したんだということ、そしてそのことを私に復讐しないのかということ。悪魔のささやきだった。でもフラれたばかりの私は松崎さんの言うことが正しいと思ってしまいその話に乗ってしまった。

 しかし私だって復讐なんてものにそこまで本気だったわけじゃないし、一之瀬さんのことだって本気で疑っているわけじゃない。あくまでこの悪魔を利用して一之瀬さんと付き合えたらな~程度だった。

 

 松崎さんの言う通りに自分を律して周りの友達に冷たくあたる日々が続く。その間、友達がいなくなっていく私は必然的に松崎さんとばかり話すようになるんだけど、松崎さんはとっても頭がいい。入試は満点だってみたいだし、この学校のシステムにも入学初日に気が付いたんだとか。ホントにDクラス?なんて疑ったりもしたが、松崎さんはどうやら出席をポイントで買ってるんだとか。なるほどこれはまごうことなくDクラスだ。

 

 そんな頭の良い松崎さんの思惑通りなのか一之瀬さんが私を、友達の一人ではなく白波千尋自身を気にしてくれる場面が日に日に増えていった。あぁこれが松崎さんの言っていた罪悪感を煽るということなんだろう。なんだろう?一之瀬さんに申し訳ないと思う以上に何かが胸の内からあふれてくる。

 

 そんなこんなで一之瀬さんに罪悪感を与えつつ、次のステップで一之瀬さんの役に立つという場面がやってくるのを待っているとまさにそのためにあるかのような無人島での特別試験が始まった。

 

 そんな試験の際、クラスで完全に浮いてしまっている私がリーダーに立候補するとクラスのみんなはどこか浮かない顔をする。私が浮きすぎててクラスのみんなが浮いてないように見えるだけかな?

 一之瀬さんはしばらく考えた後、私にリーダーを任せてくれる。リーダーなんてまさに頼りになるの象徴だよね!あれ?でもこのあとはどうすればいいんだろう?私がみんなを指揮するのもなんか違う気がするし、このキャラで一之瀬さんの役に立つって難しい。

 

 私がひとりこれからの立ち回り方についてうんうんと考えていると松崎さんが私の元へ助言にやってきてくれる。女神様!

 

 そんな松崎さんはリーダーを体調不良にしてしまってリタイアさせればよいと言う。なるほど盲点だった。たしかに体調不良ならリーダー変更は認められるだろう。やっぱり松崎さんは頭がいい。

しかしそれならリーダーになったのはかなりファインプレーなんじゃないだろうか。

 

 松崎さんからの助言をもとに、私はさっそく行動に移す。松崎さんはもうリタイアするんだとか。まったくあの人は。

 

 私は最終日にリタイアするために身体をいじめる。スポット探しのために山を歩き、スポット更新のために不規則な生活を送り、食事を最小限にしたり。調理に参加してないのにご飯だけ貰うのも申し訳ないしね。

 私が無理をするたびに一之瀬さんが心配して声をかけてくれる。そしてそれを冷たくあしらうと一之瀬さんが悲しそうな顔をする。ただそんな毎日を繰り返す。身体はダルいはずなのに楽しい。毎晩、スポット更新の時に一之瀬さんと2人きりになれる時間も最高だった。

 

 楽しい無人島生活もあと一日になる。体調が本格的に悪化してきたのか頭がぐわんぐわんする。立ってるのすら辛い。 狙い通りとはいえしんどいものはしんどい。

 夜、いつも通りスポット更新に向かう。ただ昨日とは違うのは雨が降っていること。どうせならと傘をささずにスポット更新を行いその帰り、今日も一之瀬さんは待っててくれるかな?雨だからテントの中にいてくれていいよ。私のために雨の中でも待ってて。

 思考がまとまらない。歩くのがしんどい。少し休憩しようと木をもたれ掛かればそこから動けなくなる。あぁ最後の最後で失敗しちゃったかな?私がこのままテントに戻らなかったら一之瀬さんは探しに来てくれる?それとも私が居ないことになんて気が付かない?

「千尋ちゃん!」

 

一之瀬さんだ。探しに来てくれたんだ。やっぱり優しい。

 

「来てくれて助かった。ちょっと歩けそうになかったんだ」

 

「すぐに船まで連れて行ってあげるからね」

 

 一之瀬さんがおんぶして私を運んでくれる。暖かい。

 ねぇねぇ一之瀬さん。私ね、ホントに疑ってないんだ。一之瀬さんが綾小路くんのことを気になってるなんて。私の告白を利用したなんて。

「ねぇねぇ一之瀬さん、あのねDクラスのリーダーは綾小路くんだと思うの」

 

 ホントに疑ってないの。でも頭で分かってても心が分かってくれない。作戦通りいくならこんなこときっと言うべきじゃない。

 

「証拠もなにもないしDクラスと協力関係にあることはわかってる。でもそれでも綾小路くんより私のことが大切って思ってくれてるならDクラスのリーダーを指名してほしい」

 

 きっとこれはただのわがまま。一ノ瀬さんを困らせるだけ。でもお願い、綾小路くんなんかよりBクラスなんかより私を選んで。

 

「ごめんね千尋ちゃん、それはできない。ここでDクラスとの協力関係を破ることはBクラスの今後の信頼に関わってくると思うんだ。それはクラスポイント50ポイントなんかより絶対に大切だと思うの。でもね、綾小路くんには悪いけど綾小路くんが千尋ちゃんより大切なんてことは絶対ないよ」

 

 選ばれたのは私じゃなかった。分かってた。私なんかよりクラスのことを考える一之瀬さんを私は好きになったんだ。冗談だよなんて返したい。でも今は上手くこの心を隠せる自信がなかった。

 

 

 

 医務室で治療をして点滴を打っている私のもとに松崎さんがやってきた。

 

「元気〜?試験どうだった?」

 

「体調はけっこう良くなりましたけど、試験は最後の方でミスしちゃいました」

「ミス?」

 

「最後の最後に我慢できなくて一之瀬さんに気持ちを吐露しちゃいました」

 

私が試験であったことを話すとケラケラ笑う松崎さん。ホントにコイツは。

 

「青春じゃん。それにそれくらいなら大丈夫だよ、むしろナイスまであるんじゃない?」

 

そう言って今後の計画をスラスラ話しだす松崎さん。

 

「どうして、そんなに私のことを助けてくれるんですか?」

 

「え?楽しそうだからだよ?言ってなかったっけ?それよりねーー」

 

ケロッと答える松崎さんはまだ話し終わってなかったのか計画の続きを語る。

あぁ一之瀬さんごめんなさい。私、まだこの悪魔から手が離せそうにないです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ってことでおり主ちゃん&千尋ちゃん視点でした。
一之瀬さんや千尋ちゃんを簡単に落としてもよかったけど二人の成長に期待してしまった。頑張ります。

オリ主「私は恋のキューピット」
千尋ちゃん「悪魔のささやき」

前回、あのあと多くの高評価とコメントをいただきました。非常にありがとうございます。かなりモチベあがあげになりました。まだまだお待ちしてます

誤字脱字報告助かってます。これからもよろしくお願いします。
面白いと感じていただければお気に入り、感想、高評価をぜひ!モチベがかなり上がります!


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4巻
19話


いろいろあっちこっちてんやわんやで投稿遅れました。
というか説明回書くの大変。
割と急いで書いたので変なとこあったら教えてね。


 無人島での特別試験が終わってから3日が経過した。私はなぜかわからないが部屋にいるとルームメイトから無言で睨まれるので船内をフラフラと適当に過ごしていた。

 千尋ちゃんと遊ぶか迷ったが生徒が多い船内では私たちの仲が公になる危険性があるからやめといた。そんな千尋ちゃんの体調だが悪化することがなかったおかげか既に元通りだ。お互いぼっちなのでメッセージのやりとりは頻繫に行っているのだが、どうやら一之瀬さんがちょこちょこ声を掛けてきて対応に困っているらしい。ちなみに無人島試験最終日の一之瀬さんとのやりとりは覚えてない設定にしてもらった。あくまで体調不良の中、ぽろっとこぼれてしまった本音という設定だ。実際そうだしね。一之瀬さんはそれを知って悲しそうな顔をしてたらしい。よきよき。

 はぁ、それにしてもこんなに暇になるなら来なきゃよかったな。でも来なかったら千尋ちゃんを見守ることもできなかった。まったく人生とは難しい。

 

 ダラダラと過ごしながら携帯をいじっていると一通のメールが届く。学校からだ。もしかしたら退屈はここまでかもしれない。私は期待を胸にメールを開く。

 

『間もなく特別試験を開始いたします。各自指定された部屋に、指定された時間に集合してください。10分以上の遅刻をした者にはペナルティを課す場合があります。本日19時40分までに2階203号室に集合してください。所要時間は20分ほどですので、お手洗いなどを済ませ、携帯をマナーモードか電源をオフにしてお越しください』

 

 やっぱり特別試験の始まりの鐘だったみたいだ。自由度が高いといいな。場合によっては今より地獄が始まる可能性あるしね。

 私はさっそく千尋ちゃんにメッセージを送る。

 

『学校からメールきた?』

 

 やはり千尋ちゃんも暇なのかすぐに返信が返ってくる。仲間がいるとうれしいね。

 

『はい、20時20分に202号室に集合らしいです』

 

 どうやら私とは集合時間も場所も違うらしい。クラスによって違うのかな?

 

『私は19時40分に203号室だよ。なんか法則があるかもしれないね』

 

『一之瀬さんは18時40分に206号室らしいです。わざわざメッセージがきました』

 

『クラスごとではないのか。それにしても一之瀬さんから試験についてのメールがくるなんて成長だね』

 

 クラスごとでもないとするとなんだろう?試験の説明するだけなら全員一斉にしたほうが楽なはずだけど。

 

『そうみたいですね。成長って。一之瀬さんのことだから私以外にもクラスメイトに送ってるはずです』

 

『そうかもしれないけど、物事は都合の良いほうに捉えないと。きっと千尋ちゃんに一番に送ってきてるよ』

 

『また適当言ってーー』

 

 千尋ちゃんと適当にやりとりしていると清隆くんからメッセージが届く。そのメッセージには18時に204号室集合とだけ書いてある。清隆くんは業務的なメッセージを送ってくるな。かわいい。

 私も清隆くんに集合時間と場所を送り、試験について考えるが情報が少なすぎてわからない。いーや、時間になればわかることだし考えるのやーめよ。私は携帯をポケットにしまいレストランに向かう。ごっはん!ごっはん!

 

 

 

 指定された時間ぴったりに指定された部屋につけば、部屋の前には数人の人だかりができていた。みんな同じ時間に呼び出しをくらったのかと思えば誰も部屋に入る様子がないので仕方なく部屋に入る。

 

「松崎さん遅い!遅刻だぞ~」

 

 そこにいたのは知恵ちゃん先生とクラスメイトが三人。たしか一人は小野寺さんみたいな名前だった気がする。ほかの二人は見覚えがあるが名前が出てこない。Dクラスのなのはたしかなんだけど誰だっけ?記憶力には自信あるんだけどな~。それとも自己紹介してない組か?

 

「すみません、少し道に迷って」

 

「もう!道がわからないならわからないで早めに出ないとダメなんだぞっ!」

 

 クラスメイトからの視線と知恵ちゃん先生の言動が痛い。激痛だ。遅刻したって言っても一分くらいじゃん。そんなに怒らなくても。舌打ちとかしないで、クラスメイトでしょ?

 私はとげとげしい視線に耐えながら空いている席に座ると話を聞く姿勢に入る。知恵ちゃん先生もそれがわかったのか説明を始める。

 

「それじゃあ今から試験について説明していくけど途中で質問は受け付けないからそのつもりでね。今回の試験は一年生を干支になぞらえた12のグループに分けて、その中で試験を行ってもらうよ。このグループは1つのクラスで構成されるんじゃなくて、各クラスから3人ないしは4人ほど集めて作られるから」

 

 そう言って知恵ちゃん先生は私たち三人にハガキサイズの紙を配る。それにしても12のグループをさらにクラスごとに説明していくのか。先生たちも大変だな。

 

「今配ったのはこのグループのメンバーリストだよ。君たちのグループは『子』。この紙は退室時に回収するから、必要だったら今覚えてね」

 

 渡された紙に目を落としてみればそこには説明通り13人の名前が並んでいた。

 

 

Aクラス;田中雄太 長谷部陽菜 津和博文 

Bクラス:井上風雅 中谷恵 坂東千春

Cクラス:阿部美香 高坂響 中田海 

Dクラス:寺島翔也 毛利絵里 小野寺かや乃 松崎美紀

 

 全然知らない子ばかりだ。というか名前に聞き覚えがないということはやっぱり寺島くんと毛利さんは自己紹介してない組だな。まったく協調性がないのはよくないよ。

 

「今回の試験では、大前提としてAクラスからDクラスまでの関係性を一度無視したほうがいいよ。それが試験をクリアするための鍵になるよ、きっと」

 

 クラス間での関係を無視か。そもそもあんまりクラス内での関係すら危うい私には関係あるのかどうか。

 

「今から君たちはDクラスとしてじゃなくて、子グループとして行動してもらうことになるよ。そして試験の合否はグループ毎に設定されてるから。この試験の結果は4通りしかなくて例外は存在ないからね。その紙に分かりやすく書いてあるから読んで。この紙も退出する時に回収しちゃうからこの場で確認しておくようにね」

 

 そう言って新しく4枚の紙を出す知恵ちゃん先生。くしゃくしゃだ。わかる。紙ってくしゃくしゃになるよね。

 試験のルールは以下の通りだった。

 

『夏季グループ別特別試験説明』

 

 本試験では各グループに割り当てられた『優待者』を基点とした課題となる。

 定められた方法で学校に解答することで、4つのうち1つを必ず得ることになる。

 

・試験開始当日午前8時に一斉メールを送る。『優待者』に選ばれた者には同時にその事実を伝える。

・試験の日程は明日から4日後の午後9時まで(1日の完全自由日を挟む)。

・1日に2度、グループだけで所定の時間と部屋に集まり1時間の話し合いを行うこと。

・話し合いの内容はグループの自主性に全てを委ねるものとする。

・試験の解答は試験終了後、午後9時30分から午後10時までの間のみ優待者が誰であったかの答えを受け付ける。尚、解答は1人1回までとする。 

・解答は自分の携帯電話を使って所定のアドレスに送信することでのみ受け付ける。

・『優待者』にはメールにて答えを送る権利はない。

・自身が配属された干支グループ以外への解答は全て無効とする。

・試験結果の詳細は最終日の午後11時に全生徒にメールにて伝える。

 

 その下には先生の言っていた4つの結果の内の二つが載っていた。

 

・結果1:グループ内で優待者及び優待者の所属するクラスメイトを除く全員の解答が正解していた場合、グループ全員にプライベートポイントを支給する。ポイントの内訳は優待者に100万ポイント、優待者以外の者に50万ポイントである。

 

・結果2:優待者及び所属するクラスメイトを除く全員の答えで、一人でも未解答や不正解があった場合、優待者には50万プライベートポイントを支給する。

 

「この試験の肝は『優待者』の存在。グループには必ず1人優待者が存在して、その優待者が誰かを見極めることが試験の醍醐味。例えば、松崎さんが優待者だとしたら、解答は『松崎美紀』となる。後はこれをグループ全員で共有すればいい。試験終了後の解答時間の間に全員が松崎さんの名前をメールで打ち込めばそれで結果1が確定する。松崎さんには100万ppt、その他のメンバーは50万pptを手に入れるって感じだね」

 

 ここまで聞く限りでは優待者に選ばれた人が多少の差があれど得をするというだけの簡単な試験だ。しかしさすがにそれだけではないだろう。まだ2つの結果しか説明されてないし、なによりこのままじゃただ生徒側が持つポイントが増えるだけのポイント配りゲームだ。そんなラッキーすぎることはないだろう。きっと。でも無人島での試験もマイナスはなかったし、特別試験っていうのはただのボーナスである可能性もあるか。だといいな。

 一日に二回も一時間拘束されるのは癪だが割の良すぎるバイトと考えたら我慢できないこともない。50万ポイントもあればなんでもできるしね。部活もしばらくサボってもいいかもしれない。有栖ちゃんと清隆くんには怒られそうだけどなんとかなるだろう。

 

「こんなの優待者に選ばれるだけで超お得じゃんか」

 

「そうだよね!100万ポイントもあればなんでも買えるよ!」

 

 みんなも貰えるポイントの多さに興奮を隠せないみたいだ。そうだよね、なんでも買える。私の買ってない分の出席も余裕で買えるんじゃない?なんてことはもちろん口には出さない。私は空気が読める子。KYなのだ。

 

「うんうんそう思うよね。でも試験はそれだけじゃないの。裏面を見てくれる?」

 

 大量のポイントが貰えるかもしれない未来にニコニコな私たちをニコニコと見守っていた知恵ちゃん先生が説明の続きを促してくる。

 裏面を見てみれば残り二つの結果が載っていた。

 

 

 以下の2つの結果に関してのみ、試験中24時間いつでも解答を受け付けるものとする。

 また試験終了後30分以内であれば同じく受け付けるが、どちらの時間帯でも間違えばペナルティが発生する。

 

・結果3:優待者以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ正解していた場合。

答えた生徒の所属するクラスはクラスポイントを50ポイント得ると同時に、正解者にプライベートポイントを50万ポイント支給する。

 また、優待者を見抜かれたクラスにはマイナス50クラスポイントのペナルティが課せられる。

 及びこの時点でグループの試験は終了となる。尚、優待者と同じクラスメイトが正解した場合、解答を無効とし試験は続行となる。

 

 

・結果4:優待者以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ不正解だった場合。

答えを間違えた生徒が所属するクラスはマイナス50クラスポイントのペナルティが課せられる。

 またその場合、優待者は50万プライベートポイント得ると同時に、優待者の所属するクラスはクラスポイントを50ポイント得る。

 答えを間違えた時点でグループの試験は終了となる。尚、優待者と同じクラスメイトが不正解した場合、解答を無効とし試験は続行となる。

 

 

 なるほど、やはりただポイントが各自に配られるような試験ではなくてクラスポイントの増減もあるらしい。最大で1グループにつき100のクラスポイントが縮まるのか。上位のクラスを狙っている人からしたらこれほど打ってつけの試験はないだろう。

 優待者はさすがに各クラス3人ずつかな?そうじゃないと有利不利がでちゃいそうだけど。私的にはAクラスなんて興味ないし、全グループが結果1でそろえて学校から生徒へのポイントを増やした方がいいと思うけど、きっとそうはならないんだろうな。

 

「ここまでで何か質問はある?」

 

 どうやらみんなは質問はないらしい。というかまだルールの飲み込みがうまくできていないみたいだ。ロード中。くるくる。それなら私が代わりに質問してあげよう。

 

「結果3,4の場合、優待者を外した生徒もしくは優待者を当てられた生徒に個人的なペナルティはないんですか?プライベートポイントが減ったりとかの」

 

「うん、それはないよ。あくまでクラスポイントが減るだけで。あとね、今回の試験では匿名性を考慮してるから試験終了時には各グループの結果とクラス単位でのポイント増減のみ発表して、優待者が誰だったか、解答者が誰だったかについては公表しないことになってるから。試験終了後に配られるプライベートポイントも学校から受け取り方についてのメールを送ることになってて、みんなの要望次第で一括や分割かを選べるようになってるよ。つまり本人さえ黙ってれば、試験後にポイントを貰ったことがバレないってことだね」

 

 優待者を当てにいってもプライベートポイントには影響なしか。それなら今回の試験の方針は決まったも同然だな。たった12分の1だ。反応を見ればもっと絞れるだろう。自分が優待者だったときは千尋ちゃんにでも教えてあげよう。

 

「みんなには明日から午後1時と午後8時に指示された部屋へ向かってもらって、当日は部屋の前にそれぞれグループ名の書かれたプレートがかけられてあるからね。初顔合わせの際には室内で必ず自己紹介をしてね。室内に入ってから試験時間内の退室は基本的に認められていないからトイレなんかは先に済ませておくように。万が一我慢できなかったり、体調不良の場合はすぐに担任に連絡するんだよ。松崎さんも今回みたいに遅刻しちゃだめだよ」

 

 さらっと流されたが今、とんでもないルールがあった気がする。自己紹介を絶対する?名簿があるのに?自己紹介以外は無言でもいいのに自己紹介は絶対なんて、まるでそこにヒントがあると言っているようなもんだ。というか内のクラスには若干2名、自己紹介が苦手な子いるけど大丈夫かな?

 

「すみません、もうひとつ質問いいですか?」

 

 私が手を挙げて聞くと小野寺さんたちは怪訝な顔を、対して知恵ちゃん先生は楽しそうな顔をしながら質問の続きを促してくる。

 

「自己紹介の定義はなんですか?名前や苗字どちらか片方だけでもいいんですか?それともあだ名でも?好きな食べ物とかも言った方がいいですか?」

 

「うーん、あだ名や好きな食べ物は好きに言ってもらってもいいけど、名前は必ずフルネームで言ってね」

 

 相変わらず楽しそうな知恵ちゃん先生となにもわかってなさそうな小野寺さんたち。私はもう一度、グループ名簿を見る。なるほどなんとなく読めてきたぞ。だからわざわざ干支に倣ったグループ分けなのか。

 

「じゃあもう質問はないかな?」

 

「私はもう大丈夫です」

 

 小野寺さんたちも私に同意するように頷く。ほんとに大丈夫?

 

「それからグループ内の優待者は学校側が公平性を期して厳正に調整しているから、優待者に選ばれても選ばれなくても変更は受け付けないから。あと、学校から送られてくるメールのコピーや削除、転送、改変なんかも禁止だよ。発覚次第ペナルティを課す場合もあるから注意しておいてね」

 

 最後にそう締めくくる知恵ちゃん先生。公平性があるっていうのは各クラス3人ずつの優待者がいるということ。厳正に調整っていうのは優待者に規則性があるということと捉えていいだろう。これクラスで協力して3グループ分の優待者の情報さえ集めれたら嫌でも法則に気が付くでしょ。勝負はどれだけ勇気を持てるかの差になる気がするなー。

 

 

 説明が終わり、知恵ちゃん先生に退室を命じられてみんなで廊下に出る。さて千尋ちゃんと作戦会議だな。

 

「おい松崎、最後の質問どういうことだよ?」

 

 廊下を進む私に寺島くんが話しかけてくる。残りの二人も気になるのかこちらを見てくる。

 

「別に意味なんて特にないよ。強いて言えば内のクラスには自己紹介ができない人がいるみたいだから確認かな」

 

 あえて煽るかのように言う。私は自分に優しくない人と面白くない人のことは好きじゃない。

 

「なんだと!」

 

 案の定怒る寺島くん。扱いやすい。怒りスイッチの感度が良いみたいだ。怒りスイッチ君のはどこにあるかな~。

 

「冗談だよ、念のため聞いておいただけ。じゃあ私はもう行くね」

 

 背を向けて歩き出す私に後ろから寺島くんの声が届く。声おおきいな~。

 

「おい!無人島のときみたいなリタイアだけは許さねーからな!」

 

 こわいこわい。早く逃げなくては。私は返事をすることなくその場から速足で去る。すたこらサッサ。

 千尋ちゃんにメッセージを送っておかなければ。

 

『グループのメンバーとグループ名がわかったら送ってきといて』

 

 さて千尋ちゃんの説明が終わるまでどこを探検に行こうかな?

 

 

 

 

 

 

 




とりあえずおり主ちゃんグループの結果は決定。もう書くまでもないまである。
おり主ちゃん「みんな結果1がいいとおもうな。」
おり主ちゃん「誤答ペナルティはあるんですか?」

あと適当な生徒いっぱい生やしました。

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20話

祝20話
危ないまた一年空くところだった。
ちょっとリアルが忙しいけど、どうしても書きたいは話があるんでそこまでは絶対エタりません(2年前からあった)


 一人寂しく遅めの晩御飯を食べていると、千尋ちゃんからメッセージが届く。どうやら千尋ちゃんも説明が終わったらしい。

 

『Aクラス 葛城康平 西川亮子 的場信二 矢野小春

 Bクラス 安藤紗代 神崎隆二 白波千尋

 Cクラス 小田拓海 鈴木英俊 園田正志 龍園翔

 Dクラス 櫛田桔梗 平田洋介 堀北鈴音 

 グループ名は辰でした。』

 

 どうやら千尋ちゃんは辰グループらしい。ドラゴンか、強そうだ。それにしても桔梗ちゃんに洋介くん、堀北さんか。私がDクラスで話したことある人たちが固まったな。私も交ぜてほしかった。

 

『あくまで私の予想だけど優待者は桔梗ちゃんだと思うな』

 

『どうしてですか?』

 

 クラスポイントのマイナスは痛いけど無人島でみんなが頑張ってくれた分の貯金あるし、まぁいっか。ポイントのために生きてるんじゃないしね。

 

『メンバーを名前の順に入れ替えたとき、5番目に桔梗ちゃんがくるでしょ。それでもって辰は干支で5番目だからかな』

 

『なるほど。たしかにそれだと自己紹介をしなければならない理由の説明もつきますね』

 

『念のために一之瀬さんにでもBクラスの優待者聞いて確認しといてよ。どうせ、報告上がるでしょ』

 

『はい、明日の話し合いまでに聞いておきます』

 

 こういうとき、クラスが一致団結してるのは強いな。3人分だけでも優待者の情報が集まればそこから法則を解くのなんて簡単だし。あくまで法則があればだけど。

 これで法則がなかったらどうしよ。これまためっちゃ恥ずかしい。でも千尋ちゃんに有能アピールするならちょっとでも周りの先にいかないとだしな。難しい。

 

 

 翌朝、朝ごはんを食べにカフェに入ると清隆くんがいた。どうやら一人らしい。

 

「おはよ~」

 

「おぉ、松崎か。おはよう」

 

「一人?一緒してもいい?」

 

「堀北と待ち合わせをしてるがまぁ別にいいだろう」

 

 どうやら堀北さんが後から来るようだ。睨まれないといいな。

 

「ありがと。いや~船に乗ってから誰かとごはん食べるの初めてだよ」

 

「そうなのか?意外だな。松崎なら適当に誰か捕まえてるとでも思っていた」

 

「有栖ちゃんいないから友達と呼べる友達も清隆くんくらいだしね。それに初めての特別試験あったばっかりでみんなピリピリしてるし」

 

「坂柳も一人で寂しくやってるらしいしな」

 

 清隆くんと有栖ちゃんと私の三人のトークグループに海なんかの写真を送れば、有栖ちゃんから恨み言が飛んでくる。かわいい。帰ってからたくさん構ってあげよう。

 

「あっそうだ。私たちのツーショットでも送ってあげようよ」

 

「キレられる未来しか見えないんだが」

 

「いいじゃん。どうせ手の届かないところにいるんだし」

 

 ため息をつく清隆くんを無視して顔を寄せ、写真を撮る。うん、かわいい。

 撮った写真をトークグループに送っていると背後から声がかかる。

 

「どうしてあなたがいるのかしら?」

 

 どうやら楽しい楽しい二人きりの時間は終わりらしい。

 

「おはよ~堀北さん。ごはん食べにきたら清隆くんがいたから、どうせなら一緒にって感じでね」

 

「私たちはこれから試験について話し合うつもりなのだけど」

 

「うん、私は席を外したほうがいいかな?」

 

 私がサンドイッチをつまみながら尋ねると堀北さんがため息をつく。

 

「いいえ、いてくれてかまわないわ。ちょうどあなたの今後の動向についても聞いておかなければと考えていたところよ」

 

「よかった。堀北さんに断られたら泣いちゃうところだったよ」

 

「あら、なら断ればよかったかしら」

 

「やめてよね。それより堀北さんは何も食べなくていいの?」

 

 私は泣いたらすごいんだぞ。泣かない私に少しはほっとした方がいい。

 

「今は必要ないわ。それより昨日の続きを話しましょう」

 

「わかった。学校からの呼び出しの詳細は同じだったのか?」

 

「ええ。12のグループ、4つの結果。そして朝8時に学校から優待者を発表するメールが来ること。違いがあるなら説明を担当した教師が違うくらいね」

 

「松崎も違いはないか?」

 

「うん。私は知恵ちゃん先生が説明してくれたよ」

 

 時計を見れば8時3分前。もうすぐ優待者の発表だ。私の予想が正しければ私と堀北さんは優待者ではないはず。

 

「グループのメンバーと人数は?」

 

 清隆くんの問いかけに堀北さんが私の方を見てくる。どうやらメンバー発表は私からのようだ。

 私が子グループのメンバー13人を暗唱すると、二人とも特に気になる生徒がいないのか適当に流される。かなしい。

  

 続いて堀北さんに目を向けると堀北さんは憂鬱そうな顔をしながら紙を差し出す。グループのメンバーが載ったメモのようだ。用意周到でえらい。

 そしてそこに載っていたのは昨日、千尋ちゃんから送られてきたメンバーとまったく同じメンバー。そりゃそうか。

 

「偶然とは思えないほど偏ってるでしょ」

 

「たしかにこれは必然的な組み合わせと見た方がよさそうだな」

 

 ん?どうやら私ではわからない法則があるらしい。なんだ?改めて紙を見てもさっぱりわからない。わからないことは抱え込まず素直に聞くことが大事。

 

「このメンバーの何が必然的なの?」

 

「何ってわからないのか?」

 

 二人がマジかコイツみたいな目を向けてくる。えっ私また変なこと言っちゃいましたか?

 

「まぁたしかにあなたがわからないのは当然と言えば当然なのかもしれないわね」

 

「このメンバーは各クラスを代表する生徒が集まってるんだよ」

 

 なるほど。代表が集まってるのか、やけにDクラスのメンバーに馴染みを感じたわけだ。それにしても千尋ちゃんがBクラスを代表するメンバーの一人か。計画通りだってやつだね。

 

「あれ?それなら一之瀬さんは?確かBクラスの委員長してるんだよね?」

 

「あなたでも一之瀬さんくらいは知ってるのね。一之瀬さんなら綾小路くんと同じグループよ」

 

「一之瀬も優秀さだけで言えば辰グループに入ってもいいはずだしな。考えられるのはリーダーの素質と優秀さが比例しないってことだろ」

 

 清隆くんのその言葉に堀北さんの方を見ればギロリと睨まれる。こわい。

 

「こういった感じである程度の法則はありそうだけれど、完全に把握するのは難しそうね。学力一つとっても松崎さんのような人が非常に認め難いけど存在するし」

 

「なんにせよ大変だな。このメンバーでは統率もあったもんじゃないだろ」

 

 なんだか今ギリギリ失礼なことを言われた気がするけど気のせいかな? 

 それにしてもグループ毎に難易度の差なんて意味あるのかな?結局は優待者の法則に初めに誰が気づいてそれをクラス内で共有するかだけの試験だと思うんだけど。

 

「そろそろ所定の時間ね」

 

 堀北さんに言われ時計を見るとちょうど8時になったところだった。そして同時にみんなの携帯がなる。どうやらメールがきたらしい。

 3人で携帯を机の上に置き同時に開くとそこにはほぼ同じメールが届いていた。

 

『厳正なる調整の結果、あなたは優待者に選ばれませんでした。グループの一人として自覚を持って行動し試験に挑んで下さい。本日午後1時より試験を開始いたします。本試験は本日より3日間行われます。子グループの方は2階卯部屋に集合して下さい』

 

 違うのはグループ名だけだ。どうやら3人とも優待者ではなかったらしい。私の予想が当たっている確率が少しだが上がったぞ。

 

「優待者に選ばれてたら『選ばれました』に変わるだけだろうね」

 

「全員優待者には選ばれなかったようね」

 

「ラッキーだったね」

 

 優待者に選ばれちゃったら優待者を当てるチャンスがなくなっちゃうしね。最後まで隠し通すより当ててポイントをもらうほうが絶対簡単だ。

 

「どういうことだ?優待者の方が有利だろう?」

 

「えっ?だって優待者には守りしかないじゃん。優待者以外は優待者の正体がわかれば当ててわからなきゃなにもしないっていう攻めと守りどっちもあるんだよ」

 

「簡単にいってしまえばそうかもしれないけれど優待者を見抜くのはそう簡単なことじゃないと思うわ」

 

「それだってそもそも一つのグループで1人の優待者を見つけようとするから大変なだけでクラスでしっかり協力できれば法則の一つや二つ見つかるでしょ」

 

 考え込む2人。どうやら2人とも自分のグループをどういった結果に導くかしか考えていなかったらしい。リーダーの素質と優秀さは違うってのはこのことかな?

 

「あなたは優待者に法則があると考えているのね」

 

「そりゃそうでしょ。じゃなきゃ厳正なる調整なんて言い方しないよ。この試験は各クラスに3人いるであろう優待者を如何に早くクラスで共有して法則を見つけるかが鍵だと私は思うな」

 

「なるほど。そう考えるとDクラスは今回は厳しそうだな」

 

 どうやらDクラスはまだまだ互いに信頼は預けられていないらしい。悲しきかな。

 

「そうね。ただ他のクラスだってそんなすぐには優待者の情報は集まらないはずよ。不本意だけど櫛田さんと平田くんに協力を仰ぎましょう」

 

 そう言った堀北さんが席を立とうとするとこれまた背後から声がかかる。これからは入口が見える向きに座ろう。

 

「いい天気だな鈴音、めずらしく金魚の糞以外にもお友達がいるじゃねーか」

 

 不敵な笑みを浮かべているロン毛の男子と気の強そうな女の子だ。それにしても食事中に不適な発言だ。

 

「気安く名前を呼ばないでと前に言わなかったかしら、龍園くん。それとスパイ活動なんてしていたのに随分とあっさり姿を現すのね、伊吹さん」

 

 どうやら龍園くんと伊吹さんというらしい。

 それにしても龍園くんか、たしかCクラスを代表する生徒の一人として辰グループにいた生徒の一人。そんな龍園くんは私を一瞥するとすぐに堀北さんに視線を戻す。

 

「メールが届いたと思うが結果はどうだったんだ? 優待者にはなれたか?」

 

「教えるわけないでしょう。それとも、聞けば貴方は教えてくれるのかしら?」

 

「お望みとあればな」

 

 どうやら2人は因縁があるらしい。伊吹さんにスパイがどうとか言ってたけど無人島試験でDクラスのリーダー交代にでも騙されたのかな?島に一人残っていたリーダーはもしかしたら龍園くんなのかもしれない。

 

「だがその前に聞かせてくれよ。どうやって無人島試験であんな結果を残せた?」

 

「何を聞かれてもあなたに教えることはなにもないわ」

 

 どうやら龍園くんはまだ無人島試験のからくりに気が付いていないらしい。割と誰でも思いつく作戦だと思ったがそうではないらしい。

 それにしても長くなりそうだな。無人島試験の間起こったこと知らないし、ここにいてもつまらなそう。逃げるか。

 

「お話中ごめんだけど私そろそろ行くね」

 

「おいおい待てよ。お前のことだって疑ってるんだぜ松崎美紀。出席を買うなんておもしろいことをしやがる」

 

 席を立つ私に龍園くんが待ったをかけてくる。なるほど私のことも調べているらしい。

 

「無人島試験のことならわからないよ。なんたって私初日でリタイアしたしね」

 

「ククッ、心配するな、ひよりから報告は上がっている。今回に関しては鎌をかけただけだ」

 

 なるほど龍園くんはもしかしなくてもおもしろい子だ。翔くんにランクアップだな。翔が鎌をかける。

 

「ホントに何もないんだけどな~。まぁいいや私もう行くね」

 

 堀北さんから制止の声が聞こえた気がするけど聞こえないふりをする。私は卑怯者。

 

 

 そそくさとカフェから出るとちょうど千尋ちゃんからメッセージが届く。タイミングバッチリ。なんならバッチリすぎて少し怖くなって周りを見回してしまう。どこかから監視してるわけじゃないよね。

 

『松崎さんの予想通りでした。Bクラスは一回目の話し合いが終了次第、優待者を当てに行く手筈で決まりました』

 

 なんて有能な子なのだろう。Bクラスの未来は明るいぜ。きらきらだ、眩しくて心が奪われそう。

 

『了解』

 

 よし!昼まで寝るか!私は医務室に急ぐのであった。部屋だとDクラスの話し合いのために起こされちゃうかもだしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おり主ちゃんいつも逃げてるな

あと現在の各クラスのクラスポイントは多分こんな感じ
Aクラス 1124(原作通り)
Bクラス 888 (原作+85)
Cクラス 492 (原作通り)
Dクラス 282 (原作-30)
多分合ってるはず
こう見るとおり主ちゃんの影響すごいな

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21話

お気に入り3500人感謝です。まだしてないよ~って人はぜひ!


 そして迎えた13時数分前。もうすぐ一回目の話し合いが始まろうとしているが悲しいことに私にはおしゃべりをするような知り合いがいないので一人寂しく携帯をいじっている。かなCこえてかなDやんけ。

 

『ではこれより一回目のグループディスカッションを開始します』

 

 どうやら始まってしまったようだ。今から一時間も拘束されるのか。周りを見回してみれば緊張している子、特に何も考えてなさそうな子、余裕のありそうな子と12人12色といった感じだ。嘘。実際は6色くらいしか見分けられない。色彩感覚が優れている人なら12色に見えるんだろうな。そしてその中でもどこか自信ありそうに見える3人が固まって座っている。おそらくあれがBクラスの生徒たちなのだろう。

 そんな様々な雰囲気の生徒たちが集まっているが、誰も話し始めることはなくどこか重たい空気が流れていた。まぁそれもそうか、目立ちたくないもんね。

 

 互いの顔色を伺い合う時間を数分ともたなかった。というかきっとみんなこの状況に慣れたのだろう各自がそれぞれのクラスでおしゃべりを開始した。どうやら面倒な自己紹介や全体での話し合いは後回しにすることに決めたらしい。私が所属するDクラスのメンバーもどこか嫌そうな顔をしながらおしゃべりをしている。そしてそのメンバーの中にやはりというか私は参加できていない。かなEだ。

 

「おい、自己紹介しなくていいのかよ」

 

 一人寂しく携帯をいじっていると寺島くん*1が小声で話かけてくる。どうやら自己紹介が終わっていないことが不安らしい。それにしてもどうして私に聞くんだろう?

 

「どうして私に聞くの?」

 

「お前は知らないかもしれないがさっきまで試験について話し合ってたんだよ。んでその時に堀北にわからないことがあったらお前に聞けって言われたんだよ」

 

 どうやら堀北さんの差し金らしい。面倒なことを押し付けてくれたと怒ればいいのか、暇つぶしをくれたことに感謝をすればいいのかわからないな~。それにしたってそんな嫌そうな顔しなくてもいいのに。まぁ私がDクラスにしていることを考えれば当然といえば当然だけど。

 

「なるほどね、それなら自己紹介はした方がいいと思うな。なんかペナルティがあるかもしれないでしょ。それにみんな目立ちたくないのか話し始めないけど、実際は優待者以外は目立っても問題ないはずだし。それとももしかして寺島くんは優待者?」

 

「ちげーよ。ってかならお前から自己紹介しろよ」

 

「私は目立ちたくないからパス」

 

「おい!お前もしかして優待者なのか!?」

 

 寺島くんが小声で驚いてくる。少しおもしろい。それにしてもクラスで作戦会議したなら、私が優待者じゃないことどころかクラスにいる3人の優待者すらわかってそうなもんだけど違うのかな?情報漏洩を防ぐためにクラスでも数人しか優待者の情報を知らないとかかな?

 

「残念ながら私じゃないよ。なんなら堀北さんと清隆くんにはメール見せてるから後で確認するといいよ」

 

「チッなんだよ、紛らわしいこと言うんじゃねーよ」

 

「ごめんごめん」

 

「ってかならなんで目立ちたくないんだよ」

 

「私は気が弱いんだよ」

 

「嘘くせーこと言いやがって。まぁいいわ、自己紹介もまともにできないお前に自己紹介のやり方ってのを見せてやるからよく見とけ。自己紹介すらせず無人島のときみたいにクラスの足引っ張るのだけは許さねーからな」

 

 どうやら昨日私が煽ったことへの意趣返しらしい。ドヤ顔しててかわいい。それにしてもそうか、私はクラスメイトから見たら自己紹介をするかどうかもあやしいのか。なんか自分の今までの行いにまったく後悔はないけどそれはそれとしてなんかかなFだな~。

 寺島くんは私に宣言した後、立ち上がり自己紹介を始める。有言実行できてえらい。

 

「Dクラスの寺島翔也だ」

 

 うん、なんていうかコスパの良い自己紹介だ。ほんとに一方的に情報を投げつけているだけで、紹介されてる感ゼロだ。こちらにドヤ顔を向けてくるがどう反応すればいいかわからない。

 

「じょうずに言えたね」

 

 私は褒めて伸ばす方針なのだ。手を伸ばし寺島くんの頭をなでようとするとはじかれる。いたい。

 

「しばくぞ。ほら次はお前がしろ」

 

 どうやら次は私の番のようだ。寺島くんのおかげでみんなの注目がこちらに向いている。たしかにこのタイミングで自己紹介するのが一番目立たないだろう。ナイス。

 私は立ち上がると周りを見て、ひとりひとりと軽く目を合わせる。そしてみんながこちらに注目していることを確認すると自己紹介を始める。

 

「寺島くんと同じくDクラスの松崎美紀です。とりあえず今日から三日間よろしくお願いします」

 

 私が頭を下げるとパラパラと拍手が鳴る。これが優等生の力だ。そうして隣に座ってる名前も知らない誰かに流れるように自己紹介をパスしながら席に座ると寺島にドヤ顔を送る。寺島くんも自己紹介力が負けたことが分かっているのか悔しそうだ。フッ自己紹介力たったの5か、ゴミめ。

 

 そうしてみんなが簡単な自己紹介を順番にしていくとまた訪れる沈黙。みんな自己紹介以外何を話せばいいのかわからないらしい。というかもう何も話さなくてもいいしね。寺島くんがなんか話しかけてきてたけど適当にスルーする。おそらく優待者だと思われる阿部さんもどんな子かわかったしね。 

 みんなが自己紹介前と同じように周りと雑談したり携帯をいじったりしているのに乗じて私は学校への優待者報告のためのメールを作成していく。Bクラスの子より早くそしてほぼ同時にメールを送らないとだしね。それにしてもこんなのが試験でいいのだろうか?このまま優待者を当ててしまえば時給50万のバイトだ。しかも50クラスポイント付きの。この学校を卒業した後の金銭感覚で苦労しそう。

 

 

 そんな感じでダラダラと過ごしていると一時間が経過したのかグループディスカッション終了のアナウンスが鳴る。何も議論してないけど。

 退室する生徒もちらほらいる中、私はメール送信ボタンに手を掛けた携帯をポケットにしまうとBクラス生徒たちへ目を向ける。どこか浮足立っている様子で携帯をいじる子とそれを隠すように囲む二人。どうやらここでメールを送るつもりらしい。よし30秒、いや後10秒経ったら送ろう。私がはらはらと数を数えているとまたもやアナウンスが鳴る。

 

『寅グループの試験が終了いたしました。寅グループの方は以後試験に参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないように気を付けて行動してください』

 

 私は慌ててメールを送る。びっくりした~。他のグループでよかった、心臓に悪いよまったく。

 

『子グループの試験が終了いたしました。子グループの方は以後試験に参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないように気を付けて行動してください』

 

 子グループ終了のアナウンスが鳴る。Bクラスの子に目を向ければ何やら慌てて周りを見渡している。どうやら勝てたらしい。セーフ。寅グループに続き子グループの試験が終了したことに慌てているみんなに合わせて神妙な顔をしているとどんどんと終了のアナウンスが鳴っていく。その数、8個。寅と子を合わせれば10個のグループが終わったことになる。

 Bクラスが優待者のクラスが3つあるはずだから、9つグループが一気に終わると思ったがどうやら違ったらしい。Bクラスの優待者が誰か当てたグループが一つあるということなのだろう。そして一つだけということは優待者の情報をクラスで共有しているわけじゃなくて個人で当てたということ。まぁこれは当たっていた場合の話でどっかの誰かが適当に優待者当てに挑戦した可能性も十分にある。私だって法則思いつかなかったらそうしてただろうし。

 

「おい!どういうことだよ!」

 

「その様子だとDクラスの仕業じゃないんだね。まぁどっかのクラスが優待者の法則に気づいたんだろうね」

 

 寺島くんとその他二人がこちらに詰め寄って来る。何が起こっているのかわかっていない様子だ。それにしたって私に聞かなくてもいいのに。堀北さんめ。

 

「お前がやったんじゃないだろうな」

 

「私じゃないよ。とりあえずDクラスに優待者がいるグループが終了してるか確認した方がいいんじゃない?」

 

 鋭いな寺島くん。名探偵かな?真実はいつも一つ。舌打ちをする寺島くんにどう対処しようか迷っていると小野寺さんが携帯の画面を見せながら声を掛けてくる。

 

「402号室に集合だって」

 

 どうやらクラスのトークグループらしい。えっ私誘われてない。嘘でしょ桔梗ちゃん。かなG。涙が止まらないかもしれない可能性があるかもしれない。

 

「おいお前も行くぞ!」

 

 いつの間にか3人が入口の方まで移動している。どうやら私も行くらしい。グループにいない私が行ったら変な顔されない?私の席ちゃんとある?

 

「うん」  

 

 だめだ。情けない返事になってしまう。くそう。

 別にトークグループに入りたかったわけじゃないし、ていうかクラスとかどうでもいいし。誘ってもらえなかったのが少しかなHなだけで私一人でも全然大丈夫だし。友達なんか作ったら人間強度が下がっちゃうもんね。

 笑っちゃうくらい適当な言い訳をつらつらと考えながら寺島くんたちの後ろを付いて行っているとまたもやアナウンスが鳴る。

 

『卯グループの試験が終了いたしました。卯グループの方は以後試験に参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないように気を付けて行動してください』

 

『未グループの試験が終了いたしました。これにて全グループの試験が終了しました。結果をお待ちください』

 

 どうやら全てのグループの試験が終了したらしい。三日どころか一時間くらいで終わった。なんともあっけない試験だったな~。寺島くんたちも動揺している様子だが今は集合場所に行くことを優先したのか早歩きで進んでいく。

 それにしても結果発表はこの場合でも三日目にするのだろうか?なんとも無駄な時間を二日間過ごすことになるけど。どのクラスが優待者当てに成功したかなんて考えるより聞いた方が早いだろうし。 

 私のそんな疑問に答えるように今日何度目かもわからないアナウンスが鳴る。

 

『え~想定よりもかなり早く全グループの試験が終了してしまったため試験結果の詳細の発表を本日の午後11時に変更します。繰り返しますーーー』

 

 今までのカセットを流しているだけの音声とは違い、人の感情のこもった声だ。どうやら想定外であることは嘘ではないらしい。ドンマイ。

 さて我らがDクラスの運命は如何に!次回へ続く!

 

「おい!もたもたすんな!」

 

 私はまた離されていた寺島くんたちとの距離を小走りで埋めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*1
19話参照




寺島くん今後も登場するかは未定だけど作者は結構好き

誤字脱字報告助かってます。これからもよろしくお願いします。
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22話

4巻終わり。


 たどり着いた402号室はどこか重たい空気が流れていた。明らかに定員オーバーなこの部屋に1クラス全員が集まってるのも相まって多分二酸化炭素濃度がかなり高めだ。

 そんなみんなの顔に目を向けてみればやはりどこか暗い顔をしている。この顔がDクラスの今回の試験の勝敗を表しているようで笑える。

 

「高円寺くん以外全員集まってくれたみたいだね。さっそくで悪いんだけどこの中で優待者当てを行った生徒はいるかな?いたら手を挙げてほしいんだけど」

 

 洋介くんが前に立ち全員に呼びかけるがみんなきょろきょろと周りを見るだけでその呼び声に挙がる手は一つもない。それにしても六助くんは来なかったのか。まったくクラスの話し合いに参加しないとは何事だ。

 

「うん、ありがとう。どうやら他のクラスに先を越されてしまったみたいだね。本当なら残りの2グループについての作戦会議をするつもりだったけど、それも集合してる途中に終了してしまったし、あとは優待者を外していることを願うことしかできないみたいだ。」

 

 洋介くんは少し疲れたような顔でそう述べると一言謝罪をし、解散を言い渡した。まぁこれ以上ここで大人数で話し合っても無駄だしね。ポツポツと誰に向けたわけじゃない文句を言う生徒がちらほらいるが誰も声を大にすることなく洋介くんに促され部屋から出ていく。きっとみんなまだ状況を飲み込めていないのだろう。

 

 そんなみんなに続いて部屋から出ようとすると堀北さんと目が合う。どうやら私になにか用があるらしい。しょうがないな~。退室していくみんなの流れに逆らい、堀北さんの方に行けばそこにいるのは堀北さんに洋介くん、桔梗ちゃん、清隆くんの4人だった。私のDクラスの知り合いオールスターズかな?

 

「私に何か用かな?」

 

「ええ、私は正直あなたが優待者を当てにいったんじゃないかって疑っているの」

 

 他の三人の顔を見てみればみんな同じ意見らしい。ひどい。同じクラスの仲間を疑うなんて。

 

「だったらなんなの?仮に私だとしたら少しでもクラスポイントのマイナスを減らせてラッキーじゃん」

 

「あら?まるで優待者がわかっているみたいに言うのね?」

 

「私が当てに行くなら確信を持って当てにいくって言ってるんだよ。残念ながら私には優待者を教えてくれる友達なんていないからね、法則も何もあったもんじゃないよ」

 

「あなたなら法則が分からずとも表情や態度からでも優待者を当てることができても不思議じゃないわ」

 

 堀北さんは私のことをメンタリストとでも思ってるのかな?堀北さんのこの私への絶大の信頼はなんなんだろう?重い思いだ。

 

「ムリムリ。そんなことより初めに当てられなかった残りの2グループの優待者がどこのクラスか考えたほうがいいんじゃない?まぁ23時になればわかることだけど」

 

「いいえ私はそれより初めの10グループの中にいる個人で当てた人物を特定するべきだと考えているわ」

 

 なるほどそれはそうかもしれない。個人側にいたから気づかなかったけどクラスから見ればそちらの方が脅威か。確かに私も初めにBクラスがリーダーのグループを当てた子は気になる。

 

「たしかにそうかもね。それでDクラスの3人の優待者はわかっているんでしょ?法則はわかったの?」

 

「いいえ残念ながら」

 

「ふ~ん、ちなみに清隆くんは?」

 

「堀北にわかっていないのにオレにわかるはずないだろう」

 

 どうやら法則まではたどり着けなかったらしい。というか清隆くん、一瞬焦ったのバレバレだぞ。どうせいつかバレるんだから、初めから自分を晒してたほうが楽なのに。

 

「なら私も気になるし考えてあげるよ。全グループのメンバーとわかっている優待者の情報教えて」

 

「はいこれ」

 

 そう言って桔梗ちゃんが手渡してきたのは全グループのメンバー表。そしてその中に丸がついた名前が三つ。おそらくこれがDクラスの優待者だろう。しかしぱっと見でもわかるがこのメンバー表には明らかに全生徒分の人数が足りてない。虫穴がいくつか空いてる。

 

「なんで全員分の名前がないの?」

 

「信じられない話だけれども、自分のグループのメンバーを覚えていない生徒が少なくない数いたのよ」

 

「まじ?」

 

「まじよ」 

 

 なるほど。これがDクラスか。これならメンバー表ない方がいいまであるんじゃない?

 

「よし!解散!」

 

「逃がさないわよ」

 

 松崎はにげだした!しかし、まわりこまれてしまった!どうやら逃がす気はないようだ。

 しかし困った。これから答えのわかっているパズルを頭をひねらせながら考えないといけないらしい。それも怪しまれないように。非常にめんどくさい。

 

 そうして始まった法則探し。机に不完全なメンバー表を広げながらうんうんと悩む4人を横目に考える。考えるべきは試験の結果だ。

 まず、わかっていることはBクラス以外のクラスの生徒が優待者の9グループの内、8グループをBクラスが1グループを私が優待者当てをしたこと。これはたしかだ。そして残りのBクラスの生徒が優待者である3グループの優待者当てをどこのクラスがしたかについてだけど、まず確実に最後の卯、未のグループを当てにいったのは同じクラスと考えていいだろう。つまりAクラスかCクラスだ。そしてこれはおそらく優待者当てに成功しているだろう。よって個人で動いているであろう子をXと置くなら考えられるパターンは6つだ。

 パターン1はXが卯、未グループの優待者を当てたクラスと同じ場合で優待者当てに成功しているとき。今回は仮にAクラスとすると

・Aクラス 変動なし

・Bクラス +250ポイント

・Cクラス -150ポイント

・Dクラス -100ポイント

 

 パターン2は条件は途中まで同じでXが優待者当てに失敗しているとき。

・Aクラス -100ポイント

・Bクラス +350ポイント

・Cクラス -150ポイント

・Dクラス -100ポイント

 

 パターン3はXがCクラスの場合で優待者当てに成功しているとき。

・Aクラス -50ポイント

・Bクラス +250ポイント

・Cクラス -100ポイント

・Dクラス -100ポイント

 

 パターン4はXがCクラスの場合で優待者当てに失敗しているとき。

・Aクラス -50ポイント

・Bクラス +350ポイント

・Cクラス -200ポイント

・Dクラス -100ポイント

 

 パターン5はXがDクラスの場合で優待者当てに成功しているとき。

・Aクラス -50ポイント

・Bクラス +250ポイント

・Cクラス -150ポイント

・Dクラス -50ポイント

 

 パターン6はXがDクラスの場合で優待者当てに失敗しているとき。

・Aクラス -50ポイント

・Bクラス +350ポイント

・Cクラス -150ポイント

・Dクラス -150ポイント

 

 こんな感じか。最高なのはパターン6でそれ以外なら私に疑いの目が向けられるだろう。強いて言えばパターン5でもギリセーフってところか。そしてパターン6になったとしても、クラス間で優待者の情報やどこのグループでどのクラスが優待者当てを行ったかすり合わせていけば結局は私の存在は浮き彫りになっていく。そしてそれは最終的に私個人の特定にまでつながるかもしれない。スーパーピンチだ。50万に目がくらんでしまった。でもしょうがないよね、50万だもん。うん、だめだな。考えるのはやめよう。問題は先延ばしにするのが一番だ。不確定なことを気にしてたってしょうがない。明るいことだけを考えるんだ。

 

「他のクラスの子に聞いた方がはやいんじゃない?」

 

「私に頭を下げろと言うの?」

 

 考え込む四人に垂らした蜘蛛の糸に縋るのはどうやら堀北さんのプライドが許さないらしい。他の3人は飛びつきたそうにしてるけど。

 

「そうは言ったってもう試験も終わったんだし、考えたって無駄だよ。桔梗ちゃんや洋介くんなら他のクラスに友達も多いでしょ?」

 

「おい待て、なんで今オレを外した?」

 

「あなたには友達がいないことなんてみんなわかっているからよ」

 

「それブーメランだぞ」

 

 堀北さんも行き詰まっていたのか清隆くんへの口撃を行う。仲いいな。

 

「たしかに松崎さんの言う通りかもしれないね。何人か友達にあたってみるよ」

 

「私も~」

 

「ってことで友達のいない私は部屋に戻りま~す。法則わかったら教えてね」

 

 今度こそ部屋から出ようとする私。堀北さんもこれ以上考えても無駄だとわかっているのか今度は止めてこない。結構時間を取られてしまった。さっきから携帯に通知がきているし、おそらく千尋ちゃんからなんらかメッセージが着ているのだろう。

 

「オレもどうやら役に立てないようだし行くかな」

 

 そんな私の後ろをとぼとぼと付いてくる清隆くん。かわいい。そんな清隆くんと部屋の外に出る。どうやら三人はまだ法則解明に挑むらしい。努力家でえらいね。

 

「ほんとにお前じゃないのか?」

 

「どっちだろうね」

 

 廊下を歩きながら清隆くんが話しかけてくる。どうやら疑いというよりは確認のようにも聞こえる。そして清隆くんはどこか楽しそうに続ける。

 

「無人島での試験で龍園という男の脅威と高円寺の潜在能力を見た。しかも終わってみればBクラスも十分脅威になることがわかった。そしてAクラスには今回の試験に不参加の坂柳がいる。この学校はまだまだオレを楽しませてくれるらしい」

 

「それはよかった。そんな清隆くんは今回の試験ではどこが勝ちだと思う?」

 

「Cクラスと言いたいところだが終了アナウンスが鳴ったときの態度を見ればBクラスだろう」

 

「だとしたら有栖ちゃんもうかうかしてられないね。今回の試験でAクラスとBクラスが入れ替わることになるだろうし」

 

「ああ、それにBクラスにも脅威となる存在がいると堀北が認識すれば一段と無茶ぶりが増えるだろうな。憂鬱だ」

 

 やはりどこか楽しそうな顔の清隆くん。前線に出るつもりはないらしいがそれでも堀北さんの手伝いを通していろんな人と関わりと増やしていき、それに楽しみを感じているらしい。よかったね。

 

 清隆くんと談笑をしながら部屋まで送ってもらい別れる。携帯を開いてみれば千尋ちゃんと有栖ちゃんからメッセージがいくつか届いているがいったん無視だ。今日は疲れた。昼寝もしたのにもうくたくただ。おやすみ世界よ、またいつか。一応目覚ましは23時に合わせておこう。

 

 

 起きてみれば部屋は暗い。どうやらルームメイトは眠りについているらしい。手探りで携帯を探し、開いてみれば時刻は午前2時37分。どうやら目覚ましでは起きれなかったらしい。目覚ましを止めてくれた誰かありがとう。

 部屋から静かに出てメールを開けば午後11時にしっかりと学校からメールが届いていた。

 

『子(鼠)──裏切り者の正解により結果3とする

 丑(牛)――裏切り者の正解により結果3とする

 寅(虎)――裏切り者の正解により結果3とする

 卯(兎)――裏切り者の正解により結果3とする

 辰(竜)――裏切り者の正解により結果3とする

 巳(蛇)――裏切り者の正解により結果3とする

 午(馬)――裏切り者の正解により結果3とする

 未(羊)――裏切り者の正解により結果3とする

 申(猿)――裏切り者の正解により結果3とする

 酉(鳥)――裏切り者の正解により結果3とする

 戌(犬)――裏切り者の正解により結果3とする

 亥(猪)――裏切り者の正解により結果3とする

 

 以上の結果から本試験におけるクラス及びプライベートポイントの増減は以下とする。

 ・Aクラス -150cl 変動なし

 ・Bクラス +250cl +400万pr

 ・Cクラス -50cl  +100万pr

 ・Dクラス -50cl  +100万pr

 

 

 どうやらパターン5だったみたいだ。前提条件がAクラスとCクラスで逆だったけど。それにしてもどこのクラスがどれだけのプライベートポイントを得たのかも出るのか。なら私の仮説なんの意味もないじゃん。はぁ~疑われるんだろうな~。Bクラスから子グループで優待者当てが出来なかった情報が出回らないといいけど。Xは本命六助くん。次いで清隆くんって感じだろう。まぁ私が知らない生徒のほうが多いし何とも言えないけど。

 しかし何はともあれこれで試験も終わりだろうし、あと数日船での旅を満喫したら夏休みだ!ではおやすみ。

 

 

 

 

 




もっとパって結果だけ書くつもりが堀北さんが邪魔してきた。
ちなみにおり主ちゃんの弱点として自由を奪われた日はストレスや疲れでたくさん寝てしまうというものがあります。決して私が時間を飛ばしたいからではありません。えぇ決して。
あとクラスポイントはこんな感じ
旧Aクラス(坂柳クラス) 974ポイント
旧Bクラス(一之瀬クラス)1138ポイント
Cクラス(龍園クラス)  442ポイント
Dクラス(綾小路クラス) 232ポイント

誤字脱字報告助かってます。これからもよろしくお願いします。
面白いと感じていただければお気に入り、感想、高評価をぜひ!!!!
モチベがか~なり上がります!ガチムチです。       


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4.5巻
23話


4.5巻開始です。夏休みの思い出を各キャラに焦点当てて数話かいていくつもり。
一発目は坂柳さん。なんかミスって独白になってしまった。
会話が一つもないので読むの苦手なひとはメンゴです。でもおもしろいと自負してるのでぜひ読んでください。


 ~坂柳有栖視点~

 

 夏休みが始まったかと思えば、特別試験なるものが始まりみなさん豪華客船で旅行に行ってしまい、体調面の都合で参加することができない私は一人寂しく学校で待機です。まったく浮かれて美紀さんと綾小路くんと行きたい場所、したいことなんてものをリストアップをしていた私がバカみたいじゃないですか。

 一人寂しくチェス盤と向かいながら待つ2週間はとても退屈でした。今までなら家で一人で過ごしていても退屈なんて感じなかったのに不思議です。私も絆されてしまったということでしょうか?

 

 待っている間に神室さんから届く特別試験の概要と結果を見て葛城くんの地位が確実に落ちていっていることへの喜びと今まで軽く視界に入れる程度でしかなかったBクラスへの興味。まさか一之瀬さん率いるBクラスにこれほどの能力があったとは。早くクラスを掌握して戦ってみたいです。

 

 美紀さんから届くメッセージでは試験のことなんて一切触れられず、ただただ綺麗な景色や美味しそうなご飯など美紀さんが船上生活を満喫していることがわかる様な写真ばかりが送られてきます。美紀さんにどういう意図があるかわかりませんが、というか十中八九煽りなのですがかなり腹が立ちます。そんな写真たちの中でも特段私の心を揺さぶったのは綾小路くんと美紀さんのツーショット写真。朝食を一緒にとったのでしょう。笑顔で綾小路くんに体を寄せる美紀さんと無表情ながらも動揺を隠せていない綾小路くん。ちょっと距離が近すぎるんじゃないですかね?帰ってきたら説教です。ふと気になりなんとなく自分の写真フォルダを開いてみればそこには業務的な写真ばかりであり、思い出になるような写真は一枚もありません。

 

 思えばこれまでの人生、人と対等に思えるような関係を築いたことはありません。昔から周りにいる同級生たちとはどこか話が合わないどころか話が成立しないなんてことも多々ありました。幼い頃は私が簡単に理解できることが理解できない人がいることが理解できず苦しんだこともありました。しかしそれも慣れれば受け入れることができました。私と彼らは違うこと、どうやら人は刻まれたDNAつまり生まれたときに与えられた才能以上のことはできないこと、そして私はどうやら世の中で言う天才に分類され、彼らはそうでないこと。

 理解すれば簡単です。私が彼らを使ってあげれば良いのです。駒はただそこにあるだけでは何の価値もありません。優れたプレイヤーが駒を動かすことで初めてそれぞれの真価を発揮するというものです。その考えに至ってから私は他人に期待することは止め、自己研鑽に努めました。もともと身体が弱かったこともあり、より机に向かうようになりました。

 

 そんなある日、父に連れられて向かった先はホワイトルームなる教育機関の見学。概要を聞けばどうやらここは天才を作り出す施設らしい。なんとも馬鹿らしいと思います。見学を続けていけば確かに効率的であろうと思われる教育の数々、そしてその与えられた課題を達成することができず脱落していく子供たち。そしてその中でもひときわ異彩を放つ子供が一人。それが綾小路くんとの出会いでした。正確には私が彼を観測しただけなので出会いと言うのは違うのかもしれませんが。

 私は悔しいことに与えられた課題を淡々とこなしていく綾小路くんに目を奪われたのです。こんな私の信条と真逆の施設で育った彼、そしてそんな彼に目を奪われてしまった自分が許せなくて私はより勉学に力を注ぐことになります。思えばチェスに出会ったのもこの時でした。

 

 いつか綾小路くんを、ホワイトルームという存在を否定できる日を待ち望んで自分で言うのもなんですがかなり努力してきました。しかしそんな私に挫折を味わわせたのは中学2年生のときです。いつも通り一位を取れるものだろうと臨んだ全国模試。それなりにできたと思っていたのですが返ってきた結果を見てみれば順位は2位。1位を見てみれば全教科満点という結果と松崎美紀という名前。見たことない名前でした。過去の模試結果を掘り起こしても少なくとも上位にはどこにも存在しない名前。私自身の点数を見ても決して悪いとは言えませんむしろ良くできたほうだと感じます。もちろんうっかりミスもあったでしょう。それでも全教科満点という結果には負けを認めるしかありません。私は悔しいと思う反面どこか高揚感を覚えました。自分以上の才能を持った相手とこれから何度もテストという目に見える結果で戦うことができること、どこか漠然としかしていなかった私の目標が随分わかりやすいものに変わりました。しかし一層勉学に打ち込み、再戦を夢見て模試に挑んでも松崎さんが順位表に現れることは2度とありませんでした。

 

 

 そんな私は中学校を卒業すると、父の勧めで父が理事長を務める東京都高度育成高校に入学をします。この学校のシステムを理解し、プライベートポイントの重要性に気づいた私はもはや日常の一部となっているチェスでポイントを稼げるのではと考え、部活動紹介と部長さんの説明で賭けが行われていることを確認しボードゲームに入部を決意します。そしてそこで衝撃の事実を耳にします。それは既に一人、入部した者がいること。そしてその方の名前が松崎美紀ということ。ただの偶然だと思いました。言ってしまえばよくある名前です。しかしそんな想いとは裏腹に逸る足が抑えられません。この時ほどこの不自由な身体を恨んだことはないでしょう。 

 そして部室に着いてドアの隙間から中を覗いてみればチェス盤を挟んで座る男女とそれを囲む7人の生徒。なんとなく本能で察します。今、チェスを指している彼女が松崎さんで私を負かした松崎さんと同一人物なのだろうということ。彼女はチェスで先輩を負かすと次々と様々な競技で挑んでくる先輩方を負かしていきます。彼女はやはり私のライバルとして、目標としてふさわしい相手でした。

 

 私は部室から出てきた松崎さんを捕まえて、自身の部屋に連れ込むとさっそく5万ポイントを賭けて勝負を挑みます。松崎さんがDクラスということには驚きましたがそんなことよりチェスです。そんな私のいきなりの提案にも松崎さんは心良く引き受けてくれて私たちの戦いは始まります。私が今までの研鑽のすべてをぶつけました。しかし結果は負け。松崎さんの手は私の攻めを確実につぶしてきて、私の守りを確実に崩してきました。完敗です。悔しくて視界がぼやけます。

 再戦を望めば、私のポイントを心配した松崎さんが突きつけてきたのは勝った方が負けた方のお願いを聞くというシンプルなルール。わかっています、これはAクラスの私とDクラスの松崎さんではまったく価値が違うこと。そして松崎さんもそのことを理解してこの条件を提示してきていること。しかし私はその誘いに乗りました。来月まで待つことなんてできません。

 そうして行った2度目の勝負も結果は敗北。しかし私は満足でした。結果だけ見れば私の負けですが、内容は違います。確実に先ほどより松崎さんを追い詰めました。あと何度か戦うことができれば追いつくことも可能でしょう。まぁもちろん悔しいことは悔しいですが。

 

 それからの日々は夢のようでした。Aクラスで自身の地位を確立しながら放課後になって部室に行けば美紀さんや先輩方とチェスや将棋を指す生活。まぁ先輩方も毎日来るというわけでももちろんありませんでしたし、美紀さんに至っては本当にたまにしか参加していませんでしたが。なんというか美紀さんはとてつもなくマイペースでした。身体に障がいを持つ私ですらAクラスに配属されるのに私以上の能力を持ちながらDクラスに配属されていることからもその度を越えたマイペースさがうかがえると思います。

 

 そしてそんな夢のような環境は次のステップへランクアップをします。なんと綾小路くんがボードゲーム部に入部してきたのです。驚き桃の木坂柳、ブリキに狸に蓄音機に松崎美紀でした。まさか彼がこの学校に入学していたとは、そしてボードゲーム部に入部してくるとは。どうやら綾小路くんもDクラスで美紀さんとは既に知り合いだったそうです。もっと早く教えてくれればよかったのにと理不尽な怒りを抱いてしまいます。綾小路くんを入れてその時いた部長さんと私と美紀さんでチェスと将棋で順番を回しながらしてみればどちらも綾小路くんの勝ち越し。というか綾小路くんに黒星を付けれたのは美紀さんだけでした。私があの時、綾小路くんに感じた何かは決して間違いではなかったのです。やはり彼もまた私が倒すのにふさわしい相手だったのです。

 

 部活の時間が終わり、部長さんと別れ、三人で歩きながら私は綾小路くんを見たことがあることと私の信条について二人に話しました。綾小路くんはそんな私の挑発とも取れるような発言にどこか楽しそうな顔をしながら「挑戦ならいつでも受けてやる」と一言だけ述べ、美紀さんはそんな私の一世一代の告白をケラケラと笑うと「難しいこと考えてるんだね」とだけ感想を言った。私の考えをやけに持ち上げるわけでも私の発言に引くわけでもなく自然に受け入れてくれる二人に顔がにやけるのが抑えられない。きっと二人なら私が全力で向かっても打ち負かしてくれるのだろうという安心感がある。

 

 

 そんな長い回想を終えましたがついに2週間の試験を終え、美紀さんたちが帰ってきました。さすがに帰ってきた当日は疲れもあるだろうと見送り、その次の日である今日、どこか緊張する心を抑え3人のトークグループで夕食に誘います。

 夜になり、集合場所に向かってみればどうやら私が一番乗りみたいです。時間を確認すれば集合時間30分前。どうやら早く着きすぎてしまったらしい。なんだか少し恥ずかしいですね。そわそわしながら待っていれば20分ほどで二人がやってきます。二人とも日に焼けていて、たった14日だけである会えなかった期間がいかに長かったか表しているみたいで少し笑ってしまいました。

 それからは夕食を食べながら、この二週間であったこと、これからの夏休みで行きたい場所にしたいこと、あの写真についてなど様々な話をしました。きっと私は少し早口だったと思います。はずかしい。

 そして夕食を食べ終えて店から出てみれば、話し込みすぎていたのか辺りはかなり暗くなってしまっています。私は二人に部屋まで送ってもらい別れます。楽しい時間は終わってしまいましたが惜しむ必要はありません。なんたって明日も部室で会う約束をしましたからね。

 

 部屋に入りベッドに寝ころびながら今日までの日々を振り返る。あぁ本当にこの学校に入学してよかった!父には感謝してもしきれません。これからはこんなにすぐ近く、私の短い腕の届く範囲に越えたいと思えるような相手が二人もいる!きっと二人に勝利するのは簡単なことではありません。それどころかもしかしたら私に刻まれたDNAでは不可能かもしれません。それでもきっと私は生涯彼らに挑み続けるでしょう。

 私は3人で撮った写真を見ながらいつかくるであろう未来を思い浮かべるのであった。

 

 

 




かわいいね。
なんなら最後の文章考えてから書き始めたまである。回想&敬語ムズイ。もしかしたら日本語おかしいところあるかもです。
今のところ、龍園くん、綾小路くん、千尋ちゃんと話を書くつもりです。書いてみてしっくりこなかったら変えるかも。

誤字脱字報告助かってます。これからもよろしくお願いします。
面白いと感じていただければお気に入り、感想、高評価をぜひ!!!!
モチベがか~なり上がります!ガチムチぴちぴちです。





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24話

感想欄でのアンケート行為で一瞬非公開になってました。感想書いてくれた人ごめんなさい。

堀北さん視点です。龍園くん視点書こうとしたんですが難しかったので一旦諦めました。


~堀北鈴音視点~

 

 最近、漠然と思っていることがある。きっとこのままでは私は兄に認められることはないのだろうということ、そしてAクラスに上がるのに私の力は必要ないのだろうということ。

 

 先の二つの特別試験では団結力が4クラスの中で一番あるであろうBクラスが最も成果を上げた。Bクラスのリーダーを務める一之瀬さんは私と真逆の人間でどこまでも人との繋がりというものを大切にする人だ。そしてその一方で私は兄に認められるために他人との繋がりを極力断って生きてきた。

 私には自分だけの力でDクラスをAクラスに上げることができるという自負もあったし、実力もあると思っていた。しかしそれは勘違いで実際クラスの役に立っていたのは平田くんや櫛田さんのような社交性のある人か綾小路くんや高円寺くん、松崎さんのような圧倒的な実力を持った人だった。そしてそのどちらもない私は何かを成すことができなかった。

 

 もしかしたらこのまま私が何もしなくてもDクラスがAクラスに上がることができるんじゃないか。そんな考えがふと頭によぎって笑ってしまう。きっとそれでAクラスに上がることができたとしても兄は私のことは認めてはくれないし、何より私が私のことを認めることができない。

 

 私が私を認められるようになるためにはこのままではいけない、変わっていかないといけない。どう変わっていけばいいかなんて答えはもうでている。私が櫛田さんや一之瀬さんのようになるのはきっと向いていないし、いきなり綾小路くんや松崎さんに追いつけるとも思っていない。それでも一歩ずつでも変わっていかないといけないのだ。

 

 

 

「おはよう!堀北さんから誘ってくれるなんて今日は季節外れの雪でも降るのかな?」

 

「迷惑だったかしら?」

 

「まさか、めちゃくちゃ楽しみだったよ」

 

 12時50分、寮のエントランスで松崎さんと集合する。夏というイメージにぴったりのいい天気だ。

 松崎さんのことだから遅刻してくるのではなんて疑ったりもしたが、彼女は意外なことに集合時間10分前に現れた。

 

「それはよかったわ。では行きましょうか」

 

「今日はどこへ行くの?」

 

「まずは大型ショッピングモールで適当に買い物をする予定よ。とりあえず雑貨屋さんと本屋さんには行きたいわ」

 

「オッケー、それにしても堀北さんってお店にさん付けするタイプだったんだね」

 

 13時、寮のエントランスを出て、松崎さんと買いたいものや見たいものついて話しながらショッピングモールに向かう。

 松崎さんは帽子が欲しいらしい。ラフな格好をしている彼女にはキャップが似合いそうだ。

 

「このお皿とか可愛いくない?」

 

「たしかに。でもこういうのは揃えたくなるから買うとしてもポイントに余裕があるときね」

 

「私買っちゃおっと」

 

 13時20分、雑貨屋さんに入る。

 松崎さんが勧めてくる食器や小物はどれもセンスがあってつい買いすぎてしまいそうになるわ。あとポイントに余裕があることは少しは隠しなさい。

 

「ここ最近のおすすめ?多分100人に聞いたら30人くらいは同じ答えになるだろうけど、『成瀬は天下を取りに行く』になるんじゃないかな?本屋大賞は伊達じゃないよ。続編もしっかりおもしろかったし」

 

「宮島未奈?聞いたことない作者ね」

 

「単行本化したのは今作が初だしね。二位の君っていう短編小説ならネットで無料で読めるから読んでみるといいよ」

 

 14時、本屋さんに入る。

 受験やこの学校に入ってから忙しかったのもあり読書があまりできていなかったので、最近のおすすめを聞けば本棚の前を通るたびにおすすめの本を私の手の上に積んでくる。学校に行く時間を読書に当てたらこんなにも本が読めるのね。少し羨ましく思ってしまう。

 

「その、そちらも一口くれないかしら?」

 

「いいよ、あ~ん」

 

「やっぱりやめておくわ」

 

 15時、カフェで休憩。

 彼女があまりにもチーズケーキを美味しそうに食べるものだから一口ねだれば、フォークごと差し出される。咄嗟に断ってしまったがやっぱりもらえばよかったかしら?

 

「これとこれどっちがいいと思う?」

 

「右の方がいいと思うけど、普段の服装を知らないからなんとも言えないわね」

 

「普段も似たような恰好してるしこれ買っちゃおっと」

 

 15時45分、服屋に入る。

 購入したキャップが気に入ったのか鼻唄を歌ってご機嫌な彼女。室内で被る意味はあるのかしら?

 

「やっぱりハンデつける?」

 

「いらないわ。だいたい球を転がすだけなのだから簡単なはずよ」

 

「そう言っときながらさっきから2,3本しか倒せてないじゃん」

 

 16時15分。ショッピングモールに併設されているボウリング場で遊ぶ。

 最終的にはスコアに100以上の差がついてしまったわ。彼女に弱点というものはないのかしら。次までに練習して奢らされたジュースを取り返してみせるわ。

 

 

 せっかくだから晩御飯も食べようということになって入ったファミリーレストラン。普段使わない筋肉を使ったのか少し痛む右手に苦戦しつつご飯を食べる。

 

「それで結局、今日はどうして誘ってくれたのかな?」

 

「あなたのことを知りたいと思ったからよ」

 

 以前、彼女に賭けを申し込んだとき私では彼女の欲しいものを用意することができなかった。というか彼女を動かすに足るものが何かがわかっていなかった。

 今後、必ず松崎さんの力が必要になるときが訪れる。無人島試験では追い出すことしか出来なかったけれども、そのときが訪れれば彼女に協力を仰ぐためには彼女が魅力に感じるものをわかっていないといけない。そしてそのためには松崎美紀という存在の解像度を上げなければいけない。

 

「ふ~ん、それで私のことはわかったかな?」

 

「そうね、あなたが思っていたより普通の女の子だということがわかったわ」

 

「なにそれ?私のことなんだと思っていたのさ」

 

「どこかあなたという存在を特別視していたのかもしれないわね。なんなら途中で帰られる可能性も考えたもの」

 

 そう、彼女は普通の女の子だった。かわいいモノを見てはテンションを上げ、美味しいものを食べれば頬を緩ませる。会話の節々から博識なことがわかるがそれだって別におかしいというわけではない。

 彼女の特異性と彼女が持つ普通の少女としての感性が私を混乱させる。変なら変で高円寺くんのように突き抜けてくれたらわかりやすいものなのに。

 

「そりゃあ私のためにデートプラン組んでくれたのに無下にするわけにはいかないでしょ」

 

「デートでは決してないわ。それに私から誘ったのだからある程度のプランを考えるのは当然でしょう?」

 

「あれ?私はてっきり初めて遊ぶ同級生に堀北さんが緊張してるんだと思っていたよ」

 

「なっ、そんなわけがないでしょう?どうして私があなた相手に緊張しないといけないのかしら?適当言うのはやめて頂戴」

 

 こちらを見てにやにやと笑う松崎さん。松崎さんと言えばこの顔という印象がある。どこか人をバカにしたようなにやけ面。この顔だって今までならいちいち腹を立てていただろうけど、きっと彼女にバカにするような意図はなくてただ単純におもしろがっているだけなのだ。いやそれはそれで失礼なのだけれども。

 

「はいはい、でも今日は本当に楽しかったよ」

 

「それはよかったわ、さてご飯も食べ終わったことだし本題よ。どうして船上試験で優待者がわかっておきながら教えてくれなかったのかしら?」

 

 松崎さんがお箸を置くのを待って本題に入る。結局は彼女からの言葉を聞かないと彼女を理解することなんてできない。

 優待者がわかっているならクラスで共有した方がいい。これは彼女が言ったことだし、何よりも納得できる内容だった。彼女がクラスに協力的じゃないことは重々承知だし、優待者や優待者の法則が見抜けなかった私に彼女を責める権利はないのだろう。だからこれはあくまで質問だ。

 

「なんか説明するのも恥ずかしいんだけどめんどくさかっただけだよ」

 

「それはクラスメイトや他クラスの生徒に絡まれるのがかしら?それなら私や綾小路くんを通してクラスに伝えることも可能だったはずよ」

 

「たしかにそうかもね。でもほんとになんとなくめんどくさかっただけなんだよ」

 

「あなただってDクラスなのは覆しようのない事実なはずよ。いくらほかにポイントを稼ぐ手段があるのだとしてもクラスポイントが増えてうれしいはずでしょ」

 

 彼女は以前、クラスメイトの前でポイントがあるに越したことはないと言った。そして今日の様子を見ていても物欲がないというわけではない。なんならむしろ多い方だろう。

 今回、クラスポイントが大きく増えるチャンスでめんどくさいの一言でそれをドブに捨てるのはあまりにも不可解だ。

 

「それゃうれしいけどさ、今回はそもそも50万ポイントも個人的にもらえたし、なにより優待者の正体に自信がなかったからね」

 

「自信がなかったというのは怪しいわね。あなたのような人が50万ポイントを勘で当てにいくとは思えないわ」

 

「それは私をわかっていないね。毎日二回一時間の話し合いだよ?行きたくないに決まってるじゃん」

 

「なるほどそれは理解できるわ。しかしそれでもめんどくさいの一言で優待者の予想を共有しなかったのは納得できない。正直、私はあなたが他クラスと繋がっているんじゃないかと疑っているわ」

 

 そう結局はこれなのだ。ほぼ同時に終了アナウンスが鳴った10個のグループ。そしてその中でBクラスの優待者を当てたのは猿グループの高円寺くん。Bクラスより早くCクラスの優待者を当てた松崎さん。どちらかがBクラスと繋がっていてもおかしくない。というより繋がっていると考えるほうが自然だ。

 

「他クラスっていうのはBクラスのことかな?それなら高円寺くんだって可能性あるんじゃないの?」

 

「申し訳ないけど高円寺くんに誰かと協力という高度なことができるとは考えにくいわ」

 

「それはそうかも。なら私の意見を言わせてもらうと、私がBクラスに肩入れするメリットがないな。ポイントが欲しいならそれこそDクラスのクラスポイントを上げたほうが早いだろうし」

 

「そうなのよ。あなたには今、疑惑が向けられているけれど証拠もなければ動機もない」

 

 証拠も動機もない。ただ私が疑っているだけ。ただ彼女は理屈の人間じゃないから何をしでかすかわからない。言葉が通じず何をするかわかりやすい高円寺くんと言葉が通じて何をしでかすかわからない松崎さん。どうしてこの二人に自由にできるだけの能力が与えられてしまったのだろうか。

 

「なら無罪ってことでいいかな?」

 

「えぇ、とりあえずはね。でも忘れないで頂戴。これからのあなたの動向には私がこれまで以上に目を光らせるわ」

 

「ならいつでも遊びに誘ってよ。今回のデートで仲も深まったことだし」

 

「デートではないわ。そして今回のようなこともしばらくお預けね」

 

 とりあえずボウリングの練習をしてからでないともう一度遊ぶなんてできないわ。二度も負けるわけにはいかないもの。だからこちらをにやにやした顔で見るのは止めなさい。

 

 最近漠然と考えていることがある。きっとこの学校を卒業する頃には私は今まで以上に私自身を好きになっていること、そしてAクラスなんてものより価値あるものを見つけられること。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんか今回と前回、自分が百合好きなのがなんとなく透けて見える文章で恥ずかしい。
改めて後書く予定なのは綾小路くんと千尋ちゃん。

誤字脱字報告助かってます。これからもよろしくお願いします。
面白いと感じていただければお気に入り、感想、高評価をぜひ!!!!
モチベがかなり上がります!


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25話

綾小路くん視点
前回、誤字多かった。やっぱ寝起きに書くのはだめだね。


~綾小路清隆視点~

 

「ちょっと!こちらにこないでください!」

 

「先に貧乏神擦り付けてきたのはそっちでしょ」

 

「サミットカードで全員集めたら貧乏神はどうなるんだ?」

 

 八月某日、深夜。場所は松崎の部屋。オレは松崎、坂柳のボードゲーム部一年メンバーでゲームを行っていた。ゲームと言っても普段部活でやってるチェスや将棋のようなアナログなゲームではない。なんとかの有名な〇天堂が出している〇intendo Switchで遊んでいるのだ。

 なぜこんなことになっているかと言うとそれは4時間前に遡る。

 

 

 夏休み、それは普段机に座ることを強制される学生にとって自由を許される夢のような期間。友達と遊ぶことに全力を注ぐ生徒もいれば趣味に没頭する生徒もいるだろう。そんな誰もが期待し謳歌すべきである夏休み、他の生徒と同じく全力で楽しむ気でいたオレの予定は残念なことに真っ白であった。

 もちろん本当に予定がないというわけではない。気が向けばボードゲーム部に行き、そこにいる部員と互いの成長のためにチェスや将棋を指すことはある。運が良ければ部員のほとんどが集まって軽い大会などが開かれることがあるが、逆に運が悪ければ数時間経っても誰も来ないなんてこともザラじゃない。なんなら松崎なんて坂柳が連れてこないとほとんど現れない。どうやらみんな部活以外の用事に忙しいらしい。

 

 そう改めて言わせてもらうとオレには部活動以外の用事が全くない。もちろん部活が嫌というわけではない。ホワイトルームと同じく自身の実力を上げるためにやっているチェスなんかも部室だと楽しく感じる。しかしそんな部室に訪れるのも多くて週3日でそれ以外の4日は本当にすることがない。

 いやわかる。それならもっと部活に行ったらいいんじゃないかって言うんだろう?でも冷静に考えてほしい。毎日のように部活に行ってたら他の部員に夏休みの予定がないのがバレてしまうではないか。それで同情されようものならオレは耐えられない。

 ならクラスメイトを誘って遊びにいけって?そんなことできたらもうしている!

 

 そんな言い訳を重ねてただ虚しい日常を送る今日。晩御飯を食べ終え風呂にも入り、あとは眠くなるのを待つだけの時間となり一日を振り返る。今日も部屋から一歩も出ずにゴロゴロしているだけで終わってしまった。走馬灯に今日のことが出てこないことを祈るばかりだ。

 そんな部屋でぼーっとしていると携帯が鳴る。電話のようだ。ディスプレイを見てみれば松崎の文字。刺激に飢えていたオレは飛びつくようにその電話に出る。

 

「もしもし~、今大丈夫?」

 

「あぁ、こんな時間にどうしたんだ」

 

「今、有栖ちゃんと遊んでてこれから私の部屋でゲーム大会するんだけど来る?」

 

「いかせていただきます」

 

「何そのかしこまった言い方。まぁいいや、それなら寝れる準備して23時くらいに私の部屋集合ね」

 

 そう言って松崎は一方的に電話を切る。

 夜中に女子の部屋で遊ぶ。あの二人に何か期待しているわけではないが、それでも今から何の準備もしなければ男として廃れる気がする。時計を見れば22時になったばかり。集合は23時。とりあえずシャワーを浴びねば。

 

 約束の時間5分前。シャワーを浴びてドライヤーで軽く髪を整え、持っている中で最もおしゃれであろう服に身を包み部屋を出る。手には手土産として軽くつまめるお菓子を持ってきたがもしかしたら女子にこの時間のお菓子はNGかもしれないという不安が何度もよぎる。

 そんなことを考えているとあっという間に着く松崎の部屋。まぁ同じ寮なのだから当たり前ではあるのだけれども。緊張してないかと言われたら嘘になるが一応二度目の訪問、前回と違って部屋の前でウロウロすることなくすぐにインターホンを鳴らす。

 

「は~い」

 

「オレだ」

 

「おぉいらっしゃい。鍵開いてるから入ってきていいよ~」

 

 ドアノブに手を掛ければ、確かに簡単に扉が開く。少し不用心なのではないだろうかと言いたくなるのと同時にオレを信頼してくれてるかのようでうれしく感じる。

 部屋に入ると鍵を閉めて明かりのついたリビングに入る。そこにいたのはパジャマ姿の松崎と坂柳。控えめに言って信じられないくらい可愛いらしい。オレの友達がこんなに可愛いわけがない。オレとも。

 

「いらっしゃい、随分おしゃれしてきたね~」

 

「その服装では窮屈ではありませんか?」

 

 二人から言われ自分の服装に視線を落とす。確かに少し気合を入れすぎてしまったかもしれない。それにパジャマの二人を前にするとかなり浮いてしまっている。

 

「着替えてきます」

 

「は~い、いってらっしゃい」

 

 二人の笑い声を背にリビングから出ると先ほど自分で閉めたばかりの鍵を開け外に出る。恥ずかしすぎる。絶対コイツ気合入ってんなとか思われた。

 速足で自分の部屋に戻るとジャージのズボンと適当なパーカーに着替え、改めて松崎の部屋に戻る。

 

「すまん、待たせたな」

 

「全然いいよ、おもしろかったし」

 

「おもしろがるな」

 

「別に似合ってたんだしいいじゃん。ねぇ有栖ちゃん?」

 

「えぇ、かっこよかったと思いますよ」

 

 文字に起こせば褒めてくれるように感じる二人の言葉だが、その顔からはからかってきてることがありありと伝わってくる。これはしばらくはからかわれ続けるだろう。

 

「もういい、それで今日は何をするんだ?」

 

「フフッ驚くでなかれ、今日はこれをやるのだ!」

 

 じゃ~んという掛け声とともに松崎が取り出したのは、赤と水色がテーマカラーであろうゲーム機と〇太郎電鉄とパッケージに書かれたゲームカセット。もしやこれは噂でしか聞いたことのない〇intendo Switchというやつじゃないか。

 

「どうしたんだこれ?」

 

「どうしたも何も買ったんだよ」

 

「買ったって高かったんじゃないのか?」

 

「3万ポイントちょっとだったかな?」

 

「美紀さん、買い物の最中にいきなりゲーム屋に入ったと思えばこれ持って出てきたんですよ」

 

「衝動買いしちゃったよ」

 

「衝動買いできるような値段じゃないだろ」

 

「まぁ私にはボーナスがあったからね~」

 

 そう言いながらゲーム機をテレビにセットする松崎。坂柳と目を合わせれば坂柳が首を振る。どうやら何を言ってももう無駄らしい。

 

「二人はもちろんこのゲームしたことないよね?」

 

「たしかにその通りですがその言い方には悪意を感じます」

 

「ごめんごめん。簡単に説明すると各自が社長になって日本を舞台とした世界で物件買ったり、他の社長を邪魔しながら総資産ナンバー1を目指すすごろくゲームって言った感じかな?」

 

「「?」」

 

「まぁとりあえずやってみようよ。簡単なゲームだからさ」

 

 松崎はそう言ってプレイ年数100年を選びゲームを開始した。そう今はまだこれが地獄の始まりだということにはオレも坂柳も気が付いてはいなかった。

 

 

 そうやってゲームを始めたのが4時間前。ゲームの進捗状況で言うと10年が経過したところだった。さすがにゲームにも慣れてきて、初め大幅にリードしていた松崎にもある程度追いついてきた。どうやらこのゲームはカードを上手く使うことが重要らしく普通のすごろくと違いプレイヤーの実力がかなり出るゲームのようだ。

 

「それにしてもこのゲームいじわるなカードが多すぎませんか?」

 

「普通に喧嘩になったりとかもするからね。はいキングに!カード*1

 

「あぁオレの物件たちがまた格安で売られていく」

 

「ボンビー付けてるのが悪いんだよ」

 

「オレたちが今数マス差のところにいるのを忘れたのか」

 

 それからオレたちは三人でキングボンビーを押し付け合ったり。

 

「決算のあとはお金が増えてワクワクするよね」

 

「一頭地を抜くカード*2を使います」

 

「あぁ~私のお金が~!」

 

「ちなみにオレも持っていたりする」

 

「「あぁ~私たちのお金が~!」」

 

 決算後、一番お金があるタイミングで他人からお金を奪ったり。

 

「次の目的地は津和野か」

 

「かの有名な森鷗外の出身地だね」

 

「森鴎外と言えばキラキラネームのパイオニアですね」

 

「そうなのか。まぁドイツに留学していたし、海外のものをいち早く取り入れたということなんだろう」

 

 目的地となる地域や止まったマスの雑学を言い合ったり。

 

 

 そんな風にゲームを楽しみながら、途中で少し険悪な雰囲気も流れたりしたが、夜は明けていった。

 

「おい松崎、まだ20年しか終わってないがもしかして100年終わるのには相当な時間がかかるんじゃないのか?」

 

 三年目くらいから怖くて無視してきた疑問をついに勇気をもって質問する。

 

「ようやくその質問がきたね。なんと推定所要時間は30時間もかかるのだ!」

 

「さ、30時間ですか!?もちろん何日かに分けて終わらせるんですよね?」

 

「普通はそうなんだけどね。なんたって私たちは夏休みの学生!もちろんこのままぶっ通しでやるよ!」

 

「死ぬぞ?」

 

「もちろん休憩は適時取るつもりだよ。なに?もしかして二人ともビビってんの?」

 

「は?ビビってませんが?」

 

「待て坂柳、簡単な挑発に乗るんじゃない」

 

「うるさいですよ、では再開です」

 

 徹夜で冷静な判断が出来なくなった坂柳とどこかテンションの高い松崎を止めることができず、ここにデスゲームが再開する。

 

 

 途中でじゃんけんで負けた松崎がご飯を買いにいったり、坂柳がスリに所持金を奪われブチぎれたりとしながらもゲームは続いていく。

 

 そしてついに迎えた100年目。紆余曲折ありつつも松崎と坂柳ともうすぐゲームが終われることを喜んでいると少し違和感を覚える。

 松崎の部屋の内装はこんな感じだっただろうか?坂柳のパジャマはこんな感じだっただろうか?あれ?いつの間に100年もたったんだ?

 違和感を覚えてしまえば最後、見ていた景色が崩れていく。そして残ったのは真っ黒な世界だけ。何も見えないことが不安で目を開けるとそこには明るい部屋で体を寄せ合って眠る松崎と坂柳。

 どうやらオレは寝てしまっていたらしい。テレビ画面に目を向ければ、74年目の5月の文字。

 

 外に目を向ければ辺りは再び暗くなっていて時間の経過を感じさせる。再び二人の寝顔を見ながら考える。

 初めてした友達との徹夜でのゲーム。初めてした寝落ち。なんてことないと思っていた今日が友達のたった一言でここまで色づくとはな。まぁ正確には昨日なのかもしれないが。きっと走馬灯に見るとしたらこんな日なんだろう。

 そんな風に考えていると松崎の身体がゴソゴソ動き出す。

 

「あれ?私寝ちゃってた?」

 

「あぁ、オレもさっき起きたところだ」

 

「そうなんだ。どうしたの?そんな楽しそうな顔して」

 

 松崎は立ち上がって坂柳にタオルケットを掛けると身体を伸ばしながらそんなことを言ってくる。そんなにわかりやすい顔をしてしまっていたか。

 

「いや、ふと思ったんだ。走馬灯で見るならこんな日なんだろうなって」

 

「今日を?なんで?」

 

「それくらい楽しかったってことだ。あんまり言わせるな恥ずかしい」

 

 どうせ笑われると思ったオレの言葉に松崎は笑うことなくどこか優しそうな笑みを浮かべる。

 

「そういうことなら今日のことは走馬灯には見ないよ」

 

「どういうことだ?」

 

「これから今日と同じくらい、いや今日以上に楽しい日が何回もあるって言ってるんだよ。言わせないでよ恥ずかしい」

 

 あぁなるほど。たしかにそれなら今日のことを走馬灯で見ることはたしかにないかもしれない。こんな楽しい日々が続くと断言する松崎は自信に満ち溢れていてつい信じてみたくなる。あぁ走馬灯に今日のことが出てこないことを祈るばかりだ。

 

 

 

 

*1
貧乏神をキングボンビーにするカード

*2
一番所持金が多いプレイヤーより少し多いお金をもらえるカード




夏休み感〇
次回は千尋ちゃん視点で夏休み編終わりの予定です。


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26話

千尋ちゃん視点です。
この話を持って「R-15」、「ガールズラブ」のタグを増やしました。


~白波千尋視点~

 

 私の名前は一般女子高生、白波千尋。想い人で同級生の一之瀬帆波さんに校舎裏で告白して、想いが成就することなく失恋した。フラれて呆然としていた私は、背後から近づいてきた一人の悪魔に気づかなかった。私はその女に唆され、気が付いたら・・・友達がいなくなってしまっていた。

 私が悪魔こと松崎美紀と繋がっていることがみんなにバレたら、さらにみんなに疎まれ、一之瀬さんを困らせてしまう。

 松崎さんの助言で本来の性格を隠すことにした私は、一之瀬さんに夏休みの予定を聞かれて、咄嗟に忙しいと答え、二学期からの作戦を考えるために(容認しがたいことだが頭が良い)松崎さんの部屋に入り浸った。

 たった一つの想い貫く見た目は高校生、頭脳も高校生、その名は白波千尋(二回目)

 

 なんてふざけた自己紹介をしたものの要は友達がいなくて暇なので松崎さんの部屋に入り浸っているだけだ。といっても何かをして遊んでいるわけではなく二人でダラダラしているだけ。今だって松崎さんは携帯をいじる私のとなりで寝ころびながら本を読んでいる。

 

 そんな松崎さんだがほぼ下着にTシャツ一枚というなかなかきわどい恰好をしている。初めこの部屋に来た時は驚いた。話を聞くにエアコンが苦手であまりつけることがないらしいが、それはそれとして暑いのも苦手だからこその恰好らしい。

 もちろんその姿には松崎さんの部屋に通っているうちに慣れた、なんてことはなく来るたびに何度も目をやってしまう。なんたってパンツはほぼ丸見えだし、窓から風が入ったり松崎さんが姿勢を変えればお腹だって見える。松崎さんはかわいい方の部類に入るどころか10人中15人が振り返るような美少女だし、身体だって軽く運動しているのか引き締まっている。それになんと言っても私の恋愛対象は女の子だ。いくら好きな相手ではないとはいえ、松崎さんみたいなかわいい女の子がこんなえっちな格好していればつい気になってしまう。まったく皮だけが良いのも考えものだ。あっお腹見えそう。

 

 見えそうで見えない松崎さんのお腹に注意を向けているといつの間にか松崎さんが本を置き、こちらをジト目で見ている。あっバレた。

 

「ほぼ毎日のように私の部屋に来てるけど遊びに行ったりしないの?」

 

「誰かさんのせいで友達がいないので遊び相手がいません」

 

「一之瀬さんでも誘えばいいじゃん」

 

「一之瀬さんと遊んでるところをBクラスの生徒に見られて面倒なことになっても嫌ですし、それに今のキャラで一之瀬さんと遊びに行っても楽しませる自信がありません」

 

 そうなのだ。先ほどの自己紹介でも言ったが一之瀬さんからの遊びの誘いはあった。それはクラス全体でのあったり、女子数人での遊び、そしてありがたいことに一之瀬さんと二人きりなんて誘いもあった。しかしそのどれもが私が行くことで盛り下がることは目に見えてわかるし、それで一之瀬さんを困らせるようなことがあってはならない。

 

「その結果やることが私の部屋に入り浸って毎日のように私のお腹に目を向けることなんだ」

 

「うっ、だいたいそんなえっちな恰好してるのが悪いんです!」

 

「嘘でしょ、逆ギレ?」

 

「・・・」

 

 自分でも理不尽なことを言ってることがわかっているので何も返せず、黙り込んでしまう。でもそんなこと言われたってしょうがないじゃん。15歳だよ。

 

「なんとなく反応からわかってるんだけど千尋ちゃんってえっちしたことあるの?」

 

「なっ、、えっちですか?」

 

「そうそう。いや、なんでこんなこと聞いてるのかというと一之瀬さんをいざ落とすときに必要になるかもしれないでしょ?そのときに今の千尋ちゃんのキャラで手間取ってたら割とマイナス評価だと思うんだ」

 

「それはそうかもですけど、、、」

 

 松崎さんに言われ、一之瀬さんとの行為を想像して赤面してしまう。たしかに上手くリードできる自信がない。

 

「それでどうなの?」

 

「それは、、ないですけど」

 

「それならその前後合わせて練習しとこっか」

 

「え?」

 

 あまりにも松崎さんが簡単に言うものだからつい聞き返してしまう。今、練習しとこっかって言った?松崎さんって私のこと好きだったの?というか女の子とそういうことしたことあるの?

 

「まぁいきなり言われても何の準備もできてないだろうから、とりあえず夜の10時にでも改めて私の部屋に集合しようか」

 

 

 そうして頭の処理が追い付いていないまま集合時間だけを言い渡されて部屋から追い出された私は気が付けば自分の部屋にいた。

 時計を見ればまだ16時。つまり集合まで6時間もある。いや、6時間しかない。それにしても準備って何をしたらいいの?とりあえず念のため爪は整えておかなくちゃだよね。

 

 

 そんなこんなで6時間はあっという間に過ぎ去り、約束の時間となった。自分なりにいろいろ調べて準備したつもりだ。それでもこれから起こるかもしれないことを想像すると緊張で体が震えてしまう。冗談だよね?ただ方法を口頭で聞くだけだよね?

 あくまで松崎さんの冗談だと自分に言い聞かせて体の震えをどうにか落ち着かせ、松崎さんの部屋に向かう。このインターホンを押すのも何度目かわからないが、少なくともこんなにも緊張してるのは初めてだ。ええいままよ!

 

「は~い」

 

「あの、白波です」

 

「今開けるから待っててね」

 

「はい」

 

 普段は開いてる松崎さんの部屋は今日はなぜか閉まっている。鍵が開くのを扉の前で待ってると一瞬であるはずの時間がやけに長く感じる。そして1時間なのか、10分なのか、それともたった20秒くらいなのか経った後扉は開いた。

 

「お待たせ~」

 

 開いた扉の先にいたのは普段の下着同然の恰好やラフな格好とは違い、THE女の子な恰好をした松崎さん。かわいい。かわいすぎる。

 

「?入っていいよ?」

 

 松崎さんに見惚れて動かない私を心配したのか松崎さんから再度声がかかる。だめだ、しっかりしないと。だいたい松崎さんがかわいいことなんて今更じゃないか。

 

「お、おじゃまします!」

 

「ガチガチじゃん。別にいきなり取って食おうってわけじゃないんだからいつも通りで大丈夫だよ」

 

 そうやって笑う松崎さんに続いて部屋の中に入る。そうだ、別に松崎さんの部屋だって初めて入るわけじゃない。いつも通り。いつも通り。いつも通り。

 リビングに入れば、いつもと違い軽く冷房がついていて涼しい。

 

「とりあえず座ってて。飲み物取ってくるから。お茶とアイスティー、それにカルピスあるけどどれがいい?」

 

「お茶でお願いします」

 

 リビングから出ていく松崎さんを見送り二つ並んだ座布団の一つの上に座る。辺りを見渡せば昼来たときよりも片付いていてつい笑ってしまう。別に普段から綺麗な部屋だけど、松崎さんもそういうの気にするんだな。

 

 そんな風に見慣れたはずである部屋を見ていると松崎さんが戻ってきて飲み物とお菓子を乗せたお盆をテーブルに置き、となりに置いてあった座布団に座る。座布団だけが置いてあるときは気が付かなかったが座ってみると近い。少し動けば肩がぶつかる距離だ。

 

「はいお待たせ」

 

「ありがとうございます」

 

「まぁとりあえず映画でも見ようか。さっき一之瀬さんをどう楽しませればいいかわからないって言ってたけど、映画ならしゃべらなくても大丈夫だし何より雰囲気作りしやすいからね」

 

「わ、わかりました」

 

 松崎さんは私の返事を聞くなりテレビを操作し、映画を再生する。最近流行りのサブスクというやつだ。

 

 始まった映画は私たちと同じ高校生の女の子が主人公で、その主人公がクラスメイトであり委員長の女の子と付き合うために頑張る恋愛映画だった。恋愛映画と言っても明るい雰囲気はなく、主役となる二人は暗い過去や毒親といったいくつかの問題を抱えておりドロドロとした内容だった。

 

 そんな映画も後半に入ると直接的な描写はないものの二人が絡み合う濃厚なキスシーンなんかがあり、今の状況もあってか鼓動が痛いくらい早く大きくなる。ふとこのうるさい鼓動が松崎さんに聞こえていないか気になって、横を見てみればこちらなんて気にしていない綺麗な横顔。先ほどのシーンを思い出してついその綺麗な横顔の唇に目を奪われてしまう。

 

 どれくらいその顔を見ていただろうか?ふと松崎さんがこちらを見て目が合う。正面から見る松崎さんの顔は普段の子供っぽい表情と違い凛としていて、かわいいというより美しかった。そうして映画を見ることを忘れ、二人で見つめ合う時間が続く。いつの間にかどちらから握ったかもわからないが私たちの手は繋がっていて、テレビから放たれる音は雑音となって消えていく。

 

 そんなとき松崎さんの顔がふと近づいてくる。あっ、キスされる。理性ではダメだとわかっていても先ほどの映画のシーンが何度も頭の中でリフレインして動けずにいると松崎さんの唇が私の唇に触れる。ファーストキスの味は紅茶の味だった。

 触れるだけのキスを何度か繰り返すと今度は口の中に舌が入ってくる。ファーストキスの直後に行われたディープキスはそういうものなのか、それとも単に松崎さんが上手なのか不快感などはなく、ただただ心地が良かった。

 

 そうして長い間、互いの舌を絡め合っていた気がする。もうどこまでが私でどこからが松崎さんかわからない。そんな心地よさに包まれていると松崎さんの繋がれてない方の手が私の胸に触れる。

 あぁ今からしちゃうんだ。未知の気持ちよさで麻痺していた脳がそのことに気が付くと眠っていた理性が起き上がる。松崎さんの肩に手をやり、自分という存在の輪郭を久方ぶりに認識する。

 

「だ、だめです」

 

 我ながらなんて情けない声なんだろう。私と松崎さんの間には私たちがつい今まで繋がっていた証拠である糸が引いていた。糸の先にある松崎さんの顔はどこまでも妖艶だ。

 

「大丈夫だよ千尋ちゃん、これは練習なんだから。それに千尋ちゃんだって期待してくれてたんでしょ?爪だって綺麗にしてくれてるし、それにいい香りもする」

 

 松崎さんはそう言いながら繋いでる私の手をなで、私の髪に顔を近づけにおいをかぐ。今更なのにその私を慈しむような行為がどこかくすぐったい。そして再び松崎さんの顔が私の顔の正面に戻ってきたかと思うと触れるだけのキスをされる。たったそれだけで起き上がったはずの私の理性は軒並み眠りにつく。

 

「脱がすよ」

 

 まるで決定事項かのように言う松崎さんのその言葉に逆らうことができずというよりする気がおきず、私は首を縦に振ってしまう。

 

 

 目が覚めて一瞬だけ違和感を覚え、すぐに昨日あったことを思い出す。となりを見ればそこに人影はなくキッチンの方から音がしてくる。どうやら松崎さんの方が先に起きたらしい。

 自分の体に目を落とせば見事にすっぽんぽん。痛む体をどうにか起こして布団から出るが服を探してみても見つからない。しかたなく裸のまま松崎さんに声をかける。

 

「お゛はよう゛ございまず」

 

「おはよう。見事に枯れてるね」

 

 声を出すまで気が付かなかった。たしかに喉も痛い気がする。

 

「まぁ今日はお世話してあげるからゆっくりしてなよ。昨日頑張らせすぎちゃったしね。とりあえず水飲みな」

 

 私は頷くと松崎さんが渡してくるコップを受け取り喉を潤す。ただの水のはずなのにとてつもなく甘く感じて私がどれだけこれを欲してたかわかってしまう。

 

「とりあえずお風呂ためてるから入ってきな。入ってる間に適当な服用意しておくから」

 

「わだじのふぐは?」

 

「今、洗濯してるから安心して」

 

 そうして松崎さんに促されるままにお風呂に入り、用意されていた服に着替えてリビングに戻ると松崎さんが髪の毛を乾かしてくれる。なんというか至れり尽くせりだ。

 

「うどんあるけど食べれそう?無理ならプリンと桃のゼリーもあるけど?」

 

「うどん」

 

「はいはい」

 

 松崎さんは私の髪を乾かし終わるとうどんを出してくれる。おそらく私がお風呂に入っている間に用意してくれていたんだろう。なんというか至れり尽くせり2だ。

 松崎さんが用意してくれたうどんは文句の付けようがないほどおいしく、つい松崎さんの完璧さに文句が出そうになる。というか喉が痛くなかったら出てた。

 

 うどんを食べ、プリンも食べると松崎さんが食器を片付けてくれる。流れる水道の音を聞いていると瞼が落ちてくる。さっき起きたばかりなのにもう眠たい。

 

「もう一回寝るの?ならお布団出すからちょっとだけ待ってね」

 

 どこかから松崎さんの声が聞こえる。けどその言葉はシャットダウンされた脳には届かずどこかへ消えていく。

 しばらくウトウトしていると一瞬だけ体が浮き上がり何か優しいものに包まれ、私の意識はそこで途絶える。

 

 

 その日、夢を見た。私の目の前には天使と悪魔がいて、こちらに手を差し伸べている。きっと天使の手を取れば幸せが待っていて、悪魔の手を取れば不幸が待っている。どちらの手をとれば良いかなんて言うまでもない。

 私は一歩前に踏み出すとーーの方に手を伸ばした。

 

 

 




書いてて楽しかった。


真面目な話。
ちょっとリアルが忙しい&5巻以降の内容がまったくと言っていいほどわからないので投稿頻度が下がります。とりあえず週一を目途に頑張ります

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