春秋の恥さらしネタ帳 (春秋)
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ゼロの竜騎士 ゼロ魔×星刻の竜騎士

15/6/15
1~4を一つにまとめました。



 

 

「アンタ、誰?」

 

オレのセリフだ。

お前が誰だよ、そして此処はどこだよ。

 

目の前にはピンクブロンドの髪を靡かせる美少女。その周囲には杖を持ちローブを着た少年少女、プラス頭が寂しいオッサン。

うん、意味がわからん。ということで、状況を整理してみよう。

 

まずは自分のことからだな。

オレの名前はラスク・レリーフ。美味しそうという意見は聞き飽きた。

アンサリヴァン騎竜学院に通う竜飼い人(ブリーダー)の一人。アンサリヴァン騎竜学院とは竜飼い人を養成する施設であり、竜飼い人とはその名が示す通りに竜を飼う者の事を言う。竜飼い人は体の何処かに星刻と呼ばれる紋章が刻まれており、そこから星精路(アストラルフロウ)と呼ばれるものを経由して相棒(パル)である竜に生命力を与えている。

 

竜は生まれる時は三種類に分かれており、それぞれ四速歩行の地竜(アーシア)、前肢と一体の翼を持つ翼竜(ストラーダ)、蛇のような体躯をした水竜(ハイドラ)だ。そして竜が経験を積み成長、進化した姿が陸海空に適応した聖竜(マエストロ)と言い、聖竜を従える者を竜騎士(ドラグナー)と呼ぶ。

 

よし、基本的な知識はこれでいいな。

次はこうなった経緯だ。

 

俺は地竜である相棒、オリヴィエと共に竜騎士となるべく特訓に励んでいた。

オリヴィエに乗って森を突き進んでいたら、知らぬ間にこの状況だった。

 

うん、やっぱり意味がわからん。

 

「ぐぉおおお――!」

「っと、どうどう、落ち着けオリヴィエ」

 

俺の不安を感じ取ったのか、周囲を威嚇しだすオリヴィエ。

それに反応して警戒を露にするオッサン。

一瞬怯むが気丈にこちらを睨む桃色少女。

 

「あー、オレはアンサリヴァン騎竜学院一年のラスク・レリーフ。誰か、現状を説明してもらえないかな?」

 

とりあえずオリヴィエから降りて助けを求めてみよう。

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

結論、ここは異世界でした。

わけがわからないよ。

 

あの場で唯一の大人だったオッサン――コルベールさんというらしい――の説明によると、この土地はハルケギニアという大陸にあるトリステイン王国という国である。そして大勢いた少年少女はこの国に建つトリステイン魔法学院という貴族の全寮制学校で、貴族の血統のみが使える魔法という能力を育てる施設なのだとか。まぁそういう意味ではアンサリヴァン騎竜学院と同じ思想ともいえる。

 

そしてオレがあの場にいた理由だが、貴族の少年少女による使い魔召喚の儀という奴なのだそうだ。メイジ(貴族≒魔法使い)が運命を共にする使い魔を召喚し、契約する儀式。オレはその使い魔候補として召喚された。簡単に言うとあの桃色少女が竜飼い人でオレが相棒ってことだ。

 

嫌だよ。

いくら稀に見る美少女だからって気位高そうでこっちを睨んでくるし。でも話を聞くに此処は異世界、しかも月が二つあったので多分間違いない。そんな右も左も分からない土地で少なくとも衣食住は提供されるとなれば、大人しく従うほうが利口だろう。

 

幸いにして向こうはオリヴィエを送り返したオレを見て異郷のメイジだと思ってくれたらしく、そうそう酷い目にも会わないだろう。

いざとなればオリヴィエに乗せて貰って抜け出すのもありだしな。

 

という訳でオレは桃色少女――ルイズの使い魔となったのである。

 

唇はやーらかかったけど左手痛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼロの竜騎士2

 

 

「さっさと起きなさい使い魔、朝食の時間よ」

 

朝からイラッと来る発言で目が覚めた。

第一声からしてこれとは、先が思いやられる。

ただでさえ床に敷いた藁の寝床で一夜を過ごしたのだ、反骨心や反逆心の一つや二つは目覚めて然るべきだろう。

 

「おはよう御主人、いい朝だね」

「まったくね。これでアンタが早起きだったらもっと良かったけど」

「それは悪うございました」

 

目の前におわす桃色の髪をした美少女、ルイズ・フランソワーズ……なんちゃらは、公爵家のご令嬢らしい。

いくら異国のメイジとして認識されていても、爵位なんて持ち合わせていない俺は平民の扱いとそう変わらない。

いや、これでも高待遇だってことは分かってるんだけどね。

 

「はぁ、なんでアンタみたいなのが召喚されるのよ」

「はぁ、なんでオレみたいなのを召喚するのかね」

 

視線をルイズの顔から左手に向ける。

そこにあるのは七文字の文様、使い魔のルーンという奴らしい。

 

次に右手へ移動する。

そこにあるのは円とその中に収まる竜頭の紋章。竜飼い人に刻まれた星刻だ。

 

両手の甲にこんなのがあると、自分を特別視してしまいそうだ。

うん、我ながらカッコイイと思う。男の子ならカッコイイものに憧れるのは当然だ、英雄視されたいのも当然のことなのだ。

まぁ、異世界に召喚されて使い魔になってる現状からして、特別には違いないのだろうが。

 

「何してるの、早く行くわよ」

「へいへい、お供しますよマイマスター」

「よろしい」

 

さぁて、楽しい朝ごはんがオレを待っている!

 

 

____________________________

 

 

 

 

「っと、思ったんだけどなぁ」

「何をブツブツ言ってんのよ、煩わしいわ」

 

床に腰を下ろすオレ。

椅子に腰掛け見下すルイズ。

目の前には具のないスープと硬いパン。

ルイズの前にはスープにサラダにお肉にパン。

 

まぁ食いもんに文句がある訳じゃないが、彼我の差が激しすぎてテンション下がるぜ。

あとせめてテーブルで食事をしたかった。

 

「ん、味は悪くない。ってか美味い」

 

内容が質素だから比べようもないが、学院(アンサリヴァンの方)の食堂に慣れてるオレが美味いと思えるってことは相当だろう。

この学院も他国から留学生を招いてるって話だし、やっぱり諸々の水準は同じくらいなのだろう。

 

「ここの料理長は王宮に勤めてた事があるって聞いたし、腕はいいはずよ」

「へぇ、流石にここまで大きい学院ならそういう人を雇ってんだなぁ」

 

要チェックだ。

機会があればゴマをすりに行くのも手だろう。

主に食事事情を改善するために。

 

「なぁ御主人、ちょっとその肉を分けては――」

「もらえる訳ないでしょ」

「じゃあそのタレ、タレだけでいいから」

「嫌よ気持ち悪い、ご飯を恵んであげてるんだから我慢なさい」

 

うん、やっぱりゴマすりに行こう。

俺の食事事情改善のために。

ルイズが口にしているあの食事を恵んでもらうために!!

 

 

 

 

 

 

ゼロの竜騎士3

 

 

「ラスク、アンタのドラゴンであのサラマンダー蹴散らしてくれない?」

「いきなり物騒だなルイズよ」

 

朝食を終えて教室へ向かう途中、ルイズの知己に出会った。

褐色の肌と豊満な肢体を持ち、燃えるような赤髪が綺麗な美女だった。

キュルケと名乗った彼女はツェルプトーという家の娘で、ルイズの生家であるヴァリエール公爵家とは因縁の間柄らしい。彼女の使い魔はサラマンダーという火属性のトカゲであり、この周辺の地域では非常に珍しい種族なのだとか。

 

それに業を煮やした家の桃色少女がプッツンしてしまい、地竜であるオリヴィエを召喚して件のサラマンダー――延いてはツェルプトー家のキュルケさんに一泡吹かせてやれというお達しなのだった。

まぁいかにサラマンダーといえど所詮トカゲに過ぎない。

竜のオリヴィエとは格が違うので、やろうと思えば簡単なことだが。

 

「だが断る」

「あんでよ、主人の命令が聞けないって言うの?」

「オレはそんな可哀想な事なんてしたくない。それにこんなところに呼び出したら、下手すると床が自重で抜けかねない」

 

竜は重たいんだぞ。

あの巨体だから分かると思うがな。

 

「ねぇ使い魔さん、ヴァリエールの小娘なんて捨ててアタシの所へ来ない? 可愛がってあげるわよ?」

「ラスク!」

「この通り、御主人に殺されそうだから遠慮しとくよ」

 

ルイズ怖い。

美人が怒ると怖いっていうけど、あの端正な美貌がまるで鬼神のようじゃないか。

竜も恐れ戦いて逃げ出す迫力だったぞ。

 

「もうゼロのルイズったら、使い魔からの信頼度もゼロなのねぇ」

「ツェルプトー! アンタねぇ……」

「あらごめんなさいな、ゼロのルイズ。本当の事を言って悪かったわ」

「く、ぬぬぬ、ヴァリエール公爵家三女の私をよくも、目に物見せてやるわ!」

「アタシは火のトライアングルなのよ? ゼロのアナタにどうこう出来るかしらね?」

 

煽るキュルケにから回るルイズ。

キュルケさんはからかい半分のようだが、ルイズは本気で目の敵にしてるな。喧嘩するほど仲がいいとは言うが、これじゃまるで姉妹喧嘩だよ。っていうかさぁ……

 

「お前らー、教室行かねーのー?」

 

廊下で喧嘩は迷惑だと思います。

 

 

 

____________________________

 

 

 

 

 

メイジにはそれぞれ二つ名という物があるらしい。

先ほどのキュルケさんの場合は微熱。

そして彼女が口走っていたゼロのルイズというアレ、そのゼロというのがルイズの二つ名なのだとか。意味はそのまま(ゼロ)、魔法の成功率0%という意味だそうだ。

 

何をやっても爆発を引き起こす異端児。

メイジであるなら誰でも使えるコモンマジックという種別のものから、五つ(一つは失われたらしいので実質四つ)に別れた系統魔法まですべからく。「ロック」で爆発、「ライト」で爆発、「錬金」で爆発、「ファイアーボール」で爆発。そうして付いたのがゼロの蔑称なのだとか。

 

しかも王家に連なる公爵家のご令嬢ということで距離を取られ、整った容姿と高い成績も合わさって孤立状態に近いらしい。それを思えば今朝のキュルケさんのからかいも、ルイズを気に掛けている証拠と言えるかもしれない。ルイズによれば16である彼女より二つ年上とのことらしいので、印象通り妹分みたいに思っているのかもしれない。

 

まぁそれは一先ず横に置いといて、だ。

 

「早いとこ片付けないとなぁ」

 

ルイズが「錬金」の魔法で爆破したこの教室を掃除しないといけない。トホホ(泣)

 

 

 

 

 

 

 

ゼロの竜騎士4

 

 

「アンタも私のことバカにしてるんでしょ?」

 

なんとなく無言で片付けていると、ルイズから声がかかった。

 

「はぁ? いきなりどうしたよ」

「惚けないで! 私はゼロ、魔法の一つもちゃんと使えない落ちこぼれ。どんなに虚勢を張っても、これがアンタを(しいた)げてた主人の正体よ」

 

幻滅したでしょ、と呟き影を背負うルイズだが、コイツは勘違いをしている。

 

「アホかお前は。幻滅も何も、最初からお前の評価は底辺だっての」

「なっ! ここは普通慰める所でしょ! ほんっと空気読めない平民ねアンタ!」

「人を何処ともしれない土地に召喚した誘拐犯が何言ってんだ」

 

こちとら家族友人と訳も分からぬまま引き離されてるっての。

慰めてもらえるだなんて自意識過剰も甚だしい、頭髪だけでなく頭の中身まで桃色少女め。

 

「オレを召喚したのはお前で、オレが契約したのもお前だ。グダグダ()かしてないで働け。お前にはオレの生活を保証する義務と責任があるんだ、義務を果たせるのも責任を負えるのもお前だけなんだから」

「……文句言うか慰めるかどっちかにしなさいよ」

「慰めてねぇ、当然の事を言ってやっただけだ」

「素直じゃないわね」

「お前が言うな」

 

互いに顔も見ず掃除に勤しみながらだが、考えなくても口が勝手に動いている。

使い魔に選ばれるくらいなんだから、結構相性が良かったりするのかねぇ。

 

「ありがと……」

「ん……」

 

昼食は並んで食べたとさ、まる

 

 

 

_______________________

 

 

 

 

「で終わってればそこそこ美談だったと思うんだけど」

 

せっかくルイズの態度が軟化して椅子に座った食事ができたのに、いい気分が台無しだ。

原因は目の前の男。ナルシストっぽい言動のギーシュという金髪少年が、二股をやらかしたことにある。学院で働くメイドが彼の落とした香水を拾った所、それが二股をかけられていた少女の一人による贈り物だったらしく、あれよあれよという間に二股が発覚しギーシュ少年が晒し者となった。

 

それに腹を立てた彼は件のメイドに罪を擦り付けて八つ当たりし、鬱憤を晴らそうという事で騒ぎが起きたのだ。

見過ごせなかったオレは乱入、そして現在に至る。

 

「諸君、決闘だ!」

「いいね、勝者こそ正義ってのは分かりやすい」

「まさか貴族に歯向かって勝てる気でいるのかい平民君?」

「勝てるかどうかと戦うかどうかは別問題だろう魔法使い?」

「いい啖呵だ、ではヴェストリの広場にて決闘を執り行おう」

 

そして決闘場たる広場に到着。

 

「ちょっとラスク、大丈夫なの?」

「ああ、手はあるからな」

「……勝てるの?」

「ああ、負ける気はしない」

「怪我したらご飯抜きだからね」

「かすり傷くらいは許してくれよ?」

「だーめ」

 

なんと、本当にノーダメージじゃないと飯抜きかよ。

こりゃさっさと終わらせるしかないな。

 

「準備はいいかい平民?」

「ああ、いつでもいいぜ貴族様」

「では、ワルキューレよ!」

 

呪文と共に杖をひと振りすると地面から金属製の女騎士が生まれる。

 

「僕は貴族だからね、もちろん魔法を使わせてもらうよ? よもや嫌とは言わないね?」

「ああ、構わないぜ。ならオレも」

 

右手に刻まれた星刻に意識を傾ける。さあ来いオレの相棒、あの二股男の鼻をへし折るぞ。

星刻の輝きと共にオリヴィエが召喚される。

 

「オレは竜使いだからな、もちろん竜を使わせてもらうぜ? まさか文句はないだろう?」

「な、なななっ!」

 

コイツはオレが召喚された場にいなかったのだろう。

オレが跨がるオリヴィエを見て、顔の血の気が引いている。

 

「くっ、僕も貴族だ、決闘から逃げはしない!」

「アンサリヴァン騎竜学院所属の一年、ラスク・レリーフ。付いたあだ名が暴れ竜(タイラント)

「グラモン元帥が三男、青銅のギーシュ・ド・グラモン。往くぞ!」

 

おお、思ったより骨がある男だ。

まさかオリヴィエに立ち向かってくるとは。

 

だがしかし――

 

「ま、参りました!」

 

速攻で終わったけどな。

 

 

 



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Fate/EXTRA another (EXTRA×Apocrypha)

目を通してくれた人がいるみたいなので、調子に乗ってみた。
今度は憑依で一つ。



 

 

 

 

 

ありえない。

というか、有り得て欲しくない。これが現実であって欲しくない。そう思考する俺の姿は、

 

「どう見てもザビ夫です、本当にありがとうございました」

 

完全無欠に別人だった。

ってかFate/EXTRAの男主人公だった。鏡で見たから間違いない。

どうやら俺は岸波白野に憑依したらしい、まったく意味が解らないが。

 

(あ、詰んだ)

 

事情を悟った時に俺が思ったことである。だって、コイツはダメだろ。

聖杯戦争の予選で自我を取り戻さなければ死に、サーヴァントを召喚できなければ死に、対戦で負ければ死に、不参加でも死に、極めつけには優勝してもムーンセルに消されて死ぬ。何もしなくても死に、何をしても死ぬ。

 

ただ一つの可能性は、優勝して消される前に聖杯に生存を願うこと。

いや、それも実現できるかわからないけどね、二重の意味で。

優勝するのは原作見る限りってかやる限り大変だし、聖杯の機能で可能なのかも分からんし。

 

(いやそもそも、サーヴァントすら喚べない可能性が大きいんだが)

 

俺は確かに岸波白野である。

しかし、主人公ではない。憑依している所からしてもはや別人故に主人公補正というものはなく、こいつイカれてるだろっていう不屈の意志も俺にはない、協力してくれるサーヴァントがいるとも思えない。

 

だが、しかしまぁ、

 

(何もしなくても死ぬんだから、行動した方がいいか)

 

朝倉さんも言ってたし、やらない後悔よりやった後悔の方が良いって。

だったらまぁ、開き直って足掻いてみるのもいいかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     Fate/EXTRA another

         ~月の玉座に至る路~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、決意した俺ではあったが。

召喚したのがまさかの

 

「アサシン、か」

 

それもただのアサシンではない。

暗殺者としての性能だけ見れば、彼の李書文先生にも負けない当たりを引いた。

直接戦闘では頼りないかもしれないが、宝具の連発で十分に優勝を狙える。

ゲーム仕様による自サバの宝具封印がなければ、原作知識によって“彼女”の真名も知り得る俺だからこそ、その性能を発揮させることは可能だ。

 

「よろしく頼むよ」

 

「うん、マスター」

 

目の前の少女――銀の短髪にアイスブルーの瞳を持つサーヴァント――は、俺の運命共同体になったのだ。

 

“彼女”の名はジャック・ザ・リッパー。

霧の街ロンドンにおいて数多の女性を殺害した、正体不明の連続殺人鬼である。

 

その正体は人間に非ず。

堕胎され生まれることを拒絶された胎児たちの怨霊。その集合体が母を求めたことで起きた連続殺人事件の犯人として冠された名こそ、ジャック・ザ・リッパー/切り裂きジャック。

出自が魔性の者で正当な人間でこそないが、ジャック・ザ・リッパー張本人である。

 

「じゃあアサシン、これから君のことはジルと呼ぶよ」

 

「ジル? どうして?」

 

「クラスを特定されないタメさ。そして、君をサーヴァントと気づかせないタメでもある。アサシンのサーヴァントは気配遮断スキルを持ってるからそれも楽だろうしね。あ、名前の方はジャック・ザ・リッパーの女性版だからだよ」

 

アサシン故に暗殺万歳。

ユリウスみたく試合開始前に対戦相手を殺して不戦勝狙いというのもありだ。

ジルは「情報抹消」という能力・真名・外見的特徴を消失させる特殊スキルを所持しており、「霧夜の殺人」という奇襲用の先手必勝スキルを合わせて最高の暗殺者として活動できる。

 

「うん? うん、わかった。マスターの言う通りにする」

 

そして件のジルだが、原作とは色々と差異が出ている。

まず俺を「おかあさん」と呼ばないこと。これはまぁ、男の俺を母親とは認識しないよなってことで。

次に「精神汚染」スキルと「気配遮断」スキルが1ランク低下していること。これは恐らく召喚したマスターの差だろう。士郎と切嗣でセイバーの性格が違うみたいな。そのせいなのか、彼女が若干大人びているように感じる。物分りもいいみたいだし。

 

(まぁ、態度が軟化してくれる分には文句ないや)

 

さて、一段落したらアリーナへ行きますか。

って、その前に言峰か。対戦相手を教えてもらわないといけないし。

外道神父と話すのは少し楽しみだな。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――― now lording ――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

夜、自室、マイルーム。

ジルと共にアリーナを駆け巡った俺は、クタクタに疲れ果てていた。

 

「ぐぁああああ、もうダメぇ」

 

「わたしたち、疲れた……」

 

ジルも頑張ってくれた。

彼女の現在ステータスは、

 

 

 

 

 

筋力 耐久 敏捷 魔力 幸運 宝具

 E  E  C  D  E  C

 

 

 

 

 

こんな感じ。

これでも敏捷と魔力は1ランク上がったんだよ。

吸血種としても当てはまるジルは、エネミーから少量ずつ魔力を補給して戦っていた。

ゴメンネ、魔力の少ない駄目マスターで。文句ならこの体の本来の持ち主に言ってくれ。

 

魂の改竄をしてもらえば、もうちょっとステータスが上がるかもしれない。

期待しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ハイスクール・ブラッド HSDD×ストブラ

オリ主ではなく原作主人公をぶち込んでみた。
あと三人称。



 

 

 

 

彼の者は不死にして不滅――一切の血族同胞を持たず、支配を望まず、ただ災厄の化身たる十二の眷属を従える。

 

第四真祖の諸説であり定義。

世界最強の肩書きを持つ者。

焔光の夜伯(カレイドブラッド)”と呼ばれる者。

長く美しい金髪は風に煽られ、七色の光彩を放つ。

それは正に万華鏡(カレイド)の如く。

 

カレイドブラッド――万華鏡のように煌く鮮血。

それは、確かに彼女を表すに相応しい言葉だった。

 

「アヴローラ!」

 

「我は再び恒久の微睡みに身を委ねる。汝は闇に濡れた衣を脱ぎ捨て、この冥道より去るがいい」

 

茶髪の少年は、虹色に揺らめく金髪の少女に詰め寄る。

しかし、少女はそれを許さない。

 

「我は、我は嬉しかった。楽しかった。故に恐怖はない」

 

少年は少女に逆らえない。

血の従者は、主の命に逆らえない。

 

しかし……

 

「そんな嘘吐いてんじゃねぇ!」

 

それでも、少年は抗う。

何故ならば。

 

「怖くないなら、悲しくないなら、なんで泣いてるんだよ!!」

 

彼は、少女の涙を見過ごせない。

 

「わ、我、我は、汝と生きたい……」

 

「だったら!」

 

「でも、それは出来ない」

 

少女も、譲れない事がある。

 

「汝は、身命を賭して我を救った。我もまた、汝の安寧を望む」

 

「俺は……」

 

「汝の幸福を祈る、じゃあね、一誠」

 

「アヴローラァ―――――――アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

そして少年は、兵藤一誠は第四真祖となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、おっぱい揉みてぇ」

 

「またそれかよ、こりねぇなお前は」

 

「おっぱいの素晴らしさが分からないというのか矢瀬!」

 

「そんなもん、分からない訳が無い!! だがしかし」

 

「朝っぱらからなんて会話してんのよ馬鹿ども!」

 

「「げぇ、浅葱っ!」」

 

それから数ヶ月、兵藤一誠は日常に戻った。

年相応に異性への興味を持ち、並外れた性欲を宿す男子高校生に。

 

その日常が破られ、再びその身を血で汚すのはもうすぐ。

“第四真祖”兵藤一誠の名が世界に轟くまで、そう時間はかからない。

 

「待って下さい、兵藤一誠!」

 

「うぇ、俺の名前まで」

 

剣の巫女が監視役に任命されるまで、

 

「先輩はほんっとうにいやらしい吸血鬼(ひと)ですねっ!」

 

「お宝映像ありがとうございます! そしてエッチでごめんなさい!」

 

世界に拒絶された異端者たちが出会うまで、

 

「雪菜ちゃん、巻き込んでごめん」

 

「大丈夫です。私は、イッセー先輩の監視役ですから」

 

赤龍の主と神狼の担い手が心を通わし、運命を共にすることを誓うまで。

その時は近づいている。

 

これは第四真祖と呼ばれる少年とそれを監視する少女、そしてその周囲を取り巻く者たちの物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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とある殺人鬼紛いの戯言もどき リリなの×戯言シリーズ×人間シリーズ

理想郷のとある作品を思い出して書き綴ってみたものの……
西尾作品は読むのは好きですが書けないので、始まることはないでしょう。



開幕

 

 

 

 

「では、零崎を始めよう」

 

「始めるな!!」

 

冒頭からいきなり怒られた。

 

無視しよう。

 

「するなバカ!!」

 

「なんだよ痛恨の金髪、俺に何か用か?」

 

「痛恨の金髪って何よ!? あたしがイタい奴だとでも言うの!?」

 

「ふぅ、まさか自覚があったとは……」

 

「一回死んで来い!!」

 

「バカだな、死んだ人間は生き返らないんだよ(嘲笑)」

 

「大丈夫、アンタは人類に分類されないから(失笑)」

 

「ああ、確かに。この俺を人類程度の枠に収められるはずがないからな(苦笑)」

 

「何様のつもりっ!?」

 

「無論、俺様のつもりだが?」

 

「こ、殺してやりたい……(プルプル)」

 

目の前にいるのはツンデレ金髪お嬢様のアリサ・バニングス、通称イタい金髪基地外娘だ。

 

「誰が基地外かっ!?」

 

その存在こそが痛恨のミスと言わんばかりの少女は現在、埋められかけの小鹿のようにプルプルと震えている。

 

「聞きなさいよ、っていうか埋められかけ!? なんて酷い仕打ちを!!」

 

「不覚、確かに小鹿をイタ金と同じ扱いにするのは酷いよな」

 

「そっちか!! っていうかイタ金って何よ!?」

 

「何を言っている? イタい金髪の略に決まっているだろう。なぁ爆走車だらけのテーマパークよ」

 

「すずかサーキットの遊園地は楽しかったね」

 

ああ、色々と童心に返って遊びつくした。

 

っていうか今のでよくわかったな。

 

「だって、いっくんこの前も同じこと言ってたよ?」

 

「アレ? そうだっけ?」

 

「うん、そうだよ」

 

ああそっかー。

 

そうなんだよー。

 

あはははははは、うふふふふふふ。

 

そんな風に俺がすずかと戯れていると、

 

「あたしを無視するなぁ!!」

 

「癇癪起こしたツンデレが怒鳴り込んできた」

 

「誰がツンデレよっ!!」

 

「お前以外に誰がいる? 暑苦しいんだよバーニング」

 

「バニングスよ、決して燃えている訳じゃないわ!!」

 

「そうだな、ツンデレは萌えだもんな」

 

「ちっがーーーーーう!!」

 

「これは失敬、まだデレてはいないからツンデレではなかったか」

 

デレがないツンデレ、ツン100%の女帝か。

 

「そういう意味じゃないわよ!!」

 

「で、一体何の用なんだ痛恨の金髪?」

 

「痛恨の金髪って何よ!? あたしがイタい奴だとでも言うの!?」

 

「アリサちゃーん、ループしてるよループ!」

 

ちっ、すずかが止めに入ったか。

 

「はっ、まさかこの私がこんな罠に引っかかるとは……恐ろしいわ、いーの奴」

 

「ま、ぶっちゃけ毎日のように引っかかってるんだがな」

 

「コイツはぁーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

っと、いつものようにあーたんで遊ぶ「誰があーたんよ!?」俺だが、一つ「聞きなさいったら!!」気になる事がある。

 

「なぁすずちゃん、なのなのがいないなんて珍しいな」

 

「そうだね、なのはちゃんが学校お休みなんて……」

 

「そんなことよりも私の話を聞けぇええええええええええええええ!!!!!!!」

 

耳元で怒鳴るな喧しい。

 

「耳元で喚くな鬱陶しい」

 

「地の文よりも口に出す方が酷いってどういう事よ!?」

 

「こらこら、さっきからメタ発言ばかりするんじゃない」

 

まったく、この金髪は。

 

「でもそのセリフも第四の壁を意識してるよね」

 

む、それは確かに。

 

「良くぞ気付いたなリンリン、褒めて使わす」

 

「鈴からリンリンってどうかと思うけどとりあえずありがとう」

 

「っていうか、あーたんって何よ!!」

 

ん? そんなの決まっているだろう。

 

「あーたん。アテn……アリスだから……あ、また間違えた。アリサだからあーたん」

 

「何度間違えれば気が済むのよ!! アンタは私をどうしたいわけ!?」

 

「ん? ペット。ほれあーたん、わんわんって鳴いてみ」

 

「死ねぇいっ!!」

 

シュッ

 

「捕まえてごらぁん、アハハ――!」

 

「待てやコラぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

これは零崎愛識(ぜろさきいとしき)、通称いっくんによる舞台演劇。

 

「戯言? 傑作? どちらでもない、ただの絵空事だよ」

 

とある殺人鬼紛いの戯言もどき、始まりません。

 

 

 

 

 



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女神を腕に抱く魔王 (カンピオーネ!)

ゼロ竜の筆が止まってしまったので、ずっと書きたかった設定を晒してみます。
プロローグの経緯は思いついたものの、物語の展開を想像できないので断念。


 

 

 

「ふむ、この国にも蛇はない。極東の国とは、少し遠くに来すぎたか?」

 

無人の広場に少女が一人。

月光に当てられ神秘的な輝きを放つ銀の髪に、夜の闇を宿したような黒曜の瞳。

白い布を合わせただけの簡素な民族衣装が、少女の美しさを際立たせていた。

 

「ん? 人の子よ、妾の姿を瞳に写すか」

 

幼くとも、否。

幼いが故に人間離れした美しさは妖艶さを醸し出す。

人並み外れ、人間を離れ、そして神々しい空気を纏う少女。

 

「ヘルメスの弟子の様には見えぬ。只人か、しかし神官の才でもあるのかもしれぬな」

 

優美で、麗しく、鮮烈で、清らかな。

人の言葉で形容することが烏滸(おこ)がましいとすら思える。

 

「妾の神気に当てられながらも自我を損なわぬとは、中々に筋がいい」

 

なぜならば少女は――まつろわぬ神。

神話より抜け出した、正真正銘の神格である。

 

「妾はアテナ、縁があれば何処かで相見(あいまみ)えようぞ」

 

その日、草薙護堂は―― 一人の女神に恋をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アテナ。

 

アテーナー、アテーネー、アタナ、様々な地域で様々な呼び方をされるギリシア神話の女神であり、オリュンポス十二神に数えられる神のひと柱。知

 

恵、芸術、工芸、戦略を司る女神であり、同じギリシア神話のアルテミスと並んで有名な処女神である。

 

元々は城塞の守護女神として一部地域で信仰されていた神だったが、やがて古代ギリシア人の征服と共に神話へ組み込まれていく。

 

神話においての彼女は主神ゼウスの娘として位置づけられる。

天空神ゼウスは妻メティスに子を授かるが、祖父母たるウラノスとガイアより予言を受ける。ゼウスの父が、そしてゼウス自身がそうだったように、

 

己の子によって王権が簒奪されるであろうと。それを恐れたゼウスは、妊娠した妻を頭から飲み込んだ。

 

しかし母ごと飲み込まれた胎児はゼウスの体内で成長し、激しい頭痛に苛まれたゼウスは斧で頭部を割らせる。そこから生まれたのがアテナであ

 

る。

 

「権力に固執して妻を子供ごと殺すなんて、神様ってのも人でなしだなぁ」

 

いや、人じゃなくて神なんだけど。そう呟く護堂は、図書館の隅でで一人頭を抱える。

何を隠そうこの少年、夜の公園でアテナと名乗る少女に一目惚れして、アテナ神の事を調べている最中であった。

わざわざギリシアの地に足を踏み入れてまで探すその行動力は、祖父を彷彿とさせると彼の妹は語った。

 

「馬鹿みたいって、自分でも思う。けどやっぱり、何だか人間とは思えないんだよな」

 

銀色の髪に黒い瞳の少女。

思えば、身にまとっていた着衣もギリシア神話の絵に描かれた神々の衣装に似ている。

 

「アテナ、か」

 

つい少女の名を零し(かぶり)を振るが、感じた違和感にハッとする。

どう表現すれば良いか分からないが、強いて言うならそう、まるで世界が反転したような。

 

「小僧、今アテナと申したか?」

 

野太く、地を這うような、それでいてどこか気高い意思を感じる声。

少年が生涯で二度目に聞いた、神の言葉であった。

 

「あ、貴方は……」

 

気付くと目の前には男性が立っていた。

アテナと同じ物を感じさせる衣装、そして空気。

瞬時に悟る、神なのだと。

 

(しか)と記憶することだ人間よ、我が名はゼウス。天を支配せし神々の王、ゼウスである!」

 

ゼウス!

先ほど調べた資料にも度々記されていた天空神。恋焦がれるアテナの父であり、そして同時に母の仇でもある男。

 

「俺、いや、私は草薙護堂と言います。どのようなご用が合って此処に参られたので御座いましょうか?」

 

敬語やら何やら支離滅裂であるものの、なんとか伝えたいことは伝わったらしく。

 

「覚えのある力の残滓に誘われて現世に舞い降りたら、その娘の名を申す人間がいた。よって問うた、それだけだ。して小僧、アテナの所在を知る

 

か?」

「い、いえ。日本、祖国でアテナ神に出会って、名前を教えられただけですので」

「ふむ、罰を与える雷が反応せんのを見るに偽りではないか。なれば致し方ない、あやつを味わうのは後にするか」

 

味わう、その言葉に含まれる意味に心が騒めく。

 

「……失礼ながら神よ、味わう、とはどのような意味で?」

「ん? 決まっておろう。アテナは三位一体の女神であるぞ」

 

少女、母、老婆の要素が合わさって形成された神格こそアテナという女神の本質。

少女がアテナ、母がメティスにそれぞれ相当するのだという。それは即ち……

 

「まつろわぬ身となった今、メティスと一体であるアテナを征服するのが我が勤め。後は男なら分かるであろう?」

 

その言葉を聞き、理解した時――草薙護堂は理性をかなぐり捨てた。

そうしてこれより約20時間が経過した頃、世界に七人目の王が誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これはギリシアのとある都市を未曾有の大嵐と落雷が襲ってから一週間後のこと。

日本の東京、とある家庭での一幕。

 

「紹介するよ静花、爺ちゃん。俺の嫁さんのアテナだ、よろしく頼む」

「ご紹介に預かりました、パラス・アテナです。先日、護堂さんに娶って頂きました」

 

彼の妹――草薙静花の絶叫と共に物語は一先ずの終幕を迎える。

次に事態が大きく動き出すのは、更に半年後のことである。

 

 

 



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空想の隙間

制服姿の那月ちゃんを見てずっと書きたいなと思っていた設定でやってみました。
短編なら書けるかなと思ったけど、間の日常シーンが思いつかなくてあえなく断念。いつもの最初と最後を繋げたそれらしき不良品に……

あと、誰か感想くれたら嬉しいな[壁]_・)チラッ



 

 

 

これはありえない一幕。

 

何処かの誰かが思い描いた空想である。

 

本の隙間に挟まった、何の関係もない紙切れである。

 

 

 

 

 

 

 

「――先輩。先輩、起きて下さい」

「んん? ん~」

 

とあるマンションの一室に声が響く。そこに住む男の物ではない、透き通った少女の声音だ。

それに呼応するようにくぐもった声が上がる。この家の住人である男の声だ。男を眠りから覚まそうとする少女に抵抗している。呼びかけと抗議の唸りを幾度か繰り返して遂に嫌気が差したのか、少女は強硬手段へと移ることにした。

 

「もう、先輩ったら!」

「いてっ! なんだ!?」

 

夢見心地だった所に頭部への衝撃を受け、男は驚愕とともに目を開ける。

 

「なんだじゃありません。もう朝ですよ、学校に行かなきゃです」

「あーそうか。そんな時間なんだな。おはよう、南宮」

「おはようございます、暁先輩」

 

男の名は暁古城、第四真祖と呼ばれる吸血鬼。

少女の名は南宮那月、暁古城の監視役として派遣された攻魔師である。

 

 

 

 

 

 

 

その後古城宅で朝食を済ませた二人は、彩海学園へ向けて通学中であった。

 

「わざわざ起こしてくれなくても良かったのに、っていうかもうちょっと寝ていたかった」

「確かに吸血鬼に朝は辛いかもしれませんが、それだと私が学校に行けなくなってしまいます」

「じゃあそんな四六時中そばにいなくても……」

 

夢の世界に思いを馳せる古城と、それをバッサリ切り捨てる那月。

いつも通りの二人の姿だ。

 

「そんな訳には行きません。これでも私は、第四真祖たる先輩の監視役ですから」

「監視役なら大人しく影から見ててくれよ、生活に干渉するんじゃなくて」

 

己の役目を掲げる那月と、それに辟易する古城。

これもいつも通りの姿。

 

「影から見ていては咄嗟の事態に対応できません。それに、観賞はしていません。監視です」

「いや、そこまで上手く言えてないと思うぞ」

「先輩の名前も洒落てるようであまり上手くありません」

「人の名前をバカにすんなよ! ってか名前は俺のせいじゃないだろ!?」

 

打てば響くという言葉を体現するようにじゃれ合っている。

仲睦まじく登下校を繰り返す彼らは、自分たちがどう見られているかなど考えもしていない。

 

こんな日常が、いつまでも続くと思っていた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「南宮ぁ!」

「せん、ぱい……」

 

監獄として造られた人工島の砦、その内部に怒声が響き渡る。

血相を変えて乗り込んできた男、暁古城の声だ。

 

「いきなりいなくなったと思ったら。何だよ、監獄結界って」

「知って、しまったんですね」

 

監獄結界。

凶悪犯罪者たちを捕らえているこの島そのものを結界に取り込み、脱走不可能な異次元へと封印する魔法。

強力な術式故に扱える水準にある術者は限られており、現状でそれに最も適している者は、那月だ。

 

そしてこの魔法は使用者を中心として展開される永久術式。

つまり、これを発動すれば術者は――

 

「私は、あと半時間もすればこの玉座で眠りにつきます。それが、監獄結界の主たる者の役目」

「そんなことって」

「心配ありませんよ。逆に言えばこれほど安全な場所もありませんし、明日からまた学校で会えます」

「それはお前じゃないだろうっ!」

 

いや、その人格は南宮那月そのものなのだろう。

ただ、肉体が幻想に過ぎないというだけで。

 

「じゃあ、だったらどうすればいいんですか!」

 

古城の叫びを受けて、那月はタガが外れたように声を荒げる。

 

「監獄結界じゃなきゃもう犯罪者たちは抑え込めない!」

「それをしなきゃ近いうちにこの島は彼らによって壊滅する!」

「私しか出来る人がいないなら、私がやるしかないじゃないですかぁ!」

 

かける言葉を見失った古城と、音もなく涙を流す那月。

玉座の間が静寂に包まれて、どれほどの時間が経過しただろう。

 

それを破ったのは、古城の問いかけだった。

 

「俺は、お前を止められないんだな」

「……はい」

「俺は、お前を止めちゃいけないんだな」

「はい」

 

天を仰いだ古城は、強い意志を宿した瞳で少女を射抜く。

 

「分かった、もう引き止めないよ」

 

その言葉に安堵と寂しさを感じる那月だが、古城はその代わり、と言葉を続ける。

 

「俺はお前と一緒にいる。例え十年経とうと百年経とうと、お前の傍でずっと生き続けてやる」

「監獄結界で眠り続けても怖くないさ。夢の中でも、俺が那月を守るから」

「これでも俺は不老不死の吸血鬼、世界最強の第四真祖だからな」

 

呆れ、落胆、驚愕、羞恥、幸福、一度にいくつもの感情で胸が満たされ、那月は笑いがこみ上げてくる。

 

「今はまだ、私の方が強いですけどね」

「ひでぇ、俺だってもう何年かすれば眷獣を従えられるって」

「期待しないで待っていますよ」

 

それこそ、永遠にだって。

貴方を待ち続ける/お前を守り続ける。

 

二人の物語は、これから始まりを迎えるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 



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空想の隙間 二枚目(ストライク・ザ・ブラッド)

あれだけじゃ足りないかなーと思ったので後日譚的なおまけを追加。
投稿する前に寝落ちしてしまったので朝一です。



ページを進めた先に挟まっていた、もう一枚の紙切れ。

 

永遠に続く、夢の続き。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彩海学園の敷地の境界、ありふれた朝の光景。

通学路を一心不乱に駆け抜け、既に閉じた校門をよじ登る男子学生がいた。

 

「また遅刻か、暁古城」

「げっ、那月ちゃん」

「担任教師にちゃんを付けるな」

「痛っ」

 

フリルの付いた衣装を着こなす黒髪の小柄な少女――南宮那月は、己の受け持つ生徒である少年――暁古城の頭部に制裁を与える。

これもまた、彩海学園の一角における日常風景であった。

 

「貴様、これで今週はコンプリートだな。一週間毎日遅刻とはいい度胸だ」

「いや待ってくれよ那月ちゃん、俺が朝弱いのはよく知ってるだろう?」

「ああ、よぉく知っているともさ。だがそれとこれとは話が別だ、放課後に反省文を書いてもらうから覚えておけ」

「ちょっ、頼むよ」

「ダメだ。貴様にはこれでも便宜を図っているつもりなのだが、反省文じゃなくて補習か宿題がいいのか?」

「是非とも反省文を書かせて下さい!」

「よし、私の執務室で待つ。遅れるなよ」

「はい!」

「……ああそれと、昨日の深夜徘徊の分も合わせて二倍だからな」

「…………はぁい」

 

パーカーの下に隠れていても分かる程に、古城の顔は絶望に染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の放課後、那月の理事長室より上の階にある豪勢な執務室。

朝の会話を実行に移すべく、古城は作文用紙と睨み合いをしていた。かれこれ半時間ほど前から。

 

「おい暁古城、まったく手が動いていないように見えるのは気のせいか?」

「そんなことないっすよ、那月ちゃんが見ての通り」

「だから那月ちゃんと呼ぶなと」

 

十分後

 

「おい暁、さっきから一枚しか進んでいないようだが私の目がおかしいのか?」

「全然、その通りだよ」

「さっさとしろ」

 

更に二十分

 

「おい」

「はい」

「一時間経ったぞ」

「もう終わります」

 

更に三十分が経過

 

「反省文五枚に一時間半、残業代が欲しいぞ」

「すんません」

「まったく」

 

ため息を吐いて呆れる那月に何か思うところがあったのか、古城は眉をひそめて疑問を投げかける。

 

「……なぁ那月ちゃん、なんかあったのか?」

「担任教師をちゃん付けで呼ぶな、馬鹿者」

 

視線を窓の外に向けて、切り出す。

 

「昨日手紙が来てな、何でも裕子が結婚するらしい」

 

出てきたのは、彼女のかつてのクラスメートの名前。

 

「へぇ、そいつは目出度いや」

「あのお転婆がだぞ? 色気の欠片も無いようなアホの子だったのに、時の流れというのは早いんだな」

 

古城からその表情は窺い知れない。

だが経験からなんとなく、どんな顔をしているのかは見当が付く。

 

小さな背中を見つめながら、かつて後輩だった少女へ声をかける。

 

「……なぁ南宮、寂しくないか?」

「それは……寂しいですけどね、大丈夫ですよ。だって私には、暁先輩がいてくれますから」

 

微笑み合う二人は、十年前と何ら変わらぬ笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Dies irae――Also sprach Zarathustra


作者は神咒神威神楽をプレイした事はないのですが、神座廻りの動画を見て歴代の碑文を真似てみました。ただ練炭をそのままじゃ芸がないので、オリジナルをイメージしてみたのが良かったのか悪かったのか。
どこぞの屑が求道型の覇道神なら、逆に覇道型の求道神があってもいいじゃないと。そしてルサルカが流出してもいいじゃないと。この神格はルサルカです、アンナちゃんではありません。練炭もロートスでも夜刀でもなく藤井蓮です。ありえないIF設定を妄想しながら暇つぶしに書いたものなので拙いですが……

サブタイはこの男神の流出名です。特に思い浮かばなかったので、リアル怒りの日を流用しました。


 

 

 

 

何処かの世界、何処かの宇宙、何処かの時空でのこと。

 

幾つかの階層に分かれた廟堂(びょうどう)の四つ目。海底を思わせる(あお)に染まった地下四階の一角に、誰の目にも触れない隠し通路が伸びている。

 

過去四つの理を見てきた男は、知る者がいない筈のそれを見つけ出す。

 

明かりのない暗闇を進むと、そこには少し開けた空間があった。薄明るい小部屋だ。

 

右側の壁には男の像。

進んできた大広間に祀られていた像に、造形が似ているように思える。

 

左側には少女の像。

幼い容貌をしながらも、どこか女の色香を感じさせる。

 

双方の台座には、言葉少なに文字が刻まれている。

其者、超越者(かみ)であり(かみ)成らぬ者なり。

 

神を祀るこの廟堂に神座以外の者が祀られているというのも謎だが、一つの空間に二つの像があるというのもおかしい。

 

座に着いていない神格だから、ひと部屋に像一体という法則も関係ないのだろうか。

 

正面に目を向けると、石碑が立っている。

描かれているのは、二匹の蛇が無貌の影に絡み互いを噛んでいる画。

 

その台座には、こう刻まれていた。

 

 

 

 

 

 

「其者、神によって産み落とされた神なり。

 

当時、座に在った神に祝福され、悪鬼の(まじな)いと只人(ただびと)の祈りによって生を受ける。

 

神に全てを定められた傀儡(かいらい)と呼ぶべき存在だった彼は、しかしてその喜劇の末に筋書きを外れ、己だけの刹那を見出す。番となる女は獣の爪牙。彼と同じく当時の神座によって見出され、祝福を受けた事で呪われた、妖艶ながらも哀れな女。

 

愛する者には先立たれ、天上の星には手が届かず、前を往く者には追いつけない。

 

彼が前身となった男から受け継いだのは、美しき日常が永遠に続けばいいという祈り。彼女が運命を呪いながら抱いたのは、永遠に追いつけないならば足を引いて止めてやろうという願い。

 

だが彼は彼女が死に瀕した際に、神の代替として有るまじき暴挙に出る。己の魂に根付いた渇望を否定し、時の巻き戻しを願ったのだ。

 

失ったものは還らない。二度と手に入らない宝石だからこそ美しく、故に取り返しが付くのならそれに価値などないのだと、その定義を覆してまで彼女の生きる未来を望んだ。価値など要らない、彼女と共に生きられるなら、俺は俺でなくてもいい。

 

生まれたのは狂気の邪神。こんな死に方はしたくない、ならば永遠に生きればいい。この世の総て破壊する、ならば最初に自害しろと、遍く祈りを鏡に写し、全ての誓いを淘汰する。

 

果てに達した彼を見て、女の嘆きは神域に至る。

 

それより先に進まないで、私を置いて遠くに行くなんて許さない。止まれ、止まれ、時も世界も何もかも、愛しい刹那と永遠に。

 

共に他者を巻き込む覇道なれど、その対象は両者のみ。彼と彼女は二人で一つ、共にいたいという共通の願いが、他に類を見ない前代未聞の神を生む。神域の祈りは互いの間で完結し、外に洩れない求道の理となる。

 

それは互いの尾を咬む蛟が如く、互いが互いを縛り付け合い貪り合うが、離れてしまえば世界に牙を剥く邪悪の大蛇。

 

時よ止まれ。否、巻き戻れ。我らの逢瀬を阻む者など、手を下すまでもなく自害せよ。

 

これぞ闇路(やみじ)の理、永遠の法、狂愛の神が背負った真実の全てである」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

碑文を一読し、再び像を注視してから、男は来た道を戻る。

 

元の藍い足場を踏み締めて振り返ると、通路は跡形もなくなっていた。壁に手を触れても違和感は見つからず、押してみてもビクともしない。

 

暫し瞠目し、そういうものかと踏ん切りを付ける。

 

首に巻く白い布を揺らしながら、男は次の階段を降りて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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紅蜘蛛行進曲

時期詳細不明。
なんとなく作ってみました。



 

 

「自己愛、己こそが何よりも大切という姿勢。ええ、それ自体には同意しますよ」

 

殿中の一室。

 

「ですが己は至高? 己以外には何も要らない? 馬鹿な」

 

そう吐き捨てるは細身の男。

 

「苦楽なき人生、他者の一切がない人生など、現世を生きる人間に耐えられるものではないというのに」

 

男は、六条と呼ばれている。

 

 

 

 

「蛇に誓った、勝つまで繰り返し続けると」

 

   百度繰り返して勝てぬのなら、千度繰り返して戦うがよい。

 

「獣に誓った、負けても抗い続けると」

 

   運命とやらいう収容所(ゲットー)に入ることを拒むなら、共に戦え。

 

「挫折し、道を違えたが、それでも――それでも、諦めた事だけはない」

 

抗った。

超越者たちへの恐怖故に。

 

諦めなかった。

自死の兆しに苛まれようと、例え失敗を積み重ねようと。

 

今この時も抗い続けている彼に、かつて敗北した自分だが。

それでも、あの黄昏を生む礎となったのならば、そう誇りにも似た感慨を抱いた事は否定しない。

 

「蛇の前には膝を折り、獣の前には頭を垂れる。彼らを恐れていた私に何が言えよう」

 

それが今や、この様だ。

 

己こそが至高、他には何も要らずあってはならぬ。

恐れ慄いていた修羅道至高天が、これでは極楽と思えてしまう。

 

己が至高だと?

馬鹿な。自分のような臆病者が至高というなら、彼の黄金を何と言い表せば良いのやら。

 

故に――

 

「だが、これだけは迷いなく言えるぞ」

 

此処に私は、修羅となろう。

 

「貴様は滅べ第六天!」

 

――太・極(Briah)――

 

「聖槍十三騎士団黒円卓第十位、六条紅虫(あかむし)=ロート・シュピーネ」

 

名乗りに込めた宣誓に、魂と共にあった聖遺物が脈を打つ。

数千年と息を潜めていたそれが、永劫破壊の術式と共に駆動する。

 

修羅曼荼羅・紅蜘蛛(べにぐも)――内から目覚めたその等級により、彼の世界を形作る。

怒りの日とは比べ物にならない程に膨れ上がった渇望が、遂に同胞たちと同じ領域に踏み込ませた。

 

即ち、創造位階。

天狗道には有り得ぬ覇道のそれは、既に亡き黄金の残照により太極位にまで押し上げられる。

 

軍勢変生・修羅曼荼羅。

主神たる黄金の獣は既に滅びているが、ロート・シュピーネ(六条)の魂は第四天の支配が終わったあの怒りの日、修羅の覇道により東の天魔たちと同じ位階に引き上げられている。

 

主が死したとて、その権能は消えていない。

龍明や夜行の式たちのように、威光は此処に残っている。

 

故にこそ、彼はこうして己の自我と記憶を思い出す事が出来たのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「獣は滅び、蛇は消し飛び、黄昏が砕かれてなお、刹那は抗い続けている」

 

肩を並べた宿敵が滅び、愛憎入り混じる父が消し飛び、世界より重いとすら言える愛した女が砕かれた。

ああ、それはなんたる悲劇。なんたる無情。

 

それでもなお高らかに、黄昏の守護者は謳い上げる。

憎悪に塗れ、狂気に身を浸してなお、神としての責任を果たすために。

愛した女の意思を絶やさせぬために。

 

心の底から畏敬の念を覚えて仕方ない。

 

だが、己はそれより以前から抗い続けてきたのだ。

あの蛇の手中で、獣の眼光に怯えながらも。

 

「私が至高、などと嘯く気はありませんが、先達としてのそれらしい姿くらいは見せましょう」

 

今ここで、何もせず死んだら後がない。

第六天を滅ぼせなければ、自分には来世というものがないのだ。

 

ここで死ぬのは確定事項、しかし時期的に転生は間に合わない。

無間神無月の内部に留まったまま、仮にも第四天の祝福を受けし魂が安安と消える訳が無い。

ザミエルの計略が成らねば、あの怪物か第七天となった刹那の元にたどり着く。

 

それは両者ともに、魂の死滅と同義である。

だからこそ彼は意地を張る。彼らの覇道を目覚めさせるために。

格好つけて、見栄を張って、できるだけ次の天へ媚を売るために。

 

吹っ切れて自暴自棄になってはいるものの、やはり彼は自分で言う通り、狡く小賢しい小心者ということだろう。

 

 

 

 

 

「……シュピーネ」

「これはこれはザミエル卿、このような場所にまで足を運ばれるとは」

 

滅びた宇宙に属する者は、現行宇宙の外装を脱ぎ捨ててしまっては主の後を追うしかない。

六条の、シュピーネの肉体は滅びの兆しが現れている。

 

嫌っていた類の人物といえど、古き同胞のそんな姿に龍明も感傷を覚えた。

 

「貴女にはそんな顔よりも、眉間に皺を寄せて睨まれている方が落ち着きますねぇ」

「抜かせ馬鹿者」

 

かつてを思わせる。だが、かつてはなかった気安い空気を醸し出す両者。

 

騎士道を旨とする紅蓮の赤騎士(ルベド)と、隠密工作を旨とする研究者にして諜報員。

互いに相容れない人種と言える両者だが、この時ばかりは双方笑みを浮かべていた。

 

死は終わりではない。

第四天と第五天。そして忌々しくも、第六天と呼ばれているあの怪物。

神座の交代劇に関わった自分たちは、そのことを良く知っている。

 

修羅に身を窶した彼らだからこそ、そこに死への恐怖はない。

あるのはただ、未来が途絶える恐怖のみ。

 

断崖の果てを飛翔するにも、その先の世界が途絶えていてはどうにもならない。

それをどうにかするために、黄昏の守護者たちは行動しているのだから。

 

 

 

 

 

 

「そろそろお別れですね、ザミエル卿」

「ああ、来世で待っているがいい」

ではさようなら(Auf wiedersehen)、ザミエル」

 

最後に敬称を外し、紅蓮の掲げた称号を宣う。

 

さらばだ(Auf wiedersehen)――戦友よ(カメラード)

 

そして彼女もまた、彼を友と認め見送る。

 

貴女方に勝利と未来のあらん事を(ジークハイル・ヴィクトーリア)

 

 



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この刹那に勝利を超えて(カンピオーネ×Dies Irae)

もう私の頭はDiesに乗っ取られてしまいました。
お陰でこんなネタばっかり浮かんできて、嫁アテナが進まない進まない。




 

 

 

 

かつて何処かであった一幕。

 

「いつか必ず」

 

   ――私が必ず

 

「あなたを解き放ってみせると誓おう」

 

   ――その空虚なる白無垢(はくち)から

 

「その時まで眠っていておくれ」

 

   ――その時が来れば、君には恨まれるかもしれんがね

 

云わば歌劇のタイトルコール。

 

神の台本による舞台演劇。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     俺がフランスの地で出会ったのは、一台(ひとり)血塗られた(うつくしい)ギロチン(しょうじょ)だった

 

 

 

その日、藤井蓮の人生は一変した。

否、彼の人生はその日に終わったのだ。

 

そして生まれ変わった。

人類から畏怖と忌避を向けられる、神殺しの魔王へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

もはや姿が見えない美しい少女は言う。

 

――一緒にいきましょう

 

行きましょうなのか、生きましょうなのか、どちらにせよ同じ事だ。

俺にはもう、これしか選択肢がないのだから。

 

この選択肢しか、俺には選べないのだから。

 

さぁ詠おう、頭に鳴り響く血のリフレインを。

さぁ叫ぼう、魂にまで根付いたこの祈りを。

 

Verweile doch, du bist so schon!(時よ止まれ――お前は美しい)

 

その祈りは響き渡り、そして聞き届けられた。

色は黒、装飾は赤。型は処刑刃、力は断頭。名を正義の柱(ギロチン)

 

生き物の命を奪い、輪廻の果てに巡らせる。

これこそが少女の在り方、その具現。

 

Je veux le sang, sang, sang, et sang(血 血 血 血が欲しい)

 

――Donnons le sang de guillotine(ギロチンに注ごう飲み物を)

 

Pour guerir la secheresse de la guillotine(ギロチンの渇きを癒す為)

 

――Je veux le sang, sang, sang, et sang(欲しいのは血 血 血)

 

断頭のリフレインが交差する。

これより先は、新たな神殺しの英雄譚。

 

かくして、喜劇の幕が上がる。

 

 

 

 

 

 

「卿が、新たな王か?」

 

瓦礫と火災を背景に、一人の男が語りかけて来た。

 

棚引く長髪は獅子の鬣が如き黄金。此方を睥睨する瞳もまた、黄金。

圧倒的な存在感で以てそこに在るのは、墓の王と呼ばれる男であった。

 

「ああ、藤井蓮だ。アンタも魔王(そう)なのか」

「然り。ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ、卿の先達だ」

 

ラインハルト・ハイドリヒ。

そう詳しい訳ではないが、蓮もその名を聞いた事くらいはある。

 

黄金の獣と呼ばれた、戦時中のドイツにおける秘密警察の長官。

才気溢れる彼の経歴は、見るも見事と言わざるを得ない輝かしさ。

 

そんな男が、神殺しの魔王だと? ならば、暗殺されたという情報は――

湧き上がる困惑と懐疑を視線から汲み取ったのか、男は穏やかに、されども凄みを感じさせる笑みを浮かべた。

 

「私は私以外にこの名を名乗った者を知らん。あの日、暗殺に遭った私はいい機会と表舞台から身を引いたのだ。更なる闘争を、更なる充足を、私の渇きを癒すに足る強敵を求めて――」

 

ああ。

 

だから。

 

だからこの男は此処に来たのだ。

 

俺に会いにやって来たのだ。

 

藤井蓮(おれ)がラインハルト・ハイドリヒの敵と成れるか(・ ・ ・ ・ ・ ・)を見極める為に。

 

「ふっ、ざけんなぁ!」

 

その為に、それだけの為にこの地獄を生み出したのか。

俺を試す為に、俺を怒らせる為だけに、彼らの日常は壊されたのか。

 

「――っらぁ!」

 

思考が進むと同時、俺は既に刃を振り抜いていた。

 

 

 

 

 

 

そこに、誰とも知れぬ影がいた。

 

     神とは人を塵芥としか感じぬ存在だが、これほど人に縛られ屈服している存在もない

 

影は人知れず語りかける。

 

     神とは出来る事しかやれず、出来ぬ事は出来ぬ存在だ

 

影は神と呼ばれる存在。

 

     故に、君が必要だったのだよツァラトゥストラ

 

古の世に神と呼ばれていた存在。

 

     さぁ、見事彼を降し私を降し、新たな神話を築き上げておくれ

 

黄金を築き、刹那を生み、一人の女を愛した男。

 

     我が親愛なる代行者(むすこ)

 

影は、水銀と呼ばれていた。

 

 

 

 

 

 

      では、今宵の英雄譚(グランギニョル)を始めよう

 

 

 

 

 

 

 

この刹那に、愛を超越()えて――

 

 

 

 

 

 

 

      彼が演じたその神話の先に――

 

 

 

「ああ、我が女神を害そうなどという愚挙は許さぬ。疾く消し飛ぶが良い」

 

名も亡き水銀の王が、

 

「然り、これほどの難敵に私が駆けつけぬ訳が無い。さぁ、砕け散る程に愛させてくれ」

 

黄金冠す墓の王が、

 

「背中を預ける気はない、お前らはお前らで勝手にやってろ」

 

永久無間の凍土の王が、

 

「此処にある命の輝きを、あなたのような(ひと)に壊させたりしない」

 

慈愛の権化たる黄昏の女神がそこにいた。

 

来るならば来い三眼の邪神。

水銀黄金刹那黄昏(われら)の愛を見せてやろう。

 

 

 

      至高の未知があると願って――

 

 

 

 

 

 



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フェニックスD×D

三期の動画を見てふと思い至ったので作成。
憑依転生系でライザーはちょくちょく見かけた事はありますが、眷属が影も形もないものばかりなので、そのままのメンバーで魔改造したくて書きました。

続くかどうかは微妙……



 

 

そこは学校の一室、駒王学園の学園長室だ。

いや、その説明は正確ではない。

 

正しくは、そのレプリカ――偽物である。

 

学園を丸ごと再現したその一室に、計十六の人影がある。

その部屋の主が座るべき高級椅子に、内の一人が腰掛けている。

 

その金髪の男は派手なスーツの胸元をさらけ出し、如何にも遊び人といった風情を漂わせている。

 

他の人影は全てが女性のもの。

衣装は様々――怪しげなドレスローブ、西洋風の鎧、南国的な踊り子衣装、十二単、ブルマ、メイド服、他にも顔の右半分だけ覆った仮面や、胸元と太ももをさらけ出した独特の服まで、それぞれが異なった出で立ちをしている。

 

彼らはそれぞれの理由を持ち、ひとつの目的のためにこの場にいる。

脚を組み肘を付いた男に彼女ら十四人が跪き、内の一人は室内のソファーに腰掛ける。

 

それは長い金髪を二つに括り、クルクルとカールさせた幼げな少女。

彼女は出自を感じさせる優雅さで、クスリと笑みを零した。

 

「我ら全員、準備は整いました」

 

波打った紫の長髪を持つドレスローブの女が、代表して主人たる男へ報告した。

 

聞いて見渡した男は、ひとつ頷く。

ソファーに座る金髪の少女を見ると、彼女も頷きを返す。

 

「ではアナタたち、打ち合わせの通りになさいな」

 

ソファーの少女が発すると、伏せていた十人の女性が素早くその場を後にする。

すると残った内の二人、メイド服を着たの女性は室内の設備を利用し、他の者に茶を汲み始めた。

 

長いストレートの金髪を持つ方は男に、少し癖っ毛に見える茶髪の方はソファーの少女に。

男がありがとうと礼を言うと、人形めいた顔立ちのメイドは表情を崩した。

もうひとりの少女も受け取ると、仕事が早くなったと茶髪のメイドを褒めた。

 

二人のメイドは仕事を終えると部屋の両端に待機し、ドレスローブの女性は主の背後に控える。

上半身と下半身の一部しか隠さない、水着を思わせる踊り子衣装を纏った褐色肌の女性はソファーに、既に座っていた少女の向かいに腰を落ち着けた。

 

そうした頃に、それだけで美しさを感じさせる女性の声が鳴り響く。

 

『開始のお時間となりました。なお、このゲームの制限時間は人間界の夜明けまで。それでは、ゲームスタートです』

 

それを聞いて口元を歪めた男は――ライザー・フェニックスは宣言した。

 

「さぁ、ゲームを始めようか」

 

此処に、ライザー・フェニックス対リアス・グレモリーのゲームが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ライザー・フェニックスがはじめの眷属を手に入れたのは、彼がまだ十五歳の誕生日を迎えた時の事だ。

いや、その眷属が悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を受け取って公的に認知されたのはそれから数年は先のことだが、本人たちの意思によって契約とも呼べぬ約束が執り成されたのは、この日この時の事である。

 

仮にも貴族という身の上であるため、三男とは言え盛大な誕生パーティーが開かれた。

煌びやかな広間の中心には、主役たるライザーがスーツを着て堂々と立つ。

 

祝福に訪れた来賓たちが途絶えると、まだ幼い四歳の妹が近づいて来る。

ライザーは周りを気にせず膝を折り、愛くるしい妹を優しく迎えた。

 

そしたら彼女はこう宣ったのだ。

 

「たんじょうびのプレゼントに、レイヴェルをさしあげますわ!」

 

彼は幼い妹のその発言を聞き、思わず苦笑したことを今でも覚えている。

パーティー会場全体に響き渡るような大声で、来賓たちにクスクスと笑われて恥をかいた事も。

 

けれども彼は周囲を無視し、当時しっかりと頷いた。

 

「ああ、いいぞ。大きくなったらお前を俺の眷属(もの)にしてやる。だからいっぱい食べていっぱい勉強して、俺が自慢するような立派なレディになるんだぞ?」

 

挑発的な笑みを浮かべた彼に対し、レイヴェルは花が咲くかのような満面の笑みを返す。

 

「もちろんですわ、おにいさま!」

 

思わず伸ばした右手に残る柔な頭髪の感触を、彼は未だに覚えている。

その時の事を、彼女に『僧侶(ビショップ)』の駒を渡した時の涙混じりの笑みを、ライザー・フェニックスは生涯忘れはしないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「それが、今やこの様か……」

「何か仰りましたか、お兄様?」

 

溜め息と共に顔を見つめるライザーを、ソファーに座る妹はジト目で迎え撃つ。

 

本当に、あの可愛らしい娘が何故こうも冷たくなったのか。

ツンデレという概念は理解しているしその破壊力も認めるが、実妹にはもっと正面から甘えて欲しいというのがライザーの意見である。

 

たまに甘えてくる姿がとてつもない破壊力を持つのは、痛烈に理解しているのだが。

 

「何でもないさレイヴェル、お前は相変わらず可愛いな」

「当然ですわ、お兄様の妹ですもの」

 

澄まし顔で紅茶を啜るレイヴェル。

胸を張るその姿は本当に愛らしい。

 

これが創作ならばブラコン気味のツンデレ実妹とかどストライクなのだが、そう心から残念がるリア充焼き鳥野郎であった。

 

「ライザー様、どうやらミラのグループがリアス様の眷属と接触したようですわ」

 

右斜め後ろから戦況を報告してくるのは、『女王(クイーン)』であるユーベルーナ。

常にライザーの不備を補う優秀な秘書である。

 

今もレイヴェルとのじゃれあいにゲームの存在を忘却していたライザーを、現実に叩き戻してくれた頼れる女性だ。

 

彼女は魔法陣から身の丈を越える魔法の杖を取り出し、柄尻で床を二度叩く。

杖の頭に付いた宝玉から光が溢れ、部屋の天井に陽炎の如く景色が浮かぶ。

 

映し出されたのは、話題に昇った体育館の場景である。

 

「ミラたちが押されているようだな。あの赤龍帝の小僧、この間から随分と成長している」

 

赤龍帝たる兵藤一誠は淡い翠色の髪をしたブルマの双子――(イル)と妹《ネル》のチェーンソー攻撃を、アクロバティックな動きで回避している。

 

「リアス様が合宿で鍛えられたそうですので、元が一般人の彼にしては急成長と言えます」

「身のこなしは未熟ですけれど、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を使えばそれなりの動きはしそうですわね」

 

その動きを見てユーベルーナとレイヴェルがそれぞれ評価する。

元が素人だっただけに、これは大きな進歩と言えるだろう。

 

「コイツはなかなか、番狂わせになりそうだな」

 

感心したような口調だが、しかし本心は違う。

強面ながら整った顔に嗜虐的な笑みを浮かべて、続ける。

 

「相手が俺たちでなければな――」

 

ライザー・フェニックスに、慢心はない。

これは純然たる事実である。

 

 

 




ライザー本人に大きな違いはありません。
原作通りの種まき焼き鳥です。

違うとすれば既に挫折経験があり、妹萌えの素養があることですねw


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夏のひとひら(IS×Dies)

布団に潜ったけど眠れない。
音楽を聞きながら寝ようとしていたら、ふとネタが思い浮かんだので、思い立ったが吉日とキーボードを叩いてみました……が、書けたのはこれだけ。

少ない(つд⊂)

15/6/15
Diesアニメ化という事でテンション上がったので、加筆修正しました。



 

 

 

そして再び、銀色の翼が開かれる。

計、三十六門の砲台。

 

そこから連射される数え切れない程の弾丸を前に、一夏は自分の危機を無感情に受け止めた。

 

目の前には光球の弾幕。

纏う鎧は機能停止状態。

この場は実戦、剣を握った戦場。

 

敗北を、ともすれば死を、あっさりと悟った。

 

「Laaaaaaaa――――♪」

 

歌声を思わせる甲高いマシンボイスが、死の宣告にすら思えてくる。

 

死の宣告。死の予告。死の告知。

――殺害の告白。

 

殺害……?

 

「俺を殺す? 俺が殺される? 俺が、死ぬ?」

 

思考が停止する。

視界が暗転する。

死生の堺が揺らいでいく。

 

死。

 

死。

 

死。

 

死とは何だったか。

 

頭痛にも似た衝撃が頭に響く。

浮かんだのは、怪しく(まばゆ)い黄金の光。

 

此処ではないどこかで、逆光を浴びた影が囁く。

 

――溢れ出る愛の行き着く果て。

   断崖の果てに待つ始まりであり、巡る円環の終点にして始点。

 

否、その世界には懐古に似た思いを抱くが己の死に非ず。

 

次いで脳裏に浮かび上がるのは鉄塊。

重農な死臭を色濃く放つ、黒く堅く荘厳な巨体。

 

此処ではないどこかで、暗闇に浮かぶ影が囁く。

 

――穢される事なき絶対の終わり。

   生涯を疾走して最後に得るべき安息。

 

近くはあるが、己のそれとは些かズレる。

 

そう、己にとっての死とは――

 

 

 

   『あ■■に■をした。■なた■跪か■ていただ■■い、花よ』

 

 

 

 

__________________

 

 

 

___________

 

 

 

____

 

 

 

 

「否――“このような終わりはいらない、そんな結末など認めない”」

 

――己にとっての死とは、那由多の果てに得た唯一無二の至福。

   幾星霜と追い求めた、至上至高の未知なのだ。

 

「“我は女神の抱擁にて幕を閉じるのだ。貴様の如き傀儡(かいらい)に、この至上の幸福を奪わせてなるものか”」

 

碌に意思もない鉄の塊などに殺されては、かつての(きち)を穢す事となる。

それは駄目だ。それは余りに許し難い。

 

我はそんな死に方などしたくない――

 

「い、一夏?」

 

ああ、なんだろう。

()は俺で、俺のはずなのに、この()は俺じゃない。

 

俺なんだから俺のはずなのに、()も俺だと解っているのに、俺のどこかが否定する。

 

「“しかし、只人に過ぎぬこの身では些か力不足と言える”」

 

何処からともなく聞こえて来るんだ。

 

不気味な声が。

ただ、壊せと。

 

目の前のアレを壊せと、己の死因を排除しろと。

 

「“であるなら、この鎧に手を加えるのが得策か”」

 

不気味なまでに静かな声が、何度も何度も頭に響く。

その声はまるで、俺の中から響いてるようで……

 

「“Disce libens.(喜んで学べ)――”」

 

いや、そうなのだ。これは俺の声。

音は違う、韻律も違う、だがしかし、これは紛れもなく自分の声なのだ。

 

「“Yetzirah(形成)――白槍・雪華断片(シロガネユキヒラ)”」

 

かつてオリムライチカが、■■(■■■■)と呼ばれていた頃の――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シロガネユキヒラ――

そう命名された銀白の太刀は、彼の持つ機構剣が変化したモノだった。

 

いつか何処かで稀代の刀匠が打った秘伝金属製の神槍。

その型落ちとして雪片・弐型を打ち直した模造品、それが今の白刀の正体である。

 

偽槍と呼ばれていたそれもまた何某かの贋作だったため、本来目指していたモノとは比べることすら度し難い出来ではあるが。

 

「“かつてのそれとは比べるべくもないが、現状ではこの程度が適しているとも言える”」

 

話している少年は、既に純白の装甲を纏ってはいなかった。

それらをも不要と断じ、太刀の素材へ費やしてしまったためだ。

 

「一夏、なのか……?」

「“ああ、無論だとも。君が篠ノ之箒であるように、我もまた織斑一夏である事に変わりはない”」

 

たとえ名が変わろうと生まれ変わろうと、自分は織斑一夏(■■■■■■)以外にあり得ない。

そう断ずる彼に違和感と困惑を覚えながらも、箒はどこか納得するものを感じる。

 

口調も態度も全くの別物だが、一夏と同じ空気を感じ取ったのだ。

社交性が高く気さくな普段の一夏と、横柄で掴みどころのない今の一夏。

異なって見える両者だが、心の奥底では自分たちと一線引いている。

 

一見すれば並んでいるが、触れようとすれば透明な壁に遮られる。

そんな不可思議な感覚を。

 

「“本来■■(われ)は刃物など使わぬが、一夏(おれ)は未熟なれど剣士の端くれ。白槍(これ)が刀剣となるのも必定か”」

 

認識を思考に割きながら福音へと近づいていく。

ISという鎧なくして宙を闊歩するその姿は、豪胆さとは違った支配者のそれを思わせる。

それが当然だとでも言うように、自然なままで総てを見下し俯瞰している。

 

人を下に置き、己が上だという事実を理解しているのだ。

しかし、本来なら些末な物だと睥睨(へいげい)すべき景観には、不思議と親愛に似た何かを瞳に宿している。

 

彼はいま、草も木も土も水も天も地も等しく全てに――より正確に言うならば、それを内包する世界という概念そのものへと頭を垂れているのだ。

いたって自然に、自分はそう在るべきなのだと感じ取っている故に。包まれている故に。

 

そんな彼に対する『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』は、恐怖も驚愕もなく純粋に行動を継続する。

 

即ち、織斑一夏(てきたいしゃ)を排除すること。

微弱な意思こそあれ、魂なき鋼鉄に存在の格差を理解する事は出来なかったのだ。

 

或いは、そのまま暴走を続けて畏怖(しんこう)を集めるか、数千数万と人の霊魂(いきち)を吸っていれば別だったのかも知れないが……これ以上は詮無きことだろう。

 

「Laaaaaaaa――――♪」

 

銀翼の歌姫は甲高い機械音(ソプラノボイス)を披露し、先程は不意討ったスラスターの砲門を集中させる。

全ての射線は交わる事なく、彼の全身に向けられていた。

 

タメの動作もなく、即座に射出。

一夏と箒も瞠目した高速射撃だ、常人どころか才人でも対応は難しい。

 

だが、彼は回避どころか防御もせずに悠然と歩み寄る。

 

連続で相次ぐ爆発音(ダダダダダダダダダッ)――

当然の如く、数瞬の後に幾連ものエネルギー弾が直撃。

 

あまりの光量と爆風に見えなくなってしまう。

 

「いっ、一夏ぁっ!」

 

離れて惚けていた箒も、流石に慌てて安否を確かめようとする。

しかし――

 

「“何の魂も得ていない素の装甲とは言え、まさか着弾の衝撃を受けるとは……はてさて、これは『銀の福音(アチラ)』と(コチラ)のどちらが原因かな?”」

 

やはり聖遺物などとはとても呼べない鉄屑を素体としているせいか。

暴走状態とはいえ人間が搭乗していることで、何らかの霊的干渉があったと見るべきか。

 

ブツブツと独り言を呟き没頭する姿を見とめ、箒は呆れて肩を落とす。

 

(心配するだけ損だったか……)

 

何が起こっているのか、どういう原理なのかは欠片も理解できない。

しかし、人知を越えた存在を気に掛けるのは無駄なことだったらしい。

遠い目をしてそう悟った篠ノ之箒だった。

 

 

 



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夏のひとひら2

思いついたネタを描いているだけなので、時系列はバラバラです。
前話の方も加筆修正していますので、良ければ参照してください。


 

 

毒の影響 鈴の場合

 

「鈴の料理の腕が上がったら、毎日酢豚を――」

「そっ、そうっ! それ!」

 

もちろん、覚えているとも。

 

小学校時代、夕暮れの教室。

二人きりで向かい合ったあの時。

 

頬が赤らんでいるのは夕日に照らされているから、だけではないのだろう。

緊張で震えつつも放たれたその文句は、日本古来の告白を思わせ――

 

   『ああ、それはいけない。他の人間が発するならばただの音、ただの文字の羅列に過ぎぬが、織斑一夏が当事者となるのは看過できんよ』

 

_____________________

 

_____________

 

 

「――(おご)ってくれるってやつか?」

 

当時の自分は、まだ料理の腕も今ほどではなかった。

ろくに栄養も採れていない様子を見て、彼女も世話を焼きたくなったのだろう。

 

「…………はい?」

 

ありがたい事だと内心で頷いていると、件の鈴は何やら惚けているようだ。

聞き取れなかったのだろうかと思い、確認の意味を込めてもう一度口に出してみる。

 

「だから、鈴が料理出来るようになったら俺に飯を奢ってくれるって話だったろ?」

 

これで間違いないはずだ。

だって自分は、その光景を寸分違わず覚えている(・・・・・・・・・・)のだから。

 

しかし、今度こそ耳に入ったであろう鈴は絶句している。

 

別の約束のことだったのだろうか。

だが他にそれらしい約束をした覚えがない。

 

これは謝るしかないと悟り、行動に移す。

 

「すまん、別のことだったか? 悪いけど、他に思い当たる約束なんて――」

 

パァンッ!

 

突如訪れた衝撃に目がチカチカする。

一歩遅れて、左側の頬に痛みが走った。

 

「……えっ?」

 

鈴に頬を引っぱたかれたのだ。

一夏は面食らいながらも状況を理解し、咄嗟に謝罪が口を突く。

 

「ごめんっ! 何か間違ってた……ん、だよな?」

 

凰鈴音は喧嘩っ早く直情的だが、だからこそ理由なく暴力を振るう事はない。

そういった気質を理解している一夏は、自分に非があったのだと察した。

 

だが、だからといって彼女の気が収まる訳ではない。

 

「最っ―――低ぇ!! 女の子との約束をちゃんと覚えてないなんて、男の風上にも置けないわ! この唐変木! 野良犬にでも噛まれて死んじゃえ鈍感朴念仁!」

 

そう一気に捲し立てて、止める間もなく部屋を飛び出していった。

後に残された一夏は傍観していた箒にも罵られ、更に意気消沈する。

 

己の心中で起こった異変に、彼はまだ気付いていない。

内から滲み出る毒素に気付いた者は、この時点では誰もいなかった。

 

そう――世界の中心ですべてを見守る女神でさえも。

 

 

 

 

 

 

 

毒の影響 ラウラの場合

 

銀月を写した様な髪は粗雑に伸ばされ、光の加減で白髪にも見える。

左目に付けられた黒い眼帯が、小柄な体躯に見合わない威圧感を増長させていた。

 

その姿を見て一夏は――

 

(ドイツ……か)

 

自己紹介を聞かずして、その祖国を心中で言い当てる。

なんとなく、そう思ったのだ。

 

   ――乱れる白髪は尻尾のようで、その単眼は殺意に濡れて。

 

見たことがないはずの光景に懐古を覚える。

それは言うなれば既視感(・・・)

 

どこかで見たことがあると思い込む、ただの錯覚。

 

だが、視界にいる少女の瞳に剣呑な光が宿っているのは、どうやら間違いではないようだ。

バッチリとぶつかりあった視線には、目に見えない重圧が感じられる。

 

そこで、一夏は先の幻視をただの錯覚だと確信した。

彼女の瞳は、血を思わせる赤だったのだ。

 

幻の誰かは青い瞳をしていたし、眼帯の位置が逆だったと思う。

 

そこまで考え、一夏は馬鹿なと頭を振った。

変な妄想癖でもあったのかと、自分で自分に戦慄する。

 

「……挨拶をしろ、ラウラ」

「はい、教官」

 

再び前に目を向けると、件の少女が自己紹介を促されていた。

 

正された姿勢、教官という呼称。

やはりドイツの軍人で間違いないらしい。

 

「ラウラ・ボーデヴィっヒだ」

「…………」

 

挨拶終了!

先程まで騒いでいたクラスメートたちも、これには困惑の空気を(かも)し出す。

入学当時の俺の方がマシだったと、一夏は見当違いの安堵すら抱いた。

 

そんな雰囲気など尻目に、ラウラと名乗った少女は一夏に視線を定める。

込められた敵意を察した一夏もまた、うっすらと警戒心を芽生えさせる。

 

「貴様が――」

 

彼女は教壇を降り、剣呑な空気を纏ったまま近寄ってきた。

赤い右目を睨み返す一夏だが、流石に次の行動には呆気にとられる。

 

パシンッ!

 

流れるような動作で頬を張られた。

流石は現役の軍人、無造作に見えて威力がある。

 

「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

 

ジクジクとした痛みも忘れ、一夏も立ち上がり糾弾する。

 

「いきなりなにしやがる!」

「ふんっ」

 

対するラウラは素っ気ない。

こうして両者の邂逅は、最悪に近い形で落ち着いたのだった。

 

 





元素記号Hgは人体に有害な毒素です。
汚染怖い。

作中の既視感は誤字ではありません。
一夏が想起したのは凶獣さんなのでラウラとは別人。
故に既視感であっています。


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夏のひとひら3

納得できない事があっても深く追求してはいけません(¬д¬;)



 

 

ラウラとシャルが撃ち抜かれた。

鈴が俺を庇って撃墜された。

 

セシリアが腕を刺し貫かれ、今まさに生命を脅かされようとしている。

ダメだ。これはダメだ。そんなことを、させてはいけない。

 

眼を見開け。

現実を見据えろ。

出来る事を考えるんだ。

 

白式のエネルギーが尽きた?

だからどうした!

 

ご大層なIS(よろい)がなければ、大切な仲間の盾にすらなってやれないのか。

そんな無様を、彼女らの前で晒せる訳がないだろう――!

 

このまま大地に突っ伏して、仲間の敗北()を見届けるだなんて。

俺は、■■(おれ)は――そんな結末なんて認めない!

 

Assiah(活動)――吼えろ白き威装(びゃくしき)ぃ!」

 

白式のコアと繋がった(・・・・)のが解る。

そしてこの右腕の相棒は、俺の意思に応えてくれた。

 

動力源を失ったはずの装甲に、白の輝きが灯った。

雪片・弐型も展開装甲が復活し、シールドエネルギーを喰い破る消滅の力が宿っている。

 

(……やれる)

 

根拠もなく確信し、その場に立ったままサイレント・ゼフィルスに斬りかかる。

空振りしたはずの剣は、紅椿の『空裂』が如く攻勢エネルギーを飛ばす。

 

飛来した斬閃が、セシリアに襲いかかろうとしていた敵機を切り裂いた。

 

「俺の仲間は、誰一人として殺させやしねえ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誕生日と言えば、話をしておきたいのだが……」

 

誕生日――箒の誕生日にあった、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の一件。

 

「あの時は通信が繋がっていなかったし、お前の記憶も曖昧だったようだから胸に秘めていたが、今日の襲撃でお前が使った力は……」

 

言い淀む箒に、気が引けながらも答えを告げる。

 

「ああ、今日はハッキリと覚えてるし、前の事も思い出した。今日のあれも前のあれも、俺じゃない俺の力だ」

「一夏じゃない、一夏……」

 

“ああ、無論だとも。君が篠ノ之箒であるように、我もまた織斑一夏である事に変わりはない”

 

かつて彼の口から聞いた、不可思議な声音を思い出す。

 

「夢を、見るんだ」

「夢?」

「変な夢」

 

そして怖い夢。

 

影絵のような男と、悪魔のような男と、日常を愛する狂人。

業火のような愛を求める女、絶対の死を求める男、死生(ぼせい)踏破(ほうよう)を求める少年(しょうじょ)

 

望まずして屍兵となった者たちが、それらを救おうとした少女らがいた。

吸血鬼に成りたかった男がいた。愛する者との別れを嘆いた女がいた。

 

断片的にしか思い出せないが、それでも悍ましいとすら思えるその一幕。

それらが、現実にあった事(・・・・・・・)だなんて……

 

「今日のアレで、なんとなく分かった。アレは前世の俺なんだ」

「輪廻転生――元は仏教用語だったか」

 

輪廻転生、それには言い知れぬ多幸感を抱いてしまう。

恐らく、それも前世に関係する言葉なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の名は、織斑(マドカ)――」

 

姉の生き写したる少女は静かに、懐から取り出した銃口を向ける。

 

「円環を意味する我が名の由来は、永劫に繰り返す回帰の理」

 

言葉の意味は理解不必要(わからない)が、その敵意と殺意だけは痛いほどに伝わってくる。

 

「双頭の蛇として生み出された、お前の半身だ織斑一夏!」

 

言葉尻に合わせて発砲。

咄嗟に展開した白式の装甲で弾き飛ばす。

 

マガジンの中身をすべて吐き出すと、不要とばかりに投げ捨て生身で疾走してきた。

 

しかし、一夏は更に警戒を強める。

そんな暴挙を行うからには、何らかの策略があるに違いない。

 

ignition(術式駆動)――!」

 

それは彼女の一言で確信した。

 

宣言により明らかに威圧感が跳ね上がったのだ。

一夏は本能的に雪片を展開し、流れるように()を起動させる。

 

Assiah(活動)――零落白夜!」

「判断は良いが、力が足りない!」

 

零落白夜に手刀を繰り出したことにも驚愕したが、次に更なる驚きが訪れた。

物理エネルギー以上の何か(・・)を秘めた今の雪片を、素手で受け止め防いでいる――!

 

それはつまり、相手も同種の力を使っているという事で……

 

「聖餐杯、というらしいな。この術式の元となった者は」

 

チクッ。

頭のどこかに、その名前が引っかかる。

間違いない。前世の俺が知っている名前だ。

 

「ただ固く、堅く、硬く。決して壊れぬ不滅の肉体、貴様にこの装甲が貫けるか?」

 

不敵に笑う姉に近似した顔を前に、一夏は相手を睨むくらいしか出来ない。

現在持ちうる最高の手札・切り札を、こうも簡単に阻止されたのだ。

 

勝てないと、そう悟った。

 

「蛇は疲弊し眠っているらしい、貴様に私は殺せない! ここが貴様の死に場所だ!」

 

勝ち誇った勝利宣言に対し割り込んだのは、彼の親友の声だった。

 

Yetzirah(形成)――」

 

咄嗟に飛び退くマドカだが、その程度では逃れられない。

青白い十字剣の弾丸が、彼女をその場に縫いとめた。

 

Kaiser Wilhelm Heilige Kreuz(皇帝追悼の聖十字架)

 

一夏は信じられない思いで、背後の声に振り向く。

 

無造作な赤髪、トレードマークとも言えるバンダナ。

五反田弾が、そこにいた。

 

「十字架は神の子を磔刑に処した聖なる遺物。カイザー・ヴィルヘルム教会に設置されていたそれは、多くの信仰を吸っていた。ただでさえ折り紙つきな拘束力だ、形成位階のお前には逃れられやしねーよ」

 

めんどくさいとでも言いたげな口調で、散歩でもしているような気楽さ。

日常そのものな顔をしながらも、日常では決して垣間見せなかった姿だった。

 

 





Kaiser Wilhelm Heilige Kreuz
カイザーヴィルヘルム・ハイリヒクロイツ。教会の屋根にある十字架、√次第でベイ中尉に止めを刺した凶器。07版ではカイザー・ヴィルヘルム教会から持ち出された聖遺物のストックという設定を知り、勢いで書いちゃいました(笑)


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ゼロの新世界VS無間大紅蓮地獄

例の如く、時期詳細不明です。
アニメのUBWを動画サイトで見て、夜刀様が蓮の前に試練として立ち塞がるという展開を見たくなったので書いてみました。

元々はFate熱を再燃させるためだったはずなのに……



 

『そうか、こうなったか……』

 

憎悪に濡れ血涙に染まった髪と瞳は、どちらも血の色を濃くした赤。

体を覆い隠す白い衣装は、身を守る蛇の鱗を思わせた。

 

その顔付きは端整で、男性的な力強さと女性的なしなやかさを両立している。

男神(おがみ)に対する表現にしては、正しく神の美貌と言えるだろう。

 

「――お前は、何だ?」

 

否、問わずとも解っていた。

 

その魂が、その神威が、その理が雄弁に語っている。

本来なら食い合い侵し合う覇道の法則が、接触しながらも馴染んでいるのが理解できる。

 

普通に考えれば、そんなことは有り得ない。

藤井蓮と共に駆け抜けたマルグリット・ブルイユでもなければ、覇道の渇望は衝突するしかないと決まっているのだから。

 

『俺は残影。既に潰えた敗北者の残滓だ』

 

いや、そんな理屈など後付けに過ぎない。

ただ純粋に、藤井蓮には理解できる。理解できない筈がない。

 

   時よ止まれ、時よ止まれ――

 

   この刹那よ永遠なれ――

 

   愛しい宝石よ、美しいままに止まっておくれ――

 

その狂おしいまでに透き通った祈りは、藤井蓮が願う幻想そのものなのだ。

 

どれほど上辺を塗り固めても、どれほど憎悪に染められていても。

永遠を願うその祈りだけは、決して違える事などありはしない。

 

『お前がこの先を目指すというのなら、どうか証明して見せてくれ』

 

かつてどこかの未来で憤激の咆哮を上げた守護者の残骸は、理知的な光を宿した瞳で蓮を見下ろす。

既に失くした過去を懐かしむように、不出来な後輩を慈しむように。

 

『既知も修羅も黄昏も、そして無間(おれ)も敵わなかった。それでは届かないんだよ』

 

悲しげに、哀しげに――言い表せぬ悲嘆の激情を秘めた声。

失くした物の大切さに嘆くと同時、えも言われぬ無力感に苛まれているのが見て取れる。

 

永遠を望む渇望をここまで憎悪に染め上げ、にも関わらず本質を歪める事なく貫き通している魂の強さ。

自分にはない神としての貫禄を垣間見、蓮は静かに断頭の処刑刃を右腕に落とす。

 

目の前の男の願いに応えたい、応えねばならないと――未だ若き無間の主は腹を括った。

 

「海は幅広く 無限に広がって流れ出すもの 水底の輝きこそが永久不変

 Es schaeumt das Meer in breiten Fluessen Am tiefen Grund der Felsen auf,

 

 永劫たる星の速さと共に 今こそ疾走して駆け抜けよう

 Und Fels und Meer wird fortgerissen In ewig schnellem Sphaerenlauf. 」

 

口に出すのは、刹那の輝きを永遠に留めたいという祈り。

深海においても輝きを失わない永遠の宝石へ送る誓い。

 

そしてそれは、対峙する紅蓮の狂神も同じく。

 

『どうか聞き届けてほしい

 Doch deine Bnten,

 

 世界は穏やかに安らげる日々を願っている

 Herr, verehren Das sanfte Wandeln deines Tags.』

 

憎悪に()れ、憤怒に(まみ)れてなお。

時よ止まれと狂い泣き叫ぶのは、女神に託された神の責務を果たすため。

 

どこまでも狂おしく、どこまでも愚直で――誰よりも彼女を愛していたから。

 

「自由な民と自由な世界で

 Auf freiem Grund mit freiem Volke stehn.

 

 どうかこの瞬間に言わせてほしい

 Zum Augenblicke duerft ich sagen 」

 

だからこそ、藤井蓮は目の前の男を斃すのだ。

 

悔しいことに、彼の激情(あい)を尊いものだと認めたから。

あんな無惨な姿になってなお、幻想(えいえん)現実(せつな)を取り違える事のない姿に感動すら覚えたから。

 

『時よ止まれ 君は誰よりも美しいから

 Verweile doch du bist so schon――

 

 永遠の君に願う 俺を高みへと導いてくれ

 Das Ewig-Weibliche Zieht uns hinan. 』

 

そう、だから彼は黄昏(かこ)の復活を求めない。

女神の愛は永遠で、彼女への愛も永遠だ。

 

失くしたものは帰らない。

彼女の愛は汚せない。

 

だから……

 

Atziluth(流出)――」

 

この刹那に、守護者(あい)超越()えよう。

 

Res novae――(新世界へ)

 

新世界へと、未来を託そう。

 

「    語れ超越の物語   」

『 Also sprach Zarathustra 』

 

これが彼らの、女神へ捧ぐ愛の証明。

 

『我は夜都賀波岐が将、天魔・夜刀! かつて藤井蓮=ロートス・ライヒハートと呼ばれた我が神咒()において、女神の治平を生む礎となろう』

 

水銀を思わせる白蛇の如き衣装を脱ぎ捨て、甲冑の背に八枚の断頭刃を廻す煉獄の神。

未だ若く、荒々しく。故にこそ可能性に満ち溢れた女神の伴侶が迎え撃つ。

 

『さぁ――吼えろよ新鋭!』

()かせよ負け犬!」

 

時間停止(ことわり)が馴染み境界が不明瞭だったはずの、紅蓮と水星の覇道が牙を剥く。

両者が共に主たる無間大紅蓮地獄が、もうひとりの主を呑み込むべく侵攻を開始した。

 

 

 




ナイスなタイトルが思いつかなかった……



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夏のひとひら4

嫁アテナが書けない、進まない。
既に四章の展開及び結末も構想としては完成しているというのに、それを文字に起こせないという……




 

 

「そうだ。この世に、ヒーローなんていない」

 

簪の叫びに同調するように、打ち捨てられた一夏が呟く。

 

(せかい)はいつも理不尽で、(かみ)はどこまでも我が儘で……」

 

それが真実、それが現実。

神ですらままならない残酷な法則。

 

「でも、だからこそ、誰もが前を見て歩かなきゃならないと思えるんだ」

 

その声は小さくかすれていたが、それでも響く何かがあった。

 

力を入れろ、足を動かせ。剣を握れ、前を向け。

震える体と奮える心を持ち合わせ、織斑一夏は立ち上がる。

 

「都合のいい英雄(ヒーロー)がいないから。それでも、助けを求める仲間がいるから――自分が主人公(ヒーロー)になるんだって、奮い立つ事ができるんだっ」

 

主人公とは、神の操り人形だと誰かが言った。

神の奇跡など、ただの舞台演出だと誰かが言った。

 

祈れば与えられる奇跡などいらない。

己の意思で立ち、前を見てこその人間だと。

 

しかし、織斑一夏は疑問を呈す。

 

神の玩具が悪い事か?

安易な奇跡が悪い事か?

 

奇跡に縋る弱い人間など、掃いて捨てるほどいるだろう。

彼らを批難し叱咤するのが、本当に正しい事なのか?

 

神に祈るのが悪い事か?

奇跡を求めるのが悪い事か?

 

「俺はそうは思わない」

 

弱者を守ろうとするならば、弱者を排他する者もいるだろう。

弱者を労ろうとするならば、それに甘える怠惰な者もいるだろう。

 

しかし善悪混合こそが世の摂理。

 

弱者を叱咤し導こうとする者も必ずいるだろう。

弱者でいる事に義憤し、上を目指す者も必ずいるだろう。

 

ならば、何も迷う事はない。

 

救済を求める者には救いの手を。

躍進を求める者には導きを。

 

甘やかし、慈しみ、それでも上を向く者には愛を――

 

Briah(創造)――Deo duce,non erradis.(神の抱擁は聖なるかな)

 

女神の抱擁、その慈しみを讃えよう。

俺もまた、彼女に抱き締めて貰ったのだから。

 

「今度は、俺が抱き締めてやる番だ」

 

俺の創造(せかい)にいる仲間たち、その祈りに応えたい。

 

 

 

 

 

 

 

「いち、か……」

 

いま、一夏の声が聞こえた。

凰鈴音は、ボヤけた頭で思考を回す。

 

機体はボロボロ、体もボロボロ。

共に戦っていたセシリアは懐に入られて戦闘不能に。

 

鈴が今まで持ち堪えているのは、甲龍(シェンロン)が近接型であり高燃費の機体だったからに過ぎない。

 

力を振り絞って足掻いていたが、その抵抗もここまでだと。

そんな時に、思い人の声が聞こえた気がした。

 

いや、どんなに惚けていてもしっかりと聞いた。

 

(あれは、一夏の声だ)

 

抱き締めてやると。

祈りに応えたいと、言っていた。

 

一夏が抱き締めてくれる。

そう思っただけで、力尽きた右腕が拳を握った。

 

空中より見下してくる敵機を、立ち上がって睨み付ける。

 

(祈り……あたしの、祈り)

 

考える。考える。考える。

 

深く、深く――

天空より落下するような、深海に沈み往くような。

 

微睡(まどろ)みのような自然体で、意識していない言葉が口を吐いた。

 

神亀(じんき) 寿(いのちなが)しといえど なお終わる時あり

 Schildkröten leben länger, aber immer noch gibt es Leben.」

 

凰鈴音という少女は、常より直情径行にある。

己を過剰に着飾らず、無為に心を隠さない。

 

織斑一夏の前ではそれが揺らぐのも、また直情型ゆえだろう。

 

騰蛇(とうだ) 霧に乗ずるも (つい)には土灰(つちばい)と帰するのみ

 Drache sagt der Tanz Werden Nebel, aber der letzte auf den Boden zurück」

 

彼女は理屈より直感を重んじる。

 

だからだろう、誰より早く一夏の壁に気付いていた。

出会った時期の差こそあれ、意識の壁に気付いた期間は最も短い。

 

老驥(ろうき) (れき)に伏すも 志は千里を馳す

 Aber tit machen tausend Meilen, auch wenn alte Zhi ist drehend ein Chisato.」

 

それは慕情を抱く事で、より一層の厚みを増した。

 

手を伸ばすのに遮られ、追い縋っても高みにいる。

届かない、追いつけない。隣に立ちたいのに触れられない。

 

烈士(れっし) 暮年(ぼねん) 壮心(そうしん)――()まず

 Der Mann ist nicht eine, die zu stoppen die heißen Gefühle, nur weil ältere Menschen ist.」

 

彼女は強さが欲しかった。

織斑一夏に近付いて、見えない壁を打ち壊す強さが。

 

彼女は強さが欲しかった。

織斑一夏に追い付いて、隣に立って背を守れる強さが。

 

「時節の満ち欠け 独り天に在らず

 Zunehmen und Abnehmen der Saison ist nicht rau allein in den Himmel」

 

目標は高く、どこまでも遠く。

追いかけても近付いても、決して触れること叶わない。

 

心の奥深くで沈殿していた、積もり積もった無力感。

 

「心に喜神含まば 遂には長久せざるなし

 Wenn auch die in den Sinn kommen,schließlich keine andere Wahl, Nagahisa」

 

あたしは弱い女だけれど、弱いままでいたくない。

 

連れて行ってくれ、とは言わない。

手を握ってくれ、とは言わない。

 

ただ、そこに至るための強さが欲しい。

 

Briah(創造)――」

 

それを許してくれるなら、どこまでもどこまでも歩き続ける。

諦めず歩き続けていれば、アナタが待っていると信じているから。

 

 

 





鈴の詠唱は、中国ということで曹操さんの歩出夏門行という詩から拝借しました。なお、螢のように創造は「そうぞう」読みです。

……これくらいなら、利用規約に反さないよね?



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夏のひとひら5

簡単に等級項目らしきものを作ってみました。
あくまでフレーバーですので、細かい数値は気にしないでください。

姓名 織斑一夏(初伝)
等級 陽の弐・陰の玖
神咒 ■■■・■■■■=■■■■■■
宿星 輪廻曼荼羅・■■

筋力: 2 ■■
体力: 2 ■■
気力: 5 ■■■■■
咒力:10 ■■■■■■■■■■
走力: 2 ■■
歪曲: 7 ■■■■■■■

福音騒動の直後。
活動位階しか使えない頃を想定しています。



 

 

「“どうして我が術理が散布しているのか疑問に思っていたが、そういうことか……”」

 

一夏が、その内に潜む水銀が頷く。

彼が見つめるのは、篠ノ之束という女性の更に内側。

 

呪毒に蝕まれ続けている魂だ。

 

「“この新世界においても偽槍を打ったのだな”」

「あぁ~、やっぱり分かっちゃうんだ。流石は元とは言え神様だねー」

 

常と変わらぬ笑み、変わらぬ口調、変わらぬ態度で話す彼女。

いくら華やかで愛嬌のある格好をしても、その肉体は腐り掛けている。

 

魂の腐食に伴って、肉体も屍兵へ変生しようとしているのだ。

 

「“何とも愚かしい(さが)、難儀な業だよ――櫻井武蔵(トバルカイン)”」

 

水銀が思うのは、神殺しの神槍を模倣した刀鍛冶の姿。

その妄執によって偽りの神槍に呪われ続けた、悲運の一族。

 

「“一夏(われ)は聞いた事がなかったが、母君の旧姓は何というのかな?”」

 

確信に近い物を感じながらも問う一夏に、束はあっさりと答えを返す。

 

櫻井(さくらい)……ドジばっかりする間抜けな一族だよ」

 

言って、面倒だと言わんばかりに嘆息する。

この件については、継承者には完全にとばっちりでしかないため擁護できない。

 

そして一夏は、この会話で重要な情報を見出した。

束が偽槍の現所有者であり、彼女の母が櫻井の血筋という事は……

 

「そーなの、実は箒ちゃんも継承資格があるんだ。っていうか、たぶん私が死んだら次は箒ちゃんの所に行くと思うんだよね~」

 

だから、彼女は天上に至ろうとしているのか。

最愛の妹を破滅の運命から救うべく、偽槍を真に制御するために。

 

篠ノ之束は須らく、篠ノ之箒を至上として行動している。

 

「“すると学園の襲撃も、箒の成長を促すのが目的だったのかな?”」

「……ふぅん」

 

平坦な語調に隠された僅かな怒気を読み取り、束は怪しく眼を細める。

 

「第十三位水銀の王(メルクリウス)とは思えない言葉だね。やっぱりその状態は、ただ意識が表出しているだけって訳じゃなさそうだね」

 

鋭い舌鋒に、一夏――メルクリウスも苦笑を零す。

 

「“これはこれは、随分と強かなことだ”」

「むしろ今のアナタに隙が多すぎるだけだと思うけど?」

「“否定は出来ないな”」

 

静かに、しかし恐ろしく、蛇と兎の睨み合いは続く。

 

 

 

 

 

形成(Yetzirah)――黒円卓の聖槍(ヴェヴェルスブルグ・ロンギヌス)

 

可憐な衣装の隙間から呪詛の毒が滲み出る。

魂を侵す偽りの神槍が、脈動する汚濁が白い肌を覆い隠していく。

 

女性らしい丸みを帯びた指先は、命を毟り取る黒い鉤爪へと変わり。

背に這う毒鉄が厚みを増し、人にはない巨大な黒翼を形作る。

 

「“……なるほど、それを見ればISという物の起源は瞭然だな”」

 

四肢を包みながらも女性的なボディラインを惜しげもなく晒し。

鎧の無駄の無い機能美と、過剰にも思える背後の武装。

 

それは紛れもなく、IS〈インフィニット・ストラトス〉という存在の源流だった。

 

「“才色兼備、文武両道、武芸百般――全てにおいて高水準の才を持ち維持するその姿は、かつてのザミエルを思わせるよ”」

 

故にこそ、偽槍はあのような形を取った。

 

その頭脳を後押しするため、近代的な機能を搭載し。

その身体を援助するため、行動を阻害しない流麗な形状に。

そして人間には不可能な穴を埋めるべく、高火力な武装と空を舞う翼を与えた。

 

「私は天上に至る。この黄昏を塗り潰してでも、私はこの愛を完遂する」

 

凶兎(マガツうさぎ)は愛に狂う。

ひた向きに、しかして盲目に。

 

 

 

 

 

一夏はあの創造を切っ掛けに、魂に潜む意思と混ざり始めていた。

 

彼の魂は仮にも流出位階に属していたもの。

たとえ転生しているにしても、自我の表出と共に秘めたる渇望が浮かび上がり神威を発する。

 

膨れ上がった神威は意思を飲み込み過去へ立ち返る、それが当然の帰結だったはずだ。

 

しかし、そうはなっていない。

彼が発した祈りの形は、前世と明らかに乖離している。

 

形成した渇望は、女神の愛を正銘すること。

弱者を労わり、見届け、守ること。

 

創造した法則は、仲間の祈りを抱きしめること。

その祈りを祝福し、高みへ押し上げ奇跡を起こすこと。

 

これは紛れもなく、織斑一夏という人格が持った願いの形。

 

彼は呑まれず、混ざり合っている。

それは終点と始点が交わった、円環を描く混沌の渦。

 

特異な来歴を持つ魂ゆえの、逸脱した現状なのだろう。

 

 

 

 



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Fate/after light

※オリ主 転生 原作知識あり Dies iraeネタ 等の要素があります。

最近は主人公の改変が多かったので、今回は完全なるオリ主です。
Dies熱が冷めないのでネタとして突っ込んでますが、これはクロスになるのか?

世界観としては運命・空の境界・月姫のごちゃまぜ。
士郎はUBWルートで、時計塔出立後に凛と帰国中。
冬木をFateの聖地巡礼的な意味で観光に来た主人公と出会い、なんだかんだ(思いつかなかった)で対峙して本編に至るという感じで。



   運命の残照

 

 

衛宮士郎(ツルギ)遠野志貴(ナイフ)両儀式(かたな)――Tipe-moon(このせかい)での力の象徴は、何と言っても刃物だからな」

 

当然、自分も剣を選んだと。

その一角を担う主人公(おとこ)を前に、久堂真希(くどうまさき)は微笑する。

 

「と言っても俺は素人だ、剣の振り方なんて知らないし、多少振れたところでお前にはとても敵わない。だが……」

 

しかし、彼が持つのは剣であり剣に非ず。

 

あらゆる刀剣を総べる錬鉄の魔術使いは、誰よりもその()の異質さを理解した。

否、理解出来ない事を理解した。

 

その異質さを、特異さを。

燃え滾る情念の深さを、世界中の誰よりも。

 

或いは、所有者にして製作者たる真希以上に。

 

「そうだ、コレは剣じゃない。剣を象った焦熱世界だ」

 

それは名も無き灼熱の世界。

 

名など要らず、故に()はない。

だから真希は、名を騙る。

 

爾天神之命以(ここにあまつかみのみこともちて、)布斗麻邇爾ト相而詔之(ふとまににうらへてのりたまひつらく)

 Man sollte nach den Gesetzen der Götter leben.」

 

それは世界(ツルギ)()ではなく。

それは心象(まじゅつ)の名でもなく。

 

前世(いつか)記憶(どこか)画面(ユメ)に見た、とある少女の異界創造。

 

「さぁ、行くぞ剣製――世界(けん)の準備は万全か?」

 

ニヤニヤ嗤う。

 

空々(カラカラ)哂う。

 

いつかの少年が発した言葉に(なぞら)えて。

愉しくもないのに悦んで。

 

かつて人間だった彼は――既に名も亡き■■(ナニカ)は。

人間になろうと必死だった士郎(きかい)を指して、いっそ盛大に嘲笑った。

 

 

 

 

 

 

Briah(創造)――」

 

   地獄を見た。

 

そこは焼土だった。

焼け(ただ)れた大地に、熱を撒き散らし暴れ狂う炎。

 

   地獄を見た。

 

男が倒れている。女が倒れている。

少女の顔は見るも無惨に爛れ落ち、少年の細い四肢は黒く固まっている。

 

   地獄を見た。

 

煌々と揺らめく大火に、空を染め上げる黒煙。

鼻を突く異臭に、響き渡る悲鳴。

 

   衛宮士郎は、自分/真希(そのおとこ)原風景(じごく)を見た。

 

Muspellzheimr Lævateinn(焦熱世界・激痛の剣)

 

俺は覚えのある……

あまりに見覚えのある光景に立ち竦む。

 

この地獄を、衛宮士郎は良く知っている。

 

「この生は――久堂真希という男は偽物だ」

 

呆然としていた所に、彼は平坦な口調で語りかけてきた。

 

「この記号(なまえ)も偽物だ」

 

そして語るのは、己の出生。

それはあまりに奇怪な内容で。

 

「生まれてからの二十数年間(・・・・・)、俺はこんな名前で呼ばれた事など一度たりともありはしなかった」

 

俺と同じ二十代前半(・・・・・)の男が言うには、首を傾げざるを得ない発言。

 

「俺の両親は純粋な日本人だ。髪は黒くて瞳はこげ茶、小柄で運動神経も良くなかった」

 

ドイツ人クォーターだと語った長身の彼は、黄金の髪を手でかき上げる。

 

「どうして俺は生きている? あの火災の翌日に、確かに死んだはずなのに……」

 

小柄な男が病室で、自刃する光景を幻視した。

 

「そんな偽物だらけな男の世界なんだから、名前だけが本当なんてそれこそ嘘だ」

 

 

 

 

 

 

「だから、お前は世界を歪めた。無理矢理に剣として形を歪め、存在を認めない様に名前を奪った」

 

先に借り物の名前を流用してしまえば、それに引き摺られて性質は変わる。

真希は名付けの機会を剥奪し、別の形に押し込んだ。

 

認めない。

認めない。

そんな在り方こそを認めない!

 

何故なら、この身は――

 

I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている)

 

四肢にまで伸びる魔術回路にムチを打つ。

これより生ずるは、業火を(ちから)へ変える錬鉄の世界。

 

Steel is my body,and fire is my blood.(血潮は鉄で、心は硝子)

 

昔より多少は成長した今となっても、自力での発動には全力を注がねばならない。

 

I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗)

 

その無茶をやらかしてでも、この男は打ち倒す。

 

Unaware of loss.(ただ一度の敗走もなく、)

 

たとえ認められずとも。

 

Nor aware of gain.(ただ一度の勝利もなし)

 

たとえ更生されられずとも。

 

Withstood pain to create weapons,(担い手はここに独り。)

 

この男だけは絶対に。

 

waiting for one's arrival.(剣の丘で鉄を鍛つ)

 

その在り方だけは絶対に。

 

I have no regrets.This is the only path.(ならば、我が生涯に意味は不要ず)

 

衛宮士郎には許容できない。

 

My whole life was "unlimited blade works"(この体は、無限の剣で出来ていた)

 

 

 

 

 

錬鉄の固有結界。

とある男の生き様であり、これから辿る終わりなき旅路。

 

「固有結界、無限の剣製(unlimited blade works)か……」

 

どこまでも続く果て無き荒野に、無限の刀剣が突き刺さっている。

 

その様はまるで墓標の如く。

途轍(とてつ)もなく荘厳で限りなく力強いにも関わらず、どこか儚さを匂わせる。

 

産まれて始めて、それも生で見る他者の心象が主人公のそれとは。

見飽きていたはずの荒野(それ)が、嫌に新鮮で心を揺さぶる。

 

「これが俺の世界、俺の本質――俺の理想は借り物だ」

 

そう語る衛宮士郎の顔には迷いがない。

そんなものは過去に――

 

「目指す目標も、追い求める夢も、これらと同じ偽物だ」

 

否。弓兵(みらい)に置いて来たのだから。

 

「でも、だからこそ……歩んできた路は、これから進む路は。この想いは本物だって信じてる!」

 

それが、衛宮士郎(エミヤシロウ)のたどり着いた答えなのだから。

 

「俺はお前を認めない。自分自身を否定する奴には、俺は絶対に負けられない――ッ!」

 

ああ、カッコイイな正義の味方(しゅじんこう)

俺もそう生きられたらどんなに良かっただろう。

 

今更羨みも妬みもしないが、その熱意がどこか眩しいよ。

 

俺は壊れる事が出来なかった。

いっそ壊れてしまっていれば、継ぎ接ぎだらけの別物だろうと、人として生きて行けただろう。

 

だが、俺は壊れなかった。

 

壊れるほどの衝撃は与えられず、ただただ無様に堕落した。

落ちて、落ちて、底まで行かずに浮遊した。

 

その在り様が嫌で人生を終えたはずなのに、どうして俺は此処にいる?

 

もう■■■■は死んでいる。

あの時たしかに、自らの手で殺している。

 

ならば一体、此処にいる俺は誰なのだ?

 

――――ああ。

 

「……あァ、もうイイよ」

 

もういい、どうでもいい。

 

考えるのはもうやめだ。

所詮この身は偽物でしかない。

 

考えたところで意味などないし、考えるのにももう疲れた。

 

「とりあえず、気に食わないから死んでいけ」

 

周囲を取り囲む炎が一斉に弾けた。

 

 

 

 

 

 

 

つまり久堂真希とは、衛宮士郎の鏡像だ。

 

生前――前世の彼は、火災に遭ってすべてを失くした。

士郎ほどに幼くはなかったし、彼のように(ノロイ)を受けてもいなかった。

 

だが、真希はすべてを失った。

 

母がいた。父がいた。兄がいた。妹がいた。友がいた。恋人がいた。

恩師。後輩。同僚。好いていた者から嫌っていた者まで。街の一つが地図から消えた。

 

自分独りが生き残り、そして嫌気が刺し自刃した。

 

目が覚めると次の人生。

意味が分からない。

理屈が通らない。

 

しかしそれでも、生きるしかなかった。

一度死んだのにこれなのだ。二度目を試すのも気が引けた。

 

久堂真希は衛宮士郎の鏡像だ。

 

火災によってすべてを失い。

しかし、拾った命を己で捨てた。

 

生きろ、などと言われる間もなくすべてが燃えた。

 

生きていてくれた、そう泣いてくれる相手など当に灰になっている。

 

ああ、この世のすべてがまやかしならば、自分はいったい誰なのだろう。

いったいどうして、自分はこんな場所にいるのだろう。

 

火、火、火――命の火など、消えてしまってもいいではないか。

 

このまま生きて苦しもうとも、このまま死して苦しもうとも、先に待つのは煉獄の炎。

あの大焼炙(だいしょうしゃ)地獄にて、永劫に焼かれ続けるのだから。

 

 

 

 

 

世界の根底を理解した正義の味方は一心に駆ける。

ただただ愚直に、幼稚な動機を胸に秘め。

 

あの地獄を生き延びて、なのに自ら命を絶った?

 

何を考えているのか意味がわからない。

 

すべてを見捨て生き残ったからこそ、これから先はすべてを救おうと決意した。

それが衛宮士郎の持つ思想の一つ。

 

或いはかつての少女が言うように、地獄を越えたからこそ幸福を求める。

自分はそれを選ばなかったが、確かに正しい道のひとつなのだろう。

 

だが、だがしかし。

 

あの男は、現実をすべて捨て去った。

己の未来を放棄した。

 

「自分一人が生き残りながら自殺だなんて、お前は間違っている――ッ!!」

 

そんな選択は認められない。

衛宮士郎は、その選択を許せない。

 

対する真希は、もはや辟易していた。

 

「いい加減にしてくれよ衛宮」

 

幾度となく放火しようと、衛宮士郎は切り抜ける。

 

元より彼は正義の味方。

いずれ至った錬鉄の英雄。

 

魔術師であっても戦闘者でない真希には、彼を殺しきる技術がない。

いくら固有結界という強大な力を持っていようと、相手も固有結界(それ)を持っているから決定打には成り得ない。

 

しかし才能(スペック)では優っているので、簡単に倒されることもない。

千日手状態に陥っている。

 

それがどれほど続いたのだろう。

ついに根負けした真希は切り出した。

 

「……ああ、もう……いいや。おい衛宮!」

 

息も絶え絶えと言った風の正義の味方へ、ため息と共に両手を上げる。

 

この馬鹿の勢いに押されて、頭の熱が冷めてきた。

赤い弓兵もこんな感じだったのだろうか。

 

「――俺の負けだよ」

 

否定するのも面倒になったと言いたげな口調で、久堂真希はこう告げた。

 

 

 

 

善悪混沌、功績罪業に関わらず、もの皆焼き尽くす焔の世界。

 

そんな世界は、もうどこにも存在しない。

 

久堂真希は敗北した。

経緯はどうあれ、衛宮士郎に負けを認めた。

 

お前は間違っているのだという、その糾弾を認めてしまった。

故にこそ、真希の心象風景は姿を変えた。

 

その根底は覆らなかったが、性質は大きく変化したのだ。

 

それは、罪人たる己を罰する贖罪の地獄。

即ち、すべての穢れとすべての不浄を祓い清める紅蓮の世界に。

 

――偽称。

 

名を騙る。名を偽る。嘘の名を付けるという彼の起源。

これを瓢箪から駒と言うのだろうか、まさに偽りの名が真実となった。

 

Muspellzheimr Lævateinn(焦熱世界・激痛の剣)――

 

至高の輝きに焼かれていたいという、とある女性が誇る修羅の矜持。

所詮は創作に過ぎないが、かつての真希は胸を打たれた。

 

それは、或いは己の鏡像へ向けた敗者の矜持だったのかもしれない。

 

偽物も本物になるのだという、衛宮士郎を認めた証。

 

 

 




主人公のコンセプトは

・士郎の鏡像
・トリックスター

名前は偽称の起源から、読み方を間違えやすそうという意図で。苗字の方は適当です(考えてた時に丁度コナンがやってたとか言えない)。
原作遵守を信奉し傍観に徹した主人公が、終わった物語の舞台に赴いて新たな騒動に巻き込まれる。とか考えたんですが、どう考えても続けられない……



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断頭颶風の神殺し(カンピオーネ)

ネタとして「PARADISE LOST」「Dies irae」「神咒神威神楽」が登場します。
おそらく他にも多数。ですが、原則として上記三作を知らないと理解できない描写が出てくると思われます。ご留意ください。



「時よ止まれ、お前は美しい――か」

 

口から出たのは、歌劇の主演たる男の渇望。

 

「死に濡れて冥界の腐毒に侵されながらも、君は美しいままだ」

 

ああ、だからこそ――

 

「綺麗な君を、だからこそこれ以上汚したくない」

 

これはむしろ、愛を謳う破壊光にこそ相応しいのかもしれないが。

 

「俺がこの手で……殺してやる」

 

死は重い。だからこそ我が破壊(あい)を厳粛に受け止めて欲しい。

 

「俺は君を愛している」

 

愛しているから破壊するのだ、愛でる為にまずは壊そう。

 

「――君は、誰よりも美しいのだから」

 

その姿を心に焼き付けよう。

永劫、忘れる事などないように。

 

「さようなら……■■■」

 

その夜、七人目の王が嘆きの産声を上げた。

 

 

 

 

【十九世紀イタリアの魔術師、アルベルト・リガノの著作『魔王』より抜粋】

 

……この恐るべき偉業を成し遂げた彼らに、私は『カンピオーネ』の称号を与えたい。

読者諸賢のなかには、この呼称を大仰なものだと眉をひそめる方がいるかとしれない。

あるいは、私の記録を誇張したものとみなす方もいるかもしれない。

だが、重ねて強調させていただく。

 

カンピオーネは覇者である。

天上の神々を殺戮し、神を神たらしめる至高の力を奪い取るが故に。

 

カンピオーネは王者である。

神より簒奪した権能を振りかざし、地上の何人からも支配され得ないが故に。

 

カンピオーネは魔王である。

地上に生きる全ての人類が、彼らに抗うほどの力を所持できないが故に!

 

 

 

【二十一世紀初頭、新たにカンピオーネと確認された日本人についての報告書より抜粋】

 

ヘカテーはギリシア神話に登場する女神のことです。

冥府の支配者であるハデスやその妻ペルセポネーに次ぐ地位を持つ、月と魔術を司りし冥府神。古くより三相一体の女神として信仰されていた地母神の一柱であり、「魔女の保護者」「使者の王女」「霊の先導者」などと呼ばれ、魔術の本尊として現在も崇拝される著名な女神です。

人間にあらゆる分野での成功を与えるとの伝承も残されており、中には神へ祈る前にまずヘカテーに祈りを捧げるべし、とまで言われる程に絶賛する者もいるほど。

狩りと月の女神アルテミスの従姉妹であり、時に同一視される処女神でもあります。

 

石上鉄也(いしがみてつや)は、この神を弑逆しカンピオーネとなった少年なのです。

 

 

 

【グリニッジの賢人議会により作成された、石上鉄也についての調査書より抜粋】

 

石上鉄也がヘカテーより簒奪した権能『冥界の処刑刀(ヘカート・デスサイズ)』は、女神の冥府神としての属性を色濃く反映した代物である。

死の息吹たる冥界の風を武具に宿らせ、あらゆる生命を刈り取る処刑刀を生むとされる。その概要を本人より聞き出した魔術師の言では、嘘か真か不死性の権能を無力化する事も可能であると言う。

 

彼は祖国の結社を配下に治めたが、部下たちへの指示・命令はしていない。

権力闘争が起こるのを(いと)い、護国の戦士として活動しているからである。

彼がこれ以降も王者として君臨する事はないのか、今後の動向を見守っていきたい。

 

 

 

 

「……って事で、なんか神殺しやっちゃった」

 

呆気からんと言い放ち、照れたように頭を掻く少年。

ようやく幼さが抜けてきたという顔立ちで、年の頃は成人一歩手前といった所だろう。

 

ヨーロッパでの事件を自宅に返って報告したのだが、両親は開いた口が塞がらない様子。

 

それもそうだろう。

俺も自分がこんな事になるなんて想像もしていなかった。

 

硬直した両親を前にして、鉄也は現実逃避的に己の境遇を思い返す。

 

まず自身の生家たる石上家は術者の家系だ。

それなりに古い血筋らしく、元は彼の有名な石上神宮(いそのかみじんぐう)に纏わるとかどうとか。

 

その名残なのか神職の端くれとして呪術を、布都御魂大神を祀る系譜として剣術を代々受け継いでいる。

術は母を、剣は父を師として、幼い頃から双方を学んできた鉄也。

 

いずれは一廉(ひとかど)の術者になるだろうと見込まれ、若くして日本呪術会を統括する正史編纂委員会に所属する事となった。

 

とは言え、彼自身はまだまだ若輩。

剣は同年代でも突き抜けているものの現役の使い手には及ばず、術は補助的な物が多く本職には程遠い。

 

悪霊調伏などの荒事を専門とした部署を目指しながら高校に通っていたのだが、そんな中で鉄也に大きな転機が訪れた。

 

それが今回のヨーロッパ行きである。

あくまで結社間の交換留学の一種という形だったが、魔術の本場たる欧州で学べると聞いて飛びついた。

 

精々が一月程度の短期間だったが、彼の留学は僅か一週間で終わりを告げる。

鉄也は地上に顕現していたまつろわぬ神、冥神ヘカテーを斃しカンピオーネとなってしまったのである。

 

バトルマニアで有名な欧州の魔王たちに目を付けられては敵わないと、書置きを残して即日で日本に舞い戻った訳だ。

 

帰国してから一目散に自宅へ向かい、両親に事情を説明。

そして現在へ至る、という事になる。

 

「あ、あんたがカンピオーネ? 羅刹の王?」

「うん、昨日からそう呼ばれる事になった」

 

震えながら聞き返す母に、申し訳なく思いながら肯定を返す。

 

「……このことは、もう誰かに言ったのか?」

「向こうの知り合いにはバレてたし、どうせ早いか遅いかだから委員会にも連絡しておいた。ただ、二人には直に言いたくてさ、遅くなってごめん」

「いや、まぁ、何だ……とにかく、良く帰ってきたな」

「――うん、ただいま父さん」

 

しどろもどろになりながらも、己の無事を祝ってくれる父に目頭が熱くなる。

不器用にも抱き締められ、ポロポロと涙が零れてきた。

 

「本当に、無事で良かったよ」

「うん、うん……」

「生きてて、良かったよぉ~」

「大丈夫だよ母さん、ちゃんと生きてるから」

 

気が緩んだのか泣きついてくる母親。

家族の温もりに触れ、鉄也も思わず胸中の弱音を零してしまう。

 

「そう、生きてるんだ。辛い、辛いことが、あったけど――俺は、生きるから。生きているから……」

 

もう現世にいない少女を想い、喉が枯れるまで嗚咽を漏らすのだった。

 

 

 




嫁アテナがまた行き詰ったため、「さいきょうおりしゅ」さんを投稿します。
神座ファンの主人公が神座万象な権能をゲットしていく物語、として続けばいいな~。


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What is love?(鋼殻のレギオス)

久しぶりにレギオスの二次を見て再燃しました。とはいえ、リーリンがグレンダンに戻ったあたりで購読を止めていたので、アイレインやら原作知識は半端なのですが。

そしてアニメの諏訪部リスさんに胸を打たれ、同じく戦闘狂なクララとのカップリングに思い至り……はい、kkkの殺し愛夫婦大好きです。ということで、蜃気楼なサヴァリスさんと剣鬼なクララの殺し愛をどうぞ。

※作中の技のいくつかは自作のオリジナルです、ご留意ください。



 

 

猛攻、猛勢、猛襲。天剣授受者トロイアットに師事するクラリーベルも、グレンダン名門ルッケンスを継ぐサヴァリスも、共に卓越した化錬剄の使い手だ。剣撃と拳撃のぶつかり合いは留まるところを知らず、燃え盛る闘志の気炎は実際に爆炎として現れる。

 

「アッ――ハハハハハハハハッハハハハハハハハハッ!!」

 

クラリーベル・ロンスマイアが嬌笑する。

 

やっと、やっとだ。やっと見つけた。己の生涯を捧ぐ至高の敵手。師匠(トロイアット)では足りない、保護者(ティグリス)でも足りない、憧憬(レイフォン)ですら足りなかった。だが遂に見つけたのだ、この男性こそ己の目標(はんりょ)

 

目を爛々と輝かせるクラリーベルは、全力全速全気力でサヴァリスに向かっていく。

 

小柄な少女の胴を打ち抜く拳打の打撲(ねつ)、鍛え上げられた男の筋肉(よろい)に通る鋼の(ねつ)、絶え間なく飛び交い両者を彩る生命の鮮血(ねつ)。それらが互いにぶつけ合った(ねつ)に煽られ、猛々しい笑い声を上げながらも気勢は際限なく高まっていく。

 

外力系衝剄の変化、千人衝。

 

ルッケンスの秘奥と呼ばれる絶技によって像を結ぶのは、四方八方より押し寄せるサヴァリスの軍勢。控え目に言っても恐怖の具現と称すべき光景だが、標的となっている少女は怯まない。これは望むべき光景であり、自身を何より求める彼の求愛(さつい)の証。それを誇り、それに歓喜し、それ故に物ともせず打ち砕く。否、斬り滅ぼす。

 

なぜなら自分は、この程度では終わらない。終わってはいけない。終わりたくない。もっと自分は輝ける。もっともっと輝いて、もっともっともっと彼の素晴らしさを照らし出せるはずだと。少女は極限の中で己を磨き上げ続ける。彼女とて幾度となく見て体験した剄技、その術理は熟知し、及ばないまでも会得していた。サヴァリスと同じく己の分身を展開し――あろう事か次の瞬間には姿を消した。

 

だがそれは、技の失敗でなければサヴァリスの妨害という訳でもない。彼女自身の意思により成された行動の結果。そして分身は消えたのではない、収束したのだ。眼前の軍団を打ち破る撃剣、その一助として。

 

活剄衝剄混合変化、千斬一閃。

 

原型となるのはクラリーベルが憧れる天剣の一人、レイフォン・アルセイフが改良した千人衝の変形――彼が千斬閃と名付けたそれを、更に自分用に改変する。それはこの境地に至り、少女が天剣授受者の領域に足を踏み入れた成果の具現であり、向かい合った男の闘志(あい)に応える想いの形。

 

「サヴァリス……ルッケンスゥウウウウウウウウ――――ッ!!」

 

単身ながら千に及ぶ軍勢を、複数ながら単一の斬閃が斬り穿つ。迫り来る包囲網を余すところなく滅尽し、実体なき牙がサヴァリスの胸に喰い付いた。裂傷は深く臓腑を抉り、鼓動を鳴らす心臓を捌き、拳武の阿修羅に致命の一撃を喰らわせた。

 

 

 

 

 

 

嗚呼、ああ素晴らしい。

 

何たる幸運だろう。戯れに目を掛けてきた少女が、己に届くまでに成長したこと。それどころか、まだ成長を続けまだ進化を追い求めている。己に追い縋ってきた強敵を乗り越え、奮起した相手に乗り越えられ、また己が壁を打ち破る快感。感じた事のない充足。相手を鍛え相手に鍛えられる悦び。あぁそうなのだ、自分はこれをこそ求めていたのだ。

 

「クッ――ハハハハハハハハハハハハハハハハハァッ!!」

 

サヴァリス・クォルラフィン・ルッケンスが哄笑する。

 

やっと、やっとだ。やっと見つけた。己の乾きを癒す至高の敵手。元同僚(レイフォン)では足りない、天剣最強(リンテンス)でも足りない、絶対無敵(アルシェイラ)ですら足りなかった。だが遂に見つけたのだ、この少女こそ己の標的(はんりょ)

 

サヴァリスは清々しく獰猛な、そんな矛盾している印象の笑みで少女を迎える。

 

胸を捌かれた程度で止まれるかと、体内を巡る活剄を治癒に回すことすらせず拳を握る。確かな手応えを感じながらも、それすら乗り越えると事実を確信していたクラリーベルが、(つい)にして(つい)の一撃を見舞うべく差し迫っていた。

 

体勢を崩しながらもその剣に対抗すべく、彼は循環する剄と別に放出するための剄を用意する。それもただの外力系衝剄ではなく、彼の生家たるルッケンスにも根深い化錬剄。しかし、これはルッケンス一門の技に非ず。サヴァリス・ルッケンスが天剣クォルラフィンを手にしてのちに編み出した、彼独自にして彼のみの絶技。レイフォン・ヴォルフシュテイン曰くの天剣技。

 

活剄衝剄混合化錬変化、天剣技――麒麟(きりん)・絶招。

 

戦闘狂と呼んで相違ない彼が選んだのは、回避でも防御でも、相殺ですらない特攻。だがそれは、事実として間違った選択とも言えないだろう。天剣たる彼の誇る奥義と言える剄技。その絶対の一撃でもって相手の攻撃をも打ち砕き……いや、そんなものは余波であり余録。ただ対象を滅殺すべく行動し、その通過点にある剣戟が勝手に破れるだけなのだ。それを成せるからこそ、サヴァリスは天剣授受者なのだから。

 

武芸者として基本たる活剄を突き詰めた超身体能力を駆使し地を翔ける(・・・・・)。たった一足で最高速度に達したサヴァリスは、足を付ける事なく地表と並行して移動する。同時に前身から迸る化錬の衝剄。相手に付けた化錬剄の糸を通して衝撃を送る、蛇流というルッケンスの剄技を応用して、先行した化錬剄の電流がクラリーベルを襲う。

 

電流の威力自体は活剄で上手く殺したようだが、当然の原理として電気が走った筋肉は収縮する。例えどれほど短い刹那の時間だろうと、その一瞬の足止めでサヴァリスは彼女の目前に到達していた。

 

総身から吹き出る雷光の剄は先行したそれとは比べ物にならず、自然界の落雷などより凶悪な破壊性能を宿すそれは、少女の愛剣たる胡蝶炎翅剣という錬金鋼(ダイト)に取り付き瞬時に損壊させる。

 

「クラリーベル……ロンスマイアァアアアアアアア――――ッ!!」

 

接敵した彼が繰り出したのは掌底。体表を取り巻く化錬変化された衝剄が、徹し剄と呼ばれる技法でもって内部破壊を引き起こし、掌打自体の激震も合わさって内外の同時崩壊が達成された。彼の流派において、剛力徹破と呼ばれるそれと同じ原理だ。超速で放たれた一撃が肉を潰し、まとわり付く紫電が五臓六腑を掻き乱し、紅刃の少女に致命の一撃を喰らわせた。

 

 

 

 

 

開戦からどれほど経過しただろう。彼は倒れ彼女も倒れ、並んで空を見上げていた。五体を投げ出す男と少女の、隣りを向けば互いの足元。手を伸ばせば触れそうな、伸ばしても届かないような、何とももどかしい微妙な距離感。それが何とも奇妙な気がして、どちらからともなく笑声を漏らす。

 

共に数刻と持たず生を終えるだろう致命傷。強者と戦えるならば死もまた本望、などと公言していたような両者だが、事ここに至っては死を厭わしく思う。死んでしまえば道は潰え、相手の成長が楽しめなくなってしまうから。

 

そこで自分が死ねば相手が成長を終えてしまう、などと嘆かないだけ互いを理解し合っている。自分たちは修羅だ。相手がいなくなったことを悲しみ、悼み、嘆くだろうが、強さを求める本能は決して変わらない。成長の道は変わるだろう、成長の速度も衰えるかもしれない。だが、成長しないなどありえない。それを求める事を辞めるほど、自分たちは人間が出来ていない。

 

――だが、それでも。

 

何となく右手を伸ばせば、同じく伸ばされた指先に触れた。伝わる熱は死闘の残滓。決して異性を意識しての情欲に因るものではない。けれど、この繋がりを手放したくないと思う。それを絆と呼んではいけないのか? この血塗れた関係に馳せる想いを、愛と呼んではいけないのか?

 

いけないのだろう。間違っているのだろう。でも、それでも既に手放せない。この情熱を捨てたくない。ああ、だからそれを形にしよう。言葉に乗せて、消せないように告げてやろう。

 

「サヴァリス・ルッケンスは君の事を――」

「クラリーベル・ロンスマイアはあなたの事を――」

 

(あなた)を生涯、見つめ続ける。

 

 

 




クララも好きですが、リーリン健気可愛い、メイシェン不憫可愛い。でもやっぱり一番はフェリちゃんなんだよなぁ。

そして今回、地の文の書き方を変えてみました。
ご覧になった方、よろしければ感想をお願いします。



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邯鄲に差し込む朝日

なんかそれっぽいタイトルですが、鋭い人ならネタはすぐに分かるでしょう。



 

夢を組み上げるのは甘粕の方が僅かに早く、終末の祈りを顕現させる。

 

「終段・顕象ォ――!」

 

それは邯鄲を制覇した盧生にのみ許されし至高の御業。

序破急からなる急段(けつまつ)を越える、これぞ終段(しゅうまつ)の物語。

 

甘粕の袂から暴虐の悪夢が吹き荒れる。

ただそれだけで死を喚起する強大な悪性は、『相州戦神館學園八命陣』を知る俺ならば容易に見当が付いた。

 

恐らく三日月(アレ)に違いない、と。

 

それは人類に対する試練にして、滅亡を判定する極悪なる審判。

甘粕正彦が謳う人間賛歌を成し遂げるための破壊神。

 

悪神の予兆に益々警戒を強めながら、遅れてコチラも終点に至った。

ならば同じく紡ぎだそう、俺という柊四四八が奉じる人間賛歌を。

 

――世良(みずき)

 

――歩美!

 

――栄光!

 

――鳴滝(あつし)

 

――我堂(りんこ)

 

――晶!

 

叫べよ、お前たちも好きだろう。

魔王気取りの馬鹿な男へ盛大にぶちかましてやろう。

 

「――終段(たい)顕象(きょく)――」

 

先人たちへの敬意と仲間たちとの絆によって紡ぎ、次代へ希望(ひかり)を託す「継承」という形の人間賛歌。

それは奇しくも本来の四四八(イェホーシュア)と形を同じくしている。

 

他者を認める多様性。

各々の役割を明確にした住み分けと、変化次第でいかようにも移住が可能という自由性。

 

それを望み産み落とされた(かみ)神咒()は――

 

「「「「「「「天照・神咒神威神楽ァァ――ッ!!」」」」」」」

 

ここに、六柱の神々が降臨した。

 

 

 

 

 

諸余怨敵(しょよおんてき)皆悉摧滅(かいひつざいめつ)――」

(オン)摩利支曳薩婆訶(マリシエイソワカ)――」

 

まず飛び出したのは何を置いても彼と彼女。

曙光曼荼羅の筆頭武神、経津主神(ふつぬしのかみ)摩利支天(まりしてん)

 

神域の武威を誇る剣神と拳神が、烈火の如き威勢でもって繚乱と舞う。

 

(オン)ッ!」

 

続き、甘粕の動きを止めるべく陰陽頭(おんみょうのかみ)が印を組む。

 

彼らの内で最も優れた咒法神による不可視の緊縛。

卓越した咒術に少しでも近付くべく、その影より少女が符を放つ。

 

「急々如律令ッ!」

 

鋭く空を裂く呪符は敵ではなく味方の方へ。

悪性の汚染から戦友たちを援ける護りの法を展開する。

 

残りの一組は召喚主たる四四八に侍り、如何なる状況にも対処すべく防備を固める。

内の一人、端麗な顔立ちの女武将が、弓を引きながら話しかけてくる。

 

「四四八殿、将は私だが主はあなただ……気を引き締められよ」

 

次に片割れ、華やかな着物を羽織った赤髪の偉丈夫がそれに乗っかる。

 

「おうよ、大将。あんたがやられたら俺たちも消えちまうんだからな」

 

彼と、彼女と、言葉を交わせる事実に心が粟立つ。

胸中で感涙に打ち震えながら、しかし鋼鉄の精神で自制し誠意を返す。

 

「分かっている。そして礼を言わせてくれ――ありがとう。こんな無茶な呼び出しに応えてくれて、俺には他に言いようがない」

 

警戒態勢を崩さぬように心がけながら、それでも精一杯の想いを乗せて。

 

そんな態度をどう思ったのだろうか。

男神たる彼はよく知る顔で――しかし、今まで知らなかった絶対的な質量と圧倒的な熱量を伴って、気前よくあっさりと笑って許しを与えた。

 

「良いってことよ。俺様が活躍するための舞台にわざわざ呼んでくれた訳だしぃ、こりゃ張り切らなきゃ益荒男(おとこ)じゃねえって。なあ鈴鹿?」

「ここは戦場、今は(いくさ)の只中だ、鈴鹿(それ)より相応しい名があるだろう?」

 

どこかからかうような笑顔で告げる女神たる彼女に、対たる男はおどけて返す。

 

「おっとそりゃそうか。んじゃまぁ、久々に気張るか――竜胆!」

「くだらん失敗はするなよ――覇吐!」

 

主神・天照を産み落とせし両親神、伊邪那岐命(イザナギのみこと)伊邪那美命(イザナミのみこと)が両脇に立つ。

憧れの象徴たる彼らと共に戦場にいるという実感が、柊四四八の士気を最高潮にまで高めていた。

 

第二の盧生たる俺が召喚したのは、記憶通りの求道神たち。

 

即ち――壬生宗次郎、玖錠紫織、摩多羅夜行、御門龍水、そして坂上覇吐と久雅竜胆鈴鹿の六名である。

 

とは言え、彼らは実のところ本物ではない。

俺の知る『神咒神威神楽』という物語を核として、その記憶から実体(うつわ)を形作る。

 

次に集合無意識(アラヤシキ)より汲み上げた情報を与えることで、原典を基にした人格が宿っている偽神たちだ。

彼ら自身もそれを理解し、それでも甘粕正彦の語る(せかい)は見過ごせないと力を貸してくれている。

 

「……人は我が儘で身勝手で、追い詰められなければ堕落し腐敗する。ああ、その言い分は良く分かるよ。自己愛に踊り狂う世界に生まれた私たちには耳が痛い。互いに競い、磨き、高め合うことの尊さを私たちは知っている」

「俺だって戦は上等、喧嘩は華だって思ってるよ。だけど、それだけを求めて平和を奪うってのは違うだろう。争いを尊んで、それを世界中に押し付けるってのは違うだろうがァッ!」

 

甘粕を糾弾する彼らは偽神、本来ならば神々の域にはない偽りの英雄。

そんな曙光曼荼羅の面々だが、だからといって甘粕の呼ぶ神々を下回るかと言うと……実はそんな事もないのだ。

 

彼らの持つ神格としての属性がそれを覆す。

 

それぞれが今ある大正の日本にも根深い著名な神仏。

加えてその中心は、日本神話に名立たる国生みの神々である。

 

最高神たる天照坐皇大御神の威光をも借りる彼らが有する信仰は、この日ノ本に限れば吉利支丹の唯一神にも引けを取らない。

 

――否、凌駕して何ら不思議はない。

そして彼らを信奉する心は、四四八を始めとする戦真館の仲間たちの誰もが透き通っていると自負している。

 

つまり。

 

「勝つのは俺たちだ、甘粕正彦ッ」

 

悪の側に立った二元論など、八百万の光には敵わないのだと証明してやる。

 

 





八命陣をコンプしたので断頭颶風を書こうとwikiでkkkの項目を読んでいてふと思った。
次代への継承っていう四四八の人間賛歌の形が、第七天に被るなと。そこから次々にネタが浮かび、四四八の終段が八犬士から曙光八百万になりました。

でも大正時代に神座シリーズはないので、kkkを信仰してもらうために転生オリ主化し、邯鄲の未来であった神座万象ゲームは四四八の記憶から流れ出したんだよ的な設定も思いつき……つまりはいつも通りの「ぼくがかんがえたさいきょうのしゅじんこう」ですはい。




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邯鄲に差し込む朝日2

万仙陣をクリアしてから前の投稿を見て土下座したくなったので、こりゃいかんと軌道修正しつつ思い付いたネタを晒す。自己満足に変わりなし……。



 

 

――第一盧生、甘粕正彦。

審判を司る人類の敵対者にして、邯鄲を最初に踏破した最強の盧生。

 

そう、彼こそが最強なのだ。

 

そこに疑問の余地はなく、ゆえに誰もが認める問題児。

この男と一体一で戦っても、勝てる見込みなど最初からなかったのだ。

 

「不甲斐ないとは言わんよ。知っていれば対処が出来る。そこに生じる当然の余裕を、高慢などと卑下するな。知っていたからと踏破できるほど、知識があったからと踏み入る事が出来るほど、邯鄲の夢は甘くない。こうして成し遂げたお前は、なるほど素晴らしい漢なのだから」

 

故に、容赦なく全霊でもって滅ぼそう。

ギラつく眼光に緩みはなく、苛烈な意思を隠すことなくむしろ叩きつける光の魔王。

 

素晴らしいと認めたからこそ、その輝きを引き立てるべく暴威を振るう。

甘粕正彦という魔人はそういう男だ。

 

ああそうだとも。

俺はこの結末を知っていた。

 

ここにいる統合された柊四四八は、邯鄲に洗い流される前の一週目の俺は、この光景に至る事を理解していた。

 

甘粕正彦は最強だ(・・・・・・・・)柊四四八では絶対に勝てない(・・・・・・・・・・・・・)

 

最強の敗北という結末を知るからこそ、その道筋を辿るだけでは届かない。

前代未聞を打破するならば、それに匹敵する空前絶後を持ち出さなければ太刀打ちできない。

 

だから、俺は邯鄲(ユメ)を捨てない。捨てられない。

 

仁義八行(しゅじんこう)の進んだ道は彼だけのもの。

俺という柊四四八は、俺自身の道を見つけ進まなくては。

 

しかし……。

 

「悩むがいい若人(わかうど)よ。物事に勢い良く踏ん切りを付けて、それでどうなる。所詮は威勢だけで出した答えなど、勇気ある決断では断じてない。壁にぶつかり悩み苦しみ、それでも足掻き続ける意思こそが勇気! 俺の楽園(ぱらいぞ)が誇る輝き! 嗚呼……俺はお前が愛おしくてたまらんッ!」

「……ッ、このぉッ!」

 

甘粕の戯れ言に反論すら出来ないとは、我が事ながら無様なものだ。

 

だがそう。

奴の言う通り、事ここに至っても俺にはそれが掴めない。

 

悩んでいる。苦しんでいる。それは確かに成長の糧になるだろう。

だがそうじゃない。そうじゃないんだ。

 

勇気っていうのは溢れるもので、作り出す物なんかじゃ断じてない。

愛は育まれるもので、誰かが生み出す物じゃないんだ。

 

そんな事も分からないような男が人類の代表など認められない。

――けれど、それは俺も同じことで。

 

邯鄲という(ユメ)を捨てられない小人物。

衝突する他者を排除することしか出来ない狭量な器。

 

奉じる(イノリ)は偽物で、紡いだ(マコト)は借り物で。

 

柊四四八という立場がなければ、何を成す事も出来なかった小物。

惨めだ。惨めで醜い自分に腹が立つ。

 

これは義憤ではなくただの癇癪。

 

ああダメだ、俺はこんなにも脆く弱い。

こんな俺がどうして邯鄲を制覇出来たのか。

 

オカシイだろう。道理に反しているだろう。

盧生とは前傾思考の塊で、こんな女々しく悩むような輩じゃないだろう。

 

なぁダレカ、頼むから俺に教えてくれよ……。

 

 

 

 

 

『――教えてやるよ。それは、お前が独りじゃないからだ』

 

何処からともなく響いたのは幼馴染の声。

それを皮切りに、次々と大きな想い(こえ)が流れ込んでくる。

 

『アンタって肝心な所で抜けてるのよね。しっかりしなさい柊、そんな様じゃ奴隷失格よ!』

 

俺はお前の奴隷じゃないよ。

しかも奴隷を失格って、いったいその下って何なんだよ。

 

鈴子(バカ)はほっとけ。だがまあ、言いたい事は分からんでもない。お前らは似た者同士だ』

 

俺とアイツが似てるって?

頭の良いバカとでも言いたいのかよ。

 

『間違ってないと思うぜ。だって四四八ってばお前、カッコ付けて大事なこと忘れてるじゃんよ』

 

よりによってお前にバカ呼ばわりされたくないぞ。

カッコ付けて大事なことを忘れてたのはお前だろうが。

 

『いくらホントの事だからって、そんなこと言ったら栄光くんが可哀想だよ。例えブーメランだとしても、今回は正しいこと言ってるんだから』

 

いや二度も追い打ち掛けてるのはお前だよ。

……でも、お前まで俺が抜けてると言うのか?

 

『だって柊くんてば本当に抜けてるし。んー、まだ分かんないかなぁ……』

 

だから何が言いたいんだよ皆して。

分からないんだからはっきりと教えてくれよ。

 

『このバカッ……』

 

晶が痺れを切らしたように声を漏らす。

そして続く親身な怒号が、曇りに曇った心の霧を晴らしてくれたんだ。

 

『――困ったことがあったら頼れって言ってるんだよ! あたしたちは仲間で、家族だろッ?!』

 

それは余りに当たり前のことで。

当たり前だからこそ忘れていて、当たり前だからこそ忘れてはならないことで……。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――………………ああ、そうだったな。

 

そうだ、そうだった。

俺は小物なんだ。自分ひとりでラスボスとバトルなんか柄じゃない。

 

忘れていた当然の事を思い出し、そこで夢は終わりを告げた(・・・・・・・・・・・・)

 

   ――第八層の試練を終了する。おめでとう柊四四八、君こそ盧生だ――

 

視界を開くと普遍無意識が語りかけてくる。

普通はそうでないのだろうが、俺としてはCV的な意味で非常に聞き覚えのある声だ。

 

そこは光の渦であり、意思そのものが空間と同義になっている。

即ち邯鄲の第八層イェホーシュアであった。

 

   ――君は自分に自信がなかった。偽りだと卑下し、醜いと憎悪し、見るに堪えないと直視しなかった。だがそれではいけない。君の眷属(なかま)も言っていただろう。自分は何よりも重いから、確固たる己を定義してこそ他者と本当に向き合える――

 

そうだ、だからこそ俺は盧生として至らなかった。

人類の代表者として、「継承」という賛歌を謳う者として、他者に誇れる己でなければ意味がない。

 

   ――では、第八層(アラヤ)の試練を開始する。それは君にとって最大の難関。君自身が不可能と思うこと。真実の己を見つけ出せ――

 

それが俺に架せられた試練。

獣化帝国(キーラ)の配下三千人という大所帯を抱え込んだせいで、時間の大幅な短縮と比例して困難となったアラヤの試練は、俺という人物の根幹を定めろというものだった。

 

曙光八百万という指針は構わないが、それが何処から来て何処へ向かう物なのか。

そういう己の真実を知った上で、その在り方を決めねばならない。

 

つまり偽物でも借り物でも芯を持って突き通せという事であり、これが悟りと言われればなるほど納得するしかない。

 

俺にとって真実など存在していなかったのだから、見つけ出すも何もない。

その考えがまず違っていたのだ。

 

俺自身が偽りならば、己の外に目を向ければ良かっただけなのだ。

 

柊四四八が第七天・天照に見ていたのは絆。

己をこそ絶対と定めた求道の神でありながら、他者と触れ合い繋がっているという事への羨望。

 

この大正から百年後の時代に生きていた者として、自分を定義せずとも生きていられたゆえに、強靭な個我と利他を共有し共存する姿が眩しかった。

 

 

それが起源。それが原点。

暗い微睡みの中でそれを思い出したからこそ、曙光曼荼羅は昇華した。

 

もはやあの終段は使えないし、それでいい。

 

俺の心に差す曙の光は、彼らに負けないと誇っているから。

さあ、夢から覚めて朝に帰ろう。今度こそ本当に。

 

眩しくて頼もしい仲間たちが待っているから。

 

 

 

 

 

邯鄲の第八層を思い返し、胸に宿った熱を滾らせる。

本当に向き合った現実の甘粕にそれをぶつけよう。

 

(イクサ)(マコト)(アマタ)(イノリ)に顕現する――仁義八行、如是畜生発菩提心」

 

そうだ。俺では甘粕に勝てない。

分かりきっていた事なのだから、何を迷う必要があるものか。

 

俺とて一応は柊四四八。

仁義八行とは違えども、仲間との絆で立っているのだ。

 

ああ認めてやるよ甘粕。

俺は弱い。一人ではお前に太刀打ち出来ない。

 

だが――俺たち(・・・)に、できない事などあるものかッ!

 

「――終段・顕ッ、象ォォッ!」

 

印を結び夢を回し(かたち)を組む。

思い描くのは曙光と同じく六名の英雄たち。

 

しかし先の六柱などよりよっぽど信頼している者たちだ。

等と呟く心情の何と厚かましいことか。勝手に引き合いに出しておいて、無礼にも程があるというものだ。

 

けれど、その本心は隠せないし隠さない。

変えられないし変えたくない。

 

これこそ俺の(イクサ)(マコト)で、柊四四八として胸を張れる(アマタ)(イノリ)たちだから

 

紡ぐのは仁義八行の勇士たち。

顕われ出ずるは曙光(あさ)に集った仲間たち。

 

それは最終最後の終段で、至上至高の顕象なのだと胸を張る。

 

相州戦神館學園(そうしゅうせんしんかんがくえん)八命陣(はちみょうジ)ィィ――ンッ!!」

 

 

 

 

 





(原作の)タイトル回収!
所詮は自己満足だけど、前の単体よりはマシになったと思いたい。


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Fateで魔術師になる過程を書きたい。

 

 

魔術師とは何であるかと聞かれれば、俺が返す言葉は一つしかない。

即ち、魔術師とはどこまでも人間だということだ。

 

魔術とは神秘であり、神秘であるからこそ魔術である。

 

宇宙事象の始まりである根源の渦。

「」(カラ)とも呼ばれるそれに至るための道、それこそが魔術であり、それを学ぶ者が魔術師だ。

 

魔術師が魔術を学ぶのは根源に至るためであり、魔術こそがそれに最も近しい道であると信じるからこそ生涯を賭して学ぶのだ。

 

何代にも渡って到達出来るかも分からない苦行に取り組む求道者たち。

その為ならば如何なる犠牲をも支払うが故に、己だけでは飽き足らず子々孫々の後継たちをも魔道に捧げる信者たち。

 

愚かしい程に諦めが悪く、どこまでも我が強い科学者こそが魔術師。

その蛮勇、その愚行、まさに人間という種そのものではないか。

 

そんな極端な人間性を持て余す人非人(にんぴにん)、人でなしの家系に生を受け、魔術師の末席に名を連ねる事になった男。

 

かつて少年だった俺が、今や魔術師の端くれになるまで八年がかかった。

年老いてきた父より家督を継ぎ、名実ともに魔術師一族の当主になるとは、当時の俺からすれば夢のような出来事だろう。

 

ただし、夢は夢でも悪夢の類だ。

 

そうとも、俺は夢を見ている。

今も変わらずふわふわと舞う胡蝶の夢を。

 

 

 

 

 

 

 

 

――物心付く以前から、既に俺の自我は確立されていた。

 

俺には生まれる前の記憶がある。

生野健児として過ごした二十四年の歳月が、俺の人格には余すところなく記憶されている。

 

出産直後の記憶がある。

初めて父に抱き上げられた記憶がある。

一番目に発した言葉がケンちゃんという自身の愛称だという記憶がある。

 

例えば五歳の誕生日に両親が喧嘩した内容を覚えている。

例えば十歳のクリスマスに放送していたテレビ番組の内容を覚えている。

例えば最後の晩餐となった会社帰りのファーストフード店のメニューを隅々まで覚えている。

 

人間が普通に生きていて忘れているはずの事柄まで詳細に、明確に。

これは魂に刻まれたとかいう情報なのだろうと推察し、こうして記憶を保ったまま生まれ直した――生まれ変わった際にどこかしらのタガが外れたのだろうと納得しておく。

 

それが今生で生後十四日目の出来事。

肉体という器には不釣合いに育っている自我は、しかし実際の行動には影響しない。

 

いや、正確には全くしない訳ではないが、意識しない生理現象には現れない。

空腹になれば泣くし、尿意を我慢したりも出来ない。

 

だが右手を握って開けばその通りに動くし、自分の意志で泣くのを止めたりもできる。

 

要は自分という人格を持って生まれたこの赤ん坊は、己と同一でありながら別個体としての性も有しているという特異存在。

小難しい理屈を素通りしてその結論にたどり着き、不思議と疑いも躊躇いもなく得心がいった。

 

そういうものであると感じてしまったのだから、そういうことなのだろう。

 

 

 

――物心付いた時分から、俺の自我は両立していた。

 

不動克彦という器に生野健児以外の人格が生まれたのは、四歳の誕生日から半年ばかりが経過した頃だった。

 

幼稚園児そのものとして情緒を育んでいる克彦の人格。

それが健児の影響を受けていないかと言われれば、もちろんそんなことは有り得ない。

 

だが、克彦は健児を己であると忘我の領域で認識しており、健児もまた克彦を自分自身と認識していたことに変わりはない。

 

だからこそ二つの人格は交じり合って混ざり合い、二人の不動克彦として確立されていた。

成長した彼に両人格の区別はなく、精々が黒に近い灰色と白に近い灰色程度の差しかなく。

 

知識の棚と思考形態が二つある一人の人間として完結した。

 

そうして十歳の誕生日。

彼は魔術という神秘の存在を知らされる。

 

魔術師の直系として生まれたからには、同じように魔術師としての人生が決定づけられている。

 

それは先祖代々の妄執であり、呪いであり。

親から子へと託される悔恨を晴らして欲しいという願いだった。

 

不動の家系は魔道において新参で、克彦の父は二代目の当主であった。

 

始祖たる祖父が着想を得たのはとある地方都市で行われた魔術儀式。

聖杯戦争――今ではそう呼ばれている儀式の第二回目に、弟子入りした先の魔術師が参加したことに由来する。

 

英霊の座より招きし霊魂をサーヴァントという型に嵌め、人間に過ぎない魔術師が曲がりなりにも従えられるようにするという偉業を以て、魔術師と英霊の主従七組が聖杯を求める小規模な戦争儀式。

 

詳しい経緯は聞かされていないため不明だが、当時の戦争に参加した魔術師は須らく全滅し、勝者不在のまま終わってしまったらしい。

 

そんな中で生き延びた祖父は、サーヴァントシステムに秘められた真なる目的を知った。

降臨した英霊の魂が敗退し座に戻る瞬間、世界に空いた孔を固定して外側に飛び出し、根源に到達すること。

 

戦争などと銘打っているのは、孔を空けるに足る魂と魔力を収集するためなのだろう。

 

この真相を知った祖父は、憤るどころか感銘を受けたらしい。

独り立ちして魔術師の家を興した彼は、一族にこの事実を口伝として残し、とある指針を示した。

 

歴代当主の誰かが英霊の座に至り、外側から世界に穴を空けるべし。

座に登録された英雄は時間軸や世界線から切り離されるため、一人でも至る事ができたなら根源への道へ至る可能性が未来永劫に残されるだろうと。

 

馬鹿馬鹿しいにもほどがある主張だが、馬鹿馬鹿しいなりに納得できる理屈でもある。

 

その主義主張を成すために祖父は父に家督を譲ってから一人立ち、海外に渡ってそのまま現地で息絶えたという。

他ならぬ父もそれに倣い、克彦を当主として育て上げた後に冒険に出るという。

 

恐らくは、世界に英雄と認められるような偉業を遂げに。

 

こうして不動克彦は魔術師になった。

英霊になるために魔術を使う異端の魔術師、その正統後継として。

 

 

 





夜中にFate/GOやっててふと書きたくなったネタ。
この主人公が何年もかけて魔術を学ぶ過程と、英雄になるべく聖杯戦争に参加する展開と、英霊兼魔法使いの過去から来た未来の主人公が書きたい。


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こんなフェイトゼロが書きたい。

 

 

場末の酒場といった風情の店内で、いつもカウンターの隅に座ってカクテルを飲む男。

この周辺ではあまり見かけない東洋人だが、整った容貌から女性客が色めき立つことも多い。

 

普段は陽気な態度を崩さない彼も、このカクテルを飲む時だけは寡黙になる。

 

青い月(ブルームーン)

ジンベースに菫のリキュールを使うこのカクテルは、薄紫の色彩が妖しさを掻き立てる非常に美しいひと品だ。

 

グラスに揺れる菫色を見つめながら何かに祈るように、届かぬ誰かに想いを馳せるして飲むその様は、さながら映画のワンシーンを思わせる。

 

「よぉジャック、今日は青い月(それ)の日か」

 

そんな彼に語り掛けたのは黒人の男。

初めにジャックという通称を定着させたのは、思えばこの男だったろう。

 

彼が名無しの男(ジャック)と呼ばれだしたのは、決して己の名を語らないからだった。

 

――ははッ、俺がジャックか。あっははははッ! イイね超COOLだよそれ!

初めにその名で呼んだ時は珍しく、軽くない動揺を見せてはいたが結局は認めていた。

 

名前なんてどうでもいいと言わんばかりの態度から、何か訳ありだというのは想像がつく。

いやそもそも、こんなところに来て酒を飲んでいる時点で脛に疵を持つのは分かり切っている。

 

その割に軽い態度で渡り歩く彼を見下す者は、往々にして現れるのが道理。

今しがた声をかけた男とて最初はそうだった。

 

――喧嘩を売った瞬間に叩き伏せられて、眼前にナイフを突きつけられるまでは。

 

体格で一回り二回りは勝る相手、それも相応に荒事慣れしている相手を軽々と転倒させる技術。

息をするようにナイフを抜き自然体のまま首筋を撫で上げる技巧は、ガンマンの早打ちにも通ずる芸術的な代物だった。

 

要は、そんな彼の強さに惚れ込んでしまったのだ。

 

文明社会の裏、民主政治の闇。

ありふれた安っぽい言葉がそのまま当てはまるスラムで、なおも注目を集める殺人技巧(・・・・)

 

切り刻み、刺し潰し、縊り殺し。

男は明らかに殺し慣れていた。

 

それも拳銃なんていう、言ってしまえば子供でも大した労力なく人を殺せる玩具によるものではなく、罠に嵌め、隙を伺い、真意を隠し、刹那の内に人生を断ち切るナイフの一閃。

 

今時古臭いようなそれが、その理想形が目の前に現れて憧れた。

言葉にすればただそれだけの事だった。

 

そしてそんな彼の技を見て、微かに香る生臭い鉄の匂いを感じればカクテルの意味にも見当はつく。

 

人殺し(ひとしごと)を終えた後の一杯ってことだろう。

男は順当にこう考え、同じような思考を辿ったものも一定数いる。

 

だが、この町で殺しなんてそう珍しい事ではない。

彼に言い寄る女連中の中には、そうと分かっていながら近付きたいと思う者とているのだ。

 

獲物が女性と定めているのだろう事も解っているというのに。

 

「にしても、なんでブルームーンなんだ? ブラッディ・マリーは安直にしても、他にそれらしいのは色々とあるだろうに」

「……なんで、か。そうだな」

 

問われた彼は大して悩むことなくこう返す。

 

「色がCOOLだから、とか?」

「んだそりゃ。それこそブルー・ハワイとか飲んでろっての」

「それもそっか。んー……」

 

再び目を伏せて考え込み、今度は時間を掛けて結論を出す。

 

「コイツには二つ意味がある。完全なる愛と、叶わぬ恋」

「失恋を噛み締めてるってのか?」

「ま、似たようなモンさ」

 

失恋、と言えばそうなのかもしれない。

 

これは彼女へ抱く愛の現れ。

同時に、決して叶わぬ(敵わぬ)事への恋しさ。

 

自分では至れない殺人のために身体を得た(・・・・・・・・・・・)故の、忘我の域での殺害衝動。

 

今でも鮮明に思い出す。

いや、一度たりとも忘れたことなどない。

 

あの無垢で冷たい蒼氷(アイスブルー)の瞳。

 

そして雨生龍之介は回想する。

己が目指す理想の殺意、ジャック・ザ・リッパーと駆けた血濡れの日々を。

 

 

 

 

 

 

 

――雨生龍之介は殺人鬼だ。

 

彼は探究心と好奇心が旺盛で、精一杯人生を楽しもうとする意思がある。

普段は会話すら億劫に感じる無気力さだが、建設的な思考をするポジティブさも併せ持つ。

 

しかし、生来の破綻した倫理観が人格をまっすぐに歪めていく。

持ち前の探求心は「死」の希求へと移り変わり、旺盛な好奇心は「殺人」という行為へ及ばせた。

 

――雨生龍之介が最初に殺したのは姉だった。

 

彼の姉は弟と違って真っ当な人間だった。

未来は希望に溢れ、人生を謳歌し、父母と弟を愛していた。

 

その満ち足りた家族愛が、弟の殺意を呼び覚ましてしまう羽目になる。

 

己に愛という理解できないモノを向けてくる姉を、だからこそ殺してみたい。

そんな子供染みた無邪気な残酷さが発端となり、雨生龍之介という稀代の殺人鬼は覚醒を果たす。

 

――雨生龍之介は快楽殺人者、ではない。

 

甘いマスクで女を惑わせ夢見心地で地獄に落とす。

生きたまま解剖したりと惨たらしい殺し方をする龍之介だが、彼はそこに快楽を見出している訳ではない。

 

拷問行為は芸術(アート)であり、その探求心からより高度な結果を求めているにすぎない。

 

雨生龍之介は殺人鬼だが快楽殺人者ではない。

彼の目的は「死」を理解することであり、人を殺すことは手段にすぎない。

 

それを間違えてはいけないし、忘れてはいけない。

この運命は、彼に忘れ果てた起源を思い起こさせる物語。

 

二十一世紀の切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)が打ち立てた、その伝説の前日譚である。

 

 





龍之介とジャックちゃんのコンビでZero行ってみようという話。

ジャックちゃんがガチャで召喚できなかったから八つ当たりで書き殴ってみる。
手に入らなかったから書きたいけど、書くには手に入れてボイスという資料がほしい矛盾。



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邯鄲に差し込む朝日3

 

 

膨れ上がった夢の波動が、此処に七名を呼び集わせる。

 

「遅っせぇぞ四四八ァ!」

 

仲間たちの誰よりも臆病だからこそ、誰よりも真っ先に飛び出したのは我らが誇るムードメーカー、忠を司る大杉栄光。

愛用の風火輪が補助具として形を成し空を滑べる。

 

解法の怪物たる彼が駆けるという事は、即ち敵の防御が崩れるということに他ならず。

 

故に続くのは我堂鈴子。

甘粕正彦を捕らえるために、斬閃の檻を描いていく。

 

無論、それを黙って見ている甘粕ではない。

三日月を欠いた程度では止まらぬと、海原に住まう者(フォーモリア)の大群を嗾けてくる。

 

「いいぞいいぞ吼えろよ新鋭! お前たちの愛と勇気を、俺に証明して見せてくれッ!」

「随分とご機嫌なようだが、俺の仲間たちを舐めるなよ」

 

忘れたのかよ大尉殿、彼らは終段で呼んだ英雄たちだぞ(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「我が槍を恐れるならば、この境界を越すこと許さぬ――なんてねっ。急段顕象ォ! 犬村大角・礼儀ィ!」

 

鈴子の配置した斬撃が問答無用の必殺性を帯びる。

 

彼女の夢は、人と獣とを分かつ空の境界。

斬撃により(かたど)った枠組みを越えるものに、人間社会に住む資格はないという排斥の理。

 

本来ならば、相手が「自身が獣である」と認める事が条件付けられている急ノ段であるが、甘粕は愛も勇気も誇りも矜持も理解する男だ。

 

随分と型破りではた迷惑な存在なれど、彼は獣では有り得ない。

 

我も人なり、彼も人なり。

その標語を掲げし彼は、並外れているが人間だ。

 

なのに急段が成立したのは、今の戦真館の特異性ゆえに。

 

――相州戦神館學園八命陣。

 

恐れ多くも原作の名を冠する、俺という柊四四八の終段。

眷属である戦真館メンバーを召喚し、俺の深層に眠っている記憶から『正史』の彼らと合一させる夢。

 

八犬士という英雄の皮を、戦真館特科生たちに被せる昇華の御技。

 

この終段の恐ろしい所は、彼らを神格に仕立て上げているという点に尽きる。

眷属の軍勢を擬似的に神格へ押し上げるという、前代未聞の大偉業。

 

我が身の恥を晒すのは些か以上に不服だが、俺は弱い人間だ。

 

けれどだからこそ強くなれる。強く在ろうといられるのだ。

それは偽りなき俺の真で、それを承知しているから助けを求めれば応えてくれる。

 

そうして願い顕れた効果を『軍勢変生』と、そう呼ばう事に誰も異論はないだろう。

 

集合無意識の海より盧生に顕象された神格は、それが人の夢の集合体である故にこの世に顕現している時点で(・・・・・・・・・・・・・)あらゆる協力強制を成立させている(・・・・・・・・・・・・・・・・)という特性を持つ。

 

つまり鈴子だけでなく、歩美でも栄光でも。

それこそ、最高難度を誇る水希の急段ですら条件の達成を必要としない。

 

だけでなく、神格としてカンスト上限が外れている今のアイツ等は終段が使えないというだけで、カタログスペックに限って言えば盧生の領域に足を踏み入れている。

 

「ハァァアアアアアアアアアアアアアアア――ッ!」

 

その高スペックを駆使して疾走するのは我らが才女、天衣無縫の世良水希。

瞳が開かんとしているバロールへ向けて一直線に進んでいく。

 

悌の八犬士たる淳士の急段、意識共有の夢により彼女も俺の考えが解かっているのだ。

 

軍勢変生という大技の弊害。

彼らを神格に押し上げているという事は、終段を休みなく使い続けていることに等しい。

 

無意識(アラヤ)に接続して神格を顕象するより遥かに消耗は少ないが、それでも終段は人類史上最高位に位置する術法なのだ、行使の負担は計り知れない。

 

――結論、今の俺に他の終段は使えない。

それが解かっているからこそ、今や神格たる水希が突っ込んだのだ。

 

見れば殺す絶対の瞳は、放置すれば諸共に死滅してしまうから。

そうはさせないと駆ける彼女の背中、戟法と楯法による高速移動はまるで直進する砲弾のよう。

 

向かい来る敵には目も呉れず、一気呵成に突っ込む姿は傍から見れば不安を煽る。

だが、アイツの心配など必要無いことを知っている。

 

なぜならば、答えは俺の隣に。

その道を作るべく露払いに勤しむのは、不動のスナイパー龍辺歩美。

 

「モード“ソロモン”より、アスタロス実行――時空間跳躍(テレポート)ならまっかせなさ~い!」

 

口は軽やかに引き金も軽く、しかし眼光は冷え切っている。

 

休む間もなくトリガーを連打しつつも、一発とて無闇に撃ち放っている訳ではない。

俺や鈴子、それに水希にさえ理解できない視点と思考で計算している。

 

動き回る仲間たちに被弾しないように気を付けながら、縦横無尽に戦場を奔る空間跳躍の絨毯爆撃。

 

飛び散る血肉を被りながらも水希は目標に到達した。

一撃で以て必殺とすべく、上段から咒法と解法による邪剣を振るう。

 

「堕ちろ堕ちろ――腐滅しろォッ!」

 

次々に出現する魔神の群れは発生源の消滅に伴って象が薄れる。

水希の一刀がバロールの邪眼を切り裂いたのだ。

 

と、同時に。

 

「いいぞ、素晴らしい。お前たちは輝きに満ちている。愛おしいぞ、狂おしいほどにィ! セージではないがな、俺はお前が羨ましいと、認める事に厭はないぞ。柊四四八ッ!」

 

故にもっと輝けとばかりに、普遍無意識(アラヤ)の海より裁きの神威を汲み上げる。

 

――(オン)摩訶迦羅耶娑婆訶(マカキャラヤソワカ)

 

轟く詠唱は大黒天の真言であり、ならば来るのはヒンドゥー教の最高神。

彼の名高きシヴァ神が仏教に取り入れられた破壊の化身。

 

「終段・顕象――大黒天摩訶迦羅(マハーカーラ)ァアアアアアアア――ッ!!」

 

それは本来、召喚された八犬士の半数をただの一撃で吹き飛ばす暴威であり。

 

展開を知る身としては無論、黙って見ている訳にはいかない。

ここで切るべき札はチートその1。

 

「やれぇ栄光ゥ――ッ!」

 

心から尊敬する漢の一人は、俺の合図に間髪入れず応えてくれた。

 

「急段顕象ォ――ッ!!」

 

自身の大切なものを対価として捧げ、それに見合ったものをこの世から消滅させる相殺の業。

ただしそれに見合う基準というものが、栄光個人の価値観に依存しているという壊れ性能。

 

それを条件付けが必要ない神格としての状態で使うとどうなるか。

答えは簡単、不平等極まりない天秤(ローリスク・ハイリターン)の等価交換。

 

全霊の投擲を無効化したその隙に、鈴子の薙刀が胴を一閃。

急段による追撃もあって無意識の海に戻っていった。

 

何を差し出す事もなく無に帰した三叉戟(トリシューラ)だが、意味がなかったかと言われればそうではない。

 

たとえ栄光の中の天秤が限界ギリギリまで傾いていたとしても、一部とは言え神格を対価なしに消滅させようというのだ。

その消耗は相当な負荷となって蓄積され、そうそう再使用とはいかないだろう。

 

図ってか図らずかは知らないが、これで甘粕には切り札を一枚奪われた形になる。

 

いや、やっぱり図ってはいないんだろうな。

たとえ図ってやったのだとしても、それがお前の限界ではないだろうとかほざいてまた使わせようという魂胆だろう。

 

奴の考えが想像できてしまう自分が憎い。

 

「少年よ、お前の忠心には胸を打たれる。故にもう一度、限界など決めるな魅せてくれえッ!」

 

ああ、本当に。

なまじ的中してしまうから始末に負えない。

 

だからこそ実現させるほど甘くはないのだ思い知れ。

アイコンタクトさえ送るまでもなく、悌の夢によって思考を共有する歩美が力を振るう。

 

これでも喰らえ、チートその2。

 

「終段・顕象ォ――!」

「急段顕象、犬阪毛野――胤智!」

 

甘粕が召喚した神格を、時間跳躍により顕象する前に撃ち抜いた。

いくら終段が強力無比とて効果が顕れるより先に対処してしまえば怖くない。

 

九頭龍閃(全方位攻撃)を攻略する方法は天翔龍閃(先制攻撃)と決まっているのだから。

 

「ふふはははハハハハハハハハァッ! 諦めん。諦めんぞ見るがいい、俺の辞書にそんな言葉は存在せん! なぜなら誰でも、諦めなければ夢は必ず叶うと信じているのだァッ!」

 

 

 





水希VSヘルを見るために万仙陣を起動したら流れで最後までプレイして、そしたらまさに恥さらしだったネタの続きを書いてしまった恥ずかしい。



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邯鄲に差し込む朝日4

 

 

俺が本来の柊四四八と異なる点のひとつ。

精神面が()に比べて未熟だった事による差異だろうか、俺は邯鄲の周回をより多く経験している。

 

原作に倣ってゲーム的な表現をするなら、ヒロインルートで階層を突破する合間合間に別の周回が挟まっている状態。

フラグ管理をミスって友情ENDとか、逆に上手く行きすぎてハーレムENDを迎えたりとか、あまりに身も蓋もない表現だがまあそんな感じである。

 

つまり、邯鄲の周回中のこと。

俺が彼女を名前で呼んでいる事からも窺えるように、水希と添い遂げた事があるのだ(・・・・・・・・・・・・・・)

 

それは同時に、彼女が俺に心を開いたという事であり、己の真を曝け出したという事でもある。

 

「なあ世良――世良水希。確かに俺は弱い人間だよ。そこに関しては言い訳できない、負い目というのが俺にはある。そういう意味ではお前が一番俺という人間の本質を見抜いていたんだろう。でもな、お前は同時に真芯(それ)しか見ていない」

 

人は本質だけの生き物ではない。

建前がある。見栄がある。偽り、欺き、嘘を吐き、欺瞞に満ちて虚飾する。

 

裏があり表があり、骨があるなら肉があり、虚栄だって実が伴えば真実だ。

 

「弱いから強さを求め、成長していく事ができるんだ。強さに掛ける男の思いは狂気だと? ああ、そうかもしれない。だが死に物狂いで強さを追い求める姿勢は、弱さを自覚するから生まれるものだろう。(じぶん)(あいて)を上回ってしまえば絶望して死んでしまうだと? ――(おまえ)(おれ)を決め付けるなよッ! (おまえ)(おまえ)(おれ)(おれ)だ! (おれ)(おまえ)は対等であるべきで、水希(おまえ)は俺の仲間だろうッ! 俺が(おまえ)を、お前が(おれ)を、信じ頼って何が悪いッ!!」

 

我も人。彼も人。故に対等。それが基本のはずだろう。

 

男女平等ではなく男女対等(・・)

男には男の立場があり、女には女の矜持がある。

 

それを互いに理解し、尊重し、信じて助け合うのが仲間というもの。

ならば男たる俺が女の水希を頼りにして何の不都合があるというのか。

 

()と全く同じではないが、これもひとつの答えだろうと思うのだ。

 

 

 

 

 

 

   第四節『彼女の(イノリ)

 

 

 

 

 

 

――諦めなければきっと夢は叶う。

 

甘粕正彦の代名詞とも言える言葉。

本人が口に出したように、彼は微塵も諦めていない。

 

歩美によって阻止された終段など前座に過ぎないとばかりに、力一杯に両手を伸ばして天を仰ぐ。

 

否、奴が見ているのは更にその先。

雲を越え空を越え成層圏を越えた宇宙空間。

 

(さき)の気に入っているという発言の通り、鋼鉄の軍勢が都合数十は用意されている(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「……このッ、バッカ野郎がァ!」

 

核爆弾に匹敵すると言われる程に驚異の破壊力を有する超兵器。

天より下る神の鉄槌が雨霰(あめあられ)と落ちてくる。

 

最強の盧生たる面目躍如、とは言いたくない。

邯鄲の夢による後押しを得た神の杖は、一発でも地表に激突すれば関東どころか日本列島が割れる恐れすらある脅威なのだから。

 

……無茶苦茶な真似をしやがってと甘粕に憤る反面、数十万にまで上る万仙陣よりマシじゃないか、とか思ってしまう自分が憎い。

 

「裁きの杖よ降り注げェィッ――ロッズ・フロム・ゴォォォッドォォォッッ!!」

 

天上より襲い来る猛威に対抗すべく、主柱ゆえに後ろに控えていた俺も前に出る。

 

「――破段顕象ォッ! 犬江親兵衛・仁ァし!」

 

正史の()と違い、俺の破段はこれひとつ。

自分の能力資質を変動させるという効果は同じだが、俺のそれは更に奇異なものとなっている。

 

この破段は以上であれ以下であれ、本来不動である能力合計値すら変動させうる。

 

例えば俺の合計値はオール7の70だが、歩美のステータスを反映させれば数値が下がって46に。

或いは仲間内で最も優秀な水希に化ければ、合計値は78に上昇する。

 

これは八犬伝における犬江親兵衛が、儒教の徳目全てを体現する完璧なヒーローであることに起因している。

 

全ての徳を体現するという点から、仁義八行の面々を完全に模倣する異端。

場合によっては短所であり長所ともなり得るそれは、己自身を確と持っていなければならないという五常楽の前提に反して、根底にあるべき芯がブレている奇怪な夢であるとかつて壇狩摩に指摘されたこともある。

 

俺の真実を鑑みれば指摘はまさしくその通りと言えよう。

 

だが、これでいい。

仁義八行、曙光曼荼羅――柊四四八は仲間あってこその盧生なのだから。

 

「犬山道節――忠与ッ!」

 

そして今回変化させる相手は我らが栄光(エイコー)

最終決戦に入ってから大活躍な忠の犬士は、この局面でこそ更に輝く。

 

大黒天(マハーカーラ)の相殺による負担から、栄光本人は夢の顕象を制限されている。

 

故に出るのはその代わりになれる俺だ。

超兵器・神の杖(ロッズ・フロム・ゴッド)の速度に対抗できるのは、この夢しかないだろうと知っているから。

 

創法によって空中に足場を作り駆けあがる。

見上げた景色は、まるで流星群に向かって突き進んでいるかのようで。

 

それは、存外に美しいと思える光景だったのだ。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

甘粕正彦の暴威に敗れ、ただひとり残った世良水希が立ち上がる。

それは邯鄲第一周目の再現であり、ゆえに訪れる結果(みらい)もまた同じ。

 

生と死の刹那に(Vive memor mortis)――強き少女は過去(まえ)を見据える。

 

既知(それ)は敗北を意味しない。

もうあの時とは違うのだからと、自信を持って。胸を張って。

 

「――未知の結末を見る(Acta est fabula)

 

これにて終幕、芝居は終わり。

ならば次は、新世界に始まる物語を紡ごう。

 

――急段・顕象――

 

(イノリ)(ネガイ)(チカイ)、信じる。

柊四四八の筆頭眷属が希望を胸に夢を回す。

 

「犬飼現八、信道ッ!」

 

四四八曰くのチートその3にして、最高最難のチート能力。

尋常ならざる創法の才能によって回帰の世界が流れ出し、決着の寸前まで時間が巻き戻っていく。

 

そして、ことはそれだけに留まらない。

 

 

 

ここで一つ、五常楽について話をしよう。

 

それは邯鄲の夢を扱う習熟度。

序・詠・破・急・終からなる五段階の夢。

 

戟法・楯法・咒法・解法・創法の五種類を掛け合わせ、顕象させる術こそが五常楽。

内の二種を納め固有の夢を形にするのが破ノ段であり、それらを極め三種以上の夢を掛け合わせたのが急ノ段である。

 

通常は夢の扱いに慣れていく内に順々と段階を引き上げるものだが、やはりというか例外と言うものが存在する。

 

例えばそれは辰宮百合香、夢は傾城反魂香。

彼女は三つの夢を同時行使できる玄人であるが、使える夢は破段で止まっている。

 

しかし、それは他に劣っている事を意味しない。

 

彼女は患い捻じ曲がった幼い精神性から、他者を区別するという事が解からない。

故に急段の条件付けがそもそも成り立たず、夢を三つ混ぜ合わせた驚異の破段が出来上がったのだ。

 

それとは逆に、破段を会得せずして急段に至る例も存在している。

彼ら彼女らは胸に巣食う願いが強すぎて、割り切る潔さを持たない頑固者たち。

 

柊聖十郎が健常者への嫉妬心に凝り固まっていたように。

世良水希が弟との確執により己を戒めていたように。

 

だが、水希はその過去を清算した。

巻き戻し、やり直し、そして罪を雪ぎ洗い流した。

 

故にここで、彼女は初めて自分の意思で夢を描いた。

蝕んでいた悔恨(ユメ)から解放され、太陽(ヒカリ)への憧憬を形にしたのだ。

 

それは即ち、この愛おしい仲間との時間(せつな)をずっと味わっていたいという祈りであり。

 

Verweile doch,du bist so schon(時よ止まれ、お前は美しい)――」

 

人の身でありながら卓越した創界の才。

盧生に伍する終段(いま)の彼女は、まさに黄金の近衛にも並ぶ英傑であり。

 

「――破段・顕象(Briah)――」

 

蛇の継嗣が世界を顕象せしめた。

 

Eine Faust Finale(涅槃寂静・終曲)ッ!!」

 

 

 




原作からして、鈴子とかは名前呼びになっていてもおかしくないと思うんですよ。周回中に添い遂げているのに苗字で呼び合っているのは、ロートスの顔的に「急に変わっても混乱するから」という神の思し召し故ではないかと。

水希の破段については非難殺到しそうですね。
でも急段がちゃぶ台返しなので、破段が時間停滞というのは理屈として通るとは思うんです。水銀と刹那の関係性的を差し引いて、時間逆行の前段階という意味で。


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この素晴らしい世界で豪遊を!

 

 ――死んだ。どうしようもなく、言い訳のしようもないほど明確に。間違いなく。

 我ながら日本人としては今時珍しい死に方だったと思う。

 いや、世界的に見ればそうでもないのかもしれないが、日本在住の高校生としては珍しいだろう。これが否定されれば日本は物騒な修羅の国になってしまうので、そうであって欲しい所だ。

 死因は恐らく、爆死。爆発によって発生した熱で死んだのか、それとも爆発の衝撃で吹き飛んで死んだのか、はたまた弾けた爆弾に当たって死んだのか、詳細までは死んだ本人ゆえに分からないが、原因が爆弾による物である事は確かだろう。

 そう、爆弾。日本で暮らしていれば何かの拍子で耳にする事はあるかもしれないが、お目にかかる事などそうそうない危険物。それによって命を終えたであろう俺は、つまるところテロという奴に遭遇したのだ。我ながら不運な男である。今となっては爆弾を所有していた男がどんな目的で事件を起こしたのかは解かり兼ねるが、まあ既に死した身で深く考えることもあるまい。

 などと思考しているのがあまりに不思議で、伏せていた目を上げて正面を向く。

 見渡す限り暗い闇の中、眼前に何メートルか挟んで椅子が鎮座している。そういう自分も四つ足の椅子に座っており、肌触りや質感から木製だろうが比べると随分みすぼらしい。いや違う、あちらがシンプルながらも豪勢なデザインとなっていて、位の高い者が座るのだろうと推察できる。改めて自分を見下ろしてみると、着ている服は死の直前と同じTシャツにジーパン。

 頭を左右に振ってみると地平線どころか椅子の後ろ位までしか見渡せず、しかし暗闇には星屑が如き神秘的な光が漂っている。有り体に言って、すごく死後の世界っぽかった。もっと言うと、ラノベ界隈でよく見るような転生の間っぽくもあった。その予想はすぐに裏付けられることとなる。

 

「君嶋大地さん、ようこそ死後の世界へ」

 

 コツコツという靴音と共に響く美しい声色に振り返る。そこにいたのは感嘆のため息を漏らしたくなるほど美しい一人の――一柱(ひとはしら)の少女であった。

 

「あなたはつい先ほど、不幸にも命を落とされました」

 

 真水のように透き通った、それでいて鮮やかな色彩を持った青の瞳。二次元に多大な興味を示す身としては、蒼、と称したくなるそれと、同色ながらもまた違った表情を見せる長い神。違った髪。いや、間違ったけど的を外してはいないのだろう。在り来りな表現だが、難なく納得出来てしまうほどに、彼女は神々しい存在だった。

 

「短い人生でしたが、あなたは死んだのです」

 

 纏う衣装は海の青さを宿した服に、天女の如き薄紅の羽衣。年の頃はそう変わらないように見えるが、女神(暫定)としては不思議ではない。若く清らで美しい乙女。それが古今東西で普遍的な女神のイメージというものだろう。

 清らか過ぎて気後れしそうだが、ぶっちゃけ見た目はかなりの好みである。

 

「……女神様、でいいんでしょうか?」

「はい。日本において、若くして死んだ方を導く女神。名をアクアと言います」

 

 アクアマリン、アクアブルーなどという言葉からもイメージできる通り、アクアとは水を意味するラテン語である。

 という感じの注釈がすぐさま思い浮かぶあたり、本当に黒歴史の業は深い。中二病は不治の病だぜ。

 そして隠れ中二病である俺は、この状況から後の展開を確信し始めた。そう、これは世に言う神様転生。異世界にGO! ということだろう。となれば転生特典というのを考えるべきだな。うむ。

 

「あなたには二つの選択肢があります。Re:(ゼロ)から新たな人生をはじめるか、天国に行って何不自由ない暮らしを送るか」

 

 まあ普通の二択だわな。でも女神様、それって裏があったりするんでしょう?

 

「でもひとつ忠告しておきたい事があります。天国というのは皆さんが思っているほど極楽な場所じゃありません。娯楽もなければ肉体も持たず、一日ずっと日向ぼっこでもして過ごすしかないようなところなのです」

 

 思った以上に嫌だな天国ゥ!? 退屈って生き物からすれば何よりの敵じゃん!! やることないなら地獄の方がマシな拷問に等しいだろそれ!?

 

「えっと、どっちも勘弁して欲しいんですが……」

 

 来い! 第三の選択肢来い!

 

「では、君嶋大地さん。異世界、というものに興味がお有りですか?」

 

 来た! 第三の選択肢来たァッ!!

 

「詳しく聞かせて下さい!」

 

 詳しく聞かせて貰った。

 行き先は剣と魔法の世界的なアレで、魔王とかモンスターも存在しており、人類滅亡待ったなしって状況だったらしい。誰もそんな危機的状況なところへ転生とかしたくないので、当然ながら人が減っていく一方になっていたのだという。

 そこで! 待ってましたよ神様転生! バイタリティ溢れる若者を転生というかトリップさせて、減った数を補おうぜ! でもただ送るだけじゃすぐに死んじゃうから、なにか一つだけ持っていけるようにしようぜ! ってなことになったらしい。俺大歓喜である。

 俺にしか使えない最強の魔剣、ひと振りで数多の敵をなぎ払う最強の聖剣、炎ですら燃やしてしまう黒炎魔法に、死をも覆す治癒魔法、更には人類には扱えない究極呪文! どれもこれも胸躍る中二スメルがプンプンするぜヒャッハハハハハハハハハハハハハハハハーァ!!

 

「――――はぁっ」

 

 なんだろう。一度有頂天になったからか、急激に冷めた。いや、醒めたのか。うん、そうだよな。最強の力とか持ってた所で、俺に魔王退治とか無理だよな。コソコソとゴブリン退治とかで小金を稼ぐのが関の山で、ボスキャラとバトルとか自信ないや。

 もっと目先の事を考えつつも遠くの事を見越した特典をだな…………ハッ!

 

「アクア様、自分で考えたモノも持っていけるんですよね?」

「はい、可能です。しかし、複数の特性を持つモノや、肉体を大きく改変するようなモノは許可できません」

 

 まあ当然と言えば当然か。ならば第一志望は断念して、事前の第二志望で行くしかない。

 チート・オブ・チートには成れなかったが、この特典を駆使して再現するくらいは可能かもしれないしな。

 

「どうやら、持っていくものが決まったようですね」

「はい、アクア様」

 

 そう、そうだよ。小金を稼ぐのが関の山。ならば、小金を大金にしてしまえばいい。とあるガンマンはこう言った。金は力だ、神よりよっぽど役に立つ、と。女神を前にとんだ不敬だが、そもそも神は崇め奉るモノであり、人間が使うものではない。ジャンルがそもそも違うのだから、金の方が役に立つのは当然のことだ。

 故に、俺が選ぶ特典は。

 

「Aランクの黄金律スキルを持っていきます!」

 

 AUOよ、俺に金ピカを分けてくれぇ!

 

「さあ勇者よ! 願わくば数多の勇者候補たちの中から、あなたが魔王を打ち倒す事を祈っています。さすれば神々からの贈り物として、どんな願いでも叶えて差し上げましょう!」

 

 こうして俺、君嶋大地による――この素晴らしい世界の漫遊記が始まったのである。

 

 




女神ムーブしているアクア。
書いてて違和感しか沸かないあたり、宴会芸の神様は流石だった。


>そもそも神は崇め奉るモノであり、人間が使うものではない。
自分で書いておきながらなんですが、原作カズマさんへの些細な皮肉にも取れますね。いや、書いてからそう取れなくもないなと思っただけなんですけど。


このすば9巻を読んで唐突に思い付いた主人公。
金に困る事がないカズマというイメージで、グータラしつつ異世界を謳歌していく物語。何時もの如く予定は未定。



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こんなフェイトゼロが書きたい。の続き


メンテ入る前に呼符三枚残ってるの使うか

ん、なんだこのエフェクト?

ア ル テ ラ さ ん が 来 た!!

十連でアルトリアとかすまないさんとか来てくれるのも嬉しいんだけど、セイバー率高すぎない? ってことで、槍きよひーとか玉藻とか来なかった腹いせに書いてみました。
ところでうちにもジャックちゃんまだー?



 

 

 暗がりの中、屋内にテレビの音声が流れている。

 光源と言えるのは唯一それくらいのもので、現代家屋にあって電灯すら付けていない。

 そんな状態で陽気な声を上げているのは赤毛の青年。古びた本を片手に持って、足の指で描くのは血の魔方陣。

 

閉じよ(みったせ~)、みったせー、みったして、みったせー。繰り返すつどに4度、あれ、5度? ええと、ただ満たせる時を破却する、だよなあ。みったせー、みったせー、みったして、みったして、みったせと。はい今度こそ5度ね。オーケイ。ん?」

 

――これまで起こった3件の殺害現場すべてに、被害者の血で描かれた魔方陣と思われる謎の図柄が残されていたことが……

 

 ニュースキャスターが読み上げた内容は、まさに今のこの場を表していた。

 そう。彼はこの家の住人ではない。本来の住人を惨殺し、その血で陣を描いている件の連続殺人犯であった。

 

「ちょっと羽目をはずし過ぎちゃったかもな」

 

――描かれた魔方陣がいったい何を意味するものなのか。本日は、犯罪心理にお詳しい教授……

 

 青年、雨生龍之介はそこで電源を切った。

 向き直った彼の視線の先には、猿轡(さるぐつわ)を噛まされ手足を拘束された女性が横たわっていた。

 

「悪魔って本当にいると思う、お姉さん? 新聞や雑誌だとさ、よく俺のこと悪魔呼ばわりしたりするんだよね。でもそれってもし本物の悪魔がいたりしたら、ちょっとばかり失礼な話だよね。そこんとこスッキリしなくてさあ。チワッス、雨生龍之介は悪魔であります。なんて名乗っちゃっていいもんかどうか、そしたらこんなもの見つけちゃってさ」

 

 怯える女性の前にパラパラと見せびらかすのは、先程から手にしていた古本。

 時代を感じさせるそれは、何十年前のものなのだろうか。龍之介は朗々と語り続ける。

 

「うちの土蔵にあった古文書? みたいなやつなんだけどさ。どうもうちのご先祖様、悪魔を呼び出す研究をしてたみたいなんだよね。そしたらさ、本物の悪魔がいるのか確かめるしかないじゃん? でもね、万が一本当に悪魔とかが出てきちゃったらさ、なんも準備もなくて茶飲み話だけってのも間抜けな話じゃん? だからねお姉さん、もし悪魔さんがお出まししたら――一つ殺されてみてくれない?」

「ん、んん――ッ! んぅ――ッ!!」

 

 女性は狂乱していた。

 実家に帰宅した彼女は父母の死体と顔を合わせ、その一瞬の隙を殺人鬼に捕獲された。もはや恐怖や混乱などといった感情を逸脱している。これは狂気だ。しかし、そんな状態でさえまだ上がある。

 未知だ。人は未知を何より恐れ、故にすべてを既知に変えて来た。神の怒りは自然現象であると解明し、電力により夜の闇を追い払った。

 だがこれはどうだろう。死は恐怖であり苦痛だ。しかし、そこは多少なりとも想像ができる。理解が及ぶ。死は確かに恐ろしいが、苦痛は忌避すべきものであるが、それは生物としてある種の達観があるものだ。

 対して、この男はどうだろう。分からない。解らない。雨生龍之介という男が何を言っているのか、何を考えているのか。何をしようとしているのか(・・・・・・・・・・・・)がまるでわからないのだ。

 狂気。狂乱。恐慌。狂おしいほどの感情の爆発で、彼女の意識は今にも崩れそうであった。

 

「はははハハハハハハハッ! 悪魔に殺されるのってどんなだろうね! 貴重な体験だ、あ、痛っ、何だこれ?」

 

 と、殺人鬼(あくま)の笑い声に戸惑いが混じった。

 龍之介は唐突に訪れた痛みに困惑し、己の右手を確かめる。

 手の甲に現れたのは妖しく輝く赤の刻印。それは令呪と呼ばれる魔術刻印。本人も知らずして、彼は聖杯戦争の参加者となった。

 もしも雨生龍之介が用意した贄が幼い少年ではなかったら。堕胎を経験した女性(・・・・・・・・・)であったのなら、或いはこうなっていたかもしれない。

 光を放つ方陣より魔力の奔流が吹き溢れ、英霊の座より招かれし魂が降臨する。

 

「くえすちょん――わたしたちを招いたのは、あなた?」

 

 蒼氷(アイスブルー)の瞳に射貫かれ、龍之介は暫し茫然と立ち尽くしていた。

 

「俺、雨生龍之介。職業フリーター。趣味は人殺し全般。子供とか若い女とか好きです」

「わたしたち、ジャック・ザ・リッパー。おしごとはアヴェンジャー、おかあさんのお腹にかえるのが夢なの」

 

 自己紹介には自己紹介を。

 礼儀正しいジャックの挨拶に気を良くした龍之介は、少女の形をした何かへ問いかけた。

 

「君っていま、そこの魔方陣から出て来たよね。ってことは悪魔なのかい?」

「あくま? ちがうよ、わたしたちは英霊。復讐者(アヴェンジャー)のサーヴァント」

 

 英霊。アヴェンジャー。サーヴァント。

 どれも魔術師ですらない龍之介には理解できない言葉であったが、とりあえず少女が悪魔ではなかったらしいというのは分かった。ならばいったい何なのだろうか。

 思考を纏めていると、今度は彼の方が問いかけられる。

 

「あなたはわたしたちのおかあさん(マスター)?」

「ん? お母さんっていうのは違うなあ」

「違うの……?」

 

 両者ともに、致命的なまでに噛み合っていない。

 早くも破綻が見えて来た殺人鬼コンビは、獲物のうめき声によって致命的な決裂を免れることとなる。

 

「ん――ッ! んー、ん――ッ!」

 

 二人そろって目を向けると、女性は血走った眼でもがいていた。手足の拘束を外そうとしているのだろうか。その思考は既に崩れ落ち、周りの状況などまるで目に入っていない。

 そんな様ではあったが、龍之介は彼女を生かして捕らえた理由を思い出した。

 

「あー、そう言えば悪魔さんにプレゼントしようとしてたんだったな。でも出て来たのは悪魔じゃなかったし……君、あの人殺す?」

 

 まるで友人に飲み物を分け与えるかのような気軽さで話しかける。この状況にあって不快感すら覚える精神性だが、残念ながらこの場にまともな人間はいなかった。

 何故ならば、少女もまた稀代の殺人鬼であるからして。

 そしてアヴェンジャーのサーヴァント、ジャック・ザ・リッパーは愚かではない。仮にも英霊という存在である、むしろ並の人間を凌駕する知性を持っていた。

 故に彼女は思考する。令呪との繋がりを感じる事から、自分に話し掛けている青年が召喚者であるのは事実。しかし魔力の流れの乏しさから、魔術師ではないことも分かる。

 ジャックは聖杯が欲しい。だからこそこの戦争に参加している。彼女は持てる知略を駆使し、とりあえず魔力を補充するべきだと結論付けた。

 

「うん、殺すよ」

 

 言うが早いか両手に持ったナイフで獲物を仕留める。

 大雑把かつ大胆に、それでいて狙いは的確に、血が吹き散るより先に心臓を抉りだした。

 そのまま口を付けて血を啜る。吸血、吸精。そして吸魂。魂喰い(ソウルイーター)という邪道も邪道。真正の英霊ならば決してしない憎むべき外法だが、反英雄にして殺人鬼たる彼女にそんな理屈は意味を成さない。

 そして彼女のマスターたる彼も、人の道にいない殺人鬼。猟奇的な少女の姿を、感嘆すら覚えて魅入っていた。

 

COOOOOOOOOOOOOOL(クゥーーーーーーーーーールッッ)! 超COOLだよアンタッ!!」

 

 血を、命を取り込んでいる。血を啜る幼き死神の姿の、なんと退廃的で美しいことか。彼はかつてない感動を覚えていた。

 雨生龍之介は快楽殺人者ではあるが、殺人そのものに快楽を見出しているのではない。命を玩ぶ外道だが、死を軽んじている訳ではない。

 

 そう、死だ。

 彼は死を知りたかった。

 ()の意味を知りたかったのだ。

 そこに理由はない。原因も、因果もない。ただ知りたかった。

 それは生まれながらの起源覚醒者。卵の殻にヒビが入った程度だったそれが、ここに穴が開いて中身が見えようとしている。

 

「ジャック。ジャック・ザ・リッパー! これは恋だ。きっと恋だよ! 俺に君の殺しを見せてくれ! もっと、もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと! 俺は君のお母さんじゃないけど、それでも君を愛してる! 悪魔だって? ああ違うね。君は天使だ! 俺の天使だよジャック! あはっ、ハハハハハハハァ――ッ!!」

おかあさん(マスター)じゃないけど、愛してくれる人(おかあさん)なの?」

「俺は雨生龍之介だ。龍之介だよジャック! ああ、愛してるよジャック!!」

 

 殻が綻びたことで振り切れた高揚感に、龍之介自身なにを言っているのか理解していない。

 いや、彼の場合は普段からそういった面があったものの、それに輪を掛けて荒ぶっている。

 

「りゅーのすけ?」

「そうそう龍之介!」

 

 霧夜の殺人鬼(アヴェンジャー)とその信奉者(マスター)

 前途多難にも程がある主従が、第四次の聖杯戦争へ参戦する。

 

 




ジャックちゃんにおかあさんと呼ばせない方法。
勢いで押し切ってしまえ(暴論)

龍之介は原作からして起源覚醒してんじゃないかって気がします。彼の起源は「生命」とか「探求」とかそんな感じなんでしょうね。


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こんなフェイトゼロが書きたい。の続きの続き

 

 

 ――聖杯戦争。

 万能の願いを叶える聖杯を奪い合う争い。

 聖杯を求める七人のマスターと、彼らと契約した七騎のサーヴァントがその覇権を競う大魔術儀式。マスターは己のサーヴァントに対する絶対命令権、令呪を宿し、三度のみではあるが強大な存在であるサーヴァントを支配する事ができる。

 そしてサーヴァントとは英霊。人類史に残るほどの大偉業を遂げた偉人や、神話伝説に名を刻む英雄たち。その英雄たちの敵として歴史に名を刻んだ反英雄の魂を指す。

 

 という諸々の基礎知識を、ジャックの幼くたどたどしい言葉で伝えられた龍之介。彼は頭が悪い方ではないが、何せほんの昨日までただの一般人――というには血の匂いが濃いが――として暮らしていた男である。教えられたことは頭に入っているが、その内容はあまり理解できていなかった。

 それでも分かったこともある。それはこの幼い銀髪の少女が、歴史に名高いロンドンの殺人鬼だという事実。元々が悪魔を召喚しようなどと考えていた狂人であるからして、死者の魂が現れたからといって困惑するものではあるまい。

 実際、龍之介は聖杯などどうでも良かった。

 いや、ジャックが欲しがっているので手に入れる手伝いをしようという気はあったし、なんでも願いが叶うとなれば獲っておいて損はないだろう、という程度の興味もあった。

 しかし、彼の一番の興味はもっと別のモノに向いていた。

 霧の街の殺人鬼、ジャック・ザ・リッパーの殺人。彼女と共に戦争に参加し、彼女の殺しをより多く見ていたかった。雨生龍之介の動機は、つまるところその一点に尽きるのだ。

 昨晩の生贄を思い出す。

 殺人の技術は確かに凄いと思ったし、手並みは慣れがあって素早かった。が、最も目を惹いたのはその後だ。血を啜る幼稚な死神の姿。血と命を取り込み、糧とし、そして最後には涙を流した蒼氷の瞳。

 綺麗だと思った。美しいと思った。焦がれたし憧れた。自分では決して至れないと本能で理解できた無垢なる殺戮。見蕩れたし見惚れた。もう一目惚れだ。彼はこれが恋だと言って憚らない。

 もしかしたら、恋という表現は間違っていないのかもしれない。

 これは雨生龍之介が初めて抱いた、異性に対する凄まじいまでの熱情であったのだから。

 

 

 

 ジャック・ザ・リッパー、アヴェンジャーのサーヴァントが召喚された翌日。彼女とそのマスターは仲良く町を練り歩いていた。

 理由は生活用品の購入と地理の把握。冬木に潜伏中の龍之介はともかく、ジャックにとっては初見の異国なので物珍しい様子である。

 聖杯戦争が始まっている中で無用心とも取れるだろうが、ジャックは自身のスキルによってサーヴァントとしての気配を抑えているため、実体化して出歩いていても特に問題はない。たとえサーヴァントだとバレた所で、稀代の殺人鬼たる彼女はその情報でさえ殺してみせるのだから、なおのこと。

 だがそこは流石に殺人鬼コンビというべきか、ただの観光にはならないところが物騒だ。互いに人目が乏しい箇所を探っていたりと、あらゆる行動が殺人という事象に繋がっているのだ。

 そんなこんなで、彼らとしては珍しい事に昼間から出歩いていたのだが。

 

「りゅーのすけ、おなかすいた」

「ん? オッケー、じゃあなんか食べに行こっか」

 

 袖を引く少女の言葉で次の予定が決まった。

 本来、サーヴァントである彼女に人間としての食事は必要ない。だが素人同然の龍之介はそんなことを知らないし、魔術師ではない彼は己のサーヴァントに魔力をろくに供給出来ていない。

 その不足を補うべく、供給源(・・・)を探す目的もあっての外出だが、それも実行するのは夜のこと。

 少女のおねだりには、一時(しの)ぎとして食べ物を魔力に変換しようという意図があった。変換効率は乏しいが、それでもないよりはマシだろうと。

 ……そこに、昨夜食べた現代日本の食品に対する感動が関係なかったかと言われれば、すべてを否定する事は出来ないだろうが。

 

「わたしたちハンバーグ!」

「ハンバーグねえ……昨日のファミレスでいーかな」

 

 どうやら少女はハンバーグが気に入ったらしい。見た目通りに子供らしいと微笑むべきか、挽き肉という点からいらぬ邪推すべきか。まあ、はしゃぐ姿が愛らしいのでどちらでも良いだろう。

 龍之介は隣を歩く少女をチラリと盗み見る。

 初めは召喚された家から着れる衣服を拝借していたのだが、流石に老年の女性服というのは傍から見ても違和感があったため、まず真っ先に服屋に飛び込んだ二人。

 それなりにセンスはある龍之介だが、さしもの彼も十代前半(ローティーン)の服を見繕った経験はなく、さりとてジャック本人はそもそもその来歴から、服を着るという意識自体が乏しいと言って良かった。

 流石に年頃の少女としての羞恥心くらいは持ち合わせているようだが、それとこれとは話が別の事らしい。

 そういう事情から両者ともにどうすることも出来ず、結局は目に付いた女性店員にコーディネートをお願いした。

 今の衣装は白を基調としたトップスに薄い桃色のスカート。闇夜に暗躍する殺人鬼にはまるで見えない格好だが、逆にそのギャップが正体のかく乱に一役買うだろう。

 試着した彼女に対する「似合ってて可愛いよ」という一言は、彼が女性を惑わす手練手管に長けていたゆえだろう。半ば習慣や反射に近いもので、彼自身の心情はまるで含まれていなかった。何せ彼は切り裂きジャックの信奉者。少女に何より似合うのは、返り血に濡れた無情の黒衣だと信仰しているのだから。

 

――いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでしょうか?

 

「りゅーのすけ、ハンバーグ!」

「はいはい。んじゃ鉄板焼きハンバーグとリブロースステーキで」

 

 無邪気な少女(さつじんき)気だるげな青年(さつじんき)の食卓は、何とも微笑ましい視線に囲まれていた。

 

 

 

 昼食を終えて散策を続けしばらく、夕暮れ時のことだった。

 それに気付いたのはほぼ同時。これは龍之介が持つ、サーヴァントの知覚に匹敵する殺人鬼の嗅覚を褒めるべきだろう。一瞬だけ交錯したジャックとの視線で意見を合致させた。

 ――尾行(つけ)られている。

 相手はただの人間なのか、魔術師という奴なのだろうか。それとも、ジャックと同じサーヴァントなのか。楽観的な彼の人格と裏腹な殺人鬼の思考が脳を掠めた時、天使が答えを導いてくれた。

 

「りゅーのすけ、おなかすいた(・・・・・・)

「――ん、りょーかい」

 

 昼食をねだった時と同じ音程。同じ韻律。欠片の違いとてないニュアンスのそれは、含まれた意味も全く同じ。額面通り、言葉通りの意味だ。

 彼女は食事をねだっている(・・・・・・・・・・・・)

 ゾクゾクする。背筋を這い上がる快感に耐え切れず身震いした。

 そう、これなのだ。雨生龍之介が惚れ込んだ少女は、こういう存在なのだ。当然以上に当然で、日常の如き非日常。どこまでも純粋に邪悪を成す、無邪気で幼稚で――無垢なる殺意。

 そんな彼女を天使と呼ぶ青年は、信仰に基づき生贄を捧げる事にした。相手が誰でどうだとか関係ない。彼女がそうだと判断したなら、それが当然だと行動するだけだ。

 

「さっさと家に帰ろっか」

「うん」

 

 散策中に目星を付けた、住民からは死角となりやすい区画に(おび)き寄せる。

 引っ掛かるかどうかは半々だったが、どうやらこちらが追いかける必要はなさそうだ。裏道に入ると目に見えて人気が少なくなる。灯台下暗し。都心ゆえに生まれた影の部分、と言ったところだろうか。

 周囲から完全に人の気配が消えると、杜撰(ずさん)ながら隠されていた足音が響き渡る。

 足を止めて振り返れば、またぞろぞろと男たちが(たむろ)していた。

 

「そこのお兄さん、可愛い娘を連れてるねぇ」

 

 中でも年若い男が声をかけてくる。年齢は龍之介とそう変わらない頃だろうか。時代背景を鑑みれば、まだ生き残っていても不思議ではない如何にもな連中である。

 しかし話しかけられた龍之介はというと、男たちの数を数える事に腐心していた。

 

「いち、にぃ、さん、しぃ、ごぉ、ろく…………十五人、かな?」

「ざんねん。うしろに三人かくれてるよ」

「ありゃ、流石に敵わないなあ」

 

 反対側に待ち伏せていたらしい。逃亡を許さないための伏兵だったのだろうが、サーヴァントを相手に隠れ通す事は不可能だったようだ。

 この状況をまるで危機に感じていない二人に焦れたのか、男たちは声を荒らげた。

 

「ちっ、お前ら分かってんの? これから痛い目みるんだよ?」

「寝ぼけてんのかコラッ」

「もしもーし。聞こえてますかー?」

 

 煽るような彼らの声を、しかしまるで意に介さない。

 何故ならそう。既に彼らは、地獄の領域に踏み込んでいる。

 

「よしジャック、ご飯を食べるときは?」

「うん、いただきますっ!」

 

――そして、殺戮が始まった。

 まず正面に突っ込んで、凄んでいた男の首を落とし。両脇と背後にいた男の心臓をナイフで一突き。呆けた顔で突っ立っている周囲の男たちも同様に、的確に心臓を射抜いていく。

 右手で突き、引き抜いて次は左手。地を蹴り飛び跳ね、それは人間の動きではない。時折投擲も併用して、返り血の一切を浴びる事なく十五人を惨殺せしめた。

 そこでくるりと背後を確認。丁度、龍之介が反対の三人を仕留めていたところだった。

 

「うーん、やっぱりジャックみたいには行かないかぁ……」

 

 血濡れのナイフを振り回して呟く。

 ジャックの殺しを見て、真似てはみたものの、やはり本物には遠く及ばない。返り血をまるで浴びないスタイリッシュな動きをしてみたかったのだが、簡単にはいかないようだ。

 無論、彼女のそれはサーヴァントとしての肉体や、魔性の者としての身体能力が関係している特別性ゆえのものだが、そんな理屈は龍之介には意味を成さない。

 

「……ん、まっじぃ」

 

 吸血の真似事をしてみたが、彼とて味覚は常人のそれ。殺人鬼はイコールで食人鬼ではなかったらしい。

 表情を変えずに命を啜る少女を見据え、まだまだ遠いなと独りごちる殺人鬼であった。

 

 雨生龍之介の犠牲者、46人。

 ジャック・ザ・リッパーの生贄、16人。

 

 

 

 





物欲センサー仕事休めよ。
なんで俺のカルデアにはジャックちゃんが来ないんだよ……


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殺人鬼は蒼氷の瞳を見つめ4(こんなフェイトゼロ~)

「こんなフェイトゼロが書きたい。」の第四話です。
こんな感じのタイトルにしてみましたが、いかがでしょうか。



 

 記憶の中で、幼い少女が微笑んでいる。

 それは自分が誤って皿を割ってしまったとき、飛び散った破片が少女の肌を傷付けてしまった場面。ポタポタと床に滴る赤い血を見つめる自分に何を思ったか、少女は大丈夫だよと頭を撫でて来る。怪我はなかったかと問うてくる少女を不思議そうに見つめた。

 どうしてこの少女は笑顔を浮かべているのだろうか。

 自分はそれが理解できなかった。血が流れている。傷を負っている。つまりそれは痛みを感じているはずで、それと笑顔がまるで結びつかなくて。目の前の少女は自分とは違うのだという事だけは、薄っすらと悟った。

 少女が成長して幼さが抜けて来た頃、ちょっとした事故に遭って腕を骨折した。少女は痛い痛いと言いつつも普通に生活を送り、自分が声を掛ければ笑顔で対応していた。

 この頃になると、自分も少女の笑顔の意味を察するようになっていた。

 ああ、この人は自分を気遣っているのだ。自分はやはり、それが不思議でならなかった。痛いと言っているのに、笑顔で大丈夫だとも言う。痛いなら痛いと正直に言えばいいものを。変な奴だと首を傾げた。

 少女は高校を卒業した。自分もその頃には声変りを終えて、少年から青年になろうとしていた。

 卒業式を終えて帰宅した少女を前に、いい機会だと自分は試してみる事にした。目の前でわざと皿を割る。飛び散った破片は少女の肌を掠め、ふくらはぎに赤い線を描く。それは幼き日の再現だった。

 少女は当然のように自分を気遣い、だから率直に聞いてみた。

 

『どうして俺を気遣うんだよ、怪我してるのは自分だろ?』

 

 質問の意図が掴めなかったのだろう。不思議そうに首を傾げながら、少女は当然のことを話すように答える。

 

『だって、家族でしょ? 龍ちゃんの事を大切にするのは当然じゃない』

 

 本当に自然に、当たり前のように()は述べた。

 ()ももう子供じゃなかったから、愛というものの概念くらいは知っていた。親愛、家族愛、姉は愛の深い女性だった。心優しく、朗らかな空気を纏い。とても。とても優しい、愛に溢れた人だった。

 それは俺にはないもので。愛というのを知ってはいても、それは本当に知っているだけで。分からなくて、分からなくて、知りたくて、だから知ろうとして、姉はそれを持っていて。

 

――だから殺してみた。

 

 包丁で心臓を一突き。笑顔のまま固まった姉の胸から溢れて来る鮮やかなソレ。床に押し倒した拍子に顔に飛んで、とても生温かかったのを覚えている。

 裾が捲れ上がって地肌を晒した腹を跨ぎ、柄を両手で握りしめて体重を掛ける。深く、深く、柄の奥まで押し込むように。

 力を入れるたびに勢いを増す赤色は、姉だけでなく自分の衣服も染め上げる。それは姉の命を自分が吸い上げているかのような錯覚を覚え、流れ出て来るのが収まっても気付かない程に興奮していた。

 

『あ、はははははははははあああああああああああああッ! あああああああああああああァッッ!!』

 

 笑い声なのか雄叫びなのか判別がつかない。

 荒い息を吐いて包丁から手を放す。ガタガタと震えていた両手は色鮮やかな真紅に染まって、綺麗な光沢を放っていた。

 再び下を見下ろすと、姉だったモノは同じ真紅に彩られている。なのに顔は微笑んだままで。

 即死だったのだろうか、それとも生きている間があったのだろうか。行為に夢中で意識に残っていなかったが、なんとなく生きていたような気もする。

 

――ごめんね。龍ちゃん、ごめんね。

 

 そんな幻聴を聞いたかもしれないから。

 

 

 

 聖杯戦争序盤、アヴェンジャーことジャック・ザ・リッパーは静観の構えを取っていた。

 何故なら彼女は殺人鬼。大衆、民衆、人間を殺すのはお手の物だが、英雄を殺す存在ではない。

 人間は怪物に勝てない。怪物は英雄に勝てない。そして、英雄は人間に勝利できない。反英雄たる彼女はこの三竦みにおける怪物に相当し、それゆえに人間に対しては無敵に近い復讐者。

 本来ならアサシンクラスにこそ相応しいジャックは、対マスター戦でこそ真価を発揮するのだ。

 だからこそ本格的な参戦は、戦争が中盤に差し掛かってからと決めている。自分以外の半数が脱落し、残るは優勝候補のみとなったその状況で、最も手強い相手を乱戦の中で始末する。たとえ失敗しても及び腰になるのは確実だろう。

 後は残る両者がぶつかるか、それともマスターの暗殺を警戒して膠着するかは運次第になるが、これが基本戦術と定めている。

 なのでそれまでは見つからないように潜伏しているのが一番なのだが、ここで問題がひとつある。

 深刻な魔力不足だ。

 幸いにもジャック自身は燃費が悪い方ではないし、マスターたる龍之介も素人ではあるが魔術回路は存在している。サーヴァントの召喚という刺激を受けて活性化しているいまなら、回路を開く事も不可能ではないだろう。知識のないジャックと龍之介では実行できないのが難点だが、見込みがあるだけ嬉しい状況である。

 しかし、それはあくまで未来でのこと。現状で魔力供給が不足しているのは純然たる事実で、彼女は魂喰いをしなければ現界そのものが危うくなってしまう。

 彼女自身のスキルで露見の可能性は格段に下がってはいるが、正体がバレなくても身辺の警戒意識を引き上げられては暗殺の成功率に支障が出る。そういう訳で、大人しく慎ましい殺人を心掛けている次第であった。

 

「だから、わるいひとを殺すの」

 

 そう述べるジャックの言に、龍之介は考える。

 曰く、悪人の魂の方がジャック自身と相性が良く、それゆえ魔力の補給効率も上がってくるのだとか。つまり数を少なくする分だけ質を求めようというのだ。その意味を正確に理解していた訳ではないが、悪人を殺して喰らうのだという行動方針自体は把握する。

 しかし一口に悪人を殺すと言っても、ジャックの糧として満足できる程の極悪人がそんじょそこらに転がっている訳もなし。裏路地のチンピラ程度では話にならず、殺人犯などそう多くはない。最も身近で凶悪な魂がマスターたる龍之介だというのだから皮肉なものだ。

 結論として、彼が捻り出した答えは簡単ながら的確なものであった。

 

「悪人ってことは犯罪者だろ? じゃあ探すまでもないじゃん」

 

 即ち、囚人である。

 法治国家である日本で、ただ極悪人というのならわざわざ探し出すまでもない。犯罪者は刑務所や拘置所にごまんと収容されており、数は少ないながら死刑囚とて――これはそれほどの凶悪犯が少ないという事でもあるため、むしろ日本国民にとっては良いことなのかも知れないが――収容している施設もあるのだ。

 そしてサーヴァントは霊体として物質を透過することができ、檻の中とて容易く出入り出来る。刑務所はジャックにとって、己の糧となる人間(タマシイ)を閉じ込めている生簀(いけす)であった。

 龍之介とジャックの行動は決まった。聖杯戦争の開催地たる冬木を離れ、近隣の刑務所を周る日々。戦争に関して情報を得にくくなるというのはかなりのハンデだったが、逆に自分たちの情報を相手に全く知られなくなるという利点でもあった。

 いくら探しても見当たらない謎のサーヴァントが、突如として現れマスターを暗殺していく。実現できれば悪くない展開である。

 

「行こうぜジャック! COOLな旅にしよう! おぉ――ッ!」

「おーっ!」

 

 そんなこんなで、殺人鬼コンビの刑務所(襲撃)巡り、ジャックちゃんの食べ歩きツアー~(首と心臓の)ポロリもあるよ!~が始まった。……始まって、しまった。

 

 





囚人の皆さん逃げて、超逃げて――ッ!
あ、でも逃げられないように檻の中なんですよね。ご愁傷さまです。

冒頭のあれは完全にねつ造なので、龍ちゃんの過去が原作とは別物かもしれませんがご容赦を。


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殺人鬼は蒼氷の瞳を見つめ5


活動報告にも書きましたが、遂にジャックちゃんが召喚できました! 我が世の春が来たッ!! 書けば出るって本当だったのか。



 

 

 ぴちゃっ。

 ぴちゃっ。

 暗い閉鎖空間の中で水音が反響する。水が重力に従って床に滴る様を連想させる規則正しいそれは、時折混ざる咀嚼(そしゃく)音と共に大きく乱れる。

 その暗闇に包まれた屋内、侵入不可能な独房の内側で囚人の死体に寄り添う影がひとつ。影は死体の傍に佇み、手に持った赤黒い肉塊に口を付けている。

 ぐじゅっ。

 にちゃっにちゃっ。

 喰っている。彼女が喰っているのは臓物だった。もはや死体と化した囚人の心臓だった。鼓動を止め、血液(イノチ)を循環させる事を止めてしまった心臓。それに口を付け、吸血鬼が如く血を啜り、悪鬼の如く肉を食す。

 当然だ。彼女もまさに人でなしの鬼。世に名高き殺人鬼、霧の街ロンドンを騒がせた正体不明の大悪人。切り裂きジャックその人なのであるからして。

 復讐者(アヴェンジャー)と呼ばれるその影は、自身を召喚した主の提案により刑務所に捕らえられている囚人を獲物と定め、襲っていた。

 悲鳴を上げる暇もなく心臓を抉り出し、一瞬にして命を刈り取る闇の死神。鉄格子に閉ざされた独房を傷つけることなく、しかし返り血に染め上げるロンドンの亡霊。

 血肉と共に魂を取り込んだ影は魔力不足(しょくよく)回復(みた)し、黒いながらも霞のように消え失せた。

 

「――ただいまっ」

 

 消えた影が再び姿を現したのは、同市内にあるとあるホテルの一室。

 黒い影は幼い少女の輪郭をあらわにし、美しい蒼氷(アイスブルー)の瞳を(しばた)かせた。

 

「りゅーのすけ?」

 

 男一名で取った部屋だったが、しかし肝心の青年がいない。

 そう広い部屋ではなかったので人がいるかどうかはすぐに分かる。物音ひとつしない室内には、ジャック・ザ・リッパーと呼ばれる少女以外には誰もいなかった。

 ほっぺを膨らませてむすっとした彼女は、ベッドに腰掛けて足をバタバタと暴れさせる。ひとしきり足を動かした後は、力を抜いて柔らかい布団に体を預けた。

 天井を見つめる瞳は焦点が合っておらず、どこか遠くを見つめている。

 

「おかあさん……」

 

 復讐者(アヴェンジャー)英霊(サーヴァント)として召喚された彼女、ジャック・ザ・リッパーは正規の英霊ではない。彼女は――彼女たち(・・・・)は当時のロンドン、延いてはイギリスに多くいた娼婦たちを母とする存在。ホワイトチャペルで堕胎され、生まれることすら拒まれた胎児たち。

 日本では水子(みずこ)と呼ばれる、出産に至らなかった胎児たちの霊がいるとされているが、彼女たちもその一種と言える。その数十万にも及ぶ水子の集合体こそが切り裂きジャック。

 此処に在る彼女は実のところ、反英雄どころか怨霊や亡霊の類に過ぎない。

 だからこそ、というべきだろうか。ジャックが聖杯に望むのは母体への回帰。自分たちを生むはずだった母親の胎内に帰り、きちんと産み落としてもらうこと。子供として、母親に愛情をもらうこと。それだけである。

 これだけ聞けば哀れな幼子の切実な悲願であるが、しかし忘れてはならない。

 

――彼女(・・)は殺人鬼である。

 

 自らの母親だったかもしれない女性を惨殺した、言い訳のしようもない加害者である。この世に生まれて来なかった彼女に人間社会の善悪を理解しろというのは酷かもしれない。だが、それでも、殺人は悪である。

 人間は動物を殺すのに、どうして人間を殺すのはいけないのか。そんな問い掛けを耳にする事がある。そこに倫理や良識、道徳といった物を差し挟まなければ、答えはごく単純な代物だ。

 現代社会で罪だと定められているから、これに尽きる。そこに感情や論理など存在しない。そういうものだとどこかの誰かが決めたから、そうとしか言いようがないだろう。

 殺人を悪である、罪であると定めることで、政治体制による平和を保っているのだ。極論、戦争中の殺人は悪ではない。何故か、政府が悪であると認知しないからだ。

 本質的に、人殺しは悪い事ではない。ただ、人によって嫌な事ではある。そしてある人にとっては良い事であったり、楽しい事であったりする。それだけのことだろう。

 この点に関して、ジャック・ザ・リッパーは上記のどれにも当てはまらない。

 彼女にとっての殺人は、生きるための糧であり母胎への回帰衝動の現れ。決して。そう、決して快楽ではないのだ。殺人による憂さ晴らしや、そこに生じる苦痛に対して暗い悦びを感じることもあるだろう。

 しかし、重ねて言おう。彼女は快楽殺人者ではない。殺人という行為は手段であり、過程であり、行為自体に何かしらの感慨を抱いている訳ではないのだ。目的さえ叶えばわざわざ人を殺す必要はないし、その気もない。殺人に及ぶのは、目的のための近道だからというだけなのだ。

 それは主たる龍之介もまた同じく。

 彼は死の追及、命の探求こそが目的。殺人行為はそのための手段に過ぎず、命を弄ぶのはあくまでそのための過程なのだ。この類稀なる殺人者でありながら、殺人行為そのものには感慨を抱いていないという点。この非常に近しい共通点があったからこそ、触媒なき召喚で彼と彼女は出会ったのかもしれない。

 

「……りゅーのすけ、りゅうのすけ。――龍之介」

 

 少女は虚ろな眼で召喚者の名前を呟く。

 彼は言った、おかあさんじゃないと。

 彼は言った、愛していると。

 ジャックはそれが分からない。

 彼女にとって、己に愛を注いでくれる存在はおかあさん(・・・・・)だ。根幹が胎児の亡霊である彼女は、自分以外の存在というのを母親しか知らない。彼女たちが初めて外に出るときは「堕胎」によるものなので、出産する「おかあさん」という概念はあるが、「おとうさん」と言う概念は存在しないのだ。

 当然ながら、その他の人間関係などなお知るよしもない。

 友人、恋人、主従――わけがわからない。英霊として既に完成した存在であるジャックは、成長する事がない。たとえ教え込んだとしても、理解することが出来ない。

 故に彼女は悩むのだ。母親ではないと否定した事と、愛していると言った事が繋がらない。愛をくれるのはおかあさんだけで、龍之介は愛をくれて、でもおかあさんじゃなくて。

 狂々(クルクル)狂々(クルクル)、考える。

 ジャック・ザ・リッパーは狂気の象徴。少女の幼い精神性は、狂気に汚染されている。筋道さえも狂った思考は、決して妥協点(こたえ)に辿り着けない。

 おかあさん以外の存在は、ジャック・ザ・リッパー(わたしたち)には必要ないし在り得ない。

 迷路の中で彷徨ったまま、ゴール出来ずに消えるのだろう。無知(しろ)くて、純粋(しろ)い、白無垢の少女。彼女が(むち)でなくなる未来は、きっとない。

 永遠に幼く、純粋なまま、彼女は人を殺し続ける。

 明けない夜はないかもしれないが、晴れない闇というのは存在するのだ。

 

 

 





勢いづいて書いたはいいけど、途中で殺人と悪の定義とか訳の分からない話になってしまった。本当にわけがわからないよ。


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最果てを紡ぐ物語

FGO七章十七節を終了したので、息抜きにちょろちょろっと書いてみました。っていうか、この時間でも眠くならないのだが……



 

 

『そうか、そうだったのか――! なぜ君があの爆発を、他のマスターたちと違って生きていられたのか疑問だったけど、その謎がいま分かった。思えば特異点Fでアーサー王の聖剣を受けた時や、ロンドンでソロモンが現れた時にも、君の霊基に変調が見られた。その理由はこれだったのか!!』

 

 ロマニの言葉に反応を示さず、少年は己の内に没頭する。

 深く、深く、自意識すら曖昧になりそうな内界の奥底に沈むソレ(・・)に、思念を送り続ける。

 

「なに、これ。力が溢れて来る――ギャラハッドさんの霊基(からだ)が、先輩に、反応して……?」

「サー・ギャラハッドは聖杯をはじめ、数々の聖遺物を手にした聖人だ! この天才をして今の今まで見抜けなかった。そうか、だからそもそも君たちの契約はそれほど強固に――」

 

 周囲の驚愕に見向きはしない。そんな暇はないのだ。獅子王の暴威――否、神威に対抗するには他に手がない。深い眠りに着いているソレを起こすのに、強すぎる刺激を与えてはいけない。ゆっくり、ゆっくりと慎重に、段階を踏んで覚醒させなければ。

 そうしなければ、この肉体(うつわ)が弾け飛んで仕舞いかねない。それほどの劇物。完全覚醒などすればそれこそ本末転倒になりかねないどころか、精々まどろみの中で薄目を開けるくらいでさえ過剰なほどだ。

 

「なるほど、そうか。お前たちがこの時代にやって来たとき、妙な胸騒ぎがすると思ったのだ。あの時分は捨て置いたが、今となってみれば共鳴、というものだったのやもしれんな」

 

 人類最後のマスターを前に獅子王は語る。

 人を捨て王となり、王から転じ変貌した――変質し成り上がった女神は謳う。

 

「そも、彼の塔はこの世を繋ぎとめるための楔である。敷物を止めるのに縫い付けるのが一ヶ所では、風に煽られてめくれ上がってしまうだろう? ならばそれと同様に、最果ての塔もまた複数存在している。ならばまあ、こんなこともあるだろうさ。だが、人理を守るべく戦うものこそが、最も容易く人理を崩壊せしめる術を持つなどと。世界とは、運命とは皮肉で残酷なことだ」

 

 向かい合う彼我は、男と女。民と王。人間と神霊。人類を守る者と、人類を愛す者。人類史の崩壊を覆すべく戦う者と、人類史の崩壊をやり過ごすべく努める者。

 何もかもが違う両者の袂には、異なれども同じ槍がある。

 

 聖槍――世界の果てにて、この地球(ほし)を貫く巨大な塔。その塔が地上に落とした影こそが聖槍であり、塔の持つ権能をそのまま扱える個人兵装でもある。

 最果ての塔こそが本体であり、聖槍とはその分身のようなもの。言い換えれば、座に在る英霊と降霊したサーヴァントの関係にも近いかもしれない。地上にある槍は塔の管理者の証なのである。

 問題は、そもそもなぜ『塔』が星に刺さっているのかという点。現在まで続くこの人間世界は、惑星の表層に敷かれた一枚の敷物に過ぎない、という考えがある。その惑星の覇権を握った知的生命体の認識する世界。我々に当てはめるのなら、物理法則といったところだろうか。

 地球という惑星に張り付いた、世界という敷物。これが剥がれないように縫い付けているものこそが、『最果ての塔』と呼ばれる現象であるらしい。

 そしてこの『塔』は世界に点在し、その影たる槍も何本も存在している。歴史上で幾度か確認されているように、時にはアーサー王伝説に登場するように。或いは――かつて髑髏の帝国の指導者が手に納めたのち、ウィーンにてハプスブルク家が所有していた一条(ひとすじ)のソレであるとか。

 

――そう、最果ての槍は此処に在る。

 古の時代から世を繋ぎ止める偉大にして荘厳なる威光は、此処に存在しているのだ。

 

「起きろ、聖槍。その残照にて世を抉れ、断崖の果てを飛翔しろ――聖約・運命の神槍(Longinuslanze Testament)ォッ!」

 

 対神、対魔、対界宝具。世界を繋ぎ止める権能の槍。

 惑星(ほし)を貫く嵐の(びょう)、そびえ立つ光の柱が此処に顕現する。

 

 

 

 

 

 

「この槍は世を照らし、世を繋ぎ、世を穿つ星の輝き――聖槍、形成」

 

 聖杯探索(グランドオーダー)発令。

――これは、歴史の最果てを紡ぐ物語。

 




ラフムの言葉がキーボードのかな打ちに連動している事に気付いた瞬間は背筋が凍るような思いをしましたよ。コイツらほんとに醜悪な怪物だって強烈に思い知らされましたね。あれはBETAにも似た生理的な嫌悪感を覚えました。

ところで花の魔術師なんですが、攻撃モーションでエクスカリバー使うじゃないですか。
むかしむかし、まだマーリンの設定が欠片も表に出ずStayNightのセイバーの回想くらいだった頃。勝手に妄想していたサーヴァント・マーリンの設定に――

『流石に名前は覚えてない(エクスカリバー・プロト?)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人
星剣ならざる聖剣。折れた選定の剣をマーリンが打ちなおしたという伝承から、『約束された勝利の剣』を生み出すまでの過程で生まれた、エクスカリバーの失敗作。星の聖剣には至らぬまでも、その魔術行程は神霊の域に及ぶ高度な位階に位置している。(的な感じだったと思う)

――というような宝具を思い描いていた過去がよみがえってきてしまいました。黒歴史ぃぃぃっ! でも、アイツ公式でエクスカリバーを義手に改造とかやらかしてたので、もしかしたらあながち的外れじゃないのかもしれない。


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この素晴らしい世界で豪遊を!2


片づけてたら読まずに仕舞っていたこのすば10巻を発見したので読みました。これだ! このカズマさんみたいな主人公が書きたかったんだ! と思い至り引っ張り出してきました。


 

 黄金律。評価規格外たるEXを除き最高値のAランクを誇るそれは、朱い月(TypeMoon)な作品における英雄王ギルガメッシュの持つスキル。

 人体の黄金比ではなく、人生においてどれほどお金が付いて回るかという宿命を指す。所有者は一生金に困ることはなく、大富豪として生活していけるという素晴らしい金ぴかぶりである。

 そのスキルというか体質というか、運命力? 的なものを持って異世界に来た俺は、早くも大金を手に入れようとしていた。

 

 この世界に降り立った俺は、まず町を観光して周った。

 草原を切り拓いて作られた事が窺える青々とした景観と、それに良く馴染んでいる石造りの建造物。自然の多い町並み、ではなく、自然の中の町並みからは文明の進み具合が見て取れる。

 石畳の交通路を歩む人々の格好も奇抜だ。色とりどりの装飾品を身に着け、外套を羽織る女性がいる。手には身の丈ほどもある杖を持ち、頂点には拳大(こぶしだい)の宝玉が設置されている。……うん、どう見ても魔法使いです。ファンタジーな魔女そのものです。

 

「――異世界来たあッ!!」

 

 っと叫んで周囲から注目を集めてしまっても気にならないくらいには興奮していた。だってそうだろう。あんな如何にも魔女ですって格好をしている人が当然のように町を歩いている、その事実がどうしようもなく胸を掻き立てて仕方ない。良い意味でも、そして悪い意味でも。

 悲しいことだが、これは興奮と共に拭い難い羞恥心をも掻き立ててしまう。おのれ黒歴史め……。

 そんなこんなで町を練り歩き、物珍しさからキョロキョロとお上りさん丸出しで見て回っていたのだが、流石の俺も興奮が治まってくるとなんとも落ち着かない。

 考えてみれば俺は死んだときと同じTシャツにジーパンという何とも言えない格好だ。

 これが学生服だったりすれば武ちゃんとか一刀さん的にどこかの組織に属しているっぽい雰囲気も出ていたのだろうが、俺の場合は着古した私服である。上は生地が若干とはいえたるんで来てるし、下とか色褪せて明らかにボロッちい。いや、それが味なんだけどね。

 だがまあ、異世界の街並みにミスマッチなのは疑いようがないわな。

 そして何だか小腹も空いてきた。身体が爆発四散して腹の中身も吹っ飛んじゃったからね。あはは。……やめよう、このブラックジョークは自分へのダメージもデカいや。

 

 肌に伝わる感触からポケットに財布と携帯が入っているのは分かっていた。広場らしきところで適当に腰を落ち着けて財布を開けて中身を確認。

 まず目につくのは硬貨数枚に紙幣数枚、金額としては五千円弱。異世界トリップの定番として美術品で売りに出すという手もあるにはあるが、この世界には俺以外にも多くの転生者がいるようだし、もしかしたら希少性はあまり高くないかもしれない。保留。

 他にはレシートが数枚。ポイントカードやクーポン券なども少々。流石にこれは金にならないだろう。却下。

 最後に出てきたのは銀色に輝く四角い包装。ドーナツ状の起伏が見て取れるそれは――――なんというか、大人のゴムだった。ああ、そういえば入れてたなぁ。

 え、高校生がなに持ってんだって? いや、交流のあった女友達の家に遊びに行くとなってつい……結局なにもなかったけどな!

 これも数があるならまだしも、ひとつふたつじゃ売り物にはならないだろう。となると残るは中身ではなく外身。

 出てきたものを直接ポケットに突っ込み、服で汚れを拭き取って軽く磨く。ついでにチェーンだって一応は金物だし、足しになるかもしれないのでこっちも磨く。

 次はっと。

 

「すみません、ちょっとお尋ねしたいんですけど……」

 

 通行人に話を聞いてやってきた所は、何を隠そう質屋であった。

 質に入れる物は財布本体。安物のビニール製とはいえ見てくれは悪くない。この町を見れば文明レベルはお察しだろうし、服か食い物か宿か。どれか一つくらいは賄えるだろうと高を括った。

 のだが、俺はどうも舐めていたらしい。

 神由来のチートスキル。

 英雄王の持つ黄金律という代物を。

 

「こっ、これはッ!」

「アンタどこでこんなもんを――」

「そうかいそうかい、なかなか苦労したんだなぁ」

「よし、お前さんとの出会いの記念にこれでどうだ!」

「なに、まだ吊り上げようってのか。へっ、たくましいじゃねえか」

「よっしゃ! これ以上はもう出せねえぞ!」

「ありがとうございっしたー!!」

 

 何だったんだろう、今のは。

 あれよあれよという間に手には十三万エリス。

 話を聞くに一エリスが一円っぽい物価だったので、占めて十三万円が手の中に。

 安物の長財布を質に入れただけでこの大金とか、黄金律頭おかしいだろ。もしあれが普通に高価なものだったら、一体俺は何十何百万を手に入れていたのやら。

 考えると震えが止まらない。

 こんな、こんなことって――。

 

「黄金律さいっこォ――ッッ!!!」

 

 

 

 とりあえず装備を整え、荷物入れのカバンを買い、道中買い食いをしつつ宿を取り、やって来たのは何を隠そう、冒険者ギルドという奴である。

 腰には剣。軽装だが皮の鎧も付け、上から質素なマントを羽織り、見た目だけならTHE冒険者という感じだ。剣は初心者ということで小振りな護身用だが、見た目以上の重みを感じる。

 これが命を奪う凶器の重みというものか……などと中二な考えが浮かぶが、実際問題、俺には少し重たい。たとえ相手がモンスターでも、俺に命を奪う行為が出来るのか。出来たとして、続けられるのか。冒険者という職業への期待に反面、不安も募っている。

 まあそれでも興味深々だからいっちゃうんですけどね。

 若さってのは躊躇わないことだからね。多少の無謀も仕方ないね。

 覚悟を決めて扉を開けると――――そこは酒場だった。

 うん、言っちゃ悪いけど、ギルドっていうより飲み屋です。お前ら昼間っから飲みすぎぃ! でも、それでこそ冒険者って感じでなんか感動。なんとなく気圧されて固まっていた俺に、ジョッキを運んでいた女性が声を掛けてきた。

 

「いらっしゃいませー! お仕事案内なら奥のカウンターに、お食事なら空いてるお席にどーぞー!」

「あ、ども」

 

 うん、見事に居酒屋の店員だ。

 いや、お仕事案内とか言ってるからギルド職員なんだろうけどさ。

 魔法使いっぽいお姉さんやら戦士っぽい男やらを横目にしながら、案内に従って奥のカウンターへ進んでいく。お約束ともいえる受付のお姉さんが顔を出すそこは、これまた見事に宝くじ売り場そのものだった。

 なんだかなあ。所々で妙に現代日本を彷彿とさせる景色が混じっていたりするせいで、現実感がこびりついて離れない。いや現実なんですけどね。

 

「どうも」

「こんにちは、ご用件をお伺いします」

 

 転生によるチート翻訳のおかげだろう。金髪美女が流暢に日本語を話している――ように聞こえる――のは、なんだか背筋がむずむずする。

 

「冒険者の登録がしたいんですけど」

「かしこまりました。まず初めに登録手数料をいただきますが、そちらの用意はおありですか?」

 

 ファッ!? 金取んの!?

 はじめは面食らったが、これが資格試験とかそういう話だと考えれば当然の帰結だった。

 そして黄金律持ちの俺に資格は、もとい死角はない。やはり金銭チートこそが最強、金は大いなる力だったのだ。お金様万歳!

 

「えっと、いくらになりますか?」

「お一人さま千エリスです」

 

 手数料千円の資格と考えれば破格の値段である。

 もち払うに決まってます。

 

「これでお願いします」

「――はい、確認致しました。それではまず、簡単な説明から入らせていただきます」

 

 よろしくお願いします。

 これが創作ならば半分くらいは読み飛ばし聞き流すところだが、俺にとってはこれからの人生を左右するかもしれない第一歩である。テンプレから外れた落とし穴があったりすれば比喩でなく死んでしまうかもしれないので、ここはしっかりと聞いておこう。

 はーいここテストに出ますよー、って奴だ。

 

「冒険者とは人に害を与えるモンスターを討伐し、町を守ることを生業とする方のことです。中には討伐だけでなく、住民の困りごとの解決や特定物の捜索なども含まれ、それらを請け負う何でも屋と考えれば分かりやすいかもしれませんね」

 

 ふむ、まあ基本だな。

 討伐クエストに採集クエスト、お使いクエストはRPGの基本だ。

 そして受付嬢が取り出したのは手のひらサイズのカード。運転免許証を彷彿とさせるそれは、想像通りギルドカードとかそういう類のものらしかった。

 

「この世のあらゆるものは体の内に魂を秘めています。どのような存在も生き物を殺し、或いは食し、生命活動を終えさせることで、その存在の魂の記憶の一部を吸収して生きているのです。俗に経験値、と呼ばれるものですね。それらは通常、目で見ることはできません。しかし、このカードを持っていると、冒険者が吸収した経験値を表示してくれます」

 

 THEステータスカードだな。

 便利なもんだ。

 

「冒険者が得た経験値に応じてレベル、というのも表示され、これが強さの目安となります。討伐記録も自動的に記録されていき、レベルアップの際は新スキルを覚えるためのポイントなど、様々な恩恵が与えられますので、是非ともレベル上げを励んでください」

 

 へえ、スキルはポイント制なのか。

 スキルツリーとかある系か、それともレベルアップで勝手に増えていく系か。まさにRPG世界そのままだな。

 

「それではこちらに身長、体重、年齢、身体的特徴などの記入をお願いします」

 

 え、身長とか体重って測るの?

 うーん、この世界の文明レベルとか技術レベルとかよくわからんな。いや、魔法とかあるっぽいし仕方がないのかもしれんが。

 

「ありがとうございます。では、こちらのカードに触れてください。あなたのステータスが判明しますので、それを基準になりたい職業を選んでいただきます。経験を積むことにより職業の専用スキルを習得できるようになりますので、その辺りも考慮してくださいね」

 

 ほう、専用スキルとな。

 これはクラスチェンジとか上級職とかがある奴と見た。いきなり上級職とかもいいはいいけど、異世界生活的には一般的な職業から段階を踏んで堪能するのも憧れるなあ。

 とかなんとか考えながら、待ち望んだステータス測定に入る。

 

「キミシマダイチさんですね。えっと……筋力、生命力はそこそこ。知力は高めで、魔力と器用度は普通。敏捷性は控え目ですが幸運は悪くないですね。これだとソードマンあたりが妥当でしょうか。あと就ける職業となると、基本職の冒険者くらいですからねー」

 

 レベルを上げてもう少しステータスを伸ばせば、選択の幅も広がると思いますよー。などというお姉さんの言葉を受け、大人しく剣士の職に就くことになった。

 こうして俺の、異世界生活が始まったのである。

 

 

 




ああ、もっと自堕落な生活してる主人公が書きたい。
地盤を築いてアクア様が降臨したときに貢いで女神のアホっぷりを笑い飛ばしてでもたまにアクア様を崇めつつ時にかっこいいところもあるそんな主人公を描写したい。


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理想を示す戦い(Fate)

 

 

 だが、この身は不忠者だ。

 いくら奸計に嵌められた上の事とはいえ、主の武具を無断で拝借し。いくら魔女に幻惑された上の事とはいえ、装いが違っただけで主と見抜けず。あまつさえ、刃を向けるなど。

 ランスロット卿のように。モードレット卿のように。これが自らの意思と覚悟を以って成したのならば納得もしよう。王に仕える身で賞賛も肯定もできないが、しかしその意思を尊重はしよう。きっと、王がそうであったように。

 しかし違うのだ。

 自分はそんな決意などなかった。

 頼まれたから引き受けただけ。魔女の奸計に弄ばれ、アーサー王の騎士たらんとしてアーサー王に斬りかかるなど、笑い話にもならない道化の所業だ。いや、笑顔になど誰もならないのだから道化以下。

 そんな浅薄な行動の結果が王と彼女の関係を決定的なものにしてしまった。

 互いに憎しみを募らせるような結末を招いてしまった。

 いや、我が王は憎んではいなかったのかな。ただ、こんな浅はかで愚かな騎士の敵討ちにと、そんな心持でいたのかもしれない。自惚れにも程があると言われても仕方がないが、なんとなくそう思った。

 だから、こんな不幸を呼ぶだけの半端な男は、また何を成す事もなく終わるのだろう。と、そう考え――

 

――――――――――――――――――――

 

――――――――――――――――――――

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

『是は、己より強大な者との戦いである』

 

――――声が、聞こえた。

 ハッとして振り返ると、見えたのは細くも芯の通った背中。

 知っている。その男の顔を。その騎士の浮かべる穏やかな笑顔を。

 彼が何故ここへ。いや違う、そもそもここは何処なのだ。

 

 

 

『是は、真実のための戦いである』

 

――――声が聞こえた。

 そこにあったのは硬い背中。

 硬く引き締まったその肉体と、その生き様と、眉間に寄った(しわ)までありありと思い出せる。

 発せられる声は重苦しく、口にされる言葉には苦悩と決断が滲み出ていた。

 

 

 

『是は、人道に背かぬ戦いである』

 

――――声が聞こえる。

 そうだ、彼らは円卓の騎士。

 我が王に、我らが騎士王に仕える同胞たち。

 彼ら円卓はここに集い、その目的を果たさんとしている。

 

 

 

『是は、生きるための戦いである』

 

――――声が聞こえる。

 鼓膜を震わせる音が何を意味しているのか。

 それを理解し、だからこそ理解に苦しむ。いや、戸惑うのだ。

 自分にはその資格がない。踏み出す勇気も、背負う気概も欠けている。だというのに。

 

 

 

『是は、精霊との戦いではない』

 

――――声が聞こえる。

 これは円卓議決だ。主従ではあれど上下はない騎士たちの、承認採決。

 人が担うにはあまりに強大な星の息吹。在りし日のアーサー王が振るった大いなる奇跡。

 それを振りかざすべきかの決議を取っている。

 

 

 

――――即ち、聖剣を振るうに足る事態か否かを。

 

 

 

 何故、何故だ。

 こんな愚かな男に王の宝物を持たせる事だけでも大罪だろうに、何故それを振るう事を承認するのだッ!

 馬鹿なことを言うな円卓の騎士たちよ。この聖剣は騎士王の掲げる理想そのものではないか。俺のような不忠に奇跡(ヒカリ)を灯させるなど、そんなことはあってはならない裏切りだろうッ!

 

 

 

『是は、私欲なき戦いである』

 

――――その声は、一層重く胸に圧し掛かる。

 君が、それを言うのか、サーギャラハッド。

 私欲なき戦いだと。王に詫び、卿らに詫び、そんな我が侭で子供じみた願望のために戦っていた俺を、君はそう言うのか。

 違う、と。否定――できるはずがない。

 他ならぬ彼の言葉を。世界で最も偉大なる、穢れの無い、聖杯の騎士の言葉を。

 それを否定することは、人の善性を否定することになる。

 自分には、出来ない。半端で未熟な俺に、そんなことは。

 

 

 

十三拘束解放(シール・サーティーン)――円卓議決開始(ディシジョン・スタート)

 

――――その声が、聞こえた。

 

 

 

「……え?」

 

――声が聞こえた。

 聞き違えるはずがない/忘れるはずがない。

 

 

――甲冑の足音が響いた。

 罪悪感に身が竦む/高揚感で身が震える。

 

 

――その背中を見た。

 ああ、貴方まで/貴方こそ。

 

 

――――……はい。不肖の身ながら、御身の威光を借り受けさせて頂きます。

 なにも。なにも/言わなかった(言われなかった)

 かの方はただ/前のみを見続けて(背を向け続け)

 それでも、/笑っていたのだと思う(許してくれたのだと思う)

 

 ああ――ならば、我が生涯に憂いはなく。

 この身は貴方の威光に照らされていよう、燃え尽きようとも。

 

『承認――べディヴィエール、アグラヴェイン、ガヘリス、ケイ、ランスロット、ギャラハッド』

 

 卿らの意思に、俺もまた賛同する。

 これなるは星の息吹、輝ける命の奔流、理想なりし王の威光。

 

「我が名はアコロン! この光輝薄れぬ限り我が前に敵はなく、我が忠誠不滅たる限り王の威光に陰りはないッ!」

 

 何故ならば、王の掲げし理想は我ら円卓の胸に宿っているのだから。

 

「是は、理想(キセキ)を示す戦いである。その奇跡(しんじつ)を心に焼き付けろ。『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』ァァァァァァアアアアアアアア――――ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

【クラス】セイバー

【真名】アコロン

【マスター】――

【性別】男性

【属性】秩序・善

【ステータス】筋力B 耐久C 敏捷B 魔力A 幸運C 宝具A++

 

【クラス別能力】

対魔力:C

魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。

Cランクでは、魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。

 

騎乗:C

乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。

Cランクでは正しい調教、調整がなされたものであれば万全に乗りこなせ、野獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。

 

【保有スキル】

戦闘続行:A

名称通り戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。

これは『全て遠き理想郷』の加護によって騎士王を圧倒した逸話によるものであり、宝具を失えば消滅する。

 

心眼(真):C

修行・鍛錬によって培った洞察力。

窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。

逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

 

気配遮断:C

自身の気配を消すスキル。隠密行動に適している。

完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。

アーサー王との闘いで互いに正体を看破できなかった逸話から得た、本人にとっては不名誉なスキル。

 

騎士王の赦免

陰謀によって忠義を立てた主に刃を向け、それを許された騎士の本懐。

人の欲望の行き着く先、運命とは斯くも残酷なものであるが、しかし。その結末には一握りの幸福が待っている。

 

【宝具】

『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』

ランク:A~A++ 種別:対軍宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000人

モルガンの策略によってアーサーと戦わされた逸話から所持している、正真正銘の星の聖剣。

ただし名剣としての切れ味がいくら凄まじくとも、本来の担い手ではない故に真価を発揮できない。

円卓決議による十三拘束の解放が成されて初めてその刃に光が灯るのだが、

円卓過半数の賛同という条件と本人の心情から令呪で強制されても発動は叶わないと言っていい。

 

『全て遠き理想郷(アヴァロン)』

ランク:EX 種別:結界宝具 レンジ:― 最大捕捉:1人

所有者に癒しの加護を齎す聖剣の鞘。

本来の担い手ではない故に絶対防御の力は発揮できないが、

それでも不老不死を与えるという恩恵は測り知れない。

 

 

 





という訳で、プロトセイバーFGO実装から思い至った設定でちょろちょろっと書いてみました。モルガンの愛人、アコロン卿です。詳しい状況とか相変わらず不明の状態だけど、ステータスと描きたいシーン書いたからひと満足。主役は本人じゃないけど宝具が主演なのでアーサー王きてくださいお願いします。初課金から一、二か月だというのにえっちゃんで盛大に爆死したのは苦い思い出。書けば出る、これに賭けるしかねぇ。
でもいつも思うんだけどプロト時空でランスロットって畜生じゃね? いや、Fate本編がTSしてるだけで元ネタそのままなんだけど。

よし、寝よう。



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ふぅ……(溜め息)な御方

「……そうですか。 喚ばれて、しまいましたか……ふぅ……」

 

 そういって大きな溜め息を吐いたその英霊は、顔だけでなく体全体で極大の憂いを体現してした。人類史に名を残した英霊というには余りにも物憂げな表情のサーヴァントだが、その恰好を見るに当然なのかもしれないと藤丸立香は納得する。

 剣を佩びず、槍を掲げず、弓を背負わない。そもそも身に纏う装束からして明らかに戦う者のそれではない。

 推察するに恐らくは、武ではなく言論で争い偉業を成し遂げた偉人に違いないだろう。

 論より証拠。というとだいぶ違うが、あれこれ考えるより聞いた方が早い。恐怖も困惑も横に置き、人類最後のマスターは語りかける。

 

「はじめまして、藤丸立香と言います。あなたは……キャスターさんですか?」

 

 人間関係の構築はまず、挨拶と自己紹介から始まる。

 相手が従者(サーヴァント)であったとしても。いや、英霊(サーヴァント)だからこそ基本を疎かにしてはいけない。少女の真面目な性根は、これまで培ってきた経験はそれを理解していた。

 

「ええ、私はキャスターのクラスで現界しました」

 

 返って来た相槌に人知れず胸をなでおろす。

 三騎士ではないとあたりを付けてはいたが、残る選択肢は四つもある。それなりに思考を巡らせたといえど、間違っていなくてホッとした。

 

 彼女の考えはこうだ。

 まず暗殺者(アサシン)ですかと初対面で問いかける蛮勇は彼女にはなかったのでそれは除外するにしても、残りは三つ。

 狂気を感じなかったし普通に喋っていたから狂戦士(バーサーカー)は除外するにしても、などと考えるような隙は彼女に限ってある筈がない。何故ならば藤丸立香という少女は人類で最後に残ったただ一人のマスターであると同時に、他に類を見ないほど多くの英霊を従える空前絶後のマスターである。

 狂化してなお会話が成立するバーサーカーなど、彼女の周囲には幾人もの前例がある。

 しかし、それを踏まえてもやはり問いかけという行動に際して、バーサーカーという選択肢を選ぶのは不適切だというのは事実だ。仮に目の前のサーヴァントがバーサーカーだったのだとしても、自分から問うのは避けるべきだと判断する。

 

 ならば残るは騎乗兵(ライダー)魔術師(キャスター)の二択。

 これに関しては特に迷わなかった。

 こればかりは勘という他にない。だが侮ってはいけない。それは最も多数、多種多様な英霊たちを従えるマスターの、経験則からくる直感である。立香はライダーというサーヴァントに当てはまる英霊かどうかを、直感的に嗅ぎ分ける特殊なスキルを身に着けていた。

 或いは王か、或いは将か、或いは旅人、或いは化生。従えるもの、率いるもの、自由なもの、暴虐なもの。乗り物に乗るとは即ち、他の存在を己の下に位置づけるということである。ライダーというクラスに宛がわれるに足る存在感、カリスマ、気風、気性。そういったものをこのサーヴァントからは感じ取れなかったのだ。

 故に、藤丸立香は召喚された英霊をキャスターではないかと推理したのである。

 

「召喚された時点で、おおよその事情は把握しています。人類最後のマスターよ。ですが、よいですか。私は召喚されるつもりはありませんでした。召喚されるのが嫌でした。その理由は、貴女ならば良くご理解いただけることでしょう」

「えっと、それって……」

 

 そう前置きをして、()はようやくその名を告げた。

 

「サーヴァント・キャスター。召喚されてしまったからには貴女の命令に従いましょう。我が真名は安珍、一人の未熟な僧に御座います」

 

 剣を佩びず、槍を掲げず、弓を背負わない。

 そもそも身に纏う装束からして明らかに戦う者のそれではない。

 頭を丸め袈裟を纏う美男子――キャスターのクラスで召喚された僧侶は、カルデアを灼熱地獄に変えてしまう真名をここに宣言した。

 

 

 

 

 

【クラス】キャスター

【真名】安珍

【マスター】ぐだ子

【性別】男性

【属性】秩序・善

【ステータス】筋力E 耐久E 敏捷B 魔力A 幸運C 宝具EX

 

【クラス別能力】

陣地作成:B

「魔術師」のクラス特性。魔術師として自らに有利な陣地な陣地「工房」を作成可能。

安珍は仏僧として、神社仏閣を自らに利するよう祈願する。

 

道具作成:B

「魔術師」のクラス特性。魔力を帯びた器具を作成可能。

安珍は仏具に念を込めて、神仏の加護を受けることが可能。

 

 

【保有スキル】

高速読経:C

経典の詠唱を高速化するスキル。

安珍は読経に特化し、供養や祈祷などの効力を発揮する。

 

仕切り直し:E+

戦闘から離脱、あるいは状況をリセットする能力。機を捉え、あるいは作り出す。

また、不利になった戦闘を初期状態へと戻し、技の条件を初期値に戻す。同時にバッドステータスの幾つかを強制的に解除する。

清姫から幾度も逃げ続けた逸話から。

 

 

【宝具】

『道成寺鐘大叫喚金剛圏(どうじょうじかね だいきょうかん こんごうけん)』

ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人

清姫に焼かれて溶けた道成寺の梵鐘が実体を失って体表に癒着している。

対竜属性以外のBランク以下の物理攻撃と魔術の威力を大幅に減衰させる。

それは肌を守る鎧としての機能を持つが、その本質は真逆。

全身を隈なく包み込む守護は彼を追い求める清姫の情念の現れであり、同時に清姫の燃え滾る情念そのもの。

故に安珍が嘘を吐けば全身を業火で焼き蒸され、終いには生前と同じく鐘の中で焼死するという、どちらかと言えば安珍ではなく清姫の宝具。

名の由来は八大地獄のひとつ、大叫喚。虚偽の罪を犯した罪人の落ちる場所である。

かの地獄ではこの世で最も恐るべき炎で身を焼かれるという。転身火生三昧?

そして金剛圏とは孫悟空を戒める頭の金冠、緊箍児の別名だそうな。やはり鎧ではなく拘束具か。

 

『熊野神十二所権現社(くまののかみ じゅうにしゃ けんげんそう)』

ランク:EX 種別:対人・対死霊宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:100人

熊野権現の化身ともされる安珍の神性顕現。

熊野本宮大社の主祭神として祀られる家都御子神、阿弥陀如来を本地とする神仏。

その威光を借り受け、衆生救済のための願力をもたらす僧の祈り。

効果範囲がどれだけ広かろうと対人宝具であり、神性が高かったり生粋の魔であったりすると影響力に欠ける。

逆に、魔性に反転していようと人であるなら救済の念が届き、苦悩を色濃くするサーヴァントならば救済の光に照らされ、

その魂は安らかに還ることだろう。

強靭な意志力で昇天を耐えようとも動きが鈍るのは間違いない。死霊特攻。

熊野坐神(くまのにますかみ)に願い奉る、御身の本願を以て衆生を苦難より解き放ち給え。オン・アミリタ・テイセイ・カラ・ウン――熊野神十二所権現社(くまののかみじゅうにしゃけんげんそう)第三殿(だいさんでん)家津美御子大神(けつみみこのおおかみ)!」

 

 

 

 

 




昨夜、寝る間際に思いついてしまった設定。
安珍様がカルデアに降臨なさったら、きよひーはどういう反応をするのでしょうか。やはり本物に飛びつくのか、マスターと両方を本物と見なすのか、それとも――自分に振り返らなかった彼を安珍様(旦那様)と見なすことはないのだろうか。
彼女の胸中はまるで計り知れません。
私に清姫を描写するのは無理だなと諦めました。



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邯鄲に差し込む朝日5

 

Eine Faust Finale(涅槃寂静・終曲)ッ!!」

 

 環境の操作に長けた界の創法に、事象の解体・解析を主とする解法の合わせ技。

 己自身を中心とした領域内の時間流を(とどこお)らせる凍結の夢。

 水希が成した斬首の覇道が、降下する神の杖を押し留める。

 

「今のうちに――みんな、お願い!」

「まかせてみっちゃん! 行くよ鳴滝くん!」

「おう、やれ龍辺ッ!」

 

 ここで遂に我らが重戦車(タンク)、鳴滝淳士が動き出す。

 最高値を誇る戟法の剛と楯法の堅。体躯の大きさから連想できる通り、ただ純粋に硬く力強い。

 奇を衒った特殊能力など要らぬ。

 ただ己の肉体さえあればそれで十分に事足りる。

 その自負ゆえか、至った破段は単純にして強力無比。

 

――曰く、重量操作。

 ただ重く。何より重く。世界の何より己は重い。

 字面だけ見れば自己中心ここに極まれりだが、それは自分を重んじるからこそきちんと他者に向き合えるのであり、また仲間に恥じない自分であろうとする意思の表れでもある。

 悌の急段もこの思想から発展を遂げた結果。何より重い自分を定義したことで、外に目を向ける段階になったということ。

 水希の創界に踏み入っても時間の流れが変わらないのはこの急段による彼我合一のためである。

 我も人、彼も人。

 確固たる己があるからこそ、仲間との繋がりが重いものだと証明するのだ。

 故に重力。重力。重力。質量が増大すらば攻撃も防御も飛躍的に上昇するため、ただ殴るだけでミサイルの衝突に等しい破壊をばら撒くことが出来る。

 しかし反面、重量が肥大化すればするほど、己の重さで移動そのものが困難になる。アイツ程の力と堅さを持っていなければ、そもそも指一本とて動かす事が出来なくなってしまうだろう。

 

――それを補うのが歩美の破段だ。

 物体を彼方へ飛ばす空間跳躍の夢により機動力の低さを補填(カバー)する。

 完全な時間停止ではないために裁きの軍勢は未だ降下をやめていないが、本来マッハの域にある移動速度が自動車程度にまで落ち込んでいるのだ。

 道路を走行する車くらいなら邯鄲などなくとも常人にだって目で追えるし、距離さえあれば避けることだって可能な域だ。

 それが邯鄲を制覇した盧生の眷属、それも終段顕象の後押しを受ける戦真館なら訳はない。

 尋常ならざる運動エネルギーを、同じく尋常ならざる重力質量によって相殺せしめる。

 

「おォォォォォオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 墜落、墜落、墜落、剛力、剛力、剛力――――激突激突激突激突激突。

 

 右の拳を振るったら間髪入れず左の鉄拳。

 息つく暇もなく連打乱打と重戦車の主砲が絶えず火を噴く。

 傍から見ていれば縦横無尽に動き回っているような光景だが、本人からすれば自分は一歩とて動いていないにも関わらず、次から次へと相手が襲いかかって来ているに等しい。

 これに見られる主観と客観の差異は、超越者(ツァラトゥストラ)の求道創造のそれに良く似ている。

 もちろんそれは、更なる蚊帳の外にいる甘粕正彦が感じているものでもある。奴からすれば水希の破段が発動した瞬間、まさしく刹那の間隙で神の杖が撃墜されたように思っただろう。

 

「終わりだ……甘粕ゥゥ――――ッ!!」

 

 

 

 

 

 

「高慢だな柊四四八、仲間を神と(あが)めるかよ」

 

 愉快そうに吐き捨てる甘粕に自慢する。

 

「ああ。彼らこそが俺の英雄。俺の理想。――俺の憧れだ。彼らの眩しさに焦がれるからこそ、俺もまたそう成りたいと願い、奮起する。それを勇気と言うんじゃないのか?」

「――――そうか、そうだな。それもまた勇気。それこそが勇気ッ! 友はいるし人は愛する。部下はいるし敵も愛する。だが、俺に仲間はいなかった。曰く、誰も信じていない男だからな。お前たちの愛と勇気に――その絆に胸を打たれたその時点で、俺は敗北していたということか」

 

 敗者は手足を放り出し、瞳を閉じて感慨に耽った。

 勢いだけの莫迦な男だが、しかし、きっとそれだけではないのだろうとも思う。この男にはこの男の物語があり、葛藤があり、苦難があってここにいる。思えば、続編の終盤でその恋愛観など垣間見る事ができたのだったか。詳しく知る気はもはやないが、やはり魔王もまた人間だったということだ。

 

「く、くくくっハハハハハハハハハハハッハハハハハァッ!」

 

 甘粕正彦は声を張り上げる。

 そうして豪笑をあげながらも、寂しげに感じるのは俺だけだろうか。

 別れを惜しみなどしない。俺たちはそんな関係では決してない。むしろ不倶戴天と称すべきであろうし、甘粕正彦は生きているべきでないと思っている。

 だからそう、いま互いの間にある静寂は、きっと達成感であり敗北感なのだ。

 

――前を向け、柊四四八。この男がそうであったように!!

 

 正面から見定めた甘粕の顔は、どこか安堵の表情にも見えた。

 

「ならば良し、是非はない! 俺の負けだァッ! この先の未来の行く末、後はお前たちに託すとしよう。さらばだ英雄! 魔王たる者、敗れれば散るが定めだが…………――なればこそ一つ置き土産と行こうか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッ!」

「万歳ァァィ!、万歳ァァィ!、おおおぉぉォッ、万ッ、歳ァァァァィ!!」

 

 甘粕正彦は喝采と共に消え去った。

 最後の一言は、要するに第二第三の云々という奴なのだろうか。

 支離滅裂な発言だったが、残念極まる事に薄らと理解できてしまう。

 

「…………万仙陣もあるのかよ」

 

 少なくともあの甘粕は、未来の俺と対面した事があるようだ。

 緋衣征志郎の事は知っているが、実際に会ったわけでも悪徳の詳細を調べた訳でもないからだろうか。

 逆十字の(ヤミ)と邯鄲の(ユメ)は未だ根強く残っているらしい。

 阿片に塗れた未来を思い、陰鬱をため息と共に大きく吐き出す。

 

――悲報。

 どうやら俺の八層試練は、まだ終了していない模様。

 

 

 




_-)))コソコソ


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