ストライク・ザ・ブリーチ (オサレ好きやねん)
しおりを挟む

はじまり

「無念だ...一護。お前のお陰で、生と死は形を失わず...命あるすべてのものは、これから先も死の恐怖に怯え続けるのだ...。」

 

それは、皮肉だった。強がりだった。後悔だった。

 

「永遠に...。」

 

現世、尸魂界、虚圏の三界を融合させ、かつて生死の概念すら存在しなかった原初の世界を顕現させようとした滅却師の王ユーハバッハは、己の避けられぬ死を前に、自身に死を与えた目の前の我が子(・・・)に語り掛ける。

 

黒崎一護に、王の目的は、最後まで分からなかった。

死神として隔絶した力を持ちながらも、まだ18年程度しか生きていない一護には、分かるはずもなかった。

 

それでも、王が本気で望み、千年以上もその実現を夢見ていたことだけは、理解できた。

 

この男は、ただ殺戮を望んでいたわけではない。あらゆるものを犠牲にしても、かなえたい願いがあったのだろう、と。

 

 

同情することはできない。

 

王が起こした戦争により、多くの命が失われた。その中には一護の知己もいる。

恩人、友人、知人、他人。

親しさの差はあったが、失われてよい命など、一つとしてなかったはずだ。

 

だからこそ、王の命を絶つため刃を振りぬいたことに、後悔はなかった。

 

 

 

 

ただ一つ、残った感情があるとすれば、それはほんの少しの寂寥感だった。

 

 

 

自身の半身たる斬魄刀の中で、ずっと『斬月』として振舞っていた男が、王のかつての姿だと知ったことで、知れず一護の中には、ユーハバッハに対する歪な親近感のようなものが生まれていたのだ。

 

“『斬月』のおっさん”とユーハバッハは、決して同一の存在ではない。

 

“『斬月』のおっさん”はあくまで一護の滅却師の力が形を成したものであり、ユーハバッハとは人格も思想も異なる。

 

 

 

それでも、夢想してしまったのだ。

 

口下手な、けれど仲間想いの王が、死神と手を取り合い、よりよい世界を目指す。

そんな未来があったのではないか。

 

 

 

 

 

「...そうだ、恋次は...無事か。」

 

ともに戦い、傷ついた戦友の無事を、視界を動かして確認する。

ほぼ死にかけの状態で卍解も解除されているが、瓦礫から自力で這い出し、一息ついている。

 

ほかにも、原理はよくわからなかったが、王を討つための機会を作ってくれたであろう石田雨竜も、気が抜けたように腰を地面に下ろしている。

 

この場にいた仲間たちは全員生きている。

その事実に安堵し、ふと思い当たることがあった。

 

「そういや、藍染は…?」

 

利害の一致により、奇跡的に共闘と相成ったかつての敵である、元五番隊隊長にして大罪人、藍染惣右介。

一度は藍染の斬魄刀『鏡花水月』の完全催眠能力で生まれた隙をつき、ユーハバッハの命を絶つことにも成功した。

 

その後、討伐に成功したと思い油断したところを、『全知全能(ジ・オールマイティ)』の力で自身の死すら改変してみせたユーハバッハに狙われ、影の中に捕らえられていたが、よもやあの男があれくらいでくたばることはないはずだ。

 

きっと藍染は望んでいないだろうと思いつつも、生来律儀で優しい性格の一護は、礼くらいは言っておくべきか、と考え、

 

 

 

 

 

 

 

「一護!」

 

遠くから、阿散井恋次の叫び声が聞こえた。

 

その声に突き動かされるように、一護が何か妙な気配を感じるほうに目線を向ける。

 

するとそこでは、ほぼ消滅しつつあったユーハバッハの影が、不自然なほど明滅を繰り返していた。

...いや、よく見ればその明滅はただ繰り返されているだけではなく、少しずつ大きくなっている。

 

数々の修羅場を乗り越え、極限まで研ぎ澄まされた一護の直感が、逃げろと頭の中で警鐘を鳴らす。

 

が、一護が瞬歩でその場を逃れるよりも早く、その影は、一護を飲み込み、ひときわ大きな明滅を5回繰り返して、何事もなかったかのように、その場から姿を消した。

 

 

 

 

 

一護とともに。

 

 

何も残さず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、奇跡の出来事であった。

 

ユーハバッハの影に捕らえられた藍染惣右介の体には、“崩玉”と名付けられた霊的物質が融合している。

それは意思を持つ物質であり、「周囲にいる者の心を取り込み、その意思によって願いを具現化する力」を備えていた。

 

その力の発動条件である莫大な霊圧は、宿主であり“未知数の霊圧”と讃えられた藍染本人から無意識に供給され、具現化の対象である願いは、その場に満ちていた極めて濃い『残留思念(ねがい)』が注入された。

 

 

 

千年以上にわたる妄執、怨念に近い、その願いが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その都市(まち)は絃神島と呼ばれていた。

太平洋上に浮かぶ小さな島。カーボンファイバーと樹脂と金属と、魔術によって造られた人工島だ。

 

世界有数の魔族特区(・・・・)であるこの都市には、特に意味のない都市伝説がいくつもある。そのうちの一つが、第四真祖という吸血鬼の話である。

 

その者、不死にして不滅。一切の血族同胞を持たず、支配を望まず、ただ災厄の化身たる十二の眷獣を従え、人の血を啜り、殺戮し、破壊する。

 

噂の域を出ず、それでいて有名なこの都市伝説は、今も誰かが面白半分に口にしていることだろう。

 

その誰も、世界最強の吸血鬼《第四真祖》などという存在を、信じてはいない。

 

何故なら、真祖は世界に3人のみ。

欧州を支配する“忘却の戦王(ロストウォーロード)”。

西アジアの盟主“滅びの瞳(フォーゲイザー)”。

南北アメリカを統べる“混沌の皇女(ケイオスブライド)”。

 

各々が夜の帝国(ドミニオン)を支配する王であり、その戦闘能力は一国の軍隊と同格とされている。

 

そんな超常の存在である真祖の四番目がいたとすれば、すでに世界中に存在が流布されているはずだ。

だからこそ、人々は第四真祖のことをただの都市伝説としか認識していない。当たり前のことである。

 

 

「...あー、太陽、うざい。ひたすらうざい。溶ける...。」

 

常夏の人工島で、厚手のパーカーを着込み、すっぽり頭にフードをかぶって往来を闊歩する異常な格好をした少年もまた、この騒乱に愛された島の住人だった。

 

そのあまりの日差しに、少年はフラッと立ち眩み、すれ違うはずだった通行人と接触してしまう。

 

 

「あ、すんませんした。」

 

とっさに運動部らしさが香る謝罪の言葉を発したものの、立ち眩みの影響で相手を確認していない。

 

相手が人間(・・)の女性だったりしたら...。

 

不安に駆られて目線を向けると、目つきは悪いが顔立ちの整っている、自分より少し年上であろう青年が、何事もなかったかのように、泰然と直立していた。

 

 

「いや、問題ねーよ。そっちこそ、具合悪かったりするんじゃねーのか」

 

ぶっきらぼうな言い方でありながら、こちらの心配をしてくれている。いい人だ。

 

 

「ああ、いや、これは持病というか...。と、とりあえずこっちも大丈夫です。俺の不注意ですみませんでした」

 

もう一度、しっかり謝っておく。非が100%こっちにあるのに、心配までしてもらったのだ。

作法はわからないがとにかく心は尽くさねば、と考えるくらいには、少年は人としてまともな感性を有していた。まあ、体はすでに人のモノではなくなっているが。(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「構わねーよ、第四真祖(・・・・)

 

一瞬何を言われたか、理解できなかった。

それくらい、何の気負いもなさそうな様子で、青年から告げられたのだ。

 

 

「えっ......」

 

「第四真祖の暁古城(あかつきこじょう)、だろ?」

 

 

暁古城、それはまさしく己の名前だった。

そして、己が第四真祖であることも、誠に遺憾ながら事実であった。

 

しかし、古城が第四真祖であることを知る人物は極めて少ない。

親しい友人たちにすら、伝えていないのだ。

 

例外があるとすれば...。

少し前から古城の監視役を名乗り、執拗に付きまとう年下の少女の存在が、頭をよぎる。

 

 

「...まさか、あんたも獅子王機関の...」

 

その予感が外れることを期待しつつ、どこか諦めを含んだ古城の声に対して、青年は不自然なくらい明るい髪色をした頭を右手で掻きながら、居心地悪そうに告げるのだった。

 

 

 

 

 

「高校生、兼、獅子王機関の剣覡(けんげき)

 

 

 

 

 

「黒崎一護だ」

 

 

 

 

 

 

運命は、今。

 

交差する。

 

 

 

 

 

 

 

 




一応続きを書く気が起きた時のために、設定を少し凝ってみました。

みんなで千年血戦編応援しましょう


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話

ありがたいことに、いくつか感想をいただきましたので、続きを書いてみました。
短時間で作ったので、細かい言い回しなどは今後修正するかと思います。


「黒崎一護。此度の任務、ご苦労様でした。」

 

月の光が差し込む深夜の境内。

 

厳かな口調、女性の声でかけられた労いの言葉には、相手を威圧するような力はなく、しかし感情が一切こめられてない、冷たい響きを含んでいた。

 

 

その言葉を受けた青年、黒崎一護は、眉間にしわを寄せたいつもの仏頂面で、声の主がいる御簾の向こうを見つめている。そこに、畏れや緊張といった感情は孕まれていない。

 

 

「本来ならば、適当なバックアップ人員による支援を十分に受けた上で行われる予定だった本任務、敵の妨害で碌なサポートがなかったと聞いています。そのような状況下でも、あなたは獅子王機関の“剣覡(けんげき)”として見事任務を成功させた。このことは称賛に値します。」

 

 

声の主である獅子王機関三聖筆頭、閑古詠(しずかこよみ)は、世辞や皮肉でもなく、素直に感心していた。

 

 

黒崎一護は、同年代とは一線を画す霊力の持ち主であり、2年前に獅子王機関に当時2人しかいなかった“剣覡”の役目を拝命し、3人目の剣覡となった。

“剣覡”とは、獅子王機関に属する攻魔師の肩書の一つであり、女性は“剣巫(けんなぎ)”と呼ばれる。その神髄は、魔族と単独で渡り合える実力を持つ対魔族戦闘のエキスパートであり、獅子王機関の切り札である。

その役職に見合う高い戦闘力を有していることは、古詠も彼の教育係から伝え聞いていたが、サポート前提の剣覡級の任務を、ほぼ単独で成功させたのは、予想外であった。

なにせ彼は、

 

 

記憶喪失状態(・・・・・・)であったあなたを獅子王機関に迎えておよそ七年。歳は十七になりましたか。呪術、巫術、魔術。これらに一切の適性を持たず、ほんの少しの霊術を扱えるのみ。本来、剣覡、剣巫に求められる必須級の技術を持ちえない貴方が、こうして剣覡として活躍する今を、自身でどう感じていますか?」

 

そう、黒崎一護は、獅子王機関、その前身となる組織が平安時代より継承してきた護法、技術をほとんど扱えない。

十歳のころに獅子王機関に引き取られ、その身に秘めた高い霊力から、未来の剣覡候補として熱心な教育を受けていたが、全くと言っていいほど上達しなかった。

師には、『センスがない』とこれ以上ない残酷な理由を告げられたことがある。

 

 

「非才なこの身ではありますが、獅子王機関の剣覡として成すべきことを成す。それだけです。」

 

「期待していますよ。黒崎一護。」

 

そんな古傷を抉られた形の問いに対し、不機嫌そうな仏頂面をそのままに、一護はあらかじめ用意していたかのように流暢に、答えになっていない答えで返す。

それが本心ではないであろうことは、その場の誰もが理解できたが、そのことを追求するものはその場にはいなかった。

 

 

「それでは、“剣覡”黒崎一護。あなたに新たな任務を与えます。」

 

一護はさっそく、先程の自身の発言を後悔した。

たった三時間前に任務から帰還し、獅子王機関の本部、高神の杜への召喚命令を受けたのが一時間前。関西の高校に通う高校生である一護の自宅から30分ほどかかる道のりを考えれば、実質休息期間は二時間と少し位しかなかった。

しかし、自分で言った言葉を撤回するわけにもいかず、おとなしく命令の続きを待つ。

 

 

姫柊雪菜(ひめらぎゆきな)。知っていますね?」

 

問われるまでもなく、知った名だ。一護にとってその名は特別なものであり、実際一護と雪菜の関係は、高神の杜の人間の間では周知の事実である。

 

 

「彼女が貴方の大切な存在であることは、私の耳にも届いています。貴方たちの師である縁堂縁(えんどうゆかり)からは、非常に有望な剣巫候補であることも。」

 

そう、姫柊雪菜は霊媒としての高い適性を持ち、さらに一護が持ち得ない、本来“剣覡”、“剣巫”に必要な技術を数多く習得している少女だ。

一護と雪菜はとある縁により、同じ師の下で研鑽を積んだ間柄であり、今となっては兄妹に近い関係性になっている。気恥ずかしくて普段は口に出せないが、親族がいるかすらわからない一護にとって、雪菜は本当の家族のような存在なのだ。

 

 

「彼女は半月ほど前から、剣巫としての任務についています。」

 

だからこそ、その言葉を聞いて冷静では居られなかった。

 

 

「な...!ちょっと待て、あいつはまだ14歳だぞ!剣巫の資格は持ってねえ、なんで任務なんて...!」

 

「落ち着きなさい、黒崎一護。それが、目上の人間に対する言葉遣いですか。」

 

あくまでも、事務的に淡々と告げる古詠。

その態度にさらに一護は腹を立てたが、この2年、剣覡として積んできた経験が、彼を踏み留まらせた。

 

 

「...姫柊雪菜は、何の任務を請け負っているのでしょうか。」

 

理性で激情をなんとか押し殺し、思考を加速させた一護は、そう尋ねた。

何故雪菜を、ではなく、何の任務か。おそらくこの話の肝はそっちだ。

 

 

「それは、貴方に言い渡す任務に、大いに関係します。」

 

ここで初めて、まったく感情が籠っていなかった古詠の言葉に、ほんのわずかな変化が生まれた。

それは親しい者しか気づかないほどである、何らかの期待を含んだ口調で告げる。

 

 

「日本唯一の魔族特区、絃神島。そこに住まう世界最強の吸血鬼《第四真祖》、名を暁古城。この者の監視役を請け負う姫柊雪菜とは別に、貴方にも第四真祖の監視を命じます。」

 

一護は目が眩むのと同時に、かねてよりの違和感が、腑に落ちるのを感じた。

世界最強の吸血鬼《第四真祖》。都市伝説として格別の知名度を誇る存在だが、それがただの伝説上だけの存在でないことは、ある程度の深部にいる者なら知っている。

第四真祖が本当に絃神島にいるのであれば、それを獅子王機関が危険視し、暗殺を見据えた監視役を置くのは、あるいは当然の措置である。

そして同時に、なぜ雪菜がそんな重大な役目に選ばれたかもわかってしまった。

 

 

「雪菜に、七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)を与えたのか...。」

 

それは、“神格振動波駆動術式”と呼ばれる魔力無効化術式を組み込まれた獅子王機関の機密兵器。古代の宝槍を核にした高度な金属精錬技術で造られているために量産できず、たった3本しか存在しないといわれている。

 

 

「そう、貴方に与えられた一式単装降魔剣(デュランダル・エアザッツ)とは異なり、対魔族兵器としては最高位の代物です。」

 

 

かつて、雪菜の霊媒としての資質がどれほどのモノか、二人の師である縁堂がテストをしたことがある。その時は一護も雪菜も、なぜそんなテストをするのか深く考えていなかったが、一護が“剣覡”に任命された際、その槍の性質を知って、すべてを悟った。

 

獅子王機関は、最初から姫柊雪菜に七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)を与えるつもりだったのだ。

 

“神格振動波駆動術式”は誰でも容易に発動できるものではなく、適性がなければただの槍と化してしまう。試したことはないが、おそらく一護には使えない。一護は呪術や魔術のみならず、多くの武神具にも適性を持たなかった。

そのため、“剣覡”となった彼に与えられた兵装は、今ではもう使い手のいない時代遅れの武器、一式単装降魔剣(デュランダル・エアザッツ)だった。

この武器は、獅子王機関が保有する番号持ちの機密兵装の中で最も古く、使用者に適性が必要ないうえに、機密性も極めて低い。ほぼ廃棄状態の兵装であった。

 

とはいえ、一護はシンプルな性能をした一式単装降魔剣(デュランダル・エアザッツ)を気に入っており、兵装への適性に関して不満を覚えたことはないが、それでも今回に関しては、己の非才を悔やんだ。

 

一護が七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)を扱うことができれば、第四真祖などという危険な存在に、雪菜を近づけることにはならなかったはずだ。

 

 

「自分が第四真祖の監視に着くということは、姫柊雪菜の監視役は解除されるということでしょうか?」

 

一縷の希望を込めて、そう尋ねる。が、

 

 

「いいえ。姫柊雪菜の任務は継続。そのうえで、貴方にもこの任務を請け負ってもらいます。理由はわかっているでしょうが、一応言葉にしておきましょう。貴方が、監視に適した呪術や霊術を習得していないからです。」

 

そう告げられてしまえば、一護に反論の余地はない。

魔族の監視には、式神を使った呪術や霊視が大いに役に立つ。

自分が寝ていたり、行動に制限がかかっている場合でも、対象を監視する必要があるからだ。

 

 

「とはいえ、姫柊雪菜はまだ正式な剣巫ではありません。そのため、魔族との戦闘経験が豊富で、その戦闘能力に信頼がおける攻魔師をバックアップで派遣することは、かねてより検討していました。当の姫柊雪菜と連携が取り易く、戦闘能力も高く、第四真祖と歳が近く同じ高校に通える。これが、あなたを派遣する理由です。納得しましたか?」

 

 

正直、見習い剣巫の雪菜が任務に駆り出されたことについていまだ納得はいっていない。

しかし、ここで不満を述べていたところで、何一つプラスにはならないことも確かである。与えられた命令の中で、自分がやりたいように動けばいいのだ。

 

 

「わかりました。それでは、黒崎一護。当任務を拝命し、これより絃神島に向かいます。」

 

 

そう言って退席しようとする一護。

その寸前、古詠から声をかけられた。

 

 

「最後にもう一つ。実は―――。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、一護さんが、絃神島に来ているんですか!?」

 

 

九月半ばの水曜日。

朝から姫柊雪菜の下着姿を覗いた疑いをかけられ(なお、意図はしていなかったが事実であるため、疑いではない)、妹から軽蔑の視線を向けられている古城は、先をいく妹に聞こえない程度の声量で雪菜と会話をしている。

 

話題は、つい先日街で遭遇した、獅子王機関の攻魔師を名乗った男のことだ。

 

 

「あ、やっぱり知ってるのか。どんな人なんだ?」

 

あのあと一護は、また会おうぜ、と軽く告げて人ごみに紛れて去って行ってしまったため、ほとんど会話らしい会話はできなかったのだが、雪菜以外の獅子王機関の人間を知らない古城は、正直雪菜のような堅物揃いの組織だと思っていたところがあり、悪く言えば不良のような風体の一護が、獅子王機関の人間であることを少し疑っていたのだ。

 

 

「そうですね...。一護さんは、現在獅子王機関に3人しかいない、剣巫の男性職である剣覡の一人です。基本的に神道に通ずる霊力、魔力は女性のほうが圧倒的に強く発現しやすいため、女性に比べて男性の攻魔師は数が極めて少ないんですが。」

 

古城は、自身の担任の姿を思い浮かべ、雪菜の説明に納得する。高名な魔女である彼女や、目の前の少女のように、生まれながらに強い霊力、魔力を持つ人間には美形が多い、という話は古城も聞いたことがあった。そして話題の彼もまた、なかなかの美形であったことを思い出したのだ。

 

 

「そうか、すげー人なんだな。見た目はちょっと怖そうな感じだったけど、話してみたらそんな感じも特に無かったし。」

 

「そうですね。見た目や口調で損をしていますが、優しい人ですよ?男性だったので、高神の杜とは別の学校に通っていましたが、私の周りでも一護さんに憧れている子も少なからず居ました。」

 

そういう雪菜は誇らしげに見え、古城としてはそんな珍しい彼女の反応に少し驚いた。

 

 

「姫柊は、その一護さんとは...仲がいいのか?」

 

ここで、好きなのか?と言わなかった気まぐれが、古城の命を救ったことについては、誰も知らないことである。

 

 

「ええ、仲は良いほうだと思います。一護さんとは、私の元ルームメイトと3人で同じ方に師事していましたので。単純な時間の総量では、ルームメイトの次に、長い付き合いということになります。」

 

相変わらず事務的な回答を口にする真顔の雪菜だが、とりあえず彼女がここまで信頼しているのだ。

彼のことはそこまで警戒しなくていいだろう。

黒崎一護がどのようなつもりでこの島にいるにせよ、自分がおとなしくしている分にはそうそう接触することもあるまい。

 

 

古城はそう、嫌な予感が渦巻く自身の胸中を理屈で納得させようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、次の日の夜、悪趣味な豪華客船上。

へたり込んでいる自分の首元ギリギリで止まっている刃に手を添える黒崎一護を見上げ、嫌な予感こそあたるものだと、命の危機をよそに感じ入るのでった。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。