白百合幕間 (紅葉)
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1章 幸せな記憶

幼少期編


「お父さん!」

 

白い髪を忙しなく揺らして小さな女の子ががっしりとした体つきの父親の足元に抱きつく。その顔は満面の笑みを浮かべていて見ている方も笑顔になるぐらいの笑みだ。

その笑顔を抱きついている父親に向け彼も笑ってわしゃわしゃと彼女の頭を撫でる。

柔らかなな白髪がぼさぼさになりつつきゃーーっと楽しげな悲鳴をあげて喜び女の子。

 

「元気だったか、リリィ」

「うん!」

 

久しぶりの父の帰宅に色めきたつ家。

温かい空気が彼女たちを包んでいた。

 

「お父さん次はいつお仕事いっちゃうの?」

「んーん、お父さんはもう遠いとこにお仕事は行かないんだよ」

「?」

 

いまいち状況を掴めていないリリィに兵隊さんをやめ退役軍人となった事、この場所の管理人になったこと、これからは長く一緒に入れることを伝えるとリリィは嬉しそうにぎゅっとしてお返事した。

軍をやめて戻ってきたのは家族と共にいる為でもあり、新しく家族になったアキナの世話を手伝う為と妻の体の弱さが少し増してしまってきた為だ。何かあっては欲しくないができることをやりたい。と決意のこもった笑顔で、抱きついているリリィを持ち上げて高い高いする。

昔から持ち上げられるのが好きなリリィはきゃあきゃあ楽しそうに叫んでいた。

 

「リリィはそろそろ初等部に入る時期だろう、どの学校がいいとかあるのかい?」

 

その日の夜、食事を済ませて寝る準備をしていたところに父からひとつ聞かれる。

決まっていたらしくいい顔で返事が返ってくる。

 

「うん! お父さんみたいな兵隊さんの学校に行きたいの!」

 

笑みを称えていた彼の顔が少し曇る。

兵隊の学校、つまりはファウンス士官学校でリリィの年齢ならば初等部入学。

初等部から入学する子は普通は多くなく軍人の子が多い。リリィもその類であるが少し事情が違ってくる。

 

「へ...兵隊さんになりたいなら、もう少し待って高等部からの入学でもいいんじゃないか?

兵隊さんの学校は勉強が難しいぞぉー、リリィお勉強少し苦手だっただろう」

「んーん、リリィすぐになりたいの!

お父さんみたいになりたいのもあるんだけど...兵隊さんの学校はお金出るんでしょ!

お父さんとお母さんとアキナに喜んでほしいの!」

 

家族のため、そう笑顔で言われてしまってはきつくノーとは言えなくなってしまう。

実際管理人の収入と妻のデザイナーとしての収入だけでは苦労はしないが余裕を持てるとも言えない。貯蓄を崩しつつどうするか考えていた所だった。

収入が増えるなら願ってもない事だが、可愛い娘を1人で行かせるには酷な場所だ。

なので、条件をかすことにした。

 

「...わかった。初等部からの入学の手続きをしておくね。でもお父さんと約束しよう。

学校では絶対にお勉強や運動でいい点数をとること。出来たらずっと取り続けること。

 

ダメだったら兵隊さんの学校じゃない所に行ってまだ兵隊さんになりたかったら高等部からまたお勉強しよう」

「...わかった、お勉強と運動がんばる!!」

 

ふんすとやる気を奮い立たせた娘に曇りがかかったままの笑みで頭をわしゃわしゃと撫でる。こうなるのだったらまだ今少し軍を抜けないで来ればよかったな、そう小さな後悔を胸に残しながらリリィを寝かしつけた。




リリィ・ノワール
本作の主人公。白髪で左目が黄、右目が青のヘテロクロミアの少女。
ふわりと立ったアホ毛が特徴的。
名前の由来:白い百合

パニグレの主人公と同一人物では無い。


作者はセレーナ推しです。セレーナを愛して。


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2章 暫しの別れ

初等部編前編


初等部入学の日、真新しい小さな制服をまとい期待に満ち満ちた顔でリリィは期待に胸を膨らませていた。

父のいた場所、兵隊さんの学校、お父さんたちに喜んでもらえる。いいことがいっぱいつまったこれから勉強する場所。

入寮の為大荷物を持って父親に送って貰う所だった。

 

「リリィ、兵隊さんの学校は大変だけどちゃんと頑張るのよ。あと、学期末とか長い休みの時は顔見せに来るのよ、頑張ってね愛してるわ リリィ」

「うん!がんばる!!」

 

母に優しく声をかけられ元気よく返事を返し腕に抱かれてる小さな妹のほっぺをもちもちして父と生まれ育った家を旅立った。

 

「いってきます!」

「行ってらっしゃい」

 

元気よく振られた手に振り返し、リリィと父親の乗った車はファウンス士官学校初等部へ向かって進み出した。

車が見えなくなるまで家先に立ち元気で明るく少し騒がしい声が聞こえなくなったことにリリィの母はひとつ寂しさを覚え、そっと腕の中で眠るもう1人の娘の頬をそっと優しく撫でた。

 

「お父さんとの約束覚えてる?」

「うん! お勉強と運動頑張っていい点数いっぱいとるんでしょ? お勉強頑張る!」

「ちゃんと覚えてるね、よしよし。

分からない所が出来たり困った事があったらすぐに教官に聞きに行きなさい」

「きょーかん?」

「兵隊さんの学校では先生の事を教官って言うんだよ。覚えておきなさい」

「わかった! きょうかん..」

 

忘れないように何度もつぶやく娘にくすりと笑いが込み上げる。教官に頼れる子になれたら大人の助力を得やすくなる。

少しはリリィの助けになってくれるだろう。何も起こらないことを信じていまはリリィの小さい背中を押して応援するしかない。

リリィと他愛もない雑談をして車を運転していると目的の建物が見えてくる。

外見は立派でリリィがこれから長い時間過ごすファウンス士官学校だ。

 

「おっきい!」

「あれがこれから行く学校だよ」

 

車を停め荷物を持って学内の寮までリリィを送る。

知り合いの寮監と少し話し合ったところリリィは隔離とまでは行かないが、二人部屋の男子たちの集まる部屋から離れた所で一人部屋で寮監の目が通る場所近くにあるからそこら辺の心配は大丈夫そうだ。

 

「娘をよろしく頼む」

「お任せください、教官長の娘さんに何かあったら私が死に切れません」

「元、だよ。本当に宜しく頼む…」

「えぇ…。寮生活で嫌な思いは絶対させません」

「ありがとう」

 

うずうずしてるリリィと一緒に案内された部屋へ荷物を入れて簡単に部屋を整理する。

新しい自分の部屋にリリィは少し浮き足だっているようであちこち報告してきていた。

シャワーがある!ここにトイレ!ここに本を入れるの!などすごくテンションが高い。

 

頭をひとなでして手を取って頑張るんだぞ、辛くなったら戻ってきてもいいぞと本心を応援に隠して伝える。

これから帰る事を悟ったのかリリィは少し涙を溜めて足にぎゅっとしがみつく。今まで付き添っていたためにこれからは寮で1人で生活する実感わかなかったのだろう。願わくば連れて帰りたいが手続きも済んでいる為できないのがとても悔しい。

治ったはずの泣き虫が再発してるリリィの頭をがしがしなでて腰を落として目線を下げる。涙をいっぱい貯めたヘテロクロミアの瞳と目が合う。

 

「......、頑張るんだぞ」

「....うん」

 

頑張って作った涙いっぱいの作り笑顔をした顔のほっぺをつねってわらわせる。

心配は尽きないか遠くからリリィの成長を願おう。強く優しく育つことを願って。

 



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3章 長い生活の始まり

初等部編後編 不快要素注意


 

新しい部屋で少しわくわくと寂しさを胸に一夜過ごしリリィは待ちに待ったファウンス士官学校の初等部の門を潜る。

 

辺りをみまわせばリリィと同じ新入生がいっぱいおり明るい顔厳しい顔など様々な顔つきで背負っている物をうっすら感じる子も多く見られる。リリィはそのうちの明るい顔の子で父とおなじ学校だと思うと凄く嬉しくなっていたが、不意に視線をちらちらと感じ再び見回すと目が合う子が多数おりすぐに目をそらされてしまう。

何かいけないことしたかな...と少し不安に思いつつ厳しい顔のおじさんのきょうかんちょー先生の演説を聞き入学式を終え各々のクラスへと集まる。そしてリリィは見られる違和感の正体にやっと気づいた。

 

女の子をほぼ見かけなかったのだ。

ほぼ所じゃない見かけなかったかもしれない。大変なことに気づいたリリィは少し放心状態になっていた。男の子の友達作れるかな...という斜め上の不安を胸にしていた。

 

「........リィ..............ル、リリィノワール!」

「は、はい!」

 

唐突に大きな声で呼ばれ驚いて大きな声で返事を返す。少し眉をひそめた教官と他の子がリリィを見ていて考え事をしていたのをちょっと後悔したリリィだった。

 

「リリィ・ノワール、自己紹介をお願いします」

「はい! リリィ・ノワールです! 色々好きだけどトマトは嫌いです! よろしくお願いします!」

 

ぱちぱちと拍手がなり着席する。

一安心に思ってると少し笑う声が聞こえる。不思議に思うと次の子の自己紹介は名前とよろしくしか言ってなくてリリィはあっ...とさっき言った自己紹介文を思い出した。

初日から失敗ばっかりだぁと顔を赤くして俯いてしまうが明日からまた頑張ればいい...とポジティブに切り替えて不安の気持ちを隅へと追いやって行った。

 

初日の失敗から数日懸念してた友達も男の子しかいないが増えて本格的にお勉強が始まり、くんれんも徐々に増えてきてバテる子が多い中リリィは何とか食らいついて励んでいた。

 

「はぁ...、点数よくない....」

 

が、食らいついては行っているものの成績は振るわず訓練は並以上に体力があるが授業の小試験の点数は振るわない子というのが教官陣からの判断だった。

何とか上へ、いい成績を取りたいとリリィは一人で勉強を繰り返すが1人では解決出来無いことが多く1年次の成績はお世辞にもいいとは言えないものだった。

お父さんにかおむけできない...。

通信で連絡を取って成績について話した時にやめさせられると思ってしまったが、

 

「1年次で結果を出せる子なんて早々いないからまだ様子を見るよ、じゃあそうだな4年生 。4年次まででいい成績を取れなかったら戻っておいで」

「わかった...」

 

落ち込むリリィの声色を聞いて少し複雑そうに笑って頑張れと言って通信は切れた。

 

「よねん...」

「ノワールさん、そろそろ消灯時間ですよ。

...どうかなさったんですか?」

「寮監さん...、さっきね お父さんとつうしんしてたんだけど......、」

 

リリィは寮監に成績が芳しくなかった事、期限を4年次までと設けられた事を話した。

 

「うーん、多分なんですけどノワールさんは1人でやろうとしてるからじゃないですか?

寮で見ててそう感じます...」

「お父さんとの約束だし、私が頑張らないとだめじゃないの...?」

「困った時は大人に頼っていいんですよ」

 

刹那、「分からないことがあったり困ったことがあったら教官に聞きなさい」という移動中の父の言葉が蘇る。

自分だけでは難しい事はまだ少し幼いながらも悟っていた為頼ってもいいのだという安心感と心の枷がひとつ外れるような気分で、さっきまで成績で悩んでいたのが嘘のように顔に明るさが戻る。

 

「寮監さんありがと!」

「いいえ〜、もう消灯時間ですから寝るんですよ〜」

 

寝ろとは声をかけるが多分しばらくは寝ないだろうと思いつつ部屋に走る小さな背中を見送る。

部屋に戻ったリリィは今までの授業データやメモした端末を取り出し、自分だけじゃ理解が追いつかなかった所を全て書き出して行き端末のデータ容量がすごい勢いで減っていき底を尽きないか心配になるぐらいであった。

 

翌日、授業が終わったあとに教官室に直行したリリィはデータいっぱいいっぱいの質問リストを対応しに来てくれたオールバックの髪型のイオ教官に教えてください!!と元気よくお願いし、それを受けた教官は驚きつつも優しく教鞭をとって丁寧に教えてくれた。

いかんせん量が量なので放課後だけでは全て教えきることができなく空中庭園に浮かぶ擬似太陽モジュールが夕方を表し夕焼け空になってしまった。

 

「また明日来なさい、教えれるだけ教えましょう」

「ありがとうございます!またー!」

 

元気よく手を振って帰寮する生徒をイオは眩しげに見つめる。ここ数年で熱心に聞きに来る生徒はいなかった。あの様子だと明日だけじゃなくてほぼ毎日通いつめるだろう。

 

「面白くなりそうだ」

 

教官の予想通り毎日通いつめるリリィだったが予定が大丈夫な日は必ず質問を受け、連日の放課後授業のおかげかリリィの分からない範囲が減り理解を深めていき徐々に成績も良くなっていった。訓練にも少し曇を感じ始めたリリィはかつてしたように疑問点などをメモした端末を持って訓練科目の教官室へ突撃し特別授業のような枠で放課後簡単に教えて貰える様になった。

訓練科目のアトラ教官はイオ教官と友人だったようで話に聞いていたらしく快く放課後授業を引き受けてくれた。

 

2人と1人で教えてくれる時間が多くなりより分かりやすくなり、他の生徒が放課後に遊びに出たりする中ずっと勉強に励んだ。

その甲斐あって、リリィは1年次よりめきめきと成績が上りついに3年次には成績の上位と呼べる所に手をかけて4年次の試験では成績上位者の枠に収まることが出来た。

 

1年次の散々な結果に比べたら目を見張る成績で教官陣や生徒からも驚きの声があがっていた。話題に上がることに嬉しさ半分恥ずかしさ半分の気分のリリィは尽力してくれた2人の教官にお礼を言おうとデータを大切に保存し軽い足取りで廊下を歩いていた。

 

「どうやってそんなに成績伸ばしたの?」

「毎日分からないところ教えて貰ってるんだよ、イオ教官凄いわかりやすいんだよ!」

「毎日?」

「うん」

 

凄くやばい物を見る目をされた。

成績あげたいのだから頑張るのは普通のことじゃないの...?

首を傾げ返したら何でもないと言ってそそくさとどっかに言ってしまった。

えぇ...、と困惑していると「おい」と別の子に呼び止められすごい勢いで睨まれどんっと突き飛ばされる。

 

「女のくせに成績めっちゃ上がったからっていいきになるなよ!!!」

 

「え...?」

 

訳が分からず放心するリリィに言いたい放題言った後に数人引き連れて帰って行った。引き連れてる子の中にはさっき話しかけられた男の子もおり何故だかちくりと心に痛いのが刺さった感覚がした。

 

男の子達自体には見覚えはある。1年次の時同じクラスだった子で私の大失敗自己紹介をくすくす笑っていた子達だった。

成績も振るわない時で見下すような視線を感じていたのを少し覚えている。

成績を上げれば嘲笑の視線は無くなるはずと考えていた、だけど成績が伸びていく事に嘲笑の視線は段々と別の視線になって行ったのを覚えている。

例えるなら、焦り、嫉妬、恨み。

おそらくあの男の子達は下に見てた私に順位を抜かされたのが気に食わなかったのだろう。

 

女のくせに。

 

確かに私は女だけど、男の子に負けないぐらいに頑張ってきた。君たちが遊んでる時も追いつきたくて、お父さんとの約束を果たしたくて、嘲笑を向ける子に対して対等に見て欲しくて。

 

頑張って頑張って頑張ってやっとの思いで成績上位に入れたのに、私が女だからって理由で拒絶されるの...?

 

突き飛ばされてへたり込むリリィに誰も手を差し伸べる子は居なかった。友人だと思っていた男の子でさえも。

何かが大切な所がぴしりとひび割れる音がした。

 

のそりと立ち上がりガラス窓にうつりこむ自分の顔を見る。さっきまで爛々とした笑顔のはずだったのに随分と酷い顔だ。

大切にしてくれた人達には心配をかけたくない....。

休みだけど明日また改めて報告に来よう、そう決めて久しぶりに授業終わりで直ぐに帰寮する。寮監さんに驚いた顔をされたが静かにおかえりとだけ言ってくれた。

 

「ただいま...」

 

小さく答えて自室に戻り上着も何も脱がずにベッドへ潜り込んだ 。今までの疲れや今日の出来事の疲れが重なっていたのか凄く瞼が重くなる。

 

お父さんへの報告も明日かな。

こんな顔見られたら絶対に心配されちゃうもの....。

 

 

懐かしい夢を見た。

自然保護区の家でお父さんお母さんとアキナで庭でピクニックしてる時の記憶の夢...。

得意だった草笛でお母さんの好きな曲を演奏し凄く喜ばれた気がする。

お父さんにいつものようにわしゃわしゃと頭を撫でられて、

 

「いっぱい練習してたもんな、よく頑張った。えらいぞ!」

 

 

はっ、と目が覚める。

枕元には水滴の後がついており自分が泣いているのだと気づくのに時間はあまりかからなかった。

私は、ただ褒めて欲しかったんだ。あの暖かい大きく硬い手のひらでもっと頭を撫でて欲しかったんだ。

 

勉強も訓練も凄く大変で難しいけど、家族の役に立てるし憧れの背中の軌跡を追えるのも嬉しい。けど、もっともっと家族とも一緒に居たかったんだ。

 

今気づいてしまってもどうしようもないことでリリィはただ涙を流す事しか出来なかった。ひとしきり泣いた後にひとつ深い深呼吸をした。

 

「甘えん坊の私は卒業。

もっともっと頑張ってお父さん達に喜んで貰えるようにならないと」

 

そのための1歩にお父さんに通信を入れる。

繋がるまで新しく来ていたメール通知を開くとイオ教官とアトラ教官だった。

2人とも文章は個性が出てて違う物だが2人とも上位に入ってくれたのを祝ってくれていた。やはり今日改めて報告に行こう。

 

 

「もしもし、」

 

通信がつながりお父さんの声が響く。

 

「もしもし! リリィです!

お父さん、聞いて! 私ね成績上位者に入れたんだよ! 約束守れたよ!」

 

「いい成績とは言ったがまさか上位に入るなんて...、すごいじゃないか。偉いぞリリィ」

 

珍しく曇りのない声だった、嬉しくなってしまい引っ込んだ涙が再び出てきそうだった。

ぐっっと堪えて、約束の件を聞く。

 

「このまま学校に残ってもいい...?」

「あぁ、いいとも...。これからは上級生だからな、もっと大変だと思うが頑張るんだぞ」

「...うん。頑張る!」

 

会話を楽しみ別れを告げて通信を切る。

残る許可は貰えた。あとはもっともっと頑張って喜んで貰わなくちゃ。

 

 

5、6年でもっと難しい授業や訓練内容が多くなり力の差が明確に出始めるがリリィは変わらず教官達に突撃を繰り返していた。

変わったことといえば成績をあげることから成績をキープしつつ首席を狙う事が増え、順位を抜かされた男の子の良くない感情の目に耐えひたすらに努力で結果をだして行くことだった。結果が出ているおかげで教官陣からの目が多く4年次のような直接的な物は起こることは無かった。

また、成績上位者の上がれると報奨でお給金の金額も少し上がるらしく、家族の助けになるという思いに拍車がかかり成績を落とすことなくじわじわと上がり続けたゆまぬ努力で初等部卒業年次には三位で卒業。

首席は逃したがやりきった気持ちでいっぱいのリリィだった。

 

式典では登壇し直接的賞を受け取ったりなどをしてリリィにとっては、輝かしい一日で嬉しさの気持ちでいっぱいだった。

 

彼女を見上げる子達に混ざる嫌な視線には気づかない程に。



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4章 嫌な噂

中等部編 上


 

初等部とは違う校舎に移り、初等部とは違う間取りの教室や設備を目にしてかつて初めて初等部に来た時のようなわくわく感を少し覚える。校舎は新しい所だが初等部とも連絡橋で繋がっており担当する教官陣も大きくは変わらないがそれでもリリィはわくわくしていた。

初等部とは比べ物にならないくらいに難しい授業や訓練があるのだろう。また教官室に通いつめる日々になりそうだと3年間の生活に成長段階のまだ薄い胸をめいいっぱいふくらませた。

 

顔ぶれの余り変わらない入学式を済ませ、中等部一発目の試験では今までで初めての首席に輝く。何度も眺めた成績順位の掲示板を穴が開くぐらいに1位リリィ・ノワールの文字を見つめる。

 

「やった...」

 

長く望んでいた文字にぽつりと声が漏れる。

ざわざわと騒がしい掲示板まわりだがリリィに喧騒は聞こえず1人心で嬉しさで走り出したいぐらいに暴れていた。

リリィにおめでとうと声をかける友人が数人いる中静かにリリィの幸せそうな後ろ姿を見つめる男がいた。

見つめる目付きはまゆにシワを寄せ恨みをこもった目を向けて舌打ちをひとつならし踵を返して人混みに消えていった。

 

発表から数日、まだ張り出されてる掲示板を見てはにへと表情が崩れるリリィは謎の違和感を感じていた。

よく感じる恨みや妬みの視線や陰口では無くまるで腫れ物を見るような目だ。視線の主を探そうと見回しても複数から見られているようで多くの子が視線を急いでそらす。

居心地が悪く感じ、早く教官に質問しに行こうと切り替えて足早にその場を離れた。

 

「やっぱり...、教官室に歩いてってるぞ」

「噂って本当だったのか?」

「教官誘惑して1位にしてもらったって噂だろ、いいよな俺らには出来ないからな」

リリィを見ていた男達は聞いた噂と本人を話の種にしてゲラゲラと笑っていた。

 

噂は広く広まっているようでそう遅くない内にリリィの耳にも噂が入った。

ふざけるな、リリィの初めに持った感情は悔しさを伴う激情だった。そんなことはしていないしやろうと思ったことも無い。ただ単に分からない点を教えて貰って勉強しているだけだ。

そしてまた「女だからできた」という声を聞いて大声で憤怒を、身のうちの激情をさらけ出して吐き出したい気持ちだった。

でも感情のままに叫んで誤解を解こうとしても図星だから焦ってるという穿った見方しかされないだろう。

そっと眉にシワを寄せて胸につっかえるもやもやした激情を飲み込んで教室を出て、いつも通り何も聞こえていないフリをして教官室に行き質問点を教えて貰い早めに帰寮した。

 

 

「おかえりなさい、今日は夜食いりますか?」

「ただいま、あーじゃあお願いします」

「わかったいつもの時間に部屋に持っていきます、頑張って下さいね」

 

ありがとうございますと返事をしていつもと変わらない調子の寮監さんに手を振って部屋へ戻って、課題をする前にシャワーなどで少し一息入れようと制服を抜ぎ部屋の風呂場へ歩く。

頭から温水を浴びて髪を洗い体を洗いって、最後に少し冷ためのぬるい水でしゃきっと気分を入れ替えるのがリリィのちょっとしたルーティーンだ。お父さんがそうやると気分が引き締まるって言ってたのを聞いて真似してたのがいつの間にリリィの癖にもなっており母にお父さんそっくりと言われてちょっと嬉しくなったちょっと自慢のできる癖だった。

 

寮生全体に出る夕食を済ませて部屋に戻り読書、そして課題や復習、予習を行う。

集中してカリカリと端末にイオ教官に出された課題である重篤汚染区域での作戦案を深く思案して書き出して行った。まだ拙くはあり数点改善を入れれば実際の作戦に使えそうな案が多かった。

しばらくしてコンコン、と扉を叩かれ端末から意識がそれる。時間を見ると0時近くなっており寮監さんの声が聞こえお願いしてた夜食を持ってきてくれたのだと思い出した。

慌ててドアのロックを解除して夜食を受け取りお礼を言う。寮監さんは優しい笑顔で頑張ってと返して寮監室に戻って行った。

夜食はハムチーズのホットサンドでチーズとろりととろけていて凄く美味しそうで1口頬張ってみた焼き目がカリッとなっててすごい美味しかった。

 

 

 

「君達、もう消灯時間すぎてるけど何してるんですか」

「ら、ライト寮監!? いや、えっと、の ノワールさんのとこで勉強教えて貰う約束してるんですよ!」

「ノート端末も持たずに?」

「...。」

「馬鹿な事考えないで部屋で寝なさい」

 

ちっ、と言いたげな男子達を追い返し見えなくなってもしばらく椅子などに座って待つ。

頭の中が欲にまみれた子達だ、あの顔では諦めは直ぐにつかないだろう。ほぅら、消えてった曲がり角から少し顔を出してきた。

目が合ったのがわかったのか直ぐに顔を引っ込めたがまた時間を置いたらまた見に来るだろう。

初等部の時もこういう事がなかった訳では無いがここ数日彼女の部屋に押し入ろうとする寮生が多い。彼女と親しい教官から話を聞くと教官を誘惑して1位にして貰ったという噂が流れているらしい。十中八九彼女を妬む輩が意図的に流した物だろう。広まりすぎてるから犯人を特定するのは難しいとイオとアトラ教官が悔しそうにしていた。

そんな噂を真に受けて教官を誘惑する奴なら自分らも相手してもらおうという打算的な考えを持って毎夜毎夜来ているのだろう。

来る子はほぼ中等部生徒。思春期真っ只中で下と頭が直結しているしているお年頃だ。

無いと願いつつ密かに彼女の部屋へ行ける動線上にセンサーを複数設置したのが毎晩のように通知とアラームを寄越している。

今もまたひとつ通知がひとつ来た。寮内の安全の為に設置しているカメラにはさっきの子達と別の子達が映っていた。

本当に自分の待機室から近く目の届く場所で男子達の大勢いる場所から離した所にしてよかった。

せめて寮では安心して過ごして欲しい。

絶対にノワール元教官長の娘さんには指1本触れさせない。

こそこそ歩いてくる頭が下の馬鹿にまた暗がりから声をかける。

 

「君、消灯時間をすぎていますよ。」

 

 

擬似太陽が上り空中庭園を明るく照らす。

目の下にくまを貼り付けた寮監は朝早くから登校するリリィを行ってらっしゃいと見送り自室で泥のように眠った。

 




胸糞要素多くなります。ご注意下さい。


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5章 痛み

中等部編 中


 

中等部にあがり数ヶ月しリリィの体に異変が起こる。少し下腹部に腹痛を覚え始め翌朝シーツが真っ赤に染まって居たのだ。

初経、自分の体に後に起こる事の知識としては知っていたが実際に起こると放心しとりあえず備えておいたナプキンなどで対処し汚れたシーツを申し訳なく思いながら洗濯機にかけた。

向かえてから数ヶ月、なんともないと思っていた所徐々に下腹部痛と頭痛に悩まされ始め酷い時には吐き気を覚える事もある。休みの日なら寝ていられるが授業がある日には酷い顔で出席して授業を受けつつお腹や頭を抑えていた。

見かねた寮監に休んでもいいんだよと優しく休むように言われるがリリィは頑なにに拒否をする。

 

「休めないです。だって休むと授業に追いつくのが大変になる...し、前の噂みたいに女だからって理由で休めれるんだなって思われたくない...っ、です」

 

噂自体は時間がたつと事実を知ってる子やリリィの行動を見てた子達が少なくは無い事でガセだと知ったり噂に飽きた子達が増えたりで噂は下火になり今も話してる子は耳が遅いか噂を真に受けてる子だけだった。

それでも彼女の心には今だ嫌な記憶として刺さっている。理由を聞いて強く返せなくなった寮監はリリィを連れて一般の病院へ受診しリリィに会った痛み止めを処方して貰う。

 

「それで痛みはある程度抑えられるでしょう、それを飲んで授業へ出なさい。

でも本当に辛い時は無理をせずに休みなさい」

「...っ、はい!」

 

処方してもらった薬のおかげか月のものが来てもある程度耐えれるぐらいにはやわらぎ、薬すごい!!!とリリィは感動に浸っていた。

腹痛頭痛からある程度解放されて少し気分が楽になったリリィに今度は違う苦痛に襲われることになる。授業後に1人で歩いていると複数の男子が訓練の練習したいから手伝ってくれないかと声をかけられる。余りよく知らない子達だったが特に予定も無かった為にリリィは許可をしてしまった。

 

「はははははっっ!」

「ぅ.....」

 

ついて行った先は人気の少ないあまり人の通らない裏庭でリリィもよく来て1人でのんびり過ごしていた場所だった。

小さいながらも緑があり自然保護区でそだったリリィには安心出来るちょっとした家を思い出せる場所だった。が、今は綺麗な緑は所々赤く染まってしまっている。

訓練と行って裏庭に着いてきたリリィの後頭部を訓練用の木製の刀が強打したのだ。

痛みでのけぞり前へ倒れる。意識は残っており痛みで顔を顰めて頭を抑える。

ちらりと見やると1人の男子が少し血の着いた木刀をもって笑っていた。

後ろについてる男子に目線を投げると気まずそうに露骨に目線をそらす。どうやら笑ってる子主導のようだ。

木刀を投げ捨てると倒れて蹲ってるリリィに蹴りを入れ始める。腹や背中など服で隠れる所に狙いを定めているようで同じ所を蹴られ続けていた。

 

「お前がっ...! 一位なんてとるか..らっ!!!

はぁ...、お父様にっ!!女に負けるできそないなん..てっ!!! 言われたんだ...よっ!!!!」

「ゔっ...」

「おいお前らもやれよ、こいつに対して鬱憤溜まってたんだろ?」

「あ...あぁ...」

「...わかった」

重点的にお腹周りを蹴られ蹲った状態で相手の気が住むのを待ち続ける。

女のくせに、なんで僕が、教官に媚、優遇されやがって、など言いたい放題に言い散らかして主犯の子が段々とエスカレートしていく。

 

「噂でもっ!! 流して居づらくなればっ!!!やめるだろうってっ!!! 思ってたのによっぉ!!!!」

「ぅわ...ぁ...」

 

こいつが、噂を流したのか。

飲み込んで心に刺さっている物の元凶。

体の節々が痛く気力はあるもの体が言う事を聞かない。あの時の、努力を踏みにじられた怒りをぶつけたいのに。動け動け、手だけでいい。なんとか。

 

「はァ..はぁ...、何事も無いみたいに飄々としやがって...よっ!! 心まで完璧人間か、よぉっ!!はぁ.....はぁ..、ふざけん...な よっ!!?」

「ぅ......、ゔぅ..!」

 

腹に蹴り出された足を気力で掴み、ぎっとこいつを睨みつける。

私に抜かされたのこんな事してるからでしょう。文句ばっかり言ってないでさ。

口には出ないが睨まれたのが気に食わなかったのか思っていたのが顔に出たのかより逆上し掴まれた足を振りほどき額に思いっきりの蹴りを入れる。

一瞬で正気に戻り服で隠れないところを蹴ったのをまずいと思ったのか、誰かに行ったらまた捕まえてボコボコにするからなと脅しをして連れの子達を引き連れて帰って行った。

 

丸まってガードしてた状態を解き大の字で寝っ転がる。背中もお腹もじんじんと痛みが響く。痛みが引くのを待ってなんとか待ってゆっくりと体をあげて座り込む。

額からつぅーと何かが垂れてくるのを感じて左目を瞑る。そしてポタリと緑の上に落ち草を赤く染める。

 

「おい君大丈夫?」

「は..ぃ..」

 

教官かと思ったが横に来た人の姿は制服で初めて見る人だった。肩に手を添えてくれるが触れられると痛い状態なのでびくっと反応してしまった。

 

「す...みませ...、きょ..ぅ かん ...ょんで...くれませ...か...?」

「わかった、待ってな」

「ぁり..が...ぅ」

 

ゆっくりと深呼吸をして呼吸を整える。

目を瞑って深く息を吸って吐くことだけに専念をする。深く吸いすぎて肺の近くを蹴られたところに痛み刺さる。うっ、となるもゆっくりとまた息を吐く。

そう繰り返しているとばたばたと足音が複数聞こえてくる。

 

「ノワール!大丈夫か!」

「...いいぞ、そのままゆっくり深呼吸だ」

「ぃお..きょ..か...、ぁと..きょ..か....」

 

教官達が来てくれた...。

緊張がとけてなんとか保っていた意識が飛びそうだ...。

 

「安心しろ、もう寝てもいい。

よく耐えたな立派だ」

「次目が覚めたら暖かいベッドの上だ」

「......ぃ」

 

傷のないほうの頭をアトラ教官が撫でる。

暖かくて大きいてでお父さんが撫でてくれてるみたいで、酷く安心する...。

 

 

「...」

「寝たか」

「そのようだ」

 

かくりと首を落として気を失ったリリィをそっと姫抱きにするアトラ教官。訓練科目の教官なだけあって気を失って完全に脱力しているリリィを姫抱きに持ち上げても全く動じない。

もう一人の一見細身の教官は近くに置いていた血のついた訓練用の木刀を見つけて犯人を特定できるだろう証拠を回収する。

凶器とまでは行かないが武器を放置して逃げるとは初等部を通って来ているのか心配になるほどの杜撰な処理だ。

 

「確か、エイル・プレジテだったな。

貴殿の報告に感謝する、貴殿が来てなかったらまだ見つけれずにノワールは苦しんで居ただろうからな」

「いえ、当然の事をしただけですよ。

かわいい後輩が困ってたら助けるのは普通でしょう」

 

邪魔にならない所に立って柔らかな笑顔を浮かべて教官に返事をした。

確かリリィのひとつ上の2年に在籍しており成績はそこそこ優秀、絡め手の作戦立案が得意な生徒だったと記憶している。

 

「そうか、では失礼する」

「ありがとう、私もこれで失礼する」

 

気を失っているリリィを救護室に運び頭の怪我や打撲の処置をする。女性の救護官が常駐しておらずリリィが不快にならない範囲で処置を行い彼女の寮へ送り届けた。

リリィをみた寮監は怒り心頭で誰がこんな事をこめかみに青筋が立っていた。

 

リリィが目が覚めたら寮の自室で怪我の処置がなされていて驚きつつも教官達が処置してくれたのかなと心の中でぽつりと感謝する。

時間を確認しようと時刻をみると昼頃をさしておりしかも平日であった。

 

「ね..寝坊...!!?」

 

ひゅっと喉がなり布団を蹴り飛ばしてベッドから降りようとするがお腹に受けた蹴りが痛みきを取られて盛大に転ぶ。

衝撃で痛みがぶり返し悶絶しているとすごい勢いで足音が近づいて寮監さんの叫び声が響く。

 

「ノワールさn!!大丈夫ですか!!?」

「...だ、大丈夫です...」

 

開けますよと断りを入れて恐らくマスターキーを使って寮監が部屋に入ってくる。

床にへばりついてるのを見てびっくりしたようで小さな悲鳴をあげた。そしてなんとか寮監さんの協力を得てベッド腰掛ける。

 

事情を聞いたら怪我が酷く寮に戻された後に発熱がありまる1日ほど寝込んでいたらしい。学校...、授業...と悩んでいるとやっぱりといった様子の寮監さんがひとつのデータファイルを私の端末に送信した。

 

「ノワールさんが休んだ分の授業のデータを貰ってきました。イオ教官もアトラ教官もいつでも時間を開けているからおいでだそうです」

「教官...」

「あとエイル・プレジテという方とジェフ・ローザという子が心配にしていましたよ、お知り合いですか?」

「えぇ、ジェフ君は初等部からの友人ですね。でもエイル...?という方はちょっと...」

「なるほど、最初にノワールさんを見つけて教官を呼びに行った生徒だそうです。

ではエイルさんには私から大丈夫だとお伝えしておきますね。ジェフさんはお友達なら自分からお伝えしてあげて下さい、きっと安心しますよ」

「そうですね、そうします!

ありがとうございます!」

 

幸い明日明後日は土日だ。ゆっくり休んで月曜日にまた登校してジェフ君に心配にありがとうと伝えよう。そう考えて端末の授業データを開き寝ていた分の授業をとり返す勢いでデータにかじりつくリリィは寮監が昼食を運んで来るまで止まらなかった。

怪我がある程度治り登校すると珍しく休んだリリィを珍しがる人と心配になって話しかけに来てくれる子に大きく別れた。

 

「心配してくれてたんだってね、ごめんね心配ありがとう。もう大丈夫だよジェフ君」

「もうなんともないなら本当に良かった」

 

初等部中段頃から交流の続く子で違うものをみる目を向けられることが多いリリィによってそう見てこない信頼できる友人だった。

よく一緒にいる友人で言ったら彼が1番多いだろう。私といて彼も良くない目で見られないか心配になるほどぐらいには気にかけてくれる優しい友人だ。

久しぶりの授業が終わり教官の所に行こうと思い立つがあいつらにまた1人でいる所を狙われるかもしれない、と思うと帰る準備をしてるジェフ君に少し付き添いをお願いして教官の所まで行く。目的地にこれくらいならお安い御用だからまたいつでも言えと頼もしく胸はって答えた。

 

珍しく今日はイオ教官がおらずアトラ教官のみだった。イオ教官はいま少しゴタゴタに巻き込まれており片付いたら戻って来るらしい。教官職ってやっぱり大変なんだな...と斜め上の予測をしつつまとめてきた疑問点を質問しつつ、先の事件について話した。

 

「たぶん、今まで手を出してこなかったのはノワールが弱みを見せなかったからだな」

「弱み?」

「あぁ、努力家で結果も出してるし噂にも動じないし素行が悪い話も無い。それに教官陣からの目も光ってるからな」

 

完璧人間、確かそんなことを言われた気がしないでもない...。思い出そうとすればするほど傷は疼くような気がして少し震える。

 

「あと、こないだのあれだ.....生理痛に耐えてるのを見たんだろう。今は薬で軽くはなっているがあの時のノワールの顔は酷かったからな...、隙の無い奴の弱みほど良くない感情を持つ奴にとって甘美だ。

教官陣で話し合ってより目を光らせてできる限り再び怒らないように務める。

今まで通りにはいかんだろうが安心して過ごしてくれ」

「...はい、私もできる限り1人にはならないようにしてみます」

「あぁ...」

 

少し不安げなリリィを安心させようとアトラ教官は大きい手で頭をポンポンと叩くように撫でる。やはり手は父のようで酷く安心させられる。

 

「そうだ、ノワールが大丈夫だったらでいいのだが訓練で習う以外の護身術を教えるのを考えているんだがどうだ」

「訓練にあるのは素手での戦闘術や銃や近接武器ですけど、他の何かあるんですか?」

「ノワールは足腰が強いからな、前々から思っていたんだ。ノワール、お前は足技を極めるべきだ」

「足技...、やって..みたいです」

「わかった、完全に完治してから教える。少しキツいがノワールなら大丈夫だろう」

「がんばります...!」

 

心のうちの不安と疑問を教官に話せてほんの少しスッキリし、教官室から出て夕焼けの景色が目に入る。早く戻らないと寮監さんに心配させちゃいそうだ。忘れ物がないかを確認して大勢の子が帰路に着く中で1回見かけたことある顔と遭遇した。たしかボロボロになった時に助けに来てくれた人。

 

「おや、偶然だな。もう何ともなさそうで良かったよ」

「その説はありがとうございました、えっとエイル...プレ...ジテさん..、でしたよね」

「そうそう、エイル・プレジテ。

初めましてリリィ・ノワールさん、よろしくね」

「よ、よろしくお願いします」

 

妙に押しが強い先輩に捕まっちゃったな、と思いつつ寮まで送るよと言われお言葉に甘える事にした。それ以降も度々会うことが増えてお話する様になり寮まで送られることも増えていくのだがその度に出迎えた寮監さんが先輩にすごい嫌な顔を向けるのちょっと面白く久しぶりにちゃんと笑えた気がした。

 



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6章 悪夢 前編

中等部編 下 胸糞要素注意。


 

あれ以降特に酷い事は起こらず付き添いをお願いする回数もだんだんと減ってきた。

数日休んだ分もしっかり取り替えせて中等部1年次の最終試験では出席をキープする事が出来た。嬉しくも初めの頃のような点差ではなくギリギリの僅差だった為もっと余裕を持って勝ちたいなと思うリリィだった。

試験の後の家族や父への通信も健在で首席をキープ出来た事を報告する。

実を言うと暴行を振るわれた事は家族には言っていない。私の家族は優しいから、その人が自ら選んだ道でも深く心配をかけてしまうから。

 

「お父さん、ほらみて首席キープだよ!」

「それはすごい、お父さん首席はあってもキープはできたこと無かったな」

「お父さんの背中超えたってことだね?」

「いぃや、まだまだだな」

「ぬぅん...」

 

画面には家族みんな映っておりしばらく見ないうちにお父さんもおかあさんも少し白髪が増えてアキナはすごく成長していた。

 

「おねーちゃん!次はいつ戻ってこれるの?」

「いつだろーー、2年生の長期休暇の時になるなぁ」

「いつでもいーよ!!アキナまつ!!!」

「ほーらアキナ、お姉ちゃんとの会話もいいけどちゃんと髪も乾かして」

「むん!」

 

お風呂上がりだったようで髪型濡れていてお母さんに連行されていってる。画面の向こうはすごく賑やかでとても暖かだった。

 

「リリィ、貴方のおかげで今余裕もててて今ちょっと調子もいいの。本当にありがとう。でも戻ってきたくなったらいつでも戻って来るのよ待ってるわ。愛してる、頑張ってね」

「...うん!」

 

皆に笑顔で手を振って通信を終える。

お母さんの調子が良くなってるのは本当に嬉しい。余裕もって生活もできてるならここに来て本当に良かったと思える。画面の向こう側が少し恋しくなって少々ホームシック気味になるがぱしぱしと顔を叩いて気分を入れ替える。

もう2年次なのだ、1年次よりも段々と授業や訓練も難しくなってきており訓練の総仕上げのような演習という科目も出てきた。もっと家族や教官や寮監さん、優しくしてくれた人達によころんで貰いたい。だからもっともっと頑張らないと。

もう消灯時間をすぎてしまっていたがリリィは机に向かい続けた。

 

「くま酷いよ?昨日ちゃんと寝たの?」

「気づいたら朝で...」

「えぇ...、今日は早めにねなよ?」

「そうする...」

 

教室で休憩時間にうつらうつらとしていたら後ろから知ってる声をかけられて振り向かずに返事する。ジェフ君には少し前までしょっちゅう付き添いをお願いしてたから少し距離が近くなった気がする。

距離が近くなったといえば彼もそうだがよく会うようになったエイル先輩もそうだ。教官に教えてもらった帰りによく遭遇する。先輩の部活がよく長引くらしく同じ時間にかち合いやすいと言われたが教官室だけじゃなくて訓練室からの帰りでも不思議とよく会うのだ。うーん?と思いつつ帰り道に1人にならないからありがたく帰り道をご一緒させてもらっている。

 

そう主犯格を警戒しつつ生活しつついつも通り教官室に行くと最近は見かけなかったイオ教官が居た。久しぶりに見かけたのでリリィは少し気分があがり上機嫌で質問と自主的にまとめた作戦案をまとめたノート端末を教官に見せた。

 

「そうだ、ノワール。例の事件の主犯格の事なのだが今は停学処分になっています。期間は決まっていないがまだしばらく戻ってくる事はないだろう。もう安心して大丈夫だ」

「...、それでしばらく見かけなかったんですか...?」

「...まぁ、頑張る生徒には安心して生活して欲しいから教官として当たり前の事をしたまでだ。

...、アトラもなにか護身術教えるって言ってた気がするが何を教えて貰ってるんだ?」

「足技です! 結構できるようになってきたんですよ!」

 

立ち上がって何も無い空間に蹴りを繰り出すリリィを見てそっと優しくほほえむ教官。

在学中使用する事が無いのが1番なのだが上機嫌そうなリリィを見れてとても心が綻ぶ。

そんな教官の心情を知らないリリィは蹴りの素振りで少々疲れたのか少し息が上がって頬が紅潮しつつ別の技の素振りを繰り出す。

 

「まだしばらく先になるだろうけど予定が会う時にアトラ教官と足技の訓練しているところを見に行くよ、楽しみにしてる。手合わせとかもできるといいな」

「わぁ、手合わせ! 頑張ります...!」

 

やる気に満ち満ちてるリリィをもうすぐ暗くなるからと帰寮を促す。そとが夕焼け通り越してすこし暗くなってきているのに気づいていなかったのか驚いたリリィは慌てて荷物をまとめてお礼を言って教官室を後にした。

さすがにこの時間に学校にいる生徒は少なく早く帰ろうと少し小走りよりで歩く。

 

「あれ、ノワールさん。偶然だね」

「こんばんわ、本当に偶然ですね」

 

振り向かずに答える。帰り道でこうやって毎回後ろから声をかけられるのだ。

普通に歩いてると横に並ばれる、やっぱり先輩だった。彼はもう3年だがそんなに部活が忙しいのだろうか、こんな時間まで部活やってるのは余り聞いた事ない。

 

「また部活ですか?」

「そうそう、いつもより長引いたんだよ。ノワールさんも珍しい時間じゃないか」

「私も、教官と話してて長引いたんですよ、

そういえば先輩の進路ってやっぱり高等部に進むんですか?」

「あぁ、部活でやり残したのを全部やってから高等部に進む予定だな」

「なるほど、頑張ってくださいね」

「ありがとう、しっかし空中庭園の季節設計は春ぐらいなのに夜は流石に冷えるな...。

ノワールさんは寒くないか?良かったら食堂で買って来たコーヒー飲むかい?」

「あーっと、お気遣いありがとうございます。私は寮で十分温まりますから、それは先輩が飲んであったまってください」

 

先輩が貰ってきたコーヒーだ、それに私はいま持ち合わせがないからコーヒー代をお渡しできない。やんわりと断り先輩に飲むように進めた。先輩はそうかとちょっと眉を下げコーヒーは飲まずコーヒーの紙のカップを持って転がして暖をとっているようだった。

...やり残したことか、だから長いこと学校に残っていたのか。何をやり残したのかは分からないけど先輩に不躾に何でもきくのも余り良くはないだろうと聞くことはしなかった。

寮に戻ったら時間が割と暗くなってたせいか寮監さんにいつも以上に心配された。

 

外の寒さがこたえたのかリリィは久しぶりに湯船にお湯をはっていた。お湯自体は少しだけ熱いかなぐらいのぬるめのお湯でのんびりと長くつかれるだろう。

体を洗いお湯を張った湯船にゆっくりと足をいれ肩まで浸かる。

 

「ふぅ...部活かぁ、初等部から放課後は教官と勉強だったからなぁ。全然考えた事無かったな」

 

今考えれば興味が無い訳では無い。球技も陸上などの運動部でも読書や吹奏楽などの文芸部もどれもとても楽しそうだった。確か初等部の1年次の時は音楽クラブなどの体験入部とかもちょっとお邪魔したな...。成績が振るわないで入るのは諦めて1人で黙々と勉強してたっけ...。

中等部ではもうこの生活を帰るつもりはない。けど、高等部でなにか試しに入ってみるのもありでは無いだろうか。

高等部では寮も校舎も変わり担当する教官も大きく変わると聞いている。恐らくイオ教官やアトラ教官の所で今のようにしょっちゅう聞きに行ったりはできないだろう。

新しい環境でも余裕をもてて成績をキープできたなら、興味が引いた所に入って見たい。

 

「ふふ...、何があるのかな...。ちょっと楽しみ...」

 

お風呂に浸かりながら長く考え事をしてたせいか少し熱めのぬるいお湯だったのにお風呂から出たあとリリィは少しのぼせた状態になってダウンした。

 

それから数日たつとイオ教官から秋頃ならアトラ教官と時間が会うしリリィの予定ともちゃんと噛み合うから訓練の様子を見に行けるとメールが届く。見てしばらくはやる気が入った状態で足技を練習していたが秋前の試験が迫っているのを思い出し勉強づけのてんやわんやの状態だった。

試験の結果はひとつ落ちて2位。作戦立案などの筆記はほぼ満点だったが訓練科目と演習科目で越されてしまった。

 

「点数は前より上がってるよ、そんな気にすることじゃないと思うけど」

「抜かされたのに変わりないもの...、もっと頑張らなきゃ...。」

 

落ち込みつつ次は負けない...!と闘志を燃やすころころと表情の変わるリリィはとても見ていて微笑ましかった。

 

そして教官が訓練に見に来る日。

教官との手合わせが楽しみで授業中も集中しながらも少しそわそわ過ごして放課後になるが、しばらくリリィは片付けずに課題をやっていた。もう少し後の時間で訓練室に行って手合わせという予定だった。

 

「リリィ、今日も送ろうか」

「いいの?じゃあお願いしようかな、あ..でも今日はもう少し経ってから行くんだけど..」

「いいよ、待つ」

「ありがとう」

 

少しの間課題の作戦立案を書き頃合をみて約束の時間とは少し早めに出発する。校舎内は多くの子が部活か帰ったかで人気は少なくなくぽつりぽつり残ってる生徒が居るのみだった。廊下を歩いていると突然いつもの道と違うルートをリリィは歩き出す。

 

「道はこっちだろ?」

「んーん、ちょっと近道!」

 

余程手合わせが楽しみだったのだろう。リリィはとても快活な笑顔で答え、初等部と中等部で1回も見せたことない本来のリリィの明るい感情で満ち満ちた笑顔だった。

 

「...? ジェフ君?」

 

隣を歩いてたジェフ君が急に立ち止まり振り向くリリィ。顔は俯いていて表情は伺えなく心配になり声をかけて近づく。

彼の腕が動いたと思った刹那どんっと背中に衝撃が走る。肩を押さえられて壁際に抑えられている。急な衝撃に肺が刺激されはっ...と息を吐く。

 

「な...どうし...」

「お前の、せいだからな」

 

少し混乱しているリリィだったが、顔が近づいてくるのを見て何をしようとしているのかを察する。嫌だ。されたくない。

 

咄嗟に手を相手の顔に滑り込ませされないように阻止する。めいいっぱい力を入れて押し返すがあちらも力を込めているためかどちらも全く動かない。

膠着状態が少し続き彼の手がリリィの顔を抑える手を掴む。腕が外れば絶体絶命だ、急いでもう片方の手を肩を押し距離を取らせようとしまた膠着状態になる。

 

「ゔゔ...ぅ!!」

 

全力で押し返している為に体力の消費は激しくもっと長引いてしまったら体力負けしてしまう。そんなことになったらもう勝ち目はない。なんとか打開しないとと押し返して壁にもたれて安定している状態を利用してリリィは相手の片足を足払いするように蹴り不安定になった相手を横になぎ倒した。

 

「ぃ...ってぇ」

「はぁ...はぁ...」

 

ずっと全力だった為かやはり疲れがすごくリリィは肩で息をしながら倒れている信頼していた彼を見つめた。

何も怖い事はしないだろうと、割と初めて長く友人でいてくれた人だった。例の噂も信じなかった1人だった。どうして。

信頼を裏切られてリリィがショックを受ける中のそりと立ち上がりゆらりとした足取りで近づかれる。

友人だった人に既に恐怖を覚えていたリリィはあとずさろうとするも後ろは壁で逃げ場がない。走り出そうにもさっき力を使い果たして上手く走れる自信もない。ゆっくりと伸びる手にとてつもない恐怖を覚えた。

 

「おい!!!! そこで何してる!!!」

「...っち...!」

「ぁ...」

 

目と鼻の先に迫っていた手は一瞬にして引っ込められて彼は見えない所まで逃走していった。まだ走れる体力があったのだ、次やったら完全に力負けだった。脅威が去ってゆっくりと壁をもたれにしてずりずりとへたり込む。

 

「大丈夫?」

「はい...」

 

声の主は先輩だった、鞄を持って片手に何時もの食堂の紙のカップのコーヒー。帰りだったのだろうか、でもまた凄い偶然だ。

こんな現場に早々遭遇すること無いだろうに、本当に凄い偶然。

息を整えてある程度動けるようになり先輩にお礼を行って訓練室に向かおうとすると腕を掴まれて引き止められる。

 

「そんなほぼガクガクな状態で行かせられないな。ちょっとこい」

「え、ちょっと...」

 

すぐ隣の空き教室に連れていかれ半強制的に座らせられる。少し休んでからいけという事だろうか。先輩は持っていたコーヒーをことりと机に置いてくれる。

 

「口付けてないから遠慮なく飲め。

暖かいし少しは回復するだろう」

「い...いただきます...」

 

紙コップを両手で持ち上げると本当に暖かく買ってきてからまだそんなに経ってない様だった。ほう...と温まりプラスチックの飲み口の穴の所に口をあて数口コーヒーを飲む。

中身はブラックだった様で苦味が強いが美味しかった。先輩との会話は無く飲んで一息、飲んでもう一息と繰り返してカップのコーヒーの残りが半分ぐらいになった時には息も整ってある程度疲労も回復していた。

もうガクガクだなんて言われないだろう。

 

「先輩、ありがとうございました。後でコーヒー代お渡ししますね」

「気にしないでいい」

 

よいしょと椅子から立ち上がる。と、ぐらりと視界が歪みたたらを踏む。うっと目元を抑えて支えに机に腕をついた拍子に先程飲んでいたコーヒーが机から落ちてしまう。蓋が空いてしまい中身がこぼれてしまった。

床に広がるコーヒーはブラックの焦げ茶ではなくて白みの強いカフェオレだった。

 

「な...ん...?」

 

ブラックとしか思えない苦さだったはず、困惑していると肩にどんとあつがかかり目眩で平衡感覚が取りずらい状態のリリィは容易に後ろ向きに倒れてしまう。受け身も取れずに倒れてしまったがために背中と後頭部を強く打ち痛みで悶絶する。

何が何だか分からない、痛みのせいか落ち着いていた息も浅く荒くなっていて若干手も震えている感覚がある。

 

「せんぱ...、手..かり...」

 

先輩に手を貸してもらおうと声をかけるが先輩は私を見下ろして動かない。あの、目は…。冷たく見下ろすようで何か熱の篭った目…。さっきの逃げていった彼に似てて、より数段と深い目がリリィを見下ろす。

まさか...、コーヒーに...何か入ってた......?

 

「手か、貸してやる」

 

仰向けに倒れるリリィを間にまたぐ状態でかがみこんで手を差し出してくる。

良くない、これは絶対に良くない。怖い怖い怖い。

本能か直感的に恐怖を感じ取ったリリィは体をよじり伸びてくる腕から逃げようとするも体が脚で跨がれた状態で横には逃げ道がなく抵抗は虚しく終わる。

まずリリィを襲ったのは急激な息苦しさだった。喉に残っていた空気が吐き出されるような感覚と通り道が狭く上手く息ができない息苦しさ。呼吸する度に口からひゅうひゅうとか細い呼吸音が漏れる。

めまいや混乱で状況が掴めないリリィが視線を下ろすと腕があった。首を掴んで床に押し付けるように体重をかけられている。苦しくないわけがなかった。

 

「ひゅっ...、ひゅぅっ.....」

「はは、長かったな。やっと手が出せる」

 

どういうこと...、やっと...?今までこうする為に仲良くしてくれていたの...?

歯を食いしばりなんとか拘束をとこうと震えている手に力を込めて喉を抑える腕に力をかけ爪を立てる。足をばたつかせてもみたが空を切っているだけのようだった。

リリィが力を込めるに比例して喉にかかる圧は増えていき少しできていた呼吸はほぼ出来なくなり抵抗する力が段々と抜けていく。酸素をもとめて口を開けるもさっきよりもか細い音が漏れだらりと唾液が口から漏れるだけでどうにもならなかった。

力の入らない指で腕を引っ掻いても跡も何も残らずただ虚しく終わる。

 

苦しさにもがいて不意に上にいる先輩の顔を見る。今までに見たことがない顔で、欲にま見れて口は弧を書いて笑っていた。目は合わず首ら辺を見ているようで目は楽しげに少し薄められていた。

 

「なんでそんな抵抗するんだ?

そういうつもりで入ってきたんだろ?」

 

そういうつもり...?

抵抗するリリィを不思議そうにしつつ首を抑えていない方の腕で器用に上着のボタンを外されていく。

 

「ファウンス士官学校自体は男所帯だからな、女が来たってことは処理に使ってくれって事で来たんだろ?」

 

違う。どうして、すごく頑張ったのにどうしてそんな目で見られなきゃ行けないの。

悔しくて再び腕になけなしの意識と力を集中するがどうにもならない。男の腕は無慈悲にも半ば破くようにワイシャツのボタンを外していく。

 

「僕はちゃんとした使い方してやるだけだ。

そんな嫌がるなよ気持ち良くしてやるから」

 

嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。

もう力を込めてもどうにもならない、声を上げようにも喉が潰されて息もままならない。

それに近道したせいでほかより少し人が通りづらい場所だから助けも望めない。そもそも力をがちゃんと出る状態で抵抗しても力で押しのけられただろうか。

怖い。怖い。怖い。変に鬱陶しいけど優しいと思ってた先輩だったのにこんな男だった。さっきも信頼してた友人にも裏切られた。どうして...、私が悪いの...?家族みんなに喜んで欲しくてこの学校に来ただけなのに。お父さんの背中を追いかけてここに来ただけなのに。ここに来ては行けなかったの...?

スカートがまくり挙げられ上と下の下着を半ば破くように強引に剥ぎ取られる。

悔しさ、羞恥、恐怖、不安、絶望ほか色々な感情が溢れ涙となってリリィの頬を伝って床へと落ちた。

 

「お前がそう望んでここに来たんだろ、泣いたってやめないからな、むしろ興奮する」

 

酸素が巡らず、ぼぅっとし始めリリィの遠のく意識にかちゃかちゃという小さな金属音が響く。抵抗できなくなってだらりと伸びた足の間に男の足が入り込み開かせられくっくっと楽しそうに笑う声が耳に響く。

もう嫌だ…怖い、誰か...助けて...。

 

なにかが、ぴとりと触れた。

 

 

「ノワール!!!!!!! 貴様ぁぁぁ!!!!!!」

 

轟音。朦朧として思考力が落ちた意識に目を覚ませと言わんばかりの轟音が響く。

そして何か潰れるような鈍い音と共に息苦しさが消え急に戻ってきた空気にむせて咳き込んでしまう。

酸素が戻りゆっくりと霞がかった意識が鮮明になっていく。ちらりと横を見るとアトラ教官が男を取り押さえてる状態だった。

 

「くそっ、くそっっ!!!性処理係で処理しようとするのが何がわるっ ぐぅうっ」

「黙れ獣め!!!そんな物あるか!!!」

 

はぁはぁと荒い呼吸を何とか整えようとしているとぱさりと頭から何かが被せられた。

 

「被っていなさい。よく、耐えた...。よく...、頑張ばったな...。

訓練室になかなか来ないから心配になって探しにきたんだ、もう少し早く見つけられたらよかった…」

 

イオ教官の声が布越しに聞こえる。

よく耐えた、そう聞いて改めて教官たちが助けに来てくれたのだ。と気づくことができ流れる涙は安堵の涙に変わっていた。服を掴んで小さく嗚咽を漏らして泣くリリィに教官はただ静か布越しに頭を撫でてくれていた。

破かれた服はすぐにはなおらず上にイオ教官の長めの上着を羽織って救護室で変えの服貰ってイオ教官に付き添われ帰寮する。

 

「おかえり...なさい」

 

今まで見た事がない位に酷く暗い顔のリリィをみて、戸惑いつつも暖かく迎え事情をすぐには聞かず部屋でゆっくりして何かあったら呼んでとリリィに伝える。

足取り遅く部屋に戻るリリィを見送り付き添ってきた教官に事情を聞くと寮監に思いもよらない回答が来て青筋がこめかみだけじゃすまないぐらいに走っていた。

頑張って頑張って、憧れを追い家族の幸せの為に人一倍努力してる子がどうしてこんな目に会わないと行けないのだ。

声にならない怒りと慟哭が寮監の心の内を燃し尽くす。

翌日もその翌日もリリィは塞ぎ込んだ状態で部屋から出てくることは無かった。寮監の料理は食べてくれている様で届けたらありがとうというメモと空の食器と共に返却されている。深い深いキズだ、すぐに癒える事は無いだろう。寮監はそう感じ自分にできることは...と何処かに通信を繋げた。

 




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6章 悪夢 後編

中等部編 下


1週間ほどたち寮でも学校にも姿を見せなくなったリリィに多くの生徒がざわつき始める。そしてひとつ上の3年と2年の誰かが退学と自主退学したという話が広まった。

3年の名前はエイル・プレジテ、2年の名前はジェフ・ローザだった。

この話はメールでリリィの目にも届いていたが決して彼女の気分を明るくさせることは無かった。

メールを見終わりまた何も考えないように目を閉じようとするとこんこんと扉が叩かれる。寮監さんだろうか、どうぞと返事をして空いたドアから見えたのはしばらくあっていないお父さんだった。

 

「お...とう...さ...?」

「リリィ...!」

 

ベッドに座り込むリリィへ大股でずかずかと近づいてがっしりした腕でリリィをしっかりと抱きしめた。

突然現れたお父さんにびっくりして少し混乱するが暖かい体温に少し痛いぐらいの抱擁に懐かしさと安心を覚えて溜め込んで悩んでいた分の涙がぶわりと溢れた。

ぽつりぽつりとお父さんがごめんな、リリィごめんなと謝るのが聞こえたがなぜ謝るのか理解出来ず聞こうにも涙の感情が強く疑問は声にならなかった。お父さんの硬い胸に顔を埋めて声をあげて泣いた。それに対して何も言わず暖かく静かに抱きしめ返してくれた。

しばらくたち、ぐす...と少しはなをすすっているが落ち着いて来たリリィはまた甘えちゃった...と呟く。

 

「もっと甘えていいんだぞ、卒業する必要なんてない。どこの世界に娘に頼られて甘えられて嬉しくない親がいるか。...もし居たらそいつはクズだ」

 

いつもの調子で喋る父に安心を覚えてゆっくりと強ばっていた心がほぐれていく。卒業しなくていい、家族に甘えてもいい。家族に喜んで欲しくその為に家族には甘えれないと考え、リリィが自ら心にはめていた枷をするりと落とした。

 

「リリィ、守れなくてごめんな...」

「どうしてお父さんが謝るの」

 

「前はここの教官長だったんだ。

だから初等部と中等部の閉鎖的な環境で思想も凝り固まってたのを知ってた。

だから入学させるなら高等部からで、一般の生徒も女子も多くの入って来るからせめてと思ったんだ。でも、リリィの想いで引き止められなかった...。

 

だからいい成績取らせて教官達からの協力や視線集められれば間違いは起こりづらいはずだと、成績が振るわなければ改めて高等部からの入学でと考えていたんだ...。

 

もし、あそこで引き止めて居られればこんなことには...。本当に、守れなくて...ほんとうにごめんなぁ」

「私が選んだ事だから...、お父さんは何も気にしないで欲しいな」

 

ぽろぽろと小さな涙をながして懺悔するような父を気にしないでと少し微笑んでみせる。きっと上手く笑えていないだろう、でもお父さんはそれをみて少し笑い返してあのいつもの大きくて硬い暖かい手で頭を撫でてくれた。

 

心の整理が少し着いた私と父は学長に呼ばれ学長室のふっかふかなソファに腰掛けていた。隣には怒気迫る剣幕で青筋を立てているお父さんがいる。こんなに怒ってるのは初めて見た。今にも学長を射殺さんばかりの目でまゆに深くシワを刻んでにらんでいる。

 

「今なんとおっしゃいました?

まさかリリィに残って欲しいと聞こえたのは間違いでしょうかね」

「いえ、あっております...。

リリィ・ノワールさんは本当に優秀な生徒です。教官達もそのような声が多く成長を見届けたいのです」

「そう言っていただけるのは嬉しいが、リリィにあんなことにあったんだぞ⁉︎残れというのは酷じゃないですか??」

 

2人は退学になったが恐怖が拭いきれた訳では無い。それどころかリリィの心には事件の記憶が深く深く刻み込まれてしまっている。このまま残らせるのはリリィにとって苦痛以外の何者でも無いだろう。

 

「私は... 家族にいっぱい喜んで欲しい...し、お父さんみたいなかっこいい軍人にになっていっぱい人を…助けられるように..なりたい。それは今も変わらない..けど、やっぱり怖い..です。

話を聞いて自分も、とまた捕まって何かされるかもしれない、噂を聞いて面白いものを見る目を向けるかもしれない。

他の子が何を考えているか分からない...また仲良くなったら裏切られちゃうかもしれない。ここは...とても、怖い...」

「リリィ…」

「ノワールさん…」

 

リリィは自分の腕を抱えて寒さに抵抗するように少し俯いて丸まる。今までで一番楽しみで楽しくなるはずだった日が崩れ落ち悪夢のような1日になり、信じていた友人と先輩にその日のうちに二人から裏切られたのだ。リリィは事件への恐怖と共に少々人間不信ぎみに陥っていた。

初等部入学当初のような無垢な明るく全てにわくわくしていたこの面影はどこにもなかった。

 

「残ってほしいのは事実です。が、中等部でとは言いません。

リリィさんの成績はとても優秀で教官によれば三年次の範囲も少し勉強すれば簡単にこなせるだろうという回答をもらっています。

ですので私からは、飛び級で三年次を終えて卒業し高等部へ入学すると言う案を提案させて頂きます。

もちろん試験は課しますが合格となればそのように対応させていただくつもりです」

 

高等部、たしかお父さんも高等部からならといっていたなと思い本当にこことは違うところで安心できるのかと父に問いうなづいて答える。

 

「高等部は中等部からじゃなく一般課程の学校からも生徒を受け入れているから思想が凝り固まっていないし、半々とまでは行かないが女子も多く在籍している。女子寮とか設備もちゃんとしているから今よりは安心だし今回みたいな間違いはまず無いな。

無理にお父さんと同じ道に進まなくてもいいんだぞ、一般に移っても工兵部隊とかに入ることは出来る…」

「んーん、お父さんと…同じみちがいいの。

高等部が安全な所なら、その飛び級の試験の話受けさせてください」

「わかりました、実施する日程と範囲は追って伝えます。

改めて、本当に申し訳ありませんでした。そして受けてくださって本当にありがとうございます……」

 

深々と頭をさげる学長に父は少し頭をさげリリィもつられて少し頭を下げる。簡潔に、では失礼する。と言った父の後ろを追って部屋から退出する。二人が見えなくなるまで学長は頭を下げ続けていた。

寮に戻る道すがら校舎を歩くがお父さんと談笑しながら歩いているおかげかフラッシュバックのような恐怖思い出させる事は少なかった。そして父を見た教官達が皆必ず敬礼するのを見て、またそれに対して返して敬礼する父をみて私の追いかけてる背中はとても大きいのだなと実感していた。

 

「お父さんはひとまず帰るが、ダメだと思ったら何時でも連絡してきてくれ。迎えに来るからな」

「うん...。ありがとう」

 

寮監さんと一緒に父を見送る。名残惜しそうに心配そうにちらちらこっちに振り向くお父さんを見て寮監さんはくすりと笑っていた。

 

「昔は鬼と言われるぐらいに厳しい教官長だったんですよ。あんなに心配性になられて。よっぽどノワールさんが可愛いんでしょうね。

...ノワールさんも、少し元気が出たようで良かったです」

「ありがとうございます。元気出ました。

寮監さんがお父さんに連絡とったんですよね、久しぶりにあえてあったかくて本当に元気でました」

「あら、気づかれてましたか。でもそう感じてくれたなら良かったです...。本当に...」

 

 

数日も経たずに試験の概要が送られる。

日程は2年次末の試験の数日後、今までにやった2年次の範囲と3年次の内容。演習も少し3年次のが混ざっており試験日まで教官室へ通いつめる日々になった。

普通の授業は教室では受けずに寮の自室からデータを見て受けて訓練や演習はアトラ教官と別で行う形で進めた。

そして2年次末の試験を首席で終え姿を見せない生徒が首席に輝いており掲示板を見に来た生徒は非常にざわついていた。

そしてその頃リリィは飛び級の試験を受けていた。試験は数日前に受けた試験とは全く違い非常に難しいもので勉強無しでは悲惨な点数になるだろう物だった。

 

しかし、リリィは見事に合格をもぎ取り後日来た通知を喜んですぐに家に連絡を入れていた。家族はすごい喜んでくれて画面の向こうが大騒ぎでリリィもまるでおなじ場所にいるかのように楽しんでいた。

教官にも受かったことを報告して久しぶりに明るい心持ちでいたリリィだった。

高等部では今までのしがらみが減る。そう思うと高等部での生活が少し楽しみに思いながら、中等部の終業式の日に寮で教官達から卒業の品を受け取る。

 

「本当に...、卒業おめでとう」

「高等部は校舎変わるからあまり教えてやれないかもしれないがメールとかで何時でも送ってくれ、時間を合わせて教えにいく」

 

アトラ教官は涙ぐんで、イオ教官は凄く心配そうに連絡をと念を押して来た。後ろに控えている寮監も涙ぐんでいるのが見えて、それが面白く思えて笑顔になれた。

 

「元気で、頑張って」

 

高等部の寮へ移る日、寮監さんにそう声をかけられる。大荷物を背負っているリリィはゆっくりと振り向いて微笑む。

 

「頑張ります。ありがとうございました!」

 

リリィの新しい生活にもう苦痛が振りかからない事を祈って、寮監は彼女が見えなくなるまで手を振って門出を見送った。




教官と寮監
イオ、アトラ、ライト
名前の由来:アイオライト
石言葉:道を示す 海に旅の安全

先輩
エイル・プレジテ
名前の由来:エル・プレジデント+レ○プ
酒言葉:プライド

信頼していた友人
ジェフ・ローザ
名前の由来:フォールン・エンジェル ローザ
酒言葉:叶わぬ願い 抑えきれない理性


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