桜と雪に埋もれて溺れる (マイケルみつお)
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流魂街篇
1話 出発


 「なんだぁオメェ?」

西流魂街80地区、叫喚。この世の最底辺に位置するこの場所では窃盗は生きていくための当たり前の行動であり、理不尽な暴力、殺人はこの土地で狂った人間にとっては娯楽でしかない行為だった。そして今まさに身の丈2mを越す大男が練度の低く切れ味も悪そうな鎌を持って、一人の少年に斬りかかろうとしていた。きっかけは大男の歩く先に少年が立っていて邪魔だった。ただそれだけ。大男と少年が立っている場所は叫喚の中では最も人が多い場所であり、道も広くはないが狭くもない。数歩横に移動すれば何の問題もない事だった。

「邪魔だ、死ね。」

大男は何の躊躇いもなく鎌を振り下ろす。先も言ったがここは叫喚の中では人の多い場所。この様子を見ている人間も多く存在していた。しかし誰も大男の凶行を止めない。全員がその凶行を止める勇気がない臆病者という訳ではない。大男がここ一帯で有名な粗暴な人間で、巻き込まれるのが怖いという訳でもない。そもそも彼らにとってその行動は凶行ですらない。ただの日常。巻き込まれた少年を僅かに憐れに思う者、少年がどんな絶望的な表情で喚くのかを楽しみに眺める者、賭けにすらならない殺戮に興味の一切を持たない者。そんな彼らにとっての日常の一ページに見知らぬ一人の少年の死が追加されるだけのはずだった。___それがただの少年だったのならば。

「ッ?!」

振り下ろされた鎌に対し、臆する様子など微塵も見せず鎌を避けた少年は反撃の一撃のみで自分の倍以上の大きさの大男を地に沈めた。

 

 大男を沈めた少年、冬空吹兎(ふゆぞらふきと)は普通の人間ではなかった。少年は幼少の頃から周りの人間と違い、満たされぬ空腹に常に悩まされてきた。だが周りのように盗みを働くという意思は持たなかった。そもそも商店などまともになく、盗んだところで吹兎の腹が膨れる量を確保する事などできなかったのだが。そこで吹兎は山に入り獣を狩り、川の水で喉の乾きを癒しながら命を繋いできた。今日はこの街を離れるために山からおりてきたのだった。大型の獣を軽くあしらう実力のある吹兎にとってはただ図体がでかいだけの大男など敵ですらない。吹兎の武芸に街の人間は驚愕するがそんな事など気にせずに吹兎は先に進む。

 

 死神。その存在は前から知ってはいたが自分が死神になろうなどと思ったのはつい先日の事だった。

 「昨日の猪はうまかったなぁ。」

竹で作った水筒に入った水を飲み、今日も空腹を凌ぐために山を歩く。流魂街の人間が空腹のあまり餓死するかどうかは知らないが、どちらにせよこの耐えられない苦痛から逃れるために取れる手段は一つしかない。肉を食べた時、空腹が収まっていく時に身体の中で感じるものを手足に纏わせることで攻撃の威力が上がって獲物をより楽に倒せる事が分かった。…もっともその攻撃をした時はいつもより腹が空くんだけど…。空腹を凌ぐための行動なのにその行動によってより空腹が進むという矛盾に頭を抱えるが、思考を切り替えて獲物を探そう。そう考えていた時だった。

「ウォォォォ!!」

この世のものとは思えないおぞましい悲鳴が辺りを包む。

「何だ?今のは。」

聞いたことのない獣の声。いやそもそも獣の声なのか?もしかすると今までに出会ったどの獣よりも大きく、この空腹を癒してくれる存在かもしれない。そんな好奇心で声の元へと進んでいったのが間違いだった。

 声の元に辿り着くと仮面を被った化け物(後に虚と知るが)と男の死神が戦っていた。その化け物のあまりの不気味さに背筋が凍った。その存在に対する恐怖が足を止め、息を乱し、思考を中断させた。

「うあああああ!!」

虚は僕と目が合った瞬間、それまで戦っていた死神には興味を失ったというように一直線に僕に襲いかかってきた。

「おい!逃げろガキ!」

死神は僕に叫ぶが恐怖で足が動かない。口を大きく開けた虚が更に近づいてくる。嫌だ怖いキモい…死にたくない。

「ッ!クソッ!」

虚の攻撃に最後の足掻きで目を閉じていたが未だ痛みはない。そっと目を開けると死神が僕を庇ってくれていた。大量の血を流して。

 「ど、どうして…。」

「死神はなぁ…。護るものなんだ…。理不尽に奪われる人間、流魂街の民達を虚から護るために…。」

溢れる血と共に死神は言葉を続ける。

「俺たちは護るためにこの刀を振るい続ける。俺もガキの時に虚から死神に助けてもらったんだ。それから…」

そう続けようとしたが死神はそこで気を失った。死神の血溜まりが広がっていく。

「ウォォォォ!!」

しかし虚はまだ滅んでいない。自分のせいで死神も既に戦闘不能に追い込まれている。やるしかない。自分をこの人を護るためには。

「お借りします。」

武器など持っていなかったので死神の刀を拝借する。その刀に触れた瞬間、自分の身体の中から力が溢れてきた。

「な、何だこれは?」

何がどうなってるか分からない。しかし考えるのは後だ。目の前の虚を倒す。

「はああああ!」

腕が死神の腹から抜けずに動けないでいた虚を死神から借りた刀、斬魄刀によって両断した。

 




 こんにちは〜ハンバンパンです。初めてss書いてみました。機能とかも全部わかってないので何かあったらここの先輩方、教えてください!


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2話 故郷を離れて

 仮面が割られ、虚が消滅していく。生前の罪が斬魄刀によって洗い流されていくのだ。

「よ、よくやったぞ少年。」

気絶していた死神が意識を取り戻し、僕に話しかける。呼び名がガキから変わっているのは…

「命の恩人の事をガキだなんて呼べるかよ。」

死神は相手の考えてる事が分かる能力でも身につけているのだろうか。

「俺の名は車谷善之助。お前の名前は?」

「吹兎、冬空吹兎です。」

「そうか。いい名前だ。」

それから死神、車谷さんは色々と話してくれた。彼は護廷十三隊の十三番隊に所属している、とか。まだ新人の自分によく目をかけてくれる副隊長がいる、とか。そんな当たり障りのない事をひととおり話し終えた後で車谷さんは咳払いを一つする。それが本題を話し始めるまでの区切りだという事も車谷さんの様子からすぐに察した。

「吹兎、お前は死神になるべきだ。」

 

 「吹兎、死神になるべきだ。」

俺は迷わず銀髪の顔の整った少年に、吹兎にそう言った。虚に一撃貰ってから、意識が混濁していたが吹兎が俺の浅打で虚を倒したところは見ていた。流魂街の民が虚を倒すなんて考えられない。霊術院では学年で常にトップで自分のことを選ばれたエリート死神だと思っていたが、十三隊に入ってからすぐにその考えを改めさせられた。上には上がいる。志波副隊長や浮竹隊長の実力など自分如きでは理解する事すら難しいだろう。一人称もそれまでの俺様が恥ずかしくなり変えた。吹兎が俺の斬魄刀を手にした時、彼の中のリミッターが外れたのか爆発的に霊圧が跳ね上がった。自分など比べ物にならないほどに。上位席官の霊圧にも届くだろう。隊長や副隊長のような人間は吹兎のような人間なのだろう。そもそもの物が違う。それに吹兎が虚を倒す時、彼の護る意志というものを感じた。流魂街の少年に護られる対象と見られている事は恥ずべき事なのだろうが…。彼は霊力と護廷の心を持っている。彼は死神になるべきだ。

 

 車谷さんから死神になる事を勧められて僕は考えていた。救護の人に迎えられた時、車谷さんは瀞霊廷の近くまで連れていこう、とか上司に話を通しておこうなどと言われたがそこまで僕一人のために手間を取らせる訳にもいかないと思い、断った。瀞霊廷の近くまで行くのも修行ですと言ったら納得してくれた。今の底辺からの生活から抜け出すため、何かを護る力を手に入れるため、死神にならないという選択肢はなかった。死神になるためにはまずここから瀞霊廷の近くまで移動する必要があった。集める荷物などほとんどないが、長年用いた竹の水筒と数日凌げる程度の食料を手に僕は山からおりた。そこで大男に絡まれる事となる。

 

 西流魂街80地区、叫喚。一応の僕の故郷だ。ずっと山で過ごしていたり、地獄のようなこの街から早く離れたいと常々思っていたが、いざ離れるとなると意外にも切ないものである。最後の機会だ。この街の思い出にでも浸るとしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子どもが嬲り殺されてても何の反応も示さない周囲の大人。盗みは相手にバレないようにするのではなく堂々と強盗。綺麗な水など無に等しく泥水をすする毎日。

 

 

 

「…。」

切なさなど一瞬にして吹き飛んだ。




 という事で吹兎に死神になるきっかけを与えた男死神さんの名前が判明しました。車谷さんです。イモ山さんです。アフさんです。ていうか、重霊地である空座町を任せられていたりするので本当にエリート死神だと個人的に思ってます。始解もできますし。唯一戦闘した相手が崩玉藍染なのかわいそう…
 
 彼はまだ新人隊員なので当然始解もできません。入隊して霊術院とレベルが全く違う様子を見てプライド折られてる状態です。いわば綺麗なアフさん、イケイモ。


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3話 イヌヅリチェイス

 こんにちは。ハンバンパンです。作中での原作改変ポイントはあとがきで書きますので本文で疑問に思うことがあってもひとまずスルーして頂ければ幸いです。もし後書きに書いてないのに原作改変なとこがあったら多分自分が見落としてるので教えて下さい。


 叫喚を出てから暫く経つ。僕はあの街から外に出た事がなかった。流魂街は瀞霊廷をぐるりと囲むように存在しており、東西南北の4地区に分けられている。そしてその地区ごとに1から80の地区に分けられている。叫喚は西流魂街80地区にあるので僕は単純に番号が小さくなる地区の方向へと進むだけのはずだった。しかし進むが一向に地区の数が減らない。一体なぜなのか。疑問を抱いていたがその街の名前を知るに、僕の疑問は解消された。

 

 

 

 

 

 

南流魂街78地区、戌吊

 

僕は進むべき方向を間違えていたみたいだ。

 

 戌吊に入って暫く歩いていると一人の男が武器を持って子ども達を追いかけていた。子ども達はいづれも水の入った樽を持っていた。泥棒だろう。治安が悪い地域ではよく見る光景だった。(叫喚ではそもそも盗みは相手を殺してから盗るという概念なので逆に泥棒に追いかけられるという現象が起こっている)周りの人間もこれが日常の光景であるため特に騒ぎ立てる事もせずただ傍観していた。それは叫喚の時にも感じたあの視線だった。

「ここで見捨ててしまえば僕もあいつらと同じだな。」

 

 「おい、待てコラァ!」

逃げている。水を盗んでいた自分と同じくらいの年齢の子ども達がいたので助けようと水売りの男を攻撃した。しかし水売りの男は私の攻撃をいとも簡単にかわし、私に一撃を入れてきた。力の差を知り、今はその子ども達と水売りの男から逃げている。

「やっと、追い詰めたぜ。」

水売りの男はそう言う。事実私たちは路地の行き止まりに追い込まれた。ここまでか。

「どうしたんだ?」

凛とした声が路地に響いた。

 

 「す、済まぬ。」

僕はなけなしの金で、彼らが盗んだ水を買い取り、子ども達に渡す。水売りの男は悪態を吐きながら帰っていった。目が大きな少女は申し訳なさそうに謝ってくる。

「へ、サンキューな。でも俺たちだけで逃げ切れたんだ!」

しかし赤髪の少年には気に食わなかったようだ。

「逃げ切れた、逃げ切れないの話ではない。水を盗み、追いかけられた。顔つきの悪さは無視してあの水売りが正しい。逃げる事も、ましては攻撃する事もするべきではない。」

「そんな事言ったって、そうでもしねぇと俺らは生きていけねぇから仕方ねぇじゃねぇか!」

赤髪はそう言って僕に反論してきた。その気持ちはよく分かる。

「僕も同じような地区出身だ。君が言いたい事もその感情も分かる。人の物を盗むことは悪い事だ。しかし盗みをしなければ生きていけない。勿論悪い行動をしなかった結果、命を落とす結末になるのを肯定する事はできない。他に仲間がいるのなら尚更ね。」

彼らだけが生き延びるためだけの水の量ではない。おそらく他にも仲間がいるのだろう。まだ幼く無力な子どもなど。こういった貧しい地域では大人に対抗するために子どもが共同で暮らすなどよくある話だ。(叫喚では子どもも問答無用で殺されるので共同生活するだけの子どもがまずいないのだが)

「生きるために悪の行動を起こす者を責める事は難しい。だがその行動を自分で肯定する事は間違っている。自分の心には嘘はつけない。嘘をついてみたとしてもその内その嘘に自分が塗り固められてしまう。」

赤髪の少年も先ほどまでの威勢はなく、僕の話を聞いてくれる。彼は口調や見た目は荒々しいが、実は心は純粋なのかもしれない。

「盗みの善悪までも本心で判断できなくなればその先、君たちの末路は…」

僕は後ろを振り返り、続ける。

「あの汚れた大人達だ。」

 




 今回は原作改変ポイントはなかったかな?ああ、あったか。水売りのおじさん強化。原作ではルキアにボコボコにされましたが今作ではこの時点のルキアよりも強いです。

 実際、貧しい人間からしてみれば吹兎の言う事は上から目線の詭弁に過ぎないんですよね…。自分たちのせいでこうなった訳じゃなく、環境のせいでこんな生活を強いられている人たちからしてみれば先の自分の事よりも目先の事に意識が向かうのは当然だと思っています。本当に腹が減ったら食事の事しか考えられません。小説の構成とか考えられません。ただルキアと恋次には清い心を持ち続けて欲しいのでこの場面を入れました。まあ原作でも彼らは素晴らしい人間ですので蛇足感ありますが…。吹兎とルキア恋次の出会いの場面を書くためにやむなく…(突然のメタ!)

次回もよろしくお願いします。


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4話 最初の別れ

こんにちは!ハンバンパンです!今日で一応戌吊編は終了です。道、とか別れとかは一応吹兎君のテーマですのでそういう類の言葉が出てきたら少し注目してみて下さいね!それでは!


 僕は目が大きな少女、ルキアと赤髪の少年、恋次らと共に彼の仲間の子どもたちの元へ水を届けに行った。そこは十数人の子どもたちが共同生活をしていた。

「あ!恋ちゃんが帰ってきた!」

「恋ちゃんが水を持ってきてくれた!」

そう言って子どもたちは恋次の元へと集まってくる。ここでは恋次が彼らのまとめ役なのかもしれない。恋次は水に加えて金平糖を子どもたちに公平に配る。その際、恋次は僕に対してどこか申し訳なさそうな、若干の罪悪感を顔に浮かべていた。あれも盗んだ物だろうか。さっきの僕の発言の影響か…。

「おい、いいじゃねぇか。少しくらい。」

「あ、うああああん!」

年上の青年がまだ幼い少年の金平糖を取り上げた。子どもたちの中の集団ですら弱肉強食なのか…。いや子ども達の中だからと言うべきかもしれない。青年の言い分は少年は腹が減らぬので自分に渡しても構わないじゃないか、だそうだ。

「腹は減らずとも味なら分かる!」

青年が少年に対して得意気な顔をしている中、ルキアが青年が持っていた金平糖の袋を横からひったくる。

「第一、ここの人間は誰一人として腹など減らぬだろう!」

しかしルキアと青年が揉み合ってる最中、少年の金平糖の袋が弾けてしまう。

「済まぬな。私のこれをあげよう。」

それをみて泣き出してしまった少年にルキアは彼の頭を撫でながら自分の金平糖を渡した。この貧しい地域では子どもすらも自分の事で精一杯だ。しかしルキアと恋次はどこか違うのかもしれない。

 

 「僕は死神になる。」

私が金平糖を奪われた少年に渡して騒動がひとまず収まった後、私と吹兎と恋次は近くの川辺で談笑していた。その時、自己紹介やこれからどうするのか、などを話していた時だった。

「僕はこのお腹が空かない世界で空腹を感じる。でも虚なんていう化け物に襲われた時に死神の人が言ってくれたんだ。」

吹兎は死神になるために瀞霊廷を目指しているという。その途中で戌吊に立ち寄り、私たちに会ったのだそうだ。

「だけどせっかく会って友達になったルキア達がまた盗みをして追いかけられるのも嫌だしな…。だから水の入手方法とかもしお腹が空いた時のためのちょっとした食料調達法を教えとくわ。」

 

 僕は山暮らしの経験から自分の食料程度なら商店で買わずともある程度調達する事ができるようになった。(山があれば)幸いこの戌吊にも山はあるので教えればルキア達ももう大丈夫だろう。川の水が汚かった時のための簡単な濾過の方法も食べれる草の選び方も教えた。キノコは見極める事さえできれば貴重な食料源になるので徹底的に教えた。もう大丈夫だろう。

「明日にはもう行ってしまうのか…?」

ルキアが寂しそうに尋ねてくる。

「まあな。ルキア達に食料について教える事は全部話したし、瀞霊廷の方にまた向かうよ。」

「そうか、寂しくなるな。」

たった数日だったがルキアと恋次は僕にとって初めてできた友達だ。寂しい気持ちがないと言えば確かに嘘になる。

「だけど最後って訳じゃないんだ。僕が死神になれば戌吊にも何らかの仕事で来れるかもしれないし、休暇ができたら遊びに来るよ。」

そう、また会える。お互い生きてさえいればいずれ再開する事はできる。別れた道もいつか交わる時がくる。

「そういや、今まで僕の霊圧見せた事なかったね。」

そう、僕は車谷さんに言われてから山にいる間、瀞霊廷への移動中、滞在中に自分の霊力のコントロールをする修行をしていた。移動中はひたすら霊圧を抑える訓練。そして少し腰を落ち着けたら霊圧を増幅したり身体の各部分に集中させたりする訓練だ。今日の訓練がまだ終わってなかったし丁度いいだろう。

「じゃあ恋次達も呼んできてくれないか?」

 

 「よし、じゃあ始めるぞ。」

そう言い、まずは自身の霊力の枷を少しずつ外していく。半分ほど外せれば準備完了。霊力を半分抑えながら次は霊圧コントロールだ。

「初めて見るならこれが分かりやすいかな?」

右手を皆から見えやすいようにしてからそこに霊力を集中させる。すると目に見えるように霊圧の球体ができ、それをどんどん大きくしていく。

「おおー!」

人に初めて見せた訓練で気持ちのいい反応が返ってきて満足する。子ども達からの拍手を合図に霊圧の出力を下げ、霊圧の球体も消滅する。訓練終了だ。

「じゃあそろそろ行くわ。」

そう言って僕はルキアや恋次達に別れを告げて次の街へと向かう。その時僕は気づかなかった。僕の霊圧を受けてルキアと恋次に変化が起きていたという事を。

 




今回の原作改変ポイント
・ルキアの空腹のきっかけが戌吊出身で黒い駕籠に乗った死神じゃなくて吹兎だった。恋次はあの時って感じじゃなかったしいつだったんだろう?

次回もよろしくお願いします!


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5話 後悔という名の絶望

気温も暖かくなってきて、春が訪れたという実感が持てるようになってきました。


昼寝が気持ちいい季節の到来です


 流魂街は東西南北の4つに分かれていて、またそれぞれに1から80までの地区に分かれている。1に近いほど瀞霊廷に近く治安もいい。数字が大きければその逆である。僕の故郷、叫喚は80地区である。ただ地区ごとの格差が常に一定、なんて事はない。80地区と78地区の差が49地区と50地区よりも大きいという訳ではない。流魂街は50を堺に大きく街の雰囲気が変わる。

 

 ー西流魂街49地区、朧ー

 

 僕はいきなり異国に飛ばされたかのような衝撃を受けた。

 

 

 49地区に入ってまず道路の舗装が変わった。人々も草履を履き故郷のようにあちこちで暴動が起きることもなく社会が機能している。

「おじさんが言ってた宿ってのもこの街ならあるのかな?」

前に立ち寄った街で旅をしているというおじさんから色々な話を聞いた。なんでも安心して寝る環境を提供してくれる場所があるらしい。これまでの道中で必要に応じて雑用を手伝ったり、依頼を受けたりしているので一泊する程度のお金は何の問題もないだろう。正直に言うとワクワクしている。

「すみません、ここらに宿屋はありますか?」

僕は近くの男性に宿屋の場所を尋ねた。男性は親切に答えてくれた。やはり故郷とは違う。ここから少し離れてはいるが少し小さな路地を歩けば近道になるらしい。男性に礼を言ってから僕は宿に向けて進む。

 

 「…。」

男が宿への近道という狭い路地を歩いていた。流石に先程の道よりかは寂れており、気味悪がってなのか人通りも少ない。(叫喚のメインストリートよりも遥かに綺麗で整然としているが)路地を歩いていると女性が倒れていた。それだけなら迷わず助けに入ることだろう。だが僕は一瞬足を止めてしまった。困惑していたのだろう。なぜ彼女がここに?

 

 

 

 

 

 

「おい!ルキア大丈夫か?!」

 

戌吊で出会ったルキアが倒れていた。

 

 

 私は償いきれない罪を背負っています。ここよりも治安の悪い戌吊という街に共に流魂街に送られてきたまだ生後間もない妹を捨てたのです。生きるためには仕方ない、自分の事で精一杯なのは当たり前と周囲の人間からは励まされましたが私は胸の奥でどうしようもない罪悪感に苛まれておりました。まるで心にぽっかりと穴が開いてしまったような。私は罪悪感に耐えられず今日もルキアを一日中探しまわっています。最初に向かったのは勿論ルキアを捨ててしまった場所です。しかしルキアはどこにもいなかった。たった数刻、されどその数刻はこの戌吊という街で子どもが一人で過ごすにはあまりにも過酷な地です。私は我が身かわいさで取り返しのつかない事をしてしまったと自覚しました。もう一度ルキアに会って謝りたい。これはルキアが望んでいる事ではないでしょう。ルキアは自分を捨てた姉の顔など見たくもないでしょう。いや、そもそも私にはルキアの姉を名乗る資格などないのでしょう。私はどこまで利己的な人間なのか。そんな自分が、私は嫌いです。

 戌吊を探し回りましたがどこにも妹はいませんでした。もしかするとより治安の良い場所に移動したのではないか?ある日そう気づきました。しかし戌吊から移動したのであればこの広い流魂街。広大な砂漠から一粒のダイヤモンドを見つけ出すよりも困難な事です。しかし私はそれだけの罪を犯したのです。これが誰のためにも、ルキアのためにもならない贖罪だと頭のどこかで分かっていながらも私は歩き続けました。しかし限界がきたのでしょう。とうとう歩く力もなくなり倒れてしまいました。運悪くここは人通りの少ない路地、私もここまでなのでしょう。そう思っていた時…

「おい!ルキア大丈夫か?!」

凛とした声で、私は妹の名を呼ばれたのです。

 




 こんにちは。ハンバンパンです。自分も薄々感じていますが話進むの遅くてすみません。あと2、3くらいで霊術院に入学できるかな?そうしたいと思います。

次回もよろしくお願いします!


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6話 一夜の夢

主人公の一人称を俺にしようか悩んだけどやっぱやめとこ

投稿してからだいぶ時間も経っていましたので文体を現在の形に修正しました(1/4/2023)


 「ほ、本当にありがとうございます」

 

路地で倒れていたルキアの姉、緋真さんをとりあえず休ませるために宿に連れて行った。なぜ借りる部屋の数は変わらないのに料金が高くなるのか、解せぬ。

 

「そ、その…、助けて頂いた事には感謝しますがあまり変な事はしないで頂けると......」

 

「ルキアは僕の友達です。友達のお姉さんの財布をスリとったりはしないので安心して下さい」

 

緋真さんからルキアを捨てた、という話をされた時はつい怒りの感情を抱いたが、それ以上に彼女の後悔の念が伝わってきた。この人は自分のした事の非を素直に認めて償いをしているのだ。自分の非を素直に認めることができる人間は少ない。まあ育ってきた街の人間の事しか知らないのだが…...。緋真さんは僕ほど暴食という訳でもないが若干空腹を覚えるらしい。彼女も霊力持ちなのだろう。食事を振る舞うと美味しそうに食べてくれた。

 

「つい先日、僕はルキアと知り合って友達になりました。まだ彼女達が住むところを動いてなかったら彼女の場所も分かります」

 

そう言うと緋真さんは目を丸くした後、嬉しそうに涙を流した。

 

「他人の僕が言うのはお節介にしかならないと思いますが、緋真さんが自分の本音をきちんと伝える事ができれば貴女の事も分かってくれると思います」

 

そう言い終わると彼女も笑顔を取り戻す。彼女と出会ってからまだ間もないが、僕たちはお互いの事を安心できる、信頼できる人間だと理解した。僕も彼女も、雰囲気に流され気恥ずかしい言葉を発したため少し気恥ずかしい雰囲気が場を支配する。

 

「よし」

 

僕はゆっくりと立ち上がり、今日はもう遅いし、早く寝ようと誘った。

 

 

 そう、僕は早く寝たかったのである。一刻も早く灯りを消して床の間に入る。綺麗なものに身体を預け、弾力のあるものを抱きしめその感触を楽しむ。布が擦れる音が客室に微かに響き、ほのかに香る石鹸の匂いが僕の鼻腔をくすぐり興奮の度合いは強くなる。生まれてこの方味わった事のない感覚に全神経を集中させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが僕の人生初めての布団&抱き枕との出会いだった。

 

ーーーーーー

 

 そこはいくつもの分岐点が折り重なる道。その大きな道の真ん中に少女は立っていた。彼女がどの分岐点を選ぶかでその未来は変わってくる。その分岐点の先に彼女の未来があるという事。しかし彼女はどの道を選ぶのか未だ決めかねている。一つの道を選ぶということはその他の道と別れる事を意味する。

 

一つの道を進むということは、その他のあり得たかもしれない未来を捨てる事を意味する。その選択を彼女は自分ただ一人でしなければならない。この空間には彼女一人しか存在せず、仲間の意見に身を委ねる事はできない。他と同調する事は許されない。彼女はこれまでの分岐点も他人の助けなどなく選んできた。

 

「冬空吹兎......」

 

一体いつになれば私は彼に会うことができるのだろう、一体いつになれば本来の私の姿で彼の元に還れるのだろう、と彼女は物思いに耽る。吹兎が死神の斬魄刀を手にした時、同時に彼女の自我は芽生えた。そして彼の異質な霊圧によって彼女は()()()()()()()()の道筋があると悟った。だがその領域に彼が足を踏み出してくれるのはまだ先の事だろう。

 

 

 

 

 朝の日差しで目が覚める。普段は日の出前には既に起床し。鍛錬や行動を開始していた。日が出るまで横になっていたのはいつぶりの事だろう。

 

「吹兎さん、おはようございます」

 

緋真さんは既に自分の布団を畳み終わっていた。

 

「すみません、少し寝坊しました」

 

「いえいえ。私が起きるのが少し早かっただけですので、気になさらないで下さい」

 

緋真さんと言葉を交わし、朝食の準備に僕らはとりかかる。

 

 

 

 

 緋真さんに戌吊の中のルキア達の場所を書いた地図を手紙と共に渡した。こういう機会がないと手紙なんて渡せないし、手紙って貰うと嬉しいからね(貰った事ないから妄想だけど)恋次達は確か文字が読めなかったけどルキアが読んでくれるだろう。昨晩倒れた緋真さんを一人で戌吊まで行かせるのは流石にどうかと思ったが緋真さんから強く大丈夫だと言われてしまった。

 

倒れていたところを助けてルキアの場所まで教えてもらったのにこれ以上迷惑をかけたくない、と。僕はそんな事はないと思ったが口に出す事はできず、気をつけてと言って別れるしかなかった。

 

 一日、宿で休んだからか身体が元気溌溂としている。今日はより先まで移動する事ができるかもしれない。僕は西流魂街49地区、朧を後にした。




こんにちは、ハンバンパンです。もうあと二、三話で霊術院入りして物語も動き出すと思います。吹兎君は長年山で暮らしていたのでそういう(R-18的)知識もなく純粋であるという設定です(今のところ)

この小説書くときに少し検索してみたんですけど、緋真さんアンチって結構いるんですね。まあ確かに妹捨てるのはあかんですが...環境が環境ですし、本当に酷い人間は自分がした事を忘れるか正当化する人なので......

まだ記憶には残らないけど彼の夢に出てきた彼女は誰なのか?(まあもう分かった方も少なくないと思いますが...)

次回もよろしくお願いします。


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7話 プータロー

 西流魂街1地区、潤林安。それは1から80まで分けられている全流魂街の中で最も瀞霊廷に近い流魂街の地区の一つである。治安は整然としており経済も発達している。その街の中、

「はあ、厄介な事になったな…。」

僕はとぼとぼと、これからどうしようかと考えながら呆然と街を歩いていた。数刻前に話は遡る。

 

 

 僕は長い旅路を終えてついに瀞霊廷に一番近い流魂街の地区に辿り着く事ができた。街並みは同じ流魂街ながら故郷の叫喚とはあらゆる意味で異なっていた。どの流魂街の地区に住まわされるのかは尸魂界に辿り着いてからランダムで決められるので改めてその理不尽さを噛み締めた。

「さて、とりあえずまずはどこかの死神さんにでも霊術院の試験会場の場所を尋ねるとしますか。」

僕は霊術院の試験会場が瀞霊廷にあるという事しか知らず、細かい場所は知らなかった。だがここ潤林安は瀞霊廷から最も近い流魂街の地区の一つ。死覇装を着た死神を街のあちこちで見る事ができた。

「あの人にでも聞いてみようか。すみません。」

僕は門の前に立っている大男の死神に話しかけた。

「オラになんかようだべか?」

「死神になりたいので霊術院の試験を受けたいんですけど、どこに行けば受けられますかね?」

「ん?霊術院の試験会場ならこの先にあるが…」

大男はそう言って後ろの門の先を指さす。

「ありがとうございます!」

しかしその門番さんは門を開けてくれない。

「あの…、門を開けて貰えないと行けないんですが…。」

これが噂に聞く新人いびりなのだろうか。

「もしかしてお前え今日が何日か知らないだべか?試験は昨日終わったべ。だから来年までは霊術院の入試は開かれないべ。だから通行証のないお前えを通す事はできないべ。」

「えっ。」

「じゃあまた来年受けに来るだべよ。試験の受け方とか知ってるだべか?」

門番の大きな死神、兕丹坊さんはそれから霊術院の詳しい試験の受け方、どんな内容が求められるのか、などを教えてくれた。しかし僕にはそれよりももっと考えなければならない課題ができた。試験まで残り一年ほど、ここまでの道筋で依頼などを受けてお金はそこそこあるが一年凌げる程ではない。更に道中の食料は自分で調達していたからこそこれだけのお金でやってこれたのだ。しかしここ潤林安ではそれはできない。なぜなら…

 

 

 

 

「山がない…。」

そう、この栄えた街には自然が、そして山がなかった…。更に経済が発展しており、死神も近いこの街では無名の僕が引き受ける事ができるような依頼などないだろう。

「お仕事探さないと…」

死神になるためにやってきて、最大の試練は勉強でも修行でもなく職探しだった。

 

 




 兕丹坊さんのセリフのお前え、は送りがなミスってる訳じゃないです。原作でもこんな表記でしたのでオサレ神リスペクトです。

 次回もよろしくお願いします!


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8話 休憩室

 「それじゃ、ここは任せたよ。」

「分かりました店長。」

僕は兕丹坊さんに出会ったあの日、空腹に耐えるため、死神になるために流魂街の街を「ここで働かせてください」と書かれたプラカードを持って歩いていた。すると程なくして親切そうなおばあちゃんが声をかけてくれた。それから今はそのおばあちゃん、店長がやっている服屋で働かせてもらっている。服屋で働く従業員がボロボロの着物を着ていては客が来ないという理由から入店した時に一式の着物をプレゼントしてもらった。あなたは観音様か、即身仏になるくらいまで長生きして下さい。ホワイトな職場に衣食住を保障され、夜間は死神になるための勉強の毎日。死神の戦闘技能には主に斬魄刀による剣術の斬術、霊圧を手足に集中させて行う体術の白打、瞬歩など霊圧を足裏に繊細に集め行う移動手段の走法、鬼道の4つがある。斬術は斬魄刀がないので木刀による剣術、白打、走法は日常行っている霊圧コントロールで鍛えてきた。そして僕は昨日、鬼道を鍛えるための方法を掴んだ。

 僕が普段通り店で接客をしていた時、

「いらっしゃいませ、あ、兕丹坊さん!」

来店してくれたのは親切に色々と教えてくれた兕丹坊さんである。

「ん?ああ、お前えかぁ!どうだぁあれから頑張ってるだべか?」

「はい。店が終わった後に勉強と修行をやってます。」

「そうか、それは感心だべ。何か困ったことがあったら遠慮なく言うだべよ。」

「ありがとうございます。それなら一つ、尋ねてもいいですか?」

そう言って僕は鬼道の修行法を兕丹坊に聞く。何も情報がなければ修行のしようがないのが鬼道である。

「鬼道とかは霊術院に入ってから教わればいいと思うが…」

「勿論霊術院に入るために霊力の修行も怠りません。ですから少し知恵を貸してくれませんか?」

そう言い僕は頭を下げる。

「そうか…、ならここら辺じゃ鬼道が一番うまい人に話を通してやるべ。その人もお前えに興味あったらしいし。」

 という話を昨日され、今日店が終わる頃に兕丹坊が来るようだ。

「どうしたの?冬空くん、少しニヤニヤしてるけど。」

横から僕に小首を傾げながら聞いてくるのは店長の孫娘の雛森桃さん。たまに店長の手伝いとして一緒に働く。彼女目当てなのか、彼女が店に顔を出している時は男性の客が多くなる。普段は女性客の方が多いはずなのだが。

「今日の店番が終わったらちょっと用事があったので。表情に出てると接客の印象悪くなるから気をつけますね。」

頬を揉みながら表情を落ち着かせていく。そうだ、今は接客中、仕事中だ。今は目の前の事に集中しないと。僕は来店なされたお客様に笑顔を浮かべた。

 

 

 

 「あ、桃。明日店に入ってくれんかのぉ?」

「え、お店?いいよ!」

おばあちゃんとシロちゃんと一緒に食卓を囲んでいるとおばあちゃんから声をかけられた。

「明日から新人が入ってくるからの。仕事のやり方とか教えてくれんか?今日腰をやってしもうてな…」

「そういえばその腰でお家までどうやって帰ってこれたの?」

今は座るのも痛いのか寝転んでいるおばあちゃんに尋ねる。

「ああ、その明日から来てくれるという子におぶってもらったんよ。それで話をしてる時にその子が仕事を探しとるって言っとったけうちを紹介してやったんじゃ。」

そうなんだ、おばあちゃんを助けてくれたんだ。明日私もお礼言っとこ!

「シロちゃんはどうする?来る?」

「明日は店番じゃない日だ。そうじゃない時はあんまり外に出たくねぇ。」

ぶっきらぼうに私の方も見もせず返してくるシロちゃん。私も明日は店番じゃないんだけど…。

「分かった。明日は私一人で行ってくるね。」

 

 「冬空吹兎です。今日からよろしくお願いします。」

そう言って頭を下げるのはおばあちゃんを助けてくれたという冬空くん。短めに切り揃えられている彼の銀髪が少しシロちゃんに近いなと思った。

「雛森桃です。こちらこそよろしくね!私の事は桃でいいよ。」

それから私は冬空くんに一通りの仕事を説明した。彼は要領がいいのか、一回説明するだけで全てを理解してくれた。

「じゃあ実際に店に出てみようか、もうすぐ開店だし。」

「分かりました。」

 

 「ありがとうございました。」

冬空くんが笑顔を浮かべて接客をする。彼が店に立ってから数刻、女性客の比率が高まってきた。いつもは男性のお客さんが多いのに...。冬空くん目当て、だよね。綺麗な顔をしてるしやっぱり女の子達にモテるのかな?

「桃さん、どうかなさいましたか?」

じっと彼の姿を見ていた事に気づいたのだろう、少し気恥ずかしくなった。

「ご、ごめんね。私は倉庫から商品の補充に行ってくるね。」

私は逃げるように倉庫に向かう。

 

 「「お疲れ様でした!」」

冬空くんが来てからの初日の仕事が終わった。今は彼と一緒にお店を閉める作業をしている。

「そういえば冬空くんってお家は近いの?」

「僕は結構遠い地区から来たので潤林安には家がないんです。ですのでお店の休憩室で寝泊まりします。」

「お店の休憩室って結構狭いけど大丈夫?おばあちゃんとシロちゃ...もう一人男の子がいるけど。」

3人に加えて4人で住んだらお家も狭くなっちゃうけど冬空くんがかわいそうだし。

「いや、お店が終わってからちょっとやりたい事もあるのでここで大丈夫です。気にかけてくれてありがとうございます。」




吹兎と桃は両方、自分の容姿が優れている事に気づいてません。ただ吹兎は桃の、桃は吹兎の容姿が優れている事に一分の疑いも持っていません。

また今の段階では桃は吹兎のことを恋愛的な目で見てはいません。ルキアもです。個人的に一目惚れとかはあまり好きではありません。

次回もよろしくお願いします!


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9話 封

すみません、ちょっと体調崩してて更新遅れました(コロナではない)


 「おっすぅ、吹兎ぉ。待たせたなぁ!」

店の営業が終わり、後片付けも全て終わってくつろいでる中、兕丹坊の明朗な声が店に響く。

「冬空くん、死神さんが呼んでるけど。」

「桃さんありがとうございます。兕丹坊さんも今日はよろしくお願いします。」

「んじゃ、家も遠いし早く行くべ。」

「分かりました。それじゃ桃さん、また明日、お疲れ様でした。」

「う、うん。またね!」

 

 僕は兕丹坊さんの後ろを走って街を駆けている。なんでもその家はここから遠いところにあるらしく走って移動しているらしい。既に街からはかなり離れており、家も店も近くには何もない。

「そろそろ見えてくるべ。」

「…。」

「あれがお前えに興味持ってたっつぅ志波空鶴さんの家だべ。」

なんだあれは…。屋敷の両端で天にも昇るような巨大な両腕の石像がガッツポーズしている。

「お、前回とまた腕のポーズが変わってるべな。」

なん…だと…。もしやあの腕を部屋の模様替えみたいに何回も変えているのか…?そんなの…

 

 

 

 

 

 

「カッコ良すぎるだろぉぉぉぉ!!!!」

 

 「おう!俺が志波空鶴って言うんだ!兄も叔父貴もいねぇからこの家で今一番偉いのは俺だ。まず俺の言う事は絶対聞けよ!」

「はい。僕は冬空吹兎と言います。よろしくお願いします!」

 

 

 ほお、兕丹坊の話を聞く限り霊力持ちとは思っていたがまさかここまでとはな…。周りの人間は気づいてないか。霊圧コントロールは既に平隊士のレベルを優に超えるな。この部屋に霊圧感知の鬼道を張ってなかったら俺も騙されたかもしれねぇな。

「おい坊主。今霊圧を抑えてるな?どれくらいだ?感覚的でいい。」

「ええと、とりあえず外に漏れ出さない程度に身体に薄い膜というか蓋をするイメージで抑えています。今が全体の何割か、と言うのは…全体量の霊圧量が分からないのですみません。」

「ほぉ?」

見た感じ霊圧知覚が鈍いタイプでもない。むしろ敏感な方だ。おそらく奴はこの部屋に何らかの鬼道が使われている事に気づいている。何の鬼道かは流石に分かってはないみたいだが。

「よし、合格だ。俺に着いてこい!」

こいつは伸びるぞ。

 

 

 「空鶴さん、彼はどうでしたか?」

「兕丹坊、お前も分かってるだろ?」

あれからこの家の修行場に奴を呼んで一通りの鬼道の講義と実演をした。そして奴は…

「三十番代以下の破道、縛道をたったの数時間でマスターしやがった。」

まだ詠唱や起動にムラこそあるが難なく発動できた時点で別格だ。だがそれよりも…

「気づいたか?兕丹坊。」

「勿論だべ。」

奴は霊力を使い、鬼道を発動すればするほどその霊圧量が増えていった。おそらくその絡繰りは…

「徹底的な自身の霊圧の封じ込め、だべな。」

鬼道やおそらく技術開発局の機器なら測定できるだろうが、俺らからしてみれば…

「空鶴さん、あそこまで自分の霊圧を抑え込む事はできるかぁ?」

「無理だな。おそらく隊長格でもできる代物じゃない。」

いくら隊長格が霊圧を抑え込んだとしても相対して()()()()()()()なんて事はありえない。

「あれは霊圧を抑え込んでる訳じゃない。」

霊圧の出力を抑え込んでるのではなく、

 

「自分の霊圧に封をしている。」

 

 

 




原作改変ポイント
・ルキアが海燕を殺した時、岩鷲とかまだ小さい描写だったけど、空鶴も岩鷲も尸魂界突入編と同じくらいの年齢

こんにちは!ハンバンパンです!霊圧を感じないとありましたが、別に崩玉ヨンさまや無月一護みたいになってる訳じゃありません…。せいぜい今の吹兎の霊圧は下位席官クラスです。それでもやばいか...

原作はどうかは知りませんが、この世界では霊圧を抑えるというのはあくまで霊圧の出力を抑えるのみで、霊圧そのものを外に出さない事は不可能だという認識です。ただ吹兎の体内には霊圧はあるので注意してみたり、鬼道や機器を使えばしっかり認識できるので隠密に使えるという事ではありません。

次回もよろしくお願いします!


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10話 決心

 「き、綺麗…。」

今日のお店の営業が終わって、店を締めた後。おばあちゃん達が待ってる家に帰る途中で私は忘れ物をした事に気づいた。そしてお店の裏側で何色もの光の球に囲まれている彼、冬空くんを見つけた。

 

 

 「桃さんですか?」

今日は空鶴さんとの修行の日ではない。初めて行ってからもう数週間経つ。空鶴さんのおかげで鬼道の修行方法も分かり、こうして直接指導を受けてない時も鍛錬に取り組む事ができている。今は他種類の系統の鬼道を光に収束して浮遊させている。光の色が異なるのはそのためだ。いくらこの店の裏の空き地が人の目が少なく広いと言っても路地を一本挟めば店も民家もある。そんな場所で実際に鬼道を発動して威力の修行を行う事はできない。今は制御の特訓である。そんな中、もう家に帰ったはずの桃さんの気配を感じた。鬼道の出力を収め、彼女に話しかける。

「どうかしましたか?」

「今のすごく綺麗な光の球、どうやったんですか!!」

「うわっ!」

いつもの彼女らしからぬ様子で詰め寄られたので一瞬驚いた声を出してしまった。

「お、落ち着いて下さい桃さん。それと少し離れて。」

「あ...す、すみません!」

冷静になり自分の行動を客観的に見れたのか彼女は頬をぽっと紅くして俯く。

「ま、まあ別に謝らなくても大丈夫ですが...そうですね、今やってたのは死神が使う鬼道の練習ですね。」

「えっ?冬空くんは死神になりたいんですか?」

「はい。次の霊術院の試験を受けようと思ってます。店長から聞いてませんでしたか?」

「いえ、初耳です...。あ、それじゃあ...来年からお店出て行っちゃうんですか?」

「まあ、試験に合格したら、の話ですけどね。」

「...!そうなんですか...。」

「そういえばどうしたんですか?何か忘れ物でもしたんですか?」

「あ!そうでした。お店にちょっと...」

「じゃあ裏口の扉開けますね!ちょっと待ってて下さい。」

僕は近くの岩に置いておいた鍵を持って店の裏口へと向かった。

 

 

 「そっか... 冬空くん出て行っちゃうのか...」

私は忘れ物を取ってから家に向かって歩いていた。

「初めてできた友達だったのにな...」

シロちゃん以外にできた初めての同世代の友達。数週間彼の隣で働いていたけど、すごく楽しかった。私が何かミスをしてしまった時も冷静に対応してくれてすごく頼もしかった。しかしそれも残すとこわずか半年。

「おや、桃。おかえり。」

「あ、おばあちゃん。ただいま。シロちゃんは?」

私は家を見渡すがいない、もう一人の家族の事をおばあちゃんに尋ねる。

「ああ、冬獅郎なら大根を買いに行ったよ。」

「そ、そうなんだ。」

私の帰りが遅かったからかな。シロちゃんには悪い事したかな?

「どうしたんだい桃?」

「えっ?」

「何だか今日は少し暗いからねぇ。何かあったのかと思ってね。」

そんなに顔に出ていただろうか...

「じ、実は...」

私は冬空くんの事をおばあちゃんに話す。

 

 「そうか。そう言えば言い忘れておったな。ごめんのぅ。」

「いや、おばあちゃんが悪い訳じゃないしいいよ!」

「それで、桃はどうしたい?」

「...。」

初めてできた友達。彼と離れないためには私も死神になるしかない。でもそしたらおばあちゃんとシロちゃんは...

「私たちの事は気にせんでいい。冬獅郎と仲良くやっていくよ。それに死神になっても流魂街に帰ってこれない訳じゃなかろう?」

確かに。ここ瀞霊廷に近い潤林安では死神さんの姿を多く見る。

「私たちのせいで決心できないのなら大丈夫じゃ。桃、後悔せんようにな!」

そう言っておばあちゃんは私の背中をポンと叩いてくれる。

「ありがとう!おばあちゃん!」




おば「それで?吹兎の事、どう思ってるんじゃ?」ニヤニヤ
桃 「?彼はすごくいい人だよ!私の初めての友達だし!」ピカピカな笑顔
おば「そ、そうか...。」

一連の会話を壁の向こうで聞いていた冬獅郎「..................。」


次回もよろしくお願いします!


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11話 やはり異性の身体に触れる事はまちがっている

いつもありがとうございます。流魂街編は今回で最後のなります。あと今日の文字数はいつもより長かったかな?まあ他の人はもっと長い人もいるしいいか


 「よし!来たか。時間通りだな。今日は俺以外にも講師を紹介してやる。兄貴、来てくれ。」

もう慣れてきた志波家での修行。空鶴さんがそう言うと奥の襖が開き、一人の男性が入ってきた。

「おっす!俺の名は志波海燕だ。今は十三番隊の副隊長をやっている。今日、本当は叔父貴も来るはずだったんだがあの人最近忙しくてな...。まあよろしくな!」

それが空鶴さんに兄貴と呼ばれた男、海燕さんとの出会いだった。

 

 「いらっしゃいませ!」

志波家での修行と並行してお店で働く事も続けている。今日は桃さんはシフトには入っていない。仕事にも慣れてきて、最初は少しキツかった志波家との往復も走法のトレーニングも兼ねて随分と楽になってきた。

「ありがとうございました!」

女性客の会計を済ませてお見送りをする。今日もあと少しで店じまいの時間だ。今日は志波家に行く日じゃないから何の修行をしようか。

「あ、いらっしゃいま...」

新しいお客様の来店に思考が中断された。いや、中断されたのはそのお客様が誰かという事で...

「...む。ふ、吹兎か?」

来店されたお客様は戌吊で会ったルキアだった。

 

 「そうか。そういう訳で働いていたのだな。」

ルキアと別れてから今日までの大体の近況報告を済ませる。椅子に腰掛けて足を揺らしている彼女の様子は以前とあまり変わりがない。

「吹兎は今ここで暮らしておるのか?」

「ああ。」

あれから店の片付けも終わり、今は店の裏の休憩所にいる。布団と椅子程度しかない家具を訝しんでいるのだろうか。

「吹兎にまずは礼を言いたい。ありがとう。そなたのおかげで私は、姉様と会うことができた。色々あったが、やはり自分と血が繋がった者がいるのは嬉しくてな...」

「緋真さんか。会えたのならよかったよ。ところでその緋真さんと恋次は?」

「ああ、姉様と恋次はこれからしばらく滞在する場所を探している。私はこの街の情報を集めたりするためにこの店に立ち寄ったのだ。吹兎がおるとは思わなかったが...」

「俺もみんなと会ってみたいな。今日の仕事も終わってるし着いて行っていいか?」

「無論だ。みんなも喜ぶだろう。」

 

 「吹兎くん!」

「お!吹兎か!」

ルキアに連れられて潤林安で一番栄えている広場で緋真さんと恋次と再会した。

 

 

 「死神になりたいのなら吹兎に色々教えてもらうのはどうじゃ?」

私は彼の七色の霊力球を思い出す。

「そうだね。冬空くんにお願いしてみようかな。」

「なら早めに行った方がいいじゃろう。ギリギリに言っても吹兎も困るだろうしな。」

「うん!ありがとう!おばあちゃん!」

私は彼が今日も修行しているであろうお店の裏側の空き地を目指した。

 

 

 「そうか。ルキアも恋次も死神を目指すんだね。」

「「ああ!」」

「ルキアも恋次くんも吹兎くんと会った頃くらいからお腹が空きだしたらしくてね...。それに加えて私が渡した吹兎くんの手紙で死神になる事を決めたの。」

「まあ、そういう事だ。それは置いておいて吹兎、一つ頼みがある。」

恋次がいつになく真面目な様子で続ける。

 

「一晩俺らを泊めてくれ!」

 

 

 恋次にそう言われて彼らをお店に連れて行く。そんな大人数が寝れる場所もなく、そもそも僕の建物じゃないから店長の許可なく泊める事などできないが、それでも彼らを放置する事などできず、とりあえず連れて行ってる状態だ。

「着いたよ。」

「おう!ここが吹兎が今暮らしている場所なんだな?」

「ちょっと店長...この建物の所有者に聞いてくるから建物には入らないでここで待っててくれ。この空き地で普段修行してたりするんだけどね。」

それじゃ、と言って僕は店長の家に向かう。恋次達をあまり待たせたくないのもあって瞬歩を利用する。優しい店長のことだから多分オッケーなんだろうけど一応許可はとっとくのが礼儀だしね。

 

 瞬歩で店長の家に向かっている道中、僕は桃さんとすれ違った。

「あ!冬空くん!」

「桃さん。こんばんは。あ、今家に店長はいますか?」

「おばあちゃんならいるよ。何か用事があった?」

「はい。桃さんは買い物とかですか?」

店長の家は店長と桃さんと冬獅郎くんという桃さんの弟のような少年の三人暮らしだと前に聞いた。

「あ、いや...冬空くんに用事があったんだけど...家でいいか。じゃあ行こっ!」

「はい。分かりました。」

桃さんも連れて店長の家へと向かう。

 

 「なるほど。吹兎の友達も死神になりたいと思っていて店に泊めてもいいのか、という事か?」

「はい。」

「そうじゃな...普段ならそのまま許可するところじゃが...一つ条件を出してもよいか?」

「条件、ですか?」

「ああ。実は桃も死神になりたいと思っておる。じゃから吹兎、桃に死神になるための修行をつけてはくれんか?」

店長はそう条件を出してくる。桃さんの用件はこの事だったのかな?

「全然問題ないですよ!」

全く問題ない提案だったので即座に承諾する。

「じゃあ、友人に伝えてくるので失礼しますね。店長、ありがとうございます!」

「吹兎、ちょっと待ってな。まだ今日は早い。死神の入試までもうあまり時間もないし今日から桃に修行をつけてやって欲しいんじゃが。」

そう言って店長は桃さんと僕を見送ってくれた。

 

 「あの、友人さん達待ってるなら急いだ方がいいんじゃないかな?さっき冬空くんが使ってた高速移動みたいなの使おうよ!」

「えっ...」

桃さんの提案に一瞬思わず声が出てしまったが...まあ確かに、ルキア達を待たせるのもあまりよくないか。外で待ってる事だし。桃さんもいいって言ってるし問題ないか。

「じゃあ、失礼しますね。」

「えっ?あっ...//」

僕は桃さんを両手で抱えて霊力を足に集中、瞬歩を発動させてルキア達が待つ場所へと急いだ。

 

 

 「すまん、みんな。待たせたな。」

姉様と恋次としばらく待っていると吹兎がすごい早い速度で帰ってきた。頬を紅く染めた少女を両腕に抱えて...

「店長に話通したら許可もらえたからな。けど4人で寝たら流石に狭いだろうけど、それは勘弁してよな。」

「それは問題ないぜ。こっちが元々無理言ってるしな。」

「そうか、じゃあ行こうか。」

 

 吹兎が案内してくれた部屋は4人分の布団を敷くと寝返り一つ取れないくらいにいっぱいになった。しかしそれよりも気になる事が...

「吹兎。そちらの女性は何者なのだ...?」

私はずっと疑問に思っていた、未だ吹兎の両腕に抱かれている少女の事について尋ねた。

「ん?ああ、ここの店長のお孫さんの雛森桃さんだ。まださっきの瞬歩で弱ってるから勘弁してな?」

雛森と呼ばれた少女は頬を紅くしながらも、さっきの高速移動に耐性がなかったのか、吹兎の首に手を回してしがみついていた。側から見ればお姫様抱っこするナイトとそのナイトに抱きついている構図だ。

「じゃあルキア達はもう長旅で疲れているだろうし、早めに休んどけな?風呂とかトイレの場所はもう説明したよな?じゃあまた。」

「えっ?あっ、ちょっと待て吹兎!」

私は思わず吹兎の着物を掴んで呼び止めた。

「ん?どうしたルキア?」

「どうしたというか...吹兎はその雛森殿を抱えてどこに行くのか?」

「ああ。この桃さんも死神になりたいらしくてな?今日から修行をつけてくれと言われているから調子を取り戻したらさっきの空き地で霊力の修行をしようと思ってな?」

「そ、それなら!私の修行もつけてくれ!」

勢いで私は吹兎にあまり考えもせずに詰め寄った。言霊が口から出てから迷惑だっただろうか...と後悔した。

「ん?別にいいぞ。じゃあ準備しといてくれ。あ、一応恋次にも声かけといてくれな?」

「む、分かった。」

よかった。迷惑じゃなかったのかな...?

 

 

 桃さんも瞬歩ショックから立ち直り、ルキアと恋次も加えて修行場の空き地に集まる。

「さっきの瞬歩とか、死神の技能は色々あるけど...入試に合格するためにはいかに霊力が強いかどうか、が大切になる。だからまずは確実に入試に合格する程度の、欲を言えば一番上の特進クラスに確実に通るレベルの霊力をつけていこう。」

こうして僕たちは共に霊術院に通うための修行を始めた。




吹兎は恋愛的な意味でドキドキする事はまだないけど、知識として異性に触れる事は極力避けるべきだという事をお店の滞在中に学ぶ事ができました。

桃は吹兎の事がまだ恋愛的に好きにはなってないけど少し気になる程度。あと異性にシロちゃん以外まともに耐性がない上に初めての瞬歩でノックアウト

ルキアもまだ恋愛的に吹兎の事が好きにはなってないけど、自分の道を教えてくれて血の繋がった姉と再開させてくれて感謝している。そんな恩人が綺麗な女性を抱えてきたので親が自分に構ってくれない嫉妬と似た気持ちになってる


次回から霊術院編です!よろしくお願いします!!


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霊術院篇
12話 済まぬ侘助(始解はまだだよ)


今回から霊術院編です。よろしくね!


 真央霊術院。そこは元々死神統学院と呼ばれていた死神の学校である。院生はここで死神になるため日々、斬拳走鬼の基礎を学んでいる。そしてそこに入るために必要なのは学力や技術よりも霊力。いかに大きな霊力を持っているか否かが大きく入学に左右される。ここはそんな学校である。そして霊術院の中でも特に優れた霊力を持つ者、入試上位合格者は特進クラスというところに配属される。僕たちはそこにいた。

 

「まさか私たちが特進クラスに配属されるとはな。」

「これも吹兎くんのおかげだよ!」

「桃、そんな事はないよ。」

修行を通して、桃、雛森桃さんからルキアみたいに呼び捨てにしてくれと頼まれたので修行を始める前から呼び名が変わった。それと働いていた店の事だが、死神になる前の霊術院生は原則として夏、冬の休暇を除いて瀞霊廷から出ることはできない。お店は店長とシロちゃん? に任せる、と桃から聞いた。早く死神になって店長には恩返ししないとだな。

 

「はい、静かに。」

教室のドアが開き、メガネをかけた男性が入室する。

「私がこの1組、特進クラスを担当する佐々岡だ。まず君たちに一つ入学祝いのようなものがある。」

そう言って彼は教室の外から大量の刀を載せた籠を押して戻ってきた。

「これは死神が持つ斬魄刀、浅打だ。霊術院生諸君には一日でも早く斬魄刀との対話を実現してもらうために入学と同時にこの浅打を()()される。この浅打と寝食を共にし、後に説明する刀禅に励んで欲しい。では!名前を呼ばれた者から取りに来るように。」

 

初日は浅打を貰ったり、その他授業のガイダンスで終わった。僕たちは霊術院の寮に戻っていく。

 

 「お!俺は吹兎と同じ部屋か。」

壁に張り出されている部屋割り表に目を通す。多くは二人部屋であるが僕たちのところは...

「ああ、冬空、阿散井、吉良。このクラスの男子の人数は奇数でな。お前さん達は一部屋に三人入ってもらう。まあその分他の奴らより部屋は広いから文句言うなよ?」

壁に部屋割りを掲示した佐々岡先生が僕たちにそう言ってくる。

「んじゃあ、もう一人の吉良って奴に挨拶してくるか。行こうぜ!吹兎。」

 

「見つけたよ。君が冬空君で...君が阿散井君かい?僕は吉良イヅル。同じ部屋だから仲良くしてもらえると嬉しい。」

吉良と呼ばれる人間が誰か知らないから探しても意味はないと思ったのだが、恋次のいう通りに探し回っていると向こうの方から声をかけてくれた。

「それにしてもよく分かったなぁ。俺は探し回ってる間、そういや吉良って誰の事か分かんなかったのによぉ。」

「入学式の総代スピーチで冬空君の顔は知っていたからね。だから分かったんだよ。」

 

突然だが、僕は入試を首席で入学する事ができた。順位は

 

1位 冬空吹兎

2位 雛森桃

3位 戌吊ルキア

4位 阿散井恋次

5位 吉良イヅル

 

これを見た恋次が相当悔しがり、ルキアからは「たわけ、貴様が吹兎との修行をサボるからこうなるのだ」としたり顔で言っていた。修行始める前は恋次の方が霊力強かったから余計に悔しかったのかな?

 

兎にも角にもこうして僕たちの霊術院生としての生活が始まった。

 




原作改変ポイント
・霊術院の順位
済まぬ侘助...それとルキアは吹兎との修行のおかげで1組のメンバーです。

まあ霊術院に入学しても護廷の人間になるとは限らないから浅打は貸与なんだろうなぁ。これが死神にならずに流魂街に戻って、斬魄刀を振り回して流魂街の民を襲ったらたまらないし。じゃあそういう人間の浅打ってその後どうなるんだろう?再利用?でも人が使った浅打ってあんまり使いたくないよなぁ...斬魄刀って魂を写しとるものだし

次回もよろしくお願いします!!


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13話 乙女達の苦悩

徹夜状態で書いてるから誤字とかあるかも...堪忍な


 「...一本!そこまで!」

木刀を振り下ろすと一拍置いてから佐々岡先生が宣言する。

 

「ちくしょう、もうちょいいけると思ったんだがな...」

倒れた恋次に手を貸すと彼はそう言って返す。

「恋次は結構素直だからね。目線の動きとかもそうだし、剣筋も真っ直ぐだからね。もうちょっと騙す偽るってのをした方がいいかも。まあ、虚相手にそんなのが必要になるとは思えないから気にしなくていいと思うけど。」

「冬空くんやっぱりすごいね。鬼道も剣術も敵いそうにないよ。」

「何言ってんだよイヅル。まだ入学したばっかりじゃん。僕も驕らないようにしないと。」

そう言って僕は次の人に順番を譲る。

 

 「なあイヅル。僕なんで男子からこんな目をされているんだろう?」

「えっ...?」

僕は入学した頃から女子生徒とは仲良く話す事ができているが男子生徒とはあまりうまくいっていない。恋次とイヅルしかまだ友達と呼べる関係に至っていない。そんな悩みを打ち明けるとイヅルは鳩が豆鉄砲を喰らったかのような顔をする。

「そりゃあオメェ、嫉妬ってやつだろ。ルキアとか雛森とかと仲良い上に他の女子生徒からも人気でしかも闇討ちしても敵わないほどの実力。俺には分かんねぇけどそういう顔しちまうんだろ。な?吉良?」

「えっ...?僕に聞くのかい?阿散井君!?」

「まあいいか。それなら闇討ちされないようにもっと修行しないとな。」

なんで嫉妬するのか分からないけど痛いのは嫌だしね。

「お前に傷を与えられる霊術院生とかどこにいんだよ...」

なんか堂々巡りしそうなので僕は咳払いをして話題を変える。

「まあ午前の修練も終わったし食堂行こうか。」

 

 「そば大盛りください!」

「あら吹兎くん。今日も何もトッピングしないのかい?」

「はい。そばはそば単体で食べたいですから。何かトッピングするなら別で食べたいって考える派です。」

「そうなんね。ならサービスで大盛りにしとくね。」

「ありがとうございます!」

食堂のおばちゃんからそばを受け取ると、先に座っていた恋次とイヅルの元へと向かった。

 

「オメェまた大盛りにしてもらったのかよ。」

「阿散井君、冬空君のご飯みて毎日それ言ってるよ。」

まあお金変わらないなら多めに食べたいよな。恋次、その気持ちは分かるぜ。

「試しに恋次も言ってみたら?大盛りにしてくれって。」

僕たちはそう軽口を叩きながらも合掌して昼食を摂り始める。

 

「あ!吹兎くんにみんな!」

「ズルいぞ!少しくらい待っておってもよいではないか!」

桃とルキアが僕たちの隣の席に座る。

「悪りぃなルキア、雛森。だが飯は早い者勝ちだぜ!」

「何訳わからない事言ってるんだ阿散井君。雛森君、戌吊さんごめんね。次からは気をつけるよ。」

「桃もルキアもよく見つけられたな。」

恋次とイヅルは彼女らに言われた事について言っていたが、僕はそれよりも気になる事を聞いた。ここの食堂は6学年全ての生徒がほぼ同じ時間に利用するためかなり広い。現に今もほぼ満席である。そして僕たちは配膳台からかなり離れた場所に座っており、配膳台からキョロキョロする事なく真っ直ぐ来たことに驚いたのだ。

「そりゃあ...吹兎くんがいたからで...」

桃が何か申し訳なさそうに俯きながら答えてくれる。

「あ、そっか。霊圧出す鍛錬の後で抑えれてないな......よし、これでどうだ?」

僅かな霊圧も今は完全に外に漏れ出していない。霊圧出すとすぐ大量に腹が減るからなぁ。これも生活の知恵だ。

 

それからつつがなく午後の修練も終わり、夕食、入浴を済ませて僕らは床につく。

 

 

 彼との距離は日を重ねる毎に近くなっている。あの刀を手にしてからまだ数日としか経っていないが彼はもうすぐ私の世界に辿り着くだろう。私以外誰もいないこの世界に。永く願った我が主に。.....べ、別にひとりぼっちが寂しいとかそういう訳じゃないから.....

 

初対面の時の印象はかなり大きいと思うから、こんな情けない感じは出さないで...もっと余裕がある感じを。そうだ年上のお姉さんムーブでやりましょう。

「決めたわ!そうしましょう!」

こうして私は主の周期的な寝息を至近距離で聴きながら年上クールお姉さんを()()()練習に取り掛かり始めた。




ちなみに作者は肉そばが好きです


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14話 ヨン様が来た!

12話から霊術院編なのに目次そのままでごめんなさい...追加しました

※なおN○Kとは一切関係ありません

3/21 訂正 桃「朽木さん!」→「ルキアさん!」
ルキアはまだ朽木になってないから


 「へー。副隊長が直々に始解を見せてくれるのか。」

護廷十三隊にとって、席官就く事即ちエリートである。そしてその席官の更に上、隊長や副隊長といった隊長格の面々は他者と隔絶した実力を持っており、一般隊士からは尊敬され、まるで神のような眼差しで見られる。そんな隊長格がたかが霊術院の院生ごときにわざわざ時間を割いて始解を見せる事に若干の疑問を覚えたが...

 

「早く行こうよ吹兎くん!ルキアさんも阿散井くんも吉良くんも!隊長格の方の始解も見られる機会なんてこの先あるかも分からないんだよ!」

「そういえば桃、藍染副隊長ってどんな方なんだ?」

始解とは卍解には至らないが、それでも斬魄刀の奥義である。あまり知られない方がいいはずなのにそれを自分から見せる、という事が理解できなかった。それをする藍染副隊長とはどんな人なのか聞こうと思ったが...

「えっ...ごめんどんな人なのかは...」

はしゃいでいた桃も知らなかったようである。

 

 

 「今日は集まってもらってありがとう。僕は五番隊副隊長の藍染惣右介だ。将来の護廷十三隊を支える君たちに斬魄刀の始解を見てもらって今後の修行の参考にして貰えないかと思って来た。斬魄刀には色々な系統がある事はみんな霊術院の授業で学んだと思うけど、僕の斬魄刀、鏡花水月は流水系に分類される。もし君たちが将来流水系の斬魄刀を手にした時、役に立つかもしれない。」

 

そう言ってメガネをかけた優しそうな死神、藍染副隊長は腰にさしてあった斬魄刀を抜く。

 

「砕けろ 鏡花水月」

 

その瞬間、教室が白い霧で満ち、辺りを見ることができなくなってしまう。

 

「じゃあ解くよ。」

 

藍染副隊長がそう言うと教室を埋め尽くしていた霧は霧散してそれまでと同じ景色に戻る。

 

「僕の斬魄刀はさっきも言ったけど流水系の斬魄刀だ。能力はみんなも体験してもらったと思うけど霧と水流の乱反射によって敵を同士討ちさせる能力だ。斬魄刀の始解の参考になればとも思うし、将来共に護廷のために戦うであろうみんなには一度見せておいた方がいいとも思ってね。」

 

護廷のために共に戦う、隊長格から発せられたその言葉に院生は感動を覚え、中には涙する者もいた。

 

「だからそのためにもこの霊術院で先生方から多くを学び、一つ一つ課題を達成して前へと進んでほしい。苦しい時もあるかもしれないが死神として、多くの人を護る存在へとなっていってほしい。」

 

藍染副隊長は斬魄刀を完全に鞘におさめる。

 

「今日はわざわざ集まってくれて本当にありがとう。気をつけて帰ってね。」

 

その柔和な笑みで始解を見せるSHOWは終わる。

 

 

 「凄かったね!隊長格の始解ってあんな感じなんだ!」

隊長格の始解を見ることができた桃は大興奮である。

「そうだな。日頃の講義でも見ることはできぬからな。雛森殿に誘ってもらってよかった。」

「おう!俺もあんな風に始解してみてぇぜ!」

ルキアも恋次も凄く喜んでいる。

「じゃあとりあえず寮に戻ろうか。今の時間は食堂を混んでいるだろうし、夕食は少し時間を置いた方がいいかもしれない。」

「そうだなイヅル。まあとりあえず講堂から出ようか。」

 

 

 それからいつも通りに夕食を済ませて風呂に入り、自室にて日課の刀禅をする。

「お!毎日関心だな吹兎!どうだ?何か進展はあるか?」

「いや全然...。今日の藍染副隊長をみていっそう始解に至りたくなったんだけどね。やっぱり難しいよ。」

「始解に至るという事は席官入りするのと同じくらいだからね。院生の僕たちには難しくて当たり前だよ。それより阿散井君、冬空君の邪魔したらダメだよ。」

「わぁーったよ。じゃあうるさくしねぇように外で素振りでもしてくるわ。」

 

恋次が気をつかってくれた事に感謝し、意識を斬魄刀に向ける。

 

 

 

 「ここに入ってこられましたか。」

いつの間にか僕は寮の部屋とは異なる空間にいた。多くの道が交差する分岐点に僕は今立っており、声がする先には長い黒髪の女性がいた。

「待っておりました。私はーーーーと言います。」

彼女の声が一部靄がかかったように聞こえない。

「そうですか。やはり最初の対話では同調までは難しいようですね...あなた、吹兎さんの霊圧は少々特殊ですので私が合わせる事も不可能ではありませんが...それでは始解の先には進めません。ですので()()()()()()()()()()()()()()()()霊圧の波長を合わせましょうね!」

そこでようやく僕が斬魄刀との対話に成功した事に気づく。

「喜びすぎですよ。ですがまあ、私に会えてそのように喜んでくれるのは悪くはないですね。」

斬魄刀の彼女は右の人差し指で前髪を弄りながらそう答える。

 

「あなたは自覚してやっているか分かりませんが、その巨大な霊圧で私の自我は急速に芽生えました。本来なら斬魄刀を手にして数十年と時間がかかるのですが...対話は斬魄刀に意識を集中させる事で成功しました。ですが同調では私とあなたの霊圧の波長を合わせる必要があります。しかも全力の状態で。同調の修行のためにはその霊圧の枷を外す必要があります。...安心して下さい。この精神世界では外の世界に影響を及ぼす事はありません。ですので何も気にせず大丈夫です。」

 

そうか、なら霊圧の枷を取り外してもお腹が減る事もないんだな!

 

「分かりました。じゃあ、やってみます。」




こんにちは!ハンバンパンです!まずヨン様が副隊長の件ですが...

・原作開始からおよそ百年前、特異な霊圧(吹兎)が現れたため計画を中断。様子を見ながら崩玉の創生を続けた
・吹兎が潤林安に訪れるまでで行っていた依頼、山賊(藍染の手下)からのボディーガードによって崩玉の創生が行き詰まる(吹兎無自覚)
・しかし吹兎が霊術院に通う事、始解を見せる事ができるならと、むしろ計画実行前に存在を知れた事でメリットだと感じ始める
・そして今日。(いつもと状況が違うので実は吹兎が始解の能力にかかるか気にしていたヨン様)

つまり現在(原作開始前約50年前)でも状況は平子さん達が隊長だった時とあまり変わってないという事です。

吹兎君はしっかり鏡花水月にかかっています

あと彼の斬魄刀は前話で書いたようにまだ年上クール女性ムーブ中です

次回もよろしくお願いします!


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15話 月の光に照らされて

 「桃、準備はできたか?」

「ごめんね吹兎くん。じゃあ行こうか。」

 

霊術院入学から3ヶ月が経ち、今日から夏休みに入る。霊術院生は年に2回の夏冬の長期休暇を除いて瀞霊廷から出ることはできない。今日から僕たちは店長の元へ里帰りする。ルキアと恋次は緋真さんの元へ向かうらしい。僕も数日したら向かう、と伝えておいた。

 

「そういえば僕って桃達の家に泊まるのって初めてだよね。」

「そうだね。吹兎くん、お店の休憩室に泊まってたからね。私は誘ったのに...

「ご、ごめんって...あの時は桃も死神になるとか思ってなかったし修行が迷惑になると思ったから。」

「ま、そういう事にしとくね。」

そういう事も何も本心そのままなんですが...

 

「着いたよ!」

僕たちは桃の家の前に到着する。

 

「ただいま!おばあちゃん!」

「ん?おぅ、しょんべん桃じゃねぇか。とうとう霊術院退学にでもなった...か...」

僕と同じ銀髪の少年は僕と目が合った瞬間言葉が尻づもりする。初対面の人間の前で身内の事悪く言ったらそりゃこうなるのも仕方ないな。

「ああ、初めまして。僕は冬空吹兎です。店長、桃達のおばあちゃんのお店で働いてたんだけど聞いてない?」

「そうか...テメェがか。歓迎するぜ。」

そう言って彼は家の中に僕を入れてくれる。

「そういえばシロちゃん、おばあちゃんは?」

「ああ、ばあちゃんならお前達が帰ってくる!って言って夕飯の買い物に行ってきてる。最近体調悪いみたいだから俺は止めたんだがな...」

 

「ん?桃達の方が早かったか。桃、吹兎、おかえり。」

「あ!ただいま!おばあちゃん!」

「店長!お邪魔してます。」

店長は両手に荷物を持っていたのでそれを受け取る。

「そう固くならんでいいよ吹兎。あんたもここを自分の家と思ってもらっていいからのぅ。」

「...!ありがとうございます。」

思わず涙腺が緩みそうになったが堪える。

 

「二人も長旅...っていうほど距離もないがお腹空いたろ。夕飯にしようかの。桃、手伝ってくれるか?」

「勿論だよおばあちゃん!」

「僕も手伝います!店長!」

 

 

 4人で食卓を囲んで夕飯を食べ、お皿洗いをした後僕は縁側で木刀の素振りをしていた。

「なあ、ちょっといいか?」

銀髪の少年、日番谷冬獅郎君は初めて僕に話しかけてきた。

「冬獅郎君だったよね。どうしたの?」

僕は素振りを中断して縁側の、彼の隣へと腰を落とす。

 

「あのアホは霊術院でどんな感じだ?」

あのアホ...桃の事か

 

「桃ならやっぱり鬼道かな。あ、鬼道ってのは死神が使う技術の一つなんだけどね。彼女は複数起動が特に上手だからね。成績も学年トップクラスだよ。」

「そうか...。学校であいつ、いじめられてたりとかしてねぇか?」

「してないと思うよ。学校じゃ僕たち、結構5人で行動してるんだけどそんな感じはないな。男子生徒からは結構注目集めてるみたいだけど桃はその視線に気づいてないね。」

「まあ、あの鈍感桃じゃ仕方ねぇな。」

彼は僕の言葉に思い至る点があったのか笑みを浮かべる。

 

「前置きはここまでにして一番聞きてぇ事を聞く。テメェは雛森の事、どう思ってる。」

どう、って。桃は霊術院に入る前からお店でお世話になったし修行もルキア達と頑張ったし友達、親友だよな。

「言っとくが友達、なんて答えは聞かねぇぜ。あいつは前からお前の事...」

ちょっとシロちゃん!

 

「邪魔が入ったな。とりあえず雛森泣かしたら承知しねぇからな。」

そう言って彼はぶっきらぼうに去っていく。

 

「ごめんね吹兎くん。シロちゃんから何か変な事言われなかった?」

「いや、何も。冬獅郎君も姉の桃の様子が気になってたって感じだったからな。」

「じゃあ直接私に聞けばいいのに...」

「恥ずかしかったんじゃないかな。」

 

「素振りはもういいの?」

「ああ、冬獅郎君に話しかけられた時、もう止めようかな?って思ってたし。今日はもう終わり。」

「そうなんだね。」

 

二人並んで縁側に座っているが会話が途切れ、辺りを静寂が包み込む。太陽は既に西の彼方へ沈み込んでいて、月の光が暗闇を照らしている。今日は雲もなく月も一片足りとも欠けていない満月だ。いつもより月が大きく見える。

「...綺麗だね、お月様。」

「そう...だな。」

 

 

 



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16話 済まぬ

 「あの、ちょっといいですか?」

ルキア達から教えてもらった家に向かっていたが、その家の側に不審者がいた。木の陰からチラチラと家の中を覗き見る変態。成敗しなければ。

「ッ?!」

あ、瞬歩で逃げた。追いかけるか。

 

 

 「もう逃げられませんよ。」

路地の行き止まりにまで追い詰めた。しかし早い瞬歩だったな。ただの不審者じゃないな。プロの不審者か。

「莫迦な...。兄は何者だ。」

その傍若無人な口調な不審者は尋ねてくる。この不審者は人に名を名乗る時はまず自分から名乗るべきことだということを知らないらしい。

「兄はなぜ私を追いかけてきたのだ。瞬歩まで使って。」

「いや...、緋真さんの家の近くに不審者がいたら捕まえないと。」

「私は不審者などではない。」

「木の陰から家の中を覗き見るような真似をしていた人に不審者じゃないと言われても。」

「...。」

目の前の不審者さんは自分の行動に思い至る点があったのか額にうっすらと汗が浮かぶ。

 

「兄は緋真の何なのだ。」

「はい?」

 

 

 「えっと...、つまりあなたは緋真さんの事が好きで、家の中を覗きこんでいたと。」

「...。」

「それって不審者通り越してただのストー...」

「黙れ。」

 

「それと私は不審者ではない。朽木白哉だ。」

朽木家、とは志波家と並び、尸魂界の五大貴族の一つであり、原初の世界を三界に分けた五家の一つである。現朽木家当主の朽木銀嶺は確か六番隊の隊長も兼任していると聞く。よほど偉い人なのだろう。だが...

「いくら偉い人と言っても権力に任せて緋真さんを傷つけるのなら貴族だろうと許しません。」

「ち、違う。私は緋真とよく似たルキアを初めて見たので驚いてしまっただけだ。」

 

ん?今ルキアと言った?

 

「ルキアの事は誰から聞いたんですか?」

「緋真だ。」

 

緋真さんがどうでもいい人にルキアの事を話すとは思えない。

「緋真さんとは初対面で?」

「何度か言葉を重ねた。」

つまり緋真さんと白哉さんは少なからず交流を持っているという事か。しかもルキアの事を話したとなるとかなり親密な関係なのではないだろうか。

 

「じゃあどうして木の影から盗み見るようにしてたんですか?直接会いに行けばいいのに。」

「...私は不器用で緋真と直接顔を合わせるとうまく話すことができぬ。」

 

「そうですか...。」

 

どうやら緋真さんに対して悪意はないみたいだ。放っておいて問題ないだろうし来た道を戻ってルキア達に会いに行くか。そうして瞬歩を使おうとした時...

「待て。なぜ私が問題ないと判断した。自分で言うのもあれだが私はかなり怪しいと思うのだが。」

それ自分で言うなよ...

「緋真さんがルキアの事を話すのはかなり親密な間柄の人だけです。あなたにもそれを話しているのならあなたは問題ない、と判断しました。」

そうか...私と緋真が親密な間柄か...兄は私と緋真の仲を応援してくれるか。」

「僕は緋真さんが好きな相手と結ばれればと思います。緋真さんとあなたが親密なのは分かりましたがあなたに恋慕しているかは分からないので何とも言えません。それでは。」

僕は強引に瞬歩を使う。少しの間だがこの人の事がよく分かった。不器用でめんどくさい人だという事が。

 

 

 

 「遅かったな、吹兎。」

白哉ショックを終えた後、僕は緋真さんの家に入る。後ろから視線を感じるが白哉さんのものだろう。

「そういえば緋真さん、朽木白哉さんって知ってますか?」

「ふ、吹兎くん...一体どこでそれを...?」

顔をトマトのように真っ赤にして緋真さんは尋ねる。あ、これは...。

 

この後めちゃくちゃ結婚した

 




こんにちは、ハンバンパンです。今回あえてこの話を入れた経緯として、白哉はまだ隊長職には就いてません。まあこうした理由とかは後ほど説明しますので今はそういうものか、と思って流して下さい。

次回もよろしくお願いします!


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17話 巨大虚

 「魂葬実習?」

「そう!来週に現世でやるんだって!」

夏休みも終わり、明日から2学期が始まる。僕たちは既にみんな霊術院の寮に集まっており、日常と同じ生活を送っている。食堂で夕飯を食べていると桃が興奮した様子で教えてくれた。掲示板に書かれていたらしい。

 

「現世か。美味しい食べ物の事とか今の間に調べておこうかな。」

「吹兎くん...、駐在任務じゃないんだからそんな事できないよ...。」

まじか...。

 

 

 「今日、現世の魂葬実習を監督する6回生の檜佐木だ!」

ガタイの良い男性、茶色の髪をサイドにまとめている女性、そして頬に69と書かれた中央に立っている男性。この三人が今回僕たちの引率者らしい。檜佐木先輩が自己紹介すると教室はざわめき始めた。

「なんだ?有名人か?」

「知らないのかい?阿散井君!彼は檜佐木修平。数年ぶりに卒業前に護廷十三隊への入隊が決定していて将来は席官入りも確実と言われている有望株だよ。」

「ほお。」

自分で聞いておきながら興味がなさげに返す恋次。お前...そういうとこだぞ。

 

「それでは三人一組に分かれます。予め引いておいたくじの番号を見て各自で集まって下さい。」

引率の女性、蟹沢先輩にそう言われ、僕たちは自分のくじをそれぞれ見る。ええと...僕は3番みたいだな。

「みんな何番だった?」

「私は1番だったよ。」

「僕も1番だったよ。」

「なんだ、じゃあいつもの3人か。」

1番は桃と恋次とイヅルのようだ。

 

「私は3番だったぞ!」

「お、僕と同じか。じゃあ他の一人を見つけに行くかルキア。」

「うむ。」

 

「6回生は戦闘しやすい環境は整えるが、戦闘そのものには手出ししない。くれぐれも気をつけるように。それじゃあ、開錠!」

新たに仲間に加わった山下さんと共に僕たちは現世へと向かう。

 

 

 「一通り終わったな。」

「ああ。」

僕たちは何の問題なく(プラス)を魂葬する事に成功した。魂葬にはある程度の霊圧は必要だがより求められるのはその霊圧コントロール。元々鬼道が得意なルキアとは相性が良かったようだ。...恋次とか苦戦しそうだな。虚も今のところ出現していない。少しだけ修行の成果を見せれると思っていたのだが...。まあ戦闘がなく犠牲者は少ないに越した事はないからな。僕たちは上級生からの指示を待つ。

 

 

 「おかしい...。」

あまりにも指示が遅い。そんな事を考えていると。

「「「「うわあああああ!」」」

三時の方角で悲鳴が聞こえる。

「な、何だ?今のは?」

ピロロロロ!

無線にようやく通信が入る。

[緊急事態、現世に巨大虚(ヒュージホロウ)が出現しました。実習生は速やかに穿界門へと避難して下さい。繰り返します...]

 

「巨大虚だって?!」

山下さんが恐怖で顔を引き攣らせる。現在僕たちが講義で倒せるレベルはせいぜいが雑魚虚程度だ。そんなものよりも遥かに強い巨大虚の出現に顔を強張らせるのも無理はない。しかし僕が思った事はそれに加えて...

「あの方向......間違いない、桃達の実習の方向だ。」

霊圧感知してみたが間違いない。しかもあいつら逃げずに戦っている。

「すまんが僕はいってくる。ルキアと山下さんは穿界門に向かっててくれ。先生からの説教は後で受ける。」

これは穿界門に避難しろという命令に明らかに反する内容。しかし全力で瞬歩を使えばまだ間に合う。それなら選択肢は一つしかない。

「吹兎が行くのであれば私も行くぞ!」

ルキアが自分の斬魄刀の柄を握りながらそう言ってくれる。すごくありがたい、けれど...

「すまんが全力で瞬歩を使う。ルキアは山下さんと穿界門に向かってくれ。必ず帰ってくる。」

そう言って瞬歩を起動する。ごめん、ルキア。今は気を遣った言葉を選んでいられる時間的余裕がない。

 

 

 「どうして...なんでみんな逃げてるの...?」

巨大虚から逃げているみんなを見て純粋にそう思う。何のために私たちは修行してきたの?ここは現世。虚が暴れれば霊的自衛力を持たない人間が大勢死んでしまう。その前に6回生の先輩達が死んでしまう。

「何やってるんだ!雛森君!」

「おい!逃げろ雛森!」

吉良くんや阿散井くんの声が聞こえる。けれど頭に入ってこない。足が動かない。私、あまりのショックに頭が真っ白になっているんだ。こんな時、吹兎くんならどうするんだろう...。

 

「舐めんじゃねぇ!」

檜佐木先輩が今にも殺されてしまう...。吹兎くんならどうするか、そんな事は決まっている。私は斬魄刀を抜き、虚の爪から檜佐木先輩を守る。

「申し訳ありません!命令違反です。」

「助けに来たんだから見逃してくれよな、先輩。」

吉良くんと阿散井くんも来てくれた。3人なら、勝てる!

 

「「「君臨者よ!血肉の仮面・万象・羽ばたき・ヒトの名を冠す者よ!焦熱と争乱、海隔て逆巻き南へと歩を進めよ!」」」

右足に痛みが走る。虚の攻撃の巻き添えでも受けたのだろうか。しかし今はそんな事気するな!霊圧を高めるのよ!いけー!!

 

「「「破道の三十一 赤火砲!」」」

 

私たちが今出せる全力の鬼道。三人で力を合わせたんだ!流石の巨大虚でも無傷じゃない!今のうちに檜佐木先輩を安全なところに!

 

 

 「しかし何で巨大虚がこんな近くに?」

「分からん。だが尸魂界に援軍要請はした。とにかく走れ!」

私たちは逆立ちしても倒せないという事実を味合わされ、走って逃げている。だが現実は残酷だ。

 

「「「「「「ウォォォォ!」」」」」

先程の攻防で足を負傷した影響か、一人だけ逃げ遅れて私は巨大虚の集団に囲まれる。虚は私を亡き者にしようと巨大な鎌を振り下ろそうとする。ダメ、防げない。ダメ、阿散井くん、吉良くん、逃げて。ごめんねシロちゃん、ごめんねおばあちゃん、ごめんね...吹兎くん...

 

 

破道の六十三 雷吼炮!

刹那、爆音と閃光が辺りを支配する。ゆっくりと目を開けるが痛みは襲ってこない。

「遅くなってごめん。」

やっとこの胸の高鳴りの正体に気づいた。私は...吹兎くんの事が好きなんだ。

 

 

 間に合って良かった。あと一瞬遅くなっていたら僕は僕を一生許さなかっただろう。いや、感傷に耽るのは後だ。雷吼炮で数は減ったと言ってもまだ巨大虚は数体残っている。僕は腕に抱いていた桃を恋次とイヅルに預ける。

「冬空君、ありがとう。」

「吹兎、ルキアはどうした?」

「ルキアなら先に穿界門に帰ったよ。......うん、無事についたみたい。恋次、後で無茶したって怒られるぞ。...意味は分かるよな。」

「ああ!当然だ!」

しかし現状は瀕死の檜佐木先輩に足を負傷した桃、恐慌状態のイヅルと、戦うにしても逃げるにしても難しい。

「恋次、みんなを任せてもいいか。」

「俺じゃ力不足だ、って言いてぇのか?俺だって!」

「アホ。お前だから、いやお前にしか頼めないんだ。僕は全力で攻め込む。もしかしたら桃達のフォローはできないかもしれない。後ろを気にしながら戦うには相手が悪すぎる。」

恋次は気づいてないだろう。霊格察知でこの巨大虚よりも強力な虚が迫ってきている。まずはそいつらが到着する前にこいつらを倒さなければならない。霊圧も温存する必要がある。斬拳走鬼で最も僕が霊圧の消費を抑えられるのは斬と走だ。攻撃には力とスピードという概念がある。しかし斬魄刀に霊圧を乗せて斬るのは霊圧を消費する。それならば...。巨大虚は3体、1列に並んでいる。

 

「行くぞ!」

瞬歩の速度そのままに巨大虚3体を一気に切り捨てた。

 

「す、すげぇ。」

だが本命は次だ。

 

「「「ウォォォォ!!!!」」」

 

空を開き出現する虚、いやギリアン、大虚だ。大虚が数体出現した。一隊士がどうこうできるレベルではない。王族特務の管轄だ。

 

『今しかないよね!』

ああ、やるしかない!

 

 

 

〜数日前〜

 「も、もうちょっとここにいようよ〜」

最初と性格が全然違うが...。

「その...あなたには謝らなければなりません。」

黒髪の女性は僕にそう告げる。

「斬魄刀の同調には霊圧もそうですが、お互いがお互いを信頼し、自分の()()()()()()()事によって成功します。あなたはすぐに私の霊圧と波長を合わせる事ができ、最初から私に全てを曝け出して接してくれていました。」

黒髪の女性は顔を赤くして、更に僕から目を逸らして続ける。

「問題なのは私の方でした。私がつまらない演技(見栄)を張ろうとしなければすぐに達成できたのです。」

彼女は申し訳なさそうにする。

「では僕はあなたがありのままでいてもいい、と思ってもらえるようになれたって事ですか?」

「はい、そうです。あなたは既に私の名前を聞くことができるでしょう。ただ名前を呼んでもらうにあたってお願いがあります。」

「お願い?」

「修行が終わってもここに遊びに来て下さい。」

 

 

 

 

断て 惜鳥(オシドリ)

 

僕の全身から枷が外れたかのように霊圧が吹き出した。




惜鳥ちゃんは2日目くらいからもうメッキがとれてしまいました...。

次回もよろしくお願いします!


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18話 惜鳥

 惜鳥の能力とかは最後に説明するのでよろしくお願いします。


 ー「断て 惜鳥(オシドリ)」ー

 

吹兎くんがそう口にすると彼から信じられないほどの霊圧が溢れ出す。刹那、霊圧の竜巻が彼の周りを覆い、姿が見えなくなる。

ザシュッ

彼がその竜巻を断つと彼の姿が露わになる。日本刀ほどの浅打は吹兎くんの身の丈ほどの大刀へと変貌を遂げる。

 

和気開錠(わけのかいじょう)

 

斬魄刀が七色に煌めき、吹兎くんは大虚の軍勢に向かって単身飛び出した。

 

 

 両手で惜鳥を振りかぶり大虚の仮面へ振り落とす。

「フンッ!」

仮面を真っ二つに断ち、大虚は消滅する。

 

『あまりのんびりしないで!初めての始解でいつまで保てるかは分からない!』

惜鳥のアドバイスを受けて、休まず次の一体に攻めかかる。

 

 

 「全部倒せたか...。」

時間を気にして新技を連発した結果、霊圧を多量に消費してしまった。全て最大威力で打ち込んだけれど...これからはその調整の修行も必要だな...。

 

「吹兎、オメー...。」

「悪い恋次、肩を貸してくれ。」

「ああ。」

 

 

 最初の一体の仮面を叩き割った後も、目で追えないほどの瞬歩で吹兎は大虚に向かっていった。十体近くいた大虚もみるみるすり減らされていく。そしてあいつは最後の一体の仮面も叩き割った。俺は思わず両手に力が入る。

「お前は一体...」

俺が加勢しても足手まといにしかならないだろう。あいつの霊圧で内臓を揺り動かされたかのような感覚を覚えて足踏みしてしまった俺とあいつに今どれだけの力の差が存在する...?俺は......

 

「これは...、すまない遅くなった。」

死覇装を纏い、左腕に五と書かれた副官章をつけた死神、この前私たちに始解を見せてくれた藍染副隊長だ。

「大丈夫だ。この子は霊圧を過剰に消費した事で疲れているだけだ。休めば問題ない。僕たちの到着が遅れた事で無理をさせてしまったようだ...、すまない。後は僕たちに任せて、君たちも穿界門へと向かうんだ。」

「分かりました!」

私たちは穿界門へと向かう。戦いで疲れて阿散井君の肩で眠ってしまっている吹兎くんの寝顔を横目で見ながら。

 

 

 

 「藍染副隊長、あの子ヤバいですわ。」

現世での後処理とボク達が行った証拠隠滅を行いながら目の前の仇へ、その憎悪を作り上げた笑顔で覆い隠して尋ねる。

「ああ、私も巨大虚程度じゃ倒せると見込んで大虚を送り込んだのだが...彼の実力を上方修正して考えるべきだな。」

五十年前に突如流魂街で急速に霊圧を高めた魂魄。もっとも、すぐにその霊力を隠すように霊圧を抑えたようだが...目の前の奴はその時からこの子どもを気にかけている。当初の計画ではピンチのところを助けて自分の隊に入れる予定だったようだが。

「ギン、作業を急ぐよ。」

 

 

 

 「それは本当ですか?藍染副隊長!」

今目の前にいるのは個性豊かな護廷十三隊、隊長格の中でも人格者として敬われている五番隊の藍染副隊長である。霊術院の学長に過ぎない私からしてみれば天と地以上に実力も格も異なる。

「ああ、僕が到着した時には既に彼が倒していた。目撃情報もあるし、あの後霊圧の残滓を測定したが大虚が現れた事と彼が斬魄刀を始解した事は間違いないだろう。」

斬魄刀の始解、それは上位席官になるに等しい偉業。霊術院の生徒が会得するなど常識では考えられないが...。

「彼は斬拳走鬼のいずれにおいても高水準を記録していると聞く。素晴らしい才能は一刻も護廷隊として迎え入れるべきであると考えるのだがどうだろう。」

「しかし...彼はまだ入学してから3ヶ月しか経っていなく...」

「僕の部下のギンも六年の過程の霊術院を一年で卒業している。飛び級は何もおかしくない。」

「彼に卒業試験を行うべきだと...?」

「私はそう思っている。」

柔和な表情でそう言われるともはや私に返す言葉はない。

 

 

 「えっ?卒業試験ですか?」

霊圧の過剰消費によって四番隊の救護詰所で寝ていたところ、霊術院の学長さんが病室に入ってきてそう言った。お見舞いに来てくれていたみんなはもう門限が近いので寮に戻っている。

「ああ。十分な休養をとった後、行う。だから今のうちに護廷十三隊について調べて自分が入りたい隊の希望を決めておいてくれ。勿論、試験のための勉強も頑張っておくように。」

「はあ。」

入りたい隊は既に決まっている。僕を助けてくれたあの人がいる隊だ。受け入れてくれるかは分からないが、僕はあの人の元で働きたい。しかもその上司の隊長も人徳者だと聞く。既に僕の中での答えは決まっている。




藍染の上官の平子隊長も人徳者だと有名ですからね!


吹兎の惜鳥についての説明です。(あくまで現世魂魄演習時)

解号 断て

身の丈ほどの大刀に大きさが変わる。片手で振り回す事もできるが薙刀のように両手で攻撃する使い方が一般的

和気開錠
斬るではなく断つ、という解号を象徴した能力。術者が霊圧を込めると斬魄刀が七色に煌めき、込めたその霊圧量に応じた強度の霊子結合を断つ事ができる。しかしその霊子結合の強度に至らない霊圧で攻撃した場合、何の傷も与えられずただ込めた霊圧が失われるという弱点もある。この能力をマスターするには対象の霊子結合の強度を感覚的に把握する必要がある。それが魂魄演習の時は分からなかったため、常に最高威力で攻撃をし、霊圧のガス欠を引き起こしてしまった。

次回もよろしくお願いします!


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19話 卒業

藍染に窮地を救ってもらえた吹兎は恩人の副隊長がいる隊へと向かう


 「入隊ですか、この時期に。」

「ああ。どうやら霊術院をたったの3ヶ月で卒業したらしいぞ。」

「3ヶ月ですか!五番隊の市丸以来の神童ですか!それがウチの隊に。こりゃあ俺の隊長就任の話もどんどん遠のいていきますな。」

「嬉しそうにするなよ海燕。」

十三番隊舎の縁側で茶を啜る同隊長、浮竹十四郎と同副隊長、志波海燕。浮竹は肺炎を患っているが今日は調子が良く、こうして床の間に伏せる事なく海燕との談笑を楽しんでいた。

 

「しかしどうしてウチが獲得できたんです?隊長、勧誘とか行ってないでしょ?」

ここ最近ずっと寝てたんだし、という言葉は飲み込んだ。海燕も当然勧誘など行ってないので十三番隊は隊長格が勧誘をしていない。話によると五番隊は藍染副隊長が直々に勧誘をしたと。それなら他の隊も同様に勧誘に行ったのかもしれないが…、隊長格の誘いを断ってまでなぜ十三番隊に入ったのかが分からなかった。いや、十三番隊はとてもいい隊で護廷十三隊の中でもっとも居心地がいい隊だと思っているが霊術院生が隊の気風まで知っているとは思えない。せいぜい剣術で有名な十一番隊、隠密機動の二番隊、治療専門の四番隊で後は同じような隊だと思っているだろう。事実海燕も、周りの院生も当時そんな認識だった。

 

「なんでも彼は海燕と、車谷に恩義を感じているらしい。」

車谷…、あいつか。数年前に入隊した時は謙虚だったが最近ちょっと調子乗ってるからな…。

「で、例の院生の名前は?」

「ああ。冬空吹兎くんって聞き覚えはあるかい?」

「ああ。あいつなら知ってますよ…」

それから海燕は浮竹に知っている吹兎の事を話した。

 

 

 「まじか。もう飛び級で卒業だと?」

「ああ。そうみたい。さっき先生が来て、卒業試験に合格したって。」

筆記も手応えあったしな。変ないじわる問題が出なくてよかった。

「そうか。寂しくなるな。」

「別にお前らが卒業すればまた一緒に働けるからな。それに長期休暇の時にはまた会えるし。寂しくないぞルキア。」

「ほ、本当にまた会えるよね…?」

「ああ。だから泣くな桃。」

 

「それで吹兎。どこの隊に希望を出したのだ?」

「ああ。十三番隊に出したよ。子どもの頃、虚から救ってくれた人も、弱かった俺に修行をつけてくれた恩人も十三番隊の人だったからさ。今度は僕が恩返ししたいんだ。」

「…そうか。ならば私も…」

 

「ルキアちゃん?聞こえてるけど?」

「…む。雛森、目が笑ってないように見えるが…笑顔が黒くはないだろうか…。」

「気のせいだよルキアちゃん!」

 




平子を震え上がらせる雛森事変の片鱗が見られました。桃がルキアをちゃん呼びしてるのはミスではありません。ここはちゃんの方が迫力が出ると思ったのでしょう。この二人も仲良くなっていってます。

活動報告でも書きましたが、更新が遅れてしまって申し訳ありません。

今回で霊術院編、終了です。

次回もよろしくお願いします。


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十三番隊隊士篇
20話 模擬戦


今回から十三番隊隊士編です。よろしくお願いします!


 「本日からこの十三番隊に所属いたします冬空吹兎です。よろしくお願いします。」

霊術院の卒業式を終え、護廷十三隊の入隊式も終えて今は十三番隊の隊舎の中にいる。今この部屋にいるのは隊長羽織を着た浮竹隊長、副官章をつけた海燕さん...志波副隊長。それから上位の席官の方々である。

 

「まずは十三番隊に来てくれた事、歓迎する。隊長の浮竹十四郎だ。」

「吹兎はもう知ってるとは思うけどな、改めてだ。副隊長の志波海燕だ。今日は元気だが隊長はいつもどこかしらの体調を崩しててな。普段は俺が隊長の仕事もしてるんだ。だから俺の事、海燕隊長だなんて呼んでもいいぞ。ま、これは毎回新入隊員の挨拶の時に言ってんだけどな。」

「ほう、やはり海燕は隊長になりたかったんだな。今度推挙してみよう!」

「じょ、冗談ですって...」

志波家での海燕さんと少しも変わらなかった。

 

 

 「入って早々悪いが吹兎くんの実力を見せてもらいたい。疲れているとは思うが頼めるか?」

ある程度の挨拶を交わすと浮竹隊長がそう切り出した。新入隊員の実力を測りたいって事かな。

「分かりました。」

「じゃあ着いて来てくれ。」

俺は浮竹隊長の後に着いて行く。

 

 

 「ここは?」

連れてこられた先は隊舎の道場のような場所で壁には死覇装を着た死神が座っている。おそらく十三番隊の隊員の方々だろう。そして一人、アフロ姿の死神が道場の真ん中に立って僕たちを待っていた。あの人は...

「車谷さん!」

「おう。あん時の坊主だな。随分と早く死神になったな。これからの事は隊長に聞いてるか?」

「いえ...。」

 

「ではこれから冬空吹兎と車谷善之介二十席の模擬戦を開始する。」

先ほど部屋にいたメガネをかけた上位席官の男性のその言葉に僕は驚愕する。

「なお両者真剣を用いるものとする。但し命を奪う危険性のある攻撃、今後継続して障害が残る可能性がある攻撃、また霊力を奪う手段については禁止とする。これらが見られた場合、我々が止めに入り、即刻反則負けを言い渡すものとする。」

真剣って...それじゃ怪我をさせてしまうかも...

 

「あまり緊張するな。このエリート死神の車谷善之介がいい感じで加減してやる。胸を借りる気持ちで向かってこい!」

そうか。相手は車谷さん。席官の方だ。僕が傷をつける...なんて思い上がっていたんだ。いくら霊術院を飛び級で卒業したとしても所詮は学生レベル。

「分かりました!よろしくお願いします!」

全力で食らいついてやる!

 

「はじめ!」

僕は瞬歩を併用したスピードで車谷さんに斬りかかる。

 

「...えっ?」

僕の全力も防いでくれる。そう思い全力で斬りかかったが車谷さんは何の防御もせずそのまま僕は車谷さんの右肩を斬ってしまう。

 

「そ、そこまで!救護班!車谷二十席の治療を!」

「は、はっ!」

僕は混乱してしまいあたふたしてしまう。

 

 

 

「瞬歩と斬術の併用か。」

「はい。」

隊長格はほとんど戦闘のために瞬歩を用いる。しかしそれはあくまで瞬歩で敵の近くまで移動してから斬るのであって斬術と瞬歩を同時に行う訳ではない。斬る際に斬魄刀に霊圧を込めながら足元にも霊圧を集中させる。口で言うには簡単な事だがそれは難しいものである。斬拳走鬼の完全同時併用とはそれだけで難しいものだ。白打と鬼道を同時に使用する隠密機動の奥義、『瞬閧』がその入り口に到達するだけで隊長格でも苦戦する難易度だと言えば伝わるだろうか。

 

「海燕、見えたか。」

「俺は何とか。ですが他の奴らは多分無理でしょう...。」

海燕と模擬戦に勝利すれば入隊と同時に二十席を与えると話し合っていたがまさかここまでとは...。

 

「隊長。俺に相手させて下さい。隊長の考えは分かっているつもりです。清音も、いいな?」

十三番隊第四席で空席の三席に昇格する話が出ていた仙太郎と清音が提案してくれる。

「済まない...頼めるか?」

 

 

 

 「それでは、冬空吹兎を十三番隊第三席と任命する。」

あの後、仙太郎さんと清音さんとも模擬戦をした僕は隊長に席官への任命を受けていた。正直意味が分からなかったが海燕さんに丸め込まれた...。

「謹んでお受け致します。」

「仙太郎、清音そして海燕。吹兎くんは三席の実力があるといっても新入隊員である事には変わりない。仕事の事とか教えてあげるように。」

「「御意!」」

こうして僕の死神としてのお仕事は初日に色々あったが始まった。




やり過ぎと思われるかもしれませんが、市丸ギンも入隊とほぼ同時に三席となっています。まあ彼は三席と決闘の上、殺しているんですが...

本気と言ってるのに吹兎が始解を使わなかったのは彼の始解がそもそも相手の霊子結合を断つ、というそもそも継続した障害を与えるのが目的のもので模擬戦の制限に引っかかったからです。

次回もよろしくお願いします!


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21話 過労と対話

 「そういえば吹兎、だいぶ仕事は慣れてきたか?」

「はい、浮竹隊長!毎日大変ですが最初に比べれば覚える事が増えてきました。」

 

入隊し、三席となってから数週間が過ぎた。僕も最初の方は海燕さんや仙太郎さん、清音さんに支えられながらの業務だったが最近では一人で取り組む事ができるくらいには慣れてきた。

 

「そうかそれはよかった。しかし吹兎...今やってるその書類は?」

「はい。海燕さんがこれも三席の仕事だと言って今朝持ってきてくれました。」

「...これは?」

「仙太郎さんと清音さんがこれも三席の仕事だと言って今朝持ってきてくれました。」

僕が正直にそう答えると隊長は頭を抱えてしまう。あ、これは海燕さん達...。あと浮竹隊長がその仕草をするとシャレにならないからやめて欲しい。

 

「苦労をかけたな、吹兎。明日から少し休暇を取ってくれ。それから帰ってきた時にはもう少し仕事は少なくなっているから驚かないように。」

「は、はあ...。」

 

 

 こうして突然休暇を貰ったが休みだとしても何をすればいいのか検討もつかない。瀞霊廷には特段友人がいる訳でもなければどこか行きたい場所というものもない。僕は隊舎の自分の部屋で寝転がっていた。

「暇だ...」

予め予定を考えていればこんな惨めな気持ちにはならなかっただろう...これも海燕さん達が僕に仕事を押し付けるから悪い。よし、手伝いに行こう。

 

 

 「で、手伝いに来たってか。」

「はい。」

僕がそう言うと海燕さん達はドン引きしていた。解せぬ。

 

「お前、休みでなんかしてー...とかねぇのか?」

「友人もいませんし瀞霊廷で行きたい場所とかもよく知りません。」

「お前、本当に十三番隊に来て良かったな...。八番隊とか十一番隊とかに行ったら過労死するレベルで仕事押し付けられてたぞ、その性格なら...。」

別に仕事が好きな訳じゃないんですが...ただ他にやる事が思いつかなかっただけで...

 

「よし!ならこの仕事終わったら4人でどっか行くか!」

「いいですな!」

「いいですね!」

「「...。」」

 

いがみあう仙太郎さんと清音さん。入隊して分かった事だがこの二人、隊長や海燕さんにどれほど尽くせるかという点でよく対立している。そして二人とも僕の事は弟か何かだと思っているみたいだ。

 

 

 

 「ようこそいらっしゃいました我が主。ですが来るのが遅いです...」

「ご、ごめんって惜鳥。最近仕事が忙しかったからさ...」

「仕事と私、どちらが大事なの?」

久しぶりに斬魄刀の中に入り、惜鳥と対話する。既に最初に会った時のクールじみた口調は見る陰もない。

 

「じゃっ、とっとと卍解の修行をしますか!」

「え、もう始めるの?ていうかかなり積極的だね...」

卍解って斬魄刀を屈服する事が必要なのにこのやる気...もしかして惜鳥って...

 

「な!失礼な!斬魄刀を力で屈服するだけが卍解習得の唯一の方法ではありません。...まああなた様がそこまで言うならその方法でも構いませんが...あなた様が卍解を習得するためには試練を乗り越えてもらう必要があります。早速試練の説明に入りますよ!」

 

半ば強引に卍解の修行が始まった。



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22話 無限に生きる敵を斬れ!

感想にてご指摘頂きました。志波都が当時だと三席で空位はおかしいのではないかと。全くもってその通りでございます。最初は出産で休隊扱いにしようかと思っていましたがそれだと海燕達の子どもを出さなくてはいけなくなり却下...

都は大切な人を亡くして現在傷心のため休隊中。まだ海燕とは結婚していないという事でよろしくお願いします。ご指摘、ありがとうございました。これからも疑問に思ったところがあったらよろしくお願いします!


 「そういえば吹兎。霊術院で回道は習ったか?」

「いえ。そこまでは習いませんでした...。卒業試験でも出ませんでしたし。」

今日の仕事は昨日の内にあらかた終わらせており、僕と海燕さんは隊舎にてそんな事を話していた。

 

「そうか。じゃあ今から回道の基礎を教えるか。俺は回道も得意でな。...確かに四番隊じゃない俺たちには使う機会は少ないのかもしれない。四番隊が近くにいれば使う機会すらないのかもしれない。それでも命ってのは失ったらおしまいなんだ。少しでも自分や仲間の命を助けられる確率が上がるなら覚えておいて損はないはずだ。」

 

 

 死神の回道というものは術者によって患者の霊圧を回復し、術者と患者の両霊圧に働きかけて回復を行うというもの。言うならば患者の代謝を促進して回復を促進するというものである。よって大量出血の場面などではいくら代謝を高めても間に合わず助けられない時もあるという事である。

 

「なら霊圧を糸に収縮して縫合すればいいじゃないですか。」

「は?」

 

海燕さんは俺に対して何を言ってるんだ?と言いたげな表情を浮かべている。

 

「まあやってみますよ。」

 

 

「ふぅ...できたか。」

十二番隊から回道の練習台(もちろん人形)を用意してもらい傷口を霊子の糸で縫合させる。

 

「...。」

「海燕さん?どうかしましたか?」

「吹兎。お前四番隊に行って卯ノ花隊長に医学を学んでこい。俺が浮竹隊長に掛け合ってみるから。」

「は、はぁ...」

人並みに()()ができてたって事なのかな? 

 

 

 

 「何?」

海燕さん達と隊舎に詰めていると斥候から連絡が入る。先ほど流魂街に向かわせた下位席官を班長として向かわせた討伐隊全20人が虚の攻撃によって苦戦を強いられており、既に死者も出ているという事を。

「吹兎!着いてこい!」

「はい!」

僕と海燕さんは準備をしてからすぐに向かう。

 

 

 「状況は?」

「!志波副隊長!冬空三席!全隊員二十の内五人が戦死、残りも重症でございます。」

「分かった。吹兎。俺はこのまま虚の相手をする。お前は重傷者の救命を頼む。四番隊への連絡も忘れるな。」

「分かりました。海燕さんも気をつけて。」

あれから卯ノ花隊長にも医学を学び、どのような処置をすれば救急救命が可能かという事を学んだ。僕がやる事は患者の傷を完全に癒す事ではなく四番隊に引き継がせるまで、生と死の境にいる仲間を生の側に引っ張る事だ。

 

「これは...」

十人以上の重傷者が横たわっている。このまま四番隊が来るまで待っていたら確実に死亡するだろう、そんな状況だ。

「始めますか。」

 

まずは一番重傷な人からだ。胴を虚の爪で貫かれたのか血がこうしている間にもこぼれ落ちている。血が出ているということはまだ心臓が動いている証拠だ。

「絶対に死なせはしない。」

やはりまずは出血を止める事だ。

体内の霊子を収縮させ糸状にする。縫うのではなく塞ぐようにして患者に与える痛みも和らげるようにする。よし、血は止まった。しかしこのままでは出血を外に出さないだけで問題の解決にはなってない。次の工程だ。

 

 

「ふぅ。」

とりあえず今できる事は終わった。重傷には変わりないがそれでも死に至るという状況は回避できた。

「冬空さん。」

「山田さん!」

 

彼は四番隊副隊長の山田清之介。四番隊で医学を学んでいるときに知り合った。根暗で陰湿だけど腕は確かだ。この人に任せれば何の問題もないだろう。僕は一通りの病状を説明して引き継ぎを済ませる。

「それでは、よろしくお願いします!」

 

 

 「グォッ!」

「海燕さん!」

僕が清之介さんに引き継いでから海燕さんの援護に向かった。その時、海燕さんは思いっきり虚に腹を蹴られ吹き飛ばされてしまう。

 

「こいつ...斬っても斬っても再生しやがる。頭かち割っても死なねぇぞ!」

何か特殊な能力を持った虚だろうか。

 

「破道の三十一・赤火砲!」

 

僕は虚の全身を包み込む大きさの鬼道を発動する。

 

「オオオオ!」

 

虚は雄叫びをあげながら消滅する。

 

「なっ?!」

 

が、即座に分解された霊子が集まり虚の姿を取り戻す。

「吹兎の鬼道でもダメか。それなら...」

海燕さんはそう言うと斬魄刀を構え直す。

 

水天逆巻け 捩花!

 

海燕さんの斬魄刀が先が三つに分かれた槍へと形状が変わる。

「これでも喰らえ!」

始解時に生み出した水を使って虚を粉々に切り裂く。

 

「グッ!これでもダメか...。」

しかしまたも虚はその形を取り戻してしまう。こうしてみるとこの虚を倒すためにはこの虚を斬るだけでは足りないという事が分かる。しかし海燕さんはより強力な攻撃を繰り出してきたためもう霊力もかなり消費している。

 

〈主、おそらくあの虚は私たちが見えないところに本体がいるの。本体とあの虚との通信も霊力が行われてる。だから〉

ああ。僕の始解の能力じゃ断てる。相性はいいかもね。でもそれだと本体を斬れなくなっちゃう。ここで逃がせばまた甚大な被害を受けてしまう。そうだ!それならば...

 

「ッ!吹兎!無闇に斬りかかっても意味はないぞ!」

「海燕さん、少し考えがあります!」

まずは本体からの信号をどこで受け取ってるかを確認する。

 

「フンッ!」

虚をバラバラに切り刻む。よし、信号を受ける場所、それは核のはず。核から再生を始めると仮定すれば...

 

「これだ!」

虚の頭付近にあった棒状の欠片から再生が始まるのを確認した。再生がうざいな...

 

断て 惜鳥!

 

和気開錠(わけのかいじょう)

 

大刀に変わった刀身で核の周囲で再生を始めようとしている肉片を切り刻む。核との信号が途絶えたのか肉片は再生を止める。

 

「なっ!」

 

その核を僕は自分の肩に刺し、信号の送信元を逆探知する。

 

「見つけた!」

僕は逆探知した本体に向けて瞬歩で向かう。逃がさん!

 

 

「こんなにも小さいのか...」

「ナゼ、オレヲミツケタ...?」

 

向かった先にいたのは先ほどまで相手していた虚よりも一回りも二回りも小さな虚。

「ここで逃したらもっと多くの人が苦しむ。」

僕は虚に向かって惜鳥を振り落とした。




言いたいことは分かっています。こんな芸当は吹兎にしかできません。ですがそれが吹兎の強さの秘訣、いわば伏線となる部分です。

次回もよろしくお願いします!


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23話 結婚したのか、俺以外のヤツと

更新遅れてごめんなさい


特殊な虚の討伐が終わってから数週間。僕の仕事も普段の書類仕事へ戻ってきた。少なくない隊員が先の戦いで命を落とした。ある程度の応急処置を行う事ができる隊員を入れて隊の編成をするか、救援要請をもっと迅速に行う事ができるシステムの構築などやる事はたくさんある。席次、階級に関わらず意見を集めて犠牲者が少なくなるように努めなければ。

 

「よ!精が出るな吹兎!」

「う、浮竹隊長!お身体の調子は大丈夫なんですか?」

「ああ!今日は絶好調だ!」

 

ここ数日また調子が悪かった浮竹隊長が現れた。

 

 

 「そうか。犠牲者を少なくするために。」

「はい。()()()()()()()()()犠牲者を少なくする事が上位の席次を与えられている自分の仕事だと思いますから。」

僕は確かにみんなよりも勤続年数も短いしみんなを頼るというのが正しい事なのかもしれない。けれど部下、いや一緒に過ごした仲間が死んだ時にそう思った。

 

「どんな事があっても…か。」

浮竹隊長は僕の言葉に何か思うところがあったのか、神妙に何かを考え込む。

 

「吹兎。俺たちはこうやって命をかける仕事をしている。その中でこれから仲間が戦死する事もあるだろう。今抱いているそういう気持ちを忘れないで欲しい。」

 

そこまで話すと浮竹隊長はまた一段と真剣な表情へと変わる。

 

「だがこの事も覚えておいて欲しい。戦いには2種類ある。生命を守るための戦い、それから誇りを守るための戦いだ。俺たちはそれを常に見極めなければならない。例え生命を繋いだとして、誇りを失えば人は生きる事ができない。そういうものだからだ。」

 

「けど…僕は…」

 

確かに誇りを失えば生き辛くなるかもしれない。けれどやはり大切な人…思いつくのはルキア、桃など同期のメンバーだが、彼女達には生きていて欲しいと思ってしまう。何があっても。生きてさえいればまた新しい誇りが見つかるかもしれない。そう簡単に見つけられるものでもないとは思うが不可能ではない。

 

「これはあくまで俺の考えだ。俺はこの考えを押し付ける訳でも他の考えを否定する訳でもない。ただ知って欲しかっただけだ。だからそんな気まずそうな顔をするな。それに結論が違ったとしても過程がまるっきり異なる訳でもないだろう?」

 

俺は思っていた事が顔に出ていたのか、浮竹隊長にフォローされる。やはりこの人には敵わないな。

 

「それよりもだ。こうしてお前と二人きりで話す事はなかったな。お前の話でも聞かせてくれないか?」

 

「勿論です。」

 

それから僕と浮竹隊長は互いの身の上話などをして大いに盛り上がった。

 

 

 

 「結婚?」

「ああ。姉様がな。吹兎に伝えようと思っていたらしいからおそらく明日にでも文が届くとは思うが、こうして会ったので直接伝えたという訳だ。」

 

休暇の日に、ふと懐かしく感じたのだろう。自然と足は瀞霊廷の中の霊術院の方にへと向かっていた。するとたまたま玄関の方に出てきたルキアと出くわし、緋真さんが結婚する事を知った。

 

「お相手は朽木白哉、という方なのだが吹兎は知っておるか?」

 

ああ、あの不審者か。

 

「ルキアは会った事ないのか?」

「ああ。」

 

これは緋真さんの家族に挨拶するのが恥ずかしくて避けてた感じなのかな。…正直よくプロポーズまでできたな。

 

「勿論式には参列するよ。緋真さんに文を送っておく。日付が分かれば仕事を前日とかにやれるからな。」

 

「なあ吹兎。やはり死神の仕事は大変か?」

最初は仕事覚えるのが大変だったな。けど慣れてくれば大丈夫だった。ルキアなら大丈夫だと思うよ。…多分恋次でも大丈夫だと思うし…

 

「そうか。ならば安心であるな。」

恋次の話をすると、ルキアは不安が全くなくなったのか晴れやかな表情を浮かべる。

 

「なあ、吹兎がいる十三番隊はどんな感じなのか?」

僕は他の隊は知らないけど…。

 

「すごくいい隊だと思ってる。隊長も副隊長もすごく尊敬できる人だし、みんな仕事サボらないでやってくれる。正直席官になって変なやっかみとか受けると思ったけど、そんな事なかったし。」

 

「そうか。よき隊なのだな。……ム?今吹兎席官と言ったか?」

あ、そういえばルキア達には言ってなかったな。

 

「ああ。なんか入隊した時に模擬戦やって、それで三席になった。」

 

「そ、そうか…。凄いな…」

おい、ドン引きするな。僕が傷つく。

 

「ルキアさん遅い…。あ!吹兎くん!」

「おお桃か。久しぶり。」

ルキアの帰りが遅かったのか様子をみにやって来た桃とも再会した。

 

「聞いてくれぬか雛森。こやつ、吹兎が三席にまで出世したというのだ!我らが追い抜こうと頑張っておるのにハードルをあげおって。」

 

「まあまあルキアさん…。えっ?!三席?」

 

桃もやはり驚いたのか先ほどのルキアと似た表情を浮かべる。

 

「ねえ、吹兎くん。三席って結構上の地位だよね?女の子って上の立場の男性に好意を覚える事が多いし…最近女の子にチョコレート貰ったりした?」

 

「ああ、この前のな。確か現世のバレンタインデーっていうイベントらしいな。結構貰ったぞ。義理チョコってやつだ。そういやなぜかハートの形が多かったなぁ。」

「…そうなんだ。」

ゾクリと背筋に悪寒が走った。僕…何か選択を間違えただろうか…。

 

 それから数日経って結婚式の当日。僕はこの日の仕事は既に終わらせているので何の心当たりもなく出発する。

「吹兎。あ、そうか。今日は身内の祝言だったな。」

浮竹隊長が僕に話しかける。

「祝言が落ち着いてからでいい。少し話があるから時間を作ってはくれないか?」




正直自分は浮竹の考えは分かるけど、海燕の戦いのときは、別に嫁が復讐を頼んだわけでも、虚と刺し違える事も望んでないだろうからな…。仇を討つのも一人で!ってのは我儘に見えてしまうから海燕の時はあの理論、違うと思っちゃった。
…ファン的に海燕に死んでほしくないって考えの補正が入っている事は否定しない。

あと恋次ってああみえて実は書類仕事能力高いんだよね?確か(うろおぼえ)

次回もよろしくお願いします!


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24話 シンデレラ

誤字報告してくれた方、ありがとうございます!


 「緋真さん。結婚おめでとうございます。幸せになって下さいね!」

「吹兎くん。来てくれてありがとう。私がこうして心の底から笑顔になれてるのはあなたのお陰です。改めて、ありがとう。」

 

壮大な結婚式。五大貴族の朽木家の結婚式なだけあるな。そして色鮮やかな着物を着た緋真さんは心の底から幸せそうに笑顔を浮かべていて美しかった。

 

「兄も来てくれた事、感謝する。」

緋真さんと話していると新郎、朽木白哉さんがこちらにやってきた。あの時の不審者としか思えなかった頃とは違って今は堂々とした振る舞いであり、五大貴族の一員としての風格を放っていた。

 

「緋真にはあまり話したくはないが、私は兄がいなければ緋真にプロポーズする事ができなかったと思っている。こうして祝言をあげられた事、そして緋真の罪悪感を消してくれた事、深く感謝する。」

 

白哉さんは頭を下げてお礼を言う。口調が固いと感じるがそれも彼の性分なのだろう。

 

「僕がどう白哉さん達の手助けになったのかは分かりませんけど、あの時言った通り、白哉さんと緋真さんが両想いだったから結ばれた、それだけです。」

 

「そうか…両想いか…。」

 

白哉さん、顔赤くなってますよ。

 

「済まぬ。取り乱した。兄の前で緋真の事を話しているとどうにも調子が狂う。今のは忘れてくれ。」

 

無理です。

 

 

 

 「お、冬空三席、職務ご苦労様であったな!」

「冬空三席!今日は女の子と一緒じゃないんですね!」

 

「ルキア、桃。からかうな。お前らだって普通に三席には将来十分届くだろう。それに桃、僕は桃の前で誰か女の子と行動したことは無い。人を女誑しみたいには言わないでくれ。」

 

新郎新婦への挨拶も終わり、立食形式のパーティ会場へと戻ってくるとルキアと桃を見つけた。あ、この料理美味しい。あ!これもいけるな!

 

「吹兎…。少々食べすぎなのではないだろうか…?」

「今日はご馳走が出るって言ってたからな。朝から何も食べてない。」

 

 

 

 「それでは新郎新婦。誓いのキスを。」

神主の格好をした見届け人のその言葉で僕は頭が真っ白になる。え?キス?こんな公衆の面前で?

 

「吹兎くん。顔が真っ赤になってるよ。もしかして…」

「べ、別に赤くなってはないぞ。ただちょっと恥ずかしいってだけで…」

 

白哉さんと緋真さんは口づけを交わす。

 

「でもすごくロマンチックだよね。好きな人と恋に落ちて結ばれる。」

「そう…だな。」

僕はまだ恋なんて分からないけど二人がすごく幸せそうだという事は分かる。いつか僕が恋をした時、二人のように幸せになりたいと桃の言葉も聴きながらそんな風に思った。

 

 

 「わ、私が朽木家にですか?」

「ええ。白哉様と一緒になれた事、すごく嬉しいのですがやはり私はあなたと離れたくはありません。我儘を言っているのは分かっています。それでも考えてはくれませんか?ルキア。」

 

私も血のつながった姉様と離れるのは嫌だ。姉様はまだあの事に罪悪感を抱いているようだが私は何も思っていない。吹兎や恋次達と出会えた。しかし朽木の妻の妹である私がお邪魔にはならぬだろうか…

 

「邪魔にはならぬ。緋真がそれを望んでいるならば私は義兄(あに)として兄に何の不自由も与えぬ。もし我らに遠慮しているのであればそれは考えるな。」

 

白哉さん、義兄様のその言葉によって私は朽木ルキアとなった。

 

 

 シンデレラ。確か現世の話であったか。身分の低い者が成り上がる話は魅力的だという事を多くの子どもが学ぶ。しかし同時にそれらの物語では主人公は周囲の人間から激しい嫉妬の感情を向けられるという事も古今東西、全ての本から学ぶ事もできる。

 

「ほら、あいつだぜ。五大貴族の朽木の養女になった奴は。」

「貴族権限でここも試験なしでもう卒業できんだろ?」

「うわいいなー。6年のとこを1年で卒業だなんて。俺なんて次の試験で既にヤバイのに卒業なんて考えられねーよ。」

 

流魂街の貧民出身の私が五大貴族の一員になる事はまさしく先に挙げたシンデレラの話なのだろう。私は霊術院ではどこからも噂話の対象になってしまった。

 

 

 ルキアが変わってしまった。いや、それくらいになるまでのプレッシャーを受けているのか?バカな俺には分からないくらいの重圧を今ルキアは背負っているのだろうか。俺たちだけは、俺だけはルキアを肯定してやらなきゃいけねぇ。

 

「よおルキア!最近どうだ?」

 

身近にいた俺たちでさえ、どう接すればいいのか分からなかった。俺たちが想像もできない世界に行っちまう奴になんて声をかけて送り出せばいいのか。どんな言葉を選んであいつに届ければいいのかが……分からなかった。

 

 

 「よおルキア!最近どうだ?」

恋次の声を随分と久しく聞いていなかった気がする。無理もないだろう、私がこうなったしまってあ奴も困惑していたのだろう。だが今はその無愛想な声が随分と心地よく感じる。

 

 

 あいつに幸せになって欲しい。前から思っていた事だ。吹兎と出会ってせいれいていまで2人で来たり色々あった。俺の初恋はおそらく叶う事はないがそれでも変な喋り方で、しかしどこか気品を感じさせるあいつが幸せになってくれればいいと思った。だからあいつがその道を選んだ事を後悔させないように何かを言わないと。

 

「よ、よかったじゃねぇか!朽木家なんてすげー家に拾われて。よかったなーおい!これで腹一杯食えんぞ!」

 

俺はまくし立てるように、直後に何を自分が言ったのかも分からないくらいに言葉を続けた。

 

「ありがとう。」

 

だがルキアは何の反応も示さずに俺の前から立ち去っていく。いや、何の反応も示さなかったのではない。俺がルキアを見ようとしなかっただけだ。なぜならきっとその様子を見てしまえば…

 

そのルキアの悲しそうな顔を直視してしまう事が分かっていたからだ。

 

 

 

 笑え莫迦者!此奴は私を励まそうとしてくれたのだ!その優しさを素直に受け取れ!このたわけ者が!

 

「…。」

 

しかし私の胸にどっしりとのしかかった虚無感は頬を、表情を暗くさせてしまう。笑えと思うがわざとらしい、引き攣った笑いにしかならない。

 

 

 

 私が悪いのだ…。皆は悪くない。

 

「皆はあの朽木の人間となった私との距離を測っているだけだ。」

 

しかしその距離が遠すぎる場所で測り終えたのだとしたら…。私はこんなにも後ろ向きな人間だったのらだろうか…。次から次へと悪い想像ばかりしてしまう。だからといって姉様も義兄様も悪くない。全て私の事を思った結果なのだ。私が割り切れば全て済む。私が我慢すれば全て終わるのだ。私は朽木の者として他の者よりも良い生活を送る事になるのだろう。利を得るならば何かを差し出さなければならない。それだけの事だ。

 

「…。」

 

しかし頭では分かっていても心がついてきてくれない。私はここまで強欲な人間だったのだろうか…。

 

 

 「ようルキア!そういやお前も緋真さんと一緒に朽木になるんだったな苗字。」

「…吹兎か。」

 

私は暫く呆然と歩いていたのか、霊術院とは随分離れた場所まで来てしまった。そこで吹兎と遭遇してしまう。ダメだ。このままでは吹兎に勝手に期待して勝手に裏切られたような気持ちになってしまう。私は吹兎の事を…大きな恩のある吹兎を嫌いにはなりたくない。

 

「ま、朽木って白哉さんもいるし今まで通りルキアって呼ぶけどよ。そうだ!お前この時間なら昼飯食べてないだろ?この近くに美味い店知ってるんだぜ!今から行こうぜ!」

 

「え…」

 

吹兎は私が何よりも欲しかった「当たり前」をまた私にくれたのだ。

 

 

 「で、どうした。何か悩みでもあったのか?朽木家でなんか貫禄ある執事さんにいじめられてるとか。」

吹兎が勧めてくれた(とても美味しかった)ご飯を食べて会計も済ませて(払ってくれた)霊術院への帰路の途中、吹兎がそう切り出した。

 

「なんか思い詰めてる感じだったからな。少しでも気分がよくなればと思ってな。」

 

そうか。最初に会った時に既に何かに悩んでいた事は見抜かれていたのだな。

 

「…吹兎は…私が朽木になっても…なぜ何も変わらず接してくれるのだ?」

私は…知りたい。

 

「は?いやお前が朽木になろうと志波になろうと浮竹になろうとルキアである事は変わらんだろ?」

たった一言で私の悩みを切り捨てた。

「え?それだけ…?」

「?それだけだが…?」

 

何か変な事言ったか?と、そんな表情で私の顔を見つめる吹兎に私は、自分の悩みが実はちっぽけだったのかと思ってしまった。既に心を沈ませてた大きな不安は溶け去り、そして吹兎への気持ちも変わっていくのを自覚した。

 

「ところで吹兎。私も来月、四月から護廷十三隊に入隊する事になった。私は十三番隊の希望を出した。もし同じ隊で働くとしたらこれからもよろしく頼む。」

吹兎がおるからな。

 

「あー...すまんルキア。僕来月から十三番隊じゃないんだ。」

 




はい、こんにちは。最後のセリフがどういう意味か、次回で明らかになります。

次回もよろしくお願いします!


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25話 昇進

ごめん。投稿したと思ったら保存してただけでした...


 「よう!みんな。」

僕は霊術院に()()があったため懐かしの学び舎へと足を運ぶ。

 

「よお!吹兎じゃねぇか。久しぶりだな。」

「あ、恋次か。」

「久しぶりに会ったから色んな話したいがすまんな。今からちょっと用事があるんだ。何でも隊長が直接指導してくれるみたいでな。お前も藍染副隊長の講義は覚えてるだろ?今回も行ってみようと思ってな。」

そう言って恋次は大講堂のある場所へと向かう。

 

 

 

 

ー数日前ー

 「浮竹隊長。すみません遅れました。」

緋真さんの結婚式の前に言われた浮竹隊長との約束。結婚式が終わってからようやく果たす事ができた。

 

「ああ。よく来てくれたな吹兎。」

通された浮竹隊長の私室には畳の上に強いてある座布団に正座している浮竹隊長ただ一人。仙太郎さん達や海燕さんもいなかった。

 

「もうお前が十三番隊に入って9ヶ月が経つな。」

「はい。」

そうか。じゃあ霊術院に入ってからもう1年が経つんだな。

 

「仕事もだいぶ慣れてきたようだな。人の上に立つ事も学べただろう。うちの下位席官や隊員からのお前に対する評判もいい。」

そんなに直接言われると恥ずかしいな。

「照れることはない。入隊した時には始解を会得しており、先日の特殊な虚討伐でも臨機応変な対応を見せてくれた。」

何かを考えた訳じゃなく、必死に目の前の事に対応しただけなんだけどな。

 

「そこでだ。確かめたい事がある。嘘はつかないでくれ。吹兎...

 

お前もう卍解に至っているだろ?

 

「えっ?」

「隠さずとも分かる。お前は霊圧を抑えるのが上手いが、俺の刀は相手の霊圧量が分かる。一ヶ月前くらいか、お前の霊圧量が急激に跳ね上がった。その時卍解を会得したのだろう?」

浮竹隊長がそう言うんだ。ハッタリではないだろう。それにこの人に嘘をつきたくない。

「はい。そうです。」

 

「そうか。吹兎。隊首試験を受けてみないか?」

 

 隊首試験。それは護廷十三隊の隊長になるためのいくつかある手段の一つである。総隊長を含む隊長三名以上の立ち会いの下行われる試験で、そこで実力や人間性を見られ合格すれば隊長職に就く事ができる。

「それではこれより、冬空吹兎十三番隊第三席の隊首試験を執り行う。十三番隊隊長、浮竹十四郎が推挙の力量の程、早速見せてもらおう。」

「はっ!」

この場には僕と浮竹隊長。そして試験官の山本一番隊総隊長、卯ノ花四番隊隊長、京楽八番隊隊長の計五名である。

 

 

 

 

 「今日は確か新しい隊長が来るんだっけ?」

「そうやローズ。喜助が入ってきた時以来やなぁ。」

 

「全員揃ったな。それでは新隊長を紹介する。」

 

 

 久方ぶりに護廷十三隊の隊長が全員揃った瞬間であった。

 

 

 

一番隊隊長

山本元柳斎重國

 

一番隊副隊長

雀部長次郎忠息

 

 

二番隊隊長

四楓院夜一

 

二番隊副隊長

大前田希ノ進

 

 

三番隊隊長

鳳橋楼十郎

 

三番隊副隊長

射場千鉄

 

 

四番隊隊長

卯ノ花烈

 

四番隊副隊長

山田清之介

 

 

五番隊隊長

平子真子

 

五番隊副隊長

藍染惣右介

 

 

六番隊隊長

朽木銀嶺

 

六番隊副隊長

朽木蒼純

 

 

七番隊隊長

愛川羅武

 

七番隊副隊長

小椿刃右衛門

 

 

八番隊隊長

京楽春水

 

八番隊副隊長

矢胴丸リサ

 

 

九番隊隊長

六車拳西

 

九番隊副隊長

久南白

 

 

十一番隊隊長

鬼厳城剣八

 

 

十二番隊隊長

浦原喜助

 

十二番隊副隊長

猿柿ひよ里

 

 

十三番隊隊長

浮竹十四郎

 

十三番隊副隊長

志波海燕

 

そして...

 

「新参者ですがこれからよろしくお願いします。」

 

十番隊隊長

冬空吹兎




浮竹隊長の双魚の理って、絶対攻撃を跳ね返すだけの刀じゃないと思うんだよね。あれはあくまで能力の一つ、もしくは派生的に生まれた能力だと思っている。スタークと浮竹のやり取りを振り返ればみんな分かると思うけど。「むしろそこまで見抜かれるとは...」って事は全部見抜かれた訳ではないという事。

冬獅郎の卍解の花弁のカラクリもシャウロンが勘違いしただけだし。ブリーチで能力に対する他人の予測ってまじでアテにならない()

次回からは十番隊隊長編です。正直隊長に就任してから原作と交わろうとしてたので...
とりあえず霊術院での講義からスタートです。よろしくお願いします!


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十番隊隊長篇
26話 ギスギス


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 「今日、皆さんに講義をする事になります。十番隊隊長の冬空吹兎ですよろしく。」

僕がそう言って頭を下げると途端に空気が冷え込む。

 

「は?吹兎、いやその羽織...。」

「ああ。中々一死神が霊術院に足を運ぶのは難しいからな。仕事も忙しかったし。」

浮竹隊長に言われた後も絶対仕事多めに押し付けられてた...

 

「だからまあ、里帰りみたいな感覚かな。僕も卒業してから何もして来なかった訳じゃない。きちんと講師の役割はこなすさ。」

 

 

 「斬拳走鬼のいずれも霊圧を行使して行う死神の技能だ。まあ当たり前だがいきなり急激に上手くなる、なんて事はあり得ない。」

参加してくれたみんなは暗い表情に変わる。

 

「だからこそ、基礎が大事なんだ。霊圧を使う斬拳走鬼の基礎はつまり如何に上手く霊圧を使うか、という事だ。最大霊圧量を多くするのは難しい。だから自身の霊圧操作力を高める事が大切だと僕は思っている。僕の考えは多分霊術院の教科書とは異なると思うし、瀞霊廷でも限りなく少数派だ。だから賛同できない人は帰ってもらって構わない。せっかく時間を作ってもらって申し訳ないと思うけどね。」

 

そう言って僕は賛同できない人の退出を認めた。まあ多くの人が残ってくれるとは思うが。

 

 

「...めっちゃ帰った。」

いつもの四人は勿論残ってくれたけど最初の人数から考えれば十分の一以下にまで減ってしまった。ちょっとヘコむ。

 

「ま、まあ...、いい意味で少数になったので個別で対応していきたいと思います。」

涙を拭いて霊圧操作のイメージを個人個人に合わせて教える。...僕って人望無かったのかな...。

 

 

 

 「今日はこんなものかな。特に恋次。お前は霊圧操作が四人の中じゃ一番致命的だからなー。」

「だから阿散井君の鬼道は少しアレなんだねー。」

「桃。恋次のそれはアレなどと言葉を濁して説明できる代物ではない。もっとはっきり言ってやれ。」

「なんだとー。」

 

ルキアの言い分に恋次はやはり堪忍袋の緒が切れたのかルキアに掴みかかる。

「はい、そこまで。ま、恋次が鬼道できないのは分かりきっている事だけど、恋次の剣術には光るものがある。さっきの講義でも言ったが、霊圧操作はあくまでも僕が考える強くなるための一つの手段に過ぎない。このやり方が合わない人もいれば別のやり方の方が合っている人もいる。極論、強くなれればそれでいいからな。斬術はもっとも霊圧操作が必要じゃない技能だしな。」

 

霊圧の出力、操作を自身で全て行わなければならない白打、そして特に鬼道は霊圧操作が求められるが斬術では斬魄刀が霊圧操作を一部担ってくれるので霊圧操作の能力が低くても一定の戦闘能力は担保できる。

 

「十一番隊とかは特に霊圧操作なんて普段からやらない奴の方が多いと思うしな。恋次には十一番隊が似合ってるかもな。」

 

「なんか同期なのにすごい差をつけられたみてぇで悔しいぜ。」

「何言ってるんだ?たまたま僕が早く出世しただけでみんなも隊長格には絶対なれる実力はあるだろ。」

四人は恥ずかしかったのか僕から目を逸らして俯く。

 

 

 「それより吹兎。貴様、隊長になる事はいつ決まったのだ?もう少し早く教えてくれれば私も十番隊に希望を出したというのに。」

「ねぇルキアちゃん。ルキアちゃんは吹兎くんと同じ隊に入りたかったの?」

「ああ。気心知れた者が同じであれば心配事も少ないであろうからな。」

「そうだね。()()と一緒だったら心強いもんね。」

 

「ねぇイヅル。なんかあそこギスギスしてない?」

なんか怖くなったのでイヅルに話しかける。

「君もそういう方面に関しては阿散井君みたいに鈍かったのかい...。まあ普段はあんな事ないから仲が悪いって事じゃないと思うからそこは安心していいと思うよ。」

 

なんか怖かったため、僕はそうっと二人に気づかれないようにその場を離れた。

 

 

 

 「とりあえず。よろしくお願いしますね。」

「ああ。俺も海燕からお前の事は聞いている。いや、隊長相手にこんな言葉遣いはマズかったな...。すみません。」

「いえ!僕は志波家の方々にすごくお世話になりました。変に畏まらないで下さい。」

「そうかい。じゃあ分かったぜ隊長。」

 

僕は十番隊隊舎で副隊長と面会する。名前は幾度と聞いた事があったが実際に対面する事はこれが初めてであった。

 

十番隊副隊長

志波一心




ルキアと桃は朽木問題が解決して更に仲がよくなっています。そして暗黒微笑雛森事変モードの時はルキアをちゃん付けで呼ぶようになりました。

乱菊さんはまだ一心の下の位、三席ではありませんのでまだそこまで偉くはありません。

次回もよろしくお願いします!


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27話 上に立つ者の振る舞い

更新遅れちゃってごめんなさい。


 「おい、これで5回目だ。仕事しろ。」

 

僕は一心さんを六杖光牢と鎖条鎖縛でガチガチに拘束してから怒る。

 

「隊長がやった方が早く終わりますからね。これも隊のため。...ってかこれ全然崩せねぇ...。なんて威力の鬼道だよこれ...。」

 

結構本気で縛ったからね。十三番隊にいた時も少し仕事押し付けられる事もあったが全部押し付けて逃げられる事はなかった。十三番隊は護廷十三隊の中でもホワイトな隊だと有名だからな。でも恩人の叔父と、部下にしてはちょっと微妙な関係で最初はぎこちなかった。でもこうして一心さんが仕事を置いて逃げ出し、僕がそれを追いかけるというのが続いてそのぎこちなさも無くなった。もしかすると一心さんはそのために敢えて仕事をサボって僕に押し付けようとしたのかもしれない。

 

「くそー。これ解いて早く遊び行きたいのになー。ねー隊長ー今日くらい見逃して?」

 

...そういう意図もゼロではないだろうが仕事をサボりたい方が本心に近いなこりゃ。

 

 

 

 

 

 

 「やあ吹兎!」

「浮竹隊長!お疲れ様です!今日はお身体大丈夫なんですか?」

 

一心さんが仕事をきちんと終わらせるまで監視してから僕はようやく自由な時間を迎える。最近は料理にハマっており、今はその食材を買いに向かっていたところだった。

 

「ああ、今日は絶好調だ!いや、もう冬空隊長だったな。済まない。」

「吹兎で大丈夫です浮竹隊長。」

 

 

恩人の浮竹隊長にそんなよそよそしくされたら悲しいしな。

 

「そうか?まあ分かった。ところで吹兎、今晩何か用事でもあるか?」

「いえ、ありませんけど。」

 

まだ食材も買ってないし、浮竹隊長の誘いを断るほどの用事などない。一心さんも泣きながら今日の仕事をしてくれたし。

 

「そうか。じゃあ今晩、ウチの隊舎に遊びにきてくれ。隊長になったんだし、一度紹介しときたい奴がいる。」

 

 

 

 

 

 

 「お邪魔します。」

「おお吹兎か。隊長から話は聞いてるぜ。隊首室に案内してくれと言われてるがお前は場所知ってるしな。」

「ありがとうございます海燕さん!」

「おう!」

 

立場が変わってもこうして変わらず接してくれるって嬉しいものだな。僕が隊長になって急に海燕さん達がよそよそしくなったら悲しくなると思うし...。もしかしてルキアが朽木に養女に行った時に少し悩んでたのはこれだったのかな?でも今は前みたいに楽しそうにしてるし解決できたのかな?そういや新入隊員が入ってくるのは来週か。恋次達とも話してルキアのパーティ開催しないとな。

 

「やあ、君が冬空君だね。隊首会ぶりに会ったね。今日はよろしく。」

浮竹隊長の隣には花柄の派手な羽織を着た京楽隊長が座っていた。

 

「京楽隊長!よろしくお願いします。」

僕は恭しく頭を下げて京楽隊長に挨拶をする。

 

「丁寧なのはいいけどそれはあまり良くない。君も隊長だ。いわば僕と君は同僚になる。君が僕にそこまでヘコヘコしていたら十番隊が八番隊よりも下に見られてしまう。別に横柄にしろ、とか言ってる訳じゃないよ?でも一つの隊を背負うって事はそういう事だから。それに今日はそんなしがらみとか外してパァっと盛り上がる場所だから。ほら、肩の力を抜いて抜いて。」

 

それから浮竹隊長と京楽隊長と酒を飲み交わした。




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28話 救命と作法

更新遅れてすみません。


 「急いで!重篤な方をすぐにこちらに運んで下さい!」

 

「そこの君!回道がうまく使えないならとりあえず止血を!」

 

「熱湯を早く持ってきてくれ!」

 

 

突然の虚の大群の襲来。六番隊と十一番隊、十三番隊が出動し、なんとか退ける事ができたが負傷者も多く、こうして僕は四番隊の詰所の応援に来ている。

 

「お疲れ様です、卯ノ花隊長。」

「お疲れ様です吹...いえ、冬空隊長。」

 

僕の回道の師匠、卯ノ花隊長と言葉を交わす。もう命に危機に瀕した患者はいない。

 

「私はあなたに四番隊に入ってほしいと思っていましたが...。十番隊に取られてしまいましたね。」

「いえ、僕は回道のスキル自体はそこまで高くないので...。」

「しかし救命に限ればあなたは私よりも上です。四番隊をあなたに任せて私は今の腑抜けた十一番隊に戻ろうと思いましたが...。

 

[怖い!怖いですよ主!]

そのあまりの恐怖に惜鳥ちゃんも斬魄刀を超えて悲鳴を出す。

 

「すみません、まだ私も未熟ですね。まだ昔のクセが抑えてないと出てきてしまう...。そうですね、四番隊の隊長をこれからも名乗るのなら救命もあなたを超えなければなりませんね。」

「...そんないい笑顔で言われても...。」

 

卯の花烈が師匠から好敵手(一方的)に変わったぞ!!

 

ーーーーーー

 「あ、朽木隊長!こんにちは。それに白哉さんも。」

「わざわざ済まぬな冬空隊長。」

「久しぶりだな吹兎。」

 

十番隊の隊首室で休憩していると朽木銀嶺隊長と白哉さんが訪問してきた。

 

「先日の虚の大群。冬空隊長の尽力がなければ我が六番隊の隊士の死傷者も増えていたと聞いている。ここに、感謝を。」

 

朽木隊長は僕に対して頭を下げる。

 

「吹兎!爺様が頭を下げてるのだぞ!呆然としてないで何か答えよ!」

「あ!すみません朽木隊長。お礼は頂きました。僕も自分のスキルを役立てる事ができてよかったと思います。頭を上げて下さい。」

 

そう言い、朽木隊長に頭を上げる事を促す。

 

「フッ、評判通り謙虚な者なのだな。護廷の隊長では珍しい。あ、失礼。」

 

そう断りを入れると朽木隊長は白哉さんの方に向き直る。

 

「白哉。先ほどからなんだその態度は。貴族といえど、当主でもないお前が護廷十三隊の隊長に対してなんだその言い分は。冬空隊長、少し失礼。」

 

そう言って朽木隊長は白哉さんを連れて隊首室を出て行ってしまう。...隊首室を静寂が包み込んだ。

 

 

後日

 「す、すまなかった冬空隊長。これまでの非礼を謝罪する。」

「いえ、吹兎でいいですよ白哉さん。」

「しかし...」

「なら自分も白哉って呼ぶので。」

 

朽木白哉と友達になったぞ!!




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29話 あそびあそばせ

更新遅れてごめんなさい


 「あ!隊長いいところに!あのヒゲ…いえ副隊長がまた執務を抜け出して…。本気を出した副隊長は我々では止められないのでよろしくお願いします!」

 

「あの野郎…」

 

 

毎日のように仕事をサボって抜け出す光景を繰り返したからか、僕が隊長就任当初に抱いていた一心さんいや一心に対する遠慮は消え去っていた。最早恩人の叔父という考えなど全くない。

 

──────

 「今日は霊圧を消してるか。」

 

幾度もの追跡で純粋な速力では逃げられないと考えたのか今日は潜伏してやり過ごそうとする腹づもりなのだろう。だがそう簡単に逃げられては色んな意味で困る。

 

縛道の五十八・摑趾追雀

 

一心の霊圧を探る網を張り巡らせる鬼道。勿論この軌道を発動させたからといって問答無用で見つけられる訳ではない。術とはいわば手段。素人がいくら真剣を使おうと達人の木の枝には勝てないように術を使う人間の素質も問われる。今回で言うと一心の霊圧を抑える技術とそれを感知する僕の感覚。鬼道で範囲を広げたり感知した霊圧を拡張したとしてもそれを感知できなければ意味がない。

 

 

縛道の七十七・天挺空羅

 

天挺空羅で自分の声を鬼道に変換して届ける。

 

「見つけた。覚悟しとけよ。」

 

 

まだ十番隊舎からは出てないな。毎日のように摑趾追雀と天挺空羅を使っているのでその二つの練度は中々のものになった。...これは喜ぶべき事なのだろうか...。

 

──────

 「げ、見つかった…。」

 

僕に見つかったのを理解した一心はそれまでの潜伏ではなく速力による逃亡を開始、追いかけっこが始まった。最初の方は僕に対して遠慮をなくすための一心なりの配慮かと思ったが違った。普通にサボりたいだけだったようだ。そして…流石にウザくなってきたので今日は痛い目を見てもらおう。

 

 

縛道の六十一・六杖光牢

 

「え?」

 

 

いつもは低級から中級の縛道を、しかし全力で放って拘束していた。動くことはできないだろうがそれでも痛くはなかっただろう。だが今回はいきなり六十番台を放つ。

 

縛道の六十三・鎖条鎖縛縛道の七十九・九曜縛縛道の九十九・禁。」

 

「えっ、ちょっ…タンマ…」

 

流石の一心も顔を青ざめているが知ったことではない。これを機に真面目に仕事して下さい。

 

──────

 「なあ中村。隊長、なんか楽しそうだな。」

 

目の前で笑みを浮かべながら一心を蟻の入る余地もないぐらいにギチギチに拘束していく吹兎を見て、ある隊員は同僚に対してそう呟く。

 

 

「本人は認めないだろうけど毎日のあの追跡も少し楽しそうだもんな。」

 

「隊長も就任してきた時は少し堅かったけど今じゃよく笑うようになったよな。」

 

「ああ、俺たちのような平隊員にまで気を配ってくれるしな。」

 

 

戦闘狂(変態)倫理観ゼロ(変態)が多い護廷十三隊の隊長格に比べて恵まれている自分たちの隊に彼らは感謝する。ただし…

 

「た、隊長…」

 

高難度の鬼道をいとも簡単に連発する吹兎に対して隊員は畏怖を感じ始めてもいた。

 

──────

 「今日は本当の意味で休暇だな。」

 

今までは自分の仕事がなくとも副隊長を追いかけまわすといったお仕事があったのだが最近は真面目に仕事に取り組んでいるのでそれもない。

 

「やる事がない…。」

 

十三番隊に所属していた時にも思っていたが自分はややワーカーホリックの性質があるのかもしれない…。部下にワークライフバランスを説いてるがまずは自分から実践しないと説得力がないなと思い努力して休もう、真剣に気分転換をしてみる事にした。

 

──────

「お、吹兎やないか。」

 

そうして考えに耽りながら道を歩いていると声をかけられた。

 

 

「あ、平子隊長こんにちは。」

 

「真子でええで吹兎。」

 

 

隊首会の時でも思ったがすごく親しみやすい方である。

 

 

「ところでお前何考えてたんや?」

 

「あ、実はですね…」

 

 

別に隠す事はない。僕は平子さんに自らの苦悩を吐露した。

 

「…。お前アホちゃうか?そんなん自分がやりたい事やればええやないか。お前も喜助とは別の方向でアホやな。」

 

僕の悩みは平子さんからしたら大した悩みではなかったようで鼻をほじりながら答えてくれる。…そういえば平子隊長っていつも遊んでる気がするな。京楽隊長と同じ系統か?そうか!僕も平子隊長達から学んだらいいんだ!

 

 

「平子隊長!僕に遊びを教えて下さい!」

 

「は?」

 

 

明らかにドン引きされた。しかし僕は諦めない。

 

「あ、ああ別にええで。丁度これからローズやラブ達と一緒にピクニックに行く予定やったんや。お前も連れて行ったるで。遊びを骨の髄まで教えたるわ。」

 

平子隊長!一生ついていきます!

 

 

「ただし、授業料はきちんと払ってもらうで。」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

 

僕がそう答えると平子隊長はニィと笑みを浮かべた。

 

──────

 「それで?あんたがウチ達の分まで払うてくれるって聞いたが?」

 

「なんで話が漏れとるんや…。」

 

 

最初は俺とラブ、ローズに拳西だけやったのにリサに白にひよ里まで来よってからに...。これじゃあ流石に吹兎にも申し訳ないやろうがい!

 

 

「ええわ!ならウチが遊びの何たるかを骨の髄まで教えこんだるわ!」

 

「ありがとうございます師匠!」

 

 

しかもなんか意気投合しとるし。あいつ、ほんまにただのアホとちゃうか?しかしそれにしても

 

 

「まさかお前も参加するとは思わんかったぞ。藍染。」

 

「平子隊長だけ遊びに行くなんてズルいじゃないですか。」

 

 

──────

 ん?なんで平子隊長さっきから五番隊の平隊員の人に対して藍染って呼んでるんだ?藍染副隊長ならその反対側にいるじゃん。そう思って藍染副隊長の方を見たら、

 

「フッ。」

 

何やらすごい笑みを浮かべられたんですが...。まあ他の隊長さん達も何もツッコまない辺りこれがこの二人の平常運転なんだろうか。いやー、色んな隊長副隊長の在り方があるんだな。

 

「それで、これからどこに行くんですか?」

 

よくよく考えてみればまだ聞いてなかった事を平子さんに尋ねる。

 

 

「現世だ。少し前までは現世もココ(尸魂界)みたいな街だったんだけどな。」

 

「最近、外国の文化とやらが入ってきて尸魂界とは違う様子になってな。この前行ったら面白かったんだよ。文明開化って言ってたな。」

 

「そう!お金も色々貯めたし、現世でたくさん買い物するんだよ!」

 

 

じゃあ霊術員で学んだ現世から少し変わってるって事かな?

 

 

「ねえねえラビたんは向こうで何するの?」

 

 

え?ラビたん?

 

 

「あー。まあ向こう行ってから考えようかな?って。時間もありますし。」

 

「それもそうやな。じゃあさっさと穿界門開くけ、ちょっと離れとき。」

 

 

そう言って平子隊長が穿界門も開く。僕たちが現世を訪れたのは現世の暦で言うと1945年の3月10日だった。

 

「なんやこれは...」

 

それは後世、東京大空襲と呼ばれるものでとても買い物など楽しめる状況ではなく、僕たちは肩を落として開きっぱなしの穿界門を通り、来た道を引き返した。




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30話 解析っス

更新遅れてごめんなさい。

一心さんはあのおちゃらけた感じと真面目な時とで全然感じが違いますよね。自分も頑張って書き分けてみますので、読んでる方も今がどっちの一心なのか考えて読んでみて下さい!




 「技術開発局?」

 

「はい。その書類を十二番隊の技術開発局に提出しろと。厳重な書類らしく三席以下の人間ではなく、らしいです。」

 

「っていう事は副隊長は行けるよね?」

 

「やだなぁ隊長。俺、今仕事中!お仕事中だから行けないの!」

 

 

普通に腹が立つが正論である。当然僕の今日の仕事分は終わっているがそんな事は関係ない。...最近一心仕事してるな...それよりも

 

「技術開発局か。」

 

──────

 技術開発局。それは当代の十二番隊隊長、浦原喜助が就任と同時に設立した機関である。それは科学的な手段を用いて尸魂界の発展に寄与するための研究機関である。まあ要するに脳筋集団の護廷十三隊に頭脳が加わったという事を意味する。

 

「お!冬空サンスね。待ってましたよ。さ!中へ中へ。」

 

隊首会の時にも思ったが、どこか掴み所のない人である。

 

 

 中にはこれまでみた事のない水槽などが大量にあり、つい物珍しさにキョロキョロと辺りを見渡す。

 

「そんなに見られると何か照れるっスね。何か気になるものでもありましたか?」

 

目に入ったのは黒の外套。

 

「おやっ、お目が高いっスね〜。その外套は身につけた者の霊圧を完全に遮断する優れ物っス!()()()の霊圧の出力を抑えるのではなく完全に遮断するといった性質を解析して実現した代物っス。お一ついかがっスか?」

 

霊圧を抑えるではなく遮断する...。それは空鶴さんにいつか言われた事で...。いや、まさかね...?

 

 

「まああなたには不要の物でしょうがね。冬空サン。」

 

「僕、あなたに解析された覚え全くないんですが...。」

 

「いや〜、一番隊舎の隊首会場って便利っスね。いざ何かがあった時のために色んな機器の持ち込みが許可されてるんっス。」

 

「...。」

 

 

え?じゃあ勝手に解析されてたって事?

 

 

「勘違いして欲しくないのだがネ、君のその特異な体質には興味が絶えないのだヨ。本当は解剖して隅から隅まで調べ尽くしたいんだけどネ。その衝動を必死に抑えているんだヨ。だから君は私に感謝してその身体を実験材料として差し出すべきなのサ。」

 

「儂の目が黒いウチはそんな真似はさせぬから安心せい。」

 

 

十二番隊舎の奥から奇天烈な格好をした人(?) と褐色の女性が入ってくる。

 

 

「お主とは隊首会で会ったきり直接話した事はなかったな。知っての通り、儂は四楓院夜一だ。そしてそこのは涅マユリだ。」

 

「よろしくお願いします、四楓院隊長。」

 

「夜一でよい。」

 

 

平子隊長と似たような感じなのかな?

 

 

「分かりました。よろしくお願いします、夜一さん。そしてマユリさん。」

 

「私のことは余所余所しく涅と呼べ。」

 

「...。」

 

 

 

 

 「それで喜助、話は終わったのだろう?」

 

「はい。冬空サンには既に勝手に解析した事を話して謝罪も済ませたっス。どうせいずれ分かる事っスからね。」

 

 

え?じゃあいずれ分かる事ではなかったら話してくれなかったのかな...。ていうか謝罪されたっけ?

 

 

「では此奴は借りていくぞ。」

 

「分かったっス。」

 

 

え?

 

 

「では吹兎。少し手合わせしてはくれぬか。儂も霊術院に入学してから1年で隊長にまでなった奴の力量を見たくてな。」

 

「まあ、いいですけど。」

 

──────

 「こ、ここは...。」

 

夜一さんと浦原さんに連れてこられたのは双極の丘の地下。そこには広大な土地と...温泉が沸いていた。

 

「ここは昔、儂と喜助がお遊びに作った場所じゃ。ここなら霊圧を高めても地上までには届かぬ。...意味は分かるな?」

 

マユリさ...涅さんは気がつくとどこかに行っており、この場には僕と浦原さんと夜一さんしかいない。

 

 

「ここらでよいだろう。手合わせと言ったがこれからお主と白打による組手を行いたい。構わぬか?」

 

「大丈夫です。」

 

 

隊長さんと修行をできる機会はまあない。むしろ僕からしてもありがたい申し出である。

 

 

「そうか。それではゆくぞ!」

 

その言葉が僕に届くと同時に夜一さんは瞬歩を発動させてこちらへと向かっていた。

 

「ッ!?」

 

いきなりの奇襲に対応できず何発か掠った。

 

「今のでこれだけか。やはりやるな。では本気でゆくぞ!」

 

 

 

 「ッ!速い。」

 

右から、左から後ろから繰り出される攻撃はとても早く捌く事が難しい。しかし僕も隊長、簡単に負けてやる訳にはいかない。

 

「うおおお!」

 

捉えた!僕は夜一さんに対して拳を振り抜いた。しかし、

 

「甘い!」

 

振り抜きは衣服のみを掴みかわされた。そして夜一さんに背後をとられた。体勢的にもタイミング的にも避ける事はできない。完全なカウンター。それなら、

 

「なっ?!」

 

──────

 「いやーやるっスね。」

 

最初の夜一さんの奇襲は不意を突かれたのか何発か入った。しかしそれだけですぐに冬空サンは体勢を整えた。それからは膠着状態に入る。夜一さんは手を抜いてない、完全に本気っスね。護廷十三隊の隊長の中でも夜一さんよりも力が上の隊長は存在する。しかし速力になると話は別だ。二番隊隊長と隠密機動総司令部の軍団長を兼任する夜一さんの瞬歩は護廷十三隊でも最高クラス。そしてそれと張り合っている。

 

「いやぁ〜末恐ろしいっスね〜。」

 

なぜなら冬空サンは白打に特化したタイプではないっスから。

 

「しかし冬空サンにも弱点はあるみたいっスね。」

 

夜一さんのあの空蝉。本来ならもっと相手を引きつけなければ相手は欺けない。しかし余裕を持って冬空サンを欺けた。その前の軽はずみな拳の誘いにも乗ってきた。冬空サンに足りないもの、それは圧倒的な経験。死神になってから間もない事からの戦闘時間の少なさ。

 

「霊圧もセンスも一級品。」

 

しかしそれを扱うのに足りない経験値。能がない虚相手ならともかく、こうして老獪な攻めをされれば為す術がない。

 

「勝負ついたっスね。」

 

完全に夜一サンが後ろをとった。あの一撃を冬空サンはかわす事ができないでしょう。そう、確信していたが。

 

「なっ?!」

 

夜一さんの拳は透明な()()()()に阻まる。そしてその一瞬の動揺をつき冬空サンは夜一さんに一撃をいれた。

 

「勝負あり...っスね。」

 

勝負はついた。冬空サンの速度も確かめる事ができた。それに何より、

 

「なぜ冬空サンがそんなにも特異なのかが分かったっス。」




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31話 約束

 「で、ルキア。桃達には気づかれてないよね?」

 

「無論だ。抜かりはない。」

 

 

僕が隊長に就任してから5年が経った。慣れなかった業務も今では日課のようにできるようになっていた。そして桃や恋次達は最終学年。そう、ルキアと一緒にドッキリ卒業祝いパーティを計画中なのである。

 

 

「そういえば桃は十番隊志望なのだな?」

 

「まあまだ予備調査の段階だけどね。」

 

 

桃は十番隊、恋次は十一番隊、イヅルは四番隊に希望を出していると聞いている。

 

 

「では私も十番隊に異動するぞ!」

 

「また変な事言って...。隊長や海燕さん達に恩義あるんでしょ?ただ知り合いがいるってだけで職場変えるなんてダメだよ。」

 

 

特にルキアは海燕さんに始解の修行をつけてもらっているらしい。僕?僕もまだ未完成だからね。他人に修行をつけるにもまずは自分ができないといけないからね。

 

 

「そういえば吹兎のところのあのお婆様にも協力してもらうのだったな。」

 

「ああ。店長も冬獅郎君も祝いたいだろうしな。勿論内緒だ、って事は話してる。っていっても桃が二人から何かを聞くこととかないと思うんだけどな。」

 

「そうか。ならば問題ないな。...ところで吹兎。」

 

「ん?どうした?」

 

「来月...だな。新作のあんみつが出るそうだ。今度行かぬか?」

 

「来月か。桃達は卒業とか入隊とかの忙しいだろうけどまあ一日くらいなら大丈夫かな。」

 

「いや...二人で...だが...」

 

「え?」

 

「と、とにかく!行くのか、行かぬのか!答えろ!」

 

「え?いや別にいいけど。でもなん...」

 

「言質はとったからな!取り消せぬからな!約束だからな!私は!これから海燕殿と修行の時間だからな!済まぬ!」

 

「え?いや、ちょっと!」

 

 

僕の言葉も最後まで聞かず、ルキアは瞬歩でその場を立ち去ってしまった。

 

──────

 「おかえり、吹兎。ちゃんと準備はできとるよ。」

 

「ありがとう店長。そういえば冬獅郎君は?」

 

「俺ならここだぜ。」

 

 

そう言って奥から冬獅郎君が出てくる。

 

「少し、テメェに話があるんだ。」

 

 

 

 「え?店長が病気?!」

 

「ああ。やっぱり雛森から聞かされてはいなかったか。」

 

「...初耳だ。」

 

「テメェの事はアイツから聞いている。色々心配かけたくなかったっていうアイツの事も分かれ。」

 

 

でも...僕にとっても店長はすごく大切な人で...

 

 

「だから、俺が伝えた。ばあちゃんも雛森も言わねぇと思ってな。」

 

「冬獅郎君。」

 

「ただいまー!って吹兎くん!?」

 

「あ、桃!霊術院は?」

 

 

霊術院は夏冬の長期休暇を除き瀞霊廷から出ることはできない。つまりここに桃がいる訳がない。まあだからといって霊圧探っても、というか話したらすぐ分かるけど偽物じゃない。

 

 

「その顔...シロちゃんから聞いたんだね...。」

 

「ああ。」

 

「黙っててごめんね。でも...」

 

「桃が言いたい事は分かってる。僕のためを思ってたんだよね?なら...別に謝らなくていいからさ。」

 

「吹兎くん...。」

 

 

桃がいるところでは当然催しの事など話せず当初の目的は失ったがこうしてまた四人で食卓を囲み、懐かしい思いになった。夕飯を食べると桃は瀞霊廷へと帰っていった。どうにも身内の病気、を理由にして午後の実践の範囲を午前中に済ませる事で時間を作っていたらしい。

 

 

「まだ起きてるか?」

 

「冬獅郎君。」

 

「さっきは雛森が来ちまったせいで途中まで伝えられなかった。」

 

 

縁側で横になっていると冬獅郎君が話しかけてくる。

 

 

「ばあちゃんは毎日毎日痩せ細っていくんだ。...正直俺はどうすればいいのか分かんねぇ。ただ、無理はさせてやりたくねぇんだ。あいつも...ばあちゃんを無理させてまで祝ってもらいたいとは思ってねぇはずだ。けど、俺から言ったってはぐらかされちまう。だから...」

 

「分かった。僕から言っておくよ。」

 

「すまねぇ。」

 

「いいさ。」

 

「じゃあ俺は先に寝るぜ。」

 

「ああ、おやすみ。」

 

 

そう言って冬獅郎は布団に戻っていった。

 

 

 

 「店長が...」

 

一体何が原因か。病気か?病気なら卯ノ花さんに頼めば治るだろうか...。僕の能力は出血や損傷など傷を負った時の救命はできるが病気の治癒は無理だ。...こんな事なら医学だけではなく回道もきちんと学んでおくべきだった。そう、後悔していた時だった。

 

「ッ!」

 

なんだこれは?霊圧?敵襲か?しかしなんでこんなところに...?そして寒い...

 

「冬獅郎君!」

 

その霊圧の発生源に向かう。そこには...氷の竜を想起させるような巨大な霊圧を纏った冬獅郎君がいた。

 

「ッ!店長!」

 

勿論同じ部屋には店長も寝ていて、凍えていた。もしかして店長の病気って...いや!まずはこの霊圧の奔流を止めなければ!

 

──────

 「そっか...シロちゃんが...。私がもっと早く吹兎くんに伝えていればおばあちゃんは苦しまずに済んだのかな...」

 

「桃は霊術院で冬獅郎君が眠る頃には帰っていたんだ。自分を責めるな。それに僕だって今日は桃の事があってたまたま泊まっただけだ。言われても気づかなかったかもしれない。」

 

「私の事?」

 

「あ。」

 

 

しまった。完全にサプライズって話だった。

 

 

「それより冬獅郎君の事だ。死神でもなければ霊術院にも入ってないのにあの霊圧。そしてその制御ができていない。」

 

いやまあ制御ができてたらもう席官クラスなんだけどね。

 

「さっき、冬獅郎君には死神になる事を勧めてきた。」

 

──────

 「ッ!これは一体?」

 

毎晩みるあの変な夢。それが一瞬でかき消されたと思えば目の前には冬空が立っていた。そしてアイツが周囲を見るよう促し、それに従えば部屋は冷気に包まれていて、ばあちゃんは震えていた。

 

「ばあちゃん!」

 

ここ最近のばあちゃんの病気は俺のせいだったのか?!

 

「冬獅郎君は死神になるべきだ。」

 

そいつは俺に対してそう告げる。

 

 

「冬獅郎君の霊圧は強大だ。それを制御する術を身に付けなければいつか取り返しのつかない事になる。」

 

「ばあ…ちゃん…」

 

 

死神になるべきって事は分かった。けどそれじゃあばあちゃんを1人にしちまう。

 

 

「この霊圧は…って隊長!?」

 

あいつは…。確か昼に会った…

 

 

「ん?乱菊か。どうしたんだこんなとこで。」

 

「いえ、昼ごろにこの少年を見かけて霊力を感じて。そしたらその霊圧が暴発したような感じがしたので。まさか隊長までいるとは…。いえ!隊長が霊圧を完全に消してるのが悪いんですよ!」

 

 

そう言われてふと気づく。乱菊と呼ばれた死神も、雛森からも何か抑えてるようだったが俺がさっきまで出してた霊圧?を感じられた。しかし冬空からは何も感じねぇ。…こいつは霊圧を完全に制御できてるのか?

 

 

「冬獅郎。」

 

「ばあちゃん!」

 

「冬獅郎は優しい子じゃからのぅ。ばあちゃんの事は気にしないで自分のしたい事をすればええ。」

 

「これからは冬獅郎君が卒業するまで僕が責任とって店長を見守る。桃も来年からは霊術院の生徒じゃない。初年は色々忙しいけど今よりは帰ってこられる。」

 

──────

 「じゃあ、シロちゃんも死神になるんだ。」

 

「嫌だったか?」

 

「ううん。確かに死神になるって事はシロちゃんは虚と戦わなきゃいけないって事だけど…シロちゃんの事を考えたら反対できないよ。それに!何かあれば姉の私が守るから!」

 

「姉、なんだな。」

 

 

うまく話を逸らせた事に安堵する。

 

 

「ところで吹兎くん。」

 

「ん?どうした?」

 

「私の事ってなあに?」

 

 

全く誤魔化せてなかった…

 

 

「まったく…吹兎くんって隠し事苦手だよね。分かった、聞かないでいるね。ただ!その代わり一つお願いがあります!」

 

「お願い?」

 

「来月、フルーツパフェの新作が出るらしいんだ!だからその…今度2人で行かない?」

 

 

ルキアと同じ事だな。

 

「いいよ、それくらいなら。」

 

「絶対だよ!約束したからね!」




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32話 魂魄消失事件

 「あ、浦原さん。おはようございます。」

 

「おはよっス、冬空サン。」

 

 

ようやく予算編成の書類が整った。一度書いた文面だったので一回目より出来上がりは早かったが、徹夜してようやく間に合った。僕は書類に墨汁をこぼしてくれた一心を連れて瀞霊廷を歩いて一番隊隊舎へと向かっていた。

 

 

「おっす、おはようさん。喜助、吹兎。」

 

「あ、おはようっス平子さん。」

 

「おはようございます平子隊長。」

 

 

浦原さんと歩いていると藍染副隊長を連れた平子隊長とも合流した。

 

「真子でええ言うとるやろ。めんどいやっちゃな、お前ら。」

 

浦原さんにも呼び捨てを推奨してたんだ。

 

 

「おはようさん、マユリ。」

 

「よそよそしく涅と呼べと言ってるだろ。不愉快な男だネ。」

 

「...難儀なやっちゃな。」

 

 

うわぁ、なんかあのやり取り前にした覚えあるぞ...。

 

 

「そういや聞いたかお前ら、あの話。」

 

「どの話っスか?」

 

「流魂街での変死事件についてや。」

 

「変死事件?」

 

 

僕の問いかけに平子隊長は首を縦に振る。

 

 

「せや。ここ一ヶ月ほど、流魂街の住人が消える事件が続発しとる。原因は不明や。」

 

「消える?どこかにいなくなっちゃうって事っスか?」

 

「アホ。それやったら蒸発って言うやろ。大体蒸発やったら原因なんて知るかい。そいつの勝手やろ。」

 

 

いや、蒸発も続発したら問題だと思いますが...。

 

「ちゃうんや、消えるんや。服だけ残して跡形もなく。」

 

平子隊長はいつになく真面目な顔つきをする。

 

 

「死んで霊子化するんやったら着とった服も消える。死んだやのうて、生きたまま人の形を保てんようになって消滅したんや。そうとしか考えられん。」

 

「それって死んだ、って事とは違うんですよね...?」

 

「すまんな、俺も卯ノ花隊長に言われたことをそのまま言っとるだけや。意味分からん。ともかく、その原因を調べるために今、九番隊が調査に出とる。」

 

 

 

 「浦原さん、さっきの話どう思いますか?」

 

平子隊長と藍染副隊長が去ってから僕はさっきの話が気になり、浦原さんに尋ねていた。

 

「今のところじゃ何とも言えないっスね。まあ六車サン達が調査に行ってるなら何か掴めるでしょうし、今は続報を待ちましょう。今、アタシ達にできる事は何かあった時のために備えておく事だけっス。」

 

 

 

 「どう思う?一心。」

 

「浦原隊長でも分からねぇ技術的な事を俺が分かるとでも?」

 

 

一番隊の書類も提出が終わって一心と十番隊への帰路の途中である。

 

「そうじゃなくて、浦原さんが言ってた備えってやつ。」

 

一心の言う通り、浦原さんができない技術的問題を僕たちが解決できるとは思えない。

 

 

「何か起こった時のためにすぐ動けるように準備しておく、とかっスかね。有事の時のマニュアルを作成するとか。隊として動く準備を整えておくって事じゃないですかね?」

 

「今でも整ってると思うけどなぁ。」

 

「ま、ウチはその辺は大丈夫だと思うっスけどね。」

 

 

 

隊首会の緊急招集が届いたのはその翌日すぐの事だった。

 

──────

 「火急である。前線の九番隊待機陣営によれば、野営中の同隊長六車拳西、同副隊長久南白の霊圧が消失。原因は不明。これは想定し得る限り、最悪の事態である。昨日まで流魂街で起きた単なる事件の一つは護廷十三隊の誇りにかけて、解決すべきものとなった。」

 

例の魂魄消失事件。初の死神、それに加えて隊長格の被害が観測された。六車さん...白さん...。

 

「よってこれより隊長格を五名選抜し、直ちに現地へと向かってもらう。」

 

総隊長がそう宣言すると同時に浦原さんが入室する。いつもであれば全員揃わなければ始まらない隊首会だが、緊急時なため欠員がいる状態でも始められた。

 

 

「遅いぞ、浦原喜助。」

 

「僕に、行かせて下さい。」

 

「ならん。」

 

「僕の副官が現地に向かってるっス。僕が!」

「喜助!」

 

 

浦原さんのその言葉に異議を唱えたのは夜一さんだった。

 

「情けないぞ、取り乱すな。自分が選んで行かせた副官じゃろう。お主が取り乱すのは其奴への侮辱だという事が分からんのか!」

 

その言葉で目が覚めたのか、言い返す事ができなかったのか、京楽さんが列に並ぶように促してから総隊長の指示が再開した。現場へ赴く隊長は鳳橋隊長、平子隊長、愛川隊長。隠密機動の夜一さんは事が動くまで待機。僕を含めたそれ以外の隊長は瀞霊廷守護と、次々に役割が割り振られていった。

 

「これにて解散。」

 

その言葉で僕たちは一番隊舎を離れるが、浦原隊長の顔が忘れられなかった。




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33話 真相

情報がないのなら浦原を止める方が自然であると思います。あの状況なら。


 「やっぱり...。現場に向かわれるんですね浦原さん」

 

「助けに行かれるのでしょう。副官を」

 

そこは瀞霊廷から流魂街へと出る門。こんな夜中に死神のそれも隊長が身を隠して出るところではない。

 

「隊首会の時、浦原さんの様子がおかしかったです。嫌な予感がしました」

 

「見つかっちゃいましたか……冬空サン、鉄斎サン。見逃しては貰えませんかね……?」

 

「浦原さんには悪いですが」

 

平子隊長含め多くの隊長格が出動している。猿柿さんに何か起こるとは思えない。それなら、浦原さんが罰せられないように説得するべきだ。

 

「冬空殿。ここは見逃して頂きたい」

 

「大鬼道長さん?!」

 

しかし隣にいた大鬼道長さんは僕を静止し始めた。浦原さんも驚いている。

 

「浦原殿は我々が知らぬ事を何か掴んでおられるご様子。その上で今回の事件を異常事態と捉えていらっしゃる。浦原殿を通さぬと言うならこの私がお相手申す」

 

大鬼道長さんは浦原さんの前に出てこちらと相対す。ハッタリではないようだ。

 

「……分かりました。後で3人全員総隊長に怒られるとしましょう」

 

「冬空サン……感謝します」

 

僕達は瀞霊廷の外へと向かった。

 

──────

 「これは、珍しいお客様達だ」

 

「藍染副隊長。ここで何を」

 

「何も。偶然にも戦闘で負傷した魂魄消失特務部隊の方々を発見し、救助を試みていただけです」

 

藍染副隊長は取り巻きの2人を横に置き、そう答える。平子隊長達は白い仮面のようなものをつけられ苦しんでいる。しかし目の前の敵から目を逸らす事は許されない。藍染副隊長...いや、藍染が黒幕なのは間違いないのだから。

 

「なぜ、嘘をつくんスか?」

 

「嘘? 副隊長が隊長を助けようとする事が何か問題でも?」

 

「違う。引っかかっているのはそこじゃない。戦闘で負傷した? これが負傷? 嘘言っちゃいけない。...これは虚化だ」

 

その耳慣れない言葉に僕は大鬼道長さんと目を合わせる。

 

「魂魄消失事件。それは虚化の実験っス」

 

「グォォォッ!」

 

そこまで話したところで平子隊長が苦しみ始める。時間がない。もうやるべき事は一つしかない。

 

「浦原さん。平子隊長達の処置は可能ですか?」

 

「可能性は限りなく低い懸けのようなものですが..」

 

「しかし何もないよりはいい。問題は藍染をどうするか」

 

「浦原さん、大鬼道長さん。先に行って下さい」

 

「しかし! 冬空殿だけでは!」

 

僕の発言に大鬼道長さんが反対する。それはそうだ。藍染達はこれだけの隊長格をたった三人で倒した。副隊長とかそういう席次で考えていい相手ではない。でも...

 

「...僕の卍解は味方がいては使えないんです」

 

そこまで言うと大鬼道長さんは押し黙る。僕の卍解を知っているのは隊首試験の立会人の総隊長、卯ノ花隊長、京楽隊長、浮竹隊長だけなのだから。




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34話 卍解

藍染の斬魄刀には諸説ありますが、ここでは始解を見せた相手を卍解で操るという事にしています。


 「藍染様、追いますか?」

 

浦原さんと大鬼道長さんが平子隊長達を抱えて今、僕は藍染ら三人の対峙している。

 

「いや、いいよ要」

 

「それならこの者を斬ります」

 

「いや、いいよ」

 

「しかし!」

 

「要。僕はいいと言ったよ」

 

「し、失礼しました!」

 

「すまないね冬空君。僕の部下がとんだ無礼を働いた。正直今日この場所に君が来ないように四十六室に細工したりしたんだが...徒労に終わってしまったようだ。そうだ、少し昔話をしよう冬空君」

 

「昔話?」

 

僕の問いかけを肯定し、その渋いバリトンを響かせて藍染は話を始める。

 

「実は今回の実験。五十年前には既に準備は整っていてね。実際に始めようともしていたんだ」

 

その声は聞かない事を許さず、僕は警戒は緩めずともその話を聞いていた。

 

「しかし実行に着手しようとした時、ある特異な魂魄を発見してね。それは西流魂街80地区の叫喚からだった」

 

ここで動揺すれば藍染の思い通りだ。油断をするな。いつ斬りかかってくるか分からないのだから。

 

「その魂魄は生まれたと同時にその霊圧が消えた。私も最初は生まれたと同時に死んでしまったのかと思ったよ。流魂街でもかなり治安の悪い場所だったからね。しかしそれだけでは特異な魂魄ではない。そう、それからすぐの事だった。その魂魄は虚に襲われたようでその霊圧を再び僕らは観測する事ができたんだが...以前と霊圧量が圧倒的に異なっていた。非常に興味深い魂魄だ。僕は実験を一時中断してその魂魄を観察していたんだ」

 

藍染は更に続ける。

 

「勿論君の話だ。君は何人かから霊圧を全く感じないと言われた事があるだろう? その理由は...君の異能は...

 

 

霊圧の具象化だ。

 

──────

 「全ての死神は霊圧を用いて戦闘をするが、それは斬魄刀に纏わせたり鬼道に変換して使うだけだ。霊圧そのもので攻撃する事などない」

 

それは霊圧差が大きい場合に垂れ流した霊圧を斬魄刀で斬り裂けないという事とは違う話であろう。

 

「しかし君は自らの霊圧を具象化し、糸とした上で救命活動をしたり霊圧を固めて盾としたりしている。そして自らの身体を具象化した霊圧で纏っているために他人は君の霊圧を感知できない。いや、感知できないのではなく霊圧が外に漏れ出していない。そして出るはずだった霊圧が外に出ないことで君の鎖結と魄睡に直接負荷をかける形となり、その成長速度に繋がるという訳さ」

 

長年指摘されてきた問いの答えをあっさりと言われた事で戸惑ってしまうが、平静を取り戻すことができた。

 

「僕の斬魄刀、鏡花水月の能力は完全催眠だ。始解を見せた相手を卍解で操る事ができる。君には霊術院時代に始解を見せた筈だ。それが君が隊長になるくらいには催眠が君には効いてなかった。平子真子と歩いていた時だ。覚えているかい?」

 

鏡花水月の話をして、藍染の後ろに控えている、銀髪の市丸の様子が変わったような気がした。市丸にも警戒をしておく。

 

「時系列的にそれが君の卍解の能力かい?」

 

「そんなに見たいなら...そろそろ始めるぞ藍染」

 

 

卍解!




霊圧の具象化。それが吹兎の力の根源です。そこから色んな能力が派生したという事ですね。霊圧が感じない、とかの伏線は一応回収できました。

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35話 選ぶという事

吹兎の口調が違うのはミスじゃないです


 それはまだ吹兎が隊長に就任するより前の卍解修行の時の話である。

 

「でも僕はまだ始解も完全に会得してる訳じゃないのに卍解の修行を始めるべきかな?」

 

「多くの卍解は始解の延長線上の能力ですが私のは少し違います」

 

長い黒髪のこの少女はご存知、僕の斬魄刀の惜鳥である。

 

「私の能力は霊子結合を経つ力。始解はそれを斬魄刀に纏わせ卍解はそれを主に纏わせる能力です。言うならば始解は攻撃用で卍解は防御の力。主を危険から断ち切ってくれる能力です」

 

だから始解が未完成だったとしても卍解を会得する分には問題ないという事らしい。

 

「能力の本質は分かつ事。そしてそれは選択肢を生み出し選ぶという事です。選ぶという事は選ばなかった未来を放棄するという事よ。選ばなかった未来を覚悟する事が卍解会得の条件。これから過去、現在、未来と主が選ばなかった先の未来を観てもらいます」

 

──────

 流魂街では生前の家族と会える者はほぼいない。周りの人間達と家族を作って暮らすのだ。そしてそれは吹兎も例外ではない。

 

「じゃあ吹兎、母さんと慎吾を頼むぞ!」

 

「...」

 

「じゃあ慎吾、母さんと兄ちゃんを頼むぞ!」

 

「うん! 分かったよ父さん!」

 

これはまだ吹兎が瀞霊廷を目指しルキアや雛森と出会うより前の話である。父と母はお人好しの人間であった。そして甘い人間であった。()()()()()()()の事も彼らは家族だと思っていた。

 

「お前! あの言い方はないだろ!」

 

だが吹兎の弟(当然血の繋がりはないが)、慎吾は両親とは違った。

 

「まあまあー。慎吾もーお兄ちゃんの事お前だなんて呼んだらダメよー」

 

「ッ! でも母さんッ!」

 

そう言われてしまえば吹兎と違い母想いな慎吾は何も言えない。覚えてろよ! と吹兎を一睨みしてから家の奥へと戻る。

 

「でも吹兎ももっと仲良──」

 

「......」

 

吹兎は母に目も合わせず家を出た。

 

──────

 吹兎とて生来から悪い人間ではない。しかし彼は人の負の部分を見すぎた。人間とは簡単に裏切る存在であるという事を魂の奥まで刻みつけられている。だから彼が他人を自分の中に入れないのは、それは一種の防衛反応なのである。

 

そしてその覚悟はあの家族を見るたびに揺れ動く。家族と共に生活する中で大切な事を忘れてしまいそうで反射的に辛く当たってしまうのだ。そしてそれは吹兎に二つ目の、決して忘れる事ができない後悔を刻みつけるのである。

 

吹兎の母はなぜか虚によく襲われる。そして虚から家族を守れるほどの戦闘力を持った人間は吹兎しかいなかった。だからこんなくだらない自己満足で家を出なければ、父に言われた通りに母を守っていれば...家族の皆が死ぬ事はなかった筈なのである。

 

 

 

 

 人生とは選択の連続である。日常の小さな選択から人生に関わるほどの大きな選択まで。人は常に何かを選び続けている。そしてそれが生きるという事なのである。

 

だからこそ思ってしまうのだ。もしあの時、別の選択をしていたのならば。もし自分があの時もっと強く、家族を自分の中に入ってくるのを拒絶しない強さがあったのなら...あの暖かな家族と共に幸せに暮らす事ができたのだろうか。そんな後悔が永遠に残るのである。

 

しかし何かを選ぶという事はそれ以外の選択肢を、その先に続く道を、未来を捨てるという事である。真に何かを選ぶのならばその覚悟を持たなければならない。自ら切り捨てたのならいつまでもウジウジと悩む訳にはいかない。真に何かを選んだのであれば前を見なければならない。

 

 

 

 

──卍解──

 

和気知不孤児戒錠(わけしらずこじのかいじょう)




あれ?この名前って斬魄刀『惜鳥』よりむしろ技名『和気開錠』の方に似てない?と思ったそこのあなた、伏線ですので楽しみに予想してみて下さい!

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36話 決着

斬魄刀の能力をペラペラ喋るのはブリーチでの作法です


──卍解──

 

和気知不孤児戒錠(わけしらずこじのかいじょう)

 

その言霊を呟くと吹兎の姿は青の毛皮のようなコートを羽織り、天使の羽のようなものが生えたような姿となる。

 

──────

 「それが、君の卍解かい?」

 

「和気知不孤児戒錠。霊子結合を切り裂く斬魄刀の能力を自分自身に纏う能力。始解が攻撃用なら卍解は防御用。だからこそまだ始解が未熟でも卍解を習得する意味がある」

 

「そうか。それでは少し遊んでみようか。

 

破道の八十八・飛竜撃賊震天雷炮

 

藍染は瞬歩で僕の側面に回り込んでから鬼道を発動させる。このままだと右肩辺りに着弾するな。それならその辺りに集中すればいい。

 

軟禁界城(なんきんかいじょう)

 

その言葉によって右肩に着弾した藍染の鬼道を霊子レベルで切断する。

 

「なるほど。君の卍解は攻撃が来る場所にその能力を使わせる事で相手の攻撃を霊子レベルで分解する能力のようだね。つまり君が感知できる速度で、特に白打なんかで攻撃すれば最大のカウンター攻撃にもなる訳か」

 

正確に言えば全身に纏えるのだがそうなれば霊圧の消耗が激しいので。使うときにその場所にのみ、という使い方が一般的なのである。

 

「それなら斬魄刀による攻撃はあまり得策とは言えないね。そして君の斬撃も斬魄刀で受けるのはやめた方がいい。なるほど、遠距離での対応を迫られる訳か。そして君がそれに対処しない訳がない」

 

円卓墓標(えんたくぼひょう)

 

それは断つ能力を斬撃にして飛ばす能力。ただし対象が込めた分の霊圧よりも強固なものであれば何も起こらず、ただの霊圧の無駄使いとなってしまう。しかしこれはあくまで藍染に距離を取らせないための伏線でしかない。そこまで霊圧は込めずに放つ。簡単に避けられるが問題はない。

 

少しやり合えば分かる。霊圧量は僕と同じか少し藍染が上だ。断つ能力はあまり乱発できない。速度が僕よりも上だからだ。円卓墓標は外してしまう可能性があるから近距離の和気開錠と軟禁界城で対応するしかない。

 

和気開錠!

 

確実に断てるくらいの確実な霊圧を刀に纏わせてから斬術と走法の同時使用で斬りかかる。

 

「ッ!」

 

最初の斬撃こそ身をよじってかわされたが、しかし初動が遅れたため数回の斬撃の後、藍染の頬を惜鳥が掠める。藍染の頬が血が流れる事なく断ち切られる。しかし完全に捉えた訳じゃなく致命傷には至らない。身体であればどの部分であれ必要な霊圧は変わらないので莫大な霊圧を消費してあれだけなのかと思い、軽く絶望する。

 

そもそも必殺技は常用するものではない。当たるのが難しいなら普通の斬術に切り替えるしかない。その様子に気づいたのか、

 

「そうか。その技には何らかのデメリットがあるようだな」

 

惜鳥を藍染の斬魄刀で受け止められ、和気開錠を発動しようとしてもその瞬間に刀を離されてしまう。戦闘経験が違いすぎる。微かな部分から情報を集められ迅速に対応されてしまう。長期戦は厳しい。

 

「戦いの最中に考え事とは随分と余裕だな」

 

「ッ! しまった!」

 

その隙を突かれて、肩口を斬られてしまう。

 

「隙をついたが咄嗟に身を捻って致命傷は避けたか。随分上手く避けるようになったね」

 

「クソッ!」

 

そして気づく。...身体が動かない...

 

「やっとまわり始めたようだね。一種の痺れ薬だ。安心していいよ。しばらくしたら自然に分解されるからね。平子真子みたいなあんなものに堕ちる事はないから安心しなさい。

 

最後に一つだけ。僕の始解を唯一破る事ができた可能性が君にだけあった。君にのみその資格があった。平子真子達がああなったのは君の責任だ。君のその怠慢が彼らをあのような落ちぶれた姿にへと変えた」

 

「......」

 

「行くぞギン、要」

 

斬魄刀の能力で体内の痺れ薬を分解して動けるようにする。ただ藍染達はもういない。

 

「...負けた」

 

しかし僕がするべきことは他にもあるはずだ! 浦原さん達のところに急がないと!




藍染とまともに戦ってる時点でかなり強いという事が分かると思います。

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37話 逃亡

 「...失敗っス」

 

「......」

 

藍染から受けた肩の傷は浅く、動く分には全く問題などなかった。浦原さん達が向かった場所も知っている。何もできないかもしれない。それでも僕にも何か手伝える事があるかもしれないと思い、瞬歩を使って瀞霊廷に向かって駆ける。

 

しかし僕にできる事など何もなくただ見ている事しかできなかった。そして浦原さんは失敗を告げる。それと同時に平子隊長達がこの物言えぬ姿のまま変わらないという事も。

 

『平子真子達がああなったのは君のせいだ』

 

藍染に言われたその言葉が頭の中で木霊する。確かに覚えている。あの時、明らかに藍染と平子隊長の様子が噛み合ってなかった事について。長らく忘れていたのに藍染に一言言われただけで思い出してしまう。もし、あの時何か言っていたら...平子隊長達はこんな事にならなかったのかもしれない。その罪悪感とやるせなさが襲ってくる。

 

「すいません、鉄斎サン、冬空サン...少し表の空気吸ってきます」

 

「僕も行きます」

 

ずっと密室で詰めていた。外を見ればもう太陽が出ている。

 

「...お疲れ様でした、浦原さん」

 

「...冬空サンも。...ッ!」

 

刹那、夥しいほどの刑軍に包囲される。

 

「十番隊隊長、冬空吹兎様、並びに十二番隊隊長、浦原喜助様。及び鬼道衆総帥大鬼道長、握菱鉄斎様。中央四十六室より強制捕縛令状が届いております。ご同行願います」

 

 

 

 

 その日、瀞霊廷を衝撃が走った。護廷十三隊の隊長格二人と大鬼道長が非人道的な実験を行った事、そして少なくない護廷十三隊隊長格がその犠牲となった事。吹兎が元いた十三番隊、そして現在の十番隊は隊長、副隊長を始めとして抗議を行ったがしかし中央四十六室が採決を覆す事はなかった。

 

 

 

 

 「これは...一体どういう事っスか?」

 

両手を後ろ手に縛られ、身体の拘束を受け尋問を受ける。

 

「発言の許可を与えたかね? 査問のために呼ばれたのだ。回答以外で発言するべきではない。弁えたまえ、十二番隊隊長」

 

顔を隠し、下卑た笑みを浮かべながら僕たちを見下すのは中央四十六室。瀞霊廷の最高意思決定機関である。

 

「昨晩十二の正刻ごろ、君はどこにいたのかね?」

 

「...西方郛街区、第六区の森林です」

 

「虚化の実験のためかね?」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい! 誰がそんな事を!」

 

その問答でなぜ僕たちがここに呼ばれたのかが分かった。

 

「藍染副隊長ですか?」

 

「君に質問の権利はない」

 

仮に藍染の証言があったとして今の時点ではそれだけ。それでも彼らは僕たちに反論も質問の機会も与えない。

 

「それは全部彼のしたことだ! 僕たちは平子サン達を助けるためにそこに行ったんっス!」

 

「嘘もここまでくると滑稽だな。昨晩、五番隊副隊長は瀞霊廷から出ていない。124名の隊士と1名の隊長格がそれを目撃している。疑問を挟む余地などない」

 

嵌められた...。僕たちは藍染に嵌められたんだ。

 

「藍染副隊長が瀞霊廷から出ていないのであればどうして僕たちが瀞霊廷の外で何をやっていたのか、彼が証言できるんですか?!」

 

「発言権は与えてないとさっきから言っているだろう十番隊隊長、冬空吹兎」

 

しかしやはり彼らは聞こうとすらしない。彼らの中では既に結論は決まっていて僕たちの反論を聞く耳も持っていないのだと。...こんなものが中央四十六室か。こんなものに僕たちは従っていたのか。

 

「次は別の罪状を与えるぞ」

 

そして浦原さんの私室から昨晩平子隊長達の治療に使用した器具が虚化研究の証拠として提出された。全てのタイミングと駒が予め用意されていた詰将棋。僕たちは反論さえ聞き入れて貰えず判決に移行した。

 

「判決を言い渡す! 大鬼道長、握菱鉄斎。禁術行使の罪につき第三地下監獄衆合に投獄!」

 

「十二番隊隊長、浦原喜助。禁忌事象研究及び行使...」

 

浦原さんの罪状は大鬼道長さんと比べても遥かに多い。

 

「...の罪により霊力全剥奪の上、現世に永久追放とする!」

 

そしてその罪も遥かに重い。

 

「十番隊隊長、冬空吹兎。禁忌事象行使の罪並びに浦原喜助の共同正犯として同罪に処する!」

 

そしてそれは僕も...

 

「尚、邪悪なる実験の犠牲となった哀れなる五番隊隊長以下八名の隊長格は虚として厳正に処理される」

 

「ッ! そんなの!」

 

その時だった。議場のドアがバタリと開かれ顔を包帯で隠した女が現れる。

 

「何者だ! 審議中の議事場入室の許可など誰が与えた!?」

 

「とっ...捕らえろ!! 賊だ! 誰かおらぬか──」

 

「お主らは一人で逃げ切れるな。あの修行場だ。儂は鉄斎を連れてゆく」

 

僕たちの手を縛っていた拘束具を全て破壊した夜一さんはそう告げる。

 

──────

 「現世に身を潜め、時間をかけて解き明かします。...必ず」

 

当然僕たちに尸魂界の中に居場所など残っている訳が無い。僕たちは現世へと逃亡する事になった。

 

「恋次...イヅル...」

 

修行の約束をしていたが果たす事はできないみたいだ。

 

「海燕さん...浮竹隊長...」

 

とてもお世話になった二人には何も返せなかった事に後悔。空鶴さんと京楽さんにも色んな事を教えてもらった。

 

「店長...」

 

店長の事で冬獅郎君とも約束したのに...

 

「一心...」

 

仕事を押し付けるような形にな...いやいいか、一心だし。そして...

 

「ルキア...桃...」

 

二人と必ず行こうって約束したんだ。でも...

 

「ごめん...」

 

もう二度と尸魂界の土を踏めるかも分からない。そんな状況の中、僕は後悔と罪悪感と、そして失意を胸に尸魂界から逃亡した。




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現世逃亡篇
38話 吹兎のいない尸魂界


ブレソルのグループ作ってみたゾ。俺自身がブレソルまったり勢だからまだ遠慮してグループ入ってない人とかいたら是非是非。『桜と雪に溺れて』(まったり)


 「それで...冬空サンはこれからどうするっスか」

 

尸魂界から逃亡した僕たちは、浦原さんが以前から拠点にしていたという場所に身を潜めていた。ここは双極の丘の地下の勉強部屋を真似して過去に作ったものらしく、傷がすぐ治る温泉もあった。結界も張っており、尸魂界がここを探知するのも難しいらしい。もっとも...

 

「こんな結界を張らないといけなくなったのは誰かが技術開発局なんてものを作ったせいなんですけどね」

 

「ハハッ、それは面目ないっス。それで?」

 

「僕は来たる決戦のために力を磨きたいと思います」

 

「...それが賢明でしょう。藍染の、鏡花水月の能力は脅威っス。藍染に対抗できる戦力は今のところあなたしかいない。アタシは平子さん達をどうにかします。冬空サンは修行をして下さい。ここ、使っていいんで」

 

「ありがとうございます」

 

──────

 僕は始解も卍解も会得はしたが完全に使いこなせていない。

 

「惜鳥」

 

僕は惜鳥を具象化させる。

 

「やるべき事は...もっと上げられるところはたくさんある」

 

まずは始解を完全に使いこなせるまで練度を上げる。

 

──────

 「納得できません! 海燕殿! 浮竹隊長! 吹兎が...あやつが反逆など!」

 

十三番隊舎では、吹兎の友人の朽木ルキアが大声を上げて怒っていた。

 

「分かっている。俺もあいつがそんな事をしたとは思えねぇ」

 

「誰かに嵌められた...。俺はそう睨んでいる」

 

「...護廷十三隊にあいつを嵌めた犯人がいるって事ですか、隊長」

 

「いや、そう決めつけるのは早計だ。俺たちをそうやって疑心暗鬼にさせようとしているのかもしれない」

 

浮竹の一言で怖い顔になっていた海燕の顔もひとまずは落ち着いた。

 

「とにかく、最低でも誰がやったのかを確定させない限り四十六室は話も聞かないだろう」

 

魂魄消失事件の真実を、そしていざ何かあった時のための鍛錬を。十三番隊は一つになった。

 

──────

 阿散井くんも吉良くんも、当初の希望通りにそれぞれ十一番隊と四番隊に希望を出した。

 

「私はどうしたらいいの...」

 

霊術院の私たちには詳細な情報までは回ってこないが、それでも瀞霊廷を揺るがす大事件。今朝から先生達も院生のみんなもその話ばかり。

 

「吹兎くんが反逆なんて...あり得ないよ!」

 

きっと誰かに吹兎くんは嵌められたんだ。私が無実を証明しないと! ルキアさんも十三番隊できっと頑張ってるから。でも私だけじゃ難しい。そのためには信頼できる人がいる隊に。吹兎くんが不在の今、誰が次の十番隊の隊長になるのかも分からない。それなら...私が信頼できるのは...私が所属したい隊は...

 

「藍染副隊長がいる五番隊」

 

私は所属希望を五番隊に変えてから届出を出した。




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39話 それぞれの歩み

スピンオフというかパラレルワールドのような感じでこの小説の主人公、吹兎くんとSAOのクロスオーバー作品も書き始めました。よかったら読んでみて下さい。(https://syosetu.org/novel/292955/)


 「た、隊長が裏切り?」

 

「左様。そして明晩、十番隊隊長の冬空吹兎は瀞霊廷より逃亡した。これが奴が裏切りを働いた何よりの証拠である」

 

俺は突然四十六室の連中に叩き起こされ査問室でそう言われた。

 

「罪人、冬空吹兎の代わりとして十番隊隊長代理に志波一心を任命する」

 

「...承知しました」

 

五大貴族の一員として四十六室の事はよく知ってる。隊長が裏切りなんてする訳ねぇ...。だが四十六室が証拠も曖昧な状態で聞く耳を持つ訳がない。中央四十六室は平時下での瀞霊廷の最高意思決定機関だからな。

 

 

 俺は席次は副隊長のまま、十番隊を率いる事になった。

 

「......」

 

十番隊のみんなは隊長を慕っていた。毎朝隊長と仕事やるか否かでドンパチやってたからなぁ...。隊のみんなは俺が隊を率いて大丈夫なのか? といった目だな、これは。変に飾っても仕方ねぇな。

 

「みんなも聞いたかもしれないが今朝、隊長が尸魂界への裏切りを働いたとされてるが...はっきり言う。俺は全く信じてねぇ!」

 

「「「!!!」」」

 

隊員は驚く。まあ、当然か。副隊長とはいえ隊長代理に就く自分が、そして分家とはいえ五大貴族の志波家に属する自分が中央四十六室の裁定に真っ向から反対したんだからな。

 

「みんなはどう思う?」

 

隊を見渡す。

 

「自分も! 隊長が裏切りなんて信じられません!」

 

「自分もです!」

 

「自分も!」

 

次々に声が上がっていく。

 

「みんなの気持ちは分かった。ただ根拠がなければ四十六室も考えを改めない。そしてこの事は隊の中だけで話し合おう。...下手をすれば十番隊自体に裏切りの意思ありと見られるかもしれない。俺は隊長が裏切り者じゃないという証拠を探しながら隊長が帰ってくる場所を守る」

 

その言葉で十番隊隊員の迷いが消えたのか、彼らの目の色が変わる。そして思いを素直に吐き出した事で俺も気づく。

 

「俺って隊長の事、思ってたよりも好きだったんだな...」

 

──────

 「朽木、行くぞ」

 

「はい! 海燕殿!」

 

私は海燕殿に協力してもらって今日も始解会得のための修行を行なっている。いつか起こるかもしれぬ決戦のために。

 

 

 

 

修行もひとまず終わって私は持ってきた弁当を食べて休憩していた。

 

「そういや朽木」

 

「何ですか? 海燕殿」

 

「お前吹兎の事好きなのか?」

 

「はっ!? へっ!? い、一体何のことでしょうか?!」

 

「いや、焦りすぎだろお前...。あとお茶吹き出すな汚い」

 

「...すみません」

 

私は慌ててハンカチで口を拭う。

 

「まあ否定しなくてもバレバレだからな。隊長と清音といつもその話してるし」

 

「えっ」

 

「まあ声がでかい仙太郎に言わなかっただけ感謝しろよ? で、いつからあいつの事好きになったんだ?」

 

「そ、それは...。そ、それより海燕殿! 海燕殿はどうなのですか?」

 

吹兎の隊長昇進と入れ替わるように都さんが三席に復帰した。私は彼女の事はよく知らなかったのだがどうやら海燕殿と上手くやっていると聞く。

 

「まあな。あいつとは今度結婚するぜ」

 

「え」

 

仕返しで揶揄うつもりだったが...何もなく受け流されてしまう。

 

「朽木ィ。話題を変えるために上官を揶揄おうとするなんていい度胸じゃねぇか。今日の修行も一段落ついた事だしお前も隊長と清音達に混ざれ」

 

「えっ...えぇっ!」

 

この後、私は縛道で逃げられないように拘束されてから海燕殿と清音さんに揶揄われるという辱めを受ける事になった。海燕殿と清音さんは悪意で満ち溢れていたが浮竹隊長からは終始微笑ましい目で見られた事も...なかなかに辛かった...

 

──────

 「雛森君。だったね」

 

「あ、藍染隊長!」

 

前の五番隊の隊長さんの名前は知らなかったけど、その人も吹兎くんと同じくらいの時に隊長を辞めたみたい。それで藍染副隊長が隊首試験を合格して藍染隊長になったんだって。でもどうして新人の私なんかの名前を? 

 

「君はすごく優秀だからね。優秀な人材は新人だろうと隊を助けてくれると思うからね。...特に今は瀞霊廷が大変だからね」

 

吹兎くんが裏切りをしたとみなされ、そして護廷十三隊の多くの隊長格が瀞霊廷を去った。隊長、副隊長が健在の隊は一、四、六、十一、十三番隊だけ、と全体の半分にも満たない。今、瀞霊廷は酷く混乱している。こんな時に言うべきかは分からないけど...

 

「...私は吹兎くんが裏切りをしただなんてどうしても思えないんです」

 

藍染隊長がどう思ってるか、それが知りたい。

 

「僕も彼の事はよく知っている。彼は裏切りをするような人物じゃない。...ただ今はこの混乱状態だ。それに冬空君を表立って庇えば雛森君も瀞霊廷に反意ありと見られてしまうかもしれない」

 

「それでも! 私は!」

 

「分かってる。だからこそ水面下で情報を集めよう。勿論僕も協力する」

 

「藍染隊長...!」

 

やっぱり藍染隊長を頼って良かった。吹兎くん! 必ず私が吹兎くんの無実を証明するからね! 

 

──────

 僕たちが現世に逃亡してから数年が経った。そして浦原さんはついに...

 

「助かったで、喜助」

 

平子隊長達を眠りから起こす事に成功した。

 

「といってもまだ平子さん達の中の虚の優位を押さえてるだけっス。戦闘はもうできないっスよ」

 

しかし下されたのは死神としての死刑宣告であった。

 

「何辛気臭い顔してんねん吹兎。喜助に叩き起こされたのなら俺らでこの虚を抑え込むだけや。そして藍染にはしっかり落とし前つけさせてもらうで」

 

平子隊長...平子さん達は仮面の軍勢を組織した。

 

 

 

 

僕の始解、惜鳥の断つ能力を完全に使いこなすためには対象の霊圧結合の強度を感覚的に理解する必要がある。浦原さんにも協力してもらいながら僕は惜鳥と共に引き続き、修行に取り組んだ。

 

「ですから! 力込めすぎです! もっと抑えて大丈夫ですので!」

 

「こ、これくらいかな?」

 

「抑えすぎです! 霊圧強度に満たない霊圧しか込めなかったら何も傷を与えられないでただ込めた分の霊圧を消費するだけなんですよ!」

 

かなり難しい...




まあ当たり前ですが今作では雛森は藍染に対して尊敬は覚えているけどそれ以上の感情は今の所抱いていません。

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40話 誇りのための戦い

海燕のアンケート。たくさんの投票ありがとうございました。圧倒的に生存が多かったので海燕生存ルートでいきたいと思っています。またこの現世逃亡編は急いで早く原作に入りたいなとも考えています。これからもよろしくお願いします。

...海燕、斬魄刀消えても鬼道で倒せなかったのかな?


 「気をつけろよ、都」

 

「心配ないわ。今回の役目は偵察。後のことはあなた方にお任せしますから」

 

吹兎の後釜...というより休隊から三席に復帰した海燕殿の奥方、都殿は最近流魂街で暴れている虚の先行偵察として小隊を率い、向かった。今回の虚はいつも違う何か不気味なものを感じて...海燕殿はいつになく真剣な様子であった。

 

私はそんな海燕殿を初めて見た。短くない付き合いであるにも関わらず。でもそれは当然だ。私と海燕殿はあくまで部下と上司の関係。海燕殿と都殿のような夫婦の強い関係などと比べられる訳もない。私は海燕殿に対してそのような念は抱いていないが問題はそこではない。

 

「...夫婦、か」

 

惹かれ合った者同士の絆の深さというものを目の当たりにしてふと自分の事を考えてしまう。

 

ー私と彼奴との間にはそれほどのものがあるのだろうかー

 

餡蜜を食べに行くとの約束をして、それは必ず果たされるものだと私は思っていた。しかし今、私は彼奴がどこで何をしていて。そして今、何を考えているのかが...まるで分からない。私は餡蜜などどうでもよくただ...お前と一緒に行きたかっただけなのだ。お前は...私の事をどう思っておるのだ? 

 

確かめようもないその問いはただひたすら私の中で循環を続ける。愛する者との繋がりが明日になっても続いている保証などどこにもないのだ。

 

「都! 都!」

 

海燕殿の奥方の都殿が意識不明の重体で帰還した。

 

──────

 都殿が率いた小隊五名の内、都殿ともう一人を除いて殉職したという。

 

「都殿の命に別状はありません」

 

四番隊から派遣された医師のその言葉が不幸中の何よりの幸いであった。依然、都殿の意識は戻っていないが海燕殿もひとまず胸を撫で下ろす。もう一人の生存者、丸山隊員も意識はないが命に別状はないらしい。しかし三名の隊員が犠牲になった事には変わりない。浮竹隊長と海燕殿はすぐに対処を考えるために場所を移して話を始めた。

 

ただの平隊士の私にできる事はなく十三番隊の隊舎へと戻った。私の家は朽木家に用意されているが何やら不穏な胸騒ぎがする。地獄蝶で兄様にその事を連絡してから私は刀禅を始めた。

 

 

 

 

 刀禅を始めてから数時間、何やら隊舎が騒がしくなりそして...

 

「ギャァァァ!!」

 

悲鳴が、断末魔が隊を支配していた。私はすぐに()()()を持ってその声の元へと向かう。

 

──────

 「朽木ィ!」

 

私が声のした場所に向かうと丁度浮竹隊長と海燕殿も反対側からやってきた。そして私は目を疑いたくなるような光景に直面する。都殿と共に帰還した丸山隊員が十三番隊の隊員を次々に斬り殺していってるのだ。

 

「チッ! 丸山の奴操られてやがる」

 

その様子は普段とはまるで違い、海燕殿は即座に丸山隊員が虚に操られている事を悟った。

 

「オマエ、アノ女の夫ダッタナ」

 

その虚は言葉を話した。虚というのは元は人間の魂魄だ。だが心を失った時に言葉も失う。失った心を求め、人間を喰らい続けると再び言葉を得る。つまり間違いなくこの虚が例の虚だという事だ。都殿の小隊が半壊した相手...私の斬魄刀を握る手は震えていた。

 

「安心しろ朽木。...お前は下がってろ。おい、お前が都達を襲った虚だな」

 

「ミヤコ...アア、アノ女カ。コイツ含メテ俺ノ腹ヲ満タシテクレタヨ」

 

そう言ってから虚は丸山隊員の中から姿を現す。丸山隊員は...ダメだ、霊圧を感じられない...。

 

「今ノ死神ノ力ハ落ちタナ。逃げ切ル事すらできないトハナ」

 

「何言ってやがる。都は生きてるぞ」

 

海燕殿が都殿を誇らしげにそう言うと、虚はニヤリと笑ったような気がした。

 

「...何がおかしい」

 

「カッカッカ! ただ滑稽デナァ。オマエラは息ハスルガ()()()目覚メル事ノ無イ者ヲお前ラは生キテイルト言うノカ」

 

「...何ィ」

 

「肉体ハ喰イ損ネタガ魂魄は既に喰ッタ。モウ目ハ覚メナ──」

水天逆巻け 捩花

 

虚が話し終えるより先に海燕殿は始解して斬りかかった。

 

──────

 「グッ!」

 

激昂している海燕殿の勢いは凄まじく、虚をただひたすらに圧倒している。虚の身体のあちこちは捩花の水流によって斬り裂かれていた。私はその様子をどこか...恐ろしく感じていた。

 

「終わりだ」

 

海燕殿は虚の首を掴み、捩花を振り下ろそうとした。

 

「儂ニ触レタナ」

 

斬魄刀が振り下ろされる事はなかった。

 

「ッ!」

 

海燕殿の捩花が消えていたからだ。そして...

 

「グァ!」

 

その生まれた一瞬の隙をつかれ、触腕によって海燕殿は強く地面に叩きつけられた。

 

──────

 海燕殿が斬魄刀を失ってから形成は逆転した。鬼道を発動するも先ほどの傷が大きく、また能力を差し置いてもあの虚はかなりの実力があるようで海燕殿は次第に追い込まれていく。私が助けに行かねば! 

 

「ダメだ朽木!」

 

「浮竹隊長! しかし!」

 

私は浮竹隊長に腕を掴まれる。

 

「今、お前が助けに入れば海燕の命は確かに助かるかもしれんだろう。しかし...その時海燕の誇りはどうなる?」

 

「誇りが何ですか! 命に比べれば誇りなど!」

 

「ここでお前が助けに入れば...奴の誇りを永遠に殺す事になる。いいか朽木。戦いには二つがある。俺たちはそれをよく見極めねばならない。命を守るための戦いか、それとも誇りを守るための戦いか」

 

「......」

 

浮竹隊長の言も理解した。海燕殿が命とは別の何かを守るために今、戦っている事はよく分かる。これは普通の戦いとは違う。...それでも! 私は! 

 

舞え 袖白雪

 

ー吹兎。お前も私と同じ事をするのではないかー

 

私の勘違いかもしれないが、ふとそんな事を思った。私は浮竹隊長の静止も聞かずに始解し、虚に対して斬りかかった。

 

 

 

 

 「朽木ィ! なんで来た! 下がれ!」

 

「下がるのは海燕殿です! そのような傷でまともに戦えるとは思いません!」

 

私が参加する事にやはり反対なのか、海燕殿は強い口調で言ってくる。私はそれを虚から目を逸らさずに言い返した。

 

「誇りが何ですか! 海燕殿は一つの誇りを失った程度で立てなくなるような軟弱者ではありません! 海燕殿には守るべき人がまだまだいるはずです! また新たな誇りを胸に立ち上がれるはずです! 死を言い訳にしないで下さい!」

 

「朽木ィィ!!」

 

「...それに都殿はまだ生きておられます。都殿が目を覚ました時、海燕殿の他に誰が待っていればよいのですか」

 

「...すまん朽木。目が覚めた」

 

海燕殿は先ほどまでの闘気を一旦納め、冷静さを持たせるために呼吸を深くした。その隙をつくように虚は突進してくる。

 

次の舞 白蓮

 

白蓮で雪崩を作り、虚はそれを避けるために後ろに大きく飛び退いた。海燕殿は傷が深い。浮竹隊長も先ほどから発作が始まっている。できれば長距離戦の展開をしたい。

 

破道の三十一・赤火砲

 

虚に当てるのではなく周囲を燃やし尽くすように。威力よりも範囲を優先して赤火砲を放つ。ここは隊舎から離れた森の中。木を燃やしていけば...自ずと敵の行動範囲は絞られる。

 

縛道の四・這縄

 

虚の立ち位置さえ分かれば縛道を当てる事ができる。そして...

 

次の舞 白蓮

 

白蓮を当てる。虚の触腕に触れる事で海燕殿の斬魄刀は消えたが、私の時に無理に接近戦を挑んでこなかった事から斬魄刀を消すには一日一回までなどの制限があるようだ。尤も、だからと言って無策で接近戦を挑む事はしない。白蓮はもろに虚に命中した。

 

 

 

 

「手間かけたな朽木」

 

虚の霊力が落ちたからか、海燕殿の斬魄刀は戻っていた。虚はまだ生きてはいるが未だ白蓮から抜け出せていない。

 

「死ね」

 

海燕殿はまだ氷も溶けきっていない虚の脳天目指して斬魄刀を振り下ろした。




雛森さんは藍染隊長とウッキウキで推理小説みたいな捜査(笑)しています。

吹兎のせいでルキアが浮竹の考えに同調しなくなってしまいました。吹兎との修行もしていたルキアは現在で既に席官クラスの実力を持っています。

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41話 隊規違反

 「藍染隊長、そちらの資料はどうでしたか?」

 

「ダメだね。冬空君の手がかりは何もなかったよ...」

 

「そうですか...」

 

私は今、藍染隊長と共に吹兎くんの事件の事を調べている。隊長じゃないと入れない大霊書回廊まで連れてきてくれて調査をしている。今のところ分かってるのは...

 

「吹兎くんが瀞霊廷転覆を目指して隊長数人を殺害しかけた...」

 

まずあり得ない。吹兎くんがそんな事をする訳がない。中央四十六室が彼を嵌めたか......誰かが嘘の情報を吹き込んだんだ。私達が見つけた資料では中央四十六室の裁定の結果の一部だけでその過程までは分からない。誰が手がかりをどこで入手したかは分からない。少なくとも言えるのは...私は吹兎くんを嵌めた人を......

 

「絶対に許せない...!」

 

 

 

 

「雛森君。そういえば君は冬空君と長い付き合いだったね。彼は失踪の時、何か言い残したりはしなかったのかい?」

 

「...吹兎くん。約束してたのに私に何も話さないでどこかに言って......。音沙汰も寄越さない。フフフッ、次会った時に色々聞くからね」

 

冬空君。死神として最高峰に立つ可能性があり、私の壁となり得る存在。これはあの時、私を傷つけたせめてものお返しだよ、フフフ。

 

「雛森君。そろそろ時間のようだ」

 

「あ、以前言ってた現世のお仕事ですね?」

 

「そうだね。だから──」

「私は引き続き資料を見てみます!」

 

最初は私に依存させやすい存在と思っていたが...。まあだとしても彼を利用することで手軽な駒として機能しているな。さて、そろそろ実験の頃合いかな。

 

──────

 ばあちゃんを雛森が見ていてくれたおかげで俺は霊術院に入学する事ができ、そして死神となった。アイツ(冬空)は......既にいなかったがそれでも松本とかがいた十番隊に入隊した。

 

「隊長──っ! どこですか隊長──!!」

 

またやってる......。志波隊長は大の仕事嫌いで毎日逃げ回っている。前からいた隊士に尋ねればこれは前隊長が就任した時の日課らしい。隊長と副隊長の追いかけっこの声がここまで聞こえる。

 

「分家とは言え志波家の当主がそんな事じゃ宗家の方にも傷がつきますよ!」

 

「またまたァ〜。家柄の事なんて言い出しちゃって〜、オメ〜が俺に仕事をさせたいのは自分の仕事の配分減らして遊びたいだけだろ? 気がついてんだぞ? お前がこっそり自分の仕事の分を俺の仕事に組み込んでるの〜」

 

そして前隊長と志波副隊長の時と違って追いかける方(松本)もサボり癖があるのが厄介だ。その分の皺寄せが全部こちらにくる。前隊長がいた時は最初の頃こそは今と同じように追いかけっこしていたがある日、アイツに()()()()()()()日課が途絶えたらしく、前隊長の後釜として隊長(本人は代理と言い張っているが)になってから日課を復活させ、今までの分を取り戻すが如くパワーアップしたらしい。......下らねぇ。

 

「今日は長かったっすね。書類、終わりましたよ」

 

下らねぇやり取りで結局仕事が終わらず周りに迷惑をかけるのなら......と思って結局俺が片づけてしまう。アイツと同じ気質があるのか少し微妙だが。どちらにしても俺の実力じゃ隊長を分からせる事はできねぇ......少なくとも今は。

 

 

 

 

俺は十番隊の三席を務めている。隊長もアイツから話を聞いていたらしく入隊してすぐの大出世に文句を言う奴を沈めてくれた。仕事を過分に押し付けられる事以外はいい職場......だと思う。十番隊は俺を除いて席官全員が前隊長の時代の人間だ。故に隊の職務の他に例の事件(魂魄消失事件)についての調査も行っている。隊長が普段の仕事を放棄するのもそれをするた......いや、普通にあれは素だな。調査がなくても多分押し付けてる。

 

十番隊だけではなく雛森や古巣の十三番隊も動いていると聞く。隊長が自分はあくまで隊長代理だと名乗ってるのを見るに......十番隊ではまだアイツの存在感は大きすぎる。だとしても俺の中じゃ十番隊隊長は隊長でアイツの時代は知らない。たまに話についていけない時があったり、そんな意図はないだろうが仲間外れにされてるようで......少し嫌だ。

 

しかし頭を切り替えて俺は隊長に報告をする。書類を整理する中で気になった事があったから。

 

「隊長、二ヶ月前の報告、覚えてます? 鳴木市という中規模の都市で担当死神の一人が事故死した件」

 

「あ──、あったな。原因調査中のやつだ」

 

「それです。その先月分の報告書がさっき上がってきたんですが......原因不明のまま先月は二名死亡しています」

 

俺のその報告を聞いた瞬間、今までの隊長の朗らかな表情が一変した。

 

「ちょっと! どこに行くんですか隊長!」

 

帯刀して部屋を退出しようとする隊長に対して松本が尋ねる。

 

「調査! 後は任せたぞ。明後日くらいには戻るから明日の仕事はよろしくな」

 

「何言ってるんですか! 総隊長に報告とか......。追うわよ冬獅郎!」

 

瞬歩で消えた隊長に付いていくため松本も帯刀して準備をしていたが......

 

「いや、やめとこう」

 

俺たちが行っても......

 

「隊長はこの調査が危険だと踏んで一人で行ったんだ。今の俺達の実力じゃ足手まといにしかなれねぇ......」

 

部下の事を考え、そして護ってくれる。上官として欠点も確かにあるがそれでも理想的だ。だがその優しさが......俺は嫌いだ。

 

──────

 「雲が出てきたぜ......」

 

「嫌だなぁ...オイ......。前の奴もその前の奴も確か雨の日にやられたんだろ?」

 

総隊長の許可なく穿界門を開いて現世に渡り......隊長や乱菊達と散々繰り広げてきた華麗なる追跡訓練で養ってきた感知をする。......よかったまだ無事だな。

 

「そうか、雨の日が危ないんだな」

 

「「うわぁ! 隊長!?」」

 

しかも値千金の情報まで手に入った。

 

「お前ら。雨が降ったら尸魂界に帰れ」

 

現世に赴かせた隊員はいずれも上位席官ではないがそれでも腕利きを選抜した。やられる事はあるかもしれないが何の救援要請も連絡もなしにやられるなんて事は考えられねぇ。それが起きたって事は......

 

「即死か何らかの連絡を阻害する術を相手が持つって事だ」

 

前者なら尚更、後者でもそんな危険地帯に部下を行かせられるか。十番隊の隊員は俺、若しくは隊舎に連絡を即座にとれるようにしている。それがなく、彼らの訃報が技術開発局からの報告書で初めて分かったという事は...俺の推測が考える毎に現実味を帯びてくる。

 

 

 

 

「降ってきたか」

 

敵が現れた時の対処について考えを張り巡らせながらついに日が暮れた。昼間に空を支配していた雨雲からついに雫が一つ、また一つと降り注ぎ、傘を差して歩く人間が増え始めた。

 

死神が狙われてるって事は死神自体が標的か、高い霊圧に反応してるかのどっちかだ。

 

「試しに霊圧で釣ってみるか」

 

思いたったが吉。俺は霊圧を高め、標的が現れるかを見る。が...

 

「ぐあッ!」

 

「ぎゃっ!」

 

近くにいた隊員の断末魔が響く。俺じゃなくてアイツらを狙ったって事は...

 

「くそっ! 霊圧のデカさにゃ反応しなかったか!」

 

自分の判断ミスによって傷つけてしまった部下達に詫びを入れながらも全力で襲撃者を索敵する。......見つけた。俺は急いで襲撃者の元へと瞬歩で向かう。これ以上犠牲者を出す訳にはいかねぇ。

 

「何だ...こいつは......」

 

感知した先にいたのは......全身黒色の異質な虚。孔も何もかもが塞がっているという異常は存在するがその特徴的な仮面や霊圧からこいつが虚であるという事はおそらく間違いがない。

 

こちらに気づいたのか...口を大きく開け突進してくる敵に対して抜刀し、俺は構えた。

 

 

 

 

「やり辛れェ!」

 

姿形は紛れもなく虚のそれだ。しかし重心移動や戦い方は死神のそれだ。虚と死神では戦い方も対処の仕方もまるで違う。視覚で入ってきた情報によってつい反射的に虚との戦いをしてしまうがそれを一々理性で修正しなければならねェ。

 

そして先ほど目の前のこいつは虚閃を使いやがった。

 

「冗談じゃねぇぞ! こいつは虚じゃなくて大虚だ」

 

そして見慣れた下級大虚(ギリアン)の姿ではないため必然的に中級大虚(アジューカス)以上って事になるが......斬り合った感触としてはこいつはおそらく......上級大虚(ヴァストローデ)だ。

 

「隊員達が瞬殺される訳だ」

 

だが俺が押してる。上級大虚ではあるが対処できる。が、解放なしだとちとキツいな。無断で出動してるため解放をすれば確実にバレるが......仕方ねぇ。

 

燃えろ 剡月

 

刀が炎を帯び、圧倒的な攻撃力で大虚を倒すべく構える。刹那、

 

「な...」

 

全く反応できずに背中を斬りつけられてしまう。今のはこいつの仕業じゃねぇ...。今のは......死神の攻撃だ。傷は深いがしかし呼吸を整えて追撃に備える。そして注意を怠らず頭も動かす。

 

そもそも尸魂界に気づかれずにここまで大虚が好き勝手できる事自体がおかしい。...いるんだ、死神の裏切り者が。

 

死神の裏切り者と言えば思い当たるのは一つしかない。隊長を嵌めた奴だ。隊長を嵌めた奴が近くにいる。

 

俺は隊長代理になってから隊長の事件を調べ続けた。隊長や、五大貴族という身分は大いに事件を調査するにあたって都合がいい身分だった。大霊書回廊にも議事録にも改竄された形跡はなかった。不自然な部分も見受けられなかった。俺が気づけてない場合を除けば......厄介な連中(綱彌代家)の仕業ではねぇ。

 

証拠はない。根拠すら未だに持ててない状態でとてもじゃないが訴えを出す事もできない。誰にも話してない仮説だが...

 

──藍染惣右介が近くにいる──

 

だが相手は霊圧や姿を隠している。それにこの背中の傷では......卍解を使うことは難しい。同じ隊長格に対してあまりに分が悪すぎる。それに今は目の前のこいつを何とかしなきゃなんねぇ。剡月は身体の傷で大きく左右される。この深手でアドバンテージは消滅したと考える方がいいだろう。

 

「しまッ」

 

片腕を斬り落とした事で何らかの反応を見せると思い、一旦後退したが大虚はそれを気にも留めぬ如く詰め寄ってくる。一瞬の判断の誤り。背中の傷によって少しでも休息をしたいといった感情から生まれた致命的なミス。こちらも深手は負うだろうが......しかし大虚にもそれ相応のダメージを与えてやると刀を振りかぶる。

 

「何だ?!」

 

が、大虚がこちらに肉薄する前に何者からの攻撃を受け...その方向に振り返ると弓を持った少女が立っていた。

 

──────

 「無断出撃は罪なれど即断即行により隊士の犠牲は最小限に抑えられ、ひいては現世の被害も軽微なものに留める事となった。此度の隊規違反は不問とする!」

 

「ハッ!」

 

滅却師のあの少女のお陰で大虚を撃退する事ができた。その後は襲撃者の調査がしたかったが俺の始解で尸魂界にバレたのか、即座に一番隊から出頭命令が届いた。少女──真咲に別れを告げ、俺は隊首会で裁きを受けた。

 

「.........」

 

「どうしたんだい? 志波隊長」

 

藍染の奴、顔色一つ変えねぇ。

 

 

 

 

 総隊長から無断で現世に渡った事のお咎めはなかったが......しかし俺はまたも無断で現世に渡った。あの少女に改めて礼を言いたいってのもあったが昨日の霊子の残滓を調べれば何か分かるかもしれねぇと思ったから。許可を取れば...おそらく藍染が何かしらの対策を取るかもしれねぇ。だから無断じゃないと駄目だった。

 

俺は穿界門を勝手に開いて現世に渡った。

 

──────

 「未練に足を引っ張られて恩人を見殺しにした俺を明日の俺は笑うだろうぜ」

 

現世に渡るために穿界門を開いた際、たまたま真咲が近くにいて早く再会する事ができた。しかし真咲は俺を助けた時に受けた傷が原因で死にかけており......そこに隊長と一緒に尸魂界を追われた元十二番隊隊長の浦原喜助が現れた。

 

その後、色々な説明を受けたが技術的な事は何も分からなかった。ただ、分かった事は...このままでは真咲は確実に死亡するという事。唯一俺が死神の力を失う事で真咲を助ける事ができるという事。

 

あの時真咲に助けられてなかったら俺は死んでたかもしれねぇ。その恩人を自分の未練で失ったら......俺はもう罪悪感で生きてなんかいけねぇ。生きる事ができたとしても俺が俺でなくなってしまう。

 

俺のその返答を聞いてメガネをかけた石田は驚いていたが浦原は何か分かっていたかのような反応を示していた。

 

「分かってたような反応だな」

 

「ま、志波サンはそう答えるだろうってある方から聞かされていましたっスから」

 

「...冬空隊長は元気か」

 

「それは自分の目で確認して下さい」

 

浦原がそう言うと...

 

「三十年ぶりだな......一心」

 

人間の義骸に入っているからか、全く霊圧を感じない隊長の姿があった。




一心って在任期間こそ短くてまだ死神としては成長期なんだろうけど他と隔絶した霊圧を持つ五大貴族の一員だし崩玉藍染(ハンペン)相手に斬り合ってはいたから隊長の中でも上位の実力だと思うんだよね。一心の卍解発表してくれ師匠〜

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42話 落日

千年決戦編が始まりましたね!画質も凄く良くなっていてこれからも期待大です。

緋真はルキアを無理して探す事はなかったけど元々病弱だったという設定です。


 「姉様! 大丈夫です。病は必ず治ります!」

 

吹兎が尸魂界を追放されてから数十年が経った。そんな中でも我々十三番隊は鍛錬と調査を繰り返してきた。そして朽木家も同様に動いていた。兄様は具体的な名前を教えては下さらなかったが五大貴族の内の一つが関与しているのではないかと疑っていた。吹兎の存在がある意味朽木家を一つとしており私も、そしておそらく姉様もこの家の一員になれてよかったと感謝していた。

 

姉様はまるで朽木家の中で太陽のような存在であり私や兄様を笑顔にしてくれた。姉様の暖かさはまるで朽木家の太陽のようであった。

 

が、その日常に変化が生じ始めていた。元々あまり身体が強くなかった姉様が病に倒れてしまった。兄様が尸魂界中から医師を探し治療させてはいるが姉様の体調が良くなる兆しは見えない。

 

「私は一度、あなたを手放しました」

 

「姉様?」

 

「本当だったら私はもうあなたと会える事はできなかったでしょう」

 

姉様が私を探して下さった事は幾度も聞いた。姉様と会った時の事を吹兎に聞いたり姉様のご友人からも話を聞かせて頂く機会もあった。

 

「私は白哉様、あなたや吹兎君。他の色々な方の支えがあってとても幸せでした」

 

当然の事ながら捨てられた時の記憶など私に残っていない。物心ついた時から恋次達と共にいたから。それに話を聞けば姉様の気持ちも分かる。自分一人が食べていくのも難しいあの場所で幼い私を養う事がどれだけ難しいかを私は分かっている。私は姉様に対して何も思っていない。......しかし姉様は今でもその罪悪感を抱いておられるのだろう。

 

姉様と共にいた時間は霊術院に入学するまでと霊術院を卒業してからの期間でしかない。しかし私たちは失われた時間を取り戻すか如く共に時を過ごしてきた。

 

「ルキア。彼にまた会ったら伝えて欲しいのです。あなたがいなければルキアや白哉様と出会う事もなかったかもしれません。ありがとう、と」

 

「緋真!」

 

兄様が急いだ様子で姉様の寝室に入ってこられた。姉様が病に倒れてから兄様はあまり眠られてないみたいで......しかし朽木家の当主や六番隊の隊長としての職務を放棄する事などできるはずもなく相当な無理をなされておられる。

 

「白哉様。緋真はあなたと結ばれて幸せでした。あなたからたくさんの愛を頂いてとても幸せでした」

 

「緋真! 気を強く持て!」

 

「ルキア......白哉様......ありがとう」

 

その日、朽木家の太陽が沈んだ。

 

──────

 「こんにちはっす隊長」

 

()()()()()()()霊力を失った一心は義骸に包まれて現世で診療所を営んでいる。修行の中で霊力を失い、そして現在修行もできない僕は浦原商店を出て暮らしている。

 

「そういえば隊長。最近暇ならちょっと様子見てはくれませんかね? ......一護の事なんですけど」

 

志波......奥さんの苗字に変えたので黒崎家には長男と双子の妹の3人の子どもがいる。奥さんの真咲さんは......既に死亡している。僕は霊感も失ったため事後報告のような形で聞いたが虚にやられたらしい。真咲さんは隊長クラスの実力はあったからただの虚にやられたとは思えないが......しかしヴァストローデ級の虚は隊長格をも超えると言われているしあり得ない事ではない。

 

「一護、最近また霊感が上がったような気がしましてね。もし良ければ様子を見てやって欲しいんすよ」

 

「一心が見ればいいのでは? 父親だし」

 

「家じゃ見てるつもりっすけど仕事もあるし流石に学校じゃ無理っすから」

 

同じ霊力を無くした者同士とは言えその経緯が全く違うため、僕は一心とは違って現世で何か生計を得る働きをしていない。......つまり無職である。

 

「ん? 学校?」

 

 

 

 

「それじゃあ、転入生を紹介するぞ?」

 

「えっと......冬空吹兎です。よろしくお願いします」

 

──────

 俺の名前は黒崎一護。15歳、高一。実家は町医者。人様の命を預かったり預からなかったり。そのせいかどうかは知らねぇが、とにかく物心ついた頃には当たり前のように幽霊が視えていた。

 

黒崎一護 / 15歳

髪の色 / オレンジ

瞳の色 / ブラウン

職業 / 高校生

 

「あ、黒崎君だよね。よろしく」

 

隣を見ればクラスメイトのはずだが初対面の顔が。そういやさっき先生が転入生が来たとか言ってたな。ってか俺のこのオレンジの髪も中々目立つがこいつの銀髪も中々に目立つな。こいつもヤンキーか、俺と同じで親から貰った地毛を染めたくないかのどちらかだろう。

 

「ああ、よろしくな」

 

この時、俺はこの転入生と深く関わるようになる事など考えもしていなかった。

 

──────

 「ようやく昼休みだぜいっちご〜!」 

 

「おい吹兎、昼飯食いに行くぞ」

 

空座第一高校に転校してきて数日が経った。僕は一心の息子の一護と知り合って、その流れで彼の友人の浅野啓吾や小島水色、そして茶渡泰虎とも仲良くなった。友人ができる事は喜ばしい事なのだが......同時に僕はショックを受けてしまった。

 

基本的に年齢が大きく隔たる相手とはあまり会話が弾まず、友達になる事は難しいのが一般的である。事実、年齢が離れている山本総隊長と友達になるなんて考えられない。総隊長は他の隊長と違うからと納得する事もできるが同じ立場の朽木隊長(銀嶺)とも友達になれるかと問われれば分からない。

 

しかし今、僕はどうだろうか。百も年齢が下の相手と何の問題なく友達になれているではないか。それはつまり僕の精神年齢は彼らと近いと言う事であり......だがしかし尸魂界で僕が特別精神年齢が低かったと言うわけではない。(そう思いたい)つまり死神は人間よりも精神的な成長が遅く幼稚いという事実に気づき僕は軽く絶望した。

 

「おい何してんだ吹兎。行くぞ」

 

「ああ、ごめん」

 

思考はかけられた言葉で霧散し、僕は一護に続くように屋上に向かった。

 

 

 

 

一護はその髪の色から(亡くなった真咲さん由来)色々な人に目をつけられこれまでたくさんの喧嘩に巻き込まれてきた。

 

「お前、黒崎一護だな?」

 

こうして放課後に他校のヤンキーに絡まれる事も少なくないようだ。

 

「......誰だ?ってかいつの時代のヤンキーだよ」

 

「昨日お前が思いっきり蹴飛ばした奴の借りを返しにきたぜぇ!」

 

狭い路地に百人近くとかなり多い、武装をした学生達に囲まれた。

 

「思い出した。昨日幽霊のための供養を倒した奴か。啓吾、水色、吹兎、下がっていてくれ。数は多いが......やるぞチャド」

 

「......ム」

 

ブルブルと震える啓吾と......あんまり動じてない水色を置いて一護とチャドは背中合わせでヤンキーに立ち向かっていく。

 

「一護達はいつもあんな感じで?」

 

「うん。だけどここまで数が多いのは初めてかな」

 

「ヤベェよヤベェよ!」

 

戦況を見てみれば最初は押していたが流石に多勢に無勢と言うべきか......徐々に押され始めていた。

 

「ッチ、クソッ!」

 

「......ム」

 

「ちょっと行ってくるよ」

 

霊体ではなくあくまで義骸に入っている状態。これなら霊能がない人間を相手にしても問題ないだろう。

 

「フンッ!」

 

「吹兎?!」

 

一護の背後から金属バットで殴りかかろうとしていた男に飛び蹴りをいれる。

 

「加勢するよ」

 

囲んでいた三人を即座に制圧する。

 

「......強ぇ」

 

「......ム!」

 

「なんだあいつは!」

 

僕に今、霊力はない。幽霊を感じる事もなければ霊体になる事もない。斬魄刀もないし鬼道も使えない。瞬歩もできなければ霊圧を使った体術である白打も使えない。けど......

 

「グハァ!」

 

これまで積み重ねてきた戦闘の経験と培ってきた反射神経は、僕が死神であった事の何よりの証明だ。

 

 

 

 

「これで終わりだ!」

 

「グハァ!」

 

一護が最後の一人を制圧させ、戦いは終わった。

 

「オメー、強かったんだな。な? チャド」

 

「......ム」

 

「オメーもその髪の色の事で今まで色々あったんだな」

 

「え? あ、うん」

 

空返事をしてしまってその後気づいた。一護は僕も髪の色の件で喧嘩に明け暮れていたと。......特に訂正する意味もないし(何て説明すれば分からないし)そのままにしておこう。

 

──────

 「兄様。現世駐在に行って参ります」

 

「......そうか」

 

現世駐在任務を拝命した事を兄様に伝えたが......やはり私を見てはくれぬ。姉様が亡くなられてから兄様は変わられてしまった。あの日から兄様が笑うお姿を私は見ておらぬ。

 

 

 

 

「じゃあ頑張ってこいよ朽木!」

 

「はい、海燕殿」

 

これから向かうのは虚がたくさん出る重霊地と呼ばれる空座町。

 

「...現世か」

 

吹兎の奴がいると思われる場所。尸魂界にいてはもう見つかっておるだろうからな。現世のどこにおるかは分からぬから空座町にいるとは言えぬだろうが......

 

「会えるといいな」




前半の白哉はまだ精神的には過去編の時のような感じです。ただ父の蒼純が戦死したり祖父の銀嶺が死んで朽木家の当主になったり六番隊の隊長になったりとして精神も不安定といった状態です。

浦原が吹兎に対して資金援助してるのも裏があります。

一護とチャドであればこの程度のヤンキー楽勝だと思うかもしれませんが、まだ死神としての戦闘経験がありませんので...

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死神代行篇
43話 いわく(おまけもあるよ)


今話から原作突入です!今までちょっと長かったかもしれませんがこれからもよろしくお願いします!原作突入記念という事で特別企画、おまけを最後の方に用意しているので最後までご覧下さい。


 「ふわぁ〜」

 

目覚まし時計よりも早く目が覚めた。ちょっとした優越感が僕の胸に宿る。

 

僕の名前は冬空吹兎。ちょっと前までは護廷十三隊の隊長なんかもしてたんだけど今は現世のただの高校生。霊力は......今日もまだ戻っていない。

 

今、住んでいるのは一心の家の近くの1LDKのアパート。浦原さんはもっといい住居を用意してくれるとも言ったが流石に断った。今の僕はそれこそ人間でもできるような肉体労働でしか貢献する事はできないから。

 

浦原さんは現世で駄菓子屋を営み、一心は診療所を開業した。僕は霊力を失った経緯が一心とは全く違うため現世に骨を埋める気はなく、彼らと違って定職につくという選択もまた採れなかった。......あれ? そういえば平子さん達はどうやって生計を立てているんだろう? 

 

そんな僕が一人暮らしをできてる理由は......ひとえに家賃が安いところにある。別に建ってから長い年月が経っているとか、設備に欠陥かあるとか、そういう訳ではない。

 

このアパートのこの部屋は所謂『いわく付き物件』というものだ。ただその理論でいえば僕も立派な『いわく』なので全く気にするところではない。むしろ、いわく同士仲良くできるかもとすら思っている。......見えないけど。

 

僕が高校生をしているのはせめて霊力が戻るまでの暇な時間だけでもいいので(むしろ霊力が戻ったらすぐに浦原さんか平子さん達のとこに戻って修行を再開するから絶対に無理)一護を見てやって欲しいと一心から頼まれたからだ。ただ問題はもし仮に一護の身にそういう問題(霊的問題)が起こった時、今の僕では完全に無力で何もしてあげられないというところなんだけど......。

 

ただそれを差し置いたとしても今の日々を僕はそれなりに楽しめていた。誠に遺憾ながら学校で友達もできたし、勉強に関しても霊術院で学んだ事も多かったために苦労はしていない。霊術院では基礎教養についての講義もある。戦闘が最も大事なので基礎教養を身につけなくても卒業はできるけど。実際に死神を見てみれば分かると思うが、多分十一番隊の大半は授業についていけないと思うし恋次もかなり怪しい。

 

っと、考え事をしているともう家を出る時間だ。

 

「いってきます」

 

──────

 「おっはよ─う吹兎!」

 

教室に着くと元気一番の浅野啓吾が声をかけてくる。

 

「おはよう啓吾」

 

「相変わらず吹兎は俺に優しいよー!」

 

「...もしかして僕もみんなみたいにした方が良かった? 啓吾ってド──」

 

「ち、違うって! 余計な誤解するなよ!」

 

そういえば他の人から邪険にされてるけど......もしかしてそういうのが好きなのかな? と思ったが違ったらしい。良かった、友達を辞めずに済むようだ。

 

「そういえば一護まだ来てないね」

 

髪色と校外で喧嘩に巻き込まれる事を除けば優等生の一護。遅刻もあまりした事がなくもうすぐ始業だと言うのに姿が見えないのは珍しい。

 

「あ、吹兎はまだ聞いてない感じ? 昨日、一護の家にトラックが突っ込んだらしくてなー。怪我人は誰も出なかったらしいんだけど。多分片付けとかで午前中は来れないんじゃないかなー」

 

昨日の夜......そんな音したっけ? それだけ爆睡してたって事かな? 霊力を使えないからって流石に気が抜けてるのかな......? 自分が思ってた以上に。

 

「おーっす席に着け野郎ども!」

 

「あ、先生だー」

 

担任の越智先生が教室にやって来て皆が皆、それぞれ自分の座席に着席する。

 

「今日も一人も欠けずに揃ってるなー......って黒崎は欠席か。そういや職員朝礼で何か言ってたような......。ま、いっか! 黒崎に限って間違いはないだろう! 大島と反町はヤンキーだからしょうがないな! あいつらも絶対元気だろ!」

 

トラックが突っ込んだ事、聞き逃してたな......。

 

「素敵なお知らせだ! 今日は転入生を紹介するぞ!」

 

転入生か。このクラスに多いな。

 

「入って来てくれ」

 

クラスの視線が開くドアの方に向き、僕も周囲に倣って視線を向ける。

 

「......ッ!」

 

それは五十年ぶりに会う幼馴染の姿で......。

 

「......ルキア」

 

瞬間、大きな衝撃が身体を襲う。僕はルキアに抱きつかれていた。

 

「莫迦者ッ! 今までどこにおったのだ! どうして連絡を寄越さぬ! 私がどれだけ...このたわけが......っ!」

 

「......ごめん」

 

──────

 昨日の化け物の襲撃を遊子も夏梨も覚えてなかった。家の破壊はトラックが突っ込んだ事が原因とされていて、いっその事を全て夢の中の出来事だと言われた方がしっくり来るように。

 

 

「刀を寄越せ、死神」

 

「死神ではない。朽木ルキアだ」

 

 

いや、あれが夢だった訳が無い。......これも死神なりのアフターサービスって事か? 

 

「あいつは尸魂界ってとこに帰ったのかな?」

 

だとしたらもう会う事もないだろう。いくら考えても仕方がない。あれは夢だと切り替えた方がいいかもしれねぇな。

 

「いってきます」

 

遊子も夏梨も既に学校に行ってるので返事が返ってくる訳もないが一言声をかけてから家を出る。......もう昼も近く大遅刻ではあるが大丈夫だろう。

 

 

 

 

「......なんだ?」

 

やけに教室が騒がしいような気がする。

 

「おっす一護。遅かったね、もう昼だよ?」

 

「うっせ。トラックが突っ込んだって知ってんだろたつき。それよりなんか教室が騒がしい気がすんだけど何か知らねぇか?」

 

「今日クラスに転入生が来てね。朽木さんって言うんだけど。それで盛り上がってるんじゃない?」

 

何? 

 

「サンキューたつき。助かったぜ」

 

俺は走って教室に向かった。朽木って......昨晩のあいつと同じ苗字だが......まさかあいつが? 

 

「って、うわっ!」

 

教室の扉を開けると目の前に昨日の奴がいて、そして奴の手のひらには「騒げば殺す」と書かれていた。

 

 

 

 

「で、どういう事だよ!」

 

「まぁ怖いー私何かされるのかしらー」

 

あいつを教室から移してから問い詰める。

 

「っていうかまずはその気色悪い喋り方を何とかしろ」

 

昨日のやり取りであいつの口調は知ってるし、それを抜きにしたとしてもこの棒読み言葉遣いはかなりキモい。

 

「とにかくなんでここにいるんだよ。尸魂界ってとこに帰ったんじゃねぇのかよ」

 

「たわけ。あそこに帰れるのは死神だけだ。今の私にその術はない」

 

「......何だと?」

 

「そんなところで何してるの一護?」

 

「吹兎か」

 

ルキアと話していると吹兎もやってきた。そういやこいつさっき教室いなかったな。吹兎がいるところで死神の話なんてできねぇな。

 

「なに、死神の事に関して一護と話をしててな」

 

「っておい!」

 

何ペラペラ喋ってんだよ! 死神の事とか、それに口調に猫被らないで。

 

「此奴は良いのだ」

 

「どういう......」

 

「ルキアが一護に霊力の全てを譲渡してしまったから死神にはなれないって事だよ」

 

ちょっと待て。今こいつ何て言った? 

 

「何でお前が死神とか霊力とか知ってんだよ......」

 

「あれ、説明してなかったのルキア」

 

「ああ、これからするところだったのだが」

 

まるでルキアと昔からの知り合いであるかのように話を続けていく。今日初めて会ったはずなのに。つまり......

 

「そういう事。僕も死神だ」

 

──────

おまけ 

 

護廷十三隊の隊長格の皆さんに吹兎の好感度について聞いてみました! 目安としては0〜30が嫌い、30〜50が普通、50〜80が好き、80〜100がかなり好きといった具合です。

 

一番隊隊長    山本元柳斎重國→45。1対1で会話した事すらない。ただ隊首試験の時に実力は感じ取っておりその点は評価している。

一番隊副隊長   雀部長次郎→40。吹兎は紅茶より珈琲派。紅茶を普段からキメている雀部からしてみれば決して相いる事ができない存在(一方的)。十番隊舎にパンジャンドラムを仕向ければ吹兎も紅茶漬けになるのではと思うほどの重症。

 

二番隊元隊長   四楓院夜一→55。掃除好きなのか大音量の掃除機を頻繁に使ってうるさい。(猫に化けている時特に)

二番隊隊長    砕蜂→3。夜一を連れて行った元凶の一人。憎悪。ちなみに尸魂界にいた時から夜一と親密だった浦原を測定すれば機器が壊れた。

二番隊副隊長   大前田希千代→35。(面識はないが彼の話題が出ると砕蜂に八つ当たりされるせいで低い)

 

三番隊元隊長   鳳橋楼十郎→70。元々真面目な人間は好ましいし実力も刺激的だと思っている。

三番隊隊長    市丸ギン→計測不可(剣を合わせても市丸の心は分からねぇ by チャン一)

三番隊副隊長   吉良イヅル→80。恋敵という側面もあるがそれを含めたとしても好意的。いずれ超えるべきライバルに設定している。

 

四番隊隊長    卯ノ花烈→60。短時間でこそあったが回道の弟子。救命治療に限れば越えられている側面もあり悔しい場面もあるがそれでも好意的。

         卯ノ花八千流→計測不可(八千流ちゃんステイ!)

四番隊副隊長   虎徹勇音→計測不可(面識なし)

 

五番隊元隊長   平子真子→75。全体的に好印象だがもうちょっと肩の力抜けよと思っている。休日の過ごし方を聞いてきた時は普通にドン引きした。

五番隊隊長    藍染惣右介→計測不可(私の心の内を読み取れるとでも思ったのかい?)

五番隊副隊長   雛森桃→計測不可(計測器が壊れた)

 

六番隊隊長    朽木白哉→90。緋真とのキューピッド的な役割をしてくれた。緋真とルキアの恩人。

六番隊副隊長   阿散井恋次→90。ライバル。

 

七番隊元隊長   愛川羅武→55。漫画より小説と言い放った事を根に持っているため低い。

七番隊隊長    狛村左陣→計測不可(面識なし)

七番隊副隊長   射場鉄左衛門→計測不可(面識なし)

 

八番隊元副隊長  矢胴丸リサ→55。下ネタ振っても反応しないため低い。

八番隊隊長    京楽春水→70。親友(浮竹)の元部下。裏切りは信じていない。

八番隊副隊長   伊勢七緒→計測不可(面識なし)

 

九番隊元隊長   六車拳西→69。周りがふざけた奴ばっかりなので近くにいてウザくないやつは貴重。

九番隊元副隊長  久南白→70。吹兎の兎からとってラビたんと呼んでいる。

九番隊隊長    東仙要→15。藍染の敵。

九番隊副隊長   檜佐木修兵→40。折角の魂葬実習という出番のチャンスだったのに大した出番がなかったから。

 

十番隊元隊長   志波一心→90。怒らせたら怖い。

十番隊隊長    日番谷冬獅郎→65。祖母を助けてくれたりと恩はあるが雛森を心配させたりと複雑。

十番隊副隊長   松本乱菊→70。下位席官時代の上司。一心や冬獅郎ほどは話した事がない。

 

十一番隊隊長   更木剣八→計測不可(強ければ好き、弱ければ興味ない。それだけダァ)

十一番隊副隊長  草鹿やちる→計測不可(面識はないが吹兎の私邸を女性死神協会のアジトとして勝手に使っている)

 

十二番隊元隊長  浦原喜助→75。藍染討伐のための貴重な戦力に分析されるくらいには高評価。

十二番隊元副隊長 猿柿ひより→65。休日の過ごし方を尋ねてきた時はドン引きした。

十二番隊隊長   涅マユリ→実験対象

十二番隊副隊長  涅ネム→マユリから捕獲命令が出されている

 

十三番隊隊長   浮竹十四郎→90。体調良くなるといいね

十三番隊副隊長  志波海燕→90。隊長押し付けられないように頑張ってね。




軽い気持ちで始めたおまけ...かなりキツかったです()小説書いてる人なら共感して頂けると思うのですがキャラが勝手に動くので序盤は楽しかったですが途中からは流石に疲れました...。最後投げ槍になってもた。
前半は吹兎の事がそこまで好きじゃないキャラが集まっていたため書いてて「あれ?この主人公同僚から嫌われてない?」と不安になってしまいました()

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44話 帰ってきた

ルキアがいつ浦原の崩玉を埋め込まれたかどうか、そしてなぜルキアだったのかは原作でも明らかになっていません。崩玉を使って平子達を治療した以上、尸魂界を追放されるより後。そして藍染が全霊力を一護に吸われたのは崩玉のせいと言っていたので一護に会うよりは前でしょう。ルキアには扉絵の謎がある通り、まだ原作でも明らかになっていない設定があり、それが浦原がルキアを隠し場所に選んだ理由だと考えています。師匠が設定を話してくれないのでこれ以上考えるのは不毛かもしれませんが。

本作ではあくまで崩玉の隠し場所を探していた浦原が丁度霊力を失ったルキアを発見し、異物混入された義骸をプレゼントしたという事にしています。ルキアを選んだ理由、というものは本作ではありません。


 「つまり吹兎とオメーは尸魂界の死神の学校の同級生だったって事か」

 

「そうだ。吹兎はとても凄くてな。霊術院を過去最速で飛び級して卒業したのだ」

 

「何でてめぇが得意気なんだよ......」

 

自分の事を話されるのは凄く身体がむずむずする。早く終わらないかなと内心で願うばかりだ。

 

「で、何でそんな吹兎が現世にいたんだよ」

 

「私に聞くなたわけ。私だって先ほど再会したばかりなのだ。何も分からぬ」

 

先ほどからルキアと一護が会話していたが急に二つの視線がこちらに向く。......正直その話をされると気まずい。

 

「......あ、予鈴なったよ。この話は後にして教室に戻ろうよ」

 

本当にいいところでチャイムが鳴ってくれた。チャイム大好き愛してる。

 

「待て吹兎、どこに行く」

 

「え? いや......午後の授業が始まるから」

 

「何を言っておる! 授業などサボれば良いではないか!」

 

......あれ? ルキアってこんな性格だったっけ? 

 

結果、髪の色の事で優等生のキャラを大事にしている一護だけが教室に戻った。

 

──────

 「で、何があったのだ?」

 

......どうしよう。本心を言えば隠す罪悪感が大きいから話して楽になりたい。ただルキアは僕とは違ってあくまで一時的に霊力を失った状態。いずれ霊力は復活し、一護の存在さえバレなければ問題なく尸魂界に帰る事ができる。人間への霊力の譲渡は重罪だが一護が見つからない限り露見する事もないだろうし。

 

ルキアが尸魂界に帰ったその時、僕の言葉が原因で藍染達に対して敵意を抱き、それが原因で目をつけられたりしたらどうする? あくまでルキアの一件は藍染とは()()()()()()()()()()()

 

現世に派遣されたルキアが虚退治できないとすればその間の尸魂界へのアリバイとして浦原さんにお願いする事になるとは思うけど......浦原さんの事も言わない方がいいのかな? 藍染との決戦のために今、浦原さん達の場所がバレるのはマズい。

 

「話したくないのなら待つよ」

 

「......え?」

 

「吹兎が無闇に物事を隠す者でない事を私は知っている。お前がそこまでして悩むのには何か大きな理由があるのだろう?」

 

僕の沈黙を肯定と受け取ったのか、ルキアは更に続ける。

 

「それならそれはお前の問題だ。深い問題だ。私はそれを聞く術を持たない。お前の心に泥をつけずにそれを聞く上手い術を私は持たない」

 

「............」

 

「だから......答えが分かりきっている質問をする。尸魂界でお前は尸魂界への反逆を働いた、とされている。それは......間違いなのだろう?」

 

「うん」

 

「ならいい。それをお前の口から聞けただけで満足だ。その代わり、話せるようになったら、話してもいいと思うようになったら......聞かせてくれないか」

 

「......分かった」

 

何だろう、この懐かしいような暖かさは。今いる場所は故郷から遠く離れた現世であるというのに......

 

「帰ってきた気分だ」

 

心が満たされるようだ。

 

 

 

 

「そういえば、みんなは元気にしてる?」

 

「......姉様が」

 

「......ッ! そっか......」

 

霊力が戻る時期すら分からないのにこんな話をする事自体間違いかもしれない。いつになるのか分からない。途方もなく先の未来かもしれない。それでも......

 

「帰って線香をあげないとな」

 

決意は更に固まった。

 

──────

 「やっと来たかよ。5限まるまる休みやがって......。次、体育だから行くぞ」

 

教室に戻ると既に午後の最初の数学の授業は終了しており、一護に連れ出され6限の体育の授業を受けるために体操着に着替えて校庭に向かう。

 

「早く行くぞ吹兎!」

 

振り返ってみればもう制服から体操着に着替えたルキアが。

 

「何やら珍妙な服装だが先ほどまでよりは動きやすいな」

 

屈伸伸脚運動をして動きやすさをアピールするルキア。

 

「......なんだか楽しそうだね」

 

現世の学生生活を楽しめているようで......何より......かな? 

 

 

 

 

 

 

「今日はマラソンだ。準備運動を済ませたら位置につけー」

 

体育教師から「マラソン」を告げられた事でクラスの、特に啓吾あたりから猛烈な抗議が始まった。

 

「なあ吹兎。マラソンとは何なのだ?」

 

いつもは男女別で行われる体育も、今日はなぜか男女混合で行われる。

 

「ただ走るだけだね」

 

「それのどこが楽しいのだ」

 

「テメェそれ陸上部の前でぜってぇ言うなよ」

 

ルキアとの会話に啓吾と話していた一護がやってきた。

 

「そもそも体育は楽しむものじゃないからね。あくまで授業の一環だし」

 

「何を言う! 見てみろ! ここには体育の授業は球を蹴ったり投げたりしてクラスで競い合うものだと書かれているぞ! そしてその中で様々な友情や愛情が育まれると書かれておるではないか!」

 

ルキアの手には某学園少女漫画が握られていた。

 

「......こいつ、ひょっとしてアホなのか?」

 

「......五十年あれば人は変わるんだよ」

 

──────

 「ったく、速すぎんだろ。相変わらずどんな身体してんだテメーらは」

 

マラソンの途中で並んで走っていた吹兎とルキアは突然競走を始めて加速し、あり得ない早さでゴールしやがった。息一つ切らさず。俺も二人とは少し遅れてゴールし、今は三人で啓吾達を観戦している。

 

「あくまで僕達の身体は義骸だからね。僕の場合、霊力は使えないけど死神だった時と膂力はそこまで変わらないから」

 

「なんかズリぃ気がすんなそれ」

 

俺は息を切らして多少疲れてるというのに......なんか納得いかねぇ。

 

「そういえば虚討伐するにあたって義魂丸用意しとかないと。ルキアがいつも一護の側にいるとは限らないし」

 

「ふっざけんな! 虚退治なんて俺はしねぇぞ!」

 

あんな化け物と戦うなんて昨日ので御免だっつの。

 

「あ、でも義魂丸があったとしても虚の存在を感知しないといけないし、どっちみちルキアが近くにいないとダメか......義魂丸は後回しだね」

 

「人の話聞けよオイ!」

 

俺のツッコミをあいつらは全然聞かねぇ。

 

「そうだぞ! せっかくまた会えたのだ! 此奴の側におれと言うのならお前も一緒だ!」

 

某探偵漫画のように吹兎に対して人差し指を突きつけるルキア。

 

「......え、何で?」

 

吹兎の返事はなぜ? 俺もどういう意味なのか分からなかった。

 

「そそそそそそれはだな......。も、もし何かあった時に戦力は多いに越した事ないではないか!」

 

「いや、だから僕は今霊力を完全に失ってて戦力の欠片にもならないんだって......。膂力だけで倒せるほど虚は弱くないし......まずそもそも見えないし。ていうか僕が倒せるなら一護に頼まないでしょ......」

 

「そ、そうだったな......」

 

さっきから何言ってんだこいつ? 言ってる意味全く意味分かんねぇし......っていうか顔真っ赤じゃねぇか! 吹兎は......すげぇ何も気づいてねぇ。ってかこいつ、さっきから表情が次々に変わって面白れぇな。

 

こいつ本当に昨日のあいつと同一人物か? 昨日俺よりも年上とか言って散々嘗めた口利きやがって......。なんか思い出したら仕返ししたくなってきた。

 

「よぉルキア。別に虚退治してやってもいいが......頼み方ってものがあるよなぁ?」

 

「なっ! 貴様! 調子に乗る──」

「頼み方によっちゃあ吹兎も一緒に連れて行っていいんだがなぁ」

 

「なっ!」

 

「そもそも僕が一緒に行く必要ないでしょ......」と言っている吹兎はひとまず無視する。ルキアも興奮のせいか聞こえてねぇみたいだ。そもそも吹兎が一緒に来るかどうかを決める権限は俺には無ぇって言うのに......あれだ。こいつ、吹兎が関わるとポンコツになりやがる。

 

そんなポンコツルキアで遊んでいるとあいつの携帯......(確か伝令神機って言ったか?)が突然鳴り始めた。

 

「吹兎! 一護! 虚だ! 急げ!」

 

顔を上げると先ほどまでのポンコツ顔ではなく昨日のような真剣な眼差しでルキアは手袋をした右手を俺の方に突き出していた。

 

──────

 ルキアが手袋......捂魂手甲を装着して一護を殴りつけると一護は死んだように意識なく倒れてしまう。......他には何も見えないが。

 

「身体など放っておいて......行くぞ! 一護!」

 

一護が死神化したのかな。やはり今の僕は彼を見る事ができない。

 

「何をしておる! 吹兎! お前も行くぞ!」

 

さっきその事について言ったが......しかし反論して議論する時間もない。何もできない事は分かっているがひとまずルキアに着いていった。

 

 

 

 

辿り着いた先はとある児童公園。僕は幽霊、虚が見えないので一見すると何も起こっていないように思える。いるであろう虚の姿も、それと戦っているであろう一護の姿も。しかし注意深く観察すれば空気の軋みや土煙など直接の姿形以外の部分で戦いの存在を認識する事ができる。

 

二十年前が最後になるがこれまでの戦闘経験から、そしてルキアの目線の動きなどからおおよその戦闘の経過を予想する事ができる。

 

「ダメだ、浅い!」

 

虚の討伐の基礎は仮面を叩き割る事。半端な攻撃では超速再生によって瞬時に回復してしまう。上位の虚になればなるほど圧倒的な力と引き換えに再生能力を失う個体は多いが......少なくとも雑魚虚は一撃で倒すだけの火力を持たなければ倒す事ができない。

 

「ッ! 避けろ吹兎!」

 

刹那、ルキアが鬼の形相でこちらに向かって手を伸ばし迫ってくる。なるほど、一護が倒し損ねた虚がこっちに来ているのか。......見えないけど。義骸の耐久力で虚の攻撃を受けるとちょっとヤバい。ルキアも、そして一護もおそらく間に合わない。一撃さえ凌げば二人が何とかしてくれる。

 

「目を開けていたって仕方ない」

 

目を閉じ、空気の軋みという聴覚に全神経を集中させる。今までの戦闘経験から敵の出方を予想する。

 

「今だ!」

 

僕は霊力がこもっていない、しかし持てる限り全力の力で目の前を殴りつける。......確かに手応えを感じた。

 

その後、一護が止めを刺したらしい。

 

──────

 虚討伐後、バレないように校庭に戻り何とか授業をやり過ごしてから下校の時間を迎えた。

 

「俺のせいで吹兎が死にかけた......。それだけじゃねぇ、あのガキだって......」

 

校門の前で一護は神妙な面持ちで語り始める。さっきの公園には子どもの整がいたようで、さっきの虚はその整を目当てに襲ってきたらしい。一護が魂葬をして尸魂界に送る事に成功したらしい。魂葬は霊術院の上級生がやっとできるくらい高度な技術で......流石一心の息子だなと話を聞いて感心した。

 

「やってやるぜ虚退治。これからよろしくな!ルキア、吹兎」

 

だから虚退治に関しては僕は何もできないんだって......。

 

「そうか。それを聞けてよかった。こちらこそこれからよろしくな一護。じゃあ今日はひとまず帰るとしよう。虚が出れば貴様に連絡する」

 

 

 

──────

「......あれ? そういえばルキアはどこに泊まるの?」

 

「げ、現世にお前がおると知ったのだ! おまけに一護の家にも近いと聞く。帰る場所など一つしかないに決まっておるではないか! は、早く急ぐぞ!!」




早く急ぐって何だよ()

平子達って多分義骸で戦っていると思うんですけど普通に霊力使えてるし何なんでしょうね。現世の服を霊子にわざわざ変換してるの?

自分の恋路には鈍感なくせに他人の機微には人並みの感性を備える一護くんです。

50年経った結果......
ルキア→吹兎が絡むとアホになる
雛森→???

ルキアは原作でも度々アホになる兆しは見えていたので......。あと雛森に関してはもう想像ついてる方もいるかもしれません。

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45話 一夜の過ち

あけましておめでとうございます!今年も当作品をよろしくお願いします。
先日、BLEACH原画展に行ってきました。会場でずっと流れていましたが「Rapport」やっぱいいっスね〜


 現在の重霊地、そして一護達が住む空座町は十三番隊管轄の街。だからルキアが現世駐在の任務で出張してきたんだけど......。空座町の前の重霊地は隣の鳴木市だった。そこは十番隊の管轄地で僕も隊長の時に何度か様子見に行った事もあった。現世に逃亡した時も最初は鳴木市に身を潜めていた。

 

重霊地が空座町に移り変わった時に浦原さんも平子さん達も移動したが僕は留まった。その時には既に霊力を失っており重霊地に移動しても何の利点もなかったから。一心が個人病院を開業し一護が生まれた。いつしか浦原さんが一心の家の近くのマンションを用意してくれて、僕も空座町に引っ越した。

 

最初はどでかい家を用意してくれるみたいだったが流石に固辞した。狭くもなければ特別広い訳でもない、普通のアパートの一室。

 

「こ、ここが吹兎の家か。......お、お邪魔します」

 

初めての来客が訪れた。

 

 

 

 

「何固くなってるの? 向こうでも何回か来た事あったでしょ?」

 

「それは流魂街の桃のお婆様のお店の休憩室の話であろう! あれをお前の家とは呼ばぬ!」

 

言われてみれば確かに......。護廷十三隊に入隊してから、そして隊長に就任していた時の(ちゃんとした)家にはルキア達は外出不可の霊術院生だったりタイミングが合わなかったりで来た事なかったっけ。

 

まあ瀞霊廷のお前の家も行っていないと言えば嘘になるが......

 

「ん? 何か言った?」

 

「な、何も言ってないぞ!」

 

またこれだ。再会した後のルキア、昔と違って度々下を向いて口籠る回数が増えた気がする。

 

「取り敢えず夕飯にしようか。今日はカレーの予定だったし二人分作れるくらいの材料は揃ってるから」

 

「ん? 吹兎、お前料理などするのか?」

 

ルキアと初めて会った頃、というより霊術院に入るまでに修行した時は確かにしてなかったな。霊術院でも食堂だったし。

 

「入隊してからたまにね。こっち(現世)に来てからは食費の問題もあったから基本毎日自炊している」

 

入隊してからは仕事がない時間の潰し方が分からないで軽い気持ちで始めたらいつの間にかハマったな。潤林庵で店長と会うまでは料理、というより食べれるものを片っ端から食べていたようで......思い返してみると叫喚の時の生活から驚くほど文明レベル上がったな。今戻っても絶対に適応できない。よく昔の僕はあんなところで生活できていたよな。

 

「私もやはり料理をやった方がいいのだろうか......」

 

その発言からルキアはあまり料理をしない事が推察される。

 

そっか、ルキアは今朽木家で暮らしていて料理人が作ってくれるのか。

 

「わ、私だって料理の一つや二つくらいできるぞ!」

 

「いや何のアピールだよ......」

 

 

 

 

「ふぅ......ご馳走様。良かったよ口にあったみたいで。昔とあまり味覚が変わってなかったようで何より」

 

僕はあまり辛いものが得意ではない。カレーも甘口である。当然来客を想定していないのでカレー粉や唐辛子などない。ルキアは昔から僕と同じように辛いものが苦手で......五十年経ったとはいえ味覚が変わっていなくて良かったと思う。

 

「お前もな。これ、やはり具は少ないな。お前、未だにそばもトッピングは別皿で頼むだろ?」

 

「あ、覚えてた?」

 

「無論だ。周りの男がみんなトッピングを大量に頼む中で一人だけかけそばだからな。見かねた食堂の婆さまが大盛りにしてくれてたではないか」

 

「そうだったね。懐かしい」

 

「それでいつも恋次がズルいとつっかかっていたりもしていたな。......本当に懐かしい」

 

カレーも食べ終わり、二人並んで皿洗いをしながら昔の事について語り合う。凄く前の話のはずなのにルキアと話しているとついこの前の出来事のように感じる。凄く......不思議な気持ちだ。

 

──────

 「じゃあ風呂でも溜めるかな?」

 

食器洗いも終わり、一呼吸ついたところで吹兎がそう切り出す。......完全に忘れてた。

 

「そ、そうか。お前の風呂か」

 

吹兎の家に泊まると先に言ったのは私だ。落ち着け......落ち着け.........。海燕殿や清音殿の影響か、吹兎が絡むと頭が働かなくなってしまってどうにも困る......。深呼吸をして覚悟を固める。あ......

 

「吹兎。私はこの制服の他に替えの服を持っていないのだが......どうすればよいだろうか?」

 

今の私は制服姿。ついこの前現世にやってきたばかりで着替えなど持っておらぬ。そして魂魄の姿にもなれないため死覇装にもなれぬ。

 

「あ、本当だ。ごめん、そういえばそうか。これ、僕の服置いとくから使って? その間に制服洗濯しとくから」

 

差し出されたのは男物の下着と灰色のスウェット。......これは吹兎のものだろうか? 

 

「明日、学校終わったら服を買いに行こう」

 

そ、それはでぇとというものではないのか? さ、誘いはとてもありがたいのだが突然ではないだろうか......? いやでも彼奴の事だ。この申し出を受けないと次いつ誘ってくれるやも分からぬ。第一、今のあいつを見てみろ。私のように熟考して提案した訳ではないであろう! 

 

で、でぇとか......。この前見たまんがというものでは確か現世のでぇとは大きな遊園地のようなところに行って楽しむと書かれていたな。あと少し先ではあるが夏祭りというものもあるらしい。出店が立ち並んでおり最後は打ち上げ花火を見る事ができるという。

 

「そ、そそそうだな。私は綿あめがいいな」

 

「ちょっと待って、何の話?」

 

い、いかん......。つい考えすぎてしまった......。冷静になって頭をより働かせるのが逆効果になってしまった......。吹兎の前であまり変な姿は見せたくない。そ、それよりもだ。今は先の事ではなく目の前の事について考えねばならぬ! ふ、風呂か......。男と共に湯に浸かるなど当然した事がないが......しかし彼奴から誘ってくれているのだ! 覚悟を決めるのだ! 異性とはいえあいつなら......いつか身体を見せ合う時期が少しばかり早くなっただけだ......! 

 

「じゃあ洗濯物を乾かす必要もあるしルキアが先に入ってよ」

 

「ほぇ?」

 

吹兎の言葉の意味が分からず頭の中で何回も咀嚼する。......そ、そうか.........一緒に入る訳ではなかったのだな......。私は先ほどから何を考えておったのだ! 今すぐに顔の火照りを白蓮で冷ましたい欲求に襲われる。

 

「う、うム......」

 

私は逃げ出すようにして浴室に向かった。

 

 

 

 

「ここが......。吹兎はいつもここで身体を......彼奴の匂いだ」

 

風呂場にいけば興奮も冷めると考えたがむしろその逆で......私はいつもよりかなり長めの風呂に入ってから浴室を出た。

 

──────

 私の後に吹兎が入り、その後はテレビをぼおっと見ていた。テレビがつまらなかったという訳ではなく彼奴に借りた服が......まるで彼奴に抱きしめられているような匂いがしてさっきからまともに思考が働かぬ......。

 

「布団は一つしかなくてね......。僕は地面で寝るから」

 

先ほどまでテレビを見ていたその場所に吹兎は布団を敷く。

 

「私に気を遣うな! なんなら一緒に寝れば良いではないか!」

 

いかん......口が勝手に......。とんでもない事を言ってしまった気がするが......しかしまだ頭がぼおっとしている......。

 

「そっか、ありがと。他の人なら異性って事でちょっと無理だったけどルキアなら大丈夫だ」

 

そう言って彼奴も同じ布団に潜り込む。一つの布団に男と女が寝るはやはり狭いみたいで吹兎の右足右手は完全に布団から出てしまう。

 

「やっぱりちょっと狭いね。明日、布団も一緒に買おうか」

 

そう言ったが最後、吹兎は私の隣で寝息を立てて眠りに入ってしまった。

 

ここまで来ればいくら頭が働かない今の私でも分かる。吹兎は......私を異性として見ていない。

 

他人がすぐ側にいる中、何の警戒もなくすぐに眠りに入るという事は私を完全に信頼して、安心しているという事。その事は本心から嬉しいと思うのだが......やはり心にチクリとくるものがある。

 

「私だけがこうも鼓動を鳴らし続けているのは......割に合わぬ」

 

これは彼奴からの信頼を裏切る行為かもしれない。しかし私はもう......止まれない。彼奴の唇を奪うくらいの事は許されてもいいだろう。私たちはお互い、もういい歳した男女なのだ。いい歳した男女が一つ同じ布団に寝泊まりして何もない方がおかしな話だ。

 

「吹兎は......起きる気配ないな」

 

今日は色んな事があった。死神の力を全て一護に吸われてしまい、どうするか考えているところに彼奴と出会った。50年間1日足りとも望まぬ事などなかった再会を果たしたのだ。最初に出会ったのは流魂街の戌吊だったな。お前はいつも私に道を示してくれた。姉様が兄様と結ばれて私が朽木になった時、昔からの仲の恋次と桃が私との距離を測りかねている時、お前だけは昔のまま私と接してくれた。

 

私が一番辛かった時、私を孤独と絶望のどん底にいた時に助けてくれたのはお前だった。いつからかお前への気持ちはただの友情とは違うものに変わっていった。しかし私はその感情の正体をその時に知る事はなく、そして放っていた。お前との時はまだこれからも続く。その長い時の間で自分の気持ちについて考え続け、答えを出していけばいいと思っていたからだ。幸せな時はいつまでも続くと、私は思っていた。

 

しかしお前は突然、何も告げぬまま私の側から去っていってしまった。

 

その時の私の気持ちを......お前への想いを......

 

「............」

 

唇を近づける。心臓の鼓動で吹兎が起きない事をただ祈るのみ。こんな事をして、気づかれてしまえば全て終わってしまうかもしれぬ。......しかし私は止まれない。

 

「............」

 

不意に視線を感じた。顔を上げてみると......

 

「あ、その......」

 

頬を赤らめて壁に隠れてこちらを覗く少女達が......。

 

「失念していた......」

 

吹兎が言っていた。なぜ格安でこの物件を借りられているのかという事を。ここは幽霊が住む......所謂いわく付き物件なのだという。尤も死神である我らからしてみれば幽霊に対して怖がる気持ちなどないため問題ない。しかも吹兎は霊力がないため幽霊を見る事もできないため全く実害がないという。

 

一護に霊力を譲渡した私も今は死神の力を持っていないため煩わしい此奴らを魂葬する事ができぬ。そして......吹兎と違って私は此奴らを見る事ができるため無視する事もできない。

 

「えぇい! うっとうしい!」

 

衆人環視の元、先ほどまでしようとしていた事を続行する事などできず、そしてその間に頭が冷めたのか自分のどれだけの事をしようとしていたのか思い至り、布団を頭まで被って逃げるように眠る他に私が採れる選択肢はなかった。




完全に吹兎の中ではルキアと雛森は幼なじみ枠認定されています。そもそも異性として見られていません。ここから恋愛枠まで持っていくのはかなり難しいです。お二人には是非とも頑張って頂ければと思います。(どうしてこうなった......当初の予定とは全然......)

ルキアの性格が全然違うと思われるかもしれませんが、この50年の影響で吹兎が絡むとルキアはアホになるように......。海燕や清音が全力で揶揄い続けた結果です。

そういや黒崎家のみんなに存在を隠していた時はルキアはどうやって風呂に入ってたんだろ?


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46話 帰還

twitterにも書いた内容なんですが、この小説書き始めてもう少しで1年経つんですよね。
この作品、『桜と雪』ってまんま雛森とルキアを隠喩した安直なタイトルなんですが......

雛森って桜じゃなくて梅じゃん!桜って白哉じゃん!

今更なのでタイトルこのままですが......なんか悲しくなってきた......


さて、死神代行編始まったばかりですが今話は一護VS恋次です。原作と重なり合う場面はダイジェスト版でお送りしていきます。


斬魄刀。それは死神が扱う刀で斬拳走鬼の内の斬術に当てはまる。全ての死神は零番隊の二枚屋王悦が作った浅打を支給され、日夜浅打と寝食を共にしながら自らの霊力を高めていく。

浅打、というものは何にでもなれる刀だ。所持者の魂を写し取り、形取る。それこそが浅打の真髄。

斬魄刀というものは元々は所有者の魂の一部。だから斬魄刀、は己そのものではあるが自分と似て非なる存在と言う事もできるだろう。

浅打に写し取った斬魄刀と対話する事で始解を扱えるようになり、斬魄刀を屈服すると更に上の卍解に至る事ができる。

 

──卍解の先はないのだろうか──

 

──────

──三十年前──

 

「ついに卍解を完全にマスターされましたね主」

 

尸魂界を追放されて数十年。具象化した惜鳥と修行を繰り返し、始解も卍解も完全に会得する事に成功した。霊圧も、以前より上がっている。しかし......

 

「これで足りるのだろうか......」

 

敵は藍染惣右介。前回は未完成ながらも卍解したが倒す事ができなかった。相手は始解すらしていないというのに。

ここまで休みなしでひたすら修行しているというのに、自信を持って首を縦に振れない事がもどかしい。

無論、戦闘手段は斬術だけではない。鬼道も白打も、隊長だった時よりも格段に良くなっている。だが分からない。まだ強くなれる手段があるのなら一つ残らず掴み取る。そのための期間だ。

 

「手段なら......あります」

 

その問いは、声には出さないものの己の半身たる惜鳥には伝わっていたみたいで返答が戻ってくる。

 

「なら! ──」

「しかし当然リスクもあります。まだ誰もがやった事もない方法で、それ故手探りでしか到達できないものですが」

 

斬魄刀の進化にはある法則性がある。第一段階は斬魄刀と対面する事、二段階目は斬魄刀を屈服させる事。

 

いづれも浅打に写し取った魂との距離が近くなればなるほど大きな力をもたらす。

 

──それなら斬魄刀と死神の魂が一つになればどうなるのか──

 

「主は霊圧の具象化といった方法にて自らを霊圧の膜のようなもので纏い、鎖結と魄睡を直接的に鍛える事で強大な力を身につけました」

 

それは藍染惣右介から告げられた内容。

 

「そしてその影響は私にも表れました。霊圧が外に漏れ出ないからか、私の魂のほんの一部が一度、主の魂と混ざり合った事があります」

 

斬魄刀の特異体質というより僕自身の特異体質によって起きた現象。初めて虚に襲われた際、車谷さんの斬魄刀を握った時に混ざり合ったと惜鳥は言う。

 

「霊術院で浅打を貸与されるより以前、他人の浅打に触れた時に斬魄刀としての私の自我は生まれました。それが霊術院で貸与された浅打にも写し取られたという事です」

 

斬魄刀の自我の覚醒には死神の能力に関係なくある程度の時がかかるという。僕が短期間で始解を会得するに至った絡繰はそこにあると惜鳥は言う。

 

「浅打に魂を写し取った刀を用いるのではなく、浅打から私の魂を吸い取って主の魂だけで刀を打ち直す。そうすれば卍解の更に先へと理論上は到達する事ができます」

 

自身の霊圧を外に出す事なく僕の中だけで循環させる事ができるからこそ採れる手段だと惜鳥は言う。

 

「リスクとしては、単純に先駆者がいないため成功例がないという事。

そして......全霊力を私と主の融合に使わなければならない以上、他の事に霊力を使う事ができない。つまり魂が一つになるまでの間、死神化はおろか、霊を見る事すらできなくなります。

その状態がいつ終わるかも分かりません。明日かもしれませんし明後日かもしれない。もしかしたら十年先かもしれません」

 

「でも永遠って訳じゃないんでしょ?」

 

惜鳥は首を縦に振る。

 

「だったら迷う事はない。さっきも言ったけど、採れる手は全部採るんだ」

 

僕は惜鳥の手を握り、死神の力を使う事ができなくなった。

 

 

 

 

僕は死神の霊力が少しずつ消えていく中、浦原さんに事の経緯を話して義骸を貰えるように交渉していた。

 

「事情はおおよそ分かったっス。決戦の日までに一つでも手段を増やす事はアタシも同意だ。ただそれでも義骸を貸すのに一つ、条件があるっス」

 

浦原さんのいつになく真剣な様子に息を呑む。今の僕に支払える代償なのだろうか。

 

「後で隅から隅まで解析させて欲しいっス!」

 

無言で義骸を持ち去った。

 

──────

「黒崎一護。テメェを倒す男だ」

 

ルキアの変な絵がついた手紙読んで来てみれば、なんだこいつら。石田が血ィ流して倒れてやがる。

 

「石田をやったのはテメェか? 赤パイン」

 

「だったらどうする」

 

「倒すだけだ。いくぜっ!」

 

 

 

「ちっ! くそっ!」

 

刀を振りかぶったところで当たんねェ! チッ、ちょこまかウゼェ! 

 

「吼えろ、蛇尾丸!」

 

しかも刀の形状変わってやがるし。

 

「なんだ? テメェら、自分の刀に名前でもつけてんのか?」

 

「フンッ! テメェの斬魄刀に名前も聞けネェ! そんな奴が俺と対等だなんて2000年早ェぜ!」

 

「グァッ!」

 

肩を斬られる。傷が深けェ。意識が、朦朧としてきた。が、

 

「いい気分だ」

 

頭が冴えてる。さっきまでと違ってこっちが押してる。

 

「止めだァ!」

 

が、斬魄刀を無防備な赤パインに振り下ろすまでもなく刀は折られ、折られた刀身は間合いの外と思っていた男の手に握られている。

 

「なっ!?」

 

そして次の瞬間。激痛が全身を襲い、身体は支えを失い前に倒れていく。何をされたのかも分からねェ......。

 

「そこを一歩でも動いてみろ。私を、追ってきてみろ! 私は、私はっ! 貴様を絶対に許さぬ!」

 

ルキアは、赤パイン達に連行されていく。薄れゆく意識の中、一つの言葉だけが俺の中で木霊していた。

 

「また......守られたッ......!」

 

 

 

 

「弱者が敵地に乗り込む事、それは自殺って言うんスよ。朽木サンを救うため? 甘ったれちゃあいけない。死にに行く理由に他人を使うなよ」

 

「ッ!」

 

傷を癒してくれた下駄帽子は尸魂界の行き方を知っていると言う。俺は......俺はッ! 

 

「アタシと戦い方の勉強しましょう」

 

死神の力を取り戻して! 絶対にルキアを助けてやる! 

 

 

 

 

「おめでとさん〜! きっちり死神に戻れたじゃないですか! お見事! レッスン2クリア!」

 

「やかましいわ!」

 

ジャスティスハチマキ装着! とか何も言わずに大穴に落としやがって! 死神の力戻ったんだ! 

今まで受けた分、きっちり返してもらう! 

 

「それなら丁度いい。このままレッスン3に入りましょ〜」

 

 

 

 

前を見ろ、進め、決して立ち止まるな、引けば老いるぞ、臆せば死ぬぞ......叫べ! 我が名は

 

「斬月!」(ダイジェスト版終わり)

 

 

 

 

「斬魄刀、戻ったみたいっスね」

 

「ああ」

 

俺の手にあるのは身の丈ほどの出刃包丁に似た斬魄刀。

 

「これが俺の、斬月」

 

「これで、黒崎サンの死神の力は元に戻った、いや以前よりも増したと言っていいでしょう」

 

下駄帽子は俺が吹き飛ばした帽子の埃を払いながらなぜか刀を杖に収めた。

 

「ですので、これから戦闘訓練を始めましょう。今のままではその霊力も宝の持ち腐れ。

達人の扱う木の棒が素人の刃物に勝つように、今の黒崎サンは持つ霊力は大きくとも、その扱い方を知らない。

これから、その巨大な霊力の扱い方を学んでもらいます」

 

「そうかい。じゃあ続けてやろうぜ。まだ身体は全然余裕だし何より時間が勿体ねぇ。刀、抜けよ」

 

「いえ、今からの修行は私以外の人に頼みます。来ていいっスよ〜」

 

「ん?」

 

下駄帽子が合図を出すと同時に上から人影が降ってくるのを察知する。そして俺は降ってきたそいつの顔を知っていた。

 

「お前は......!」

 

──────

惜鳥の手を取り、彼女が僕の中に入ってくる感覚を感じると今まで感じていた感覚が薄れていく。告げられていた事ゆえ動じなかったが幽霊が見えなくなっていく。死覇装も失われたため即座に義骸に入る。

 

「今日も霊圧は戻ってないか」

 

毎朝、起きるたびに発する言葉。そして就寝前には霊圧が戻る事を願う毎日。

自ら覚悟した選択とはいえ、無力感を拭い去る事はできなかった。藍染の策略によって一心も尸魂界を追われる事になってしまった。そして一心の奥さんも虚に襲われて死んだ。

僕が死神の力を持っていても結末は変わらなかったかもしれないが、それでも結末に悲しむ部下やその息子の悲しむ顔を見てしまえば拳を強く握るしかなかった。無力だった。

 

現世に逃亡して数十年が経った後、ルキアと再会した。何でも彼女は現世で虚と交戦し死にかけたらしい。そして命を繋ぐために重罪とされる人間への霊力譲渡をしてしまった。

一心の家は僕の家から近い。つまり僕が力を持っていればルキアが罪人となる事も、一心の息子を巻き込む事もなかったのだ。湧き上がる無力感に対して、しかし何もせず待つ事しかできない毎日だった。

 

 

 

 

しかし、その無力な日々もようやく終わる。

 

「やっとか!」

 

虚退治に出かけたルキアの帰りを自室で待っていたある日、突然懐かしい感覚が戻ってくる。見えなかった幽霊の感覚も戻って......なんか多いなこの部屋に幽霊。

 

『お久しぶりです主』

 

懐かしい相棒の声も......あれ、なんか僕の中から聞こえた気がしたんだけど。これまでも惜鳥と声を出さずに会話する時はあったけど声は斬魄刀から聞こえていたよね? 

 

『当然です。私の魂と主を一つに、と言うより主と一つになった上で新たに斬魄刀を打ち直したのですから』

 

「すぐに慣れるかな? 慣れるといいな」

 

惜鳥と戯言を交わしながらも感覚は以前のものを取り戻していく。感知できる霊圧の範囲も広がっていき......

 

「ッ!」

 

一心によく似た、おそらく一護が死にかけている事に気づき、ルキアの霊圧は全く感じられなかった。

 

「ようやく、死神の力が戻ったようっスね。若干、手遅れだったっスけど」

 

死神......恋次と白哉の霊圧の痕跡だ。ここまで材料が揃えば何が起こったのか察する事ができる。

 

「なんでルキアを助けてくれなかったんですか! あなたなら追手を交わしてルキアを匿って逃げる事だって!」

 

大事な時に何もできなかった僕がよく言うとは思う。けど、いくら隊長格二人が相手とはいえ限定霊印をした相手なら浦原さんならルキアを守る事だって......! 

 

「......言いたい事は分からなくもないっスけど今はそんな事を話し合っている場合ではない」

 

「何を──」

「黒崎サン、今に死にに行きますよ」

 

──────

「お前! 吹兎! 死神の力が戻ったのか!?」

 

上から降ってきた男は、死覇装を纏った吹兎だった。

 

「そういやルキアが元死神とか言ってたな......」

 

完全に忘れてた。

 

「一護も死神の力を取り戻したみたいだね。僕もついさっき戻ったばかりだけど。今から僕のリハビリも兼ねて一護に修行をつける。斬りかかってきて、いいよ」

 

その言葉に、昔からの仲間とはいえ、俺は怒りを抑える事ができなかった。

 

「ふざけんな! 何がリハビリだ! こっちにはそんな余裕なんてねぇんだ! 時間がねぇんだよ! 第一テメェ()()じゃねぇか! そんな奴に刀持って斬りかかるなんて──」

「黒崎サン」

 

俺の言葉は下駄帽子に遮られた。

 

「黒崎サン。おおよそあなたの考えは分かります。先日交戦した二人も、そしてアタシも、それ相応の霊圧がありました。しかし冬空サンからは何も感じない。自分より弱い相手のリハビリに付き合ってる暇などない、そう思ってるんスよね?」

 

そりゃあそうだ。今まで戦ってきた奴らからは押し潰されるような圧を感じた。しかし、目の前の吹兎からは......何も感じねぇ。

 

「冬空サン。彼は口で言うより肌で感じた方が早いようっス。霊圧が外に漏れないよう結界を張るので、黒崎サンに教えてあげて下さい。鉄斎」

 

「承知!」

 

結界が張られていくと同時に枷が外れたかのように吹兎の霊圧が上がっていく。

 

「何だよこれ......」

 

まるでバケモノじゃねぇか......

 

「確かに丸腰で応じるのは失礼だったね」

 

「ッ!」

 

その言葉に気づき、視線を前に向けてみると吹兎も俺と同じく()()を片手に握っていた。

 

......待て、いつ刀を握った。

 

「いくよ」

 

「ッ!」

 

ここから、先ほどまでの下駄帽子との修行が可愛く見えるほどの地獄が始まった。




斬魄刀との対話の中で本人すら覚えていない人間時代の吹兎の魂の記憶、というエピソードも書いてみたんですが、卍解の時のエピソードみたいに「これじゃない」感が凄かったです。
ですのであくまで「設定」という形で作者の心の中にお蔵入りする事にしました。


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47話 お尋ね者

『桜と雪に埋もれて溺れる』以外の私の作品も読んで頂いているありがたい方はご存知だと思いますが、私は原則三人称で書いていて、時たま「()」を使って一人称も併用するといった文体を使用しています。
ですがこの作品はその文体に変えるよりも早く執筆を開始したのでこれまで一人称オンリーでやってきました。
他の作品と文体も違うので時たま書きにくさも覚えていました。

が、私気づいたのです!
斬魄刀目線であれば三人称のような視点で書くことができるのではないかと!

実験的な試みですので次話で戻っていたら「そういう事」だと納得して下さい()


「いくよ」

 

「ッ!」

 

主は斬魄刀を握り、黒崎さんに肉薄し彼の肩口を切り裂いた。

 

「くそっ! 吹兎テメー殺す気か!?」

 

「当たり前でしょ。尸魂界に乗り込もうとしているんだ。それに期間も殆どない」

 

「くそ! 本気かよ! ......させねぇ!」

 

二撃目。黒崎さんが反応できるほどの速度で放った主の斬撃を黒崎さんは受け止める。

 

「へっ! 今度は受け止めてやったグァッ!」

 

が、斬撃を受け止めても白打によって強化された蹴りが黒崎さんの横腹を貫き彼を吹き飛ばす。

 

「今ので二回は死んでるよ一護。敵に対して軽口を叩く甘さはここで捨てるんだ」

 

『甘さを持ったせいで僕は藍染に負けたのだから』と主は軽く自嘲しながらも意識を黒崎さんに向ける。

黒崎さんは主の蹴りのダメージがまだ抜けていないのか未だに蹲るばかり。

 

「いつまで寝てるの? 次、いくよ」

 

倒れる黒崎さんの頭を蹴り飛ばす。が、今度は素早く復帰した。

 

「いいね、その調子だよ」

 

先ほどは受け身すら取れなかったというのに今回は受け身をとって逆に斬り返してきた。

 

「当たりめぇだ! 斬月のおっさんと誓ったんだ! 斬る決意ってのを! こんなところで立ち止まる訳にはいかねぇんだ! ルキアを助けるためにな!」

 

大剣がぶつかり合い、火花を散らす。

 

──────

「いやー、かなり追い込むっスね〜冬空サン」

 

修行が始まってから数刻ほど。黒崎さんが完全に気絶したのを確認した後、休憩に入った。

 

「あのままアタシが受け持った方が黒崎サンとしては幸せだったでしょうが」

 

主の修行は苛烈を極めた。主は容赦無く黒崎さんを斬り続けた。それは主が回道を習得しているからこそできる修行。

主の斬撃を避ける事で手一杯の黒崎さんは自らの傷が斬られた瞬間に治されている事にも気づいていないようでしたが。

 

「黒崎サン、冬空サンが本気でやっているって思ってるみたいっスね」

 

「............」

 

当然の事ながら斬った瞬間に敵を癒やしながら戦いを成り立たせるためには相当の実力差が必要となる。

事実、主は卍解もしていなければ得意の斬拳走鬼の同時併用も使っていない。黒崎さんが反応する事もできなかった一撃目でさえ瞬歩との同時併用による斬撃でなければ瞬歩さえ使っていない。

 

「腕は鈍ってなさそうで良かったっス」

 

「まだ、分かりませんけどね」

 

戦闘の感覚とは霊圧操作や相手の攻撃を見切る動体視力。そして即座に次の行動を選択する直感。いずれも死闘の中で培われるもの。今の黒崎さんとの戦闘では確かめる事ができない。

 

「黒崎サンの底は知りませんからね。現にこの修行の最中にどんどん伸びてきている。......うっかり使い物にならない、なんて事にはしないで下さいっスよ。

今は朽木さんを助けるために修行してるんス。普通に見ててヒヤヒヤしましたっスよ」

 

「......一心の子ですからね。伸び代はありますよ」

 

主は()()からの問いに一瞬詰まってから答える。それは彼の質問に一部答える事ができなかったから。

主は黒崎さんの限界ギリギリの出力を常に与えてきた。主の回道があるため黒崎さんが死ぬ事はなさそうですが、精神的、霊力的に限界を迎える可能性がある危険なやり方です。

 

『「ふざけんな! 何がリハビリだ! こっちにはそんな余裕なんてねぇんだ! 時間がねぇんだよ!」』

 

黒崎さん。それはあなたのセリフではありません。主は、今に彼女()を助けに行きたいと震える足を我慢してあなたに修行をつけているのです。

理由は簡単。穿界門を開く事ができるのは浦原だけだからです。正確に言えば主も死神であるため勿論開く事はできますが、護廷十三隊に即座に補足されない私的の穿界門を開く事ができるのは浦原だけなのです。

だからこそ主は焦っているのです。

 

「ぐっ......うううぅぅ」

 

「黒崎サンも目を覚ましたみたいっスね。そんじゃ、修行を再開といきまスか」

 

──────

「あ! 冬空君だ! おーい!」

 

「......ム」

 

主との修行によって黒崎さんの実力は()()()()()()にまで成長した。浦原が考えていた最低限のラインも超えたようでようやく尸魂界に向かう事ができる日がきた。

浦原商店の地下でその時を待っていると聞き覚えのある声と共に来訪者が現れた。

 

「チャドと、井上さんか」

 

「ってうぉい! 何でお前らが!? っていうか吹兎! オメーは知ってたのか!?」

 

黒崎さんは二人を見た瞬間に仰天し、動じなかった主に対して疑問を投げかける。

修行中、黒崎さんが気絶していた最中に話を聞いていたために主は驚かなかった。......黒崎さんが寝ている間にしっかり驚いたのは内緒。

 

「最近力を取り戻したんだ。よろしくね二人とも」

 

二人は最近怒涛の日々を送ってきたからかすぐに受け入れ、改めて握手を交わした。

 

「き、君は! なぜ君が黒崎と同じで死覇装を......!」

 

そして二人と少し遅れてからもう一人、主や黒崎さんと正反対で真っ白な服装に身をつつんだ石田雨竜さんが。.....さっきと同じやり取りなので割愛でいいですね。

 

 

 

 

「今から乗り込みに行く尸魂界には護廷十三隊という組織がある。ただ今からの僕たちの目的を考えると全員と敵対しなければいけない訳じゃない。話次第では味方になってくれる人達もいると思う」

 

主の一言で黒崎さん達の表情に安堵の色が浮かんだ。

主はこれから乗り込む先の敵の情報を話し始める。浦原や四楓院夜一が説明しても良さそうですが浦原は怪しい駄菓子屋、四楓院夜一は猫。あまり無闇に情報を与えて混乱させるべきではないとの判断でしょうか? 

 

「僕が護廷十三隊にいたのは五十年くらい前だ。だから今の護廷十三隊には知らない人もいる」

 

主は今の隊長副隊長の事を朽木ルキアから聞いていた。

 

「まず一番隊。絶対味方になってくれない」

 

「「「「............」」」」

 

一番隊は山本元柳斎重國総隊長率いるエリート集団。勤勉で実直。逆を言えば柔軟性がない。少なくとも上からの指示なくしてこちらの話を聞いてくれる事はないだろう。

先ほど安堵させたくせにいきなり酷い事を言う主を、石田さんを筆頭に4人は半目で見た。

 

「二番隊に関しては隊長副隊長どちらも知らない。ただ二番隊は隠密機動、こっちでいう警察を兼ねてるから一番隊と同様話は通じないと思う」

 

「「「「............」」」」

 

黒猫の方をチラリと見てから主は言ったが、先ほど同様にご無体な事を言う主に4人は──(以下略)

 

「三番隊は......副隊長の事はよく知っている。あいつは生真面目なところがあるから正直分からない......。隊長に関しては関わってはいけない。できれば隊自体避ける事をおすすめする」

 

副隊長の吉良イヅルの事は当然よく知っている。ただ主の名前を出せないという現状を考えれば彼が今回こちらの味方になってくれるとは思えない。

 

「四番隊は治癒部隊だ。そもそも戦闘能力はないから障害にはならないと思う」

 

戦闘能力がちゃんとある隊長に関しても、総隊長の意思に反する行動を採るにはそれ相当の説得がなければできないだろう。

 

「五番隊は......絶対に関わったらダメだ。隊長から隊士に至るまで極力接触を避けて。副隊長は個人的に接触すれば何とかなると思うけど......」

 

隊長の藍染惣右介は言うまでもなく、また奴がまとめる五番隊自体警戒した方がいいと主は考える。ただそんな中でも雛森桃は、()()()彼女は昔仲間のルキアのために動いてくれるかもしれないといった希望もあった。

 

「僕達が頼れると思われる隊の一つが六番隊だ。隊長の白哉はルキアの義兄だし──」

「待てよ吹兎! そいつらってルキアを連れて行った奴らじゃねぇか!」

 

主の声は、彼らによって瀕死に追い込まれた黒崎さんによって遮られた。

 

「白哉は規則に厳しく冷たい人間だと思うかもしれないが人一倍愛情に深い。ルキアを尸魂界に連れ戻すという任務を受けた後、多分今でもルキアを助けるために動いているはずだ」

 

主は規則を破りながらも流魂街出身の緋真と結ばれた朽木白哉の姿を見ていた。

 

「分かったよ......。でもあの赤パインは絶対に違げぇだろ! あいつ、嬉々としてルキアを斬ってたじゃねぇか! それに俺たちと目的が同じだとしても絶対ェ俺たちの話なんて聞かねぇぞ!」

 

黒崎さんの発言に主は先ほどの白哉の時のように反論──しなかった。

 

「ちょっと待って......赤パインって......!」

 

黒崎さんの発言に腹を抱えて笑っていたからである。

 

 

 

 

笑いが収まった後、主は六番隊までと同様に十三番隊までの説明を終わらせた。と言ってもほとんどが「味方にはならない」という内容だったが。

 

「最後に、瀞霊廷に着いてからは絶対僕の名前を出さないで欲しい」

 

今回の騒動は藍染とは()()()()()()()。望むなら隠密的に朽木ルキアを救出する事が望ましいのだが......。

 

「何でだよ? あれか? 尸魂界からのお尋ね者ってやつか? 安心しろよ! 今からどう足掻いたってそのお尋ね者にやつになるんだし」

 

黒崎さんの無神経な問いかけを主は......

 

「何か言った?」

 

「な、何でもないです。すみませんでした......」

 

主は何も言わず、ただ笑みを浮かべただけで、黒崎さんを黙らせた。......主の修行が黒崎さんにとってトラウマになっているのでしょう。

 

「ま、まあ置いておいて。さあ、穿界門を開くっスよ〜」

 

「ちょっと待って下さい浦原さん。彼、まだ武器を持っていない丸腰じゃ──」

「余計な事を聞くな石田! 黙っとけ! あいつなら大丈夫だから!」

 

全身真っ白の石田さんの口を黒崎さんが強引に塞ぐ。......私にはびぃえる? という気質はないので隅でやっていて下さいな。

 

石田さんが指摘するように、主は現在外から見れば丸腰のような出で立ちになっている。というのも、私と完全に融合したからこそ常に刀という形で携帯する必要がなくなったのです。

通常死神は浅打という刀に自らの魂を刻み込む事で戦います。逆説的に浅打がなければ戦う事ができないので常に浅打を携帯しています。

 

ですが主と私、斬魄刀の魂が完全に融合した事で主は浅打を使わずとも斬魄刀の力を扱う事ができるようになりました。「断つ」という能力を斬魄刀によって間接的に使用するのではなく例えるならそう、まるで鬼道を使うが如く主は直接能力を使う事ができるようになったのです。

斬魄刀に関しても、浅打を用いる事なくただ主が念じれば主の魂から刀が作られ、他人からして見ればどこからともなくいつの間にか斬魄刀を握るといった状態が生じます。すなわち鞘が不要となったという事ですね。鞘は主の心の中に。

 

「君は急に何をするんだ! 僕はただ、疑問に思った事を尋ねただけじゃないか!」

 

「だからそれが余計な事なんだよ! いいから! 頼むから黙っていてくれ石田!」

 

甘い雰囲気を放つ二人を放っておいて主達は穿界門を通った。




『悲報』冬空吹兎さん、勘違いが多すぎる。


最後、約50年に及ぶ修行の成果の一つである斬魄刀の外見の説明をしてみましたが......どうでしょうか?一護との修行で大剣と表現している通り、斬魄刀を握った瞬間から始解状態です。言うならば常時開放状態といった具合です。もし分からない事とかあれば感想で尋ねて頂ければと思います。

吹兎の性格を疑問に思う方がいらっしゃるかもしれませんが、尸魂界編中は戦闘時と同等かそれ以上にピリピリしています。ルキア奪還編だからね。
更新が空いてキャラと口調を忘れた訳じゃないんだからねっ!......本当だからね?

なぜ惜鳥が浦原だけ呼び捨てにするのかはまた後日。

惜鳥視点にしたとして第三者視点と同等に書く事はできなかった......。所詮惜鳥ですら知らない事は描けないからか。これは一人称視点でもないし......敢えて言うなら二人称視点なのだろうか?


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尸魂界篇
48話 旅禍


文体の件ですが......前話で言った「そういう事」です()


「なぁ吹兎。何だそのマントは?」

 

浦原さんが穿界門を開く準備に入った。僕は事前に貰っていたフード付きの黒い外套を急いで身につける。その様子に疑問を持ったのか、一護が外套についての疑問を漏らす。

 

「これは霊圧を完全に遮断してくれるマント」

 

僕の体質を分析して作ったらしいマントを僕が使う事になるのは......凄く皮肉だ。でもこれがないと僕は尸魂界で動きづらくなってしまう。

 

「そんなもんがあるなら俺達にもくれよ」

 

「いやぁ〜それは作るのに凄く大変でしてね〜。冬空さんが今着用しているそれ一点物なんスよ〜」

 

一護の問いかけに対して浦原さんが代わりに答えてくれたが──凄く嘘くさい。まあ浦原さんの態度は置いておいて一護達がこのマントを着けるのは僕も反対なんだけど。

 

「一護達は尸魂界に霊子が補足されていないからね。マントを被る事によって欠点の方が大きいと思うよ」

 

「欠点って何だ?」

 

「霊圧を完全に遮断するって事は味方の霊圧も感じ取れなくなるって事だから。絶対的に戦力が足りない以上、向こうじゃ連携が必要不可欠だ」

 

夜一さんの霊圧は尸魂界に登録されているとは思うけど......まあ夜一さんの事だから上手くやるのかな? 

 

「準備できたっスよ〜それじゃ皆さん、お気をつけて」

 

こうして僕たちは浦原さんが開いた穿界門を潜って断界を経由、尸魂界に向かった。

 

──────

主達五人と一匹が穿界門を潜ると──地獄蝶を持たないため真っ暗な断界へと送られます。真っ暗でもどちらに行けばいいのか、行き先に迷う事はありません。主たちは何かに追われるかのようにして走り始めます。

 

あっち(現世)じゃ言い忘れたけど尸魂界に着くまでに皆に伝えないといけない事がある」

 

「何だよ吹兎! あれを振り切ってからじゃ遅いのか!?」

 

「最悪尸魂界に着いた時には皆バラバラになっているかもしれないから。ここを出たらもう尸魂界だし、ここしかない」

 

「バラバラって! 君は何て事を──」

「石田! いいから黙っとけ! 頼むから!」

 

修行が終わってから黒崎さんは主を見る目が色々と変わってしまいました。

 

「邪魔をするな黒崎! 第一僕たちはまだ何の説明も受けてい──」

「いいから黙っとけ石田! オメーはあいつが怒ったところを見た事がねぇからそんな事が言えんだ!」

 

確かに修行の時はピリピリとしていましたが、別に黒崎さんに対して怒っていた訳ではないですよ? 

 

「(ねえ、やっぱり誤解解いた方がいいよね?)」

 

別にいいんじゃないんですか? 黒崎さんが主の事を誤解しているおかげでスムーズに石田さんを抑えられているのですから。

 

私達は死神と斬魄刀という似て非なる存在でしたが、長い時間をかけて魂が一つに戻りました。故に主は斬魄刀を発現させず、周りから見れば丸腰の状態ですが主とは言霊を交わさずに会話をする事ができます。

そんな中、主は見るからに怪訝な表情を浮かべて次の言葉を思い紡ぐ。

 

「(......ねえ、なんで最初の時のような口調に戻っているの?)」

 

......何の事だか分かりませんが。

 

「(まあ惜鳥の言葉が強制的に頭に響くから甲高い声よりもこっちの方がいいんだけど)」

 

誰が甲高いよ! 

 

「(......ほら)」

 

............。

 

主は耳を押さえながらもしたり顔を向ける。尤も、周りから見れば何も聞こえる訳もないし視線の先にも何もないからやめた方がいいと思うけ──思いますけど。

 

「......なあ吹兎、さっきから何で百面相してんだ?」

 

「あ! それ私もさっきから気になってたんだ! 茶度君もさっきから気になってたよね?」

 

「......ム」

 

「............」

 

人を揶揄うからそんな目に遭うんですよ。

 

 

 

 

惜鳥に内心で毒づかれたり、一護達に色々と言われたりしながらも僕達は足だけは全力で動かしていた。

 

「結局何だかんだでまだ言っていなかったけど──」

「さっきから何だい!? 後じゃダメなのか!?」

 

「ふっざけんな! いい加減にしろ石田ァ! いいから逆らうな!」

 

僕の発言に石田君が噛みつき、そして石田君に一護が噛み付く。さっきから何一つ変わっていない構図。

 

「さっきとまた同じ会話をするようだけど......ここを出ると最悪バラバラになるかもしれないから今しか言う事ができないんだ」

 

「だから! そうだとしても今そんな事を話している場合じゃないだろ!」

 

「だからそれはこっちのセリフだ石田! お前いい加減にしろよ! 逆らうなってのが分かんねぇのか!?」

 

「(主。前置きなんてなしにとっとと要件を話す方が賢いと思いますが)」

 

それもそうだね。

 

「尸魂界着いたら僕は単独行動するから。さっきも言ったし僕はこのマント着てるしね。だから向こうで僕の姿を見失ったとしても探す必要ないから」

 

「それだけかい! それだけならさっさと言えば良かったじゃないか!」

 

「オメーが事あるごとに吹兎に反発してたからじゃねぇか!」

 

「仕方ないだろ! 僕達は今......」

 

石田君は動かす足を緩める事なく後ろを指差し......

 

「あの化け物から逃げているところなんだぞ!」

 

そういえば......今、僕達は大型の猪のような──そう! 拘突に追いかけられているのです! 

 

──────

拘突から無事に逃げ切る事ができ、僕達は尸魂界の流魂街に辿り着く。一護達が盛大な尻餅をつく中、僕は即座に物陰に隠れた。

 

「(マントの件、黒崎さん達には結局詳細は話しませんでしたね)」

 

僕が尸魂界を追放されたのは藍染の謀略によるもの。当然今回のルキアの一件と藍染は関係がない。藍染とはいつか、必ず決着をつけなければならない。だがそれは今じゃない。

今回、僕は一護達と違って姿を視認されるだけで、「冬空吹兎」という存在がこの尸魂界にいるという事がバレるだけで僕の敗北条件は満たされる。

一護はどう考えても隠密作戦とは程遠いもので......だからこそ別行動を採りたかった。一人で向かう事が最適解だと思っていた。

 

「(瀞霊廷にはどうやって入るつもりですか? 黒崎さん達は白道門を突破するみたいですけど)」

 

尸魂界に侵入した事は既にバレている。できる限り瀞霊廷には早く入りたいよね。一護が突破に成功したら瞬歩で僕も追行するかな。

 

「(仮に失敗したとしたら......おそらく志波家の花鶴大砲で入りますかね)」

 

海燕さんが十三番隊の副隊長を務めている。仮にあれで入ったとして、すぐに志波家の仕業だとバレるでしょ。海燕さんに迷惑はかけたくない。

 

それでも僕一人なら侵入する方法はいくらでもある。

 

「なんだぁオメェ」

 

思考の渦に浸っていると遠くから、白道門の方から遠い昔に聞いた事のある懐かしい声が聞こえてくる。

 

「兕丹坊さん......」

 

霊術院に行くまでに、空鶴さんに修行をつけてもらうために繋いでもらった恩人だ。

しかし僕はこれからその恩人と敵対する事になる。兕丹坊さんだけじゃない。これから、今まで散々お世話になってきた人に対して僕は恩を仇で返す事になる。

 

「当初の予定とは違って俺は10日のところ、5日で死神の力を取り戻した」

 

僕は物陰に隠れて手を出す事も助ける事も許されない。

 

「それなら残りの5日間。俺は何をしていたのか」

 

兕丹坊さんと今の一護が戦えば......

 

「ひたすら戦いの修行をしていたんだ!」

 

兕丹坊さんが振り下ろした斧を一瞬で一護は無効化する。

 

「今更この程度で俺が......」

 

既に一護の実力は副隊長クラスにまで伸びている。

 

「止まるわけねぇだろ!」

 

斬撃そのままに、自らの何十倍もある巨体を一護は──瀞霊壁に向かって吹き飛ばした。

 

──────

「全く、旅禍なんて聞いてねぇぞ」

 

先ほど一番隊から地獄蝶が届き、緊急隊首会が開かれる通知を受け取った。

 

「隊長はまだ寝込んでいるし......また俺が代理か......」

 

副隊長に過ぎない俺が隊長代理としてあの場に立つのは──正直気が乗らねぇ。それに......

 

「今は朽木の事でうちの隊は一杯一杯なんだ。旅禍の事を考える余裕なんてねぇよ」

 

朽木の事は、大切な部下であると同時にあいつの大切な仲間だ。あいつが戻ってくるまで、朽木を殺させる事なんて絶対にさせねぇ。

しかしそんな私情が許される訳もなく俺、志波海燕は十三番隊の代表として隊首会に向かう。

 

 

 

 

「それで、何か申し開きはあるかのぅ、市丸ギン三番隊隊長」

 

「ありません」

 

隊首会は通知の通り、旅禍に関するものだった。白道門を突破した旅禍を市丸が迎え撃ち、取り逃したという。正直市丸は何を考えてんのか分かんねぇ不気味な奴だが、しかし実力は確かなものだ。そんな奴が取り逃すほどの存在。必然的に旅禍に対する警戒は高まった。

 

「それで、旅禍の特徴は」

 

しかしそんな中でも山本総隊長は一切動じず引き続き市丸から情報を──いや、これは最早尋問に近けぇな。

 

「やっぱり一番目立っとったのはオレンジ色の髪をした彼やろなぁ〜。ぎょうさん太い斬魄刀を背負っとったよ」

 

市丸のその発言に真っ先に眉を顰めて反応したのは──朽木の兄貴、朽木だった。

 

「何か心当たりでもあるかのぅ、朽木隊長」

 

「......先に連行された朽木ルキアが霊力を譲渡した人間かと」

 

「じゃあ彼らの目的はルキアちゃんを助けに来たってところなのかなぁ」

 

「京楽隊長......」

 

浮竹隊長の大親友で、隊長以外の十三番隊隊士とも親交の深い京楽隊長の言葉に思わず声が漏れた。確か名前は......「いちご」だったな。

 

当然、俺は朽木から事の真相を聞いている。吹兎と同じくあいつの旧友である六番隊の阿散井は散々恨み節を放っていたが──俺はそういう気持ちにはなれなかった。

命を賭けて家族を守るために危険な世界へと足を踏み出し、そして朽木の刃から生還したにも関わらずもう一度仲間を助けるためにこんなところまでやってきたそいつを──俺は直接会った事すらなかったがどこか嫌いにはなれなかった。話に聞いただけだったが、どこか自分と通ずるものを感じた。

 

「それで、残りの旅禍は」

 

「オレンジ色の彼の他は......そうやねぇ......エラい大きな身体で肌がやや浅黒い子と全身真っ白の子とえらい綺麗な女の子やったねぇ」

 

市丸が挙げた三人は──オレンジ色の髪の「いちご」とは違って特に思い至る者もいなかったのかそのまま流された。

 

「ああ、そういえばもう一人、物陰に隠れた奇妙なもんもおったなぁ」

 

「奇妙?」

 

市丸の勿体ぶるような言い方に目を半目にしつつも総隊長が更に尋ねる。

 

「そうや。何や対面しても全く霊圧感じんかったんよ」

 

「「「「!?!?!?」」」」

 

その市丸の突然の発言に、対面しても霊圧を感じない死神に心当たりのある人物の雰囲気が一斉に変わる。俺も当然その一人だ。無意識に握った拳からは血が滲み出している。

 

「あぁ、多分みんなが思っとる彼ではない思うよ」

 

明らかに豹変した雰囲気に、最近隊長に就任して事情を知らない者は戸惑う中、市丸は一切動じずに続けた。

 

「何や妙なフード被ってたからなぁ〜。何やそれに霊圧を遮断する機能でも付いとったんちゃうん?」

 

「数十年前に尸魂界を追放された浦原喜助は霊圧を遮断する義骸を開発していました。霊圧を遮断するフードも原理的には可能でしょう」

 

「あいつまで関係しているのか......」

 

フードに関して思うところがあった藍染隊長の言葉に、浦原隊──に何かしら思うところがある砕蜂隊長は苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

「とにかく。元隊長の関与が疑われるとはいえ未だ瀞霊廷の外。恐れる事はない。各員、持ち場につき瀞霊廷の守護に努めよ」

 

総隊長がそう言った瞬間、瀞霊廷への侵入者を知らせる警報が鳴り響いた。




雰囲気が変わった隊長......卯ノ花、白哉、京楽、日番谷、(海燕)

何の事だかさっぱり分からなかった隊長......狛村


残りの隊長は事情を知っていても雰囲気が変わりませんでした。「戦いたい!」、「実験したい!」と、いつも通り平常運転です。


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49話 偵察

お疲れ様です、炎の二次サッカー、マイケルみつおです。

お、久しぶりの更新やんけ!ていう事は一挙公開か!?と思われた方すみません。まだある程度までのストックは貯まっていません。

実はアンケートをこの間から設置していたのですが、やはり更新の谷間だったからか、そもそも気づいてもらえず回答数も伸び悩んでいました。(ステルスアンケートになってた)

何で皆答えてくれないのかな?もしかしたら嫌われているのかな?と悶々とした日々を送っておりましたが「そうか!更新をしていないからか!」と2ヶ月以上経ったある日ようやく気づき、今回更新に至った次第です。

アンケートの詳細は後書きに設置しております。


「ちっくしょぉ! 何だよあいつは!!」

 

白道門の門番、兕丹坊を倒していざ瀞霊廷へ! と思っていた矢先、市丸とかいう訳分かんねぇ奴のせいで俺達は今、この流魂街で二の足を踏まされている。

 

「莫迦者。あの市丸ギンと相対してその程度の怪我で済んだ事は奇跡のようなものじゃ。吹兎も言っておったであろう。隊長格、特に三番隊とは関わり合いになるなと」

 

「............」

 

猫のくせに夜一さんの言葉に俺は何も返せねぇ。

吹兎があれだけ警戒しろと言っていた護廷十三隊の隊長、それも三番隊の隊長と相対したとは言えチャドと井上、ついでに石田は無傷。俺は怪我しちまったが井上の治療ですぐに治るほどの軽症だ。

吹兎も元隊長だって言ってたな。つまりあいつと同格の奴と戦ってこれだけの被害しかねぇって事か。

 

「......確かに、ラッキーだったって事か」

 

あいつと同格。つまり尸魂界に来て速攻で全滅の可能性もあったという事だ。チャドと石田は夜一さんの隣に座っていて、井上は──こっちは重症だが片腕を斬られた兕丹坊の手当をしている。

 

「......ん? そう言えば吹兎は?」

 

近くにいても霊圧を感じねぇからいなくなった事にも気づけなかった。

 

「冬空君なら断界の中で言っていただろ? 尸魂界に着いたら単独行動をするから探すなって。

全く君は......。あれだけ僕に人の話を聞けと言っていたくせに君が一番話を聞いていないじゃないか」

 

「うるせぇ石田! そうじゃねぇよ! 門は閉じちまったし今あいつが単独行動する必要はねぇじゃねぇか!」

 

「それはまあ......確かに。でも門はここ以外にもあるって言ってたし......そっちに行ったんじゃないのか?」

 

「それはないな」

 

「............」

 

石田の推理は──猫の夜一さんが即答で却下した。......何かあれだな。自分がされると腹立つが──石田がされるのを見るのは悪くねぇな。

 

「今回の失敗によって門の周辺の警備は厳重になっておるだろう。それはこの門に限らずじゃ。わざわざ遠い道のりを単独で移動して向かう利点はない」

 

「じゃあ夜一さん。あいつがどこ行ったのか分からねぇのか?」

 

「ん? 決まっておるじゃろう。既に瀞霊廷の中じゃ。お主らには見えておらんかったか」

 

「「は?」」

 

夜一さんが言うには、門が開いてから市丸が抜刀し、門が閉じるまでのあの一瞬の間に瀞霊廷の中に入ったらしい。嘘だろ......。

 

「彼奴、また瞬歩の腕を上げよったな」

 

「いや、何感心してるんですか!? たった一人で行ったんですよ??」

 

「それは何度も言うがオメェがあいつの実力を見た事がねぇから言えるセリフだ」

 

悔しいが今の俺じゃああいつには敵わねぇ。夜一さんは分かんねぇけど俺と石田、チャドと井上の4人でかかっても──あいつには敵わねぇ。あいつが行ってダメなら──多分今の俺らが行っても何にもならねぇはずだ。

 

「そうじゃな。一護の言う通りだ。そして彼奴が瀞霊廷の中に入った事によって儂等には新たな選択肢が生まれた。良いか、誤解なきようにはっきりと言う。

 

──このまま儂等がこの流魂街に留まり続けたとしても、ルキアは助かる可能性がある」

 

つまり、夜一さんは俺達が命を懸ける必要はねぇって事を言いてェ訳か。さっきの市丸を見て今なら考えを変えてもいいって事か。......ふざけんじゃねぇ。

 

「吹兎が行ってもルキアが確実に助かるって訳じゃねぇんだろ?」

 

「ああ」

 

「なら行く。あいつがもしヘマをして、それでルキアが殺されちまった時、俺は一生後悔する。何であの時行かなかったのかって。そして無責任に何もしなかった俺が吹兎を責めるのか? ──冗談じゃねぇ! 俺は、俺達の手でルキアを助けるためにここに来たんだ。そして、そのために磨いてきた力だ!」

 

俺の言葉に、石田とチャド。そして兕丹坊の治療を終わらせて戻ってきた井上が頷いてくれる。

 

「......そうか、分かった。なら着いてこい。これから門以外の方法で瀞霊廷に突入する」

 

──────

「(成功ですね)」

 

ああ。誰かが、追手が近づいている様子はない。瀞霊廷への侵入は──成功だ。

正直、門が開いた先に市丸がいる事は予想外もいいところだった。こんな瀞霊廷の中心部から遠く離れた白道門の近くに隊長格。しかも僕の顔を知っていて、何より......あの藍染の一派だ。おおよそこの世で最悪にとことん近い相手だった。

それでも僕は瀞霊廷に侵入する事を選択した。この機を逃せば次はないと分かっていたから。

自らの霊圧が大幅に高まる始解の瞬間という、死神にとっては最も霊圧知覚が難しい瞬間を狙って僕は瞬歩で侵入した。

否、正確には瞬歩じゃないけど──この説明は後でいいかな。

 

僕は誰も追って来ていないという事を再度確認してからひとまず緊張を緩める。僕は今、白道門から遠く離れた、寂れた商店が立ち並ぶ中の、誰もいなく潰れたであろう商店の陰に身を隠していた。

 

「......一護め」

 

ルキアの処刑まで猶予がないとしても、本来は深夜に作戦を開始する予定だった。所謂夜襲だ。それなのに......

 

「(真昼間ですね)」

 

おかげで潜伏場所を探すのにも手間取った。だけどまあこんな昼間でも人通りがない場所を見つけられたから結果オーライと言う事もできる......かな? 

 

「(主って黒崎さんにだけは甘いですよね。やっぱり元部下の息子だからですか?)」

 

それもあるけどね。向こうは当然知らないけど僕、一護が赤ん坊の時から知ってるから。

 

「(幼馴染ってやつですか)」

 

一方的かつ年齢がおかしいけどね。茶番はここまで。取り敢えずまずは情報を整理しよう。

僕はまだ現世にいる時、一護達に説明した時より細かく現在の護廷十三隊の情報を整理し始めていく。

 

まずは一番隊。これは隊長副隊長共に僕がいた時から変わってないね。でも総隊長達はきっとずっと一番隊舎にいるだろうし、ルキアの処刑の双極の場にしかいないでしょ。......ルキアが双極に送られるより前にケリをつけないと。

 

次に二番隊。僕は知らないけど夜一さんが教えてくれたね。

 

「あー砕蜂か。彼奴はいつも儂の後を着いてくるような可愛らしい奴じゃな。性格は基本気弱で大人しいが変なところで頑固じゃったのぉ。最後まで儂の事を「様付け」で呼んでいたし。純粋で愛い奴じゃ」

 

夜一さんの話を聞く限り可愛らしい人みたいだしそんなに警戒はしなくていいかもね。組織として刑軍は警戒しないといけないだろうけど。

 

「(どちらにせよ主より年上なのは間違いありませんけどね)」

 

四番隊も両方知っている。ただこちらは回復部隊なので戦力としては気にしなくていい。卯ノ花隊長は......卯ノ花隊長は......動かないよね? 大丈夫だよね? 

 

六番隊も知っている。隊長はあの白哉だ。きっと今頃五大貴族の権限を使ってでも処刑を止めようとしてくれているはずだ。もしかすると僕が何かするまでもなく解決しそうだ。

 

八番隊は隊長だけ知ってる。ただ.....知らないはずなのになぜか副隊長の特徴は分かるんだよね......。どうせ黒髪でメガネかけてるんでしょ? 惜鳥を具現化させてメガネかけさせたら話聞いて貰えそう。

 

「(私の事何だと思ってるんですか)」

 

猫かぶり。

 

「(............)」

 

そして古巣の十番隊。隊長副隊長共に面識はあるけど......実はあんまり話した事ないんだよね......。

冬獅郎は桃経由でしか接点あんまりないし、副隊長になった乱菊は当時席次も低かった事からあんまり話した事無かったし......。

正直味方になってくれるとは考えにくい。僕は冬獅郎の前の前の隊長だから。もう僕の事を覚えている人も少なそう......。グスン。

 

「(古巣なのにその程度なのですね)」

 

さっき猫かぶりって言った事、実はちょっと根に持ってるでしょ惜鳥。

 

そして十一番隊。正直ルキアから今の隊長を聞いた時一番驚いた。

 

「何で更木剣八が護廷十三隊で死神してるの??」

 

更木剣八といえば流魂街の大犯罪者として僕が瀞霊廷にいた時から有名だった。僕が隊長になるより遥か前から生きていた生粋の戦闘狂らしい。古くは卯ノ花さんと戦ったとか色んな伝説も耳にした事があるけど......

 

「そもそも何で今更死神やってんの??」

 

死神やるとしても今まで色んなタイミングあったでしょ。何で今なの? 正直絶対にエンカウントを避けたい人でもある。

 

次は十二番隊だけど......パス。論外。外道。以上。

あの人僕の事を実験対象のモルモットか何かだと思ってるんだよなぁ。

 

そして最後が十三番隊か。これも十二番隊とは違う意味で言うまでもないね。

 

整理すると......味方になってくれる余地がある隊は二番隊、六番隊、八番隊、十三番隊とおまけで十番隊って事だね。

 

「(何だかんだで結構いっぱいありますよね)」

 

まあ余地があるってだけで確実に味方になってくれるとは限らないけどね。確率が高いのはやっぱり六番隊、次に十三番隊だけかな。

 

「(一気に少なくなりましたね)」

 

それでも2つもあったら大儲けだよ。

 

「(それで、敢えて飛ばした隊についてそろそろ話してもいいんじゃないですか?)」

 

そうだね。そろそろ頃合いかな。

僕の目的はルキアの他にもある。ルキアから現在の隊長格を聞いた時、僕は天地がひっくり返るような錯覚を覚えた。無論ルキアに悟られたらいけないから隠したけど。

 

三番隊隊長

市丸ギン

 

三番隊副隊長

吉良イヅル

 

五番隊隊長

藍染惣右介

 

五番隊副隊長

雛森桃

 

「イヅル......桃......」

 

九番隊の人は一回しか会った事なかったからあんまりピンと来なかったけど、大悪党の裏切り者の三人の内二人の副官が僕の大切な仲間と言うのは由々しき事態だ。

あいつらの近くにいればいつ斬り捨てられるか分からないし、最悪人質に使われる可能性すらある。とても危険な状況だ。

ルキアの処刑まではまだ時間がある。そして助けるにしても当然追手が来るだろうからルキアを助けたらすぐに現世に逃亡しなければならない。必然的に全てやり切ってから救出するのが理想だ。そして何より......一護達がいる。

僕が先にやる事は──イヅルと桃の救出だ。藍染達に気づかれてはいけないから難易度は果てしなく高いが。

 

「そのために最初に取り組む事はもう決まった」

 

ルキアや桃、イヅルを助けるための最初の行動だ。

 

「七番隊の偵察に行こう!」

 

だって僕、七番隊は隊長副隊長共に何にも知らないからね。やっぱり情報収集は必須だよ。




ちなみに吹兎は斬拳走鬼の内、白打と鬼道を同時に行う事で発動する「瞬閧」を使う事はできません。
彼が現時点で使う事ができるのは斬術と瞬歩を併用して移動しながら斬りつける事と、今回出てきた瞬歩と鬼道の同時併用。そして斬術と鬼道の同時併用だけです。
また、卍解を覚えて以降の彼の戦闘スタイルの中心は相手の霊視結合を断つ事ですので実はこれら技術は最近あまり使わなかったりしてます。


回答フォームはアンケートのところに設置してあると思いますが、文字数の関係上、質問文は活動報告に載せてあります→(https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=303232&uid=385679)

以下抜粋

Q, 書き直してもいいですか?また書き直して良ければどういう方法で行うべきなのかも教えて下さい。

1, 書き直してもいいよ!前書き等で事情を説明して「書き直しました」って表記するならこの作品を修正して上書きしてもいいよ!

2, 書き直してもいいよ!ただ、未熟の未熟とはいえ一度投稿した物を大幅に変更するのはどうかと思うから新しく新規小説を作って作品名に「改訂版」とか書くなりして、つまるところリメイク作品みたいにするならやってもいいよ!

3, そういうのは曲がりなりにも完結まで走り切った作者が言うセリフだ。貴様のような完結というゴールテープを切る事もなく右往左往する人間には百年早いわ!

4, 興味ないorどうでもいいor作者に任せる

5, 結果閲覧用(解答しないとどこに何票入ったかわっかんないから)

6, その他(活動報告のコメント欄に書いてね!)

回答、よろしくお願いします〜


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