兎は最後の英雄を目指し歩む (むー)
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序章

それはあり得たかも知れない未来

静寂を好む暴君でありながら優しい義母と筋骨隆々な見た目ながら優しく食にこだわる叔父と女好きの祖父

そんな3人に囲まれて育った真っ白なウサギのような少年の物語

 

 

8歳になったばかりの少年—ベル—に数年前にとても怖く優しい家族が増えた

「おば」

ズガン!!!その言葉を最後まで聞く事なく音すら超える速度でその白髪に拳が落ちる。

「ツ!?ツ!?」

その余りの衝撃に目の前に星が浮かび頭を押さえてしゃがみ込むベル

「その呼び方は正しくはあるが、不快だからお義母さんと呼べといつも言ってるだろう?」

そんなベルを見下ろし頭を撫でる女性

「ご、ごめんなさいアルフィアお義母さん」

灰色の長髪を靡かせ抜群のプロポーションを持つベルとよく似た女性—アルフィア—は「次はこの程度では済まさないぞ」と恐怖の一言を残しつつ

「何か要件があるのか?」

先程声をかけてきた理由を尋ねる

「あ、うん。あのねザルドおじさんがご飯だって」

おどおどとアルフィアの機嫌を損ねないように手短に要件を伝える

「そうか、今行く」

読んでいた本を閉じ立ち上がるとベルの方へ歩いてくるそして2人で縦に並んで居間に向かう

狭い家だが母と近くにいられるこの狭い家がベルは好きだった

「きたか出来てるぞ、熱いうちに食え」

居間に着くと大男が木の器に出来立ての芳しいスープを並べているところだった

「うん!」

そのスープの香りに育ち盛りのベルはお腹を鳴らし席に着き

「いただきます!」

とスプーンを口に運ぶと溢れんばかりの笑顔を浮かべて「美味しい!!」とザルドをみる

「そうか」

素気ない言葉ながら口の端に笑みを浮かべ、ベルの頭をひと撫でして自分も席に着き食事を始める

「相変わらず見た目に似合わず料理上手な事だ」

そんな2人を面白くなさそうに見るアルフィア

それもそのはず、いかな【才禍の怪物】といえど料理などしたこともなければやっているところを見たこともない。それゆえに再現できない

「そうにらむなアルフィア」

微妙に殺気を垂れ流しながら睨むアルフィアに冷や汗を垂らしながらスープを飲むザルド

「お義母さん?おじさんのスープおいしいよ!食べないの?食べさせてあげようか、はいあーん」

そんな様子につゆほども気づかず単におなかが空いてないだけだと思い、おいしい料理を食べれば笑顔が見れるだろうとスプーンを差し出すベル

「「……」」

呆気に取られ2人の間に沈黙が落ちる。そしてどちらともなく苦笑を浮かべて

「やれやれ」

とアルフィアは口を開きベルの差し出すスプーンを迎えそのまま自分の分を食べ始めザルドも食事を続ける

「帰ったぞ〜」

玄関から声が聞こえる

「おじいちゃん!」

ベルはその声を聞いた瞬間立ち上がり出迎えに玄関まで走っていこうとする

「食事中に大きな声を出すな立つな走るな」

アルフィアの言葉にビクッとし大人しく席に戻る

この家において暴君(アルフィア)の言うことは絶対であるのだ

「ただいま、遅くなってすまんの」

たくましい背中はその抱擁力を示すかのように力強くその笑顔は好々爺を体現したような顔であった

「おかえりなさいおじいちゃん!」

そんな尊敬する祖父の帰りをただ1人喜ぶベル頭を撫でより一層その笑みを深くする

「「ちっ」」

そんな姿を見て息のあった舌打ちをする叔父さん《ザルド》とお義母さん《アルフィアお義母さん(おかあさん)

「はぁベルは可愛いのに他2人は相変わらず可愛くないのう」

ため息を吐きつつアルフィアの身体に触ろうとする祖父に容赦の無い手刀を喰らわし悶絶させるのと

「帰って来なければ良かったのだがな」

おまけで毒まで吐いていく

「あはは…」

いつもの光景にベルは苦笑をザルドは同意を示す

「さてこの糞爺は放って置いて食事が終わったらまた訓練をするぞ」

「うん!」

元気に返事をするベルだが

「「……」」

ザルドと祖父は沈黙してしまう

そうそれは訓練とは名ばかりのベルをレベル7《アルフィア》がボコボコにする事であった

齢8歳の少年を世界最強クラスの化け物が一方的に殴る蹴るを繰り返し無茶な要求を突きつけるそれの繰り返しをする

そもそもヘラファミリアは元大手で最強の一角であったファミリアである。そんなファミリアの中ですら抜きん出た才を持っており幹部であった彼女は新人の教育などしてきたことがないし、更に才禍の化け物にはできない気持ちがわからないので教えると言うことが不得手である

それ故に実戦にて鍛える事になった

最初は悲鳴をあげていたベルも幾度も繰り返すうち何も言わなくなり言われた事を繰り返す事にした

生来素直な性格で人を疑う事を知らないベルは訓練とはそう言うものだと信じて日々ボコボコにされ生傷が絶えない生活だった

そんな訓練()を毎日見ている2人は沈痛な表情を浮かべ、哀れなものを見る目を向け

「ベル、明日の朝は俺が訓練に付き合おう」

「明日は大剣の使い方を教えてやる」

ザルドはそんな声をかける

「本当!?」

わーいと喜ぶベルの健気さに祖父は目の端に涙を光らせる

(ぼくはお義母さんたちがもっと笑ってくれるようににもっともっとつよくなる!)

以前ベルは「ぼくがさいごの『英雄』になる」とアルフィアに誓った。それはアルフィアの笑顔のため口から出た言葉だったかも知れない

だが大切な人を笑顔にできたその経験はベルの心に刻みつけられている

大事な家族の笑顔をまた見る為、そしてその笑顔を守る為少年は英雄を目指し努力を続ける

「…」

そしてその誓いを聞いた瞬間からアルフィアとザルドは救われておりその優しさと強さに報いる為その全てを捧げる覚悟を決め、祖父はそれ見守り続ける事を誓った

 

 




作者はダンまちのにわかです
キャラは崩壊する可能性もあるのでご指摘下さい


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2話

 時は過ぎベルが12歳になろうかと言う頃

「わぁ……!?」

 ベルたちはプチ遠征と称しとある森を訪れていた

「お義母さん、ここ綺麗なとこだね」

 肺いっぱいに新鮮な空気を行き渡らせると、相変わらず無邪気な笑顔を浮かべながらアルフィア達の方を見るベル。 

「ああ、ここは静かで良いな空気も澄んでいて過ごしやすい」

 アルフィアとザルド、祖父も同じように清涼感のある彼の地を思い思いに楽しんでいた

「さて俺はまず拠点を作成する、ベル少し付き合え」

 束の間の休息をとるとザルドは荷物をおろし中身を広げてベルを呼ぶ

「うん! 何からやればいい?」

 文句一つ漏らさずザルドの言う事を聞くベルは、2人で拠点を作成する

 —と言っても本格的な物ではなく1日2日過ごすのに不便がない程度に椅子変わりの石などを用意するだけだが

「いいかベル、拠点を作る時はいかに素早く効率よくできるかどうかが1番の要点になる」

「はい!」

「まずは……」

 かつてファミリアでの幾度も行った深層への遠征経験をベルへ伝えていく

「……」

 そんな2人を横目に1人1番良い場所を陣取り優雅に読書をするアルフィアと彼女にちょっかいをかけ地面にめり込んでいる祖父

 その姿をなるべく視界に移さないようにしながら2人は拠点を作っていく

 程なくして完成した拠点を前に

「……よしこんな物だろう、やり方は覚えたか?」

 ザルドがベルに問う

「大体は……」

 正直に答えるベルに笑みを浮かべ

「全部は覚えられなくても良い、大事な基本さえ押さえておけばなんとかなる」

 その頭を優しく撫でると同じくベルは笑みを浮かべてなすがままを受け入れる

「……」

 毎度のことながら実の親子以上に親子らしい2人の姿に若干イラつきを覚えなくもないものの

「お義母さん! 準備できたよ!」

 これまた満面の笑みを浮かべ自分を呼ぶベルに癒されるアルフィアと「ベル〜助けてくれ〜」と情けない声を上げる祖父

「もうおじいちゃんいい加減懲りたら? そのうち死んじゃうよ?」

「ベルその糞爺は放っておけ」

「でも可哀想だから……」

 そう言いながら慣れた手つきで祖父を掘り起こすベル

「何を言う、そこに綺麗な女子の尻があるのならば触らねばそれこそ無礼というものだ」

 ベルは顔をキリッとさせながらそんな事をのたまうセクハラ爺に呆れた笑みを浮かべる

「さて、そこの爺は後でまたしばいておくとして……ベル訓練の時間だ」

 不穏な事を言いながら開けた場所に向かうアルフィア

「はい!」

 その背に迷う事なく続いていくベル

「そら、かかってこい」

 いつも通りに無手で構えすら取らずただ立っているだけのアルフィアに対しザルドと祖父が作ってくれた木製の短剣を構え腰を低く構える

「ッ!!」

 数年間毎日訓練を続けてきたベルの動きは鋭く速い

 一切の迷いなく心臓目がけ突き立てられる短剣

 

 ベルの渾身の一撃を2本の指で受け止めそのまま優しく奪い取ると

「狙いは悪くないが遅い、そして素直過ぎだ」

 目にも止まらぬ速さで人体の急所を突く、切るを繰り返す

「わ、わ、!?」

 切られた後でないと切られた事に気づくことができないほどの圧倒的な速度にまともに悲鳴をあげることもできないベルは最後の一撃をくらい尻餅をつく

「休むな」

 短剣を投げ渡され間合いを詰めてくるアルフィアに

「ッ!」

 即座に立ち上がり戦闘体制に入りつつ距離を取る

「相手から一瞬たりとも眼を離すなと言っているだろう? 追いきれないのなら気配を探れ」

 構えを取ったベルの目の前には手刀が迫っていた

 

 

「はあはあ……」

 仰向けに倒れ指一本動かす事ができないほど疲労したベルは荒い呼吸を繰り返す

 あれから3時間ぶっ通しでボコボコにされ続けたベルに無事な箇所など1つもなくボロ雑巾のような有様であった

「いいかベル、実力が余りにかけ離れている相手に対し素人に毛が生えた程度のフェイントなぞ通用しないとは言ったが馬鹿正直に突っ込んで行けと言ってるわけじゃない。あのような場合は……」

 そんなベルとは対照的に息一つ乱さずベルに膝枕をしながら反省点を教えていくアルフィア

「は、はいぃ」

 息も絶え絶えになりながらも話を聴き次に繋げることができるよう一言一句逃さぬように頭と身体に今日の経験を刻み込む

「あと、やはりお前には短剣の方が向いている。大剣の扱いも多少マシにはなってきたが圧倒的に背が足りん」

「うぐっ」

 年頃の男の子に悲しい現実を叩きつける様は正に母である

 ベルの身長は特別低い訳ではないが決して高くないそれゆえにどうしても大剣に振り回されているような動きになってしまうのだ

「で、でもカッコいいから……」

 尚も大剣への未練を捨てきれないベルの頭を小突き

「見た目など捨て置け、実用性が1番だそれにお前は小さいままの方が良い」

 現実主義のありがたい言葉と願望を告げる

「うぅぅ」

 自分の膝の上で恨めしそうにこちらを見るベルの顔に形容しがたい感情を抱くもおくびにも出さずアルフィアはその頭を撫で「悔しければ大きくなって見せろ」

 と微笑みながら言う

「見ててね、すぐにザルドおじさんみたいに大きくなってみせる!」

 拳を握り母に宣誓する

「さていつになる事やら……」

「大丈夫僕は成長期だからすぐだよ! だから約束だよ? ちゃんと一緒にいて僕が大きくなって英雄になるのを見てて」

 小指を差し出すベルに

「……ああその時までちゃんと見ててやる」

 一瞬間を置きながらも小指を絡める

 そんな2人の約束を少し離れたところからザルドと祖父もその様子を見守るのだった

 だがしかし家族の間に別れは近づいている

 アルフィアは血の混じった咳を隠せなくなってきているし、ザルドの身体も毒に耐えきれなくなって歩くだけで全身に激痛が走るようになっている

 そんな2人の様子に気づいているからベルは感情に素直に笑顔を浮かべる。2人が少しでも笑顔になってくれるように「誰かを笑顔にしたいならまずは自分が笑顔にならなくちゃ」と

 

 

 

「・・・・・けて」

「・・・・めて」

 

 

 

 




不穏な事書いてますがネタバレするとご都合主義のハッピーな展開にします


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3話

※この二次創作はご都合主義です
※2 ルビがおかしくなってますが諦めました脳内で変換しといてください


「? お義母さん今何か聞こえた」

 途切れ途切れの声が聞こえた気がしてベルはアルフィアに確認する

「いや何も聞こえなかったが」

 怪訝そうな顔をする母に

「うーん気のせいだったのかな」

 

「……けて」

 

「!やっぱり聞こえる!」

 ベルの耳には今度は前よりもハッキリと聞こえ

「誰? なんて言ってるの?」神の力(アルカナム)

 その声に対し語りかける

 

「たすけて」

 

「!!」

 か細い声であったがハッキリとした意思で告げられた言葉にベルにスイッチが入る

「どこにいけば君を助けられる?」

 真剣な声で謎の声に問いかける

 すると淡い光が浮かび上がりふわふわと漂い森の奥へと導く

「ついていけばいいんだね?お義母さん行ってくるね」

「あ、おい待て」

 アルフィアの静止の声すら無視し光を追いかけるベル

 

 

「……なんだこれは?またいつもの神々のお遊びか?」

 久々の意味のわからない展開に取り残されたアルフィアは独りごちた

「確かに神の意志を感じるが、これは間違いなく遊びではない」

 物陰から祖父の声が聞こえる

「ゼウス……どう言う事だ?」

 その神名を出し問いかける

「あれは精霊だ、しかもある神の直属とも言える精霊の欠けらだろう」

「……欠けら?」

「どう言う事だゼウス、神の直属の精霊であるのならば大精霊であって然るべきだろう?」

 近くにいたザルドがその言葉に疑問を呈す

「そうだな、神に直接従ってくれる精霊は力を持つものが多い」

 ゼウスはその疑問を肯定する。それが意味することはただ一つ

「まさか……大精霊ほどの力の持ち主が欠けらになってしまうだけのダメージを受けたと?」

「馬鹿な、あり得ない」と呟きながらもそうとしか言えない状況に

「十中八九そうであろうな」

 神たるゼウスが事実であろうと認める

「ッ! ベル!」

「ッ!!」

 2人は焦りを隠せず音すら置き去りにする速度でベルを追いかける。その背を追いながら

「アルテミス……何があった?無事なのか?」

 自身の姉の神友の名を呼びその身を案じる

 

 

 精霊を追いかけ森を抜けると開けた場所に出る

「ここは……?」

 田舎に住みまともに村の外に出るのはこれが初めてであるベルにはその建物はわからない

 その白く美しい建物には女神の像がその御旗をかざし威光を示し訪れたものに自然と敬意を抱かせるに足る雰囲気を持っていた

 しかし、その神殿から漂う気配は余りにもその雰囲気とかけ離れている

「……」

 おどろおどろしいその気配はベルの脚を竦ませるのには充分であった

「たすけて」

 余りにも凶悪な気配に飲まれかけていたベルはそのか細い声我に返る

「この中に行けばいいの?」

 扉へ近づき開けようとしたところで

「やめろベル」

 アルフィアがその手を掴み止める

「お義母さん……」

「おい、ジジイなんだこれは?」

 共に追いついたザルドが祖父に問う

「見ての通り神の力(アルカナム)じゃ」

 一切の誤魔化しなく答えを告げる祖父

神の力(アルカナム)?」

 疑問を呈すベルと

「チッ……最悪の状態か」

 状況を理解したザルドとアルフィアは天を仰ぎみる

「ベル、神の力(アルカナム)とは言葉通り神の持つ力の一端じゃ」

「神様の?」

「そう、そしてここはその神の力(アルカナム)によって閉ざされている」

「神様がここに入れない様にしてるの?」

「その通りじゃ」

「でもこの中に『助けて』って言ってる人がいるんだよなんで神様がそんな意地悪するの?」

「それはなベル、神が意地悪をしてるんじゃなくて神がここに閉じ込められていてそれを嘆いた精霊がお前に助けを求めたんだ」

 当たり前の疑問をぶつけるベルに答えたのはアルフィアだった

「いや、閉じ込められては正しくないな神が下界を守るために自分ごと脅威を閉じ込めているんだ」

 そしてその言葉を訂正する

「脅威?」

 ベルが首を傾げる

「モンスターだ」

 ザルドが答える

「神が危険過ぎると判断し自分ごと封じ込めるだけ凶悪なモンスターがこの地にいる」

「え……?」

 その言葉を聴きかつての記憶が呼びおこされる

 ベルはアルフィア達に出会う前にゴブリンに殺されかけるという経験をしていた

 その時は祖父が助けてくれ、その背に憧れ英雄というものに興味を持ち始めた

 そしてアルフィア達と出会い訓練を重ね強くなった

 —だがしかしまだ1度もモンスターと戦った事は無かった

 ベルの中に残っているのはかつてゴブリンに殺されかけたというトラウマだけでありモンスターという存在は未だにトラウマの象徴そのものだった

「……」

 そのことを祖父から聞いているアルフィア達は今回の遠征であわよくばベルをモンスターと戦わせるつもりではあった

 しかしそれは自分達がどうとでも出来る状況を整えてからおこなうつもりであったのだ

「ここはお前にはまだ早い、というか俺たちでもどうにか出来るか分からん状況だ」

 言葉に詰まるベルを更に追い詰めるかの様にザルドが続ける

「逃げるのは恥では無いぞベル」

 アルフィアは頭を撫でて俯くベルを慰める

(僕は……逃げるの?)

(またあの時みたい何も出来ずに?)

(あれだけお義母さんやおじさんに鍛えてもらったのに戦いもせずに助けてと言っている神様を見捨てて?)

「……そんなのは嫌だ」

 ベルは小さなしかし確かな声で宣誓する

「何もせずに誰かが何とかするのを待って逃げる何てもうごめんなんだ」

「ベル……」

「何よりお義母さんとおじさんと約束したんだ、僕が『最後の英雄』になるって」

「!!」

 眼を見開く2人に尚も続ける

「お義母さんとおじさんが願ってる最後の英雄はこんなところで逃げ出したりしない」

「どれだけ絶望的な状況だってどうにかする、昔にはなし崩し的にでもミノタウロスを倒してお姫様を救った英雄(アルゴノゥト)だっているんだ」

 かつての英雄の様に唇を曲げ笑顔を作り

「それに僕にはお義母さんもおじさんもおじいちゃんもついてるんだ」

 英雄達をその気にさせる意志を紡ぐ

「ガハハハハハハハハハハハ」

 そんな空気も読まず腹を抱えて笑う祖父は

「この状況でその顔でその名を出すか、我が孫ながら大物じゃなぁ」

「いいだろうジジイは最後までお前に付き合ってやる」

 満面の笑みを浮かべ祖父は誓う

「……ガキにそこまで言われちゃ逃げる訳にはいかんな」

 ザルドは苦笑しながら

「全く、強情なところばかり母親に似ているな」

 ベルの頭を小突きながらアルフィアも覚悟を決める

 そうして神殿に挑まんとするベルの前に一際大きな光が来てベル前で止まる

「必ず貴方を助けて見せます、だから待ってて下さい神様」

 その言葉を聴き目が眩むほどの光を放ち

「これは槍?」

 その姿を変化させ、ベルの手に収まるとその先から光を放ち神殿の扉を開ける

「いいやベル、それは矢だそれも神造の」

 驚きながら祖父が言う

「こんなに大きいのに矢なの?」

 率直なベルの疑問に

「細かいことは気にするな、様はすっごい武器だと思っておけば良い」

「ただここ1番の時以外は使わないようにするんじゃぞ」

 祖父の注意に素直に頷くベル

 そんなベルの頭を撫でながら内心で冷や汗をかく

(まさかあのアルテミスが(ベル)に自分の力を託したのか? あの堅物の処女神が?)

(ひょっとしたらベルはワシ以上の女ったらしになるかも知れんの)

 ニヤリと笑いを堪えきれず孫バカを発揮するに祖父

 そんな祖父の様子を気持ち悪いものを見る様に遠ざかるアルフィア達

 気を取り直しベルは矢を握りしめ

「神様を助けに行こう!アルフィアお義母さん、ザルドおじさん、おじいちゃん」

「「「ああ!」」」

 

 最後の英雄を目指す少年の冒険はここから始まる

 



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4話

※1今回もルビ振りがおかしくなってるので脳内で修正してください。修正はスマホだとよくわからないので諦めました
※2筆者はこれが初小説のため戦闘描写に期待はしないでください


 神殿内部へと突入した一行が目にしたのは壁一面が赤黒く胎動しまるで生きているかのような姿へと変貌している様であった

「……ジジイここに何が封印されてたんだ?」

 あまりに異様な光景にザルドが問う

「ここはアルテミスがその力と眷属を使いアンタレスという蠍を封じておった場所じゃ」

「蠍? 蠍風情を神々が恐れたのか?」

 アルフィア達は『陸の王者』や『海の覇者』それに『黒き終末』という最強の化け物たちに出会ってきた

 だが故に蠍をアレらすら封印してなかった神々が恐るに足る存在であるのかそういう意味でゼウスに問いかける

「そうだ、かつての神々《我ら》の負の遺産であった」

「しかしこんな急に封印が解けるようにはなっていなかったはずだ」

「つまりは貴様にすらこの状況は全く読めなかったということか」

 アルフィアは疑いの目をゼウスに向ける

「当たり前だ、流石にこんな状況になる前に対策を考えたとも」

 その視線を正面から受け止め威厳を示す

「……ふん、まぁそうだろうなあんたは悲劇なぞ嫌っていたからな」

 かの神が女好きのセクハラジジイであるが誰よりも愛が深い男神であることをザルドはよく知っていた

「? ……?」

 大人達が何を話しているの全く理解出来ず頭にはてなを浮かべ3人の顔を交互に見る

「あぁベル気にするなこちらの話だ」

「お前は女神を助けることだけを考えてれば良い」

「??? うん」

 全く意味は分からなかったが素直に頷き前に進むベル

「それでこの地にいる女神に見当はついているのか?」

 そんなベルの背を見つつ周囲の警戒をするアルフィアが祖父に問う

「女神の名はアルテミス、月と狩猟を司る神だ」

「アルテミス様?」

「そう、そして彼女三大処女神と呼ばれる恋愛アンチの1(ひとり)だ」

「処女?」

 その言葉がベルから発された瞬間アルフィアの手がブレる

「くだらん情報などよこさんで良い」

 次の瞬間には壁に祖父が埋まっていた

「……」

 やれやれと肩をすくめるザルド

 そして祖父が埋まった場所まで走っていき掘り起こすとその崩れた壁から白い球体が見えた

「え……?」

 パキッパキパキ! 

「……ギ、ギィィィィィ!!!!!!」

 蠍型モンスターが産まれた

「ひぃぃぃ!!!???」

 ベルが祖父の足を掴み引きずりながら距離を取る

「!」

「『福音(ゴスペル)』」

 それと同時にアルフィアの一言がモンスターを跡形もなく消し飛ばす

「全くベル、なんだその情けない姿は……」

「先程私たちに啖呵を切ったのにその様で本当に戦う気があるのか?」

 アルフィアの呆れたため息共に吐かれた言葉に「うぐっ」と声を漏らす

「ごめんなさい……」

 しょんぼりとしたベルに

「まぁいい、しかし卵か……」

 考え込むように呟くアルフィアに

「どうやらアンタレスとか言う化け物は自分の子を生み出すことができるようだな」

「いくら雑魚とはいえ無尽蔵に増えたら流石に面倒だな」

 最悪だとため息を漏らすザルド

「これは俺たちの為にも急いだ方が良さそうだな」

「ああ」

「うん、急いで神様助けに行かないと」

 全員が同意を示す

「コイツと同じでより濃密な濃い状態(あじ)の奴はこの真下にいるようだな、話が早くて助かる」

 大剣を構えるザルドとベルを抱き寄せるアルフィア

「フッ!」

 音すら置き去りする速度で振り下ろされた一撃は床を粉砕し目的地までの一本道を作る

「えっ!!??」

「わぁぁぁぁぁぁ……」

 そのまま一行はベルの悲鳴と共に降りていく

 

 

 トンっと柔らかく着地の衝撃を殺し降り立つ一行は眼前に現れたモノに唖然とする

「シュゥゥゥ……」

 先程出会った蠍と形状は似ており予想の通り大型であった

 予想通り出なかったのはその身体から上層にあった赤黒い伸びておりこの大地から命を吸い取っている事までは予想できていなかった

「アレは……まさか!?」

 そして何よりアンタレスの腹の水晶に女神が取り込まれているなんて想像することなど出来るわけがなかった

「チッ、おいジジイ! アルテミス様は無事なのか!?」

「何とも言えん。ただアンタレスめ大地の力だけで無くアルテミスの力と魂を吸い上げおる」

 忌々しいと憤る祖父

「……」

「おいベル大丈夫か? 気を確かに持て」

 一言も発さないベルにアルフィアが肩を掴み声をかける

「ッ!!」

 いきなりベルはモンスターに向かって走りだす

「「ベル!?」」

 ベルの目に映っていたのは取り込まれたアルテミスの姿とアンタレスの足下に転がる赤く染まったものだった

 それを見たベルはトラウマなど忘れて我武者羅に突っこんでいく

「キシャァァァァ!!!!!!」

 アンタレスは近づいてきた侵入者に殺意の視線を向け紫の光を収束させる

福音(ゴスペル)

 アルフィアの超短文詠唱の一撃がその眼を逸らし狙いを外させる

「ちっ硬いな、どんな甲殻をしてる……!」

 レベル7の魔法にかすり傷程度しかつかない化け物はその一撃を見舞った煩わしい存在に標的を変える

「おおっ!!」

 今度はザルドの一太刀がその脚に炸裂しバランスを崩す

「キシャ!?」

 またも自分の攻撃を止められたことに苛立ちを隠せずアンタレスはその強靭な鋏を地面へ叩きつけ足場を崩し光線で薙ぎ払う

魂の平穏(アタラクシア)

 ザルドはその足下まで敢えて突っ込み、アルフィアは音の鎧を身に纏い攻撃をやり過ごす

「ッ!」

 ただアルフィアの魂の平穏(アタラクシア)でも完全には防ぎきれず衝撃で吹き飛ばされつつ体制を整える

「アルフィア! 俺が囮になるまず脚を壊せ!」

 ザルドが指示を出しその意図を察したアルフィアは

福音(ゴスペル)

 先程ザルドが攻撃した脚に魔法をぶつけていく

 

 

 2人がベルの背を守る戦いを始める中ベルは亡骸と共に転がる月と弓のエンブレムが描かれた旗の元に辿り着いていた

「……」

 その身体に触れ既に事切れた人の姿を見てに涙を流し初めて見る人の死体に吐き気が込み上げて耐えきれず胃の中のものを吐き出す

「ベル」

 そんな孫の姿を見下ろし声をかける

「おじいちゃん……」

「僕この人たちを守れなかったよ……」

「必ず助けるって言ったのに……」

 涙を流しながらベルは言う

「そうだな」

 祖父はその言葉を肯定する

「それに神様から武器を託されたのにいざモンスターを目の前にしたら足が竦んで戦えもしなかったんだ」

 ベルは懺悔をするかのように続ける

「……」

 その懺悔をただ聴き続ける祖父

「僕は誰かを助けられる、誰かを笑顔にできる英雄になんてなれないのかな?」

「最後の英雄なんてなれないのかなかな?」

 初めて人の死に直接触れ自分の無力さを痛感し、ベルの心は折れかけていた

 

 

「なら何故お前はここに来た?」

 そんなベルに祖父は問いかける

「え?」

「ベル、お前は何故あの化け物に真っ先に突っ込んで行きこの子らが倒れている場所迄きたのだ?」

「それは……この人達が倒れててまだ生きてるなら助けなきゃって」

「そうだ、お前はモンスターを倒すことよりも誰かを助けることを優先で考えられる優しい心を持っている」

 祖父はその行動の意味を教える

「!」

「いいかベル、確かにお前はモンスターから逃げてしまった」

「だがそれは誰かを生かそうとしたからだ」

「安心しろお前はアルフィア達が望む英雄へと成長出来ている」

「ッ!!」

 ベルの眼に涙が溢れる

「それにお前にはまだ救うべき女神(おんなのこ)がおるはずじゃ」

「うん……うん!」

 その眼涙とは別の確かな意志が宿った

(そうだ、僕は今泣いている場合なんかじゃ無いんだ)

(僕の目の前に助けてと言っている女の子がいるんだ)

 そしてベルは立ち上がり、その手に神から授かった矢を持って

「そうそれが女神救う唯一の武器だ」

 祖父はその背を押す

「うん!」

 ベルは迷い無くアンタレスへと向かっていく

「泣いてもいい、挫けてもいい勝者は常に敗者の中にいる」

「願い貫き想いを叫べ。さすればそれが1番格好の良い男の子だ」

 かつて英雄達に送った言葉を英雄に憧れる少年へとおくる

 

 

「『福音(ゴスペル)』」

「キシャャャャ!?!?」

 実に10発目のアルフィアの魔法がアンタレスの脚へあたりついに強靭な脚がもげる

 悲鳴をあげるアンタレスだがその数秒後にはもげた脚は元通りに生え変わっていた

 ザルドはそのもげた脚を手にとり急ぎ距離を取る

「貴様が神の力を喰らいつくすというのならば俺は貴様のその力ごと喰らいつくしてやる」

 そしてその手に持ったアンタレスの脚を噛み砕き嚥下する

「貴様のそのうんざりする様な耐久に馬鹿正直に付き合っていたら先に限界が来るのはこちらだ」

 アルフィアが言う

「ならばこちらも相応のリスクを覚悟するだけだ」

「ウオオオオオ!!!!!」

 獣の様な雄叫びをあげザルドが先程迄とは比べ物にならない速度でアンタレスに肉薄し

「オラァ!」

 その脚を切り裂く

「キシャ!!??」

 アンタレスは人間の力が跳ね上がったことに動揺し反応が遅れる

「ッ!」

 大剣が振り下ろされるたびに自分の強靭な脚が全てを切り裂いてきた鋏が切り落とされているのを見て

「キシャァァァァ!!!」

 —ようやく本気を出す

 神の力を吸い上げることに集中していたアンタレスが死力を尽くして戦うべき相手であることを悟った

 その殺意は先程までとは比べ物にならない威力の光線としてザルドを穿とうとする

「『炸響(ルギオ)』」

 だがアルフィアの魔法の残滓が再び弾け狙いを逸らす

「『父神(ちち)よ、許せ、神々の晩餐をも平らげることを。貪れ、獄炎(えんごく)の舌。喰らえ、灼熱の牙!』」

 その隙を見逃さず魔法の詠唱を始めるザルド

「『レーア・アムブロシア』!!」

 そして大剣の振り下ろしと共に魔法が発動する

 煉獄の炎共に黒き風がアンタレスの全身に襲い掛かる

「キシャァァァァ!!!!!!」

 それに合わせて紫色の極太光線を放つ

 ガッ!!! 

 2つの力が拮抗する。

「チッ!」

 渾身の一撃を相殺する化け物に思わず舌打ちが漏れる

「ザルドそのまま奴の足を止めておけ」

 アルフィアが声をかける

 そしてその拮抗は全く関係のないところから崩される

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 ザルドの背後からベルが『矢』を放つ

 矢は神々しくその身を輝かせながら一直線にアンタレスへと吸い込まれていく

「……」

 悲鳴すら上げられずアンタレスはその身を消滅させていく

「ッ!」

 ベルは急ぎ女の子の元へ走って迎えに行く

 パキッという音をたてアルテミスの閉じ込められた結晶にヒビが入り

 次の瞬間にパリンと澄んだ音を響かせアルテミスが解放されベルの腕の中へ落ちて来るその身体を優しく抱きとめる

「……ん」

「あっ……」

 その吐息が聞こえきて安堵の息を漏らすベルはアルテミスに着ていた服を被せかける。

 

 

 彼の初めての冒険は誰かに頼りっぱなしであったがそれでもその意志でもって女の子を助けることが出来たこの経験は彼の英雄譚に置いて重要な第一歩であったのだった

 






と言うことでご都合主義なのでアルテミス生存ルートです
まぁ正史と比べて早めに着いたのでギリギリ間に合ったと言うことでここは一つ許してください
ついでにアルゴノォトのスキルなしのためギリギリアンタレスを倒しきれつつアルテミス本体にはダメージを与えずにすんだと言う設定になってます


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5話

※1ご都合主義の極みに至りました
※2今回もルビ振りは諦めてるので脳内変換よろしくお願いします


「……ここは?」

 目が覚めたアルテミスの視界に映るのは見覚えのない天幕の天井であった。

 そしてあたりを見渡そうとするが

「ッ!?」

 全身を走る痛みと頭の重さに顔をしかめ立つことをあきらめ顔だけを動かしあたりを見渡す

「あ、起きたんですね神様。って無理しちゃだめですよ」

 見たこともない真っ白な髪をした少年が駆け寄ってきて笑顔を見せる

「君は……」

「僕はベル、ベル・クラネルです」

 自己紹介をする白髪の少年(ベル)はニコニコと本当にうれしそうに笑顔を浮かべる

「私はアルテミス。月と狩猟を司る神の一柱だ」

 その笑顔を不思議に思いつつも自分の名を告げる。

「すまない、ここはいったい何処なんだ」

 自分を取り巻く状況が全く理解できずベルへと問いかけるアルテミスに

「ここは僕たちがこの森で過ごすために作った拠点です。最も長く使うことを想定してなかったので作りが簡素ですが……」

 恥ずかしそうに笑うベル

「ベル、神アルテミスは起きたのか」

 そこに少年によく似た顔立ちをした灰色の長い髪を揺らすドレス姿の女性が入ってくる

「あ、お義母さん、うん起きてくれたよ。ってそうだ神様が起きたらおじいちゃんが呼んでいってたんだった」

「ちょっと失礼しますね」と席を外し天幕の外へ出るベル

「ああ……」

 困惑気味に答えるアルテミスとその背を見送る女性

「……さて、私の名はアルフィア聞いての通りベルの義母だ。ところで神アルテミスあなたは自分に何が起こっていたか記憶はあるか?」

「……私は」

 アルフィアの質問にアルテミスは考え込む

「アルテミスおぬしはアンタレスに取り込まれておったのじゃ」

 その思考を低く良く通る声が遮る

「あなたは……ゼウス?」

 その聞き覚えがある声の主の名を呼ぶ

「ああそうじゃ、久しいのアルテミス。と言っても天界でも地上でもあまり話したことはなかったがな」

 声の(ゼウス)はベルとよく似た笑みを浮かべる

「そうだったな……それよりも今あなたは何と言った?」

「アルテミス、おぬしはおぬしが封じていたアンタレスに取り込まれていたんじゃ。そしてそれをベルが救い出したのじゃ」

「アンタレス……ッ!」

 混濁していた記憶がようやく鮮明になってくる

 彼女は近くの村からの依頼で近隣のモンスターの排除をファミリアの眷属たちと行っていた

 その際彼女に縁のある精霊に異変があったことに気が付き神殿へ向かいアンタレスの封印が解けてしまっていることに気づく

 眷属たちと共にアンタレスを再び封印するために内部へ入っていった

 アルテミスは神の力(アルカナム)を封じられたままでも並みの冒険者たちよりも余程強かったし眷属たちもそんな彼女の指導やモンスター討伐などの経験を豊富に積んだ精鋭であったし油断や慢心などせずアンタレスに挑んだ

 —しかしその結果は一方的な蹂躙であった

 かの蠍は自分を封じ込めた(アルテミス)を憎悪し復讐をするために力をため込んでいた

 それこそ大精霊の封印を力づくで解くことができるほどに

 そして目の前で1人また1人と大事な家族を奪われ最後はその敵に取り込まれ力と魂を少しづつ奪われていった

「そんな絶望した状況だったが私の精霊がベルを見つけた」

「そこからはあなたたちの方が詳しいだろう」とアルテミスが言う

「精霊たちはベルのそのきれいな心に惹かれたのだろうな。強いだけなら私たちの方が強いからな」

 アルフィアは予想を口にする

「それでもアルテミスの精霊が(ベル)を選ぶとは思わなかったがな」

 ゼウスはアルテミスをからかうように言う

「……『オリオンの矢』を使えるのは清廉な心の持ち主だけだ。どれだけ力があってもあれは邪念を持つものには触れることはできない。ゆえにこの地にいる誰よりも純粋な彼を選んだのだろう」

「—そして私も彼の『宣誓』を聞いたときに私も一目ぼれしてしてしまったのかもしれない」

 大真面目にそんなことを言うアルテミスに2人は唖然とする

「……あの大の恋愛アンチのアルテミスが一目惚れ? まさかベルに恋をしたと?」

 ゼウスがその目を見開きながら問う

「かもしれないというだけだ」

 苦笑しながら言うその姿に

(嘘だ、この女神(オンナ)本気だ。しかも質の悪いことにその気持ちが本当に恋であるか理解していない)

 ゼウスは「あのクソ真面目なアルテミスがこんな冗談を嘘でも口にするわけがない」ということを察する

「失礼します。神様! ご飯ができましたよ!」

 暖かな湯気を上げるお椀をもってベルが入ってくる

「ああ、ありがとうベル」

 お椀を直接受け取りアルテミスが礼を言う

「いえ気にしないでください、ザルドおじさんお料理はとってもおいしいですから食べたらすぐ元気になりますよ!」

 笑顔で謙遜するベルは

「お義母さんもどうぞ」

 アルフィアたちにもお椀を渡す

「ほらベルお前も熱いうちに喰え」

 とベルの後ろについてきたザルドがベルの分を渡す

「あ、自分の分忘れてた。ありがとうおじさん、いただきます!」

 元気よくご飯を食べ始めるベルを見てアルフィアたちも食べ始める

 

 

 食事を終え少しだけまったりとした空気が流れた後

「……ベル」

「あ、はいどうしました神様?」

「レトゥーサやランテ、私の子どもたちはどこに眠ってるか案内してくれるかい?」

 アルテミスは無理を押して立ち上がりいきなりきついことを言ってくる

「は……?」

 唐突な言葉に息を詰めるベル

「私は彼女たちを守れず死なせてしまったのに1(とり)だけ生き残ってしまったんだ。私は彼女たちに合わなければならない」

 強い意志を込めベルに話す

「……わかりました」

 ベルは立ち上がりアルテミスのもとに近づきその手を取り

「まだ本調子じゃないんですから僕に掴まっていてください」

 ゆっくりと彼女たちの眠る場所へ連れていく

「ありがとう助かるよ」

 2人の背を見送り残された3人

「……まあ遺体が残っていただけましか」

 ザルドが呟くと2人も同意を示す

 あれほどのモンスターが暴れた場所で原型をとどめていることは奇跡のようなもでありダンジョンの中で命を落とした者たちは遺品を持ち帰れれば上々であり、遺体をが引き上げられることなどそれこそ大派閥の人間でないと無理である

「それにしてもザルド、お前体は大丈夫なのか?」

 アルフィアが問いかける

「むしろ前までよりもだいぶ調子がいいくらいだ」

 肩を回しながら答えるザルド

 そうアルフィアもザルドも見た目こそ普通だが体の中は生きているのが不思議なくらいにボロボロであり、実際にアンタレスとの戦いでも命を削りながら戦っていた

「ふむ……」

 そのことをよく知る祖父は顎をさすり思考を巡らせる

「……もしかするとアンタレスを喰らったことによってお前の能力がまた一段昇華されたのかもしれん」

 そして1つの可能性へとたどり着く

「どういうことだ?」

「確証が欲しいついてこい」

 質問に答えるためにザルドを連れ天幕を出て

「ザルドあの木に触れて見ろ」

 そこになる普通の木に触れさせる

「ああ」

 待つこと数秒

「よし離してくれ」

 祖父は指示を出し言われた通りにザルドが手を離す

 ザルドが触れていた部分をよく確認し

「やはりか……」

 祖父は驚きを隠せないように呟く

「1人で納得してないで俺にもわかる様に話せ」

 ザルドが問いかけると

「アンタレスは大地だけでなく神からも力を奪い取ることのでき、かつその力で馬鹿げた再生能力を持っておった。そのアンタレスを喰らい力を得たお前の『神饌恩寵(デウス・アムブロシア)』がその力を再現しておるのかもしれん。かつてお前が『ベヒーモス』を喰らいその力を得たように」

「つまりザルド、お前の体はいまだにベヒーモスの毒に犯されておるが侵された分を大地からエネルギーを吸収し自己再生をすることによって拮抗を保っておる」

 自分ですら検証し確証を得てなお信じられない事を告げる

「—嘘だろ?」

 余りの話にザルドの口からつい疑いの言葉が出る

「ワシもそう思った。だがこの木を見ろ、ただ数秒触れていただけのはずなのに」

 そう言いながら先程までザルドが触れていた場所へ手を伸ばし触れるとその部分がボロボロと崩れていく

「この通りじゃ」

「—」

「もちろん今のままでは見境なく触れたものの命を奪い取るから訓練は必要だが」

 と前置きをしつつ

「—」

「この力を上手く使っていけばお前はもっと長く生きていられる。それこそベルが真に英雄へとなるその日を見届けることができるくらいに」

 自分はまだ(ベル)を見まもることが出来ると(ゼウス)に告げられ

「ッ!」

 涙が溢れそうになる息子(ザルド)の頭をわしゃわしゃと撫でる(ゼウス)

 そんな奇跡が起きた彼らを照らすのは見惚れてしまうほど綺麗な三日月であった

 

 

 

 

 

 






一方、1人取り残されたアルフィアは
(それにしても、本気でベルに惚れてるのかあの女神め。ショタコンか?)
とそんなことを考えていたとさ


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6話

「……待たせたなお前たち」

 白髪の少年に肩を借り恐ろしい程に整った顔の女性が眼前の遺体に声をかける

「レトゥーサ、最期まで良く足掻いてくれた」

「ランテ、よく頑張ってくれた」

 1人1人に声をかけ愛おしそうにその顔を撫でる

「……」

 それに着き付き従いベルは1人1人に花を1輪供えて黙祷を捧げる

(僕がもって強ければ……僕がもっと早くこの場所に来れていれば……)

 後悔が頭をよぎる

「……ベル」

 最後にベルの頬を両手で優しく包み込む

「は、はい!?」

 突然のことに驚きと羞恥を隠せず顔を真っ赤に染めるベル

 今までは精神的に参っており気にすることが無かったが目の前で自分の頬を包み込んでいるのは人知を超えた美しさをもつ女神様なのである

 アルフィアという美人な母親を持つベルではあるが義母以外の女性と接したことなどほぼないため女性への免疫など皆無である

 そんな初情なベルにとってアルテミスは劇薬にも近い

(本当に女神様って綺麗だなぁ)

 年相応の男の子の感情を出しつつアルテミスの話を待つ

 そんな初情なベルを好ましく思いつつ

レトゥーサ(私の子ども)達が死んだのは君のせいではないよ」

「……えっ?」

 アルテミスはベルの心を見透かして告げる

「いいかベル、私たちは月と弓の旗の誇りにかけてアンタレスと戦って力及ばず敗れ命を落としたんだ。君たちが間に合えば私たちを助けられたかもしれないと言うのはは私たちへの侮辱だ」

 厳しい一言を送る

「ご、ごめんなさい」

 自分の驕った考えに気づき頭を下げるベル

 そんなベルの頭を撫で

「君の優しさは嬉しく思うよ、でも自分がいれば何て後悔はしないでくれ」

「それに君は私を助けてくれただろう? 失ったものにばかり目を向けるのではなく救えたものを見えておくれ」

 俯くベルをあげさせその目を助けられた神様(自分)へと向ける

「助けてくれてありがとう私の英雄(オリオン)

 飛び切りの笑顔を送る

「ッ!! ……」

 その笑顔に涙があふれる

「こっちこそ助けさせてくれてありがとうございます……!」

 縋りつくようにアルテミスの手を握りしめ礼を口にする

 そんなベルに苦笑を浮かべ

「助けさせてありがとうなんて、おかしなやつだな君は」

 その手を優しく握り返す

「神様、僕もっと強くなりたいです」

「ああ」

「今度こそ誰も失わなくて済むくらいに」

「ああ、頑張れベル」

 少年は家族と神に強くなることを誓う。

 アルテミスがもう2度と家族を失わなくて済むように

 アルフィアたちとの約束を果たすために英雄となることを

 

 

「うう……」

 女神相手とは言え縋りついて泣いてしまい恥ずかしそうにするベル

「ふふっ」

 そんなベルとは対照的に笑顔をうかべるアルテミス

「……」

 そしてそんな2人を見て苛立ちを隠せないアルフィア

「「……」」

 巻き込まれないように空気に徹する親子(ザルドと祖父)

 これからはベルの家族がまた1人増える

 より賑やかにベルは過ごすこととなる

 —そしてアルフィアの訓練に加えアルテミスの訓練も加わることになるベルは今までの倍以上死にかける事となる

 




短いですがキリがいいので今回はここまで


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7話

「ベル! 木々の隙間を縫って標的を射抜くくらい簡単にやって見せろ!! 標的を逃して後々困るのは自分自身だぞ」

「は、はい……」

 透き通るような綺麗な声で無茶を言う女神(アルテミス)に対し疲れ果てて息を切らし掠れた声になりながら素直に頷く白髪の少年(ベル)

 2人が出会ってから数年が経ちベルは14歳になっていた

「今日はここまでにしよう、お疲れ様」

「あ、ありがとうございました」

「—ベル次は私との訓練だ」

 疲労から膝に手をつくベルに無慈悲な義母(アルフィア)の声がかかる

「す、少しだけ休憩を……」

「何言ってる今1分休んだだろう?」

 アルフィアがさも当然のことのように告げる

「それは休憩とは言いません!?」

 余りの横暴さに悲鳴の様な抗議を上げるベル

(すまんベル俺は無力だ)

 そんなベルのいつもの地獄を遠い目をしながら見るザルド

 

 

 確かにベルの日常は祖父と2人だった頃と比べて随分と賑やかに幸せが溢れる様になった

 ただ人数が増えるたびにベルの訓練は激しさをまし、生傷の数が増えていった

 強くなりたいとアルテミスに弓の扱いなどを習い始めたまでは良かったがその指導はスパルタそのものでありアルフィア以上の感覚派であった

「矢を射れば当たるのは道理だ」

 と当たり前のように神技を披露し『こんな簡単なことすぐに出来るようになるだろう?』と自分(ベル)の顔を見てきた時に彼は悟った

(あ、これお義母さんより酷いや)と

 それでも愚直に同じ動作を繰り返したベルは一般的な眼から見れば一端の狩人と言えるレベルにまで成長していた

 だが神から見ればまだまだ甘く、悲しいことに比較相手となってしまったアルフィアは

「こうやれば良いのだろう?」

 と才禍の怪物の名に相応しく一眼見て神技をマスターしてみせた

(え? 出来るのが普通なの!!??)

 自分の常識を疑いおじさんと祖父を見ると重々しく首を振り

((頑張れ))

 と口パクで伝えてきた

(あっハイ)

 ベルはアンタレスとの戦い以上に絶望的な挑戦に挑む

 不幸中の幸いでファミリアを率いてその技術を教えていたアルテミスは教え方はアレでも何度でも教えてくれる根気よさはあった為、ベルは理屈でなく身体で覚えていく

 そんな修行に加えいつものアルフィアとの組手という名の一方的な攻撃は減ることも優しくなることもなかった

 ザルドは基本の剣の振り方等を教えてからはあまり訓練に関らず、さらにアンタレスの力を喰ってからは自分の力の制御をすることで程いっぱいになっていた故に

「ベルそれは食べやすい程度の大きさに切るだけで良い。細かくしすぎると切ってる間に旨味が溶け出してしまう」

「うん、おじさんこっちはこんな感じで大丈夫そう?」

「悪くはないがまだ煮込みが足りてないな状態(あじ)が均一になってない」

「わかった」

「大分うまくなってきたな」

 真っ当な親子の交流をしていた

 この家での女子力のカーストは男性陣の方が高く

「「……」」

 そして毎度のごとくアルフィアの殺意の篭った視線とアルテミスの射殺すような視線に晒されザルドの胃はベヒーモスの毒に劣らない勢いで荒らされている

 

 

「あれ? おじいちゃん?」

 そんなある日の朝、その前の晩にいつものようにアルテミスの風呂を覗こうとし、矢でいられ磔にされていたはずの祖父が見当たらなくなっていた

 そしてその貼り付けにされていた場所には1枚の神が残されていた

『ベルへ、急用ができたので旅に出る。いつ戻って来れるかわからんが気にするな。ワシはいつでもお前を見守っておるからな14歳になったのだからオラリオに行くといい。あそこには全てがある。お前の焦がれる英雄の候補もあそこには揃っておる良い刺激となるだろう』

「オラリオ……」

 その名は幾度も祖父や義母達から聞いていた

 数多の冒険者達が集いダンジョンというモンスターの巣窟に挑む地

 富も名声も女も男も全てがある街であると

『追伸、お前と同じ歳の頃にアルフィアは冒険者となった』

「!!」

 彼の尊敬し大好きな義母(アルフィア)が自分と同じ歳の頃には冒険者となりダンジョンという魔物達の楽園へと踏み込んでいたという事実

 その事実は何よりもベルの心に火を灯す

「僕はオラリオに行って冒険者になる」

 祖父とのひと時の別れは悲しく辛いものであるが彼の心を満たすのは英雄への憧憬だった

「「「……」」」

 そんなベルを見守る保護者達はベルの決意を暖かく見守りつつ

(あのジジイが可愛い(ベル)に書き置きしか残さずに旅に出ただと)

 彼の性格を考えればあり得なくはないが疑問は残る

 アルフィア達が鍛え上げているお陰でベルは冒険者としてダンジョンに潜ってもまず死ぬことはないだろうと言える

 しかしこんなに急に失踪するのは不可解であった

(((ん?)))

 2人と1柱の頭にある女神の顔が浮かぶ

(((まさか……奴がここにくる……?)))

 ザルドにとっては『黒き終末』と対をなす日常での絶望

 アルフィアにとってはあまりにも面倒くさい女王

 アルテミスにとっては噂に聞くかつて最恐であったファミリアの主神

(((……ベルだけは見つからないようにしなければ)))

 保護者の意識は統一される

 そしてその第一歩としてアルテミスはベルにある提案をする

「ベル、冒険者になるのならばファミリアに属する必要がある。つまり神の眷属になる必要がある」

「あ、神様……」

 すっかり失念していたベルはその言葉に頭を抱える

「こほん、君の前に眷属(こども)を失い悲しむ零細ファミリアの主神がいる」

 わざとらしく咳をしアルテミスは言いづらい事を平気で口にする

「えっ?」

 余りの言葉に疑問符を浮かべるベルに

「ベル、私のファミリアに入らないか?」

 手を差し伸べるアルテミス

 その手が微妙に震えていることに気づいてベルは思いたる

(そうだ神様は大事な家族を失っているんだ)

 つい先程生きていることはわかっているとは言え祖父との別れを唐突に経験したベルはもう2度と大事な人と会えないという状況を想像し、それがどれほどの苦痛か理解できないことに気がつく

 きっかけはどんなものであれまたいつかは必ず訪れる別れを覚悟して自分をファミリアに誘ってくれたその事実にベルはその手を取り

「神様、僕を貴方の眷属(家族)にしてください。僕は必ず貴方を1人にしないと誓います」

 と爆弾発言をする

 その瞬間ピキッ!! と空気が凍る。

 アルテミス達はベルの考えをほぼ正確に理解しておりその言葉に他意はないことは想像できている

「驚いたなベル、まるで私にプロポーズしてるみたいだ」

 驚き目を見開き花の様な笑顔を浮かべるアルテミス

 対照的に無表情で背中に鬼神を宿らせるアルフィア

 眼を手で隠し見ないふりをするザルド

「ぇ? あ!? ち、違いますそんなつもりじゃ!?」

「……」

「え? お義母さん!? ど、どこに行くの? というか何か言って!?」

 アルフィアは慌てふためくベルの首根っこを掴み無言で部屋を出る

「ギャー!!!??? オタスケー!!!!????」

 遠くで悲鳴が聞こえると

「はは、相変わらずアルフィアはベルのことが可愛くてしょうがない様だな」

「……(いやあんたもだろ)そうですね……」

 大の恋愛アンチであったアルテミスが意図は違うとはいえベルのプロポーズじみた発言を断らなかったという事実の意味を理解できているザルドはベルの今後の苦労を思い遠い眼をしながらお茶を啜るのだった

 






ヘラ「オラゼウス!!ここにいるのはわかってるんだ!さっさと出て来い来い!!」
アルフィア「喧しいぞヘラ。それにあのクソジジイはとっくに逃げたぞ」
ヘラ「チィッ!!相変わらず逃げ足の速いやつめ」
アルフィア「用が済んだのなら帰れ」
ヘラ「久々に会う主神に相変わらず傲慢な奴め…まあいいそれよりもメーテリアの忘れ形見のことだが」
アルフィア「黙れ近づいたら殺すぞ」
ヘラ「えぇ…」
ザルド「」ブルブルガクガク


アルテミス「今日はもう少し先まで行こうか」
ベル「はい!よろしくお願いします神様!」

こんなことがあったとか無かったとか


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8話

「ここが……オラリオ……!?」

 ベルの目の前に聳え立つのは首を真上に上げないと天辺が見えないほどの外周を覆う壁とその壁が低く思えるほどの馬鹿げた高さの塔であった

「あれがバベル。私たち神がダンジョンを封じ込めるために建てたオラリオの象徴だ」

「まあ私も詳しくは知らないのだがな」と横に立つアルテミスが解説をする

「あれがバベル……」

「ついでに言うとあの塔には幾神(いくにん)か部屋を持っているからあまり呆けた顔をしていると笑われてしまうぞ」

 からかうように笑いながら言うと

「たしか今は美の(フレイヤ)やヘファイストス・ファミリアの武具屋が主に利用してるんだったか」

 記憶をたどるように顎をさするアルテミスが教える

「え! 神様が見てるかもしれないんですか!?」

 呆けていたベルがさらに目を剥く

「ほう、あの美神(フレイヤ)のとこのガキどもが」

 そんなベルをよそに都市最強ファミリアの一角をガキ呼ばわりするフードを被る巨躯の男性と

「あの傲慢女やお前たちに撫でられて地を這っていた雑音どもも偉くなったものだな」

 ガキどころか雑音呼ばわりする同じくフードを被った線の細い女性

 そんな2人の会話を聞いた露店のおっちゃん達はベル以上に目を剥く

(あのフレイヤファミリア相手になんつう暴言を!?)

(終わったなこいつら……)

 ある者は哀れなものを見るように、またある者は関わらないように

(……ん?)

 そしてある神はその声とその姿に微妙な既視感を覚えるが

(ま、気のせいか)

 と神のおおらかさでその場を後にする

「まあいい。それで今日はどうするんだ?」

 取るに足らないことであると女性がベルたちに問う

「えっと……まず僕たちの拠点を探して、そのあと冒険者の登録に行く……であってたよねおじさん」

 記憶を絞り出しながら答えるベルは男性の方を見る

 男性は頷き

「そのあとはヘファイストス・ファミリアの店に行くぞ」

「お前の武器もだいぶボロボロだからな」とその頭を荒々しく撫でながら答える

「そうだな、訓練用のボロでダンジョンに潜っては死にかねん」

 女性とアルテミスも同意を示す

 その言葉に「やったー!」とウキウキするベル

 ——そう男性(ザルド)女性(アルフィア)も過保護なのである

 そもそもレベル7(アルフィア)狩猟神(アルテミス)達に毎日ボコボコにされながらもその技術を吸収していったベルはその背に月と弓のエンブレムを刻み神の恩恵(ファルナ)を得た時点でボロボロ短剣1本と弓と矢が少々あれば上層程度なら1人で無傷で踏破可能である

 神の恩恵(ファルナ)を得る前から訓練に加え最後の最後だけとはいえ神殺し(アンタレス)との戦闘すら経験しているベルに上層のゴブリンはもちろんのこと小竜(インファント・ドラゴン)が出てこようが危うげなく倒せるだけの実力は備えている(というか強制的に身につけさせられている)

 実力があってもダンジョンというものは不測の事態がいくらでも起こりうる場所であるということをアルフィアとザルドは知っている

『冒険者は冒険をしてはいけない』

 名とは真逆のことを言われるくらいに危険なものであることを

「拠点は神様のお知り合いの神様が融通してくれるんでしたっけ?」

「ああ、本神(ほんにん)はもうオラリオから居を移しているがこちらにいた時の拠点をただで貸してくれる。眷属(かぞく)たちと田舎で隠居するらしくてな」

 その神の顔と眷属たちの笑顔を思い浮かべ優しい笑顔を浮かべ、そのまさしく女神の笑顔を偶然目にした通りすがりの男神が心を射抜く。それと同時に相手が大の恋愛アンチアルテミスであることに気づき一瞬で失恋する男神

 そんなことはつゆ知らず目的地へ和やかに進む一行

 ベルにしては珍しく特に何も起きず拠点となる場所へ着き、荷物を片付けアルテミスとともギルドに向かいハーフエルフの受付嬢(エイナ)に手取り足取り教えてもらいながら書類の記入等を終わらせるとはれて冒険者の一員となる

 そのまま予定通りへファイストス・ファミリアの武具屋へ向かうためアルフィア達との待ち合わせ場所へ向かう

「ベルの担当職員が頼りになりそうな子で安心したよ」

 若干距離が近かった気もするが……と心の中では思っていたがおくびにも出さずアルテミスが言う

「はい! 優しい方で安心しました」

 ベルは笑顔で応える

 そんな取り止めのない会話をしつつ目的地へ到着しアルフィア達と合流すると

「高いものはダメだ。自分で借金(ローン)を組める様になってから買いなさい」

 アルテミスが主神の強権を発動し際限ない予算を防止すると「「チッ」」と舌打ちしながらも理はあると親バカ達が納得する

 店に着くと店員に道を尋ね

「新人冒険者なら、こっちの見習い達が作ったモノから選ぶといい比較的安価で済む。たまに掘り出し物もあるし駆け出しには扱いやすいだろう」

 奥まったところにあった倉庫の様なところへ案内してもらう

「ベル、色々自分で見てくるといい。私はへファイストスに挨拶をしてくる」

「はい! ありがとうございます」

 ベルに選択権を与えアルテミス達は店員に案内されながら出て行く

「さてベル、武器は俺たちがある程度見繕っておくからお前は防具を見にいってくるといい」

「うん! ありがとう」

 ザルド達と別れ1人防具を見に行く

 

 

「あ……」

 別行動をしてから少し経った頃、ベルの目に一式の軽鎧が止まる

 それは白く光沢を放っており、手にとり試着してみると軽く身体に馴染む感覚があった

 値札を見て「うっ……」とそれなりのお値段であることに怯みつつも目が離せない状態になるベル

 そんな少年に

「……アル?」

 聞いたことのない呼び名で、されど聞き覚えのある呼び名と声で言葉が届く

「え?」

 振り向くとそこには燃えるような赤い髪をした精悍な顔つきの青年が眼を見開き立っていた

「貴方は……?」

 ベルの怪訝な反応にハッとしながら

「ああ、悪い。親友と間違えてちまうくらい似てたもんだったからつい声をかけちまった」

 頭を掻きながら謝罪と

「俺はヴェルフ・クロッゾ。へファイストス様の眷属で鍛治師をやってる者だ」

 手を差し出すヴェルフ

「あ、はい。僕はベル・クラネルと言います」

 その手をとり握手と自己紹介をするベル

「突然悪かったな、親友が俺の打った武器を見る時と同じ顔で同じ目で見てたからつい勘違いして呼んじまった」

 苦笑しながら改めて謝罪する

「いえ、気にしないでください。それよりその人と僕はそんなに似てるんですか?」

 その謝罪を受け入れ、疑問だったことを尋ねる

「ああ、瓜二つだ。ただ性格は全然違ったがな。あいつはいつも胡散臭い笑顔浮かべて大仰な身振り手振りをする変な奴だった」

「だがあいつは誰よりも優しく信念を曲げない強い奴だったよ」

 ベルはその過去を懐かしむ様な声に聞き覚えがあった

 アルテミスが自分の眷属(かぞく)について話してくれた時と同じ声だった

 それが意味する事に気づき、つい暗い顔をしそうになる。だがそれでは目の前の彼はその哀愁を胸に秘めてしまうだけだ。ならば

「その人はこんな感じで笑っていましたか」

 唇を曲げ眦を下げ笑顔を作るベル

「———」

 ヴェルフは唖然とし次の瞬間

「っくははははははははは!!」

 腹を抱えて笑う

「ああ、アルにそっくりの胡散臭い笑顔だ」

 その笑い声と笑顔にベルは安堵の笑みを浮かべる

「ッ! やっぱりお前は見た目だけじゃなくて中身も似てるよ……」

 

 

「ところでベルその防具気に入ったのか?」

「はい。軽いのに丈夫そうな上に手に馴染んでくれてるんです。僕動きにくくなってしまう重鎧は向いてないみたいで」

 その言葉に満面の笑みを浮かべるヴェルフ

「そうかそうか! よし。それお前にくれてやる!」

「え!? そんなダメですよ!」

 急な申し出に飛び上がるほど驚きつつ遠慮するベル

「良いんだよ、作った本人がお前に贈ってやりたいって言ってんだから」

 気にするなと防具の入った箱をベルに渡す

「え!? これヴェルフさんが作ったんですか」

 その箱を反射的に受け取りつつ更に驚くベル

「言ったろう? 俺は鍛治師だって剣とかも作るが鎧だって作るさ。ただどうしてもただじゃ受け取りづらいってんなら俺と直接契約をしよう」

 ベルの遠慮した様子に苦笑を浮かべつつも提案をする

「え? 直接契約?」

 言葉の意味理解できず疑問符を浮かべるベルに

「そうだ、今後お前の武器は俺が作ってやる。代わりに俺が必要としてる素材とかがあったら取りに行く手伝いをしてもらったりする。ようはギブアンドテイクってやつだ」

 と簡単に教える

「それなら……お願いしてもいいですか?」

 遠慮がちに答えるベル

「おう! じゃあ契約の証としてこれからは俺のことをヴェルフと呼べ! 敬語は無しだ俺たちは対等な友だ」

 気持ちよく返事をし笑みを浮かべ改めて手を差し出すヴェルフ

「—わかったヴェルフ。これからよろしく」

 その手を握り返し始めてできた友に満面の笑みを浮かべる

「……じゃまずは俺の鍛治の腕をより上げるためパーティーを組んでダンジョンに潜るぞ!」

「うん! うん……? 鍛治の腕とダンジョンに潜るのに関係あるの?」

「ああ、ある程度鍛冶を経験して更にレベルが上がると『鍛治』っていう発展アビリティが手に入るんだ」

「へぇーそうなんだ」

「って事で今度からよろしくな! ベル!」

「うん! よろしくヴェルフ!」

 

 時を超え、再び巡り合った2人は何度でも友となる




 
ザルド・アルフィア「まだか?」


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9話

「──!? ー!」

「──!!?? ──!!」

「」ヤレヤレ

 友となり互いの主神が挨拶をしているという話を知った2人は連れ立って主神の部屋の入口の前に立っていた

「え〜と?」

「……騒がしいな」

 —正確には立ち尽くしていた

 神が怒り外にまで聞こえるくらいに怒鳴り声が響いているためだ

「……おいベル」

 如何しようかと2人が頭からを悩ませていた頃ベルに後ろから女性の声がかかる

「え? あっお義母さ……ヒッ!?」

 その声の主に気がつきすぐに振り向き自分がアルフィア達に一声もかけずにこの場に来てしまったことを思い出し小さな悲鳴をあげ

「すみませんでした!!!」

 振り返ると同時にとても綺麗な土下座しながら謝罪をする

「えぇ……」

 ベルの奇行にヴェルフが引く

「……はぁ」

 隣の人物に一瞥をくれつつため息つく暴君(アルフィア)

 そのため息にビクッとしながらベルが義母(アルフィア)の顔を伺う

「真っ先に言い訳もせずに謝罪をしたことに免じて今回は許してやる。だが次は無いぞ」

 暴君(アルフィア)は寛大な沙汰を下す

「はい! ありがとうございます」

 もう1度頭を下げ感謝するとベルは立ち上がる

「全く心配したぞ、少し目を離したら何処かへ行ってるなんてな」

 無言でその様子を見ていたザルドが声をかける

 彼がベルの居場所を探し当ててアルフィアを案内したのだ

「おじさん、ごめんなさい……」

 ベルはザルドにも頭を下げ謝罪をする

「……」

 そんな親子のやりとりに放置されていたヴェルフは唖然としいた

(何だこいつら……!? 団長(椿)なんて目じゃねぇなんで威圧感だ)

 ヴェルフは2人の余りの存在感と格の違いに絶句しつつ

(何より、こんな威圧感を持ってる奴らが声かけられるまで気付けないほど近づいてきてやがっただと?)

 戦慄する

「……でコイツはなんだ?」

 そんなヴェルフに一瞥をくれながらアルフィアがベルに問いかける

「あ、彼はヴェルフ・クロッゾ。さっき会ったばかりだけど僕の友達で鍛治師なんだ」

 ベルが友達と言う部分に少しだけ恥じらいながら紹介してする

「ヴェルフ・クロッゾだ」

 我に帰り2人に挨拶をするヴェルフにザルドが始めて反応を示す

「クロッゾ……? あの鍛治貴族の?」

 その聞き覚えのある家名に

「そのクロッゾで間違いないな」

 いつも通りの反応に苦笑を浮かべながら答える

「ほう、あの『海を焼き払う』とまで言われた魔剣を打つ家系がオラリオに来ていて冒険者なんぞなっているのか」

 アルフィアもファミリアの仲間達から聞いたことがあったのを思い出し嫌味の様な一言を発する

「まぁ今一族は魔剣を打てなくなって久しいからな没落の一途を辿ってる」

 なんてこともない様に言うと

「え? え? ヴェルフってそんな凄い家系の人なの?」

 何も知らなかったベルはアルフィア達とヴェルフの顔を交互に見て困惑する

「そんな凄い鍛治師なのに駆け出しの僕の専属になって良いの?」

 不安になりヴェルフへ問う

「言ったろ、俺の家はもう没落してるし俺はお前が気に入ってる。だからお前の装備は俺が打つただそれだけだ」

 ニッカリと笑みを浮かべベルの頭をわしゃわしゃ掻き回す

「わっやめてよヴェルフ」

 ヴェルフの照れ隠しにベルは口だけで抵抗する。そんな様子を無視しアルフィア達は試す

「専属……貴様がベルの武器を打つと?」

「ああ」

「ベルが今持っているのが貴様の作品か?」

「そうだ」

 堂々と答えるヴェルフ

「……ふむ、悪くないな」

 ザルドはヴェルフの作品を見定めボソリと呟く

「ああそこそこだ。ちなみに銘はなんだ?」

 アルフィアもその出来を及第点とし作品の銘を聞く

兎鎧(ピョンキチ)だ」

「え?」

 余りの銘にベルがつい聞き返す

「だから兎鎧(ピョンキチ)だ」

「「「……」」」

 その場に静寂が訪れる

「……ふざけているのか?」

 その静寂をアルフィアが破り問いかける

「ふざけてなんかないぞ。兎みたいな白で出来たからなそこからふと思いついた銘だ」

 自信満々に答える

((うわぁ……センスねぇ……))

 とザルドとベルは心の底から呆れる

「……」

 アルフィアは呆れ果てながらも改めて軽鎧を見る

 白く輝くその鎧は一眼でその鍛治師の質の高さを物語る。ただ余りにも酷いネーミングセンスにその輝きが曇って見えてしまう

「ベル、コイツで本当に良いのか?」

 ベルへ確認する

「う……うん」

 少しだけ迷いを見せながらもはっきりと是と伝える

「ならば構わん」

 その意志に2人は鍛治師(ヴェルフ)を認める

「「ほっ……」」

 期せずして始まった保護者のチェックを乗り切った2人は安堵のため息を漏らす

 

「わっ!? 何するんだヘファイストス〜!」

 話がひと段落したのを見計らったかの様に目の前の扉が大きな音を立てて開き中から小さな神影(ひとかげ)が投げ出される

「ぐぇ!!??」

「わっ!? だ、大丈夫ですか?」

 急いでベルはその小さな神を助け起こす

「……」

 その神の余りの喧しさにアルフィアの機嫌が一段悪くなる

「ん? ベル? それにアルフィア達も一体なぜここに?」

 それと同時によく見知った神様(アルテミス)と燃える様な赤い髪とその美しい顔に似合わない大きな眼帯をつけた麗神(れいじん)がでてくる

「あ、神様」

「ヘファイストス様」

 2人の眷属が同時に声を出す

「あらヴェルフ。貴方まで一緒にいるなんてどういう組み合わせ?」

 余りにもよくわからない組み合わせに麗神(ヘファイストス)が首を傾げると

「まぁとりあえず中に戻りましょうか」

 よくわからないまま自室へベル達を招き入れる

 

 

「……っていうわけでヴェルフと専属契約を結んでパーティーになることが決まったんです」

 ベルがことの経緯をアルテミス達に説明する

「ほう、少し見ない間に武器だけじゃなくパーティーのメンバーまで見つけたのか」

 アルテミスはベルの縁に驚きつつ祝福し

「へぇ……不思議な縁もあったものね」

 ヘファイストスがしみじみ呟く

「ところでその……神様達は何を?」

「随分と騒がしかったですが……」

 今度は神達の事情を聞く眷属達

「それはね……そこに正座してるニート神が下界にきてから食っちゃ寝を繰り返す働かないもんだから、堪忍袋の緒がきれちゃってね」

 少し恥ずかしそうにかつ明確な怒りを浮かべながら幼女神に視線を向ける

 その視線を受けビクッとしながら

「ぼ、僕だってそろそろ眷属を探さないとって思ってたんだ」

「それを言い出して一体何日経ったと思ってるの!」

「ヒッ!?」

 ヘファイストスの雷に頭を隠す幼女神

「相変わらず引きこもってたんだなヘスティア」

 やれやれと肩をすくめながら神友(しんゆう)の情けない姿を見るアルテミス

「ア、アルテミス……」

 神友(アルテミス)の呆れた視線に泣きべそをかくヘスティアを

「ま、まぁその辺にしてあげてください。ヘスティア様も反省しているみたいですし」

 よくわからないままベルが庇う

「べ、ベル君……」

 今日出会ったばかりで事情もいまいち理解できていないはずなのに自分を庇ってくれた子供(ベル)を見てその優しさに感動する

 そんなベルに苦笑しながら

「ベル、君のその優しいところは好きだが優しさと甘やかしは違うぞ。今回ばかりはヘスティアが悪い」

 アルテミスが窘める

「—」

 ヘスティアは今まで神友(ヘファイストス)眷属(こども)達との関わりは見てきた

 ただもう1柱の神友(アルテミス)眷属(ベル)に好きと言っている姿を見て心が揺れた

 もちろんヘファイストスも愛情深く眷属(こども)達と接している。しかし自分と同じ処女神でかつ大の恋愛アンチで男との関わりを避けていた彼女(アルテミス)が線が細く幼い顔立ちであるとはいえ男の子にあれほど近い距離になっている姿は不変たる神にとってとても魅力的であった

「……ヘファイストス、僕もファミリアが……家族が欲しい」

 つい口が勝手に動いてしまう

「え!!?? 一体どうしたの? あれだけ動くのを嫌がっていた貴方が自分から動きたいだなんて……」

 急に心変わりしたヘスティアにヘファイストスが驚き理由を尋ねる

「僕だって退屈が嫌で下界に降りて来たんだ。もっと子ども達と触れ合っていかなきゃ損だろう?」

「まぁそうなんだけど……」

 いまいち納得のいかないヘファイストスだったが神友(しんゆう)の眼を見てそれが本気であることを悟り

「いいわ、直接は手を貸さないけど住む場所くらいは貸してあげる」

 その決意を尊重する

「ありがとう! ヘファイストス!」

 満面の笑みを浮かべ「やるぞー!」と気合を入れるヘスティアに「良かったですねヘスティア様!」とベルも喜ぶ

「ただし、家賃を払ってもらうわ。しょうがないからバイトも斡旋してあげる」

 ほんの少し試験を課す

「うぐっ……も、もちろんやってやるさ」

 若干詰まりながらどんとその身体に見合わぬ大きな胸を叩き揺らす

「……」

 顔を赤くしながらその様子をつい眼で追ってしまったベルの耳をアルテミスとアルフィアが引っ張る

「イタタタタタッ!!!!???? ご、ごめんなさいごめんなさい!!」

 義母と主神のお怒りになす術もなく謝罪を繰り返すベルに

「「「ははははは」」」

 皆が笑顔になる

 







ベル君が家族にならなかった時のヘスティア様をどう登場させるか悩みましたがこんな感じで


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10話

ルビは脳内変換お願いします


「ッ!」

 銀線が煌めきゴブリンが声も上げられず黒い煙になる

「オラ!」

「ギャッ!?」

 大剣が振り下ろされコボルトが悲鳴を上げ真っ二つになる

 2人の周囲には敵影はなくなり魔石だけが転がる

「ふぅ〜余裕だったな」

「うん、それにヴェルフが作ってくれたこの『プルメザ』も手に馴染んでくれてる」

「そりゃ何よりだ」

 出会って翌日にベルとヴェルフはダンジョンに潜っていた

 互いの主神との顔合わせもすみ解散した後ヴェルフはその日の喜びから夜が明けるまで鍛冶場にこもりその剣を打った

 その短剣の銘をベルの為に打った短剣だから兎短剣(ベルタン)と名付けようとしたが、余りのセンスにベルが顔を引き攣らせ頭をフル回転させ『プルメザ』という気取った銘を絞り出しその銘をつける事に成功する

「しっかしベル、お前ほんとについ先日神の恩恵(ファルナ)をもらったのか?」

 ヴェルフはモンスターを蹴散らしながら頭の中にずっとあった疑問をぶつける

「うんそうだけど……何かダメだった?」

 ベルが頷く

「ダメって訳じゃないんだ」

「ただあんまりにも強いから驚いちまっただけだ」

 ヴェルフはベルの戦闘能力の高さに舌を巻いていた

 彼があの化け物の様な家族(アルフィア)達に鍛えられたという話は聞いていたが、その実力が冒険者になりたての只人(ヒューマン)の戦闘能力を遥かに逸脱したものだとまでは想像ができていなかった

(やっぱりアルとは違うな)

 頭の隅でそんな感傷が生まれる

「ぜ、全然だよ僕なんてまだまだ弱っちぃし……」

 だがベルの自己評価は低い

「お義母さんみたいに見ただけで神技を会得できないし、おじさんみたい離れていてもモンスターの状態が解ったりもしないし、神様みたいに何百m(メドル)先からモンスターの額を射抜くこともできないし……」

 彼の強いという基準はレベル7の化け物と狩猟神(アルテミス)であるためにまだ自分は未熟であることを知っていた

「いや、普通は無理だろ。なんだその化け物ども」

 一般的な基準から大きく逸脱した強者しか周りにいなかったために正しい自己分析が出来なくなっているベルに冷静なツッコミを入れるヴェルフ

(こりゃコイツの自己評価を改めさせる機会が必要だな)

 そんなことを考えていると

「ヴェルフだって鍛治師が本業なのに戦い慣れてるよね」

 ベルが自分ではなくヴェルフの戦闘能力に話題を変える

「まぁ俺も色々旅してモンスターとも遭遇してきたしある程度は戦えるさ」

 過去の経験から自分に合った戦い方を知っているヴェルフは危なげなく戦闘を展開する技術を身につけていた

「それにしても今回は結構数が多かったな」

「そうだね、壁からあんなに生まれてくるなんて……」

「話には聞いてたけどこんなにポンポンでて来るんだ」

 —今彼らがいる階層は9階層、怪物の(モンスターパーティー)が起きた場所であった

 新米冒険者が調子に乗ってここまで降りて来て高確率で死ぬこの災害とも言える現象に対し多少息を弾ませる程度で乗り越える2人ははっきり言って異常であった

「さて、これからどうする? まだまだ俺は余裕あるが」

 まだ先に行くか? と聞いてくるヴェルフにベルは

「うーん……今日はやめとこう」

「余裕はあるけど初めての場所だから思ったより疲れたかも」

 確かにと頷き

「よし、今日はここまでにして街で飯食いに行くか!」

 伸びをしながらヴェルフが誘う

「うん!」

 ベルもその言葉に喜び賛成の意を示す

 そんなこんなで2人の初めてのダンジョン探索はなんの問題もなく終わった

 

 

「っ、っはぁ〜美味い!」

 盃を一息で空にし心底旨そうな声を絞り出すヴェルフ

「美味い! この料理も美味しいよヴェルフ」

 目の前に並んだ料理に眼を輝かせながら次々と平らげていくベル

「お、それも旨そうだなちょっとくれよ」

 ベルの皿にフォークを伸ばし肉汁の滴る肉を喰らい「お、めっちゃ美味い!」と舌鼓を打つ

「やっぱりおじさんのオススメは間違いなかったね」

 ザルドに教えてもらった飯と酒が美味い店『ウィーシェ』に来ていた

 2人の他にはエルフが多くいた。お上品に食事を取るものが多い中、全く気にせずに美味しい料理に夢中になる。そんな2人に冷めた眼を向けるエルフもいればその食べっぷりに感心するエルフもいた。

「……」

 店主がベル達のテーブルへコトリといい匂いを漂わせる料理の乗った皿を置く

「あれ? 僕たちこんな美味しそうな料理頼んで無いですよ?」

 ベルが怪訝な顔しながら聴く

「……サービスです」

 ロマンスグレーの店主は親指を上げそのままカウンターの中に戻る

「あ、ありがとうございます! いただきます!」

「お〜さんきゅ」

 2人はお礼を口にし、暖かい料理に手を伸ばす

 その様子を見て店主は口の端を上げ町誌を広げる

 

 

 

「じゃまた明日な!」

「うん! 明日もよろしく」

 和やかな食事を終えそれぞれ家路につく

(ダンジョン……やっぱり凄いところだったなぁあんなにモンスターがポンポン出てくるなんて)

(お義母さんたちに鍛えてもらってなかったら今頃どうなってたんだろう?)

 あったかもしれない光景(原作)に思いを馳せブルブルと震える子兎(ベル)

「ベル」

 震える子兎(ベル)の名を呼ぶ涼やかな声が届く

「神様! ……とヘスティア様? ど、どうしたんですか!? そんなにボロボロになって、誰かにやられたんですか?」

 振り返るとそこには笑みを浮かべたアルテミスとくたくたになっているヘスティアがいた

「べ、ベルくん……ガク」

 ベルの声を聞きとうとう力尽き彼の方向へ倒れ込む

「ちょっ!?」

 慌てて抱きとめるベルはその小さな身体に不釣り合いの大きな2つの果実に顔を真っ赤に染めてあわあわする

「ヘスティアは初めてのバイトで疲れてるだけだよ」

 そんなベルにムッとしヘスティアを引き離しながら事情を教えてくれるアルテミス

 引きこもりを脱却しファミリアを作ろうとしたヘスティアはまずヘファイストスからバイトを紹介してもらい自分の生活費を稼ぐことから始めさせられた

 ヘファイストスから指示を受けたジャガ丸くんの屋台のおばちゃんは神であろうとこき使い馬車馬のごとくヘスティアを働かせた

 天界でも地上でもぐーたらしていたヘスティアにはたった1日の労働すらも地獄のような辛さだったのだ

「全く、だらしないぞヘスティア」

 少し棘をだしヘスティアを窘めるアルテミス

「くぅ〜! おばちゃんめ〜僕は神だぞ! それをあんなにこき使うなんて〜」

 プリプリと怒りながら結えたふた束の髪をわなわなと揺らす

 くぅ〜

 という可愛らしい音を立て彼女のお腹がなるとその勢いを失い再びアルテミスにもたれかかる

「お、お腹減った……」

 ヘスティアの豊かな感情に苦笑を浮かべ

「全く……」

「あはは……家に帰りましょうかおじさんが何か用意してくれると思いますし」

 その言葉にヘスティアはガバッと眼を見開き

「本当かい!? ありがとうベル君!」

 感謝を述べながらベルに抱きつきその頬を擦り付ける

「ッ!?!?!?」

 またも当たる極上の柔らかさに眼を白黒させ顔を熟れた林檎よりも赤くするベルと

「ヘスティア!!」

 2度目の暴挙に声を荒げるアルテミス

 3人で帰る家路はとても賑やかで温かった

 




アルフィア「あまり調子に乗ってるとミンチにするぞロリ巨乳《ヘスティア》様?」
ヘスティア「ヒェ…」


今更ながらダンまち既刊全巻を読みました
ゼウスがベル君の意志を尊重せずにオラリオ行きを勧めるのは間違いだったなぁと思いましたがまぁどんまいで


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11話

ルビは脳内補正よろしくお願いします


「やはり────ー」

「ああだから────ー」

「──ーするのか?」

「もちろん、あとは──────ー」

「……」

「私たちは────ー」

 オラリオでの我が家に着くと家の中から聞き慣れた義母(アルフィア)おじさん(ザルド)の声と何処となく自分と似た声が聞こえて来た

「誰か来てるのッ!?!?」

 家の前に着くと見知らぬ気配と共に悪意の視線ががベルを襲う

 即座にその背にアルテミスとヘスティアを庇い腰に差していた剣を抜く

「……」

 アルテミスもベルの背から弓を取り矢をつがえる

「え? え?」

 ヘスティアだけは状況を理解できずキョロキョロとあたりを見回す

 辺りは一触即発の気配に包まれベルの頬を汗が伝いそれが滴り落ちると同時に

「フッ!!」

 ベルが動き出そうとする

「ベル」

 —それと同時に家の戸が開き義母(アルフィア)の声が届く

「お義母さん! 大丈夫!? 怪我とかしてない?」

 瞬間ベルの姿はアルフィアの側まで全力で向かいその綺麗な肌に傷などがついていないか確認をする

「阿呆め、誰に向かって言っている」

 その焦りきった顔に手刀を落としベルを悶絶させながら

「帰ってきたのならまず何というか忘れたか?」

 暴君(アルフィア)はその頭を見下ろす

「うう、ただいまお義母さん」

 痛みに耐えながら義母の顔を見て挨拶するベル

「おかえり、ベル」

 先程までと異なり優しい声音でベルの頭を撫でる

「帰ったかベル」

「おじさん! ただいま」

「うむ、神アルテミスと神ヘスティアも戻りましたか」

 いつのまにかザルドまで出迎えに来てくれていた

「ああ、ただいま」

「今日も厄介になるよ」

 アルテミスとヘスティアも挨拶をし2人に近寄っていく

 そして中にいる恐ろしいほど容姿の整った男の姿を見つけ

「あれ? エレボスかい? 君も下界に来てたのか?」

 ヘスティアがキョトンとした声でその男神の名を呼ぶ

「ああ、ヘスティア何万年ぶりだ? 相変わらず小さい癖に胸だけは立派だな。それと確かアルテミスとは初めましてだったか」

 男神は不穏な笑みを浮かべ

「改めて俺の名はエレボスしがない神の1柱さ」

「私はアルテミス。ベルの主神だ」

 自己紹介を簡潔に行う2(たり)

「ベル……?」

 エレボスはその名を聞き真っ白な髪の少年に眼を向ける

「あ、初めましてエレボス様。ベル・クラネルと言います。よろしくお願いします」

 突然話にでて驚きながらも丁寧に挨拶をするベル

「君が……そうか」

 ベルの顔と眼を見て頷くエレボスに

「あの……僕何かしましたか?」

 ベルが不安そうに尋ねる

「ああ、何でもない実は俺はアルフィアとザルドとは古い知り合いでねオラリオに来たって言う話を小耳に挟んだから会いに来たんだ」

「それでアルフィアが目に入れても痛くないほど可愛がっている息子の話を聞いてね」

 アルフィアを揶揄うエレボス

「黙れ殺すぞ」

 微妙に頬を染め照れ隠しにその手を振り上げる

「ちょっ!? お義母さん! 神様にそんなことしちゃダメだよ!?!?」

 その手に飛びつき義母を宥めるベル

「はははは、ありがとうベル君。いやマジで死ぬかと思ったわ」

 冷や汗を流しながら真面目にベルに感謝するエレボス

「さて、俺はこれで失礼するよ」

 流れに任せエレボスは立ち上がり玄関へと歩いていく

「あ、はい気をつけて……」

 ベルの言葉を受け手をヒラヒラさせながら音もなく帰っていくエレボス

「「「「……」」」」

 2人と2柱は思案にふけながらその背が去っていった方向を見つめる

「……まぁ気にしてもしょうがないか。それじゃベル、ステイタスの更新をしようか」

 かぶりを振りアルテミスがベルへ向き直り告げる

「あ、はい!」

 よくわからない展開に頭が追いつかなくなっていたがステイタス更新という楽しみにベルの意識が向く

「じゃあっちのベッドで服を脱いでうつ伏せで寝転がって」

 アルテミスが指示を出すとヘスティアの顔をチラチラ見て恥ずかしそうにもじもじしながら服を脱ぐ

(か、可愛い……なんて初情なんだ)

 とヘスティアがベルへ邪な視線を向ける

「……」ギロ

「」

 そんな視線を義母(アルフィア)が許すはずもなく睨みを効かしヘスティアを眼を閉じさせる

「……」ナニモミテマセン

 ザルドは空気に徹し目を閉じ更新を待つ

「さて始めようか」

 ベルの横に座りアルテミスは自らの手を針で刺し神の(イコル)をベルの背へ垂らす

 するとその背に刻まれた月と弓のエンブレムが浮かび上がりベルの経験値(エクセリア)を拾い上げその数値を変えていく

「「「「……」」」」

 数値の変動が終わりベル以外の全員が絶句する

 力:I89→H110 耐久:I72→I90 器用:I:84→H102 敏捷:H101→H162 魔力:I0

 魔法:【  】

 スキル:【英雄宣誓(テロスオース)

 ・早熟する

 ・誓いが続く限り効果は持続

 アルテミスは結果を共通語(コイネー)に直しベルへ紙を渡す

「頑張ったなベル、今回も凄く伸びたぞ」

「わぁ! 結構伸びましたね! でもやっぱりスキルは出てないかぁ……」

 ベルはステイタスの上がり方に喜び、空白になっているスキルの欄をみて少し悲しむ

(なんだこれは!?『早熟する』だって? そんな曖昧なスキル聞いたことないぞ)

(それにこのステイタスの上がり幅……いくら新米で伸びやすい時期だからって限度があるだろう)

「神ヘスティア」

 驚愕を隠せないヘスティアへアルフィアが声をかけ目で着いてこいと促すとそれに黙って従う

 部屋を移しヘスティアはアルフィアへ疑問をぶつける

「ベル君のあのスキルは何なんだい? 聞いたこともないレアスキルだよね? アルテミスのことだからチートなんて使ってないだろうけど」

 余りにも異質なスキルに対する疑問を率直にぶつける

「……ベルのスキルは我々も未知だし意味もわからん。ただわかっているのは『早熟する』と書かれている通り馬鹿げた速度でベルは成長していく」

「ベルはステイタスを刻まれまだ一週間も経っていない。なのにほぼ全ての数値が100を超えている」

 わかっている事実をありのままに伝える

「……ベル君にはスキルのこと伝えてないんだね」

 唖然としながらヘスティアは事実の確認をしていく

「ああ、スキルを知ってしまったらどのような影響を受けるかわからなかったからな」

 聞きたいことを聴き終えウンウン唸りながら頭を整理していくヘスティア

「…………わかった。僕もこの件は胸の内に留めておくよ。ところで何で僕にそんな重大な秘密を教えてくれたんだい」

 最後に1番の疑問を伝える

「神アルテミスの意志だ」

「私は反対だったんだがな」と呟きながら言う

「アルテミスが……?」

 神友(しんゆう)が何故自分に秘密を明かしてくれたのか思考を巡らせる

(下界に降りて来て日が浅いとはいえ()ですら未知のレアスキル……そんな存在を知ったら他の神たちはどんな手を使ってでもベル君にちょっかいをかけようとするだろう。なら神友とはいえ僕に話すメリットは無いはず……)

 そんなことを考えているうちに1つの答えに至る

(もしかして……何かあった時にベル君の味方を1人でも増やすため?)

 ベルのスキルが誰かにバレてしまうリスクというのはどうしても無くせないものだ

 万が一バレてしまった時に神たちから無遠慮に浴びせられる好奇の視線から彼を守る盾を増やそうとしているのだと悟る

「全く、アルテミスはよっぽどベル君のことが大好きなんだね」

 呆れたように呟くヘスティアにアルフィアは沈黙で答える

「お義母さ〜ん、ヘスティア様〜ご飯ですよ〜」

 自分のことでこれほど周りが頭を悩ませているなんてつゆ知らずベルの暢気ないつも通りの声が2人に届く

「……ふふ。はーい、今行くよ!」

 その声に置かしそうに笑いながら2人はベルの待つテーブルへと向かうのだった

 

 

「……ザルド達の件、よろしかったのですか?」

 エレボスが路地裏を歩いていると影から声が届く

「ああ、上々だよ2人が手出しをしないでくれるだけでも作戦の成功率は上がる」

 その声に先程までとは異なり氷のように冷たい声音で答える

「お前たちは引き続き準備を進めろ。計画はもう間も無く始まる」

「承知しました」

 影はそこにまるで何もなかったかのように溶けて消えていく

 その気配を感じ空に浮かぶ月を見る

「おめでとう。アルフィア、ザルド」

 —同志となり得た友への祝いを謳う

「『黒き終末』は越えられなくとも『陸の王者』と『海の覇者』を打ち倒した紛れもない英雄であるお前たちには幸せになる権利がある」

「なに、『絶対悪』なんて役割俺1人でどうでもなる」

「だから自分達の選択を後悔するな。誰が認めなかろうともこの俺が認めるさ」

 彼等の成した偉業を称えそれに対するささやかな褒美であると神は言う

救界(マキア)へ導く最後の英雄はこの絶対悪(エレボス)が見定めてやる」

 そして彼等の心の隅に残る憂いを己のなす業で果たすと誓う

 

 

 誰にも聞こえないその決意と祝辞は彼の姿と共に闇へ消えていく

 これより1週間後、オラリオを史上最悪の神災が襲う

 







これからベル君を襲うものは決まってるけどリュー達をどう登場させるか悩み中


2023/04/26編集
スキルについて変更


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12話

難産でした
誤字報告ありがとうございます
にわかがバレました


 12

「ふんふんふーん♪」

 短く切りそろえた髪を揺らしアマゾネスの少女は機嫌よさげに鼻歌を歌いながら街を1人ぶらつく 

「あー! 『アルゴノゥト』だ〜装丁も良いなぁ買っちゃおうかなぁ」

 少女は本屋の前で立ち止まる

「でもなぁ大双刃(ウルガ)借金(ローン)がなぁ」

 うんうん唸りながら何度もその本を手に取る

『アルゴノゥト』という英雄譚は幾度となく読んできたし何冊も持っている

 それでも見つけると欲しくなってしまうほど大好きな物語であるのだ

「ティオナ〜」

 少女(ティオナ)の名を呼ぶ柔らかな声が耳に届く

「あ! アーディ! 久しぶり〜」

 声の方向へ振り返ると水色のセミロングの髪を靡かせながら少女が走り寄ってきていた

「久しぶり〜元気だった?」

「うん! ティオナは? 遠征があったって聞いたけど大丈夫だった?」

「全然平気!」

「「イェーイ!」」と2人は手を合わせながらお互いの無事を祝う

「それで、何悩んでたの?」

「あ、そうそう見てよこれ『アルゴノゥト』!」

 ティオナは手にとっていた本をアーディに見せる

「ホントだ! 装丁も良いし挿絵も良いね!」

 彼女は自らも愛するその本を見てすぐに良さに気づく

「でしょ〜欲しいんだけど、遠征で大双刃(ウルガ)壊しちゃってまた借金(ローン)がねぇ……」

 がっくりと項垂れるティオナを見て「ありゃりゃ」と言いながらうーんと2人は頭を悩ませる

「……2人揃って何してんのよ」

 2人はいい方法がないかと頭を悩ませていると背後から女性の声がかかる

「あ! ティオネ!」

 黒く艶やかな長い髪を靡かせ意図せずして(ティオナ)とは正反対な大きく膨らんだ胸元を揺らしながらティオナを問いかける

「それがさー……」

 アーディに説明したのと同じ説明をすると

「あんた……まだ大双刃(ウルガ)のローン返済してないじゃない。それにこの前の遠征でもボロボロにしてたし」

 正論をぶつけてくる姉

「うっ……」

 グゥの音も出ない妹

「私はお金なんか貸さないわよ」

 とどめの一言に

「ケチー!」

 ティオナは苦し紛れの嫌味を投げる

「あはは……」

 隣で苦笑いを浮かべるしかないアーディは

「あ! いけない用事があったんだった」

 日の傾きから随分と道草を食ってしまったことに気づき「ごめんね〜」と言いながら慌てて走り去っていく

「またねー」

 その背を見送りながらブンブンと手を振るティオナにアーディは手を振りかえし走っていく

「うぅ〜しょうがない諦めるかぁ」

 名残惜しそうに『アルゴノゥト』を見つめ、しょんぼりしながら凸凹姉妹は去っていく

 

 

「あ、『アルゴノゥト』だ」

「お、本当だな」

 その後すぐに少年と青年が足を止める

「実は僕のおじいちゃんがよく英雄譚を書いてくれてね、それから英雄譚が好きになったんだ」

 本を手に取り中を見ながら照れくさそうに話す少年(ベル)

「ほー」

「でも『アルゴノゥト』はそんなに好きじゃなかったんだ。だって助けにきたお姫様に助けられるなんて情けないと思わない?」

「はは、確かにな。だが俺はこの物語が好きだぞ」

 青年(ヴェルフ)はベルの手の中を覗き込みつつ彼の生き様に想いを馳せる

「だってコイツを見てると笑えてくるだろう?」

 空を見上げながらそんなことを言うヴェルフのしんみりとした顔に疑問符を浮かべながら

「まあ確かに『アルゴノゥト』を見てると自然と笑っちゃうよね」

 ベルも同意をする

「ああ、そこが俺は気に入ってるんだ」

 ヴェルフは今度こそ笑顔を浮かべる

「さて、そろそろ行こうぜ」

「あ、うん」

 ヴェルフはベルを促しその場を後にする

(アル、お前は今でも誰かを笑顔にしてるぞ)

 今は遥か遠くにいる親友に向けてまた笑みを浮かべる

 

 

 少し歩いたところにそこはあった

 そこはドワーフや人間(ヒューマン)などさまざまな種族が声を上げたり、鎚を振り下ろし鉄を打つ音を響かせる場所だった

 近づいたこともない場所に戸惑いを隠せずきょろきょろとしてしまうベルに

「おーいベル、こっちだぞ~」

 ヴェルフはベルの様子を微笑ましそうに見ながら案内をする

 ヘファイストスファミリアの団員のために用意されている個人工房の立ち並ぶ場、その一角にヴェルフの工房ははあった

「わぁ……」

 工房の中は少し雑然としている部分もあったが、作品らしきものは壁へきれいに飾らていた

「それでベル、どうする?」

 そんなベルの様子を面白そうにしながら金床に置いている小槌を握りながら問いかける

 今回ヴェルフの工房に来ている理由は『プルメザ』はメインウェポンとして用意したがベルの戦闘スタイルとしてサブウェポンを用意しておこうという提案をしてくれたのだった

「えっと、できれば『プルメザ』より短めの剣で。あとできれば切れ味より強度を優先してくれると嬉しいかな」

 お義母さん(アルフィア)おじさん(ザルド)に相談したり、ヴェルフと相談した結果マインゴーシュと呼ばれるものがいいのではないかと落ち着いた

 戦闘において2人組(ツーマンセル)であり、ヴェルフが前衛のタンク兼アタッカー、ベルが遊撃でメインアタッカーになる

 基本的にベルは先制攻撃を基本とし攻撃されたとしても受けず回避し反撃するタイプである

 しかし2人組(ツーマンセル)であり危なげなく戦闘ができているがダンジョンは未知の場所でありイレギュラーが起こる可能性を考慮せざる負えない

 故にヴェルフの代わりに前衛を務められるように準備をしておいたほうが良いという結論に至ったのであった

「よし分かった、もう1度手のサイズとか測るからそこに立ってくれ」

「うん」

 テキパキと手の大きさなどを確認していくヴェルフと少しくすぐったそうにしつつもなるべく動かないようにする

「……よし、オッケーだ。じゃあ今から鍛え始めるから、見てても暇だろうし帰ってもいいがどうする?」

 ヴェルフが気を使ってくれるが

「ありがとう。もし邪魔でなければ見ててもいい?」

「別に構わないが……そんなに見てても面白いものでもないぞ?」

 ヴェルフが不思議そうな顔をしながら尋ねる

「でも僕のために鍛えてくれている武器だし見ておきたいなぁって思って」

 ベルが答える

「はは、殊勝な奴だな。わかった見ていけ。ただ窓を開けておいてくれ」

 少しうれしそうにしながら言うヴェルフの言う通りに窓を開けていく

「じゃ始めるか」

 炉に火を入れある程度温まってきたら火炎石を放り込み火力を上げていく

 これを入れた瞬間工房内の気温が上がり、インゴットを炉に入れ熱する

「……ふっ!」

 それを取り出し、鎚を力強く振り下ろしカン! カン! と小気味の良い音が響きわたる

 1振りごとに形を変えていく金属にベルは目を輝かせていく

「ベルは、魔剣を、欲しがらないな」

「え?」

 鉄を鍛えながらヴェルフが呟く

「言っちゃなんだが、俺が鍛えた魔剣の威力はなかなかのもんだ」

「それこそ、お前の親が、聞いたことがあるくらいにはな」

 快音を響かせながら鎚をふるい、冷やしてはまた炉に入れ熱し鎚をふるう

 片時も目を離さずに作業を進めつつ疑問をぶつける

「う、うん聞いた」

 海を焼き払うとまでうたわれた屈指の魔剣

 それを打つことのできるヴェルフにお願いしたのは特殊な効果も何もないマインゴーシュである

「なんでなんだ?」

 素材の声に耳を傾けながらベルへ問う

「……えっと、僕にはまだ早いと思ったから」

「早い?」

「うん、僕はまだ冒険者になったばかりで実力も経験も少ないから、そんな強い武器に頼ってたら僕が強くなれないから」

 とベルは答える

「なるほどな」

 ヴェルフは納得する

「でも魔剣をくれるならありがたくもらうよ?」

「ってなんだよ!? 言ってること矛盾してないか?」

 ヴェルフが突っ込むとつい鎚に力を籠めすぎてしまう

 そんなヴェルフの目をまっすぐ見ながら

「僕はヴェルフの鍛えてくれた武器ならなんでも嬉しいから」

 ベルは笑顔で告げる

「──へ、そりゃあ光栄なことだな」

 その言葉に目を見開きヴェルフは口の端を上げ仕上げにかかる

「なら俺はお前になまくらを渡さないように腕を磨き続けるさ」

「ほらできたぞ」

 その手には短剣が握られていた

「わぁ!」

 それに目を輝かせながら受け取り早速握り構え軽く振ってみる

 驚くほど手に馴染み、取り回しやすい仕上がりになっていた

「オーダー通り切れ味は二の次で頑丈さを優先した素材がそれなりなのはもちろんだが粘りがしっかりできるようにしてあるから雑に扱っても壊れないぞ」

「……うん、すっごく使いやすい! ありがとうヴェルフ!!」

 眩しいくらいの笑顔で礼を言うベルにヴェルフは「へへ」と鼻を擦りながら笑う

「明日もよろしくなベル!」

「うん! よろしくヴェルフ!」

 

「あ、あともしよかったらここにある大剣売って貰えないかな?」

「お前は……いいぞ持ってけ」

 

 

 

 

 

 




現在のベル君の装備
・プルメザ(ヴェルフ作バゼラード系。50㎝くらい。ダンジョン産の鉄と少量のアダマンタイトを使用。切れ味優秀お値段10万バリス)
・弓(ごく普通の弓…というのは嘘でアルテミス作。ベルの為にオーダーメイドで作った。素材提供アルフィア、ザルド。お値段プライスレス)
・マルタ(new武器マインゴーシュ。ダンジョン産の鉄とプルメザの時ののアダマンタイト使用。切るというより殴る。お値段7万バリス)



多分次回も難産
予定では魔法を覚えてもらう


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13話

ルビは脳内補正よろしくお願いします


 コツコツ……と足音が響く

 そこはメインストリートから大きく離れた路地裏

 後ろ暗い脛に傷のある者たちが集まる地である

 そんな場所をローブを目深に被り顔を隠した若い女性が1人で歩く

 そこに住まう者たちは奇異の視線を向けるも女性は気にも止めずただ目的の地まで進む

「おいおいお姉ちゃん、ここを通ろうってのに俺たちに一言もないたぁ如何な了見だい?」

 そんな女性を見逃す事なくハイエナのように近づく住人の一部

 女性に絡みに行った者たちを見て

「あーああの姉ちゃん終わったな」

「相変わらずナナワツィンファミリアの連中は……」

 女性を憐れむ視線を送る

「……」

 そんな視線も声も一切を無視し女性は目的の地まで歩く

「おいてめぇ無視してんじゃ──」

 直後ドゴンという音とそれに少し遅れてガララという音が響く

 コテコテのチンピラ台詞を遺言に男は壁に突き刺さっていた

「「「「「……は?」」」」」

 何が起きたのか全く理解できず唖然とするならず者達

 それを背にし女性はコツコツという足音を残して歩き去る

 

 そうして幾ばくか歩いたのち女性は普通の民家にしか見えない家の扉を無造作に開ける

 そこは脛に傷があるもの達が集う店

 表では出回らない情報やその者たちの資産を預かりを生業とする

 強面の店主は引退したとはいえ第一級冒険者(レベル5)というまさしく化け物であるためその腕っ節への信頼のためいつ何時起こるかもわからない抗争や被討伐戦に備え道具この店に預けている

「なんだこんな時間から……げ!? お前は元最強(ヘラファミリア)のアルフィア!?」

 そんな強面の店主に思わず「げ!?」などという言葉を出させてしまうほどの畏怖の対象たる元最強(ヘラファミリア)の元幹部にして才禍の怪物

「うるさい」

 一言

「すんません!!」

 反射的に頭を下げ平伏してしまう店主

 それもそのはずヘラファミリアといえばその主神を始めとして傍若無人・暴虐非道・最強最悪の三拍子揃った女性が数多くいた恐怖の象徴

 いくら時間がたったとはいえ心身の芯まで刻み込まれた恐怖は拭いきれはしない

「預けてあった私の得物と狒々爺のとこ(ゼウスファミリア)の「暴食」の得物、それと預けていた金をを出せ」

 アルフィアは端的に要件を告げる

「す、すぐに」

 吃りながらも敬礼をし、店の裏へとドタバタ走っていく

 どんな理由があってあの「静寂」と「暴食」の2人の武器が必要になっているのか、そもそもなぜともに行動をしているのか想像もつかないが店主は一切の疑問を飲み込みただただ忠実にオーダーを叶えることだけ考える

「お待たせいたしました」

 数分後店主はカウンターにオーダーの品を並べる

 自分たちの得物を確認するアルフィア

 ゴクリと店主の唾を飲み込む音のみが響くなか

 実際には数分程度であるが店主にとっては無限のように感じられた時間が終わり

「金はここに置いておくぞ」

 アルフィアはお金の詰まった袋を置き荷物を持つとさっさと帰って行く

「あ、ありがとうございました!」

 その背を見送りその姿、気配が消えると

「た、たすかった……」ハァ

 店主はその場へたり込む

 寿命が縮みかけたが無事に暴君の襲来を乗り切り安堵のため息を再度漏らす

「しかし……一体何事だ? 今更旧時代の残党が武器を用意するなんて」

 余裕ができ改めて何故彼女が戻ってきたのか考えを巡らせる

「嫌な予感しかしねぇ……おい野郎ども今日は店じまいだ! 情報屋どもからダンジョンでおかしなことが起きてないか情報を買ってこい!!」

「「「へ、へい!!」」」

「俺も久々に得物の準備をしておくか」

 危険を告げる第6感は彼が冒険者のころから信頼してきた感覚である

 ゆえにその感覚に従い、かすかな嵐のにおいを感じ取った

 

 

「はあ!」

 裂ぱくの気合いとともに大剣が振り下ろされる

 迎え撃つのはその辺に転がっていた木の棒

 結果は歴然である

「遅い」

 はずだった

 木の棒は緩やかにかつしなやかに大剣の一撃をいなし

「がら空きだ」

 そのまま流れるように相手の体を滅多打ちにしていく

「へぶっ!?」

 情けない声を上げその場に倒れこむ白髪の少年

「ベル、新しい武器を手に入れてうれしい気持ちは理解してやるが、そんな蚊のとまるような一撃だとアルフィアに殴られるぞ」

 大男(ザルド)が粉々になってしまった棒を投げ捨てながら教育を行う

「は、はい!!」

 滅多打ちにされ痛む体に鞭を打ちベルはザルドに向かっていく

 風のような速度で向かってくるベルに対して、余裕の表情で足元に転がる木の枝を拾い振り下ろされる連撃を簡単にいなしながら

「相手の動き、そして目をよく見ろ、次に何をする気なのか予測し続けろ」

 アドバイスを送る

「っはい!」

 そのアドバイスを素直に聞き入れザルドの動きや目線を観察し隙を伺いながら牽制のために大剣を振り続ける

 そして

「ん?」

 ザルドの視線がよそに向いた瞬間に

「はあぁぁ!!」

 渾身の一撃を叩き込む

「悪くはないが」

 ザルドは見切り紙一重の最小限の動きで避け

「勝負を決めるための一撃は最も油断につながると前にも教えたぞ」

「ぐぇ!?!?」

 ボロボロに崩れた木の枝を握り潰し、ベルの腹に強烈な一撃をぶち込む

「そこまで」

 その勝負を見届けたアルテミスが終了の合図をだすと同時にベルが倒れこむ

「あ、ありがとうございました」

 虫の息になりつつもベルは訓練を付けてくれた伯父に感謝を告げる

「昔より良くなってきているがまだまだだな」

「いいかこういう時は……」と具体的なシチュエーションを想起させながら対応した動きを見せる

 ベルは正座しながらその動きを見よう見まねでやってみると

「違う、いいか……」とザルドがベルを立ち上がらせそのまま改善点に手を加え正しい動きを覚えさせていく

「相変わらずザルドは教えるのが上手だな」

 その様子を見てアルテミスが微笑みをたたえながら言う

「まあ俺も大きなファミリアにいたしな、ガキに教えることもそれなりにあった」

 なんてことのないようにザルドはうそぶくと

「さて、そろそろアルフィアも帰ってくる。休憩にするぞ」

 訓練を切り上げる

「はい、ありがとうございました!」

 アルテミスはぜぇはぁと息も絶え絶えになりながらも礼を忘れないベルの頭にタオルをかぶせ

「うんうん、えらいえらい」

 となでながらその汗を拭いていく

「ちょっ汚れちゃいますから大丈夫ですよ神様! 自分でできますから!!」

 ほほを赤く染め口では抵抗するベルはアルテミスの優しさに手を払えずにいた

「ふふ、頑張ったご褒美だと思えベル」

 可愛らしいベルの反応にほほを緩めながら頭だけでなく顔も拭いていく

 

「随分と楽しそうだなベル」

 そんな日常の一コマを切り裂く凍えるような冷たさを宿した声がベルの耳に届く

「いっ!!?? お義母さん!?」

 ビクンと体を震わせこの方向へと振り向こうとするも

「こらベルまだ拭き終わってない。動くな」

 とその顔の動きを優しく封じ込めるアルテミス

 その動きに逆らえず成すがままにされるベルはどうにか抜け出せないか必死に頭を巡らせつつ

 味方になってくれそうな人を探す

「ってあれ!? おじさん!?」

 いつの間にか姿を消していた伯父(ザルド)

(に、逃げられた……)

 これから起きる惨劇を予期して第1級冒険者はその場から逃走を図っていた

「さてベル」

 希望(ザルドの助け)を失ったベルは今度こそ暴君(アルフィア)のほうへ振り向き

「え、えっとお帰りなさいお義母さん」

 とぎこちない笑顔を浮かべるのであった

 

 

 

 

 




この後ベル君はどうなってしまったんでしょうね(すっとぼけ)



長らくお待たせしました。
また少しずつ進めていければと思っています。


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14話

ルビは脳内補正よろしくお願いします


「ザルド」

 アルフィアはザルドに布で巻かれた大きな何かを手渡す

「ああ」

 それを受け取りそのまま自分の部屋へと去っていく

「」

 ──床に転がる甥っ子(ベル)から目を背けて

「さて」

 要件を済ませた暴君(アルフィア)が静かに言う

「起きろベル」

「は、はい!」

 身体に染み込んだ義母(はは)が不機嫌な時の声色に対してベルは脊髄反射のレベルで対応できるようになっていた

「今日の特訓を始めるぞ」

「」

 白目を剥くベルをよそに首根っこを掴み外に向かう

「アルフィア」

 そんな彼らを女神様(アルテミス)が呼び止める

「その前にやるべきことがあるだろう?」

「ん? ああ……」

 いつの間にかテーブルに並ぶ料理と椅子に座るザルドとアルテミス

「さ、冷めないうちに食べよう、お義母さん」

 救いの手に涙を浮かべベルは義母を引っ張る

「仕方ない……昼食が終わったら改めて特訓だ」

「うう……はい」

 この後の惨劇を覚悟しつつも、皆で手を合わせ

「「「「いただきます」」」」

「んっおじさん、これおいしい!」

「そうか」

「ベル、これもおいしいぞほら」

 あーんとフォークを差し出すアルテミス

「うぇ!?」

「ほらほら遠慮するな」

 あわあわするベルの口にフォークを突っ込むアルテミス

「!? あ、おいしい」

 突っ込まれた料理を味わうと口に広がる旨味に驚きつつ満面の笑顔を浮かべるベル

「……」

 そんなベルの笑みを見てほほを緩めるザルド

「……」

 ──そして不機嫌そうなアルフィア

「ひっ」

「お、お義母さん、これおいしいよ」

 あ、あーんとベルもアルフィアに誤魔化すようにフォークを差し出す

「む……」

 ベルの苦し紛れの行動に眉を寄せつつも「あむ」っと食べる

「ふむ、悪くない」

「ほっ」っと一息つくと改めて手を動かす。

 

 

「さて、ベル今日の訓練は潜む私を見つけ出し弓で射抜いて見せろ」

 アルフィアは食事が終わると唐突にベルへ今日の課題を言い渡す

「はい!」

「よし、それでは始めるぞ」

 そういったが最後音もなくその場から姿を消すアルフィア

「っ!」

 反射的に外へ向かいアルフィアの気配を探すため、眼を閉じ息を整え周囲に意識を向ける

 かすかに感じ取れた気配をたどり、移動を開始するベル

(気配は何とかたどれる、でもお義母さん(おかあさん)相手にただ単に矢を射かけても当たるわけはない)

 意識を研ぎ澄ましつつアルテミスから教わっている狩猟の極意を思い出す

(一つ目、音をなるべく消す。心臓の音すら邪魔だ)

 アルフィアの気配をたどり町中を疾駆しつつ己の体のコントロールを行う

 そうしてある場所でアルフィアが留まっていることに気づく

 そこは地上においてもダンジョンとも呼ばれる「ダイダロス通り」

 アルフィアが選んだ場所はその中でも人がいない静かな場所を選んでいた

(二つ目、対象と状況をよく観察し、射かける位置を見定めること)

 自分の居場所を悟らせないように廃墟の中に入り、そしてさらにその隣の廃墟へ音もなく移動していく

 そんな作業を幾度か繰り返しアルフィアの位置から程よく離れており自分の弓の射程の範囲ギリギリの場所に位置取りを行う

 外を確認できるように慎重にナイフで穴を作りアルフィアの位置を再確認する

 ベルは流れるように弓を構え矢をつがえると

(三つ目一撃で決めること)

 迷いなくアルフィアの体の中心に狙いを定め引き絞った矢を放つ

 ベルの放った矢は風を切り裂き狙い通りアルフィアの鳩尾へ吸い込まれていき

「──ふむ、及第点だ」

 言葉とともにアルフィアは矢を手刀にて叩き落す

「ふぅ……ありがとうございました」

 ベルは緊張を解くとすぐにアルフィアのもとに駆け寄り

「お義母さん! ほんとに当たってないよね? 大丈夫だよね?」

 と義母(はは)の体の心配をする

「ばかめ、お前ごときの一撃が当たるわけなかろう」

「そうだとしても、やっぱり怖いのは怖いよ」

 幾度の訓練の末、何とか心の中で割り切り訓練中は我慢して押し殺していても、大事な家族を万が一にも傷つけてしまったらという恐怖はいつでもベルの胸を苛むことであった

「ふん……」

 その息子(ベル)優しさに気づいているがゆえに苦笑しつつ「大丈夫だ」とベルの髪を撫でる

「さて、この後の予定は?」

「この後はヴェルフとダンジョンに行く予定だよ」

 目線を上にさまよわせ、今日の予定を振り返る

「そうか、ではまた後でな」

「うん、また後で」

 頷きその場で二人は別れる

 

 

 

 

「……」

 ベルの背を見送り、アルフィアは空を見上げる

「また後でか……」

 自嘲気味に笑う

 ──これから起こる災厄の足音に気づきながらも彼女は最愛の息子(妹の忘れ形見)を地獄の試練に送り出す

 

 

 

 

 




短いですがここまで
弓の技術は適当ですツッコミは受け付けてません
言わずもがな次回から大災厄編に入る予定です
その場のノリで書き進めているので書き溜めはないので
気長にお待ちいただければ


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15

短め


「なんかやけに柄が悪いのが多いな」

 ヴェルフはダンジョンへ向かう道すがらそんなことを言う

 周りからギロっという視線を向けられ

「ヴェ、ヴェルフ!」

(た、確かに何と言うか嫌な気配がするけどそんな大きな声で言ったらダメだって! 変なトラブルになっちゃうよ!)

 ベルは小声で彼の意見に同意しつつ嗜める

(わ、悪いついな)

 バツの悪そうな顔をし2人でそそくさとダンジョンへと急ぐ

 そんな時だった

 

「「「ギャァァァァァァ!!!!????」」」

 

 ダンジョン前の広場の方から悲鳴が聞こえてきた

 

「も、モンスターだ、モンスターがダンジョンから出てきやがった!!??」

 

 ()()()()()から言葉が発せられる

 瞬間

 

「「「「わぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!???????」」」」

 

 街中が大混乱に陥る

「ヴェルフ!」

「おう!」

 2人はアイコンタクトを交わすと一目散に大広場に向かう

 伊達に最恐の義母(アルフィア)叔父さん(ザルド)に鍛えられている訳ではない

 混乱した状況で現状の把握は最優先である

 何も知らぬまま動いてしまうことによってより致命的な遅れが生じてしまう事もある

 それ故に迅速にかつなるべく静かに2人は動き出したのだった

 大広場に着くと

「これは……」

 2人は言葉を失う

 ──そこに広がるのは地獄だった

「た、助けてくギャッ!!」

「はははははは!!」

「く、クソが……」

「オラオラどうしたよ? モンスター程度怖くねぇんだろ?」

「や、やめて……もう許して……」

「……」グサグサ

 そこら中で死が充満していた

 それに抗うものも一定数いるが圧倒的な数を前に彼らは次第に追い詰められていく

 そんな中ベルの耳に声が届く

「誰か、頼むうちの主神(バカ)を助けてくれ!!」

「ッ!!!」

 弾かれたように動き出すベルに「おい! ベル!!」置いて行かれたヴェルフはその速さに瞠目する

「フゥ……」

 ベルは素早く対象との距離を詰め弓を使い

「グァァ!?!?」

 神を囲むモンスターの目を射抜き

「今のうちに早く!」

「あ、ありがとう!!」

 冒険者は主神の元へ駆け寄りその場を後にしようとするもモンスターに狙われる

「礼はいい急げ!」

 そのモンスターを大剣で真っ二つにするヴェルフがその背を守る

「ヴェルフ!」

「ああ!」

 2人は巧みな連携でモンスター達を足止めし彼等を無事に逃すと

「ベル避けてろ」

 ヴェルフが腰に差していたもう一振りの剣を抜き放ち

火影(ひえい)!!」

 群れを焼き尽くす

「急ぐぞ!」

「う、うん(すっご……)」

 その威力に唖然としつつベルはヴェルフと共にその場を後ににする

 

 

「で、どうする? 事態は恐らく最悪だ」

 ひとまず身を隠しつつ外の様子を伺える場所にて作戦会議を行う

「うん、まさか()()()がモンスターを引き連れて冒険者を襲うなんて」

 広場での光景を思い出し状況を言葉にして確認していく

「恐らく闇派閥(イヴィルス)とかいう連中だろ。ヘファイストス様から聞いたことがある」

 曰くその集団は命をもて遊ぶことを楽しみにするもの、犯罪を犯し人を蹴落として私腹を肥やすことなど外道と呼ぶべき行いをするもの達である

「随分とモンスターの数がいたよね? あれは全部テイムされているのかな?」

「いや、流石にないだろ」

 ヴェルフはベルの言葉を否定し

「あれだけの量だ主要なモンスターどもはテイムされてるのかもしれないが後はダンジョンの移動時にでも引っ掛けてきたんじゃないか?」

 推論を述べる

「なるほど……ありえるね」

 その推論に納得する

「後は何だか狙いが神様達だった様な気がするんだ」

「ああ、連中は冒険者1人1人を潰すんじゃなくて主神を潰して冒険者から恩恵(ファルナ)を奪って無力にしてからまとめていたぶるつもりなんだろうさ」

「神様が危ない……!」

 ヴェルフの推論を聞き真っ先に顔を思い浮かべるのは自分の神様(アルテミス)の顔だった

「側にお義母さん達がいたとしても神様のことだから……自分は大丈夫って人助けしてる気がする」

 勇敢な月の女神様は友や子供達の危機を見過ごさないし戦える能力もあってしまう

「決まりだ、ヘファイストスのことも心配ではあるが、あっちは椿もいる」

 ベルの意見を聞き正直あの2人(化け物)の片割れ1人いれば全て終わる気がしなくもないものの

(まぁベルがものすっごい焦ってるからなぁ)

 彼らを心配するなんてはたから見れば無駄なのだが、家族であるベルからしたら許容なんてできるものではないのだ

「よし、行くぞ!」

「うん!」

 2人迅速に動き始めた

 

 






アルゴノゥトはやっぱり良い…
みんなも買え(ダイマ)


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16

「フッ!」

 1柱(ひとり)の益荒男が一呼吸の間に襲い来るモンスターを投げ飛ばす

「ナァーザ悪いが頼めるか」

 近くで待機していたもう1柱(ひとり)の優男が側に控える眷属へ指示を送る

「……」コク

 手にしたナイフで持って魔石の位置を1突きしモンスターを灰へと還す

 その手は震えていたが優男の手が上に重ねられると少し安堵した様に落ち着きを見せる

「……」

 その横で女神が弓を射掛けると、その矢は真っ直ぐに益荒男に襲い掛かろうとしていたモンスターの目を射抜く

「はぁ!」

 その隙を見逃さず、またモンスターが1匹宙を舞う

「はぁはぁ、数が半端ないな」

 益荒男──タケミカヅチは滝の様な汗を流し息をきらせている

「……ベル達は無事であろうか」

 優男──ミアハは側にいる眷属(ナァーザ)に気を配りつつダンジョンへと向かった友の眷属(子ども)の事を心配する

「まぁ心配はないだろうさ、この程度のモンスター達に遅れを取る様な半端な鍛え方はされていないからな」

 そんな軽口を叩く女神(アルテミス)であるがその顔色は優れない

 愛する家族(ベル)がダンジョンへ向かったまさにそのタイミングでこんな事態になってしまったため不安の種は尽きない

「大丈夫さ、アルテミス。あんなに優しいベル君なんだから君を1人になんかしないさ」

 こんな絶望的な状況でありながらも能天気にただ彼の事を信じている少女(ヘスティア)は子どもにまとわり付かれながら神友を元気づける

「……そうだな」

 その底抜けた明るさにミアハが苦笑を浮かべ

「そうに違いない」

「はぁはぁ、流石にそろそろまずいぞ! うちの連中もそのうち戻ってくるだろうがまだ時間がかかる!」

 珍しく泣き言をこぼすタケミカヅチは何十匹目かのモンスターを投げ飛ばす

「ジリ貧だな、こういう時程零能の此の身を呪うものだな」

 同意するアルテミスは飛行型のモンスターの首を射抜き堕とすと絶望的な戦局に嘆息する

「しかしこの子らを見捨てるわけにもいくまい」

「「当たり前だ」」

 メインで戦闘を行っている2人の意見は一致している

 彼らの後ろには子ども達がいる

 親とはぐれ独りぼっちで泣いていた子ども達はヘスティアが集めて来た子ども達だった

「みんな大丈夫だよ! 僕の神友(しんゆう)達は凄いんだ!! こんなモンスター達が何びき来ようが千切っては投げ、弓で射抜いてくれるさ!!」

 不安そうな顔を浮かべる子ども達に無責任でこの中で1番の役立たず(ヘスティア)の声が届く

「わぁ……!? 凄いね! 凄いね!」

「やっぱり神様って凄いんだね!」

 無邪気な声を上げる幼子たちの期待の視線に疲労に膝を着きそうになる身に鞭を打ち

「さぁモンスターども!! いくらでもかかって来い!! 何匹来ようが投げ飛ばしてやる!!」

「……ふふ」

 アルテミスとタケミカヅチの士気は大きく上がる

 

 ──しかし状況は悪化する

「あ、アレ……」

「最悪だな」

 射手であるナァーザとアルテミスの目にモンスターの大群(ぜつぼう)が写ってしまう

「ち、万事休すか……!」

 覚悟を決め差し違えてでも子ども達を守ろうするアルテミス達に

火影(ひえい)!!」

 声が届く

 瞬間目の前の一切が炎上すると同時に、その炎を切り裂いて白の光がこちらに向かってくる

 その光はアルテミス達の前に立つと

「はぁぁぁ!!!!」

 その手持つ()()をモンスター達に振るう

 耳を塞ぎたくなる様な轟音と共に雷がモンスター達を灰にする

「神様!! 無事ですか!?」

 1番聞きたかった愛しい家族(ベル・クラネル)の声が

「──ベル!!」

 

「まずいな! 囲まれてるぞ!!」

 その場に着いた時に絶望しかけていたのは神達だけではなかった

「どうするベル? この状況じゃ魔剣を放つとアルテミス様達まで巻き込んじまうぞ」

 ヴェルフの魔剣は海すら焼き尽くすと言われた『クロッゾの魔剣』であるが故に使うに使えない状況であった

(どうすればいい!? 迷ってる時間はない。何か何か使えそうなものは……)

 焦るベルは辺りを見回し使えるものがないかを探す

「クソ、一か八かやるっきゃないか?」

 ヴェルフも焦りを隠せずその手に魔剣を握りしめる

「あれ?」

 その姿を見てふと気がつく

「ヴェルフ,もう一本魔剣持ってる?」

「あ? ああ一応懐に緊急用にな。それがどうした?」

 ベルはそれを用いた、ある無茶苦茶な作戦とも言えぬ作戦を思いつく

「ッ!! バカ言うな! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? ()

「うん」

 迷いなく頷くベルに

「自殺志願者でももうちょっとマシな事を考えるぞ」

 と呆れるヴェルフ

「大丈夫、僕逃げ足の速さだけはお義母さん達から褒められてるんだ。それに……」

()()()()()()()()()()()()()を着てるだから大丈夫だよ」

 笑顔で全幅の信頼を送るベル

「────」

「ああもうこの馬鹿野郎め!! 後悔すんなよ!?」

 緩む口角を誤魔化す様に魔剣を構えると

「「行こう(ぞ)相棒!!」」

 合図と共に作戦を開始する

 

 

「ベル!! お前はなんて無茶をするんだ!? 本当に死ぬかもしれなかったんだぞ!」

「そうだよベル君! 自殺志願者でももっとマシなやり方を選ぶよ!? 大体──」

「はい、はい、すみません。もうしません。すみません」

 その後ガネーシャファミリアが提供してくれている避難所へ辿り着くとアルテミスとヘスティアはベルを正座させ説教が始まってしまった

 最初のうちは

「お、おい落ち着けって」

 とタケミカヅチが宥めようとするも

「「……」」ギロリ

 と言う女神の眼光に負け、気まずそうに見守る

「「ベル(君)!! 聞いてるのか!!」」

「ひぇぇ!?」

 ベルの情けない悲鳴が周囲に響く

「「「クスクス」」」

 そんな彼等のやり取りに周囲の者達は思わず笑みをこぼす

 こんな状況でもいつも通りの彼等を見て日常を感じ取れたのだ

 笑い声が耳に届き顔を更に真っ赤にするベルに

「まあまあ、落ち着けベルのおかげで私達も子ども達も無事で済んだのだ。まずは礼を言うべきではないのか?」

 ミアハが助け舟を出す

「ベル、此度は本当に助かった。ありがとう」

 男ですらときめかせる天界1の優男(女たらし)の笑みにドキッとしてしまうベル

「「むっ!!」」

「そうだな、ベル助かった。この礼は必ず」

 タケミカヅチから頭を下げられ

「あ、いえいえ!? 僕の方こそ神様を守って下さって本当にありがとうございました」

 恐縮しつつアルテミスと共に戦ってくれた事に感謝を告げる

「「むむっ!!」」

 同じ反応をする2人は

「コホン、ベル改めて助けに来てくれてありがとう。流石は私の英雄(オリオン)だ」

 ベルの瞳を真っ直ぐに見つめ照れ臭そうに笑うアルテミスの顔は月も恥じらうほど可憐で見惚れてしまう

「あ、ずるいぞアルテミス! ベル君本当の本当にありがとう!」

 そんなベルの惚けた顔にヘスティアがその豊満なボディでプレスを行うと

「ブッ!? ちょへ、ヘスティア様!? は、離れて下さい!?」

「こらヘスティア! 私のベルから離れろ!」

 アルテミスが青筋を浮かべヘスティアの謎紐を引っ張る

「へへーんだ、確かにベル君は君の眷属(かぞく)かもしれないけど、恋人とかじゃないんだからいいだろぅ?」

 ベルの頭へしがみつくヘスティアはなかなか離れようとしない

「」

 ベルはと言えば男としての憧れの死因『美少女の胸で窒息死』をしてしまいそうになっていた

「「「「あはははははははは」」」」

 そんな彼の様子を見て今度は皆が声上げて笑うのだった

 



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17話

「神様、お義母さん(おかあさん)とおじさんは何処に行ったか何か聞いてる?」

 一息つくとベルは大事な家族の事を心配しだす

「彼女達からは一切連絡がない」

 ベルの質問に対し首を振るアルテミス

「そう、ですか……」

 しょぼくれるベルの頭を撫で

「まあ彼女達なら怪我すらしていないさ」

 アルテミスは笑いかける

(しかし……この前会っていた奴は……)

 手を動かしながらもあの日の事を思い出し物思いに耽る

「神様?」

(奴が予想通りのアイツ()であるのならば……)

「神様聴いてますか!?」

 ベルの声すら耳に届かずされど撫でる手は止めず膝枕の姿勢へと移る

(だが、アルフィア達が奴等の側につくなど()()()()()()()()()()()

「ちょ!? 神様!?」

「ん? おや? ベルいつの間に。甘えたいならそう言えばいくらでもこれ(膝枕)くらいしてやるぞ?」

 ベルが動けないよう頭を撫でくり回している事にようやく気がつくアルテミスを

「なーにやってるんだいアルテミス!! 急に考え事し始めたと思ったらベル君を誘惑するなんて!!」

「神界での君は風紀委員長みたいに男神(おとこ)が近づいただけで矢で射抜こうとしようとしてぐらいなのに~!!」

 必死に引きはがす

「おっとと、何をするんだヘスティア。眷属(かぞく)を甘やかしているだけだぞ」

 しれっというアルテミスに仰天するヘスティア

 ワーワーギャーギャー言っている3人を眺める男組は

(((はぁ……)))

 やれやれと肩をすくめる

「それで、ベルこれからどうするんだ?」

 ひと段落ついたところでヴェルフがベルに尋ねる

「え? うーん……というかヘファイストス様の事は大丈夫なの?」

「さっきも言ったが椿もいるし他の連中(ハイスミス)もいる下手な場所より安全だ」

 先程と同じヴェルフの言葉に今度は甘える事なく

「でも、心配なのは変わりないでしょ?」

「まぁ……な」

 このオラリオ始まって以来の未曾有の危機に絶対なんてものはない

「さっきは僕が助けて貰ったんだから今度は僕がヴェルフを助けたい」 

 真っ直ぐなその瞳にたじろぐヴェルフ

「だが2人ではいくらあの魔剣があろうと危険だぞ、ベル」

 ミアハがベルの気持ちを汲みつつも現実的な意見を言う

「それは……う〜ん」

 はやる気持ちもありつつ、先程アルテミスに叱られた手前どうしたものかと頭を悩ませる

「桜花! (ミコト)! お前達、無事に帰って来てくれたか!」

 そんな彼等の葛藤とは別の明るい声が隣から響く

 その声に弾かれた様にこちらに気付き走って向かってくる

「「「タケミカヅチ様!!」」」

 彼等の安堵した声に自然と顔が綻ぶベル達

「タケミカヅチ様こそご無事で何よりです」

「あぁここにいるベルとヴェルフのお陰でな」

 先程の事を簡単に話すと

「なんと……我らの主神を助けて下さり感謝の言葉も有りません」

 タケミカヅチ・ファミリアの全員から深く頭を下げられる

「い、いえ!! こっちこそタケミカヅチ様に神様を守って貰いましたから!!」

 ありがとうございます! とベルの方からも頭を下げる

「早速で悪いが今の状況を知りたい。ダンジョンで何があった?」

 タケミカヅチは子供たちへ尋ねる

「それが……あまり何とも言えない状況だったので」

 歯切れの悪い言い方をする命

「どういうことだ」

「予定通りに10層に辿り着いてモンスターと戦闘をしていたんですが、下層からモンスターが数匹向かってきていることを察知したので戦闘を切り上げて隠れることにしたんです」

 経験浅めのパーティーにしては的確な判断を下していると、ヴェルフが関心していると

「それで様子見をしていたら、下層からミノタウロスが数匹群れを作っていたんです」

「な!?」

 10層には来るはずのないミノタウロスというレベル2相当のモンスターがしかも群れをなしてやってくるという悪夢極まりない状況に絶句するタケミカヅチ

「何とかやり過ごしたので、異常事態だったのでギルドへ報告しようと急いで戻ることに決めたんです」

「急いでダンジョンの入り口まで向かうとそこで……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「な!?」「「……」」「やはり、か……」

 その場にいる者達はそれぞれ異なる反応を示す

「やっぱりアレは見間違いでも聞き間違いでもなかったんだねヴェルフ」

 ベルはぐっと拳を握り締めアレを思い出す

「そうみたいだな……悪い予想ほど当たるもんだ」

 ヴェルフも冷めた眼で空を見上げる

「ちょ、ちょっと待ってくれベル君! なんか納得してるみたいだけどどういうことだい!?」

 ヘスティアが混乱してベルの首元をつかみブンブンと前後に振り回す

「実は……」

 ベル達も広場での凄惨な光景を眼にしたことにより、仮説を立てていたことをヘスティア達に話す

「くっ! やはり闇派閥(イヴィルス)の連中か! 毎度毎度なんていうことをしてくれるんだ!!」

 大男が自分の掌へ拳を打ちつける

「しかし此度は今までよりも規模が違いすぎる」

 ミアハは冷静に意見を述べる

「今までも都市最大派閥(ロキとフレイヤ)にちょっかいをかけたり、アストレア・ファミリアとの抗争などは度々あったが……」

「ああ、前例がない。それに余りにも計画的だ」

 タケミカヅチもその意見に同意をする

「しかし奴らの目的は一体何なのだ?」

 当然の疑問を口にするアルテミス

「うーむ、そこまでは何とも言えぬな。だが奴らの仕業であるのならばこの程度でことが終わるとは思えぬということくらいか」

 頭を悩ませるミアハ

「ならやっぱり先にヘファイストス様のところに行っておこうヴェルフ」

 その言葉にベルはヴェルフに声をかける

「む」

 言葉に詰まるヴェルフに

「何が起こるかわからないんだから最大限準備をしよう。ヴェルフは鍛治師何だしここにいるよりヘファイストス様の所の方が設備整っているし」

 ベルは理詰めをしていく

「だけどな」

 されどヴェルフは自分のために危険を犯すのは……と渋る

「さっきミアハも言っていたように2人では余りにも危険だよ?」

 それに追従するようにヘスティアが至極真っ当な意見を述べる

「そうだ! ベル! それならコイツらを連れて行くといい」

 その空気に対してタケミカヅチが桜花や命達の背を押しベル達の前へと立たせる

「え?」

 突然の申し出に驚くベル達

「人数もいるし、命は斥候何かもこなせる。さっきの恩返しと言うわけではないが役に立つぞ!」

 胸を張って自分の子らの良いところを宣伝するタケミカヅチ

「なんのお話ですか?」

 それをされた当人である桜花達は疑問符を浮かべる

「実はな──」

 タケミカヅチがベル達の現状を話すと

「なるほど……でしたら我々にも手伝わせてください!」

 正義感に燃える命が先んじて手助けを申し出る

「そうだな、自分の主神(おや)のことを心配する気持ちはよくわかる。ぜひ手伝わせてくれ」

 それに桜花も追従する

「お前ら、ありがとうな」

 彼等の善意にヴェルフは鼻の下をこすり照れくさそうに感謝を告げる

「改めて、僕はアルテミス・ファミリアのベル・クラネルといいます。よろしくお願いします」

「俺はヴェルフ・クロッゾだ。ヘファイストス・ファミリアで鍛冶師をやってる。よろしく頼む」

「桜花という。一応タケミカヅチ・ファミリアの団長をやらせてもらってる」

「命です。よろしくお願いします」

 各々改めて自己紹介を行うと

「早速ですけど、ヘファイストス様が心配なので急ぎましょう。準備はできてますか?」

 ベルが先程戻ってきたばかりの桜花達に尋ねると

「ああ、すぐにでも動ける」

 頼もしい返答が返ってくる

「わかりました。じゃあ行きましょう!」

 ベルとヴェルフが先導してヘファイストス達のいるヴァルカの紅房へと向かう

「「「「おう(はい)!」」」」

 彼等は気合いを入れて応えるとすぐに移動を始めるのだった

「気をつけるんだよ! ベルくーん! みんな〜!」

 ヘスティアを声援がその背に向けて送られる

 

「わりぃなベル」

「ううん、だって僕達相棒でしょ?」

「──ははははは!! そうだな行くか! ベル!!」

 



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