楽しい楽しい料理人修行生活 (食戟のソーマはいいぞぉ)
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プロローグ
第0話


思いつき投稿。
続く、かな…?


ある日のこと、今日も何をするでもなく家でゴロゴロとしていた。

スマホの画面を眺めつつソファで横になりながら今日は何作ろうかな…なんてことを考えていた午前の時間帯。

 

そこへピコン♪とひとつの音が鳴った。

出処は手に持つスマホ。なにやら着信が入ったようだった。

 

スマホの上部に出てくるバナーに書かれていたものは…

 

━━よっす、元気かー?

 

そんな小気味のいい一言だった。

送ってきたのは…

 

「……無視だな」

 

名前を見た途端面倒くさいことになりそうだと感じた俺は即座に無視を決め込む。

関わったらろくな事がない。そんなこと昔からわかっている俺は余計なことはしないと決め込み暇つぶしに見ていた『ようつべ』動画の続きに目を向けていた。

 

━━おーい

 

「……」

 

━━寝てるのかー?

 

「……」

 

━━返信しろー!

 

「……はぁ」

 

……通知を切った。

さすがにうるさい。大体1分おきに来る着信。

相も変わらず我が道をゆくやつだななんてことを思いつつスマホをソファに投げ出し立ち上がり冷蔵庫へと向かう。

 

冷蔵庫の中から取り出すのは我がソウルドリンク、コーラ。

慣れた手つきでキャップを開け飲み口を口に当て喉へと流し込んだ。

 

「━━フゥ」

 

ひとしきり飲み終えそんな満足気に息を吐き出した時、家のインターホンの音が部屋に鳴り響いた。

 

「…誰だ?」

 

来客の予定は無いはずだし、宗教勧誘あたりの人が来たのかななんて思っていると玄関の方で母親がテンション高めにインターホンを鳴らした人と何やら盛り上がっていた。

 

「ん?」

 

まあ気にすることもないかと目線をスマホに戻す。すると、

 

「あなたにお客さんよ」

 

そう言って部屋へと入ってくる母親。

 

「あ?俺?」

 

誰だろう。思い当たりがない。

そう思いながら頭に浮かぶのは先程のメッセージ。

まさかな…と思っていたが、

 

「よぉ!元気か!」

「ゲッ…なんでお前いんの…」

 

そう言って顔を出したのは先程連絡してきた黄色い猫目の赤みがかった茶髪をしたギャル系の2個上の先輩だった。

 

 

「遠月学園?」

「ほうほう、ほまえほこにほい」

「うん、口にあるもん飲み込んでから喋れ?」

 

とりあえず有り余っていた食材でチャーハンを作りこの面倒臭い先輩に振る舞いつつここに来た要件を聞いていた。

 

要約すれば、日本一の料理学校と呼ばれる遠月学園という場所に入学しろということだった。

うーん、めんどい。

 

「うぐ……あーお前今めんどくさいとか思ったな?そういうのよくないと思うぞー。何事も積極的にやっていけー?」

 

積極性の塊のお前と一緒にしないで欲しい。

 

【小林竜胆】。2コ上の先輩。

初めましては小学生の時。いつも一人で居た俺に興味を持ちずっと付きまとってくる面倒な奴。

挙句家まで付いてきて俺の親父が居酒屋、母親が喫茶店をやってるってことを知ってからさらに興味を持たれた。

それから『お前も料理できんの!?できんの!?』と詰め寄られてとてもうるさかったです。

……よくよく思えばこいつが料理に興味を持ちはじめたのってこの時からなのかもしれん。

 

そんなこんなで親とも仲良くなりやがって休日は俺の家に入り浸るようにもなったし、挙句、俺が包丁の使い方とかも教える羽目になったし…。いい迷惑だ、こんちくしょう。

 

ちなみに居酒屋と喫茶店は隣同士で並んでいてその上の階が家になってる。毎日階段が大変だ。

基本、夜に居酒屋で昼に喫茶店を開いてる。小さい店で来るのはほぼ近所の人だが親の料理は何故かくそ美味くて小さいながら繁盛してる。

 

「親父さんも言ってただろ!人生は冒険や!って」

「それは多分麦わら被ったクソガキだな。……どういう間違い?」

 

なんて会話をしてると、「お邪魔するわね」とドアを開けて入ってくる母親。その手にはケーキと紅茶を乗せたお盆があった。

 

「来たー!ママさんのケーキ!」

「あらあら"ママ"だなんて……うふふ」

 

……その含み笑いをやめろ。こっちをニヤニヤしながら見るな。

 

「じゃ、ごゆっくりね……頑張れ我が息子。既成事実さえ作っちゃえばこっ━━」

「出てけ!アホが!」

 

近くに置いていた辞典を投げつけるが、「キャッ」なんてわざとらしい悲鳴をあげなから扉を閉めた。結果当然辞典は扉にかなりの音を立ててぶつかって落ちた。

 

「相変わらず面白いなー、お前ん家」

「……頭が痛くなってくる」

 

糖分摂取だ。

そんなことを思いつつ母親の持ってきたケーキを早速口に運ぶ。

……腹立つが美味い。それがまた腹立たしい。

 

「かーっ!やっぱウメーなこのケーキ…!」

 

酒飲んだジジィかよ。

 

「で?」

「あ?」

「遠月に来んの?来ないの?」

「行かんわバカタレ」

 

そんな面倒くさそうなとこ行くわけが無い。

そこら辺の近くの高校で青春を謳歌して、卒業したらここで働く。たまに手伝いで料理作ってるけど正式な従業員でもないしね。完璧な計画だ。

 

「……はぁ、そっか…分かったよ」

 

そう言って立ち上がりドアへと向かう。

 

「とりあえず今日は帰るから、じゃーなー」

 

そんな言葉を残し部屋を去った。

あいつがあんなにすんなり帰るなんて……なんか、嫌な予感がする。




感想、評価待ってます。……モチベをね下さいな。


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編入試験
第1話


0からレシピ作る人ってすごい。


「じゃ、頑張るのよー。終わりごろ迎えに来るからねー」

 

そう言って走り去る車。

目の前には巨大な門。奥に見える巨大な建物。

俺の嫌な予感は的中した。

 

 

時間は数日前に戻る。

夕食を食べ終え自室に戻ろうとしたところで親父に呼び止められた。

そして、親父の口から出た言葉。

 

「遠月学園に行ってもらう」

 

もう、思わず天井を見上げたよね。

シミ一つない綺麗な天井だった。

 

「嫌って言ったら?」

「それでも行け。いやもう行くことになってる」

「……は?」

 

俺の頭の中は疑問符だらけだ。

思わず母親の方を見たらにっこり笑顔を返された。

まさか、

 

「この前竜胆来てたけど……」

「……うふふ」

 

あのクソパイセンか!

あいつが母親となんか結託しやがったなこんにゃろう!

 

「りんちゃんね。遠月学園の十傑評議会っていう教師よりも色々権限を持ってるところに入ってるんだけどね」

 

怖。なにそれ?教師の立つ顔もねえな。

しかもあのバカがそこに入ってる?……終わりだろ、その学校。

 

「で、編入試験を無理やり受けさせようってことで私が申請書書いてりんちゃんがそれを持っていったの」

 

……俺の意思はどこへ消えたのだろうか。

 

「でももう応募期間とか終わってる━━」

「だからこそりんちゃんよ。彼女は十傑、それくらいの融通はきかせられるわ」

 

……俺知ってる。それ、職権乱用って言うんだよね。

 

「……なんでそこまでして俺を通わせたいんだよ」

 

そう聞くと口を開いたのは親父だった。

 

「父さんたちはな、そこの卒業生なんだ」

「ええ、だからやっぱり息子のあなたにも行ってもらいたいのよ」

「お前の料理の腕は俺たちから見てもハイレベルだ。料理を作る腕は確か。でも、お前は料理を創る(▪▪)のは苦手だろう?」

「レシピ作り、その力をそこで学んできて欲しいのよ」

 

なるほど。言いたいことはわかった。でも、

 

「……別に家でもできるくね?」

「ほらまたこの子ったらそういうこと言って」

「兎にも角にも遠月でトップ……いや、まあ、卒業するまで店では働かせん!いいな!?」

 

腕組みして叫ぶ親父。

ところで、

 

「つか、お袋よ」

「ん?なに?」

「親父の口調何?なんかテンション高くない?」

「あー、ほら、ドラマとかでよく見る厳格な父親に憧れてるのよ。こういう機会にやってみようってことで、ね?テンション上がってるのよ」

 

母親の言葉を聞き親父の顔を見る。

眉間に皺を寄せながらどことなくドヤ顔の面影がある顔。

 

「似合わないわよねー」

「ぐふっ……」

「ドヤってるのも腹立つ」

「ガハッ!」

 

俺と母親の言葉にうずくまった親父。

身体を震わせ、そして顔を上げた。

 

「いいじゃん!たまにはかっこいいお父さんになりたいじゃん!」

 

はいもうかっこいいお父さんとは程遠い男になりましたね。お疲れ様です。

 

「ダンディにさ、なりたいじゃん!最近ワックスとか買って慣れないながらハリウッド俳優の髪型真似てるんだよ!?」

 

あ、そうだったんだ。無駄な努力だと僕思うなー。

 

「髭もちょっと生やしてさ!お客さんからも最近、『ダンディになりましたねぇ』って言われるようにもなったんだよ!」

「……何がダンディだ。ムーディ勝山みたいな顔しやがって」

「いいだろムーディ勝山!お父さんは好きだぞあの顔!」

 

怒るとこそこ?

 

「右から♪右から♪何かが来てる〜♪」

 

なんか歌い出した。

 

「それを♪僕は♪左へ受け「それでお袋」え、あ、ちょ……」

「ん?」アノーボクノウタ

「一応聞くけど試験の日にちはいつよ?」モウスコシキイテクレタリハ?

「うーん、確か……来週の水曜日とかだった気がするけど」ア、キカナイ、キカナイノネ

「水曜ねぇ…」スゥー

 

それなら水曜日予定があるとかでサボるか。

試験の段取り組まされても行かなきゃ入学なんてならんだろうし、流石に試験も受けない男を権力だけで受からせるのは無理があ━━

 

「左へ受け流すぅぅぅう!!!」

「「うるせぇッ!!!(うるさい)」」

 

 

とまぁそんな感じでサボろうとしてたら、まさかの俺の熟睡時のどんなことしても起きない性質を利用して起きたら車内だった現象で無理やり連れてこられていたわけで。

 

「……俺の包丁」

 

バッグの中にもちゃんとケースにしまわれたマイ包丁があった。用意周到、さすがママン。こういう時の手回しというかなんというか、すごいなほんと。

もっとこう手心と言うか…。

 

「はぁ、行くかぁ」

 

そんなだるさを体に残しつつ門をくぐった。

 

 

 

 

 

帰りたい。門をくぐってすぐに思ったことだった。

周りを見れば高級車ばかり、キラキラと身だしなみが整ってる受験生たち。

 

「ば、場違い感…」

 

しかも寝てるとこで無理やり連れてこられたわけで、つまりは部屋着。

半袖の黒Tシャツに膝丈までの半ズボン。そこにパーカーを羽織ったサンダルの少年がこの中を歩いてるので変に目立ってる。

 

てか視線が怖い。

なんでお前みたいなクソガキがいるんだ感をひしひしと感じる。

話しかけろって?そんなことしてみろ。『庶民ごときが僕と同じステージに立ててると思ってるのかな!?うんぬんかんぬん』とか言われて終わりだよ。

 

「この僕と並んで座るなぁあー!!!」

 

遠くの方から怒声が。

……ああ、俺と同じ庶民ごときが食の上流階級様(笑)に話しかけちゃったのね。

ほら見た事か。

さ、俺は巻き込まれんうちに試験会場に行きますか。

 

……騒ぎに気を取られるかと思ってたけど存外俺の背中に視線が突き刺さってて気まずかった。




感想、評価待ってます。


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第2話

料理のオリジナルレシピ考えてみたけど美味いかはわからん。


「本日の試験官を任されました。薙切えりなと申します」

 

……試験か…え?学生?

おいおいどういうことだってばよ。

 

会場について時間まで馬の擬人化たちを育てるソシャゲして暇を潰してたらワラワラ受験生たちが入ってきて、その後試験官が入ってきたと思ったら金髪の可愛い女子生徒だった。

 

……よくわかんねえなこれ。

いや、本当の大人の試験官が来るまでの繋ぎか?なるほどそれなら納得だ。

 

「入試課からの通達は?」

「読み上げます」

 

あ、違うわ。モノホンの試験官らしいわ。

なんか隣の秘書っぽい……秘書子って呼ぶか。

秘書子ちゃんがすごい読み上げてる。入試の説明読み上げてる。……てか入試内容が多い。面接やって?実技やって?通過者をさらに「下らない」……What?

下ら…へ?試験官がそんなこと言ってもいいの?大丈夫?後で上から怒られない?

 

「━━そうね。調理台をここへ」

 

試験官のえりなちゃんがそう言うと運ばれてくる調理台。そこには様々な食材が乗っていた。

……手際が良すぎ。サッと調理台が出てくるってどゆことよ。

 

「メインの食材は卵、1品作りなさい。私の舌を唸らせたものに遠月への編入を許可します。

なお━━」

 

━━いまから1分間だけ、受験の取りやめを認めましょう

 

彼女のその言葉に一斉に逃げ出す受験生たち。

え?取りやめOKなんですか!?なら俺もこの間に……。

そう重い俺も踵を返し、出口へ向かおうと、

 

バキッ!

 

「ゴハッ!」

 

ガンッ!

 

「〜〜〜っ!」

 

コ、コノヤロウ…!振り向きざまに俺のみぞおちに拳をめり込ませた野郎覚えてろ…!

しかもその勢いで壁に思っきし激突したし。顔いてぇ〜!

 

そうやって壁に手を付きながらもう一方の片手で顔を押さえていると、

 

「作る品はなんでもいいの?」

「……卵さえ使用しているなら自由よ。でも本当にやる気?」

 

……なんか俺が悶絶してる間に話が進んでる。

なんかあの受験生すごい煽ってない?てかお前さっき試験前に食の上流階級様(笑)にキレられてたやつじゃね?

 

「ハッ、そこまで言うなら味わってさしあげるわ。料理業界底辺の味をね」

「喜んで。ウチの取っておきを出してやるよ」

 

━━お待ちを、薙切試験官どの!

 

そう言ってハチマキを巻き始めた受験生。

それにしてもあの試験官、どっかで……。

……いや、思い出せないことを考えても意味もないか。とりあえずあの受験生の料理でも見ておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待ちどぉ」

 

その言葉と共に出された皿。

ふむふむ、面白い。受験生の言っていた【化けるふりかけ】。その正体。発想がすごいな。

まあ、件の試験官はと言うと、

 

「………話にならないわ。試験はこれにて終了です」

 

食べもしないでおしまい宣言。ほんとに試験官か?

どこぞのファミマツナマヨ事件のおっさんじゃないんだからさ。

 

「所詮二流料理人の仕事ね。全く食指が湧かなかったわ」

「……その料理、こっからなんじゃないの?」

「「「!?」」」

 

あれ?なんか俺が声をかけた途端すごい勢いで3人がこっち見た。

え?あんたらまさか……、

 

「い、いつからいたんだ?」

「いや、ずっと」

「そこで何を!?」

「いや、料理見てたけど」

「目的は何…?」

「いや、試験……」

 

3人が各々で質問を投げかけてきた。

うん、いや、ほんと……うん。マジかぁ。

 

「影薄いとは自覚してるけどさ……え?俺そこまで?まじ?俺人じゃないのかもしれない?」

「え?あ、いや……すまん」

「そ、そんな落ち込まなくてもいいじゃない」

「だ、大丈夫ですよ」

 

謝んないでよ。逆に悲しくなる。

あと、秘書子ちゃんは何が大丈夫なの?

 

「と言うよりその格好はなんですか!?到底試験を受けに来た人とは思えません!」

「………」

 

そう言って指さしてくる試験官さん。

いや、うん。

 

「それはマジでごめん。俺だって好きでこの格好でここに来たわけじゃないんだもん。はぁ……」

「え、あ、いや……そ、そこまで落ち込まなくていいでしょう!」

 

なんか慰められたわ。逆に泣くからそういうの。

 

「てか、はよそっち終わらせてよ」

「え?お、おぉ、悪いな。そんじゃ気を取り直して……何処まで話したっけ?」

 

受験生の言葉に俺を含めて3人がずっこけた。ドリフかな?

 

「ふりかけの本領発揮の所まででしょうが」

「あー、そうだそうだ。サンキュー。てなわけでそいつの言ってるとおり俺のふりかけはこっからだ」

「ど、どういう意味かしら?」

 

その言葉に受験生はニヤリと笑みを浮かべてそのふりかけをご飯の上へと落とした。

するとその中に入っていた卵……と別の茶色い四角の物体。

その四角の物体は白米の熱で溶け粒へ、卵へとまとわりついていく。

 

……いい匂いだな。

 

「お前も食うか」

「ん?あー、こいつはどうも」

 

朝飯も食ってなかったからちょうどいいな。

受験生からよそわれた椀を貰いその匂いを嗅ぐ。これは美味しい。確実に。

 

「……一口だけ、味見してさしあげます。し、審査してほしければ器を寄越しなさい!」

 

俺が椀の熱で手を温めてたら試験官がそう言った。

そうだ、食え食え。

 

さて俺も1口。

そう思いながら箸を伸ばして掴み取る。そのまま口の中へ、

 

「うん、うんうんいいねこれ」

「お、だろだろ!」

 

俺がうなづいていると肩を組んでくる受験生。あなた距離感近いね。

 

「これは…」

 

驚いた顔で料理を見つめる試験官。

そのまま二口目へと、

 

「あれー…、二口目イっちゃうの?確か一口だけって聞いた気がするけど?」

 

意地悪な受験生。まあ俺は遠慮なく食べさせてもらうがね。腹減ってるし。

 

「冗談だってば、ゆっくり食いなよ」

 

そう言われ赤い顔で食べる試験官。こう見ると可愛んだけどな。

それにしても、これ、

 

「煮凝り使うってのは斬新だよね」

「お!分かるか!?」

「っ!」

 

すごい驚いた顔で試験官に見られた。怖い。

 

「そうさ、この四角いのは手羽先の煮凝りだ!」

 

『煮凝り』

ゼラチン質の多い肉や魚の煮汁が冷えてゼリー状に固まったもの。

 

これをふりかけに利用するとは。面白い。

料理最中の横でずっと火にかけていた大鍋はこれだったわけだ。

 

「どーよどーよ、食わずに帰らねーでよかっただろ」

「だ、黙りなさい!まだ審査は途中よ!」

「ありふれたメニューでも創意工夫で逸品に化けさせる。これがゆきひらの料理だ!」

 

ゆきひら……覚えておこう。後で食べに行ってみたいな。

そしてその受験生の合否は……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……良かったの?あれで」

「……なによ。文句でもありますか?」

「………」

 

結果、【不合格】

受験生落ちる。

マジか。あれで落ちるのか。こうなりゃ受かる人なんていないんじゃないの?

 

『不味いわよ』

受験生が試験官に詰め寄った結果言い渡された言葉。それを聞いて驚いた顔のままこの部屋を後にしたあの受験生。

はっきりいえばあれは不味いわけが無い。

 

「……あれで落ちるって終わってんな」

「っ!」

「お前…!えりな様の判断を━━」

「はいストップ。くだらん押し問答は好きじゃない」

「っ」

 

さて、これからどうしようか。

 

「もう俺もここにいる意味もなくなったしな」

「……受験の辞退ですか。良いでしょう認め━━」

「勘違いやめてね。あの受験生みたいな料理人がいるってなったら俺もこの学園に興味があったよ。でも、自分たちの料理が、世界が正しいと玉座にふんぞり返ってる阿呆しかいないってなったら入る意味もない。あんたらが俺に価値ないと思うように、俺自身もこの学園に価値はないって思っただけだよ」

「「っ!?」」

「料理は……作らなくていいね?どうせもう作る意味もないし。……あ、あと竜胆に会ったら伝えといてー。『この場所は俺とは合わん』って」

「「……」」

 

険しい顔。そんな表情が背中に突き刺さりながら俺はその部屋を後にした。




安心してください、主人公は学園に入学します。

感想、評価待ってます。





そういえば出してなかったなってことで、この先物語の中でもタイミングもないしここで出しときます。



本作主人公

(たちばな)(かなで)

身長168cm、体重55kg

料理の腕はピカイチ、ただレシピ作りは大の苦手。

黒髪の短めザンバラ髪。常に眠たげな目をしてる。



(たちばな)和光(わこう)

身長188cm、体重69kg

主人公の父。遠月卒業生。
第72期生で元十傑第一席。
銀と城一郎と面識あり。

黒髪短髪オールバックの糸目筋肉。最近ダンディを目指して髭伸ばし中。



(たちばな)(旧姓:滝沢)美來(みくる)

身長173cm、体重秘密

主人公の母、遠月卒業生。
第71期生で元十傑第一席。しかし、後輩の和光に食戟で負け、第一席の席を譲り第二席へ。それをきっかけに交際スタート。
銀と城一郎と面識あり。

青みがかったロングのストレートヘアー。切れ長の目でスタイル抜群。歳に比べ若々しい。若々しすぎる。


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第3話

誰か作って見てほしい。


憂鬱な気分を迎えた朝から好奇心を擽られた子供気分へと変わっていた試験。そんな気分が吹き飛ぶほどの不機嫌イライラを胸にしまいつつ廊下を歩く。

親になんて言うか。試験に落ちた訳じゃないが普通にこの学校に入りたくなくなった。

だからといってバカ正直にそう言うべきか。かと言って落ちたと嘘ついてしまったら……あのアホ両親の事だからなぁ。

 

自分で言うのもなんだけどうちの親は親バカなところがある。俺の料理の腕を誰よりも認めてるのがうちの親だ。そんな親に"落ちた"なんて言ったらどうなるか。確実に学園にクレームを入れる。100%、絶対。

 

モンスターペアレント化した親とか恥ずかしすぎる。そんなことになったら俺は確実に引きこもりになってしまう。

でもなぁ、

 

「試験受けませんでしたは怒られちゃうだろうしなぁ…」

 

そうやってうーんうーんどうなりながら歩いていると、

 

「お?奏じゃん」

 

ばったりと会ってしまった面倒なやつ。

俺は声も挙げずに反射的に回れ右してきた道を戻っていた。

 

「おいおいおい」

「着いてくるな」

「おーい、おーい」

「うるせうるせ」

 

そんなことを言いながら歩いていたが……俺は思わずその場にしゃがんだ。

直後頭上を通る影。

 

「うおっとっと……、避けんなよー。てかなんで背中越しであたしの動きがわかんだよ」

「……相変わらずうるせーやつ」

 

そんなことを呟きながら目の前に立つ1人の女子生徒を見る。

赤みがかった茶髪。猫目の黄色い目。

俺に付きまとう半ストーカーの面倒な先輩。竜胆がそこにはいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えりなちゃんかぁ……、なんかまあ、運がないな」

 

廊下を竜胆と並んで歩く。なんでこいつは着いてきてるんだろうか。

 

「あの子はなー、ちょっと気難しいっつーかなんつーか。その様子だと試験も受けてないだろ?」

「……まーね」

 

無愛想に返事する。

そんな様子をさっきから見せてるからか、今日の竜胆は少し大人しい。

昔から俺が苛立ってるのを察知するのが早い。そうなったらいつもの奔放な態度を抑えて接してくれるからそれはそれで助かるもんだ。

……普段からそうであって欲しいけど。

 

「うーん……まあしょうがないか。てか、久々に奏の料理食べたいんだけど」

「……この前炒飯作ったくね?」

「それはもう1週間前の話だろー?もうリンドーさんは我慢できません!さあ!付いてくるのだー!」

 

そう言って腕を引かれる。

……相も変わらず強引なやつ。でもこうやってむかしから半ば強引に俺の気分転換を無理やりやらせようと言うのは……悪くはないか。

そんな事を思いつつ、竜胆に腕を引かれ先導される形で校舎内の廊下を進んで行った。

 

 

「よし!試験の時の食材は?」

「卵」

「じゃあ、卵で1品よろしく!」

 

そう言って椅子をギシギシ鳴らしながら身体を揺らす竜胆。

やってきた場所は校舎内の厨房。冷蔵庫には食材が豊富に揃えられてるし調味料だって完璧に装備。

作れるにゃ作れるが、

 

「〜〜〜♪」

 

面倒……とは思うがたまには竜胆に振る舞うか。

となると何を作ろうか。卵…卵……、

 

そんなことを思いつつバッグの中から包丁の収納ケースを取り出す。

中から出刃包丁を。いつもメンテは欠かしてないから今日も輝いてる。見ただけでわかる切れ味。手にも馴染む。今日は調子がいいな。

 

さて、何を作るか。頭でレシピを浮かばせながらいつもの癖で右手に持つ出刃包丁をペン回しのごとく回す。

 

「……久々に見るなぁ、奏の包丁回し。うわー、よく回せんなそれ」

 

竜胆の言葉が聞こえてくる、がそれに意識を割く気もない。

頭の中には色んなレシピ。

久々に振る舞うと思った手前、オムレツなんかで済ませる気もない。玉子焼きや目玉焼き、ゆで卵なんてもってのほか。そんな手抜きは矜恃に反する。

さて、朝の時間それに合う、腹は膨れるが重くない料理。

 

「……あれで行こう」

「お?決まった?」

「まあ……一応お前はまだ食ったことないはず…」

 

そう言うと、「それは楽しみだなぁ、楽しみすぎる」なんて言いながら大きくなる体の揺れ。……そのまま椅子から滑って落ちて骨折でもしろ。

 

さて作るか。

手にしていた出刃包丁をしまい、バッグを手に厨房へ立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出来たぞ」

「待ってましたー!」

 

はしゃぐ竜胆の前に皿を置く。

そこに乗せたのは1つの、

 

「……ハンバーガーか?これ」

 

見た目はただのハンバーガー。

 

「まあ食え」

「はいはーい。そんじゃ早速……いただきます、っと」

 

一言そう言うと早速手に取る竜胆。そのまま口へと運び……齧り付いた。

 

「っ!?」

 

直後ビクッと体が反応する。

口に入った1口を何度も何度も噛み締め、味わった後に喉を鳴らしながら胃へ落とし込む。

その後吐き出される吐息。……反応がいちいち大袈裟すぎる。なんで飯食う光景見て色っぽいとか思わなあかんねん。

 

「なるほどなぁ」

 

吐き出された言葉。

 

「これ、バンズがクレープの生地か」

「正解。クレープの薄い生地を何度も折りたたんで厚みを出してバンズにしてる」

 

そう言うと頷く竜胆。

 

「それに挟まれたシャキシャキの野菜類。それにかかってるのは…」

「ごま油だな。調理中ずっと漬けておいた」

「それだけじゃないな?ごま油の中に砂糖と……醤油辺りかな」

「油だけだとくどいしな。おつまみでよく使う組み合わせドレッシングだ」

「それに……」

 

そこまで言うと再び齧り付き、咀嚼し飲み込み、首を縦に振り頷いた。

 

「このハンバーグ、豆腐か」

「そ、肉オンリーはこの時間は重いからヘルシーにな?豆腐バーグだよ」

「しかもかかってるこれケチャップじゃない」

「おう、ケチャップの原材料のトマト。それをペーストにして乗せただけだ」

「しかも…」

 

そしてまたもや齧り付く。

 

「卵の中にはチーズが挟まれてるときた」

「まあ、気づくよなー」

「はは、流石だわ。こんなの……美味くないわけないじゃん」

 

そこからはもう怒涛だった。

齧って齧って齧って齧り付いて、そしてその手からはいつの間にかハンバーガーが消えていた。

 

「どうだ?満足?」

「大・満・足ッ!!!ありがとな、奏」

「……どいたま」

 

竜胆の満面の笑顔に思わず俺も口角が上がった。昔から俺の料理を美味そうに食べて……、こう見りゃ美人なのにな。

 

「お!奏の笑った顔とか久々に見たな!」

「……」

「あ、おい。真顔に戻るな!」

「……終わったし帰ろー」

「おい、ちょっと待てってー」

 

バッグを肩にかけて部屋を出るとそれに続いて竜胆も出てきた。

着いてくるなっての。

 

 

 

 

 

あ、俺が食おうとしてた分そのまま食わずに置いてきちまった。




感想、評価待ってます。


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第4話

料理の構想が浮かばない。


編入試験から約ひと月。俺は今、遠月学園にいた。

……なんで?

 

いやわからん。あの時俺は料理を作ってなかった。なのに何故かあれから1週間後に合格通知届いてなんか遠月に入ることになってた。

怖い。なんだ?俺は騙されてるのか?

 

そんなことを思いつつ入学式の今日、ここに来たが、職員たちからはすごい歓迎されたし多分合格してるんだろう。

……いやなんで?

 

『━━学年章の授与に移ります。新1年生総代、薙切えりな』

「はい」

 

あ、あの試験官ちゃんだ。

相変わらず可愛いね。……いや、待て俺はあいつにイラついてたはずだ。

可愛くなんてねーよ、ばーかばーか。

 

そんなことを思ってる間に試験官ちゃん……えりなちゃんが教師から学年章を受け取り壇上から降りていっていた。

 

『続いて、式辞を頂戴します。遠月学園総帥、お願いします』

 

そのアナウンスの後に壇上に現れたのは髭面の渋い強面なおじいちゃんだった。

確か名前は……仙左衛門(せんざえもん)?すごい名前。古風だね。

 

『諸君、高等部進学おめでとう。諸君は中等部での3年間で調理の基礎技術と食材への理解を深めた。実際に料理を行う調理教練と各種の座学。栄養学、調理理論……公衆衛生学、栽培概論、経営学……、そして今、高等部の入口にたった訳だが、これから試されるのは技巧や知識ではない。料理人として生きる気概そのもの━━』

 

━━諸君の99%が1%の玉を磨くための捨て石である。

 

……なんともまあすごい競争主義。じいさんの話を聞いていて率直な感想だ。

ここまで行くと狂気だね。

 

『昨年の新1年生812名のうち2年生に進級できたのは76名。無能と凡夫は容赦なく切捨てられる。千人の1年生が進級する頃には百人になり、卒業までたどり着くものを数えるには片手を使えば足りるだろう。そのひと握りの料理人に君が……君が成るのだ!!!』

 

 

 

研鑽せよ

 

 

 

『……以上だ』

 

そうして壇上をそでから降りていくじいさん。なかなかの激励。カリスマ性は流石のものだ。

見るからに生徒たちの顔も引き締まってる。

 

『━━えー、最後に高等部から編入する2名を紹介します。まずは……幸平創真』

 

……へ!?何!?編入するってなると壇上でなにか言わなきゃいけないの!?聞いてない!聞いてないんだが!?

何か言うこと…!と、とりあえず俺以外に編入生いるらしいし、そいつが話してる間にまとめておいて…、

 

『やー…、なんか高いところからすいませんね、へへ。所信表明でしたっけ?参ったな、やんなきゃダメすか?だ、壇上でとかこそばゆいっすわー』

『い、いいからさっさとしなさい』

 

…!この声。

俺は思わず壇上の方に目を向けた。

そこに居たのは、

 

『えっとーじゃあ、手短に二言三言だけ……』

 

あの時の受験生だった。

 

『えっと、幸平創真って言います。この学園のことは正直……踏み台としか思ってないっす。思いがけず編入することになったんすけど、客の前に立ったことも無いような連中に負けるつもりはないっす。入ったからには、テッペン獲るんで。……3年間よろしくお願いしまーす』

 

……耳塞いどこ。

そうして受験生、そーまくんの所信表明が終わって俺が耳を塞いだ瞬間。

 

「ふっざけんな!!!」

「ぶっ殺すぞテメェ!!!」

 

うわぁー怖。

在校生側から聞こえてくるブーイングの数々。俺この中で次所信表明するの?気まずいし嫌なんだけど。

 

そんな思い虚しくアナウンスは流れた。

 

『え、えーでは続きまして……橘奏』

 

呼ばれた。呼ばれてしまった。

まあ行くしかないか。

そう思いつつ重い足を引きずりながら壇上へと登った。

在校生たちを見れば血走った目。なんともまあ料理人らしからぬ表情だ。

てか何を話すか。まとまって「ピュゥーイ!」……え?

 

在校生側から聞こえてきた指笛の音。思わずそちらに目を向けてみたら。

 

「あ」

 

めっちゃ笑顔で手を振る赤毛の猫目の妖精が見えた。幻覚だ。ウンソウダ、キットソウ。

さて、ついにマイクにまで来てしまった。とりあえず手に取る。

 

「ん?」

「〜〜〜!?!?!?」

「!」

 

思わず顔を上げてみると俺のいた舞台袖の反対側の舞台袖から覗く2人の人物。手を振るそーまくんと驚いてあわあわしてるえりなちゃん。

表情豊か。百面相?

一応手を振り返しておこう。お、親指立てられた。ピースしとくか。

 

『あ、あのー…』

「ん?ああ、そっか……とりあえずこっち終わらせなきゃか」

 

アナウンスに注意されてしまった。

ちゃんと挨拶はしなきゃな。よし。そうして咳払いをひとつ、俺は口を開いた。

 

「初めまして、橘奏です。よろしく。……うーん、そうだなぁ。はっきり言えばこの学園興味とかなかったんだけどいつの間にか流れ流れで来ることになったって感じで……ま、いつも通り料理を楽しむをモットーに頑張ろうかなって…、トップとか、そーいうのは興味無いんであんたらで好きに競えばいいと思います。応援してるよ。頑張ってください」

 

そう言ってマイクを元に戻す。

ふぅーこれでよし。……あ、忘れてた。

 

「あ、最後に……3年間よろしくね。今度こそ終わりでーす」

 

よーし、完璧。さっさとトンズラこくか。と、小走りでその場を後にする。

 

「「「━━━━っ!!!!!!」」」

 

うおっ!すげぇ怒声。ビビるわ。いっぺんに叫ばれて何喋ってるかわからん。

と、まあそんな怒声をバックにあの2人がいる舞台袖へ来ると、

 

「━━あんたの口からはっきり美味いって言わせてやるよ。俺の料理の限りを尽くして」

 

……なんか青春してるー。

さて俺は気づかれんうちに移動しよう。こういう時に影のうすさは便利だな。

 

「あ」

 

と近くに総帥のじいさんがいた。怖い。もうマフィアの首領感が凄い。子供見たらちびるんじゃね?

 

「ども」

「……うむ」

 

そんな短い言葉を交わし横を通り過ぎる。その時、

 

「……あの余り物のハンバーガー、頂いておいた」

「っ!?」

「美味であったぞ」

「……そすか。どーも」

 

まさかの俺のあの置いてきてたハンバーガーを食ってたのか。

……俺を合格にしたのはあのじいさんなのかもしれんな。

 

てか、この後は普通に授業あるんだっけ?

向かっとくか。




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第5話

料理描写の難易度…!


「ペアは決まりましたかな?それでは今からこのペアで料理を作ってもらいます」

 

先生の言葉が頭に入ってこない。

なぜって?

 

「「「「〜〜〜っ!」」」」

 

後ろからの視線が俺を殺そうとしてるからさ。

何あれ?怖いんだけど?俺はあんたらの親の仇か。

 

「えーと……よ、よろしくね?」

「ん?ああ、よろです」

 

とりあえずペアを組んだ人がいるんだ。迷惑かけんようにちゃんとしなきゃな。

……いや、やっぱ後ろが怖。

 

「さて、皆おはよう。今日ここにいるもの達は学生……ではあるが厨房に立ったのであればその身分はもう関係ない。料理人として美味な品を作る責任が生まれる。そのことを肝に銘じて今日の……いや、これからの授業に臨んでもらいたい」

 

そこまで話した教師は手にしていたクリップボードを開いた。

 

「では本日は【アクアパッツァ】。こちらを作ってもらう。イタリア料理の中でも定番のものではあるが……念の為レシピはホワイトボードに貼っておこう。制限時間は、そうだな……多めに2時間としておこう。完成した組から順に来なさい。では、調理開始!」

 

その言葉に一斉に動き出す生徒たち。

なるほど、アクアパッツァ……。

 

「……わからん、レシピ見てくるか」

「え?」

 

驚くペアの女の子を置いて前のホワイトボードへと向かう。

ふむふむ、なるほど……言ってしまえば、

 

「魚と貝のスープってとこか。おっけおっけ」

 

さてさっさと戻ろう。女の子がすごいキョトンとした目で見てるからね。

 

「よしじゃあ作ろっか」

「え?あ、うん……」

「あ、その前に……どうも橘です。橘奏。よろしくね?」

 

ちゃんと自己紹介しとかなきゃ。親父にも礼儀はちゃんとねとか言われてたし。

 

「え?あ……さ、榊涼子です。よろしく」

「そっか。じゃありょーこちゃん。早速食材取りに行こか?」

「あ、うん」

 

そんな会話をしつつ食材の置かれたテーブルまで来たが、

 

「……ふむ」

「これは」

 

……鮮度が悪い。テーブルに置かれた鯛を見て思った。

周りを見て見たらパッと見かなり鮮度のいい魚。この中で最も鮮度の悪い魚が残ったということか。

ま、でも、

 

「問題なし、だな」

「え?」

「りょーこちゃんはハマグリと野菜類持って行って」

「わ、分かったわ」

 

さて、あれはあるかなーと冷蔵庫の中を見る。

お!みっけ。"これ"があれば鮮度の悪い魚の臭みは取れる。

それを持って俺は小走りでりょーこちゃんの元へと急いだ。

 

「おまたー」

「あ、おかえり。なにしてたの?」

「ん?ちょっとね……、とりあえずりょーこちゃんハマグリと野菜類の準備頼んでもいい?魚は俺でやっとくから」

「うん、いいけど…」

 

さて役割分担も決まったなら早速やってくか。

まずいつも通り魚をサッと水洗い、その後腹を裂き、内臓を取りだし血合いも取る。そしてまたぬめりが取れるまで水洗い。

 

ぬめりが取れたらキッチンペーパーで水気を取りふり塩。魚全体に塩をかけ、満遍なくかけたなら少し寝かす。

 

「これでよし」

「ねえ」

「ん?」

「ハマグリなんだけど…」

 

りょーこちゃんが気まずそうにハマグリを出してきた。

なんだろう。そう思いつつハマグリを見てみる。なるほど、

 

「砂、多いね」

「ええ、どうしよう」

 

砂抜きはもうしてあったが俺たちが取ったのは最後に残ったハマグリたち。他と比べてまだ砂が残ってる。2時間もあれば取れる量だが、調理時間を考えると足りない。

……よし、

 

「これは俺に任せといて」

「……大丈夫?」

 

不安そうに聞いてくるりょーこちゃん。

 

「……信用がないな…」

「え、あ、ち、違うのよ。その……」

「あーいいよいいよ。大丈夫。とりあえず任せておいてくれれば。フライパンの方任せた」

「え、ええ」

 

半信半疑で包丁を握る彼女は時折こちらをちらちら見ていた。

とりあえず俺は鍋に水を入れる。

それを加熱。その間にやれることはやっとこう。

ニンニクを手に取りみじん切りにトマトは……りょーこちゃんがやってくれてたか。

 

さて、水の方も適度な温度になってきた。そのお湯の中にハマグリを平たく重ならないように並べる。

 

ハマグリの砂抜きは通常塩水で5時間近く浸すことでできるものだが、時短方法もある。それが【50度洗い】。

50度近くのお湯にハマグリを浸すことでだいたい5分で砂抜きは完了する。

ただし、その分リスクもある。お湯に浸した段階でハマグリが死ぬ可能性。そうならないようにお湯の管理。水を入れ冷やし、お湯を入れ温め、水量が多くなったらおたま等で掬って捨てる。

 

「……はい、ハマグリいいよ」

「え?あ、ありがとう。ちゃんと砂抜きはできてる……」

 

そんなことしてる間に魚ももういいだろうか。

ふりかけた塩を水で洗い流し、食べやすいようにおろしりょーこちゃんへ。

 

「……ありがと」

 

驚きが混じった声。

ちょうどりょーこちゃんが魚を焼こうとしてるタイミングで渡せた。今日は調子がいいね。

 

……暇だからツマミでも作っておくか。

魚の要らない部分、骨と頭。骨の部分をついてる身と一緒すり潰し、頭はスプーンで身を取り出す。それを混ぜて捏ねて丸めてつくねに。

 

「あ、魚にこれかけて」

「これは……ヨーグルト?」

 

ヨーグルト。魚の臭み成分のトリメチルアミンを分解するもの。

トリメチルアミンはアルカリ性だから酸性のヨーグルトをかけると臭みは取れるのだー。

 

「スープに入れる時に入れといてくれればいいから」

「……分かったわ」

 

 

 

「はい、白ワイン」

「え?……ありがと」

 

 

 

「胡椒と塩、ここに置いとくから」

「あ、うん」

 

 

 

さて、そろそろ出来上がりに近いな。

……、

 

「……胡椒、もう一振しといて」

「え?う、うん」

 

ま、こんなもんかな。

そのまま蓋を閉めて蒸す。

 

弱火で5分近く。

さらに盛り付け、パセリを散らしたら。

 

「でけた」

「い、一番乗り…」

 

りょーこちゃんが料理を運び俺がそれを後ろからついて行く。

その間、他の生徒たちからの視線が痛かった。

 

「……はやいな」

 

開口一番、教師から言われた。

 

「いやー、てこずった方ですけどね」

「え」

「……まあ、頂こう」

 

そうしてスプーンで掬い口へと運ぶ教師。

その瞬間、

 

「っ!」

 

目を見開き動きが止まる。

そうして数秒、動き出したかと思えば、スプーンを止めることなく何度も皿と口を往復しだした。

 

「……ふむ、すばらしい」

 

笑顔で言葉を吐き出す教師。

 

「ヨーグルト、魚の臭みを消すにはちょうどいいものだがその分魚の旨みも逃げていくというデメリットもある」

「そうですね。なので逃げた先がスープになるようにしました。その分ヨーグルトのまろやかさを魚にぶち込んで味を整えるように調整を」

「ああ、口に優しい味だ。温かみのある、それでいて纏まった旨みがガツンと来た。……よろしい、君たちには文句なし【A判定】。ただ、これ以上の評価を下せるなら迷わず私は高評価してるだろうね」

「……そすか。そいつはありがたいですね」

 

よし、終わった。

 

「りょーこちゃん。今日はありがとね」

「え、あ、こちらこそ…」

「じゃ、またねー」

 

そう言って俺は教室を後にした。

ちなみに作っていたつくねは一緒にスープの中で蒸らして、それをタッパに入れて来た。

 

……うん、美味い。




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第6話

料理は書くのもやるのも難しい。


「……え?お化け屋敷?」

 

たまらず出た言葉。

学校の授業も終わり、暇になったので俺がこれから暮らしていく寮に早速行こうということで来たわけだけど……、

 

「……いや、まあ住めば都と言うし……、いや、やっぱり限度はあるだろ」

 

草木が生えまくり、建物には蔦が巻き付き、カラスが周りで鳴いている。

 

親から、『ここに行きなさい』とおすすめされた寮。どうやら在籍中に両親ともに暮らしていた寮らしいが……oh…。

いや、両親がいた時は綺麗だったのかもしれない。見た感じかなり大きいし、豪華な寮だったんだろうね。

 

でも今じゃもう、妖怪アパートですこれは。

いやまあしかし、

 

「行くあてもないですしおすし。行くしかないか……」

 

覚悟を決め俺は中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中は意外と綺麗だった。

外装は褒められはしないけど中はすごい。豪邸感を感じるシャレオツ空間。人は見た目じゃないとは言うが、まさか建物にも当てはまる言葉だとは……恐れ入る。

 

「ん〜?誰だい?」

「おん?」

 

ぼーっと中を見回していたら背中越しに聞こえてきた声。

振り返ってみるとそこに居たのは1人のおばあさん。

 

「あー、あんた編入生の……うちに入りたいってことでいいのかね」

「あぁ、ども。……まあ、そういう認識でいいですね」

「そうかい。それなら食材は持ってきてるんだろうね?」

 

……What?

 

「ん?食材?」

「そうさ。……なんだい?もしかして知らなかったのかい?ここ極星寮に入りたいって言うなら、極星名物腕試し。それをする必要があるんだよ」

 

……まじ?

おい、我が親おい!ちゃんと教えておいてくれよ!あのバカ!

それにしても極星名物腕試し……男塾名物直進行軍とかそういう危険なやつじゃないよね?

 

「腕試し?」

「そうさ。持ち込んだ食材で料理を作る。それをあたしが食べて合格だったら入寮」

「……不合格は?」

「もちろん野宿さ」

 

……この学園はバカばっか。

4月の夜ってくそ寒いから。そんな中で野宿とか朝には死体へと早変わりだわ。

 

「で?食材は?」

「……ないね、うん」

「じゃあ不戦敗だね。出直してくるこった」

 

俺はたまらず頭を抑えて天井を見上げた。

この態度、ガチで野宿コースだ。

 

「諦めな、厨房には使い残しの食材があるだけだ。ろくなもんは作れないよ」

 

……ふむ。食材はあるにはあるのか。

 

「今日は運が悪かったと「ねえ」……なんだい?」

「使い残しの食材は使っていいのね?……案内してくださいよ、厨房」

 

 

ほうほう、広いね。さすが料理学校。

寮母のおばちゃんに案内されてやってきた厨房。屋敷の外観とは違いかなり手入れされていて長年使ってるだろうに真新しさを感じるほどの清潔感。

そんな厨房を、まじまじと見ていると、

 

「……アタシはね虚勢を張るガキは嫌いなんだよ」

「……はあ」

「どれほどの数の学生の料理を食べてきたと思ってるんだい。急ごしらえの料理なんかに合格なんて出すと思ってるのかい」

「……」

 

兎にも角にも残ってるものを確認しない限りはなんとも言えないし、無理なら無理で素直に諦めるが……、大根やら人参やら野菜類の使いかけ豆腐が少し、ネギ……もある。

お酒は……あるな。

後は……なるほど、

 

「いけんね」

「っ!?」

 

俺のツマミも使ってそうだなぁ……アレ作るか。

 

「てなわけで、えーと……そういや寮母さんの名前って」

「……ふみ緒だよ。大御堂ふみ緒」

「なるほど。よしじゃあ寮母さん、今から作るんでちょいとお待ちを」

「……アタシ名乗った意味あるのかい?」

 

そんな言葉を耳に残しつつ俺は調理を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーし、お待ちどーさん」

「……なんともまあ、一体どんな手を使ったんだい」

 

数分後。

俺が出した料理、それは、

 

「なんでこんな立派な"じゃっぱ汁"が出来るんだい…!?」

 

じゃっぱ汁、青森の郷土料理。

 

「さば味噌の缶詰あったんでね、それ使わせてもらいましたよ」

「缶詰…!」

 

さば味噌の味噌、それを使って汁を作りそれを元に材料をぶち込んで作っただけの味噌汁。

 

「いや、でも、缶詰で作った汁なんて━━」

 

そう言って汁を飲む寮母さん。

しかし、予想に反しその目は見開いていた。

 

「なんだいこれは!?魚の生臭さも消えて……魚介の風味も…!」

「それはこれだね」

 

そう言って取りだしたのは授業で作ったツマミ。

 

「それは…!」

「今日授業で作ったアクアパッツァのあまりで作ったつくね。スープも多少入れてたからそれを使っただけですわ」

「アクアパッツァ。……貝と魚を使ったイタリア料理。なるほどそれならこの魚介風味の汁も納得できる…」

 

そう言って恐る恐る箸をじゃっぱ汁の中にあるつくねへとのばした寮母さん。

そのまま掴み取り口の中へ。

 

「…!…美味い」

 

そう言って吐き出された言葉。

それを皮切りに一緒に出した白米と交互に口へと運び、そして、

 

「……よろしゅうおあがりでした」

 

しっかりと完食。

口元をナプキンで拭き取り、

 

「よろしい、合格だ!入寮を認めよう!あんたの部屋は204号室だよ!」

 

そう言って渡される1つの鍵。

それを受け取り、

 

「ありがとございまーす」

 

そんな言葉を吐きつつ厨房を後にした。




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第7話:前半

長くなりそうだから区切った。


「……んぁ」

 

目が覚めて欠伸をする。

たしか俺は鍵もらって部屋に来て……そうだ、疲れからかベッドにヘッドスライディングかましてそのまま寝てたんだっけ?

もう窓の外も暗い、けどまだ眠いしな。

そうして俺はそのまま二度寝へと洒落こもうと━━

 

「やぁ」

「っ!」

 

ベッドの中に裸エプロンの顔のいい男が居た。

俺の絶叫が寮中に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はー…、はー…!」

「いやーごめんごめん。ちょっとしたイタズラ心だったんだよ」

 

心臓がまだバクバクいってる。

なるほど、これが恋か…。なわけあるかバカヤロウ。

女の子にモテなさすぎてついに男に走ってしまったかと一瞬思ったじゃねーか。

爽やかなイケメンだろうが男は嫌だ。

 

「やっていいイタズラとそうじゃないイタズラを区別してくださいな……で、なんか用で?」

「ああ、そうそう。君たち編入生の歓迎会を今からやるからおいでよ」

 

君"たち"?俺以外に編入生……、

 

「そーまくんもこの寮に?」

「そうだよ。2人の編入生、その両方がこの極星寮へ……僕は感激だよ…!」

 

感情豊かですね。

 

「……まあ、分かったけど…とりあえず風呂入りたいんで入ってからでいいですかね?」

「ん?ああ、分かったよ。それじゃあ205号室に集まるから準備できたら来てね」

「はーい」

 

そう言うと裸エプロン先輩……通称ホモ先輩は天井のタイルをあけそのまま天井裏へと入っていった。

……ゴキブリ?ゴキブリホモ先輩?属性値たけーなオイ。

 

……とりあえず風呂入ってこよ。

女子の寮生と鉢合わせるラッキースケベは起きなかったです。

……ホッとしたのか残念なのかよく分からない感情。

 

 

さっぱりした体で廊下を急ぎ足で歩いていた。

風呂場で寝てしまってだいぶ時間が経ってしまったからちょっと急ごう。

 

「205……205……」

 

確か205号室でやってたはず、俺の部屋は204号室なのでいわば隣だ。

 

そんなことを思いつつついには部屋の前まで来た。が、中からは特に何も聞こえない。

もしかしてここじゃない?いやでも205って書いてるし…。もしかしてもうお開きに?……ありえない?いやアリエールでしょ。

 

頭に疑問符を浮かべつつ恐る恐る扉を開く。

 

「お邪魔しまーす」

 

小声で、でもしっかり聞こえるような声で中を覗いた。

すると、

 

「あ、ようやく来たね」

「お、よお」

 

そーまくんと、ホモ先輩が座っているのが見えた。

それを確認できた俺はほっと胸をなでおろしつつ中へ。

 

「うえ?」

 

なんかみんな横たわってる。

なんだ?リアル大乱闘でもやってたか?

 

「ああ、みんな騒ぎ疲れちゃってね……」

「あぁ……」

 

テンション上げ上げだったわけだ。なるほどね。

 

「さて、奏くんも来たことで食べるものが何も無いというのは寂しいからね。確か……鰆の切り身があったはずだ。僕が何か作ってこよう」

「ああ、どうも…」

「……その格好で料理するんすね」

 

そう言ってホモ先輩は裸エプロンで台所へ向かった。

……引き締まったケツが目に入ってしまった。やめて頂きたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、2人とも出来たよ」

 

両手に皿を持ち登場したホモ先輩。

……にこやかスマイルを見る度に嫌にケツが引き締まるようになってしまった。助けてくれ。

 

「さ、どうぞ召し上がれ」

 

渡される皿。それを手に取りよく見てみる。

鰆の山椒焼き、横にはキャベツのピューレ。……なるほど、これは美味いな。授業で見ていた生徒たちと比べて段違いの出来。

何度が首を縦に振り、箸を伸ばす。

身がホロホロで柔らかい。崩れた身をまとめて掴み取り、そのまま口の中へ。

 

「……うん」

「っ!」

 

横で驚きの表情を浮かべるそーまくん。

 

「美味いね、先輩」

「あはは、ありがとね奏くん。……ところで創真くんさぁ、始業式で面白いこと言ったらしいじゃないか。遠月の頂点を目指すっていうことは君が思ってるほど簡単なことじゃないかもしれないよ━━」

 

 

 

遠月十傑第七席

一色 慧

 

 

 

「……」

 

頭に巻いた手拭いをとり、堂々と名乗ったホモ先輩。

十傑……親から聞いていた、教師たち以上の権限を持った遠月で料理のうまい10人。その1人ということなわけだ。

さらに七席。単純に遠月で七番目に料理が上手い人ってことだろう。

 

「あんたが……十傑…!」

「さあ、お次は創真君の料理を食べてみたいな。君はいったいどんな皿を出してくれるんだろうか…」

 

ホモ先輩の言葉に冷や汗を垂らしながら笑うそーまくん。

……燃えてるねぇ。




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第7話:後半

そう言えばランキングに乗っててびっくりした。
……てかいきなりアクセス数爆上がりで怖い(ガクブル)。


さて、ホモ先輩とそーまくんが2人とも台所に行ってしまった。俺は俺でホモ先輩の料理をゆっくり食べますよ。

……美味し美味し。

 

「……んん」

「ん?」

 

声が聞こえてきた。怖い。

と一瞬思ったが伸びてる人の1人がどうやら起きたらしい。

目が前髪で隠れてる男。

 

「……あんた…」

「あ、ども。橘奏です。編入生で今日から極星寮生です。よろしく」

「ああ、あんたが……幸平たちは?」

「料理勝負中。ホモ先輩がそーまくんにふっかけてた」

「……ホモ先輩ってまさか一色先輩のことか?」

「おん。俺の昼寝中に裸エプロンでベッドに潜り込んで起こされた」

「ああ……」

 

なんか諦めの混じった声。……みんなも苦労してるんだね。

 

「それは?」

「ん?これ?ホモ先輩の鰆の山椒焼き。美味いよ」

「……だろうな」

 

やっぱりここのみんなはホモ先輩が十傑だって言うのは知ってるみたいだな。

そりゃそうか。そりゃそうだ。

 

「……えーと目隠れくん」

「伊武崎だ。伊武崎峻」

「うんよろしく目隠れくん」

「……お前人の話聞かないタイプか」

 

なんか呆れられた。なんかこう昔から第一印象で呼ぶ癖があるからな、俺。

 

「ま、それはさておき、食べるこれ?」

「……もらう」

 

差し出したホモ先輩の料理。

目隠れくんはおずおずと箸を伸ばしてきた。

 

 

 

 

 

そんなこんなでそーまくんの料理ができ上がろうとした時、

 

「むん…?」

 

しゅんくん(打ち解けた)としゅんくん作のおつまみを食べている時にそんな声とともに起き上がった女子2人。

 

「う〜寝ちゃってた……って幸平また料理してる」

「まだお腹すいてるのかしら」

「あ、おはよー」

「「おはよ━━━━え?誰!?(橘くん!?)」」

 

驚かれた。……いっつも驚かれる。

いやでもしゅんくんはそこまで驚いてなかった。ありがとう。

 

「今日から極星寮生になりました、編入生の橘奏です。気軽にカナカナって呼んでね」

「お、おお、よろしく……」

「寮も一緒なのね……」

 

なんか煮え切らない反応。嫌われてます?俺?

 

「しゅんくん、冷たくないあの子たち」

「……まあすぐ打ち解けられるだろ、橘なら」

「そうであって欲しい…」

 

切実にそう思う。

 

「それより今どんな状況?」

「料理対決だよ。一色先輩から吹っ掛けたらしい」

「「……」」

 

しゅんくんの言葉にホモ先輩を見る女子2人。

 

「……この場合先輩の服装にコメントは要らないの?」

 

うん、分かる。気持ちはすごいわかる。

だって裸エプロンだもん。男の漢が見えなくても桃とか見えちゃう……服装?なの?あれは?

そんな格好してるもんね。すごいツッコミたい。……突っ込みたいじゃないから、ツッコミだから(重要)。

 

「せっかくの勝負に水を差すのは悪いわよ…」

 

りょーこちゃんは優しいな。その優しさ大切にね。

 

 

 

 

 

「完成だ!」

 

そう言って出されたそーまくんの料理。これは、

 

「お茶漬け?」

「ああ!ゆきひら裏メニューその20(改)、鰆おにぎり茶漬けだ!」

 

美味しそう………いや美味い。おっとよだれが。

 

「注いであるのはなあに?」

「塩昆布茶だよ」

「……塩気とコクが〆にピッタリだね」

「お!分かるか、奏!」

 

にこやかに言うそーまくんに親指を立てておく。あ、親指立て返された。ピースをしておこう。

 

「こんなの出されたらお腹減るに決まってるじゃーん!」

 

そう言ってお腹を押さえるお団子ちゃん。

それにしてもこの鰆、焼き目が……なんだっけかなこれ。

とりあえず器を手に取り、早速1口……。それに続いてみんなも食べ始めていた。

 

「……ほう、こいつはいいね」

 

俺のつぶやきの横で他のみんなは、

 

「「「〜〜〜!」」」

 

恍惚な表情で堪能していた。

それにしてもこの食感……やっぱりあれだよなあの焼き方。

なんだっけかなー、ポ、ポ……パイ…じゃないし。ポパイはほうれん草でパワーアップするゴリラ男だし。

ポ、ポ、ポ、ポ……あれ?八尺様いる?

 

「……この鰆、ポワレで焼き上げられているね」

「あ、それだ」

 

そうそうポワレだポワレ。ポパイがポワレでポワレのポパイで……ん?

 

「「「ポワレ!?」」」

 

驚く3人。

 

「……いやなんで幸平まで驚いてんのよ!」

「いや、ポワレってなんだろうなーって……」

「はあ!?」

 

知らんかったんかい!ではここで…。

俺は1つ咳払いをし口を開いた。

 

「説明しよう。ポワレとは、フランス料理における素材の焼き方"ソテ"の一種でパレットナイフ等を使い素材を押えながら均一に焼き色をつける技法なのである」

 

まあ、臭みが出ないように魚から出た油とかをいちいち捨ててオリーブオイルとかを足しながら焼かなきゃいけないというめんどくさい焼き方なんだけどね。

 

「へー」

「へーじゃないわよ!」

「……教えて貰えるかな創真くん。なぜ君がこの技法を?」

 

騒ぐそーまくんとお団子ちゃんを他所に聞くホモ先輩。

 

「この焼き方は親父から教えてもらったんすよ。魚をパリッと仕上げるにはもってこいだってね」

「君のお父さんはフランス料理の修行を?」

「やー、俺にもよく分からないんすよ。どうもいろんな国で料理してたみたいすけど」

 

……ふむ。おにぎりをフレンチの技法で調理。なかなか斬新かつ自由な料理。

やっぱりそーまくんは面白いな。

 

「うん、おいし」

 

そーまくんの料理を完食した俺は器を置きながらそう呟いた。

 

「御粗末!」

「「「〜〜〜!」」」

 

……この学園の人達食べたあとの反応大袈裟な人多いよね。

 

「じゃあ次は……奏くん」

「ん?」

 

食べ終えたホモ先輩が話しかけてきた。

 

「1品、どうかな?」

「……あ〜なるほど」

 

これは俺になにか作れとのことかな?

 

「私食べてみたいかも!」

「……私も気になる、かな?」

「俺もまだ食ったことねえし食ってみてえ」

 

そう言って詰め寄ってくる同級生たち。

なるほど……そんなキラキラした目で見て、そんな楽しみかい。そうかそうか。でも、

 

「……材料残ってるの?」

「「あ」」

 

ホモ先輩とそーまくんの声が重なった。

材料がないんじゃ作れないよ。

 

「じゃ、お開きだね」

「「「「え〜〜〜」」」」

「……えーじゃない」

 

お腹も膨れて眠気もまた出てきた。

そろそろお部屋に戻ろうかな、とそう思った俺は立ち上がり身体中の骨を鳴らした。

 

「俺はもう眠いから戻るよ。料理はまたの機会に」

「……ま、しょうがないか。楽しみにしてるぜ、奏」

 

俺と同じく立ち上がり拳をつきだすそーまくん。

その拳を見つめ、俺はおずおずとその突き出された拳に拳を当てた。

 

「ん」

「〜〜っ!素晴らしい!これぞ青春だね!」

 

……ホモ先輩はちょっとうるさい。

竜胆はじめ、十傑って変わりモンしかいないのか?

 

「そんじゃ、俺もう寝るね。今日はご馳走さん。ありがとう」

「はいはーい」

「またね」

「ちゃんと体を休めるんだよ」

「おう、おやすみ」

 

そんな会話をしつつ俺は部屋を後にした。




感想、評価待ってます。


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第8話

ちょいと短め、次回食戟。


「食戟?」

 

ある日の昼休み。例に漏れず竜胆と一緒にいた時に竜胆から言われた単語。

 

「おう食戟。なんかお前と一緒に入ってきた編入生がえりなちゃんの手下とやるみたいだぞ?」

「はあ……食戟……」

 

食戟?食戟……食戟?

……いや、確か親から教えてもらった気がする…、なんだっけ。……あー、確か、

 

「……料理対決して負けたら勝った方の言うこと聞かなきゃいけないんだっけ?」

「そうそう、そんな感じ」

「はえー、野蛮」

 

それにしてもそーまくんがね。……あの子トラブル起こしすぎじゃない?血気盛ん……思春期?

 

「てか、なんでまたそんなことに?」

「あー、えりなちゃんがどっかの研究会壊そうとして、それに居合わせてた編入生がやめろー、と止めたらしい」

「そんな経緯からゴタゴタあって、って感じか……」

 

それにしても研究会を潰す……。

 

「え?潰してどうするん?部室とか取り壊すん?」

「取り壊して、空いたその土地に新しくなにか建てるんだろうな」

 

……地上げ屋や何かかな?

 

「……てかなに建てんのよ。こんな学園に」

「まあ、個人の調理棟とか辺りでしょ」

「……もうヤクザやん。なに?十傑ってそんなことばっかやってんの?引くんだけど」

 

そういう俺の顔はとてつもなく冷めた目をしていたことだろう。

それを見た竜胆は慌てた様子で首を横に振っていた。

 

「いやいやいや、アタシはやんないぞ?アタシは色んな料理食べたいし……研究会無くすとかそんなことするわけないじゃん」

 

……確かに。それはそうか。

こいつの好奇心はすごいからな。なんにでも好奇心持つし。

昔、学校の帰り道で見つけたムカデを見て、食ったら美味しいかな?(お目目キラキラ)とか言うやつだもん。

そんな自分の好奇心を潰すようなことはしない……のか?

 

「てか、奏はどっか研究会入らないのか?」

「……いや、いいかなー、面倒だし」

 

研究部か……楽しそうだけど1人でのんびり料理してる方が好きだしな。

 

「じゃあさ!じゃあさ!アタシの付き人は!?」

「……は?」

「ほら、えりなちゃんのそばにいつもついてる秘書ちゃんみたいにさ!アタシの傍で奏が━━」

「いやいいかな!面倒だし!」

 

そう言って俺はすぐさま竜胆から離れて早足で歩き出した。

 

「おいおーい、いいだろー?かなたーん」

「ええいうるさい!……かなたん呼びは久しぶりだなおい!」

 

 

数日後。

はてさて今日は何をしようかな。とそんなことを考えていたある日の放課後、

 

「あ」

「ん?そーまくんじゃん。どったの?」

 

どんより雰囲気を纏ったそーまくんとばったり遭遇した。

 

「いやな、それがな…」

 

そう切り出したそーまくんの話。

要約すると━━

 

水戸というえりなちゃんの手下と食戟することに

お題は肉の丼物に

よし試作品作ろう

金が無くて試作するための材料すら買えない(イマココ!)

 

「なるほど…」

「まさか親父、適当に金入れるって言ってたけどほんとに適当に入れてるとはな…」

「いくらいくら?」

 

そう言ってそーまくんの手に握られたお金を覗き込む。

五千円札1枚、千円札1枚、200円に十円玉と一円玉が1枚ずつ…、

 

「……Woooow…」

「どうすっかなって感じだよ、今……」

 

そう言い頭を抑えるそーまくん。

元気が無い。致し方なし、ここは一肌脱いでやる場面だな。

 

「よろしい。そーまくん、君はここで待ってるのだ」

「あ?」

 

困惑するそーまくんを他所に俺は歩き出した。目指す場所はATM。たしか近くにあったはず……っと、見つけた見つけた。

そうして俺は意気揚々と中へと入っていった。

 

 

 

 

 

さて、用事も済み外へとでてきた俺。

そーまくんは壁に寄りかかりボケーッとしてた。

俺はそんな彼に近づき声をかけた。

 

「Hey」

「ん?おぉ、奏。……で?なにかあんのか?」

 

眉をひそめ不思議そうな声音で聞いてくる。

それに対し俺は不敵に笑った。

 

「ふっふっふっ……」

「な、なんだ?どうしたどうした?」

「そーまくん。……ここに2万円がある」

「へ?……へ!?」

 

手に持つその万札2枚をそーまくんへ。

 

「これを差し上げようじゃあないか。有効的に使ってくれたまえ」

「うえ!?マジで!?まじでいいのか!?」

「何を言ってる。友達だろ?困った時は助け合いだ。頑張りなさいよそーまくん」

 

彼の肩に手をおきそう言うと笑顔でその手を握られた。

 

「ありがとうな!いやまじで助かる!いつかなんかするから!まじでありがとう!」

「いいのいいの。さ、試作があるんでしょ。俺に構わず先に行けー」

 

俺の言葉に手を振りながら去っていく。

うんうん、今日も友の笑顔を守れたな。

 

……ま、食戟の勝ちも負けもそーまくん次第なのは変わらないけどね。




感想、評価待ってます。





そう言えば、ポワレ知ってるのにアクアパッツァ知らないことがあるのかと言う疑問が寄せられました。

……いやあるんです。作者の自分がそうでした。
この話書いてて色々調べて、おー色んな料理あるんだなーと思ったもんですよ、はい。


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第9話

1日2話投稿を目指してます……(瀕死)。


『お待たせしましたー!食戟管理局よりこの勝負が正式な"食戟"であると認められました!まもなく開戦しまーすぅ♡』

 

━━ワアァァァアァァアアァァアッ!!!

 

すごい盛り上がり。ただの料理対決なのにどデカい会場、司会者……テレビのクイズ番組か何か?

そんなことを思いつつ会場の通路を歩く。そーまくんが出るってことで来た訳だが……座れる席がない。満席だ。

 

まあ、歩きながらぼちぼち見ていくか。

 

審査員は3人、テーマは丼物、メイン食材は肉。シンプルだね。

そんなこと思っているとそーまくんの対戦相手、確か水戸?……下の名前が分からない。とりあえず響き的に黄門と呼んでおこう。

 

黄門ちゃんが出てくるのが見えた。

褐色肌にビキニスタイル。……油はねには気をつけて欲しい。あちいあちいだからね。

 

「お、そーまくん出てきた」

 

黄門ちゃんが出てきてすぐに反対側の通路からやってきた我らがそーまくん。……ブーイングがすごい。ここは手を振っておこう。

……あ、気づいた。めぐちゃんもいる。あ、頭下げてきた。そーまくんは手を振ってる。ここはピースを返しおこう。

 

『さあ、改めて勝負の条件を確認しよう!水戸さんが勝てば丼物研究会は廃部、かつ、幸平くんの退学!』

 

……ま?そーまくんすごい。退学かけてまで……か。

 

『そして!幸平くんが勝てば丼研の部費増額、部室の拡張と調理設備の増強!さらに━━水戸さんが丼研に入ることになりまーす!』

 

はあ……なんか釣り合ってない気がするのは俺だけなのかな?

そーまくんの退学はどこから出てきた?

 

……そういやあの黄門ちゃんってえりなちゃんの手下なんだっけ?

 

「………」

 

なんとなーく掴めてきたぞ。えりなちゃんってばそーまくんを目の敵にしてる節があるからな。そういうことなのかもしれんな。

 

顎に手を当てそんな考えをめぐらせていたその時、会場がざわめき始めた。

 

「ん?」

 

みんなの視線の先、俺の歩いてる通路の奥側から歩いてくる2人の影。

えりなちゃんと秘書子ちゃんだった。

 

「……やっぱ来んのね」

「っ、あなたは……」

「そんな睨みなさんな。秘書子ちゃんも牙剥く犬みたいに構えないの」

「だ、誰が秘書子だ!」

 

俺を睨みがましく見ていたえりなちゃんはスっと視線を外し、綺麗な髪をたなびかせ通路に置かれたソファに腰かけた。

……もしかしてここVIP席とかだったのかなー。迷子?いやいや、道が俺を導けなかっただけだよ。

 

つか、観客席からの死線すげー。何あれ人殺せる目だよ。そんなに皆えりなちゃんのこと好きなん?俺に離れて欲しいのかい?

 

「それなら隣に座るよねー」

「「っ!?」」

「お隣失礼ね」

 

近くのパイプ椅子をえりなちゃんの横に並べ背もたれを前に、それにひじとあごを乗っけて座る。

 

「……どっか行きなさいよ」

「もう歩きたくない」

「はぁ…」

 

さて、観客席からの憎々しい視線を無視しつつそーまくんと黄門ちゃんの勝負を見る。

 

『では!双方調理台へ!それでは参りましょう!負けたものは全てを失う舌の上の大一番……!食戟……開戦!!!』

 

始まった。

アナウンスを合図に両者早速調理へと取り掛かる。

うん、さすが早い。

 

そんな中、黄門ちゃんが初めに出したものは、

 

「……牛一頭まるまるかい」

 

小型とは言え牛一頭。しかも見るからにA5ランク。

 

「馬鹿だね」

 

黄門ちゃんの用意した肉を見て呟いた言葉。横で聞こえていたえりなちゃんはそれに反応してきた。

 

「……何がかしら」

「まじ?わからん?」

「……っ」

「ま、見てれば分かるよ」

 

クレーバーナイフで牛を解体していく黄門ちゃん。

パワフル、かつ繊細。技術に関しては申し分無し。さすがの一言。

 

さて、そうしてそんなに時間も掛からず取り出せた霜降り肉。それを早速焼き始める。

表面に焼き色をつけ、

 

「……バターか」

 

溶けたバターを掬い、肉全体に。

あれはいいね。食いてえな。腹減ったな。

 

「バターで肉汁を閉じこめる壁を作ったって感じね」

「あら、分かるのね」

「……そりゃね」

 

"二流のくせに"分かるのね、って感じかな。まったく、

 

「いちいち皮肉を言わんと死ぬ病気なのかね」

「っ」

 

お、オーブンにぶち込んだか。もうあれ焼きあがったやつだけで美味いだろ。もう食わせろ。丼には勿体ないからよ。

 

さて、そーまくんは……と、

 

「玉ねぎの大量みじん切りか……」

 

……なるほど。いい選択肢を取った。

そんなそーまくんはついに肉を取りだした。その肉は、

 

「スーパーの肉ですか…」

「……舐めてるわね」

「いや、正解だ」

「……それは、なぜ?」

 

睨んでくる2人の女子。人によっちゃご褒美になり得る構図だが、俺は違います。

 

「なぜも何も考えてみようよ、そこはさ。答えをすぐ聞かない。……ね?」

「「………」」

 

さて、なにか黄門ちゃんがそーまくんに言ってる。

勝負降りろとかそう言う所かな?

……A5ランクの肉使って勝ち確信してるようじゃまだまだやで。

 

そんなA5ランクの肉が焼きあがった様だ。

取り出し、机に置き、針を指し肉汁まとった尖端を唇につけていた。

ほう、面白い。

 

「緋紗子、彼女の料理を支えるもの……何か分かる?」

「……枝肉をも自在に取り扱うあのパワー、でしょうか?」

「それもあるわ。けど━━」

繊細さ(センシビリティ)……でしょ?」

「……ええ」

 

話に割り込ませてもらうぞ。俺はお前が嫌いだから嫌がらせをしたい。

 

「唇は人体の中で特に熱を感じやすいところ。つっても正確な温度……つまるところあの肉が今65℃っていうのまでわかるって言うのはそうはいない」

「っ!?」

「……あなた、分かるの?」

「ん?……あー、まああの子見てればそれくらいは「じゃなくて!」」

「触れもせずに温度がわかるの?」

 

目を見開くえりなちゃんに俺は笑った。

 

「さてね?勘かもよ?」

「……っ」

 

それにしても……そーまくんの方からすごいいい匂いがする。

……うん、美味いねこれ。

 

「そろそろ互いに仕上げだね。……食いてぇなー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まずは黄門ちゃん。

白米に花の花弁のように並べられた肉の切り身。

見た目はよし、味もいい。

 

実際に審査員たちの食いつきもなかなかのものだった。

俺も食いたいって思うもん、"あの肉"。

 

「ふっ、勝負あったわね」

「ですね」

「………」

 

ご飯は……ガーリックライスか?遠すぎてわかりづらいな。

ガーリックライスとA5ランクの肉か。

まあ、無難っちゃ無難かな?

 

お次は我らがそーまくん。

恐らく出してくるのは、

 

「シャリアピンステーキかな?」

「……シャリアピンステーキ。玉ねぎで肉を柔らかくした、と」

「ふん、それだけでは彼女を越えられないわよ」

「……それだけなわけないでしょうよ。まったく」

 

早計がすぎるぞ。

 

「ま、見てれば分かる」

 

その一言を言った時、ほぼ同時に審査員たちが1口、そーまくんの丼物を食べていた。

それを皮切りに箸をとめずに掻き込み始める3人の審査員たち。

 

「なっ!?」

「……っ」

 

驚く秘書子ちゃんに目を見開くえりなちゃん。

 

「丼物はあくまで丼物」

「……何が言いたいの?」

 

俺の口にした言葉に睨みを聞かせ問うてくるえりなちゃん。

 

「丼物は一椀の料理だよ?A5の肉は美味い。当たり前のことよ。でも、だからこそ圧倒的に丼物には不向き。味の強い和牛に対抗してご飯まで強くしたら当然味は喧嘩する。味はまとまらず一椀にはならない。あくまで肉とご飯だ。だからこそ安物の肉。味は薄いがその分タレとご飯で味をひきたて合わさることが出来る。………安いからこそ生まれる美味さもあるってこった」

「……クッ」

 

悔しそうな顔。その顔を見れただけで満足だよ。

 

「勝敗はもう決まったし、俺はもう行こうかな。じゃねーえりなちゃんに秘書子ちゃん」

「……ええ、さようなら」

 

冷たい声。怒りも含まれてる。……も少し優しくしてくれたっていいじゃない。

 

「そんな不機嫌にならずに、えりなちゃんが思うより料理は奥が深くて広い世界だってこと……今日はそれを知れてよかったじゃない」

「っ!」

 

うお、すっげー眼光。

体に穴空いてない?大丈夫?

 

とりあえず俺は小走りでその場を後にした。

あー、こえーこえー。




感想、評価待ってます。


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宿泊研修
第10話


暇つぶしで書き始めたものがランキングに入ってて、しかも2位とか驚きすぎて腰が吹っ飛んだ。
たくさんの人に見られてもう怖い。


「よし、ハンカチは持ったかー!」

「……おー」

「ティッシュは持ったかー!」

「……おー」

「着替えは持ったかー!」

「……おー」

「ぃよーし!行ってこい!」

 

そう言って背中を思いっきり叩かれる。

 

「……いってぇ」

 

そんなこんなで朝の早い時間。俺は竜胆に送り出されていた。

 

「お土産よろしくなー!」

「いやでーす」

 

 

「宿泊研修?」

 

数日前の昼休み。例に漏れず竜胆と二人で歩きながら授業で俺が作っていたツマミを食べていた時だった。

竜胆から言われた言葉、"宿泊研修"。響きはとても楽しそうなものだが、

 

「おう、もうそろそろその時期になってきてるだろ?……あれ?連絡とかまだ来てない感じか?」

「なーんも知らん」

 

そう言うと懐から出した1つのしおり。

そこには【友情とふれあいの宿泊研修】と書かれていた。

……クシャクシャになってるけど。

 

「おま、相も変わらず物の管理が……」

「別にいいだろ読めんだから。ほら」

 

手渡されるそのしおり。中を開いてみると持ち物や宿泊場所の情報が書かれていた。

 

「……パッと見楽しそうだねこれ」

「おう、実際楽しかったぞ」

 

宿泊場所は遠月の運営するリゾートホテル。一泊で8万くらい持ってかれるかなりの高級ホテルで少しワクワクする。が、その楽しみに満たされた心が次の言葉で消えた。

 

「まあ、それでアタシたちの学年、半分以上は退学くらったけどな」

「……はあ?」

 

半分……1学年千人近くと考えても五百人?しかもそれ以上?

あれ?地獄かな?

 

「いやー、仲良くなった人たちも退学していって残念だったけどまあ普通に楽しかったぞ」

「……いや、なんかもう行きたくなくなったなこれ」

「周りが言うには【友情とふれあいの宿泊研修】ならぬ【無情と篩い落としの宿泊研修】だってよ」

 

……この先こんな地獄が沢山待ってるならここで篩い落とされた方が幸せな気がしてきたぞ。

 

「てなわけで頑張ってこいよー」

「うーん、軽いなぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バスに揺られ目的のリゾートホテルに向かう中で数日前の竜胆とのやり取りを思い出していた。

 

「無情の篩い落としねぇ……」

 

今どきの料理業界はおっかないね。

なんというかもっとこう手心というか……。

とそんなことを思っている中その目的のリゾートホテルが視界に入ってきた。

 

「……でっか」

 

土地も建物も合わせていくらつぎ込んだのだろうか。

ホテルと言うよりもほぼ城みたいなそんな建物がドドドンと構えられていた。

 

某県某郡、富士山と芦ノ湖が一望でき、避暑地として名高いこの地に構えられたホテル。そりゃリゾートだわ。

 

「そろそろ降りる支度をしといてくださーい」

 

どうやらそろそろ着くらしい。俺は手を組み上にあげ、伸びをしながら骨を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっす」

「お、奏も到着か」

 

バスを下り集まっていた極星寮生たちの元へ。どうやら俺で最後だったらしい。

 

「それにしてもデカイねー」

「一泊8万らしいぜ?」

「しかも一人分で!」

「らしいねー」

 

そーまくんとお団子ちゃんのテンションがすごい。是非とも試験中もそんな感じでいて欲しい。

 

「ここに泊まれるとかマジでテンション上がるよねー!」

「アゲアゲ?」

「アゲアゲェー!」

「……今日の試験を生き残れたらな」

 

お団子ちゃんとそうやって拳を突き上げあっていたらしゅんくんが現実を見せてきた。

……さすがはしゅんくん。俺たちが直視したくない現実に目を向けてやがる。

 

「……伊武崎ってボソッと冷めたこと言うよねー」

「現実主義なんでしょうね。さ、張り切っていこー」

「……橘は橘で呑気だよねー」

 

何を馬鹿な。俺ほどきっちりした男はいないぞ。多分。

 

 

ピリッとしてる。

会場について真っ先に思ったことだ。

これから始まるのは篩い落としの地獄の合宿。そりゃここまで張りつめるものだが、ちと、張りつめすぎてるな。

 

「そうは思わないかねお団子ちゃん」

「……うえ?な、何が?」

 

ここまで張りつめててもいいことは無い。大事なのはリラックス。そう、脱力して━━

 

「……zzz」

「……あれ?橘?……立ったまま寝てる…!」

「ん?寝てたか」

「……気、ぬきすぎじゃない?」

 

お団子ちゃんのジト目。……ふむ、なかなか可愛いものだな。

 

「……料理する時肩に力入れる?」

「え?」

「力入れない方がいい料理は作れる。……そういうこと」

「……はぁ、やっぱり橘って変なやつだよねー。ま、でもありがと」

 

そう言って笑うお団子ちゃん。

うんうん、いい顔になった。それでいい。

 

とそんな会話をしていた時だった。

 

『おはよう諸君。ステージに注目だ。合宿の概要について説明する』

 

始まったか。

ステージに立ちマイクを手に口を開いたのは遠月講師、ローラン・シャペル先生。

先生の話を要約すると、

 

日程は5泊6日。

連日料理関連の課題が出され、課題内容は毎年違う。

初日は20のグループに分けられ、各々指定された場所にレッツらゴー。

講師の評価ラインを下回ったらバスに乗せられ地下労働行き……改め学園に戻され退学と。

 

「……なるへそ」

『さて、最後に審査に関してだがゲスト講師を紹介しよう』

 

ゲスト講師……有名人?

 

『多忙の中集まってくれた、"遠月学年、卒業生"たちだ』

 

先生の言葉にざわめき出す会場。

卒業生。ほかの学校だと何の変哲もない言葉だがここ遠月だと話が違う。

一桁の卒業率、それを勝ち抜いた人達ってことだ。料理の腕はモチのロン一流。

それはそれは、

 

「……面倒くさそーな合宿になりそうだな」

 

そういった途端にゾロゾロとステージ上に現れた男女の集団。

あれが卒業生か。……親父たちと同じ雰囲気を感じる。

 

「ンー……前から9列目……、眉に傷のある少年」

 

唐突に口を開いた先頭のメガネさん。

眉に傷と言えば……そーまくん?え?なんかやったのあの子?

 

「あー、悪い悪い隣だ」

 

あ、隣か。良かった良かった。またそーまくんトラブルを起こしたかと思った━━

 

「オマエ、退学ね」

 

……へぇ。なるほど、こういう感じね。

退学を言い渡された生徒が反論する中、俺は1人この合宿について納得していた。

 

退学を言い渡された生徒は柑橘系の整髪料を使ってた。その匂いは料理の香りを邪魔をする。故に退学。

1発退場。2度目も何も無い。失敗は即ゲームオーバー。

 

そりゃ半分退学くらうわけだ。

 

「ヒィー、きっつ……」

 

小声で俺はそう呟いた。




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第11話

疲れからか惰眠をむさぼっていました。


『ようこそ、我が遠月リゾートへ』

 

坊主頭の男の声をマイクが拾う。

その声は会場のものを静まらせるのには十分な威厳のあるものだった。

 

『今日集まってくれた卒業生たちは全員が自分の(みせ)を持つオーナー・シェフだ。合宿の6日間、君らのことを自分たちの店の従業員のように扱わせてもらう。……意味わかるか?俺達が満足出来ない仕事をするやつは━━』

 

 

 

━━退学(クビ)ってことだ

 

 

 

「……ヒエー」

 

たまらずこぼれた言葉。かなりの小声で出た言葉なのに卒業生の何人かに目を向けられてしまった。……お口チャックのジェスチャーをしておこう。

あ、目をそらされた。許された。

 

『講師の裁量で一発退場も有り得ることは見ての通り、君らの武運を祈っている!それでは━━移動開始!』

 

さて、合図が出たなら行きますか……っと、

 

「皆の者さらば」

「んじゃね!」

「ああ」

「あ!夜は丸井の部屋でトランプ大会な!」

「こんな時まで僕の部屋に集まらなくていいだろう!?」

 

そんな会話を極星寮のみんなとしながら指定された会場に向かった。

 

 

「━━集まったな。79期生卒業の四宮だ。この課題では俺の指定する料理を作ってもらう。ルセットは行き渡ったか」

 

講師のメガネさんの言葉を耳にしながら配られたプリントに目を向ける。

 

【9種の野菜のテリーヌ】

色とりどりの野菜が綺麗で豪華な見た目の料理……だが、名前の通り9種類の野菜を使用。それぞれに違う適切な下処理、火入れが必要になってくる。1つの素材の主張を激しくしたり、逆に弱くするのは‪✕‬‪‪。味をまとめあげなくちゃいけない、と。

 

ま、レシピがあるならヨユーではあるか。

ただまあ……なんて言うか、用意された材料がな……。

基本は程度がいい。が、数個だけ痛み始めのものがある。これは……、

 

「俺のルセットの内、比較的簡単なやつを用意したんだが……もっと難しい方が良かったかな?」

 

手にしたプリントをヒラヒラしながら俺たち学生を煽ってくるメガネさんを思わず凝視してしまった。

……えりなちゃん以上に嫌いなタイプだな、コイツ。

 

「……!」

 

あ、気づかれた。

……やめよやめよ。とりあえずフツーにつくっとけば合格はできる試験だ。変にトラブルは起こさない。

いつも通り……楽しく料理しよう。

 

「……。それとこの課題は個人でやってもらう。1人1品仕上げ、調理中の情報交換、助言は禁止だ。食材は厨房後方の山から任意で選び使用してくれ。最後にひとつアドバイスしてやろう━━」

 

 

 

━━周りのヤツら全員敵だと思って取り組むのが賢明だぜ

 

 

 

「………」

 

……なるほど。そーいうタイプか。何となく、何となーく掴めてきたぞ。

嫌いなタイプ……だけども根っからじゃないな。

メガネさん……いや、クソメガネと呼ぼう。クソメガネを何となく理解出来た気がする。……ただそれでも嫌いだなぁ。

 

「制限時間は3時間、それでは……始めろ」

 

さ、動きましょうか。

とりあえず、まずは、

 

「……これでいっか」

 

カリフラワーから確保。

取り損ねたら終わりだからね。

さて、次はっと…、

 

「あ」

 

次に行こうとした時ある人物を目にし立ち止まる。俺はもうひとつカリフラワーをクソメガネの死角になる場所で手にし、こちらに向かってくるその人物にクソメガネから見えない角度で押し付けた。

 

「……!?」

「……ふぁいと、りょーこちゃん」

 

小声で本人には聞こえるように。

……一緒のグループだったとは。もしかしたら学校での授業受ける時のグループを元に分けられてるのかな?

ま、わからんこと考えてもしょうがないか。

 

「……とりま、ぼちぼち作ってくか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったー」

 

やっと完成した。

9種類の野菜を各々で適切な違う下処理と火入れをするってことで、言ってしまえば9品の料理を作ってたに等しい調理。

おかげでいつもの授業とは違う面倒くささがあった。

久しぶりに肩がこる料理だったぜぃ。ただまあ、普段とは違う料理で意外と楽しいものだったな。

 

さてと、早速持っていきますか。

完成した皿を手にし、クソメガネの元へ。

……俺が一番乗りか。

 

「……速いな」

「そうですかね。自分の中じゃだいぶ遅い方なんですけど」

 

そう言いながらクソメガネの前に置く。

 

「ふん、まあいい。問題は味だ……」

 

言葉を吐きつつフォークを手に1口口の中へ。

直後見開かれた目。

 

「……っ。……合格だ」

「あ、どうも」

 

よぅし、終わり終わり。

……てか、試験終わったら何すればいいんだろ。自由時間?それなら何してるかなー。……久しぶりにカバディの練習でも「ところで」……。

 

「オマエ、試験中何か余計なことしてなかったか?」

「……」

 

会場を出ようとしていたところに背中越しにかかった声。

顔だけ振り返り声を掛けてきた男、クソメガネに視線を送る。

 

「余計なこと……例えば?」

「……心当たりがあるんじゃないか?」

「俺は例えばと聞いたんですけど?答えになってないんじゃないです?」

「………」

 

メガネ越しに睨みをきかせてくる。

俺はそれを一瞥し前に向き直った。

 

「心当たりはないんでもう行きますねー。お疲れ様でしたー」

 

背中に視線を感じながら俺は会場を出た。

さて、何しようかなー。




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