IS~箱の中の魔術師~ (ZZZ777)
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初陣、箱の中の魔術師!

連載のお知らせからかなり経ったのに読み切り版と殆ど変わらない1話。
この作品の更新ペースはかなりゆっくりです。

IS~箱の中の魔術師~始まるよ!



IS学園。

此処は、とある天才であり天災である科学者が開発したパワードスーツ、ISを学ぶための世界で唯一の学園。

 

 

ISは元々はその科学者が宇宙に行くために開発したものだが、その余りにも高すぎる戦闘力から既存の兵器全てを上回る超兵器としか認識されていない。

今現在、ISはその戦闘能力の高さから軍事転用されないようにアラスカ条約と呼ばれる条約で規制されている。

また、ISを作るにはコアが必要である。

しかし、そのコアは開発者である科学者しか作ることは出来ず、その科学者も467個目のコアを造ったのち失踪したため、ISの絶対数は増える事は無い。

そういった状況だから、水面下では各国や企業、果てはテロリストといった集団がISコアを巡って争っている。

 

 

ISの出現で大きく変わった世界の軍事情勢。

しかし、変わったのはそれだけでは無かった。

ISの最大の欠点、それは女性にしか動かすことが出来ない。

これにより、世界は女尊男卑の考えがこびりついてしまった。

 

 

だがそんな中、とあるニュースが飛び込んで来た。

 

 

『ISを動かせる男が見つかった』

 

 

そんなニュースが。

そのニュースを聞いた世界は、一瞬にして混乱に陥った。

その男を研究したり、抹殺しろという意見も出て来た。

だが、それは出来なかった。

何故ならば、彼はISのシェアトップクラスの企業、『タイニーオービット』と関わりがあり、タイニーオービットが彼の身柄を保護したからだ。

タイニーオービットは、彼に手を出したらその国や企業とは取引を停止すると発表。

その為、各国や各企業は手を出すのを断念せざるを得なかった。

だが、せめてもの抵抗として、彼をIS学園に入学させることにした。

IS学園は、アラスカ条約のもと設立した学園。

国や企業は生徒に手を出すことが出来ず、1度入学してしまえば安全である。

その為、タイニーオービットは彼をテストプレイヤーとしてIS学園に入学させることにした。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

4月になり、新しい学年が始まった。

IS学園、1年1組。

此処には、例の男性IS操縦者が在籍している。

彼の自己紹介の際には、歓声が上がる、そして担任の教員が彼に苗字が違うなどの訳が分からない事を言うなどのトラブルがあったが、それ以外は特に問題は無くIS学園入学初日は過ぎていっていた。

 

 

しかし、今現在新しいトラブルが発生していた。

トラブルが発生したのは3時限目。

IS学園はIS関連の授業がある関係上、初日から授業がある。

3時限目の授業の始め、担任の教諭はクラス代表と呼ばれるクラス委員の様な存在を決めるのを忘れていたため、今の時間に決めると言った。

推薦は自他ともに問わないと発言したため、彼がクラス中から推薦された。

だが、そんな中1人の女子生徒が反対意見を上げた。

彼女の名はセシリア・オルコット。

イギリスの国家代表候補生で、専用機持ち。

そして、典型的な女尊男卑思考の持ち主である。

 

 

「下等生物ある男がクラス代表だなんて、とんだ恥さらしですわ!」

 

 

彼女は席を立ちながらそう言葉を発し、彼よりも自分の方がクラス代表に相応しい事を演説していく。

そこまでならまあよかった。

だが、彼女は日本という国の事まで馬鹿にしだした。

彼女の代表候補生という立場からすると、イギリスが日本を馬鹿にしたと捉えられ、国際問題に発展する可能性がある。

それの可能性に、彼女は気付いていていない。

 

 

「そこの男!さっきから黙ってて、まさか怖気づいたのですの?これだから男は...」

 

 

「おいおいひどいなぁ」

 

 

セシリアが彼に向かってそんな事を言うと、今まで黙っていた彼が声を発する。

 

 

「俺には、()()()()()って名前があるんだよ」

 

 

そうして、この学園で唯一の男子生徒である彼...仙道イチカは、セシリアの事を見ながらそう言う。

 

 

「男の名前だなんて如何でもいいですわ!」

 

 

「おやおや」

 

 

セシリアはイチカの事を睨みながらそう言い、イチカは肩をすくめる。

 

 

「それで、お前は自分の言った事の重大さに気付いているのか?」

 

 

「何の事ですの!」

 

 

イチカがセシリアにそう尋ね、セシリアは心当たりがないのかそう反論する。

それを聞いたイチカは1枚のカードを取り出す。

そのカードとは、タロットカードだ。

その絵柄をセシリアに見せながら、イチカは言葉を発する。

 

 

「THE TOWERの正位置、崩壊。お前はイギリスの代表候補生何だろう?さっきの発言は、イギリスが日本に喧嘩を売ったって事だ。そうなれば、イギリスは崩壊するな。何故なら、ISの開発者と世界最強は日本人なんだからなぁ」

 

 

そのイチカの言葉を聞いたセシリアは、表情を変える。

漸く自分の発言の重大さに気が付いたんだろう。

 

 

「あ、あなた!私を嵌めましたね!」

 

 

「はぁ?お前が勝手に言ったんだろ。責任を押し付けるな。それとも、責任転嫁しないとやってられない程おこちゃまだったのかい?」

 

 

セシリアの無茶苦茶な言葉に、イチカは笑みを浮かべながらそう煽る。

煽られたセシリアは肩をプルプルと震わせて

 

 

「決闘ですわ!私が勝ったら、あなたを私の奴隷にしますわ!」

 

 

イチカに向かって指を指しながらそう叫ぶ。

 

 

「やってみろ」

 

 

イチカは笑みを崩さずそう返事をする。

 

 

こうして、セシリア・オルコットと仙道イチカの模擬戦が決まったのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

模擬戦が決まってから週も明け月曜日。

今から、クラス代表を掛けた模擬戦が行われる。

模擬戦が行われるIS学園の第一アリーナには、この試合を見ようと学園の生徒達が集まっていた。

全員が観客席に入れるわけが無いので観客席にはいれなかった生徒は中継を見ている。

そして、アリーナはもう既にセシリアが自身の専用機、ブルー・ティアーズを展開して浮遊していた。

観客は全員、イチカの登場を心待ちにしていた。

 

 

「おお、観客が多いのなんの」

 

 

ここで、イチカに与えられているピットのアリーナに続く入り口にイチカがISを展開していない生身の状態で現れた。

それを見たセシリアは笑みを浮かべる。

 

 

「は、ISを展開していないなんて、降伏でもしますの?」

 

 

そんなセシリアに向かって、イチカはタロットカードを1枚取り出すと絵柄を見せつける。

 

 

「JUDGEMENTの逆位置。希望は叶わず、不幸に見舞われる...お前は負け、絶望に叩き落される!」

 

 

イチカはそう宣言するとタロットカードを仕舞い、今度は別のものを取り出す。

それは...

 

 

「携帯電話?」

 

 

「違う、CCMだ」

 

 

一昔前の携帯電話を彷彿とさせる端末、CCMだ。

イチカはCCMを開き、コマンドを打ち込む。

 

 

「行こうか、ジョーカー!!」

 

 

そうして、イチカがそう言うと同時にイチカの身体を光が包み込む。

その光が止むと、その場には1機のISが存在していた。

だが、その外見は異様だった。

技術が発展した現在では珍しい全身装甲。

そして、トランプのジョーカーを彷彿とさせる道化師の様な外見。

カラーリングは黒がメインカラーで、金や赤が差し色として入っている。

そして、肩に担ぐようにして手に持っている大鎌。

その全てが、異様だったのだ。

 

 

「これが俺の専用機、ジョーカーだ」

 

 

イチカはアリーナに出て、セシリアに向かい合う位置に来てからそう言葉を発する。

 

 

「フン!時代遅れの全身装甲の機体など、私とブルー・ティアーズの敵ではありませんわ!」

 

 

セシリアはそう言うと、ブルー・ティアーズの武装であるレーザーライフル、スターライトmkⅢを展開し、構える。

それを見たイチカも肩に担いでいた大鎌、ジョーカーズソウルを構える。

 

 

『それでは、セシリア・オルコット対仙道イチカ...模擬戦、開始!』

 

 

「くらいなさい!」

 

 

開始の合図と同時に、セシリアはイチカに向かって発砲する。

だが...

 

 

「フン、遅いなぁ」

 

 

イチカはそう呟くとジョーカーを操作し、その弾丸を避ける。

 

 

「行くぞ!」

 

 

そうして、イチカはセシリアに向かっていく。

その際に()()()()()()()()()()をする事でドンドンと加速をしていく。

 

 

「は、速い!?」

 

 

セシリアは慌てて照準を合わせようとするも、イチカは空中の至る所を蹴り方向を変えつつ加速しながら接近していっているため、狙いが定まらない。

距離を取ろうとセシリアはスラスターを動かす。

だが

 

 

「遅いんだよぉ!!」

 

 

それよりも早く、イチカがセシリアに接近しきりジョーカーズソウルでセシリアの事を切り裂く。

 

 

ガキィン!

 

 

「きゃあ!?」

 

 

それにより、ブルー・ティアーズのSEが大きく削れ、火花が散る。

イチカはいったん離脱して、再び空中を蹴りセシリアに接近、切り裂く。

 

 

「如何した如何したぁ!?そんなもんかぁ!?」

 

 

イチカはそう煽りながら攻撃を繰り返す。

こうしてブルー・ティアーズのSEが4割を切った。

 

 

「あああ、もう!」

 

 

セシリアはそう言うと、闇雲に射撃を行う。

それ避けるためにイチカが身体の向きを変えると、その一瞬の隙を付きセシリアが大きく離脱する。

 

 

「はぁ、はぁ、よくもやってくれましたわね!こうなったら出し惜しみしません!行きなさい、ブルー・ティアーズ!」

 

 

セシリアはそう叫ぶと、ブルー・ティアーズのスカート部分から、4基のビットが切り離され空中に浮遊する。

このビットが、ブルー・ティアーズ。

機体名と武装名が同じなのでややこしいが、このビットは遠隔無線誘導型の武器で、セシリアの指示に従って動くというブルー・ティアーズ最大の武装。

 

 

「おおっとぉ?面白そうなおもちゃだなぁ」

 

 

「おもちゃですって!?馬鹿にするのはここまでにしなさい!」

 

 

セシリアはそう叫ぶと、ビットでイチカの事を4方向から狙撃する。

イチカはジョーカーズソウルを肩に担ぐと空中を蹴り狙撃を避ける。

ビットはアリーナを移動しイチカに狙いを定め狙撃する。

だが、イチカは猛スピードでアリーナの空中を蹴りながら移動し、避ける。

 

 

(...なんだ、この程度か。本人は動いていないしライフルでの射撃も無し。それに加えてこのおもちゃの動き方も単調で、温存かなんかは知らんがまだ2個使ってない。つまんねぇな)

 

 

「避けてばっかりですわね!これで終わりです!」

 

 

イチカが内心ため息をつきながら避け、セシリアは笑みを浮かべながらそう言う。

暫くこの状況は続いていた。

だが、何時まで経ってもイチカに射撃が当たる事は無かった。

その事に、セシリアはだんだんと苛立ってきている。

 

 

「何で当たりませんの!?」

 

 

「さて、そろそろ行くかぁ!!」

 

 

セシリアは苛立ちの声を発した時、イチカはそう宣言する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バチィ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その音は、唐突に鳴り響いた。

観客も、セシリアも一瞬なんの音か分からなかった。

だが、視線を少しずらすだけで音の発生源が分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

....ジョーカーが、ジョーカーズソウルで1基のビットを突き刺していたのだ。

 

 

「え、な!?」

 

 

セシリアは、驚いて声を発する。

驚いているのは、ビットを破壊されたからじゃない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バチィ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び同じ音が鳴り響く。

慌ててその方向をセシリアや観客が見ると、そこには別のビットを破壊しているジョーカーがいた。

しかも、今まで視認していたジョーカーはまだしっかりと視認できている。

 

 

「じょ、ジョーカーが、3()()!?」

 

 

セシリアはそう声を発する。

そう、ジョーカーは瞬間移動したわけではない。

3()()()()()()()()()

3体のジョーカーはセシリアを囲むように空中を蹴りながら移動する。

 

 

「な、何が如何なって!?」

 

 

セシリアがそう声を発したとたん、3体のジョーカーは一斉に空中を蹴り、2体は残っているビットを、もう1体はセシリアの持っているスターライトmkⅢを破壊する。

 

 

「ハハハハハ!!」

 

 

イチカの笑い声が聞こえる。

だが、その笑い声はどのジョーカーから発せられているか分からない。

ライフルを破壊したジョーカーはセシリアがスカートに隠していた残りのミサイルビットを破壊し、ジョーカーズソウルでセシリアを弾き飛ばす。

 

 

「きゃあ!?」

 

 

吹き飛ばされた先には残っていたジョーカー2体がジョーカーズソウルでセシリアの事を切り裂き、その後地面に叩き落す。

 

 

「ぎゃあ!?」

 

 

地面に落ちたセシリアはそう声を漏らす。

そうして、セシリアはフラフラと顔を上げる。

すると、目の前には...

 

 

自身の顔を覗き込むように立っている3体のジョーカーがいた。

 

 

「あ、あなたはいったい...!?」

 

 

「そうだなぁ...箱の中の魔術師...とでも呼んでもらおうか?」

 

 

セシリアのひねり出すような声に応じて、イチカは笑いながらそう言葉を発する。

だが、どのジョーカーから発せられているか全く分からない。

 

 

「箱の、中...?」

 

 

「そうだろう?ISは本来宇宙に行くもんだ。だが、今はこんな地上のアリーナという箱の中でドンパチ戦っている...」

 

 

ジョーカーはそう言うと、3機同時にセシリアから距離を取る。

 

 

「まぁ、だから面白いんだけどなぁ!!」

 

 

そうイチカが言い、3体だったジョーカーは重なり、1体に戻る。

 

 

「な、何を...」

 

 

セシリアはフラフラと立ち上がる。

 

 

「必殺ファンクション!」

 

 

《アタックファンクション!デスサイズハリケーン!!》

 

 

だが、イチカはそれを嘲笑うように、必殺ファンクションの発動宣言を行い、ジョーカーから発動認証音声がなる。

 

 

ジョーカーズソウルに闇のエネルギーが集約し、ジョーカーはそのまま回転をし、闇のエネルギーで軌跡を描いていく。

そうして1度高く跳躍し、地面にジョーカーズソウルを叩き付ける!

すると、エネルギーで出来た竜巻が発生し、セシリアに向かっていく!

 

 

「きゃああああああ!?」

 

 

そのままセシリアは飲み込まれ、大きく吹き飛ぶ。

そうして吹き飛ばされたセシリアはアリーナの端に転がり、ISが強制解除される。

観客は今、目の前で起こった事が信じられないように、何も言葉を発しない。

 

 

『し、試合終了。勝者、仙道イチカ...』

 

 

勝利アナウンスすら、何とか絞り出したという感じである。

それを確認したイチカはジョーカーズソウルを肩に担ぐと自身のピットに戻っていく。

 

 

「フッハハハハ!!」

 

 

その様な、笑い声を残してから。

 

 

『箱の中の、魔術師......』

 

 

マイクが入ったままの事に気が付かず、アナウンス担当の教員がそう言葉を零す。

箱の中の魔術師という言葉、そしてその戦い方は、この試合を見た多くの人間の記憶に強く残るものだった。

 

 

これが、箱の中の魔術師と呼ばれるIS操縦者の、初陣なのであった...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆オタクロスの、オタ知識デヨ~!☆

 

このコーナーでは、儂、オタクロスが作中の用語の解説だったり、補足だったりをするんデヨ。

第一回目の今回は主人公であるイチカとその専用機、そして所属会社についてまとめたデヨ。

みんな、これを読んで次回に備えるデヨ~!!

 

〇仙道イチカ

 

主人公。

タイニーオービット社テストプレイヤー。

旧名織斑一夏。

IS世界大会第2回モンドグロッソの際、姉の優勝妨害目的で誘拐されるも自力で脱出。

何とか多くの人が集まる観光地近くまで来れたものの体力の限界が来てしまい気を失う。

そこを、偶々ドイツ旅行に来ていた仙道家に発見され、保護される。

その後目を覚ましたが自身を助けなかった姉の元に帰りたくなかったため、そのまま仙道家に引き取られ養子となった。

今現在は両親と兄、妹の5人暮らし。

両親が勤めているタイニーオービットに見学に言った際、誤ってISに触れてしまいISを起動出来る事を知る。

その後、自分の身を守るためタイニーオービットでISの訓練を積み、IS学園に入学できる年齢になってからこのことを世界に発表した。

 

 

兄の影響でタロットカードを常に持ち歩いており、タロットになぞらえた予言めいた言動を取ることが多い。

元々家事が得意であり、仙道家の台所を仕切っているのは母からイチカになった。

一時期家族に髪色を合わせようと髪を紫にしようか悩んだが、似合わないだろうと思い止めた。

最近の悩みはシスコンであった兄がブラコンにもなった事と、妹が兄よりも自分になついている事。

 

 

〇ジョーカー

 

仙道イチカの専用機。

タイニーオービットが開発した第3世代型IS。

見た目はダンボール戦機に登場した仙道ダイキモデルと同じものである。

全ISトップクラスの機動力を持ち、空中を蹴るような動作をする事で加速する事が可能である。

また、()()()()()であるが、イチカに合わせかなりの癖のある機体になった為、イチカ以外に使いこなすのは現状不可能だと思われている。

武装は、大鎌のジョーカーズソウル。

待機形態は、一昔前の携帯電話を彷彿とさせる操作端末、CCM。

 

必殺ファンクション:デスサイズハリケーン

タイニーオービット社が開発をしているISに備わっている機能。

だが、全員が使用できるという訳では無く機体と共に成長し、経験を重ねる事で使用可能になる。

使用にはエネルギーを必要とするが、このエネルギーはISのSEとは異なるものであり、戦闘を続ける事で溜まるのである。

デスサイズハリケーンは、ジョーカーズソウルに纏わせたエネルギーを竜巻に変換し相手にぶつける技。

 

 

〇タイニーオービット

 

世界シェアトップクラスのISメーカー。

女尊男卑の現在では珍しく性別で判断を付けず能力で判断する会社。

イチカが見学に来た際ISを動かせることを確認したうえで彼を守るように動く。

そうして、IS学園に入学する際にイチカをテストプレイヤーとして扱う事にした。

イチカの両親も此処に勤めている。

イチカの兄と社長や開発部主任、博士や整備士、そしてIS操縦者などと元々関わりを持っていたため、イチカの保護とバックアップに乗り出た。

 

 

 

 




次回予告

クラス代表選に勝利したイチカ。
帰宅しようとするイチカの前に、面倒くさく絡んでくる奴が...
はぁ?1人じゃないのかよ...

次回、IS~箱の中の魔術師~『帰宅前の障害』見てね!


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帰宅前の障害

2話です。
そして、タロットカードのシーンを書いてるとどうしても遊戯王のアルカナフォースが頭にチラつく作者です。

???「我が運命力は満ちているのだ!当然、正位置ィ!!」

って、これは関係ないですね。

IS~箱の中の魔術師~、始まるよ!


クラス対抗戦終了直後。

イチカが使用しているピットの中で。

 

 

「あ、あぁぁぁぁ...」

 

 

ジョーカーを解除したイチカは首をならしながらそう声を漏らした。

CCMを使用しとあるところに連絡を入れてからポケットに仕舞うと、それと同時に逆の手でタロットカードを1枚取り出す。

 

 

「THE EMPRESSの正位置...満足感。おもちゃの扱いは雑だったが、試合には満足出来たなぁ...ジョーカーも思い通りに動いたしなぁ...」

 

 

イチカは笑みを浮かべながらそう言うと、タロットカードを仕舞った。

そうしてピットの出口から外に出て更衣室に向かう。

今日はもうこの後授業が無く、この模擬戦が終わったら帰っていいと事前に副担任である教員、山田真耶に許可を貰ってるのでイチカは教室による気は無い。

そうして更衣室で汗を拭いて制服に着替え終わったイチカは更衣室を出てアリーナから出ようと廊下を歩いていた。

だが

 

 

「おい!一夏!」

 

 

そう後ろから声を掛けられ、イチカは足を止める。

心底面倒くさそうにため息をつくとイチカは後ろを向く。

そこにいたのは、黒髪ポニーテールでIS学園の制服を身に纏った女子生徒...篠ノ之箒だった。

 

 

「お前!なんだあの戦い方は!」

 

 

「あ?お前に関係ないだろう」

 

 

自身の戦い方に文句を言ってきた箒に対し、イチカは若干イラつきながらそう返答する。

この篠ノ之箒という女子生徒…

彼女に対してここまでイライラしているのには理由があった。

先ず第一に、彼女は入学初日から何度もイチカに絡んで来ているからだった。

イチカは何度も何度ももう関わるなと言っているのにも関わらず、絡んで来ているのである。

 

そして理由はもう1つある。

それはイチカが名前を変える前...幼少期に、イチカに向かって箒は暴力を振るっていたからだ。

イチカは名前を変える前、姉に無理矢理剣道場に行かせられていたのだがそこの道場の娘が箒だったのだ。

箒はイチカと関わっていくうちにイチカに惚れたのだが、その後の行動が問題だった。

気に入らない事があれば直ぐに暴力を振るい、イチカをストーキングしたりとやりたい放題だった。

彼女の姉が止めようともしたが、それでも箒は止まらなかった。

そうして、彼女が転校するまでイチカは常に彼女に私生活を脅かされ続けて来たのだ。

だからこそ、こうしてイライラしながら会話しているのである。

 

 

「関係ないとはなんだ!私はお前の幼馴染なんだぞ!」

 

 

「幼馴染ぃ?お前がぁ?冗談でも言ってはいけない事だってあるんだぞ」

 

 

箒の言った言葉にイチカは嫌そうな表情を浮かべながらそう返す。

 

 

「なっ...!一夏、お前ふざけているのか!」

 

 

「ふざけてんのはお前だろうが。俺の戦いにお前が文句を言う権利は無い」

 

 

イチカは面倒くさそうにそう言うと、元々向かっていた方向に身体を向け直して歩き始める。

 

 

「待て!日本人なら刀を使え!そして、千冬さんの弟なら篠ノ之流を扱え!それが正しいのだ!」

 

 

「はぁ...」

 

 

箒の滅茶苦茶な言葉にイチカは大きくため息をつくと、タロットカードを1枚取り出し絵柄を見せつける。

 

 

「THE HIEROPHANTの逆位置、偏狭。お前の狭い視野だけで考えたことを俺に押し付けるんじゃない。それに、俺に姉はいない。俺の家族は父さんに母さんに兄さん、そして妹だけだ」

 

 

「なっ...!?」

 

 

イチカの言った言葉が衝撃的だったのか、箒はその場で固まる。

イチカはそんな箒に目もくれず足音を鳴らしながら歩いて行った。

 

 

アリーナの外に出たイチカは一度空を見上げてからCCMを取り出し、メッセージの返信を確認する。

 

 

「ほぉ...案外早いな。さっさと行くか」

 

 

メッセージの内容を読んだイチカは笑みを浮かべると、そのまま歩いて行く。

暫くの間外の風を浴びながら歩いて行き、視界にIS学園の正門が見えた。

その瞬間

 

 

「一夏、待て!」

 

 

と、背後からイチカに声を掛けられた。

 

 

(またかよ...しかも、また違う奴だし...)

 

 

「はぁ...」

 

 

イチカはものすっごく面倒くさそうにため息をついてから振り返る。

そこにいたのは...

 

 

「織斑先生..なんか用か?」

 

 

1年1組担任教諭、そしてIS世界大会モンド・グロッソ1回目の優勝者の織斑千冬だった。

その姿を見た瞬間イチカは面倒くさそうな表情を浮かべるが、相手は教員な為直ぐに表情を一応真面目なものに変える。

 

 

「一夏、お前は何故私の元に戻ってこないんだ!」

 

 

千冬はイチカに向かってそう言う。

イチカはと千冬の関係。

この2人は血の繋がった姉弟である。

否、血の繋がりはある『元』姉弟である。

 

 

「あなたの元に帰る?妙な事を言いますねぇ。俺の帰る場所は、父さんがいて、母さんがいて、兄さんがいて、キヨカがいる仙道家だ」

 

 

「一夏、お前は騙されているのだ!お前の名前は仙道イチカなどでは無い!お前の名前は織斑一夏で、私の弟だ!」

 

 

「はぁ...だる」

 

 

「だるいとはなんだ!私とお前の関係以上に大事な事などない!」

 

 

何時まで経っても意見を変えない千冬に対して、イチカはタロットカードを1枚取り出して絵柄を見せつける。

 

 

「THE EMPERORの逆位置、自分勝手。無責任で傲慢...アンタの価値観を俺に押し付けるな!俺は仙道イチカだ!アンタなんかの弟では無い!」

 

 

「なっ...!?」

 

 

イチカの突き放すような言葉に、千冬は両目を見開いて固まる。

 

 

「もう良いか?人を待たせてるんでね」

 

 

そんな千冬に向かって、イチカは嘲笑を浮かべるとそのままIS学園の()()()()()()()()()()、モノレール駅に向かっていった。

 

 

「い、一夏...」

 

 

その場に残された千冬は、イチカの背中が見えなくなってから呆然とそう呟くのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「すまないな、毎度毎度」

 

 

「気にするな、イチカ」

 

 

1台の車の中。

後部座席に座っているイチカは運転席に座っている人物...宇崎拓也(うざきたくや)に話し掛ける。

拓也はタイニーオービットの社長の弟であり、開発部主任でもある人物だ。

何故拓也が運転している車にイチカが乗っているかというと、それにはイチカが今生活している場所に関係がある。

本来IS学園は全寮制だ。

どんな生徒でも寮で生活する決まりになっている。

そう、どんな生徒でも。

つまり、イチカも本来なら生徒寮で生活する事になっているのである。

だが、此処で1つ問題が発生した。

手違いでイチカの1人部屋が準備できておらず女子と相部屋になってしまっており、その相手が箒だったのだ。

それを知ったイチカは全力で拒否。

その結果、1人部屋の用意が出来るまで自宅通学を許可されたのだ。

 

だが、そこでも1つ問題が発生した。

仙道家はIS学園からそこそこ距離があり、車を使用しても毎日は帰れないのである。

その為、イチカは今現在IS学園直通のモノレール駅から車で数分の位置にある拓也の友人の家で居候しているのである。

そうして拓也が運転している理由は、いくら駅から近いとは言え男性IS操縦者を1人で歩かせる訳にはいかないというのと、単純に拓也の友人だからである。

先程イチカが連絡していたのは拓也であり、迎えに来て欲しいという旨を伝えたのであった。

 

 

「それで、今日の模擬戦は如何だったんだ?」

 

 

「ああ、満足したよ。対戦相手はおこちゃまで自分の武装も全然使えてなかったが、ジョーカーを上手く使用できた...」

 

 

「それは良かった。そうだ、博士とキリトにデータを送ってくれ。今日は初めての外部との模擬戦だったからな、2人ともデータを楽しみにしていたぞ」

 

 

「そうかい」

 

 

イチカは若干面倒くさそうにそう返答するとポケットからCCMを取り出す。

 

ピ。ピ。ピ。

 

そんな操作音を鳴らしながら操作をする。

そうして今日の戦闘データを送信し終わったのを確認してからCCMを仕舞う。

 

 

「そう言えば、A国との取引はどうなったんだ?」

 

 

「ああ、問題なく終わったよ。今度ジェシカが日本に来るらしい」

 

 

「ほ~。まぁ、俺には関係な「その時はイチカも顔を合わせると良い。ダイキも一緒にな」へいへい」

 

 

拓也の言葉にイチカはそう返事をする。

そんなイチカの態度に拓也は苦笑いを浮かべるも、特に何も言わず車を運転する。

 

 

そこから大体数分後。

駐車場に着いたので、イチカは車から降りる。

それに少し遅れる形で拓也も車から降りる。

 

 

「あ?アンタも降りんのかよ」

 

 

「ああ。折角だから夕ご飯を食べて行こうと思ってな」

 

 

「なるほどな」

 

 

イチカはそう呟くと、そのまま歩き始める。

それに1歩遅れる距離で拓也も歩き始める。

そうして歩く事2分。

イチカと拓也はとある場所に着いた。

入り口は下りの階段になっていて、1階が半分ほど地下になっている。

喫茶店『ブルーキャッツ』。

此処が、イチカが居候していて拓也の友人の家兼経営している喫茶店である。

イチカと拓也は並んで階段を降りるとそのまま扉を開ける。

 

 

「マスター、帰った」

 

 

「ああ、お帰り」

 

 

中に入ったイチカの言ったセリフに、カウンターの奥にいる男性がそう声を発する。

青い髪と同じく青い髭が特徴的な男性...この男性こそがブルーキャッツのマスター、檜山蓮(ひやまれん)である。

 

 

「蓮、来たぞ」

 

 

「拓也、来たのか」

 

 

「ああ。夕ご飯を食べようと思ってな」

 

 

「そうか...なら、もう直ぐディナー営業が始まる。そこで、客として食べるんだな」

 

 

「分かった」

 

 

蓮とそう会話した拓也はカウンター席に座る。

 

 

「イチカ、少し手伝ってくれ」

 

 

「料理を、か?」

 

 

「そうだ」

 

 

「...了解した。手を洗ってくる」

 

 

イチカはそのまま店の奥の方に歩いて行き、実家から持ってきたエプロンを身に着け居候し始めた時に蓮から貰った名札を身に着ける。

そのまましっかりと手を洗って、しっかりと乾かして消毒したイチカは蓮のもとに戻る。

 

 

「それで?何すりゃいい?」

 

 

「そうだな...パスタのソースの準備でもしてくれ」

 

 

「素人に任せて良いのか?」

 

 

「イチカなら問題ないだろう」

 

 

「何故信頼できるのかねぇ」

 

 

イチカはそう言いながらも手際よく準備を進める。

そんなイチカを見て蓮は口元に笑みを浮かべると自身は酒の準備をし始めた。

 

 

そこから大体3時間後。

拓也は既に夕ご飯を食べ終え帰っており、今店内にも客は1組しかいなかった。

 

 

「ご馳走様、美味しかったよ」

 

 

「ありがとう。またのご来店をお待ちしてます」

 

 

「ああ、また来るよ」

 

 

そして、その最後の客も帰って行った。

それを確認したイチカはカウンター席に腰掛ける。

 

 

「はぁ...疲れた」

 

 

「お疲れ。ほら、まかないだ」

 

 

「どーも」

 

 

イチカは蓮からあまりのパスタとコーヒーを受け取る。

そうしてフォークを手に取りパスタを食べ始める。

 

 

「そう言えば、レックスは?」

 

 

「まだだ。だが、もうそろそろ帰って来「ただいまぁ!」噂をすればなんとやら。か...」

 

 

蓮はそう言うと、視線を店の入り口の方に向ける。

イチカもフォークを置いてから入り口に視線を向けると、そこには蓮によく似た容姿の女性がいた。

 

 

「お帰り、真実」

 

 

「よぉ、レックス」

 

 

「兄さん、イチカ、ただいま」

 

 

その女性...檜山真実(ひやままみ)は蓮とイチカに向かってそう言う。

真実は蓮の妹であり、タイニーオービット所属のIS操縦者である。

その荒々しい戦い方からレックスという異名を持っており、IS世界大会モンド・グロッソの第2回大会では前回王者の織斑千冬を撃破し優勝するほどの実力者である。

今はもう外で戦う事は無いが腕はいまだ健在である。

 

 

「イチカ、今日模擬戦だったんだろ?如何だった?」

 

 

「勝ったよ」

 

 

イチカはそう返答するとそのままパスタを食べるためにフォークを持つ。

だが

 

 

「だろうなぁ!なんせこの私が鍛えたんだからなぁ!」

 

 

と真実がイチカの隣に座って背中をバシバシ叩きながらそう言った事により、中断せざるを得なかった。

 

 

「痛てぇし危ねぇんだよ!レックス、アンタは馬鹿力なんだからよぉ!」

 

 

「それが師匠にいう事か!?」

 

 

「何が師匠だ!」

 

 

イチカは真実に向かってそう言うとため息をついてからパスタを食べる。

そうしてパスタを食べ終わった後はコーヒーを飲む。

 

 

「ご馳走様でした...と」

 

 

イチカは皿とコップとフォークを洗い場に持っていくとそのまま自分で洗い始める。

 

 

「イチカ、学園には慣れたのか?」

 

 

「アンタは親か」

 

 

「良いだろう、それで、如何なんだ?」

 

 

洗い物をしているイチカに蓮がそう質問をする。

 

 

「慣れてはいるよ。だが、2つほど問題があってねぇ」

 

 

「問題...ああ、入学前に言ってたたやつか」

 

 

「そうだ」

 

 

イチカはそう言うと、洗い終わったものを乾燥機に入れる。

蓮は真実に夕ご飯を手渡し、真実はそのまま食べ始める。

 

 

「あの2人が思ってた以上に面倒でねぇ...あれさえなければいろいろ出来るんだがなぁ...」

 

 

「そうか...アミやランは如何してる?」

 

 

「あ?普通にしてたぞ。まぁ、学年が違うから1回しか会って無いがな」

 

 

「ならば良かった。今度飯食いに来いと言っておいてくれ」

 

 

「なら、私と模擬戦しようとも言っておいてくれ」

 

 

「マスターのは伝えておくがレックスのは考えておく」

 

 

「なんでだ!」

 

 

「アンタとの模擬戦だなんて誰もやりたくねぇからだよ!」

 

 

イチカがそう言い切ると、蓮は苦笑いを浮かべながらイチカの言葉を肯定し、その事に若干真実が拗ねる。

 

 

「じゃあ部屋に戻ってる。明日も授業はあるんでね」

 

 

「ああ。手伝ってくれてありがとうな。給料は振り込んでおく」

 

 

蓮のその言葉を聞いたイチカは店の奥の方に行き、自分が使わせてもらっている部屋に入る。

そうしてベッドに寝ころんでCCMを取り出す。

 

 

「兄さん...メッセージなげぇよ。もっと短くできるだろ...」

 

 

そう言いつつも、イチカは若干嬉しそうだった。

そのままメッセージを返信すると、今度は別のメッセージを確認する。

 

 

「キヨカもキヨカでなげぇよ。なんだ、2人揃って。ブラコンか?...ブラコンかぁ...」

 

 

イチカはそう言いながらそのメッセージにも返信するとCCMを仕舞う。

そうしてベッドから立ち上がると机の前に座り、タロットカードを取り出し自分の事を占い始める。

タロットカードには様々な占いの方法があるが、今イチカが行っているのは大アルカナのみで行うものだ。

 

 

「THE CHARIOTの逆位置、か...自分の思う通りに進まない...」

 

 

イチカはそう言うとTHE CHARIOTのカードを机の上に置く。

 

 

「あの2人だよなぁ、如何考えても...」

 

 

イチカはそう言うと机の上に置いてある2つの写真立てに視線を向ける。

1つは、自分と兄と妹、そして両親と共に写っている家族写真。

そしてもう1つは、名前を変える前の自分と、機械仕掛けのウサミミを頭に付けた女性とのツーショット写真。

 

 

「まぁ、俺は俺のやり方で、気楽に今を生きるだけさ」

 

 

イチカはそう言うと、ニヤリと笑うのだった...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆オタクロスの、オタ知識デヨ~!!☆

 

今回は拓也、蓮、真実たんの3人についてまとめたデヨ。

特に蓮と真実たんは原作と境遇がかなり変わってるので、しっかり確認するデヨ~!!

 

 

〇宇崎拓也

 

タイニーオービット開発部主任。

社長の弟でもある。

かなり優秀な人物であり、自身の仕事を午前中で全て終わらせることが出来るほどである。

それと同時に、かなりの多彩さを誇り、車の運転、スポーツ全般得意である。

実は前社長の父が不可解な死をしており、それが切っ掛けで立ち上がった特殊情報組織であるシーカーの隊長でもある。

最近はイチカ関係の仕事を優先的に行っており、イチカを引き抜こうとする国や企業とのやり取りを繰り返している。

その為あまり開発部に顔を出せていない。

プラモデルが趣味である。

 

 

〇檜山蓮

 

喫茶店ブルーキャッツのマスター。

原作では無印のラスボスであったが、今作ではしっかり味方である。

元々はタイニーオービットに勤めていた拓也の同僚であるが、脱サラし喫茶店を開店する。

 

両親は既に故人である。

10年前にISが世界で発表された際に起こった事件で橋が倒壊し、橋の建築に携わっていて当時も現場にいた父はそれに巻き込まれてしまった。

母もそれを追うように自殺してしまった。

その為ISを...事件の犯人と、その事件で使用されたISのパイロットの事を恨んでいた。

だが、現在は年月が過ぎ拓也といった友人達のお陰、そしてイチカを介した犯人との対話で緩和されているものの、未だにパイロットには良い感情を抱いていない。

 

 

〇檜山真実

 

タイニーオービット所属テストプレイヤー。

原作ではWのオメガダイン編のラスボスであったが、今作では味方である。

レックスという異名を持っており、それに見合った戦い方を得意とする。

また、第2回モンド・グロッソ優勝者でありブリュンヒルデの称号も持っているがレックスと呼ばれる事の方が多い。

イチカのIS訓練を指導した人物であり、もうあまり戦わない今でも当時の実力をキープしている。

 

兄である蓮同様に恨みを持っていたが今現在では緩和され、犯人とは普通に酒を飲むほどの仲であるが、パイロットはまだ恨んでいる。

 

専用機:Gレックス

元々はサラマンダーという機体。

真実が自分に合うようにカスタムチューンを重ねた結果、元のサラマンダーと比べると実に3倍ほどのスペックを誇っている。

第2世代型であり、今現在は後のIS研究の為に分解されており、もう残っていない。

 




次回予告

翌日、セシリアがクラスに謝罪を入れ、千冬と箒という障害以外は平和に学園生活を送るイチカ。
週末に会社に呼び出されたため、イチカはIS学園に在籍している他のタイニーオービット所属テストプレイヤーと共に本社に向かう。
おいおい、なんでアンタがいるんだよ。

次回、IS~箱の中の魔術師~、『タイニーオービット』見てね!


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タイニーオービット

この間超久しぶりに押入れを整理したら約10年前、ダンボール戦機WがTVで放送していた当時に作ったプラモデルのトリトーンが出て来ました。
流石に紙製のマントは破れてましたし、シールも所々剝がれてましたが小学生だった当時のものが出て来て物凄く懐かしくなりました。

IS~箱の中の魔術師~、始まるよ!


クラス代表決定戦の翌日。

イチカは拓也の運転でブルーキャッツからモノレール駅に向かっていた。

 

 

「ふぁあああ...眠い。なんで学校って朝っぱらからあるんだ」

 

 

「そういうものだ」

 

 

「そりゃあ分かってるんだよ。文句くらいは言わせろ」

 

 

「ははは、それは悪かった」

 

 

イチカと拓也はそんな他愛のない会話を繰り広げる。

そうしてモノレール駅近くの駐車場に着いたのでイチカは車を降り拓也に軽くお礼を言ってから駅に入りそのままモノレールに乗り込む。

 

 

「はぁ...だるいねぇ」

 

 

モノレールが移動しだすとイチカは窓の外を見ながら面倒くさそうにため息をつきながらそう呟いた。

イチカの脳裏には、昨日の占いで出たTHE CHARIOTの逆位置のカード、そしてそこから連想される箒と千冬の姿があった。

だが、直ぐに意識を切り替えるとそのまま視線を腕時計に向ける。

その瞬間にモノレール内にIS学園に着いたというアナウンスが鳴る。

それを聞いたイチカは荷物を確認すると手に取り降りる準備をする。

そうして席から立ち開いた扉から出てモノレールを降りる。

 

 

「今日も、取り敢えず気楽に行きますかぁ」

 

 

イチカは口元に笑みを浮かべながらそう呟くと、そのままIS学園の校舎に歩いて行く。

校舎内に入りそのまま自身の教室である1年1組に向かって歩いて行く。

 

 

(...視線が鬱陶しいねぇ。邪魔だ)

 

 

自身に向けられる周囲の視線を感じてイチカは内心でそんな事を考える。

世界で唯一の男性IS操縦者。

否が応でも注目されるのは仕方が無い。

だが、それを理解していても視線をウザく感じるのは仕方が無い。

何処に行っても全員から興味や嫉妬といった様々な感情がこもった視線を向けられるのだ。

逆に鬱陶しく感じない方が感性としておかしい。

イチカは若干イライラしながらも教室に向かう。

そうして1年1組の教室に着いたイチカは扉を開き自分の席向かう。

イチカの席は教室の一番前の中央。

つまりは教室内で1番視線が集まるであろう教壇の真正面なのだ。

そんな場所にこのIS学園で唯一の男子生徒が座っているのだがら、視線が突き刺さりまくりなのだ。

自席に座っても落ち着かない事にイチカは更にイライラしていく。

それを表すかのようにイチカは首をゴキゴキと鳴らしている。

それから時間は流れ朝のSHRの時間になった。

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

チャイムが鳴り、クラスの外にいた生徒達はそれぞれのクラスに戻り、クラス内で友人達と話していた生徒達も自分の席に座っていく。

それと同時に教室の前の扉から担任である千冬と副担任である真耶が教室に入って来た。

 

 

「全員座れ!これから朝のSHRを始める!」

 

 

(相も変わらずの恐怖政治。THE EMPERORの逆位置なのは間違っていなかったようだ)

 

 

千冬の開口1番の言葉にイチカは呆れた表情を浮かべながらそう考える。

しかし、言っても無駄なのは分かっているので言葉にはしない。

そこからSHRは進んだ。

真耶がイチカが正式にクラス代表に就任したことを説明し、その際に言ったダジャレ(的な変な言葉)で場の空気をしらけさせたり、イチカがクラス就任の挨拶を(一応)真面目にしてクラスメイトからの印象を少し良いものにしたり、千冬が無駄にイチカに絡んで軽くあしらわれたりといろいろな出来事がSHRでは起こった。

 

 

「それでは、これでSHRを終りょ「織斑先生、少しよろしいでしょうか?」どうした、オルコット」

 

 

千冬がSHRを終了させようとした時、セシリアが手を上げながらそう発言した。

その瞬間に全員の視線がセシリアに向けられる。

 

 

「この間の発言を、謝罪させてください」

 

 

「...良いだろう。手短にな」

 

 

千冬の返答を聞いたセシリアはそのまま立ち上がり教壇に移動する。

 

 

「みなさん、この間の発言を謝罪させてください。申し訳ありませんでした」

 

 

セシリアはそう言うと頭を下げる。

この間までと全く違う雰囲気のセシリアにイチカを除くクラスの全員が驚きの表情を浮かべる。

 

 

「あの後、私は考え直しました。そして、気が付きました。私が間違っていたという事に。だから、謝罪させてください。申し訳ありませんでした」

 

 

セシリアは改めてそう言うと、視線をイチカに向ける。

 

 

「仙道さん、あなたには酷い暴言を吐いてしまいました。謝罪させてくだ「そんなのいらないねぇ」え...?」

 

 

セシリアがイチカに個人的に謝罪しようとした時、イチカは面倒くさそうな表情を浮かべながらそう返した。

 

 

「別に、謝罪だなんてどうでもいい。お前が変わりたいのなら変わればいい。それに俺は関係ない。ただ、あえて1つ言うのなら」

 

 

イチカはそう言うと右手を上げ軽く腕を振ると、1枚のタロットカードが手に収まっていた。

そのカードは、試合前にセシリアに見せつけたJUDGEMENTのカードだった。

しかし、今回は...

 

 

「JUDGEMENTの正位置、許し。過去の過ちは今の自分の誠意の行動で打ち消せる。つまりは、クラスの奴らに許されるかどうかはお前次第だ」

 

 

「仙道さん...」

 

 

「まぁ、今のお前なら大丈夫だろう」

 

 

イチカは視線を一瞬後ろに...クラスの生徒達に向けると、すぐさま興味を無くしたかのようにJUDGEMENTのカードを仕舞う。

そんなイチカを見てセシリアは何かを言いたそうだったが、千冬の鋭い視線を受け自分の席に戻っていった。

 

 

「んん!それでは、SHRを終了する!授業の準備をしておけ!」

 

 

セシリアが席に着いたのを確認した千冬はそう言うと真耶と共に教室から出て行った。

 

 

(全く...THE EMPERORの逆位置が正位置になるときは来るのかねぇ)

 

 

そんな千冬の背中を見ながら、イチカはそんな事を考えるのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

セシリアの謝罪の日から暫く経ち、休日になった。

あの後セシリアは徐々にクラスに馴染んでいった。

心を入れ替えた事で、生徒達に認められていったのだ。

イチカもイチカでそこそこはクラスに馴染んで?いっていた。

自分から周りに話し掛ける事は殆どないが、話し掛けられたら反応はするようになっていた。

そして、クラスが始まって直ぐは話し掛けられなかった生徒達もセシリアの一件で(一応)アドバイスをしたイチカを見て話しかけるようになっていったのだ。

その反面箒は何時でもイチカに突っかかりその度にイチカにあしらわれているので、クラスから浮いていた。

 

 

「...それで?なんで俺達は会社に呼び出されたんだ?」

 

 

私服を着用し、街を歩いているイチカは一緒に歩いているイヤーマフラーを着用している薄紫色でウェーブがかかってる髪の少女と、赤髪のポニーテールの少女の2人に話し掛けた。

 

 

「さぁ...?私達も聞かされてないの」

 

 

「行けば分かるわよ、行けば!」

 

 

イチカの問いに、イヤーマフラーの少女...川村アミとポニーテールの少女...花咲ランがそう返答する。

この3人は全員IS学園の生徒でタイニーオービット所属のテストプレイヤーであり、今日は拓也からの連絡でタイニーオービットに向かっていたのだ。

同伴者である2人も呼び出された理由を知らないと知ったイチカは思いっ切りため息をついた。

 

 

「それにしても、なんだかイチカはため口じゃないと落ち着かないわね」

 

 

「俺が知るか。学園では先輩と後輩だからな。敬語を使うのは当然だろう」

 

 

ランの呟いた事にイチカはそう反応する。

ランとアミはイチカの兄の友人であり、イチカは仙道家に引き取られた時からの知り合いである。

その当時に敬語はいらないと言われたためイチカは普段年上の2人にもため口で喋っているのだが、学園では他の人の目を気にして敬語で話しているのだ。

因みに、アミとランも普段はため口どうしだがアミの方が年上の為学園ではランは敬語である。

 

 

「初対面の時は敬語だったけど、そこから2年以上ため口で話されてると敬語には違和感を覚えるのよ」

 

 

「そうかい」

 

 

イチカは心底どうでもよさそうにそう呟くとそのままスタスタと歩いて行く。

そんなイチカを見てアミとランは口元に微笑を浮かべるとそのままイチカの後を付いて行くように歩いて行く。

 

 

「そう言えばアミ、バンには告白したの?」

 

 

「ふぇっ!?な、何の事!?バ、バンに告白だなんて、そんな!?」

 

 

「言い訳しなくても、バン本人以外は気付いてるわよ。ねぇ、イチカ」

 

 

「如何でもいいねぇ。だが1つ言うとするのなら」

 

 

イチカは歩きながらタロットカードを1枚取り出し絵柄をアミに見せつける。

 

 

「THE MAGICIANの逆位置、中途半端で優柔不断。見てるこっちがもやもやしてイライラする。とっとと告白しろ」

 

 

イチカにそう言われたアミは恥ずかしさで顔を真っ赤にする。

それを見たランはニヤニヤしながらアミをイジリ、イチカは如何でも良さそうにTHE MAGICIANのカードを仕舞うとそのまま歩き続ける。

そうして歩く事数分。

3人はタイニーオービットに着いた。

そうして3人はそのまま社内に入る。

 

 

「おお、3人とも。来たか」

 

 

「拓也さん!」

 

 

その瞬間に会社のロビーにいた拓也が3人に声を掛け、アミがそれに反応する。

 

 

「アミ、ラン、久しぶりだな。イチカは...何時も通りだな」

 

 

「何時も通りだったら言わんでいい。それで?今日俺達を呼び出した理由は?」

 

 

イチカはせかすように拓也にそう言うと、拓也は頷いてから話し始める。

 

 

「今日は3人のISのチェック、そしてバイタルチェックをする予定だ」

 

 

「...それくらい先に言えねぇのか!!」

 

 

「すまない、バタバタしていてな」

 

 

「はぁ...まぁ良い」

 

 

「それじゃあ早くやりましょう!」

 

 

「では整備室に寄ってキリトにCCMを渡してから研究室に行ってくれ。研究室には博士と結城君がもう準備をしている」

 

 

「分かりました!」

 

 

拓也の言葉にランが頷き整備室に向かって歩き始める。

その後を追うようにアミとイチカも歩き始める。

そうして歩く事数分。

タイニーオービットが誇る整備室に着いた。

この整備室はIS世界シェアトップクラスであることを示すような最先端の設備が整っており、その設備はIS学園の整備室をも上回る。

3人はそんな整備室を進んで奥の方に進む。

すると、囚人服のような黒と白の縞模様に右肩辺りに24と描かれた服を着用し、金の長い髪を後ろで束ねて左目が髪で隠れている酷い猫背の男性が作業をしているスペースまでやって来た。

 

 

「キリト、来たわよ!」

 

 

「ん?ああ、来たのかい」

 

 

ランが声を掛けると、猫背の男性...風魔キリトは作業を中断してイチカ達に視線を向けた。

キリトはタイニーオービットに勤める整備士である。

ISの調整は右に出る者はいない程の完成度と1人で完璧に終わらせる技術力を持っている。

 

 

「それじゃあ、そこの机にCCMを置いてくれ。あとは俺が整備しておく」

 

 

キリトは机を指しながらそう声を発する。

それに従い、3人は机の上にCCMを置く。

 

 

「それじゃあ任せるわね」

 

 

「ああ、任せてくれ。それとイチカ」

 

 

「なんだ?」

 

 

「ジョーカーのカスタムチューンの件は如何だい?」

 

 

「断るに決まってんだろうが!企画書見たがあんなん動かせるわけが無いだろうが!」

 

 

「そうか...チューンの依頼は何時でも待ってるよ」

 

 

「絶対にしねぇ!!」

 

 

イチカはキリトに向かってそう叫ぶと、そのまま整備室を後にした。

そんなイチカを追うようにしてアミとランも整備室から出て行く。

 

 

「...さて、やるとしますか」

 

 

その場に残ったキリトは、イチカのCCMを手に取るとそのままチェックを開始するのだった。

 

 

「ねぇイチカ」

 

 

「あ?なんだよ」

 

 

整備室から研究室に移動する際中、アミがイチカに声を掛けた。

 

 

「キリトのカスタムチューン、そんなにヤバいの?」

 

 

「ああ。あの企画書通りになるんだったらあれはもはやヘッドパーツ以外ジョーカーじゃなくなる」

 

 

「そ、そんなになんだ...」

 

 

イチカの言葉にアミが若干引きながらそう反応した。

そこからは話す話題も無くなり無言のまま研究室に向かう。

 

 

(...なんだ?嫌な予感がする)

 

 

急に嫌な予感を感じたイチカは腕を軽く振り、タロットカードをランダムに取り出す。

 

 

「THE FOOLの逆位置だと...?ま、まさか......」

 

 

THE FOOLのカードを見たイチカは凄い嫌そ~な表情になる。

そんなイチカを見てアミとランは不思議そうに首を捻る。

 

 

「はぁ...」

 

 

イチカはため息をつくと少し重くなった足取りで研究室に向かって歩いて行く。

そうして歩く事数分。

研究室の前に着いた。

イチカが扉を開けると、そこには。

無精髭を生やし細フレームの眼鏡をかけ白衣を身に纏った男性と、同じく白衣を纏った青年。

そして、胸元が開いたエプロンドレスを着用し頭に機械仕掛けのウサミミを着けた女性がいた。

 

 

「イチカ、アミ、ラン。来たか」

 

 

「博士...ああ、来たよ」

 

 

眼鏡を掛けた男性...山野淳一郎は3人に声を掛け、イチカがそれに反応するがイチカの視線はエプロンドレスの女性に向けられていた。

アミやランの視線も、その女性に向けられていた。

 

 

「なんでアンタがいるんだよ......束さん」

 

 

「ふっふ~ん!なんでだと思う~?」

 

 

イチカに声を掛けられたその女性...篠ノ之束は笑みを浮かべながらそう返した。

篠ノ之束。

今世界の中心になっているISを開発した天才であり天災である。

イチカが名前を変える前からの知り合いであり、昔はイチカと良く遊んでいた。

しかしISを作り、ISを認めさせるために全世界の軍用基地をクラッキングしミサイルを日本に向けて全弾発射しそれをISで撃ち落とすというマッチポンプ事件、白騎士事件を起こし世界を混乱に陥れるだけ陥れ失踪した人物である。

 

そんな超自己中な人物はある時を境に心を入れ替える。

イチカの誘拐、そして名前の変更である。

イチカの誘拐を知った束はイチカを助けようとしたのだが、その前にイチカが自力で脱出し仙道家に保護されたのだ。

超小型のドローンでイチカの様子を見ていた束は衝撃を受けた。

イチカが姉である千冬のもとに帰りたくないと言ったからだ。

 

それを聞いた束は過去を思い出した。

千冬はイチカに期待を掛けるだけ掛け、イチカの声を聞かなかった。

妹である箒はイチカに暴力を振るった。

そして自分は、イチカに迷惑を掛け、更には世界に迷惑を掛けたことを漸く自覚したのだ。

 

束は名前を変えたイチカが兄や兄の友人達、そしてタイニーオービットの人達と集まっている場所に乱入。

その場で今までの行動全てを自白しイチカに謝罪した。

その際にイチカと白騎士事件で親を失った蓮、真実の3人からボコボコに殴られた。

その後、長い時間を掛けて和解していき、今では真実とたま~に酒を飲む仲にまでなっている。

しかし今現在も束は世界から逃亡している身である為、こんな場所にいるのはおかしいのである。

 

 

「知るか。分からんからアンタに聞いてんだよ」

 

 

「アッハハハ!それもそうだね!束さんはね、イっくんに会いに来たんだよ!」

 

 

ズルッ

 

 

そんな擬音が似合うくらいにイチカとアミとランは身体から力を抜いた。

 

 

「そ、それだけですか?」

 

 

「うん!そうだよ?」

 

 

アミの確認するかのような言葉に束は元気よく頷いた。

 

 

「THE FOOLの逆位置は、アンタに最高に合ってるよ...」

 

 

イチカは持ったままだったTHE FOOLのカードに視線を向けてからそう呟いた。

 

 

「ちょっとイっくん、如何いう事?」

 

 

「THE FOOLの逆位置は無計画。フラフラと変わる気分を表す。アンタそのものだろ」

 

 

イチカはそう吐き捨てるように言うと、THE FOOLのカードを仕舞う。

束はむぅ~と頬を膨らませていたがやがて微笑を浮かべる。

 

 

「...イっくん、変わったねぇ。昔はあんなに無邪気だったのに」

 

 

「名前を変える前をほじくり返すな」

 

 

「ごめんごめん。それに比べて束さんの愚妹は何時まで経っても愚かだね~」

 

 

「なんだ、アンタも知ってんのか」

 

 

箒の話題が束の口から出るとイチカは少し驚いた表情を浮かべながらそう返した。

 

 

「まぁ、篠ノ之博士が知っていてもおかしくないんじゃない?だって篠ノ之博士だし」

 

 

「ええ、それに篠ノ之さんの迷惑行為は学年が違う私達にも届いてるくらいだし」

 

 

「...なんで『篠ノ之束だから』で納得できるのかは謎だが、確かにそうか」

 

 

ラン、アミの順番で呟いた事にイチカはそう反応する。

 

 

「じゃあそろそろ束さんは行くね。イっくん、あの愚妹とかが何かして来たら束さんに頼って良いからね!」

 

 

「ん~、まぁ、頭の片隅には残しておいてやろう」

 

 

「ふふふ、ツンデレだねぇ。バイビー!!」

 

 

束はそう言うと、もうその場からいなくなっていた。

 

 

「...どうやって消えてるのかしら?」

 

 

「知らん。されじゃあ、さっさとバイタルチェックするぞ。時間は有限だ」

 

 

イチカが急かすようにそう言うと、淳一郎は頷いた。

 

 

「そうだな。では早速バイタルチェックを開始しよう。結城君、準備を」

 

 

「はい」

 

 

淳一郎はもう1人の吐くの青年...結城研介に指示を出し、研介はそのままバイタルチェックに必要な機材の準備をする。

その間にイチカ達は腕や首に計測用のリングを着けていく。

 

 

「準備出来ました!」

 

 

「良し、それじゃあ3人とも、座ってくれ」

 

 

淳一郎は計測機器の前に置いてある3つの椅子を見ながらそう言った。

その指示に従い3人はそれぞれ椅子に座る。

 

 

「では3人とも、力を抜いてリラックスしてください」

 

 

「は~い」

 

 

研介の言葉にランがそう返事をする。

それから全身を隈なく調べる事数十分。

 

 

「はい、終了です。もう動いて良いですよ」

 

 

「あ、あぁぁぁぁぁ....」

 

 

研介の終了の合図と共にイチカはそう声を発しながら身体を伸ばした。

アミとランも身体を伸ばしている。

 

 

「3人とも異常は無しだ」

 

 

「そりゃあ良かった......で?俺がISを動かせる理由ってのは分かったのかい?」

 

 

「残念ながら」

 

 

「はぁ...前途多難だねぇ」

 

 

イチカは淳一郎とそう会話しながら首や腕のリングを外していく。

 

 

「それじゃあバイタルチェックは終了だ。キリトからCCMを受け取って「持って来てあげたよ」タイミングが良いな」

 

 

淳一郎の言葉の途中でキリトが研究室にやって来た。

 

 

「早いじゃない」

 

 

「あくまでチェックだけだったからね。ほら、受け取れ」

 

 

キリトが差し出してきたCCMをイチカ達はそれぞれ受け取る。

 

 

「それじゃあ、俺はここら辺で失礼するよ」

 

 

最後にキリトはそう言うと研究室を後にした。

 

 

「イチカ、アミ、ラン。今日はもう帰っていい」

 

 

「了解した」

 

 

そうして、イチカ達も研究室を後にした。

3人はそのまま社外に出て街に向かって歩く。

イチカはブルーキャッツに向かっているのだが...IS学園の寮で生活しているアミとランも同じ方向に歩いていた。

 

 

「...駅はこっちじゃないぞ」

 

 

「ご飯を食べて行こうと思って!」

 

 

「そうかい。マスターに連絡をしておく」

 

 

ランの言葉を聞いたイチカは立ち止まりCCMを取り出すと、そのまま蓮に連絡を入れる。

すると数秒後。

蓮から返信が来た。

そのメッセージを確認したイチカは口元に笑みを浮かべた。

 

 

「喜べ、バンとカズが遊びに来ているらしい」

 

 

「...ふぇ!?」

 

 

イチカの言葉を聞いたアミは顔を赤くする。

 

 

「ほらほら、中学卒業してからはなかなか会えないんだから距離詰めなさいよ!」

 

 

「え、いや、その、あの...!?」

 

 

「さっさと行くぞ」

 

 

ランとアミのやり取りをバッサリ切り捨てたイチカはブルーキャッツに向かって歩いて行く。

そんなイチカを追うように、未だに顔を赤くしているアミをランが引きずっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆オタクロスの、オタ知識デヨ~!!☆

 

今日はアミたん、ランたん、キリト、山野博士について纏めたデヨ。

みんなしっかり確認するデヨ~!!

 

 

〇川村アミ

 

タイニーオービット所属テストプレイヤー。

IS学園3年生。

原作では18歳になると髪型がロングになるのだが、作者がWの頃のアミの容姿の方が好きな為、今作では引き続きそっちである。

ISに対する豊富な知識を持ち、3年生の首席である優等生。

洞察力と瞬間判断力が高い。

柔和な性格なのだが時折漢らしい一面も見せる。

好意を抱いている相手がいるらしい。

 

専用機:パンドラ

 

タイニーオービットが開発した第三世代型IS。

見た目は無印の時に使用していたアミ専用カラーのものと同一である。

元々はクノイチという第二世代型ISだったがアミの成長と共にクノイチがアミについて行けなくなり大型改修の果てパンドラとなった。

ジョーカーと同じくスピード型だが、ジョーカーが相手を攪乱する為にハイスピードで動くのに対し、パンドラは安定した動きと加速が得意である。

武装は、ビーム刃搭載ダガー『ホープ・エッジ』

待機形態はCCM

 

必殺ファンクション:蒼拳乱撃

拳からエネルギー弾を連続で放つ。

 

 

 

〇花咲ラン

 

タイニーオービット所属テストプレイヤー。

IS学園2年生。

猪突猛進型だが、明朗快活な性格。

花咲流真券空手の使い手で空手部所属。

その腕前は全国大会で優勝できるほどである。

ISの戦闘スタイルにも表れており、接近しての格闘を得意としている。

訓練機を使用した訓練で訓練機を壊してしまった過去がある。

 

専用機:ミネルバ

 

タイニーオービットが開発した第二世代型IS。

見た目は原作のものと同一。

細身だが高い出力を誇っており、その脚力はもはや武装の1つである。

最近ではミネルバを改修するという案がタイニーオービット内で出ている。

武装は手甲を兼ねたナックル『ミネルバクロー』

待機形態はCCM

 

必殺ファンクション:炎崩し

拳にエネルギーを貯めそのエネルギーを利用し相手を炎で包み込み、そのまま強烈なパンチを放つ。

 

 

〇風魔キリト

 

タイニーオービット所属整備士。

かなりの腕前を誇り、殆どの作業を1人で終わらすことが出来る。

様々な作業が得意だがその中でもカスタムチューンナップが1番得意であり、訓練機を専用機以上のスペックにチューンする事が可能である。

キリトがカスタムチューンナップした機体は全て真紅のカラーリングとなり「24」の数字がマーキングされている。

エイミーという名前の恋人がいて、どのタイミングでプロポーズしようかと悩んでいる。

愛読書はオズの魔法使い。

因みに作者がダンボール戦機シリーズの中で1番好きなキャラ。

この小説も、一夏の性格をキリトみたいにして「ラファール・リヴァイブOZ」とか「打鉄イチカカスタム」とかを使わせる案もあった。

機会があるならそっちも書きたい。

 

 

〇山野淳一郎

 

タイニーオービット研究室に勤めている科学者。

物理学が専門であるが、他にも幅広い知識を持っている。

社内でのIS新規開発を担当しており日夜研究を行っている。

嫁と高校3年生の息子がおり、研究が忙しいときは帰れない事も多いがなるべくの頻度で家に帰っている家族想いな父親。

IS以外では「エターナルサイクラー」と呼ばれるエネルギーを無限に生み出す永久機関の開発も行っていたがそれが今現在どうなったのかは本人にしか分からない。

 

 

 

 




次回予告

学園で箒と千冬の迷惑行為をあしらいながら実習などをこなしていくイチカ。
そんなあるとき隣のクラスに転校生がやって来た。
その人物は、イチカにとって馴染のある人物だった。

「...久しぶりだな」

次回、IS~箱の中の魔術師~、『隣のクラスの転校生』見てね!


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隣のクラスの転校生

今回、タロット占いを実際にするシーンがありますが作者はずぶの素人なので色々間違っている点がある可能性があります。
温かい目でご覧ください。

IS~箱の中の魔術師~、始まるよ!


イチカ達がタイニーオービットに向かった日から週も変わり平日。

今日は実技授業が存在する。

生徒全員がISスーツに着替えアリーナに整列をしていた。

 

 

「良し、全員揃っているな!これより実技授業を開始する!」

 

 

生徒達の列の前に立つジャージ姿の千冬がそう声を張り上げる。

 

 

(まんま軍隊の訓練指揮じゃねえか。ちゃんと教免持ってんのか?)

 

 

その千冬の態度に、イチカは心の中でそう悪態をつく。

 

 

「まず初めに、ISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。仙道、オルコット、前に出ろ」

 

 

「はい!」

 

 

「はい」

 

 

千冬の指示に従い、セシリアとイチカが列から前に出る。

イチカはもう既にその手に開いているCCMを握っている。

 

 

「ISを展開しろ」

 

 

ピ、ピ、ピ

 

 

千冬の指示と同時にCCMの操作音があたりに鳴り響く。

そしてその一瞬後にはイチカはジョーカーを、セシリアはブルー・ティアーズを身に纏っていた。

 

 

「ちっ…よろしい。このように、熟練したものならばすぐさまISを展開できる。諸君らもこのレベルを目指すように」

 

 

『はい!』

 

 

千冬は小さく舌打ちをするも、直ぐに切り替え一般生徒達にそういう。

 

 

(このレベルって…レックスに鍛えられた俺と、代表候補生と同じレベルってか?全員が全員なれるわきゃねぇだろ)

 

 

薄ら笑いを浮かべるジョーカーのマスクの下で、機嫌が悪そうな表情を浮かべながらイチカはそう考えていた。

 

 

「次だ。飛べ」

 

 

千冬のアバウトすぎる指示を受け、ジョーカーは空中を蹴るように、セシリアは滑空をしながら宙へと浮く。

そして、それから暫くの間ジョーカーとセシリアはアリーナの上空を飛行する。

 

 

「仙道さん、相変わらずお早いですわね」

 

 

「そうかい」

 

 

空中にて、イチカとセシリアはISの機能の1つ、プライベートチャネルで会話をしていた。

その名の通り他人に聞かれる事は無い通信機能である。

 

 

「それで仙道さん、その…1つお願いしたい事が…」

 

 

「なんだ?」

 

 

「その…苗字では無く、名前でお呼びしても…?」

 

 

「…好きにしろ」

 

 

イチカの声色はなんとなく面倒くさそうなものだったが、セシリアは特に気にした様子は無く

 

 

「はい、イチカさん!」

 

 

と嬉しそうにそう返事をした。

ここで、急にプライベートチャネルに他人に聞こえる通信機能、オープンチャネルで声が割り込んで来た。

 

 

『一夏!いつまでそこにいるんだ!とっとと降りてこい!』

 

 

ジョーカーとセシリアが同時に下を確認すると、真耶からインカムを強奪して叫んでいる箒がいた。

 

 

『篠ノ之!教師からものを奪うとはいい度胸だな!』

 

バァン!

 

それに気が付いた千冬が出席簿で箒の頭を殴る。

 

 

「なにをしているのでしょうか……?」

 

 

「馬鹿の考えている事なんか分からないねぇ」

 

 

その様子を上から見ていたセシリアとイチカがそう感想を漏らす。

 

 

『仙道、オルコット、急降下と完全停止を地表から5㎝でやれ』

 

 

「分かりました。イチカさん、お先に失礼します」

 

 

セシリアはイチカに向かってそう言うと、そのまま勢いをつけて降下しておく。

そうして丁度5㎝でピタリと停止する。

 

 

『フム、流石は代表候補生だな。完璧だ』

 

 

「ありがとうございます」

 

 

『では次、仙道だ。とっととしろ』

 

 

「はいはい」

 

 

千冬からの指示をイチカは面倒くさそうに返すと、ジョーカーは空中を蹴り()()()()()()をする。

アリーナの高度限界ギリギリにまで上昇したジョーカーはくるりと身体を180度回転しまるで逆さ宙づりのような恰好になると空中を蹴り一気に降下していく。

そうして、ジョーカーもセシリアと同じく地表から5㎝の所で停止する。

ただし、セシリアは普通の体勢だったのに対し、ジョーカーは頭が下、足が上という体勢で、しかもフェイスパーツが薄ら笑いを浮かべているのでかなり不気味になっている。

それこそ狭く暗い室内で、ジョーカーや床に血痕がこびり付いていたらホラーゲームに使えるくらいに。

 

 

「ちっ……正確に5㎝だから何も言わないが、次からは普通にやれ」

 

 

「分かりました、と」

 

 

イチカは千冬の言葉にそう返事をし、ジョーカーはまたくるりと180度回転し足で地面に着地する。

千冬は面白くないといった表情を浮かべると咳ばらいをして次の指示を出す。

 

 

「では次に、武装の展開をしろ!」

 

 

千冬がそう言い終わるころには、もう既にジョーカーがジョーカーズソウルを肩に担いでいた。

それに1歩遅れる形でセシリアが腕を水平に開きその手にスターライトmkⅢを展開した。

 

 

「…仙道は文句無しだ。オルコットも代表候補生に相応しい速度だが、そのポーズは直せ。ライフルを横に展開してどうする」

 

 

「し、しかしこれは私のイメージを固めるために必要な…」

 

 

「な、お、せ」

 

 

「は、はい!」

 

 

(教師が生徒脅すんじゃねぇよ)

 

 

先程からの千冬の学生では無く軍人を相手にするかのような態度を見てイチカはだんだんイライラとしてきた。

別に他人が脅されている事に怒る聖人ではない。

ただ単純に、千冬の態度が気に入らないのである。

しかし相手の態度が悪いからと表情に出すほどイチカは幼稚ではない。

特に何も反応することなくそのまま授業をやり切った。

 

 

更衣室にて制服に着替え終えたイチカは教室に向かって歩いていた。

 

 

「一夏、待て!」

 

 

そんなイチカの背中に、そんな声が掛けられる。

 

 

「はぁ…」

 

 

ため息をつきながらイチカが振り返ると、そこには千冬がいた。

 

 

「何の用です織斑先生。早く教室に戻りたいんですけど?」

 

 

イチカは心底面倒くさそうな表情を浮かべながらそう千冬に言う。

 

 

「一夏、お前は何処であの操縦技術を手に入れた!!」

 

 

「タイニーオービットに決まってんだろ」

 

 

「そうじゃない!あの操縦技術は並みのIS操縦者では教えられるものではない!誰に教えてもらった!」

 

 

「…レックスだ」

 

 

イチカが呟いたその名前に、千冬は過敏に反応する。

それは当然だろう。

だってレックス...真実は、第二回モンドグロッソで千冬からブリュンヒルデの称号を奪ったのだから。

 

 

「何故だ!何故姉である私じゃなくてあんな野蛮な女なんだ!!」

 

 

「どっちが野蛮だよ……どうだっていいだろうが、アンタは俺の姉じゃねぇし」

 

 

「まだそんな事を言うか!一夏、お前は私の「いい加減うるさいんだよ!!」い、一夏?」

 

 

流石にイチカの堪忍袋の緒が切れた。

怒声を千冬にぶつける。

急なイチカの怒声を聞いた千冬は表情を驚愕のものにする。

 

 

「織斑一夏の事をなんも見てなかったアンタが!?織斑一夏の訴えをなにも聞かなかったアンタが!?俺の姉!?ふざけんな!俺は仙道イチカだ!織斑じゃねぇんだよ!!」

 

 

「い、一夏……」

 

 

「はぁ…もういい。俺は行く」

 

 

驚愕で固まった千冬は放って、イチカの教室に戻っていく。

 

 

「何故だ、一夏……私は、お前を…………」

 

 

この場に残った千冬はそんなイチカの背中を見つめて、呆然とそう呟く事しか出来なかった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

その日の夜。

IS学園正面ゲート前。

そこには、ボストンバックを持ったツインテールの少女がいた。

 

 

「遂に来たわ…IS学園……」

 

 

その少女はそう呟くと、正面ゲートを潜る。

 

 

「えっと、確か総合受付に行けばいいのよね?その総合受付って何処よ?」

 

 

その言葉と共に、ポケットからくしゃくしゃになったIS学園のパンフレットを取り出す。

 

 

「本校舎1階…だから何処よ。まぁ良いか。歩けば着くでしょ」

 

 

その少女は乱雑にパンフレットを仕舞うと歩き出した。

良く言えば、行動的。

悪く言えば、適当。

パンフレットには簡易的なものではあるが敷地内案内MAPがあるので本校舎の場所くらいだったら分かるだろうし、なんなら近くにあった案内板を見落としている。

そうしてパンフレットか案内板、どちらかでも良いから見ていれば3分で着くところを20分以上かけ、少女は総合受付にたどり着いた。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ…なによ、真っ直ぐくれば3分ぐらいのところじゃない...!!」

 

 

その少女はぶつくさ文句を言いながら受付にいた事務員に話し掛け手続きを進める。

 

 

「はい、以上で転校手続きは完了です。IS学園へようこそ、凰鈴音さん。これが寮等の施設利用のルールなので、目を通しておいて下さいね」

 

 

ドン!!

 

 

事務員は物理的にそんな音が鳴るルールブックを少女に手渡す。

 

 

「え、これを…ですか?」

 

 

「はい、目を通しておいて下さいね」

 

 

「……はい、分かりました」

 

 

事務員は特に表情を変えずに笑顔のまま言葉を発したのだが、その笑顔が逆に圧となり少女にのしかかった。

 

 

「あ、そうだ1つ聞きたい事があるんですけど、良いですか?」

 

 

「はい、私に答えることが出来る内容であれば」

 

 

「おりむ…じゃない。仙道イチカって何組ですか?」

 

 

「仙道君は1組ですね。凰さんは2組なので隣ですよ」

 

 

「なるほど、分かりました……わざわざありがとうございました」

 

 

「はい。それと、これが寮の鍵です。部屋番号はそこに書いてあるので」

 

 

「分かりました」

 

 

そうして、その少女は荷物を持ち総合受付から離れ校舎から出る。

 

 

「イチカ……今まで心配かけさせた分、ただじゃ置かないわよ」

 

 

そうしてその少女、凰鈴音はそう呟くのだった。

 

 

「あっ!寮の場所聞けばよかった!」

 

 

そこから、寮の自分の部屋に着くのに30分掛かったらしい。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

翌日、朝のSHR前の1年1組の教室。

今教室にいる殆どの生徒はある事に注目していた。

 

 

「それじゃ、占いたいのは自分の未来…特に、自分の状況で良いんだな?」

 

 

「う、うん」

 

 

イチカのタロット占いである。

事の始まりは約5分前。

1組生徒の1人である相川清香がイチカに占って欲しいと言ったのである。

イチカは前々からタロットカードを取り出していたので、注目されるのは当然である。

最初は面倒くさくて断ろうとしたイチカだが、なんだかんだ占って欲しいと言われ悪い気はしなかったので占う事にしたのだ。

 

カードを清香にシャッフルとカットをしてもらい、それを受け取ったイチカがスプレッドする(カードを特定の形に並べる)。

 

 

「それじゃあ、それぞれ右から近い未来、少し先の未来、それに伴う行動のアドバイスだ」

 

 

「分かった」

 

 

清香は若干緊張した面持ちでそう頷く。

それを確認したイチカは右側からカードを捲っていく。

 

 

「WANDS Ⅶ、逆位置。QUEEN of CUPS、正位置。KING of WANDS、逆位置」

 

 

「お、おおお……」

 

 

その言葉を聞いて、清香はそんな反応をする。

正直、タロットを知らない人からしたらこれだけ言われても分からないだろう。

まぁ逆に知ってる人は自分の事は自分で占えるので、わざわざ他人に占ってもらう必要が無いのだが。

 

 

「それじゃあ順番に。先ずWANDS Ⅶの逆位置。このカードは不利を感じ、戦意を喪失する事をさす。IS、勉学、部活…なにか1つかもしれないし、2つ以上かもしれない。まぁそんな感じの事で何か不利を感じやる気が削がれる可能性がある、と……」

 

 

「そ、そうなんだ…」

 

 

清香は若干不安そうな表情を浮かべてそう呟く。

右側、近い未来の結果でそう言われたら誰だってそんな反応をする。

それをイチカも理解しているが、イチカは笑みを浮かべると次の言葉を発する。

 

 

「次、QUEEN of CUPSの正位置。これはなかなか良いカードだ。自分の魅力が高まる。つまりは、不利を感じてもその先でなにか自分の魅力が高まる出来事がある。だから特に心配はいらん。辛くても耐えていけば大丈夫って事だ」

 

 

「そ、そうなんだ。良かったぁ……」

 

 

イチカの言葉を聞いた清香は今度は安心したような声を発した。

辛くなってもその先には魅力が高まる出来事があるというのなら安心が出来るだろう。

 

 

「最後に行動のアドバイスだ。KING of WANDSの逆位置。ワンマンな奴に振り回される、もしくは派手な行動が空回りする可能性がある。だから、なるべく変な奴とは関わらない事、そしてあまり奇抜な行動をしない事をおすすめするよ」

 

 

「わ、分かった」

 

 

「これで占いは終了。纏めると、この先不利な事でやる気を喪失するかもしれないが、その先には自分の魅力が高まる。そして変な奴と関わったり奇抜な行動をしない。以上。お疲れ様」

 

 

「うん!仙道君ありがとう!」

 

 

清香がイチカにお礼を言い、それと同時に周囲に集まっていた人がパチパチと拍手をする。

その拍手を聞きながらイチカはタロットカードを回収する。

 

 

「ねぇ、仙道君って何処でタロットカード習ったの?」

 

 

「…兄さんに教えてもらった」

 

 

「前々から気になってたけど、仙道君ってもしかしてあの世界的占い師の仙道ダイキさんの弟なの?」

 

 

「そうだが?」

 

 

イチカの言葉を聞いたクラスメイト達は一瞬で色めき立つ。

 

 

「へぇ!お兄さんが世界の占い師で弟が箱の中の魔術師だなんて凄い兄弟だね!!」

 

 

「……褒め言葉は素直に受け取っておこう」

 

 

イチカは興味なさげにそう呟いたが、なんだかんだ褒められて嬉しいんだろう。

若干にやけている。

 

 

「そうだ!仙道君聞いた?」

 

 

「何を?」

 

 

「隣のクラスに転校生が来たって事!!」

 

 

「ふ~ん……まぁ、どうでもい」

 

 

イチカのその言葉は途中で途切れた。

いや、途切れざるを得なかった。

 

 

「ねぇ!仙道イチカっている!?」

 

 

教室の外から、そんな声が聞こえて来たから。

そしてもっと言うのなら、イチカはその声に聞き覚えがあったから。

ガバッとイチカは視線を教室の扉の方に向ける。

それに1歩遅れる形でクラスメイト達もそっちに視線を向ける。

するとそこには、小柄でツインテールの少女がいた。

 

 

「お前は…!」

 

 

その少女の姿を見たイチカは表情を驚きのものに変える。

そんな反応のイチカに少女も気が付いた。

 

 

「アンタ、今まで何処ほっつき歩いてたのよ!」

 

 

イチカに向かって突っ込んでいきながらそう声を発する。

それをひらりと躱してからイチカは声を発する。

 

 

「…久しぶりだな。鈴」

 

 

「……ええ、久しぶりね、イチカ!」

 

 

イチカの言葉に、その少女…凰鈴音、愛称『鈴』がそう返事をする。

イチカと鈴の関係の始まりは、小学5年生の頃…イチカが名前を変える前に遡る。

当時暴力を振るっていた箒が転校しなんとか安全な生活を送っていた中に、中国から鈴が転校してきたのだ。

箒の暴力に巻き込まれたくなかった為イチカに友人はおらず、また中国から転校してきたばっかりで日本語も不自由だった鈴にも友人はいなかった。

そんな2人が友人になるのは早かった。

日本語に慣れた鈴はクラスや学校に友人を作って行っていたが、イチカにはできなかった。

そんなイチカの事が気がかりで、鈴はイチカと一緒に居る事が多かった。

 

中学校に上がった際には新たにできた友人、五反田弾と御手洗数馬と共に4人でいる事が多かった。

しかし、その途中でイチカが名前を変え、住む場所も変えた為中学校を転校する事になった。

そうして鈴はそのまま1回もイチカに会うことなく中国に戻り、その後中国代表候補生になるためにISの特訓をし代表候補生となりIS学園にやって来たのだ。

 

 

「アンタ、今まで何してたのよ!!」

 

 

「長くなるから後でだ。お前は中国に中2の頃に帰ったんだっけか?」

 

 

「なんでそれ知ってんのよ!?」

 

 

「お前が中国に帰った後に定食屋のへっぽこ跡取りとギャルゲマスターには会ってるんでね」

 

 

「そうなの!?知らないんだけど!?」

 

 

「あの馬鹿2人が教えてないだけだろ」

 

 

周囲のクラスメイトを放って会話する2人に、ポカンとした視線が向けられている。

 

 

「えっとぉ…イチカさん?その方はいったい……?」

 

 

「んぁ?ああ、そうか。自己紹介しろ」

 

 

「分かってるわよ!コホン…中国代表候補生、そしてイチカの幼馴染、凰鈴音よ!鈴って呼んで!よろしく!!」

 

 

イチカに急かされ鈴はそう自己紹介をする。

 

 

「初対面小5だぞ。幼馴染って感じじゃねぇだろうが」

 

 

「私が幼馴染って言ったら幼馴染なのよ!」

 

 

「へいへい」

 

 

鈴とイチカの会話はかなり仲のいい友人や、それこそ幼馴染感が出ているものである。

クラスではあまり自分から会話しないイチカにここまで仲のいい友人がいたことにクラスメイト達は少し驚く。

 

 

「それにしてもイチカ、あの箱の中の魔術師ってなによ」

 

 

「なんだ、知ってんのか?」

 

 

「あの試合は全世界に中継されてるのよ?見てない訳無いじゃない!それで、なんなの?」

 

 

「マジか、聞いてねえぞ…まぁ良いか。それで、箱の中の魔術師は兄さんの友人達に付けてもらったものだ」

 

 

「なるほど…その年で異名を持ってるだなんてやるじゃない」

 

 

「中国に帰る前から『地獄の破壊神』という異名を持っていたお前には言われたくないねぇ」

 

 

「その名で呼ぶなぁ!!」

 

 

鈴がイチカに殴り掛かり、イチカはニヤニヤしながらそれを避ける。

 

 

「そろそろSHRの時間だ。とっとと教室戻れ。さもないと……」

 

 

「さもないと?」

 

 

「世界最強が怒る」

 

 

イチカの言葉に、バっと鈴が振り返る。

そこには、出席簿を振り上げている千冬がいた。

 

 

「……凰、教室に戻れ」

 

 

「はいはい、分かりました。世界最強さん」

 

 

鈴は千冬に冷たい視線を向けながら、自分の教室に帰って行く。

 

 

「…お前たちもだ」

 

 

「分かってますよ」

 

 

イチカはニヤリと笑みを浮かべながら自分の席に座る。

 

 

(THE SUNの正位置、幸福…これからいろいろと楽しめそうだぁ)

 

 

そうして、そんな事を考えながらイチカはSHRに参加するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆オタクロスの、オタ知識デヨ~~!!☆

 

CCM。

タイニーオービットやサイバーランス、神谷重工などの1部のISメーカーに共通している待機形態デヨ!

2つ折りの携帯電話の見た目をしており、その見た目は様々デヨ!

例えばイチカのモノは紫で上へのスライド式、アミたんのは丸いピンク型デヨ。

CCMは通話やメールの送受信に、写真、動画の撮影等々携帯電話とほぼ同じ事が出来るんデヨ!

各企業、今はCCMをスマートフォン状に出来ないか模索中デヨ!!

 

 

 

 




次回予告

久しぶりに再会した鈴と会話をするイチカ。
そんな時、箒が2人を襲撃する!
そして開催されるクラス対抗戦。
姿を見せる鈴の専用機!

「ははは!楽しめそうだぁ!!」

次回、IS~箱の中の魔術師~、『対決、地獄の破壊神!』見てね!



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対決、地獄の破壊神!

作者の他2作品よりお気に入り登録して下さっている読者の方々の増えるペースが早いのでビビってる作者です。
お気に入り登録、ありがとうございます。
もしよろしければ感想や評価の方もよろしくお願いします。

IS~箱の中の魔術師~、始まるよ!


イチカと鈴のSHR前での再会から時刻は流れ、現在昼休み。

イチカは教室でCCMを操作し拓也と連絡を取り合っていた。

 

 

(なるほどなぁ…そうなってんのか……)

 

 

拓也からの情報を確認したイチカはCCMを仕舞い席から立つ。

そうして教室から出て食堂に向かって行く。

そんなイチカの後ろには1年生の女子生徒がゾロゾロと付いて行っている。

 

 

(ウゼェ…いい加減にして欲しい……)

 

 

内心滅茶苦茶うざったく思いながら歩く事数分。

食堂に着いたので中に入っていく。

 

 

「待ってたわよ!」

 

 

「邪魔だ退け」

 

 

その瞬間に、並々とラーメンが入っているどんぶりが乗ったお盆を持つ鈴が立ち塞がっていた。

だが、イチカは鈴を押しのけて食券機の前に向かう。

 

 

「チョッと!?危ないじゃない!!」

 

 

「立ち塞がってるお前が悪い。話したいんだったら席取っとけ」

 

 

「OK!待ってるわよ!」

 

 

ラーメンを持っているとは思えない程軽やかに鈴は席を確保しに行く。

そんな様子を視界の端の方で確認しながらイチカは定食Aの食券を買い食堂のオバちゃんに渡す。

 

 

「はい、Aね。チョッと待っててね~~」

 

 

待っている間にイチカは周囲を見渡す。

 

 

(いないみたいだな……まぁ、そっちの方が都合が良いか)

 

 

鈴以外にIS学園に入る前からの知り合いがいない事を確認したので一先ずは安心したように息を吐く。

 

 

「はい、お待ちどお」

 

 

「どーも」

 

 

オバちゃんから定食Aを受け取ったイチカは鈴が確保した席に向かって歩く。

 

 

「来たわね!」

 

 

「来たぞ」

 

 

そんな会話をしながらイチカは鈴の向かいに座る。

世界で唯一の男性IS操縦者と転校生が同じ席に座っているので、ものすんごい注目されている。

事実、2人には食堂中からチラッチラと視線を向けられていた。

 

 

「気になるわね」

 

 

「慣れろ」

 

 

何処かソワソワしている鈴にイチカはそう言うと定食を食べ始める。

 

 

「ちょっと、何かってに食べ始めてるのよ」

 

 

「飯を如何食おうと俺の自由だろうが…お前もさっさと食え。伸びるぞ」

 

 

「それもそうね。いっただきまーす!」

 

 

イチカの言葉を聞いた鈴は凄い勢いでラーメンを啜っていく。

あまりの速さにイチカは半眼を浮かべながら鈴を見るも、意味のない事だと判断し食事を再開した。

そうして大体10分後。

2人は食事を終了させた。

 

 

「……それで?こっちが聞きたい事もあるし、そっちが聞きたい事もあると思うが、どっちがどの話からする?」

 

 

「先ずはアンタが説明しなさいよ!あの後、どういった経緯で私達の前からいなくなったのか!」

 

 

「声がデケェんだよ!たっく…その話はここでは出来ん、聞かれるだろうが」

 

 

「あ、それもそうか……じゃあ聞きたい事無いんだけど」

 

 

「はぁ……」

 

 

イチカはため息をつくと水を1口飲む。

 

 

「そんじゃあ、聞きたい事だが……『中国国家代表候補生にプロメテウス社が専用機を直々に譲渡』っつーのはお前だな?」

 

 

「なっ!?何でそれを!?」

 

 

「普通に情報出てるだろうが。それに、さっき会社に確認したら確かにプロメテウスはIS学園への転入生に専用機を開発したといっていたらしいからな」

 

 

「……ま、そうよ。私はプロメテウス社から専用機を貰ったわ」

 

 

「なんでプロメテウスがお前に?プロメテウスはそこまで中国と仲いいわけじゃないだろ」

 

 

イチカの言葉を聞いた鈴は少し視線を泳がせる。

 

 

「えっと、その…私、プロメテウスの社長の子供と仲良くて……」

 

 

「社長の子供……はぁっ!?郷田とぉ!?」

 

 

鈴の言葉を聞いたイチカは驚きの声を発する。

そんなイチカの反応に鈴も驚きの表情を浮かべる。

 

 

「え、イチカ、郷田さんと知り合いなの!?」

 

 

「……その郷田の下の名前がハンゾウなら、知り合いだなぁ……」

 

 

「そう!郷田ハンゾウさん!」

 

 

まさかの状況にイチカは眉間を押さえ、鈴は興味津々といった表情を浮かべる。

 

 

「どんな関係なの!?」

 

 

「…兄さんの友人だ。本人達間は犬猿の仲とか言ってるが、傍から見ると普通に仲がいい」

 

 

「へぇ~、そうなんだ」

 

 

「そんで?お前と郷田はどういう関わりなんだ?」

 

 

「私が中国に帰った後、ちょくちょく顔を合わせる機会があったのよ。それで仲良くなったって感じね」

 

 

「どんな機会だよ…確かに暫く海外行ってるとは聞いてたが……世界は案外狭いのかもな」

 

 

「狭い狭い」

 

 

鈴のその言葉で、2人は同時に笑みを浮かべる。

そんな2人に声を掛ける生徒が1人。

 

 

「い、イチカさん!」

 

 

「オルコットか…何の用だ?」

 

 

その生徒…セシリアに視線を向けながらイチカはそう声を発する。

 

 

「その、ご一緒してもよろしいですか!?」

 

 

「もう私達食べ終わってるけど」

 

 

「え、もうですか!?」

 

 

セシリアは驚きの表情を浮かべ机の上に置いてある皿の事を確認する。

確かに空になっているのを見て、セシリアは何とも言えない微妙な表情を浮かべる。

そんなセシリアに鈴は苦笑いを浮かべ、イチカは特に表情を変えず言葉を発する。

 

 

「そういう訳だ。話したい事があるんだったら後で来い」

 

 

食器を返却する為にイチカは席から立ち上がる。

それに続くように鈴も席から立ち上がる。

そうして2人が食器を持とうとした時、再び声が掛けられる。

 

 

「おい、一夏!」

 

 

「ちっ…」

 

 

先程のセシリアの時と異なり、イチカは一瞬で不機嫌になり舌打ちをする。

 

 

「篠ノ之…何の用だ……」

 

 

その声を掛けた生徒…箒の事を睨みながらイチカはそう声を発する。

 

 

「イチカ、誰?」

 

 

「俺のストーカー。気にしなくて良い」

 

 

「そう、なら良いわ」

 

 

急に現れた箒に鈴がそう疑問の声を発するが、イチカの言葉を聞き興味を無くしたようだ。

食器に視線を移している。

 

 

「一夏、なんだその女は!!」

 

 

「ああ?てめぇには関係ないだろうがよ。鈴、行くぞ」

 

 

「あいあいさー」

 

 

箒の事を無視してイチカと鈴は食器を返却する。

そうして食堂から出ようとするイチカの肩を箒が掴む。

 

 

「おいてめぇ、さっさと離せ」

 

 

「一夏!幼馴染に向かってなんだその口の利き方は!」

 

 

「幼馴染?ちょっとイチカどういう事よ」

 

 

「どうしたもこうしたも、コイツの虚言だ」

 

 

「虚言とはなんだ!」

 

 

面倒くさい。

イチカと鈴は同時にそう思った。

そんな3人の事は食堂中から視線を向けられているも、それに反応する余裕は2人には無かった。

 

 

「いい加減にしろ!しつこいんだよ!!」

 

 

「何がしつこいというのだ!!」

 

 

イチカが怒りで頬をピクピクさせると同時に鈴が口を開く。

 

 

「初対面で言う事じゃないかもしれないけど、アンタ視野狭すぎじゃない?イチカ本人が否定してる事は他人が何を言っても変わらないわよ」

 

 

「っ!この!」

 

 

鈴の言葉に箒は激昂し鈴に掴みかかろうとする。

が、鈴はそれをひらりと躱し言葉を発する。

 

 

「本人に認めてもらう事が何より大事なんじゃ無いの?」

 

 

「っ!黙れ!お前はいったい一夏のなんだというのだ!」

 

 

「幼馴染よ!ねぇ、イチカ」

 

 

「出会ったのは小5だが……まぁ、そうだな」

 

 

「ほら見なさい!こういう事よ!」

 

 

イチカの同意を得た鈴は自身満々の表情を浮かべてそう言い切る。

そんな鈴を見た箒は更に怒りを濃くする。

 

 

「黙れぇ!このぽっと出のチビが!私と一夏の邪魔をするな!!」

 

 

「……あ?」

 

 

箒の言葉を聞いた鈴も表情に怒りを漏らす。

ドスの利いた声で言葉を発する。

 

 

「黙れ…その言葉、そっくりそのままお返しするわ。私とイチカの関係は、アンタとなんかよりも全然深い」

 

 

「そんな訳が「いや、そうだ」い、一夏…」

 

 

「アンタなんかがイチカの幼馴染なんて言わないで。不愉快」

 

 

イチカと鈴に次々にそう言われ、箒は俯く。

黙ったか。

そう思ったのも束の間。

 

 

「黙れ……黙れぇぇえええええ!!!!」

 

 

箒は雄叫びを上げながら何処からともなく木刀を取り出し振りかざす。

 

 

『キャアアアアアア!?』

 

 

急な事に周囲にいた生徒達が悲鳴を上げる。

イチカが如何にかしようと身体を動かす。

その前に。

 

 

「ふっ!」

 

 

鈴が動いた。

小柄な体格を生かし箒の懐に潜り込んだ鈴はそのまま箒の脛を思いっ切り蹴る。

 

 

「が、あぁあああ……!!」

 

 

カラン

 

 

急に来た衝撃に箒は表情を歪め木刀を落としその場に蹲る。

鈴は落ちた木刀を踏みつけて破壊すると箒の顔を覗き込む。

 

 

「舐めた真似してくれたわねぇ…こんなんで、私に歯向かおうなんて100万年早いのよ」

 

 

「ヒィッ!?」

 

 

その眼光とドスの利いた声に箒は情けない悲鳴を上げる。

そんなやり取りを見たイチカは口笛を吹き笑みを浮かべる。

 

 

「流石は地獄の破壊神。これくらいは造作もないか」

 

 

「え、えっと…イチカさん?」

 

 

「ん?どうしたオルコット」

 

 

「えっと、その…『地獄の破壊神』ってなんですか?」

 

 

セシリアのその言葉と同時に、食堂中の視線がイチカに集まる。

 

 

「鈴は昔から、『敵』に容赦がなかった。テレビゲームみたいな遊びから、喧嘩でもな。そして、敵の事は徹底的に破壊する。道具も、メンタルも。だからアイツは地獄の破壊神なんだよ。まぁ、戦わなければ普通にフランクな奴なんだがな」

 

 

「何の騒ぎだ!!」

 

 

イチカの説明が終わると同時に千冬が怒鳴りながら食堂に入って来た。

 

 

「篠ノ之の馬鹿が木刀取り出したんで鈴がそれ砕きました」

 

 

「なに?本当か?」

 

 

千冬は近くにいた生徒に睨みながらそう質問する。

 

 

(生徒を睨むんじゃねぇよ)

 

 

「は、はい!そうです!」

 

 

その生徒が肯定した事で千冬は舌打ちをする。

 

 

「凰、今回は見逃すが次は容赦しないからな」

 

 

「はいはい、分かりましたー」

 

 

鈴の返事に千冬は再び舌打ちすると未だに蹲っている箒を抱えて食堂から出て行った。

 

 

「ねぇイチカ、1つ聞きたい事があるんだけど」

 

 

「なんだ?」

 

 

「なんで朝のSHRでアイツの事世界最強って言ったの?世界最強はレックスさんでしょ?」

 

 

鈴の質問に、イチカはタロットカードを1枚取り出す。

 

 

「THE EMPERORの逆位置…自分勝手で傲慢。アイツに相応しいカードだ。アイツはレックスの事が嫌いだからな。下手に刺激すると面倒くさい事になる」

 

 

「はぁ~~、なるほど。子供ね」

 

 

「まぁ、そうだな」

 

 

イチカと鈴はそう会話した後、食堂中に視線を向ける。

 

 

「食わなくて良いのか?」

 

 

「もう昼休みあとちょっとよ」

 

 

『え!?』

 

 

イチカと鈴の言葉を聞いて生徒達は慌てて時間を確認する。

そうして確かに時間がない事を認識した瞬間慌てて残っていた昼食を食べ始める。

そんな様子に鈴は苦笑いを浮かべ、イチカは小馬鹿にするような笑みを浮かべる。

 

 

「教室戻るぞ。例の件は放課後だ」

 

 

「分かったわ」

 

 

そうして、2人はそのまま教室に戻っていった。

因みにだが、午後の授業に遅れた生徒はなんとかいなかったようだ。

 

 


 

 

食堂での一幕から暫く経った4月末。

クラス対抗戦が開催される日。

クラス対抗戦とは、その名の通り各クラスのクラス代表が行う1対1の模擬戦トーナメントの事である。

優勝クラスには食堂のデザートフリーパス1年分が与えられる。

 

1年生の部の第一試合は1組対2組。

初っ端からイチカの出番である。

そして対戦相手の2組のクラス代表は……鈴。

元々は別の生徒だったが、鈴が専用機を持っている国家代表候補生という事で交代したのだ。

 

 

そんな日、試合の行われる第一アリーナ。

観客席は満席であり、各国家や企業にも映像が配信されている。

 

 

「あ、あああ……ついにこの日が来たかぁ……」

 

 

イチカはISスーツ姿のままでアリーナに立っていた。

観客からはざわつきの声が聞こえるがイチカはそんなもの気にはしない。

大体5分後。

イチカが出て来たピットの反対側のピットから鈴がISスーツ姿のまま出て来た。

 

 

「やっぱりアンタもそのままなのね!」

 

 

「まぁな」

 

 

鈴は笑みを浮かべながらそう言い、イチカは素っ気なく返す。

そうして鈴はそのままイチカの正面に歩いて行く。

 

 

「箱の中の魔術師と地獄の破壊神の異名同士対決だな」

 

 

「その名前で呼ぶな!!……まぁ、でもそれだったら私の勝ちね!!」

 

 

「ほう、その心は?」

 

 

「魔術師と破壊神なら、破壊神の方が強いに決まってるじゃない!」

 

 

「神が人間に負けるのは漫画の鉄板だけどねぇ」

 

 

イチカのその言葉と同時に2人は同時に笑みを浮かべる。

そして、懐からCCMを取り出し

 

 

ピ、ピ、ピ

 

 

「ジョーカー!!」

 

 

「ハカイオー!!」

 

 

ISを同時に展開した。

イチカは何時も通りのジョーカー。

鈴は何処かライオンを思わせるようなヘッドパーツを持つ全身装甲のIS。

ジョーカーのものよりも太いシルエットの腕部や脚部はどう考えてもパワータイプであり、何処かブロウラーを思わせる。

だが、何よりも特徴なのはその胸部だろう。

そこには、どう考えても何かありそうな巨大な砲口が存在した。

 

 

「これが、私の専用機!ハカイオーよ!!」

 

 

「……お前何だかんだ異名気に入ってんだろ」

 

 

イチカは正直な感想を漏らす。

 

 

「うっさい!元々は別の名前だったけど私の異名を知った会社がこうしたの!」

 

 

「それを受け入れている時点で気に入ってるじゃねえか」

 

 

その切り捨てるような言葉に何も言えなくなってしまう。

 

 

『それでは、これよりクラス対抗戦1年生の部第一試合、仙道イチカ対凰鈴音を開始します。双方構えてください』

 

 

そのアナウンスと同時にジョーカーはジョーカーズソウルを、ハカイオーはノコギリ状の刃が存在するヘビーソード『破岩刃』を展開し、構える。

 

 

「なぁ、鈴。提案がある」

 

 

「何よ」

 

 

「折角今どっちも地面に立ってるんだ…()()()()()()でどうだ?」

 

 

「乗ったわ!」

 

 

『試合……開始!!』

 

 

試合開始の合図と同時にジョーカーは地面を蹴り一瞬でハカイオーに接近するとジョーカーズソウルで切りかかる。

 

 

「甘いわ!」

 

 

しかし、ハカイオーは破岩刃でその斬撃を受ける。

 

 

ガキィン!

 

 

双方の得物がぶつかり合い火花が散る。

 

 

「ハァア!」

 

 

ハカイオーは持ち前のパワーでジョーカーズソウルを振り払うように破岩刃を振るう。

ジョーカーズソウルを持ったままのジョーカーは当然ながら振り飛ばされるも

 

ズザザザザ!

 

そんな音を立てながら着地する。

 

 

「ふっ!」

 

 

そんなジョーカーに向かってハカイオーは頭部後方に存在するスラスターを使用し接近する。

しかし、流石にジョーカーの機動力には敵わずジョーカーは一瞬で進行方向から離脱し距離を開く。

ハカイオーはそれすらも見通しているといった感じで身体の向きを変える。

 

 

「必殺ファンクション!」

 

 

《アタックファンクション!我王砲(ガオーキャノン)!!》

 

 

鈴の必殺ファンクション発動宣言と同時にハカイオー胸部の砲口にエネルギーがチャージされていく。

エネルギーのチャージ完了と同時に砲口から極太のビームを放つ。

 

 

「っ!」

 

 

(そう言えばうちの会社プロメテウスに技術提供してたなぁ!)

 

 

ジョーカーは先程よりも更に大きく跳躍し避けようとするが足先に掠ってしまう。

 

 

「ぐぅっ…!!」

 

 

少し掠っただけで大幅に減ったSE。

パワータイプらしいパワーと、パワータイプらしからぬ機動力。

近距離と遠距離どちらにも対応している武装。

 

 

「ははは!楽しめそうだぁ!!」

 

 

しかし、イチカが笑い声を発すると同時にジョーカーはハカイオーに向かって超高速で走り出す。

それと同時にジョーカーは右に急に移動する。

すると、その移動した先と元々走っていた場所。

その2か所を同時にジョーカーが走る。

中央のジョーカーが今度は左に移動する。

すると、またもやジョーカーが分身し3体となる。

 

 

「出たわね!」

 

 

以前のセシリア戦を見ている鈴は警戒心を露わにしながら破岩刃を持つ手に力を籠める。

3体となったジョーカーはハカイオーの周囲をまるで円を描くかのように猛スピードで走り出す。

円の中心にいるハカイオーは周囲を走るジョーカーに視線を向けながらゆっくりと身体を回転させる。

 

 

「ハァッ!」

 

 

そうして少しだけ身体を反らした瞬間ジョーカーAが背後からハカイオーに切り掛かる。

 

 

「っ!」

 

 

それに反応したハカイオーはジョーカーズソウルを破岩刃で弾こうとする。

その瞬間にハカイオーの背後からジョーカーBとCが接近しハカイオーを切り裂く。

 

 

「ぐぅっ!?」

 

 

急な衝撃で鈴が短くそう悲鳴を上げる。

ジョーカーABCは場所を入れ替え再びハカイオーの周囲を走り出す。

 

 

「実態のある本物はどれ!?」

 

 

鈴はジョーカーの分身を1機が本物、2機が映像だと考えているようだ。

だが、その言葉を無視してジョーカーはハカイオーの事をヒットアンドアウェイの要領で切り裂いていく。

 

 

「ハハハハハ!!」

 

 

イチカの笑い声と同時に3体のジョーカーがハカイオーに向かって行く。

だが、その瞬間

 

 

 

 

 

 

 

ドガァアアアアアアアアアアアアアン!!!!

 

 

 

 

 

そんな音を立てて、アリーナのシールドバリアーを突き破りながら何かが落ちて来た。

土煙が発生しアリーナの事を包み込む。

 

 

「っ!?な、なに!?」

 

 

「……」

 

 

鈴は驚きの声を発し、イチカは黙って土煙の発生源の事を見る。

3体に分身していたジョーカーは1体に戻りジョーカーズソウルを肩に担ぐ。

ハカイオーも我王砲と破岩刃どちらでも反応出来るように構える。

 

 

そして、土煙が晴れ落ちて来たものが視認出来るようになる。

 

 

『キャアアアアアアアアアアア!?!?!?』

 

 

観客は悲鳴を上げ、慌てて逃げだす。

だが、それも仕方が無いだろう。

何故ならそこにいたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤い単眼(モノアイ)が輝くブラウンをメインカラーとしたIS…デクーが8機。

そしてその中央に存在しているグレーがメインカラーで両腕にカギ爪のような武装が付いて足の部分がまるで動物のような逆関節になっているIS…インビット。

合計9機のISがそこに存在していたからだ。

 

 

デクーは一斉に片手銃『スキャッターガン』を展開すると、ジョーカーとハカイオーに向かって発砲した。

 

 

 

 

 

ババババババババァン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆オタクロスの、オタ知識デヨ~~!!☆

 

 

『ハカイオー』

 

プロメテウス社が採算度外視で鈴ちゃんの為に開発した専用機デヨ!

パワータイプらしく豪快な破壊力が特徴デヨ。

頭部後方のスラスターを使用する事で弱点である機動力をカバーし、ヘビーソードである破岩刃で敵を一刀両断するんデヨ!

必殺ファンクションである我王砲(ガオーキャノン)は物凄い威力のビームを放つ、超強力な技デヨ!

地獄の破壊神と呼ばれる鈴ちゃんにはピッタリな機体デヨ~~!!

 

 

 




次回予告

IS学園を襲撃した8機のデクーと1機のインビット。
アリーナを封鎖されてしまい、イチカと鈴が対処する事になる。

「その目に刻みなさい!これが地獄の破壊神『ハカイオー』よ!!」

「さぁ、箱の中の魔術師のショーを楽しめ!!」

次回、IS~箱の中の魔術師~、『魔術師と破壊神の共闘』見てね!


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魔術師と破壊神の共闘

先日弟と共にボトルマンで遊んでいました。
その時に弟が「ジョーカーと言われてパッと思いつくのは?」と聞いてきました。

この小説を書いている私、答えたのは勿論LBX……ではなくベイブレードバーストの「ジャッジメントジョーカー」でした。
ごめんなさい。
なんか先にそっちが出て来たんです。
因みにもうお分かりかと思いますが、作者はバトルホビーが大好きです。
無機物と心通じ合う系男子です。
あと、弟は私がこれを書いている事を知りません。

今回は戦闘シーンが殆どですがクオリティがかなり低いです。
ご了承ください。

IS~箱の中の魔術師~、始まるよ!


クラス対抗戦1回戦、ジョーカー対ハカイオーの試合の真っ最中。

単眼のIS『デクー』が8機と両腕にカギ爪のような武装が付いている足の部分がまるで動物のような逆関節になっているIS『インビット』が1機。

合計9機のISがシールドバリアーを突き破りアリーナに乱入してきた。

観客たちは悲鳴を上げ我先にとアリーナから逃げていく。

デクーは一斉に片手銃『スキャッターガン』を展開し、ジョーカーとハカイオーに向かって発砲する。

 

 

ババババババババァン!!

 

 

「ちっ」

 

 

「くぅ!?」

 

 

イチカは舌打ちをしながら地面を蹴り大きく跳躍する事でその弾丸を避ける。

だが、ハカイオーはその巨体故反射的に素早く動く事が困難。

全身に弾丸をくらってしまう。

 

 

「ぐぅううう!?」

 

 

「鈴!なにちんたら動いてる!」

 

 

「うっさい!分かってるわよ!」

 

 

イチカの叱責を受け、鈴は改めて気合いを入れ直す。

デクーはジョーカーよりも当てやすいハカイオーに標的を絞り、発砲する。

 

 

ババババババババァン!!

 

 

「流石に2回目は無い!!」

 

 

だが、ハカイオーに2度目は通じない。

避けれら無いのならば、弾丸を叩き落せばいい。

叫び声と同時に破岩刃を振るい弾丸を弾き落す。

しかし、いくら大振りで破壊力のある破岩刃でも流石に1振りでは弾丸を落とし切る事は出来ない。

 

 

「はぁっ!」

 

 

それをカバーするようにジョーカーがハカイオーと弾丸の間に滑り込み、落とし損ねた弾丸をジョーカーズソウルで切り裂く。

その隙にハカイオーはスキャッターガンの射線から脱出する。

ジョーカーもデクーが再び発砲する前にその場から跳躍する。

 

 

『仙道君!凰さん!』

 

 

此処で、アリーナの管制室から2人にオープンチャネルでの通信がはいる。

 

 

『教員部隊が対処します!今すぐそこから避難を…』

 

 

その言葉の途中で、デクーの向こう側にいるインビットの両目が赤く光る。

瞬間、

 

 

ガッシャアン!!

 

 

と音を立てピットへの道が閉ざされてしまう。

これでは脱出が出来ない。

それだけでは無く、突入しようとしていた教員部隊も入れない。

 

 

「うっそ!?どういう事!?」

 

 

「仙道だ。防壁が降りて来て脱出できない。どうなってる?」

 

 

『ええ!?』

 

 

その事をイチカが管制室にいる教員に伝える。

だが、デクーは待ってくれない。

再びジョーカーとハカイオーに向かって銃口を向ける。

 

 

「ちっ!おい!そっちはそっちで如何にかしろ!!」

 

 

「分かってるわよ!!」

 

 

先程とは違い、8機すべての射撃がどちらかに集中している訳では無い。

その為、ハカイオーのみでも捌ききる事は可能である。

交戦の許可が出ていない為、ジョーカーとハカイオーは自分から攻撃しない。

正直そんなもの無視して交戦したいのだが、イチカの脳裏にはその事を面倒くさく追及してくる千冬の姿があるため攻撃していない。

鈴もイチカと同じ光景が簡単に思い浮かぶ為交戦していない。

 

 

『げ、現在アリーナの防犯システムがクラッキングにより誤作動を起こしています!』

 

 

「使えないな!解除は!?突入は!?」

 

 

『い、今やっていますが、す、直ぐには…』

 

 

「ならいい!俺達でやる!」

 

 

「良いわね!」

 

 

『ちょ、ちょっと待って下さい!許可は…』

 

 

『許可します』

 

 

イチカ、鈴、管制室の通信に第三者が割って入る。

 

 

「アンタは?」

 

 

『初めての挨拶がこのような形で申し訳ありません。IS学園学園長の轡木十蔵です』

 

 

その第三者とは、IS学園の学園長である十蔵だ。

まさかの通信相手にイチカと鈴はフェイスパーツの下で少しだけ驚きの表情を浮かべる。

 

 

『仙道君、凰さん、あなた方の交戦を許可します』

 

 

『が、学園長!?』

 

 

『アリーナに突入出来ないのならば、対処できるのは彼らしかいません。そして、対処しないと学園への被害が大きくなってしまいます』

 

 

管制室の教員が十蔵の言葉に驚きの声を発するも、その言葉を聞き黙る事しか出来なかった。

その間もデクーの攻撃は続いており、ジョーカーはアリーナ内を駆ける事で避け、ハカイオーは弾丸を弾き落している。

 

 

『仙道君、凰さん、教員として情けない事を言っているのは理解しています。ですが、今はあなた方にしか頼めません。どうかお願いします』

 

 

十蔵のその言葉を聞いたイチカと鈴はフェイスパーツの下で笑みを浮かべる。

 

 

「乗った!鈴、行くぞ!」

 

 

「OK!」

 

 

ジョーカーとハカイオーは避ける事や弾き落とすことを止め、攻撃態勢に移る。

 

 

「ハッハハハァ!!」

 

 

ジョーカーは空中を飛び跳ねるかのように駆けながら1機のデクーに接近していく。

そのデクーや周囲のデクーは当然ながらそれに近付きジョーカーに向かって発砲する。

 

 

「そんなもん効かないねぇ!!」

 

 

それを嘲笑うかのようにジョーカーは加速を緩めずに華麗に弾丸を避けていく。

 

 

バッ!バッ!

 

 

空中で身を翻したジョーカーは3機に分身すると、それぞれ別のデクーに向かって行く。

デクーは銃撃戦じゃ勝てないと判断したのかスキャッターガンを放り接近用の武装を展開しようとする。

しかし、それよりも早くジョーカーがデクーの持つ大楯『タイディシールド』毎デクーの装甲をジョーカーズソウルで切り裂く。

 

 

ガキィン!

 

 

激しい音と共にタイディシールドが真っ二つになり、装甲からは火花が散り切り裂かれた跡が残る。

ジョーカーが追撃しようと再びジョーカーズソウルを構えるも、デクーは火花を散らしながらも地面を蹴りインビットの近くへと後退する。

 

 

ジョーカーがデクー達と戦闘をしている側では、ハカイオーもまたデクー達と戦闘を行っていた。

 

 

「ハァ!オラァ!」

 

 

ガキィン!ガキィン!

 

 

接近用の『ヘビィソード』を持つデクー3機に囲まれているハカイオー。

そんな事ものともせず破岩刃を振るい攻撃を仕掛けていく。

破岩刃の強大過ぎる攻撃をくらえば、たとえ1回だろうと致命傷になりかねない。

だからこそ、デクーは3機同時に攻撃を仕掛ける事で集中を欠かそうとしているのだ。

 

 

「そんな見え見えの作戦、私とハカイオーには効かないわ!」

 

 

その叫びと同時にハカイオーは頭部後方のスラスターを使用しデクーに一気に近づく。

 

 

「ハァア!」

 

 

ズガァアン!!

 

 

勢いのまま破岩刃を振るい、3機のデクーからヘビィソードを弾き飛ばす。

デクーはその場から跳躍しハカイオーから離れ、スキャッターガンを展開し発砲しようと横に並ぶ。

だが、それこそが鈴の狙いであった。

 

 

「必殺ファンクション!」

 

 

《アタックファンクション!我王砲!!》

 

 

放たれた極太のビームは真っ直ぐ3機のデクーへと向かって行く。

デクーはすぐさま避けようとするが、いくら初見とはいえ機動力に優れるジョーカーが完璧に避けられなかった我王砲。

同じく初見で、ジョーカーよりも機動力が劣っているデクーが避けれるわけが無い。

 

 

実際、我王砲をくらいタイディシールドは3機分全てが消失し、デクーのSEが大きく削られる。

そのままデクーはインビットの近くにまで吹き飛んでいく。

 

 

ハカイオーの横に再び1体に戻ったジョーカーが着地する。

 

 

「このまま行くぞ!」

 

 

「OK!」

 

 

ジョーカーはそのままデクー達に突っ込んで行くように地面を走り、ハカイオーは再び我王砲のチャージをし始める。

デクーは8機の内6機がもう既に手負いであり、反応が遅れる。

このままジョーカーズソウルでの攻撃が決まる…

 

 

 

と思われた瞬間。

 

 

キュイン

 

 

その様な音が鳴る。

それと同時に今まで静観していたインビットが動いた。

予備動作無しで地面を蹴りデクーを飛び越え、今まさに斬りかかろうとしているジョーカーの持つジョーカーズソウルの事を両腕のカギ爪にある仕込み銃で射撃をする。

 

 

「ちっ!」

 

 

急な行動にイチカは舌打ちをする。

攻撃対象をインビットに切り替え、ジョーカーズソウルを振るうもインビットはカギ爪でそれを受ける。

 

 

ガキィン!

 

 

「くそ」

 

 

1度だけでなく何度もインビットに斬りかかる。

しかし、その度にカギ爪によって弾かれ、偶に装甲に切り付けることは可能であっても、少しの火花と共に簡単に弾かれてしまいダメージが蓄積されているように感じない。

 

 

「コイツ…装甲の強度が普通じゃねぇ…」

 

 

「イチカ!変わって!」

 

 

その声に大人しく従い、ジョーカーが地面を蹴りインビットから離れる。

それと同タイミングでスラスター使用し加速したハカイオーが破岩刃で斬りかかる。

が、インビットはそれすら見切り破岩刃の斬撃をカギ爪で受ける。

 

 

ガキィイン!

 

 

破岩刃とカギ爪がぶつかり合う音が響き、火花が散る。

 

 

「ハ、ハカイオーのパワーと渡り合うだなんて…!」

 

 

その後、ハカイオーが何度か仕掛けるもインビットは軽々とその攻撃をいなす。

攻防の隙になんとか態勢を整えたデクー8機。

ハカイオーに向かって攻撃を仕掛けようとする。

 

 

「甘ちゃんだねぇ!」

 

 

ジョーカーがそれよりも早く進路を妨害する。

デクーが戸惑っている間にジョーカーは苦戦しているハカイオーの事を掴みその場から離れる。

戦闘態勢をとっていたインビットは行動を開始する前の位置に戻り同じ体勢に戻る。

その光景を見ていたイチカがポツリと呟いた。

 

 

「周りの雑魚は分からんが、あのカギ爪野郎は無人機だな」

 

 

「無人機!?」

 

 

その呟きに鈴が驚きの声を発する。

それに反応し返す前に、デクー達がジョーカーとハカイオーに向かって発砲する。

弾丸を避けながらイチカと鈴はプライベートチャネルで会話する。

 

 

「あのカギ爪野郎、そもそも足の形が人間のものじゃない。人間の足が入るスペースも別に確保してあるとは思えない。したがって、アイツは無人機だ」

 

 

「な、なるほど…」

 

 

「他の雑魚は人が入ってるか如何か分からん。そっちで生体反応を確認できないか?」

 

 

「ちょっと待ってて…」

 

 

その間もデクー達からの射撃は止まらない。

だが、先程に比べると6機がダメージを受けている為精度は低くなっている。

その為ハカイオーがハイパーセンサーで生体反応を探る余裕があるのだ。

 

 

「ッ!イチカ、周りは生体反応無し!こいつ等も無人機!」

 

 

「そうか…なら遠慮なくぶっ壊せるな」

 

 

「ええ!」

 

 

「鈴、俺が雑魚を蹴散らしながら良い感じの状況を作る。お前のビームでカギ爪野郎を貫け」

 

 

「え、私そんだけ!?」

 

 

「アレ、エネルギー使い過ぎで使用直前と直後動けないだろ」

 

 

「っ!ば、バレてたのね…」

 

 

イチカの指摘に、鈴はそう声を漏らす。

我王砲は確かに強力な必殺ファンクションだ。

あのビームをまともにくらえばどんな並みのISは一撃でSEが無くなるだろうし、それ以上のスペックを誇っていたとしても大ダメージは免れないだろう。

 

 

だが、強い力には当然それ相応のデメリットがある。

我王砲は普段機体を動かすために使用しているエネルギーすらも使用して放たれているのだ。

機体制御のエネルギーが例え一瞬でも切れたら、当然ながら機体は動けない。

時間にすれば1秒程だろう。

しかし、戦闘においての1秒はとても大きな隙となる。

だからこそ発動タイミングをしっかりと見極めないと一気に不利になる。

 

 

ハカイオーは一見機体に慣れていなくてもそこそこ扱えるように感じるパワータイプの機体だが、その実は緻密な訓練が必須の超上級者向け機体なのだ。

 

 

「あのカギ爪野郎の装甲は雑魚と違って傷がつかなかった。っていう事は普通の装甲よりも強度が高い。お前に任せた」

 

 

「…良いわ。任せなさい!」

 

 

「しくじるなよ!」

 

 

「誰に言ってると思ってるのよ!」

 

 

軽口を言い合う具合には余裕が出て来たジョーカーは空中を蹴ると一気に加速しデクー達に向かって行く。

 

 

バッ!バッ!

 

 

3機に分身したジョーカーは3機固まっているデクーにそれぞれ向かって行く。

ジョーカーの機動力が元々かなり高い事、空中から地上に向かって行くにつれて物体の速度は加速していく事。

その2つがかみ合わさる事で、途轍もない速度での移動が可能となっている。

こんな速度では、デクーでは反応出来ないし出来たとしても行動に移すだけの時間が無い。

 

 

「ハッハハハァ!!」

 

 

ガキィイン!

 

 

ジョーカーズソウルに切り裂かれたデクー3機は空中へとふっ飛んでいく。

 

 

シィィィン…パァン!

 

 

デクーの全身が一瞬青くなり、その直後弾け飛ぶような音と共に青い粒子を散らしながらデクーは地面へと落下した。

ブレイクオーバー(SE切れ)である。

ジョーカー3機は倒れたデクーに視線を向けることなくそのまま別のデクーへと向かって行く。

 

 

「さぁ、箱の中の魔術師のショーを楽しめ!!」

 

 

イチカのその言葉と同時に、ジョーカーは残りの5機に攻撃を開始する。

 

 

その光景をただ見ながら、ハカイオーのフェイスパーツの下で呆然とした表情を浮かべる鈴。

そんな表情を浮かべている理由はただ一つ。

鈴の記憶の中の名前を変える前のイチカと、今目の前で戦っているイチカとのギャップが大きいからだ。

 

 

そんな鈴の脳裏には、転校初日に聞いたイチカの過去の話が思い返されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「世界大会の時、俺は誘拐された」

 

 

「ゆ、誘拐って…」

 

 

「そのまんまだ。で、自力で脱出した後に疲労で倒れた時に今の家族に拾ってもらった。そんだけだ」

 

 

放課後、拓也の到着を連絡を待ちながら校門前で淡々と過去を語ったイチカ。

あまりにも表情を変えなかったので、鈴は少しだけ恐怖を感じる。

 

 

「な、なんか思う事は無いの?」

 

 

「いや、特に。寧ろあの時はせいせいしたね。お前も知ってるだろ?アイツの暴虐無人な振舞は」

 

 

「まぁね。見ててイライラしたわよ。あの振舞には」

 

 

鈴の返答を聞いたイチカは懐から1枚のタロットカードを取り出し、鈴に見せる。

 

 

「THE SUNの正位置、幸福。不安や苦しみを感じない希望に満ちた状況が訪れる……俺はあの時仙道イチカになった。そこから俺は今まで会ったことが無い色んな奴と出会った。だからこそ、俺は成長できた。今IS学園に通わないといけないというこの状況を除けば、俺は十分恵まれてる」

 

 

そう語るイチカの表情は先程までの淡々な物とうって変わり穏やかなものだった。

その時、イチカのCCMに拓也から駅前についたという連絡が入った。

そのまま校門を出ようとした時、チラッと振り返り鈴に視線を向ける。

 

 

「ともかく!俺は仙道イチカになった。織斑一夏とは違う。そして、今の俺は十分幸せだ」

 

 

最後にそう言うと、もう振り返ることなくモノレール駅へと向かって行った。

この場に残った鈴は暫くの間そのままイチカの背中を、その向こうの空を見つめていたがやがて

 

 

「ったく、いろいろと成長し過ぎよ。あと、そう言う事は笑顔で言いなさいよ」

 

 

と笑顔で零すとそのまま自分の部屋へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

その時の記憶を思い返した鈴は、フェイスパーツの下で同じような笑顔を浮かべる。

 

 

(そうよ。アイツはただただ成長しただけ。そして、私だって同じくらい成長してる!だったら、私はやるべき事を全うしたうえで、指示以上に動く!)

 

 

鈴がそう覚悟を決めた時、

 

 

シィィィン…パァン!

 

 

丁度ジョーカー3機が全てのデクーを倒し切った。

ジョーカーは3機のままインビットに同時に斬りかかろうとする。

しかし、インビットが起動し仕込み銃とカギ爪でジョーカーに対応する。

 

 

「ハハハ!オラオラァ!」

 

 

ガキィン!ガキィン!ガキィン!

 

 

先程はジョーカーの攻撃を完全にさばいていたインビットだが、ハイスペックのジョーカー3機に同時に攻撃されれば流石に押されていく。

事実、ジョーカーズソウルに切り刻まれながらインビットはジリジリと後退していっている。

 

 

バッ!

 

 

このまま斬り合っててもどうしようもない。

そう判断したのかインビットはその場から大きく跳躍する。

 

 

ザザザ!

 

 

地面に着地したインビットは仕込み銃の銃口をジョーカーに向ける。

ジョーカー3機はインビットに向かって空中を駆けようとする。

だが、それよりも早くインビットに別の方向から攻撃が与えられた。

 

 

「ハァアア!!」

 

 

ガキィイン!!

 

 

それは、インビットの向かう先を予測していたハカイオーである。

インビットは攻撃を確認はしたものの行動に移す前に破岩刃による強力な一撃をモロに喰らってしまい体勢が傾く。

こんな絶好の隙を見逃すほどハカイオーは甘くない。

何度も破岩刃での攻撃を受けていくうちに、インビットは動きが鈍くなっていく。

 

 

「ふっ飛べ!泣き叫べ!砕け散れ!」

 

 

インビットは言葉の通り吹き飛びアリーナの中央に転がっていく。

全身からスパークを散らしながらも立ち上がろうとするインビット。

だが、ハカイオーは止まらない。

 

 

「その目に刻みなさい!これが地獄の破壊神『ハカイオー』よ!!必殺ファンクション!!」

 

 

《アタックファンクション!我王砲!!》

 

 

放たれた我王砲はインビットに向かって真っすぐ向かって行く。

巨大な熱戦に飲み込まれていくインビット。

 

 

ドガァアアアン!!

 

 

インビットの向こう側の地面にも着弾し、黒煙と土煙が発生する。

倒し切った。

そう思ったのも束の間。

 

 

バチバチバチ!

 

 

「なっ!?」

 

 

左腕や顔の半分が吹き飛び全身に罅が入り、スパークを散らしながらもまだインビットは稼働できる状況だった。

黒煙から飛び出し我王砲の影響で動けないハカイオーに向かって行く。

衝撃に耐えようと鈴はフェイスパーツの下で両目をつぶる。

そうしてインビットの攻撃がハカイオーに決まる……その直前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、決め台詞言ったんだったらしっかり決めきれ!必殺ファンクション!!」

 

 

《アタックファンクション!デスサイズハリケーン!!》

 

 

1機に戻ったジョーカーが必殺ファンクションを発動。

デスサイズハリケーンで発生した竜巻がインビットを飲み込む。

そして

 

 

ドガァアアアアアアアアアアン!!

 

 

インビットは空中で完全に爆発。

巨大な爆音と共に黒煙が発生し、インビットのパーツがアリーナに降って来る。

 

 

ガシャアン!!

 

 

その瞬間に閉ざされていたアリーナが開き、外に出れるようになる。

 

 

「美味しいところ持ってかないでよ!」

 

 

「てめぇが決めきらないのが悪い」

 

 

イチカと鈴は軽口を言い合う。

そして

 

 

パァン!

 

 

と手を合わせた。

こうして、IS学園襲撃事件は一先ず幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆オタクロスの、オタ知識デヨ~~!!☆

 

 

『インビット』

 

IS学園に襲撃を仕掛けてきた無人ISデヨ!

原作では警備用だったが今作ではゴッツリ自分から動くデヨ!(Wでブレインジャックの時普通に外歩いてたので許してください)

一般的なISでは歯が立たない程の強固な装甲を誇り、尚且つ搭載しているAIは高性能で高い戦闘能力を誇るんデヨ!

基本武装『インビットアーム』は武器腕であり、カギ爪と仕込み銃によって遠近両用の敵を殲滅するんデヨ!

とてもおっそろしい敵だったデヨ。

イチカ、鈴ちゃん、良く倒したデヨ!!

 

 

 




次回予告

事件後、教員会議に参加するイチカと鈴。
会議室には何故かこってり怒られた後だと思われる箒がいた。
そして会議中に千冬はイチカと鈴にしつこく絡むのだが、その行動である人の怒りに触れてしまい…

「おお、こっわ」

次回、IS~箱の中の魔術師~、『事件の後の会議』見てね!


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事件の後の会議

最近出たタンサターンDXの練習しつつ書いてたら、想定の2倍くらい時間がかかりました。
ボトルマンが楽しすぎて時間があっという間に過ぎていくからですかね。
次は気を付けます。

IS~箱の中の魔術師~、始まるよ!


「仙道君!凰さん!大丈夫ですか!?」

 

 

「あ?」

 

 

「ん?」

 

 

IS学園のクラス対抗戦の際中に起こった襲撃事件。

ジョーカーとハカイオーがインビットとデクー8機との交戦を勝利で収めた直後、閉じられていたアリーナが開き、かなり遅れて教員が突入してきた。

 

 

「俺は問題無い」

 

 

「私も問題無いわ」

 

 

「なら良かったです…」

 

 

ジョーカーとハカイオーの元にやって来た教員が2人の安否を確認し、無事な事に安堵の息を漏らす。

 

 

「そうだ、1つ聞いておきたい事がある」

 

 

「はい、なんですか?」

 

 

「なんでこんなに遅れた?開いて直ぐに来たんだから待機はしてたんだろ?多少の時間は要するかもしれんが、壊してくればよかったじゃないか」

 

 

正論過ぎる言葉を聞いた教員は、思わず視線を逸らしてしまう。

だが、逸らした先にいるハカイオーから発せられている威圧感を受け、言いにくそうにしながらも説明を開始する。

 

 

「あの、その…お、織斑先生が原因というか…」

 

 

「そんな言いにくい事なんですか?」

 

 

鈴のその言葉を聞き、漸く覚悟が決まったようにため息をつく。

 

 

「織斑先生の指示が遅すぎて漸く行動出来る頃には仙道君と凰さんが終わらせてたんです」

 

 

「指示が無いと動けないのか?」

 

 

「はい、織斑先生は現役時代の功績から有事の際の行動指揮権を持っています」

 

 

「なるほど。指揮権のある人間の指示によって行動を決定するのに、その指示が無かったと」

 

 

「それに加え、無視して勝手に行動すると、理不尽な罰則だったり、全責任だったりをその無能な指揮権所有者から与えられると」

 

 

「う、そ、その通りです…」

 

 

説明していない部分まで的確に理解した2人に、その教員は頷く事しか出来なかった。

 

 

「カスだな」

 

 

「ええ、カスね」

 

 

2人が千冬をボロカスに吐き捨てる様子を見て、教員は慌てて声を発する。

 

 

「と、取り敢えず!後は私達教員に任せてください。今日の16:00からこの事件に関する事後会議を行うので、会議室に集合してください」

 

 

「って事は、それまでの間はフリーか?」

 

 

「はい、激しい戦闘の後なんです。しっかりと身体を休めてください」

 

 

「…身体を休めろって言うんなら会議明日で良かったんじゃない?」

 

 

鈴が正直に思った事をそのまま零してしまい、それを聞いた教員は苦笑いを浮かべる。

 

 

「お前はちょっと黙る事を覚えるんだな」

 

 

その言葉を残し、ジョーカーはジョーカーズソウルを肩に担ぎそのままピットへと戻っていった。

 

 

「あ、ちょ、待ちなさ~い!」

 

 

慌ててハカイオーもジョーカーと同じピットに戻っていく。

そうしてピットに戻った2人はISを解除し、鈴はピット備え付けのベンチに座る。

 

 

「疲れたぁ!!」

 

 

「もっとボリュームを下げろ馬鹿」

 

 

ピ、ピ、ピ、ピ

 

 

そんな鈴を横目に見ながらイチカはCCMを操作する。

 

 

「ねぇ、何してんの?」

 

 

「戦闘映像と、あのカギ爪野郎と雑魚の解析結果の保存」

 

 

「えっ!?勝手にそんなことしていいの!?」

 

 

「駄目だって言われていないから良いんだよ」

 

 

「な、なんつー屁理屈……」

 

 

鈴は半眼を浮かべながらそう呟くが、そんな事イチカには関係ない。

 

 

「まぁ、会議の後に学園長に会社に送って良いか聞く。駄目だって言われたら大人しく消すさ」

 

 

「あ、そこらへんは流石にちゃんとしてるのね…」

 

 

「お前は俺を何だと思ってやがる」

 

 

今度はイチカが半眼を作りながらそう聞いた。

それと同時にCCMを閉じ、ISスーツのポケットに仕舞う。

半眼を向けられた鈴はわざとらしく視線を泳がせる。

そんな様子を見て、イチカはため息をつく。

 

 

「腹が減ったな…今食堂やってるか?」

 

 

「え?あ~わかんない」

 

 

「だろうな。お前転校してきたばっかだし」

 

 

「じゃあ何で聞いたのよ!?」

 

 

「ワンチャンに賭けた。負けても損は無いからな」

 

 

「た、確かにそうだけど…」

 

 

どうでも良さそうな雰囲気を醸し出しながらそう言うイチカに、鈴は力が抜けたようにへなへなとベンチに深く座り込む。

そんな鈴を放って、イチカはアリーナの更衣室に向かって歩き始める。

 

 

「だから!私を置いていくな!」

 

 

「なんだ?男子更衣室で着替えるつもりか?」

 

 

「……ふぇっ!?」

 

 

イチカの言葉を聞いた鈴は思わず身体を固め、間抜けな声を発してしまう。

その隙にイチカはピットから出て、更衣室に向かって行く。

それに気が付いた鈴も慌ててピットから出ると、イチカの背中に向かって叫ぶ。

 

 

「着替え終わったら!アリーナの入り口で待ってなさい!私も食堂行くから!」

 

 

「へいへい」

 

 

イチカは面倒くさそうな返事をすると、振り返ることも無くスタスタと男子更衣室に向かって歩いて行った。

鈴は頭をポリポリ掻きながら

 

 

「前と違い過ぎて調子狂うわね…」

 

 

そう呟いた。

少しの間そうしていたが、やがて自身も女子更衣室に向かって歩いていくのだった。

 

 


 

 

イチカと鈴はその後合流し、食堂に向かった。

食堂はまだ準備中だったので方針転換。

売店に行く事にした。

本来はまだクラス対抗戦の時間の為閉まっていたのだが、事情を知っている教員が偶々近くを通ったので声を掛け、売店のオバちゃんに連絡を入れ特別に開けてもらった。

そこで菓子類を購入し、小腹を満たした。

 

 

そこから適当なベンチに座り、ゲーム等で時間を潰した。

そして、アリーナでの戦闘から暫くたち、15:40。

もう直ぐで会議が開始する時間になった。

正直面倒くさいのでサボりたいが、サボったら何があるか分からない。

その為イチカと鈴は大人しく会議室へとやって来た。

 

 

「…正直、だるいわねぇ」

 

 

「そりゃそうだろ。会議なんてのは時間を無駄に食うだけなんだからな」

 

 

「辛辣…」

 

 

鈴がイチカに半眼を向けるが、イチカにはそんなもの関係ない。

扉の前に立ち、扉を3回ノックする。

 

 

「仙道イチカ、凰鈴音。入室許可を」

 

 

『どうぞ』

 

 

入室許可の返事を聞いたイチカが鈴に視線を向け、鈴はイチカの隣に立つ。

 

 

「「失礼します」」

 

 

扉を開け、同時に頭を下げながら声を発する。

そうして同時に顔を上げ、これまた同時に困惑の表情を浮かべた。

 

 

「仙道君、凰さん、わざわざありがとうございます。私が轡木です」

 

 

そんな2人に、会議室の1番奥に座っていた男性…学園長の十蔵が声を掛ける。

それと同時に固まっていた2人は動きを取り戻し、十蔵に視線を向ける。

 

 

「初めまして、凰鈴音です」

 

 

「…仙道イチカだ」

 

 

鈴が挨拶をしたので、それにしょうがなく合わせる形でイチカも挨拶をする。

そんな2人を見て、十蔵は微笑を浮かべる。

 

 

「仙道君と凰さんの席はそこになります。どうぞ座って下さい」

 

 

「あ、その前に1つ良いですか?」

 

 

「はい、なんですか?」

 

 

「アレ、なんです?」

 

 

鈴は会議室のとある方向に視線を向けながら指を指す。

それと同時にイチカと十蔵も同じ方向に視線を向ける。

そこにあったのは、会議室に入った時イチカと鈴が困惑の表情を浮かべた原因。

椅子に深く、深~く座りこみ、項垂れている箒だった。

それを見た十蔵はため息をつき、説明を始める。

 

 

「篠ノ之さんは、戦闘中に放送室に向かおうとしていたところを偶々近くにいた教員が捕まえたんです」

 

 

「放送室だぁ?」

 

 

十蔵の言葉を聞いたイチカは思わずそんな反応をしてしまう。

だが、十蔵はそんなイチカを咎める事はせず、頷くと説明を続ける。

 

 

「はい、捕まえた教員によると『離せ!私は一夏に喝を入れに行くだけだ!』と言って暴れていたようです。その為少々手荒ですが無理やり引きずって来たのです」

 

 

「ほう」

 

 

「事態が収まった後、此処でこってりとお説教をされました」

 

 

「なるほど、だからあんな項垂れてんのか」

 

 

大体の事情を理解したイチカは再び箒に視線を向けると、嘲笑うかのような笑みを浮かべる。

 

 

「ざまぁねぇなぁ」

 

 

「口が悪いわよ」

 

 

「黙れ、お前は母親か」

 

 

「違うわよ!」

 

 

こんな時でもいつもの調子を崩さない2人に、十蔵は思わず微笑を浮かべる。

 

 

「それで、その説教をしていたという教員は何処へ?」

 

 

「ああ、今は職員室に戻っています。会議の記録用レコーダーを「戻りました」噂をすれば、ですね」

 

 

鈴の疑問に十蔵が答えていると、丁度会議室の扉が開き、件の教師が会議室に戻ってきた。

これで十蔵に聞くことが無くなった2人は先程十蔵に指定された席へと座る。

だが、鈴が普通に大人しく座っているのに対し、イチカはまるでプライベートかのようにドカッと座っていた。

流石に足を組んだりはしていないが、とても気だるげであり、会議が面倒くさいというのを全身で醸し出していた。

 

 

それから暫く経ち、会議室に教員が続々と集まって来た。

イチカはその光景を見て

 

 

(もっと後で良かったじゃねぇか)

 

 

と心の中で不満を感じたが、声に出しても意味が無いので黙っていた。

まぁ、意味があったとしても面倒ごとに発展する方の意味しかなさそうなのだが。

 

 

 

そうして箒が会議室から反省室に連れて行かれたりといった感じで時間は過ぎていき、時刻は15:59。

会議開始の1分前。

会議室には参加する人間がほぼ全員揃っていた。

そう、()()()()が。

 

 

「…織斑先生はどうしました?」

 

 

十蔵が困惑したような表情を浮かべながらそう声を発する。

それと同時に、イチカを除く全員の視線が唯一の空席に向けられる。

そう、会議が始まるまでもう1分も無いというのに千冬が未だに来ていたいのだ。

 

 

「わ、分からないです…1時間前には職員室で見たのですが……」

 

 

空席の隣に座る真耶も同じく困惑の表情を浮かべながらそう返す。

1組副担任であり、恐らく全教員の中で1番千冬と関わりがある真耶ですら分からないとなると、もう誰にも分からない。

会議室内に何とも言えない微妙な空気が広がる。

だが、この場に置いて唯一そんな空気が気にならない男ことイチカが面倒くさそうに口を開く。

 

 

「会議に遅れるような馬鹿は放っておいていいだろ。それにアイツ、緊急時なんちゃらかんちゃらの割に仕事すっぽかしてたらしいしな」

 

 

「確かに」

 

 

イチカの言葉に鈴が同調するように頷く。

だが、同じように頷けないのは十蔵だ。

慌てたようにイチカと鈴に質問をする。

 

 

「せ、仙道君!凰さん!それはどういう事ですか?」

 

 

「詳しくは知らん。指示受ける側だった人間に聞け」

 

 

説明するのが面倒だったのか、それとも本当に教員の方が説明しやすいと思ったのかは定かではないが、イチカは手元で取り出したタロットカードを弄りながらそう返した。

タロットカードの事は気にも留めず、十蔵は教員達に質問する。

 

 

教員達は最初は言いにくそうにしていたが、やがて素直に千冬の指示が遅すぎるどころかほぼ無かった事等々の問題点を次々に十蔵に報告していった。

その報告の中には、今回の事件関係のものだけでなく、仕事を他人に押し付ける事があるなど普段の傍若無人な振る舞いもあった。

 

 

そうして、その全てを聞き終えた十蔵は思わず頭を抱えてしまった。

ブリュンヒルデの称号は真実に奪われているものの、モンド・グロッソ初代優勝者の功績と、それに値する実力は確かにあった。

だからこそ、有事の際行動指揮権を託していた千冬が、まさか自分の目が届かない所でそんな行動をしていたとは。

流石のイチカも雰囲気を察し何も言葉を発しない。

 

 

だが、その空気を打ち破るかのように廊下からドタバタという足音が聞こえてきた。

全員が足音の原因を察し、会議室の扉に視線を向ける。

約5秒後。

 

バァアン!!

 

 

「遅れました」

 

 

物凄い音を立てながら会議室の扉が開き、走った後であろう千冬が会議室に入って来た。

 

 

「……織斑先生、会議開始の時間からもう10分経ってますよ?」

 

 

いろいろ言いたい事はある。

だが、今は事後会議が優先だ。

言いたい事をグッと堪え、あくまでも会議に遅れた事について怒っている事にした。

十蔵のその様子から、イチカ達も大体考えている事を察し、黙って千冬の事を見ている。

 

 

「すみませんでした」

 

 

「取り敢えず空いている席に座って下さい。会議を始めます」

 

 

十蔵に言われ、千冬は真耶の隣に座る。

だが、その態度からは遅刻に対する反省が何一つ感じられなかった。

その事に怒りを覚えながらも、十蔵は会議を開始させる。

 

 

「それでは、先ず初めに今回起こった事件の整理をしたいと思います。山田先生、お願いします」

 

 

「はい」

 

 

十蔵の指示を受け、真耶が立ち上がり説明を始める。

 

 

「クラス対抗戦1年生の部第一回戦、1組対2組の試合の際中に事件は起きました。アリーナのシールドバリアーを突き破り、9機のISが襲撃してきました」

 

 

真耶の言葉と同時に、会議室内のモニターに今まさに襲撃してきた瞬間の映像が流れた。

その映像を見ながら、とある事を思い出したイチカはそろっとCCMを取り出しとある事を確認する。

イチカの行動を横目で見て意味を察した鈴も同じく自信のCCMを操作する。

2人が確認しているのは、戦闘中の解析結果。

戦闘中は最低限の事しか見てなかったし、イチカはさっき保存した時にはしっかり確認しながら保存したわけでは無いので、今改めて確認しているのだ。

解析結果に、戦闘したデクーとインビットの名前が残っているのか如何かを。

 

 

「……あった」

 

 

「こっちも」

 

 

イチカが小声でそう呟き、鈴もそれに小声で返す。

2人は視線を合わせ、イチカが面倒くさそうにため息をついてから右手を上げる。

 

 

「はい、仙道君。どうかしましたか?」

 

 

十蔵から発言許可を得たイチカが面倒くさそうな態度は変えないまま声を発する。

 

 

「戦闘時の解析結果を改めて確認したらISの名前が分かった。周りの雑魚がデクー、真ん中のカギ爪野郎がインビットらしい」

 

 

イチカはCCMの画面を十蔵に見せつける。

それを見れば、確かにそうなっている。

 

 

「なるほど、わざわざありがとうございます。では山田先生、続きを」

 

 

「はい。襲撃してきたISの内、えっと…デクーは襲撃直後仙道君と凰さんに向かって発砲。2人が避けている間にIS学園の警備システムへのクラッキングにより誤作動を起こし、シャッターが下り2人の脱出、および教員部隊の突入が不可能になりました」

 

 

真耶は今さっき教えられた名前を戸惑い気味になりながらも使用しながら説明していく。

その最後の『教員部隊の突入が不可能になりました』の時に、千冬に恨みの籠った視線を向ける教員が何名かいたものの、千冬はそれに気が付かない。

いや、気が付いているのかもしれないが自分では心当たりがまるで無いので、勘違いだと思っているのかもしれない。

 

 

「その後、仙道君と凰さんがデクーとインビットとの戦闘を開始。戦闘の末、デクー8機は全てSE切れとなり、インビットは粉々に破壊されました。デクー全てとインビットの残骸の解析の結果、9機すべてが無人機でした」

 

 

無人機。

その言葉を聞いた全員が改めて今回の事件の異質さを実感した。

ISは本来人間が操作しないと起動しない。

だが、今回の襲撃事件はその本来ありえないはずの無人機ISが、9機。

異質に決まっている。

 

 

「また、インビットの装甲の破片を解析した結果、通常のIS装甲の強度よりも確実に強度が高く、今世界各国で使われている技術よりも高度なものであると仮定していいと判断しました」

 

 

今や世界の中心はISと言っても過言ではないのだ。

世界各国、自分の国が世界の中でより上の立場になるように、より力を持つように、日夜ISの研究、実験、開発にいそしんでいる。

そんな各国の努力を嘲笑うかのように、IS学園に送り付けられた無人機。

これは、確実にこの襲撃事件が本命ではなく、もっと裏には大きな陰謀が渦巻いている。

この場にいるほぼ全員が、その事を察していた。

 

 

「ISに関してはまだ解析中な事もあり、現在判明している事は以上です」

 

 

「分かりました。山田先生、ありがとうございました」

 

 

十蔵の言葉を聞き、真耶は自分の席へと座る。

それを確認してから十蔵は口を開く。

 

 

「さて、ここまでの話を聞いてみなさん理解したとは思いますが、この度襲撃してきたISは全て世界の均衡を崩しかねないものです」

 

 

その言葉を聞いたほぼ全員が頷く。

頷いていなかったのは、頷くのすら面倒だと感じ始めたイチカと、事細かに説明を受けたのに事の重大さを理解していない千冬だけだ。

 

 

「その為、デクーとインビットの両機が無人機であるという事、インビットの装甲等がかなり高度な技術が使われている事はIS学園で隠蔽します」

 

 

隠蔽。

つまりは、その事実を隠すという事。

その言葉を聞いたほぼ全員が思わず顔を引き締める。

流石のイチカも引き締める中、千冬だけは表情を変えない。

未だ事の重大さに気が付いていないらしい。

 

 

「異論はありますか?」

 

 

十蔵は全員の表情を伺うように会議室内を見回す。

隠蔽をするという事実には驚いたものの、世界のバランスを崩すわけにはいかず、そしてそのバランスを保つには隠すのが1番だと(千冬以外は)理解している。

その為、誰も反対意見を出すことは無かった。

 

 

「異論無しとの事で、IS学園はこれ以降この方向で動きます。全員、自分の名前のサインと、押印か拇印のどちらかをお願いします」

 

 

十蔵自らが、全員に用紙とペンと朱肉を配布する。

 

 

(ハンコなんて持ってねぇ…はぁ、拇印しかないか……)

 

 

イチカは一応確認の為全身からハンコを探すが、高校生が肌身離さずハンコを持っているわけが無い。

仕方が無くペンで自分の名前を書いた後、親指に朱肉を付け拇印をする。

その後直ぐにティッシュを取り出すと、自分の親指を拭く。

ふとイチカが視線を横に向けると、鈴が辺りをキョロキョロしていた。

 

 

「……」

 

 

それだけで大体察したイチカは何も言わずティッシュを鈴に差し出す。

 

 

「ありがと」

 

 

鈴は軽く礼を言うとそそくさと自分の親指を拭く。

2人はそのままゴミを自分のポケットに適当に放り込む。

全員が記入を終える頃合いを見計らって、十蔵が自ら用紙を回収する。

そうして1枚1枚丁寧に確認してから、全ての用紙を厳重に仕舞う。

 

 

「ありがとうございました。それでは、これからのIS学園の警備についての意見交換をしたいと思います」

 

 

十蔵の言葉に、あからさまに面倒な表情を浮かべたイチカ、少しだけ同じ様な表情を浮かべた鈴、そして未だに表情を変えない千冬。

学生の2人がこのような反応になるのは仕方があるまい。

 

 

そもそも学園の警備関係だなんて生徒会のメンバーですらない自分達にはあまり関係が無い。

いや、学園関係者であるという事は分かっているのだが、そういう話は教師が勝手にやってくれと言うのが本音だ。

 

 

それに、終わったと思った時の追加程ウザったらしいものは無い。

そう言った事から、2人は表情を歪めたのだ。

 

 

「何か意見のある方はいらっしゃいますか?意見の出ない場合は10分間程考える時間を取りますが…」

 

 

その言葉を聞いたイチカは早く帰りたい一心で

 

 

(うちの会社から何個か装備提供してもらえるように交渉するっていう暴論使えねぇか?鈴の協力があればプロメテウスも材料に使えるんだか…)

 

 

とか少しだけズレているような、そうでないような事を考えていると、1人の教員が手を上げた。

全員がその教員に視線を向け、同時に少し嫌そうな表情を浮かべる。

だが、それも仕方あるまい。

何故なら。

 

 

「……織斑先生、どうぞ」

 

 

手を上げたのが、他でもない千冬だったからだ。

だからといって、ここで発言を許可しない訳にはいかない。

十蔵が千冬の発言を許可すると、千冬はガタッと立ち上がりイチカと鈴に視線を向けながら言葉を発する。

 

 

「仙道と凰のISの戦闘力は通常のものを超えています。その為即刻没収するべきです」

 

 

真剣な表情で馬鹿な事を話す千冬に、十蔵は頭を抱える。

十蔵だけではない、他の教員達も同じ様な表情を浮かべる。

 

 

「はっ!馬鹿が」

 

 

だが、そんな空気をぶった切るようにイチカが笑い飛ばす。

さっきまで面倒くさそうに椅子に深く座っていたが、今は身体を起こし脚を組み、人を馬鹿にするかのような笑みを浮かべ千冬の事を見ている。

その態度が気に入らなかった千冬は声を荒げる。

 

 

「なんだと!その言いぐさはなんだ!」

 

 

「事実だ。なーぜアンタみたいなただの教師にそんな事が出来ると思ってんだ?学園長くらいならともかく、アンタみたいな仕事放棄人間が」

 

 

馬鹿にする態度は崩さずにイチカはそう言うと、ずっと手に持っていたタロットカードからカードを取り出すと千冬に見せつける。

それは、以前にも1回千冬に見せた事のあるTHE EMPERORの逆位置。

 

 

「前に言った事は覚えてるか?自分勝手で無責任で傲慢…仕事を放棄して、尚且つ過去の栄光にしがみつき今の自分の立場を理解せず滅茶苦茶な要求をする…つくづく最悪だなぁ、元最強さんよぉ」

 

 

「黙れぇ!!」

 

 

煽り散らかすイチカに、千冬は怒鳴り声をあげる。

完全に頭に血が上っているようで、イチカの仕事放棄発言を否定しない。

それに、何故イチカが知っているのかを気にする様子もない。

 

 

そして、仕事放棄発言を否定しないというのは、間接的に仕事放棄したというのを認めたという事。

その事実に十蔵は眉をひそめる。

 

 

イチカはニヤニヤとした表情を崩さないまま、THE EMPERORのカードを少しずらすと、その下からまた別のカードが姿を現した。

 

 

「THE HIEROPHANTの逆位置…偏狭。ギスギスした性質が強調される…ハッハハハ!事前に準備していたのに、まさしくこの通りな言葉だったなぁ!」

 

 

またも笑いながら千冬を煽るイチカに、鈴や教員達はある種の尊敬を覚えていた。

元とはいえ世界最強、それに加え高圧的な態度で直ぐにでも手が出て来そうな千冬に、ここまでズバズバと煽れる人間はそう居ない。

というより、イチカしかいないだろう。

自分達では出来ない事を平然と…というより嬉々としてやってのけるイチカには尊敬を抱かずにいられない。

……まぁ、その尊敬は呆れも含んでいるのだが。

 

 

「貴様……!!」

 

 

今にも飛び掛からん態勢でイチカを睨む千冬。

だが、イチカにとってはそんな睨みなどほぼ無いに等しい。

未だに笑みを張り付けながら、イチカはTHE EMPERORとTHE HIEROPHANTの2枚を残りのカードの束に戻す。

 

 

「ジョーカーを持ってきたいんだったら、タイニーオービットの許可をもぎ取って来るんだな。まぁ、無理だろうけど」

 

 

「ハカイオーもよ。プロメテウスの許可を持って来て」

 

 

イチカの発言に便乗する形で鈴も言葉を発する。

その事にイチカはジト目で鈴を見るも、鈴のウインク平謝りを見て興味を無くしたように視線を千冬に戻す。

 

 

「兎にも角にも、アンタは自分の立場と発言の滅茶苦茶具合を理解するんだな」

 

 

最後にイチカは今までで1番真面目な表情でそう吐き捨てる。

だが、その言葉すら千冬には響かなかったようだ。

 

 

「ふざけた事を言うな!私のどこが間違っているというのだ!」

 

 

「そこ」

 

 

もう千冬に興味を無くしたのか、イチカは適当な返事をする。

視線も千冬に向いておらず、自身の手元のタロットカードをシャッフルし、適当に1枚引く。

THE MOONの逆位置。

意味はクリアや解消。

物事が順調に進むようになる。

そのカードを見たイチカは口元にニヤリと笑みを浮かべる。

そんなイチカの表情が気に入らなかったのか、千冬はさらに声を荒げる。

 

 

「ふざけるな!いい加減に…!」

 

 

だが、その言葉はそこで遮られた。

 

 

「いい加減にするのはお前だ織斑!」

 

 

何故なら、今までずっと黙っていた十蔵が怒りと共に声を発したからだ。

急なその言葉に、イチカ以外のこの場にいる全員が十蔵に視線を向ける。

 

 

「が、学園長……」

 

 

「織斑、お前は有事の際の行動指揮権を持っているにも関わらず、この事件で指示を出さなかった事は分かっているんだ。それだけじゃない、普段から仕事を他人に押し付けている事もな」

 

 

十蔵は今までにないほどの怒りを滲ませながら淡々と言葉を並べていく。

その威圧感に、流石の千冬も気圧される。

鈴達もその余波で若干の恐怖を覚える中、

 

 

「おお、こっわ」

 

 

イチカだけはニヤニヤしながらそう呟いた。

怖いとは言ってるものの、それが本心だとは全く思えなかった。

鈴達からジト目を向けられる中でもイチカはどこ吹く風。

全く気にしていなかった。

 

 

そんなコミカルともとれるやり取りの側でも、十蔵は威圧感を収めなかった。

 

 

「そ、それは……」

 

 

千冬は視線を泳がせまくっている。

だが、素直に謝罪するでもなく、否定するでもなく、ただただ黙っているだけ。

そんな反省を見せない態度が、十蔵の怒りの炎に油を注いでいた。

 

 

「織斑、お前のその行動で、生徒達が危険にされされる可能性があったのを分かってるのか!?」

 

 

「あの程度、特に問題無かったでしょう」

 

 

訂正。

油だけでなく、濃度の高い酸素も大量に送り込んだようだ。

 

 

「……織斑、本日付けでお前の行動指揮権を剥奪する」

 

 

「なっ!?」

 

 

「それと、この会議にはもう必要ない。退室しろ」

 

 

もはや声を荒げる事すらしない。

冷徹な瞳で千冬を見ながらそう吐き捨てる。

 

 

「な、何故ですか!?」

 

 

「そんな事も分かんねぇか、馬鹿だな」

 

 

驚きの表情を浮かべる千冬に、イチカが心底どうでもよさげにそう反応する。

 

 

「仕事放棄、パワハラ、生徒の命軽視、これだけでお前が外される原因としては十分すぎるだろ」

 

 

「そう言う事だ。お前の行動は教育委員会等に報告させてもらう」

 

 

口を出したイチカを十蔵は咎める事はせず、寧ろその発言を引用する形で千冬に退室を迫る。

千冬は最後にイチカの事を睨むとズカズカと会議室から出て行った。

そうして千冬が退室してから、約1分後。

 

 

『はぁ~~……』

 

 

漸く緊張から解放された鈴達が同時に深く、深~く息を吐いた。

 

 

「何だだらしない」

 

 

「アンタが狂ってんのよ……」

 

 

イチカと鈴が軽口を言い合うも、鈴が疲れているので何時ものようなノリが無い。

教員達も、自分が何か大変な事をした訳では無いのに、何故か全身の疲労感が抜けなかった。

この会議の空気にあてられて知らない間に心が疲労を蓄積していたのかもしれない。

 

 

「え~、では、続きを話しあいたいのですが……今日は無理ですかね」

 

 

流石の十蔵もこの雰囲気で会議を続けるのは困難だと察したようだ。

苦笑いを浮かべながらそう声を発する。

それに対する教員達の反応がない事で大体察したようだ。

 

 

「それでは、今日はこれで解散にします。また後日会議をしますので、その時までに改善点等思い付く限りで構いませんので考えておいてください」

 

 

十蔵のその言葉を聞き、教員達は続々と会議室から退出していく。

 

 

「鈴、お前も帰れ。俺はやる事がある」

 

 

「ああ、そうだったわね。それじゃあお先~~」

 

 

疲れていた鈴もそそくさと帰って行き、会議室にはイチカ、十蔵、真耶の3人が残った。

 

 

「仙道君、戻らないのですか?」

 

 

さっきまであんなに面倒くさそうにしていたイチカが1番最初に帰らなかったどころか、今でもここに残っている事を疑問に思った十蔵がそう質問する。

その質問で自分だけが尋ねられたという事は、真耶はもともと残る予定だったと理解したイチカ。

それに、さっき真耶がいろいろと説明をしていたから、学園長にだけ伝えるべき事があるというのも察した。

 

 

「ああ、あなたと話したい事があってですね」

 

 

一応敬語を使いながらイチカは席から立ち上がり、CCMを操作しながら十蔵に近付く。

そうしてその画面を十蔵に見せる。

 

 

「これは…?」

 

 

「戦闘の記録とかその他もろもろ。これ、うちの会社に送って良いですかね?」

 

 

CCMをピラピラさせながらそう尋ねるイチカ。

 

 

「ああ、極秘だってのは分かってますよ。だからわざわざ交渉してますし、勿論無理だと言われたらこれは見せませんし、許可を貰ったとしても数人にしか見せません」

 

 

付け加えるようにそう言うイチカを見て、十蔵は悩んでいた。

タイニーオービットというIS世界シェアトップの企業だったら、自分達では発見出来ない事でさえも見つけられるかもしれない。

だが、見つからない可能性も当然ある。

そして、わざわざ隠蔽する事を選んだのに、外部の人間にそうやすやすと見せて良いのか。

そう簡単に判断できない。

 

 

「まぁ、そう簡単に判断できる事では無いのも分かってるので。応じてくれるなら、うちの社長と開発部主任、あと山野淳一郎の3人を呼ぶので商談して欲しい」

 

 

「……分かりました。しっかりと話し合わせていただきます」

 

 

「スケジュールは出来るだけ合わせます。何日が空いてますかね?」

 

 

会話の主導権を握りながら淡々と交渉を進めていくイチカ。

そんな2人のやり取りを見て、真耶は何とも言えない表情を浮かべていた。

 

 

(仙道君は凄いですね…目上の人とあんな強気で話せて…織斑先生に、あんな態度を取れるだなんて)

 

 

真耶は千冬の現役時代からの後輩。

嘗ては、強く、凛々しく、圧倒的な千冬に憧れていた。

いた、過去形。

 

 

その憧れと尊敬が無くなったのは、実を言うとつい最近。

今年度が開始してからだ。

 

 

去年までは多少厳しいところはあれど、行動は理にかなっていたし、(一応)真面目に働いてもいた。

だが、4月になり、新入生が入って来てから千冬はおかしくなり始めた(本性が漏れ出て来た)。

自分でやるべき仕事を、副担任である真耶、同学年担当の教員、果ては全く関係が無い教員に押し付けがちになった。

しかも期限ぎりぎりで、押し返そうとしたら既に職員室からいなくなってるのがたちが悪い。

 

 

それだけじゃない。

生徒達に対する当たりも強くなっていっていた。

理不尽に感じるほどの態度。

簡単に出る暴力。

それを注意しようとすると、自分にも手を出してきて、仕事を押し付けられる。

 

 

そんな暴君と呼ぶにふさわしい振る舞いを見て、真耶の中にあった千冬への憧れはだんだんと無くなっていき、遂に過去のものとなった。

今真耶の中にあるのは、千冬に対する呆れだけだった。

 

 

だからこそ、千冬を嬉々として煽れるイチカを凄いと思う。

それと同時に、千冬に抱いていたのとはまた違う憧れを少しだけイチカに持った。

 

 

真耶がボーッとそんな事を考えている間にも、イチカと十蔵は話を進めていく。

イチカが拓也とこの場で直接連絡を取り、もう直ぐ始まるゴールデンウィークの3日目にタイニーオービットと話し合う事が決まった。

 

 

「そういう事で」

 

 

「はい。……仙道君は凄いですね」

 

 

急に十蔵からそんな事を言われ、イチカは眉間に皺を寄せながら首を傾げる。

凄いと言われる理由が分かっていないようだ。

 

 

「織斑にあそこまで正面からいろいろ言ったり、私にここまで強気に交渉出来る人はなかなかいないですよ」

 

 

「まぁ、これくらいなら。気に入らないですか?」

 

 

「いえ、全く。寧ろ嬉しいですよ、ここまで強かな高校生が見れて」

 

 

2人は微笑を浮かべる。

なにやら良い友情を気付けそうな雰囲気だが、イチカにそんな気は無いし、十蔵も立場をわきまえている。

と、ここでずっと傍観していた真耶にイチカが視線を向ける。

急に視線を向けられた事で真耶破ビクっとなるが、イチカは気にせず言葉を発する。

 

 

「山田先生、デクーとインビットのISコアは未登録品でした?」

 

 

「っ!?!?」

 

 

まさかの単語に、真耶は驚きの表情を浮かべ、思わず席から立ち上がる。

言葉は発していなかったものの、その反応だけで大体察した。

口元ににやりと笑みを浮かべる。

 

 

「やっぱりな」

 

 

「え、せ、仙道君!?それを何処で!?」

 

 

「さっき学園長の発言から、元々用があるのは分かってたので。会議の時からアンタの説明から山田先生がいろいろ情報を持ってるのも確定だった。んで、わざわざこそこそ言うって事はこれくらいだと思ったので」

 

 

イチカの推理力に、真耶と十蔵は脱帽した。

 

 

「ISのコアを造れるとなると、あのFOOLくらいだろうが…はてさて、いったいどんな奴の仕業か……」

 

 

手元のタロットカードからTHE FOOLのカードを逆位置で取り出し、ピラピラさせながらイチカはそう呟く。

タロットカードの意味や、以前のやり取りを知らない2人は首を傾げる。

 

 

「それじゃあ、話す内容はまだあるでしょうし、俺はこれで」

 

 

言う事も無くなったイチカは退出しようと会議室の扉に向かう。

が、退出するまさに1歩前。

イチカはピタッと立ち止まると顔だけを2人に向ける。

 

 

「なんとなーくとある奴のせいで悩んでたり疲れてそうなので、これは助言」

 

 

イチカはそう言うと、1枚のタロットカードの絵柄を2人に見せる。

 

 

「THE HANGED MANの正位置、忍耐。今は苦しくても、精神的な満足感を得られ、苦労が報われ実る…俺が言うのはここまでにしておきます」

 

 

最後にそう言うと、イチカはスタスタと会議室を後にした。

こうして残った真耶と十蔵。

2人は暫くの間呆然とした表情で会議室の扉を見ていたが、やがてどちらからともなく息を漏らすと、苦笑を浮かべた。

 

 

「仙道君は、居るだけで空気を良い感じにも、悪い感じにもかき乱しますね…」

 

 

「はい、まさしくジョーカーと言ったところでしょうか?」

 

 

2人は再び笑いを零すと、話し合いを開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆オタクロスの、オタ知識デヨ~~!!☆

 

 

『タロットカード』

 

タロット占いに使用するカードで、22枚の大アルカナ、「棒」「聖杯」「剣」「金貨」の各14枚ずつの小アルカナ、計78枚で構成されてるんデヨ。

仙道3兄弟は会話にちょこちょここのタロットカードを用いるんデヨ。

イチカと兄はカード本体を常日頃持ち歩いていて、妹ちゃんはスマホにアプリを入れてるんデヨ。

このカードとアプリは兄のオリジナル品で、絵柄が無駄に格好いいんデヨ。

気になったら原作を見て確認して欲しいデヨ!!

 

 

 




次回予告

遂に始まったゴールデンウィーク。
イチカは約1ヶ月ぶりに家に帰る事にした。
イチカが帰って来ることを知った家族は総出で出迎える。

「…キヨカ、突っ込んで来るのはやめろ」

そして、家族は過去を振り返る。

次回、IS~箱の中の魔術師~『GWⅠ 帰宅と過去』、見てね!


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GWⅠ 帰宅と過去

実は今までダンボール戦機のキャラがそこまで絡んでこなかったので、GWからはガッツリ出していきます!!

ISキャラとダン戦キャラの名前が被ってる事案に悩みましたが、漢字表記とカタカナ表記なのでもう気にしない事にしました。

いつもより長めです。

IS~箱の中の魔術師~、始まるよ!


4月末にあったクラス対抗戦もとい、IS学園襲撃事件から数日が経った。

世間一般では、今日からゴールデンウィークである。

日本において祝日が連続する事により起こる連休、それがゴールデンウィーク。

 

 

長期休みであるが故、IS学園生も入学以来1ヶ月ぶりに羽を伸ばせるという訳だ。

男子生徒以外の生徒は全員寮で生活をしている為、遠くの地へ旅行等は難しいだろうが、それでも本土に行ってショッピングを楽しんだり、はたまた部屋で好きなアニメ等を一気見するか。

そんな感じの有意義な休日を送れるだろう。

 

 

そんな日の朝。

ブルーキャッツの居住スペース、イチカの部屋。

 

 

ピピピ!ピピピ!ピピピ!

 

 

「ん、あぁ…朝か……」

 

 

けたたましく鳴り響く目覚まし時計のアラームと、カーテンの隙間から部屋に侵入してくる太陽の光によってイチカは目を覚ました。

上体を起こし、目を擦りながらアラームを止める。

 

 

「…トイレにでも行くか」

 

 

イチカはベッドから降り、身体を軽く伸ばすとトイレへと向かう。

用を足し、手を洗い、一度部屋に戻り着替えを行う。

平日だったら制服に着替えるし、休日だったら着替えない事も多いので、イチカは暫くぶりに私服に袖を通す。

 

 

「ん…?これ大分キツイな…別の別の……」

 

 

高校1年生はまだまだ成長期。

服が入らなくなる事だって多いだろう。

暫くぶりに着る服なら尚更だ。

 

 

イチカがちゃんとした私服を着用する理由。

それは、今日は街に繰り出す予定があるからだ。

流石に他人の目が付く場所に、だらけた服装で行くほどイチカは馬鹿ではないのだ。

 

 

着替え終わったイチカは洗面所に向かい、身だしなみを整える。

整え終わった後はリビングへと向かう。

喫茶店の方にもキッチンがあり、住居スペースの部分にもキッチンが存在する為、ブルーキャッツにはキッチンが2つあるのだ。

住居スペースはリビングどダイニングが一緒のタイプなので、リビングに行くという事はキッチンも近いという事である。

 

 

「おはよう」

 

 

「ああ、イチカ。おはよう」

 

 

「イチカ、遅いぞ!」

 

 

「まだ6時だろうが…」

 

 

イチカがリビングに着いたときには、もう既に蓮と真実がいた。

蓮はキッチンに立ち朝食を作っており、真実は椅子に座り朝のニュース番組を見ていた。

 

 

「マスター、モーニングの仕込み大丈夫なのか?」

 

 

「ああ、もう殆ど終わらせている。朝食を食べ終えたら直ぐ行くさ」

 

 

軽やかにウインナーを焼きながらイチカの質問に答える蓮。

ゴールデンウィークだろうと、喫茶店は休まない。

寧ろ、長期休みは掻き入れ時なので何時もより頑張らないといけないのだ。

 

 

「なるほど。話題は変わるが、水くれ」

 

 

「冷えた麦茶が冷蔵庫にあるが?」

 

 

「あー、そっち貰う」

 

 

イチカは蓮の後ろを通り、洗浄済みの自分のコップを取ると、冷蔵庫を開け冷えた麦茶を注ぐ。

そのままリビングに向かい、真実の斜め前の椅子に座る。

 

 

「レックス、まだ朝っていうのにあんたは元気だな…現役の頃よりパワーあるんじゃないか?」

 

 

先程の遅いぞと言う発言を思い出しながら、麦茶を一口飲む。

寝起き最初の水分は身体に染みる。

そんな事を考えていると、真実が笑いながら言葉を発する。

 

 

「それは無いさ。現役の頃の方が、私も色々やってたさ。まぁ、気力が落ちる訳が無いけどな!」

 

 

「はいはい。それでレックス、最近タイニーオービットの試作品テスト以外になんの仕事してんだ?」

 

 

「あれ?言ってなかったけか?」

 

 

「聞いたこと無いから今聞いたんだろうが」

 

 

「ハハハ、それはそうか」

 

 

「…やっぱ1枚負けてるなぁ」

 

 

IS学園ではあの千冬すらも煽り倒せるほど舌戦が強く、度胸や頭のキレも群を抜いているイチカ。

そんなイチカを持ってさえも、真実にはどうしても調子が狂うらしい。

これも、レックスという異名を与えられた真実故か。

 

 

「私は今、全国の小中学校で講習をしてるんだよ」

 

 

「ほう。やっぱりブリュンヒルデ様は人気がありますねぇ」

 

 

「おお、久しぶりにそっちで呼ばれた」

 

 

「まぁ、あんたは大体名前で呼ばれるかレックスで呼ばれるかの2択だからな。IS学園の講師にならないかっていう依頼は無かったのか?」

 

 

「あったさ。だが、来たのはもうイチカと会った後だったからなぁ。織斑千冬と働けるビジョンが浮かばなかったから断った」

 

 

「賢明な判断だ」

 

 

「2人とも、出来たぞ」

 

 

両手にお盆を持ち、その上に全員分の朝食を持ってきた蓮が2人に声を掛ける。

そこで会話を終わらせ、朝食を食べる事にする。

 

 

「「「いただきます」」」

 

 

本日の朝食メニューは、フレンチトーストが2枚に、目玉焼きとウィンナー2本とレタスのサラダ。

イチカはそれがもう1セットである。

男子高校生なので、大人よりも多く食べるのである。

 

 

暫くの間、テレビから流れているニュース以外無音の時間が続く。

イチカが1セット分を食べ終わり、3枚目のフレンチトーストに手を伸ばそうとした時、不意にイチカは何時か聞こうと思い、ずっとそのままだった疑問がある事を思い出した。

そろそろ寮の1人部屋も確保できるだろうし、出来るだけ早めに聞いておこうと思い、口を開く。

 

 

「今と全く関係ないが、ずっと聞きたかった事があってな」

 

 

「なんだ?」

 

 

「レックスの異名。なんでレックスになったんだ?」

 

 

イチカが聞きたかった事。

それは真実の異名についてだ。

モンド・グロッソ優勝者につけられるブリュンヒルデは女性の為の称号に相応しい。

だが、『レックス』はいささか女性に付ける異名ではない。

それにどのくらいの時期から、どういう経緯でそうなったのかすらイチカは知らないのだ。

 

 

「ああ、それは元々俺のだからな」

 

 

「マスターの?」

 

 

イチカの疑問に答えたのは、真実ではなく蓮だった。

そして、その返答を聞いたイチカは珍しく驚いたような表情を浮かべる。

確かに、蓮の少々ワイルドな風貌に、『レックス』という異名はピッタリかもしれない。

だが、この説明だけだったら何故蓮にそんな異名が付いていて、それが何故今真実の異名になっているのかが分からない。

蓮も当然それを理解しているので、続きの説明を開始する。

 

 

「俺が喫茶店を始める前に、タイニーオービットに勤めてたのは知ってるだろ?」

 

 

「ああ。博士の部下で、拓也さんの元同僚で、脱サラして始めたんだろ?」

 

 

「そうだ。そしてタイニーオービットに勤めていた時、俺はモデラーとしても活動していたんだ」

 

 

「モデラー?初耳だな」

 

 

「ああ。真実、雑誌まだ残ってないか?」

 

 

「兄さんの雑誌なら此処に」

 

 

真実はブラコンである。

蓮関連のものだったら片っ端から保管している。

雑誌くらいなら山のように保管してある。

 

 

持ってきた雑誌をイチカに見せる。

ISが開発される前の、そこそこ古い雑誌。

そこには、綺麗に組み立てられ、躍動感のあるポーズをしているロボットのプラモデルの写真。

ページをめくると、今より若い蓮の写真とインタビュー記事が載っていた。

 

 

「ほぉ~、そうか、それでモデラ―をしていた時に使ってた名前が」

 

 

「ああ、レックスだ」

 

 

「なるほど、異名じゃなくて活動名だったか…」

 

 

蓮が元々レックスだった事の理由は分かった。

イチカは視線を真実へと向ける。

真実は若干気まずそうに頬をポリポリ掻きながら視線を逸らす。

 

 

「わ、私が今レックスって呼ばれるのは、その…兄さんから貰ったからで…データ収集目的で参加したISの大会で、インタビューの時なんとなく名前口にしたら、それが一気に定着しちゃった…」

 

 

「なるほど、ブラコンが興じただけか」

 

 

「その言い方は無いだろう!」

 

 

「事実だ。で、その大会で注目されたから国家代表とかでも無いのにモンド・グロッソに出場したと」

 

 

「そういう事」

 

 

「ほ~ん、そうだったのか。教えてくれてありがとさん」

 

 

全部を聞き終えたら興味を無くしたのか、中断していた食事を再開する。

蓮や真実も食事を再開し、全員がほぼ同時に食事を終えた。

後片付けを行う。

 

 

「俺は開店準備に行く」

 

 

「行ってこい」

 

 

「いってらっしゃい、兄さん」

 

 

「ああ」

 

 

蓮はその言葉を残すと、そのままモーニングの開店準備に向かう。

こうして残ったイチカと真実。

 

 

「イチカ、何時に行くんだ?」

 

 

「10時くらいだ」

 

 

「そこそこ遅いんだな」

 

 

「向こうについて、話すことは色々あるが、やる事は少ないからな」

 

 

「なるほどな…ならさ、イチカ」

 

 

「……なんだ?」

 

 

嫌な予感がする。

そう言わんばかりの表情を浮かべるイチカに、真実は笑顔で言葉を発する。

 

 

「まだ時間があるな!それまで私が稽古してやる」

 

 

「断る!」

 

 

「逃げるな!」

 

 

迅速に逃げようとしたイチカだが、すぐさま真実に捕まる。

そしてズルズルと引きずられていく。

 

 

「ハハハ!イチカ、お前を鍛えたのは私だぞ?逃げ切れると思うな!」

 

 

「クソがぁああああああ!!」

 

 

その叫び声を残し、イチカはこってり2時間ほど真実の稽古を受ける事になったのだった。

 

 


 

 

「レックス…いつか絶対に超えてやるからな……!!」

 

 

現在時刻、12時半。

イチカは疲れたような表情を浮かべながら道を歩いていた。

 

 

あの後真実にボコボコにされたイチカは、纏めてあった荷物を持ち駅へと向かい、女尊男卑の影響で形見の狭くなった男性たちと共に電車を乗り継ぎ、目的地の最寄り駅へとやって来た。

駅で簡単に昼食を済ませ、そこから更にバスに乗り住宅街へとやって来た。

此処からは歩かないといけないので、今こうして歩いているという訳だ。

 

 

「ん…?」

 

 

目的地へとイチカの視界に、1つの中学校が入って来た。

ミソラ一中。

つい数か月前までイチカが通っていた中学校であり、かつてはイチカの兄も通っていた中学校。

見慣れた光景のはずなのに、ISが動かせることが分かってからはとても濃密な時間を過ごしている為、随分と久しぶりに感じる。

 

 

「…とっとと行くか」

 

 

少しの間校舎を見つめていたイチカだが、これ以上は時間の無駄だと判断し再び歩き始める。

そこからほどなくして、イチカは目的の場所に到着した。

目の前にあるのは、何の変哲もないただの一軒家。

新築という訳でもなく、外観から生活感漂うこの家。

表札には『仙道』の苗字が書かれていた。

 

 

そう、此処は仙道家。

イチカの家である。

 

 

「帰って来たな…ブルーキャッツで暮らし始めてからまだ1ヶ月くらいだが、随分と懐かしく感じる」

 

 

先程ミソラ一中の前を通ったときにも感じた懐かしさ。

中学を卒業した後も、当然のように住んでいたこの家。

ミソラ一中以上に慣れ親しんだ自分の家。

それなのに、やっぱり1ヶ月でも離れると懐かしく感じる。

 

 

イチカは学園では見せないような優しい微笑を浮かべると、門を開け玄関前に立つ。

鍵を開け、玄関の扉を開ける。

 

 

「ただいま」

 

 

玄関の扉が完全に閉まった事を確認してから振り返る。

その瞬間、イチカの視界に入って来たのは、見慣れた仙道家の玄関……を背景にした、紫色の長髪が似合う美少女が自分に向かって突っ込んで来る光景だった。

 

 

「イチカお兄ちゃーん!!」

 

 

「ふごぉっ!?」

 

 

予想外の衝撃に、イチカは珍しく空気の漏れるような声を発した後、背後から玄関に倒れ込んだ。

 

 

「痛った…」

 

 

イチカは地面に打った頭を摩りながら、何が起こったのかの整理を行う。

すると、自分に抱き着き、胸に頬ずりをしている人物を視認した。

何が起こったのかを一瞬にして理解したイチカは、ため息をついてから声を発する。

 

 

「…キヨカ、突っ込んで来るのはやめろ」

 

 

「えへへへ。一ヶ月ぶりのイチカお兄ちゃんだぁ」

 

 

イチカの若干呆れたような声に、胸の美少女…仙道キヨカはニコニコの笑顔を浮かべる事で反応する。

 

 

キヨカは仙道家の長女で、イチカの妹である。

中高一貫校である神威大門統合学園中等部に通っている中学2年生で、イチカと兄もそこそこ頭がいい方だが、キヨカはそれ以上の天才肌で頭がいい。

その上しっかりと努力もしているのだから、今以上に成長したら自分では勝てないだろうとイチカは思っている。

流石に運動神経ではイチカの方が圧倒的に上なのだが。

 

 

神威大門統合学園はIS学園と同じく全寮制の学校だが、キヨカは出来るだけ早くイチカに会いたかったので、朝の9時には仙道家に帰って来ていたのである。

 

 

「全く、なんでこんな風になっちまったんだ…」

 

 

イチカがキヨカと初めて会ったとき、キヨカはここまでべったりでは無かった。

寧ろ、兄の後ろに隠れていて、バリバリに警戒されていた。

だが、気が付いたらこうやってべったりになっていた。

もう何度寝ている間にベッドに忍び込まれたのか分からない。

去年からキヨカは寮住まいなのに。

 

 

「フフフ、キヨカは本当にイチカの事が大好きねぇ」

 

 

「仲がいいのはいい事だ。お帰り、イチカ」

 

 

未だに玄関で倒れているイチカとキヨカに向かって、家の奥の方…リビングの方向から2人分の声が聞こえてきた。

顔を見なくても、誰の声なのか簡単に分かる。

キヨカが上に乗っている為顔を見る事が出来ないが、声を発する事で反応する。

 

 

「ただいま、母さん、父さん」

 

 

イチカの言葉に、その2人…母の仙道明美(あけみ)と父の仙道智也(ともや)は嬉しそうな表情を浮かべる。

明美と智也は共にタイニーオービットに勤めているが、明美が計算課、智也が営業課なのでイチカがジョーカーのメンテナンスでタイニーオービットに訪れても顔を合わせる機会など存在しないので、キヨカと同じく顔を合わせるのは1ヶ月ぶりである。

 

 

「キヨカ、あんまりイチカに迷惑かけちゃ駄目よ。IS学園なんて慣れない環境で頑張ってるんだから、家でくらいゆっくりさせてあげて」

 

 

「…はーい」

 

 

明美の言葉に、渋々といった様子でイチカから離れるキヨカ。

そんな様子を見て、智也は苦笑いを浮かべながら言葉を発する。

 

 

「ははは、キヨカはイチカといるときだけ、雰囲気が変わるなぁ…」

 

 

「そうなのか?確かに初対面の時とはかなり違うが…何時もこんなんだろ?」

 

 

イチカが知らないのも無理はない。

智也の言う通り、キヨカがこんな態度になるのはイチカの前だけだからだ。

 

 

イチカが仙道家に引き取られる前から、キヨカは元々お兄ちゃんっ子だった。

その関係は、思春期にしては仲のいい兄妹レベルだった。

だが、イチカと関わり始めた事で、キヨカは異常なほどイチカに懐いた。

結果として、キヨカはイチカに対するド級のブラコンに育ったのだ。

 

 

神威大門統合学園にいるときなど、イチカが居ない時はどちらかというと物静かでミステリアスな印象で、イチカと一緒に居る時でも他人の対応をする場合はクールに対応するのだが、イチカと話す時だけはデレデレになるのだ。

常にデレデレなので、イチカは物静かなキヨカを見れる機会がほぼゼロ。

その為、智也の発言に首を捻ったのだ。

 

 

「ふぅ、帰って来たばっかでえらい目にあった」

 

 

ずっと倒れていたイチカは立ち上がりながら頭を数度ふる。

えらい目といった表現にキヨカがムスッとした表情を浮かべるが、イチカはそれを特に気にせず漸く靴を脱ぎ、漸く仙道家に上がる。

 

 

「取り敢えず荷物置いてくる。いろいろ話したいし、聞きたいだろうが、それからだ。キヨカ、お前もリビングで待ってろ」

 

 

「分かったよ、イチカお兄ちゃん」

 

 

イチカに言われた事は、どうしても譲れない事以外素直に聞くキヨカ。

大人しく両親と共にリビングに向かう。

それを横目で見ながら自分の部屋に向かう。

仙道家3兄妹の部屋は全員分2階にある。

イチカの部屋は2階の中でも1番奥で、他2人と比べると部屋も狭い。

 

 

理由は単純で、イチカが仙道家の家族になったときには、もう既に空き部屋がなく、物置として使われていた部屋ぐらいしか使えなかったからだ。

だが、イチカはそこまで物欲がある訳でも無い為荷物は多くなく、部屋の広さも必要な物は入って横になれるスペースと机が確保されてればそれ以上いらないという考えの持ち主なので、狭い部屋でも特に問題無く受け入れているのだ。

 

 

「ああ…この部屋は落ち着くなぁ…」

 

 

部屋に着いたイチカは、荷物をそこらへんに放りベッドにゴロンと横になる。

家の中でも、リビングと同じかそれ以上に慣れ親しんだ自分の部屋。

イチカが一瞬でリラックスモードになるのも仕方が無い。

そのままゴロゴロしたいのだが、リビングに家族を待たせている為ずっとそうしている訳にもいかない。

立ち上がり、軽く伸びをしてから部屋をで、リビングに向かう。

 

 

その道中、行きの時は特に気にならなかった兄の部屋の扉が視界に入った。

 

 

「そう言えば、まだ兄さんはプラモ作ってるのか…?」

 

 

思い出されるのは、今朝の蓮との会話。

そして数年前、兄が友人達と共に模型店に向かう光景だった。

イチカも兄の影響を受け、数個ほどプラモデルを作った事がある。

兄の道具を借りて制作されたそのプラモデルは、世間一般からするとかなりの完成度を誇っているが、兄達制作のものはそれ以上の完成度を誇っている。

それこそ、かつての蓮のようにモデラ―としても活動できるくらいに。

 

 

その為、イチカは自分が造ったものは飾らずに部屋の数少ない収納スペースに仕舞われている。

ド級ブラコンであるキヨカが、イチカが感じれるものが欲しいと言ったので、一番の自信作をあげたりもした。

 

 

「今度、久々に作ってみるか…今は新しいスペースも出来たしな」

 

 

最後にそう呟くと、再びリビングに向かって歩き、無事にリビングの扉の前に着く。

いざリビングに入ろうとした時、手を洗っていなかった事に気が付いたので、洗面所で手洗いうがいをしてから、改めてリビングの扉の前に立つ。

 

ガチャ

 

扉を開け、リビングへと入る。

 

 

「来たぞ」

 

 

「イチカ、コーヒーと紅茶どっちがいい?」

 

 

「別に客じゃないからいらないが?」

 

 

「良いから良いから。みんなでティータイムよ」

 

 

「…コーヒー、ブラックで」

 

 

「はーい」

 

 

明美はニコニコした笑顔を浮かべながらティータイムの準備をする。

それを横目に見ながらイチカはダイニングテーブルに座る。

座り方としては、イチカの隣にキヨカ、キヨカの向かいに智也、イチカの向かいに明美である。

 

 

「そういえば、兄さんは?帰って来る予定じゃ無かったのか」

 

 

「ああ、到着は夕飯ごろらしい。どうにも電車が遅れているみたいだ」

 

 

「俺の時はそんな情報無かったが」

 

 

「使う線が違うんだろう。空港からとIS学園からじゃ」

 

 

「まぁ、そりゃそうか」

 

 

「は~い、お待ちどうさま~」

 

 

明美がイチカの分のコーヒーと、3人分の紅茶、お茶菓子を何個か持ってきた。

机の上に並べていく。

 

 

「なんだ、俺以外紅茶なのか。まとめてくれても良かったが」

 

 

「私が好きで用意したんだから、気にしないで良いの」

 

 

「へいへい」

 

 

明美の言葉に適当に返事をし、コーヒーを飲むイチカ。

そんな様子に苦笑をしながらも、キヨカ達も紅茶を飲む。

そのまま菓子類をつまみながらとめどない会話をする。

イチカがIS学園の生活を簡単に話したり、キヨカも同じ様に神威大門統合学園での生活を話した。

智也と明美は2人の話をニコニコしながら聞いていた。

まだ高校生と中学生、世間ではまだ家で生活していても全然おかしくない年齢だが、寮生活の為なかなか会うことは出来ない。

だから、こうやって家の中で話しを聞けるだけでとても嬉しいのである。

 

 

♪~~♪~~

 

 

「あ、私。友達から通話だ」

 

 

「あら、早く出ちゃいなさい。友達を待たせちゃ駄目よ」

 

 

「分かってる」

 

 

話す内容がボチボチ無くなって来たころ、キヨカのスマホが着信音を鳴らした。

キヨカはハンドメイドのジョーカーストラップが付いたスマホを取り出してから席を立ち、そのままリビングから廊下に向かう。

 

 

「もしもし?私だけど。ユノ、どうかした?」

 

 

その背中を見送っていると、不意に明美がイチカに質問をする。

 

 

「イチカは、IS学園で新しい友達は出来た?」

 

 

「そんなものいらん。元々いた奴らだけで十分だ」

 

 

「こらっ!そんな事言わないの!」

 

 

「はぁ……へいへい、善処しますよ」

 

 

イチカは心底どうでもよさげにそう返事すると、少し残っていたコーヒーを飲み干す。

そんな態度に明美と智也は苦笑を浮かべる。

 

 

「全く、誰に似たんだか」

 

 

「本当ねぇ」

 

 

「……」

 

 

2人はイチカに聞かせる形でそう会話をし、イチカは若干気まずそうに視線を逸らす。

やはりイチカも高校生、母と父には勝てないようである。

そうこうしていると、通話を終えたキヨカが戻ってきた。

 

 

「今度、買い物に行かないかって話だった」

 

 

「あら、良いじゃない。青春は短いんだから、楽しんでらっしゃい」

 

 

「…そうするわ」

 

 

キヨカはすました感じでそう答えるが、楽しみという雰囲気が漏れ出していた。

イチカは苦笑を浮かべる。

 

 

「あら、結構話しちゃったわね。そろそろ夕飯の準備しないと」

 

 

「もうそんな時間か」

 

 

全員が時計を確認すると、確かにもう夕方の時間だった。

明美は慌てて夕ご飯の準備を開始する為にキッチンに向かう。

残った3人は、何かする事がある訳では無いので、ダラダラタイムが始まった。

適当に付けたTVを見ながら、適当に話すという休日そのものの時間を過ごす。

キヨカがイチカの膝の上に座っているのはご愛敬である。

イチカはなんとか降ろそうとするも、キヨカが抵抗して危ない為諦めた。

 

 

夕ご飯の美味しそうな匂いがリビングに漂ってきた時、

 

 

ガチャ……バタン

 

 

と、玄関の方向から扉を開閉する音が聞こえてきた。

イチカとキヨカは視線を合わせた後、少し嬉しそうな表情を浮かべ、リビングの扉に視線を向ける。

玄関の方からしてくる足音がだんだん大きくなってきて、ガチャとリビングの扉が開き、1人の人物が入って来た。

 

 

「よぉ、帰ったぞ」

 

 

「お帰り、兄さん」

 

 

「お帰りなさい、ダイキお兄ちゃん」

 

 

「おお、ダイキ。帰って来たか」

 

 

キヨカと同じ紫色の髪を短く切りそろえた、長身のイケメン。

彼こそが、仙道家長男、イチカとキヨカの兄、仙道ダイキである。

 

 

「兄さん、取り敢えず手洗ったら?」

 

 

「ああ、そうだったな」

 

 

足音で洗面所に寄ってない事は分かっていたイチカの忠告に、ダイキは素直に従い洗面所に向かう。

2人して手洗いを忘れるあたり、似た者兄弟である。

 

 

ダイキはプロの占い師として生計を立てており、普段は1人暮らしである。

この腐っている過度な女尊男卑の世界で、数少ないテレビなどのメディアに出ても叩かれない男性の1人でもある。

 

 

元々は日本でのみの占い活動をしていたが、2年ほど前から海外へ活動を伸ばしている。

その為、今現在はアメリカ住まいである。

 

 

そんなダイキが今日帰国した理由は至って単純。

普段バラバラに暮らしている弟と妹が実家に帰って来るからである。

キヨカはイチカに対してド級のブラコンだが、ダイキはダイキで隠れシスコン兼隠れブラコンである。

 

 

「戻ったぞ」

 

 

「あら、ダイキお帰り。丁度夕ご飯出来たわよ」

 

 

ダイキがリビングに戻って来た時、丁度明美が夕ご飯を作り終えた。

イチカが机の上を拭き、キヨカと智也が机の上に夕ご飯を並べていく。

 

 

「随分豪華だな」

 

 

「今日は久々に家族が揃うから、張り切っちゃった♪」

 

 

心底楽しそうな表情を浮かべながら、明美がそういう。

 

 

「母さん、明日の朝は俺が作るぞ」

 

 

「あら、本当?ならお願いしちゃおっかな」

 

 

「イチカお兄ちゃんの料理……楽しみ」

 

 

そんな会話をしながら、改めて5人全員が席に座り、手を合わせる。

 

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

 

しっかりとこの言葉を発してから、何時もより豪華な夕ご飯を食べ始める。

1人で食べるときは面倒で言わない事も多いダイキとイチカだが、こんな明美の目があるところでそれをやったらなんて言われるのか分からないので、素直に言う事にしたのだ。

 

 

「……なんか、やっぱ俺だけ髪色黒なの浮いてるよな」

 

 

改めて全員が揃ったので、イチカが自分の髪を弄りながらそう言葉を発する。

血の繋がりが無いイチカを除き、仙道家の髪色は全員紫である。

家族1人だけ色が違うので、何度か髪を紫に染めようと考えていたが、結局似合わないと思い染めていないのである。

 

 

「まぁ、いいんじゃないか?イチカはそれが似合ってる」

 

 

「ああ、無理に髪色を変える必要は無いと思うぞ」

 

 

「……そっか」

 

 

ダイキと智也に言われ、イチカは素っ気なく答える。

だが、声色が少し嬉しそうなのを4人は聞き逃さなかった。

ニヤニヤしながらイチカを見つめ、イチカは若干気まずそうに視線を逸らす。

 

 

それから、暫くの間家族全員でどうでもいい会話をする。

この何気ない会話が、家族としては大事なのだ。

 

 

ご飯の残りが半分に差し掛かった時、キヨカが唐突にとあることを呟いた。

 

 

「……普段さ、私達ってバラバラに暮らしてるじゃん?」

 

 

「そうね、それがどうかした?」

 

 

「だから、こうして5人全員揃ってると、イチカお兄ちゃんが初めて来た時を思い出すなぁって」

 

 

「ああ、そういう事か……」

 

 

キヨカの言葉が切っ掛けで、家族は思い返す。

仙道家の、イチカの人生が大きく変わった、あの日の事を。

 

 


 

 

ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……クッソ!何で、俺が、こんな事に……!!」

 

 

ドイツのとある暗い森の中を、1人の日本人の少年が走っていた。

足元の枯れ葉を踏みつけながら、必死の形相で走っている。

 

 

これだけの情報だったら、少年がトレーニングの為に走り込みをしているという解釈も出来る。

だが、その少年の服装はボロボロで、全身に打撲跡があり、頭などから血を流しながら走っていたとしたら、トレーニングなどと思う人間はいないだろう。

 

 

少年の名は織斑一夏。

彼は、誘拐され拘束されていたところを、なんとか自力で脱出したところである。

 

 

本日はIS世界大会である、第2回モンド・グロッソの決勝戦の日である。

日本代表として戦っているのは、一夏の姉、織斑千冬。

前回大会で優勝した世界最強である。

 

 

相対するは、レックスの異名を持つ檜山真実。

今大会から参加が決定した、企業代表IS操縦者のうちの1人。

 

 

そんな日に、一夏が誘拐された理由はただ1つ。

千冬の連覇妨害目的である。

 

 

誘拐した相手は不明。

だが、誘拐犯たちが話していた内容的に千冬に勝ってアピールしたいというより、千冬に個人的な恨みがある人間が上に居そうだと、一夏は感じていた。

 

 

「クッソ…はぁ、はぁ…あの、ゴミ姉がぁ……!俺の事、巻き込みやがってぇ!いっつも俺の事、見てないくせに……!面倒ごとばかり、持ってきやがる……!!」

 

 

千冬に対して文句を言いながら、ただただ走る。

誘拐犯から逃げる為に。

脱走したことは、もうとっくのとうにバレているだろう。

そして、確実に自分を追って来ているのも、分かっている。

だからこそ、一夏は走るのだ。

兎に角、自分の身の安全を確保する為に。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

誘拐犯に暴行され、全身の傷が痛む。

喉も渇き、全身からの出血による鉄分不足や疲労感からかなりフラフラしている。

それでも、走って、走って、走って、走って。

そして……

 

 

「っ……ま、街……!!」

 

 

森を抜け、とうとう街にたどり着いた。

一見すると田舎と呼ばれるような場所だというのは、此処に初めて来た一夏でも理解が出来る森との近さ。

だが、それでも街に人は多く、大きくて綺麗な建物も多い。

どういった場所なのかはさっぱり分からないが、観光地っぽいというのが一夏の感想だった。

 

 

「け、警察!取り敢えず警察だ!」

 

 

千冬に無理矢理応援に来させられただけなので、一夏は特にドイツ語を話せたりはしない。

だが、人類身振り手振りと、中学生レベルの英語があればなんとか伝わるという名言があったような気がしたので、取り敢えず警察署に駆け込むことにした。

1歩踏み出した、その時。

 

 

「あっ……」

 

 

一夏は足を滑らせ、そのまま地面へと思いっ切り倒れて行ってしまう。

 

 

ドシャア!!

 

 

蓄積された疲労が限界を迎えてしまったのだ。

 

 

「あ、くぅ、ぁ…………」

 

 

一夏はなんとか立ち上がろうとしたが、意識が朦朧とし始め、そのまま意識を失ってしまったのだった。

 

 


 

 

そこから約2時間後。

とある病院のベッドの上。

 

 

「う、うぅん…こ、此処は……?」

 

 

全身の傷に包帯などでの治療を施された一夏が目を覚ました。

急な光に目をシパシパさせながら、まだ痛む身体を起こす。

 

 

「え、マジでどこだ此処?」

 

 

部屋の中を見て、本当に知らない場所だったので一夏は困惑したような表情を浮かべる。

壁に掛かっているカレンダーに書かれている言語がドイツ語なのを見て、ドイツなのを思い出した。

だが、それ以外は此処が病室だという以上の情報が無い。

キョロキョロと視線を動かしていると、

 

コンコンコン

 

と、扉がノックされた。

 

 

「はい?」

 

 

反射的に返事をしながら視線を扉の方に向ける。

すると、扉が開き、白衣を身に纏った男性が部屋に入って来た。

 

 

「おお、起きたようだね」

 

 

「あ、はぁ。あなたは?」

 

 

「私はアーベル・ミュラー。君の担当医だ。よろしく」

 

 

「織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

 

その男性、アーベルは右手を一夏に差し出し、一夏は素直に握手をする。

 

 

「日本語、お上手ですね」

 

 

「ははは、近年、ISの関係で日本人の患者さんも多いから、上から話せるようにしろ、と言われていてね」

 

 

一夏の言葉に、笑いながら答えるアーベル。

だが、その笑顔はとても疲れ切っているようなもので、相当苦労したのがこの短い会話だけでありありと感じられた。

一夏の表情から考えている事を大体察したのか、苦笑いを浮かべながらアーベルは取り敢えず一夏の身体をチェックする。

 

 

「さて、一夏君…で良かったのかな?君の身体には全身に傷があったので治療させてもらったよ。今、身体に痛むところはあるかな?」

 

 

「いえ、特には…今は全然大丈夫です」

 

 

一夏は自分の身体をぺたぺた触りながらそう返答する。

その返答を受け、取り敢えず安心したような息を吐くアーベル。

用紙に記入をし、次の質問に移る。

それを数度繰り返し、質問が終了した。

 

 

「うん、取り敢えずは大丈夫そうかな。それで一夏君」

 

 

「はい、なんですか?」

 

 

「道で倒れて来た君を此処に連れて来て、警察にも連絡してくれた一家がいるんだ」

 

 

「そうなんですね…ありがたいです」

 

 

その説明を受け、一夏は自分が何で此処にいるのかという疑問が漸く解消された。

それと同時、なんで見ず知らずの自分の為にそんな面倒な事をしてくれたのかという疑問が浮かんだ。

 

 

「その一家と、警察に会ってくれるかい?今から連絡を入れるので、何時になるかは分からないが」

 

 

「あ、はい、それは大丈夫です」

 

 

さっき自分で警察に駆け込もうとしたし、わざわざ自分を助けてくれた人たちにもお礼を言いたい。

断る理由は無かった。

 

 

「分かった。それでは、そう連絡させてもらうよ」

 

 

「あっ!そう言えば、お金って……」

 

 

一夏は中学生なので、入院費を払える程お金が無い。

姉に言え料金はなんとかなるだろうが、姉に頼るのは一夏としては気に食わないし、姉からなんて言われるかわかったもんじゃない。

払えと言われたら払うしかないが、そうなったら面倒なのだ。

 

 

「ああ、金銭に関してはその人達に払ってもらう事になっているよ。君は大事を取って3日間は入院する事になっているから」

 

 

最後にその言葉を残し、アーベルは部屋から出て行った。

一夏は安心したのも束の間、

 

 

(あれ?結局その人達にお金払わなきゃじゃん!)

 

 

結局その問題は解決していない事に気が付いた。

だが、自分がいくら考えてもどうしようも無いので思考を止めた。

土下座すれば大学卒業するまで待ってくれるかなぁ?とか考えながら、今は大人しく休むことにした。

 

 

その日から3日後。

一夏の傷も大方治り、無事退院の許可も出たその日。

一夏はアーベルに連れられ、とある部屋に向かっていた。

その部屋とは応接室であり、約束していた警察と自分を保護してくれた人たちとの面会である。

 

 

自分の病室でも良いじゃないか、と思ったのだが、如何やら重症の人が居るらしく、その人の為に直ぐベッドを確保しないといけないので、一夏は大人しくベッドから離れたのだ。

 

 

退院しても行くところが自分の家しかなく、もう既に帰国の為の飛行機は出発した後なので、この後どうすればいいのか分からない。

千冬が自分の事を訪れる事も無かったので、多分捨てられたんだろうという結論に至った以外、この数日で得られたものは無かった。

 

 

「着いたよ」

 

 

「此処、ですか」

 

 

「ああ、もう既に中にいらっしゃる。しっかりと話してね」

 

 

「はい。アーベルさん、この3日間、ありがとうございました」

 

 

「これから元気でね」

 

 

アーベルは最後に一夏の頭を撫でると、そのまま次の患者の所に向かった。

此処で話しを終えたら、この病院からも出て行かないといけないだろう。

その事で少し不安ではあるが、進まない限りは道はない。

一夏は扉をノックして、部屋の中に入る。

 

 

「失礼します」

 

 

部屋の中にいたのは、3人。

その内1人はドイツの警察の制服を着用している男性で、一夏はこの人が警察官だ、と思うと同時にまだ男性警察官って活動できるんだ、と不思議な思考を同時に持った。

 

 

「どうも初めまして。スレバーデです。此方を」

 

 

その警察官…スレバーデは一夏に自分の階級などの情報が乗っている身分証明書を掲示する。

 

 

「あ、はい、どうも…」

 

 

一夏はザッと目を通し、なんとなく理解したので返却する。

取り敢えず一夏は3人の向かいとなる席に座る。

 

 

「あ、あの、お名前を伺っても……?」

 

 

「仙道智也です」

 

 

「妻の仙道明美です」

 

 

「……織斑一夏です。この度は保護してもらいありがとうございました」

 

 

織斑。

その苗字は千冬の事を連想させるものだった。

姉弟ゆえ顔つきも似ているのが影響し、自己紹介をしたら絶対に千冬の弟だと言われる。

 

 

一夏はそれが嫌いだった。

自分は自分だ。

それなのに、周囲は自分の事を姉の付属品としてしか見てくれない。

自分を、姉の劣化品だとしか思ってくれない。

 

 

だから、この2人からも同じ様なことを言われるんだと思わず考えてしまった。

そんな暗い考えは、一瞬にして崩れる事になる。

 

 

「気にしないで良いのよ。貴方が無事で本当に良かった」

 

 

「ああ、君が無事ならそれでいいさ」

 

 

「えっ……」

 

 

初対面の人間に、ここまで温かい言葉を掛けられたのが初めてだった。

それどころか、千冬という名前も出てこない。

思わず呆気に取られた表情を浮かべてしまう。

 

 

「どうかしました?」

 

 

「い、いや、なんでも無いです……あの、日本人……ですよね」

 

 

「そうですよ」

 

 

「なんで、ドイツに?」

 

 

「家族旅行です。モンド・グロッソと期間か重なっていたので諦めようかと思ったんですが、私達の仕事が忙しくてこのタイミングじゃないといけなくて」

 

 

カラカラと笑いながら話す智也と明美。

だが、それと反比例するように一夏の顔からさぁっと血の気が引いていく。

一夏自身に経験は無いが、家族旅行というのはとても楽しく、家族水入らずの思い出を作れる貴重な機会だ。

仕事が忙しいから、無理にでもこの時期に来たという発言からも明らかだ。

そんな大事な用事に、自分が水を差したと分かると、急速に慌てるのも仕方が無い。

 

 

「そ、そんな大事な時にすいません!う、埋め合わせなんて出来ないですけど、何かお詫びを……!!」

 

 

あわあわしながら謝罪を開始する一夏。

智也と明美は苦笑をしながらも、一夏をなだめる。

 

 

「気にしないでと言ったでしょう?私達が好きでしたんだから」

 

 

「ああ、子供なんだから遠慮する事はないぞ」

 

 

(それにしても、ここまで異常に謝るとは…なにかあったのか?)

 

 

一夏の謝りように違和感を感じるが、特に何も言わない智也。

 

 

「んん、そろそろよろしいですか?」

 

 

「あ、はい、すみません」

 

 

一夏が落ち着きを取り戻したのを確認してから、スレバーデが声を掛ける。

慌てて一夏は視線をスレバーデに向ける。

 

 

「織斑一夏さん、貴方はこの街のはずれに全身に傷がある状態で保護されましたが、何故そうなったのかお伺いしてもよろしいですか?」

 

 

「…はい。実は……」

 

 

一夏は話し始める。

モンド・グロッソの決勝戦が始まる前に、誘拐された事。

誘拐先で暴行を受け怪我をした事。

なんとか自力で脱出し、街にまで逃げて来たが、途中で力尽きてしまい、倒れた事。

 

 

「誘拐…?おかしいですね、そんな通報全く無かったはずですが…」

 

 

「多分、織斑千冬が僕に興味無いからですね。僕なんて、居てもいなくてもどっちでも良いんですよ」

 

 

姉なのにフルネームで呼んだこと。

淡々と、感情を感じさせない声で話すにしては、全てを諦めたかのような内容を話す。

スレバーデと仙道夫妻が首を傾げる中、一夏は淡々と話し始める。

 

 

幼少期から、親がおらず、2人で暮らしていた事。

自分は千冬と比べられていた事。

それが原因で虐めにまで発展した事。

千冬に助けを求めても、碌に取り合ってくれなかった事。

 

 

「……と、まぁ、こんな感じですね。ははは、やっぱり僕っている意味無いですね」

 

 

目が笑っていない笑顔でそんな事を言う一夏。

だが、スレバーデは思わず視線を逸らしてしまい、智也と明美は思わず涙ぐんでしまう。

 

 

「だから、だから、僕なんて…」

 

 

「そんな事言わないで!」

 

 

一夏が言葉を発する前に、明美がそう言うと、席を立ち一夏の事を抱きしめた。

 

 

「っ!?」

 

 

急な事で驚きの表情を浮かべるが、明美は気にせず言葉を発する。

 

 

「今まで、よく耐えたわね。生まれなくて良かった人間なんて、居る意味が無い人間なんて、この世にいない」

 

 

「っ……」

 

 

明美から掛けられた言葉に、一夏は目元に涙を浮かべる。

 

 

「俺は、俺は……」

 

 

人前という事で取り繕っていた一人称も、素のものに戻る。

今までの人生、人から愛されたことなど、一夏は無かった。

ちょっとだけだが、友人もいる。

だが、その友人から向けられるのは、当然友情であり、親の愛情というものを、一夏は知らなかった。

 

 

「う、あ、あぁあああああああああ!!!!」

 

 

今までため込んで来たものが決壊したかのように、一夏は泣き出した。

明美は自分の子供の様に一夏の事を宥め、智也とスレバーデは温かい眼差しで2人の事を見ていたのだった。

 

 

その後、落ち着いた一夏から聞かなければならなかった事全てを聞いたスレバーデ。

一夏の今後について4人で話しあう。

普通だったら、保護者である千冬への引き渡しになるのだが、一夏本人がそれを拒否。

それと同時、智也と明美が一夏を引き取ると言い出した。

最初は申し訳なさから断った一夏だが、智也と明美に説得され、引き取られる事となった。

 

 

一夏の分の飛行機のチケットを購入し、2人の子供…そう、ダイキとキヨカと共に日本に帰国。

いろいろな手続きだの裁判だのを半年以上にわたり行い、一夏の親権は仙道が勝ち取った。

 

 

そうして、織斑一夏と呼ばれていた少年は名を仙道イチカと変え、仙道家の家族となったのだった。

 

 


 

 

「懐かしいな…」

 

 

「ああ、まさか旅行先で家族が増えるなんて言われるとは思いもしなかった」

 

 

「そもそも、旅行先で全身から血を流して倒れてる人を見つけるとも思わなかったけどね」

 

 

イチカ、ダイキ、キヨカの順でそう言葉を発する。

 

 

そんな3人を、智也と明美は温かい眼差しで見つめていた。

正直、急な事だったので一夏が馴染めるかどうか不安だった。

それに、ダイキとキヨカも急に家族が増えるとなると、上手くやって行けるのかという不安もあった。

だが、今こうして思春期なのにも関わらず、3人仲良くやっている事に安心したのだ。

 

 

「「「「「ご馳走様でした」」」」」

 

 

全員同時にご飯を食べ終えて、全員で後片付けを行う。

 

 

その後、全員でダラダラした時間を過ごし、そこそこ遅い時間になった。

 

 

「全く、世間は相変わらず荒れてるねぇ」

 

 

イチカは自分のベッドに座り、CCMでネットの情報を収集していた。

男性IS操縦者が発見されてからもう1ヶ月以上経つのに、ネットでは未だにいろいろ言われていた。

 

 

「ハハハ!無駄な議論ご苦労さん」

 

 

イチカは馬鹿にするような笑みを浮かべると、CCMを閉じ、机の上に置く。

その後、今日の荷物の中からIS座学の資料書を取り出すと、眠気が来るまでピラピラと眺める。

ダイキとキヨカと関わり始めた事によって頭の回転が速くなり、それに伴い記憶力や理解力、読解力、推察力などもかなり高まっている。

今では2人と並ぶくらいである。

その結果としてISが動かせることが分かってからISの勉強を始めたのに、もう既にIS学園の一般生徒以上にISに対する理解がある。

 

 

「……」

 

 

パラ…パラ…

 

 

部屋の中に紙を捲る音だけが響く。

 

 

「く、ふぁ……そろそろ寝るかぁ」

 

 

イチカはそう呟くと、資料を閉じ、机の上に乱雑に置く。

部屋の電気を消そうとした時、

 

 

コンコンコン

 

 

「イチカお兄ちゃーん…起きてる……?」

 

 

扉がノックされ、少し遠慮がちなキヨカの声が聞こえてきた。

イチカは首を捻りながら扉を開ける。

 

 

「こんな時間にどうした、キヨカ」

 

 

「久しぶりに、イチカお兄ちゃんと一緒に寝たいなぁって思って」

 

 

キヨカの言葉を聞いた瞬間に、イチカは顔に手を置き、天井を見上げる。

イチカはもう高校生で、キヨカは中学生。

いくら兄妹でも、もう一緒に寝る年齢ではない。

それに、長らく一緒に居る家族であり、それ相応の繋がりや絆はあるとはいえ、血が繋がっていないという事実はあり、一緒に寝るとなると多少意識してしまうのだ。

 

 

「駄目……?」

 

 

「……はぁ………良いぞ。入れ」

 

 

なんだかんだ、イチカもキヨカが大好きだ。

こんな風にお願いされると、中々断れない。

許可を得たキヨカはニッコニコの笑顔でイチカと共にベッドに入る。

 

 

「近え、もっと離れろ」

 

 

「これくらい、駄目?」

 

 

「苦しくて寝れねぇ」

 

 

「それは大変」

 

 

キヨカは大人しくイチカから離れる。

ふぅ、と息を吐こうとしたが、その直後キヨカがイチカに抱き着く。

 

 

「おい…」

 

 

「これくらいは許して」

 

 

「まぁ、はぁ…良いか」

 

 

これ以上は時間の無駄だと判断し、抱き着く事を許可した。

キヨカは嬉しそうに腕に力を籠める。

 

 

(折角眠気が来たのに、覚めちまった。まぁ、横になってればいつか寝るだろ)

 

 

「ねぇ、イチカお兄ちゃん」

 

 

「あ?なんだ?」

 

 

イチカが目を瞑りながら考えていると、キヨカが声を掛けて来た。

目を開きながら返事をすると、キヨカは話し始める。

 

 

「最近、無理してない?」

 

 

「無理?そんなもの全然…何でそんな事思ったんだ?」

 

 

「だってイチカお兄ちゃん、昔と性格変わり過ぎだから」

 

 

キヨカの言葉に、イチカは一瞬黙る。

 

 

「いや、まぁ、成長すれば性格も変わるだろ」

 

 

「それもそうだけど、変わり過ぎてるからさ」

 

 

「確かに、そうだな」

 

 

今自分で振り返っても、確かに名前を変える前から性格はかなり変わっている。

 

 

「私は、昔のイチカお兄ちゃんも、今のイチカお兄ちゃんも大好き。だけど、私が1番好きなのは、素で笑ってるイチカお兄ちゃんだから。無理しないで、ね?」

 

 

「……ああ、分かってるよ。ありがとな、キヨカ」

 

 

イチカは優しい笑顔を浮かべると、キヨカの頭を撫でる。

 

 

「おやすみ」

 

 

「うん、おやすみ」

 

 

2人は言い合い、それから10分もしないうちにキヨカは眠りに付く。

キヨカが寝た事を確認してから、息を吐く。

 

 

「素で笑ってる俺、か……」

 

 

イチカは、織斑一夏が、過去の自分が嫌いだ。

だから、ここまで前と性格が変わったのかもしれない。

苦笑を浮かべながら、イチカはキヨカの頭をもう1度撫でる。

 

 

「もう少し、ちゃんと自分の過去を受け入れないといけないのかもな……」

 

 

イチカはそう呟くと、あくびを一つしてから眠りに付くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆オタクロスの、オタ知識デヨ~~!!☆

 

 

今回は、仙道家4人についてまとめたデヨ。

みんなしっかり確認するデヨ!!

 

 

〇仙道ダイキ

 

仙道家長男で、イチカの兄。

原作ではジョーカー系のLBXを使用する箱の中の魔術師。

今作では趣味でプラモデルを制作しつつ、プロの占い師として世界中で活動している。

偶にテレビに出たり、本を出したりするのでIS学園内でも知名度はそこそこある。

 

昔は今のイチカ以上に尖った性格をしていたが、今ではかなり丸くなっている。

イチカが会話にタロットを使用するのは彼の影響。

 

隠れシスコン兼隠れブラコンなので、思考の3分の1は弟妹の事が占めている。

 

プロメテウス社の社長の息子に未だに振り回されることがあるらしい。

 

 

〇仙道キヨカ

 

今作唯一ダンボール戦機ウォーズからのキャラ。

仙道家長女で、イチカとダイキの妹。

神威大門統合学園に通っている中学2年生。

 

ダイキとは仲のいい兄妹レベルだが、イチカに対しては途轍もないほどのブラコンを発揮する。

家に住んでいたころは、よくイチカのベッドに忍び込んだりしていた。

また、イチカといる時とそうでないときの差が激しすぎる。

 

スマートフォンのケースには、ハンドメイドのジョーカーストラップを付けている。

学園のクラスメイトには、まだブラコンという事はバレていない。

 

 

〇仙道智也

 

仙道家大黒柱で、仙道兄妹の父親。

タイニーオービットの営業課に勤務している。

イチカ達の事を守る事を第一としており、常日頃汗を流して働いている。

 

教育としては、子供達の自由にさせ、本当に親の助けが必要になったときや、叱らないといけないとき、しっかりと子供と向き合うスタンスを取る。

 

 

〇仙道明美

 

智也の妻で、仙道兄妹の母親。

タイニーオービットの計算課に勤務している。

イチカがいるときは家事の役目を取られてしまっているが、本来は彼女が好きで率先してやっていた。

その為、智也からちゃんとやすんでいるかたびたび心配される。

 

子供達の事をそばから見守り、常に包み込むような教育スタンスを取る。

 

 

 

 




次回予告

一家団欒の時間を過ごす仙道家。
寮暮らしの2人はゴールデンウィーク中ずっと家に居れる訳無いので、日帰りでの旅行に出かける。
旅行先で、イチカは水色髪の少女に声を掛けられ……

「…誰だ?アンタ」

次回、IS~箱の中の魔術師~『GWⅡ 旅行、そして接触』、見てね!


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GWⅡ 旅行、そして接触

大変お待たせしました…!
これ以上前書きに書くことが無い。

IS~箱の中の魔術師~、始まるよ!


ゴールデンウィーク2日目の朝。

まだ日が昇っていない薄暗い時間帯に、イチカはランニングを行っていた。

変に早い時間に起きてしまい、2度寝する気もわかなかったし、昨日真実にボッコボコにされたのでトレーニングも兼ねて、だ。

 

 

因みに昨日一緒に寝たキヨカは、未だにイチカのベッドの上でスヤスヤと寝ている。

起きた時にガッチリ抱き着かれ身動きが取れない状態だったのだが、なんとか抜け出して来たのだ。

 

 

「ふぅ…朝から身体を動かすってのは、中々に気分が良いもんだな…さて、とっとと朝飯を作るか」

 

 

身体を動かし終わり、家の前に戻ってきたイチカはそう呟くと、家の中に入り準備してあったタオルで顔に湧き出て来た汗を軽くふいてから、一先ず風呂場に向かう。

汗だくの状態での調理は、流石のイチカでもしないという事だろう。

 

 

そんなこんなで汗を流し終えたイチカはキッチンにやって来た。

取り敢えず冷蔵庫を開け、何を作るのかを考える。

本当は昨日の内に冷蔵庫の中を確認しておきたかったのだが、ダラダラとした時間を過ごした為、確認する事をすっかり忘れていたのだ。

 

 

だが、イチカは下宿先のブルーキャッツで蓮から調理の手伝いをさせられる程の料理力(家事力)がある。

調理直前の食材チェックでも、食材が足りない場合を除き問題無く料理が出来るのである。

 

 

「ほーん、そこそこ残ってんな。どうすっか…目玉焼き程度で良いだろ」

 

 

鮭などのしっかりとしたものは残っていなかったものの、朝食には十分な量が残っていた。

早速調理に取り掛かる。

仙道家は、というより両親の智也と明美が朝食は白米と味噌汁派なので、そっちの方面で作る事にする(イチカとキヨカに朝食の拘りはない。栄養が取れればそれでいい)。

 

 

一先ずは白米を炊く。

仙道家では無洗米を使用しているので、ただ量を測ってスイッチを押すだけでOK。

 

 

炊きあがりを待つ間に、次に時間がかかる味噌汁を作り始める。

仙道家の味噌汁用の味噌はだし入り味噌を使っているので、だしからとる必要が無い。

そして、拘りの具材がある訳でも無いので、定番のわかめと豆腐、ネギの味噌汁だ。

鍋に水を入れ火をつけてからわかめとカットした豆腐を入れ煮立たせる。

水が沸騰し、具材に火が通ったら火を止め、沸騰が止んだのを確認してから出し入り味噌を溶き入れる。

その後は煮立たないように気を付けながら再度火にかけ、沸騰する直前にネギを入れ、火を止める。

これで味噌汁も完成。

 

 

最後に目玉焼きだ。

ベーコンやウインナーが余っている訳では無いので、本当にただの目玉焼きになるが、まぁ朝だしこれくらいでも十分だろう。

冷蔵庫から卵を取り出し、フライパンを事前に熱しておいてサラダ油を馴染ませてから直ぐに卵を入れる。

イチカに黄身の位置の拘りは無い為、特に調整をせずそのまま焼く。

 

 

ガチャ

 

 

「おはよう」

 

 

「ん?兄さんか、おはよう」

 

 

その途中、起きたダイキがリビングに入って来た。

もう既に着替えや身だしなみの整えなどかは終わっている。

 

 

「兄さん、水と麦茶どっちがいい?」

 

 

「自分でやるから大丈夫だ」

 

 

「りょーかい」

 

 

ダイキは言葉の通り自分で麦茶を用意する。

それを横目で見ながらイチカは目玉焼きの調理に戻る。

 

 

1つ目が出来上がり、皿によそってから2つ目を焼き始める。

 

 

「あ?黄身が2つ…調理めんどいんだよな…」

 

 

偶々黄身が2つの二黄卵だったようだ。

確率は約1%くらいのレア現象だが、イチカは言葉通り面倒臭そうな表情を浮かべる。

だが、しっかりと調理は行うし、しれっとキヨカの皿に盛り付ける。

 

 

そんなこんなで、残りの3人分の目玉焼きも完成した。

皿に盛り付ける。

その後、炊きあがった白米と味噌汁を各々よそう事で、イチカ特性の朝ご飯の完成だ。

 

 

さて、盛りつけの間に智也と明美はやって来たのだが、キヨカが起きてこない。

折角作り立ての朝ご飯、冷める前に食べてしまいたい。

イチカとしても、自分の作った料理が冷めて不味くなるのは許容出来ないので、キヨカを起こしに行く事にした。

 

 

2階のイチカの部屋に到着し、扉を開ける。

視界に入って来るのは、未だにベッドの上でスヤスヤと眠っているキヨカ。

しかも、枕に顔を埋め、イチカが羽織っていた薄めのタオルケットを抱き枕のようにギュッと抱きしめている。

 

 

「……(イラ)」

 

 

何故だろうか。

イチカは嫌悪感と苛立ちを覚えた。

 

 

「別に、寝相でなってもおかしくはない体勢のはずなんだがな…なんかわざとこうなったような気がしてならない…」

 

 

イチカは後頭部を掻きむしりながらそう言うと、右手でタロットカードを1枚取り出す。

 

 

「THE HIGH PRIESTESSの逆位置…神経質に考えると、マイナスに…これ以上は考えないでおくか……」

 

 

イチカは身震いをしながらタロットカードを仕舞う。

 

 

「おいキヨカ!起きろ!飯出来たぞ!!」

 

 

大声を出しながら、ゆさゆさとキヨカの身体をゆするイチカ。

 

 

「んぅ…?イチカお兄ちゃん……?」

 

 

「おう、とっとと着替えだの洗顔だの身だしなみを整えてダイニングに来い」

 

 

「はぁ~~い……」

 

 

キヨカはイチカの言葉に、半覚醒といったどころか4分の1覚醒状態で返事をすると、のそのそとした動作で部屋から出て行った。

そんな様子を見てため息をつきながら、ベッドの状態を確認する。

 

 

「涎とかは無いか…ならいいか。にしても、キヨカってあんな感じの喋り方だったか……?」

 

 

イチカはため息をつくと、くしゃくしゃになっているタオルケットを簡単に整えてから、ダイニングに戻る。

イチカが戻ってから暫くした後に、身だしなみを整えたキヨカがやって来た。

 

 

「おはよう」

 

 

「キヨカ、おはよう」

 

 

「折角イチカが朝ご飯作ってくれたから、早く食べましょう」

 

 

キヨカは明美の言葉に頷くと、そのまま席に着く。

 

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

 

5人は手を合わせると、そのまま朝食を食べ始める。

 

 

「うん、美味しい!イチカ、腕上げた?」

 

 

「さぁ?最近自分の料理を自分で食う事が無いから分からん」

 

 

「そうなのか?でも、十分誇れる腕前だと思うぞ」

 

 

「…称賛は素直に受け取っておこう」

 

 

イチカは如何でも良いように返答すると、そのまま白米を口に放り込む。

相も変わらずなイチカの態度に、智也と明美は苦笑いを浮かべる。

 

 

数分後。

全員が朝食を殆ど食べ終えた時。

 

 

「ねぇ、ダイキ、イチカ、キヨカ、ちょっといい?」

 

 

唐突に明美がそう切り出した。

3人の視線は当然のように明美に向けられる。

 

 

「どうかした?」

 

 

「ダイキはまぁ、帰ろうと思えば帰ってこれるけど、イチカとキヨカは連休じゃないと帰ってこれないでしょ」

 

 

「イチカとキヨカは全寮制なんだ。しょうがないだろう」

 

 

「俺は部屋が無いから寮じゃないけどな。まぁ、いい加減決まるだろ。じゃないと困る」

 

 

「あははは、まぁ、それはおいておいて。そして、2人ともゴールデンウィーク中ずっとこっちにいる訳でも無いでしょ?」

 

 

「2、3日したら帰るね」

 

 

「ISの訓練だの、勉強だのがあるからな。こっちよりも、寮か下宿先の方が何かと便利だからな」

 

 

明美と3兄妹の会話を聞きながらニコニコしていた智也が、ここで口を開く。

 

 

「そう、だからお前たちがそっちに行く前に、家族で出かけておきたいんだ」

 

 

「お出かけ…ねぇ」

 

 

イチカとキヨカは、思春期真っただ中の男子高校生と女子中学生。

家族と出かけてるのは、些か羞恥心が湧いてくる。

だがしかし、そう滅多に家族で集まれないというのも事実。

特にイチカは世界で1人しかいない男性IS操縦者にして、IS世界シェア1位のタイニーオービット所属の専用機持ちだ。

今後行動が制限される可能性が無いとは言えない。

となれば、ここは智也の言う通り出かけた方が良いのだろう。

 

 

「俺は別に問題無いぞ」

 

 

「私も大丈夫」

 

 

「俺もだ」

 

 

イチカ、キヨカ、ダイキの順番でそう返答する。

それを聞いた瞬間、明美の顔はパアッと明るくなる。

 

 

「それじゃあ、朝ご飯食べたら早速行きましょう!!」

 

 

「随分急だな」

 

 

「それにしても全員問題無くて良かったよ」

 

 

「それで?何処に行くんだ?」

 

 

ダイキのその質問に、2人はピクリと眉を動かす。

イチカ達3人が首を捻ると同時に2人は同時に言葉を発した。

 

 

「「温泉」よ」

 

 

「「「……は?」」」

 

 


 

 

数時間後。

とある温泉街。

 

 

「付いたぁ!」

 

 

「付いたなぁ…!」

 

 

明美と智也が、身体を伸ばしながらそう声を発する。

そんな2人の事を、仙道家の3人の子供がジト目で見ていた。

 

 

「確かに問題無いとは言った。だけどな」

 

 

「日帰りとはいえ、当日の朝に温泉に行くと伝えるか?普通」

 

 

ダイキ、イチカの順番で半眼を浮かべながらそう呟く。

その視線を受け、智也と明美は露骨に視線を逸らす。

 

 

「ま、まぁまぁ。取り敢えず……どうする?」

 

 

ズルッ!!

 

 

明美のその発言に、思わずイチカ達はズッコケそうになった。

 

 

「そこもノープランかよ…」

 

 

頭痛でもあるのかと言わんばかりの表情を浮かべ、頭を押さえながらそう呟くイチカ。

智也と明美が更に露骨に視線を逸らす。

 

 

「取り敢えず、温泉に入ってから街の散策はしたくないし、荷物を何処かに預けてから街を歩かない?」

 

 

「そうだな。それが良い」

 

 

キヨカの提案に、ダイキが賛同の声をあげる。

イチカ達も反論は無いので、キヨカの案で行く事が決定した。

温泉街という事で観光客の受け入れ態勢は万全。

荷物預け場所は簡単に見つかった。

 

 

「それで?何処の温泉なんだ?」

 

 

「ん~?ちょっと遠くの、あの1番大きいところ」

 

 

「ほぉ~ん…なかなかに豪華だ」

 

 

「ああ、しかも日帰り入浴でも予約が必要なんだ」

 

 

「へぇー。何時からなの?」

 

 

「いや、時間指定は無い。その日に予約を入れる必要はあるけど、時間は自由なんだ」

 

 

「なるほどなるほど。少し変わったシステムだな」

 

 

「そしてそんな変わったシステムで、もう予約も取ってるのに、当日に此処に来ることを言う、と」

 

 

如何やらイチカは根に持っているらしい。

いや、イチカだけじゃなくダイキとキヨカも同じ様だ。

半眼で視線を2人に向ける。

 

 

「い、いや、あはははは…」

 

 

「普段はしっかりしてんのに、なんで今回に限ってポンコツなんだ」

 

 

「久々の家族での旅行だから、テンション上がってたのよ」

 

 

「……まぁ、そういう事にしておこう」

 

 

ダイキのその言葉で、いったん会話を終わらせた仙道家。

見つけた荷物預り所に向かい、着替えなどの荷物を預けておく。

温泉に行く前に此処で受け取ればいいので、街の散策の間はフリー。

朝食後直ぐに出て来たので、そこそこ時間はあるが帰りの時間も考えると、あんまりもダラダラしていると時間が無くなる。

 

 

「それで、此処の名物とか、名所ってなに?そういうのが無いと何処に行ったらいいのか分からないんだけど」

 

 

キヨカのその質問と同時にイチカとダイキも視線を智也と明美に向ける。

 

 

「「……」」

 

 

だが、2人はそのまま黙ったままだ。

その反応だけで、イチカ達は理解した。

 

 

「それも調べてないのかよ…」

 

 

「「申し訳ございません……」」

 

 

ダイキのボヤキに、2人が頭を下げる。

 

 

「なら仕方が無い。幸いにも今日は色々と賑わっている。現地調べでもなんとかなるだろ」

 

 

「うん。っていうか、寧ろこういうのが『旅』としての本来の姿、なのかな?」

 

 

「そうかもしれないが、やはり困るものは困る」

 

 

文句を言いつつも、切り替えは早い仙道家の子供達。

取り敢えずここら辺に何かあるかが記されているマップを探す。

親2人は子供達のそんな様子に一瞬ポカンとした表情を浮かべるも、すぐさま後を追いかけていく。

荷物預り場所と同様、看板も簡単に見つかった。

ダイキとキヨカはスマホ、イチカはCCMを併用しながら周囲の施設を確認していく。

 

 

「結構色々あるな」

 

 

「どうせ金は父さんか母さん持ちだ。気にしなくて良い」

 

 

「最悪俺も出せるしな」

 

 

「流石兄さん」

 

 

ダイキは売れっ子の占い師だ。

そこそこ稼いでいる。

1回の旅行先での食事代などは気にしなくて良いほど貯蓄がある。

 

 

「あ、此処行ってみたい」

 

 

「ふーん、和菓子専門店か。良いんじゃないか?」

 

 

「なんかの体験とかは流石に当日飛び込みじゃ厳しいところが多いだろうから、除外して考えるとそういう露店周りになるな」

 

 

イチカ達があーだこーだと相談しているのを、その原因2人が微笑ましいものを見るような表情で見ていた。

 

 

「「アンタらも相談するんだよ!!」」

 

 

が、イチカとダイキがそれを許す筈も無く。

イチカが明美を、ダイキが智也を引っ張り、仙道家5人で改めて巡る場所を話し合う。

温泉は昼食後にゆっくり浸かる事にして、昼食前に見れるだけ見てしまおう、という事だ。

 

温泉街から離れると時間が無くなるので、基本ショッピングになってしまう。

とはいえ、正直男3人は小物やスイーツ類に興味がある訳では無いので、そこらへんのセレクトはキヨカと明美に委ねる。

2人も、自分達だけでなく出来るだけイチカ達も楽しめるようなルートで考える。

 

 

思案する事数分。

漸く行く場所が決まったので、早速行動に移すことにした。

 

 

先ず行くのは、キヨカが気になっていた和菓子専門店。

最初の場所に決めた理由は単純で、此処から1番近いからだ。

 

 

「んじゃ、時間は有限だし、早く行こうか」

 

 

((アンタが仕切るな))

 

 

智也のその言葉に、イチカとダイキが心の中でツッコミをしながらも、異論がある訳でなない為声には出さず、素直に移動を開始する。

 

 

ザワザワザワ

 

 

その道中、やけに周囲がざわついている事に気が付いた。

そして視線が自分達に…と言うよりか、イチカに向けられている事に。

 

 

「はぁ……落ち着いて旅行も出来ねぇ。ったく、本当に面倒な肩書だな、男性IS操縦者って」

 

 

イチカは心底面倒くさそうな表情でため息をついてから、そうボヤいた。

 

 

そう、世界で1人しかいない男性IS操縦者である仙道イチカが此処にいるのだ。

注目されない訳が無い。

 

 

「そもそも『貴重なサンプル()』の安全を考えると、今日来たのはあまりにも迂闊過ぎたか……?ちっ、失敗だったな」

 

 

CCMを握りしめながらそう呟くイチカ。

その言葉を聞き、キヨカはムスッとした表情を浮かべる。

 

 

「イチカお兄ちゃん?」

 

 

「あ?どうした、キヨk」

 

べチン!

 

「痛っ」

 

 

キヨカがイチカにデコピンをした。

たかが女子中学生のデコピン、されどデコピン。

腫れるとか、怪我をする事は無いが、それでもそこそこの衝撃は来る。

イチカが頭を押さえながらジト目でキヨカを睨むと、キヨカは呆れたような表情を浮かべながら言葉を発する。

 

 

「イチカお兄ちゃんってさ、何時もは他人に興味無いような言動してるのに、しっかりと周りの事を考えた行動してるよね」

 

 

「……いや、まわりまわって自分に帰って来るからであって」

 

 

「それでも。だからさ、今日くらいは楽しもう」

 

 

キヨカの言葉に同調する様に、背後で智也たちが頷く。

イチカは暫くの間4人の事を見ていたが、やがて降参したように両手をあげた。

 

 

「はいはい、気にしない事にしますよ」

 

 

そして、微笑を浮かべながらそう呟いた。

その返答を聞き、キヨカは笑顔を浮かべると、

 

 

「じゃあ、早速行こう!」

 

 

グイッ!

 

 

「ちょ、待て!!」

 

 

イチカの腕を引っ張り、そのまま目的地への歩みを再開する。

急に引っ張られたイチカは慌てて歩き出す。

ダイキたちは微笑を浮かべると、2人の後を追いかけて行った。

 

 

(周囲からの視線は感じる。だけど、その殆どは物珍しさだ。特に問題は無い。だが……)

 

 

イチカは周囲をチラッと確認する。

 

 

(やはり少数、悪意だの面倒な感情を向けて来てるな…特に、左斜め後ろの物陰。隠す気が無いし、悪意って感じでも無いな…はぁ…厄介な事にならなきゃいいんだけどなぁ……)

 

 

ため息をつくも、今しがたキヨカと約束したため、余程の事が無い限り気しないように努力するのであった。

 

 


 

 

数時間後。

温泉街を回り、昼食と食べ。

荷物を回収してから午後からはゆっくりと温泉を堪能した。

 

最近の旅館というものは、温泉以外にもいろいろと楽しめるものはある。

はやりのサウナだったり、岩盤浴だったり。

入浴施設以外にもアミューズメントコーナーだの、カラオケだのも完備されている。

一部施設は宿泊客で無いと利用できないものの、日帰りでも十分満足できる。

 

 

そんな中、イチカは用意していた着替えに身を包み、再び温泉街を歩いていた。

ダイキたちは未だに施設にいる。

無論、事前に外に出るというのはダイキたちには伝えてある。

 

 

イチカが着替えに選択したのは、黒で、右腕にタイニーオービットの社ロゴが刺繍されているジャージ。

だがしかし、これはただの動きやすいジャージでは無い。

ISスーツの繊維も編み込まれており、このままISを展開する事も可能なのだ。

手には自分のCCMを握りしめており、何時でも戦闘は出来る体勢だ。

 

 

(さて、1人になったとたんに向けられる視線がガラッと変わったな。多分、殆どが俺に恨みでもあるんだろうな。世界のバグ(男性IS操縦者)に対して)

 

 

イチカは口元をニヤリと歪ませた。

そして、露骨に視線を周囲に向ける。

此処は温泉街。

周囲を見回すことは何ら不自然な行動ではない。

しかし、イチカが周囲を見た瞬間に、露骨にイチカに向けていた視線をズラス人間が複数いた。

 

 

(女尊男卑も大変だなぁ。そんな面倒な思想変えちまおうぜ?……ん?)

 

 

そんな事を考えていたイチカは、1つの視線に気付いた。

 

 

(午前中の奴と恐らく一緒…そして、恐らく相当な手練れ。どうする……)

 

 

イチカは歩きながら思考を巡らせる。

この場では向こうは絶対に姿を現さない。

しかし、このまま過ごすのはイチカの気分が良くない。

 

 

(ワンチャンだな。まぁ、行くか)

 

 

イチカは覚悟を決めると、裏道に入り、助走無しで瞬発的に移動を開始する。

建物の間の細い路地を駆け抜け、時には壁を走り、天井を掛け建物を飛び越える。

街中でのこのような行動は罪に問われる可能性があるが今のイチカにそんな事を考える余裕は無かった。

 

 

街の合間を縫って、駆け抜けて駆け抜けて駆け抜けて。

温泉街から離れた、少々離れた場所にやって来た。

いろいろ複雑に動いてきたので、イチカを見ていた人間は殆ど付いてこれなかった。

 

 

暫くぶりに大多数からの注目から解放されたイチカはいったん安堵の息を吐くも、直ぐに真面目な表情に切り替える。

まだ終わってないからだ。

イチカには()()付いて行けなかった。

そう、殆ど。

 

 

物事には、なんでも例外というものが存在する。

そう、物凄く複雑に、俊敏に動いたイチカに付いてこれた者がいる。

イチカは背後をCCMで指しながら、言葉を発する。

 

 

「午前中からわざわざご苦労だな。今は俺とアンタ以外いない。出て来いよ」

 

 

口元をニヤリと歪ませながら、挑発するかのような声色でそう言葉を発する。

数舜の後。

一陣の風が吹き、イチカの髪が舞う。

その瞬間だった。

 

 

「もうバレているのなら、しょうがないわねぇ」

 

 

その声と共に、イチカが指している方向から1人の少女が姿を現し、イチカの目の前にやって来た。

水色の髪色で、外側に髪がはねているのが特徴である。

手には扇子を持っていて、何処か悪戯好きというのが雰囲気で察せられる。

 

 

「…誰だ?アンタ」

 

 

イチカは視線を鋭くし、声を低くしながらそう問う。

目の前のその人物は特に表情を変える事は無く、ニコニコとした表情で名を告げる。

 

 

「私の名前は更識楯無。IS学園の2年生で、生徒会長よ。よろしくね、仙道イチカ君?」

 

 

その人物…楯無は、扇子の先をイチカに向けながら、そう微笑んだ。

イチカは色々ツッコミたい気持ちはあるものの、『IS学園の2年生』という言葉に取り敢えず真っ先に反応した。

 

 

「ああ、先輩でしたか…すみません」

 

 

「別に、此処は学園じゃないからため口で良いわ。君もそっちの方が話しやすいんじゃない?」

 

 

「そんじゃあ、遠慮なくそうさせてもらおうか」

 

 

アミやランといった人物にも、学園では敬語だがプライベートではため口、それに蓮や真実にもため口なところから分かるように、イチカは基本年上や目上の人間が相手でもため口の方が喋りやすい。

まぁ、礼儀というものが必要な場面では敬語を使っているが。

 

 

だが、此処でイチカは眉をピクリと少しだけ動かした。

イチカがため口の方が喋りやすいという情報は、イチカの身近な人間しか知らない事。

それなのにも関わらず、初対面である筈の楯無が知っている。

 

 

「アンタ、俺の情報を何処で知った?」

 

 

「私は生徒会長よ?生徒個人個人の情報はある程度把握してるのよ」

 

 

楯無はそう言うと、手に持っている扇子を開いた。

 

 

【用意周到】

 

 

扇子にはそう書かれていた。

 

 

(まぁ、多分あの陽キャ(ラン)がペラペラ喋りそうではあるが)

 

 

イチカの脳裏に浮かんだ、活発で訓練機を何個も潰してきた人間。

それを振り払ってから、イチカは次の言葉を発する。

 

 

「それで?家族旅行をしていた俺を朝から尾行していた理由は?」

 

 

「世界で1人しかいない男性IS操縦者が街中をブラブラしてたから、気になっちゃってね。勝手に尾行しちゃってごめんね?」

 

 

言葉では謝罪しているが、表情は全く謝っていない。

まるでイチカの反応を楽しむかのように、底知れない笑顔が浮かんでいた。

 

 

イチカの頬を汗が伝う。

 

 

(風呂入った後なのに…まぁ、さっき激しく動いたから今更か)

 

 

「まぁ、実害は無かったからそこは別にいい」

 

 

「あら、随分素直なのね」

 

 

「グダグダ言ってもアンタには響かなさそうなんでな」

 

 

「うふふ、理解の早い子は好きよ」

 

 

扇子と片目を同時に閉じながら、楯無はそう言葉を発する。

 

 

(底が見えない…コイツ、いったい何者だ?本当にただの生徒会長か?)

 

 

「底知れない何かを感じるが…アンタ、何者だ?」

 

 

「ただの生徒会長よ。ただ、IS学園の生徒会長になるには、とある条件があるのよ?」

 

 

「条件だぁ?」

 

 

「最強である事」

 

 

先程閉じた扇子を再び開く。

 

 

【生徒最強の称号、生徒会長】

 

 

「……それ、どうなってんだ?」

 

 

「秘密よ」

 

 

思わずツッコミをしたイチカだが、楯無は華麗にスルーする。

そんなやり取りの最中、イチカは思考を巡らせる。

 

 

(最強、か。それに間違いは無さそうだ。対峙しているだけで、コイツの強さってもんが伝わって来る。だが、それだけじゃねぇな…なんだコイツの異様さは…まるで何度も修羅場をくぐってる裏社会の人間みたいな……)

 

 

「ふふふ、目の前にこんな美人がいるのに考え事?」

 

 

「っ!?」

 

 

イチカはずっと考えながらも、楯無から視線はそらさず、注意を欠くことも無かった。

それなのにも関わらず、楯無は何時の間にかイチカの目の前に立って、首元に扇子を当てていた。

もし手に持っているのが扇子ではなく凶器だったら。

楯無がイチカに対して敵意を持っていたら。

今頃イチカは死んでいた。

 

 

「うふふ、こんな美人が目の前にいるのに、考え事?」

 

 

「……そうだな。あまりにも美人過ぎて思わずクラッとしたよ」

 

 

イチカは楯無の頬に手を添えながらそう返事をした。

 

 

(我ながら気持ちが悪い…こんなコッテコテのセリフ…)

 

 

内心で自分のセリフに対して悪態をついていた為、イチカは気が付くのが遅れた。

目の前の楯無の頬が、赤く染まっている事に。

 

 

(マジか?チョロすぎ。男免疫無いのか?)

 

 

イチカが呆れたような表情で楯無の事を見ていると、楯無はバッと地面を蹴りイチカから離れる。

 

 

「……最後に質問だ」

 

 

「な、何かしら?」

 

 

「アンタ、本当は何で俺の事を監視していた?たまたまって訳じゃ無いんだろ?」

 

 

まだ頬を赤くしていた楯無は、その質問を聞き急速に表情を真面目なものにしていく。

 

 

「そうねぇ…あなたの護衛、かしらね?」

 

 

「俺の護衛だと?」

 

 

「本当はもう少ししっかり会話したいんだけど、そろそろあなたの家族もお風呂から上がるから、私はそろそろお暇するわね。バイバーイ♪」

 

 

【また学園で!!】

 

 

楯無は最後に扇子を開くと、颯爽と姿を消した。

こうして残ったイチカは、ため息をつくと

 

 

「さっき醜態を見たから、あんまり格好良くなかったな」

 

 

そう呟いてから、家族がいる施設へと向かって走り出すのだった。

 

 


 

 

ガタンゴトン ガタンゴトン

 

 

イチカと楯無が接触してから数時間後。

仙道家は電車に乗り、家へと向かっていた。

イチカ以外は全員が眠っており、特にキヨカはイチカの肩に頭を預けていた。

 

 

そんな中、イチカは腕を組み思考を巡らせていた。

 

 

(俺の護衛…その言葉が事実ならば、俺は常にどこかで監視されているという事か?)

 

 

その内容は当然というかなんというか、楯無に関してだ。

 

 

(プライバシー侵害…俺はそんなもん頼んでないし、タイニーオービットが依頼してたら、流石に俺に連絡が来るはず…国とかどっかの機関なのか?もしそうだったら、あの先輩は何者だ?いくら生徒会長とはいえ、1個人に依頼する内容じゃない筈だが……)

 

 

そこまで考えて、視線を窓の外に向ける。

 

 

(あの時感じた異様さ…やはり、あの先輩は何か裏があるな)

 

 

「後で社長たちか、FOOLに聞くか…」

 

 

イチカの束の呼び方がFOOLで固定されているのは、ご愛敬といったところか。

 

 

「ククククク…世界が俺の為にいろいろ動いているねぇ」

 

 

何せ、イチカは世界に1人しかいない男性IS操縦者。

研究サンプルなど、希少性をあげたらきりがない。

そんなイチカの為に世界がいろいろと行動するのは、もはや必然か。

 

 

「もっと俺を楽しませてくれよ?世界」

 

 

イチカはそう呟くと、ニヤリと口元を歪ませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆オタクロスの、オタ知識デヨ~~!!☆

 

 

『イチカのISスーツ』

 

イチカのISスーツはタイニーオービットが専用に作った特注品。

首から上以外の肌魔全く露出してない、ダイバースーツ見たいなデザインデヨ。

これは、ただただイチカが恥ずかしいからこうしたんデヨ。

案外初心なところもあるんデヨ。

 

ただ、身体のラインはピッチリ出てる。

それを改良する為の試作品が、今日イチカが着てたジャージなんデヨ!!

 

 

 




次回予告

漸くIS学園の寮に入寮出来る事になったイチカ。
引っ越し作業を終えると、アミたちからバトルロワイヤル方式での模擬戦に誘われる。

「面白い、やってやるよ」

次回、IS~箱の中の魔術師~『GWⅢ 激戦!バトロワ模擬戦!』、見てね!


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GWⅢ 激戦!バトロワ模擬戦!

ボトルマンも新しいシリーズが始まり、ベイブレードは第四世代の情報が解禁!
バトルホビー大好きお兄さんとしてはとても嬉しいんですが、財布へのダメージがやばすぎる…!
何を買うかしっかり見極めないと……

IS~箱の中の魔術師~、始まるよ!


仙道家が日帰りで温泉に行った2日後。

ブルーキャッツのイチカの部屋。

今此処では、部屋の主であるイチカがダンボールに自分の私物を片っ端から詰め込んでいた。

理由は単純明快で、イチカがIS学園の寮に引っ越す為、その準備である。

 

 

というのも、本来IS学園は全寮制。

寮でなく此処で生活しているイチカが異端すぎるのである。

 

 

イチカが寮に入るのを拒んだ理由は、女子との同室(しかも相手が箒)だったので、その部屋割りさえ如何にかなれば寮に入るのを拒む必要は無い。

それに、なんだかんだ毎日車で駅まで送ってもらって、モノレールで学園に行き、1日の授業が終わったらまたモノレールに乗り、車で送ってもらうという生活は面倒。

寮に入れば移動がとても楽なので、イチカは他の生徒より1ヶ月遅れで入寮するはこびになったのだ。

 

 

「ふぅ、もう少しだな」

 

 

ダンボールの蓋をガムテープで止めて、ふぅと息を吐いてからイチカはそう呟いた。

もとより物欲が全然無いイチカ。

いくら1人で学園の寮に入るだけとはいえ、引っ越しの荷造りとは思えないくらい短い時間で9割が終了した。

 

 

ずっと中腰で作業をしていたので、立ち上がってグググっと身体を伸ばし、息を吐きながら一気に身体から力を抜く。

 

 

「ふぅ……流石に腰がキツイな……だがまぁ、チャチャッとやっちまわねぇと後が面倒だからな……」

 

 

自分から首を突っ込むくらいには面白いと感じる事を除いて、面倒な事はしたくないイチカ。

それは引っ越しの荷造りも同様らしい。

軽くストレッチをしてから、作業を再開しようとしたその瞬間、

 

 

コンコンコン

 

 

と、部屋の扉がノックされた。

出鼻をくじかれたと言わんばかりの表情で扉を睨みながら、イチカはそのノックに答える。

 

 

「なんだ?」

 

 

「イチカ、俺だ。入って良いか?」

 

 

「マスターか。問題無いぞ」

 

 

イチカが答えるのとほぼ同時に扉が開き、部屋の中だというのにサングラスをかけた蓮が部屋の中に入って来た。

 

 

「何の用だ、マスター」

 

 

「いや、荷造りの手伝いにでもと思ったが…流石、早いな」

 

 

「面倒な事は後に残さない主義でね。ああ、そういえば返さないといけないもんがあるな」

 

 

イチカはふと思い出し、ダンボールに入れずに机の上に置いていたものを手に取り、蓮に差し出した。

それは、イチカの名前が記された名札。

ブルーキャッツの調理の手伝いをする際に着用していたものだ。

 

 

今回寮に引っ越しをするため、この1ヶ月よくあった帰って来て

 

「すまんイチカ、手伝ってくれ」

 

も無くなる訳で。

店のキッチンに立つ機会が無くなれば、店用の名札を何時までもイチカが持っている必要も当然なくなる。

その為、名札を返却しようと考えていたのだ。

 

 

だが、蓮は名札を受け取らず首を横に振る。

 

 

「それはお前が持っておけ」

 

 

「は?もう使わないのに?」

 

 

「使わないものを店に置いておいても邪魔だからな」

 

 

「……確かにな」

 

 

蓮の言う通り、もう店で働かない人の名札を保管しておく理由も無い。

仕方が無い、後で捨てるか。

そんな事を考えているイチカに対し、蓮は

 

 

「それに」

 

 

と言葉を続ける。

 

 

「今世の別れって訳じゃ無いんだ。また何時でも働きには来れるだろう」

 

 

それを聞いたイチカは、キョトンとした表情を浮かべた後、やれやれと言わんばかりに首を横に振る。

だが、その口元は動作に反して笑みが浮かんでいる。

 

 

「ったく、高校生を扱き使うつもりか」

 

 

「バイトで雇うと言って欲しい。イチカほどの調理の腕前があれば、最低賃金の2倍は出してもいい」

 

 

「それはなかなか興味ある事だが、学園島からバイトの為だけに通えるかっつーの」

 

 

「夏休みとかだけでもいいぞ」

 

 

「……検討しておく」

 

 

イチカはそのまま、最後の空きダンボールに名札を入れる。

それを見た蓮は、フッと微笑を浮かべる。

 

 

「手伝いはいるか?」

 

 

「いらん」

 

 

「そうか。飯でも作って待ってる」

 

 

蓮はそのまま部屋の扉を閉じ、そのまま店の方へと向かって行った。

イチカは扉が閉まった事を確認すると、そのまま荷造りを再開する。

 

 

そうして数十分後。

全ての荷造りを終え、イチカの部屋はかなり殺風景となった。

短い期間だったが、暮らしていた部屋がここまで殺風景になったら少し寂しいと思う感性は流石のイチカでも持っている。

 

 

まぁ、そんなに長い時間思う事は無いのだが。

飯でも作って待ってるという蓮の言葉に従い、イチカは部屋で軽く伸びをしてから店の方に向かう。

 

 

店舗に近付くにつれ、何かを調理している音、そしていい匂いが漂ってきた。

今の今まで荷造りをしていて、イチカも多少は疲労している。

そんな中で料理の匂いを嗅いだら、流石に空腹感を感じ始めて来た。

少し、本当に少しだけ早歩きになる。

 

 

そうしてガチャリ、と住居スペースと店のスペースを区切る扉を開く。

その瞬間に視界に入って来るのは、店のキッチンで調理をしている蓮。

1つのテーブル席の上に並べられた料理に、その席に座ってワイングラスを持って頬を赤くしている真実……

 

 

「おいレックス!アンタ昼間っから酒飲んだのか!?」

 

 

「今日は休みだからなぁ!偶にはいいだろぉ!?」

 

 

酒の影響か、普段から割とテンション高めの真実が更にテンション高く返してくる。

 

 

「確かにアンタは普段酒飲まないがよぉ!飲むとしたら夜だろうが!!」

 

 

「何時酒飲もうと自由だろうが!」

 

 

「それでも自重しろって言ってるんだ!!」

 

 

そう叫んだイチカは、はぁはぁと肩で息をする。

この酔っ払いにはいくら言っても無駄だと理解した。

ため息をつき、視線を蓮に向ける。

 

 

「マスター、なんでレックスに酒飲ませた!あれディナー営業で客にも出すワインだろうが!」

 

 

「良く分かったな」

 

 

「アンタ何回俺をパシッたと思ってんだ。ワイン見て匂い嗅げばどのワインの何年の奴かくらい大体わかる」

 

 

「ワインを給仕をしたり、ましてや飲んだ事も無いのにな。流石だな」

 

 

蓮はフライパンの中でソースと絡めていたパスタを皿に盛り付け、そのまま新しいワイングラスを2つ、そしてペットボトルのコーラを取り出すと真実がいるテーブルに向かって行く。

イチカは半眼を浮かべながらも後を追い、同じ席に付く。

 

 

改めてテーブルの上を見ると、並んでいる料理は中々に豪華だ。

それこそ、イチカはキヨカの誕生日パーティーくらいでしか見たことが無い。

 

 

「……なんだ?これは」

 

 

「料理とワインとコーラだ」

 

 

「んな事は分かる。何でこんな豪華なんだって意味で聞いたんだ」

 

 

「ああ、それは…」

 

 

「イチカの引っ越し祝いに決まってんだろぉお!!」

 

 

蓮の言葉を遮るようにハイテンション真実が言葉を発する。

引っ越し祝いと聞いた瞬間、イチカは怪訝そうな表情を浮かべる。

 

 

「引っ越し祝いは、引っ越しが終わった後だろうが……」

 

 

「別にいいだろぉ!?私はなぁ、悲しいんだぞ!」

 

 

真実はそう言いながら席を立ち、イチカと蓮が反応出来ない程の速度でイチカを抱きしめ、ワシャワシャと頭を撫でる。

 

 

「酔っ払いって面倒くせえなぁ!マスター!なんとかしてくれ!」

 

 

「……料理が冷める。早くなんとかしてくれ!」

 

 

「この裏切り者ぉ!!」

 

 

そこからたっぷり十数分掛け、真実を引きはがしたイチカ。

若干冷めてしまった料理と共に、3人で引っ越し祝いの名を借りたただのホームパーティーを繰り広げた。

なんだかんだで、イチカの口元には笑みが浮かんでいたのだった。

 

 


 

 

翌日。

IS学園の1年生寮。

今此処では、今日から住むイチカの引っ越し作業が行われていた。

 

 

イチカの部屋は907号室という、下の方でも無ければ上の方でもない、尚且つ端の方でもない何とも言えない位置だ。

これは、イチカという世界で1人の男性IS操縦者(貴重なサンプル)が普段暮らす部屋を外部に分かりやすい場所にする訳にはいかなかった学園の(勝手な)判断によるものだ。

この事は説明されていないものの、部屋番号を聞いた途端にイチカは大筋を理解した。

 

 

温泉旅行の際、自分の護衛だと名乗った胡散臭い生徒会長に出会っていたのが大きいかもしれない。

 

 

さて、イチカの引っ越し作業の方は問題無く行われている。

業者を雇っても良かったのだが、業者が学園島に入るための手続きに時間が掛かりそうなので止め、自分で運ぶ事にしたイチカ。

暇そうにしていたという理由で、偶々そこらへんにいた鈴を捕まえ、荷物を運ばせた。

 

 

「ふぅ…終わったな」

 

 

「な、なんで巻き込まれたの…?」

 

 

無事に全てのダンボールを運び終え、イチカは身体を伸ばしながら、鈴は床に突っ伏しながら各々が言葉を漏らす。

 

 

「暇そうにそこらへん歩いてたからな」

 

 

「確かに暇だったけど!巻き込まないでよ!」

 

 

「黙れ」

 

 

「シンプル!?」

 

 

イチカは1番近くに置いてあるダンボールを開け、中からコップを取りだすと、水道水を注ぎ鈴に差し出す。

 

 

「ありがと」

 

 

そのまま受け取り、ゴクゴクと喉を鳴らしながら一気に飲み干す。

一瞬にして空になったコップをイチカに返却して、鈴は立ち上がる。

 

 

「じゃ、私そろそろ行くわね」

 

 

その言葉に、イチカが返答しようとしたその瞬間。

 

 

ピーンポーン

 

 

と、部屋のインターホンが来客を知らせる。

なんともタイミングが良いのか悪いのか分からない。

取り敢えず鈴が自分の部屋に帰るのがもう少し先になった事だけが確かだ。

なんとも言えない表情で扉を見つめる。

 

 

「あ?まだ誰にも部屋番号は伝えてない筈だが…」

 

 

イチカはそうボヤくと、固まっている鈴の隣を通り過ぎ、そのまま部屋の扉を開ける。

すると、そこにいたのはタイニーオービット所属の先輩2人。

 

 

「イチカ、引っ越しおめでとう」

 

 

「遊びに来たよぉ!」

 

 

「…なーんで此処にいるんですかねぇ……」

 

 

そう、アミとランである。

部屋の中から2人を見た鈴は

 

 

「誰!?」

 

 

と言わんばかりの表情を浮かべてる中、3人は会話を始める。

 

 

「あ、別に敬語じゃなくて良いよ?」

 

 

「じゃあ遠慮なくそうさせてもらおうか。それで?何故俺がこの部屋だと知っている?誰にも言ってないぞ」

 

 

「ふふふ、私、生徒会の副会長なの」

 

 

「何!?」

 

 

アミの告白に、珍しく本当に動揺したような表情を浮かべるイチカ。

だが、わりと直ぐに受け入れ、何時もの表情に切り替わる。

 

 

「なるほど、だから生徒の情報はある程度把握できると」

 

 

「そう言う事」

 

 

イチカの言葉に、アミがウインクしながら返答する。

普通だったらムカつくだけの動作だが、美人のアミがする事で中々絵になっている。

ここで、イチカは前に気になった事を思い出した。

 

 

「そういえば、あの胡散臭い生徒会長に俺の情報ぺらっぺら喋ったのはお前らか?」

 

 

「ん?楯無に会ったことがあるの?」

 

 

「あー、まぁ、成り行きでな。それで、どうなんだ?」

 

 

「うん!楯無に聞かれたからいろいろ喋ったよ!」

 

 

自信満々に胸を張り、ドヤ顔をしながら言うラン。

イチカは無言で右拳をランに向かって放つも、花咲流真拳空手の使い手で空手部所属のランに通用する筈も無く。

スッと避けられイチカはバランスを崩す。

こけそうになる寸前に堪え、キッとランの事を睨む。

 

 

「他人に俺の情報をベラベラ他人に喋るな!」

 

 

「楯無は他人じゃ無くて友達だよ!」

 

 

「そう言う問題じゃねぇ!!」

 

 

「まぁまぁ、2人とも落ち着いて…」

 

 

「お前もだ!副会長なら会長の言動把握しておけ!」

 

 

「いやぁ~、私は3年生で、楯無ちゃんは会長だけど2年生だから、生徒会の活動以外であまり会わないんだよね…だから、あんまり普段何してるのかとか知らなくて……」

 

 

「生徒会の面々でプライベートで旅行とか行っとけ!」

 

 

「なーんか他メンバーと予定が合わないんだよね…他メンバーが私が知らないなんかの組織の一員だったりして」

 

 

ニコニコのアミとラン。

疲れたような表情を浮かべているイチカ。

そして、ずっと置いてけぼりにされてなんとも言えない表情を浮かべたままの鈴。

 

 

「あ、あのぅ…」

 

 

「あ?」

 

 

ものすっごく話しづらそうにしながら、鈴が口を開き、イチカがぐるりと身体の向きを変える。

 

 

「えっと、その…どちら様で?」

 

 

「ん、ああ…同じタイニーオービット所属の、先輩方だ」

 

 

イチカがスッと身体を横に移動させて、視線でアミとランに合図を送る。

それを見た2人は意図を察し、笑顔で鈴に語り掛ける。

 

 

「初めまして。タイニーオービット所属、IS学園3年生で生徒会副会長の川村アミです。よろしくね」

 

 

「私は花咲ラン!同じくタイニーオービット所属で、空手部!よろしく!」

 

 

「あ、中国国家代表候補生で、イチカの幼馴染の凰鈴音です。よろしくお願いします」

 

 

取り敢えず3人は初対面という事で自己紹介を行い、鈴が軽くお辞儀をする。

2人は鈴の発した「幼馴染」という単語に、驚いたような表情を浮かべる。

 

 

「えっ、イチカ幼馴染居たの!?」

 

 

「小五で初めて出会った奴の事を幼馴染だと言うのならいた事になる。まぁ、そこらへんは今は如何でも良いんだ。わざわざ引っ越し当日に押し掛けて来て、何の用だ?寮が違うのに来たんだ、ただ単純に引っ越しおめでとうを言いに来た訳じゃ無いんだろう?」

 

 

イチカが壁に寄り掛かり、半眼を作りながら2人に尋ねる。

2人は同時に頷くと、アミが口を開く。

 

 

「模擬戦、やらない?」

 

 

「模擬戦だぁ?」

 

 

無論、イチカは模擬戦という単語の意味が理解出来ない訳では無い。

だが、急に、それも2人同時に誘ってくるという事が理解出来ない。

 

競技でのIS戦闘は1対1、もしくは2対2が基本で、あまり奇数での模擬戦は行われない。

まぁ、総当たりで連戦をするという可能性もある…と言うより、普通だったらそっちの方を思い浮かべるだろう。

 

だけれどもイチカは察していた。

この2人の表情から、何がしたいのかを。

 

 

「…バトロワか?」

 

 

「正解!良く分かったね!」

 

 

イチカの言葉に、ランが笑顔で肯定する。

 

 

「ISでバトロワってあんまないじゃん!?」

 

 

「……まぁ、レックスに見させられた過去の公式試合には無かったな」

 

 

「えっ!?アンタあのレックスさんと知り合いなの!?」

 

 

「その事に言及すると面倒だからお前は黙っろ」

 

 

「酷い!?」

 

 

「で!だから!バトロワ1回やってみたいなって!イチカ、やろうよ!」

 

 

キラッキラの表情で熱く語るラン。

隣でアミは、笑顔を浮かべているがその目の奥には燃え盛る闘争心が渦巻いていた。

それを見たイチカは、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

「面白い、やってやるよ」

 

 

「決まり!じゃあ明日の13時から第一アリーナだからね!あ、鈴音ちゃんも参加する?」

 

 

「ふぇっ!?」

 

 

唐突に話題を振られた鈴は驚いたような表情を浮かべるも、直ぐに闘争心を燃やしたような表情になる。

 

 

 

「やります!」

 

 

「ふふふ、分かったわ。じゃあ5人ね」

 

 

「5人?後1人誰かいるのか?」

 

 

「うん、あのトマトジュースっ子がね」

 

 

「ああ……なるほど。アイツ生きてたのか」

 

 

「酷くない?」

 

 

「ここ数年姿見てなかったからな」

 

 

「あー、なるほど」

 

 

またも置いてけぼりの鈴。

それに気付いてか気付かずか、イチカが咳払いと同時にパンパンと手を叩く。

 

 

「取り敢えず今日は解散。あまりにも注目され過ぎてる」

 

 

「「「え?」」」

 

 

イチカのその指摘で、3人は慌てて周囲を確認する。

指摘通り、確かに同じフロアの部屋だったり遠くの曲がり角だったりからそこそこな人数から見られていた。

 

 

「そ、そうだね、今日は解散!じゃあ、イチカ、鈴音ちゃん、明日忘れないでよ!」

 

 

「私もそろそろ帰るね。明日楽しみにしてるね」

 

 

学年の違う2人はイチカが何か反応を示す前に、物凄く素早い動きで帰って行った。

こうして残されたイチカと鈴。

なんとなく話しづらい空気になる中、鈴が口を開く。

 

 

「じゃあ、私も帰るわ」

 

 

「漸くだな」

 

 

「そうね…イチカ!」

 

 

「ん?」

 

 

「この間、付けれなかった決着を付けてやるわ!!」

 

 

鈴はそう宣言し、自分の部屋へと戻っていった。

その背中を見ていたイチカは一言、

 

 

「そう簡単にお前と戦えるとは思えないがな……」

 

 

そう呟くと、未だに向けられている視線にため息をつきながら部屋の中へと戻り、扉を閉めたのだった。

 

 


 

 

翌日。

時刻は13時、第一アリーナ。

 

 

ゴールデンウィーク中、そしてイベントなど開催しないにも関わらず、アリーナの客席は満員御礼だった。

その理由は単純明快で、昨日周囲からバッチリ見られている状態でバトロワ形式で模擬戦をすると言ってしまったからだ。

此処はIS学園。

たった1人の例外の事を考えないのなら、女子高なのである。

 

 

そして華の女子高生の噂の伝達速度は、光もビックリするほどの速度である。

ましてや、イチカがバトロワ形式で先輩と戦うという、何とも興味をそそられる内容なら尚更だ。

その結果として、なんのイベントでも無ければ告知をした訳でも無いのに、観客席が満員になっているのだ。

 

 

観客の視線の先には、ISスーツを身に纏い、手にCCMを握りしめながら立つ4人。

そう、イチカ、鈴、アミ、ランである。

4人の内、1年生2人は一目見ただけで機嫌が悪い事が分かる。

 

 

イチカがイライラしているのは、単純に最後の1人が来ない事と、この模擬戦が無駄に騒がれているからだ。

約束の時間が近付いて来ているのに相手が来ず、しかも無駄に注目されていたら誰だってイライラする。

 

 

だが、鈴は様子がおかしい。

イチカのようにイライラしている素振りを見せるでもなく、視線を動かすでもなく。

ただただ、とある2つの箇所を凝視していた。

 

 

そのとある2つの箇所とは、アミとランの胸元。

ISスーツに窮屈そうに収められた2つの果実が、2人分で4つ。

鈴は、『地獄の破壊神』と言われる所以である攻撃性を、全てそれらに向けていた。

 

 

因みにイチカは()()に何も反応を示さない。

ISを動かせると分かる前から、2人のISスーツ姿を何度も見て来たからだ。

まだ仙道家に馴染んですらいない時や、以前と比べ明らかに果実が成長していた時などでは流石に反応を示した居たものの、名前を変える前と比べて性格が大きく変わった今のイチカなら、もうなんとも思わない。

 

 

特にアミは想い人が居るのを知ってるから、反応を示す訳にはいかない。

 

 

そんな感じで、なにやら鈴のどす黒い感情をイチカ達も察し始めたころ。

 

 

「ごめんごめーん!遅くなったー!!」

 

 

アリーナのピットから、元気そうな声が聞こえてきた。

観客を含めた全員がその方向を向くと、そこに居たのはアミたちと同じくISスーツを着用した人物。

 

 

中性的な顔立ちに、腰辺りまでの長さの綺麗な金髪で、前髪で左眼が少し隠れている。

アミやランと同じようにかなりのスタイルの良さを誇っており、鈴から漏れ出る黒い感情がより一層濃いものになる。

ISスーツなのに、何故か少し勝気そうな黄色の顔文字の缶バッジが付いたキャップを被っている。

 

 

古城(こじょう)アスカ。

IS学園3年生で、アミたちと同じくダイキの昔からの友人である。

タイニーオービットやプロメテウスと同じIS企業である『サイバーランス』所属のIS操縦者。

 

 

まだ学生である身ながら、次回のモンド・グロッソへの出場がほぼほぼ内定状態と言っても過言ではない程の実績を残しているIS操縦者である。

 

 

「アスカ!遅いよ!」

 

 

「あはは、ごめんごめん。トマトジュース飲んでたからさ」

 

 

アミの注意する様な声に、アスカはあっけらかんとした表情を浮かべながら返答する。

ウインクをするその表情は、顔とスタイルの良さと相まって中々絵になっている。

 

 

「って、古城アスカさん!?」

 

 

アスカの胸元の揺れる果実を凝視し過ぎていたためか、ここに来て漸くその顔を認識した鈴。

 

 

「イチカ、アンタレックスさんだけじゃ無くて古城アスカさんとも知り合いなの!?」

 

 

「俺というより兄さんの知り合いだ。っていうか、知ってるんだな」

 

 

「代表候補生だったら誰でも知ってるくらいの有名人よ!」

 

 

「ほぉ~、知らなかった」

 

 

「おっ、イチカー!!」

 

 

鈴とイチカがそんな会話をしていると、アスカが右手を振りながら近付いてきた。

イチカは軽く頭を動かして反応を示し、鈴は有名人が目の前にいる事に対する緊張が半分、歩く度に揺れるものに対する憎悪半分の表情を浮かべていた。

 

 

「久しぶりだなぁイチカ!元気してたか?」

 

 

「まぁそこそこ。こんな状況になって、いろいろ疲れてるけどな。アンタは…無駄に元気そうだな」

 

 

「無駄って言うな!」

 

 

「まぁ、そこは如何だっていいんだ。本当に久しぶりだな。2、3年ぶりくらいか」

 

 

「それくらいそれくらい。いやぁ、あんなに小っちゃかったのに今やこんなに高くなって…」

 

 

「親戚のおっさんかお前は!」

 

 

イチカのツッコミに、アスカはカラカラと笑い声をあげる。

 

 

何故なのだろうか。

アスカが先輩だというのは分かり切っている事だし、観客の目もある。

普通だったら敬語を使うべき場面だ。

それなのにも関わらず、イチカは最初っからため口だ。

 

 

特にアスカも気にしたようなそぶりを見せない為問題は無い。

だが、イチカは普段から表面上だけでも取り繕うように心掛けているのにも関わらず、自然とため口になった事に驚いていた。

中学生時代のアスカを男子に間違えてしまった過去が、そうさせてしまったのだろうか。

 

 

そんなイチカの内心など露知らず、アスカは初対面の鈴の目の前にやって来る。

 

 

「俺は古城アスカ!よろしく!」

 

 

「あ、ふぁ、凰鈴音です。よ、よろしくお願いします…」

 

 

アスカは俺っ娘だ。

先程も触れたが、中学時代のアスカは初対面の相手には100%性別を間違えられる程中性的…というか、少年の様だった。

その時は一人称が俺でも特に違和感無かったのだが、スタイルも良くなり、所謂女性らしさというものが出て来た今、その口調で喋られると如何も違和感を感じてしまう。

 

 

別に喋り方は個人の自由なので、特に誰も何も言わないが。

此処で、ランがパンパンと手を叩き合わせる。

 

 

「じゃあ、時間だし模擬戦始めようよ!」

 

 

「ああ、これ以上ダラダラしてても無駄だからな」

 

 

ランの言葉に、イチカが頷いて答える。

5人は等間隔で円を作り、円の中央に視線を向ける。

 

 

合図があった訳では無い。

だが、全員が同時にその手に持つCCMを開き、各々の機体を展開する。

 

 

ピ、ピ、ピ

 

 

「ジョーカー!」

 

 

「ハカイオー!」

 

 

「パンドラ!」

 

 

「ミネルバ!」

 

 

「ヴァンパイアキャット!」

 

 

イチカが身に纏うは、名の通りトランプのジョーカーを思わせる笑みが張り付いた黒のIS、ジョーカー。

その手に握るは大鎌「ジョーカーズソウル」

 

 

鈴が身に纏うは、胸部に巨大な砲口を備えたライオンのヘッドパーツを持つIS、ハカイオー。

その手に握るはノコギリ状の刃を持つヘビーソード「破岩刃」

 

 

アミが身に纏うは、スタイリッシュな外観に、赤主体のカラーリング、後頭部の5つの紫のクリアカラーのパーツ、腰のスタビライザーが特徴的なIS、パンドラ。

その手に握るはビームダガー「ホープ・エッジ」

 

 

ランが身に纏うは、細身でピンクがメインカラー、大きな耳にも見えるヘッドパーツが特徴的なIS、ミネルバ。

その手に握るは、手甲も兼ねたクローナックル「ミネルバクロー」

 

 

アスカが身に纏うは、まるで被り物のような形の猫の頭部、鋭い目つきに吸血鬼のような胴体という、特徴的過ぎる外見のIS、ヴィアンパイアキャット。

その手に握るは三又の槍「トリプルヘッドスピアー」

 

 

5人各々が自らの武装を構え、戦闘体勢に入る。

全員が地面に足を付けているあたり、以前のイチカと鈴の模擬戦のように地上戦メインで、という事なのだろう。

 

 

「管制室、開始の合図を」

 

 

『はい。それでは、仙道イチカ対凰鈴音対川村アミ対花咲ラン対古城アスカ。模擬戦……開始!!』

 

 

「「「「「ッ!!」」」」」

 

 

開始の合図と同時、全員が行動を開始する。

 

 

先ず最初に飛び出したのは、この中で速度1位、2位を争う速度の持ち主であるジョーカーとパンドラだ。

双方理解している。

自分の実力を最大限活用するには、速度で確実に他より優位を取る必要がある。

だからこそ、最初に倒すべき存在は……

 

 

「アンタを潰す!」

 

 

「そうは行かないわ!」

 

 

ガキィィイイイイン!!

 

 

ジョーカーとパンドラが同時に跳躍し、空中でジョーカーズソウルとホープ・エッジがぶつかり合い、音が鳴ると共に火花が散る。

 

 

そんな2機の下をくぐって、ミネルバが走る。

 

 

「ハァアアアアアア!!」

 

 

ジョーカーとパンドラ程では無いが、細身であるミネルバも十分に素早く動く事が出来る。

一瞬にしてハカイオーに近付くと、足を振り上げ踵落としの体勢を取る。

 

 

「っ!!」

 

 

当然、ハカイオーもそれに反応する。

落とされる踵に向かって、破岩刃で攻撃する。

 

 

ガキィン!!

 

 

ミネルバの装甲の一部は、そのまま武装となるほどの強度を誇り、只振るっただけの破岩刃程度では傷1つつかない。

 

 

「ぐ、ぐぅううう!?」

 

 

そして、振り上げる攻撃よりも振り下げる攻撃の方が運動エネルギーが付くだけ威力が高くなる。

搭乗者のランの空手の実力、そしてミネルバの細身からは想像できない火力も相まって、蹴りとヘビーソードがぶつかり合ってるのにも関わらず、ハカイオーが少し押されている。

 

 

「せぇい!」

 

 

「ぬぁあ!?」

 

 

ミネルバは破岩刃を蹴り、空中で1回転しながら地面に着地すると、低い角度からミネルバクローによるアッパー攻撃を行う。

 

 

「ぐあっ!?」

 

 

顔面にモロにくらってしまったハカイオー。

だが、ただ攻撃を受けた訳ではない。

持ち味であるパワーを生かし、弾かれた破岩刃を無理矢理構えなおすとそのままの勢いでアッパー直後の一瞬の隙を付き、その胴体に破岩刃を振るう。

勿論ミネルバもそれに気が付き、出来る限り威力と衝撃を殺せるような体勢に移ろうとした、その瞬間。

 

 

「触れれば鬼をも殺す!トリプルヘッドスピアー!!」

 

 

離れた場所に立っていたヴァンパイアキャットが地面を蹴り、一瞬にして近付くと、ハカイオーとミネルバに向かってトリプルヘッドスピアーを刺突する。

 

 

「っ!?」

 

 

「危なっ!?」

 

 

わざわざご丁寧に口上を言ってくれたので、かなり早めに反応出来たが、それでもなおその攻撃を完全に避けるのは難しく。

ハカイオーは破岩刃を遠くの方に弾き飛ばされてしまい、ミネルバは足に掠ってしまう。

ヴァンパイアキャットはそのまま武器を無くし、重量級のハカイオーに的を絞り、連続で攻撃を行う。

 

 

一撃、二撃、三撃。

正面からの攻撃な為、先程の攻撃に比べると幾分か避けやすいものの、それでもギリギリの回避である事に変わりはない。

このままではいずれ、壁際に追いやられ回避が出来なくなってしまう。

破岩刃を弾き飛ばされてしまい、ハカイオーは素手。

抵抗手段は無い……訳では無い。

 

 

「必殺ファンクション!!」

 

 

《アタックファンクション!我王砲(ガオーキャノン)!!》

 

 

ハカイオーは我王砲を発動。

極太のビームが目の前にいるヴァンパイアキャットに向かって放たれる。

 

 

このタイミングで我王砲を撃たなければ、遅かれ早かれ敗北する。

だからこそ、前後に一瞬動けなくなるリスクを取ってでも、このタイミングで放った。

 

 

「っ!!」

 

 

途中で中断されてしまったとはいえ、鈴は以前のクラス対抗戦で全校生徒の前で戦闘を行っており、その際に我王砲を使用している。

威力の高さはアスカも承知済みだ。

このまま押し込めばトリプルヘッドスピアーの高威力の攻撃を強引に当て、ハカイオーに大ダメージを与えられるだろう。

だが、その場合我王砲をくらってしまうリスクも高まる。

ハカイオーへのダメージを優先するか、自分の安全を優先するか。

 

 

アスカが取った選択は……

 

 

「チィっ!?」

 

 

回避だった。

攻撃を中断し、トリプルヘッドスピアーを地面に突き刺しそれを軸にしながら横に大きく跳躍し、我王砲をギリギリで回避する。

その直後、我王砲の影響で動けないハカイオーに向かって攻撃をしようとしたが、

 

 

「オラァ!!」

 

 

「ぐっ!?」

 

 

ガァン!!

 

 

先程からずっと黙っていたミネルバが真横から奇襲した。

ヴァンパイアキャットはそれに対応するも、完全にハカイオーへの攻撃体勢を取っていた為、完璧には受けきれなかった。

そして、ミネルバは槍の間合いの内側に潜り込むことに成功した。

こうなったらミネルバのターンだ。

 

 

「ハァ!トァ!シェア!」

 

 

「ぐっ!?くぅ!?」

 

 

ガキィン!ガキィン!ゴキィン!

 

 

ミネルバクローによる連続攻撃は、ジリジリとヴァンパイアキャットにダメージを与えていく。

だが、ヴァンパイアキャットもただただ回避行動を取っている訳では無い。

確実に反撃が出来る機会を伺っていた。

 

 

(今……!!)

 

 

その機会が着た瞬間、多少の反撃など覚悟のうえでトリプルヘッドスピアーで攻撃の構えを一瞬で取り、そのままの勢いで前に突き出す。

ミネルバも当然それに気が付き、それに対応する姿勢を取ろうとした、その瞬間。

 

 

「どっせぇええええい!!」

 

 

「「っ!!」」

 

 

弾き飛ばされた破岩刃を回収したハカイオーがミネルバとヴァンパイアキャットに向かって、勢いのまま破岩刃を横なぎに振るう。

2人は直前に気が付き、各々が取っていた行動を中断。

ミネルバは跳躍する事で、ヴァンパイアキャットはその場に伏せる事によって破岩刃による攻撃を回避。

二撃目が来る前に、ハカイオーから距離を取る。

 

 

「「「……」」」

 

 

ハカイオー、ミネルバ、ヴァンパイアキャットは、正三角形の頂点の位置に立ち、各々の武装を構えながら互いに牽制し合っている。

だが、3人とも分かっている筈なのに、思考から抜け落ちていた。

このバトルロワイヤル、参加者は3人ではなく5人である。

 

 

「ハッハハハ!!」

 

 

ガキィィイイイイン!!ガキィィイイイイン!!ガキィィイイイイン!!

 

 

「「「うわぁあ!?」」」

 

 

突如、上空から3体に分身したジョーカーABCが3人の背後に着地。

それと同時、落下の加速度エネルギーを乗せたジョーカーズソウルの攻撃で装甲で切り裂いた。

この模擬戦初のクリティカルヒットの攻撃は、3人のSEを大きく削る。

 

 

「待ちなさい!」

 

 

先程までジョーカーと斬り合っていたパンドラもワンテンポ遅れる形でやって来、そのままの勢いでジョーカーAに攻撃をする。

 

 

「当たる訳が無いんだなぁ!」

 

 

イチカのその声と同時、ジョーカーABC全てが同時に跳躍。

空中で1体に戻ると、そのまま空中を蹴り、ハカイオーの方向へと突っ込んでいく。

 

 

「こっちくんな!」

 

 

「そういう訳にはいかないんでねぇ!」

 

 

破岩刃の攻撃を躱し、ハカイオーの背後にまわる。

すると、ハカイオーの事を蹴り上げ、ジョーカーを追ってきたパンドラにぶつける。

 

 

「きゃあ!?」

 

 

「ぬわぁ!?」

 

 

ハカイオーとパンドラは同時に転がっていく。

それを確認しつつ、ジョーカーがミネルバのいた方向を確認すると、

 

 

「必殺ファンクション!!」

 

 

《アタックファンクション!炎崩(ホムラクズ)し!!》

 

 

ミネルバは必殺ファンクションである炎崩しを発動し、ジョーカーに突っ込んで来ていた。

 

 

炎崩しは、両手のミネルバクローに熱を持たせ、右手で相手の装甲を貫き行動を封じると、そのまま右手毎相手を火球で飲み込み、右手を引き抜くと同時左手でのアッパーで一気に相手のSEを削り取る技である。

一度囚われてしまっては、抜け出すことはほぼ不可能。

我王砲に比べ、威力は低いものの、当てやすさは確実にこちらの方が上。

 

 

「チィッ!!」

 

 

真実にISを教わった際、教材としてイチカはアミとランの模擬戦を見ている。

炎崩しに関しては、完全初見という訳では無い。

知っている、この攻撃に飲み込まれてはいけない事を。

 

 

ジョーカーは再び3機に分身をしつつ、思いっきり背後に飛ぶ事で、ランの一瞬の驚きや躊躇を生み、炎崩しを回避する。

ジョーカーAが足先を掠ってしまったが、この程度何も問題ではない。

 

 

「さぁ、どれが本物かなぁ!?」

 

 

イチカの高笑いがどれかから聞こえて来る。

ジョーカーAはミネルバに、ジョーカーBはハカイオーに、ジョーカーCはパンドラに向かって行く。

だが、攻撃はせず周囲を猛スピードで移動しているだけだ。

 

 

「あああ!もう!これどーなってんのよ!?どれが本体!?」

 

 

鈴のイライラしたような声と同時に、ハカイオーが破岩刃を振り回すも、雑な攻撃がジョーカーに通用するわけが無い。

 

 

未だに鈴はジョーカーの分身の魔術のタネを理解しきれていない様だ。

混乱したまま、目の前にいるジョーカーBに攻撃を繰り出している。

 

 

そんなハカイオーと対照的に、ミネルバとパンドラは3機のジョーカー全ての動きを確認しながらも、攻撃をする事はせずただ一定の距離を保っていた。

同じタイニーオービット所属なので、ジョーカーがどういった仕組みで分身しているのかは理解している。

だからといって、馬鹿正直に正面から殴り掛かっても絶対に勝てないので、タイミングを伺っているのだ。

 

 

ジョーカーABCはそのまま空中を蹴りアリーナを駆けまわり、各々が対峙していた相手もシャッフルする。

それにより鈴は余計に頭がこんがらがり始め、アミとランも流石に状況の把握がだんだんと追いつかなくなってくる。

 

 

そんな中、場を混乱させている側のジョーカー。

その薄ら笑いを浮かべるフェイスパーツとは対照的に、イチカは怪訝そうな表情を浮かべていた。

 

 

(なんだ?何か胸騒ぎがする……)

 

 

アリーナの空中を蹴り、駆け巡りながらイチカは思考を続ける。

 

 

(鈴達が特に何かを企んでいるという感じは無い…だが、なんだ?何かを思考から零してしまっているような…………!!)

 

 

そこまで考えて、イチカは思い出した。

この模擬戦は、自分を含めて5人。

ジョーカーは分身を含めて3体、そしてジョーカーと戦っているのも、3体。

ジョーカーをイチカ1人と考えた場合、今戦闘しているのは4人。

1人たりない。

 

 

「くっ……!?」

 

 

ジョーカーABCは慌ててアリーナを駆けるのを中断。

大きく飛び上がり空中で1体に戻ろうとするも……

 

 

「必殺ファンクション!!」

 

 

《アタックファンクション!デビルソウル!!》

 

 

気が付くのが遅かった。

このどさくさにまぎれ、ずっと気配を消していたヴァンパイアキャットが必殺ファンクションを発動した。

 

 

周囲が雷走る紫雲に包まれる中、トリプルヘッドスピアーを地面に突き立てる。

すると、トリプルヘッドスピアーは発光し、その光が地面に吸い込まれていくと同時に、紫の巨大な魔法陣が周囲に展開される。

 

 

「うえっ!?」

 

 

「しまった!?」

 

 

「くっ!?」

 

 

急にジョーカーが動きを変えた理由を、ハカイオー達は漸く気が付くも、もうここまで来て完全回避は不可能だ。

 

 

ヴァンパイアキャットが右腕を天に掲げると同時、魔法陣から紫電と共に紫色のエネルギーが溢れ出て来る。

そのエネルギーは収束すると、とある形を作り出す。

あまりにも巨大すぎるサイズ、同じく巨大な翼、紫の中でオレンジに光り注目を引き付ける、鋭い目にギザギザの口。

それは、あまりにも悪魔だった。

 

 

ヴァンパイアキャットが腕を身体の前でクロスし、一気に横に開くと、聳え立つ悪魔も同じ動作をする。

それと同時、3体の小さい悪魔が出現。

ジョーカーたちに向かって行く。

 

 

ジョーカーは1体に戻り、ヴァンパイアキャットを除く全員が防御態勢をとるも、小さい悪魔たちが地面に着地すると同時に大爆発。

4人全員を飲み込んだ。

 

 

ドガァアアアアアアアアアアアアアン!!!!

 

 

紫色の炎と黒煙が発生。

アリーナを飲み込む。

 

 

その黒煙が晴れた時、

 

 

シィィィィィィン……パパパァン!!

 

 

ハカイオー、ミネルバ、パンドラの3機が地面に倒れ伏し、全身が一瞬青白く発光し弾け飛ぶような音と共に青い粒子を散らす。

SE切れの合図だ。

 

 

だが、足りない。

あと1人分。

 

 

それを認識した瞬間、ヴァンパイアキャットは周囲を確認。

そして気が付く。

自分の真上。

ボロボロに刃こぼれした鎌を自分に向かって振り下ろそうとする、薄ら笑いを浮かべる道化師の存在に。

 

 

「っ!!」

 

 

ヴァンパイアキャットはすぐさま地面に突き立てていたトリプルヘッドスピアーを回収。

そのまま頭上のジョーカーに向かって突き出す。

 

 

ガキィン!!

 

 

ジョーカーズソウルとトリプルヘッドスピアーがぶつかり合い、甲高い音が響く。

 

 

「不意打ちだったのに、あれで決まらないか!!」

 

 

「ハッ!舐めて貰っちゃ困るんでねぇ!!」

 

 

ビシィ!

 

 

ジョーカーズソウルに走っている罅が更に大きくなり、ジョーカーは地面を蹴り大きく後退する。

 

 

(チッ!これ以上は本体もジョーカーズソウルも持たねぇ……しょうがねぇ、ジョーカー(二面性)らしく、一か八かに賭けるしかねぇ!)

 

 

そう覚悟を決めた時、ジョーカーが描いた軌跡を追うようにヴァンパイアキャットが走り出し、大きく跳躍する。

ジョーカーとは違い、SEにもまだまだ余裕がありトリプルヘッドスピアーの限界も近くない。

そして、上から突き刺すこの攻撃は、掠る程度でも今のジョーカーには致命傷だ。

だからといって、ここで安易な回避をしてもこれ以上戦闘をする余力は無い。

 

 

つまり、空中にいるという攻撃しやすい今、反撃を行うしかない。

 

 

「必ファンクション!」

 

 

《アタックファンクション!デスサイズハリケーン!!》

 

 

ジョーカーは必殺ファンクションを発動。

ジョーカーズソウルにエネルギーが集約、軌跡を描きながら回転し、大きく跳躍。

地面に叩き付け、紫の巨大な竜巻を発生させると、そのままヴァンパイアキャットに向かわせていく。

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 

 

竜巻がヴァンパイアキャットを飲み込んだ。

流石に、真正面からデスサイズハリケーンを受ければ無事ではいられない。

イチカは集中を削がないようにしながらも、フェイスパーツの下で笑みを浮かべる。

その直後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カァアアアアアン!!

 

 

シィィィィィィン……パァン!!

 

 

突如として飛んできたトリプルヘッドスピアーが右肩に直撃。

反応出来なかったジョーカーはそのまま後ろに吹っ飛んでしまい、丁度SEが切れた。

 

 

『そこまで!ハカイオー、ミネルバ、パンドラ、ジョーカーSEエンプティ!勝者、古城アスカ!!』

 

 

『わぁあああああああ!!』

 

 

「へへ、やったぜ!」

 

 

模擬戦終了のアナウンスと同時に、今までリアクションしなかった観客が一斉に歓声を上げ、アスカが嬉しそうな声を発する。

デスサイズハリケーンが直撃したものの、ヴァンパイアキャットのSEはギリギリ残っていたのだ。

 

 

「クッソ…決まったと思ったんだが…」

 

 

「へへ、まだ1年には負けらんねーからな!」

 

 

ISを解除し、寝ころんでいるイチカに、同じく解除したアスカが手を差し出す。

素直にその手を握り、立ち上がる。

 

 

「次は負けない」

 

 

「何時でも勝負してやる!強くなったら掛かってこい!」

 

 

「ああ、そうさせてもらおう」

 

 

アスカはニシシと笑い、イチカも悔しそうにしているものの、口元には笑みを浮かべている。

なんだかんだで、2人とも強い相手と戦うのが好きなようだ。

 

 

「強くなるなら、トマトジュース飲まないとな!」

 

 

「いらん。お前が飲んでろ」

 

 

「なんでだよ!飲もうぜ!」

 

 

「うるせぇ」

 

 

そんな漫才をしていると、鈴達も各々のISを解除しイチカ達に近付いて来る。

 

 

「負けたぁ!」

 

 

「くぅ、まさか必殺ファンクションがあんなに強いとは…!!」

 

 

ランと鈴は順に悔しそうな声を発する。

アミはニコニコの笑顔でアスカの前に立ち、

 

 

「アスカ、やっぱり強いね」

 

 

「とーぜんだぜ!」

 

 

「……次は勝つから」

 

 

「おう、何時でも来い!」

 

 

アスカは基本、模擬戦を断らない。

その後、鈴とランとも再戦の約束をし、5人全員で拳を打ち付けてから、各々のピットに帰って行った。

 

 

観客の拍手は、暫くの間続いたのであった。

 

 


 

 

数十分後。

イチカはISスーツから制服に着替え、学園の整備室に向かっていた。

先程の模擬戦でボコボコにされたジョーカー。

ジョーカーズソウルに関しては確実にタイニーオービットから予備を送ってもらう必要があるが、ジョーカー本体に何処までダメージが来ているのか調べる必要がある。

特に問題無いのか、パーツを送ってもらう必要があるのか、はたまたタイニーオービットに行く必要があるのか。

 

 

それの判断くらいはイチカでも出来るので、こうして向かっているのだ。

 

 

(…なんか居るなぁ)

 

 

その道中、不意にイチカは視線を感じた。

 

 

(あの馬鹿2人では無い…アイツ等だったら陰からこそこそ見るだなんて事は絶対にしない……どちらかというと、あの胡散臭い生徒会長に近いか?だが、あの時と違って足音が目立つ…)

 

 

歩きながら思考を続けるも、どうにも正体に辿り着けない。

もう少しで整備室に到着するが、中に入ってからいろいろやられると、ジョーカーがダメージを負っている今、流石のイチカでも対処が難しい。

となれば、今ここで対処するしかない。

 

 

「さっきから俺を後ろから付けている奴」

 

 

イチカは振り向きながら、そう言葉を発する。

その人物は咄嗟に曲がり角に隠れるも、肩が出てる。

 

 

「肩が出てるからバレバレだぞ。何の用だ?敵対するなら容赦はしないが」

 

 

「ま、待って!そ、そそそ、そんな気は無い……」

 

 

途中で声のボリュームが明らかに小さくなる。

その事にイチカが首を捻ると、曲がり角から1人の生徒が姿を現した。

 

 

「お前……」

 

 

イチカは自然と呟いていた。

楯無と似た髪色を確認したからだ。

だが楯無では無い。

あの一瞬しか会ったことが無いが、分かる。

胡散臭い生徒会長は、絶対にこんなビクビクした態度を他人に見せないと。

 

 

「誰だ?そして、俺に何の用だ?」

 

 

「わ、私は……」

 

 

その人物はパクパクと口を開いて閉じを繰り返す。

数舜後、少しだけ覚悟を決めたような表情を浮かべると、漸く言葉を発した。

 

 

「私の名前は、更識簪。お、おしえて、あなたの強さの秘密を」

 

 

と……

 

 

 




次回予告

突如としてイチカの目の前に現れた少女、更識簪。
イチカの強さの秘訣を教えて欲しいと懇願する。
何故そういった事を聞いたのか、そして、それに対するイチカの返答は……

「つまんないねぇ、なんでそうなっちゃうのかなぁ?」

次回、IS~箱の中の魔術師~『GWⅣ 強さが欲しい少女と魔術師』、見てね!


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GWⅣ 強さが欲しい少女と魔術師

大変お待たせしました。
かなりゆっくりめな更新になるとお伝えしていましたが、まさか半年も更新が止まってしまうとは…
最近、執筆スピードが以前と比べて格段に落ちたと感じています。
なんとか元に戻さなくては…

IS~箱の中の魔術師~、始まるよ!


「私の名前は、更識簪。お、おしえて、あなたの強さの秘密を」

 

 

ゴールデンウィーク真っただ中。

バトルロワイヤル方式での模擬戦後、ジョーカーの調子を見ておこうと整備室に向かうイチカは、後ろをつけられている事に気が付いた。

 

 

立ち止まり、少しきつめの口調で問いかけると、つけていた人物はあっさりと姿を現したのだ。

 

 

(更識簪……更識だと?あの胡散臭い生徒会長と同じ苗字…髪色とかが似ている点を含めて考えると、やはり身内…リボンの色的に同学年…妹か?)

 

 

つけていた人物…簪の事をマジマジと観察しながら、イチカは思考を巡らせる。

 

 

(生徒会長は、俺の護衛だとかふざけたことを言っていた…という事は、護衛対象の顔を見に来た?いや、それは無い。生徒会長だって、俺が指摘しなかったら出てこなかったし、そもそもにしてこういう場面で護衛が護衛対象に接触しないだろう)

 

 

「あ、あのぉ…?」

 

 

(って事は、もしや知らない?という事は身内じゃない?それとも、身内だが情報共有をしていない?)

 

 

「えっと、そのぉ…」

 

 

(そもそもにして、生徒会長が何故俺の護衛をする事になってる?この間は途中で考えるのを止めてしまったが…親近者も含めての調査をFOOLあたりに頼むしかないか…)

 

 

「あのっ!!」

 

 

「っ…ああ、すまない。初対面なのに放置してしまったな」

 

 

いくらイチカでも、1人で考え込んで相手を放置するのが失礼に値するという事くらい理解している。

特に初対面の相手では尚更。

そして、初対面や目上の人には表面を取り繕うのだ。

 

 

まぁ、正直にいって入学から1ヶ月経ち、箒と千冬(面倒な奴ら)とのやり取りは結構広まっているので、取り繕ってない素のイチカを知っている人も多くなってきたが、それでも一応取り繕うのだ。

 

 

思考の海から現実に帰還したイチカ。

改めて簪の事を見る。

 

 

「それで…俺に何か用か?記憶違いでなければ、俺とアンタは初対面の筈だが」

 

 

「あ、はい、その……初対面で、間違い、無いです…」

 

 

「あ?」

 

 

どんどんと小さくなっていく声。

最後の方はもはや聞き取れなかった。

イチカは反射的に聞き返してしまった。

 

 

「ひぅ!?」

 

 

イチカに他意は無かったのだが、普段からの癖で威圧的になってしまった。

簪はビクっと肩を震わせる。

 

 

「ああ、すまん。脅す気は無かった」

 

 

(クッソ、滅茶苦茶にやり辛い…調子狂うな…)

 

 

調子を狂わされる人物が最近多くなってくる事に危機感を覚えつつ、簪を放置しない程度に再び思考を巡らせる。

 

 

(なんだ、あまりにも生徒会長と性格が違い過ぎるぞ…だが、う~ん……駄目だ。分からん。話を聞く必要がある)

 

 

「改めて、俺に何か用?」

 

 

今のイチカに出来る限界ギリギリの優しい声色で簪に声を掛ける。

名前と顔以外の情報が無いこの状況、なるべく会話で情報を引き出す必要がある。

これまでのやり取りで簪がそこそこ内気な性格であると理解し、なるべく警戒心を薄めてもらおうという作戦だ。

 

 

(向こうからちょっかい掛けて来たとはいえ、この性格だと威圧的に対応してたら、逃げられる…兎にも角にも情報が欲しい今、この対応がベスト…はぁ、だる)

 

 

イチカは心底面倒くさそうにため息を心の中でつく。

イチカの言葉から数秒後。

簪は覚悟を決めたような表情を浮かべる。

 

 

「私に、あなたの強さの秘訣を、教えて」

 

 

(さっきと何ら変わらないじゃないか。何故こんなにも間があったんだ?面倒くせぇ)

 

 

「……まぁ、要件は分かった。だが、それより先にジョーカーの調整をしてしまいたい。問題無いか?」

 

 

内心で毒づきながらも、手に持っているCCMを簪に見せる。

 

 

「あ、え、う、うん。大丈夫…です」

 

 

簪はやけに整備室の中を気にしている素振りを見せながら頷く。

 

 

(中になんかあるのか?まぁ、如何でも良いか……)

 

 

「取り敢えず待っててくれ」

 

 

イチカは一先ず考える事を止め、ジョーカーの整備に全力を注ぐ。

整備室に入り、CCMを操作。

ジョーカー、並びにジョーカーズソウルを整備台の上に展開し、作業を開始する。

 

 

「う~ん、まぁ、ジョーカーズソウルは予備と交換するしか無いな……本体の方は……出来るだけ早いうちにタイニーオービットに持っていった方が良いな」

 

 

イチカは整備士ではない。

ジョーカーの状況の確認と、簡易メンテナンス程度だったら問題無く出来るのだが、修理となると流石に難しい。

ブツブツと呟きながら修理の必要な個所を挙げ、リストに纏めていくイチカ。

 

 

その作業の様子を、待っててくれと言われたが、あまりにも手持無沙汰になってしまうため整備室内に入って来た簪は見ていた。

 

 

(すごい…1人であんなに早く……それに比べて、私は……)

 

 

表情を曇らせ、若干俯く簪。

そのまま数分後。

 

 

「取り敢えず終わりか…」

 

 

簡易チェックとリストアップだけだったので、イチカが出来る事は無くなった。

ジョーカーとジョーカーズソウルをCCMに戻し、タイニーオービットのキリトに連絡を入れる。

 

 

数回のやり取りの後、出来るだけ早い方が良いとの事で明日タイニーオービットに行く事になった。

そのため今日の内に外出届を出さないといけなくなり、やる事が1つ増えてしまったが、これから行わなきゃいけない話は、恐らくそれ以上に面倒なので、まぁ良いかと片付ける。

 

 

ずっと同じ体勢だったので、バキバキと背骨を鳴らしながら立ち上がり、軽く伸びをするイチカ。

すると、ずっとイチカの事を見ていた簪と目が合った。

 

 

「…ずっと立ってたのか?座っても良かっただろう」

 

 

「え?いや、その…待ってろって言われたのに、勝手に入って来たのは私だし…」

 

 

「それくらい気にしなくて良いだろ……」

 

 

(なんだ?異常なくらいに自信がない…否、自己評価が低い?強さの秘密…何かしらのコンプレックス?外出届以外にもう予定はないし、ゆっくり話を聞いて判断するか)

 

 

他人に対して、余程の事が無ければどうでもいいと興味すら示さないイチカ。

初対面の相手、しかもまだほとんど会話していないに等しい簪に対して、ここまでいろいろと思考を巡らせるのは……一種の心配をするのは、本当に珍しい。

それ程までに、簪の纏う雰囲気に思うところがあるようだ。

 

 

「さて、こちらのやる事は終わった。取り敢えず何処か落ち着けるところ…に……?」

 

 

改めて簪を見ながら言ったイチカのその言葉は途中で途切れた。

さっきから簪の視線が整備室の奥の方にチラチラと向けられていたからだ。

 

 

そう言えばさっきも整備室内の様子を気にしていたような気がする。

 

 

(もしかしなくても、なんかあんだろ此処に)

 

 

刹那の時間も無く、大筋を把握したイチカ。

簪の『お願い!気が付かないで!!』という声が聞こえてきそうな表情を浮かべている。

出会って数時間も経ってないのに、何故想像できるのかを疑問に感じながら、イチカは行動を開始する。

 

 

「あ?さっきからあっち見て…なんかあんのか?」

 

 

あたかも今気が付きましたという演技をしながら振り返る。

あまりにもコッテコテな演技に自分で苦笑を浮かべているが、簪は気が付いていない。

 

 

「えっ!?いや、あの、その!待って!!」

 

 

簪がとても慌てた様子で静止を掛けて来るが、イチカが歩き出す方が早い。

視線から推測するに、そこそこ奥の方だ。

肩を掴まれるなどの物理的阻害を受ける前に、サクサクと進んで行く。

イチカと簪は、どう考えてもイチカの方が体格がいい。

その為、1歩にも小さくはない差が存在する。

 

 

簪に追いつかれること無く、無事奥の方に到達したイチカ。

さてさて、何があるのかと周囲を見回す……までも無く。

見つけた。

 

 

「IS……」

 

 

整備台の上。

そこに1台のISが鎮座していた。

いや、『1台』とカウントして良いのかは、正確には良く分からない。

目の前にあるのは間違いなくISなのだが……どう考えても4割程度しか組み上げられていない、いわば未完成品の状態なのだ。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

簪がイチカに追いついた。

 

 

(何故この距離で息切れする……いや、それよりも、だ。このISが、俺に話し掛けて来る原因で、間違いなさそうだな……)

 

 

「あっ…あの、その……」

 

 

イチカがISを見た事を理解した簪は、視線を泳がせる。

流石のイチカもなんて声を掛けようか迷い、整備室を沈黙が支配する。

未完成のISが、何処か寂しそうに足元の2人を見下ろしていた。

 

 

~~~~~

 

 

「ほら、珈琲だ。自販機で買った缶の奴だがな」

 

 

「あ、ありがとう……」

 

 

イチカが差し出した缶珈琲を素直に受け取る簪。

遠慮がちにプルタブを開け、中身を飲む。

イチカも簪の向かいに座り、自分の分の珈琲を飲む。

 

 

先程の沈黙を打ち破ったのはイチカ。

一先ず空気をリセットしようと、苦し紛れに珈琲でも飲まないかと提案したところ、簪はそれを了承。

イチカが一番近い自販機に2人分の珈琲を買いに行ったという訳だ。

 

 

場所は変わらず整備室で、未完成のIS前。

2人が腰かけるのは、椅子ではなく整備室備え付けの足場。

座る事を推奨されている訳では無いが、まぁ座っても特に問題無いもの。

 

 

場所を移動しなかったのも、イチカの判断だ。

この未完成のIS以外、此処に整備途中のISは無い。

本日はGWだが、ラウンジなどには行けるし、食堂もやってる。

 

 

だが、人の多い場所で話すのは恐らく不適切だろうと判断し。

寮の部屋といったプライバシーが確保されている場所だったとしても、移動する際に他人に見られない自信がない。

別に見られるだけだったら特に問題無いのだが、イチカはこの1ヶ月で理解した。

 

 

自分以外の生徒全員が思春期女子で構成されているこのIS学園では。

噂の伝達速度は尋常ではなく、また尾びれ背びれが付きまくるのだ。

そんな状況では、噂になる事すら避けたい。

 

 

その為、移動しない事が最適解だと判断したのだ。

 

 

もう直ぐ2人とも珈琲を飲み終えてしまうが、どちらも話を切り出せなかった。

普段のイチカなら『まどろっこしいのは面倒くせぇ』とさっさと無理矢理にでも話を進めるのだが、簪相手ではどうもそれが出来ない。

 

 

少しでも間違った触れ方をしてしまったら、壊れてしまう。

そして、正しい触り方が分からない。

 

 

説明書無しで初見のプラモデルの製作は出来ない。

規模やら壊れてしまうものの重さとか、いろいろと違い過ぎるが、イチカが直感で感じ取ったものと、根本的な理屈は同じだった。

 

 

一度空気をリセットしたから。

せざるを得なかったが故の、やり辛さ。

 

 

「……俺の名前は仙道イチカ」

 

 

「っ!?」

 

 

それを解消する為、イチカが重たい口を漸く開いた。

 

 

「年齢は15、家族構成は父母自分妹の計4人、趣味は特になし、特技は一応家事とタロット」

 

 

「……?」

 

 

イチカが喋る内容は、ただの自己紹介だ。

裏も何もない、自己紹介。

 

 

「本来は一般の全日制高校に進学予定だったが、何の因果か両親の勤務先に行った際誤ってISに触れてしまい、それが何故か起動した事でISを動かせると分かり、IS学園に入学する事に」

 

 

「……」

 

 

名を尋ねるなら、まず自分の名を名乗れ。

 

 

このあまりにも有名なフレーズは、今のこの状況を打破する切り札だった。

この短時間で、簪の性格については完全とはいえなくても、大筋は理解した。

 

 

恐らく、そこそこのあがり症で緊張しやすい。

対人恐怖症とまではいかないが、少々パニックに陥りやすい。

その原因を、イチカは相手の事を何も知らないからだと推測した。

 

 

だからこそ、先ずは自己紹介をする事で警戒心を下げてもらい。

ついでに日本人特有思考の「相手がしたんだから自分もしないと」に訴えるのだ。

 

 

「いろんな国や企業がこぞって俺を解剖したがったり、データを欲しがったり、その関係で計測機器をどっさり搭載した専用機を与えようとしてきたが、タイニーオービットが保護してくれた。そして無事入学し、順調とは言えない日々を送り、今に至る」

 

 

イチカは自己紹介を終了。

そこそこな部分を端折ったつもりだったが、それでも長くなってしまった。

それ程までに、イチカが置かれている状況は複雑なのだ。

 

 

「……」

 

 

自己紹介を聞き終えた簪は暫くの間黙っていたが、

 

 

「私の名前は、更識簪」

 

 

イチカの作戦通り、簪はポツリポツリと話し始めた。

 

 

「1年4組のクラス代表で、日本の国家代表候補生」

 

 

(ほぅ。代表候補生になれるという事は、相当な実力者…オルコットがまぁ、そこそこだから忘れがちだが…)

 

 

取り敢えず肩書を聞いて、イチカは意外そうな表情を浮かべる。

日本は篠ノ之束の出身国という事であり、IS学園も存在するという事でただでさえ高い代表候補生への倍率は、他国よりも更に高いのだ。

そんな環境でなれるのだから、相当に優秀で実力があるという事だろう。

 

 

「そして、第三世代型IS、『打鉄弐式』のパイロット…まぁ、見ての通り、未完成、だけど……」

 

 

簪は言葉の途中であからさまに視線を下げる。

それと同時、声のトーンも下がり、元々弱々しかった態度が更に弱々しくなる。

 

 

(専用機が未完…代表候補生になって、専用機が与えられるってワクワクしていてそれだったら、確かに自信は無くす…が、それだけが原因じゃないな)

 

 

ここまでの説明を聞き、まぁ目の前の簪の立場を大まかに理解した。

だが、やはり足りない。

もう少し、踏み込んだ部分での説明を聞かないといけない。

 

 

イチカは無言で続きを促す。

どれをどういった順番で話すか簪は迷っていたが、徐々に徐々に話し始める。

 

 

専用機の開発が止まったのは、開発元の『倉持技研』がイチカ用の専用機を作ろうとしたから。

タイニーオービットが作ると決定しているのに、だ。

そんな判断をした倉持を見限り、自分1人で作る決意をし、未完成の打鉄弐式を引き取った。

 

 

何故1人でという判断に至ったのか。

それは姉の影響が大きい。

 

 

姉はIS学園の生徒会長で、自由国籍を使用しロシアの国家代表になった専用機持ち。

肩書から簡単に想像できるように、姉は昔からかなり優秀だった。

文武両道、何をしても好成績を残し、なんでも1人で出来る。

 

 

そんな姉と比べ、自分は平凡。

頭はそこそこ良いが、運動は少々苦手。

だからだろうか、周囲の人間からは小馬鹿にされる日々が続いた。

 

 

そんな状況が悔しくて。

姉に追いつきたくて。

努力をしていたのに。

 

 

「あなたはもう、何もしなくて良いから」

 

 

姉から言われたその一言で、今までの努力が無意味になった気がした。

だから、姉を見返す為に姉も行った自分でもやる事にした。

だけれど、それだけじゃ足りなかった。

 

 

色んな事に挑戦しようとした。

でも、いざこれからって時に、1歩が踏み出せないし、踏み出せたとしてもやっぱりいまいちパッとしない。

どうしたら良いかと焦りだけが日に日に大きくなっていく中、唯一の男子生徒の試合を見た。

 

 

クラス代表を掛けた試合で代表候補生に勝利し。

上級生を交えたバトロワ模擬戦では、2位に食い込んだ。

 

 

情報によると、どう考えてもISを動かしてから1年も経っていないのに、何故そこまでの強さを持っているのか。

話を聞きたくて、強さの秘密を知りたくて。

居ても立っても居られなくなり、声を掛けた。

 

 

これが、更識簪が今仙道イチカの前にいる理由である。

 

 

「……」

 

 

説明を聞き終えたイチカは無言で腕を組んでいた。

 

 

(やっぱ生徒会長の妹で間違いないと…ってか、そんな万能人の様には見えなかったがな…雰囲気は凄かったが)

 

 

以前…というか、数日前の初対面での出来事を思い出す。

確かに雰囲気だけは一級品だったが、コッテコテの演技にもなってないセリフで赤面していた光景からは、あまり想像できない姿だったが。

妹という長い時間を共にしている家族が言うのだから、間違いないのだろう。

 

 

(とはいえ、有益な情報は無かったな…まぁ、相談内容が相談内容だから、そこまで語る事でもないか。ここで変に質問して逃げられるのもあれだし…今はスルーか)

 

 

一先ず、話を聞く前にいろいろと考えていた事に対して、ある程度の関係を築ければ後々さりげなく聞ける機会があると判断。

関係構築の為に、今は簪の問いに答える事に集中する。

 

 

「これが、私があなたに声を掛けた理由」

 

 

しばし無言で今後の行動を考えていたのを、簪はもう少し喋れという無言の催促だと解釈したようだ。

また話し始める。

 

 

「私は、あの人を見返さないといけない。あの人に追いつかないといけないの。だから、貴方の強さの秘訣を、教えてください」

 

 

簪は頭を下げる。

そんな簪を見ながら、イチカは一言。

 

 

「つまんないねぇ、なんでそうなっちゃうのかなぁ?」

 

 

バッサリと切り捨てた。

 

 

「つまんない…!?」

 

 

簪は表情を怒りのものに変える。

声にも同じく怒気が籠っている。

覚悟を決め、長らく悩んでいた事。

相談を聞いてもらっているとはいえ、初対面の相手に真正面から切り捨てられたら誰だって憤る。

 

 

そんな簪を無視し、イチカは言葉を発する。

 

 

「姉に追いつかないといけない?なんでそうなる?お前は姉ではないんだろう?何故わざわざ姉の後を追いかける必要がある?」

 

 

「えっ……?」

 

 

「たとえ家族だったとしても、違う人間なんだ。趣味、得意不得意、価値観に考え方。違って当然なんだ。わざわざ姉を追いかけるな。わざわざ他人を模倣しようとするな。お前にはお前の強さがある」

 

 

「っ……」

 

 

イチカのまくしたてる勢いでの言葉に、簪は言葉を詰まらせる。

唇を噛み締めるような動作をし俯く。

プルプルと肩が震えているのを、イチカは何も言わずに見守っている。

 

 

「……ない」

 

 

「あ?」

 

 

「そんな簡単に、割り切れない!!」

 

 

俯いたまま叫ぶ簪。

表情は見えないが、足元に零れる水滴で簡単に想像が出来てしまう。

 

 

「自分なりの強さって、何!?それが分かったら、こんなに悩んでない!!あなたも、あの人も、もうそれがあるから!!そんな簡単に言えるんだ!!」

 

 

先程までのおどおどした様子とは打って変わり、胸の中に溜まりに溜まっていたドロドロした感情を思いっ切りさらけ出すかのような荒々しい叫び。

それを目の前で受けたイチカは口を開く。

 

 

「1つ聞いておこうか、お前はどれだけその姉の事を理解している?」

 

 

「だから、それは…!!」

 

 

「お前が見て来たその姉の姿!それは本当に姉の全部だったか!?」

 

 

イチカの言葉に、簪はハッと顔を上げる。

涙でぐちゃぐちゃになったその顔を澄ました表情で見ながら、イチカは言葉を続ける。

 

 

「お前が見て来たその姿、それは間違いなく姉の姿だ。だが、その1面だけなのか?お前が見ていない所で、お前に見せていない面があるかもしれないぞ」

 

 

「それは……」

 

 

イチカの言う事はもっともだ。

例え家族だったとしても、自分以外の人間の全てを理解する事は不可能だ。

それでも、簪からしてみればあの完全無欠ともいえる姉の違った面など、想像も出来なかった。

 

 

そんな簪の目の前に、イチカは1枚のタロットカードを突き出す。

 

 

「THE HIGH PRIESTESSの逆位置、神経質……お前はいろいろと考えてから、自らに最適な行動を取れる賢い奴だ。だが、神経質に考えすぎてマイナスに傾いている。逆に知性や判断力が低下する危険性もある……」

 

 

「神経質……」

 

 

「思い当たる節はありそうだな」

 

 

イチカの言葉をゆっくり繰り返す簪。

それを見て、大まかに簪の心の中を察したイチカは、どこか安心したように息を吐く。

 

 

「……でも、分からない…分からない……私は、どうすればいいの…?私は……」

 

 

「分からないなら、これから探すしかない。自分なりの強さも、姉との関わりも、全部」

 

 

「私に、見つけられるかな……?」

 

 

「出来るかどうかじゃなくて、やるかどうかだ。どのみち、納得して『これが答え』って決めるのはお前だろうが」

 

 

言いながらイチカはTHE HIGH PRIESTESSの下に重ねてあった別のカードを、マジック技術の応用で入れ替える。

唐突な披露に驚いた表情を浮かべる簪を見てニヤリを笑みを浮かべるイチカ。

 

 

気分を良くしたのか、先程までよりもテンションを(かなり比較しないと分からない程度)上げ、イチカは話し始める。

 

 

「WHEEL of FORTUNEの逆位置、大きな変化…今のお前は絶望の底にいる…だが、次の瞬間には運命の輪は上り始め希望が見えて来る……良くも悪くも、ここからだ。ここからお前がどうするか、どうなりたいのか。それを、自分で見つけるところから始めるんだ」

 

 

「ここから、始める……」

 

 

イチカの言葉を復唱する簪。

先程まで涙でぐちゃぐちゃだった表情は、かなり落ち着いた表情に変わっていた。

 

 

スッとイチカの言葉を受け入れ、自分の中でかみ砕く。

どれくらいの時間が経ったのか、簪には分からないくらい考え込んでいた。

 

 

「……今日は、話を聞いてくれてありがとう」

 

 

「気にするな」

 

 

簪はゆっくりと口を開き、お礼を言う。

イチカにしては優しい返答だったが、まぁ情報を引き出そうと裏でいろいろと探りを入れていて、そのついでとして、どうも調子を狂わせてくる簪に一言言っただけだったので、大したことはしてない認識なのだ。

 

 

だからこその、当たり障りのない返答。

だが、それはこの場に置いて最適解だった。

 

 

「でも、何からやればいいんだろう…」

 

 

「そこもか……」

 

 

THE HIGH PRIESTESSとWHEEL of FORTUNEのカードを仕舞おうと残りのカードの束を取り出した時に、ボソッと簪が呟いた。

思わず力が抜け、イチカはタロットを取り落としそうになった。

 

 

だが、これも仕方ないのかもしれない。

たった今、ようやく考え方を改める兆しが見えたばっかりなのだ。

どういった行動を取れば良いのか分からない。

 

 

普段のイチカだったら、「知るかそんなもん、自分で考えろ」という場面。

だが、簪と出会ってからずっと感じているやりにくさが、そう切り捨てるという選択肢をイチカから奪っていた。

 

 

ポリポリと後頭部を掻きながら思考する事数十秒。

 

 

「明日予定あるか?」

 

 

「明日…は特に…センシマンを見直そうと思ってただけだから……

 

 

「あ?」

 

 

「いや、何でもない……」

 

 

最後の方が聞き取れなかったので聞き返したのだが、簪は慌てて誤魔化す。

半眼で簪の事を見つめるが、意味のないことだと判断し止める。

 

 

「それで、えっと…なに、するの……?」

 

 

「俺は明日外に出る予定がある、付き合え。気分転換も必要だろう」

 

 

おずおずといった様子で確認する簪に対し、何ともない感じで返答する。

 

 

「分かった、お出かけ…だ、ね……?」

 

 

反射的に頷き、内容を確認する為に繰り返していた途中。

なにか大事な事に気が付いた。

 

 

明日もまだ休日。

男と2人。

学園外の所で会い、共に行動する。

 

 

これは、もしや……

 

 

(で、ででででで、デートってやつ!?!?!?)

 

 

(……何顔赤くしているんだ?)

 

 

一気に顔を赤くした簪を見て、首を傾げるイチカ。

 

 

強さが欲しい少女と箱の中の魔術師。

出会って3時間も経っていない2人のデート(?)が決定した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆オタクロスの、オタ知識デヨ~~!!☆

 

 

『イチカの恋愛観』

 

名前を変える前は姉や勘違い掃除道具から散々な扱いを受け続けたイチカは、愛というものを知らないんデヨ。

鈴ちゃんや、仙道家のお陰で親愛は理解できるようになったが、LOVEの感情はまだピンとこないんだデヨ。

全く、あの2人は許せないデヨ!!

 

そんな訳で、イチカは原作と同じかそれ以上に恋愛に関して鈍感で、理解が出来ていなんだデヨ。

みんなで、なんとかしてあげて欲しいデヨ!!

 

 

 




次回予告

イチカと簪は2人で街に繰り出す。
異性と遊びに行く経験が無さすぎる簪と、特に何も意識していないイチカ。
果たして、簪は気分転換出来るのか!?
そして、自分のやるべき事を見つけられるのか!?

「……先に外出てるぞ」

次回、IS~箱の中の魔術師『GWⅤ 夢の原点』、見てね!


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GWⅤ 夢の原点

 お待たせしました!
 いやはや、相も変わらず執筆が遅い……
 どうやったらみなさんあんなに素早く書けるんだろう……

 IS~箱の中の魔術師~始まるよ!!


 GWを始めとする連休では、人の活動が通常の休日よりも多くなる。

 気がする。

 それに、活動が開始される時間も早くなるような気がする。

 つまり、何が言いたいのかというと。

 

 

 「朝っぱらからうるっせぇなぁ……」

 

 

 ため息をつき、頭をポリポリと掻きながら我らが仙道イチカはため息をついた。

 簪との初対面から一夜明けた本日。

 イチカの予定はタイニーオービットでのジョーカーの整備。

 それが終わった後で簪の気分転換に付き合う、といったものだ。

 

 

 一夜経って思う。

 昨日の自分はどうかしていた。

 

 

 「……だりぃ」

 

 

 なんで初対面の人間にあそこまで気を遣って、翌日に共に外出の約束までしたのか。

 今になってみれば、甚だ疑問だ。

 

 

 まぁ、別に失敗だったとかは思っていない。

 外出を断られなかった時点で、まぁ悪い印象は抱かれていない。

 多分、恐らく、十中八九くらい。

 悪い印象を抱かれていないという事は、出会った時に思った姉に関する情報を引き出すという事も、今後のイチカ次第ではあるが可能という訳で。

 なので、この外出を含め、決して無駄な時間では無いのだ。

 

 

 ただ、それはそれとして労力は掛かっているよねという訳だ。

 

 

 「まぁいい。どうせならしっかりとしないと損だ」

 

 

 イチカは基本損得で物事を考え、割と素直にそれに従う。

 今回の簪との外出は稀にしかない例外なのだ。

 初対面で例外の行動を引き出せる謎の魅力?を持つ簪は凄いのだ。

 

 

 改めて今日の心構えを呟いたイチカは、慣れた足取りでタイニーオービットへと向かう。

 顔を世界中に報道されてしまった為、ある程度の変装という芸能人みたいな事をしなければならない。

 

 

 せかせかと歩き、無事にタイニーオービットに到着した。

 正面入り口から社内に入り、漸く変装を解くことが出来る。

 まぁ、簡単な変装なので解くのも簡単なのだが。

 

 

 タイニーオービットは日本の企業。

 本来ならGWによって休みなのだが、世界ISシェア1位の企業にもなるとそうは行かない。

 日本が休日でも、取引先の国では全然平日で、仕事をしている。

 

 

 普通、取引先が祝日などで休みの場合、取引も休みの筈なのだが、そんな事お構いなしの困った企業というのが少なからずあり。

 しかも、それでも(一応)大事な取引先なので無下にする訳にもいかず。

 結果として、今日もタイニーオービットでは多くの人が働いている。

 

 

 無論、休日出勤では特別手当が出るし後日振替休日が与えられる。

 そのため働いている当人たちは全然気にしてないどころか、お得に働けてラッキーという心境なのだが、傍から見れば可哀想な人で。

 

 

 「休日に働いて虚しくならないのか?」

 

 

 それはイチカも同じだった。

 

 

 「酷いなぁ。別に、そんな事ないけどねぇ」

 

 

 無事にキリトのいる整備室に辿り着いたイチカ。

 平日と同じように働いているキリトを見て、ついつい本音がポロリしてしまった。

 だが、割と酷い事を言われてもキリトは特に気にしない。

 普段からイチカが毒舌なので、耐性が付いているし、休日出勤に関しては本当に気にしていないのだ。

 

 

 イチカからCCMを受け取り検査機器に接続する。

 

 

 「イチカ、メンテナンスついでにカスタムチューンしていいかい?」

 

 

 「いいわけあるかぁ!だから、あんなもん使えねぇって!!」

 

 

 「努力が足りないんじゃないかな?」

 

 

 「努力で如何にかなるかぁ?」

 

 

 「ならないだろうね」

 

 

 「このやろ……」

 

 

 割と性格が似ているところがある2人。

 積極的に高い頻度で煽って攻撃するイチカと、ここぞという時正論を突き付けるキリトという差はあるが。

 

 

 「そもそも、あのチューンはジョーカーの第三世代兵器が使えなくなるんじゃないのか?」

 

 

 「そうともいう」

 

 

 「じゃあ何のためのカスタムだよ……」

 

 

 「スペックを上げる為さ」

 

 

 イチカは苦笑いをしながらキリトの事を見る。

 ブルーティアーズのビットから分かるように、基本的に第三世代兵器があり、それを生かすために第三世代ISがある。

 ジョーカーのそれを潰すのは、果たしてジョーカーの存在意義を奪うのと同義なのだが……

 

 

 以前見せられた企画書では、キリトの言う通り確かにスペックはかなり上昇しているのは確かだった。

 

 

 「何故そこまでカスタムチューンに拘る。お前ほどの腕があれば一から新しいISを作る企画くらい通るだろう」

 

 

 「それじゃあ駄目なんだ。最強ってのは性能で語るもんじゃない。カスタマイズとテクニック、それと経験だ。スペックだけで最強ってのは、何の意味もない」

 

 

 「……それが、ワンオフ機よりも一般機を極限までチューンする事を好む理由か?」

 

 

 「そうだ」

 

 

 「……ジョーカーは俺の専用機だが」

 

 

 「今のところは、な……恐らく、うちの第三世代を量産化する事になったら、最初はジョーカーだぞ」

 

 

 「まぁ、()()()()()()()……」

 

 

 イチカと喋りながら作業を進めるキリト。

 これ以上この場所に居たら邪魔になると判断し、一言だけ声を掛け整備室を後にする。

 キリトとの用事が終われば、タイニーオービットにいる理由は無いし、この後は簪との用事もある。

 

 

 ロビーで再び簡単な変装をしようとした時、イチカは気が付いた。

 とても重大な事に。

 

 

 「……何をするべきだ?」

 

 

 そう、イチカはこの後簪の気分転換に付き合うという事しか考えていなかった。

 『気分転換として何をするか』を、微塵も考えていなかったのだ。

 

 

 「不味い、不味いぞ……」

 

 

 イチカがここまで焦りながら悩むのは珍しい。

 直接対面している訳では無いのに、ここまでイチカのいろいろな表情を引き出せる簪はやはり凄い子の様だ。

 

 

 アミやラン、真実などと(無理矢理連れて行かれたのも含め)遊びに行ったことはある。

 女子と出掛けるのが気まずい訳では無い。

 

 

 だがしかし、今まで遊びに行ったときはたいてい他にメンバーがいたし、2人だったとしても相手のやりたい事に付き合わされたり荷物持ちにさせられたりする事が多かった。

 つまり、自分から相手を何処かに連れて行くという経験が、滅茶苦茶乏しいのだ。

 

 

 「どうするどうする……」

 

 

 簪に行きたいところを聞く?

 いや、何も考えていなかった場合の事も考慮すると、こちら側でも何か考えておく必要が……

 

 

 「絶対に当日、しかも待ち合わせの直前くらいに考える事じゃねぇ!」

 

 

 過去の、昨日の自分を呪う。

 だがしかし、ずっとこのまま悩んでいたら時間になってしまう。

 イチカは慌てて変装をし、タイニーオービットから飛び出ると待ち合わせ場所に向かって走り出した。

 

 

 ~~~~~

 

 

 「ちょっと、早く着き過ぎたかな……」

 

 

 昨日決めた待ち合わせ場所で。

 簪はスマホに表示される時刻を見ながらそう呟いた。

 確かに、約束の時間と比べてかなり早い時間だった。

 

 

 そもそも交友関係が広い訳では無い簪は、休日に誰かと遊びに行くという経験がそもそも少ない。

 あるとすれば、幼馴染で従者の子に振り回されながら外出するくらいだろう。

 それに加え、今まで碌に異性というものと関わって来ない生活を送って来た。

 

 

 そんな中で、初対面の状態の男子にお出かけに誘われた。

 緊張しないわけが無い。

 

 

 別に恋愛感情を抱いている訳でも無いのに、緊張しすぎて眠れなかった。

 眠れなかったため、かなり早いと分かっていながらも準備をして、家を出た。

 外の空気に触れた方が冷静になれると考えたからだ。

 

 

 だが、そんな期待は裏切られる。

 まだ少し涼しさを残す朝の空気に吹かれながら歩いても、緊張は微塵も無くならなかった。

 早く出ても特に行くところ等はない。

 結果として、約束の時間よりもかなり早く待ち合わせ場所に到着してしまった。

 

 

 簪は自分の身だしなみの再チェックをしながら思考を巡らせる。

 

 

 (特に何処に行くとか言われてないけど……良いんだよね?行きたい場所とか考えていないけど……)

 

 

 イチカの予想は当たっていた。

 本当に経験が無い為、どんなことでも心配になってしまう。

 眠れなかったのでネットで異性と出掛ける事に関して調べようとしたが、

 

 

 『気になるあの人に振り向いてもらうための方法10選!』

 

 

 だとか、女尊男卑時代になる前の恋愛関連の記事しかヒットしなかった。

 初心な簪はそのタイトルを見ただけで顔を真っ赤にしてしまい、記事の中を読むことはなかった。

 

 

 その時の事を思い出し、再び頬を染める簪。

 ブンブンと頭を振って、イチカはそんな相手じゃないと否定する。

 

 

 折角身だしなみをチェックしたのに、頭を振ったので髪が乱れてしまった。

 全く緊張が解けていない事にため息をつくも、まだまだ約束の時間まで待ち時間がある。

 その後、何度か同じ様な事を繰り返していくうちに約束の時間が近付いてきた。

 

 

 朝早い時間からそこそこ騒がしかった周辺は、その五月蠅さを増していく。

 簪はキョロキョロとイチカの姿を探す。

 外に居ても一発で分かる外見特徴を持っている訳では無いが、中々に顔立ちが整っている方であるイチカはそこそこ目立つ。

 

 

 (それに、顔出しで報道されてるし……言っちゃえば、悪目立ち、だけど……本人は、鬱陶しがりそうだな)

 

 

 初対面時のやり取りだけで、イチカの性格の概要を把握した簪は思わず苦笑する。

 さてさて、そろそろ約束の時間だ。

 隣に立っている帽子を被ってサングラスをしている人が怖いので、早く来てほしい……

 

 

 そんな事を考えていると、そのサングラスの人物が肩を叩いてきた。

 

 

 「ひぃ!?」

 

 

 簪は短い悲鳴を上げる。

 頭が一瞬でパニックになり、身体が固まってしまう。

 

 

 (どうしようどうしようどうしよう!?)

 

 

 取り合ず周囲に助けを求めるべきかと、纏まらない思考で考えていると……

 

 

 「俺だ」

 

 

 「あ、仙道君……」

 

 

 サングラスと帽子を取り、晒した素顔は待ち合わせ相手のイチカのものだった。

 怖い人じゃ無かった事と、変に周囲に助けを求めてイチカに迷惑を掛けなくて良かったという2つの安堵で息を吐いた。

 

 

 そんな簪の様子に苦笑いを浮かべながらイチカは再びサングラスと帽子を装着する。

 

 

 「なんで、顔を隠して……あ、目立っちゃうから?」

 

 

 「そうだ。これだけでもあると無いじゃ全然違う。実際、お前は直ぐに分からなかったからな」

 

 

 「あはは……」

 

 

 変装の効果を自分で証明していた事実に、簪は微笑を浮かべる。

 出会って2日目とは思えないくらい馴染んでいる。

 イチカ自身は簪相手に何処かやり辛さを感じているものの、相性はかなり良い方の様だ。

 

 

 「んん、えっと……それで、今日は何処に行くの?」

 

 

 軽く咳ばらいをして場の空気をリセットした簪。

 ずっと気になっていた事をイチカに質問する。

 

 

 その瞬間、目の前にいる簪にも分からないくらい一瞬気まずそうな表情を浮かべるイチカ。

 ついさっきまで焦りながら考えていた事。

 しかも、予想通り簪も特に行きたい場所等を考えていなかった。

 

 

 だが、此処に到着するまでに焦りながら必死に考え、ついに1つ答えを発見した。

 サングラス越しに簪の瞳を見ながら、イチカは口を開いた。

 

 

 「特に考えてない」

 

 

 「え?」

 

 

 その答えとは、正直に何も考えていない事を話すこと。

 何があるのかの情報すら足りていないのに、どこどこに行くとかを決められるわけが無い。

 

 

 予想外の返答に、困惑を隠せない簪。

 隠れていない口元をニヤリと歪ませながら、イチカは言葉を続ける。

 

 

 「気分転換って言ってるだろが。びっちり予定なんて入れたら逆に息つまるだろ。今日は適当にぶらつくんだよ」

 

 

 最初からあえて考えていなかったということにするため、10秒で考えたテキトーな言い訳を普段通り堂々と言う。

 簪は割と素直だし、初対面の時の割と重たい話の時とトーンが一緒だったので完全に信じた。

 

 

 イチカは無事に説得出来た(騙したとも言う)事に安堵し、周囲をぐるりと見回す。

 モノレール駅から近いという事だけで選んだこの待ち合わせ場所。

 幸いにも商業施設であり、周囲の街へのアクセスも良好。

 適当にぶらつくのにはこれ以上ないくらいに適している。

 

 

 「さて……行くか。先ずは案内板の確認からだな」

 

 

 「そこから……本当にノープランなんだね……」

 

 

 イチカは周囲を見回し、案内板を見つけるとスタスタと歩き始める。

 簪の言葉は呆れたようなものだったが、声色はワクワクしてそうな嬉しそうなものだし、浮かべている表情は笑顔だった。

 こうして、イチカと簪の気分転換(デート)の幕が上がった。

 

 

 ~~~~~

 

 

 イチカと簪の2人は昨日が初対面、尚且つその時にそこそこ重たい話をしたとは思えないくらい楽しそうな、良い感じの雰囲気でぶらついていた。

 具体例を挙げると、

 

 

 「目がチカチカするな……」

 

 

 「こういう感じの、ちょっと苦手……」

 

 

 「女子ならテンション上がるんじゃないのか?(アミとかランならもう凄い事になりそうなんだが)」

 

 

 「全員が全員そうじゃないから」

 

 

 「肝に銘じておく」

 

 

 服屋の店頭に並べられているレディースの服を見ながら会話をしたり

 

 

 「ISの速度に慣れるとかなりゆっくりに感じるなぁ」

 

 

 「そうなの?私は全然……」

 

 

 「ジョーカーは機動力に振ってるから、他のISよりも感じやすいのかもしれん」

 

 

 「なるほど……」

 

 

 GAME CLEAR!!

 

 

 「あの2人スゲェぞ!?ハイスコア!?」

 

 

 「嘘だろ!?更新される事あったのかよ!?」

 

 

 ゲーセンでなんとなく目についたシューティングゲームの、長らく更新されていなかった記録を塗り替え

 

 

 「ファストフードなんて、久々……」

 

 

 「そうなのか?」

 

 

 「うん……休日は何時も寮の部屋に籠ってるか、ISの整備をしてるかだから……」

 

 

 「外に出る機会が無かったから、こういう店のものを食う機会も必然的になかったと?」

 

 

 「そう……学園に入る前も、部屋に籠ってたのは変わらないし」

 

 

 「そんなに部屋に居て、何をしていたんだ?」

 

 

 「ええっとぉ……そのぉ……(い、言いづらい……アニメや特撮を見まくってただけだなんて!!)」

 

 

 「?」

 

 

 ハンバーガーチェーンで昼食を食べたり。

 本当に気の向くまま、ぶらついていた。

 

 

 傍から見ればただのデートな事にイチカは全く気が付いていない。

 それに反し、簪はハチャメチャにドキドキしていた。

 イチカを待っていた時のように表情や行動には出していないものの、心持ちは変わっていなかった。

 

 

 (ううう……まだ緊張が抜けない……でも、今日を楽しめてはいる、ね)

 

 

 それでも、簪の表情は笑顔だった。

 昨日のイチカと話す前からは考えられない程良い表情。

 それを横目で見ながら、イチカは心の中で安堵したような息を吐いた。

 

 

 (最適かどうかは分からないが……少なくとも最悪な選択をした訳では無さそうだ……貴重な情報源になるかもしれんからな……)

 

 

 そんな事を考えておきながら、イチカも少しだけ笑みを浮かべている。

 なんだかんだ、イチカ自身も楽しんでいるのだ。

 

 

 そして今。

 食休みを終え、2人は商業施設から外に出て街を歩いていた。

 商業施設はとても広いので、全てを回り終えた訳では無い。

 そのため午後も商業施設でぶらついていても、特に問題は無かった。

 

 

 だがしかし、イチカの希望で街に繰り出した。

 似たような景色過ぎて飽きて来たし、それに顔を出したい場所があったので、こうして街にやって来たのだ。

 

 

 「さっき、顔を出したいって言ってたけど、行きつけ?」

 

 

 「あー、まぁ……俺のじゃなくて、兄さんの友人のだ」

 

 

 「ちょっと関係性遠くない?」

 

 

 「兄さんが友人にちょっかい掛けに行くとき、ついででちょこちょこ連れてってもらってたんだ」

 

 

 「ふんふん」

 

 

 「まぁ、店員とも一応顔見知りにはなったし、騒動以降連絡取ってなかったからな」

 

 

 「なるほど。優しいんだね」

 

 

 簪の言葉に、イチカは何も反応しない。

 優しい笑みを浮かべた簪も、これ以上何も言わず前を向いた。

 内心は兎も角として、至って自然に会話をしている2人。

 中々良い雰囲気だ。

 

 

 そんなこんなで歩き、目的地に到着した。

 

 

 「ここだ」

 

 

 「ここって……模型屋さん?」

 

 

 「そうだ」

 

 

 イチカと簪がやって来たのは、個人経営の模型屋『キタジマ模型店』だ。

 イチカの話にもあったようにダイキの友人達(本人は否定するが)の行きつけの店。

 中学時代は放課後よくここで集まっていた。

 

 

 「意外……飲食店だと思った」

 

 

 「飲食店の行きつけもあるが、そっちはちょっと前まで下宿させてもらってたからな。わざわざ顔見せるほどでもない」

 

 

 「下宿?」

 

 

 「寮の部屋調整が間に合わなかったんだと」

 

 

 「なるほど、大変だったんだね」

 

 

 「全くだ」

 

 

 2人は会話をしながら店の扉の前までやって来る。

 自動ドアが開き、店の中へと入る。

 

 

 「いらっしゃい」

 

 

 店の奥から、優しい声色でそんな声が掛けられる。

 この店の店主、北島小次郎(こじろう)だ。

 髭が濃く強面で、筋肉もそこそこある方なので外見は怖いが、内面は滅茶苦茶に良い人で、たとえ子供相手でも相手の目線に立ち、真剣に接してくれるので、常連客からの人気は高い。

 

 

 「お久しぶり。顔見せに来たよ」

 

 

 イチカが変装を解きながら声を発すると、

 

 

 「イチカ?イチカじゃないか!久しぶりだなぁ!」

 

 

 驚いたような、だが嬉しそうな返事が返って来た。

 していた作業を中断して、こちらの方に駆け寄って来る。

 

 

 「ああ、本当に久しい。1年ぶりくらいか?」

 

 

 「それくらいだ。元気にしてたかぁ?」

 

 

 (聞いてた期間よりも長いんだけど……いや、明確にいつぐらいから来てないとかは明言してなかったか)

 

 

 小次郎がくしゃくしゃとイチカの頭を撫でる。

 イチカが本当に鬱陶しそうな表情を浮かべているのを、簪は何とも言えない表情で見ていた。

 

 

 「あ、あのー……?」

 

 

 簪が遠慮がちに声をあげると、小次郎は手を止めた。

 その瞬間にイチカが脱出に成功する。

 

 

 「いらっしゃいませ。初めましてですね」

 

 

 「あっはい、初めてです……」

 

 

 「俺の友人の更識簪だ。下の名前で呼んで欲しいらしい。それで簪、この強面のおっさんが此処の店長だ」

 

 

 「強面……んん!店長の北島小次郎だ。よろしく」

 

 

 「更識簪です。よろしくお願いします」

 

 

 イチカの仲介もあり、2人は各々の自己紹介をする。

 簪はやはり少しだけ緊張しているようだが、イチカに強面と言われたのを若干気にしたようなそぶりを見たことで、悪い人ではないと理解しているようだ。

 暫くしない間に打ち解けるだろう。

 

 

 「さて、何か買っていくかい?」

 

 

 「そうだな……久々に何か作りたいと思ってたんだ。ついでに道具も。キットは自分で選ぶとして、道具のおすすめはあるか?」

 

 

 「道具……そうだな、ついこの間発売されたニッパーがかなり軽い力で切れておすすめなんだが、人気商品すぎて在庫の把握が出来てない……」

 

 

 「おい」

 

 

 「沙希ー!!イチカが来てるんだが、例のニッp「イチカが来てる!?!?」」

 

 

 小次郎が店の奥の方に声を掛けると、言葉を遮る形で叫び声が帰って来た。

 そしてバタバタとした物音と共に飛び出してきた人物が、その勢いのままイチカに飛びついた。

 

 

 「おわっぷ!?」

 

 

 「久しぶりじゃ~ん!元気してた!?」

 

 

 「アンタのせいで元気じゃなくなりそうだ……!首、首が……!!」

 

 

 イチカの首を絞めながら頭をこねくり回すように撫でている女性。

 小次郎の妻で北島模型店の副店長、北島沙希(さき)

 男勝りな性格ではあるが、かなりのうっかりさんで店の予約を取り違えた事もある。

 

 

 「……」

 

 

 簪は物凄い無表情で沙希の事を見ていた。

 理由としては、沙希の格好が過剰なまでに色っぽいからだ。

 

 

 上半身は黒のチューブトップのみ。

 へそも腋も大盤振る舞いなうえに、金髪をバンダナで纏め、釣り目に指ぬきグローブ。

 これに加え、女性が理想とするような豊満な肉体。

 

 

 自分のスタイルに関して少々思うところがある簪としては、羨望の眼差しを向けざるを得ない。

 

 

 しかも、上記のドジっ娘人妻属性もあるので属性過多も過ぎる。

 

 

 「ぜぇ……ぜぇ……」

 

 

 なんとか脱出したイチカが膝に手をつき、肩で息をする。

 今までで見た中で表情の中で1番真っ青だ。

 

 

 「大丈夫……?」

 

 

 「あ、ああ……なんとか……」

 

 

 簪がその背中をさすりながら心配そうに顔を覗き込む。

 イチカは青い表情のまま応対する。

 

 

 「え、なになに?イチカの彼女?」

 

 

 「かのっ!?」

 

 

 「違うわ!」

 

 

 デリカシーの無い沙希の質問に、簪は顔を真っ赤にしイチカは勢いよく否定する。

 

 

 「あはは、ごめんごめん。気になっちゃって。いやー、良かったよ」

 

 

 「良かった?」

 

 

 「イチカに彼女が出来たら悲しいしねぇ」

 

 

 「人妻が旦那の目の前で、特に親戚でもない男子高校生に言うセリフじゃねぇ。店長泣いてるぞ」

 

 

 沙希、簪、イチカがわちゃわちゃしている側で、小次郎はいじけていた。

 取り敢えず沙希と簪が自己紹介をして握手をしてから、沙希がひっぱたいて現実に引き戻す。

 遮った要件を聞き直し、奥から在庫のニッパ―を2つ持ってきた。

 

 

 「はいこれ、イチカと簪ちゃんのぶん」

 

 

 「サンキュ」

 

 

 「ありがとうございます」

 

 

 差し出されたニッパーを2人は受け取る。

 イチカは簪が素直に受け取った事に少し驚いた。

 

 

 (そういえば、プライベートな話を聞いた記憶はないが……こういうのが趣味なのか)

 

 

 「取り敢えず、何かキットを選ぶか」

 

 

 「そうだね」

 

 

 「ゆっくり選んでいいからね~~」

 

 

 沙希は2人に手を振ると、店の奥へと戻っていった。

 

 

 「……なんだか、嵐みたいな人だね」

 

 

 「まだマシな方だぞ、あれでも」

 

 

 「そうなんだ……」

 

 

 「ははは、昔はおとなしかったんだけどなぁ」

 

 

 遠い目をしている小次郎を見なかった事にしながら、イチカと簪は商品が並んでいる棚に向かう。

 個人経営点なので、お世辞にも広いとは言えない。

 だが、それでも品ぞろえは見事なもので、様々なメーカーの色んなシリーズのキットが並んでいる。

 選びたい放題だ。

 

 

 「しかしまぁ、ユーザーに男が多いヤツは廃れていくと思ったが、案外ちゃんと続くもんだな」

 

 

 「そんなくだらない理由で無くなったら、全国で暴動が起きちゃうよ。女性ファンも多いし」

 

 

 「そりゃそうか」

 

 

 特にお目当てがあって来店した訳じゃ無い。

 棚の端から順番に見ていく。

 

 

 「お、これいいな」

 

 

 イチカが手に取ったのは、プラモデルの定番、バイク。

 別にバイクに詳しい訳では無いが、デザインに一目ぼれした。

 近くに置いてあった買い物かごにニッパーと共に入れる。

 

 

 「私はどうしようかな……」

 

 

 「今までどんなの作ってたんだ?」

 

 

 「え?その、えっと……」

 

 

 「言いたくないんだったら無理して言わなくていい(やっぱり何回か造った事があるのは分かったしな)」

 

 

 「あ、うん。分かった」

 

 

 イチカの言葉に頷いた簪。

 商品棚に視線を向ける。

 そうして順番に見て行って

 

 

 「っ!!これは!!」

 

 

 あるものを見た瞬間、目を輝かした。

 黒いアンダースーツに赤いアーマーにマント。

 胸に大きく黄色でSと描かれているのが特徴の、特撮ヒーローのキットだった。

 

 

 「センシマンのキット!まだ残ってたんだ!!」

 

 

 イチカと出会ってから1番高いテンションで嬉々としてそれを手に取る簪。

 

 

 「それなんだ?」

 

 

 「知らないの!?6年前に放送された特撮ヒーロー『宇宙英雄センシマン』だよ!!」

 

 

 「お、おお、そうか」

 

 

 簪の勢いに少したじろぐイチカ。

 

 

 (間違いねぇ、コイツはヲタクっていう人種だ!!いや、だからって何かがある訳じゃねぇが……)

 

 

 そんな事を考えながら、もう1度センシマンのキットのパッケージを見るイチカ。

 

 

 「あー、いや、初見じゃ無いな。知り合いに好きな奴がいたわ」

 

 

 「そうなの!?」

 

 

 「ああ、兄さんの友人なんだが」

 

 

 「仙道君のお兄さん、顔広いね……」

 

 

 そう呟きながらも、ウキウキでセンシマンのキットを買い物かごに入れる。

 表情からもワクワクが簡単に察せられる。

 

 

 すると、そんな簪の背後からそんな声が掛けられた。

 

 

 「君もセンシマンが好きなんですか!?」

 

 

 「ヒィ!?」

 

 

 急に他人に声を掛けられ、思わず悲鳴を上げながらイチカの後ろに隠れる。

 

 

 「あわわ、すみません!怖がらせるつもりはなかったんです!!」

 

 

 簪の反応を見て、声を掛けて来た人物はアワアワと慌てだす。

 そんな様子を見てイチカは首を傾げる。

 目の前の人物に何処か見覚えがあるからだ。

 

 

 キャスケットとサングラスを着用し、先程までの自分と同様顔を隠した人物。

 だが何故だろうか。

 絶対に会ったことがあると直感が言っている。

 そこで、先程の言葉を思い出した。

 

 

 『君もセンシマンが好きなんですか!?』

 

 

 君も。

 つまり、自分もセンシマンが好きだという事。

 ここまで考え付いて、イチカは目の前の人物を理解した。

 

 

 「ヒロか。久しぶりだな」

 

 

 「へ?」

 

 

 その人物……大空ヒロは気の抜けたような声を漏らすと同時、サングラスを外ししっかりと顔を確認する。

 

 

 「イチカ君!お久しぶりです!」

 

 

 「ああ。3年ぶりくらいだな」

 

 

 「えっと……仙道君の、お友達?」

 

 

 「俺のじゃなくて、兄さんのだ。さっき話してたセンシマン?が好きな奴だ。おい、自己紹介」

 

 

 「初めまして!大空ヒロです!」

 

 

 ヒロは簪に手を差し出しながら笑顔で自己紹介をする。

 先程からイチカも話している通り、ヒロはダイキの友人(の友人くらいの距離感)である。

 重度のヒーローヲタクであり、中でも宇宙英雄センシマンが大好きである。

 

 

 イチカと出会った当初は牛乳瓶の底のような眼鏡をかけて、言ってしまえば野暮ったい服装だった。

 だが、何かに影響を受けたのか(恐らくダイキとその友人達)、2回目会ったときにはもう眼鏡を外しかなりスタイリッシュになっていた。

 そこから更に年月が経ち、もうすっかりオシャレさんなのだが、根本のヲタク部分は変わっていない。

 

 

 「大空ヒロ……もしかして、格闘プロゲーマーのTHE HEROさんですか!?」

 

 

 「ええっ!!知ってくれてるんですか!?嬉しいです!」

 

 

 「はい!この間の世界大会、見てました!優勝おめでとうございます!それと、さっきはすみません!変な声出しちゃって……」

 

 

 「いえ、僕の方こそ、ごめんなさい。急に話し掛けちゃって。話は戻りますけど、センシマン好きなんですか?」

 

 

 「大好きです!!センシマンこそ、至高のヒーローです!!」

 

 

 「ですよね!!どのエピソードが好きとかありますか!?僕は12話の戦う覚悟を再度決めるシーンが大好きで、もう何回も見ちゃうんです!!」

 

 

 「分かります!超名シーンですよね!私は、36話のセンシガールとの掛け合いが……!!」

 

 

 「そこもいい!やっぱり、ここまで2人で戦って来て!でも、センシマンはこれ以上センシガールに戦ってほしく無くて!」

 

 

 「その反面、センシガールは最後まで共に戦いたくて!互いが互いを想っているからこその対立が……!!」

 

 

 イチカはここまでしか理解が出来なかった。

 もうそこからは呪文のように2人てなにやら語っていた。

 ちらっと小次郎の方を見る。

 こちらの事を見て見ぬふりをしているようだ。

 

 

 「……」

 

 

 幸いにも他の客はいない。

 この状態で注意しても、今の興奮している2人には何の意味も無いだろう。

 

 

 「……先に外出てるぞ」

 

 

 簪にそう声を掛けるも、やはり反応はない。

 イチカはため息をつきながら、小次郎がいるレジへと向かったのだった。

 

 

 ~~~~~

 

 

 「ご、ごめん。テンション上がり過ぎちゃって……」

 

 

 「別に。気にしてない」

 

 

 空は茜色に染まり、吹き抜ける風は冷たくなってきた。

 そんな中、モノレール駅に向かってイチカと簪は並んで歩いていた。

 

 

 「気にはしてないが、次からは暴走すんな」

 

 

 「ううぅ……はい、反省してます……」

 

 

 しょんぼりした様子でトボトボと歩く簪。

 2人とも、その手にはキタジマ模型店で購入したセンシマンのキットと工具一式が入った袋を抱えている。

 

 

 「にしても、アメリカを拠点にしていると聞いていたが、なんで日本に居たんだ?」

 

 

 「大会の優勝報告ついでに、友達に会いに来たって言ってました。この後、その人のおうちに行くらしいです」

 

 

 「何故先に模型店に……」

 

 

 イチカがそう呟いてから、暫くの間2人の間に沈黙が流れる。

 どちらも喋らず、ただただ歩く。

 

 

 今日の目的は、簪の気分転換。

 そして、気分転換をする理由としては、簪がこれからどこに向かうかを見つけるため。

 だが、途中からそんな事忘れてはしゃいでいたような気がする。

 

 

 「気分転換には、なったか?」

 

 

 もうそろそろで駅につく頃。

 イチカがボソリと尋ねた。

 

 

 「うん。良い気分転換になったよ」

 

 

 でも、と。

 簪の表情に少しだけ影が差す。

 

 

 「やっぱり、これからどこに進みべきかは、分からなかったな」

 

 

 また、しばし無言の時間が訪れる。

 イチカがタロットカードを取り出そうとした時、簪が再び口を開いた。

 

 

 「どこに進むべきかは分からなくても、何をすればいいのかは分かったかな」

 

 

 「ほぉ」

 

 

 「今日1日楽しかった。ここ最近、大好きなセンシマンを見たりしても、あまり心が弾まなかったのに」

 

 

 イチカは相槌を打ちながら簪の話を聞く。

 

 

 「多分……というか絶対に、今までの私は焦り過ぎてた。何かしなきゃ、何かしなきゃって」

 

 

 「ああ」

 

 

 「でも、昨日仙道君と話をして。今日、いろいろと遊んで。その焦りがスーッと無くなった気がするんだ。だから、しっかりと気分転換は出来た」

 

 

 「そうか」

 

 

 そこで簪はいったん立ち止まる。

 それに伴いイチカも立ち止まり、簪の方を見る。

 

 

 「だから、私はこれからいろいろな事をやってみるよ。焦り過ぎて、もうゴールデンウィークだってのにクラスに馴染めてないし……それで、その先に、自分の、自分だけの強さを見つけて、自分がやるべき事をやっていこうって。私の夢の原点は、今からなんだって。決心できた」

 

 

 「決心できたか……」

 

 

 イチカはそう呟くと、取り出そうとしていたのとは別のタロットカードを取り出し、簪に見せる。

 

 

 「STRENGTHの正位置、強固、そして意思……大きな困難や試練でも、強い意志を持ってやり遂げられる……お前はお前だ。全力でぶつかっていけ。なんかあったら、まぁ手伝ってやるよ」

 

 

 言い終えたイチカは、何時ものニヤッとした笑みではなく、爽やかな笑顔を浮かべる。

 それを見た簪は顔を赤くするも、ブンブンと頭を振ってから、満面の笑みを浮かべる。

 

 

 「仙道君。今日はありがとう!!」

 

 

 「どーいたしまして」

 

 

 2人は笑い合い、穏やかな表情のまま学園島へと移動し、各々の部屋へと帰って行った。

 

 

 部屋に無事帰って来た簪は。

 

 

 「~~~っ!!!!」

 

 

 顔を真っ赤にしながへなへなと座り込んだ。

 

 

 「あの笑顔は強いよぉ……」

 

 

 簪が落ち着くまでに、実に40分の時間を要した。

 ただしその時間の間に、センシマンのキットの箱は少し潰れてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆オタクロスの、オタ知識デヨ~~!!☆

 

 

 今日新しく出て来た4人についてまとめてみたデヨ!

 みんな、しっかり確認するデヨ!

 

 

 〇北島小次郎

 

 キタジマ模型店の店長。

 強面であるが故初見の人には怖がられるが、子供相手でも相手の目線に立ち真剣に対応してくれる為、人気が高い。

 

 基本的に「店長」としか呼ばれないため、下の名前を知っている人間は少ない。

 最近の悩みは腰痛と、ダイキとその友人達が中々店に顔を見せてくれない事。

 

 

 〇北島沙希

 

 キタジマ模型店の副店長で小次郎の妻。

 男勝りな性格で、結構いい加減だがドジっ娘人妻という属性過多ウーマン。

 

 かなり過激で色気のある格好をしているため、男子小学生に悪影響を及ぼしている。

 彼女目的の常連客も多いが、本人は小次郎一筋である。

 

 

 〇大空ヒロ

 

 ダイキの友人の友人。

 格闘ゲームのプロゲーマーで、現在はアメリカを拠点に活動している。

 根っからの特撮ヲタクで、宇宙英雄センシマンが大好き。

 同じ特撮好きには初対面でもぐいぐい行く。

 

 特撮好きになった理由は、研究職の母親が家を開けがちだったから。

 今現在、その母親とは連絡が付かないらしい。

 

 

 〇宇宙英雄センシマン

 

 今から6年前、ISが開発される前に放送された特撮ヒーロー。

 王道の勧善懲悪ではあるが、深みのあるストーリーと感情移入しやすい魅力的なキャラクターが特徴的で、現在でもかなりの人気を誇っている。

 




 次回予告

 ゴールデンウィークも終わり、学業に励む日々が帰って来た。
 嫌っている2人と再び顔を合わせないといけない事にイライラしているイチカに、転校生というニュースが飛び込んでくる。

 「はぁ……全くもって面倒だ……」

 次回、IS~箱の中の魔術師~『新しい悩みの種』、見てね!


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