リリカルなのはvivid クローンの生き様 (アテナ(紀野感無))
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プロローグ 〜復活!〜

こんにちは 初めましての人ははじめまして 
こちらは以前書いていたもののリメイク版となります

様々な部分が似ているのでみたことある方もいるかもしれません

改めて、よろしくお願いします

それではどうぞ






いつも夢に見るのは、失敗しなかった日々。
 
とある好奇心から発生してしまった
 
右腕と左目の負傷。それによるほぼ確実な現役引退。
 
それが何もなく、今でも現役でバリバリ戦っている自分。
 
だけど夢なはずなのにそれは嘘であるということがよくわかる。
 
だが、全ては自分の責任だ。
自分の実力と相手の実力の違いもわからずただ戦ってみたい、という好奇心から生み出した
右腕と左目の負傷。
 
そう、全ては自分の責任だ。
 
そう言い聞かせると夢の世界から現実に引き戻される感覚が強くなってくる。
 
そして、いつもの少しうるさい音が聞こえてくる…


「……ねぇ、いまどういった状況でしょうか?」

 

いま目の前に、墨のつけられた筆を持ちいまにも顔に落書きをしてきそうな姿勢のーー自分と養子縁組で母親のーー八神はやてがいた。

 

「いやー、ユタが随分と気持ちよさそうに寝てたから悪戯しよう思てな?」

「私これでも女且つあなた様の娘なんだけど⁉︎」

 

 

寝ていた少女の名前は八神ユタ。金髪の髪を肩まで伸ばしており、右目は緑、左目は赤という虹彩異色が特徴な少女。あとは平たい胸。中等部1年、年齢は12歳。

八神はやてと血の繋がりがあるわけではないがひょんなことから八神家に引き取られた。

ユタの過去についてはユタ自身もよく知らなかった。

 

が、割と本人もどうでも良いと思っている節がある。

 

 

 

「まあまあ、そんなことより今日からまた練習するんよね?」

 

「うん。病院で正式に診断してもらってからだけどね。にしても本当にするの?」

 

「そら、我が子の復帰戦までの道のりをサポートするって決めてるからな!」

 

と、明るい笑顔で言ってくる。今まで何度この笑顔に助けられたのか分からない。

 

 

振り回されたことも数多とあるけど。

いやむしろ振り回されたことの方が多いかもしれない。

 

 

「それはありがたいけど、母さん仕事があるでしょ?」

 

「大丈夫大丈夫!シグナムやザフィーラにも手伝ってもらうから!」

 

「ザフィーラはともかくシグナム姉さんは軽く命の危機を感じるんだけど……」

 

母さんがサラッと余命宣告をしてくる。

 

実際、ザフィーラはこちらに合わせて特訓をしてくれるけれどシグナム姉さんは容赦無い。気がする。普段の道場の子にはとても優しいはずなのに。何でだろうね。

 

「あ、やば」

 

時計を見るともうそろそろ準備を始めないと始業式に遅れそうになっていた。

 

「とりあえず、学校の準備するからどいてよ。あ、私の愛機(デバイス)は?」

 

「あ、それはいま調整中やて。あと、なのはちゃんが話がある言うてたから放課後に病院行った後によって上げてーな。デバイスも終わるころになのはちゃんの方に届けとくな」

 

「わかった。病院行って許可もらえなかったらバックれてやる…。それじゃあ行ってくるね」

 

「行ってらっしゃーい」

 

 

 

 

そのあと、朝食を食べ歯も磨いた後は普通に学校――St.ヒルデ魔法学院の中等部まで来た。時間はSHRが始まるジャスト15分前。

まだちらほら登校している生徒もいる。

眺めてるとあることを思い出して鞄の中を漁る。

 

「包帯忘れてた。ちゃんとつけないと」

 

包帯を取り出し左目にガーゼを当てながらが綺麗に隠れるように巻く。別にもう見えるようにはなっているのだが、左右の瞳の色が違うのを隠すのと、あとは単純にこの姿の私かっこいい!みたいになっていたりもする。

 

もちろん誰にも言ってないです。

 

あとはもう少し休ませておくべきだと先日かかりつけの病院で言われたから。

 

家ではもちろんそんなことしない。理由はもちろん狸こと母さんにいじられるからです。

 

さて、それはいいとして

 

「今回こそ学年主席の座を奪ってやる……」

 

初等部からずっと2位止まり。今回こそ学年主席を取ってやる。

 

1位の名前だけは知っている。

 

 

アインハルト・ストラトス。

 

 

同じクラスにはなったことないし見たことないけど噂は聞いたことがある。

なんでも高嶺の花らしくぼっちなんだとか。

 

ぼっちに関しては人のこと言えないけど。

 

「まあ、気にしてもしょうがない。頑張りますか」

 

 

 

 

〜放課後〜

 

試験が終わり、その後のクラス振り分けをされた。

それと同時に試験の結果発表も。

 

「クラスは……1組ね。にしてもまた主席と取れなかった…。アインハルトって人、どんな頭してんの……」

 

「私がどうかしましたか?」

 

「ひゃいっ⁉︎」

 

急に横の席の人に話しかけられた。……ん?私がどうかしました?ってことは隣の人が……。

 

「失礼しました。アインハルト・ストラトスです。あなたが私について何か言っていたように聞こえましたので」

 

「あ、あーごめんなさい。いや学年主席を取りたかったのにまた取れなかったから悔しがってただけ。私は八神ユタ。よろしく、アインハルトさん」

 

と、形式上の挨拶を済ませるとチャイムが鳴った。

 

「(にしても、きれいな虹彩異色だったなあ。少しうらやましい)」

 

っと忘れてた。病院の時間がもうすぐだから早く行かなきゃ。

 

 

 

 

〜病院〜

 

「え?それは本当ですか……?」

 

「はい、本当です」

 

今は診断をしてもらっていた。最後の診断になるかもしれない。

結果がどうなるのか、心臓がバクバクと鳴っている。

 

「本当ですか?後で嘘でした〜とかっていう母さんみたいなオチだったら許しませんよ?」

 

「ええ。私は嘘をつきません」

 

「…………」

 

 

 

「やったぁぁぁぁぁ!やっと復帰ができる!!!!」

 

「はい、おめでとうございます!まだ完全とは言えませんが右腕も、左目もほとんど治っています。本当におめでとうございます!」

 

「いえ、こちらこそ!ほぼ諦めてたのに先生が辛抱強く治療を続けてくださったおかげです!」

 

「いえいえ、それじゃあまだ無理はしないよう気をつけてくだいね?」

 

「はい、わかりました!今までお世話になりました!」

 

「はい、お大事に〜」

 

 

 

 

「母さん、シグナム姉さん、ヴィータさん、ザフィーラ!やっと完治できたよ!」

 

『おお!おめでとう!』『よかったなぁ!』『よかったな』『じゃあ、これからまたお前とやりあえるんだな!楽しみにしてるぞ!』

 

と、病院から出てすぐに完治報告を母さんたちにすると、シグナム姉さん、母さん、ザフィーラ、ヴィータさんの順で祝福してくれた。

 

「あ、そのことをなのはさんにも伝えてくるからまた後でね」

 

『うん、また後でなー』

 

 

「はぁー、ようやく体を動かせる!」

 

嬉しさのあまり飛び跳ねながら高町家に向かう。周りからおかしい子のように見られているがこの際関係ない。

 

このために一年耐えたと言っても過言ではないのだから。

 

「ととっ、ついたついた」

 

いつの間にか家の前についていた。そして、呼び鈴を押すと『はーい』と緩やかな声が聞こえてきた。

 

「あ、ユタちゃん。ちゃんと来てくれたんだ!」

 

出迎えてくれたのは高町なのはさん。管理局航空戦技教導隊……まあ簡単に言うと管理局っていうところのお偉いさんで母さんの親友。

 

「はい。ご無沙汰していますなのはさん。あとは報告もしに来ました!」

「そう。その様子だと……」

「はい!今回ので無事!」

「それはよかった!あ、フェイトちゃんも今いるから、一緒に教えてあげて。それとね、会わせたい子がいるの。入って入って」

「お邪魔しまーす」

 

中に入ると同じく母さんの親友フェイトさん。そして一人、子供がいた。

 

「あれ?ユタちゃん?」

「あ、フェイトさん。お邪魔します」

「いえいえ、ゆっくりしてねー」

 

「あれ?フェイトママ、なのはママ。その人は?」

 

フェイトさんに挨拶をしていると子供が挨拶をしてきた。そして、その様子を見て私は驚いた。だって…

 

「え……虹彩異色……私と同じ……。

 

ていうかなのはママとフェイトママって!

お二人共どうやって子供作ったんですか⁉︎

そんなに人類史の医学進んでるの⁉︎」

 

自分と同じ目の色+女2人なのに子供ができていたことに一瞬耳が壊れたのかと疑った。

 

 

いやぁ、同性愛を否定はしませんが……うん、お幸せになってください。

 

 

「あれ?ユタちゃんにはヴィヴィオを紹介したことなかったかな?ヴィヴィオ、挨拶しなきゃ」

「あ、ごめんなさい。初めまして!高町ヴィヴィオです。st.ヒルデ魔法学院の初等科4年生です!」

 

「わざわざありがとう。元気なのは良いことだぁね。私は八神ユタ。st.ヒルデ魔法学院の中等科1年。よろしくね」

 

と、自己紹介を終えると高町ヴィヴィオさんはそわそわと落ち着かない雰囲気で私を気にしていた。

 

「ん?どうかした?」

 

「あのー、違ってたら申し訳ないのですが……。ユタさんって一昨年のインターミドル都市本戦2位のユタ選手ですか?」

 

一昨年、都市本戦2位なら多分私ですねはい。

 

「あ、あー。うんそうだよ。出てた出てた。にしてもよく知ってるね」

 

「やっぱりですか!名前を聞いたときからそうなんじゃないかって思ってたんですよ!」

 

ヴィヴィオちゃんは超が付くほどの純粋な眼差しでこちらを見てくる。すっごい照れる。

 

「あれ?でもなんでユタさんがウチに?」

「確かにそうね」

「ああ、そういえば。忘れてた。なのはさん、大丈夫ですかね」

「うん、いいよー。その後にはヴィヴィオにもサプライズあるよー」

 

なのはさんにも許可をいただいたので改めて高らかに言う。

 

 

「約一年ほどの治療の結果、右腕と左目はほぼほぼ完治いたしました!これで体も思いっきり動かせますし大会なんかにも顔を出せるようになりまっす!」

 

 

「やっとよかったね」

「よかったねー。ユタちゃん」

 

と完治の報告をするとなのはさんもフェイトさんも喜んでくれた。

ヴィヴィオさんは1人だけわかっていない様子だった。

 

「実はさっき言ってた一昨年のインターミドルの都市本戦決勝で左目と右腕が潰れちゃってね。それで去年はほぼ丸一年治療に専念してたんだ」

 

「え?!そうだったんですか⁉︎でも確かに去年のインターミドルとかの大会ですら……。あれ?でもその目の包帯は……」

 

「あーうん。もう暫く休ませておくことって言われたのと……ほら、カッコいいと思って?」

 

と、真面目に答えると3人にポカーンとされた

 

「と、とにかく!話は別にそんな大した意味ないのでなのはさんたちの方もどうぞ」

 

「うん、そうだね。ヴィヴィオ。ヴィヴィオはもう四年生だよね?」

「そーですが?」

「魔法の基礎も大分できてきた。だからそろそろ自分用の愛機デバイスを持ってもいいんじゃないかなって」

「ほ…ホントッッ!?」

 

おお、まさかの初の愛機手渡し。にしても、こんな場面にお邪魔させてもらっていいのだろうか。

 

「実は今日私がマリーさんから受け取ってきました」

 

と言いながらフェイトさんが箱を持ってくる。

マリーさんは……わかりません。

 

「ユタちゃんのデバイスも預かってるよー。これだよね?」

 

フェイトさんに手渡されたのはウロボロスの紋章の形をした私の愛機プライドだった。そういえば高町家のほうに送っておくって言われてたっけ。

 

「ありがとうございます!いやー、久しぶりだねぇプライド!」『お久しぶりです。マスター。……少し会わないうちに老けました?』

「老けてないです」

 

第一声失礼なもの言い。うん、愛機の傲慢の罪(プライド)だと確信した。

 

これならインターミドルにもちゃんと出れそうだね。

 

頑張っていきますか!



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1話 〜復帰練習1日目〜


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 
「「「連続傷害事件?」」」
 
『ああ、まだ事件ではないんだけど』
 
「どゆこと?」
 
と、ナカジマ家では今噂の連続通り魔の事件について話していた。
部屋にはノーヴェ、チンク、ウェンディがいた。
 
『被害者は主に格闘系の実力者。そういう人に街頭試合を申し込んで…』
「フルボッコってわけか?」
 
ノーヴェが答える。
 
「あたし、そーゆーの知ってるっス!喧嘩師!ストリートファイター!」
「ウェンディ、うるさい」
 
『ウェンディ正解。そういう人たちの間で話題になってるんだって。被害届が出てないから事件扱いではないんだけど。みんなも襲われたりしないように気をつけてね』
 
「気をつける。つーか来たら逆ボッコだ」
 
「で、これが容疑者の写真か」
 
『ええ』
 
と、映し出されていたのはバイザーをした、少し大人びた女性だった。
 
『自称【覇王】イングヴァルト。古代ベルカ聖王戦争時代の王様の名前ーーー』




ヴィヴィオちゃん達の愛機(デバイス)のセットアップを眺めていると大人のような姿に変身をしていた。

 

「……?どこかで見たことあるような……」

 

こう、何か母さんの事件の主要人物ファイルを覗き見した時に見た気がする。

 

ボーッと考えているとフェイトさんが口を開けて戸惑い、その場にヘナッと座り込んでいた。

 

「あ、思い出した……。JS事件の時の……私と同じ……」

 

小声で思わず言ってしまう。がそれがなのはさんにも聞こえてたらしく隣に座って話しかけてきた。

 

「どう?ユタちゃん。自分以外のクローンを見た感想は」

 

「へ?いや別に何もないです無いです。クローンだろうがなんだろうが人間なんですから」

 

「うんっその答えが来ると思ってた。これからも仲良くしてね」

 

「はい、もちろん」

 

『マスターがお宅のお嬢様に手を出さぬよう私が随時見張っておりますのでご安心ください』

「おいコラ、どういうことよ」

 

すぐそばではフェイトさんがやけに慌ててヴィヴィオとなのはさんの間を行ったり来たりしている。

なんで聖王モードに⁉︎とか色々と言っている。よほど混乱してるのだろう。

 

「フェイトちゃん、落ち着いて。これはね?」

「ちよ…なのはママ!なんでフェイトママに説明してないのー!」

「いやその…ついうっかり」

「うっかりってー!」

 

 

「賑やかな家庭だなぁ」

『我が家も劣らず負けずだと思いますが?』

「確かに」

 

 

しばらく見てると家族会議みたいな雰囲気になていた。

正直に言おう。

 

蚊帳の外である。

 

「親子になって時はゆっくりと流れてるって、思ってたんだけど。なんでまたこんなことに」

 

こんなことって言うのは多分ヴィヴィオちゃんの大人モードだろうね。

 

「あー、えーと」

 

「いや、あのね フェイトママ?大人変化自体は別に聖王化とかじゃないんだよ。魔法や武術の練習はこっちの姿の方が便利だから、きちんと変身できるよう練習もしてたの。なのはママにも見てもらって、もう大丈夫だね、って」

「ハッ、そうなの!」

 

ハッて、なのはさん。そのこと忘れてたの?

 

「でも…」

 

だけど、フェイトさんはまだ渋っている。

 

「んー…。クリス変身解除(モード・リリース)!」

 

と、その合図とともにヴィヴィオちゃんが元の姿に戻った。

 

「何より変身したってヴィヴィオはちゃんとヴィヴィオのまんま!ゆりかごもレリックももう無いんだし。だから大丈夫。クリスもちゃんとサポートしてくれるって」

「うん……」

「心配してくれてありがとう。フェイトママ。でもヴィヴィオは大丈夫です」

 

うわー、なにこの超理想的な家族の団欒。本当に邪魔者になってきた気がするよ。

 

「ゆりかごにレリック……」

『何か知っているので?』

「いや全く。母さんの資料を盗み見た時に載ってたのを知ってる程度」

 

プライドと話してるとヴィヴィオちゃんがわざとらしくクルッと一回転し悪戯な笑みでなのはさんとフェイトさんに言う。

 

「それにそもそもですね?ママたちだって、今のヴィヴィオくらいの頃にはかなりやんちゃしてたって聞いてるよ?」

 

と、その一言でママ2人が一気に顔を赤らめる。むぅ、この子意外とやり手だな。

 

「そうだねー。母さんから聞いた話しかないけど。一般人じゃやらないようなこととかやってましたしね。あ、なんならヴィヴィオちゃん聞きい?」

「え?いいんですかっ!」

「いや、ちょっと待ってユタちゃん!はやてちゃんからの情報は信憑性ありすぎていろいろと困るから!」

 

と、ただ情報を横流ししようとしたらフェイトママに慌てながら口を塞がれた。なのはさんからはなんとも言えない威圧感が出てて怖い。

 

「ま、そんなわけで。ヴィヴィオはさっそく魔法の練習に行ってきたいと思います」

「あ、私も!」

 

と、そんな会話をしながらヴィヴィオちゃんとなのはさんが外に出る。

 

「あ、ユタさんもご迷惑じゃなければ練習してくださいませんか?ユタさんの技を是非とも見てみたいです!」

「全然いいよ。2年前のカンも取り戻したいしね」

「やったー!ありがとうございます!」

「それにプライドも感覚鈍ってるかもだしね?」

『はっはっは。貴方が好きな作品のセリフを忘れるくらいあり得ないですよバカマスター』

「言うねぇ」

 

にしてもわかる。

 

やばい、この子天使だ。私の周囲の人間たちの中では間違いなくダントツで天使だ。ものすっごいピュアな天使だ。

 

穢せないですわね。

 

 

 

 

「やっぱりいいなー♪大人モード♪ねークリスー♪」

『ピッ!』

「だよねー♪」

 

今は練習もできる公園に向かっているのだがヴィヴィオちゃんはものすっごい上機嫌だ。よほど大人モードができたのと愛機(セイクリッド・ハート)(通称クリス)ができたのが嬉しいんだろうね。うさぎの人形にしか見えないんだけどね。

 

懐かしいなぁ…。

 

まあ私のは後々クソ生意気な性格になったけどさ。

 

「ユタちゃん、ごめんねー。わざわざヴィヴィオの練習に付き合ってくれて」

 

「全然いいですよ。他ならぬなのはさんとその娘さんからの頼みですし。それにどーせ帰ったらシグナム姉さんにしごかれますから。後、まだ付き合うって決めただけでやってはないのでそのセリフは早いですよ」

 

「うん、そうだよね。でも、ありがとうね」

 

「あ、そういえば私の生まれについてはヴィヴィオちゃんには?」

「あ……」

 

………そろそろ呆れてもいいよね?この天然な方には。いや呆れてもいいはずだ。

 

「まあ、聞かれたら答える、位でお願いします。別に隠してるわけじゃないんですがあまり言いふらしたくないんで」

「うん、わかった!」

 

その後もしばらく歩いているとなのはさんとヴィヴィオちゃんで幾つかの約束事を取り決めていた。

 

これに無下に入るほど空気読めない人じゃ無いですので動画をこっそり撮っておくことに留めておく。

 

ウチの狸もとい母さんに見せたら少しは私への態度が変わるかもしれない。

 

『あの人に限ってそれはあり得ないかと』

「起きてたんかい。てか口に出てた?」

『いえ。ですが考えてる事くらいお見通しです』

「何処でその読心術習ったのか知りたいよ」

『トップシークレットなので無理ですね』

「知ってた」

 

そんなことを話しているとまた2人でじゃれ合っている。2人はここに他人がいることをお忘れじゃありませんかね?

 

 

まあ心が癒える動画が撮れたからよしとしよう。

 

 

 

〜市民公園内 公共魔法練習場〜

 

「じゃ、基本の身体強化からね。それから放出制御!」

『ピシッ!』

「クリスの慣らしもあるんだからいきなり全開にはしないんだよ」

「だーいじょーぶ!」

 

ふむ、私はどうしようか。慣らしの部分は他人が入るのはやめたほうがいいだろうし。それなら

 

『なら、約1年ぶりのセットアップでもしてみます?」

「お、いいねー。プライド。乗った」

 

軽い準備運動をしてプライドを手に持つ。

 

「準備OK?」

『いつでもどうぞ』

「はいよ。プライド。セットアップ」

 

その掛け声とともにヴィヴィオちゃんがやってたような光に包まれる。すると私にとっては見慣れた、外装になった私が姿を現した。

 

肩から先はほぼ全て露出していて髪も少し伸びており後ろで束ねている状態に。服は黒一点のみのシャツっぽいものと同じくほぼ黒一点のズボンだけだ。というか、外装というより夏場の少年?みたいな服だ

 

所謂、ハガレンのグリードを真似た姿。よくなんでこんな姿にと言われてるんだけど。

 

 

んなもん好きだからに決まってるだろう。

プライドもそうだ。10歳程度の子供がウロボロスの印の傲慢の罪とかいう名前のものを好き以外の理由で取るわけがないでしょう。

 

「にしても、1年くらい離れてたとはいえまだちゃんとできるもんだねぇ。これもプライドの性能のおかげなのかな?」

『当然です』

「否定しないのね」

『半分くらいしか思ってませんよ。こればっかりはマスターのイメージで左右されるのでマスターの力と見ていいかと。私はただそれの補助をしているだけなので。というか、マスター』

「ん?何」

『その眼の包帯はいつ頃取るんです?』

 

……忘れてた。まあいっか。別にかっこいいし。

 

 

 

その後、軽く体を慣らした後ヴィヴィオちゃんの元に戻るとそちらも慣らしが終わったらしく少し休憩を取っていた。

 

「あっ!ユタさん……ですよね?」

「うん、そだよー。いまはセットアップしてるからこんなだけど解除すれば元に戻るよ」

「なるほど。後ユタさん、えーとですね…」

 

と、またヴィヴィオちゃんがモジモジしながら言っていいのか迷っている。みたいな感じになっている。

 

「どうしたの?別に私の生理的に無理なこと以外だったら何も嫌がったりしないから言ってみなよ」

『マスター、最初の一言が非常に余計な気が』

 

「えーとですね。練習に付き合って欲しいんです!手合わせ、お願いできませんか!」

 

「うん。ok〜だぁよ〜。あんまり無理はできないけどね」

 

「やったぁ!ありがとうございます!」

 

ヴィヴィオちゃんは飛び跳ねんばかりに喜んでた。

 

この子純粋すぎて穢れた私ではみてられないかもしれない。

 

あと豊満なバストが揺れに揺れてちょっと私には目に毒です。

 

邪な考えは置いといて練習を始める。

 

「プライド、視覚補助お願い」

『了解しました』

 

内容は主にストライクアーツの型の練習だった。

それの受けをする役目に抜擢されたというわけだ。

 

「へぇ、なかなか筋がいいんだね。それに師匠にも恵まれているようで何より何より」

「はいっ!それに最近は友達とも一緒に練習するようになってますます楽しくなってますっ!」

「私の師匠もヴィヴィオちゃんみたく優しかったらいいのに」

 

それに、この子の型……ああそれで私か。

 

「もしかしてヴィヴィオちゃんが師匠に教えてもらってる型ってカウンターヒッター?」

 

「えっ?なんでわかったんですか?!」

 

「いやー、なんでというか。私と同じだから?いや違うな。君は生粋のカウンターヒッターとしてだから私みたいなのとは違うと思うし…。……そうだ、ヴィヴィオちゃん。一試合やってみない?インターミドルみたくガッチガチのじゃなくて、軽く拳を交える程度の」

 

「いいんですか⁉︎是非是非!」

 

「けど、なのはさんが許してくれるならなんだけど……ってなんでなのはさん涙目?」

 

ベンチにいたなのはさんを見ると何故か涙目になっていた。

 

「うう、だって2人とも私のこと忘れてる気がして…。あ、怪我しない程度ならどんどんやっちゃいなよ」

 

と、なのはさんからの許可も出たので私とヴィヴィオちゃんが構える。

 

「あー、そうだ。ただ手合わせするのもつまらないね。んー、ヴィヴィオちゃん」

 

「はい?」

 

「この試合中に私に()()()()()()()()()()()()()()()()何か一つ、なんでもお願い聞いてあげるよ」

 

それを言った瞬間、明らかにヴィヴィオちゃんのやる気が上がったのがわかる。こういう相手のやる気をあげるのが得意なのは母さんからの遺伝なのかね。血は繋がってないけど。

 

「それ、本当です?」

 

「本当本当。学校の友達とならまだしも君みたいな子やなのはさんのいる前では嘘はつかないよ。さあ、どこからでもどうぞ♪」

 

と、その言葉と共になのはさんのデバイスレイジング・ハートがゴングを鳴らしてくれる。

 

すると、開始早々ヴィヴィオちゃんが突っ込んでくる。しかも思いっきり利き手の右で顎を狙ってアッパーをかましてきた。

それを避けると今度はそれを読んでいたとばかりに左で打ち込んでくる。

 

今度はその打撃を避けずに受け流す。すると今度は上段蹴りをしてくる。

 

「(間違っても直撃しようものならヤバそう)」

 

せっかく治ったのにまた治療する日々は流石に嫌ですし。死ぬ気で避けます。

 

そこからはひたすらあえてヴィヴィオちゃんの得意スタイルで攻めさせる。いや正確にはカウンターヒッター型なので得意スタイルとは言えないか。それでもひたすら近距離でのジャブや蹴り、それらを混ぜたコンビネーション技みたいなのもやってきてくれた。

 

だけど、それをひたすら避けた。それか受け流していった。

 

 

 

 

 

「(まっずい、調子に乗って飛ばしすぎた……)」

『アホですか、マスター。まだ体力も戻ってないというのに』

 

と、あれからひたすら避けてはいるが体力に限界が来ていた。

避けるというのは体力とかはいらないと思われがちだが相手の攻撃を見切るために見ることに集中しないといけないし今みたいに連続で攻撃される立場になった時の体力の消耗は半端じゃない。

 

まあ、今回のは私から煽ってやらせたわけなんだけど……。

 

『マスター前々から思ってたんですが……バカですね』

 

ひっどいなぁプライド。それでも私の愛機ですか?

『はい、愛機です』

そしてサラッと心を読んでくる。数年も一緒だともう驚かない。

 

「いっ?!」

 

やばい、避けすぎて足フラフラになった所を狙われた。しかもその足を。可愛い顔して案外えげつない…。

 

「やぁぁっ!」

 

「うわ、ちょいまち…」

 

と、好機とばかりにヴィヴィオちゃんが今までにないようなラッシュをかましてくる。

 

途中足捌きを間違え、よろけてしまった。

そこを見逃してくれるはずもなくヴィヴィオちゃんの拳が眼前まで迫ってきて、一瞬走馬灯が見えそうだった。

 

「あー、うん。参りました」

 

けど優しいことに当たる直前で止めてくれた。

なんともありがたい。たぶんあの勢いで入ってたら気絶してた。

 

「ありがとうございました!とても有意義な時間でした!」

「いえいえ、こんな程度でいいならいくらでも。あ、最後の一撃止めてくれてありがとうね。でも一発入れたらって話だったのになんで?」

「えっとですね。ユタさん。練習がほぼ一年空いてるっておっしゃってたじゃないですか?」

「うん言ってたよ」

 

「だから、もし当てちゃったらまたユタさんの復帰を延ばしてしまうんじゃないかと思いまして…」

 

女神だ。女神がここにいたよ。世界のみんな。

 

「私の体を心配してくれたんだ。ありがとうね。あ、約束のなんでも一つお願い。何か決めてる?」

 

「あ、はい!それはもう!えーと、明日から私たちと一緒に練習してもらえないかなーって思いまして」

 

遠慮しがちに言ってくる。提案したのは私なのになんで遠慮してるんだろうね。

 

「私から言ったんだから遠慮なんて必要ないよ。それに、練習なら日程被りさえしなければいくらでもオッケーだよ」

「本当ですかっ!ありがとうございます‼」

 

めちゃくちゃ喜んでいるから、まあ私程度が役に立つなら良いでしょう。こんな天使な子を見れるなら満足です。

 

「あ、そうだ。このことリオやコロナにも教えないと!」

 

また忙しそうにメールを打っている。

 

「なのはさん…お宅の娘さんは女神ですね…」

 

「ふふーん、でしょ?」

 

と、なのはさんがドヤ顔を決めてくる。

なんか面白かったのでコッソリ写真を撮っておいた。後で母さんにも見せてみよ。

 

「ユタさん、友達に写真を送りたいので一緒に撮ってもらえないですか?」

 

「いいよ、全然オッケー」

 

と、了承するとクリスが写真を撮ってくれる。この子飛べるわ自分の意思を持ってるわ、写真も撮れるわでいろいろと便利だね。

 

そんなこんなで復帰戦へ向けての練習一日目が終わった。



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2話 〜通り魔〜

八神ユタ

特徴 虹彩異色(右目が翡翠、左目が紅玉のオッドアイ)
金髪 あと貧乳

幼少期に地球で過ごした影響からかアニメ大好き
一番好きなものは鋼錬。愛機(プライド)の見た目は自分の尾を噛んで円形をなす龍、ウロボロスを象っている。セットアップをする際は左手の甲に刺青のような形になる。

母の八神はやてとは血の繋がりはない。原作でいう高町家のような感じ。

相当な魔法戦技オタクで、自分が当たる可能性のある選手から暇な時は他グループの情報収集をやることも。

性格は結構はやてに似てきている、と周りに言われている。本人は否定しているが。




「なのはさん、ヴィヴィオちゃん。今日はいろいろとありがとうございました」

 

「いえいえー」「私こそありがとうございました!」

 

「また明日から練習するときになったらメールしてね。できる限り行くようにはするから」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

と、そのまま分かれて帰路に就いた。

 

 

 

 

 

「ふう、楽しかったねー。プライド」

『私も久しぶりにあんな楽しそうなマスターを見ましたよ。それはそうとマスター』

「ん?どうしたの?」

 

『なぜ、フードをそんなにかぶっているんですか?周りが見えづらくないですか』

 

「なぜかって、夜道に片目だと危ないし。両目の視界にも慣れないといけないし。けどあまり目については見られたくないし。あとサングラスとかよりはフードのほうがかっこいいからかな?」

 

『いつも思ってるんですが、マスターの感覚ってなんかずれてますよね』

 

「否定はしない」

 

さすがは初等科のころからの愛機。私の性格をよくわかってらっしゃる。

 

「さて、今日はそのまま家に帰るかな」

『というか、そろそろ部屋の片付けをしませんか?主にグッズ』

 

やだよ、全力で却下する。あそこは私にとっての楽園(パラダイス)なんだ。

 

 

 

「やっと、やっと見つけました。聖王オリヴィエ」

 

「んー?プライド何か言った?」『いえ、私ではありません』

 

んじゃ誰だと思い声のした方を見上げると少し大人びた人がいた。

 

髪は薄い緑でバイザーをしているから顔は正確にはわからない。

 

 

うん?ていうかどこかで見たことあるような?

絶対つい最近な気がするんだけどな。

 

 

そんなことを考えていると目の前に降りてきた。

 

「あなたにいくつか伺いたいことと確かめたいことが」

 

うーわ、これ絶対めんどくさい奴。聖王とか言ってた気がするし。

 

「せめてバイザーとってから名を名乗りなよ。でないとこっちとしても答える気が失せるんでね」

 

「失礼しました。カイザーアーツ正統ハイディ・E・S・イングヴァルト。『覇王』を名乗らせていただいています」

 

バイザーを取った顔を見て確信する。うん。アインハルト・ストラトス、だったっけ。

 

にしても、覇王ねえ。ってうん?てことはなに?聖王のクローンである私と勝負したいとかそういうことなのかな?それだったらいやだよ。

 

なにはともあれ、めんどくさくなりそうなのでフードを深くかぶる。

もう瞳は見られてるから意味は薄いだろうけど。

 

それでも顔バレは避けたいし。

 

「伺いたいというのはあなたを含めた『王』達についてです。聖王オリヴィエと冥府の炎王イクスヴェリア」

 

そうだろうとは思ったけど。正直何も知らないとしか言いようがない。

 

けどなんか正直に言うのはさ、うんほら、嫌です。

 

「なんで言えばいいのやら。正直私は聖王の血とやらはあるかもしれないけど、そういうのはどうでもいい。いやむしろその生まれについてネチネチ言ってくる奴は大嫌いだね。特に君のような過去に囚われてるような奴は、ね」

 

「それは失礼しました。では確かめたいことというのは、あなたの拳と私の拳、いったいどちらが強いのかです」

 

はい予想的中。

 

「やだ。やる意味がないし」

 

「あなたに意味がなくても私にはあるんです」

 

うんこれ人の話聞かない奴ですね。

 

「それに……」

「?」

 

「列強の王達をすべて斃し、ベルカの天地に覇を成すこと。それが私の成すべきことです」

 

ああ、死ぬほど嫌いなタイプだこれ。

 

「……あーもういいよ。わかった。やってあげるよ」

『マスター?何を考えていらっしゃるので?』

 

プライドが何か言ってくるがどうでもいい。とりあえずこいつは一発ぶっ飛ばすことに決めた。世間の広さを教えてやる。

 

 

ぶっ飛ばせるかは知らないけど。

 

 

「ありがとうございます。では防護服と武装をお願いします」

 

「ん、そりゃどうも。わざわざつけさせてくれるんだ」

 

と、自称覇王サマに言われさっきまでしていたセットアップ状態になる。

 

「……?それがあなたの武装ですか?」

 

「そうだよ。さっさとかかってきなよ覇王サマ。プライド、視覚補助に全魔力回して」

『はぁ、承知しました』

 

「では、参ります」

そこそこ距離があるのに構えた?空戦(エリアル)射砲撃(ミドルレンジ)主体?

 

「へ?おわっ⁉︎」

 

あっぶな!あの距離を一瞬で詰めてきた。

 

 

しかも思いっきり顔面狙ってきたし!両目じゃなかったら絶対よけれず一発KOだったし顔に傷付いたらどーすんだよ!

 

 

『反応鈍ってんじゃないです?』

「いやいや、いきなり突撃(チャージ)はビビるって」

 

無難にすぐに距離を取る。が、すぐさま追いついてきてラッシュを叩き込んでくる。けどさっきまで手合わせをしてたから眼も慣れていて、まだよけやすく感じる

 

が、まあ問題点は練習と同じで…

 

「(プライド、もうやばいかも……)」『早くないですか⁉︎さっきまでの威勢の良さどこ行きました⁉︎)』「(しょーがないじゃん!ただでさえさっきのヴィヴィオちゃんとの練習で疲れてるんだから!)」

 

「ひたすら逃げの一手とは馬鹿にしているのですか?貴方から手を出す価値はないと?」

 

おっとまずい。私のスタイルは覇王サマにはお気に召さなかったらしい。

 

「別に馬鹿にはしてないよ。する気もないしこんな事に技術を使う君を馬鹿にする価値もない」

 

「(ピクッ)」

 

表情が僅かに動いたのが見えた。そりゃ己の技術にアレコレ言われると怒るわな。

 

「まあけどそう感じたなら謝っとくよ。でも反撃の一撃を叩き込めそうな未来は見えたかな?」

 

「そうですか。ではみせてもらいます」

 

また中距離からいきなり詰めてラッシュを叩き込んでくる。

 

が、ぎりぎりの体力を残すように避けて避けて、ジッとタイミングを待つ。

 

正直一発食らえば終わりだからヴィヴィオちゃんの時より神経使う。

 

けど、少しずつ強烈なのを打ち込んでこれるようあえて()()()()()()()()

 

「(頼む…早く…)」

 

「……っ!断空拳!」

 

「『(キタッ!!)』」

 

覇王サマがおそらく必殺クラスの打撃を腹に打ち込んでくる。

 

これをよけずに右手で()()受け威力を後ろに受け流す。

そして、その威力を利用しながら回転しその勢いで覇王サマの右側頭部に裏拳を叩き込む。

 

「ッ!」

 

「どう?ご自慢の拳の威力を使われた感想は?」

 

久しぶりな割にはうまくいったね。

覇王サマは何が起こったのかよくわからない、といった感じで戸惑いながら膝をついている。

 

そりゃそうだね。なんせ必殺の拳を打ち込んだと思ったらやられたんだから。

 

 

「ふー疲れた疲れた。かえってゆっくり休みたい。グッズに囲まれてさ」ガチャ

 

「『ガチャ?』」

 

不思議な音がして振り返ろうとして見ると動けず、両手足と腹にバインドがされていた。

 

「えーと?プライドさん。これっていわゆる?」

『絶体絶命』

「デスヨネー」

 

「わたしは…負けるわけにはいかないんです……!もう誰にも……!聖王にも……!!」

 

「なーんでそんな過去の王だとかに固執するかねえ。そういうもう終わってる過去に固執するやつ、大っ嫌いなんだよ。ベルカの戦乱も聖王戦争も、ベルカの国も、もう終わってるものなのにさ」

 

「終わってないからです。私にとってはまだ何も……」

 

あっそう。

 

「プライド、後は任せた」

『まかされました』

 

さてはて無駄だとは思いますがバインドを引き千切ってみますか。

 

「断空拳!」

 

努力虚しく、今度は横から思い切り叩き込まれた。

 

そのまま近くのコンクリの壁に激突し、威力相殺しきれず気を失った。

 

 

 

 

~ナカジマ家~

 

「へー、ついにヴィヴィオもデバイス持ちっスか」

「よかったね。今度見せてもらおう」

「高町嬢ちゃんちの一人娘か。今いくつだっけ?」

「10歳ですね。4年生ですよ」

「もうそんなか。前に見た時は幼稚園児くらいだったと思ったんだがなぁ」

「それ、六課時代じゃない」「もうだいぶ前ッスよ」

 

今現在はナカジマ家六人で鍋を囲っていた。チンクやウェンディ、ノーヴェ、ギンガ、ディエチ、そしてその父親がそろっていた。

 

「ヴィヴィオの武術師範としてはやはりうれしいか。ノーヴェ」

「え。別に師匠とかじゃないよ。一緒に修行してるだけ。まだまだ修行中同士練習ペースが合うからさ」

 

そう言っているが恥ずかしさからかノーヴェの顔が赤い。

 

傍ではギンガがお代わりのほしい人はいないかと尋ねると全員元気よく、はーい、と答えていた。

 

「あ、ヴィヴィオに新しく増える練習仲間って聞いたんだけど知ってる?」

「んーどれどれ?」

 

ノーヴェはチンクたちに送られてきた写真を見せる。

 

「ああ!ユタちゃんじゃない!」

 

「ユタ?」「誰っスか?それ」

 

「八神さんとこの養子縁組の子だね。確かヴィヴィオちゃんたちも目指してるインターミドルの都市本戦に10歳で出てたかな」

 

「ふーん。って都市本戦?!」

 

「そうそう、ヴィータさんやシグナムさんにバリバリ鍛えてもらってたらしいからね。けど、決勝で怪我して早くも引退か?みたいなことで騒がれてたと思うけど」

 

全然知らねーとノーヴェやウェンディはポカーンとしながら思っていた。

 

「ま、明日会えるならその時に聞いてみたら?」

 

「そうするよ。あ、ギンガ、おとーさん。明日教会の方に行ってくるから」

「そう」「いつものお見舞いか?」

「うん、そんなとこ」

 

「じゃアタシもいくっス!セイン姉と双子をからかいに!」

「姉も久しぶりに行きたいな」

「えー!?」「駄目よー。あんまり大勢で押しかけちゃ」

 

ピピッ

 

「あ、ごめん。あたしだ」

 

と、メールがノーヴェのもとに来た。

 

「どうしたっスか?」

 

「悪い、なんか近くで人倒れてるらしいからちょい行ってくるわ。なんかほかの救助隊全員出払っててあたしが一番近いらしい」

 

「手伝うっス」

「悪い、頼む」

 

と、ノーヴェとウェンディは外に出た。



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3話 〜復帰練習2日目 私はロリコンじゃない〜

八神ユタ
戦闘スタイル

主に魔法を主体に戦っていくスタイル
原作だとコロナや番長に近い。
格闘戦はヴィヴィオ以上の超カウンター型。自分から打ち込むことは滅多にない。

『対策しづらい戦法』をモットーに戦術を組み立てていくのが得意。
また見方によっては逃げてばかりなように見えたり、弱点をひたすら突くやり方を多用することから一部には嫌われていたりする。


が本人曰く好きに言わせとけばいい、とのこと


~???~

 

「昨日の勝ち方は……もっと特訓を……

 

昨日の夜、いつもの通りストリートファイターまがいのことをしようとしていたアインハルトは途中で聖王のクローンを見つけ条件反射で勝負を挑んだ。

 

しかし勝ったとはいえ内容はとても己が納得できるようなものではなかった。

 

格闘戦で後れを取ったにも関わらず、最終的に後ろから奇襲バインドを仕掛け、動けない相手に必殺の拳を打ち込んで勝ったのだ。

 

覇王の名を継いでいる身としては余りにも、情けない勝ち方だと感じている。

 

「次出会ったら必ず……!」

 

 

 

〜ナカジマ家〜

 

 

うーん、体中が痛い。なんで痛いんだっけ?

確か学校行って病院行って、『…ター』完治できて

なのはさんたちに『マ…ター』報告に行って

そのあとヴィヴィオちゃんと練習して『マスター』

そのあとは…

 

『バカマスター。今すぐ起きないなら外部アクセスをして録画ファイル全部消しますよ』

「それはダメっ!」

 

うるさいなあ、いま目覚めかけの意識で情報整理してたんだから!あとプライドそれしたら本当にゴミ箱ボッシュートするからね?

 

……てか今私何してた?

 

 

がばっ

 

 

「うわっ、急に起き上がるなよ。体に響くぞ」

 

「……?プライド、どうなってるの?」『この方たちが保護してくれたようです』

 

目の前には赤い短髪で男っぽい顔立ちが特徴の人と青髪の人がいた。ほかにもオレンジの髪の結構美人な人や赤髪の人の髪の色だけ青、みたいな人がいた

 

「あ、どうも。片目怪我してるので閉じたまんまで申し訳ないです」

 

「いいっスよ、気にしなくて。私はウィンディ・ナカジマ。こっちが私の姉さんで」

「ノーヴェ・ナカジマだ。んで、そっちにいるオレンジの髪の方が」

「ティアナ・ランスターです。本局執務官をやってます。でラストの一人が」

「スバル・ナカジマだよ。ノーヴェたちのお姉さん。そしてティアナの親友です。ここは私の家」

 

なんか二人くらいかなりの有名人の名前が聞こえた気がするんだけど気のせいかな?

『気のせいじゃないですよ。マスター』

「プライドはさらっと私の心を読まない」

 

「起きたばっかりでごめんね。君のデバイスには話を聞いたんだけど。八神ユタさん。あなたからもお話ししてもらってもいいかな?」

 

まだいろいろと混乱してるところにティアナさんに聞かれる。

プライドにはもう事情聴取済みとのこと。

 

ゆーて言えることほとんどないような気がするんだけど。

 

「んーそう言われましても、プライドはなんて?」

 

「プライド君からは勝った後不意打ちでやられたって聞いてるよ。だから被害届を出すべきだって」

 

「あーうん。間違ってはないですが。正確には喧嘩ふっかけられて、しばらくは私が渋ってたけどその後ちょっとだけイラつきまして、喧嘩買ったら油断して負けた、って感じですかね。被害届も私も悪いし特に出す気ないです」

『いいんですかマスター。せっかく治った直後のこれだというのに」

「いいよ。別に二年前(あの時)みたいに後遺症にならなさそうだし。プライドの防御のおかげだよね。通報&防御に魔力使ってくれたからこの程度で済んだんだろうし?」

『ですね。私に感謝してください。まあ?今回はマスターが油断した結果ですし?誰でしょうねえ、疲れてるのにファイトを受け入れた阿呆は』

「ちょっと何言ってるかわからない」

 

「えーと、続きいいかな?」

 

「あ、はい。すいません。どうぞ」

 

「相手の姿とか顔は覚えてるかな?プライド君は映像記録出来てなかったらしくて」

 

……どうしようかな。あの時は半分くらい逆切れ気味だったからやるのに同意した私がアインハルトだけを貶めるわけにもいかないし。まあいいか。できる限り正直に言いますか。

 

「いえ、翡翠色?かな、わかったのはその髪色だけで()()()()()()()()()()

 

 

ほぼ正直に言ったよ?

 

私は同年代のアインハルトは知ってるけどアインハルトのお姉さんっぽい人は知らない。

顔もフード深くかぶってたからよく見てないしね?

 

「そう、ありがとうね。にしても、ダメだよー喧嘩なんてしたら」

 

「あ、はい。すいませんでした。以後気をつけます」

 

「うん、よろしい。礼儀正しいねー。本当に気をつけないとシグナムさんやはやてさんから怒られちゃうよ?」

 

ティアナさんが褒めてくれる。

 

そりゃそうですよ。シグナム姉さんなんかに作法を叩き込まれてみなさい

サルでも1時間でプロレベルに変身できる。

 

あとあの2人に怒られたらリアルで死ねるね。

 

「……?空明るい……?」

『ああ、今は朝の9時半ですよ。昨日襲撃されたのが夜の10時頃ですから、だいぶお休みでしたよ』

 

は?今なんて言った?この愛機。え?朝の9時半?てことは……

 

 

「今季のアニメの1話分何個か逃しタァァァァァァァ!」

 

 

「「「「は?」」」」

 

「えーうっそでしょ⁉︎新シーズンの1話目は全部生で見るって決めて一度も破ったことなかったのに!やらかした!!プライド!録画は⁉︎」

『してあります。ですから落ち着いてく…』

「アイツ次会ったら絶対ぶちのめす………」

 

 

 

 

『すいません、マスターはネジが5本くらい飛んでるので無視してください。ここからは少し私がお話しします。マスターが忘れてる話もありますし』

 

今はユタを部屋に残し、その他の全員が別の部屋に来ていた。

その理由としてははやてから連絡が来ていたからである。

 

ユタは「あっわり、私死んだわ」とだけ言っていた。

 

「いや、いいけどよ。お前の主人はいいのか?」

『いいんです。あの方は会った時からあんな感じでした』

「大変だな、お前も」

 

とノーヴェが呆れながら言う。

 

「それで?話していないことって?」

『えーと、マスターの瞳の色についてはみなさん見られました?それならお話が早いのですが』

 

と、4人は顔を見合わせ

 

「「「「見たよ」」」」

『そうですか』

 

「もしかして、喧嘩売られたのってそれが原因なの?」

 

『はい。なにやら聖王と冥府の炎王イクスヴェリアに用があったみたいです』

 

「なんでまたそんな」

 

『私にもわかりかねます。で、伝えたいというのは冥府の炎王イクスヴェリアも狙われる可能性が高いということです』

 

と言うとスバルとノーヴェは苦い顔をする。

 

「まあ、大丈夫でしょう。あの子はいま教会の人たちが全力で守ってるし」

「そうっスねー」

 

『あと、これはお願いなのですが…』

「許容範囲でなら受け入れるから。なんでも言って」

『マスターを念のため病院で検査させたいのですが…』

「ああ、それは私がしといたよ。特に異常はないってさ」

『ありがとうございます。ノーヴェさん』

 

 

 

 

「それで、なんで私まで教会に行かなきゃいけないんですか…。昼間は太陽が出てるから外に行きたくないんですよ…」

『石仮面でも被ったんで?』

 

「まあまあ、そう言うなよ。いいところだよ」

「本当ですか?ノーヴェさん。嘘だったら私怒りますよ?」

「ああ。そういや、ヴィヴィオに聞いたんだけど一緒に練習するんだって?」

「あ、はい。そうです……ってなんで知ってるんですか」

「いや、なんでって。あいつらが師匠とか言ってる人。私のことだし」

「へ?」

 

え?なに最近やたらと偶然が多いな。

ハッ!もしかしてこれは私が滅ぶ前兆……

『んなバカなことがあると思いで?』

手厳しい言葉をどうもありがとう。心を読む天才。

 

「あ、これは失礼しました。改めまして八神ユタです。宜しくお願いします。師匠」

「師匠はやめろって…。まだ教えてもないし…。というかユタ?」

「どうしました?」

「その眼帯はなんでつけてんだ?もう治ってんだろ?」

「カッコいいからに決まってるじゃないですか?」

 

あ、でた。呆れ顔

 

 

 

 

「んじゃ、私はこっちに見舞いがあるから。後でまた庭にいるウェンディ達のところに集合な。ユタは騎士カリムのところに行ってくれ」

「オッケーです」

 

とノーヴェと教会の中で別れ、ノーヴェは見舞いに。

ユタは……

 

「来たことないのにわかるかぁ!」

『そんな威張っていうことですか…』

 

はい、絶賛迷子です。そりゃ知らないところに1人になったらこうなるでしょ。

 

「無駄に広いのが悪い」『マスター、今全世界の広い教会を敵に回しましたよ?』

 

しっかし、本当に広いな。あ、誰か来たから聞いてみようかな。

 

「どうされました?」

「あ、いえ。ただの迷子です!」『マスター、威張らない』

「よかったら案内しましょうか?」

「いいんですか?では是非ともお願いします」

「はい。私はシスターシャッハと申します」

「私はユタです。えーと、ノーヴェさんには騎士カリムのところに行けって言われてるんですけど」

「それでしたらすぐそこですよ」

「あ、有難うございます」

「いーえ。ではごゆっくり」

 

って、部屋の中まで入れてくれないのかい!1人でお偉方の部屋に入るのって無駄に緊張するんですが。

まあうだうだ言っても始まらないし入りますか。

 

「失礼します。ノーヴェさんにいわれてきました」

 

「どうぞー。お話には聞いてますよ。ユタさん」

 

と、待っていたのはかなり落ち着いた感じのシスターだ。この人が騎士?まあいいか。

 

「騎士カリムには襲撃者について一つ言いたいことがあってきました」

 

「ああ、あなたもですか」

「私も?」

 

「先ほど、別の方にもそのことを忠告しに来てくださったんですよ」

 

「なるほど。では、それとは別でカリムさん」

「どうしました?」

「あなたの後ろの窓のそばで1人シスターがサボっているのはどうすればいいでしょうか?」

「…放っておいてあげてください。特訓で疲れていると思うので」

「わかりました。では私はこれで」

「はい、ありがとうございました」

 

 

 

はい、取り越し苦労。まあ念には念をっていうし。別にいいか。

さて、庭に向かいますか。ルート?知りません。

 

さっき聞いておけばよかったと思ったり思わなかったり。

 

 

まあ割とすぐに辿り着けたので良しとしよう。

 

 

 

 

そこにはウェンディ、ノーヴェ、ヴィヴィオ、ノーヴェたちの兄妹であるディエチ、オットー、ディード、セインが勢ぞろいしていた。

 

正直みんな仲良すぎて間に入る気にならない。

 

「うーん、最近家族の団欒にお邪魔しまくってる気がするけどいいのかな?」

『いいんじゃないですか?』

 

ま、それもそうか

ふーん、ヴィヴィオちゃんここだと陛下なんて呼ばれてるんだ。

 

話も終わったのかノーヴェさんとヴィヴィオちゃん、ウェンディさんとセインさんが歩き出す。

 

「おーい、ユタ。行くぞ」

「了解ですー」

 

と、ノーヴェさんに呼ばれるのでそちらに向かう。そのついでにディエチさんやオットーさんたちに軽く挨拶をする。

 

「んじゃあたしは四人をおくってくるなー」

 

とセインさんが付き添ってくる。

 

「しかしいいのか?ヴィヴィオ。双子からの陛下呼ばわりは」

「え?」

「前は陛下って言うの禁止ーって言ってなかったか?」

「あー、。まあもう慣れちゃったし。あれもふたりなりの敬意と好意の表現だと思うし」

「あいつらなんかずれてるからなあ」

 

あーマズイ。いろいろとおいて行かれてる。

 

『マスター、オットーさんとディードさんのことですよ』

「あーって、あの二人双子なんだ⁉︎全然似てないなー」

 

 

「そういえば、ユタさんでしたっけ?その眼帯はなんでしてるんです?」

 

とセインさんが効いてくる。よし、未来予知を使用。答えた後あきれると

 

「かっこいいからです」

「あー、確かに。なんとなくわかるよ。そういう気持ち」

 

あれ?10人弱に言って全員あきれたのにこの人呆れなかった。

 

「と、いうのは本音の内7割くらいの理由でして」

「7割って半分以上じゃん!」

 

はい、そうですよ。こんな格好をやる理由なんて格好良さ以外に基本ないでしょ。

 

「まあ、残り三割はこれが理由です」

 

と、眼帯をとり聖王由来の虹彩異色を見せる。

 

「…うそ。陛下以外にもいたんだ」

 

「私はヴィヴィオちゃんの前に造られたらしいです。ゆりかごへの適正が低かったらしくて捨てられたらしいですけど」

 

「なんかゴメン…」

 

『セインさん、マスターに謝る必要は基本ないですよ。このひと、まったくと言っていいほど気にしてないですから』

 

「まあ、プライドのいう通りです。私は過去についてネチネチ言ってこなければ大丈夫ですよ。ただ、あんまり聖王の血を引いてることは知られたくないんで」

 

「そりゃまたなんで?」

 

「ヴィヴィオちゃんみたいになんの気兼ねもなくみんなと接せるわけじゃないですし。物珍しさで集まってくるのが嫌なんです」

 

これに関しては本当だ。実際、よくわからないときにテレビ関係の人が急に話しかけてきたリ写真を撮られたりしてるから嫌なんだ。

 

「ふーん。わかった。まあこれからも陛下やノーヴェと仲良くしてやってくれよ」

「わかりました」

 

「そーいや、この後はいつもの()()か。ん?ウェンディもやるんだっけ?」

「ま、二人におつきあいっス」

「アレ…?」

 

ウェンディさんはピースしながら答えている。

にしてもアレとはいったい…

 

ハッ、もしかしてヴィヴィオちゃんを愛でる会とかそんな感じかな⁉︎ヴィヴィオちゃん天使だしやるのはわかる!

 

『……』

「え?ちょあのプライドさん?どちらに電話をおかけになっているんですか?」

『警察です。ここにロリコンの変態がいるって報告しないと』

「バカ!まじめにやめて!母さんやシグナム姉さんに殺される!」

『ロリコンは否定しないんですか?』

「ちがうわい!」

 



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4話 〜復帰練習2日目 1on2〜

ユタの好きなもの

八神家特製鍋
というか八神家特製となのつく料理

家事全般は得意でよく家ではシャマルさん達の手伝いをやっている。
特に料理は得意ではやて達の弁当を作ることもしばしば。

空いた時間は砂浜で走り込みをしたりシグナム達に手合わせをしてもらうことが多い


 

~ミッドチルダ中央市街地~

 

「あ!来た!」

「リオ!コロナ!おまたせー!」

 

と、活発そうで八重歯が特徴の子と、長めのツインテールでおとなしそうな子がいた。

 

「リオは三人とも初対面でコロナはユタさんと初対面だよね」

「うん」

 

「はじめまして!去年の学期末にヴィヴィオさんとお友達になりました。リオ・ウェズリーです!」

「同じく二人のお友達でコロナ・ティミルです。ヴィヴィオからユタさんが練習してくださるって聞いて楽しみでした!」

 

「ああ、ノーヴェ・ナカジマと」「その妹のウェンディっス♪」

「こちらこそよろしく。八神ユタです。色々とあって練習に参加することになりました」

 

「ウェンディさんは私の友達でノーヴェは私たちの先生!」

「「よ!お師匠様!」」

 

私とウェンディさんの声がきれいにハモる。

意外とウェンディさんと気が合うかも

 

「ヴィヴィオ!先生じゃないって!」

「先生だよねー?」「教えてもらってるもん」「先生ってうかがってます!」

 

あ、ノーヴェさん赤くなってる。ついでだから写真撮ってみました。

 

「ちょ、ユタ!写真撮るな!」

「かわいいですよー♪お師匠様♪」

「あ!あとであたしにもくださいっス!」

「やめろーー!」

 

 

 

 

「でもやっぱり意外~。ヴィヴィオもコロナも文系のイメージだったんだけどなぁ。初めて会ったのも無限書庫だし」「文系だけどこっちも好きなの」「私は全然初心者(エクササイズ)レベルだしね」「ほんとー?」

 

「プライド、この二次元にしかないような光景の写真を撮ったら私ってどう見える?」

『変態、ロリコン、人間の屑などでしょうか』

 

ぐ、自分から聞いたとはいえなかなかダメージ大きい。

迷惑をかけるわけにもいかないので着替える。がなぜかコロナとリオって子からの視線が痛い。

 

「えーと、どしたの?なんかついてる?」

 

「あ、いえ。何でもないです」

 

『皆さん、この人滅多なことでは傷つかないので思い切ってどうぞ』

「そーそー、練習する仲になるんだから遠慮なく」

 

「あ、いや。ユタさん私達より年上なのに胸が……」

「ちょっ、リオ!」

 

・ ・ ・

 

あれどうしてだろう。目から水が。

『マスターまな板レベルですもんね』

致命傷に追い討ちかけないでくれませんか?

 

「あー、ユタさんごめんなさい!謝ります!謝りますから元気出してください!」

「そ、そーですよ。きっと大人になれば大きくなれますよ!…たぶん」

 

「今多分て言ったよね?!てことは希望はあんまりないってことだよね?!」

「あ!いやそういうわけじゃなくて!」

 

 

「お前らさっさと準備しろよ…」

 

と、ノーヴェの一言で(無理やり)立ち直ったユタだった。

 

 

 

 

「へー、なかなかやりますね。この子達」「すごいっス!」

「だろ?」

 

リオちゃんやコロナちゃんを見ながらノーヴェさんに率直な感想を言う。

 

同じころの純粋なストライクアーツだったら多分この子達のほうが上だったよ。

今でも純粋な打ち合いとかだったら負けるんじゃないかな?

 

そんなことを考えていると三人が笑いながら話している。

 

うん、エネルギーはチャージできました。一週間は保つね。

 

「さて、ヴィヴィオ。ぼちぼちやっか?」

「うん。さー出番だよ。クリス!」

 

と、ヴィヴィオちゃんがセットアップをする。

そして、二人が中央のスパーリング練習用のリングに向かう。すると人混みができてきた。

 

 

「やけに注目されてるね」「すっごい注目浴びてる!」

「二人の組手すごいからねー。リオやユタさんもびっくりしますよ!」

 

ノーヴェさんの左足での蹴りから始まったスパーは確かに小学生と救助隊の人がするとは思えないスパーが繰り広げられていた。

 

『マスター、体動かしたくなってすよね?』

「お、よくお分かりで。そうだねー、コロナちゃん、リオちゃん。こっちで私と簡単なゲームしようよ」

 

「「ゲーム?」」

 

「そ、ヴィヴィオちゃんともやったんだけどね。私に一発どこにでも入れることができたら可能な範囲でいうことを一つ聞いてあげよう。1人ずつ順番に。できなければ2人がかりでもオーケー」

 

お、目が輝いた。やっぱりなんでも一つ好きなお願いができるっていうのは魅力的なんだね。

 

「やるかい?」

「「やりますっ!」

 

「オーケイ、プライド。セットアップ」

 

と、光に包まれると例のハ〇レンのグリードみたいな外装になる

 

「…ユタさんってホントに女なんですか?」「リオっ!」

「あー、もういいよ。コロナちゃん。これでリオちゃんには手加減する必要がなくなったね」

 

たまに言われることもあって気にしてはいるんだから。

 

 

 

 

 

「あれ?リオとコロナ、ユタとやってたんだ」

「ユタさん、すごい…二人がかりなのに全部避けるか受け流してる」

 

「うーん、だいぶカン戻ってきたかな。スタミナ消費も昨日とかと比べたらだいぶ落ち着いたし。って、二人とも大丈夫?」

「大丈夫です!」「まだまだやれます!」

 

ああー、いいこや。妹あたりにどっちかほしい。

 

「ほらほら、ヴィヴィオちゃんは一人であててくれたよ♪」

「ぐっ、がんばります!」「私も!」

 

『お二人とも、あくまで治療終わった直後のカンも戻っていない。しかもペース配分めちゃくちゃな状態のマスターに、です。そんな悔しがったりする必要あんまりないですよ」

「こら、なにばらしてるの」

 

プライドと話していた時も遠慮なく打ち込んでくる。

 

コロナちゃんは申し訳ないが非常に避けやすくそんなに張り詰めた神経を使うこともない。まあ集中しないとすぐあてられそうなのは確かだが。

一方リオちゃんは独特な拳法からか非常にやりづらい。もうそろそろ片目だと厳しいかな?

けど、なぜこんなにも避けれるかというと。

 

攻撃が単調すぎるんだよね。練習すれば強くなるとは思うんだけど。

 

言い方を考えないならもっと狡賢くなってもいいかも、と思ったり。

 

「うーん……おいユタ」

「なんですか?いませっかく楽しくなってきたのに」

「ちょっとだけこいつらにアドバイスいいか?」

「……いいですよ。どうぞどうぞ」

 

ノーヴェさんがリオとコロナを呼び何かを言っている。

 

お、戻ってきた。

二人ともやってやる!って顔してるね。思わず写真撮っちゃいそう。

 

「さて、準備はOK?」

「「はい!」」

 

コロナちゃんが突撃してくる。

 

「いっ!あぶなー」

 

顔を狙うフリで足払いをしてくる。これをバックステップで避けるといつの間にか後ろに回り込んでいたリオちゃんが背中目がけて蹴りを入れてくる。

これを少し蹴りの軌道をずらして避ける。するとコロナちゃんが懐に潜り込んできており、ヴィヴィオちゃんほどではないが正確なラッシュをしてくる。

よけつつ、半分以上は受け流す。

 

「(てことはだ、リオちゃんはきっと……)」

 

さりげなくまわりを見るも視界にはリオちゃんは入ってこない。

ここで、一度コロナちゃんを突き放し距離をとる。

すると、背中に気配を感じた。

思わず振り向くと既にリオちゃんが振りかぶった後だ。

 

けどこの間合いで大きく振りかぶっているなら受け流せる。

 

 

 

そう、この時の私は思っていた。

 

そうだよこれ2on1だよ。コロナちゃんがいるよ。

 

 

 

「いっ」

 

はい、くらいましたよ。調子に乗ってましたよ。

注意力が散漫になっちゃった私はリオちゃんに腹に叩き込まれてコロナちゃんに背中を蹴られる形で中央に止まった。

 

 

 

 

「ノーヴェ、二人になんていったの?」

「ん、ああ。フェイントをガンガン混ぜて、味方、この場合はリオはコロナに、コロナはリオに打たせてやれるように考えながらやってみなって。もちろん自分で打ち取る気でいきながらね。あとは相手に合わさず自分たちのペースに巻き込んでやれって」

「ほえー」

 

と、感心していると、すっごい悔しそうなユタさんが戻ってきた。

 

「だぁぁ!やられた!」

「うちのチビども、なかなかやるだろ?」

「はい。まさかアドバイス一つでこんなにも変わってくるとは」

 

「「ユタさん!」」

「あーはいはい。覚えてるよ。二人とも何をご希望ですか?」

 

「私はユタさんの魔法を見てみたいです!コロナから珍しい魔力変換をするって聞いて!」

「わ、わたしは、その……恥ずかしいのでまた後でこっそり……」

 

私の魔力変換?確かに珍しいっちゃ珍しいかも。そいや周りにいる人みんな知ってるから気にしたことなかった。

 

「わかった。リオちゃんには後で見せるとして、コロナちゃんはプライドと連絡先交換しておいてもらえる?」

 

「はーい!」

「は、はいっ!ありがとうございます!」

 

 

 

 

「今日も楽しかったねー」「てゆーか、ビックリの連続だよ!」

「ウェンディ、悪ィ、チビ達送って行ってもらっていいか?」

「あ、了解っス。何か用事?」

「いや、救助隊。装備調整だって。じゃ、またな」

 

「「「「お疲れ様でしたー」」」」

 

そんなこんなでヴィヴィオちゃん達と分かれて帰路に着く。

 

『マスター。コロナさんからです』

「はいよ。メール展開して。……ほうほう。まあ、いいんじゃないかな。そうだねー。雷帝サマのと番長あたりの動画残ってる?」

『はい。決勝戦のジーク選手とのは?一応ありますが』

「それはダメ。雷帝サマと番長の二つを送ってあげて。もう一つの方は……一旦保留で、って伝えておいて」

『了解しました』

 

 

 

この後にまさかノーヴェさんが例の覇王サマに襲われているとはだれが思うだろうか。

 

 

 

〜翌日 学校〜

 

「……アインハルトさん休みじゃん。こないだのことで一発顔面ぶち込んでやろうと思ったのに」

『逆にやり返されて保健室送りにされる未来しか見えませんのでやめておきましょう?マスタードMですからご褒美かもしれませんが場所を考えましょう?』

「誰がドMか」

 

そう、アインハルトが休みなのだ。授業初日なのに珍しい。

 

「とうとうバレて補導された?」

『あの人の強さ的にそれはほとんどあり得ないと思いますけどね。それこそたまたま申し込んだ相手がノーヴェさんクラスとかでない限り』

 

いやそんな偶然あるかっての。

 

 

 

 

「新しい練習相手?」

『そうらしいです。ノーヴェから聞いただけなんですが」

「よかったじゃん。また仲間が増えそうで」

 

2限が終わった後ヴィヴィオちゃんから連絡が来て、練習相手がまた増える事を伝えられた。

 

またどんなピュアな子がくるんだろう。いろいろと楽しみになってきた。

 

『マスター、流石にドン引きです』

「うん私はプライドの読心性能にドン引きしてる」

 

『ノーヴェは放課後に来てくれって言ってました』

「オーケー、じゃ校門の前にいて。終わったら行くから」

『わかりました』

「あ、それとヴィヴィオちゃん」

『はい?』

「コロナちゃんに伝言お願いしたいんだ。時間のあるときならいつでもいいよ、って」

『わかりました!伝えておきます!』

 

ヴィヴィオちゃんとの通話が終わり数分経った頃に隣の席にアインハルトが来た。

おくれてきたってことは病院でも言ってたのかな?

 

「や、アインハルトさん」

「おはようございます。ユタさん」

 

ん?なんか違和感があるぞ。なんでこの方は驚かないんだ?

眼帯あるとはいえ、襲った相手が私ってわからないものかな?

 

『マスター、眼帯を取ってみればわかるんじゃないんですか?』

「いや、そうかもしれないけど…なんかヤダ」

 

 

「ねえねえアインハルトさん」

「はい?」

 

「一昨日の夜さ、何やってた?」

 

と、この一言でわずかだがアインハルトが警戒するのが分かった。

 

「その日は家でトレーニングと勉強です」

 

「そう?夜に喧嘩とかしてなかった?」

 

「していません」

 

「ふーん」

『アインハルトさん、すいません。マスター頭のねじがどこか数本外れているので気にしないでください」

「おいこら、どこか数本じゃない、一本くらいしか外れてないよ」

「一本でもまずいのでは…」

 

 

 



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5話 〜復帰練習3日目 覇王サマ〜

過去作ではシグナムがキャラ崩壊してたから今回はしないようにします(戒め)



『そうか。んじゃ昨日のジムに集合で』

「あいあいさーです」

 

ちょっと家に戻らなきゃいけない用事ができた事でノーヴェさんに連絡を入れる。数時間後に昨日スパーリングをしたジムに合流とのことなので気持ち早めに家に向かう。

 

「なんなんだろーね。とりあえず帰ってこいって」

『さあ?』

 

 

 

 

 

「たーだーいーま゛ぁっ⁉︎」

 

玄関を開けた瞬間飛んできたのは斬撃。

あっぶないでしょうが!やる人1人しかいないだろうけど!

 

「ふむ、練習は真面目にしてるようだな」

「あったりまえでしょ、でなけりゃシグナム姉さん本気で殺しにくるじゃん……」

「ちゃんと死ぬ限界を見極めてるから死ぬまではやらんさ」

「せめて肉体的な限界にしてくれませんかね⁉︎」

 

出迎えてくれたのはシグナム姉さん。

ピンクの髪のポニーテール、大人びた雰囲気が特徴の、他だと武士道精神が自我を持ったバトルマニアもとい戦闘狂。

 

黙って歩いてる姿は美人でモテると思うのに。

 

「今何か思ったか?」

「いえ何も。そいやシグナム姉さんがもう家にいるって珍しいね」

「元々今日は午前中で終わる予定でな。それで、主はやてからお前への復帰祝いを送ってはどうかと提案されたんだ。確かに、と思ってな。お前に聞こうと思ってたんだ。ユタ、どんなものが欲しい?」

「復帰祝い?そんなの気にしなくていいのに。むしろこれからバリバリ鍛えてもらう予定だったからそれが復帰祝いとかじゃダメ?」

「私もそう言ったのだが、主はやてには形が大事でユタも女の子だから何か買ってあげてくれ、と」

 

なるほど、それで急遽家に来てくれと。

 

うーん。とは言っても本当に思いつかない……。

 

 

にしても相変わらず綺麗な髪してるよねぇシグナム姉さん。羨ましい。

 

 

「……あ」

「思い付いたか?」

「まあ思い付いたというよりは……シグナム姉さんが髪をポニテにしてる髪留め、あんなの欲しいなぁ、とは思ったり」

「これか?これが欲しいならあげるぞ」

「いやいや、それじゃなくていいよ。そうだね……黄色の髪留めかな。柄とかはシグナム姉さんに任せるよ」

「わかった。買っておくよ」

 

身内の私からみてもシグナム姉さんは完全無欠の美人って感じだから憧れてるってのもあるし、何より家族からもらったものを身につけてると気持ち強くなれそうな気がする。

 

「んで、帰ってこいって言ってた張本人がいないってことは多分、用事はシグナム姉さんの事だろうから今からジム行ってくる〜」

「なら送るぞ」

「ほんと?助かる〜」

「練習相手はなのはの娘か?」

「そうそう。それとその友達2人。今日また1人増える、らしい。ノーヴェさんが師匠をやってて、今日は改めて私の実力を確かめたいんだって」

「ほう。ならば思う存分やってやれ」

「言われずとも。シグナム姉さん達の顔に泥は塗らないよ」

 

 

 

 

〜ミッドチルダ中央市街地 ジム〜

 

「んーっ、ありがとうシグナム姉さん」

「気にするな。夜気をつけて帰るんだぞ?」

「わかってまーす」

 

先日コッテリ絞られてるので流石に、ね?

 

「プライド、どの辺だって?」

『そこまっすぐ行って三つ目の部屋です』

「りょ〜」

 

駆け足でプライドに言われた場所に入るとヴィヴィオちゃんがスパーリングを始めるところだった。しかも相手はアインハルト・ストラトス。

 

「お、来たか」

「どうも。新しい練習メンバーってアインハルトのことだったんですね」

「知ってるのか?」

「んにゃ、同じクラスになってるってだけです」

「ほーん。じゃあ見ときな。度肝抜かれるぜ?旧ベルカ式の古代武術だし、実力も申し分ない」

 

いやまあ、うん。申し分ないのは知ってるんですけどね。なんせ一回やられてるし。

 

「あ、一応ビデオだけ回しといて」

『承知しました。』

 

純粋にノーヴェさんのいう古代武術は普通に興味あるけどね!

 

 

「(本当に?この子やユタさんが覇王の拳を、覇王の悲願を受け止めてくれる――?)」

 

アインハルトの足元に魔方陣が展開される。

 

「んじゃ、スパーリング4分1ラウンド。射砲撃とバインドはなしの格闘オンリーな。レディー ゴー!」

 

 

 

 

「改めてみると二人ともすごいねえ」

『そうですねー。マスターはあんな打ち合いできませんもんね』

「私が殴り合いしようものなら物の数分で片付けるさ。主に私が片付けられる」

『んなこた分かりきってますから』

「ひどっ⁉︎」

 

二人とも変身してないのにだいぶ強い。

ヴィヴィオちゃんなんか私とやった時よりうまくなってる。飲み込みが早いのかな?

 

「ヴィ……ヴィヴィオって変身前でも結構強い?」

「練習がんばってるからねー」

 

と、その場にいたスバルさんとティアナさんがおんなじような感想を言っている

 

あ、ヴィヴィオちゃんぶっ飛ばされた。そして双子さん(名前忘れました)ナイスキャッチ。

 

「お手合わせ、ありがとうございました」

 

 

しかしここから空気が変わった。

なんせアインハルトはあろうことか勝手に試合を終わりにした。

 

ヴィヴィオちゃんは焦ってアインハルトに近づいていた。

 

そりゃそうだ。この態度だと怒らせたんじゃないかって誰でも思う。

 

 

「あの…あのっ…‼すみません、私なにか失礼を……?」

「いいえ」

「じゃ、じゃあ、あの。私……弱すぎました?」

 

「いえ、()()()()()()()()()でしたら十分すぎるほどに。申し訳ありません、私の身勝手です」

 

よし、アインハルトは徹底的にぶちのめそう。今決めた。一発顔面にぶち込むくらいにしようと思ってたけどやめた。

 

「あのっ!すみません…今のスパーが不真面目に感じたなら謝ります!今度はもっと真剣にやります。だからもう一度やらせてもらえませんか?今日じゃなくてもいいです!明日でも…来週でも!」

 

「あー、じゃあまた来週やっか?今度はスパーじゃなくてちゃんとした練習試合でさ」

 

「そりゃいいッスねえ」「二人の試合楽しみだ」「はいっ!」

 

「―――わかりました。時間と場所はお任せします」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

「はろはろーアインハルト。学校ぶり〜」

「貴女は……ユタさん?どうしてここに」

「どうしても何も、私も練習に来てるからね。ねえアインハルト。私と一戦交えようよ。ねえ?覇王サマ?」

 

煽るように言いつつ、眼帯を少し上に上げてオッドアイをアインハルトにチラッと見せる。

 

「え、貴女も……?」

「ほほーん。覚えてないかぁ。しょうがないなぁ、プライド、セットアップ」

『イェッサー』

「なんで毎回返事変わるかね」

 

プライドに伝え、セットアップをするとようやく思い出したのかアインハルトが敵意剥き出しになった。

 

「思い出した?そう!貴女に一撃を!入れさせてもらったものデス!」

『なおその後油断してやられてますけどね』

「カッコイイシーン壊さないでもらえます?」

 

セットアップを解き改めてアインハルトに向かい合う。

やる気は十分すぎる、と言ったところかな。

 

「ノーヴェさん、ヴィヴィオちゃんの時と同じルールで審判お願いします」

「あ、ああ。4分1ラウンド。射砲撃とバインドはなしな」

 

「はーい」

「はい」

 

 

悪いけど、今回は圧勝する気持ちでいこう。気持ちで。

試合した相手を侮辱するやつは大大大嫌いなんです。

 

 

あのチャンピオンみたいなやつは特に。

 

 

「そんじゃ、レディー ゴー!」




〜3年前〜

「影がおかしい?」

「(コクッ)」
「はい、辺な動きをしてるらしくて。私やはやてさんといるときはそんなことないらしいんですけど」

突如呼ばれたはやては、先ほどのような説明を受けていた。


「ふーむ……わかった。調べてみるわ。ユタちゃ……ユタ、どんな感じか教えてくれるか?」

「そ、その。なんか、変だって、思って、よく、わからなくて。変な方を見たら、自分のこの黒い、影、急に、動いて」

ユタは拙いながらも必死にはやてへ状況を伝えようとしている。

「今はどこか変だって感じる?」

「(ブンブン)」

ユタは顔を横に振る。どうやら今は感じないらしい。

「マリナといるときも感じてないんやったな?」

「はい。でも1人になった途端、変な感じがするって」

「なるほど……マリナ、ちとユタを抱いてもらえんか?」

「え?は、はい」

マリナと呼ばれた蒼色の髪の子がユタを抱き上げる。

「……影に微かに魔力の残滓?我が家に入り込める技量はあるのに隠れる時だけこんなガサツなことあるか……?」

微かに残っている魔力の残滓をゆっくり、慎重に辿る。
行き着く先は、思ったよりもすぐそばだった。

「……なぁ、ユタ。ちょいと、影の方をも一回ジィーッと見てくれへんか?」

「え?で、でも……」

「だいじょーぶ!何があってもユタはウチが守るから!安心しぃ!」

屈託ない満面の笑顔のはやてに安心したのかユタは自分の影をジッと見つめる。

するとゆっくりと影が()()()()()()()()

「……あははっ。やっぱりなぁ」

「はやてさん、一体……」

「おおすまんすまん。マリナ、簡単に言うとな、全部ユタが原因やで」

「え?」

「無意識なんやろな。多分やけどユタの魔力変換が『影』なんじゃ無いかと思うてる。1人の時に影が動いたのは自己防衛のために漏れ出た魔力を無意識に操作してたから。今私たちといる時に起こってないのはユタがウチらといると安心してるから」

「そう……なんですか?」

「ほらユタ。影を見ながら……そうやね、マリナを考えてみ?」
「……?」

ユタは言われるがまま影を見ながらマリナを想う。
すると影はどんどん実体を持ち、真っ黒なマリナが出来上がった。

「な?」
「凄い……」
「マリナ、ごめんなぁ気づいてあげれなくて。怖かったやろ?でもこれはユタを守ってくれる力やから。大丈夫。もしユタが嫌だって言うなら、ちゃんと方法もあるから、安心しぃ」
「はい……!」


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6話 〜復帰練習3日目 リベンジ〜

スパーが始まると同時に私はアインハルトから距離を取る。眼も慣れてないのにいきなりインファイトに持ち込まれるとアインハルトの早いステップに対応しづらいから。

 

「……眼帯は取らないのですか?以前は取っていましたよね?」

 

「別に舐めプじゃないよ。ちゃんと理由はある」

 

実際のところ、とある仕掛けをしてるので視界は両目あるのと大差ない。

 

「ノーヴェさん、身体能力の補助等なら、いいんですよね?」

「ああ。問題ない」

「了解です。んじゃプライド、例のやつやろう」

『了解しました』

 

けど実際問題、私の体質的に真正面からアインハルトと殴り合うのは分が悪すぎる。

 

スピードや技術なんかは努力で積み上げれた。

 

けれど体の頑丈さなんかはどうにもならなかったのが私だった。筋力もつきにくかったし。

 

 

だから私は真正面から打ち合うことをやめた。

 

 

そりゃ徒手格闘技(ストライクアーツ)で勝ち登ることに夢みなかったのかと言われると嘘になる。

しっかし、鍛えてくれた人たちから「向いてない」って真正面から言われると流石に諦めざるを得なかったよね。

 

 

けれど、だ。

 

 

だからといって近距離格闘戦を捨てたわけじゃない。

あくまでも正面が打ち合うのを、私から攻撃を仕掛けるのをやめただけ。

 

 

「ん……オーケー。精度も良し」

 

魔力が私の左目を覆って視界が一気に開ける。

 

アインハルトは二日前の時のように独特の歩法で一瞬で距離を詰めてくる。

そして、同じように顔、腹、肩など様々な部位を狙ってラッシュをしてくる。

 

それをひたすら避ける。二回目だからかだいぶ動きはわかる。

あとは目のリハビリのおかげか、二年前くらいまでの視力に戻ってきたと思う。

 

プライドが治癒促進をしっかりと寝てる間にかけてくれたのもあったりして。

 

今回も一撃も受けないよう注意はしているが二日前にやりあった時とは一つだけ違う避け方をしていく。

 

それは

 

 

「がっ!」

 

「はい、一本。まだ終わりじゃないでしょ?」

 

前みたく避けることに全力を注ぐのではなく、あえて打ち込んでもらえるように雑な避け方に、隙が出来やすい避け方した。

 

もちろん攻撃を受けやすい避け方なのは自覚してる。

 

けど、逆に言えばそれだけ相手の攻撃を利用しやすいってことでもある。

 

今は腹めがけて強打をしてきたからそれを()()よけながら膝蹴りをアインハルトの腹にかました。

自分の筋力は正直言って中の下くらいだが、相手がこっちに向かってくる力と自分が相手に向かう力の両方を使えればかなり大きい力として使える。

それもアインハルトのような強打者ならなおさら、ね。

 

これが私がシグナム姉さん達と血反吐を吐きながら編み出した近距離戦法。

 

超超超カウンターヒッター型。

 

ヴィヴィオちゃんのように狙える場面すら自分から打ち込みに行かない。

 

決して自分からは仕掛けず、延々と避けて避けて避けて受け流して、相手の必殺の攻撃の威力を利用したカウンター。それが私の型。

 

もちろん、一歩間違えれば致命傷になるけど、それでも私はこの型を気に入ってる。

 

 

 

「よっと」

「っ!」

 

今度は蹴りをご丁寧に顔を狙ってくれたので顔をそらして避けつつその足を持って床にたたきつける。

 

「二本目。覇王サマ、もう終わり?」

 

「っ、まだです!」

 

始まった時より荒く強いラッシュが来る、がそれは愚策でしかない。いや、本人は自覚してないんだろうけど。焦ったのかな?

 

「はあっ!」

「どうしたのかな?さっきより精度が落ちてるよ?」

 

挑発をしてみるとさらに怒ったようで大ぶりの右ストレートを顔めがけて打ち込んでくる。

まあ、そんな隙だらけの威力を利用しないわけもなく

 

「ぐっ!」

「はい、三本目。そしてちょうど試合終了かな?」

 

一本目と同じように前によけながら顔にカウンターをかました。

 

「そこまで!」

 

はい、ジャスト四分。いい時間配分だったね。

アインハルトは……信じられないといった顔で倒れている。

そこに近づき耳元で周りに聞こえないくらいの声で告げる。

 

「別にショックを受ける必要はないよ。()()()()()()()()()ならアインハルトは十分すぎるほど強い」

 

ヴィヴィオちゃんに言い放っていた言葉をそのまま言ってやった。

 

自分がどんなことをしたかをしるなんて実際に身をもって体験するのが一番いい。

実際、いい具合にショックを受けている顔になっているしね。

 

「君が言った言葉がどういったものかをしっかりとその身に刻むんだね。キミがどういった思いを持っているかは知らないけど真面目な相手を侮辱するようなヒトすら受け入れられる程、私の心の器は大きくないからね。

 

……あ、そうそう。私の戦闘スタイルは魔法がメインだよ。格闘技術は弱点を補うために身に着けたに過ぎない」

『マスター、そこで更に追い打ちをかけますか…』

「うん、だってアニメの恨みと侮辱したことによる制裁も兼ねてるし」

『最初の一つがなければ立派だったんですがねぇ』

 

はっはっは。何を言っているんだねプライドさん。私が今までに立派じゃなかったことがおありだろうか。いやな『腐るほどありますからご心配なく』

コイツ後でシバク。

 

「ユタ、お前何言ったんだ?」

 

「いや別に大それたことは。ただ人に言われて嫌なことは言うなって伝えただけです」

『嘘ですよ。思いっきり心抉りにいってました。それにですねマスター。貴女、執拗にアインハルトさんの顔狙ってましたよね?』

「あ、バレた?」

『女性の顔を傷つけに行くとはゴミですね』

「いやアインハルトも遠慮なく私の顔狙ってたが?」

『マスターはいいんです』

「ドユコトだよオイ」

 

マージでこの愛機は私に対して辛辣すぎる。

 

 

その後の練習が終わり、初等科組と中等科組で分かれることとなった。私達中等科組にはスバルさん、ノーヴェさん、ティアナさんが送迎者として来てくれることに。ご飯を食べに行こうと誘われたので遠慮なく行かせてもらったのだけど、席がアインハルトの横。つまりめっちゃ気まずい。

 

 

「いやー、すごかったねえ。ユタちゃんもアインハルトもヴィヴィオちゃんも」

「そうだね。ユタになんかびっくりしたよ。ほんとに一年も現役退いてたの?」

「現役を退いてても染み付いた技術はそう簡単にはおちねえだろ」

 

と、大人三人組は感想を述べている。

母さんやシグナム姉さんと鍛え込んだあのスタイルが褒められるのはなかなか悪い気はしない。

 

「ところでさ。ユタのデバイスってなんでそんな独特なの?」

「え?これですか?」

 

ティアナさんがデバイスの形について聞いてくる。

プライドを胸元から取り出しみんなの前に見せると、やっぱり物珍しいのか皆がまじまじと見つめている。

 

『え、もしかして私人気者ですかやったー』

「だまらっしゃい。えーと、まぁ、アニメの敵キャラクターをモチーフにしてるんですよね。

 

傲慢の罪と書いてプライド。紋章の意味は確か……永遠や不老不死、再生と死、だったかな?」

 

「へー、ってことはプライド君は治癒特化、もしくは身体補助特化の性能かな?

 

「ご名答です。ティアナさん。私はクラッシュしてしまったら動きが鈍ります。さっき見てもらったのでわかると思いますが、私のスタイル上致命的になるのでクラッシュは即時回復するようにしてますね。その代わり消費魔力に結構持ってかれますけど。クラッシュの程度によってはしないこともありますが、それはプライドの采配次第です」

 

実際のところ、クラッシュを治すかどうかの判断まで頭を使えなかったからプライド任せにしたみたいな所もある。

 

にしても美味しいなここのお店。

今度この味付け試してみよう

 

 

 

 

「今日はありがとうございました」

「ありがとうございました」

 

ご飯を奢ってくださった三人にお礼をする。

 

「また明日連絡すっから」「アインハルト、何か困ったことがあればいつでもあたしたちにね」

「じゃあ、車で送ってくるから」

「うん」

 

その後はティアナさんがアインハルトを送っていった。

 

「ユタはどうするんだ?」

「このまま帰りますかねー。この後もシグナム姉さん達と特訓するので。……死なないように頑張ります」

「程々にな。体を壊したら元も子もないからな」

「わかってます。それではこの辺で。ありがとうございました。またよろしくお願いします」

「おう」

 

 

「ねーノーヴェ。アインハルトのことも心配だけどさ。ヴィヴィオ今日のことショック受けたりしてないかな?」

「そりゃまあ多少はしてんだろうけど。さっきメールが来てたよ。やっぱり私の修行仲間はそんなにヤワじゃねー。今からもう来週の練習試合を目指して特訓してるってよ」

 

 

 

 

 

 

〜八神家〜

 

「ただまー」

「おかえりー」

 

家に到着。リビングの方から母さんの気の抜けた声がする。

 

「……ん?誰の靴だろ」

 

玄関に知らない靴があった。

誰か来てるのかな?

 

「母さーん?誰か来てるの?」

 

リビングに入ると母さん、シグナム姉さん、ヴィータさん、ザフィーラ、リインさんと珍しく全員大集合してる。あ、いや。シャマル先生だけいないか。

 

その中で1人見知らぬ人が。

 

「……?母さん、とうとうこんな幼い男の子にまで手を出したの?結婚願望強いのはいいことだけど程々にしとこ?流石に犯罪だよ?」

「よーしユタ、お前覚悟せぇ」

 

 

 

 

「あ、あのー、止めなくていいんですか?」

「「「「いつものことだ(ですー)」」」」

「えぇ……」

 

 

 

「いったぃ……娘の可愛い冗談じゃんか母さん」

「それ以上言うようならお前の秘密暴露するで?」

「ほほぅ?一体どんな秘密でらっしゃるのか。こっちには秘蔵のだらしない母さんコレクションあるからね?」

「ユタ、お前が過去に書いてたラブレターなるものがうちの手にある」

「大変申し訳ございませんでした」

 

……いや待て!なんで持ってんの⁉︎

 

「どっから拾ったの⁉︎てかちゃんと隠してたはずなんだけど⁉︎」

「どこに隠すかくらいお見通しや」

「ぐぬぬ……」

 

相変わらず勝てる気がしない。

だから狸って言われるんじゃないの?

 

「それで、この子どうしたの?確か……八神道場によくいる子だよね」

 

ピンクの髪で短髪。中性的な顔立ちでおどおどしている。

見た目的に初等科5年くらいかな?

 

「あっ、はい!ミウラ・リナルディです!一年位前からここに八神道場にお世話になってます」

「あ、どうも。八神ユタです。このたぬ…じゃなくて八神はやての一人娘です。養子縁組だけどね」

「お聞きしてます!シグナムさんや師匠が鍛えてたって。インターミドルも都市本戦2位まで上り詰めれたって」

「……」

「?どうしました?」

「ミウラってさ、今、何歳?」

「12歳です」

「……マジ?」

「はい」

 

どうしよう、成長が乏しいと思われるミウラにですら(胸が)負けた。

 

「世の中不平等だ……」

『初対面の人に失礼極まりないですよ?』

 

大変申し訳ございませんでした。




「はい、で、今日のご要望はなんでしょう」

「鍋!」

「了解しました。具材は?貰い物のフグ、モツ、その他すき焼き用なんかもあるけど」

「んじゃあフグ!」

まるで子供みたいに元気に返事を返してくる母さんを横目にどれくらいの量が必要かを軽く計算する。

……まあ、多少多く作っても食べ切れるでしょう。

「そうだ忘れてた。ミウラ…さんは何かアレルギーとかあったり?」

「いえ大丈夫です!あとミウラでいいですよユタさん」
「わかった」

料理はシャマル先生直伝なのでそこいらの人よりかは上手い自信あります(ドヤ)
『ドヤ顔しなければカッコよかったですのに』
「ちょっとくらいカッコつけさせてよ」





それから1時間ちょっと。元々ダシは取ってくれておいたのでそれを使い、フグ鍋は完成した。

あ、勿論既に一般人でも扱えるまで捌かれてるフグです。
地球では高級のものという……トラフグだっけ。それのオス個体。

「母さん達お酒は?ヒレ酒やる?」

「やるー!」

「てかもう酔ってないすか?」

久しぶりの休暇だからか、もう呑んでる。
絶妙に顔が赤くなってるから多分確実。

‘「ほらほら、できたからお酒片付けて。ヴィータさんちょっとこの酔っぱらいお願いします」
「あいよ。酔ってすらないと思うけどな。酒パワーで元気にはなってるけど」
「それ世間一般では酔ってると言うんです」


ちなみに、酔っ払った母さんはすこぶるめんどくさい。


「あの……ちょ、食べにくい……」
「ええやんええやん。減るもんじゃないし」
「私が食べる分が減ってるの!」

大勢で鍋を囲うのは楽しい。
けどその分減りも早い。

追加分を念のため作っておいてよかったと思うけど、母さんが私を抱いたまま離してくれそうにない。

なお誰も助けてくれそうにない模様。

「わかってた。わかってたよ……こうなるってことくらい……いいよもう慣れたから……」
「仲良いんですね」
「違うよミウラ、おもちゃにされてるだけ」


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7話 〜合宿に誘われました〜

~八神家~

 

「死ぬかと思った……」

『マスター、ノーヴェさんからメッセージです』

「読み上げて……今動けない」

『来週、ヴィヴィオさんとアインハルトさんで改めて練習試合を執り行うので見に来ないか、だそうです』

「来週?多分大丈夫だとは思うけど、特訓の予定次第になるって返していて」

『わかりました』

 

 

 

 

「んで母さん!抱き枕にするなっての!酔い覚ましいる⁉︎」

「ええやんええやん。ほほーん、にしてもユタ」

「……何」

 

 

「あいっかわらず胸ないなぁ」

 

 

「やっかましいわ!」

 

 

「なんやぁウチのこれそんなに羨ましいんかぁ?」

 

「だまらっしゃい!羨ましいに決まってんでしょうが!じゃあ言うけどね母さん結婚相手まだなの?ねえそろそろ婚期逃すぅ!?」

 

ヤな予感がして顔を逸らした瞬間に魔力弾が飛んできた。しかも結構な高密度だから鉄みたいに硬いやつ。

 

「あっぶないな!先ケンカ売ったの母さんでしょうが!」

「だまらっしゃい!有望な相手いるくせにぃ!」

 

 

 

「あのー、これもいつも通りなんですか?」

「だな。おーいプライド。今後のユタのスケジュール見せてくれよ」

『承知しましたヴィータさん。あとミウラさん。きっとすぐ慣れますよ。多分』

「ええ……」

 

 

 

 

 

 

ーそれから1週間後ー

 

 

~ヴィヴィオとアインハルトの約束の日 アラル港湾埠頭 廃棄倉庫区画 13:20~

 

試合時間十分前に着くともう既に一週間前と同じメンバーが揃っていた。

 

「お待たせしました。アインハルト・ストラトス。参りました」

「来ていただいてありがとうございます。アインハルトさん」

 

「ここな、救助隊の訓練でも使わせてもらってる場所なんだ。廃倉庫だし許可も取ってあるから安心して全力を出していいぞ」

 

「うん、最初から全力でいきます。セイクリッド・ハート。セット・アップ!」

 

掛け声と共にヴィヴィオちゃんが大人モードとやらになる。

 

「――武装形態」

 

お、アインハルトも大人モードになった。

 

「今回も魔法は無しの格闘オンリー。一本勝負。それじゃあ試合―――開始!」

 

と、その声で二人がぶつかる。

 

「プライド〜。一応、念のため録画ヨロシク」

『分かりましたが、何故?』

「将来的なライバルになりそうな予感だから〜」

 

しばらくは睨み合って動いていなかったがとうとう動き出した。

 

「(きれいな構え。油断も甘さもない。いい師匠や仲間に囲まれて、この子はきっと格闘技を楽しんでいる。私とはきっと何もかもが違うし、覇王(わたし)(いたみ)を向けていい相手じゃない)」

 

「(すごい威圧感。いったいどれくらいどんな風に鍛えてきたんだろう。勝てるなんて思わない。だからこそ一撃ずつ伝えなきゃ。『この間はごめんなさい』と――)」

 

 

今回はアインハルトから仕掛けた。それをヴィヴィオちゃんは受け止める。がさらにアインハルトは追撃していく。

 

そんな猛攻を避けヴィヴィオちゃんは腹にカウンターをヒットさせた。

 

うん、いいカウンターヒッターだね。私とは大違い。

 

ヴィヴィオちゃんはそのまま追撃をしていき、そこからは打ち合いだった。が

 

「おお、いいカウンター」

 

ヴィヴィオちゃんが顔にきれいなカウンターをヒットさせた。

 

「(この子はどうして、こんなに一生懸命に――?師匠が組んだ試合だから?友達が見てるから?)」

 

「(大好きで大切で、守りたい人がいる。小さな私に強さと勇気を教えてくれた。世界中の誰より幸せにしてくれた。強くなるって約束した。強くなるんだ。どこまでも!)」

 

ヴィヴィオちゃん渾身の一撃がアインハルトのガードの上から入った。

 

 

「覇王 断空拳!」

 

それを受け止めたアインハルトがカウンターを入れそのまま吹っ飛ばされていた。

 

「――一本!そこまで!」

「陛下!」「ヴィヴィオっ!」

 

 

「はー、2人ともすっごい気迫だったねぇ。何考えてたんだろ」

『自分の過去とか先週のこととかじゃないですかね?』

「プライドの口からまともな発言が聞けるとは」

『喧嘩売ってます?』

 

 

ヴィヴィオちゃんは吹っ飛ばされた衝撃で気絶していて双子のうちのディードさんに膝枕されている。

 

ヴィヴィオちゃんの傍ではいろんな人が心配している。

と、突然アインハルトがふらついた。

そしてティアナさんの胸、スバルさんの胸と順番に寄り掛かった。

 

うらやま……じゃなくてけしからん。

『ヘンタイマスター通報しますよ』

ごめんなさいやめてください。

 

「ラストに一発カウンターがかすってたろ。時間差で効いてきたか」

 

ああ見間違いかと思ったけどちゃんと当たってたんだ。ヴィヴィオちゃんやるぅ。

 

 

 

 

「――で、ヴィヴィオはどうだった?」

 

ノーヴェさんがアインハルトに問う。

一拍おきアインハルトが答える。

 

「彼女には謝らないといけません。先週は失礼なことをいってしまいました。訂正しますと」

 

「そうしてやってくれ。きっと喜ぶ」

 

「ユタさんも、次は正式にリベンジさせていただきます」

「どうぞご勝手に。いつでも受けて立つよ。……あ、できれば魔法戦含めた総合格闘技の方で」

『そこで弱気になるから……』

 

こんな怪物と真正面から打ち合えるかっての。

 

 

 

(彼女たちは覇王(わたし)が会いたかった聖王女じゃない。だけど()()()はこの人たちとまた戦えたらと思っている)

「初めまして、ヴィヴィオさん。そしてユタさん。アインハルト・ストラトスです」

 

「「それ、起きてるときにいってやれよ(あげなよ)」」

 

「……恥ずかしいので嫌です。どこかゆっくり休める場所に運んであげましょう。私が背負います」

「「はい!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜2人の練習試合から2週間後〜

 

 

 

あれ?ここはどこだ。

 

私は何をしているんだろう?

 

……あ、人がいる。

 

あれは……私?それと、ジークさん?なんで……

 

 

 

(じゃあジークさんにとっては私は本気を出す価値すらない相手だったんですか!)

 

(違う!ウチはそんなこと……)

 

(ならなんで本気でやるなんて言っておいてあんな……)

 

(ユタ!よしなさい!傷口が……)

 

酷く覚えのある光景。

忘れたくても忘れられない2年前の光景。

 

 

またこれか。

 

 

ていうことは、これは……

 

 

 

 

 

 

「………夢か」

 

『マスター?酷くうなされてましたが大丈夫ですか?』

 

気づくと私はいつもの部屋のベットにいた。

 

それを見てとてつもなく安堵した。

 

「あーうん。ちょっと嫌な夢を見ただけ。……ゆりかご……戦火から……」

 

『はい?』

 

「ん?どしたの」

 

『いやいや、いまマスターが何か口走ったでしょう』

 

「私が?何も言ってないんだけど」

 

『……まあ良いです。それよりもマスター、物思いにふけっているところ悪いのですが。今日も試験では?』

「あ!そうだった!」

 

時計を見ると学校まで30分しかない。

しくじった。復習とかする時間が無い。

 

『あ、そういえばノーヴェさんと高町なのはさんからメールが来ておりますので試験後にでもご確認を』

 

「りょーかい。よし準備完了!あとはご飯食べてからダッシュするだけ!」

 

『怪我しないようお気をつけて』

 

 

 

 

 

 

〜試験終了後〜

 

「…………終わった。」

 

今日のテストは惨敗だ……。なんか夢のせいで体調悪いわ色々と忘れてるわで散々だった。

 

「こんなんだと学年主席とか取れるわけない……」

『ドンマイです、マスター。気を落とさず』

 

「あの…」

 

ん?誰だろ。声的に………

 

「ああ、()()()()。どうしたの?」

 

「え?」

『は?』

 

「ん?」

 

え、ちょ、なんでアインハルトの名前呼んだだけで2人(?)ともそんな凍りついてるの?

 

「ユタさん、今何と?」

『マスター?』

 

「え?いや、あのアインハルトって呼んだだけじゃない?」

 

「いえ、私のことをクラウスと」

『私もそう聞こえましたが?』

 

「え?私アインハルトって呼んだつもりなんだけど。え?」

 

……え?

 

「ちょ、あの、いったんこの話無し……にして欲しい。で、アインハルト。用事って?」

 

「え、あ、はい。実はお願いがありまして……」

 

「お願い?」

 

 

「私と……本気で戦ってくれませんか?」

 

 

え、はやっ。こないだのスパーで圧倒できたからしばらく来ないもんだと思ってたけど。

負けず嫌いにも程がない?

 

「あーまあ、断る理由がないけど、何処でやるの?」

「合宿先で、です」

「合宿?」

 

はて?合宿とは?

 

『マスター、メールみました?』

「あ……ちょっとアインハルト待ってて」

「はい」

 

そういやプライドから朝に言われてたような、気がする。

慌ててメールを確認すると両方とも試験後の休みをフルに使って合宿をするから参加しないか、というものだった。

 

「うーん、試験休みかぁ。行きたいのは山々だけど、シグナム姉さんたちとフルで入れてなかったっけ?」

『確か先週はそうでしたね』

 

シグナム姉さんたちが許可してくれるならいいけど。

 

「えーと、誰が来るんだろ。……うっそ何この超豪華メンバー」

 

参加予定メンバーを見るとなのはさんから始まりフェイトさんティアナさんスバルさんなどなど。

 

……あの人も来るのか。どうしようめちゃくちゃ行きたい。

 

「いや、でもなー。シグナム姉さんたちがみっちり特訓してくれるのも滅多にないしなぁ……」

『あ、噂をすればシグナムさんからです。なのはさん達から合宿について聞いた。遠慮せずに行ってこい。そしてシバかれてこい。だそうです』

「最後の一言余計だなぁ」

 

シグナム姉さんからも行ってこいと言われたので行かない理由はない。むしろ母さんから聞いていた六課の人たちと手合わせできるかもしれない。

 

そう考えるだけでワクワクが止まらなかった。

 

プライドに返信しておくように頼み、改めてアインハルトに向き直る。

 

「と、ごめんねアインハルト。で、試合だっけ?」

 

「はい。魔法を含めた全力のあなたに、どれだけ私の力を通用させれるかを知りたいんです」

 

「うーん、普通に練習試合をしたい、でいいじゃないの。練習とは言え手を抜くようには調教……じゃなくて教育はされてないから。……まあいいよ。やる時間帯とかはそっちで決めて」

 

「わかりました」

 

「あ、あともう一つ」

 

「はい?」

 

「スパーした日、私の言ったことを謝ってなかったよね。ごめん。アインハルトも真剣に努力してたのに」

 

「そのことでしたらもう気にしてませんので。こちらこそすいませんでした」

 

あー、よかった。そのことを謝る機会がなかったから心残りだったんだ。

ヴィヴィオちゃんとの再戦した日?忘れておりましたはい。

 

 

 

〜数日後 試験報告&出発日〜

 

 

「で?どうやった?試験は」

 

「最終日にやった教科以外は満点に近かったよ。赤点もなし」

 

「おお、よかったなぁ。これで思い切って合宿に行けるなぁ」

 

今は母さんの家の方で試験の報告会をやってる。このあとすぐ合宿の準備もするのだが。

 

「学年主席と都市本戦優勝とかしてくれたら私も心配せんでいいんやけどな〜」

「次こそは取るよ。次こそは……。あ、そろそろ出る準備しないと」

「りょーかいや。怪我せえへんようになー」

「わかった。行ってきます。母さん」

 






また夢を見た。 

はっきりとわかるような悪夢が。

大きな戦闘機のようなものに座って何かをしている。

周りの大人たちが何かを喋っている。けどはっきりと聞こえない。


ゆりかご、自我が無くなる、大戦を止める?

一体何を言ってるのかわからない。


大戦を止めると言うのならば、なぜ私は無表情で地上を焼き尽くしているのだろうか。

なんで、私は泣いているのだろうか。


何もわからない。


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8話 〜いざ合宿〜

「ふーむ、ゲーム何持ってこうか」
『なんでもいいんじゃないですか?』
「こう、どうせなら戦略ゲームとかボードゲームとかにしたいよね」
『だからなんでもいいかと』
「ホラゲーでみんなが怖がるのをみてみたいのもあるけど、どうしよう」
『いやだからなんでも……』
「んーよしっ、きめた!」

『……合宿のとき覚えていやがれです』

「ん?何か言った?」

『いえ何も』


なのはさん達と合流をし、合宿先へと向かう。

 

場所は無人世界カルナージというところで首都のクラナガンから臨行次元船で約4時間かかり、標準時差は7時間らしい。

 

要は結構遠い。

 

私はその4時間の間は………

 

「あー、肩凝った」

『4時間もアニメ見てたらそうなりますよ』

「試験があったから溜まってたのを消化しないといけなかったんだからしょうがない」

『何をとは言いませんが卒業するというのは?』

「んなことありえるとでも?」

『デスヨネ』

 

辿り着いた場所は自然の光景が目一杯に広がってきた。

とても凄い、なんというか落ち着けそうな場所だった。

 

「「みんないらっしゃ〜い♪」」

「こんにちはー」「お世話になりまーすっ」

 

と、紫髪の親子が出迎えてくれた。

 

大人の方はメガーヌ・アルピーノ、子供の方がルーテシア・アルピーノというらしい。

 

今回の合宿メンバーをおさらいしておくと、

 

まず大人の方々は

なのはさん、フェイトさん、スバルさん、ティアナさん、ノーヴェさん。

 

私たち子供は

ヴィヴィオちゃん、リオちゃん、コロナちゃん、アインハルト、私。

 

メッッチャ豪華。特に大人陣の方々。

 

それプラスフェイトさんの家族という方々が2人ほど来る、らしい。

 

……

 

『逃げたらはやてさん直伝の黒歴史をばら撒きます』

「はいっ」

 

嫌な予感しかしないから逃げるのはやめておこう。

 

 

「でね、ルールー。こちらがユタさん」

 

自己紹介が私のターンになったらしい。改めて紫髪の人、ルーテシアさんに向き直る。

 

「初めまして、ルーテシア・アルピーノさん。八神ユタです。今回はお世話になります」

 

「こちらこそ初めまして。とは言っても八神司令からは親バカ自慢をされてるので一方的に知ってるけどね。私はルーテシア・アルピーノ。ここの住人で14歳です。ユタのことは魔法戦が強いって聞いてたから私もワクワクしてるわ」

 

「それはどうも」

 

こう自分のことを褒められるのは慣れてないから、なんかむず痒い。

 

「それと敬語じゃなくていいのよ?私のことはルーって呼んでちょうだいな」

 

「あー、うん。はい。善処しま……するよ」

 

そうはいっても、なぜか勝手に敬語になりかける。頑張って慣れるとしましょう。

 

「あれ?エリオとキャロはまだでしたか?」

「ああ、2人は今ねぇ」

 

……ッスー。よし。

 

多分呼吸は落ち着けた。

 

「「お疲れ様でーすっ!」」

 

それと同時に後ろから大きな声が響いてくるから体がビクゥってなってしまった。

振り返るとよく知る顔が2人いた。

 

「エリオ♪キャロ♪」

「わーお!エリオまた背伸びてる!」「そ、そうですか?」

「私もちょっと伸びましたよ⁉︎1.5センチ!」

 

スバルさんがフェイトさんの家族のことを聞くと同時にその2人が帰ってきた。

1人は少し背の高めの赤髪の男の子。もう1人は小さいピンク髪の女の子。

 

男の子の方はエリオ・モンディアル、女の子の方はキャロ・ル・ルシエ。

フェイトさんの家族だ。

 

とりあえず挨拶を、と思い落ち着いたタイミングで行く。

 

 

だだだいじょうぶぶ。平穏平穏。人の字を書いて飲み込もう。

 

 

「久しぶり、キャロ、エリオ」

 

「ユタ!久しぶり。怪我はもう大丈夫?」

「ユタちゃん!久しぶりだね!去年はごめんね。仕事が忙しくて全然お見舞い行けなくて」

「全然大丈夫。母さんからその辺の事情は聞いてたから。あと怪我はもう完全に治ってるからまた手合わせできたらお願いね」

「「オッケー!」」

 

よし普通に会話できたうん私えらい。

『……』

 

なおこの時ユタの愛機プライドだけはユタの頬が紅潮しているのをわかっていた。

 

『(なーぜこれで隠し通せると思ってんでしょうかね)』

「プライドどうかした?」

『いえ何も』

 

「ちなみに、1人ちびっこいるけど3人とも同い年」

「なんですと⁉︎1.5センチも伸びたのに!」

 

と、ルーさんにキャロさんが反論してる。

 

 

キャロさん。1.5ってそんな伸びてないですよ。

 

「さて、お昼前に大人のみんなはトレーニングでしょ。子供達はどこに遊びに行く?」

「やっぱりまずは川遊びかなと。お嬢も来るだろ?」

「うん!」

「アインハルトとユタもこっち来いな」

「「はい」」

 

と、ノーヴェさんに川遊びに誘われる。

……胸がアレだからあんまり行きたくないんだよなぁ。

 

 

 

 

 

「あーーー、気持ちイイーーーー」

 

やっばい、この時期の川なめてた。すっごい気持ちいい。

泳ぐのは苦手だからラッコみたいに浮いてるだけなんだけど。

プライドはなのはさんに渡しておいてトレーニングの様子を撮ってもらってる。

後で参考にできそうなところを探したいからね。

 

この光景を撮れないのは痛いけど。

 

ヴィヴィオちゃんたちは競争したり鬼ごっこしたりと遊んでいる。

うん?ていうかみんなヤケに動きなめらかじゃない?

 

元気というか、元気すぎるというか。

 

あのアインハルトが泳ぎとは言え追いつけてない。

 

「水中で瞬発力を出すのは陸上とは違った力の運用がいるんだよ。あいつら、なんだかんだで週2くらいでプールで遊びながらトレーニングしてっから、柔らかくて持久力のある筋肉が自然に出来てるんだ」

「ほぇー」

 

と、ノーヴェさんが解説してくれる。

確かに水中みたいな不安定な場所でも瞬発力出せるようになれば陸上でも使えそう。また後で聞いてみようかな。

 

「んじゃ、せっかくだから面白いもんを見せてやろう。ヴィヴィオ、リオ、コロナ!ちょっと『水斬り』やってみせてくれよ!」

「「「はぁーーいッ!」

「「水斬り…?」」

 

と、私とアインハルトが目を合わせる。

 

「ちょっとしたお遊びさ。おまけで打撃のチェックもできるんだけどな」

 

「えいっ!」

「やっ!」

「いきますっ!」

 

と、コロナ、リオ、ヴィヴィオの順で水斬りをやってくれた。

 

……なるほど、打撃の威力を前に打ち出して水を割ることね。

 

「アインハルトも格闘技強いんでしょ?試しにやってみる?」

「₋……はい」

「ユタは?」

「遠慮しとく。私はこういったタイプの打撃はできないから」

 

アインハルトが構え、そして拳を打ち出す。

 

ズドォン!と言う音も共に水が打ち上がる。

 

「あはは……!すごい天然シャワー!」

「水柱5メートルくらい上がりましたよ!」

 

と、ヴィヴィオちゃん達とは少し違うがなかなか凄いことになった。

どうやったら若干12歳であんな打撃出せるの。

 

「……あれ?」

 

だが、覇王サマは納得できなかったらしい。

 

「お前のはちょいと初速が速すぎるんだな」

「お、師匠のお手本だー」

「ユタ、茶化すなよ」

 

あ、はい。ごめんなさいです。

つい言ってしまいました。

 

「初めはゆるっと脱力して途中はゆっくり、インパクトに向けて鋭く加速。これを素早くパワーを入れてやると―――こうなる」

 

……は?この人の蹴りでいま川の底見えましたよ?何この人。

 

それを聞いたアインハルトも再度水斬りを試している。

 

お、少し進んだね。

まだ練習するらしい。熱心だねぇ……

 

 

 

 

 

 

「アインハルトちゃんやユタちゃん楽しんでくれてるかな?」

「ヴィヴィオ達が一緒ですしきっと大丈夫です」

「ノーヴェ師匠もついててくれてるしね」

「ありがとうございます」

 

練習場では大人チームの基礎トレが行われていた。

なのはさんとスバルさんはなんともない感じで話しているが……

 

「ところでみんなは大丈夫ー?休憩時間伸ばそうかー?」

「だ……だいじょーぶでーーーす!!」「バ……バテてなんか………いないよ…?」

 

あのティアナさんやフェイトさんなんかですら肩で息をしている。

後日それを聞いたユタは震え上がったとか。

 

『なのはさん、ありがとうございます。マスターの無理なお願いを聞き入れてくださって』

「いいよいいよー。全然大丈夫。ちゃんと撮れてる?」

『はい、しっかりと』

「それはよかった♪しっかり参考にしてね」

 

 

 

時は過ぎ昼食の時間になる。ログハウスに帰ると準備が既にされていた。

 

「さー、お昼ですよー!みんな集合ーー♪」

 

「「「「はーーい!」」」」

 

バーベキューて、豪華ですなー。

 

「体冷やさないようにあったかいものいっぱい用意したからねー」

「「ありがとうございます!」」

 

メガーヌさん、すっごい気遣ってる。

そこらの並のホテルの従業員より気がきくんじゃない?

 

てかこの量を1人で仕込んだの?バケモノかな?あ、もちろんいい意味です。

 

「アインハルトにヴィヴィオちゃん………大丈夫?」

「いえ……あの」「だ、大丈夫……です」

 

ヴィヴィオちゃんとアインハルトは筋肉痛なのか痛みで震えている。

その理由としては2人してずーっと水斬り練習やってたから。

 

休憩なしでひたすら水斬りやってたからそりゃ筋肉痛にもなる。

 

 

 

「じゃあ今日の良き日に感謝を込めて」

「「「「「いただきます!」」」」」

 

 

 

 

 

 

「いやー美味しかった美味しかった。私もあれくらい仕込んだ料理得意になりたいよ」

『全世界の料理を頑張っている方へ今すぐ土下座をしやがれください』

 

ひどっ。

 

『下手な人が分単位で出汁を取ったり火加減を目測でほぼ完璧に測れたりすると思います?』

 

ごもっとも。

……と、さて。着いたかな?

 

「んーと、ここら辺だよね?」

『そのようですね』

 

なかなか切り倒しがいのある木が並んでいるねぇ。

 

メガーヌさんに教えてもらったこの場所、なかなかいいね。ちゃんと許可取ったので大丈夫です。

薪を補充したいらしいのでついでに魔法の練習に使わせてもらえることになった。

 

「んじゃ、始めようか」

『はい、いつでもどうぞ』

 

その声を合図に足元に、正確にはその少し後ろに魔力を込める。

 

黒いナニカがゆっくりと動き始める。

 

「そんじゃ、まずは一本!」

 

その言葉とともに黒いナニカが勢いよく伸び数メートル先にあった木が一瞬で切り倒された。

 

『お見事』

「どーも。そんじゃ次々行こう」

 

 

 

 

 

「おしっ、こんなものですかね。計15本。これだけあればしばらく持つでしょう」

『お疲れです。ついでに小分けにしましょうか』

「だね。最後の一仕事しますか」

 

枝や葉を切り落とし、太い幹とその他に分けていく。ついでなのでそれにも魔力を練ってやった。

 

『ほんと、便利ですねぇ、この固有能力みたいなのは』

「でしょー。遠距離の武器にもなるしバインドにも使えるなる。しかも相手にネタがばれても対策の方法は限られてくる。ほんとにこの能力大好き」

 

まあ、完全なるアニメの影響ですがね。

 

『おや、ノーヴェさんから通信です』

「はいよ」

 

プライドに言われ通話に出る。

 

『ユタ。魔法の練習はどんな感じだ?』

 

「今ひと段落したところですね。どうしました?」

 

『お、それはいいタイミングだ。終わってんなら大人チームの練習を見学しに行かねーか?そろそろ六課のメンツが模擬戦を始めるんだってさ』

 

「是非!」

 

思わず即答してしまう。母さんの映像しか知らないから生で見れるのは感慨深い。

 

『んじゃ、チビ達も呼ぶからまた後でな』

「はーい」

 

この合宿最高だ。

来年もあるのならまた来たいね。

 

その時は母さん達も来れるといいけどなぁ




練習場へ向かってるとその途中でノーヴェさん、ヴィヴィオちゃん、アインハルトが歩いていたので小走りで合流する。

「どもー」
「あ!ユタさん!ユタさんも見学に?」
「もちろん、なのはさん達の模擬戦を見逃すバカがいるわけないよ」

ヴィヴィオちゃんの笑顔見てるとほんと癒される〜。

「え?ヴィヴィオさんのお母様方も模擬戦に……?」
「はい!ガンガンやってますよー!」
「お二人とも家庭的でほのぼのとしたお母様で素敵だと思ったんですが」

なんてった?アインハルトさん?あの2人が家庭的でほのぼの?

……ヤバイ、笑いそう。
ノーヴェさんも必死にこらえてる。

「魔法戦にも参加されているなんてすこし驚きました」
「ブッ!」
「え?!どうしました?!」
「あ、いや……なんでも……フフッ!」

あー、無理だった。笑いをこらえることはできなかった。
ノーヴェさんも後ろで声を殺しながらわらってるし。

「えと、参加というかですね。ウチのママ。航空武装隊の戦技教導官なんです」

「……え?」

うわー、まじな反応だ、これ。てか、なのはさんって言ったらだいぶ有名な気がするけど。

もしやアインハルトは無知っ子でした?属性過多だねぇ。


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9話 〜悪夢〜

陸戦場に着くと、先ほど話題に上がっていたなのはさんが絶賛模擬戦中だった。

 

組み合わせは……なのはさんvsスバルさん、ティアナさんか。

 

1vs2なのに、なのはさん普通に受けきってる。

すっっっご。

 

お、あの飛竜……ああなるほど。フェイトさんとキャロ&エリオか。

 

「あれは…アルザスの飛竜……⁉︎」

「正解!キャロさん竜召喚士なんです」「エリオさんは竜騎士!」

 

あの飛竜の名称を一発で言い当てるとは流石優等生。

相変わらずエリオ達も凄いねぇ。

 

「で、フェイトママは空戦魔導師で執務官をやってます」

 

あ、模擬戦終わった。くぅ、もう少し早く来れてれば。

 

次のメニューはフィジカルトレーニングしながら魔法訓練やらその他さまざまなハード練習に切り替わった。

 

……休憩なしで続けるってマ?

 

「局の魔導師の方たちは……皆さんここまで鍛えていらっしゃるんでしょうか?」

「ですね」「ま…まあな」

 

アインハルトが質問するとヴィヴィオちゃんとノーヴェさんが返す。

 

「スバルは救助隊だし、ティアナは凶悪犯罪担当の執務官。他のみんなも程度の差はあってもみんな命の現場で働いてるわけだしな。力が足りなきゃ救えねーし自分の命だって守らなきゃならねー」

「ノーヴェも救助訓練はガッツリやってるんですよ」

 

ああ、そうだ。母さん達、六課の皆に憧れて、強くなりたい……って思ったこともあったっけ。

 

 

 

……また帰ったら母さん達にみっちり稽古つけてもらおうかな。

 

 

 

 

 

 

 

今は練習見学を早めに切り上げてホテルに戻りメガーヌさんと談笑中。

その内容は……

 

「で、ここで火を強めて」

「なるほど」

 

はい料理です。この方めちゃくちゃ料理上手なんですもの。

もはや談笑じゃない。

 

弟子入りしてる気分です。

おいこらプライド、呆れてんのわかってるからな。

 

「「「おつかれさまでーす」」」

「あ、なのはさんたち帰ってきましたね」

「そうねえ、ユタちゃん。先にみんなと一緒にお風呂に入ってきたら?」

「わかりました。ではまたその後にご指導お願いします!」

「私なんかでよければいくらでも♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふー、極楽極楽~♪」

 

なんだここ。温泉沸いてるって。神地かなにかですか。

 

温泉ある理由も中々おかしい。

 

適当にほったら沸いてきたって。ギャグマンガじゃないんだから。

 

「……?騒がしいな」

 

ヴィヴィちゃん達の方を見るとなんか騒いでる。

ぬるっとしたものが、とか。触られた、とか。

 

……?

 

今度はアインハルトのいる辺りで騒ぎ始めた。

 

お、水斬り成功してる。おめでとうアインハルト。

 

今度はスバルさんたちが騒ぎ始めた。

 

……なんか水色の髪の人いなかった?その人にリオちゃんが胸もまれた、ように見えたけど。

 

 

え、ちょっと待って。リオちゃん、ぶっ飛ばすのはいいけどこっちにとんで…

 

 

「げふっ!」

 

あっぶなぁぁ!!!

 

間一髪避けれた。

飛んできた人は、うん、石畳に直撃してないだけマシでしょう。水に打ち付けられるのも結構痛いはずだけども。

 

 

 

 

 

「もーダメだよセイン。こういうイタズラは!みんなが転んでケガでもしたら笑い事じゃすまなかったんだし」

「セクハラも犯罪なんだからね」

「私が営業妨害で訴えたら捕まるしね」

「まったく、こんなのがあたしより年上かと思うと涙が出てくるわ」

 

あの後、セクハラしまくってた犯人はセインさんというのが判明し

説教されている。

 

「う……うう……。なんだよ~!ちょっとみんなを楽しませようよ思っただけじゃんかよ~‼ケガとかしないようちゃんと気を付けてたっつーの!これでも聖王協会のシスターだぞ!」

 

現在は騒ぎの原因であろう人が正座させられて説教を受けてる。……この人がノーヴェさんより年上?なのになんだこの喚きよう。

 

小学生みたい。

 

「自慢じゃねーがあたしはお前らほど精神的に大人じゃねーんだからな!?」

 

「「(言い切ったし開き直った…)」」

「(ホントに自慢じゃねーよ)」

 

 

そのあとはセインさんがみんなに謝って回っていた。

ヴィヴィオちゃん曰く、お茶目が過ぎることもあるがとても優しいシスターだとのこと。

 

 

……お茶目とは?

 

 

「セイン、訴えない代わりに交換条件をのまない?今夜と明日の朝、みんなのご飯作ってよ。そしたら今夜一泊してってもらえるようシスターシャッハに頼んであげる」

「ホントか!?そんなので良ければいくらでも!」

「示談成立だね」

 

どうやら話まとまりそうです。

あんまり関係ないんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと、あたり一面が炎の海になっていた。

私はというと、それを船の上から無表情で眺めている。

 

両腕を動かそうとすると違和感がある。動かせないし、何より自分の腕ではない感覚がある

見てみると腕ではなく義腕があった

 

周りには指揮官らしき人間が数人いた。

 

(オ―――ィエよ、ゆりかごの次の向かう先は―――だ)

 

?ちゃんと喋って。よく聞き取れなかった

 

なんだろう、またおかしいことを周りは言っている。

 

世の中の大戦を止める?世界を救う?

 

 

世界を救うためだというのなら、なぜ私は世界を焼き尽くしている?

 

 

 

 

あ、母さん。あの、この人たちすごい変なこと言ってるんだけど。……?なのはさんにフェイトさん、スバルさん、ティアナさんにエリオなんかも来てる。珍しい。

 

それに戦ってきたのか乗り込んできたのか所々怪我をしている。

 

 

え?私を助けに来た?

 

どういうこと?

 

 

 

あ、近寄ってくる

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――駄目だ、こっちに来ちゃだめだ!

 

きたら、私は―――――

 

 

 

 

 

 

「ダメッ!」

 

……夢?ああ、よかった。

 

『マスター。大丈夫ですか?』

「ユタさん……」

 

「あ、あー。うん。寝起きとしては、さいっっあく。もう大丈夫。心配かけたね。アインハルトも、大丈夫だから。

 

……ああ、また夢で、良かった」

 

プライド曰く、小一時間ほど(うな)されていたらしい。

ずっと呼びかけていてやっと起きたとのこと。

 

「ああ、本当に、よかった。誰も、殺してなんかない、よね」

 

『当たり前でしょう。マスターに人は殺せるわけがありません。何より、マスターが悪意を持って傷つけようとした場合、私めが全力を持って邪魔させて頂きます』

 

今となってはプライドの憎まれ口でとても安心できる。

 

「アインハルト、私の両腕、ちゃんとついてる、よね」

 

「はい。しっかりとついています。両腕共に」

 

「そう……よかった。

 

……ごめん、ちょっと外の空気に当たってくる。すぐ、戻ってくるから。プライド、預かっててくれる?」

 

「え?あ、は、はい」

 

眼帯をつけてフードを深く被って外に出た。

 

 

 

 

 

「プライドさん、ユタさんは……ー

 

『まあ……別に口止めされていないので構わないでしょう。

マスターは最近魘される事が頻繁に起こっています』

 

「内容を聞いても……よろしいでしょうか」

 

『私が聞いたものは、曰く自身の体から両腕がなくなって義手がついている、曰くゆりかご、というものに乗せられ周りを焼き尽くしている、家族も、友達も、何もかも。そのような内容が多いらしいです』

 

「……いつからですか?」

 

『私の記録に間違いがなければアインハルトさんと()()()()()()()()()からです。あの日から一週間に一回ほど。多い時には3日連続で見たこともあります。夢の中身は毎回一緒らしいですが』

 

「わかりました、ありがとうございます。……すいません、ユタさんを追いかけさせてもらっても?」

 

『どうぞ。ああ、ついでです。私も連れて行ってください』

 

「承知しました」

 

『但し私は隠し持っていてください。……あまり言いたくない言葉を選びますが、覇王の血を受け継ぐ貴女になら、アインハルトさんにならきっと話してくれると思います。ですが、私がいるのがわかったら気を使って話してくれないと思いますので』

 

「わかりました」

 

 

 

 

「最近多いなぁ。……多分、私のオリジナル……オリヴィエの記憶、なんだろうね。あーにしても夢とはいえ嫌な感触なこって」

 

外の冷たい風に当たるも頭痛なんかは一向に治る気配はない。

思いっきり頭をぶつけて記憶喪失になれば治るのだろうか。

 

んなこと出来ないだろうけども。

 

寝っ転がって休んでいると足音が聞こえてくる。

……アインハルトだろうね。

 

「ユタさん!」

 

はい当たり。

 

「アインハルト。どしたのそんな慌てて」

 

「ユタさんが心配で追いかけてきました」

 

「私はもう大丈夫だよ。外の風に当たってだいぶ楽になったから」

 

「それは良かったです。あとはユタさんが見た夢について聞きたいことが」

 

「夢については話すつもりはないよ?」

 

即答で返すと少しだがムッとした顔になった。

 

「……なぜですか?」

 

「アインハルトには関係ないよ」

 

「関係あります!ユタさんが見てるものはおそらく聖王オリヴィエの記憶の一部です」

 

「だろうね。今アインハルトの口から聞けて改めて納得したよ」

 

「……わかっていたのですか?」

 

「なんとなくは、ね」

 

「ユタさん。私にも覇王イングヴァルトの記憶があるんです。なので、ユタさんのお役に立てるかもしれません。それに……ユタさんがそのような夢を見るようになったのは私と戦った日からと聞いています。それなら私に責任が……」

 

「あー、アインハルト。そういう理由じゃないんだよ。別にアインハルトが原因だろうがなんだろうが、私にとっちゃどうでもいい、些細なことなんだよ」

 

「では、どういう理由で?」

 

「アインハルトに夢の内容を伝えると、もしかしたら秘密にしてくれるかもしれない。でもそれすら私にとっては嫌なんだ。私自身のことで他の人に迷惑をかけたくない。

……私はね、できることなら誰にも迷惑をかけたくないんだ。それこそ母さん達には昔に散々迷惑かけちゃってるし。

 

 

私は、周りのみんなに迷惑をかけたくないし心配させたくない。苦しいことはなるべく自分以外の人に背負わせたくない。それが自分のことだというのなら尚更。ただそれだけ。これは私の問題。だから周りには言わない」

 

 

「………貴女の愛機であるプライドさんやあなたのお母様達にも、言わないのですか?」

 

「うん、そうだよ。元より私自身の出生がどうのこうのとか、聖王のクローンだとか、心底どうでもいいからね。そんなことで母さん達に心配をかけたくない。……だから、これは私自身の問題なんだ。私が自分で解決すべき問題

 

さ、そろそろ戻ろう。寒くなってきた」

 

「はい……」

 




確かに感じある明らかな拒絶。

私は自らの勝手な都合でこの人を巻き込んでしまった。そのせいで今、精神的にとはいえ苦痛を負っている。


では私にできることは?


ここまでの明らかな拒絶をされたにも関わらず、この人の奥底へ、聖王オリヴィエのことへ踏み込んで良いのだろうか。

そもそもこの人は普通に生きていた、それだけに過ぎないのに私が無理やり引き摺り込んだようなものなのに。

そんな人に深く関わる、助けになるように動く?

そんな資格が、私にあるのだろうか。


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10話 〜いざ陸戦試合〜

「あーヨシッ。体調、絶好調。体の違和感もなし」

『マスター。体調はもうよろしいので?』

「うん、もう平気。夜は心配をかけたね。もう大丈夫。アインハルトも、夜のことは皆に秘密ね」

「わかりました」

さてと、朝ご飯食べに行きますか。それを食べ終えたら


待ちに待った陸戦試合だ
憧れだったなのはさん達と戦える。



 

~陸戦場~

 

「はい、全員そろったね。じゃ、試合プロデューサーのノーヴェさんから!」

「あ…あたしですか?」

 

と、なのはさんに言われ少し恥ずかしがりながらノーヴェさんが前に出てくる。

 

「えー…ルールは昨日伝えた通り、青組と赤組に分かれて行います。今回は人数の都合上6人と7人に分かれます。

フィールドマッチ形式の試合になります。

 

ライフポイントは今回もDSAA公式試合用タグで管理します。

あとはみなさん、怪我のないよう正々堂々がんばりましょう」

 

「「「「「はーいっ!」」」」」

 

 

しれっと後ろから闇討ちしてもカウンターされそうとか思ったり。まあ今回は単独行動での戦闘じゃないからしっかりと指示を聞かねば。

 

 

「じゃあ、赤組元気にいくよ!」「青組もせーの!」

 

『『『『セーット!アーーップ!』』』』

各チームのリーダーである、なのはさんとフェイとさんが掛け声をしそれに合わせ全員がセットアップをする。

 

 

 

 

チーム編成

 

赤組

 

FB(フルバック):キャロ  LIFE 2200

 

CG(センターガード):ティアナ  LIFE 2500

 

GW(ガードウィング):フェイト  LIFE 2800

 

WB(ウィングバック):ユタ  LIFE 2500

 

FA(フロントアタッカー):ノーヴェ LIFE 3000

 

FA(フロントアタッカー):アインハルト LIFE 3000

 

青組

 

FB(フルバック):ルーテシア  LIFE 2200

 

CG(センターガード):なのは  LIFE 2500

 

GW(ガードウィング):エリオ  LIFE 2800

 

GW(ガードウィング):リオ  LIFE 2800

 

WB(ウィングバック):コロナ  LIFE 2500

 

FA(フロントアタッカー):ヴィヴィオ LIFE 3000

 

FA(フロントアタッカー):スバル LIFE 3000

 

 

 

<青組>

 

「序盤はたぶん同ポジション同士の1on1。均衡が崩れるまでは自分のマッチアップ相手に集中ね」

 

ふむふむ、つまりティアナさんの作戦によると私は……

 

「つまりは、私はリオ&コロナちゃん、もしくはエリオと一騎打ちでしょうか?」

 

「エリオは私が相手する予定。ユタちゃんはリオちゃんとコロナちゃんをお願い」

 

「イェッサーです。なのはさんあたりが来ない限りは足止めはできると思います」

 

「わかった。倒せそうなら遠慮なく倒しちゃっていいからね

 

「了解しました」

 

 

<赤組>

 

「向こうは前衛と中盤に突破力の強い子がそろってる。序盤は守備を固めて向こうの足を止めていこう」

「リオちゃんとコロナちゃんはユタちゃんをお願い。私はティアナに集中しないといけないから」

「「はいっ!」」

 

 

 

『それではみんな元気に……』

 

メガーヌさんが開始の合図の用意を始める。

 

『試合開始~!』

 

 

 

 

 

 

「ウィングロード!」「エアライナー!」

 

試合が始まると同時にノーヴェさんとスバルさんが多くの足場を作る。

 

「いくよっ!コロナ、リオ!」

「オッケー!」

「頑張ろう!」

 

 

 

「アインハルト~、ヴィヴィオちゃんをお願いしてもいいかな?」

「承りました!」

 

今回はもちろん眼帯なんてつけておりません。そこまでアホじゃない。

 

自分のマッチアップ相手についてはおおよそ見当はついている。

おそらくは…

 

「やっぱりね」

 

「あれ?もう追いカケッコは終わりですか?」

「ユタさん、お相手お願いします!」

 

「遊び盛りな二人を相手に逃げ回ってもただの無駄な体力の浪費だからね。ここらでやりあおうか」

 

「(ユタさんが止まってくれた。ユタさんの魔法戦に持ち込まれたならこっちが不利、なら先手必勝!)双龍演舞、炎龍!雷龍!」

「(ユタさんにはまだまだかなわないかもしれない。けどこの魔法なら!)創成起動(クリエイション)、創主コロナと魔導器ブランゼルの名のもとに!叩いて砕け!『ゴライアス』!」

 

と、リオちゃんが雷と炎の龍を。コロナちゃんはそこらの建物よりも大きいゴーレムを創成してきた。

 

かっこよ。何その龍、私もやりたい。

 

「へぇ、コロナちゃんもゴーレム使うんだ」

 

「はい、私の唯一自慢できる魔法です」

 

「へぇ、じゃあ私も対抗させてもらおうかな。ユタおよびプライドの名のもとに銘ずる。主の敵を殲滅せよ『ギガンテス』!」

 

と、私はコロナちゃんのゴーレムの半分くらいの大きさの岩人形『ギガンテス』を創成した。

 

「やっぱり、ユタさんも……」

「コロナやヴィヴィオの言ったとおりだったね」

 

「およ?驚きの反応が見れると思ってたけどイマイチ。私がゴーレムクリエイトを試合で使ったことがあるの2,3回だけなはずなんだけど。まいっか。さあ、やりあおう」

 

 

 

 

 

「えー!コロナちゃんもすごいけどユタもすげえ!」

「そうねぇ。二人ともあに年齢であの精密なゴーレムを造れるなんて。とても特訓したのね。でも……ユタちゃんのゴーレム、迎撃用って感じじゃないわね。時間稼ぎのためかしら?」

 

一方そのころ、休憩室ではメガーヌとセインは見学しながら感想や意見なんかを言い合っていた。

 

「時間稼ぎ?なんでまた」

「ユタちゃん魔力を練り上げてるわね。きっとゴーレム以外にもあの二人への対抗策があるからかしら?」

 

 

 

 

私の言葉と同時にコロナちゃんはゴライアスを操作し私に向かってくる。それに応じるようにギガンテスが前に出る。

リオちゃんは炎を出しながら向かってくる。

 

さてはてこのハリボテゴーレムがどこまで通じるか。

 

 

「やあっ!」

「炎龍砲!」

 

 

そんな淡い希望を打ち砕くかの如く速攻で壊された。ハリボテとはいえ時間稼ぎしてほしいから頑丈に作ったはずなんだけど。

 

ま、とはいえほんの少し時間稼げたからまあ良しとしましょう。

 

「ロックバインド!」

 

壊されたゴーレムの破片をつかってバインドを仕掛ける。壊したゴーレムがバインドになるのは予想外だったのかゴライアスへバインドは命中、脚を止めることができた。リオちゃんへは魔力弾を爆発させ砂煙を上げるとともに一時的に身を隠す。そして私の位置をさらに後ろに下げる。

 

こんな子たちとインファイトしてられるかっての。

 

「さープライド。一年間ただ療養していただけじゃないとこを見せようか」

『了解です。マスター』

 

 

昨日、練習でやった時のように足元の少し後ろに魔力を込める。すると影のような黒い物体にゆっくりと質量を持たせ始める。

 

本当はもっと早くできるけど演出はしなきゃね。

 

 

魔力を込める理由は影を操るため。

 

正確には魔力の変換資質が『影』というなんとも不可思議なことだったのだが。

 

影が、ゆっくりと私の後ろでヨコに、そして()に広がっていく。影が質量を得たかのように。

 

「きた、ユタさんの……」「何……あれ……」

 

いいねぇ。私の背後が真っ黒になった事に驚きと違和感を隠せていない。特にリオちゃん、いい顔してるねえ。コロナちゃんは多少知っていたけど直に見て改めて驚いたのかな?

 

「そんじゃあ改めて相手をお願いするよ。リオちゃん、コロナちゃん」

 

宣戦布告をすると同時に影に無数の目、口を持たせる。

 

 

 

まあ、目と口はもちろん偽物ですはい。まだ視覚共有とかできません。

 

 

 

そして、これを初めて見た人や映像で知ってる人でも直に目にした人は決まってこういう。

 

 

「「怖いです!」」

 

 

「あははー。だろうね。さてと、ここからが本番だよ」

 

と言うとコロナちゃんもリオちゃんも構える。

 

影の拘束(シャドウバインド)

 

「え!?」

 

ゴライアスの足元から影が伸びゴライアスとコロナちゃんをバインドする。

がんじがらめ、というよりは細かい関節や力の入れやすい部分を締め上げることによる破壊しづらく逃げにくいバインド。なお母さん仕込みです。

 

……たまーに馬鹿力で引きちぎる人とかイレイザーで消し飛ばす人とかいるけど。

 

「さ、コロナちゃんはしばらく無視できる。次はリオちゃんかな。コロナちゃんを守りつつどこまでやれるのかお手並み拝見といこう」

 

「っ、炎龍。紅蓮拳!」

 

「わ!」

 

あっぶなぁ。いきなり炎の砲撃打ってくるとは。本能で近づかせたくない、とでも思ったのかな?

いやしかし、昨日見て炎と雷の変換資質あるなーくらいは思ってたけど。砲撃もできるのね。末恐ろしい子だ、その才能羨ましいねぇ。

 

っと、そんなこと言ってる暇なさそう。

 

「よっと!」

 

リオちゃんへ向けて影を勢い良く伸ばす。

それを避けられはするが先ほどリオちゃんがいた地面はまるで切り裂かれたようになっていた。

 

それを見たリオちゃんは素手では危ないと判断したのか剣を装備した。

 

「うん、正解だね」

 

今度は何本も連続でリオちゃんに向けていく。

それをリオちゃんは後ずさりしながらも剣で何とか捌いていた。

 

「(前に出れない!なら……)っ、はぁっ!」

 

「へ?」

 

と、リオちゃんがいきなり剣をおさめてまた砲撃を仕掛けてきた。しかもさっきより高威力で。

そのせいか実体化していた影はほぼすべて消された。

 

……なんつー威力なの?番長と張り合えるんじゃない?いや確かに燃費考えてあんまり高耐久のものにはしてなかったけども。

 

「雷神装・虎砲!」

 

「!」

 

と、土煙に紛れてリオちゃんが接近しており腹に打撃を入れられた。

その勢いで後ろにすっ飛ばされ壁に激突し崩れた瓦礫に飲み込まれる。

 

ユタ LIFE 2500→1500(ダメージ1000)

 

「コロナ、大丈夫?」

「うん、バインドも何とかとれたよ」

 

『コロナーリオー。ナイス!』

「あ、ルーちゃん。そっちは?」

『ヴィヴィオを今治療中。で、アインハルトがなのはさんと交戦中』

「じゃあ、あたしたちはどうする?」

『作戦もあるし、コロナちゃんはそのままユタの警戒で、リオは合図でいつでも動けるように』

「「了解!」」

 

 

「とはいっても、ユタさん出てこないね。クラッシュで動けないのかな?」

「気絶しちゃったのかな?」

「どちらも違うね」

「「え!?」」

 

「シャドウボックス」

 

不意を突いて散布していた魔力を使って影の箱を創り出しリオちゃんのみを覆う。

コロナちゃんもできないことはなかったがゴーレムがあったのでやめておいた。流石に魔力が切れる気がするし。

 

「げほっ。あー痛い。少しは受け流したのにあのダメージって。どんな馬鹿力なのやら」

「リオは、チームの中で腕力と魔力は一番ですから!」

「なるほど納得。パワーだけならアインハルトとも並べそうだね。うん、いい選手になれるよ。

 

……ゴライアスが面倒だなー。私みたいな単純命令だけの自動操縦型ならいいんだけど。どう思うプライド」

『むしろゴライアスを潰すことができれば勝ちでしょう』

「ですよね。まあ多分無理だけど」

 

と、再度距離を取る。

リオちゃんを覆った影も、あの力の前だとあんまり足止め期待できそうにないから急いで……

 

「ゴライアス。パージブラスト!ロケット・パ――――ンチ!」

「へ?」『あ』

 

どごーんという音とともに再度瓦礫に飲まれる。

普通にびっくりしてしまった。

 

 

ユタ LIFE 1500→1000(ダメージ1000)

 

 

まあ、けどやられっぱなしじゃいられないよね。

 

 

「そりゃっ!」

 

瓦礫をすっ飛ばして影をゴライアスの関節めがけて延ばす。

すると、ゴライアスを操作して影を殴って消そうとしてくる。

 

なので影をできる限り細くしてゴライアスの攻撃を避けながら再度バインドをする。

 

いや、正確にはバインドもどきか。

 

「予想通り。大きいから小さいモノを狙いにくいし思った以上に精密な動作は苦手とみた」

 

「これくらい…」

 

コロナちゃんは無理やりバインドを引きちぎってきた。

 

うん、ありがとうねわざわざ罠にかかってくれて。

 

「え?」

 

すると、引きちぎれた瞬間バインドが爆発した。

ゼロ距離なのでゴーレムが耐えれるわけもなく崩れ落ちる。

 

そして、落ちていくコロナちゃんを影で捕らえ思いっきり()()()()()()投げつける。

自分はそれと同時に走り出し、腕にずっと発動直前状態にしていたある魔法をかける。

 

「せえやっ!」

 

「くっ!」

 

そのまま後ろにすっ飛ばす。

 

コロナ LIFE 2500→1600(ダメージ900)

 

「(なんか、ものすごい硬い石か何かで殴られたような)」

 

「ふぃー、なんとかできた。時間稼ぎも終わり」

 

ユタの腕は肩から指の先まですべて黒いナニカで覆われていた。影ではない、何かで。

 

『ユタ!もう少し時間稼ぎお願い!』

 

「りょーかいです。さぁてリオコロコンビ、もう少しお姉さんと遊びましょう」

『マスター気持ち悪いですから本気でやめてください』

 

……泣くぞ。

 

「ユタさん、残念ですがそれはもうできてませんよ?」

 

「え?」

 

「だって、リオはもう逃げてますよ」

 

……リオちゃん、いつの間に。瓦礫に飲まれたりで気づいてなかった。

 

『え⁉︎』

「へ?どうしました?」

『いや、リオとルーちゃんがこっちに!しかもユタちゃんとティアナさん以外が2on1状態に!』

「はい⁉︎」

 

……なーるほどね?つまりは……

 

「すぐそっちに戻るから少し耐えてて!」

『わかった!』

 

「いかせませんよ。ユタさん」

 

「あー再構築しちゃってるか」

 

と、コロナちゃんがゴライアスを操作し近づいてくる。

けど、やることは変わらない。

 

私は影を使ってゴライアスを少しずつ削りながら後ろに下がっていく。そして、スキができたら

 

「両腕斬り落とし完了!あとは、影の拘束(シャドウバインド)!」

 

「ま、また…足元から…」

 

と、逃げながら地面にばらまいていた魔力で半壊状態のゴライアスとコロナちゃんをバインドする。

まあ、ゴーレム半分壊すのに少し手間取ったけど。

 

「今回のはかなり強いバインドだし大丈夫でしょ。さてとキャロのほうに向かわないとね。予定より時間喰っちゃった」

 

コロナちゃんの力を侮っていたつもりはないけど、想像よりもやりにくかった。

これはまた課題だ。

 

それはそうとキャロの元に行かなきゃ



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11話 〜陸戦試合 決着〜

現在、キャロはリオとルーテシアによる2on1をなんとか捌いていた。

が、それも時間の問題かのように思われていた。

 

「はあっ、はあっ」

 

「ふふーん、そろそろかな」

 

「いや、まだです。アルケミック・チェーン!」

 

と、キャロは無数の鎖を出しリオとルーテシアに向かって放出する。しかし二人はすべてよける。

 

「ふふーん、あたらない♪」「ユタさんのより避けやすいですよー!」

 

「それはそうだよ。だってそれは捕まえるための鎖じゃなくて、撃墜のための布石だから!」

 

というと鎖に引っ張られながらユタが現れる。

 

「相変わらずの機転のよさナイス、キャロさん。リオちゃーん、君の砲撃の威力使わせてもらうねー。吸収放射、紅蓮拳!」

 

「「へ?」」

 

と、ユタはリオに撃ち込まれた三回分の魔力砲撃を吸収し、ある程度を影に蓄えて置いた魔力を、一気にルーテシアとリオに向かって放出する。

大爆発が起きると共に、地面にはリオとルーテシアが倒れていた。

 

ルーテシア LIFE 2200→0(ダメージ2200)

リオ LIFE 2600→0(ダメージ2600)

 

「いぇーい!ナイス!」

「勝利のV!!」

 

と、ユタとキャロとハイタッチをかわす。

 

 

 

キィィィィィィン

 

 

 

ん?何の……

 

「へうっ!?」「いたっ!?」

 

キャロ LIFE 1100→0(ダメージ1100)

ユタ LIFE 200→0(ダメージ200)

 

「はーい、キャロにユタちゃん撃墜」

「な、なのはさんいつの間に……」

「勝ったと思った時が危ないとき!現場での鉄則だよー」

 

 

撃墜された私たちは、そのまま観戦場所へ向かう。辿り着くとそこにはルーさんとリオちゃんもいた。

 

『先程の光景、シグナムさんに送ったらキツーく絞られそうですねぇ』

「本気で死ねるからやめてくださいプライド様」

 

 

 

「(良し……タイミングは今!)ブラスター1ッッ!(私の残り魔力もそんなに多くないけどマルチレイドで一網打尽!)」

 

「(なのはさんが集束に入った!)紅組生存者一同ッ!なのはさんを中心に広域砲を撃ち込みます!動ける人は合図で離脱を!」

 

分割多弾砲(マルチレイド)で敵残存戦力を殲滅。ティアナの集束砲(ブレイカー)を相殺します!」

 

 

「モード【マルチレイド】」「シフト【ファントムストライク】」

 

 

 

「「スターライト――‼ブレイカーーーーッッ!!」」

 

 

 

 

 

「……これ、なんて最終戦争?」

 

規格外の収束砲(ブレイカー)の相殺を初めて見た私の感想は間違っていない。

 

 

 

 

 

Team 青

なのは LIFE 0(ティアナの集束砲(ブレイカー)を相殺しきれず撃墜)

 

エリオ LIFE 0(集束砲(ブレイカー)が直撃し撃墜)

 

スバル LIFE 60(ヴィヴィオを集束砲(ブレイカー)から守り戦闘不能)

 

コロナ LIFE 30(ゴライアスで防御するも防ぎきれず戦闘不能)

 

リオ LIFE 0(ユタの吸収放射により撃墜)

 

ルーテシア LIFE 0(ユタの吸収放射により撃墜)

 

ヴィヴィオ LIFE 1800

 

Team 赤

 

ティアナ LIFE 110(なのはの集束砲(ブレイカー)を何とか相殺)

 

フェイト LIFE 0(集束砲(ブレイカー)直撃直前エリオにより撃墜)

 

ノーヴェ LIFE 0(集束砲(ブレイカー)が直撃し撃墜)

 

キャロ LIFE 0(なのはの弾幕により撃墜)

 

ユタ LIFE 0(なのはの弾幕により撃墜)

 

アインハルト LIFE 1350

 

 

 

 

「えーと、残ってるのが…三人?」

『ティアナさんとヴィヴィオさんとアインハルトさんですね』

 

すごい、あの中生き残ったんだ。

 

あ、ヴィヴィオちちゃんがティアナさんに近づいて行ってる。アインハルトもティアナさんを守るためなのか向かって……お、先ヴィヴィオちゃんついた。アインハルトもすぐ着いたな。

 

あ、ティアナさん撃墜された。

 

たぶんヴィヴィオちゃんとアインハルトの三度目の勝負、かな?

 

おっ、ヴィヴィオちゃんいいカウンター決まった。およ、アインハルトもカウンターし返した。無意識のうちに出たのかな?

 

アインハルト LIFE 1000→0

ヴィヴィオ LIFE 700→0

 

『はーい、試合終了~。結果は両チーム全員戦闘不能により引き分け!お疲れ様~』

 

 

 

 

 

 

 

「それでは皆さん」

 

『『お疲れさまでしたーー!』』

 

「あー、疲れた」

『もっとやりたいくせに何を言ってるんですか』

「あ?わかる?」

『何年マスターといると思ってるんですか。で、正直な気持ちをどうぞ』

「まだ体動かしたくてウッズウズしてる。今ならなのはさん相手でも喧嘩挑めそう」

『ほう?言いましたね?』

「……ごめんウソつきました。でもそれくらいモチベーションはあります」

 

さすがはプライド。私のことよくわかってる。

まあ、終わりは終わりだ。しょうがない。

 

「じゃ、おやつ休憩と陸戦場の再構築をしたら2戦目いくからねー。2時間後にまた再集合!」

 

『『はーいっ!』』

 

「え?」

『……マスター、細かな日程の詳細の確認は?』

 

はい、しておりませんでした。

 

ちゃんと予定表を確認してみると、計3回の陸戦試合があるらしいから……あと2回か。

 

「プライド、録画はずっと回してたよね?」

『もちろん。簡単な編集をして後にシグナムさんたちへ送信する予定です』

「OK。撮影は任せた」

『任されました。10秒につき100魔力で請け負いましょう』

「ドユコトよ。100魔力って何よ新しい単位出してこないで」

 

 

 

 

 

 

〜数時間後〜

 

三回のチーム戦が終わり、今はみんな休憩中。

ノーヴェさん、スバルさん、ティアナさんは温泉

なのはさんとメガーヌさんはキッチンで談話

フェイトさんはエリオ、キャロと団欒を(混ざりたかった)。

 

そして私たちは………

 

「あうう…動けない」「腕が上がらない……」「おきられないー…」「……動けません………」

 

「みんな限界超えて張り切りすぎるからだよー」

「一生懸命やったからだねー」

 

私とルーさん以外みんな筋肉痛で動けてない。

 

「ルーちゃんとユタさんはなんで平気なのー?」

「そこはそれ、年長者なりのペース配分がね」

「シグナム姉さんとヴィータさんに鍛えられたら嫌でもペース配分は身につくからねぇ」

 

何を言ってるのかコロナちゃんは。もし納得できないなら一度受けてみるといい。あの鬼コーチの特訓もといしごきを。

 

『あ、マスター。シグナムさんからメールです。'余計なことを言うなよ?'だそうです』

 

……何あの人、テレパシーでも持ってる?

 

「そういえば、アインハルトはこういう試合初めてだよね?どうだった?」

 

と、ルーさんがアインハルトに聞く。

 

「はい、とても勉強になりました」

「スポーツとしての魔法戦技も結構熱くなれるでしょ」

「はい……いろいろと反省しましたし自分の弱さを知ることもできました。わたしの見ていた世界は…見ていたものは本当に狭かったと」

 

「今日の試合が良かったなら…この先こんなのはどうかなって。ユタが出ていた試合でもあるんだけどね」

 

ああ、DSAAのことかな?

 

D(ディメンション)S(スポーツ)A(アクティビティ)A(アソシエイション)公式魔法戦競技会」

 

やっぱり。

 

「出場可能年齢10歳から19歳、個人計算ライフポイントを使用して限りなく実戦に近いスタイルで行われる魔法戦競技、全管理世界から集まった若い魔導師たちが魔法戦で覇を競う。その名もインターミドル・チャンピオンシップ」」

 

ルーさんが細かく説明を入れてくれるので私から説明することはほぼないかな。

 

インターミドルの話になり、ヴィヴィオちゃん達も目を輝かせながら話し始めた。

 

「私たちは今年から参加資格があるので…出たいねって言ってたんです」「そうなんです!」「全国から魔法戦自慢が続々集まってくるんです!数は少ないですが格闘型の人も!」

 

と、初等科トリオがさらに詳しく言ってくれる。

 

「自分の魔法、自分の格闘戦技がどこまで通じるか、確かめるにはいい場所だよ。ちなみに今年は私も出る!」

 

「「「「わーー」」」」

 

ルーさんも出るのか、是非とも当たりたいね。

 

コツコツコツコツ

 

あ、この足音は……アノヒトだ。

 

「はぁい、みんなー。栄誉補給の甘いドリンクだよー」

「出ましたね!魔王!」

「誰が魔王っ⁉︎」

「貴女ですよ!3戦目でなのはさんティアナさんフェイトさんのトリオで潰しに来たトラウマもとい恨みは一生忘れないですよ!シグナム姉さんたちとの特訓より死の間際にたどり着きましたもん!」

 

やっぱりなのはさんとメガーヌさんだ。

 

 

ちなみに最終試合の出来事のことで、開始30秒くらいで潰されました。

 

地獄とはまさにこのことか、と。

 

録画を見た母さんたちは爆笑しつつザフィーラとかは引いていたらしい。

シグナム姉さんはそれだけ脅威に思われてたんだろうと、一応フォローしてくれていた、らしい。

 

 

 

〜温泉〜

 

「インターミドルかぁ、アインハルトも出てくれると健全でいいんだけどね」

「そうだな。今日の試合でやっぱり確信した。あいつらの探してる強さは競技者としての強さだ。命のやり取りや削りあいじゃねぇし何かをするための強さでもねぇ。練習重ねて自分を高めて公正なルールの中で相手と競い合う」

「相手にも自分自身にも勝つ戦い……だよね」

「ああ」

 

と、ノーヴェ、スバル、ティアナが話している。

 

「まあ、あいつらが大会に出るなら……あたしも覚悟決めなきゃならねーんだけどさ」

 

「ちゃんとヴィヴィオたちの『師匠になる』ってことでしょ?」

「ノーヴェの未来だってまだ探し中なんだし、この先どんな道に進むかヴィヴィオやアインハルトたちと一緒に探していけばいいよ」

 

と、スバルとティアナがノーヴェに言う。

 

「こうして見るとスバルはやっぱりノーヴェのお姉ちゃんよねぇ」

「姉です!」

「……まぁ、不本意ながら」

 

 

 

 

〜子供陣〜

 

「インターミドルで強い子って実際本当に強いよねぇ。ユタちゃんなんかがいい例だし」

「そーなの!」

 

何言ってんですか、なのはさん、開始速攻でぶっ潰しに来たくせに。接敵からの収束砲で秒殺KOされたの初めてだよ。

 

「都市本戦の上位あたりからはプロ格闘家に進むのもよくいるんですよ」「そうなんですか……」「あれ?コロナのゴーレムって大会規定では……?」「持ち込みはダメだけど毎回そばで組み上げるのはオッケーだって」

 

「あ、そういえば参加資格の方は……」

「年齢と健康面は問題なくオッケーよね」

「コーチとセコンドはノーヴェが全員分引き受けてくれるそうです!」

「ノーヴェ師匠なら安心ですよね!」

「はい」

「あ、そういえばユタさんはどうするんですか?一応ユタさんが希望すればユタさんのコーチとセコンドもやってくれるそうですが」

「いや、私はいらないかな。それに八神家から出ると思うし。……何より、八神はやての一人娘として出たいから。あ、でも練習はもちろん継続してやらせてもらうよ」

 

それをいうとみんな喜んでいた。まあ流石に高頻度、というわけにはいかないだろうけどね。

 

「あともう一つ…これ今も変わってないわよね?『安全のためclassS3以上のデバイスを所有して装備すること』」

 

「デバイス……持ってないです」

 

と、アインハルトが申し訳なさそうに言う。

 

アインハルトってデバイス持ってなかったんだ。

てことはデバイス無いのに変身魔法あんなにうまいのか。羨ましい。

 

「あら、じゃあこの機会に作らなきゃね」

「その…でも真正古代(エンシェント)ベルカのデバイスは作るのが難しいと……」

 

「フッフッフッ、私の人脈甘く見てもらっちゃ困りますねえー。私の一番古い親友とその保護者さんってば次元世界にその名も高い。バリッバリに真正古代(エンシェント)ベルカな大家族!」

 

ん?ちょいまって。ルーさんの言う家族にすっごい心当たりがあるんだけど。

『マスターの考えであってますよ』

心を読む愛機が言ってくる。ってことは………

 

「八神家の皆さんに頼めばきっとノリノリで組んでくれるよ!」

 

デスヨネェ。

 

『あ、マスター。はやてさんからメールです。'いま、ウチのこと呼ばんかったか?'だそうです』

「あの人地獄耳か何かかな?」

『あ、またメールです。地獄耳なんて言ってないよなぁ?だそうです』

 

……もうヤダ、あの家族。

 

 

 

 

「ああ、忘れてた。そいやアインハルト、インターミドルに出る気があるならどんな感じかを知るために私と模擬試合、一度やってみる?」

「え…いいんですか?」

「もちろん。ていうかアインハルトも言ってたじゃん。本気で試合をして欲しいって」

「そうですが……」

「よし、決まり。明日の昼にでもやろう。ルーさん、インターミドルと同じ設定のリング作れる?簡易的なので良いので」

「もちろん!私を誰だと思ってるのよ」

 

よし、これでアインハルトの約束の件はおわり。あとは…

 

「コロナちゃん、じゃあまた後で部屋でね。アインハルト、今日はみんなと寝て。私はコロナちゃんと少し話があるから」

「え?あ、はい、わかりました」

 

最後に爆弾だけ落として置いて部屋を出る。後ろでコロナちゃんが質問攻めにあってるが私は悪く無い。

 

『通報案件ですかね』

「いや何も悪いことしてないでしょうが」




陸戦試合最終戦をみた八神家

「あっはははは!あ、あれだけ大見得切って、か、開始1分経ってないやん!」
「い、いや、これは……なのはさん達が、鬼……」
「確かに、い、良い経験……?になるか?これ」
「うわぁ、ウッキウキしながらブレイカーぶちかましてる。ドSかよ……」
「それだけユタを脅威と思ってたんだろうな」
「か、帰ったら慰めてあげるのです……」
「……」

たまたま一緒にいたミウラだけは、ポカーンとしながら見ていた。

「あはは!あー笑った笑った。リイン、アギトー。ウチらはデバイス組む準備でもしておこう。ルールーから新しい子のエンシェントベルカのデバイス組んで欲しいって頼まれたからな」
「わかった」「わかったのです」
「さてさて、どんな姿で出ようかなぁ」


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12話 〜vsたぬき(一方的)〜

『マスター。ではリハビリを開始します』

「あいよー」

 

部屋に戻り、プライドがいつもリハビリに使ってる映像を投影してもらう。

 

ready?の文字が浮かび上がり、目をよーく解してから集中力を高める。

 

格好?暑いから上下ともに下着ですよ。上はシャツもきてるけど。

 

 

「いつでもどーぞ」

 

『では開始します』

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン

 

「ユタさん、きました」

「あいよー。はいっていいよー」

「お邪魔します」

 

と、コロナちゃんが入ってくる。けどまだリハビリしてるからもう少し待ってもらうんだけど。

 

「もう少しだけ待ってて、これ終わるまで」

「はい、わかりました」

 

 

「……はい、出来た」

『結果を出しますので少しお待ちを……87%です。前回から4%アップです。全盛期ほどではないとは言え、かなり良くなりましたね』

「そうねぇ。でもやっぱり違和感あるかな」

『それは左右での視力の差が原因かと』

「それと、どうせやるなら100%にしたいよね」

『鍛えればいけるんじゃないんです?』

 

ま、それは頑張るとして。

 

「コロナちゃん、お待たせ。ま、とりあえず座って座って」

 

コロナちゃんを促して、横に座ってもらう。

 

「で、お願いって?」

 

「ユタさん。……私を、鍛えてくれませんか?」

 

「というと?私悪いけど、コーチ経験皆無だよ。それに、コロナちゃんには私以上にしっかりしたコーチいるでしょ?ノーヴェさんが」

 

「それは分かっています。でも……。…少しだけ私のことを、お話ししても?」

 

「うん。どうぞ」

 

「……私、2年前のインターミドルを見たときからずっとユタさんに憧れていたんです。だから、その時に大怪我を負ってしまったのも知ってます。去年丸々、どの試合でも見れなくなって。私、ユタさんの都市本戦をみてから、ユタさんみたいになりたいって思ってたんです。そんな中、練習で一緒になれたり合宿でもご一緒できるって知って」

 

「んーと、コロナちゃん。私のスタイルを知ってるの?戦績なんかも。都市本戦まで見てたってことは、知ってるんだろうけども」

 

「はい、近距離戦では決して自分からは仕掛けない超カウンター型。魔法戦では影を主体に、リフレクトと吸収放射を使いこなして相手の攻撃を利用して戦うスタイル。戦績もライフ0にして勝った数より判定勝ちの方が多い」

 

「そうだね。そこまで知ってて私に憧れる?世間では真正面から勝てない相手を見切って逃げまくっている弱虫だ、なんて叩かれたこともあるのに」

 

当時の私は一戦一戦に全力掛けててそんな評判聞いてる暇なかったけど。

 

「私、ゴーレムや反射、影なんかを駆使して格上の相手と逃げながらでも渡り合えることって凄いことだと思いますよ。私なんかが上位選手とやったらそんなことできませんもん」

 

………あー、ダメ。こういう風にマジな顔で言われると照れる。

 

「それで、私。リオやヴィヴィオより色々なものが劣っているってわかってるんです。ただ少し特別な魔法が使えるっていうだけで」

 

「コロナちゃん、それでいうなら私も少し特別な魔法が使えるっていうだけだよ」

 

「ですが」

 

反論しようとするコロナちゃんを一度制して、あらためて自分の口で言う。

 

「それに、才能の話でいうなら今この合宿にいるメンバーの中で私が一番劣ってる」

 

「え?」

 

『マスター?その話はしてもいいんです?話したくないみたいなことを言ってませんでしたっけ?』

「いつ言ったっけそれ。覚えてないからいいや。細かいことは気にしない

 

コロナちゃんはなんで私が格闘戦と魔法戦でカウンター型を極めようとしたかわかる?」

 

「ええと…」

 

コロナちゃんは口ごもる。

 

 

「答えは私が()()()()()()が皆無だったから。より正確に言うならば、私は王道の戦い方の才能がなかった」

 

 

というとプライドも諦めたようにため息を出しコロナちゃんも驚いた顔をする。

 

「コロナちゃんから見て私ってどんな人に見えた?」

 

「わ、私は、ユタさんは11歳でインターミドルの都市本戦に出場なさいましたし試合を見た限りでも相手のペースに持ち込ませなかったり相手の攻撃を利用して戦っているからとても魔法戦技の才能のある人だなと。カウンターや反射、吸収放射を実戦で使うのって、練習をすごく積まないとできないと思いますし」

 

「うん。まずそもそもの前提が違うね。

私が試合でカウンターを駆使するのは私にカウンター技術の才能があるからじゃない。

 

()()()()()()()()()()()()。それに尽きるんだよ。

 

……わたしもコロナちゃんみたいに憧れてる人達はいてね。特に私の師匠達って死ぬほど強くて、高すぎる壁で、高すぎる憧れなの。

 

それに私がインターミドルでずっと目標にしてた人も、真正面から全てを潰しに行くような人だった。……そんな戦い方をしたかった。

 

だけど、私はいくら鍛えても打撃力がつかなかった。筋肉がつかなかった……のほうが正しいかな。

いくら鍛えてストライクアーツの型を身につけて打っても、同世代どころか年下の子にすら負けてね。

 

それに師匠達からも無理だって断言されちゃったから、諦めざるを得なかった。

 

そこでまず、ストライクアーツではカウンター型の一択になった。私は生まれつきなのかわかんないけど筋力なんかがとてもつきづらかった。年下の子にすら打撃力負けてて、嘆いた記憶があるなぁ。

だから攻撃しても相手には大したダメージにならない。相手にペースを渡さないようにするのは、そうしないと私は後手に回ってしまうから。私はパワーでなんとかする、みたいな方法は取れないから。それに筋力がつきにくい関係上、とても打たれ弱いからね」

 

「でも、ユタさんは今日のチーム戦で私に」

 

「ああ、1戦目のやつ?コロナちゃんならどんな魔法かわかってる気がしてたんだけどな。まあ話は戻りまして。

カウンターを極めたからといって結局は拳の強さが関わってくる。私はそう考えた。けど私にはその肝心な拳自体の強さがない。スピード、威力はカウンターの性質上相手からもらえるけれど、ただの拳だと決定打にはなりにくい。さて、こんな時コロナちゃんならどうする?」

 

「私は……腕を固くします」

 

「うん、私と一緒。私もね、同じ結論に達したんだよ。で、考えたのがコレ」

 

陰で家の外から一つの石を持ってきて、コロナちゃんに示す。

この魔法に関しては説明するより一度見せたほうが早いからね

 

石に対して魔法を使い、手が初戦の時と同じように、全体的に黒くなる。

 

「これを受けたコロナちゃんはどういったものだと思った?」

 

「え?うーんと、ものすごい硬い石…みたいな」

 

「うん、半分正解。ものすごい硬い、はあってるけど石じゃない。……いや、石だっけアレ」

『金剛石だから石では?』

「あ、なら正解か」

 

「え?金剛……え?それって……」

 

「あ、気づいた?まず大前提として炭素っていう物質を構成する元素があってね。この炭素同士の繋がりを変えることで鉛筆の芯からダイヤモンド並みの硬さまで変化させることができる。

そして、ダイヤモンド並みの硬さにしたものを纏えばそれは鉄壁の鎧かつ硬い武具にもなる」

『マスター、そんなに秘密をベラベラと喋っていいんですか?』

「いーの、コロナちゃんめちゃくちゃ真剣に聞いてくれてるし」

 

今なんかもブランゼルに録音しながらもしっかりと聞いてくれてる。

 

「でも、それなら全身を覆ってしまえばいいんじゃないんですか?」

 

「私も最初はそう思ったんだけど。コレねぇ、意外と使い勝手が悪い上に魔力の燃費が悪いんだよね。一試合に一回纏う程度に留めなきゃいけないの」

 

多分、これで大方私のことは話したよね?あー、疲れた。

 

 

閑話休題

 

 

「それで、話がそれたけど改めてコロナちゃんが私にお願いしたいことを、教えてほしいな」

 

「あ、はい。私……ユタさんにノーヴェ師匠とは別で特訓をつけて欲しいんです。ユタさんみたいに強くなりたくて…」

 

私が強い、ねぇ。それに関しては異議あるけど、まあ答え自体は決まっている。

 

「いいよ」

『いいんですかい』

「そうですよね……ダメに決まって……って、へ?」

 

プライド、いつもの冷静なツッコミはどこに行ったの?口調が変になってるよ。

 

「けど、条件がある」

 

「条件?」

 

「それは……」

 

 

 

 

 

 

【合宿三日目】

 

「あーー、眠い」

『あれだけ寝たのにまだ眠いんですか』

 

しょーがない。寝すぎて眠いってやつだよ、プライドさん。本能みたいなものだ。

コロナちゃんはもうすでに起きているようでベットには私1人だった。

 

今現在はカルナージの時間で8時半。

今日の合宿の予定は………

 

「ユター?起きてるー?八神司令と連絡ついたからお願いー」

「はいー、今行きますー」

 

いまからアインハルトのデバイスの交渉と昼からはアインハルトと試合。

 

さて、多分今回の合宿で一番疲れるぞ。気を引き締めないと。特に母さんとの交渉は。

 

『変なところで覚悟を決めないでください。馬鹿馬鹿しいので。まあ同情はできますが』

「同情してくれるだけありがたい」

 

と、私は部屋を出た。

 

私は、覚悟を決めるとルーさんやアインハルトのいる部屋まで来た。

 

「ルーさん、きたよー」

「お、きたきた。いまから八神さんと通信するから何かあったら頼むわね。ユタ」

 

……まあそれくらいは別にいいんだけど。

問題は余計なことを喋られないかどうか。

 

 

絶対何か爆弾投下してくる。

そんな自信がある。

 

 

「(八神司令…一体どんな方なんだろう。数々の事件を解決してきた歴戦の勇士っていうし、やっぱり怖い方なのかな…)」

 

アインハルトを見るとなぜか緊張している。

 

「あー、アインハルト?緊張するだけ無駄だよ。リラックスリラックス。あとお願いがある」

「なんですか?」

 

「私が冷静さを欠いたと思ったら遠慮なくぶっ叩いて」

 

「へ?」

 

よし、保険は用意できた。

 

 

 

『あ、オーッス。ルールー。ユタ』

「おいーっす。アギト」「んちゃーアギト」

『デバイスの件だよな?ちょっと待ってて』

 

と、赤髪の男の子っぽい口調のアギトさんが出てきた。そして母さんを呼びに行った。

 

そして、映ってきたのは

 

「たぬ……たぬき……?」

 

たぬきの仮面をかぶった人だった。アインハルトもポカーンとしている。

 

「あ!母さんがとうとうたぬきになった!みんなに狸って言われてたからとうとうなっちゃったか!」

『アホ!まだなる気はないわ!まだ狸になる前にアンタの親を卒業せないかんわ!』

「まだ⁉︎てことは狸って自覚はあるんだね⁉︎認めたな!言質とったからね!」

『うっさいわ!』

 

スパン!

 

「ユター、話が進まないから少し黙って」

「痛っっっ、はい。ごめんなさい。アインハルト、手加減なさすぎ…」

 

『それはそうとー』

 

と、画面の母さんが狸のお面を取りながら。

 

『ユタはもうエリオに告ったんか?』

 

「なにサラッととんでもないこと言ってんの!!!!!」

 

案の定爆弾落としてきた。

しかもよりによって……

 

「え?」「ユタってエリオのこと好きだったの……?」

 

まっずい話を変えないと……。

 

「いや、あのー」

『そうやでー。2年前のインターミドルも都市本戦で優勝したらエリオに告白するーって張り切ってたもんなぁ』

「だーかーらーー!!!人の秘密ばらすな!てか何で知ってんの⁉︎」

『決勝で負けた時もなにが一番悔しかったかって言ったらエリオの前で無様に負けたことを一番悔やんで泣いてたもんなぁ』

「だからなんでしってんの⁉︎」

『言っとくけどウチだけじゃなくてなのはちゃんやフェイトちゃんも知ってるからなー。あとはシグナムやシャマルも。エリオは知らんけどなー』

「なぜに⁉︎言いふらしたでしょ!」

『してへんわ!2年前のあんたほどわかりやすい奴はおらんかったわ!それよりはよ告りーや。そしたらウチも安心できるんやから』

「年齢=独身歴の人に心配されたくはないね!母さんこそ早くいい人見つけたら⁉︎見つけれるならだけど!」

『いま言うてはならんことを言ったな!帰ったら覚えときーや!』

 

ガン!

 

あれー?なんか目の前に星が浮かんできた……

 

ドサッ

 

『……アインハルトさん、容赦ないですね』

「え?ユタさんがこうしろと」

 

最後にプライドとアインハルトの話し声がかすかに聞こえてきて意識が途切れた。

 

 

『よし、ユタは黙らせてもらったことやし。改めてルールー。お久しぶりやー』

「八神司令、お久しぶりです。今日はお休みなんですねえ」

『そーなんよー』

「(この方が……)」

「あ、それで今日はですね、この子の」

『あー聞いてるよ。覇王イングヴァルト陛下の正統血統ハイディ・E・Sイングヴァルト。格闘戦技【覇王流】を継承してて。ちょっとやんちゃもしてたけど今はノーヴェ師匠やヴィヴィオ達と一緒に魔法戦技に一生懸命。真面目で一生懸命なええ子やって。そんな子にならいくらでも協力するよー」

 

「ありがとうございます!」

 

と、アインハルトが頭をさげる。

 

『公式魔法戦用のデバイスやったっけ?どんなのがいいか決まってる?』

「あ、はい…!」

『装着型とか武器型とか』『なんでも相談にのるよー』

 

と、はやてさんの横からアギトにリインも映ってくる。

 

「えと…格闘戦技だけで戦いたいので武器型ではない方が…」

『そーかー。格闘家さんやもんねー。ほんなら体の動きを阻害するような装着型も良くないかなー。スバルのナックルやキャリバーも、あれなんだかんだでめっちゃ重いしなー』『そうなんですよねぇー』

「ですから、その、この子達のように補助・制御型の方がいいなと」

 

と、アインハルトはクリスやプライドを持って示す。

 

『なるほどなー。ほんならクリスやプライドの性能をベースに真正古代(エンシェント)ベルカのシステムで組むのがええかな』『補助・制御型か。それなら機体自体はすぐにできそうだな』『ですね。あとは性能設定と調整です』

 

『そやねー。ほんならアインハルト』

 

「はいっ」

 

『覇王の愛機。まずは軽く取り掛かってみるな。八神はやてとリイン&アギトがノリノリで組んであげよ』

『『お任せだ!(です!)』』

 

「ありがとうございます!」

 

『まあ詳しい話も聞きたいから合宿が終わったら、ユタあたりに一度ウチに遊びにでもきてな。特にウチのユタに勝ったこととか聞きたいしなー』

 

「え?あ、いや、その……あれは……」

 

『そやけど合宿ええなー。ウチらもまた行きたいなー』

「またいつでもいらしてくださいー」

 




〜八神家〜

「しかし、インターミドルか。もうそんな時期なんだな」
「五月も終わりだぜ。そんな時期だよ」
「ウチの近所からも出る子達いるよなー?」
「ザフィーラの教え子達ですね。何人か出るそうですよ」

リビングにはシグナム、ヴィータ、シャマルがおり、そこにはやてとリインとアギトも戻ってきて一気に賑わってくる。

「みんないつも頑張ってるけど……ヴィヴィオたちやユタのライバルになりそうな子いたりする?」
「ああ、いますよ」
「結構凄いのが1人いる」
「あ、わかった。ミウラやろ?」
「正解!」
「ザフィーラはもちろん、シグナムやヴィータともちょくちょく練習試合してるもんなー。しかも優しく教えてもらってるし。ユタが嫉妬しそうやけど。私ももう少し優しくしてー!って」
「ユタの場合は仕方ないです。あのスタイルをやると決めた以上、生半可な練習じゃダメですから」
「一応、アレもユタのことを思っての厳しさやからねー。シグナムってなんだかんだユタのこと大好きやから、ウチと同じくらいユタのこと裏で可愛がってるもんなー。けどツンデレいうもんなんかな。シグナムみたいなのは」
「そ、そんなことは…ないと思います」


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13話 〜VSアインハルト〜

〜八神家近くの砂浜〜

 

「師匠!そういえばインターミドルの参加申請、今日から受付開始ですよね!」

「ああ」

 

砂浜にはストレッチをしているミウラとザフィーラがいた。

 

「師匠に教えてもらったこと。ヴィータさんやシグナムさん、シャマル先生に鍛えてもらった技!それからいつもはやてさんやリインさん達がくれる美味しいおやつに恥じないように〜。ボク、頑張りますっ!」

 

ミウラ・リナルディ(12)

区立学校中等科一年生

Style:ストライクアーツ八神家流

skill:抜剣

Magic:ミッドチルダ

インターミドル参加履歴:初参加

 

「頑張りますよ?」

「いや、2度言わなくていい。がんばれ」

「そういえば以前あったユタさんも出るんですか?」

「ああ。ユタは強いぞ。勝ちたいのならば今以上に特訓が必要だ」

「……はいっ!」

 

 

 

〜ミッドチルダ南部 エルセア第9地区〜

 

「あ、リーダー!」

 

とある高校ではリーダーと呼ばれる女がいた。

そのリーダーと取り巻き3人は見た目は不良。中身はいい子ちゃん。(証言者 ユタ)

 

リーダーは、ハリー・トライベッカ。赤い髪が特徴で一人称がオレ。

取り巻きは長身のロングのミア。なお成績優秀。ちっちゃくてサングラスっぽいものをかけてるルカ。マスクがトレードマーク?のリンダの3人

 

「それ、大会の参加申請っすか?」

「おうよ。今日から参加受付開始だからな」

「いやー、今年こそリーダーが優勝っすよ!」

「去年は惜しかったっすからねー!都市本戦であんな変なのに負けちまって」

「ばかやろう!てめえリーダーが気にしていることを!」

「え?いやでも…」

 

と、ルカとリンダがいうとルカが慌てながら言う。

 

「「「ハッ!」」」

 

「ぐすっ……ぐすっ……」

 

「ホラみろ!泣いちゃったじゃねーかっ!」

「スンマセン!ほんと、スンマセンッ!」

「いいんだ!泣くほど悔しい気持ちを胸にッ!オレぁ頑張る!今年は負けねえ!!」

「「「オォスッ!」」」

 

ハリー・トライベッカ(15)

市立学校高等科2年

Style:我流魔導戦

skill:近接射砲撃

Magic:ミッドチルダ

インターミドル参加履歴:3回

最高戦績 都市本戦5位入賞

 

 

「あ、リーダー。ユタさん、今年から復帰するらしいですよ」

 

と、ミアがいうと

 

「それはほんとかっ!ていうか、なんでミアがそれを知ってんだ?」

「ユタさんから報告きてました」

「ミア、ユタとメアド交換してたのか?」

「はい」

「あいつ!オレとはやらなかったくせに!ミアだけかよ!……まあいい。今年で2年前の雪辱は果たしてやる…」

 

 

 

 

 

〜ダールグリュン家〜

 

「このあいだまで世間を騒がせていた自称覇王。わたくしが叩き潰してやろうと思っていましたのにいつの間にか姿を消してしまって」

「今年は聖王陛下も10歳になられましたので参戦なさるようですよ。もしかしたら覇王の子も出てくるかもしれませんね」

 

ある一室では金髪のお嬢様らしき人(実際お嬢様だが)のヴィクトーリアと執事の長身美男子のエドガーがいた。

 

「それはいいですわね。もし出てきたらいい機会ですわ。旧ベルカの最強覇者は聖王でも覇王でもなく『雷帝』ダールグリュン。その現実を雷帝の血を(ほんの少しだけ)引くこのわたくし!ヴィクトーリア・ダールグリュンが叩き込んでさしあげますわ!」

 

 

ヴィクトーリア・ダールグリュン(17)

Style:雷帝式

skill:神雷

Magic:ダールグリュン

インターミドル参加履歴:5回

最高戦績 都市本戦準決勝(3位)

 

 

「今年は知らしめられるといいですねぇ。去年は決勝前に負けられましたし一昨年は聖王の血を引く方に負けられましたから」

「いいですからエドガー。さっさと参加申請書を出してきなさい。あとお茶を早く」

 

「かしこまりました。……ああ、そういえば。今年からユタさんが現役復帰するようですよ。ジークさんにも会いたいのでまずはお嬢様とコンタクトを取りたいとメールが来ておりました」

 

「……!そうですの。わかりましたわ。いつでもいらしてと返信しておいて」

 

「かしこまりました」

 

 

 

 

 

 

 

とある荒野ではひたすらランニングをしている少女がいた。

炎天下の中フードをかぶって。まるで注目されるのが嫌かのように。

しかし、ずっと同じペースで走っている。

 

ジークリンデ・エレミア(16)

Style:総合魔導戦技

skill:鉄腕

Magic:エレミアン・クラッツ

インターミドル参加履歴 3回

最高戦績 世界代表戦 優勝

 

「(ユタ…またやりたいけど…合わせる顔もないのにまだやりたいと思ってまう…)」

 

 

 

 

〜クラナガン〜

 

森の近くではヴィヴィオとノーヴェが軽く練習をしていた。

 

「まずは予選突破。目標は都市本戦!」

「おうよ」

「頑張って鍛えるよー!」

 

高町ヴィヴィオ(10)

Style:ストライクアーツ

skill:カウンターヒッター

Magic:ベルカ&ミッドハイブリッド

デバイス セイクリッド・ハート(ハイブリッド-intelligent)

 

 

コロナ・ティミル(10)

Style:ゴーレム創成

skill:ゴーレム操作

Magic:ミッドチルダ

デバイス ブランゼル(intelligent)

 

リオ・ウェズリー(10)

Style:春光拳+ストライクアーツ

skill:炎雷変換

Magic:近代ベルカ

デバイス ソルフェージュ(intelligent)

 

ルーテシア・アルピーノ(14)

Style:純魔法戦

skill:召喚・治癒

Magic:ミッド&ベルカハイブリッド

デバイス アスクレピオス(Boost)

 

アインハルト・ストラトス(12)

Style:覇王流

skill:断空

Magic:真正古代(エンシェント)ベルカ

デバイス ???

 

 

 

 

 

「さてはて、今年こそ目指せ都市本戦及び世界大会優勝、だぁね」

『先を見据えるのも良いですが小さな獅子に足元を掬われないよう』

「わかってるって」

 

 

八神ユタ(12)

St.ヒルデ魔法学院中等科1年生

style ストライクアーツ&魔法:超カウンター型+影使い

skill 影変換

magic ベルカ&ミッドハイブリッド

device 傲慢の欲(プライド)(intelligent)

インターミドル参加履歴1回

最高戦績 都市本戦決勝(2位入賞)

 

 

 

 

 

合宿三日目 昼食時

 

「ルーさん。セッティングってもう済んでる?」

「もちろん。公式試合とそっくり同じものを作ったわよ。ダメージフィードバックやクラッシュエミュレートなんかもね」

「今回のアインハルトのデバイスなしの部分を補う所は?」

「もちろんやってるわよ」

「ありがたい」

 

と、今は景色のいい草原でピクニック的な昼食を取っていた。

主にノーヴェさんとルーさんと初等科3人と。もちろんアインハルトもいる。

 

「セコンドはアインハルトにはノーヴェさん達?」

 

「うん、そうだよ。それとユタは本当にセコンドはいらないの?」

 

「うんいらないし必要ない。それに……私のセコンドは母さんやシグナム姉さんだけだから」

 

「おっ、今の発言は親思いのいい子の発言だねー。八神司令に報告しなくちゃ♪」

 

「いや!ダメ!色々とまたいじられる!」

『マスターが恥らうとは……明日雹でも降るんですかね』

 

と、珍しくユタは顔を赤くしている。

 

 

 

 

 

 

(あ、最後に質問いいですか?)

 

(ん?何?)

 

(ユタさんってなんでそんなに頑張れたんですか?初出場で都市本戦に出場、しかも2位まで勝ち上がれるなんて、生半可な特訓じゃ無理だって私でもわかります。でもユタさんは成し遂げました。何がユタさんの原動力になってたのか、知りたくて……)

 

(……なんでだろうね)

 

(あ、答えづらかったら答えなくて大丈夫ですので!)

 

(いや、答えづらいとかじゃないんだけど…。元々強くなりたいって思うようになったのは5歳くらいの頃からなんだよね。

 

私が……弱いせいで母さんやシグナム姉さん、あとは母さんと同じくらい大事な人を傷つけたから。

 

自分の弱さのせいで大事な人を……姉さんを死なせてしまったから……。裏路地に一緒に捨てられたあとも私を見捨てずにずっと守ってくれた人を……。

 

 

…あとは母さんが強くなっていく私を自分のことのように喜んでくれるのがとても嬉しいからかな。母さんが喜んでくれるから、私は過去のことがあっても辛くても頑張れる)

 

 

 

 

 

 

〜仮説試合場所 午後2時半〜

 

試合場所には私とアインハルト。

私のストッパーとしてルーさんが着き、アインハルトにはノーヴェさんが着いた。

観客は初等科トリオ含め他何人か。

 

大人組はみなさん練習に行かれましたよ。

 

 

『じゃあ、公式戦と同じでライフは15000。クラッシュエミュレートもあり。4ラウンド制』

「はい」「おっけー」

『それじゃ、両者共にセットアップを』

 

「セットアップ」

「武装」

 

の掛け声と同時にアインハルトは大人モードに。私はいつもの方から先が露出している夏の少年みたいな感じに。

 

『マスター。今日はどういった試合運びを?』

「どうしましょうかねぇ。ま、やりながら考えるよ。どうせ吸収放射と反射砲撃(リフレクト)は使えないだろうからやり方は決まってくるだろうけど」

『承知しました。では決まり次第教えてください』

「あいあいさー」

 

 

 

 

『いくよーー。レディーーファイト!!』

 

 

 

 

試合が始まるとアインハルトはすぐに距離を詰める。

 

「断空拳!」

「あぶっ⁉︎」

 

一発目からいきなり必殺クラスの拳を撃ち込んだ。

それをユタは想像していなかったのかギリギリ避けている。そしてすぐさま距離をとるがアインハルトはすぐさま肉薄し追撃をする。

 

「(昨日の試合で確信した。ユタさんに影生成やゴーレム創成の隙を与えたら主導権を握られる。なら!やられる前にやる!)」

 

「(ん、まあ予想通りっちゃ予想通り。初手に断空拳は予想外だったけど。そんじゃあ仕込みいきますか)」

 

ユタは近づかれたら影で反撃し、できない部分はカウンターはせずに受け流し、執拗にアインハルトから距離を取ろうとする。が、それをアインハルトは許さずこちらもまた執拗に密着戦を試みようとしている。

 

この中でノーヴェだけがユタの逃げ方が少し異質なことに気づいていた。

 

「(ユタのやつ、()()()()()()()()()()()逃げてんな。影を多用してるから気付きにくいけど、床一面に魔力散布してる)」

 

「空破断!」

「っとお!せやっ!」

「!」

 

と、ユタは攻撃をかわしアインハルトに足払いをし、地面にひれ伏せさせる。

 

影の拘束(シャドウバインド)

 

すると、そのアインハルトの周りから影が出てきてアインハルトをがんじがらめにバインドをする。

 

「捕獲完了。この隙に……」

「ぐっ……(ただの影だと思ってたけどかなり強いバインド…でも…これくらいなら…!)」

 

と、ユタはまだ通っていない部分を通りながら距離を最大限引き離す。そして腕の硬化魔法の準備をし始める。

 

「っ……断空拳!」

 

「あら。そんな抜け方されるのは初めてだ」

 

アインハルトはユタを自由にさせるのはまずいと思ったのか強行策として床に無理やり断空拳を撃ち込み床を壊した。そして床に貼り付けるようにしていたバインドから抜け出してユタに迫っている。

 

それに対しユタは逃げようとせずその場に立つ。

 

そして……

 

「はあっ!」

「うおりゃ!」

 

ユタとアインハルトは互いに拳が顔に入り、互いに後ずさる。

 

「え…?」

「痛ったい。ふふっ。さすがにこれは予想してなかったかな?」

 

アインハルトはユタが避けたり受け流したりすることなく拳を受けたことに戸惑いを隠せていなかった。

 

「やっぱりダメか。アインハルトくらいの頑丈な人だとただのカウンターは意味ないね」

 

 

 

【ライフ】

アインハルト 15000⇨14000

ユタ 15000⇨12500

 

 

「やることはやったし……ここからは接近戦だ。アインハルト。八神流格闘術を君に魅せつけてあげるよ」

 

「……!望むところです!!」

 

 

 

 

 

 

インターバル1回目

 

「ゲホッ…少し調子に乗りすぎた……」

『やはり硬化魔法を用いたとしてもハードヒッター相手に近接格闘戦はやはり分が悪いようですね。今後は余程のことがない限り禁止です』

「そうする」

『ライフ回復するので息でも整えておいてください』

「うん」

『それで、()()()()()()?』

「終わったよ。次からは……アインハルトには悪いけど格闘戦は終わりにさせてもらう」

 

 

 

 

インターバル回復

 

ユタ 5000→10000 クラッシュエミュレート 全回復

 

アインハルト 8500→13000 クラッシュエミュレート 全回復

 

 

 

 

『それじゃあ第二ラウンド、開始!』

 

 

 

 

アインハルトは1ラウンド目と同じようにユタに主導権を握らせないと思ったのか開始直後にユタに突撃する。

しかし…

 

「悪いけど、もうアインハルトの得意部門に付き合うのは終わりだよ。影斬(シャドウ・リッパー)

「っ⁉︎」

 

すると、突撃していたアインハルトの()()()()影が飛び出してきてアインハルトを襲った。

 

ライフ

アインハルト 13000⇨12000

クラッシュエミュレート 腕部及び腹部、脚部多数裂傷

 

アインハルトは直ぐに切り替え、再度ユタに向かって行く。が……

 

「まだまだ」

「くっ!」

 

数歩近づいた瞬間に、また足元から影が出てアインハルトを斬りつける。

その間にフィールドの全体から影による触手のようなものが出る。

 

「っ!それなら…」

 

アインハルトは逃げ場はないと悟ったのか向かってくる影を必要最小限だけ迎え撃ちながらユタに強引に近づきに行く。

 

「(近距離に持ち込めれば…!)」

 

「うん正解だね。だけど…」

 

するとユタは自分の近くから影を伸ばしアインハルトに勢いよく飛ばす。

それを避けられはするが何度も追尾をする。だが周りは影を至る所に配置されていて直ぐに捕まえる。

 

「捕まえた」

「ぐっ……しかしこの程度…」

 

バインドに似たもをかける。

しかし、それを無理やり引きちぎろうとしているが…

 

「そーーーれっ!!」

「えっ?がっ⁉︎」

 

ユタが自分からアインハルトを引っ張ろうとしていとも簡単にちぎれた。

が、ちぎれた瞬間アインハルトが爆発に巻き込まれる。

 

「まだまだ」

 

そして、倒れ込まれる前に再度影で捕らえコロナの時のように自分に向かって投げつける。

 

アインハルトは空中でなんとか体制を立て直そうとしているが

 

「遅いよー。せやっ!」

 

「っっ!」

 

疑似カウンターのようなものを受けアインハルトはリング外に激突した。

 

『リングアウトダウン』

 

ライフ

 

アインハルト 12000⇨5800

クラッシュエミュレート 腕部熱傷

左腕 肋骨1番2番 骨折

 

『カウント 10 9 8……』

 

 

 

〜観客席〜

 

「ユタさん……すごい……1ラウンド目のが嘘みたい…」

「あのアインハルトさんに圧倒してる…」

「やっぱり……ユタさんはすごい!」

 

観客席ではヴィヴィオ達3人が観戦しているが、3人とも驚いていた。

陸戦試合で戦ったリオとコロナもユタの影の使い方などに驚いていた。

 

「あ、でもユタさん結構辛そう?」

「本当だ、でもなんで?ダメージあまり受けてないのに」

 

 

「(正念場だな。ユタの変化に気づけるほど冷静か…)」

 

「(やっぱりあの影って相当魔力を消費するのね。いつ魔力切れしてもおかしくなさそう)」

 

 

 

『4……3……2…』

 

 

 

『マスター、魔力使いすぎです。もう少し考えてください』

「はあっ…はあっ、りょ、りょーかい。このまま終わってくれると楽なんだけど」

 

「………っ!まだやれます!」

 

「…!そうこなくっちゃ!」

 

アインハルトがリングに上がってきて再度構える。

それを見てユタも構える。

 

『(マスター、影の使用は少しお控えください。でないと硬化魔法まで解けてしまいます)』

「(オッケー消費抑えて戦ってみる)」

 

 

 

『レディーゴー!』

 

 

 

 

「(あの影から逃げ切るのはほぼ無理。なら強引に接近戦に持ち込む!)」

 

「(多分もう地面からの影だと決定打は無理そうだし、必要な分だけ残して魔力の回収をしながら……接近戦でケリをつけようかな)」

 

開始と同時にアインハルトはユタに接近する。ユタは影を駆使しながら再度リング全体をくまなく通るように逃げる。

 

「(多分そろそろネタに気づきそうだし3ラウンドに持ち込まれたら厄介だな……)」

 

「……?(影を使って反撃してこない?何かを狙ってる?けど、これは好機!)」

 

アインハルトは好機と見たのか一気に加速しユタに近づく。

そして、ユタの()()めがけて拳を打ち込み床を壊す。

 

「っ!あぶな……」

「逃がしません!空破断!」

 

そして、足が止まった隙を見逃さずユタに殴り込む。

ユタはギリギリのところでガードしていたが威力を殺しきれておらずそのまま地面に叩きつけられる。

 

『ダウン 10 9 8 ………』

 

ライフ

ユタ 12000⇨10000

クラッシュエミュレート 背中強度打撲

 

「ゲホッ、まだやれます!」

「……」

 

 

 

『クラッシュエミュレートは治しませんがよろしいです?』

「ん、okok。最後の仕込みもできたから大丈夫かな。けど万が一のために魔力は残しといてね」

『承知しました』

 

 

 

 

『ファイト!』

 

 

 

 

「ふぅ。にしても初見なはずの『影』にこうも喰らいついてくるなんて。やっぱりすごいねアインハルトは」

「ありがとうございます。この試合にも勝ってみせます!」

 

「うーん、それはもう無理だね。もう仕掛けは終わったから」

 

「え…?」

 

 

「アインハルトは勝つなら1ラウンド目です私を動き回らせずに無理矢理にでも動きを封じるべきだった。私が動き回ってた理由は…」

 

 

と、ユタが床を見る。

するとアインハルトも気づきユタに向かって飛び出す。

 

「遅いっ!」

「ぐっ!」

 

床が突如せり上がりアインハルトを思いっきり突き飛ばす。

 

「まだまだ!」

「きゃっ⁉︎」

 

今度はユタの足元から影が伸びていき上空に飛ばされていたアインハルトをつかむ。そしてそのまま床めがけて投げつける。

 

ライフ

アインハルト 5800⇨3000

 

 

影の拘束(シャドウバインド)ダブル」

 

と、最初にかけたバインドの二倍の量をアインハルトにかける。

中でも影を細くし両腕両足の関節を中心に縛られ、その上から地面に貼り付けるようにバインドをされた。

 

アインハルトは文字通り一本動かせないでいた。

 

 

 

『バインディングダウン 10……9……』

 

 

「はぁ はぁ」

「ぐ…これしき…」

 

「あー、無駄だよ。これ、ちょっとやそっとの力じゃ外れないよ。特に今のアインハルトには絶対無理」

 

 

『3……2……』

 

 

「ゲホッ。お疲れさん。アインハルト」

 

「……!」

 

アインハルトは最後の力を使って振り切ろうとしているが動く気配すらない。

 

『1……0! 勝者 八神ユタ!』

 

 

 

 




みなさんお久しぶりですアテナDAIです。

元々リリなの二次創作を読んでくださった方でリメイク版も読んでくださった方も今回から初めて読んでくださった方も暇つぶしにこの小説を選んでくださりありがとうございます。

これからも皆様の暇つぶしになれば幸いです

読んでくださりありがとうございます

評価や感想もお待ちしてます(小声


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14話 〜合宿の終わり〜

「体全身が痛い……」

『物は試しとは言いますが、アインハルトさんと殴り合うとこうなるのは明白でしょうに。自分の体の体質のことお忘れで?』

 

私は試合が終わって部屋でベットに倒れこんでる。

1ラウンド目でアインハルトと殴り合ったのが効いてきてるのか全身、特に腕が痛い。

 

『治癒促進をかけるので力を抜いて楽にしてください』

「了解…。腕の硬化してても衝撃が消えるわけじゃないのがなぁ。改良の余地たくさんありそうだけど…」

『ま、改良した代わりに魔力をまたごっそりと使うようになって更に使い勝手悪くなりそうですね』

「だよねぇ…。ただでさえ影の方に魔力を回してるのに」

 

 

コンコン

 

 

?誰だろ

 

「どーぞ」

 

「はぁーい。ユタ。大丈夫?」

「失礼しまーす」

「お、お邪魔します」

「お邪魔しまーーす!」

 

入ってきたのはルーさんとヴィヴィオちゃん、コロナちゃん、リオちゃんだった。

 

「あれ?アインハルトは?」

「アインハルトは別室で休憩中。で、ノーヴェさんとお話し中」

「そう」

『そういえばみなさん。マスターはいまほとんど動けないのでいままで振り回された分やり返せるチャンスですよ』

 

は?いま何て言ったこの愛機。

しかもルーさんとリオちゃんが目を光らせてるのは気のせいかな?ヴィヴィオちゃんとコロナちゃんは慌ててるけど。

 

「ふふーん。それじゃあ」

「遠慮なく!」

「へ?嫌、やめ……」

 

そして、その後ユタの悲鳴が響き渡ることとなる。

 

 

 

 

 

 

〜ある一室〜

 

ユタとはまた別のところでノーヴェとアインハルトが話をしていた。

 

「どーだった?ユタとやってみて」

 

「はい……改めて思いました。私の見ていた世界は……本当に、本当に狭かったものだと」

 

「そうか。それならよかった」

 

「ノーヴェさん」

 

「ん?」

 

「改めて、インターミドルに向けてご指導お願いします!」

 

「おう。しっかり鍛えて行こうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

「で、何か御用で?」

 

「色々と聞きたいことがあってね。特にその『影』について」

 

「というと?」

 

「間近でちゃんと見せて!」

 

特に何かを聞かれるというか、単に見せてくれと言うお願いだった。

 

「まあそれくらいなら構いませんよ」

 

別に隠すようなものでも無いし、直に見られたからと言って何が変わるわけでも無いし。

 

 

うん、影を実体化させた途端みんな急に後退りするのやめようか?

 

 

「普通こんなの間近で見せられたら怖いわよ⁉︎」

 

「そう?」

 

かっこよく無い?影が大量の目と牙を持ってるの。

これを初めて見た時もう、感動したものだよ。

 

「ユタ、この影ってどこまでできるの?」

 

「さあ?試したことがないですね。やろうと思えば鈍器にでもできるとは思いますけど」

 

実際試したことないからわからない。

 

「ま、割となんでもできるって思ってくれたら良いですよ。その分魔力消費が半端ないですけど」

「やっぱり?」

「ええ。って言うか気づいてたんですか?」

「当たり前じゃないの。私を誰だと思ってるのよ」

 

その後も魔法戦技について夜遅くまで話したり試合動画を見たりしました。いやぁ、やっぱり楽しいねぇ、なんてことを思ったりしてました。

 

 

 

 

 

そんなこんなで四日間の日程も無事終了し私達はミッドチルダへ帰る時間に。

 

「じゃあみんな」「ご滞在ありがとうございました♪」

「こちらこそ」「「「ありがとうございましたー!!」」」

 

 

 

~ミッドチルダ 首都次元港~

 

「ミッドチルダ到着ー♪」

「車回してくるから少し待っててね」

「「「「はーい!」」」」

 

あとはなのはさんに家まで送ってもらえばゆっくり休める。

アインハルトと殴り合ったやつがいまだに響いてるからあんまり無理はしたらダメだとノーヴェさんに念押しされたので大人しく送ってもらうことにしました。

 

「でも、みんな明日からまた忙しくなるねぇ」

「インターミドルに向けてばっちり練習しなくちゃ」

「はいっ!でも大丈夫です!」

「うちのコーチがトレーニングメニュー作ってくれますから!」

 

おお、ヴィヴィオちゃんにコロナちゃん。威勢がいいね。

 

「ま、しっかり鍛えていこうぜ。そういやユタはどうすんだ?」

 

「私は練習に来る頻度は減ると思います。これからがっつりとシグナム姉さんや母さんとの練習も増えるでしょうし」

 

「そうか。まあ来れるときだけこい。チビ達も喜ぶから」

 

「そうさせてもらいます」

 

ここで今更ながらコロナちゃんが緊張してることに気づいた。何かそんなに緊張するようなこと……

 

『マスター、練習に付き合う際に条件を付けたってことお忘れで?』

「あー、そういえば」

 

 

 

 

(条件がある)

 

(条件…?)

 

(うん、とは言ってもそんなに難しくはないよ。

 

私と練習する事をちゃんとコーチ……ノーヴェさんに言うこと。それが条件)

 

(え!?な、なんでですか?)

 

(なんだって……それが師弟の関係みたいなものでしょ。ちゃんと、正式な師匠以外から教わるってことを師匠が把握しておかないと。確かに秘密の特訓をして師匠を驚かせたいって言う気持ちはわからなくはない。けどそれとこれは話が別。それができないならこの話はなし)

 

(で、でも…)

 

(強くなりたくて私に頼むってのはわかる。けど、ノーヴェさんもノーヴェさんでしっかりとコロナちゃんと向き合ってる。

 

それに……言っちゃ悪いけど今までのコロナちゃんの言い方だとノーヴェ師匠のことを信用してないっていう風にとれる)

 

(そんなこと……そんなことないです!ノーヴェさんは信用しています!)

 

(なら、言えるよね?コーチのことを信用してるなら、ちゃんと頼めば受け入れてくれる。大丈夫。私もそのときはちゃんと援護してあげる)

 

 

 

うん、ごめんなさい。かんっぜんに忘れてました。そいやそんなこと言いましたね。

 

「コロナちゃん、ほら」

「は、はい…」

 

と、コロナちゃんが緊張しながらノーヴェさんのもとに行く。

さてはてどうなることやら。

 

「ん?どうしたコロナ」

 

「の、ノーヴェさん。実は私、ユタさんとも個人的に特訓をしてもらいたいと思っているんです」

 

「……それはどうしてだ?あたしに不満でもあったか?あったなら言ってくれ」

 

うわー、ノーヴェさんの顔が超が付くほど不安な顔になってる。

そりゃそうだよね。自分の知らないところで他の人にも教えてもらうとなったら誰でもこう考える。

 

「いえ、違うんです!ストライクアーツやゴーレム操作なんかじゃなくて、ユタさんと模擬戦を徹底的にやる事にしたんです!その過程で何かあったら教えてもらたら、って考えてて…。なのでノーヴェさんに不満があるとかじゃないです!決して!」

「ノーヴェさん、私が初めてコロナちゃんたちと会ったときに私たちが試合してたの覚えてます?」

 

「あ、ああ」

 

「その時に1発当てることができたらなんでも一つお願いを聞くって約束してたんですけどね、そのお願いがこれです」

 

「しかし…」

 

「ご心配なく。あくまでノーヴェさんが教えることを軸にして教えていくつもりです。というか、ストライクアーツとかゴーレム操作の応用なんかは私が教えれる範疇超えてますし。なので私はあくまでも、できる限り実践に近い形で相手をすることに留める予定です」

 

「ならいいんだが…」

 

と、チラッとヴィヴィオちゃんやリオちゃんの方を見る。

ああ、不公平なんじゃないかっていうのも心配してるのね。

 

「それと私をヴィヴィオちゃんやコロナちゃんのスパーリングの相手として使いたいときは、シグナムさん達との練習がない日ならいつでも呼んでください。それくらいなら相手になれます。……ヴィヴィオちゃんたちもそれでいい?」

「はいっ!」「大丈夫です!」

 

「…ならあたしはもう何も言わねーよ。その代わり、しっかりと相手してやってくれ」

「もちろんです」

『何かあったときは私が通報しておきますのでその点はご安心を』

 

おい、何かをやる前触れみたいに言うんじゃない

 

 

 

 

「(インターミドルねぇ。ヴィヴィオちゃんたちにとっては初めての『決定的な敗北』を知る場になりそうだねぇ)』

『(マスターも順調でしたが最後の最後にそれを叩き込まれましたもんね)』

「(それ言わないお約束でしょう)」

 

うーん、未だに2年前のことを思い出すと頭が痛くなる。

 

「インターミドルってかなり沢山の子が出場するんでしょ?予選会とかあるんだっけ?」

 

「あ、ええと……確か地区選考会というのがあって」

「そーです!選考会では健康チェックと体力テスト、あとは簡単なスパーリング実技があって」

「選考会の結果で予選の組み合わせが決まるんです」

「普通の人は『ノービスクラス』。選考会で優秀だったり過去に入賞歴があったりするひとは『エリートクラス』から地区予選がスタートします」

「勝ち抜き戦で地区代表が決まるまで戦い続けてーーそうしてミッドチルダ中央17区から20人の代表と前回の都市本戦優勝者が集まってーー」

 

「その21人でいよいよ夢の舞台」

 

「「「都市本戦です!」」」

 

「ここでミッドチルダ中央部のナンバーワンが決まるんですよ」

「テレビ中継も入ります!」

 

ティアナさんが聞いたことに初等科トリオのみんながすごい生き生きと答えた。元気でいいことだ。

 

「まあ、さすがに私たちのレベルだと…」

「本戦入賞とかは夢のまた夢なので」

「『都市本戦出場』を最高目標にしてるんですけど」

 

あれ?一気に落ち込んだね。

ま、私も都市本戦優勝がひとまずの目標だけども。

 

「その…都市本戦で優勝したら終わりですか?」

 

あれ?アインハルト知らないの?夏の風物詩とまで言われるほどかなり有名な大会なのに。

 

「もちろんその上もありますよ。『都市選抜』で世界代表を決めて、選抜優勝者同士で『世界代表戦』です。ミッドだと選抜メンバーは3人ですね。ユタさんも一昨年ので本当は都市選抜に選ばれてたはずなんですが…」

「ま、私は怪我しちゃったからねえ」

 

「そこまで行って優勝できたら…文句なしに【次元世界最強の10代女子】だね」

 

まあ、正直そんなのはまだ夢のまた夢なんだけど。

もちろんいつかなってなろうとは思ってます。

 

「ノーヴェさん、ユタさん。率直な感想を伺いたいんですが。今の私たちはどこまでいけると思われますか?」

 

アインハルトに聞かれ思わずノーヴェさんと目を合わせる。

 

「ノーヴェさんからどうぞ」

「ああ。もともとミッド中央は激戦区なんだ。DSAAルールの選手として能力以上に先鋭化してる奴も多い。ユタと戦ったアインハルトやコロナ達もそれは身に染みてわかっていると思う。その上での話として聞けよ。

 

ヴィヴィオたち3人は地区予選前半まで。ノービスクラスならまだしも、エリートクラスじゃまず手も足も出ない。

アインハルトはいいとこ地区予選の真ん中あたりまで。エリートクラスで勝ち抜くのは難しいだろうな。そんじゃ次はユタ」

 

「はい、えーと。あんまり評価としては変わらないんですけども。いまのアインハルトたちの実力からして、アインハルトは運が良ければ予選の準々決勝あたりにギリギリ届くかな、ってくらいかな。それこそミッドチルダって格闘戦なんか一切やらない選手もいるし格闘技者対策をこれでもかってくらいしてる選手もいるから。

 

ヴィヴィオちゃんたちは悪いけどノーヴェさんとほとんど同じ。エリートクラスだとボコボコにされるだろうね。現段階なら、ね」

 

最近、真面目なことばかりな気がする。こんなの私じゃない。

まあ今はどうでもいいか。

 

「……でも!まだ2ヶ月あるよね⁉︎その間全力で鍛えたら?」

 

「ま、どうなるかはわからねーな」

「右に同じく」

「あたしも勝つための練習を用意する。頑張ってあたしとユタの予想なんかひっくり返してみせろ」

「「「「はいっ!」」」」

 

まあ脅しはしたけどこの子達の成長具合からするに普通にエリートクラスで戦えるくらいには成長すると思います。

アインハルトもくじ運よければ予選突破も夢じゃないくらいにはなると思うよ、うん。

 

だって私が行けてるんだから。

そこからみんなの練習内容を(対策立てれないかなーと言う邪な考えがないわけじゃない)聞いていた。みんながんばえーと思いつつ。

 

 

「ーで、あとユタ!」

「はいっ!?」

 

びっくりしたぁ。急に呼ばれるとは思ってなかった。

ん?てか私にも用意してくれたの?

 

「アインハルトの試合をみてて私が思ったこと…お前はテクニックはあるが魔力が足りてない。だから……これかとある特訓をしてもらいたいんだが…」

 

「私はいいですけど…一応シグナム姉さんや母さんに許可を取ってもらえると」

「それなら昨日のうちにとってある」

 

「なら、大丈夫です。ありがとうございます」

 

 

まあ後にこれが地獄になるとは予想してなかったんだけどね。




さて今回はどこを終点にするか。迷いつつあんまり長くなりすぎない程度に書いていけたらなーと思っています。



読んでくださりありがとうございます。

感想や評価を頂けると嬉しいです,


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15話 〜師弟の関係〜



〜八神家〜

ユタはインターミドルの出場通知枠が届き、それを報告するために八神家まで来ていた。

「で、シードは貰えてたんか?」
「うん、地区予選8組第3シード。同じ組みの中では……私のやったことのある選手はほぼいないね」
「そうかー。よかったなぁ。一昨年はいきなりダールグリュン選手と予選で当たってたからなぁ」
「あの時は本当にクジ運悪かったからねえ」

私の予選は8組 今の所目立って突出した選手はいないけど、油断はできない。
一昨年の組み合わせは今でこそ笑いの種にできるけれど当時の私は絶望してたっけ。懐かしい。

「ま、どちらにしろやることは変わらないよ。八神家の一人娘としてやれるだけやってきますとも」
「おーそのイキや!がんばりー」
「もちろんですとも」


〜二週間後〜

 

『マスター。生きてます?』

「ま、まだ辛うじて…」

 

辛い。予想以上に辛い。

ミッドに帰ってきて次の日にノーヴェさんにリストバンド4つ送られてきたんだが……これをつけるとあら不思議。

 

めちゃ体重くなり魔法も使いにくくなりました。

正確には魔力の運用がしにくくなった。

 

なんでも魔力負荷をかけるリストバンドだとか。

出力マックスで四個つけろとのこと。

それで本気のスパーや寝るとき以外はつけたらと言われてその通りにしてるが…

 

「これでシグナム姉さんとの練習を普段通りのノルマをこなさないといけないんだから余計辛い…」

『一応、治癒促進の魔法はかけてますが…疲れてるのは魔法の無理な酷使のせいなので。あまり効き目がないんですよ。なので今まで以上にしっかりと休んでください』

「はーい」

 

さて、授業も終わってるし…さっさと家に帰りましょうかね。

シグナム姉さんとの特訓かぁ、さてはて生きて明日を迎えれるかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜八神家〜

 

「ふぅ……なんだかんだこの体の重さにも慣れてきたかな?」

『きっしょいですね』

「おおう、ど直球な罵倒」

『たった1日で慣れるマスターへは妥当かと』

 

いや、半日も付ければ慣れるでしょうが。

それと魔力の運用方法を少し変えたからかもね。

 

「ただーいまー」

「お帰り」

 

家に入ると聞こえてくる声が一つ。

 

「ただいまシグナム姉さん、少し休憩したら特訓お願い〜」

「それなんだがなミウラも来ることになったから少しだけ予定を遅らせるつもりだ。風呂にでも入って汗を流してこい。どうせリストバンドをつけた状態でランニングしながら帰ってきたんだろう?」

「ピンポンピンポン。大正解です。それで体が慣れてきたって言ったらプライドからどストレートにきっしょって言われたけど」

『当たり前でしょうが。私はマスターよりも人並みな感性を持っていますから』

「私の感性が狂ってるみたいな言い方やめてくださいませんかプライドさん」

『遠慮します』

「なんでよ⁉︎」

 

プライドとある意味いつも通りの口論をしていると不意に笑い声が聞こえた。声の主はと言うとまさかのシグナム姉さんだった。

 

「ふふっ。相変わらず仲がいいな」

「どこが⁉︎」『何処がでしょう?』

「そういうところさ。ほら、早く入ってこい」

「はーい」

 

シグナム姉さんの座っていた机にプライドを置いて自分の部屋に授業道具を放り込みお風呂へ突撃した。

 

 

 

『ん?シグナムさん。このいかにもプレゼントです的な二つの箱はどうされました?』

 

「今答えを言っているじゃないか。プレゼントだよ」

 

『ふむ?今日は何か特別な日でしたでしょうか?』

 

「特にそういう訳ではないな」

 

プライドめ、わかっていながら聞いてるな?

見た目の禍々しさからは想像もつかないようなおちゃらけた声でユタが気づかなかった二つの箱について執拗に聞いてくる。

 

「察しの通りだよ。これはユタの復帰祝いだ。満足か?」

『いえいえ。そんな我がマスターの師をおちょくって満足するなんてそんな。マスターは愛されてるなぁ。シグナムさんもマスターのこと大好きなんだなぁ、としみじみ思っておりますが』

「今直ぐ叩き切ろうか」

『ほんっとマジですいませんでしたおやめくださいシグナム様』

「ふっ、冗談だ」

『冗談に聞こえませんでしたよ』

 

本気で言ったのだから当たり前だろう、とは言わずにプライドの文句を右から左に流す。そこでふと思い出した事をプライドに伝える。

 

「そういえばプライド。『雷帝』殿が来ていたぞ」

『ヴィクトーリア様が?それはまたなぜ』

「さあな。ユタにも伝えておいてくれ。雷帝殿の自宅に時間がある時に来てくれと言っていたと」

『畏まりました。そういえば今年のインターミドルのセコンドはどうされるので?聞いたところによるとミウラさんも出られるのですよね?』

「ザフィーラ、ヴィータ、シャマルがミウラにつくことになっている。仕事の都合で3人揃わない時もあるだろうが、問題ないだろう。ユタには主はやてと私がつくさ」

 

ああ、そうだ。2年前のような過ちは決して犯さない。

次こそはユタの家族としての役目を全うする。

 

『……シグナムさん。いえ、シグナム様』

 

「ん?」

 

『もしかしてですが、2年前のことをお考えになられてませんでしたか?』

 

「……!」

 

プライドに心境を言い当てられ、思わず息を呑んでしまう。

顔にでも出ていたのだろうか。

 

『アレに関しては誰も悪くありません。強いていうのなら予測出来ていなかったマスターが悪い、ですけども。そもそもあんな土壇場で出してくる技が()()()()()事態を引き起こすなど、誰も想像できませんし予測出来ません。何故ならばあの場は『ルールに守られた場所』なのですから。そのルールを意図的ではないとはいえ()()()()()()など考え付くわけがありません』

 

「だが、それでも止める判断は下せた。現にヴィータは止めようとしていた。だが私がそれを制した。その結果があの惨事を引き起こしたと言っても過言じゃない。

 

もちろん決勝の相手の様子がおかしくなったのはわかっていた。しかし、それでもタカを括っていたんだ私は。

 

私たちが育ててきたユタならばきっと大丈夫だ、と」

 

『ですがそんな幻想はすぐさま打ち砕かれた、と』

 

こういう時に何の遠慮もなしに言ってくるプライドの性格には少しばかり助けられるな、何て思いながら再度口を開く。

 

「『彼女』のセコンドについていたご友人がいなければユタは最悪の結末を迎えていた可能性だってあっただろうな。

 

本当ならユタに師匠と思われることすら烏滸がましいとさえ思うよ。

愛弟子の危険を察知できないで何が師匠か」

 

『……そう、ですか。しかし、一つだけ言わせてください』

 

「?」

 

『マスターはシグナム様をずっと信用しておられます。あの時も、療養中の時も、……もちろん、今も。あなたはマスターにとって家族以上に憧れ(そういう)存在なのです。アナタはそれだけマスターへ影響を齎した。もちろん良い意味で。それだけは努お忘れなきよう』

 

「……ああ。わかっているさ。だからこその戒めさ。っと、ユタのやつ相変わらずの早風呂だな」

『全くです。一応生物学上は女の子なんですから、もう少ししっかりと入ればいいものを』

「プライド、わかっていると思うが先の話は」

『ええ。他言無用ですね。この借りはまた後日マスターの秘蔵ファイルとやらを見せていただくことで帳消しとさせていただきましょう』

「はは。そうだな。とっておきを見せてやる。にしてもプライドは相変わらず感情豊かだな。本当にデバイスなのか、中に人が入ってるんじゃないかと疑いたくなる」

『何処ぞのお人好しな大家族の方々にそういうふうに作られたのでね』

「そうだったな」

 

風呂の方からバタバタと物音がして私もプライドも暗黙の了解とばかりに話題を切り替える。別に聞かれてまずい訳ではないが、復帰に意気込んでいるユタに聞かせるべきではない。

 

それと同時に呼び鈴が鳴りミウラが来たのがわかった。

 

「それじゃあ私はミウラを迎えに行ってくる。プライドはユタにストレッチを十分して砂浜へ来いと伝えておいてくれ」

『承知しました』

 

 

 

 

「あり?シグナム姉さんは?」

『ミウラさんをお迎えに行きました。適度に体を慣らした後砂浜へ行くように、と言伝を預かっております』

「はーい。……死にたくないから念入りにやっとこう」

『どうせ吐くまでやるんですから乙女として死ぬのは変わらないでしょうに』

「どっちにしろ死ぬのは確定なのやめよう?」

 

 

その後、結局吐いた。

そろそろお嫁に行けないかもしれない

ミウラにはめちゃくちゃ優しくしてたのに。解せぬ。

 

 

 

 

 

 

次の日

 

〜ミッドチルダ南部 抜刀術天瞳流 第4道場〜

 

「……ノーヴェさん。なんでミカヤさんとのスパーリングを組めたの……?」

『人脈広いですねぇ」

「え、そんなに凄い方なんですか?」

「うん、居合抜刀の師範代をやってるし。ミッドチルダじゃミカヤさんくらいの居合剣士はそうそういないと思う」

 

私とアインハルトは今ミカヤさんの道場に来ていた。

母さん達がみんな仕事だったため予定が空いているのでOKして来てみるとまさかのミカヤさんのところ。先にも言った通り居合抜刀の師範代でめっっっちゃ強い。戦ったことはないけど研究だけはしてたからよく知ってる。

 

「……時にアインハルト」

「何でしょうか?」

「その肩の猫は?」

「ティオです」

「愛猫?」

「私のデバイスです」

「…デバイス」

「デバイスです」

「母さんたちお茶目がすぎない?」

「ですが機能は折り紙付きです」

『お茶目に関してはマスターもあまり人のこと言えないでしょう』

「それもそうか」

 

こんなのがいいって画像見せたらノッリノリでプライド作ってくれたから感謝しかないけど。まさかの猫とは。

 

「ま、待たせちゃ悪いし早く入ろうか」

「はい。そうですね」

「失礼しまーー」

 

「天瞳流抜刀居合。水月」

 

「へ?」「ユタさん!前隠してください!」

 

は?え?待て待て。今どうなったの?

 

 

恐る恐る下を見下ろしてみると………

 

 

 

綺麗に服だけ切られて色々と丸見えだった。

 

 

 

「ぎゃあああ!なにするんですか!」

「いやいや。ナカジマちゃんにユタには初対面で恐ろしさを伝えておけと言われていたのでね」

「ノーヴェサンッッ⁉︎私何かしましたか⁉︎」

『色々としておりますね』

 

解せぬ。

 

 

 

 

 

 

「はぁ…まさかこんなところに来て服を剥がれるとは…」

「あっはっは」

「…何か言うことは無いんですか?ミカヤさん」

「…………。眼福、だったねえ?」

「なぜ疑問形⁉︎」

「あのー練習をしたいのですが」

 

と、私とミカヤさんとのショートコントみたいなものはアインハルトの一言で終わりを告げた。

 

「おお、すまないね。では、改めてユタちゃん。アインハルト。練習相手にご指名頂いて光栄に思うよ。ただ私も出場選手だからね。あまり手加減はしてあげられないよ」

 

「構いません。コーチからは【斬撃の怖さを体感してこい】と言われています」

「私はミカヤさんみたいな剣士タイプと近距離での対策をするために来ましたー」

 

「ふむ。ナカジマちゃんから聞いた話ではアインハルトは格闘型(ストライカー)でなおかつバリバリの接近戦型(インファイター)徒手格闘型(ピュアストライカー)にとっての斬撃の危険性と、素手と武器。この間合差がもつ危険性を感じてもらおうかな。その代わり私はきみのような接近戦型(インファイター)対策を。まあ言ってしまえば接近戦型(インファイター)()()()()()()()()()()()鍛錬をしたいと思ってたんだ。利害が一致したわけだね」

 

「その通りです」

 

「で、ユタちゃんは……近距離に接近された時の対策を。そのかわり、私は魔法に対する対策を、ということかな?」

「その通り。大正解です」

 

 

 

 

「それじゃあ、時間もあまり無いし始めようか。アインハルトからだね」

「よろしくお願いします。お役に立てるよう頑張ります」

「怖いな、瞳がそうは言ってないぞ。殴り倒す気満々じゃ無いか」

「お見せしますーー覇王流の斬撃対策。行きますよ。ティオ」『にゃっ!』

 

 




しばらくのほほーんとした感じで進めていきます(願望

vividを書くにあたってその前の話とか読んでみようと思った結果全部読んでました
アホですね

でも面白かった(


それでは読んでくださりありがとうございます
感想や評価などをいただけると嬉しいです


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16話 〜過去の精算〜

「ただまー」
「お帰り〜」
「およ?母さん珍しいね。こんな時間に家にいるとは。どうしたの。有望そうな男性職員を食事に誘うも断られたの?」

その瞬間スパコーンとめちゃくちゃいい音がなった。
私のおでこで。

「痛っっ…冗談じゃんか…」
「一生そのままツルペタになる呪いかけてあげるわ。ちょっとこっちこい」
「いーやーでーすぅー。そっちこそ一生独身の呪いかけるぞ!」
「おーそうかそうか、かけれるもんならかけてみい」
「よしヴィータさんから聞いた母さんの黒歴史を管理局に匿名で投げ込んでくる」
「いやーユタ。今日何食べたい?ユタの好きなものなんでも作ってあげるで」

そう言いながら魔力弾で執拗に胸狙うのやめませんか母上。本当に胸が凹む。平ら通り越して凹む。


〜とある日〜

 

「あ、母さん。今日はヴィクターさんの家に行くから帰り遅くなるー」

「わかった。了解やで〜。しっかり話して来いや?

「うん」

 

今日はオフの日なので、少し遅くはなったけど雷帝ことヴィクトーリアさん、略してヴィクターさんのところへ行くことにした。

 

「プライド、ヴィクターさんに連絡しておいてもらって良い?」

 

『畏まりました。それにしてもマスター』

 

「ん?」

 

『ピンクの髪留めと黄色いリストバンドは…』

 

「え?何か変?」

 

『いえ、大変お似合いかと』

 

「ん、ありがと」

 

唐突にプライドが誉めてくるなんて何かあるんじゃなかろうか、とか思ったけど誉められたのは純粋に嬉しかったので軽く流す。

うん、後できっととんでもないこと言ってくるヤツだ間違いない。

 

『お望みならそうしましょうか?』

「やめて」

 

心の内を読んでくるプライドはいつものことなので聞き流しながら体を充分に慣らし、プライドの合図で私は走り出した。

 

 

 

「ハッハッ…とうちゃーく。にしても相変わらずデッカ……」

『さすがはお嬢様、ですね』

 

ヴィクトーリア家へ無事到着。さてさて、ヴィクターさん達いるかな。とか思ってたんだけど家を前にした瞬間に謎の緊張感が出てきた。

 

「……」

『逃げたらどうなるかお分かりですよね?』

「うぐっ…わ、わかってるって」

 

プライドに逃げ道を絶たれ、意を決して呼び鈴を鳴らす。

 

しばらく経って出てきたのは執事服を着た若い男の人。確か…エドガーさん、だっけ。

 

 

「ようこそお越しくださいましたユタ様にプライド様」

「お久しぶりです。エドガーさん。去年は色々とお世話になりました」

「いえいえ。お嬢様のご要望でもありましたからお気になさらず。応接室へご案内しますね」

「はい」

 

そうして通された応接室は、本当に応接室なのかと疑うくらいに広い

私の部屋の倍はあるんじゃなかろうか。

 

「広すぎて落ち着かない……」

『発情でもしてるんで?』

「してないわっ!」

 

くだらないと思いつつも体が勝手に反応して言い合いしてるとドアが開いてそこから1人の女性が入ってきた。この家の持ち主、ヴィクトーリア・ダールグリュンさん。ヴィクターと呼ばせていただいてる嘗て私がインターミドルで戦った上位選手の1人。

長い金髪に気品ある緑の瞳に、ロングスカート系を身につけているめちゃくちゃ綺麗な人(そして巨乳)。古代ベルカの「雷帝ダールグリュン」の血をほんの少しだけ受け継いでいる遠縁の子孫の貴族のお嬢様、だっけ?。その縁もあってか仲良くさせてもらっていた。

 

「お久しぶりですヴィクターさん。まずは最初に。去年は本当に色々とありがとうございました」

 

と深々と頭を下げる。すると肩をもたれてゆっくりと優しく上げてくる。

 

「いいのよ。あれくらい。それに…私にはあれくらいのことしかできなかったのだもの。プライドも久しぶり」

『ご無沙汰しています。ヴィクトーリア様。私はもう疲れましたので本日のツッコミ役は任せします』

「そんな役を任されても困るのだけれども…。……ジークの件よね?」

 

「『はい』」

 

名前が出て一瞬体が固まってしまうが、なんとか返事をする。

 

「少し待っててちょうだい」

 

そうしてヴィクターさんは部屋の外へ向かった。

 

「失礼します。ユタさん。お茶を入れて来ましたのでどうぞ」

「あ、ありがとうございます。エドガーさん」

「執事ですのでこれくらいは当然です。そんな畏まらずとも大丈夫ですよ」

 

途中でエドガーさんがお茶を淹れてくれたが緊張して味なんてあまりわからなかった。

何度も深呼吸してると扉の外からヴィクターさんの話し声が聞こえてきた。

 

(……ク!ユタがわざわざ……てくれたのよ?はや……行きまし…)

(いやや!ユタには……る顔がない!)

(いいから……)「来なさい!」

 

と、ヴィクターさんが連れて来てくれたのは……

 

 

メイドだった。何言ってるかわからないと思うが私もわからない。

 

 

「……ジークさん、とうとうそっち系の趣味に走りましたか…雑草生活だけでは飽き足らず…」

「なんか勘違いされとる⁉︎」

『趣味に関してはマスターも人のことは言えませんよね?』

「……プライド」

『はい?』

「カメラ起動して」

『サーイェッサー』

「ちょっ⁉︎なんで写真を撮るん⁉︎」

「なんか、面白いしレアだったので」

「ユタ……」

 

あれ?なんかヴィクターさんが震えてる。

 

「よし!いったれ!ヴィクター!」

「その写真あとでくださいな!」

「へ?ヴィ、ヴィクター?何を言っとるん?」

「いいですよヴィクターさん。いくらでも」

「やめえやーーー!!!」

 

『はぁ………みなさん。当初の目的をお忘れで?』

 

「「「あ」」」

 

 

 

「「……」」

 

「まあ…こうなるのは…」

『ある意味想定通りです』

 

気まずい。ほんっとに気まずい。まともに顔を見れない、穴に入りたいとはこのことか。

だけどそうも言っていられないし……とかいって何から切り出せば……。

プライドをチラ見するも今回は口を出す気がないのかダンマリしている。自分でやれですねはい。わかってました。やれば良いんでしょうやれば。

 

「えーと…改めてお久しぶりです。ジークリンデさん。一昨年は世界選手権優勝おめでとうございます」

「う、うん…ありがとう…」

 

そう、目の前にいるメイド………じゃなくて黒髪のロングのツインテール。ちょっとロリ要素が混じってそうな顔のこの人こそがジークリンデ・エレミア。

 

2年前の世界選手権優勝。その他数々の実績。

疑いようもない名実共に10代次元世界最強。

 

 

そして……

 

 

私の右腕と左目を潰したのもこのジークリンデ・エレミアだ。

 

 

 

 

 

「「……………」」

 

やっばい。やっぱり超気まずい。

私もジークさんも無言で目の前の机を見つめている。

だが、いつまでたっても話はできそうにない。

 

えーい、いつまでもこんなんじゃダメだ。

 

「え、えーと。ジークさん。私、2年前のことで話をしにきました」

「やっぱりまだ怒っとるん……?」

 

と、ジークリンデさん改めジークさんは未開の地に放られた小動物のようにビクビクしながら聞いてくる。

……なんか言いづらいな。

 

「ええまあ、正直なところで言うと()()()()に関してはまだジークさんには怒ってます。けど…あの時は私はジークさんの事情を何も知らないでいました。見舞いに来てくれたヴィクターさんが教えてくれるまでは。……ですけど、けど今回話をしに来たのは別件です」

 

「別件…?」

 

また怒られる、罵られるとでも思っていたのか、怯えつつも不思議そうな顔でこちらを見てきた。

 

何度か深呼吸をして、まっすぐジークさんを見つめる。

 

「ジークさん……いや、ジークリンデ・エレミアさん。2年前は数々の暴言を言ってしまって、すいませんでした」

 

と、私はジークさんに頭を下げた。

 

「えっ⁉︎いやアレはウチが…」

「それと1つ、お願いをしにきました」

「へ?」

 

言い返そうとしてくるジークさんの言葉を遮るように言葉をかぶせて言う。これは、絶対に譲れなかったから。

 

「これから、私と戦う時……あの技を使うことを()()()()()()()()()()

 

それを言った時、ジークさんもヴィクターさんも驚いて目を見開いていた。

 

「え?え?どういう……」

「ユタ?それはどう言うことなの?」

 

「どう言う意味も何もそのままの意味です。……その技に選手生命を断ち切られかけた私がこう言うのも悪いかもしれないですが、気にするほどの技では無いのかもしれないと、そう思いました。それに対策も考えましたから。なので……終わったあと勝ったのに謝るなんて真似は2度としないでください。お願いですから。

 

……私にとって、それが一番嫌なんです。それに関してはジークさんが一番よく分かっているはずです」

 

「うん………わかった」

 

「ありがとうございます。では、私はこれで。今日は突然なのに時間を空けてくださってありがとうございます」

 

ジークさんは来なかったが、ヴィクターさんとエドガーさんが見送ってくれた。その帰り際にヴィクターさんが手首を掴んできた。

 

 

「?どうしました?」

「ユタ、今年から復帰するって言うのは本当なのよね?」

「もちろん。その為に鍛えてますから」

「なら覚悟してなさい。都市本戦で一昨年の雪辱は晴らしてあげるわ」

「望むところですよヴィクターさん。…ジークさんも頑張ってくださいと伝えておいてください。では」

 

私は軽く挨拶、もとい宣戦布告を済ませるとヴィクトーリア家を出て家に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

『さて、マスター、本当はどうなんですか?』

「あーうん。正直いうとアレに関してはどーにもならないんじゃないか、と思ってはいる。あんなハッタリ……言うんじゃなかったかな?」

『どーでしょうね。どちらにしろやることは変わらないんですから良いのでは?』

「それもそうだね。母さんにも、エリオにも、シグナム姉さんにもかっこ悪いところは見せないように頑張るだけだしね。目指せ都市本戦優勝、そして更には世界選手権出場!」

『では微力ながらお力添えをしましょう。しかし以前にも申し上げましたが小さな獅子に足元を掬われないよう』

「もちろん。誰であろうと全力を尽くすよ」

 

 

 

 

 

 

 

「ジーク、いる?」

 

「いるよヴィクター」

 

ユタを見送った後応接室に戻るとジークの顔つきが少し変わっていた。まるで何か覚悟を決めたかのように。

だけど何処か安堵しているかのような感情も読み取れた。

 

「ね?言った通りだったでしょう?ユタは怒ってないって」

 

「うん…」

 

ユタの気持ちは痛いほど理解できた。けどジークの気持ちも痛いほど理解ができた。自分で制御ができない力のせいで大切なものを壊してしまう。格闘戦技は大好きなのにその技のせいで相手に消えない傷を植え付けてしまう。一昨年はユタの左目と右腕。去年はミカヤの右手。この子はとても優しいから途轍もない重荷になっているのがわかっていた。

 

だからこそ常に相手を気にかけて試合をしていた。取り返しのつかないことをしない為に。そしてその優しさ故に起こったすれ違いは見ていられなかった。

 

だけれど今のジークは少し違っていた。

 

「ジーク、予め言っておくわね。ユタと同様、わたくしもあなたの首を狙っておりますので、精々首を洗って待っていなさい!」

 

「……!うん、絶対負けへんよヴィクター。ウチは誰にも負けへん」

 

 




次回 二年前のインターミドルでは何が⁉︎

改めて思ったんですけどインターミドルって女子限定なのか?とか思ったり。
描写されてないだけで男女別なだけだよね!うん!と自己解釈してましたが、実際どうなのか。
あと読み返して思ったのはミウラかわええ。ボクっ娘は至高。

みんなもロリコンになろうな(小声


読んでくださりありがとうございました。
感想や評価を頂けるととても嬉しいです。


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17話〜VSジークリンデの映像を見よう〜

『マスター。本日のご予定は?』
「ん?特に無いよ。というか把握してるでしょプライドは」
『ああそういえばそうでした。ならばちょうど良かったです。ノーヴェさん達にお呼ばれしているので学校が終わり次第練習場へお向かい下さい』
「ノーヴェさんが?わかった。終わったらすぐ向かうって連絡入れておいて」
『承知しました』







「一体何がどうなっていらっしゃるんでしょうか」

『私から皆様宛にメールしたからですね』

「いや薄々勘付いてたけど犯人プライドかい!」

 

今この上映会にいるのは私、ヴィヴィオちゃんコロナちゃんリオちゃんのトリオにノーヴェさん。そしてアインハルトにミウラ。イェーイ12歳以下大集合〜ってアホかい。

 

「一応聞こう。プライドから来たメールにはなんて?」

「一昨年のユタさんとジークリンデさんの決勝ビデオを、しかもセコンド視点から見せてくれるって」

「よーしプライド。あとで話し合おうか」

『謹んでご遠慮いたします』

 

先に言っておこう。

私は縛られているので拒否権はもう無いです。

なんでこうなってるかって?私もわからない。

 

「なんでよりにもよって自分がボロカスにされてるのをもう一回、しかもみんなと一緒に見なくちゃいけないの…」

『どうせ見るんですから、それならばついでにジークさんと戦う可能性のある方々に見せておいた方が様々な面からの助力を得られると思いまして。あとは単純にマスターのそういう姿が見たくて』

「ぶった斬ってやる」

 

影を駆使して叩っ斬ろうにも魔力錠とかいうやつのせいで魔力練れないんですけどね。

ソレはそうとして一度ぶった斬る。

 

「嫌だね。見るなら1人で見る!てかそもそも大勢で見ても私がボロ雑巾にされる姿が…」

「「「だめ…ですか?」」」

「うぐっ」

 

『おーっとここで初等科トリオの素晴らしい上目遣いがマスターへクリティカルヒット。マスターの心が凄絶に砕ける音が聞こえましたグッジョブ3人です』

「プライド、お前本当感情豊かだな」

『お人よしな大家族にそう作られていますので』

 

ちなみに私のHPはもうマイナスです。

もういいよ。どうせ知られるくらいなら見てやろうじゃない。

 

「それじゃあ、開始するぞ?」

「「「はーい!」」」「「よろしくお願いします!」」

「もう好きにして……」

 

 

 

〜2年前 インターミドル都市本戦決勝前日〜

 

「それでは、ユタ選手。初出場で決勝戦進出おめでとうございます!今のお気持ちは?」

 

「え、えーと。正直ここまで勝ちあがれるとは思ってもいなくて嬉しいです。決勝戦も悔いの残らないよう全力でジークリンデ選手を……私の憧れた選手を倒したいと思っています」

 

ユタは記者達にインタビューを受けていた。

それに緊張しながらもしっかりと答えていた。

 

「それに……私を家族だと迎え入れてくれた人や……大切な人に喜んでもらいたいので………明日は絶対に私が勝ちます」

 

「おおー!言い切りましたねえ!かっこいいですよー!それではインタビューありがとうございました!」

 

「い、いえいえ」

 

 

「だぇぁぁ!なんでこのシーンからあるの⁉︎」

『私が入れました』

「私が育てましたみたいに言わないでくれる?」

 

 

 

 

 

 

 

別の場所ではジークリンデもまたインタビューを受けていた。

 

「ジークリンデ選手、最後に明日への意気込みをお願いします」

 

「は、はいっ。えーと、ユタ選手はとてもすごい選手やと思っています。みんなは判定勝ちやと面白くないと思ってる人もいるみたいですが……ウチはKO勝利より判定勝ちを狙う方がすごいと思っています。それにユタ選手は何より試合の組み立てがうまいです。…………なので、明日は開幕から全力で、ユタ選手を倒したいと思っています」

 

「はい、ありがとうございます!いい記事が書けそうです!」

 

 

 

 

『だ、そうですよ。マスター』

「うう…ジークさん。そんな真面目なコメントを……私そんなすごくないのに…」

「なに言っとんやー。あれだけ勝ち進んでるんや。すごいよ。ユタは。しっかりと胸を張りいや」

「う、うん。シグナム姉さんにも、母さんにも、ザフィーラにも、……もちろんプライドにも教えてもらったことを明日は今までの試合以上に出し切ってみせる」

『はい、その意気です』

「明日はうんと応援するからなー!」

「うん、ありがとう。母さん。プライド」

 

決勝戦前日の八神家は親子水入らずの状態になっていた。

なんでも周りが気を利かせてくれたんだとか。

 

 

このときは誰も【あの事故】が起こるとは思ってもいなかった。

 

 

 

 

〜決勝戦 当日 第一会場〜

 

控え室にはユタ、セコンドとしてはやて、シグナムの三人がいた。ザフィーラは観客としてみるのだそうでここにはいなかった。

 

「どうや?ユタ。準備はええか?」

「うん、バッチリ。それじゃあプライド。最後の確認と慣らしも含めてもう一回やらせて」

『はい、いつでもどうぞ』

「うん。……セットアップ」

 

と、光に包まれる。

その後にはセットアップした状態になっていた。

 

「ん…よし、(これ)は絶好調。その他の魔法も…母さん、ちょっとだけお願いしていい?」

 

「はいよー。んじゃいくで?」

 

母さんの合図でいくつかの小さな魔力弾が撃ち込まれる。それをリフレクト、吸収放射を使って母さんに弾き返す。

 

「ん、こっちもよし」

 

『よかったです。それで本日の作戦は?』

 

「今までと大して変わらないよ。ジークさんを無理やりこっちの土俵に引きずり込んで影、リフレクト、吸収放射、カウンター、持てる全てを使うだけ。そのあとは状況に応じて考えていく。何かあれば随時伝えるよ」

『畏まりました』

 

時間が刻一刻と迫ってくる。途端に震えが出てくる。変な汗も。

そんな私を見かねたのか背中を思い切りバシンと叩きてきた人が1人。

 

「いっったいなぁ!なにすんの!」

「怖気付いてる愛弟子に喝を入れたのさ」

「もうちょっと加減してもらっていいですか⁉︎」

「だが断る」

「断らないでくれません⁉︎」

 

ショートコントにしか見えないやり取りをすることでユタとしても気分が少し軽くなる。

シグナムもそれを感じ取ったのか改めてユタへ向き直る。

 

「ユタ。一応確認しておくぞ。試合の時は…」

「うん。わかってる。自分を信じろ。だよね」

「わかってるならいい。私も全力でサポートしてやる。だからお前も全力を出しきれ」

「わかった」

 

コンコン

 

「八神ユタ選手、入場お願いします」

 

 

 

 

ジークリンデが会場に入ると同時、観客一気に沸く。まるで地震が起こってるような感じだ。

 

ユタも同じように入る。するとジークの時ほどではないが会場が沸く。

 

 

 

しかし、ジークもユタもお互いにそんなことは気にしてすらいなかった。

 

 

 

 

「正直、本当にここまでくるとは思ってなかったわ。今日はよろしくな。ユタ」

「こちらこそ、ジークさん。今日は胸を借りるつもりで全力で行きます」

「あははー。顔はそう言ってないでー。倒す気満々やな。………けどウチも同じや。今日の試合も、全力でやらせてもらうで」

 

「それではインターミドル 都市本戦決勝を行います。ライフは15000。お二人とも正々堂々と!」

「はい」「わかりました」

 

と、その言葉と同時にユタも、ジークも、構えを取る。

 

「それでは……試合開始っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鉄腕……解放!」

「プライド、腕硬化の準備だけはしておくから補助お願い」

『畏まりました』

 

試合開始直後、ジークは出し惜しみは無しとばかりに『鉄腕』を解放し両腕に籠手を装備する。

それを見てユタは大きく後ろへ下がる。ジークを近接へ近づけさせない為に。

 

「それじゃ、行くで。ユタ」

「ええ、どこからでもどうぞ」

 

ジークは足に思い切り力を込め、ユタへ肉薄する。

右フリックを繰り出すもユタは寸でのところで影の壁を出し、攻撃を防ぐ。

 

「(やっぱり『視え』てても対処が難しすぎる…今防げたのはラッキーだ)」

「ウチを前に考え事かー?ユタ」

「いえいえ、そんな不躾なことは…っ!」

 

影の壁を解きパンチをしてきた腕に影のバインドとして絡みつかせ再度ジークから距離を取ろうと試みる。が、そんなものは関係無しとばかりに絡みつかれた右腕ごとユタへ向かって振りかぶりバインドを引きちぎる。魔力収束砲と共に。

 

しかし顔目掛けて飛ばされた収束砲は僅かに頬を掠めたのみ。

 

だけどやられてばかりのユタではなく。

 

「爆!」

「⁉︎」

 

ジークがちょうど次の動きをしようとしたところでユタが叫ぶと、右腕に残存していた影がジークを巻き込んで爆発した。

 

「よし…()()。あとは…」

「やっぱり変に絡め手をやろうとするのは悪手か…なら当初の予定通り、近接戦で早めに決着をつけに…」

 

片や近づこうとし、片やそれをさせまいと迎撃する。ジークは影を的確に弾き、潰し、確実にユタへ肉薄していく。ユタはというと影での迎撃は得策ではないと判断したのかリングの中心から半径数メートルをひたすら動き回り、受け流し、カウンターを仕掛け続ける。

 

「こんの………ちょこまか動くなぁ!」

「そうする必要があるもので!せやっ!」

「くっ!」

 

と、ユタは動き回りながらもジークを寄せ付けないように必要最低限は影で攻撃をいなす。時折死角から影で攻撃するも鉄腕で防がれダメージは入っていない。

 

「…っ!ゲヴェイア・クーゲル!」

「?!(魔力弾を展開してきた…しかもかなり高密度。だけどそれなら……)」

「ファイアッ!」

「リフレクト!」

 

ジークが弾幕を打ち込むと同時、ユタは反射魔法を使う。

 

「いたた。まさかそうくるとはなぁ」

「げー、もう少しダメージ食らっててくださいよ』

 

ユタはすべての弾幕を跳ね返すのは無駄だと考えたのか致命傷にならない程度に反射をする。

ジークもそれは予想外だったのか反射された弾を何発か食らっていた。

 

 

【ライフ】

 

ユタ 15000→11500

ジークリンデ 15000→12500

 

クラッシュエミュレート 互いに無し

 

 

 

「プライド、残り時間はどれくらい?」

『2分半です。が、仕込みを考えるとなるとまともに戦えるのは1分程度が限度かと』

「おっけー。……流石に腕の魔法を構築して戦う暇はないか……このラウンドはとにかく仕込みに行く。サポートよろしく」

『どれで行きます?』

「秘密兵器アルファで』

『厨二病ですか?』

「うるさいなぁ!ほら、例のハコだよ!」

『承知しました』

 

「…?また何か企んでる顔してるな。けど関係ない。兎に角近距離戦に持ち込むだけや」

 

ジークがユタへ向かって駆ける。それを見てユタはリング中央を使うようにして逃げ回りながら所々で迎撃をしていく。そしてジークがまたユタを追いかける、の繰り返しとなった。ユタは目隠しも含めて足元を狙って攻撃していたが、試合時間が残り30秒を切ろうかと言う時、試合が動く。

 

「っ⁉︎いつの間に⁉︎」

「逃さへんでー。せやっ!」

「っ!」

 

ジークがいつの間にかユタの懐に入り込んでいた。恐らく土煙に紛れて移動をしていたんだろう。そのまま脚を掴まれ投げ飛ばされる。

 

「がっ!」

「まだまだ!」

「くっ……!」

 

そしてユタは関節技を脚に決められる。

誰もがユタの負けが頭によぎった。しかし当の本人ユタは不敵に笑う。

 

「……フフッ、ようやく、ようやく近くまで来ましたね」

「?なんや、負け惜しみか?」

「忘れてませんか?私の魔力の変換資質のこと。近接…は…私も望んでいたことなんです」

「はっ……!」

 

ユタの考えに気づいたジークは即座に関節技を外し離れようとする。

しかし一足遅くユタの近くから出て来た影がジークを切り裂く。

 

「痛たた……。ふうーー、なんとかなったぁーー」

『アホマスター。無茶しすぎです』

「うん、自覚してる。でも無茶しないとジークさんには勝てないのはわかってるでしょ?それよりクラッシュの回復ナイス」

『せめて一言言ってから無茶をして下さい』

「善処するよ」

 

 

「(侮ってるつもりはなかった。でも心のどこかで慢心してたってことやな。……何をしとるんやウチは!ユタにも失礼やろ!)」

 

 

 

【ライフ】

ユタ 11500→8000 ボディ蓄積ダメージ 27%

ジークリンデ 12500→9700 クラッシュエミュレート 右肩部及び両腕 裂傷多数

 

 

カンカンカン!

 

『第1ラウンド終了!』

 

 

 

 

「どうや?仕込みは終わったか?」

「うん、()()()()。あとは……いつそれに、どうやって引っ掛けるか」

「簡単じゃないか。足を止めてやれば良いだけだろう?なあユタ?」

「無茶言うなぁ…シグナム姉さんは。……まあ期待には答えてみせますよ」

 

 

 

 

『セコンドアウト』

 

【ライフ】

 

ユタ 8000→13000 ボディ蓄積ダメージ13%

ジークリンデ 9700→14500 クラッシュエミュレート 全回復

 

 

『第2ラウンド、始め!』

 

 

 

開始の合図と同時にジークはユタに向かって走る。

しかしユタはそれを見て少し下がっただけで逃げようとはしていない。

 

「(?なんかの作戦か?…まあわからんもんを考えてもしゃーない。とにかく、先手必勝や)」

 

「(逃げ回りながらじゃうまく仕掛けられない可能性がある。なら多少リスクを背負ってでも接近戦を仕掛けるしか…)」

 

と、近距離でのジークの【鉄腕】とユタの【影】の攻防が開始された。

 

「(キッツ…でもここまできた。あとは出来るだけわざとらしくない隙を作っていって…)」

 

ユタはジークを引きつけながらリングの中心に近づいていく。

 

「(よし、ここ!ここで耐えろ!)」

 

ユタは腹をくくり影での攻撃を激しくする。

切りつけたり、打撃攻撃をしたり、バリエーションが広くなっていった。

 

しかし、ジークは鉄腕や弾幕を駆使し影を防いでいた。

 

一瞬の瞬きすら憚られるほどの激しい攻防に観客は大きく沸く。

願わくばずっと見ていたいと、そう思っていただろう。

 

だけどジークの脳裏にあったのは、ユタの異質さ。今までの試合とは明らかに違うユタに警戒を跳ね上げていた。

同時に早めに決着をつけようと決め、動く。

 

「いまやっ!」

「!」

 

僅かな隙を見つけ、影を抜けて来たジークがユタに膝蹴りをする。完全に不意をつかれたことでふらついてしまったユタに絞め技を決め、一気に意識を断とうとした。

 

「ぐぐ………」

「はよ落ちた方が楽やで」

 

ユタへ警告するのは彼女故の優しさからか。本気でやれば意識なんてすぐに断てるのにそれをやらないのはユタの体を心配してからか。

 

だけどユタにとってはそれが反撃の狼煙になった。

 

「っ…勝った気に…なるのは早いですよ……寧ろ捕まえたのは…こっちです。ぐっ…影斬(シャドウ・リッパー)…!」

「っ⁉︎」

 

床からではなく、()()()()()()()出てきた影が、ユタごとジークの体を切り裂く。思わぬ反撃により締め技が緩んでしまいその一瞬を突いてユタは抜け出す。

 

「にが、すかぁ!」

「はぁっ!」

 

逃してはならないとジークは鉄腕による追撃を仕掛ける。

それを見てユタは影を使うでも逃げるでもなく、選んだのは迎撃。ジークの拳に右手を合わせ、パンチの威力を利用して回転する。同時に発動直前まで構築しておいた硬化魔法を展開し硬い拳によるカウンターをジークに決める。

 

「…っ!」

 

「まだ、まだ。影の拘束(シャドウバインド)

 

一気に流れを掴んだユタは今までリングに仕込んでた魔力を全部使うかの勢いでジークへ影魔法を仕掛けていく。

影でのバインドでジークを捕える事ができたのを確認し即座に次の魔法を発動させにかかる。

 

「やっと、やっと、できた。闇の箱(ブラックボックス)!」

「え⁉︎なんやこれ!」

 

ユタのカウンターにより()()()()()()()()()()()()ジークを影でできた箱が覆う。

 

その箱の中は一筋の光すらない完全な闇だった。

 

「な、なんや⁉︎なんも見えへん!どこ行ったユタ!」

「一箇所に止まってると危ないですよーって、聞こえないか」

「⁉︎」

 

と、多分観客とかからはわからないが(というかわかったら怖いが)ジークは四方八方から影での攻撃を受けていた。

 

完全な闇ということもあり反応しきれておらず次第にライフが減って来ている。

 

ライフ

ユタ 13000→6200

クラッシュエミュレート ボディ蓄積ダメージ70%

 

ジークリンデ 14500→10000

クラッシュエミュレート 全身裂傷多数 脇腹強打撲

 

「ゲホッ、あとは、ゆっくりと」

「…………」

 

無論ユタとてこの程度でジークが終わるとは微塵も考えていない。更に確実にするために次の策を、と考えていた。が…

 

 

 

突然なんとも言い難い恐怖がユタを支配した。

 

 

 

 

「ガイ……・ク……」

 

闇の箱から何か聞こえてきたかと思うと爆発が巻き起こる。

 

「は………?」

 

と、次の瞬間にはジークを閉じ込めていた影は跡形もなく消えていた。

そして、そこに現れたのは

 

 

まるで機械のような冷たい瞳のジークリンデがいた。競技者というよりは、まるで暗殺者のような。それを見て今の今まで考えていた作戦を即座に放棄した。せざるを得なかった。

 

 

「(は?ちょっと待てちょっと待て。あれ、相当強度高く作ったよね?いやそんな事はどうでも良い。とにかく…)プライド!魔力を全部防御に回して!」

『承知しました!それとマスター、お気をつけて!あれは明らかに…』

「わかってる!早く!」

 

普段の冷静でおちゃらけていた筈のプライドですら焦った声になる。そんな2人を1人の破壊者が遮る。

 

「ガイスト・クヴァール」

 

「⁉︎」

 

ジークは突然ユタの目の前から消えた。

 

『マスター!後ろ!』

「えっ⁉︎がっ⁉︎」」

 

プライドの声により反応できて避けてはいたが……ソレが齎した結果はユタにとっては最悪の一言だった。

 

「…嘘ぉ、なにこの威力。初めて見た」

 

ジークの一撃は、ユタの硬化魔法のかかっている右腕ごと、リングを綺麗に削り取っていた。巻き込まれたのは右腕だけではあったが、それでもリング端まで吹き飛ばされてしまうほどの威力だった。

 

「……これマジでやばいやつだ。プライド、早く、クラッシュ、治して。流石に片腕だけじゃ…」

『違うんですマスター!()()()()()()()!!』

「はい?」

 

珍しく焦っているプライドの言葉と共にまたジークがユタに向かう。

 

ゾオッという悪寒が走りユタはとっさに身構える。がジークは四肢を攻撃して麻痺させられ、ユタは膝をついてしまう。

 

そして、また大きく振りかぶってユタに向かって…

 

「(え?ちょっと待って?あれ受けるの?嫌だ……死……)」

『マスター!避けて!』

「ジークさん!止まって!」

 

「「!」」

 

と、プライドの声により顔をわずかにそらして直撃を免れた。

ジークもセコンドの声で一瞬我に返り、なんとか拳の軌道を、ほんの僅かに逸らす。

 

しかし、『直撃を免れた』だけであって、ジークの一撃は

 

ユタの左目を綺麗に潰した。

 

「がっ、ゲホッ……」

 

そして、そのまま倒れこむ。

 

「はっ……⁉︎」

 

ジークは先ほどまでのように機械のようでなく、試合をしているときの顔に戻っていた

 

「(あー、これダメだ……調子乗った罰かなあ…。もうちょっと研究してればよかった)」

 

ユタの胸中にあったのは、己の準備の甘さによる後悔。

 

だけどソレを塗り潰すかのような一言が。

 

 

「……ユタ、ゴメンな」

 

 

「…え?」

 

ジークリンデの優しすぎるが故の言葉が、ユタの胸に突き刺さる。負傷した眼や腕などの痛み以上に、ゆたの心に深く突き刺さる。

 

 

(え?何で…私…謝られたの……?なんで……?ただお互いに全力を出して戦っただけなのに…何で?…私が弱かったから?最後の技は使うつもりなかったとか…?それで使っちゃったから謝られた…?)

 

「ふ、ざけ…」

 

何かを言おうとするも、体は言うことを聞かず、悔しさをはじめ色々な感情が混ざる。だけど立ち上がるには遠く及ばず

 

そのまま意識を失った。






ユタが倒れると同時、はやて、シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、さらには審判やジーク、ヴィクター達も含め一気にユタの元へ駆け寄る。

すぐにタンカを持ってきてくれているがその間も全員の呼びかけも虚しく目を覚ます気配はない。
おそらく一番心配しているのは、はやて達であるのは間違いない。が、対戦相手であるジークリンデ自身も心配していた。

セコンドであるはやて達がユタのそばへ来た時に謝ろうとするもソレどころではない様子に思わず尻込みをしてしまっていた。

「あ、あの…ユ、ユタは……」

責められ、怒鳴られるのを覚悟でジークはシグナムへ話しかける。
そんな彼女の心境を悟ったのかシグナムは優しく答える。

「変身が解けてないのはプライドの防御機能のせいだと思われる。私はデバイスには詳しく無いがデバイスの出力の限界を超えてしまった時の現象を何度か見ているがソレに似ている。

…それと、そんな哀しそうな顔をしないでくれジークリンデ殿。貴女は勝った。ならばその勝利を誇ってくれ。でなければユタが浮かばれない。それと心配しないでくれ。私達は誰も貴女を責めちゃいないのだから」

「は、はい…」

「もしそれでも心を痛めてくれるのならば、お見舞いにでも来てあげてくれ。ユタは余り表に出して言っていないが貴女のことをずっと尊敬して目標にしていたんだ。きっと貴女がきてくれたらユタのやつも喜ぶと思う」

そう言い残しはやて達と共にユタを病院へ送るため会場を後にした。




「…そんな資格、ウチには…」

だけど今は、その優しさが余計に辛く心を抉っていた。


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18話 〜視察〜

今回のお話と次、もしくはその次までvivid strikeのキャラを出す予定です。

それではどうぞ


「うん。改めて見ると思った以上にフルボッコだドン」

『敗北の達人でもやってるんで?』

「残念ながらそんな特殊なゲームはやってない」

 

最終的に私が重傷を負った上でK.Oされた試合を見て私以外の皆さんがそれはもうお通夜状態。

 

「ま、みんなここのインターミドルで都市本戦優勝しようと思ったらアレは避けて通れないと思った方がいいよ。ノーヴェさんも、この子達をインターミドル選手として導くならそれを覚悟しておかなきゃダメですよ」

「わかってるさ。けどそれはユタもだ。都市本戦を優勝するってならアレをどうにかしなきゃならないのは同じだ」

「もちろん。その為に色々と準備してますから。それと…今の映像改めて見て少し気づいたことがありますし」

 

それについてみんなから聞かれたが、それは内緒ということで貫き通した。秘策にも繋がってくるし、敵になるかもしれない子たちに手の内をバラすような事はしたくないからね。

 

「それじゃあ私の敗北鑑賞会は終わりということでよろしいでしょうか?」

「ああ、ありがとうな」

「まあ隠すもんでもないですしね。よーし…それじゃあプライド、叩っ斬る」

『やれるもんならやってみやがれです』

 

あ、このやろ!魔力運用を妨害するんじゃない!

 

 

 

 

 

 

 

 

〜1週間後 地区選考会第1会場〜

 

『どうですか?めぼしい人はいましたか?』

「うん、何人か」

 

今はヴィヴィオちゃん達初等科トリオやアインハルト、ミウラの応援と視察も兼ねて地区選考会を見に来てた。いやはや懐かしいねぇ。一昨年は私も視察される側だったのに。

 

それはそうと開会式でのエルスさんという上位選手による選手宣誓もとい『えい!えい!おーー!』は爆笑してしまいました。アレ今時やる人いるんですね。

 

「にしても……」

 

私はさっきプライドに言って急遽撮ってもらったビデオを繰り返し再生しながら唸る。

どっちも決して弱くない。なんなら片方は都市本戦で見てもおかしくないくらいの強さは持っていたように見える。だけどそんな相手からの攻撃を全て避け、ボディーブローの一撃で沈めている。

 

「この白い髪のロングの子……アインハルト並みにしか見えないんだけど」

『リンネ・ベルリネッタ。今年初出場ですね』

「やだなー。私、この子と同じ予選組なんだけど」

『潔く諦めてください。これは現実です』

 

はぁ……とため息をつきながらビデオを消す。誰かいないものかと周りを見渡すと見慣れた顔を見つけ、そちらへ向かうことにした。

 

「ヴィクターさん達発見」

『ジークさんもいますね』

 

あの人たちも視察かなと思い近づく。意外にも周りに騒がれていないのが助かるね。

 

「あらユタ。あなたも視察?」

「そんなところです。って、なんでジークさんはフードを?」

「だって目立つの嫌やもん…」

 

と、私たちは初出場の選手達を見ながら感想を言い合っていた。

 

「というか、ユタ?この前来たときも思ってたんだけど、なんで左目を包帯で隠しているの?」

「あ、ウチもそれ思ってた。怪我は治ってるんよね?」

「かっこいいからに決まってるでしょう?」

 

バカを見る目で見てこないでください。てか、ジークさんにバカを見る目で見られたくはない。雑草を食うような人でしょうが貴女。

 

 

(……過ごした!)

 

 

ふと会場に目をやってるとなんか聞き覚えのある声が聞こえてくる。

振り向くと……

 

「あ、可愛い番長」

「誰がだ!」

「あなたがですよ」

 

赤いポニーテールに赤い瞳をしている砲撃番長ことハリー・トライベッカ、そしてその取り巻き(不良っぽいが超いい子ちゃん)がいた。見た目不良なくせして中身超優等生(成績除く)の4人も混ざりさらに人が多くなる。

 

「お」

 

と、ハリーさんがヴィクターさんを見た。このあと始まるのは見なくてもわかるので会場に再度目を向ける。お、あの子のカウンターめちゃくちゃ綺麗ね。

 

「ポンコツ不良娘!どうしてあなたがここに?」

「ヘンテコお嬢様じゃねーか。あれ?今年はお前選考会からスタートだっけ?」

「違うわよッ!シードリストも見てないのッ⁉︎わたしは6組の第1枠!」

「あーそうだったか?」

 

うん、予想通り口論になった。この人たち毎回こうだよねぇ。仲良いのなんの。ていうか、お二人さん?わたしを挟んでケンカしないでくださいませんか?うるさいですよ

 

 

ガキン!×3

 

 

「なんですか、都市本戦常連の上位選手がリング外でケンカなんて!」

 

そして更にとある人が現れ、鎖型のバインドがかけられる。そのバインドの主は短めツインテールの黒髪で、つるんとしたおでこに眼鏡を掛けているエルス・タスミンさん。私は戦ったことはないけど。

っていうかさ、喧嘩している2人に対してバインドをかけるのはわかる。なんで私までバインドされるの?

 

「会場には選手のご家族もいるんですよ?インターミドルがガラの悪い子達ばかりの大会だなんて思われたらどうします!」

 

「そやけど」

「リング外での魔法使用も良くないと思いますが。あと私にバインドかける理由を教えてください」

『今回は珍しくマスターに同意します。エルスさん』

 

「ああっ‼︎チャンピオン!ユタさん!」

 

……なんでそんな大声で叫ぶのでしょう?貴女のオタク気質ばらしますよ?ほら、さっきまでは周りがザワザワしているだけだったのにそれが会場中に伝播したじゃないですか。めっちゃ見られてる。

 

「チャンピオン?」「どこどこ?」「あ!いた!あそこ!」「二階席のあそこ‼︎」「一昨年の世界戦優勝者!ジークリンデ・エレミア選手!それに去年のミッドチルダ都市本戦3・5・8位の上位選手勢揃いしてる!」「それに一昨年の2位もいる!」

 

あー、こりゃめんどくさい。目立ちたくないのに。あとジークさん、ドンマイです。一緒に大衆の目に晒されましょう。

 

「あ、ほんとだ!あれ?でもなんでユタさん達バインドされてるの?」

「……なんでだろ?」

 

おおう、コロナちゃん達みんな来てたんですね。

んん?ミウラもいる。いつの間にみんなと仲良くなってたの?ずるい!私も行きたい?

 

というよりもやばい、これだと私がMみたいに見られちゃう。やめて見ないで!

 

『誰もそんなこと思っていないのでご安心を。バカマスター』

「バカマスターはひどくない?それと相変わらずの読心術なようで」

『お褒めに預かり光栄にございますマイマスター』

「褒めてないのよねぇ…」

 

「騒ぎになるのもめんどくせーな。ま、ここはおとなしく退散すっか」「そんな簡単に⁉︎」

「まったくよ、あなたと会うとどうしてこうグタグタになるのかしら」「この人もまた‼︎」

「よっと」

「切断て!そんな柔らかいですか⁉︎」

 

ハリーさん、ヴィクターさん、私の順でバインドを解いていった。

ハリーさんとヴィクターさんは自強化魔法で、私は影で切り落とした。

 

「(ぐぬぬ……一年間で結構成長したはずの私のバインドをあんな簡単に!やはり今年は例の新兵器に火を吹いてもらわねば-----!)」

 

「お、そういやアホのエルス」

 

「誰が『アホの』ですっ⁉︎あと私のが年上ッ!できれば敬語ッ!」

 

「うっせーよアホ。お前とオレは同じ組だからよ。まあ楽しくやろうぜ」

 

「去年の雪辱、果たしますからね!」

 

「おうよ、やれるといいなぁ。ま、オレもユタに雪辱を晴らすつもりだから負けるつもりはねーけどな。オレと当たるまでちゃんと勝ち上がってこいよ?今年は初参加組も結構アツイからな。負けないようにせいぜい頑張れや」

 

と、番長が宣戦布告をしてくる。私としても願ったり叶ったりだけど…

 

「できるものならやってくださいよ。にしても、やっぱり悔しかったんで?」

「そうだよ!今年はお前に『影』を使わせてやるからな!オレのときはほとんど使わなかったからな!お前は!」

「だって、番長相手だとリフレクト駆使した方がやりやすいですもん」

 

 

 

 

 

 

 

視察が終わりヴィヴィオちゃんたちとも別れ帰路に着いた。

 

今は母さんの家で料理中。八神家特製シチューを作ってます。

ちなみに、私の中での3凶(母さん、なのはさん、シグナム姉さん)も勢揃い。やったね。地獄なんか生ぬるく感じるよ。行ったことないけど。

 

珍しく時間が合ったから一緒に帰ろうとなったらしい。

 

「そーいえば、ヴィヴィオちゃん達って結果どうだったんですか?」

「えーと、確かみんなスーパーノービスからだって聞いたよ」

「ミウラは?」

「ボクもスーパーノービスからです!」

 

ミウラもスーパーノービスねー。ガチガチに緊張してたところしか見てなかったけど勝ったんだ。すごいなぁ。

 

「なのはさん、ヴィヴィオちゃんに頑張ってと伝えておいてください」

「うん、わかった」

「ユタも足元すくわれんように気をつけえやー」

「わかってるよ。今年こそ……」

「ユタなー今年こそ告白するって張り切ってるんや。なのはちゃん、フェイトちゃんに頼んでエリオに観に来るよう伝えてもらっといてええか?」

「ちょ!や、やめ、やめい!」

 

何を考えてるの!このたぬき!そんなふうに人の恋路を面白がるから相手を見つけられないんだよ!

 

そう思った瞬間に顔の横を何かが通った。

 

「今何を思ったか言うてみい」

「ナンデモアリマセン」

『にしてもマスターがまたもや恥じらうとは……やはりはやてさんの方が上手なんですね』

「そやでープライド。まだまだユタには負けんわ」

「じゃあ、はやく結婚…って!危な⁉︎」

「つい手が滑ってクラウソラス投げてしもうたわ、すまんなぁ。で?なんやて?」

「イエ、ナンデモアリマセン」

 

偉大なるお母様。一つだけお願いがあるのです。

 

せめて料理中に狙うのはやめよう?

 

 

なのはさんが帰ったあとみんなで鍋を囲み、軽くストレッチをしてミウラと共に砂浜へ出る。そこにはシグナム姉さんとザフィがいた。

 

「ユタ、特訓だがこれからはミウラと一緒にやってもらうぞ」

「え?私は別にいいけど、どしたの?」

「お前の予選の中にハードヒッターがいるだろう?それならミウラとやればいい練習になると思ってな。それにミウラはエリート戦1回戦でミカヤ選手と戦う。刃物相手ならお前が適任だ」

「えっ?えっ?」

「ミカヤさんとなのか…ど、どんまいミウラ」

 

初戦でミカヤさん…本当にどんまい。いや負けると決まったわけじゃないけど、初出場の時の私並みにくじ運悪いね。

ま、私としてもハードヒッターと練習できるなら願ったり叶ったりなのでこういう采配をみてると本当に師匠なのだと少し物思いに耽ってしまう。

 

「えっと…ボクなんかでいいんでしょうか?」

「いいだろう?ザフィ、ユタ」

「もちろん」

「ああ、俺は構わん」

「ということだ、ミウラ。今後はユタと一緒に練習していく。また詳しいことはその都度言っていく」

「は、はい!ありがとうございます!よろしくお願いしますねユタさん!」

「私こそよろしくミウラ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまで!」

「「押忍!お疲れ様でした!」」

 

ミウラとのスパーリングが終わり、一気に疲れと汗が噴き出て地べたに座り込む。ザフィがスポーツドリンクを渡してくれ、それを少しずつ飲み、徐々にペースを上げ飲み干す。

 

あーー美味しい。

 

「はぁっはあっ、なんでユタさんそんなに平気そうな顔してるんですか……」

「それはねー、ミウラ。この人たちと1年2年も特訓すれば嫌でもスタミナ身とペース配分身につくんだよ。ね、シグナム姉さん」

「そうだな。久しぶりにアレやるか?」

「謹んでご遠慮させていただきますシグナム様」

「なんだ、つまらん」

「それやると私が死ぬの!」

 

「一体何をしてたんですか?」

『休憩最低限かつひたすらスパーリングですよ。反撃禁止の。簡単に言えばシグナムさんからの攻撃をひたすら避ける特訓です』

 

本当にあの特訓はもう嫌だ。体力万全の状態でならたまにはやろうかなと思ったりもするけども今は絶対に嫌だ。死ぬ自信しかない。

 

にしても…抜剣ねぇ。すごい打撃のやり方だ。

収束砲の威力を利用して素早く重い打撃を繰り出すねぇ。

 

羨ましい才能だよ。

 

「さて、ユタはまだ動けるんだろう?最後は私とやるぞ」

「ええっ…せめて遺書をかかせて」

「大丈夫だ。まだ殺しはしない」

「まだ⁉︎てことは殺す気でもあるの⁉︎」

「いいから、やるぞ」

 

結局逃げれませんでした。せめて遺書くらい書かせてください。

 

 

 

「ほぇー、ユタさんすごい」

『ミウラさんも十分すごいですよ。マスターの【影】に対して初見であそこまでやりあえるとは思ってませんでした』

「あ、えーと。プライドさん、でしたっけ?そんな、ボクなんてまだまだ…」

 

いま、ボクの目の前ではユタさんとシグナムさんの手合わせが行われていた。けど、すごいという言葉しかでてこない。ユタさんはシグナムさんの猛攻をことごとく避けるか受け流し続けている。

 

「ねえ、プライドさん。ユタさんってこの練習をいつからやってたんですか?」

『私が造られる前からやっていたとのことで…少なくとも3年以上前ほど前だったかと』

「え⁉︎」

 

す、すごい…

 

『まあ、マスターは体質なんかの問題でミウラさんのような戦いができませんからね。いつもミウラさんがやってるような練習の代わりにこればかりをやってたんです』

「なるほど…」

『あ、忘れてました。マスターから伝言あったんでした。【ミウラ、頑張れ。初出場の私でも都市本戦の2位までいけたんだからミウラもきっと勝ち進めれる】だそうです』

「……ありがとうございます!」

 

あ、ユタさん達の手合わせ終わった。

ユタさん、汗だくでそのまま倒れこんでる。

 

そしてこの後はシグナムさんと家に運ぶこととなりました。

 

 

 

 

 

〜予選本番 地区予選第2会場〜

 

「お、ミウラすごい。あのミカヤさんに勝ったんだ」

『すごいですねぇ。大金星ですね』

「ま、そのあとザフィとヴィータにこってり絞られてたけどなー」

 

いまは控え室で待ってる。私の対戦相手は運の悪いことに当たりたくなかったリンネ・ベルリネッタだった。あいっ変わらずのくじ運の悪さ。

 

スーパーノービス戦を見た感じシード選手より強い気がする。

 

近距離が強く、つかみ技も強い、タフネス、砲撃も使いこなしてる。パワーも強い。投げ技もされたら致命傷レベル。

 

本当に超パワー型って感じ。

あとは………相手を見下してるくらいかな。

 

「ま、他人のことよりまずは自分のことや。今回はシグナムがおらんからウチがしっかりと見といてあげるで。しっかりとやってきいや」

 

「もちろん。……そんじゃあプライド、最後確認の意味も込めてセットアップ」

 

と光に包まれる。

 

「相変わらずその格好なんやなー」

『いい加減変えたらどうです?そんなことだからエリオさんに振り向いてもらえないんですよ』

「うっさいよ!気にしてること言わないで!」

『まあ、それより……今回はどうします?』

「そーだねぇ、リフレクトと腕の魔法メインに組み立てつつ、適宜影使う感じかな。だからサポートよろしくね」

『了解しました』

 

コンコン

 

「八神ユタ選手。入場をお願いします」

 

セットアップを解き、案内人の人と共に会場へ向かう。




さて次はおそらく初めての本格的な戦闘描写……。元があるとは言え相変わらず難しい。

ですが頑張りますよぉ。


読んでくださりありがとうございます
感想や評価などくださるととても嬉しいです


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19話 〜VSリンネ・ベルリネッタ〜

さてはて、とりあえずは完成

一旦ユタの正式な試合を書きたかったのでやる気出しました

今回はVSリンネ・ベルリネッタ
vivid strikeのキャラクターになりますので多少の設定誤差があるかもしれませんがご愛嬌を。

それではどうぞ





〜予選第2会場〜

 

アナウンスと同時に私達はリングのそばに向かう。同時に相手もリングに向かって来る。

目の前にしてよくわかる。初出場とかいうの絶対嘘でしょこれ。

 

「ユタ。いい報告が2つあるけど聞くか?」

「え?うん。どしたの」

「ヴィヴィオちゃん達みんな2回戦まで勝ったって。あと応援にもきてくれてるらしいけど」

「あ、ほんとだ。あそこにいる」

 

と、観客席を探してみたら割と前の方にヴィヴィオちゃん達がいた。こういう時に眼がいいのって便利だねぇ。

 

「ありがたいなぁ。んでもう一つ、3時の方向見てみぃ」

「?」

 

と母さんに言われその方向を見ると

 

 

エリオ、キャロ、フェイトさん、ルーテシアさんがいた。

 

 

ボンッと私の頭が一瞬でショートしかけた。

 

「何一丁前に顔を赤くしとんや?」

「こ、この狸……」

 

うーー、この人は……

 

 

まあ、それはそれでありがたいですけども!ただ余計負けられなくなっただけで。

何度か頬をペチペチと叩き気持ちを切り替える。

 

 

「それじゃあ、行ってきます。母さん」

「うん、行ってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

リングに立ちリンネさんと向き合ったが、改めて今年が初参加なのかと疑いたくなる。それくらいには鍛えてあった。

 

「よろしくリンネさん。精一杯やらせてもらうよ」

「……」

 

あーはい。無視ですかそうですか。

 

『マスター、今度は何やらかしたんですか』

「いや、何もやってないはず。ていうか初対面だし」

 

と、プライドと喋りながらリングの端に移動する。深呼吸をなん度も繰り返し心を落ち着ける。

 

そしてお互いに構えた。

 

『さあ、カウンターやリフレクト、影を駆使し都市本戦2位まで上り詰めた経験のあるユタ選手。それに相対するは、ここまで1ラウンドK.O.で勝ち上がってきており、パンチや砲撃などの威力は都市本戦常連組にも劣らない力をもつリンネ選手!』

 

実況席の人がすごく場を盛り上げるような実況をしていた。うん、てかここまで1ラウンドK.O.なんかい。こーわっ。

 

そんな思いを他所に審判の人が改めてルールを説明していた。それを確認し、審判の人がリング外に出る。

 

 

カーーーン!

 

 

そして開戦のゴングが鳴った。

 

 

 

 

 

「はぁっ!」

「っ⁉︎」

 

ゴングが鳴ると同時にリンネはユタと距離を詰めアッパーを仕掛ける。それを間一髪でユタは避けた。

 

ほんの僅かとはいえユタの体勢が崩れたところをリンネはすかさず追撃をする。ユタはそれを何度も執拗に避け続ける。

 

「せやっ!」

「っ!りゃ!」

 

ユタは顔に来たパンチを前に避けながらカウンターをかました。

リンネが僅かにぐらついたスキを利用して距離を取る。

 

「あっぶな。ペース持ってかれるとこだった」

『今のカウンターは見事です』

「どうも。にしてもヴィヴィちゃん然りジークさん達然り、見るのと体験するのはやっぱり雲泥の差だね。思った以上に速いや」

 

と、そんな話をしてる間にも何事もなかったかのようにリンネは立ち上がる。ライフも殆ど減っていなかった。

 

「ありゃ、ほとんどダメージ無し?それは予想外」

『どうやら体も頑丈みたいですね』

「だねぇ。羨ましいことで。ま、だけど運良くこっちもダメージ受けなかったから初回の当たり合いはドローということで。んじゃ、硬化魔法組み立てつつ、一旦近距離持ち込むからサポートお願い」

『了解しました』

 

すると、リンネは距離が離れていながらも格闘戦のような構えをした。

それを見てユタもいつでもカウンターが出来るよう構える。

 

「(この距離なら…砲撃?でも突進してくる可能性もあるし、警戒…)」

 

リンネは思い切り腕を振り、遠くから収束砲撃(ブレイカー)をうってくる。1発だけでなく何発も。

 

だがユタは予想出来ていたから今度は慌てず確実に避けていく。一部、影で受けたりはしていたが。

 

「……」

「あれ、もう終わりか」

 

当たらないとわかったのかリンネは砲撃をやめ、再度格闘戦の構えをする。

それを見たユタは影を少しずつ実体化させる。

 

「さーてと、バカスカ撃って来てくれてたおかげで魔法構築も充分。さて残り時間は……5分弱か。プライド、少しだけ無茶するからヨロシク」

『限度を考えてくださいね』

その言葉と同時にユタとリンネが互いに接近する。

 

リンネは無理矢理ながらもユタに打撃を当てようとするがそれを紙一重で避けられ、受け流される。リンネとしてもユタが近接戦に応じてくるとは思っておらず少し意表をつかれた形になり動揺が動きに現れていた。

 

そして……

 

「(隙ができた!)」

「(食いついた!)」

 

とユタが作った明らかな隙を狙い、リンネが腕に魔力を集中させ胸を殴りにいった。

 

ユタはそれを少し体をそらし腕でうけその勢いで回転しリンネの側頭部に裏拳を叩き込んだ。

 

「がはっ……」

「ふぅ…やっとダメージをいれれた。ここまでしてようやくまともなダメージって何この子」

 

ユタはいつの間にか腕の硬化魔法も発動していた。

 

ライフ

リンネ 15000→9800

ユタ 15000→13800

 

『ダウン 10……9……8……』

 

ダウンカウントが始まりユタはその場から少し離れる。

 

『今のカウンターは100点ですね』

「ども。でもこれで接近戦はしばらくやってこないといいんだけど」

『そうですね』

 

 

『6……5……4……』

 

 

「っ……!やれます!」

「うん、だろうねぇ」

 

リンネは少しふらつきながらも立ち上がる。

 

そして互いに再度構える。

 

『始め!』

 

と再開と同時にリンネは()()()()()()()()

近接戦はしてこないと思っていたユタは驚いてしまい、少しのタイムロスを与えることになってしまった。

 

「(マジですか⁉︎)」

「はぁぁっ!」

 

と、リンネはパワーのある拳でラッシュをしてくる。

ユタは少し反応が遅れたものの的確に避け、受け流していく。

 

そしてしばらくそれが続いた時

 

『カンカンカン!』

 

第一ラウンド終了のゴングがなった。

 

 

 

 

 

「ふぅ……なんとかなったぁ…」

「珍しいなぁ。ユタが近距離に徹底するってのは。なんか策でもあるんか?」

「うん。一応ね。まだ使うかは未定だけど。できれば……影は使わずに勝つのが理想だけど、まあ無理だと思うからその場その場で考えるよ」

「そうか、まぁがんばりーや」

「うん」

 

 

 

 

 

 

「リンネ、あのカウンターはしかたありません。一旦あれは忘れましょう」

「はい、次は無理矢理にでも全てを耐えて打ち返してみせます」

「その意気です。あなたは才能があるのだから、あの選手を蹂躙してあげましょう。見せつけてあげなさい、才能の差を」

「わかりました」

「とはいえ、あの選手の【影】には気をつけてくださいね?いつ来るのか予測がつきませんから」

「はい」

 

 

 

 

『セコンドアウト』

 

インターバル回復

リンネ 9800→14000 クラッシュエミュレート 全回復

ユタ 13800→15000

 

 

『カーーーーン!!』

 

 

ゴングがなるとリンネは距離を詰めようとし、ユタは逆に距離を取ろうとする。

 

「(まだ接近戦でくる?まあそれならやることは変わらないけど警戒はしておかないと……。あのボディーブローを受けたら洒落にならないし)」

 

距離を引き剥がせないと悟ったユタは足を止めて迎え打つ覚悟をする。

1ラウンド目の時のようにリンネは打撃を繰り返しユタはそれを避けながらもカウンターを狙う形になった。

片や執拗に攻撃を続け一撃必殺を打ち込む隙を狙い、片や執拗に避けて受け流しカウンターを狙う。

 

それが2分ほど続いた頃だろうか。

 

「(キタ!)」

 

とリンネがパンチをして来たのを前に避けながらユタは顔にカウンターを決める。硬化魔法を施した腕での確実なクリーンヒット。それがユタを油断させた。

 

「っ………!」

「んなっ⁉︎」

 

リンネは、直立不動で構えた状態のまま微動だにしていなかった。

 

「やぁぁぁぁ!」

 

リンネはユタの腕を掴み床に叩きつける。

 

「がはっ……」

 

そして立ち上がる前にリンネはユタに拳を叩きつける。

ユタもとっさにガードしようとするが間に合わず何発も入れられる。

 

そして、更には至近距離での収束砲撃(ブレイカー)を撃ち込んだ。1発だけでなく、何発も。

 

 

『ダウン 10……9………』

 

 

ライフ

ユタ 15000→2000 クラッシュエミュレート ボディ蓄積ダメージ 57%

リンネ 14000→9600 クラッシュエミュレート顔面強打撲

 

「リンネ、完璧です」

「ありがとうございます」

 

とリンネとコーチが話している。

 

 

『3……2……』

(おおーーっっ!!!!)

 

 

と、あと少しで決まろうという時に観客が湧く。

リンネが不思議に思ってユタの方を見ると

 

「はぁはぁ、ゲホッ……。……うん、まだやれます」

 

まだ闘志が消えていないユタがいた。

 

 

 

「あーー痛い。めっっっちゃ痛い。だけどまあクラッシュがないだけマシか」

『そうですね。本当ならこの時点で棄権すべきですよ?』

「プライドのおかげだねぇ……にしても近距離戦に無理に付き合い過ぎた。シグナム姉さんに怒られる…。

スゥーーー。さてと、仕込みも含めて持ってる手札を全部、惜しみなく、全力で使っていくとしますか。あ、念のために腕の魔法はそのまま継続させるつもりだけど魔力がヤバくなったら言ってね」

『了解です。健闘を祈ります』

 

 

 

リンネは少なからず動揺していた。

過去の映像(とは言っても2年前のものだけだが)を見る限り、クラッシュはほとんどなかったのは気づいていたが、それはユタの受け身が上手いだけだと思っていた。だからこそ逃さず、あれだけ近距離で叩き込んだ。本来なら立てないはずだった。

 

カーーーーン!

 

そんなことを考えているとゴングがなった。

慌ててリンネは構える。

 

「…?」

 

だがユタはリンネから距離をとる。

 

「(来ないのなら…私から行けばいい!)」

 

とリンネはユタに向かって突進する。それを見てもユタは一切動揺する素振りはなく、冷静に見ていた。

 

「『影斬(シャドウリッパー)』」

「え?」

 

ユタがそう呟くと同時、リンネの足元から影が飛び出し斬りつけた。

とっさに回避をするも全てを避けてられなかった。

 

「あれ?あんまり入ってないな。もう少し傷を負うと思ってたのに。まあここからほんのちょっと近距離戦するしあんまり関係ないか」

 

とユタはリンネの背後に一瞬で移動してみせる。

 

「なっ⁉︎」

 

リンネは完全にノーマーク、と言った感じで驚いていた。

そして、ユタはリンネを影で確実に斬りつけた。

 

だか、ユタの用いた移動法に1番驚いていたのはリンネやセコンド達ではなく、()()()()()()()()()()()()。見覚えがある、なんてレベルじゃ無いのだから。

 

「ぐっ!」

「はい、逃がさないよ」

 

と、たまらず距離を取ろうとしたリンネをユタは影で捕え、思い切り地面に叩きつける。

 

「こ…のぉ!」

 

と今度は収束砲撃(ブレイカー)を撃って脱出を試みようとする。

 

「リフレクト」

「きゃっ!」

 

ユタはそれを待ってましたと言わんばかりに反射する。

 

これは近距離でリンネは影により動きに制限がかかっていて、反射砲撃を避けられるわけもなく自分の撃った砲撃に飲み込まれた。その瞬間に影によるバインドも施されて。

 

『バインディングダウン』

 

ライフ

リンネ 9600→3960

クラッシュエミュレート 全身裂傷。肋骨3本骨折。背中強打撲。

ユタ 2000→1600

クラッシュエミュレート ボディダメージ蓄積68%

 

『マスター、いつの間にミウラさんの【抜剣】を?』

「プライドのいない間とかにこっそり練習してた」

 

そう、ユタはミウラの【抜剣】の技術を使ってリンネの背後に回った。

足元に収束系魔法(ブレイカー)を使いその威力を使って爆発的な推進力を生み出す技術を、真似たのだ。

 

その魔力の元は、リンネが幾度となく放ってきたモノだった。

 

「けど……正直もうやらない。体が持たないコレ」

『それが懸命ですね。抜剣はミウラさんの頑丈さがあってこそのあの荒技ですから』

 

『6……5……4……』

 

「はぁっはあっ……た、立ちました。まだやれます!」

 

リンネは影にバインドされた状態ながらも立ち上がった。

だがリンネにとってピンチであることには変わりはない。

 

「あのまま寝てもらってたら楽に終わってたんだけど。まだまだやる気満々だこって」

 

「私は…負けるわけにはいかないんです!私は強くなるって決めたんです!」

 

とユタの皮肉の混じった発言に対しリンネは少し荒ぶった声で言う。

 

「うん、だけど私も負けるわけにはいかないからね」

 

リングがなると同時、リンネはバインドされたままユタに向かって走り、ユタに近づいた瞬間にバインドを引きちぎる。

が、それはリンネの負けを確定にしてしまった。

 

「⁉︎」

 

ユタの影が突然爆発しリンネとユタを巻き込む。

かなりの威力だったので多少はユタもダメージを受けていた。そしてその爆発に紛れてユタはリンネの顎にアッパーを命中させ、完全に気絶させた。

 

ライフ

リンネ 3960→0

ユタ 1600→500

 

 

『決着!勝者はー!八神ユタ!!!最後の最後まで行末がわからない試合でしたが都市本戦2位の意地を見せましたユタ選手!しかしリンネ選手もルーキーとは思えないほど素晴らしい試合をしてくれました!観客の皆様、二人に盛大な拍手をお願いします!!』

 

アナウンスと同時に会場を拍手の音で満たされる。

 

「……ありがとうございました。八神選手」

「いえ、こちらこそありがとうございました。リンネさんにも伝えておいてください」

「わかりました。それとは別件であなたに後で話したいことがあるのだけどいいかしら?」

「?まあ私は構いませんが」

「ありがとうございます。ではまた後で」

 

とリンネを担ぎに来たコーチと話す。

コーチの言葉がよくわかってないままユタは会場をはやてと共に後にした。

 

 

 

〜選手控え室〜

 

「あーーー全身痛い…至近距離での収束砲撃(ブレイカー)は酷い…よくライフ持っていかれなかったよ……」

「よー言うわ。あんたも同じようなことしたやろ」

『ま、油断してたマスターの自業自得ですね』

「二人とも…勝った私を褒めてくれてもバチは当たらないと思うよ?」

「ユタを甘やかしたら私がイラつくから嫌」

『褒める時は褒めますが、今回に至っては褒める事より咎めることの方が多いのですが?シグナム様からもメール来てますが、死刑宣告聞きます?』

「絶対に嫌」

 

プライドのに全く反論ができない。死刑宣告も持ってるとかいうし、遺書でも書いておこうかな⁉︎

けど我がお母様。アナタ様の言い分には反論したい。

なによ私がイラつくからって。そこは甘やかしたら調子にのるからとかにしておきなよ。

 

「あ、ユタ。メールや。ヴィヴィオちゃん達から。えーと『2回戦突破おめでとうございます!私たちもユタさんみたいに頑張ります!お疲れ様でした!』やって。ええ子やなー」

「うん、そうだね。俄然やる気出て来た」

「え、ユタって女子なのにロリコンなんか………捕まらんようにきぃつけえや」

「なんで⁉︎なんでそうなったの⁉︎」

『心配しないでください。万が一があったら私が証人になってあげますから。少しくらいは刑は軽くなると思いますよ?』

「私が間違いを犯す前提で言わないでくださいません⁉︎」

 

コンコン

 

「はあーい」

 

とそんな話をしているとノックの音がした。

入って来たのはリンネ選手のセコンド兼コーチの人だった。

 

「失礼します。リンネのコーチをやっております、ジル・ストーラと申します。八神ユタ選手にお話があって来ました」

「ユタに?」

 

ああ、そういや何か言ってたっけ?

 

「八神ユタさん。改めて初めまして。フロンティアジムでコーチをしております。ジル・ストーラと申します」

 

「はぁ、私に何か?」

 

「単刀直入に言います。八神ユタさん、私の元で鍛えませんか?」

 

……?なんて?

 

「すいません、今なんと?」

 

「私のところに来て鍛えませんか?」

 

「お断りします」

 

即答で断るとジルさんも目を点にして驚いてる。なんなら母さんも驚いていた。

 

「それは…なんでですか?あなたには才能があって私はそれを伸ばせる自信があります。実際、あなたと戦ったリンネも一年であれだけ成長できました。それに2人で共に鍛えれば、より強くなれます。確かに初対面で信用してくださいと言うのは無理があるかもしれませんが……」

 

「そう言うわけじゃなくてですね。まあ、才能の有無は置いておきまして。今のところは私のコーチ、セコンドは私の家族だけなので。…申し訳ないです。私の身勝手です」

 

「そう…ですか。わかりました。無理強いはしません。ですが……少しでも興味が出たらでいいの、その時は連絡してください。あ、これ私の名刺です。では」

 

と言ってジルさんは出ていった。




今思うと、インターミドルって1R何分なんだ…?と思い調べましたが特に記述がなかったのでリアルの格闘技のルールを参考に

1、2R目は10分 3R目は5分としていきます。

ま、3Rまで書くかどうかは…私の力量次第ですのであまり期待しないで(小声


それでは読んでくださりありがとうございました
評価や感想をくださると嬉しいです


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20話 〜同門対決 コロナVSアインハルト〜

〜8〜9年前〜

「シグナムさんシグナムさん!見てください!」
「わかったわかった」

「本当に仲ええなぁ。羨ましいわぁ」
「マリナにとっての初めてのお姉ちゃんみたいなんだよ、きっと」
「ウチは⁉︎」
「……親戚のお姉さん?」
「酷ない⁉︎」

今日は八神家に機動六課が集まっていた。
名目上は保護した2人-ユタと五月雨マリナの経過観察の筈だったが、気づくと鍋を囲いみんなでワイワイと騒いでいるだけになっていた。

「ふん!ええよ別にぃ!ウチにはユタがおるからな!なーユタ〜!」
「…」

そう言いながらハヤテに激しく抱かれていたユタは困惑しながらも抱き返していた。それが更にはやての庇護欲を掻き立てており、第三者からは完全なる親バカだった。

「その様子を見る限りだと大丈夫そうだね」
「ちゃんと親子になったんだね」
「…うん、もうユタは、誰がなんと言おうとウチの子や。もちろんマリナも。せやから…絶対にウチが守る。でも、もしもの時は協力お願いな2人とも」
「「勿論!」」


「ねぇ、母さん。なんでこんな事をしているのかをご説明願いたいんですが」

「ウチの気分がええからや♪」

「いやそれは見ればわかるけど」

 

今は母さんの車で帰っている…筈なんだけどすごく狭い。理由としては、なぜか後部座席で母さんの抱き枕状態になっているからです。いや本当になんで?

 

運転はシャマルさんがやってくれてるから大丈夫なんだけど。恥ずかしいからやめてほしい。

 

「♪」

「なんでそんなに上機嫌なの?」

「ふふーん、別に〜♪」

 

と、こんな感じで聞いてもはぐらかされる。

 

横の座席を見るとシグナム姉さんとミウラ、助手席にはザフィがいるがシグナム姉さんもなぜか気分がいい感じでミウラは母さんたちのテンションに困惑している。

 

うん、わかるよ。私ですら困惑してるから。

 

「あ、そういえば三回戦の組み合わせってどうなってんだっけ?」

『いまトーナメント表を出しますね』

 

もう構うのも馬鹿らしいやと思い話題を変えると、プライドがトーナメント表を表示してくれる。

 

「ありがと。えーと……私の相手は、この人確か去年の予選2位だっけ」

『学校の合間などでの資料集めからですね』

「うん。そういえばミウラは?」

 

ふと気になってミウラに聞く。

 

「ボクはヴィヴィオさんとですよ!もう、今から楽しみでしょうがないです!」

 

元気だね。

他の子はどうなってんだろ

 

『リオさんは、ハリーさんかエルスさんで祝日のプライムマッチで勝った方ですね。コロナさんは……どうやらアインハルトさんとのようですね』

「はい?本当に?」

『そして、コロナさんとアインハルトさんの試合で勝った方がジークさんとやるみたいですよ?』

「うわぁ。くじ運悪ぅ。いや私も人のこと言えないけどさ」

 

まさかの同門対決。しかもこの組み合わせ。悪意しか感じられないのは気のせい?

 

にしても…どうしようかな。インターミドルが本格的に始まってからコロナちゃんとの練習はあまりできてないし…。とかいって私が行ったところで対アインハルト練習になるかと言われるとNOだし…。

 

そもそもどちらかに加担するのは…ノーヴェさん的にはOKなのかな?

 

『マスター、コロナさんからです。練習を一緒にしたいんですけど、ご予定は空いていますか、と』

「あー、うん。私としては空いてる日になら構わないんだけど……シグナム姉さんとの練習がない日になっちゃうけどそれでもいいなら、って伝えておいて」

「別に私たちとの練習を減らしても構わないぞ?」

「いやいや、それとこれは話が別だよ。シグナム姉さん達の貴重な時間を貰ってるのにそんな蔑ろにする気はないよ。…でもなぁ、練習してあげるって言ったの私だし……。とりあえず、コロナちゃんにシグナム姉さんとの練習が無い日を連絡しておいて。それから練習日を調整していく」

『了解しました』

 

 

 

 

 

 

〜プライムマッチ開催日〜

 

『マスター、本当にいいんですか?プライムマッチを見に行かなくても』

 

「いいか悪いかで言われたら…まあ、悪いけど、一応録画は頼んであるし。…それよりはコロナちゃんとの練習のほうがいいかなって」

 

『それは構わないんですが…いくらなんでも自分の練習を疎かにしすぎでは?』

 

「それについてはご心配なく、私の相手はゴーレム創造系魔法の使い手だから。コロナちゃんとならいい練習になる」

 

『左様ですか。ま、コレで負けたらシグナム様達にこっぴどく絞られるだけでしょうし?』

 

「怖いこと言わないで」

 

さて、録画はルーさんに頼んでおいたしコロナちゃんの練習場所に向かいますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!ユタさん!今日も来てくれたんですか!」

「うん。よろしくね」

 

練習場所になっていた公園にいくとコロナちゃんとオットーさんが休憩していた。今はランニング終わりらしい。

 

「ユタさん、ここ1週間毎日ありがとうございます」

「いえ、私も操作系の魔法の使い手が相手なのでちょうどいいってだけですから。あとはシグナム姉さん達が忙しくて練習があまり出来ていないですし」

『と、いうのは建前でコロナさんが心配なだけです』

「おいコラ」

 

この愛機は……。いや確かに心配でしたけども。バラす必要はないと思うんですけど?

 

「ユタさんが……私を…」

「コロナお嬢様⁉︎」

 

ほら見ろ、赤面しちゃったじゃないか。

 

 

 

 

「落ち着いた?」

「は、はい…すいません」

「悪いのは全てプライドだよ。謝る必要はない」

『なぜ私のせいなのかをご説明願いたいのですが?』

 

自分の言動(データ)を振り返って見なよプライド。

 

「……オットー、ユタさん」

「はい?」「ん?」

 

「わたし、アインハルトさんに勝てると思う?」

 

……どうしたの。コロナちゃんらしくない質問だね。

 

「そ、それはもちろん」「急にどうしたの?」

 

コロナちゃんは小さく笑いながら胸中を吐露しだした。…余程心配なのか、それともまた別の想いがあるのか。

 

「わかってるんです。ユタさんにも一度お話ししたことがありますが、私は普通の初等科4年生で少し変わった魔法が使えるだけ。アインハルトさんは才能も実力もあって覇王流っていう正統派の技もあって

 

ものすごく努力してる。今も、きっと。

 

普通に戦ったら勝てっこないよね」

 

と、コロナちゃんの笑顔には全く力が感じられない。

 

「でもね?」

 

コロナちゃんがさらに続ける。

 

「私にしかできない魔法があるってヴィヴィオやリオが言ってくれるの。ノーヴェ師匠とオットー、それにユタさんも私のいいところをいっぱい伸ばしてくれてる。ルーちゃんが作ってくれたブランゼルもいる。

 

だからね…勝つ、絶対に勝ちます!三回戦は私が勝つ---‼︎」

 

「--はい!」「うん…強いね、コロナちゃんは」

 

本当に強い子だ。私なんかより遥かに…。

 

「さ、休憩終わりです!次のメニューに行こう!オットー!ユタさん!引き続きお願いします!」

「はいっ!」

「もちろん。絶対にアインハルトに勝とうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜夕方 ミッドチルダ市内 魔法練習場〜

 

「ふーん、番長勝ったんだ」

『リオさんの次の相手はハリーさんですか。なかなか厳しいですね』

 

まあ、私はエルスさんよりは番長の方がやりやすいから私的にはラッキー。にしても結果だけだと本当に接戦だったぽいね。

 

「おーい、ユタ。再開するぞ!」

「はーい!今行きます!」

 

オットーさんが抜け、代わりにノーヴェさんが合流。いまは最後の調整をやってるところ。とは言っても私のやることと言えば魔力運用の調節とかの微調整くらいなんだけど。

 

「お前たちの試合、いよいよ明日だな」

「はいっ」

 

お前たちとはもちろん、コロナちゃんとアインハルトの試合のことだ。

 

「お前のセコンドは私とオットー。ユタは試合があるから観に来れるかは分からんらしいが……」

「時間が合えば応援には行きますよ」

「ありがとうございますっ!」

「で、アインハルトにはディエチとウェンディ。まぁセコンド対決にはならねーな。あいつらは単に保護者役だから」

「はい!」

 

と話しながらも私を交えた最後の調整をノーヴェさんとコロナちゃんとやっていく。

 

「さて、このへんにしとこう。今日までお前に教えたことでアインハルトとは十分に戦えるよ」

 

「『戦える』だけじゃ嫌ですよ。勝ちたいです」

 

「そりゃもちろん」

 

「勝つための作戦……ちゃんとあるんですよ」

 

「コロナ?お前……?」

 

ノーヴェさんにもこっちを見てくるが、わからない、という意味を込めて首を横に降る。現に作戦とかの話は私も初耳だ。

 

「構えてください!ちょっとだけお見せします!」

 

と、コロナちゃんが構える。その構えはまるで……

 

---ドギュン!---

 

「は……?」

「コロナ…お前……‼︎」

 

「今のは一瞬だけでしたが後先考えなければもう少しやれます」

 

あまりに見覚えのある構えから繰り出されたのは、同じく見覚えのある技。

 

「こんな技を教えた覚えはねえぞ⁉︎身体への負担がでかすぎる!」

「コロナちゃん……私も同意見だよ。その技はやるべきじゃない」

 

「今のもゴーレム操作の応用ですよ。ちゃんとノーヴェ師匠、それとユタさんにも教わった技の延長です」

 

確かに…そんな魔法を少し教えた記憶はあるけど…。だけどゴーレム操作の手助けになればと思い教えたことだった筈なのに。

 

「これくらいやらないとアインハルトさんには勝てませんから」

 

「だとしても身体に危険があるような技はコーチとして容認できねーよ」

 

「うまくやります」

 

「それでも……」

「まあまあ、とりあえずコロナちゃんの言い分を聞きましょうよ」

 

と、ノーヴェさんを落ち着かせる。コロナちゃんは何か決意している感じがしたから。

 

「チームナカジマの4人の中で--私1人が色んな能力で劣っていること。自分が1番わかってます。

 

でも、だからってアインハルトさんやヴィヴィオやリオ、ユタさんやノーヴェ師匠にも、気を遣われたりしたくないんです。

 

みんなのこと大好きだから、がっかりされたくないんです。

 

証明したいんです--わたしだってチームナカジマの一員でアインハルトさんとだってちゃんと戦えるんだって」

 

あー、ダメ、わたしこういうのには弱い。出来ることなら全力で背中を押してあげたい……けど、どうしても過去のことから躊躇ってしまう。それ故、何も言えなくなってしまった。

 

『でも、だからと言って身体に負担のある危険な技を好きに使っていいというわけには行かないのは、コロナ様ならお分かりでしょう?』

「プライドの言う通りだコロナ」

「プライドもノーヴェさんも……まぁ、そこはわたしも同じ立場ですけど」

 

「あう……」

 

「つーわけで練習時間延長だ。明日に疲れを残さねーギリギリまでその技の使いどころを詰める。

証明しようぜ。お前らしい戦い方でアインハルトに勝ってやれ」

「わたしも全力で手伝います〜」

「はいっ!ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 

 

〜三回戦開催日 予選第1会場〜

 

『マスター、本当に次の相手は見なくても大丈夫なんですか?』

「…ごめん、今日だけはこっちを優先したい。大丈夫、ちゃんと、私のこともやるから。今日だけは」

『まあ構いませんが、その代わりキチッと勝ってくださいね?』

「もちろん」

 

いまはコロナちゃんの応援に来ている。

試合は4ラウンド判定勝ちです。超急いで第2会場からきたよ。

 

なかなか危なかった、とだけ言っておきます。

まあそれはさておきコロナちゃんの試合がもう始まろうとしていた。

 

昨日までの練習を見る限りアインハルトにも、もしかしたら勝てるかもしれない。

 

『いつからマスターはロリコンになられたんですかね……』

「コラ、まだなってないよ」

『まだってことはなる気はあるんですね。わかりました。はやてさんに伝えておきます』

「ちょっと待て⁉︎なりません!なりません!なるつもりもありません!コロナちゃんに対してだけです!」

『え⁉︎コロナさんが好きなんですか⁉︎』

「なんでそうなる⁉︎」

『冗談ですよ。わかっていますからご心配なく』

「この……クソ愛機が」

 

まあ、ロリコンでないとわかってるならいい。

 

「お、始まるね」

『そうですね』

 

コロナちゃんとアインハルトが入場し互いに向かい合っている。

 

「…頑張れ」

『マスター、なんでそんなにコロナさんを応援するんですか?』

 

プライドが聞いてくる。うーん、なんでだろうな。

 

「あー、うん。昨日のコロナちゃんの想いを聞くまでだったり()()()を見るまでは、両方を応援、って思ってたんだけど…ね。ちょっと、昔のことを思い出して、つい」

 

そう言っている間にもコロナちゃんとアインハルトの試合は始まる。

 

「うん、創成戦技(マイストアーツ)もしっかりできてるね」

『あれだけマスターと練習してましたからね。それを抜きにしても流石と言うべきでしょう』

 

創成戦技(マイストアーツ)って言うのは格闘戦技とゴーレム創成を組み合わせた戦技のことだ。

 

ゴーレムを腕の部分だけを創成し腕に纏い、格闘戦技をつかいアインハルトを殴る。感覚的には私の腕の硬化魔法と似ているらしく、少し助言を加えたこともあったっけ。

 

「お、アインハルトはコロナちゃんを見失ったね」

『ゴーレム創成できますね』

 

そうだ、とにかく自分の土俵に引き摺り込め。わざわざ相手の得意な土俵に乗る理由はないのだから。

 

ゴーレム創成をさせまいとアインハルトはコロナちゃんにラッシュをする。

みるみるうちにライフが削られていく。

 

そして、殴り飛ばされる。が、その間にも詠唱は終わっていた。

 

「叩いて砕け--【ゴライアス】ッ!」

 

コロナちゃんは飛ばされながらもゴーレム創成をした。

 

『Rock Bind』

 

そして流れるようにアインハルトにバインドをする。

 

「ギガントナックル!」

 

そのままアインハルトにゴーレムの腕をぶつけ、場外へ弾き飛ばした。

 

『ダウン コロナ選手及びゴーレム ニュートラルコーナーへ』

「はいっ」

 

ライフ

アインハルト 5200

コロナ 3500

 

 

「うん、完璧だね。あとはどれだけ優位を保てるか」

『あの技を使わずに終わればいいんですが』

「うん、そうだね」

 

あの技はつかわないに越したことはない。

 

そして、試合再開直後、アインハルトはゴーレムの攻撃をかいくぐり空破断を繰り出しコロナちゃんをゴーレムから引き剥がす。

 

ライフ

コロナ 1300

 

「覇王流、破城槌!」

 

「うおっ、あのゴーレム壊すか」

『流石の攻撃力ですね』

 

創造主のいなくなったゴーレムをアインハルトは持ち前のパワーで粉砕した。これだとどう見てもコロナちゃんの不利。余程の策がない限りは盤面をひっくり返せないだろう。

 

「でも……まだ終わりじゃないよね?」

 

そうだ、コロナちゃんはまだ終わりじゃない。

 

筋力 体力 魔力量だとチームナカジマの中だと一番目立たないかもしれない。

でも冷静さや知性、発想力は4人の中でナンバーワンだと思う。なんなら私よりも上だろう。

 

「でも……身体操作は負担が大きすぎるんだよなぁ」

『そうなのですか?』

「うん、シグナム姉さんにも何度も釘を刺される程度には」

 

 

ダウンから立ち上がり試合再開するとコロナちゃんは棒立ちになっている。

 

 

 

 

 

 

「(1ラウンド残り20秒。インターバルで回復させたら何があるかわからない。コロナさんにはヴィヴィオさんのようなカウンターはない。接近戦で押し切る!)」

 

【ファイト】

 

「(St.(ザンクト)ヒルデの一年生になって---ヴィヴィオと出会って友達になって。

格闘技をやってるって聞いて随分びっくりしたっけ。

 

一緒に居たいから一緒に練習するようになって。格闘技が好きとか嫌いとかよくわからなかったけど。

わたしが格闘技や魔法戦技をやめちゃったら

 

ヴィヴィオと友達でいられなくなる気がして。

でもホントは、ヴィヴィオみたいに上手くできなくて楽しくなくて。

 

そんな時はノーヴェ師匠がいつも励ましてくれたし導いてくれた。

 

格闘戦技が大好きでいつかママを守れるくらい強くなりたいって話すヴィヴィオはいつも素敵で。

 

春光拳と炎雷魔法をもっとマスターしたいって頑張っているリオは格好良くて頼もしくて。

 

ご先祖様の遺志を継いで本当の強さを手に入れたいって一生懸命なアインハルトさんはすごく立派で。

 

家族のみんなに喜んでもらいたくて自分の体質のことも顧みず強くなりたいと思ってたり、好きな人に振り向いて欲しくて頑張っていたユタさんはとてもすごくて、憧れて。

 

そんなみんなに恥ずかしくない選手でいたかった。

 

あともう少し…みんなと同じ目線で、同じ速度で歩いて行きたくて

 

だから----痛くても使うと決めたんだ)」

 

そして、アインハルトとコロナの距離が縮まる。

 

「ネフィリムフィスト!」

「⁉︎」

 

コロナちゃんのカウンターが綺麗にアインハルトの顎に直撃した。続けて回し蹴りをし、アインハルトは倒れた。

 

『ダウン』

 

ライフ

アインハルト 970 クラッシュエミュレート 中度脳震盪 視界混濁

コロナ 1100

 

カウント8でアインハルトはふらつきながらも立ち上がる。

 

 

「(格闘戦での反撃はないとコロナさんを侮った----こんな形では終われない----)」

「(残り10秒……創成している時間はない。ネフィリムフィストで押し切ろう!)」

 

そして、互いに距離をつめ格闘戦が繰り広げられる。

 

「ネフィリムフィスト《虎咆》!」

 

そして、強烈な打撃がアインハルトに命中した。

それと同時にゴングが鳴った。

 

 

 

 

 

 

「コロナちゃんのあの技、練習の時にも思ったけどヴィヴィオちゃんとリオちゃんの技だよね。あの調子だと他の人の技もあるかな。私のもあったりして」

『いまは作動も安定していますね。あのまま押し切れたらよかったんですが』

 

まあ、あれはしょうがない。最初のネフィリムフィストでアインハルトが警戒しちゃったしね。

 

コロナちゃんのあれは最初だからこそ意味がある。

 

「まあ、落ち着いていけば勝てるとは思うけどな」

『本当にそこですね』

「でもなぁ…あの技はコロナさんの持ち味を殺してしまうのが…。焦らなきゃ、なんとでもなりそう‥だけど」

 

 




さて同門対決をどう描き切るか。
リメイク元があるとは言え相変わらず頭を悩ませていますはい。

難しい……。けど楽しい。頑張って描きます


それでは読んでくださりありがとうございました。
感想や評価をくださると嬉しいです


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21話 〜決着〜

「身体自動操作?」

「ええ、ゴーレムを動かす時の要領で自分の体を操作しているんです」

 

リング外ではインターバルに入ったアインハルトとディエチ、ウェンディが話をしていた。その内容は、コロナの技の正体について。

 

「巨体のゴーレムを動かせるだけの力です。そのまま打撃に使えばまさに『巨人の拳』。そしておそらく事前にプログラムした動作---特定のカウンターを設定したトリガーで自動再生するようにもしています」

「そっか、特定の打撃に反応して自動で撃つようにしておけば……」

「反応時間ゼロのオートカウンターっスね」

「対策は?」

「あります。さっき()()()()()()()。次ラウンドでやってみます」

 

 

 

インターバル回復

アインハルト ライフ7530 クラッシュエミュレート 全身軽度打撲 左腕中度打撲

コロナ ライフ 11180

 

 

 

 

 

観客席では、何かに思いを馳せながらユタとプライドが会話をしていた。

 

「身体操作に自動反撃。格闘戦だと優位に立てそうだけど実際にはそうじゃないんだよなぁ。特にアインハルトみたいな才能に溢れてる人に対しては優位どころじゃない。自分を餌にするようなものだし」

『もともと、身体操作はタイムロスが出やすいですもんね。それに、コロナさん自身の動きにも限界はありますし』

「それに……コロナちゃんには悪いけど今使っているのはヴィヴィオちゃん達の()()()。そんなものはアインハルトには通用するとは思えない。だからこそ初見の時に倒しきれなきゃ意味がなかった」

 

と、私が喋っている間にも予想通りコロナちゃんが押され出している。

格闘戦で押していくつもりなのかコロナちゃんはゴーレム創成をしようとはしていない。

 

「そうとう焦ってるだろうね」

『自身の切り札が通じなければそうなりますよ』

「まあ、そうなんだけど」

 

 

 

 

 

 

 

「ネフィリムフィスト【マイストアーム】!」

 

コロナはゴーレムの右腕を作りアインハルトに向ける。

 

「(身体自動操作や頑強な腕部武装。覇王(わたし)にとってその対策は、600年前から取り組み続けた課題だったんです)」

 

アインハルトは真正面から受け止めゴーレムの腕を破壊する。コロナの右腕を巻き込んで。

 

その直後、上空にいたコロナに近づき叩き落とした。

 

ライフ

コロナ 9010

 

「(痛い、痛い、痛い!けど!まだいけるはず!左のリボルザーキャノンからのスパイクのコンビネーションが----)」

「鋼体の型 『牙山』」

 

コロナは再度アインハルトに向かっていき、アインハルトは防御を固めた。

 

コロナは左の打撃からの回し蹴りを繰り出すも、アインハルトは威力を殺さずに肘で受け止め、逆にコロナの四肢を破壊する。

 

ライフ

コロナ 7660 クラッシュエミュレート 左拳骨折 右脛強度打撲

 

アインハルトは更に追撃をする。

 

「(拳が来る!大丈夫、オートカウンターが動作する!)」

 

そして----アインハルトは拳をぶつける直前で()()()

 

「(しまっ……)」

 

もう、遅かった。

発動した自動操作を止めることができるわけもなく、ユタのカウンターを模したコロナのカウンターを避ける。

 

ドカン!

 

そしてそのまま上から叩き潰した。

 

 

 

 

「うまいね……オートカウンターの間合いを読み切って空振りさせて反撃。完璧な筋書きだね。にしても予想してたけど私のカウンターもやっぱりあったね」

『コロナさん……心が折れてもおかしくありませんよ。先ほどのアインハルトさんの攻性防御で拳も足もクラッシュしてますし』

 

ユタとプライドは冷静に戦況を分析する。その上でコロナの勝ち目が限りなく低いと分かっているが、それでも尚、コロナがこのままで終わるわけがないという確信も持っていた。

 

「コロナちゃんならきっと……大丈夫。ここからでも…きっと」

 

 

 

 

 

「大……丈夫……です」

「……⁉︎」

 

「マイストアーツとネフィリムフィストは……ここからが神髄ですから…」

 

コロナはフラフラしながらも立ち上がる。

 

「終わりになんてしません!」

 

ライフ

コロナ 530

 

「ネフィリムフィスト、フルコントロールモード」

 

「五体の完全操作。それも外から動かしていますね。……コロナさんも()()にたどり着いたんですね」

 

アインハルトには先人の記憶……特に聖王女オリヴィエと話している光景を思い出していた。

そしてそれは、観客席にいたクローン(もうひとり)も。

 

「ですが、その技は危険を伴います。危険なことになる前に…が終わらせます!」

 

「終わらせません。私だって自分に胸を張ってみたいから---!!」

 

 

 

 

「(五体の完全外部操作、そしてこの距離。コロナさんの最大攻撃はおそらく……)」

「ガイストダイブ!」

 

コロナはアインハルトに高速で突撃した。

それをアインハルトは防ぐ。

 

「(防がれた⁉︎)」

「(やっぱり高速突撃!読めてなければ食らってた--!)」

「(それでも当たるまで何度だって……‼︎)」

 

コロナは何度も何度もアインハルトに向かっていく。

が、一歩届かない。防がれ、避けられていく。

その間にもコロナの体は限界が近づいていた。

 

 

 

 

 

「骨が折れようと腕が千切れようと、神経が切れようと戦える五体の完全外部操作。その引き換えに持っていかれるのは膨大な魔力制御のリソースと限界を超えて動かされぶつけられる体の損傷。アレは、本当に最後の切り札なんだよね」

『なるほど。シグナム様が教えない理由も納得です。マスターがこんな事をしようものならすぐに選手生命は断ち切られていたでしょう』

 

それ以上にあれは……あの技は……

 

「ん…もうそろそろ決着かな?」

 

思わず昔のことを思い出してしまった。いけないいけない。集中しなきゃ。

 

 

 

 

 

アインハルトさんが反撃をしようとしたのをみて私は距離をとった。

 

「(手も足も…体中が痛いよ。最後の切り札も決定打にならない。やっぱり無理なのかな…。どんなに頑張っても……アインハルトさんには……)」

 

もう、自分自身でも諦め掛けていたのがわかった。

 

このまま折れてしまった方が、きっと楽かもしれない。どうせ幾ら足掻いても…

 

 

 

「コロナお嬢様ッ‼︎」

 

 

 

 

そんな、私の考えをセコンドからの声が遮った。

 

 

「まだですよ!まだ練習の全部を出し切ってません!僕やユタさん、姉様と一緒に練習した強さ!ゴーレムマイスターとしての戦い!諦めないで見せてくださいっ‼︎秘密の切り札なんかなくたって…そんな無茶な戦いをしなくたって!

 

コロナお嬢様は強いんですっ‼︎」

 

 

……オットーは本当にいい先生だなぁ。私なんかにはもったいないくらい。

 

そうだ、忘れていた。私は……

 

 

(コロナちゃん、試合の時は、自分を信じて戦うこと)

 

(自分を信じて…ですか?)

 

(そう。まず、自分を信じないっていうのは、一番ダメ。それはコンディションにも関わってくるし、なにより劣勢になった時には手遅れになる。でも、相手が格上で自分の技が通じなくて心が折れそうになる時があるかもしれない。実際に私もそうだったし)

 

(ユタさんもですか?)

 

(うん。ヴィクトーリアさんとやった時なんだけどね。けどね、自分を信じれず、諦めたらダメ。それだけは絶対にしちゃダメだよ。その瞬間、負けを意味するから。それでも、もしかしたら心が折れそうになるかもしれない。そんな時はね…今までの自分のやって来たこと、自分に関わってくれた人たちを思い出してみて。そうしたら……きっと、立ち上がれる)

 

 

 

 

「(そうだった、私、何してたんだろ。私は 格闘技選手でもあるけどそれ以上に---)ごめんなさい、オットー、ノーヴェ師匠、ユタさん」

「(自動操作を解いている。魔法戦に切り替えた?)ティオ、全力警戒です」『にゃっ!』

 

「ケイジング・スピアーズ」

 

岩の柱を創造しアインハルトさんを覆った。

 

「ごめん、ブランゼル!もう一度お願い!」

『Yes anytime!(はい、いつでも!)』

「創主コロナと魔導器ブランゼルの名のもとに、蘇れ巨神!叩いて砕け【ゴライアス】!」

 

得られた僅かな隙を使いゴーレムを再構築する。

 

そうだ、私は……ゴーレムマイスターだ!

 

「(再構築だけあって創成が早い!それでも破城槌ならゴライアスは一撃で…!)」

 

そして、アインハルトさんがケイジング・スピアーズを砕きゴライアスを壊そうと向かっていった。

 

『にゃあっ!』「⁉︎」

 

だから、私は後ろに回り込んだ。

 

「マイストアーム【スパイラルフィンガー】!」

 

ゴーレムの腕を纏いアインハルトさんに打撃を与える。

けど、ピンチには変わりはないのはわかっていた。けど思っていたのは…昔のノーヴェ師匠に言われたことだった。

 

 

 

(練習、やっぱりキツイか?なんでこんな思いをしてまで…って思ったりするか?)

 

(その…)

 

(まあ練習も組手も苦しかったり痛かったりすること多いけどよ、それもみんな最高の瞬間のためなんだよな)

 

(最高の瞬間?)

 

(練習した技が綺麗に打てた時、会心の一発をドカンと打ち込めた時、自分が前より強くなっていることを実感できた時。そんな瞬間をお前らに山ほど味わって欲しいから…少し苦しい練習をさせることもある。けど、それを乗り越えた先に待ってる楽しさを…お前にも知って欲しいんだよ)

 

 

 

「コメットブラスト!シュートッ!」

 

私は魔力弾を岩で覆ったものを何発もアインハルトさんに打ち込んだ。けど、それをかいくぐってアインハルトさんはわたしと距離を詰めてくる。

 

ゴーレムを操作して近づけさせないようにする。

それと同時に、床に手をつく。

 

「ロックバインド!(そうだ…ノーヴェ師匠が教えてくれたのは強くなることの楽しさ。特訓に付き合ってくれたオットーはわたしが強くなるのを自分のことみたいに喜んでくれた。ノーヴェ師匠はいつも私のことを気遣ってくれた。ユタさんは自分のこともあるのに私を一生懸命向き合ってくれた。

 

見てもらわなきゃならないのは-本当に自分に胸を張れるのは。

 

1人で思いつめた末の必殺技なんかじゃなくて-

 

チームとコーチ、みんなで一緒に重ねてきた練習の成果!)」

 

アインハルトさんにバインドをしてゴーレムのギガントナックルを直撃させる。

 

「(ティオ……助かりました)」『にゃー!』

 

ライフ

アインハルト 640

 

 

 

「ああ…アインハルト、大丈夫っスか?」

「大丈夫、ダメージ緩和と回復補助がティオの本領。アインハルトをしっかりと守ってくれてるよ。ティオのサポートとアインハルトの頑丈さと覇王流の鉄壁防御。並の攻撃じゃ進撃する覇王は止められないよ!」

 

ノーヴェたちがコロナを信じているのと同じようにディエチたちもアインハルトを信じていた。

 

ここからは二転三転と攻防が続いていた。

 

ライフ

コロナ 190

アインハルト 510

 

 

 

「これで決めるよ、ブランゼル、ゴライアス!」

『Yes!』

「パージブラスト、ドリルクラッシャーパンチ‼︎」

 

コロナはゴーレムの右腕を回転させながらアインハルトに飛ばした。

アインハルトは真正面からそれを受け止めた。

 

「覇王流-----旋衝破ァーーーッ!」

 

そのままゴーレムの腕を投げ返しゴーレムを破壊した。

それはコロナとしても予想通りで、崩れたゴライアスの破片を使い更に追撃をかける。

 

破片が床に落ちると同時、それらは床から生えている石の触手のようになりアインハルトへ向かっていく。

だが、それすらもアインハルトは真っ向から壊す。

 

「(これが本当の最後の一撃!)」

 

崩れ去るゴライアス、石の触手に紛れてアインハルトの後ろに回り込んでいたコロナは右腕にゴーレムの腕を纏っていた。

 

が、アインハルトはそれを読んでいたかのように振り返り

 

「覇王【断空拳】!」

 

コロナに必殺の一撃を撃ち込んだ。そのまま後ろに吹き飛ばされ壁に激突する。

 

ライフ

コロナ 0

 

 

 

『決着!アインハルト選手の勝利です!』

 

 

 

 

 

コロナvsアインハルトの同門対決は、アインハルトに軍配が上がった。

 

 

 

 

 

〜第一会場 救護医務室〜

 

「頑張ったんですが届きませんでした。アインハルトさん、やっぱり強いです」

「でも、あと一歩のところまで追い詰めてたぜ」

「いい試合でしたよ。コロナお嬢様はやっぱり強いです」

 

救護医務室には包帯をあちこちに巻かれたコロナと付き添いに来たノーヴェ、オットーがいた。

 

「お前のすごいところ、ちゃんと証明できてたよ。公式戦績(オフィシャルレコード)と満員の観客が証人だ。お前の創成戦技(マイストアーツ)はいくらでも応用の効くいい技だ。鍛えたら鍛えただけ強くなる。

今のチームで一緒にやっていけるよな?」

 

「はい、私はチームナカジマの一員ですから。みんなと一緒に練習していきたいです」

 

そんな良い雰囲気の中、医務室の扉近くで小さな話し声が。

 

(マスター、早く行ってください)

(いや…この空気の中いくのは……)

(じれったいですねぇ)

(いやだってさ…)

『ノーヴェさんっ!コロナさんっ!オットーさんっ!お客さんです!』

「あ、おいコラ!」

 

 

 

この愛機!なんでわざわざ呼ぶかな⁉︎

 

「ユタさん…?」

「あ、あー、えーと、コロナちゃん、お疲れ様」

 

この時、自分でもかなり辿々しいのはわかっていた。ただ、正直なところ、何を言えば良いのか分からない。下手な慰めは逆効果だろうし。

 

「ユタ、お前の試合はどうだった?」

「4R判定勝ちです。で、急いでこっちにきました」

『聞いてくださいよ、ノーヴェさん。マスター、コロナさんに教え方を間違えたんじゃないか、余計なことをしてしまったんじゃないかってずっと自分を責めてるんですよ』

「何バラしてんの⁉︎」

 

ほら見ろ、ノーヴェさんにジト目で見られたじゃないか。

 

「ユタさん、そんなことないですよ。私はずっと、ユタさんに感謝しています」

「僕もですよ、お嬢様がここまで強くなられたのもユタさんの手助けあってこそです」

「そうだ。少なくともユタのお陰でコロナのマイストアーツの練度は予定よりもはるかに上がったんだからな」

「そ、そうですか…」

 

それなら…まあ、よかった、のかな?

 

「ああそうだ。コロナちゃん、あとノーヴェさんやオットーさんにも言わないといけないんですが」

 

「「「?」」」

 

「これからも私、八神ユタはコロナ・ティミルの練習相手を続けたいと思っているんですが、構わないでしょうか?チームとしてやっていくかどうかはまだ未定なんですが…とりあえず最初は、コロナちゃんの魔法戦技の練習相手として」

 

 

あ。あれ?みんなが驚いてる。そんなに変なこと言ったかな?

 

 

「ユタさん!こちらこそお願いします!」

「アタシとしては構わないぞ」

「僕も構いませんよ」

 

「はい、ありがとうございます」

『皆さん、マスターのワガママを聞いてくださりありがとうございます』

 

さてと、それじゃあ家に帰りますか。

 

「それでは、失礼します」

「おつかれ様でした。ユタさん、4回戦以降も頑張ってください!」

「うん、ありがと。コロナちゃん。ノーヴェさんもオットーさんも失礼します」

「おう、気をつけて帰れよ」

「これからも宜しくお願いしますね」

 

挨拶を済ませた後は直で家に帰宅しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ!はぁ…はぁ…」

 

久しぶりに、悪夢を見た。

 

もう良い加減に覚えてしまったオリヴィエの記憶

 

 

それともう一つ。お姉ちゃんの夢を。

 

 

つまるところ、私の心がまだまだ弱いから、なんだろうか。

思わず、蹲ってしまう。

 

「うぅ…お姉ちゃん……おいて…いかないで…」

 

頬を伝う涙にも、ずっと声をかけてくれていたプライドにも気づかず、母さんに強引に抱き寄せられるまで、その状態が続いていた。




さて、当初の予定している終了地点に近づいてきました。
もう少しだけ頑張るぞい


それでは読んでくださりありがとうございます
感想や評価などありましたら気軽にお投げください。場合によっては作者が嬉死します


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22話 〜過去の記憶〜

さて今回はジークリンデVSアインハルトあたりの話を中心に書いております。

私のだいっ好きなシリアスに突入。

多分筆が乗っているのですぐに次も投稿できると思います

それではどうぞ


あれからの試合は

ヴィヴィオちゃんvsミウラ

リオちゃんvs番長

の試合があったが結果はミウラ、番長の勝利だった。

 

映像で見たけど、どれも接戦だった。だけどある意味予想通りの結果とも言えた。

 

つまり三回戦の結果、チームナカジマの初等科組は全滅したことになる。

 

私の4回戦は映像確認だけだとアインハルトみたいなハードヒッター。最近、ハードヒッターとやるのが多い気がするのは気のせいだろう。

 

そして……アインハルトは、ジークさんとらしい。

 

「さーてと…それじゃあ練習行ってきます」

「行ってらっしゃーい。気をつけぇよー」

「はーい」

 

1人で練習というのも味気ないがまあ仕方ない。それに…昨日の夜のことがありさらに心配をかけてるし、これ以上心配をさせたくなかった。

 

だけど……何故だろう。今はとにかく1人が寂しいと感じてしまった。

 

 

 

 

 

 

〜翌日〜

 

 

また、夢を見た。最近多い。

だけどいつもと違ったのは夢の中身。

 

ジークさんとの夢でもなければ、オリヴィエの夢すら見なかった。今まで夢を見た時はそのどっちかは絶対あったのに。その代わりにたった一つの夢だけを見た。

 

 

 

昔の…まだお姉ちゃんと一緒に母さんにお世話になっている頃の夢だった。

そして………

 

 

なんのいたずらか、姉さんが死ぬ場面もあった。

正確には、殺されかけて、もう死ぬ寸前の場面。私のせいで、私に流れる血のせいで、殺されてしまう夢。

 

 

 

 

 

(ユタ、これからはこの人にお世話になるんだよ。もう…辛い思いはしなくて済むよ)

(?)

(はやてさん、これからはこの子を宜しくお願いします)

(ええって、そんなにかしこまらんでも。それに、ユタちゃんだけやない。マリナも、ユタちゃんも、これからはウチの家族なんやから)

 

 

 

 

 

(ユタ……あなたは普通の女の子。クローンであるとか関係ない。女の子らしく、恋もして、元気に、幸せに……)

(なんでや!約束したんやろ!ユタと、これからはずっと一緒にいるって…)

(はやてさん、嘘をつく形になってしまってすいません。これからは…あの子を…)

 

 

 

ジリリリリリリリ!

 

そんな夢は目覚ましの音で途切れた。

 

「ッハァ⁉︎はぁっ……はぁっ……」

 

最近いつもこうだ。お姉ちゃんとの夢ばかり見てしまう。その度に心が苦しくなる。だけど…逃げるのは許されない。私が弱いせいで、私がオリヴィエのクローンなせいで……

 

「いや、そんなことを考えちゃ…。早く学校の準備を…」

 

心に残ったネガティブな気持ちを無理やり吹っ切って私は準備をして学校に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

〜St.ヒルデ学院〜

 

「アインハルト。おはよう」

「ごきげんよう、ユタさん」

 

アインハルト発見。相変わらずの高嶺の花っぷり。

 

「ユタさん、これはやてさんからお預かりしています」

「やっプライド。1日ぶり。アインハルトー。何もされなかった?」

『マスターの恥ずかしい過去は遠慮なくバラしましたのでご心配なく』

「ちょっと待とうか?何してくれてんの君」

「い、いえ、何も聞いてませんよ……?」

「ちょいまち、アインハルト、なぜ疑問形」

「い、いえ。決して、エリオさんの前で喋ることが飛んだとかそういうのは聞いてませんので」

「よし、プライド。あとでお説教」

『外界からの会話を遮断しますね』

 

このやろ!自分がデバイスだからって調子乗ってるな!

 

「ユタさん…?今日、どうされたのですか?」

『……?マスター、今日はどうかしたんですか?』

 

と、まさかの二人同時に同じことを聞いてきた。

 

「どうしたって?何が?」

「ええと、すごく辛そうな感じがしまして」

『心なしか空元気というか。何かあったんですか?』

「いや、何もない」

『そうですか。インターミドル予選もまだあるのですから体調管理には本当にお気をつけください』

「うん」

 

急に何をいうんだろうね。この愛機は。

まあ、当たってるっちゃ当たってるんだけど。ていうかそんなに顔に出やすいのかな私。

 

 

 

〜翌日 抜刀居合天瞳流 練武城〜

 

「はぁ、ジークさん対策ですか」

「ああ」

「ミカヤさんいるなら私いらないんじゃ?」

「いやいや、そうでもないぞ。私とユタちゃんではジークの分析の仕方が違うかもしれないじゃないか」

「ミカヤさんと私でも抱く感想は大して変わらないと思いますけど…」

 

翌日、私はミカヤさんのところに来ていた。

なんでも、アインハルトのジークさん対策の練習をするらしい。

 

……ぶっちゃけると、対策したところで大して変わらないと思ってるんだけど。

 

「そういえばアインハルトはヴィヴィオちゃん達のことは心配じゃないの?私、結構心配してたりするんだけど」

 

「そうですね……。心配はしていますが不安はありません。砕けた夢は、何度でもつなぎ合わせて、自分の弱さを超えて強くなっていけること。一流選手達はみんなそうやって強くなっていったと聞きます。

 

みんな、きっとすぐに立ち上がります。そして必ず強くなっていってくれます!昨日よりもっと、今日よりもっと、きっと信じられないくらいに!」

 

……なるほど。

 

「じゃあ、アインハルトは負けられないというわけだね」

「ミカヤさん、なかなかの無理難題な気がするんですが」

「いえ、絶対に勝ちます!」

 

 

 

 

 

 

〜三日後 予選会場〜

 

4回戦からは一つの会場で行うらしい。これは一昨年も去年も一緒だった。

移動の手間が省けたのはいいね。

 

オープニングバトルは予選1組、つまりアインハルトとジークさんの試合なので観客席は見事に満員御礼。

 

「さっすがに人多いな」

『そりゃあ、元世界王者の試合ですからね』

 

元世界王者とはもちろんジークさんのことだ。

 

「あ、番長発見」

「あ!ユタ!」

 

いつもの4人組で歩いていたのは番長ことハリーさん達だった。

 

「ユタ…お前、俺の試合を見ずに帰ったらしいな?」

「映像でちゃんと見ましたって」

「はん、まあいい。……ん?あれはエルスか?なんであんな格好」

「ほんとですね。あの格好ってことは……」

 

下でエルスさんを見つけた後、ハリーさんと目を合わせ示し合わせたかのように下に降りる。

 

「よう、デコメガネ!」

「おはようです、エルスさん」

「おや、ハリー選手にユタ選手」

 

あれ?エルスさん、デコメガネはいいんだ。アホデコメガネだと怒ってなかったっけ?アホが付いてなかったらいいのかな?

 

「なんだ、お前。今日はスタッフか?」

「そうなんですよー」

「似合わないなー」

「なんでですかっ⁉︎…えー、コホン。今大会では私、チャンピオンのセコンドを務めることになりました!」

 

あ、つい本音が。エルスさんはオタク系女子のイメージ定着しちゃってるからな。特に本屋であったときのせいだと思う。

 

って、え?

 

「まじかっ⁉︎」

「まじですか⁉︎」

「えっへん!立候補したら快諾していただけました!」

「本当は?」

「ものすごく遠慮されたのを拝み倒し…って、なに言わすんですか!」

「いや、エルスさんが勝手に乗ってくれたんでしょ…」

『マスター、バカなことはやめてください』

 

いや、この場合バカなのはエルスさんだ。

 

「チャンピオンのそばで見て、勉強しようと思っています」

 

うおお、見た目の通り真面目だ。

 

「にしても、ジークさんは今年もセコンド不在だったんですね…。1人で戦いたがるのは相変わらずというか」

「あいつは未だに人懐っこいんだか人見知りなんだかよくわかんねーな」

「『優しいけど人見知り』ですかねえー。けど、心の奥底は掴めない方ですが、私たちの心は掴まれてます。選手も観客も、みんな彼女の戦いを見たくてここにいるんですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

そのあと、エルスさんと別れハリーさんと観客席に上がった。そこでヴィクターさんとも合流できた。

 

「はぁ、ヒトガゴミノヨウダ」

『せめて棒読みはやめてもらえません?』

 

だって、そう思えるほど人多いんだもん。

 

「ヴィクターさん、ジークさんは今日も万全でした?」

「ええ。けど…なにやらアインハルトの方を気にかけていたわよ。【勝っても笑わない】って。相当辛い思いや寂しい思いをしてきたんだろうかって」

「また…相手を気遣う前に自分を気にしたらいいのに」

「それがジークのいいところなんだけどなー」

「ハリーさんもジークさんとは付き合い長いですもんね。けど…私からしたらそれは単なる傲慢ですよ」

「厳しいわね、ユタは」

 

そんな話をしていると会場が歓声で揺れた。

ジークさんが入場したんだろう。

 

 

「「「「アインハルトさーーん!ファイトーーーーッ!」」」」

 

 

 

「あらあら、元気ね」「いい声援だな」「あれ、やる側も恥ずかしくないですか?」

 

それがヴィクターさん、ハリーさん、私の順の初等科トリオ+ミウラの応援への感想だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アインハルトとジークさんの試合は、段々とアインハルトが押され始めていた。

 

………うん、私よくジークさんと少しとは言え渡り合えたよね。

今のライフ状況はアインハルトが5810、ジークさんは14800。

少しアインハルトが厳しいかな。

 

そんなことを考えているとジークさんが【鉄腕】を展開した。

 

 

 

 

すると、その瞬間にわたしを頭痛が襲った。何度も見ているはずなのに。なんで?

 

 

 

 

「っっ!」

「ユタ⁉︎」「お、おい」「大丈夫?」

「へ、平気です」

『……』

 

あれ?珍しくプライドがなにも言わない。

 

「大…丈夫、です。それよりも、きましたね」

「ええ、『鉄腕』ね。古流ベルカの武術の世界は広いようで案外狭いものなんですの。いくつもの源流から触れ合って混じり合って、今に繋がってる。私の雷帝式がそうですしジークが使うエレミアの技も同じ」

「お前のご先祖様は雷帝なんとかだっけか?」

「『ダールグリュン』ですわっ!」

 

頭痛をひた隠しにしながら試合を見て、その間もヴィクターさんが色々言ってくれてるけど頭の痛さでなにも入ってこない。ここまでの頭痛は初めてだ。

 

「ジークの源流は『黒のエレミア』。格闘戦技という概念すらなかった時代に己の五体で人体を破砕する技術を求め、戦乱の世の中でその技を極めて言った一族」

 

うん、知ってる。【エレミアの神髄】もその技の一部。そしてそれらは嘗てのオリヴィエと共に過ごした人の技術だから。

 

ああ、うん。だいぶ頭痛は治まってきたかな?

 

「ユタ、大丈夫?」

「大丈夫です。すいません、ミアさん」

 

 

 

「エレミアァァァァ!!」

 

 

 

「っっ⁉︎」

 

アインハルトの悲痛にも似た叫び。それを書いた瞬間に私の意識は、再度襲ってきた頭痛によって途切れた。

 

 

 

 

 

そこからは、なぜかまたオリヴィエの記憶が途切れ途切れで夢になって出ていた。

 

 

 

 

 

〜医療室〜

 

う……ん、頭がいたい。なんでこうなってんだっけ?

『………ター』確か、ジークさんとアインハルトの試合を見てて、『……マスター』急に頭痛に襲われて『起きてくださいっ!』

「ああもう!うっさい!」

 

と、ガバッと起き上がる。すぐそばには母さんがいた。

 

「おきたかー。ユタ、もうあんな戦い方はやめてーな。心臓が持たんわ」

 

「……?なんのこと?え?試合でもしたの?」

 

「とぼけたらあかんで。なんか亡霊みたいな目で格闘家かってくらい真正面から殴り合ってたやろ。まあ、勝ったからええけど」

 

「は……?」

 

母さんの言っている意味がわからない。

 

『マスター、なにも覚えてないんですか?』

 

「……うん。なに、私ハードヒッターと真正面からぶん殴りあったの?」

 

と、返すと母さんとプライドが見つめ合っている(ように見えた)。

 

「あんた、気絶した後試合の十分くらい前に目を覚ましてウチとも口をほぼ聞かずに試合してそのまま倒れ込んで気絶したんやで?ほんまに何も覚えてないんか?」

 

「うん…何も覚えてない」

 

え、私そんなことしてたの?全く記憶に…。

 

『これがその時の映像です』

 

するとプライドが記録していた映像を私の前に投影してくれる。その中身はものの見事にハードヒッター相手に影もほとんど使わず真正面での攻防を繰り広げていた私だった。かなりの辛勝になると思っていたけどそんなことはなく、なんなら終始圧倒していた。

 

そして試合が終わり母さん達の元へ辿り着いつ瞬間に倒れた。

 

「……」

『これでもまだ思い出せませんか?』

「……うん。ごめん。母さんも、ごめんなさい。心配…かけた』

「そう思ってんなら良し。体の方はどうや?」

「今は特になんともないかな。頭痛もしないし体が痛いとかも無い」

「なら良かったわ」

 

その後はシャマル先生が来て色々と注意なんかされて検査でも特に異常なしと判断されたので帰ることに。

 

「あ、そう言えばアインハルトとジークさんってどうなった?」

『ジークさんの勝ちですね』

「やっぱりかぁ。あいっ変わらず強いんだから」

 

「アインハルトもアスティオンも頑張ってたんやけどなー。ま、それはそうとユタも目を覚ましたことやし行こうか」

 

「へ?行くってどこに?」

 

「ヴィヴィオちゃんにユタ、アインハルトやジークリンデ選手、ヴィクトーリア選手たちってみんなベルカ時代の王様たちの血を引いてるからな。だから、そんな人たちが一堂に集まってるから過去のことについて話し合う会を設けた方がええやろってことで色んな人たちをホテルの最上階に招待してるんや。あとはアンタが行けば全員集合」

 

え、やだな。行きたくない

 

「悪いけど…わたしいか……」

「ほな、いくでー!」

「私に拒否権はないの⁉︎」

「ない」

「いいきったよ⁉︎」

 

そのまま母さんにとあるホテルの最上階まで連行された。

 




やはりリメイク元がある分、書き切るのはすぐですね。
 次のお話からどんどんシリアスの中へ直行(予定)


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23話 〜ユタのお姉ちゃん 前編〜

今回の話は前編 中編 後編と分かれております。
まとめて書き切った後に分割している為、5分空きごとに投稿していると思われます。

それではどうぞ


「さて、みんな〜たべながらでええから、ちょう聞いてな」

 

私はとあるホテルの屋上にいる。そこで少し遅めの夕食という名のバイキングをしていた。

 

「にしても‥豪華だねこれ」

 

そう、集まっているメンツがなかなか豪華だ。

 

八神司令こと母さんに元世界チャンプのジークさん、インターミドル都市本戦の上位入賞者であるミカヤさん、ハリーさん、ヴィクターさん。そしてハリーさんの取り巻きのいい子ちゃん3人組、初等科トリオ、ミウラ、アインハルト、ノーヴェさんが一堂に集まっていた。

 

「みんなも知っての通り、今日の試合を戦った2人には少し複雑な因縁がある。『黒のエレミア』の継承者ジークリンデと『覇王イングヴァルト』の末裔アインハルト、2人をつなぐのは聖王女オリヴィエ。かつて戦乱の時代を一緒に生きたベルカの末裔が今この時代にまた集まってる。それにこの場には雷帝ダールグリュンの血統ヴィクトーリアがいるし、ここにはおれへんけどもう1人旧ベルカ王家直系の子がいる。

これが偶然なのか何かの縁や導きの結果なのかはわからへん。

そやけどこれはあくまで老婆心というか大人側の心配としてなんやけど」

 

「老婆心て…母さん独身なのに…?もしかしてもう結婚適正ねんれ『ガスッ!』……」

 

「ユーター?何か言ったか?」

「い、いえ、何も言ってません」

「ならいいんや♪」

 

こ、怖い…ナ、ナイフが頬を掠めた……。

やりすぎだよ!みんなが引いてる!

 

「コホン、これだけ濃密な旧ベルカの血統継承者達が一堂に会するゆーんはちょっぴり気にかかるところなんや。インターミドル中の大事な時期やし、みんなが事件に巻き込まれたりせえへんように私たちも守って生きたい。ウチとしてはユタのこともあるしな。

そのためにもアインハルトやジークリンデ、ヴィヴィオちゃんやユタが過去のことを話し合う会に私も参加させてもらいたいんよ」

 

え…やだな。私としては聖王女オリヴィエのことに関しては割り切ってるんだけど。確かに最近ずっと聖王女オリヴィエの夢は見ているけど、それはそれ、これはこれだ。

 

「同じ真正古代ベルカ継承者同士、生きたい場所や資料があるなら私も全力で協力するよ」

 

「「「はい」」」

 

 

そうして先ずはアインハルトが自身の持っている記憶について話し始めた。

 

「クラウスとオリヴィエは、共に仲の良い友人でした。そして、共に鍛錬し合うライバルでもありました。彼女の紹介で『エレミア』とも出会い、良き友人になれました。それは戦乱の世の中でほんの束の間の、だけど永遠のようなとても平穏で幸せな日々だった。あの頃は…本当にそう思ってました」

 

「やっぱりウチのご先祖様と知り合いやったんやね。名前は覚えてる?」

 

「ヴィルフリッド・エレミア----『リッド』と呼ばれていることもありました」

 

「ジークはその人のこと覚えてねーのか?」

「申し訳ないんやけど…個人の記憶はほとんど残ってへんから」

 

ハリーさんが聞くとジークさんは申し訳なさそうにいう。

 

「あの、なんだかすごい話を聞いちゃってる気がするんですが……」

「貴重なお話ではあると思うんですが…」

「大丈夫!わたしたちもあんまり変わりません!」

「いろいろ聞かせてもらいましょう」

「そやねー」

 

別のテーブルではミウラ、りおちゃんにコロナちゃん、エルスさんやミカヤさんがそんな感想を抱いてる。

多分私が同じ立場でも同じ感想を抱いてると思う。

 

「ともあれ、クラウスとオリヴィエ殿下はシュトゥラで時を過ごして、『エレミア』もまた私たちの良き友人でした。

でも、ますます戦火は拡大して言って…聖王家は『ゆりかご』の再起動を決めました。過去の歴史で幾たびか使われた強力無二の戦船。玉座に就く者の命や運命と引き換えに絶対の力を振るう最終兵器。

オリヴィエはもともと『ゆりかご』内部で生まれた子でした。だけど、ゆりかごの王としての資質は薄いと認定されシュトゥラへの人質として利用されたんです」

 

こうして聞いていると、本当にアインハルトは過去にいたという覇王の記憶が鮮明に残っているんだろうね。だけど……

 

何故こうも、さも自分がそうであるかのように語るのか。アインハルトはアインハルトだ。クラウスはクラウス。何故そう割り切れないのだろう。

 

もちろんみんなが私みたいな性格じゃ無いのは理解している。

 

 

それでも……アインハルトはまるで、自分の人生を捨ててまでもクラウスという記憶を、受け継ぐべきだと考えているようにも聞こえてしまう。

 

 

「ですが、ゆりかごの研究が進んでいったこと…そしてオリヴィエの戦闘と魔導の才能が諸国に響くほどに磨き上げられてしまったこと。

それで本国に『ゆりかごの王』となるために呼び戻されることになりました。

ゆりかごの王になれば自由も尊厳も未来までも奪われることを知っていたクラウスはそれを止めようとしました。

 

だけど…()()彼女を止められませんでした、戦ってでも止めようとして何もできずに破れました。彼女の微笑みをくもらすこともできずに」

 

……いろいろと知らないことが溢れてくる。けどそれに伴って頭痛が時々起こるのを繰り返す。正直にいうと結構痛い。けど我慢できないほどじゃない。

 

「そうしてオリヴィエは国に戻ってゆりかごの王になりたった一年で『諸王時代』は終わりを告げました。けどクラウスとオリヴィエは二度と合うことはありませんでしたが」

 

「クラウス殿下とウチのご先祖様とはそのあとは…?」

 

「リッドはオリヴィエが国に呼び戻される少し前から姿を消していたんです。普段からどこにいるのかよくわからない人でしたがエレミアの力や言葉が必要な時はいつの間にかそこにいてくれたんです。

けどオリヴィエが悲しい決意をした時もそのあともずっと会えないままで」

 

「クラウス殿下は不義理な友達を恨んでたんかな?」

 

「そんなことないですよね?」

 

不安そうにいうジークさんの言葉にヴィヴィオちゃんが反応する。

 

「クラウス殿下は大切な人を一度に二人失っちゃったわけですから」

 

「そうですね…見つけたらまずは1発殴ってやりたいとは思ってました。

だけど…理性ではわかってもいるんです。エレミアが…リッドが悪いんけではないって。

ともあれ、その後クラウスとエレミアの縁は繋がることなくオリヴィエを乗せたゆりかごも姿を消してクラウスは戦の中で短い生涯を終えました。

私から話せるのはこれくらいです」

 

はー。これこそまさに生の歴史の授業だ。感慨深いね。

私が血筋じゃなければ、だけど。

 

「ウチに聞きたいことゆーんはその頃のリッドについて?」

 

「何かご存知だったらと思ったんですが。…ユタさんも、何かご存知だったり、しませんか?」

 

「残念やけどウチの実家にもエレミアの資料はあまり残ってへんのよ」

 

「そうですか…ユタさんはどうですか?」

 

「…………」

 

話を振られ私は黙ってしまう。うん。わかってる。本当なら話してあげるべきなんだろうけど。それでも……

 

「ユタ?」「ユタさん?」

 

ジークさんとアインハルトが不安そうにこっちを見たのと同時、もうこの際だから私について、全部話してしまおうと、決心()()()()()()

 

「ぶっちゃけると、私は所々とはいえ記憶がある。なんならそのゆりかごとやらに乗る前後あたりの記憶も」

 

その一言で母さん以外の全員が驚いた顔をした。それに構わず言葉を続ける。

 

「話すのは構わないの。でもね…この際だから改めて、言っておこうと思う。私は…ただの八神ユタ。聖王女オリヴィエの血は確かに引いてる。でも……本当にそれだけ。私は聖王女じゃない。…でもオリヴィエの記憶があるのは事実。死ぬほど辛い記憶としか言えないけど、それでも良いなら話してあげれるよ」

 

「い、いえ、無理なさらず…。元より私が巻き込んだんです。ユタさんが辛い思いをしてまで…」

 

とアインハルトは遠慮するようにいう。けど、本当に話す分には別にいいんだよね。ただ、何故かそれと連動してお姉ちゃんのことを思い出してしまうだけで。

 

「この際だから…母さん。私の生まれとかお姉ちゃんの事とかも話しておいたほうがいいかな?」

「うちはアンタに任せるで。話したいなら話せばええ」

「わかった」

 

 

 

 

 

 

 

「先ずは結論だけ言うと、オリヴィエはクラウスのことを…多分他の大切な人達のことをずっと、ずっと大切に想っていただろうってこと。だからこそゆりかごに乗って戦争を終わらせなきゃいけない決意をしたんだと思う。みんなを守るために自分だけ犠牲になれば良いなら、それで良いと信じて。

 

……だけど、本当は辛かったんだと思うよ。独りでいる時にはずっと泣いている記憶しかないから。私にはアインハルトのいうクラウスだとかリッド達との楽しかった記憶は、残っていないから。それからはアインハルトの記憶と同じと思ってくれたら良い。ゆりかごに乗って、戦争を圧倒的な力で以て強制的に終わらせた。個人の記憶として話せるのはこの程度。ごめんねあんまり力になれなくて」

 

そんな私を慰めるようにアインハルトやヴィヴィオちゃん達が声をかけてくれるけど、やっぱりというかお姉ちゃんの記憶も同時に蘇ってきて、泣きそうなくらいに辛くなる。だけど、グッと我慢して次の言葉を紡ぐ。

 

「ここからは私自身の記憶。どうせだからみんなにも、私の生まれとか、大切な人について知っておいて貰いたいなって、思ってね。私のお姉ちゃんなんだけど、えーと写真写真…あ、プライドに保存してないんだった。母さん持ってたりする?」

「もちろん。プライドに送ろうか?」

「お願い」

 

そうして数十枚の写真が送られてくる。その中から適当に一枚を投影すると母さんの家に来たばかりの時の集合写真が大きくみんなの前に映る。

 

「この蒼髪の人が私のお姉ちゃん。…全然似てないけど、私にとってはたった一人の、大切なお姉ちゃん。八神・サミダレ・マリナ。私をずっと育ててくれて、ずっと一緒に居てくれた人。

 

……察してるとは思うけど、私はオリヴィエの子孫とかじゃない。私は、ゆりかごを起動するために作られた鍵、有り体に言えばオリヴィエのクローン。お姉ちゃんは、そんな私がゆりかごの王として座れる年齢になるまでの育成係をやっていたの。だけど…そんな私のこととか周りとか、どうでもよくて、本当にただただ、お姉ちゃんのことは大好きだったなぁ……」

 

感傷に浸りたいけど、それよりも私について、知ってもらわなきゃね。

 

 

 

 

 

私の最初の記憶は

ガラス管の中でよくわからない液体の中に沈んでいるところ。チューブか何かがあるのか不思議と息苦しいことはなく、周りには白衣の研究者たちがたくさんいた。

 

 

私は記憶力がいいらしく胎児からの記憶がちゃんと残っている。

 

そして、試験官から取り出されたあと私は、地球に一緒に捨てられることとなる

 

 

五月雨マリナお姉ちゃんと会うこととなる。

 

 

お姉ちゃんは透き通るような藍色の髪にサファイアのような目。年は十代前半だったとおもう。

 

お姉ちゃんは私の世話役だった。だから私にとってお世話役立った彼女は姉も同然だった。

 

「ほ、ほらー。ユタちゃん。ご飯食べてー」

「やー!」

「ほら、お……美味し…いよ?」

 

研究所のご飯は栄養しか考えてなくて味が不味かったのでよく嫌がっていた。

それをなんとか食べさせようと姉さんは美味しく食べてみせようとしていた。が、まずい!というのが顔に出てしまっていたので成功したことはなかった。

 

「あ、ユタ。ほら、検査に行かないと」

「うーあー」

 

そして、ご飯以上に研究者たちの【検査】は嫌だったのも覚えている。

 

よくわからないコードにつながれたり注射器で何度も腕を刺されたり、とにかく嫌なものだった。

 

 

 

そして、4年弱が経ったある日

 

 

「なんで!なんでですか!なんでユタを捨てるなんて…」

「もう決まったことだ」

 

お姉ちゃんと私は共に呼び出され、私を捨てると言ってきた。当時の私はよく理解していなかったけど、お姉ちゃんはすごく怒ってたなぁ。

 

「そんな理不尽な…あの子はまだ4歳ですよ⁉︎あんまりじゃないですか!」

 

「はぁ…随分と偉くなったものだな。お前を拾ってやって育ててやったのは誰だ?もう忘れたのか?それとも…情でも移ったか?それに依然としてゆりかごの適正値の低い出来損ない(ユタ)に金をかけて生かすだけ無駄だと結論付けただけのこと。廃棄処分じゃないだけマシだろう?ま、今現在、新たな適正値の高いクローンが出来つつある。それも踏まえた上で失敗作に期待する必要もなくなった。それだけのことだ」

 

「っ!そんな言い方って…」

 

「まだ何かいう気か?そんなに心配ならお前も()()()()()()()()()()()

 

「え?それはどういう…」

 

お姉ちゃんが聞き返そうとすると突如激しい痛みが走って、目の前がフワフワした。お姉ちゃんも同じようで倒れたけど咄嗟に私を庇ってくれたのか不思議と痛くは無い。

 

「目を覚ませばわかるさ」

 

そんな研究者の声を最後に、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

それからどれくらい時間が経ったのかな。気がついた時にはまあ二人で裏路地にいたんだ。

 

お姉ちゃんは自分も一緒に捨てられたんだと察するのにそんなに時間はいらなかったみたいで、苦しそうな顔をしていた。でも私を見つけた瞬間に強く、だけど優しく抱きしめてくれた。

 

「ああ、でもユタもいる。よかった…。にしてもお金もほとんどないし持ち物も服だけって…よほど私たちには生き残って欲しくないのかなぁ。あの人たちが生み出した命なのになんでこんなに簡単に捨てられるのかなぁ。

 

……………

 

うん、考えても仕方ない。生きる術を身につけないと」

 

だけどお姉ちゃんは超ポジティブ精神を持っていたらしい。

なんかすぐに吹っ切れていたのはわかった。

 

「よーし、まずは仕事を探さないと」

 

そういいながらお姉ちゃんは私を抱きながら裏路地から出た。

余談だけど、表通りにいた人に変な目を見られたがここは地球という星の日本らしい。

 

管理局の管轄外の星らしいね。この時の私はまだそのことを知らなかったけど。

 

 

 

こうして、お姉ちゃんは私を生かすために働こうとしたが……現実はそう甘くはなかった。

一年もしないうちに、お姉ちゃんも私も、心身共にボロボロになっていた。




ユタの幼少期、そして前書きなどでちまちま出していたマリナなる人物についてこの2〜3話で出し切りたいと思っています

ユタにとってはたった1人の大切な『お姉ちゃん』。
だけどシグナムに関しても作中でシグナムを姉さんと呼んでいるように、シグナムのことも姉のようなもので、大切な家族として想っています。


それでは読んでくださりありがとうございます。
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24話 〜ユタのお姉ちゃん 中編〜

ユタの過去 中編です
前編を読んでいない方は先にそちらをお読みください

私にしては珍しく同日投稿なので見逃している方がいると思われます


それではどうぞ


 

〜地球 日本東京都 とある裏路地〜

 

「なのはちゃん。いた〜?」

「こっちには何も情報は出てきて無いかな。フェイトちゃんは?」

『私も……』

「どうやら、シグナムたちも見つけてないみたいやし…早よ見つけなあかん」

 

ここには機動六課のメンバーである八神はやて、高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、シグナム、ヴィータが来ていた。スバルは別件で動かなければならず来ていなかった。

 

なぜこの五人がわざわざ地球まで来ているかと言うと、とある情報が入り、この地球に【聖王のゆりかご】に関わる人間がいるかもというのがわかったから。

 

ただでさえ、今ミッドチルダでは高町ヴィヴィオ(聖王のクローン)と【聖王のゆりかご】に関することで手一杯なのだ。

 

そこへ更に【ゆりかご】に関わってくるかもしれないのだ。

危惧して調査にくるのは当たり前だろう。

 

「にしても……本当にいるんかな?」

「間違いないって。なんでも、研究に関わった人からの情報だとか」

 

隊の中で共有されている写真-今回捜索している人物-を見ながらそう呟く。

 

「……あ⁉︎」

「え?…あ⁉︎」

『どうしたの⁉︎』

 

はやてがなのはの後方にとあるものを見た途端、素っ頓狂な声をあげてしまう。それになのはも驚きながら後ろを振り返り、フェイトは通信越しだったのでよくわかっていなかった。

 

 

なのは達が見た方向には年齢はおそらく10代後半、しかし髪はボサボサ、服装もところどころ破れていて全体的に埃っぽい。包帯もところどころに巻かれている女性がいた。

目は、控えめにいっても死んでいる。

おそらく、見出しを整えれば美人なのだろうが、藍色の髪も、サファイアのような目も、間違っても綺麗だとは言えなかった。

 

そう、彼女達が探している人物にそっくりだった。

 

「「………!」」

 

その光景に2人はただ立ち尽くすだけだった。

 

『二人とも!どうしたの⁉︎』

「「あっ」」

 

フェイトからの通信のおかげで我に帰り急いで追いかける。

 

「フェイトちゃん!今すぐ合流しにきて!」

『えっ?』

「多分見つけたから!」

「あ、シグナム、ヴィータ。今すぐ集合や。……うん、そうや。多分見つけたと思う」

 

こうして、ただ一人の少女を5人が追いかけた。

 

 

 

ユタの保護者だった私、五月雨マリナは追いかけてきていた2人に気づいていた。ユタを造った人たちがいずれ何かしてくるのは分かっていたからすぐに逃げようとも思った。

 

だけど黒い服装をしていた人に呼び止められ、敵じゃないことを必死に説得されて少しは信じてみようと思えたのとお腹が空きすぎて少しでも恵んでもらえないかと考え二人をユタの居るところまで案内することにした。だけど気づいたら2人は5人になっていた。

 

「あの…何故そんなに人がいるんです?」

 

と、警戒しているとわかるような声で5人を睨みつける。

 

「そんな警戒せんでもええよ…って言ってもそう簡単には信用できんよなぁ」

「心配しなくても私達は何もしないさ」

 

「……わかりました。今は、信用します。ですが…その前に、約束して欲しいことがあるんです」

 

「ええよ。なんでも、とは言えれんけどできる限りのことはするよ」

 

私を呼び止めた人が少しだけ警戒したのがわかった。だけどそんな大それたことを頼む気も、気力もなかった。…きっとユタのことを探しにきた人たちだろうから、ユタのことを引き合いに出せばきっと受けてくれると思えたから。

 

「貴女達があの子の事を探しにきたと言うのは、わかっています。私達は抵抗も、何もする気はありません。だから…お願いします。あの子を、助けてください」

 

そんな私の言葉に、この人達は各々の言葉で『勿論!』と言ってくれた。この人達ならユタを任せられるのかもしれないと、思えてしまった。

 

そのまま5人を隠れ家…と呼ぶにはあまりにも質素な裏路地の一角まで案内し、いつも寝ている場所を見せる。カーテンで簡単に仕切りをしているだけの寝床ではユタが気持ちよさそうに寝ていた。

 

「はやて…やっぱり」「うん、そうやな」

 

何かを納得している5人を見てやっぱりユタを探しにきたのかと納得する。

 

「……ぁ、おねーちゃん。おかえりなさい」

「ただいま」

「そのひとたち、どうしたの?」

「食べ物を恵んでくれる人達。失礼のないようにね」

「はーい」

 

 

 

 

 

 

「それで…なんとなくわかってはいますが、そんな大勢で何の用なんですか?もし仮にユタを強引に、と言うのなら私は全力で阻止させてもらいます」

 

死んだような目をしながらも戦う意思を見せる目の前の少女。そんな少女に臆する事なくウチは口を開く。勿論『ゆりかご』について余計な心配の種を取り除きたいと言う思いもあったけど2人の様子を見てそんなものは遥か彼方に飛び、2人を絶対に助けて見せると誓ったから。

 

「違う違う。連れ戻すとかじゃないんやけど…とりあえず信用してもらうっていう理由でもこっちの身元を明かさなあかんな。ウチらはミッドの機動六課っちゅー部隊。ウチはリーダーの八神はやて」

「機動六課……?」

 

だからウチらはできる限り敵対心を見せずに身元を明かした。目の前の少女は機動六課すら知らないらしく戸惑っていたけれど。

 

「そうや。まあ、簡単にいうと特殊な警察みたいなもんや。で、なんでウチらがいるのかというと……」

 

「はい。ユタのこと、ですよね?」

 

「話が早くて助かるわ。とある情報筋から君らのことを知って、最悪なことが起きる前に保護するようにって指令が入ってる」

 

「ああ、それは…願ってもないことですね…」

 

と、目の前の少女は安堵したような表情をした。だけど少女の言い方はまるで自分ではなくユタと呼んでいた子が保護されるから安心しているように見えた。

 

「でも、何故そうも私達を?…貴女達にメリットがあるように感じられないのですが」

 

「あーうん。実はな…上からの命令っていうのも本当なんやけどそれ以上に君たちを見て、守らなあかん!って思っちゃったんよ。もちろんその子も守るし君も守るつもりや。どうかな?悪い話ではないと思うんやけど」

 

「……分かりました。今はあなた方を信じます」

 

「うん、ありがとう。そんじゃ、ついて来てもらえるか?」

 

「分かりました。ユタ…行くよ」「はーい。ねえねえ、ご飯はー?」「もうちょっと我慢してね…」

 

 

 

 

 

 

 

〜ミッド行き船 船内〜

 

「ほな、改めて自己紹介するな。ウチは八神はやて」

「私は高町なのは」

「私はフェイト・T・ハラオウン」

「シグナムだ」「ヴィータだ」

 

「私は…五月雨マリナです。ユタのお世話係でした。今は…姉です。それで、この子はユタ」

 

と言いながら寝ているユタを抱いている。

 

「そんじゃ…ちょいとそこの子……ユタやったか?ユタは席を外してもらいたいんやけど…シグナム、ヴィータ。頼めるか?」

「おう」「わかった」

 

と、シグナムとヴィータが未だ寝ているユタを抱き上げ別の部屋に行く。

 

「あ……」

「大丈夫だよ。シグナムもヴィータちゃんも信用できる人だから」

 

と、抱いて連れて行くシグナムとヴィータを不安そうな目で見るマリナをなのはちゃんが優しく言ってくれた。

 

「それで、ユタを保護してもらえるというのは……本当なんですか?」

 

「うん。それは信用してくれていいよ。さっき上に掛け合ってウチのところに来てもらうことになった」

 

「八神さんのところにですか…?」

 

「うん。あ、そうそう。どうせならはやてって呼んでーな。んで、ちゃんと経緯を説明するな。

 

今、ミッドチルダではその子とは別の聖王のクローンとゆりかごについていま緊迫状態なんよ。だから、その関係者がどこにおるかわからんし、君らをこれ以上事件に巻き込みたくないっていうのもあって、ユタちゃんのことは【地球から保護してきた子供】じゃなくて【孤児院から引き取った子供】という名目でウチが預かるのが最善なんじゃないか、っていう話になったんよ」

 

「……なるほど。でも、もし私達を捨てた人達が襲ってきたら…」

 

「心配せんでも大丈夫!ウチはこんなに包容力ある大人な女性って感じやけどその実、管理局の中で1、2を争うくらいには強いから!それにウチの横にいるなのはちゃんやフェイトちゃんも同じくらい強い。勿論さっきユタちゃんを抱いていたシグナムとヴィータもな」

 

そう言うと五月雨マリナちゃんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。良い顔してくれるわぁ。

 

……まあ誇張しすぎなのだけど。でもその甲斐あってかようやく無表情以外のこの子の顔が見れたからよしとしよう。

 

「で、最後君をどうするかなんやけど…どうかな?マリナもウチにこんか?」

「え…?」

 

それをいうとマリナちゃんは驚愕…というよりも自分が良いのか、みたいな顔をしてこっちを見てきた。

 

「いいん、ですか…?」

 

「うん。それにマリナちゃんがユタちゃんを近くで守れるようにもその方がええやろ?」

 

「それは……そうですが…」

 

「家のことなら心配せんでもええよ。自慢じゃないけど結構大きいからな!今更家族が1人2人増えたとて大丈夫や!……で、どうかな?」

 

「……ごめんなさい。少し、考えさせて、ください」

 

マリナちゃんは今にも消えてしまいそうな声で頭を下げた。元よりすぐに受け入れられるとは思っていなかったから問題は無い。マリナちゃんにとっても考える時間も欲しいだろうし。

 

「うん。大丈夫だよ。まだミッドチルダまで時間はあるからゆっくり考えて。勿論断ったとしても特に何かするつもりもないから安心してーな。考えが纏まるまでユタちゃんと一緒にご飯でも食べてきたら良いよ」

 

 

 

 

 

「お、きたきた」

 

クルーっていう人に食堂に案内されるとそこにはご飯を食べさせてもらっているユタがいた。確か…シグナムさんとヴィータさん。

 

お粥らしきものを食べていたユタはとても良い笑顔をしていて、久しぶりに見た笑顔で少し嬉しくなった。

 

「ほら五月雨もご飯食べな。地球(むこう)だとロクなもん食べれてなかったんだろ?」

 

私の返答を聞くことなくヴィータさんが私の腕を引っ張りユタの横に座らせた。特に何を食べたいとかが無く困ってるとヴィータさんが色々と頼んでくれる。ものの数分で色々な食べ物が目の前に出てくる。

 

「…ありがとう、ございます。いただきます」

 

久しぶりに温かいご飯を食べれて、何故か目の前がぼやけてしまう。何度も何度も拭うが一向に治らない。

 

「ひっぐ…おいしい、です」

「ならよかった」

 

 

 

 

それからユタと一緒に色々なことを聞いた。とは言ってもシグナムさんやヴィータさんから主と慕っているはやてさんの事、はやてさんとすごく仲の良いなのはさんやフェイトさん達のこと。ヴィータさんは誇らしげに、シグナムさんは当然というように語り、本当に慕われているんだな、と感じた。

 

ユタもシグナムさん達といた時のことを話す時はとても嬉しそうに、楽しそうに話していた。

 

「で、五月雨はどうするのか決めたのか?」

 

「……いえ。どうすればいいか、わからなくて…。今まではとにかくユタを生かすことに必死で、今回もユタさえ生きてくれるのならそれで良いと、思ってました。でも…いざ自分の事となると何をすればいいのか…」

 

シグナムさんは未だ迷っている私の頭を優しく撫でてくれた。そのまま言葉を続けた。

 

「五月雨はどうしたいんだ?」

 

「え?」

 

「今まではずっとあの子を守るために命を賭けてきたんだろう?じゃあ今度は自分の為にわがままを言ったって誰も責めやしないさ」

 

わたしの、したいこと。

そんなものを考えたことがなかった。だって、私が頑張らなきゃユタが…。

 

「それに出会ったばかりの私たちが信用できないというのも分かるよ。だけどあの子を生かしたいという束縛にも等しい想いの為にこれ以上五月雨だけが犠牲になる必要はない。…私達も五月雨達と会ってほんの数時間だが、この場の誰もが君たちの事を大切に想っている。だから、五月雨の背負って来たものを、少しでも良いから私たちに背負わせてくれないか?」

 

「……」

 

シグナムさんの言葉で、自分の中で頑張って保ってきたものが崩れるような感じがした。

誰かに頼っても良い?そんな事許されるの?

 

だって、研究所でも、地球でも、どこでも、自分で何とかしなきゃ、ユタと一緒に居られなかった。…自分1人で何かをしなきゃいけなかった。他人を頼るなんて……。

 

「おねーちゃん?だいじょうぶ?」

「うん、だいじょうぶ、だよ」

「ほんと?」

「うんほんとほんと」

「よかった!」

 

そんな私を心配したのかユタが膝の上に乗り私をみる。ユタの笑顔を見て私のやりたいことが一つ、たった一つだけ思い浮かんだ。

 

「あ…そっか。私……」

 

私は、ユタと一緒に居たい。一緒に笑っていたい。

ただそれだけなんだ。

 

「シグナムさん、私…」

 

「ん?」

 

「私は、ユタと一緒に生きていたい。あの子を守ってあげたい。……一緒に、笑っていたい。ただそれだけなんだと、思います。だから私も、ユタと一緒に…」

 

行かせてください。その一言を言おうとした途端に声が出なくなる。この人たちはとても優しい。だからきっと大丈夫なはずなのに、心のどこかに不安が巣食っている。

 

言葉に詰まった私の頭をシグナムさんは再度ポンポンと優しく叩く。

 

「そんな焦らなくて良いんだ。ゆっくり時間をかけて私達のことを信用してくれたらそれでいい。ま、そうでなくとも『家族』が増えるのは大歓迎さ。主はやても同じ考えだろう。お前が心の底から私たちと家族になりたいと、そう思える日が来るのを私たちはゆっくりと待っているだけさ」

 

「……」

 

ガッシャァァァン!

 

「「⁉︎」」

 

「あっちょっ!シグナム少し手伝ってくれ!この子が……」

「分かったすぐに行く。五月雨殿も手伝ってくれるか?」

「は、はいっ!」

 

音の出所を見るとユタとヴィータさんがいた。そして…多分机をひっくり返してしまったのか、辺りに食べ物が散乱していてものの見事にヴィータさんがかぶっていた。ユタはというとちょっと散っている程度で全然汚れていなかった。

 

「ユタ、ダメでしょ?ほら、ごめんなさいって」

「ごめんなさい…」

「いいっていいって。にしても派手にひっくり返したなぁ。その子に怪我がないのが幸いだよ。怪我させたってはやてに知られたら…おお怖い」

「その時はちゃんと伝えておいてやるから安心しろ」

「それチクるってことだよなシグナム⁉︎」

 

 

 

「……ユタ」

「なーに?」

「この人たちといて、どうだった?」

「たのしかった!」

「この人たちと、これからも一緒にいたい?」

「うん!でもお姉ちゃんもだよ?お姉ちゃんがいないのは、わたし、いや」

「大丈夫だよ。あの日約束したもんね。私は、ずっとユタと一緒にいるって」

 

ユタの言葉を聞いて、改めて私の心は決まった。

 

「シグナムさん。ヴィータさん」

「ん?」

「?」

 

「はやてさんと…もう一度話させてください。どうするのか、決めました」

 

「わかった。すぐに呼ぶ」

「ほら、君はこっちに」

「うん!」

 

シグナムさんに抱き上げられても嫌な顔ひとつせず、それどころかとても嬉しそうな顔をしているのを見てより一層私の決意は固まった。

 

 

 

 

 

「八神はやてさん。私も覚悟を決めました。私も一緒に連れて行ってください」

 

「うん、もちろん!よろしゅうなマリナちゃん♪」

 

「こちらこそよろしくお願いします。多少は家事の心得もありますので家ではどうぞいいようにお使いください」

 

「いや、そんな便利道具みたいにはするわけはないんやけど…。ウチとしては家族が増えるのは大歓迎や!」

 

「はい…ありが…と………」

 

バタッ

 

「⁉︎ま、マリナ⁉︎」

「スゥ……スゥ……」

 

「な、なんや…寝ただけか」

「びっくりしたぁ…」

「本当にね…」

 

それから暫くの間はずっと、夢見心地のような感覚だった。

 

 

 

 

 

 

 

〜ミッドチルダ 八神家〜

 

「そんじゃあ、うちの家族を紹介して行くなー」

 

「は、はい…」「人たくさん〜」

 

八神家のリビングには家族全員集合していた。

 

右から

はやて、シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラ、リイン、アギトと並んでおり順番に自己紹介をしていく。

 

そしてマリナ達の番になった。

 

「私は…五月雨マリナ」

「ユター」

 

と、マリナとユタはかなり簡潔に挨拶をした。

 

「ちゃうちゃう。違うやろ?」

 

「あ…そうでした。八神・サミダレ・マリナと八神ユタです。これからよろしくお願いします」

 

「よろしくやー」「よろしく」「よろしくなー!」

 

などなど、挨拶が終わり八神家のおもてなしのパーティが始まる。

 

「ユタ、これからはこの人たちにお世話になるんだよ。もう…辛い思いをしなくてすむよ」

「?」

 

「はやてさん、これからはこの子を宜しくお願いします」

 

「ええって、そんなにかしこまらんでも。それに、ユタちゃんだけやない。マリナ。君もやで。マリナも、ユタちゃんも、これからはウチの家族なんやから」

 

「ありがとうございます…!」

 

「おっ、初めて笑ったなー。可愛いでー♪」

 

「………⁉︎」

 

と、はやてがからかうとマリナは赤面した。

それを見て回りもユタも笑ってる。

 

 

 

 

 

 

 

〜数ヶ月後〜

 

「ほら!はやてさん!起きてください!」

「うー、もうちょっと…」

「そんなこと言わないー!」

 

パサッと起きるのを渋っているはやてさんの布団を私は無理やり剥ぐ。

 

「ぎゃあ!目が!」

「ほら、早く起きないともっと太陽の光を浴びせますよ?」

「わ、わかった!おきる!おきるから!」

 

と、言いながら布団から出てくるはやてさん。

なんでこんな風にするかって?

 

普段弄られている仕返しです!

 

「ほら、朝食も作ってますので」

「わかった〜」

 

と、着替えているはやてさんに言いながら私はリビングに戻る。

そこではシグナムさんたちがもう食べている。

 

「はは、この家も随分と賑やかになってきたな。マリナなんか大分キャラ変わってないか?」

 

「ほえ?私はもともとこんな感じですよ?地球では、ただ……精神的に参ってたので…」

 

「す、すまん…」

「いえ、大丈夫です。それよりも今日の卵焼きは自信作なのです!あったかいうちにどうぞ!」

「おう。いただきます。…美味し⁉︎」

「いよっし!」

 

「うー、おはようやー」

「「「「おはようー」」」」

 

そんなこんなで、今日も八神家の一日は普通に始まる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、誰もが思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さーてと、今日はユタの5歳の誕生日ー。思いっきり豪華な料理を作らないと」

「やったー!ケーキは?あるー?」

「あるよー」

 

いま、八神家にはマリナとユタの2()()()()()()()

 

そんな2人をすこし離れたところから見つめている、5人ほどの集団がいた。

 

そして、音もなくマリナたちに近づく。

 

「ん⁉︎」「きゃ…」

 

そして、手際よくマリナの口を塞ぎ手を縛り、ユタも同様にして車に詰め込んだ。

 

 

そして、八神家は空になった。

 

 

 

 

 




小ネタ
ユタがハガ○ンを知っていた理由は、大通りのテレビで流れていたのを見た為。そこで初めて見たキャラクターが傲慢のプライドだった為、そこからゾッコンになっていました。

八神家にきてからというもの、ユタがせびったことによりはやての親バカが炸裂し態々地球までDVDを買いに行ったとか



それでは読んでくださりありがとうございました
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25話 〜ユタのお姉ちゃん 後編〜

ユタの過去 後編になります
前編 中編を投稿しておりますので読んでいない方は先にそちらをお読みください
世にも珍しく同日投稿しているので私のノロマ更新に慣れていらっしゃる方は読み逃している可能性大です

それではどうぞ


 

 

 

「………」

「オイオイ、そんな睨まないでくださいよ。一緒の研究所にいた仲じゃないですか?ま、元ですけど」

 

どこ、ここ。突然後ろから目隠しされて縛られて、車で連れ去られたところまでは覚えている。

 

目隠しを取られるとどこかの廃屋みたいな場所にいて、目の前には研究所で見たことある人が。

 

「(ユタは……⁉︎)」

「そんなあたりを見回さなくても大丈夫だよ。あのガキはまだ生きてます。ま、もうすぐ始末する手筈ですが」

 

「……!」

 

「息苦しいでしょう?口枷くらいは外してあげましょう」

 

「プハァ!ふざけるな!なんでそうまでして……ユタの人生を弄ぶ!」

 

「あーもう、うるさいですよ。上からの命令なんですから私に怒鳴り散らさないでいただきたい。私が命令されたの2つ。1に『聖王の出来損ない(ユタ)が生きているかどうかの確認』。2に『生きていたのならば確保。その際マリナがいるようなら一緒に連れてこい。もし抵抗したならば生死は問わない』。ま、ということですので抵抗しないのであれば命は取りませんので大人しくしてくださいね?」

 

「……嘘をつくな。そんなことをあの研究者達が言うわけがない」

 

私が指摘すると、真顔だった顔が急に歪んだ笑みになる。ああそうだ。こいつは、こんなやつだった。

 

「ははっ!やっぱりわかるか!ああそうさ、そうだよ。今のは嘘だ。俺、ちとポカやらかしてなぁ。間違って作りかけの奴殺しちまってそれでお上の奴らカンッカンなの。で、下手すりゃ殺されるってんで研究者たちから逃げている訳」

 

取り繕っていた敬語が急に砕け、研究所で1()()()()()()()男だと、確信した

「ま、そゆわけだからどうやったら許してくれっかなーって思って、ふと思ったワケ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って。でもその場合の手土産は何がいいかなーって考えたところお前たちのことを思い出した」

 

「……まさか」

 

その男の、言わんとしていることがわかってしまった。つまりは…。

 

「お、わかったか?お前の考えている通り聖王の出来損ない(ユタ)が生きていることを研究者達は知っていた。で、時折【マリナ達から情報が漏れるとまずい】って懸念してるのも思い出したんだ。

 

てことはだ。

お前とユタの首を差し出せばあいつらも許してくれるんじゃね?

 

って考え今に至る。その為にお前が捨てられた場所を匿名で管理局に放り込んで、ずーっと監視を続けて、お前達がどうなったのか探っていたんだ。いやしっかし、まさかあの八神司令のところに引き取られるとは思わんかったわ。お陰で予定が大幅に狂ったわぁ。…っと、だらだら喋って機動六課とか出されちゃ流石にまずいんだよな。さっさとお前らは始末させてもらうよ。俺の自由のために」

 

と、男は魔法式を展開し始めた。

 

「……ざけるな」

「あぁ?」

 

「身体操作…」

 

「うぉっ⁉︎」

 

男は突如立ち上がったマリナに蹴り上げられとっさに避ける。その隙を使い無理矢理縄を引きちぎって立ち上がる。

 

 

ふざけるな…ふざけるなふざけるなふざけるな!

 

なんの権利があって、ユタの命を弄ぶ!なんでユタから人生を奪う!あの子は…

 

 

ただの女の子なんだ…!

 

 

「〜♪やるじゃん。研究所での記憶とか他の情報源からだと戦闘はからっきしだって話だったんだけどな。一般人の男数人に対して何もできなかったって。けど……そうじゃないみたいだな」

 

男の言葉はもう耳には入ってこなかった。私の胸の内は、ただ2つの感情が支配していた。

 

「殺してやる…。絶対に……」

 

「おお怖いねぇ、なら俺はその前にお前を殺すとしよう」

 

 

 

「待っててね、ユタ。すぐにいくから。私は、ユタと一緒に生きるって約束したもんね。約束は、守るよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ…」

「おいおい、威勢がいいのは最初だけか」

 

まずい、この男…強い。

 

「よっと」

「きゃあっ!」

 

男は突如私の周りから魔力弾を撃ち込んできた。

いつの間に展開したの⁉︎

 

「がはっ…」

「はぁ、最初のを見たときはちょっと期待したんだけどな…こんなもんか」

 

魔力弾に気を取られているうちに懐に潜り込まれ鳩尾を殴られ吹っ飛ばされた。

 

ああ、身体中が痛い。骨も内臓もかなり損傷してるな…。

右腕なんて、ちぎれてもおかしくないくらい痛いし血が出てるし…。ていうか、動かしてるって感覚すらないし。

 

けど……!

 

「まだ…ま…だ!」

 

私は身体操作のリミッターを解除した。

 

 

いつかシグナムさんに教わった中で、1番得意だった身体操作魔法。だけどずっと使い方には注意されてたっけなぁ。

 

(いいか?これは使い方を間違えれば強くなる代わりに体を壊してしまう。だから…そうだな、これくらいがちょうどいいだろう)

 

(はい、わかりました。…大体魔力3分の1くらい、って感じですか?)

 

(そうだな。いいか?間違ってもこれ以上強い操作をしようとするな。特に…怪我をしているときはな。怪我をしているときにも使えるのが利点でもあるが欠点でもあるのがこの魔法だ。下手をすると、体の限界を超えて動かされた代償に死ぬ可能性すらある。それだけは絶対にしてはダメだ。…お前は、ユタと一緒に生きていくんだろ?)

 

(はい、わかってます)

 

 

「(ごめんなさい、シグナムさん。けど…そんなことを言ってられそうにありません)……ふぅ、身体操作、フルバースト!」

 

「ん?」

 

私は、密かに練習していた外部からの完全操作をする。完全操作に切り替えると同時にシグナムさんの行動を()()()()()()()()()()()()()

 

すぐそばの鉄パイプを取りシグナムさんのような剣撃を叩き込む。

 

「うぉっ⁉︎」

「はあぁ!」

「ちっ!」

無理やり蹴り飛ばされ距離を取られるも、手応えは確実にあった。

 

「逃さない!!」

 

身体中が悲鳴を上げる。けどお構いなしに追撃をしにいく。するとさっきまで立ちっぱなしでほとんど動こうとしなかった男が初めて回避行動を見せた。

 

やっぱりシグナムさんのレベルなら通じる!

 

「せやぁっ!」

「ふんっ」

 

先ほどと同じように突如周りに魔力弾が出現し私に向かって撃ち込まれてくる。

それを鉄パイプで弾き飛ばしていく。

しかし、数が多いこともあり何発か受ける。

だが私はそんなことも御構い無しに男に突っ込む。

 

 

だけど、これはしてはいけなかった。

 

私は、魔力弾を受けながらも男に突撃するべきだった。

 

 

「……え」

「そんなんだから…お前は負けるんだよ」

 

男が盾にしたものを見た瞬間に体が止まってしまう。盾にされたものは見間違えようもない。

 

ユタだった。

 

それを見て私は身体操作を思わず解除してしまう。

 

「(なんで⁉︎いつの間に⁉︎)

 

そして、冷たいものが私の胸を貫く。それと真反対に、とても温かい感触が。

 

男はいつの間にか刀を装備しており、私の胸を綺麗に貫いていた。

 

「お姉…ちゃん?」

「ユ……タ……」

 

「さようなら、五月雨マリナ」

 

ああ……ごめんね…ユタ……

 

そのまま私の意識は、消えていった。

 

 

 

 

「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」

「あーあー、うっせえよ、どうせお前も死ぬんだよ」

 

そんなことを男はいうがユタは聞く耳を持っていなかった。

それはそうだ。目の前で一番大事な人が倒れているんだから。

 

死という概念をまだ理解していないユタにも、これがどう言った状況かわかっていた。だからこそ、マリナのそばから離れようとしない。いや、できなかった。

 

 

 

ドカァァァァン!

 

 

 

「な、なんだ⁉︎」

 

突如、男のいる廃屋の壁が爆音と共に崩れ去る。

正確にいうなら爆破された、だろう。

 

その先には……。

 

「やっぱり……!」「………っ!」「オラてめえか!ユタとマリナに何しやがった!」

 

怒りに満ちた八神はやて、シグナム、ヴィータがいた。

 

「…シグナム、ヴィータ。10…いや5秒で片付けるよ。最優先は……ユタとマリナを助けることと……その男の確保や」

「了解した…」

「絶対許さねえ!」

 

 

 

 

 

 

「ごめん…ごめんな、マリナ…。ウチの…せいで……」

「マリナ!気をしっかり持て!」

「ユタ、みちゃ…だめだ」

 

そこからは言った通り5秒で決着した。

 

本物のシグナムの剣撃とヴィータの怒涛のラッシュにより、男は一瞬で戦闘不能になった。

 

はやては、マリナのそばに跪き泣いていた。

シグナムはマリナに止血を施し手を強く握って声をかけ続けた。

ユタはヴィータに抱き抱えられていて、マリナの姿を見せないよう離れたところにいた。

 

マリナは体も冷たい。もう、命はないように思えた。

 

「……は…やて……さん?しぐな…む、さん」

「マリナ⁉︎」

「よかった、目が覚めたか!安心しろ、すぐに医療班が来るからな」

 

「ユ…………タは…?」

 

「無事や!後はあんたを助ければ終わりや!」

 

「ああ、よかった……。シグ…ナムさん、ごめ…さい……おしえ…もらたのに……」

 

「大丈夫だ。今は無理に喋るんじゃない。傷口が開くぞ」

 

「はや…さ…。伝言を……お願い…ます。あの子に……ユタに…」

 

「アホ!自分で言いや!なに弱気になってんや!」

 

「ユタ……あなたは普通の女の子。クローンであるとか関係ない。女の子らしく、恋もして、元気に、幸せに……って……。はやて…さん、シグナムさん……ユタを……お願……」

 

こんなに喋れるのは、死ぬ直前に死者は一時的に回復するというよくわからない現象なのか。マリナは血を吐きながらもしゃべり続けている。

 

「なんでや!約束したんやろ!ユタと、これからはずっと一緒にいるって…」

 

「はや…さ…嘘…ついたことになっ……ごめんなさい…ごめんなさい…。これからは…あの子を…よろしくお願いします。それと…ありがとう……ございました。私を……家族にしてくれて…。みんな…だいすき…です」

 

「マリナ!」

 

その言葉を最後にマリナは

 

息を引き取った。

 

「……。シグナム、ヴィータ、撤収しよう。これ以上こんなところに……マリナを置いておくわけには、いかんからな」

「承知した」

「わかった」

 

はやては、涙を拭いながらも立ち上がり、男とマリナを回収し本部に戻った。




これにてユタの過去編終了。

まあなんとなくは…みんな察していたんだろうな、とは思ってます。
ちなみにですが私は機動六課についてはにわかですので何か変な点があっても優しい目で見守ってくださいお願いします(小声


それでは読んでくださりありがとうございます
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26話 〜親子喧嘩〜

今回から無限書庫編に突入です

いやぁ筆が乗りに乗る。おそらく後2〜3話はこのまま突っ走れそうです

それではどうぞ


「これで私の話は終わり。……まあ、みんながそう言う反応をするのは、わかってた」

 

話が終わって辺りをみてみると案の定お通夜状態。まあこんな話を聞いて騒げる方が精神的にやばいか。

 

「コロナちゃん、合宿の時になんで辛いのに頑張れるのか私に聞いたよね?」

 

「え?あ、はい」

 

「私の強くなりたい理由。これでわかってくれた?」

 

「……はい」

 

コロナちゃんは暗い顔をしながら頷いていた。はー、だからあまり関わりたくないし話したくもなかったのに。

 

「アインハルト、もう理解してくれてると思うけど、私にとって聖王女オリヴィエの血は、この瞳は、生まれは、呪いのようなものなの。…母さんの子になってから、ずっと心配をかけたくないって、そう思ってた。だけどこの血が、この瞳がトラブルを呼んで、それで母さんを悲しませる」

 

「……」

 

「本当ならこんな血は要らないって、そう言いたい」

 

そう告げると母さんやヴィヴィオちゃん、果てはアインハルト達の顔も曇る。

 

「…ごめ「ま、それはそれとしてこの血のおかげで母さん達と出会えたのもまた事実。元より私自身の出生とか、血のつながりとか心底どうでもいいからね。だから…ヴィヴィオちゃん」

 

「っ、はい」

 

アインハルトが何かを言おうとしている上から被せるように言葉を続ける。

捨てられたあたりの話からずっと目を曇らせてるヴィヴィオちゃんに声をかけると驚いたのか少し声が高くなっていた。それに構わず言おうと思っていたことを口に出す。

 

「ヴィヴィオちゃんは、自分が造られたから私が捨てられ、悲しい思いをした。そう考えてるんでしょ?」

 

「……はい」

 

予想通り、ヴィヴィオちゃんは私の経緯を自分のせいだと思い込んでいたらしい。確認のために聞くと余計に声から元気がなくなっていた。

 

「はぁ…だろうと思った。さっきも言ったように私の生まれとか、血の繋がりとかはどうでもいいの。なんなら経緯もね。…どちらにしろ『ゆりかごの鍵』として適正値が低かった私は廃棄処分か、殺処分されるかだっただろうし、たまたま捨てる理由がヴィヴィオちゃん、もしくは他に作ってたクローンの子になっただけなんだからそんなに気にしなくていいんだよ」

 

「……」

 

「元より、さっきも言ったけど私に流れる血のおかげで母さん達と出会えたの。確かに小さい頃は辛かった。だけど私にはお姉ちゃんがいて、母さんたちがいて……捨てられたおかげでみんなと会えて、ジークリンデ・エレミアっていう目標もできて、魔法戦技も大好きになれて。そして今ではヴィヴィオちゃんやみんなと楽しく練習できてる。

 

だから……それ以上自分を責めないで」

 

「……はい」

 

「っと、はい辛気臭い話は終わりにしよう。…で、いいよね?母さん」

 

横でずっと静かに見守っていた母さんに問いかけると何やら腕を組みながら考えていた。……やな予感。

 

「うん大丈夫。だけどウチとしては一個不満がある」

 

「はい?」

 

「マリナのことを言葉だけじゃあまりにも伝えきれん!あの子の仕草とか癖とか、得意料理とか!まだまだ話せたやろ!」

 

「そっち⁉︎」

 

「あの子なぁ、シグナム…あ、このピンク髪のザ武士って感じの人な。この人のこと大好きすぎてな…」

 

「はい母さん話が長くなるからやめようねー親バカにしか見えないよー」

 

「親バカで何が悪い!」

 

いや悪くないけど、果てしなくめんどくさいの分かろう?

 

 

 

閑話休題

 

 

 

「……」

「ヴィヴィオさん?」「ヴィヴィちゃんどないした?」

 

ヴィヴィオちゃんがなんか考え込んでいた。どうしたんだろうね。私のことについてまだ吹っ切れていないのだろうか。

 

「ああ、いえ。…ユタさんのお話でちょっと色々と考えてしまったのと、それとは別でアインハルトさんやチャンピオンたちのお話と『エレミア』って名前で改めて思い出したんです。『エレミア』って名前が冠された武術家の手記を無限書庫で見かけたような気がして」

「それ、私も覚えがある!検索目録でタイトルを見ただけだったけど」

「確か、古代ベルカ項目だった『歴史上の人物の手記』のみだしで!」

 

と、明るく振る舞ってくれる初等科組。ちょっとでも空気を変えたいと言う思いからなのか。でも私にとってはそれが少し有難くも感じた。

 

ていうかヴィヴィオちゃんもコロナちゃんもリオちゃんも無限書庫に入ったことあるの?いいなぁ、私入ったことないのに。

 

「母さん、無限書庫での探索許可ってもらえるものなの?」

「そやね、ウチから許可を申請してもええんやけど…もっと手っ取り早い方法があるよ」

「?」

 

どういうことだろうと思っているとヴィヴィオちゃんがカバンから一枚のカードを出す。

 

「わたし、無限書庫の司書資格を持ってます!」

 

「「「「「ええええーーーーーッ!」」」」」

 

うそー、ヴィヴィオちゃんなんで持ってんの……羨ましい。

 

「あたしたちも立ち入りパスは持ってます!」「そうなんです」

 

「はーー……。君ら、どういう小学生なの」

 

まさか、リオちゃんとコロナちゃんも持ってるとは…。

 

「じゃあ、早速明日にでも」

「私たちで調べて来ます!」

「持ち出しできる資料なら持ち出し申請も!」

 

と、初等科トリオが言う。

元気いいねー。そういう子好きだよ。

 

『またロリコンになってますよ変態マスター』

「ロリコンじゃないわい。あと、久々に言うけど心を読まない」

『それは無理な相談です』

「ですよねー知ってた」

 

「…わたしも行きます」

「ウチも…」

「それ、オレたちも行けねーか?」

「わたしもですわ」

 

「いやいやいや!」「勝ち残ってるみなさんはまだ試合が!」

 

と、無限書庫への探索に名乗りをあげたのはアインハルトを始めジークさんに番長、ヴィクターさん。

うん、この人たちが行くなら、わたしは行かなくてもいいかな。

 

「ここまで聞かせてもらった話の結末を子供達ばかりに任せるのもなんだか落ち着きませんわ」

「とくにウチはご先祖様のことなんやし」

「それに、試合前だからって練習以外は何もしてねーってわけでもねーんだ」

 

おおう、番長達は妙にやる気ですね。頑張ってくださいね。いい報告待ってますよ。

 

「敗戦組はまあ、気兼ねなく行けるから付き合うとして」「わたしもチャンピオンのお供をしませんと」「な…ならボクも行きます!」

 

ミカヤさんにエルスさんにミウラまで行く気らしい。みんな元気なことで。

 

「わたしはパス…「ほんなら、全員行くってことでええなー!」……母さん、私はパスって言ったんだけど」

 

私には断る権利すらないのか。理不尽を許すまじ!独身の神の理不尽を許すな!

 

「ユタ?いま何を思っとったか言ってみぃ」

「イエナニモ」

「クラウソラス」

「急に魔力弾をぶつけようとしてこないで!」

「はぁ、やっぱアンタと一緒にいたら落ち着けれんわ」

「こっちのセリフだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、本局の宿舎も押さえられたし皆で一泊して朝イチで行こか?」

 

母さんの問いに私を除く全員ではーいと言う。

はぁ…やる気が起きない。

 

「ずいぶん親切にして下さるんですね」

 

母さんにヴィクターさんが言う。

 

「私自身ベルカっ子やからね。同胞同士仲良くしたいんよ。それにユタのこともあるしなー」

「私はどっちかと言うと関わりたくないんだけど」

 

「できるなら、ジークの過去にはあまり触れて欲しくないと言うのも本音なんです。あの子は『エレミア』ですけど…中身は本当に普通の女の子ですから」

 

「わかってるよー。そやけど、そのジークリンデも自分の過去とアインハルトの過去に向き合って行くつもりなんやろ?私もそれを応援してあげたい…ゆーんはダメかな?」

 

「おう、お嬢!何ごちゃごちゃやってんだ!さっさと荷物まとめろよー」

「今行きますわ!

八神司令、ジークに変わってご厚意に感謝いたします」

 

「うん♪これからも仲良くしてくれたら嬉しいよ」

 

そして、ヴィクターさんはヴィヴィオちゃんに手を引かれて離れていった。

 

 

 

「ユタ」

「何?」

 

会場に私と母さんだけが残り静寂に包まれる。それを見計らったかのように名前を呼ばれた。

 

「今回のはアンタも関わるべきやと思うてる」

 

「……何で?」

 

「自分のご先祖様としっかりと向き合うチャンスってことや」

 

「別に…私は聖王女オリヴィエが、その人がどんなことをしてた人とか興味がない…。聖王女は聖王女、私は私だし…」

 

「はぁ…ユタ。一つだけ言うとくわ」

 

「?」

 

「いい加減、そうやって逃げるのはやめぇや」

 

母さんからそう言われ、思わず息が詰まる。呼吸が苦しくなる。…だけどこれだけは反論したくて、無理に口を開く。

 

「……逃げてない」

 

「いいや、逃げとる。それは断言してやるわ。ユタは、興味ないって言うのは、行きたくないってのは、また自分のせいで誰かに迷惑をかけるかもしれへんって思いからやろ?だけどそれは違う。あの子たちはみんな自分の意思でアインハルトやジークリンデ選手達のご先祖様について知ろうと決めて動いてる。

 

ユタ、あんたのその行動はみんなを馬鹿にしとるのと同じや」

 

「……違う」

 

「違わへんよ。マリナも言ってくれたやろ。聖王女の血を引いていようが関係ない。あんたは普通の女の子や。何処にでもおる12年しか生きていない子供。それで他人に迷惑をかけずに、って思いは立派やとは思うよ?

 

でも…ウチはユタの母親なのも忘れんでや。…あんまりこんな言い方したくないけどな、子供(ユタ)子供(ユタ)らしく、(ウチ)を頼ってーな。今のユタは…見ていてすごく心配なんよ。一回くらい、全部打ち明けてほしい」

 

「……じゃん」

 

「?」

 

「出来るわけないじゃんか!」

 

 

 

 

 

 

「あ、忘れ物しちゃった!」

「もー何やってるのヴィヴィオ」

「ごめーん!すぐとってくるから先に行ってて!」

「わかったー」

 

荷物を置いている部屋へ向かう最中、ふと忘れ物に気づきリオたちに断りを入れて逆戻りする。

 

「早くしないと鍵閉めちゃうかも……」

 

大広間の扉に着き、手をかけるとまだ鍵は閉まっておらず、すんなりと開いてくれた。

 

「よかっ…」

 

 

「出来るわけないじゃんか!」

「っ⁉︎」

 

 

扉を開けた瞬間聞こえてきたのはユタさんの声。いつもの元気をくれる陽気な声じゃなく、苦痛に満ちた悲しい声。それに驚いて思わず隠れてしまった。

 

「私は、()()()!あの日母さんが、みんなが家族になってくれてからずっと、ずっとずっとずっと!八神家のみんなが大事で大切で大好きで!シグナム姉さんなんか会った時からすごく優しかったしヴィータさんもずっと楽しませてくれてた!母さんも危険なことわかってるのにその上で家族として迎え入れてくれたから本当にずっと大好きなの!でも、だからこそずっと心配かけたくなくて!」

 

「〜…!アンタは抱え込みすぎなんや!さっきも言うたやろ!ちょっとくらいウチを頼れって!アンタはまだ12歳の子供なんやから!自分1人で全部どうにかなる訳ないやろ!アンタが人に心配かけたくなくて頑張ろうとしてんのは分かるけど余計に心配するだけや!」

 

「じゃあ何!また聖王の血が云々って相談すればよかったの⁉︎母さん達がすごく悲しそうな顔になるのはいっつも私の事なのに⁉︎」

 

「当たり前やろうが!それが親っちゅーもんや!」

 

「私にとってそれが1番嫌なの!」

 

「ウチにとっちゃアンタのその行動が1番辛いんや!マリナの時みたいに何もできないのが歯痒くて辛いんや!何もできることがなくて見守ることしかできないのがどれだけ辛いか!」

 

「私もだよ!なまじ記憶力が良いせいであの日お姉ちゃんが死んでしまうところとか、その時の母さんやシグナム姉さんがお姉ちゃんの近くで見せたあの顔が!ずっと私の心の中に留まってるの!

 

それ以来悲しませたくなくて!その為には強くならなきゃって思って頑張って!だけどいざ本番で決勝まで行けたあの日にまた心配かけちゃって!すごく、すごくすごくすごく辛かった!悲しかった!だからこそもっと強くならなきゃって思って今日まで頑張ってきた!

 

だけど!

 

アインハルトと()()()()()()()()からまた聖王がどうのこうのってまた心配をかけちゃってから!あの日以来ずっと、ずっとずっとずっと聖王女オリヴィエの記憶に魘され始めてから!

 

 

……私は、もう、自分のこの血が、嫌いで嫌いでしょうがないの。

いっつもそう。母さんを悲しませるのは、私に流れる聖王女の血。

 

だったらこんなもの、要らない……。いっそのこと…この眼も、一年前のあの日、抉り取れてしまえたらどんなに良かったか」

 

初めて見せるユタさんの本音。それを吐き出していたユタさんの声は最初こそ強かったけど段々とか細く、弱く、最後には泣きながら小さく呟いていた。

 

私にとっては他人事のように思えなくて。だけど何を言えば良いのかわからなくって。

 

助けたいけど今の私では到底無理だと、そう思ってしまった。

 

「私に流れるこの血が嫌い。この血のせいで大好きな人たちを悲しませる。だけど……この血のおかげで私は、私達は母さん達に出会えた。

 

……もう、どうすれば良いのか、わからないの」

 

「あ、ちょっ、ユタ!」

 

ユタさんは涙を拭いながら言い、出入り口へ向かう。それをはやてさんが呼び止めるも、扉の取っ手を握った時に少し止まっただけで。

 

「…無限書庫には、ちゃんと行くよ。私自身と向き合うってチャンスだって言うのは納得してるから。…だけど、それだけ。私は私。聖王女は聖王女。

 

私は……聖王女じゃない。アインハルトとか、ジークさんとかの願いには、何も関係がない」

 

パタンと扉が閉まり、ユタさんがどこかへ行ったのだろうと分かる。だけどこの雰囲気の中でても良いのかなと思いその場から動けずにいた。

 

「……ヴィヴィオちゃん、出てきても大丈夫よ」

 

「うぇっ⁉︎」

 

だけど隠れていたのはバレていたらしく、いつもの活発なはやてさんからは考えられないような弱々しい声で呼ばれ少しびっくりしてしまう。

 

「え、えーと、その……ごめんなさい。聞くつもりじゃ…」

 

「ええよええよ。気にしてへんから。…プライドもすまんなぁ。こんな不甲斐ない親で」

 

『いえいえお気になさらず。ですがまあ、御二方に言いたいことロッキー山脈並みに大っっ量にありますが今はやめておきましょう」

 

「はは、ありがとーな。……それでヴィヴィオちゃんはどないしたん?」

 

「え⁉︎えーと、忘れ物しちゃってそれで取りに戻ってきて…そしたらユタさんの声が聞こえて思わず隠れちゃいまして……」

 

「…ごめんなぁ。見苦しい所を。やっぱりウチはつくづく親って言うのに向いてへんなぁ…。なのはちゃんが羨ましいよ。傷つくことを恐れずに真っ直ぐぶつかれて、もっと仲良くなれて。ウチよりも母親っていうのをやってる時間は短いはずなのに立派な母親で…。あ、この話は内緒でお願いな」

 

笑いながらそう言うけれど、どう見ても無理して笑っているようにしか見えなかった。

 

「……ヴィヴィオちゃん」

 

「っ、はいっ!」

 

「きっと無限書庫でユタは無理してでもいつも通り振る舞うと思う。だから…無限書庫から戻ってくるまではユタのこと、気にかけてあげてくれないかな?」

 

「勿論です!任せてください!」

 

「ありがとうなぁ。プライドも、もしユタが暴れたらその時は遠慮なくやるんやで?」

 

『お任せください。はやてさん直伝の魔力回路ハックの腕を見せつけてあげましょう。なによりマスターに他人を傷つけてしまう度胸なんてありませんし、元よりそうなった時は止めるつもりでしたので。とりあえずマスターの黒歴史5選あたりを公共放送で流しましょうか』

 

「それをやるとウチにもダメージきそうやからやめてな?」

 

そうやって笑いながらはやてさんにプライドさんを預けられ、会場を後にする。

だけどどうしても、嫌な予感が拭えなかった。

 

 

 

 

 

〜翌日 管理局本局内部〜

 

「あ、ユタさん。これ愛機のプライドさんです。昨日忘れてましたよ」

 

「あらま、ありがと。んでプライドは何も変なことしてないよね?」

『マスターよりも補助しがいのある方でしたので正直言うと乗り換えよっかなーとか思いました。おかげでクリス様と三日三晩の熱い夜を過ごすことになりましたが」

「1日しか経ってないが?」

 

 

 

 

 

 

「はい、みなさんこちらですー」

 

ヴィヴィオちゃんに案内され無限書庫へ案内される。今は一般解放区画だとのこと。何度かきたことあるけど広すぎていまだに覚えきれていない。

 

「目的地はこの先ですよー」

 

と、今度はゲートの前まで案内された。

 

「では、こちらのゲートから入ります!書庫の中は無重力なので慣れていないと気分が悪くなる方もいらっしゃいます。そう言う時はすぐにお伝えくださいね!」

 

はーーい、と一同で答える。いつのまに遠足になったんですかね。

 

「それでは古代ベルカ区画に……ゲート・オープン!」

 

その言葉の直後、私たちはなんとも言い難い不思議な空間に出た。

 

「「「「おおーーーー!!!」」」」

 

周りには本棚が大量、いや、大量の域を超えて所蔵されていてその空間が無限に続いている。

そして、何と言っても無重力だ。

 

初めて来る人……特にミウラや番長、ジークさんは戸惑っている様子だ。

 

私はというと…

 

『マスター、器用なのか影が便利なのかよくわかりませんね』

「影が便利があってると思う」

 

私特有の魔力変換で影を作り、それで体を支えることでなんとか体勢は保てる。少しコツはいるけど動きやすくはある。影のロープで体を繋いでいるようなものだろうか。

 

「それでは目的のエリアに向かいまーす!……あれです!ここが今回の目的の場所!」

「どこかの王家が所蔵していた書物庫らしいですよ」

「一時調査は行われているんですがとくに危険物は確認されてないそうです」

 

無重力空間をしばらく進み扉を見つけるとヴィヴィオちゃんたちが元気に説明してくれる。

 

うん、ていうか危険物とかそんなものあるの?

 

『前は守護用のゴーレムや迷宮なんかがあったらしいですよ』

「へー、そうなんだ。つか、しれっと心読まないでもらって良い?」

『無理な相談ですね』

 

知ってた。

 

「それじゃあ扉を開きますねー」

 

ゴゴゴゴと、いかにもな音を立てて扉は開いていった。

中には……

 

「ご覧の通り迷宮型です!」

 

文字通り、迷宮がそこにはあった。

 

「とりあえず10箇所くらいまでありそうな場所を絞り込んだので」

「手分けして探しませんか?」

 

うん、いいね。その案でいこう。というか、私は初めての土地には弱いから1人だと死ぬ。確実に。

 

ちなみに班分けは

 

ヴィヴィオ&ミウラ

ハリーさん一味&エルスさん

ヴィクターさん&コロナちゃん

ミカヤさん&リオちゃん

アインハルト&ジークさん&私

 

その際にヴィヴィオちゃんから大丈夫なのかとか、色々確認されたけど体調万全だから大丈夫と返した。だけどそれでも心配そうな顔は無くなっていなかったけど。

 

「さー!それでは調査に入りましょう!」

「「「「「「「おーーー!!!」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

「ユタのそれほんまに便利やな」

「便利ですけど魔力の消費を最小限にしないとすぐガス欠になっちゃいますねコレ」

「けどいつ見ても…珍しいって思ってしまいます」

 

うん、だろうね。私も未だになんでこうなってるのが不思議だし。

 

「うーん、にしても当たりはなさそう。アインハルトたちは?」

「ウチはまだ見つけてへん」

「目的の本はないようですが…この本棚はクラウスたちが生きていた時代とかなり近いもののようです」

「目的のは無いかぁ…キツイな……。ああ……そういえば()()()()()

 

「「・・・」」

 

本探しの最中に急にジークさんが発した言葉が理解できず、私もアインハルトもジークさんの方をじっと見てしまった。

 

「あの…」

「ジークさん、それってアインハルトのこと?」

 

「あああ!そや!言ってへんかった!『アインハルト』やから『ハルにゃん』って呼んでええ?って聞こうと思ってたんよー!そしたらいきなりこっちで呼んでもーたーーー!」

 

……なんだ、この面白い光景は。ジークさんが頭ブンブン振り回してるしアインハルトは赤面してるし。

 

 

とりあえず、写真は確保した。

 

 

 

「アインハルト・ストラトス。ジークリンデ・エレミア。ユタ・ヤガミ」

 

 

そんな、楽しい本探しは突如あらわれた乱入者によって止められた。

 

声のした方向を見ると魔女がいた。金髪でいかにもな魔女が。

けど、見たことがある。

 

「……ファビア・クロゼルグ選手?なんでこんなとこに」

 

クロゼルグという名前を呼んだ瞬間また頭がズキっと痛くなる。少し魔力制御が揺らいで体が傾くけど何とか耐える。

 

『真名認識・水晶体認証終了』

 

「「「⁉︎」」」

 

突然、魔女の周りにいた悪魔のようなものが巨大化し口を大きく開けてきた。

 

吸収(イタダキマス)

 

そして、私たちはそれに食べられた。

 

私たちは、小さくされて小型の瓶に詰められてしまう。

 

「あなたたちには後で聞きたいことがあるから個別の瓶。今はエレミアの手記を----」

 

ダメだ…こいつの言葉を聞いてると……頭が……いた……。

 

「ガイスト・ナーゲル!」

 

そんな中、外から私の瓶は破壊された。正確にはジークさんの『エレミアの神髄』が発動して壊した余波で私のも壊れただけだった。

 

 

けど、未だに頭の痛さは治らない、

むしろ酷くなっていっている。

目の前の光景を見ることすら辛い。

 

 

私はその場に漂うしかなく、そのまま意識を失った。




8,000字ェ……
自分でもびっくり

さてはて 次で1番描きたかったものがおそらく書けるので頑張りますヨォ〜


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27話 〜本音〜

聖王とか私の血筋の事なんて本当にどうでもよかった。

ただお姉ちゃんと一緒にいられたらそれだけで。
そりゃ2人きりの時はとても辛かったけど、それでもよかった。

母さん達と出会ってからは、毎日がずっと楽しかった。
なのに……

だから2度と悲しませたくなくて、強く在りたいと思って。

だけど、母さんを悲しませることの方が多くって。そうしない為に何をすればいいのかずっと考えて。


……もう、これしか、思いつかないや。


頭が、割れるように痛い。

 

おかしい、古代ベルカとか、の、末裔とか、に、あっ、てか……ら……ず……と

 

記憶も、いろ、んな物が頭の中、で、ごちゃ、ご、ちゃして

 

『マスター、目を覚ましたのなら早く拾っ…マスター?』

 

ユタは、無意識のまま起きていた。そして、セットアップをし、虚ろな目をしながらもどこかに行こうとする。

 

そばで服と一緒に漂っていた愛機であるプライドの言葉も届いていなかった。

 

「………」

『マスター、どうしたんですか!』

 

プライドが声を荒げる。

それも当然だ。

 

ユタの変換した影が右腕、そして顔の左半分、正確には左目の部分を覆っていた。いや、覆うというよりは溢れ出していると言った表現が正しいかもしれない。

 

「さがさ…なきゃ…」

『マスター!いい加減目を覚ましてください!』

 

そんなプライドの声も届かずユタは誰かを探しに行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミウラ・リナルディ、ヴィヴィオ・()()()()

 

ファビアは、ヴィヴィオ達を見つけると同時に名前を呼んだ。そして掌にいた悪魔っぽいものが巨大化し飲み込もうとする。

 

「ディバインバスター!」

 

それをヴィヴィオは魔力弾を撃ち回避した。

 

「ファビア・クロゼルグ選手ですよね?インターミドルで勝ち残ってる。説明してくれませんか?どういうことか」

 

「私は『魔女』だから。欲しいものがあるから魔法を使って手に入れる。【失せよ光明(ブラックカーテン)】」

「「⁉︎」」

 

突然、2人の視界が真っ暗になる。

 

「魔女の呪いから逃れる術はない」

 

そして、2人ともあっけなく飲み込まれた。

が……

 

「……?オリヴィエの末裔は……?」

 

ヴィヴィオだけ瓶詰めにされていなかった。

 

「名前を間違えたかな?…いいよ、瓶詰めできなくてもどうせ逃げられないし。ダールグリュン達の方もそろそろ制圧できてる頃。念のため人質も預けてあるし、入り口の守りも万全。もう誰もここにたどり着けない。あとはゆっくりエレミアの手記を探すだけ」

 

 

 

 

 

 

別の場所では、ヴィクターとコロナが大量の悪魔相手に応戦していた。

 

「ヴィクターさん、あれ…」

「?」

 

コロナが親玉のような悪魔を指差す。

すると、そこには瓶詰めにされたハリー、エルス、ミカヤ、リオたちがいた。

 

「なんてことを……」

「?」

 

だが、瓶の中の人たちは危機とは思っていなかったらしい。

 

エルスは口パクで『あと1分』と伝えた。

それは、イレイザーの準備完了まで1分という意味に他ならなかった。

その意味を受け取った2人は不敵に笑う。

 

「ハリーさんのイレイザーなら自力で脱出できますね!」

「まあ、そのくらいは当然ですわね!むしろ1分以内に全滅させてあの不良娘に恩を着せてあげますわ!」

「そうしましょう!」

 

 

 

 

 

 

場所は少し戻りファビアのいる場所。

 

「(エレミアの手記、別に興味があるわけじゃないけど奪って私のものにする。オリヴィエ、エレミア、イングヴァルトの三人への復讐はクロゼルグの血統に課せられた使命)」

 

「『魔女の誇りを傷つけたものは未来永劫呪われよ』だっけ?」

 

そんなファビアの探索を中断したのは

 

「そんなこと言ってるから時代に取り残されるんだよ。時空管理局嘱託魔道士ルーテシア・アルピーノ!盗聴・窃視及び不正アクセスの件でお話を聞きに来ました!」

 

ルーテシアだった。

 

「なら、ルーテシア・アルピーノ、これを見て」

 

ファビアはユタたちに使った悪魔を使う。

 

『真名認識、水晶体確認』

 

そして、また巨大化し飲み込まれ---

 

「ソニック」

 

たかと思ったが飲み込まれておらず、いつの間にかヴィヴィオを抱きかかえていた。

 

「名前を呼んで相手を飲み込む……古典的な技だねえ。だけど時代はスピードなんだよね。古い技に固執してちゃあ取り残されるよ」

 

ルーテシアを睨むファビア。その懐を何かが駆け抜けた。

 

「ティオ、ナイス〜♪」『にゃー♪」

 

それはティオだった。ティオは的確にアインハルトの入っていた瓶を取り返していた。

 

「……!」

「さーて、おとなしく降参したほうがいいよ?でないとお姉さんがお仕置きしちゃうから」

「魔女をあまりなめないほうがいい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「あ!ユタさん!よかった無事……で?」

「ユタ?」

 

ファビアとルーテシアが向かい合っている頃、ヴィクターとコロナの元にユタが現れる。

だが、二人とも困惑していた。

 

ユタの影を見たことはあったがあんな使い方をしたのを見たことがないから。

 

だがそれ以上にユタの冷たい目に驚いていた。そんな表情をする人じゃないのを知っていたから。

 

「……邪魔」

「「⁉︎」」

 

ユタの足元から突然影が絨毯のように広がったと思うと無数にいたと思えた悪魔に向かって影が下から一気に伸び突き刺さる。

 

だが、コロナたちの安全を全く配慮しておらず結果的にコロナもヴィクターも僅かだが傷を負った。

 

『キィ!』

 

それを見てまずいと思ったのかリーダーっぽい悪魔は何処かに行ってしまった。無事だということは避けたということだろう。

それを追いかけるようにしてユタもどこかに行ってしまった。

 

「ゆ、ユタ⁉︎」「ユタさん、どうしたんですか⁉︎」

『コロナさん!ヴィクターさん!』

 

2人が追いかけると途中で通信が入った。それは人ではなくユタの愛機のプライドからだった。

 

「プライドさん?」「プライド?どうしましたの?」

 

『2人とも、急いでマスターを追いかけて止めてください!でないと、マスターは……ああもうっ!またですかっ!』

 

「え?」「どういう……」

 

『とりあえず、早くお願いします!ああついでにコロナさんかヴィクターさんのどちらか私の回収をしてください!すぐ近くなんで!それじゃ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう?投降する気になった?」

「…………」

 

ファビアは壁際に捕らえられていた。が、諦めている気配はなく何かを詠唱している。

 

「警告だよ。詠唱を止めなさい。でないと公務執行妨害も追加に……」

 

ルーテシアが右腕をあげると、そこには人形のようなものが張り付き、グローブが花へ変えられる。

その直後に真上から瓶詰めにする時に使っていた悪魔がのしかかってきた。

 

「コノ……ッ」

悪魔合体(デビルユナイト)

 

リーダー格のような小さい悪魔たちが次々とファビアに取り込まれていく。そして最後には飲み込まれたかと思うとその中で光りだし、少し大人びたファビアがいた。

 

 

「魔女誇りを傷つけた者は-」

「未来永劫呪われよって?まー向かってきてくれるなら望むところ!」

「【這え 穢れの地に(グラビティプレス)】」

「んんっ⁉︎ふおおっ⁉︎」

 

突如ルーテシアが地面に激突した。まるで、そこだけ重力が発生したように。

 

「(重力発生系、ミッドやベルカのとは随分違うなぁ!)」

「撃って」

 

悪魔によって槍がルーテシアに放たれる。

 

「!」

 

が、それはアインハルトによって止められていた。

 

「クラウス…!」

「スパークスプラッシュ!」

 

更に、驚いているファビアの後ろからヴィヴィオが現れ殴り飛ばした。

 

「ロック!」

 

ヴィヴィオによりバインドをかけられ、ファビアは再度捕らえられた。

 

「2人とも目覚めたんだ?ナイスタイミングだよー」

「ええ、ルーテシアさんのおかげです」

「助けてくれてありがとルールー!」

「なんのなんのー。他のみんなも急いで探さないとだね」

 

そこに、新たに1人-----ちっちゃくなったジークリンデが現れた。

 

「魔女っ子どこ行ったー!」

「チャンピオン…」

「ハルにゃん⁉︎」

「あの子の魔法にやられちゃいました?」

「ううー恥ずかしながら」

「じゃ、魔女っ子に元に戻してもらいましょうか。事情も聞かないといけないですし」

 

だがジークリンデとアインハルトを見たファビアは更に怒りを露わにする。

 

「私は----呪うことをやめない!私を見捨てた王たちを私は絶対に許さないから!」

 

ファビアは、バインドを無理やり解き姿がさらに変化し、翼が生える。

 

 

 

「……!みつ…け…た!」

 

そこに、さらに乱入者-ユタ-が現れた。

 

 

 

ユタのその姿を見て、この場にいる人はどう思ったのだろうか。

思ったことはいろいろあるだろうが一つの思いだけは全員にあった。

 

 

今のユタは止めないといけない、と。

 

 

「クラウス…!あと、クロゼルグにエレミアも……。嗚呼、やっと……」

 

ユタはアインハルトとファビア、ジークに向かい影を一気に伸ばす。

3人は慌てて避けはするもいた場所は綺麗に削られていた。削られた跡をみて3人は臨戦体制に入る。だけどアインハルトとジークリンデの2人には明らかに迷いが見られた。

 

「ユタさん!正気に戻って!」

 

ヴィヴィオが叫ぶが届かず、この場の全員に対して敵対行動をとりはじめる。縦横無尽に影を伸ばし、縮め、拡げ、命を狩らんと動く。

 

「黒炎!」

「ちょ、ちょっとまって!」

「ユター!何やってんねん!あっ、ちょっ、あぶっ⁉︎」

「ユタさん!どうしたんですか⁉︎」

 

ファビアは魔力弾を撃ち対抗する一方、ヴィヴィオやアインハルトたちはどうするのが正解かわからず避け続けている。

 

「イレイザー・バーストッ!」

 

そんな、縦横無尽に伸縮していたユタの影の大半を誰かの砲撃が一気に消しとばした。

 

「ユタ!お前何やってんだよ!」

「ユタさん!なんで………」

「これはまたとんでもないことになってるね」

 

「ばん…ちょ、リオちゃ、ミカヤさん…」

 

それは、ハリーのイレイザーだった。それにより瓶をぶち破り捕まっていた人が脱出、すぐさまセットアップを済ませる。

 

「みなさん!」

「無事だったんですね!」

 

そこにコロナとヴィクターも集合し、全員がユタを取り囲む。

 

「じゃあ、とりあえずは…行くわよ?プライド」

『ええどうぞ。ちょっとやそっとじゃ壊れませんので思い切り』

「せえやぁっ!」

 

ヴィクターは手に持っていたプライドを思い切りユタへ向かって投げつける。それを影で受け止められたりすることなく、ユタのお腹へ着弾する。同時にユタの体の中へ取り込まれ左手の甲にプライドの紋様が現れる。

 

『どうもマスター。お気分はいかがですか』

「ぜんっ…ぜん良く、ない。ああ、また、まただ。頭が、グラグラして……ああああぁ!!!!」

 

ユタは影を全員に向かって鋭利にした影を勢いよく伸ばす。

全員避けるか撃墜をしようとしていたがその直前に影が地面に突き刺さる。

 

「プ…ライド!なんで、なんで邪魔するの!」

 

『当っったり前でしょうが!私は、マスターが人を殺しそうになるなら、全力で!邪魔をすると!言いました!忘れたとは言わせませんよこのアンポンタン貧乳マスターが!』

 

「う…るさいうるさい!私のことなんて何も、なにも知らないくせに!」

 

『えーえーそうですとも知りませんとも!どこぞのアホマスターはなんっっっっにも言ってくれませんからね!ですがこれだけは言えます!マスターにそんな他人を傷つける姿なんて似合いませんよ!ああついでに悲劇のヒロインぶってる姿もですね!』

 

「じゃあどうすればいいの!私は……」

 

「パニッシャー!」

 

動きが止まった隙を見逃さずエルスがバインドを仕掛ける。それもそうでプライドから全員へ、ユタの動きを止めるからその隙を狙って力づくで止めてくれと通達されていたから。

が、エルスのバインドは影で即座に対応され防がれる。

 

「私は……」

「…っ!ユタさん!」

 

アインハルトがユタに接近する。

 

「ああ、そうだ。アインハルト、キミだよ……キミと会ってから………私は……」

 

ユタは周りに散らせていた影をアインハルトに向ける。それに対しアインハルトは覇王流の構えを取る。

 

 

しかし2人が戦うよりも先に、ユタが悲痛な声を上げる。

 

 

「私は……私は!普通に生きたかった!笑っていたかった!母さん達と家族として過ごしていたかった!くだらない事で喧嘩になったりとか、そういう普通の子として生きていたかった!

 

オリヴィエのクローンとしてじゃなく、普通の女の子として!お姉ちゃんとした最後の約束も守りたかった!普通に生きようと頑張った!

 

なのに!アインハルトもクロゼルグも!みんな!私を、オリヴィエとしてしか見ようとしてくれない!私に深く関わってくれるのは、オリヴィエのことしかない!それでいっつも悲しい思いになる!思いにさせられる!

 

なんで昔のもういない人のことで私が苦しい思いをしなきゃいけないの!

大好きな母さん達にも心配させてばっかりで!もう母さん達の悲しい(あんな)顔なんて見たくなかったのに!

 

 

なんで……なんでなんで!オリヴィエじゃなく私として見てくれないの!

 

 

こんなことなら私は……生まれないほうがよかった!」

 

 

この身がどうなろうともユタを止めようと覚悟し接近したはずのアインハルトの心を、ユタの言葉が最も容易く砕く。

 

「私、は……」

 

何かを言おうとするも、何を言うべきか、言ってもいいのか、そんな思いのせいでアインハルトは口を開くことができずにいた。

 

「こないなら…こっちから、いくよ」

「っ⁉︎」

 

ゾオッと寒気を感じ、崩れかけていた構えを再度整える。それと同時に影が今まで見たことのない速度で放たれる。

 

首を横に逸らすことでなんとか避けはしたが、頬には一筋の傷ができていた。

 

『アインハルトさん!構いません!思い切りぶっ飛ばしてください!』

「プライドさん、ですが……」

『話をしたいならまずはマスターを止めてから!でなければもっと酷い事になります!』

 

ユタの左手の甲から響くプライドの声にアインハルトは改めてユタと向き合う。

 

その時に影で顔半分が覆われていたせいで分かりにくかったがユタはずっと涙を流している事に気づいた。その事実が余計にアインハルトの心を苦しくする。

 

 

「…わかりました。ユタさん。これより力づくで止めさせていただきます。多勢に無勢ですが…今だけはお許しください」

 

 

「やれるものなら…やってみろ」

 

 







悲報 作者、コロナにかかる。ワロス(*´Д`*)
まあ喉が痛いくらいで他は殆ど症状ないんすけどね

今回で無限書庫での戦いをかき切ろうと思ったら12000字になってるのを見て分割をしなければ…と思いこんな形になりました。


ユタの本音
聖王として生きる気なんてさらさら無く だけど周りがそれを許さない。

今のユタにとってはそう見えています。いやぁシリアスを描いてると筆が進む進む(外道)




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28話 〜死闘の幕開け〜

本音を言うと今回ユタが無限書庫へ行くのを後押ししたのが正解か自分でもわからなかった。わからなくなった。今思うとユタがあんな風に言い返してきたのは初めてだったように思う。

「はは…あいっかわらず、ウチは母親ってもんに向いてないな…」

もちろんユタの母親だと言う自覚はあるしユタのためなら仕事くらい放り出して駆け付けるくらいのことはやる。我が子が人の道から外れようとしてるなら叩きのめしてでも引きずり戻す覚悟もあるしいざとなれば嫌われる覚悟も、ある。

「…ユタ、帰ってきたら思い切り喧嘩でもしてみよーか?」

その為には無限書庫から無事に帰ってきてくれないと。
何事もなければいいけど…。


まず接近したのは1番近くにいたアインハルト。影の制御はプライドが妨害しているせいもあってか普段ほど繊細な動きはできておらず、簡単に懐に入り込む事に成功する。

 

数回殴り合ったところでユタの動きが急にピキッと鈍り、左側へよろけた。それを見逃さずアインハルトは必殺の構えをとる。

 

「覇王・断空……」

 

「…」

『っ、ダメですアインハルトさん、罠…』

 

「拳!」

 

「ガァッ!」

 

ユタの鳩尾へ向かい放たれた拳は当たらず、無重力なのを活かし横向きになったユタは右の掌で受ける。その勢いで回転し逆にアインハルトの顎へカウンターアッパーをクリーンヒットさせた。同時に硬化魔法を発動させていたことでアインハルトは一瞬にして意識を断ち切られていた。

 

『まっ…たく、肉体制御のハック方法も聞いておくべきでした……!』

「いい加減、じゃま、しないでよ」

「お断りします!』

 

影を練ろうとするも未だプライドの妨害が効いているのかうまく実体化できずにいた。それに少しもどかしくなったのか意識混濁しているアインハルトへゆっくりと近づく。

 

「ガンフレイム!」「紅蓮拳!」

 

「…っ!」

 

ユタにアインハルトへ近づかせまいと、リオとハリーは焔の砲撃を放つ。

それをユタはほんの少し見、そのまま飲まれる。

 

「ちょっ、やりすぎでは⁉︎」

「これくらいやんねぇと止まらねえだろあのバカ!」

「確かにそうかもしれ……ませ……」

「あ?何きょどってんだお嬢……」

 

煙が晴れるとそこには、影を展開することで傷一つ負っていないユタが立っていた。

 

「うっそだろ⁉︎」

「皆様離れて!」

 

「吸収……放射」

 

 

ドガァン!

 

 

「あぐっ⁉︎」

「きゃっ…」

「…っ!」

 

ヴィクターが離れるように言うも既に遅く、ハリーへ向かって先ほど打ち込まれた焔が放たれる。ハリー、リオ、ヴィクターは間一髪避けはしたものの爆発に巻き込まれ壁に打ち付けられた。

 

『ぐっ、魔力制御を強引に奪い返しますか…』

「フーッ、フーッ。…ッ、アアアアアッ!」

 

ユタの足元へ影が一度収束し、咆哮と共にアインハルト、ジークリンデ、ファビアの元へ放たれる。

 

ユタの目的はあくまでも、その3人だった。

 

「天月・霞!」

「創主コロナと魔導器ブランゼルの名のもとに!叩いて砕け!『ゴライアス』!」

「ディバインバスター!」

 

アインハルトをヴィヴィオが、ジークリンデをミカヤが、ファビアをコロナが守る。だがそれすらユタは見越していたかのように影を再度動かしていた。

 

影の拘束(シャドウ・バインド)

 

密かに展開されていた影が3人の足元から伸び、バインドが掛けられる。コロナはゴライアスに載っていた関係上避け切ることはできなかったがヴィヴィオとミカヤはうまくかわす。それを見たユタは再度影を展開しようとするもプライドの邪魔によりうまくできていなかった。

 

その隙を利用し近づいたのはヴィヴィオ。それともう1人。

 

「「ユタさん!」」

 

ヴィヴィオが後ろから抱きつくと同時、ミウラも前からも抱きついた。

 

「お願いです!これ以上はやめてください!何よりはやてさんが悲しんじゃいますよ!」

「そうです!それに師匠やシグナムさんもきっと悲しみます!だから…いつものユタさんに戻ってください!」

 

「もう…無理なの!私は、みんなのところに帰れ、ない。だから…はあっ、じゃま、しないでよ!みんなは!何も関係ない…!」

 

「「嫌です!」」

 

「っ…なん…そうまでして……」

 

「「ユタさんが大好きだからに決まってるじゃないですか!」」

 

「だけど!私は!私自身が……嫌いなの!もう、放っておいてよ!」

 

「絶対に嫌です!自分のことが嫌いなんで…そんなの悲しすぎます!」

「なら僕たちが何度だってユタさんの凄いところとか好きなところを伝えます!ユタさんが自分自身を好きになれるように!」

 

「……〜〜ッ!」

 

ユタは余計に辛そうな、泣きそうな顔をしながら影を使って2人を引き剥がす。2人は壁に打ち付けられるも、すぐさま立ち上がりユタの前に立ちはだかる。

 

「まだ邪魔するなら…もう、容赦、しないよ」

 

「構いません!安心してください、ユタさんの想いも、悲しみも、全力で受け止めて見せますから!」

 

「…警告、したから、ね」

 

 

 

 

ヴィヴィオは嘗ての自分を思い出していた。余りにも、似通っていたから。

 

「(自分のせいで大好きな人を傷つけちゃうのが苦しいのは凄くわかる。…だけど!)行きますよユタさん。今日だけは私の方が()()()()

 

「何…言って…」

 

「ミウラさん、きっと私の力だけじゃ届かないので、力を貸してくれませんか?」

「勿論です!」

 

2人でユタさんの前に立ちはだかる。絶対に止めなきゃ。

 

「(凄く……泣いてる。きっと…ずっと辛かったんだろうな。誰にも言うことなく、独りで全部抱え込んできたんだろうな。だから…)」

「(普段のユタさんもきっと、ありのままのユタさんに違いはない。けど今のユタさんもきっとありのままのユタさん。誰にも心配をかけたくなくて独りで悲しんじゃって。だから…)」

 

「「(独りじゃないって全力で伝えなきゃ!))」」

 

 

 

「……創主ユタの…名の下……敵を切り裂け。冥府の影(ハーデス)

 

ユタさんが右手を上げると岩が持ち上がり、それに影が纏わり付き一体のゴーレムになる。その手には影の大鎌を持っていた。

 

「行け」

 

「ミウラさん!崩れた岩を足場に!」

「!わかりました!」

 

影のゴーレムは真っ直ぐに向かってきて鎌を振り上げる。それを2人は浮遊していた岩を足場にし横によける。

 

「ヴィヴィオさん!ゴーレムはボクがなんとかします!ユタさんはお願いしますね!」

「わかりました!任せてください!」

 

ヴィヴィオを追撃しようとしたゴーレムに向かい再度ミウラは跳躍し、ゴーレムに踵落としをきめ地面に叩き落とす。

 

『ギギ…』

 

だがゴーレムは砕ける事なく、ほんの僅かに纏っていた影が崩れていただけ。だけどそれを見たミウラは、何よりも先にユタの努力の結晶に想いを馳せていた。

 

「(格闘戦技も魔法もこんなに使えるようになるまで頑張るなんて、どれほど努力したんだろう。……どれだけ悲しかったんだろう。だけど、今だけは負けるわけにはいかない)スゥーー抜剣!」

 

ミウラは足の装甲に魔力を集中させ、抜剣を起動させる。

 

「(全力で蹴ったのにほんの少し影が消えただけ。なら…もっと強く、速く…)」

 

ミウラは足に力を込め、再度ゴーレムに近寄る。本来のユタの魔力制御の精度からならリスクが大きすぎるように思える事でも、今ならば出来ると確信していたから。

 

『ギ……」

 

「(やっぱり単調操作しかできないんだ!これなら…)」

 

ゴーレムに命令された行動は『敵を見つける。その敵を斬りつける』の二つのみ。それをミウラは直感で理解し持ち前の拳の威力でゴーレムを殴り、蹴りつける。

 

「飛燕!」

『グガァ!』

 

ゴーレムが大鎌を振り下ろすも、ミウラはそれを上に避け岩を蹴りゴーレムに肉薄する。そのまま魔力を込めた脚でゴーレムを粉砕する。

 

「よしっ!速くヴィヴィオさんのところに…」

 

その頃にはバインドをかけられていたミカヤやコロナ、爆発に巻き込まれて打ち付けられていたハリーやヴィクター達、さらにはアインハルトも復帰しており、対面しているヴィヴィオとユタを取り囲んでいた。が、手を出す気はないらしく、2人を見守っていた。

 

 

 

が、アインハルトだけは手を出す資格が無いと考えていた。

 

「(私は……どうすれば)」

 

ユタを止めたい。ユタを助けたい。そのどちらも本心なのは間違いない。だけどこの現状を起こしたのは紛れもなく自分が原因。

 

だからこそ、何をすべきか分からなくなってしまっていた。

 

 

 

 

「はあっ、はあっ…やっぱり、ユタさんは凄いですね」

 

「凄く……ない。こんなもの…。どれだけ努力しても、結局大好きな人達を悲しませることしかできないんだよ。この血のせいで。それに、私は…強くないから。母さん達の教えすら守れず。だから、こうするしか、ないの」

 

ユタさんの動きは明らかに鈍かった。いつもなら反応できていたはずの私の拳すら反応できず、影での対処もプライドさんの妨害のせいも相まって単調にしかできていない。

 

だけどそんなユタさんにも決定打が全然取れないのもまた事実だった。軽い打撃は入ってもそれ以上が入らない。ユタさんの体捌きは本当にすごいな……って、普段の私ならそう思って楽しくなっていたんだろう。

 

けどユタさん自身がユタさんの努力を否定しているのが、凄く嫌だった。悲しかった。

 

「気持ちは、凄く、物凄くわかります」

 

「……?」

 

「だって私も同じでしたから」

 

「何の…こと…」

 

だからこそ、同情を誘いたいわけでは無いけど、私のことをユタさんにも知って貰おうと思って、過去のことを話す。ユタさんも辛いはずなのに話してくれたから。だから私も包み隠さず話そうと、そう思った。

 

「私もユタさんと同じ聖王オリヴィエのクローンなのは知ってますよね?鍵として生み出されて、ユタさんと違ってゆりかごへの適正値もそのままに作られました。そしてゆりかごの王にさせられました」

 

「……」

 

「そのせいでママに助けてもらえるまで心も体も思い通りにならなくて、ママ達を殺しかけちゃった事があって。ずっと辛かったんです。

けどママ達は私がオリヴィエのクローンだってことも全部纏めて受け止めてくれました。全力でぶつかり合ってくれたからこそ家族になれました。リオやコロナもそんな私と友達になってくれて。私を私として受け入れてくれた人達がいたからここまで来れました。

 

きっとはやてさん達もユタさんの全部を受け止めてくれます。もちろん私達も全力で受け止めます。だから…止まってくれませんか?」

 

「……ごめんね。もう、無理なんだ」

 

そう呟くと同時にユタさんは影を足元に収束させていく。これは…。

 

「ッ!」

 

幾度となく見たユタさんの得意技とも言える影。それを足元に収束されると同時、縦に、横に拡がる。そこから数多の触手-1つは鋭利に、1つは鈍器のように、1つは鞭のように-変化し私に向かってくる。ここはルールやシステムで守られた場所じゃない。だから1発受ければ下手をすれば死ぬ。

 

だからこそ私の眼はより冴えてくれ、何処をどう避ければいいのか教えてくれた。それに映像で何度も見ていたのも避けられた理由の一つだった。

 

「やっぱり、相変わらず視力は、良いね……。今のとか、ゴーレムも本気なのに、全部避けるん、だから」

 

「あったりまえじゃないですか!私たちがどれだけユタさんやアインハルトさんに憧れて、それでいて勝とうと研究してきたと思ってるんですか!」

 

「……私、に?」

 

「はい!ずっとすごくて私達より沢山努力してて!それでいて優しいユタさんに勝ちたくてずっと研究していました!リオやコロナ、ノーヴェと一緒に!」

 

「……私は、ヴィヴィオちゃんたちに、そうまで尊敬されるような、人間じゃない」

 

 

「かんっっけいないです!」

 

 

もうずっと自分のことを卑下し続けているユタさんに思わず叫んでしまった。そんな私に驚いたのかユタさんが纏っている影が一瞬ビクッと揺れた。

 

「私にとって、私達にとってユタさんは大好きで尊敬できる先輩!そこにユタさんがどう思っていようが関係ないです!私達は私達の意志でユタさんを慕っているんですから!」

 

「……じゃあ、その幻想を、今すぐ、取っ払うのをお勧めするよ。ヴィヴィオちゃん。殺す気は無いけど、手加減はできないから、気をつけ、てよ」

 

「かまいません!私が勝ちますから!」

 

 

 

 

 

 

『申し訳ありませんはやてさん。マスターを止められず…』

「構わへんよ。ごめんなぁプライド」

『謝るのは私の方です。…今はヴィヴィオ様が止めておられますが、いつまで持つかわかりません』

「わかってる。急いで…あんのど阿呆の目を覚まさせようか」

『全力で支援致します』

 




次回 ユタVSヴィヴィオ(の予定

ここからはリメイク元には無い展開を描いていますのですこーし遅くなるかも?
ご了承をば


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29話 〜本音と本音〜

はやては暴れ出したユタを止めるために現場に急いで向かっていた。だがプライドからの通信越しでユタの本音を聞くたびに胸がズキズキと痛む。

だけどそれ以上に…

「…うちはこんなにもユタに大好きって思われてたんやな」

普段自分の気持ちをあまり出さないユタが心の中ではこんなにも想ってくれていた。その事実がとても嬉しかった。
だけど……

「っと、物思いに耽ってる場合じゃないよな。……よし、早く行こう」

それ以上にあんなにも優しいユタが他人を傷つけようとしているのが我慢ならなかった。心が苦しかった。


取り返しのつかなくなる前に急がなきゃ。




「プライドさん!お願いがあります!ユタさんにかけてる魔力妨害なんですけど解いてください!」

 

ヴィヴィオが真っ先に声をかけたのはユタの愛機であるプライド。だけどその提案はあまりにも受け入れ難い内容だった。

 

『っ、何を、お考えですか!そんなことできる訳が』

 

「大丈夫です!信じてください!」

 

『しかし…』

 

ユタの粗雑な影操作を避けながら何度も何度もプライドへ打診する。それにとうとう折れたプライドが叫ぶ。

 

『ッ…知りませんよ!』

 

「大丈夫!大船に乗った気で居てくださいね!」

 

プライドが魔力妨害を解除。ユタはヴィヴィオの真意が分からず困惑するが、すぐに頭を切り替え影を足元に収束させる。

そして狙うは聖王(ヴィヴィオ)ではなく覇王(アインハルト)

 

影はアインハルトへ向かい勢いよく放たれる。

 

「ッ!」

「はぁっ!」

 

だがヴィヴィオはそれを許さず影目掛け魔力砲をぶつけることでぎこちないアインハルトを救う。

 

「もー!今は私だけを見てください!アインハルトさんに手は出させませんし、そんなにやりたいなら私を倒してからにしてください!負けませんけど!」

「ヴィヴィオさん、私も…!」

「大丈夫ですから!アインハルトさんは手を出さないでください!きっと今のユタさんだとアインハルトさんでは逆効果ですから。だからここからは私と…」

「ボクですよね!」

「はい!」

 

そうしてヴィヴィオと共に立ち上がったのはミウラ。互いに背中を合わせるように構え、ユタを見る。

 

ヴィヴィオは足に力を込め跳躍、1秒とかからずユタに近づく。

だけどそれよりも早くユタの影が操作され、巨大な鞭のようにしなりヴィヴィオをはたき落とす。

反応しきれなかったヴィヴィオは地面へ墜落する。

 

「…!」

「ぷはぁ!」

 

しかし極限の状況下な為かヴィヴィオの集中力はとても高まっていた。

鞭が当たった瞬間に踏ん張ることをやめ飛ばされた方向に自ら跳び、地面に激突する際には魔力を纏いクッションにしていた。その為ダメージはさほど受けていなかった。

 

「そんなものですかユタさん!いつものユタさんより遅いですよ!」

「じゃあもっと、速く…」

「それに!私1人じゃないって分かりませんか!」

 

「抜剣・空牙!」

 

「っ…!」

 

初手で一気に距離を詰めるのは何もヴィヴィオだけの得意技では無い。ユタがヴィヴィオへ注意を向けている隙にミウラが背後に回り抜剣で強襲。

ユタは間一髪受け流せはするがそのまま壁に激突する。

 

「ぐっ…。あ゛あ゛あ゛あ゛!」

 

悲鳴にも聞こえるユタの雄叫び。それと同時に今までの比にならないくらい影が縦に、まるで壁のように広がっていく。いままでは精々5メートル弱程度に広がっていた影は10メートル以上になっていた。

 

「フーッフーッ」

 

「気をつけてくださいね!」

「大丈夫です!」

 

「…ッ!アアッ!」

 

広がった影から幾重もの触手が鋭い刃となりヴィヴィオとミウラへ向かう。

 

「アクセルスマッシュ!」

「抜剣!」

 

それに対して2人が取った行動は迎撃。しかも()()()()()()()()()()()()()()()

 

あたりに浮遊している岩を足場にしながら的確に影を砕いていく。ヴィヴィオが反応できなかったものはミウラが、ミウラが反応できなかったものはヴィヴィオが対応することでお互いに無傷でユタに近づいていく。

 

「なら…もっと数を…!」

 

「甘いです!」

 

ユタは再度影を使い攻撃しようとするもそれより速くヴィヴィオとミウラが接近する。ヴィヴィオとミウラが先手を取りラッシュを叩き込み、ユタはそれをなんとか凌ぐ。

 

「やぁっ!」

「っ…」

「抜剣・星煌刃!」

 

ヴィヴィオがユタの懐に潜り込み数発打撃を入れ、防ぎ切れず体勢を崩したユタへミウラは抜剣を命中させる。

影でのガードも硬化魔法をかけた腕でのガードも威力を逸らすこともできなかったユタは勢いよく吹っ飛び床へ激突した。

 

「っ……」

 

ユタは影を展開しなんとか立ちあがろうとするも、あまりのダメージからふらついていた。

 

「ミウラさん、ここからは私に任せてください」

「はい!お任せします!」

 

ヴィヴィオはミウラと一言二言交わし、ルーテシアからは魔力錠を託され1人でユタの前に降り立つ。そしてゆっくりと近づいていく。

 

「ユタさん、もう終わりましょう。これ以上は…」

 

「……嫌」

 

「なら、無理矢理にでも止めます。一度全力でぶつかってそれから…ちゃんとお話ししましょう。きっとユタさんの悩みも解決できます」

 

「……んな」

 

「?」

 

「そんな、ことで!解決できてたら!私は今、こんな事をしてないんだよ!私の気持ちなんて何もわからないくせに!目の前で大切な人を失ったことすら無い癖に!それでどうやって私の気持ちがわかるって言うの!ふざけるのもいい加減にしてよ!」

 

「はいそうですよ!ユタさんの悲しみは私には計り知れないですよ!でも解決できないなんて、そんなのわからないじゃないですか!もしかしたら…」

 

希望(そんなの)はもういい!いらない!私は、もう!()()()()()()()()()()()()()()!でも、周りがそれを許さない!なら!私かアインハルトがいなくなるしかないじゃんか!」

 

「それでどうする気ですか!ユタさんが消えるつもりですか!それともアインハルトさんを殺しますか!どっちでもいいですけど、そんなの私が許さないです!」

 

「だから、ヴィヴィオちゃんには関係ないって言ってるじゃんか!私が何をしようが、私の勝手だ!」

 

「関係あります!だって私はみんなで一緒に魔法戦技を続けていきたいですもん!」

 

「それこそ私に関係ない!私はもう魔法戦技もやらない!やれない!」

 

もう子供の口喧嘩だった。ユタの叫びに対してヴィヴィオも少しムキになり怒りながら叫び返す。互いの意地を譲らないが故の喧嘩だった。

 

「あーもう!分からず屋!」

「こっちのセリフだよ!私なんかに構わず、みんなで過ごしてればいいじゃんか!私に構わないで!」

「だーかーらー!そこにユタさんやアインハルトさんがいないと意味がないんですって!」

 

ヴィヴィオの言葉を聞き、ユタはギリ…と歯を食いしばる。そして最後に、逃げるように叫ぶ。

 

 

「いいから!もう!ほっといてよ!」

 

 

互いの距離が約5メートルほどの近距離に近づいた時にユタの足元から五本程度の影が生成され、ヴィヴィオへ向かって勢いよく伸びる。

ヴィヴィオは変わらずこれを迎撃しようと腕を振りかぶる。

 

 

 

「クラウソラス」

 

 

 

だがそれよりも速く影を撃ち落とされる。

 

「⁉︎」

「はやてさん⁉︎」

 

魔力弾が飛んできた方向を全員が見るとそこには八神はやてが浮遊していた。その顔は至って真面目でユタのことをじっと見つめていた。

 

「ヴィヴィオちゃん。ありがとーな。ユタのバカを止めてもらって。それで今、譲れないモノのために立ってくれてるのもわかる。だけど…ここからちょっとだけ、ウチに譲ってくれへんかな?」

「え?あ、はい」

「ありがとう」

 

ヴィヴィオは、はやてからの提案をすぐに飲み大きく下がる。代わりにユタの前へはやてが立つ。

 

「母さ…」

 

「はぁ…ユタ、一つだけ言うで?」

 

「…何?」

 

はやてはユタを見て、大きく息を吸い、そして叫ぶ。

 

 

 

「イメチェンするにしてももう少しなんかあったやろがい!」

 

はやての渾身の叫びに、ユタを除く全員が思わずずっこけたとか。

 

 

 

「なんっやねんお前は!女の子らしい服装とか全然せんし!セットアップ姿も参考にしたの男とかいうし!挙げ句の果てに今回イメチェンしたと思ったらそんなだっさい姿やし!あんたなぁ、インターミドルを見てくれた同僚から『八神司令の息子さんすごいですね!』って言われるウチの気持ちを少しは考えろど阿呆!」

 

「っ、好きなものをイメージしろって言ったの母さんじゃんか!それでイメージしながらセットアップしただけだよ!それに、コレはもう、魔力を纏いやすいようにしただけ!ダサいとか言われる筋合いないよ!それに女の子らしいとかよくわかんないし!」

 

「とりあえず『あ、これかわいいなぁ』って思う服を着るとかでええやろがい!」

 

「やだよ恥ずかしいし!絶対に母さんいじってくるし!」

 

「あったりまえやろ!お前の女の子らしいフリフリな服とかもう弄りがいの塊や!」

 

「開き直んな!それに母さんに婚期こないのまいっかい私のせいにするけど!母さんがお酒入ったら悪酔いするからじゃ無いの!それで私のこと死ぬほど自慢してウザがられてるってよく聞くよ!」

 

「ちょっ待て、誰にや!告げ口した犯人誰や!なのはちゃんか?フェイトちゃんか?それともヴィータ達か!白状せえ!」

 

「心当たりあるじゃんか!それ直せばいい人見つかるんじゃないの!」

 

「やっかましいわ!愛娘を自慢して何が悪い!そもそも有望株のいるお前にだけは『いい人見つかる』とか言われとうない!」

 

くだらない口喧嘩。だけど段々とヒートアップしていきゆたの状況とは裏腹に喧嘩の内容があまりにもどうでも良すぎて見守っていた全員が呆け、次第にクスクスと笑いを堪えきれていなかった。

 

「ふぅ、スッキリした。そんじゃあユタ…ここからは本気の話し合いしようか?」

 

はやては泣いているようにも怒っているようにも見える顔だった。

 

「……何を、今更話すって言うの」

 

「そりゃあユタ自身の事について以外に無いやろ。お前なぁ、とことんふざけたことを言うたらしいな。なんや?生まれない方がよかったやて?ええ加減にせぇよ。いいか?この世になぁ、不必要な命なんてもんはあらへん。それはアンタも同じや」

 

「私にとっては不必要だよ!大好きな母さんに悲しい顔をさせるくらいなら、こんな命いらないよ!」

 

「はっ!それで自分だけ消えるってか!傲慢にも程があるわ!人間なんてものはなぁ、感情っちゅーもんがあるんや!悲しみも辛さも感情の一部や!なんや?ユタはウチに感情を捨てろと、人間をやめろって言いたいんか!それになぁユタが消えたらウチらは余計に辛いだけや!それくらい分からんのか!」

 

「わかるよ!わかってるよそんな事!母さんは優しすぎるから私のことをずっと気にするだろうって!でも、私に流れる聖王の血はもうどうしようもないじゃんか!コレ以外に私のことで母さんを悲しませない方法がわかんないんだよ!」

 

「んなことお前に求めとらんわ!子供のことで心配するのも安心できるのも嬉しくなるのも子供(ユタ)の悩みを解決してあげたいって言う感情も親の特権や!ウチにそんな負い目感じずにユタはユタらしく居ればええやろが!たかだか12歳のガキンチョの癖して色々考えすぎなんやお前は!」

 

「考えちゃうに決まってるじゃんか!母さん達って仕事でいつも疲れて帰ってくるし偶にとても辛そうな顔してるし!けどそれで聞いた時もみんな『大丈夫』って苦笑いして何も教えてくれないし!お姉ちゃんの時とか、みんな、ずっとずっと辛そうな顔してるのに私の前では無理して笑うし!」

 

互いに言いたいことを言い合っており、唐突に会話が途切れ沈黙が訪れる。それを破ったのは…

 

「はぁー…いやまぁ、予想通りっちゃ予想通りやけど。どんだけ抱え込んでたんや。ごめんなぁユタ。気づいてあげられんで。やっぱり、ウチは親失格やな」

 

「……んで、なんで母さんが謝るの!悪いの私じゃんか!今までも!今も!なんで母さんが謝るの!私は悲しい(そんな)顔が見たくないだけだったのに!悪いのは母さんじゃないのに!」

 

「だけどな!」

 

「ッ!」

 

「それとコレは話が別や!いっぺんそこに直れど阿呆が!だーれがいつどこで『他人を意図的に傷つける』方法を教えた!」

 

「……」

 

 

 

「ユタ、抵抗するも良し逃げるも良し。好きにせい。ひとまずお前の頭を思い切りぶん殴る。話はそれからや」




とりあえずかけたぁ!
がんばった!戦闘シーン苦手だけど頑張った!

いやぁ構想が全然練れなくて苦労しました‥

引き続きがんばります


読んでくださりありがとうございました
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30話 〜親と子の関係〜

主はやてから共有された映像を見ながら心が途方もなく苦しくなる。それは横にいたヴィータ達も同じようで皆が苦い顔をしていた。

「なあ、どうなると思う?」

「さあな。それはユタと主はやて次第だ。どっちを選ぼうとも私はその選択を尊重するさ」

私の答えに皆がこっちを見てくるが続けて、納得する訳でもないし全力で連れ戻すがな、と言う。

そうだ、もう誰がなんと言おうとユタは私たちの家族なのだから。

「ただまあ…どっちを選ぼうとも1発キツいのをお見舞いするさ」

きっとマリナがまだ生きていたならそうするだろうから。



「本当ならこんな形で手合わせしとうなかったなぁ」

「私だって…嫌だよ」

 

逃げるも良し抵抗するも良しと言われたユタが選んだのは……育ての親への反抗だった。影をユラッと展開させ、はやてはというと何事もないかのように手をパン!と叩き良い笑顔を見せながらユタへ語りかける。

 

「ま!とりあえずそれは置いとこうか。それよりはよ来い。お前の全力、ウチにぶつけてみーや。あ、そうそう。なのはちゃん流の仲直りの方法実践するの初めてやから多少は目を瞑ってな?ま、今のユタ如き本気ださんでも余裕やけどな!」

 

「……」

 

はやては大胆不敵に、ニカっと笑いながらユタの前に仁王立ちし挑発をする。それに対してユタはなかなか影を使おうとしなかった。それを見かねたはやてはさらに声を荒げて言う。

 

「はよせぇって言ったのが聞こえんかったか!それともなんや!お前の覚悟はその程度か!それともなにか!ウチにお前の全力を受け止められないとでも思ってんのか?舐めんなよユタ!お前はウチの子になってからの7年間何を見てきたんや!その程度の覚悟なら捨ててまえ!そんなやからいつまで経ってもエリオに告れない臆病者なんやろがい!」

 

「ッ…!うるさいうるさい!母さんにそんなこと…」

 

「そう思うなら早くせぇ!ウチにお前の覚悟を示してみぃ!」

 

それをキッカケにユタは今日一番の影の展開を見せた。もはや壁とでも言える程大きく上下左右に広がっていく。

 

「おーおー、相変わらずやな」

 

だけどはやては全くと言っていいほど焦りもしなければ警戒もしていなかった。まるで分かっていたかのように。

 

「どうなっても…知らないよ母さん」

「構わん」

「……。影の雨(シャドウレイン)

 

影の壁から出るは数多の触手が鋭利な切先、鈍器、または鞭など様々な形状になりはやてにむかっていく。

 

「ふん。甘いなぁ」

 

それに対してはやては魔力弾を幾つも作り出し、触手の一本も逃さず的確に撃ち落とす。わずか数秒の間の出来事だった。

 

「な…」

 

「なんや?この程度ウチにできんとでも思うたか?何年お前の成長を見守ってきとると思っとる。お前がどう技を使うかお見通しやし、そもそも今みたいな広範囲殲滅の技術を誰が叩き込んだと思っとんや?」

 

はやては一歩も動いていなかったのにユタは一歩後ろに-無自覚に何かを感じ取っていたのか-下がった。

 

「ほら、早く次やらんかい。もしかして今のが限界か?」

 

「そんな…わけ…」

 

その言葉を皮切りにユタは足元へ影を全て収束させる。そして今度は肩幅程度の楕円状に影を展開し、そこから鋭利な刃物の形状に変えた一本を速度に特化させて放つ。

 

「おーおー、芸がないなぁ?」

 

だがはやてはそれも見越していたかのように魔力弾で撃ち落とした。

ユタはムキになり何度も仕掛けるがその悉くを真正面から撃ち落とされる。

 

「一撃の速度に重きを置いた一撃はシグナム仕込みだったなぁ?んでその心構えなんかはヴィータから」

 

「っ…」

 

ユタが次に取った選択は四方八方からの攻撃。はやての周りに影を展開させ何度も何度も-まるで癇癪を起こした子供のように-攻撃を仕掛けるもその全てを.、死角に来た攻撃すらも撃ち落とされる。

 

攻撃の雨が止むとはやては肩をグルグル回しながらじっとユタを見据える。

 

「おっ、もう終わりか?」

 

そして笑みを浮かべユタへ告げる。

 

「ほな、そろそろ行くでー?」

 

ずっと直立不動だったはやてはゆっくりと足を進める。ユタはたじろぎ後ろへ下がってしまう。

 

「いや…こないで!」

 

「そうは言うてもなぁ」

 

ユタは何度も何度も影を射出するも全て防がれてしまう。その目には明らかな怯えの感情が混じっていた。それと同時にもっと別の何かも。

 

「近づかへんとお前をぶん殴れんやろ…がいっ!」

 

先程までと同じように魔力弾で撃ち落としながら-時には拳で殴り落としながら-ユタへゆっくりと近づいて行く。

 

はやては何事もないかのように近づいているがユタから放たれる影は次第に速くなっていた。

 

「すご…」

「とんでもねぇな…」

「流石はやてさん…」

 

その光景を周りは固唾を飲み見守っていた。

 

 

だがユタに異常が起こる。

 

 

「っ⁉︎」

 

「お?魔力切れか?思ったより遅かったな」

 

ユタから溢れ出ていた影や足元に展開していた影が突如として消える。同時にユタを襲ったのは魔力切れによる倦怠感で無重力空間なのも相まってその場にフワフワと流れてしまう。

 

「いやー我が子ながらえらい魔力量やわ。やっぱりウチに似たんかな」

 

「っ……」

 

「さっきまでの影での一撃もウチら八神家じゃなけりゃ無傷では済まんかったやろうし、なのはちゃん達でも苦戦必死やったかもな。いやぁシグナム達との特訓を耐え切っただけのことはあるわ」

 

ユタからの反撃が一切なくなり、無音となったその場に響くはやての言葉。

 

 

ポタ…ポタ…

 

 

そしてそれを打ち消すように何かが滴り落ちる音がユタから発生していた。

 

 

「何で…何で、そんなこと、今いうの…」

 

「そりゃあ愛娘の努力を親が褒めんでどーする。怒るのと褒めるのは別の問題や」

 

「いっつも…いっつも、褒めてくれたり、しなかったのに」

 

「あーうん、それはごめんな。どーにも褒めるの苦手でなぁ。つい照れ隠しで褒めるより先にいじってしまうんよ」

 

 

「……お姉ちゃんの事があってから、ずっと、ずっと無理して笑ってたのに」

 

 

「当たり前やろ。ただでさえ辛かったはずのユタにこれ以上心配かけてたまるか」

 

 

「それで…母さんが辛かったら、意味ないじゃんか……」

 

 

「けどユタの為になるなら本望や。なにより、マリナからもユタをお願いしますって頼まれたしな。ま、頼みなんてなくてもお前の事は全力で守るつもりやけどな」

 

 

ゆっくりと、はやてはユタへ歩み寄る。

 

 

「ユタ」

 

「……なに」

 

「今、あえて聞く。ウチら八神家をどう思ってる?」

 

「……」

 

ユタは思わず口を閉ざしてしまう。それをはやては急かす事なくジッと待つ。

そして、口を開いた。

 

 

「大好き…。ずっと、ずっとずっとずっと、あの日家族に迎え入れてくれた時から、ずっと、大好き。母さんも、シグナム姉さんも、ザフィーラも、ヴィータさんも、シャマル先生も、リインさんも、アギトさんも、みんな大好き」

 

 

涙を流しながら小さく呟いたユタを見てはやてはニカッと笑いながらユタの頭へ手を伸ばす。一瞬双方に怯えた様子が見られたが、互いに意を決していた。はやてはわしゃわしゃと頭を撫でながらユタへ再度問いかける。

 

「そうか。ならこれからはどうしたい?本当にウチらの元から消えたいんか?本気なら……止めはせんよ」

 

「……いやだ」

 

「何が嫌なんや?」

 

「ずっと、ずっとずっと母さん達と家族でいたい…笑っていたい…。シグナム姉さん達ともっと特訓して、インターミドルで勝ち上がりたい。シャマル先生の料理ももっと教わりたい。……みんなと、ずっと一緒にいたい。

 

 

……お姉ちゃんとずっと一緒に、みんなで、笑っていたかった…」

 

もう叶わない望みを口にしたユタははやてから力一杯、だけど優しく抱擁される。

 

「ずっと…一緒に笑っていたかった」

 

「うん」

 

「一緒に生きて欲しかった」

 

「うん」

 

「インターミドルも…見て、もらいたかった。勝って、褒めてほしくて」

 

「うん」

 

「学校の成績も、見て、褒めてもらいたかった」

 

「うん」

 

「また頭を、撫でて欲しかった」

 

「うん」

 

「またお姉ちゃんの料理が…食べたかった。誕生日を、祝って欲しかった」

 

「うん…うん」

 

 

「お姉ちゃんに…死んでほしくなかった。お姉ちゃんが死ぬくらいなら、私が死んだ方が良かったって、何回も思った。でも、みんな、私のせいじゃないって、私は生きろって、ずっと……余計に辛くて、悲しくて、でも明るく振る舞わなきゃって思って…」

 

 

「そうやで。どれだけ辛くても悲しくても、生きなくちゃあかん。それにな、あのマリナが今のユタを見て何も思わんわけないやろ」

 

「……わかってる」

 

「けどユタが苦しんでるのをわかってた上で無限書庫まで行くように発破かけたのもウチやからなぁ。ほんとごめんな。マリナにも今度2人で謝りに行こう」

 

「……うん」

 

「んで、これからどうしたい?」

 

「……」

 

「言わへんと分からんよ」

 

再度訪れた無音の空間。だけど存外早くそれは崩れた。

 

ユタは、はやての腕の中からゆっくりと出て顔をゴシゴシと拭く。そして一歩後ろへ下がり顔を上げる。

 

「これからも…ずっとずっと一緒にいたい…。八神ユタとして…貴女の子供でいたい」

 

そこにはもう泣きじゃくる聖王(クローン)はおらず、決心をした1人の子供(ユタ)がいた。

その子供をはやてはなんの躊躇いもなく引き寄せる。

 

「勿論や。お前は誰がなんと言おうとウチ、八神はやての一人娘や。誰にも文句は言わせん!聖王の血を継いでいようが関係ない!ユタはユタや!」

 

普段のユタの口癖をはやてがおおらかに宣言するよう言い、今日初めてユタが笑顔を-拙かったが、心の底から-見せた。

 

「……ありがとう、母さん」

 

「どういたしまして」

 

 




いよっし、とりあえず描きたい展開は描けた!

ということでお久しぶりでした皆様。
目標である無限書庫編ももう直ぐ終わりを迎えます。

ユタの生き様をもう少しだけ見守っててください



読んでくださりありがとうございました
感想や評価など頂けると嬉しいです


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31話 〜またもう一度、みんなと〜

よーし、あと5話前後で完結させるかな…

終着点は決めてありまして+αでユタvsアインハルト、ヴィクター、ミウラなどを番外編として書く予定です

それではどうぞ


母さんとのある意味最初で最後の親子喧嘩は私の完敗で終わった。

魔力切れからくる倦怠感に抗えずへたり込んでしまったけど不思議なことに全く辛くない。それどころか何処か清々しい気もした。

 

 

思えば、自分の内にある感情を全部吐き出したのは初めてだったかもしれない。

 

 

『どうもマスター。ご機嫌麗しゅう』

 

ただの首飾りに戻ったプライドが陽気な雰囲気で話してくる。それをジト目で見ながら口を開く。

 

「…何。絶対ロクでもないこと言おうとしてるでしょ」

『今日ばかりは違いますね。……そうやって1人で全部抱え込んで悩むからいつまで経っても貧乳なんですよ』

「やかましいわ!」

 

案の定ロクでもないことを言われ思わず叫んでしまう。

お着替え中の皆様がこっちを見てくる感じがあるが、もう条件反射のようなものだからしょうがない。なお着替えているのらファビア選手によって裸にされていた為です。

 

『事実でしょうが!だいったいなーーにが『自分は聖王とは関係がない』ですか!一番馬鹿みたいに引きずってるのマスターでしょうが!』

「それもこれもあーだこーだ言いがかりつけてきたの向こうじゃんか!」

『他の人を見習ってくださいよ!全員が自らの血統に責任を持って動いてるでしょうが!それを逃げる言い訳だけはうまい具合に探して問題を先送りにしてたツケでしょうが!』

「うるっさいなぁ!わかってるよそんなこと!私の心が弱いせいだって私が一番よくわかってるっての!」

『そう言う問題だけでは済まないというのもいい加減わかってください!』

 

 

 

「あはは…」

「やっといつものユタって感じだな」

「ですわね」

 

「相変わらず仲良いなー」

「ですねー」

「良くない!」『良くありません!』

 

 

 

 

「よしっ、修復完了!それじゃ…色々と話が逸れてしもうたがファビアちゃん。改めまして管理局海上司令の八神はやてですー」

 

「っ…」

 

「大丈夫やで。ウチはもうそんなに怒ってないから。君が悪意を持ってこんなことをしたわけじゃないのも分かってる。君もユタ達と同じで心に傷を負ってしもうただけ。ここの建物や傷みたいに治せるもんなら治してあげたい。命があって元気もあるならわざわざ悪いことをしたり辛いことをしたりする必要はない。ちゃんと話して迷惑をかけた人には一緒に『ごめんなさい』をしよ。そしたらきっと全部がいい方向に進んでいくから」

 

ファビアを優しく諭した母さんはそのまま皆へ向き直る。

 

「痛い痛い!あの、ちょっ!」

「ええからはよ来い」

 

ついでに私の首に腕を回しながら。

 

「それじゃあ皆。ウチらはこの子を連れていったん戻るな~」

 

「はいっ!」

 

「ファビア、別れ際に皆に謝っとこうか?ほら!ユタ、お前もや!」

 

母さんに強引にみんなの前に連れ出される。だけど、みんなの顔が見れない。

 

「……」

「……ごめんなさい」

 

横でファビアが謝るけど、どんな顔をしてみんなを見ればいいのかわからず下を向いてしまう。謝るべきなのはわかってる。だけれどどうしても言葉に詰まってしまう。

そんな私を母さんは責めたりする訳でもなくただ無言で背中をさすってくれていた。

 

「ユタさん」

 

私の前に来たアインハルトに声をかけられビクッとなってしまう。

けど、怯えている場合じゃない。

 

「その…アインハルト。ごめ…」

 

「ごめんなさい」

 

「え…?」

 

謝ろうとすると、アインハルトに言葉を被せられ先に謝られてしまう。それに動揺してしまい思わず顔を上げてしまうと深々と頭を下げていた。

 

「え?え?ちょ、ちょっと待って、今回悪いのは私だよ?なんでアインハルトが謝るの」

 

「元々といえばこれは私の蒔いた種なんです。ユタさん…本当にごめんなさい。そして…一つだけ言いたいことがあります」

 

「……」

 

「私は、あなたともう一度仲良くなりたいと思っています。ご先祖様のことは関係なく、私と、あなたとで」

 

「………うん」

 

アインハルトは言い終わるとみんなの元へ着替えをとりに行った。

 

アインハルトの言葉へ当たり障りのない返事しかできなかった。私はもうみんなと魔法戦技をやっていく資格なんかないのに。殺しにきた相手をどうしてこんな直ぐに許せるのだろうか。普段通り接してくれるのだろうか。

 

それが分からず余計に心が苦しくなってくる。

 

それからしばらく経ちみんなが着替え終わって私たちの周りに集まってきた。

 

…今しかない。謝るなら今しか…。

 

「ぁ…そ、その…みなさん…。今回、迷惑をかけて…」

「ユタさんっ」

 

詰まりながら頑張って声に出そうとするとヴィヴィオちゃんに手を掴まれる。それに驚いて顔を上げると屈託のない笑顔がそこにはあった。

 

「ヴィヴィオちゃん…?」

 

「私なら見れますよね。だってユタさんに傷つけられてませんもん」

 

その笑顔はどこまでも温かく、どこまでも優しかった。

 

「それにしてもユタさんって本当に凄いです!私、本気で打ち込みに行ったのに全然決定打が取れなくて!ユタさんの頑張った結晶の塊って感じがしました!これからもユタさんのインターミドル見るのすっごく楽しみですし、一緒にトレーニングしたいなって心の底から思いました!」

 

「で、でも。私、錯乱してたとは言えみんなを殺そうとして…シグナム姉さん達に鍛えてもらった技術を傷つけるのに使っちゃって。もう魔法戦技なんてやる資格…もうないよ」

 

自嘲気味に言うとヴィヴィオちゃんがまっすぐ、真剣な瞳でこっちを見てくる。

 

「……ユタさん。一つだけお願い聞いてくれませんか?」

「お願い…?」

 

「はい。明後日の午前中に少しだけお時間をください。そして私と試合をして欲しいんです」

 

「っ、さっきも言ったけど私にはもう、魔法戦技をやる資格なんて…」

 

「いいですから!今回だけです!約束ですよ!」

 

そう言って断る暇無くみんなの所に戻っていく。

それに釣られてみんなの方を見るとジークさんや番長達とふと目が合う。

 

「おいユタ!」

「ユタぁ!」

 

「っ…」

 

その瞬間に番長とジークさんが思い切り私の名前を叫ぶ。びっくりしてしまったが2人はさらに叫び続けた。

 

「今回はお前に不覚とったけどな!都市本戦では見てやがれ!お前の【影】も吸収放射も!全部を使わせた上で完膚なきまでに叩き潰してやっからな!間違っても予選落ちするんじゃねえぞ!」

「うちはユタと戦えるのをずっと楽しみにしてる!てっぺんで待ってるから、早よ登ってきてなー!」

 

「……」

 

どうしてこうも、みんなは優しいのだろうか。私にまだ魔法戦技をやってもいいと言ってくれるのだろうか。

 

「ユタ!わたくしが一昨年の雪辱を晴らすまでは負けるんじゃありませんわよ!そこの不良娘にも、ジークにも、誰にもね!」

「いつか真剣勝負をしようじゃないか!ユタちゃんの【影】と私の居合抜刀でね!」

「また練習を一緒にしましょう!それにボクもユタさんと全力で戦いたいです!」

 

ジークさん達に続きヴィクターさんにミカヤさん、ミウラがそう叫ぶ。

 

「ユタさーん!また練習一緒にやりましょう!ゴーレムと影の応用操作とか詳しく教えて欲しいですし!」

「余裕ができたら是非とも実家へご招待させてください!じーちゃん…春光拳の師範もきっと喜びますし、ユタさんにとっても楽しいですよ!」

 

引き続きコロナちゃんとリオちゃんも。

もう胸が苦しくて-だけれど不思議とどこか気持ちよくて-涙を流してしまうが、これだけ言ってくれたのに応えない方がどうかしている。

 

「……。スゥーー。勿論です!全員に、特にジークさんには絶対に負けないつもりです!今年こそ全員を蹴散らして都市本戦優勝してみせますんで、首を洗って待っててくださいね!

それと、みなさん。本当にごめんなさい!謝って済む問題じゃないけれど、本当にごめんなさい!」

 

 

 

 

ほんなら、行こか?」

「はいー」

 

そうして、私と母さん、リインさん、クロゼルグ、ルーさんでこの場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜帰路の途中〜

 

「そういえば、ヴィヴィオのこととかみんなに話したんですか?」

 

「うん、大人のみんなには一応なー。ヴィヴィオの生まれとか…高町家の子になった経緯とか。ま、なのはちゃんとヴィヴィオはどこに出しても恥ずかしくない親子やし、余計なお世話かと思ったんやけどなー」

 

「それで言ったら八神司令もですよ。ユタと初めて会ったのは最近ですけどもう普通の親子にしか見えません」

 

「えー、そうかなあ」

 

あ、母さん照れてる。珍しいから写真を撮ってやった。

 

「ちょっ!ユタ!写真撮るな!」

「いつも色々とやられてる仕返し」

「それどうする気や?」

「いろんな人に送ってあげようかと」

 

そして、普段通りの八神家での会話をしてみた。

おどおどしていたと思う。

 

けど少しずつ、母さんや皆の言葉のおかげでちゃんと前を向けそうだった。

 

 

あ、ファビアが呆れた顔してきた。

これが日常的なんだ。そんな顔されても困るよ。

 

 

「あははー、やっぱり親子ですねぇ」

「せやろー」

 

「過去は過去であって、現在(いま)じゃない。先祖の記憶を黒い呪いにするか未来へのギフトに変えるかは……今生きている自分の選択。ってことですよね」

 

「そーやねぇー」「私もそう思うですよ〜」

 

ルーさんの言葉に、母さんとリインさんが賛同した。

 

うん……本当にその通りだ。私は……危うく黒い呪いにするところだったんだ。

 

本当に……何をしてたんだろうね。

 

「……うぇっ」

「どうしたの?」

「いや、シグナム姉さんからメールが来てまして。『話があるから出来る限り早く帰って来い』って。……遺書書いておかなきゃ」

「せやなー」「ですねー」

「そこは慰めてくれたりとかじゃないの⁉︎」

「多分ウチらが言っても何も変わらんやろし」

「シグナムさんはユタちゃんのこと大好きですから死ぬまでは怒らないですよ。……多分」

「最後の一言さえなければ良かったんだけど⁉︎」

 

 

 

 

〜翌日〜

 

「……」

「……」

 

「な、なぁ、大丈夫か?」

「心配いらへんよ。…多分」

 

家に帰ると予想通りシグナム姉さんに首根っこを掴まれて正座させられた。かくいうシグナム姉さんも真正面に正座をしていたが。

 

「ユタ」

 

「はい」

 

「無限書庫での経緯は主はやてを通して見させてもらっていたから大体の事情はわかっている」

 

「はい」

 

「それでも、それでもだ。私はお前に一度謝らねばならない」

 

「え…?」

 

てっきり怒られるものだと思っていたけど発せられた言葉を疑わざるを得なかった。

だって、謝るべきは私なのにシグナム姉さんが謝る?なんで?

 

「どういうこと?私の方こそ謝ろうと思ってたんだけど…」

 

「マリナの事だ」

 

「お姉ちゃんの…?」

 

「ああ。なんせ、マリナが死んだのは私の教えた技術が原因と言っても過言じゃないからな」

 

シグナム姉さんから言われたことに思わず立ち上がってしまう。

 

それだけは許容できなかった。お姉ちゃんが死んだのは攫ったあいつのせいで、間違ってもシグナム姉さんのせいじゃないはず。

 

「違うよ!それは…」

 

「違わない。それだけは断言する」

 

だけど鋭い目つきで言い返され、思わず尻込みしてしまう。シグナム姉さんに座れと小さく言われ、大人しく従うと再び口を開いた。

 

「私が身体操作の技術さえ教えていなければ形はどうあれマリナは生きていたはずだった。確かに胸を貫かれたのも原因だったが身体操作による身体への負担も影響していただろうからな」

 

それを更に否定しようとしたけどシグナム姉さんの目を-悲しげで後悔に満ちていた目を-見てしまい、何も言えなくなってしまった。

 

「マリナがユタへ抱いていた愛情を私は見誤っていた。お前が危険に陥れば自分の体など顧みず限界を超えた身体操作を使うことなど予想できていたはずなのに、だ。……あの時の後悔は未だに消えないよ」

 

「……」

 

「もう少しお前達の安全を強固にしていれば、居場所を発信する類のものをつけていれば、情報提供者について詳しく調べていれば。…こんなたらればを言っても意味はないのはわかっているんだがな。本来ならお前に恨まれて蔑まれてもおかしくないんだ私は。マリナもこんな家族で不甲斐ないと思っているかもしれないな」

 

自責の念からか力無く苦笑していた。

 

 

励ますべき?

 

 

いや違う。

 

 

今言うべきことは……

 

 

「そんなことはないよシグナム姉さん」

 

「なに…?」

 

「無限書庫でも言ったけど、私は、()()()()

 

八神ユタと八神・サミダレ・マリナお姉ちゃんは、ずっとシグナム姉さん達が大好きなの。特にお姉ちゃん、絶対にシグナム姉さんのこと大好きだったよ」

 

「そう…らしいな」

 

あの頃の記憶は生きてきた中で1番鮮明に思い出せる。あの時のお姉ちゃんは…うらやましいくらいに…

 

「だって、家で2人きりの時のお姉ちゃん、本当に楽しそうにみんなのこと…特にシグナム姉さんのことは楽しそうに話してたの。本当のお姉ちゃんみたいだって言ってたから」

 

「…そこまで慕われていたのか」

 

「それに特訓をはじめたときも本当に嬉しそうで楽しそうだったの。『私もシグナムさん達と一緒にユタを守れるようになるかも!』って。特訓も辛かったみたいだけどそれ以上にシグナム姉さん達と一緒にいられて嬉しそうだった」

 

「そうか…」

 

「だから…そんに自分を責めないでシグナム姉さん。それに家族になってからいまの今まで、一度たりとも恨んだりしたことないよ。私は、私たちはずっと感謝してるんだから」

 

「……ありがとう」

 

「え?」

 

「なんでもない。それよりも、だ。私の言いたいことは終わった。ユタはまだ何かあるか?」

 

「いや、無い…かな」

 

「そうか。ならいい」

 

シグナム姉さんが立ち上がるのを見て話は本当に終わったんだと思い私も立ち上がる。そのままシグナム姉さんは私の近くまで寄ってくる。

 

「ふんっ!」

「いだっ⁉︎」

 

シグナム姉さんはめちゃくちゃ穏やかな顔つきで私の脳天にゲンコツを落とした。

 

めちゃくちゃ痛い

 

「私たちを心配させた罰だ」

「っ〜〜今の流れ的にそういうのないパターンでしょ…いったぁ…死ぬ…」

「心配するな。毎回言ってるだろう?死ぬ限界はちゃんと見極めていると」

「だから肉体の方を見極めてって毎回言ってるよね⁉︎」

 

抗議するも涼しい顔をして流される。そういうのが無ければ完璧超人なのに…。

 

「何か思ったか?」

「いえ何も」

「そうか」

 

その瞬間にまたゴンっと私の頭でいい音が鳴る。

 

「いったぁ…」

「さっさと準備をして砂浜に来い」

「えぇ…?今日特訓入れてたっけ…」

「高町の娘と試合をするんだろう?」

「あーうん。そうだけど…」

「特訓なしで戦うつもりか?」

「そんなつもりはないけど…シグナム姉さん達忙しくないの?」

「少し無理を言って休みをもらっている。で、どうするんだ?お前が嫌だというなら…」

「やる、もちろんやる」

 

食い気味で答え、すぐに部屋に着替えをとりに向かう。

シグナム姉さんと特訓できる機会を逃すわけにはいかないからね。

 

 

 

 

「な?大丈夫だったやろ?」

「そうだな。シグナムも安心してたしユタも全く変わっていないしな」

「無限書庫では過去の記憶と自分の記憶がごっちゃごちゃやったんやろなぁ」

「ユタ自身もずっと自分を責めてたのもわかったし、これからもユタのことは注意深く見てないとなー」

「そうやね。でも…もしかしたらもう大丈夫なんじゃないかな?」

「それはまたなんで?」

「うーん、母親としての勘、かな?」

「そうか、ならいいか。さーてと私も心配かけてきた分ユタをしばき回してくるよ」

「お手柔らかになぁ」




これにてきっとユタは改めて八神家の家族になれたのでしょう。
予定としてはユタvsヴィヴィオと+でもう少し書いてから最終話ですかね

もう少し頑張ります


それでは読んでくださりありがとうございます
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32話 高町VS八神

「……」
『にゃあ……』

覇王の末裔は自室へ戻り力なく壁へ寄りかかる。
これまでに自分がやってきたこと、他人へ甘えて疎かにしてしまっていたこと

自分の過去のこと

様々な思いが胸中を支配し、苦しくなっていた。

「……?」

そんな中、一通のメールが届く。それを見る気力はなかったが愛機が気を利かせメールを展開する。
そこに書かれていたのは、明日の試合を見にきてくれという聖王のクローンからの誘い。

受けるべきか、否か。

普段なら考える余地などないが今回は迷ってしまっていた。

「私…は」

みんなの元にいる資格なんてない。

これまでのことを考え、思わずそう口に出そうとしてしまうがそんな事を言っても何も始まらない。何より自分の意思でこれまでのことを謝り、今後も友人として付き合いたいと本気で思っていたから。

「…」

そして一言だけ添えた返信を送り、眠りについた。


「はぁ…はぁ…し、死ぬ…」

 

「喋れるということはまだ余裕があるな。それじゃあ3分休憩したら続きと行こう」

「んじゃ次は私な」

 

「お、鬼…」

 

「鬼とは失礼だな。悪魔だよ」

 

「どっちもどっちだよ!」

 

シグナム姉さんとの久しぶりのマンツーマンの訓練はまさに苛烈を極めた。もはや戦場と言っても差し支えない。

 

新米兵の私とベテラン兵のシグナム姉さん。

 

だけど敵兵(シグナム姉さん)は容赦がない。

まさに地獄。そこへ更に援軍(ヴィータさん)も駆けつけ、もはや孤立無縁に。

 

ああ、ここが私の死に場所らしい。

 

『シグナム様、ヴィータ様。大変恐縮ですが少しだけ時間を貰えませんか』

 

「ん?どうした」

「ユタのことが心配か?」

 

『いえそれは全く』

「おぃ!クソ愛機!ちょっとはマスターの心配をして!」

『なのはさんから連絡が入りまして。マスターではなくお二人に』

 

「「?」」

 

『というわけでマスターはほんの暫く天国へいてください』

「わ、わか…た…」

 

 

 

 

 

『こんにちはシグナムさん、それにヴィータも』

「なんだ?あたしはついでかよ」

『にゃはは〜冗談だって。それでね2人とも』

 

「ユタとヴィヴィオのことか?」

 

なのはが言うよりも先に内容について触れると正解なのか優しく微笑んでいた。

 

『今日ヴィヴィオが帰ってきてね、特訓をつけて欲しいって言ったの。私の大好きな先輩たちに勝つ為に、って』

 

「ああ、明後日にユタとの試合を組んでいるんだろう?私たちも勝たせる為に特訓をつけるつもりだからそっちも遠慮なく鍛えてやれ」

 

『そこはいつも通りだからいいんだけどね。

 

……ユタちゃんのことを話すヴィヴィオがいつも以上に悲しそうにしてたから、少し心配になっちゃって。きっと嘗ての自分にユタちゃんを重ねちゃってたんだと思う。それにシグナムさんたちも優しいから私たち以上にユタちゃんのことで悩んでるのかもしれないって思って。何か力になれたらなーなんて』

 

おおかた予想通りの言葉に思わずヴィータと共に笑ってしまう。それを見たなのはがプンスカと擬音が聞こえるかのように膨れっ面になっていたが。

 

「心配すんな。アイツはもう大丈夫だ。マリナのことをまだ引きずっちゃいるだろうけど、それでもアイツの中で折り合いはついてるよ。少なくとも明後日の試合には持ち込まないさ」

「ああ。もし何かあっても、ここには主はやてにザフィーラやシャマルたちもいる。それに他のみんな…ヴィヴィオやミウラ、他の八神家道場の子達がいる。もちろん、なのは達もな」

 

『そっか……。なら大丈夫そうだね』

 

互いにそれ以上の言葉は不要だった。そして切り替えたのか、なのはは少し意地悪な笑みを浮かべていた。

 

『それはそうとして明後日は絶対ヴィヴィオが勝つからね!その為にみっちり特訓するから!』

 

「ふっ…そう簡単に行くかな?」

「悪ぃが、ユタがヴィヴィオをボッコボコにしちゃうかもしれねぇぜ?そんときゃ泣くなよ?」

 

『泣かないよー!』

 

その後ほんの少しだけ談笑し、そのうち機動六課でマリナの墓参りに行こうと約束をして通信を終えた。

 

「さ、もっとビシバシ鍛えるか。なのはの娘とはいえ負けてられねえからな!」

「そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

〜試合当日 アリーナ〜

 

丸一日と少しを使い久しぶりにシグナム姉さんたちとみっちり練習をした。死ぬかと思ったけど。

 

そしてヴィヴィオちゃんからのメールでは魔法戦技の練習場としてもよく使うアリーナへ向かった。インターミドルと同じ環境で試合ができるように、とのことだった。

 

つまりは【影】も使っていい、と言うことだろう。

 

「……あ」

『みなさんすでに集まっておられますね』

 

入り口が見えてくると母さんを始めシグナム姉さんやザフィーラ、シャマル先生などの八神家のみんな、それと八神家道場の子達。

ジークさんやヴィクターさん、番長、ミカヤさんなどのインターミドル上位勢の方々。

コロナちゃん、リオちゃんにノーヴェさん。

なのはさんにフェイトさん、スバルさんにティアナさん、エリオにキャロ、ルーテシアさんまでもいた。

 

 

そして、アインハルト。

 

 

 

「あはは…大所帯だ」

『無様に負けられませんねぇ』

「負けるつもりなんて毛頭ないけどね」

『小さき獅子に足元、もしくは喉元を噛まれる可能性は十二分にあるかと思いますが?』

「それもそうか。……よし、気合い入った」

 

 

入り口に早足で向かうとヴィヴィオちゃんだけいないことに気づいたので聞いてみると、既に中でアップをしているとのこと。

私も準備をする為に向かおうとしたとき、なのはさんから『今日のヴィヴィオは一味違うよ』と言われ、『私もですよ』と返し駆け足で更衣室へ。

 

スポーツウェアに着替え、腕には黄色のリストバンド-シグナムと刻まれているもの-を着け、髪をピンク色の髪留め-こちらも同じくシグナムと刻まれている物-でポニーテールにする。

 

母さん達によると今日の試合はセコンドも何もなく、本当に私たちが気の済むまで戦っていいとのこと。

 

「おお…思った以上に」

『本気、と言ったところでしょうか』

「ヴィヴィちゃんはそもそもどんな試合にも全力全開だと思うけどね」

『それもそうですね。マスターと違って』

「いや私も常に全力だけど?」

 

間違っても手を抜くなんて失礼なことはしたことないよ。

 

「や、ヴィヴィオちゃん」

「ユタさんこんにちは!体調は万全ですか?」

「勿論。…といいたいけどシグナム姉さん達にしばかれすぎて全身筋肉痛」

「えぇ…」

「嘘嘘。ちゃんと万全にしてきたよ。だから…」

 

1、2回深呼吸を挟み、自分でもキザだとわかるくらいには不敵に笑い口を開く。

 

 

「初めっから全力で、全身全霊で以て叩き斬るから、そのつもりでいてね」

「勿論です。受けて立ちます。ユタさんこそ見ててくださいね。ほんの少しでも油断したなら一撃で意識を断ち切ってあげますから」

 

 

2人の聖王(クローン)は互いに負ける気など微塵もなく、拳を合わせる。

先輩(ヴィヴィオ)も、後輩(ユタ)も、勝利への意欲以外のモノを持ち込むことはせず、エンジンを全開にしていた。

 

 

「…でも、よかったです」

 

「ん?何が?」

 

「いえ、無限書庫のことでどうしてもユタさんを昔の自分に重ねちゃってて。あの時ユタさんが皆さんに謝ってたのを見ていても、どうしても不安が拭えなかったんです」

 

「…ごめんね。だけどもう大丈夫。私には母さん…八神はやてさんがいて、シグナム姉さんがいて、ヴィータさんやザフィーラ達もいる。それに、今もこうして向き合ってくれてる小さな先輩もいるからね。だから、もう大丈夫。これからも頼るから、よろしくね?」

 

「はいっ!」

 

 

 

 

『2人ともー。準備はいいかな?』

 

モニターが現れ、ルーさんが最後の確認をする。

 

「「はい」」

 

『それじゃあセットアップをしてちょうだい』

 

「「セットアップ」」

 

ユタとヴィヴィオが同時にバリアジャケットを装備する。

その光景をみていた観客は少しざわついていたが、それはリングに立っていた2人もだった。

 

「ユタさん、それは…」

「似合ってないかな?」

 

意地悪っぽくユタが尋ねるとヴィヴィオは慌てて首を横に振る。

 

「い、いえ!そんなことはないです!とてもかっこいいと思います!」

「ふふっ、ありがとう。それよりもヴィヴィオちゃんもその格好は…」

「え?似合ってませんかね?」

 

ヴィヴィオの反応が可愛らしかったのかフフッとユタは笑う。

 

「んーん。全然そんなことないよ。とてもよく似合ってる」

「…ありがとうございます!」

「考えてることは同じなんて、姉妹みたいだね」

「実際姉妹みたいなものじゃないですか?私たち同じ人から生まれたんですし」

「それもそうだね。じゃあ私がお姉ちゃんかな?」

「私かもしれませんよ?」

「じゃあ今日は姉の座もかけて勝負だね」

「そうですね!」

 

皆がざわついた理由は、2人のセットアップ姿にあった。

 

ユタは、はやての姿を模した姿に

ヴィヴィオは、なのはの姿を模した姿に

 

互いにとって最愛の母親の姿を模していたからだ。

 

 

『それじゃあ行くよー?』

 

「うん」

「はいっ!」

 

 

『レディー      ゴー!』

 

 

戦いの火蓋が切って落とされる。

 

 

 

 

 

 

まず飛び込んだのはヴィヴィオ。思い切り踏み込みユタへ肉薄し左拳でのジャブを入れる。

ユタは焦ることなく手の甲を叩くことで軌道を逸らす。ヴィヴィオは想定内なのかラッシュを入れる。だが結果は変わらず、弾かれ逸らされ、受け流される。

 

そしてユタはラッシュの切れ目を狙いヴィヴィオへ向かって拳を振りかざす。バックステップで避けられはするがそれが狙いで一気に後ろへ跳び距離を取る。

 

「プライド、行くよ」

『了解しました』

 

「クリス、警戒だよ!」

『(ビッ!)』

 

ユタは魔力を練り上げ【影】を創り出す。

 

 

「さあ、行くよヴィヴィオちゃん」

「私こそ行きますよユタさん」

 

 

ユタが練った影を勢いよく伸ばしヴィヴィオへ向かわせる。それに対してヴィヴィオはユタへ向かいながら迎撃することを選択する。

 

幾本もの影の触手を真正面から迎え撃つ事を選択したヴィヴィオは多少は立ち止まってしまっていたが、それでも全てを殴り、蹴り、破壊して前へ進む。

 

 

 

 

(ユタ、ヴィヴィオのことだ。影を使っても距離を取るんじゃなくて詰められると思っとけ)

(ユタの影は確かに異質だが、実のところは見た目だけだ。弱点は他の魔法主体の選手と変わらないからな)

 

(ヴィヴィオ。ユタに影を使われても臆するな。前に飛び込め。とは言っても予測はされてるだろうからな。そこからどうするかだ)

(ユタちゃんの影は確かに特殊だけどね、やってることは他の魔法中心の戦いかたをする人とあんまり変わらないの)

 

 

(近づかれる前提の戦法も、近づかれた時の戦法もあるにはある。だけどその辺はなのはの奴が叩き込むだろうからな。だから近接戦に持ち込まれたら敢えて乗れ。その上で…)

 

(近づいた時にどうされたら嫌なのかは教えてあげれる。でもユタちゃんにはヴィータさんに、なによりシグナムさんもいる。だから、ただ近接戦に持ち込むだけじゃなくて…)

 

 

(ヴィヴィオを、私たちを、観客全員の度肝を抜くくらいの事をしてやれ。お前なら余裕だろう?)

(ユタちゃんだけじゃなくて見てる友達や一緒に練習した私たちも驚くような事をしてあげちゃえ!)

 

 

互いに格闘戦の間合いに入ろうとした時

 

 

 

ガギィン!

 

 

 

甲高い金属がぶつかったかのような音が鳴り響いた。

 

 

「「……っ!」」

 

 

片や()()()()()()()()()()()()()()

 

片や()()()()()()()()()()()()

 

鍔迫り合いをしていた。

 

 

「……」

「はぁーいつの間に」

「たはっ!ユタらしいなおい!」

 

「…フェイトちゃん達の入れ知恵もあるでしょ?」

「さあー?どうかなー。でもあれは正真正銘ヴィヴィオの努力の成果だよ」

「でもでも!」

「それだけじゃないですよ!」

 

 

シグナムの剣を模った影と母親の愛機を模した魔力の塊は何度も何度もぶつかり合う。

 

互いに目指すものは違えど、お手本にすべきものがすぐそばに、それもずっとあった為に取り入れるのにはさほど苦労していなかった。互いに付け焼き刃に違いはなかったが、ただそれ以上に別の感情が2人を支配する。

 

恐らくは2人にとっても最初で最後の戦法だろう。なんせ、最高で最強の憧れの存在ではあるけれど、自分の目指す道ではないと分かっていたから。

 

 

ガギィン!と弾き合い、共に後ろへ跳躍し距離を空ける。

 

 

「「ふふっ、あははは!」」

 

 

もう我慢ができないと言わんばかりに2人は同時に笑い出した。それを観客はポカーンとしながらも2人の気持ちを理解していた。

 

「こ、こんなに考えてる事同じってあります?あっははは!」

「はー、ほんとうにそれね。あっはは…。にしてもヴィヴィオちゃん大丈夫?」

「ほ、ほぇ?な、何がですか?」

「いや、それ魔力の塊でしょ?すぐガス欠なっちゃうんじゃない?」

「大丈夫ですよ!ご心配なく!それよりもユタさん、早く続きをやりましょう!今度は別のことで驚かせてみせますから!」

「おっ、それじゃあ更にど近距離戦になったら私の凄さを見せつけてあげよう。ヴィヴィオちゃんなんて足元にも及ばないって事をみんなに見せつけなきゃ」

「いいましたね!覚悟してくださいよ!」

 

 





1話で終わると思ったか?
甘いな

(普通に書き切ろうとしたら1万字越えそうな勢いだったのでキリのいいところで区切りましたはい)


次回投稿は1週間以内にします(多分きっとおそらく)


それでは読んでくださりありがとうございます
感想や評価などくださると嬉しいです


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33話 持ち味

魔法戦技をやろうと思ったキッカケはなんだっけ。

確か、お姉ちゃんが死んじゃって、強くならなきゃって思って。

でも、きっとみんな、私が強くなろうとすると反対するだろうって決めつけてて。

だから1人でこっそり色々と調べて、インターミドルっていうのに行き着いた。

世界各地から腕自慢魔法自慢の人たちが集まって、文字通りの10代最強を決める大会

最初は強くなるために、少しでも勉強をするために見ていただけだった。

それだけだったはずなのに

気づくと私は、お姉ちゃんと同じか、もしくはそれよりも年下の人たちが繰り広げる戦いに魅入っていた。

たまたま見ていたインターミドル都市本線決勝。カウンター主体の格闘技選手と魔法主体ながらも体術も引けを取らない選手。

まさに一進一退の、どっちが勝ってもおかしくない試合で、最後に決めたのはカウンター主体の選手。
ダメージを負ってふらついたかのように見せ、隙を晒し相手の強打を誘い出した。

目論見通り放たれた強打を手のひらで受け後ろへ受け流し、その勢いを使い回転、相手の裏拳を側頭部へ打ち込んだ。

言葉にすればたったそれだけの内容だけど、当時の私の心にずっと残っていた。


それから、そんな風に戦えたらと思い、格闘技が出来るようになればと思い、魔法戦も出来るようになりたいと思い。

()()()()()()()練習をこっそりと続けていた。
まあ結果として見つかったわけだけど。それでもシグナム姉さんからは()()()()()と思われた。

母さんやヴィータさん、ザフィーラにも見てもらい、その結果ちゃんと鍛えてもらうことになった。
ま、それで実は見よう見まねでやってただけ、ってのはバレたんだけど。




無限書庫での出来事の後、そんなことを思い出してて気づいた。



私の特技は、なにも影操作やカウンターじゃない。


()()()()()()()()()
それが他の誰にも負けない私の得意技だ。


 そう気づいてからは早かった。



なんせ、私より強い人の手本なんて周りに沢山いるんだから。


互いに笑いがおさまった後、お互いに作っていたモノを消す。

 

そして示し合わせたかのように一歩後ろに跳ぶ。

 

「さ、続きやろうかヴィヴィオちゃん」

 

「はい!」

 

ヴィヴィオちゃんが構えるのを見て私は更に後ろに跳ぶ。それを合図とでも言うように私へ向かって走ってくる。

 

「やぁっ!」

「っ⁉︎」

 

まっすぐ来るかと思ったけど、緩急をつけ不規則な動きで向かってくる。右、左、右、左かと思うとまた右。目で追い切れたと思った瞬間に今度は目の前から消える。

 

「はっや…」

 

ヴィヴィオちゃんとミウラが対戦した時より更に速く、鋭い動きになっていて、なおかつあまり見ない動きなせいで思わず対応が遅れた。そう思った一瞬後には目の前まで来ていた。

 

「まっず…」

「アクセルスマッシュ!」

 

それに気づいた時はもう遅く、放たれた右腕はきれいに私の顎を下から撃ち抜いた。

 

 

 

「わぁ…」

「よしっ!」

 

その光景を見ていたなのはとフェイトは小さくガッツポーズをしていた。

 

「……」

「かぁー、ノーヴェの仕込みだな?」

「うん、だけど…ユタがただ撃ち抜かれるだけとは思えんなぁ」

 

シグナムとヴィータはヴィヴィオの速さと正確さに感嘆し、はやては称賛しつつも自分の子がただ撃ち抜かれただけとは思っていなかった。

 

「……〜〜っ」

 

その理由はすぐに明らかになる。なぜならアッパーを決めたはずのヴィヴィオはその場に少しふらついていたから。

 

「え?え?ヴィヴィオが決めたのになんでふらついてるの?」

「ユタがカウンターを決めたからやね」

 

大人組を除く観客席のほとんどがヴィヴィオの様子に困惑していたが、ライバル達の中で1人だけ全部見えていた人がいた。

 

「どういうことだ?ジーク」

「ヴィヴィオちゃんがアッパーを決めに行った瞬間、ユタもカウンターを仕掛けに行ってた。でもあの体勢からカウンターを決めれるとは思ってなかったんやけど…」

「そこまでは私も見えてました。ですが…、その、一瞬ですがユタさんの腕が()()()()()()…」

「「「「「?」」」」」

 

アインハルトの言葉に更に困惑してしまうが見えていたジークだけは先に答えに辿り着いていた。

 

「うん、伸びたって表現に間違い無いと思う。ユタの腕から一瞬だけやけど()()()()()()()()()()()()()から」

 

その事実に全員が驚愕する。唯一驚いていなかったのは…

 

「ふふ……」

 

ただ1人、ユタの師匠だけだった。

 

 

 

「やってやれ。ユタ。お前の技は、努力の結晶は、その程度じゃ無いだろう?」

 

 

 

 

 

「あ゛ーーー。クラクラする……」

『どうします?脳震盪ですから治しましょうか?』

「い゛や、いら、ない。それよりも魔力、とっといて」

『承知しました』

 

 

『……!』

「大、丈夫だよ。心配しないで。それよりも、もっともっと、ギアを上げていくから、サポートお願いクリス」

『!』

 

 

2人のクローンはフラフラしながらもゆっくりと立ち上がる。

 

顔を思い切り振り、意識を覚醒させる。

 

 

「い…よっし、それじゃあ続き行こう」

 

「はいっ!」

 

 

 

 

再開のゴングが鳴ると同時、ヴィヴィオはまたもや駆け出す。それを見たユタは足元に影を楕円状に展開する。それと同時に左目を陰で覆う。

 

「悪いけど…馬鹿正直にインファイトに付き合う気は無いよっ!」

 

ユタの足元から影が飛び出しヴィヴィオへ向かっていく。それをヴィヴィオは避けずにその場に止まる。

 

「アクセルスマッシュ!」

 

「……わーぉ」

 

ヴィヴィオは魔力を手に纏い、真正面から影を破壊することを選ぶ。

 

「確かに…いつかはやられるだろうとは思ったけど、こうもあっさりとは」

『どうします?戦法は変えずにいきますか?』

「うん、だけど硬化魔法は準備するかな。あの速さだと懐に入られるのも時間の問題だし」

『承知しました』

 

 

「よーし、成功!どんどん行こうクリス!」

『(ピッ)!』

「(とはいえ…あのユタさんが何も対策しないとは思えない。油断しないように…)」

 

 

 

 

 

「ま、いつかはそうなるわな」

「ああ。あれは単なる魔力の塊だから殴り壊すなど造作もない。ましてや素早さと鋭利に特化させていると言うことはそれだけ脆くなる」

「今までの選手は魔法主体じゃない限り真正面から壊そうなんてせずに避けてばっかりやからなぁ」

「魔法主体の選手なら吸収放射や反射(リフレクト)の餌食だしな」

 

 

 

「だけど…殴り壊すなら反射や吸収に気を配る必要もない」

「ユタちゃんの魔法の厄介なところは影魔法に上乗せして吸収か反射のどっちかを付与してるところだからね。下手な魔法の撃ち合いだと逆に負けちゃうし」

「どっちかパッと見でわからないのも怖いよね。その辺はシグナムさん達が流石と言うべきなのか、それを実現させてるユタちゃんの技量が凄いのか…」

 

 

 

 

「よっ!」

「はあっ!」

 

しばらくの間2人の攻防は変わらなかった。

ユタが影を射出し、ヴィヴィオはアクセルスマッシュで打ち砕いていく。

 

時には避けながら着実に距離を縮めていく。

 

ユタは影を出しながら移動していき、ヴィヴィオも影を壊しながら追いかける。

 

「ディバインバスター!」

影壁(シャドウウォール)!」

 

ヴィヴィオが放った砲撃を影で受け止める。

 

しかしディバインバスターは、正確にはユタではなく床と影の境目を狙われており、爆発で土煙が巻き上がる。

 

「……!なるほどね」

 

タッタッタッ

 

そして土煙に紛れ縦横無尽に走り回る。

 

「だけどヴィヴィオちゃんも見えないはず…」

 

そこまで考えてユタは自分に疑問を持った。

 

「(ヴィヴィオちゃんが何の考えもなしにこんなことを?自分も見えなくなることくらい分かりそうなものなのに?)」

 

その疑問はすぐに解消される。

 

「アクセル…」

「っ!」

「スマッシュ!」

 

そして本日二度目のアクセルスマッシュがユタへ命中した。

 

「痛っ…!」

 

「はぁー、お見事ヴィヴィオちゃん。でもどう?流石に拳、折れたんじゃない?」

 

ヴィヴィオがユタの居場所を的確に当てられた理由はとても単純で、ユタが展開していた影の魔力を探知していたからだった。ユタもそれに気づき、あえて誘い込むように動いていた。

 

「読まれて…ましたか」

 

「というよりは、ヴィヴィオちゃんならそうくるかなって。私が影展開してたなら魔力探知なんて余裕だろうし

 

渾身の一撃を腕で防がれたヴィヴィオは右拳に骨折判定を受けていた。その理由は単純で、ユタの腕に硬化魔法が発動されており黒くなっていたからだった。

 

とはいえ、元から体がそんなに頑丈でないユタも無論、無事ではなく…

 

「さあ、続きだよ。影の雨(シャドウレイン)

 

「……っ!」

 

ユタの背後に影が巨大な壁がせり上がるかのように広がっていく。その全てから影の触手が大量に顔を覗かせる。

 

「ゴー!」

 

ユタの掛け声で数多の触手が-鋭利な刃先や殴打しやすく丸まったものなど様々な形状に変化し-ヴィヴィオへ降り注ぐ。

 

拳の骨が折れてしまったヴィヴィオは、今度は無理せず避けれるものはしっかりと避けていく。それを見たユタはわずかに口角を上げる。

 

まるでイタズラに成功したかのように。

 

「それじゃあプライド、秘策その2いこう」

『畏まりました』

 

影の雨の残弾をほぼ撃ち尽くしたのと同時、再度魔力を練り上げる。ユタの影は腕を伝い、形を作っていく。

 

「くっ…」

 

「さ、第2ラウンドだよ。ヴィヴィオちゃん」

 

「…!はは、ユタさんの影って、本当に何でもありですね」

 

「それが私の持ち味だからね」

 

ユタの手には弓矢が握られており、それを見たヴィヴィオは冷や汗を垂らす。

 

「ヴィヴィオちゃんに同じ手は何度も通用しないのはよーく分かってるからね。さ…ここからは引き出しの多さで勝負といこうか?」

 

「望むところです!」

 

 

 

 

 

「……」

「あれ、シグナムが?」

「い、いえ。見せたことはありますが…ユタが小さい頃でした。……まさか、あの時の記憶から再現してみせた…?」

 

ユタの握っていた弓矢は、紛れもなくシグナムが使っていたモノ。数多くある形態のうち1つを、色彩こそ違うがそっくりそのままだった。

 

ユタが弓を引き、5本程度の影の矢が放たれる。

 

まっすぐ向かったかと思うと矢は-1本は左へ、一本は右へ、更には上へ、下へ、急停止など-あり得ない挙動をしてヴィヴィオへ襲いかかる。

まるで先ほどの意趣返しとでも言うように、ヴィヴィオを困惑させ一瞬の隙を生む。

 

その間にユタはヴィヴィオへ急接近する。

 

それに気づいたヴィヴィオは構えるが影の矢がそれを許さず、背後から直撃する。

 

「っ…やあぁぁ!」

「ハァッ!」

 

ヴィヴィオの右ストレートをユタは手のひらで受け止め、その場で回転。その勢いでヴィヴィオの側頭部へ裏拳を決め-

 

「…へぇ」

 

決めたかのように思えた拳は空振りに終わる。ユタが少し距離を取ると、前屈みになっていたヴィヴィオがいた。

 

「ストレートを打った勢いでそのまま前傾姿勢になって避けたのか。なるほどねぇ」

『こんな避け方する選手は何気に初では?』

「それね。このカウンター決めれた人ってほとんど初見の人たちにだし、ジークさんは受け止めてくるし。ハリーさんは根性で耐えるし」

 

 

 

 

カーーーーン!

 

 

 

『はーい2人とも。インターバルだよー。5分間ね』

 

「はーい」

「はいっ!」

 

『セコンドの人と作戦会議もできるけど、どうする?』

 

「私はパス」

「お願いします!ノーヴェで!」

 

ルーさんの合図でリングの外に出る。

用意されていた椅子に座り水などをゆっくり摂る。

 

「さーて、ノーヴェさんと話すってことは、バレるだろうね」

『でしょうね。あまり展開は変わらなさそうですが』

 

 

 

 

「ヴィヴィオ、気づいてるか?」

「え?」

「リングの床、見てみな」

「床…?」

 

ノーヴェに言われるがまま、リングの床を凝視する。

特に変わったようなことなんて…

 

「床の色、始める前と変わってないか?」

 

「……言われて見れば、ちょっと黒い?」

 

「そうだ。しかもこうなったのはいつからだと思う?」

 

「…ごめん。わからない」

 

「正解は、影の雨を撃たれた時からだな。その時からユタは陰で致命打をとるんじゃなくて床一面に魔力を散布させてた」

 

「あの時から…。でも、狙いは死角からの攻撃、なんだろうけどそんなバレやすい戦術、ユタさんが組むかな?」

 

「それはなんとも言えないな。だから…ユタだけじゃなくもっと周りにも気をつけて戦ってこい。その上で…ユタのやつをぶっ飛ばしてやれ。都市本線2位をな!」

 

「押忍!」

 

 

 

 

インターバルが終わり、互いにクラッシュエミュレートを治し切る。

 

ライフという仕様は今回に限ってはないため、意識を刈り取るか、ダウン後のカウントを10までに立ち上がれないか、もしくは負けを宣言するしか無い。

 

「さぁーて。魔力量も充分残ってる、仕込みも上々。後は…」

『根気、ですね』

「仰るとおり。魔力切れならないよう気をつけながら、魔力操作にも力を割いて、かつヴィヴィオちゃんに懐に入られないようにしなきゃならない。

さあ、気張ろうか」

『御武運を』

 

 

 

 

「ユタさんの影はもう、リング全体に溶け込んでていつどこから襲ってきてもおかしくない。目に見えてるものだけに注意しちゃダメ。全部に気を配りつつ…出来るだけ早く決着をつけにいく」

「おう、行ってこい!」

「押忍!」

 

 

 

 

 




戦闘 難しい(´・ω・`)

リリなのvivid、vivid strikeも見直したけど、普通にむずい

ワロエナイ

あまり納得がいかないが故に投稿ができず伸びる伸びる…

あー、えー、一応次回、決着予定です


読んでくださりありがとうございます
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