昭和特撮ヒーローまたは平成初期アニメヒーローフルヤ・レイ (充椎十四)
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昭和特撮ヒーローまたは平成初期アニメヒーローフルヤ・レイ

あるいはザ・フロッグシップ・イン・トウト


 全ての省庁のセキュリティが刷新されたという話を聞いたのは、任官された年のことだった。

 警視庁所属のエンジニアが作ったというそれの『教育用デモ版』なるファイアーウォールを攻撃させてもらえる順が回ってくるまで、先に済ませた面々が「無理」と頭を横に振る姿を見た。

 システムには強いつもりでいたから善戦とは言わなくても即死はないはず――が、手も足も出ないままパソコンを乗っ取られた。アタック開始から五分もたってないのにもう乗っ取られるとか早すぎるだろ? なんなんだこれ難易度がおかしい。

 

 警視庁のミラーサイトが映っていたはずの画面には様々なカエルの写真が隙間なく敷き詰められ、スピーカーからはゲロゲロブーブーと鳴き声が響き渡る。狭い個室だから壁に音が反響して余計にうるさい。

 

「くそっ」

 

 デモ版だからLANを抜いたところで効果はない。しかし焦るままに立ち上がりケーブルを引き抜いた……とたん音量が上がり、鳴き声の合唱が哄笑にそして嘲笑に変わる。ゲラゲラゲラゲラと――不愉快極まりない。

 テスト担当者だという警視庁所属の事務官が疲れた顔を隠しもせずこちらに近寄りテンキーを叩く。2、1、7。スピーカーは沈黙し画面のカエルカーニバルは終了、個室はしんと静まった。

 

 倒れたパイプ椅子を直して座れば、事務官がバインダーに視線を落としながら口を開いた。

 

「テストプレイは以上です。感想をお願いします」

「あ、ええ。……ここまで為す術もないとは思ってもみなかったので、呆然としています」

 

 乗っ取られてから流れたカエルの合唱と嘲笑など腹立たしいことこのうえない。こちらを冷静でいられなくさせる不愉快かつ悪質な嫌がらせからは、このセキュリティを組んだ奴の性根が窺える。

 かりかりと書き込む音。いくつかの質問に口頭で答えていく。

 

「これだけのシステムを組めるなんて、よほどの方でしょう。直接お話を聞けたら――いえ、教官として指導をされるご予定は?」

「残念ですが、『本人に指導教官の適正がない』とのことです」

「それは、そうでしょうね」

 

 はっきり言おう――ハッカーを刺激してどうする。この逆ハックにキレた悪質なハッカーらが集団で攻撃を仕掛けてくる可能性だってあるんだ、それにも耐えうるだけのセキュリティを組んでいるのか? 決して負けないという自信の現れなのか。マッチョアピールのやり方が厭らしい。コミュニケーション能力に難がありそうだ。

 

「この製作者がこれから他に、システムを組まれる予定は?」

「お答えできません」

 

 俺が知ることが出来る範囲の情報ではないのか。――当たり前か、所属が公安とはいえ、まだ一年目のヒヨッコに開示される範囲は少ない。

 教えてもらえれば良いなという程度の考えだったし、製作者について知るのは諦めた。Need to knowの原則だ――知る必要があるときには開示されるだろう。

 

 まだ設置されてから二年と少しという庁のセキュリティ管理室(セクかん)に呼ばれたのは、潜入捜査の訓練を終えた後のこと。極秘についても取り扱うからか公安の管轄にあるそうだが、今までセク管所属の奴とは会ったことがない。

 出入りの担当だという男は俺の顔を見て何故か目を瞬かせた。すぐに真顔に戻ると「こちらです」と奥へ案内される。普段使わない通路の先は行き止まりに見えるが、壁にスライド式のカードリーダーとテンキーが設置されている。

 カードキーと十六桁のコード入力で解錠――物々しいセキュリティだ。

 

 そして、ファイアーウォール製作者と対面を果たす。

 

「は……!?」

 

 ――警察学校の同期で目立っていた奴といえば、男子なら俺ら五人、女子なら新名カロルだろう。名前から分かる通り新名はハーフだそうで、金髪だし睫長いし鼻は細長いし背も高い。怒り肩で肩幅が広いから女物が入らず、男の制服を着てるのがまあ似合うのなんの。そうして付けられた渾名はカロル殿下。「王子」と呼んでる奴もいる。

 見た目や骨格からして海外にルーツを持ってることは明らかで、親近感を覚え話しかけた結果……新名がかなり砕けた奴と知った。

 休み時間や食事中の雑談で話題になるのは訓練の内容、食事の味付け、そして入校前の様々なこと。ゴールデンウィーク初日の夕方、学校内に残った面々だけでお互いの身の上話なんてものが始まった。

 

 当たり障りのない範囲のことしか話さなかった俺や他の奴と対照的にカロルの口は軽快に動いた。曰く、父親は末期のガン◯ラ中毒で、大家から何度も苦言を呈されたこと。曰く、父親はカリスマはあるのに普段の言動が酷く色々と台無しのため人望がないこと。曰く。父親は母国に送還されたため日本にいないこと。送還……?

 

「我らが父上は欠点が多い――しかし、そこが良い! 降谷殿たちもそう思うでありましょ?」

「思わん」

「何故に!?」

 

 『母国に送還された』ということはつまり、恋人と結婚もせず子供を作ったってことじゃないのか――そしてビザが切れて送還されたのか。期限が切れる前に結婚しろよ。在留資格とれ。バカなのか。

 

「……良くも悪くも武勇伝の多そうな人だな」

「見本にしちゃならねー類いの大人じゃねえか」

 

 六人掛けテーブルの正面に座る二人――ヒロと松田が肩を竦め呆れを含んだため息を吐いた。

 居残り組は俺を合わせて四人。ヒロ、松田、新名、俺だ。萩原は「心の洗濯してくる☆」と帰省、伊達は「家族が待ってるから」と帰省。新名の友人……友人なのかファンなのか分からないが普段新名と一緒に行動してる奴らも帰省。

 

「そうだ。わたくし帰省する家はありませぬが、明日後見人が迎えに来る予定であります。三日ほど不在にするであります」

「そっか、了解」

「シャバの空気楽しんでこいよ」

 

 翌朝新名を迎えに来たのは俺達より少し年上だろう若い男で、新名に「頼むから私を困らせるな」「この一月の間に変なもの作ってないだろうな、後でお前の荷物全部ひっくり返すぞ」「教官に迷惑掛けてないか? 確認とるからな」としつこく絡んでいた。どんだけ信頼がないんだ。

 

「嫌ですなぁ――かざ、加美谷殿。いくらわたくしでも無から物を生み出すことはできませぬ。なんせここには道具も資材もないではありませぬか。ね? ね?」

「その言葉を信じられると思っているのか」

 

 訓練頑張ってくださいねと俺達にも礼儀正しく頭を下げた男――新名の後見人は、なんと一つ上の先輩らしい。去年警察学校に通っていたからと居残りの教官達に挨拶をして、新名を引きずり去っていった。

 新名はこれまでに何をしでかしてきたんだ……?

 

 三日後に戻ってきた新名はいかにも「私は寝不足です」と言わんばかりの顔色だった。目の下にはくっきりと隈ができており、どことなく萎びている。「いくらわたくしが東都のルリルリとはいえ、ケ――人使いが荒いであります。げろー寝るます」とよく分からないことを言いながらよたもたと怪しい足取りで歩き、女子寮に消えていった。

 

 たった一歳差の後見人、在校中一度も休日の外出申請をせず、しかし教官以外の誰だかに呼び出されては校内から姿を消していた。――新名が何らかの事情持ちだと分かるまでに時間はいらなかった。

 教育を終え、任官先の事情で同期との連絡を断ち、忙しく訓練に仕事にと駆け回って。学校時代のことなんて思い出す暇もない毎日を過ごしていた、そんなときだったのだ。

 

 広いセク管室に一人。新名カロルが競泳水着で浮き輪を腰に嵌め立っていた。水着の胸元には黄色い星マークが縫い付けられている――ださい。

 

「磯野ぉ、プール行こうぜ」

「着替えてこい」

「まあまあもちついて聞いてくだされ。実はわたくし、プライベートプールなる素敵なものをネットで見つけましてな。なななんと! 金を積めばプールを独占できるんであります! そして飯も出るし寝床もある。わたくし、普段は裕也殿が心を込めて用意してくださるビニールプールで満足できるエコさを誇っております……が、常々いつか大きなプールを満喫したいと夢見ておりました」

「着替えてこい」

「おいおい人の話は最後まで聞くものだぜ兄弟。せっかちは嫌われるぜ。――調査によれば、わたくしが目を付けておりますプライベートプールはプラン料金内で食べられるバーベキューが大変うんまいそうで。好きなだけプール入って飯食って寝られるというだけでも魅力的なのに、なおかつ飯が美味いとなればもはやプールに行くっきゃない。ハートは磨くっきゃない。裕也殿も時には心の洗濯をしたいでありましょう? 我らはこれより四駆を走らせる爆走兄弟、つまりレッツ&ゴー」

「着替えてこい――客だ」

 

 浮き輪を上下に揺らしていた新名はその言葉で俺に顔を向ける。

 

「どうしてお前がここに……」

「何故とは片腹痛い質問でありますな。わたくしはここセク管の主であり、蛙に求愛されるってどんな気持ち(アイタクテ✕アイタクテ✕フルエル)防衛システムの開発者――そして、これから貴殿を改造する研究者なのでありますよ」

 

 天井や四方の壁の一部が開くやいなや白煙が間欠泉のごとく室内に噴出される。

 はっと新名や案内役の男を見れば、どこから取り出したのかガスマスクを被っている。天井へ流れる煙に舌打ちし、袖で口許を覆い身を低くして案内の男を襲おうとした、が。

 

「申し訳ない。この催眠ガスは空気より重いんであります」

 

 こもった声が聞こえたのとほぼ同時に、目の前は真っ暗になり――古い蛍光灯に電気が通るヴゥンという鈍い音と強い光。瞼を焼く白色光がまどろんでいた意識が叩き起こされる。

 

 どれだけの時間気を失っていたのだろう、手術台らしき場所で寝かされていた。

 気絶する前のことを思い出し腹に力を入れるも、四肢が固定されているしく微動だにできない。

 

「目が覚めましたかね、降谷殿」

 

 眩しさにまだ慣れず顔を横に背ける。と、スピーカー越しに新名の声が響いた。

 

「優秀な警察官を改造し、超人的能力を与える……初代仮面◯イダーの第一話を思い出しますな。これぞ少年心を掴んで離さないアツい導入、『研究者であるからには一度はやってみたいヤバいことランキング』のトップ10に入る行為であります」

「新名ァ、お前どういうつもりだ!」

「どういうつもり、とは今説明したではありませぬか――」

 

 降谷殿、貴殿は選ばれたのです。改造人間の被検体に。

 

 新名の明るい声が耳をブスブスと刺す。

 

「副作用についてはまあご心配召されるな! ちょっと気が短くなるくらいでありますから、元々導火線短めの降谷殿が更に短気になったところで誤差というもの。後は……ナノマシンが体に馴染むまで頭痛やら吐き気やらが続くでしょうが、三日もすれば落ち着きますのでご安心くだされ」

 

 頭が回らない――こいつは何を言ってるんだ。

 

「いやぁ、黒田殿を説得するのは大変でした。ちょっとチクッとするだけなのにやれ安全性はどうだのと全く口煩いったら。ラットで実験できる類いのものではないのですから当たって砕けろというのに」

 

 目が覚めたばかりなのに気が遠くなる。頭痛がするのは新名の言う『副作用』のせいなのか、それとも理解しがたい情報の山に頭がショートしているからなのか。

 

「あいや失敬、愚痴を聞かせてしまいましたな。今一番愚痴りたいのは降谷殿でありますのに。クーックックックッ!」

 

 このアマ――ッ!!

 くそ、駄目だ、怒りに囚われては正常な判断ができなくなる。クールだ……クールになれ降谷零。

 

「何をしたいんだ、お前は」

「何を、でありますか。そうですなあ」

 

 情報を得るためだと自分に言い聞かせて訊ねれば、新名は二呼吸言葉を止める。

 

「わたくしはぼせいに帰りたいのです」

「母性……?」

 

 ちょっと何を言ってるのか分からない。母性、いや、母星か?

 

「そのために技術を切り売りして協力者を増やしつつ――萌えと燃えを満たし、ぼくの考えた最強のエステバ◯ス乗りを育てるのです」

「なんて?」

 

 残念だが何を言ってるのか理解できなかった。エステ◯リス……?

 

「イメージフィードバックシステムって燃えますでしょ」

 

 なんの話をしてるんだ、こいつは。




・新名カロル
 正しくはケロル217β。ケロン軍が「優秀な奴の遺伝子掛け合わせたり組み換えたりして優秀な兵作るお!」とやった結果生まれたマシン・チャイルドなんであります。オリジナルから数えて13世代だがいくつも欠番(大失敗)が出てるので桁は21。遺伝子上の親の影響なのか昭和~平成初期の特撮やアニメにうるさい。自称東都のルリルリだがやってることはウリバタケ・セイヤ。
 なお改良版の地球人スーツを着ているため、頭部も人間と見分けがつかない――というか、ケロン人の頭部は人型の胸部に収納されている。地球人ボデーの肩幅が広いのも胸がでかいのもこのせい。

 いつケロロ軍曹(設定)クロスオーバーとバレるかとひやひやしながら書いてた。


・エステバリス乗りフルヤ・レイ
 ナノマシンの副作用は公式。問答無用でIFSを体に入れられた可哀想な男だが、これからは力の一号としてキョアック星人と戦うことになる。

・技の二号
 弟。ギター弾いてる。ぐりりば声。

・V3
 警察学校時代の班長。見た目は一号向きだが中身を考えるとV3は伊達以外ない。



 書きたいところだけ書いた。ちなみに結婚話はなしになりましたので詳しくは割烹にどうぞ。


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