【完結】俺モブじゃん……〜ギャルゲの世界に転生した俺は超不遇当て馬ヒロイン救済のため、モブで才能ないけど頑張ります!〜 (花河相)
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プロローグ

花河相です。
 
読んでいただけると幸いです。


 僕に前世の記憶があると思ったのは5歳の頃だった。

 成長し大きくなるにつれて、別の人間の人生の記憶が徐々に頭の中に入り込んできたからだ。

 その影響か、僕は自分のことを俺と言うようになった。

 その頃から、自分の名前「アルト=クロスフォード」を聞くと、何時か何処かで聞いたことがある、そんな不思議な感覚が芽生え始め、自分の名前のはずなのに、まるで他人の名前であるように感じた。

 それから年月が経つにつれて様々な別世界の知識、経験の記憶が入り込み、俺の自我と別世界の人間の自我が徐々に混ざっていった。

 7歳になるときには俺は周りから神童と呼ばれるようになった。

 記憶の経験則から算術はもちろん、学んだことはすぐに理解をして、どんどん知識を身につけた。

 8歳になって父上が、お前なら「王立フューチャー学園」に入るのも夢じゃないと、言われた。

 初めて聞いたはずの言葉なのに、何故かその言葉を知っていた。

 そしてその日、急に大量の情報が脳に入るのを感じて、頭痛で気絶をした。

 その時に、もともとあった「僕」と「俺」の自我は、完全に一つとなった。

 

 

 どのくらい気を失っていたのだろう?

 俺は気がついたらベッドの上に寝ていた。 

 俺は起き上がり周囲を確認する。

 そこは見慣れた俺の部屋であった。

 ふと、ズキリと頭が痛くなるのを感じた。

 俺は頭を押さえて痛みが治るのを待つ。

 そして、徐々に前世の記憶が脳に定着していることがわかった。

 そして自覚をした。

 俺は死の運命を持っていることを。

 その後の行動は早かった。

 もともと剣や魔法を使う訓練をしていたが、より一層努力をするようになった。

 自分に死の運命が待ち構えているのに、黙って何もしない、なんてことはしたくなかった。

 

 しかし、残念ながらは凡人を脱する才能はなかった。

 死の運命を跳ね除けられるほどの才能は皆無であった。

 それでも俺は何をすれば良いか、何をするべきかをひたすら貪欲に考え努力をし続けた。

 

 それからしばらく経って、ようやく自覚した。ここは俺の前世のギャルゲーム「純愛のクロス」の世界だということを。

 「純愛のクロス」は俺が前世の時にほんの少しだけハマり、すぐに断念した。

 その理由は、俺が最も好きだったヒロイン、サリー=クイスの不遇すぎる待遇にある。

 

 「純愛のクロス」

 魔法と剣の異世界に存在する王立フューチャー学園を背景に行われる恋愛シミュレーションゲームで、バトル要素もある。イベントで主人公の幼馴染が魔神復活のため殺されてしまい、魔神を倒すためにヒロインと共に苦難を乗り越え、絆を深めながら冒険をするというシンプルな内容のゲーム。

 

 そのゲームで死んでしまう幼馴染がサリー=クイスであり、少女の扱いは本当に可哀想である。

 サリー=クイスは主人公とヒロインの成長のため、そして絆を深めるためだけの生け贄なのだ。

 俺はこのゲームを始めたきっかけはサリー=クイスに見惚れて、このキャラを攻略したいと思ったからだ。

 はじめはタイトルの意味が分からないまま、ゲームを始めた。そして序盤でその意味を理解した。

 「クロス」とは十字架を表していたのだ。

 「純愛のクロス」はヒロインと主人公の1つのルートしか存在しない。

 サリーはゲームにおいて当て馬的存在なのだ。

 製作側からいいように使われて殺される。

 幸せを願っていたとしても、製作側の都合によりその思いは踏み躙られる。

 俺はサリーの扱いに抗議をした。

 生存ルートがないか、全てを模索した。

 しかし、それは全く意味をなさなかった。存在しなかった。

 何故かと言うと「純愛のクロス」のシナリオはサリー=クイスの死すらも無かったことにするくらいに名作だったからだ。 

 そして、サリー=クイスの死がなければ成り立たないような不朽の名作だからだ。

 初めは俺と同じように抗議をあげた者達も、流れに流されゲームを進めた。

 そして、ゲームクリアした者たちは皆サリー=クイスの死は仕方ないと判定をつけてしまった。

 しかし俺は一人納得することができなかった。

 そして周りからやるように促されても、俺は最後までやることはなかった。

 どうしても「純愛のクロス」のシナリオに必要なことであったとしても、製作側の都合によるサリー=クイスの扱いを許せなかったのだ。

 

 しかし今現在、幸か不幸か俺にはサリー=クイスを救済できる可能性を秘めている。

 前世では絶対に達成することのできない。

 サリー=クイスを助けることのできる世界にいる。

 だから俺は決意した。

 彼女を救済しようと。

 俺は彼女の幸せのために運命に抗おうと。

 転生した俺はまず今の状況を整理することにした。

 自分の現状理解ができなければ方針を決めることが出来ないのだ。

 そしてまずは自覚しなければいけない。

 認めなければいけない。

 俺は鏡をみて自分の容姿、黒髪でブルーアイの自分を見て呟いた。

 

「俺モブじゃん……」

 

 そう、俺が憑依したアルト=クロスフォードは簡潔に言ってしまえば即死モブだ。

 サリー=クイスと共に転移をして巻き込まれ、何も出来ずに死亡する。

 何故、俺がこんなモブの名前を覚えているか。それは何回も何十回も周回し、全ての選択肢を調べて、サリー=クイスの救済ルートを探したためだ。

 結果は無駄に終わってしまったが、そのおかげで俺は前世を思い出せ、自分の運命を知ることができた。

 まずは俺自身について確認しようと思う。

 俺には今この世界で過ごした8年のアルトの記憶、そして前世の記憶がある。

 まずは俺の生家、クロスフォード家は辺境を治める子爵家。

 目立った特産物等もなく、ただの田舎。

 領民は多くもなく少なくもない。 

 俺はそこのクロスフォード家の嫡子。

 本当によくあるモブ貴族の設定である。

 次にアルト自身についてだが……これが一番ショックだった。

 よくあるモブ貴族設定で多分と思っていたが、本当に当たってしまった。

 この世界の優劣の基準は魔力総量と属性によって決まる。

 属性は上から闇、光、炎、水、風、土の6種ある。そして上から順に属性持ちは少なく、重宝される。闇属性はもうほとんどいないが。

 そして魔法は込める魔力量によって威力が異なる。

 この俺、アルトは属性は風、魔力総量は平均値にも満たない。

 本当にお先真っ暗である。

 これでは原作に喰らい付くどころか足手纏いにしかならない。

 俺がもしも原作主人公に憑依していたならこんなことで苦労しなくて済んだ。

 原作主要キャラはチート持ちだ。

 魔力総量もほぼ無限、属性も希少性のあるものしかない。

 それに「純愛のクロス」は戦闘描写はあるが、シナリオがメインである。

 そのため、シナリオに沿っていけば勝手にレベルも上がり、面倒なレベリングも必要がない。

 

「はぁー」

 

 本当にどうしよう?

 決意したまではいい。しかし打開策が全く思いつかない。

 アドバンテージがあるとすれば序盤のギャルゲームの知識があるくらいだ。

 しかし俺の初期値が低すぎる(原作キャラに比べて)ため、未来を知っていたとしても、役に立たない。

 しかも、その知識も序盤しかないため、物語中盤、終盤に出てくるようなアイテムも手に入れることもできない。

 

「こんなことなら物語全てやればよかったなー」

 

 後悔先に立たず、もうどうしようもないのに前世の俺に文句を言いたくなる。

 でも、まだ唯一の救いは原作開始まで時間があること、なにより今世の知識から可能性があるとわかるくらい。

 

 壁は高い。どんなに努力が必要かはわからない。それが達成出来るかもわからない。

 それでもやってやる。抗ってやる。

 どんなに周りから言われようが思われようが、せっかくあるチャンスなんだ。

 

 その日俺は決意した。

 必ずサリー=クイスを救済すると。



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01

 俺は前世が有ったことを自覚した後、努力し始めた。

 しかしやはり才能がない。

 まともな方法では無理だろう。

 だから俺は強くなるため、訓練を限定的にして一芸特化を目指し、魔法については無属性魔法のみを極める事に決めた。

 無属性魔法はこの世界では誰でも使える魔法で、身体強化や魔力の塊を飛ばす、魔力の感知などができる。

 この世界では身体強化と魔力感知は使われているが、魔力を飛ばす魔法「バレット」は妨害程度の威力しかない為、ほとんど使われていない。

 「バレット」を使うなら、普通に魔法を使った方が何倍もいいからだ。

 では何故そんな魔法を俺は極めようと思ったのか?それは発動が普通の魔法よりも速いからだ。

 普通の魔法は、魔法陣を経由しなければ魔法は使えない。

 何故魔法陣が現れるのかは疑問だが、これはゲーム仕様の部分があるらしい。

 こういったゲーム仕様と現実仕様である程度違いがある。

 閑話休題。

 無属性魔法は魔法陣を経由しなくても魔法が使える。おそらく、属性変換で魔法陣は必要なのだろう。

 無属性魔法はただの純粋な己の魔力だから必要ないんだろうと予想した。

 無属性魔法は魔法を発動させようとすればすぐに魔力の塊を放出できるため、普通の魔法と発動速度に違いが出る。

 

 しかし威力が弱すぎるため実戦で使う人はいない。しかし使い方によっては実戦で使えると俺は考えた。

 『バレット』は威力こそないが、相手の目や眉間に正確に当てられるようになれば使える。 

 一瞬だが相手の視界を奪えるし、うまくいけば脳を揺らすことができる。

 実戦でこれをできれば魔力値関係なく、相手を倒せる。

 だが、この魔法を使ってみると意外難しい。

 俺は右手を木に向け、試しにバレットを的に向けて撃ってみる。

 

ズドン!

 

 近くの木を狙ってみるが掠りもしない。

 『バレット』は弾道が安定しない為、狙い撃ちが難しい。 

 牽制程度にはいいかもしれないが、実戦で使うのは難しい。

 俺の魔法を出した部位が悪いのかそれとも他の要因があるのか不明。

 魔法は体のどこからでも出せるため、戦闘をする人によって異なり、それぞれがやりやすいように放つ。

 まーほとんどの人が掌から出しているが。

 人によっては胸から出す人、腹から出すなど珍しい人がいる。

 それぞれイメージをしやすい位置から出すことが魔法戦闘での基本なのだ。 

 俺は手から銃弾を意識してやってみたが、やはりダメだった。

 ちなみに指鉄砲のようにもやってみたがそれでもだめ。

 これは自分なりに、改良と訓練をしなければならないな。

 俺はそう思い、魔法訓練を切り上げる。

 そしてゼフの待つ訓練場に向かった。

 

 

 

 

 

 

「アルト様、お待ちしておりました」

「ごめん待たせてしまった。時間を作ってくれてありがとう」

 

 俺が訓練場に着くとそこには白髪で下髭を生やした60代くらいの老人が立っていた。

 俺の身の回りの世話から教育を担当してくれている専属執事のゼフだ。

 

「予定していた時間を少し過ぎてしまったな。時間は限られているし早速始めようか」

「はい。承知しました」

 

 俺が始める旨を伝えると俺は八相の構え、ゼフは下段にそれぞれ構える。

 

「稽古の趣旨は前に話した内容で頼む」

「わかりました。では参ります」

 

 

 ゼフがそう宣言すると、この場は静寂となる。

 俺は緊張して、聞こえるのは足元に生い茂る芝生が風に揺られる音のみ。

 俺はゼフの動きを観察し続ける。そしてゼフが動き出し、下段から俺が反応できるくらいの速さで斬り上げてくる

 対して俺はそれを受けることなく、構えはそのままで、右に出来るだけ最小限の動きで躱す。

 そして、俺はゼフの打ち終わりのタイミングを見計らい、八相の構えから剣を振り下ろす。

 

キン!

 

 しかし、ゼフに容易く受けられてしまう。

 そしてお互い鍔迫り合いに入るが、すぐに離れて距離を空ける。

 この練習は敢えてやっている。

 俺は剣では、まともに稽古したら平均未満、良くて標準クラスの実力にしかなれない。

 これはゼフにもそう言われた。

 だから俺は稽古のやり方を絞ることにした。

 まずは攻撃手段だが、八相の構えからの振り下ろしのみ。

 次に防御面は受けることを捨て、ひたすら避け続ける。

 そして相手の打ち終わりの隙を突いて斬り込む。

 その訓練に絞る。

 スピードで相手を翻弄することも、力でねじ伏せることも俺にはできない。

 そのため、鍛える技術を振り下ろしのみに絞って、その一撃のみで相手と渡り合えるようにならなければならない。

 ゼフは剣を教えるのが巧い。

 絶妙なタイミングでわざと隙を作ったり

俺のレベルでギリギリ反応できるくらいの速さで攻撃を仕掛けてきてくれる。

 父上も幼少期お世話になっていたらしく、教える経験も豊富だ。

 そしてまだ先の話だが、剣の訓練が落ち着いてきたら魔法を交えた戦闘にも付き合ってくれるとのこと。

 こういったところには本当に恵まれている。

 だから俺はそのことに感謝し、ゼフと訓練を続けた。

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ」

「アルト様、今日はここまでですね」 

「……わかった」

 

 訓練をし始めて2時間ほどが経った。

 やはり8歳の体だ。

 途中休みを入れながらやったが、限界が来た。

 初めは身体強化を使いながら訓練していたが、数分で魔力切れが起きてしまい、途中からは自力でやった。

 身体強化して動くのと、自力で動くのとでは天と地の差があった。

 疲れもより早く蓄積されてしまう。

 訓練時間を無駄にしないため、今後魔力の無駄を省く訓練をしなくてはならないなと新しい課題もわかったことで今日は終了した。

 

「アルト様は普通に訓練した方がよろしいのでは?こういった項目を絞ってやるのではなく、どんな場面にも対応できるようにした方が良いと思うのですが?」

「確かにそうなのかもしれないな」

「では何故?」

 

 ゼフの指摘に確かにその通りだと思う。

 しかし、普通ではダメなのだ。

 普通にやっては限界がくるし、何より普通では原作改変はできない。

 それほどまで俺と原作キャラと差は開き過ぎている。

 そのため、俺は全てができるジェネラリストではなく、一つの分野を極めるスペシャリストではなくてはいけない。

 まともなやり方では絶対にこの差は埋められない。 

 今やっているやり方ですら成功するか分からない。

 でも、俺はやり切る決断した

 不遇ヒロインを助けると決意した。

 どんなことがあってもこの信念は変えない。

 俺はそう思い、ゼフに聞かれた質問に答える。

 

「確かにゼフの言いたいことは分かる」

「では!「それでも!!」」

「………」

 

 ゼフは俺が言った後、何かを言おうとした。

 おそらく俺の意見に反対しようとしているのだろう。

 ゼフは俺たちクロスフォード家のことを常に思ってくれている。

 俺もできたらゼフの意思を汲みたい気持ちはある。

 でも、これは認められない。

 ゼフは俺が言葉を遮った後、黙って待つ。

 そして俺は話を続けた。

 

「それでも、俺はこの方針を変えることはない。俺は確かに他の人より多少は優れているかもしれない。ゼフの言う通りにやれば将来他の人より優れた人間になれるかもしれない。でも、それ以上にはなれない!!普通にやったところで俺は本物にはなれないんだ!」

「アルト様……」

 

 この世界に転生した俺は何がなんでも目標を達成しなければいけない。

 それは前世からの後悔から来ている。

 

「俺には目標がある。しかしその壁は高い。でも俺がここに生まれたからにはそれを達成しなければならない」

「……」

 

 だから俺がこの世界に転生した理由は不遇扱いである彼女を助けるためなのだろう。

 しかし壁は高い、高すぎる。

 それでも俺は諦めずに挑戦しようと決めた。 

 

「アルト様……そこまでクロスフォード家のことをお思いとは。私、ゼフは感激しました。全身全霊、誠心誠意、ご協力致します」

「うん?……お願い」

 

 なんか勘違いされてる?

 確かにクロスフォード家のことを考えているのは確かだ。

 だって嫡子俺だけだし、死んだら大変だろうし。

 でもちょっと違う気がするけどこっちの方が都合がいいかも。

 俺は少し悪い気もするが、ゼフが協力してくれると言ってくれているし、このままにしておこうと思った。




最後まで読んでいただきありがとうございました。


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02

ゼフについてです。


 ゼフはクロスフォード家に勤めて50年になる。

 元々冒険者として生活をしていたが、ある日依頼で怪我をしてしまい、クロスフォード領に迷い込み、先代領主に世話になった事がきっかけで使用人として仕え始めることになった。そして使用人になってから数年後、働き者のゼフは努力と姿勢が評価されて、当時子供であった現クロスフォード家当主の教育係兼専属執事となった。

 そのて専属執事として立派な領主に育て上げた事などが評価され、ゼフは次代の子、アルトの専属執事も担当するようになる。

 ゼフは評価されたことよりも自分を信用して任せてくれたことに感激し、クロスフォード家にさらなる忠誠を誓った。

 しかし、そんなゼフであったが、アルトが五歳となり教育を始めた時ある違和感を感じた。

 教えることはすぐに覚え、そして少し大人びていた。

 それは月日が経つにつれて如実に現れるようになった。

 七歳になる頃には教育範囲はすでに終わっていた。 

 ゼフはアルトは才能があるように思えた。

 これでクロスフォード家は安泰だ。

 そう歓喜に思えた。

 それから一年後、事件が起こる。

 アルトが急に倒れてしまったのだ。

 ゼフはその知らせを聞いた時、腰を抜かすほど驚いてしまった。

 すぐに駆けつけ、看病をした。

 クロスフォード家のお抱えの医者を呼びすぐに診察をさせた。

 結果は異常がなく原因不明。

 それに満足できなかったゼフではあったがアルトの身に何もないと思い安堵した。

 それから数日アルトが目覚めたあと、また変化が起きる。

 アルトは今まで以上に勉強に励むようになり、そして特殊な方法で剣や魔法の戦闘訓練なども死に物狂いで始めるようになった。

 これにはゼフも心配をした。

 そして、ゼフはいつも通り変わらずに接したものの、やはり豹変具合が異常だったため、失礼を承知で聞いてみた。

 すると帰ってきた返答に驚いた。

 

『俺はこの方針を変えることはない。俺は確かに他の人より多少は優れているかもしれない。ゼフの言う通りにやれば将来他の人より優れた人間になれるかもしれない。でも、それ以上にはなれない!!普通にやったところで俺は本物にはなれないんだ!』

 

『俺には目標がある。しかしその壁は高い。でも俺がここに生まれたからにはそれを達成しなければならない』

 

 ゼフはアルトが言ったことはクロスフォード家を今以上にするという意思表示だとわかった。

 アルトの言葉を聞き、納得をした。

 おそらくアルトが倒れた時、死の淵を彷徨ったのだろう。

 それがきっかけとなり努力をし始めたのだとわかった。

 ゼフから見るとアルトには才能がある。

 しかしそれは、秀才レベルであり、天才とは言えない程度だ。

 そして、ゼフはそれをアルト本人に伝えることはしなかった。

 天才ではないと伝えては向上心をなくしてしまい、秀才であると伝えては増長すると思ったためだ。

 しかしゼフは、今のアルトを見たら早く伝えた方が良かったのではないかと思い始めていた。天才でないと伝えても向上心はなくさず、秀才であると伝えても増長はしないと考えたからだ。

 アルトの決意、行動それらは自分を高めるために行動している。

 ゼフは考えを改め、アルトが未来どのようになろうが、支えていこう。

 そう決意した。

 

「このことは旦那様にご報告しなくては!!」

 

 ゼフはアルトが変わったことを嬉しく思い、報告をすることにした。

 




最後まで読んでいただきありがとうございました。


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03

 ゼフとの訓練が終了し、汗を流して身を綺麗にした俺は家族と共に食事をしていた。

 この世界に転生した直後は、新たな家族と過ごしていると少し違和感があったが、数年近く過ごしているとそれもなくなる。

 

「どうだアルト、最近は?」

「最近ですか?」

「ああ。ゼフから色々聞いてな」

 

 父上の質問に対して俺が問いかけるも、あやふやな回答が来た。

 色々とは?

 ゼフは何を話したのだろうか?

 やはり、不自然すぎたのだろう。

 それに俺自身も変化しすぎたという自覚もある。

 やはり怪しまれているのだろうか?

 でも、時間が限られているため、一日一日を無駄にはしたくない。

 俺はこのままでは今後に少し支障が出ると判断して答えることにした。

 

「はい。父上の仰る通り大きな目標ができました。しかしそれを達成するためには、普通のやり方ではいけないのです。父上にもご心配をおかけしますが、どうか見守ってはいただけないでしょうか?」 

「そんなにクロスフォード家のことを思って……」

「え?」

 

 何故か父上が感動し始めた。

 クロスフォード家のことを思う?

 まぁ目標達成するために努力することはクロスフォード家にもつながるかな?

 俺が考えていると、父上の隣に座っている母上が俺に話しかけてくる。

 

「あなた……子供の成長は早いと聞いたけれど、ここまでなのね。いいアルト!自分の思うように行動しなさい!私たちはあなたのことを心より応援するわ。頑張りなさい!」

 

 母上……応援してくださるとは嬉しいのですが、なんのことについての応援ですか?

 ヒロイン救済のことではないですよね?

 

「がんばるんだぞ!」

 

 母上に続き父上も激励してくる。

 勘違いされたままだけど、方向性は間違ってはいない。

 ゼフの件もそうだが、このままの方がいいかもしれない。

 多分努力し続ければ、三人が勘違いしていることについていい方向に進むのかと思う。

 申し訳ないと思う気持ちで、俺は心の中で謝罪をしたのだった。

 

 

 

 

 

 俺は夕食を済ませた後、自室へ向かった。

 俺は机で手書きで書かれたメモ帳を眺めていた。

 これはゲームについての情報が書かれたものだ。

 俺は序盤しかゲームをしていないが、ある最低限の知識はある。

 俺が完全に自覚をした後、本を読み漁り、ゲームの知識とこの世界の情報にどのくらいの違いがあるのかを調べていた。

 実際に試したわけではないのだが、似ている点、またゲーム要素がいくつかある事がわかった。

 結論をつけると、ここはゲームの世界であってゲームではない。

 ありきたりな結論だが、調べたからわかるのだ。

 いくつか違いを挙げるとすればこの世界は一度死んだらそこで終わり。

 ゲームではもしも死んでしまったとしても生き返るためのアイテムがあった。

 しかし、この世界には存在しない。

 次に、ゲーム独自の現象について。

 これは世界の不可解現象として片付けられているが、存在している。

 この世界には魔素が存在している。それは魔物が現れる現象のもとになっているもので、魔素による影響で起こる災害がいくつかある。魔素の濃度が急激に濃くなり、上位の魔物が現れる「モンスターパニック」、魔素の流れの変化により魔物が大量発生する「モンスターパレード」、これらはこの世界の冒険者にとって死を表している。

 ゲームであった魔物の現象は本に載っていた。

 しかし、存在は分かっているが事例が少なく、遭遇したものはみな死んでしまうため、詳細は謎に包まれている。

 最後に魔法レベル制について。

 これはもうゲームとは別だ。

 魔法はまだMP(魔力総量)で決まるが、レベル制はない。

 ゲームでは魔物を倒すとレベルが上がるようになっているが、この世界ではただ魔石が落ちるだけ。

 素材がドロップすることがなければ、金が出るわけではない。

 これもゲームではなかったことだが、この世界はある程度科学のようなものが存在する。 

 とは言っても、テレビとかレンジ、洗濯機電子機器類があるわけではない。

 コンロや水道など、簡易的なものがあるのみ。

 そしてそれを稼働させるものとして魔石が使われている。

 

「全てゲーム通りならやりやすいのに」

 

 俺は一人呟く。

 だってそうだ。

 復活ができれば多少リスクを犯しても行動ができる。

 レベル制があればレベリングすれば可能性が見えてくる。

 それらがないのだ。

 あと、これはゼフから聞いたことだが、この世界の住民は魔力総量は増えることはないらしい。生まれつきの資質によって決まる。

 俺の予測であるが、この世界では生まれつき素質レベルがマックスの状態で生まれてくるのだろう。

 そうすれば納得がいく。

 それと同時に疑問も生まれる。

 原作キャラたちのステータスはどうなるのだろうか?

 もしかして俺が原作にかかわらなくても彼女は助かるのではないだろうか?

 魔人はどのくらいのステータスなのか?

 

 

 考えてもキリがない。

 でも一つわかるのは、俺は伸び代がないということ。

 それだけは確か。

 属性魔法を捨て、稽古の内容を絞り訓練をしても、やはり限界がくる。

 だから原作開始までに俺が実戦で強者と戦えるだけの魔法、通用するような一撃を身につけて訓練しなくてはならない。

 

「はぁー」

 

 俺は先が見えない現状にため息をついてしまった。




最後まで読んでいただきありがとうございました。


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04

 俺が前世を自覚し訓練をし続けて早七年が経った。

 この世界には冒険者という仕事がある。

 仕事は討伐から採取、工事手伝い、探し物などなど、所謂何でも屋。

 そんな冒険者だが、この世界は十五歳になり成人した人間なら誰でもなれる。

 もちろん俺も成人すると同時に登録、そして今依頼を受けている。

 

 時は夕暮れ、薄暗い空間、木や草が生い茂る森を俺は気配を断ち進んでいた。

 はじめての実践、俺は緊張し心臓がバクバクしている

 森を徘徊しおよそ一時間

 未だ依頼のターゲットを探して歩き続けていた。

 

カサッ

 

 俺はその音が聞こえた瞬間その場に身をかがめる。

 心臓が飛び出るほどに鳴り響くのを我慢しながら周囲を確認、気配を探る。

 

 「ガイヤイア」

 「アイアオ!」

 「イガウ!」

 

 俺はその声の正体がわかった時、一気に緊張感が増していった。

 相手はゴブリン3体、うち一体は体が大きい。

 なんでボブゴブリンがいるんだよ。 

 ボブゴブリンはゴブリンの上位種で通常のゴブリンよりも一回り大きく、そして力も成人した男性とほぼ同じ、警戒心が強く、常に手下を従えている。

 俺が受けた依頼はゴブリン三体の討伐。

 こいつらを倒せば依頼達成。

 しかし、今の状況は難易度が違う。

 ボブゴブリンの討伐ランクは単体はEランクだがDランクよりで、さらに手下がいることから達成ランクはDランク。 

 今の俺のランクは登録したての為、Eランク。本来なら引くのがベスト。

 でも俺は少し躊躇う。

 元よりゴブリンの目撃情報を元に探していたが、思っていた以上に時間がかかってしまった。

 そろそろ夜行性の危険な魔物も活動をし始める時間も迫っている。

 今回俺が受けた依頼は依頼者が急遽魔石を欲したため出した依頼。そのため受託後その日のうちに達成しなければいけない。

 今日中に魔石を集めないと依頼失敗となる。

 依頼を失敗すること、特にはじめての依頼で失敗となると身の上以上の依頼を受ける向こうみずという印象がついてしまい、ギルドの信用が低くなる。

 俺は出来るだけ早くランクを上げる為、冒険者組合の評価を得る為に敢えて初心者には多少難しい依頼を受けた。

 だが考えが甘かった。

 もうこれが最初で最後のチャンス。やるしかない!

 俺はそう決意し、失敗だったと後悔しつつ、討伐のための準備にかかる。

 出来るだけリスクを負わない様何重にも作戦を考え、思考をまとめた。

 俺は近くに手で握れるくらいの大きさの手頃な石を右手でもち、緊急避難用の煙玉を二つすぐに使えるようにする。

 そして体に魔力を行き渡らせ身体強化の発動、剣をすぐに抜けるように準備。

 ボブゴブリン、普通のゴブリンと違い警戒心が強く、自己保身が強い。

 そのため、常に警戒体制を取る際は自分の前に手下を配置する。

 だから俺はそれを逆手にとる。

 正面から戦っても勝機は十分あるが、最低限の戦闘で終わらせるのに越したこともない。

 俺は右手に持っていた石を投げる、そして

 

カシャン

 

 「ガイア!」

 

 音がした瞬間ボブゴブリンが声をあげ、二体のゴブリンに指示し、音のした方に立たせる。

 俺は後ろを警戒していないボブゴブリンを剣を抜き、八相の構えからは首を上から斬りつける。

 

「は!!」

「ギャ!!」

 

 浅い!

 俺は斬りつけるも仕留めることはできなかった。

 俺はすぐに眉間に魔力を集め、塊を生成。

 形は銃弾。

 前に並ぶように三つ生成。

 俺は斬りつけたあと、即座に残心し、ゴブリンたちに体を向ける。

 俺がゴブリンたちを見たときにはボブゴブリンは苦しんでおり、残り二体のゴブリンは混乱しているのか俺とボブゴブリンを交互に見ている。

 これは好都合!!

 俺は生成した弾丸を二発、それぞれのゴブリン二体の目元に撃ち込む。

 俺が眉間に魔力の塊を生成したのは最も狙いやすく実戦で使い勝手が良かったからだ。

 イメージはスコープ。

 目で直接見て、狙いを定める。

 数年間ゼフと訓練試行錯誤を繰り返し、実践で狙い撃ちが可能になるレベルまで鍛え上げた。

 相手の視界を一瞬奪うならほぼ完璧にできる。

 

「ギャ!!」

「グニャ!」

 

 魔力の塊が着弾しゴブリン二体が手で目を押さえる。

 これで二体は数秒行動不可。

 俺は弱ったボブゴブリンと一対一で戦うことができる。

 数秒とはいえ時間が空いたおかげか手下がニ体が動けないのを見てボブゴブリンは俺に石斧でかかってきた。

 そのまま退治してもいいのだが、まだほぼ無傷のゴブリンが二体がいるため時間はかけたくない。

 そう判断し、ボブゴブリンが俺の剣の間合いに入った瞬間を見計らい、目に魔力を集め、魔法を発動。

 

『見切り』

 

 『身体強化』の応用で、一つの部分のみ強化する『部分強化」を工夫して編み出した。

 『見切り』は目の眼力を最大限にまで強化するための魔法でこれもゼフとの訓練で身につけたもの。

 俺はスローモーションに見えるボブゴブリンの動きを観察。

 秒にしてコンマ数秒、体感にしておよそ五秒。

 落ち着いて観察してタイミングを見計らい、身体強化を使用しながらガラ空きの左腰目掛けて八相の構えから振り下ろす。

 俺が八相の構えからしか攻撃しないのはそれしか通用する攻撃手段を持っていないからだ。

 俺は剣の稽古は全て八相の構えから振り下ろす訓練ばかりをした。

 俺では普通にやったところで、目上の相手には勝てない。

 だから通用する一撃のみを鍛え続けた。

 結果、八相の構えから振り下ろすことに特化した体になり、その一撃はゼフでも受け切れない時がある程の威力になった。

 

 「ウギャ!!」

 

 俺が左腰に斬りつけると今度こそボブゴブリンが倒れた。

 そして、体が消滅していって魔石のみが残る。

 本当にこういうところはゲーム仕様なんだな。

 俺はそんな感想を抱きつつも残りの二体のゴブリンと対峙する。

 

「フギ!」

「ギギ!」

 

 怒りを感じているのだろう。

 親玉を殺された恨みまたは妨害されたことへの怒り。

 分からないが理由としては妥当だろう。

 でも、今は関係ない。

 二体のゴブリンは俺に対し警戒心を持っているため、動かないでいる。

 俺は常に短期決戦を望む。

 俺の戦法では長時間も戦う力はない。

 俺は生成していた魔力の塊を右側にいるゴブリンにぶつける。

 

「グギ!!」

 

 所詮はゴブリン、学習はしない。

 俺の魔法を撃ち込まれたゴブリンはまたも視界を奪われる。

 左にいるゴブリンは何が起こったのか理解ができず、慌てている。

 俺はそのゴブリンに向かい構えてから斬りかかる。

 

「ギ!」

 

 左にいたゴブリンは真っ二つとなりその場から消失、魔石のみが残る。

 俺は右側のゴブリンにすぐにとどめは刺さず、あえて放置。

 ただ、すぐにトドメをさせるように準備はする。

 念のため、魔力の塊を2発眉間に生成。

 残りのゴブリンから距離を空けて剣を八相の構えにする。

 もちろん周囲の警戒も忘れずにする。

 それから数秒時間が経ち、ゴブリンは復活して、自分の生命の危機を感じる。

 どんな生き物も生命の危機があった場合、必ず逃げるだろう。

 もちろん、仲間が多くいる場所に。

 ゴブリンはすぐさま南の方角へ逃げた。

 帰省本能、ゴブリンは無意識にそちらの方向に向かう。

 俺は魔力の塊を発射することなく、身体強化でゴブリンに向かって剣を振り下ろす。

 

「ギャ!」

 

 ゴブリンが最後そう鳴くもすぐに魔石となる。

 

「はぁーーー」

 

 戦闘が終了し、俺は大きなため息を吐き生成していた魔法を解除した。

 はじめての実戦、死ぬ恐怖があり余計に疲労が溜まった。

 そして何より魔力総量を一気に三分の一弱使ったため、さらに疲れたのを感じる。

 俺の魔力総量は少ないが無属性魔法を工夫して格上相手に戦えるように訓練をしていた。

 今日の戦闘で使った魔法も訓練をし続けて身につけた。

 ただ、魔力の燃費が悪い。

 俺の戦闘で使える魔力量は魔力の弾丸で考えた方がわかりやすい。

 俺の魔力総量から使える残弾数は百発。

 ただ、それプラスで戦闘中に身体強化、部分強化など使うため、一回の戦闘では精々三十発使えればいい方。

 身体強化は魔力の弾丸一発で精々五秒。

 部分強化に限っては一回使うと十発分の魔力を消費してしまう。

 こういった理由で俺が戦闘できる時間は長くて数分、短くて数十秒

 でも、素質がない俺でもたった数分、数十秒は渡り合うようになった。

 今日の戦果をみて俺自身の成長、自信に繋がった。

 原作開始まで俺は気を抜かず努力を続けたいと思った。




最後まで読んでいただきありがとうございました。


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05

 俺は戦闘終了後、最後に倒したゴブリンが逃げた方向に進んでいた。

 魔力総量が半分以上残っていたので、あと一回くらい戦闘が起きても平気だと判断し、多少リスクを承知で向かう事にしたのだ。

 理由はゴブリンの巣の特定。

 可能性の段階だが、上位種のボブゴブリンがいたこと、ゴブリンが逃げた方向に巣ができているのでは?と予想した。

 もしも本当に巣を発見できれば俺の冒険者ギルドの評価は多少上がる。

 移動を続けて数分、草木を気配をできる限り消して進んでいると、そこには大きくはないが、人が出入り可能な洞窟があった。

 俺はすぐにその場に止まり、観察を続けた。

 よく見ると洞窟の入り口には何かの足跡が複数発見した。

 それから数分、その場に待機していると一匹のゴブリンが入っていくのを発見できた。

 俺はそれが分かると即座にその場を後にした。

 

 

 

 

 俺は撤退後、冒険者ギルドヘ向かった。

 冒険者ギルドの支部はいくつもあり、クロスフォード領にもある。

 と言うよりも、領内に必ず一つは冒険者支部と義務教育学校を作る義務がある。

 それは領民が他領に移動をせずに教育を受けられるように、領内の治安を守るためでもある。

 しっかりとした基準があり、偶に抜き打ちで王国のものが訪れたりする。

 その為、手を抜く、不正などはできない。

 俺はクロスフォード支部のギルドに到着すると、すぐに受付に向かい報告をする。

 

「すいません。依頼報告をしたいのですが」

「わかりました。では、冒険者カードと依頼書、依頼の物の提示をお願いします」

「わかりました。……これが魔石になります」

「はい。確認します」

 

 俺は言われた通りに提示する。

 すると受付の人が何故か困った戸惑った表情をし、話しかけてきた。

 

「あの、依頼内容はゴブリンの魔石三つとあっていたはずですが……何故ボブゴブリンの魔石があるのですか?」

「え……倒したからですけど」

「倒したのですか!一人で?」

「はい。時間もなかったですし。……一応個数は足りてますし、依頼達成ではダメでしょうか?」

「はぁー。別に依頼は達成です。ただ、ボブゴブリンは討伐ランクはEですが、Dランク寄りです。今度からは見かけたらすぐに逃げてください。今回は運がよかっただけだと思ってくださいね。いいですか!冒険は命の危険が伴う物です。今度からはランクに見合う行動にしてください。いいですね」

「す、すいませんでした」

 

 怒られてしまった。

 でも、それはわかっていたことだ。

 冒険者は基本、ランクに応じた行動をするのが普通だ。

 今回のような行動は褒められたことじゃない。

 でも、俺は原作開始前までにランクをCまで上げるつもりでいる。

 冒険者ランクは上からS、A、B、C、D、Eの6段階に分かれている。

 ちなみに冒険者の殆どがCランクで終わる。

 Cランクは常人の領域、そしてそれ以上は超人、達人の域と言われている

 そこそこ評価されるランクであり、信用もつく。

 そのため俺は多少のリスクを負ってでも、行動にしなければならない。

 

「わかりました。次からは気をつけたいと思います」

「そうしてくださると助かります。新人冒険者が死んでしまう事例は少なくありません。ただでさえ冒険者は不足しています。安全第一でお願いしますね」

「はい」

 

 この受付嬢の人には申し訳ないが、従うことはできない。

 でも、できる限り安全マージンを取る事を心がけよう。

 

「では、こちらは報酬になります。ボブゴブリンの魔石がありましたので多少上乗せしてあります。金貨四枚です。確認してください」

「わかりました」

 

 この世界の金の価値は

 

金貨=一万円

銀貨=千円

胴貨=百円

鉄貨=十円

銭貨=一円

 

 となっている。

 それにしても四万円か。

 もともとの報酬が金貨二枚だったから、相当ボブゴブリンの魔石価値があったんだな。

 

「ほかに何かありますか?」

 

 俺がそんなことを考えていると、受付の人が話しかけてきた。

 おっとゴブリンの巣のことを報告しなくては。

 

「はい、一点報告があります。実はゴブリンとの戦闘が終わった後、たまたま巣を見つけました。規模は分かりません」

「?!それは本当ですか?場所はどこですか?」

 

 受付の人は驚きながら聞いてきた。

 俺は地図をだし、巣の場所を指先答えた。

 

「ここになります。洞窟の入り口に複数の出入りの跡、そして一体ゴブリンが入っていくのを見ました」

「……わかりました。後日、確認のための偵察依頼を出しておきます。情報提供報酬は確認が取れ次第、お渡しします」

「わかりました。お願いします」

 

 俺はそう言い、帰ろうとした。

 しかし、受付嬢が俺に話しかけできた。

 

「少しお待ちを。あなたは今回の依頼で実力があることはわかりました。しかし、討伐依頼だけでなく、薬草等の採取依頼もお受けした方が良いと思いますよ」

「わかりました。採取依頼は後日お受けしたいと思います」

 

 受付の人の話を聞き、ニヤけてしまいそうになるのを我慢して、そう受付嬢にそう伝えてギルドを後にした。

 今回の件で俺はギルドに多少実力の証明と名前を売ることができた。

 ギルドランクを昇格させるには条件がある。

 まずは依頼を達成して評価を得ること。

 そしてもう一つはギルド職員が推薦になる。

 受付嬢が俺に依頼を勧めてきた理由はわからないが、もしかしたら推薦などの意味も含めているかもしれない。

 俺はとりあえず次の依頼は受付嬢に言われた通り採取をしようと決め、帰路につく。

 帰宅後は明日ある学校の定期試験のための準備をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはギルド内、ギルド長室。

 一人の女性と男が話していた。

 

「ギルド長、お時間をいただきありがとうございます」

「いや大丈夫だよ。それで至急時間を作って欲しいと言っていたが何かあったのかね?」

「はい。今日登録した冒険者の中に、期待の新人がいましたので報告をと思いまして」

「期待の新人……」

「はい。アルトと言う名前の冒険者なのですが、私は彼がDランクに匹敵する実力を持っていると思います」

「理由はあるのかね?」

「はい。ボブゴブリン1体、ゴブリン2体同時撃破。そしてこれはまだ調査中ですが、ゴブリンの巣の発見。これについては本人から状況を聞く限りほぼ確定です。多対一の状況で勝利する戦闘力と判断力、そして戦闘後にゴブリンの巣を発見する洞察力は新人とは思えないくらい高いです」

「それは聞く限りだとすごいかもしれないが……本当なのかね?」

「はい。同時撃破については魔物の習性、ボブゴブリンは常に数体のゴブリンを引き連れることから同時撃破をしなければいけません。ゴブリンの巣についても、新人とは思えない洞察力で巣の証明となる情報の提供がありました」

「確かに聞く限りだとすごいかね。……この件は一先ず保留にしよう。そんなに優れている新人ならすぐにでも頭角を表す。今後のアルトくんの活躍に期待しようかね」

「わかりました」

 

 そう言い、受付嬢……マリエの報告は終了、退室した。

 

(アルト君か。少し様子を見て、優れている人間なら学園に調査依頼を出してもいいかもしれんかね。もしも支部から推薦者が出たら私の株も上がるかね)

 

 アルトは詳しく知らないが、王立フューチャー学園に入学するために必要な推薦を得る方法はいくつかある。

 その内の一つに、冒険者ギルドのルートがある。冒険者ギルドが優秀な人材を見繕って学園に報告、学園に勤める人が直接面談をして能力が適正だった場合、学園の推薦権を得ることができるのだ。

 アルトの知らないところで話が進む。

 今後、アルトの活躍次第でギルド長からの推薦の有無がかかっている。

 

「ふふふ」

 

 ギルド長は今後の彼の活躍を期待して、一人しかいない部屋で笑った。




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06

 この世界には王国が定める法律で義務教育がある。

 これは国民の識字率、学力を向上させるためであり、十三歳となった者はみんな学校に行くのが義務となっている。

 義務教育といっても単位とかはあるわけではない。

 教育学校は毎月末にテストが行われている。

 そこで合格点をとれば良いので、別に授業に出る必要はない。

 ただ、点数が取れなければ補習、それでもだめなら留年するが……。

 俺はテスト以外出席したことはない。

 授業に出るくらいなら少しでも実力向上するため鍛錬をした。もともと義務教育で学ぶ内容はゼフから教わっていたためだ。

 もちろん俺みたいなやつはクロスフォード領では俺だけ。

 平民は一から学ばないといけないし、それが普通。

 でも、それは他領の貴族の子息や息女は当たり前、家で学ぶのは当たり前で、授業に出るよりも大切なことがある。

 それは交流会。

 定期的に行われ、それで貴族の子供同士が関係を築いている。

 そこで人脈形成、婚約者探しなどが行われる。

 俺も子爵家の嫡男な為、本来なら参加しなければならない。

 でも、一度も参加していない。

 理由は参加する暇すらもったいからだ。

 死の運命、原作改変を目標にしている俺としては時間の無駄でしかない。

 でも俺にも一応招待状が届いており、父上と母上からも参加しないかと聞かれたことが多々あったが、ある条件を提示したら参加しないでも良いという許可をもらった。

 『王立フューチャー学園への入学』

 それが俺が出した条件。

 王立フューチャー学園は将来国を支えることの出来る人材を育成することが目的。

 この世界にはおいてまさにエリート、入ることが出来れば人生は約束されてたようなものだからだ。

 王立フューチャー学園は義務教育終了したものなら誰でも受験は可能、しかし合格するのは狭き門で、毎年合格倍率は百倍を下らないとか。

 これを両親に提案するが、それでも納得はしてくれなかった。

 それは入学できる確証がないからだ。

 では、何故こんな条件を飲んでくれたかと言うと、それはゼフが「アルト様なら必ず合格できます」と言い、何を根拠にと思ったのだが、ゼフが「もしもアルト様が不合格なら私は命をかける所存です」と言った。

 いや重いわ。

 なんで命をかけられるんだよ。

 これも一つの信用なのかもしれないけど、本当に重すぎる。

 でも、それのおかげで俺は病弱の為交流会に参加できないと両親が説明してくれたおかげで今まで参加せず、訓練に集中できた。

 ゼフには本当に感謝している。

 そんなゼフの心配を裏切るわけにはいかないためより一層勉強に励んだ。

 

 

 

 王立フューチャー学園入試は大きく分けて、筆記試験、実技試験の二つ。

 実技試験は魔法の実技試験。

 筆記試験はそのままの意味。

 もちろん例外はある。

 学園は優れた人材を集めたがっている。

 魔法に秀でたもの、剣に秀でたものなど。

 しかし、一分野のみ優れてしまい、他の分野ができないものもごく稀に存在する。

 そう言った国側の損にならないための制度を設けている。

 それが推薦入試。

 筆記試験はほぼ免除。

 筆記試験を白紙回答しても合格はできると言われている。

 学園側から誘いが来ればほぼ合格間違いなし。

 学園入学後も推薦で入ったことは公表されないが、雰囲気ですぐにわかってしまうらしいが……。

 閑話休題。

 俺は合格するため、ひたすら努力をし続けた。

 魔法実技に限っても、無属性魔法だがオリジナル魔法を習得している。

 それはこの世界には誰にも使用できない、俺だけの魔法。

 それを見せれば実技は大丈夫だ。

 そのためにまずは義務教育終了証明を手に入れなければならない。

 今日はーヶ月ぶりの学校に試験を受けに来ていては扉の前に立ち止まっていた。

 クラスメイトがガヤガヤと話しているのが聞こえて、俺は入るのを少し躊躇っている。

 入った後、少しの間ざわめきがなくなり、みんなの雰囲気が少し悪くなるためだ。

 でも入らないことには進まない。 

 俺はそう決断し引き戸を開けて教室へ入る。

 瞬間クラスメイトの視線が俺に刺さる。

 

 ……だから入りたくなかったんだよ。

 

 もう考えても仕方ないと思い、自分の席へと移動した。

 すると、そんな迷惑貴族の俺に話しかけてくる者がいた。

 

「あーあ、お貴族様は気楽でいーよな。僕みたいなしがない平民ではそんなに余裕は持てないよ。これが生まれの差か」

「そう言うことをテスト直前に言えてる時点でクーインも随分余裕じゃ無いのか?お前もよくサボってるじゃん」

 

 そんな俺相手に軽口を叩いてくるのは茶色髪、紫目が特徴のクーインと言う名の平民。

 クーインは貴族の俺に立場を気にせずに話しかけてきてくれるので、俺もある程度気を許している。

 なんで平民なのに俺に軽口を叩けるから分からないが、クーインはその辺の常識が欠けているのかもしれない。

 まーでも、俺にはこう言う存在は嬉しい。

 

「そんなに不安なら俺なんかと話をしないで復習でもしてればいいじゃん」

「はぁー。友達なしのボッチのアルトに気を使って話しかけてあげてるのに……」

「お前!」

 

 俺はクーインの軽口に突っ込みを入れる。

 ふと周りがガヤガヤとし始めた。

 周囲を見渡すと、俺のクーインのやりとりに少し笑っている人いた。

 まーこれはこれでいい結果かな。

 俺が原因で緊張している人たちも、心なしが和らいでいるように見える。

 

「はぁ、まーいいや。テストまでもうすぐ時間だ。準備を始めようか」

「そうだね」

 

 俺がそう言うと、クーインも了承。

 お互い席につき、テストに備えて準備をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 テストは無事に終了。

 これで今月も問題ないな。

 そう思い、安心した俺はクーインと進路について話をしていた。

 

「アルトは進路にどうするんだ?まぁ聞かなくてもわかるか。フューチャー学園行くんだろ?」

「まーな。まだ受かってないけど、受験するよ。受からないと両親に迷惑がかかるし。そのために訓練とかしてたし……クーインは?」

「僕も受験するよ。一応合格ラインには達しているし、何より入ることができれば将来が約束されてる。それにやらなきゃいけないこともあるしね」

「やらなきゃいけないこと?」

「いや何、僕って成績良いし、親から……ね」

「あー偉くなれとかそんな感じか?」

「まーそう解釈してくれていいよ」

 

 クーインも大変なんだな。

 過度な期待で潰れなきゃいいけど。

 俺はクーインに対して応援も含めて激励を送ることにする。

 

「追い詰めすぎるなよ。何かあれば相談していいから」

「僕のようなしがない平民にまで気を遣ってくださるとは……貴族様は優しいな」

「お前、そのネタ何回やるんだよ!しつけーよ!」

「おいやめろ!」

 

 俺はクーインの言葉を聞くと肩に手を回し、頭を強く撫で髪の毛をくしゃくしゃにする。

 本当にクーインがいてくれて良かった。

 まさか、こんなやりとりができる友人ができるとは思わなかった。

 そう感謝しつつ、お互い笑い合い、やりとりをした。

 そして、俺はクーインを解放し、最後に

 

「お互い合格できるといいな。受験までに何か困ったことがあれば言ってくれ。わかる範囲で教えるし、実技試験もうちに来ればゼノがいる。教えられるから」

「いつもすまないな。頑張ろう!」

 

 クーインに勉強、魔法実技を教えるのは何回かある。

 一緒に合格、それを目標に掲げる。

 そして、その後少しだけ話をし、今日は解散した。




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07

 試験が終了後、次の日から俺はいつも通り冒険者ギルドに通い詰めている。

 先日言われた採取依頼を達成、しばらく雑用やら受付嬢の人から言われた依頼をしまくった結果一週間ほどでDランクに昇格した。

 その後はオーク、ゴブリンなどのD、Eランクの魔物を中心に毎日討伐を3ヶ月ほど続けて目標であったCランクに昇級を果たした。

 王立フューチャー学園の入学試験まで残りニヶ月、俺の目的の原作イベントももうすぐとなった。

 少しでも多く実戦を経験するため今日も休まず、冒険者ギルドに向かう。

 

「ふむ」

 

 俺は今依頼回覧板とみらめっこをしていた。

 Cランクに昇格するまでずっとゴブリンとオークを討伐し続けたが、そろそろ実戦にも慣れてきた。

 そのため、そろそろ強い魔物と戦いたいと思った。

 しかし、クロスフォード領の周りには強い魔物はあまりいない。

 偶にBランク相当の魔物がいるが、それはランク適正の冒険者にギルドから指名依頼が出される為、俺は受けられない。

 そこそこ強い魔物は殆どがパーティが条件。

 ソロの俺では受けられない。

 ならパーティを組めばいいのではと思ったのだが、俺はずっと一対一の実戦経験を積みたい為、ソロで活動していた。その結果、周りから孤高の存在と思われてしまい、誘われなくなってしまったのだ。

 どうしようマジで。

 

「アルトさんすいません」

「はい?」

 

 俺が考えていると、ふと俺に声をかけてきた人がいた。

 確認してみると、そこにはいつもお世話になっている受付嬢…マリナさんがいた。

 

「マリナさんどうかされましたか?」

「はい……実はアルトさんにお願いしたい依頼がありまして……少しお時間いいですか?」

「依頼ですか……まずはお話を伺いましょう」

「わかりました。ではこちらに来てください」

 

 俺はマリナさんに依頼の相談をされた。

 まずは話を聞こうと思いマリナさんについて行く。

 マリナさんに促されついていくとそこには机に座っているギルドでも一度も見たことがない男性が一人座っていた。

 

「アルトさんはそちらにお座りください」

 

 俺はマリナさんに促され席に座った。

 俺は初対面の男性と向かい合い座る。

 男性は痩せ細っていて、ローブを着ている。

 魔法使いだろうか?

 

「カ、カインさんご紹介します。Cランクのアルトさんです。そしてAランクのカインさんです」

「初めましてアルトです」

「ああ、初めまして」

 

 マリナさんに紹介をされお互いに自己紹介をする。

 なんかマリナさんが緊張している表情をしている。

 何かあったのだろうか?

 カインと呼ばれた男性は俺のことを見定めているような視線を向けてくる。

 色々気になることが多いがとりあえず話を聞こう。

 

「あのマリナさん、ご用件はなんでしょうか?」

「……あ、すいません……まだ内容をお話ししていませんでした。今回アルトさんにお願いしたいのはワイルドウルフの討伐です」

「え?」

 

 内容を聞いて驚いてしまった。

 ワイルドウルフはBランク相当。

 全身白い毛皮で覆われており、成人男性の三倍大きく、炎魔法を使う。

 夜行性で縄張りに敏感、群れを作らず、単独で行動するのが特徴の魔物。

 俺が受けられるようなレベルではないんだけど。

 

「ワイルドウルフってこの辺に出没したって情報はありませんが……まさか、現れたのですか?」

「はい。ここから馬車で移動してニ時間ほどの森林で目撃され、縄張りにしました。そのせいでそこを迂回路にしている行商人たちが通れないでいるのです。今回は至急討伐をお願いしたくお呼びしました」

 

 これには驚いた。

 基本自分のランクの一つ上までは依頼は受けられる。

 一応俺はCランクのため受けられるが、驚いたのはそこじゃない。

 なんで俺なんだという点だ。

 冒険者ギルドにはお抱え冒険者というのが存在する。

 それはギルドに直接雇われているBランク以上の冒険者で支部に二人配置されている。

 理由は今回のような緊急の依頼、そして支部周辺の安全確保のため。

 一応確認のため聞いておこう。

 

「すいません。確かギルドにはお抱えの冒険者がいたはずですか……俺ではなくてその人にお願いすればいいのではないですか?」

「それはですね。実は今、別の依頼を受けていていないんです。今回の依頼は至急解決したい事案でして。近くの他の支部から応援を頼んだのですが、来れたのはカインさん一名のみ。しかも後衛職です。そして現在のギルドで動かせる人材で、今回の依頼をこなせる前衛はアルトさんのみでして。できれば引き受けて欲しいのですが」

 

 マリナさんはあらかじめ用意していたシナリオのようにスラスラと説明をした。

 少し疑問は残るが、これは俺に上のランクの魔物に挑戦できるチャンスだ。

 リスクはある。どうしようか。

 

「アルト君といったか?そんなに心配しなくても平気だ。私はワイルドウルフは何匹も当初経験がある。前衛が多少できれば問題ない。安心して受けても平気だ」

 

 カインさんは俺が悩んでいるのだと思い、安心させるためか話しかけてきた。

 カインさんはAランクで経験が豊富。

 多分一人でも討伐できるが、万が一ということもある。

 今回俺が呼ばれたのは前衛を配置するためこ。

 ただ、カインさんは俺の戦闘スタイルを知らない。

 役に立つがわからないので念のため、言っておく。

 

「いえ、心配などではなく……実は俺の戦い方が少し特殊でお役に立てるか不安でして」

「特殊?」

「はい。全てに置いて短期決戦で戦うようにしてます。無属性魔法での身体強化をメインに、バレットでの妨害を補助にして戦っています。今までもずっとその戦い方をしてランクを上げてきました。ですので足を引っ張らないかどうか……」

「ほう…身体強化を使うことはまだわかるが、無属性魔法をメインで使う者がいるとは……」

 

 俺が話した後、何かを考え込むカインさん。

 そして、何か考えが終わったのか、俺に話をしてきた。 

 

「たしかに戦い方が特殊なのはわかった。……一つ聞くが、ワイルドウルフに対して一対一で数秒時間を稼ぐことは可能か?」

「はい。それでしたら可能だと思います」

 

 本当に数秒で良いならだ。

 俺はどんな強者でも短時間なら相手はできる自信がある。

 冒険者になってから実戦で魔物を瞬殺し続けたこと、そして本気のゼフ相手に部分強化を使わずにやりあえるようになったこと、と言うのが根拠だ。

 

「なら平気だ。五秒もあれば私はワイルドウルフを倒せるだけの魔法を放てるからな。もう一度言うが安心して受けてもらいたい」

「わかりました」

 

 これはまたとないチャンスかもしれない。

 リスクを犯して失敗しても、カインさんがいるし、Bランクの魔物はどのレベルなのかも知れるチャンス。

 だから俺は引き受けることにした。

 

「若輩者ですが、よろしくお願いします」

「お願いします!」

 

 俺の言葉に何故かマリエさんが反応した。

 その後カインさんはまた俺を見定めるように見始める。

 なんなのこのやりとり?




最後まで読んでいただきありがとうございます。


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08

 ワイルドウルフ討伐依頼を受けた俺は早速準備を行い現地へ向かうべく、カインさんと共に馬車で移動していた。 

 道中では、ワイルドウルフをどのように倒すか、打ち合わせをした。

 その結果の作戦はシンプルで、俺がワイルドウルフを誘き寄せて、カインさんの炎魔法で倒すというもの。

 俺が言うのも何だが、こうもあっさりしてるとすごく心配になる。

 先程ギルドで俺はカインさんから、俺がワイルドウルフ相手に数秒時間を稼げるか確認された。

 そのため、俺が時間を稼いでカインさんが魔法でとどめを刺すのかと思ったんだけど、どうも違うらしい。

 俺がそのことをカインさんに聞いてみた。

 

「確かカインさんは俺に、ワイルドウルフ相手に数秒時間を稼げるかと確認されましたよね?なんで俺が時間を稼いでカインさんの魔法で倒す、と言う方法にしないのですか?」

「今アルト君が言ったことはあくまでも最終手段。冒険者にとって戦闘は最小限に留めるのがベストだ。私の言った作戦はシンプルだが最小限の戦闘で済ませられる。ただ、アルトの負担がかかるが……」

「なるほど」

 

 確かにそうだ。

 プランは一つだけ立てるものじゃない。

 その状況に応じて対処できるようにいくつか予備の作戦を考えるものだ。

 考えが甘すぎた。考えを改めなくてはいけないな。

 俺はそう思い、一度頭をクリアにした。

 作戦自体はカインさんのワイルドウルフを一撃で倒せることが前提だが、それについては出発前に一度カインさんの魔法を見せてもらった為問題ない。

 カインさんは俺の目の前で本当に五秒で倒すくらいの魔法を見せた。

 俺は驚いたが、目の前で見せられた感想は才能の差は妬ましいということ。

 俺はそう考えるが、今更だなと一人納得。その後はカインさんと作戦の詳細を話し合い、現地まで過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とカインさんが現地に到着するとまずは討伐するための場所を探す。

 もちろんワイルドウルフの縄張りに入るため警戒は怠らずにだ。

 カインさんが周囲探知無属性魔法『サーチ』を使い、いつ現れても平気なように慎重に行動した。

 俺はそんなカインさんをみて本当にすごいと思う。

 魔法の威力もそうなのだが、魔力量が異常、依頼一人でもこなせるんじゃないか、俺は足手まといなんじゃないかなと考え始めてしまう。

 でもとりあえずこの考えは今はやめよう。

 カインさんは俺を必要だと言ってくれたのだ。

 何かあれば指示があり何もない。

 だから今は依頼に集中しよう。

 俺は考えを切り替えて依頼に集中する。

 それから俺とカインさんは森を進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とカインさんは森に入って数十分歩いたところに木々がなく、透き通るような綺麗な湖を中心に芝生が広がっている場所を発見した。

 お互い了承しここを討伐の目標地点に決めた。

 

「ここがいいだろう。ここならば炎の魔法を使っても火災は防げるだろうからな。あとはワイルドウルフをアルト君が誘導できるか否かにかかってるな」

「わかりました。精一杯頑張ります」

 

 俺はカインさんの提案に了承、頑張る旨を伝えた。

 実を言ってしまえば俺にはこの作戦遂行には自信がある。

 事前にワイルドウルフについてはギルドで学び、カインさんから情報をできる限り聞いた。

 俺は情報を整理し、どうやって対象を誘導するかを考える。

 ポイントは俺が湖まで逃げ切れるか、湖周辺で魔法を準備し待機するカインさんが魔法を放てるようにすること。

 今回は俺は直接戦闘はしない。

 もちろん試したいと思うこともあるが、依頼達成が最重要項目。 

 そのため、役割に徹することにした。

 俺とカインさんはそれぞれ作戦決行のための準備をし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は今、森に慣れるために軽く走っていて、作戦の準備をしている。

 俺の役割はワイルドウルフを目標地点に連れて行くこと、森道を慣れるためにカインさんの経験から指定されたワイルドウルフの縄張りに入るギリギリのところを走っている。

 もちろんこの行動に理由がある。

 一つはワイルドウルフに縄張りに侵入した者がいることを伝えること。

 もう一つワイルドウルフから逃げる最短ルートの発見のためだ。

 俺の考えでは今回、『見切り』と身体強化を使えば逃げ切れると思っている。

 でも、もしもダメでも別の手段を使う。

 仮に誘導に失敗をしたとしても一体ーでも勝機はある。

 でもそれはあくまで最終手段、最善はカインさんの作戦。

 俺は作戦開始時間ギリギリまでひたすら森にいてルート詮索をし続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が作戦結果後準備をし始めて時間が経ち夜となった。

 俺は自分の持ち場に向かおうとするが直前にカインさんから話しかけられた。

 

「アルト君」

「はい、なんでしょう?」

「君にこれを渡しておこうと思ってな」

「これは?!」

 

 一瞬驚いてしまった。

 カインさんが俺に渡してきたのは魔力ポーション。

 魔力ポーションは貴重で、生成が難しいため高額。

 仮に平民三人家族で一月金貨二十枚あれば多少贅沢な暮らしができる言われている。

 魔力ポーションは一本でその生活を十ヶ月ほと余裕に続けられる額だ。

 

「こんなの受け取れません!」

「いや、アルト君にはこれを受け取ってもらいたい。ただでさえ危険な依頼だ。気休めにしかならないけど、受け取って欲しい」

「…………わかりました。いただきます」

 

 流石に躊躇う。

 こんな貴重なものをもらうわけにはいかないが命の危険が伴うのは事実。

 もらえるものはもらっておくことにする。

 それに使わなかったら返せばいい、そう判断し受け取ることにした。

 俺はカインさんから魔力ポーションを受け取ると森を歩く。

 心臓が高鳴り、縄張りに近づくにつれて鼓動が速くなるのを自覚しながらゆっくり歩いていく。

 

グオーー!

 

 その鳴き声を聞いた瞬間一気に緊張感が増す。

 それはワイルドウルフの咆哮。俺はすぐに体に魔力を流し身体強化を発動。

 カインさんとの約束の場所へ走り始めた。

 

 作戦決行だ!




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09

 ワイルドウルフの咆哮が聞こえた後、俺は走り続けた。

 俺は出来るだけ最短ルート、そしてワイルドウルフの障害となるように木や岩を通り走り続けた。

 しかし障害は意味を成していないのか、どんどん距離を詰められる。

 カインさんとの約束の場所まであと百メートル弱はある。

 考えが甘かった。

 俺は逃げ切れる自信があったが、考えていた以上に相手が早かった。

 このまま逃げているだけではすぐに追いつかれてしまう。そう考え、ワイルドウルフと少しだけ戦闘することにする。

 今回の目的は倒すのではなく、あくまで妨害と足止め。

 逃げ切るための戦闘。

 俺はギリギリまで走り続ける。目標地点まで残り60メートルといったところで後ろからの音が大きくなってきた為、限界と判断。足を止めてワイルドウルフを待ち伏せる。

 待ち伏せを始めてから時間にして数秒、ついにワイルドウルフの姿が見えた俺は目に魔力を送り『見切り』、『バレット』で魔力の塊を四つ生成、最後に左足に魔力を集める。

 

『部位強化』

 

 『部分強化』の応用で四肢の一つに魔力を集める。

 本来なら攻撃に多用する魔法だが、今回は避けるのが目的。

 視界がスロー再生のようになりワイルドウルフの姿がゆっくりと現れる。

 俺はあらかじめ生成していた魔力の塊を目を狙い撃ち込み、そして左足に力を入れて右に移動する。

 

キャン!

 

 ワイルドウルフが俺を横切ると同時に鳴き声が聞こえる。

 魔力の塊が命中したのだろう。

 もともとワイルドウルフは相当速く移動していた為、『バレット』が当たったとき普段以上の効果があった。その後、体勢を崩して転倒する。

 

ドス!バキバキバキ!

 

 木が倒れる音と共にワイルドウルフが地面を引きずっていった。

 俺はすぐに目標地点に向かうため走り始める。

 これで倒れてくれないかな?と思ったものの、世の中そんなに甘くない。

 ワイルドウルフは立ち上がるとすぐに俺を追ってきた。

 このまま逃げ切りたかったが、流石はBランクの魔物。

 残り20メートルほどで追いつかれそうになる。

 でも今度は待ち伏せはできない。

 足を止めた瞬間ジ・エンド。だからこのまま逃げる。

 残り15メートルで俺は『見切り』、右足に魔力をそれぞれ流し『部位強化』を発動させる。

 そして右足がついた瞬間本気で踏み込み前へと飛び込んだ。

 飛び込みながら後ろを見ると、ワイルドウルフが隅々まではっきり見えた。

 本当にギリギリだった。

 少しでも判断が遅れていたら、『見切り』を発動していなかったら死んでいた。

 そして俺は『部位強化』を使って飛び込んだため、速さが増してワイルドウルフを引き離す。

 

 バシャン!

 

 そして俺は着地が出来ないまま、湖に頭を抱えた体勢で湖にダイブ。

 

ドカーン!

 

 そして大きな爆発音とともにワイルドウルフは魔素となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「疲れた」

 

 戦闘終了後、俺はそう呟きながら水の上をゆっくり陸へと移動していた。

 本当にうまくいって良かった。

 少しでも判断を間違えていたら死んでいた。

 でも、今回の経験で格上ともやり合える証明ができた。

 まだ改良の余地はありそうだけど、残り数ヶ月で調整をしよう。

 そう決意を改める。

 

「はぁー着いた」

「アルト君見事だった」

 

 陸について独り言を言った後、俺を待っていたであろうカインさんが声をかけてきた。

 俺のことを褒めてくれるカインさんだったが、今回の依頼ほとんど何もしていない。

 俺がそう思っているとカインさんは話を続けた。

 

「まさか本当に達成するとは思わなかった。途中まで連れてくれば及第点だと思っていたけど、私は君を見誤っていた」

「ど……どうも。あのどういうことですか?及第点とかって」

 

 俺はカインさんの言っていることに疑問を感じたため質問をした。

 

「予想してなかったんだよ。あのワイルドウルフを目的地点まで誘導できたことが。だいたい目標距離の三分の二を達成できればすごいと思っていた。でもアルト君はやってみせた」

「その言い方ですと、俺が死ぬ可能性も考慮に入れていたってことですよね?」

「いやそれはない。もしも大事になりそうならすぐにでも手を貸す予定だったからね」

「あの……言っている意味がわからないのですが?」

 

 本当にわからない。

 カインさんが言っていることを解釈すると、一人で簡単に対処が可能だったということ。

 だったら作戦とかは何だったんだよ。

 初めから言ってくれればいいじゃん。

 俺はカインさんに言いたい文句がたくさんあったが、次の一言で納得する。

 

「新人を育てるのもベテランの仕事だと私は思うけど?」

「確かにおっしゃる通りです」

 

 そういうことか。

 なら俺はカインさんに感謝をしなければいけない。

 実戦に勝る経験はない。

 本当にその通りだ。

 俺はカインさんのおかげで一回り成長することができた。

 しかも知らなかったとはいえ死のリスクがほとんどなかった状態でそのような経験はもうできないだろう。

 

「ありがとうございました」

 

 俺はカインさんにお礼を言った。

 その後は夜遅くで帰るのは危険とのカインさんの判断で野宿が決定、準備に取り掛かった。




最後まで読んでいただきありがとうございました。


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10

カインについてです。


 カインは王立フューチャー学園の教師と冒険者を兼任している。

 主な仕事は冒険者の経験を生かした実践、そして魔法に関する講義。

 そして最後に推薦候補生の見定め。

 カイン自身はこれを一番面倒くさい仕事だと思っている。

 毎年学園に紹介される人数は百人程度。そのほとんどが上級階級の貴族が大袈裟に言っているだけなのだが、それでも直接現場に出向き審査しなければいけない。

 これは仕事の一環、面倒臭くても行かなくてはいけない。

 そしてカインに紹介された人物の大半は、審査したところで推薦候補生に相応しい実力を持っていない。

 推薦候補生の基準は厳しく、ただ優れているだけではダメなのだ。

 突出した分野が必要であり、それを証明するため、紹介された人物には厳しい審査が課される。

 審査に関しての情報は本人には一切伝えられず、難しい状況下で依頼内容以上の成果を出すことが必要なのだ。

 この審査は厳しく、推薦に足る人物は毎年一人いればいい方で、いない年が多い。

 ちなみにカインも驚いたことなのだが、今年の推薦候補生は三人も決まっている。学園内はこの話題で持ちきりで、今年は既に黄金世代と言われている。

 ちなみにカインが直接審査した人で、候補生は見つかったことは一度もない。

 紹介された人は、一応でも審査しなければいけない。

 カインには紹介されても見込みの薄い者の仕事が回ってくる。

 

「こっちだって暇じゃないんだけどなー」

 

 カインはそう呟きながら一枚の依頼書を見ていた。

 内容は冒険者組合から学院への紹介。

 クロスフォード支部に最短でCランクに上がった新人を見てほしいという内容だった。

 

「はぁー」

 

 カインはため息をついた。

 クロスフォード領といえば何もない田舎。

 そんな田舎で出てきた期待の新人なんてたかが知れている。

 でも仕事だから行かなければならない。

カインは自分に言い聞かせ出向くための準備をするのだった。

 

 

 

 

 数日後、カインはクロスフォード領につき、該当の人物、アルトについて調べた。

 その結果、基本的にソロで活動してゴブリンやオークを討伐し、最年少でCランクになったと分かった。

 カインの見立てでは少しだけ優秀な人材。

 推薦を取れるような人物ではない。

 カインはまた損な役回りかと思い、それでも仕事は仕事とまたも自分を言い聞かせ、とりあえず会ってみようと思うのだった。

 そして会って見てさらに期待が下がる。 

 カインから見たアルトは平凡そのもの。

 強い者はある程度独特のオーラをしている。

 カインはさまざまな人間を見てきた、そして冒険者としての経験からそういった人物は感覚で分かる。

 アルトはせいぜい平凡、よくて標準。

 事前に調べた情報すら嘘と思える、そんな人物だった。

 さっさと審査して帰ろう。そう判断したカインはクロスフォード領内でたまたまワイルドウルフの緊急依頼が出てた為、テストを兼ねてアルトと一緒に受けようと思った。

 そして依頼の話が進んだ後、アルトが意味深な発言をする。

 アルトは無属性魔法を主に使い、全てを短期決戦で終わらせるのが得意と言った。

 それを聞いてカインはワイルドウルフ相手に数秒は持ち堪えられるかどうかを聞いたが、自信満々で肯定していた。

 カインはアルトの発言に期待はしないが興味が湧いた。

 ほんの少しは楽しめそうかなと思い、その後はそれぞれが依頼のための準備をし、馬車で現場に向かった。

 

 

 

 

 カインはアルトと馬車での移動中、作戦会議をした後アルトには無茶な注文をしてみた。

 ワイルドウルフを誘導しろ。

 これは殆どが無理なことだ。

 ワイルドウルフはとにかく速い。

 そんな相手から逃げ切るなんてことは普通はできないからだ。

 カインは拒否されると思い少し冗談で言ったのだが、アルトはそれを出来ると断言し引き受けた。

 

(何かあっても助ければいいか)

 

 カインはそんな軽い気持ちでいたのだが、結果が出た途端驚いた。

 アルトはカインの助けなしに達成した。

 さらに内容を聞くと、驚愕。ワイルドウルフ相手に足止めを行なったこともわかった。

 カインは『サーチ』で常に状況確認をしていて、目標地点に辿り着くまでにワイルドウルフとアルトの動きが止まっていたのが分かっていた。 

 その時に戦闘をしていたのだろうと考えた。

 そして今までの自分の考えを捨ててアルトの評価を改めた。

 

 

 

 こういった一連の流れがあり、カインは決めた。

 アルトを王立フューチャー学園に推薦しようと。




最後まで読んでいただきありがとうございます。


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11

 ワイルドウルフの依頼終了後、夜間の道は危険と判断し、森で野宿をしてから帰る事になった。

 ワイルドウルフが討伐されたが、森の生態系が元に戻るまで数日かかるらしく、その間は安心安全に野宿が可能らしい。

 俺はワイルドウルフとの命賭けの鬼ごっこ、『部位強化』の魔法使用でかなりの疲労が溜まっていたため、この後の移動がないのはありがたかった。

 『部位強化』で使う魔力の量は『見切り』と同じ『バレット』の弾丸10発ほど。

 ただ使用してからしばらく経つと、副作用として『部位強化』を使った四肢に疲労が蓄積される。

 アドレナリンが出ていたためか使用直後は平気なんだが……。

 一応『見切り』も目や脳を少し酷使するため多少の疲れは残るものの、魔法を開発してから毎日のようにゼフとの訓練で使用していたため、それほど疲れなくなった。

 もちろん『部位強化』も使っているが、肉体疲労はどうしても解決できなかった。

 

「ふぁ〜」

「アルト君、今日は君に無理をさせてしまったからね。限界だろう?見張りは私がやるからゆっくりお休み」

 

 考え事をしていたがついに眠気の限界が来て欠伸をしてしまう。

 カインさんが見張りをしてくれていると言ってくれたし、お言葉に甘えることにする。

 俺は疲労の限界に達していたため、眠気に逆らわず意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 次の日俺は朝早く森から馬車で帰宅をし、報告のため冒険者ギルドへ向かう。 

 マリナさんに結果報告をしたら、何故か安堵された。

 そんなにワイルドウルフが心配だったのだろうか?

 マリナさんには冒険者登録をした時からずっとお世話になっていた為、結果で恩返しが出来たみたいで本当に良かった。

 報告が終了し、依頼全てが片付いた。

 そして今、俺はカインさんと別れの挨拶をする。

 

「アルト君お疲れ様。依頼に協力してくれてありがとう」

「いえ、こちらこそ良い経験ができました。全てわかった後ですが、リスクがあまりなく、あそこまでの経験は普通できません。それに今回の依頼を通してまだまだ自分の足りないところがわかりました。今後精進していきたいと思います」

「依頼が終わった後だと言うのに……君は努力家だな」

 

 俺の言葉にカインさんはそう評価した。

 本当にカインさんには感謝しかない。

 こんな経験は絶対にできないし、原作開始前にできたのは大きい。

 自信に繋がったし、目上の存在にも俺の魔法は通用し、Bランク程度ならなんとか時間を稼ぐことができる事が分かった。

 これは今後のことを考えるとすごいことだ。

 

「あ!」

 

 俺はふとカインさんから借りていた魔力ポーションのことを思い出した。

 結局使わずに依頼を終了させた為、未使用だ。

 俺はすぐにバックから取り出しカインさんに渡す。

 

「カインさんこれ、お返しします」

「あーこれか……」

 

 俺がカインさんに渡すもすぐには受け取らなかった。

 そしてカインさんは少し考えてから言い始めた。

 

「これはアルト君にあげよう。もともとそのつもりで渡したものだ」

「?!でもこんな貴重なもの貰えません。それに俺は魔力量は多くありません。カインさんが持っていた方がいいと思います」

 

 本当にこれは受け取れないし、俺が使ってはもったいない。

 カインさんが使った方が絶対いい。

 俺がそのことを伝えるがカインさんは受け取らずに俺に話してきた。

 

「君は魔力総量が少ない。だから短期決戦のスタイルをしているんだったね」

「はい……」

「なら尚更これは持っておいた方がいい。魔力総量が少ないからこそアルト君にとって魔力ポーションは必要なはずだ。それに君にとってこれは切り札になるはずだ」

「切り札ですか?」

 

 確かにカインさんの言う通りだ。

 俺は魔力総量が少ない。

 だから短期決戦を好むし、短期決戦しかできない

 そんな俺にとって魔力ポーションは喉から手が出るほど欲しいものだ。

 それにしても切り札とは?

 

「まだ理解してないみたいだな。そうだな………これは例え話だが、もしも一回の戦闘で魔力を使い切っても、敵を倒せなかったとしよう。その場合はどうだ?」

「それは……」

「その時、魔力ポーションの有無は天と地の差がある。ポーションがあれば即座に回復し、再び戦える。しかし無ければ当然回復はできず、無力に終わってしまう。ピンチの時に何かしらの打開策があること。それが切り札というものだ。冒険者にはどんな場面でも打開出来るような手段があった方がいい」

「確かに」

 

 その考えは俺にはなかった。

 確かにカインさんが言ったような状況が来たらまずい。

 今後必ずその局面は来ると思う。

 原作改変を目指す俺からしたら頻度は多いと思う。

 ……カインさんからのせっかくのご厚意だし、もらっておこう。

 

「わかりました。ありがたくいただきます」

「うん、それでいい」

 

 俺は出していた魔力ポーションをしまう。 

 そしてお互いに挨拶を交わした。

 

「ではこれで。本当にありがとうございました」

「ああ。こちらも良いものが見れた。ではまた今度!」

「はい!」

 

 そう言ってお互い別れた。

 今回の件は収穫が多い。戦闘経験に魔力ポーション。

 本当に依頼を受けてよかったと思った。

 しかし、最後にまた今度とはどういうことなのだろう?

 多分冒険者をやっていれば今後会うかもしれないということかな。

 俺は考えをまとめながら家族が待つ屋敷に帰った。

 

 

 

 

 それから数日後、冒険者ギルドに俺宛の「王立フューチャー学園」から手紙が届き、驚くことになった。




最後まで読んでいただきありがとうございました。


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12

 ワイルドウルフ討伐から数日が経ち、いつも通り冒険者ギルドに向かうと驚くことがいくつかあった。

 なんと「王立フューチャー学園」から推薦状が届いていたのだ。

 その事に驚いた俺がマリナさんに事情を確認すると、ギルド長が俺のことを紹介をしてくれた、との事だった。

 そして、この前一緒に依頼をしたカインさんは学園の教師だった。

 それを聞きさらに驚いた。しかし、ギルド長の紹介を受け俺を試しに来たのだと、カインさんの言動に納得できた。

 そして今、紹介をしてくれたギルド長にお礼を言うべく、ギルド長室にいる。

 

「まずは自己紹介からだね。私はクロスフォード支部冒険者ギルドの長をしているノールトと言う」

「初めまして、冒険者をしているアルトと言います。この度は王立フューチャー学園への紹介していただきありがとうございました」

「いやいや、私は紹介しただけ。その権利を得たのは君の実力、私はその切っ掛けを作っただけに過ぎないがね」

 

 ノールトさんは俺にそう言ったが、切っ掛けをくれただけでも感謝しかない。

 正直言ってしまえば俺は「王立フューチャー学園」を受験しても絶対合格出来るという自信はなかった。

 「王立フューチャー学園」への推薦をもらえた結果、志望すれば入学できるようになった。

 

「それでもです。切っ掛けを下さらなければ推薦すらありませんでした」

「君は謙虚なのだね。それは君の美徳なのだろう。大切にするといいかね。……さて、ここに呼んだ理由だが、君に推薦を受けるかどうか、そして謝罪を兼ねて呼ばせてもらったがね」

「謝罪ですか?」

 

 何か俺に謝罪することがあるのだろうか?

 俺は黙ってノールトさんの話を聞く。

 

「出来るだけアルト君の安全は配慮していた。でも審査のためとは言え、君に危険な依頼を受けさせてしまった。この件は謝罪せねばならないかね。すまなかった」

「!?頭を上げてください。確かに危険はあったと思います。しかし安全は考慮して頂いていましたし、俺自身も良い経験ができました」

 

 ギルド長は謝罪を言ったあと、その場で頭を下げた。

 俺はすぐに辞めるように言って俺自身の今回の件の考えを話す。 

 するとノールトさんは俺の言葉を聞いた後頭を上げて笑った。

 

「そう言ってくれると助かるかね。……さて、君がそう言ってくれていることだし、推薦の話をしよう。この件はアルト君はどうするかね?」

 

 ノールトさんは真剣な表情で聞いてきた。 

 答えは決まっている。

 今までそれを目標に努力してきたんだ。

 

「はい。お受けしたいと思います。俺はもともと合格のために努力をしてきました。そのチャンスがあるんですから」

「そうか。安心したかね」

 

 俺の言葉にノールトさんは安堵したように表情を緩めた。

 そして、ふと何か気になったのか俺に質問をしてくる。

 

「これは興味本位の質問なのだが、君は短期間でCランクまで上がったがそれは異常だがね。差し支えなければどうやって実力を身につけたのか教えてもらえないかね?」

 

 ノールトさんの質問に俺は聞かれてもしょうがないと思った。

 確かに疑問に思うのはしょうがない。 

 推薦の件もあるしお世話になった。

 でも理由を説明するには身バレしなきゃいけないが、この人には隠し事はしたくない。

 俺はそう思い、教えることにした。

 

「そうですね……これはあまり広めてほしくないのですが、ノールトさんにはお世話になりましたし、お教えします」

 

 俺の言葉にノールトさんは真剣な表情をする。

 前置きが大袈裟過ぎたかなと思いつつも話を続ける。

 

「冒険者登録では家名を言わず、名前のみで登録しました。俺の名前はアルト=クロスフォード。クロスフォード子爵家の嫡男です」

「?!」

 

 俺が身バレした瞬間ノールトさんは驚いた。

 でも、それを覚悟で話した。

 これで変わった態度を取られても嫌なので、すぐに話を続ける。

 

「俺が貴族だったとしても、今までと同じ態度でお願いします。いきなり態度を変えられるのが嫌で隠していましたので」

「………そうか。わかったかね。それにしても子爵様の息子さんだったとは……でもそれなら実力があるのに納得だがね」

 

 どうやら態度は変えずに接してくれるらしい。

 貴族と身バレして変わらずに接してくれる人は少ない為ありがたい。

 とは言ってもクーインとノールトさんくらいだが……俺って知り合い少ないな。

 学園入ったら友達作ろう!!

 

「まぁ、驚いた事もあったがこれで要件は終了したかね。後は学園の試験についてだが、この推薦状と一緒に冒険者証を受付に渡せば良い。ただもしも紛失した場合は推薦取り消しの可能性もあるかね。絶対に紛失せずに保管しておくかね!」

「は、はい!わかりました。気をつけます」

 

 ノールトさんは推薦状についての注意点を教えてきた。

 しかも真に迫ってくるように。

 正直怖かったが、それだけ大切だという事なのだろう。

 俺はすぐに返事をした。

 

「ならいいかね。今日はこれから依頼を受けるかね?」

「いや、今日は帰ります。こんな大切なものを頂いたので、両親たちに報告もしたいですから」

「そうするといいかね。もしもこのまま依頼を受けると言っていたら無理矢理にでも帰していたかね。ならさっさと周りに注意し続けて気をつけて帰るかね。わかったかね?」

「……はい。帰ります」

「うむ!」

 

 どれだけ念押しするんだよ、過保護かよ。

 ここまで来ると恐怖すら感じるわ!

 とりあえず俺はここにいるのはまずいと思い、ノールトさんと部屋の外で受付をしているマリエさんに挨拶をして帰宅をした。

 

 そして帰宅後すぐに両親とゼフに報告した。

 そうした結果

 

「あぁ……我が子は天才だ!クロスフォード家は安泰だな!」

「あなた、今日はお祝いよ!!」

「アルト様……」

 

 父上、母上、ゼフがそれぞれ変わった反応を見せた。

 父上と母上は普通の反応だが、ゼフに限っては膝をついて泣いていた。

 大袈裟過ぎだろ。

 それに父上……俺が天才ならこの世界天才しかいませんよ。 

 色々と突っ込みたいことがあるが、心から祝ってくれたことがわかった。

 こうして俺の「王立フューチャー学園」への合格が確定したのだった。




最後まで読んでいただきありがとうございました。


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13

 推薦状の一件から二ヶ月が経ち、ついに王立フューチャー学園の入試当日となった。

 俺は友人のクーインと共に学園に向かっている。

 理由は「どうせ僕もなら一緒に連れて行ってよ」と言われた為だ。

 最初渋ったが、そうしたら「お貴族様はしがない平民の頼みも聞いてくれないほど器量が無いんですね」と言われた為、引き受けた。

 ただ、両親にそのことを相談したら泣きながら許可を出していたが……。

 意味がわからない。

 俺、クーインそしてゼフの三人でグランデ王国の王都に到着後、宿で一泊して会場に向かった。

 ゼフは一緒に行きたいと言っていたが、使用人を連れていったら目立ってしまうかもしれないと思い丁重に断った。

 

「試験の準備は大丈夫か?」

「まぁ、アルトが勉強と魔法教えてくれたし大丈夫だとは思うよ?」

「なんで疑問系なんだよ。大丈夫だ、クーインは合格ラインは超えてる。本番で緊張し過ぎなきゃ大丈夫」

「ならいいんだけどね」

 

 俺はクーインにそう言うが、それでもクーインは何かそわそわしている。

 よほど緊張しているのだろう。

 学園まで一緒に向かっているが、宿からずっとこんな感じだ。

 途中商店街が賑わっている場所で声をかけられていたが反応が鈍かった。

 この緊張が原因でクーインが落ちたらシャレにならん。

 俺が知り合いゼロで入学しなきゃいけなくなる。

 それは嫌なので緊張を解くためにあれこれ話しかけてはいるが全く効果がない。

 どうするんだよマジで。

 俺は色々考えるが何も思い付かず、そのまま学園についてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「王立フューチャー学園」

 

 それはグランデ王国が誇る最高峰の人材育成機関。

 才能のある人材を発掘する為、より優秀な人材を育てる為、将来魔神が復活した時に備える為に建てられた。

 王国は約千年前、復活した魔神によって滅亡寸前まで追い詰められた。

 しかし、人類は協力し合い魔神を封印した。

 ただ、封印をしただけでまた復活する恐れがある。

 それに対抗する為の人材を育てることを目的に設立された。

 まぁ、ゲームテンプレ展開で今年復活してしまうのだが……。

 ちなみに学園に入ることは人生が約束されたも同然。

 「王立フューチャー学園卒」という経歴だけで、望めばどこでも就職できる。

 それほどまでにブランドに箔がある。

 毎年の入試倍率は百倍を超える。

 本当に狭き門。なにより入試に出来レースは一切存在しない。

 例えば公爵家の子息が落ちて平民が合格する。

 それが当たり前のように起こる。

 それほどまでに平等なのだ。

 俺自身、アルトに転生して努力を重ねたが、なんで推薦をもらえたかわからない。

 アルトは元々相当優秀だったが、俺が憑依した影響で才能が抜け落ちてしまったのだろうか?

 ただのモブ未満の才能のはずなのに、なぜ推薦がもらえたのだろうか……。

 そんな俺だが、推薦で入学が確定している。

 推薦入学者は毎年少なく、いない年すらあるらしい。

 審査が厳しい為、一般入試以上に狭き門なのだ。

 ただ原作主要キャラたちは、多分推薦で入ることになると思う。

 だってチート野郎だし、俺で推薦貰えたのだから入れないわけがない。

 そんなことを考えていると、いつのまにか学園に到着していた。

 

「すげぇー」

「本当だなぁ」

 

 俺、クーインと感想を言う。

 校門を潜ると見えた規模、背景に絶句した。

 門を潜ると門から約百メートルほど先に学園が見える。

 その大きさは俺の住む屋敷よりも何倍も規模が大きい。

 学園の入り口までの道はまさに幻想。

 レンガブロックを敷き詰めた道幅二十メートルほどの道、その道に並び生えている木々。

 そして中央には白を基調にした綺麗な噴水、花壇が所々にあり、その光景はまさに桃源郷。

 この世界の住人でない俺でも感激で言葉を失うほど綺麗だった。周りの皆も見惚れてしまい、一瞬フリーズしてしまっている。

 どれほど時間がたったのだろうか。

 しばらくその場で俺とクーインが目の前の光景を見つめていると、俺らの横を髪を風に揺らしながら絶世の美少女が通る。

 

「?!」

 

 俺は美少女の容姿を見た瞬間、驚いて声が出そうになったがどうにか抑える。

 通り過ぎた美少女は、腰まで伸ばした光が透き通るような綺麗な銀髪を揺らし、ワンピース型の黒色の正装を着こなして居た。 そして、彼女の一番の特徴と言えるアメジスト色の綺麗な目、整いすぎている容姿。

 これらを見て確信した。

 彼女は俺が目標にしていた乙女ゲームにおける超不遇当て馬ヒロインその人だった。

 

「サリー=クイス……」

 

 俺は彼女の名前を小さくつぶやいてしまった。




最後まで読んでいただきありがとうございました。


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14

 「純愛のクロス」の主要キャラたちは皆容姿が優れている。

 それはサリー=クイスのように通るだけで誰もが振り向くくらいずば抜けている。

 その証拠にサリー=クイスが通ったあと、男子は顔を赤くして見惚れ、女子は憧れからか頬を染めている者が沢山いる。

 

「おいアルト!さっきの人誰だい?」

 

 俺が彼女に見惚れていると隣にいたクーインが慌てて話しかけてくる。

 

「いや別に……知らないけど」

「嘘をつくな!さっき名前言ってただろ」

 

 そこでふと、自分がやらかしていることをクーインから指摘され自覚した。

 俺は無意識に彼女の名前を言ってしまっていたことを。

 やらかした、そう思ってももう手遅れ。

 俺はゲーム知識で彼女を一方的に知っているだけ。

 現実の俺は貴族交流会に出た経験がなく、貴族の関係については疎いので、本来なら知っていたらおかしい。

 どうしたものか……。

 そして俺はクーインに貴族交流会へ一度も参加したことがない事を話してしまっている。

 これでは貴族交流会で知った、と嘘をつくこともできない。

 だから俺はゲーム知識から話しても問題ないだろうと判断し、名前と家のことを紹介した。

 

「さっきの彼女はサリー=クイスという名で、クイス侯爵家の御息女だよ。……てか急にどうした、恋でもしたか?」

「………違うよ」

「なんだよ今の間は?十中八九当たりだろ!」

「君の方がそうだろ?顔がまだ赤いぞ!」

「………」

 

 顔が真っ赤であるとクーインにそう指摘されて自覚した。

 彼女は前世からの憧れていたヒロインだ。それを現実で、しかも整いすぎている彼女の美貌を間近で見たら、そうなっても仕方ない。

 

「アルト……」

「ん?」

 

 俺が考え事をしているとクーインが俺の肩を叩きながら今まで一度も見たことがないほど真剣な表情で名前を呼んできた。

 俺はそんなクーインを見ながら話し始めるのをまつ。

 

「アルト……これは一友人として、恩人の君へのアドバイスだ」

「……なんだよ急に」

 

 クーインはそう前置きをして話始める。

 俺は軽口を返すが、クーインの真剣すぎる表情。

 何かを俺に伝えようとしている。

 何を言いたいのだろう?

 俺はクーインの話を黙って聞くことにする。

 

「先程の彼女とお前が今後どうなろうと、仲良くなるのは絶対にない。これは運命なんだ」

「……殴って良い?」

 

 クーインは真剣な表情で俺にそう言ってきた。

 俺の返答に対して今度はさっきとは真逆、ヘラヘラとふざけた表情に変わり、話を続けた。

 

「夢を見るなってことだよ!」

「お前、俺への恩を忘れたのかこのやろう!」

 

 俺に酷いことを言ってきたクーインに対して文句を言う。

 

「別に夢見たっていいじゃん」

「やめておけと言っているんだ」

 

 俺の文句に対してヘラヘラしながら返すクーイン。

 さっき俺に見せた真剣な表情は何か別な意図があるのでは?と思ったが、こいつはただ俺を揶揄うためだけに見せたのかもしれない。

 いつかこいつに好きな人ができたら同じようなことを言ってからかってやる。

 この日俺はクーインにいつかやり返すと決めた。

 

 こんなやりとりがあったおかげか、クーインはすっかり緊張が解けて、心底安心したような表情をしていた。

 そして俺とクーインは入学試験の会場へ向かった。




最後まで読んでいただきありがとうございました。


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15

 俺は推薦入試、筆記試験のみの為、すぐに試験終了。

 終了後は下見も兼ねて学園内を散策している。

 見つかったら注意されるかもしれないが、迷ってしまいましたと言えば平気のはず……多分。

 学園を見てまわった感想はやはりすごいの一言に尽きる。

 校外は全て芝生又はレンガの道、学園は規模が広すぎる為、こんなに綺麗に管理し続けるのは困難と思い、汚れや破損部分ないかなと興味本位で探してみたが一切なかった。

 なんでこんなに綺麗なのだろうと思ったが、ここはファンタジー世界。

 魔法で管理されているのだろう。

 

 学園内の雰囲気は西洋風。

 床は赤のカーペットに金や銀の刺繍が模様のように所々あり、壁面、天井は建物の外面と同じように白一色。

 天井に何故か光の玉が浮かんでいるが、これも魔法か。

 まー当たり前かと思ったが、校内の壁面、天井にもシミひとつない。

 魔法ってほんとすげーなまじで……。

 心の中ですら棒読みで感想を抱くくらい魔法規模のデカさに驚いた。

 さて、次はどこに回ろうか?

 

「君はここで何をしている?」

「え?」

 

 考え事をしていると後ろから声をかけられた。

 俺はすぐに振り向き確認するとそこには高身長で赤髪、碧眼のイケメンがいた。 

 ………この特徴主人公なんだけど。

 どうしよう、関わりたくない。

 でも、とりあえず俺がここにいる予め用意していた理由を言わなければ。

 

「すいません。試験が終わった後少し歩いていたら迷ってしまいまして……」

「実技試験を受けていないと言うことは、君は推薦入学なのか?」

「はい」

 

 俺がそう答えると赤髪の青年は考える仕草をし、数秒考えたら話し始める。

 

「学生でもない人間がここにいるのはまずいだろう、すぐに退散した方が良いと私は思うが?」

「………おっしゃる通りです。本当にすいませんでした。失礼します」

 

 注意を促してくるということは学校の関係者みたいだ。どうやら原作主人公ではなかったらしい。

 ゲームの主要キャラにこんなキャラいたっけ?

 まぁ、とにかく親切そうな人でよかった。

 俺は即座に撤退しようとする。

 しかし先輩が声をかけてきた。

 

「私も一緒に行っても良いだろうか?用事が終わって帰るところでな」

「わかりました。でも、実は友人と待ち合わせしていまして……校門前で良いんでしたら……」

「それで良い」

「では行きましょう」

 

 俺はあぶねーと思いつつ、先輩らしき人と校門の方へ向かった。

 今日は入試の為、一般生徒はいない。

 先輩は用事が済んだと言っていたので、生徒会か何かの組織に所属している人物かもしれない。

 それと先輩は、何故か嬉しそうな表情をしている。

 なんかいいことあったのかな?

 俺は疑問に思いつつも、先輩と共に校門へ向かった。

 

 

 

 

 

 俺と先輩は校門に到着するまで会話はなく、そのまま歩いて行った。

 理由は先輩が何も言わずに俺の後について来ていて、俺自身も何を話せば良いかわからなかったためだ。

 何か話さなくてはと思いつつも何も話題が浮かばない。

 ………あ!この学園のことを聞けばいいのか。

 俺はそう思い先輩に話しかけようとすると。

 

「君は確か迷子になったと言っていたと私は記憶しているが」

「あ………」

「やはりか……」

 

 気づいたら遅かった。

 やっちまったよ、早く撤退したい一心で行動していたせいで迷子設定忘れてた。 

 先輩は俺の反応を見て、呆れる…ではなくどこか何かを見定めるような、そんな表情をしていた。

 え?なんでそんな表情してんの?

 でも今はそんなことどうでも良い。早く謝罪せねば!

 これで推薦取り消しになったらシャレにならん。

 

「申し訳ありません試験が終わった後、どうしても学園を少し歩きたいと思ってしまいまして………あの、先輩?」

「……先輩?君はもしかして私のことを知らないのか?」

「はい」

 

 俺が謝罪するも、何も反応がなかった。

 少し間を開けて読んでみると「先輩」と言う言葉に疑問を持つ。

 もしかして俺勘違いでたのかな?

 

「推薦入学と聞いたから貴族の子息かと思ったが、君は平民なのか?」

「いいえ、貴族です。私はクロスフォード子爵家嫡男、アルトと申します」

「クロスフォード子爵家?確かその家の子息は病弱だと聞いていたが………」

「……すいません。事情がありまして」

 

 俺がそう言うと、赤髪のイケメンは少し考え話し始める。

 

「いや、他家の事情に口出しはしないよ。それにしてもそうか、なら知らなくて当然か」  

 

 そう言い、何処か納得したような雰囲気になる。そしてそのまま話を続ける。

 

「さっきから態度が少し変と思っていたが……なるほど、私を先輩と勘違いしていた訳だな」

「あの……」 

 

 赤髪の青年は自己解決してしまっているため、俺は彼が言っていることが理解できず、またなんと声をかければわからない。

 俺は何も言えない為、赤髪の青年が話すのを待つ。

 

「実を言うと私も推薦入学なんだ」

「あ、そうなんだ。これからよろしく!」

 

 何だ、同級生だったのか。

 大人びていていた為、少し勘違いをしてしまった。

 俺はこれから同級生になる友達候補の彼に話しかけようとしたが、次の言葉を聞いた瞬間、焦りが絶頂になった。

 

「失礼、名乗っていなかったな。私はレイブン=イゴール。イゴール伯爵家の嫡子だ」

 

 

 

 

 主人公じゃん……。




最後まで読んでいただきありがとうございました。


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16

「レイブン=イゴール」

 

 乙女ゲーム「純愛のクロス」の主人公。

 優秀な魔法騎士を輩出している名門、イゴール伯爵家の嫡男。赤髪、赤目が特徴で容姿端麗、頭脳明晰、才色兼備。

 全ての分野に置いて抜け目のない完璧超人。

 魔法の属性も光、闇以外の全属性持ちで魔力は無限。

 まさによくあるチート主人公設定。

 

 そしてその完璧超人が今俺の目の前にいる。

 どうしてこうなった?

 とりあえず謝らなくては!

 

「申し訳ありません。先程の数々の無礼お許しください!」

 

 俺はすぐに頭を下げて目上に対する敬語が合っているか分からないが、とにかく謝罪する。

 しかし、俺が謝ってもレイブン……の反応がない。

 もしかして俺打首?家取り壊し?

 

「………別に私は気にしていない。先ほどまでの態度も承知でそのままにしていた。それにこれから同級生となるんだ。そのような態度をする必要はない」

「……しかし」

 

 レイブンの言葉を聞き、俺は一度顔を上げ、様子を伺う。

 その時のレイブンの表情は気のせいかどこか悲しそうな顔をしていた。

 俺は数秒そのままでいるとレイブンは話し始める。

 

「王立フューチャー学園は立場関係なく、平等だ。そのため態度も先ほどと同じで良い。それにこれは私が望んでいることだ」

「………わかった」

 

 俺はレイブンの言葉を聞き、少し悩むがタメ口で答えた。

 てか学園は平等を掲げているが、それはあくまで体裁を保つため。

 これに従がえる生徒はほとんどいない。

 では、何故俺が目上の人相手にそのような態度を取ったかと言えば、わからない。

 俺にそう言った時のレイブンは少し落ち込んだ顔をしていて、どうも敬語を使うのを気が引けてしまったためだ。

 

「それで良い。改めてレイブンだ。これからお互い頑張ろう!」

「……ああ。よろしくレイブン様、俺はアルト」

「よろしく頼むアルト。それと様もいらない」

「わかった。レイブン」

 

 片言で変な話し方をしたためか、俺の対応にレイブンは少し驚くも、すぐに嬉しそうな表情をした。

 理由はわからない。

 正直言えば関わりたくない。

 でも、理由はわからないがどこか放っておけない彼に俺は少しだけ同情した。

 その後はお互い別れの挨拶をし、解散した。

 

 

 

 

 

 

 

 俺がレイブンと別れてから一時間ほど時間が経ち、クーインが校門に到着。

 俺とクーインはゼフの待つ宿屋に向かう。

 俺のそばに来た時のクーインの表情はどこか余裕があるように見えた。

 俺は多分試験は平気そうだなと思いつつも、念のため確認することにする。

 

「試験はどうだった?」

「バッチリだ!!おそらく過去最高点」

「それはよかった」

 

 俺はその言葉を聞いて心底安心した。

 クーインは本当に努力した。

 俺の助けも多少あったかもしれないけど、それはクーインの努力によるもの。

 そしてそんなクーインだが何か気になったのか話してきた。

 

「僕試験終わるの早い方だったんだけど、なんでアルトの方が早くいるんた?」

「あれ?言ってなかったっけ?」

 

 あれ?俺クーインに推薦入試のこと言ってなかったっけ?

 念のため話しておく。

 

「俺、推薦入試で受けたから合格確定なんだよ」

「言ってねーよ!」

「いてーよ!何すんだよ!」

 

 推薦のことを話すと、クーインは頭を俺の頭を叩きながら言ってきた。

 

「当然の報いだね!おかしいと思ったんだよ。だから僕があれだけ緊張していたのにアルトは平気そうにしていたのか。友人ならそんな大切なこと報告しろよ!君にはガッカリした」

 

 クーインは俺にそう言って、先に行ってしまった。

 

 あ、話すの忘れてた……

 

 俺はそう思った後すぐにクーインの後を追う。

 その後怒り続けるクーインに謝罪を続けた結果、高級レストランのフルコースで許してくれた。

 ……なんか、してやったり、みたいな顔してたけどそこまで怒ってなかったのかな?

 俺は少し疑問に思うが、すぐにクーインの怒りが収まったので良しとした。



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17

 王立フューチャー学園の入試が終了し一週間ほどが経った。

 今俺は部屋でソワソワしていた。

 今日は合格発表日なのだ。

 では何故合格が決まっている俺がこのような行動をしているかといえば、クーインの合否があるからだ。

 クーインは俺の唯一の友人、ボッチの俺からしたら合否の結果次第で今後の学園生活が変わることになる。

 俺が祈るような思いで部屋にいるとドアのノック音が聞こえた。

 

「はい」

「ゼフでございます。アルト様宛にお届けものがありました」

 

 俺が返事をすると、ゼフが入って来て、俺宛の手紙を渡してきた。

 宛名を確認するとそこには「王立フューチャー学園」と書かれていた。

 俺は見た瞬間手紙をゼフに渡し学校へ急いで向かう。

 

「アルト様!」

「中身確認しておいて!あと俺今から用事あるから外行ってくる!」

 

 俺の突然の行動に驚いたゼフに名前を呼ばれた。俺は自室の扉の前で止まると手紙の中の確認をゼフに任せて、用事があると断りを入れた後、クーインとの待ち合わせ場所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 俺が屋敷を出てから十数分走り出し続けたら学校が見え、入り口前で人影が見えた。

 しばらく近づくと、誰だか認識できた。

 

「クーイン!」

 

 俺がそう名前を叫ぶと反応する。

 すると俺が走って来ているのがわかったのだろう。

 クーインは俺にゆっくりとだが、近づいて来た。

 よく見ると手には何か紙切れを持っていることに気がつく。

 おそらく学園の合否通知なのだろう。

 俺が考えながらクーインに近づいて声をかける。

 

「どうだった?」

 

 俺がクーインに問いかける。

 するとクーインは持っていた手紙を取り出し、俺に見せつける。

 そしてー。

 

「受かった」

 

 その一言だけ話す。

 俺はその場で「よし!」とガッツポーズをした。

 

「僕以上に驚いてるじゃないか?」

「いや、嬉しんだからいいだろ別に」

「そうか……確かに安心したさ」

 

 俺の反応にクーインは苦笑いしながら話してくる。

 しかし、俺は否定せずにそのままの気持ちを話すと、少し照れながらもそう返す

 

「とにかく、これでお互い合格だな!」

「ああ」

 

 俺とクーインはそう言いながら右手を肩くらいまで上げる。

 そして、パシン!とお互いハイタッチをした。

 その後クーインは何か思いついたのか質問をしてくる。

 

「そう言えばアルトの合格通知持ってきてないのか?」

「あ………確認するの忘れてた」

「おい………」

 

 クーインにそう指摘され、結果を見るのをそっちのけでこの場に来てしまったことを思い出す。

 そんな俺にクーインは呆れていた。

 その後、合否通知を取りに戻り確認した結果、見事に合格。

 俺はこの手紙を持ってまた学校に向かいクーインに伝えた。

 

「おめでとう………本当にアルトは締まりが悪いな」

「………さーせん」

 

 このような少し面倒くさいやりとりがあったが、無事に二人揃って王立フューチャー学園に合格することができたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先程のやり取りの後、俺は冒険者ギルドに向かった。

 理由はノールトさんとマリエさんに報告するためだ。

 俺はいつも通り受付の仕事をしているマリアさんに話しかけた。

 

「あ!アルトさんお疲れ様です。今日はどうされたんですか?いつもより遅かったですが」

「ああ、実は用事がありまして……今日ノールトさんいますか?」

「はい、ギルドマスターはいますがどのようなご用件で?」

「はい……王立フューチャー学園の合否についてです」

「!?わかりました。今呼んできますのでお待ちください」

 

 俺の話を察したのかマリエさんはノールトさんの元へ向かった。 

 それから数分後マリエさんは戻ってきた。

 

「ギルド長からギルド長室に来るようにとのことです」

「わかりました」

 

 俺はマリエさんにノールトさんからの要件を伝えられ、ギルド長室に招かれた。

 マリエさんから促されギルド長室に移動、ノックを入室する。

 

「失礼します」

「おお!!アルト君じゃないかね?早く入るかね」

「わかりました」

 

 俺が入室するとノールトさんは自分の向かいにある椅子に座るように促す。

 俺は了承し、席へとついた。

 すると、ノールトさんは間髪入れずに話し始める。

 

「それで結果はどうかね?まぁ、合格しているのは分かっているが、どうしても自分の目で見なくては納得がいかないかね」

「……わかりました。これが合格通知です」

 

 俺は興奮気味で話しているノールトさんに学園の合格通知を見せる。

 すると突然机をドンと叩き、大声を出す。

 

「よくやったアルト君!君はクロスフォード支部の誇りだがね。これからも頑張るかね」

「は、はい。……頑張ります」

 

 俺はノールトさんの雰囲気に圧倒され少し萎縮してしまったがどうにか返事をする。

 それにしても何でこんなに必死なんだろう?

 俺は聞いてみることにする。

 

「あの……ノールトさん」

「なにかね?」

「この度の学園合格はノールトさんのお陰で合格できました。……それで一つ質問なのですが、何でそんなに良くしてくれるのですか?」

「ふむ……それはだね」

 

 俺はノールトさんの言葉を黙って待つ。

 この人のお陰で俺は簡単に合格できた。

 推薦をもらえたから訓練に集中できた。

 これには何か特別な意味があるのではないか?

 そう思えてくる。ただの善意ならそれだけで良い。

 でも、どうしても気になったため質問した。

 

「それはだね………」

「………」

 

 俺はノールトさんの言葉に息を呑む。 

 結構勿体ぶって話している。

 もしかしたら重要なことなのかもしれない。

 俺はそう期待して答えを待った。

 

「簡単だがね。それらは私の評価に直結する。担当している支部から優秀な冒険者を出せばそれだけ上がるかね。だからアルト君……私の出世のため、頑張って有名になるがね!」

「そ……そうですか」

 

 期待して損したわ!自分の出世のためかい。

 ならあんなに溜めるなよ、期待しちゃうだろ!

 俺は心の中でそう突っ込む。

 その後はノールトさんとは事務的な話をして、マリエさんにも合格の報告をして、ギルドを去り屋敷へ帰った。

 

 

 

 

 

 そして、屋敷に帰った後は凄いことになっていた。

 父上と母上は宴会テンション。今まで食べたことのない料理を用意していた。

 本当にいい両親に恵まれて俺は幸せだな。

 そう思った。

 



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18

オリジナルルーキー日間1位、オリジナル新作日間6位、総合ルーキー日間2位に入ってました。

ありがとうございます。


 王立フューチャー学園の合格発表から早一ヶ月が経った。

 この一ヶ月は変わらず冒険者の依頼、ゼフとの訓練を繰り返し行う。

 ただ、一つ変わったことといえばクーインが冒険者ギルドに登録をしたことだ。

 今まで入試の勉強、魔法の練習をしていたクーインだが、ゼフからの実戦の経験をしてはどうかというアドバイスをもらい、ギルドへと登録したのだ。

 ただ、何故今まで登録しなかったのかと言えば、母親から反対されていたことが原因だ。

 俺は学園に入学するならある程度の実戦はしておいたほうが良いと思った。

 そこで俺とゼフが実際にクーインの母親の元へ訪れて説得をした。

 俺が訪れたとき、クーインの母親はかなり驚いていた。

 クーインは俺のことを話していなかったのか疑問だったので確認してみると、クーインの母親は話半分で聞いていたらしい。

 ちなみにクーインは、自分の母親の驚いた反応を見るなり笑っていた。

 最初は驚いていたクーインの母親は、途中からぎこちなさは残りつつも、話し合いに参加する。

 結果、俺とゼフが付いていくことの条件付きであるがすんなり許可をくれ、そして頼まれごとをされた。

 

 「息子と仲良くしてあげてください」

 

 そう言われた。

 クーインの母親が教えてくれたのだが、クーインは捨て子らしい。 

 旦那さんは結婚してすぐに他界してしまい、その後すぐに捨て子のクーインを拾い、それから女手一つで育てたとのこと。 

 こんな辛い過去を話してもらって大丈夫だったのか?

 そう問いかけるも、「アルト様には知っておいてほしかったのです」と返された。俺は「クーインは親友です。任せてください」と返すと、クーインの母親は「お願いします」と笑顔で言ってくれた。

 この一件で俺はクーインについて知らなすぎだと実感した。

 今後、友人付き合いは長く続くだろう。

 だからゆっくり知っていこう。そう決めた。

 

 

 そんな一幕があり、無事に許可が降りた為、現在俺、クーイン、ゼフの三人は討伐依頼を受けている。

 依頼内容はオークの討伐。

 初心者には少し難しい依頼かもしれないが、俺とゼフの二人がいるから問題ない。

 俺はソロでオークを狩れるし、ゼフは俺を圧倒する実力を誇る。

 それに何かあった時の対応については話し合い入念な打ち合わせをした。

 作戦としては俺が至近距離で翻弄、ゼフが中距離で俺の援護とクーインの護衛、クーインが後衛でトドメのための魔法を放つ。

 クーインは純粋な魔法使いだ。属性は土。

 一番属性持ちが多いと言われ、評価されづらい面がある。

 しかしそれは扱う人間次第。

 クーインは平均を上回る魔力量を誇っている。

 普通平民でここまでの量の人はそういない。

 貴族の血が混ざっていればありえるのだが………。

 クーインは捨て子、もしかしたらどこかの貴族の血が混ざっているのかもしれない。

 まぁこの話は置いておこう。

 それに本人も気にしているかもしれないから、このことについては触れないほうがいいかもしれない。

 

 クーインは紛れもない天才だ。

 余裕のある魔力量、戦闘においての発想の転換、対応能力は普通の冒険者を逸脱している。

 本当に羨ましい。

 俺がこのくらいの才能があれば訓練で苦労することもなかったろうに。

 もうどうでもいいが……。

 しかしそんなクーインにも弱点が存在する。

 それは近接戦闘。

 クーインは俺と違い、体術等を習った経験がない。

 そのせいで接近されてしまったらおしまい。

 でもクーインはそれを自覚し、逆に弱みではなく、強みに変えるための訓練をし始めている。

 現在のクーインは純粋な魔法使いタイプだ。そして接近戦にも対応可能な万能な魔法使いを目指して訓練をしている。

 本当に努力家だなと常々思う。

 まぁ、だからこそ王立フューチャー学園を合格できたのだろうが。

 

 閑話休題。

 

 俺たちは今一体のオークを観察している。

 逸れオーク、運がよく見つけることできたのだ。

 クーインの初めての実践としてはいいシチュエーション。

 俺たち三人はターゲットを決め、お互い視線を合わせ全員準備ができたことを伝えた。

 俺たち三人の基本作戦は、俺とゼフがクーインが魔法を完成させるための時間を稼ぎ、クーインがトドメを指す。

 もしもダメなら俺とゼフが補助に入る。

 いろんなシミュレーションをし、何が起きても平気なようにした。

 準備万全。

 俺はまずオークの気をひくために『身体強化』を行い、斬り込む。

 もちろん相手の死角からだ。

 

「ブニョ!」

 

 奇襲は成功!

 驚きオークは悲鳴をあげる。

 オークは混乱して周囲を見渡す。

 俺はすぐにわざとオークの視界に入り注意を集める。

 今回、俺はやろうとすれば『部位強化』を使えば初撃で倒せた。

 しかしそれをやらないのはあくまでクーインの実戦訓練だからだ。

 

「ブギャ!」

 

 オークは俺に気付くとすぐに手に持っていた長さ1、5メートルほどの棒で右上から振り下ろしてくる。

 俺は八相の構えのまま右に大きく避ける。

 

ドン!

 

 オークの攻撃で棒で叩かれていた場所はクレーターができていた。

 ……その場にいたら即死してたなこりゃ。

 俺は眉間の先に『バレット』を二つ生成。

 オークがこっち向くのを確認後すぐに放つ。

 

「ギャ!」

 

 魔力の弾丸が着弾、オークは悲鳴をあげ目を押さえる。

 俺はオークの動きが一瞬止まったことを確認したら、距離を取り視線をクーインに向ける。

 魔法の構築具合を確認するためだ。

 ……後約十秒といったところかな? 

 魔法構築までの秒数確認を終えたら、オークと向き合う。

 オークはまだ目を回復しきっていないのか動きが鈍い。

 俺はそんなオークの方面に走り始める。

 役目はあくまで囮。

 オークとの距離が大体三メートルほど、オークが本能的に勘違いするギリギリまで近づいた後、突進するフリをやめて左へ大きく飛ぶ。

 

 ドン!

 

 オークは俺のフェイントに引っかかり、棍棒は空振りをし、またも地面にクレーターを作った。

 そして、俺は体の向きはオークに向けたまま、またも『バレット』を二つ生成しオークに撃ち込む。

 しかし今度は外れて数秒の再起不能は叶わなかった。

 

「ブギーー!」

 

 俺との戦闘でオークは怒っていた。 

 そして怒りに任せて俺に向かってきた。

 狙いは成功!

 俺は元々奴を怒らせることが目的。怒りは頭の回転を遅くし、視野を狭くする。注意を俺に向けさせることに成功した。

 だが、もう俺の役目は終わったようだ。

 

「アルト!」

 

 クーインが俺の名を大声で呼ぶ。それを聞いた俺は、射線を開けるため大きく左へと飛ぶ。

 

 

「ギャ!」

 

 次の瞬間、クーインが発動させた魔法で生み出した、長さ二メートルほど、太さ五〇センチほどの先が尖った物がオークを貫通する。 

 

 

 オークは叫びと共に魔素が消えて魔石のみが残る。

 クーインは魔法発動から発射まで大体十秒かかる。 

 これでも十分早く、威力がある。

 本当に才能というものはすごい。 

 まぁ、とにかく作戦は見事に成功、オークの魔石を回収した後クーインとゼフのところへ向かった。

 

「お疲れ様!流石だなクーイン」

「そちらこそお疲れ。いや、そんなことないよ。今回の戦闘は全部アルトのおかげだよ。僕はアルトが狙いやすいように誘導したオークに魔法を放っただけだし」

「そんなに謙遜しなくいいのに。初めての実戦で正確に魔法を当てるのはすごい。それに今の戦闘でそこまで分析できるなら大丈夫だよ。今後それを課題に訓練、工夫をしていけばいいから」

「そうなの?」

「そうなの。実際俺もそうだったし」

 

 本当にその通りだ。

 俺はひたすら訓練、工夫の繰り返しで今のレベルまで到達できた。

 だけどクーインは何か焦っているみたいだな。

 大丈夫だと思うが、念のため釘を刺しておくか。

 

「同じことを言うけど、クーインは今回が初めての実戦なんだ。そして自分に何が足りないのか、やらなきゃいけないのか、それを明確に分析している。あとはその分析を次にどう活かすか、どう改善するか、それが大切なんだ。そこまで焦らなくてもいいよ」

「そうか……」

「クーインさん、アルト様のおっしゃる通りです。焦らずにやっていきましょう。……それに本日はまだまだ時間はあります。何か考えがあるのでしたら次の戦闘で試してみればよろしいのでは?」

「……そうですね。分かりました」

 

 さすがはゼフだな。

 クーインは俺の話では納得はしていないが、ゼフの意見を聞いたらすんなり受け入れた。

 結果はどうあれこれで良かった。

 そしてこの後も三人で討伐依頼を続けた。

 結局ゼフは俺とクーインにアドバイスはしたが戦闘に参加することはなかった。

 ただ俺とクーインの戦闘中、周囲の警戒は続けるが俺の動きをずっと見られている気がした。 

 まぁ、何も言われなかったから気のせいなのかもしれないが……。

 今日の成果はオーク四体、ゴブリン六体。

 初めてにしては結構討伐できたと思う。

 無事に依頼を達成。依頼終了後はクーインの初依頼達成の祝賀会をしたいと思ったのだが、クーインが母親を心配させたくないとのことだった為今日は解散した。




最後まで読んでいただきありがとうございました。


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19

誤字脱字報告ありがとうございます。
とても勉強になりました。



「アルト様、準備はよろしいですか?」

「ああ」

 

 そうゼフは言いながら模擬剣を構える。

 俺はそんな本気な雰囲気のゼフに一瞬怖気付くもの、すぐに頭を切り替えゼフを倒すことだけを考える。

 中段よりやや下の位置に剣線を向け構えているゼフに対して、馬鹿の一つ覚え、そう言われてもしょうがないが、それしかない俺はいつも通り八相の構えをする。

 現在俺はゼフと決闘形式で試合をする。

 決闘形式と言っても審判はいない。

 日が頂点に達し、穏やかな風が草木を揺らしている穏やかな雰囲気な空間と違って、俺とゼフの二人の空間は緊張感に包まれる。

 では何故俺がゼフと本気の模擬戦をやることになっているのか、それは数十分時を遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 王立フューチャー学園入学式十日前に迫ったある日、俺は王都に向かうため早めだが準備をしていた。

 準備と言っても、特にするものはない。

 着替えや日常品の準備のみ。

 あとは冒険者業で稼いだお金やゲームの情報をまとめたノートなどそれらを見返していた。

 冒険者業で稼いだお金は合計金貨二百枚ほど。

 しかし俺は必要最低限の費用を除き一切使っていない。

 それは王都についた時、必要に応じてアイテムを購入するため。

 貴重なアイテムはとても高額だ。

 数ヶ月前にカインさんにもらった魔力ポーションもそうなのだが、生産が難しい物、入手困難なものは普通は高すぎて買えない。

 サリー=クイスを救うためには一番の壁はやはり魔神だ。

 それを倒さなければならない。もちろん俺一人で。

 理由は魔神の性格にあり、それが俺の唯一の勝機だからだ。

 ゲームからの情報からだが魔神は常に自分より弱い生物を見下す性格をしている。

 それは魔神の油断であり、僅かだが付け入る隙ができる。

 一応主人公のレイブン=イゴールと少しだが交流があるため協力を頼むことも出来るのだが、それは不確定要素。

 ここはゲームの世界であってもゲームの世界とは別物。

 一応ゲーム要素もあるのだが、逆にそれが不確定要素なのだ。

 たとえ俺が協力を仰いだとして、魔神を倒せたらそれでいい。 

 サリーも救うことも出来、何より世界が平和になる。

 しかし、もしも魔神を倒せなかったら?その戦闘でレイブンが死んでしまったら?

 それはこの世界において終わりを意味する。

 ならば、原作通りに進めなきゃいいのでは?と考えたがそれも却下。

 この世界では復活はできない。

 命は一つだけでそれが尽きたら人生が終わる。

 もしも俺が意図的にイベント回避をしたとしたら確実に別の人間が死亡する。

 それは他の人が悲しむことを繋がり、俺はどうしてもそれが許せない。

 必要なことだからと一つのことを達成するために他を犠牲にするという事はしたくない。 

 出来るだけ最小限の被害で解決をしたい。

 そのために出来るだけ原作に添いたいのだ。

 それに一度避けただけでは一次凌ぎにしかならない可能性が高い。

 理由はサリーの生家、クイス家の家系にある。

 クイス家はゲームユーザーからは「生贄の一族」だなんて呼ばれていた。

 ゲーム設定でクイス家は約千年前魔神が復活した際、クイス家の人間が犠牲になった。

 理由はわからないがおそらく魔神は千年前のことを覚えていたのだろう。 

 ゲームではサリーを喰らって完全復活した。

 クイス家の人間を一度喰らえば完全に復活ができる、そう魔神は理解した。

 こう言った理由からサリーは狙われる続ける可能性が高いと判断した。

 相手は格上、俺の勝機はごく僅か。

 それでも少しでも可能性を高めるため、俺はお金を溜め続けた。

 

「アルト様、ゼフでございます。入ってもよろしいでしょうか?」

「……わかった」

 

 俺が考え事をしていると、ゼフがノックして入室許可を求めたため、了解した。

 気のせいの可能性はあるが、ゼフの声の雰囲気が何故かいつもより低いような気がした。

 だが、それは気のせいではなかった。

 俺はゼフの様子が少し変だったため、話しかけてみる。

 

「どうしたゼフ?何か用でも?」

「はい。本日はアルト様にお願いがあり、参りました」

「お願い?」

 

 質問に対してゼフは真剣な表情で肯定、俺に対して何かお願いがあるらしい。

 今までゼフが俺に対して一度もしたことがないこと。

 何か気になることでもあったのだろうか?

 俺はゼフが話し始めるまで数秒待つ。

 

「……私と剣を交えて頂けないでしょうか?」

「え?」

「私は幼少期からアルト様のことを見てきました。理由は私の自己満足でございます。学園入学前に、アルト様がどこまで成長したか、それを一度見定めさせて頂けないでしょうか?」

 

 ゼフは真剣な表情でそう言ってきた。

 俺の成長を見定めたい。その理由はわからない。

 でも、ゼフがそう頼んできたということはよっぽどゼフにとって大切なことなのだろう。

 ゼフは俺にとって恩人であり、育ての親のような存在。

 だから、俺はゼフに恩返しをしたいと常々思っていた。 

 これが少しでも恩返しになるのならと思い、了承する。

 

「わかった」

「……ありがとうございます」

 

 俺が了承するとゼフは安心したのか少しだけ表情が緩む。

 その後、俺とゼフは訓練場に向かった。

 そこには既に模擬剣が用意されていて、俺は用意されていた模擬剣をゼフから手渡されお互い準備をする。

 そして訓練場に着いてから十分ほど時間が経ち、お互い準備完了。

 俺とゼフは距離を空けて構える。  

 

 

 そして冒頭に戻る。

 




最後まで読んでいただきありがとうございました。


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20

 俺はゼフとの立ち合いをするにあたってどうすればよいかを考えていた。

 まともにやり合ったところで勝機はない。

 ゼフは元とはいえA級冒険者、なにより教育係をし、剣の指導をしているため、技術は現役以上。

 別にこの模擬戦は勝たなくてもいい。

 でも俺としてはゲーム開始前、ここまで強くなれたのはゼフのおかげ、結果で恩を返したい。

 そのため、策を巡らせる。

 

「ゼフ、開始合図はどうする?」

「それはアルト様のタイミングで始めていただいて結構です」

「俺のタイミングか……」

 

 俺のタイミングということは完全に油断していない、警戒心マックスの状態でいるということ。

 でも、それだと俺が不利になる。

 ゼフが完全に受け身の状態でいられたら俺の付け入る隙がない。

 そのため別の案を提案することにした。

 俺はポケットから銅貨を取り出してゼフに見せながら言う。

 

「それだとフェアじゃない。……開始のタイミングはこの銅貨を投げて落ちたら始める……それでどうだろう?」

「わかりました」

 

 俺の提案にゼフは肯定した。

 少し安心した。

 さっきまでだと、俺がゼフにかかったら開始という流れだった。

 それだと隙もない。

 ただ、銅貨が落ちたタイミングだと、来るタイミングがわかってしまう。

 でもだからこそチャンスがある。

 俺は今までゼフとの訓練で一度も見せていない魔法がある……詳しくは真の効果を見せていないというが。

 『部位強化』四肢の一つに魔力を流し通常以上に身体能力を向上させる魔法。

 これは他にも効果がある。

 それは魔力を流す力によってさらに威力を上げられるということ。

 ただ、その分魔力を込めた四肢に多大な負荷をかけてしまう。

 二倍の魔力を込める……これが俺の限界。

 筋肉に負荷をかけてしまうため、数日はまともに歩けないくらいの筋肉痛になる。

 それ以上魔力を込めると筋肉、骨が壊れる可能性があるため怖くて使えない。

 一度試して骨に少しヒビが入ってしまった経験がある。

 そのため二倍までに制限をしている。

 まぁ、使わないで勝つのが一番いいのだが、実際の打ち合いで普通の『部位強化』を試したが、初めは通用したが、今では普通に対処されてしまう。

 俺はゼフにまともにやっても勝てない。

 そのため今回は一撃で終わらせる。 

 

「じゃ、始めるよゼフ」

「わかりました」

 

 俺はゼフに始める旨を伝えてコインを空中に投げる。

 そして俺が八相の構え、ゼフが普通の中段の構えの高さより少し剣先を下げて構える。

 空中に投げたコインが地面に近づくに連れて緊張感が増す。

 俺はコインと地面の距離がーメートル担った瞬間魔力を目に流し『見切り』発動。

 俺の視界がスロー再生となる。

 そして俺は八相の構えで後ろに下げている右足に通常の魔力の二倍込めて『部位強化』を発動しいつでも仕掛けられるように待機。

 ふと、ゆっくりに見える視界でゼフを捉える。表情は警戒をしていて後手に回るために体勢は少し後ろになっている。

 受け流す気なのだろう。

 でも残念ながらそれはできない。

 これはゼフの想像以上だからだ。

 

ポス

 

「「!?」」

 

 銅貨が芝生に落ちた瞬間俺は一気にゼフの剣の根元を狙って斬り込む。

 二人して反応したがやはり俺の方が早かった。

 『見切り』を使えば俺はゼフの動体視力を上回れる、『部位強化』を使えば一瞬だけスピードで圧倒できる。

 

キン!

 

「な!」

 

 勝負は一瞬で決した。

 金属音がなった瞬間終了を遂げる。

 結果は俺の勝利、ゼフの模擬剣は根本から折れていた。

 ゼフは俺のスピードに反応できなかっため、何が起きたのか全くわかっていなかった。

 ただ、自分が負けたことだけしか分かっていなかった。

 そして、

 

「お見事です」

 

 ゼフは俺に対して満足した、安心したのかような表情でそう言った。

 勝利の過程は少し卑怯だったかもしれない。

 でも勝利することができ、ゼフに認められた。

 そのことだけで嬉しさで満たされた。

 

「ありがとう」

 

 そして俺はゼフへと感謝の気持ちを伝える。

 だが、それで安心しきってしまって気が抜けてしまったのだろう。

 右足から急に筋肉が軋むような痛みを感じその場で足を抑えながら左膝を着く。

 

「い!」

「アルト様!」

 

 俺の反応にゼフが驚き名前を呼びながら近くに寄ってくる。

 

「大丈夫だから……」

「しかし!」

「これは俺が使用した魔法の副作用によるものだから。ちょっと肉体に負荷がかかる魔法で……」

「アルト様……はぁー」

 

 俺を気遣ってくれたゼフに対して安心させるために訳を説明した。

 そうしたらゼフは大きなため息をつき、呆れた表情をする。

 その後は真面目な顔で話始める。

 

「アルト様、どんな理由で今回そのような魔法を使ったのかは存じ上げませんし、お聞きしません。アルト様のことですから私なんかでは理解できない理由があるのでしょうから」

「………」

 

 いや……ただ勝ちたかっただけであってゼフが思っているような内容ではないんだけど……。

 俺はそう突っ込もうとするも、ゼフが真剣な表情をし、すぐに続きを話し始めてしまったせいで機会を失う。

 

「それでも、もう少し自分自身に関心を向けて大切にしてください。アルト様はクロスフォード子爵家を繁栄させようと努力していることはわかっております。私は勿論旦那様、奥様も心より応援しております。ですので力不足かもしれませんが、いつでも頼ってください」

「………わかった」

 

 なるほど。

 何か勘違いされていると思ったが、そういうことか。

 でも、方向性は間違ってはいないし雰囲気的に否定するのも悪いので俺はゼフの言葉にそう返事をした。

 その後はゼフに抱えられ手当をした後自室に運ばれた。

 父上と母上は俺を心配して仕事そっちのけで看病してくれた。

 

「父上……心配してくれるのは嬉しいのですが、仕事大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ。心配しないで休みなさい。」

 

 まぁ、父上はこう言ってるし大丈夫なのだろうとその場では納得した。

 

 

 

 

 

 ただ、次の日父上とゼフは仕事に追われていた。

 

 

 だから言ったのに。

 




読んでいただきありがとうございました。


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21

申し訳ありません。

執筆中の小説の誤操作で同じ話の21話を間違い投稿してしまい、急ぎ消去させていただきました。

22話は明日の7時ごろに投稿します。


 ゼフとの模擬戦した日から数日間は大変だった。

 主に筋肉痛が痛すぎて行動不能。

 訓練も冒険者業も休み。

 貴重な時間を失ってしまったため、少し焦りはしたものの、よく考えれば俺はあまり休みを取ったことがなかった。 

 流石のゼフからも訓練禁止が言い渡されたため、王都に出発の期間までゆっくりすることにした。

 だが、休日の間は始めは少しソワソワしていたものの、思った以上に充実した時間を過ごせた。

 ゼフが俺に気を使って本(魔物について)を持ってきてくれたり冒険者としてやっていた時の経験の話を聞かせてくれた。

 これが思った以上に勉強になった。  

 過去の事例から次はこうするべきだった、次はこう備えればいいなどなど。

 そう言った経験則からくる話は今後の俺にとっても役に立つ。

 俺は動けない数日はゼフの話を聞き、また本を読んで安静生活をした。

 それがよかったのか王都へ向かう前日には足は完治した。

 俺、ゼフそしてもう一人の入学者のクーインの三人で王都へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 王都についてから俺とクーインは入寮のための準備をした。

 王立フューチャー学園は全寮制。

 そのため、身分関係なく寮に入ることになる。

 もちろん一人でだ。

 貴族も使用人を伴うことはできない。

 理由は平等を目指すという他に、最低限自力の生活を出来るようにすることが目的。

 

 理由としては「将来上に立つ人間は平等な視野で見れるようにならなければいけない」

 「平民がするような苦労をできないでどうして上に立てよう……」らしい。

 

 学校の方針でそう言うルールを設けられて、本当にこういったところは徹底されているなと改めて思う。

 それでも貴族の子息や息女は始めは苦労する。

 そのため、学園の方針の抜け穴をつくような形にはなるが、使用人を国の宿に住まわせ待機させている。

 上位貴族は簡単に金を出せるが、下位貴族はそれはできない。

 教育の一環で自力で生活出来るようにする。

 連れてきた使用人が仕えてきた経験から仕事を見繕って生活し、主人を支える。

 理由はそれぞれ。

 ちなみに俺はどちらでもない。

 もともと前世もあり平民の感覚もあるし、冒険者の仕事で野宿したのも少なくない。

 だから一人でも平気だったのだが、ゼフがそれをよしとしなかったため、王都までついてきた。

 でも俺は出来るだけ自立した生活をするためゼフを頼りにすることはない。

 理由は今俺の隣にいるクーインに絶対文句を言われるからだ。

 

「どうしたアルト?僕に何か用?」

 

 おっと、睨みすぎていたらしい。

 気づかれてしまった。

 怪しまれているのも何なのでとりあえず話をする

 

「別に……ただクラスどうなるのかなと思って」

「なるほどね。アルトはコミュ障だから僕と同じクラスがいいってことか」

「………否定はしないよ」

「……そうか」

 

 俺が素直に肯定すると、思っていた反応と違ったのか、クーインは少し戸惑った反応を見せ返答した。

 少しクーインの反応を見て少し面白いとおもいつつも本音だから仕方ないと思う。

 

「確かに同じクラスの方が良いな。流石の僕も貴族方々相手だとうまく話せない」

「……俺も一応貴族だけど」

「アルトは別枠だよ!」

「おい……まぁ良いけどそれで」

「良いのかよ……」

 

 クーインはそう言った後は何故か納得しない表情となり、黙ってしまった。

 クーインの発言に一度イラつくが、それでも俺にとって彼の存在はありがたい。

 家族以外で関係持ってるのはクーイン、ノールトさん、マリエさんそしてカインさんの四人。

 ……俺って同世代の交流なさすぎだろ。

 クーインを除いて他は年上。

 その中で身分を知っても変わらず接してくれるのは三人……カインさんは知らないけど。

 まぁその辺は大丈夫だろう。

 なんたってカインさんは学園の教師な訳で、俺の身分は知っているはずだし、態度を変えることはないだろう……多分。

 そういえば入試の時に不可抗力とはいえ、主人公……レイブンと交流を持ってしまったが、今後関わるのだろうか?

 でも、ないか。

 人生勝ち組陽キャの主人公様が俺みたいな隠キャに関わるわけないか。

 もう眼中にはないだろう。

 

「あれ?もしかして、レイブンとサリー?」

 

 と、俺が考え事をしていると後ろから透き通るような綺麗な声がする。

 あ、そうか入学式当日ということは主要キャラたちによる再会イベントか……。

 俺はギャルゲームの重要イベントを思い出しながら声のする方向へ向いた。

 向いた方向にはレイブン、サリーそしてピンク髪を肩で綺麗に切り揃えられているセミロングの女の子、メインヒロインのモーイン=ブリアントの三人が入学式会場のホールど真ん中で向かい合っていた。

 

 ついに始まるのか。

 

 

 

 ギャルゲームが。




最後まで読んでいただきありがとうございました。


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22

タイトルを少し変更しました。
この物語り乙女ゲームではなくギャルゲームが舞台でした。
本当に申し訳ありません。
また、誤字報告ありがとうございます。


 恋愛シミュレーションゲームのヒロイン、主人公の設定は大抵ありふれている。

 それは「純愛のクロス」も例外ではない。

 ありふれた容姿、設定も同じ。

 

「モーイン=ブリアント」

 

 「純愛のクロス」のメインヒロイン。

 名門ブリアント伯爵家の息女、光魔法の属性で魔力量はチート。

 よくある設定通り、光魔法で容姿端麗、だが唯一違うのが名門貴族出身というくらい。

 レイブンやサリーとは幼馴染の関係にあって十二歳まで交流があったが、それ以降はあっておらず約三年ぶりの再開となる。

 では何故名門貴族同士なのにあってすらいないか、それはご都合主義なのだろう。

 偶々参加した交流会で会えなかったりとゲーム設定であった。

 そしてここ、偶々?王立フューチャー学園で三年ぶりの再会を果たしたのだ。

 俺はゲームの設定やイベントの流れを考えながら三人に耳を傾ける。

 ゲームのイベントを生で見れるんだ。

 そりゃみるに決まってる。

 

「モーイン、サリー久しぶりだな、三年ぶりか」

「ええ、久しぶりね」

「本当久しぶり!みんな変わったね。レイブンは一層かっこよくなったし、サリーも綺麗になったね!……私も少しは綺麗になったかな?」

「そうだな。うん、どちらかといえば可愛くなったと言った方が良いかな。サリーもそう思うだろう?」

「……そうね。モーインはすごく可愛くなったわね」

「そうかな……えへへ」

 

 会話を聞いている限り、モーインはクラスにおいてはムードメーカーの明るい存在。誰とでも気さくに接することができるアイドル的存在。

 サリーはモーインとは正反対で学級員長のような性格。

 その結果モーインのテンションに少し戸惑った様子をしている。

 そんな二人に板挟みになっているレイブン。

 モーインはレイブンに褒められ頬を染めており、それを見てサリーは二人の様子を見て小さくため息をしている。

 本当に対極の二人だ。

 二人ともレイブンに好意を持っている。 

 違いは気持ちを外に出しているか内に秘めているか否か

 そんな対極の二人だが、仲は良好。

 お互いがお互いに持っていない要素がありそれを補い合えるそんな関係。

 だが、その性格が原因で今後のイベントで亀裂を生んでしまうのだが……。

 そんな三人だが、もうすごく目立っている。

 ホールの中央、そして人目を引く容姿。

 それらが合間って注目を浴びてしまっている。

 レイブンに限っては俺を含め、会場の男子は皆殺気を向けている。

 そりゃそうだ。あんな絶世の美女から板挟みにされている状況だ。しょうがない。

 ただ、それも長くは続かない。 

 後は三人が教員に注意されてイベントは終了。

 後ほど式が終わった後、会う約束して別れる。

 早く終わんねーかなー。見ててすげぇ殺気が湧く。

 クソ、リア充爆発しろよ。

 だが、この後の展開は俺が知らないものとなってしまった。

 俺自身も忘れていた、もうすでに原作に介入しレイブンと関わりを持ってしまったことを。

 

「アルトではないか?」

「………え?」

 

 俺は何故か名前を呼ばれた。

 周囲を見渡すが、知り合いはいない。

 カインさんはいないし、あとはクーインくらいかな?

 

「なんだよクーイン」

「僕じゃないよ」

「え?じゃー誰が」

「アルト私だ、レイブンだ!」

「なに?レイブンの知り合い?」

 

 クーインに確認するも違うと言われた。

 そして再度声のする方へ顔を向けると、そこには赤髪のイケメンのレイブンが美少女二人を伴い俺の近くへと来ていた。

 なんで話しかけられたの?

 聞いている限りではまだ三人は注意されてないよね?

 レイブンは俺の考えとは全く違う行動をし、話をかけてくる。

 

「入試ぶりだな」

「ああ……レイブンも久しぶり」

 

 なんでここにいるの!

 なんで話しかけるの、しかも親しげに。

 

「レイブンの知り合い?」

「……」

 

 レイブンの行動に少し控えていた美少女二人がそれぞれ違う反応、行動を見せる。

 モーインは気になり直接聞いてきてサリーは黙って様子を伺っている。

 どう反応すればわからない……とりあえず自己紹介が無難かな?

 

「クロスフォード子爵家のアルトと言います」

「彼は私の友人でね、親しくさせてもらっているんだ」

「あ!そうなんだ」

「レイブンの友人……」

 

 俺の自己紹介にレイブンが追加の紹介する。

 それでモーインとサリーがそれぞれ反応を見せる。

 レイブン……俺はいつ君と友人になったのだろう?

 話した機会も一度だけ、それで友達認定ってどんな基準なんだろう?

 だめだ。陽キャの考えていることがわからない。

 俺はレイブンの考えが分からずどう反応すれば良いかわからないままだったが、この会話はすぐに打ち切りとなった。

 

「おい、お前たち静かにしないか!」

「「「「すいません」」」」

 

 学園の教員に注意を受けてしまった。

 もう、こいつのせいで俺巻き込まれちゃったじゃん!

 巻き込まれモブじゃん。

 てか本来ならもう少し早く注意されたはずでは?

 なんでこんなにも遅いのだろう?

 俺は気になり声をした方向を見たら……カインさんがいた。

 

「入学式でテンションが高くなるのは分かるが、時と場所を考えろよ」

 

 カインさんはそう言ってその場を去った。

 ただ、去る際に俺に向けて笑顔を向けてきていた。

 もしかして気を使ってくれたのかな?

 ありがた迷惑な。

 

「ではアルト、またの機会に」

「またね!……あ、私はモーイン=ブリアントって言うの、こっちがサリー=クイス。よろしくね」

「よろしくお願いします」

 

 モーインが去り際に挨拶し、サリーもそれに続く。

 だめだ……陽キャのテンションについていけない。

 まぁ、一応自己紹介をくれたため、お返ししよう。

 

「よ……よろしくお願いします」

「同級生なんだから敬語は不要よ!……っとここにいたらまた注意されちゃうわね。またね!」

 

 モーインは俺の返答に対してそう言いながらその場から、サリーは去り際に笑顔で一礼をしていった。

  てか、クーインあいつどこ行きやがった?俺は気になり周囲を見渡すがいない。

 ……見捨てやがったあの野郎!

 俺はクーインに後で文句を言ってやろう。

 そう決めた。

 ちなみに俺はこの一連の流れに対して思ったことは二つ。

 一つは、絶世の美少女相手にめっちゃドキドキした!!

 そしてもう一つはーー。

 

「あいつ何者だよ、あの方達とあんなにも親しく」

「どんな御関係なのでしょう?」

「……少なくともレイブン様と同じ実力者?」

「クロスフォード家の子息といえば病弱だったはずだが……」

「死ねばいいのに」

 

 と俺は悪目立ちをしてしまった。

 てか最後のなんだよ物騒すぎるだろ!

 

 俺……ただのモブだよ……。

 即死モブだけど死ぬ運命の分岐点まだまだ先だよ。

 背中刺されそうで怖いよ。

 イベント前に死にたくねーよ!

 

 

 

 どうしてくれんだよ主人公!




最後まで読んでいただきありがとうございました。


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23

 入学式が終わり、俺は裏切り者のクーインと共にクラス発表の場に移動していた。

 ついてから思ったのだが、クラス発表の雰囲気は現代日本に似ている。

 高さ二メートルほどの掲示板に赤色の大きな布が被せられている。おそらく時間になったら布を一気に引いてクラスを発表するのだろう。

 掲示板の周りには新入生達が集まっていて、ガヤガヤと騒がしい。

 生徒たちが同じクラスになれるかまた、一部の視線はゲームの主役に集まっている。

 大方同じクラスになれないかなと淡い期待をしているのだろう。

 もちろん俺の視線もその中の一つに入っている。

 原作ブレイクしているが、俺はどうしてもサリーと同じクラスになりたい(個人的希望)

 とりあえず原作の強制力でも一生の運を使ってでもいいからなりたいため、祈るようにしてクラス発表まで待機していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王立フューチャー学園のクラスは四十人ークラスで三つあり、それぞれABCと分かれている。

 組み分けの仕方は特には分からない。

 あくまで俺自身の私見だが、能力は平均的になるように振り分けられているわけじゃない。

 ご都合主義とでもいうのだろうか?

 ゲームではレイブン、モーインがAクラス。

 サリーはBクラスとなっていた。

 何故サリーだけ別クラスなのかはおそらくシナリオの都合上邪魔だったからだろう。

 入学してからの授業でのイベントが頻繁にある。

 授業で隣の席に座ったり、教科書を忘れてしまい一緒の本を見たりと楽しそうな日常が繰り広げられていた。

 本当にこれだけサリーの扱いに違いがあるとは。

 当て馬ヒロインとメインヒロイン、この差は埋められそうにない。

 かわいそうに。

 

「「「「&_&#&#@&#g@」」」」

 

 ふと急に周囲のざわめきが一気に増した。

 その場にいる人間が一斉に違うことを発したため、何を言っているのか分からなかったが、雰囲気で分かった。

 俺は巨大な布が取り外されていた掲示板に視線を向けた。

 

「あ」

 

 俺は一瞬歓喜のためか、声を上げる。

 ゲーム通りだがクラスはそれぞれレイブンとモーインがAクラス、サリーがBクラスの変わりはない。ただ、俺とクーインのクラスもBだと分かった。

 

「同じクラスだな」

 

 隣にいるクーインも自分のクラスを発見できたのか声をかけてくる。

 俺はその言葉に対してーー。

 

「ああ。よろしく!」

 

 と一言返した。

 そして何かを察したのかクーインはにやけながら俺に話しかけてくる。

 

「その歓喜の表情の理由は何かな?僕と同じクラスになれたこと?それとも………」

 

 意味ありげな表情で言いながらクーインはサリーの方へと向ける。

 

「さーな?ま、九割の理由がそう……だ……」

 

 クーインの言ったことに軽口を返そうとしたが、サリーの表情を見て俺は黙ってしまい、クーインも俺の反応を察してからかその後は一切何も言わなかった。

 サリーはレイブンとモーインが二人揃って仲良く会話している姿を見て悲しそうな表情をしていた。

 それはゲームでも一度も見せたことのない表情。

 しかし、その表情は一瞬で笑顔を作り二人の会話に入っていった。

 あぁ、本当にサリーは友人想いな優しい子だ。

 レイブンとモーインを大切に思っているからこそ自分がレイブンに向ける好意を押し殺し、二人の成就のために身をひく。

 本当に恵まれなさすぎる。 

 その性格故に、死のイベント前でモーインと喧嘩をし、そのまま仲直りできず死別してしまう。

 さらにはレイブンに好意を伝えることが出来ず、最後まで気持ちが一切伝わることがない。

 本当にどこまで彼女は不遇なのだろう。

 でも、だからこそ俺は彼女の美徳に惚れ込んでしまったのだ。

 俺はだからこそ彼女の幸せを第一に思ってしまう。

 今後俺自身に彼女の好意を向けられることは絶対にないだろう。

 別にレイブンと結ばれなくたって構わない。

 それでも、出来るだけ抗い、最低限の幸せを味わってもらいたい。

 それが俺が彼女に出来る唯一のこと。

 俺はまた再度強い決心をする。

 

 俺は絶対にサリー=クイスを救済してみせると。




最後まで読んでいただきありがとうございました。


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24

俺とクーインはクラス発表が分かった後はその場にいた生徒はみんなそれぞれの教室に向かった。

 

 そして現在Bクラス。

 

 俺はある気持ちで満たされていた。

 それは「無」。

 切ない、悲しい、寂しい、そんな気持ちが湧いてくる。

 右を見ると貴族の集団、左を見るも貴族の集団、端をみるといくつかの平民の少数グループがちらほら……。

 そう、俺は現在孤高。

 では何故このような状態に陥ってしまっているのか。

 理由はいくつかある。

 一つ目主人公レイブンのせいである。

 入学式前に俺に絡んできやがったせいで俺に絡んでくるやつすら居なくなった。

 いや、絡んでくる気持ちを失ったということか。

 やはり俺は貴族の立ち位置としては微妙らしい。 

 まぁ、これは覚悟していた事だけど、交流を絶ってしまったからよく思わないのも分かる。

 多分本来ならば子爵家より高位、伯爵以上の家から絡まれてもおかしくないのだが、今日の入学式の一件でレイブンの絡みがあったせいで俺を敵に回す=レイブンを敵に回すみたいなへんな構図ができた。

 これは面倒事が減るのでありがたいと思う反面、誰からも話しかけられていない今の俺からしたら少し寂しいと思う。

 次に二つ目。

 平民の子に話しかけようも、みんな強張って逃げてしまう。

 やはりクーインが特殊なだけで、それが普通の反応ということも分かってた。

 でも、心の中で少しだけ期待してしまった俺がいた………。

 そして最後、これが一番の要因。

 俺のコミュ障。

 何を話せば良いのだろう?

 世間に疎い俺は何を話題に話せばいいのか、また話している話題に全くついていけない。

 それらが原因で俺はボッチになってしまった。

 では、我が友クーインが協力してくれれば良いのでは?とも思ったが、この希望はクラスに入ってすぐに打ち砕かれる。

 あの野郎は俺を裏切り平民グループに行きやがった。

 それのせいで俺は今ボッチになってしまった。

 

「はぁー」

 

 俺は小さくため息をしながら机に腕を組んで寝た。

 ボッチの必殺寝たふりでござる!

 これを使えば少しでも気持ちが和らぐ。

 俺は目を閉じて担任の先生が来るまで待機することにした。

 

「あの………」

 

「すいません……」

「ん?」

 

  と、全てを諦めた俺にふと綺麗な声で話しかけてくる声がした。

 ついにクラスメイトの初会話!!と思い深呼吸をした後に顔を上げた。

 

「え!」

「………どうかされましたか?」

「いや……なんでもないです!」

「え……そ、そうですか」

 

 驚いた。

 理由は俺の目の前に女神……ではなく、入学式で会ったばかりサリーがいた。

 俺はついつい声を上げてしまった。

 それを見たサリーは少し呆れているのか、困っているのか、そんな表情をしている。

 なんでこの場にいるの?

 ふと俺は周りに声が一切ないことに気がつく。 

 それはまさに静寂……音もせず、そしてクラスメイト全員の視線が突き刺さる。

 中には嫉妬も混じっているが……。

 とりあえず俺はこのままではまずいと思いサリーに話しかける。

 

「なにか?」

 

 これほどまでに自分のコミュ障を恨んだことはない。 

 せっかくの憧れのサリーとの会話、しかも一対一。

 もう少し気を遣ったり、楽しい事を話したいと思ったのに……。

 

「いえ、少々レイブンについてお聞きしたいなと思いまして」

「レイブンについて……ですか?」

「はい」

 

 サリーは俺に気を遣ってか、用件を言ってくれた。

 でも何でだろう?

 理由が分からん。 

 

「何故ですか?」

「と言いますと?」

「いえ……何でレイブンについて聞きたいとかと思いまして……」

「それはですね……」

 

 俺の質問に対してサリーは笑顔になりながら前置きをいう。

 やべー綺麗すぎる。

 尊い……。

 

「アルトさんが随分とレイブンと親しそうにしていたからです」

「………」

 

 やっぱり乙女だねサリーは。

 好きなやつのことは何でも知りたいってか?

 はぁ、でも覚悟はしていたよ。

 俺に可能性がないことくらい。

 でも、サリーはボッチの俺に気を遣ってから話しかけてくれたのだろう。

 話題はどうあれ憧れの存在と話すことができた。

 俺はその敬意を表すために正直にレイブンの事を伝えた。

 

「そんなに親しくないですよ。俺とレイブンは一度入学式で話したくらい。ただ、それだけです」

「そうなのですか?」

 

 俺の回答にサリーは右手の拳を顎に乗せて、ほんの少し首を右に傾ける。

 そして少しだけ広角を上げてそう言ってきた。

 

 やばいやばいやばいやばい。

 可愛すぎる。

 何でこんなに可愛いのサリー。

 この動作無意識でやってるのか、それとも狙ってやってるのか?

 俺はこのままではやばいと判断。

 すぐにこの状況を終わらせたいと思ってしまい、話を切ろうとする。

 

「本当です!」

「そうですか……ふふ、アルトさんって面白い人ですね」

「………」

 

 たった一言返しただけなのに更なる追い討ちをかけてきた。

 俺はもう限界に達して話すことさえ出来なくなる。

 ただ、唯一の救いはもう先生の来る時間が迫っていたことだ。

 俺はそれを伝えるために言葉を話す。

 

「時間………」

「へ?」

 

 言葉を話せた自分を褒めてやりたい。

 俺の言葉にサリーは振り向き壁の時計を確認。

 

「あ、そうですね。そろそろ先生も来ますね。ではまた、次の機会にお話ししましょうね、アルトさん」

「………ひゃい!」

 

 またもサリーの笑顔でやられてしまう。

 まともに返事さえできなくなってしまった。

 そんな反応を見てサリーは「ふふ」と微笑みながらその場を去ろうとしてーー。

 

「あ!」

 

 何かを思い出したのか、そう声を発しながら止まるサリー。

 何かあったのだろうか。

 サリーはまたも俺のところへ来て話し始める。

 

「すいません。あなたに伝えたい事を忘れていました」

「へ?」

 

 伝えたい事?まさか……告白!!

 俺は一気に心臓がバクバクになり、少し期待しながら次のサリーの言葉を待つ。

 

「レイブンと……これからも仲良くしてあげてください」

「喜んで!……はい?」

 

 レイブンと仲良く?なにそれ?

 

「……そうですか、ありがとうございます!今日見たレイブンは私が今まで見たことがないくらい楽しそうでした。今まで彼が自分から友人と言った人はいませんでしたし、何よりあんなにも嬉しそうにしたのは久々でした。ですのでお願いします」

「……はい」

「では、失礼しますね!」

 

 最後にそう言ってサリーは自分の席に帰って行った。

 告白じゃないんかい!

 俺は無気力にただただ、返事をした。

 ちょっと期待しちゃったなーそう思いつつも話せたことに達成感を感じるのだった。

 

「すまない待たせたな」

 

 サリーが自分の先に帰った後、そう言って担任であろう先生が入り。教卓前に立つ。

 

「初めまして、カインだ」

 

 担任カインさんかい!!




最後まで読んでいただきありがとうございました。


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25

 クラスでのオリエンテーション受け、色々と分かったことがある。

 学園で学べる内容は以下の通り七つ。

 

 魔法学 薬学 経済学 王国史学 錬金学 

社交学 冒険者学 

 

 魔法学は名前の通り魔法を教わること。

 専任の属性魔法使いが自分の属性魔法の指導。

 薬学は文字通り薬の調合。

 経済学は経済の仕組み、景気や消費行動など。

 王国史学は王国の歴史。

 錬金学は複数のものから一つのものを調合、生み出すこと。

 社交学は礼儀作法を。

 冒険者学は実際に現地に赴き魔物討伐の実戦、そしてそれを実行するための戦闘について学ぶ。

 

 七科目中から選択で三つ選択し、それを重点的に学ぶ。もちろん進級時に変更可能。

 学ぶ段階が一年ごとに基礎、応用、研究の三段階に分けられていて、基礎を学びたい人は三年間かけて全学科習得可能。

 ただ、人によって選択の授業はバラバラの為、学年が違う人も一緒の授業を受ける。

 どうも、できる限り交流の場を設けることも目的にあるらしい。

 研究まで学ぶ人は将来その分野を専任として進む方向が決まっている人のみでほとんどの人は研究までは学ばずに大体基礎と応用を学ぶ。

 一日の授業は午前中に終了し午後は自由。

 ほとんどの生徒は自習をしているが……。

 

 俺が選択したのは社交学、冒険者学、錬金学の三つ。

 社交学の理由はゼフから基礎は習ってはいたものの、やはり不安な為学び直そうと考えた為。

 次に冒険者学だが、これは絶対に取らなければいけない。

 だってそうしないと原作に関われないし。

 そして最後の錬金学だが、これは別に興味があるわけではない。

 理由は復活アイテムの存在を探るため。

 この分野を学べばもしかしたら入手を出来るかもしれない。

 まぁ、無駄に終わる可能性はあるが……。

 それでも少しでも可能性があるのではと思い選択しようと決めた。

 そして、俺は学ぶ方向性が決まったため、教室を出て自分の寮部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園の寮は一人部屋で、広さとしては十畳の大きさ。

 生活に必要な設備は全て部屋で完備されている。

 食事に関しても食堂が設けられていて全て無料。

 本当に充実しすぎだろ。

 まぁ、でも生徒数を考えれば可能なのだろう。

 一学年九十人で合計三学年計二百七十人。

 それを考えれば可能なのだろうな……。

 俺は一人納得した。

 その後はクーインと飯を食べて自室で就寝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、初授業当日は俺はワクワクしていた。

 理由は授業を受けられるということ。

 何を当たり前のことをも思うかもしれないが、それには理由がある。

 ゲームの中では基本授業の描写はない。

 そのため、実際の授業で原作キャラたちがどんな授業をするのか気になっていた。

 

 今俺は錬金学と社交学が終了し、冒険者学を学ぶ場にいる。

 この場にはレイブン、モーイン、サリーの三人と主要キャラが勢揃いし、仲良く会話をしていた。

 俺は話しかけられるのが面倒な為、モブに紛れひたすら風景に同化する。

 ちなみにクーインは授業の初日なのに急な体調不良とかで冒険者学を欠席している。

 暗い表情をしていたが大丈夫だろうか?

 後でお見舞いいこう。

 

「集まったな」

 

 俺が考え事をしているとカインさんが来て話始めた。

 冒険者学の基礎はカインさんなのか。

 今後のことを考えると色々便宜を図ってくれそうだな。

 

「私は冒険者学の基礎を教えるカインだ。よろしく頼む。本来は魔法学を教えているんだが、今回は私用で担当することになった。これから授業の流れを説明する。一度しか言わないから心して聞くように」

 

 そう自己紹介、前置きをしながら話始める。

 カインさんが俺を見た?

 私用ってまさか俺のことなのかな?

 まぁ、いいや別に。

 それにしても授業の流れというのはどんな感じなのだろう?

 

「先に言っておく。お前たちには一ヶ月後に実戦の為近くのノウブル森林に行ってもらい実戦をしてもらう」

 

 カインさんがそう言うと、周囲はざわめいた。

 堂々としているのは俺を含めた推薦入学者の四人を含め数人。

 生徒の殆どが実践経験がない者ばかり

 その人たちはどうするのだろうか?

 

「あぁ、安心していい。森林に行くまでの一ヶ月間は実戦で戦うための訓練を徹底して行うからな」

 

 カインさんがそう言うと、少し静かになり、あたりを見渡すと安心、安堵そんな表情をする人がいた。

 でも、不安はぬぐい切れていないけど。

 訓練か……俺は対人戦闘をやりたい。

 俺は初見相手の戦闘経験は殆どなく、いままでゼフとの訓練のみ。

 初見で相手の癖、得意分野、間合いなど瞬時に見抜く能力を養いたい。

 

「では早速だが、訓練を開始する。始めは戦うための技術を学んでいく。まぁ、それを聞いたところでピンとこない人もいるだろう。訓練で学ぶ内容は武器の扱い、戦闘スタイルの固定とかだ。人によっては純粋な魔法や近接タイプが得意なやつもいるから、そういったところの訓練をするからな」

 

 カインさんはそう言い、授業の趣旨を説明し、話を続ける。

 

「そうだな……ここには実戦の経験をしている者がいたな。どうだろう?この中で代表者二人よる模擬戦を披露してもらおうか。皆もこれから学ぶためと目指す基準があった方がいいだろう。誰かやっている人はいないか?」

 

 そうカインさんはそう言いながら俺を見てきた。

 え、何……俺にやれってか?

 やらねぇよそんなこと。

 晒し者みたいで嫌だし。

 俺はそう考えてカインさんから視線を離す。

 

「私がやります」

「お、イゴール君がやってくれるか」

 

 ふと、俺がカインさんから視線を外したタイミングでレイブンが手を挙げ、名乗りを上げた。

 うわ、なおさらやりたくねぇよ。

 

「もう一人、誰かいないか?」

 

 カインさん……お願いだから俺を見ながら言うのやめてくれない?

 死にたくないの俺。

 俺は全力で拒否表すため、首を横に振る。

 それが結果を成したのか、カインさんは諦めた。

 

「そうか……無理強いはしない。イゴール君、すまないが私と戦ってもらうがいいか?」

「………カイン先生、私が相手を指名しても良いですか?」

 

 諦めたカインさんが自分と戦うと言った後、レイブンがそう提案する。

 誰指名するだろう?

 

「それでもいいが、本人の意思は尊重してくれ」

「分かりました、大丈夫です。今から指名する人は私と同じ推薦入学者で、実力も保証します」

「そうか」

 

 推薦入学者ということは、モーインかサリーのどちらかかな?

 幼少期に交流があったというし。

 

「アルト、お願いするよ」

「…………え?」

 

 なんて言った今?

 俺指名された?

 いや、大丈夫だ。カインさんは本人の意思を尊重すると言っていた。

 つまり、俺には拒否権がある!

 とりあえず断ろ。

 そう判断し話そうとするがーー。

 

「ちなみにアルト君は私が直接見て推薦した生徒だ。実力は折り紙付きだ」

「そうなのですか?それはよかった」

 

 話す前にカインさんの追記の説明がくる。

 え?なんか心なしか俺の周囲がざわめいて、全員が俺に期待と興味の眼差しをむけてくるんだけど……。

 そしてこれらの原因作った二人に視線を向けると笑顔でこちらを向いていて「こっちに来い」と言っているようだった。

 

「嘘!レイブンと互角にやりあえる人がいるなんて……」

「アルトさんってすごい人だったんですね」

 

 そして、カインさんの説明でモーイン、サリーがそれぞれコメントをする。

 ……もう断れないじゃんこの雰囲気。

 これで秒殺されたらやばいじゃん。

 とくにサリーからの折角の期待を裏切ることになる。

 裏切った結果、俺への評価はマイナスになる。

 それは絶対にしたくない。

 やられた。もう後には引けなかなってしまった。

 

「わかりました」

 

 覚悟を決めた俺はそう言ってのレイブンとカインさんがいる場へと移動した。

 

 

 

 

 俺モブだよ。

 

 なんでこんなに目立ってんの?

 




最後まで読んでいただきありがとうございました。


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26

 俺がレイブンに指名をされたせいで晒し者になることが決定したため、要因である二人の元へ向かった。

 俺の移動の最中は全員から注目を浴びた。

 ……みんなそんなに期待の眼差しを向けるのやめてくれないかな。

 もしかしたらこれから同級生が死ぬのかもしれないのに。

 俺がそう思いながら二人の近くに来た時なんか会話をしていた。

 何の話してんだろう?

 え?なんでレイブン笑顔なの?カインさんなんでニヤけてるの?

 

「すまないなアルト。よろしく頼む」

「そう言うなら指名しないでくれよ」

 

 レイブンがそう言ってくるのに対して、俺は文句を言う。

 しかし、その嫌味すら効かないのかレイブンは気にせずに話し続ける。

 

「準備は平気か?なら時間もだいぶ過ぎてしまっているし、早速始めようか」

「………」

 

 レイブンはなんか始めておもちゃを買ってもらったようにウキウキとした表情をしながら言ってくる。

 一瞬戸惑って黙ってしまった俺だが、身の危険を感じたため、レイブンに話しかける。

 

「……手加減してくれよ。あくまでこれは模擬戦だ。怪我したくない」

「それについては大丈夫だろう?」

 

 え、今だろうって言った?聞き間違えかな?

 

「アルト君、イゴール君準備はできたかな?」

「私は大丈夫です」

「……平気です」

 

 俺の疑問が払拭されないまま、カインさんがレイブンとの会話に割って入ってきた為、俺とレイブンは返事を返した。

 

「開始と終了の合図は私がする。聞こえたらすぐに終了するように。魔法は無属性魔法のみ。いいな?」

「はい」

「……はい」

「では両者構えて」

 

 カインさんの説明を終え、開始準備のため構えるよう言う。

 俺とレイブンはそれぞれ向かい合い構える。

 レイブンは左足を前、右足を後ろにし剣を上段へと構える。

 防御を捨て、全て攻撃一点集中の構えは炎の構えと呼ばれる、まさに主人公がするのに持ってこいの構え。

 対して俺はいつも通りの八相の構えで対峙する。

 ……やべぇ、負ける気しかしねーよ。

 チート野郎にまともにやって勝てるわけないじゃん。

 ま、適当にやって負けよう。どうせ勝てっこないんだ。手加減するだろうし、死ぬことはないかな。

 だが、その考えは当たらなかった。

 俺が始めのレイブンとの会話で感じていた疑問は次のレイブンの一言で払拭された。

 

「ふぅ……本気で行く」

「え?」

「始め!」

 

 レイブンの一言を聞いて俺は死を錯覚してしまった。

 瞬間無意識的に俺は目に魔力を集め『見切り』、左足に魔力を込めて『部位強化』をそれぞれ発動させる。

 俺はこの時に無意識に発動させた自分に心から褒めてあげたい。

 発動させなきゃ死んでいた。

 

「ハ!!」

 

 そう声を発しながらレイブンは俺目掛けて本気…ほんきで!上段から振り下ろしてきた。

 身体強化も普通に使っていた。

 俺は『見切り』でレイブンの接近を確認しながら『部位強化』で強化された左足で、左後ろへ五メートルほど移動する。

 

ドカン!!

 

 もしもスタートラインにずっといたままだったら俺は間違いなく死んでいた。

 『見切り』を使っていなかったら視認すら出来なかったかもしれない。

 レイブンの本気の一撃は俺の元いた場所を中心に深さ80センチほど、広さは直径二メートルほどのクレーターを作った。

 こいつ、殺す気か!!

 俺は遠慮なしのレイブンに対して殺意を向ける。

 そう思った瞬間にまた目に魔力を集めて『見切り』を発動、そして右足に魔力を集めて『部位強化』を発動。

 右足がついた瞬間。

 レイブンに本気で斬りかかる。

 

「この!!」

 キン!

「ック!」

 

 俺とレイブンの模擬剣から火花を散らしながらぶつかり合う。

 予想はしていた。

 俺の攻撃に対してレイブンは膝をつきながらではあるが、難なく受け切る。

 まぁ、クレーターが5センチくらい深くなったけど……。

 すると、まずいと思ってか、慌ててカインさんがやめをかけてくる。

 

「そこまでだ、両者そこまで!」

 

 俺とレイブンはカインさんの終了合図が出た瞬間力を抜く。

 そして、お互いに体勢を整え、剣を収めた瞬間怒りが蓄積されていた俺はレイブンに文句をいう。

 

「おい!てめぇ、俺を殺す気か!」

「……てめぇ?」

 

 なんか驚いた顔をしてレイブンはそう反応する。 

 おい……なんだよその表情。人が一人死ぬところだったんだぞ!!

 俺は苛立ちを増した。

 俺だって言う時はいうぞ!!

 立場なんて関係ない!

 

「なんだよその反応は!謝ったらどうだよクソイケメン野郎!」

「ぶ………ははははは!」

 

 俺の罵声に対してレイブンは何故か爆笑した。

 え?こいつもしかして罵倒されて喜んでるのか?

 俺はドン引きした。

 

「すまない。少し驚いてしまってな。頼むからそのドン引きした反応はやめてくれ、私に罵倒されて喜ぶ趣味はないのでな」

「……じゃぁ、なんだよさっきの反応は?」

「それはだな……」

 

 俺の反応を見たレイブンはすぐに否定する。

 すぐに聞き返すもレイブンは何か考え込むようにしてワンテンポ時間を上け、話し続ける。

 

「驚いたんだよ」

「は?」

「本気の一撃を躱したのもそうだが、何よりこの私に膝をつかせ、そして最後の私に対する態度。あのようなことをできたものは今まで一人もいなかったんだ」

 

 何言ってやがる?自意識過剰かよ。何様目線だよ。

 俺がそう思うも、嬉しそうな表情をしながらレイブンは話を続ける。

 

「本当にこの学園に来てよかった。アルト……これからもお互い高め合おう!」

 

 レイブンはそう言いながら握手を求めてくる。

 俺二人の光景は青春の一ページのように見えているのだろう。

 周囲を確認するとカインさんを確認すると何故かうんうんと頷きながら俺らのやりとりを見ていた。

 てかカインさん、慌てて模擬戦止めたの忘れてません?

 はぁ、と俺はため息をつきながらレイブンに向く。

 返事は決まっている。

 主人公からのライバル宣言。

 まさに青春。

 俺は笑顔でその申し出を断ろうとする。

 たって、チート野郎とやり合ったところで死にに行くようなものだ。

 俺はそう決めてレイブン断ろうとするがーー。

 

『レイブンと……これからも仲良くしてあげてください』

 

 と頭の中で急にサリーの言葉が反復した。

 昨日の一瞬見せた悲しい表情。

 もしかしたら断ったら彼女を裏切ることになるかもしれない。

 

「よろしく頼む」

 

 俺は気付いたらそう言ってレイブンと握手をしていた。

 その後はレイブンからもう一度やろうとお願いされたが、俺の戦闘スタイルのことを話し、月に一回だけにしてくれとお願い。

 レイブンに納得させてからこの一件を終了させた。

 

 

 

 

 俺はサリーに弱いのだ。

 




最後まで読んでくださりありがとうございます。


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27

レイブン=イゴールは歴代で最も優れていると言われている。

 彼は才能に恵まれ生を受けた。

 四属性持ち、龍脈のような魔力量、そして天賦の才能

 数多くの優秀な魔法剣士を輩出している名門家、イゴール伯爵家でもここまで優秀な素体持っている人はいない。

 

 レイブンは生まれ持っての天才でもあるが、本人の努力が合間って異常なまでの成長を続けた。

 将来は約束され、これまで一度も壁にぶつかることがなかったのだ。

 

 だが、そんなレイブンにも悩みがある。

 それは強すぎるならではの、そして成長速度が早すぎてしまうことが原因。

 高め合える人がいないことである。

 十三歳の頃には始め指南をしてくれていた師匠も、先輩魔法剣士、そして父親までもが今となっては勝てない、それどころか実力の差が開き続けてしまっている。

 そのせいで、十四歳になる頃には誰も相手に取れなくなってしまい、一人で稽古をするようになっていた。

 一人で稽古をするようになってからも成長してしまう。 

 レイブンは自分は何故かこのような才能を持って生まれてしまったのだろう。

 そんな贅沢だが、レイブンは悩み続けた。

 

 そんなレイブンに人生を左右する出来事が三つあった。

 一度目は幼馴染のモーインとサリーとの出会い。

 家が名門同士ということで、よく交流をあった。

 その二人も歴代最高と言われていた。

 レイブン自身はそれを聞いて期待した。

 もしかしたら、自分の全力を受け止めてくれる、そんな存在になりあるかもしれないと。

 しかしその期待は外れてしまった。

 確かに彼女たち二人は天才だった。

 だが、ただそれだけ。

 彼女たち二人とレイブンの壁は開きすぎていた。

 それ以降、名前が上がるような人物はいなかった。

 レイブンは諦めた。

 

 そして二度目、諦めかけていたレイブンにとっても予想外の出来事だった。

 これは王立フューチャー学園の入試の日のこと。

 レイブンはすでに推薦が決まっていたため、すぐに試験が終わった。

 筆記が終了したため、学園を少しだけ見て回っていた。

 ふと、レイブンの視界に黒髪の青年が通った。

 黒髪の青年は何か嬉しそうに、興味深そうに辺りを見渡し、行動していた。 

 

「君はここで何をしている?」

「え?」

 

 気付いたらレイブンは黒髪の青年に話しかけていた。

 理由はわからないが、おそらく興味本位から。

 そして黒髪の青年は話しかけられたことにより少し動揺している様子を見せたが、話していくと、どうも道迷ってしまったらしい。

 レイブンは多少、違和感を感じたが、話の流れで黒髪の青年と校門へ行くことになったため、行動を共にした。

 

 

 

 

 

 その後レイブンは黒髪の青年とともに校門へ向かったのだが、迷子であると言ったはずなのに迷うことなく校門へと向かっていた。

 レイブンはそのことを指摘したら、黒髪の青年は迷ったのではなくただ見物をしていたと素直に認め謝罪をした。

 レイブンはその態度が面白く、何故か嬉しく思ってしまった。

 その後はお互い自己紹介し合い、レイブンは感じていた違和感、黒髪の青年の情報がわかった。

 どうも黒髪の青年……アルトは自分を先輩だと思っていたそうだ。

 レイブンはこれほど変わっている者は人生で会ったことがなく、アルトという人間に強い好奇心を抱いた。

 その後レイブンは期待を込めて普通の同級生として接して欲しいと頼んで見た。

 始めアルトは断り拒否をしたが、レイブンが「あぁ、やっぱりか……」と思い悲しい顔をしたら慌てて態度を改めた。

(本当にアルトは面白い)

 レイブンは人生でここまで変わった体験をするのが初めてでとても充実した一日になった。

 

 

 

 

 最後に三つ目、レイブンが学園の初めての冒険者学の授業でのこと。

 

「そうだな……ここには実戦の経験をしている者がいたな。どうだろう?この中で代表者二人よる模擬戦を披露してもらおうか。皆もこれから学ぶための基準や目指す基準があった方がいいだろう。誰かやっている人はいないか?」

 

 担当教員のカインの提案で代表者二名による模擬戦が行われる流れとなった。

 レイブンはカインの提案を聞いてまず最初に思い浮かんだのが自分と同じで推薦した入学者アルトの存在だった。

 ふと、レイブンはカインの提案を聞いた後、アルトを確認してみたが、一切手をあげる雰囲気はなかった。

 

「私がやります」

「ほう、イゴール君がやってくれるか」

 

 その光景を見たレイブンはアルトには悪いと思いつつも、謎が多い友人と剣を交えてみたいという興味から、カインに模擬戦をやる旨を自分から伝え、相手役にアルトを指名しようとする。

 だが、普通に指名してはおそらく断ろうとするだろう。

 

「分かりました、大丈夫です。今から指名する人は私と同じ推薦入学者で、実力も保証します」

 

 そのためまずは前置きで推薦入学ということをバラして逃げ場をなくし、アルトを指名した。

 

「アルト、お願いするよ」

「え?」

 

 前置きにバラしたのが正解だったのだろう。 

 この場にいた全員の視線がアルトに集まり、諦めたのかゆっくりと近づいてきた。

(上手くいったな)

 そうレイブンは思いながらアルトに視線を向けていた。

 

「イゴール君」

「何でしょうか?」

 

 レイブンがアルトの様子を観察しておると近くにいたカインから急に名前を呼ばれた。

 カインはそんなレイブンに対して笑いながら思ってもみなかった事を言われる。

 

「アルト君に対して本気でかかるといい。彼は私のお気に入りでね。推薦も私がしたんだ」

「しかし……」

 

 カインの提案に戸惑うレイブン。

 それもそうだ。レイブンが本気を出したらアルトが死んでしまう。

 そう思ったのだが、

 

「イゴール君がしている心配は大丈夫だ。おそらくこの学園で唯一君と対等に戦えるのはおそらくアルト君だけだよ。……まぁ、数秒だけって話だけどね」

「数秒のみ?あの、おっしゃってる意味が分からないのですが」

 

 レイブンはカインの発言に疑問を感じる。

 しかし、その質問に対してカインは

 

「実際に戦った方が分かると思う」

 

 ただ、そう言われた。

 レイブンは理解が出来なかったため、カインに質問をしようとしたが、間が悪いのか、アルトが来てしまい、話は終了した。

 そのままお互い模擬戦の準備を始め、レイブンの疑問は一切晴れないまま、お互いに構えて始めることになる。 

 レイブンはものは試しよう、そう思い本気で行ってみることにする。

 カインはこの学園の教師。

 そのような人物が嘘をつくとは思えなかったためだ。

 

「ふぅ」

 

 そう大きく呼吸をしながら集中力を高めるレイブン。

 

「本気でいく」

「え!」

 

 アルトはレイブンの発言におかしな反応を示すが、気にせず本気で振り下ろした。

 

ドン!

「!?」

 

 そう音を立てながら地面にクレーターができ、レイブンは驚いた。

 斬り込んだはずの場所にアルトがいなくなっていた。

 もちろん、アルトから目を離していなかったため、避けたことは分かっていたが、躱し切れるとは思っていなかった。

 レイブンは即座に考えを切り替え、アルトに向く。

 しかしまたもや驚くことが起きる。

 それはアルトのレイブンへの攻撃。

 アルトは自分と同じ速さ、下手したら自分以上の速さで斬り込んできたのだ。

 

キン!

「ク!」

 

 レイブンはアルトの攻撃を膝をつきながら受け止めた。そう人生で初めて対戦で膝をついたのだ。

 そして、そのことに嬉しくなってしまったレイブンはすかさずやり返そうとするがーー。

 

「そこまでだ!!」

 

 カインが慌てて止めの合図をし、模擬戦は終了した。

 レイブンは歓喜に震えていた。

 生まれて初めて退屈だと思っていた人生が楽しく感じる出来事が起こり、この気持ちを体験させてくれたアルトの存在に感謝するのだった。

 

 

 

 その後は少し軽口を言われそのことについても心からの爆笑。

 そして、お互い握手をした。

(これが高め合える存在ということなのだろうか?)

 レイブンはそう思いながらまた本気で戦う約束をしようとした。がーー。

 

「実は俺は魔力が少ない。身体強化の応用魔法、派生魔法で自身を強化してただけなんだ。お願いだから月一でお願いしたい。さっきの攻防だけで、俺の魔力は残り六割弱になったから」

 

 この発言にレイブンは驚いた。

 アルトは自分とは対極の存在。

 才能に恵まれず、それを努力と工夫のみで自分と数秒だけでも対等に戦えるように成長したのだ。

 レイブンはアルトの提案を受け入れて今後月に一度だけする約束をした。

 

 

 今後、レイブンとアルトがどのような付き合いが続くかは分からない。

 ただ、レイブンはこの付き合いが長く続いてほしいと思うのであった。




最後まで読んでいただきありがとうございます。


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28

レイブンとの戦闘の一件で俺の生活は大きく変わった。

 まぁ、変わったというよりかは周りが寄り添ってきたと言うべきだが……。

 

「君の噂はきいたよ!よかったら今度うちに来ないか?歓迎しようーー」

 

「あの、婚約者はいるのかい?もしよかったら僕の妹をー」

 

「君の実力を見込んで良かったら将来我が家のお抱えのーー」

 

「君は将来有望だ!ぜひーー」

 

 

 現在俺は貴族子息から絡まれている。

 まぁ、初めの頃と比べればまだマシなのだろう。

 でも流石に鬱陶しすぎる。

 俺の周りに貴族が集まりすぎている原因で平民は寄り付かない。

 俺は平民グループにいるクーインに視線を向けるも……話しかけるな?みたいな視線を返してくる。

 

 

 

 そこで俺はクーインに見舞いに行った時のことを思い出す。

 俺は心配で見舞いのために寮の部屋を訪れた。

 しかし、クーインは気を遣って少しお高いお菓子買って行った時には何もなかったかのようにけろってしていた。

 俺はその光景を見て人の心配を返せよマジでと思った。

 念のため心配になって話を聞いたらただ面倒くさいだけだったとか……。

 本当に俺の心配返せよ。

 心配して損したじゃん。

 

 俺がそう言う思いを込めて睨みつけているとクーインから「僕がいない授業はどうだった?」と授業で何があったのかと、無理やり会話の流れを変えようとしてきた。

 

 俺はため息をつきながら今日のレイブンとの一件を話したら「え、そんな面しろ……大変なことがあったのか。僕も無理をしてでも参加すれば良かったよ」とか抜かしやがった。

 

 それでこっちは命がけでやったんだぞと文句を言うと「つまり学園最強と言われているイゴール家の人と互角にやり合ったのか!あぁ、なんで僕はついてな……その場にいなかったんだ」とか本音が漏れているものの、その場にいなかったことへ後悔していた。

 

 俺は「薄情者!」と言って退室しようとしたら、「大変だったね。ちょうど美味しいお菓子があるし、休んでいくと良いよ」

 と言ってお菓子を手渡してきた。

 こいつは親切で言っているのだろうか?

 てかそれ俺のお菓子……。

 突っ込むのも面倒臭いため、その後は少し会話をし、持ってきたお菓子を全て食べてやった。

 そのときクーインは残念そうな顔をしていたが、ざまぁみろ!と思った。

 口には出さなかったが。

 その後会話は続き、悩みは何かあるかと言う話題になった時、クーインはお金に困っていると相談された為、後日一緒にギルドの依頼を受ける約束をして、解散した。

 

 

 

 そんな一幕があったが、クーインは元気にやっている……平民の友達と共に。

 基本的に俺とクーインはクラスでは絡んでおらず、放課後か夕食のみ一緒にしている。

 そのせいで俺はボッチとなり、変なやつらに絡まれてしまっている。

 

 まぁ、クーインにはクーインの交友関係がある。

 俺は文句を言わずに我慢しているが……。

 

 

 それにしてもあきないのだろうか?

 こんな考え事、回想に浸っている最中にも気にせずに話しかけてくる貴族子息連中。

 流石にどうにかしなきゃいけない。

 でも、どうしようもない。

 だって、話をかけようにも何話せば良いかわからないし。

 だが、そんな俺にも手を差し伸べてくる神様……否、女神がいた。

 

「皆さん……あまり多勢から話しかけられてアルトさんが困っていますよ」

 

 俺が困っているのを察したのか、サリーが貴族子息連中を諌めてくれた。

 あぁ、あなたは女神か……。

 

「アルトさん大丈夫ですか?」

「はい!」

 

 俺の活力は女神サリーを前に完全復活!!

 サリーの言葉に元気よく返事で返す。

 

「そうですか……ならよかったです。……それにしても、アルトさんってすごいんですね。あの時のレイブンは本気でした。そのレイブンと互角にやり合った。……危険と判断してカインさんがやめを掛けなければ勝負はどうなっていたかわかりませんね」

 

 そうサリーは俺を褒めてくれた。

 でも、このまま俺強者ですよアピールしたいけど、なるべく勘違いはさせたくない。

 サリーを騙したくないという理由で。

 そのため、俺はサリーの誤解を解くことにする。

 

「いえ、多分やめが掛からなくても、数秒で勝敗は決しましたよ」

「そうなのですか?」

 

 かわいい。

 

「……はい。レイブンにも話をしましたが、俺が本気の彼と戦えるのは本当に数秒だけですよ」

 

 俺がそう話すと、ふと、ある考えが浮かぶ。

 俺の手の内、バラした方がいいんじゃね?

 そうすれば無駄な勧誘なくなるし、サリーからの評価は下がるかもしれないけど、今後のことを考えるとそっちの方が楽かも……。

 人間は楽な方に逃げたくなる。

 その事に納得しながらも、話を続ける。

 

「実は俺魔力量平均の半分しかないんですよ。それにレイブンと互角に攻防ができたのは俺のオリジナルの無属性魔法を使って自身を強化しただけなんですよ」

 

 俺の言葉にざわついていた周囲は静まり返る。

 目的は達成したかな?

 俺の株は下がり、面倒ごとから解放されたな。

 サリーからの折角の評価が落ちてしまうのはショックだけど、まぁ、良いかな。

 しかし、話は思っていた方向とは全く違うベクトルへと進んでしまう。

 

「つまり、アルトさんは自身の才能を跳ね除けて、努力のみであれほどの実力を身につけたと?」

「うん?」

 

 あれ、思っていたより高評価?

 

「それに加えて自身で無属性のオリジナル魔法を作ったと……。アルトさんは本当に凄い方なのですね」

 

 サリーは驚き、感心しながら俺のことをまたも称賛した。

 それに加えてサリーの発言で周囲のざわめきが先程よりも増していった。

 

 これは後々判明した事なのだが、俺が作ったオリジナルの魔法の数々は思っていた以上に重宝されるようなものだったらしい。

 どのような人でも無属性魔法は誰でも使える。

 つまり、努力次第で、特に身体強化を主につかう騎士の人たちからしたら『部位強化』の類のものは奥の手となりうる存在なのだ。

 俺は自分の行った功績を見誤っていた。

 そのせいでこの件がきっかけで俺は学園中から注目の的となった。

 この時の俺はまだ知らないが、今回の話が貴族の子息から流れて国から俺の編み出したオリジナル魔法を王国騎士たちに教えてほしいとの申し出が来た。多額の依頼料と共に。

 俺はそれを見た時、驚くあまり気絶しそうになったのは先の話。

 

 

 その後、俺はサリーの発言に「そんなことないですよ」と答えたものの、俺への勧誘は一層増してしまう。

 だが、サリーが俺に気を使い、「無理な勧誘はするべきではありませんよ」と笑顔で発言してくれた為、勧誘は続かなかった。

 サリーの笑顔はとても綺麗だが、怖かった。その笑顔をみた貴族子息の人たちは震え上がっていた。

 俺自身、その笑顔を直接向けられたかったな……と変な事を思い始めてしまった。

 ……この話は置いておこう。

 ただ、わかることは少なくともしばらくは平穏な学生生活を続けられそうだとわかった……もちろんぼっちでだが。



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29

 「純愛のクロス」には復活アイテム、「マーベルストーン」が存在していた。

 ゲームでは死んでしまったキャラに対して一定時間内に使う事で復活をさせられるアイテム。

 転生当時、調べたが結果は出ず、断念したその存在。

 王都を調べればその存在があるかもしれない、一縷の望みにかけて色々と調べ、可能性がある分野を学んだ。

 

 しかし、この調べても特に何もなく、収穫はなかった。

 錬金学の授業もただ、基礎をやるだけ。

 本を読むも、復活アイテムの入手、錬成の情報も全く分からず進展なし。

 一応、ゼフに情報収集も含めて探してもらっているが結果は同じであった。

 ただ、わかった事があるとすれば、

 

「マーベルストーンは神が作りし石」

 

 と書かれた絵本があったが全くその本の信憑性はなかった。

 

 最悪の手段で用意したいという淡い期待をしたのだが……。

 でも、もう復活アイテムはないものとして考えた方がいいのかもしれない。

 俺の運命のイベントまであと少し。

 そんなことをやっているくらいなら訓練や実践経験をした方がいいだろう。

 それに魔神の討伐方法も考えた方がいい。

 俺と魔神の実力差は開き過ぎていて、可能性があるにしても本当に僅か。

 

 やっぱりレイブンの協力を仰いだ方が良いのだろうか?

 始めは俺一人で対処しようとした。

 しかし、模擬戦でレイブンの強さを目の当たりにしてやっぱりこいつに全て任せた方が良いのではないかと思い始めていた。

 レイブンは強すぎる。

 俺が一対一でやったが、全力の彼とできるのは精々数秒だけ。

 少しやり合っただけでも魔力の四割を使ってしまった。

 ここまで差がありすぎると流石の俺も無理だと思ってしまう。

 ……てか何で数秒しか本気のレイブンと出来ないって言ったのにやる気なんだよあいつは。

 そう、本当に数秒だけだ。

 それなのにレイブンは俺と月一でいいから本気でやるという約束をした。

 しかも相当嬉しそうに。

 拒否したいところだったが、あんなにも笑顔で言われてしまったら、断るにも断れない。

 まぁ、とにかくレイブンに力を借りるにせよ、カインさんの説得が必要。最悪、ゲーム知識を話すことも考えた方がいいかもしれはない。

 

 

 とりあえずこのことは今考えることではない為、依頼に集中しよう。

 俺は現在、クーインと依頼を受けている。

 内容は王都周辺の魔物討伐と調査。

 種類は問わず、とりあえず数を減らすことが目的。

 どうも、例年に比べると魔物数が多く被害がでているとか……。

 俺とクーインは王都から10キロほど離れた地点を彷徨っている。

 

「アルト、北東方面に反応が一つ。距離は四十メートルくらい……少し反応が強い」

「……分かった。周囲を警戒しつつ、ゆっくり向かおう」

 

 『探知』の魔法を使っているクーインから知らせを受けた為、俺は対象がいる方向へと進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とクーインが現場に着くとーー。

 

「「………」」

 

 その光景を見た俺のとクーインは思わず息を呑む。

 そこには巨大な片刃斧を片手に持ち、人間の三倍ほどの大きさのオーガがいた。

 

 オーガは俺とカインさんが倒したBランク相当の魔物だ。

 ……どうするか?

 倒そうとすれば倒せる。

 一対一でも無理をすれば倒せるのだが、イベント前のため怪我するリスクは避けない。

 本来ならば退散するべきだが、今回はクーインがいるため、倒せるだろう。

 本当に運がいい。

 正直俺は金を必要としている。

 何を買うかは決めていないが、高価なアイテムを手に入れるためにお金は必須。

 俺は単体で歩くオーガを見ながら作戦を考え始める。

 すると、考えている俺を心配になったのか、隣のクーインが話しかけてきた。

 

「アルト……どうする?」

「討伐しよう。今、安全に倒すための策を考えた」

「……早いな」

「あいつ倒せば金貨五十枚は行くけどどうする?」

「………」

 

 クーインは俺の話に少し悩む。

 学園にかかる費用は基本無料。

 しかし、生活必需品などの購入は実費だ。

 そのため、平民のクーインには今回の俺の提案は魅力的。

 クーインは少し考え、答えを出した。

 

「安全なんだよね?」

「あぁ、大丈夫だ。クーインと俺がいれば平気だ。それと一つ付け加えると、俺はオーガを相手に一対一でも勝てる」

「……分かった、信じるよ」

 

 クーインはそう言い、オーガ討伐を決意。

 その後、短い打ち合わせをして作戦決行準備を始める。

 

 ただ、作戦を伝えた時に少し「マジかこいつ」みたいな顔をされたのは見なかったことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とクーインは作戦準備を即座に整え、それぞれ配置についた。

 俺はオーガの見張りをしながら、クーインは罠の設置終了まで待機している。

 待機をし始めて一分ほどが経ち、土埃が上がった。

 それが罠完成の合図。

 作戦についてだが、今回は実質クーインは一人だけ。

 まずはクーインの土魔法で深さ一メートル、直径四メートルほどの穴を作る。

 念のため穴の中には尖った円錐型の棒状のものを複数設置。

 クーインはその穴から二十メートルほど離れた位置に待機し、俺が穴のところまで誘導し、落とし穴で転倒させ『部位強化』での攻撃で倒れたやつ相手に首を切り落とす。

 その際に、クーインには奴が転んだ瞬間魔法で地面を操作して、拘束してもらう手筈となっている。

 

「ふぅー」

 

 俺は頭の中でもう一度作戦を整理した後、大きく深呼吸をする。

 そして、剣を抜き、体に魔力を流し『身体強化』を発動する。

 近くにあった手頃の石を拾い、そしてオーガに向かって本気で投擲する。

 

「ギャ!」

 

 俺の投げた石はオーガの頭に直撃し、頭を押さえながら声を上げた。

 そしてーー

 

「こっちに来い、のろま!!」

「ガーーー」

 

 俺は大声でオーガを挑発。

 言葉が通じたのか、それともただ声に反応したかは不明だが、オーガは咆哮しながら走ってきた。

 俺はそれを確認しながら全力で逃げた。

 ……俺って逃げることしかしてないけど、良いのだろうか?

 そんな考えが一瞬よぎるも、俺はとにかく逃げる。

 穴までの距離はおよそ五十メートルほどで、俺とオーガの距離は二十メートル。

 

「余裕!」

 

 そう声を出しながら走り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数秒走り続けるとクーインが待機している場所に辿り着く。

 今いるフィールドは林。

 木はたくさんあるものの緑は少なく、見晴らしが良い。

 

「アルト!!」

 

 俺を視認したのか、クーインは大声で俺の名前を呼ぶと魔法を発動させ、オーガ拘束のため、長さ一メートルほどの杭状のものを作成する。

 俺は穴のある場所の目印部分で足をつき、穴を飛び越える。

 そしてーー。

 

ズボ!

「ギャウ!」

 

 俺の後を追ってきたオーガが声を上げるとともに穴で転倒した。

 

「いけ!」

「グギ!」

 

 オーガが転倒したタイミングで、クーインが魔法を発射。

 オーガの四肢に杭が刺さり身動きが取れなくなる。

 これで死んでくれないかなと思ったが、相手は死ななかった。

 それを確認後、転倒しているオーガに体を向け左足に魔力を流し『部位強化』を発動。

 八相の構えからオーガの首目掛けて斬りかかる。

 

「ガギャ!!」

 

 オーガはそう声を出しながら姿を魔石へと変わった。

 

「……終わったな」

「……うん」

 

 随分と呆気なく討伐終了したので俺とクーインはコメントに困る。

 

「とりあえず、今日はここまでにして帰るか」

「……そうだね」

 

 俺の提案にクーインは了承。

 オーガの魔石を回収し、王都へと帰還した。




最後まで読んでいただきありがとうございました。


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30

「こちらは合計報酬金貨六十八枚となります」

 

 そう言いながら依頼報酬を渡す受付嬢。

 俺とクーインは現在依頼が終了し、冒険者ギルドで依頼終了報告をした。

 しかし、やはりランク以上の敵と相対することは危険行動らしく、注意を受けてしまった。

 まぁ、しょうがないが……。

 でも、注意のわりにそんなに厳重に言うのではなく、軽口を言われる感覚であった。

 

「今回、アルトさんとクーインさんの行動は決して誉められるような行動ではありません。しかし、討伐をしていただいてありがとうございました。これで被害の拡大は防げました。今後、調査を行い、高位ランクの魔物を存在を確かめたいと思います。今回の報酬はギルドからの感謝もありますので少し多めになってます」

「わかりました」

「ありがとうございます」

 

 俺は受付嬢から感謝かそれとも注意か分からないが言われたことに対して了承した。

 その後、報酬を受け取り、ギルドを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とクーインはギルドへの報告が終了後、学園の寮へ向けて歩いていた。

 

「それにしても、結構報酬もらえたな」

「まぁね。……それにしても報酬の分け方半分じゃなくてよかったの?」

「うん。アルトがいなかったらオーガは討伐できなかったし、僕は指示に従っただけだしね」

「ならいいんだけど」

 

 今回の報酬、クーインの提案で俺は分け前として六割もらった。

 俺も反対したのだが、クーインは折れず、俺自身今どうしてもお金が欲しかった理由もあり、受け取ることにした。

 俺は納得していない表情をしていたのだろう。クーインは納得していないのを察したのか、提案をしてきた。

 

「なら、今日晩御飯奢ってよ。僕高級料理食べたいし、ちょっと相談に乗って欲しいことあるから」

「相談?」

「うん、ちょっと最近悩みができて」

「……分かった、この前入試の時に夕食食べたところでいい?あそこ食堂もやってたはずだし」

「お!いいね。そこにしよう。もう一度そこで食べたいと思ってたんだ」

「わかった。行こうか」

 

 クーインは何を悩んでいたのか不明だが、以前入試の時に泊まった宿へと移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とクーインは相当お腹が減っていたのか、料理をすぐに食べ終わり、現在クーインの相談を聞くことなる。

 何かあったのだろうか?

 クーインから相談を持ち込まれるのは初めてで、少し話しづらそうにしているため、俺から話を振ることにした。

 

「で、相談事があるんだっけ?どうした」

「うん……まぁ、相談事というか、聞きたいことがあるんだけど」

「いいよ。なんでも言って」

 

 クーインはそう前置きをしながら話し始める。

 

「アルトは……その……才能ないじゃん」

「喧嘩売ってるの?」

 

 開口一口から何言ってるんだよ。

 クーインは俺の反応に慌てて否定して話し始める。

 

「いや、違うよ。ただ、スゴいとなと思って」

「何が?」

「多分僕がアルトと同じ境遇なら、血の滲むような努力はできない。それは前から思ってたことだけど、今日のオーガとの戦闘でそれを身にしみて感じた。本当にすごいやつなんだなって」

「………」

 

 急に褒められ、どう反応すれば良いのか分からず、俺はそのままクーインの話を聞く。

 

「君は自分に置かれている運命を跳ね除けてその強さを手に入れた。そんな君に聞きたいんだ」

「なに?」

「なんで君は運命を跳ね除けてられたのかなって」

「……ごめん。意味がわからない。運命を切り開いた、そう言われてもピンとこないし」

「………」

 

 俺の回答を聞いたクーインはうつむいてしまった。

 本当に意味がわからない。急に運命を切り開いたと言われても困る。でも、クーインが何かに悩み、俺に相談をしてきたのだろう。力になれるかはわからないけど、答えられる範囲で答えよう。

 そう思考し話を続ける。

 

「でも……」

「でも?」

「クーインの言う運命を切り開くと言うのが、自分のいる立ち位置に満足できなくて、足掻いて結果を求める。その観点からなら言えるよ、俺の場合がそうだったし」

 

 クーインが満足する答えを出せるかわからないが、出来るだけのことは話そう。

 俺はそう前置きをしながら話を続ける。

 

「どうしても達成したい目標があった。でも、それを達成するには俺は才能がなさすぎた。本来なら諦めていたかもしれないけど、それでも諦めきれなかった。だから、死に物狂いで訓練をした。さまざまな工夫をした。出来る可能性を必死に探して、僅かな可能性に縋り続けた。それらが相まって今の俺がある。クーインが何に悩んでるのか知らないけど、まずはできることを探して、行動してみたらどうかな?」

「………」

 

 黙って聞くクーイン。俺が頑張ってきたのはサリーのことを助けようとしたため。そのために努力を続けた。才能がなくても出来ることを探して唯一の可能性に縋り続けた。しかし、決して目的を達成したわけではない。

 今もなお、助けるための可能性を探り続けている。

 俺に言えるのはここまで、これからはクーインが考えることであり、何もいえない。 

 俺はそう思いながらクーインの反応を待つ。

 ……言ってみて思ったけど、なんか偉そうだな。

 一応謝罪しておこうかな。

 

「ごめん、なんか偉そうに」

「……いや、ありがとう。なるほどね……できることから始めるか……」

 

 クーインはそう言いながら先程の何かを悩んでいた表情は無くなっていた。

 

「……力になれたようならよかったよ」

「さすがは僕の親友だよ。話してみてよかった」

 

 そう、クーインは笑いながらそう言った。

 ……力になれたようならよかった。

 俺はそう思った。

 その後は俺とクーインは宿を出て学園の寮に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今、何時だと思ってるんですか?」

「「ごめんなさい」」

 

 俺とクーインは忘れていた。

 学園の寮には帰宅時間に制限があったことを。

 罰として二人揃って反省文を書かされ、一週間のトイレの清掃を言い渡された。



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31

 クーインの一件から数日後、冒険者学の授業が終わった時のこと。

 

「アルト君、イゴール君少しいいかな?」

 

 カイン先生に俺とレイブンは呼び止められた。

 何かあったのだろうか?

 

「なんでしょうか?」

「……なんでしょう?」

 

 俺とレイブンはカインさんのところまで行き、要件の確認した。

 

「あぁ、実は君たちに頼みたいことがあってね」

「頼みですか?」

 

 カインさんの発言にレイブンが反応する。

 カインさん直々の頼み事ってなんだろう?

 俺とレイブンは黙ってカインさんの次の言葉を待つ。

 

「あと、二週間ほどでノウブル森林に実戦に行くことはこの前話しただろ?君たち二人には事前に現地調査を依頼したい」

「ほう」

 

 え?なんで俺たち二人なの?

 レイブンはカインさんの頼みに納得しているようだけど、俺は納得いかないため、とりあえずわけを聞くことにする。

 

「あの、なんで俺たちなんですか?事前調査なら普通に冒険者に依頼すればいいじゃないですか?」

「アルト君、そのことについては説明するよ」

 

 カインさんは俺から質問が来ることを予想していたのか、話し始める。

 

「君たちなら知っていると思うが、最近魔物の数が増加している情報が出回っていてね。ノウブル森林の状況を確認してきて欲しいんだよ。これから戦闘経験未経験の生徒が立ち入りするからね」

 

 なるほど。それは一理ある。

 でも、なおさら調査なら冒険者に依頼するべきだろう。

 わざわざ俺らが行かなくてもいいはずだ。

 正直面倒くさいし。

 俺は否定も兼ねて、質問をする。

 

「それで、なんで俺らなんですか?」

「君たちは冒険者だろう?依頼をするのは当然だろう?」

「確かにそうですが……なら、正規の手続きをしてくださいよ」

「別にいいじゃないか。カイン先生は報酬をだすと言っている事だし。私は引き受けても良いと思うが?」

 

 俺が遠回しに断りを入れるも、レイブンが横槍を入れてくる。

 チッ余計なことを。

 どうするか、面倒臭いし、調査をしたら一日が潰れる。

 なんの対価もなしにやりたくない。

 

「アルト君、そんなに態度に出さなくてもいいんじゃないか?」

「いや別に出してはいない「丸わかりだぞ」……そうですか」

「はぁ、ならこうしよう」

 

 俺の態度は見え見えだったらしい。

 カインさんは俺が首を縦に振らないため提案をしてきた。

 

「何かあった時、一回だけ便宜を図ろう。もちろんできる範囲でだが……。報酬に加えて教員である私に貸しを作れる。これで君に依頼を受けるメリットは十分あると思うが?」

 

 カインさんはそう提案をした。

 ……正直これは今後のことを考えればメリットがある。

 イベントでどうやってレイブンとサリーを同じグループにするか迷っていた。

 この依頼を受ければその悩みが一気に解決するかもしれない。

 俺はカインさんの依頼を受けることにした。

 

「わかりました。……条件忘れないでくださいよ」

「疑り深いな……。わかったよ。イゴール君もそれでいいかな?」

「はい。私は初めからお引き受けするつもりでしたので」

「わかった。依頼は一週間後、授業終了後に頼む。それまでに準備を済ませておいてくれ」

「「はい」」

 

 カインさんはそう言うと、依頼の日程詳細を伝えてきた。

 俺とレイブンは了承の意味も兼ねて、返事をする。

 そういえばなんで俺らに直接依頼してきたんだろう?

 念のため聞いてみようかな?

 

「あの、カインさん、俺らに直接依頼してきたのって何か理由があるんですか?」

 

 するとカインさんはそれはだなと呟き、理由を話はした。

 

「それは特に特別な理由はない。冒険者ギルドに依頼を出す時の手続きが面倒くさいからだな。ちょうど教え子にランク上位の生徒が二人もいるんだ。その方が手っ取り早いだろ?」

「「……」」

 

 この人面倒臭がりなんだ。

 レイブンも同じことを思ったのか、俺と同じように、呆れた表情をしていた。




最後まで読んでいただきありがとうございます。


短編を投稿しましたので興味がありましたら。

https://syosetu.org/novel/285177/

「童貞、異世界へ転生する」
 異世界転生系です。

https://syosetu.org/novel/285176/1.html

「実は僕……耳がすごくいいんです」
 
 乙女ゲームの攻略対象に転生した男主人公ものです。


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32

現在俺とレイブンはノウブル森林にいる。

 

 カインさんから依頼をされ一週間後、準備を整えてから向かった。

 俺のレイブンはノウブル森林についてから魔物を見つけ次第、討伐していった。

 そして討伐をこなし続けて一つ俺が思うことがあるとすれば、

 

「……俺必要なくね?」

 

 これである。

 始め、俺が引きつけてレイブンが魔法でとどめを刺す。

 この作戦でやっていたのだが、

 

「グ「バン!」

「ガ「ドカン!」

 

 レイブンは魔物を見つけた瞬間魔法をぶっ放すため、目の前の光景を俺はただ見ているだけ。

 ま!いいや。楽して見ているだけで金がもらえる。

 

「どうしたんだアルト?」

 

 俺の気も知らないで呑気な雰囲気でレイブンが話しかけてきた。

 俺はそんなレイブンに嫌味を含めては話す。

 

「いや、別に楽して金もらえるから良いやと思ってな。無駄な魔力を使わずに済むしな……てかなんでそんなに嬉しそうなんだよ?」

「いや何……」

 

 俺が理由を聞くと、何故か嬉しそうにしていたため、質問する。

 

「友人と依頼を受けるのは初めてなのでな……」

「そうか……」

 

 なんでこんなに純粋なのだろう?

 いつも汚いことを思っている俺の良心が痛む。

 俺はどう返したら良いか分からず、ただただそう返した。

 てか最近俺はレイブンに対する態度が少し雑になっているている気がする。

 レイブン自身もあまり気にしていないし、こんな付き合いもありなのかもしれないな。

 そう思いつつ、森の調査を続けた。

 

 

 

 

 

 

 ノウブル森林で調査を始めて、二時間ほど時間が経った。

 結果はまぁ、上場。

 今まで討伐した数は、ゴブリン三十匹、コボルト三十四匹、そしてオーク二匹ほど。

 これは例年に比べ二倍ほど。

 おそらく原因は魔神復活なのだろう。

 魔物が急激に増えているのは魔素の濃度が濃くなっていることが原因。

 

「どう思うアルト?」

 

 レイブンも同じように疑問に、感じているのか俺に質問をしてくる。

 てか、ぶっちゃけ戦闘経験のない生徒がいたら死ぬ可能性があるのでいかない方が良い。

 俺はレイブンに意見を伝える。

 

「どう思うって異常だろ?魔物の数は例年の倍近くあるし」

「確かにな」

「多分このこと報告したら実戦はなくなるだろうさ、危険だし」

 

 本当にどうしよう。

 このままではサリーのイベントがなくなってしまう。

 ……考えても仕方ないし、とりあえず帰ってから考えよう。

 知りたいこともわかったし、退散しよう。

 

「もう結果は十分わかったことだし、後の判断はカインさんに任せよう」

「わかった。そうしよう」

 

 お互い話し合い、帰ろうとするがーー。

 

「「?!」」

 

 俺とレイブンは嫌な気配を感じる。

 空中に黒い何かが浮かび上がった。

 ただわかることは、その場所は魔素の濃度が濃くなっていることだけだった。




最後まで読んでくださりありがとうございます。


新作投稿しました。
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女主人公ものです。
https://syosetu.org/novel/285626/

「最近付き合うことになった幼馴染彼氏が変わってしまった件について〜お願いだからその情報、信用しないでよ!お願いだから、私の言ったこと鵜呑みにしないでよ!お願いだからもうやめてよ……〜」


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33

「モンスターパニック現象」

 

 それは空間の魔素濃度が濃くなり、上位の魔物が現れる現象。

 これはゲームにおいては迷惑なイベント程度の認識であったが、現実では違う。

 この世界での命は一度きり、一度死んでしまえば生涯が終わる。

 俺とレイブンは一気に緊張感に包まなる。

 

「なんだよ……あれ?」

 

 レイブンが目の前の、空間に浮かぶ黒い塊を見ながらそう呟く。

 「モンスターパニック現象」から逃げることは不可能。

 生き延びるためには出現する魔物を倒さなければならない。

 

「少なくとも、逃げられないことは確かだと思うよ……レイブン、知っているか?『モンスターパニック現象』を」

「?!そうか……これが」

 

 俺が現象の名前を出した瞬間、驚きいつもしている余裕の表情が一切消える。

 それもそうだ。

 「モンスターパニック現象」はこの世界においては出会った瞬間死を表しているからだ。

 さて……どうするか。

 もう俺らに選択肢は残ってない。

 戦う覚悟を決めるしかない。

 

「一応聞いておくけど、逃げる選択肢はあるのかな?」

「……逃げ切れると思うか?」

「そうだよね」

 

 レイブンは一縷の望みをかけて俺に質問するが、無理だと断言する。

 俺とレイブンはお互いにアイコンタクトをし、頷く。

 

「覚悟を決めるしかないだろ?まさか、天才様は怖気付いたのかな?」

「そんな訳ないだろう?」

 

 俺の軽口にレイブンは右手で俺の肩を軽く叩きながらそう返してきた。

 俺はこのやりとりで少し安心した。

 レイブンは一切怖気付いていないし、平常心だ。

 どんな魔物が現れるかわからない。

 最低でもAランク以上。

 レイブンがいれば多分倒せる。

 もしかしたら俺がいなくても平気かもしれない。

 だが、その考えは魔物が現れた瞬間、消え去った。

 

「あれは!!」

「アルト、知っているのか?」

 

 俺らの目の前に現れたのはゲームでもかなりの上位種。

 ファンタジー世界においては魔王の扱い、種類によっては上位に分類されるモンスター

 オークキングが現れた。

 俺はいち早く情報共有する為、魔物の正体をレイブンに教える。

 

「オークキング。Sランクの魔物だよ」

「?!」

 

 「オークキング」その言葉によっぽど驚いたのだろう、レイブンは驚くあまり声を出すことはなく、何故俺が知っているか、その疑問すら浮かばない。

 

 だが、俺は思っていた以上に冷静であった。

 オークキングはSランクに分類されるほど、強敵だ。

 しかし、初期イベントを周回していた時に数回遭遇したから分かる。

 オークキングは戦闘狂の一面を持っている。

 

『ソコニイルノハ下等生物デハナイカ?』

「「?!」」

 

 現れたオークキングから言葉を発せられたことに俺とレイブンはそれぞれ違った理由で驚く。

 レイブンは人間の言語を発したことに、俺はゲームと同じ言葉から。

 これで確信した。

 オークキングはゲームと同じ存在であると。

 

『ドウシタ?恐怖デ言葉モ話セナイカ……。コレダカラ下等生物ハダメダ』

「「?!」」

ドン!

 

 オークキングが話し終わった瞬間、いきなり持っていた巨大な斧で切り掛かっているた。

 俺は反射的に『見切り』を発動し、身体強化を使う。

 俺は右にレイブンは左にそれぞれ回避した。

 するとオークキングは俺とレイブンが回避したのに驚いたのか、少し思考し話し始める。

 

『今ノヲ避ケルトハ、アル程度ノ実力ガアルミタイダナ。フン、話アウタメノ時間ヲクレテヤロウ。セイゼイ我ヲ楽シマセテモラオウカ』

「何故?」

 

 オングキングの提案にレイブンが反射的にか聞き返す。

 その答えはすぐに返ってきた。

 

『理由ハナイ。暇ツブシダ」

「……そうか」

 

 オークキングはこちらを見下すように、笑いながらそう言った。

 レイブンはオークキングの返答にそう返しつつ、俺の方へと視線を向け、俺とレイブンはお互い頷きながら、オークキングを警戒しつつ、近づく。

 

『ソンナニ警戒シナクテモヨイ、サッサト集マルトイイ』

 

 オークキングは俺の行動に対してそう言ってきた。

 よほど舐めているのだろう。

 でも、そんなオークキングの行動は正直ありがたかった。

 ただ、襲ってくるだけのやつならおそらく俺もレイブンも死んでいた。

 その結果にならなかったのはオークキングの性格のおかげだ。

 俺とレイブンは歩く速さを上げ、オークキングから二十メートルほど離れた位置に集まる。

 

「どうするアルト?」

 

 集まった後、レイブンが俺に問いかける。

 レイブンは俺がモンスターパニック現象が起きてから的確な情報を提供したからか、この場を切り抜けるためには俺に頼った方がいい、そう判断したのだろう。

 俺は考えつく、奴を倒す唯一の方法を伝える。

 

「レイブン、君の最大火力の魔法は発動までどのくらいかかる?」

「何故それを「早く答えろ」……6秒だ」

「そうか」

 

 俺の質問にレイブンは訳を聞こうとするが、時間があまりないため、遮り回答を急かした。

 レイブンには奥の手、最大火力の魔法がある。

 「エレメンツ バース」と言う名のゲーム世界においての必殺の一撃。

 だが、六秒か。ゲームでは発動時間はなかったのだが……。

 だが、それは対して問題はない。俺がカバーすれば良いことだ。

 

 運要素が強すぎるが、勝つためにはこれしかない。

 俺とレイブン、それぞれの切り札。それを組み合わせることでこの場を切り抜けるための唯一の道。

 

「レイブン、オークキングが魔法を使用した瞬間、同じタイミングで君の最大火力の魔法を発動準備をしてくれ。俺が魔法発動までの時間を稼ぐ。おそらくそれが唯一奴を倒せる方法だ。それまでは君がメインでオークキングの相手を。俺が補助、妨害をする。その攻防で倒せれば良いが、おそらく無理だろうからな。オークキングが魔法を使わなきゃ、俺の魔力が尽きれば終わり。運要素が強すぎる作戦だが、どうする?」

「……わかった。君の提案するかけに乗ろうじゃないか」

 

 レイブンは俺の作戦にフッと笑いながら了解した。

 とても正気の沙汰ではないこの作戦。

 本当の意味で絶体絶命。

 でも、やるしかない。

 そう判断し俺とレイブンは持っている剣を構えてオークキングへと対峙する。

 オークキングは俺とレイブンの反応を見て笑いながら見ていた。




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34

 オークキングとの戦闘は過激さを増していった。

 戦い方としてはレイブンが一対一で闘い、俺が援護、妨害を含めて隙を見つけ次第攻撃をする。

 だが、俺とレイブンは攻めきれない。それどころかオークキングは余裕の表情すらしている。

 遊んでいる、そんな考えすら浮かんでくる。

 

『フン』

「く!」

 

 オークキングは笑いながらもレイブンに向かって斧で上から切り落とす。

 それに対してレイブンは最小限の動きで剣で逸らして避ける。

 

「この!」

「は!」

『チョコマカト邪魔ダナ!』

 

 レイブンはすぐに反撃し、それに合わせて俺も『身体強化』を発動させて斬りかかる。

 しかし、ダメージはさほど与えられない。

 与えたところですぐに回復をしてしまう。

 オークキングには自己回復が備わっていた。

 そのため、倒すには一気にダメージを与えなくてはならない。

 その方法はレイブンの最大火力魔法「エレメントバース」のみなのだが、魔法を使うには六秒準備が必要で使おうとしても潰しにかかってくる。

 オークキングとの戦闘、時間にして十分ほど時間が経つが、レイブンの体力は削られ、俺の魔力量もただただ、減っていくだけでジリ貧であった。

 

『コノ!』

「アルト!」

 

 オークキングは俺の存在に苛ついたのだろう。

 ずっとレイブンと対峙していたが、ターゲットを俺に変えて切り掛かってきた。

 俺はすぐに『見切り』を発動。

 同タイミングで『バレット』で魔力の塊を五つ生成。

 避けると同時にオークキングの目を狙って放つ。

 

『グ!』

 

 同時に放った魔力の塊はオークキングの目にあたり視界を奪うことができた。

 

「はぁぁ!」

 

 その隙を見逃すレイブンではない。

 オークキングが目を押さえた瞬間を狙い叫びながら斬りかかる。

 

『グギ……クソガ!!』

「うわぁ!」

 

 レイブンの一撃でオークキングに初めてダメージらしいダメージが入ったことに怒りを感じたのか、叫びながらレイブンを殴り飛ばした。

 レイブンは剣で直撃は避けたものの、後方へ飛ばされた。

 俺はすぐにレイブンの元へ向かい、オークキングを警戒しつつも、安否の確認をする。

 

「無事か?」

「はぁ……はぁ…大丈夫だ」

 

 俺の質問に対して、レイブンはそう返事する。

 しかし、相当疲労が溜まっている。

 今のオークキングとの攻防は七割ほどレイブンが担当している。

 理由は俺が対峙できるほどの実力がない為。

 それに加えてオークキングが手を抜いているため、互角にやりあえている状況だ。

 このままではジリ貧だ。

 ……使うべきか?

 俺には魔神対策のための秘策がある。だが、それには大きなリスクが伴うため、こんな場面で使いたくない。

 俺の魔力量が残り約六割。使うしかないのか?

 

『モウイイ』

 

 オークキングは何か諦めたような、どうでもいいのか、そんなことを言ってきた。

 

『モウ十分ダ』

「何を言って……」

 

 オークキングはそう言いながら斧を地面に刺して、右手の掌を俺とレイブンに向けてきた。

 このモーションは!

 

『終リダ』

 

 オークキングはそう言いながら手から魔法を発動しようとする。

 瞬間、レイブンは魔法の準備をし始める。

 

「アルト!」

『何ヲ無駄ナコトヲ。コレダカラ下等生物ハ……』

 

 オークキングは呆れながらもそう話し始めて魔法準備をする。

 レイブンは俺の名前を呼びながら視線を向けてくる。

 わかっているよレイブン。

 お前は急いで魔法を完成させろ。

 俺はそう意味を込めてレイブンとお互いにアイコンタクトし、魔法準備を始める。

 俺は目に魔力を集め、眉間の先にライフル状の弾丸を生成する。

 

 

 オークキングは面倒臭くなり魔法で一気に消す気だろう。

 見た感じ魔法発動まで後、三秒ほど。

 

 これで俺たちの勝ち筋が見えた。

 

 オークキング……俺たちを舐めたこと、自分が誤った選択をしたこと、後悔させてやるよ。

 

 見せてやるよ……俺の奥の手。

 




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35

 俺はこの世界に転生してからひたすら努力をし続けた。

 才能がなくても強者と戦うため、属性魔法を切り捨て、ひたすら無属性魔法を研鑽を重ねた。

 

 そんな訓練を続けて数年が経った頃、俺はふと、強者と戦う時に切り札となりある存在が欲しいと思い始めていた。

 でも、俺の才能ではそんな類のものの習得は無理であった。

 俺の魔力量が極端に少なすぎるため、破壊力のある攻撃は不可能。

 属性魔法は全く訓練をしていなかったため、風属性魔法を使うことは選択肢にない。

 一応ゼフにも相談はしたが、良い返事はなかった。

 

 

 

 そんなある日、ゼフとの戦闘訓練の時、不可解な現象が起こる。

 俺が追撃のため、ゼフに『バレット』を放った時であった。

 ゼフが魔法を発動させていた魔法陣が崩壊した。

 

 俺その不可解な現象を見た瞬間、すぐにゼフと共に不可解な現象の研究をし始めた。

 魔法発動をキャンセルする。

 それはゲームにもなかった存在であった。

 もしもその現象を意図的に起こせたら……。

 俺はせっかく見えた、切り札の予兆。それをものにするため必死に研究をした。

 だが、すぐには同じような場面を再現しようとしたが、同じ現象は起きなかった。

 その日以降訓練そっちのけで研究し続けた結果、あることがわかった。

 

 魔法発動時の魔法陣には刹那、乱れが存在していると。

 

 それは普通では視認できず、ある事をすれば見ることができた。

 『見切り』は俺の無属性魔法で最も頼りにしているオリジナル魔法。

 だが、それは見えるだけ。

 通常の『バレット』ではその刹那の乱れを捉えることができなかった。

 だから、考えを変えた。

 

 できないのから作れば良いと。

 

 そして、それから訓練を続けある魔法を開発した。

 

 『スナイプ』

 

 魔法陣を乱れを撃ち抜くためだけに特化した魔法。

 一度の戦闘でたった一度しか使えない、俺だけの切り札を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はオークキングの魔法を無力化するため『見切り』と同時にライフルの弾丸を生成する。

 そして、ギリギリまで待機して。

 

 ーーー撃ち抜く

 

『?!』

 

 オークキングの発動中であった、魔法陣が急に乱れ、消失した。

 そしてレイブンが『エレメントバース』を放出する。

 

ドカーン!

 

 水、火、土、風、四種属性を持つレイブンのみが使える必殺の一撃がオークキングに直撃した。

 

「く!」

 

『エレメントバース』が直撃し、爆風が広がり俺は吹き飛ばされないよう剣を地面に刺して、耐える。

 それからおよそ数十秒後、爆風が落ち着き、俺はレイブンの安否を確認する。

 

「はぁ…はぁ…はぁ」

 

 限界なのだろう。

 レイブンは肩で息をしながら、俺を見ていた。

 よかった。

 俺はそう思い、レイブンにゆっくりと近づいていく。

 正直俺自身も限界だ。

 『スナイプ』は俺の魔力量の半分を消費する。

 実戦ではあまり使用できない。

 本当にこれは俺にとって切り札、今回のようなどうしようもない時にしか使わない。

 

「レイブン、無事か?」

「はぁ…はぁ……あぁ、大丈夫だ」

 

 本当に辛そうだ。

 今もなお、肩で息をしている。

 

「おつかれ!お前と一緒にいてよかった。一人なら確実に死んでた」

 

 俺はレイブンに労いも兼ねてお礼をいう。

 

「それ言うなら私もだ。アルトがいなければ死んでいたかもしれない。あの時、君の適切な指示、情報の共有ができなければ大変なことになっていたよ」

「そんなことはないさ……いや、この話はやめようか。多分このまま同じような言い合いで終わりそうだし」

「そうだな」

 

 お互い笑い合い、褒め合いをやめる。

 キリがないためそろそろ、退散しよう。

 その話を俺は切り出そうとした。

 その瞬間

 

『クソ』

「「?!」」

 

 土煙の中から倒したと思っていたオークキングの声がする。

 俺とレイブンは驚き声が方向へと視線を向けた。

 

「なんで……」

 

 レイブンはそう声を上げた。

 それもそうだ。

 倒したはずのオークキングがまだ生きている。

 そう判断したら誰だってそう思うだろう。

 

「レイブン……まだ戦えるか?」

「……いや、もう魔力が底を尽きそうだ。それに動けない」

「そうか。俺も無理だ。魔力はー割も残ってない。……逃げ切れるかわからないが、退散しよう」

 

 俺らはどちらも限界であった。

 そのため、俺の提案にレイブンは黙って頷く。 

 この場で唯一の救いはオークキングも行動不能なほどのダメージを受けていたこと。

 このまま、とどめを刺した方が良いのではと思ったものの、倒しきれない可能性がある。

 俺の魔力も一割以下、レイブンは魔力の使いすぎで限界に近い。

 この場は生き延びるために逃げるのが最善。

 

「……わかった」

 

 レイブンは俺の質問に承諾し、その場を退散した。




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36

 オークキングとの一件、とりあえず俺とレイブンは無事に乗り越えた。

 特に大きな怪我は無かった。

 だが、事は一大事だ。

 

 安全なはずのノウブル森林にSランク級の魔獣が現れた。

 

 この事実はいち早く解決しなければならない。

 じゃなきゃ被害がどこまで出るかわからない。

 俺とレイブンは帰還後、すぐに冒険者ギルドに相談しに行った。

 

 だが、結果として取り合ってもらえなかった。

 それもそうだ。「突然モンスターパニック現象が起こり、Sランクモンスターが出現した。そして、それをBランクとCランクの冒険者二人で対処し、逃げ切った」

 こんな事、誰が信じるだろう?

 信じるに値する証拠も一切ない。

 結果は後日調査する。

 そう言って返されてしまった。

 ギルドを出る際、他の冒険者から笑われたりもした。

 

 俺とレイブンはイラついたものの、今は目の前のことを解決するため、急いでカインさんの元へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは本当なのか?」

「信じてもらえるか分かりませんが、事実です。別に信用していただかなくても結構です。最悪、私たちだけで協力者を募り、オークキングの討伐をしますので」

 

 現在学園の応接室。

 俺とレイブンはカインさんに会ったことの全てを報告した。

 しかし、やはり信用してくれていないのか、確認の一言を言われ、レイブンはそれに対して俺と相談した、今後のことについて話す。

 

 協力者というのはレイブンなら、モーインとサリー。

 俺ならゼフとクーインの二人。

 これだけの人数がいれば倒せる。

 俺とレイブンでほぼ互角。

 それに加えてゼフが前衛に加わり、チート魔法使い三人(一人はややチート)が加われば倒せる。 

 

「いや、違う!少し驚いただけだよ。君たち二人がこれほどまでに消耗し、それでも勝てなかった。共闘してまでも勝てない。そんな相手いるとは思わなかったんだよ」

 

 カインさんは慌てて否定と弁解をする。

 ……カインさん、俺のこと過大評価しすぎでは?それと共闘しても勝てなさそうな人いますよ……魔人とか魔神とか。

 でも、それほど信用してくれたってことなのかな?

 とりあえず、確認をしてみる。

 

「カインさんは信用してくれていると思ってもいいんですか?」

「ああ。そう思ってくれていい」

「そうですか……よかったです」

 

 俺が確認するも、カインさんはそう言ってくれた。

 本当によかった。

 正直、オークキング討伐を確実にするのにどうしてもカインさんの力が必要だった。

 カインさんは俺の知る限り現時点で最高位の魔法使い。

 ワイルドウルフの一件でそれは思い知らされている。 

 それにカインさんは経験豊富である。

 幾ら魔法使い三人がすごい資質を持っていたとしても、カインさんの経験には敵わない。

 だから、討伐に参加してほしいと思った。

 

「カイン先生……今後の方針はどうするべきですか?」

「すぐに倒すべきだろう。そんな危険な魔物を放置するわけにはいかないからな……できたら準備を今からして明日には討伐したいのだが……二人はどうだ?」

「俺は平気です。魔力が回復すれば平気ですから」

「私もアルトと同じです」

「分かった。では、今から準備を開始しよう……イゴール君とアルト君は無理をさせてしまうが、先程言っていた協力者に話をしてきてほしい。ところで、その協力者というのは誰なんだ?」

 

 カインさんはそう方針を決めた後、誰の協力を求めるのか聞いてきた。

 とりあえず、情報共有は大切だ。

 そう思い、正直に答える。

 

「私はモーインとサリーの二人に協力してもらうつもりです」

「俺は同じクラスのクーインと執事のゼフに協力をお願いします……ゼフの腕前は保証します。現役ではA級冒険者でしたし、俺の師匠でもあります」

「……ゼフ?……A級冒険者?」

 

 どうしたのだろう?

 カインさんはブツブツと何かを言いながら考え始める。

 

「カインさん、どうかしましたか?」

「いや、なんでもない。……これは確認なんだが、ゼフというアルト君の執事の年齢は七十歳近くで、武器は剣かな?」

「はい……そうですが」

「本当か!!」

 

 バン!と机を叩きながらそう言ってきた。

 本当どうしたんだ?こんな驚いてるカインさん見たことない。

 

「あの……アルトの執事がどうかなさったのですか?」

 

 耐えかねたのか、レイブンは興奮気味のカインさんにそう聞いた。

 レイブンはナイスプレー!

 俺は内心そう思いながら、もカインさんの返答を待つ。

 カインさんの反応、ゼフのことを知っているような感じだ。

 カインさんはレイブンの指摘され、少し落ち着いたのか、椅子に座り直し話し始める

 

「すまない。これはまだ、確信を持っているわけではない。……これは今から五十年ほど前の話なのだが、「ドラゴンスレイヤー」と呼ばれたすご腕冒険者がいたんだ。でも、その冒険者はある時を境に行方をくらませてしまった」

 

 ん?なんかめっちゃゼフに心当たりあるんだけど、五十年前、すご腕冒険者、行方不明……。

 とりあえず、カインさんの話を聞こう。

 

「その冒険者の名前はゼフと言ってね。私の父の恩人でもあったんだ。……まぁ、考えすぎだな。そんな偶然はないか。すまない気にしないでほしい。とりあえず今から二人は協力を頼む人たちのところに向かってほしい」

「「はい」」

 

 カインさんはそう言いながら、話を戻す。

 俺もレイブンも了承する。

 

 もしかして違うよね?

 カインさんは偶然と言っていたけど、可能性がある。

 でも、その可能性を拭いきれなかった。

 とりあえず、後でゼフに聞いてみよう。

 そう思い、俺とレイブン、カインさんは行動を開始した。

 

 

 

 ゼフの話を置いておくとして、正直俺もレイブンもコンディションを完全に整えるなら二日の期間を設けるべきだろう。

 でも、オークキングを放っておく方がもっと危険だ。

 何より、ゲームのシナリオから大幅にずれる。

 もう結構外れているけど、魔神復活の流れだけでもそのままにしたい。

 オークキング討伐後どうなるか分からないけど、今は目先の問題を対処しよう。

 そう決めた。




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37

 オークキング討伐のため、俺とレイブンはカインさんと別れた後、最初にモーインとサリーの二人にお願いしに行ったのだが……。

 

「本当に協力してくれるとは思わなかったよ」

「もう、そんなこと言わなくても協力するわよ」

「そうですね。流石に危機をクイス家の者として協力は惜しみません」

 

 現在、ゲーム主要キャラの三人と俺の四人で会話をしている。

 サリーとモーインの二人はあっさり二つ返事で了承してくれた。

 結果はよかった……よかったのだが、俺は一つの疑問に見舞われていた。

 

 喧嘩イベントどうなった?

 

 この時期に起こるはずなんだけど。

 モーインがサリーを呼び出して、レイブンへの好意について話をする。

 その時に少し拗れて喧嘩をすることになっている流れになる。

 

 だが、今の二人を見てどうだろう?

 サリーとモーインは一切喧嘩をした雰囲気がなく、それどころか、あった当初に比べて仲が良くなっているような……分からん。

 

 「だそうだ。私とアルトの二人がかりで追い詰めたんだ。これだけのメンバーが集まれば討伐できると思う。……アルトが言ってた二人はどうなんだ?」

 

 レイブンはモーインとサリーの協力を取り付けることができて安堵し、そう問いかけてくる。

 俺自身シナリオの都合で二人が協力してくれるかどうかは少し不安であった。

 これはこれで一安心か……。

 少しヒロイン二人の関係は気になるけど、今はオークキングのことに集中しよう。

 

「ゼフとクーインからは俺から話すつもりでいるよ。ゼフは話せば協力してくれるから安心して!クーインは分からないけど……交渉次第かな」

「わかった。……でも、ゼフ殿が協力してくれるのはとても心強い。かのドラゴンスレイヤーが加われば勝率も大幅に上がるな!」

「いや、だからまだ分から「なになに、ドラゴンスレイヤーって」……」

「私も気になります」

 

 俺とレイブンの会話を聞いていたのか、モーインとサリーが興味を持ったか、割り込んでくる。

 まだ、ゼフがドラゴンスレイヤーって決まったわけじゃないんだけど……。

 とりあえず確かな情報ではないため、否定する。

 

「えーと、ドラゴンスレイヤーっていうのは昔の有名冒険者のことだよ。俺の執事のゼフと同姓同名ってだけで、まだドラゴンスレイヤーって限らないよ。レイブンは早とちりしすぎだよ」

「む……そうなのか?でも、ドラゴンスレイヤーとゼフ殿の名前、情報がほとんど一致しているし、確かなんじゃないか?」

「へーそんな冒険者がいたんだ。私始めて聞いた」

 

 俺の紹介にレイブン、モーインが返答し、そんな二人の反応にサリーは微笑む。

 話が進まない。

 俺は少しでも時間が惜しいと焦りがあり、話を切り上げる。

 

「ゼフがドラゴンスレイヤーかもしれないという事は後で確認すればいいよ。とりあえず明日に備えて準備しようか。俺もクーイン探さなきゃいけないし」

「確かにその通りだな。明日は危険な戦いになるし、入念な準備をしなくてはな」

「え、でもレイブンとアルトの二人で倒せそうだったんでしょ?大丈夫じゃない?」

「モーイン……あまり過信しすぎるよくないよ。油断一つで死に関わるんだから」

「はーい」

 

 さすがサリーだ。

 フラグを見事にへし折った。

 モーインは少し不服そうに膨れていたが、まぁ気にしなくていいだろう。

 とにかくこれでチートキャラの協力要請は完了した。あとはクーインの協力を頼むのみ。

 一緒に戦闘をこなしてきたため連携はもちろん、クーインの土魔法の戦闘力は今回の戦闘では捨てがたい。

 少しでも確実性を上げるために協力してもらいたい。

 

 その後、魔力ポーションを買ってもらうため、俺の有金をすべてレイブンに渡して買い物をお願いし、クーインを探しに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は三人と別れ、クーインを探しているのだが……全然見つからない。

 もう授業は終了しているため、寮部屋か食堂と思い当たるところを探しているのだが、見つからなかった。

 

「どこにいるんだよ」

 

 まだ時間は午後七時ごろ。

 外出している可能性を考えたが、寮には帰宅時間に制限があるため可能性は低い。

 俺は制限時間を気にしつつ、可能な限り学園内を探し続けた。

 

 それからしばらく経つも、進展はなく、規則時間が迫ってきたため、そろそろ引き返そうとした時、ふと人の気配を感じた。

 場所は校門入り口付近。 

 俺は気になり近づいていくと誰の話し声が聞こえ、気のせいかその声には聞き覚えがあった。

 

「でも、そんなこと……誰かいるのか?」

「……」

 

 俺は思わず息を殺す。 

 俺は幼子から訓練を積んでいる。

 そのため、気配を断つのは優れている方だったのだが……。

 男は俺の存在に気づいたのか、そう声を発する。

 

「出てきたらどうだ?」

 

 少し憤怒の混じった声。

 偶然とはいえ盗み聞きしてしまったことが原因なのだろう。

 完全に気づかれている。

 このまま気のせいだった、なんてことは無理だと判断し、諦めて姿を現すことにした。

 

「すまない。聞くつもりは……ってクーインじゃん。何してんだよ」

「……アルト。なんでここに?」

 

 門の前にはクーインがいた。

 何故という疑問が浮かぶも、俺は現状の説明をする。

 

「いや、クーインに話があって。結構重要なこと。それで探してたんだけど……どうかした?」

「いや、なんでもない」

 

 俺の説明にクーインは少し困惑する表情をし、少し思考して話し始める。

 

「なんでここにきたの?」

「いや別に……ここにきたのはたまたまだし、声がしたからきただけだよ」

「そうか……」

 

 本来の俺なら少し茶化すのだが、クーインは真面目な表情をしていたためやめた。

 クーインは俺の弁解を聞き、また少し考え始めーー。

 

「いや、何でもないよ。少し考えごとをしてて、一人になりたいからここにいたんだよ。その時に声が出てしまってたかもしれない」

 

 そう言っていつも通りのクーインになる。

 俺はクーインの反応が気になったが、彼とは付き合いは長いが深く聞くような存在ではない。

 こういう一面があるんだなと一人完結させる。

 

「そういえばアルトは何か用があるらしいけど、何かな?」

 

 クーインは話題を変えるように話を振ってくる。

 俺はこの雰囲気は嫌だったため、クーインの配慮に乗ろうと思い、目的であった話を進めることにした。

 

「相談……というよりもお願いなんだけど……ここで話さないで寮に行こうか。また罰則食らうのやだし」

「……そうだね」

 

 流石に時間が遅いため、クーインに戻ろうと提案する。

 クーインもこの前の罰則のことを思い出してか、少し渋い顔をしながら了承し、寮へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寮に戻ったあと、クーインに今日あったこと、オークキング討伐のための協力要請をしたのだが……。

 

「君は学校休んでそんなことしてたのかい?大丈夫だったのかい?」

「いや、大丈夫だよ。全然平気だよ」

「……いや、話を聞いた限り大丈夫とは思えないんだけど」

 

 クーインの反応に少し驚きながらもそう言ってきた。

 俺はクーインの反応に思わず何もいえず反応するが、オークキングのことに必死になりすぎていて、今日あったことの重大さを忘れていた。

 冒険者にとって遭遇したら死を意味するモンスターパニック現象に遭遇し、Sランクモンスターと対決。無償で瀕死状態に追い込む……うん。落ち着いて考えてみたらやばいよね。よく生きてたな俺。

 

「ちょっと考えたらかなりやばいかも」

「いや、考えないでもわかると思うけど……一回君の頭の中を覗いてみたいよ」

 

 クーインは笑いながらそう話す。 

 ……流石に酷くね?

 でも、感覚が麻痺ってるのは確かだと思う。

 魔神のことといい、色々考えすぎていた。

 今思えば俺って落ち着いて休んだことないかも。

 一度『部位強化』の副作用で一週間ほど休んだけど、その時も休まず勉強をしていた。

 色々ことが片付いたら、ゆっくり休息をとった方がいいな。うん。

 

 俺は内心で今後の方針を決めた。

 今はこの考えは保留になるが。

 

「まぁ、俺のことはいいとして、オークキングの件はどう?協力してくれる?」

「まぁ、それはもちろんいいけど……僕必要なくない?メンバーを聞く限り必要ないと思うんだけど。アルトとレイブン様の二人で互角で、そこにベテランが加わるわけだし……」

 

 確かにクーインの言う通りかもしれない。

 でも、豪華メンバーにクーインを誘うには理由がある。

 

「俺はクーインを信用してる。背中を任せる。だからこそ一緒に戦ってほしい」

「背中を任せられる……ね。それはこっちとしては嬉しいかな」

 

 俺の心からの本音。

 一緒に共闘して、最も信頼をおける存在。十二歳から一緒の時間を過ごして、一緒に戦って築いた信頼関係。

 クーインはそこまでは思ってないかもしれないけど、俺はそう思っている。

 

「わかった、協力するよ」

「ありがとう」

 

 お互いにそう言って拳を合わせる。

 よかった。これで少しは安心して戦闘に集中できる。

 必ず無事に生還する。

 

「あ、でもただで協力するのは嫌だから高級料理奢ってねー」

「あ……うん」

 

 やっぱり最後はこうなるんだ。

 俺はため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はこの時クーインの少しニュアンスの違った発言を気がつかなかった。

 気がついていればあんなことにはならなかったのに。

 




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38

 翌日、オークキング討伐のため朝日が登る時間にノウブル森林へと向かった。

 オークキング討伐のため、早めに向かったのだが……。

 この件は思っていた以上にすぐに片付いた。

 俺たちは過剰戦力であった。

 チート三人にA級冒険者のカインさん、そしてかつて「ドラゴンスレイヤー」と言われた熟練のゼフ。最後に大地の操作も可能なチートなクーイン、そして最後に俺。

 オークキングのいる場所はカインさんの『探知魔法』で探り、見つけ次第倒す算段を立て、それぞれ役割を決めた。

 俺、ゼフ、がメインで前衛、モーインとサリー、カインさんが魔法援護、クーインが土魔法で地形を操作して妨害、最後にレイブンが一撃必殺の『エレメントバース』を放つ。

 

 単純でわかりやすいこの戦法。

 結果見事にハマり戦闘開始三十秒もしないで終わった。

 その光景を見た俺とレイブンは少し呆然としていた。

 ……俺たちがあんなにも苦労したのに。

 

 俺とレイブンは同じことを思ってから顔を見合わたが、レイブンは肩で息をしていた。

 前回よりも威力が高く、オークキングは一撃で魔素なり消え、大きな魔石のみが残る。

 途中俺とゼフ、魔法使いのモーイン、サリー、カインさんの魔法攻撃があったため、その効果もあるかな……。

 まぁ、結果はどうあれ終わったんだ。

 良しとしよう。

 

 念のため言っておくと今回の戦法では一応俺の『スナイプ』も入っていた。

 魔法を無力化できる。 

 そんな魔法を使わないてはない。

 だが、それは俺とレイブンの中だけで交わされた。

 理由としてはあまり切り札を晒したくないから。

 レイブンには「もしも何かあった時は使うから黙っていてほしい」とお願いをしていた。

 

 結果使う前に戦闘が終わったが……。

 

「なんかあっけなく終わったね」

 

 オークキングとの戦闘が終了し、完全に気が抜けてしまい、モーインがその雰囲気に耐え兼ねたのかそうコメントをする。

 

「……確かにそうね。無事に終わってよかったわ」

 

 サリーまでもが、展開の速さに本音を言う。

 

 無事に終わった。

 

 周囲を警戒するが、特に異常がない。

 強い魔物が現れると周囲の生態系は崩壊する。

 ノウブル深林は弱い魔物しか存在していなかったが、その魔物の姿もない。

 今この場は安全地点。

 

 この場にいる全ての人が気を抜いた状態となっていたのだった。

 

 なってしまった。

 

 

「「う!」」

 

 瞬間、俺の周囲から突然うめき声が聞こえた。

 俺はその声に反応し、周囲を確認する。

 すると何故かゼフとレイブンが倒れていた。

 そして、何故かクーインの周囲に黒い魔力が充満していた。

 

「おい……何やってんだよ」

 

 戸惑いながらも俺はクーインに問いかける。

 何故?

 その疑問が脳内を支配する。

 

「……ごめん」

 

 クーインはそう謝りながら、涙を流す。

 そして、クーインを中心に充満していた魔力濃度が濃くなり、そして

 

「な……ん……で」

 

 俺は体が震える。

 そこには全長二メートルほどで全身骨で所々に筋肉の筋が見える。

 お腹あたりに赤い水晶が丸見えの人型をしている魔物。

 ゲームで何度も見た……魔神が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クーインは幼い頃から人格が二つあった。

  

 二つあるとしても、二重人格とも違う。

 もう一つの人格は偶に話しかけてきて、最良の選択を示してくれていた。

 それは生まれてすぐ、人格が形成されていない言葉が分からないときでもなんとなく感覚でわかった。

 

 泣けと言われたら泣く。

 そうしろと言われたらそれに従う。

 

 クーインは小さい時からそれに何も言わずに従ってきた。

 もう一つの人格の言うことが全て最善の選択だったためだ。

 

 アルト=クロスフォードとの出会いもそうであった。

 

 もう一人の人格から仲良くしろ。こいつの言う通りの態度で接しろ。

 

 クーインは戸惑うも従った。

 結果は良い方向へと進んだ。

 

 もちろん貴族、クロスフォード領主の息子と友人という立場の獲得、そして、クーイン自身初めてとなる心を許せる友人を得た。

 揶揄えば面白い反応をする。面白いことがあれば一緒に笑い合える友人を。

 

 

 それらはクーインにとってアルトと過ごしていくうちに自身の価値観が日々変化していった。

 

 そんなある日もう一つの人格から「王立フューチャー学園」に合格しろ。

 

 そう言われた。 

 王国で最も難しい試験。

 一平民でしかなかったクーインにとっては無理難題であった。

 普通なら……。

 クーインはアルトと友人であった。

 そのため、頼ることにした。

 アルト自身、快く引き受けてくれて、合格するための勉強から実技の訓練まで一緒にしてくれた。

 

 そしてアルトと試験対策を必死にして迎えた試験当日、またも、もう一つの人格から声がかかる。

 

 目の前の女の情報を探れと言う命令。

 

 そのことについてクーインはすぐにアルトに聞き、情報を得た後、もう一つの人格から見つけた。と一言そんな声が聞こえた。

 

 その時のクーインは理解が出来ず、ただただ困惑するだけであった。 

 ……そのおかげで緊張感はなくなり、試験に集中できたのだが。

 

 試験の結果は合格。ハレて最難関と言われる登竜門をクリアした。

 

 クーイン生まれて一番うれしい出来事であった。

 親友と言えるアルトと一緒に努力して合格した。何より、今まで育ててくれな母親に良い報告ができる。

 合格が決まった日は昼にアルトと会いお互い盛り上がり、夜は母親が奮発しご馳走を用意してくれていて、楽しい一日を過ごした。

 

 

 

 そんな幸せな思いをしたクーインであったが、学園入学の次の日、状況が一変する命令がくる。

 

 

 サリー=クイスを殺せ

 

 そう指示され、クーインは戸惑った。

 何故そのようなことをしなければいけないのか……。

 生まれて初めてそんな疑問を感じた。

 流石にこれには従えないと生まれて初めて拒否をした。

 

 そしてその日以降、もう一人の人格からの声が掛からなくなった。




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39

 クーインのもう一つの人格から声がかからなくなってから一ヶ月が経過した。

 その間、クーインは何故か寂しいと感じることなく、むしろ新鮮な気持ちであった。

 今までは選択をするとき必ず声がかかり、従っていた。

 だが、指示を出してくる声はもうかからない。

 だから、クーインは自分の欲求のまま行動した。

 クラス内で友達が欲しかったから声をかけてみた。アルトを少し困らせたかったのでクラスであえてボッチにしてみた。授業に出るのが面倒くさかったので、サボってみた。

 

 これらの行動は決して褒められたことではない行動もある。

 しかし、クーインにとっては初めて体験したことであり、クーインは初めて自由というものを感じた。

 

 まぁ、それでもクラス内で過ごす以外は親友であるアルトと過ごしたが……。

 

 そんな自由な時間を過ごしたクーインであったが、ある日を境に少しずつではあるが変化していった。

 胸をモヤモヤするような不思議な感覚。

 あまり気にするほどではないと思ったが、それでも何がクーインは嫌な予感がした。

 

 だが、残念なことにその予感が当たってしまった。

 日が経つにつれ、その感覚は体全体に広がっていき、何故か自分の感覚が離れていく。

 クーインはこの不可解な現象に嫌な予感がした。

 

 

 そんなある日、アルトからクエストを一緒にいかないかという誘いがきた。

 クーインは思うことがあったが、この時期お金が必要だった。

 

 クーインは平民だ。

 だから、稼げるだけ稼ぎたいと思い、アルトと依頼に同行した。

 

 

 アルトと受けた依頼は討伐依頼だった。

 アルトとクーインは入学前からコンビを組むことが多く、戦闘での連携はもちろん、戦術、実践経験もあり、ランク以上の魔獣の討伐も容易かった。

 

 クーイン自身始めは恐怖心があったが、アルトの考えた戦術が開始と同時に無くなった。

 

 アルトがいれば大丈夫。

 信頼しきった唯一無二の親友がいたため。

 

 依頼はあっさり終わり、報酬も高額だったこともあり、いいこと尽くめだった。

 

 そしてその日の夜。クーインはそんな親友に相談を持ちかけた。

 

『なんで君は運命を跳ね除けてられたのかなって』

 

 それはクーインにとってふと気になった疑問であった。何故アルトはこのような偉業を達成できたのか。詳細は何も分からないし、断言もできない、クーインは純粋な疑問。

 

 才能に恵まれなすぎたアルトが何故、普通なら心が折れてしまいそうな状況でそこまで自分を高められたのか。抗い続けられたのか。

 クーインが同じ立場なら無理だったかもしれない。

 だからこそ聞いてみた。

 

『クーインの言う運命を切り開くと言うのが、自分のいる立ち位置に満足できなくて、足掻いて結果を求める。その観点からなら言えるよ、俺の場合がそうだったし』

 

『どうしても達成したい目標があった。でも、それを達成するには俺は才能がなさすぎた。本来なら諦めていたかもしれないけど、それでも諦めきれなかった。だから、死に物狂いで訓練をした。さまざまな工夫をした。出来る可能性を必死に探して、僅かな可能性に縋り続けた。それらが相まって今の俺がある』

 

 帰ってきた回答はいたってありふれていた。それでも、それを体現したアルトが言うからこそ説得力があった。

 

『クーインが何に悩んでるのか知らないけど、まずはできることを探して、行動してみたらどうかな?』

 

 最後にアルトにそう言われ、クーインは少しだけ勇気が持てた。

 

 だがそんな決意とは裏腹に、その日を境にクーインの自我はもう一つの人格に、完全に支配されてしまった。




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40

クーインが気がついた時にはこの空間にいた。身体の自由はなく、意識だけが残っていた。

 

『いつからだっただろう?自分の意思で行動し始めたのは?』

 

 クーインはあたり一面真っ黒の空間で一人考えていた。

 この疑問はクーインは生まれてからその疑問を持ったことがなかった。

 今まで従うのは当たり前、自分はただそれに従うだけ。そんな生活を繰り返していた。

 そうすれば全てがうまくいっていたから。

 

『何故あの時、拒絶したのだろう?』

 

 初めてもう一つの人格からの指示を拒絶した授業二日目。

 その指示を聞いた瞬間、考えるまでもなく、反射的に拒否した。どうしてもそれだけは従えなかったからだ。

 

『何故?』

 

 クーインは自分にそう問いかける。

 

『自分にとって不利益だから?』

 

 答えは否。

 人を殺せば捕り、罰が降る。

 それでも違う。今のクーインとももっと違う何かが。どうしてもこれだけは失いたくない、何かがある。そう思えてならない。

 

『殺すことが怖いから?』

 

 これでもない。もっと簡単な、身近にあるような。

 

『何故?』

 

 クーインは考え続けた。

 そして、しばらく時間が経ち、ある人物のことが思い浮かびあがる。

 

 

 アルト=クロスフォード。親友と呼べる存在を。

 

 気がつけばクーインの人生最も影響を受けたのはアルトだった。もう一つの人格の指示を断った理由もアルトが悲しむと思ったからだ。

 

 今思えば、クーインはアルトから貰うことばかりで、何も返していない。

 

 『このままで終わるのは嫌だ』

 

 せめて自分が死ぬならば今までのことを返したい。だからこそこのままでは終われない。クーインはそう決意を固める。

 だが、今この現状、どんなに足掻こうが行動をしようとするが、どうすることもできない。

 

『出来ることをする』

 

 最後にもらったアルトからの言葉。

 今は魔法も使えず、体も動かせない状況。それでも少しでも気を抜いてしまうと意識を失ってしまう。

 それだけはどうしても阻止せねばいけないと思い、小さな抗いを始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『あれ?』

 

 それは唐突に起こった。

 小さな揺らぎ。大きな変化。

 突然何かに身体が押し上げられるように意識をうっすらとであるが、取り戻した。

 

『やめろ!』

 

 クーインがそう思い、止めようとしたのはもう一つの人格……魔神がアルトを狙った瞬間であった。

 それはどうしても止めなければならない。

 クーインは気力を振り絞り魔法をキャンセルしたのだった。

 

「ごめん」

 

 そして、クーインは少し混乱しているアルトと目があった時、一言謝罪をした。

 

『何もできなくて』

 

 そう最後に言おうとするも、そこでクーインは意識を失ってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クーインの抗い。

 途中から意味はなかったかと本人は諦めていたが、これは「純愛のクロス」のシナリオからは大きく離れる。

 本来、クーインともう一つの人格……魔神と入れ替わったことにより、クーインは無意識下に身を投げ出された時点で存在が消えるはずであった。

 それでもクーインが存在し続けられたのはアルトという本来巻き込まれて死ぬはずのモブが大きく影響をもたらしたのだ。

 そんなクーイン自身も魔神の隠れ蓑でしかなかったが、アルトとの出会いをきっかけに闇空間において強い意志を保ち続けることができた。

 魔神は闇魔法を隠蔽していたため、解放する必要があり、消滅したと思っていたクーインの精神は未だ健在であった。

 

 一連のことは魔神自身想定外の事態であった。本来ならばオークキングの戦闘が終了した後、全員が警戒を解いた隙をついてサリー以外を戦闘不能に。そして最後までサリーを苦しめてから喰らうはずであった。

 だが、結果は戦闘不能に持ち込めたのはレイブンとゼフの二人のみ。

 他のものを攻撃しようとした瞬間身体が動かなくなった。

 

 それはただのモブであるはずのクーインが見せた抗いであった。



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41

 目の前には物語最強の魔神。倒れるゼフとレイブン。

 まさに絶体絶命。

 この場にいる俺と魔神以外、現状を把握していないだろう。

 

 

 俺は魔神の足元に倒れているクーインをみたのだが、生死は確認できない。

 今思えば依頼を誘った時のクーインの様子は少しおかしかった。

 もう後の祭りだが。

 

「マダ意識ガアッタトハ……別ニ良イガ。未ダ感覚ガ……余計ナ事ヲ」

 

 魔神は体の具合を確かめるように自らの体を動かす。

 この場にいる誰もが魔神の言葉を理解できないでいる。この場で唯一行動できるのは俺のみ。

 魔神は未だにこの場にいる者を気にするそぶりすら見せない。

 油断してくれているなら好都合。俺は状況打破のため、行動を開始する。

 魔神の目的はまずサリーを喰らうこと。それが完全復活をするための条件。

 俺はサリーの元へ移動を開始、同時に周囲に視線を配る。

 

「答えろ。お前は何者ぐあぁ」

 

 カインさんは魔神に問いかけ、魔法の構築を開始した瞬間、後方へと飛ばされた。

 気にしてないんじゃなかったのかよ。それにしても魔神の魔法発動速度が違う。

 魔神は魔法を向けられた瞬間、闇魔法で迎撃した。

 魔法発動時間は一秒ほどか。カインさんには申し訳ないけど、これは今後のことを考えるとでかいな。

 

 こんなことを考えている時点で俺は最低なのかもしれない。だが、カインさんは飛ばされた後少し動いていた。

 無事でいてよかった。

 

 現在、この場にいる者の立ち位置だが、魔神を正面に全員が対峙している状況。

 倒れているレイブンとゼフは魔神の攻撃により、気を失ってしまっている。

 モーインとサリーは後衛であったので、魔神から一番遠い位置にいる。

 

 俺は未だダメージを受けていない彼女ら二人を守るように魔神の間に移動する。

 魔神はそんな行動に気がついているはずだ。…何故何もせずいるのだろう。

 

「ヤット目的ガ終了シタカ。……ヤハリソノ女ガソンナニ大切カ。ダガ、分カランナ。何故オ前ハ冷静デ居ラレル?」

「答える義理はないな」

 

 やはり気がつかれていたか。まぁ、わかっていたから別に良いが。

 冷静でいられるか?怖いに決まっている。俺自身恐怖しているが、打開策があるから少し冷静でいられるだけだ。何も策がなければ恐怖で動けねーよ。

 

「アルト……我ハ貴様ニ感謝シテイルノダ。発言ノ機会クライクレテヤル」

「………そうかよ」

 

 俺は戸惑いながらも魔神に返答をした。

 まさか、魔神がこんな会話をするやつとは知らなかった。

 いや、絶対強者としての余裕か?ただの玩具としてしか見ていないのか。

 魔神は未だに何も行動を起こす気がないのか、その場で俺たちを見ているのみ。

 

「一つ聞くが、俺たちを見逃してはもらえないか?」

「ソウダナ……オ前ハ恩人ダ。我ハギリダケハ返ソウ。ソコニイル、クイスノ祖先ヲ差出スナラバ、見逃ソウ」

「……え?」

 

 魔神の提案は予想通りであった。

 サリーは自分の名前が出てきたことに驚き、困惑した。

 

「見逃すね。ちなみにそれはクーインも含まれているのか?」

「ム?……コヤツノ心配カ?コヤツハ裏切リ者ノハズダガ?」

「それでも大切な友人だ。……念のため聞くが生きてるよな?」

 

 これで死んでましたじゃシャレにならない。

 クーインには一から説明してもらわないと気が済まない。あの謝罪の意味。絶対聞き入れないと気が済まない。

 

「安全セヨ。息ハアル」

「……証明はできるのか?」

 

 クーインは倒れてから動いていない。

 遠くにいる分見えていないのかもしれないが、所詮は魔神だ。信用できるかわからない。

 

「ナラ、確カメテ見ルガ良イ」

 

 魔神はクーインを魔力で俺のいる方向へと飛ばしてきた。

 俺は魔神から目を離さずに何かあってもすぐに対処できるように体制を整えつつ、飛ばされたクーインを受け止める。

 ……どうやら息をしている。無事のようだ。

 

「よかったよ。どうも」

「律儀ヨ。サテ、モウ良イカ?」

 

 ゲームでしか知らなかったが、魔神には自分なりのポリシーがあるのかもしれない。ゲームでは残虐であったのだが。まぁ、そのおかげで現在死人はいない。

 これで心置きなく戦闘に入れる。

 

「ちょっと待ってよ……」

「うん?」

 

 ふと、後ろからモーインの声が聞こえる。

 どうしたのだろうか?

 

「ねぇ……アルトはサリーをどうするつもりなの?」

「どうするって……決まってるよ」

 

 見捨てるつもりはない。

 何を当たり前のことを聞いているんだ。俺が今まで何を目的に鍛錬を積んできたと思ってるんだ。この時のためだ。

 

「?!アルト……あなた……」

「良いよ……モーイン」

 

 モーインは声を震えさせながら、サリーは何かを諦めたような発言をした。

 ……あれ?何か勘違いしてる。

 戦闘中に相手から目を離さないのは当たり前の行為だ。

 そのため、後ろを確認できないが。

 

「私……一人の命で……みんなが助かるんだから」

「サリー!ダメだよ」

 

 サリーはそう言いながら俺の横を通り、魔人の元へ移動しようとし、そんなサリーにモーインは泣きながらサリーの手を引き、引き止めようとしている。

 俺は自らを犠牲に皆を助けようとしているサリーの左肩に右手を置いて話し始める。

 

「サリーさん……話をややこしくして申し訳ない。大丈夫。俺がやつを倒すから」

「アルトさん……しかし、幾らアルトさんでも「大丈夫」……」

 

 倒せない。

 おそらくサリーは最後に言うつもりだったのだろうが、俺はあえて遮った。それは不安を払拭するためだが、何より彼女が涙を流していた。

 おそらく彼女は威勢を張っていた。 

 

 俺はそんな顔を見るために努力したんじゃない。君の笑顔を見るために、幸せになってもらうため努力してきたんだ。

 俺は魔神と対峙するため、歩き始める。

 

「泣いてる顔は似合わない。君には常に笑っていてほしいから」

「……え?」

 

 サリーは一体どんな表情をしたのだろうか?

 少しむず痒いセリフだが、俺は死ぬかもしれない。終わった後、今まで通りのままでいられるのかわからない。だから、最後にその思いだけは伝えたかった。

 

「アルトヨ。好イテイル女ノタメニ我ニ立チ向カウカ」

 

 俺は魔神の言葉を聞きながらも剣を八相に構えて向かい合い、魔力を体内で循環させ、リミットを外すため脳に負荷をかける。

 

「フルブースト」

 

 人間は常に力を制御しているため三割しか力を出せないが、魔力で無理やりリミッターを外した。これは魔力を一切消費せず、部位強化以上の力を発揮できる。

 だが、そのリスクとして体が壊れるかもしれない。

 

 魔神相手にまともなやり方では勝てない。

 

 才能がないなら努力と発想で補う。

 フルブーストはいわば俺の集大成。

 

 覚悟を決めろ、出し惜しみはしない。



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42

 俺は『フルブースト』を発動し、いつもと同じように八相の構えをとる。

 魔神との距離は三十メートルほど。倒すためには接近して魔神の魔石を叩き切る。ただそれだけ。

 

 魔神を相手に俺程度がまともにやって勝てるはずがない。

  

 互角にやりあえて一、二回と数回の攻防のみ。

 

 理由は『フルブースト』の時間制限。

 『フルブースト』は制御が効かない。

 電源のオンオフしかできない。

 体が負荷に耐えられないんだ。

 

 だから、魔神の意表を突き、体勢を崩し一撃を叩き込まなければいけない。

 だが、奴に完全に意識されているので不意打ちは不可能。

 ならば隙を自分で作らなければいけない。

 

「ふぅー」

 

 俺は大きく深呼吸をし、目に魔力を集中させ、『見切り』を発動。その場から魔神の方向へと駆け出した。

 

「フ……『ダークバレット』」

 

 魔神は俺の行動に対して鼻で笑い掌をむけてくる。

 魔神は魔法発動が早い。 

 一瞬で構築して複数の闇魔法の弾丸を放ってきた。

 だが、俺はあえて発動を見送る。

 魔神の体勢を崩すには『スナイプ』を使う必要がある。

 だが、今魔神との間合いは約二十メートルと遠すぎる。

 もう少し接近する必要がある。

 俺は効力が切れそうになっている『見切り』を再び発動、複数向かってきている『ダークバレット』が直撃しないよう、威力の隙間を特定し突っ込む。

  

ドカン!

 

 その場で爆風が広がる。

 

「ナ?!」

「…く!」

 

 

 痛い。

 焼けるように痛む。

 体勢が崩れそうになるが踏ん張り足を止めることなく突き進む。

 威力はかなりのものだったと思う。カインさんに放った時と同じ威力かもしれない。

 だが、俺は走っていたことにより爆風とは逆方向に力の作用があったため、飛ばされることはなかった。

 

 今の攻防で魔神との間合いは二十メートルを切った。

 今ので多少失速はしたものの、射程圏内。

 

「?!、『ダークシールド』」

 

 きた。

 魔神は俺の突進に焦ったか、即座に防御魔法を展開するため、魔法陣を用意する。

 現在魔神との距離は十五メートルほど。

 

 魔法陣には乱れが生じている。

 

 このことに気がつけて本当によかったと思う。それがなければ勝機は見出せなかったであろう。

 俺は即座に眉間に魔力を集め魔法を準備し奥の手の魔法準備をする。

 

『スナイプ』

 

 俺は『見切り』を発動させ、魔法陣の乱れを捉えるため、狙いを定める。

 

 即座に『スナイプ』の発動準備を終了させる。

 まだだ。まだ、ギリギリまで引きつけろ、距離を詰めろ。

 せっかく掴み取ったチャンスを無駄にするな。

 ここで失敗したら全てが水の泡になる。

 魔神との距離は十二メートル

 そして未だに魔神の魔法構築は終了していない。

 俺は『見切り』で魔神の展開する魔法陣を観察し続ける。

 

 

 魔法陣の構築完了まで六割。

 

 まだ、行ける。少しでも間合いを詰めろ。

 

 

 魔法陣の構築完了まで七割。

 

 我慢だ。我慢

 

 魔法陣の構築完了まで八割五分。

 

 実際の時間では一秒にも満たないが体感では数秒。

 あと、少し、焦るな。

 

 魔法陣の構築完了まで九割

 あと、少し。

 

 魔法陣の構築完了まで九割五分

 ここだ!

 

 魔法陣の刹那の乱れをーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー撃ち抜く。

 

「?!」

 

 魔神は声を発しなかった。

 目の前で何が起こったのかわからなかった。

 『スナイプ』という魔法はこの世界では存在しなかった魔法。魔神が封印される前の時代にも。

 

 この世界の魔法戦に置いて発動速度が勝敗を左右する。

 魔神自身もそう認識していたはず。

 そして、魔神は魔法発動戦においても絶対の自信を自負していた。

 その油断こそが俺の見出した勝機。

 

 焦り思考能力を停止させる。混乱は戦闘では命取り。

 現状、打開するには時間が足りなすぎる。

 

「はぁー!」

 

 俺は魔神が体勢を崩した瞬間声を上げてさらに間合いを詰める。

 距離にして五メートル。

 俺は『フルブースト』の状態でさらに左足に魔力を集中させ、『部位強化』を発動させる。

 そして至近距離に達した瞬間、左足で地面を思いっきり蹴る。筋肉や骨が悲鳴をあげるがこれが最初で最後の勝機。

 本気で魔神の赤く光る魔石に斬りかかり、残心した。

 

 パリン!

 

 その場で何かが割れる音がする。

 俺は『フルブースト』の副作用で気を失いそうになるも、後ろを振り返る。

 魔神という強者相手に俺が出来たのは数回の攻防、戦闘時間にして2、3秒だけであった。

 

「ナ……何故……」

 

 俺はそれを確認した瞬間、当初の目標であったサリー=クイスを救うという目標が達成できたことがわかり、そこで意識が途切れた。

 

 

 魔神は魔素となり、割れた赤い魔石だけがその場に残ったのだった。

 



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エピローグ

 少し後日談をしよう。

 

 魔神との騒動、その事件は公となった。

 被害に遭ったのが俺たちとその場に居合わせてしまったものたちだけであったので、証拠としては不十分だと思ったのだが、魔神が現れた瞬間、国中が混乱したそうだ。

 強大な魔力を持つ存在が現れた結果、魔道具が狂う。

 その現象は数千年前、魔神が現れた時と同じらしく、同じ伝承、そして魔神が残した魔石が証拠となり、魔神が復活したと証拠付けた。

 

 それで信用するのかと疑問に思ったものの、魔神復活の兆しは童話や伝承といった形でこの世界の人たちはすでに知っていて、その事実をこの国王が発表すると皆信じた。

 

 

 魔神騒動が収束したことを宣言した時、国王はもう一つのことを発表した。

 魔神を倒した英雄たちのことを。 

 

 ただ、魔神討伐は本来は俺が一人で行ったことだが、そこは少し話に色を添え、こう伝わった。

 

 

「英雄の末裔、三家の子息子女、レイブン=イゴール、モーイン=ブリアント、サリー=クイス、そしてクロスフォード子爵家の子息アルトの四人による激しい対決の末に決着がついたと」

 

 国王はそう説明をした。

 このことにその場に居合わせた人たちは納得をしていなかった。

 実質俺一人で終わらせたようなものだ。

 それでも、話に信憑性をつけるためにそうなったそうだ。

 

 カインさんは目立ちたくないと言い、魔神相手に初手で戦闘不能に。ゼフはその場に居合わすことがなかったことになっている。

 

 カインさんはいいとして、ゼフはもう目立ちたくないからと拒絶をしたそうだ。

 ……昔に何があったんだよ。

 

 まぁ、とりあえず俺自身もみんなで倒したという事実になって良かったと思っている。俺ただのモブだし。過大評価と噂が相まって絶対強者みたいなことにならなくて良かったわ。

 

 さて、そんな功績を上げた俺だが、もちろん褒章は弾んだ。

 内容として莫大な財産と地位だ。

 死ぬまで遊んで暮らせるほどの財産をもらい、そして、一代限りの名誉伯爵家の爵位も頂戴した。

 魔神討伐の功績としては低いかもしれないが、そこはお約束要素なのだろう。英雄の末裔の三人が目立った。

 俺はそのおこぼれをもらったような感じだ。

 

 だが、それでも批難はされなかった。

 それは、公表した時の国王と末裔の三人の「余計」な一言によるものだ。

 「アルトは多大なリスクを顧みず、必殺の魔法で魔神にとどめをした」

 たったその一言、そして俺の怪我の容体から信憑性が増したのと、国の上層部によるプロパガンダのせいだ。

 

 

 まぁ、そのおかげで全てが平和に処理されたのでよかった。

 本当によかったのだが……。

 

 

 ちなみにこのことを知ったのは俺が意識を取り戻した時であった。

 知ってからは全てが遅かったのだ。

 もう後の祭りだ。

 だから、気にしないようにした。気にしたら負けだ!

 

 

 

 

 ゴホン……。

 話は逸れてしまったが、魔神の一件は無事に何も被害がなく終わりを遂げた。

 怪我人は出たが死人はいない。

 その後も魔神復活の気配もない。

 

 クーインの件はその場にいたみんなが気を遣ってか、無かったことにしてくれた。

 クーインは被害者だ。その後、クーインはその場にいた皆に謝罪をし、ことなきを得た。

 ただ、当の本人は気にしていて、しばらく立ち直れていないが、それは時間が解決してくれる。

 俺自身も意識を取り戻した後、クーインと交流を重ねているが少しずつ元気が戻ってきているから。

 

 

 

 

 

 

 

 無事にハッピーエンドを迎えることができた俺だが、現在病室。俺は魔神との戦闘で使用した魔法の副作用により、全治一ヶ月の大怪我をした。

 

 この世界には治癒魔法があるため、治りは早いのだが、俺の怪我は思った以上に酷かった。

 

 

 左足の筋肉断裂、粉砕骨折、神経も骨に刺さっていたらしい。

 現代日本なら切断レベルなのだが、魔法で時間はかかるものの、完治するらしい。

 

 ただ、治癒魔法使いの人からはもう使ってはいけないと忠告された。

 もうあんな魔法は使わないさ。立てなくなるのはごめんだ。

 

 話は戻るが、現在ある人物が俺の見舞いに来てくれる。

 詳細を説明してくれたのも彼女……サリー=クイスである。

 

 彼女は何故か毎日のようにお見舞いに来てくれている。

 律儀なのか親切心からなのかは不明だが。

 そんな彼女だが、今顔を赤くして話しかけてくる。

 

「一つ、アルトさんに聞きたいことがあるのですが?」

「聞きたいこと?……何?」

 

 なんだろう?

 魔神の一件から二週間ほど経っているが、このような珍しい表情を見せたのはこれが初めてだ。

 

「その……魔神が言っていた話です」

「魔神の言葉?……ごめん、あまり覚えてなくて」

「そ、そうですか」

 

 サリーは少し落ち込むような表情をするが、その後深呼吸をして話し始める。

 

「えっと……わ、わた……私……その」

「……一旦落ち着こうよ。少し言い辛いことなんだったら急いで言わなくていいよ。ゆっくりでいいから」

「……はい」

 

 顔を赤くして恥ずかしがっているサリーの姿に居た堪れず俺はそう言った。

 そしてそれから一分ほど経ち、覚悟を決め、話し始める。

 

「アルトさんが私を好いていると言っていたことです」

「……は?」

 

 俺はそれを聞いて困惑した。 

 あ、そういえばそんなこと言っていたような……。

 

「え、そんなこと言ってたっけ?聞き間違いじゃない?」

「いえ、それはありません」

 

 断言されちゃったよ。

 覚えてねーよそんなこと。だが、もう覚悟を決めようかな。振られることは初めからわかっていたし。

 

「そうだよ」

「?!……」

 

 いや、自分で言っておいてなんで照れるんだよ。照れる要素あった?

 俺は黙ってサリーの反応を伺う。

 

「そのことなのですが……ごめんなさい」

 

 ほら振られたよ。わかっていても直接言われるのは辛いなぁ。

 

「気持ちの整理をしたいので、少し待ってもらえますか……今日は失礼しますね」

「あ……」

 

 振られて……ない?

 サリーは好意についての確認が終わり次第、部屋を退室してしまった。

 何がしたかったの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日間はサリーは病室には来ないで一週間ほど経ってお見舞いに来た。

 その時のサリーの姿は今まで見たことのないくらい凛々しかった。

 ここ一週間で何があったんだろう?サリーは病室の入り口を閉めたら……何故かドアの鍵を閉め、その場で話し始めた。

 

 いや……鍵を閉める意味ある? 

 

「アルトさん……一週間もお待たせしてすいませんでした」

「あーうん」

 

 別に待ってないけどと言おうとするも、俺は言葉を止める。サリーは真剣な表情をしていて、水を刺したくなかった。

 

 

「聞いていただけますか?」

 

 俺は黙って頷いた。

 

「実はアルトさんに最後にお会いした後、気持ちの整理ができず、モーインにこのことを相談したんです。私もはじめての感情でしたから」

 

 サリーはそう前置きし、話を続ける。

 

「私にとってアルトさんは尊敬する人です。レイブンとライバル関係で、努力家で、とても優しい方と思っています」

 

 俺は黙って話を聞く。

 

「私はレイブンに好意を持っていました。そして、その好意は本人には伝えず、モーインもレイブンを好いていましたので、私は身をひく決心をしていました。……しかし、好意を伝えることはせずレイブンを諦める。そう決心しても、何故かそこまで苦しくなかった。私は魔神の事件の一件以来、有耶無耶な気持ちのまま過ごしていました」

 

「それでアルトさんが……その……私を好きだと聞いて、少し戸惑いが生まれました。そのことをモーインに相談したら、私がレイブンに抱いていた好意は異性に対するものではなく、家族のような親愛に近いものだとわかったんです」

 

「私は今まで好意を伝えられることは多々ありましたが、それでも、ここまで悩むことはありませんでしたのでその場でお断りしていました。しかし、アルトさんの件はすぐには結論が出せず困惑しました。異性に感じたはじめての感情でしたから」

 

 サリーはそう言ってゆっくりと俺に近づきながら話を進める。

 

「そして、モーインに相談に乗ってもらって、アドバイスをもらってようやく理解しました」

 

 サリーはそれを言い終わってから俺の寝ているベッド前に移動した。

 

「アルトさん……知っていますか?今アルトさん宛てに婚約の話が国中からはもちろん国外からも多数寄せられているんです。愛人でも良いと、側室でも良いと。そう言った声もあるんですよ」

「そ、そうなんだ……モテ期到来かな〜なんて?」

「……今何と?」

「いや!冗談だから!」

 

 いや、サリーこの一週間で何があったんだよ。冗談のつもりで言っただけなのにサリーの声は先ほどに比べ絶対零度に。

 俺は恐怖し、即座に否定する。

 

「そうですか。よかったです」

「う……うん。そ、それにしてもそんなに婚約の話があるんだったら家に迷惑かかってなきゃいいな」

「ご安心ください。今クロスフォード伯爵家へのそういった話はクイス家が圧力をかけて制止させていますから」

「そ、そうなんだ……。あれ?今伯爵家って言った?うち子爵で伯爵なのは俺だけでは?……予定だけど」

 

 やばい。サリーが怖すぎる。

 こんな大胆な性格してたっけ?

 もっと、こう……聖女みたいな人格者だったような……。

 

「それはクイス家が王家に一言言って爵位を上げてもらいました」

「え……」

 

 ただただ言葉に詰まる。

 いや、こんな話聞いていないんだけど。

 

「爵位の授与式とかは……俺まだ色々と功績の授与とかも終わってないけど」

「それは、アルトさんの体の具合がよろしくないことを理由にアルトさんのお義父様に代わりに出席していただけました」

「いや!聞いてないんだけど。全て!」

 

 俺はサリーに向かい少し驚きの声をあげてしまった。

 話飛躍しすぎでしょ?

 

 俺がおかしいのか?……いや、まて。確かサリーはモーインに何かアドバイスもらったとか言ってた。

 もしかして何か変なこと吹き込んだか?

 

「ひ、一つ聞きたいんだけど……。さっきモーインからアドバイスもらったとか言ってたけど何言われたの?」

「何故今……モーインのことが話に出るのですか?アルトさんは今私とお話しているのですよ?」

「ち、違う。そうじゃなくて、話が飛躍しすぎてるから何かアドバイスもらったんじゃないかって……ほら!親友からアドバイスもらったって言ってたし……ね!」

 

 俺はなんでこんなに必死になっているのだろうか?

 サリーはモーインの名前を出した瞬間またも声のトーンが低くなる。

 

「あ、そういうことでしたか。すいません。勘違いしてしまって」

「だ、大丈夫。それでなんて言われたの?」

 

 機嫌が戻ったようで良かったよ。

 本当に何をサリーにアドバイスしたらこうなるんだろう?

 

「はい。モーインには

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 せっかくのチャンス……逃がしちゃだめよ!」……そう言われました」

「……」

 

 サリーがこうなったのモーインのせいかい!

 いや、でも意味を履き違えてるよ絶対!

 

「親友からのアドバイスです。私も今のアルトさんの現状を知って慌てたんですよ。よく知りもしないで名声だけで婚約をしようとする者たちのことを。だからそれを知ってから急いで行動しました。そうしないと、アルトさんを誰かに取られてしまいますから。初めて権力というものを使ったと思います。驚いたのですが、クイス家ってこんなにもすごいんですね。お父様にお願いしただけで、アルトさんを守るための包囲網がすぐに完成しましたから。ただ、お父様に一度拒否された後、少し文句を言ったらすぐに首を縦に振ってくれました。少し震えていましたが、気のせいですかね?」

 

 ……あれぇ?

 

 サリーの目のハイライト消えてるけど気のせいかなぁ?

 

 あと、俺を守るためと言ったのに包囲網と言っていたのって何かの間違いかな?

 

 サリーはサリーパパに何したんだろう。怖くて聞けないなぁ。

 

「どうしたんですかアルトさん?」

「い、いやなんでもないです」

「何故敬語なのですか?」

 

 首を少し傾けて微笑みかけてくるサリー。

 

「なんでもない。それにしても俺にここまでしてくれなくて良かったのに。それに俺子爵家だから、婚約の話も……ね」

 

 そうだ。基本子爵家は下級貴族。

 上位貴族や王族は嫁げないはず。

 

「だから、伯爵に爵位をあげてもらったんですよ?」

「ご、ごめん。分からないんだけど」

「なんでって……わかりませんか?」

 

 ここまで言われればわかる。

 サリーと俺が婚約をするため?

 でも、ほかにやり方があったはずだ。ここまでする必要ないはず。

 

「な……なるほど」

「ご理解ありがとうございます!」

 

 ここ一番で笑顔になったサリー。

 これはお互い合意ということなのだろうか?

 確かに告白まがいのことは俺からしたかもしれない。それでも、これはやりすぎのような。

 

「アルトさん」

「はい!」

 

 急にサリーに名を呼ばれて慌てて返事をする。

 すると、サリーは少しずつ俺に近づいてくる。え?……近くね?もしかしてキス?早くね?

 

 サリーは俺に近づき、花咲き誇る笑みでこう言った。

 

 

「絶対に逃がしませんから」

 

 そう言った彼女は今までで一番怖かった。 

 

 その笑顔は綺麗で尊いはずなのに、何故か獲物を狙う狩人のように怖かった。

 

 サリーの行動は俺自身前世から好きだったのと婚約ができるので嬉しく思ったが、それと同時にこう結論付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サリーはおそらくモーインという枷があったからここまで大胆な行動をしなかったんだろう。

 

 親友を気遣うあまり、自制していたのだろうと。

 

 

 

 そして、今俺に対してはライバルはいないため、目的を達成するためなら手段を厭わず、権力すら使う。

 

 サリー=クイスを止める枷が存在しないのだ。

 

 

 

 

 

 嬉しい反面、恐怖を感じるという誰もが感じたことのない「もう逃がさない」……そう言った彼女に対して俺も感じたことのない感情を体験したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜完〜





 物語はこれで完結となります。
 最後までお付き合いいただきありがとうございました。
 オリジナル作品で初めて投稿しましたが、色々と課題の残る作品となりましたが、最後まで書き切ることが出来ました。
 急いで完結させた部分もあり、疑問や満足のいかない部分があると思いますが、申し訳ありません。

 物語は完結しましたが、物語の後日談は後数話投稿予定です。内容は魔神討伐後の日常生活についてです。

 いつ投稿するかは未定のため、気長にお待ちください。





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後日談01

後日談です。


「アルト様……あなたが悪いのですよ」

 

 現状だけいえば俺は婚約者に氷漬けにされている。

 

「い……いや、誤解」

「婚約者がいるのに鼻の下伸ばして異性に囲まれていた状況……どう説明されるのですか?」

 

 サリーの目のハイライトがなく、俺を見つめ続ける。

 

 どうしてこうなってしまったのか……それは数時間前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔神討伐後の世の中は平和であった。

 世界に混沌を呼ぶ元凶がなくなったからだ。

 

 そして俺は魔神との一件からサリーと婚約した。

 嬉しかった。

 ゲームでは救えなかった彼女と婚約者になれたのだから。

 だが、それと同時にゲームではわからなかったことが判明した。

 

 サリーはいわゆるヤンデレ属性があるらしく、独占欲があった。

 

 俺はサリーを甘く見ていた。

 サリーの独占欲。クイス家の情報網を。

 

 俺は英雄の一人となり学園では有名人。俺に取り入ろうとする人は多く、側室や愛人でもいいからと近づいてくる異性も多かった。

 

 転生してから俺はこんな忙しい生活を体験したことがなかった。モテ期到来。そのことで俺は舞い上がってしまった。

 

 それが全て間違いだった。

 サリーは今はモーインと出かけている。

 だから、少しくらいは大丈夫かなと思ってしまった。

 

 結果だけいえば全てサリーには筒抜けだった。

 

 別に下心があったわけではない。

 今後のためになると思ってコネや繋がりを持っておいた方が良いと思ったからこのような行動をしたんだ。

 

 言い訳になってしまうが。

 

 その日から2日後、レイブンがホームパーティをすると誘いがあった。もちろんクーインに呼ばれている。

 少し交流会がしたいという内容だ。

 まだ、レイブンとクーインはぎこちなさがあり、これがきっかけで仲良くなれればと思い了承した。

 

「や…やぁ。よく来たね。アルト」

 

 レイブンの屋敷に着くと、歓迎してくれたのだが……少し引き攣った笑みをしていた。

 

「どうした?」

「い、いやなんでもないよ。クーインはすでに来ている。さぁ、こっちだ!」

 

 不自然なレイブンの表情が気になるものの、促されるまま、屋敷に入る。

 入るとパーティ会場の入り口にクーインがいた。

 クーインは俺を見ると急に拝んできた。

 

「……なんで拝んでんだクーイン」

「いや何……何かご縁があればとな」

「……お前ら変だぞ?どうしたんだよ」

 

 クーインは俺を心配しているようであった。

 レイブンも同じようで、一言話しかけてくる。

 

「アルト……友人として言わせてほしい。冥福を祈っているよ」

「は?意味わかんねぇよ!」

 

 絶対何かある。二人の反応を見てわかった。

 俺はその場から退散するため逃げようとするとクーインが拘束をしてくる。

 

「おい、なんで拘束するんだよ?」

「逃げるから」

「お前らの反応がおかしいからだろ!」

「クーインもういい。早くアルトを会場の中に!」

「了解した!」

 

 なんかお前ら仲良くないか?息ぴったりなんだが。

 俺はそのまま会場に無理やり入らされる。

 

「……あ」

「お二人とも、ご協力感謝します。うふふふ」

 

 その会場は寒かった。理由は目の前にいる笑顔でいる我が婚約者、サリー=クイスが原因であった。

 

「では、後はお二人で」

「サリー、ほどほどにね」

 

 おい待てこのやろう。

 一言声をかけようとしたが、残念ながら話せなかった。

 サリーの魔法で拘束をされてしまったから。

 

「アルトさん?……先日の件……お話聞かせてくださいますよね?」

「……はい」

 

 その日サリーの機嫌が戻るのに三時間かかった。

 以降、俺は彼女に隠し事をすることは無くなった。

 

 ……次隠し事をしたら軟禁されると思う。

 

 その件がきっかけか、俺を罠に嵌めた裏切り者のクーインとレイブンは今まで以上に仲良くなった。

 文句を言いたいが元々は俺が原因。

 

 二人の仲が深まったからよかった。

 そう自分に言い聞かせたのだった。

 




最後まで読んでくださりありがとうございました。

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↑「せっかく、5年かけて準備して美少女奴隷買ったのに、何故か勘違いされて厄介なことに巻き込まれてしまったのだが」

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↑「甘い話には罠がある〜俺の奇行は世界を救う〜」

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↑「摩擦勇者は平穏を望む〜女神から魔王軍の足止めしてくれれば後は自由にしていいと言われたのに第二の人生波瀾万丈に〜」


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後日談2

「いいですかアルトさん、次はありませんからね」

「……はい」

 

 場所はイゴール邸。

 レイブンとクーインに騙された後、俺はその場で正座し、腕を組み仁王立ち姿から睨んでくるサリーに説教を受けた。

 

 パーティ会場はガラガラだ。

 ホームパーティというのは俺を呼ぶためだけの口実だったのだろう。

 

 ……くそ、あの野郎ども。絶対許さない。

 俺をはめた恨みいつか晴らしてやる。

 

 それにしても本当に大変であった。

 

 3時間かけて弁明した結果やっと納得してもらえた。

 本当に長かった。もう絶対浮気まがいなことはしない。

 いや、別に浮気してないんだけども。

 

 こんなの命がいくつあっても足らない。

 

「……はぁ、本当に反省しているんですね」

「もちろんです」

「……そんなに怯えるなんて……どちらが悪いのかわからなくなりますね」

 

 サリーはため息をつき組んでいた腕を解く。

 とりあえず怒りを鎮めてくれたらしく、笑顔で微笑みかけてくる。

 

「もう立ってもいいですよ」

「……いや、それはできない」

「……もう怒っておりませんから……ね」

「いやぁ……そういうわけでは」

「どうされたんですか?」

 

 違うんです。

 俺、3時間くらいずっと正座してたんです。

 あまりかっこ悪いところ見せたくないけど……背に腹は変えられない。

 

「サリーお願いがある……足痺れて立てないから立たせて」

「……ああ、そういうことですか」

 

 どこか納得した表情をするサリー。

 サリーはその場で何か考え事を始める。

 ……あのぉ、早く立たせてくれません?それと何考えているんですかね?

 

 10秒くらいたっただろうか?

 サリーは何かを思いついたのか、両手をパンと音を鳴らして話し始める。

 

「確かこの前えーと……お約束?……というのをモーインから聞いたんです」

「……ごめん、嫌な予感しかしないんだけど」

 

 モーイン、一体何をサリーに吹き込みやがった?

 もう余計なこと言うのやめて欲しいんだけど……なんか嫌な予感しかしない。

 

「確か、こういうときは、足の裏をツンとするのが良いと」

「あのさ、本当に洒落にならないんだけど……やめて欲しいなぁ」

「うふふふ」

「お……お願いだから笑顔でゆっくりこっち来るのやめてくれない?なんで人差し指立ててんの?」

 

 サリーはドスン、ドスンとゆっくり俺の後ろに回ろうとする。

 やばい、どうにかやめさせなきゃ。

 俺はその場で暴れてどうにか逃げようとする……が。

 

「あ……イッたぁぁぁい!」

 

 まじで痛い。

 俺はその場で前に倒れてしまう。その衝撃で痺れていた足に電撃が走る。

 

「ツン……ツン……」

「痛い!痛い!…まじで!」

 

 だが、地面にうつ伏せになりながらもサリーはその場にしゃがみ、指を突いてくる。

 まじでやめて!痛い!

 

「うふふ、アルトさんって面白いですね。そこがあなたの魅力でも、ありますけどね」

「悪魔かよ」

「……なにか?」

 

 やばい、つい無意識に本音が。

 

「いた!お願いだからやめて!」

「……」

 

 だが、気がついたら時すでに遅し、サリーは再び無言で突き始める。

 痛いと叫ぶもサリーにやめてもらえなかった。

 

 

 

 

 今日色々あったが、いくつかわかったことがある。

 おそらくサリーは少しSがあるかもしれない。そして、俺はサリーにやられるも何故か心の底から嫌だとは思わなかった。

 

 これもスキンシップの一種なのか、それとも俺ってもしかしてドM……いや、そんなはずはない。

 

 俺はノーマルだ。ノーマルのはずだ。痛みで喜ぶ変態じゃない!

 

 結局この日は最終的に俺の足の痺れがなくなり、夕食を食べて解散した。

 一応、夕食は用意していてくれたらしい。

 

 俺とサリーは二人夕食を食べて解散となった。

 本当に屋敷の職員さんたちが可哀想だった。

 ……俺たちのせいで何時間待たされたのやら。

 

 俺は心からの感謝とレイブンに今日出勤していた使用人の人たちに休日と特別給与(俺のポケットマネーから)を渡すように一言伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬車を使ってクイス家の屋敷にサリーを送り届ける。

 エスコートをしながら門の前に。

 

「サリー……今度デートしようか」

 

 そういえばまだ一回もしていなかった。買い物に何回か行ったが、それはモーインが一緒にいた。 

 二人きりと言うのは一度もしていない。

 

「……はい」

 

 サリーは顔を少し赤くして……嬉しそうにそう一言返してくれた。

 




最後まで読んでくださりありがとうございました。


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後日談3

 ああ、今日は良いデート日和だ。

 空は快晴、涼しい風もあり暑くもなく寒くもないちょうど良い気温。

 

「アルトさん!お待たせして申し訳ありません!」

 

 そして、何より10人横切れば10人とも振り返るような絶世の美少女の彼女、白い純白なワンピースに薄水色のカーディガンを羽織っているサリーが来た。

 

 今日俺はこの日のために予習復習を重ねた。

 デートプランはもちろん、予備プランも考えた。アクシデントにも対応できるように。

 

「今来たところだよ」

 

 これはデートの定番だ。

 ふ……俺は絶対サリーより早く来たかった。

 1時間前行動は当たり前である。

 

「もう!嘘はいけませんよ。少なくとも30分前にはいましたよね?」

「……え?」

 

 プラン初っ端から崩壊してんですけど。え?どういうこと?

 なんで知って……。

 

「ずっと私が来るまでソワソワしているアルトさんが可愛くてつい眺めてしまっていて」

 

 そういうことかい!

 

「……ついていたのなら来てくれればよかったのに」

「……ええと……その……ですね」

「ん?なに?」

 

 何かしようとしてる?

 すごい戸惑っているけど大丈夫かサリー。

 

「……えへ?」

 

 ……何、今の。

 

 

 めっちゃかわええ!

 いや、何その反応。

 反則だろ!可愛いは正義か!

 

 お……落ち着け。

 

「すぅ…はぁ…すぅ…はぁ」

「なぜ深呼吸するのですか?……やはり、こういうのは似合いませんよね」

 

 いかん。何かよからぬ勘違いをさせてしまったかもしれない。

 早く勘違いを正さなければ。

 

「違うよ。サリーが可愛すぎて気絶しそうだったから落ち着こうとしただけだ」

「……そ……そうでしたか。……で、でも、もうしません。やっていて恥ずかしかったので」

「……もしかしてモーインからの影響?」

「え……ええ」

 

 恥ずかしそうにするサリーかわいい。

 だが、気になるな。

 

「モーインに何か吹き込まれた?」

「い…いえ。そういうわけでは。以前モーインがレイブンにやっていたのでその真似を」

「なるほど。理解できた」

「やっぱり似合いませんよね」

 

 とりあえず、一言言っておこう。

 

「そんなことはないよ。とても可愛らしかった。でもね。今度はやる前に言ってほしい。俺が頓死してしまう」

「うふふ。アルトさんは相変わらず面白いですね」

 

 そう幸せそうに笑うサリーの笑顔を見て俺も自然と笑みが溢れる。

 思わぬ不意打ちがあったが、新たな一面が見られた。

 これは脳内永久保存確定だな。

 

「さぁ、行きましょ!実はアルトさんと行ってみたいお店があったんです!」

「ああ」

 

 少し考え事をしているとサリーは俺の左腕に右腕を組んでくる。

 そして、首を肩に乗せてこちらですとリードしてくれた。

 

 ん?あれ?もしかしてリードされてる?

 

 ……いや、いいか。デートプランは次実行すればいいか。

 今日はサリーの行きたい場所に行こう。

 

 




最後まで読んでくださりありがとうございました。


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以前投稿していた短編に加筆して再投稿しました。
4000文字増えてます。
よろしくお願いします。

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